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HTML化した人:lain.
とある魔法の悪魔使い
1 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 00:32:10.97 ID:TQwcnVQo
ウィザーズ・ブレインと禁書のクロスオーバーで一つ
本スレで投下するか迷いましたがこっちで

※原作未読、アニメ知識+αだったり嘘科学満載です
※他作品のネタを借りたりもしてます
2 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 00:32:37.39 ID:TQwcnVQo
──転送システムの準備シーケンスを開始。

転送対象個体を周囲百キロより探査。

……成功。『アリス』の存在を確認。シーケンスを継続。

──エラー。『アリス』の識別に矛盾発生。二個体の『アリス』を同時に確認。整合性を要請。

………………エラー回避。目標両個体を共に『アリス』と認定。全プロセスの最終チェック。

……「同乗者」三名を確認。転送対象として設定。

──終了。

転送システム、起動。

──エラー。二個体の『アリス』の相対座標を誤差範囲内に修正要請。

………………エラー回避不能。転送シーケンスを中断。

……要請が解決次第、転送を再開。表層時間を停止して待機。

──サスペンドモードに移行。
3 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 00:33:07.96 ID:TQwcnVQo
とあるビルの屋上に、サクラは倒れていた。

目を開いて最初に目に映ったのは、雲ひとつ無い、澄み渡った空。

ぼやける意識をかき集め、ゆっくりと覚醒して──

「!?」ガバッ

「空……太陽……?」

とある魔法士は、生まれて初めて、空を見た。



とある公園のベンチに、錬は寝かされていた。

目を開いて最初に目に映ったのは、雲ひとつ無い、澄み渡った空。

──ではなく。

「はぁ、いい加減に目を覚ましてくださいまし」

「……え?」

見知らぬ少女の、困り果てた顔だった。



──魔法と科学が交差する時、物語は始まる。

        ウィザーズ・ブレイン
『とある魔法の 悪 魔 使 い』
4 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 00:33:54.74 ID:TQwcnVQo
不良A「ようお嬢ちゃん可愛いねぇ、お兄さんと遊ばない?」

サクラ「何だ、貴方たちは」

不良B「イイねぇ、そうやって怯える表情も一段と可愛いじゃねえの」

不良A「お前ロリコンだったのかよwwwwww」

サクラ「怯えたつもりは無いが……何の用だ?」

上条「あー悪い悪い、こんなところにいたのかー、ほら行くぞー?」

サクラ「え?(誰だ?)」

不良AB「あ? なんだテメーは?」

上条「ほら、早くしないとかなみん始まっちゃうぞ?」グイッ

サクラ「いや、貴方も誰だ? かなみんとは何の事だ?」パシッ

不良A「おいィ! 明らかに知り合いでもなんでもねえじゃねえか!」

不良B「てめーに邪魔されたストレスのおかげで俺の寿命がマッハなんだが!?」

上条「うわぁい、すこしくらいは話合わせてくれたっていいんじゃないかと思うんですが!?」

サクラ「いや、話が見えないのだが」

不良AB「問答無用じゃボケー!!」

上条「くっ! いいぜ、お前らがその子を好き勝手にしようっていうなら……──」
5 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 00:34:28.67 ID:TQwcnVQo
不良AB「ぐはあっ! お、おぼえてろよー!」ダバダバダー

上条「ふぅ、なんとか追い払えたか……おぜうさん、お怪我はありませんか?」

サクラ「無論だ。それで、貴方はどうしてケンカなどを始めたのだ?」

上条「ぬああ!? 報われないのはいつもの事だけど、それはさすがの上条さんも傷つきますよ!?」

サクラ「何か無礼があったのなら謝るが、何かおかしいところがあったのだろうか」

上条「はぁ、いや、まぁ無事なら良いんですよ、ええ……」シクシク

サクラ「その様子では良いという事はあるまい。納得行く説明を要求する」

上条(なにこの子めんどくさい)

上条「いやぁ、ああいう手合いに絡まれて困ってるんだと勘違いした上条さんがバカだったという、それだけの話ですよ」

サクラ「なるほど、つまり貴方は見当違いな状況判断とはいえ、私を助けようとしてくれたわけだな」

上条「そのド直球な物言いが上条さんのガラスのハートに突き刺さるっ!」

サクラ「なるほど、そう考えると確かに失礼な態度だった。申し訳ない。そして、改めて礼を言わせてくれ」

上条「へ? ああ、いや別に礼なんか……」

サクラ「そういうわけには……ああ、では失礼ついでに訪ねたい事があるのだが……」
6 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 00:34:58.87 ID:TQwcnVQo
美琴「はぁ、アンタまた人助けでもしたわけ?」

上条「げーっ! ビリビリ!?」

美琴「私ビリビリじゃないって言ってるでしょうが!」ビリビリ

上条「だあああ! 早まるな御坂!」パシュン

サクラ(情報制御も無しに発電!? しかも打ち消した!?)

上条「その子に当たったらどうするんだよ、まったく」

サクラ(I−ブレインは正常……情報制御も──運動係数制御、起動。──……終了。……いや、知覚系に違和感?)

美琴「あ、アンタがビリビリ言うから悪いのよ!」

サクラ(情報制御の感知範囲が100mまで落ちている……しかし精度は変わらず。では先程の現象は一体……?)

美琴「で、今度は何に首を突っ込んだわけ?」

上条「首を突っ込んだとは失礼な! ただの勘違いですよ! ……済まん、今のは無しで」

サクラ「いや、勘違いには違いないが、私が困っていると思って助けてくれたのだ」

上条「ああ、そこは否定してくれないのね」

美琴「へえ。勘違いでそんなボロボロになるなんてアンタらしいわね」プークスクス

上条「ちょっとくらいは心配してくれてもよくねえ!?」

美琴「はっはーん、この学園都市のレベル5、第三位の御坂美琴を退けるような奴にする心配なんて無いわよ」

サクラ「ああそうだ、聞きたいことはそれだ。ここは一体どこなのだ?」

上琴「えっ」
7 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 00:35:38.78 ID:TQwcnVQo
黒子「ようやくお目覚めですのね」

錬(日本語……? ──言語パターンを日本語に設定──完了)

錬「ええと、ここは、どこ?」

黒子「ここは第七学区のとある公園ですの」

錬「……第七学区?」

黒子「まだ呆けてらっしゃいますの?」

錬「いや、大丈夫。その、ここは……日本、なんだよね?」

黒子「……重症ですわね」

錬「待って、僕は真面目に」

佐天「しっらいさーん、さっきのイケメンは……おおー、目を覚ましたんですねっ」

錬「」

黒子「佐天さん、一応これも仕事なんですのよ?」

佐天「あっははー、固いこと言わない言わない。それで君、名前は? 年は?」

錬「え、と。天樹錬、14歳(本当は9歳だけど、まぁいいよね)……そういえば、君たちは?」

黒子「風紀委員第一七七支部所属、白井黒子ですの」

佐天「私は佐天涙子、柵川中学の1年生だよっ(ていうかこの顔で2つも年上なんだこの子……)」

黒子「貴方が立ち入り禁止の芝生保護区域に倒れていたので、ベンチまで運びましたの」

錬「……ごめん、どうも状況が把握できないんだけど……え?」ガタッ

黒子「どうかしましたの? 上に何か──きゃっ!?」

錬「空……太陽も……え? なに、これ……?」

黒子「……?」

佐天「ビビッと来ましたよ〜、これは事件の香りがプンプンしますね!」

黒子「佐天さん、あまりふざけないでくださいまし」

錬「……夢じゃ、ないかぁ」ギューッ

佐天(うわ、夢じゃないか確かめる為に自分のほっぺをつねる人なんて初めて見た)

錬「……驚かないで聞いて欲しいんだけど」
8 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 00:36:21.91 ID:TQwcnVQo
錬「僕、目を覚ます直前は北極にいたんだ」

黒天「」

錬「そこで、戦争中に何かが起きて、光に飲み込まれて……気付いたらここに」

黒子「……病院に見せた方がよろしいかもしれませんわね」

錬「待って待って! 体にも以上は無いし、記憶の連続性もその一点以外は問題無いんだよ。
 これでも魔法士だから体調に異常があればすぐに分かるしさ」

佐天「魔法士と来ましたよ、こりゃ重症だね」

黒子「お話になりませんわね」

錬「え? 魔法士を知らないの?」

佐天「能力者ならこの街の特産だけど、魔法士なんて聞いた事無いよ?」

黒子「特産って、別に生産しているわけではないのですから……。
 とにかく、この学園都市にそんな胡散臭いものは存在しませんの」

錬「いやほら、こういう力を使う人間の事だよ」

錬(分子運動制御デーモン常駐──極小出力で「氷盾」を起動)キィン

黒子「あら、貴方は氷使いの能力者ですのね」

佐天「おおー、すごいすごい」

錬「え? ……じ、じゃあこれは?」

錬(仮想性身体制御デーモン「チューリング」常駐──「ゴーストハック」を起動)ニョキ

黒天「!?」

佐天「すごいよ白井さん! ベンチから手が生えたよ!」

黒子「佐天さん、驚く所が違いますの」

錬「えっと、信じてもらえたかな?」

黒子「多重能力者なんてものが本当に存在するとは思いませんでしたの」

錬「……あれ?」
9 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 00:36:50.58 ID:TQwcnVQo
上条「ぶっ飛んだ話は慣れっこだと思ってたけど、さすがの上条さんも驚きを隠せませんよ」

美琴「ちょっと信じられないわよね」

サクラ「それよりも、さっきあなたの使っていた電撃、あれはどうやって出しているのだ?
 情報制御も無しにあんな真似ができるなど、見た事も聞いた事も無い」

美琴「また変な単語が出てきたんだけど。なに? 情報制御?」

サクラ「高密度情報制御によって情報の海に干渉してかくかくしかじかしかくいむーぶ」

上琴「……?」

サクラ「……どうした?」

上条「ええと……詳しい理屈は解からないけど、超能力のようなものが使えるって事だろ?」

サクラ「いや、これは情報制御理論によって引き起こされるれっきとした科学的な現象だ」

美琴(なにこの子めんどくさい)

美琴「まぁ、その情報制御理論? は置いといて、この世界じゃ北極で戦争も起きてないし、
 2050年に世界初の積層型都市みたいなものが建設されるなんて話も無いわよ?」

サクラ「つまり……どういう事だ?」

上条「要約すると、何が何やらサッパリって事だな」

サクラ「……」ガクッ
10 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 00:37:34.20 ID:TQwcnVQo
美琴「で、まぁスッタモンダ色々話しあったわけだけど」

上条「異世界から飛ばされてきた、っていう三文ファンタジーみたいな話が現実にって事になるな」

美琴「存在自体が三文ファンタジーみたいなアンタが言うと、逆に含蓄があるわね」

サクラ「つまり空間転送の中断によって(中略)並行世界のような(中略)時空流離が発生し(中略)だな」

上条「ああうんなんかもうそれでいいや」

美琴「それで、どうやったら元の世界に帰れるわけ?」

サクラ「見当もつかない……というわけではないが、断言もできない。その上での話だが──」

あの光に包まれる直前に聞こえた、頭に直接響くような『声』の内容を思い出す。

──二個体の『アリス』を同時に確認。

つまり、北極にいた者の中で、サクラを含めた2人が『アリス』とやらに誤認された。
サクラともう1名だけが同じ性質を持っているであろう、という事。
であれば、あの「悪魔使い」の少年が真っ先に浮かぶ。

──二個体の『アリス』の相対座標を誤差範囲内に修正要請。

そして恐らく、もう一名の『アリス(に間違われた者)』を探し出し、接触すれば空間転送は続行される。

サクラ「恐らくだが、私以外にもう一名、この世界に飛ばされてきた人物がいる筈だ。
 それと接触できれば、転送シーケンスが自動的に再開されるものと予想できる」

上条「(意味不明な専門用語はもう無視だな)もう一人ってのは?」

サクラ「これも断定はできないが、私と同じ魔法士の少年だろうな」
11 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 00:38:36.24 ID:TQwcnVQo
美琴「んー、じゃあ何か、その子と連絡を取れるようなものは無いの?」

サクラ「あちらも通信素子は持ち合わせているだろうが、プロトコルも暗号もまるで別物、つまり不可能だろう」

上条「(通信阻止してどうすんだ?)その超能力みたいなので探す事は?」

サクラ「普段なら数キロ圏内で情報制御があれば感知できるのだが……、今は半径にして100mというところだ。
 私が元居た場所とは、何かしらの法則が違うのかもし」グゥゥゥ「……れない」

上琴「……」プッ

サクラ「……」カァァッ

美琴「よっし、じゃあご飯にしましょっか! どうせここのお金なんて持ってないんでしょ? 奢ってあげるわよ」

サクラ「いや、しかし初対面の人にそこまで世話になるわけには」

美琴「なによ、私いいって言ってるんだからいいのよ」

サクラ「う、ううむ……」

上条「そうそう、こんなのでもレベル5の第3位だからな、すげえ金持ちなんだぞ」

美琴「アンタは自腹ね」バチチッ

上条「はっ!? しまったぁーーー!?」

サクラ「……」クスッ

美琴「そういう事だから、遠慮は要らないわよ?(へぇ、笑うと結構可愛いじゃない)」

サクラ「そうだな、ありがたく世話になるとしよう(……この世界は、平和なのだな)」
12 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 00:39:22.41 ID:TQwcnVQo
一方通行「あァ? ……ああ、そうか」

一方通行「なンだそりゃあ? つまり殺しちまったら脳髄は……だよな」

一方通行「生け捕りにしろって理解でいいンだな?」

一方通行「はァ? おいおい、いつから指名制度なんて取り入れたんですかァ?」

一方通行「いや別にいいけどよォ……釈然としねェ」

一方通行「……ッハ、ちげェねェな」

一方通行「あァ。タイミングを見計らって座標送って来い。切るぞ」ピッ

一方通行(正体不明の侵入者……ねェ?)

一方通行(たかが二人に、わざわざ第一位を指名ってこたァそれなりの理由があンのか……)

一方通行「……の前に、クソガキを病院に預けとくかァ。……はァ」

一方通行(いつまで続けるンだろうなァ、こンな事をよォ……)
13 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 00:40:13.54 ID:TQwcnVQo
黒子「では、そのもう一名とやらを探せば良いんですのね?」

錬「……と、思うよ。確証は無いけど」

黒子「ふぅむ、風紀委員としては正体不明の侵入者に協力するわけにも……」

錬「はは、ひどい言われようだなぁ」

佐天「えー、いいじゃないですか、イケメンですし」

黒子「それは関係ありませんの」プルルルッ「……っと、失礼しますの」ピッ

黒子「初春ですの? ……それで、状況は? ……ええ、分かりました」チラッ「……すぐ戻りますの」ピッ

錬「……えーと?」

黒子「もう一度確認しますが……貴方、特に騒ぎを起こす気は無いんですのね?」

錬「それは勿論。というか……折角こんなに平和な世界なのに、暴れようなんて思わないよ」

佐天(そういや戦争とか言ってたっけ。いくら能力者とはいえこんな男の子が戦争に駆り出されるって……)

黒子「私は別の仕事が入ったので行きますが、くれぐれも面倒は起こさないようにお願いしますの」

錬「うん、ありがとう黒子さん。ジャッジメントの仕事、頑張ってね」

黒子「ええ。では失礼しますの」シュンッ

錬(情報制御無しで光速移動……いや、次元跳躍……? 超能力ってのは嘘じゃないんだ……)

佐天「さてと、それじゃあ人探しに行きますか!」

錬「え?」

佐天「え?」
14 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 00:41:02.92 ID:TQwcnVQo
佐天「それで、もう一人の心当たりって?」モグモグ

錬「……えっと、長い黒髪でツインテールで、」

佐天「わ、女の子なんだ! ねぇ恋人?」ガタッ

錬「あ、あはは、あの人と恋人っていうのは正直遠慮したいなぁ(……助けてフィア)」

佐天「なーんだ、つまんなーい。それで他には?」

錬「あと、特徴的なのは黒い外套かなぁ。隠し武器いっぱいぶら下げてる」

佐天「武器?」モグモグ

錬「えーと、まぁ主に投擲用のナイフとか、ちょっとしたものが一杯」

佐天「物騒だなぁ。そういえば天樹さんもナイフ持ってるんだね」

錬「ああ、うん。これは投擲用じゃないけど。それと、錬でいいよ。苗字で呼ばれるのって慣れてないんだ」

佐天「りょーかい、錬くん。どうでもいいけど食べないの? あ、店員さんティラミス追加でー」カシコマリマシター

錬「えと、じゃあ……いただきます」パクッ「……!」パクパクッ

佐天「……」ジーッ

錬「……!!」パクパクモグモグ

佐天「んふふー、おいしい?」ニヤニヤ

錬「あっ……う、うん。すごく美味しいよ。こんなに美味しいもの、食べたこと無くて……」カァァッ

佐天「(あーもう可愛いなぁ!)遠慮しないでどんどん食べていいからね?」
15 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 00:42:00.96 ID:TQwcnVQo
美琴「お、思ったより大食漢なのね……」8756エンニナリマース

サクラ「す、済まない。あんなに美味しいものは初めて食べたので、つい食が進んでしまった」

上条「ははは、うちの居候ほどじゃないけど、気持ちの良い食べっぷりだったな」

美琴「それに、あんなキラキラした目で頼まれたら注文しないわけにはいかないわよね」

上条「同じ台詞をあの暴飲暴食シスター相手にも言えるか……?」

美琴「そんなに食べるの?」

上条「ああ、食べ放題の店から出禁になるほど……っと、この話はこれくらいで。じゃあ手分けして探しますか」

美琴(これより食べてるのに、なんであんな小さいのかしら……)

美琴「そうね。あ、でもサクラさんは携帯持ってないんだっけ。アンタはサクラさんと一緒にいてよ」

上条「ああ、解かった。……っと危ない、登録しとかないとな」ピッ

美琴「オッケー」ピッ「……お、きたきた(キタァー! 連絡先ゲット!!)」

上条「よし、こっちも大丈夫だ」ピッ

サクラ「通信素子が使えれば良かったのだが……プロトコルが違いすぎて無理だった。済まない」

上条「いやいや、気にしなくていいって」

美琴「そうそう、サクラさんはここは初めてなんだしね。それよりアンタ、サクラさんに変な事するんじゃないわよ?」

上条「はぁ? なんでそうなるんだよ、する訳ないだろ」

美琴「アンタにその気が無くても……ああ、やっぱいいわ、アンタにこんな事言っても無駄だし」

上条「いやいや? そうやって諦められると逆に上条さん傷つきますよ?」

美琴「はいはい。それじゃまたね」
16 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 00:42:39.05 ID:TQwcnVQo
美琴「さーってと、どこから探すかなぁ」

美琴(その男の子もこっちの世界は初めてなんだろうし、敢えて人混みの中に行くとは思えない)

美琴(サクラさんも最初の位置から人気の無い方に歩いていってたみたいだし……)

美琴「ま、探すならそっちの方からよね」テクテク

??「おやお姉さま、こんにちは。とミサカは礼儀正しく挨拶をします」

美琴「あら……えっと……ごめん、アンタいくつ?」

14510「ミサカの検体番号は14510号です。とミサカは正直に答えます」

美琴「あれ? 14510号……って、外部に居るはずじゃなかったっけ?」

14510「はい、普段は外部に居ますが、暇を頂いた時には可能な限り学園都市に来るようにしています。
 姉妹の親睦を深めるなどという適当かつどうでもいい理由でも申請は通りますので」

美琴「さりげなく姉を貶めようとしてるのは置いといて……一方通行とは会えたわけ?」

14510「──っ!? い、いえ、まだ会っていませんというか何故そんな事を聞くのですか。
 とミサカは慌てながら質問を返します」

美琴「え? だって一方通行に会いに来たんじゃないの?」

14510「ば、ばかな、何故それを? とミサカは狼狽することしきりです」

美琴「いや、花見の時も頑張ってたし、てっきりそうなんだとばかり」

14510「迂闊でした……とミサカはがっくりと項垂れます」

美琴「別にいいじゃない。まぁ私はアイツを心の底からは許すつもりにもなれないけど……
 アンタたちの気持ちをどうこう言おうとは思わないし、むしろ応援したいと思ってるわよ?」

14510「お姉さま……ありがとうございます。とミサカはお姉さまの想定外の懐の広さに打ち震えます」

美琴「はぁ。まったく、レベル5の第三位はどんだけ小者だと思われてんのよ」クスクス

14510(苦笑してやりすごすだと……!? とミサカは内心驚きを隠せません)
17 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 00:43:22.26 ID:TQwcnVQo
14510「それにしても、今日は良い事でもあったのですか? とミサカはやけに機嫌の良いお姉さまに疑問を覚えます」

美琴「──っ!? い、いや別に何も無いわよ!?
 とある迷子のお陰でアイツと普通に話せた事なんて全然関係無いんだからね!?」

14510「なるほど、概ね理解しました。とミサカは自らの読解力を自画自賛します」

美琴「はっ!? しまったぁーーー!?」

14510「リアクションがあの人に似てきましたね、とミサカは微笑ましく見守りたい所存です」

美琴「いやいやいいから、今のは忘れなさい?」

14510「申し訳ありません、すでにMNWに流してしまっているので記憶の消去は困難です。
 とミサカは残酷な事実を突きつけます」

美琴「ああもう、ふこ、ぅ……くっ!」ゼェゼェ

14510「いっそのこと、夫婦漫才でも初めては如何でしょう? とミサカは心にも無い事を推奨します」

美琴「夫婦漫才……夫婦……アイツと……? えへ、えへへ……」ホワホワ

14510「あーこりゃダメだなこいつ、完全に目がイッちゃってんだけど。どうすんだよこれ。
 とミサカはお姉さまの目の前に手をひらひらさせてましたが反応はありません」

美琴「…………………………はっ!?」

14510「して、お姉さま。とミサカはたっぷり30秒は待ってから呼びかけます」

美琴「なななな何!?」ビクゥッ

14510「その迷子とやらの保護者はすでに見つかったのでしょうか? とミサカは一抹の不安を覚えます」

美琴「あー、まぁちょっと込み入った事情があってね、今探してるところなのよ」
18 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 00:44:02.40 ID:TQwcnVQo
14510「なるほど、話して頂ければ他のミサカにも連絡して協力しましょうか?
 とミサカは切り替えの速さに感心しつつもお姉さまの役に立つのは吝かではありません」

美琴「って言われてもねぇ、込み入った事情ってのが本当に込み入りすぎてて、どう説明したものやら」

14510「所詮ミサカではお姉さまの役に立つことはできないのですね。とミサカはショボくれるフリをします」

美琴「いや自分でフリって言ってちゃ意味ないでしょ。いいからアンタは一方通行でも探してなさい」

14510「くっ! やはり今日のお姉さまは一味違いますね……! とミサカは思わぬカウンターに仰け反ります」

一方通行「あァ? 俺になンか用か?」

姉妹「!?」

美琴「あ、一方通行! いつからそこに!?」

一方通行「打ち止めを病院まで送ったンで帰る途中だったんだが、一方通行だの探すだの聞こえて来たんでなァ。
 見たら同じ顔が二つ並んでたってェだけだァ。……あー、オリジナルと……オマエは14510号か?」

14510「」

一方通行「……? おい、なンとか言えよ」

美琴「こりゃ重症ね。おーい、帰ってこーい?」ヒラヒラ

14510「……はっ!? って気付いたらあの人の顔がめめ目のままま…………ふぅっ」バタッ

美琴「ちょっ」ガシッ

一方通行「何なンですかァ? 俺を探すとか言ってたのにいきなり倒れやがるとか意味わかンねェ」

美琴「…………あー」

一方通行「何だァその目は?」

美琴「うん、アンタにも責任の一端はあるわけだし、後は任せた!」グイッ

一方通行「はあァァ!? 何だ何だよ何なンですかァ!? つゥか俺ァ障害者だぞ!?」

美琴「はいはい男が情けない事言わない、ほらちゃんと支えて」グイグイ

一方通行「まてまてまて、マジでまて」ドサッ「いってェ!!」

美琴「じゃ、後はよろしく!」ダッパリパリッ

一方通行「おいィ!? なに電磁加速まで使って逃げてンですかァァァ!?」

14510「……」クタッ

一方通行「………………どうしてこうなった」
19 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 00:45:08.72 ID:TQwcnVQo
佐天「ねぇねぇ、これどうかな?」シャッ

錬「ああ、うん似合うんじゃないかな」

佐天「こっちはどう?」

錬「ああ、うん似合うんじゃないかな」

佐天「これはー?」

錬「ああ、うん似合うんじゃないかな」

佐天「もー、錬くんツレないなぁ、さっきからそれしか言ってないよ?」

錬「いやホント、どうしてこうなったんだろうね」

佐天「あ、別に人探しを忘れたわけじゃないよ? 人が多い方が見つかるかもってこうして繁華街に来たわけだし」

錬「うん、そこまではいいんだけど」

佐天「じゃあ問題無しだねっ」

錬「おかしいなぁ、どこから人探しって要素が抜け落ちちゃったんだろうなぁ」
20 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 00:45:38.44 ID:TQwcnVQo
佐天「まぁまぁ、細かい事は気にしな……ん?」

『セブンスミストにご来場のお客様にお知らせ致します』

『現在、当館の電気系統に故障が発生致しました。点検、復旧の為に本日は閉館致します』

錬天「……?」

『風紀委員、店員の指示に従い、退館して頂くようお願い致します』

周囲「ザワッ……また虚空爆破事件の……!! うわああああああ!!」

店員「落ち着いて! 落ち着いてください!」

佐天「あちゃー……こんな事になるなんて、まだ虚空爆破事件が尾を引いてるんだ……」

錬「思ったよりも、平和ってわけじゃないのかな」フゥ

佐天「っていうか錬くんは落ち着きすぎでしょ、あたしたちも早く避難しよ?」

錬「でも、急いだ方が危ないし……」チラッ

錬(一応……起動しておくかな──)

周囲「うわあああ!! おい、押すな! ぎゃあああ!」

錬(──短期未来予測デーモン「ラプラス」、分子運動制御デーモン「マクスウェル」常駐)

錬「何かあったら僕が守るから大丈夫だよ」ニコ

佐天「──!!」ズキューン!
21 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 00:46:05.55 ID:TQwcnVQo
初春「重力子の異常加速を観測!」

黒子「くっ……結局後手後手に回ってこんな騒ぎになってしまうなんて……不覚ですの!」

個法「白井さんのせいじゃないわ、とにかく今は、今できる事をするわよ」

初春「私たちは一般客の誘導をしますから白井さんは犯人を追ってください。でも単独突入は絶対にダメですからね!」

黒子「解かっていますの!」ヒュン

黄泉川「さすが、第一七七支部の連中は優秀じゃん」

初春「いいから避難を手伝ってくださいっ!」

黄泉川「解かってるじゃん!」

鉄装「あわわ、お、落ち着いてくださーい!?」アワアワ

黄泉川「まずはお前が落ち着くじゃん……」
22 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 00:46:33.53 ID:TQwcnVQo
一般客の避難がほぼ完了したセブンスミスト。
その屋上まで逃げてきた『量子変速』、釧路帷子はイラついていた。

釧路「……くそっ! くそっ!」

目下の原因は忌々しい追っ手、『座標移動』の能力者。
どこでどう手を回したのか、既に警備員に包囲されていて逃げ場も無い。
しかし、こんな状況になってしまったのは何故だったか。今となっては思い返すのも苦痛だ。

レベル1からレベル4に順調に進化を続け、レベル5に手が届くかもしれないと、そう思っていた。
あの超電磁砲はレベル1からレベル5の第三位まで上り詰めたのだ。
自分にもできる筈だ……そう思ってしまったのがいけなかったのか。

『君ではレベル5にはなれない。君の量子変速のポテンシャルはレベル4までだ』

あんな言葉が無ければ幻想御手にも手を出さずに研鑽を重ねていたかもしれない。
そんな時にひょんな事から入手した幻想御手。それを使えば……そう、考えてしまったのがいけないのか。

未来は無いと宣告されただけなら、まだ努力は続けられた。
科学者の言う潜在能力など覆してやればいい、そう思い込むことはできた。

けれど。

他の使用者は総じて能力が強化されたというのに──

彼女の『量子変速』は全く強化されなかった。

釧路「巫山戯るのも大概にしろよおおおお!!」

あの宣告が事実なのだと、幻想御手はいとも簡単に証明してしまった。

当然のように歩いてきた道が、プッツリと途切れたような感覚。
それは唐突に現れた『行き止まり』のようで。
順風満帆の航路が、気付かぬうちに入江に迷い込んで座礁してしまった。
そもそも海図が間違っていたのだから無理も無い。

それからの事はよく覚えていない。
馬鹿げた講習に出席した気もするが、遠い過去のように感じられた。
23 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 00:47:21.27 ID:TQwcnVQo
そうして行き着いた先は、突発的で事故のような殺人。

『なんだテメェ! 能力者……カッ……っああああ!?』
『よくも達彦を……あ……うわあああああ!!』

そこから先を転げ堕ちるのは早かった。
気が向いた時にスキルアウトの溜まり場に足を運び、無能力者を殺し続けた。
何人も、何人も、何人も、殺して、殺して、殺して、殺した。

殺せば[ピーーー]だけ、現実が遠のく気がして、最高に心地良かった。
『行き止まり』の事など忘れてしまえ、脳の深奥で何かが呟き続けている気がした。

もちろん、そんな馬鹿げた行為が放置され続けるわけもなく。
とある昼下がり、そいつは唐突に現れたのだ。

結標「いい加減、鬼ごっこはやめにしない?」

『汝が深淵を覗き込むとき、深淵もまた汝を覗き込んでいるのだ』

どこぞの哲学者の言葉は、こんな時のためにあるんだろうか。

釧路「嫌だね、私はそんなところに堕ちるのはゴメンよ」

結標「それは違うわね。あなたは既に『ここ』に堕ちてるの」

返す言葉もない。何を今更と釧路は自嘲する。
それでも。何もかも失って空っぽになった釧路の中に、最後に残った「何か」が言葉を搾り出す。

釧路「黙れ! 私はお前たちとはち「違わない」

が。その最後に残った何か──闇を恐れる恐怖──は、簡単に踏み躙られた。

結標「28人も殺しておいて、今更『違う』なんて……虫が良すぎると思わない?」

釧路「────っ!!」
24 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 00:48:01.63 ID:TQwcnVQo
結標「誰が言ったんだっけ──『汝が深淵を覗き込むとき、深淵もまた汝を覗き込んでいるのだ』」

釧路「……フリードリッヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ」

結標「はいよく出来ました」

カツカツと歩み寄る。
わざと音を立てているのでは無いかと思うほど、誰も居ない静寂の中では音が通った。

結標「つまりあなたが最初にこちらを覗き込んだ瞬間から、ずっと見られてたのよ」

釧路「──っ!」

ガクリと、釧路は観念したように肩を落とし、俯いた。

結標「すぐに処理しちゃっても良かったんだけどね。私たちはそんな心優しい事はしてあげないの」

釧路「…………」

結標「でも、人手が足りないっていうのに、あなたがここに堕ちてくるまで待っててあげたんだから。
 ……もう少し、素直に手を取ってくれてもいいんじゃない?」

釧路「……ははっ……アハハハハハハ!!」

差し伸べられた手に向けられたのは、嘲りを含む笑い声。
嘲っている対象は果たして、自分なのか、相手なのか──。

釧路「アハ! アハハハハ! アハッ! ──カッふ……ハッ──! ……ハァ」

そうして一頻り笑ってから、釧路は顔を上げた。

釧路「…………殺せよ」

結標「……は?」

想定外の回答に対して、意外そうな声を出して傾げた顔は、けれど余裕を崩す事は無く。

釧路「そんな所に行くくらいなら、死んだ方がマシだって……殺せって言ったのよ!!」

少し悲しそうに笑ってから、肩を竦めた。

結標「……そっか」
25 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 00:48:27.61 ID:TQwcnVQo
結標「なら表の法で裁かれる事になるわ。28人無差別殺人だし……ま、死刑でしょうね」

釧路「はぁ……?」

結標「折角、仲間が増えるかと思っていたのだけど……残念だわ。……さよなら」シュンッ

それきり、耳障りな音は聞こえなくなった。

釧路「は……はははは……」

では、なぜ自分は生きているのだろう? そんな疑問が釧路の脳裏を過ぎる。

行き止まりに絶望し、堕ちるところまで堕ちて、今『ここ』に居る自分が。
それがたとえ闇の底からだとしても、差し伸べられた手に唾を吐いた自分が、生きている筈が無い。

何もかも失った。レベル4という決して低いとは言えない地位も、人としての尊厳も、
そして最後に残った恐怖を失っても尚──彼女に残されたものがあった。

釧路(──ああ、そうか……これが)

『自分だけの現実』

釧路(──これが、レベル5……なぁんだ、やっぱあの教授、嘘吐いてたんじゃん……)

景色が歪む。それはまるでスターボウのように。
自意識が押し潰される。それはまるでブラックホールのように。
そんな強大な『現実』に抵抗する為のものは……──彼女は、全て失ってしまっていた。

釧路(でも、もう──)

瞬間。世界が爆ぜた。
26 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 00:49:32.00 ID:TQwcnVQo
錬(っ! ……──「氷盾」発動)

佐天「きゃああああ!?」

それは突然やってきた。
フロアの天井を抜いて崩落する瓦礫の山。

錬「……間に合った……って、嘘……」

反射的に氷の盾を出現させて事無きを得た錬だが、目の前の光景を見て愕然とする。
ただフロアの天井が抜けているだけなら、ここまで驚きはしないだろう。

しかし、そこには──天井が、無かった。

錬(こんな大規模な爆発、カテゴリAの『炎使い』にだって起こせない……。
 かといって、こんな爆発を起こすほどの爆発物はこのビルには無かった……)

佐天「あ、ありがとう錬くん……、え……何これ!?」

錬「……涙子さん、急いで逃げて」

幸か不幸か、のろのろと避難していた二人はそのフロアの最後の避難者だった。
パニックに陥った群集が居ない今なら、簡単に避難できる。

佐天「で、でも」

錬「いいから逃げて!!」チャキッ

普段は柔和な表情を浮かべる少年の顔からは、完全に余裕が消えていた。
ナイフを構えて爆発の中心を見据える。その行動が何を意味するのか、それが解からないのなら──
このお調子者の少女はとっくの昔に命を落としていただろう。

佐天「ごめん──死なないでよ!」ダダッ

そのまま30秒。錬は動くこと無く爆心地──だった場所には床は既に無いのだが──を見据えている。
そうしてようやく煙が晴れ、『不審者』が姿を現した。

釧路「アッハ……気持ちイイわ……最ッ高に、イイ気分……」

錬(相手は超能力者──情報制御を感知しての予測は使えない。けど……やるしか無いか……)
27 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 00:50:29.86 ID:TQwcnVQo
釧路の着ている服は焼け焦げてボロボロで、両足部分に至っては、膝より下が靴下まで完全に消失していた。
だというのに、釧路本人には火傷どころか掠り傷の一つも付いていない。あの爆心地にいながら、だ。

元から良いとは言えない目つきを、更に凶悪に歪めて見据えるのは、魔法士の少年。
しかしその目からは、止めど無く涙が流れ続けていた。

釧路「ナにオ前? ワたしのレべる5昇格記念パーりぃでもヤってくれんノぉ?」

本来、錬にはここで戦う理由は無い。
それは風紀委員の少女に言われたからでもなく、ここには守るべきものが無い筈だったからだ。

錬(足元の量子に異常……何らかの量子を操っている……? それで浮いてるのか)

けれど、錬は知ってしまった。

錬(窒素、酸素、埃に混ざった金属類……見境無しか。どんな脳構造ならそんな事ができるんだろうね)

仲良く買い物をする親子連れを。ウィンドウショッピングに精を出す女子学生を。
この世界の平和を享受する無辜なる人々を、錬は知ってしまった。

錬(白井さんの言葉からして、能力者には能力は一つ。例外は無い)

既に、錬はたった一人の少女を救う為だけに、シティ神戸で平和に過ごす一千万人を見殺しにしている。
だからと言って、それが「この平和な街の数百万人を見捨てて良い」なんて結論には至らない。

故に。

錬(物理法則に逆らっている量子の中心は……まさか、重力子? 仮想粒子を操るなんて出鱈目だな。けど)

見たことも無い能力を見ても怯むことはなく。

錬(ちょっとばかり、範囲と出力が桁外れ……うん、文字通り桁が5〜6個はぶっ飛んでるってだけだ)

その法外な効果を目の当たりにしても尚、立ち向かう勇気はいくらでも湧いてきた。
28 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 00:51:07.00 ID:TQwcnVQo
錬(標的固定……「氷槍」起動──射出)

瞬間的に生成された百以上もの数を誇る氷の槍が、寸分違わず釧路に襲いかかる。
その直後、錬は足に力を込めて屈んでいた。

錬「……ふっ!」

錬(運動係数制御デーモン「ラグランジュ」常駐。運動速度を5倍、知覚速度を20倍に定義。
 ──容量不足。「マクスウェル」を強制終了)

細身な少年はその足で床を蹴り、コンマ数秒で三階分の高さを跳躍してみせた。

釧路「アハッ……アハハハ!! 新しい……オモチャをアリガトオォぁァアハハはハハ!!」

今の彼女は、アルミニウムという制限無しに重力子の加減速を自在に操ることができる。
それはつまり『相手の攻撃が何であったとしても』全く問題では無いという事を意味する。

錬(空間曲率変換デーモン「アインシュタイン」簡易常駐。重力方向を改変。──容量不足。「ラプラス」を強制終了)

釧路「……爆ゼろぉ!!」

腕を払い、飛来する氷槍の重力子を加速して爆破──する筈だった。
指向性を持たせて爆発させるハズの氷槍は、「マクスウェル」が強制終了した事により情報制御を失っている。
自壊を始めていたそれに釧路の演算は追い付かず、緩慢な小爆発を起こすに留まった。

その間、錬は重力操作によって飛行し、釧路の真後ろに回り込んでいる。

錬(もらっ──……っ!? 「マクスウェル」「ラプラス」を常駐。
 ──容量不足。「アインシュタイン」「ラグランジュ」を強制終了)

しかし、その好機に振りかぶったナイフを止め、

錬(「氷盾」展開──)

氷の盾を作り出した。直後。

釧路「──っぜエぇえエエエ!!」

両の手を広げた釧路の背中が爆ぜた。
29 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 00:51:49.85 ID:TQwcnVQo
あらゆる元素の持つ重力子を操作できる。それはつまり、空気ですらも爆弾にできるという事だ。

釧路「アーぁ……ダーんだん、解かってきたワぁ……」

真後ろに目が付いているとでも言うかのような精度で、完璧なタイミングでの高指向爆発。

錬「くっ……」

錬(「ラグランジュ」起動。──容量不足「マクスウェル」を強制終了)

氷の盾によって無傷で済みはしたが、コンマ一秒遅れていたら確実に命を落としていたであろう攻撃だ。
錬は三階だったであろうフロアに着地しながら体勢を整えていた。

釧路「でもサぁ、ウざってぇのよアんたサぁ!」

休む間もなく、背中の爆発と同等以上の連弾。それを少年は、5倍速の身体能力で地を蹴って避ける。

釧路「避けテんじゃネぇよカスがァァあアアぁァ!!」

それは既に爆発というにはあまりに収束性が高く、砲撃とさえ呼べるものになっていた。

しかし。

この数瞬の交錯で、錬は『量子操作』の性能を概ね理解した。
釧路は爆発によるダメージを自身が受けないように、常に外側への指向性を持たせている。
最初に起こした大爆発にはおよそ60秒以上は重力子を収束させる必要がある。
また、触れている重力子を微調整する事によって、皮膚の強度が許す程度の速度なら浮翌遊移動が可能。
そしてなにより重要なのは、その射程。
重力子制御を行える範囲は接触、若しくは脳を中心に半径30cmの内側のみ。

とは言っても、それはつまり全身360度オールレンジの砲台が付いているのと同義だ。
氷の槍は迎撃され、近接攻撃をするにも近付く事すら困難。
ゴーストハックを使おうにも標的の周15mは抉り取られて距離が遠すぎる。

錬(つまり、まともにやったら八方塞がりって事か)
30 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 00:52:28.21 ID:TQwcnVQo
もちろん、錬には逃走という選択肢もある。幸いにして釧路の移動速度はそれほど早くは無い。
ラグランジュで運動速度を5倍に定義するだけで、悠々と逃げ切る事が可能だろう。

錬(──なんて、言ってられないよね)

仮に、少年がこの場を放棄して元の世界に戻ったとして。
少年が世界中で最も大切にしている、あの少女はどんな顔をするだろうか?
何の目的も無しに、救えた筈のモノをこの街の数百万人を見捨てて来たと言ったら──。

錬(「ラプラス」「ラグランジュ」を強制終了。──「マクスウェル」を二重常駐)

錬「弾幕勝負……行けるかな?」

周囲に氷の槍が出現し、矛先を釧路に向けた。その数は千に近い。

相手があらゆるモノを砲撃に変換してしまうのなら、力尽くでぶち抜くしか無い。
それが錬の弾き出した答えだった。

釧路「ハぁ? デキるんならヤってミなさいヨぉおオォおオオ!!」

両者の砲撃開始はほぼ同時。
片や千を超える氷の槍、片や脳が焼き切れるまで無限に放てる重力子の砲撃。

その威力は互角か、やや釧路が優勢に見えた。

釧路「ッハぁあ! ブチ抜けェェえぇエエエ!!」

──氷の槍の残弾が半数を切るまでは。
31 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 00:53:02.22 ID:TQwcnVQo
氷槍の残弾が半数──つまり「マクスウェル」のプロセス一つで制御可能な数──まで減ったところで、
「マクスウェル」の一方をエントロピー制御、一方を熱量制御に振り分ける。

途端に、砲撃戦は明らかに錬の優位になった。

釧路「オ……い、オイオイオイオイィィイ!?」

原因は一目瞭然。
氷の槍が砲撃に接触して相殺される直前に、自ら小爆発を起こして砲撃を押し込めている。
二種類の分子運動制御を並列操作するという、全ての魔法士の中でも錬にしかできない芸当だ。

錬(次弾装填──射出──……警告。I−ブレイン疲労蓄積80%、警告を無視、処理を続行──)

釧路「コ、の……オおぉオオォオおオオオ!!」

そして、一度均衡が崩れた砲撃戦は、いとも容易く終焉を告げる。

自らの敗北を悟った釧路は、数百の小爆発に晒される直前に、爆発を自身に浴びせる。
その反動を利用して弾幕の直撃を避けたものの、そのまま屋上の隅に投げ出されていった。

錬「──……ふぅ。……終わった……かな?」

錬(「マクスウェル」を終了。「アインシュタイン」を簡易常駐)

重力を制御して、辛うじて残っている屋上の隅へと一足跳びで着地する。

錬「さすがに意識は無いか……。よし、さっさと退散しよう……って、あれは……!」

戦闘中には気付かなかった、途中フロアの隅。屋上からしか見えない角度に転がっていたのは──。

錬「黒子さん!? なんで……ああもう、考えるのは後でいいか」

一階フロアには、ようやく警備員が様子を見に入ってきている。
錬は素早く黒子を抱えると、サイバーグを起動して自己領域を展開した。
光速度の70%で移動すれば、人の目にも映るまい。

離脱する前に、もう一度屋上を見る。

錬「……なんか、苦しそうだったな」

少年は、狂ったように笑いながらも、ずっと涙を流し続けていた少女の顔を思い出していた。
32 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 00:57:07.37 ID:TQwcnVQo
今日のところは以上で

会話メインのシーンでは地の文を入れずにテンポよく行きたいんだけど
戦闘シーンとかとの釣り合いとって入れたほうがいいんでしょうか
33 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 00:59:52.87 ID:FWBjy7Ao
会話シーンにはいらないんじゃないの?
乙です
34 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 01:04:00.19 ID:TQwcnVQo
すいません、抜けがありました。
>>13>>14の間にコレが入ります




佐天「いや、するんでしょ? 人探し」

錬「や、それはそうだけど、これ以上は迷惑をかけるわけには」

佐天「いいからいいから、無能力者が人助けをするなんて滅多にできないんだから、手伝わせてよ」ギュッ

錬「うーん、でもなぁ……」

佐天(思い切り押し付けてるのに全く反応しないだと……! 結構自信あったのに!!)

佐天「それにこの街の地理も解かってないでしょ? 案内役は必要だと思うけどなー」

錬「んー……じゃあ、うん。ありがとう。……よろしくね、涙子さん」ニコ

佐天「──っ!?」ズキューン「あ、あははは、お姉さんに任せなさいっ」

佐天(なにあの笑顔ヤバイ! 反則にも程があるって!)

錬「? 涙子さん、どうしたの?」

佐天「いやいや、別に何でもないよー?」

錬「なら、いいんだけど……」

佐天「ところで天樹さん、お腹空かない?」

錬「あー、そういえば、少し」

佐天「じゃあその辺でオヤツでも食べながら作戦会議ね!」

錬「え、いや僕はここのお金は」

佐天「そんなの私が奢ってあげるから、ほらほら行くよー?」グイッ

錬「うわわっ」
35 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 21:41:07.43 ID:JA1NTFEo
今日の分を投下開始します
36 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 21:41:35.50 ID:JA1NTFEo
錬「あ、黒子さん、気付いた?」

黒子「う……ここは?」

錬「セブンスミストの近くの公園」

黒子「……セブンスミスト……はっ! そうですの! 量子変速……犯人はどうなりましたの!?」

錬「え、あー……追い詰めたんだけど、逃げられちゃったんだ。ごめんね(……嘘を吐いてごめん)」

黒子「そう、ですか……」ガクッ「……? 今、追い詰めたと仰りました?」

錬「うん? 言ったけど」

黒子「あんな爆発を起こせるような大能力者を、どうやって追い詰めたのです?
 いえ、不可解ですがレベル5にもあそこまでの破壊力は出せるかどうか……」

錬「ええと……普通に、魔法で?」

黒子「どうして疑問形ですの」

錬「いやほら、ここの普通っていうのがよく解からないから……」

黒子「では順を追って説明してくださいまし。彼女の能力についても」

錬「なんか、まるで事情聴取みたいになってるんだけど」

黒子「それも間違いではありませんわね、わたくしは風紀委員なのですから」

錬「はは、それじゃあ──……」

少年はあの場で起きたことを、ある程度の嘘も交えて説明した。
犯人を逃がしたというだけならともかく、佐天涙子の部屋に匿ってもらっている。などと言えるわけもない。
ただでさえ、涙子には何も言わずに無茶を頼んでいるというのに、これ以上の迷惑はかけたくない。
ただし、釧路帷子との戦闘については少しだけダウングレードして、最終的に屋上に墜落したのではなく、
建物の外に飛ぶように逃げたと偽った。

錬「でもよく考えたら、あれって救助隊みたいなものだったし、別に助ける必要も無かったなぁって」

黒子「いえ、貴重な話が聞けましたわ。ありがとうございますの」

錬「そういえば、黒子さんはどうして倒れてたの?」

黒子「わたくしは犯人を追っていたのですが……はっ! 皆のところに戻らなければ。これで失礼しますの」シュンッ

錬「え、ちょっ……せっかちだなぁ」
37 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 21:42:50.28 ID:JA1NTFEo
初春「離してください! 白井さんが!」グッ

黄泉川「待つじゃん! 今中に入る方がよっぽど危険じゃん!」ガシッ

初春「でも、白井さんが中に!」

黄泉川「落ち着くじゃん! いま災害対応班が中を調べてるじゃん」

初春「そんなの待っていられません!!」

固法「落ち着きなさい」パシッ

初春「っ!?」

固法「白井さんは無事よ。それとも、私の『眼』が信用できない?」

初春「……あ……すいません」シュン

固法「すいません、教育不足は私の責任です」

黄泉川「なに、仲間思いなのは大切な要素じゃん。その思いは大切にするじゃん?」

初春「……あ、ありがとうございます」

黒子「何やら良い雰囲気のところ申し訳ないのですけれど」

初春「し……白井さん……!」ダキッ

黒子「ご心配おかけして、申し訳ありませんでした」ヨシヨシ

固法「いえ、あの爆発を予測できなかった私たちの責任よ」

黒子「あんな爆発、レベル5でも起こせるか解かりませんの。誰も予測なんてできませんわ」

固法「そういえば、あの男の子は?」

黒子「……何の事ですの?」チラッ

固法「(ここでは言えないって事か)……ん、解からないならいいわ」

黒子「それで初春。そろそろ落ち着きまして?」

初春「あ、ご、ごめんなさいっ!」グスッ

黒子「まったく、わたくしはレベル4の『空間移動』ですのよ? そう簡単に倒れたりしませんわ」
38 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 21:43:31.63 ID:JA1NTFEo
土御門「失敗したらしいな」

結標「いけると思ってたんだけど、ね」

土御門「選択肢なんて与えるから付け上がるんだ」

結標「……それは否定はしないけど」

海原「自分としてはどちらでも構わないのですが」

土御門「つまり、人手が足りない分の仕事はお前に振っても大丈夫だという事だな?」

海原「やはり中途半端な情など邪魔なだけですよねハハハ」

土御門「黙ってろ変態ストーカー」

結標「ま、私はあなたたちほど器用じゃないって事よ」

土御門(専用のAIMジャマーまで造られるような大能力者が何を言ってるんだかにゃー)

海原「損害は出なかったのですし、よしとしておきましょう……ところで、あちらの件は?」

土御門「そっちはもう少し調べが進んでからだ」

結標「その件といえば、一方通行は?」

土御門「さぁな。知らんし知ろうとも思わん。連絡さえ取れればそれで事足りる」

土御門(妹達との甘い一時を邪魔するほど野暮じゃないんだぜい)

海原(相変わらず表裏の激しい人ですね)

土御門「それと、結標。もう一件仕事が入ってる」

結標「えー、また私?」

土御門「内容を聞けば納得……いや、むしろ自分から志願するだろうさ」
39 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 21:44:52.22 ID:JA1NTFEo
一方通行「あーだりィ、重ェ」

14510(実はずいぶん前から目は醒めてるんですが、と一方通行の背中は思ったより広いという
 新事実に気付いたミサカはおぶられている現実が幸せ過ぎてオーバーヒート寸前です)

上条「あ、一方通行……?」

一方通行「あァ!?」クワッ

上条「ひぃっ!? 上条さんは何もしてませんよ!!」

サクラ「知り合いか?」

上条「ああ、ちょっとした知り合い……だよな?」……

一方通行「……ンだァ、三下か」

上条「よ、よう。どうしたんだ? それ」チラッ

一方通行「ああ、これは……超電磁砲に押し付けられた」ズシッ

上条「何やってんだあいつ……」

一方通行「知るかよ」

上条「……大変だな」

一方通行「で、オマエはまた違ェ女と歩いてるってェわけだ?」

サクラ「違う女……?」キョトン

上条「いや、ただちょっと人探しを手伝ってるだけだって。
 この街には詳しくないみたいだしさ。まぁ案内人みたいなもんか?」

一方通行「だからオマエに自覚が無いだけで……いやもォ説明すんのも面倒臭ェ」

サクラ「……ふむ、そういう事か。最低だな」

一方通行「ほォ、飲み込みがいいじゃねェか」

上条「え? なんで二人だけで分かりあってるんですか? ていうかさり気なくひどくないですか?」

サクラ「不特定多数の女性を取っ換え引っ換え遊んでいる男だと解釈したが、どこか間違っていたか?」

上条「何その言いがかり!? 大間違いもいいところですよ!?」

一方通行「あァ、だいたいあってるなァ」

上条「なんでこうなるんだよ!? はぁ……不幸だ」
40 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 21:46:11.62 ID:JA1NTFEo
上条「にしても、大丈夫か? 杖ついてるのに人ひとり背負うなんて」

一方通行「これが大丈夫に見えるってンなら、オマエの目は節穴ってこったなァ」

上条「なら手伝おうか?」

一方通行「はァ? オマエは今その女の案内人なンだろォが」

サクラ「別に私は構わないが」

一方通行「あ? そォなのか?」

14510「いえ、その必要はありません。とミサカはおぶさったままお断りします」

一方通行「起きてンのかよォ! 何なンですかァ!?」

14510「実は割と前から意識はあったのですが、一方通行の背中が思いの外心地良かったので
 タヌキ寝入りをしていたのです。とミサカはネタばらしします」

一方通行「うっぜェ! こいつまじうっぜェ!!」

14510「まぁ落ち着いてください、これもカミやん病にかかった一方通行が悪いのです。
 とミサカは照れ隠しに責任転嫁します」

一方通行「何なンですかァその病気は!? むしろ照れる要素とか無ェし! つーか起きてンなら降りろよ!」

14510「さすが一方通行、欲しいところに欲しいツッコミをくれますね。とミサカはしぶしぶ背中から降ります」

上条「ははは、お前ら仲いいなぁ」

一方通行「仲良くねェし! オマエの目は節穴ですかァ!?」

サクラ「そうなのか? 私の目にも仲睦まじく見えるが」

14510「初対面でそこまで見抜くとはやりますね。とミサカは見知らぬ少女の慧眼に惜しみない賞賛を送ります」

一方通行「はあァ!? オマエら纏めて眼科行ってこい!!」

ワーワーギャーギャー
41 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 21:47:38.15 ID:JA1NTFEo
一方通行「はァ、バカバカしい……俺ァ帰ンぞ」ゲンナリ

上条「おう、またなー」ヒラヒラ

サクラ「さらばだ」スタスタ

14510「では、ミサカも失礼します。とミサカは礼儀正しく挨拶をします」

一方通行「ったく、せっかくクソガキを病院に預けてゆっくりできると思ったのによォ」カツカツ

14510「なるほど、今日は幼じ……上位固体はいないのですね、とミサカは心の中でグッとガッツポー」

一方通行「いやオマエはなんでナチュラルに付いて来てるンですかァ!?
 つゥか心の中じゃなくて実際にガッツポーズ取ってンじゃねェか!」

14510「不服ですか? とミサカは可愛らしく首を傾げます」

一方通行「不服だし可愛くねェし意味わかンねェし!!」

14510「うっ、さすがに可愛くないと面と向かって言われると、ミサカもショックを受けざるをえません」

一方通行「いや凹むとこそこかよ」

14510「というわけで上位固体が居ないという情報を得た事ですし、
 これから一方通行の部屋にお邪魔しようと思うのですが。とミサカは大胆発言をしました」

一方通行「断る」

14510「そ、そんな……とミサカは勇気を振り絞った発言を即答速攻大否定されて肩を落とします」

一方通行「あァ? なにいきなりしおらしくなってンだァ?」

14510「ええと、そのですね……」モジモジ

一方通行「……(やりづれェー!)」

14510「やはり、その、好きな人の部屋は見てみたいというか、というか察しろこの唐変木!
 とミサカは落ち着いてきたらやっぱり上手く話せなくてどうしよう!?」

一方通行「ンなこたァ知るかよ」

14510「えーと、えーと、じゃあこれからご飯を作りに一方通行の家に」

一方通行「断る」

14510「まだ言い終わってないのに否定するの早すぎですよね? とミサカは軽くドン引きです」

一方通行「とっとと帰れ」
42 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 21:48:09.43 ID:JA1NTFEo
14510「いやでも、ほら、コーヒーばかりでは健康にも悪いですし、ここでミサカが頑張って
 MNWの感覚共有で練習した料理の腕前を披露すればですね、とミサカは必死です」

一方通行「あァもォ何なンですかァ? 間に合ってンだよ、帰れっつてンだろォが!」

14510「……。一つ確認しておきたいのですが、とミサカは前置きします」

一方通行「はァ?」

14510「厄介事に巻き込まない為に遠ざけようとしていませんか? 上位個体を病院に預けたのもその一環ではないのですか?
 とミサカは恐る恐る聞いてみます」

一方通行「っ!」

14510「……図星でしたか。常に傍に居るだけあって、あの幼……じゃなかった、
 上位個体は一方通行に対する理解が深いようですね。とミサカは敗北感と共にため息を吐きます」

