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HTML化した人:lain.
唯「ボディがお留守だよ!」
1 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 21:26:45.46 ID:S1zbt.AO
KOFと思った人はごめんね
けいおんキャラをガチバトルさせてみたかっただけでKOFは関係無い
天上天下とか一騎当千みたいなノリをごちゃまぜにした感じだよ
そんで厨二臭いの駄目って人は多分背中が痒くなると思う
んじゃ書きます
2 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 21:29:58.94 ID:S1zbt.AO
 私立桜ヶ丘高校。
 その一角にある今は使われていない教室に、数人の女子生徒が居た。

「う〜ん……。困ったなぁ、部活に遅れたらまたあずにゃんに怒られちゃうよぅ……」

 一人の少女は気怠そうな面持ちで呟いた。
 眠たくなる授業を放課後のティータイムを楽しみたいが為に我慢してきた。
そしてようやくその授業が終わり、待ちに待った放課後と思った矢先にこの呼び出しだ。
彼女が嘆息するのも無理は無い。

「そっちの都合なんて知らないね。それよりも自分の身体の心配した方が良いんじゃないの?」

 頭髪を染めて制服を着崩した、リーダー格であろう女子生徒がそう言うと、堰を切ったかのように他の生徒が罵声を浴びせる。
3 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 21:30:31.44 ID:S1zbt.AO
「やだよぅ……。早くムギちゃんのお茶が飲みたいのに……」

 少女は眉を顰め、少し癖のある自身の茶髪を撫でる。

「そりゃ残念だな。アンタはこれから向こう一ヵ月は入院確定だから、暫くお茶は飲めないよ!」

 リーダー格の女子生徒が拳を振り上げた。
そしてそのまま無駄の無い動作で茶髪の少女の懐へと駆け込み、標的の顎を目掛けて振り抜いた。

 だが──。

「え?」

 ぱしんっ、と小気味が良い音が教室に鳴り響いた。
だがその音はリーダー格の女子生徒が茶髪の少女を殴った音ではない。
 それどころか、茶髪の少女はリーダー格の女子生徒の眼前から姿を消していた。
 だが標的が何処に行ったかなどと考える余裕など彼女には無かった。なぜなら……。
4 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 21:32:22.08 ID:S1zbt.AO
「よっし! 一分ジャストだね!」

 平沢 唯は教室の時計を確認すると満足げに言った。
屈託の無い彼女の笑顔は周囲の人間を朗らかな気持ちにさせてしまうものがある。
 だが、今この時点ではその笑顔は場違いなものだ。
 微笑む唯の足元には七人の女子生徒が横たわっており、それぞれ自力では立てないほどの重傷を負っている。
 両手両足をへし折られた者。
 顔面の原形が留められていない者。
 腹部を執拗に殴られ、自身の嘔吐物の上に顔を埋める者。

「よぅし! 部室に行くぞ〜」

 唯は喜び勇んで教室の戸を開いた。
その先に居た人物を見て、一層大きな笑みを浮かべる。
5 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 21:34:01.86 ID:S1zbt.AO
「あ、澪ちゃ──」

 唯が何かを言いかけたが、それは一筋の閃きによってかき消された。
 直後に唯の頭上から鮮血が降り注ぎ、女子生徒が崩れ落ちた。

「おろ?」

 唯は数秒の間何が起きたか分からないといった表情をしていたが、胸を一文字に切り付けられた女子生徒と、自分の友人が抜刀した一振りの刀を見て状況を察した。

「全く……。常に油断はするなって言ってるだろ?」

「えへへ、ごめんなさい澪ちゃん」

 澪は唯のはにかんだ笑顔を見て嘆息した。
そして刀に血が着いていない事を確認すると、それを鞘に収める。

「この高校に来てから血には慣れたけど、好き好んで血を見たいわけじゃないんだからな? 次は助けないぞ」
6 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 21:36:31.57 ID:S1zbt.AO
「そっか、澪ちゃん刀に血が着くの嫌がるもんね〜」

「まぁそういう精神的なものもあるけど、刀ってのはデリケートだからな。人の血や油は極力着けないようにしてるんだ」

 二人は肩を並べて廊下を歩く。
その姿だけを見ればごく普通の高校生活の中のごく普通の日常のワンシーンなのだが、二人の会話は女子高生が語るような内容ではなかった。

「でもでも、やっぱ澪ちゃんはスゴいよ! 今では切った相手の血すら刀に着かない、学校一の剣術使いじゃん!」

「ははっ、刀を振る事だけは馬鹿みたいにやってたからな。ベースも同じくらい上手くなれれば良いんだけど」
7 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 21:37:24.75 ID:S1zbt.AO
澪「それに私なんてまだまだだよ。同じ剣術使いでも和には遠く及ばない。居合いの速度なんて私が十年修行しても追いつけそうもないよ」

 澪は大きな溜め息をつくと、憂鬱そうな表情を浮かべた。

唯「私だって和ちゃんには敵わないよ。そんな後ろ向きにならないでムギちゃんのお茶飲んで元気出して!」

 唯は慌ててフォローし、既に目の前にある部室の扉を開いた。
8 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 21:39:22.57 ID:S1zbt.AO
「おーっす! 待ちくたびれたぞー」

 部室のソファーの上に寝転がった少女が片手を上げて言った。
 普段着けているカチューシャは外しており、外側に跳ねた茶髪にはソファーの後がくっきりと映っている。

唯「ごめんね〜りっちゃん、なんか他のクラスの子に絡まれちゃった」

澪「律の方も何かあったんだろ?」

律「ん……、まーな」

 律は髪の毛をがしがしと掻いて面倒そうに肩を竦めた。

澪「どうした? 後引きそうな喧嘩じゃないだろうな」

律「ちげーって! もう餓鬼じゃないんだからいちいち世話焼くなよ。澪にバレるといつもこうだ」

澪「だったらもう少し上手く隠せよ。私だってわざわざ世話なんて焼きたくないよ」
9 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 21:40:41.76 ID:S1zbt.AO
 澪が何故律が喧嘩をしたと分かったのか、その理由は実に単純明快だ。
 律は喧嘩の際には必ずカチューシャを外す癖がある。
幼少時にはその隙を突かれて満身創痍の状況に陥る事もあったが、それでもその癖は直らなかった。
律のその癖を知っているのは今のところ澪だけなので、高校に入学してから今に至るまではその癖を突かれるという事は無くなったのだが。

澪「その癖直さないと、いつか酷い目に遭うぞ」

律「へいへーい、忠告ありがとうござんますぅ」

 律は再びソファーに横たわると、鞄を枕にして本格的に眠りに入った。
10 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 21:41:55.33 ID:S1zbt.AO
 律が寝静まってから数分ほどして、部室の扉が開いた。

「遅れてごめんね。吹奏楽部の人達に絡まれちゃった」

唯「あ、ムギちゃん! 今日のお菓子はなぁに〜?」

紬「今日は卵の白身よ〜」

唯「わぁい! いっぱい食べて力つけるぞ〜」

 最早テンプレと化したそんなやり取りを終えると、唯はそそくさと自分の席に着いた。

澪「お菓子の事ばかりじゃないでムギの心配もしろよな。ムギ、怪我は無い?」

紬「大丈夫よ。全員一撃で仕留めたから」

 さらっと紬が言うと、口笛と共にさっすがムギちゃん! という声が部室に響く。
11 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 21:43:24.72 ID:S1zbt.AO
「遅れてごめん……なさ……い……」

 軽音部の部室の扉が再び開いた。
それとほぼ同時に小柄な体躯の少女が入口を跨いで倒れ伏した。

唯「あずにゃん!?」

澪「梓!」

 二人が慌てて梓に駆け寄る。
梓の小さな身体には無数の傷が出来ており、制服はところどころ破れていた。

唯「誰にやられたの!?」

梓「憂と別れた直後に……吹奏楽部の奴等に……」

 苦しそうに呻きつつ、それだけ言うと梓は意識を手放した。

唯「…………」

 唯は無言で梓の鞄を漁り、その中から二丁の拳銃を取り出した。
そしてマガジンを取り出して弾が入っていない事を確認すると、大きくうなだれた。

紬「許せない……」

 紬は血が滲むほどに拳を握り、壁を殴りつける。
コンクリートの壁が大きく陥没し、部屋が大きく揺れた。
12 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 21:44:50.57 ID:S1zbt.AO
澪「律、起きろ」

 澪は腰に差した刀を抜刀し、律の頭すれすれの部分に突き刺した。

律「うぉっ!? あぶねーなぁ!」

澪「梓が吹奏楽部の連中にやられた。さっさと仕返しに行くぞ」

 滑らかな動作で澪は刀を鞘に戻す。
だがそれよりも速く、律は軽音部の人間の誰にも察する事が出来ないスピードで部屋から出ていた。

澪「せっかちな奴だな……」

 床に落ちたカチューシャをブレザーのポケットにしまいつつ、澪は呆れたような笑みを浮かべた。

紬「私達も行こう!」
唯「うん!」

 紬が力強く鼓舞すると、それに呼応して唯が駆け出した。紬、澪とそれに続く。
 後に桜高の伝説となった物語は、ここから始まった。
13 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 21:45:52.94 ID:S1zbt.AO
 桜高の第一音楽室に轟音が鳴り響いた。
鍵が掛けられた扉は蹴破られ、見るも無残な姿になっている。

律「アテンションプリーズ、ちょっくらお邪魔するぜ」

 やったのは軽音部部長田井中 律。
その顔にはうっすらと笑みが浮かんでいるが、いつもの明瞭快活な笑みではない。
不敵にほくそ笑み、獲物を物色する獣のような目をしていた。

「あら、軽音部の部長さんが何の用かしら?」

律「惚けたって無駄だぜ? ここに居る全員半殺し確定なんだかんな」

 一呼吸置いて律は叫んだ。

律「先ずは梓をやった奴から潰してやる! やった奴はさっさと名乗り出ろ!!」
14 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 21:47:08.20 ID:S1zbt.AO
 律の怒号に物怖じする事無く、三人の生徒がゆっくりと前に出た。
三人共に傲慢な笑みを浮かべており、咀嚼するように律を見つめていた。

「私達が──」

 その中の一人が何か言いかけたが、直後に床に倒れ伏した。

「え──」

 それに続けて両脇に立っていた女子生徒も何か言いかけるが倒れる。

律「三人だけか?」

 いつの間にか倒れた三人の上に立っていた律は凄みを効かせて部屋中を一瞥した。
 一人を除いて全員が焦燥しきっており、最早闘う意識など無い事は一目瞭然だ。

「流石は田井中さんね。伊達に軽音部最速を名乗っているわけじゃないみたいね」
15 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 21:48:24.56 ID:S1zbt.AO
 軽音部最速。
 神風。
 それが律の異名だ。
彼女の戦闘におけるスピードは常人のそれを遥かに凌駕しており、生半可な動体視力では彼女の動作を視覚する事すら叶わない。
 一つ踏み出せば山を飛び越し、二つ踏み出せば空を衝く。
 桜高の序列ランカーとして名を連ねる彼女の強さの全てはそのスピードにある。

律「アンタが部長だな? 悪いけど吹奏楽部は今日で廃部だから」

「それはこっちの台詞よ。たとえあなたが神風と呼ばれていても、この総員三十二名の壁をあなた一人で破れるかしら?」

唯「りっちゃんだけじゃないよ!」
16 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 21:49:13.10 ID:S1zbt.AO
律「唯、皆……。遅いんだよ、もう始めてるぞ?」

澪「皆がお前のスピードに合わせられるわけじゃないんだよ。大体お前とスピード勝負が出来る人間なんてこの学校に五人もいないぞ?」

 澪は呆れながら腰に差した刀の柄に手をかけた。
そして部屋の中を一瞥する。

澪「なんだ、全員退け腰じゃないか。早く終わらせて練習するぞ」

唯「ティータイムが先だよ!」

紬「あらあら」

 三人が戦いを始めたのはほぼ同時だった。
17 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 21:50:27.96 ID:S1zbt.AO
澪「はっ!」

 澪は踏み込みと共に長刀を抜刀した。
律の最速と負けず劣らずと言える居合い斬りはその範囲に居た生徒を巻込み、蹂躙する。

澪「梓の敵は討たせてもらうからな!」

 刀を振り抜いた腕をそのまま振り翳し、袈裟斬りを仕掛ける。
最初の居合いの際に切った生徒の奥に居た生徒も斬り捨てられた。

「させないわよ!」

 背後から振り降ろされた拳を紙一重で躱すと、澪は心の中で舌打ちした。

澪(くっ……人が多過ぎるな……)

 澪がそう思うのも無理は無い。
本来澪の戦闘スタイルは不特定多数を相手にするよりも一対一の決闘を想定したスタイルだからだ。
18 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 21:51:30.97 ID:S1zbt.AO
 自身が動き回り、場を撹乱するタイプの律とは違って、彼女は腰を据えて相手を迎え討つスタイルを好んだ。
否、そうせざるを得なかったのだ。
 身体能力自体は他の軽音部員と較べて劣る澪に律のような闘い方は出来ない。
それは彼女自身が一番理解していた。
 だが相手の動作を見切る天性の動体視力と日頃の鍛練によって培ってきた剣術。
それらを駆使して澪は防御型の戦闘スタイルを手に入れた。
 彼女の居合いの範囲内は言わば越えられない壁。
 それが秋山 澪が鉄壁と呼ばれる所以だ。
19 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 21:52:42.44 ID:S1zbt.AO
澪「くっ……間に合わない!」

 執拗に背後から攻撃を仕掛けてくる吹奏楽部員達相手に根負けしたのか、澪はがくりと体勢を崩した。

紬「澪ちゃん危ない!」

 紬が澪の背後で跳躍して襲いかからんとしていた生徒を殴り飛ばした。
殴られた生徒は壁に叩き付けられ、力無く床に崩れ落ちる。

澪「ありがとう、助かったよ」

紬「いえいえ、澪ちゃんの背中は私が守るわ」

 朗らかな笑顔で言いつつも、紬は眼前で襲い来る生徒の頭を掴み、力任せに床に叩き付けた。
叩き付けられた生徒はびくりと跳ね、血の泡を吹く。
20 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 21:53:35.98 ID:S1zbt.AO
 紬の戦闘スタイルはその上品さ漂う容姿とは裏腹に、パワーに物を言わせる豪快なスタイルだ。
 彼女は生まれつき力が強かった。
クラスで腕相撲大会なんかがあれば男子生徒を抑えてのトップだったし、酷い時は相手の腕をへし折る事すらあった。
 それに加えて彼女の両親は彼女が幼少の頃から戦闘における英才教育をしていた。
 全国から選りすぐりの格闘のプロを集め、様々な格闘技を紬に叩き込んだ。
 彼女と力で勝負出来るとすればそれこそ人外たる鬼しかいないだろう。そう囁かれていた。
 それが琴吹 紬が鬼殺しと呼ばれる所以だ。
21 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 21:54:38.81 ID:S1zbt.AO
唯「よぅし、私も暴れるよ〜!」

 唯は自身を鼓舞すると手始めに一番近くに居た生徒の頭を掴んだ。

唯「そぉい!」

 そしてそのまま跳躍し、鼻に膝蹴りを当てる。
立て続けに空いている片手で鼻を殴り、空中で器用に掴んだ頭を軸にして回転すると、踵を鼻に捩じ込んだ。

「ぶふぇっ」

 何とも間抜けな声を漏らしながら生徒は膝を折った。
鼻はプレス機にかけたかのようにぺしゃんこに潰れており、人体の再生力を以てしても復元は不可能なのではと思わせる。

唯「手始めにオーバードライブだよ〜。死にそうな人はしっかり避けてね!」
22 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 21:55:48.42 ID:S1zbt.AO
 とんとん、と軽く足踏みをして、唯は紬と同じように襲い来る生徒を掴んで床に叩き付けた。
だが彼女はそれだけでは留まらない。
既に満身創痍であろうその生徒を再び掴み上げるとまた叩き付ける。
 二、三度それを繰り返して、女子生徒が舌を出して失神している事を確認すると、唯はぱっくりと割れて鮮血が滲んでいる頭部を踏み付けた。

唯「うん! 今日も調子良いよ〜。次はリバーブで行こうかな?」

 再びとんとん、と足踏みをすると、唯はその場でゆらゆらと揺れ始めた。
周りの生徒達は何がなんだか分からないとでも言いたげな顔をしている。
23 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 21:57:07.74 ID:S1zbt.AO
 直後に唯は近くに居た生徒の懐に潜り込み、胸に掌底を捩じ込んだ。

「っ!?」

 自身に襲い来る理不尽な痛みの波に、力無い女子生徒は呻き声を上げる事すら出来なかった。

唯「まだまだ〜!」

 執拗に同じ所に掌底を捩じ込む。
その度に標的の身体がびくりと跳ねている事など、今の唯には見えていなかった。

「目茶苦茶だわ……」

「勝てないよ、こんなの……」

 そんな絶望に満ちた声が行き交う中で、唯だけが満面の笑みを浮かべていた。

唯「よ〜し! 次はどれにしよっかな〜。ブースター? ワウペダル? それともトレモロ?」
24 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 21:58:16.88 ID:S1zbt.AO
 平沢 唯の戦闘スタイルはかなり珍しい。
というよりこれを彼女以外に真似出来る者など世界中探しても居ないだろう。
 神に与えられた天性の運動能力と渇いたスポンジが水を吸い込むかの如く、新しい知識を次々に取り入れる柔軟な思考。
彼女の戦闘スタイルは、そんな天性の才能の集大成だ。

唯「なんでも良いや、皆まとめてかかってきなよ!」

 エフェクターの名を冠した無数の戦闘スタイルを自己暗示によって使い分け、人体で一番繊細な部分を的確に、執拗に破壊し尽くす。
 それが平沢 唯が羅刹と呼ばれる所以だ。
25 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/16(木) 21:58:48.27 ID:uWhutbY0
妄想全開だなっ☆
おもしろいぞっ☆
26 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 21:59:46.47 ID:S1zbt.AO
 『神風』田井中 律。
 『鉄壁』秋山 澪。
 『鬼殺し』琴吹 紬。
 『羅刹』平沢 唯。
 『射手』中野 梓。
 総員五名の小さな部がこの学校の縄張り争いにおいて未だに生き残っているのは、彼女ら全員が洗練された武力を秘めているからである。
 そんな一騎当千の軽音部員の内四人が徒党を組んで蹂躙せんとしている吹奏楽部が壊滅寸前に陥るのに時間はかからなかった。

唯「あとは部長さんだけだね」

律「覚悟は出来てんだろうなぁ?」

 部長以外の吹奏楽部員は皆重傷を負って倒れ伏している。

「こんな……こと……」

 吹奏楽部長の額を嫌な汗が伝った。
27 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 22:00:54.82 ID:S1zbt.AO
「くっ……私には荷が重過ぎたみたいね。今日のところは撤退させてもらうわ」

律「逃がすと思ってんのかぁ?」

 律はにやりと笑って腰を落とした。
その気になれば一秒と経たない内に部長の首を刈る事が出来るだろう。

「出来るわよ。負けた時の逃げ道くらいは確保してるわ」

 部長は額を伝う汗を手の甲で拭い、ブレザーのポケットからリモコンを取り出した。

澪「……っ!」

 澪は軽音部員の中の誰よりも速く、そのリモコンが何のリモコンなのかを悟った。
だが既に遅過ぎた。
部長の指は既にボタンに触れており、そしてあるモノを起動させた。
28 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 22:02:18.27 ID:S1zbt.AO
 少し遅れて第一音楽室のクーラーから埃っぽい風が放出された。

唯「え? これって……」

 唯は自分の身体を蝕む倦怠感に耐え兼ね、崩れるように膝を折った。

律「唯!?」

 軽音部最速の律がその一瞬だけ、部長から目を離した。
ほんの一瞬だ。だがその一瞬の間に吹奏楽部長は窓を叩き割り、外へと身を投げ出していた。

律「くそっ! 罠か……」

紬「まさかクーラーを入れるなんて……。でも何で最初から点けてなかったのかしら?」

 天性の戦闘能力を持つ平沢 唯だが、彼女には致命的な弱点がある。
 幼少の頃からクーラーが苦手だった唯はクーラーが効いた部屋の中では戦う事はおろか、まともに立っている事すら出来ないのだ。
29 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 22:03:28.28 ID:S1zbt.AO
澪「なるほどな……」

 澪は吹奏楽部長が何を思ってクーラーを点けていなかったかを理解した。

澪「最初からクーラーを点けていれば私達は最初から唯を戦力として数えていなかった筈だ。つまりさっきの律の隙は最初からこの環境を作っていたら生まれてなかった」

律「私が悪いってのか?」

澪「怒るなよ、そんな事言ってないだろ? よくよく考えればあいつがクーラーのリモコンを取り出した時点で直ぐに気付くべきだった。私達全員のミスだよ」

 逃亡の手段はあくまで逃亡の為だけに使う。
今回の戦いはある意味、吹奏楽部長に軍配が上がったとも言えるだろう。
30 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 22:04:30.85 ID:S1zbt.AO
梓「もう終わったんですか……。相変わらず手が早いですね」

唯「あずにゃん!」

 苦虫を噛み潰したような顔をしていた軽音部員達だったが、背後からした梓の声を聞いて表情が変わる。

紬「怪我はもう大丈夫なの?」

梓「ええ、やられたのもマガジンから弾を抜かれていて焦ったせいですし、大した連中じゃなかったですから」

 梓は少しふらつきながらも、割れた窓ガラスのところまで歩いた。

律「無理すんなよ」

梓「もう大丈夫ですよ。それに皆さんが闘ってるのに私だけ寝てるなんて出来ません」

 梓は抱えたボストンバッグの中から黒光りする何かの部品を取り出すと、目にも止まらぬ速さでそれを組み立ててゆく。
31 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/16(木) 22:05:22.62 ID:uWhutbY0
G……。
32 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 22:05:29.01 ID:S1zbt.AO
 幾つもの部品はものの三十秒ほどで一つの形を成した。

梓「さっき吹奏楽部の部長が逃げていくのを見ました。どうやら私の出番みたいですね」

 割れたガラスから外にスナイパーライフルの銃口を突き出し、梓はそのまま躊躇無く引き金を引いた。
 放たれた弾は音もなく、だが確かに逃げる部長を狩らんと直進し──。

「がはっ!?」

 部長の足を撃ち抜いた。

梓「終わりですね。腱の部分を撃ちました、暫くは満足に歩けないでしょう」

 梓は事もなさげにそう呟くと、ライフルを組み立ての半分の時間で分解してバッグに収納した。
33 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 22:06:19.78 ID:S1zbt.AO
澪「やっぱり梓は頼りになるな。その調子でしっかり鍛練してくれよ?」

梓「あはは、大丈夫ですよ。律先輩じゃないんだから」

律「なにおう!?」

紬「まぁまぁまぁまぁ」

 戦いの時の修羅場のような空気は既にこの空間からは消え失せており、軽音部の皆が和気藹々と談笑を始めた。そんな中で……。

唯「みんな〜、早く戻ろうよ〜。このままじゃ私体調崩しちゃうよ〜」

 唯だけがあからさまに不機嫌そうな顔をして皆に訴える。
それもその筈だ。
常人よりもクーラーが苦手なのにそのクーラーがばっちり効いている部屋の中で放置されていたのだ。
機嫌が悪くなるのも頷ける。
34 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 22:08:59.40 ID:S1zbt.AO
澪「やっぱり梓は頼りになるな。その調子でしっかり鍛練してくれよ?」

梓「あはは、大丈夫ですよ。律先輩じゃないんだから」

律「なにおう!?」

紬「まぁまぁまぁまぁ」

 戦いの時の修羅場のような空気は既にこの空間からは消え失せており、軽音部の皆が和気藹々と談笑を始めた。そんな中で……。

唯「みんな〜、早く戻ろうよ〜。このままじゃ私体調崩しちゃうよ〜」

 唯だけがあからさまに不機嫌そうな顔をして皆に訴える。
それもその筈だ。
常人よりもクーラーが苦手なのにそのクーラーがばっちり効いている部屋の中で放置されていたのだ。
機嫌が悪くなるのも頷ける。
35 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[>>34は無しで]:2010/09/16(木) 22:10:47.02 ID:S1zbt.AO
律「そうだなー、そろそろ戻るか。さっさとティータイムといこうぜ」

澪「練習が先だ!」

梓「今日は練習は後が良いですね……」

紬「じゃあ決まりね!」

唯「早く〜」

 五人は肩を並べて意気揚々と第一音楽室を後にした。
今までの戦いを終始観察されていたとも知らずに。
36 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 22:12:16.80 ID:S1zbt.AO
「どう思う? エリ」

「やっぱり要注意人物だね。特に平沢さんは」

 エリと呼ばれた少女は持っていたコーラを飲み干すと、それを外を見ずに窓から外へと放り投げた。
コーラの缶は外に設置されていたゴミ箱の中へと吸い込まれてゆく。

「それは平沢さんの妹も含めて、かな?」

「アカネ、もしかして死にたいの? 平沢 憂の名前をあの娘の身内以外が語るなんて自殺行為だよ」

「まさか。でもあの娘は帰宅部よ? 放課後のこの時間に校舎の最上階の空き教室に来るわけないじゃない」

 アカネと呼ばれた少女は両手を組んで伸びをすると、座っていた机から飛び降りた。
直後に彼女が座っていた机は真っ二つに割れた。
37 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 22:13:51.61 ID:S1zbt.AO
エリ「最注意人物、とは言ったけどどうやって軽音部を潰そうかな、何か良い考えはある?」

アカネ「無きにしも非ずってとこかな。どっちにしても私達みたいな力の弱い人間は慎重に動かなきゃ」

エリ「それこそ姫子や信代みたいに強ければこんなに悩まなくても済むのにね」

 エリはそう言うとやや自嘲気味な溜め息を零した。

アカネ「トップランカーの娘達と私達を較べる事自体ナンセンスでしょ。それに彼女達でさえ真鍋さんや平沢 憂には敵わないんだし」

 アカネは教室の中心でくるりと一回転し、エリへと向き直って笑みを浮かべた。

アカネ「でも、弱い人間にはそれなりの戦い方があるしね」

 アカネの顔を窓から差す夕日が妖しく照らした。
38 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 22:15:14.00 ID:S1zbt.AO
ちょっとタンマ指がつりそう
早いけどきりが良いからちょい休憩する
39 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/16(木) 22:23:40.11 ID:H73EdAko
なにこれすごい
支援
40 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 22:24:30.04 ID:S1zbt.AO
 吹奏楽部と軽音部の戦いから一週間が経った。
 深夜二時の生徒会室にて、赤縁の眼鏡をかけた少女がパソコンのディスプレイを眺めている。
 ぱっと見た限りでは大人しそうな普通の女子高生にしか見えないが、彼女こそが桜ヶ丘高校の生徒会長にして桜高における生徒序列のナンバーツー。
『女帝』真鍋 和である。

和「ふぅん……。幾つかの部が不穏な動きを見せてるみたいね」

 生徒会の権限を使って警告するべきか否か、数分の間彼女はパソコンのディスプレイを睨んでいたが、そこで考える事を止めた。

和「数は十人とちょっと……か」

 和は脇に立て掛けておいた刀を手に取ると、大きく溜め息をついた。
41 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 22:26:10.88 ID:S1zbt.AO
和「出てらっしゃい。そこにいるのは分かってるのよ」

 和が言うが返ってくるのは静寂のみ。
暫くの間和は椅子の腰掛けに深く身を委ね、天井を仰いでいた。
 和が席を立とうとしたその時、事態は急変する。

和「っ!」

 部屋の扉、窓、天井。
あらゆる侵入経路から得物を携えた生徒が飛び出してきた。
その数は十三人。普通の人間ならば慌てふためく状況だが、和は一瞬だけ眉を顰めるだけだった。

和「馬鹿な子達ね」

 ぽつりと和が呟くと同時に彼女の首を刈らんとしていた生徒達は皆、鮮血を噴き出しながら崩れ落ちた。
42 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 22:27:17.24 ID:S1zbt.AO
和「私が刀を抜刀して十三回振るうまでの間に、貴女達が私の所まで辿り着けるとでも思ったの?」

 和の質問に答える者は居ない。
答えるべき人間は皆赤い花を咲かせて倒れ伏している。

和「ふふ、私ったら誰に聞いてるのかしら」

 和は少しだけ口元を緩め、机に置いてあった缶コーヒーの残りを一気に飲み干した。

和「これは用心しておいた方が良いかもね」

 和は誰に言うでもなく呟き、生徒会室を後にした。
 どす黒い赤色に染まった生徒会室に扉が閉まる音が響き、割れた窓からは強い風が吹き付けた。
43 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 22:28:28.83 ID:S1zbt.AO
唯「うい〜。早く行こうよ」

「待ってお姉ちゃん。ケータイ忘れてるよ!」

 平沢家の玄関から唯と瓜二つな顔をした少女が出てきた。
 彼女の名は平沢 憂。
桜ヶ丘高校に入学して僅か一ヵ月で生徒序列のトップに君臨した狂戦士である。
 彼女の戦闘力は桜高の漫画研究会の議題の種にされる。
 ベルセルクの蝕で平沢 憂は生き残る事が出来るか。範馬 勇次郎と平沢 憂が戦えばどちらが勝つか。
 彼女の力はそんな普通ならば考えるのも馬鹿らしくなるような議題すら成立させる。

憂「はいお姉ちゃん、ケータイ」

唯「ありがと〜、うい」

 今日も桜高に名を轟かせる姉妹の一日が始まる。
44 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 22:29:36.53 ID:S1zbt.AO
憂「こないだはいっぱい活躍したんだってね、お姉ちゃん」

唯「えへへ〜、最後の最後にクーラーでダウンしちゃったんだけどね」

 同じ顔の少女が二人並んで談笑している姿は傍から見れば微笑ましいものなのだが、そんな和やかな空気を壊す輩がいた。

「キミ達桜高の子〜?」

 髪の毛を金髪に脱色し、悪趣味なシルバーアクセサリーで身を飾るゴロツキが三名、平沢姉妹に声をかけてきた。

唯「そうだよ〜、お兄さん達何か用?」

 普通の人間ならば相手にもしないだろう。
だが平沢 唯は違った。
彼女には自分がこの三人に連れ去られ、酷い目に会わされるヴィジョンが見えていないのだ。
無論、唯がこの程度のゴロツキに負ける事など万に一つも有り得ないので、唯の対応は間違ってはいない。
45 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 22:30:31.63 ID:S1zbt.AO
「元カノが桜高だったんだよ。おっ? ギターじゃん、ちょっと見せてよ」

唯「良いよ〜」

 唯はためらう事なくギターのソフトケースをゴロツキに手渡した。
憂はその様子を無言で後ろから見ている。

「うぉっ? ギブソンじゃん、すげー! 俺さ、こう見えて昔ギターやってたんだよね〜」

唯「ほんと? じゃあお兄さん何か弾いてみてよ〜」

「ここじゃあちょっとな〜」

 ゴロツキは苦笑いを浮かべながら頬を掻いた。
実際のところこの男はギターを買って一週間で辞めたので、曲など弾ける筈も無い。

「そうだ! ここじゃあなんだし俺ん家に来なよ。そこでいくらでも弾いてあげるからさ」

 ゴロツキはそう言うと嫌らしい笑みを浮かべた。
後ろに控えていた二人も同じような笑みを浮かべて歩み寄ってくる。
46 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 22:31:25.66 ID:S1zbt.AO
唯「でも今から学校だから……」

「良いじゃん、学校なんかサボっちゃえよ」

 ゴロツキは唯に歩み寄り、腕を掴もうとする。
だがその間に割って入るように憂がその場を横切った。

憂「お姉ちゃん! 早くしないと遅刻しちゃうよ!」

 ゴロツキが持っていたギターケースはいつの間にか憂の肩にかけられていた。

唯「あ、待ってようい〜。またね、お兄さん達!」

 唯はゴロツキ三人に微笑みかけると、ふらふらと憂を追いかけて行った。
 普段から通学路にしては人が少ないこの道に、三人の男だけが取り残された。
47 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 22:32:17.63 ID:S1zbt.AO
「あ……」

 唯に話しかけていたゴロツキが絞り出すように声を出した。
顔面は蒼白しきっており、全身が震えている。

「うわああああああ″あ″っ!!」

 男は喉が張り裂けんばかりに叫んだ。
両手で身体の震えを抑えようとするが意味はなく。
次第に男は自分で立つ事すらままならなくなり、膝を折った。

「嫌だ! 死にたくない! 死にたくねぇよおおおおおっ!!」

 泣き叫び、涎を垂れ流しながら男はアスファルトに自分の頭を打ち付け始めた。

「ごめんなさい! 許して下さい!!」

 額から血が滲み出てくるが男はそれを辞めない。
男が動きを止めたのはそれから一時間が過ぎて自ら命を絶った時だった。
48 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 22:36:09.97 ID:S1zbt.AO
「おい……どうすんだよこいつ……」

「知らねぇよ、取り敢えず救急車呼ばねぇと……」

 終始事を見ていたゴロツキ二人は慌てふためき、その場を後にした。
 仮に救急車を呼んで彼が助かったとしても、平沢 憂の闘気にあてられた彼はもう言葉を発する事すら出来ないだろう。
 究極生命体。
 それが平沢 憂の通り名だ。
 彼女の身体から発せられる闘気は常人には毒でしかない。
日頃の鍛練の賜で、憂自身その力を制御する術を獲得しているのだが、今のように姉である唯に危害を加えようとした者に対して、彼女は容赦などしない。
49 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 22:36:59.45 ID:S1zbt.AO
 ただ闘気をぶつけただけで人を狂わせる。
そんな力を持つ彼女も桜高に入学したての頃は暇が無いほどに戦いを挑まれた。
あの平沢 唯には敵わないが、妹の憂を倒せばそれなりに名は売れるだろう。そんな邪な考えを抱く者が後を絶たず、必然的に憂は戦うしかなかった。
 そんな戦いが一ヵ月続いた頃、彼女は桜高のトップに立っていた。
今では彼女に喧嘩を売る者などそうそういない。
 余談ではあるが、平沢 憂が戦いを挑まれていた一ヵ月は『修羅の月』と呼ばれ、今でも語り継がれている。
50 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 22:38:47.54 ID:S1zbt.AO
唯「おはよ〜!」

紬「おはよう、唯ちゃん」

澪「今日も遅刻ギリギリだな。もう受験生なんだからしっかりしろよ?」

律「また朝から堅苦しい事言って」

 唯が教室に入ると、既に中では軽音部の三人が談笑していた。
唯はそそくさと自分の席に移動して鞄をかけると、隣に座っているクラスメイトに挨拶した。

唯「おはよ、姫子ちゃん」

姫子「おはよ、どうでも良いけど寝癖ついてるよ?」

唯「あわわ……。ありがと姫子ちゃん」

 指摘されて慌てて髪を梳くと、唯はそのまま軽音部の皆が集まっている席に駆け寄ろうとした。だが……。

唯「ふぇっ?」

 周りを見ずに駆け出そうとしたせいで机に足を引っ掛け、大きく体勢を崩す。
51 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 22:39:39.79 ID:S1zbt.AO
唯「え?」

 床に熱烈なキスをしてしまう寸前で、唯は強烈な力によって身体を引き上げられた。
 きょとんとして隣を見ると、先と変わらぬ姿勢のまま呆れた笑みを唯に向ける姫子の顔があった。

唯「ありがとね〜、姫子ちゃん」

姫子「あはは、朝から感謝されっぱなしだね私」

 姫子はやんわりと手を振って、去りゆく唯の後ろ姿を眺めた。
 生徒序列ナンバースリー。『風哭』立花 姫子。
 彼女が唯を転ぶ寸前で引き上げた張本人である。
52 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 22:40:49.93 ID:S1zbt.AO
 しかし姫子は自分の席に座っていたではないか。そう思う人もいるだろう。
ではどうやって唯を引き上げたか、そのトリックは実に単純明快だ。
 彼女はごく普通に席を立ち、ごく普通に唯の襟首を掴んで引き上げただけなのだ。
ただそれらの動作を視覚出来ない速さで行なっただけ。
 彼女こそが澪が数日前に言っていた『律にスピードで追いつける五人』の内の一人なのだ。
 それどころか姫子のスピードは律のそれを遥かに凌駕している。
戦闘において彼女の姿を認知する事が出来る人間は、それだけで達人の域に達している。そう囁かれる事すらちらほらある。
53 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 22:41:36.20 ID:S1zbt.AO
姫子「ん?」

 開いた窓から吹き付け、自身の頬を撫でる風を感じると、姫子は憂鬱そうな顔をした。

姫子「今日は風が強いね……。何もなければ良いけど」

 姫子はぼそりと呟くと、机に突っ伏して目を閉じた。
 結果から言うと彼女の悪い予感は見事に的中していた。
 そんな事も露知らず、軽音部の四人は和気藹々と談笑している。
最も、今日三年二組の生徒達がバトルロイヤルを繰り広げるきっかけが起こるなどと、予想しろというのも無理な話なのだが。
54 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 22:42:47.58 ID:S1zbt.AO
律「ゆいー、姫子と何話してたんだ?」

唯「えーっとね、確か……なんだっけ?」

紬「あらあら」

 軽音部四人が談笑している中で、澪だけが一つの席に向かい合って何かを話しているエリとアカネに気をかけていた。

澪「二人とも何の話をしてるの?」

 何の気無しに澪が尋ねると、二人は机に広げていた紙を澪に差し出した。

アカネ「部の防衛陣の振り分けについて話し合ってたんだ。なにせこの学校物騒でしょう? 」

エリ「あーあー、いやになっちゃうよねぇ。部の中にトップランカーが居ればこんなの考えなくても済むのに」

 澪は適当に合わせつつ、差し出された紙に目を通した。
そこには部室の監視、練習中の防衛など、様々な役割と部員の名前が記されていた。
55 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 22:43:54.27 ID:S1zbt.AO
澪「へぇ……。やっぱり皆しっかり考えてるんだ。私達も少しは危機感持った方が良いのかな」

律「何の話してんだー?」

 そこで律が三人の話に興味を抱き、澪の肩から顔を覗かせた。

澪「部の防衛の話だよ。私達もそろそろ真剣に考えないとな。いつ足元すくわれてもおかしくないんだから」

 書類をアカネに手渡すと、澪は軽音部の面子に呼び掛けた。

澪「今日の放課後は皆で部の管理について話し合おうよ」

律「えー? 良いよ面倒臭い、邪魔するやつは全員でぶっ倒せば良いじゃんか」

唯「私は強い人と戦えればそれで良いや。それよりもティータイムを延長しようよ〜」
56 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 22:44:47.19 ID:S1zbt.AO
紬「でも澪ちゃんの意見には賛成よ。軽音部が他の部に乗っ取られたりしたら、私悲しいから……」

 紬が伏し目がちに言っているのを見て、唯と律はいたたまれない気持ちになった。

澪「他の部を乗っ取ればその分部費も増えるし名も売れるしな。それを狙う人だってこの学校には沢山いるし」

唯「えっ? 部費も増えるの? じゃあそのお金でトンちゃんの新しい水槽買えるかな」

律「買えるかもなー。いっそ私らも他の部の乗っ取り合戦に乗ってみるかぁ?」

エリ「っ!」

 律が何気なく放った一言を聞いて、エリとアカネは身体を震わせた。
エリは即座に携帯電話を開き、目の前に座っているアカネに向けてメールを打った。
57 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 22:45:42.04 ID:S1zbt.AO
 アカネも携帯電話を取り出し、ディスプレイに表示された文字列を凝視した。
ディスプレイには『ちゃんと録音した?』と記されている。
 アカネは首を縦に振り、ブレザーの胸ポケットの中に忍ばせておいたボイスレコーダーのスイッチをオフにした。

アカネ(これから暫く部の防衛の話題を振るつもりだったけど……。まさかいきなりビンゴとはね)

 アカネは心の中でほくそ笑み、エリの方を見た。
コーラを飲みつつ誤魔化しているが、エリ表情からは笑みが零れている。

エリ(これで軽音部はおしまい。ふふ……、やっぱり私には仏がついているのよ!)
58 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 22:47:22.69 ID:S1zbt.AO
「あら、何ニヤニヤしてるのかしら」

 後ろからかけられた冷ややかな声に、エリは思わず噎せ返りそうになった。

エリ「ま……、真鍋さん……」

 エリが振り返ると、そこには冷笑を浮かべた和の姿があった。

和「二人して黙ってニヤニヤしてると悪巧みしてるみたいにしか見えないわよ?」

 核心を突いた和の一言に、エリとアカネは動揺を隠せなかった。

エリ「な、何でもないよ!」

 心臓が胸の内で暴れ狂い、喉は焼け付いたかのようにヒリヒリと渇く。
エリとアカネは額に流れる汗を拭う事すら忘れていた。
59 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 22:48:47.43 ID:S1zbt.AO
和「ふぅん、まぁ良いけど。律、アンタまた部長会議出てなかったでしょ!」

 和は興味なさげに吐き捨てると、軽音部の談笑の輪の中に入っていった。
 助かった、エリは思った。
 殺されそうだった、アカネは思った。
 口を真一文字に閉じ、目を見開いているお互いの顔を見て、アカネとエリは脱力すると共に少しだけ笑った。

アカネ(危なかった……! 今この人に計画がバレたら全てが終わり。今後も気をつけないと!)

エリ(怖い……。怖かったよぅ……)

 水面下で息を潜めていた悪意はここで折れかかってはいたが、しぶとく生き続けて着実にその規模を広げていた。
60 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 22:50:54.35 ID:S1zbt.AO
 それからは喧嘩もなく、いつもよりも平穏な時間が流れていった。
そして六限目終了後のホームルームを終え、軽音部一堂は唯の席に集まっていた。

唯「今日はなんだかつまんなかったよ〜」

律「そうだなー。いつもなら学校の中で誰か一人は血ぃ噴いてんのに」

和「あら、平和で良いじゃない」

 和は音もなく軽音部の輪の中に入ってきた。

律「でもよー、やっぱつまんねぇよ。こういう日は身体がムズムズするんだよなー」

紬「痒いところはございませんかぁ?」

 律が愚痴を零しているところを紬が後ろから戯れついてゆく。
その様子を見て和は一瞬だけ不機嫌な顔をした。
61 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 22:52:39.87 ID:S1zbt.AO
唯「もっと強い人と戦いたいよ〜」

澪「まぁそれは一理あるな。自分の技術向上にもつながるし」

和「そうなんだ。じゃあ私、生徒会に行くね」

 和は眉を顰めつつ唯達に背を向けたが、それから数歩歩いたところで足を止めた。

和「アンタ達」

 和の冷たい一言で軽音部一堂は水を打ったように静まり返った。
和は腰に差した刀の柄にゆっくりと手をかけ、半身だけ唯達に向ける。

和「そんなに強い人と戦いたいんなら、私が相手になるわよ?」

 静まり返った唯達の周りの空気が、一瞬にして凍り付いた。
62 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 22:53:40.58 ID:S1zbt.AO
律「和……ち、違うんだ。そういう事じゃ──」

 傍から見ても一触即発の空気である事は一目で分かる。
律はこの時、動物の生存本能に従って和に弁解の余地を乞うていた。

和「…………」

澪「ごめん和、少し調子に乗り過ぎたかも……」

 深々と頭を下げる澪。
和はその様子を暫く眺めて、刀の柄から手を離した。

和「ふふ、冗談よ。でも調子に乗らないようにね。どうも最近学校中がきな臭いから」

 最後にふっと微笑み、和は踵を返して教室から出て行った。

唯「きなこくさい?」

 和を見届けた後に唯が漏らした一言を聞いて、唯以外の部員は大きく肩を竦めた。
63 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 22:54:53.19 ID:S1zbt.AO
和「あの子達には悪いけど、少し釘刺しとかないとね」

 廊下で一人呟く和は体育館を眺めていた。
両目には確かな敵意が込められており、その中で渦巻く強靱な意志が見え隠れしている。

和「……お願いだから滅多な事しないでよね。私はこう見えて忙しいんだから」

 和が放った言葉は誰にも聞かれることなく宙を舞って消えた。
その言葉が誰に向けて放たれたものなのかは、和自身にしか分からない。
 様々な意志が交錯してゆく中で、軽音部はいつもより平和なティータイムに勤しんでいる。
今日、既に凄惨な戦いのきっかけが起きている事もしらずに。
64 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 22:56:11.91 ID:S1zbt.AO
 その日から更に二週間が経った。
 時刻は二十三時五十八分。既に日にちが変わろうとしている時間である。

姫子「ふぅ、やっと帰れる……。今日も疲れたな」

 姫子はアルバイト先のコンビニの事務所で着替えていた。
 高校生は二十二時以降は働けないのだが、姫子は店長に頼まれてやむなく残業していたのだ。
見た目に反して人情に厚く、人に何かを頼まれると断われない。
そんな性格故に姫子はこうして深夜までアルバイトする事がしばしばあった。

姫子「あれ、メール? こんな時間に誰だろ……」

 時計の三つの針が頂点で交わったその時、姫子の携帯電話から着信を知らせるメロディが鳴り響いた。
65 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 22:57:48.86 ID:S1zbt.AO
姫子「知らないアドレス……。誰だろ?」

 少し怪訝な顔をしつつも姫子はメールの本文を確認する。

姫子「っ!? これって……」

 姫子はメールの本文に綴られていた内容と添付された音声データを確認して戦慄した。
 この時姫子は気付いていないが、二週間前に姫子が感じた嫌な予感は奇しくも的中していたのだ。

姫子「闘うしか……ないよね?」

 携帯電話をブレザーの胸ポケットにしまうと、姫子はそっと胸を撫でた。
俯いて身体を震わせる彼女からは、様々な憂いが漂っていた。
66 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 23:00:19.72 ID:S1zbt.AO
きりが良いからまたまた休憩
見てる人いたら嬉しい、まぁいなくても続けるんだけど
67 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/16(木) 23:05:44.14 ID:uWhutbY0
別に見てるわけじゃないいぃいい良いいい良いいいいい……
68 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/16(木) 23:10:15.57 ID:gjhGUyo0
重傷者が多過ぎて病院で授業なんて桜高じゃ日常茶飯事だぜHAHAHA!
69 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/16(木) 23:21:05.65 ID:DNQPGywo
前置きうざいから冷やかし半分に読んでたけどやるじゃん
70 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[うっし再開]:2010/09/16(木) 23:22:31.72 ID:S1zbt.AO
梓「…………」

 梓はいつも通り登校し、下駄箱で靴を履き替えているところである違和感に気付いていた。

梓(もうすぐホームルームが始まるのに、生徒が一人も見当たらない……)

 嫌な予感に駆られた梓は用心して鞄の中から二丁の拳銃と銃弾が入ったやや大きめのポーチを取り出すと、スカートで隠れたホルスターにそれらを収めた。

梓(取り敢えず教室に……)

 やや駆け足気味に梓は教室に向かった。
昇降口を抜けて廊下を直進、そしてやがて見えてきた教室の扉に手をかけ、勢いよく開いた。
71 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 23:23:46.97 ID:S1zbt.AO
梓「っ!?」

 扉を開けた瞬間、梓の眉間を狙ってナイフが飛んできた。
梓は大きく背をのけ反らしてそれを躱す。
梓の後ろでナイフが窓ガラスを打ち割る音が鳴った。

梓「うそっ!?」

 その音に遅れて、梓を挟み撃ちにするように廊下の両脇から無数の刃物が飛んできた。
今度は不格好に教室の中へと転がり込む梓。
辛うじて一命を取り留めたと安堵する間もなく、梓の後ろで何かが落ちる音がした。

梓「……閉じ込められた?」

 梓が後ろを確認すると、戸があったところには全く節目が無い鉄板が鎮座していた。
もう一方の戸にも同じように鉄板が降ろされている。
72 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 23:24:35.67 ID:S1zbt.AO
「はじめまして、中野 梓ちゃん」

梓「っ!」

 息をつく間もなく籠絡されてしまい、周りの状況を確認出来なかった梓だが、教室の窓際からかけられた声で我に返る。

梓「誰ですかあなたは」

エリ「ふふ、私は三年二組の瀧 エリだよ」

 エリは半端な位置で束ねているせいで髷のようになっている自身の髪の毛を指で弾いた。

梓「その瀧さんが何の用でしょうか? あまり良い予感はしませんけど」

 梓は身を屈めてホルスターに収まっている拳銃に手をかけた。
口はきつく真一文字に結び、両目を細めている。
73 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 23:25:37.91 ID:S1zbt.AO
エリ「用っていうか、危ないんだよね君達。だから……」

 エリは窓の縁に置いてあったコーラの缶を放り投げた。
それは綺麗な放物線を描き、床へと吸い寄せられてゆく。

エリ「ここで潰れてもらうよ!」

 缶がかつん、と音を立てると同時にエリは梓の懐目掛けて駆け出した。

梓「くっ……! 何なんですかいきなり!」

 梓は銃をホルスターから引き抜き、ためらい無く引き金を引いた。
 乾いた銃声が四発、桜ヶ丘高校の敷地内に響いた。
74 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 23:26:52.23 ID:S1zbt.AO
 梓とエリの邂逅から丁度十分前。
紬は三年生の校舎棟の廊下を一人で歩いていた。

紬(おかしい……。この時間に誰一人登校していないなんて……)

 梓は同じ状況に置かれてもその状況をそこまで深刻に受け止めてはいなかった。
だが紬は幼少時からの英才教育によって培ってきた鋭敏な感覚によって、ある事実に気付いていた。

紬(落ち着いた息遣いが一人分。でもこの穏やかな呼吸は……)

 普通誰かから身を隠す時、たとえ隠れる側が優位に立っていたとしても若干呼吸は荒くなるものだ。
なのでその呼吸の主は別に紬から身を潜めているわけではない。普通ならそう判断する。
75 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 23:27:45.21 ID:S1zbt.AO
 だが紬はそう判断しなかった。
この呼吸は自然の呼吸などではなく、日頃の訓練によって培われた技の一種。
そして人間の本能すらも押さえ込むこの技の持ち主は、恐らく達人の域に達している人間である。
これが紬の見解だ。

紬「出てきなさい」

 紬はそう言うと、近くにあった柱を蹴った。
校舎全体がその力で少しだけ揺れる。

「へぇ、やっぱりあの子の言う通りみたいね。そこいらの子じゃあ受けられないレベルのパワーね」

 廊下の曲がり角から現れた生徒を見て、紬は少しだけ顔をしかめた。

紬「……佐藤さん?」

 紬は信じられなかった。
学年一仲が良いと言っても過言ではない自分のクラスの生徒が、今こうして自分と対峙している事が。
76 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 23:28:34.84 ID:S1zbt.AO
紬「……邪魔してこないでね。私、唯ちゃん達を探すから」

アカネ「そうはさせないわ。やるなら力ずくで、ね?」

 アカネは腰を深く落とし、既に臨戦態勢に入っている。

紬「佐藤さんって、生徒序列五十位以内にも入ってなかったわよね? 勝てると思ってるの?」

アカネ「勝てるよ。相手があなただからこそ」

 即答するアカネの余裕が満ちた表情に、普段は温厚な紬は苛立ちを覚えた。
 この時紬は慢心していた。
格下である佐藤 アカネに自分が負けるはずないと。
そしてその慢心が紬を窮地に追い詰める事になる。

紬「なら……やってみなさい!」

 直後に衝突した二人を中心にして、三年校舎に衝撃の波が走った。
77 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 23:29:38.56 ID:S1zbt.AO
律「この感じ……。ムギか!?」

 律は部室に忘れていた携帯電話を取りに行く為、部室に向かおうとしていた。
人通りが少ない事など大して気にしていなかった律だが、紬とアカネの衝突の際に伝わってきた衝撃で事の深刻さに気付く。

律「……ケータイどころじゃないな!」

 律はカチューシャを外し、階段を大きく飛び越した。
十五段ほどの高さから綺麗に爪先から着地した時、事態は急変した。

律「うわぁっ!?」

 天井を突き抜いて無数の刃物が律に向かって降り注いできた。
寸前でそれを前転して躱す律だが、彼女の前に威風堂々と立ち尽くす者がいた。
78 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 23:30:28.99 ID:S1zbt.AO
「へぇ、あの子が言った通りになったね。衝撃を感知してから五秒以内に飛ぶ確率が九十二パーセント。そして降り注ぐ武器を前転して躱す確率が八十パーセント。一体どうやったらこんな事まで分かるんだろうね?」

 声量が大きいオペラ歌手のような野太い声が律に絶望を与えた。

律「な、なんで? 私とやり合うつもりかよ!?」

信代「本当はこんな事したくはないんだけどね。この中島 信代、自分の部を守る為なら鬼になるよ」

 生徒序列ナンバーシックス。
『岩窟王』中島 信代。
 一筋縄ではいかない多くの桜高生徒達を差し置いて、パワーのみでトップランカーになった戦士が律に立ち塞がった。
79 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 23:31:47.18 ID:S1zbt.AO
澪「今戦ってるのは六人、か……」

 朝のホームルーム直前の時間に、澪は体育館にいた。

澪(迂闊に動くのは危険だな……)

 澪は学校に着く前から人が居ないという違和感に気付いていた。
そして彼女が真っ先にとった行動は、教室ではなく真直ぐ体育館に向かう事だった。

澪「……来るなら来い。返り討ちにしてやる」

 澪は体育館の壁に背を預け、刀の柄に手をかけた。
そして自分を狙っているであろう人物に対して毒づく。

澪「さっきから気配はするのに……。何で何処にもいないんだよ!」

「あら、私ならずっとここに居るけど」

澪「っ!?」
80 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 23:32:35.73 ID:S1zbt.AO
澪「木下さん……? いつからそこに……」

しずか「秋山さんがここに来る前からずっと居たよ?」

 しずかは片目にかかる長い前髪を鬱陶しげに払うと、気の合う友人に微笑みかけるかのようにはにかんだ。

澪「う、嘘……」

 絶対な自信を持っていた自分の眼がまるで通用しなかった事に、澪は戦慄していた。
澪がしずかの存在を察知出来なかったのは観察力云々の次元の話ではないのだが、それでも澪の心をへし折るには充分だった。

澪「う、うわあああああああっ!!」

 澪は即座に刀を抜刀し、出鱈目に振るった。

しずか「わわっ、危ないよ!」

 だがしずかはそれをのらりくらりと躱す。
81 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 23:33:25.13 ID:S1zbt.AO
澪「この! 当たれ! 当たれったら!」

 冷静さを欠いた今の澪の斬撃は錘が乗せられたかのように鈍く、彼女の胸の中で蠢く恐怖は確実に刃に錆をかけていた。

澪「くそっ!」

 刀を薙ぐ力の動きに逆らわず、澪は一回転して渾身の力で刀を振り抜いた。だが……。

澪「え?」

 刃は空を切り、しずかは澪の視界から消えていた。
 慌てて刀を構え直して迎撃の体勢に入る澪だが、それは何の意味も成さなかった。

澪「がはっ……!?」

 何の前触れも無く、澪の腹部に衝撃が走った。

しずか「あっははは、油断しちゃ駄目だよ秋山さん」

 瞬間移動したかのようにいきなり澪の眼前に現れたしずかは、前髪で隠れた片目を細めて笑っていた。
82 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 23:34:19.03 ID:S1zbt.AO
唯「話ってなに? 姫子ちゃん」

 やや強めの風が吹き付けるグラウンドの一角で、唯と姫子は対峙していた。
姫子はマウンドに、唯はバッターボックスに立っている。

姫子「そんなに急かさなくても良いじゃない。こうして二人で話すのって初めてでしょ? もっと肩の力抜きなよ」

 姫子は舌を出して笑うと、左手に嵌めたグローブのポケットにボールを打ちつけた。
ばしっ、と小気味の良い音が鳴り響く。

唯「私緊張なんかしてないよ〜。でもさっきから校舎の中で皆の気配がビリビリしてるんだよ、心配なんだよ」

 唯は両腕を回し、その場で飛び跳ねて姫子に話を進ませるように促す。だが姫子はそれに対して苦笑いするだけだった。
83 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 23:35:22.70 ID:S1zbt.AO
姫子「つれないなぁ、唯……は!」

 姫子はマウンドのプレートに足をかけ、滑らかなウインドミル投法でボールを放った。
ボールは直線を描いて唯の隣を通り過ぎ、バックネットに突き刺さる。

姫子「へへ、ストラーイク」

 足元に転がるボールを拾い、姫子は唯にほほ笑みかけた。

唯「私、もう行っちゃうよ?」

 姫子ののらりくらりとした態度に痺れを切らし、唯は姫子を睨んだ。

姫子「あぁごめんね。じゃあ単刀直入に聞くけど……」

 姫子は一旦口を閉じ、一呼吸置いてから言った。

姫子「唯は、この学校が好き?」
84 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 23:36:14.76 ID:S1zbt.AO
 姫子の質問に唯は呆気に取られ、眼を丸く見開いた。
数秒の間沈黙が流れるが唯はゆっくりと口を開いた。

唯「うん、大好きだよ。軽音部の皆がいて、和ちゃんに憂に、姫子ちゃんも居るこの学校が大好き!」

 唯はそう言うと屈託のない笑みを浮かべた。姫子もそれにつられて笑う。

姫子「そうね、私も大好きだよ。唯達やエリにしずか、いちごがいるこの学校が大好き」

唯「えへへ、お揃いだね!」

姫子「だね」

 刹那、一陣の風が吹き付ける。
風はグラウンドの砂を持ち上げ、一瞬だけ唯の視界を遮った。

唯「っ!?」

 その直後に唯は後頭部に衝撃を受け、よろめいた。

姫子「だからこそ……。この学校に立った波は私が静める!」
85 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 23:37:01.97 ID:S1zbt.AO
和「くっ……。何でこんな時に!」

 和は桜高の職員室の一角で、パソコンのキーボードを目にも止まらぬ速さでタイプしていた。

憂「和ちゃん、焦っちゃ駄目だよ?」

 憂もその隣の机で同じようにキーボードと格闘している。

「ごめんなさいね二人とも。でも今は猫の手も借りたいくらいの状況なのよ」

 和達の対面の席で二人よりも滑らかな手つきでキーボードを叩いていた女教師は、大きく溜め息をつくと二人に労いの言葉をかけた。

和「いえ……。気にしないで下さい山中先生。これも生徒会長の仕事ですから……」

そう言いつつも和の額には汗が滲んでおり、焦燥に駆られていることは一目瞭然だ。
86 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 23:37:47.91 ID:S1zbt.AO
和(まさかサイバーテロを起こして学校の情報を漏洩させるなんて……!)

 和は今この学校で軽音部の五人が闘っている事に気付いている。
当然その騒ぎを鎮静する為に動こうとする和なのだが、そうはいかなかった。
 何者かが学校のサーバーに不正アクセスし、生徒情報を漏洩させ、学校の口座から金を引き出してあらゆるところにばら蒔いた。
 その火消しの手伝いを任された和は今こうして動けずにいるのだ。

憂「和ちゃん……」

 憂は目に見えて悪くなってゆく和の顔色に気付き、心配そうに眺めている。
キーボードを叩く手の速さは衰えてはいない。
87 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 23:38:34.73 ID:S1zbt.AO
和(憂をこうして引き止めてられるのも限界がある……!)