一方通行「……MNW経由か」

14510「普段は自分も調整を受けるだの何だのって一緒に検査入院してるのにミサカだけを預ける時は
 大抵何か厄介な事に関わってる時なんだよ、ってミサカはミサカはあの人の不器用な優しさを邪魔したくなかったり」

一方通行「一応言っとくが、全っ然似てねェからな?」

14510「貴方がミサカたちを守ろうとしてくれているのは嬉しいのですが、とミサカは気にせず話を進めます」

一方通行「……」

14510「一人で抱え込んで孤軍奮闘する一方通行を見るのは、ミサカにとっては非常に辛い事なのです。
 とミサカは貴方の力になれない自分を不甲斐なく思います」

一方通行「……」

14510「それに、守られるだけというのは、それはそれで存外に堪えるものなのですよ。とミサカは諭すように言います」

一方通行「……オマエよォ、今回はいつまで滞在許可出てンだ?」

14510「2日後までですが、とミサカは簡潔に答えます」

一方通行「それまでに終わったら、オマエの飯でも何でも食ってやるからよォ。……今は大人しくしてろ」

14510「……ふむ、一歩前進ですかね? とミサカは意外な回答に驚きを隠せません」

一方通行「うっせェな、解かったらとっとと帰れ」

14510「それでも一人で済ませようとするのが引っ掛かりますが、今はこれで我慢しておくとします。
 それまでに更に料理の腕を磨いておきますね。とミサカは踵を返します」

一方通行「……あァ。またなァ」
43 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 21:49:09.25 ID:JA1NTFEo
佐天「よし、と。とりあえず私の服を着せておいたけど、これ誰なの?」

釧路「スゥ……スゥ……」

錬「えーと……犯人?」

佐天「え?」ズササッ

錬「あはは……、まぁそういう反応になるよね」

佐天「てっきり逃げ遅れた人だと思ってたら、なにそれ!?」

錬「いや、その……なんか、苦しそうだったから」

佐天「いやいやいや、よくわからないけど、それはマズイでしょ」

錬「やっぱりそう思う?」

佐天「当たり前だって! 避難が終わってたから良いものの、一歩間違えば大量虐殺だよ!?」

錬「うーん、そうなんだけど、なんでか放っておけなくて……」

釧路「う……」

錬天「!!」

釧路「……あ、れ? 生きてる……? 貴方は……」

錬「おはよう、気分はどう?」

釧路「え? ……まさか、私を助けたの?」

錬「うーん、まぁそういう事になるのかな」

釧路「……そう」

錬「その様子だと、少しは落ち着いたのかな」

釧路「…………殺してくれれば良かったのに」

佐天「ちょっ……折角助けてもらったのに、その言い草は無いんじゃないですか!?」

錬「うわっ」

釧路「貴方は……そういえば、特別講習に来てた子?」

佐天「え、そうですけど……あー! 貴方も確かにいたかも!」
44 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 21:50:33.30 ID:JA1NTFEo
釧路「それで、こんなテロリストを助けて何のつもり?」

釧路(あれ? 私、確か『自分だけの現実』に……『量子変速』は……ああ、そうか。そういう事か)

錬「えっと……何か苦しそうだったから、放っておけなくて……余計な真似だったならゴメン」

釧路「そうね、確かに余計な真似だわ。私はあそこで死ぬべきだった」

錬「どうして、あんな事をしたのか、聞いてもいい?」

釧路「……そうね、借りを作りっぱなしっていうのは癪だわ」

そうして釧路の口から語られたのは、量子変速の限界。
それに困惑して幻想御手に手を出して、絶望的な現実を突き付けられた事。
自暴自棄になって28人を殺し、指名手配を受けて逃げ惑っていた事だった。

本当は逃げ惑っていたのは指名手配などではなく、暗部からの誘いの手だった。
けれど、このお人好しの少年少女にそんな話をする気にはなれなかった。

釧路「何が起きたのかは解からないけど……『自分だけの現実』に飲み込まれたのは解かるわ。
 まるで気違いみたいだったでしょ、あの時の私は」

錬「えー、まぁ、なんというか。とても、エキセントリックだった、とだけ……」

釧路「恐らく、あれが私の『自分だけの現実』そのもの。だから──
 貴方にそれをぶち壊された今の私は、レベル0の無能力者になっちゃったってわけ」

佐天「……え、じゃあ……えっと、これからどうするんですか?」

釧路「そうね……」

『──こんなとこで苦しんでないで、とっとと帰んなさい』

釧路(あーあー、どうして今になって思い出すかね……)

釧路「私は自首するわ。助けてもらって悪いけど、まず死刑……運が良くても、一生塀の中か」

錬「……」

佐天「……そう、ですか」

釧路「でも、こうして心の準備もできたし、礼は言っておくわ。ありがとう」

錬「いや、こっちこそ勝手なことをしてごめん」

釧路「そっちの貴方も。服は返せないと思うけど、ごめんね」

佐天「あ、いやそんな事……」

釧路「それじゃ、さようなら」バタン
45 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 21:51:52.86 ID:JA1NTFEo
佐天「……よかったのかなぁ、これで」

錬「さぁ?」

佐天「さぁ? って、自分で助けた割に随分とドライなんだね」

錬「でも、自分で選んだ道だから、そこから先は僕らにはどうしようもないし」

佐天「それはそうだけど……」

錬「少なくとも……一千万人を見殺しにした僕には、何も言えないよ」

佐天「──え?」

錬「まぁ、僕の世界で色々あってね」

佐天「色々って、そんな、一千万人なんて」

錬「そうだなぁ……大切な人たった一人、それか大きな都市一つまるごと。
 どちらか一つを選べって言われたら……涙子さんなら、どっちを取る?」

佐天「え、そんな事いきなり言われても……」

錬「……」

佐天「で、でも街一つと人一人で、でも大切な人で、うう……」ウーンウーン

錬「うん、別に答えが聞きたいわけじゃないから、慌てないで」

佐天「あ……うん」

錬「だからさ、正解なんて解からないんだ。ただ、背負って歩く覚悟だけは、してるつもりだけどね」

佐天(どういう人生送ってきてるのこの人……)
46 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 21:52:30.60 ID:JA1NTFEo
結標「半信半疑だったけど……あなた、本当に捕まってなかったのね」

釧路「……とあるお人好しのおかげでね。まだ何か用?」

結標「ああ、別にもう誘おうとは思ってないから安心して」

釧路「色々あって、今の私はレベル0の無能力者よ。好きにすれば?」

結標「……へぇ、興味深い話ね」

釧路「それで、用事は?」

結標「おめでとう。あなたは死刑にはならないわ」

釧路「何だって?」

結標「どんな手品を使ったのかは知らないけど、あなたは短時間とはいえ
 本来レベル4までしか存在しない筈の能力でレベル5と同等の能力を振るった」

釧路「……見てたのか」

結標「見てたのは私じゃないけどね? レベル0っていうのが反動なのかそうかは知らないけど、
 頭のイカレた研究者の興味を引くには充分過ぎたっていう事ね」

釧路「モルモットにするなら殺人犯のテロリストでもお構いなし? 確かに頭がイカレてるわ」

結標「抵抗しないなら穏便に案内できるけど?」

釧路「ッハ、今の私に抵抗なんてできないわよ。好きにしなさい、案内人」

結標「ありがと」

釧路「……やっぱり、そっちに行っておいた方が正解だったかもね」

結標「そういう事は、もっと早く言ってほしかったんだけど。解かってると思うけど、もう無理よ?」

釧路「解かってる。大人しく従うわよ」

結標「参考までに聞いておくけど、どうしてそう思ったの?」

釧路「黙秘よ」フッ

結標「それは残念」クス
47 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 21:53:30.87 ID:JA1NTFEo
──幕間。

研究員A「ふむ、これは見事に砕かれたものだな」

研究員B「レベル5になっていた時点でのデータが無いのが悔やまれるところだ」

研究員A「しかし、『自分だけの現実』を失って尚、この演算能力の高さは特筆に値するな」

研究員B「うむ。演算能力だけなら一方通行……とまではいかないか。しかし相当なものだ」

研究員A「あんなバカげた難解な能力でなければ、正真正銘のレベル5になっていたかもしれんな」

研究員B「しかし、これは調度良いと思わんかね」

研究員A「やはりそう思うか。本番を前に思わぬ収穫だったな」

研究員B「これほどのスペックなら、事前演習には充分に役立つだろう」

研究員A「それで、こいつの実験はいつにするかね」

研究員B「そうだな、早ければ早いほどいい」

研究員A「素体は……そこらのゴミクズをそそのかせばどうとでもなる」

研究員B「くくっ……」

研究員A「……どうした?」

研究員B「いや、こんなタイミングでこんな素材が手に入るとはね。まったく、この街は退屈しないな」

研究員A「くははっ、違いない」
48 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 21:54:18.87 ID:JA1NTFEo
上条『うぇ、セブンスミストが爆破!?』

土御門「そうぜよ、カミやんは女の子に付き合わされでもしてるんじゃないかと思ったんだが、
 そんな心配は要らなかったみたいだにゃー」

上条『その心配のしかたが気になるけど……、大丈夫なのか? 被害はどうなんだ?』

土御門「早めの避難勧告の甲斐あってか、人的被害はゼロ。ああ、風紀委員が掠り傷したとかしないとか?
 まぁ舐めとけば治るレベルだろうにゃー。んで、物的被害は建物が全壊っていうだけぜよ」

上条『ぜんか……いやいやどんな威力だよ! 爆破ってレベルじゃないだろそれ!』

土御門「でも犯人も捕まったし、もう心配は要らんぜよ」

上条『そっか……いや本当に良かった』

土御門「あれほどの規模の爆発で死傷者はゼロ。カミやんが居ないのに奇跡的な結果なんだぜい」

上条『この不幸体質の上条さんをして奇跡製造機みたいに言わないで欲しいんですが?』

土御門「まぁカミやんが無事ならいいんだぜい、またにゃー」

上条『おう、心配してくれてありがとな』ピッ

海原「……」ジーッ

土御門「なんだその目は」

海原「いえ、友人に嘘を吐かなければならないというのは、どんな気分なのかと想像していました」

土御門「……死にたいのか?」

海原「勘弁してください。自分はまだ背中を刺されたくはありませんからね」

土御門「まあいい。口には気をつけろ」

海原「それで、結局のところ、彼らは何者なんでしょうね? 魔術でもない、超能力でもない。
 それでいて超能力のようでもあり、魔術のようでもある。まるで魔法ですよ」

土御門「魔法……ね。言い得て妙だが、それを調べるのが俺たちの仕事だ。行くぞ」

海原「やれやれ、確かに人手が足りないというのは問題かもしれませんね」
49 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 21:55:05.31 ID:JA1NTFEo
サクラ「上条当麻、セブンスミストというのは何だ?」

上条「ああ、この近所で一番でかい洋服屋の名前。それが爆破されたんだってさ」

サクラ「……それなりに平和な街だと思っていたのだが、物騒な話だな」

上条「上条さんも寝耳に水ですよ。人的被害がゼロだったっていうのが不幸中の幸いだな」

サクラ「大事なければそれに越したことは無い」

上条「にしても、特に何も無いまま暗くなって来ちまったな。泊まる当てはあるのか?」

サクラ「当ては無いが、野宿でも特に問題は無い」

上条「いやいやいやいや? いくらなんでも女の子を野宿させるわけにはいきませんの事よ?」

サクラ「上条当麻、それは誤りだ。私は野宿など気にはしないぞ」

上条「だからサクラが気にしなくても俺が気にするんだって!」

サクラ「む?」キョトン

上条「ああもう、魔法士ってのはみんなこうなのか!?」

サクラ「いや、私は魔法士の中でも相当に特殊な性能を有しているが」

上条「そこじゃないよね、上条さんが気にしてるのはそこじゃないって解かってて言ってますよね!?」

サクラ「貴方こそ何を言っているのだ? 言いたいことがあるならハッキリ言え」

上条「だから……今日中に無理そうだったらうちにでも泊まっとくか? って話ですよ」

サクラ「なるほど、そういう事なら厚意に甘えさせてもらうとしよう」

御坂妹「そうしてまたフラグを立てているわけですね、とミサカは辟易して嘆息します」

上条「!?」
50 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 21:55:51.42 ID:JA1NTFEo
サクラ「御坂美琴か、さっきはおぶられていたようだが、もう体調は大丈夫なのか?」

御坂妹「いえ、先程の個体はこのミサカとは別のミサカです。とミサカは体調に問題が無い事を告げます」

サクラ「む? 個体ということは、何かクローンのようなものか?」

上条「いやそれは」

御坂妹「ザッツライト、その通りです。とミサカは初対面の少女の慧眼に感嘆します。
 ちなみに検体番号10032号のミサカです」

上条「……えー、言っちゃっていいのかよ」

サクラ「ふむ……ということは先程の御坂美琴と、最初に出会った御坂美琴も別物ということか。
 やけに口調が違うと思ったが、これで合点が行った」

御坂妹「恐らく最初に出会ったのがお姉様──オリジナルでしょう。とミサカはMNWの情報を総合して判断します」

サクラ「して、フラグというのは何の事だ?」

御坂妹「ああ、それはですね。とミサカは説明を開始します。そこの上条当麻という男は」

上条「だああああ待て待て待て! ちょっと会話についていけなくて呆気に取られてたけどそれは誤解だ!」

御坂妹「こうしてまた女性を部屋に泊めようというのに、まだ白を切りますか。とミサカは鋭い眼光を飛ばします」

サクラ「つまり、女性関係にだらしがない事を揶揄する表現の一種か。理解した」

上条「そのりくつはおかしい」

御坂妹「貴女の理解の速度と正確さは賞賛に値します。とミサカは親指をグッと立ててサムズアップします」

サクラ「お褒めに頂き光栄だ。しかし私は女性である前に一人の魔法士。そのような心配は無用だ」フッ

御坂妹「はて、魔法士とは何のことでしょう? とミサカは初めて聞く単語に首を傾げます」

サクラ「そういえば貴方は御坂美琴のクローンなのだったな、ならば知らなくて当然だ。魔法士と言うのは──」

上条「おかしいなぁ、なんで明らかに言葉が足りてないのにこんなに噛み合っちゃってるんでせうね」

サク妹「それはあなたの理解力が足りないだけだ」です、とミサカは反論します」

上条「……不幸だ」
51 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/21(金) 21:59:39.41 ID:JA1NTFEo
今日は以上です。

昨日書き忘れたけど、釧路帷子の設定やらキャラとかは
アニメの超電磁砲で出た情報からふくらませて捏造しました。
受け付けない人はごめんなさい。

次は日曜の夜になると思います。
52 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/05/22(土) 03:10:58.07 ID:Uq65V1o0
乙支援
投下終わったらageてくれるとわかりやすい
53 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/23(日) 22:44:06.95 ID:Dcr/mN6o
こんばんわ、今日の分の投下開始します
やられ役にオリキャラ出してます

>>52
ありがとうございます、そうします
54 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/23(日) 22:44:32.33 ID:Dcr/mN6o
──風紀委員第一七七支部

固法「ふぅ、お疲れ様」ガチャ

黒子「お疲れ様ですの」

初春「ふひー、お疲れ様でしたぁ」

固法「事後処理がこんな時間までまでかかるとはね」

黒子「あれだけ大規模な事件でしたから、仕方ありませんの」

初春「それにしても白井さん、あの中に取り残されてよく無事でしたねー」

黒子「爆発の指向性が高く、ほとんど直下方向のみでしたから。
 規模こそ大きいですが、あれほどの爆発でも外壁はほぼ無傷だったのはそういう事ですの」

固法「それもあるけど……白井さん、そろそろ話してくれない?」

黒子「……ええ、ここなら話せますわね。お気遣い痛み入りますの」

初春「え? 話すって、何の事ですか?」

固法「白井さんを助けて──……犯人を逃がした少年について、ね」

初春「っ!?」

黒子「犯人を逃がした、ですって?」

固法「ええ、私はそこしか見ていないけど、白井さんと釧路帷子を抱えて、どこかへと『消えた』のよ」

黒子「そんな……私には取り逃がしたと……」

初春(人間二人をかかえて……白井さんと同等の『空間移動』? でも書庫にはそんな登録は……)カタカタ

固法「何故そんな事を言うのかは知らないけど、それは確実に嘘よ」

黒子「……やられましたわ」

固法「それで彼は何者なの?」

黒子「そうですわね、どこから話したものか……彼は──……」
55 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/23(日) 22:45:19.92 ID:Dcr/mN6o
黒子「……──というわけですの。こうして話してみると、何も分からないも同然ですわね」

固法「異世界人で、理論的には存在しない筈の多才能力……この学園都市で随分と非科学的な話ね」

初春「ちょっと信じにくい話ですね」

黒子「それについては、わたくしも同感ですの。ですが、実際に複数の能力を使用したところも確かにこの目で見ました。
 ちょうどその時はたまたま佐天さんも居合わせて目撃していますから、それは間違いありませんの」

固法「それにしても、どうして犯人を逃がす必要が……いえ、待って」

黒子「?」

固法「犯人を『取り逃がした』って言ったわよね」

黒子「はいですの」

固法「確かに、私が『観た』時には犯人は倒れていた……つまり、あれほどの爆発を起こした釧路帷子を、
 レベル5にも匹敵する能力者を無力化させたっていう事になるけど……彼にそれ程の能力が?」

黒子「二重能力……いえ、多才能力と言っても良い能力ですから、無いとは言い切れませんわ」

初春「……あれ? 犯人の指名手配、解除されてますよ。自首してきたみたいです」カタカタ

黒法「!?」

初春「……でも、おかしいですね、これ……あ」

黒子「どうかしましたの?」

初春「この指名手配……3週間前に出た事になってますけど……いえ、確かに釧路帷子が殺人事件を
 起こした日付と一致するんですけど、でも実際に作成されたのは、昨日ですよ。改竄されてます」

黒子「つまり、釧路はその間ずっと泳がされていた……?」

固法「待って初春さん。あなた、またハッキングを?」

初春「えっ!? あ、いやそんなことはゼンゼンちがうですよ?」
56 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/23(日) 22:46:10.69 ID:Dcr/mN6o
固法「初春さん、あんまり危ない橋は渡らないようにって言ってるでしょう」

初春「あぅ、すいません……あと、怒られついでなんですけど……」

固法「まだ何かやってるの?」

初春「いえ、もうやっちゃった後といいますか……いや大丈夫ですよ! この程度なら危ない橋のあの字にも入りませんし!」

固法「貴方の技術が優れてるのは解るけど、そういうのはやめなさいって言ってるでしょう」

黒子「まぁまぁ。それで初春、何が解かったんですの?」

初春「えっと、その……釧路帷子の所在です」

固法「……? 警備員の保護施設じゃないの?」

初春「いえ、そもそも自首してきたというのが偽装情報で、ある研究所に運ばれたみたいです」

黒子「研究所……?」

固法「3週間泳がせた上で、自首を装って回収……?」

黒子「いよいよキナ臭くなってきましたわね」

固法「……そうね、でも、誰が何の為に殺人犯を泳がせるなんて事を?」

黒子「それは解かりませんが……例えば、ですけど」

固法「?」

黒子「死刑になるような大罪人なら、例えば逮捕後に何らかの研究の検体として利用する……
 なんて不正を働いても、公にはなりませんわね」

固法「まさか、そんな事が……」

黒子「レベル4ともなれば、正攻法で確保しようとしても何らかの足が付きますし……」

初春「でも、それなら28件もの殺人を犯すまで待つ意味はありませんよね」

黒子「それが解せないところですの」

固法「解せないといえば、現場から逃がしておいて自首っていう方が解せないわよ」

初春「いきなり行き詰まりましたね」

黒子「そうは言っても情報が不足しすぎていますの」
57 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/23(日) 22:47:11.86 ID:Dcr/mN6o
固法「んー……、まぁこれ以上話しててもしょうがないわね」

黒子「この事は上に報告しておくべきなんでしょうか……」

固法「いえ、その必要はないでしょうね」

黒子「そうなのですか?」

固法「どうせ処理済みの事件として流されるのがオチでしょう」

初春「それもそうですね」

固法「それに何より、多才能力の異世界人が潜伏してます、なんて言って信じてもらえるわけもないしね」

黒子「まぁそれは、確かに……わたくしも未だに半信半疑ですし」

固法「あとはまぁ、例の男の子が後輩を助けてくれたっていうのも、無いとは言えないわね。
 白井さんが倒れてた部分の床だけど、あの後すぐに崩れてたのよ」

初春「ええ!?」

固法「もし彼に助けられてなかったら、4階から真っ逆さまだったでしょうね」

黒子「……そうだったのですか」

固法「だからって気に病む必要は無いわよ? 犯人を逃がしてこうして混乱を招いたんだしね」

初春「そうですねー、結局何がなんだか判らずじまいですし」

黒子「そうですわね、ええ」

黒子(彼が釧路帷子を抑えて助けてくれなければ、今頃わたくしは……)

固法「さてと、そろそろ帰りましょうか、随分と遅くなってしまったわ」

黒子「はいですの」

初春「はーい、お疲れ様でした」
58 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/23(日) 22:48:13.71 ID:Dcr/mN6o
──佐天宅

錬「じゃ、僕はそろそろ行くね」

佐天「行くってどこに?」

錬「人探しの続き?」

佐天「えー、今日はもう暗いし泊まっていけばいいのに」

錬「あはは、初対面の女の子にそこまで世話になれないよ」

佐天「そんなの気にしなくていいって」

錬「うーん、そうは言ってもなぁ」

佐天「もう乗りかかった船ってやつでさ、それにお金も無いでしょ?」

錬「いやいや、僕は野宿とか慣れてるから問題無いし、大丈夫だから」

佐天「というか無一文の男の子を野宿させる方が心苦しいよ?」

錬「とはいっても、女の子の部屋に泊まるっていうのも、その、ね?」

佐天「なるほどなるほどー、女の子と一緒の布団で寝るのは恥ずかしいんだ?」

錬「待って、何かすごい話が飛躍してない!?」

佐天「いぇー! 突発お泊り会っ!」

錬「いやあの」

佐天「あ、晩ご飯は何が良い?」

錬「僕の話を」

佐天「どうせだから一緒に晩御飯も買いに行こうよ」

錬「聞いて?」

佐天「そうと決まればれっつらごー!」

錬「……どうしてこうなった」
59 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/23(日) 22:49:41.98 ID:Dcr/mN6o
──とあるスーパーマーケット

上条「……あのー、一方通行さんはどうしてそんな殺意の篭もった視線を上条さんに向けるのでせうか?」

一方通行「あァ? ンなもン篭めてねェよ! 目つきが悪くてすみませンねェ!?」クワッ

上条「ひぃっ!?」

御坂妹「一方通行がスーパーマーケットに来るとは珍しいですね。とミサカは空気を読まずに疑問を口にします」

一方通行「あァ、ここにしか置いてねェ缶コーヒーがあンだよ」

上条「そ、そうだったのか……ほっ」

御坂妹「なんだこいつまたコーヒーかよ、うわしかも全部ブラック。とミサカは一方通行のコーヒーフリークぶりに呆れます」

一方通行「別に人が何飲もォが勝手だろォが。つゥかうめェじゃねェかブラック」

御坂妹「別にセロリ……じゃない、一方通行さんにケンカを売っているわけではありませんよ、とミサカは補足します」

一方通行「思い切り売ってンじゃねェか! ンだこらァ! 今ここでスクラップにしてやってもいいンだぜェ!?」カチッ

御坂妹「時に一方通行、とミサカは流れを無視して仕切りなおします」

一方通行「……ンだよ」カチ

御坂妹「あまり無茶はしないように願います。とミサカは意味深に告げました」

一方通行「……MNWってなァ厄介だよなァ」

上条「おい一方通行、お前また何か厄介事に首突っ込んでるのか?」

御坂妹「貴方がそれを言いますか、とミサカはみさかちゃんねるに本日のお前が言うなスレを立てておきました」

一方通行「クカカカ! まさかヒーローに心配されるたァ、俺もヤキが回ったもんだなァ?」

上条「俺にできる事があれば何でも……」

一方通行「ンなモンはねェよ」クルッ

上条「一方通行……」
60 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/23(日) 22:50:43.82 ID:Dcr/mN6o
一方通行「オマエはいつも通りにフラグでも立ててりゃいいンだよ、三下ァ」スタスタ

上条「お、おい一方通行!」

御坂妹「そこまでにしましょう、とミサカは貴方が後を追わないように止めます」ガシッ

上条「……はぁ、わかったよ、わかりましたよ」

御坂妹「あれが彼なりの優しさらしいので、そっとしておいてあげてください。
 とミサカはさり気なく手をつなげた幸せを噛みしめます」








──ちなみにその頃の上条家。

サクラ(呼:分子運動制御『鎖』)キィン

サクラ「これが分子運動制御。他にも弾丸のように飛ばすこともできるし、
 空気の分子運動を制御すれば音を遮断するような使い方も可能だ」

禁書目録「すごい……本当に魔術じゃないんだよ」

サクラ「当然、超能力でもない。魔法とは言っても物理現象だからな」

禁書目録「それにしても天使や悪魔じゃなくて異世界人なんて本当にいたんだね!」

サクラ「それについては私自身も未だに半信半疑だがな」

禁書目録「ねぇねぇ、他にはどんな事ができるの?」ワクワク

サクラ「そうだな、例えば……──?」

禁書目録「例えば、なにー?」

サクラ「(……気のせいではない……が、放っておくか)ああ、例えば仮想精神体制御と言って──」

ワイノワイノ
61 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/23(日) 22:51:31.52 ID:Dcr/mN6o
上条「なぁ御坂妹、一方通行の事情って何か知らないか?」

御坂妹「知ってても教えませんが、残念ながら本当に知りません。とミサカは正直に答えます」

上条「そうか……」

佐天「あっれー、上条さんと御坂さん……の妹さん?」

御坂妹「おや、佐天涙子ですね。こんばんわ。とミサカは礼儀正しく挨拶します」

上条「えーと、確か美琴の友達の……佐天さんだっけ」

佐天「せいかーい! というか御坂さんの事、名前で呼ぶ仲だったんですねぇ?」ニヤニヤ

上条「ああ、御坂妹がいるから紛らわしいと思ってな」

佐天「なーんだ、残念。でもそれ、御坂さんの前では言わない方がいいですよ?」

上条「ん? よく解からないけど、わかった。それで、佐天さんも晩飯ですか?」

佐天「はい、今日はお客さんが来てるのでこっちのスーパーまで来てみました」

御坂妹「お客さんというのはそちらの少年の事ですか? とミサカは訪ねます」

佐天「はい、実は彼氏だったりします」

錬「いやそんなの聞いてないよ!? なにサラッと大嘘ついてるの!?」

佐天「えー、ちょっとくらい合わせてくれたっていいじゃん、錬くんのいけずー」

錬「そういう問題じゃないと思うんだけど(フィアにはこんな所は見せられないなぁ)」

御坂妹「佐天涙子は恋に恋するお年頃なのですね、とミサカは最近気に入ったフレーズを使ってみます」

上条「まぁまぁ、嘘から出た真って言葉もあるんだし、そんなに必死にならなくてもいいじゃないか」

御坂妹「貴方がそれを言うと全く説得力がありませんね、とミサカは呆れ顔に……と思いましたが
 相変わらず表情筋がサボタージュ中でした」

佐天「それで、そっちはどうしたんですか?」

御坂妹「いわゆる押しかけ女房というやつですね。とミサカは言葉の意味を理解しないまま使ってみます」

上条「あ、押しかけてる自覚はあったんだな。いやごめんなさい助かってますハイ」

佐天「あはは、上条さんも程々にしないといつか刺されちゃいますよー? それじゃまたー」

上条「ああ、またなー(あれ? 何か忘れてるような……)」
62 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/23(日) 22:52:23.71 ID:Dcr/mN6o
禁書目録「あ、おかえりなんだよ、とうま!」

上条「おう、ただいま」

御坂妹「ただいま戻りました。とミサカは早速調理の準備にとりかかります」

上条「ありがとな、御坂妹。インデックスはちゃんと大人しくしてたか?」

禁書目録「静かに清楚に完璧に留守番をしてたのにその言い方は失礼かも!」

サクラ「うむ、インデックスには特には失礼は無かったぞ」

上条「(うそくせぇー)そっか、ならいいんだけど」

禁書目録「それよりすごいんだよ、とうま! さくらの魔法は魔術じゃないけど魔法なんだよ!」

上条「わかったから落ち着け、言いたいことはわかるけど支離滅裂だぞ」

禁書目録「ひょっとしたら、とーまの右手でも消せないかも!」

上条「え? あんなあからさまに異能っぽいの、さすがに消せない事はないだろ」

禁書目録「ちょっと試してみようよ! さくら、さっきの氷の鎖みたいなの出してよ!」

上条「おいおい、一応お客様なんだから……」

サクラ「話が見えないが、まぁいいだろう(呼:分子運動制御『鎖』)」キィン

上条「まったく。ちょっと失礼……つめたっ! ……あれ?」

禁書目録「ほらほら! やっぱり消えないよ!」

上条「ど、どういうことだ? 超能力みたいなものじゃないのか?」

サクラ「だから情報制御理論によって(中略)の物理現象だと言っているだろう」

上条「確かにこの右手で消せないって事は、そうなんだろうけど……すごいな」

サクラ「それで、その右手には何かあるのか?」

上条「ああ、あらゆる異能を問答無用で打ち消しちまうんだ。おかげで幸運も打ち消してるらしいけどな」ガックシ

サクラ「つまり、御坂美琴の使っていたような奇怪な現象に対してのジョーカーということか」

禁書目録「そうなんだよ、魔術だって消しちゃうんだから」フフン

上条「そんな大したもんじゃないさ、ただの不幸な高校生だって」

サクラ「その割には、随分と場慣れしているようだが……まぁ無用な詮索はするまい」
63 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/23(日) 22:53:58.66 ID:Dcr/mN6o
一同「いただきます」とミサカは手のシワとシワを合わせて幸せです」

上条「いやー、それはさすがに古すぎませんか?」

禁書目録「すごいおいしいんだよ! さすがクールビューティーなんだよ!」ガツガツ

サクラ「確かに」モグモグ「美味だな」ハムハム「箸が止まらないというのは」ズズーッ「この事を言うのだろう」モグモグ

御坂妹「お褒めに預かり光栄ですが口に食べ物を入れながら喋るのは行儀が悪いですよ。
 とミサカは一心不乱に食事を貪る二人を諌めます。ああもう、頬にご飯が」フキフキ

上条「ははは、まるでお母さんみたいだな」

御坂妹「っ!?」

御坂妹(つまりこの場合父親とはこの場で唯一の男性であり、つまりミサカと婚姻関係があり(後略)ホワーン

上条「にしても、こんな美味い飯なら毎日食ったって飽きないよな」

御坂妹「っ!?」

禁書目録「……」

サクラ「……(なるほど、これがフラグか)」

上条「おーい、どうした御坂妹?」

御坂妹「あ、貴方さえ良ければ毎日でも作りに来ますが! 通い妻ってどう思いますか! とミサカは詰め寄ります」

上条「うおっ、いやいや毎日なんてさすがにわる」

御坂妹「いえいえそんな事はありませんというかむしろ来させろ! とミサカはだんだんエスカレートしてきました」

上条「な、なんかよくわからないけど落ち着け、な?」

御坂妹「これが落ち着いていられるものですか! とミサカは拳を握り立つ女です!」

上条「いやお前何歳だよ!?」

サクラ「貴方もな」

禁書目録「これはさすがにクールビューティに同情しちゃうかも」

サクラ「ところで、おかわりはできるのか?」

上条「はやっ!?」

御坂妹「大飯食らいが二人に増えた事について一言どうぞ。と一頻り落ち着いたミサカは呆れながらもご飯を盛ります」

上条「不幸だあああ!!」
64 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/23(日) 22:55:25.00 ID:Dcr/mN6o
──とあるグループ

土御門「今日集まったデータだけじゃ、安っぽいファンタジーのような結論しか出ないな」

海原「二重能力者のようなものかと思いましたが……幻想殺しでも殺せない」

土御門「その上、魔翌力を全く使わずに魔術よりも簡素な手続きで魔術に近い効果を生み出している」

海原「恐らく、彼らの能力の根源には、現状では辿り着けないのでは?」

土御門「ああ。だからこそ『脳髄を確保しろ』なんていう仕事が回ってくるんだろう。
 脳髄に根源がある事が解かっても、何を以てして能力を型どっているのかは全く見えてこないがな」

結標「だったら、何も考えずに一方通行をけしかければいいだけじゃない」

土御門「仕事は終わったか」

結標「ええ、抵抗もしなかったし、楽なものだったわ。何故か無能力者になってたし」

土御門「無能力者に、だと?」

結標「詳しい事は知らないけどね、私の仕事は運ぶだけだったから」

土御門「ああ、ご苦労だった」

結標「それで、いつまで事前調査とやらを続けるつもり?」

土御門「いや、もう充分だろう。というよりは、これ以上は難しい」

海原「あとはタイミングですか……」

土御門(無能力者の確保でわざわざこっちに仕事が回ってくるとは思えない。
 つまり依頼元はまだレベル5だと思ってたって事か……)

海原「……? どうしました?」

土御門「いや、少し考え事をな」

土御門(それにしても、どちらの仕事も同じ移送先とはな。
 どうせまた碌でも無い事を企んでいるんだろうが……もう少し、調べてみるか)
65 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/23(日) 22:56:18.07 ID:Dcr/mN6o
検体番号14510号の妹達は、一方通行に追い払われて当ても無く街中をさまよっていた。
想い人のとの会話や、少しだけ触れられた心の感触を思い出す度に顔が緩む。
人気の無い路地は気味が悪かったが、無表情の中に薄ら笑いを浮かべる少女が歩くとその不気味さはより一層。

14510「ふらふらと歩いていたら、いつの間にか一方通行が住むマンションの付近まで来てしまっていました。
 とミサカは自分の恋愛脳(笑)に辟易しながらも、今度こそ帰路につき──」

そんな平和なワンシーンだというのに、災厄はお構いなして降りかかってきた。

??「おらぁ! くたばれよ『超電磁砲』!!」

14510「っ!?」

空気が破裂する音と共に、超高温の熱線が14510号を襲う。
しかし悲鳴を上げるよりも前に体が反応、ギリギリのところで横に転がって回避に成功する。
電磁気の乱れを感知していなければ、左半身を持っていかれていたであろう威力。
常盤台の制服のスカートが焼け焦げて細い太ももがあわらになるが、そんな事を気にしている場合でも無い。

??「さすがに避けるか。さすがは超電磁砲だなぁ!」

14510「……一つ、訂正を」

回避する歳に擦りむいた膝小僧をチラリと見やり、14510号は相手の能力を分析する。

熱線の正体は恐らくプラズマ。出力と収束率の高さから見てレベル4以上である事は確実。
熱量操作か、それとも力学的な何らかの操作か、とにかくプラズマを音速近い速度で射出する事が可能。
ただし収束する際のジュール熱で生じる電磁気の乱れから射線を予測可能。
能力が熱線だけであれば、驚異ではあるが脅威ではないが、他の使い方をするのなら未知数と判断。

14510「ミサカは超電磁砲ではありません。とミサカは勘違いを指摘します」

次に現状の確認。

??「あぁ? 超電磁砲でもなけりゃ今の一撃で死んでるだろうよ! ハッハァー!」

相手は14510号を『超電磁砲』だと誤認している。
誤解が解ける可能性、解ければ解決する可能性は、目の前の人物の柄の悪さを見れば絶望的だと判断できる。
また、レベル3の『欠陥電気』では、プラズマ発生時の電磁気の乱れを貫通して電撃を通す事は不可能。
接近戦では逆に高熱に焼かれてしまう。

14510(状況は絶望的ですね、とミサカはお姉様を恨みたくなりましたがグッと堪えます)

[ピーーー]つもりで撃ったという事は全力か、それとも超電磁砲を小手調べでもする意図があったのか。
思考の無限井戸に転落する前に切り替え、目の前の男を見据える。
66 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage]:2010/05/23(日) 22:56:51.06 ID:Dcr/mN6o
14510「つまり、殺すつもりで撃った一撃という事ですね。とミサカは臨戦態勢を取ります」

炎神具現「なぁに、ちょっとした腕試しだよ……だが、運悪く死んでもしょうがねえよなぁ。
 そんときゃこの俺が、『炎神具現(イフリート)』サマが新しくレベル5になってやっからよぉ!!」

叫びながら手を翳すと、先程と同じ熱線が射出された。射線が予測できれば、妹達の身体能力でも回避は容易だ。

14510「残念ながら、その程度の能力ではレベル5には遠く及ばないでしょう。とミサカは分析します。
 そして重ねて言いますが、ミサカは超電磁砲ではありません、とミサカは補足します」

とはいえ、自身の攻撃手段が全て無駄であり、防衛戦というわけでもない。
更に、絶対能力進化計画
となれば、やる事は一つ。隙を伺おうとジリッと一歩だけ後退り──、

炎神具現「なぁに逃げようとしてんだ?」

危険を察知した時には、14510号の目の前には既に轟音を響かせて炎神具現の拳が迫っていた。

14510「あぐっ!?」

熱線だけを警戒していた少女の反応速度は、その拳を避けるには絶望的に遅かった。
拳はインパクトの瞬間に炎を吹き上げ、抵抗もできないまま無様に吹き飛ばされる。

14510号のウェイトの軽い体は数度バウンドして、ビルの外壁に叩きつけられた。
トレードマークの軍用ゴーグルも砕けてしまっている。

炎神具現「おいおいおい、俺に扱えるのがプラズマカノンだけだとでも思ってたのか?」

14510「くっ……ぅ……!」

強かに背中を打ちつけて呼吸が止まる。
打ったのが頭で無く意識を刈り取られなかったのは不幸中の幸いか、それとも更なる苦痛を生むだけか。

炎神具現「ハッハァー! レベル5の第三位ともあろうお方がいいザマだぜ!」

14510号を見下ろす炎神具現の唇の端が醜く歪む。

炎神具現「これって俺がレベル5になったって事じゃね?」

14510「……ミサカは超電磁砲ではありません。とミサカは重ねて否定します」

よろよろと立ち上がり、炎神具現に対峙する。
現状分析に「単純な熱量操作ではない」という情報が追加されるが、絶望的状況を更に加速させるだけだった。
67 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage]:2010/05/23(日) 22:57:45.25 ID:Dcr/mN6o
炎神具現「そうやって誤魔化そうったってそうはいかねぇ。とっとと本気出せよ、そんなモンじゃねえんだろ?
 早いとこ本気出してくれねーと、本気で殺しちまうぜ?」

言いながら、14510号の腹を蹴り上げ、再び轟音が響く。
拳と同様に蹴り上げた瞬間に炎が迸り、腹部の肉が焼け焦げる嫌な臭いが立ち込める。
同時にビルの壁とサンドイッチにされた腹部が強制的に収縮され、今朝の朝食が食道まで迫り上げてくるのを堪えて、

14510「残念ながら、これがミサカの全力です。とミサカは睨め上げます」

それでもこの状況を打開する選択肢を探す。砂漠の中から一粒の宝石を探すような気分。

炎神具現「へぇ、この状況でまだそんな目が出来るとはなぁ?」

14510(熱量操作、だけどそれだけではない……炎神具現が近接攻撃の際の轟音は……)

14510「熱エネルギー操作。それが貴方の能力ですね。とミサカは看破しました」

炎神具現「ハッハァー! 御名答!」

その言葉の後半は、三度目の轟音に掻き消されて14510の耳には届かなかった。

14510「っか……は……!」

炎神具現「熱エネルギー操作をちょいと応用してなぁ? 運動エネルギーが熱エネルギーに変換される行程を
 逆流させてやる、なんて事もできるってぇわけだ」

物質が動く、ただそれだけで熱エネルギーは発生する。例えば摩擦熱が代表的だろう。
そしてその行程を逆流させる事ができれば、熱量を自在に操れる能力者にとっては無限と言っても良い駆動力と同義。
ありえない速度での動作に伴う轟音は、その副産物だった。
レベル4には到底できる筈の無い、レベル5にしかできない筈の芸当を、この自称『炎神具現』はやってのけている。

一方通行「じゃあよォ、そのエネルギーのベクトルを内側に向けてやったらどォなるの? ってなァ!!」キンッ

炎神具現「なっ……ぐぎゃあああああ!!?」

14510号が顔を上げた時には、炎神具現は既に火達磨になっていた。
自ら生み出した炎に焼かれ、てもんどり打っている。

14510「っ!?」

一方通行「……熱量操作の能力者なら、死にはしねェだろ」

そしてそれを見下ろすのは、学園都市のレベル5、序列第一位の少年だった。
68 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage]:2010/05/23(日) 22:58:24.14 ID:Dcr/mN6o
炎神具現「……熱量じゃねぇ……熱エネルギー操作だっつってんだろべば!!」

ぐしゃり。鎮火して立ち上がろうとした炎神具現の頭を、一方通行がサッカーボールのように蹴り抜いた。
ベクトル操作で二倍の衝撃が加わり、嫌な音を立ててビルの壁にヒビが入り、それきり炎神具現は動かなくなる。
運が悪ければ確実に死んでいるところを、一方通行は絶妙の加減で死なないように調節していた。

一方通行「よォ、随分と色気のある格好になっちまってンじゃねェか」

そう冗談を言いながらも、一方通行の目は笑ってはいない。
倒れている炎神具現を、今にも殺してしまいそうな形相になっている。

そんな形相で、手には缶コーヒーの詰まったコンビニ袋をぶら下げているのだから14510号は笑ってしまった。

14510「ふふ、これで貴方も、ミサカにメロメロですね、と……ミサカは……軽口……を……」バタリ

一方通行「クソが……だから、俺に近付くなっつったろォがよォ……」

言いながら14510号の額に手を当てて容態を解析する。
肉体的外傷は軽度の火傷が少々、数カ所に内出血、打撲擦り傷もそれなりに。
ただ、不幸中の幸いというべきか、気絶しているだけで命には別状は無い。

一方通行「どうしてこォ病院に縁があるンだろォなァ?」

先程とは打って変わって、一方通行は軽々と14510号を抱えて翔んだ。
69 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga sage]:2010/05/23(日) 22:59:53.33 ID:Dcr/mN6o
夕飯を済ませた佐天涙子の部屋でソワソワしていると、少年の視界の隅にチラつくものが映り込む。

錬「……? あれは……」

炎神具現と14510号の戦闘地点から数キロ離れた佐天涙子の部屋からも、プラズマ砲の光は観測することが出来た。
そして、少年はこの光に見覚えがある。

錬(まさか、『光使い』の荷電粒子砲……? それも何発も?)

光使いの荷電粒子砲「Lance」の弾体は空気をプラズマ化させてたもので、炎神具現のプラズマ砲も同様の弾体。
違うのはその加速方法が重力制御によるものか、熱エントロピーの制御によるものかというだけ。
見間違えるのも無理はない事だった。

錬(まさか、もう一人こっちに飛ばされてきた魔法士って、あのサクラって人じゃなかったのか?)

情報制御の感知範囲が落ちていなければ、あの光が魔法士によるものなのかどうかは解かったのだろうが、
本来なら数キロを誇る高密度情報制御の感知範囲は、今は100m程度まで落ちてしまっている。
その事が錬の苛立ちを加速させていた。

佐天「ん? どうかしたの?」

錬「……ごめん、ちょっと出てくる」

キッチンで洗い物をしていた涙子からの声が良心を咎めるが。

佐天「え?」

錬(こんな町中で荷電粒子砲を使うような状況って何だよ!)

それよりも危機意識が先に体を動かした。

錬「もう一人、見つけたかもしれないから!」ダダッバタン

佐天「ちょっ、錬くーん!?」

少女を一人部屋に置き去りにして、I−ブレインを戦闘起動する。

錬(サイバーグは残り4分……使わずにおこう)

自己領域を展開して光速度の70%までの速度で移動できる「ザイバーグ」は、
彼の愛用しているナイフに埋め込まれている論理回路の強度では、体感時間で5分しか使えない。
爆破されたセブンスミストから離脱する際に使った為に残り時間は4分に減っていた。

錬(運動係数制御デーモン「ラグランジュ」常駐。運動速度を5倍、知覚速度を10倍に定義。
 空間曲率変換デーモン「アインシュタイン」簡易常駐、重力方向の改変)

それでも、数キロの距離など物ともしない移動速度は確保できる。
少年は全速力で現地に向かった。
70 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[age]:2010/05/23(日) 23:01:11.15 ID:Dcr/mN6o
今日は以上です。
そろそろ中盤に突入かも。
サクラの戦闘はもうしばらく先になります
71 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/24(月) 00:26:29.68 ID:O331jcwo
>>66 に訂正
>更に、絶対能力進化計画

の部分

>更に、絶対能力進化計画の時と違い、死ぬまで戦えと言われているわけででもない。
72 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/25(火) 00:26:18.16 ID:2q2Mfzso
誰も見てなさそうだなーと思いつつ今日の分投下開始
73 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/25(火) 00:26:44.67 ID:2q2Mfzso
錬「うわ……これは……」

現地に駆けつけた錬は、その場の惨状に息を飲んだ。

アスファルトは熱線の影響で焼け焦げて歪んだ線が数本刻まれ、全身焼け焦げた男がすぐ横に倒れていた。
その後ろにあるビルの外壁にはヒビが入り、男の頭部には小さな血溜まりができていた。

錬「大丈夫ですか!」

それが炎神具現だと、腕試しの為に殺人を犯しても何とも思わないような人物だと、錬は知らない。
だから、救助しようとするのが当然の事だった。

錬「あ……でも見た目より酷くないか……」

服が焼け焦げているので慌てはしたが、全身火傷には程遠い。
もともと高温に耐性のある発火能力者が、自分の炎で火傷を負ってはお笑い種だ。

錬「脳震盪と、側頭部に裂傷……か」

錬(じゃあこの焦げ跡は……? 荷電粒子砲を受けたらこんなもんじゃ済まないし……というか蒸発するよね)

この男の能力も、この男をこんな状態にした相手の能力も全く解からない。
余りにも情報が不足しすぎていて、何も分からずじまいだ。
ここまでくると荷電粒子砲の光は見間違いだったのではないかとすら思えてくる。

錬(って……ここ病院も知らないし、どうしよ、これ)

埒も無い思考のループから錬を引き上げたのは、聞き覚えのある勇ましい声だった。

黒子「風紀委員ですの!」ザッ

錬「っ!?」ビクッ
74 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/25(火) 00:27:21.05 ID:2q2Mfzso
黒子「って、天樹さんではありませんの」

錬「あ、黒子さんか……脅かさないでよ」

黒子「っ! ……これは、貴方が?」

錬「え……あっ! いや、違うよ、僕が来た時には既にこうなってて……」

黒子「ふむ……まぁそうでしょうね。妹様が言っていた通りですの」

錬「妹様……? 誰かに言われてここに?」

黒子「ええ、それで、貴方はどうしてここに?」

錬「この場所から見覚えのある光が見えたから、もう一人いる筈の魔法士が戦ってるのかと思って……」

黒子「残念ながら、戦っていたのはどちらもこの街の能力者ですの」

錬「はぁ、慌てて来て損したなぁ。って、そうだ、救助隊を呼ぶか病院に」

黒子「ご心配なく、既に手配してありますの」

錬「そっか、なら良かった……それにしても、能力者ってすごいんだね。カテゴリAの魔法士と同じような事ができるなんて」

黒子「いえ、この男には本来、プラズマ砲を撃ったりするような能力は無い筈でしたの」

錬「……って、この人があの光の……あれ? じゃあこの人をやったのは?」

黒子「まぁ説明しても良いのですが、……っと、救急車が来ますわね、暫くそこの路地裏にでも隠れていてくださいまし。
 見つかっては面倒な事になるかもしれませんし」

錬「え? あ、うん」コソコソ
75 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/25(火) 00:28:16.20 ID:2q2Mfzso
──数分後。

女子中学生に説教をされてアスファルトに正座させられている少年の姿が、そこにはあった。
状況説明を受ける前に、釧路を逃がした件、それについて偽証した事で叱責を受けているというわけだ。

錬「……ごめんなさい、そんな大事になってるとは知らなくて」

黒子「まったく、犯人が自首したから良かったものの……これで本当に取り逃がしていたら、今頃貴方は指名手配ですのよ?」

錬「反省してます」

黒子「それで、どうしてそんな事をしたんです?」

錬「いや、何と言うか……なんか、苦しそうだったというか、助けを求めてるように見えて……」

黒子「命のやりとりをした相手に、呑気な事ですわね」

錬「やっぱり、そうなのかな……」

黒子「間違いありませんの。そんな事では命がいくつあっても足りませんわよ?」

錬「うう、そこまで言われるとさすがに落ち込むなぁ」

黒子「大いに落ち込んでくださいまし、そして猛省してください」

錬「ごめんなさい……」ショボーン

黒子「……まぁ、優しいのは結構な事ですが、使いどころを間違えてはいけないという事ですの」

錬「それは……うん、そうだね」

黒子「(年上とは思えない反応をしますのね)解かって下されば良いのですけれど」

錬(なんか怒り方が月姉っぽいんだよなぁ、どうも逆らえないっていうか)

黒子「……さてと。それで、ここで何が起きたかでしたわね」

錬「あ、うん(やば、説教されてて忘れてた)」
76 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/25(火) 00:29:00.74 ID:2q2Mfzso
──とある常盤台女子寮付近の公園

美琴「……え?」

御坂妹「検体番号14510号のミサカが襲われました。とミサカは繰り返します」

美琴「……詳しく説明して」バチバチッ

御坂妹「はい、その為に来ましたから。とミサカは説明を開始します」

10032号の口から語られたのは、14510が超電磁砲と間違われて襲われた事。
レベル3の欠陥電気とはいえ、まるで歯が立たなかった事。
そこを運良く、スーパーでコーヒーを買った帰りに通りかかった一方通行に救われた事。

そして相手の能力はレベル5に匹敵する熱エネルギー操作である事。
しかし、その能力者は『書庫』にはレベル2の発火能力者として登録されていた事。

美琴「まさか、また幻想御手が出回ってるっていうの?」

御坂妹「いえ、木山春生に確認しましたが、その可能性は無いという事です」

美琴「そうよね、それにあの人にはもう動機が無い……」

御坂妹「恐らくですが、彼女の実験データを入手した何者かによる行動ではないか、とミサカは予測します」

美琴「どこの誰だか知らないけど、私の妹に手を出すなんていい度胸してるじゃない……!」バチバチッ

御坂妹「そう言うと思って、既に上条当麻と風紀委員に相談してあります。
 とミサカはまた一人で抱え込んで暴走するであろうお姉さまに先手を打ちました」

美琴「!?」

上条「そういう事だ」ザッ

美琴「あ、アンタいつから……!」

上条「いやぁ、出待ちするのって結構そわそわするな。いつビリビリし始めるかと気が気じゃありませんでしたよ」

美琴「るっさいわね! また電撃くらいたいわけ?」バチバチッ

上条「だああ!? 待て、時に落ち着け美琴!」

サクラ「ちなみ、に私も同行させてもらう」

美琴「!?」
77 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/25(火) 00:29:42.98 ID:2q2Mfzso
美琴「いや、でもサクラさんには関係無いじゃない!」

上条「上条さんも止めたんですよ? でも行くって聞かなくてさ」

サクラ「戦力は多い方がいいのだろう? それに、一宿一飯の恩義もある」

美琴「戦力……? そういえば魔法士とかなんとか言ってたけど」

サクラ「うむ。これでも数々の死線をくぐり抜けてきたという自負もある」

美琴「……はぁ、まぁいいわ。どうせ言っても聞かないんでしょうし」

サクラ「それと、一つ気になる事もあってな」

美琴「気になる事?」

サクラ「今日こちらに来てから、断続的にだが……誰かに見られている気がするのだ。
 いや、気がするというのは語弊があるな。いくつかは気配だけでなく視認したから間違いないだろう」

上条「見られてた……?」

サクラ「平和な街なようだし、多少なら放っておこうとも思ったがこうなると話は別だ。
 少なくとも、組織的な動きで私を監視している集団がいる。これは確かだ」

上条「うぇ、今日会ってからずっと一緒にいたのに上条さんは全く気付かなかったんですが……」

美琴(ずっと一緒に……だと……!)

サクラ「これでも、元の世界では様々な組織から命を狙われる立場だからな。敏感にもなる」

美琴「……あっちで何やってるの?」

サクラ「ここで言うと何に当たるのかは分からないが……世界中のシティを相手に宣戦布告した組織のリーダーをやっている」

上琴「!?」

御坂妹「これにはさすがにミサカもドン引きせざるを得ません。とミサカは新しい知人との付き合い方を見直します」
78 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/25(火) 00:30:19.48 ID:2q2Mfzso
サクラ「さすがに理解はされないか。環境から何から、総人口も何もかも違いすぎるからな」

美琴「(そんな悪い子には見えないけど……)どうしてそんな事してるのよ」

サクラ「大切なものを守る為だ。あの子たちは、私の同胞は、世界中を敵に回してでも守るだけの価値が、
 私には有るというだけの話だ」

上条「いや、それにしたって本当に世界を相手にってのは……」

サクラ「……マザーシステムというものがあってな」

上琴「?」

サクラ「一千万人が生活出来る積層型都市というのは説明したな?」

美琴「うん、覚えてるわよ」

サクラ「その維持には、数年〜十数年毎にシステムのコアとなる魔法士の交換が必要となる。生贄のようなものだな」

上条「…………なんだよ、それ……」

サクラ「そうだな、この街に例えると……十年毎に超能力者を一人、生贄にささげるようなものか?」

美琴(……その一人が居なければ街の維持が出来ない? そんな物に頼る必要があるという事は……)

上条「ふざけんなよ!! 誰かを犠牲にした上で成り立つ街なんて!!」

サクラ「落ち着け、上条当麻。それは私の世界の問題であって、この世界には何の関係も無い」

上条「けど……」

サクラ「憤慨してくれるのは心情的にはありがたいが、本題に戻るべきだ」

美琴「サクラさん、一つ確認させて」

美琴(──『この街のすべてを敵に回しても、やめるわけにはいかないんだ!!』……か)

美琴「場合によっては、あなたと一緒には戦えないわ」
79 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/25(火) 00:30:56.83 ID:2q2Mfzso
サクラ「……? 何だ?」

美琴「あなたの世界では……そのシティが無ければ人は生きていけないって事?」

サクラ「ああ、厳密には他の手段もあるにはあるが、9割以上の人間にとってはその通りだな」

美琴「……そっか。じゃあ、やっぱりあなたと一緒には戦えない」

上条「お、おい美琴?」

サクラ「ふむ……そうか。一人の命を犠牲にしてでも、一千万人の命を支える事を良しとするのだな」

美琴「……仮に私自身がその生贄に選ばれても、喜んで……とはいかないけど、大人しく従うでしょうね」

上条「おい……」

サクラ「ではこちらからも一つ、確認させてくれ。場合によっては、無理やりにでも共闘させてもらう」

美琴「……何?」

サクラ「例えば生贄に捧げられるのが、そこの10032号、上条当麻や近しい友人だった場合でも、
 あなたは納得できるという理解で良いのだな?」

美琴「っ!! それは……」

上条「……」

御坂妹「……」

サクラ「今すぐに答えを出す必要は無い。……だが、それまでは共闘させてもらうとしよう」

美琴「でも……それでも私は……っ!」

上条「……ふざけんなよ」

サク琴「……?」

上条「ふざけんなっつってんだよ!!」

サク琴「っ!」ビクッ
80 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/25(火) 00:31:34.30 ID:2q2Mfzso
上条「一人を殺さないと一千万人が死ぬ? 一人を生かす為には一千万人が犠牲になる?
 どうして誰かが犠牲になる前提で話が進んでるんだよ、そんな前提でいくら考えたって答えなんて出るわけねぇだろ!
 世界を敵に回さなくても済む、誰かを犠牲にしなくても済む、誰もが笑って誰もが望む結論を、
 そんな最高に幸せな方法がどっかにある筈だろ! どうして最初から諦めてるんだよ!!」

サクラ「上条当麻、あなたこそふざけるな。そんな方法があるのなら、とうの昔にやっている!」

上条「ああそうだろうさ、魔法士の中でも稀有な存在で、だから世界を敵にまわすような組織のリーダーをやってるんだろうよ!
 なのに、なんでそこで立ち止まってるんだよ! 夢みたいな方法が見つからないから、しょうがないからって……
 そんな言い訳して、次善の策なんかで世界を犠牲にしていいのかよ! いいわけねぇよなぁ!!」

サクラ「あなたに何が解かる!? これまでそんな世界の為にどれだけの魔法士が犠牲になってきたと思っている!
 彼らの犠牲を無にしない為にも──」

上条「ああ解からねえよ! 文字通り住んでる世界が違うんだから。……けどな!!
 一人だろうが一千万人だろうが、誰かを犠牲にして誰かが泣かなきゃいけない世界なんてのが、正しいわけがねぇだろ!
 それが世界のシステムだっていうなら、悲劇の上に成り立つようにできてるっていうなら……その幻想をぶち殺せよ!!」

サクラ「………………ふっ……く、く、あはははっ!」

上条「……何がおかしいんだよ」

サクラ「くっ……ふふ……、こんな大笑いをしたのは久しぶりだ。上条当麻、私は少し貴方のことを誤解していたようだ」

上条「……?」

サクラ「まさか……ここまで底抜けのお人好しで、ここまで底無しにバカだとは思っていなかった」

上条「バカって……いや、否定はできないけど……」

サクラ「気に入ったぞ、上条当麻」

上琴「え?」
81 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/25(火) 00:32:26.01 ID:2q2Mfzso
サクラ「……おかげで、元の世界に戻れたら……もう一度、探してみようと思えたよ。
 その『誰もが笑って誰もが望む』方法とやらをな。……どうにも私らしくないが、お人好しが伝染ったかな」

上条「サクラ……」

美琴「サクラさん……」

サクラ「御坂美琴も、済まなかった。先程の話は撤回する。その上で尚、君が共闘を拒むのなら大人しく手を引こう」

美琴「ううん、私こそ悪かったわ。私も、さっきの話は撤回する」

サクラ「極限の二者択一を迫られて、尚それをぶち壊すような発想ができる。それが上条当麻の強さなのだろうな」

美琴「こいつが底無しのバカだからこそ、出来ることなんでしょうけどね」クス

サクラ「ああ、違いない。だが、気持ちの良いバカだ」フッ

上条「あのー、あんまりバカバカ言われると、いくらバカだって自覚のある上条さんも落ち込みますよー?」

美琴「だってアンタ、どう転んでもバカなんだからしょうがないじゃない」

サクラ「うむ。バカだからといって気に病む事はない。バカにはバカにしか出来ない事があるのだ」

上条「だからバカバカ言うなって……はぁ、不幸だ」

御坂妹「それで、そろそろ状況の説明を開始しても良いでしょうか? とミサカは欠伸をしながら尋ねました」

サ上琴「あっ」
82 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/25(火) 00:34:09.00 ID:2q2Mfzso
──数分後、御坂妹による現状の説明が終了した。

サクラ「ふむ……今日ずっと感じていた視線とは関係が無さそうだな」

美琴「いえ、そうとも言えないかもよ?」

サクラ「どういう事だ?」

美琴「確か、貴方のI−ブレインだっけ? の演算速度っていうのは人間の脳では遠く及ばないんでしょ?」

サクラ「ああ。人間の脳と単純に比較する事はできないし個人差もあるが、10万ビットクラスの量子コンピューターの
 およそ100万倍〜1000万倍というところだ。稀に例外はあるがな」

美琴「それを、さっき言った幻想御手のネットワークに利用したら……I−ブレイン一つで能力者何人分の演算になるか、
 考えるのもバカバカしいと思わない? ううん、それどころかレベル6にだって届くかもしれない」

サクラ「情報制御の為に使うはずの演算性能を、超能力の演算補助に充てるという事か……。
 だが、I−ブレインは脳の内部に存在しているが、脳とは別物の器官だぞ? そんな事が可能なのか?」

美琴「確証は無いけど……脳をプロトコル変換の為のコネクタとして利用してI−ブレインとの橋渡し役にする。
 それなら、可能なんじゃないかしら。脳同士のネットワーク形成が可能なのは幻想御手で証明されてるし」

サクラ「なるほど、そういう手もあるか……確かにそれができれば、情報制御によって物理干渉するよりも効率的だな。
 人間の脳で直接物理干渉できる能力の演算にI−ブレインを使うとなると、過剰性能などと言う生易しい話では済むまい」

上条(どうしよう、二人が何を話してるのか全く分からないんですが……)

サクラ「そして私を監視している何者かが、その計画を実行に移そうと機を伺っている……という事か」

美琴「私の妹を襲った奴が、そのシステムを既に使っている、とも考えられるわ。本人が自覚してる可能性は低そうだけど」

サクラ「つまり、天樹錬──もう一人いる筈の魔法士は既に確保されている……?」

美琴「その可能性も低いと思うわ。今の理論が正しいと仮定したらだけど……
 既に確保しているなら、そこらに居るような不良に実験染みた使い方をさせる筈が無いもの」

サクラ「ということは、それなりに有力な能力者を確保して事前実験に及んだ、と考えるのが妥当か」

美琴「もしくは、レベルの低い能力者を複数人確保したか……どちらにしろ、放って置ける事じゃないわね」

御坂妹「上条当麻は何故そんな微妙に離れたところで地面にのの字を書いているのですか、とミサカは問いかけます」

上条「うう、バカな上条さんは放っておいてください」グスン
83 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/25(火) 00:34:59.65 ID:2q2Mfzso
──とある一方通行のマンション付近の道路

黒子「──という事ですの」

錬「そっか、まぁそんな簡単には見つからないよね……」

黒子「それと……セブンスミスト爆破の犯人──釧路帷子は、自首したと偽装されてとある研究所に移送されましたの」

錬「……え?」

黒子「詳しい事は解かりませんが、その研究所の連中が良からぬ事を企んでいる、という事でしょうね」

錬「その研究所の位置、教えてくれない?」

黒子「それを知ってどうするつもりですの?」

錬「そんなの、あの人を助けに……あ……」

黒子「それで仮に助けたところで、法的にはまず死刑ですのよ?」

錬「……」

黒子「それに、最初に言いましたわよね? 騒ぎは起こさない、と」

錬「それは、ごめん……」

黒子「……あなたは、何にでも優しくあろうとしすぎなのではないですか?」

錬「や、そんなつもりは……」

黒子「まるで、何かの罪滅ぼしをしたいかのように、わたくしの目には映りますの」

錬「なっ!」

黒子「……まったく。悟ったようなフリをしているようで、割り切れていないんですのね」
84 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/25(火) 00:36:23.58 ID:2q2Mfzso
錬「はは……黒子さん、まだほとんど話した事が無いのに、すごいエグって来るよね」

黒子「貴方が元の世界でどんな事情を抱えているのかは知りませんし、知りたくもありませんけれど……
 そういう風にウジウジしている殿方を見ると苛々しますの」

錬「手厳しいなぁ」

黒子「そうやって余裕のあるフリをするよりも、ご自身の能力を何に使うべきか、見極めてくださいまし」

錬(そういや、あの子にも『貴方のその能力はそんな使い方をするために在るものではない』……なんて言われたっけな)

黒子「少なくとも……ここで使うような力ではないのでしょう?」

錬「うん……そうだね。ありがと、黒子さん」ニコ

黒子「礼を言われるような事をした覚えはありませんの」ヤレヤレ

錬「でも、ここまで言ってくれる人ってあっちにはあんまり居ないからさ、ちょっと目が覚めたよ」

黒子「稀有な能力を持つというのも考えものですわね、お互いに」

錬「あ、やっぱりテレポートってレアなんだ」

黒子「それなりに、ですけどね。それでは、私は用事がありますので失礼しますの」

錬「うん、またね」

黒子「人探し、頑張ってくださいましね」シュン

錬「あーあ、結局また振り出しかぁ……荷電粒子砲の使い手まで居るなんてなぁ」

一方通行「よォ、オマエが天樹錬で間違い無いな?」ザッ

錬「!?」ゾクッ

一方通行「……もう一度聞くが、オマエが天樹錬で間違い無いんだよなァ?」

錬「……そうだけど(……この人……なんか、ヤバい……!)」

錬(「ラプラス」「ラグランジュ」常駐──運動速度を5倍、知覚速度を20倍で定義)

一方通行「ったく、何だって今日はこう行ったり来たりさせられンのかねェ」ザッザッザッ

錬「……何の用?」ジリッ

一方通行「モチロン……貴重な貴重な魔法士サマの脳髄を頂きに来ましたってなァ!!」ゴッ
85 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/25(火) 00:37:43.14 ID:2q2Mfzso
一方通行が足元のベクトルを操作して一瞬で間合いを詰め、そのままの勢いで蹴りを放った。
しかし、20倍に引き伸ばされた錬の体感では、ただ「人間よりも少し早い蹴り」としか認識されない。

錬(なんだ? 身体能力制御……? にしては遅い、けど……)

そんな分かりやすい隙を逃す錬ではない。
欠伸の出るほど遅い蹴りを避けて、腰だめに構えてナイフを逆手に握る。
一方通行はまだ蹴りを出し終えていない。次の瞬間には腕を狙ってナイフ振り抜く──直前。

錬(攻撃感知、回避不能、危険──……え?)

攻撃が当たると思った瞬間、全く予想に無い方向からの攻撃を感知する。
即ち、攻撃を当てる一点、まさにその一方通行の体表面から。

錬(まずっ……!)

キンッ、と甲高い音と共に、錬の振り抜いた筈のナイフがあらぬ方向に飛んで行き、ビルの壁に突き刺さった。

一方通行「おーおー、随分と常識ハズレな速度じゃねェか」

そのナイフに視線を向けて、まるで攻撃してくださいとでも言わんばかりの一方通行に、錬は逆に戦慄を覚える。
攻撃を避けられる事も防がれることも、当然のように想定していた。しかし、それは想定に全く無い反撃だった。

錬「運動エネルギーの反射……? 超能力者ってのはこんなフザケた力ばっかりなの?」

もし錬がナイフを手放さずに振りきっていれば、右腕の肩から先の骨が粉々に砕けていただろう。
わずかにシビレている右手を握りしめて、錬は1歩後ずさった。

一方通行「へェ? 一発でそこまで理解できるとはなァ?」

対する第一位は、知覚すら覚束ない相手の攻撃にも、全く動じていなかった。

一方通行「肉体強化は概ね常人の5倍ってとこかァ……オイオイ、それだけでレベル4以上行けるじゃねえか。
 しかも反射に対して反応して見せたってェ事は……反応速度は少なくとも10倍以上ってか?」

錬「そっちこそ……魔法士でもないのに、一撃でそこまで見抜かれるとは思ってなかったよ」

力学的エネルギーの制御、それだけでも錬は絶望的な戦力差を悟る。
「ラグランジュ」で運動速度を強化しての攻撃は反射される。
「マクスウェル」で氷の槍を放っても、「チューリング」でゴーストハックしたコンクリートで攻撃しても、
同様に反射されるであろう事は容易に想像できる。

一方通行「どうしたァ? もう終わりかァ?」

何をしようと意に介さないとでも言うかのように、一方通行がゆっくりと間合いを詰める。

錬(どうする……攻撃を反射する相手に、どう戦う……?)
86 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/25(火) 00:39:16.71 ID:2q2Mfzso
錬(結果が分かり切っていても……やるしかない!)

一方通行「そっちから来ないなら、こっちから行くぜェ!」

軽く足踏みをした。ただそれだけの動作で、一方通行の足元のアスファルトがめくれて吹き上がる。
それは無数の礫となって錬に襲いかかった。

錬(「マクスウェル」常駐、「氷盾」発動。──容量不足、「ラプラス」を強制終了)

一方通行「オイオイ、多才能力相当ってのはどうやらマジらしいなァ!?」

その声は錬の背後から。しかし一方通行の動きを視認していた錬は、コンマ2秒もの余裕を持って跳躍、回避した。

錬(「チューリング」常駐、ゴーストハックをオートスタート──容量不足、「マクスウェル」を強制終了)

着地と同時にアスファルトに仮想精神体を送り、巨大な腕を作り出す。
その手が振り下ろされると同時に難なく一方通行を掴み、──難なく砕け散った。

一方通行「ギャハハハ! 無機物の生物化なんてレアな能力じゃねえか!」

手首より先だけを失った腕が自壊し、更にその周囲のアスファルトから4本の腕が生えて、
四方から同時に、一方通行を圧殺──しようとして、触れた先から圧壊する。

一方通行「いくらレアな能力だろうと、この一方通行の前には意味なンざ無ェんだけどなァ!」

錬「……力学的エネルギー制御……違うな。ベクトル制御ってところかな?」

一方通行「……相当キレるらしいなァ、オイ」

一瞬だけ驚いた顔を見せたが、相変わらず余裕は崩さない。

一方通行「だが、そこまで解かってるならオマエに勝ち目が無ェって事も、解かってるよなァ?」

錬「それはどうかな……? 僕はまだ手札を全て切ってはいないよ」

とは言ってみたものの、正直なところ、錬には一方通行を傷付ける手段は持ち合わせていない。
錬に限らず、一方通行を傷付けることができる者など限られているのだが。
87 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/25(火) 00:40:53.31 ID:2q2Mfzso
一方通行「できるモンならやってみろよ、三下ァ!」

言うと同時に、地を蹴って亜音速で接近するのは一方通行。錬の耳に言葉が届く頃には同時に拳もお見舞いできる速度。
しかしそれだけの速度でも錬には反応速度内。瞬間的に直上に2m跳躍し、その攻撃を回避する。

錬(「アインシュタイン」常駐──容量不足、「ラグランジュ」「チューリング」を強制終了。
 指定座標内の空間を歪曲。実行……エラー、処理中断)

一方通行の両膝を輪切りにするように空間を断裂させるよう歪め、内部から直接破壊しようとして、呆気無く失敗に終わる。
空間を歪曲させるように加えた力を逆方向に強制的に捻られ、フィードバックによるダメージを受けないように、
I−ブレインが処理を自動的に中断した。

錬「──っつ……!!」

処理を中断しても尚、生身の脳をコンクリートの壁に打ち付けたような衝撃が走る。
真っ白になる視界に怯む暇もなく、着地する直前に横方向に重力方向を改変して横跳びに離脱する。
直接接触は絶対に避けなければならない。

一方通行「なるほどなァ……今のが重力操作ってかァ?」

錬「少しは、驚いてくれてもいいんじゃないの……」

頭を抑えながら、ビルの外壁に垂直に"着地"して体勢を整え、ナイフを回収する。

錬「それにしても本当に、どんなものだろうがベクトルさえあれば制御できるんだね」

確かに空間を歪曲させる為に、空間平面自体を歪曲させはしたが、一方通行に対しては力を加えていない。
結果的に一方通行に対して影響を及ぼすベクトルであれば、その力が全て逆流を起こすという事だ。

錬「ただし……直接制御できるのはは接触範囲のみ、かな」

一方通行「おいおいマジですかァ? そこまで理解してンのに余裕で居られるなンて、気でも狂ってンのかァ?」

錬「……逆だよ。こんな絶望的状況で、言葉まで余裕を無くしたら諦めるしか無いじゃない」

一方通行「クカカッ! 違ェ無ェ! 本当に気が狂う前にとっとと降参しちまいなァ!」

カツン、と踵をコンクリートに軽く打つと同時に、錬の足元の壁面が崩れ落ちる。

錬「……っと、あぶな!」

一方通行(……反応速度が落ちた? 能力の同時使用には制限があるってことかァ?)

錬はバランスを崩す前に重力方向の改変を解き、地面に着地する。その着地点を狙って一方通行が接近し、手を伸ばした。

一方通行(だったら……肉体強化が間に合わなきゃ、これで詰みだァ!)
88 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/25(火) 00:42:46.53 ID:2q2Mfzso
しかし、一方通行が少年の肩に触れたと思った瞬間に、視界が歪む。

錬(空間曲率制御開始。「次元回廊」発動)

一方通行「なっ!?」

一瞬だけ視界にスターボウが映り込み、一方通行は『無限の深さを持つ空間の穴』に落とし込まれた。

錬「よし……!」

次元回廊が情報の海の復元力によって自然消滅するまではおよそ30分。
撃退というには程遠いが、逃走までの時間稼ぎには充分な時間。

錬「早くこの場を離れないと……」

そう言って一歩踏み出した瞬間、何者かに肩を掴まれた感触が錬の歩みを止める。

一方通行「オイオイ、逃げよォなンてちょっとばかりつれないンじゃないですかァ!?」

錬「(警告、攻撃感知。回避不能、危険──)……嘘」

全く予想していない状況に対しては、I−ブレインのナノ秒単位の思考も役には立たない。

一方通行「神経信号のベクトルを操作っと。……終わりだなァ?」

錬「っ! あ……」

現状を認識するより早く、錬の意識はいとも容易く刈り取られた。

一方通行「ったく、焦らせやがってよォ。空間そのものに対するベクトルの演算ってなァ苦労したンだぜェ?」

力なく倒れる少年を視界の隅に収めながら、一方通行は携帯電話を手にとった。

一方通行「よォ、終わったぜェ。……ああ、殺しちゃいねェよ。気絶させただけだ。まァ1時間は目を覚まさねェよ
 それで、回収は任せていいンだよなァ? ……あァ、それとあっちの件もとっとと調べやがれ」
89 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/05/25(火) 00:46:22.51 ID:2q2Mfzso
今日の分終了です。そして書き溜め分も終了して寿命がマッハ。
次は木曜夜中くらいになると思います。
90 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/25(火) 01:17:52.71 ID:ZneKknAo
ウィザーズ・ブレインとか全く知らないけど面白いね
次も期待してます
乙でした
91 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/05/25(火) 08:47:18.81 ID:FUdd3IDO
乙!なんかすげぇ好き
期待してる!

タイトルがキャラ名じゃないから今まで気付かなかったのが悔やまれるわ
92 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/05/27(木) 23:28:27.83 ID:Lfzfgnc0
まだかな
93 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/28(金) 01:36:38.51 ID:4e8MkBAo
乙ありがとうございます、今日の分投下開始します
94 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/28(金) 01:37:20.25 ID:4e8MkBAo
──とある常盤台女子寮付近の公園

黒子「──ふむ、そういう事ですのね。粗方の事情は理解しましたの。それで、そちらの方は?」

サクラ「お初にお目にかかる。サクラと呼んでくれ」

黒子「はじめまして。風紀委員第一七七支部所属、白井黒子ですの。お姉様とはどういったお知り合いで?」

美琴「えーと……まぁ協力者よ、うん」

黒子「……まさか、サクラさんも魔法士だなんて言いだすのではでしょうね?」

美琴「え? なんで黒子が知ってるの?」

サクラ「おい、『も』というのは、既に他の魔法士と遭遇しているということか!?」

黒子「はぁ……厄介ごとが重なりますのね……」

サクラ「そんな事より、もう一人はどこにいるのかと聞いている!」

黒子「落ち着いてくださいまし。天樹さんとは先程会いましたが、現在地は解かりませんの」

サクラ「そ、そうか……済まない、見苦しいところを見せた。しかしやはりもう一人の魔法士は天樹錬だったか……」

上条「天樹錬……? あれ?」

美琴「ん、どうかしたの?」

上条「ああー!? ひょっとして晩飯の買出しに行ったときに見た、佐天さんの彼氏か!?」

御坂妹「そういえば、そんな事もありましたね。確かに『錬くん』と呼んでいました。とミサカは回想します」

サクラ「彼氏だと……? 何をやっているのだあの男は……。というか上条当麻、何故そんな事を今まで黙っていたのだ!」

上条「い、いや、だって名前は聞いてなかったし、人相は聞いたけど、サクラみたいに浮世離れした格好してるんだとばかり」

御坂妹「ちなみにミサカはその少年の容姿について聞いていません。とミサカは自分に責任が無い事を確認します」

サクラ「10032号はともかく……いや、上条当麻がバカだという事は先ほど確認したのだったな。やれやれだ」

上条「まだそれ引っ張るのかよ!」
95 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/28(金) 01:37:50.28 ID:4e8MkBAo
美琴「ん? ってことは、今は天樹さんは佐天さんと一緒に?」

上条「そうなんじゃないか? 晩飯を一緒に食べるような事も言ってたし」

黒子「でも、ついさっき外で会ったばかりですの」

美琴「まぁ本人に聞いてみましょ」ピッ

上条「それもそうだな」

佐天『もしもし、御坂さん?』

美琴「やっほー、ちょっと聞きたい事があるんだけどいい?」

佐天『はいはーい、何でも聞いてください』

美琴「天樹錬って男の子が今そっちに行ってない?」

佐天『え、どうして御坂さんが錬くんを?』

美琴「ああいや、黒子から聞いてね」

佐天『なるほど。あ、御坂さんには渡しませんよー?』

美琴「あははっ、随分とお気に入りねー。別にそういうんじゃないから安心して」

佐天『でも錬くん、もう一人を見つけたかもって言って出てったきり戻ってこないんですよね』

美琴「うーん、そっか。じゃあ戻ってきたらでいいから、私か黒子に連絡してくれないかな?」

佐天『それは構いませんけど、なんでまた?』

美琴「もう一人の魔法士、サクラさんって子なんだけど、私たちと一緒にいるのよね」

佐天『なんと! まさか御坂さんが見つけていたとは……灯台下暗しでしたねー』

美琴「うん、じゃあそういうわけだから、よろしくねー」

佐天『わかりました! それじゃあまたー』

美琴「うん、またねー」ピッ「ってことで、まだ戻ってないみたいね」
96 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/28(金) 01:38:35.29 ID:4e8MkBAo
サクラ「知り合いに補足されているのなら、合流は急がずとも良いか……いや、それとも連中に既に確保されているか。
 どちらにせよ叩くべき敵は変わらないか」

美琴「そうね……黒子、風紀委員には不自然な行方不明者の情報とか流れてない?」

黒子「タイミングがドンピシャすぎて怖いのですけど、……ありますわね」

美琴「どういう事?」

黒子「セブンスミスト爆破の犯人、釧路帷子は一度逃亡したあと、自首をして逮捕された……筈だったのですが」

上条「ですが?」

黒子「自首というのは表向きで、本当はとある研究所に移送された、とのことですの」

美琴「確かにタイミングが良すぎるけど……でも他に手掛かりが無いのも事実よ」

上条「なぁ、いつかみたいに研究所のデータごとボンッてのはできないのか?」

美琴「たぶん出来ないことも無いだろうけど、エセ幻想御手が今も起動中だとしたら、被験者が危ないわ」

御坂妹「つまり、直接潜入して叩く必要があるということですね。とミサカは久しぶりの発言です」

サクラ「潜入破壊なら私の領分だな」

美琴「いえ、サクラさんを狙ってる可能性もあるんだから慎重にいかないと……」

サクラ「それもあるが、天樹錬の所在が知れないというのが不安要素だな。
 彼がそうやすやすと捕まるとも思えないが……その可能性も考慮に入れなければ」

上条「まてまてまて、さっきの話は良くわからなかったけど、例のシステムでそのI−ブレインってのを使うと、
 レベル5がいくらでも量産できるって事だろ? そんな相手が複数いたら洒落にならないぞ!?」

黒子「ゾッとしない話ですわね」

美琴「けど、だったら尚更、放っておけないじゃない」

サクラ「同感だ」
97 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/28(金) 01:39:05.00 ID:4e8MkBAo
──とあるグループ

土御門「おい、どうして一方通行に指示を出した?」

海原「現状、放っておけばそう遠くない内に合流されていたでしょう。ならば、そうなる前に手を打つのが上策では?」

土御門「……」

海原「それに、もう一人には幻想殺しと超電磁砲が付いている。如何に一方通行でも確保は難しい」

海原(もしそんな状況で一方通行をけしかけては、御坂さんに危険が及ぶ心配もありますしね……)

海原「仮にもう一人が確保できずとも、一人確保してお茶を濁すという事も考えられるとは思いませんか」

土御門「確かに、理には適っているな」

海原「結果オーライとはいえ、勝手な行動をした事については謝ります。
 そういえば、一方通行が言っていた『あっちの件も調べろ』とは一体何の事なんです?」

土御門「お前、場合によっては一方通行を敵にまわす事になったぞ」

海原「……どういう事です?」

土御門「妹達の内の一人を襲った能力者が居る事、そいつが本来はレベル2だった事については知ってるな?」

海原「ええ、報告は上がってきていますね」

土御門「そいつにレベル5に匹敵する力を与えたのが、対象の移送先の研究所だというのは?」

海原「…………これは、先走りましたね」タラーッ

土御門「そら、言ってる間に王子様のお出ましだぞ」

一方通行「あーかったりィ。行ったり来たりめんどくせェったら……ア? なンだァその面ァ?」ガチャッ

海原「……これは、どうも」ダラダラ

土御門「ご苦労だった。と言いたいところだが悪い報せがある」

一方通行「あァ? 何なンですかァ?」

土御門「話はこいつからしてもらおう」

海原「……」ダラダラダラダラ
98 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/28(金) 01:39:56.97 ID:4e8MkBAo
──数分後。

海原「……とても、痛いです」ボロッ

一方通行「痛くしてンだから当たり前だろォが」

土御門「それにしても随分と垢抜けた面構えになったな」

一方通行「私用で調べさせてたからこの程度で済ませてやったンだ。そこのシスコンに感謝しろよォ?」

土御門「……お前の口からそんな冗談が聞けるとはな」

一方通行「ンだァ? 感謝してやっちゃいけねェってのかよ?」

土御門「いちいち突っかかるな、他意は無い」

一方通行「チッ」

結標「こんな時間に呼び出しなんて…………これ、どういう状況?」ガチャ

海原「……」ボロッ

一方通行「気にするな。バカに制裁してたってェだけだ」

結標「はぁ」

土御門「仕事の話じゃなくて悪いが、一方通行の世話を頼む」

結標「……は?」

一方通行「いやオマエ明らかに言葉減らして誤解させよォとしてンだろ」

土御門「それで一方通行。お前はどうせ潰しに行くんだろう?」

一方通行「あァ」

結標「いやだから話が……」

土御門「だったら、結標とツーマンセルで動いた方が何かと便利だろう」

一方通行「そりゃァそうだがよォ、これは俺の──」

土御門「それに、結標が御執心だった釧路帷子を回収できるチャンスがある」

結標「説明する気無いでしょあなた」
99 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/28(金) 01:41:09.17 ID:4e8MkBAo
──更に数分後。

土御門「──……状況は以上だ」

結標「珍しいわね、仕事以外で動くなんて」

一方通行「どうせコイツの事だ、何か裏があンだろォよ」

土御門(さすがに見抜かれてるにゃー)

土御門「何とは言わないが、そういう事だ。頼んだぞ」

一方通行「だが、量子変速はレベル0になってンだろ? それでも回収すンのか?」

結標「そのつもりだけど」

一方通行「暗部に引き込んだとしても下部組織で使い潰されるのがオチじゃねェのか」

結標「『量子変速』のポテンシャルはレベル4が限度っていうのは知ってる?」

一方通行「いや、そォなのか?」

結標「でも、彼女は特殊な暴走状態とはいえレベル5相当の性能を発揮したのよ」

一方通行「らしいなァ」

結標「あんな難解な演算を必要とする能力でよ? 仮想粒子を操作するなんてなかなか想像できるものじゃないわ」

一方通行「超能力者並か、それに準ずる演算性能の持ち主だって事か。能力が無くても使い物にはなるかもなァ」

結標「それに今後『自分だけの現実』を取り戻す可能性も、無いとは言えないでしょ?」

一方通行「いずれにしろ、俺ァ件の研究さえ潰せりゃそれでいいンだ。オマエはオマエで好きにやればいい」

結標「ええ、ありがと」

土御門(一方通行もこれくらい素直だったらやりやすいんだけどにゃー)

一方通行「土御門、屋上」

土御門「なっ! いつの間に読心術を!?」ガタッ

一方通行「ニヤニヤしててむかついたから言ってみただけだったンだが、失礼な事を考えてやがったわけだなァ?」カチッ

土御門「OK一方通行、時に落ち着け」

海原(自業自得ですね)
100 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/28(金) 01:42:05.77 ID:4e8MkBAo
──とある研究所裏手。

美琴「ん? いいの?」

サクラ「ああ、イザという時に使うといい。恐らく想像以上の効果が出る筈だ」

美琴「ん、じゃあ貰っておくわ。ありがと」

御坂妹『配置は良いですか。と足手纏になる事を嫌ってオペレーター役を買って出たミサカは4名に確認を取ります』

上条「ああ、大丈夫だ」

サクラ「問題無い」

美琴「いつでもいいわよ」

黒子「準備OKですの」

御坂妹『では、作戦開始です。とミサカは号令をかけます』

黒子「ではお姉様、お手を拝借ですの」

美琴「うん、よろしくね、黒子」

黒子(お姉様のすべすべな手が! 黒子は、黒子はもう!)ハァハァ

美琴「……真面目にやりなさいよ?」バチッ

黒子「お、おほほわかっておりますの! では、そちらも御武運を」シュンッ

美琴「まったく、こいつは……」シュンッ

サクラ「ふっ、仲の良い事だ……こちらも行くぞ」ザッ

上条「おう」ザッ

サクラ「陽動の囮役か……。派手に暴れてやるとしよう」ニヤリ

上条「おーい、サクラさーん? 顔がまるで悪役みたいですよー?」

サクラ(呼:制御系・循環処理『電磁場制御・銃身』)

サクラ「何を今さら。私は世界を敵にまわした大悪党だからな」チャキッ

上条「開き直っちゃったよこの人! いや待て、その前に何をするつもりなんだ」

サクラ「派手にやる、と言っただろう? なに、防衛拠点を攻撃するわけでもないのだ、手加減はする」

サクラ(砲身展開完了──……呼:『魔弾の射手』)
101 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/28(金) 01:43:24.08 ID:4e8MkBAo
展開された電磁砲身に投げ入れられた変異銀(ミスリル)のナイフが、強力すぎる電磁場に耐えられずに一瞬にして砕け散る。
電磁加速に特化した構造になっている無数の欠片を砲身の電磁場が捉え、コンマ数秒で光速の10%にまで加速させた。
種も仕掛けも無い弾体であれば、相対性理論に基いて数十倍の質量を得るに至るまでに摩擦熱で燃え尽きるところだが、
この変異銀には更に空気抵抗を無視する論理回路が刻まれている。

着弾した瞬間に生じるエネルギーは膨大という言葉すら生易しく、コンクリートの壁など容易く蹴散らす程の爆発を起こした。
射線上の存在を有象無象の見境なく飲み込む破壊の光は、巨大な研究所の中の一棟を一瞬にして倒壊させる事となる。

サクラ「……ふむ、こんなところか」

最高出力で扱えば光速の99%までの加速を可能とし、その威力はチタン合金で厳重に建造された防衛施設でも一溜まりもない。
コンクリートの強度を考えて一割程度の出力にしたが、その効果は少女を満足気に頷かせ──

上条「いやいやいやいや、どう見てもやりすぎだろ!? っていうか手加減してコレかよ!?」

傍らの少年を狼狽させるに充分なものだった。

サクラ「心配するな、倒壊した建物には人間は居ない。これくらい派手にやった方がいいだろう」

上条「ああもう、魔法士ってのはみんなこんなのばっかりなのか!?」

サクラ「いや、私は魔法士の中でも相当に特殊な性能を有しているが」

そんな少年の心配を他所に、直径2m程にくり抜かれたように空いている穴から侵入する。

上条「違うよね!? 上条さんが気にしてるのはそこじゃないって、なにこのデジャヴ!」

その様子に呆れながらも、少年がその後を追い、先に歩みを止めていた少女にならって足を止めた。

サクラ「フッ、冗談だ。そら、お出迎えだぞ」

上条「っ! 随分と早いお出ましだな」

サクラ「ずっと私を監視していたのだ、この侵入自体がバレている可能性も当然ある。
 だが、それも折り込み済みでの作戦だ。我々は我々の仕事をするぞ」

その視線の先には二人の少年。二人とも、いかにも街のゴロツキですと言わんばかりのラフな格好をしている。
およそ「研究所」という場所には似つかわしくない風貌。

不良1「おいおい、なんだよあのデタラメな威力はよ」

不良2「なーに怖がってんだ? 今の俺たちはレベル5なんだぜ?」

怯える少年をバカにしたのは、威嚇でもするかのように手に風を纏わせた空力使い。

不良1「ああ!? テメ誰が怖がってるって!?」

そんな安い挑発に乗って怯えの色を隠したと同時に、足元から水が吹き出して少年の周囲を蛇のように取り巻いた。
102 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/28(金) 01:43:52.38 ID:4e8MkBAo
しかし、そんな様子を目の前にしても、サクラは落ち着き払っていた。

サクラ(こんな外周にまで配置できる余裕があるという事は……天樹錬は既に確保されていると見るのが妥当?
 どちらにせよ、見た事も無い超能力とやら……それも御坂美琴と同等のレベルの者を複数相手にする、という事か)

だが、力が同等だとしても、その制御はどうか、応用力や経験はどうか? 答えは確実にNOだ。
能力開発という、ただそれだけの為に数百万人規模の都市を形成するほどの学園都市。
その中の序列第三位という立場には、ただ力が強いというだけでなれるわけがない、当然の事だ。
ならば、初めて得た大きすぎる力に慣れる前に意識を刈り取るのが定石。

サクラ(呼:運動係数制御『運動加速』。運動係数5倍)

少女がそう結論して腰だめに構えた瞬間。
予想外の方向から怒鳴り声が聞こえてきてタイミングを外してしまう。

上条「お前らはそれでいいのかよ!」

不良1「あ?」

不良2「何言ってんだこいつ?」

上条「俺はお前らが元々どれだけの能力者だったか知らない。けどな!
 今、お前らが使ってる力が自分のものじゃないって事くらいは解かるだろ!?
 そんな借り物の力を使って、その代償に誰かを生贄にしてまで、お前らは力が欲しいのかよ!!」

不良1「あ? んなもん欲しいに決まってんだろ? 誰が犠牲になろうが知ったこっちゃねえし」

不良2「この学園都市じゃレベルが全てなんだ、他人を食い物にしたって構いやしねえよ」

上条「ふざけんなよ……誰かを泣かせて手に入れた力なんかが、正しいわけねえだろうが!! ……いいぜ、
 お前らが他人を犠牲にしてでも幻想(夢)を叶えたいっていうなら……まずはそのふざけた幻想を──」

そう叫びながら少年が走り出し、数歩目を踏み出した瞬間。

上条「ぶちこ…………え?」

空力使いの少年と水流操作の少年は、悲鳴をあげる事も無く、力が抜けたようにその場に倒れ伏していた。

サクラ「さすが上条当麻だ。素晴らしい陽動だったぞ」

その背後、先程まで隣にいた筈の少女から、身に覚えの無い賞賛の言葉が送られてくる。
どれ程の速度で移動したのか、まだ足元に土煙が立っていた。

サクラ「おかげで気取られる事無く気絶させる事ができた。なかなかやるな」

上条「えええええ!?」

少年の困惑とは裏腹に、作戦は順調に進んでいた。
103 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/28(金) 01:44:46.02 ID:4e8MkBAo
──研究所内部、地下施設

二人の少女が数度の空間転移によって施設の地下に移動してから十数秒、頭上からの轟音が響き渡り、
わずかに遅れて振動が伝わってきた。

美琴「うわっ、なにこの音」

黒子「派手にやっているようですわね……幾分、派手すぎる気もしますが」

御坂妹『サクラが超電磁砲……いえ、拡散超電磁砲とでも言いましょうか、そのような能力を使って、
 施設裏手にある無人の建造物を一撃で全壊させたようです。とミサカは驚愕と共に報告します』

美琴「れ、超電磁砲って、しかも拡散!?」

黒子「お姉様以外に超電磁砲の使い手なんて……!」

美琴「しかも一発で建造物が全壊って……はぁ、軽く凹むわねこれ」

黒子「お姉様、お気を確かに!」

美琴「ったく、こっちも負けてらんないわね」グッ

黒子「それでこそお姉様ですの!」ダキッ

美琴「ああもうくっつくな!」ビリビリッ

黒子「あぁっ、お姉様の激しい愛がっ! 黒子の心臓(ハート)を責め苛みますのっ!」ビクンビクン

不良3「うっひょ、こんなところで百合っすよ!」

不良4「ふふん、百合なんて俺が10年前に通り過ぎた場所だぜ。ふたなりこそ至高」

不良3「10年前ってお前8歳じゃねえっすか! どんだけマセガキっすか!」

美琴(なにこいつらキモイ)

黒子(わたくしでもこれにはドン引きですの)
104 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/28(金) 01:45:25.65 ID:4e8MkBAo
不良3「あ、そのまま続けてもらっていいっすよ! どうぞどうぞ!」

不良4「アホ! まずはこの子たちにふたなりになってもらう所からだろ!」

美琴「……ねぇ黒子。私帰っていい?」ゲンナリ

黒子「わたくしもそうしたいところですが、そうもいきませんの」ザッ

不良3「フッ、やる気っすか? 今の俺たちはレベル5っすよ!」

不良4「いやお前その『フッ』っていうの、それをお前がやるのはなんか許せねえんだけど」

不良3「ああもう、あんたが居る方がしまらねえっすよ! 名乗りまで考えてあったのに!」

不良4「うわなにその中二病キモい」

黒琴(お前が言うな)ですの)

不良3「もう無茶苦茶っすよ! そこの百合っ娘さんがた! この『八岐炎熱(ヒノカグツチ)』が相手になってやるっす!」

不良4「ったく、しかたねぇな。特別にこの俺の『辰気担手(リバティグラヴィトン)』を見せてやる。見たら死ねぇ!!」




──数秒後。

不良34「」プスプスプス…

美琴「よくよく考えれば、いくらレベル5と同じ能力を手に入れたからって、いきなり上手く扱えるわけ無いわよね」

黒子「少々やりすぎな感もありますが、自業自得というものですわね」

美琴「でも……油断はできないわね、これは」

黒子「ええ、チタン合金の壁を一瞬で融解、蒸発させるほどの熱線。食らったらただでは済みませんの」

美琴「出力だけは桁違いね、まさか一瞬で部屋ごと圧壊しかけるとは思ってなかったわ」

黒子「力だけがレベル5だというのは考えものですわね」

美琴「さってと、出鼻を挫かれたけど、ちゃっちゃと探すわよ!」

黒子「はいですの!」
105 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/28(金) 01:47:17.28 ID:4e8MkBAo
──地上部分、施設内部

サクラ「ふむ、いきなり強大な力を与えられても、経験が無ければこんなものか……」

施設内で出会った敵を縦横無尽に駆け抜けながら、魔法士の少女は言葉にし難い不気味さを感じていた。
ここまで8人を無力化させてきたが、力だけが強力なだけで未熟な能力者ばかり。
サクラは多数の能力を扱えはするが、それぞれの能力各個では専門の有力者には太刀打ちできないものの、
組み合わせや機転によって実戦でそれらをねじ伏せてきた実戦経験がある。
そんな少女にとって、高出力だけの能力者などは取るに足らない存在だった。

上条「なんだか、上条さん何もしてない気がするんですが」

サクラ「ジョーカーを切らずに済んでいるという事なのだから、そこは喜ぶべきだろう」

上条「ま、そりゃそうなんだけどな。ついて来ただけで何もしてないというのは心苦しいというか」

ここで、自分が活躍できない事に憤りを感じるのではなく、戦力になっていないのではないかと心配するのが、
この少年の良いところでもあり悪いところでもあるのだろう。

サクラ「気に止むことはない。切り札に余裕があるからこそ、私も存分に力を振るえるのだ」

上条「そう言ってもらえるとありがたいけどなぁ」

サクラ「それはそれとして、そろそろ地上部分は破壊し尽くした事だし、地下に向かうとしよう」

上条「おう。スタミナは大丈夫か?」

サクラ「問題無い。この程度の相手ならば数時間はぶっ通しで戦い続けられる」

上条「ははは、ますます俺の立場が無くなってくな」

サクラ「なに、ジョーカーはジョーカーらしく不敵に笑っておけばいいのだ」

先程から、ともすれば傲慢にも見えるこの少女の言葉には、嘘は一つも無い。
この言葉も本心から上条に敬意を払う言葉なのだが、やはり彼にとってはどうにも噛み合わない評価だった。

上条「いやー、上条さんにそんなのが似合うと思いますか?」

サクラ「……ふふっ、それもそうだな」

??「お楽しみのところ悪いんだけど、ちょっとやりすぎだよこれは」

地下へと降りる階段から登ってきたのは、これまで見てきたゴロツキとは違う、患者衣を羽織った穏やかそうな少年だった。

サク条「っ!?」バッ
106 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/28(金) 01:48:06.70 ID:4e8MkBAo
??「はじめまして」ニコ

屈託の無い場違いな笑顔に、サクラも上条も一歩引いて腰を落とす。
線の細い顔つきや患者衣に騙されそうになるが、その下には無駄なく鍛えられた均整の取れた肉体が見え隠れしていた。

??「僕は元レベル4の電撃使いだったんだけど、今はレベル5相当の『無限信号(シナプスアクセル)』っていうらしいよ」

物腰と見た目だけではない。明らかに気配が違う、サクラと上条は直感で感じ取った。こいつは『強い』と。

サクラ「……自ら自己紹介とは丁寧な事だ」

無限信号「うん、殺す相手の名前は覚えるようにしてるんだ。だから、そっちも教えてくれると嬉しいな」

サクラ「殊勝な心掛けだな。私は魔法士の……いや、あなた方の流儀に従うならば『悪魔使い』と名乗るべきかな?」

無限信号「悪魔使いかぁ、かっこいいなぁ」

上条「俺は上条当麻。……こんな貧乏学生の名前を聞いたって良い事は無いぜ? 俺はこんなところで死ぬつもりは無いからな」

無限信号「そっかー、上条くんかぁ。殺しちゃうけどごめんね、上条くん。」

間の抜けた表情から吐き出された言葉は酷薄。間延びした声がそれを助長していた。

??「ちょっと、アンタ速すぎ……ってもう敵来てんじゃん! っとと!」

唐突に、無限信号が登ってきた階段を一人の少女が駆け上がってきたものの、無駄に驚いて転びそうになる。

無限信号「あー、ごめんねぇ、『傀儡乱髪(ウェブスパイダー)』。つい自分のペースで来ちゃったよ」

傀儡乱髪と呼ばれた少女は少年と同様に患者衣を羽織り、凹凸の無い……失礼、均整の取れた体つきが見て取れた。

傀儡乱髪「だからあれほど周りを見ろって言ってるでしょ! ……で、そっちがお客さんね?」

息を切らせ、印象的な臀部まで伸びた異様に長い髪を振り纏めてから、サクラと上条をキッと睨みつける。

傀儡乱髪「先に言っとくけど、アンタたちこれから死ぬから」

サクラ「これはこれは、勇ましい事だ。ここまで何人の似非レベル5を倒してきたのか、知らないわけでもあるまい?」

傀儡乱髪「あんな急造の予備部品をいくら倒したって自慢にならないわよ」

サクラ「……そうか。では、心してかかるとしよう」
107 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/05/28(金) 01:51:20.57 ID:4e8MkBAo
今日の分は以上です。あんまり進まなかったorz
敵にオリキャラを出してますがご容赦ください。

次は日曜の夜くらいに……
108 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/28(金) 01:52:26.11 ID:LYiDJa6o
いや面白いよ。テンポ良いし
期待して舞ってます!
109 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/29(土) 14:05:40.32 ID:mFfIDzso
直前になって土日に徹夜作業をスケジューリングする上司は地獄の業火に投げ込まれるべきである。
というわけで今のうちに投下できるだけしてしまう事にします。

敵がオリキャラだらけになってるのが気になるけど気にしない方向で。
110 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/29(土) 14:06:16.08 ID:mFfIDzso
──幕間

研究員A「こんなに早く『本番』が実現するとは、思ってもみなかったな」

研究員B「まったく一方通行サマサマだ。しかし、やはりというか想像通り、レベル6は無理だったな」

研究員A「ああ、想定通りだ」

研究員B「だが、レベル5相当の能力者をある程度任意に作ることができるようになった」

研究員A「任意とはいっても、真に適応できるほどの『自分だけの現実』を持つ人材はそんなに多くは無いぞ?」

研究員B「そうは言うがな、学園都市の3%ってのはそんなに少ない人数ではないぞ」

研究員A「それはそうだが、適正者を選ばなければならない点では、幻想御手には劣るのかもしれないな」

研究員B「あれは1万の脳を集めてもレベル5にすら届かなかった欠陥品だろう?」

研究員A「いや、アレはこの研究の基礎理論構築には一役買ってくれた。リスペクトは必要だろう」

研究員B「ああ、それには同意せざるを得ないな」

研究員A「それにしても絶対能力進化計画が頓挫する前に、この研究を完成させたかったものだな」

研究員B「『妹達』をレベル5の『超電磁砲』にしてしまえば、128体で済んだ……今頃、一方通行はレベル6だったろうに」

研究員A「だが、彼は随分と変わってしまったらしいからな。もう無理だろう」

研究員B「っと……お客さんがどうやら僕らの『初作品』とご対面のようだよ」

研究員A「外周に置いてやったゴミ共とは違ってそれなりに手間をかけたからな、善戦して欲しいものだ」

研究員B「おいおい、そこは勝って欲しいというところだろ?」

研究員A「それはそうなんだけどね。でも、それじゃあ『彼女』の出番が無くなってしまうじゃないか」

研究員B「っはは……君は本当に、研究者に向いているよ」
111 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/29(土) 14:06:55.70 ID:mFfIDzso
サクラ(呼:運動係数制御『運動加速』。運動係数5倍)

言葉が終わるや否や、サクラの体は無限信号の背後を取っている。
その手に握ったナイフが柔和な少年の肩に突き刺さった……だろうに。

少年は5倍に加速されたサクラの刺突を容易く回避し、脇腹にカウンターの拳をお見舞いする。

サクラ(警告:攻撃感知、回避不能──……防御)

上条「なんっ!?」

サクラ「……──っ!?」

脇腹に突き立っていたであろう拳を掌で受け止め、その瞬間にビクリとサクラの体が震える。
サクラは慌てて拳を払って跳躍し、無限信号から大きく距離を取った。
一瞬遅れて、サクラの立っていた場所に傀儡乱髪の髪が、文字通り「突き刺さって」いた。

上条「くっ!」

剣のように鋭い髪は上条にも同時に襲いかかっていて、反射的にバックステップで難を逃れる。
分断されたと見るか、挟み撃ちと見るかは結果次第。

サクラ「なるほど……シナプスアクセルとはよく言ったものだな」

無限信号はサクラの掌に触れた瞬間、サクラの神経系に強制的に電気信号を送って体を支配しようとしていた。
運動係数を5倍に定義していなければ、今頃サクラの体は動かずに傀儡乱髪の攻撃で槍衾になっていた事だろう。

傀儡乱髪「ああもう、ちゃんと捕まえときなさいよ!」

少女は元々、学園都市に3人しか居ないといわれる肉体変化の一人には数えられていなかった。
本来なら「髪の伸びが早い」というだけの、レベル0の無能力者だったのだが、
今や髪を生物のように操り、硬質化させたり太さや重量を変える事すらできるようになっていた。

無限信号「あー、ごめんねぇ。この人、思ったより速くて。でも大丈夫、式を組み直したから」

その傀儡乱髪に良いように使われている体の無限信号は、元はレベル4の電撃使い。
元々出力よりも細かい制御に特化していた彼は、現在では神経信号の代わりに電気信号を使える程の精密性を得ている。
更に、戦闘の全ての動作を反射的かつ機械的に行えるように演算式を組み上げている為、
人間には本来不可能な筈の反応速度と瞬発力を手に入れることに成功していた。

限定的とはいえ、生身でカテゴリAの騎士の身体能力制御と同等の反応速度を生み出す無限信号、
自らの髪をまるでサクラの得意技である『踊る人形』のように扱える傀儡乱髪。
同時に相手にするには無茶な相手だ。

サクラ「その程度で優位にたっているつもりか?」

しかし、サクラの戦意は折れることは無い。
そしてその視線の先には、今日知り合ったばかりの少年の姿があった。
112 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/29(土) 14:07:24.15 ID:mFfIDzso
サクラは言葉を発する事無く地を蹴って、5倍の運動係数をもってして二人を飛び越えるように天井スレスレを跳躍した。

サクラ(呼:運動係数制御『運動加速・一時休止』)

それが攻撃だと誤反応した無限信号が反撃に移るが、カウンターを入れられる位置にはサクラは居ない。

サクラ(呼:制御系・連弾・『仮想精神体制御・生物化』・『電気磁気学制御・銃身』・『分子運動制御・鎖』)

空中で姿勢を整えると同時に、サクラは頭の中で引き金を引いた。
人間の感覚からすればほとんど同時と言えるタイミングで、複数の情報制御が連続して行われる。

仮想精神体制御により翼と化した外套が天井に突き立って急制動をかける。
サクラを追って跳躍していた無限信号が狙いを外され、天井に足をいて次の攻撃の準備に移った。

無限信号「あ……」

それと同時に翼が天井を抉り取り、無限信号の足場を崩す。
どれほど高度な反応速度を誇っても、移動する為の足掛かりが無ければ充分に性能を発揮出来ない道理。

自動的に起動した電気磁気学制御によって超電磁砲の為の銃身を展開してから、分子運動制御によって生み出した鎖に着地する。
その鎖は網のようにな形状で廊下に張り巡らされ、剣と化した傀儡乱髪の髪を一瞬だけ防ぎ止めた。

サクラ「手ぬるいな!(呼:運動係数制御『運動加速・再起動』)」

鎖越しに剣を蹴りつけてやると、髪に対してあまりに頼りない体躯の傀儡乱髪の足元がふらつく。

傀儡乱髪「っ! こいつ……!!」

サクラの背後で氷の鎖を引きちぎった傀儡乱髪が、髪の剣をサクラに突き立てようとして、横合いから現れた無能力者の右の拳に吹き飛ばされた。

上条「っだらあああ!!」

瞬間的に剣が解除され、壁に強かに背を打ち付けた少女の動きが止まる。
同時、床に着地した瞬間の無限信号にナイフを投擲し、当然のように回避され──背後に展開されている銃身に収まった。

銃身は既に自壊しかけているため初速は音速程度だが、しかし全くの視界外から反転するかのように狙いを定めたナイフ。
それすらも反応して見せた無限信号は、反応演算式のままに肩を捻り──

サクラ(バカな! 正気か──)

ありえない方向へと、曲げた。

上条「女の子を殴るってのはあんまり気持ちの良いもんじゃ……な、え?」

甲高い音ばかりが響く高速戦闘の中で、骨が砕ける鈍い音は一際耳についた。
113 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/29(土) 14:08:04.76 ID:mFfIDzso
無限信号「……あー、やっちゃったなぁ」

右腕をだらりと垂らして、それでも無限信号は笑顔を崩さない。

傀儡乱髪「ちょっ……タカヒロ!」

髪の長い少女が駆け寄るも、それすら気にした様子はなく。

無限信号「だから骨格強化してくれって言ってたのに……使えない学者さんたちだなぁ」

その異様な光景は、サクラと上条の背筋を凍らせるに充分だった。

サクラ「貴様……正気か?」

上条「おい、何だよそれ……!」

通常なら気を失ってもおかしくない痛みであろう。
ありえない方向に捻られた関節が、皮膚表面に奇妙な皺を作っていた。
しかし、脳内物質を調節して痛覚を無視している無限信号が微笑を絶やすことは無かった。

無限信号「まぁしょうがないかぁ。この人たち、すごい場慣れしてるし……頼んだよ、『傀儡乱髪』」

傀儡乱髪「……わかった」

言いながら、ゆっくりと慈しむように少年を抱擁する。
程なくして黒く長い髪がザワザワと繭のように二人を包み込んだ。

サクラ「(まさか……)上条当麻! 下がれ!」

上条「っ!」

その声に反応して上条が後方に跳躍すると同時、艶やかな黒が視界を埋めた。
114 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/29(土) 14:08:42.84 ID:mFfIDzso
蜘蛛の形状を取ったから失念していた事。傀儡乱髪の髪は不定形を取る事ができる。
頭部、脚部をぐにゃりと歪ませてコンクリートの腕をやり過ごした直後、
その歪んだ部分から真っ黒な触手が爆ぜるようにサクラに襲いかかった。

サクラ「っ!」

悲鳴を上げる間も無く、無様に床を転がりながらその場を飛び退いて触手を躱す。
コンクリートの床はいとも簡単に抉れて破片が飛び散った。

サクラ(呼:仮想精神体制御『生物化・中断』、分子運動制御『鎖』)

膝をついて体勢を整え、無数の氷の鎖を放射状に出して蜘蛛の全身を拘束する。
またおかしな変形をして抜けられてしまうだろうが、その一瞬の隙が必要。

サクラ(呼:連弾・『分子運動制御・弾丸』・『電磁気学制御・檻』)

大蜘蛛が鎖をすり抜け、前肢と触手が再び襲いかかると同時に、サクラは頭の中でスイッチを叩く。
瞬間的に窒素を凍結させて生成した無数の弾丸が大蜘蛛の攻撃を片っ端から撃墜した。

サクラ「上条当麻!」

自動的に起動した電磁気制御が『檻』の展開を完了し、サクラがその中にナイフを投げ込むのと、
弾幕をぶち抜いてきた大蜘蛛の前肢がサクラを叩き付けるのはほぼ同時。

上条「おう!」

それよりも速く前に出ていた上条が拳を振りかぶり、前肢を殴り飛ばす。
能力が解除された前肢の関節が音もなくただの毛髪に戻り、
先端部分の運動エネルギーを抱え切れずに千切れてサクラの横の床に突き立った。

本来なら攻撃を感知して自動的に回避する筈の能力が、その右手を知覚できない。
予想外の出来事にたじろいだ大蜘蛛が数歩後ずさる。その位置が正に『檻』の中心。
115 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/29(土) 14:10:00.91 ID:mFfIDzso
サクラの投げ込んだナイフが電磁気の網にかかって『魔弾の射手』の時と同様に砕け散り、
大蜘蛛の周りに張り巡らされた電磁気のレールに従って音速の約6倍で縦横無尽に飛び回る。

危険を悟った大蜘蛛が外に出ようと脚を伸ばしたところで切断され、檻を破壊しようと振るった触手がはじけ飛ぶ。

サクラ(警告:I−ブレイン疲労蓄積70%。警告を無視。──呼:『天の投網』)

間髪を入れずに檻の「出口」を内側に向けると、無数の変異銀の欠片が全て中心に向かって射出された。
たとえ人間に不可能な動きを、人間の数十倍に値するスピードで行ったとしても、絶対に回避不能。
360度全方位から、回避不能の雨が大蜘蛛に降り注いでいく。

着弾する端から弾け、削れ、抉れ、貫かれ、一つ一つは小さな打撃だが、それが数百という物量になると話は別。
数多の欠片の雨に晒された大蜘蛛の8本の脚はもはや粉々になり、胴も原型すら無くなっていた。

そしてその中心、黒い海の真っ只中に少年と少女は折り重なるように倒れていた。

だが、サクラが一息吐いた。その瞬間。

傀儡乱髪「まだ……っ!!」

サクラの足元から傀儡乱髪の髪がせり上がり、全身を締め上げた。

サクラ「なっ!?」

平時なら回避できたであろう攻撃だが、I−ブレインの蓄積疲労に気を取られて反応が遅れてしまっていた。
容赦無く全身を締め上げる髪は、サクラの筋力では抜け出すことも引き千切る事も到底適わない。

サクラ「ぐ……うああっ!」

四肢を締め上げられて悲鳴を上げるサクラを見上げ、傀儡乱髪は満足気に笑う。

傀儡乱髪「五体バラバラにしてやるよ!!」

全身に傷を負いながらもヨロヨロと立ち上がった少女の唇の端が醜く釣り上がり──

上条「させるかよ!!」

──ひしゃげて床に叩きつけられた。
116 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/29(土) 14:11:15.39 ID:mFfIDzso
骨と骨のぶつかる音、一瞬遅れて骨とコンクリートのぶつかる鈍い音が響く。

上条「…………ふぅ。やっぱ女の子の顔を殴るのは──って、大丈夫かサクラ!」

傀儡乱髪が動かなくなった事を確認してから、上条はサクラに駆け寄った。
束縛から開放されたサクラは、胸に手を当てて呼吸を整えている。

サクラ「──っはぁ……はぁっ……ああ、無事だ。おかげで助かった」

上条「はぁ、よかった──……っとと」

安心して気を抜いたからか、少年は足元に散らばっている髪に足を取られ──

上条「だあああ!?」

サクラ「おい、かみじょ──」

それを支えようと手を伸ばした少女を巻き込んで倒れてしまった。

上条「いててて……。済まん、サ……クラ、さん?」

言いながら手を付いて起き上がろうとして、サクラの視線を見て凍りつく。

サクラ「……手を退けてくれないか。上条当麻」

視線を下げて手の位置を確認し、小さな膨らみを鷲掴みにしているのが自分の手だと気付くまでにたっぷり3秒。
サクラを押し倒して組み敷くような体勢になってしまっていると気付くまでに更に3秒。
彼が状況を理解し、慌てて手を退けようとするまでに合計6秒もの時間を要した。

上条「いっ!? ご、ごめん!! ──ってうわああ!?」

しかし慌てたのが災いしたか、起き上がろうとして更に足を取られてしまう。

サクラ「……そうか、上条当麻。つまり貴方は死にたいという理解で良いのだな?」

結果として、鷲掴みにしていた筈の膨らみに、今度は顔を埋める結果となった。

上条「……いやいや、ちがうんですよ、これは」

サクラ「問答無用だ! この痴れ者が!!」

上条「だああああ!? 不幸だぁー!!」
117 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/29(土) 14:12:33.74 ID:mFfIDzso
──数分後。

14歳の少女に説教されてコンクリートの床に正座させられている男子高校生の姿が、そこにはあった。

サクラ「まったく、わざとだったら本当に殺しているところだ」

上条「上条さんが全面的に悪いのは認めますが、サラッと怖いこと言わないでください!?」

サクラ「抗議は認めない。貴方にはもっと反省が必要なようだな」

上条「嘘です、すごい反省してます! 猛省してます!」

ワーワーギャーギャー

傀儡乱髪「う……いったぁー……」

サク条「っ!」

サクラ「見ろ、貴方が余計なことで時間を取らせるから目を覚ましてしまったではないか」

上条「そこまで俺のせいかよ!?」

傀儡乱髪「ここは……──っ!!」バッ

サクラ「……まだやるか?」ザッ

傀儡乱髪「アンタたちにタカヒロはやらせない」ザッ

サクラ「ふむ……貴方たちが降伏して我々の邪魔をしない、というのであれば我々も手をだすつもりは無いが」

傀儡乱髪「……本当に?」

サクラ「ああ、約束しよう。ただし、この研究所とデータの破壊に関しては譲歩できない」

傀儡乱髪「……終わらせてくれるの?」

サクラ「少なくとも、ここで行われているバカげた研究は、今日限りで終わる事になるだろう」

上条「ああ、俺たちはその為に来たんだからな」

傀儡乱髪「う……」ジワッ

サクラ「……? どうした?」

傀儡乱髪「うわああああああああああん!!」ダキッ

サクラ「お、おい、どうしたのだいきなり?」オロオロ
118 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/29(土) 14:13:32.01 ID:mFfIDzso
一頻り泣いて、泣いて、泣いて。泣き止んでから、傀儡乱髪はこの研究の概要を話し始める。
結論から言えば、美琴の立てた予測はほぼ的中していた。
足りない演算能力を他所から持ってくる為に、AIM拡散力場を利用して適正者の脳波に上乗せしてやる。
適正者とは、強い『自分だけの現実』を持っている者の事。それがなければ演算能力だけがあっても伸び代は小さい。

そして、自分は元は『置き去り』だったことを明かし、アザミと名乗り直した。
これ以降はのろけ話が挟まれて、というよりはのろけ話が主になっていたが、有用な情報だけを抜き出すとこうなる。
無限信号──タカヒロも同じ境遇だったが、二人は数ヶ月前にこの研究の被験体として連れていかれた。
他の能力者に演算性能を貸す立場になった事もあったが、最終的に『正規品』として選ばれたのはこの二人を含めて四人。

アザミ「それで、自分の神経信号を脳内まで操作できるようになった頃から、タカヒロは変わっちゃったの」

サクラ「……それであの無痛症モドキになってしまったわけか」

アザミ「でも、タカヒロは本当はすごく優しくて……!」

サクラ「それはもういい。どの道システムは破壊する。その後で自分で考えて自分で決めろ」

アザミ「うっ……うん……」

上条「でもさ、あいつは今でもアザミの事を本当に大事に思ってるんじゃねーかな」

アザミ「え?」

上条「よく見てみろよ、自分の傷とあいつの傷つき方をさ」

アザミ「……あ」

上条「多分、あの時にお前を庇ってついた傷だと思うぜ? あんなになるほど庇うんだから、大事に思ってるに決まってるだろ」

アザミ「……うん!」

上条「これまで大変だったかもしれないけど、やり直すのに遅いなんて事は無いんだ。頑張ってみようぜ、もう一度さ」

アザミ「うん! ありがとう、お兄ちゃん!」ダキッ

上条「え? おに……ええええ!?」

サクラ(強い『自分だけの現実』を持ちながら演算性能が低い者……つまり阿呆だな)

アザミ「お兄ちゃんはお兄ちゃんでしょ?」キョトン

上条「いやー殺そうとしてた相手にお兄ちゃんはどうかと思うんですが……」

サクラ(……上条当麻のようなバカにはお似合い、か?)イラッ
119 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/29(土) 14:14:46.05 ID:mFfIDzso
──研究所中枢区画、実験室。

培養槽に浮かべられた少年の体がピクリと動いた。

錬(警告、高密度情報制御を感知。……コレハ……MOうヒトりガ……? ……あレ? ウマKU思考ガ……?)