 生徒会役員でもない憂が何故学校の情報漏洩の火消しを手伝っているかというと、それは和が直々に頼んだからに他ならない。

和(きっとこの子は唯達が闘ってるのを知ったら止まらないわよね……)

 和は恐れていたのだ。究極生命体である平沢 憂が戦いの場に赴く事を。

和(それだけは駄目! この子が動いたら……、きっと死人が出る!)

 額に流れる汗を拭い、和は隣に座る憂の姿を一瞥した。
和が恐れているのは自分自身であるのだとも知らずに、憂は憂いを帯びた心配げな笑みを和に返した。
88 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 23:39:47.71 ID:S1zbt.AO
 時を同じくして、桜高のバトン部部室にて一人の少女が佇んでいた。

「全員交戦開始……」

 少女は暫く二つ結びにした自分の髪の毛を弄っていたが、それにも飽きたのか床に転がっていたバトンを拾って手の中で弄り始めた。

「真鍋さんと平沢 憂が作業から離れられるのは短く見積もっても三時間……」

 少女が退屈そうに天井を仰いでいると、部室にノックの音が響いた。

「いちごちゃ──」

 がちゃりとドアが開けられると同時に、入ってこようとした生徒目掛けて数多もの刃物が飛び交った。
女子生徒は息を飲む間もなく刃の餌食となり、膝を折って倒れた。
89 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 23:40:23.98 ID:S1zbt.AO
「入る時はノックを四回して左回りにノブを捻ってって言ったのに……」

 少女は倒れ伏した生徒に近付くと、無表情のまま生徒を蹴飛ばして部室の外へと追いやった。

「まっていちごちゃん! 痛いよぅ……!」

 生徒の嘆きも最後まで聞かぬまま、少女はドアを閉めた。

「大丈夫。死なない程度にはしてる」

 眉一つ動かさぬまま元居た場所に腰掛けると、少女は再び髪の毛を弄り始めた。
 この少女の名は若王子 いちご。
生徒序列ナンバーフォーにして桜高最弱の生徒だ。
90 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 23:41:10.85 ID:S1zbt.AO
 桜高に入学した生徒は皆例外無く、その熾烈な環境で過ごすので一人で野生の熊一頭を素手で倒せる程度のレベルまでにはなる。
それは桜高が創立されて八十五年来、覆らなかった事実だ。
 だがいちごは特例中の特例。
一人では中学生の男子にすら劣る身体能力で、彼女は桜高のトップランカーに名を馳せた。
 彼女に敵意を持って近付こうものなら問答無用で智略の沼に引き摺り込まれる。
彼女のその弱さ故の強さを知る者は、畏怖の念を込めて若王子 いちごを『沼』と証した。

いちご「そろそろ中野さんとエリの決着が着く時間……」

 そう呟くとこれまでの間通しで表情を変えなかったいちごが、ほんの少しだけ口元を緩めた。
91 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 23:41:55.79 ID:S1zbt.AO
梓「はぁっ……はぁっ……」

 二年生の教室でエリと梓は熾烈な戦いを繰り広げていた。
 梓の銃器が火を吹くとエリの体躯が縦横無尽に駆け回り、エリの拳が壁を砕くと梓の両目がそれを見切る。

梓「何で……当たらないんですか!」

 積み重なる疲労に耐えかね、梓はついに膝を折った。
小さな体躯は冷や汗で濡れ、目には見えないがエリに与えられた殴打のダメージが内臓に支障をきたしている。

エリ「さぁ、何でだろうね? 自分で考えてみなよ中野さん」

 エリは屈伸すると余裕げに微笑み、汗で濡れた前髪を払った。

梓「くっ……」

 梓はぎりぎりと奥歯を噛み締める。
そして一秒にも満たない速さで銃のマガジンを入れ替えると、再びエリに狙いを定めた。
92 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 23:42:30.08 ID:S1zbt.AO
エリ「無駄だよ!」

 梓が引き金に手をかけるよりも速く、エリは並んだ机の間を掻い潜って梓の懐に潜り込んだ。
腹部に捩じ込まれる掌底を無抵抗に受けてしまい、梓は盛大に吐血した。

エリ「まだまだっ!」

 宙を舞う梓の頭を鷲掴みにして、エリはそのまま梓の顔面を机の角に叩き付けた。

梓「──っ!」

 言葉に出来ない激痛に耐え兼ね、梓はそのまま机にもたれ掛かる体勢のまま銃を手放した。
二丁の拳銃が床に衝突する音は、異なる二つの息遣いと共に教室に響いた。
93 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 23:43:16.11 ID:S1zbt.AO
エリ「ふぅ……。まだやる? これ以上やるなら命の保障は出来ないよ?」

梓「…………」

 梓はエリの言葉に対して返事することなく、床に落ちた拳銃を拾うと立ち上がろうとした。

梓「え?」

 腰を浮かせて立とうとした瞬間、梓は世界が歪むのを感じて仰向けに倒れてしまう。

エリ「あははっ、もう止めときなって。君は充分頑張ったよ、もうゆっくり休んでて良いんだよ?」

 先程梓がもたれていた机を律義に列に揃えつつエリは梓を労った。

エリ「君はまだ二年生なんだし、来年にはもっと強くなれるよ。何も今死に急ぐ必要なんて無いじゃない」
94 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 23:44:34.58 ID:S1zbt.AO
梓「…………」

 梓はエリの歪む世界の中でエリの言葉を深く受け止めていた。
自分はまだ二年生だ。今は三年生相手にここまでやれた自分を素直に褒めれば良い。死んでしまっては元も子もない。
浮かんでくる言葉は全て自分を理屈で慰める言葉で、梓はそんな自分が情けなく思えてきていた。

梓「──っ!」

 自然と頬を伝う何かの存在に気付き、梓の思いは堰を切ったかのように溢れ出る。

梓「……っ! ……うっ……くっ……」

 自責の念に駆られた梓の口から紡がれるのは、いつもは頼りないくせに何かあると自分を思ってくれていた先輩の名だった。

梓「ゆっ……いせんぱ……い……っ!」
95 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 23:45:23.35 ID:S1zbt.AO
 嗚咽を漏らしながら啜り泣く梓を見て、エリはトップランカーの中に入れない自分の弱さを重ねていた。
本来の生徒序列ならばエリは梓よりも格下。
それでもエリがこうして梓を圧倒出来たのは、このキリングフィールドがエリにとって最高の条件下であったからに過ぎないのだ。

エリ「中野さん……。よく頑張ったよ」

 若王子 いちごの策によって最高のフィールドを与えられて梓を完封した自分を、エリは情けなく思った。
 梓をここに招き込んだトラップは、いちごが一夜にして作りあげたものなのだ。

エリ「今回は地の利が少しだけ私にあっただけ。またやり合う時があるとすれば、君に負けるのなら本望かな?」
96 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 23:46:07.93 ID:S1zbt.AO
 最後に自分に微笑みかけて去ろうとするエリの後ろ姿を眺めながら、梓は思考を張り巡らせていた。

梓「…………」

 『今回は地の利が少しだけ私にあっただけ』
 先程のエリの言葉が何度も頭に響く。
 涙は自然と止まり、さっきまで歪み狂っていた視界は段々と鮮明になってゆく。

梓「え……?」

 そして横たわったまま、先程まで闘っていたこの教室を一瞥すると梓はある違和感を覚えた。
違和感、猜疑感は梓の胸の中で渦巻き、確かな異変を察知した。

梓(机……きれい……)

 銃器を駆使する梓と俊敏に動き回るエリの二人が闘っていたにも関わらず、壁や窓には弾痕が着いているのに机だけが綺麗に並べられていた。
97 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 23:46:53.50 ID:S1zbt.AO
 正確には多くの机が銃弾を受けて傷付いてはいるが、並びや配置だけが動いていないのだ。

梓(これって……。嘘……!?)

 梓は自分が机に打ち付けられた後のエリの行動を思い返す。
エリは確かに梓に戦いを続行する意志を問いながら、ずれた机の配置を元に戻していた。

エリ「ばいばい中野さん。またいつかね」

 エリは窓を開けて教室を去ろうとした。
だがその刹那、エリの背後で一発の銃声が鳴り響く。

エリ「え?」

 耳に熱を感じて、エリは自分の耳を銃弾が掠めたのを悟った。
そして振り返ると、そこには膝を震わせながら立ち尽くす梓が居た。
98 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 23:47:27.33 ID:S1zbt.AO
梓「あはっ……。なんだ、こんな簡単なことだったんだ……」

 梓は満身創痍でありながらも微笑を浮かべ、手近にあった机を蹴飛ばした。
吹き飛ぶ机はその奥の机も巻込み、綺麗に整えられた列を乱す。

エリ(嘘……まさか……)

 梓は動きは止まらない。
まるで駄々っ子のように暴れ、時には銃を発砲しながら机を蹴り飛ばしてゆく。

エリ(気付かれた!?)

 エリは自分の胃の中を何か冷たいものが通り抜けたような錯覚に陥った。
自然と唇は乾き、額を冷や汗が伝う。
99 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 23:48:17.19 ID:S1zbt.AO
梓「変な趣味をお持ちなんですね」

 梓の言葉にエリは肩を震わせた。

梓「少し前に唯先輩から聞いた事があります。仏像や寺が好きな変わったクラスメイトがいるって」

 それがエリの事を差している事など、エリにとっては自明の理である。

梓「『金剛界曼荼羅』ですか……。少し無理矢理なんじゃないですかね?」

 梓は少しだけ肩を竦めて、銃口をエリに向けた。
エリはそれに反応して即座に列を保っている机の間を掻い潜りながら、梓へと詰め寄ってゆく。

エリ「分かったからってどうするのよ!」

 乱れた机の列を戻しつつ、遠回りに梓を射程範囲に納めようとするエリを見て、梓は今度は大きく溜め息をついた。
100 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 23:48:53.24 ID:S1zbt.AO
 エリは幼少時から仏像や寺を見て回る事が好きだった。
少しだけ埃っぽい彼女の思い出の中で息衝いていた曼荼羅は、彼女の戦闘スタイルに反映されていたのだ。
 規則正しく並べられた障害物を曼荼羅に見立てその中を縦横無尽に駆け巡り、仇成す者に仏の裁きを下す。
それが彼女が編み出した戦闘スタイルだ。
 無論障害物が無ければこの戦法は使えない。それがエリが序列上格上である梓を圧倒した理由だ。
 本来は弱いが特定の状況下においてめっぽう強い。
それだけでは桜高生徒序列では上には立てない。
101 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 23:49:46.01 ID:S1zbt.AO
梓「わざわざ机を戻すのも面倒でしょう? だから……」

 何故上には立てないのかその理由は単純明快だ。

梓「こうしてあげます!」

 梓はブレザーのポケットから手榴弾を取り出し、口でピンを引き抜くとエリ目掛けて投げた。

エリ「っ!?」

 エリは咄嗟に転がり、その場を離れる。
その直後に強烈な光と共に轟音が鳴り響いた。
爆発はそこにあったもの全てを根こそぎ食らい尽くし、炎を巻き上げる。

エリ「そ、そんな……」

 作り上げた有利な環境など格上がその気になればあっさり打ち崩すことが出来る。
 いちごがエリに与えた曼荼羅は焼け落ち、火薬と硝煙の匂いが漂う梓のキリングフィールドと化した。
102 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 23:51:21.08 ID:S1zbt.AO
うっし、今日はもう終わり
何か意見とか指摘とかあったらばんばん言って欲しい
それもふまえてばんばん書くから
103 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/16(木) 23:54:59.72 ID:IMZAu.AO
今日のお菓子が卵白でフイタwwwwwwwwwwww

このままやりたいようにやってくれwwwwwwww
104 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/16(木) 23:57:07.64 ID:iTahLXQo
乙!
日々の楽しみができたかも
105 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/17(金) 00:02:53.82 ID:M3OjmQAO
ぐぇあ、ありがとー。明日も書けたら書く。
流石に今日と同じ量は無理だけど
106 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/17(金) 04:55:03.54 ID:Tc2.46.o
ういの扱いのよさ

いや、ひどさに吹いた
107 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/17(金) 15:37:06.53 ID:mbxPhmI0
なんとなく澪には破傀拳とかも似合いそうだww
(関節破壊だから基本血でないし。本気だしたら知らんがww)

とにかく乙、続き待ってるぜ。楽しみが出来たよ。
108 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/17(金) 15:48:22.76 ID:M3OjmQAO
今書き溜めしてるんだけどさ、もしかしてここって禁止ワードとかあったりする?
一応こういう内容だしもしかしたらバリバリ引っ掛かるかも分からんので教えてエロい人
109 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/17(金) 16:20:02.76 ID:G8jq46SO
目欄にsagaで解決
サゲじゃなくてサガね
110 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/17(金) 16:20:46.13 ID:NDUOAkEo
メ欄なsagaで禁止ワード引っかからなくなるよ
111 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/17(金) 16:25:58.35 ID:M3OjmQAO
性か、分かった。どうもありがとう
112 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/17(金) 17:10:15.85 ID:kbj50Wc0
[ピーーー]とか卑猥
113 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/17(金) 18:15:10.06 ID:t7/6IPIo
なんかこの憂の設定だと純は実はいちごより弱い最弱キャラってのもありそう
極度のKYと特異体質で憂の闘気に中てられないだけで実は全く戦えないとか
いつも憂の側に居るから誰も手を出してないだけで
114 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/17(金) 19:05:30.95 ID:sFmMfH6o
あずにゃんがライフル使った時
澪「プライベート律っちゃん」思い出した
115 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/17(金) 19:48:23.24 ID:M3OjmQAO
取り敢えずエリ対梓の決着まで書いたから今から投下する
116 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/17(金) 19:49:34.78 ID:M3OjmQAO
梓「私、自分が情けないです」

 燃え盛る教室の中で、梓は天井を仰いで呟いた。

梓「戦場のど真ん中で敵と対峙してるのに妥協して諦めるなんて……。馬鹿ですか私は」

 時々口から血を零しながらも梓は淡々と言葉を紡ぐ。

梓「例え相手が軍隊だろうと憂だろうと、私はこれから先絶対に諦めたりなんかしない。やってやります!」

 自分に戒め、矜持とするように言うと、梓はエリに向けて目が線になるほどの満面の笑みを浮かべた。

梓「『やってやります!』 何かしっくりこないですね……」

 そして細めた両目をうっすらと開き、エリをしっかり見据えると、梓は猫撫で声で言った。

梓「やってやるです、なーんてね」
117 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/17(金) 19:50:22.79 ID:M3OjmQAO
エリ(来る……!)

 エリは本能で自分の身の危険を察知し、梓との距離を詰めた。
銃を持つ相手と闘う場合は距離を取って逃げようとすると逆に不利になる。ましてや梓ほどの命中精度を誇る使い手となるとそれは顕著に現れる。
 それを理解していたエリが取ったこの行動は全く間違ってなどいなかった。
 梓が両手に握る二丁の拳銃を一発ずつ発砲する。
鳴り響いた二つの銃声はほぼ同じタイミングで重なった。
 二つの銃弾の軌道を完璧に見切り、しゃがんだ体勢から一気にタックルを決めようとしたエリの肩を──。

 一発の弾丸が貫いた。
118 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/17(金) 19:51:15.46 ID:M3OjmQAO
エリ「うぐっ──」

 熱を持った痛みの波が肩口から広がり、上半身を疼かせる。
悲鳴を上げずに精神力でその痛みに持ち堪えたエリは、追撃の手に備えんと梓の手の動きを凝視した。

梓「次は左肩をいただきます!」

 宣言し、梓は二つの銃口をエリに向けて発砲する。

エリ(避ける……っ!)

 狙われている部位が分かっているのなら避ける事は容易い。
そう考え、エリは左半身を後ろに逸して肩を銃弾の軌道から外した。

エリ「っ〜〜!?」

 完璧に、何の欺瞞も挟む猶予が無いほどに万全に躱した筈なのに、一発の弾丸が梓の宣言通りにエリの左肩を打ち抜いた。
119 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/17(金) 19:52:01.74 ID:M3OjmQAO
エリ「きゃああああああっ!!」

 痛みに備える猶予が無かったエリは、ついに堪えきれずに悲鳴を上げた。

梓「これで両腕は使えませんね」

 倒れ伏したエリに近寄り、梓は銃口をエリに突き付ける。

エリ「どう……して……?」

 襲い来る死の恐怖を躱す事を諦め、虚ろな瞳を浮かべたままエリは梓に問う。

梓「どうして弾が当たったのか、って顔してますね。良いですよ、教えてあげます」

 梓は勝ち誇った笑みを浮かべ、二つの銃口をエリから逸して発砲した。

エリ「うぐっ……!?」

 二つの発砲音と同時に一つの弾丸がエリの右太股を打ち抜いた。
120 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/17(金) 19:53:09.52 ID:M3OjmQAO
梓「ごめんなさい。ちょこまか動かれると面倒なんで撃たせてもらいました」

 銃をホルスターにしまい、屈み込むと梓はトリックの種明かしを始めた。

梓「この銃、それぞれ弾の速度が違うんですよね。そして弾丸は物にぶつかっても潰れないようにハンドメイドしてあるんです」

エリ「…………?」

 目に涙を溜めながらも、エリは無言で首を傾げた。

梓「つまり、弾の速度が違って更に物の衝突にも耐えられる強度を持っているなら、二つの弾の発射を僅かにずらして跳弾で弾の軌道を変えられるんです」

エリ「そんな……」

 そんな馬鹿な。エリは素直にそう思った。
眼で追うだけで精一杯であろう速度を持つ弾丸をそこまで緻密にコントロール出来るなど、人間業ではない。
121 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/17(金) 19:53:59.10 ID:M3OjmQAO
梓「まぁ流石に障害物が多い場所ではこれは使えないんですけどね。私の腕もまだそこまでには至ってないんで」

 梓はそう言って頬を掻き、けたけたと笑った。

エリ(なんだ……。曼荼羅を焼かれた時点で、私の負けは決まってたんだ……)

 エリは心の中で自嘲した。自分の頬が諦めの笑みで緩んでいるのに気付く。

エリ(ここで終わり……かぁ。焼死って苦しいんだろうな……)

 燃え盛る火の規模がみるみるうちに増してゆくのを感じて、エリは眼を閉じた。

梓「何寝ようとしてるんですか。唯先輩でもこんなとこで寝たりしませんよ」
122 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/17(金) 19:54:50.08 ID:M3OjmQAO
エリ「え?」

 有無を言わせずに自分の身体を抱え上げ、よたよたと歩く梓にエリは疑問を覚えた。

エリ「どうして……」

梓「目の前で人に死なれるのは気分が悪いんですよ。言わせないで下さい恥ずかしい」

 そっぽ向いて照れ臭そうに喋りつつも、ふらふらと自分おぶって歩く梓が、エリにはとても頼もしく見えた。

エリ「ありがとう……。『梓ちゃん』」

梓「? 何か言いました?」

エリ「ふふ……。何でもないよ」

 安定しない足取りのまま窓の縁に立ち、梓は跳躍した。
猫のようにしなやかに地面に着地すると、エリを荷物のように乱雑に放る。
123 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/17(金) 19:55:34.23 ID:M3OjmQAO
エリ「きゃっ……。酷いよ、これでも重傷なんだからもっと丁寧に──。うわっ!?」

 物のように扱われた事に対して頬を膨らましてはぶてるエリだが、自分にもたれるように倒れ込んだ梓を受け止めると、吐き出しかけた言葉を胸にしまった。

エリ「大丈夫?」

梓「大丈夫じゃないですよ。もう一ミリも動けません。誰のせいでしょうね?」

 梓は皮肉めいた辛辣な言葉を吐き捨てるものの、表情はとても晴れやかだ。

エリ「ごめんね? 実はこの騒ぎを起こしたのって、私と私の友達なんだ」

 戦いの中で自分の愚かな暴動を悔いたエリは、事の発端を梓にカミングアウトした。
124 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/17(金) 19:56:28.17 ID:M3OjmQAO
エリ「少し前に軽音部と吹奏楽部がやり合ったでしょ?」

梓「……そういえばありましたね、そんなこと」

エリ「実はあれ、私達最初から最後まで見てたんだ」

 その時は見られているという自覚など無かったので、梓は素直に驚いた。

エリ「見てて思ったの。軽音部は危ない。今は自分から敵に回る人にしか危害は無いけど、もしこの子達が戦いに積極的になったら学校が危ないって」

梓「……なんですかそれ。そんな理由で私達を?」

 既に持ちうる力全てを吐き出して満身創痍となっている梓だが、話を聞いていて湧き上がる苛立ちを隠そうともせずに舌打ちをした。
125 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/17(金) 19:57:17.41 ID:M3OjmQAO
エリ「ごめんね。話を戻すけど、それで私達は軽音部を潰してしまおうと考えたの。でも皆君達の事が大好きだから、素直に協力してくれる人は少なかったわ」

エリ「でも田井中さんがぼやいてた言葉を録音してでっち上げたら皆協力してくれたんだ。聞いてみる?」

 エリはそう言うと煤けたブレザーの胸ポケットから壊れかけのボイスレコーダーを取り出し、梓に手渡した。
梓はそれを無言で受け取り、再生スイッチを押して耳にあてる。

『いっそ私らも他の部の乗っ取り合戦に乗ってみるかぁ?』

梓「これって……。律先輩こんな事言ってたんですか?」

 この会話が行なわれていた時、梓はその場に居なかったので律の発言を聞いて戦慄した。
126 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/17(金) 19:58:13.43 ID:M3OjmQAO
 部員数が少ない部が下剋上を仄めかすような発言をすればたちまちにその芽を潰されてしまう。
 桜高の長い歴史の中でそうやって消えた部は数知れない。
それは最早桜高の生徒全員が共通して理解している常識なのに、律が何故こんな事を言ったのか、梓は解せなかった。

エリ「ううん、違うの。実際はそんなのでっちあげ、最初から最後まで再生したら分かるよ」

 梓は言われるがままに再びレコーダーを再生した。
軽音部の四人の下らない談笑を聞き終えると、梓はボイスレコーダーを握り潰した。

梓「こんなに拍子抜けな気分にされたのは……、生まれて初めてです」
127 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/17(金) 19:59:07.20 ID:M3OjmQAO
エリ「あはは、いざ種明かししてみると妙案なんてのは皆そんなものだよ。上手いことその音声データを編集して、捨てアドからクラスの全員に送信したの。そしたら皆面白いくらい騒いじゃって──」

梓「…………」

 俯いて肩を震わせる梓を余所に、エリは壊れたように笑い出した。

エリ「あはっ、私ずるいよね。こんな質の悪い策を閃いたのもそうだし、こんな策に乗ってくれた皆を捨てて、さっさと降参しちゃうなんてね。あはははっ!」

 笑いつつも、エリの涙腺は崩壊していた。
大粒の涙がぽろぽろと零れ、普段は愛らしい顔は涙と鼻水でくしゃくしゃになっている。
128 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/17(金) 20:00:03.72 ID:M3OjmQAO
エリ「あははっ、何で私間違えちゃったのかな? ずるいよね、卑怯だよね。自分が弱いからって軽音部を勝手に恐れて……。バッカみたい!」

 それを良しとしていた自分が今では恥ずかしく思える。
戦いに敗れて全てを失ったエリはもう自分を笑うしかなかった。
そんなエリの手を──。

梓「うるさいです」

 梓は力強く握った。

梓「確かに瀧先輩がやった事は誉められたものではありません。でも──」

 握り締めたエリの掌をそっと自分の胸に当てると、梓はその手を愛しげに見つめた。

梓「あなたのその醜くて卑しい思いを、私は何よりも尊敬します」
129 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/17(金) 20:00:57.57 ID:M3OjmQAO
梓「あなたが私達を恐れていたということはあなたは他の部に所属してるんですよね? 帰宅部なら私達がどうしようと関係無いわけですし」

 エリは梓の問いに対してしゃくり上げながら頷く。

梓「あなたほど自分の部を大切に思える人はそうそういませんよ。大切なものの為にここまで卑劣になれるなんて、最高に格好良いです」

 身体を何か温かいものが包み込んでいるような気がして、エリは赤子のように泣きじゃくる。

エリ「あずさ……っちゃん……ひっく、私達……こんな出会いじゃなかったら……友達になれた……かな?」

 それは一縷の願いだった。
こんな自分は許されても良いのだろうか、エリは不安でたまらなかったのだ。
130 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/17(金) 20:01:55.13 ID:M3OjmQAO
梓「何言ってるんですか」

 梓は振り向いて泣きじゃくるエリの頭をそっと撫でると、呆れたように微笑んだ。

梓「それじゃあまるで友達になれないみたいじゃないですか。今は少し許せないところもあるけど、きっとなれますよ」

 一呼吸置いて、エリの頬を伝う涙を拭ってから梓は言った。

梓「『エリ先輩』」

エリ「──っ! ありがとう……。梓ちゃ………」

 最後に何か言いかけて、エリは意識を手放した。
その顔はとても安らかなものだった。

梓「血の流し過ぎですよ。まぁ私のせいですけど……」

 梓は唯達の元に向かおうと立ち上がるが、よろめいてエリの胸の上に倒れてしまう。

梓「えへへ、動けないや……。もう少し、こうしてても良いよね?」

 エリの後を追うように梓もその意識を泡沫へと手放した。
 二人の眠り姫を、揺らめく炎が照らしていた。
131 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/17(金) 20:04:03.96 ID:M3OjmQAO
取り敢えず終わり
今日のうちにきりが良いとこまで書けたらまた投下する
132 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/17(金) 20:05:52.90 ID:G8jq46SO
133 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/17(金) 20:58:21.05 ID:4y0sFYSO
このスレが楽しみすぎて生きる糧
134 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/17(金) 21:03:59.93 ID:M3OjmQAO
「あっれ〜? おかしいなぁ、今日学校休みだっけ?」

 癖のある髪の毛を二つ結びにした少女が、気怠そうな表情を浮かべつつ二年昇降口で靴を履き替えていた。

「まぁそれならそれでラッキーなんだけど……。昨日徹夜で戯言シリーズ読んだせいで眠たいや……」

 目を擦りつつ、少女は自分の教室に向かう。
そして教室が見えてきたその時、少女はようやく異変に気付いた。

「燃えとるがな……」

 自分の教室が踊り狂う炎に焼かれているのを見て、少女は唖然とした。

「鈴木さん?」

 不意に後ろから自分を呼ぶ声が聞こえて、少女は振り返った。
135 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/17(金) 21:04:47.03 ID:M3OjmQAO
「んぁ? 誰ですかあなた。それよりも何なんですかこれ」

 鈴木と呼ばれた少女は怪訝な顔をして、生徒に詰め寄った。

「何って……。あなた昨日のメール見てないの?」

「メール?」

 少女は不信感を覚えつつも、ポケットから携帯電話を取り出してメールを確認する。

「軽音部殲滅作戦を決行する為、関係者以外は登校を禁ずる? 何これ?」

 頭の上にクエスチョンマークが浮かんできそうなきょとんとした顔を見て、生徒は大きく溜め息をついた。

「あの、一応立ち入った部外者は殲滅するように言われてるんだけど、分かったら早く帰りなさい?」
136 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/17(金) 21:05:35.77 ID:M3OjmQAO
 少女を諭すように語りかける生徒。だが……。

「あ〜、それ無理です。ごめんなさい」

 少女は掌を生徒に向けて突き出し、要求を却下した。
 直後に二人の間に険悪な空気が流れる。

「そう。じゃあ残念だけど、始末させてもらうわね」

「あー全然おっけーです。多分あなたじゃあ無理ですから」

 少女は何の悪びれもなくそう言うと、舌を出して微笑んだ。
 その瞬間生徒は微笑む少女の顔面目掛けて渾身の右ストレートを決めようとした。
だがそれは少女のスウェーバッグでいとも容易く躱される。

純「手が早いなぁ……。じゃあ純ちゃん流デンプシーロールを見せてあげますよ!」
137 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/17(金) 21:06:29.08 ID:M3OjmQAO
 言ったが直後、純は腰を沈めてステップを踏みつつ、生徒の懐に潜り込む。

「っ!?」

 そこまでの一連の動作にコンマ一秒とかかっていない。
生徒が驚愕の表情を浮かべる頃には純の右フックが頬を捉えていた。

純「うっし!」

 立て続けに左フック。そして右フック。
純の上体は綺麗な八の字を描く。

純「これで最後ぉ!」

 渾身の右フックが生徒の頬を捉えると、生徒の身体が宙に浮いた。

純「じゃあ今日のフィニッシュブローは早速昨日読んだ戯言シリーズから引用しちゃおっかな。ちょっと痛いかもだからしっかり受け止めてね」

 笑みを浮かべつつ、純は腰を落として右手を振り翳した。
138 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/17(金) 21:07:34.48 ID:M3OjmQAO
純「一喰い『イーティング・ワン』!」

 振り抜く平手は空を裂き、凶暴な凶器となって生徒の腹部を捉えた。
少女は断末魔の悲鳴を上げる間も無いまま、意識を強制的に遮断された。

純「こんなもんかな」

 純は満足げな笑みを浮かべつつ、掌をはたいた。

純「軽音部殲滅、ねぇ。こりゃ梓の友達としてほっとけないよね」

 よし、と自分を鼓舞すると、純はその場を後にした。
取り残された生徒の腹部は爆ぜており、赤黒い水溜まりが出来ていた。
139 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/17(金) 21:08:24.45 ID:M3OjmQAO
 鈴木 純は桜高生徒序列から外された生徒だ。
自堕落なその性格故に桜高で名を馳せる事が無いのがその主な理由なのだが、そのポテンシャルはトップランカーと比べても引けを取らない。
 スピード、パワー、スタミナ。その全てが安定して鍛えられており、それに加えて彼女には戦闘の才能があった。
 平沢 唯のそれとよく似ているその才能は、人の動作を真似る事。
幼少時から純はテレビや漫画で見た技を即座にコピーして見せては、大人達を驚かせていた。
 彼女のその才能を知る者は密かに、彼女の事を桜高生徒序列ナンバーゼロ『夢幻』と称する。

純「さぁて、梓は無事ですかね〜っと」

 眠る梓が居る場所を通り過ぎた彼女の行動は実に空回りしていた。
 だがこの瞬間、桜高のダークホースがこの戦いに加入したのだ。
140 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/17(金) 21:10:03.67 ID:M3OjmQAO
ssくらい純ちゃんが輝いても良いじゃない、そんなノリ
んじゃ多分今日はこれで打ち止め
土日は忙しいから微妙だけど一回は投下したい
141 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/17(金) 21:38:31.53 ID:G8jq46SO
誰かけいおんの主要キャラ位しか知らない俺に参考画像を
和と純と憂位ならわかるが他わからん
142 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/17(金) 22:28:53.48 ID:xoHuuEI0
誰かいる〜?
143 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/17(金) 22:32:24.36 ID:t7/6IPIo
クラスメイトの一覧画像探してるんだけどフォルダがごちゃごちゃしてて分からんwwwwwwwwwwww
144 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/17(金) 22:35:04.96 ID:M3OjmQAO
俺からもお願いします
画像も無いし貼り方も分からなんだ
145 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/17(金) 22:41:09.88 ID:.u/1mxYo
http://uploader.sakura.ne.jp/src/up16639.jpg
携帯だと見づらいけど一応貼り
146 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/17(金) 22:51:41.68 ID:t7/6IPIo
>>145
俺の持ってるのよりちょっと更新されとるがな
ありがとう!
147 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/18(土) 02:47:47.70 ID:9p0lU6AO
キャラごとに違った戦闘スタイルに個性があって面白い

個人的には慌てた姿が可愛らしい、ちずるちゃんが出てきて欲しかった
148 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/18(土) 05:43:45.17 ID:04QaDbEo
ねーよwwwと思いながらも全部読んでしまった

続き待ってます
149 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/19(日) 00:26:05.73 ID:sdLhIcAO
今日は多分書けないけど代わりに参考がてらに登場人物の序列を

唯…序列五位
律…序列七位
澪…序列十二位
紬…序列九位
梓…序列十九位
和…序列二位
憂…序列一位
純…序列追放
いちご…序列四位
姫子…序列三位
信代…序列六位
エリ…序列四十九位
アカネ…序列五十三位
しずか…序列二十八位
吹奏楽部部長…序列九十位
冒頭の不良生徒…序列百六十八位

十位までが作中で言うトップランカーで、特に三位と四位の差は禁書で言う第二位と第三位くらいの差がある。

それも踏まえて読むと色々予測とか出来て楽しいかなー、なんて
150 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/19(日) 00:52:09.25 ID:XcUsAUSO
>>145何か変なのが出て見れない
151 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/19(日) 00:57:43.99 ID:WuOo5HYo
並べてみるとこのクラス強ェ
152 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/19(日) 01:16:12.23 ID:Z33hW9co
既に八位と十位以外のトップランカーが出てて憂以外3-2か
153 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/19(日) 01:23:41.99 ID:NaUsLkAO
りっちゃんですら肉眼で追えないのに、姫子と和はどんだけ速いんだ・・・
154 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/19(日) 02:45:36.60 ID:3R1Di3oo
戦国時代とかやって迷走しまくった挙句に
打ち切りみたいな急展開でヒドい最終回を迎えた天上天下よりずっと面白い
155 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/19(日) 09:06:08.24 ID:ByMUbQgo
大暮がこのスレに目を付けたようです
156 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/19(日) 21:57:08.29 ID:sdLhIcAO
紬「はぁ……はぁ……ごほっ……。何で……?」

アカネ「言ったでしょ? あなただからこそ勝てるって」

 三年校舎棟の一角での戦いは佳境に差し掛かっていた。
 紬は膝を折り、腹部を抑えて顔を歪めている。
それを見てアカネは冷笑を浮かべると、勢いよく紬の顔面を掌底で打った。

紬「むぐ──!」

 紬の身体はその力に逆らうことなく宙に浮かぶ。
アカネは紬が床に衝突するよりも早く、腹部に掌底を捩じ込む。

アカネ「発勁!」

 直後に衝撃の波が紬を襲い、床に身体を叩き付ける。

紬「くっ……うぐ……」

 身体の中のものを全てぶちまけてしまいたくなるが、紬はそれを寸でのところで堪えた。
157 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/19(日) 21:58:03.38 ID:sdLhIcAO
 当時の紬がうさん臭いと感じるのも無理は無い。
一般的にメディアなどで取り上げられている勁は気と同一視される事が多い。
 全ての事象に科学的根拠が求められる現代社会において『気』などという曖昧な概念は信用されないのだ。
 だが実のところ勁の力はれっきとした筋肉による運動エネルギー。
科学的にも観測される立派な物理エネルギーなのだ。

アカネ「ふふっ、そろそろギブしちゃいなよ。もう内臓ズタボロでしょう?」

 アカネは倒れ伏す紬の手の甲を踏み付け、ぎりぎりと体重をかけた。

紬「あぐ……ぅ……」

 歯を食いしばって痛みに耐える紬だが、その表情には苦悶が満ち溢れている。
158 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/19(日) 21:59:45.55 ID:sdLhIcAO
順番間違えた。>>157は無しで
159 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/19(日) 22:00:13.18 ID:4bRdNNoo
屋敷ェ……
160 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/19(日) 22:00:49.71 ID:sdLhIcAO
紬(まさか勁の使い手がこの学校にいたなんて……最悪ね)

 紬は心の中でそう毒づいた。
 紬の剛の力の使い手なのに対してアカネは柔の力の使い手である。
中国より古来から伝わる勁を用いて、紬をここまで圧倒した。
 勁とは筋肉の伸縮、重心移動の際に発生する緻密な運動エネルギーだ。
勁を発生させ、対象に接触させ、勁を作用させる。
これら一連の動作を攻防の際に行使し、敵を内面から突き崩す。
それが『発勁』のメカニズムだ。

紬(うさん臭い武術だと思ってないがしろにしてたけど、お父様の指導をきちんと受けておくべきだったわね……)
161 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/19(日) 22:01:48.53 ID:sdLhIcAO
 当時の紬がうさん臭いと感じるのも無理は無い。
一般的にメディアなどで取り上げられている勁は気と同一視される事が多い。
 全ての事象に科学的根拠が求められる現代社会において『気』などという曖昧な概念は信用されないのだ。
 だが実のところ勁の力はれっきとした筋肉による運動エネルギー。
科学的にも観測される立派な物理エネルギーなのだ。

アカネ「ふふっ、そろそろギブしちゃいなよ。もう内臓ズタボロでしょう?」

 アカネは倒れ伏す紬の手の甲を踏み付け、ぎりぎりと体重をかけた。

紬「あぐ……ぅ……」

 歯を食いしばって痛みに耐える紬だが、その表情には苦悶が満ち溢れている。
162 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/19(日) 22:02:42.62 ID:sdLhIcAO
紬「どいて!」

 手の甲に乗せられたアカネの足を強引に振りほどくと、紬はふらふらと立ち上がった。

アカネ「へぇ……。まだ立てる力が残ってたんだ」

紬「これぐらい……。全然平気よ!」

 強がってはいるものの紬は疲労の色を隠せてはいない。
それもその筈だ。アカネは勁の力を使って紬の肝臓を重点的に攻撃していたのだ。
急所から外れた場所にある臓器の為、一撃一撃のダメージはあまり大きくはない。
だがその執拗な一点攻撃は紬のスタミナを着実に削っていたのだ。
スタミナという一点に関しては他の軽音部員に劣る紬がそれに耐えられるのか。
その答えは火を見るよりも明らかだ。
163 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/19(日) 22:03:38.72 ID:sdLhIcAO
紬「えい!」

 紬は左脚を軸にして上段回し蹴りを仕掛けた。
だが正攻法の中の正攻法である回し蹴りが何のフェイントも無しに当たる筈がない。
アカネが紬の足をスウェーバッグで躱すと、蹴りは宙を裂いて校舎の壁に食い込んだ。
コンクリートが爆ぜ、辺りに粉塵を撒き散らす。

紬「くっ……」

 凡人を相手にしている時はそれだけで充分相手の足を竦ませる事が出来る破壊力だが、アカネは理解していた。
当たらない攻撃など恐るるに足りないという事を。

アカネ「甘いよ!」

 だからこそアカネの動きは止まらない、止められない。
呼吸するかの如く自然かつスムーズに、紬の体躯を壊してゆく。
164 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/19(日) 22:04:31.04 ID:sdLhIcAO
 あくまで急所は狙わず、人体の正中線からずらした攻撃は紬の身体を毒のように蝕んでゆく。

紬「……良い性格してるわね」

アカネ「お互い様でしょう? 少なくとも真性のレズビアンよりはマシだと思うけど」

 自分の性癖を嘲るアカネを睨み付け、紬は唇を噛み締めた。
唇の端から真っ赤な血が一筋流れる。

紬「……百合は、文化よ」

 苦し紛れに反論する紬だが、アカネがそんな見苦しい妄言に素直に耳を貸す筈も無かった。

アカネ「あはっ、正真正銘真人間な私には理解出来ないわね。お願いだからその性癖は自分の中だけで溜めておいてね?」
165 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/19(日) 22:06:20.44 ID:sdLhIcAO
 ぶちり──。
 紬の頭の中で何かが切れた音がした。
 理性、情緒、遠慮。普段紬の朗らかな性格を形成していたものが音を立てて崩れさってゆく。

紬「──っ!」

 怒りのあまり言葉を上手く紡ぐことが出来ない。
その代わり紬は渾身の力で床を殴りつけた。

アカネ「あははっ! 気でも違ったの? そんな事したって意味無い──」

 紬のとち狂った行動を盛大に嘲ろうとしたアカネだが、ある重大な異変に気付く。

アカネ「え?」

 まるで震源地にいるような大規模な揺れが三年校舎に発生した。

 その直後──。

アカネ「えっ? 嘘でしょ!? きゃああああああっ!!」

コンクリートで出来ている壊れるはずのない廊下が、瞬時に瓦礫の山となって崩れ落ちてゆく。
166 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/19(日) 22:07:46.89 ID:sdLhIcAO
 足場を失ったアカネは錯乱状態に陥り、墜ちてゆく自分の身体をジタバタと動かした。
墜ちてゆく刹那でアカネは紬の姿を確認して絶句する。
 自分と同じように墜ちてゆく紬の背で、鬼が笑っているのが見えた。

アカネ「〜〜っ!?」

 逃げろ、逃げろ、逃げろ。逃げろ!
 実にシンプルな危険信号がアカネの脳内で警鐘を鳴らしている。
だがアカネは空中でもがくだけで、逃げることなど出来ない。

アカネ「つっ……」

 恐怖のあまり受け身を取る事を忘れていたアカネはそのまま一階の床に叩き付けられる。
痛みを訴える身体を強引に引き摺り、アカネはよろめきながらその場を後にしようとした。
167 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/19(日) 22:08:40.44 ID:sdLhIcAO
 だがそれがいけなかった。
紬に背を向けて逃げ出したアカネは、自分の右肩から先が粉になってゆくような錯覚を覚えた。

紬「何処へ行くの?」

 振り返ってからアカネは自分の肩の骨が粉々に砕けている事を理解した。
規格外の衝撃はアカネの身体が吹き飛ぶことすら許さない。
痛みなどとうに消え失せており、静かに崩れてゆく自分の骨がアカネには他人のもののように思えた。

アカネ「今……私を殴った?」

紬「ええそうよ」

 傍から見ればシュール以外の何物でもない光景なのだが、二人のこの会話は酷く理に敵っていたのだ。
168 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/19(日) 22:09:55.85 ID:sdLhIcAO
 紬は無言のまま、垂れ下がったアカネの右腕を掴んだ。

紬「えい!」

 顔面にいつもの朗らかな笑顔を貼り付けたまま、紬はアカネの腕を掴む手に力を込めた。

アカネ「やだ、やめ──」

 アカネの拒絶など何の意味も成さない。
握られた部分の肉は水風船の如く勢い良く弾け飛び、その奥の骨は豆腐のように崩れる。
 だがアカネが苦悶の叫びよりも早く、紬は大量の血を噴き出した。

アカネ「え?」

 血は飛沫となってアカネの顔に付着した。
痛みを越えた衝撃が幸いして、アカネは今の状況を冷静に判断する事が出来た。
169 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/19(日) 22:10:09.07 ID:4bRdNNoo
ムギ怖すぎワロタ
170 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/19(日) 22:11:19.55 ID:sdLhIcAO
アカネ(もしかして……)

 アカネはまだ無事な左手を振りかぶる。
勁を利用した一撃を、今度は容赦なしに紬の心臓に叩き込んだ。
酷く緩慢で単調なその攻撃は、たとえトップランカーでなくとも桜高に所属している者なら誰でも避けられる一撃だった。
だが紬はそれを避けようとしなかった。否、避けられなかったのだ。

アカネ「なんて子なの……」

 衝突する運動エネルギーに全く歯向かわずにあっさりと吹き飛んだ紬の瞳は黒く澱んでおり、口は半開きになっている。
 そう、紬はアカネの腕を握り潰した直後に意識を手放したのだ。
既に気絶している人間が攻撃を避けるなど、言うまでもなく無理な話である。
171 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/19(日) 22:11:29.69 ID:yMsyQwIo
すごい!!支援!
172 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/19(日) 22:12:18.17 ID:sdLhIcAO
 アカネはそこでようやく潰された自分の右腕に意識を向けた。

アカネ「っ!」

 痛みは始めから無い。無いが、自分の腕がグロテスクな肉片になっているのを見て、アカネの顔面は少し青褪めた。

アカネ「取り敢えず、あの子が組んだ采配が功を成した……かな?」

 その代わりアカネが失ったモノも少なくはない。

アカネ(もしかしたら……。こうなることもあの子には想定済みだったのかな?)

 もしそうなら酷く滑稽な話だ。
結局軽音部殲滅を企てた張本人が重傷を負い、それに便乗した策士は安全地帯で指を咥えて眺めていただけなのだから。
 自嘲染みた苦笑いを浮かべると、アカネは昨日の自分といちごの会話を思い返す。
173 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/19(日) 22:13:55.92 ID:sdLhIcAO
今日はこれでおしまい。
一日空けてこれだけしか書けないとは……
まぁ俺は楽しんでるからそこんとこは許してくれ。
174 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/19(日) 22:39:15.71 ID:2LH9CPk0
いきなり全員出すから前半のキャラ能力紹介が多すぎてテンポ悪いw

どうせならシリーズ化してこの話は後の方にやって欲しかった!

とか言っちゃったけど、そんなの差し引いても面白すぎだから頑張って!!
175 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/19(日) 23:12:38.01 ID:yMsyQwIo
乙!!期待!
176 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/20(月) 00:00:47.04 ID:bgYxKrEo
>>174
コイツは何もわかってない
177 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/20(月) 00:02:06.57 ID:.N7WWkIo
握撃吹いた
178 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/20(月) 00:35:42.83 ID:WeZaybMo
ついデスデビル時代を妄想してしまった
そして百合は文化だったのか……
179 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/20(月) 02:19:36.63 ID:KGrDQEAO
アカネ腕ちぎれて生きてんのかよ・・・
と思ったら、人を刀で斬ったり銃で撃ったりを普通にやってる時点でこいつらは人類を超越してるんだ死ぬはずないジャン納得。
180 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/20(月) 11:16:22.51 ID:iaaqrYAO
────
アカネ「私が琴吹さんと?」

 深夜の空き教室で、軽音部殲滅作戦に選ばれた五人の戦士と、それらを率いる策士が一同に会していた。
 アカネはつい先程いちごが自分に下した役割を聞いて、驚愕した。

アカネ「確かあの子の序列って九位よね? とてもじゃないけど上手くやれる自信なんて無いよ」

 アカネの隣に座っていたエリも同様の不安を抱いていたのだろう。
アカネの言葉に賛同するように相槌を打っている。

しずか「やれるやれないの問題じゃないよ。私達にはいちごちゃんに従う以外に選択肢は無いの。それともアカネ、あなたはいちごちゃんよりも合理的な策を持ってるの?」

アカネ「うっ……」
181 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/20(月) 11:17:22.04 ID:iaaqrYAO
 しずかに反論する気などアカネには毛頭無かった。
自分とエリの意志に便乗しただけにも関わらず、作戦の総指揮をいちごに委ねているのはアカネ自信いちごの策に絶対の信頼を寄せているからなのだ。
 アカネは教室内を一瞥した。
集まった他の面子もいちごを信頼しているという点では共通しているのだろう。
各々がまるで心配などしていないと言わんばかりに無関心を決め込んでいる。
 姫子は気怠そうに机に頬杖をつき、携帯電話を弄っている。
 信代はどっしりと深く椅子に腰掛け、腕を組んでぼんやりと窓の外を眺めている。
 そしていちご自身も事の成り行きが全て分かっているかのような悟った目をしており、アカネの反論を無視して髪の毛を弄っている。
182 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/20(月) 11:18:06.07 ID:iaaqrYAO
いちご「大丈夫」

 冷徹さすら漂わせる鉄仮面の様な表情とは裏腹に、いちごが紡いだ言葉は諭すような穏やかさを持っていた。

いちご「あなたの勁はきっと琴吹さんに通用する。自分の力を過信した人にこそあなたの力は生きるから」

 それは勁の力を使う者皆が根本の志として定めている考えだ。
力に驕る剛の者を緻密で繊細な、ある種の芸術品とも言える力で討つ。
それこそが勁の強さなのだ。

いちご「それに琴吹さんは弱い。寸前で非情になる事が出来ないから彼女は『鬼』にはなれない『鬼殺し』でいるの」

 そしていちごはこう締めくくった。

いちご「勝てる、じゃない。あなたは勝つの」

 絶対的な自信を以て自分を鼓舞するいちごの気迫に気圧されて、アカネは無言で頷いた。
183 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/20(月) 11:18:48.27 ID:iaaqrYAO
 ──
 しばしの回想に浸っていたアカネは右腕の痛みで我に返った。

アカネ「っつ!」

 普通の人間ならば既に致死の域に達しているであろう夥しい出血を見て、アカネは苦し紛れに笑ってみせた。

アカネ「痛い……。けど、生きてるんだよね」

 気を抜けば意識を持っていかれそうになるような痛みはアカネを蝕む。
心臓の鼓動が傷口に直に響き、干物のように垂れ下がった腕を疼かせる。
だがそれらの苦痛の一つ一つが、アカネに生きているという実感を与えていた。

アカネ「少しだけ、寝てても良いよね?」

「駄目よ」
184 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/20(月) 11:19:47.62 ID:iaaqrYAO
 呟いた独り言に返事が返ってきたのを聞いて、アカネの心臓は跳ね上がった。
今この場で言葉を発する事が出来るのは自分だけの筈なのに。
 倒れ伏している紬を凝視しつつも、アカネは全身を震わせていた。

紬「頭がぼーっとするわね……。ちょっと不味いかも」

 意識を失っていた筈の紬がゆっくりと身体を起こした。
その一連の動きはとても緩慢なもので、それを遮る事は容易かった。
だがアカネにはそれが出来なかった。
震える身体は思うように動いてくれない。

アカネ「どうして……?」

 歯をがたがた震わせて大粒の涙を零しながら、アカネは声を振り絞った。
185 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/20(月) 11:20:39.10 ID:iaaqrYAO
紬「ふふ……。私はこう見えてプライドが高いの。百合をあれだけ馬鹿にされて、そう易々とやられてたりなんかしないわ」

 表情は満面の笑みではあるが、目は笑っていない。
立場はお互い満身創痍であるため、ほぼ同等ではある。
だが紬の身体から発せられる闘気は捕食者の色だ。

紬「何も考えたくないわ。頭の中が空っぽみたい」

アカネ「あ……あ……」

 立ち上がって今直ぐ逃げるのが最良だが、アカネは腰が砕けてしまってそれが出来なかった。

紬「唯ちゃんほど上手には出来ないけど、今ならやれそうな気がするわ」

 そして紬は大きく深呼吸してぽつりと呟いた。

紬「オーバードライブ」
186 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/20(月) 11:21:23.63 ID:iaaqrYAO
 直後に辺りに散らばっていた瓦礫の山が吹き飛んだ。
空間そのものがねじ曲がるような感覚がアカネを襲う。
 紬が自分に向かって駆けてくるのがやけにゆっくりに見えた。
そんな走馬灯のような光景の中でアカネは思う。

アカネ(こんなの……話が違うよ)

 今の紬は鬼でも、それどころか鬼殺しですらない。
ただ純然たる殺意を携えて獲物を狩らんとするその姿は。

アカネ(悪魔……!)

 自分の頬の肉が波打ち、衝撃が走る感覚を味わいながら、アカネは壁に叩き付けられた。
 とうに意識を手放していてもおかしくないダメージなのにそれすら出来ない。
187 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/20(月) 11:21:58.32 ID:iaaqrYAO
 紬は虚ろな眼をしたアカネに一歩ずつ詰め寄る。
ブレザーを脱ぎ捨て、ブラウスの一番上のボタンを外した。

アカネ「え……?」

 紬が今から自分に何をしようとしているのか、アカネがその答えに辿り着くのは容易かった。

アカネ「ちょ……待ってよ!」

 脳内で抵抗の意が空回りして、身体はぴくりとも動かない。
そうこうしているうちに、紬はアカネの身体に覆い被さった。

紬「ふふ……。こんなにボロボロになって、これじゃあお嫁に行けないわね」

 言いながら紬はアカネの首筋に舌を這わせた。
アカネの脳に電流が走る。
188 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/20(月) 11:22:49.42 ID:iaaqrYAO
紬「でも大丈夫よ。私、そういうのも大丈夫だから」

 アカネのブラウスのボタンに手をかけて、ボタンを一つずつ外す紬の頬は赤く染まっていた。

アカネ「やだ……やめてよぅ……」

 アカネの苦悶の嘆願を無視し、紬は露になった双丘を執拗に舐め始めた。
虫が這っているようなその感覚にアカネは嫌悪感を覚える。

アカネ「んっ……やだよぅ……。こんなの……」

 紬の舌は乳房からゆっくりと下の方に移動し、へそ辺りをなぞっている。
そしてついにスカートに手がかけられた。

アカネ「っ!?」

 貞操の危機を感じながらもアカネの身体は動かない。
スムーズにスカートと下着をはぎ取られたアカネは目に涙を浮かべる。

アカネ「いやああああああああっ!!」

 三年校舎の一角に悲痛の叫びが響いた。
189 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/20(月) 11:23:32.95 ID:iaaqrYAO
 中庭の校長像の前で、二人の生徒が闘っていた。
一人は生徒序列ナンバーテン『死神』高橋 風子。
そしてもう一人は生徒序列から追放されたナンバーゼロ『夢幻』鈴木 純。

風子「はぁ……はぁ……」

 風子は得物としている身の丈ほどの黒鎌を杖にして、かろうじて立っていた。

純「しぶといですね〜。普通なら初撃の筋肉バスターでおねんねですよ?」

 対する純はうっすらと汗はかいているものの、傷一つなく疲労もしていない。

風子「あなたはイレギュラー中のイレギュラーなのよ。ここであなたを確実に排除するまでは、私は[ピーーー]ない!」
190 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/20(月) 11:24:24.97 ID:iaaqrYAO
 風子の気迫に若干気圧される純だが、今度は困ったような顔をして頬を掻いた。

純「なにこれ……何だか私が悪者みたいじゃん」

 ただ流れる雲のように自堕落に過ごしてきた純。
故に誰かに英雄扱いされる事も悪人扱いされる事も今まで一度も無かった純は困惑していた。

純「うーん。ここいらで潮時かなぁ?」

 風子に聞こえるように呟くと、純は風子に背を向けて歩き出した。

風子「……?」

 あまりにも隙だらけなその姿に風子は唖然とした。
今ならば鈴木 純の首を刈るのに一秒とかからない。
 だが風子はそれをしなかった。
191 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/20(月) 11:24:57.87 ID:iaaqrYAO
風子(良かった……。このまま続けていたら私、多分死んでただろうな)

 純の行動を撤退と判断した風子はそこでようやく警戒を解いた。
だがそれがいけなかった。その考えはあまりにも虫が良過ぎたのだ。

純「じゃあ行きますよ」

 くるりと踵を返して純は風子に向き直った。
辺りの空気が一瞬にして凍り付く。
 風子が気付いた時には遅かった。
風子と純の間にあった五十メートルほどの距離はまるで無かったかのように詰められ、純は風子の懐に入っていた。
192 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/20(月) 11:25:42.85 ID:iaaqrYAO
純「私式ファイナルヘヴン!」

 大仰な名前ではあるがそれはただの右フック。
だがそのシンプルさ故にその技は絶対的な強さを持っていた。
事前のダッシュによる加速は拳に何乗もの破壊力を加える。

風子「かはっ……!?」

 純の拳が風子の腹部を捉えると、風子の身体は弾丸の如く遥か彼方に飛び去って行った。

純「あらら、やっちった。適当にブン殴って首謀者の居場所聞き出そうと思ったのにな〜」

 ちぇっ、と悪態をつき、純は大きく伸びをした。

純「まぁあの先輩と遊ぶのも潮時だったでしょ、ぶっちゃけつまんなかったし」

 純は欠伸をしながらその場を後にした。
誰も居なくなった中庭に一陣の風が吹くと、悪趣味な校長像が粉々に砕け散った。
193 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/20(月) 11:26:27.11 ID:iaaqrYAO
あとでまた来る
194 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/20(月) 12:39:26.14 ID:LLQxpsSO
常に目欄にsage sagaつける癖をつけたら?

「[ピーーー]」とか「バーーーローー」が見えるようになるから
195 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/20(月) 12:41:49.87 ID:LLQxpsSO
ついでに書いてあるのは
「死ね」と「新一」ね

私は死ねないとか
新一年生
とかでも引っ掛かるからsagaをつける癖は必要だとおもう
196 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/20(月) 12:47:26.36 ID:iaaqrYAO
あら、あれだけsagaは忘れまいと思ってたのに早速忘れてら
指摘どうもありがとう、次からは毎レスつけるようにする
197 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sagesaga]:2010/09/20(月) 15:32:54.16 ID:J7QFJsAO
書き込む時にsageチェック入れるとメール欄に何入れても強制的にsageのみにされるからsageたい時はsagaとsageの両方メール欄で書き込むといいよ
って順に書き込みの説明を入れると何かシミュレーションゲームとかのチュートリアルモードみたいだな
198 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/09/20(月) 15:45:44.89 ID:iaaqrYAO
これで出来てる? ところで全く関係無いんだけど何で新一が引っ掛かるんだ? このままじゃ気になって夜も眠れんぜ。
199 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/20(月) 16:00:50.02 ID:LLQxpsSO
俺も気になってた
[ピーーー]はともかくバーーーローーは何故?