I−ブレインからの警告を受けて、ようやく意識が覚醒する。
しかし、現状を認識する事ができない。そもそも『考える』事自体が困難になってしまっている。

錬(脳機能に異常を観測。自我をI−ブレインに移行……警告、I−ブレイン内部に自我によらない演算を検知)

反射的に主思考軸をI−ブレインに切り替え、現状を再確認。
どうやら何者かが自分の脳に細工をしているようだ、と少年は結論した。

錬(強制的に稼働率を30%に定義。異物排除……エラー。排除に失敗)

ノイズメーカーとはまた違う、言葉に出来ない不愉快な感覚が数値化されて思考の裏を塗り潰している。
更にI−ブレインの稼働率も強制的に下げられてしまっていた。

錬(身体機能の回復を優先……エラー。一部身体機能のみ回復に成功)

I−ブレイン側からの制御にも失敗。状況はいよいよ最悪だ。

錬(一部身体機能──視神経回復。…………ここは……何かの培養槽みたいなものかな)

少年がこの手の装置の世話になるのは実に9年ぶりの事だった。
しかし、それは記憶にあるわけでもなく、兄や姉から聞かされた話でしかないので、実質は初めての感覚。
とはいっても、視覚しか回復していない状態で感覚も何もあったものではないが。

錬(とりあえず、すぐに殺そうっていう訳では無いみたいだけど……)

一方通行と名乗った少年に唐突に襲われ、完膚無きまでに負けて気絶させられた事を思い出す。
脳内時計で1時間近く経過していた。

錬(魔法士の脳髄を頂くって言ってたけど、それがこの脳機能の惨状って事か)

自我を反射的にI−ブレインに移していなかったら、意識は再び泥の中に捕らわれていたかもしれない。

錬(さっきの情報制御はもう一人の魔法士だろうけど……こっちに向かってるのかな)

斜め上方、距離にして70mほど。その位置で、明らかに戦闘の為の情報制御を行っていた。

錬(それにしても、この場所は……)

視線を動かして周囲を見回すと、ガラス管のベッドに何人もの少年少女が寝かされているのが確認出来た。
その中の一つにブンスミストで戦った釧路帷子がいる事に気付き、息を飲もうとしてそれすらできない現状に辟易する。

錬(どうにか、動けるようにならないとな……)

少年は再び目を閉じてI−ブレインにコマンドを叩き込んだ。
120 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/29(土) 14:15:17.17 ID:mFfIDzso
──研究所地下施設、端末室。

施設の構造自体は建築関連の情報をハッキングすれば、容易く(美琴にとっては)手に入りはするが、
その内部に何がどのように配置され、建築後にどう改造されているのか、となると話は別だ。

美琴「ったく、どんだけセキュリティ固いのよここは……」バチバチッ

基本的に外部からアクセスできる場所にそんなデータは置いてはいない。それはこの研究所も例外では無かった。
必然的に内部に侵入してローカルから直接抜き出せば、という発想に至るのだが、内部からですら侵入は困難を極めた。

黒子「諦めて足で探し回った方がよろしいかもしれませんわね」

美琴「そうね。なんか癪に障るけど……」

黒子「未熟とはいえ、レベル5がウロウロしているような場所で、時間をかけすぎる訳にもいきませんの」

美琴「はぁ、ここまでで既に5人よ? これから何人出てくるやら……」

??「安心していいぜ、粗製乱造の似非能力者はお前らが全部片付けちまったからな」

端末室を出たところで、患者衣を羽織った少年が待ち構えていた。
線の太いが人好きのする顔立ちにゴツゴツとした体つきは、一流のアスリートを彷彿とさせる。

黒琴「っ!!」ザッ

待ち構えていたというよりは、待ちくたびれていたという風体で、壁に預けていた背を持ち上げてぐぐっと伸びをする。

??「おいおい、自己紹介くらいはさせろよ? 常盤台の『超電磁砲』サンよ」

美琴(こいつ、明らかに違う……!)

??「まぁ自己紹介っつっても、もう本名なんてとっくに忘れちまったし、大した能力も無ぇんだけどな。
 系統もただの肉体再生だし。むしろ、得意技っつったら能力なんかよりも格闘技っていう」

美琴「名前が無いのに自己紹介? バカじゃないの?」

??「そうそれ、バカなんだよ俺。だからこうしてココに居られるってわけ」

黒琴「……?」

??「この研究の名前、たしか『幻想代入』っつーんだけどさ。強い確固たる『自分だけの現実』と、
 それに見合わないほどに低い演算能力ってのがあって初めて真価を発揮できる。でもそれって、要はバカだろ?」

黒子「そんな事をベラベラと喋ってしまっても良いんですの?」

??「あーいいよいいよ、どうせこの研究は今日で終わりなんだしな」

美琴「……どういう事よ」
121 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/29(土) 14:16:11.48 ID:mFfIDzso
??「これ以上は研究する価値が無いんだってよ。人間には到底できない演算をやってのけようが、レベル6には遠く及ばない。
 神ならぬ身にて天井の意志に辿り着くものってなぁ、レベル5までと違って演算能力では誤魔化せないってのを証明しちまった」

黒子「だったらこんな研究所など早々に放棄すれば良いのではなくて?」

??「ところがどっこい。ある程度の条件さえあればレベル5にできるっていうコストパフォーマンスは惜しいワケだ。
 『超電磁砲』なら解かるんじゃないか? 例えば2万体必要なところを128体にできる……とかな?」

美琴「アンタ……死にたいの?」

??「あーいや、怒らせるつもりは無かったんだが、まぁ本人にすりゃ胸糞悪いよな。バカなもんで、すまんすまん」

美琴「……いいわ、要するにアンタは私たちの邪魔をするわけでしょ」バチッ

??「そういう事になるけど、一つ勘違いしてそうだから訂正させてくれねーかな」

美琴「何?」

??「今の自分の能力がどの程度『本物の』レベル5に通用するのか、興味はあるわけよ。こんな借り物の力でも、な」

美琴「……そう、じゃあ望み通り消し炭になりなさい!!」バリバリバリッ

??「ぐぅえっ!! ……さすがはレベル5……と言いたいとこだけど、手加減はしない方がいいぜ?」

美琴「っ!? 電撃が……効かないっ!?」

??「いやいや、すげえ効いてるぜ? めっちゃ痛えし。あーあー、患者衣がボロボロだよ」

美琴「アンタ……何者よ」

??「そういやまだ言って無かったっけな。元レベル0の肉体再生。現レベル5の……『肉体復元(アンデッド)』ってとこか」スッ

美琴「……黒子、下がってて。巻き込みたくないから」

黒子「まさかお姉様、こんな建物の中で全力を出すつもりですの!?」

美琴「そうならない事を祈るけどね」

肉体復元「ああ大丈夫大丈夫。この直上は3フロア分ぶち抜いて戦闘訓練エリアになってるから安心して全力出していいぜ?
 なんでも奴らが言うには『たとえ超電磁砲のゼロ距離射撃でも貫通は不可能』らしいし、多分裏側からでも同じだろ」

美琴「ああそう……ホンっとムカつくわねアンタたち……」バチバチッ

黒子「……お姉様、御武運を」スッ

美琴「その能力名が嘘っぱちだって事、今から証明してやるわ!」

肉体復元「いいねいいねー! さすが『本物』のレベル5は言う事が違え、惚れちまいそうだ!」ザッ
122 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/29(土) 14:17:50.41 ID:mFfIDzso
──研究所外、正面。

一方通行「おいおい、なンか既に大変な事になってンじゃねェか」

結標「みたいね。あなたがそれを言うのもどうかと思うけど」

一方通行「うっせェ、俺ならもっとスマートにやる……つゥか誰だよ先客はよォ?」

結標「さぁ? それとも中止する?」

一方通行「いや、先客の目的が実験データを奪うためだったら、両方叩き潰さなきゃいけねェ」

結標「まぁそうなるわよね」

一方通行「あー……ここまでやられてンだったら、別に隠密行動を取る必要も無ェか」

結標「それはそうだけど……どうしたものかしらね、この有様」

一方通行「正面玄関からお邪魔してブチのめすってェのも芸が無ェな……いや、そォか、その手があったか」

結標「その手って?」

一方通行「結標、俺をあの研究所のど真ン中、直上100mくらいの上空に飛ばせ」

結標「え? なんで……あ! ちょ、それ本気でやるの!?」

一方通行「安心しろ、量子変速は傷つけねェようにしてやっからよォ」

結標「はぁ……どうせ私が飛ばさなかったら自力でやるんだろうし。やればいいんでしょ、やれば」

一方通行「物分りがいいじゃねェか。オマエはオマエで探すだろうが、量子変速を見つけたら座標送ってやるよ」

結標「はいはい、期待してるわ……それじゃ、行くわよ」

シュンッ

一方通行「クカカカカ! こいつァなかなか……いーィ眺めじゃねェか!」カチッ

結標(まったく……どこがスマートなんだかね)

一方通行「Come and go, let me show my rocket!──俺のロケットでイカせてやるよ! ってなァ!!」ゴッ

結標(いや下品すぎでしょ。……まぁ私も行くとしますか)テクテク
123 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/05/29(土) 14:18:41.16 ID:mFfIDzso
──とあるグループ。

土御門「うははは! おい聞いたかにゃー! 俺のロケットってお前!」ゲラゲラ

海原「と、盗聴とは、趣味が悪い、ですよ」ププーッ

土御門「さすが一方通行、エンターテイメントの才能も第一位なんだぜい」ヒーヒー

海原「それはそれとして、どうして彼らが先に行動してる事を教えなかったんです?」

土御門「なんだ、そんな事も解からないのか」キリッ

海原「わざわざ諍いの要素を増やすような真似をするとは、普段の貴方からは到底考えられませんよ」

土御門「ああ、普段の俺ならそんな真似はしないだろう」

海原「では、何故?」

土御門「本当に解からないのか? これは『仕事』じゃあ無いんだ」

海原「……! まさか──(あの二人を捨て駒にして何者かと取引を……!?)」

土御門「そう、そのまさか。教えない方が面白くなるに決まってるからだにゃー!」ケラケラ

海原「」

土御門「あんなどうでもいい理由で俺をフルボッコにした報いはうけてもらうんだぜい!」

海原(駄目だこいつ……早く何とかしないと……)
124 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/05/29(土) 14:20:18.73 ID:mFfIDzso
今日の分は以上です。
次は火曜の夜中くらいになるんじゃないかなぁ。
125 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/05/29(土) 14:20:49.77 ID:o6tVKCI0
ttp://img.tv2ch.net/jlab-tv/2/s/101894.gif
126 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/05/29(土) 15:39:52.44 ID:mFfIDzso
すいません、抜けがありました。>>113-114の間に以下が入ります。


サクラ「まさか、そんな使い方があるとはな……」

目の前に現れたのは廊下を埋め尽くす程の大蜘蛛。
全身を黒い甲殻で覆い、黒い胴に黒い脚、黒い複眼に黒い顎牙。
その巨体に似合わずキチキチと甲高い音を立てて、サクラと上条を見下ろしていた。

上条「だんだん超能力離れしてきてる気がするぜ……」

サクラ「陽動のつもりが、とんだ大物を引き当ててしまったようだな」

しかし魔法士の少女と自称ただの貧乏学生は臆すること無く、目の前の怪物を睨め上げた。

単純に考えればこの怪物の体組織は傀儡乱髪、その体を無限信号の電気信号操作によって超高速で動かせるという事になる。
それはつまり、サクラにとってみれば「カテゴリーAクラスの騎士と同等の身体能力を持つ龍使い」などという出鱈目な存在に等しい。

救いがあるとすれば、どれだけ硬化したところで髪の主成分はタンパク質だという事。
龍使いの体組織である『黒の水』に比べればその強度は比べるべくもない。
それでも、サクラに対しても上条に対しても充分すぎる攻撃翌力を持っているし、
それより何より、触れた瞬間に相手の神経系を乗っ取るという致命的な能力は顕在だろう。

サクラ「恐らく、私では攻撃を捌ききれない。いざという時は頼むぞ、上条当麻」

上条「女の子に前を任せるわけには……なんて格好良く決めたかったんだけどな」

サクラ「そんな状況でもあるまい。私は貴方を信じる。だから貴方も私を信じろ」

上条「ああ!」

その返事が終わる前に大蜘蛛が動く。巨体に似合わぬ速度は想定内。

サクラ(呼:運動係数制御『運動加速・一時休止』、仮想精神体制御『生物化』)

振り下ろされた前肢を余裕を持って躱してから、目の前の床に仮想精神体の腕を3本生やして振り下ろす。
狭い廊下であの巨体に回避する術は無い。

サクラ「なっ──!?」

──筈だった。
127 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/05/29(土) 20:24:26.95 ID:qk6OB4o0
きてれうー
まさかのロケットダイブ吹いた
仕事がんばれ超がんばれ
128 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/02(水) 01:01:48.42 ID:57urHJwo
あんま書けなかったけど投下します
129 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/02(水) 01:02:21.55 ID:57urHJwo
──研究所地下施設、端末室前。

御坂美琴は焦っていた。

肉体復元「うおおお! いってぇ! 超いってぇ!!」

もう何発の電撃を撃ち込んだか数えたくもない。だというのに、目の前の肉体復元には傷ひとつついて居ない。
周囲の床や壁は熱で焼け焦げ変形し、原型を留めていないオブジェクトすらあるというのに。
正確に言えば傷がつかないわけではなく瞬間的に再生、いや、文字通り直前の状態に『復元』しているのだ。

美琴「本気でバケモノ染みてるわね、それ……」ゼェゼェ

肉体復元「即死級の電撃そんだけ撃っといて言う台詞がそれか、よ!」

喋りながら器用に放たれた蹴りを、美琴は足元を電磁加速させて回避して距離を取って回避する。
いくら鍛えているとはいえ常人と同等の格闘攻撃など、そうそう当たるものではない。

肉体復元「なんか千日手の様相を呈してきたと思わねぇ?」ゼェゼェ

電撃は肉体復元によって効果は無きに等しい。かといって相手の格闘攻撃を喰らう要素も無い。
どちらの攻撃もダメージを与えられない以上、先にスタミナが切れて能力を使えなくなった方が負けるというだけで、
決着らしい決着というのは付けられない。

美琴「っはん……、そう思ってんのはアンタだけよ!」

チャリンという軽い音と共に、ポケットから取り出したコインを弾く。その手元から紫電が散った。
彼女を第三位たらしめている、その異名の予備動作。

肉体復元「っ! 来るか──!」

放物線を描いて再び美琴の手に落ちて、親指で弾く、ただそれだけの動作。
しかし、そこから生じるのは音速の3倍の初速で射出される一条の閃光。
サクラのナイフとは違って空気抵抗で赤熱して蒸発していき、弾体のコインは刻一刻とその質量を減じて行く。
それは同時に、着弾時の衝突エネルギーだけではなく、周囲に超高温の熱線をもたらすという事でもある。

肉体復元「うおおおおおお!!」

それほどの破壊と破滅の塊を、肉体復元はこともあろうにその右手で受け止めていた。
弾体が掌の組織を破壊して前に進むよりも早く掌の細胞が復元し、それがまた破壊されて、また復元する。

肉体復元「──ああああああああっ!!」

永遠にも思える数秒の後。そこに無傷で存在している右手は、まるで最初から超電磁砲など無かったとでも言いそうな風体。

美琴「そん……な……」

必殺の超電磁砲を防がれた美琴はその場にヘタり込み、肉体復元が勝者の名を告げる。

肉体復元「さすがだなぁ、『超電磁砲』……あんたの勝ちだよ」
130 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/02(水) 01:03:05.65 ID:57urHJwo
美琴「え……?」

何をバカなことを、そう言おうとして息を飲む。

肉体復元「あーあ、こんな事なら素直に貫通させとくんだったぜ」

いつの間にか肉体復元は膝を付き……いや、左膝より先が消えてなくなっていた。
右膝だけではない。左肩から先も、最初から腕が無かったかのように、当然のようにそこには存在しなかった。

美琴「何が起きたの……」

肉体復元「いやー、俺の能力ってのは『健康な状態の細胞』を記憶しておいて、それを復元させるってのが基本機能なんだよ」

その場に座り込み、胡座をかこうとしてそれが出来ない事に気付いた肉体復元は、ポリポリと頭を掻いた。

肉体復元「んで、超電磁砲を止めるほどの高速復元をする為に、ぶっちゃけ人間じゃ不可能なレベルの演算をしたんだ。
 それだけの転送量を得るために、『健康な状態の細胞』ってのを記憶しておく容量まで侵食されちまったってわけだ」

美琴「そんな事が……」

肉体復元「素直に貫通させてから復元させりゃあこんな事にはならなかったんだけどなぁ。
 脳の特定部分さえ残ってりゃたとえ他がすべて消し炭になったって復元できるしよ」

美琴「どうしてそうしなかったのよ」

肉体復元「言ったろ? どこまで通じるのか試したいって。どこでどう間違ったか、
 本来の俺じゃあ絶対に届かない高みに来ちまったんだ。ちょっとくらい夢見たっていいじゃねえか」

美琴「バカだわ、アンタ……」

肉体復元「だからバカだって言ってんじゃねーかバーカバーカ。くそーいい線行ってたと思ったのにこれかよー」

あからさまにやる気を無くした肉体復元は、ばったりと背中から床に倒れ込んでイビツな大の字を床に描いた。

美琴「……まったく、付き合いきれないわね」

黒子「お見事ですの、お姉様」

退避していた黒子がひょっこりと顔を出す。言葉とは裏腹に、焼け焦げて歪んだ周囲の惨状を見て表情が引き攣っていた。

美琴「そんな事無いわよ。こいつがバカじゃなかったら結果は違ってたかもしれない」

黒子「それでも、お姉様は勝ちました。これがただ一つ変わらない結果ですの」

肉体復元「ああそうそう、ここ潰すつもりなら一つアドバイス。っつーか忠告な」

黒琴「?」

肉体復元「俺らの中で一番強い奴は、恐らく第一位より強い」
131 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/02(水) 01:03:34.75 ID:57urHJwo
──研究所中枢区画、実験室。

錬(状態解析完了──……って、この装置は人の脳を何て事に使ってくれてるの)

解析結果によると、脳とI−ブレインの演算領域を誰かに間貸ししているような状態だという結果になる。
フィアの同調能力に似ているが、情報制御によって引き起こされたものではない事は確かだ。

錬(でもって脳そのものはI−ブレインとのプロトコル変換で大忙しって事か。思考自体ができないわけだ)

どういう理屈かは分からないが、自分の脳が何らかの情報を送受信している事は理解できる。
送信先も受信元も不明、プロトコルの解析も不可能ではあるが、インプットとアウトプットの処理を行っている。

錬(脳の同調接続を切断……いや、I−ブレインからじゃ支配できないんだったっけ)

脳だけではなく身体機能ですら、I−ブレインからの距離が程近い視神経のみの回復が精一杯だった。
恐らく限界までやっても三半規管や聴覚までを回復できる程度だろう。

錬(けど、すぐ近くで情報制御が起きている……僕の脳を間貸しさせられている相手との戦闘ってとこかな)

情報制御に依らない物理干渉を可能とする超能力というモノが、この世界にはある。

錬(超能力の演算にI−ブレインの演算を使ったら……バカらしいけど、でもその可能性が最も高い)

そんな考えたくも無い発想が脳裏を過ぎる。考えたくもない筈なのに、発想した瞬間には既に
『釧路帷子83万人分の演算能力を持つ』というスペックが弾き出されていた。

錬(どうにかして、I−ブレインの支配権を取り戻さなきゃなぁ)

脳の演算はプロトコル変換だけで殆ど全てを使い切っている。
では、その変換する元のI−ブレインが応答しなければどうなるか。

錬(いや、そんな事したら下手したら死ぬよね。せめて情報制御ができる程度に、どうにか……)

ドゴオオオオオオン!!

錬(っ! この揺れ……それに今、窓の外を降りてった人は……!!)
132 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/02(水) 01:05:07.05 ID:57urHJwo
──研究所中枢区画、訓練エリア。

一方通行「ズドォォォンッ!! てなァ!」スタッ

愉快な擬音(だと本人は思っている)を口にしながら、一方通行は広さ50m四方、高さ10mもある巨大な部屋に降り立った。
いや、降り立ったというよりはブチ抜き降りたというべきか。

一方通行「おーおー、まさかホントにど真ン中で正解かァ?」

地上100mから落下、最上階から床といわず天井といわず、ともかく何層ものフロアをブチ抜き、
しかしその破片は全て上側に飛び散るという異様なベクトル操作を、一方通行はいとも容易くやってのけていた。

研究員A『おやおや、これは予想外の来客だね』

研究員B『まさかここで第一位の乱入があるとは予想外だ』

一方通行(スピーカー? どっから見てやがる……?)

その疑問はすぐに晴れる。後ろを振り向いた一方通行の視界の中に、2人の研究員の姿が目に入った。
といっても、このフロアの上部に貼られたガラスの向こう側だったが。
3フロア分の高さのある空間だが、恐らくその最上フロアに相当するのだろう、と一方通行は結論した。

一方通行(更にその下のフロアにもガラス張り……ありゃあ……)

この角度からでは見えにくいが、培養槽やガラス管のようなベッドがチラりとその一部を見せている。
恐らくこの研究のキモはあそこにあり、天樹錬や量子変速もあの場所だろう。

研究員A『こんな時間にそんな入場の仕方をしてきたという事は、我々を潰すつもりという事かな』

一方通行「一瞬でこンな中枢まで乗り込まれたってェのに、随分と余裕じゃねェか?」

研究員B『それはもう。我々の駒の中には、第一位を凌ぐ戦力を持つ者がいるからね』

一方通行「……クッ……クハハハ! アハギャハハハ!! いいねェいいねェ、実にふざけた回答だァ!」

余りに現実離れした言葉に、一方通行は呆けるのを通り越して笑うのを堪えきれなかった。
それも当然の事。どんな能力であろうが、あらゆるベクトルを操作する能力に勝つ事はほぼ不可能。

未元物質の解析には手間取ったし、胸糞の悪いヒーローに敗北を喫した事もある一方通行だが、
こんな場末の研究員が一方通行を凌ぐ能力者を作り上げたなどと、到底信じられる話ではない。

一方通行「研究者ってのはドイツもコイツも揃いも揃ってイカレ野郎しか居ねェって事がよォーく解かったぜ。
 あァ、遺言くらいは聞いといてやるぜェ? 言い終わったら殺してやるからよォ!」

研究員A「ふむ、遺言では無くてすまないが……。やりなさい『進入禁止(パーフェクトワールド)』」

正面の壁、科学者の居るガラス張りの真下にある扉が開き、一人の人間がそこから姿を表す。
この瞬間に至るまで、一方通行は『その可能性』に辿り着かなかった。

一方通行「……なン……だとォ!?」
133 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/02(水) 01:06:21.23 ID:57urHJwo
──研究所地下施設、端末室前

美琴「はぁ? 一方通行より強い能力者なんているわけ無いじゃない」

一万人の妹達を殺し、第三位の自分が全力でも傷ひとつ付けられない。
第二位に苦戦したというのも耳にしたが、それにしたって第三位と第二位の間に絶望的な壁があるというだけ。
それこそ、あのツンツン頭の少年のような得体の知れない能力でなければ一方通行を破るなんて事はありえない。

肉体復元「まぁすぐに信じられないのも無理はねぇよ」

美琴「当たり前じゃない、一方通行に勝てる能力なんて有り得ない」

肉体復元「いやー、そこはもうちょっと柔軟な思考を持とうぜ」

美琴「何、アンタ負けといて私をバカにするわけ?」バチバチッ

肉体復元「まてまて落ち着け、こっちもふざけてるわけじゃない」

美琴「さっさと言わないと本当にまた食らわすわよ?」

肉体復元「落ち着けっつーに。一方通行が最強なのは何故かって考えた事は無いのか?」

美琴「そりゃあベクトル操作なんてバカげた能力、手の付けようがないじゃない」

肉体復元「それもあるが、それが一番デカいんだろうけど。それだけじゃない」

美琴「……! まさか──」

肉体復元「そう、ベクトル操作ができるのは一方通行だけ。この二つがあって初めて最強足り得る」

美琴「そういう事……とことん狂ってるわね」

肉体復元「本来は一方通行のクローンの製造ってのは不可能な筈だったんだよ。まず基礎培養すら困難で、
 それが出来ても出来上がるのは基本的に片輪の欠陥品。俺にはあいつがああして今生きてる事が奇跡だと思えるね。
 生産できたのは生命そのものが無い肉片が9割以上だったんだから」

美琴「……」

肉体復元「そんな中でも数撃ちゃ当たるってもんで、五体満足で命も意識もあるクローンが生産できた。
 が、そいつは染色体に異常があったり大脳新皮質が萎縮しててね。言語機能が不全だったり、演算が全く行えない欠陥品だったってワケだ」

美琴「どれだけ……」

肉体復元「なら、そいつに本物以上の演算能力を与えてやれば一方通行を超えられるんじゃないか……それがこの幻想代入の発端。
 俺や他のレベル5モドキの連中は、その副産物で生まれて便利そうだったから手元に置かれてただけって事さ」

美琴「どれだけ人の命を弄べば気が済むのよアンタらは!!!」バチバチッ
134 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/02(水) 01:07:48.97 ID:57urHJwo
肉体復元「ああ、俺もそう思うよ」

美琴「だったら! それだけの力があってどうして放っておいたのよ!」

肉体復元「ちっげーよ逆だよ、これだけの力しか無ぇんだよ。一方通行を知ってるなら解かるだろ。アレは次元が違う」

美琴「っ!」

肉体復元「まぁ、なんだ。殺そうとしたり殺されかけた相手に言うこっちゃ無いけどさ、俺はあんたが気に入ってるんだ。
 おかげでいい夢も見れた事だしな。……だから、アレに触る前にここから帰ることをオススメするぜ?」

美琴「……っはん、殺しても死なないくせに、殺されかけたなんてどの口が言うんだか」

肉体復元「ははっ、ちげー無ぇや……っておい待てお前ら」

美琴「何?」

肉体復元「今の話聞いても行くつもりかよ!?」

美琴「そうだけど?」

黒子「わたくしも、お姉様が行くところにはどこへでもお供する所存ですの」

肉体復元「おいおいマジかよ、常盤台のお嬢様ってなぁそんなに命知らずなのか?」

美琴「勘違いしないで。私の目的はこの研究を止めさせる事であって、一方通行モドキをどうにかする事じゃない」

肉体復元「この状況で奴と接触せずに連中やデータだけを叩くなんてのができりゃ、とっくに俺がやってるんだよ!」

美琴「アンタには出来ないってだけでしょ。出来損ないのレベル5にはね」

肉体復元「うわ……いやいいけどさぁ、元々レベル0だし、馬鹿にされてるのも慣れてるけどそれはキッツいぞ?」
                                     ユ メ
美琴「いいからとっとと逃げなさい。アンタに叶えられなかった幻想は私が背負ってってやるわよ」

肉体復元「なぁ、言ってて恥ずかしくないか?」

美琴「言わないでよ、自分でもちょっとそう思ってるんだから(……アイツのノリが伝染ったかなぁ)」

ドゴオオオオオオン!!

美琴「!?」

黒子「この音……何ですの!?」
135 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/02(水) 01:09:36.68 ID:57urHJwo
──研究所地下施設

サクラ「今の音は……我々以外にも侵入者か……?」

上条「わかんねぇ、けど急いだ方が良さそうだな」

アザミ「あの! この研究所の中枢区画はここから3フロア降りたところにあるから!」

上条「おう、わかった! ありがとな、アザミ!」ダッ

サクラ「急ぐぞ!」ダッ

アザミ「頑張ってね、お兄ちゃん!」ヒラヒラ

サクラ「……侵入者に心当たりは?」ダダダッ

上条「いや、全く!」ダダダッ

サクラ「では質問を変えよう。『この建物の直上から中枢区画まで一直線にブチ抜いて侵入できるような能力者』に心当たりは?」

上条「んなっ!? 今の音はそんな事をした奴が!?」

サクラ「我々魔法士は、集中している状態なら目に見えない範囲だとしてもそれなりに周囲の状況を感知できる。
 人間らしきものがそんな非常識な手段で侵入して、中枢区画に一瞬で辿り着いたというのは間違いない」

上条「でもそんな事ができる奴なんて……(いや、一方通行ならいけるか……?)」

サクラ「心当たりがあるのだな?」

上条「あるにはあるけど……(まさかあいつもこの実験のことを嗅ぎ付けて来たのか?)」

サクラ「何者だ?」

上条「一方通行。今日一度会ってるよな、あいつだ」

サクラ「あの杖をついていた男か……人は見た目に依らないな」

上条「いやー、割と見た目通りだと思うけどな。でも、もし味方だとしたら、これほど心強い事は無いぜ」

サクラ「つまり、敵に回したら最悪の相手というわけだ」

上条「そうならない事を祈るけどな!」
136 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/02(水) 01:10:07.62 ID:57urHJwo
──研究所中枢区画

無駄に広く長い廊下を走り、動かなくなったエレベーターを無視して非常階段を使って、魔法士と学生はようやくその場所に辿り着いた。

ロックの掛かっていない扉が、ゴウンと重い音を立てて開いていく。
まるで何者かに破壊される事を前提としているように、その扉は何重もの分厚い金属板で構成されていた。

その扉が開ききるのと同時。

サクラ(警告:攻撃感知。回避可能)

扉の向こう側から白いものが高速で飛来していた。
考えるより早く体が反応してその場に伏せる。

上条「ごふぅ!?」

当然ながら、後ろに立っていた少年の鳩尾にクリーンヒットする事になり、そのまま後ろの壁まで突き飛ばされていた。

上条「いてて……不幸だ──って、一方通行!?」

白いものの正体は一方通行。
彼がここにいるという事にも驚いたが、問題なのは『一方通行が傷だらけになっている』という事実だ。
すべての攻撃を反射できる一方通行に傷がつく事など、限定的な例外を除いて本来は有り得ない筈。

一方通行「っつゥ──……ンだァ、先客ってのはオマエらかよ」

上条「なんだってお前がこんな所に……いや、なんでお前がそんなボロボロになってるんだよ!?」

一方通行「……見りゃあ解かンだろォが」

助け起こそうとした上条の手を振り払って立ち上がり、一方通行は部屋というには広大な扉の向こうの空間を見やる。
それに倣って上条とサクラも視線をそちらに向けて、凍りついたように固まっていた。

??「あらあらァ? 『お客様』というのは『お兄様』のお友達だったンですねェ?」

視線の先にいたのは一人の少女。
白い肌に白い髪、赤い瞳だけが煌々と輝き、微笑の中に明確な殺意を孕ませていた。

上条(これでじゃあまるで──)

一方通行「クローン風情が気色悪ィこと言ってンじゃねェよ」

進入禁止「お兄様ったらつれないンですね。可愛い妹に愛を込めて『進入禁止』って呼ンでくださいよォ」

一方通行との差があるとすれば、真っ白な患者衣を身につけている事と、背まで伸びた髪の長さ程度か。
その白い少女は唇の端を歪め、端正な顔立ちを台無しにして微笑んだ。
137 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/06/02(水) 01:11:36.70 ID:57urHJwo
今日の分は以上です。
ちょっと仕事が立て込んでるので次は金曜くらいか、最悪土日になります。
138 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/02(水) 02:04:50.94 ID:QlEHVxgo
面白いよー乙乙
139 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/02(水) 17:58:27.76 ID:LvfXrDY0
乙!
140 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/05(土) 00:11:11.06 ID:.b4vbYAo
乙ありがとうございます、励みになります。
今日の分を投下開始します。
141 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/05(土) 00:11:41.72 ID:.b4vbYAo
一方通行「ふざけンな、誰がオマエを妹だなンて認めるかっつゥんだよ」

進入禁止「あはっ、お兄様ったらつれないですねェ」

サクラ「……一方通行、悪いが一つ確認だ。貴方はこの研究を潰す目的で来たという理解で問題無いな?」

一方通行「あァ、理解が早ェってのは楽でいいぜェ」

上条「俺たちも手を貸す。お前がそんな風にやられるなんてよっぽどなんだろ」

一方通行「下がってろ三下ァ。アレは俺のクローンだ、オリジナルが負けるわけにはいかねェだろうが!」

上条「(そういやクローンって……)あれ? 一方通行は女なのか?」

一方通行「ちげェよ! つゥか気にするとこソコかよ!?」

上条「す、すいません!?」

一方通行「事情は後で話してやらァ、オマエらはそこで見てろ」

サクラ「……待て、一方通行」

一方通行「何なンですかァ!? まだ何かあンのかよ!?」

サクラ「貴方は勝算が無いまま戦いに臨もうとしているように映るが、気のせいではあるまい」

一方通行「はァ? 学園都市最強のこの一方通行が、勝算が無いだァ? 冗談も休み休み言えよォ?」

上条「いやでもお前、もうボロボロじゃ」

一方通行「いいから黙ってろ三下ァ!」

上条「これが黙ってられるかよ!」

一方通行「この問題は……俺が片付けなきゃいけねェんだよ」ザッザッ

上条「おい、一方通行!」グッ

サクラ「……やらせておけ。貴方が同じ立場だったらどうするか、考えてみろ」ガシッ

上条「っ! くそ……!」
142 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/05(土) 00:12:25.03 ID:.b4vbYAo
一方通行には負い目があった。相手がクローンだからというのは、実は些細な事。
しかし手違いとはいえ、魔法士『天樹錬』を確保するというこの実験の最後のトリガーを自らの手で引いてしまった。
それと14510号の負傷には関連性はあまり無い。しかし、今後を考えれば妹達だって狙われる可能性は十分にある。
そんな研究の手助けをしてしまったという事実。その負い目こそが、一方通行の本当の動機。

進入禁止「あらお兄様、もォお友達とのお話は済ンだのですかァ?」

再び対峙するオリジナルを前に、クローンは待ちくたびれたとでも言いたそうな皮肉交じりの口調で挑発する。

一方通行「俺ァオマエの『お兄様』なんかじゃねェし、奴らは『お友達』でも無ェンだよ」

進入禁止「それはごめンなさい、お兄様。空気の読めない愚妹を許してくださいね」

一方通行(正面からぶつかっても演算性能じゃ到底追いつかねェ。ならどうする?
 ったく……使う分には便利だが敵にまわすとこれほど厄介だとはなァ)

単純に反射を設定しただけの攻撃では、進入禁止の演算性能の前に打ち破られるというのは立証済み。
相手は一方通行の演算した反射を計算に入れた上でのベクトル操作を瞬間的に演算できる。
更に気にくわない事に、一方通行ですら完全に理解できていない『黒い翼』ですら、あの圧倒的な演算に弾かれる。
つまりこちらの攻撃は全て反射され、相手の攻撃は全てこちらに届く。ではどんな攻撃手段があるのか。

進入禁止「ねェお兄様、普段反射に設定していないベクトルで攻撃すれば──なんて考えていませんか?」

一方通行「っ!! っへ……俺のクローンだけあるじゃねェか」

言葉とは裏腹に、一方通行を焦燥が支配して行く。正真正銘、打つ手が無い。
頭を使ってどうこうできる相手では無い。

進入禁止「お褒めに預かり光栄です。まさかオリジナルのお兄様からそンな言葉が聞けるなンてねェ?」

その言葉と共に、一歩だけ進入禁止が前に進む。

一方通行(……俺が、怯えてるだと?)

それに気圧されて一歩退こうとして、ギリギリで踏みとどまる。

一方通行(アイツは……こンな事で退くような奴じゃねェ!!)

かつて自分を倒したヒーローは、その得体の知れない右手があったから立ち向かってきたのか?
答えは明確にNOだ。彼は例えその右手が無かったとしても、一方通行の前に立ち塞がっただろう。

別にヒーローになりたいわけではない。けれど、あの程度の事が出来なくて何が守れるというのか。
手前勝手な罪悪感の為に、打ち止めを、妹達を守ると誓ったのでは無かったか。
こんな、目の前の敵に気圧されて退こうとしているようなザマで、あの『クソガキ共』を守れるのか。

進入禁止「あっははァ、無理ですって。お兄様にはなンにも守れやしませンってェ」

そんな一方通行の内心を見透かしたように、進入禁止が笑いながら一歩ずつ近づいて来る。
143 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/05(土) 00:13:09.19 ID:.b4vbYAo
一方通行「やってみなけりゃ……分かンねェだろォが!!」

一足飛びで5mの距離を詰めて、一方通行が拳を振りかぶる。
進入禁止は動かない。これまでと同じように、反射に対する反射を上乗せして終わりだ。

進入禁止「あら?」

しかしその右拳は反射されずに進入禁止の頬に『触れた』瞬間に静止していた。
今現在も反射は切っていない。しかし反射した筈のベクトルの大きさが、その瞬間にゼロに書き換えられている。

一方通行「何度も同じ手は通用しねェンだよ!」

叫びながら拳を引き戻す。ベクトル操作も含めて腕が壊れないギリギリの初速。

進入禁止「がっ!?」

思い出したくも無いが、それはかつて一方通行自身が木原にされた事の再現に近い攻撃だった。
あれほどのスムーズさで行うには肉体強度が足りないが、それでもウェイトの軽い進入禁止を吹き飛ばすには充分な威力を備えていた。

進入禁止「……しょっ、っとォ」

10mほど吹き飛んだところでとんぼ返りのように体勢を反転させ、ゆっくりと着地。
唇の端から垂れる血を拭って、一方通行を睨み返した。

進入禁止「全身の反射を切ってまで接触面だけにアンチベクトルの演算を集中して静止。
 ……更に反射の性質を逆用、ってとこですか? さすがお兄様、機転の効いた真似をしてくれますねェ」

一方通行「まさか自分用の対策を使う事になるとは思ってなかったがなァ」

進入禁止「でも、今の1発で決められなかったのは失敗でしたね?」
144 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/05(土) 00:14:01.46 ID:.b4vbYAo
言うが早いか、進入禁止が一方通行の目の前まで間合いを詰めている。

進入禁止「反射を切らないと使えない上に──」

その動きに一方通行が反応した時には、腹に進入禁止の膝がめり込んでいた。
反射は設定している。だが、その反射したベクトルを更に再変更されているのだ。

一方通行「ぐぉっ!」

進入禁止「通常の反射ではこうして攻撃された時には何の役にも立ちませんし」

部屋の端まで吹き飛ばされた一方通行が体勢を反転し、壁を蹴って反撃の態勢を取る。

一方通行「黙ってろォ!!」

それに対して進入禁止は迎撃するでもなく、ただ立ち尽くしていた。
当たり前のように、一方通行の拳が再び進入禁止の顔に当たった瞬間に静止する。

進入禁止「それに──アンチベクトルの演算を逆算するなんて、私にとっては簡単なんですよォ?」

一方通行が腕を引き戻すよりも早く、ゼロにした筈のベクトルが再び大きさを取り戻す。
結果として行き場を失ったベクトルが乱反射を繰り返し、肘より先が物理的に破裂した。

一方通行「がああああああっ!?」

侵入禁止「あっははァ! 痛いですか? ねぇ、お兄様。痛いですかァ!?」

言いながら振り下ろした拳によって、一方通行の頭部はチタン合金の床に叩きつけられる。
反射のおかげでひしゃげて潰れたのは床のみだが、そうでなければ一方通行の頭部がそうなっていただろう。
そのまま手をついて体を捻り、距離を置いて再び立ち上がろうとして、それが出来ずに膝を付くのが限界だった。

進入禁止「ね、やっぱりダメだったでしょう?」

地に伏せた一方通行の脇腹を蹴り飛ばし、進入禁止は再び凶悪な微笑を見せた。
145 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/05(土) 00:14:38.40 ID:.b4vbYAo
──研究所中枢区画、実験室。

錬(またこれ……こっちもだ……)

I−ブレインの空き領域を掻き集めている内に、錬はいくつもの記憶に触れていた。
幾人もの不良たちの記憶。無限信号の記憶。傀儡乱髪の記憶。肉体復元の記憶。そして進入禁止の記憶。
よくよく周囲の領域を眺めてみれば、多数の意識の集合体がI−ブレインの中に構築されていた。

錬(……でも)

タカヒロ『はは、アザミは甘えん坊だからなぁ』

アザミ『なーに言ってるの、タカヒロだって私が居ないとすぐ泣き出しちゃうくせにー』

タカヒロ『そ、そんな事は無いってば!』

アザミ『はいはい、それじゃちゃちゃっと実験片付けちゃおう?』

錬(やってる事は、あっちの実験施設と大して変わらないのかな……)

進入禁止『あー……あー、れ……? 話せる……体も、動く……?』

研究員A『どうだい? 生まれて初めてマトモに話せるようになった気分は?』

進入禁止『あっははァ! スゴイですよこれ! 能力に回すほどの演算はできないけど、充分嬉しいです!』

研究員A『よかったよかった、どうやら実験は成功のようだね』

錬(平和な街だと思ってたんだけどなぁ)

肉体復元『なんだって今になって再実験なんて……なんだこれ……脳に別の器官……魔法士だと?』

研究員B『おやおや、ここは立ち入り禁止の筈だけどね』

肉体復元『しょうがねーだろー? バカってのは好奇心旺盛なんだよ』

研究員B『いやいや、君はバカだけど頭は回るからね。それ以上はちょっと遠慮してくれないかな?』

錬(……人の記憶を覗き見てるみたいで、あんまり良い気分じゃないけど……)

進入禁止『あら? この子が私の脳みそ候補なンですか?』

研究員A『いいや、これは本番前に行う実験用と、後は予備というところかな』

釧路帷子『……』ジロ

進入禁止『そンなに睨まないでくださいよォ、モルモット同士、仲良くしましょ?』

錬(でも、ごめんね。今は、この実験についての情報を漁らせてもらうよ)
146 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/05(土) 00:15:51.32 ID:.b4vbYAo
──研究所中枢区画

上条「一方通行!」ダッ

一方通行「……触ンじゃねェ」ググッ

上条「……大丈夫なのか?」

一方通行「これが大丈夫に見えるってンなら、オマエの目は節穴ってこったなァ」

上条「もういい、お前は休んでろ」

一方通行「結局、オマエなのかよ……」

上条「……一方通行?」

一方通行「俺には……俺みてェなクソッタレな悪党には、何も守れねェってのかよ……!」

上条「違うぜ一方通行。お前は悪党なんかじゃねえよ」

一方通行「あァ……?」

上条「悪党ってのは、守るものなんて持ってない。悪党には守りたいものなんて無いんだよ。
 だから、お前が何かを守りたいって思ってるなら……お前はクソッタレな悪党なんかじゃない!」

一方通行「ったく、綺麗事ばっか並べやがってよォ……だからオマエはムカつくんだよ……」

上条「いいぜ、本当にそう思うならここで見てろ。お前がクソッタレの悪党だっていうなら……
 まずはその幻想をぶち殺してやるよ!!」

一方通行「ッハ、言ってろ……」ガクッ
147 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/05(土) 00:18:01.51 ID:.b4vbYAo
サクラ「それにしても……ベクトル制御とは出鱈目にも程があるな」

上条「ここは俺がやる。サクラは下がっててくれ」

サクラ「そう言って私が聞くと思っているのか?」

上条「いやー、聞いてくれると嬉しいんですが」

サクラ「生憎と、私には貴方を喜ばせる義務は無い」

上条「はぁ、しょうがない……いくか」ザッ

サクラ「ああ、頼りにしているぞ」ザッ

進入禁止「あら……学園都市最強のお兄様がその有様なのに、本当にやるつもりなんですかァ?」

サクラ「そうだと言ったら?」

進入禁止「もちろん……二人ともブチ殺してあげますよォ」ニコ

全ての攻撃が反射されるのなら、自分には有効な攻撃手段は無い、そうサクラは判断する。
自分のやるべき事は、上条を守り、上条の右手を進入禁止に打ち込ませる事。

サクラ(呼:仮想精神体制御『生物化』)

隙があれば奥の実験室のような場所に侵入して天樹錬を救出したいところだが、
そんな隙を与えれば上条の命と引き換えになる公算が高いため、その選択肢は除外。

進入禁止「さァて、アナタたちはどンな能力を見せてくれるンですかァ!?」

言葉とは裏腹に、進入禁止が軽く踵で床を蹴り、チタン合金の床が剥がれて凶悪なうねりとなって二人を襲った。
しかし、それが届く前にサクラの背後の床が盛り上がり、巨大な腕が生えている。
進入禁止がそう認識した時には、既に盛り上がった床ごと叩き潰して力技で捩じ伏せていた。

進入禁止「すご……無機物の生物化、ってとこですかァ?」

サクラ(道化役というのは気に食わないが……とにかく注意を引かなければな。──呼:『運動加速』5倍)

サクラ「おしゃべりしている暇はあるのか?」

言うが早いか、サクラが5倍の速度で進入禁止の真後ろに移動してナイフを投擲している。
通常の5倍に加速された動きから放たれたナイフは音速の半分ほどの初速を持って進入禁止に突き立たず、
そのままの速度で進行方向だけを変更され、投擲位置を目指すように軌跡を描く。

進入禁止が振り向いたのは、戻ってきたナイフをサクラが余裕を持って回避した後のこと。
148 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/05(土) 00:20:43.34 ID:.b4vbYAo
サクラ(呼:分子運動制御『鎖』)

直後に氷の鎖を生み出して、反応しきっていない進入禁止の全身に巻きつける。

進入禁止「熱量操作まで使えるなンて、魔法士ってすごいンですねェ?」

銃弾すら防ぐ事のできる窒素の結晶は、しかし幾重にも重ねた内側が進入禁止の体表面に触れた傍から砕けていった。

サクラ「それほどでもない」

進入禁止は氷の鎖など無視して攻撃に移る事ができるが、律儀にもそれが全て砕け散るまで待ってやる事にした。
それが圧倒的な戦力を有する強者故の傲慢だと知りながら、改める必要もない。そう判断しての事。

上条「だあああっ!!」

その判断が誤りだと気付いたのは自身が殴り飛ばされてよろけている事に気付いてから。
上条の拳が容赦無く進入禁止の顔を殴りつけてからたっぷり2秒はかかっていた。
そしてその時には二発目の拳を食らってしまっている。

進入禁止「……え?」

状況判断の誤りを自覚しても、何が起きているのかまで理解が及ばない。
反射も切っていないし、二発目に至ってはわざわざ幾重にも反射膜を構成していた。
では、何故そのベクトル操作を無効化して殴打する事が可能だったのか。

サクラ(呼:仮想精神体制御『生物化』)

そして再度その幻想を殺す拳を振りかぶった瞬間。

上条(こいつはまだ幻想殺しを理解できていない! 今の内に……!)

不自然な体制から進入禁止が蹴りを繰り出す。右拳を避けながらのカウンターで上条当麻の脇腹を確実に抉るであろう一撃。

上条「なぁっ!?」

それが上条の腹を抉り取る一瞬前に、その足元から巨大な腕が生えて上条を床から2m程度の高さまで持ち上げている。
チタン合金の腕を粉々に砕きながら、進入禁止は忌々しいとでも言わんばかりにサクラを一瞥した。

進入禁止「どういう能力なのかは分かりませンけど……」

一方通行の攻撃ですら完全に反射・無効化ができる進入禁止にとって「殴られる」という事自体がありえない。
先程一方通行が見せた反射の逆用は、あくまでベクトル操作の法則に則っている。
しかし自分の能力を全く無視して直接攻撃が届くなどという事態は理論的にありえない筈だった。

上条「あ、危なかった……」

つい今しがた、この妙に情けなさの漂うツンツン頭に殴られるまでは。

進入禁止「でも、そンな事ができるのって……その『右手だけ』なンじゃないですか?」
149 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/05(土) 00:21:54.80 ID:.b4vbYAo
サク条「っ!」

進入禁止「あっははァ! 図星ですかァ? どういう理屈かは知りませンけど……ベクトル操作をも無効化できる右手。
 でもそれが右手だけでなく自由にできるンなら、わざわざその腕で助ける必要が無いですものね?」

傍らで形状を失って自壊しかけているチタン合金の欠片を見やり、進入禁止がニヤリと笑う。
この場で唯一と言ってもいい武器の特性が暴かれてしまった事で、絶望的だった状況は更に絶望的になった。

サクラ(なら……! ──呼:分子運動制御『弾丸』)

進入禁止「無駄ですってばァ!」

不意にサクラの周囲に生み出された氷の弾丸を見るや、それが射出されると同時に進入禁止が動く。
弾丸を反射しながら、まるでそれらを従えるかのように一直線にサクラに肉薄する。

進入禁止「っ!」

その直前、横合いから迫っていた上条に気付いて方向転換し、弾幕だけがサクラに襲いかかるが、
反射される事を折り込み済みだったサクラは既にその場から離脱していた。

しかし、その視線は進入禁止よりも遙か後方。

進入禁止「──まさか!」

サクラの狙いに気付いた進入禁止が振り向くのは余りに遅かった。
大量の弾幕はただの目くらまし。本命はその後方にある実験室の窓にあたる部分。
反射されずに直進し続けた一部の窒素結晶が窓に次々と着弾して──

進入禁止「……ざァンねンでしたァ」

砕け散って自壊していった。

進入禁止「この部屋の四方は全て、ちょっとやそっとじゃビクともしない素材で構成されてるンですよ。
 例えば第三位の『超電磁砲』のゼロ距離射撃ですら貫通できないような、ね?」

それはつまり、仮想精神体制御による物理干渉や、ベクトル操作による強度無視の物理干渉でしか破壊できないという事。
又は、音速の3倍を初速とする弾体の直撃以上の破壊力を用意するしか無い。

サクラ「ならば……その第三位よりも強力な『電磁射出砲』ならどうなる?」

進入禁止「さぁ? 試してみればいいんじゃないですか? それができるならねェ!」

サクラ「そうさせてもらう!」
150 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/05(土) 00:23:12.62 ID:.b4vbYAo
──研究所中枢区画、実験室。

捕らわれの身となっている錬は、乱雑に配置された情報の中から必要な物だけを集める作業に没頭していた。
その甲斐あってか、この実験の概要についてはほぼ把握する事ができた。
すぐ隣の空間で高密度情報制御が連続で行われているのは知覚しているが、リアクションが起こせない以上は無視するしか無い。

??『……お? ひょっとしてサーバー機サマがお目覚めか?』

錬(サーバー機……それって僕の事?)

??『そういう事。そんでもって俺は雑魚クライアントって事さ。お陰でいい夢見れたから感謝してるぜ?』

錬(よく言うよ、お陰で僕は指一本動かせないっていうのに)

??『ごもっとも。まぁ俺はバカなんでこの実験を止められなかった。それは謝るよ。悪かったな』

錬(……ひょっとして、君が『肉体復元』なの?)

肉体復元『ご名答。今しがた、アンタのお仲間にブチのめされたところさ。ってことはやっぱ俺たちの記憶とかも見れるんだな?』

錬(悪いけど、色々と見せてもらったよ)

肉体復元『そいつぁ僥倖。……こうなると、基礎アーキテクチャの情報を盗めなかったのが痛いな』

錬(構わないよ、プロトコルとアーキテクチャの解析はもう終わってる。問題は……)

肉体復元『その脳内コンピュータの支配権限って事か』

錬(……君、バカっていうの嘘なんじゃないの?)

肉体復元『アンタのお陰だよ。だが悪いがそいつは俺にはちょっと協力できねぇな』

錬(ああ、やっぱり……この培養槽みたいなのを破壊しないといけないって事?)

肉体復元『そういう事だ。残念ながら俺はそこまでは辿りつけねぇ。片手片足も亡くしちまったしな』

錬(そりゃご愁傷さま。支配権を回復する演算式を組み上げておくとするよ。ありがとう)

肉体復元『ああ。応援してるぜ、『元型なる悪魔使い』くん』

錬(そっちもね、『出来損ないのレベル5』くん)



──研究所地下施設、端末室前。

肉体復元「っはは……言いやがるなぁ、たかだか9歳のガキンチョが……」

肉体復元「……あ、やべ。『超電磁砲』にあの部屋の仕掛けの事言っとくの忘れてた」
151 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/06/05(土) 00:25:05.88 ID:.b4vbYAo
今日の投下は以上です。
一方さんボロクソでごめんなさい、大好きな筈なのにどうしてこうなった……。

次は月曜の夜辺りに。
152 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/06/05(土) 13:01:01.00 ID:7fxHFUDO
ウィザーズなんたらは知らんけど面白いよ
乙です
153 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/05(土) 16:03:24.29 ID:d8bntgco
支援
154 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/06/05(土) 18:02:33.19 ID:gIFo6h.0
乙支援
そういやサクラのレールガンは音速の6倍だったっけな
155 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/08(火) 00:29:16.74 ID:kGr4U32o
WB知らなくても楽しんでもらえているとは意外でした。
乙ありがとうございます。

今日の分投下します。
156 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/08(火) 00:29:44.42 ID:kGr4U32o
──研究所中枢区画

進入禁止が一足飛びでサクラの間合いに飛び込み、拳を突き出す。

サクラ(呼:『運動加速』5倍)

今度は1発のみならず、右正拳、左回し蹴り、左裏拳、右上段蹴り、次から次へと息もつかせぬ攻撃が続いた。
演算機能を『最適な格闘攻撃の為の体の動き』に割く余裕のある進入禁止は、一方通行では到底及ばない体術を見せていた。

更にベクトル操作の強度を増して、一挙手一投足の速度は音速の半分程度にまで達している。
挙句の果てにインパクトの運動エネルギーが漏れなく標的にのみ与えられるという強烈無比なもの。
一撃でも食らえば骨まで持っていかれ、下手をすれば命中部位がごっそり消え失せる威力だ。

サクラ(速い……!)

通常の5倍の身体能力に5倍の知覚速度、極めつけにナノ秒単位の思考が可能なサクラにとっては避けるだけなら難しくない。
しかし、この状態で更に他の能力を使えるかというとまた話は別だ。
故に、サクラは待ち構えていた。

上条「そこだぁ!!」

右拳さえ注意していれば近付かない限りは無視しても良いと思われたのか、それともサクラの次の行動を防ぐ事を優先したのか、
なにはともあれ現在は上条の存在は殆ど無視され、サクラに敵意が向いている。
しかし入れ替わり立ち代りで位置を変えている二人の動きを見きって正確に進入禁止に攻撃できるタイミングを見切ったのは、
彼のこれまでの過酷な経験あってのものだ。

進入禁止「ちっ……」

鬱陶しいとでも言わんばかりに舌打ちをして、進入禁止が一旦下がって距離を置いた。

進入禁止「たかが右手のみって言っても……先にそっちから片付けちゃいましょうかね……?」

上条「くっ……来いよ、相手になってやる!」

進入禁止の視線が上条に移る。
それを待ち構えていたかのように、サクラがI−ブレインにコマンドを叩き込んだ。

サクラ(呼:電磁気学制御『銃身』。……──エラー。『銃身』の展開に失敗)
157 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/08(火) 00:30:36.85 ID:kGr4U32o
サクラ「……え?」

ナイフを構えてから、予想外のエラーに思考が止まる。
一秒にも満たない思考の空白、それが命取り。

進入禁止「あっははァ! 言い忘れてたけど、この部屋じゃ『そういう事』はできないんですよォ!」

上条「くっ!」

亜音速の拳がサクラの胴を貫こうとして、咄嗟に間に入った上条の右手を打ち抜いた。

上条「ぐがあああっ!」

サクラ「っ!」

腕の骨が折れる音と共に背後にいたサクラを巻き込んで、上条が大きく吹き飛ばされる。

進入禁止「ぎゃあああああァ!?」

それと同時に、進入禁止の右腕も関節を一つ増やしてその場にもんどり打っていた。
亜音速まで加速された速度は幻想殺しでは減衰されず、しかしインパクトの際の衝撃だけが双方に等しくダメージを与えたのだ。

上条「ぐっおおお……いってぇ……!」

サクラ「……済まない、上条当麻。今のは完全に私のミスだ」

上条「はっ……んな事気にすんなって」

電磁気の銃身を形成しようとした瞬間、そこを中心として電磁場が乱れて掻き消されてしまっていた。
進入禁止の言葉から察するに、電磁気に干渉する類の能力に対しての仕掛けがあるのだろう。
しかしこのお人好しの少年の腕が自分を庇おうとして傷ついたのだと思うと、情けなくて腹綿が煮えくり返る思いだった。

サクラ「そう言われたところで『はいそうですか』と引き下がれるか、馬鹿者!」

そこらに転がっているチタン合金の破片から適当なものを即座に拾い上げ、添え木の代わりとして少年の腕に押し付ける。

サクラ「痛むが我慢しろ」

上条「え、いや、ちょま──いぎゃああああああああああ!?」

少年が抗議の声を上げる前に悲鳴に変わり、包帯でキツく縛り終えるまでの5秒もの間、大音響が途切れる事は無かった。
158 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/08(火) 00:32:12.27 ID:kGr4U32o
サクラ(呼:運動係数制御『運動加速』。運動係数5倍)

上条「……いやね? 応急処置してくれるのは良いんだけど、もうちょっと優しぐぅえ!?」

改めて抗議の声を上げるも、それが終わる前にサクラが上条の胴を抱えて跳んだ為、彼の肺に詰まった空気は限りなくゼロに近付いた。
しかし一瞬前まで二人がいた場所は、床が歪んで1mほどのクレーターに変化している。
応急処置の間に起き上がっていた進入禁止が怒りに任せた飛び蹴りを敢行したした為だ。

進入禁止「あらら、隙だらけだと思ったのに」

おかしな位置に増えた関節を気にも留めずぶらさげて、進入禁止は二人を睨みつけた。
残念そうに二人を見る視線を一瞥だけして、サクラは上条に目を向け直した。

サクラ「立てるか?」

上条「だからもうちょっと優しくして欲しいんですが!?」

サクラ「よし、その様子なら問題無いな」

上条「いや待って!? 上条さん腕折れてますからね!?」

サクラ「そんな事を言っている場合でもあるまい」

進入禁止「そうそう、私にこンな痛い思いをさせたンだから……万倍は痛がってもらわないと割に合いませンよォ!!」

サク条「っ!」

二手に分かれるように跳んで攻撃を避けるも、やはり床にクレーターができている。
あんな攻撃をマトモに食らえば命がいくつあっても足りまい。
加えてジョーカーである幻想殺しはもう期待できない。状況は更に絶望的。

サクラ「……ベクトル制御がこれほどの物だとはな」

進入禁止「そろそろ手詰まりってところですかァ? 色ンな能力が見られて楽しいンですけどねェ」

サクラ(……いや、待て。まだ試していない事があったな)

ここにきて一つだけ、ベクトル制御を破る可能性に思い至る。
上条のフォローに回るという判断の為に切り捨てられた一つの選択肢。

サクラ「10032号、御坂美琴に伝言を頼む」

御坂妹『了解しました。とミサカはいや待て久しぶりに喋れたと思ったらこれだけかよおい』

仮に『アレ』が通じなくても、御坂美琴が間に合えば最悪の事態は回避できる筈。
保険というには頼りないが、贅沢を言っていられる状況でも無い。
サクラは再びナイフを抜いて、進入禁止に向かって駆け出した。
159 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/08(火) 00:33:44.60 ID:kGr4U32o
サクラ「残念ながら私は諦めが悪くてな。もうしばらく付き合ってもらおう」

進入禁止「私もこンなに楽しいのは初めてですから、飽きるまで付き合ってあげますよ」

背筋も凍るような殺意は、そんな軽い笑顔で隠すには大きすぎた。
表情と言葉だけを見れば可愛らしいものだが、その裏に『飽きたら殺す』という意味が込められているのが容易に伝わってくる。

サクラ(呼:運動係数制御『運動加速』。運動係数5倍)

運動係数制御を起動するのと、進入禁止が間合いを詰めてくるのはほぼ同時。

進入禁止「またそうやって逃げるだけですかァ?」

片腕が使えないとしても、その攻撃力は代わりはしない。
むしろ足技を主体に切り替えた分、手数こそ減ったが平均的な威力は増しているとも言える。

サクラ「そう言うな。もう攻撃手段が尽きているのは知っているだろう?」

ただ、その手数の減少は少なからずサクラの思考に余裕を与える。
そして最適化された動きだからこそ、バランスに無理のない次の一手ならぬ次の一足は読み易い。

進入禁止「さァどうでしょうねェ? 貴女が全ての能力を見せたとも限りませんし、ねっ!」

一歩下がってから、さながら踵を斧に見立てて振り下ろすかのような胴廻し回転蹴り。
難無く回避できるその大振りに対し、サクラは一歩も引かずに構える。

サクラ(呼:『幻楼の剣』)

紙一重で蹴りを回避すると、床が抉られて鋭角的なクレーターが出来上がった。

サクラ「くっ!」

間近で発生した衝撃波に耐えて狙いを定め、サクラの外套が生物のように自ら動いて翼のように広がる。
その先端が鋭く変化し、進入禁止の左太腿に深々と『突き刺さった』。

進入禁止「──っ!?」

実際には突き刺さったように見えたのは、量子力学的制御によって『存在しない事にされた』剣を構成する30%のみ。
残りの70%は反射されてボロボロに自壊している。
状況を理解しきれない進入禁止を尻目に残りの30%の存在確率を引き上げて剣を引き抜く。

進入禁止「あ?」

当然ながら引き抜く剣にすら反射のベクトル操作は掛かっている。
乱雑に引き抜かれた剣は砕け散って、内部に乱反射したベクトルは進入禁止の足をいとも容易く引きちぎった。

進入禁止「──ァァあああああああああああっ!!」
160 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/08(火) 00:34:51.93 ID:kGr4U32o
サクラ「さすがに、『存在しないもの』を反射する事はできないようだな」

そうは言っても既に存在確率の齟齬と反射による破壊のおかげで、外套の半分以上が使い物にならなくなっている。
もし次に使わなければならなくなったとしても、その威力もリーチも初撃の比にはならないだろう。

進入禁止「な──……あ、なに、これェ!?」

自ら作り出したクレーターの底で、進入禁止は呆然と自らの足から吹き出る血を眺めている。

進入禁止「熱い……痛い、よォ……」

上条「やった……のか?」

この場でサクラのした攻撃を理解しているのは本人以外には居ない。
信じられないような事を何度も目の当たりにしてきた少年ですら、右腕を押さえて呆然としていた。

サクラ「ああ。足を一本頂いた。あの傷では──っ!?」

サクラ(警告:攻撃感知。回避不能。危険──)

上条「っ!?」

I−ブレインの警告に対して咄嗟に回避しようとして、しかし回避しきれずに左足を貫かれる。
大量の痛覚情報と共に、左膝から先の神経情報が丸ごと消え失せた。たまらずその場に倒れ込んでしまう。

サクラ「バカな……血だと……!」

その足を貫いていたのは、進入禁止自身が流した血。
血に強烈なベクトルを与えてウォータージェットの要領で飛び道具として扱っていた。
緻密な流体コントロールを必要とするが、その初速は軽く音速の2倍を超える。

進入禁止「あっははァ……やってくれました、ねェ……」

肩で息をしながら、進入禁止が自らの作り出したクレーターから異様とも言える姿を現した。
血溜まりに臥せっていた為に全身が赤黒く染まり、その右腕は潰れたように骨折している。

上条「嘘だろ、おい……」

挙句に左足は太腿より先が千切れてどこかへ行ってしまったというのに、既に血は殆ど零れていない。
重力のベクトルを操作しなければ立つことさえできないであろうその姿に、サクラと上条は息を飲んだ。

進入禁止「……痛いし熱いし痛いし痛いし……もォお遊びはやめにしますね?」

サクラ(足は使い物にならない……万事休すか……)
161 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/08(火) 00:35:36.41 ID:kGr4U32o
──研究所中枢区画、戦闘訓練エリア前

御坂妹『はい、サクラからの伝言は以上です。とミサカは簡潔に伝達しました』

美琴「『外からブチ抜け』ね……どういう意味よ」

御坂妹『彼女が何を意図したのかは分かりかねますが、それを問い質せるほどの余裕はあちらにも無いようです。
 とミサカは淡々と事実を述べます』

黒子「お姉様、もう到着しますの!」

美琴「解かってる……って、何よ、この状況……」

奥を見れば奥の最上段には観戦しているのであろう白衣の男が二人。
その階下に当たる部屋には、培養槽の一部であろうものが見え隠れしている。

黒子「これは……っ!」

手前を見れば開きっぱなしになっている扉のすぐ横には気を失った一方通行。
腕にゴテゴテと何かをつけて押さえている上条当麻。
足から血を流して床に伏しているサクラ。
そして満身創痍という言葉すら安っぽく見えるほどに傷ついているのに、明らかに優位に立っている赤く染まった白い少女。

感情に任せては次の瞬間に自分がその惨状の仲間入りをするであろう事を、二人の少女は直感的に悟った。
加熱する感情とは裏腹に、序列第三位たる脳が総動員して最適解となる行動を弾き出す。

そんな美琴の脳裏に、それこそ電気が走るように記憶が掘り起こされる。


『外からブチ抜け』


『超電磁砲のゼロ距離射撃でも貫通は不可能』


『イザという時に使うといい。恐らく想像以上の効果が出る筈だ』


コインをトスする代わりに、サクラから受け取った変異銀のナイフを振りかぶり、投擲体勢を取る。
予備動作こそ違うが、行う演算は変わらない。最大出力の全てを、その為だけに費やす。

美琴「いっけええええ!!」
162 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/08(火) 00:37:01.18 ID:kGr4U32o
電磁加速に特化したナイフが手から離れると同時に電磁気のバレルに捕らえられて加速する。
初速は音速の15倍近く、実用されているどの電磁投射砲よりも高速な秒速5000mにまで達していた。
だというのに、空気抵抗を無視するよう論理回路が刻まれたナイフはソニックブームすら起こさない。

標的は60m先の培養槽上部に据え付けられている巨大な装置。
そこにナイフが到達するまでは、文字通り「一刹那」の時間にも満たないほど短い。

その場にいた誰もが、それを撃った本人ですら反応すらできない規格外の速度のナイフが部屋の中を通過する。
ナイフは厚さ数mにも及ぶ特殊強化プラスチックを容易く貫通し、更にその奥にある機械をも貫通した。

上条「なんっ……ってビリビリ!?」

サクラ「……遅いぞ、御坂美琴」

進入禁止「う……そ……」

着弾、貫通した衝撃波が一瞬遅れて部屋に響き渡るまでの間、誰一人として一歩足りとも動くことができなかった。

美琴「……なに、これ……」

何よりその空白を作り出した美琴自身が、自らの放った砲撃の威力に唖然として立ち尽くしていた。

貫通した窓には放射状にヒビが入るが、崩れはしない。
ただし、その奥に配置されていた培養槽上部の装置はおかしな煙を上げて機能を停止しようとしていた。

黒子「お姉様! 直接飛びますの!」

言いながら美琴の手を取って窓の向こうの空間へと空間移動する。
黒子の目に映ったのは貫通した後ろの壁が崩れようとしているところだった。下手をすれば天上が崩れるかもしれない。

美琴「え、ちょっ!?」

二人が消えるのとほぼ同時、進入禁止が唐突に倒れる。
足からは血が止めどなく流れ出し、腕にも力が入らずに一瞬前からは想像もできない程の弱々しい姿。

進入禁止「あ……やだ……また、動けなく──……」

次第に目の焦点もあやふやになり、もがく動作すら覚束無くなっている。
恐らくこのまま放置しておけば失血死は免れないだろう。

上条「……」

進入禁止「……ぃ……ゃ…………」
163 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/08(火) 00:38:00.42 ID:kGr4U32o
──研究所中枢区画、実験室。

錬(────来た!)

彼には何が起きたのかは分からないが、脳に強制的に介入してきている装置が破壊されたのは確かだ。
唐突にI−ブレインの各領域がクリアになっていく。

錬(脳の権限を復旧。……──完了。不要情報の削除。……──完了)

コマンドを打ち込む度に脳機能は正常動作に戻って行き、その度にぼやけていた意識が明確になる。

錬(身体機能の回復。……──完了。簡易自己診断……──完了。問題無し)

装置の束縛から解放されてから、五感を取り戻して身体機能の正常回復を確認するまでコンマ3秒。

錬(「チューリング」常駐。「ゴーストハック」をオートスタート)

目の前の薄いガラスに手を触れると同時に仮想精神体を送り込み生物化、円形に穴を空けて培養槽から外に出る。
金属製の床に着地するのと、美琴の射撃による衝撃で背後の壁が音を立てて崩れるのはほぼ同時。
培養槽が倒れ、崩れた壁を基点に天井が崩れて行く。

錬「うわっ、あぶな──(「マクスウェル」常駐。「氷盾」発動)」

目の前に並べられたガラス管に眠る被験者の内、瓦礫に飲まれるであろう位置に居るのは5名。
二人分の氷盾を張り、床から生やした金属の腕でもう二人分のベッドを守る。──あと、一人分が間に合わない。

錬(届かない……っ!)

そう思った瞬間、錬の目の前に二人の少女が出現する。

黒子「──っ! お姉様!」

美琴「っとと、解かってるってば!」

あわやというところで衝突する寸前だった瓦礫が、磁力操作によって不自然な軌道を描いてガラス管を避けて横に落下した。

黒子「……危機一髪、というところですのね」

錬「あ……ありがとう。危ないところだったよ」

崩落が止まったのを確認してから、錬は氷盾とゴーストハックを解除して二人の少女に向き合う。

美琴「ふぅ。いいっていいって、あなたも起き抜けなのにがんば……──」

黒子「あらあら、これは立派な……」

錬「え……うわ!?」

実験室に美琴の悲鳴が響くのと、自身が一糸纏わぬ状態である事を思い出したのはほぼ同時だった。
164 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/08(火) 00:39:15.00 ID:kGr4U32o
──研究所中枢区画、戦闘訓練エリア

一方通行「……」

目を醒ました一方通行は、目の前の状況を測りかねていた。

サクラ「大体、この女は未だに我々を殺そうとしている筈だろうに」

上条「だからって、こんな弱々しいところを見せられて放っておけないだろ」

ブツクサと文句を言いながら、サクラが進入禁止の左足を止血処置をしている。
恐らく二人との戦闘で失ったのだろうが、あの少女からどうやって足一本をもぎ取ったのかは想像も付かない。

見れば上条の自慢の右手も折れており、床の破片であろう金属片と一緒に包帯で縛ってあるようだ。
外套の少女はと言えば、トレードマークの外套がボロボロになっているし膝を破壊されている様子。

ボロボロになりながらも、あの進入禁止を倒したのだと、ぼんやりとした頭で理解する。

一方通行「にしても……ありゃあまるで……」

言葉にならない声を発し、手当されながらもぞもぞと動こうとする白い少女を眺めながら、
バッテリーが切れた時の自分の有様を思い出す。自分はあんなに無様だったのか、と。

考えても知識と知能が繋がらない。言葉にしても声しか出ない。動こうとしても動けない。
こればかりは体験した者にしか解からない感覚だろう。

そんな光景をぼんやりと眺めていると、不意に進入禁止の様子が変わる。

進入禁止「……っ!! ォぁ……まだ……まだ予備がある……っ!」

膝と肘で四つん這い──片足が無ければ三つん這いか──になりながら、驚愕する二人を見据える。
足元の床のベクトルを操作してうねりを生み出し、状況に反応しきれていないままの二人を吹き飛ばした。

サクラ「ぐっ!?」

上条「くそっ! 終わりじゃなかったのかよ!」

明らかにベクトル操作の速度も精度も落ちている。
進入禁止は天樹錬という魔法士の脳を失い、咄嗟の判断で釧路帷子という能力者の脳へと接続を切り替えたのだ。
しかし、もはや二人にはそれをどうにかするだけの力は残されていなかった。
165 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/08(火) 00:40:27.23 ID:kGr4U32o
白い少女はぜいぜいと肩で息をして、止血の終わっていない左足からは血が再び流れ出す。
その表情からは、先程まで張り付いていた余裕というものが消え失せていた。

進入禁止「私はまだ……あの暗闇には戻りたくない……!!」

暗闇とは言っても目が見えないわけでは無い。

進入禁止「私はまだ……あの無音には戻りたくない……!!」

無音とは言っても耳が聞こえないわけでは無い。
五感。即ち、見、聴き、触り、嗅ぎ、味わう。それはできる。けれど、それだけだ。

進入禁止「私はまだ……生きてやる! どんな事をしたって──」

それらはすでべ受動でしか無い。それらを感じたところで、思考する事すら叶わない。
知性があっても知能には繋がらない。知識があっても知恵には遠く及ばない。故に能動を起こす事は絶望的。
であれば、それは生きているとは言えるのか。

進入禁止「私はまだ……死にたくない!!」

しかしこの場には、その感情を理解できる者が居る。
全ての受動を受け入れ、全ての能動を封じられる感覚を理解してしまっている者が居る。

一方通行「あァ……そォだろォな」

高速移動を駆使した訳でも無い。ベクトルを操作した訳でも無い。
だというのに。──彼は、既にそこに居た。

一方通行「もォ休ンどけよ。なァ」

きっと後になってから本人が指摘されたとしても否定するのであろう。しかし。
ただ一つの戦意も、ただ一つの敵意も無く。彼の中にあったものを言葉にするのなら、それは慈愛と表現するのが相応しい。

一方通行「……そう遠くない内に動けるようにしてやるからよォ」

そっと頭に手を『触れ』て、神経信号のベクトルを操作する。
そのベクトルを反射しようとも、今の進入禁止では一方通行の演算には到底追いつかない。

進入禁止「──っ! おに……ィ……」

静寂の後、一瞬だけ震えてから、進入禁止はそのまま力無く床に倒れ伏した。
一方通行が受け止めて抱えると同時に、左太腿からの出血が止まる。
それきり、進入禁止は動かなくなった。

一方通行「心配すンな。『オマエの世界(パーフェクトワールド)』は、簡単に壊れやしねェよ」
166 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/06/08(火) 00:43:40.63 ID:kGr4U32o
今日の分は以上です。
ようやく最後の山場が終わってホッと一息。

次は木曜の夜辺りになると思います。
167 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/08(火) 01:04:48.06 ID:gCag4Yko
戦闘描写わかりやすいよ。
少なくとも俺が書くSSより全然文章が上手い
乙でした
168 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/06/08(火) 01:20:00.14 ID:QMiUskDO
おつー
169 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/06/08(火) 01:20:01.52 ID:QMiUskDO
おつー
170 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/06/08(火) 01:33:39.57 ID:Iq6Caig0
乙っす
一方さんおいしすぎ抱いて!
171 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/09(水) 20:39:21.50 ID:.FZS9G20
乙!
172 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/11(金) 01:16:03.25 ID:u/f9rXYo
乙ありがとうございます。
今日の分投下します。
173 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/11(金) 01:16:49.55 ID:u/f9rXYo
──研究所中枢区画、実験室。

結標「まったく、もっと早く座標送ってきなさいっての……っと」シュンッ

座標移動で一方通行から送られてきた座標に飛んで来てみれば、なんとも奇妙な状況になっている。
全裸の少年が一人、それを見てニヤニヤしている少女が一人、逆に顔を真っ赤にしている少女が一人。

黒子「っ! 貴方は……!」

結標「あら、久しぶり」

美琴「アンタ……! 何しにきたのよ」

緊張感など欠片も無かった空気が一瞬で張り詰める。この切り替えの速さはさすがというべきか。

結標「そんな怖い顔をしないで。こんな所にいるって事は、あなたたちもこの研究を潰しに来たんでしょう?」

黒子「……貴方も同じ目的ですの?」

結標「それはどっちかっていうと一方通行の目的かしらね。私の目的はそっちの釧路っていう子」

美琴「その人をどうするつもり?」

結標「それは秘密。悪いようにはしないつもりだけど」ヒュンッグイッ

言いながら軍用ライトでガラス管の中の釧路を照らし、自身の肩に移動させて担ぐ。

黒子「……他のおかしな研究に利用するというわけではありませんのね?」

連れて行かれるのは本意ではない二人だったが、もともと釧路は既に表には存在しない筈の人間だ。
消耗が激しい今、無理に戦ってまで取り戻すよりはこのまま引渡してしまった方が得策だと二人は判断した。

結標「それは約束するわ。もっとも、あなたたちが私を信じるかは別だけどね?」

美琴「……アンタが信用に足るとは思わないけど、状況から見てその言葉には嘘は無いと思ってよさそうね」

黒子「不本意ですが、他の選択肢はリスクが高すぎますの」

結標「それで充分よ。それと……天樹錬くんだっけ? 君も一緒に来ない?」

錬「え?」

結標「あなたなら『色んな意味で』申し分ないんだけど」

錬黒琴(……変態だ)だわ)ですの)

結標「……いや、冗談だからそんな目で睨まないで」
174 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/11(金) 01:17:20.20 ID:u/f9rXYo
──研究所中枢区画、戦闘訓練エリア

倒れた進入禁止を抱えて、一方通行が上条を睨みつけていた。

一方通行「……おい三下ァ」

上条「な、なんだ?」

一方通行「世話ァかけた。…………あ、ありがとよォ」

上条「(あの一方通行が礼を!?)……ど、どういたしまして?」

一方通行「チッ」

上条(しかも舌打ち!? 意味が解からないんですが!?)

一方通行「結標ェ!」

結標「はいはい、そんな大声出さなくても聞こえるわよ」シュンッ

一方通行「そろそろ時間切れだ。帰りは頼む。ついでにこいつも連れて行くが、飛べるだろォな?」

結標「それは大丈夫だけど……やけに素直ね? それにやたらボロボロだし」

一方通行「うるせェ、いいからとっとと飛ばしやがれ」

結標「はいはい、いつもそれくらい素直ならいいのに」シュンッ

一方通行「だァから、だまって──」シュンッ

その言葉が最後まで吐き出される前に、4人の姿が目の前から掻き消えた。
後には満身創痍の二人が残されるのみ。

サクラ「……なんだ、あれは?」

上条「……なんなんだろうな?」
175 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/11(金) 01:18:18.59 ID:u/f9rXYo
サクラ「ともあれ……これで、終わりだな」

上条「だな。あそこをぶち壊すのは……あいつらに任せておいて大丈夫だろ。こっちはもうボロボロだしな」

サクラは左足以外には外傷は無いが、移動するにはその一つが致命的。
上条は至る所に痣を作っていて、右腕は応急処置こそ済んでいるものの絵に書いたような折れ方をしている。

サクラ「消耗しているとはいえ無傷の能力者二人に、私と互角の戦力を持つ魔法士がいるのだ。問題あるまい」

高密度情報制御を連続して感知していたサクラは、その魔法士が天樹錬であるという確信を得ていた。
戻ったときに敵になるか味方になるとは思えないし、言いたい事も山のようにあるが、その戦力は折り紙付きだ。
それに加えてレベル5の電撃使いとレベル4の空間移動。
更にこの研究の要とも言えるシステムは破壊済み。不安要素は何一つ無いと判断出来る。

上条「んじゃ、俺たちは血が足りなくなる前に撤収するとしますか」

サクラ(しかし、この足でどうやって戻るのかが問題──)

そんなサクラの思考を遮って、まるでそうするのが当然とでも言うかのように、少年がサクラを抱きかかえる。
俗に言うお姫様抱っこという状態だ。

サクラ「お、おい上条当麻!?」

上条「足が動かないんだからこうするしか無いだろ? って暴れるな! マジで腕が!」

突然の事に思わず暴れようとして、少年の腕が致命的に損壊している事に気付いて大人しくなる。
だからといって、この情けない状態は耐え難いものがあった。

サクラ「い、いや、それはそうだが……これは……」

そういえば、シティ・メルボルンでの戦闘の後にも、あの掴みどころのない青年にこうして運ばれたのだろうか。そんな事を思う。

サクラ(あの時は意識は無かったが、嫌な気分では無い──……な、何を考えているのだ私は!!)
176 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/11(金) 01:19:03.69 ID:u/f9rXYo
──研究所中枢区画、実験室。

錬「まぁ服も装備もすぐ隣の部屋にあったわけだけど」

幸いにも完全装備を取り戻した錬の視線に、二人の少女は視線を逸らす事で応える。

黒琴「……」

錬「見てたよね。僕が服を着るところすっごい見てたよね。特に黒子さん」

少年の抗議めいた指摘は実に的を射ていた。
隣の部屋とはいえ、扉ごと壁が崩れていた為に隠れる場所も無く、仕方無しにその場で服を着たのだが……。
その間中、なんともいえない視線を感じていたのだ。

黒子「はて、わたくしには何の事かさっぱりですの」

美琴「そんな血走った目で何言っても説得力無いわよ」

心なしか満足げな黒子に対して美琴がツッコミを入れる。
そんなツッコミを入れた本人も目が泳いでいた。

錬「いや美琴さんも。指の隙間から見てたの解かってるから」

それもその筈、手で顔を覆うフリをしながらもしっかりとその光景を見ていたのだから、人の事は言えない筈だ。

美琴「ち、ちがっ」

錬「そんな顔真っ赤にするくらいなら最初から見なければいいのに……」

少年とて羞恥心が無いわけではないが、こういう反応を取られると対応に困ってしまう。
そういえばフィアとの初対面は、立場は逆だが培養槽越しだったという事を──克明に覚えている少女の姿を思い出して赤くなった。

美琴「それはその、違うんだってば、目が離せなかったというか!」

確かに人目を気にせず装身を始めた錬に原因が無いと言えなくも無い。年頃の少女にとっては少々と言わず興味があって当然なのだ。

錬「まったく……」

黒子「まぁまぁ、そんな話は置いておきましょう。それよりも、後はこの上のフロアにいる方々をお縄にするだけですの」

錬琴(……話を逸らしたな)わね)

美琴「そうね……あっちは随分とやられちゃったみたいだから、こっちで片付けちゃいましょう」

半ば呆れながらも、好機とばかりに黒子の肩に手をおいて、空間移動するように促す美琴だった。

黒子「では天樹さん、後ほど」シュンッ
177 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/11(金) 01:20:04.63 ID:u/f9rXYo
錬「えー……」

助け出されたと思ったら一人きりにされるという奇妙な状態に、錬はただ呆れるのだった。

錬「まぁ、そうも言ってられないか」

嘆息しながらも、幻想代入の接続者から得た記憶を思い出す。

錬「しかし自爆装置とはまた前時代的な……いや、ここは前時代みたいなものか」

錬(「アイシュタイン」簡易常駐。「チューリング」常駐、ゴーストハックをオートスタート)

重力を反転して天井に着地。手を付くと同時に、人間一人が通れる程の穴が音も無く開いた。
そのまま慎重に進みながら、床側に抜ける位置を探る。
アインシュタインの副産物である質量感知によれば、先程飛んだ二人の少女に対峙する男性が二人。

錬(「ラグランジュ」常駐。運動速度を5倍、知覚速度を20倍で定義。──容量不足「アインシュタイン」を強制終了)

天井の穴を塞いでから天井裏に着地し、床下とも天井裏とも言える狭い空間を進む。

研究員A「こいつを押せば30秒で研究所全体が崩壊するようになっている」

黒子「そんな事をすれば貴方たちだって生き埋めですのよ!」

研究員A「この実験の結果はもう出たんだ。それでも構わんよ」

研究員B「それに君らは自身はともかく、如何にレベル4の空間移動でも、階下で眠っている被験者たちを運び出すには足りないね」

美琴「くっ……」

錬(うわ、もうそんな展開になってるのか)

研究員A「君たちがこのまま大人しく帰ると言うなら、今回の僕らの被害は目を瞑ってもいいんだよ」

美琴「被害ですって?」

研究員B「それはもちろん、君たちがボロボロにしてくれた施設の事だよ」

研究員A「くくっ、巻き添えで一人ぐらい殺していてくれれば、真っ当に罪悪感を煽れたんだがねぇ」

会話の内容から自爆装置のスイッチに手を置いている方の研究員に目星を付け、その真横にできるだけ静かに穴を開ける。
下卑た笑いを浮かべる男の手は、既に黄と黒のラインで囲われたガラスを破り、赤いボタンに手をかけていた。
床から顔を覗かせた錬には気付いていない。

錬「罪悪感っていうのはアンタが持つべきだと思うけどね」
178 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/11(金) 01:20:31.81 ID:u/f9rXYo
怒気を孕んだ声を出した少年以外、その場の誰もが虚を突かれていた。
時間の流れに空白が生じたかのような静寂は、しかし長くは続かない。
反応した時には少年は既に、スイッチに当てられていた筈の腕を『持って』コントロールパネルであろう機器の上に着地していた。

黒琴「!?」

研究員A「な……あ……ぎゃああああああ!?」

同時に床から金属製の腕を生やし、片腕を失って血を吹き出している研究員Aを拘束。

研究員B「くそっ!」

更に慌ててスイッチに手を伸ばそうとした研究員Bの鼻先3cmにナイフを突き付ける。

錬「動いたらアンタの腕も落とすよ」

研究員B「っ!」

再びその場を静寂が支配し、それから数秒の間は研究員Aのうめき声が響くのみだった。

錬「ふぅ……これで終わりかな?」

ナイフを突き付けた体勢のまま、唖然としている少女2人の方を見やる。

黒子「……お、お見事ですの」

我に帰った黒子が、慌てて研究員Bを拘束する。

錬「助けてもらったんだから、これくらいは働かないとね」

美琴「すごいわね、その……魔法っていうの?」

黒子「腕を切り落としたのは少々やり過ぎですけれど」

錬「あ、そっか。ここでは腕を切り落とすだけでも結構大変なんだっけ……ごめんなさい」

黒子「もっとも、何人もの命がかかっていたのですからやむを得ない処置ですの。お気になさらず」

錬「そう言ってもらえると助かるよ。あとは警備員に連絡して事後処理をしてもらうだけかな?」

黒子「ええ……って、何故あなたが警備員を知ってますの?」

錬「ああ、この実験で僕の脳を使ってた人の記憶をちょっとね、断片的にだけど見せてもらったんだ」

黒子「そういう事ですのね」

錬(……暗部やら何やらの記憶も見たけど、さすがに話さない方がいいよね)
179 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/11(金) 01:21:36.55 ID:u/f9rXYo
──とあるグループ

海原「あまり面白い事にはなりませんでしたね」

土御門「というよりは危機一髪だったな」

結標「ああ、やっぱり一方通行があそこまでやられるっていうのは危ない状況だったのね」

土御門「まったく、もっと面白い展開を期待してたんだがな」

海原「その割には、仕事でもないのに下部組織に動員をかけて助けようとしていましたよね」

土御門「おまっ! そういう事は黙ってるもんですたい!?」

結標「なんだかんだで心配してたのね?」

土御門「…………当たり前だろう。仕事に支障が出るからな」

結標「どうしてこう、男っていうのは素直じゃないのかしらね」

海原「あなたがそれを言いますか」

土御門「お前はもう少し自重すべきだにゃー」

結標「どっちも同じ穴の狢じゃない、ロリコンシスコンの変態だし」

海原「よもや、ピンクのサラシなどという露出狂さながらの変態に言われるとは」

結標「人の皮を着てるあなたにだけは言われたくないわ」

土御門「それにショタコンに言われたくもないんだぜい」

結標「なっ!? それはちが──」

土御門「そういう反応は肯定しているようなものだにゃー」

結標「違うっていってるでしょ!」

海原「やはり、貴方も素直さとは無縁のようですね」

土御門「でもショタコンの所だけ素直になられても困るぜよ?」

結標「だから違うってば!」
180 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/11(金) 01:22:49.37 ID:u/f9rXYo
──十数分後、研究所外周

黒子「そろそろ警備員が到着しますの」

美琴「というか、初っ端にサクラさんが一棟倒壊させた時点で来てもいいようなもんだけどね」

錬「周りの建物も無人ばっかりみたいだし、通報する人自体が居ないんじゃないかなぁ」

黒子「その話題のサクラさんがお戻りに……あら」

美琴「……ほほう」ビリッ

錬「美琴さんはなんでいきなり怒ってるの?」

美琴「え? やだなあ、怒ってなんかないわよ?」ビリビリッ

錬「そ、そうですか(……触らぬ神に祟りなしだよね)」

上条「さすがに腕が棒になりそうだぜ……」フラフラ

サクラ「今更弱音を吐くくらいなら、最初からやめておけば良いものを」

上条「いやほら、そこは男の子としては格好付けたい年頃といいますか」

黒子(……格好付けてる自覚はあったんですのね)

サクラ「そうでなくともそろそろ降ろした方がいいと思うがな。怖いお姉さんが睨んでいるぞ?」

上条「え?」

美琴「アンタはまたそうやって……!」ビリビリッ

上条「よ、よう美琴。どうしたんだ、そんなにビリビリいって──」ダラダラ

美琴「とりあえずサクラさんを降ろしなさい?」ビリビリッ

上条「は、はい!」スッ

美琴「小便はすませたか? 神様にお祈りは? 部屋のスミでガタガタふるえて命ごいをする心の準備はOK?」バチバチッ

上条「常盤台のお嬢様にあるまじきぎゃあああ!? 上条さんは腕が折れてる怪我人なんですが!?」ダッ

美琴「うるさい! 逃げんなやゴルァ!!」ダダッ

黒子「はぁ、また始まりましたの」ヤレヤレ

上条「だあー! 不幸だぁー!!」
181 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/11(金) 01:24:06.50 ID:u/f9rXYo
錬「……とりあえず、助けてくれてありがとう……かな?」スッ

サクラ「別に貴方を助けたわけではない。元の世界に戻る為に必要だっただけだ」スッ

『転送シーケンスの再開準備が完了。──「アリス」に所定のレスポンスを返すよう要求』

サク錬「!!」

『──応答無し。待機モードを維持』

錬「今のは……」

サクラ「ああ、そういう事だろうな」

錬「僕らが『アリス』だって認識されてるって予測してたけど、間違ってなかったみたいだね」

サクラ「だが、こちらでタイミングを選べるのなら、この脚が完治するまで待ってくれないか」

錬「それはもちろん。最初の『表層時間を停止』ってメッセージから察するに、急ぐ必要は無さそうだし」

サクラ「それと、戻ってからの事で一つ言っておきたい事がある」

錬「何?」

サクラ「以前に、私は貴方を全力で排除すると宣言したが、あれは取り消させてもらう」

錬「……どういう風の吹き回し?」

サクラ「なに、少しばかり気が変わっただけだ」

錬「まぁ、それはいいんだけど……。傷が完治するまでの間に、真昼兄の事を聞かせてもらってもいい?」

サクラ「ある程度の事ならな。だが、あの男が腹の底で何を考えているかというのは、私にも解からないぞ」

錬「あー、まぁ真昼兄だし、それはしょうがないかな」

サクラ「さてと……私は少し休む。天樹錬、あとの事は任せて構わないな?」

錬「え? あ、うん?」

サクラ「少しばかりI−ブレインを酷使しすぎたようでな。休息が必要だ」

錬「そっか。なら今はゆっくり休んで、早く元の世界に帰ろう?」

サクラ「うむ。そうすると……しよう……」スゥ…スゥ…

錬「って寝るの早っ!」
182 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/11(金) 01:26:11.99 ID:u/f9rXYo
──とある病院

医者「失血が酷かったけど、もう大丈夫だよ」

一方通行「そォかよ」

医者「右手は元通りになるだろうけど、さすがに左足は義足を用意するしか無いね」

一方通行「それで、アレは用意できるンだろォな」

医者「それは……できない事は無いけどね?」

一方通行「アーキテクチャは俺と同じ。できねェってこたァねェだろ?」

医者「能力使用モードを非搭載なら余裕はあるし可能だけど……いいのかい?」

一方通行「あァ? 何か問題でもあンのかァ?」

医者「いやね、確かに君の演算に影響を与えるほどの容量は取らないんだけどね」

一方通行「だったらいいじゃねェか」

医者「けどねぇ、君をそこまで痛めつけたのはこの子なんだろう?」

一方通行「……別に、コイツが自分の意志でやったワケじゃねェ。
 自分の正常な脳機能や身体機能と引き換えだったら、誰だってそうするだろォよ」

医者「まぁ、君がそう言うのなら構わないのだけどね」

一方通行「ならさっさと用意しやがれ。オマエは患者の必要なものは何でも揃えるんだろォが」

医者「これは痛いところを突かれたね。なら、可能な限り早く用意するとしよう」

一方通行「フン、最初からそう言っときゃいいンだよォ」クルッ

医者「それはそれとして、君もその怪我じゃあ返すわけには行かないね」

一方通行「チッ、このまま帰れる流れだったろォがよォ……」

医者「これでも僕は医者だからね、あまりバカにしないでくれるかな?」

医者(ふぅむ……人間、変われば変わるものだね?)
183 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/06/11(金) 01:28:11.12 ID:u/f9rXYo
今日の分は以上です。
この後一悶着起こすかどうかで思案中……。

次は日曜夜か、遅くとも月曜夜には来れると思います。
184 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/11(金) 01:30:50.83 ID:pymMvrEo
おっつ!
期待してるよー
185 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/11(金) 02:21:25.00 ID:A.aVCC.0
乙!
期待してるんだよ!
186 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/14(月) 00:13:17.24 ID:xNRQvKQo
はやぶさが全管制を終えて涙腺が緩んでいますが、それとは全く関係なく投下していきますね。
展開も全く関係有りません。
187 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/14(月) 00:14:06.27 ID:xNRQvKQo
──翌日、とある第一七七支部。

錬「要するに、死者も無しで最善の形で収まったって思っていいのかな」

黒子「上から大目玉を食らうことになったという話は完全に無視ですのね」

錬「あはは、ごめんごめん。でもその程度で済んで良かったよ」

黒子「そうは言いますけれど、おかげでわたくしはお姉様と過ごす時間が激減してしまいましたのよ?」

錬「なんというか、本当に美琴さんの事が好きなんだね」

黒子「当然ですの! わたくしをお姉様のパートナー、白井黒子と知ってのお言葉ですの!?」ガタッ

錬「う、うん、解かったから落ち着いて?」

黒子「……コホン。それはそれとして、戻れるという確証は得られたのですか?」

錬「うん。接触してI−ブレインに特定のコマンドを打ち込めばいいみたい」

黒子「それで、サクラさんが完治するまでの宿をどうしたものかと相談に来たわけですのね」

錬「元居た場所が戦争中だから、さすがに完治しないまま戻るのはまずいしね。
 かといってここで何日も暮らすって言っても、その為の食料も無いしでお手上げだよ」

黒子「それでしたら、『昨晩のように』佐天さんにお世話になれば良いのでは?」

錬「いや、一日二日ならまだしも、そう何日もとなるとちょっと気が引けるというか……」

黒子「あの方なら喜んで引き受けてくれそうな気もしますが」

錬「涙子さんはそうかもしれないけど、こっちが気にするんだってば」

黒子「年頃の異性と一つ屋根の下、それに佐天さんは貴方に好意的な態度を取っていますの。
 そういうのは殿方にとってはおいしいシチュエーションなのではなくて?」

錬「そういう人も居るかもしれないけど、僕はそうじゃないっていうかむしろそれが困るんだよ」

黒子「ははぁ、つまりあちらの世界に恋人が既に居ると」

錬「いやそんな! まだ恋人とかじゃ!」ガタッ

黒子「『まだ』ですのね、ええ。ご馳走様ですの」

錬「っ! しまった……」
188 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/14(月) 00:15:25.56 ID:xNRQvKQo
黒子「旅の恥は掻き捨てとも言いますし、そんなに気にする事も無いとは思いますけれど」

佐天「ほうほう、やっぱり好きな人いるんだね〜」

錬黒「!?」

佐天「やほ、お邪魔してまーす」

黒子「佐天さん、何度でも言いますけれど、支部は遊ぶ所ではありませんのよ?」

佐天「えへへー、失礼しました。でも錬くん、気にしないでいいよ? 別にほら、恋人さん? には黙っとけばバレないって」

錬「いやでも、あの子に嘘はつきたくないし」

佐天「おお、これは相当惚れてるね(否定しなくなったし)」

錬「茶化さないでよ……」

黒子「わたくしとしては、佐天さんのお世話になるというところで納得してもらえるのが助かるのですが」

佐天「だよねー。それにそんなに嫌がられるのも年頃の乙女としては割と傷つくよ?」

錬「うう、分かりました。お世話になります……」

黒子「これで宿の問題は解決ですわね」

佐天「うん、めでたしめでたし!」

錬「なんか納得いかないんだけど」

佐天「はいはい、折角何日もニートできるんだから素直に喜んどきなさいって」

錬「涙子さん、わざと言ってるよね」

佐天「あ、バレた?」

黒子「佐天さん、いじめるのはそれくらいにしておきますのよ」

佐天「あはは、はーい」

錬「はぁ、不幸だ……」

黒天(あ、伝染った)りましたの)

錬「あ、そうだ。黒子さんにお願いした事があるんだけど、いいかな」
189 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/14(月) 00:16:51.02 ID:xNRQvKQo
──とある病院

一方通行「……納得いかねェ」

上条「ど、どうした?」ビクッ

一方通行「なンでこの俺がこンな三下と同室じゃなきゃいけないンですかァ!?」

上条「いや、それは上条さんに言われても困るんですが」

医者「そうだよ、昨日だけで何人も担ぎ込まれたんだから、相部屋くらいは勘弁して欲しいね」ガチャッ

一方通行「チッ……」

医者「むしろ、あんな怪我で何事も無く帰ろうとした君に、僕は説教をしたいくらいなんだけどね?」

一方通行「大した事ァ無ェっつったろォが」

医者「肋骨二本が綺麗に折れてたし、内臓こそ破裂してないけど酷い内出血。こんな大怪我人を放っておいたら、僕は医者失格だよ?」

上条「そんな酷かったのか……」

医者「君たちは揃いも揃ってよほどこの部屋が好きと見えるね。何なら住み込みで働いてみるかい?」

一方通行「ケッ、誰がこんな所で」

上条「俺も好きで毎回担ぎ込まれてるわけじゃ無いんですけどね」

医者「さてと、世間話は置いといて本題だ。上条君、ちょっと検査をするから一緒に来てくれないか」

上条「え? はぁ、分かりました」

医者「なに、すぐ終わるさ」チラッスタスタ

上条「へいへい(……あ、なるほど)」チラッスタスタ

進入禁止「お兄様ーっ!」ガチャッ

一方通行「……おい、ちょっと待て」

医者上条「じゃ、ごゆっくり」ガチャ

一方通行「ちょっと待てつって──……くそがァ! こういうのは三下の専売特許じゃねェのかよォ!!」
190 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/14(月) 00:18:42.14 ID:xNRQvKQo
進入禁止「あの、お兄様?」ヒョコヒョコ

一方通行「……既に傷が治ってるのはあの変態医師の事だからもォ置いとく。だが一つ質問がある」

進入禁止「はい、お兄様。なンなりと」

一方通行「その服は何の真似だ」

進入禁止「このナース服ですか? カエル顔の医者に勧められたのですが、似合ってますかァ?」

一方通行「あンの変態野郎が! つゥか何なンですかァこの展開は!?」

進入禁止「そこはほら、一段落したら水着回とかそンなノリで」

一方通行「メタ臭ェ発言してンじゃねェよ! あとそれに俺を巻き込むンじゃねェ!」

14510「なるほど、一方通行はナース服に興奮しているという事ですね。とミサカは音も無く登場します」

一方通行「なわけあるかよォ!」

14510「何でしたらミサカもナース服に着替えて──」

一方通行「来なくていいですゥ! つゥか帰れ!」

進入禁止「何この女? お兄様に近付かないでくれますゥ?」

一方通行「もォオマエも帰れよォ!」

14510「そういえばよく似ていますが、一方通行に妹がいたとは初耳です。とミサカは疑念の目を向けます」

一方通行「あァ?」

進入禁止「はい、百合子といいます、以後お見知りおきを。そして二度と会わないといいですね?」

一方通行「いやオマエその名前どっから持ってきた」

百合子「それで、レイプ目ゴーグルさンはお兄様とはどういう関係で?」

14510「レッ……! 初対面の人間に言って良い事と悪い事があると思いませんか。とミサカはぐっと堪えます」

百合子「チッ、うっせェな。反省してまァす」

14510「一方通行、この失礼極まりない女の殺害許可を求めます。とミサカは割と本気で腹が立ってきました」

一方通行「…………オマエら、正座」

百合妹「え?」

一方通行「いいからそこに正座しろォ三下共がァ!!」カチッ
191 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/14(月) 00:19:27.36 ID:xNRQvKQo
──とある隣室

サクラ「ふむ……なかなか腕の良い医者だな。単純な接合手術だけでここまで回復が早いとは思わなかった」グッ

アザミ「何でも、その筋の人からは『冥土返し』なんて呼ばれているらしいね」

サクラ「ヘヴンキャンセラーとはまた大仰な」

タカヒロ「それだけ、彼の技術と知識が優れているという事なんでしょうね」

サクラ「これなら2〜3日もあれば……何やら隣の部屋は随分と騒がしいな。こちらの病院というのはこういうものなのか?」

アザミ「そんな事は無いんじゃないかなぁ」

タカヒロ「三角関係ってこじれると大変そうだよね。はいアザミ、あーん」

アザミ「タカヒロ、別室なのにわざわざありがとね。あーん」モキュモキュ

サクラ「壁一枚隔てたこちらはこんなに平和だというのにな」

上条「ちょっとお邪魔しますよっと」ガチャッ

アザミ「あ、お兄ちゃんやほー」

タカヒロ「どうも、避難して来たんですか?」

上条「ああ。案の定あっちは大変な事になってるな」

サクラ「上条当麻、昨晩は世話を掛けたな。礼を言う」

上条「いやいや、俺がやりたくてやった事なんだからそんな改めて言われるとこそばゆいというか」

タカヒロ「僕からも言いたいんですけど、その様子だとやめた方がよさそうですね」

アザミ「お兄ちゃんはすごい鈍感なくせに照れ屋さんだからねー」

サクラ「違いない」

上条「なんでそう皆して上条さんを鈍感って言うんでせうか? こちらとしては全く身に覚えが無いんですが」

サクラ「この類で自覚の無い男というのはいつか誰かに刺されるような気がするな」

アザミ「あ、私は刺したりしないから安心してね?」

上条「なんでそんな物騒な話になってるんですか!?」
192 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/14(月) 00:19:54.94 ID:xNRQvKQo
タカヒロ「まぁまぁ、リンゴでも食べて落ち着いてください」

上条「おお、こりゃまた見事なウサギさんだな。こういう可愛いのはアザミにあげた方がいいんじゃないか?」

アザミ「えへへー、私はもう貰ったんだよ。じゃあ私がお兄ちゃんに食べさせてあげる! あーん!」

上条「いやでも……まぁいっか。じゃあお言葉に甘えて。あーん」モグモグ

タカヒロ「……!」ビキッ

サクラ(この男は三角関係どころでは済まなさそうだな)

美琴「サクラさん、お見舞いに……ってなんでアンタがいんのよ」ガチャッ

禁書目録「きたんだよ! ってとうまは隣じゃなかったの?」

上条「いや、隣が大変な事になりそうだから避難してきたといいますか」

サクラ「ここが大変な事にならない事を祈る」

タカヒロ(いっそここで刺されてしまえ)

禁書目録「それでとうま、その女の子は誰なのかな?」

上条「ああ、昨日の夜色々あってな。大変な事になりはしたけど、悪い子じゃないと思うぜ」

禁書目録「昨日の夜色々……」ビキッ

美琴「大変な事に……」ビキビキッ

アザミ「お兄ちゃんのお友達だよね? 昨日は助けてくれてありがとう!」

美琴「え? あ……いやいいのよ、私がやりたくてやった事なんだし」

タカヒロ「はは、貴女も上条さんと同じ事を言うんですね」

美琴「そ、そうなの?」

タカヒロ「『俺がやりたくてやった事なんだからそんな改めて言われるとこそばゆい』って」

上条「うっ、なんでそんな一言一句間違えずに……」

タカヒロ「これでもレベル4の電撃使いの中でも精密操作特化ですから。記憶力はそれなりに」

アザミ「そうだよー、タカヒロはあんな変なシステムが無くてもすごいんだからね」

禁書目録「……なんだか毒気を抜かれちゃったんだよ」

サクラ「無邪気というのも一つの強さだな」
193 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/14(月) 00:20:47.53 ID:xNRQvKQo
美琴「まぁでも、一緒の部屋にいるなら何部屋も回る手間が省けたわね。はいコレ」

上条「お、サンキュー……ってこれ、いつぞやのクッキーと同じじゃねえ?」

美琴「なに、文句あるの?」

サクラ「上条当麻が要らないのなら私が貰いたいところだが」

美琴「そうしましょっか。サクラさんおいしそうに食べてくれるし」

上条「ごめんなさい要ります! 欲しいです!」

美琴「はいはい、だったら最初から素直に受け取る」ホイ

上条「ありがとな、美琴」

美琴「どういたしまして。はいサクラさんも」ホイ

サクラ「ああ、ありがとう」

美琴「あ、そういえばサクラさんに聞きたいことがあったのよね」

サクラ「なんだ?」

美琴「あのナイフって何だったの? すごい威力だったんだけど……」

上条「あー、あれはビビったな」

サクラ「簡単に言えば、電磁投射砲に特化した素材、構造の特注品というところだ。
 私もまさかアレほどの速度が出るとは思っていなかったがな」

美琴「通りで……」

サクラ「それを言うなら御坂美琴、貴方こそ落雷に匹敵するような出力を持っているとは思わなかったぞ」

美琴「ふふっ、レベル5の第三位っていうのは伊達じゃないって事よ」

サクラ「あの場で貴女が来てくれなかったら、本当に全滅していたかもしれない。いくら礼を言っても言い足りないな」

美琴「やーねぇ、サクラさんがくれたナイフがあってこそじゃない」テレテレ

サクラ「謙遜する事は無い、貴女は間違いなく我々全員の命を救ったのだ」

美琴「そんなに褒めても何も出ないわよー?」

サクラ「なに、こちらが何か出したいくらいだ」

美琴「そんなの別に気にしな……あー、じゃあそうね、全快したら一つお願いしていい?」
194 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/14(月) 00:21:52.80 ID:xNRQvKQo
──更に隣室

肉体復元「ったく、タカヒロは怪我が軽いからってアザミのところに行っちまうし、暇だ……」

医者「じゃあ、その暇つぶしに少しばかり付き合うとしようかね?」ガチャ

肉体復元「またアンタかよ」

医者「そう嫌な顔をしないで欲しいね」

肉体復元「何度言われても、俺は義肢は要らねえよ」

医者「そうは言うけどね、医者の僕としては何とか曲げて欲しいんだよ」

肉体復元「わかんねーかなぁ、こいつは勲章みたいなモンなんだよ。もう能力者としては絶望的だけどよ。
 借り物の力とはいえ、第三位の全力の超電磁砲を凌ぎきったっていう勲章なんだよ」

医者「僕も昔は血気盛んな頃があったから、それ自体は理解しないでも無いけどね」

肉体復元「だから、何度言われてもこれは曲げる気は無ぇ」

医者「ふぅむ。これでもダメかな? おーい、頼むよ」

御坂妹「めんどくせーな、今回伝言役ばっかじゃねーかだりぃ。とミサカは遠慮なく入室します」ガチャ

肉体復元「あ? 超電磁砲……じゃねえな、クローンって噂の奴の方か?」

御坂妹「その通りです。オリジナルの御坂美琴お姉様から伝言だそうです。とミサカは面倒なのを隠して淡々と述べます」

肉体復元「いや隠せてねえし、つーか隠す気ゼロだろお前」

御坂妹「『借り物の力なんかじゃなくて、いつか本当の力でかかってきなさい。ちゃんと決着つけてやるわよ』だそうです。
 とミサカは会心の声真似ができた事に満足です」

肉体復元「あんにゃろ……」

御坂妹「お姉様としても納得の行く決着では無かったようですね。とミサカはお姉様の正確を冷静に分析します」

医者「どうだろう、考え直してもらえないかな?」

肉体復元「……ったくよぉ……まったくもって、ひでえ茶番だなぁおい?」

医者「そう言われてしまうと返す言葉も無いね」

肉体復元「だが、そういう茶番は嫌いじゃねえ。乗ってやるよ」

御坂妹「そんな事よりミサカの声真似はどうでしたか。とミサカはさりげなく評価がきになります」
195 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/14(月) 00:22:30.86 ID:xNRQvKQo
──とあるグループ

結標「と、まぁこんなところ。質問は?」

釧路「質問は無いけど、感想なら」

結標「どうぞ?」

釧路「最っ低のドン底ね、ここは」

結標「そうね、私もそう思うわ」

土御門「おいおい、酷い言われようだにゃー」

結標「それにしても意外ね、一度失った筈の『自分だけの現実』をこんなに早く取り戻すなんて」

釧路「例の実験の副産物よ。一方通行モドキが私の脳に繋いできたときにちょっと拝借したの」

土御門「抜け目無いにゃー、でも『ここ』ではそう言う強かさが必要なんだぜい」

釧路「まぁ前とは少し変わったし、まだレベル3程度だけど。でも精度は上がった気がする。
 演算式を組み直すには時間が必要だけど、レベル4くらいの力は取り戻せると思う」

結標「思ったよりも早く使い物になりそうで何よりね」

土御門「これで少しは一方通行の負担を減らせるって所かにゃー?」

結標「ばっ! 何言ってるの? 誰があんなロリコンの心配なんて」

土御門「いやいや皆まで言うな、俺はちゃーんとわかってるんだぜい」

結標「ちょっと、何を勝手に自己完結してるわけ? 壁の中に飛ばすわよ?」チャキ

土御門「にゃー! それは勘弁してくれ!」

ワーワーギャーギャー

釧路(……来るところ間違えてないよなぁ?)