しかも変換後ww
200 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/20(月) 16:29:06.56 ID:J7QFJsAO
こなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいとか[らめぇぇっ!]はまだあるのかな?最近変換されるキーワード増えたよね
っと、あんまりやり過ぎるとテストスレになっちゃうな
201 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/20(月) 17:29:02.87 ID:ESAebvko
身体能力が異常ならば再生能力もハンパないんだろうなぁwww
202 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/20(月) 17:37:19.25 ID:VRUnk6SO
>>201
[たぬき]の秘密道具なみの怖さだな
203 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/20(月) 18:16:33.30 ID:iaaqrYAO
信代「ちっ、ちょこまかうざったいねぇ!」

 第二音楽室階段下では相反する二つの力が責めぎあっていた。
 信代は駄々っ子のように拳を振るう。
その度に衝撃波が飛び交い、壁や床を砕いていた。

律「へっ! そんなとろい攻撃欠伸が出るぜ!」

 律は薄ら笑いを浮かべながら、暴れる信代の周りを駆け回っている。
普段着けているカチューシャは取り払われており、所々跳ねている髪の毛が風を受けて舞った。

律「だらぁっ!」

 律は残像を残すほどの超スピードで信代の背後に回り込むと、後頭部に上段回し蹴りを捩じ込んだ。
204 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/20(月) 18:17:10.46 ID:iaaqrYAO
 立て続けに身体を捩って後ろ回し蹴りを放つ。
クリーンヒットした攻撃の余韻に浸ることなく、即座に持ち前の超スピードで信代から距離を取る。

信代「そんな蚊が止まったような蹴りで攻撃したつもりかい? こっちが欠伸したくなるよ」

 乱雑に自分の頭を掻くと、信代は苛ついたように舌打ちする。

律「ちっ、うぜーな……」

 パワーに自信があるわけでは無い。
だが常人相手なら骨を打ち砕いてその先の髄すら残さないであろう自分の蹴りが全く通用していない事に、律は焦燥感を覚えていた。
205 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/20(月) 18:17:57.06 ID:iaaqrYAO
 信代が自分の動きを見切るだけの目を持っていたら、そう思うと律の背筋はぞっとした。

律(それが無いのが救いなんだけどな……)

 とん、と軽く足踏みして律は再び加速した。
今度は残像すら残らない不可視にして不可止のスピードだ。
 縄跳びの縄を思い切り振り回したような小気味の良い風切り音が響く。

律(頭も駄目、首も駄目、腹も駄目、となると……)

 律は更にスピードを高めながら思案する。
鋼のような肉体強度を誇る信代に致命的なダメージを与えるにはどうすれば良いかを。

律「そこだぁ!」

 閃きは一瞬、そしてそれを行動に移すのにコンマ一秒もかからなかった。
206 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/20(月) 18:18:43.11 ID:iaaqrYAO
信代「ぎゃあああああっ!!」

 信代の悲鳴に少し遅れて、律は階段の手摺の上に姿を現した。
現したというよりは動きを止めただけなのだが、凡人からしてみればそれに大した違いは無いだろう。

律「へっへー、天下のりっちゃん様をなめんじゃねぇぞ? 流石にここだけは鍛えられねぇだろ」

 ぐいっ、と見せつけるように握り拳を突き出すと、律はその手を開いた。
律の手から丸い物体が零れ、べちゃりと床に衝突した。

信代「〜〜っ!?」

 自分を襲う痛みからおおよその事は把握していた信代だが、現実を見せつけられてショックのあまり絶句する。
207 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/20(月) 18:19:29.12 ID:iaaqrYAO
律「あちゃー、痛そうだな。でもお前が悪いんだぜ? これ以上やるってんならもう片方の『眼球』も毟り取ってやるよ」

信代「うぐ……ぅ……」

 信代は歯を食いしばって右目があったところを抑えるが、指の隙間からは血が漏れている。

律「言っとくけど私は敵に対して容赦なんてしねーからな」

 律は据わった瞳で信代を睨み付けると、血に塗れた自分の右手を舐めた。

律「知ってるか? 澪ってさぁ、あいつああ見えてすっごい恐がりなんだ」

 ぽつりぽつりと呟く律。
紡がれる言葉は信代に対して語りかけるというよりも、自分を戒めているようだ。
208 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/20(月) 18:20:02.57 ID:iaaqrYAO
律「小学生の時に私が高校生十人相手にボコボコにされた時も、隣でわんわん泣いてた。中学生の時にヤクザの事務所にカチコミに行ってやられた時も、あいつは泣いてた」

 律は両手を広げ、何かを確かめるように目を閉じる。

律「私が喧嘩で怪我したら、あいつは決まって自分の事みたいに泣く。そんでその度に言うんだ。『律が居なくなったら悲しいよ』ってな」

 目を開けて一瞬だけ表情を緩めると、再び険しい顔つきに戻る。

律「あいつの涙を見なくても済むなら、私は誰に憎まれても構わない。どこまでも非情になってやる!」
209 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/20(月) 18:20:54.35 ID:iaaqrYAO
信代「私は……アンタの敵だよ……」

 隻眼となった信代はまだ闘志を絶やしておらず、健全なもう片方の瞳で律を捉えていた。

律「そうかい。私は仮にも桜高の序列ナンバーセブンだからな、人一人殺すくらいの覚悟は出来てるつもりだよ。お前も殺される覚悟は出来てるんだろうな?」

信代「全く同じ台詞をアンタに送るよ。私よりも格下の序列のくせして、一丁前にトップランカーを語る気かい?」

 交渉の余地など微塵も無い。
そう二人が判断してから行動に移るのは早かった。
 律の姿は足音と共に消え去り、信代は両目を瞑り、地に膝をついて構えた。
210 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/20(月) 18:21:49.72 ID:iaaqrYAO
律「あ?」

 再び策も無く暴れ回るのだろうと予測していた律は、信代の予想外の行動に眉を顰めた。

律(まさかあれでガードしてるつもりかよ)

 確かに身を屈めて、唯一攻撃が通りそうな目も閉じてしまっているので律の攻撃を防ぐ事は出来るだろう。

律(でも……あれじゃあ向こうの反撃の目が無いんじゃあ……)

 嫌な予感がした。
 だがその言葉にしがたい蟠りは、律の行動を止めるには至らなかった。

律「はっ!」

 空中で一回転して、着地ざまに信代の頭に踵落としを放つ。
だが不動なる山のように、信代の身体はそのままの状態で鎮座していた。
211 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/20(月) 18:22:23.60 ID:iaaqrYAO
 案の定攻撃が通用しない事を悟った律は動きを止め、階段の一段目に腰掛けた。

律「あのなー」

信代「…………」

 律は呆れたように溜め息をついて肩を竦めた。

律「お前がそうしてるんなら私は行かせてもらうからな? こんないたちごっこに付き合ってる暇は無いんだよ」

信代「…………」

 返事が無い事を確認すると、律は立ち上がって信代を横切ろうとした。

信代「逃げる気かい?」

律「言ってろ」

 律は床に落ちたカチューシャを拾い上げるとそのまますっぽりと装着した。
212 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/20(月) 18:22:57.19 ID:iaaqrYAO
信代「アンタが逃げるってんなら良いよ。代わりに澪をぐしゃぐしゃにして──」

 信代が言い終えるよりも速く、律の拳が歯を砕き、信代の口内に捩じ込まれた。

律「誰の許可得て澪を呼び捨てにしてんだ?」

 律は突っ込んだ腕を引く事なく、そのまま信代を壁に叩き付けた。
瞳は血走っており、噛み締めた唇から血が滲んでいる。

信代「…………」

 信代は口の中に拳を突っ込まれている為喋る事が出来ない。
だがその代わりに……。

律「……?」

 圧倒的窮地に立たされているにも関わらず、にやりと笑って見せた。
213 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/20(月) 18:23:43.96 ID:iaaqrYAO
 実は律が自分の口内に拳を捩じ込む事を、信代は予測出来ていた。
出来ていて敢えてそうさせたのだ。
 その為に澪を掛け合いに出して律を挑発した。
案の定律は誘いにのり、信代が仕掛けた罠に飛び込んできた。

律「あ……?」

 律は捩じ込んだ自分の拳に力が加えられているのを感じた。
それはやがて痛みに変わり、徐々に肉を裂く。

律「なるほどな……」

 手を引き抜こうとしても抜けない。
信代の口内に残った僅かな歯は律の手の肉に深々と食い込んでいたのだ。

信代「っ!」

 つまり律の超スピードはこの時点を以て完全に封じられた。
信代は自分の勝利を確信した。
214 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/20(月) 18:24:26.91 ID:iaaqrYAO
律「こんなもんで勝ったつもりかよ」

 律は普段の明るい声とは違う重々しい声色で呟いた。
 だがそんなものは所詮死にゆく者の妄言に過ぎない。
そう判断した信代は自身の力の全てを込めた拳を律のこめかみに放った。
 トマトが爆ぜたような音と共に、律の頭は振り子のように揺らいだ。
こめかみからは大量の血が吹き出る。

信代「ぶ……んぐ……」

 胴体ならまだしも、頭部の出血がこの域まで達すると命は保っていられないだろう。
信代は自分が殺めた命を咀嚼しながら息を漏らした。

信代「…………?」

 そこで異変に気付く。
自分はもう喋れる筈なのに、自分を縛るこの拘束は何故解けないのだろうか。
215 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/20(月) 18:25:12.27 ID:iaaqrYAO
律「いっ……てぇ……」

信代「っ!?」

 自分の渾身の突きを食らって生きている筈が無いのに。
そんな信代の自信は突き付けられた現実に打ち砕かれた。

律「流石の天下のりっちゃん様でもよぉ……。痛いもんは痛いんだぞ?」

 大量の血に濡れた律の顔に、いつもの優しさや明るさは無い。
悲しいまでに非情で、哀しいまで異常。

律「まぁ……良いや。一万倍返しで許してやるから……」

 律はこの時、今の自分は何でも出来るのではないかとすら思っていた。
あながちそれは間違っていない。
行き過ぎた激昂は彼女の脳のリミッターをこじあけ、力を解き放とうとしていた。
216 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/20(月) 18:25:58.46 ID:iaaqrYAO
律「ブラストビート」

 そう囁くと共に律は左手の拳を振り上げた。
その光景と共に信代の意識は散った。
 傍から見れば律の一発の突きが信代の顔面を捉えただけだった。
だがその間に律が信代を殴った回数はジャスト一万回。
寸分の狂いもなく同じ箇所を殴られれば、いくら信代と言えど耐えられる筈も無い。
二千発を越えた辺りで頬の骨は粉々になり、五千発を越えてからその衝撃は脳にも異常をきたし、最後の一発が突き刺さる頃にはとうに決着はついていた。

律「澪……。わりぃ、また泣かせちゃうかもしんねぇ……」

 自分の器の限界を越えたスピードを行使したせいで、彼女の筋肉は悲鳴を上げていた。

律「ごめん……ね?」

 律の意識はそこでフェードアウトしていった。
217 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/20(月) 18:26:56.70 ID:iaaqrYAO
今日は多分これで打ち止めだ。遅筆ですまんね
218 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/20(月) 18:35:34.45 ID:QNe7UMso
一万……!
ケンシロウ100人分……!
219 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/20(月) 18:57:40.08 ID:WeZaybMo
痛ェ!
なんか尻がキュンキュンする!
220 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/20(月) 21:21:18.90 ID:JQLmJ2AO
今まで読んできたssの中で一番好きだ。このスレに出会えた事に感謝するぜ!
221 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/20(月) 22:39:37.40 ID:G9mlcMAO
唯が草薙流古武術使いになるのかと思ったら>>1でそっこう否定されてたwwwwww

唯の親父がさいしゅうさんでもなんか違和感ないよな、適当な性格だし放浪癖あるから家にいないし
222 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/20(月) 22:47:25.37 ID:iaaqrYAO
>>221それだけはマジですまんかった。スレ立てた直後に後悔したよ
どうせなら唯「天上天下!」とかにすれば良かったかな
223 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/20(月) 23:56:32.71 ID:G9mlcMAO
>>222
気にしないでくれwwwwww

>>221とかミスって途中で書き込んじゃったんだ。
印象わるかったらすまんかったね。

つか、天上天下だったら俺がこのスレに出会えなかったかもしれんし、「ボディがry」でよかったよwwwwww

面白いから頑張って完結させてね
224 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/21(火) 00:15:38.14 ID:BswMsdQ0
近年稀にみる良スレ完結まで頑張って下さい
225 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/21(火) 00:22:57.62 ID:qT/lMAso
天上天下でも序列やそれぞれの技同士の優劣や相性がまともに扱われてたのって序盤の執行部との小競り合いと過去編&終盤直前の予備選くらいだよな
10年前はホント面白かったのになんであんな終わらせ方に・・・
226 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/21(火) 08:31:19.98 ID:RtPF.gAO
純「そこを退いてもらえます?」

「駄目よ」

 調理実習室にて二人の生徒が対立していた。
 純は寝坊してきた為、朝食を摂っていなかった。
だが学校はほぼ無人で、普段活用している購買は機能していない。
それならば、と純は調理実習室の冷蔵庫に眠る食材を求めてふらふらとやってきたのだ。
 そしてその場にたまたま居合わせていたのは生徒序列ナンバーエイト『辻斬り』木村 文恵。
勿論彼女もいちごの命令によって部外者の排除の為に駆り出された戦士である。
この二人が対立するのは、キャビンアテンダントがファーストクラスの客にワインをサービスするくらいに自然のことだった。
227 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/21(火) 08:32:14.72 ID:RtPF.gAO
純「……もう一度言いますね。格下の相手なんてしてる暇は無いんですよ、だから退いて下さい」

文恵「聞こえないね」

 空腹も相俟って純の苛立ちは頂点に達していた。
こうなってしまってはどうにもならない。
木村 文恵は運が悪かったのだ。
本来ならばトップランカーである文恵は並大抵の敵には負けたりしない。
 彼女の相手がトップランカー並の実力を持ちながらも序列から追放された純でなければ、その純が空腹でなければ、万に一つは文恵が勝つ可能性はあったのだ。

純「そんな役立たずな耳なら、私がどうこうしても文句は無いですよね?」

 文恵が瞬きをしたほんの一瞬で、純は彼女の隣に飛び込んでいた。
228 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/21(火) 08:33:14.79 ID:RtPF.gAO
純「鼓爆掌!」

 超高速の掌打が文恵の耳を捉えた。
文恵は襲い来る衝撃に負け、平衡感覚を狂わせた。

文恵「っ!」

 そんな状況下で文恵は腰に差した刀を抜刀し、真一文字に薙いだ。
だが純の反応速度はそれすら易々と上回る。
床を蹴って空中で二回転すると、器用に刀の刀身の上に立った。

純「トップランカーってのはどいつもこいつもしぶとさだけは一丁前なんですね。大人しく寝てれば痛い目見なくても良いのに」

文恵「そんな……! 無名のあなたなんかに私が負ける筈は……」

 焦燥する文恵を尻目に、純は間抜けな声を漏らしつつ刀から飛び降りた。

純「猫も杓子も序列序列って、いい加減うんざりなんですよねそーゆーの」
229 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/21(火) 08:34:02.52 ID:RtPF.gAO
文恵「は?」

純「あれ? 聞こえてるんですか。あぁそっかもう片方の鼓膜も破っとかないと」

 片目を瞑り、舌を出すと純は初撃と同じように文恵のもう片方の耳にも掌打を放った。

文恵「〜〜っ!?」

 完璧に備えていたにも関わらず、自分の認識出来るスピードを遥かに凌駕した攻撃に文恵は驚愕した。
両耳からは血が零れており、彼女の耳はその機能を失った。

純「あははっ、私ってこう見えて愚痴っぽいんですよ。恥ずかしいから聞かないで下さいね?」

 言われなくても聞かない、もし文恵の耳が機能していたなら恐らくこう言っただろう。
230 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/21(火) 08:34:49.24 ID:RtPF.gAO
純「私思うんですよね。人の強さっていうのは量りきれるものじゃない、もっとこう、自然的なものだって」

 淡々と呟く間に自身の首を刈らんとする刀を白刃取りで受け止める。

純「そんな綺麗なものをこの学校の人達は序列だの何だのって数字で区切ろうとしてる。馬鹿らしいと思いませんか? 人が決めた概念如きが人じゃあ決して理解出来ない『力』を推し量るなんて」

 そこまで良い終えて純はそっと溜め息をついた。
受け止めた刀がへし折れるのはそれとほぼ同時だった。

純「自分より弱い人に量られるくらいなら私は高い序列なんていらない。手を伸ばしたって届かない、雲みたいに生きてやる。そう決めたんです」
231 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/21(火) 08:35:37.61 ID:RtPF.gAO
 それは今まで純という人間を保ってきた矜持なのだろう。
そしてそれはこれからも、純が死ぬその時まで変わらない。

純「さぁてと、辛気臭い話はこのくらいにして、フィニッシュブローいきますよ。っと聞こえないんでしたね、あははは」

 照れ笑いを浮かべつつも、純は腰が竦んで床にへたりこんでいる文恵の胸倉を掴み、乱暴に立たせる。

文恵「…………」

 文恵は既に闘う意志を放棄していた。
堅く目を閉じて歯を食いしばり、これから自分を襲う苦痛に耐えようとしている。

純「あー、下手に堪えようとしちゃって。それじゃあもっと痛いんだけどなぁ」

 とん、と軽く足踏みをして純は呟いた。

純「瞬獄殺」
232 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/21(火) 08:36:23.22 ID:RtPF.gAO
 純は片膝と肩をやや浮かせた不安定な姿勢のまま、残像を残す超スピードで文恵の懐に潜り込んだ。
そこからの攻撃は誰にも、食らっている文恵自身にも認識出来ない。
限り無く零に近い刹那の間に、無数の拳が文恵の身体を貫いた。
スピードだけで言えば律のブラストビートもそれに引けを取っていないのだが、この技はその一撃一撃の威力が規格外だ。
繰り出す一撃全てにアカネが使っていた勁の力が用いられており、対象を外と中の両方から打ち崩す奥義なのだ。

純「一丁上がり!」

 倒れ伏した文恵を見下ろすように仁王立ちで立ち尽くす純。
彼女の背中にはその姿勢と彼女自身の闘気が折り重なり、『天』の文字が映し出されていた。
233 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/21(火) 08:38:10.44 ID:RtPF.gAO
純が暴走気味だけど自重はしない
今日の内に書けたらもう一回投下する、つもり
234 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/21(火) 09:07:43.67 ID:R6wYzoSO
純無双ワロタww
235 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/21(火) 09:32:42.30 ID:RtPF.gAO
あ、オマケがてらに純の技の元ネタ一覧。

デンプシーロール…はじめの一歩
一喰い『イーティング・ワン』…戯言シリーズ
筋肉バスター…キン肉マン
私(俺)式ファイナルヘヴン…FF[
鼓爆掌…高校鉄拳伝タフ
瞬獄殺…ストリートファイター

わりとメジャーなのが多いけど一応分からない人のために
236 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/21(火) 16:11:07.85 ID:/fwY6OM0
素敵過ぎて痺れるわ
237 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/21(火) 17:53:19.89 ID:RtPF.gAO
澪「うぅう……」

 澪は体育館の一角にある体育倉庫の中に身を潜めていた。
吊り上がり気味ながらも大きく意志の強そうな眼には大粒の涙を溜めており、歯は寒くもないのにがたがた震えている。

澪「こわい……怖いよぅ……律ぅ……」

 紡がれる言葉は友の名前。
だがその友人はここに来る筈も無い。
 体操座りで刀を胸に抱えるその姿は狩られる前の小動物を連想させる。
 澪は落ち着いて自分が置かれた状況を振り返ろうとしていたが、その度に心臓が激しく脈打ち、錯乱状態に陥っている。

澪「助けて……」

 顔を膝に埋め、澪は力無く呟いた。
238 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/21(火) 17:54:09.72 ID:RtPF.gAO
 ────
澪「がはっ!?」

 時は澪が恐怖の淵に追い詰められる数分前。
 澪はしずかが繰り出す攻撃を躱せずにいた。
理由はいたってシンプル。しずかの姿が見えないからだ。
凡人には視覚出来ない超スピードなんてものではない。
もしそうなら天性の観察眼を持つ澪ならあっさりと看破する事が出来る。

澪(何で……? 私の眼でも追えないなんて……)

 先程から執拗に殴打されている腹部を抑えて、澪は冷静に状況を鑑みる。

しずか(ふふ……。かなり動揺してるみたいね)

 この時、実はしずかは澪の背中に手が届くところにいたのだ。
239 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/21(火) 17:54:52.35 ID:RtPF.gAO
 しずかがどうして澪の眼を掻い潜る事が出来たのか、そう問われればしずかは確実にノーと答えるだろう。
 彼女はこの時、超スピードを発揮する身体能力を行使したわけでもなければ、澪の眼を欺く特別な技を使ったわけでもないのだ。
 ただ漠然とそこに居合わせ、当然のようにそこに在るだけ。
しずかが澪の眼を出し抜いたわけではなく、単純に澪がしずかを視覚するには盲目過ぎるというだけだ。

しずか(でもでも、やっぱり少し寂しいかな……)

 このような状況が作られているのは、偏にしずかの特異体質のせいだと言える。
240 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/21(火) 17:55:38.34 ID:RtPF.gAO
 木下 しずかは幼少時に苛めを受けていた。
 決して暗い性格ではなかったのだが、彼女の気の弱そうな声と野暮ったい前髪は、彼女の周りの人間に根暗な印象を与えた。
小学生、中学生の苛めのきっかけなんてものは劇的である必要は無い。
一度作られた苛めの輪はみるみるうちに悪循環して増大してゆき、やがてしずかを苛めるのが慢性化してきて、誰も理由など気にしなくなったのだ。

しずか(私が悪いんだよね……。だったら皆の気が済むまで我慢しなきゃ……)

 明るかった本来の性格はやがて薄れてゆき、しずかはいつも隅で蹲るようになった。
241 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/21(火) 17:56:29.31 ID:RtPF.gAO
 そんな荒んだ日々が何年も続いてゆき、しずかが中学生になった頃、それは起きた。
 しずかが住んでいた地区は狭いのでエスカレーター式に小学校から中学校に入学する。
即ち、しずかを苛めていた者も皆しずかと同じ中学校に入学する事になるのだ。
 また凄惨な嫌がらせを受ける日々が続く。
そんな憂いを抱えていたしずかなのだが、その日は違った。

しずか(何か……変だよ……)

 いつもの挨拶代わりの罵声が無い。机の中に虫が入っていない。金をせびる者もいない。
 苛めの影響で人の顔色を伺う癖がついていたしずかは、その異変に直ぐに気付いた。
242 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/21(火) 17:57:16.85 ID:RtPF.gAO
 中学生になって皆精神的にも成長したのだろう。
最初の頃はそう思っていたしずかだが、僅かに胸の中で蠢いていた蟠りは確信へと変わる。

「木下は休みか?」

 クラス担任がホームルームで出欠をとっている時、ふとそんな事を言われた。

しずか「…………」

 長年苛められ続けたせいでしずかは人前で声を出すのがすっかり苦手になってしまっていた。

「んー、休みみたいだな。誰か理由を聞いてる人は居ないか?」

 担任が言うがクラス全員が素知らぬ顔をしていた。

しずか「あ、あの!」

 自分は最初から席についてるのに。
このまま欠席にされては堪らないと思い、しずかは意を決して勢い良く立ち上がった。
243 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/21(火) 17:58:02.25 ID:RtPF.gAO
しずか「わ、私……ずっとここに居ました……」

 しどろもどろになりながらしずかが言うと、教室内の空気が一瞬にして静まり返った。
その時間がしずかには永遠にも感じられた。

「お、おう。気付かなかったよ、座って良いぞ」

 担任が訝しげな顔をしながら言うと、しずかは促されるままに座った。

「ねぇ、木下って影薄くない?」

「ああそれ俺も思った。俺も存在にすら気付かなかったよ」

 ひそひそと、そんな陰口が聞こえてきた。
苛められる事には慣れた筈なのに、だがその時の彼女にとってその陰口は、何よりも辛辣で残酷なものだった。
244 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/21(火) 17:58:47.40 ID:RtPF.gAO
しずか「ひっぐ……ぐす……うぅ……」

 下校時刻を過ぎ、夕焼けの光が差し込む無人の教室。
その隅っこの方でしずかは一人啜り泣いていた。
本来は可愛らしい顔も鬱蒼とした雰囲気と大粒の涙でくしゃくしゃになっている。

しずか「やだ……よ……。ひっく……私だって、皆と仲良くしたいよぅ……」

 その小さな身体で抱え込んでいた思いはしずかにはあまりにも重過ぎた。
それでも、どれだけ彼女が苦しんでも、どれだけ彼女が憎んでも。彼女の頬を伝う涙を拭ってくれる者は居なかった。

しずか「うわあああああああん!!」

 自分の存在を、自分の意義を主張するかのように彼女は泣き叫んだ。
245 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/21(火) 17:59:33.48 ID:RtPF.gAO
 存在の希薄化。
 それが幼い彼女に突き付けられた非情な現実だ。
 希薄化は日を追う毎に深刻化してゆき、ついには自分の両親にすら認識されなくなっていた。

しずか「…………」

 その頃にはしずか自身、何があっても誰に忘れられようと、口を開かないようになっていた。
 存在の希薄化の原因が何なのか突き止めようともせず、そこに在ってそこに無い、塵芥のような日々を送っていた。

しずか「……もう……死にたいよ……」

 そんな事を考えて枕を濡らす日もあった。
だがそんな時しずかは思うのだ。
もし自分が死んだとしても、誰の思い出にもならないまま死んでゆくのだろうと。
246 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/21(火) 18:00:09.40 ID:RtPF.gAO
 そう考えるとしずかは堪らなく怖くなった。
自分の存在、生きた証が完全に抹消される。
それはどんなに悲しい事だろうか。
 生きる事に疲れ果て、絶望する。
 死ぬ事に思いを馳せ、恐怖する。

しずか(死にたいよ……でも……死にたくないよ……!)

 そんな地獄のような中学校生活を過ごし、彼女は桜高に入学した。
 今までとは違う新しい環境。
だがそれは彼女の心を躍らせる事は無かった。
 入学式の日の出欠確認でも、彼女の存在は一度では認識されなかった。
 そして再びしずかの地獄の日々が一ヵ月続いた頃。
247 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/21(火) 18:00:58.25 ID:RtPF.gAO
しずか(何か……恐そうな人だなぁ……)

 席替えをして新しく隣の席になった生徒を眺めて、しずかは溜め息をついた
 机に頬杖をつき、手鏡で自分の髪を熱心に整えている今時の女子高生といった容貌の生徒。
彼女こそが後の桜高生徒序列ナンバースリー『風哭き』立花 姫子だ。
 姫子は先程から自分を見つめる視線に気付き、手鏡をしまうとしずかの方へと向き直った。

姫子「ねぇ、人の顔見て溜め息つくなんてちょっと失礼過ぎじゃない?」

しずか「っ!?」

 しずかは驚愕した。
誰とも関われない地獄の様な日々が、まるで無かったもののようにあっさりと崩された。
248 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/21(火) 18:01:42.39 ID:RtPF.gAO
しずか「わ、私……」

 人と真向から話をする事が数年間無かったしずかは、言葉をスムーズに紡ぐ事が出来なかった。
冷や汗が流れ、頬が紅潮している。
そんなしずかの様子を見て、姫子はくすりと笑った。

姫子「ふふ、ごめんってば。別に因縁吹っ掛けようってわけじゃないから」

 人に笑顔を向けられた。
その奇跡にしずかは口と鼻を覆い、ついには涙した。

姫子「うわ!? だから何もしないってば、こんなとこで泣かないでよ!」

しずか「ちがっ……違うの……! 私……!」

 人が怒り、笑い、驚く。
そんな当たり前の日常の中に介入出来た喜びは、彼女の思いの堰を切った。
249 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/21(火) 18:02:42.92 ID:RtPF.gAO
 姫子はその時しずかの境遇など全く知らなかった。
だがそんなしずかの姿を見て、その中にある大きな思いに気付いたのか、そっとしずかの頭を撫でた。

姫子「大丈夫だよ。ほら、大きく深呼吸してごらん?」

しずか「ひっ……ひっ……ふぅ……」

姫子「こらこら、それじゃあお産だって」

 姫子は突っ込みながら笑った。
しずかもそれにつられて笑った。
 その僅かなやり取りの後に、二人が親しくなるのは早かった。
席が隣という事もあって、二人学校内ではいつも行動を共にするようになる。
 そしてしずかは姫子に打ち明けた。
自分の存在が希薄化している事を。
250 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/21(火) 18:03:39.33 ID:RtPF.gAO
 その告白の時もしずかは泣いていた。
だがいつも泣いていた中学生の頃とは違って、今自分の隣には姫子が居る。涙を拭ってくれる。

姫子「辛かったね、これからは私がいるからね。一緒に克服していこ?」

 そう思うとしずかの胸には自然と勇気が湧いてきた。
物心がついたばかりの頃のように、皆に囲まれて笑っても良いんだ。そう思えてきた。
 そして高校の一年目も半分ほど過ぎた。
その頃には姫子の試行錯誤の結果、しずかの存在の希薄化こそ直らなかったものの、しずかにも少ないながらも友人が出来た。
 存在が薄いのならその分何度も存在を認識させ直せば良い。
そう考えた姫子は自分の友人に掛け合って何度もしずかを認識させていたのだ。
251 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/21(火) 18:04:24.85 ID:RtPF.gAO
 血で血を洗う凄惨な戦いが繰り広げられる桜高の中で、そんな悠長な真似をしていた姫子は上級生から目をつけられるようになっていた。

「立花ってのはどいつだい?」

姫子「……私ですけど」

 授業中でも部活中でも、酷い時は一日に十回以上こんなやり取りが繰り返されていた。
 繰り返される戦いの末に彼女は望まないトップランカーナンバーテンの地位を手に入れた。
『風哭き』と呼ばれて畏怖され、狂信されるその当時の姫子を見て、しずかは劣等感を感じつつあった。

しずか「姫子ちゃん、話があるの」

 ある日、しずかは遂に意を決した。
自分の心の中思いを、姫子に吐露する時が来たのだ。
252 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/21(火) 18:05:19.05 ID:RtPF.gAO
しずか「姫子ちゃん、トップランカーになっちゃったんだね」

姫子「あはは、バタバタしてたらいつの間にやらって感じだけどね」

 いつかしずかが姫子に自分の苦しみを打ち明けた教室。
夕日が差し込むその場所で、二人は向かい合っていた。

姫子「で、話ってのは何? あんな深刻な顔して世間話ってわけじゃ無いんでしょ?」

しずか「……うん」

 しずかの心は揺るがない。
だがこれから自分がする事は、二人の仲を永遠に引き裂く事になるかもしれない。
そう思うとしずかの胸は痛くなった。

姫子「大丈夫だよ。深呼吸してごらん?」
253 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/21(火) 18:06:05.52 ID:RtPF.gAO
 姫子の言葉はしずかに安堵を与えた。
そしてしずかは言葉を紡ぐ。

しずか「……姫子ちゃんはもうトップランカーなんだよね。それに部活間の争いが絶えないこの学校じゃあ、ソフトボール部も守らなきゃだよね?」

姫子「…………」

 姫子は何も答えない。

しずか「私考えたの。姫子ちゃんは立派に生きてるのに、こんな私が姫子ちゃんに付き纏ってちゃあ姫子ちゃんに迷惑だって……」

 姫子は、何も答えない。

しずか「でも私は姫子ちゃんと絶交なんて出来ない……。だから、私がいつか姫子ちゃんみたいになれたら、また二人で仲良くしたいんだ」

姫子「……それ、で?」
254 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/21(火) 18:06:55.25 ID:RtPF.gAO
 姫子は掠れる声を絞り出した。
瞳は充血しており、肩は小刻みに震えている。

しずか「こんな私に話しかけてくれてありがとう姫子ちゃん。私はこれからトップランカーを目指す。だから私がトップランカーになるその時まで、姫子ちゃんは私の為なんかじゃなく、姫子ちゃん自身の為に生きてね?」

姫子「…………」

 姫子は何も答えなかった。その代わり、無言で一度だけ頷いた。

しずか「あはは、明日からは……ライバルだね!」

 それだけ言うとしずかは満面の笑みを浮かべると、姫子を置いて教室から飛び出して行った。

姫子「無理しちゃって……」

 腕を組んで立ち尽くす姫子の頬を夕日が照らす。
そこには一筋の涙が伝っていた。
255 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/21(火) 18:10:25.36 ID:RtPF.gAO
しずか「ふえぇぇぇぇんっ!!」

 しずかは人目も憚らずに大声で泣きながら廊下を駆けていた。

しずか(これで……これで良かったんだよ! これ以上私が甘えたら、姫子ちゃんは駄目になっちゃうじゃんか!)

 何度も自分に言い聞かせるが涙は止まらない。
鼻水と涙で顔面はくしゃくしゃだ。
 渡り廊下の窓から差し込む夕日が、今はまだ小さな少女の背中を見送るように照らしていた。

 ────
 それから今に至るまで、しずかは自分の特異体質をあるがままに受け入れ、逆にそれをコントロールする術を手に入れた。

しずか(秋山さんを倒せば序列は十二位になる。もう少しで姫子と肩を並べられるんだ……!)

 小さな少女はその小さな胸に揺るぎない意志を携え、秋山 澪と対峙する。
256 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/21(火) 18:12:01.14 ID:RtPF.gAO
今日は多分これで打ち止め
こんなしずかと姫子も可愛いと思うんだ。そんなノリ
257 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/21(火) 18:24:05.17 ID:RBHSHQAO
258 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/21(火) 18:29:48.91 ID:R6wYzoSO
黒子のバスケが脳裏をよぎった
259 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/21(火) 20:39:16.14 ID:t5eyFdoo
しずかはモブで一番好きだわ

だからこその期待
260 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/21(火) 22:32:10.69 ID:F5HImcAO
熱い展開もシリアスな展開もめっちゃ上手いな
なんかもうセンスの違いを思い知らされたよ
261 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage saga]:2010/09/21(火) 23:28:05.07 ID:9At1nMAo
これは乙

軽音部を皆殺しにするようなダークホース展開も…ありっちゃありだ
262 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/21(火) 23:42:05.17 ID:gsgK3AAO
しずかちゃんはステルス可愛い
263 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/22(水) 00:59:35.64 ID:4Lqme9Eo
読んでて絵とか表情まで浮かんでくるっていいね
264 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/22(水) 01:12:02.45 ID:0FFzs.AO
モブ動きすぎだろww

俺のデコはもうくたばったってのによ
265 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/22(水) 01:23:19.72 ID:4/nvfQQo
キミ子と三花の出番はまだでしょうか
266 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/22(水) 07:48:44.26 ID:YTrHjgSO
なんだろう本当にバトロワみてるみたい
267 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/22(水) 07:58:19.95 ID:YTrHjgSO
てかもうまともにけいおん見れないぞww
和が出たとき戦慄したもんww
268 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/22(水) 16:38:53.01 ID:htGOokAO
少ないけど一日サボったら投下する気が失せそうだから投下しとく
269 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/22(水) 16:39:55.56 ID:htGOokAO
 しずかは自分の存在に気付かずに慌てふためく澪の背中を軽く小突いた。

澪「っ!?」

 澪はそれに反応して振り向く。
その際に手に持つ刀を振るう事も忘れていない。
だが……。

しずか「甘いよ!」

 強烈な平手打ちが澪の頬を捉える。
澪の首の動きとしずかの平手の動きは衝突し合い、相対的に平手打ちの威力は高くなる。

澪「いたっ……」

 痛む頬を押さえながらも澪は刀を振り降ろす。
だが最高のコンディション時のような、血痕すら着かせない神速の振りは見る影を失っていた。
 しずかはそれを造作もなくあっさり躱すと、再び澪の視界から姿を消した。
270 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/22(水) 16:40:55.60 ID:htGOokAO
澪「う……!」

 澪は得体の知れない敵の出現に焦燥しきっていた。
焦りは澪の瞳を濁らせ、判断力を著しく低下させる。
 傍から見ればその弊害は一目瞭然なのだが、当の本人はそれに気付けない。
焦りが恐怖を呼び寄せ、確実に刃を錆びさせているのに、澪は今の自分の力が最良のものであると錯覚していた。

しずか(そろそろ頃合だね。少し痛いけど、我慢しなきゃ……)

 しずかは意を決すると、ブレザーのポケットから一振りのバタフライナイフを取り出した。
 澪はしずかの姿を認識する事が出来ない。
しずかはただ悠然と澪の前に立ち、その刃を喉笛に突き立てるだけで勝利する事が出来るのだ。
271 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/22(水) 16:41:45.49 ID:htGOokAO
 だがしずかはそれをしなかった。
幼少時の境遇から、姿が見えない自分が武器で相手を傷付ける事をためらっていたのだ。
 ここでこんな決着をつけてしまったら自分はあの苛めっ子達よりも下劣な人間になってしまう。
そんな彼女なりのプライドが、澪を恐怖の底に叩き付ける策を閃かせる。

しずか「……っ!」

 しずかは自分の手の平にナイフを突き刺した。
激痛のあまり声を漏らしそうになるがなんとか堪える。
間を置かずにそれを引き抜くと、鮮血がしずかの腕を伝った。

澪「え?」

 その一連の光景すら澪は認識出来ていなかった。
しずかの存在の希薄化からなるステルス能力は、今や彼女が持つ物や周囲にある自分の所有物すら巻き込むまでに昇華していたのだ。
 無論床に滴り落ちる血液すら例外ではない。
272 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/22(水) 16:42:47.38 ID:htGOokAO
澪「何だ? 何が起きてるんだよ!?」

 かつて自分が激しく嫌悪していたモノの臭いが立ち込め、澪は半狂乱になる。
生臭い、吐き気を催す血の香り。

しずか(いちごちゃんが言った通りだね。怖いものや血が苦手って、最初は役に立たない情報だと思ってたのに……)

 熱を以て痛みを訴える左手を抑え、しずかはうっすらと笑みを浮かべた。

しずか(この策を閃かせる為の情報だったんだね。ありがとう……いちごちゃん、私のこんな安っぽいプライドに付き合ってくれて)

 若王子 いちごは当初、しずかにそのステルス能力を使って一瞬でケリをつけるよう命令してナイフを託した。
 それに反発したしずかにいちごが与えた情報。それは秋山 澪が怖いものと血を苦手としている事だった。
273 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/22(水) 16:43:38.01 ID:htGOokAO
 そしてそれは功を成す。
 しずかは錯乱状態の澪の背後に回り、ひっそりと、血に塗れた両手を澪の両頬に押し当てた。

しずか「……んばぁ」

 間抜けな声と共にしずかは澪の認識の領域に入ってきた。つまり……。

澪「あ……ぁ……」

 澪からしてみれば何の前触れも無く自分の頬に他人の手が添えられているのだ。
それだけで澪の心臓は跳ね上がる。

澪「こ……こここ……これ……」

しずか「うふふっ……」

 しずかはほくそ笑みながら、血に塗れた両手でべたべたと澪の顔を擦り回した。
頬から顎へ、そして首を伝ってUターンし、鼻頭に眉間と這い回る。
274 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/22(水) 16:44:27.83 ID:htGOokAO
 この時点で澪の身体は金縛りにかかったかのように動かなくなっていた。
顔はみるみるうちに青褪めてゆき、彩られた赤色が栄える。
口は半開きになっており、端から涎が垂れていた。

しずか「えいっ」

 しずかは傷がある左手を強引に澪を口内へと捩じ込んだ。
生え揃った歯の一本一本を愛撫のように撫でる。

澪「…………」

 澪は今すぐその手を吐き出して逃げ出したい衝動に駆られていた。
だが身体は動かない。
呼吸する事すら忘れているのではと思えるほどに、澪の身体は完全に静止していた。

しずか「よいしょ……」

 暫くそんな状況が続き、しずかはようやく澪の口の中の手を引き抜いた。
涎が傷口の血と混ざり合い、粘着質な液体となって滴り落ちる。
275 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/22(水) 16:45:12.11 ID:htGOokAO
しずか「秋山さん」

 澪の精神はとうに崩壊していた。
 口内を刺激する酸味。鼻腔を突き抜ける鉄の香り。肌を伝う汚れた感触。

澪「ぁ……」

 澪は自分の頬を執拗に擦った。
両手には空気に触れて黒ずみつつある赤色が彩られている。
 精神を崩壊させた澪の耳元で、しずかは一言だけ囁いた。

しずか「いたいよ……」

澪「うわあああああああっ!!」

 しずかが言い終える前に澪は叫んだ。
喉が張り裂けんばかりの金切声は体育館の壁にぶつかって反響する。
 手に持った刀を折れるのではと思えるほどの力で握り締め、澪は脱兎の如く駆け出した。
276 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/22(水) 16:46:05.27 ID:htGOokAO
 しずかはその後を追おうとはしなかった。
まだあどけなさが残る顔に似合わない艶めいた笑みを浮かべながら、しずかは床に滴った液体の跡を眺めた。

しずか「効果バッチリだね。あはっ、お漏らしまでしちゃってるよ」

 しずかの自分勝手なプライドがきっかけで生み出された策は澪の肉体こそ殺しはしなかったが、澪の心を殺した。

しずか「私……嫌な女だよね……」

 しずかは一瞬だけ目を伏せると首を振った。

しずか(もうすぐだよ姫子)

 改めて自分を戒めるしずか。
その瞳に迷いの色は一片も見受けられない。
 小さなその足で一歩ずつ床を踏み締めながら、木下 しずかは『鉄壁』を突き崩しに向かった。
277 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/22(水) 16:48:06.59 ID:htGOokAO
多分今日はこれで打ち止め
今の澪と同じ状況に陥る夢を一週間前に見た
すごく興奮した。そんなノリ
278 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/22(水) 16:54:21.23 ID:2T7SswAO
超乙
これに興奮した俺はもう病気かもしれん
279 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/22(水) 17:27:35.62 ID:bm9R2Tko
澪ェ・・・
280 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/22(水) 22:33:46.59 ID:zoH03YAO
>>278
握手握手
281 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/23(木) 01:22:55.37 ID:MLru4M6o
気をつけろ握撃だ
282 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/23(木) 19:33:21.55 ID:Qx.7/IAO
 ────
澪「うぅ…………」

 この高校に入って血は克服した筈なのに。
 確かに好き好んで見ようとまでは思わないが、自分が今の序列に至るまでに斬り捨ててきた者達を思い返しても特に嫌悪感は湧かない。それなのに……。

澪「汚いよ……」

 顔を擦ると乾燥してこびりついた血がぽろぽろと剥がれ落ちた。
口の中に残る酸味を追い出そうと唾を吐く。
濁った透明の中に赤が入り交じって不気味な色合いを醸し出すそれを、澪は光が宿っていない虚ろで濁った両目で見つめた。
 その時、光が一切差し込んでいなかった体育倉庫に、一筋の光が差し込んだ。
283 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/23(木) 19:34:40.11 ID:Qx.7/IAO
 その光は飛び箱に背を預ける澪を照らし、そして消えた。

澪(来た……!?)

 扉が開いて閉まったにも関わらず人の姿は見られなかった。
それはつまり、ステルス状態のしずかがこの中に入って来たという事。

澪「……ご……」

 何かが詰まっているかのように喉が上手く動かない。
やっとの思いで声を絞り出した澪は、命のやり取りをする場に立つ者として最もやってはいけない行為に及んでしまった。

澪「ごめんなさい! 私に至らないところがあったのなら謝ります! だから……。だからもう許して下さい!!」

 羞恥心の欠片も無いその叫びは、狭い体育倉庫の中で反響するだけだった。
284 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/23(木) 19:35:31.55 ID:Qx.7/IAO
しずか(愚行もここまで行くと逆に清々しいね……)

 口に出しこそしないものの、しずかは心の中で澪を罵倒した。
戦況に圧倒的優劣がある場での命乞いは何の意味も成さない事を知っていたからだ。

しずか(これが序列十二位、か……。何だか空しいね)

 何のリスクも負わずに倒せる相手が命乞いをしてきた時、それを認める者など殆どいない。
そこに何かの見返りがあるのなら話は別なのだが、人間はこういう時に無償の愛を翳せるようには出来ていないのだ。

しずか(取り敢えず適当に痛め付けとこうかな)

 手を擦り合わせて涙を流しながら訴える澪の前に立ち、しずかは足を振り子のように動かし、澪の顔面に爪先を捩じ込んだ。
285 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/23(木) 19:36:24.26 ID:Qx.7/IAO
澪「ぶふ……っ!」

 澪の顔は綺麗に蹴り上げられ、天井を仰ぐ形になった。

しずか「ふふ。血、出てるよ?」

 涙で霞んだ景色の中にしずかの姿が現れた。
腰を屈めて拳を振りかぶり、澪の顔面を狙うその姿を確認しながらも、澪は動けなかった。
 不思議な事にしずかはステルス能力を発動させていない。
あくまで自然の状態で、何の変哲もない突きを放った。

澪「……っ!」

 体躯に恵まれたわけでもなければ武術に秀でているわけでもない。
そんな彼女の突きでも、放心状態の澪を吹き飛ばすのは容易かった。
286 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/23(木) 19:37:50.86 ID:Qx.7/IAO
 澪には自分の身体が宙に浮き、壁に叩き付けられるまでの時間がとても長く感じられた。
しかしどれだけ長いと感じようとも、自分の身体が動かない事に憤りを感じていた。
 自分の目に映る光景が全てスローで動く。
巻き添えを食らって散らばるボール。飛び交う埃。
そして、鈍色に輝く刃を携えて、駆け寄ってくるしずか。

澪(おい……。待て、待て待て!! あれを私に刺すつもりか!?)

 血を克服したと謳いながらも心の何処かでは血に対して嫌悪感を抱いていた澪。
 それは戦いの中にも現れており、彼女は桜高に入学してから今に至るまで、一度も血を流した事が無かった。
287 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/23(木) 19:38:39.71 ID:Qx.7/IAO
 それだけ聞けば、誰も澪には傷を負わせる事が出来ないという解釈も出来るがそうではない。
 澪が今まで傷を負わなかったのはそうならないように立ち回っていただけなのだ。
現に澪よりも遥かに上の次元に居る憂、和、姫子でさえ傷を負った事が無いわけではない。
 虚栄の強さで固めた鉄壁は今まさに突き崩されんとしている。
澪は自分の脇腹の辺りを冷たい刃が侵入していく触感を感じた。

しずか「内臓は避けておいたよ」

 しずかは澪の耳元で囁くと、深々と肉を貫いているナイフをぐりぐり動かした。
溢れる澪の血はブラウスを赤く染め、紺色のブレザーにも染み込んでゆく。
288 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/23(木) 19:39:44.89 ID:Qx.7/IAO
澪「あっ……あっ……あっ……」

 血がわき出る度に澪は喘ぎ声に似た声を漏らしながら、その身を震わせた。
涙などとうに枯れてしまった。悲鳴を上げる気力も無い。

しずか「これでお終い。もう眠ってて良いよ」

 しずかは舌を出してウインクすると、澪の腹を犯すナイフを勢いよく引き抜いた。

澪「ぁぐ……っ!」

 一際大きく身体を震わせると、澪はするすると床に倒れ伏した。
脇腹から滲み出た血は床一面に広がり、水溜まりを作っている。

しずか「これで私は序列十二位だね。どんな通り名がつくのかなぁ、ふふっ」

 しずかは踵を返した。
それと同時に彼女は澪の視界から完全に姿を消す。
 澪の頬を伝った一筋の涙は血の池に交じり、音も無く消えた。
289 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/23(木) 19:42:36.35 ID:Qx.7/IAO
今日は多分これで打ち止め
澪のオサレポイントが零に近いけどこれも自重しない。そんなノリ
マジで遅筆ですまん、明日は多分今日の倍は書けると思うから
290 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/23(木) 19:48:17.57 ID:ATSaCKgo
どんだけしずか好きなんだwww

そして澪が不甲斐無さすぎるぞww
291 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/23(木) 19:57:17.41 ID:Qx.7/IAO
うん、まぁあれだ。しずかが好きなのもあるけど単純に澪が嫌いなんだ。そんなノリ
292 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/23(木) 21:02:59.25 ID:pob3cqco
澪嫌われすぎワロタ
293 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/23(木) 21:11:39.91 ID:vc9y0gSO
まあ軽音部全員勝ったらつまらないもんな

わかってるな
294 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/23(木) 21:41:21.29 ID:Wg6Oi8w0
全員が全員、ピンチを脱出できる強さを持っている訳ではないということか
というか憂まだかな
295 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/23(木) 22:15:40.64 ID:jF/ttbco
澪しゃん…


仕方ない介抱してやろう
296 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/23(木) 22:45:31.51 ID:pob3cqco
お巡りさん!こっちです!!
297 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/23(木) 22:53:05.96 ID:Qx.7/IAO
>>296のレスで思い出した
小ネタというか裏設定みたいな感じなんだけど、この世界ではその昔警察と自衛隊vs桜高生徒の戦争があって、その際に叩き潰されたから国家権力は現在桜高翌絡みのいざこざは黙認してるっつー感じ。
298 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/23(木) 22:55:58.19 ID:jF/ttbco
つまり俺は捕まらないってことか…


ふふ…
299 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/23(木) 23:01:04.74 ID:8yy4CMAO
>>297
つまりさわちゃんは激動の時代を生き抜いた猛者だと・・・

ところでしずか戦だけ妙にエロくてめちゃくちゃ興奮しますもっとやってください
300 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/23(木) 23:07:27.12 ID:Qx.7/IAO
>>299
ん、善処しとくよ
こんな感じでバンバン希望出してくれたら俺もインスピレーション湧きやすいし書いてて楽しい
○○対○○が見てみたい、とかね
ほんならこれ以上は馴れ合い染みてきそうだから俺は引っ込むとしよう
301 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/24(金) 00:12:20.04 ID:fvNrTwUo
自衛隊が負けたというフレーズに納得がいきません

まぁ創作したものに文句言ってもしようがないんだけどね

すみません
302 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/24(金) 02:34:24.25 ID:GzQCVU2o
今更リアリティ追及するのはお門違いだと思うの
303 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/24(金) 04:13:17.22 ID:8Z5FldYo
自衛隊は負ける。
元自衛官の俺が言うんだから間違いない。

これがリアル。
304 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/24(金) 09:41:57.90 ID:wFrMUQDO
純対憂は見てみたいかな
305 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/24(金) 12:43:20.96 ID:YX7gqAAO
 グラウンドの中心で唯は一人立っていた。
両目を閉じ、上体を揺らしながら立っているその姿は儚げで、押せば壊れてしまいそうな印象を与える。
 そしてそんな唯を取り巻くように辺りには粉塵が巻き起こっている。
傍から見ればそれは強い風が吹き付けているようにしか見えないが、これは人為的なものだ。

姫子(この子……。天才なんてレベルじゃないね……)

 この風を巻き起こしている張本人否、この風である姫子は口には出さないものの動揺していた。
 戦いが始まってから今に至るまで、姫子は既に百万回以上の攻撃を放っていたのだ。
306 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/24(金) 12:44:06.79 ID:YX7gqAAO
 にも関わらず姫子の攻撃が唯に届いたのは初撃の一発のみ。
目で追えないほどのスピードで刹那の間に百発以上繰り出される姫子の技は、柳を相手にしているかのように受け流される。

唯「…………」

 この時唯は自らの戦闘スタイルを回避主体のものに切り替えていたのだ。
その名はオートワウ。
上体を一定のリズムで動かし、自身の周囲に配る感覚を鋭敏に研ぎ澄ますスタイルだ。

姫子「はっ!」

 姫子は足を止め、唯の顔面目掛けて突きを放った。
だがそれは予め予測していたかの如くあっさりと躱される。
それを確認してから反撃されないように距離を置く。
 先程からこれと同じ行動を延々と繰り返しているのだ。
307 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/24(金) 12:44:50.17 ID:YX7gqAAO
唯「やっぱり凄いよ姫子ちゃんは」

 ぽつりと呟いた唯の言葉を聞いて、姫子は足を止めた。
超高速で動いていたものが予備動作無しで停止したため、一層大きな風が巻き起こり、竜巻と化す。

姫子「ふふっ……。唯といるといつもそう、何だか毒気抜かれちゃうんだよね」

唯「ほぇ? 毒?」

 目を丸く見開き、きょとんとした顔をする唯を見た姫子は唇に指を添えて微笑んだ。

姫子「あはは、何でもないよ。続けて」

 何の事を言っているのか分からないが自分が笑われている事に気付いた唯はほんの少しだけ頬を膨らませた。

唯「姫子ちゃんの攻撃って、一発の間に何回同じ事繰り返してるのかな?」

姫子「え?」
308 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/24(金) 12:45:33.47 ID:YX7gqAAO
 唯が言った事は若干言葉足らずな問い掛けだったが、姫子を驚かせるのには充分だった。
 本来なら一発分にしか見えない姫子の突きや蹴りはその一瞬の間に百発から千発の動作を繰り返している。
その全てを躱している唯には舌を巻くところもあったが、流石に自分の攻撃の全てが見切られているわけではない。姫子はそう思っていた。

唯「さっきのパンチは五百とちょっとかな? 途中で数えるのも面倒になっちゃったけど」

 だがそれは間違いだった。
先程放った突きの回数は五百九回。
つまり唯には見えているのだ。
生徒序列ナンバースリーとその下の序列の間にある見えざる壁、『絶対の彼方』を越えて唯は進化し続けている。
309 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/24(金) 12:46:05.49 ID:YX7gqAAO
 『絶対の彼方』
 それは桜高の序列トップスリーの強さを揶揄した呼び名だ。
 越えたくても越えられない。
最早自分が人間である限り、越える事すら馬鹿らしくなるような力の壁。
越えてしまっている三人。つまり憂、和、姫子は既に人間など辞めてしまっている。
そんな畏怖の念から生まれたのが『絶対の彼方』という名だ。

姫子「唯も、化物候補って事なのかな?」

 唯に聞こえないように姫子は呟いた。

唯「どうしたの? 何か怖い顔してるよ」

 姫子の気など露知らず、唯はあっけらかんとした態度で鼻歌を歌っている。
310 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/24(金) 12:46:55.61 ID:YX7gqAAO
姫子(いちごは殺す気でやれって言ってたけど、これも分かってたのかな……?)

 姫子は格下である唯に対して自分が恐れを抱いている事に気付いた。
気にも留めていなかった自分の心臓の鼓動がやけに頭に響く。

姫子(……やっぱり、この子は存在するべきじゃない!)

 不安を噛み殺し、姫子は再び加速した。
腰を屈めた状態で唯の懐に潜り込み、顎を狙った蹴りを放つ。

唯「うわっ、と」

 一際大きく上体を逸し、唯はそれを躱した。
だがその蹴りは言わば布石。本命を確実に当てる為のフェイクでしかないのだ。

姫子「っ!」

 蹴りを放っと伸びきった足をそのままに、姫子は地面を手で押し、大きく跳んだ。
自分の身体が跳躍の頂点に達したところで、姫子は伸びきった足を畳んで空中で回転する。
311 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/24(金) 12:47:39.49 ID:YX7gqAAO
 唯の視線はその一連の動きを捉えていた。
だが刹那にも満たない時の中で、初撃で体勢を僅かに崩してしまったのは致命的だ。
避けようにも上手く身体が動かない。
 姫子の足が再び伸びきり、踵を突き出した形になる。
迫り来る刃の様な蹴りを黙視する中で、唯の心臓が大きく跳ねた。

唯「ディストーション!!」

 姫子の踵落としを避けようとせず、逆に両足で地面を踏み締める。
そして渾身のアッパーカットを姫子の踵に当てた。

姫子「っ!?」

唯「っ!」

 二つの力の衝突は見えざる波を生み出し、それは瞬く間に広がって学校の敷地内の木々を薙ぎ倒した。
312 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/24(金) 12:48:26.47 ID:YX7gqAAO
 姫子は足に掛かる衝撃に逆らわず、敢えて大きく吹き飛んで受け身を取った。

姫子「つっ……!」

 立ち上がる際に右足に痺れが走る。
申し訳程度に右足を庇いながら、立ち尽くす唯を見ると姫子は驚愕した。

唯「…………」

 唯は姫子を迎撃した際の体勢のまま立ち尽くしている。
俯いている為表情を鑑みる事は出来ない。
だがそれよりも、唯の身体を包む闘気に姫子は目を奪われたのだ。
 本来視覚する事など出来ない筈の闘気は紫色の雷となって具現化しており、唯の周囲で音を立てている。
空間そのものが捻子曲がり、歪む。
 姫子は戦慄すら覚えるその光景を見て、口角を上げた。
313 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/24(金) 12:49:18.86 ID:YX7gqAAO
姫子「来るとこまで来ちゃった感じだね、唯」

唯「…………」

 唯は何も答えない。その代わり纏う紫電が一層強く輝いた。

姫子「あんまり歓迎はしたくないんだけどね。まぁでも一応言っとこうかな……」

 姫子はさっ、と髪の毛を払った。
そして大きく深呼吸して言った。

姫子「ようこそ『絶対の彼方』へ」

 紡がれる言葉が唯に届くと同時に暴風が吹き付ける。
 まるで今までの戦いは茶番だと言わんばかりに、二つの力はその存在を主張した。

姫子「久し振りだなぁ、本気で闘うのなんて。唯、お願いだからがっかりさせないでよね?」

 雷と風が混ざり合い、嵐となる。
 二人の姿が比喩などではなく、消えた。
314 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/24(金) 12:50:49.66 ID:YX7gqAAO
多分今日中にもう一回来る
唯先輩が人間を辞めたようです、そんなノリ
純vs憂も考えとくよ
315 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/24(金) 13:00:00.33 ID:3qnuX6SO
俺は人間をやめるぞ!って台詞が頭の中にこだました
316 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/24(金) 13:33:01.08 ID:uP1Qy5Y0
続きwktk

しかし澪だけ極端に扱いひでーと思ったら嫌いなのかよ
ということは今後も報われず、そんな扱いか・・・
5人それぞれの活躍を期待していただけに残念だ
317 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/24(金) 13:37:16.08 ID:YX7gqAAO
まぁそう言うなよ
ばっちりきっかし格好良い出番を考えてるよ
楽しみにしててくれ
318 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/24(金) 13:38:00.36 ID:IHa0/TUo
え、澪マジでアレで終わり?ホントにあずにゃんより強いのかよ
これは軽音部でパシリにさせられてもおかしくないレベル
319 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/24(金) 13:39:17.86 ID:IHa0/TUo
と思ったらマジか
超期待してる
320 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/24(金) 14:15:16.97 ID:Y2KdSKgo
唯のOSPが高いから満足
澪しゃんは覚醒イベント待ちだな
321 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/24(金) 16:24:11.90 ID:YX7gqAAO
梓「くぅ……痛い……」

 姫子と唯の衝突の余波が梓の意識を覚醒させた。
身体中がずきずき痛むが立てない程ではない。
ゆっくりと身体をほぐしながら立ち上がり、梓は空を見上げた。

梓「え?」

 意識を失う前は雲一つ無い快晴だったのに、今では不気味な暗雲が立ち込めている。
梓が少し気味が悪いと感じつつ空を眺めていると、轟音と共に一筋の雷がグラウンドに落ちた。

梓「きゃっ!?」

 その直後に雷が落ちた場所を中心に爆風が吹き荒れる。

梓(誰かが戦ってる……?)

 梓は不穏な空気を感じつつも、まだ安らかに眠るエリに向けて一礼してグラウンドに向かった。
322 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/24(金) 16:24:56.47 ID:YX7gqAAO
紬「あら……?」

 紬が熱心にアカネの秘部を責めている最中、唯と姫子の衝突の余波はここまで届いた。
 秘部に埋めた顔を上げて愛液に塗れた口元を拭うと、紬は溜め息を漏らす。

紬「唯ちゃん……かしら?」

 紬ははだけた衣服を整えると、妖艶な面持ちのままアカネの胸にキスをする。
 だがアカネはそれに答える意識を手放していた。
気の遠くなるような回数の絶頂を迎えたアカネは、心身共に枯渇していたのだ。

紬「うふふ、愉しかったわ。また遊びましょうね?」

 紬は立ち上がり、踵を返してその場を去ってゆく。

紬(少しおイタが過ぎたみたいね……)

 心の中で自分を戒める紬の表情に、さっきまでの色欲は無かった。
323 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/24(金) 16:25:40.41 ID:YX7gqAAO
律「あだだ……。もう死ぬかもしんね……」

 ここにも衝撃の余波によって目覚める者がいた。
 律はまだ朦朧とする意識を頭を振って叩き直した。
頭を振る度に頭部の傷から血が漏れる。

律「こんのやろぉ……。私の頭をトマトか何かと勘違いしてんじゃねぇのか?」

 一人毒づきながら律は意識を手放している信代の鼻にストレートを決める。
確実に鼻の骨が砕けるレベルの突きなのだが、それでも信代は目を覚まさなかった。

律「にしても……。さっきからビリビリ来やがるな」

 全身を包む悪寒にも似た闘気の渦を感じて律は眉を顰める。

律「まさか、憂ちゃんじゃねーよな……」

 律は一抹の不安を抱えながらも、ゆっくりと立ち上がってその場を後にした。
324 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/24(金) 16:26:28.09 ID:YX7gqAAO
和「っ!?」

 和のキーボードを叩く手が止まった。
額を流れる汗は滝のように流れ落ちる。
 今までは憂を作業に集中させる事でこの異変から気をそらさせ続けていた。
だがこれ程の闘気の奔流は誤魔化しきれる筈が無い。

和「…………」

 和は恐る恐る視線を横に向けた。

憂「……お姉ちゃん?」

 憂の瞳は一切の光も映さない澱んだ黒色をしていた。
終わった、和はこの時そう思った。
 一瞬の瞬きの間に憂は席を離れようとしていた。
和は慌てて憂の腕を掴む。

憂「どうして?」


和「……姉の喧嘩にいちいち首を突っ込むもんじゃないわ」

 和が言い終わる前に憂の拳が和の頬を目掛けて飛んでゆく。
325 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/24(金) 16:27:12.24 ID:YX7gqAAO
和「お願い、話を聞いて!」

 和は憂の拳を空いている手で受け止め、半狂乱気味に叫んだ。

憂「私はお姉ちゃんの喧嘩はある程度黙認してきたつもりだよ?」

和「落ち着きなさい」

憂「落ち着いてるよ。でもこれは駄目でしょう? この闘気の流れは危な過ぎるよ」

和「それが唯の喧嘩相手を殺して良い理由にはならないでしょう!」

憂「どうして? お姉ちゃんを傷付ける人は皆死んじゃえば良いんだよ」

 憂はそう言い終えると、和の視界から姿を消した。

和「くっ……」

 和はそれに遅れて視線を天井に移す。
コンクリートの天井は欠片も落ちて来ない程に粉々に砕かれており、その巨大な空洞は校舎の屋上まで続いていた。
326 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/24(金) 16:27:57.98 ID:YX7gqAAO
憂(お姉ちゃん……!)

 吹き飛ばした天井の空洞を憂は通り抜けていた。
もう少しで屋上にまで差し掛かる。
その時憂にとって聞き慣れた声が聞こえた。

「獅子戦吼!」

 眼前まで迫った屋上から獅子を象った闘気が現れる。
それは無警戒だった憂の身体を吹き飛ばし、再び職員室へと叩き付けた。

和「え……?」

 思いもよらない状況に和は唖然とするも、倒れ伏す憂を踏み台にして屋上まで飛び上がった。

和「あなたは……」

純「あ、おはようございます真鍋先輩」

 緊張の欠片も感じられない緩んだ顔をしていた純が和を迎えた。
327 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/24(金) 16:28:43.85 ID:YX7gqAAO
和「何でこんなところに居るの?」

純「あーそりゃ聞かないで下さい。私も色々大変だったんですって。そんな事より今のって憂でしょう? これから一悶着ありそうですよ」

 純はからからと笑いながらも何処か哀しそうな顔をしてグラウンドを指差した。
和は純が指差す先の光景を見て驚愕した。

和「う、嘘……でしょ!?」

 和の心臓が跳ね上がる。
今見た光景の全てを否定して逃げ出したくなった。
 だが和の背後でこの場に来てはいけない者の声がした。

憂「酷いよ純ちゃん……。私だって痛いものは痛いんだよ?」

純「あはは、こりゃもうゲームオーバーだ」

 憂の声に対する純の言葉が、今の和には酷く辛辣に聞こえた。
328 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/24(金) 16:29:29.94 ID:YX7gqAAO
律「だーもう! 頭がいってぇ!!」

 律は駆け足気味に歩きながら叫んだ。

梓「叫ばないで下さい、傷に響きます」

律「梓!?」

紬「私もいるわよ〜」

 昇降口を越えた辺りで紬と梓が合流する。
それを見て律は安堵の溜め息をついた。

律「良かった、皆無事みたいだな」

梓「ゾンビみたいな頭で言う台詞じゃないですよ。律先輩こそ大丈夫ですか?」

律「なにおう!?」

紬「まぁまぁまぁまぁ」

 しばしの間、三人の間で朗らかな空気が流れる。だが……。

梓「唯先輩と澪先輩は……」

紬「…………」

 紬は何か言いかけて口を噤んだ。
 紬は澪が戦いに敗れた事とこの先に唯が居る事を、直感で理解しつつあったのだ。
329 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/24(金) 16:30:16.07 ID:YX7gqAAO
 三人はグラウンドに差し掛かった。
そこで鋭い風が律達に吹き付けた。

律「うわっ!」

 一瞬だけ目を閉じて風が吹いた方を見た。
そこで律が見た光景は、俄かには信じられない絶望の光景だった。

律「…………な……」

 全身の力が抜けてゆく。
戦いの中に身を投じる事がどんな事なのか、三人はその悲しい現実を叩き付けられた。

梓「唯先輩っ!!」

 グラウンドには立ち尽くす姫子が居た。
姫子は右手を伸ばしている。
そしてその右手は『唯の心臓』を貫いていた。
 遠目に見ても即死である事は確定的に明らかだ。
平沢 唯は姫子に心臓を貫かれ、安らかな顔をして眠っていた。

「いやああああああああっ!!」

 桜高に悲痛の叫びが鳴り響く。
330 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/24(金) 16:31:32.72 ID:YX7gqAAO
今日は多分これで打ち止め
そろそろ憂選手のせいで地球がヤバい、そんなノリ
土日は忙しいから厳しいけど一回は投下したい
331 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/24(金) 16:37:15.51 ID:3qnuX6SO
なん…だと…?
332 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/24(金) 16:38:38.29 ID:ZVdg82DO
嘘だろ・・・
333 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/24(金) 16:47:55.17 ID:Y2KdSKgo
地の文にブロントさんがいるぞおい
334 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/24(金) 21:28:06.62 ID:YX7gqAAO
いちご「うん。予定より決着が早まった、直ぐに一台こっちに寄越して」

 バトン部部室にひっそりと佇んでいた少女は携帯電話での通話を終えると、その重い腰を上げた。
二つ結びにした髪の毛を弄りながら、普段の彼女からは想像も出来ない醜い笑みを浮かべる。

いちご「これで私は神を越えられる……。ふふっ、『龍』を手に入れるのはこの私」

 いちごはいまだかつて経験した事の無い興奮に身悶えし、両腕で自分の肩を押さえ付けた。
それでも止まらない身体の震えは彼女の心を静かに凌辱していった。
335 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/24(金) 21:28:50.36 ID:YX7gqAAO
憂「ねぇ純ちゃん……。あれは何?」

 憂は薄ら笑いを浮かべながらグラウンドを指差した。

純「あーもう、全てがめんどくさい……」

 純は憂の質問を無視してブレザーを脱いだ。
愚痴を零しながらも彼女の瞳には闘志が宿っている。

和「ジャズ研の鈴木さんだったわよね? おこがましいとは思うけど手伝ってもらえるかしら」

 憂に背を向けたまま和は抜刀する。
刀身に描かれた桜の花びらが煌めいた。

純「死ぬほどめんどくさいけど助太刀します。憂まであの中に交じったら軽くスプラッタな光景が出来上がりますからね」

 純は手に持ったブレザーを投げ縄のようにくるくると回した。
336 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/24(金) 21:29:37.99 ID:YX7gqAAO
憂「ねぇ、私の質問に答えてよ二人とも。何で私の事無視するの?」

 憂が言葉を発する度に重力を何十倍にも強めたような重圧が二人を襲う。

和「アンタはやり過ぎるのよ。どんな理由があれ人殺しは罪悪よ」

純「安心しなって憂。アンタのお姉ちゃんは、唯先輩はまだ大丈夫だから」

 初撃は和、身の丈ほどの長刀を流れるようなモーションで振るう。
憂は刃の射程圏内には居ない。
だが振るわれた刃の軌道から視覚可能なまでに洗練された真空波が飛び出す。

憂「邪魔しないで!」

 鋼鉄をも断ち切る真空波を憂は片手で弾いた。
だが振り上げた手は一瞬だけ憂の視界を遮る。

和「食らっときなさい」
337 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/24(金) 21:30:27.68 ID:YX7gqAAO
 その隙に憂の懐に潜り込んだ和は憂の頸動脈目掛けて神速の居合いを放つ。
その完全に意表を欠いた筈の攻撃を憂は上体を逸すだけで難なく躱した。

憂「え?」

 だが和の攻撃は止まらない。
居合いの動作に身を預けて床に手をつき、憂の顎を蹴り上げる。
 憂の身体は成す術無くそのまま五十メートルほど上空に跳んだ。

純「ナイスパスでっす!」

 上空で待ち構えているのは純だった。
純は目にも止まらぬ速さで憂の首をブレザーで縛り付け、胴を抱き締める。

純「表連華!!」

 落ちゆく身体に回転を加え、二人の身体は高速で下へと落ちてゆく。
向かう先は先程憂が作った空洞だ。
338 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/24(金) 21:31:00.93 ID:YX7gqAAO
純「そぉい!」

 屋上の床を通り抜け、職員室へと憂の身体を叩き付ける。
盛大な破壊行為に職員室内はパニックに陥った。

純「ほら、こんなので死ぬ子じゃないでしょ」

 純は倒れ伏す憂の身体を持ち上げて放った。
空中でうなだれる憂の身体に狙いを定め、拳を握り締める。

純「昇龍拳!!」

 渾身のアッパーカットが憂の胴を捉え、そのまま屋上へと突き飛ばす。
その光景を職員一同が固唾を飲んで見つめていた。

純「あ、あはは……。失礼しました〜」

 視線に気付いた純は苦笑いを浮かべながら憂の後を追った。
339 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/24(金) 21:31:46.88 ID:YX7gqAAO
和「来たわね……」

 和は両目を閉じ、腰を降ろして刀を真横に構えていた。
刀の柄を握る手に力がこもる。
それと同時に刀身が闘気を帯び、全長五十メートル程の光の刃が形成される。

和「はっ!」

 光の刃が高速で浮上する憂の身体を捉えた。
そしてその後ろに設置された貯水タンク諸共薙ぎ払う。

和「少しは効いたかしら?」

 あくまで無表情を崩さずに憂に問い掛ける。
そして憂の肩に深々と刺さった光の刃を解除した。

純「ぶっふぁっ! 滝がっ……! 滝が降ってきた!」

 空洞から水浸しになった純が這い上がってきた。
貯水タンクの水を一身に浴びた純は肩で息をしていた。
340 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/24(金) 21:32:32.97 ID:YX7gqAAO
憂「ぅ……。ごほっ……」

 憂は肩から夥しい量の血を流しながら噎せ返っている。

和「あの子達に関しては私が何とかする。だから引っ込んでなさい」

 言いつつも和は警戒を解かない。

憂「……どうして?」

純「え?」

 憂の悲痛の呟きを、二人は聞き逃さなかった。

憂「どうして? どうしてそんなに弱いのに……」

 憂は沼地から這い上がるように立ち上がる。
その表情は俯いている為、確認出来ない。

憂「どうして……。私の邪魔をするの?」

 操り人形のような歪な動作で憂は顔を上げた。

和「……!?」

 和と純を見つめる両目は絶望に塗り潰された闇を映し出していた。
341 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/24(金) 21:34:00.53 ID:YX7gqAAO
思ったより書けたから来ちゃったぜ
今度こそ今日はこれで打ち止め
和ちゃんオーバーソウル、スピリットオブソード。そんなノリ
342 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/24(金) 21:37:59.09 ID:8Z5FldYo
これは…
343 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/24(金) 21:39:47.17 ID:3qnuX6SO
憂が恐すぎワロエナイ
344 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/24(金) 23:12:27.05 ID:IW/psIAO
ムギは毎回勝った相手を自分の虜にしてそうだな
345 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/24(金) 23:57:51.77 ID:DcXHBEAO
憂だけ『絶対の彼方』はるかに越えてんじゃねーかwwwwwwwwww
346 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/24(金) 23:58:49.79 ID:Qc7i6QEo
むぎゅううううう
二つ名は屍拾いで決定だね☆
347 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/25(土) 05:02:41.76 ID:yc240gDO

すっげぇ面白いなこれ
この純ちゃんならナイフフォーク釘パンチ出来そうだ
348 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/25(土) 22:30:04.25 ID:3P2bwEAO
律「うわあああああああっ!!」

 真っ先に動いたのは律だった。
人間の可視限度を遥かに超越したスピードで、律は姫子の眼前まで迫っていた。
 律の胸の中で蠢く感情は殺意、憎悪、悲哀。
あらゆるネガティブな感情が責めぎ合う。

律「ブラストビート!!」

 振りかぶる拳は神速の槍となる。
姫子はそれを空いた左手の、その人指し指だけで受け止めた。

律「はあ!?」

姫子「止まって見えるよ!」

 一筋の閃きが律の胴を捉える。
刹那の間に放ったその蹴りの回数は億にも届く。

律「〜〜っ!?」

 衝撃は律の骨を砕き、臓器を痛めつける。
勢い良く吹き飛ばされる律を見て、後ろの二人が黙って見ている筈も無かった。
349 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/25(土) 22:30:52.97 ID:3P2bwEAO
紬「えい!!」

 紬は腰を落とし、地面を殴りつけた。
雪崩のような砂煙が巻き上がり、姫子の視界を遮る。

梓「ナイスフォローです!」

 目にも止まらぬ速さで梓は手に持つ銃にスコープのようなものを取り付けた。

梓「特別製ですよ!!」

 銃口が比喩ではなく、文字通り火を吹いた。
梓のハンドメイドによって作られた爆弾並の威力を誇る弾丸が姫子に牙を向く。

姫子「はっ!」

 姫子は律の拳を受け止めた左手を開き、全身に力を込めた。
それと同時に姫子を中心にして爆風が吹き荒れた。
砂煙は一瞬で晴れ、梓が撃った弾丸はその軌道を捻子曲げられて空を走る。
350 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/25(土) 22:31:40.98 ID:3P2bwEAO
姫子「あはは……。下手に向かって来ないでよ、これでも動揺してるんだからね? 手加減する余裕なんてないよ」

 唯を貫いている右手はぴくりとも動いていない。
それはまるで死にかけた小動物を庇うような仕草だった。
姫子の顔は三人を圧倒しながらも焦燥から青褪めており、死人のような色をしている。

紬「…………」

 何かがおかしい。
曖昧模糊とした感情ではあるものの、紬はこの状況にそぐわない異変に気付きつつあった。

姫子「あはっ……。もう駄目だ……。頭がおかしくなっちゃいそう」

 姫子は暗雲立ち込める空を見上げて、一粒の涙を零した。
351 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/25(土) 22:32:26.25 ID:3P2bwEAO
紬「話してくれる?」

 紬は両手をひらひらと振り、敵意が無い事を示すと姫子の元へと歩み寄ってゆく。

梓「ムギ先輩……」

 梓も二丁の銃をホルスターにしまい、その後を追う。

姫子「来ないで」

 姫子は鋭い眼光を二人に向け、右手を唯の胸から引き抜いた。
唯の胸にぽっかりと空洞ができ、血が噴水のように溢れ出る。
跳ねる事もなければ抗う事もない。
そんな人形のような唯の身体を、姫子は抱き締めた。

梓「く……狂ってる……」

 梓は狂気を孕んだ空気に気圧されて、地に膝をついた。

姫子「唯……」

紬「…………」
352 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/25(土) 22:33:11.09 ID:3P2bwEAO
 哀しみが充満したその空間の中で、一つのイレギュラーが介入した。
だがそれに瞬時に気付ける者は一人も居なかった。
日常の中の有り触れた一コマの中で、心霊写真を見つけ出した時のような感覚。
絶対にあってはいけない事なのに、それに気付く事は難しい。

姫子「っ!?」

 その感覚にいち早く気付いたのは姫子だった。
だが時既に遅し。叫びを漏らす間もなく姫子の身体は地面に叩き付けられた。
 衝撃はグラウンドにクレーターを作り、大地を爆散させる。

憂「汚い手でお姉ちゃんに触らないで」

 片手で唯を抱え上げた憂がそこにいた。
353 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/25(土) 22:33:57.16 ID:3P2bwEAO
純「あー……。全身痺れて動けない」

和「私もよ。両足の腱が挽き千切られてるわ」

 桜高校舎の屋上で純と和は隣り合わせで寝転んでいた。

純「私なんて全身雷でビリビリー! ですよ。十万ボルト使う女子高生なんて居て良いんですか……」

和「十万ボルト如きでへこたれる身体じゃないでしょう? それよりも幼馴染みの内臓を根こそぎ持っていく女子高生の存在の方が信じられないわ」

 純と和は二人して自嘲染みた笑みを零した。

純「……おやすみなさい」

和「……ええ、おやすみ」

 それ以降二人は言葉を交わさなかった。
隣り合わせの二人の身体を、真っ赤な花が包んでいた。
354 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/25(土) 22:34:59.81 ID:3P2bwEAO
今日は多分これで打ち止め
お姉ちゃん退いて、そいつ殺せない! そんなノリ
355 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/25(土) 22:35:35.34 ID:IuCi.mIo
すげえの一言
356 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/25(土) 22:37:42.54 ID:3P2bwEAO
>>355
さんきゅ、IDが澪。それだけ言いたかった
357 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/25(土) 22:37:49.16 ID:FHtjHISO
やばばばばばばばば
の一言
358 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/25(土) 22:38:27.43 ID:TI2yBMQP
姫子→唯の安定感
359 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/26(日) 02:53:37.13 ID:2irV7cAO
こいつら頑丈だなあ
一人だけ強さのベクトルが違う、いちごの今後の動きに期待だな
360 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/26(日) 04:50:54.70 ID:NArfeG60
>姫子「ようこそ『絶対の彼方』へ」

ここでイッた後みたいにビクンビクンて来たわ

あぁ、最高。
361 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/26(日) 12:27:37.41 ID:0w7ZNAAO
>姫子「ようこそ『絶対の彼方』へ」

SBRを思い出した
362 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/26(日) 16:39:35.98 ID:y8qv4YAO
リンゴォ戦いいよね
363 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/26(日) 22:06:46.41 ID:t9REKUAO
 立ち込めていた暗雲は晴れ上がった。
だが紬達が見た空は青色ではなかった。

紬「これって……」

 憂の身体から放出される闘気が桜高上空を覆い、黒い雷が降り注いでいる。
絵に描いたような不自然な形のそれは自然の空と交ざり合い、世界の終わりを彷彿させる景色を作り上げていた。

憂「ねぇ、お姉ちゃんをこんなにしたのはあなたですか?」

 世界の終わりの中心で立ち尽くす憂は、クレーターの中心で倒れ伏す姫子に問うた。

姫子「…………」

 だが姫子は答えない。答えられる筈もない。
いかなる決戦兵器をも凌駕する一撃を一身に浴びせられたのだ。
たとえ『絶対の彼方』を越えた者であろうと無事でいられるわけがない。
364 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/26(日) 22:07:32.14 ID:t9REKUAO
憂「答えてくださいよ。それじゃあ私が復讐出来ないじゃないですか。言っときますけどお姉ちゃんを傷付けた人を私は許しませんよ。眼球を毟り取って髪の毛を全部抜いて、全身の骨は文字通り粉にしてあげます。身体の皮膚は表面から一枚ずつ、苦しみながら逝けるようにゆっくり剥ぐんです。そしたら次は内臓ですね。心臓は最後に取っておきましょう、最初は腎臓をペースト状になるまで握り潰します。それをその人の口の中に捩じ込むんです。自分の内臓を自分で食べられるなんて素敵と思いません? あ、そうか。最初に眼球を毟り取っちゃってるからそんな素晴らしい光景を見れないんですよね。あはは、私ったらうっかりしてました」
365 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/26(日) 22:08:16.74 ID:t9REKUAO
姫子「──っ! 〜〜っ!?」

 倒れ伏す姫子はその朦朧とした意識の中に介入して暴れ狂う呪詛の言葉に恐怖した。
言葉を紡ごうにも先の衝撃で肺をやられており、喋るどころか呼吸もままならない。
恐怖などという陳腐なものではない別のナニカに気圧され、姫子は涙を流した。

憂「ねえ、誰がやったんですか? 答えてくれないなら今からあなたを殴りますよ。それもグーで、思いっきり」

 それを聞いて戦慄した姫子は身体を捩らせて虫のように這い、憂から逃れようとする。
 だが憂はそれを許さない。
這う姫子の頭を踏み付け、ぎりぎりと力を込める。
366 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/26(日) 22:09:02.02 ID:t9REKUAO
姫子「〜〜っ!?」

 姫子の頭は力を加えられる度に地面にめり込んでゆく。
そうして姫子の頭部が完全に地面に埋もれようとした時、それは起きた。

憂「っ!?」

 地面から突如光が溢れ出した。
それに遅れて轟音が鳴り響き、グラウンド全体の土を根元から巻き上げる。
爆発の規模は甚大で、その爆風は校舎にも及んだ。
衝撃と共に爆炎が生まれ、そこにある全てのモノを遠慮無く、躊躇無く、情緒無く食らい尽くした。

「全く、困った子達ね」

 自分達に襲いかかった爆風は例外無く全ての命を食らうだろう。
そう確信して目を閉じていた律、紬、梓、姫子の四人だが、それぞれ自分達が何者かに抱えられている事に気付く。
367 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/26(日) 22:09:48.26 ID:t9REKUAO
梓「ここは……?」

 梓は自分が今どこにいるのかを認識した。
抱え上げられた自分の身体の下には純と和の身体がある。
そして真っ二つに裂けた貯水タンク、飛び降り防止の高いフェンス。
それらの物からここが屋上であると判断した。

律「さわ……ちゃん?」

 律は顔を上げ、自分達を救った者の名を呼んだ。

さわ子「子供の喧嘩に大人が割って入るのは良くないけれど……。これ以上学校を壊されたらたまったものじゃないからね」

 桜高三年二組担任。山中さわ子は眼鏡の奥の両目を下げ、穏やかな笑みを浮かべた。

紬「憂ちゃん……」

 目を開いた紬はさわ子が上げた足の先に居る者を見て悲しそうな顔をした。
368 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/26(日) 22:10:33.08 ID:t9REKUAO
憂「……先生まで邪魔するんですか?」

 憂の身体は壊れた貯水タンクにめり込んでいた。
正確には、さわ子の足に脇腹を貫かれ、強引に貯水タンクに穿たれているのだ。

憂「ごほっ……」

 口から血を吐きながらも憂は自分の腹に刺さる足を引き抜こうとする。
だがさわ子の足はそれに動じずびくともしない。

さわ子「いい加減止めなさい。あなたの夢が世界征服なら止めはしないけど、復讐なんて馬鹿げた真似はさせないわ」

憂「嫌です」

 諭すように警告するさわ子を一瞥し、憂は即答した。
光を映さない漆黒の瞳はさわ子の身体を居抜くような圧力を放っている。
369 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/26(日) 22:11:23.88 ID:t9REKUAO
さわ子「分かってないわね。これは命令よ」

 さわ子は丁寧にセットしてある自身の髪の毛をくしゃくしゃと掻き、眼鏡を外した。

さわ子「旧桜高生徒序列トップ。『盲目白痴の魔王』山中 さわ子が命じるわ。今直ぐその下らない感情を破棄しなさい」

憂「…………」

 憂は押し黙った。
その気になれば自分の身体を穿つさわ子の足を引き抜く事も出来たのだ。
だがそれをするという事は自分とさわ子の戦いの火蓋を切る事と同義。
 目の前で鋭い眼光を放つ女の内に眠る、自分と同等の力を持つ凶暴な虎を垣間見た憂は、合理的かつ苦渋の選択肢を選んだ。
370 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/26(日) 22:12:13.68 ID:t9REKUAO
憂「でも……! そしたらお姉ちゃんは……」

さわ子「あなたのお姉ちゃんはまだ大丈夫。唯ちゃんの妹として生まれたあなたなら分かる筈よ」

 憂の目には光が宿り、さわ子の修羅の表情は柔和なものになった。

さわ子「辛いと思う、悔しいと思う。その気持ちは重々察しているつもりよ。でも怒りに身を任せて立花さんを責めちゃ駄目。あなた達全員、今は何があろうと身体を休める事が優先」

 憂の身体から足を抜き、さわ子は締めくくる。

さわ子「それが人間らしい利口な判断よ」

 今のさわ子が今ここにいる全員には菩薩に見えた。
だがその感動に浸る間も無く、上空で爆音が鳴り響く。
371 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/26(日) 22:12:57.23 ID:t9REKUAO
律「あれは……?」

紬「……琴吹財閥の自家用ヘリ?」

 黒塗りのヘリコプターにぶら下がっている梯子を見て驚愕した。

梓「唯先輩っ!」

 黒のスーツに身を包んだ初老の男が唯を抱えて梯子にぶら下がっている。
男の顔には幾つもの皺が刻まれており、表情は仮面のように固い。 律達がその男に目を奪われていると、ヘリの中から一人の少女が顔を出した。

いちご「『龍』は『沼』が頂いた」

 特に感慨も無さげに、いちごは言い放った。
 この狂った劇の総指揮を取りながらも表舞台に顔を出さなかった少女。
桜高生徒序列ナンバーフォー。若王子 いちごがついに舞台に舞い降りた。
372 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/26(日) 22:13:44.96 ID:t9REKUAO
今日は多分これで打ち止め
コードギアス反逆のさわちゃん。そんなノリ
373 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/26(日) 22:18:09.17 ID:wQSDI3ko
374 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/26(日) 22:29:52.41 ID:mGsVX.SO
憂にはめだかのあの子を連想した

さわちゃん序列トップだったのかよww

おもしろい
乙乙
375 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/26(日) 22:37:34.06 ID:t9REKUAO
>>374
最初にむかえちゃんのあれを見た時はびびったよ。察しの通りパロらせてもらった
他にも台詞とか地の文にネタ混ぜてるから気付いた人はニヤッとしてくれい、それを想像して俺はもっとニヤッとする
376 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/26(日) 22:37:53.73 ID:2irV7cAO
謀略天使いちご来たあああ!!!!
憂にやられんぞ!!!!!

あと澪はそろっと死んだか!?
377 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/26(日) 22:39:31.27 ID:t9REKUAO
>>376
澪「お漏らししたけど生きてるよ。お漏らししたけど」
378 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/26(日) 22:40:33.23 ID:NArfeG60
乙。ムギ家のヘリに何故いちごが乗っているのかと小一時間。
379 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/26(日) 22:41:23.33 ID:mGsVX.SO
やっぱりかww
この憂のヤンデレな感じはむかえちゃんかww

>>1ジャンプ好きなんだな
そのうち畏れとか暴君の月とか出そうだな
380 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/26(日) 22:43:26.33 ID:t9REKUAO
>>378
それはいちごが……げふん! ムギの……ごほっ、げふんげふん!
381 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/26(日) 22:47:09.28 ID:NArfeG60
>>380
ありがとwだが多くは語るなwww
次を楽しみにしてるよ!
382 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/26(日) 23:07:29.66 ID:uTEd4n.o
支援!早く続きが読みたいぜ!!
383 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/27(月) 04:48:07.65 ID:peWPtoDO
澪と唯は生きてるんだよな?
あと信代はどうでもいいです
384 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/28(火) 00:24:28.44 ID:UEn0iUAO
>>383
心臓貫かれるなんてどう考えても覚醒フラグ
失禁はなんのフラグか知らん
385 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/28(火) 01:41:06.25 ID:sLpqh6AO
 明らかにこの場にそぐわない存在感を醸し出している一台のヘリ。
その中からいちごが現れたのだから全員が驚愕するのも無理は無い。
 今、戦いの意志を捨て、混乱に陥っている一同を責める事など誰にも出来はしないのだ。

紬「何でここにあなたがいるの……」

 その中で、紬だけが他の者とは違う理由で驚愕していた。

紬「答えなさい斎藤っ!!」

 紬は吠えた。
いつもの朗らかな笑みは消え失せており、明らかに動揺している。
長年自分に付き添ってくれていた従者が自分の手の届かないところへ行ってしまっている事に紬は絶望した。
386 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/28(火) 01:41:52.63 ID:sLpqh6AO
斎藤「…………」

 斎藤と呼ばれた黒スーツの男は何も答えなかった。
さも興味無さげに屋上にいる者達を一瞥すると、片手と片足だけで器用に梯子を登ってゆく。

紬「答えなさいっ! これは命令よ!!」

 瞳をぎらつかせて吠える紬を見て、律達は驚いていた。
そしてここまで紬を動揺させている斎藤が紬にとってどれほど大切な者だったのか、それを察する。

いちご「これ」

 その様子を見ていたいちごはヘリの中から一台のポータブルテレビを取り出し、紬に向かって投げた。
紬はそれをひったくるように受け取り、テレビに映る映像を見る。
387 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/28(火) 01:42:23.43 ID:sLpqh6AO
紬「っ!?」

 映っていた映像は紬を更に驚愕させた。
画面の中ではスーツを来た男達がビルの中から段ボールを持って出てきている。
その様子を若い女性アナウンサーが中継していた。

『──琴吹財閥が解体されようとしています──』

 紬の頭に鈍器で殴り付けられたような衝撃が走った。

『──今回の件は──異例──』

 琴吹 紬が生まれた家。
そして彼女の父が築き上げた社会的地位が、脆くも崩れ去った瞬間だった。
 幼少時より自分を支え、育て上げてきたパトロンが消滅した事に耐え切れずに紬は膝を折る。
388 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/28(火) 01:43:09.67 ID:sLpqh6AO
いちご「社会の金の流れを操るなんて容易い事。琴吹財閥は今日から若王子機関になったわ」

 いちごは地に膝をついた紬を見下ろし、冷笑を浮かべながら語り始める。

いちご「あなたの父の会社はありがたく使わせてもらう。あの環境は『龍』の解析に有効活用出来るから」

 『龍』という単語を紡ぐと同時にいちごは斎藤の腕に抱かれる唯を見た。

紬「どうして……」

 紬は自分の家を奪ったいちごに復習心を燃やすわけでもなく、その怒りを一人の人物に向けていた。

紬「斎藤!! よりにもよって何でその子に仕えているの!? 琴吹の家に誓った忠誠は嘘だったの!?」
389 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/28(火) 01:43:43.98 ID:sLpqh6AO
斎藤「…………」

 紬の悲痛の叫びを聞いても、斎藤の口は開かない。

紬「どうして……どうしてよぅ……」

 紬は遂に地面を見つめ、涙を流した。
その様子をひとしきり眺めると斎藤は口を開いた。

斎藤「紬お嬢様」

紬「…………」

 紬にはヘリのホバリングの音さえも静まり返ったような気がした。

斎藤「私が忠誠を誓ったのはあなたの父でも琴吹財閥でも、ましてやあなたでもない」

 そこまで聞いて紬は自分が斎藤に尋ねた事を後悔した。
だが不思議にも斎藤の声を聞くまいと耳を塞ぐ事も、今の紬には出来なかった。
390 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/28(火) 01:44:30.04 ID:sLpqh6AO
斎藤「私が忠誠を誓ったのは金ですよ。私の口座を満たしてくれる人こそが私の主です」

紬「金……金……金……。どうしてよ! どうしてお金の為にそこまで出来るのよ!!」

斎藤「それが世界の全てだからです」

 斎藤の言葉は悲しみにうちひしがれる紬の心を容赦無く食い荒らしてゆく。

斎藤「生まれた時から金に困った事が無いあなたには分からないでしょう。しかしあなたがもう少し大人になれば分かる筈です。『無償の元に成り立つ感情など、マイナスでしかない事に』」

 斎藤はそこまで言うと紬から視線を外し、梯子を登りきった。
そしていちごに連れ添うように隣に立つ。
391 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/28(火) 01:45:12.91 ID:sLpqh6AO
斎藤「忠告しておきましょう。あなた達全員、この件に関わってはなりません。死にたくないのならね」

 最後に屋上を見下ろすと斎藤はヘリの機内に消えていった。

いちご「そういう事だから」

 それを追うようにいちごも踵を返して機内の奥に消えようとするが、それを遮る声があった。

律「待ちやがれ。唯をどうするつもりだ? このまま引き下がる軽音部だとでも思ってんのかよ!!」

 律は力強く床を蹴り、拳を振り上げる。

梓「まったく……。手間のかかる先輩ですね」
 それに鼓舞され、梓は太股に吊ってあるホルスターに手をかけた。
392 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/28(火) 01:45:45.67 ID:sLpqh6AO
いちご「滑稽ね」

 その光景をまるで嘲笑うかのようにいちごは侮辱する。

律「んだとぉ!?」

さわ子「待ちなさいりっちゃん!」

 さわ子が飛び上がろうとした律を無理矢理押さえ込む。
だが律がそれで大人しくなる筈もなく、さわ子の腕の中で暴れる。

律「何でだよ! 唯がどうなっても良いのかよ!?」

 まるで駄々っ子のようだ。
いちごは率直にそう思った。
そしてその感情を隠そうともせず、卑しい笑みを浮かべる。
 いちごが唇に手を添えて笑みを抑えようとしたその時、いちごの真横のヘリの装甲が爆ぜた。
393 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/28(火) 01:46:28.00 ID:sLpqh6AO
梓「何へらへらしてるんですか。理由次第ではそのお人形さんみたいなお顔が吹き飛ぶ事になりますよ」

 突き出した両手に握られた銃の銃口からは煙が漏れている。
漂う火薬と硝煙の臭いが梓の怒りをくすぐり、闘争本能を増幅させた。

さわ子「梓ちゃん!」

憂「ごめんなさい先生。やっぱり私も……我慢出来ないや」

 二人に感化された武神が腰を上げた。
憂の澄んだ瞳は再び、絵の具を滲ませたように黒に染まってゆく。 一触即発──。
 今の状況を形容するならばその言葉がぴったりだろう。
だが、本来ならば力量的に狩られる側である筈のいちごはせせら笑っていた。
394 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/28(火) 01:47:12.87 ID:sLpqh6AO
いちご「この学校がどうなっても良いのなら、私が相手になるよ」

 その圧倒的自信を含んだ物言いは虚勢などではなかった。

さわ子「爆弾か何かかしら。今のあなたなら核を仕込んでいてもおかしくないわね……」

律「か、核ぅ!?」

 さわ子の推測はその場にいた一同を再び混乱させた。

いちご「核、とまではいかない。でもこの学校やそこで寝てる二人を吹き飛ばせるレベルの爆弾を仕込んでるわ」

 ブレザーのポケットをまさぐり、リモコンを取り出す。

いちご「取引しましょう? ここで大人しく引き下がるのなら、『生かしておいてあげても良いよ』」
395 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/28(火) 01:47:57.07 ID:sLpqh6AO
梓「くっ……。卑怯過ぎます!!」

いちご「馬鹿正直に突っ込んで犬死にするのが正々堂々って言うんなら、私はどこまでも卑怯で良い」

 今のいちごには梓の叫びなど負け犬の遠吠えにしか聞こえなかった。

さわ子「全てあなたの思惑通りってわけね。良いわ、この子達は私が責任を持って止めます。どこにでも逃げなさい」

 行きなさいではなく逃げなさいと言う事が、今のさわ子に出来る唯一の抵抗だった。
握り締めた拳からは血が滴り落ちている。

いちご「…………」

 いちごは皮肉に応じる事無く機内の中に消えていった。
ドアが閉じられ、ホバリングしていた機体が発進する。
396 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/28(火) 01:48:41.45 ID:sLpqh6AO
 去りゆく黒い機体を目で追いながら、律は唇を噛み締めた。

律「何でだよ! 何でこんなに胸糞悪いんだ! 喧嘩ってのはもっとこう……! 気持ち良いもんじゃねーのかよ!?」

 梓は握り締めた銃を手放し、崩れるように座り込んだ。

梓「私……分かりません。強さとは何なんでしょうか……? 人の痛みの上に成り立つ強さに、何の意味があるんですか!?」

 紬は頬を伝う涙を拭い、色素の薄い髪の毛を掻き毟りながらうなだれる。

紬「無償の愛なんて信じる年じゃないのは分かってる……。でも……! でも全ての戦いが無情であるなんて、私は信じたくない!」

 三人はひたすらに涙した。
三人の悲痛の叫びは共鳴し、どこまでも鳴り響いていた。
397 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/28(火) 01:49:29.67 ID:sLpqh6AO
斎藤「全て……。あなたの思惑通りとなりましたね」

いちご「…………」

 ヘリの機内で向かい合って座る二人。
沈黙に痺れを切らせた斎藤は敬意と畏怖の念を込めていちごを讃えた。
だがいちごは興味なさげに、窓から見える景色を見下ろしている。

斎藤「……申し訳御座いません。出過ぎた事を言いました」

 機嫌を損なわせたと思った斎藤は即座に謝罪する。

いちご「……中野 梓が瀧 エリと交戦し、生き残ってグラウンドに辿り着く確率は九十八パーセント。琴吹 紬が佐藤 アカネと交戦し、生き残ってグラウンドに辿り着く確率は九十パーセント」
398 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/28(火) 01:50:25.93 ID:sLpqh6AO
斎藤「はい?」

 斎藤は突如として語り始めたいちごに怪訝そうな返事を返した。
それも関係無しにいちごは続ける。

いちご「田井中 律が中島 信代と交戦し、生き残ってグラウンドに辿り着く確率は九十二パーセント。秋山 澪が木下 しずかと交戦し、生き残ってグラウンドに辿り着く確率は二パーセント」

 そこまで言うといちごは一旦口を噤み、機内のベッドの上に横たわる唯の顔を見つめる。

いちご「この子が立花 姫子と交戦し、敗北する確率は百パーセント。『龍』が覚醒した場合をパターンに含めると九十九パーセント。『絶対の彼方』を越えた二人の介入は予想外だったけど、それも上手く転んでくれた」
399 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/28(火) 01:51:13.38 ID:sLpqh6AO
斎藤「予想外……。高名な策士であると聞いておりましたが、そんなあなたでもそのような言葉を使うのですね」

 いちごはそれを聞いて柄にもなく自嘲気味に微笑んだ。
そして両手をひらひらと振り、答える。

いちご「あの二人を思惑通りに動かせる人間はいないよ。一人は犬も食わないような曲者、もう一人は自分でも何しでかすか分かってないみたいだし」

 そこまで言うといちごは安らかに眠る唯の髪の毛をそっと撫でた。
綿毛を触るような柔らかい感触がいちごの指を弾く。

いちご「でも他は滞りない。琴吹財閥を解体してあなた達従者衆を引き入れる事も出来たし、秋山さんを負かして人質にする事も出来た」
400 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/28(火) 01:51:45.19 ID:sLpqh6AO
斎藤「人質……ですか?」

 何に対する人質なのか、斎藤には理解出来なかった。

いちご「あの学校を壊す程度の爆発、山中先生と平沢 憂ならあそこに居た全員を背負って脱出する事も出来た筈」

 いちごがそこまで言って斎藤はようやく人質の意味を理解した。

斎藤「なるほど……。そこで敢えてあちら側の一人を負かして見えないところに放置しておく。そうする事で二重に人質を取ったわけですな?」

いちご「…………」

 斎藤の答えは百点満点のものだった。
だが姫子はそれを讃える事も驚く事もなく、無言で頷いた。
401 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/28(火) 01:52:35.19 ID:sLpqh6AO
いちご「終わった策に意味は無い。無駄なお喋りはこれで終わりよ」

 いちごはずいっ、と斎藤に詰め寄り、抱き付きながら腰に手を回した。

斎藤「な、何を……?」

 完全に意表をついたいちごの行動に、斎藤は声を震わせた。

いちご「『この件には関わるな』だなんて、随分あの子達が心配みたいじゃない?」

 いちごは斎藤の膝に足を乗せ、耳元で囁いた。
斎藤はその官能的な吐息に思わず身体を震わせた。

斎藤「それは……。あなたの計画に邪魔が入らないようにと──」

いちご「惚けないで」

 斎藤の言葉を途中で遮る。
その声に抑揚は無いが、怒りの色が滲んでいた。
402 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/28(火) 01:53:33.17 ID:sLpqh6AO
いちご「あなたが忠誠を誓って良いのは私だけ。何の欺瞞も挟む事は許さない。だから……」

 いちごはブレザーの袖口からナイフを取り出した。
そしてそれを後ろから、斎藤の肩に突き刺す。

斎藤「──っ!?」

いちご「お仕置き」

 その声にも抑揚は無かった。

いちご「私に確かな忠誠を誓って。悪いようにはしないから」

 斎藤は力無く頷く。

いちご「私の名前は若王子 いちご。私の前では悪魔だって全席指定。たとえ相手が誰であろうと真っ向から堂々と不意打ってあげるから」

 引き抜いたナイフから鮮血が滴り落ちる。
元琴吹財閥の所有ヘリの中に、鉄の香りが充満した。
403 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/28(火) 01:55:15.08 ID:sLpqh6AO
策士若王子 いちごちゃん、家なき子ムギ。そんなノリ。
今日の夜中にまた来る……かな?
404 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/28(火) 01:58:47.90 ID:/LzLecAO


純ちゃん憂ちゃんの活躍を楽しみにしてる
405 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/28(火) 03:42:55.75 ID:wgetL6AO
406 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/28(火) 05:48:57.91 ID:WSCvwZUo
おつ
子荻ちゃんかわいいよね
407 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/28(火) 07:02:09.84 ID:UEn0iUAO
ナイフはエロいよ
408 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/28(火) 11:49:22.50 ID:CVcxDQSO
アツい展開だな
いちごがどんな策を練るか、けいおん部がどういう一手を出すか
楽しみだ
409 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/28(火) 21:56:24.01 ID:sLpqh6AO
 桜高トップランカー達の血で血を洗う凄惨な戦いから一週間が経った。
その間学校は復旧工事の為、休校となっていた。

律「……何だかなぁ」

 授業が再開されて初日の朝。
柄にもなく早い時間から登校した律は恥じらいも無く机の上に足を置き、椅子に深く身を預けて窓の外を眺めていた。
 あれから律達はさわ子に半ば強制的に病院に搬送され、臨時休暇の大半をそこで過ごした。
学校が恋しくなってはいたものの、唯が居ない今の環境では胸の蟠りも取れそうにない。
そんなネガティブな感情から、律は大きく溜め息をついた。

紬「おはよう、りっちゃん」

 いつの間にやら教室に居た紬は机に置かれた律の足を窘めるようにはたく。
410 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/28(火) 21:57:13.31 ID:sLpqh6AO
律「ムギか、おはよ……」

 律はやや伏し目がちに挨拶を返す。
それとは対照的に紬の表情は、見ている方が和むほどに朗らかだ。

紬「……落ち込む気持ちも分かるけど、元気出していきましょ?」

 紬はそっと律の頭を撫で、両手で握り拳を作るとガッツポーズを取った。

律「ははっ……。ムギは強いなぁ、私も見習うとするよ」

 そんなムギの様子を見て、律は苦笑いを浮かべる。

紬「ふふっ、今日は元気が出るようにおから炒めを持ってきたの。放課後皆で食べましょ」

律「皆、か……」

 律は教室を一瞥し、普段ならこの時間には自分の隣に居るであろう二人を思い浮かべた。
411 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/28(火) 21:57:55.07 ID:sLpqh6AO
 唯はいちごに拉致され、生死不明の状態。
澪は幸いにも吹き飛んだ体育館の瓦礫の中から発見され、相応の治療を受けて一命を取り留めた。
 律は後にさわ子から聞いた話で、澪がしずかに敗北した事を知っていた。
それもあって澪の精神面を気遣い、今日は澪と一緒に登校しなかったのだ。

律「唯は勿論心配だけど、澪、それに和と鈴木さんの具合も心配だな……」

紬「うん……。私や梓ちゃんの傷は浅かったけど、あの二人は重傷だったもんね」

 和と純の二人は誰よりも優先して病院に搬送され、緊急手術を受けた。
だが容態は芳しくなく、未だに面会謝絶状態で入院している。
412 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/28(火) 21:58:40.25 ID:sLpqh6AO
 その『絶対の彼方』を越えた二人さえも叩き潰した憂はあの日以来、家から一歩も外に出ていない。

律「憂ちゃんが一番ショックなんだろうな……。唯を奪われて、いくら頭に血が昇ってたって言っても、幼馴染みと友達を自分で潰したんだから」

紬「…………」

 紬は押し黙り、俯く。

律「勿論ムギも、だけどな。家の方は大丈夫なのか?」

紬「……ええ。会社が解体されたと言っても破産したわけじゃないから。それなりの蓄えはあるみたい」

 それなりの蓄えとは言ったものの、少なくとも律の両親が一生かかっても稼げない程の金は持っている。
413 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/28(火) 21:59:14.10 ID:sLpqh6AO
律「……さわちゃんが許してくれさえすればなぁ。今直ぐにでも唯を取り返しに行くのに……」

紬「そうね……」

 この混乱した状況の中でさわ子が下した判断は停滞だった。
今の律達の力量では仮にいちごに挑んだところで『沼』に飲まれる。
そう判断しての苦渋の決断だった。

律「どっちにしても。今回の件で自分の不甲斐無さを思い知らされたよ、当面の課題は一つ、だな」

紬「先生に認めてもらえるように強くなる、ね?」

 気丈に振る舞って笑う二人だが、その表情の中には深く刻まれた哀しみが見え隠れしていた。
414 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/28(火) 21:59:55.44 ID:sLpqh6AO
梓「くっ……!」

 街の外れにある廃工場にて、梓は銃を乱射していた。
建物の中は硝煙の香りが漂っており、あちらこちらに空薬莢が散らばっている。
壁のあちらこちらに描かれた丸形の的には無数の弾痕が刻まれていた。

梓「こんなんじゃ駄目です……。もっと、もっと強くならないと……!」

 くたびれた普段着のパーカーのポケットから予備の弾薬を取り出し、滑らかな動作でセットする。

梓「はっ!」

 両腕を突き出し、二つの銃を発砲する。
二つの弾は軌道を重ね、そのベクトルを変え、梓の両脇にある二つの的の中心にめり込んだ。
415 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/28(火) 22:00:28.14 ID:sLpqh6AO
 律達が運ばれた病院の一室の扉が開いた。
ドアの表札には立花 姫子と書かれており、面会謝絶の札が掛けられている。
にも関わらず堂々と部屋の中に入り込んだのは、一人の少女だった。
艶のある漆黒の髪を揺らし、細身のデニムに紫のパーカーという身形。
目深に被った帽子が少女の顔を隠していた。

「…………」

 部屋の主である立花 姫子はベッドの上で安らかに眠っていた。
身体中に取り付けられた夥しい量の管とその美しい寝顔は、死にゆく眠り姫を連想させる。
 部屋に入り込んだ少女は姫子の顔を見下ろし、歯を食いしばった。
416 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/28(火) 22:01:11.06 ID:sLpqh6AO
 少女の胸の中で殺意が蠢いた。
震える手で腰に差した刀を抜刀し、鈍色に輝く刀身をそっと姫子の首に押し当てた。

「止めなさい、澪」

 背後から聞こえた自分を呼ぶ声に驚き、澪は慌てて振り返る。

澪「和…………」

 そこには車椅子に座り、点滴を腕に刺した和がいた。
普段かけている眼鏡は外しており、短めの髪の毛は無造作に跳ねている。

和「それだけは絶対にやっちゃ駄目よ。自分の弱さから逃げて人に当たるのは、愚図がする事」

 普段の和からは想像もつかないようなずぼらな身形だが、そう言った和の眼光は澪の胸を針の筵のように貫いていた。
417 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/28(火) 22:02:04.87 ID:sLpqh6AO
澪「……そんな身体で私を止めるつもりか?」

和「あら、見くびらないでくれる? アンタが相手なら目隠しして両腕を縛っても一秒以内をケリをつけられるけど」

 和のそれは誇張表現などではない。
澪自身それを重々理解していた。
だがそれでも澪は抵抗せずにはいられなかった。
軽音部の中で一人だけ、敵前逃亡した挙げ句打ちのめされた自分の不甲斐無さを払拭するには、何か行動を起こさずにはいられなかったのだ。

澪「言ってろ」

 澪が刀の柄を握る手に力を込めようとしたその時、甲高い音を立てて刀は澪の手から離れた。
418 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/28(火) 22:03:07.05 ID:sLpqh6AO
和「お願いだから手間をかけさせないでくれるかしら? こっちはまだ病み上がりで面会謝絶も解けてないのに」

 和の手には桜の花びらがあしらわれた刀が握られていた。
やはり自分は和の足元にすら及ばない。
それを痛い程に痛感した澪は床に手を当て、俯いた。

澪「……唯がさらわれた時に私は何をしてたと思う? 無様に床に這いつくばってたんだ!!」

 声は次第に震えてゆく。澪はリノリウムの床を殴り付けた。

澪「なぁ……私はどうしたら良い? 教えてよ! このままじゃ気が狂っちゃいそうだよ!!」

和「…………」
419 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/28(火) 22:04:02.41 ID:sLpqh6AO
 澪の悲痛の叫びを和は黙って聞いていた。
時折相槌をうちながら聞くその姿勢は、実年齢よりも遥かに大人びたまるで母親のような暖かみを持っている。

澪「うっ……。ひぐっ……」

 和は澪が負けたという情報は既に知っていた。
自分の身体が完治すれば発破をかけてやろうと思っていた和だが、そのプランを早める事にする。

和「強くなる事は良い事ばかりじゃないわ。時には恐れられ、軽蔑される」

澪「…………」

 和は周りが今まで自分に向けてきていた視線の色を思い返した。

和「アンタには才能がある。もしその覚悟があるのなら連れて行ってあげるわよ? 『絶対の彼方』に」

 澪は両目を閉じ、無言で頷いた。
420 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/28(火) 22:04:49.63 ID:sLpqh6AO
純「よっ……とと……。随分鈍ってるなぁ」

 純は病院の屋上の手摺の上を逆立ちで往復していた。
一歩間違えれば即死であるその状況で、純は物怖じもせずに飄々としている。

純「あーきた!」

 両手に力を込め、腕の力だけで跳躍する。
空中でくるりと一回転すると、両足でしっかりと着地した。

「鈴木さん! あなたまだ重体なんですよ!! 早く部屋に戻って下さい!」

 シーツを干しに来た看護婦に注意され、純はぺろりと舌を出して会釈した。

純(さて、と。退院したら、私もそろそろ立場を固めないとね……)

 一瞬だけ柄にもなく険しい顔をして、純はその場を後にした。
421 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/28(火) 22:08:06.30 ID:sLpqh6AO
これでやっと話の一区切りがついた。第一章 完みたいな。
長いと思うだろうけど自重しない
「ちょっとぐらい長いプロローグで絶望してんじゃねぇよ!」そんなノリ
ここいらで質問とか意見とかあったら答えたい感じかな。
422 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/28(火) 22:17:35.65 ID:/LzLecAO
乙!
読んでて面白いから長くても苦にならないぞ

純ちゃんは強さだけで言ったら和と同等くらい?
423 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/28(火) 22:27:03.46 ID:sLpqh6AO
>>422
純ちゃんは姫子とどっこいどっこいで和よりは劣る
序列外だけど『絶対の彼方』はぶち抜いてるって設定
凄いね純ちゃん! かっこいいね!
424 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/28(火) 22:37:24.56 ID:/LzLecAO
可愛い上に強いなんて・・・惚れ直したぜ!

純ちゃんの更なる活躍を祈ってる
1も頑張って書ききってくれ
425 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/28(火) 22:59:37.42 ID:BXj/WEAO


来年の序列123は二年生トリオか…!

個人的には純ちゃんに惚れそうだ
426 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/28(火) 23:08:36.03 ID:UEn0iUAO
さわちゃんの恩師も戦争を生き抜いたんだよな・・・

っていうか教師らのレベルはどんな感じなの?
427 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/28(火) 23:12:06.90 ID:sLpqh6AO
>>426
さわちゃんみたいな桜高OGの教師はトップランカー並みかそれ以上の力があるけど大半は凡人。
力がある教師も『子の喧嘩に大人が介入するべからず』的精神で見守ってる感じ。
天上天下の教師陣を思い浮かべてくれたら丁度良い、かな?
428 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/28(火) 23:23:20.09 ID:CVcxDQSO
純ちゃんを見直すSS

憂……

乙乙
いいね楽しいよ
一回に投下する量も多いし
429 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/28(火) 23:34:39.09 ID:UEn0iUAO
>>427
Sunkus
ちらちらと話題に挙がってたけど天上天下ってやつがベースなのね
読んだことないけどさ
430 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/29(水) 00:48:25.00 ID:tZMA/360
これからの憂に期待しても良い?
431 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/29(水) 01:20:14.42 ID:W7VUDYAO
>>430
多分後半は憂選手抜きでは話が進まんぜよ
まぁ何が言いたいかと言うときっちりかっちり期待にこたえるから、乞うご期待ってやつだ
432 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/29(水) 02:51:46.34 ID:OJYl18Mo
この話が映画化されないかなぁ
433 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/29(水) 03:12:04.80 ID:.KS5tUAO
>>432
この内容なら二時間余裕
434 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/29(水) 03:14:56.39 ID:OJYl18Mo
予告編とか超カッコよくできそう
435 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/29(水) 07:47:58.49 ID:tVuvusSO
R-15指定されそうなないようだけどなww
436 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/29(水) 14:45:15.79 ID:hpRf.T6o
ここで澪がヒテンミチュルギスターイルとかガトチュゼロスターイルを習得するんですね。わかります。
437 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/29(水) 16:27:32.16 ID:Hs4MAAgo
こんなところに映画用のシナリオが
438 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/29(水) 16:58:30.63 ID:EmZz/EAO
全米を震撼させた、奴らが帰ってきた…
本格派スプラッタアクション

『THE 驚闇』

 須く見よ!!!