土御門「ま、まぁ、何はともあれ」ゼェゼェ

結標「ちっ、しぶとい……」ゼェゼェ

土御門「ようこそ、『グループ』へ。期待してるんだぜい、新人さん」
196 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/14(月) 00:23:03.82 ID:xNRQvKQo
──夕方。とある佐天宅。

錬(もう監視はついてないか……)チラッ

佐天「どうしたのー? 何か足りない材料とかあった?」

錬「ああいや、材料は足りてるよ。それとは関係なくて、連中が本当に諦めたのかどうか不安になってね」

佐天「でも悪い奴らはやっつけたんでしょ?」

錬「そうなんだけどね。でも問題はあの実験じゃないんだ」

佐天「どういうこと?」

錬「あの実験をしてた研究員に、僕ら魔法士の存在を教えたのは誰か、ってのがまだ解かってないから」

佐天「その実験をしてた人たちが勝手に調べたんじゃないの?」

錬「一応あの研究所も調べたんだけど、そんな事ができる施設は無かったんだよね」

佐天「うーん?」

錬「安っぽい言い方をするなら、まだ『黒幕』がどこかに居るんじゃないかなって事」

佐天「おおー、事件はまだ終わっていなかった! みたいな?」

錬「なんで嬉しそうにしてるの」ヤレヤレ

佐天「だーって、最初に錬くんを見つけたのは私なのに、除け者にされた感がすごかったんだよー?」

錬「あんな危険な場所に連れて行くわけにはいかないでしょ。レベル5相当の能力者が10人以上いたんだよ?」

佐天「そりゃそうなんだけどさー、もうちょっと皆の役に立ちたいと思うわけですよ」

錬「うーん、多分はそんな事はしなくても涙子さんの事を大事に思ってるんじゃないかな」

佐天「……錬くんも?」ジッ

錬「え?」ドキッ

佐天「錬くんも私を大事だと思ってる?」

錬「……あの、会って二日も経ってない異世界人に何を期待してるの」

佐天「ええー!? そこはもうちょっとこうさぁ〜」グダー
197 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/14(月) 00:24:49.59 ID:xNRQvKQo
錬「いや冗談。大事に思ってるよ」

佐天「!?」ドキッ

錬「そうじゃなきゃ、冗談でも『守る』なんて口に出したりしないって」

佐天「ほ、本当に!?」

錬「それに、涙子さんだけじゃない。誰もがシティに頼らずに生きていける、この平和な世界を壊したくなんてないからね」

佐天「……」ワナワナ

錬「あれ? 涙子さん?」

佐天「……うん、まぁそんな事だろうと思ってたよね!」グッ

錬「……ひょっとして、だけどさ」

佐天「なぁに?」

錬「涙子さんは……その、もっと強い能力が欲しい?」

佐天「っ!」

錬「僕は昨日の件で色んな人に脳を貸してたような状態だったんだけど、その中にはレベル0の人たちもいてさ。
 全員がそうだっていうわけじゃないけど、やっぱり強い能力に対する憧れやコンプレックスってのはあったから」

佐天「……」

錬「涙子さんのそれは、ちょっと違うかもしれないけど……役に立ちたいっていうのはそこからきてるのかなって」

佐天「そりゃ……そうだよ」

錬「……」

佐天「私だって、御坂さん……とまではいかなくても、あんな風に誰かを助けたりしたいよ」

錬「ねぇ、涙子さん」

佐天「……?」

錬「強い力を持つっていうのも、そんなに良い事ばっかりじゃないんだよ」
198 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/14(月) 00:26:45.89 ID:xNRQvKQo
佐天「……どうして? だって、強い力があれば私だってもっと皆の役に……!」

錬「うん、役には立てるかもしれない。でも、同時に皆を危険な目に合わせちゃうかもしれないよ」

佐天「え?」

錬「強い力を持つっていう事は、それだけ強い影響力を持つっていう事だから。当然、面倒なしがらみも増えるよね。
 でも、どんなに強い力があっても所詮は一個人でしか無いから、周りのしがらみ全てを相手にして捩じ伏せるなんてできない」

佐天「……」

錬「その力が気に食わなかったり、良からぬ事に利用しようっていう輩がいたとしたら、
 強い力を持っている本人よりも、その周りの人を人質にしてしまうかもしれない。
 そうでなくとも、たとえそれがどんなに努力して手に入れた力だとしても、周りから疎まれる事だってある」

佐天「……」

錬「今現在、そういう強い力を持ってる人たちは、それだけいっぱい傷ついてきてるんだろうし、
 そのせいで周りの人たちが、大事な人たちが傷つくのを見て心を痛めてるんじゃないかな」

佐天「それは……」

錬「それでも、自分がどれだけ傷ついても、周りの人たちをどれだけ傷つけても。……それでも強い能力が欲しい?」

佐天「錬くんは……その力のせいで、いっぱい傷ついてきたんだ?」

錬「……かもね」

佐天「ごめん……」

錬「いや、僕に謝る必要は無いけど」

佐天「でも!」

錬「いいんだって。人にできない事ができる人は、人より苦労するようになってるんだよ。きっとどの世界でも同じでしょ?」

佐天「……うーん、じゃあ。大事なことに気付かせてくれて、ありがとう?」

錬「うん、どういたしまして……と、よし。できた」バサッ

佐天「おおー、錬くんって手先も器用なんだね」

錬「まぁほら、脳みそが特別製だから。じゃあちょっと行ってくる」

佐天「はい行ってらっしゃい。おいしいご飯用意して待ってるからね!」

錬「うん、ありがとう」
199 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/14(月) 00:27:46.72 ID:xNRQvKQo
──幕間

プルルルッ プルルルッ

土御門「……俺だ」ピッ

土御門「今さら、何の用だ」

土御門「つまり、魔法士2人に対してはもうノータッチだと?」

土御門「……はぁ!? ……いや、それで?」

土御門「そういう事か」

土御門「……利害が一致しているから尻拭いに利用しようって腹か?」

土御門「ふん……いいだろう。利用されてやる」ピッ

土御門「こうやって俺たちが動く事すらプランの内か……?」

土御門「いや、考えてる暇は無いか」





土御門「考えろよ……土御門元春……!!」
200 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/14(月) 00:28:44.04 ID:xNRQvKQo
──とある病室。

上条「……なぁ一方通行」

一方通行「ンだよォ」

上条「そろそろ事情を説明してくれてもいいんじゃないか?」

一方通行「……めンどくせェ」

上条「事情は後で話すって言ってたじゃないか」

一方通行「ったく。……ただアイツが俺のクローンだってェだけの話だ」

上条「やっぱりそうなのか」

一方通行「正確にはクローンとは言えねェが、大体似たようなもンだなァ」

上条「?」

一方通行「俺はDNAマップをタダでくれてやるほど間抜けじゃねェ。クローンなンて物が作れねェように細工してあった。
 ……筈なんだが、奴らはどうにか培養に成功したらしい。それでも染色体に異常が出たり前頭葉が萎縮してたりっつゥ欠陥品だがなァ」

上条「それでか……」

一方通行「恐らく、ソイツに高い演算機能を与えてやりゃァ俺よりも高い性能を引き出せる──あわよくばレベル6なンて考えてたンだろォよ」

上条「そんな事の為にあれだけの人間を巻き込んだってのかよ!?」

一方通行「その通りだぜェ? イカレたマッドサイエンティストの中には、この学園都市全てがレベル6を生み出す為の実験場だ、
 なンて公言してる奴だって居る。完成品こそ大した性能だったが、あンなのは小者中の小者ってこったなァ」

上条「……許せねぇ!」

一方通行「あァ? 許せなきゃどうするよ? その自慢の右手でその幻想をブチ[ピーーー]ってかァ!?」

上条「うっ……」

一方通行「オマエは細けェ事なンて考えずに、ただ目の前で困ってる奴らに手を差し伸べてやりゃいいンだよ」

上条「でもそれじゃあ──」

一方通行「オマエはそれでいいンだよ。どうせ周りがオマエを放っておかねェからなァ」

上条「……ただ巻き込まれるのを待てって言うのかよ」

一方通行「そォだ」
201 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/14(月) 00:29:29.90 ID:xNRQvKQo
一方通行「オマエはオツムの足りねェレベル0の無能力者だから教えてやるよ。オマエが気に食わないと思ってる奴らは、
 オマエが考える何万倍も強大で、オマエが考える何万倍もタチが悪ィ。その気になりゃァ今この瞬間にだってオマエを殺せる」

上条「……」

一方通行「今オマエが生かされてんのは、奴らの思惑からオマエが外れてねェっていう、それだけの理由だろォよ」

上条「だからって黙って見てるだけじゃ──」

一方通行「だからよォ!!」

上条「っ!」

一方通行「言ったろォが。ただ目の前で困ってる奴らに手を差し伸べてやりゃいいンだって」

上条「だからそれじゃあ何も……」

一方通行「三下ァ、人の話は最後まで聞け。オマエが誰彼構わず助けてやるような性格だってのはそう悪い事じゃねェ。
 解かってるだろうが、当然モラルやら倫理的な意味じゃねェぞ。この閉塞された『現実』をブチ[ピーーー]為にだ」

上条「……」

一方通行「誰かを地獄の底から引っ張り上げた分だけ、奴らの力は削がれ、オマエの力は増える。
 オマエは不幸かもしれねェが、一人じゃねェんだ。何でもかンでも一人で背負い込ンでんじゃねェよ」

上条「一方通行……俺……」

一方通行「チッ……つまンねェ話しちまったなァ。コーヒーでも飲んでくるわ」スッ

上条「……寝れなくなるぞ?」

一方通行「はン、知った事かよ」カツカツ

上条「……一方通行!」

一方通行「あァ?」ピタ

上条「ありがとな」

一方通行「……フン」ガチャッバタン
202 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/14(月) 00:30:50.15 ID:xNRQvKQo
一方通行「裏側の仕事は、俺みたいなクソッタレの悪党の仕事だ。オマエはこっち側を覗き込んじゃいけねェんだよ……」チャリンチャリン

錬「思ってたより優しいんだね」

一方通行「っ! ……ってェ、オマエかよ。今度は本当にブチ殺してやろォか?」

錬「やめてよ、ここは病院でしょ?」

一方通行「報復ってわけじゃァなさそォだな。……何の用だァ?」ピッ…ガコン

錬「ちょっとあんたに聞きたい事があって来たんだ」

一方通行「あァ? 聞きたい事だァ?」

錬「あそこに繋がれてる間にね、僕の脳に接続してきた人たちの記憶からすると……多分、あんたが一番『闇』に近いから」

一方通行「……何を見た?」

錬「別に大した事じゃないよ。『第一位』、『絶対能力進化計画』それに『グループ』その他諸々。
 単語ばかり断片的にだけど、中心に近いところにはあんたがいたから。それと、今の反応を見て確信したってところかな」

一方通行「チッ……オマエには手違いとはいえ負い目があっからなァ。答えてやるよ、何が知りたい?」

錬「いくつかあるけど、多分……今必要なのは『僕らがここに飛ばされてきたのを誰があの研究者たちに知らせたのか』だね」

一方通行「……俺がオマエを襲った理由は聞かねェのな」

錬「むしろ、あの場にあんたが助けに……いや、実験を潰しにかな? 来たことの方が不思議だからね。
 大方、実験の内容も知らずに拉致した後で実験内容を知って手の平を返した、なんてところだとは思うけど」

一方通行「クカカッ! 笑えンぜェ。どこでどんな情報を手に入れたのかは知らねェが、実に的確だなァ?」

錬「まぁ他にも大きな理由がありそうな気はするけど、表面的にはそれで充分かな。それで、僕の質問には答えてくれる?」

一方通行「お断りだなァ。というよりは、心当たりが多すぎて分かりゃしねェよ」

錬「嘘だね」

一方通行「!?」
203 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/14(月) 00:31:16.49 ID:xNRQvKQo
錬「この街の技術レベルからして、僕らが転送されてきた現場をそれだけ多くの組織が観測しているとは考えにくい。
 仮に観測出来たとして。僕らがI−ブレインを持っていて、それがどんなものかまでを知ることは難しい筈。
 でもあの実験を主導した研究員は、最初からI−ブレインが目当てで僕らを狙ってきたらしい」

一方通行「……」

錬「I−ブレインの技術を知ったら喉から手が出るほど欲しがる組織は投げ売りするほど居るだろうけど、
 どう見ても複数の組織からの監視は受けてない。その証拠に監視は昨日だけで、今日は既に監視されていない」

一方通行「……ククッ……クカカカ! おいおいマジですかァ? たった1日と少しでよくそこまで理解できるモンだなァ?」

錬「その上で、あんたなら何か知ってるんじゃないかって思ったんだけど」

一方通行「あァ正直に答えてやるよ。……結論から言うと知らねェ。心当たりはあるにはあるが、オマエには言えねェなァ」

錬「…………『統括理事長』だっけ?」

一方通行「っ!?」

錬「……いや、胡散臭い単語でカマかけてみただけだったんだけど、まさか本当にそんな反応されるとは」

一方通行「うっぜェ……」

錬「まぁでも、ありがとう。知りたい事は解かったよ」クルッ

一方通行「おい、どこへ行くつもりだ?」

錬「ちょっとサクラって子のお見舞いに。別に今の話を聞いたからって一人でどうこうしようなんて思わないから安心して」

一方通行「……ならいいンだけどよォ」

錬「それに、あんたが言ってたんじゃないか。『何でもかんでも一人で背負い込んでんじゃねェ』ってさ」

一方通行「──!! ……聞いてやがったのかよ」

錬「大丈夫、こっちから手を出そうなんて間違っても考えないよ。帰ってからやる事があるし……それに、
 そういう事は部外者が手や口を出していい事でも無いでしょ。向こうから手を出して来ない限りは、ね」

一方通行「自衛のためとはいえよォ、随分と他人の家の事情にズカズカと踏み込んでくれたなァおい」

錬「気を悪くしたなら謝るよ。でもこっちも生きるためだから、緊急避難的措置って事で勘弁してくれない?」

一方通行「もォ好きにしろ。そんだけ踏み荒らせば満足だろォよ」

錬「ありがと。でも、うん。やっぱりあんたは思った通りの人だったみたいだ」

一方通行「……チッ、気に食わねェガキだ(……にしてもコイツ……ガキとは思えねェ修羅場くぐってンな)」
204 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/14(月) 00:32:00.03 ID:xNRQvKQo
──とある病室。

サクラ「……この外套を貴方が? ……修繕、というよりは新調だな」バサッ

錬「うん。助けてくれたお礼っていうには安すぎるけどね」

サクラ「ほう、意外だな」

錬「一応、素材は可能な限り近いものを調達してもらったから……あ、これは黒子さんにもお礼を言った方がいいね。
 それと論理回路も残ってた部分から逆算して、月姉の見よう見真似だけど無いよりマシ程度には入れてあるつもり」

サクラ「貴方が私に協力するなど、一体どういう風の吹き回しだ?」

錬「だから助けてくれたお礼だってば。というかそれを言うなら、昨日の夜に言われた事の方がどういう風の吹き回しだよ」ムカッ

サクラ「……ふん。一応、感謝はしておいてやる。だが調子に乗るなよ」プイッ

錬「別にこっちも感謝されたくてやったわけじゃないから」イラッ

アザミ「二人とも素直じゃないね〜」

サク錬「!?」

アザミ「サクラは感謝してるし、錬も恩を返したかっただけなんでしょ? そんな喧嘩腰にならなくてもいいと思うんだけど」

サクラ「……そうだな。天樹錬、礼を言っておく。ありがとう」クス

錬「え? あ、いや……どういたしまして……。というか、こっちこそありがとう」

アザミ「……」

サクラ「……」

錬「……ぷっ」

サクラ「くくっ……やはりこういうのは私たちには似合わんな」

錬「うん、そう思うよ」クスッ

アザミ「めでたしめでたし、かな?」

205 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/14(月) 00:32:40.26 ID:xNRQvKQo
──とあるグループ。

土御門「少々面倒な事になった」

結標「また何かあったの?」

土御門「ああ。例の研究所のデータが漏れてる」

結標「……詳細は?」

土御門「今のところ、情報が漏れたと解かってるのは2箇所。内1つは既に交渉してデータを抹消済み。
 漏洩経路については統括理事会の連中が一枚噛んでる可能性があるが、詳細は不明」

結標「交渉っていうより脅しでしょ……にしても手早いわね」

土御門「んで、漏洩したのは研究所のデータの内、件の魔法士についての情報のみってところだ。質問は?」

釧路「幻想代入についてのデータは漏れてないと思っていいのね?」

土御門「ああ。それについては間違いない」

釧路「で、何をすればいい?」

土御門「随分と乗り気だな」

釧路「あの坊やには借りがあるんでね。返せる機会があるなら返しておきたいのよ」

土御門「結標の連れてきた新人は活きがいいな」

結標「でしょ?」

釧路「いちいちうるせぇな……」

土御門「悪い悪い。具体的な行動指針を説明するとしよう」
206 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/14(月) 00:34:12.84 ID:xNRQvKQo
──夜。とある佐天宅。

「……──くそ!」

病院から戻ってきた錬が最初に口にした言葉がそれだった。

「あんな事を言っておいて……!」

割れた窓ガラスに、荒らされた部屋。
ローテーブルに用意してあったであろう夕飯は、食器ごと打ち払われて散らばっていた。

壁にこれ見よがしに貼られた紙には、犯行声明というには些か簡素な一文と地図。

『この部屋の主を殺されたくなければ、22時までにこの場所まで来い』

錬は自分に問いかける。──なんだこれは?
つい先程、あれほど偉そうに講釈を垂れておいて、なんだこの体たらくは?

力を持てば周りの人間も傷付けると、そう言ったばかりだというのに。

「ふざけるなよ……!!」

監視が無い事を確認して油断していた? 言い訳だ。
このタイミングでの襲撃は予想していなかった? 言い訳だ。

どれだけ屁理屈をこねようと、目の前の結果が全て。
こうして力を持たない佐天涙子は、力を持つ自分が言った通りに人質に取られている。

「許さない……絶対に許さない!」

その言葉は果たして、犯人に向けたものであったのか、自分に向けたものであったのか。

錬(「ラグランジュ」常駐。運動速度を5倍、知覚速度を20倍に定義。「アインシュタイン」を簡易常駐)

答えが出ないまま、それ以上は何も言葉にせずに駆け出した。
207 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/06/14(月) 00:36:02.70 ID:xNRQvKQo
今日の分はここまでです。
ちょっとはやぶさの帰還に合わせて涙腺が緩くなってたり色々あーもう察しろよチクショウ!ってことで
次は木曜日辺りまでに来れればいいなーとか。頑張ります。
208 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/14(月) 01:16:52.00 ID:5LPXBDUo
他にSSとか書いたことある?
読みやすいし面白いよ
乙です
209 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/14(月) 18:16:42.92 ID:xNRQvKQo
>>208
乙ありがとうございます。SS書いた事はほぼ無いですね。
書こうと思い立ってちょっと買いたら駄目だぁーってなって消したり、っていうのは何度かあるけど。
少なくともこうして投下してるのは初めてです。
210 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/17(木) 23:24:44.57 ID:Q69.24Eo
今日の分を投下開始します
211 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/17(木) 23:25:39.32 ID:Q69.24Eo
──とある病室。

一方通行「あァ? ……おいおい、いくら怪我人だからって俺を連絡役にしようたァいい度胸だなァおい?」

上条「おーい、一方通行さーん? ここは一応病院なんですがー?」

一方通行「……いや、まておい。人質っつったか? ……そいつァやべェぞ」

上条「っておい、なんだその物騒な話は!?」

一方通行「ちげェよ、相手の命がだ、バァカ。あのガキ……まかり間違って一歩踏み出しちまったら、歯止めが効かなくなるぜェ?」

上条「一方通行! どういう事だよ!」

一方通行「あァ、まァ言われた事くらいはしてやるよ。」ピッ

上条「おい、聞いて──」

一方通行「三下ァ!!」カッ

上条「──らっしゃいますか一方通行さま?」ビクビク

一方通行「超電磁砲かそのオトモダチの連絡先は知ってるな?」

上条「ああ、美琴ならつい昨日交換し──」

一方通行「今すぐ連絡しろ、これから言う場所に佐天涙子が捕まってるってなァ」

上条「はぁ!?」

一方通行「いいから早くしろ。でないとあのガキ、何人殺すかわかンねェぞ」

上条「よ、よくわからないけど解かった、すぐ連絡する!」





──とある常盤台中学女子寮

美琴「なんですって!? 行くわよ、黒子!」

黒子「ふぁ……お、お姉様?」ネムネム

美琴「いいからすぐ準備しなさい!」

黒子「ですが寮監が……という場合でも無さそうですわね」キリッ
212 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/17(木) 23:26:37.15 ID:Q69.24Eo
──とある倉庫。

錬は目標までの距離1000mを切ったところから「サイバーグ」に切り替え、光速度の70%で移動していた。
体感時間にして数秒、基準時間にして一刹那にも満たないその時間がもどかしい。

錬(ここか……──「アインシュタイン」を簡易常駐、「チューリング」を常駐。ゴーストハックの起動準備)

アインシュタインの重力制御によって音もなく天上の上に着地して、間髪を入れずに周囲の質量を感知する。

錬(……敵は14人……全員が火薬式の銃火器で武装……人質の位置は……戦場の把握を完了)

15人の内、体格、動きから1名を佐天涙子と判断する。トラップの類は無し。
その周囲の銃口が総じて外側を向いている事も確認。頭部の向きも同様、佐天涙子に向いている物は皆無。

錬(……人質を縛っただけで目を離している……素人か?)

それを認識、判断するまでに間コンマ1秒。
間髪を入れずに次の行動に移る。

錬(「ゴーストハック」を起動)

音もなく倉庫の天井に直径2mほどの穴を開けると同時、更にI−ブレインにコマンドを叩き込む。

錬(「サイバーグ」を常駐。──容量不足。「チューリング」「アインシュタイン」を強制終了)

チューリングの強制終了によって穴が閉じるよりも早く、光速度の70%でそれをすり抜ける。
佐天涙子の目の前に着地するが、誰一人として反応していない。
それもその筈、まだ天井に穴を開けてから人間の最短反応速度たる0.11秒すら経っていないのだから。

錬(「チューリング」「マクスウェル」を常駐。──容量不足「サイバーグ」を強制終了)

音も無く静かに着地してから、佐天涙子を縛っていたロープをナイフで切る。

佐天「……!!」

それに気付いた少女が声を発する前に、窒素結晶による氷の槍を生成。
その数は優に300を超え、その場にいる全員を駆逐して余りある数量と質量。

そして、まだ『敵』は反応すらしていない。

錬「人質から目を離すなんて、バカじゃないの?」
213 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/17(木) 23:27:07.62 ID:Q69.24Eo
その声にようやく反応した男たちが振り向き、ハリネズミのように全方位に対して浮かんだ窒素結晶の氷の槍を見て目を見開く。
時が止まったように体を強ばらせた瞬間を狙って、錬はI−ブレインにコマンドを叩き込んだ。

錬(「氷槍」発動)

周囲に配置された氷の槍が一斉に射出される。
それぞれが致命傷を避けるように微調整された氷の槍が、周囲の男たちを正確に狙い、撃ち抜く。
銃を、手を、肩を、足を、無数の氷の槍が貫いた。

「ひぎゃああああああああああああ!?」

一瞬にして、その場にいる14人が悲鳴を上げて阿鼻叫喚の様相となる。

佐天「ひっ……」

その光景は少女に呼吸をも忘れたかのような短い悲鳴を上げさせたが、それはすぐに14人分の悲鳴に掻き消された。
少女の無事を確認した錬は、最も近くにうずくまっている男に近付いた。

錬「いくつか質問したいんだけど、答えてくれるよね?」

男「な、何者だてめ──っぎいぃあああぁああああ!!」

状況を理解しないまま男が答えようとして、その声が途中から悲鳴に変わる。
穴の開いたままの手の平を錬が踏みつけた為だと彼が気付いたのは、たっぷり3秒後。

錬「答えてくれるよね?」

男「……っ!」

手を踏み付けられた男が声も出さずに何度も頷く。
他の者はといえば、状況を理解した者から我先にと醜悪な悲鳴を上げて倉庫から逃げ出していた。
内一人が倉庫の入り口で力尽きて倒れて気絶するが、それを気に掛けるものは皆無。

錬「拷問っていうのは趣味じゃないから、できるだけ穏便に終わらせたいんだ。いいかな?」
214 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/17(木) 23:28:35.40 ID:Q69.24Eo
──数分後。

錬「ありがとう、もう行っていいよ」

その言葉を聞いた男は足を引きずりながら、入り口の脇に倒れている一人には目もくれずに逃げ出していた。

得られた情報は多くは無い。

彼らがスキルアウトの中でも弱小のチームであるという事。
銃器等を提供する代わりに『侵入者の少年』を殺害するよう頼まれたという事。
その際に、少年が『高位能力者』である事から人質を取った方が確実だろうと勧められた事。

依頼主については詳細は分からないが、ある研究所の研究員らしいという事。
そいつが何をしているのかも分からないが、目先の報酬に釣られて犯行に及んだという事。

それでも、次の標的が決まった錬は男を開放するに至る。

錬「涙子さん、大丈夫だった?」

いつも通りの顔で微笑みかけてくる少年に対して、しかし佐天は言葉を紡ぐことが出来ないでいた。

何故なら、見てしまったから。
その目が濁りきってしまっている事に気付いてしまったから。
倉庫の数少ない窓から漏れる月明かりだけでも、その瞳の混濁は容易に見て取れた。

錬「……ちょっと過激だったかな」

だというのに、表情だけはこれまで通りに、困ったように笑う少年に対してかける言葉が見つからない。

錬「部屋は、ちょっとひどい事になっちゃってるけど……涙子さん、一人で帰れる?」

瞬きすら忘れたかのように、少女が少年の顔を見つめる。

錬「ちょっと、今から行かなきゃいけないところがあってね」

少なくとも、つい先程までの少年はこんな事を言うような人物では無かった。
仮にその後に『行くところ』があったとしても、少女を送り届けた後で行動を始めただろう。

しかし奇しくも、少女は思い当たっていた。
人が傷付くのを嫌いながら、それでも傷付き傷付けてきた少年がこうなったのは。
それはこの目の前の少年が自分を守るためだという、その事に起因するのだと。

だから、何か言わなければ。この少年を引き戻さなければ。そう思って口を開く。けれど。

佐天「れ──」

少女が言葉を吐き出そうとした時には、少年は既に駆け出していた。
215 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/17(木) 23:29:27.88 ID:Q69.24Eo
──とある倉庫外周。

二人の少女が、人気の無い倉庫の前に立っていた。

美琴「……ここで間違い無いわね」

黒子「ええ……それにしては、人の気配が少な……──っ!!」

周囲の様子を伺っていた黒子の視界に、半開きになった倉庫の扉にもたれるような一人の男。
その格好から察するに恐らくはスキルアウトであろう。

美琴「これは……!」

しかし、男はうつ伏せに倒れたまま動かない。
呼吸に合わせて背が上下している事から死んではいないようだが、その状態は酷いものだった。
手足の至る所から血を流しているというのに、胴には──こと重要器官の位置する部分──はほぼ無傷。
だからと言って、重体でないなどと口が裂けても言えるわけがない。

美琴「──くる!」

黒子「っ!!」

それに反応したのは美琴が先。電磁気の天然レーダーを備えているが故の、常人にはありえない反応。
しかし、それほどの反応速度をもってしても、そのスピードには追いつかない。

美琴「っ!?」

黒子「なっ……今のは……」

驚愕に目を見開いた二人の網膜に一瞬だけ映ったのは、間違いなく──

黒子「錬さん……!?」

美琴「あの子、どこに!?」

天樹錬。とある魔法士の一人だった。

佐天「御坂さん!!」

明らかに間に合わないと悟りながらも追い縋ろうとして、一人の少女の声に足を止める事になる。

黒琴「佐天さん!?」

佐天「錬くんを止めてください!」
216 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/17(木) 23:30:21.08 ID:Q69.24Eo
──とあるグループ

土御門「はぁ!? 今度はそっちだと!? 何キロ離れてると思ってる!?」

海原「ダメですね、動きが早すぎて捉えきれません。1つ10分もかかってませんよ」

結標「まるで手当たり次第。相当キレちゃってるわね、あの子」

釧路「今ので3つ目。表に名義を持たないところをピンポイントで狙ってるように見えるけど──あ、4つ目」

土御門「クソッタレが……触らぬ神に祟りなしって言葉を知らないのか、バカ共め」

海原「本当に一方通行が難無く確保した相手なのか疑いたくなりますね」

結標「相性があるんでしょ。というか一方通行に相性の良い相手なんて規格外すぎて想像もできないけど」

釧路「……でも一方通行の見立ても間違ってるのかもね。『まだ』誰も死んでないわよ」

土御門「それが『いつ』まで続くか分からんぞ」

釧路「或いは『本命』じゃないから殺してないだけ、とか?」

土御門「かもな」

海原「しかしこの分だと、本命まではそう時間はかかりませんよ」

結標「先回りしたところでどうしようも無い気がするけど、どうするの?」

釧路「あんな奴を止められるのは第一位や第二位みたいなチート性能な連中だけだろうね」

土御門「一方通行に無理矢理動いてもらうしか無いか……」

海原「いくら彼が人間離れした能力の持ち主だからといって、入院中の患者にそれは如何なものかと」

土御門「……いや、待てよ?」
217 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/17(木) 23:31:14.66 ID:Q69.24Eo
──とある研究所。

地上部分を廃墟に偽装し、主要施設を全て地下に押し込めた研究所。その地下施設との唯一の連絡口。
そこに美琴と黒子が到着した時には、そこは既に破壊され蹂躙しつくされていた。

美琴「これだけボロボロにして死人が無いってのは奇跡的ね」

黒子「ですが、紙一重ですの。こんな事を続ければ、本当に死者が出てしまうのも時間の問題かと」

美琴「だったら、ここで止めてあげないとね……」

黒子「ええ」

美琴「──来るわよ!」

電磁気のレーダーに反応があったと同時、出入口を完全に塞ぐように電撃の檻を作り上げる。

錬「──っ!」

反応すら不可能な速度で走っていた筈の錬は、しかしその直前で難無く停止してみせた。
怒りと焦燥で塗りつぶされた表情が、二人の顔を見て少しだけ色を変える。

錬「どうしてあんたたちが邪魔するの」

美琴「まず最初に、佐天さんを助けてくれてありがとね」

錬「別に……危ない目に遭ったのも僕のせいだけど」

美琴「それは違うって分かってるでしょ」

錬「それでも、自分を許せないから」

美琴「ま、気持ちは解かるけどね。きっと私が同じ立場だったら似たような事をするだろうし」

錬「……できればあんたたちとは戦いたくないんだ。退いてくれないかな」

美琴「そういう訳には行かないわよ。これは佐天さんから頼まれた事なんだから」

錬「……涙子さんが?」

美琴「そうよ。だから私はここにアンタを止めに来た」

錬「そっか。涙子さんにはちょっとショッキングなところ見せちゃったからなぁ」

美琴「佐天さんから聞いた内容は『ちょっとショッキング』なんてものじゃなかったけどね」

錬「大丈夫だよ、誰にも死ぬ程の怪我はさせてない」
218 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/17(木) 23:32:22.51 ID:Q69.24Eo
美琴「その様子じゃ、佐天さんの頼みでもやめる気は無いみたいね?」

錬「うん。そうじゃなきゃ涙子さんを守れないから」

美琴「……今のあんたは危険過ぎるわ」

錬「じゃあ……無理矢理にでも通るしか、無いかな」

腰だめにナイフを構えた錬から向けられた視線を受け止め、美琴は思う。
かつて一人でテレスティーナのところに乗り込もうとしていた時の自分は、こんな濁った目をしていたのだろうかと。

美琴「通すわけ無いでしょ!」

そう叫んだ美琴の視界から、錬の姿が掻き消える。
それと同時、意識が向くよりも先に、薄い電撃の膜が美琴の右半面を覆った。

少年の能力は解かっていないが、反応出来ないスピードで動けるという事は織り込み済み。
故に、電磁気のレーダーに反応して自動的に反撃するようにプログラムしておけばいい。

錬「っ!」

身体能力制御によって5倍速の動きを得ている筈の錬が、面食らってバックステップを踏む。
明らかに美琴本人が反応するよりも早く、電撃が錬に襲いかかってきていた。

錬「その、自動的に迎撃するような能力って流行ってるの?」

これまでに彼が相手にしたのは暴走状態の釧路帷子、そして第一位の一方通行。
いずれも相手の攻撃に対して自動反撃の手段を持っていた。

そして今、目の前にいる御坂美琴も同様に、意識が反応する前に反撃する事を可能としている。

美琴「そうでもしないと、そのスピードに封殺されちゃうでしょ」

そう余裕を見せる美琴の額には一筋の汗が流れていた。

美琴(つっても……早く終わらせないとまずいわね)

自動反撃に使う演算には電磁気のレーダーとの連動が不可欠。
更に一方通行ほどの演算能力を持たない美琴にとっては、その演算を続けるだけでも脳に相当な負担を強いる事になる。

二人の睨み合いが呼んだ静寂を打ち払ったのは、もう一人の少女の勇ましい声だった。

黒子「わたくしの存在も忘れてもらっては困りますの!」
219 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/17(木) 23:32:57.75 ID:Q69.24Eo
──とある病院。

土御門「百合子……いや、『進入禁止』と呼んだ方がいいのか? 気分はどうだ」

百合子「……悪くは、無いですね」

一方通行「これで義足だろうが関係なく、思い通りに動けンだろ?」

百合子「でも、いいンですか?」

一方通行「俺がいいって言ってンだからいいンだよ」

土御門「にしても、服までお揃いにする必要はあったのか?」

百合子「気分の問題です。これから私がするのは、本来なら『一方通行』がする筈の仕事なンですから」

土御門「そういうものか」

一方通行「よくわかンねェなァ」

百合子「元はと言えば私が調子に乗りすぎたせいですから。しっかり『仕事』はこなして来ますよ」カチッ

一方通行「おォ、とっとと行って来い。そンでとっとと戻ってきて『ソイツ』を返しやがれェ」

百合子「はィ。それじゃ……行ってきます!」ダッ

一方通行「フン……」

土御門「……なんだ、良い妹じゃないか」

一方通行「あァ? あのカエル顔に眼でも見てもらった方がいいンじゃねェのか?」

土御門「いや、もっと素直じゃないというか、極度のひねくれ者を想像してたもんでな」

一方通行「ンだそりゃあ、俺がひねくれ者だっつってンのかァ?」

土御門「その通りだ。……いやー、今ならボコられる心配が無いから好き勝手言えるにゃー」

一方通行「ンだとォ!?」
220 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/17(木) 23:33:30.00 ID:Q69.24Eo
土御門「重度のロリコンだとは思ってたが、一方通行にもシスコン属性がついたかと思うと感慨深いんだぜい」

一方通行「おい、チョーカー戻ってきたらどうなるか解かってんだろうなァ!?」グッ

土御門「にゃはは、だったら余計に今のうちに普段のお返しをしておくとするかにゃー?」ガシッ

一方通行「くっ、離せェ!! 離せっつって……いやおい待て!」

土御門「ベクトル操作が使えないと、本当に無力だな」グイッ…サワサワ

一方通行「なんか手つきがおかしいンですけどォ!? おォい、土御門くゥン!?」

土御門「どうした、ひょっとしてこういうのは初めてか?」ググッ

一方通行「やっ! やめろォ! ぶっ殺すぞテメェ!!」ジタバタ

土御門「フッ、冗談だぜよ。なーにをそんなに顔を真っ赤にしてるのかにゃー?」パッ

一方通行「……殺す! ぜってェ殺す!!!」ブンッブンッ

土御門「にゃー!? 病院で暴れるのはやめるにゃー!?」ヒラリヒラリ

結標「……急ぎだっていうからわざわざ連れてきたのに、何をやってるのあなたたちは」

一方通行「『たち』じゃねェ! 悪ィのは明らかにこの変態ホモ野郎だろうが!」

土御門「ちょっとしたスキンシップだにゃー」ケタケタ

結標「まぁあなたたちがどんな趣味を持とうが干渉するつもりは無いけど、せめて人の見てないところでやってね?」

土御門「なんだかすごい誤解を受けてる気がするにゃー」

一方通行「オマエのは誤解じゃねェだろォがよォ!」

土御門「さてと、ふざけるのはここまでにしておこう。結標、戻るぞ」キリッ

結標「はいはい」シュンッ

一方通行「えァ? ちょま……、何なンですかァ!? 納得いかねェぞ、おいィ!?」ポツーン
221 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/17(木) 23:35:23.37 ID:Q69.24Eo
──とある研究所。

錬(「チューリング」を常駐。「アインシュタイン」を簡易常駐。──容量不足。「サイバーグ」を強制終了)

佐天涙子の誘拐犯から聞き出したところから、本命の命令を出したのはどこなのかと転々と破壊してきた錬である。
最初に襲撃した研究所の関連施設は5つ。
距離的に近い場所から順番に回っていった結果、最後に残った一つが本命だという消去法になってしまった。

しかしここまで1時間もかかっていないし、錬の持つナイフで「サイバーグ」の自己領域展開を使える限界もまだ3分はある。
そしてこれが最後の施設。

錬(ここを壊せば、魔法士を狙う奴らは、とりあえず消せる。……皆を守れる)

──実のところ、錬には「独力で誰かを守った」という経験は無い。

そもそも。錬が守ると、傍に居ると決めた少女──フィアは、ただ守られているだけの無力な少女では無い。
仮に本気で一対一で戦ったら勝てない。錬本人がそう認める程に、強い。

同調と呼ばれる彼女の能力は、もちろん弱点はあるし、およそ戦闘には不向きな能力だが、それだけの力を秘めている。

錬(強ければ守らなくてもいい……? そんな訳無いだろ)

シティ神戸が崩壊した時も。
錬は多くの人の協力を得られた。最初こそ敵対したものの、世界最強の『黒衣の騎士』と謳われる魔法士の協力すら得られた。
そして、フィアに助けられていなければ錬は命を落としていただろう。

シティロンドンで世界樹が暴走した時もそうだ。
『最強の人形使い』に唯一の『龍使い』、それに世界で3隻しか存在しない雲上航行艦を持つ『異端なる空賊』。
様々な人と協力した。そして知らず知らずの内に、やはりフィアに助けられていた。

シティニューデリーで、自らの余命が短い事を悟ってマザーコアにその身を捧げる決意をした人を助けた時はどうか。
生まれて初めて同じ『悪魔使い』に出会ったというのに、目先の事に捕らわれて場当たり的に戦っただけではなかったか。
役割の大きさだけで言えば、マザーコアの交換作業を受け持ったフィアの方が余程大きいとすら言える。

それらに比べて。佐天涙子は正真正銘に、無力な少女だった。
そしてここには錬を助けてくれる人々は居ない。
けれど、錬は彼女を守りたいと、そう思ってしまっている。

──誰一人として守った事の無い自分が、誰かを守る事ができるのか?


錬(本当は、僕には誰かを守るなんて資格は──)


そこから先は考えてはいけない。
そんな警告が脳裏を掠めて、錬は頭を振ってから屋上の床に穴を開けて侵入した。
222 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/17(木) 23:36:10.39 ID:Q69.24Eo
──とあるグループ。

結標「まったく、人をタクシー代わりみたいに使わないでくれる?」シュンッ

土御門「いつも悪いにゃー」

結標「悪いとは思っても使うのはやめないわけね」ヤレヤレ

海原「よく一方通行が了承しましたね」

土御門「あいつなりに今回の件に責任を感じてるんだろう。少しはお前にも責任を感じて欲しいものだがな」

海原「勝手に指示を出した事については何度も謝っているでしょう」

結標「はいはい、時間が無いんだから下さない口論はやめて。状況は?」

釧路「常盤台の二人組も追いかけてるみたい。……どこから情報を得てるのかね」

土御門「それも想定内だ。最初に人質に取られていた佐天涙子は超電磁砲のお友達だからな」

海原「さて、一方通行のクローンは間に合いますかね?」

土御門「あの様子なら心配無いだろ。それよりも……結標、もう一仕事頼まれてくれないか? ついでに釧路も一緒に頼む」

結標「はぁ、別にいいけど」

釧路「私にできる事があるの?」

土御門「だから行かせるんだ。あのトチ狂ったガキと止めるためにはまだ鍵が足りない。……忘れ物を届けてやらないとな」

海原「鍵……ですか?」

結標「思わせぶりな言い方してないで、とっとと話したら?」

土御門「まぁ時間も無いしな。手短に話すとしよう──」
223 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/17(木) 23:37:04.09 ID:Q69.24Eo
──とある研究所。

進入禁止──もとい百合子が研究所に到着した頃には、既に建物の至る所から煙を吹いていた。

百合子「あらァ、随分と派手に……」

火事にはなっていないところを見ると、逆に『犯人』の冷静さを見せつけられて薄ら寒い気分になる。

しかしそれでも、今の自分には彼を止めるだけの力がある。
自分の攻撃によって傷を負い、満足に動けない『兄』に代わってその力を振るわなければならない。
だからこそ、力の使い道を間違えてはいけないという責任感が百合子に伸し掛っていた。

百合子「……大丈夫。私を生かしてくれた人を裏切るわけにはいきませンからね」

グズグズに崩れていた筈の右腕も、あの胡散臭いカエル顔の医者のおかげで調子は良い。
左足につけた特製の義足も、ベクトル操作によって本物の足よりも具合が良いほどによく動く。
目を閉じて深く呼吸をしてから、百合子は施設の入り口にたった。

百合子「……まだ間に合えば良いンですけど」

土御門からの連絡からすると、突入はほんの2分前だという。
この施設が他よりも警備が厳重だとしても、一つの施設を平均8分で潰して回った少年だけに、ぐずぐずしている暇は無さそうだ。

『グループ』の情報網は優秀だ。この施設の構造は既に頭に叩き込んである。
魔法士を洗脳して超能力者に仕立て上げよう、などと言う短絡的でバカバカしい実験を行おうとしていた事すらも、
その情報網には簡単に補足されていた。

しかし今はそれは関係ない。ただ、常識知らずで加減を忘れた魔法士を懲らしめてやるというだけだ。

百合子「それじゃ……テンション上げて行きますかァ!」

主に自分を奮い立たせる意味を込めて、それをわざわざ言葉にして吐き出してから、百合子は地を蹴った。


──2分後。

錬が突入してから4分が経過した頃、二人の少女が研究所の前に到着していた。

黒子「これはまた……」

美琴「随分と派手にやったもんね」

ほんの数分前までは正門の鉄扉であっただろう分厚い鉄板がひしゃげているのを目にして、思わず溜息がこぼれる。
それをやったのが錬ではなく百合子であるという事を、二人は知らない。
だから本命のこの場所は跡形もなく潰すつもりなのだろうかとすら思わされてしまう。

美琴「黒子、施設の内部構造は覚えてるわね?」

黒子「お任せください。黒子は必ずやお姉様の期待に応えてみせますの!」
224 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/17(木) 23:37:39.18 ID:Q69.24Eo
──研究所内。所長室。

一人の少年が、大の男──この研究所の所長であろう──を目の前にしてナイフを突き付けていた。

錬「あんたが、僕の脳みそを欲しがってる人だよね」

所長「ひ、ひぃ!?」

錬「あんまり問答を続ける気は無いんだ。だから……死んでくれる?」

言いながらナイフを目の前の喉元に突き立てようとして──動かない腕に首を傾げる。

彼は人を殺したことがある。
それは、たった一人の少女を助けるためにシティ神戸の一千万人を見殺しにするといった、信念に基づいた事情ではない。

まだ無人の研究室で培養槽の中に浸かっていた頃。
今でこそ兄、姉と慕う双子と出会う前、錬の前には様々な者が訪れていた。

例えば、情報制御理論を組み上げた功労者の内の一人である天樹健三の最後の「作品」を回収しにきた科学者。
例えば、錬のその特異な能力を我が物にしようとしていた研究員。
例えば、敵対勢力に身を寄せていた天樹健三の忘れ形見を亡き者にする為に派遣された兵士。
例えば、錬を軍事力に利用しようとしていた無能な政治家。

それら全てが、「彼を殺そうとする」か「彼に殺させようとする」かだった。
その全てを、彼は培養槽の中から殆ど無意識の内に殺してきた。

数を数える事すら嫌になる程に、大勢の人間を殺してきた。
殺したという記憶も自覚も、厳然として脳の記憶野に焼き付いている。

ならば今更、何を躊躇うことがあるのか。

錬「──っ!!」

だというのに、腕は一向に動く様子を見せない。
腕をほんの10cm前に動かすだけで、彼を利用しようとしているこの男は死ぬ。
その最小限の命令を、彼は下すことができないでいた。

錬(何かを、忘れている気がする。何か、大切なことを──)

所長「こ、殺すのだけは! もう君たちに手を出さないと約束する! だから殺さないでくれ!!」

逡巡する錬を現実に引き戻したのは、目の前の男の醜悪な声。

錬「……人を殺そうとしておいて、今更それは虫が良すぎるんじゃない?」

改めて手に力を込めようとした時、部屋の扉が大きな音を立ててぶち破られた。

百合子「おっとォ、あぶないあぶない。何とか間に合ったみたいですねェ?」
225 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/06/17(木) 23:39:17.58 ID:Q69.24Eo
今日は以上です。
思った以上に視点がコロコロ変わっててもにょる。

次は日曜の夜辺りに投下できると思います。
226 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/17(木) 23:55:59.26 ID:Vq3hoxAo
乙!
なかなか読みごたえあるな
227 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/18(金) 00:25:19.80 ID:vYlaYyY0
錬vs黒子はどーなったの?
228 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/18(金) 00:28:00.08 ID:CVLh2eUo
確かに>>218の黒子のセリフの後が気になる
229 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/18(金) 00:34:38.36 ID:UwyZHr.o
ぐへぇ、また抜けをやらかしててしまったorz
>>218-219の間に以下が入ります

睨み合いを隙と見た黒子が動く。その動きは最小限、右手で太腿を一撫でしただけ。
それだけの動きでありながら、錬の足の甲を貫通して地面に縫い止めるように二本の矢を空間移動させていた。
普段ならそんな危険な手を使いはしないが、今はそんな事を言っている場合では無い。

錬「……忘れてはいないよ」

しかし、錬はそれを左右一歩ずつ下がるだけで余裕を持って回避してみせる。

黒子「避けた……ですって!?」

錬「11次元座標ってさ。干渉できないだけで、知覚はできるんだよね」

美琴「……それも、『情報の海』って奴のおかげって訳?」

右手に電撃を溜めながら、美琴が深く腰を落とす。
入り口を塞いでいるのが自分である以上、ここを動くわけには行かない。

錬「そんな所。如何に次元が違ったとしても、そこに『ある』っていう情報は変えられない」

美琴「でも、私がアンタを通さないっていうのも……変わんないわよ!!」

言いながら、出入口の前の小さな広場全てを覆うような広範囲に電撃を放つ。
どんな高速移動ができたとしても回避は不可能な筈。

しかし。

美琴「なっ!?」

床から生えた腕が避雷針の役割を果たし、その広範囲にばらまいた筈の電撃を吸収していた。
それだけに留まらず、美琴の視界から錬の姿が消えている。

錬「悪いけど……通してくれないんじゃ、しょうがないよね」

美琴「っ!!」

視線を左に向けると、壁に直径1m程の穴を開けて潜ろうとしている錬の姿があった。
それを見た美琴が慌てて電撃を撃つも、それより早く壁を抜けて外に脱出してしまっている。

美琴「ちっ!」

振り向いて外に出た時には、錬の姿は既に掻き消えるようにその場から無くなっていた。

美琴「絶対止めるって約束したのに……!」

黒子「お姉様、まだ終わってはいませんの!」

項垂れようとしていた美琴の肩に手を置き、黒子が強い意志を込めて美琴を見る。
美琴もまたそれに応えるように、力強く頷くのだった。
230 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/06/18(金) 00:40:08.99 ID:UwyZHr.o
凡ミス大杉で死にたい
231 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/18(金) 00:41:17.14 ID:CVLh2eUo
気にすんな乙!
232 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/20(日) 22:16:59.18 ID:PYCqImoo
今日の分投下開始します
233 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/20(日) 22:18:15.39 ID:PYCqImoo
吹き飛んだ扉の向こうから現れたのは、一方通行のクローンだという少女だった。

錬「っ!」

一方通行に為す術も無く昏倒に追い込まれた記憶が蘇り、錬は反射的にナイフを引いて少女に向かって構え直す。

所長「た、助かっ──だげぁ!?」

百合子「別にそこのゴミ虫が死のうがどうでもいいンですけどね。アナタに殺させるわけにはいかないンですよォ」

ここぞとばかりに逃げようとしていた男を容赦無く蹴り飛ばし、錬に向かって凶悪な笑みを浮かべる。
蹴り飛ばされた男はと言えば、壁まで吹き飛ばされて後頭部を強打したのか、気を失ってしまっていた。

錬「一方通行……いや、進入禁止かな。どうして邪魔をするの?」

百合子「理由なンてどうでもいいンですよ。私は私のやるべき事をやるだけですからねェ!」

言うが早いか、百合子は足元にあった椅子を蹴った。
その瞬間に粉々に解体された椅子の部品が飛礫となって錬を襲う。

錬(「氷盾」発動。──ゴーストハックをオートスタート)

百合子「っ!」

氷の盾で礫を防ぎながら、百合子の足元に直接コンクリートの腕を生やす。
足の底面のベクトルを変換していない百合子は為す術も無く、コンクリートの腕と天井とのサンドウィッチになった。

相手が無能力者なら即死であろうその攻撃を、しかし百合子は文字通り蚊に刺されたほどにも感じていない。

百合子「だァから効かないって解かってンでしょォが!!」

コンクリートの腕を蹴り破って、既に百を超える氷の槍を展開していた錬に向かって突進する。
氷の槍が何百何千と向かって来ようが、一方通行と同等の性能を持つ百合子の驚異にはなりえない。
それは一方通行が天樹錬を倒した事で証明済みだった。

錬(「ラプラス」を常駐。──「チューリング」を強制終了)

百合子「──ぎっ!?」

射出される前の氷の槍の中を通過しようとした瞬間、想定外の攻撃が反射を抜けて百合子の肩を強烈に叩きつける。
息が止まりそうになるが、吹き飛ばされてから姿勢を整えて壁に着地した。

百合子「今のは……!」

その感覚には覚えがあった。
なにしろ、つい24時間ほど前に、オリジナルの一方通行にやられた事と同じだからだ。
234 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/20(日) 22:19:29.70 ID:PYCqImoo
魔法士の少年がやったのは、停止状態にある氷槍に百合子が触れる、その直前に外側へと急加速させたというだけの事。
反射膜に触れた槍のベクトルが反射され、結果的にそれが百合子に対しての攻撃ベクトルとなる。

とはいえ、そのタイミングは本人でもない限り掴むことができない筈だった。
故に一方通行は多重の反射膜を無効化するベクトル演算をして、一度静止した後で再度ベクトル操作を行っていた。
腕を壊さないためだという理由も大きかったが、クローンですらタイミングが掴めないというのが最たる理由だった。

錬「あんたは僕の脳に繋いでた。あんたが何をできるか、何ができないか、何をやってくるか、手にとるように解かるんだよ」

それに加えて、短気未来予測デーモン「ラプラス」による予測が加わることで、錬は百合子の動きを完全に把握している。
もしも一方通行本人が相手だったらまず使えない手法が、しかし同じ能力を持つ少女には有効に機能していた。

百合子「──っ! そンなの、偶然に決まってます!!」

対して、百合子にとっては理屈では理解しても、そう簡単に信じられるものでは無い。

再び地を蹴って錬に向かって突進し、そして同じように吹き飛ばされた。

錬「だから、邪魔しないでくれない? その人を殺すだけで、僕を狙ってくる人は居なくなるんだ。
 別にあんたを傷つけたいわけじゃない」

百合子「くっ……」

攻撃をしようとすれば、反射を逆手に取られた反撃を受ける。かといって反射を切るわけにも行かない。
礫による攻撃をしかけても、魔法士の反応速度では全くダメージを与えられないだろう。
防戦に徹するしか無いかと考えた瞬間、百合子のこめかみに接触するかしないかのギリギリの空間に窒素の結晶が生成された。