 
439 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/29(水) 18:15:38.86 ID:Wl2tSiYo
けいおん映画化決定って話だけどこれってもしかしたら…………


もしかするかもね
440 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/29(水) 22:04:00.59 ID:W7VUDYAO
 澪と和の諍いから三日が経った。
あれ以来一度も学校に行っていない澪は、その重い腰を上げて和が指定した場所に来ていた。

澪「まだかな……」

 腰に差した刀の鞘を弄りながら澪は呟く。

『三日後の正午にアンタ達のいきつけの喫茶店に行きなさい。そこにアンタを強くしてくれる人が来るから』

 どうにも含みがある漠然とした物言いだったが、今の澪はそれにすら縋りたくなるような心境だった。
 胸を圧迫するざわめきをかき消すように、テーブルに置かれた既に冷めてしまったレモンティーを飲み干す。

「ごめんなさい。待たせちゃった?」
441 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/29(水) 22:04:46.12 ID:W7VUDYAO
 声の主を見て、澪は思わず口に含んだレモンティーを噴き出しそうになった。
すんでのところでそれを堪え、平静を装って返事を返す。

澪「曽我部先輩……。何であなたが? 大学は大丈夫なんですか?」

「ふふっ、他ならぬ秋山さんの頼みだもの。そんな事気にしなくても良いのよ?」

 そう言うと曽我部 恵は栗色の長い髪をさっ、と払って微笑んだ。
 八十四代桜高生徒序列ナンバーツー。『絶対領域』曽我部 恵。
 去年の桜高生徒序列において平沢 憂を負かす事は出来なかったものの、真鍋 和を差し置いてナンバーツーの地位を欲しいままにした猛者だ。
442 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/29(水) 22:05:16.71 ID:W7VUDYAO
恵「早速本題に入っても良いんだけど……。ここでお昼食べちゃおっか。あなたもお昼まだでしょ?」

澪「あ、はい……」

 澪は手渡されたメニューをおずおずと受け取り、自分の手持ちを考慮してなるべく安いものを探す。

恵「ここは私が持つから好きなの頼んで良いよ。あ、このトルコライスなんて美味しそうじゃない?」

澪「そんな……悪いですよ。折角遠路はるばる来てもらって、その上お昼まで奢ってもらうなんて──」

 そこまで言いかけたところで恵は澪の唇に指を添えた。
そしていたずらな表情でウインクする。
443 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/29(水) 22:05:51.48 ID:W7VUDYAO
恵「だから遠慮しなくても良いの。 私、まだ秋山さんのファンなんだから」

澪「ふぁ、ふぁんって……」

 澪は顔を赤らめて俯く。
だが澪はここで気付いた。
いつの間にか自分の胸の中の蟠りが薄れている事に。

澪「……流石ですね」

 澪には恵の凜とした容姿に似合わない茶目っ気溢れる笑顔がやけに眩しく思えた。

恵「これでも元生徒会長ですから」

 平沢さんの妹には勝てなかったけどね、と付け加えて、恵は舌を出して微笑んだ。
444 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/29(水) 22:06:33.79 ID:W7VUDYAO
 それから二人は食事を注文し、他愛ない会話をしつつ一時間ほど時間を潰した。
そして喫茶店を出てからある場所へと向かう。

澪「ここは……?」

恵「私の親戚が営む道場よ。しばらく貸し切りにしてくれるらしいから」

 桜高から歩いて十数分ほどの距離の古風な道場。
澪は促されるまま恵に着いてゆき、稽古場に入った。
扉を開けるとい草の香りが澪の鼻を突き抜ける。
壁や柱などは質素な造りでありながらも手入れが行き届いており、師範の人格が伺える。

恵「靴下は脱いでおいてね。それと畳に上がる時はちゃんと一礼すること」

澪「は……はい」
445 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/29(水) 22:07:16.77 ID:W7VUDYAO
 ぎこちない動作で一礼し、澪は靴下と上着を脱いで畳の上に上がった。
不思議と穏やかな何かに身を包まれるような錯覚に陥る。

澪「…………」

 腰に差した刀に手をかけ、目を瞑って感覚を研ぎ澄ます。
自ずと瞼の奥の世界が見えてくるような気がした。

澪「っ!」

 身体の真横に大気の乱れを感じ、澪は即座に抜刀した。
刀同士が鍔競り合う甲高い金属音を聞いて目を開ける。

恵「なかなかね。反応の速さも抜刀時の身のこなしも申し分ないわ。日頃の鍛練を怠っていない証拠ね」

 人の良さそうな笑みを浮かべ、恵は抜刀した模造刀を鞘に納めた。
446 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/29(水) 22:08:01.07 ID:W7VUDYAO
恵「序列は八、九位ってとこかな。剣術使いの中じゃああの子の次に強いんじゃない?」

 あの子、が和の事を差すのだと理解し、澪は顔を伏せた。

澪「……序列は十二位だったけど、この間二十位代の人に負けて今は十三位です。それに、和以外にももう一人上が……」

 澪は『辻斬り』と呼ばれ名を馳せるもう一人の剣術使いトップランカーを思い浮かべた。
彼女が純の手によってあっけなく打ちのめされた事を澪は知らない。

澪「和は私には才能があると言ってました。『絶対の彼方』生徒序列トップスリーに立つ事なんて……私に出来るんでしょうか」
447 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/29(水) 22:08:33.14 ID:W7VUDYAO
 澪は拳を震わせる。

恵「……今のままじゃあ無理ね」

 恵が澪にかけた言葉は安い同情などではなく、辛辣な事実だった。

澪「やっぱり……そうで──」

恵「『絶対の彼方』の概念を誤認している今のあなたでは、という意味よ」

 澪の言葉を途中で遮り、恵はぴしゃりと言い放つ。

恵「越えたくても越えられない。自分が人間である限り越える事すら馬鹿らしくなるような壁。ふふっ、私に言わせれば荒唐無稽な話も良いとこよ」

 ずばり『絶対の彼方』の意味をそう解釈していた澪は、心臓が跳ね上がる感覚を味わった。
448 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/29(水) 22:09:19.04 ID:W7VUDYAO
澪「どういう事ですか?」

恵「簡単な事よ。私のように『絶対の彼方』を越えた者とそうじゃない者では、『絶対の彼方』に対する認識に大きな違いがあるという事」

 恵の説明は酷く抽象的で、焦らされるような語り口調だった。

恵「私達は『絶対の彼方』を越えた者を『闘気』のコントロールが出来る者と認識しているわ」

澪「闘気……?」

恵「そ、闘気」

 恵はほくそ笑みつつ、右手の人指し指の長い爪で左の掌の薄皮を刺した。
そうしてうっすらと滲んできた血を澪に見せつける。

澪「…………」

 未だに心の奥で眠る血への恐怖心がざわめき、澪は眉を顰めた。
449 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/29(水) 22:09:53.23 ID:W7VUDYAO
恵「目を逸しちゃ駄目」

 恵は澪の顎に手を添え、更に掌を近付ける。

澪「ひっ……」

 思わず身を引こうとした澪だが、がっちりと顎を掴まれてそれもままならない。

恵「闘気とは身体を流れる生命エネルギー。車でいうガソリンのようなものなの」

 そっと手を離し、恵は続ける。

恵「つまり闘気自体は誰にでもある。でもそれを自在にコントロールするには才能と強靱な精神が必要なのよね」

澪「…………」

 澪は自分の胸に手を添えた。
脈打つ心臓の鼓動が、自分の身体に宿った力を連想させた。
450 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/29(水) 22:10:38.24 ID:W7VUDYAO
恵「強靱な精神、特にこれが重要なの。闘気はあって当然のものだから、それの存在に気付く事すら難しいんだ。だから……」

 恵は一度澪に背を向けた。
そして振り向きざまに神速の抜刀を放つ。
澪の観察眼でも捉えきれないその動きは芸術品の如く洗練されていた。

恵「うふふっ、一回死んじゃったね」

澪「っ……」

 ぺろりと舌を出して微笑む恵だが、澪の首に突き付けた模造刀は澪の恐怖心を駆り立てた。

恵「限り無く『死』に近い環境に身を起き、『生』に宿る力を見出だす。今から日付が変わるまでの間、あなたには私の闘気を受け続けてもらうよ」
451 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/29(水) 22:11:24.52 ID:W7VUDYAO
 言い終えて恵は顔つきを険しくした。
その直後に道場全体を澱んだ空気が包む。
大気が震え、窓はかたかたと音を立てている。

澪「うっ……」

 澪は思わず目を見開いた。
恵の背後で、煙のようにぼんやりとした姿の獅子が吠えている。
 全身に流れる汗の一粒一粒、息遣い、心臓の鼓動。
それら全てを咀嚼するように見つめられている感覚が、澪を恐怖の底へ叩き込んだ。

恵「一秒でも早く逃げたいでしょ? でも、私の『絶対領域』は確実にあなたを強くしてくれるわ」

 鬼すら逃げ出す強大な力の絶対領域の中で、澪の孤独な戦いは始まった。
452 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/29(水) 22:14:05.39 ID:W7VUDYAO
ジャンプの王道的修行展開
さっさと仕事しろ冨樫。さもないと念能力の設定丸パクリするぞ。そんなノリ
453 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/29(水) 22:16:51.98 ID:7749XT2o
曽我部さんはやっぱり澪ちゃんにエッチな事するんですか?
454 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/29(水) 22:19:59.99 ID:W7VUDYAO
>>453
そのつもりは無かった
無かった、けど……そのレス見て気が変わった。それも面白いな
455 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/29(水) 22:48:48.92 ID:tVuvusSO
ふむ乙
456 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/29(水) 23:52:26.91 ID:.KS5tUAO
マジで乙
澪の扱いに安心した
457 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/30(木) 00:20:30.92 ID:cfCXGIDO
いい加減唯ちゃんに活躍してほしいんだけど
458 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/30(木) 23:59:05.83 ID:AXCUIsSO
澪は律が助けると思ったら倒れたまんまでござる
風子の病室にしずかが来ると思ったら澪が来てたでござる
あれ俺ただの百合厨?
459 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/01(金) 00:11:59.51 ID:jo/RBYAO
>>458
風子は場外ホームラン
澪の八つ当たりの対象は姫子
460 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/01(金) 00:19:40.00 ID:QtyB3AIo
よく出てくる目立つクラスメイトの名前くらいは覚えとこうぜ
461 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/01(金) 00:22:25.52 ID:2VsSTUAO
まぁ知ってる前提で書いてた俺も悪いっちゃあ悪いんだよなぁ
普通に見てるだけだと分からない情報だし
今日の分はもうちょいしたら書くぜ
462 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/01(金) 00:29:08.30 ID:fgiTYkwo
前回出てきた先輩って澪ファンクラブの人だっけ
ぶっちゃけレギュラー以外は姫子といちご以外わかってなかったり
463 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/01(金) 00:47:53.36 ID:QtyB3AIo
和の先輩でファンクラブ初代会長&前生徒会長の人だな
出てくるまでその存在をすっかり忘れてたけど確かにこの世界でも実力者キャラ確定ポジションだよな


クラスメイトは以前貼られた画像とかの再うpから確認どうぞ
ttp://sukima.vip2ch.com/up/sukima019566.jpg
ttp://sukima.vip2ch.com/up/sukima019567.jpg
ttp://sukima.vip2ch.com/up/sukima019568.jpg
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ttp://sukima.vip2ch.com/up/sukima019571.jpg
464 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/01(金) 01:48:01.78 ID:2VsSTUAO
 桜高のテニス部部室はひたすらに荒れていた。
床にはビールの缶が散らばっており、煙草の煙が充満している。

「皿が満タンじゃん。吸い殻捨てといてよ」

「でもゴミ箱も溢れかえってんだけどー」

「きゃはははっ、んなもん外に捨てときゃ良いじゃん。今はあのうざったい生徒会長も居ないんだしさ」

 部屋の中では数人の生徒が酒盛りをしている。
 弱小部であるテニス部は桜高の絶妙な均衡を保っていた和という楔を失い、瞬く間に不良生徒に乗っ取られた。
その結果がこの荒んだ環境である。
465 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/01(金) 01:48:44.22 ID:2VsSTUAO
「しっかし部長さんのあの時の顔ったら、今思い出してもウケるんですけどー」

 派手な化粧をした生徒がけらけらと笑う。

「お願いだから後輩達には手を出さないで下さい! ってね。真っ裸にひん剥かれて何言ってんだっつーの!」

 部屋の奥に座っていたきつめの顔立ちの生徒がそう言うと、部室内がどっと沸いた。

「そういやあれから下級生共はどうしたの?」

「あぁあれ? 見てくれが良い奴はオッサンに売っ払ったよ。今頃ヒーヒー言ってんじゃない?」

 きつい顔立ちの生徒は財布の中から万札の束を取り出し、首元を扇ぐ。
466 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/01(金) 01:49:10.56 ID:2VsSTUAO
「さっすがだねぇ! そのお金で呑み行こうよ」

 灰皿の処理を任された生徒が部室のドアに手をかけた。その時……。

「え?」

 ドアが大きな音を立てて盛大にふき飛んだ。
ドアは部屋の奥の窓にぶち当たり、硝子を打ち砕く。
 ドアを開けようとしていた生徒はそれに巻き込まれ、身体のあちこちの骨を砕かれ、倒れ伏す。
部室内は瞬く間に悲鳴で埋め尽くされた。

純「ちわー、三河屋でぇっす」

 扉の奥に居たのは純だった。
右手には購買で絶大な人気を誇るゴールデンチョコパンを、左手にはパックのフルーツオレを持っている。
467 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/01(金) 01:50:13.35 ID:2VsSTUAO
「……アンタ、どこの部だよ。こんな事して五体満足で帰れると思ってんのか?」

 きつい顔立ちの生徒が重い腰を上げ、咥えていた煙草を吐き捨てた。

純「…………」


「だんまりかよ。ビビるぐらいならハナッからこんな事すんじゃねーよ!」

 派手な化粧をした生徒が純の顔面目掛けて蹴りを放った。
一寸の迷いも無い実直かつ協力な蹴りは、純の顔面に吸い込まれるように綺麗に決まった。
468 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/01(金) 01:51:05.68 ID:2VsSTUAO
「え……?」

 だが純の身体はびくともしない。
それどころかその足を軽く払い、何事も無かったかのようにゴールデンチョコパンを囓る。

純「はぁ……煙草臭いなぁ。あの人いつも一人でこんな仕事やってたのかぁ」

 気怠そうな面持ちのままパンを口に咥え、純は蹴りを放ってきた生徒の胸目掛けて掌底を放った。
生徒は咄嗟にそれをガードするが、純の一撃は針の穴を通すように繊細なコントロールでガードを隙間を縫い、胸に突き刺さる。

「ひでぶっ……!」

 そのまま部室の壁に叩き付けられた生徒は苦痛に胸を抑え、滝のような汗を流し出した。
469 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/01(金) 01:51:48.70 ID:2VsSTUAO
純「安静にしてないと死んじゃいますよ。多分今ので心臓おかしくなっちゃってますから」

 純はそう言ってゴールデンチョコパンの最後の一欠片を頬張り、フルーツオレで流し込む。

「アンタ早死にしたいの? 私の序列は五十位なんだけど、知ってた?」

 部室の奥のきつめの顔立ちの生徒がせせら笑いながら純に問い掛ける。
 桜高生徒序列において上位五十位に入っているという事は、一般では例外無く一騎当千の実力を持っている。
その事実に絶対的な自身を持っていての行動だろう。
 きつめの顔立ちの生徒は完全に純を格下と見なしていた。
470 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/01(金) 01:52:50.89 ID:2VsSTUAO
純「五十位かぁ……。そりゃ凄いや」

 純は呆れたように溜め息をつき、悠然と部室内に割って入る。
そして序列五十位の生徒の真正面に立った。

純「何が凄いって……」

 手に持っていたフルーツオレを生徒の頭上で逆さにする。
液体は重力に逆らわずに盛大にぶち撒けられた。

「なっ……!?」

純「そんな順位で偉そうな態度をとれる事に感心しますよ」

 その時純の真後ろで二人の生徒が飛び掛からんとしていた。
純は振り向かずにその二人の頭を掴み、そのまま床に叩き込む。
砕け散ったコンクリートの床から血の噴水がわき出る。
471 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/01(金) 01:53:58.51 ID:2VsSTUAO
純「ほい。後はあなただけですよ、どうするんですか?」

「う、嘘でしょ……? アンタまさか……トップランカー!?」

 きつめの顔立ちの生徒は純を掻い潜って逃げようにも、腰が竦んで動けなかった。

純「私が何位だろうと関係無いじゃないですか。私はあなたより強い、それだけですよ」

 純はがくがくと身を震わせる生徒の髪の毛を掴み上げ、顔面に重い突きを捩じ込んだ。

純「まぁ力に数字をつける下らない思考のあなたじゃあ、私の次元に辿り着くのは無理ですよねー」

 へらへら笑いながら機械のように生徒の顔面に拳を捩じ込む。
その度に血が吹き出て、純の手が真っ赤に染まる。
472 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/01(金) 01:55:03.38 ID:2VsSTUAO
純「痛いですか? その顔じゃあもう整形しても戻らないでしょうね。でもあなたに売られた子達はもっと痛かったんですよ?」

 骨が砕け、顔の皮膚を突き破って肉が露出しても純は殴るのを止めない。

純「あの中には私のクラスメイトもいたんですよ。許せるわけないですよね。あなたが泣いても殴るのを止めませんよ」

 鼻はひしゃげ、肉にめり込んで陥没する。
歯は全てへし折られて唇は別の生き物のように醜く腫れ上がっていた。
既に戦い否、圧倒的暴力は終着している。

純「私が出張った時点であなた達は全員ゲームオーバーなんですよ」

 純は何の感慨も無さげにくるりと踵を返す。
そして最後に、誰も反応を示さない狭い部室に向けて呟いた。

純「生徒会執行部副会長『夢幻』鈴木 純。確かに依頼を完遂しましたっと」
473 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/01(金) 01:56:21.56 ID:WHDI8/I0
いいペースだ
474 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/01(金) 01:58:27.71 ID:2VsSTUAO
純ちゃん退院おめでとう! 良かったね!
純「なにをするだーッ!!」そんなノリ

とりあえず>>463の一番下の画像で猿みたいにオナニーしてきます
475 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/01(金) 02:47:49.47 ID:jo/RBYAO
純ちゃんマジクール
476 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/01(金) 03:01:12.21 ID:2VsSTUAO
そうだ、気がむいたから言っとく
次の投下ではやっと唯ちゃんの出番だよ。活躍するかは別として
477 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/01(金) 13:08:38.65 ID:1I4HsIAO
ムギと律は強くなるのだろうか
478 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/01(金) 19:56:08.17 ID:wDj3U2DO
六式使う純ちゃん見たいぜ
479 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/01(金) 20:17:56.51 ID:2VsSTUAO
何で俺は六式なんて美味しい素材を忘れてたんだろうか……
六式使わせるしかねぇよなこりゃ
ありがとう>>478
これからは>>478を魔王と呼んで皆で尊敬しよう!!

りっちゃんとムギちゃんにも格好良い出番考えてるから無問題
480 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/01(金) 20:57:28.35 ID:2VsSTUAO
 消毒液の臭いがつんと立ち込める真っ白な部屋の中に彼女は居た。

唯「…………」

 意識が覚醒したのはほんの数分前。
唯は気を失う前と今の状況のギャップに困惑し、言葉を紡ぐ事が出来なかった。

唯「つっ……」

 左胸で疼く鋭い痛みに唯は思わず顔をしかめた。
立花 姫子との戦いの最中に日本刀のような鋭い踵落としを迎撃したまでは覚えている。
だがそこから先の意識が混濁していて思い返そうにも妙な吐き気が募るばかりだった。

唯「ごほっ……」

 口に手を添えて咳を塞ぐ。
だがそれが唯に焦燥感を駆り立てさせた。
添えていた手には赤黒い血がべったりと付着していたからだ。
481 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/01(金) 20:58:08.56 ID:2VsSTUAO
唯「これって……」

 唯は起きてから今までずっと痛みを訴える自身の胸を見る。
薄手の白いブラウスの胸の部分が赤色に染まっていた。

唯「えっ? えっ!?」

 慌てふためきつつもブラウスの胸元を開いてゆく。
唯の左胸、つまり心臓の部分には仰々しい厚手の鉄板のような金具が取り付けられていた。
金具の隙間からは血が滲み、グロテスクな絵を描いている。
 痛みというものはその原因に気付いてから本来の痛みに気付くものだ。
唯もその例に漏れず、両腕で肩を抱き締めて胸の痛みに耐える。
482 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/01(金) 20:58:48.81 ID:2VsSTUAO
唯「うっ……くうぅぅっ! 痛いよ……痛いよぅ……!」

 唯は歯を食いしばり、固く目を閉じる。
瞑った瞼の隙間から大粒の涙が零れ落ちた。

唯「う……ぃ……っ! 助けて……!」

 唯の口から紡がれるのは最愛の妹の名だった。
掠れる声で懸命に憂の名を呼ぶもその努力は虚しく、悲痛の声が真っ白な部屋に木霊するだけだ。
 唯がそうしてしばらくの間身を焦がすような痛みに耐えていると、部屋の扉が開いた。

いちご「……起きた?」

 いちごは部屋に入るなりベッドの上で身体を捩らせる唯を死にかけの虫を見るような目で眺めた。
483 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/01(金) 20:59:49.11 ID:2VsSTUAO
唯「いちご……ちゃ……」

 唯は霞んでゆく視界に映るクラスメイトの名前を呼んだ。
だがいちごはあくまで自分のペースで、悠然と唯の元へ歩み寄ってゆく。

いちご「暴れないで」

 いちごは陸に揚げられた魚のように暴れる唯の身体を抑えると、部屋着のラフなスカートのポケットから注射器を取り出した。
そしてそれを唯の首筋に押し当て、針を刺す。

唯「うぐっ……!」

 いちごは注射器の中の液体を注入し終えるとそれを引き抜く。
ほぼ同時に唯の身体はびくりと跳ねた。

いちご「じきに落ち着くと思うから」

 注射痕にそっとガーゼを押し当て、上から撫でるように揉む。
484 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/01(金) 21:00:47.27 ID:2VsSTUAO
唯「あっ……はぁ……。はぁ……」

 唯は胸の痛みが急速に引いてゆくのを感じ、ゆっくりと呼吸を整えた。
瞼は熱に浮かされたようにとろんと垂れ下がっており、普段付けているヘアピンが外されて野暮ったくなった前髪は汗で濡れて艶めいている。

唯「いちごちゃん……」

 唯は自分の首に添えられた手を握り、ぎゅっと力を込めた。
生きているか死んでいるかも分からない自分の身体とは違って確かな存在感を持つその手の温もりは、唯の心を少しずつ穏やかにしてゆく。

いちご「大丈夫だよ平沢さん。あなたは生きてるから」

 いちごの言葉に対して、唯は力強く何度も頷いた。
485 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/01(金) 21:01:40.08 ID:2VsSTUAO
 痛みも幾分か引いて唯は何とか会話が出来る状態になった。

唯「あの……いちごちゃん。私どうしてこんな事に……」

いちご「あなたは立花さんと戦って心臓を潰されたの」

 いちごは予め用意していたように即座に、そして淡々と答えた。

唯「そんな! じゃあどうして私はまだ生きてるの!?」

 心臓を潰されたと聞いて唯は再び取り乱した。
だが唯の左胸はその動揺に耐えてはくれず、再び襲ってきた鋭い痛みに唯は顔をしかめた。

唯「うっ……くぅっ……!」

いちご「落ち着いて、傷に障る」

 いちごは無表情でそう窘めるとそっと唯の頭を撫でた。
486 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/01(金) 21:02:22.35 ID:2VsSTUAO
いちご「死にかけのあなたを救出したのは琴吹財閥の人達なの」

唯「琴吹財閥って……ムギちゃんとこの?」

 いちご「そう。あの家は医療方面にも精通してるみたい。あなたは琴吹財閥お抱えの医療チーム総掛かりで手術して、何とか一命を取り留めたの」

 事実無根、真っ赤な嘘だ。
その琴吹財閥は他ならぬいちごの手によって解体され、今は若王子機関となっているのだから。
 だが苦痛の渦の中に手を差し延べてくれたいちごの言葉を疑う事など、今の唯に出来る筈もない。

唯「そっか……。でもどうしていちごちゃんが?」
487 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/01(金) 21:03:11.80 ID:2VsSTUAO
いちご「実は……」

 いちごは少しためらうように間を置いて答える。

いちご「あなたと立花さんが闘うように仕向けたのは私なの。それで、せめてこんな事になっちゃった償いがしたいと思って……」

唯「…………」

 顔を伏せるいちごを見て唯はいたたまれない気持ちになった。
しばしの沈黙の後に、いちごが口を開いた。

いちご「暫く安静にしてないといけないから退屈だろうと思って、良いもの持ってきたんだ」

 いちごは軽く両手を合わせ、そそくさと部屋から出て行く。
そして十秒と経たない内に再び部屋の中へと戻ってきた。
488 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/01(金) 21:03:53.60 ID:2VsSTUAO
唯「わあっ……!」

 唯はいちごの手に抱えられたものを見て目を輝かせた。
胸の痛みなど既に頭の中には無いようで、無邪気な子供のようにはにかんでいる。

唯「ギー太!!」

 重厚な輝きを放つチェリーサンバーストのレスポールギター。
唯が愛用する楽器がいちごがら唯へと手渡された。

いちご「あの日平沢さんの席に置いてあったのを琴吹財閥の人が回収してくれたみたい」

 さらりと説明するといちごはソフトケースとピックも手渡した。
唯はそれを受け取ると意気揚々とギターを掻き鳴らし始める。
その音色は単純で拙いコード進行でありながらも、人の心を惹きつけるものがあった。
489 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/01(金) 21:04:35.65 ID:2VsSTUAO
唯「あぁ、カミサマお願い。二人だけの──」

 曲がサビに差し掛かったところで唯の歌声は途切れた。

唯「うっ……。ごほっ、ごほっ……」

 傍から聞くだけで辛そうな咳と共に唯の口から血が漏れた。

いちご「無理しないで」

唯「えへへ……。私ったら全然駄目だね。あっそうだ!」

 唯は何か閃いて手を打つと、ギターとピックをいちごに手渡した。

いちご「? どうしたの?」

 いちごは促されるままにギターを受け取るが、それに何の意図があるのか分かりかね、首を傾げた。

唯「いちごちゃんが弾いて聞かせてよ。私が教えるから」

 そう言うと唯は満面の笑みを浮かべた。
490 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/01(金) 21:05:24.61 ID:2VsSTUAO
 それから一時間と少しほど、二人はギターの練習をしていた。
始めはたどたどしかったいちごの指も次第に滑らかに動くようになり、曲のサビの部分の数小節は何とか弾けるようになっていた。

唯「じゃあ行くよ!」

いちご「……うん」

 唯が一、二、三、四と合いの手を打ち、二人の演奏が始まった。

唯「あぁ、カミサマお願い。二人だけの──」

 空間に五線譜が引かれ、歌声とギターの音色が駆け抜ける。

唯「Dream Timeください。お気に入りのウサちゃん抱いて──」

 部屋の中の空気が弾み、二人の心は躍り出した。

唯「今夜もオヤスミ──」
491 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/01(金) 21:06:00.31 ID:2VsSTUAO
唯「ふわふわ時間──」

いちご「ふわふわ時間──」

 サビが終わりに差し掛かり、自然といちごのストロークにも力が込もり、唯の肩も弾む。
演奏の終わりを告げるギターの音色が二人を余韻に浸らせた。

唯「やったね! 凄いよいちごちゃん!」

いちご「……そんな事ない」

 唯の賛辞の言葉に満更でもないような照れた表情を浮かべながらいちごは答える。

いちご「それじゃ私は行くから」

唯「あっ! ちょっと待って!」

 唯はギターを唯に渡し、踵を返して去りゆくいちごを引き止めた。

いちご「なに?」

 持っていたピックを真っ二つに折ると、唯は立ち止まるいちごにその片割れを差し出した。
492 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/01(金) 21:06:35.53 ID:2VsSTUAO
唯「色々してくれてありがとね、いちごちゃん。私……何にも返してあげられないから、せめてこれを受け取って」

 いちごの手を引っ張り強引気味にそれを握らせると、自分が持っている片割れを見せてはにかんだ。

唯「お友達の証だよっ!」

 目を線にして微笑む唯の顔を見て、いちごの瞳がほんの一瞬だけ揺らいだ。

いちご「…………」

 無言でピックを握り締め、今度こそいちごは部屋を去る。

いちご「……ありがとう」

 唯に背を向けたまま扉を開け、呟くように礼を言うといちごは部屋を後にした。
493 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/01(金) 21:07:19.33 ID:2VsSTUAO
いちご「斎藤」

斎藤「はい」

 いちごの呼び掛けに答え、斎藤が一瞬で現れた。

いちご「平沢さんの具合は?」

斎藤「細胞レベルで消し去られていた心臓が超スピードで再生しております。完治も時間の問題かと」

 二人の会話には一切の感情も込もっておらず、機械音声を交互に再生しているような声色だった。

いちご「流石は『龍』ね。制御システムの完成の目処は立ってる?」

斎藤「後は彼女の細胞のサンプルを摘出すれば、一ヵ月もかからずに完成すると思われます」

 いちごは斎藤の報告を聞いてようやく満足げに微笑み、親指の爪を噛んだ。
494 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/01(金) 21:08:09.28 ID:2VsSTUAO
いちご「ねぇ斎藤、あなたは平沢さんの事どう思う?」

斎藤「……私の仕事における保護対象、それ以上でも以下でもありません」

 問われた斎藤は一瞬だけ眉を顰めたものの、忠実に淡々と答えた。
いちごはそれをつまんない、と一蹴し、溜め息をつく。

いちご「私は嫌い。人外の身でありながらさも人間のように振る舞うなんて、おこがましいとは思わない?」

 先程の唯に渡されたピックの片割れを指で弾く。
ピックは綺麗な放物線を描いて耐寒加工が施された床に落ちた。

いちご「あの子に手を差し延べてくれる人なんて居やしない。片割れの『龍』も流石にここ、南極大陸までは追ってこれないでしょ」
495 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/01(金) 21:09:00.30 ID:2VsSTUAO
斎藤「その通りかと」

いちご「あなたの同意なんていらない」

 いちごは斎藤をぴしゃりと窘めた。

いちご「『龍』さえ手に入ればあの子に利用価値は無い。この氷土の底に埋めてあげるのもまた一興ね」

 いちごは斎藤と目も合わさずにその場を後にした。

斎藤「…………」

 その後ろ姿を眺め、いちごが完全に去った事を確認すると斎藤は床に落ちたピックを広い上げた。
 斎藤にはプラスチックで出来たそれが室内の光に当てられて哀しく輝いた気がした。

斎藤「……私には関係無い事だ」

 ピックをスーツのポケットにしまうと、自分の矜持を再認識するように呟いた。
496 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/01(金) 21:09:44.70 ID:2VsSTUAO
唯「早く良くなって皆と演奏しようね、ギー太!」

 肩の力を抜いてアルペジオ奏法でギターを鳴らしつつ、唯はそのギターに語りかける。

唯「今度ライブする時はいちごちゃんにも聴いて欲しいな。きっと喜んでくれるよね」

 何も分からないままに苦痛を強いられた。
 何も分からないままに孤独を強いられた。
 だが唯はいちごというメンターが現れたからこそ今の状況にも耐えられると信じてやまなかった。
 今自分に向けられている感情は愛情でもなく、同情でもなく、友情でもなく、純然たる悪意でしかない事も知らずに。
唯はひたすらに奏で続けた。
497 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/01(金) 21:10:59.34 ID:2VsSTUAO
踏んでくださいいちご姉さん!! そんなノリ
498 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/01(金) 21:43:59.18 ID:J6WQYhwo
その時、不思議なことがおこった!!そんなノリ
499 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/01(金) 21:49:42.05 ID:Fxp73gAO
今更だけど売られた生徒達は一人で熊倒せるぐらい強いからオッサンなんか……おや?こんな時間に誰か来たみたいだ
500 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/01(金) 21:57:32.55 ID:2VsSTUAO
>>499
ははは、そこまで読み込んでくれてるとこっちも嬉しいよ。はははっ。
ははは……ははっ……。

すんませんそこんとこ何にも考えてなかったです
適当にボコられて脅されてから売られた方向で一つ
501 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/01(金) 22:14:18.49 ID:wDj3U2DO
その辺はヤク漬けにされたんだよきっと

乙!
502 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/01(金) 23:19:07.40 ID:VtxF9ESO
>唯はギターを唯に渡し、踵を返して去りゆくいちごを引き止めた。

これ句読点の位置を勘違いすると唯が分身するww
503 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/02(土) 00:40:34.34 ID:ddWypYAO


斎藤の心境が気になるぜ
504 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/03(日) 04:40:45.27 ID:nAdObB.0
的確なカット割りとリズムの良い文体には毎回惚れ惚れしちゃうわ〜。

週刊連載モノのノリが上手く滲み出てて益々胸アツだし。

あぁ、もはや賛辞しか送れない。

乙。
505 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/03(日) 20:04:48.78 ID:Ybpr.2AO
最近>>1がどんなノリなのか楽しみな俺がいる
506 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/03(日) 21:57:31.50 ID:lSmbnEAO
 一方、澪が恵と『絶対の彼方』を越える修行を初めて三時間が経った頃。
律、紬、梓の三人は軽音部部室にて茶を啜っていた。
部室内の空気は鬱蒼としており、通夜のような雰囲気を醸し出している。

紬「お茶のおかわりいる?」

律「……ああ、頼む」

梓「…………」

 誰かが言葉を発しても会話が続く事は無く、時折聞こえる三人の蚊が鳴くような声は部室の空気を更に重くした。

梓「今日はもう帰ります」

律「…………」

 身勝手な早退すら引き止める者は一人も居ない。
梓はそそくさと席を立ち、荷物を整えると部室のドアに手をかけた。
507 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/03(日) 21:58:05.83 ID:lSmbnEAO
 梓がドアノブを捻ろうとしたその時、扉の奥に居る者の手によって扉は開かれた。

梓「いたっ!」

 ぼんやりと気を弛めていた梓はそれに反応出来ず、盛大に額をぶつけた。

純「あれ?」

 扉の向こうから顔を覗かせたのは純だった。
普段二つ結びにしてある髪の毛は解いており、所々が跳ねている。
学校指定のブレザーを脱いでブラウスの胸元をはだけさせ、額には汗が滲んでいた。

紬「……何か用かしら?」

 腰を据えていた紬が立ち上がり、ハンカチを持って出迎える。
純は差し出されたハンカチを受け取り、額の汗を拭うと一息ついた。
508 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/03(日) 21:58:38.14 ID:lSmbnEAO
純「はぁ〜、もう疲れましたよ。授業が終わってから今までの短い間に学校中駆け回ってましたから」

 紬に促されるまま普段澪が座っている席に座ると、椅子に深くもたれる。

律「ははっ、ジャズ研はいつから陸上部になったんだよ」

 律は鬱蒼とした空気を悟られぬように敢えてフランクに純に接した。

純「マラソンしてたわけじゃないんですよ? 和先輩が居ない間に沸いてきた不良生徒達を潰して回ってたんですから」

律「はぁ? それこそジャズ研の活動じゃないだろ。そりゃ生徒会の領分だ」

純「だから生徒会の仕事なんですよ」

 皿に盛られたおから炒めを頬張りながら訝しげな表情を浮かべる律に対して、純はぴしゃりと答えた。
509 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/03(日) 21:59:16.66 ID:lSmbnEAO
純「ジャズ研部員兼生徒会副会長。それが今の私です」

梓「はぁ〜〜っ!? 聞いてないよそんなの!!」

 さっきまでぶつけた額を擦っていた梓が滑り込むように純に詰め寄る。

梓「大体生徒会の執行部がトップランカーでもない純に務まる筈ないじゃん!!」

 純のブラウスの襟首を掴んで前後に揺らす梓。
純もそれに抵抗せず、間抜けな呻き声を上げながら身を委ねる。

純「そりゃ〜トップランカーじゃないけど〜。『絶対の彼方』越えてるから〜、別に良いじゃんか〜」

 間延びした純の声が告げた衝撃の事実に、部室の空気が凍り付いた。
510 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/03(日) 21:59:43.72 ID:lSmbnEAO
律「トップランカーじゃないのに『絶対の彼方』を越えてる……? 意味わかんねーよ…」

 越えたくても越えられない、自分が人間である限り越える事すら馬鹿らしくなるような序列トップスリーの壁。
そんな認識が頭にこびりついてしまっている三人には、純が言っている事の意味が理解出来なかった。

純「ここに来た理由はそれに関係してるんですけどね。まぁ簡単に言うと……」

 注がれた紅茶を一気に飲み干し、純は言った。

純「今ここに居る全員が纏めてかかってきても私には勝てないって事ですよ」

 その言葉に真っ先に反応したのは律だった。
511 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/03(日) 22:00:25.43 ID:lSmbnEAO
律「……鈴木さん。もう一回同じ事言う勇気はある?」

 引きつった笑みを浮かべ、今にも飛び掛からんとしている律。
だが純はそれを見て軽く溜め息をつくだけだった。

純(やっぱ悪者になっちゃう感じかぁ……。でも和先輩にはスパルタで行けって言われたしなぁ)

 心の中でぼやきつつも純は律から目を切らなかった。
物怖じするどころか逆に律の憤りすら一蹴して打ち砕く。
純の態度からはそんな強さが滲み出ていた。

純「はっきり言いますと、先輩達ってダメダメなんですよね」

 律が椅子を蹴飛ばして乱暴に立ち上がった。
それと同時に二発の銃声が鳴り響いた。
512 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/03(日) 22:01:06.20 ID:lSmbnEAO
律「……何のつもりだよ梓」

 放たれた二発の弾丸は律の目の前で衝突し合い、軌道を変えて壁にめり込んだ。

梓「律先輩は座っててください。あなたの手を煩わせる必要は無いです。今私の腹腸は煮えくり返ってますから」

 梓はそう言って純のこめかみに向けて発砲した。
だが銃弾は純の頭を透り抜けたかのように後ろの壁に突き刺さる。

純「灘神影流、弾滑り。なーんちゃって」

 次の瞬間梓の手の中の銃が高々と弾き飛ばされていた。
言うまでもなくそれをしたのは純だ。
有無を言わせずに武装解除させられた梓は動揺から大きく目を見開いた。
513 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/03(日) 22:01:40.53 ID:lSmbnEAO
純「ほいっ」

 座ったまま椅子の前足を浮かせ、くるりと回転しつつ梓の足をひっかける。

梓「──っ!?」

 軽く蹴られた膝の裏に鈍器で殴られたような衝撃が走り、梓は膝を折る。

律「──っんにゃろ!」

 腰を落とすと同時に律は部室から姿を消した。
その残像すら残らない超スピードを。

純「…………」

 純は目で追っていた。
瞳の動きからそれを察した律は改めて対峙する敵の強大さを実感する。

律「ブラストビート!!」

 自身を鼓舞するように叫ぶと、律は神速のスピードから成る一万の突きを放った。
514 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/03(日) 22:02:26.03 ID:lSmbnEAO
律「なっ!?」

 律が純の真後ろから放ったその突きを、純は振り向かずに人指し指一本で受け止めて見せた。
すかさずもう片方の手で振り向き様に律を掴もうとする。

律(やっべ……っ!)

 慌てて身を捩らせ、超スピードで部室の隅まで逃げる律。
襟首に掠った純の手の感触が律の心に毒を盛った。

律「何だよそれ……」

 律は両腕で肩を抱き締め、がくがくと身を震わせている。
コンマ一秒にも満たない僅かな身体の接触が、律の闘争心を叩き折った。

純「…………」

 既に律に興味を無くした純は未だ動じていない紬の方を見た。
515 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/03(日) 22:03:10.36 ID:lSmbnEAO
紬「私は遠慮しておくわ。勝てる気がしないもの」

 紬は両手をひらひら振って降伏の意を示した。
ポーカーフェイスを装ってはいるものの、机に隠れた両足は小刻みに震えている。

純「……まぁこんな感じですね。『絶対の彼方』を越えるとこんな事も出来ちゃうんです」

律「だから意味わかんねーよ。『絶対の彼方』ってのは……」

純「越えたくても越えられない。自分が人間である限り越える事すら馬鹿らしくなるような壁。まぁそう思ってる内は越えられない、というより越える気が無いんでしょう」

 遥かな高みから人の群を眺めるような冷めた目付きで純は言う。
516 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/03(日) 22:03:51.23 ID:lSmbnEAO
純「物の見方次第であっさり越えられる壁なのにね」

梓「…………」

 眉一つ動かさない徹底した無表情を決め込んだまま、純は立ち上がり部室の出口に向かう。

純「あ、そうだ。肝心な用件を言うの忘れてました」

 跳ねっ放しの髪の毛を普段通り二つ結びに括ると、純は頭だけ律達の方へと向き直った。

純「一後輩に無様に頭を下げてでも強くなる覚悟があるなら、『絶対の彼方』の先へ連れてってあげますよ」

梓「出てって」

 他の者の意見も聞かぬまま、梓は銃口を純に向けた。
純は銃口を軽く一瞥した。

純「……まぁ良いや。参考までに、澪先輩にはその覚悟があったみたいですけどね」
517 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/03(日) 22:04:35.27 ID:lSmbnEAO
 返事を待たずに純は部室を後にした。
そのまま数歩進み、肩にかけたブレザーの胸ポケットから携帯電話を取り出す。

純「あ、和先輩? やっぱり私こんなの向いてないんじゃないですかねー。こんなに人の恨みを買ったのは生まれて初めてですよ、胃がムカムカします」

 通話ボタンを押してきっちり三コールで応対した通話相手、和は電話の向こうで溜め息をついた。

純「いつ退院なんで──。えっ、明日ですか!? じゃあ私と代わって下さいよ〜!」

 通話を続ける純の表情に先程までの冷たい色は無い。
純を知る者全員がこれでこそ純だと思えるような呑気な顔だった。
518 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/03(日) 22:05:19.44 ID:lSmbnEAO
 時という概念すら失われているのではと錯覚してしまう真っ暗な部屋の中に彼女は居た。

「…………」

 彼女は手に持つ包丁で躊躇無く自分の左胸を突いた。
皮を破り、肉を裂き、心臓を穿つ嫌な音が狭い部屋の中に木霊した。

「…………」

 そして躊躇無くそれを引き抜く。
傷口から血が噴き出し、薄汚れた包丁をてらてらと輝かせる。
赤い包丁をうっとりと眺めた彼女は、傷口の中に指を突っ込もうとした。

「…………」

 数秒前に自分で付けた致命傷が既に完治している事を確認すると、彼女は包丁を手放した。

「……死にたいよ」

 究極、故に負ける事を許さない自身の身体を、彼女は恨めしそうに眺めた。
519 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/03(日) 22:06:36.98 ID:VMIz/mQo
この平沢唯すごいよ!さすが(ry
520 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/03(日) 22:07:36.68 ID:lSmbnEAO
ウイショット・アセロラオリオン・ヒラサワアンダーブレード。そんなノリ。
早いもんでこのスレも折り返し地点。
でもこのssはまだまだ続くんじゃ
521 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/03(日) 22:09:21.83 ID:Kc6tOsSO
まだまだ続け

テンポが良くていい
522 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/03(日) 23:00:09.82 ID:ZFR2qwco
ういいいいいいいいいいいいいい!!!!!
523 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/03(日) 23:28:30.86 ID:teSrTMAO
相変わらず純ちゃんは無双可愛い
524 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/03(日) 23:37:59.35 ID:lNO6qGs0
すげぇ面白いッス
このわくわく感はドラゴンボールのアレに似ている
525 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/04(月) 02:20:03.68 ID:FxYU8.AO
この憂ちゃんはどっかの吸血鬼と違って心臓を取られることも無いなwwwwwwww
526 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/04(月) 04:04:30.21 ID:QCgJikk0
>>520
>早いもんでこのスレも折り返し地点。

否、そんなモノは絶対の彼方に置いてくるんだ!!

乙。
527 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/04(月) 21:31:30.36 ID:iCKtFQAO
誰かこれ漫画化しろよ。
画力が低い俺は一時間で心がおれた
528 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/05(火) 00:54:25.91 ID:tPUL0oAO
恵「…………」

 時刻は午後十一時、あと数分で日付が変わろうとしていた。
 澪と恵は昼過ぎに修行を開始した時と変わらない体勢のまま立ち尽くしている。
丸半日闘気を放出し続けていた恵の表情からは疲労の色が垣間見られた。

澪「…………」

 それよりも深刻なのは澪の方だ。
流れる汗は次第に衣服に染み込んでゆき、日が沈む頃には衣服は黒ずんでいた。
首筋から身体を流れ、足を伝って畳に染み込む汗は濁った水溜まりを作っている。
 恵の手首に巻かれた腕時計の音だけが鳴り響く。
529 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/05(火) 00:55:15.66 ID:tPUL0oAO
 時計の長針と短針が頂点で交わった。
それと同時に恵は澪の首筋に添えた模造刀をそっと離す。

恵「お疲れ様」

 腰に差した鞘にそれを納め、恵は衣服の乱れを整えた。

澪「…………」

 終わったという実感など澪には無かった。
 闘気を当てられ続けたこの半日の間に自分が何千、何万回殺されたか。命から生まれるエネルギーのやり取りの中で垣間見た疑似的な『死』。
それは澪の心を休ませる事を許さなかった。

恵「怖かったでしょう。ごめんね? もう大丈夫だよ」

 恵は汗に塗れた澪の身体を強く抱き締めた。
一瞬だけ抵抗するように澪の身体が跳ねたが、やがて恵に身を預ける。
530 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/05(火) 00:55:51.24 ID:tPUL0oAO
 二人が無言で抱き合っていると、突如恵の服の胸ポケットが震え出した。

恵「もしもし」

 震える携帯電話を取り出し、二、三分会話してから電話を切る。
そして恵は呆れたような溜め息をついた。

恵「あの子も心配性ね。抜け目無いのは良いけれど、派手な心配たまに傷ってやつかな」

澪「……?」

 澪は何度か瞬きして首を傾げた。

恵「あれ、分からなかったかな? 一個違いでもジェネレーションギャップってあるんだね」

 自嘲気味に微笑むと、恵は澪の肩を抱いたまま歩き始めた。

恵「じゃ、お風呂入ろっか」
531 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/05(火) 01:07:17.99 ID:tPUL0oAO
 個人の家では考えられないような大きな檜の浴槽の中で、二人は一糸纏わぬ姿で肩を並べていた。

澪「今日は……ありがとうございました」

恵「良いのよ。私が好きでやってる事だし」

 あまり面識のない先輩と風呂の中で肩を並べている事に緊張し、澪はおずおずと口を開いた。それに対して恵はあっけらかんに答える。

恵「それよりも、今の感覚はどう? 世界が変わったでしょう」

澪「……はい。何だか世界の中で私だけが浮いてるような、正直言って……」

 澪はそこで言葉を区切り、顔を伏せて言った。

澪「寂しいです」

 それが澪の率直な感想だった。
『絶対の彼方』を越える覚悟は出来ていた。
そしてそれに対して後悔など無い。

恵「…………」

 それでも胸に巣食うざわめきに心を苛まされる。
そんな澪の感情が、今の恵には手に取るように理解出来た。

澪「…………」

 ほんの少しだけ、二人の間の空間を静寂が支配した。
532 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/05(火) 01:08:00.00 ID:tPUL0oAO
恵「そうね。そう考えると『絶対の彼方』を越えた人は、ある意味被害者なのかも」

 澪はその言葉に対して何も返さなかった。だが否定もしない。

恵「それも踏まえて聞いておこうかな。世界から取り残されてでも力を欲しがる理由は何なの?」

 恵は湯船の縁に腰掛け、水が滴る髪の毛を後ろに払った。
一糸纏わぬその姿が澪には後光を帯びた神々しいナニカに見えた。

澪「…………」

 見つめる事すら躊躇してしまう美しい身体が目の前にある事に、澪は思わず息を飲んだ。
533 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/05(火) 01:08:30.92 ID:tPUL0oAO
澪「私は……」

 澪は頭を下げたまま口を開いた。

澪「私は、揺らぎたくないんです」

恵「…………」

澪「人前で怒ったり、泣いたり、素の自分を人に見せるのが怖かったんです。だから人前では優秀を装っていました」

 肩は震え、湯の中で握り締めた拳には力が込もる。

澪「そうしている内についた二つ名は『鉄壁』でした。絶対に揺らぐ事のない大きな壁、そこに私が目指していたものがあった筈なのに……」

 澪は内より込み上げる何かを抑える事が出来なかった。
瞳から零れ落ちた一粒の涙が水面にぶつかり、消える。
534 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/05(火) 01:09:14.15 ID:tPUL0oAO
澪「偽りの強さで塗り固めた壁の中で……私はいつも揺らいでいました……っ」

 恵が震える澪の肩をそっと抱き寄せる。
柔らかいお互いの身体の感覚を確かめ合うように、世界から取り残されたお互いの存在を確かめ合うように。

澪「私が負けて……。唯が居なくなって……。矮小な自分が嫌になって……」

 言葉はたどたどしく、支離滅裂になりつつあった。
だが恵にはそんな澪の感情が痛いほどに理解出来た。
桜高生徒会長という重役を担っていた当時の自分の思い、悩み、それらが今の澪と重なる。

恵「……うん。うん」

 そっと澪の頭を撫でた掌に艶やかな黒髪が絡まり、すり抜けてゆく。
535 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/05(火) 01:09:54.57 ID:tPUL0oAO
恵「だからこそ『絶対』に揺るがない本当の自分が、力が欲しい」

 心の中での独白が見透かされていた事に澪は思わず顔を上げた。

恵「そして私が見つけた答えは『絶対領域』だった。……あなたが見つける答えは何なのかな?」

 上げた顔を覆うように、恵は澪の首に手を回した。

恵「分かったわ。あなたが答えを見つける時まで見届けさせてもらおうかな」

 手に込めた力を緩め、恵は澪の目を見つめた。

澪「……ありがとうございます」

 その時澪の胸の中にある感情が過ぎった。
澪には曖昧模糊としたその感情に名前をつける事は出来なかった。
536 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/05(火) 01:12:31.47 ID:tPUL0oAO
恵「今のあなたは力を開拓しただけの状態。ここから先は──」

 そこまで言いかけて恵は澪の異変に気付いた。

恵「……どうしたの?」

 自分の目の前で目を閉じた澪。そしてその澪が自分から手を背中に回してきた事に恵は驚いた。

澪「自分でもよく分からないんです。でも……今だけは、甘えさせてくれませんか?」

 決して褒められた行為ではない。
 気の迷いから成る一過性の感情だ。
 そこまで分かっていながらも澪は自分の感情を抑えられなかった。

恵「んっ……」

澪「……ぅん」

 澪の唇が吸い寄せられるように恵の唇と重なった。
求め合うように、与え合うように、混ざり合うように、。
二人の唇は静かに交ざり合う。
537 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/05(火) 01:13:57.20 ID:tPUL0oAO
呼ばれて飛び出て曽我部ちゃん。そんなノリ
ガチエロな百合はあんまり好きじゃないけどこういう緩いのは好物だ。書いててめっちゃ楽しかった
538 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/05(火) 01:23:22.11 ID:XN.g0UAO
相変わらず面白いなぁ
539 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/05(火) 02:21:42.10 ID:vCQ9kYAO
ムギちゃんをあのようなキャラにしといて何を言いますかwwwwww
540 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/05(火) 11:48:27.84 ID:IzaIFew0
乙!次も期待。
近いうちに-トップスリーとか『』で喋る大嘘憑きが出てくるんだよな?
でてくると嬉しいな♪超能力バトルになっちゃうけど
541 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/05(火) 16:36:05.50 ID:ftO5LcSO
地の文の表現が上手いと思うんだ
バトルや感情って文章にしにくいと思うからすごい

支援
542 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/05(火) 20:07:38.29 ID:KXFM6ggo
書きこなれてる感じするよな
なにはともあれ支援
543 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/05(火) 20:54:41.45 ID:tPUL0oAO
 一方日付が変わった頃、柄の悪い不良達が溜まっている騒がしいファミレスの一席で、立花 姫子は一人コーヒーを啜っていた。

姫子「…………」

 服装は黒を基調としたパンツルック。
頬杖をついて物憂げにコーヒーを啜るその姿は容姿と服装が相俟って、実年齢より大人びた色気を放っている。
 そんな少女が四人掛けのテーブルで一人座っているのだ。
当然盛りのついた不良達が姫子を放っておく筈もない。

「ねぇお姉ちゃん今一人かい?」

「良かったら俺ら今からカラオケ行くんだけど、一緒にどう?」

 卑しい笑みを浮かべた男が三人。四人掛けのテーブルを埋めた。
544 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/05(火) 20:55:14.77 ID:tPUL0oAO
姫子「ごめんなさい。もうすぐ友達が来るんで……。退いてもらえますか?」

 姫子は物腰低くし、丁寧にあしらおうとする。
だがこの手の人間がその程度で引き下がる筈もない。

「なら友達も一緒に行こうよ。女の子だろ?」

「髪の毛綺麗だねー。触ってもいい?」

 逆に馴々しい態度で接してくる男達。
それに痺れを切らした姫子は頭を撫でてくる男の手首を掴み、強く捻った。

「あがっ──」

 男は間抜けな声を上げ、激痛が走る自身の手首を見た。

姫子「病み上がりで機嫌が悪いんです。退いてくれないなら殺しますよ」

 手首から先がだらりとぶら下がっている。
そして室内なのに姫子の周囲を取り巻く嫌な風が、男達の恐怖心を駆り立てた。
545 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/05(火) 20:55:51.67 ID:tPUL0oAO
姫子「……三つだけ数えますね」

 姫子が一つと言おうとした時には、既に男達は席を立って駆け出していた。
そして男達と丁度入れ違いで、二人の桜高生徒がファミレスに入ってきた。

アカネ「久し振りだね、具合はどう?」

エリ「お、しばらく見ない間に痩せた?」

 かつての戦いの引き金を引いた張本人とその手駒となった者。
瀧 エリと佐藤 アカネ、立花 姫子が同席した。そして──。

姫子「ほんと、久し振りだね『三人』とも。しずかなんてあの日以来話してもなかったよね」

 姫子が自分の存在を認識している事を確認すると、しずかが姫子の隣に現れた。
546 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/05(火) 20:56:44.33 ID:tPUL0oAO
しずか「流石だね。完璧に気配を消してたのに」

姫子「ふふ、しずかも頑張ってるみたいじゃん。だからこそここに来たんでしょ?」

 バレー部勢の二人を差し置いて談笑に興じる姫子としずか。
覚悟を決めて絆を手放した二人が、再び無くしたモノを拾い上げた瞬間だった。

姫子「次は風子か木村さん辺りかな。無理はしないでね」

しずか「あはは、全部お見通しなんだね。姫子には敵わないや」

姫子「目を見れば分かるよ。トップランカー、なれると良いね」

 激励と呼ぶにはやや淡白な励ましは、確実にしずかを勇気づけた。
547 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/05(火) 20:57:33.78 ID:tPUL0oAO
姫子「信代は?」

 軽音部殲滅に駆り出された戦士の内の一人、『岩窟王』中島 信代の姿が見当たらない事に姫子は疑問を覚えた。

アカネ「治療が追い付かないから大手の病院に移動だって」

 律に片目を毟り取られ、顔面から脳にかけて深刻なダメージを追っていた信代は最早復帰は絶望的とまで囁かれていた。
それでも命を取り留め、徐々に快方に向かっているのは彼女の恵まれた体力と体躯の賜に他ならない。

エリ「こんな事になっちゃった原因の私が言うのもあれだけど、生きててくれて良かった」

アカネ「生きてさえいれば何度でもやり直せる。私達があの子に償いをする事もね」
548 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/05(火) 20:58:29.83 ID:tPUL0oAO
姫子「原因……? 償い?」

しずか「……?」

 姫子としずかはほぼ同じタイミングで首を傾げた。

アカネ「……単刀直入に言うね。軽音部が他の部を乗っとろうとしてたのって、嘘なの」

エリ「どんな罰でも受けます。許してくれなくても良い、でも聞いて」

 交互に途切れる事なく紡がれる言葉からは二人の結束と同調が垣間見られた。
 そして二人の口から軽音部殲滅作戦の発端から自分達がその中で経験した事のあらましが語られた。
一切謀る事なく、一切躊躇する事なく。
それが禊であると言わんばかりに二人は懺悔する。
549 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/05(火) 20:59:03.80 ID:tPUL0oAO
 件の責任は私達が負う。
その言葉を幕引きとして二人の懺悔は終わった。

姫子「…………」

しずか「…………」

 沈黙が空間を支配する。
しずかは気を遣うように姫子の顔色をちらちらと伺っている。
姫子はすっかり冷めてしまったコーヒーカップの中身に映る自分の顔を、穴があきそうな程にじっと見つめていた。

アカネ「病み上がりなのにこんな勝手な事に付き合わせてごめんね」

エリ「私達……。死ぬ覚悟くらいなら出来てるから」

 あくまで淡々と、事務作業をこなすような二人の語り口に、ついに姫子が返答した。
550 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/05(火) 20:59:38.54 ID:tPUL0oAO
姫子「随分あっさりなんだね。ここに居る全員が死んでたかもしれないのに」

 鋭い眼光がエリとアカネを居抜く。
二人は死を覚悟していたにも関わらず、人としての生存本能からくる恐怖に震えた。

姫子「過ぎた事を今更どうこう言うつもりは無いけど、傷付いた人達を理由にして中途半端な覚悟を見せつけるのは止めて欲しいな。はっきり言って不愉快だよ」

 拭える筈もない死の恐怖を生半可な覚悟で克服したつもりになっている二人の態度に、姫子は激しく憤る。
自分達なりの覚悟をあっさり否定された二人も、静かに怒っていた。
551 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/05(火) 21:00:12.46 ID:tPUL0oAO
姫子「文句があるならお望み通り殺してあげようか?」

 姫子はずいっ、とテーブル越しに身を乗り出した。
そして両手の人指し指をそれぞれ二人の額に押し当てた。

エリ「……ぁ」

アカネ「い……いやっ」

 唐突に襲いかかる死の恐怖に二人は声を絞り出した。

姫子「さよなら」

 姫子の言葉が二人にはやけにスローに聞こえた。
額に当てられた指に力が込められるのが分かる。
二人の頭はゆっくりと押されてソファの背もたれにぶつかり、ボールをついたように跳ね返った。

アカネ「…………」

エリ「…………」
552 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/05(火) 21:00:59.00 ID:tPUL0oAO
 身体中から汗が噴き出て、心臓が激しく暴れている。だが──。

姫子「なーんちゃって」

 二人は生きていた。
死んでしまうと思った直後に生まれた生への執着だけが、二人の中に残った。

姫子「心の弱さを責める事なんて私には出来ないよ。それでも償いたいって言うんなら……」

 冷めたコーヒーを飲み干して姫子は言った。

姫子「あなた達の命、私に預けて欲しいの」

エリ「え?」

 流れる汗を拭いつつ、エリが反応した。

姫子「私気付いちゃったんだ。桜高のいざこざなんてちっぽけなものじゃない、もっと大きな事が起ころうとしてる事に」
553 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/05(火) 21:01:29.00 ID:tPUL0oAO
 圧倒的暴力によって叩き潰された後に聞いた今回の件の結末。
自分が手にかけた唯がいちごに拉致された事が姫子の心に猜疑心をもたらしていたのだ。

姫子「それこそこんな事に関わったら死んじゃうかもしれない。でも聞いて、できたら協力して欲しい」

 エリ、アカネ、しずかの三人は無言で、しかし力強く頷いた。
姫子はそれを見て安心したように胸を撫で下ろして微笑んだ。

姫子「じゃあ話すね。あの日私と唯が闘った時の事……」

 緩めて顔の筋肉を引き締め、一瞬だけ身震いしてから姫子は言った。

姫子「唯の中に居る『モノ』の事を」
554 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/05(火) 21:06:01.21 ID:tPUL0oAO
メタルギアりっちゃん完結おめでとー! そんなノリ
次は大事なとこだからじっくり吟味して書きたい
だからもしかしたら一日、二日空くかもしんね
まぁ書くのが遅いのはご愛嬌という事でここは一つ
555 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/05(火) 21:06:10.75 ID:wtLibmso
もう完全に今更だけどバレー部トリオで一人登場すらしてない子が・・・
556 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/05(火) 21:07:50.43 ID:tPUL0oAO
>>555
勿論あの子の出番もあるぜ。しばし待たれよ
557 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/05(火) 21:15:08.02 ID:wtLibmso
おおぅ!じゃあ期待してますね
ここまで大がかりな物語だとそれだけで大変かもしれないけど3-2のみんなや周りの人達は極力カバーしてほしい
558 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/05(火) 22:13:00.45 ID:/qlzk8Eo
期待して待ってるよー!!!
559 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/05(火) 23:23:31.25 ID:sdYAiAAO


可能なら褐色ちゃんも出してあげてください
560 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/05(火) 23:43:16.23 ID:tPUL0oAO
>>559
大丈夫だ。多分……多分、いや絶対。
いややっぱり多分大丈夫だ、うん
561 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/06(水) 11:25:35.28 ID:5dHvNIAO
さすがにこの先、死人がでそうだなぁ・・・
562 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/06(水) 20:27:11.36 ID:vs.PzeYo
角煮のけいおんスレから
http://img29.pixiv.net/img/spiketail/13582914.jpg
563 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/07(木) 19:35:30.43 ID:RK19B6AO
姫子「ようこそ『絶対の彼方』へ」

 姫子と唯は静かに対峙していた。
グラウンドに吹き付ける風は嵐のように強い。
それに相反するように唯が纏う紫電は一層強く輝く。

姫子「っ──!」

 姫子は大気の乱れを感じ、咄嗟に身を捩る。
それとほぼ同時に唯は姫子が居たところまで潜り込んでいた。

唯「あはっ」

 唯は歪な動作で顔を上げた。
瞳は餌を前にした獣のように爛々と輝いており、半開きの口からは舌が垂れている。
一筋の光を残して唯は姫子の顔面目掛けてフックを放つ。
姫子はそれをすんでのところで掌で受けるが……。

姫子「い……っ!?」

 唯の拳に触れた瞬間強烈な電気が姫子の身体に流れた。
電流、電圧、共に計り知れない規模のそれは姫子の身体を蹂躙する。
564 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/07(木) 19:36:03.30 ID:RK19B6AO
唯「ボディがお留守だよ!」

 電気の衝撃に耐える事に手一杯で、姫子はガードを疎かにしていた。
そんな重大な隙を唯が見落とす筈もない。

姫子「がはっ──!?」

 衝撃に甘んじて吹き飛ぶ事も許されず、姫子の身体は一層強い紫電に食らい尽くされる。

唯「あはははははははっ!!」

 唯は堰を切ったように笑い声を上げた。
紫電と闘気が混ざり合い、形成されたモノが見え隠れする。

姫子「へらへら……すんな!」

 身を焦がす痛みに耐え、姫子は唯の側頭部に回し蹴りを放った。
鈍器のような威力を持った足が唯に突き刺さる。
565 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/07(木) 19:36:35.72 ID:RK19B6AO
唯「あは──」

 狂った笑みを浮かべたまま唯は吹き飛んだ。

姫子(何これ……意味分かんないよ!)

 先程まで姫子の中にあった強者と戦える悦びは跡形も無く消え去っていた。
そしてそれの代替として自分の身を脅かす者に対する殺意が沸く。

唯「…………」

 緩慢な動作で身を起こした唯は、きょろきょろと辺りを見回して、その焦点を姫子に合わせた。

唯「姫子ちゃん……」

 姫子を見据える瞳には一切の光も宿っておらず、黒曜石を嵌め込んだようなそれは静かに揺らいだ。

唯「タのシイ──ネ!」

姫子「っ!?」
566 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/07(木) 19:37:05.76 ID:RK19B6AO
 唯は既に唯ではなくなっていた。
闘争心を吐き出し続けるただのモノ。
そこに人間らしさなど介入する余地も無かった。

姫子(殺す……?)

 それは容易い事ではないが出来ない事でもない。
『絶対の彼方』を越えたばかりの唯と姫子では潜在能力では唯に分があるものの、経験が違い過ぎる。
姫子がその気になれば二、三分で事が済むだろう。

唯「あっははハハハハはっ!!」

 姫子の心の内の葛藤も知らずに、唯は身を跳ねさせて笑う。
広げた両手からは紫電が放出され、地面を爆散させてゆく。
567 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/07(木) 19:37:33.81 ID:RK19B6AO
唯「惚けてるね〜。余裕なのかな? かな?」

 唯の姿が姫子の視界から消えた。
姫子は既に唯を目で追う事を放棄し、闘気の流れで動作を察知している。

唯「エンハンサー!!」

 姫子の頭上で唯は拳を振りかぶっていた。
右腕に紫電を纏い、一気に動作を加速させる。

姫子「〜〜っ!?」

 初速と最高速度の差が大き過ぎて対応が遅れる。
頭上で交差させ、唯の拳を受け止めた腕に衝撃が走る。

唯「あっははははっ!! 最っ高だねぇ!」

 姫子の腕を中心にして衝撃が波のように広がる。
痛みが全身に到達するのに一秒と掛からなかった。
568 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/07(木) 19:38:06.48 ID:RK19B6AO
 衝突と同時に身体を流れる電気を相手に流し込む。
衝撃は波となって響き、広がる。
それが衝撃拡散型戦闘スタイル『エンハンサー』だ。
 『絶対の彼方』を越えて自分の闘気の特性を理解した上で即座にこのスタイルを閃いた唯の才能は、今や武神の域に到達しつつある。

唯「か〜ら〜の……!」

 唯は押し当てた拳に力を込め、その反動で宙返りする。
そして地面に足が着くと同時に姫子の懐へ潜り込む。

唯「トレモロ!」

姫子「やば──っ!?」

 下から突き刺すような軌道を描く唯の拳を見て姫子は焦る。
569 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/07(木) 19:38:34.08 ID:RK19B6AO
 姫子は咄嗟に身を屈めて拳を躱す。
頭上で拳圧が広がるのが分かった。

姫子(私の技をコピーした……!?)

 一発の突きを放つ刹那に走った無数の衝撃。
それは『風哭き』と呼ばれる姫子が最も得意とするスピード特化の戦闘スタイルだった。

姫子「こんの……っ!」

 片手を地面につき、その手を軸にして鎌のような足払いを仕掛ける。
ガードという概念すら捨て去ってしまっている今の唯にそれを避けられる筈もなく、そのまま盛大に転ぶ。

唯「あ?」

 唯が地面に衝突するよりも早く、姫子は唯の両腕を掴む。
570 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/07(木) 19:39:25.73 ID:RK19B6AO
 姫子は咄嗟に身を屈めて拳を躱す。
頭上で拳圧が広がるのが分かった。

姫子(私の技をコピーした……!?)

 一発の突きを放つ刹那に走った無数の衝撃。
それは『風哭き』と呼ばれる姫子が最も得意とするスピード特化の戦闘スタイルだった。

姫子「こんの……っ!」

 片手を地面につき、その手を軸にして鎌のような足払いを仕掛ける。
ガードという概念すら捨て去ってしまっている今の唯にそれを避けられる筈もなく、そのまま盛大に転ぶ。

唯「あ?」

 唯が地面に衝突するよりも早く、姫子は唯の両腕を掴む。
571 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/07(木) 19:40:21.56 ID:RK19B6AO
 そのまま腹這いに唯を叩き付け、その小さな背中に跨る。

姫子「逃がさないよ!」

 全力で抵抗する唯を押さえ付け、姫子は唯の身体を海老反りの状態にきめた。

唯「あ……ぐ……っ!」

 ぎりぎりと圧迫される背骨が悲鳴を上げる。
声にならない声を漏らしながらも、唯は抵抗を止めない。

姫子「負けを認めなよ。このままじゃあ背骨折れちゃうよ?」

 関節技やその類の技は力任せに抵抗したところでそう簡単に解けるものではない。
こうなってしまえば唯の命は姫子の気分によって転がされる。
そのまま力を込めて背骨をへし折る事は児戯にも等しい単純な作業なのだ。
572 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/07(木) 19:40:54.51 ID:RK19B6AO
 だが姫子はそれをしなかった。
普段から自分に懐いてくれていた唯を、今や姫子は自分の妹のように愛しく思っていたのだ。
一過性の殺意に身を任せて大切な人を殺める事など、立花 姫子に出来はしない。

唯「あはハハハハはっ! 痛いよぅ姫子ちゃン! あはははハハッ!!」

 唯の嬌声は情愛にも似た姫子の思いをあっさり打ち砕く。

姫子「っ!?」

 大切な人が遠くに行ってしまった喪失感は、姫子の手を一瞬、ほんの一瞬だけ緩めてしまった。
 そう立花 姫子は間違ってしまったのだ。
最早唯は姫子が知っている唯ではない。
人の皮を被った悍ましいナニカに情を注いでしまった。
573 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/07(木) 19:41:22.54 ID:RK19B6AO
唯「あはっ! 優しイねぇ、姫子ちゃンは!!」

 唯は一瞬の隙を利用し、針の穴を通すような的確かつ精密な動作で束縛を振り払う。
姫子には何が起こったのか理解出来なかった。
ただ気付いた時には自分が仰向けに倒れていて、その上に唯が跨がっていた。
 マウントポジションから振り下ろされる鉄鎚の如き拳を姫子はすんでのところで受け止める。

姫子「いっ──!」

 エンハンサー。防御不可の痛みが姫子を襲う。
立て続けに振り下ろされる拳に容赦などない。

唯「あはははっ!! 死んじゃえ! 死んじゃええええっ!!」
574 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/07(木) 19:41:53.57 ID:RK19B6AO
 痛みに侵され、朦朧とする意識の中で姫子は葛藤していた。
 生きる為にはKILLしか無い。
昔読んだ小説のそんな言葉遊びが頭を過ぎる。

姫子「うぐ──」

 ガードの隙間を縫い、唯の拳が姫子の頬を捉えた時、姫子の頭の中でぶちりと音がした。
それは姫子の覚悟が情を食い破った音だった。

唯「あは──」

 唯の嬌声は強制的に遮断された。
首筋に放たれた姫子の手刀が唯を打つ。
言うまでもなく勢いよく吹き飛ぶ唯の身体を、姫子は脱兎の如く追う。

姫子「ごめん!」

 唯の首を両手で掴み、直立不動のままその手に力を込める。
575 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/07(木) 19:42:24.56 ID:RK19B6AO
唯「──っ!」

 不規則に息を漏らしながら唯は全力で抵抗する。
身体に纏った紫電は全て姫子の身体に流し込まれる。

姫子「絶対……離さない……っ!」

 ぎりぎりと歯を食いしばり、首を絞める力を更に強める。
次第に唯の抵抗は弱まり、だらりと頭を俯せた。

唯「…………」

 完全に意識を手放したと判断した姫子は力を緩めようとした。
だがその時、姫子に電流走る。

唯「ひゃっはははは!! 離せっつってんだろぉがこのアバズレがあああっ!!」

 操り人形のような歪な動作で顔を上げた唯は今までで一番狂った笑い声を上げた。
576 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/07(木) 19:42:56.73 ID:RK19B6AO
 その声は姫子が良く知る唯の声では無かった。
幾つもの声が混じり合った、人工音声のような声。
そんな醜い笑い声を上げながら、唯だった者は片手を空に翳し、突き出した人指し指をくるくる回した。

姫子「……っ!?」

 闘気の流れが空に向かうのを感じ、姫子は空を仰いだ。
紫電が収束し、轟音を響かせているのが見えた。

唯「喜べ! 慶べ! 歓べ! 悦べ!! この『龍』が直々に殺してやる!」

姫子「う……」

 恐怖は防衛本能を駆り立てる。
空で帯電する闘気がより一層強く輝いたその刹那、姫子は闘気を最大限に放出した。
577 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/07(木) 19:43:30.80 ID:RK19B6AO
姫子「うわあああああああっ!!」

 爆風が吹き荒れる。
姫子の腕はただ一つ、唯の心臓を目掛けて神域の速さで直進した。
ずぶりと肉を貫く嫌な音と感触が姫子の心を痛め付ける。
その直後に姫子の真横に紫色の光が降り注いだ。

唯「ひめ……こ……ちゃん……」

 伸ばした腕の先に在る唯の顔は穏やかなものだった。
自分を縛る鎖、枷が外れ、ようやく全てから解放された。そんな笑み。

姫子「あ……やだ……やだよ……っ!」

 自分が殺めたにも関わらず、安らかに死にゆく唯を見て姫子は狂乱する。

唯「────」

 最期に唯が呟いた言葉は、姫子の心をひたすらに苛める。

姫子「いやああああああああっ!!」

 姫子の世界は音を立てて崩れた。
578 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/07(木) 19:45:11.92 ID:RK19B6AO
>>570は無しの方向で。
ナルカミ唯ちゃん! そんなノリ
579 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/07(木) 20:10:16.39 ID:L5SCz.SO
龍って間接的な意味じゃなくて直接的な意味でいるんだ……
580 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/07(木) 21:31:32.62 ID:LvRAUSwo
ここでスレタイww
581 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/07(木) 21:34:26.35 ID:aI.Qpf20
ここに来てスレタイが来たか…
これほどの再生力があれば唯「受けてみる…!?このブローをッ!!」とか言い出しそう
582 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/07(木) 21:46:16.27 ID:eXmJYwAO
放電能力は平沢家の固有スキルなのか
乙!
583 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/07(木) 22:10:26.93 ID:jkkA8sDO
雷のベルか
584 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/07(木) 22:15:41.30 ID:2FWDLMAO
今日、友人にスレタイを言われながら
「痛恨の一撃」を喰らった…

正確にいうと…ボディブローを反射的に体を引いて避けたんだが…
それが、アゴにクリティカルヒット…orz
585 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/07(木) 22:18:28.21 ID:uvfD58so
唯ってアレか
孫策的な
586 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/08(金) 14:17:18.93 ID:0LLYXN20
孫策は水龍だから劉備だな!うん
587 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/08(金) 21:39:01.29 ID:./OrA.AO
ごめん家が燃えた。今日は無理だ
588 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/08(金) 22:09:17.26 ID:gpmo/wAO
唯の紫電で家が燃えたか…
589 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/08(金) 22:43:10.22 ID:LWco7oAO
おいおい、大丈夫か?
590 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/08(金) 23:14:25.92 ID:l1/Twnwo
大丈夫か?
591 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/08(金) 23:37:35.34 ID:v5SoOYSO
マジかwwww

マジか……?
592 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/08(金) 23:41:07.75 ID:B/Ql6N2o
どういう事だよオイ!
大丈夫なのか?
593 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/09(土) 00:47:42.55 ID:9kG2lGY0
マジかよ⁉
今日はつうか、しばらくでも無理無いから!!!!!
ボヤである事を祈るわ。
594 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/09(土) 01:57:28.85 ID:sTf6skAO
これが >>1 の最後のレスにならないよな?
595 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/09(土) 02:00:40.82 ID:juULicAO
家が燃えたら今日どころかもう無理だろww

つか>>588>>1なのか?
596 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/09(土) 02:02:19.75 ID:sTf6skAO
ちがうっしょ?
597 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/09(土) 08:45:10.28 ID:qzgdtQAO
とりあえず状況報告
燃えたのは俺んちじゃなくて実家の方ね
そんで連絡聞いてバタバタ戻ったんだけど家の仕事場が燃えただけで本棟の方は大丈夫らしい
お騒がせしてごめんさい
598 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/09(土) 09:12:07.11 ID:sTf6skAO
大事に至らないでよかったさ…フゥ
(↑字あってる?)
あ、でも一部が焼けてしまったかorz
599 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/09(土) 09:12:11.06 ID:aStBp9oo
被害が最小限で良かったね
600 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/09(土) 11:44:41.50 ID:.AHi8UAO
仕事場でも大変な事だけど 被害が大きくならなくて良かったなー

落ち着いたら続きよろしく!
601 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/09(土) 13:22:24.86 ID:NnaxnkUo
憂は波動拳ぐらい出すの?
そんなのもう必要ない次元だけどさ。
602 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/09(土) 13:54:39.13 ID:9kG2lGY0
>>597
とにかく、誰も怪我なかったから安心した!
仕事場燃えた父ちゃんカワイソス。

>>601
この世界なら矢でも鉄砲でも楽しく読める気ガス
603 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/09(土) 21:25:56.31 ID:qzgdtQAO
少ないけど投下
604 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/09(土) 21:26:26.33 ID:qzgdtQAO
姫子「私の話はこれでおしまい」

 事のあらましを語り終えた姫子は、通り過ぎようとしていた店員に追加のコーヒーを注文した。

エリ「その『龍』って……。あの子の……?」

姫子「あの子のそれとは似て非なるものだね。恐さの度合いが違い過ぎる」

アカネ「嘘でしょ……」

 三人の会話について行けず、自分が蚊帳の外にいるような感覚になったしずかは存在を主張するように問い掛ける。

しずか「あの子? そんなおっかない子なんて他にいるの?」

姫子「佐伯 三花」

 しずかの問いに姫子は即答する。
遠い日の思い出を振り返るような面持ちで。
605 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/09(土) 21:26:52.64 ID:qzgdtQAO
姫子「『獣王』か……。懐かしいね」

 仰々しい通り名を呟き、姫子はやって来たコーヒーに口をつけた。

エリ「バレー部の最終兵器よりも怖いのかぁ……。私達がどうこう出来る次元じゃないよね」

アカネ「最終兵器、か。正しくは二束三文の欠陥品だよね」

 同じ部活の部員の仲間であるにも関わらず、二人はその人物を軽蔑するような口振りで話している。

しずか「佐伯 三花って、同じクラスの佐伯さんだよね? あの子ってそんなに強いの?」

 しずかの中の佐伯 三花は少々落ち着きが無いものの、強者特有のオーラ即ち闘気を感じるほどの人物では無かった。
しずかが疑問を感じるのも無理は無い。
606 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/09(土) 21:27:42.04 ID:qzgdtQAO
アカネ「姫子的にはどうだった?」

姫子「うん、負ける気はしないけど二度とやり合いたくはないね」

 姫子は苦笑いを浮かべつつ即答した。

姫子「けどあの唯はそれ以上だね。やるやらないじゃなくて二度と戦えないよ。次にあの子と妹さんと戦う機会があるとしたら、多分一歩も動けないと思う」

 姫子は一瞬だけ身震いし、それを誤魔化すようにコーヒーを喉に流し込む。

しずか「姫子がそんなになってるのに、私達に出来る事なんてあるの?」

 しずかは不安げに姫子に尋ねた。

姫子「臆病者には臆病者なりの立ち回りがあるのよ。この二人はその処世術を心得てるよ」

エリ「あははっ、酷い言い草だね!」

アカネ「私達は協力するよ。使われない最終兵器を使う事も厭わない」

 誰にも知られずに、ここに一つの勢力が出来上がろうとしていた。
607 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/09(土) 21:28:19.22 ID:qzgdtQAO
 澪の修行、律達と純の力の邂逅、姫子達の会合。
各々の思惑が違ったベクトルを持ち、進み始めた日は終わり、時刻は午前八時半を刺している。

純「…………」

梓「…………」

 喧騒溢れる朝の教室で、純と梓は一つの机に向かい合うように座っている。
純は厚めの漫画を読み耽っており、梓はそれを気まずそうに眺める。

梓「ねぇ、純……」

純「んー?」

 気を遣うようにおずおずと話し掛ける梓とは対照的に、純は本から目を切らずにのうのうと答える。

梓「何であんなに強いのに高い序列を目指さないの?」

純「んー」
608 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/09(土) 21:28:57.31 ID:qzgdtQAO
 返事になっていない返事を返され、梓は内心苛立った。
だが苛立ったところで自分が純に敵う筈もないという事を知っている梓は、それをぐっと堪える。

梓「……まぁ良いや、それよりも放課後中庭に来てくれる? 先輩達も純に話があるみたいだから」

純「おおっ!? これかっこいい!!」

 純は漫画を机に伏せ、人指し指を突き出した形の貫手で宙を突いた。
僅かに巻き起こった風圧が梓の髪をそっと撫でる。

純「指銃はこれで良いでしょ、んでもって嵐脚が……」

 純は梓の事などそっちのけで漫画の技をコピーする事に夢中になっている。

梓「はぁ……。ちゃんと伝えたからね?」
609 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/09(土) 21:29:41.05 ID:qzgdtQAO
 立ち上がり、くるりと踵を返すと梓は自分の席についた。
そこで一限目の授業の予習をしていない事に気付いた梓は、そそくさと鞄の中からノートと参考書を取り出して広げる。

梓(……こんな事してる場合じゃないのにな……)

 内心焦っていた梓だが、無情にも時間だけが過ぎてゆく。 
学生としての本分を成し遂げなければならないと主張する自分と今直ぐにでも強くなる為の鍛練を始めたいと主張する自分が心の中で責めぎ合う。
 そんな梓のジレンマを余所に、純は呑気に漫画を読み耽っていた。
610 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/09(土) 21:30:19.33 ID:qzgdtQAO
 授業は滞りなく終了し、生徒はそれぞれ部活に精を出すであろう放課後になった。
普段は運動部の生徒達の活気で溢れているグラウンドは、不気味なほどに静まり返っていた。

純「気が気じゃないんですよねぇ。こんなだだっ広いところで闘うなんて」

律「まぁそう言うなって。私達も必死なんだよ」

 律、紬、梓、そして純。
それぞれの思惑を胸に抱えた四人がグラウンドの中央で対峙していた。

純「全力でぶつかり合って私が師とする人間として相応しいか見極める、ですか。そりゃ私は良いですけど……死んでも知りませんよ?」

律「言ってろ」
611 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/09(土) 21:31:01.76 ID:qzgdtQAO
 律は薄ら笑いを浮かべつつ大地を踏み締める。
その後ろで梓は銃を構え、紬は腰を落として身構える。

純「では──」

 純もそれに応じて身構えた時、それは起きた。

「面白そうな事してるじゃないか」

 凜としたその声の後に、純達の身体を何か冷たいモノが通り過ぎた。
桜高指定のスカートとブラウス、そしてその上に紫色のパーカーを羽織った少女が四人の間に現れた。

澪「私も混ぜてくれよ」

 抜刀と共に澪の周囲を一筋の閃きが走った。
風が靡き、冷たい空気が辺りを覆う。

純「澪……先輩?」

 その堂々とした立ち振る舞い。水氷の如く研ぎ澄まされた冷たい闘気。
純がよく知る澪と今の澪は別人と言っても過言ではなかった。
612 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/09(土) 21:33:15.15 ID:qzgdtQAO
澪「最期の月牙天衝だ」そんなノリ
投下出来ないわけじゃないけど家の修理手伝わないとだからしばらくペースが遅くなるかも
613 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/09(土) 21:33:18.17 ID:3FRVuXUo
澪キター
614 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/09(土) 22:03:05.75 ID:lIp5lKEo
>>612
家の修理とこっち、どっちが大切なんだよ!!家なんで修理しても10人も喜ばないぞ。
615 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/09(土) 22:04:51.48 ID:qzgdtQAO
>>614
ばかやろうwwwwwwww家直さないと俺が泣かなきゃいけないだろうがwwwwww
616 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/09(土) 22:17:59.96 ID:6ktKuV2o
>>615
おまwwwwwwwwwwだれがうまいこと言えとwwwwwwwwwwww
617 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/09(土) 23:31:47.15 ID:zIbJUEAo
>>614-616この流れ吹いたwwwwwwww
618 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/10(日) 00:04:55.29 ID:ZefvBzE0
>>614-617
なんぞコレwwwwwwwwwwwww
619 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/10(日) 02:07:51.45 ID:HbpX/.AO
全焼してれば修理しなくてよかったのになwwwwww
620 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/10(日) 03:33:33.58 ID:3CwFf.AO
バレー部出揃ったー!!
三花ちゃんは純ちゃんやいちごみたく、イレギュラーな存在ぽいな期待
621 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/10(日) 04:21:21.75 ID:eA4kNMAO
澪きたな…

>>1は親に燃えた家の補修をして貰え
俺はこのスレを保守してやる
622 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/10(日) 06:11:41.37 ID:MhXxeLoo
佐伯さんて序列何位なんだろう
623 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/11(月) 09:27:58.93 ID:PXljgAAO
澪はすっかりEDverだなぁ
624 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/11(月) 10:11:23.18 ID:YVwwlI.0
>>621
製速は保守いらんぞ
625 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/11(月) 12:38:10.34 ID:U4UTBoQo
>>624
シャレが言いたかっただけだろ
626 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/12(火) 08:35:00.77 ID:2ydZ7wAO
>>621だけどなんかごめん
627 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/12(火) 18:35:12.41 ID:72hyoIDO
とりあえず六式はまだか
628 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/12(火) 19:35:00.73 ID:O1LB5EAO
紬「澪ちゃ──」

律「今まで何やってたんだよ馬鹿野郎!!」

 紬の声を遮り、律が叫んだ。

澪「死んできた」

 澪は微笑みながらあっさりと返した。
表情こそ柔らかいが、その身体から溢れ出る闘気は律の心をざわつかせた。

律(澪……?)

 闘気という概念を理解していない律には今の澪の存在が頼もしくもあり、恐ろしくもあった。
それは紬も梓も同様なのだが、この場に一人だけ、澪の闘気を肌で感じ取って尚感情を高ぶらせる者が居た。

純「あは、はは……」

 純は額から汗を流し、引きつった笑みを浮かべていた。
629 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/12(火) 19:36:19.53 ID:O1LB5EAO
純(やばいやばいやばいやばいヤバイヤバイヤバイ……!!)

 自分と対等であろう存在が目の前で臨戦態勢を取っている事に、純は言い様も無い快感を覚えていた。
骨の髄まで染み渡る闘気は純の腰を砕き、秘部を濡らし、絶頂に連れてゆこうとする。

純(目茶苦茶気持ち良いんですけど──っ!?)

 気を緩めれば意識を持っていかれそうになる程の快楽に耐え、純は身構えた。

澪「鈴木さん、顔が赤いけど大丈夫?」

 対する澪はいたって平静で、純の事を気遣う余裕すら見せている。
630 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/12(火) 19:36:52.76 ID:O1LB5EAO
純「大丈夫です。それよりも……」

澪「さっさと始めよう、かな?」

 純の心の声を感じ取った澪はそれをそのまま代弁する。
純が力強く頷くと、その直後に二つの闘気が責めぎ合う。

梓「何ですかこれ……っ!?」

 梓は銃を手放し、目を見開く。
二人の姿を凝視していた梓だが、彼女にその動きを捉える事はできなかった。

純「へぇ……」

 達人の域すら凌駕した純の高速の後ろ回し蹴りを、澪は右手だけで受け止めた。

純「よっと!」

 力の勢いを殺さずに軸にしていた右足で追撃を放つ。
それを屈んで躱す澪。だがその隙は純に必殺の一撃を放たせるには十分過ぎる隙だった。
631 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/12(火) 19:37:54.82 ID:O1LB5EAO
純「我流六式──っ!」

 澪の頭を跨ぐ形で着地した純は右手を引く。

澪「っ!?」

純「指銃っ!!」

 銃弾の如き速度を持った指が澪の顔面目掛けて放たれる。
その力は鉄をも穿ち、その速さは飛ぶ鳥すら落とす。だが──。

澪「遅い!」

 左手に持つ刀の腹でそれを受け止める。
二つの力は拮抗し、刀は小刻みに震えている。

純「絶刀『鉋』でも使ってんですか……。普通なら真っ二つです、よ!」

澪「闘気を流し込んでるからね。核でも使わない限りは折れないよ」

 澪はそう言いつつ、空いた手を純の胸に添えた。
632 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/12(火) 19:38:38.51 ID:O1LB5EAO
澪「型に嵌まらない流水のような闘気。同じ色でも私とは真逆の性質みたいだな」

純「──っ!?」

 純は手を添えられた胸の辺りから全身にかけて、何かが波打つのを感じた。
咄嗟にその場を離れようとするが身体が鉛のように重く、思うように動かない。

澪「でも残念。容量は私の方が上だ」

 内臓や脳、血液。身体の中にあるもの全てがひっかき回されるような錯覚と共に純は真後ろに吹き飛んだ。
着地の瞬間に受け身をとって衝撃を殺すも、澪が与えたダメージはそれなりに響いていた。

純「なに……これ?」

 純は噎せ返り、不快感を伴う頭痛に頭を抱えた。
633 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/12(火) 19:39:09.64 ID:O1LB5EAO
澪「…………」

 澪は純から目を切らずに、その場で刀を振った。
それと同時に冷たい飛沫のようなものが純と律達にかかる。

律「うおっ冷て!?」

紬「これは……?」

 肌に触れた冷たい感触に律達は跳ね上がった。

澪「水さ」

 事もなさげに言い放ち、澪は更に大きく刀を振るった。
刃の軌道に合わせて透き通った水が現れ、音を立てて地面を濡らす。

純「なるほど……。それが澪先輩の力ってわけですね」

 よろよろと立ち上がった純はふらつきながらも澪を見据える。
だが全身に負った得体も知れないダメージは確実に純を蝕んでいた。
634 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/12(火) 19:39:37.09 ID:O1LB5EAO
純「最っ高ですね!!」

 純は右手で拳を作り、自分のこめかみを躊躇無く殴り付けた。
保護が薄い頭部からは血が噴水のように吹き出る。

純「我流六式──」

 痛みで意識をはっきりさせた純は腰を落とし、臨戦態勢を取る。

純「嵐脚!!」

 大地を蹴り、大きく前進すると地に手をつき、カポエイラの要領で両足を薙いだ。
風の刃が形成され、それは澪目掛けて直進する。
だがそんな単調な攻撃が今の澪に通用する筈もなく、刃を翳すだけであっさりと打ち消されてしまった。
635 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/12(火) 19:40:14.87 ID:O1LB5EAO
澪「なっ──!?」

 風の刃を打ち消した先に純が居ない。
それに気付いた頃には純は既に澪の懐へと潜り込んでいた。

純「飛燕──!」

 澪が動くよりも速く、飛ぶ燕の影のように鋭い蹴りが澪の肩を捉える。

純「連脚っ!!」

 次いで二羽目の燕が澪の側頭部を捉えた。
純はインパクトの瞬間に打撃点を逸し、足で鎌のような軌道を描いて澪の頭を地面に叩き付ける。
そのまま澪の頭部を踏み砕こうとしたその時、純の首目掛けて刀の鞘が飛んでゆく。
手首のスナップだけで放ったそれは銃弾のような速度を持っていた。
636 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/12(火) 19:40:44.44 ID:O1LB5EAO
純「うおっ!?」

 純は大きくのけ反り、澪の頭を踏む足の力を緩めてしまう。
その一瞬の隙を突き、澪は蛇のように滑らかな動作でその場を離れた。

澪「……色は青色じゃない? どういう事?」

純「あっはは、七色ローズの純とでも呼んで下さい」

 ずきずきと痛む肩と頭を庇いつつ、澪は薄ら笑いを浮かべた純を睨む。
炎すら凍り付かせる冷たい面持ちの後に、そっと微笑んだ。

澪「なるほど、一筋縄ではいかないな。……『殺陣』を使うか」

純「奥の手ってやつですか? 良いですねぇ、もっと楽しませて下さいよ!!」

 その刹那、流れ出た闘気は辺りの空間を一瞬にして捩じ曲げた。
637 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/12(火) 19:43:31.19 ID:O1LB5EAO
また意味深な用語出しやがってって思ったろ? 恥ずかしいこと告白大会やろうぜ。一番。人類最低、実は俺、何も考えてないんだ。そんなノリ

ちなみに殺陣は『たて』じゃなくて『さつじん』と読む。
638 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/12(火) 19:49:44.84 ID:sPc8yUSO
この澪なら無明神風流を使えそう
639 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/12(火) 22:01:54.15 ID:IdeRzNgo
純ちゃんエロすぎww
640 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/12(火) 22:20:25.50 ID:WwhSAekP
泉さんチョイスとか流石純ちゃん脇役
641 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/12(火) 23:33:35.16 ID:9Kw8N6AO
純も大概な戦闘狂だな
モンスターインスティンクトってやつか・・・・・・
642 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/12(火) 23:43:11.42 ID:FL/MZIDO
純が負けるのしか想像つかない…
負けたら、結局純は純で終わるから勝たせてほしいものだな
643 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/13(水) 00:35:35.73 ID:8Lw5kEE0
>>642
ここまで失禁したぐらいしか見せ場のない澪をこれ以上追い詰めるのはやめて!
644 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/13(水) 01:23:09.74 ID:hlTzWkAO
純ちゃん絶頂かわいいもふもふ!
645 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/13(水) 16:17:48.29 ID:vQDG9QAO
純『その程度の力で…』



純『ちょっと…頭冷やそうか…』
646 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/13(水) 17:12:59.50 ID:KVjwY3wo
>七色ローズの純

似たような雑魚キャラが幽白であったなww
647 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/13(水) 17:44:59.64 ID:VVim2wAO
 澪は刀を下段に構え、大きく深呼吸すると真一文字に薙いだ。
軸足の爪先を浮かせ、そのままコンパスのように一回転する。
刃の軌道をなぞるように水が現れ、澪の周囲を輪のように囲った。

梓「魔法でも見てるみたいです……」

律「ああ、私もだよ」

 律と梓は自分達が居る領域を遥かに凌駕してしまった澪を見て、改めて自分達の弱さを認識した。
紬はひたすらに押し黙っている。

澪「鈴木さん」

 凜と鳴る声は純の頭に妙に重く響いた。
 風が靡き、宙に浮いた水の輪は不安定に揺らぐ。

純「…………」

 冷然としたその空気は、純の警戒を更に強めるには充分だった。
648 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/13(水) 17:45:48.00 ID:VVim2wAO
澪「この輪の中は私の『絶対領域』だ。髪の毛一本でもこの中に入ればたたき切る」

 澪はそっと指の腹で刀身をなぞった。
純にはそのなぞられた刀身が鋭く輝いて見えた。

澪「だけど私はこの輪の中から出る気は全く無い。これは困ったぞ、これじゃあ鈴木さんは手も足も出ない」

 腰を落とし、澪は刀を携えてにやりと笑った。
普段の澪からは想像もつかない、動物的な笑みだった。

澪「どうする?」

純「…………」

 純には二つの選択肢があった。
 一つは危険と知りつつも敢えて輪の中に飛び込み、圧倒的な力で澪を叩き潰す。
649 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/13(水) 17:46:32.64 ID:VVim2wAO
純「…………」

 そしてもう一つ、純の技のレパートリーには輪の外から澪を攻撃する手段など幾らでもある。
それらを使って削り殺しにしてしまう事だ。
 あくまで勝ち負けに拘るのなら後者を用いるのが正解。純自身それは重々理解していた。

澪「怖じ気付いた?」

 だがせせら笑う澪のその一言が純の闘志に火をつけた。
溢れ出る脳内物質は純の身体を更に高揚させてゆく。

純「あっは──」

 気を抜けばよがり狂ってしまいそうな性的快感は、純の腰から首筋にかけて震え上がらせた。
 そして純は思う。
この輪を、『絶対領域』を越えたその先にはどれほどの快感が待っているのだろうかと。
650 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/13(水) 17:47:17.28 ID:VVim2wAO
純「あっはははははっ!!」

 純は高笑いした。だがその目は若干潤んでおり、頬は真っ赤に染まっている。

純「反則ですよこんなの! 楽し過ぎて狂っちゃいそう!!」

 叫びながら純は地面を大きく踏み締めた。
一瞬で周囲に亀裂が走り、大地は激しく揺らぐ。

純「やっぱり澪先輩は最っ高ですね!」

 歪な動作で腰を落とす。
何かの抵抗を振り払うような音がごきりと関節から響いている。

純「大好きです──っ!」

 純は大地を蹴り、一瞬で輪の中に入り込んだ。
その光景は最早律達には捉えられていない。

澪「私も大好きだよ」
651 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/13(水) 17:48:18.99 ID:VVim2wAO
 澪が振り降ろす刃は純の脳天を的確に狙っていた。
一撃必殺のその刃はあっさりと純に躱される。

純(ヤバ──。イッちゃいそうだよ──)

 目に映る全ての物体がスローモーションで動く達人の世界の中で、純は壊れてしまいそうな快感を噛み締めていた。
 両胸の突起は下着と擦れて刺激され、秘部は下着など意味を成さない程に蕩けきっている。
愛液が太股を伝い、その感覚が純に更なる背徳感と興奮を与えた。

純(もうどうにでもなれ──っ!」

 純の動きは衰えない。
襲い来る数千、数万の刃を躱し、時には受け流して一歩ずつ澪に詰め寄ってゆく。
652 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/13(水) 17:49:39.05 ID:VVim2wAO
澪(化け物か──っ!?)

 刹那の間のその攻防の中で、澪は静かに恐怖していた。
『絶対の彼方』を越えて更なる高みに立った自分を更に凌駕する鈴木 純。その存在に。

純(この時がずっと続けば良いのに……)

 純の危険な思考は一瞬だけ防御の手を緩めた。

澪(貰った──っ!)

 その一瞬の隙を突こうとして澪は無理矢理に体勢を変えて切りかからんとした。
それは僅かに攻撃の手を遅くする。
 純の隙。澪の隙。
互いが互いともにその隙を突かんとし、必殺の一撃を放った。
653 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/13(水) 17:50:38.11 ID:VVim2wAO
澪(くそっ!)

純(勝った──!)

 丁度クロスカウンターの形になって澪の刀と純の拳は交差する。
純の拳は澪よりも若干速く、互いが勝敗を確信していた。
その時──。

澪「〜〜っ!?」

純「あだっ!?」

 二人の間に更に二人が割って入り、澪と純を吹き飛ばした。
不意の出来事に二人は成す術無く地面を転がってゆく。

和「私はあなたに律達の指導を任せたつもりなんだけど」

恵「新しい玩具で早く遊びたい気持ちも分かるけど、少しは大人にならなきゃね」

 澪と純が居た場所で背中を合わせるように恵と和が立ち尽くしていた。

律「まるで『絶対の彼方』を越えた奴等のバーゲンセールだぜ……」

 律は冷や汗を流しながらも、呆れ気味にそう呟いた。
654 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/13(水) 17:51:47.09 ID:VVim2wAO
今の純ちゃんに銃を持たせたらバレットアーツが火を噴くぜ! そんなノリ
655 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/13(水) 18:17:42.72 ID:nWaVUwAO
乙!
純ちゃんの闘争本能が溢れて止まらねぇ!!
そういやりっちゃん最初は威勢良かったのに・・・・・・
656 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/13(水) 18:52:10.52 ID:JFYfdpIo
>>655
これから強くなってくれるさ
たぶん
657 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/13(水) 19:36:35.41 ID:hlTzWkAO
純ちゃんの愛液が溢れて止まらねぇ!
純ちゃんもふもふ!
658 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/13(水) 20:44:30.66 ID:Mx6tlboo
りっちゃんはベジータポジションか・・・
659 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/13(水) 20:51:07.98 ID:mid6sawo
>>658
下品な男と結婚するのか……そして妊娠へ
660 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/13(水) 20:56:24.61 ID:vQDG9QAO
じゃあ唯と合体するんだね!
661 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/13(水) 22:59:54.86 ID:BO8VQgMo
純かわいすぎておちんちんとれる
662 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/13(水) 23:28:06.00 ID:Qs66Hxw0
次は二日後かなとか思ってたのに更新来てた‼

ありがとう!

乙です‼‼‼
663 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/14(木) 00:38:40.33 ID:ME0/hsAO
ポスターの純ちゃん、りっちゃんに並ぶぐらいスレンダーだったよ
そんな純ちゃんの愛液を、火照った顔を見上げながら内側の太ももを伝ってツウッて出来たらもう何もいらないわ
664 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/20(水) 18:12:03.20 ID:l9iSbP.o
今回は長かったな
665 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/20(水) 19:27:16.92 ID:thFMNwAO
恵「あなたらしくないわね。自分から格上に挑むなんて」

澪「…………」

 刀の柄に手をかけて悠然と歩み寄る恵に気圧され、澪は口を噤んだ。

和「お願いだから手をかけさせないで。やっと傷が癒えたのに胃に穴なんて開けたくないの」

純「…………」

 明らかに不機嫌そうな面持ちで純に歩み寄る和。
だが純も負けてはいない。
何物にも代えられない至高の快感を奪われた純は反抗的な目付きで舌打ちをした。

和「……まぁあなたの性格をきちんと把握してなかった私にも非があるわね」

 帯刀していた得物を抜き、純の眉間に突き付ける。

和「今回は不問にするわ。でも次はその首跳ねるから」
666 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/20(水) 19:27:49.24 ID:thFMNwAO
純「……私らの喧嘩に首突っ込まないで下さいよ」

和「下品にお露垂れ流しながら言う台詞じゃないわね」

 純は和の嘲笑で闘いの熱が急速に冷めてゆくのを感じた。
同時に知り合いの前で淫らな醜態を曝してしまった事を悔やむ。
 和は今にも食いかからんばかりに自分を鋭く睨む純に、冷たく微笑みかけた。

和「そんなに物足りないなら私が慰めてあげても良いわよ」

純「……勝てない喧嘩で燃えるほどマゾじゃないです」

 反抗的な姿勢も崩れてゆき、しどろもどろになるその姿はどこかしおらしく見える。
667 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/20(水) 19:28:23.01 ID:thFMNwAO
恵「まだあなたの力は錬磨していないって言ったでしょう?」

澪「……ごめんなさい」

 澪は母親に咎められた子供のように肩を縮こまらせている。

恵「急いては事を為損じる。あなたの人格なら重々理解してると思ってたんだけど、買い被り過ぎたみたいね」

澪「…………」

 物乞いを見下すような恵の冷たい表情から鑑みられる感情は、確かな失望だった。
恵はゆっくりと腰に差した模造刀を抜いた。そしてそれを大きく振りかぶる。
その軌道の先に自分の頭があると知りつつも、澪は動こうとはしなかった。
668 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/20(水) 19:28:47.18 ID:thFMNwAO
澪「あが──っ!」

 模造刀は躊躇無く澪の額に叩き込まれた。
鮮血が一気に噴き出し、澪の目を塞ぐ。

澪「いっつ……!」

 澪は傷口を抑えて身体を捩らせる。
その姿を恵は冷たい瞳で見下ろしていた。

恵「額は血が出やすいからそのくらいなら平気よ」

 澪に手を差し延べる事もなく、恵は模造刀の血を払って鞘に収める。

和「……少しやり過ぎじゃないですか? 相変わらず優しくない人ですね」

恵「温い馴れ合いで後輩の指導を怠るのが優しさなら、私は優しくなくても良いわ」

 空を仰いで淡々と言い放つ恵に向けてそっと溜め息をつき、和は律達の方を見た。
669 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/20(水) 19:29:46.55 ID:thFMNwAO
和「アンタ達、まさかこの子に喧嘩売ろうとしてたの?」

 呆れたような笑みを浮かべたまま、和は膝を折っている純の頭を鞘で小突いた。

律「だったらどうなんだ?」

和「別に、ただあまりにも馬鹿馬鹿しくてね」

 鞘に納めた刀をくるくると回しながら、和は挑発するような笑みを浮かべる。

律「…………」

 律はそれに応えることなく、押し黙った。
先の純と澪の邂逅を見て自分達の矮小さを認識させられた律達に抗う術などなかった。
純や和はおろか、澪ですら今の自分達では敵いはしない。
 その事実を痛いほどに噛み締めている。
670 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/20(水) 19:30:20.51 ID:thFMNwAO
律「……なぁ教えてくれよ。『絶対の彼方』ってのは一体何なんだ?」

和「下らないプライドなんか持たずに最初からそう聞けばこの子も教えてくれたんじゃない?」

純「まぁ確かに……」

和「調子に乗れとは言ってないけどね」

 純の方を見ずに彼女の頭を容赦無く踏み付ける。
純の顔面は地面にめり込み、そこを中心に大きくひびが入った。

恵「……優しくないわね」

和「優しくない先輩を見習いましたから」

 二人の間で一瞬だけ闘気が渦巻き、それは直ぐに沈静化された。

恵「……強くなったわね」

和「あなたに追い付く為に今まで頑張ってきましたから」
671 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/20(水) 19:31:01.23 ID:thFMNwAO
恵「私とあなたの差なんて『桜花』を持っているかいないかの差だったじゃない」

和「あの時私に『桜花』があればあなたに勝てていたとでも? 過度な謙遜は嫌味にしか聞こえませんよ」

梓「あ、あの……」

 自分が蚊帳の外に放置されている現状に耐えかね、梓がようやく口を開いた。

梓「私もう頭が混乱してわけ分かんなくなっちゃってるんですけど……」

 しどろもどろになりつつも梓は自分が抱く疑問を必死に伝えようとする。

梓「あなた達は何がしたいんですか?」

 梓の問いに対して純は顔を上げ、にやりと笑った。
恵は静かにほくそ笑んだ。
和は優しく微笑んだ。

「あなた達を強くしてあげるわ」
672 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/20(水) 19:32:36.84 ID:thFMNwAO
純ちゃん可愛い純ちゃん可愛い純ちゃん可愛い。澪はもう良いや、そんなノリ
673 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/20(水) 19:38:39.38 ID:l9iSbP.o
強くなったと思ったらこのザマだよ!
674 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/20(水) 19:55:57.95 ID:Cey4sASO
製速が動きはじめたな
675 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/20(水) 20:05:33.28 ID:HCws70.o
復活きたぁぁぁぁぁ!!!!
676 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/20(水) 21:07:22.96 ID:HyedYlI0
強くなったけどこのザマとは、澪wwww
澪のばっちりきっかし格好良い出番期待してるからな!

あと会長カッコいいな、惚れそうだww
677 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/20(水) 22:34:02.71 ID:J8cGjpM0
恵さんと澪の関係が師弟関係を既に超越してる気がした
やっぱ人間、裸の付き合いをすると変わるもんだ
678 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/20(水) 23:00:14.64 ID:xC0vHDs0
長かった。これをどれだけ読みたかった事か…

乙です。
679 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/20(水) 23:16:58.92 ID:thFMNwAO
あ、ついでに言っとくと澪と会長の入浴シーンのとこはヤるとこまでヤっちゃった感じで補完よろしく! あでゅー
680 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/21(木) 07:59:13.98 ID:As/El.AO
乙!
しおらしい純ちゃんもかわいいもふもふ!
681 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/21(木) 18:11:25.58 ID:y/W8qWs0
開通式を済ませるほどの仲になっても指導時には容赦ない曽我部先輩かっけえ
682 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/21(木) 23:09:40.02 ID:4tVzPIAO
次の投下は日付が変わったころかな。
寝ちまってたら明日昼勤だから朝方投下する
683 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/22(金) 00:32:55.10 ID:o1JvnoAO
恵「赤、青、黄、緑。闘気は通常これら四つの種類に色分けされていて、それぞれ違った特色を持っているの」

 軽音部の部室にて六人が一同に会していた。
備え付けられたホワイトボードには四色の円が描かれている。

恵「赤は炎。青は水。黄色は土。緑は風。それぞれの闘気はその四大元素に干渉していると伝えられてるわ」

律「じゃあその闘気をマスターすれば手から炎出したり出来るんですか!?」

 律は新しい玩具を目前にした幼児のように目を輝かせた。
その様子を見て脇にいた和がくすりと笑った。

和「そんな魔法があっさり使えればこの世は資源不足になんかならないわよ」
684 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/22(金) 00:34:09.13 ID:o1JvnoAO
 軽く窘められた律はつまらなそうに舌打ちすると、僅かに浮かせた腰を椅子の背もたれに預けた。

恵「感受性次第、よね。そもそも闘気自体普通に生活していれば気付く筈が無い代物なの。そんな繊細な力を扱うにはその宿主も繊細じゃないと……」

律「……ってことは」

 言いかけて律は肩を竦めた。

澪「そのがさつな性格を何とかしないとな」

 澪は窓際の椅子に腰掛け、足を組んだその上で頬杖をついている。
表情はフードの中にすっぽりと隠れており、彼女の心境を鑑みる事は出来ない。

律「だよなぁ……」

 普段は食ってかかる律もこの時ばかりは気が気ではなかった。
685 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/22(金) 00:34:56.00 ID:o1JvnoAO
紬「まぁまぁりっちゃん。三つ子の魂百までって言うし」

梓「ムギ先輩……。それフォローになってませんよ」

律「やめろよ……。そんな目で私を見るなって」

 同情の視線が今の律には痛々しく思えた。

和「その点ではあの子は飛び抜けてるからね。センスやポテンシャルで言えば私よりも良いモノ持ってるわよ」

恵「そりゃそうよ。私の『可愛い後輩』だからね」

 恵は唇に指を添えて微笑み、ぼんやりとしている澪の方を見た。
恵が澪を見る時の表情の何とも言えない艶めかしさに一番始めに気付いたのは紬だった。
686 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/22(金) 00:35:39.72 ID:o1JvnoAO
紬「その……。お二人、何かあったんですか?」

 紬の素頓狂な質問に部室に居た全員は一斉に紬の方を見た。

紬「何ていうかその……。上手く言葉には出来ないんですけど……」

 自分と同じ匂いがする。とは口が裂けても言えなかった。
そんな紬の心境を悟り、恵は少し意地が悪そうな笑みを浮かべて言う。

恵「何があったっけ? 澪ちゃんは覚えてる?」

 投げ掛けられた質問に対して澪は反射的に手で顔を覆った。
その拍子に被っていたパーカーのフードが外れる。

澪「……っ。止めて下さいよ恵先輩……」

 覆われていない耳の部分は真っ赤に染まっており、震える声からは明らかに動揺している事が分かる。
687 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/22(金) 00:36:21.71 ID:o1JvnoAO
紬「まぁっ!」

 紬の表情が打って変わって爛々としたものになる。
それに少し遅れて梓が引いたような視線を澪に送る。

律「あ? なにがどうなってどういう事だってばよ?」

梓「……だから律先輩はがさつなんですよ」

 子馬鹿にしたような梓の呟きを律は聞き逃さなかった。
一秒にも満たない時間の間に律は梓の頭を腕で締め上げる。

律「なぁかぁの〜!!」

梓「ちょ……っ。痛い! ごめんなさい! 痛い痛い痛いっ!!」

 容赦無い締め上げに梓は泣き言を漏らした。
その様子を眺めつつ、恵と和は溜め息をつく。

和「困った子達ね……」

恵「あら、でもこういうのも悪くないんじゃない? 少し嫉妬しちゃうな」
688 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/22(金) 00:36:59.67 ID:o1JvnoAO
 ほんの少し哀愁が漂う憂いを帯びた笑みを浮かべ、恵は澪の方を見た。

澪「…………」

 澪はどこかつまらなそうな表情で、椅子の上で抱えた片膝に顎を乗せている。

和「……世界から取り残されてまで得た力に、意味なんかあるんですかね?」

恵「これからこの子達を巻き添えにする人間の台詞じゃないわね」

 恵がそこまで言ったところで、今まで黙っていた純が口を開く。

純「深く考えることないんじゃないですか? 無駄な深読みはお腹空くだけですって」

 からからと笑う純の言葉に、恵は深く頷いた。

恵「闘う相手がいる内は何も考えずにぶつかりなさい。分からないモノを模索したって破綻するだけなんだから」

 恵はそう言うと我が子を見るかのような優しい表情のまま、部室を一瞥した。
689 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/22(金) 00:37:43.14 ID:o1JvnoAO
しずか「こほっ……こほっ……」

 時を同じくして、木下しずかは校舎の屋上で大の字になって寝そべっていた。
コンクリートの足場の冷たさが、今の彼女には少し心地良く感じられた。

しずか「血が……足りない、かな……?」

 しずかが着ている学校指定のブレザーは既に使い物にならないほどに切り裂かれている。
その切り口の隙間からは赤黒い血が滲んでいた。

しずか「えへへ。これで、やっとトップランカーだね……」

 しずかは力ない笑みを浮かべて、自分の両脇で倒れている二人の生徒を見た。
690 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/22(金) 00:38:34.13 ID:o1JvnoAO
 しずかの右隣で倒れているのは木村文恵。
超好戦的かつ残忍な戦闘スタイルとその卓越した剣捌きから『辻斬り』と呼ばれ恐れられた少女だ。
彼女の両手の甲にはバタフライナイフが刺さっており、綺麗に足場に穿たれた形になっている。
背中には一際大きな傷がついており、そこから夥しい量の血が流れていた。

しずか「真っ先に心臓狙ってくるんだもん。びっくりしちゃうよ」

 しずかは虚ろな瞳で文恵の手元に転がっている刀を見た。
刃の中心部には大きな亀裂が走っており、あとほんの少し力を加えればたちまちに折れてしまいそうだ。
691 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/22(金) 00:39:20.85 ID:o1JvnoAO
 しずかはそのまま視線を真逆に移した。
視線の先には長い黒髪で眼鏡をかけた少女が仰向けに倒れている。

しずか「……私の首はあげないよーだ」

 高橋風子の二つ名、『死神』の大元のルーツとなる黒塗りの大鎌は、彼女の手元で真っ二つに折れている。
 力無き者に無慈悲なる裁きを下す死神は、両足の腱を切り裂かれて全ての肋骨をへし折られていた。

しずか「……ふふん」

 少し誇らしげなその表情は小さな体躯のしずかを更に幼く見せる。
 しずかはボロボロのブレザーのポケットをまさぐり、携帯電話を取り出した。
692 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/22(金) 00:40:16.33 ID:o1JvnoAO
 アドレス帳のハ行にある名前をクリックし、電話をかける。
通話先の人物はきっちり三コールで電話を取ったようだ。

しずか「姫子……。私一人でやれたよ。トップランカーになれたんだよ」

 絶え絶えになっている朦朧とした意識の糸を握り締め、しずかは喜びを姫子に伝える。

しずか「うん。うん、でも迎えに来て欲しいかなー、なんて。もうクタクタで動けないや……」

 電話越しに聞こえる姫子の声は、確かにしずかを勇気づける。

しずか「屋上だよ。うん、じゃあまた──」

 言いかけたところで携帯電話はしずかの手から滑り落ちた。
 川の字になって寝そべる三人から流れる血は、血の川を作り上げている。
693 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/22(金) 00:42:06.48 ID:o1JvnoAO
くそねもい。そんなノリ。
このss書いてると俺の中の曽我部会長株がヤバイ。
多分けいおんキャラの中で一番淫乱になれるのはこの子だよ
694 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/22(金) 01:20:13.89 ID:DvImyOco
所々鼻で笑うような中二展開なのに、ついつい毎日読んじゃうところが、まさに天上天下っぽくておもしろい
695 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/22(金) 03:36:08.39 ID:i.rrDIAO
風子踏んだり蹴ったりだなwwww
696 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/22(金) 07:19:50.83 ID:G63.2lco
色盲の俺には赤と緑の違いがわからん
697 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/22(金) 19:37:02.02 ID:ZOxeHsQ0
>>693
眠いのに乙。
眠いとか言いながら、バッチリ面白いじゃねぇかwww

まさか曽我部先輩までムギの様な戦い方になるのではと期待www
698 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/23(土) 02:13:35.89 ID:p0SV4AAO
曽我部先輩マジ女狐
699 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/23(土) 05:46:30.72 ID:oZ.qCvwo
純ちゃんに『煉獄』って技を使って欲しい。
元ネタは喧嘩商売って漫画
700 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/23(土) 09:02:06.58 ID:p0SV4AAO
佐藤アカネは『門』を使うべきだったかー
701 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/23(土) 13:49:47.08 ID:eeieiyI0
曽我部先輩に乗せられて、澪が一番エロくなるよきっと
702 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/24(日) 00:05:53.08 ID:k1UL2sAO
 平沢 唯は夢を見ていた。
 床に着いて意識を手放し、そしてその意識が覚醒した瞬間唯はこれが夢なのだと悟った。
 上を見上げてもそこには空も天上も無かった。
ただ真っ白な空間だけが無尽蔵に広がっている。
足元を見ると工場付近の溝川のように虹色に濁った液体が広がっていた。
あらゆる物理法則を無視し、彼女はその上に立っている。

『おはよう。或いはおやすみ、かな?』

 初めからそこにいたかのように、それは唯の目の前に現れた。
 少し癖がある茶髪。やや起伏が控え目の身体。白くも黒くもない、日本人らしい黄色の肌。
唯の前に現れたのは唯だった。
703 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/24(日) 00:06:22.36 ID:k1UL2sAO
 ただ一つ、彼女と唯にある明確な違いを挙げるとするならその瞳だろう。
純真無垢な黒真珠のような唯の瞳とは違い、彼女の瞳にはキャンバスにぶち撒けた黒の絵の具のような漆黒の濁りがあった。

唯「君は……?」

『皆まで言うなよ唯。私に名乗る名前なんて無い」

 自分の名前を呼ばれて唯は一瞬どきりとした。
だがこれは夢なのだ。そんな思い込みと持ち前の肝の太さでその動揺は直ぐにかき消された。

唯「じゃあ何処かの誰かさん。此所は一体何なの?」

 唯の質問に対して彼女はからからと笑った。
自分と同じ顔が目の前で表情をころころと変えているその異様なシチュエーションに唯はどぎまぎする。
704 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/24(日) 00:06:55.01 ID:k1UL2sAO
『何処かの誰かさん、ね。こりゃ良いや、私は今日からそう名乗る事にしよう。……と、お前の質問に答えるならば、此所は『全て』であるとでも言っとこうかな』

 回りくどい喋り方に唯は内心いらいらしていた。
唯は気が短い方ではない。
だが彼女は温厚な唯すらも苛立たせる妙な不快感を持っていた。

『そうかりかりしなさんなって。私は何千年も生きてきたわりにはオツムの方はからっきしなんだ。此所が何たるかを分かーりやすく説明出来る語彙力なんか持ち合わせてないよ』

 まぁオツムが弱いのはお互い様か。後に付け加えたその言葉は唯を更に苛立たせる。
705 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/24(日) 00:07:34.89 ID:k1UL2sAO
『ここはお前の家でもあるし軽音部の部室でもある。はたまた修学旅行でお前が見た清水寺でもあるし国会議事堂でもあるんだぜ?』

 言いながら彼女は指を鳴らした。
その渇いた音と共に回りの景色がスクロールされてゆく。
 慣れ親しんだ軽音部の部室。毎日憂と他愛ない談笑をしていたリビング。東京タワーに凱旋門。コロッセオにナスカの地上絵。
景色の暗転が十階を越えたところで唯は反応を示さなくなった。

『分かったか?』

唯「分からないよ」

 唯は機械的に即答した。
感情や礼儀が籠っていないその返事は普段の彼女からは想像出来ない冷淡さを持っている。
706 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/24(日) 00:08:28.44 ID:k1UL2sAO
『……全てと繋がり、全てが集う場所とでも言っておこうかな。頭の悪い私がこうやって頭使ってるんだ。ちょっとは感謝しろよ?』

 次第に相手にする事すら億劫になっていた唯は何も答えなかった。

『……まぁ良いや。んじゃそろそろ本題に入ろうかな。お前がここに来た理由、或いは私がここに居た理由を教えてやるよ。どっちが知りたい?』

唯「どっちにしても同じ事なんでしょ?」

『ご名答。このシチュエーションを作り上げた因果が何であろうとどうでも良い。物語には関係無い事だからな』

 彼女は再びからからと笑う。
唯は口を真一文字に閉じる。
707 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/24(日) 00:09:05.11 ID:k1UL2sAO
『まぁなんだ。立ち話もなんだしお茶でも飲もうか。好きだろ?』

 彼女が指を鳴らすと軽音部の部室が現れた。
いつも五人で茶を啜っているお馴染みのテーブルには二つのコップが置かれており、琥珀色の液体が湯気を立てている。

唯「私はいらないよ?」

『そうか。なら飲め、今直ぐに』

唯「っ!?」

 唯は自然な動作で椅子に座り、テーブルに置かれたティーカップに手を伸ばした。
だがその動作とは裏腹に、表情は狐に化かされたかのように困惑している。

唯「〜〜っ!?」

 自分の意志に背き、身体だけが一人歩きしていた。
琥珀色の液体は唯の口内に流し込まれ、喉を通ってゆく。
708 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/24(日) 00:09:31.81 ID:k1UL2sAO
唯「こほっ……」

 至って普通のレモンティーなのだが、今の唯にはそれが得体も知れないモノに思えた。
込み上げる不快感から思わず噎せ返る。

『ぎゃっははは! あんまり私に否定的な態度ばっかりとるなって。つんでれってのはもう終わったコンテンツなんだろ?』

 大仰にテーブルを叩きながら彼女は言う。

『私は親切心からお前に忠告する為にこの環境を作ってやったんだぜ?』

唯「忠告?」

 唇に手を添え、無意識に警戒したまま唯は尋ねた。
彼女はその僅かな猜疑心すら見透かすようにじっと唯を見据える。
709 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/24(日) 00:10:40.03 ID:k1UL2sAO
『若王子 いちご。あいつに心を許すな、人間だと思うな。その胸の傷が癒え次第直ぐにあの女を殺せ』

 唯の喉を何か冷たいものが通り抜けた。
絶対零度を越えた死の冷たさが唯を襲う。

唯「──っ!」

 唯は震えて感覚が薄れてゆく身体を唇を噛み締める事で奮い立たせた。
それでも唯の胸を這い寄る死は薄れない。

『怖いか? 怖いだろ? それはお前が私に敵意を持ってるからなんだよ。早く楽になっちまえ、私はお前にとって悪い事なんて言わない』

唯「……うるさいよ」

 猫撫で声で詰め寄る彼女を睨み付け、唯は手に持つティーカップに力を込めた。
ティーカップは音を立てて割れ、空中で粉になる。
710 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/24(日) 00:11:13.63 ID:k1UL2sAO
『何で抗う? いつも無意識で最良の道を選んで来たじゃねぇか』

唯「私の人生が最良だなんて思った事はないよ」

『涙が出る程怖いだろ? その涙の理由を変えたいとは思わないのか?』

唯「泣きたくなる気持ちを捩じ曲げてまで逃げたいとは思わない」

『力への意志。お前にはそれがあるだろう? 生ある者にしか最強は訪れないぞ』

唯「望まれない最強になるくらいなら、私は最弱でも皆と笑いたいよ」

『死んじまったらお前が笑えねぇだろうが』

唯「私は死なないよ。いちごちゃんの事も信じた上で笑ってみせる」

『ふざけるな』

唯「ふざけるよ」
711 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/24(日) 00:11:58.64 ID:k1UL2sAO
 永遠、或いは刹那とも感じられる二人の間の問答は不意に終わりを迎えた。

『……良いぜ。お前がほざいてる事が全部強がりだって事を教えてやんよ』

 世界が硝子細工のように脆く崩れ去り、全てが虚構に消えた。
唯は得も知れない何かと向き合う覚悟をした。
だがその覚悟すら闇に溶けていったのだ。

『お前は私だ。だからお前の気持ちなんて尋ねるまでもねーんだよ』

 彼女は一歩唯に詰め寄り、両方のこめかみを指でがっちりと固定した。

唯「え?」

 胸を這う死の恐怖がいよいよ現実のものになろうとしている。
だが唯はそれに対して悲鳴を上げる事も出来なかった。
712 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/24(日) 00:12:39.01 ID:k1UL2sAO
『だがお前は私じゃない。おこがましい真似はそれくらいしとけよ? 取り敢えず今はさよならだ。私の器』

 彼女の指がゆっくりと唯の頭部に侵入してゆく。
脳を冒す絶望と苦痛。
それを感じる手前で唯の頭は粉々に砕け散った。

唯「……あ」

 目を開くと唯の眼前には真っ白な天井が広がっていた。

唯「…………」

 彼女に会う前に感じていた、あれは夢だという独特な感覚は消え失せていた。
ぐちゃぐちゃになった拙い思考回路ながらも彼女は考察し、思う。

唯「……夢じゃない」

 夢じゃない。だが現実でもない。
唯と彼女が居たあの空間は、そんな陳腐な定義すら打ち崩す超越したモノなのだ。
713 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/24(日) 00:13:47.05 ID:k1UL2sAO
人類最悪の彼女。そんなノリ
こういう内面的な描写って書いてて楽しいわ
714 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/24(日) 00:19:29.11 ID:VTVU03so