百合子「がァっ!!」

自分でも驚く程の反応速度で腕が動き、生成された氷の槍を打ち砕く。
しかし。

錬「防戦一方になったらどうなるかは、解かってるでしょ?」

気付けば、その背中に氷の槍が突きつけられていた。強烈な冷気だけが百合子の背を舐めるように滑り降りて行く。

百合子「……これで、私の動きを封じたつもりですかァ?」

余裕のないギコチない笑み。しかしその目は死んではいない。

錬「……諦めるつもりは無いんだね」

その言葉が終わる前に、再び床を蹴る。
当然のように背中の槍が加速し、その反射ベクトルが百合子の体を貫いた。

百合子「──っだ! ……らぁあああああ!!」

二本ほど肋骨の根元にヒビが入ったのが分かるが、それでも百合子は止まらない。
歯を食いしばって痛みに耐え、そのベクトルを推進力に利用すらして錬に向かって跳んだ。
235 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/20(日) 22:20:22.35 ID:PYCqImoo
馬鹿正直に正面から、三度目の突進をかける。

そうしてまた同じように、氷槍の逆反射によって吹き飛ばされる──

錬「っ!?」

──筈だった。

氷の槍に百合子の足が触れる、間違いなく完璧なタイミングで加速させている。
しかしそのベクトルが反射される様子は無く、彼女の『左足』が錬に襲いかかった。

錬「義足……!!」

ベクトル操作は体表面のみに作用するが、当然ながら義足はそれには含まれない。
そしてその義足自体はベクトル操作によって自在に動かせる。

それが例え人体には耐えられない速度だったとしても。

そう気付いた時には既に目の前まで義足が迫っていた。
ナイフの腹で受け止めた錬は、それが持つ異常な硬度に目を見開く。
ともすればチタン合金に迫ろうかというその硬度に、音速をも超える速度。
まともに受ければ腕ごと肩まで持っていかれる威力になる。

錬(「アインシュタイン」常駐。──重力方向を改変)

体を軽く浮かせ、更に衝撃が伝わる前に後方に向かって翔ぶように重力を操作、直後に壁に着地できるように操作する。
強烈なGによって三半規管が悲鳴を上げ、視界の色が失せる。それでもあの蹴りをまともに受けるよりはマシだ。
I−ブレインの発する警告を無視して視線を戻すと、蹴り上げるように足を振り切った少女は未だに着地していない。

錬(なら……。──空間曲率の制御を開始)

着地点の義足に限定して、重力を歪めて空間の穴を作り出した。
金属が捩じ切れる独特の不愉快な音を立てて、真っ黒な穴『次元回廊』に義足の膝上までが消えて行く。
どんな硬度を誇ろうとも、その空間の断裂の前では無力だった。

百合子「なァっ!?」

両足で着地するはずだった百合子が無様に転倒し、信じられないような表情で錬の方を見ている。

錬(「マクスウェル」「ラプラス」常駐。「氷槍檻」発動準備。──容量不足。「アインシュタイン」を強制終了)

追い打ちをかけるように、倒れた百合子に接触する位置に無数の氷槍が配置される。
彼がI−ブレインにもう一つコマンドを打ち込むだけで、それは放射状に加速され、
反射ベクトルによって百合子の体は滅多打ちにされるだろう。

錬「ひょっとして、同じ『悪魔使い』だからって同じ能力を持っている……なんて思ってた?」

百合子「っ!」
236 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/20(日) 22:21:53.95 ID:PYCqImoo
錬「……もう良いでしょ? 降参してくれないかな」

彼女が降参などしない事を理解していながら、それでも錬は勧告した。

百合子「するわけ無──」

錬(「氷槍檻」発動)

百合子の言葉が終わる前に、I−ブレインに攻撃のコマンドを叩き込む。
鈍い音が無数に響き、百合子は悲鳴も上げられずに木の葉のように宙を舞う事になった。

空中で二転三転し、百合子が意識を手放すまいと足掻けば足掻くだけ痛みは増していく。
ようやく床に降りた時には、既に全身に打撃を受け、骨も相当数がイカレてしまっている。

錬「いくらベクトル操作できても、さすがにもう動けないよね」

百合子「ぐっ……ゥ……!!」

全身に無数の内出血。手足の骨には至る所にヒビが入り激痛を生んでいる。
激しく動かせばそのまま折れてしまうものもあるかもしれない。

百合子「だからってェ……!!」

それでも、諦めてなるものか。だからといって諦められない。けれど、体を動かそうとする度に痛みが走る。
痛みが演算の邪魔をする。こんな状態で、どうすればこの少年を止められるのか。

美琴「そこまでにしときなさい」

倒れている百合子の傍らに二人組の少女が現れ、悪魔使いの少年を睨みつけていた。
それを見て『助かった』と思ってしまった自分に嫌気が刺す。
耳の奥に、心の折れる音が聞こえた気がした。

錬「ああ、結局追ってきちゃったんだ」

美琴「やっぱり、今のアンタは危険過ぎるわ」

一方は錬に対して構え、威圧するかのようにバチバチと放電し、

黒子「何とか間に合ったようですわね」

もう一方は部屋の隅で倒れている男の無事を確認し、胸を撫で下ろしている。

美琴「……黒子、とりあえずその人をお願い」

黒子「はいですの!」

視線を向けずにパートナーに指示を飛ばしながら、美琴は油断無く錬の動向に注視する。
二人が睨み合っている間に、空間移動の少女は倒れた男に手を触れるとどこへとも無く姿を消した。
237 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/20(日) 22:22:47.10 ID:PYCqImoo
錬(「アインシュタイン」を常駐。「マクスウェル」「ラプラス」を強制終了。質量感知──)

その行方を追おうとした錬の思考を遮るように、美琴が口を開く。

美琴「アンタの知覚範囲は100mちょっとなんでしょ。黒子ならもうその範囲外に行ってるわよ」

黒子の能力では一度の空間転移できる距離は81.5mほど。一度の転移におよそ1秒弱の演算を必要とする。
こうして話している間にもそれを繰り返して、魔法士の知覚の外に出ている筈だ。

錬「……元の世界では、数キロ圏内で知覚できてたんだけど」

美琴「なら、これで終わりにしましょ? あの男だって、もうアンタを狙おうなんて──」

錬「どうしてそんなに知覚範囲が狭まったのか。もう原因は解かってるんだよね」

美琴「なっ……」

錬「AIM拡散力場。幻想代入のプロトコルにも使われてたね。誤差としか言えないような小さな力だけど……
 それが少しずつ物理干渉してるのを、僕らは知らなかった。当たり前だよね、元の世界には能力者なんて居なかったんだから」

そこまで聞いて、美琴は不自然な事に思い当たる。

美琴(この子、どうして……)

錬「でも、今はそれを含めて計算できる。それでも、僕には力場を知覚できるわけじゃないから不安定だけどね。
 今はここから北北東に800mくらい……あ、また移動した。この様子だと、風紀委員の支部にでも匿うのかな」

何故、そんな事をベラベラと話しているのか。
この状況で、どうして美琴に対して自分の能力を話す理由が見当たらない。
時間を稼ぎたいのはむしろ美琴の側であって、この少年にしてみれば、すぐにでも黒子を追いたい筈。

美琴「……御名答ね」

むしろ、黒子や釧路をセブンスミストから助けたという空間移動のような能力を使って追い付いてしまえば詰みだ。
では何故そうしないのか。そうできない理由があるのか、そうしない理由があるのか。

錬「そういうわけで、追いかけたいんだけど……通し──」

少年の言葉に割り込んで、美琴が口を開く。

美琴「本当は、止めて欲しいんじゃないの?」

吐き出された言葉は、錬の動きを縫いとめるに充分な力を持っていた。
238 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/20(日) 22:23:35.56 ID:PYCqImoo
錬「なにを、馬鹿な……」

ゆっくりと振り向いた少年は余裕という表情を貼り付かせたままで、明らかに顔色が変わっている。

美琴「こんな話をしてる間に、アンタの能力なら既に黒子に追い付くだって可能でしょ?」

錬「人を魔法使いみたいに言わないでよ。魔法士はそんなに万能じゃない」

美琴「黒子をセブンスミストから助けた時、空間移動みたいな能力を使ってたんでしょ。それを使えば、
 私の事なんて無視して追い付ける筈。仮に遮蔽物を無視できないなら、壁を抜けて離脱すればいいだけ」

錬「その間に、あんたの攻撃が来るじゃないか」

美琴「……ま、口ではどうとでも言えるわよね」

錬「お互い様だね。それで、結局のところ退いてはくれないんでしょ」

美琴「当たり前でしょ」

ギリッと奥歯を噛んで、美琴は軽く腰を落とした。
やはり自分には口先で誰かを止めようというのは向いてないらしい、等という自嘲をしている余裕も無い。

視界の隅には一方通行のクローンだという少女が映っている。どうしてここにいるのかという疑問は捨て置いた。
あの様子ではもう動けまい。目の前の少年を睨みつけて、もう一度力強く宣言する。

美琴「今度は、絶対に逃がさないわよ!」

錬「こうなると思ってたよ」

美琴の周りを纏っていた紫電が額に集中し、錬に向かって放たれる。
重力制御によって空間を歪め、最小限の移動でそのビームにも似た電撃を回避した。

錬「っ!」

しかし、後ろに抜けた筈の電撃が、一旦滞空してからその向きを変えて再び錬に襲いかかる。
更に、それを撃った当人は2発目の予備動作に入っていた。

美琴「逃がさないって言ってんでしょうが!!」

レーダーと連動して標的を自動追尾する電撃。
しかしその膨大な演算は美琴の脳に多大な負担を強いる。
それも複数を維持するとなれば、第三位の演算能力をもってしても長くはもたない。
2発目を射出すると同時に更に3発目の電撃を生み出した。
239 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/20(日) 22:25:25.32 ID:PYCqImoo
錬(「マクスウェル」「チューリング」常駐。流体操作開始。ゴーストハックをオートスタート)

反射的に分子運動制御によって空気を操作して、自身の周りに真空の層を作りだす。
電気を通しやすい金属の床であれば電荷を少し調節するだけで誘導できるが、コンクリートではそうはいかない。
抵抗の低い真空の層を作り出す事によって電気を誘導してからどこかに逃がす必要があった。

反転してきた電撃と2発目の電撃が、コンクリートの腕を破壊しながら床へと吸い込まれていく。

錬(「ラグランジュ」「ラプラス」常駐。──容量不足。「マクスウェル」「チューリング」を強制終了)

それでもお構いなしとばかりに美琴が3発目の電撃を撃つのと、錬が逆に美琴の電撃に対して床を蹴るのは同時。

電撃が命中するかと思われた直前、錬が投擲していたナイフがその電撃を吸収した。
自動反撃で発生した電撃をも吸収し、電荷が飽和して紫電を撒き散らしながら美琴の頬を掠め──同時に鳩尾に鋭い衝撃。

身体能力を5倍にしている錬の拳が、正確に鳩尾を打ち抜いていた。

美琴「──っ!!?」

あまりの衝撃に呼吸が止まる。美琴が状況を理解する前に背後の壁に叩きつけられて、今度こそ肺が動く事を拒絶する。
それでも演算はやめない。やめるわけにはいかない。

脳が酸素を寄越せと悲鳴を上げる。意識を手放せと要求してくる。
もう無理だ、演算なんてできやしない、と気勢を上げて美琴の意識を飛ばしにかかる。

美琴(──だから、どうした!!)

それらを意志の力でねじ伏せて、美琴は強引に4発目の電撃を放った。
誘導をする余裕もないし、そもそもこの距離でならそんなもの必要は無い。
3発目までの気絶させる程度の電撃ではない、体のどこかに障害が残るであろう事は免れないであろう威力。

美琴(私は、佐天さんと約束したのよ……こいつを止めて見せるって!!)

しかし。

錬(「サイバーグ」常駐。自己領域を展開)

電撃が錬に届くよりも早く、その姿が掻き消えた。
240 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/20(日) 22:26:43.00 ID:PYCqImoo
雷が落ちる速度はおよそ秒速150km〜200km。とはいえ、それは電子が空気中の先駆放電路を駆け抜ける速度であって、
美琴の放つ、先駆放電の無い──正確に言えば、極短時間に先駆放電路を作りながら進む──電撃はそれよりも遥かに遅い。
対して錬が自己領域を展開した時の速度は光速の70%。秒速にして21万kmという途方もない速度となる。

美琴「嘘……でしょ……」

あの電撃は一撃必殺と言っていい威力を備えていた。
如何に高速な移動ができたとしても避けられる距離では無いと思っていた。

だというのに。

部屋の調度品を消し炭にして、窓ごと壁を撃ち抜いて、その通り道にあった物を全て破壊された痕跡。
その傍らに、少年は何事も無かったかのように立っていた。

錬「……今ので最後かな」

言いながら、錬は美琴の頭上に突き立っているナイフを引き抜いていた。
絶好の隙だというのに、美琴の体は動かない。脳も言う事を聞かないし、軽い放電すら起こせない。

錬「死にはしないとは思うけど……あんまり動かない方がいいと思う。無理矢理動いたら、きっと内蔵を痛めちゃうから」

そんな的確な少年の気遣いが、今は逆に腹立たしい。

美琴「女の子を、本気で殴るなんて……アンタ、最低ね」

それは軽口ではない。少しでも少年をこの場に縫い止めようと、言葉を吐き出した結果だった。
肺が重い。一言を吐き出すだけがこんなにも重労働に感じたのは、美琴にとっては生まれて初めての経験だった。

錬「下手したら死ぬような雷を撃ってくる人に言われたくないかな」

しかしその少年は、濁った瞳を向けて苦笑した。

美琴「そうでも、しないと……。アンタは、止められないでしょ。……そうまでしても、止められなかったけど」

錬「……ごめんね、美琴さん」

そう言って歩いていくかと思われた少年が一歩を踏み出して、その動きを止める。

美琴が視線だけそちらに向けると、三つの人影があった。
241 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/20(日) 22:27:51.23 ID:PYCqImoo
結標「滑り込みセーフってところかしらね」

釧路「……ほんとにコレが私を助けたのと同一人物なわけ?」

佐天「これ……錬くんがやったの……?」

忽然とそこに現れていた三名が、三者三様の感想を漏らす。

錬「どうして、ここに?」

その質問に最初に答えたのは、座標移動の少女。

結標「ちょっと仕事をしに。悪いけど釧路は自分の足で帰ってね」

言うが早いか、結標は錬の脇を通り過ぎて奥の部屋へと歩いていった。

釧路「……まぁあれは放っておくとしてさ、何やってんの貴方」

言いながら一歩前に出る釧路に、錬は気圧されて一歩下がる。

錬「こんなところに来るんだったら分かってるんじゃないの」

釧路「別に貴方を狙ってる奴らを始末してるとか、そういう事を聞いてるんじゃないんだよ。解かるでしょ?」

もう一歩踏み出すと、同じように錬も一歩後退する。

錬「……」

釧路「もう一度聞くけど、何やってんの?」

更に一歩、釧路が踏み出す。
錬もそれに合わせて下がるが、二人の距離は少しずつ小さくなっている。

釧路「何人も殺して、自分どころか一般市民を巻き添えにして殺そうとしたテロリストを
 『苦しそうだったから』なんて理由で助けた貴方が、何をやってるのかって聞いてんの」

錬「……あいつは殺さないと、僕だけじゃなく、皆の命が危な──」

搾り出すような声が最後まで続く前に、乾いた音が辺りに響く。
気付けば釧路の掌が錬の頬を捉えていた。

それは避けられない速度では無かった。ただの、何の変哲もない平手打ち。
けれど、錬にはそれを避けることが出来なかった。
242 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/20(日) 22:28:53.54 ID:PYCqImoo
釧路「寝惚けたこと言ってんじゃねぇぞクソガキ!!」

突然とは到底言えない、その必然の怒号に錬の肩がビクりと震える。

釧路「お前、今どんだけ支離滅裂な事言ってるか解かってんのか?」

錬「解かってるよ……解かってるけど!!」

それは叫びというよりは咆哮に近かった。
誰かを守るというのはどういう事なのか。誰かを殺すというのはどういう事なのか。
理解している筈なのに感情が追いつかない、その齟齬が埋められない故の、言葉にはできない心の声。

佐天「解かってないよ!!」

その錬の叫びに匹敵する程の声で、佐天が叫ぶ。

錬「そんなこと──」

佐天「殺さなくていいんだよ!!」

無い、と続く筈の言葉は、更に大きな声に掻き消された。
直後。

カラン、と乾いた音が響く。錬の持っていたナイフが手から落ち、床に転がったため。

錬(──ああ、そうか。そうだった。……やっと思い出した)

かつて双子の姉弟が錬の元を訪れる直前に、彼が何を思っていたのか。


『もう殺したくない』


多くの心ない訪問者を殺してきて、心は摩耗してしまい、限界はとっくに過ぎていた。
それでも殺し続け、結局は誰一人として錬を人間とは見なさなかった。

殺し続けた果てに待っていたのは、この世界に自分の居場所など無いのだという絶望。
あの双子に家族として迎え入れられたのは、その矢先の出来事だった。


『もう、殺さなくていいんだよ』


錬(こんな簡単な事を、今の今まで忘れてたなんて──)
243 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/06/20(日) 22:30:48.22 ID:PYCqImoo
今日はここまでです。
原作であんまり語られてない部分を使いたかったつもりが、錬が暴走する動機付けが強引すぎて猛省中。
244 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/20(日) 23:11:52.92 ID:po1LSvEo
乙!
ウィザーズ・ブレイン読んでみようかな…
245 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/06/20(日) 23:45:14.35 ID:jj01gn.0
一気に読ませていただきました。すごくよかったです。

「身体能力制御」について気になることがあります。

>身体能力を5倍にしている錬の拳が、正確に鳩尾を打ち抜いていた。

騎士能力は、運動の速度が上がっても、威力は通常と変わりません。
(天の回廊 上 P208)
「五倍の威力で殴られた」とは書かれていませんが、これではそのように感じます。
「五倍の速度で接近した」「五倍の速度で振るわれた」ののように、速さを強調したほうが思います。


同じく錬 VS 一方通行のときも

>キンッ、と甲高い音と共に、錬の振り抜いた筈のナイフがあらぬ方向に飛んで行き、ビルの壁に突き刺さった。

錬の手から離れたナイフは運動加速が失われ、通常の速度で飛んでいくはずです。
246 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/21(月) 03:17:32.99 ID:k9BPSmw0
>>245
こまけえこたぁいいんだヨ
247 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/22(火) 00:45:06.89 ID:LBIG1bgo
乙ありがとうございます

>>245
前者については描写違い、描写不足でした。精進します。
ただ後者については、錬の斬撃を一方通行が反射した時点でベクトルが書き換えられているので、
そのままの速度で飛んでいくと解釈しています。判断が分かれるかもしれませんが、ご容赦を。

>>246
自分も他人の作品だったら同じ事を思っているでしょうけど、
やはり自分の作品なので「描写の齟齬は甘え(キリッ」の精神ということでひとつ。

仕事が立て込んでいるため、次は週末まで来れないので、少ないですが今日の分を投下します。
248 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/22(火) 00:46:15.58 ID:LBIG1bgo
それは本当に簡単な事だった。
彼の起源と言ってもいい。彼が『産まれた』と言っても過言ではない、あの日の出来事。

それを忘れてしまう程に、彼は佐天涙子を──

錬(──それほど大事に思ってたなんて、自分でも気付かなかったな)

佐天「……錬くん。……目、醒めた?」

錬「ごめん……どうか、してた」

そんな簡単な事のために、どれだけの人を傷つけただろうか。そう考えるだけで背筋が凍る。

美琴「あーあ。こんな事なら、黒子に送らせてないで一緒に来るんだったわね」

そのやり取りを見ていた美琴が、不満げに声を上げる。
しかしその表情は穏やかに笑っているのだった。

錬「うっ……」

それでも、錬は返す言葉に詰まってしまう。自分がやってしまった事を思うと詮なき事ではある。

佐天「あ、あのっ! 御坂さん!」

美琴「なーに、佐天さん?」

佐天「錬くんの事、許してあげてくれませんか?」

目の前の少女の思いがけない言葉に、錬は目を見開いた。
自分のせいで危険な目に遭った彼女に、自分を庇う理由など無い筈だと。

美琴「別にいいわよ。その子にどうこうして欲しくてやったんじゃないんだから」

佐天「さっすが御坂さん!」

錬「え?」

美琴「なに驚いてんのよ。っていうかむしろそうやってウジウジされる方が腹立つんだけど」

錬「は、はい」

美琴「っていうか、このレベル5の第三位を突破したんだからもっと胸を張りなさいよ」

錬「うう、ごめんなさい」

美琴「あーもう! だーかーらー!」

佐天「ぷっ」
249 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/22(火) 00:46:54.01 ID:LBIG1bgo
美琴が気にするなといい、錬が申し訳なさそうに謝る。
それに苛立った美琴が更に語勢を強めると、それに応じて錬が肩を落とす。
そんなやり取りがしばらく続いて。

気付けば百合子と結標の姿が無かった。既に結標の座標移動によって病院に連れていかれたのだろう。
釧路はと言えば眠そうに欠伸をしていた。

佐天「さってと、それじゃあそろそろ、帰るとしますか!」

満足げに頷いてから、少女はいつも通りの脳天気な調子で少年の手をとった。

錬「それなら、せめて病院まで美琴さんを送らせてよ」

佐天「それには賛成だね」

美琴「じゃあお願いしようかしら」

釧路「それじゃ、私はもうちょっとやる事があるから。天樹錬、もう自分を見失うんじゃないよ」

錬「うん。帷子さんもありがとう」

釧路「これで貸し借り無しね」

それだけ言って、釧路は歩いていってしまう。
大方、この施設のデータを根こそぎ破壊するつもりなのだろう。

錬「……さてと、それじゃ美琴さん、ちょっといい?」

美琴「うん? きゃっ!?」

壁に背を預けて座ったままでいた美琴を、錬が軽々と抱え上げた。

美琴「ちょちょっ、送るって言ったってこれはさすがに!」

前触れも無くお姫様抱っこをされた美琴が慌てて暴れようとするが、まだ体にうまく力が入らない。
かといって電撃を浴びせて落とされるのも困るので、大人しくするしかない。

佐天「あー御坂さんいいなー」

錬「じゃ、涙子さんも捕まって」

佐天「ほいほい」

美琴「いやだからちょっと待ちなさいって──」

錬「じゃ、飛ぶからしっかり捕まってて(自己領域展開──)」

文句を言う美琴を半ば無視したまま、錬は自己領域を展開してその場を飛び去った。
250 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/22(火) 00:47:49.69 ID:LBIG1bgo
──とある第一七七支部

初春「だいたいこんなところですね。というか今回は怒らないんですね?」

黒子「場合が場合ですの。固法先輩には言えませんけれど……」

初春「なんだかんだで、白井さんも友達思いなんですね」

黒子「当たり前ですの、わたくしはお姉様のパートナーですのよ! それに初春だって、今回の事は
 わたくしや固法先輩が止めたところで、とことんまでやるつもりだったのでしょう?」

初春「当たり前じゃないですか! 佐天さんをあんな目に遭わされて黙ってられるわけがないです!」

黒子「なら、こうするのが最善だったという事ですの──……さて。所長さん?」

所長「ひっ!?」

黒子「ふむ……つまり、魔法士をそのまま超能力者にしてしまおうという実験を企てていたわけですのね」

所長「も、もうそんな実験はしない! あんな殺人鬼だなんて知らなかったんだ!」

黒子「あなた方のやっていた研究での被験者の死亡数を……憶えていないんでしょうね」

所長「くっ……それは別問題で──」

初春「ここ1年間で189人ですね」

所長「なっ!? 何故それを……」

黒子「ちなみに、その事は既に警備員に報告済。もうすぐあなたの身柄を引取りに来る筈ですの」

所長「待ってくれ! 私はもう」

黒子「いいえ、これまで行ってきた非人道的な数々の研究の責任を取って頂きますの」

初春「殺人教唆に公文書偽造、証拠隠滅にその他諸々……未必の故意まで含めると両手の指だけじゃ足りませんね」

所長「うっ……そ、それは……!」

黒子「上が魔法士の情報をどう扱うのかは分かりかねますが、貴方の罪が軽くなる事は無いでしょうね」

所長「くそっ! くそおおおおお!!」

黒子「小悪党の最期というのは惨めなものですのね」
251 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/22(火) 00:49:00.69 ID:LBIG1bgo
──とある病院の自販機前

土御門「あの魔法士がおかしくなったのは、佐天涙子が人質に取られてからだ。
 人質というには随分とお粗末だったようだが。まぁ止められるのも佐天涙子だ、というのは当たり前の推測だな」

一方通行「あァ、異論は無ェよ」

土御門「ちなみに釧路も一緒に行ってもらったのは、最初に佐天涙子が開放された時点で天樹錬を止められなかったからだ」
 釧路の話を聞く限りじゃ、佐天涙子のサポート役には適任だったからな」

一方通行「ったく、用意周到なこって」

土御門「だから二人を輸送するだけの猶予が必要だったが、超電磁砲だけでそう長く足止めできるとは思えないし、
 最悪の場合、そもそも間に合いすらしない可能性も充分に考えられた。そこで百合子の出番ってわけだ」

一方通行「……」ピク

土御門「その二人分の足止めがあって、ようやっと釧路帷子と佐天涙子を運ぶだけの猶予が得られる」

一方通行「ふゥン……」

土御門「まったくもって、ギリギリの綱渡りだったな」

一方通行「一つ質問があるンだけどよォ。いや、質問っつゥか確認か」

土御門「なんだ?」

一方通行「オマエは、百合子があのガキに勝てないと解かってて行かせた……って事だよなァ?」

土御門「そうだ。幻想代入は幻想御手や妹達の代理演算とはちょっとばかり仕組みが違うらしくてな。
 サーバー機だった天樹錬は進入禁止を攻略できる可能性が高かった。それを解かっていながら仕事に行かせた」

一方通行「テメェ……本当にブチ殺してやってもいいンだぜェ?」

土御門「勘違いしてもらっちゃ困る。これが『もっとも流れる血が少なく済む』やり方だったんだよ。
 少なくとも、俺たちがこの件に首を突っ込んだ時点からすりゃ、これ以上ない程の最上の結末だろう?」

一方通行「……だからって、俺が納得すると思ってンのかよ?」
252 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/22(火) 00:49:52.35 ID:LBIG1bgo
土御門「ああ、思ってるさ。最悪、あのガキはお前の言う通り歯止めが効かなくなって、もっと多くの血が流れただろう。
 その中に、俺たちの内の誰かや『妹達』の中の誰かが入っていないと言い切れるか?」

一方通行「そいつァ……」

土御門「それでもお前が納得しないって言うなら、今すぐ『悪党』とやらを返上して『正義の味方』にでもなるんだな」

一方通行「っ!」

土御門「話はこれで終わりだ」クルッ

一方通行「おい」

土御門「まだ何かあるのか?」

一方通行「礼は言わねェ。感謝もしねェ。だが、その気に食わねェやり方が最善手だったって事は認めといてやる」

土御門「……済まんな」

一方通行「さっさと消えろォ、シスコン野郎が」

土御門「ああ。また何かあったら連絡する」スタスタ

一方通行(シスコンは否定しねェのか……)

土御門「おっと、それともう一つ」クルリ

一方通行「あァ?」

土御門「どうも『一方通行の仕事』を遂行できてなかったと思ってるのか、随分と落ち込んでる様子だったから
 治療が終わったら慰めてやった方がいいだろうにゃー。これは、一人の『兄』としての忠告なんだぜい」

一方通行「……あァ? そんな事知るかよ。つゥかアイツは俺の妹じゃねェ、クローンだろォが」

土御門「まぁどうするかはお前の自由だけどにゃー。一応、忠告はしたぜよ?」

一方通行「いいからとっとと消えやがれ」

土御門「やれやれ、素直じゃないにゃー」スタスタ

一方通行「……ふン」
253 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/06/22(火) 00:51:05.55 ID:LBIG1bgo
──とある病室

サクラ「ふむ。天樹錬は止められたか……」

上条「だってさ。土御門っていう信用できる奴からの連絡だから、間違い無いと思う」

サクラ「それにしても、あの進入禁止をどうやって退けたのか……気になるところではあるな」

アザミ「え、ゆりこお姉ちゃん負けちゃったの?」

上条「ああ、そうらしい。やっぱり魔法士くらいの演算じゃないとあんな強さにはならないんじゃないか?」

サクラ「だとしても、一方通行と同等の性能だったろうに……」

上条「その辺はまだ解からないけどさ。でも、何とかなって良かったよ。魔法士の能力には俺の右手も効かないしさ」

アザミ「効いたとしても、まだ骨くっつききってないんでしょー?」

上条「かなりキレイに折れてたらしいから、今だって少しくらいの無茶なら──」

サクラ「……ほう?」ポイッ

上条「ちょっ……ぐおぉっ!?」ガンッ「クッキーの缶がギプスに響くんですがっ!?」

サクラ「心配するな、中身は既に平らげてある」

上条「違うよね!? 上条さんが気にしてるのはそこじゃないって、なにこのデジャヴ! 何度目だよ!?」

アザミ「……無茶はできなさそうだねー」

サクラ「そういう事だ」

上条「なにこの扱い、すごく納得いかないんですが!?」

サクラ「上条当麻。貴方は人が思っているよりも頑丈かもしれないが、もう少し他人を信じるという事を覚えた方がいい」

上条「それは……信じてるさ」

サクラ「どうだかな」

上条「信じてるから、病院を抜け出さずにこうして大人しくしてるんだろ」

アザミ「うわー……なんていうか、お兄ちゃんの自己犠牲精神はちょっと病的なレベルだよねー」

サクラ「だからこそのフラグ体質なのだろうな。まったく呆れたお人好しだ」

上条「褒められてるのか貶されてるのかわかんねぇよ! はぁ、不幸だ……」
254 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/06/22(火) 00:52:07.74 ID:LBIG1bgo
今日は以上です。
今週はちょっと忙しいので、次は土日くらいまで来れないと思います。
255 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/22(火) 01:18:07.49 ID:x8CJzhAo
乙乙!
256 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/22(火) 09:10:19.25 ID:nry0OIA0
こんな俺得スレを見逃してたなんて信じられない
支援
257 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/28(月) 00:42:48.51 ID:WMprVFUo
>>1です。ごめんなさい、忙しすぎて全然進みませんでした。
>>1です。ホントすいません。五日ぶりに風呂入れたんで寝かせてくださいお願いします。
あ、もの投げないで! 臭いとか言わないで!
仕事の方はもうちょっとで一段落つきそうなので木曜くらいまでに投下できると思います。
258 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/06/28(月) 00:45:45.29 ID:WAd6juwo
風呂でねるなよー。
259 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/07/02(金) 01:25:46.21 ID:MpoMm1Qo
>>1は のうきを やっつけた!
なんと のうきが おきあがって なかまにしてほしそうに こちらをみている!
仲間にしますか?はい/いいえなんて選択肢は無かった。

あんまり進まなかったけど投下開始します。
260 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/07/02(金) 01:26:20.44 ID:MpoMm1Qo
──数日後、とある川原。

錬「二人とも、準備はいい?」

魔法士の少年が呼びかけるのは二人の少女に対して。

サクラ「うむ、いつでもいいぞ」

外套のナイフに手を添えて、軽く腰を落とすのは悪魔使い。

美琴「もちろん」

対する超能力者は、紫電をバチバチと弾けさせて迎撃体制を取る。

上条「なんつーか、負けず嫌いだよなーあいつ」

一方通行「それ以前に、なンで俺まで観戦してンだァ?」

上条「そりゃいざという時に止められるようにだろ」

一方通行「めんどくせェ」

傍らで見守るのは不幸な学生と第一位の少年。
あまり見られない組み合わせだが、仲良く川原の土手に座っていた。

結標「なんで私まで……」

土御門「まぁまぁそう言わずに。ゆっくり見ていくにゃー」

その横には座標移動の少女に胡散臭いグラサンアロハの少年。

黒子「お姉様、黒子がついてますの!」

初春「御坂さん、頑張ってくださいねっ」

佐天「なんだかすごいメンツになってるねー」

そして御坂美琴の友人たる3人の少女が声援を送り。

御坂妹「ちなみにMNWでのオッズはお姉さは1.3倍、サクラが1.7倍となっています。
 やはりお姉様のクローンだけあって贔屓目になるのでしょうね、とミサカはお金は賭けていないことを表明しておきます」

14510「まぁ個人的に別のものを賭けているミサカもいるようですが。とミサカは
 一方通行の様子をチラチラと伺いながらぶっちゃけ勝負の結果はどうでもいいです」

更には普段は殆ど顔を合わせないらしい妹達が二人並んで座っていた。

14510「どうせ17600号もどこかから見ているのでしょうね。とミサカはため息を吐いておきます」
261 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/07/02(金) 01:27:03.32 ID:MpoMm1Qo
どうしてこんな事になっているのかを説明するには、少し時間を巻き戻す必要がある。

──数日前、天樹錬の暴走の翌日。とある病室。

美琴「……」

百合子「……」

美琴(昨日の流れからして同室になる予感はしてたけど、この重苦しい空気はどうにかならないもんかしらね)

一方通行「邪魔すンぞ」ガチャ

百合琴「!?」

美琴「あ、一方通行!?」

百合子「お、お兄様……」オドオド

一方通行「あー(……やりづれェな)……百合子」カツカツ

百合子「……は、はい」

一方通行「オマエはよくやった。胸張っていいぜェ」

百合子「え……」

美琴(あの一方通行が労いの言葉を……!?)

一方通行「だァから、オマエは仕事をきっちりこなしたっつってンだよ。何度も言わせンな」ワシワシ

百合子「うァ……あ、ありがとうございます……」ニヘー

一方通行「あァ。それとそこの第三位、驚きすぎ」

美琴「みゃい!?」ビクッ

百合通行(噛ンだな)みましたね)

美琴「噛んでないわよ!?」

一方通行「何も言ってねェよ。いやそれはどォでもいいンだが。オマエにも世話ァかけた。礼は言っといてやらァ」

美琴「……どっ、どういう事!!?」

一方通行「だァから! 驚きすぎだろォがよォ!」

美琴「そ、そんな事は……」(コンコン)「あ、どうぞー!」

錬「こんにちは」ガチャ
262 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/07/02(金) 01:28:26.69 ID:MpoMm1Qo
百合子「あら……」

美琴「あれー天樹さん、お見舞いに来てくれたの」

錬「うん、そんなところ。あと、錬でいいよ。苗字で呼ばれるのってあんまり慣れてないから」

美琴「まぁお見舞いって言っても、私は今日にでも退院できるんだけどね。もともとこの入院も様子見みたいなものだし」

錬「あ、そうなんだ。まぁ一応、お見舞いの品も。買ったのは涙子さんだけどね」スッ

美琴「えー、そんなのいいのに」

錬「(あ、でも受け取るんだ)はい、えーと……進入禁止、だっけ? あんたにも」スッ

百合子「え、私にも……? なンでですか?」

錬「あんたが居なかったら……きっと美琴さんも間に合わなかっただろうし、涙子さんも間に合わなくて……、
 僕はきっと取り返しの付かない事をしてたから。だから、ありがとう。それと、ごめんね」

百合子「……べ、別にアナタのためにやった訳じゃありませン! 私はお兄様のためにやっただけです!」

美琴(うわ、何このテンプレ)

一方通行(それは第三位が言っちゃいけねェだろ。言ってはねェけど)

錬(何だろう。どっちもどっちだよね。何のことかは知らないけど)

錬「うん、僕が勝手に感謝してるだけだから。気にしないで」

一方通行「ああ、そういや第三位」

美琴「何よ」

一方通行「あの女魔法士に勝負を申し込んだってのはマジなのかァ?」

錬「え? 勝負って? 戦闘の?」
263 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/07/02(金) 01:29:47.11 ID:MpoMm1Qo
美琴「ええ。お互いに全快したらね」

一方通行「ったく、負けず嫌いになンのはあの三下相手だけじゃなかったのかァ?」

美琴「あっ、あいつは関係無いでしょ!?」

一方通行「イヤ、俺は『あの三下』っつっただけなンだが……ムキになるような心当たりがあるってこったなァ?」ニヤ

美琴「ううううるさいわね! 用が済んだならさっさと帰りなさい!」ビリビリッ

一方通行「わァったから、病院で能力使うのはやめろォ。特にオマエのはな(今はクソガキもこの病院にいるしなァ)」スクッ

美琴「くっ……! なによ、常識人ぶって……」

一方通行「いやオマエが常識無さすぎるだけだろ、常識的に考えて。じゃァな」スタスタガチャ

錬「……いやいや、ちょっと待って、勝負って何? また戦うの?」

美琴「うん、サクラさんと私が勝負するのよ」

錬「初耳だよ!?」

美琴「今初めて言ったし。幻想代入の件が終わった翌日にサクラさんのお見舞いに行ったんだけどね──」



……美琴『全快したら一つお願いしていい?』

……サクラ『うむ。可能な限り応えよう』

……美琴『それじゃあ、私と勝負しない?』

……サクラ『貴方は何を言っているのだ』



美琴「って事があったのよ」

錬「ちょっと待ってよ、そんな事でまた帰るのが遅れるなんて。っていうか同意得られる所まで回想しようよ!」

美琴「細かい事言わないの。っていうか恩人の我侭ひとつも聞いてくれないわけ?」

錬「いや、なんか昨日と言ってる事違うよね?」

美琴「そんな昔の事は忘れたわよ」

錬「涙子さんといい、どうしてみんなそんな無闇に自信満々なの!?」

美琴「だーから、錬君が気負いすぎなんだって何度言わせんのよ」
264 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/07/02(金) 01:32:59.98 ID:MpoMm1Qo
──とある隣室

サクラ「それでおめおめと私に辞退するよう言いに来たというわけか」

錬「おめおめって……、いくら急ぐ必要が無いっていっても長居していいって理由にはならないでしょ」

サクラ「しかし借りを返さずにおくというのは、それこそ私の性分には合わんな」

アザミ「それに観戦者のみんなも楽しみにしてるから、今更中止しちゃうとブーイングの嵐だよ?」

錬「え、なにそれも聞いてない」

アザミ「大丈夫だよ、関係者だけだから魔法士の情報は漏れないし」

錬「そっか、それなら……って違う!」

サクラ「何を気にしているのだ、天樹錬。貴方など御坂美琴には二度も窮地を救われているというのに」

錬「それとこれとは話が別だと思う」

サクラ「そうだな、では貴方が審判を勤めてみてはどうだ?」

錬「ごめん、話が見えないんだけど」

サクラ「なに、勝負をしたところで怪我さえ負わなければ長居する事もあるまい。
 だから貴方が審判を勤め、勝負がついた、または危険だと判断したら制止すればいいという事だ」

錬「それ根本的に何の解決にもなってないよね。そんな馬鹿みたいな勝負なんて辞めようって言ってるんだけど」

アザミ「もう諦めなってー。というか諦めてるのに抵抗するフリだけするのって疲れるでしょ?」

錬「図星を突くならもう少し優しくお願いしたいなぁ」

サクラ「図星というのは突かれる方が悪いのだ。観念しろ」

錬「だんだん僕が間違ってるって思えてくるから不思議だね」



──そして現在。

そんな素っ頓狂なやり取りを経て、こうして合意のもとに勝負が行われる事となった。
あまり長居するつもりの無かった錬には寝耳に水だったが、こうして審判をやることになってしまっている。
どうにも納得のいかない表情で軽く天を仰ぎ、はぁ、とため息を吐いてから。

錬「それじゃ……始め!」

掲げた手を振り下ろし、戦いの開始を告げた。
265 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/07/02(金) 01:35:59.80 ID:MpoMm1Qo
なんだか明らかに展開が強引すぎて死にたくなってきますよね。
あと今さらだけど雷の速度を間違えて覚えてた事を知ってガチで死にたい。
正しくは先駆放電路を駆け抜ける速度が光速の半分程度で、先駆放電路を作る速度が150km/s程度でした。

次は日曜か、月曜くらいに来れると思います。
266 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/07/02(金) 01:54:37.73 ID:YMVCh3Io

舞ってるぜ!
267 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/07/04(日) 01:34:04.52 ID:gJhMaw60
錬たちって、このまま帰る気だったんですか?

てっきり、超能力や魔術の技術を持ち帰ることを考えていると思っていました。

情報制御が起こらない以上、脳障害前の一方通行や「樹形図の設計者」でも、I-ブレインや演算機関の演算能力には及ばず、超能力は雲やノイズメイカーの影響を受けない。

「幻想代入」を使えるのが3パーセントで、その上で都合のよい能力が発現する割合を考えると高い確率ではないでしょうが、I-ブレインをもった超能力者はそれこそ雲を除去することができるだけの力を持っていてもおかしくない気がします。

魔術にしても10万3000冊の知識があれば世界のすべてを捻じ曲げることができるのだから、雲を除去することは可能な気がします。
雲を除去できなくても、マザーシステムに変わる世界維持の手段として、ひとつの可能性ではあるのではないでしょうか?

まあ、「科学が人を幸せにするとは限らない」ということは、サクラの父がこれでもかと思い知らされていますし、魔術でも同じことでしょう。
場合によっては将来、魔術や超能力によって大気制御衛星暴走以上の悲劇が起こるかもしれませんが、それでも最高のハッピーエンドの可能性を無視するのはおかしい気がします。
268 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/07/04(日) 16:41:38.95 ID:xfgGS.AO
ウィザーズブレインも禁書も大好きなのに
こんな良作に今まで気づかなかったとは口惜しい

待ってるよ
269 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/07/06(火) 02:13:10.76 ID:AWxvh6Uo
支援ありがとうございます。
あんまり進まなかったけど今日の分を投下します。

>>267
あー、そういえばそうですね、その可能性もありますね。
似ているとはいえ異世界の技術なので漠然と持って帰らないとか思ってました。
今からそれをやるには色々と無理が出てきてしまうので、
すいませんがこの程度の頭しかないんだなと罵っておいてください。
270 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/07/06(火) 02:14:16.34 ID:AWxvh6Uo
最初に動いたのは悪魔使いの少女。
当たり前のように、開始の合図と同時にナイフを握って駈け出している。

サクラ(呼:分子運動制御『弾丸』)

電撃使いの少女を中心とする円周に沿うように走りながら、窒素結晶の弾丸を無数に生み出して射出する。

美琴「なによ、慎重じゃない」

ニヤリと、無数の弾丸を目にして美琴が笑みを浮かべて。
ごうっ、と。足元から立ち昇った砂鉄が薄い膜となり、それに触れた先から氷の弾丸は砕け散っていった。
超振動する砂鉄の膜を貫くには、窒素結晶の氷では余りに脆すぎる。

サクラ「……なるほど、電磁気学制御と分子運動制御の応用か。超能力というのは多彩な使い方ができるようだな」

こんな使い方もできるのかと感心した風に言い、同じ事ができるように能力を『合成』しようかとも考える。
しかし、サクラが戦ってきた戦場には大量の砂鉄も無ければ特に有効な相手もあまりいない。
むしろ命をかけない模擬戦ならば、相手の土俵で戦ってやろうというものだ。

美琴「なんとか制御とかは知らないけど……『超電磁砲』は超電磁砲だけじゃないって事よ!」

言いながら、砂鉄の防護壁を従えてサクラに向けて走る。
防護壁とは言っても、超振動する砂鉄の膜は触れただけで致命傷になりかねない威力を持っている。
更に足元に電磁気を集中して、通常ではありえない速度での移動。

けれど、それが決定打になるなどとは美琴は微塵も思っていない。
そしてその判断は正しかったが、対応は一歩足りない。

サクラ(呼:電磁気学制御『銃身』)

瞬時に生み出された電磁場が、砂鉄を操っている電磁場に割り込みをかけて。

美琴「え──わぶっ!?」

電磁加速に特化しているわけではない砂鉄は、サクラの電磁気学制御による加速は殆どしないが、
薄い膜のように美琴の周りを循環していた砂鉄の一部が、その顔めがけて振りかかる。
攻撃力という点では無きに等しいが、砂を顔面にかけられたのと同じ事。

距離を取ってくるだろうと思っていた美琴は、思わず急ブレーキをかけて足を止める。

サクラ「迂闊だな、電磁気を操れるのは貴女だけではないぞ?」

美琴「上等!」

ニッと笑みを浮かべ、周囲に纏わせた砂鉄を集中させて剣のように手に握ると、美琴は再びサクラめがけて駆け出した。
271 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/07/06(火) 02:15:47.91 ID:AWxvh6Uo
サクラ(呼:仮想精神体制御『生物化』)

素早く足元に手を当て、次に美琴が踏み込む位置から直接土砂の腕を生やして足を掴む。
反応しきれなかった美琴がつんのめり、サクラはその隙に更にコマンドを打ち込んだ。

サクラ(呼:運動係数制御『運動加速』。運動係数5倍)

運動速度を5倍に加速し、美琴の顔面にナイフを突き付ける。

サクラ(取った──)

そう思った。天樹錬の制止が入るだろうと、横から入ってナイフを弾き飛ばすだろうと。
しかし錬は動かない。
ナイフが美琴の顔に突き刺さるかと思った瞬間、それは肉や骨とは明らかに違う感触に受け止められた。

サクラ「……な!?」

美琴「っぶな……でも、複数の能力を同時に使うことはできないみたいね」

ナイフが突き立ったのは砂鉄の塊。
次の瞬間、砂鉄が超振動を始め、変異銀のナイフが粉々に砕け散る。
再び距離を取る事を余儀なくされたサクラが同時に地を蹴って、バックステップを踏んだ。

サクラ「今ので決まったと思っていたのだがな」

再び砂鉄の膜を纏った美琴に対峙して、軽口を叩く。
それ以上に、天樹錬が微動だにしなかった事に驚いているのではあるが。

美琴「実際に戦った錬君の方が、私の能力を把握してるって事でしょうね」

その思考を読んだかのように美琴が口を開き、同時に砂鉄の膜を少しずつ厚くしていく。
膜の外側の電磁気を乱されても、内側の砂鉄でフォローできるように。

サクラ「電撃姫という二つ名にしては、電撃を使わないのだな?」

その意図を察したサクラが一歩下がり挑発する。
自在に形を変え、触れるだけで致命傷になりかねない超振動する砂鉄という武器はサクラの能力では分が悪い。

既に美琴の姿が確認できない程に分厚くなった膜は、川原の土壌のような柔らかい材質で仮想精神体制御では貫けない。
窒素結晶の弾丸でも、鎖でも、結果は変わらないだろう。
その厄介な防壁を貫けるとすれば電磁気学制御による電磁投射砲か、防御を貫通する量子力学的制御。

しかし、電磁投射砲は威力が高すぎる上に、逆に美琴の超電磁砲の弾体を与えてしまう恐れがある。
『幻楼の剣』ではリーチが足りず、攻撃が届く前にこちらの体が磨り潰されてしまう。
272 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/07/06(火) 02:17:04.20 ID:AWxvh6Uo
美琴「『電撃使い』ってのは色んな事に応用が効くのよ」

一歩引いたサクラの位置を電磁気のレーダーで認識しながら、美琴が一歩踏み出す。

その言葉を聞いたサクラは『無限信号』と呼ばれていた少年の能力──神経信号の速度を高めるという能力──も、
電撃使いに分類されるという事を思い出していた。
一方通行の代理演算の為のMNWにも電撃使いの能力は使われているし、
この砂鉄の嵐の中でも相手の位置を特定できる電磁気のレーダーも電撃使いとしての能力だ。

なるほど確かに様々なことに応用が効くというのは確かで、相手によって有効な攻撃手段を選べるという点では、
複数の能力を使い分ける悪魔使いにとっては、得意な相手とは到底言えなかった。

美琴「私は『悪魔使い』との戦闘経験がある分、有利かな? 持ってる能力は違うみたいだけど、ね!」

サクラが対応策を弾き出す前に、美琴が走り出す。
5倍に引き伸ばされた感覚の中で、サクラはゆっくりと接近してくる美琴の背後へと回りこんだ。

美琴「まさか、逃げるしか手がない、ってわけじゃないんでしょ?」

サクラ「ふっ……無論だ」

しかしその際にサクラの目に映ったものが、現状を打破する可能性を持っている事に気付く。

サクラ(呼:仮想精神体制御『生物化』)

手を生やすのは真横の川底。
大量の水分を含んだ泥の腕が、美琴に向かって一直線に伸びて行き、砂鉄の膜に触れた先から崩れていく。

美琴「なに苦し紛れに──……って」

容赦なく泥の腕を破壊して、再びサクラに向かって駆け出そうとして、その異常に気付く。
泥に含まれた水分が超振動の餌食となると、それは即座に蒸気となりモクモクと美琴を包み込んていた。

当然ながらその蒸気は摂氏100度近くの熱を持っていて。

美琴「あっづぅー!?」

サクラ(呼:分子運動制御『弾丸』)

思わず砂鉄の膜を解除して蒸気から逃れ、足元を電磁加速させて高速で移動する。
その移動した先には、無数の窒素結晶の弾丸を従えたサクラの姿。

次の瞬間には容赦なく美琴に弾丸が降り注いだ。
273 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/07/06(火) 02:18:45.77 ID:AWxvh6Uo
美琴「やっば……!」

何かを考える時間は無かった。反射的に電撃を纏って氷の弾幕に突っ込んでいく。
強烈な電撃に触れた傍から粉々に砕けていくが、いかんせん数が多すぎてすべてを撃墜するには至らない。

落とし損ねた弾丸が肩や足を掠めて小さな傷を作っていき、足元のバランスが崩れてしまう。
弾丸自体は致命傷にはほど遠いが、それによって生み出された隙は致命的。

サクラ(呼:連弾・『仮想精神体制御・生物化』・『運動係数制御・運動加速』』)

バランスを崩した美琴が踏み出した一歩先の地面に、ぽっかりと穴が開く。
それを回避する術を持たない美琴の足が落ちて、次の瞬間にはその穴が最初から存在しなかったかのように閉じている。
まるで土の中に片足だけを突っ込んだような状態になり、更にバランスが崩れて。

足元に気を取られていた美琴には、5倍の速度で接近するサクラに反応できず。
しかし、サクラのナイフが喉元に突き付けられるかと思われた瞬間。

サクラ「──なっ!」

バチン!とそのナイフが紫電に弾かれる。
しびれる右腕を抑えながら、サクラは慌てて美琴から距離を取った。

美琴「今のは、危なかったわね……」

足元の砂鉄を操作して、ゆっくりと穴から足を引き抜けながら、美琴がサクラを見据える。
その目は既に模擬戦という事は忘れられているかと思わせるほどの闘志が滾っていた。

サクラ「反応速度を無視した自動反撃まで可能とは……。やるな、御坂美琴」

その視線を正面から受け止め、右腕の回復を確かめながらサクラがニヤリと笑う。
その表情もまた、強い闘志を秘めた輝きを湛えていた。

美琴「あなたもね、サクラさん」

足を振って軽く砂を落としてから、美琴が再び腰を落として戦闘態勢を取る。
断続的に紫電が散り、その姿は確かに電撃姫という言葉が相応しい。

サクラ「褒めても負けてやる事はできないがな」

ナイフを弾かれて空になった右手を背に回し、まだまだ尽きないであろうナイフを取り出して構える。
第三位の超能力者にも決して引けを取らない、悪魔使いの魔法士が地を蹴った。
274 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/07/06(火) 02:20:51.69 ID:AWxvh6Uo
その様子を、手に汗握りながら見ている観戦者たち。

上条「うっわ、あれ本当に大丈夫なのか?」

一方通行「大丈夫だから、あの天樹錬って奴も動かないンだろォよ」

土御門「それはそうなんだろうが、両方の実力を把握してないと難しいにゃー」

結標「実はただ反応できてないだけなんじゃないの?」

土御門「それは無いだろうにゃー、制限があったとはいえ、超電磁砲を苦も無く倒してるんだぜい?」

一方通行「それに、あの天樹錬って奴の反応速度は通常の約20倍だ。反応しきれねェってこたねェだろ」

上条「20倍って、なんだその出鱈目なスピードは!?」

佐天「っていうか何が起きてるか解からないんだけど……どういう目してるんだろうあの人たち」

黒子「わたくしにはしっかりと見えておりますのよ、お姉様だけですが」

初春「白井さん、思ったより落ち着いてるんですね、御坂さんを助けようと飛び込むものだと思いました」

黒子「そんな事をしたらお姉様に嫌われてしまいますの。だからずっと我慢してるんですんですのよ」

佐天「あ、我慢はしてるんですね」

御坂妹「力を使い果たしたところにスキンシップを図ろうという意図も見え隠れしているような気がしますが。
 とミサカは恐らく外れてはいないであろう予測を口にします」

14510「勝負の行方はどうでもいいですが、その時はお姉様をお守りしなければいけないのでしょうね。
 とミサカは気の進まない未来を想像してゲンナリします」

御坂妹「本来なら固有名詞も無いモブなんですから、こうして観戦できただけでも良しとすべきでしょう
 とミサカはメタ発言をしました」

17600(9000人くらいのミサカを敵に回しそうですね、とミサカは今の発言をMNWにアップロードしておきました)


二人の勝負からは些か緊張感に欠けるい面々。
しかし、対峙している二人にはそんな事は知る由もなく、知っても気にすることも無いだろう。
275 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/07/06(火) 02:22:36.35 ID:AWxvh6Uo
短いけど今日はここまでです。
どんどんペースが落ちてますが最後まで書ききる所存なので生ぬるい目で見守ってやってくれると幸いです。

次は金曜日くらいには投下できると思われます。
276 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/07/06(火) 04:18:07.85 ID:sJEbbTwo
乙ー
ガチンコバトルじゃ他のレベル5やら魔術サイドとかと比べられて色々言われてる美琴だけど
能力の汎用性や応用性を見れば第3位の肩書きも伊達じゃないと思うんだがね
色んな戦い方をさせられる貴重なキャラだとは思う
全てはかまちー次第だg
277 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/07/10(土) 01:54:45.86 ID:fOWP6xoo
ペースが落ちすぎてて生きるのがつらい。
3レスしか進まないとかどういう事なの……

今日の分投下します
278 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/07/10(土) 01:55:16.35 ID:fOWP6xoo
その頃、超能力者と悪魔使いの戦いは一進一退の攻防を続けていた。

美琴が砂鉄の鞭で切り裂こうとすれば、逆に生成された電磁砲身に分解される。
サクラが5倍の運動加速で接近すれば、反応速度を無視した反撃で撃ち落とされる。

美琴が電撃を放ち、地面から生えた土の腕を砕きながら大地に吸収される。
サクラが窒素結晶の氷の弾丸を放てば、瞬間的に生成された砂鉄の膜がそれを防ぐ。

互いに手を潰し合い、有効な手も殆ど出し尽くしている。

共通点があるとすれば、お互いにジョーカーを切っていない事だった。
それは『超電磁砲』に『電磁投射砲』という、同一にして異質の切り札。

そして、そんな事はお互いに理解している。故に。

サクラ「先に言っておく。……正面からの撃ち合いなどするつもりは無いとな」

出力で勝るものの、コインの弾体では音速の3倍程度に留まるしかない美琴の超電磁砲。
音速の6倍の速度を持ちながらも、出力では遠く及ばないサクラの電磁投射砲。

単純な破壊力を見ればサクラの方が上だが、サクラは電磁場の影響を受け易いナイフを使っている。
つまり、下手をすればナイフをそのまま撃ち返され、音速の15倍近くで跳ね返される可能性を秘めている。

美琴「そりゃあ残念……ねっ!」

言いながら踏み込み、美琴が砂鉄の鞭を作り出して走りだす。
そしてこれまでと同じように、サクラの作り出した電磁砲身の干渉を受けて切断された。

サクラ「同じ手を何度……──っ!」

だが、今回はそれだけではなかった。
切断される手前までの砂鉄をそのまま固定して超振動も止める。
それは即席の足場となり、走り出していた美琴が砂鉄の鞭であった道を駆け上がった。

サクラ(呼:連弾・『分子運動制御・鎖』・『電磁気学制御・檻』・『分子運動制御・弾丸』・『仮想精神体制御・生物化』)

二次元での移動に慣れきっていたサクラの反応が当然のように遅れて。

美琴「おっ……──そい!」

投網のように投げ掛けられた網目状の窒素結晶の窒素は完全に形成される前に美琴の纏った紫電に吹き飛ばされ、
回避不能な距離からの電撃がサクラに襲いかかった。

しかし、サクラの周囲に檻のように張り巡らされた電磁場の干渉を受け、電撃が四方八方へと散っていく。
その内の一つがサクラの足を掠め、鈍い痺れを残して大地へと吸収された。

直後に着地した美琴に生成された窒素結晶の弾丸が降りかかった時には、既に砂鉄の膜で防御は万全。
279 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/07/10(土) 01:56:25.91 ID:fOWP6xoo
足を引きずりながらも次の一手を用意しているであろうサクラから距離をとると、
一瞬前まで美琴のいた場所から巨大な土の腕が生えていた。

美琴「……取ったと思ったんだけどね」

サクラ「このままではお互いに、軽傷では済まないかもしれんな」

それに応える形で、サクラが立ち上がり自嘲気味に言葉を返す。

美琴「そんなの、始める前から解かってた事でしょ」

サクラ「フッ、無論だ」

戦うほどに相手との距離が近付く。そんな錯覚すら覚えている二人に、水を差す声。

錬「あのー、僕の立場が無いんだけどー」

曲がりなりにも、この戦いを安全にする為に目を見張っている錬にとって、確かに今の二人の会話は
腹に据えかねるものがあるのだろう。
半ば諦観を含ませた声で、それでも抗議せずにはいられなかったようだ。

サクラ「貴方の立場など知ったことではない」

美琴「錬君の立場なんて最初から無いし」

という二人の声が重なり。

錬「ですよねー。はぁ……不幸だ」

観戦組(すっかり伝染ったな)

げんなりと肩を落とす錬に集まる視線は同情と憐憫。
もちろん、その中には対峙している二人の視線は入っていないのではあるが。

錬「相当ギリギリの戦いだから止め方も荒っぽくなると思うけど、それだけは覚悟しといてね」

気を取り直してとばかりに、錬が顔を上げて二人に警告を出す。
そんな警告に動じる二人でもないのだが。

しかし、お互いにもうカードは切り尽くしている。
決め手となるのはやはり『レールガン』だろう。

対峙している二人も、観戦者たちも、そして制止役である天樹錬もそう考えていた。
280 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/07/10(土) 01:58:04.77 ID:fOWP6xoo
ジリジリと視線が絡みあい、相手の出方を伺うだけの時間が過ぎる。
既に有効な手の内はさらけ出して、並大抵の攻撃では出し抜くことはできない。

かといって、いきなりジョーカーを切ったところで反撃されるのがオチ。
それをお互いに理解し、打開策を見い出せないでいるのだ。

サクラ「こうして睨み合っていても埒が開かないな」

美琴「まったく、同感だわ」

サクラ「どこぞの真剣勝負のように先に動いた方が負ける、などという勝負でもあるまいにな」

美琴「そう言うなら、先に動いたらどう?」

サクラ「ならば、お言葉に甘えさせてもらおう……!」

言うが早いか、サクラが地を蹴って美琴に向かって駆け出した。

勝利への方程式は不完全。
しかしそれでも、これまでも前に進むことで様々な問題を解決してきた。
こんな野試合で悩む事がどこにあろうか。

サクラ(連弾・『電磁気学制御・銃身』・『運動係数制御・運動加速』・『電磁気学制御・銃身』)

電磁砲身を設置し、直後に5倍のスピードでナイフを構えて振り抜く。
それに美琴が反応する前に、当然のように自動反撃の電撃で弾かれた。

弾かれたナイフが、設置されていた電磁砲身に収まり、美琴に対して音速の6倍にまで加速して飛翔する。

美琴「──読んでるっての!」

それよりも早く、美琴はそのナイフの軌道上に『超電磁砲』の砲身は展開済み。
このままナイフが美琴の砲身に捉えられれば、その時点で勝負が決まる。

美琴(今度こそ……!)