内面唯こええww
715 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/24(日) 00:22:16.40 ID:d7sa0Hso
乙!久しぶりの唯だな
716 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/24(日) 00:24:14.35 ID:rmR7A5Uo
唯の活躍は最終回近くになりそうでかなしい
717 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/24(日) 00:33:08.47 ID:k1UL2sAO
>>716
おいおい、実はこれまだ全体の半分も進んでないんだぜ?
718 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/24(日) 00:45:34.31 ID:slKuWGgo
その言葉に、おいおいwwww
719 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/24(日) 00:47:32.74 ID:U2aoLQDO
斬月的な感じ?
720 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/24(日) 01:10:58.36 ID:5ZnBgAAO
>>719
あー、なんだと思ったら正にそれだ
唯沢平だ
721 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/24(日) 01:17:43.33 ID:k1UL2sAO
んー、斬月も言われてみればそうかもなぁって思うけど……。
意識してるのはハガレンの真理ちゃんとかエヴァのレミエルの中の対話とかかな
722 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/24(日) 01:53:50.55 ID:nepTj2Io
真理って唯憂のことだから真理に至った唯と憂がどうなるか見ものだな。
723 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/24(日) 02:03:44.86 ID:blibwW6o
>>722
そのりくつはおかしくない
724 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/24(日) 02:55:12.85 ID:3KJHzGI0
乙。
こういう描写も流石の出来。
725 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/24(日) 20:20:38.17 ID:k1UL2sAO
いちご「適応率が七十パーセント越え……?」

 あちらこちらからむき出しのケーブルが飛び出ている怪しげな研究室。
いちごはその中央に鎮座するモニターを訝しげに見つめた。

斎藤「一過性のものでしょうか? 鎮静剤を投与しますか?」

いちご「……いや、いい」

 唇に手を添え、何か考え込むような仕草を見せると、いちごは脇に備えられたパソコンのキーボードを叩いた。

いちご「現段階で『エデンシステム』は適応率九十三パーセントまでは耐えられる筈。むしろ『龍』の力を多く補給出来るし、好都合よ」

 パソコンのディスプレイが暗転し、透明のカプセルが映し出された。
726 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/24(日) 20:21:15.44 ID:k1UL2sAO
いちご「或いは一過性でなくても、この状態を保てれば完成が大幅に早まるわ」

 カプセルの中には木を手の平ほどの大きさに縮めたようなモノがあった。
葉の一枚一枚がうっすらと光を放っており、神々しさを放っている。

いちご「ねぇ斎藤」

斎藤「はい」

 いちごの呼び掛けに斎藤は一歩前に出て背筋を伸ばした。

いちご「あなたはアダムとイヴの逸話を知ってる?」

斎藤「その手の話には疎いもので……。大まかな事しか存じておりません」

いちご「そう。ならそれでも良いわ」

 いちごはパソコンの前の丸椅子に腰掛け、くるりと斎藤の方を向いた。
727 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/24(日) 20:21:51.72 ID:k1UL2sAO
いちご「サタンに唆され、知恵の実を食べた愚者は楽園を追いやられた。永遠と幸福を奪われてね」

 空想のアダムとイヴ、そして林檎の木と蛇の悪魔を思い浮かべ、いちごはそっと目を閉じた。

いちご「限られた命という呪いを架せられたアダムとイヴの子孫である私達も、その咎を悔い改め続けなければならない」

 目を開き、無機質な天井を仰いで目を細める。

いちご「馬鹿らしいとは思わない? 覚えの無い罪を勝手に背負わされて、確実にやってくる死に怯えなければならないなんて」

斎藤「……しかし人は死にます。それは覆らない道理なのでは?」

いちご「愚か者はそうやって思考停止してると良いわ。私は愚者のままではいたくない」
728 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/24(日) 20:22:28.17 ID:k1UL2sAO
 失望の意を隠す事もせず、いちごは冷たい瞳で斎藤を睨んだ。

いちご「知恵の実を食べた愚者の子孫である私達の宿命。それは生命の実を創る事よ」

斎藤「……『エデンシステム』ですか」

 斎藤はサングラス越しにモニターを見据えた。
映し出された禁断の林檎の木が、途方もなく悍ましいものに見える。

いちご「そう。私はこの『エデンシステム』で神に反逆する」

 そして斎藤は生命の実を創ろうとしているいちごに、恐怖を越えた感情を覚えた。

斎藤「……私には分かりません。そこまでしてこの世に居続けたい理由は何なのでしょうか?」
729 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/24(日) 20:23:00.78 ID:k1UL2sAO
 いちごは一瞬口を噤んだ。
そして何処か悲しそうな顔をして、くるりと斎藤に背を向ける。

いちご「……それで皆が幸せになれるからよ」

斎藤「はたしてそうでしょうか? 常套句ではありますが、限りある命こそ尊いと私は思います」

 斎藤が言い終えると同時に、いちごはキーボードを強く叩いた。

いちご「あなたの大切な人が死んだ時、同じ台詞が吐ける?」

斎藤「私にそのような方は居ません」

いちご「私にもまだ居ない。でも生きていればきっとそんな人が現れると思うの」

 いちごは一瞬だけ身震いした。

いちご「その人が急に私の前から消えたら……。想像しただけで気が狂いそう。誰もこんな思いをしちゃ駄目なの」
730 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/24(日) 20:23:50.26 ID:k1UL2sAO
斎藤「しかし……」

 斎藤は何か言い掛けて口を閉ざした。

いちご「……世迷い言。ごめん、忘れて」

 いちごは二つ結びにした髪の毛を弄り始める。

いちご「下がって。少し一人になりたい」

 斎藤は二つ返事で踵を返し、研究室を後にした。
無機質な天井はまだ続いていた。

斎藤「平沢 唯を利用する事で悲しむ人間は、この言葉を聞いたら何を思うのだろうか……」

 黒いスーツの内から煙草を取り出し、少しためらいながらもそれを口に咥え、火を点けた。

斎藤「夢を見るのは自由……か」

 斎藤は紫煙をくゆらせながら歩く。
その背中は心なしか小さく見えた。
731 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/24(日) 20:25:27.53 ID:k1UL2sAO
大天使いちごちゃん! そんなノリ
短いけど今日は打ち止め
732 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/24(日) 20:29:03.00 ID:44yrpVUo
俺がいるだろ、いちごちゃん
733 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/24(日) 22:34:55.21 ID:lMFH7lwo
いちごちゃんは度が過ぎるワガママ可愛い
734 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/24(日) 22:50:24.57 ID:5ZnBgAAO
間違いない。
いちごちゃんには居場所が必要なんだ。
儚くも揺るぎない、心の支えとなるべき巣がね。



そんなわけでいちごちゃんは明日から僕とルームシェア決定。
735 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/25(月) 10:09:19.58 ID:DIu3vISO
なんだかジャンプや天上天下にエヴァが混ざってきたでござる

しえしえ
736 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/25(月) 20:45:51.54 ID:DPVaaoAO
 怪しげな雰囲気を醸し出す夜の繁華街。
純はブレザーの上から無骨なライダースジャケットを纏い、ジップを首元まで上げている。
そんなアンバランスな格好でこんな怪しげな通りを歩くのには理由があった。

純「……暑いっつーの」

 第一の理由は生徒会による見回り。
先の一部の生徒によるテニス部への暴力事件の被害者が、この近辺のいかがわしい店で働かされているとの情報があったのだ。
 しかしいくら世間の桜高の生徒に対する視線が畏怖の念に染まっていようと、女子が制服で風俗街を一人歩くのは流石に印象が悪い。
そんな俗物的思考から、純は現在この苦労を強いられている。
737 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/25(月) 20:46:21.73 ID:DPVaaoAO
純「もうすぐ夏服に切り替わろうかって時期にこのジャケットですか!?」

和「異論は終わってから聞くわ」

 そんな五秒にも満たないやり取りで、自分の苦労が確定されたと思うと、純は内心苛立っていた。
 放課後の澪との邂逅。闘気という概念の指導。
 今日だけで三日分の体力を消費した気がする。
頼むから今日はもう何も起こらないでよ、などと切に願っていた純なのだが。

純「…………」

 拭い様もない絶対的な違和感に、純は足を止めた。
 コンクリートジャングルの中に潜む獅子。 或いは豊潤な土壌に潜む蠍。
 或いは淡々と、炎々と繰り広げられる日常の中に潜む異常。
 そんな場にそぐわない存在がそこにあった。
738 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/25(月) 20:46:56.83 ID:DPVaaoAO
純「っ──!」

 気付いてからは速かった。
喧騒で溢れる繁華街から、純の姿が消える。正確には超スピードでその場から離れたのだ。

純(うっそでしょ……。殺る気満々じゃん)

 コンクリートの建物の屋上を転々とし、繁華街を離れると木々が鬱蒼と茂る小山に辿り着く。

純「みーつけたっ!」

 繁華街から数キロ離れたこの小山に辿り着くまでに要した時間は僅か五秒。
武術に秀でた剛の者が今の純を見ればそれだけで尻尾を巻いて逃げ出すものなのだが、それは宙を舞う純を見据えて、獣のような笑みを浮かべた。
739 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/25(月) 20:47:25.75 ID:DPVaaoAO
 地毛とも染色ともとれる独特な色の髪の毛を二つ結びにした可憐な容姿。
それから放たれる威圧感は醜く、どす黒い。

純「……上等!」

 空中で体重移動し、落下スピードを高める。
純はそれの前に降り立った。

純「事前の取り締まりってのも一応ありなんですよね。私にそんな殺気を見せた自分の愚かさを恨んで下さいな」

三花「……『獣王』佐伯 三花。私の名前だよ」

 全く噛み合っていない会話。
だが今の二人にはそれで充分だった。

純「『夢幻』鈴木 純です!」

 純は三花の膝に下段回し蹴りを放った。
格闘における基本中の基本とも呼べる技。
シンプル故に強靱な一撃が三花を捉える。
740 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/25(月) 20:47:55.01 ID:DPVaaoAO
純「まだまだ!」

 続いて脇腹に中段回し蹴り。膝に下段足刀。瞬時に体勢を変え、ローファー越しに足の甲を踏み付ける。
がら空きの顎に上段足刀。
両手で脇腹に鉤手。こめかみに肘打ち、両手をそのまま縦に広げ、顔面と下腹部に突きを放ち、首筋に手刀を決める。
ふらつく三花の身体をそのまま倒す事は許さない。
渾身のアッパーを鳩尾に捩じ込む。

純「あははっ、こりゃ楽しいや!」

 神速のコンビネーションは止まる事を知らない。
三花にその地獄のような包囲網から逃れる術は無かった。
 最期に頭突きを顎に捩じ込み、三花にとっての地獄は終わる。
741 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/25(月) 20:48:34.98 ID:DPVaaoAO
純「煉獄──」

 倒れゆく三花の身体に見向きもせず、純は癖の強い髪の毛をさっと払った。
だがそれがいけなかった。
純は究極のコンビネーション技、煉獄を止めるべきではなかったのだ。
たとえ一昼夜続けて煉獄を放ち続けても、佐伯 三花を相手にするならば用心のし過ぎという事はない。

三花「いっ……たぁ……」

純「へ?」

 背中に強烈な衝撃を感じつつ、純は一際大きな木に叩き付けられた。
負荷に耐えられなくなった木は鈍い音を立てて倒れる。

三花「急所ばっかりそんなに狙って……。『人間』だったら死んでるよ?」
742 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/25(月) 20:49:11.65 ID:DPVaaoAO
純「っ!?」

 三花から感じ取れる闘気は零。
つまり佐伯 三花は『絶対の彼方』を越えていない。
にも関わらず純は悪寒を感じた。
『絶対の彼方』と同等、或いはそれ以上の異端の壁を越えた力が純の肌を刺す。

純「一体……」

 負ける気はしなかった。
恐らく本気でやり合えば十中八九自分が勝つであろう。
だがそんな確信の中に欺瞞が見え隠れしている。

純「何者……?」

「『獣王』よ」

 丁度三花の頭上からその凜とした声は聞こえた。
腰に桜の波紋を持つ銘刀『桜花』を携えた桜高の帝。

和「……面倒な事になってきたわね。私の代の生徒会は貧乏くじだったのかしら?」

 夢幻の霧の中を蠢く獣王。その眼前に女帝が降臨した。
743 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/25(月) 21:04:47.19 ID:oLfL3HAo
和ちゃんカッケーwwwwww
744 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/25(月) 21:05:49.14 ID:DPVaaoAO
純「知っとるか東京モン、プラスティックって石油から出来とるんやで?」
梓「プラスティックは知らないけど、プラスチックはそうだよね」
そんなノリ
745 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/25(月) 21:25:51.58 ID:v3/nlGYo
ロマンティックは止まらないけど、ロマンチックはあげちゃう感じ?
746 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/25(月) 23:04:29.36 ID:AETr6wDO
獣王「グワァァァァァァァ!!」
747 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/25(月) 23:06:00.17 ID:LCpnYAso
ダナゾ
748 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/25(月) 23:49:42.21 ID:dnZJSYAO
純「お好み焼きにご飯付けなくていいの?」
梓「そんな貧乏臭い食べ方できるか」
ってノリですね分かります
749 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/26(火) 15:24:35.53 ID:I4i1UVko
富田流の煉獄か
750 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/26(火) 21:16:21.11 ID:FQfrsMAO
純ちゃんマジかわいい!!
751 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/26(火) 21:31:52.96 ID:ZDYGml2o
獣王か、燃えるぜ
752 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/26(火) 21:55:29.89 ID:D2Ann2AO
あー……すまん
なんか地の文の書き方忘れた
ちょっと一日二日ほど空けるかも
753 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/26(火) 21:58:21.04 ID:hEz7Phk0
何があった⁉

文体忘れるとか重傷過ぎじゃないかw

しっかり休んでくれ!!!
754 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/26(火) 22:56:19.89 ID:I.6KuuEo
最後のコメントもわりと楽しんでる自分がいる
755 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/27(水) 21:39:11.26 ID:CFW716AO
三花「真鍋さん……?」

和「そ、あなたの真鍋さんです」

 軽口を叩きながらも和の表情は険しい。
帯刀していた『桜花』に手をかけてそのまま抜刀、腕をしならせる。

和「これ以上の喧嘩は私が出張るわ」

 殺戮の光が刃に宿り、闇夜を照らした。

三花「…………」

和「ん、取り敢えず今はそうやって大人しくしててね」

 口をもごもごさせながらも押し黙る三花を余所に、和は折れた木にもたれた純に問い掛ける。

和「この状況に至った理由を説明して」

純「え、なんかそこの方がギラギラしてたから取り押さえようとしたらこうなりました……」

和「え」

純「え?」
756 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/27(水) 21:39:55.02 ID:CFW716AO
和「つまり佐伯さんは何もしてないって事……?」

純「え……。いや、その……」

 和は引きつった表情を浮かべ、三花に向けた刀を下ろした。
純は身の危険を察知して、直ぐに逃げ出せるように立ち上がる。

純「まぁ……。そうとも取れます、かね。あははは……」

 純が摺り足でその場から離れようとするのを、和は見逃さなかった。

和「っ! 待ちなさい!」

純「やば──っ!?」

 純を逃がすまいと和は飛び出した。
逃げられない事を悟った純は固く目を閉ざすが……。

純「え?」

 その刹那、鳴り響く甲高い金属音は純を困惑させた。
757 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/27(水) 21:40:28.90 ID:CFW716AO
 うっすらと目を開くと、眼前で三花の拳と和の刀が鍔競り合っていた。

三花「私を無視しないでよ……」

 瞳を爛々と輝かせ、三花は乱暴な動作で蹴りを放つ。

和「っ!?」

 躱す事は不可能だと察した和は咄嗟に身を屈め、左手と刀の柄を使ってその蹴りを受けた。

和(重い──っ!)

 人間のそれとは比べ物にならない桁外れの威力。
たとえ象に踏み付けられたとしてもこんな衝撃は起こるだろうか。いや、断じて起こらない。

純「やっぱり私は正し──」

和「黙ってなさい!」

 和は即座に気持ちを闘いに切り替える。
膨大な闘気の奔流が木々をざわめかせた。
758 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/27(水) 21:41:05.93 ID:CFW716AO
三花「黄色……? 凄く濃い……」

 うわ言のような三花の呟きに和は機敏に反応した。

和「……見えるの?」

 常人では視覚する事すらままならない闘気。
その存在を認識し、己の力として操る事が出来るのは『絶対の彼方』を越えた達人だけだ。

和(探りを入れてみようかしら)

 闘気を感じられない敵から闘気を仄めかす発言が零れるという地雷原のように曖昧模糊としたこのシチュエーション。
和は警戒こそすれど、その状況に臆することなく踏み込んでいった。

三花「うわっ、凄い!!」

 無邪気な反応を示し、迎え撃つのは三花。
闘気を纏った光刃と鋭い貫手が衝突する。
759 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/27(水) 21:41:42.09 ID:CFW716AO
 平沢 憂すら貫いた光刃が闘気も扱えない少女の生身の拳と均衡を保っていた。

和「…………」

 内心驚愕していた和だが、それを面に出す事はない。
光刃は拡散し、辺りの地面を爆散させる。

三花「え?」

 拍子抜けした三花の声に少し遅れて、大地が光り輝いた。
純と三花にはその光の正体は分からない。
だが戦士としての直感が警鐘を鳴らす。この場に居てはならないと。

純「──やばいやばいやばいっ!!」

 先の戦いにおけるダメージが若干残っていたが、生存本能が純の身体をつき動かす。

純「もう帰りたいよーっ!!」

 純の背後で爆風が巻き起こり、砂塵が舞う。
760 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/27(水) 21:42:56.46 ID:CFW716AO
 和の闘気の色は黄色。つまり大地を司る力だ
 本来その能力は地脈に流れる僅かなエネルギーを集め、己の力として還元する能力なのだが、和クラスの使い手となるとその力は様々な多様性を見せる。
地脈のエネルギーを物体に纏わせて破壊力を高め、或いは自分自身に纏って鋼の如き防御力を得る。
 先程の大地の爆散は地脈のエネルギーを転換する事なくそのまま暴走させ、破壊に転じさせる技なのだ。

和「これでまだ動けるなら大したものよね」

 大地の奔流に成す術なく飲み込まれた三花。
だが彼女の野獣のように狡猾な生存本能がここで散る筈がない。和はそう確信していた。
761 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/27(水) 21:43:31.09 ID:CFW716AO
 和は刀を大きく薙ぎ、真横に構えて目を閉じた。
奔流していた闘気が桜の元に集い、光の剣が形成される。
直径百メートル、最高レベルにまで錬磨されたその力を。

和「出てきなさい!」

 足を軸にして一回転に振るった。
木々は済し崩しに倒れてゆき、刃の軌道を追うように地脈エネルギーが暴発する。

純「あわわ……。目がイッちゃってるよあの人……」

 倒壊する木々の隙間を縫って安全地帯に逃げる純。
ふと後ろを振り向くと据わった目をした和がいた。

純「っ!?」

 和の頭上に現れた影を見て純は驚愕する。
『獣王』が、佐伯 三花が傷一つ負わずに和に食いかかっているではないか。
762 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/27(水) 21:44:10.45 ID:CFW716AO
和「そう来てくれるわけね」

 自分の技が全く効いていない事には驚いたが、和はここで自分の勝利を確信した。
 刀に纏わせた闘気を解除し、それを頭上に投げる。

三花「っ──!?」

 三花は和のこの行動を予想していなかった。
剣術使いにとって刀とは己の命を預ける言わば自分の映し身のようなもの。
それを躊躇無く敵に投げ付ける剣術使いなど、三花が今まで闘ってきた中には一人も居なかった。
 刀は刀身を逸すことなく切っ先を向けて自分の胸を狙ってきている。
 躱す? 無理だ。空中で、しかも攻撃に転じた姿勢はそう簡単に覆せるものではない。
763 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/27(水) 21:45:03.69 ID:CFW716AO
 ならば残された道は一つ。

三花「うぐっ……!」

 三花は鈍色に輝く刀身を掴む。
掌の肉を裂いても刀の勢いは収まらない。
切っ先が胸に届く寸前に、三花は身を捩らせる。
肩口にざっくりと食い込む事で、『桜花』は動きを止めた。

三花「いっ……たいなぁ……っ!」

 丸腰の和の前に降り立ち、ぎらついた瞳で睨み付ける。
そして攻撃手段を失った和の首筋目掛けて爪を突きたてようとした。だが……。

三花「かは──っ!?」

 鳩尾に鈍い衝撃、三花がそれが和の蹴り上げによるものだと気付いたのは、和の拳が自分の頬に捩じ込まれてからだった。
764 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/27(水) 21:46:23.89 ID:CFW716AO
 三花は身体が後ろに飛ぼうとしているのを察知するが、行動を起こせない。
肩口に刺さった刀に手をかけられている事に気付いていても、何も出来ないのだ。

和「あなたの敗因はただ一つ。シンプルな答えよ」

 躊躇無く、三花の肩から刀を引き抜く。
夥しい量の鮮血が噴き出した。

和「あなたは、痛いほどに弱過ぎた。私を相手にするにはね」

 自然と和から離れてゆく自分の身体。
舞い散る鮮血の向こうで眼鏡をくいっと上げてほくそ笑む和の顔が、三花には悪魔のように思えた。

純「そこは『テメーは私を怒らせた』でしょーに……」

 安全地帯で軽口を叩く純。
だが彼女も、真鍋 和という完成された戦士の脅威に身を震わせていた。
765 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/27(水) 21:49:30.62 ID:CFW716AO
三花「貴様! 見ているな!?」
純「っ!?」ビクッ そんなノリ。

何かが違う。そんな感じがするけど暫くはこの調子でいこう、そうしよう。
766 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/27(水) 21:53:05.42 ID:HeRDIQAO
キマシタワー!!
頑張って下さい
767 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/27(水) 23:59:01.92 ID:FBLdXoAO
純ちゃんが噛ませキャラになりそうで怖い!!
乙!
768 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/28(木) 01:07:34.79 ID:VWveapg0
締めのコメントは
和「牙突・零式!!!」そんなノリ

って来ると思ったのに!!w
乙です。
769 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/28(木) 20:37:47.21 ID:F8g5XIAO
 刀についた血を払いつつも、和は警戒の糸を切らさない。
佐伯 三花、彼女が『獣王』と呼ばれる所以を少なからず把握しているからだ。

三花「うぅ……」

 呻き、肩を押さえながらも三花は立ち上がる。
表情は眉間から吹き出た血に覆われてよく見えない。

和「そろそろ降参したら? いつだって獣は人に虐げられるものなんだから」

 帝王の私には敵わない、そう付け加えると和は姿を消した。
その直後に三花の眼前に現れ、腰に差した鞘で喉を突いた。

和「ごめんね、ちょっと痛いかも」

 そして三花の頭を躊躇無く踏み付ける。
三花の頭を中心に大地はひび割れ、そして。
770 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/28(木) 20:38:23.08 ID:F8g5XIAO
三花「〜〜っ!?」

 大地は輝き始めた。
痛いどころではない。下手をすれば首から上が木っ端微塵に吹き飛んでしまうかもしれない。
忍び寄る死の恐怖が三花を焦躁に駆らせた。

和「カウントしてあげるから歯を食いしばりなさい。さーん」

 今の三花にはその配慮が嫌がらせにしか思えなかった。

和「にー」

 出鱈目に身体を動かすが頭部はがっちりと固定されて動けない。それどころか更に地面にめり込んでいるような気がした。

和「いーち」

 大地が一層強く光り輝く。
もう無理だ。いくら身体を動かしたところでこの場から逃れる事は不可能なのだろう。
そうして三花は考えるのを止めた。
771 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/28(木) 20:38:53.59 ID:F8g5XIAO
和「ぜーろ」

 声の抑揚は全く変わらない。
ただ作業のように三花の頭部を踏み付ける足に力を込めた。
 土砂が巻き起こり、砂塵が吹き荒れる。
大地はそこにある全てのものを蹂躙し、食らい尽くした。

和「……何でいつも一筋縄ではいかないのかしら」

 強者故の驕り。
確かに無かったとは言えない。
だがあまりにもタイミングが良過ぎるのではないか、と和は苦笑した。
 舞い上がった粉塵が一陣の風に吹かれ、辺りは晴れた。
そこには佐伯 三花を含め、三人の少女がいた。

「手ぇ煩わせちゃったみたいだね。ごめんなさい」

「こっちの不手際……かな? まぁ無事でなにより」
772 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/28(木) 20:39:23.40 ID:F8g5XIAO
 褐色の肌の少女が和に対して舌をぺろりと出して頭を下げた。
それに続いて色白の冷たい雰囲気を醸し出す少女が僅かに頭を下げる。

和「巻上さんに、砂原さん……」

 巻上 キミ子と砂原 よしみ。桜高生徒序列では五十位に入っているかいないか、そんな微妙な位置付けにいるこの二人がこの場に介入している事に、和は不信感を覚えていた。

和「理解に苦しむわ。悪いけどこの状況について説明してくれる?」

 和は極太の鋼鉄製の鎖でがんじがらめにされ、二人に拘束されている三花を一瞥してから上を見た。

和「立花さん」

 和の視線の先には衝撃で倒れかけた大きな木。
そしてその頂点で威風堂々と佇む姫子が居た。
773 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/28(木) 20:40:05.97 ID:F8g5XIAO
姫子「……いつから気付いてた?」

和「その子が私の頭上を突いた時よ。敢えてカウントしたのはあなたの出方を見る為」

 溜め息が出るほどに美しく佇む姫子を見据え、和はそっと頭を掻いた。

和「まぁ、そこの二人はノーマークだったんだけどね」

 肩から血を流しながらうなだれる三花。
だが二人は容赦無く鎖を持つ手に力を込めている。

姫子「……それにしても大したものだね。私に牽制しながら『獣王』をこんな僅かな時間で屈服させるなんて」

 さっと髪の毛を払って、姫子は木から飛び降りた。
その拍子に木は遂に崩れ落ちる。

和「降りてこいとは言ってないわよ」
774 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/28(木) 20:40:37.14 ID:F8g5XIAO
 言い終えるよりも速く、和は『桜花』を姫子に向けて飛ばしていた。
『桜花』は鈍色の輝きを放ちながら姫子目掛けて直進してゆく。

姫子「危ないなぁ……」

 姫子はそれをぎりぎりまで引きつけて躱した。
和はそれを確認してにやりと笑う。

純「人使い荒いなぁ、もう!」

 丁度姫子の後ろで純が身構えていた。
器用に刀の柄を掴み、大きく跳躍する。

純「九頭龍閃!!」

 九つの閃きが姫子を襲う。
刹那に打ち込まれたその斬撃の一つ一つには赤の闘気が練り込まれていた。

姫子「やばっ!?」
775 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/28(木) 20:41:06.26 ID:F8g5XIAO
 咄嗟に風を巻き起こし、刃の軌道を逸らそうとした姫子だがそれは逆効果となった。
赤の炎は風を飲み込み、爆発を巻き起こす。 だがそれに易々と飲み込まれる姫子ではない。
身体をブリッジの要領で大きく反り、そのまま地面に手を着いてそこを軸に足払いを放つ。

純「もらいいい──っ!!」

 大きく体勢を崩しながらも純は歓喜した。
刹那に取った体勢は突きの構え。
刃には赤の闘気が溢れている。

純「超! ゴールデン中華斬舞!!」

 爆炎を起こしながら放たれるは無数の突き。
不安定な体勢の姫子にそれを防ぐ術は無い。
776 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/28(木) 20:41:43.60 ID:F8g5XIAO
姫子「──っ!」

 意を決した姫子は斬撃の渦中に手を突っ込んだ。
姫子が掴んだ刃は掌を裂き、高熱で肉を焼く。

姫子「あつっ!」

 一瞬だけ苦悶の表情を浮かべる姫子だが刀を掴む手を緩めたりはしなかった。
二人は同時に地面に倒れ、動きを止める。

純「あー……。ごめんなさい和先輩。無理です、勝てません」

姫子「……性格悪過ぎ」

 純は手首を返し、和に『桜花』を投げ渡した。
その一連の動きを確認すると姫子はジト目で純を睨む。

和「そうかしら? 裏表の無い良い子だと思うけど」

姫子「本気でそう思ってるなら大したもんよね。あーエゲツないエゲツない」
777 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/28(木) 20:42:49.40 ID:F8g5XIAO
 姫子は地面に大の字に寝そべって、力無く手を振った。
闘う気など更々無いのだろう。ただ不貞腐れた顔で溜め息をついている。

姫子「黄色だった闘気が目を離した内に赤……。意味分かんないよ」

純「その気になれば青と緑もいけますけどね」

 純は得意げな笑みを浮かべながら姫子の身体に手足を絡ませた。

純「かくほでーす」

姫子「…………」

 姫子は抵抗する気力も無いのか、ただ呆れたように溜め息をついた。
しかし和はそれ以上に呆れていた。
厳かな雰囲気を良しとする和にとって、今の状況はシュールを通り越して理解不能だ。

姫子「私……。君の事嫌いだな」

 純は姫子の呟きに耳を貸さず、無邪気な笑みを浮かべている。

純「やっぱりおいしいところは私のもの!」

 純は歓喜の叫びをあげた。
778 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/28(木) 20:45:05.26 ID:F8g5XIAO
純「それでも拙者は、和殿が言う甘っちょろい戯言が好きでござるよ」
和「そうなんだ。じゃあ私、生徒会行くね」
そんなノリ
779 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/28(木) 20:49:02.64 ID:X..vIZso
姫子キター!!
乙!
780 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/28(木) 21:49:51.77 ID:VWveapg0
>>778
リクエストに答えてくれてありがとう!!www

何かもうファンレター送りたくなってきた!www

乙です!
781 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/28(木) 22:01:39.07 ID:AslM3iso
キミ子ー!!
782 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/28(木) 23:42:39.69 ID:gMxxkNQo
The 空気読めない娘 和ちゃん
783 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/29(金) 00:23:38.67 ID:2I1zeASO
今度はるろ剣にシャーマンキングかwwwwww

十分純ちゃんチートだわwwww

馬孫無しで中華斬舞とか
何もんだよ
784 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/29(金) 03:50:09.63 ID:6scoB6AO
純ちゃんチートすぎもふもふ!

そして遂にキミ子が出たああああ!!チョイ役っぽいけど!!
785 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/29(金) 13:42:50.75 ID:5YjkqDYo
澪「月光蝶である!!」
紬「わが世の春がきたあああああああ」
そんなノリ
786 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/30(土) 21:01:17.58 ID:GnGiG6AO
和「じゃ、聞かせてもらおうかしら。どういう了見でこんな厳戒体制を張ってたの?」

姫子「だからギスギスした話じゃないんだって。私達は敵じゃないし、むしろ味方になりたいと思ってる」

 姫子は身体を絡めてくる純を鬱陶しそうに払おうとする。
だがその上から更に纏わりついてくる純に苛立ちを覚えていた。
太股同士が触れ合う冷たい感触に、姫子は背筋を震わせた。

姫子「んっ……。もう……。離れてったら!」

純「どうしますー?」

 姫子の意見には聞く耳持たず、純は和に問うた。

和「……離して良いわよ」

 少しだけ考え込むような動作をして、和は大きく頷いた。
787 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/30(土) 21:01:47.96 ID:GnGiG6AO
純「はーい」

 軽い返事をして純は立ち上がった。
その拍子に姫子の首筋に一瞬だけ舌を這わせる。

姫子「ひゃっ!?」

 舐められた部分を抑えて咄嗟に立ち上がる姫子。
その顔色はみるみるうちに高揚してゆき、紅葉のような赤みを帯びている。

姫子「……大っ嫌い!」

 年下に弄ばれているというシチュエーションに、姫子は憤った。

純「ふっふーん。こりゃ嘘を吐いてる味ですよ、なーんてね」

 目を細め、見た目に不釣り合いな艶めいた笑みを浮かべて純は言う。

純「私は好きですよ。丁度良い喧嘩相手になりそうだし」
788 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/30(土) 21:02:33.93 ID:GnGiG6AO
 姫子は恥ずかしさのあまり逃げ出したくなる衝動に駆られた。
ほんの一瞬だけ満更でもないと思ってしまった自分を切り刻みたくなる。

姫子「……馬鹿」

 純が姫子の呟きに対して何か返そうとした時、大地が大きく揺れた。

和「話すの話さないの。どっちなの?」

 眼鏡越しに据わった目で二人を見つめる和。
蚊帳の外に居る事に耐え切れなかったのだろうか、手持ち無沙汰に『桜花』を手首で振るっている。

純「あっはは、怒られてます──うわっ!?」

 純は執拗に姫子に絡もうとした。
だが丁度二人の間の狭い隙間を縫うように光刃が叩き付けられる。
789 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/30(土) 21:05:19.57 ID:GnGiG6AO
和「ど っ ち な の ?」

 姫子は素直に戦慄した。
純はもう自分は喋らない方が良いかもしれないと悟った。

姫子「話します……」

 姫子は両腕で肩を抱きながら答える。
その様子をキミ子とよしみは冷めた目で見据えていた。

キミ子「私、立花さんに協力するの止めようかな……」

よしみ「……同感」

 三花を縛る鎖を持つ手が緩んだ。
その気になれば容易く脱出出来る筈なのだが、三花はそれをせずに周りに合わせて溜め息をつく。

三花「なにこの状況」

キミ子「お前が原因だ!」

三花「いてっ」

 軽く小突かれた三花ははにかみながら舌を出した。
和につけられた肩の傷は既に塞がっている。
790 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/30(土) 21:06:01.85 ID:GnGiG6AO
 所変わって姫子がよく利用する喫茶店。
コーヒー豆の香ばしい匂いが室内に立ち込め、立ち寄る者に安堵感を与える。

和「疑似的に『絶対の彼方』を越えた人体。そしてそのプロトタイプってわけね」

 店の隅で毛布にくるまり、カップに注がれたココアを啜る三花を眺めながら和は言う。

姫子「そう。あの子の身体は特別製だから、その身体の秘密さえ分かれば力の無い子でも『絶対の彼方』を越えられるかなと思って、ね?」

純「『獣王』ですか……。制御不能のキワモノって感じですけどね」

 純はうさん臭そうな面持ちでコーラフロートのアイスを一口で頬張った。
791 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/30(土) 21:06:39.37 ID:GnGiG6AO
姫子「でもやってみる価値はあるでしょ」

 横目で純を睨みつつ、姫子はコーヒーに口をつけた。
エスプレッソの濃い香りが苛立ちをほんの少しだけ緩和させる。

和「確かに……。でも容易な事じゃないわよ?」

姫子「それも分かってる」

 和は純粋に姫子の事を心配して言ったのだろうが、それも一蹴される。

和「解せないわね。そこまでして一般人に『絶対の彼方』を超えさせる事に固執するのは何故なの?」

姫子「全ての乱れを静めるためだよ」

 意志が込められた強い言葉に和は思わず身を引いた。
それが立花 姫子の矜持なのだろう。
792 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/30(土) 21:07:10.12 ID:GnGiG6AO
 群雄割拠の桜ヶ丘高校のトップランカーに君臨しながらも、私闘を善しとしない穏やかで優しい性格。
彼女が纏う緑色の闘気が鋭利な刃ではなく、全てを包み込む穏やかな風であるのもそこから来ているのだろうか。

和「越権行為よ。それは生徒会の仕事であってあなたの仕事じゃない」

姫子「それじゃあ唯は止められないよ」

 即答して、空になったコーヒーカップをテーブルにおく。
そして姫子は一際険しい顔つきで言った。

姫子「それに唯の妹さんも、このまま放置しておくには危険過ぎる」

和「……あの子はイレギュラーなのよ」

姫子「それじゃ駄目なんだよ!」
793 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/30(土) 21:07:47.92 ID:GnGiG6AO
和「…………」

 テーブルを強く叩く姫子。
彼女の真剣さを痛いほどに理解した和は何も言い返せなかった。

姫子「……ごめんね。でも自分じゃ太刀打ち出来ない力を諦めて放置するのは、ただの思考停止だと思うんだ」

 姫子は一呼吸置いて言った。

姫子「イレギュラーがイレギュラーたる原因は、観測者の力量不足だよ。諦めなければきっとあの子達に届くから……」

 後半は悲痛の叫びだった。
唯が居ない今の状況を作り出したのはあの日関与していた者全員、つまり自分と自分の友人達の力量不足。
責任感が強い姫子にとって、突き付けられた現実はあまりにも無情だった。
794 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/30(土) 21:08:27.16 ID:GnGiG6AO
姫子「唯を取り戻す事、そしてその後の治安維持を私達に……協力させてほしいの」

 元より姫子の声しか響かなかったこの空間が、更に水を打ったように静まり返った。

和「…………」

 和はしばらく考え込むような動作をしていた。
唯と幼馴染みである自分。そして生徒会長である自分が心の内で責めぎあっている。

純「良いんじゃないですか?」

 閉口しきっていた純がここで口を開いた。

純「イレギュラーがイレギュラーたる原因は観測者の力量不足。そこは全面的に同意ですよ。それにこのままだらだらやってるのも私らしくないし」
795 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/30(土) 21:09:13.40 ID:GnGiG6AO
和「……でも」

純「それとも天下の『女帝』がビビってるんですか? 笑えない冗談ですね、それ」

 内心苛立った和だがそこはぐっと堪えた。
和の心境を察したかのようにせせら笑う純は言葉を続ける。

純「勝ちの目は1パーセントくらいが丁度良いんですよ、それ以上は楽しくない。安全装置無しでジェットコースターに乗るくらいの気楽な気持ちでやりましょうよ」

和「……無謀過ぎるわよ」

 とは言うものの、和の表情は穏やかなものだった。
それを見て姫子もそっと安堵の息をついた。
796 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/30(土) 21:28:47.84 ID:GnGiG6AO
純「投下中に電話かけてくんじゃねえええええええ!!」
そんなノリ
797 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/30(土) 21:35:48.95 ID:WdcbFPwo
乙!
かかってきたのかwwwww
798 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/30(土) 22:31:07.96 ID:4m3unZYo
澪「もし律に彼氏がいたら…キスとかしちゃったりして(ry」
唯「澪ちゃん、もう寝ても良いかな」
そんなノリ
799 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/30(土) 22:47:57.52 ID:MHlmm1co
そろそろ憂さんの本気が見たい…。
800 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/30(土) 23:04:11.03 ID:gKi38EAO
乙!
純ちゃんもふもふペロペロ!
801 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/31(日) 02:13:45.94 ID:NXMd2oAO
憂はマジでキスショットぐらいの戦闘力ありそう
ただそうなると、物理的な殺害は完全に不可能だ
802 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/10/31(日) 08:17:16.72 ID:6xNhY5.0
乙!
久々の憂選手に期待
803 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/31(日) 23:16:35.98 ID:CODjL6AO
 窓から差し込む日の光が仄暗い部屋を照らす。
日が昇り、そして沈んで月が昇る。
その至極当然の世界の営みの中から完全に隔離された世界がそこにあった。

憂「…………」

 この部屋に閉じこもってから何時間、何十時間が経ったのだろうか。
憂は既に考えるのを止めている。
 朝日が射し込む窓は粉々に割れており、木で出来た扉にはぽっかりと空洞が出来ていた。
この部屋への侵入経路となる部分は凄惨に壊れているにも関わらず、部屋自体は埃っぽさはあるものの荒れてはいない。

憂「…………」

 その理由は至ってシンプルだ。
そして今その理由が証明されようとしている。
804 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/31(日) 23:17:07.80 ID:CODjL6AO
「平沢 憂だな」

憂「…………」

 割れた窓から黒いスーツを纏った男が現れた。表情はサングラスに覆われていて分からない。
扉、天井裏からも同じような出で立ちの男が十数人ほど現れた。

憂「…………」

 男の呼び掛けに対して憂は何も答えない。
ただ部屋の隅で膝に顔を埋めている。
 憂に抵抗の意志が無いと判断した男は仲間内で目配せをし、憂の肩に手をかけようとした。

憂「……帰ってください」

 そこで憂はようやく口を開いた。
それと同時に空間が歪み、全てを掌握する。
男が伸ばした腕は肘に辺りから先が消え失せていた。
805 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/31(日) 23:17:37.63 ID:CODjL6AO
「え?」

 血は吹き出ない。
だが消えた腕の断面から崩れ落ちるように自分の身体が粉になってゆく。

「ひっ──!?」

「う、うわあああああああっ!!」

 その現象は他の男達にも現れていた。
頭部から崩れてゆく者。爪先から崩れてゆく者。
それぞれが異なる崩壊を遂げているが、行き着く先は無情にして平等だ。

憂「……帰ってください、お願いです。もう誰も殺したくないんです……」

 憂の声は男達の悲鳴にかき消された。
血液、内臓、骨、皮膚。人間を構成するあらゆるものが塵となってゆく。
806 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/31(日) 23:18:18.52 ID:CODjL6AO
 他者の存在の否定。
 憂は皮肉にも、最愛の姉を失った絶望故に究極の力を手にしたのだ。
憂の闘気にあてられない強者さえも彼女の前ではその全てを否定されてしまう。
 絶望の螺旋を駆け巡り、増大していったその力は最早憂自身にもコントロール出来ない。

憂「誰か殺してよ……! こんなのやだよ……!」

 自暴自棄になって自殺を図った事もあった。
だが自分の命をどうこうする権利など、既に彼女には無かったのだ。
 憂の中で蠢く漆黒の『龍』は訪問者を食らい続け、貪欲に肥大してゆく。
 唯と憂、二人の少女の運命は力故に間違い、そして終わってゆくのだろうか。
その答えはまだ誰にも分からない。
807 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/31(日) 23:20:05.89 ID:CODjL6AO
憂「キスショット? どこのかませ犬ですか?」そんなノリ
区切り方が分かんなかったから短いけどこれで終わり
808 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/31(日) 23:25:03.36 ID:7TSyHESO
憂やべぇぇぇ
809 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/01(月) 02:00:09.68 ID:rT1.U4w0
憂「アヴドゥルは………こ な み じ ん に な っ て 死 ん だ」そんなノリ

だと思ったのにwwwwwww

乙!

憂ちゃんのヤンデレで地球がやばい
810 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/01(月) 03:40:10.76 ID:jVfntgAO
俺のレスで憂がその上をいきやがった・・・・・・
憂だけ完全に別次元だけどどうすんのwwwwww
811 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/01(月) 04:07:40.22 ID:OY1GpA2o
憂にはコブラさんしか勝てそうに無いな…。

和ちゃんが憂に唯の生存を伝えたらまた一波乱あるんだよな。
812 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/01(月) 11:24:34.30 ID:aVoOxgAO
コブラってサイコガン?
813 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/01(月) 22:15:36.17 ID:pe8gkxAo
おつ
814 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/02(火) 19:19:06.87 ID:.mA5FQAO
アラヤ的な?能力?
815 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/02(火) 19:19:09.63 ID:.mA5FQAO
アラヤ的な?能力?
816 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/02(火) 22:45:14.75 ID:3Jt00cAO
大事なことな(ry
817 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/03(水) 00:40:05.06 ID:KdWe..AO
和「…………」

 和は一人、平沢家を外から眺めていた。
通学途中でいつも通るのだが、何故か今日だけはやけに目につく。

和「……気のせいよね」

 胸騒ぎを押し殺した和は再び止めた足を動かした。
奇しくも、この時平沢家では十数人の男達がその存在を否定され、消え去っているところだった。
 真鍋 和は葛藤する。
自分では一生掛かっても乗り越えられないであろう平沢 憂という壁。
いつかその憂と命のやり取りをするのかもしれない。
曖昧ながらもそんな予感がしているのだ。
 姫子は言った。イレギュラーがイレギュラーたる原因は観測者の力量不足だと。
 純は言った。勝ち目は一パーセントくらいが丁度良いと。
818 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/03(水) 00:40:32.80 ID:KdWe..AO
 両者の意見は和の思考とは異なるものだった。
 幼少時より憂という存在を見続けていた和には分かる。観測し得ないイレギュラーがこの世にはあるという事を。
純の思考にいたっては論外だ。
そんなにスリルが欲しいのならどこぞの闇に舞い降りた天才と麻雀でもすると良い。

和「…………」

 しかし、他人の意見を絶対的に否定するように、自分の意見を絶対的に肯定出来る確信は和には無かった。
 或いは平沢 憂をも凌駕する力という概念を越えた力。
それを持つ者がこの先現れるかもしれない。
そしてあわよくば自分に協力的であれば、などと和は考える。
819 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/03(水) 00:41:21.27 ID:KdWe..AO
和(まぁ……。そんなの御都合主義も良いところだけどね)

 この曲がり角を行けば慣れ親しんだ学校が見える。
安易な希望を捨てていつもの厳粛な生徒会長像を取り繕おうとしていると、一台の車が和の隣で停車した。

和「……?」

 白の軽自動車の窓ガラスにはスモークが貼られていて運転手の顔を外から伺う事は出来ない。
いつでも臨戦態勢に移れるよう、和は腰に差した『桜花』に手をかけた。
窓ガラスが開き、運転手が顔を出したのはその直後だった。

恵「おはよ」

 少しやつれたような顔が現れる。
目の下にはうっすらと隈が出来ており、いつもの見ていて質量を感じさせない艶やかな茶髪はごわついている。
820 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/03(水) 00:41:50.97 ID:KdWe..AO
和「……大丈夫ですか?」

恵「あはは……。ちょっと徹夜しちゃってね」

 力無く笑う恵のやつれ具合は二、三日眠らなかったなどというレベルではない。
和は助手席に佇む少女を見て、恵の疲労の理由を察した。

和「あまり無理はしないで下さいね。その子の指導もあなたの身体ありきの事ですから」

恵「ああ、それならもう大丈夫。私の指導は多分もう必要ないわ」

 ちらりと助手席を見て、恵は少し誇らしげにはにかんだ。

恵「だってこの子、もう私より強いもの。ねぇ澪ちゃん?」

 澪はパーカーのフードを目深に被り、俯いている。
彼女の身から放たれる闘気は絶対零度の如く冷たい。
821 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/03(水) 00:43:24.74 ID:KdWe..AO
澪「……はい」

 控え目に片手を上げて肯定する。
そして首を振り、被ったフードを払ってから和を見据えた。

和「──っ!?」

 和は戦慄する。
今まで驕りなどではなく絶対的な理の元に自分よりも格下だと確信していた澪に、自分が恐れを抱いているという事実に。

澪「どうした?」

和「え……ぁ……」

 言葉を紡ごうにも口の中が渇き、喉がひりついて上手く喋られない。
視覚した世界が歪み、一秒でも早く逃げ出したい衝動に駆られる。この感覚は……。

和「う、憂ちゃん……?」
822 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/03(水) 00:44:00.07 ID:KdWe..AO
 イレギュラーがイレギュラーたる原因は観測者の力量不足。
姫子の言葉が和の脳内で鳴り響く。
間違いなく今の澪は自分にとってイレギュラーだ。

恵「──ねぇったら!」

 恵の声で我に返る和。
見ると恵が窓からコンビニ袋を提げて手を伸ばしてる。

和「……あ、すみません」

恵「ふふ、凄く間抜けな顔だったわよ? これ差し入れだから、軽音部の皆と食べてね」

 差し出されたコンビニ袋を慌てて受け取る時、和は恵の手が震えている事に気付いた。

和「え……?」

 和の表情の変化を察知し、恵は即座に手を引っ込めた。
そして目が合い、ばつが悪そうな顔をする。
823 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/03(水) 00:44:58.93 ID:KdWe..AO
恵「何か疲れちゃったな……。澪ちゃん、ここで良い?」

澪「はい、ありがとうございます」

 恵に一礼し、澪は車から降りた。

和「あ……」

 和を襲う戦慄が再来する。
 止めろ。辞めろ。来るな、化物!
 心の中で呪詛の言葉を澪に投げ掛けるのは、偏に和の胸で蠢く恐怖心のせいだった。
 澪の手がそっと和に伸びる。
冷や汗だけが落下運動を続けるが、肝心の身体はぴくりとも動かない。
喉が張り裂けんばかりに叫べればどれだけ楽だろう──。

澪「顔色悪いよ?」

 伸びた手は和の肩に置かれた。
身体が吹き飛ぶ事も全身も凍てつかされる事も無かった。
824 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/03(水) 00:45:55.38 ID:KdWe..AO
和「……大丈夫よ」

澪「そっか。じゃあ、ありがとうございます恵先輩。また連絡しますね」

 普段の澪らしい、凛々しくも御淑やかな礼だった。
恵はそれににこりと笑って返す。

恵「うん。決して『間違えない』ようにね」

 意味深な言葉を残して、恵は車は発進させた。
マフラーから流れた排気ガスが風に運ばれて消えるまで、澪は恵が去った方向を見据え続けていた。

澪「行こっか。皆待ってるよ」

和「ええ」

 歩き始めた澪の後ろを和は着いてゆく。
だが和は歩みを早めて肩を並べる事が出来なかった。
825 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/03(水) 00:46:32.41 ID:KdWe..AO
 和は一人困惑する。
恐らく今の澪は誰の手にも制御出来ない至高の力を手にしている。
平沢 憂が『究極生命体』ならば、秋山 澪は『完全生命体』と言ったところか。
 澪の繊細で揺らぎやすい豊かな感受性は『絶対の彼方』を易々と越えた。
だが果たしてその力は百パーセント自分に害が無いと言えるのだろうか。
 似通った心の揺らぎを持っている憂と澪。
制御不能と判断され、恐れられる憂の二の舞にはならないのだろうか。

和(それでも……)

 征くしかない。
 澪は威風堂々と桜高の校門を潜った。
そしてそれに遅れて和も校門を潜り、寄り添うように肩を並べた。
826 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/03(水) 00:47:24.54 ID:KdWe..AO
澪「最期の……月牙天衝だ」
そんなノリ
827 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/03(水) 01:05:20.00 ID:UJ8FZgAO
「すっ……すげぇ…。スゲーよ、澪しゃん!!」
そんなノリ
828 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/03(水) 01:05:45.71 ID:mvdEx820

ここにきて澪始まったな
829 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/03(水) 01:22:53.60 ID:pPpDuMAO
断界で修行したんですね
澪と恵のなかでは6ヶ月経ってるわけですね
830 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/03(水) 01:33:09.38 ID:gX8AW6SO
どこぞの天才に吹いたwwwwww
831 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/03(水) 04:01:51.90 ID:/7OuXwDO
そこまでつえーならいい加減助けに行けよ

こいつらどんだけ薄情なんだい
832 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/03(水) 07:03:47.91 ID:dG.3Pck0
乙!澪しゃんに何があったのかと。

まぁこれで準備は整った?
833 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/03(水) 10:21:29.81 ID:Ln6QVMo0
次は三人の成長と修行編って感じか
834 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/03(水) 12:55:27.39 ID:pPpDuMAO
>>831
いちごの場所が分からないんでしょ
分かれば、北極だろうが南極だろうがこの人達はひとっとびだからな
835 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/03(水) 19:37:59.49 ID:XGcTKoso
澪やべぇぇぇぇwwwwwwwwww
836 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/03(水) 23:36:03.79 ID:yMgjxOwo
まだー?
837 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/04(木) 06:17:28.02 ID:.KkpLk.o
澪を憂並の脅威に感じたわちゃんか。

わちゃん裏切りそう…。
838 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/04(木) 11:45:15.06 ID:QMzFTbUo
一昨日追いついて昨日は天上天下をブックオフで全巻立ち読みした。

天上天下よりこれのがおもしれーかもしんない。
839 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/05(金) 09:30:28.08 ID:1WGoGUDO
>>838
天上天下は途中からアレだからな…
あとここはお前の日記帳じゃねーからいつ追い付いただとかブックオフで〜とかやめろ
840 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/05(金) 19:44:33.65 ID:iA42jEAO
姫子「怪我の具合はどう?」

しずか「ん、そこまで深くなかったみたい。動く分には問題ないよ」

 桜高の保健室にて、姫子としずか、そしてエリとアカネが会合していた。

エリ「あれ? 切り傷とか骨までいってなかったっけ?」

アカネ「トップランカーからしたら唾つけときゃ治るレベルなんじゃない?」

 この二人は自分達とは立つ世界が違う。それを改めて認識したエリとアカネは若干引きながらも笑っていた。

姫子「ん、ちょっとごめんね」

 胸ポケットの中で携帯電話が震えているのを確認し、姫子は廊下に出た。
841 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/05(金) 19:45:32.79 ID:iA42jEAO
姫子「もしもし」

 未登録の電話番号。電話の向こうで聞こえた声は聞き慣れないものだった。

「おはようございます立花先輩。生徒会の者ですが」

 姫子の心臓が跳ねた。
依頼して一日も経たずにクライアントに経過報告が出来るその手際の良さに素直に驚いたからだ。

姫子「もう見つかった? そっちのシーカーさんは随分手が速いんだね」

「いえ、今回お電話させていただいたのは、今回の依頼は遂行出来ないという旨を伝える為です」

姫子「…………」

「申し訳ございません。若王子 いちごは既に国外に逃亡しているようです」
842 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/05(金) 19:46:26.49 ID:iA42jEAO
 予想していなかったわけではない。むしろその確率の方が高いと思っていた。
だがこれから先の唯奪還の計画の難航を想像すると、肩を落とさずにはいられない。

姫子「大丈夫だよ、よくやってくれたね。真鍋さんにもよろしく言っておいて」

「ありがとうございます。せめてご武運を祈っております、では……」

 通話はあっさりと途切れた。
酷く事務的な会話だったな、と姫子は思った。

姫子(となると、それなりの財力が必要か……)

 いくら桜高が規格外とはいえ、一介の高校生に海外に調査団を派遣出来る財力を持つ生徒は限られてくる。というより一人しかない。
843 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/05(金) 19:47:33.76 ID:iA42jEAO
姫子「琴吹 紬さん、かな」

 昨夜同盟を組み、即座に和に生徒会の者を調査に出させた。
だがそれが無意に終わったとなるならば、残る手段は一つしかない。
暫く考え込むように俯き、姫子は携帯電話のボタンを押した。

姫子「もしもし? ちょっとお願いしたい事があるんだけど……」

 三分ほど通話し、姫子は携帯電話をポケットにしまった。
そして再び保健室に入ってゆく。

エリ「おかえりー。誰だったの?」

姫子「ん、生徒会の人だよ」

アカネ「生徒会? 何でまた」

 訝しげに目を細めるアカネに対して、姫子は険しい視線を返した。
844 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/05(金) 19:48:33.73 ID:iA42jEAO
姫子「うん、それで話があるんだけど。それとしずか」

しずか「へ?」

 身体に巻かれた包帯を代える為に下着姿になっていたしずかだが、着替える手を止めてきょとんとする。
 一連の動作の全てが愛らしい、愛しくてたまらない。
だが自分が企てている計画が悪い方に転がれば、この子を失ってしまうかもしれない。
そう思うと姫子は胸が苦しくなった。

姫子「多分もう少し先の話になると思うんだけど、しずかに大事な役目を任せたいんだ。聞いてくれる?」

しずか「うん! 任せといてよ」

 姫子の苦悩を露知らず、しずかは姫子が自分を必要としているという事実に胸を躍らせた。
845 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/05(金) 19:49:32.82 ID:iA42jEAO
 特異体質故に獲得した『詐欺師』の戦闘スタイル。
他者に己の存在を認識させないその能力には致命的な穴がある。
しずかの能力は必要不可欠なのだが、その穴を補完出来るほどに鍛練を積む時間は恐らくないだろう。

姫子「その時になったら伝えるね。期待してるよ、トップランカーさん」

 しずかの表情が更に明るくなった事で姫子は更なる罪悪感に駆られた。
今全てを打ち明ければしずかの心はきっと揺れるだろう。
付け焼き刃の安定を求めて詐欺師のようにしずかを鼓舞する自分が嫌になった。

しずか「私頑張るね!」

 無垢な笑顔に対して姫子は、取り繕った笑みを浮かべる事しか出来なかった。
846 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/05(金) 19:50:37.80 ID:iA42jEAO
澪「誰から?」

和「立花さんからよ。何かムギに用事があるみたい」

紬「私に?」

 律と紬とは教室で合流していた。
 和の通話先が意外な人物だった事に、三人は驚く。

和「今日の九時に家に行っても良いか、だって。代わる前にきれちゃった」

 携帯電話はぱちりと折り畳み、胸ポケットに収める。
紬の表情がぱっと明るくなったのはそれとほぼ同時だった。

紬「美味しい料理を準備させておくわ!」

 自分の家に客を招待する機会が皆無に近い境遇故、姫子が訪れるという朗報に胸が躍っているのだろう。
紬は手を打って、微笑ましいほどに無邪気な笑顔を浮かべた。
847 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/05(金) 19:52:34.26 ID:iA42jEAO
律「私も私も! ムギん家行きたーい!」

和「はぁ……。ほどほどにしときなさいよ」

 澪は戯れ合う三人を冷淡な瞳で見つめていた。
こいつらは唯が居ない事を何とも思っていないのだろうか。
澪には巨悪の根源の場所さえ突き止めれば一瞬でけりをつけられる自信があった。
だが現状では何も出来ない歯痒さに顔をしかめる。

律「澪も行くだろ?」

澪「行かないよ」

 ぽんと肩に置かれた手を払う。
そしておもむろに立ち上がった。

紬「どこに行くの?」

澪「帰るよ。どうも体調が優れないんだ」

 机にかけた鞄を肩に引っ提げ、澪はそのまま教室を去って行った。
848 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/05(金) 19:53:29.04 ID:iA42jEAO
 教室に居るとむず痒い気分になる。
それは唯をないがしろにしている律達の態度から来る苛立ちなのか、その答えはノーだ。
 たとえ一瞬でも間違った思考に至ろうと、律達はきっと悔い改める事が出来る。
今のところは何も言うまい、澪はそう決め込んでいた。

澪「…………」

 昇降口で靴を履き替え、外に一歩踏み出す。
見上げた空は雲一つ無い快晴だった。
 腰に差した刀を抜き、宙を一閃する。
音も無く空が割れ、曇り空にも似た澱んだ空間が現れる。

澪「ぼちぼちだな」

 快晴だった空からは大粒の雨が滝のように降り注ぐ。
パーカーのフードを被り直すと、澪は雨の中を悠然と歩き始めた。
849 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/05(金) 19:55:35.55 ID:iA42jEAO
姫子「私のしずかがこんなに可愛いわけがない」
そんなノリ
850 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/05(金) 23:00:31.65 ID:LWJhElQo
ここまで読んだが純が主役ポジっぽくてふいた
851 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/05(金) 23:09:47.87 ID:2RdohSAo
しずかー!生きてタノカー!!!
852 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/06(土) 00:03:00.28 ID:5ActHkDO
純が可愛い過ぎて生きるのがつらい
853 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/06(土) 04:53:41.86 ID:RvSGZUAO
澪が調子に乗ってる気がしてヤバい
854 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/06(土) 21:59:22.03 ID:ttyH6TQ0
かませな気がしてならないよ
855 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/07(日) 00:06:02.92 ID:7iUqQX6o
死ぬような大怪我しても寝てたら治るのが当たり前の世界なんだな
856 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/07(日) 00:12:36.10 ID:kvk5H1go
先に強くなった仲間の一人が調子に乗る→強敵が現れてフルボッコにされ後から追い付いた仲間達に助けられる

先に強くなった仲間の一人が調子に乗る→敵をボロ雑巾のように千切りまくり力に溺れ、最後は仲間に葬られる

先に強くなった仲間の一人が調子に乗る→覚醒した力の強さを見せたかっただけで後から仲間が合流したらどっこいくらい
857 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/07(日) 00:44:53.55 ID:jKgh7QAO
澪嫌いだけどそこまで徹底してかませにするほど鬼じゃねーよwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
858 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/07(日) 01:03:50.33 ID:kvk5H1go
いや前の2つはよくあるパターンじゃね?そこでまた仲間が強くなれるから犠牲は無駄にならないし
3つ目は先に強くなったから仲間を代表して先頭で活躍できる美味しいパターンだし全然鬼じゃねーよ?
俺も澪は好きじゃないけど(ボソッ
859 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/07(日) 02:21:19.67 ID:w6A4Ebwo
強くなった→自身の最大の能力失ってボロ雑巾→強くなったのは妄想でした