しかし。

ナイフの軌道上、それが超電磁砲に捉えられる直前、もう一本の電磁砲身が展開されていた。

美琴の胴を貫いていたであろうナイフが超電磁砲から逸れるように軌道を変え、その標的は美琴の頭部。
反応すらできない不可避の死というなの弾丸が、音速の6倍という超高速で迫る。
281 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/07/10(土) 01:59:31.41 ID:fOWP6xoo
今日の分は以上にです。
次は木曜までに投下します。
282 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/07/10(土) 02:00:41.94 ID:Fb/vulMo
おっつーです
283 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/07/10(土) 11:15:05.94 ID:XFwsccDO
乙!!
284 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/07/16(金) 22:54:39.75 ID:QiGtmygo
遅れました上に短いですが投下開始します。
285 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/07/16(金) 22:55:22.67 ID:QiGtmygo
数mの距離を秒速2000mのナイフが駆け抜ける時間。それは死を覚悟するにはあまりに短い。
それ以前に、美琴は未だに勝ったという表情を崩していない。
勝利の表情を貫き崩さんとナイフが迫り。

次の瞬間、美琴の姿はそこには無く。

サクラ(なっ──)

何事かを考える前にナイフが川の水面に着弾、当然のように川底にまで到達して。
その衝撃は爆発を起こして巨大な水柱を上げるに充分な威力を備えていた。
水しぶきが辺りに降って、虹がかかる。

サクラ「……自己領域か」

その言葉を肯定するように、いつの間にかサクラの真後ろには美琴と錬が立っていた。

二本目の『銃身』が生成される、その情報制御を感知した時点で、錬は自己領域を展開。
ナイフを領域内に取り込まないよう注意しながら美琴だけを取り込み、後は歩いて安全な位置まで移動する。

そうして美琴はゆっくりと敗北を噛み締める時間を得ながらにして死を免れたのだった。

美琴「……悔しいけど、私の負けよ」

錬「そういう事。それじゃ……勝負有り、勝者サクラ!」

負けはしてもどこか清々しい表情の美琴を横目に、錬が勝者を宣言する。
観戦していた者たちからはまばらな拍手。

と、同時に。

黒子「お姉」シュンッ「ぇさまぶべらっ!?」

文字通り飛んできた黒子を、美琴が見事な打ち下ろし気味の張り手で撃墜した。

美琴「っとに懲りないわねアンタは!」

黒子「あふんっ!? お姉様、黒子はもう心配で心配で!」

初春「そういう風にこじつけて御坂さんに触りたいだけですよね」

サクラ「まったく、あわや死ぬところだったというのに、緊張感の無いことだな」

そうしてサクラが肩を竦めると、美琴と黒子は顔を見合わせて苦笑するのだった。
286 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/07/16(金) 22:56:48.34 ID:QiGtmygo
そうこうしている内に他の観戦者も、対戦者を労いにやってきている。

黒子「はぁはぁ、お姉様〜!」

御坂妹「そこの変態、いい加減にお姉様から離れなさい、とミサカは警告します」

14510「あまり気乗りはしませんが、ミサカもお手伝いします。とミサカも並んで警告します」

美琴「いやアンタたちが来たら余計にややこしくなるから……」

黒子「お姉様が3人も……! ここがシャングリラですの!?」

美琴「言わんこっちゃ無い……」ヤレヤレ

初春「はいはい、白井さん落ち着きましょうねー」

佐天「白井さんって本当にブレないよね」

黒子「当たり前ですの! わたくしはお姉様のパートナーですのよ!」

美琴「解かったから落ち着けっての!」ゴスッ

黒子「オウフッ」






一方通行「よお、天樹錬。最後のアレは何やったンだァ?」

錬「あれは自己領域っていってね、僕の場合は周囲1mくらいの空間の物理法則を書き換えるんだよ。
 主な使い道は亜光速での移動だけど、今回みたいな使い方もできるっていう事」

結標「随分と便利な能力ね」

錬「そうかなぁ、本当に瞬間移動するわけでもないし、障害物を抜けられるわけでもないよ?」

結標「ま、隣の芝は青いってね。それに私は座標移動以外の事は出来ないし」

一方通行「要するに、応用性でも実用性でも俺の能力が第一位ってこったなァ?」

錬「そりゃ認めるけど、自分で言うかなぁそれ」クスッ

結標「こいつには謙遜なんて言葉は無縁だから言うだけ無駄よ」

錬「ああなるほど、名は体を表すって言うしね」

一方通行「あンま調子乗ってっと血液逆流させンぞ?」
287 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/07/16(金) 22:57:46.50 ID:QiGtmygo
上条「お疲れさん、サクラ」

土御門「お疲れだにゃー」

サクラ「うむ、なかなか面白い余興だった。もちろん余興とは言っても全力で臨んだがな」

上条「まさか、途中で電磁投射砲の軌道を変えるなんて思ってもみなかったぜ」

サクラ「ああ、私も初めてやったが、上手くいくものだな」

土御門「即興でそういう事ができるってのは天才の類なんだぜい?」

上条「その才能の一欠片でもいいから上条さんに分けて欲しいところですよ」

サクラ「なに、特殊な訓練も無しにあれだけの動きができるというのは才能だろう?」

土御門「こう見えてもカミやんは結構な修羅場をくぐってきてるからにゃー」

上条「それはどっちかっていうと、トラブルに巻き込まれる才能な気がするんだが」

サクラ「自分からトラブルに巻き込まれに行っているくせに、よく言う」

上条「うっ、それは……返す言葉もございません」

土御門「それにしても、その強さよりもカミやんの旗立てが効かないとは思わなかったんだぜい」

上条「だから何だよそれは?」

サクラ「なぁに、元の世界にはいい男が山ほどいるからな。心配には及ばん」

土御門「あー……、っていうか素直に惚れた男がいるって言えばいいだけだと思うんだけどにゃー」

サクラ「なっ! ほ、惚れてなどいるものか! あの様な……いや断じて違うぞ!」

上条「ははは、照れるな照れるな。そこで赤くなるってのは肯定してるようなもんだぞ?」

土御門「自分の事は鈍感な癖に他人の事となるとこれだからにゃー。まったく許せん男だぜよ」

上条「土御門、何か殺気が……」

土御門「何を言ってるにゃー、気のせいだにゃー?」

サクラ「上条当麻、やはり貴方は一度地獄に落ちるべきだ」

上条「どうしてそうなるんでせうか!?」
288 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/07/16(金) 22:58:52.92 ID:QiGtmygo
──数分後

サクラ「さてと……天樹錬」

錬「ん、そろそろ行く?」

サクラ「うむ。御坂美琴にも借りは返した事だし、あまり長居しても帰りづらくなるだけだ」

錬「え、君がそれ言うんだ。っていうかそれ言ったら僕は借り作りっぱなしなんだけど」

サクラ「それは貴方の問題だろう? その借りを返すまで待てというなら待たんでもないがな」

錬「んー……。いや、別にいいよ。どっちにしろ長居すべきじゃないし」

上条「って、本当にもう行っちまうのか?」

サクラ「ああ、そのつもりだ。貴女との戦いも無傷で済んだ事だしな」

錬「っていうか本当はこんな勝負なんてしないで帰りたかったんだけどね」ジト

美琴「そう言わないでよ、同じ『レールガン』使いとして戦ってみたいって思うじゃない?」

サクラ「ああ、その気持は解からんでもないな」

錬「僕は同じ悪魔使いに会ってもそうは思わなかったけど……なんであんた達はそんな好戦的なの」

美琴「いいからいいから、命の恩人なんだからそのくらい大目に見なさいって」

錬「それ言ったら僕だってさっき美琴さんを助けたばっかりで」

美琴「あーあー聞こえなーい! みんなー、二人共もう帰るってさ!」

土御門「なんだ、随分と急ぎだにゃー」

佐天「えー、もう帰っちゃうの? もっとゆっくりしていけばいいのに」

黒子「何を仰いますの。厄介ごとの塊のような方々は早く帰ってもらうに越したことはありませんの」

御坂妹「元々別世界の人間なのですから、元ある姿に戻るだけでしょう。とミサカは淡々と事実を述べます」

サクラ「うむ、いつまでもここに居ては、またイザコザの種になりかねないからな」

錬「他に色々言いたい事もあるけど……まぁ言ってたらキリが無くなっちゃうしね」
289 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/07/16(金) 23:02:23.51 ID:QiGtmygo
錬が手を差し伸べると、サクラがそれに応えて握手の形となった。

『転送シーケンスの再開準備が完了。──「アリス」に所定のレスポンスを返すよう要求』

それと同時に、二人の頭の中にメッセージが流れこんで来る。

錬「それじゃ、みんなありがとう。もう会わない事を祈ってるけど……またね」

悪魔使いの少年は正直に矛盾を含んだ言葉を投げ掛け。

サクラ「恐らくもう会うことは無いだろうが、世話になった。これで失礼するとしよう」

悪魔使いの少女は何の未練も無いとばかりに心にもない言葉を紡ぐ。

上条「ああ、二人とも……またな。元の世界に戻ってもうまくやれよ」

一方通行「ったく、もォ二度と飛ばされて来るンじゃねェぞ」

土御門「俺は面白いから歓迎だけどにゃー」

結標「私は仕事は増えるのはゴメンだけどね、さようなら」

美琴「二人ともありがと、楽しかったわよ」

黒子「これで少しは静かな生活が戻ってきますのね、ごきげんようですの」

初春「白井さんは素直じゃないですねー、それじゃ二人とも気をつけて帰ってくださいね」

佐天「本当に帰っちゃうんだね……。ばいばい、錬くん、サクラさん」

各々の言葉を受け取り、二人の悪魔使いが顔を見合わせて頷き。
I−ブレインにコマンドを入力すると、程なくしてレスポンスが返ってくる。

『──コマンド受理、転送シーケンス再開』

同時、二人の体を真っ白な光の柱が包み込んだ。
290 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/07/16(金) 23:03:32.98 ID:QiGtmygo
今日は以上です。このすごい失速感どうしよう、でももう少しだけ書ききります。
次は来週の木曜までに……
291 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/07/16(金) 23:15:23.32 ID:MQM/xeMo
乙でっせ
292 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/07/17(土) 00:04:12.63 ID:SS6mEb.0

そろそろ終わっちゃうのか?なんか寂しいな
293 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/07/20(火) 18:01:07.47 ID:RSRi1Tg0
>>1です
長い間、スレを放置してしまい申し訳ありませんでした。
諸事情で時間に余裕がなくなってしまったため、続ける事が困難になってしまいました。
大変残念ですが、ここで打ち切りという形にさせて頂きます。
スレ見ていただいた方どうもありがとうございました。
294 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/07/21(水) 09:00:56.00 ID:.IpKNrY0
なん…だと…

とりあえず>>1
面白かったよ
295 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/07/21(水) 09:13:22.51 ID:.IpKNrY0
今他のスレ見てきたら
ID:RSRi1Tg0は嵐っぽいな

>>1待つか
296 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/07/22(木) 22:40:55.83 ID:THZRoo.o
なんか変なのが来てたみたいで軽くびびりますよね。こんな細々とやっているところまで来るなんて…
というわけで相変わらずペースダウンが著しいですが、このまま投下していきますね。

297 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/07/22(木) 22:42:25.20 ID:THZRoo.o
その瞬間、この世界から魔法士は姿を消し、能力者たちが残されるのみとなる。
光の柱が消えてしまえば、最初からそこには誰も居なかったとでも言うように、誰も居ない空間があるだけだった。

土御門「……本当に行っちまったにゃー」

一方通行「その方がアッサリしてていいンじゃねェか?」

土御門「だにゃー。下手に情が移ってもいかんぜよ」

結標「既にかなり情は移ってたと思うけどね」

一方通行「今更だなァ。さてと……俺ァ帰るわ」

土御門「早いとこ打ち止めを迎えに行ってや……冗談だ冗談! 落ち着くにゃー!」

一方通行「オマエには一度キッチリ教育してやる必要があるらしいなァ?」カチッ

結標「まったく、賑やかな事で。それじゃあね」

土御門「待て結標! このままじゃ俺の貞操が」

一方通行「ほほう、本当に死にてェっつゥわけだァ!?」ギチギチ

結標「……ごゆっくり?」シュンッ

土御門「のおおおおっ!! ギブギブ!」ジタバタ

上条「ははは、お前ら仲いいなぁ」

一方通行「あァ!? ンだァ三下ァ、やンのかゴルァ!?」カッ

上条「なんでそうなるんだ!? っていうかそろそろ土御門が土御門だった物になっちまうぞ?」

土御門「」

一方通行「……ちっ、命拾いしたなァ」カチ

土御門「ぜぇぜぇ、三途の川が見えたんだぜい……」

上条「土御門はすぐに調子に乗るからな」

一方通行「ったく。……くっだらねェ、あばよォ」クルッスタスタ

上条「ああ。またな、一方通行」

一方通行(……ヒーローが悪党に向かって気安く「またな」なンて言ってンじゃねェよ)
298 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/07/22(木) 22:43:22.15 ID:THZRoo.o
14510「ではミサカはこれにて失礼します。とお姉様に一刻の別れを告げます」ペコリ スタスタ

御坂妹「ミサカもこれで失礼します。それとそこの変態ツインテールはくれぐれもお姉様に過度な
 スキンシップを取らないように。とミサカは半ば諦めながら釘を刺しておきます」ペコリ スタスタ

黒子「何を仰いますの、黒子はオウフッ」ゴスッ

美琴「はいそうやってすぐ調子に乗らない。さってと、私たちも帰りましょっか」

佐天「ですね。それにしてもあれだけの事ができるのに能力じゃないってのは、未だに信じられませんよ」

初春「どっちかというと、佐天さんがケロッとしてる事の方が信じられないですけど」

黒子「それは確かに。佐天さんは随分と天樹さんにご執心のようでしたものね」

美琴(え? そうだったの?)

佐天「なぁっ!? な、何言ってるんですか、白井さんまで!」ワタワタ

初春「そうだ、最近オープンしたケーキバイキングのお店があるんですけど行ってみませんか?」

美琴「あ、それいいわね。何なら私が全部出すわよ」

佐天「いやあの」

黒子「決まりですわね」

佐天「私の意見は!?」

美琴「いいからいいから、パーッと食べてパーッと忘れちゃえばいいのよ」

佐天「だからそれはちが」

初春「やったぁ! 御坂さんの奢りならリミッター解除しちゃいますよ!」フンス

黒子「バイキングなのだからあまり関係ないと思いますが」

初春「はぅあ! それもそうでした!」

佐天「……」

美琴「ほーら、さっさと行くわよー?」

黒子「お姉様っ、待ってくださいまし!」

佐天「(……みんな、ありがと!)えへへっ、今行きまーす!」タタタッ
299 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/07/22(木) 22:44:34.16 ID:THZRoo.o
──とある一方通行の帰り道。

一方通行「でだ。何でオマエがナチュラルに付いてきてンだァ? つーか何でまだ学園都市に居ンだよ」

14510「はい、その筈でしたが、先の幻想代入の能力者に負わされた傷が完治するまで休暇を与えられました。
 とミサカは二つ目の質問に簡潔に回答します」

一方通行「一つ目の質問には答えねェのかよ」

14510「それは……それをミサカの口から言わせるというのは自分の鈍感さを認めているようなものだと、
 ミサカは半目で一方通行を睨みつけます」

一方通行「あーあー解かった解かった。約束は約束だからなァ、1日くらい押しかけ女房でも何でも好きにしろォ」

14510「本当ですかっ! とミサカは目を輝かせて一方通行に詰め寄ります」

一方通行「それと、先に言っとくが……」

百合子「お兄様、あンまり遅いからこちらから……ほォ、これはこれはレイプ目ゴーグルさン。
 まだお兄様についてまわっているのですか?」

打ち止め「あーっ! 迎えに来るのが遅いと思って来てみたら14510号とイチャイチャしてる!
 ってミサカはミサカは浮気現場に出くわしてみたりっ!」

一方通行(……頭痛ェ)

14510「上位個体は兎も角として、あの腐れ白貞子についての説明を求めます。とミサカは一方通行に問い詰めます」

百合子「白貞子とか舐めてンですかァ? ていうか私はお兄様と同じ遺伝子なんだから身体的特徴で貶めるのは
 そのままお兄様を貶めるって意味になるンですよ。量産品は量産品らしく不幸男にでも絡ンでなさい」

14510「ほう、その言葉はケンカを売っていると思っていいんですね? 今の無能力者となんら変わらない貴方が
 レベル3とはいえ軍用に生産されたミサカに対してケンカを売ろうと? とミサカはサディスティックな笑みを浮かべます」

百合子「単価18万円のレイプ目が聞いた風な口を……ブ・チ・コ・ロ・シ・カ・ク・テ・イ・ネ!」

14510「他人の台詞をパクって調子に乗ってんじゃねーです。とミサカは怒り心頭なので手加減はできませんよ」

一方通行「おい、打ち止めァ!」

打ち止め「えっと、えっと、うん! ってミサカはミサカはあなたの意図を正確に理解して実行に移してみたり!
 これって心が通じ合ってるってことかなキャー! ってミサカはミサカは大発奮!」

百合妹「あばばばばばば」

一方通行「……三下ァ、こういう時に言うンだったか? 不幸だってなァ……」
300 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/07/22(木) 22:46:07.26 ID:THZRoo.o
──とある学生寮の一室

上条「なんだかんだで平和に済んで良かったぜ……あんまり不幸じゃなかったしな、っと……ただいまー」ガチャ

禁書目録「おかえりなんだよとうま! とっくにお昼ごはんの時間は過ぎてるんだよ!」

上条「あれ? 昼飯はちゃんと作ってあった筈……」

禁書「あんな量じゃおやつにも足りないかも!」

上条「食ったのか……」ガクッ

禁書「そんなことより早くお昼ごはんを用意するんだよ!」

上条「俺の分まで食っといて言う台詞がそれですか!?」

御坂妹「そんなお困りのあなたにデリバリーミサカです。とミサカはずかずか上がりこんでキッチンに立ちます」ガチャッスタスタ

上条禁書「」

御坂妹「定期的にとある病院でのメンテナンスを必要としますが今ならなんと単価18万円でのご奉仕です。
 とミサカは深夜の通販番組のノリでセールスポイントを強調しました」

禁書目録「ひょっとしてクールビューティはごはんを作りに来てくれたのかな!」

上条「あのー御坂妹さん、どうして脈絡も無く上がりこんで、あまつさえ上条家の食料を全部この穀潰しが
 食っちまった事を知ってるかのうような振る舞いでキッチンに立ってるんでせうか?」

御坂妹「心配には及びません。お早うからお休みまで上条当麻の私生活を見守る優秀なスネークによって、
 あなたの状況は丸っとお見通しです。とミサカは懇切丁寧に説明しながら持ち込んだ食材の調理を開始します」

上条「答えになってねえよ! っていうか何だよスネークって、ものすごい怖いんですが!?」

禁書目録「とうま、せっかくごはんを作りにきてくれたのにその態度はちょっと酷いかも!」

御坂妹「その通りです、話が分かりますね真っ白シスター。というわけで上条当麻、貴方も大人しく食卓で待っているべきだ
 とミサカは忠告しておきます(ちょれえシスターですね。とミサカは内心で軽く嘆息します)」

禁書目録「まだかなまだかなーごっはんーごっはんー♪」

上条「はぁ……作り始めたばっかなのに、そんなすぐ出来るわけないだろ。……って、不幸じゃない……だと!?」
301 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/07/22(木) 22:49:26.41 ID:THZRoo.o
多分、次くらいで最終回にできるといいなとか何とか。

次は早くても日曜、無理だったら来週の木曜までに書き上げる予定です。
302 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/07/22(木) 22:54:34.58 ID:ax7u/p.o
乙乙です
303 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/07/30(金) 04:04:10.41 ID:8kxk2ywo
>>1です、書き上げるの無理でした!大した文量でもないのにごめんなさい。
ラストになろうがなるまいが、月曜日に投下します。
304 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/07/30(金) 04:05:51.62 ID:GMLl5uYo
待ってるよーがんバレー
305 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/08/02(月) 21:42:24.18 ID:JrdobdEo
もう終わりそうだというのに多忙極まりなくて死にたくなってきますよね。
終われなかったというか禄に書けなかったけど投下します。
306 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/08/02(月) 21:43:04.41 ID:JrdobdEo
──西暦2199年、北極大気制御衛星。展望エリア。

錬「ここは……」

半球状のドームが天井から壁まで透明のガラス張り。視界には一面の青。
横を見ればこの場所を中心に渦を作るような雲海が広がっている。

情報制御を解除する黒色の雲。この世界の行き詰まりの象徴。
先程まで当然のように見ていたのと同様に青い空の下、黒色の惑星は確かに存在した。

錬「……狭い、な」

先程まで見ていたよりも、青の面積は目に見えて大きい。だというのに、広大な青を狭いと感じてしまっている。
たかが数日で、随分と贅沢になったものだと自嘲気味に笑い、脳みそのスイッチを入れ替えた。

錬「って事は、ここはまさか大気制御衛星の……?」

ぼんやりと、周囲の光景を見渡して考える。
足元を中心に渦を巻いている雲海、そしてその上に広がる雲ひとつ無い青空。
そんな光景が見られるのは、北極で延々と地球を覆い尽くす雲を吐き出している大気制御衛星に他ならない。

何故ここに飛ばされたのか、『アリス』というのは何なのか。
取り留めもない考え、唐突にその部屋のドアが開いて、懐かしい声。

フィア「錬さんっ!」

錬「フィア……」

たった数日、ただそれだけの間だというのに。その声を聴いた途端に、体が勝手に動き出して。

錬「フィア!」

気付けば、大切な人の元に駆け寄って抱きしめていた。

フィア「あ、あの……? 錬さん、苦しいです」

錬「あ、ごめん……」

彼にとっては数日であっても、目の前の少女にとっては一瞬の出来事だった筈。
そう思い直して、フィアを開放して。

錬「それよりこれ見てよ、すごいよ!」

誤魔化すように、透明な天井、その向こう側にある無限の青に視線を向ける。
307 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/08/02(月) 21:43:48.42 ID:JrdobdEo
フィア「わぁ……! きれいですね……」

錬「うん、雲の上……多分、大気制御衛星の中って事だと思う」

フィア「大気制御衛星……? って北極の?」

錬「地球上でこんな光景が見られるなんて……それくらいしか、無いでしょ?」

フィア「そんな……でも、どうして……」

錬「声が聞こえたんだ。転送シーケンスがどうこうって。あの光はそういう事なんだと思う」

言いながら無限に広がる青空を見上げれば、先程までいた学園都市の青空を思い出してしまう。
あの場で起きた全てが、この世界では知られる筈の無い事。……だというのに。

フィア「……錬さん。少し、雰囲気変わりました?」

錬「……そっかな?」

そう苦笑して首を傾げてはみるものの、上手く表情を作れていたのかどうか、錬には分からない。

イル「なんや、こんな所におったんかいな」

不意に部屋に飛び込んで来たのは、緊張感のない訛り言葉。

フィア「あ……イルさん……」

イル「おーちびっ子か、元気にしとったか?」
                        イリュージョン
軽く手を上げて爽やかに話しかける少年の正式名称は「幻影No.17」。
そして声の主の後ろにも二つの人影。

ディー「あ、やっぱり二人とも飛ばされてきてたんだね」
                     デュアル
腰に双剣を携えた銀髪の少年。正式ま衣装は「双剣No.33」。

サクラ「……想像していた通りだな」

そして最後に現れたのが悪魔使いの少女だった。

サクラ「この光景を見るまでは信じられなかったが、な」

無限に広がる青を見上げ、この場所を中心に渦巻く黒い雲海に視線を移して、忌々しげに呟いて。

サクラ「……まずは状況を整理しよう」

その言葉に、全員が頷いた。
308 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/08/02(月) 21:45:03.25 ID:JrdobdEo
ルビがズレた上に誤字とか……orz
309 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/08/02(月) 21:46:00.55 ID:JrdobdEo
フィア「わぁ……! きれいですね……」

錬「うん、雲の上……多分、大気制御衛星の中って事だと思う」

フィア「大気制御衛星……? って北極の?」

錬「地球上でこんな光景が見られるなんて……それくらいしか、無いでしょ?」

フィア「そんな……でも、どうして……」

錬「声が聞こえたんだ。転送シーケンスがどうこうって。あの光はそういう事なんだと思う」

言いながら無限に広がる青空を見上げれば、先程までいた学園都市の青空を思い出してしまう。
あの場で起きた全てが、この世界では知られる筈の無い事。……だというのに。

フィア「……錬さん。少し、雰囲気変わりました?」

錬「……そっかな?」

そう苦笑して首を傾げてはみるものの、上手く表情を作れていたのかどうか、錬には分からない。

イル「なんや、こんな所におったんかいな」

不意に部屋に飛び込んで来たのは、緊張感のない訛り言葉。

フィア「あ……イルさん……」

イル「おーちびっ子か、元気にしとったか?」
                                 イリュージョン
軽く手を上げて爽やかに話しかける少年の正式名称は「幻影No.17」。
そして声の主の後ろにも二つの人影。

ディー「あ、やっぱり二人とも飛ばされてきてたんだね」
                            デュアル
腰に双剣を携えた銀髪の少年。正式名称は「双剣No.33」。

サクラ「……想像していた通りだな」

そして最後に現れたのが悪魔使いの少女だった。

サクラ「この光景を見るまでは信じられなかったが、な」

無限に広がる青を見上げ、この場所を中心に渦巻く黒い雲海に視線を移して、忌々しげに呟いて。

サクラ「……まずは状況を整理しよう」

その言葉に、全員が頷いた。
310 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/08/02(月) 21:46:59.82 ID:JrdobdEo
──大気制御衛星内部、アリスの隠れ家

五人は北極から大気制御衛星の中に、内二人は異世界での経験を経たものの、無事に飛ばされた。
そして今、食卓を囲んでいる。

イル「って、なんでやねん!!」

サクラ「なんだ幻影No.17、食事中に行儀が悪いぞ」

イル「この衛星の内部を調査しとったら高度な論理回路で隠蔽された空間を見つけた、それはええねん。
 そん中に、まるで大戦前の邸宅や公園のような施設があったっちゅうのも、理由はまだ解からんけど置いとく」

サクラ「ならば、何が問題だというのだ」

イル「で、なんでその家で悠長に飯なんて食ってんねん!?」

錬(……まぁそうなるよね)

サクラ「地上との通信も取れるようになって、今ここでやれる事が無くなったからだろう?
 というよりは幻影No.17、元はと言えば、貴方の腹の虫が鳴ったのが直接的な原因ではないか」

イル「い、いや……そりゃせやねんけどなぁ……」

錬「まぁまぁ、ケンカをするのは食べた後にしようよ?」

フィア「そうですよ、折角作ったのに冷めちゃったら勿体無いです」

イル「……料理長にそう言われてもうたらしゃあないか」

ちなみに『料理長』というのは、この食事──と言っても簡単なスパゲッティとサラダではあるが──を
用意したフィアを指す言葉である。

サクラ「それはそうとだな、天樹錬」

錬「何?」

サクラ「貴方は賢人議会に入るべきだ」

イル錬「ぶふぉっ!?」

フィア「あ、折角作ったのに……」

錬「いや大丈夫! ちゃんと食べるから!」

ディー(……どうしてこうなった)
311 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/08/02(月) 21:48:10.22 ID:JrdobdEo
>>307は無かった事に。今日は以上です。
次は木曜くらいまでに来れると思います。
312 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/08/06(金) 00:31:04.12 ID:KzyhFXMo
>>1です。ここのところ遅筆すぎてすいません。
書き上がらなかったので次の木曜までに投下しに来ます…
313 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/08/06(金) 02:11:20.49 ID:ECwEJqwo
待ってますぜ
314 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/08/13(金) 23:33:56.62 ID:OvEjcuAo
遅れましたが今日の分を投下開始します。
315 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/08/13(金) 23:35:03.53 ID:OvEjcuAo
イル「おっま、いきなり何を言い出すかと思えば、そら何のつもりやねん」

サクラ「言葉通りの意味だが? 天樹錬。貴方もフィアも各シティから追われるような立場なのだろう?
 であれば賢人会議に身を寄せて、共に戦う事も可能なはずだ。こちらには貴方の兄もいるのだから、何も問題はあるまい」

錬「いや……だから僕は賢人議会の味方になるつもりもシティに手を貸すつもりも無いって……」

サクラ「いつまでもどっちつかずのままでいるつもりか?」

錬「だから、どっちつかずとかじゃなくて……」

サクラ「このままでは貴方は、どちらからも信用されずに孤立する事になるぞ?」

イル「むしろ賢人会議が世界から孤立しとる気がするんやけどな」

サクラ「貴方は黙っていてもらおう、幻影No.17」

錬「ちょっと待ってよ、なんでそういう話になってるの。っていうかまだ食事中でしょ?」

サクラ「では言葉を変えよう。天樹錬、私は貴方が欲しい」

錬フィア「!?」

イル「いや落ち着けや、その言い方やと余計に不味うなっとるで」

サクラ「何を言っている? 私は至って冷静だ」

ディー(どうしよう、もう地上に帰りたい……セラは大丈夫かなぁ)

サクラ「……本題に戻すぞ。天樹錬、それで賢人会議に入る気は無いのか?」

イル「まだ言うかお前は」

サクラ「貴方のようなシティに追われるような魔法士が賢人会議に入らないという方がおかしな話なのだ」

錬「だから、そういう……なんていうのかな、魔法士とかシティとか言ってたら解決しないんじゃないの?」

イル「まぁ……シティの寿命が暴露されてもうた今となっては、それは否定せんけどな」
316 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/08/13(金) 23:37:00.62 ID:OvEjcuAo
錬「……ねぇ、魔法士って人間だと思う?」

サクラ「っ! それは……」

大戦前には後天的にI−ブレインを埋め込むこともできたが、今では魔法士は遺伝子を操作して製造するしか無い。
とある光使いの少女のような自然発生した魔法士という例外はあるにはあるが、その可能性は無きに等しい。
更に、魔法士というだけで人権の認められないシティすらある。

イル「そら人間に決まってるやろ」

それでも、魔法士も人間も別け隔てなく接してくれる者が居ることを、イルは知っている。
もちろんそうでない者の方が多いことも知っているが、それ以上に譲れないものがある。

錬「うん、イルはそうだよね。……サクラは?」

サクラ「…………」

しかし即答したイルとは対照的に、サクラは答えに言い淀む。

イル「いや、なに黙っとんねん。お前はそこは『魔法士は人間ではない』言うところちゃうんか?」

サクラ「……いいや、魔法士も人間だ」

イル「はぁ!? 賢人会議は魔法士を保護してシティを倒すっちゅー組織やないんかい!」

サクラ「何か勘違いしているようだが、仮に世界中の魔法士だけを集められたとしても、長続きするものではない。
 魔法士のI−ブレインが遺伝する確率を考えれば尚の事だ」

イル「だからお前らはそれをどうにかするのが課題なんちゃうのか」

サクラ「察しが悪いな幻影No.17。私が言っているのは、シティとの敵対関係は飽くまで一時的なものに過ぎない、という事だ」

錬「え? それって……」

サクラ「逆に問うが……今現在、魔法士は人間として生きていく事ができているか?」

イル「そいつは……確かに、普通の人間と言えるような生活はできてへんけど」

サクラ「そうだろうな。魔法士を人間だと言う貴方ですら、魔法士は人間として生きていけるわけではないと理解している」

イル「……やったら、どないすんねん」

サクラ「ふっ、……ここまで言っても分からんか」
317 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/08/13(金) 23:38:09.40 ID:OvEjcuAo
──とある学園都市の公園

一方通行「よォ、三下ァ」

上条「げえっ! 一方通行!?」

一方通行「お前がやってもネタなのか本気なのか分かりにくいンだよォ!」クワッ

上条「ひぃっ!? ごめんなさい一方通行様! ……ってまぁ冗談は置いといて、お前をこんな所で見るのは珍しいな」

一方通行「うるせェな、ここの自販機にしか売ってねェコーヒーがあンだよ」

上条「ほんとコーヒー好きだな、しかもブラックばっかり」

一方通行「他人の好みにケチ付けンな」

上条「はいはい、すいませんね」

一方通行「……なぁ、三下ァ」

上条「……? どうした、真面目な顔して」

一方通行「…………。 ……いや、何でもねェ。お前に聞いても答えなんって決まってるからな」

上条「そこまで言っておいてそれかよ!? すげえ気になるんですが!?」

一方通行「チッ……無駄な時間を過ごしちまったぜ、あばよ」クルッスタスタ

上条「いや、おい、一方通行!? ……って……行っちまったか。……何だったんだ」

17600「それについては検体番号17600号のミサカがお答えしましょう、とミサカは唐突に茂みから顔だけ出しました」ガサッ

上条「おっかしいなー……俺、疲れてるのかな……」

17600「あっ、待ってください。折角出てきたのにこの扱いはあんまりです。とミサカは個体名、上条当麻の腕を掴んで抗議します」

上条「幻覚であって欲しかったなー。っていうかいつから居たんだお前」グッタリ

17600「それは秘密です。というよりはミサカとしてはこうして観察対象に顔を見せる事自体がNGなのですが、
 幼じ……上位個体からの指示なので仕方ないのです。とミサカは止むに止まれぬ事情を説明しました」

上条「(幼女って言いかけたなこいつ……)って観察対象って何だよ……それで何ですか?」

17600「単刀直入に言いますと、一方通行は落ち込んでいます。故に貴方が慰めてあげてください。
 とミサカは過程をすっ飛ばして要点だけ説明しました」

上条「いや、さすがにれだけじゃ上条さんじゃなくても意味が解からないと思うんですが?」

17600「察しの悪いエテ公ですね、仕方無いので順を追って回想シーンで説明しましょう。とミサカはメタ発言をします」
318 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/08/13(金) 23:40:11.57 ID:OvEjcuAo
──とある一方通行の私室

一方通行「……」

打ち止め「ねぇねぇ、どこかに遊びに行きたいな! ってミサカはミサカは可愛らしくおねだりしてみるっ!」

一方通行「可愛くねェし、自分で言ってンじゃねえよ、うぜェ……クソガキはガキらしく寝てろ」

百合子「でも遊びに行きたいというのは私も同意見です、お兄様」

打ち止め「これで2対1だね! 民主主義で遊びに行く事にけってーい! ってミサカはミサカは大はしゃぎ!」

一方通行「いいから寝てろっつってンだろォがよォ……」

百合子「……? お兄様、何か考え事でもしてるンですか?」

一方通行「ちっ……コーヒー買ってくる」スタスタガチャッ

打ち止め「あーっ! 一人で外に行くなんてずるーい! ってミサカはミサカは大憤慨!」

百合子「……打ち止めちゃン、今は一人にしてあげておいた方がいいと思いますよ」

打ち止め「えー? どうしてどうして? ってミサカはミサカは新しい同居人に上目遣いで訪ねてみたり!」

百合子「私のせいかもしれないンですが、どうも昨晩からあの様子なンですよ」

打ち止め「百合子のせい……何か変な事でも言ったの? ってミサカはミサカはジト目で睨んでみる…」

百合子「いえ……別にそういう意図があったわけではなく、感謝の気持ちを伝えたかっただけなンですけどねェ。
 出来損ないの人間ですらない自分をここに置いてくれてありがとうございます、って言っただけなンですけど……」

打ち止め「何言ってるの、百合子は人間でしょ? ってミサカはミサカは目を丸くしてみたり!」

百合子「私も打ち止めちゃンも、姿形は人間ですけど、生まれた理由も工程も、人間とはかけ離れているじゃないですか?」

打ち止め「生まれなんて関係無いよ! ってミサカはミサカは百合子の言葉を即答速攻大否定してみるっ!」

百合子「え……」

打ち止め「だって、ミサカも百合子も今こうして生きて、恩返しなんて関係無くあの人の支えになりたいって思ってる。
 その気持ちはきっと、人間じゃないと自然に出てくるものじゃないよ、ってミサカはミサカは諭すように言ってみたり」

百合子「そういうものなンですか? 私にはまだ理解できないンですが……」

打ち止め「ミサカがそうって言ったらそうなの! ってミサカはミサカは力いっぱい腕を振って力説してみるっ!」
319 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/08/13(金) 23:41:26.09 ID:OvEjcuAo
──とある学園都市の公園

17600「──という事があったらしいので、貴方がフォローしてあげてください。とミサカは説明を終えてため息を吐きました」

上条「とりあえず事情は解かったけど……っていうかあいつ、そんな事で悩んでたのか?」

17600「はい、今の発言は減点ですね。当人にとっては大きな問題ですよ。とミサカは容赦なく採点します」

上条「いやだって、百合子だって打ち止めだって、お前たち妹達だって人間に決まってるだろ?」

17600「貴方なそう言うと思っていました。とミサカは欧米人のように大袈裟にヤレヤレと肩を竦めてみせます」

上条「っていうかそれ、一方通行もそういう風に思って何も言わなかったんじゃ……」

17600「いいえ、これは貴方でなければできません。ちなみに14510号は既に撃沈されています。
 とミサカは早まった真似をしたミサカに同情の念を禁じ得ません」

上条「撃沈って……(ていうか14510号ってどの御坂妹だよ)、いいけどさ。ちょっと意外だったな」

17600「はて、何が意外なのでしょうか? とミサカは首を傾げます」

上条「お前たちが一方通行を心配してるって事が、かな」

17600「誤解の無いように言っておきますと、一方通行を心底から心配しているミサカは少数派ですが、
 ミサカたちの連帯感とMNWによる相互影響、そして美しい助け合いの精神の賜物です。とミサカは説明しました」

上条「それでもいいんだよ。……まぁとにかく行ってくる。またな、えーと……何号だっけ?」

17600「はい、行ってらっしゃい。ちなみに最初に説明した通り、ミサカは検体番号17600号のミサカです。
 とミサカは見送ってからスネークを再開する事にします」

上条「おう、17600号か、ありがとな。それじゃあまたな!(……スネークって何だ?)」タッタッタッ

17600「……ふぅ。こういう時はミサカのポーカーフェイスも役に立ちますね。とミサカは独り言ちました」
320 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/08/13(金) 23:44:22.10 ID:OvEjcuAo
今日は以上です。
来週の木曜くらいまで来れるといいなぁ、とか思ったけど、戦利品とかチェックする事を考えるとその次の月曜くらいにしておきます。
何の戦利品かは察してください。
321 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/08/14(土) 00:52:09.69 ID:uDvShxIo
コミケ行きたかったのに仕事入っていけなかった死にたい
322 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/08/25(水) 02:37:55.09 ID:0WdTGLko
すいません>>1です、戦利品チェックに夢中になりすぎてました…。
明後日の木曜までに投下します。
323 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/08/25(水) 02:42:21.25 ID:BmdwGe.o
コミケ行きたかったなぁ
324 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/08/28(土) 04:59:24.37 ID:4i69JoEo
結局遅れに遅れたけどラスト投下します。
325 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/08/28(土) 05:01:23.77 ID:4i69JoEo
上条「おい、一方通行、待てよ!」

一方通行「あン? ……ンだァ、三下か」

上条「っていうか杖突いてるのに歩くの速すぎだろお前……」ゼェゼェ

一方通行「オマエが遅ェンだろ。まだ何か用かよ?」

上条「……あのなぁ……百合子も、打ち止めも、妹達も、みんな人間に決まってんだろ!」

一方通行「っ! ……チッ、めんどくせェ事しやがって」

上条「面倒臭いとかそういう問題じゃねぇだろ! どうしてそんな事d」

一方通行「三下ァ!」

上条「っ!」

一方通行「俺や百合子はよォ。他人の演算が無きゃ、こォして歩いたり話すだけでもできねェンだよ。
 それにしたって、1万人のクローンなンて馬鹿げたモンがあるから出来てるってェだけだ」

上条「だから何だよ……」

一方通行「だからァ? だからもクソもあるかよォ。これだけ俺たちが人間じゃねェ要素が揃ってて、
 未だに人間面しようって奴が居るかってンだよ」

上条「馬鹿野郎! 人間面も何も、人間じゃねえかよ!」

一方通行「あァ? お前に何が解かるってンだァ?」

上条「確かに俺にはお前の事は解からないけどな。それでも……今そんな事を考えてるお前は絶対に
 幻想なんかじゃねえ。今ここに居るお前が人間じゃなけりゃ、誰が人間なんだよ!」

一方通行「解からねェなら、口出してんじゃねェぞ三下ァ……今は虫の居所が悪いンだよォ……」カチッ

上条「っ!!」
326 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/08/28(土) 05:02:06.05 ID:4i69JoEo
──大気制御衛星内部、アリスの隠れ家

イル「んなもん解かるかい!」

サクラ「洞察力のある男だと思っていたのだが、見込み違いだったようだな」

イル「お前の見込みなんぞどうでもええがな……」

サクラ「まったく……我々が今、どこに居るのか忘れたのか?」

イル「あ……? まさか!」

サクラ「先に言っておくがこの大気制御衛星を破壊する訳ではないぞ」

イル「うっ……」

錬(ギクッ)

サクラ「……まさか本当にそんな事を考えていたのか貴方『たち』は? 付ける薬の無い程の馬鹿だな」

錬(って、バレてるよ! ……死にたい)

ディー「え、『たち』って……あ……」

フィア「あ、あの……錬さん、そんなに落ち込まないでください……」

錬「あ、うん……ありがとう、フィア」

ディー(イラッ)

イル「……で、ここが大気制御衛星だから、どないすんねん」

サクラ「この地球を覆っている黒い雲を除去できる方法……とまでは行かずとも、その糸口になるような情報が
 どこかに蓄積されている可能性が高い、という事は容易に想像できるだろう?」

イル「なんや……そんなもん希望的観測で夢物語やないか」

サクラ「ふん、それはこれから解かる事だ。我々賢人会議は、この世界を変えてみせる」

ディー(え、僕も?)

イル「世界と変える? お前が? っはは! なんや悪いもんでも食ったんか?」

サクラ「変えられないのなら余命30年のシティと心中するか? はっきり言ってしまえば、
 世界を変えるような劇的な変化でも無い限り、魔法士が人間だと認められる事も無いし、
 人類が生存する道も有り得ないのだ」

イル「待てや! だからって世界を変えるなんでどの口が抜け抜けと……」
327 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/08/28(土) 05:04:10.28 ID:4i69JoEo
──とある学園都市

上条「いいぜ、お前らが人間じゃないなんてふざけた事を考えてるなら」



──とある大気制御衛星

サクラ「いいだろう、この期に及んで世界を変えられない等と考えているのなら」





「「まずは……その幻想をぶち殺す!!」」





とある魔法の悪魔使い −了−
328 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/08/28(土) 05:05:18.17 ID:4i69JoEo
──とある楽屋裏の反省会

錬「というわけで、お疲れ様でしたー」

サクラ「ああ、お疲れ様。というわけで反省会だ」

上条「いやー、思ったより長かったな」

佐天「終盤の錬くんが暴走しちゃう下りは思いつきで追加したらしいですしね」

土御門「おかげで天樹錬の動機付けがかなり強引な事になってるにゃー」

美琴「まぁトラウマには違いないんでしょうけどね」

錬「原作では殆ど触れられてない設定だから使いたかったみたいだけど……」

サクラ「力量の及ばない事をしようとするから、こんな無様な事になるのだ」

上条「投下し始めた時は魔法士2人VS一方通行+超電磁砲なんて考えてたらしいけどな」

一方通行「はァ? なんだそりゃ。俺が第三位と組むなんてありえねェだろ、常識的に考えてよォ」

美琴「アンタに常識があるとは思えないけど、それだけは同意してあげるわ」

一方通行「あァ!? なに上から目線で同意してくれやがってンですかァ!?」

上条「はいお前らストップ」

一通琴「ちっ」

黒子「序盤でマトモに地の文が入ったと思ったら、ほぼ設定捏造のキャラというのも如何なものかと」

結標「というか禁書の原作も読まずアニメしか見てない癖によく私を出す気になったわよね」

海原「自分の扱いも酷すぎると感じます」

土御門「お前は自業自得だにゃー」

佐天「それよりも、投下するときに抜けが多いのも問題じゃないですか?」

美琴「多かったわよねー、読む側のテンポが崩れちゃうしやめて欲しいわ」

土御門「お? 何かカンペが出てるにゃー」

上条「なになに? 『投下が初体験だったのでごめんなさいホントすいません土下座して謝ります』だそうだ」

一方通行「土下座で済むと思ってンのかァ!? 血液逆流させンぞォ!」

美琴「なんでアンタが怒ってんのよ」
329 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/08/28(土) 05:06:15.15 ID:4i69JoEo
錬「そういえば、最初に思いつきでメモに書き始めた時は、魔法士が5人飛ばされてくる筈だったんだってね」

サクラ「ああ、やろうと思えば『双剣』のディー、『天使』のフィア、『幻影』のイリュージョンNo.17辺りも
 設定的に無理無くこちらに飛ばせた筈だからな」

美琴「というか、クロスSSが交わる部分の設定にそこまで凝る必要も無いんじゃないの?」

佐天「そういうところだけ妙に気にする人なんじゃないですかね、作者って中二病っぽいし」

サクラ「その割には、私に(中略)ばかりの説明をさせてお茶を濁していたがな」

佐天「じゃあ高二病も併発してるのかも」

海原「しかし、5人ともなると禁書側の戦力が足りなさすぎるような気がしますね」

錬「それもあるかもね。それに『天使』と『幻影』の能力は扱いにくいだろうし」

一方通行「所詮アニメ知識だけじゃ、メルヘン野郎もヒステリー女も使えねェし、魔術サイドも核心的な描写は無ェからな」

土御門「魔術サイドを使えたとして、ノーモーションで常時展開型の魔術でもないと発動前に勝負がついちまうんだぜい」

美琴「おかげで私も作者の思い付きで自動反撃なんて使わされたしね。しんどいからやりたくないのよ」

サクラ「特に『双剣』は亜光速移動と50倍以上の身体能力制御を同時に使えるからな。
 一方通行の反射でもなければ話にならないだろう」

黒子「単純計算では、全力疾走するだけで音速を超えられる世界ですわね。出鱈目にも程がありますの」

結標「何にせよ終盤の失速感とベタ過ぎる展開はどうにかならないものかしらね」

錬「最後の台詞だけは書き始めた当初から決まってたみたいだし、無理じゃない?」

サクラ「私があんな甘い夢物語を嬉々として語ったりするように思われていたとは心外だな」

上条「そう面と向かって甘いとか夢物語とか言われると上条さんが傷付くんですが!」

一方通行「いやオマエは甘ェし、夢物語ばっか語ってるじゃねェか」

美琴「まぁそれは否定できないわよね」

黒子「お姉様……『そこが良い所なんだけど』などとお考えではないでしょうね?」

美琴「そそ、そんな事無いわよ!」

土御門「まぁカミやんの場合は有限実行なのがすごい所というか、タチが悪いところでもあるにゃー」

佐天「あはは、主人公にそんなこと言ったって無駄ですってー」

上条「って、どうして上条さんを叩く流れになってるんですか? はぁ、不幸だ……」
330 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/08/28(土) 05:07:41.47 ID:4i69JoEo
錬「あ、またカンペだ。『それぞれ何か一言ずつ感想を言って締めてください』だって」


サクラ「私と上条当麻が苦戦した進入禁止を、天樹錬が容易く倒すというのはどういう事だ?」

そこはほら、魔法士の戦いには『予測』がどれほど重要かという話で、幻想代入の副作用で完璧な予測ができたと。

サクラ「それで納得はしておいてやるが、腑には落ちんな」


上条「上条さん的には『魔法は幻想殺しでは消せない』ってのをもっとちゃんと使ってほしかったなぁ」

ごめんなさい、何かに使いたかったんですが結局浮かばないまま腕折っちゃった。

上条「やれやれ、腕だけで済んだのは不幸中の幸いだと思っとくよ」


美琴「そうねー、せっかく設定無視できるSSなんだから、私は妹達ともっと絡みたかったかな」

他の人のSS作品でいっぱい絡んでるじゃないですかー!

美琴「他人は他人でしょ」


黒子「冒頭ではわたくしがヒロイン格かと思いきや、ただの脇役だったのはどういう事ですの?」

書き始めた当初はそのつもりだったんです。でもやっぱヘタレな錬君に説教する方が似合ってるんですよね。

黒子「それは否定しませんが……」


佐天「私は錬くんとイチャイチャできたからそれでいいかな? 強いて言えば尻軽すぎてちょっと引くかも」

割と強引な動かし方してしまってすいません。

佐天「なんの、気にしてないって」
331 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/08/28(土) 05:08:58.59 ID:4i69JoEo
一方通行「この俺がクローンごときに俺が負けるとかありえねェだろ常識的に考えて」

そこはほら、一方通行が負ける程の相手! っていうインパクトが欲しかったといいますか。

一方通行「第一位を噛ませ犬に使うたァいい度胸だなァ?」


土御門「俺は色々と忙しかったが、それなりにおいしいポジションだったから満足してるんだぜい」

立場的にはチェスプレイヤー的な位置だったんで、便利に使わせてもらいました。

土御門「魔術を使わずに済んで一安心だにゃー」


結標「人をタクシー代わりみたいに使わないで。あと私はショタコンじゃないからね?」

ごめんなさい、だってその能力便利すぎるんですもの。あとかわいい男の子っていいですよね。

結標「まさか同意を得られるとは……って違う!」


海原「自分には、せめてもう少しマトモな扱いをお願いしたいところですね」

アニメでも酷い扱いだったしロリコンでシスコンなので無理です。ごめんなさい。

海原「せめて御坂さんとの絡みがあれば……!」


錬「最後に僕は……うん。月並みだけど、僕らの世界もこっちと同じくらい平和な世界にできるといいね」

別に禁書世界もそこまで平和ってわけじゃ……。人類滅亡とか言ってるWBが行き詰まりすぎなだけで。

錬「あんた割と最低だよね」




錬「……と、こんなところかな?」

サクラ「そうだな。では、改めて──」


序盤からいろいろツッコミどころ満載な始まりだった上に、
終盤の投下ペース落ちまくったりして展開が失速したり散々でしたが、
ここまで付き合って頂いてありがとうございました。
332 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/08/28(土) 05:13:48.35 ID:4i69JoEo
長いことかかってしまいましたが、ここまでで終了です。
後はhtml化依頼を出しておけばいいんでしょうかね?
333 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/08/28(土) 05:39:52.65 ID:5Wi1pMSO

俺得スレでした

二、三日経ってから依頼出してもいいと思う
334 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/08/28(土) 09:04:17.53 ID:Z1r0TKQ0
>サクラ「特に『双剣』は亜光速移動と50倍以上の身体能力制御を同時に使えるからな。
 一方通行の反射でもなければ話にならないだろう」

ヴェントの立場は……
335 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/08/28(土) 14:22:04.12 ID:Ce/dL5Io
>>332
ごめんね、アニメ知識だからその辺ぜんぜん知らなくてごめんね
336 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/08/28(土) 19:27:59.69 ID:TslrGIk0

ウィザーズとやらは知らなかったが
片方しか原作知らずにここまで楽しく読めたSSは初めてだ
337 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/08/28(土) 21:27:54.87 ID:2RbJhq2o
俺も禁書のほうしか知らないが結構楽しめたぜ
乙でした!
338 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/08/29(日) 17:15:59.11 ID:c1IWqQAO
禁書はとりあえず神の右席編入らないと魔術サイド弱すぎだな


ウィザーズはあんまし強さのインフレないけど禁書はそのへんやばいからな


ディーはわからんけど他はあっさり負けそう
339 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/08/30(月) 18:03:18.10 ID:TUWeeboo
乙ありがとうございました。
html化依頼スレにも報告して、これでやる事は全部やったかなと。

ウィザーズ・ブレインを知らなくても楽しんで貰えたという声もあって意外でした。
最後に重ね重ね、最後まで拙い文に付き合って頂いてありがとうございました。
340 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/08/30(月) 22:01:39.32 ID:hZUnzPoo
まじ乙
また何か書いてね



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