この前ジャンプであったよね。
860 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/08(月) 09:29:04.89 ID:4kqamMAO
澪さんパネェ
861 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/08(月) 19:15:22.64 ID:MSTMhHY0
ここまで一気によんだ
なにこれかっこいい
862 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/08(月) 19:30:20.81 ID:OipMTUAO
 俺はいつだって非情に生きてきた。
上からの依頼があれば女だろうが餓鬼だろうが一秒と躊躇せずに殺せる。そしてそうしてきた。
 殺した人間が夢にすら出てこなくなったころ、俺は目覚めたのだ。
 『絶対の彼方』を越える。
今思えばそれは何ということもないちっぽけな壁だった。
 壁を越えてから十年間、金の為だけに琴吹財閥お抱えの狙撃手として途方もない数の人間を殺してきた。
そしてそれはこれからも変わらない。

「見つけた」

 ライフルのスコープ越しに標的の内の一人が見えた。
突然降り出した雨で酷く視界が混濁しているが、まぁ問題は無いだろう。
863 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/08(月) 19:30:55.95 ID:OipMTUAO
 女の表情はフードで隠れていてよく分からない。
これから一分後には脳みそをぶちまける人間は何を思い、どんな顔をしているのだろうか。

「まぁ、知らねぇわな」

 考えても詮無き事だ。
俺は俺に与えられた仕事を完遂するだけ。
 引き金に手をかけて静かに闘気を練り込む。
赤の闘気で破砕効果を高めた一発必中の弾丸の完成だ。
 標的の女はふと足を止めた。
パーカーのフードを下ろしたその顔を見て、俺は思わず息を飲む。

「…………」

 綺麗だった。
一言で彼女を形容するなら、ずばりその言葉が正解なのだろう。
864 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/08(月) 19:31:31.78 ID:OipMTUAO
 血液が下腹部に集中しているのが分かる。
今立ち上がってズボンを見れば確実にテントが張ってあるだろう。
 仕事の最中に女子高生に欲情している自分が情けなくなった。
だがそれ以上に、俺の中で蠢く嗜虐性向が歓喜の声を上げている。
こんな上玉の女を俺の手で壊せる。考えただけで射精してしまいそうだ。

「ふぅー……」

 ミスは許されない。
逸る思い、うろたえる気持ちは全て『絶対の彼方』に置いてきた。
 息を整えて再び女を見据える頃には、失敗というシチュエーションは俺の脳内から消え失せていた。
 瞬きを抑えて引き金を絞る。
 さぁ、絶頂へのカウントダウンだ。
 三──。
 二──。
 一──。
865 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/08(月) 19:32:20.12 ID:OipMTUAO
「零」

 後ろで凜とした声が聞こえた。
振り返る事はままならない。

「あああああっ!?」

 右肩の辺りに痛烈な痛みを感じ、俺は狼狽した。
肩は熱を帯び、心臓の鼓動がうるさいくらいに頭に響く。

「切り傷一つでそこまでうろたえるんなら、初めからこんな事しないで下さい」

 女がそう言うと同時に俺の肩を貫いたモノを引き抜いた。
痛みで意識が引き抜かれそうになる。いや、むしろ引き抜かれてしまった方が楽なのかもしれない。
 痛い、ただそれだけだ。それ以上でも以下でもない。
だがそれ故に、俺は息をする事すらままならなくなっていた。
 考えなくても分かる。俺の物語はここで終わるのだろう。
866 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/08(月) 19:33:11.65 ID:OipMTUAO
澪「闘気から居場所を突き止めるのに苦労しました。まさか一キロも離れてるとは思いませんでしたよ」

 狙撃手の男は澪の言葉を聞いて驚愕した。
男が闘気を発したのは澪に狙いを定めた時で初めてだ。
つまり澪は自分が澪を視覚し、引き金を絞る間の僅かな時間で居場所を突き止め、ここまで来たという事になる。
男は格の違いを痛感した。

「……こんな寂れた廃ビルに……。あの時間でこぎ着けただと……?」

 息も絶え絶えに男は言葉を紡ぐ。

澪「赤の闘気は私の青と相反する属性ですから。距離的に手間は掛かっても一秒以上はかかりませんよ」
867 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/08(月) 19:33:49.84 ID:OipMTUAO
 直後、廃ビルの一室に氷のように冷たい空気が流れた。

澪「まぁそれは置いといて、貴方の意図とパトロンの居所。洗いざらい吐いて貰いますね」

 澪は血が着いた刀を払って鞘に収め、人指し指を立ててくるくると回す。
その軌道を追うように水が現れ、凍り付いて結晶となり落ちる。

「……なるほどな。しょーがねぇ、吐いてやるよ」

 男は舌打ちをすると、どこか清々しい表情で語り始めた。

「俺は旧琴吹財閥。つまり若王子機関のお抱えスナイパー──っつ!」

 肩の痛みの波が強まったのか、男は身を跳ねさせた。
868 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/08(月) 19:34:52.73 ID:OipMTUAO
澪「じっとしてて下さいね」

 即座に澪が肩に手を当てる。
傷口から溢れた血が凍り、男の感覚を麻痺させていった。

「……すまねぇ」

澪「煩わしいだけですよ。ちなみに言っておくとその腕、もう使い物になりませんから」

 痛みが麻痺したお陰で男は冷静でいられた。
むしろ自暴自棄というべきなのかもしれない。
片腕を潰されても笑いすら漏れてくる。

「冷たい、冷たいねぇ……。まぁ良いや、こんな腕くれてやるよ」

澪「いりませんよ。で、若王子機関の本部はどこにあるんですか?」

「はっ、聞いて驚くなよ」

 男の低俗な笑みが澪を苛立たせた。
869 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/08(月) 19:35:36.37 ID:OipMTUAO
「ここより遥か南、南極大陸さ」

 澪は眉をぴくりと動かしただけだった。
琴吹財閥を解体して乗っ取ったのだ。
それくらいの財力があったところで何ら不思議ではないだろう。

澪「南極に行けば唯に会えるんですね?」

「唯? あぁ、あのモルモットの事か。『エデン計画』が順調に進んでるんならまだ居るんじゃねーの?」

 男の口から意味深な単語が漏れたのを聞き付け、澪は訝しげに目を細めた。

澪「エデン計画?」

「おっと、それ以上は聞くなよ。俺も名前を知ってるだけで概要までは知らねぇんだ」

 男は着ている黒の上着の胸ポケットから煙草を取り出し、火を点けた。
870 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/08(月) 19:36:22.81 ID:OipMTUAO
「おねーちゃんも一本いるかい?」

澪「私はまだ未成年です」

 差し出された煙草の箱を突っ撥ねると、澪は立ち上がって踵を返した。

澪「ありがとうございます。お大事に」

「待ちな、おねーちゃん」

 不意に呼び止められ、澪は顔だけ男に向けた。
男は下卑た笑みを浮かべており、ちびちびと煙草を吸っている。

「これから何か用事でもあんのか? もし良かったらもう少しだけここに居てくれよ」

澪「……?」

 男の意図が理解出来ない澪はしばらく考え込むように顔を伏せた。

「理由なんてねーよ。俺はおねーちゃんの可愛いお顔とエロエロボディに惚れてんだ。もうちっとだけ堪能させてくれよ」
871 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/08(月) 19:36:58.72 ID:OipMTUAO
 嫌らしい顔つきと下卑た笑みが、澪の生理的不快感を煽った。

「はぁー……。せめて一発ヤりたかったなぁ、くそ」

 男のズボンの股間の部分は雄々しく盛り上がっている。
吐き気すら覚えてくる男の言動。だが澪は募る怒りをすんでのところで抑えた。

澪「帰ります」

「うおっ!? ちょいまてって!」

 これ以上の対話は無意味だと察した澪は扉に手をかけた。
だが去り際に男が放った言葉が澪の足を止める。

「最期に一つ質問があるんだ! ふざけないから聞いてくれ!」

澪「…………」

 それならば、と澪は手をかけた扉を閉め直し、身体ごと男に向けた。
872 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/08(月) 19:37:49.74 ID:OipMTUAO
澪「手短にお願いします」

「へへ……。簡単な質問だよ」

 男が咥えている煙草は既に半分ほどが灰になって床に落ちていた。
更に続けて吸うつもりなのか、無事な片手でポケットをまさぐっている。

「俺みたいな小悪党がよぉ……。こんなにペラペラと機密を漏らすのってどんな時だと思う?」

澪「…………」

 質問の意味こそ分かれど、その意図を理解する術を、澪は持っていなかった。

澪「小悪党の心境なんて分かりませんよ」

 大して興味もなさげに、澪は今度こそと再び扉に手をかけた。
 その後ろで男は笑う。
どうせ自分の中で終わらせてしまった物語だ。
最期くらい格好良く散るのも良いだろう。
そんな気持ちが男の頭を満たしていた。
873 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/08(月) 19:38:43.12 ID:OipMTUAO
「正解は、自分の勝利を確信した時だ」

 澪は振り向かない。たとえ男が後ろで満面の笑みを浮かべていても。
たとえ男のポケットの中にあったハンドメイドの手榴弾のピンが外されても。
 男の脳裏に走馬燈が過ぎる。
思えば二十八年間。無為に過ごしてきたような気がする。
貪欲に金と権力を求め、時には親族を殺した。
誰かの犠牲の上に成り立つ幸福に意味はあったのだろうか。
 男はそこで考えるのを止めた。
後三秒も経たずに特大規模の爆発が起こる。

「今回はもうゲームオーバーだ。だが次はぜってー間違えね……え?」

 男は異変に気付く。
失われる筈の自分の命が、いつまで経っても失われない事に。
874 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/08(月) 19:39:35.12 ID:OipMTUAO
澪「自分の死を以て勝ちを彩るのは勝利なんかじゃない。それは自分の敗北と向き合えない真の敗北者です」

 澪は振り向かずに指を鳴らした。
男のポケットの中で何かが砕ける音がする。

「な……。え……?」

 男は驚愕を隠せなかった。
死を覚悟した自分のプライドが音を立てて崩れてゆくのが分かる。

澪「そのまま安易に死ぬ事は許さない。せめて残った片腕で醜く生きて、生き延びて……」

 首をゆっくりと後ろに回す。酷く冷淡な瞳がそこにあった。

澪「一生私にビビってろ」

 澪はそれだけ告げて部屋を立ち去った。
 凍り付いて砕けた手榴弾の破片が男のポケットをじわりと濡らした。
875 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/08(月) 19:40:41.46 ID:OipMTUAO
澪「狙撃手の部屋を調べたら興奮剤があった」
和「そうなんだ。じゃあ私、生徒会行くね」
そんなノリ
876 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/08(月) 20:45:55.84 ID:.l759Qoo
うぉちゅ
877 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/08(月) 20:47:01.97 ID:EXOmD/Qo
居場所もわかった事だし、憂さん出撃間近?出撃とともに人類滅亡するけど。
878 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/08(月) 20:54:24.15 ID:ycSQ9MSO
最近1のノリが分からんたい
879 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/08(月) 21:36:32.16 ID:6K.tN6AO
男のセリフはなんかのゲームで聞いたな
選択肢の後で「〜確信した時だ」って言われて落とされるんだよな
なんだっけ!?
880 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/08(月) 21:37:34.74 ID:DxUiz6AO
澪「そ…狙撃手の部屋を調べたら…こ…こ…興奮剤…があった…////」
和「そうなんだ。じゃあ私、生徒会行くね」

澪ならこんなノリのはず
881 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/08(月) 21:38:18.64 ID:OipMTUAO
FF7のドン・コルネオね
良かった、知ってる人がいて……
882 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/08(月) 21:44:44.10 ID:7I1ilVco
でも使ったら怒り状態じゃなくて「悔しいっ、でも感じちゃう!(ビクンビクン」状態になってほしかった
というかならないとおかしいだろおい
883 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/08(月) 22:29:32.96 ID:MkllFoEP
1週目からクラウドで行こうとしてリセットを繰り返した俺に隙は無かった
884 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/08(月) 22:41:41.12 ID:6K.tN6AO
ぁあそうだそうだ
選択肢いちいち全部選んでみたなぁ
885 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/08(月) 23:05:17.25 ID:rw0x/IAo
攻略見ずに最初にクラウドになった俺
886 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/09(火) 12:55:20.83 ID:q8xXHYco
ますますカッコ良くなっていくなミオミオ。

乙乙キュン♡
887 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/10(水) 12:11:17.05 ID:iLPo4vMo
負けフラグ建設中の澪さんだな
888 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/10(水) 13:53:29.27 ID:mRtHIEAO
 桜高の校舎の屋上にて、五人の生徒が攻防を繰り広げていた。

律「だぁらああああっ!!」

 神速のスピードを乗せた律の拳が和に向かう。
迎え撃つ和はそれを刃の腹で受け止め、軽く受け流した。
その拍子に大きく体勢を崩した律の背中に刀の柄を叩き付ける。

梓「っ!」

 貯水タンクの上で梓がマシンガンを構えている。
律が和の射程範囲から外れた瞬間、梓はそれの引き金を躊躇無く引いた。
無数の弾丸が跳ね合い、計算づくで和の元に収束する。
和はそれを察知して片手をくいっと上げた。
それに呼応するようにコンクリートの足場が盛り上がり、和を守る盾になる。
889 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/10(水) 13:54:07.96 ID:mRtHIEAO
紬「いきます!」

 強靱な盾となった足場の前に颯爽と現れたのは紬だった。
力任せにコンクリートを殴り付けるとそれは粉微塵になる。

和「へぇ……」

 舞い散る飛礫が凶器となって自分に襲いかかるのを見て、和は素直に感心した。
本来ランダムに舞い散る筈の飛礫が殆ど自分に向かってきている。
自分に悟られずにこんな小細工が出来るのはこの中でただ一人。

和「やるじゃない、律」

 だがそれではまだ届かない。
僅かに嘆息すると和は刀を自分の眼前で回し、全ての飛礫を叩き落とした。

律「はっ、私らの剃刀は二枚刃使用だぜ!」
890 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/10(水) 13:54:45.64 ID:mRtHIEAO
 脇に現れた律に一瞬だけ気を取られた。
タンクの上では梓が自分に銃口を向けている。

梓「少し切れ過ぎるのが難点ですけど──」

純「はいざーんねん」

 梓が言葉を紡ぐのを純が遮った。
両手を伸ばして構えた二丁の銃が分解されて床に落ちる。

梓「っ!?」

 梓が驚愕し、後ろを振り返るとそこには気怠そうに欠伸をする純の顔があった。

純「駄目駄目だね。なーんで私が居るのを知っていながら皆和先輩に当たりに行くかなぁ?」

 純はそう言うものの、この三人に今の純の動きを観測しろというのも無理な話だ。
891 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/10(水) 13:55:32.93 ID:mRtHIEAO
 純はこの時、三人の意識の穴を読み取り、絶え間なく動き続けるその穴を辿るように動いていたのだ。
武芸を極めた達人ですら一対一でやっと運用出来るような神業を、彼女は三人相手に欠伸混じりでやってのけた。

律「またかよ……」

紬「…………」

 律と紬はがくりと膝を折った。
幾度となく続いた攻防に身体は悲鳴を上げていた。

梓「ご、ごめんなさい……」

 梓はばつが悪そうに俯き、分解された銃を拾い集める。

 和「これでこっちの三十戦三十勝ね。そろそろ休憩しない?」

 和は脇に置いてあったコンビニのレジ袋を手に取った。
そこで初めて恵の差し入れの中身を見て絶句する。
892 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/10(水) 13:56:26.08 ID:mRtHIEAO
和(酢コンブが……。四、五、六……三十個?)

 様々な思考が和の脳裏を過ぎったがその全ては頓挫し、破綻した。率直に言うと。

和(……意味が分からない)

 これをこのまま差し出しては自分の人格が疑われかねない。
それを理解した和は袋をそっと握り潰し、開けっ放しの純の鞄の中に放り込んだ。

和「……休憩がてらに軽く反省会するわね」

純「顔引きつってますよー? 具合でも悪いんですか?」

 普段は敢えて読まないのかは分からないが途方もなく空気が読めない行動を起こすくせに、こんな時だけは妙にあざとい。
そうは思ったものの和は口には出さなかった。
893 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/10(水) 13:57:48.32 ID:mRtHIEAO
和「……まずは律ね」

律「げぇっ!? 私からかよ!」

 不満を募らせる律を余所に、和は脳内で先の戦闘の内容を整理する。

和「あんたは単調な攻撃と複雑な攻撃のモーションが違い過ぎるわね。陽動してるつもりみたいだけどそれじゃあまるで猿芝居よ」

律「ぐぅ……」

 和は刀を抜き、縦に振った。
剣圧で風が巻き起こり、散らばった飛礫が弾丸のような速度であちこちに飛散する。

律「うわっ!?」

 飛び跳ねる律を視覚すると、今度は純に向けて同じモーションで一閃を放つ。
刀の運動スピードが頂点に達したところで、雄々しい闘気の刃が現れた。
894 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/10(水) 13:58:39.54 ID:mRtHIEAO
純「ちょっちょっ、ちょっとぉ!?」

 純は咄嗟に両手に緑の闘気を纏い、白刃取りの要領で闘気の刃を受け止めた。
相反する闘気は互いに打ち消し合い、硝子細工のように崩れ落ちる。

純「今殺す気だったでしょ!?」

和「まぁこれくらい出来れば上等よね」

純「いらっ」

 自分など眼中に無いといった和の態度に、純は思わず擬音を口に出してしまう。

律「ほあー……」

 惚けた瞳で先の一連の流れを見ていた律。
和はその律の瞳の動きを見落としていなかった。

和(私の闘気は見えてるみたいだけど、見せる気が無い闘気の流れは見えてないみたいね……)
895 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/10(水) 13:59:27.37 ID:mRtHIEAO
和「次はムギ」

紬「はい!」

 これから咎められるというのに紬の表情は何処か期待を抱いているような晴れやかな表情だ。
相変わらずよく分からない子だ。
そうは思ったものの和は容赦無く紬を咎める。

和「ムギは……。私を狙うのを躊躇してたでしょ? そんなんじゃ蟻一匹殺せないわよ」

 言うと同時に和が紬の視界から消えた。

紬「う……」

 次に和が紬の視界に現れた時には、鈍色の刃が紬の首筋にあてがわれていた。

和「躊いはコンマ一秒のロスを生むわ。参考までに、あの序列三位の立花さんならその間に突き千発はいけるわね」
896 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/10(水) 14:00:06.98 ID:mRtHIEAO
 紬は自分の認識の甘さを悔い改めた。
これから先いちごと対立するという事はその配下である元琴吹家の従者衆を相手にするという事だ。

紬「ごめんなさい……」

 仮に自分と斎藤がぶつかるとして、今のように躊躇する事は無いと断言出来るか。その答えはノーだ。

和「次は……」

純「あ、私が言いますよ。多分思ってる事は一緒でしょ」

 和が梓に言葉を投げ掛けようとしたのを純が遮る。
そして梓の肩を叩いた。

純「戦力外だね。多分伸びる見込みも無いしもう帰って良いよ」

梓「──っ!?」

 梓は助けを求めるように和の方を見た。
だが無情にも、和はゆっくりと首を縦に振った。
897 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/10(水) 14:01:46.17 ID:mRtHIEAO
純「なんじゃこりゃああああっ!?」
和「酢こんぶよ」
そんなノリ

さて、そろそろまたモブキャラのリクエストを募ろうか
898 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/10(水) 14:59:56.37 ID:AEuyg5Mo
昼間から乙!
やっぱりあずにゃんは伸びないか…
899 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/10(水) 19:43:31.42 ID:AxIKv0Ao
本人がいくら鍛えても、銃の性能が向上するわけじゃないからな
900 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/10(水) 20:34:52.47 ID:iLPo4vMo
あずにゃんに指切り落として念弾発射フラグが立ちました。
901 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/10(水) 20:43:18.68 ID:CWNBK5o0
まぁ中遠距離だけの狙撃手なんて戦力外だよな
近距離戦闘する気がない辺り伸びる見込みもないしな
902 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/10(水) 20:52:32.84 ID:PxhgwoAO
ガン=カタを覚える
魔弾の射手に目覚める
オリハルコン製の銃を手に入れる
トンプソン姉妹を呼んでくる
辺りならどうだ?
903 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/10(水) 21:36:01.50 ID:3/kNzwUo
ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲があればよくねぇ?
904 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/10(水) 22:24:10.78 ID:tvGBvpoo
>>902
実は魔族とのハーフだったとか
905 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/10(水) 22:38:20.51 ID:ycN3uDMo
皇帝を味方に付ければOK
906 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/10(水) 23:29:06.50 ID:ZL4L8gAO
リベリオンのガン=カタは超カッコいいけど、それは相手も銃器を持っていればこそだからなぁ
ヴァイオレットみたく、イングラムに刃でも生やしてみる?
907 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/11(木) 00:00:06.25 ID:WaX5VxQ0
あずにゃんはいい加減接近戦をやるべき
というわけで某スタイリッシュ痴女よろしくバレットアーツを習得しよう!
もちろんコーチは純ちゃん!!
カンペキだな
908 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/11(木) 00:31:52.26 ID:NnPbMcAO
中遠距離特化は近づかれたらアウトなのがな…
近接用にナイフってのも良さそうな気もする
909 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/11(木) 00:37:29.75 ID:dWcrIMAO
仲いい友達二人が絶対の彼方こえてて一人は圧倒的強さの序列1位

だけど自分は19位で戦力外とか…可哀想すぎるww
910 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/11(木) 02:25:30.48 ID:Z/yH6Ag0
そういや最初に序列の低い吹奏楽部に銃の弾抜かれただけでやられてたしな
アカネ相手には障害物程度の状況判断の遅れで大ダメージ

澪並の動体視力か姫並のスピード、信代並のうたれ強さがなきゃ2人には到底追いつけないな
もしくは平沢姉妹か純並の天才さがなきゃムリダナ
911 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/11(木) 02:51:31.54 ID:yM7glcAO
中距離なんてどっち付かずな戦闘スタイルだからいかんのだ
いっそのこと超遠距離で狙撃するスタイルに変えたらいいんじゃん?
それこそ、桜高から南極にいる敵を仕留めるぐらいに
912 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/11(木) 03:44:28.63 ID:4MEn3AAo
モップがうざい

お前の顔は戦力外だ
913 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/11(木) 17:02:29.13 ID:CBEQxLEo
ゴキにゃんの武装がハルコルネン2になれば一挙解決か。
ハルコルネン2なら澪ぐらいは灰燼に帰せるな。
914 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/11(木) 17:06:21.60 ID:I91zDs.o
現時点の澪倒せたらもう敵は憂ぐらいしか居なくね
915 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/11(木) 21:00:33.80 ID:rrgR3UAO
梓「そんな……」

 心臓の鼓動が頭に鳴り響く。
肺が締め付けられているかのように呼吸がしづらくなる。
梓の目には自然と涙が溜まっていった。

和「……残念ながらその通りね。打たれ弱さ、接近戦に対する消極的な姿勢。この二点だけでも致命的よ」

梓「っ!」

 涙が表面張力の限界を迎え、梓の頬を伝った。
それでも和の言葉は止まらない。

和「それがあなたに合った戦闘スタイルとも思えないわね。銃を握るという事がどういう事なのかも分かってないみたいだし」

梓「銃を……握ること……?」

 梓は投げ掛けられる辛辣な言葉に胸を締め付けられる。
絞り出すように言葉を紡ぐ様子はとても痛々しかった。
916 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/11(木) 21:01:10.79 ID:rrgR3UAO
和「例えば」

 和は屋上のフェンスぎりぎりの位置まで歩き、梓の方へと向き直る。

和「ここからあなたが銃を撃つのと私があなたの懐に潜り込むのとでは、どっちが速いと思う?」

 答えは火を見るより明らかだった。
攻撃手段に銃を用いるという事は、自分が引き金を引いて弾が射出されるまでの僅かな時間ほぼ無防備になるという事だ。
常人からすればそんな僅かな隙などあって無いようなものだが、桜高においてそんな常識は通用しない。

梓「…………」

 梓は何も言わずに俯いた。
小さな肩は小刻みに震えており、拳は固く結ばれている。
917 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/11(木) 21:01:48.00 ID:rrgR3UAO
律「おい和──」

和「単刀直入に言うわ」

 見るに耐え兼ねた律が割って入ろうとするのを片手で制し、和は梓に辛辣な言葉を吐く。

和「『射手』という名に甘んじて傷付く事を恐れるくらいなら、初めからそんな子はいらないの」

梓「──っ!」

 梓の中で何かが崩れ落ちた。
手の甲で涙を拭い、荷物を纏めて校舎へと戻ってゆく。

紬「梓ちゃん!」

 紬の制止などまるで耳に入っていないのだろう。
梓は脇目も振らずに屋上を飛び出した。
残された四人の間に流れる空気は険悪で、いつぶつかりあってもおかしくはない状況だ。
918 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/11(木) 21:02:26.20 ID:rrgR3UAO
律「おい! ありゃいくらなんでも──」

和「分かってるわ。悪いようにはしないから黙って見てて」

 和は身を踏み出そうとした律を制し、ポケットから携帯電話を取り出した。
電話は繋がったようで、何やら意味深な事を話している。

和「そうそう。軽音部の中野 梓って子」

 梓の名前が会話に出てきたのを律と紬は目敏く聞き付けた。

和「ええ。多分その辺りを通ると思うから、『好きにしていい』わよ」

律「──っ! 和お前!」

 律は自分の身体を止めようとはしなかった。
ただ怒りのままに駆け出す。

純「おっと、それ以上は駄目ですよ」
919 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/11(木) 21:03:23.70 ID:rrgR3UAO
律「くっ……」

 間に割って入ってきた純の威圧に気圧され、律は咄嗟に足を止めた。

和「ええ、それじゃあまた夜に」

 携帯電話を閉じ、和は溜め息をついた。
その表情にはどこか安堵の色が見え隠れしている。

律「梓をどうするつもりだよ!」

純「あー、面倒臭いなぁもう! 頭ぶん殴りますよ!?」

 律を取り押さえる純の表情はいかにも気怠そうで、今の状況をどれだけ面倒に思っているかが鑑みられる。

和「大丈夫よ、律」

 和は組み伏せられかけている律の顔の位置に合わせて屈んだ。
律を見る表情は穏やかで、先程梓を突き飛ばした者と同一人物とは思えない微笑みを浮かべていた。
920 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/11(木) 21:04:04.85 ID:rrgR3UAO
和「あの子は強いわよ。二年生であなた達と肩を並べて戦えてるんだから」

律「え?」

 思ってもみなかった言葉に律は呆然とした。

和「ただ生真面目過ぎるのよ。素直に褒めたところで自分を卑下するばかりで伸びやしない。なら……」

 和は落ちた飛礫を拾い上げ、握り締めた。
飛礫は更に細く砕け、風に流されてゆく。

和「徹底的に突き放して揺らぎを作ってあげれば良い。不安定ながらも周りのものの干渉を受けやすいその精神こそが……」

純「『絶対の彼方』を越える為に不可欠な心、ですね」

 純が律から手を放す。
和の言葉を聞き入っていた律は勢い余って床に額をぶつけた。
921 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/11(木) 21:05:15.49 ID:rrgR3UAO
紬「という事は梓ちゃんは……」

和「心配無いわよ。あの子を強くしてくれるアテなら一つだけあるわ」

 先程まで暗かった紬の表情が打って変わって明るくなった。

紬「じゃあ戦力外なんかじゃないのね!?」

和「今のままならさっき私があの子に言った事もあながち間違いじゃないわ。でもきっとあの子は壁を越える、足元すくわれないようにしときなさいよ?」

 どんな時でも他人を慮る紬の態度に、和は感心を通り越して呆れつつあった。
しかしその反面でそれを尊敬する自分もいる。
いつであろうと友を気遣い、自我を殺すという事は簡単な事ではない。

紬「分かったわ!」

 その紬が大きく心を揺るがされる事になるとは、この時は誰にも分からなかった。
922 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/11(木) 21:06:13.26 ID:rrgR3UAO
姫子「うん、そっちの方は任せといてよ。やるだけやってみるからさ」

 姫子は通話を終えると携帯電話を閉じ、胸ポケットに閉まった。

エリ「誰から?」

アカネ「真鍋さんでしょ。今日の件は大丈夫?」

 校門の前で姫子、しずか、エリ、アカネの四人がそぞろになって歩いている。
傍から見れば微笑ましいその光景、この四人の一人一人が一騎当千の実力を持ち、その内一人は並の一個小隊ならば個人で壊滅させられる力を持つ事など誰に予想出来るだろうか。

姫子「そっちは大丈夫なんだけど……。きゃっ──!?」

 いきなり飛び出してきた生徒とぶつかり、姫子はよろめいた。
923 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/11(木) 21:07:05.74 ID:rrgR3UAO
梓「ごめんなさい!」

 姫子とぶつかった生徒は梓だった。
梓はちらりと姫子の方を振り向くと、掠れた声で謝罪した。

エリ「梓ちゃん……?」

しずか「知り合い?」

エリ「うん、そうなんだけど……」

 エリは梓の顔を訝しげな目で見つめた。
梓の頬には涙が伝った後があり、よく見ると瞳には涙が溜まっているのが分かる。

エリ「何で泣いてるの?」

 エリの問い掛けに対して梓が答えようとしたその時、姫子が梓の前へと歩み寄った。

姫子「中野 梓ちゃんかーくほ」

 姫子は梓の肩にそっと手を置いた。
姫子の意図が分からない四人は同時に首を傾げた。
924 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/11(木) 21:09:33.85 ID:rrgR3UAO
梓姫子「女二人 出雲旅」
そんなノリ

もうすぐこのスレも埋まりそうだな
このssを書くまでに出会った全てのものに感謝するぜ!
925 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/11(木) 21:11:57.90 ID:9ut1vLko
乙!
あずにゃん頑張れ!
926 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/11(木) 21:33:09.36 ID:agp/bEko
927 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/11(木) 22:38:29.13 ID:x7KMb2Uo
かーくほ、する姫子ちゃんとあずにゃんを想像したら萌え死んだ
928 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/11(木) 23:23:58.89 ID:p6D4a0oo
(=゚ω゚)ノ乙です!
929 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/11(木) 23:28:41.48 ID:.nYQnBEo
竜さんかww
930 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/12(金) 01:44:59.25 ID:PVkRY6SO
マンタかwww
931 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/12(金) 07:02:44.40 ID:xGN9EEgo
姫子ちゃんかわEEEEE!!!
932 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/12(金) 17:19:56.62 ID:TlNs0QAO
唯「いーちごちゃん!」

いちご「…………」

 南極大陸を拠点とする若王子機関の本部。
その一室に唯の声が響く。
部屋に入り、いちごを視覚すると同時に抱き付いてくる唯をいちごは止めようとはしなかった。

いちご「離れて」

唯「もーう、いけずぅ」

 抱き付いてきたまでは特に反応を示さなかったが、頬を擦り寄せられてしまっては行動に支障が出るからなのだろう。
いちごは若干不機嫌そうな顔をして、読んでいたハードカバーの本を閉じた。

いちご「何の用?」

唯「いや、用という用は特に無いんだけど……」

 冷たい切り返しに唯はしどろもどろになってしまう。
933 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/12(金) 17:21:14.29 ID:TlNs0QAO
 いちごはその様子をひとしきり眺めると小さく溜め息をついた。

いちご「退屈?」

唯「うん……」

 唯はしゅんと顔を俯けた。
まぁ無理も無いだろう。いちごは思った。
たとえギターを持たされているとはいえ、親しい友人など一人も居ないこの環境でほぼ寝たきりの生活を強いられているのだ。
 傍から見ていても飽きっぽい性格である事が分かる唯に耐えられる筈もないだろう。

いちご「薬の量も増やしてもらったからきっと早く元気になるよ。だからもう少し頑張ろう?」

 いちごは言い終えた後で少し饒舌過ぎたかと思った。
だがそれは杞憂だったようで、唯はどこか安堵したような笑みを浮かべる。
934 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/12(金) 17:21:59.91 ID:TlNs0QAO
唯「うん、ありがと」

 不意に唯に手を取られ、いちごは跳ね上がりそうになった。
冷たい自分の手とは対照的に、唯の手は温かかった。

唯「いちごちゃんの手冷たいね〜」

いちご「…………」

 撫でるように優しく、唯はいちごの手を包み込む。
自分の矮小さを認識させられているようで、いちごはたまらず目を伏せた。

唯「知ってる? 手が冷たい人は心が暖かいんだよ」

 小学生でも知っているような下らない迷信だ。
そう思ったがいちごは口には出さなかった。

いちご「もしかしてその迷信、本気にしてる?」

唯「えっ!? 嘘だったの?」
935 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/12(金) 17:22:53.42 ID:TlNs0QAO
 唯はいちごの手を握ったまま固まってしまった。
どうやら本気にしていたようで、驚愕のあまり目を丸く見開いている。

いちご「それに私の心が暖かいなら他の人は聖人君子でしょ」

唯「んーん、いちごちゃんは優しい子だよ」

 唯の表情は打って変わり、聖母のような優しい笑みになった。

唯「たまに冷たい子だなとは思う事もあったけど、皆の事無視したりなんかはしないじゃん」

 直後にいちごの心臓は跳ね上がった。
唯がいちごを抱き寄せたのだ。

唯「それってきっと、いちごちゃんは口下手なだけなんだよね? クラスの皆の事が嫌いなんじゃないよね」
936 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/11/12(金) 17:23:47.85 ID:TlNs0QAO
いちご「暖かい……」

 いちごは目を閉じて唯の身体の温もりを噛み締めた。
いっそこの優しさに溺れてしまおうか。そんな脱力感すら湧いてくる。

唯「ふふっ、あったかあったか」

 そっと頬を擦り寄せてきた唯の髪の毛をいちごは手の中で弄った。
柔らかい癖毛はいちごの指の間をするりと抜けてゆく。

唯「くすぐったいよ〜」

 唯はほんの少しだけ身震いしながらも、反撃にいちごの脇に手を回した。

いちご「ひゃっ──!?」

 脇をくすぐられたいちごは思わず飛び跳ねる。
だが不思議と悪い気はしなかった。
いちごは思う、今暫くは甘んじようと。
決意の元に人間を辞める、その前の僅かな小休止として。
937 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/12(金) 17:24:50.54 ID:TlNs0QAO
何も浮かばない、そんなノリ

こういうほんわかした描写って意外に難しいね
938 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/12(金) 17:50:29.95 ID:e2ngRL2o
>>937
乙です、キュンキュンしたぜ?

まさかここからハッピー百合エンド展開が始まるのかと焦ったけどwww
939 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/12(金) 18:40:48.31 ID:oI5Fv8wo
なんかもう、唯のかわいさで世界を救えそうだ
940 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/12(金) 18:43:57.96 ID:IzHtQjoo
乙!
久しぶりのほのぼの!
941 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/12(金) 20:42:49.51 ID:GLF4RYAO
唯「い〜ち〜ご〜ちゃん!」ギュッ
バキボキバキッ!!
いちご「」

そんなノリ?
942 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/12(金) 21:16:43.79 ID:/9pv49wo
唯「い〜ち〜ご〜ちゃん!」ギュッ

一護「な、なんだお前!!」

そんなノリ

943 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/12(金) 22:36:38.35 ID:sGdGOgAO
>>942

「なっ…なん…だとっ…?」

そんなノリ
944 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/14(日) 01:21:12.70 ID:14.GVm2o
まだか!
945 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[saga]:2010/11/14(日) 23:16:54.19 ID:wJqt9EAO
梓「あの……。何処に向かってるんですか?」

姫子「なーいしょ」

 梓の前を歩く姫子がちらりと振り向いた。
妖艶とも不気味ともとれる姫子の笑みは梓を不安に駆り立てる。
 梓の両脇にはエリとアカネが並んでおり、その後ろをしずかが着いて来ている。つまり……。

梓(もしかして、エリ先輩のお礼参り……!?)

 そんな思考に至る辺り、梓はそれほど先の叱責を気に病んではいないのだろうか。
今和がいれば間違いなくそう突っ込みをいれるだろう。

しずか「えー……と。梓ちゃんだっけ?」

 不意に後ろから聞こえた声に驚きつつも、梓は振り返った。
946 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[saga]:2010/11/14(日) 23:17:44.14 ID:wJqt9EAO
しずか「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。私達別に……、あなたの事どうこうしようなんて思ってないからさ」

 しずかは言いながらもこの状況では説得力は無いか、と内心一人ごちる。

エリ「あれ〜? しずかったら小さい子同士だから親近感湧かせてちゃってる?」

 いたずらな笑みを浮かべてエリは言った。
だがしずかに身の丈に関する話題を振る事はタブーだった。

しずか「〜〜〜〜っ!」

エリ「ちょっ、痛い痛い! いたいったら!」

 しずかは半べそをかきながら駄々っ子のようにエリの背中を叩く。
ポカポカという擬音が聞こえてきそうなその光景は、少なからず梓の緊張を弛めた。
947 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[saga]:2010/11/14(日) 23:18:32.14 ID:wJqt9EAO
アカネ「もう止めなって! あんた達二人が騒ぎ出したら収拾つかなくなるんだから!」

 アカネが二人の間に割って入ってゆく。
その様子を姫子はうっすらと微笑みながら見ていた。

梓「止めなくて良いんですか?」

姫子「んーん、いらないよそんなの」

 姫子は梓に背を向け、両手を組んで前に突き出し、大きく伸びをした。

姫子「今は暫定的にあの子達の頭として動いてるけど、私こういうの苦手だし」

 組んだ両手を解き、頬に纏わりついた髪を払う。
モカブラウンの髪の毛は風に流れ、姫子の表情が露になった。

姫子「好きにさせとけば良いんだよ。私達はそれで大丈夫」
948 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[saga]:2010/11/14(日) 23:19:16.25 ID:wJqt9EAO
 姫子の表情は自信に満ち溢れているようだった。

梓「…………」

 自分が直視する事すらおこがましく思えてくる。
いつか自分も、こんな強さを持てるだろうか。
梓はかつて唯と出会って抱いた感情を姫子にも抱きつつあった。

姫子「お、良い風」

 吹き付ける風は五人を優しく包み込んだ。
本人は否定してはいるものの、新しく現れたこの勢力のリーダーは間違いなく姫子が適任だろう。
 この星の存続すら揺るがす力を持つ姉妹。
彼女らの行く末を側で観測する新たな勢力。
その名は『星の観測者』─スターゲイザー─。
949 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[saga]:2010/11/14(日) 23:19:49.05 ID:wJqt9EAO
 辿り着いた場所は寂れたボーリング場だった。
不況の波に煽られて既に営業はされておらず、一時は不良の溜まり場にでもなっていたのだろう。
壁には落書きが広がっており、酒の缶や煙草の吸い殻が散らばっている。

梓「気味が悪いですね……」

姫子「仕方ないよ。一般人に迷惑かけないでそれなりのスペースがあるところっていったら限られてくるもん」

 姫子はカウンターを飛び越え、その奥の扉を開いた。
店のバックヤードとして使われていたであろう狭い部屋が広がる。
そこで三人の生徒が何かの作業をしていた。

キミ子「おっ、遅かったねー。でも丁度良いかも」

 褐色の肌の少女キミ子が振り向いた。
壁に張り巡らされた何かの配線を弄っているようで、頬の辺りが若干煤けている。
950 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[saga]:2010/11/14(日) 23:20:20.28 ID:wJqt9EAO
姫子「直った?」

キミ子「多分ね。よしみちゃん、電源お願い」

 病的なまでに肌が白い大人しそうな少女が無言で立ち上がった。
脚立を昇り、ブレーカーらしき装置を操作したかと思うと、仄暗かった部屋が明るくなる。

三花「やったーっ!」

 部屋の隅でバレーボールを壁に当てて遊んでいた三花が飛び跳ねた。

姫子「やっとそれっぽくなってきたね」

 姫子に遅れて他の三人もバックヤードに入ってくる。
それぞれが何とか座れそうな場所に腰掛けた。

梓「どんだけアクティブなんですか……」

 華の女子高生がこんなところで怪しげな活動をしている。
それだけで梓とは無縁の光景だった。
951 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[saga]:2010/11/14(日) 23:20:49.10 ID:wJqt9EAO
姫子「それじゃ取り敢えず……」

 姫子はよしみとキミ子に目配せすると、軽く指を弾いた。
それとほぼ同時に二人が梓の視界から消える。

梓「え?」

 ホルスターに手をかける暇すら無かった。
キミ子とよしみは梓を中心に円を描くように駆けた。二人の手に握られているのは鋼鉄の鎖、つまり。

梓「ちょっ、何なんですか!?」

 リーダー格である姫子に向けて叫ぶが、当の姫子は唇に指を添えて何か考え込むような目をしている。

キミ子「余所見してる場合じゃないよん!」

よしみ「それともハナから眼中に無い? 心外ね」
952 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[saga]:2010/11/14(日) 23:21:16.24 ID:wJqt9EAO
 片手は鎖をがっしりと掴み、もう片方の拳は梓目掛けて固く握られている。
 逃げられる場所は?
 上。右。左。前。後。
スペースは狭いながらも無いこともない。だがしかし身体が動かない。

梓「ぐふ──っ!?」

 よしみの拳は梓の鳩尾を的確に捉え、キミ子の拳は頸椎を捉えた。
肉弾戦の経験に乏しい梓が二人の攻撃を受け流せる筈もなく、梓はそのまま力無く膝を折り、床に伏した。

梓「な……。何で……?」

 畜生、踏んだり蹴ったりな一日だ。
梓はそうやって毒づきたくもなったが鳩尾への衝撃が強過ぎて言葉が紡げなかった。

姫子「へ?」

 朦朧とする意識の中で梓が最後に見たのは、素頓狂な表情を浮かべる姫子だった。
953 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[saga]:2010/11/14(日) 23:22:51.45 ID:wJqt9EAO
姫子「この私が珍しく断言するよ。このssをこのスレ内で完結させるのは不可能だ」
梓「ペイラーッ!!!!」
954 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage]:2010/11/14(日) 23:23:42.56 ID:wJqt9EAO
忘れてた、そんなノリくそねもい、ぐふっ
955 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/11/15(月) 00:36:38.43 ID:A0.zfEAO


こっからあずにゃんの修行編か・・・。

956 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage]:2010/11/15(月) 01:22:08.42 ID:zutMwHYo
乙です!

まだまだ終わって欲しくねぇよ!
957 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage]:2010/11/15(月) 18:35:39.23 ID:4DOCMxQo
いうなれば
あずにゃんMk-2
958 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage]:2010/11/16(火) 01:19:10.50 ID:qtmjqqko
髪を触覚に変異させ脚を六本に増強して狭い隙間とかに入れる様になる訳か。
959 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage]:2010/11/16(火) 03:32:20.05 ID:yI8iOwAO
そして加速無しで最高速度到達
首を潰されても一週間は延命可
960 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage]:2010/11/16(火) 18:34:19.50 ID:kzf0fbY0
スピード・ステルス・プレッシャーに生命力
これらがすべて備わったゴkあずにゃんすげー
961 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage]:2010/11/16(火) 18:44:19.60 ID:NVCHma.o
アンデルセン並の再生力か
胸が熱くなるな
962 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage]:2010/11/16(火) 18:50:15.15 ID:KPyuVkso
唯一憂に対抗しうる究極生命体の誕生だな。

梓「オレは人間をやめるぞ!唯先輩ィィィィィィィィィイイ!!!!!」
963 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage]:2010/11/16(火) 20:49:54.69 ID:qtmjqqko
>>962
でもスリッパで一撃…。
964 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[saga]:2010/11/16(火) 21:21:25.73 ID:SmFd/6AO
 時は午後九時前。
琴吹邸のリビングではメイドや執事達があくせく働いていた。
 食器同士が触れ合う金属音。温かいスープから沸き立つ湯気。芸術的な彩りを放つサラダ。鼻孔を突き抜ける芳醇な香りは分厚いステーキから。
五感全てが食欲を増幅させる。

律「ひぇー、いつもこんなの食ってんのかよ。良いなぁ」

 口内に涎が溜まってゆくのを感じて、律は咄嗟に口を閉じた。

純「…………」

 純の手が静かに食器へと伸びる。
もう少しで料理に手が届くところで、純の口の中に酢コンブが捩じ込まれた。

和「そんなにお腹空いたんなら酢コンブでも食べてなさい。自分で買ったんでしょ」
965 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[saga]:2010/11/16(火) 21:22:02.62 ID:SmFd/6AO
純「知りませんよこんなの〜っ!」

 和は賢しくも酢コンブを全て純に押し付けていた。
口の中に広がる独特な臭みと酸味に純は顔をしかめた。

紬「ふふ、焦らなくても料理は逃げたりしないわよ」

 紬は貫徹して朗らかな笑みを絶やさない。
すると執事の一人が紬に耳打ちした。

紬「ええ、通してあげて」

 紬の命令を聞き、執事は足音一つ立たないしなやかな動きで部屋を後にした。

和「一国の主みたいね」

律「でも琴吹財閥って解体したんじゃ……」

 内容が内容の為、律はしどろもどろになりながらも紬に尋ねる。
966 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[saga]:2010/11/16(火) 21:23:06.52 ID:SmFd/6AO
紬「ええ、社益の殆どを持っていかれたわ。でも生活にはあまり支障は無いみたいなの」

律「え? そうなの?」

和「千ある内の八百を奪われても、一しか持たない庶民よりは裕福って事ね」

 和はそう言って水が注がれたグラスに口をつけた。

紬「ええ、その点は問題無いんだけど。従者衆を持っていかれたのは辛いわ」

律「じゅーしゃしゅう?」

 聞き慣れない単語に律は首を傾げる。
紬はかつて自分の側に仕えてくれていた五人に想いを馳せ、高い天井を仰いだ。

紬「加藤、伊藤、後藤、江藤、そして斎藤……」
967 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[saga]:2010/11/16(火) 21:24:03.03 ID:SmFd/6AO
 五人の名を紡ぐ紬の表情は物憂げだった。

紬「皆私の為に頑張ってくれていたわ。澪ちゃん達と比べたらまだまだだけど、ここまで強くなれたのもきっとあの人達のお陰」

 紬の言葉を興味津津で聞いていたのは和だった。

和「……その人達って、私よりも強いのかしら?」

紬「強いわ」

 紬は即答した。予想外の回答に和は眉を顰めた。
桜高の女帝である和よりも強いとなるとその実力は如何ほどのものなのか、少なくとも律の思考は遠く及ばなかった。

紬「『絶対の彼方』の意味を知った今なら分かるわ。少なくとも斎藤は、ここに居る誰よりも強い」
968 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[saga]:2010/11/16(火) 21:25:02.79 ID:SmFd/6AO
 沈黙が流れた。
普段ならここで余計な事を口走る純も今は口の中の酢コンブを消化するのに夢中になっている。
 豪勢な料理、豪華な造りのリビング。その中で空気だけが清閑だった。
 誰も口を開くことなく十秒程過ぎた時、仰々しい蝶番付きの扉が開いた。

姫子「え? 何この空気……」

 若干引きつった笑みを浮かべつつ、姫子がテーブルについた。

紬「あ、ごめんなさい。じゃあ全員揃った事だし──」

純「いただきます!」

 紬の言葉を遮り、待ってましたと言わん許りに純が料理に飛びついた。

和「はぁ、犬でもそんなにがっつかないわよ」

律「ははっ、保護者みたいだな」
969 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[saga]:2010/11/16(火) 21:26:06.34 ID:SmFd/6AO
 やはり人間というものは充実した食事の前では泣きも怒りもしないもので、若干重くなっていた空気は料理が半分ほどになる頃には払拭されていた。

律「私今日死んでも悔やまないよ……」

純「私もです。もう普通のご飯食べれないや……」

 今日一日でかなり舌が肥えたのではないかと錯覚してしまう程の上等な料理に、各々の目尻は緩んでいた。

姫子「しずか達にも食べさせてあげたかったな。特に梓ちゃんには悪い事しちゃったかな」

律「梓? もしかして和が言ってた梓を強くするアテって……」

 紙ナプキンで口を拭いつつ、姫子は答えた。

姫子「一応そんな事任されてるね。あの子の心配はしなくて良いよ」
970 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[saga]:2010/11/16(火) 21:26:59.12 ID:SmFd/6AO
 多分今頃夢の中だけど、と姫子は心の中で呟いた。

姫子「まぁそれは置いといて……。お願いがあります琴吹 紬さん」

 一際険しい顔をして、姫子は紬の方を見た。

紬「え?」

姫子「今の琴吹財閥の財力を総結集して、唯奪還の為の調査団を作って欲しいの」

 姫子の口から放たれた要求は、とてもではないが一介の高校生にするものではなかった。
たとえその相手がその手の界隈で名を轟かせる琴吹財閥の令嬢だとしても。

紬「えっと……。その……」

姫子「無理なお願いをしてるのは分かってる。でも唯は今国外で独りぼっちなんだよ? 私はこのまま黙って見てるなんていやだよ」
971 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[saga]:2010/11/16(火) 21:28:00.92 ID:SmFd/6AO
 唯が国外に居るという情報はここに居る全員にとっては初耳の情報だ。
それはさておき、唯を助けたいという姫子の想いはここに居る全員に通ずるものだった。

紬「ごめんなさい……。そればかりは私の力じゃあ無理なの」

 紬は顔を伏せた。たとえ琴吹財閥の令嬢と言えど出来る事には限界がある。
肝心なところで何の役にも立てない自分が堪らなく嫌になった。
 再び空気が重くなり始めたその時、蝶番の扉が開いた。

「若王子機関の拠点は南極。唯はそこで行われている実験の材料として丁重に保護されてるよ」

 黒いスーツに身を包んだ初老の男がそこに居た。
漆黒のスーツは血に塗れてどす黒く変色しており、顔の皮膚は重度の火傷を負ったかのように突っ張っている。
972 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[saga]:2010/11/16(火) 21:29:08.13 ID:SmFd/6AO
「こいつの見込みだと少なくとも後二週間は無事だそうだ。これで調査団は必要無くなったな」

 両手首を縛るように透き通った氷が男の手に纏わりついている。
男の歯はがちがちと震え、その年に不釣り合いな大粒の涙が頬を伝っている。
首筋に押し当てられた鈍色の刃が男の恐怖心を更に煽った。

澪「ムギ、家のセキュリティはもっと固めとかないとな。鼠が紛れ込んでたぞ」

 男の背後から現れたのは澪だった。

「ひっ……。ひっ」

 何十年と拷問を受け続けたかのような苦悶の表情を浮かべる男。
澪の挙動の一つ一つに反応して震える様は、まるで小動物のようだった。
973 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[saga]:2010/11/16(火) 21:30:10.03 ID:SmFd/6AO
紬「そんな……。嘘でしょ……?」

 紬は驚愕した。
澪がこの家のセキュリティを難なく掻い潜った事ではなく、侵入者の男が澪に倒されているという事に。
 紬がたとえ軽音部の全員が束になっても敵わないだろうと思っていた従者衆が一人、伊藤が見るも無残な姿になっていた。

澪「夜中までここに忍んで、闇に乗じてムギを殺すつもりだったみたいだな」

 澪は伊藤の襟首を掴み、そのまま自分の胸元に引き寄せた。
そして続け様に喉元に刀を突き付ける。

「い、いやだっ……! 助けてください!」

 苦し紛れな命乞いに澪は大きく溜め息をついた。
974 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[saga]:2010/11/16(火) 21:31:02.57 ID:SmFd/6AO
澪「どうする? 殺すなら私が代わりにやっとくけど」

 言いながら澪は伊藤の頬に手を当てた。

「いっ!? ぎゃああああああっ!!」

 触れた部分から浸食するように氷が広がってゆく。
凍傷を負った顔の皮膚が更に凍らされ、目も当てられない悲惨なものとなった。

紬「止めて!」

 紬は喉が裂けんばかりに大声で叫んだ。
目には涙が溜まっており、太い眉は八の字に垂れ下がっている。

澪「…………」


 澪は無言で手を離した。
既に意識は手放しているようで、伊藤は物理法則に逆らわずに崩れるように倒れ伏した。
975 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[saga]:2010/11/16(火) 21:32:06.96 ID:SmFd/6AO
 純は思った。
自分が憧れていた澪は既に死んでいるのだと。
それが良いか悪いか知る術を彼女は持っていない。
 姫子は思った。
梓を強くすると約束したものの、果たして自分に梓を正しい道に導ける力はあるのだろうかと。
 和は思った。
やはりどれだけの器量を持とうとも、人が人である限り観測し得ないイレギュラーは確実に存在するのだと。

紬「澪ちゃん……」

 紬の心は揺れ動く。
かつて自分が信頼を寄せていた裏切り者が、現在自分が信頼を寄せる友人にあっさりと蹂躙されてしまった事実に。
 そして澪の変貌に誰よりもショックを受けた者が居た。

律(澪……。お前どうしちまったんだよ……)

 人と呼べるかすら疑わしい今の澪を、律は睨むように見据えた。
976 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[saga]:2010/11/16(火) 21:33:42.55 ID:SmFd/6AO
律「澪ェ……。お前は私が連れて帰るってばよ」
澪「言ってろウスラトンカチ」
そんなノリ
977 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage]:2010/11/16(火) 21:37:24.23 ID:ey36aSUo
乙!
やっぱ澪つええええええええ
978 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/11/16(火) 21:37:28.94 ID:hDF5qcSO
ノリにワロタwwwwww
979 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/11/16(火) 22:21:04.94 ID:7fjvbUAO
澪しゃん 道、間違ってます
980 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage]:2010/11/16(火) 22:38:07.38 ID:KPyuVkso
というか五人衆に盛大に吹いたwwwwww

乙です!
981 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage]:2010/11/16(火) 23:01:03.45 ID:yI8iOwAO
五人衆の中でも、加藤からは本気のヤバさが伝わってくる
982 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/11/16(火) 23:33:40.67 ID:I0bbhEAO
ノリがwwwwww唯は九尾でいちごがトビ的な位置だな
983 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage]:2010/11/17(水) 00:02:56.68 ID:rBIDjxUo
佐藤「全国で二番目に多い苗字の佐藤さんがいないだと…」
唯「さとうはおかし!」
そんなノリ
984 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage]:2010/11/17(水) 02:08:47.04 ID:SNlp0z.o
これは、、打ち切りフラグかww
985 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[saga]:2010/11/17(水) 22:06:45.89 ID:7mHqgQAO
 伊藤は直ぐに従者達による治療を受けた。
だが凍傷の度合いは皮膚の下の組織まで凍て付かせる凶悪なレベルだったらしく、応急処置だけでは追い付かないので急遽病院に搬送された。

澪「まぁこんなところかな」

 今は紬の部屋に場所を移し、澪が得た情報を共有している。

澪「気になるのは『エデン計画』の概要、そして何で拠点を南極にする必要があったのか、だな」

 伊藤が握っていた情報は朝方澪を狙った狙撃手が持っていたものとさほど変わりは無かった。
それでもこの情報が有るか無いかでは今後の方針が大きく変わる。
澪達はいちごに対して大きなアドバンテージを得た事になるのだ。
986 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[saga]:2010/11/17(水) 22:07:28.77 ID:7mHqgQAO
和「場所が分かってもそんな所が拠点じゃあね……」

紬「あ、そこまでの足くらいなら何とかなると思う」

 問題の一つは早々に解決された。
だがそれ以外にも課せられた問題は数多くある。

純「でも敵は序列四番目の『沼』でしょう? 噂が本当なら何の罠も無く拠点を置くなんてしないと思うんですけど……」

 そう。相手は知略のみで桜高のトップ集団の中に食い込んできた、言わば策士だ。
侵入に当たって常に最悪のパターン想定しておくのが道理だろう。
どれだけ用心したところで、若王子 いちごが相手の時に限っては用心のし過ぎという事は無いのだ。
987 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[saga]:2010/11/17(水) 22:08:42.81 ID:7mHqgQAO
姫子「それについて一つ提案があるの」

 部屋の隅で壁に寄り掛かっていた姫子が唐突に挙手した。
そこに居る全員が一斉に姫子を見る。

姫子「しずかを使おう。あの子を単独で拠点に忍ばせる」

 姫子の提案に対し、和が黙ってなかった。

和「……自分が言ってる事の意味は分かってる? そんな事したらあの子、十中八九死ぬわよ」

姫子「私の見解じゃあ七割は生きて帰れるよ。一番生存率が高いのはしずかだと思うの」

 解せない。和は素直にそう思った。
木下 しずかが最近トップランカーに食い込んできたのは知っていたが、この戦いに介入出来るような力は持っていないと踏んでいたのだ。
988 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[saga]:2010/11/17(水) 22:09:34.64 ID:7mHqgQAO
澪「まぁ、やってやれない事は無いだろうな」

和「どういう事?」

 和の問いに対し、澪はどこか遠い目をして答えた。

澪「完全ステルス能力。あの子は誰であろうと絶対に視覚出来ないからだよ」

姫子「正確には視覚と聴覚による他者との干渉を一切遮断する。自分から不用意に近付かない限りは誰にも気付かれないよ」

和「…………」

 それでも和は納得出来なかった。
聴覚と視覚から存在を感じられないのなら、それはつまり気配すら残さないのと同義だ。
だがたった一つ。しずかのステルス能力には致命的な穴がある。
989 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[saga]:2010/11/17(水) 22:10:56.62 ID:7mHqgQAO
和「……闘気」

 和の呟きに姫子は目を伏せた。
恐らくその一点こそが最大の懸案事項だったのだろう。

姫子「そう……だね。あの子は闘気の存在自体を認知出来てないから、人に元々備わってる闘気を気取られたら……」

 姫子はそこから先を言う事が出来なかった。
悲惨な境遇を共有した友人が死ぬ。
しかもそれは決して有り得ないIfではないのだ。
たとえ仮想の中であろうと、そんな事象とは向き合いたくはない。

和「この子にそのステルス能力をコピーさせたら……」

純「馬鹿言わないで下さいよ。体質までコピー出来る程人間辞めてないですって」
990 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[saga]:2010/11/17(水) 22:11:48.01 ID:7mHqgQAO
 和の意見は一瞬で一蹴された。
純は和を蔑むような呆れ顔を浮かべている。
和はそのまま助けを求めるように紬の方を見た。
どこか悲しそうな顔はしているが、姫子の意見に異論は無さそうだった。

和「クラスメイトが死ぬかもしれないのよ!?」

律「でも唯が死んじゃうのも嫌だ!」

 今まで黙っていた律が声を上げた。
怒号に近い叫びだったが表情はやけに穏やかだ。

律「唯を助ける為なら皆命張る覚悟は出来てるんだ。助ける人がしずかになっても同じ事だよ」

 拙いながらも律の想いはひしひしと皆の胸に伝わってくる。
991 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[saga]:2010/11/17(水) 22:12:35.76 ID:7mHqgQAO
律「誰も死なせねぇ。唯を助ける為にしずかが死にそうになったら私が助ける!」

 それは律の矜持なのだろう。
いたずらな覚悟ではない、皆が笑ってハッピーエンドを迎える為の死に対する覚悟。

和「そんなに上手くいくわけないじゃない……。私だって唯が死ぬのは辛いわ。でも犠牲の上に立ったあの子の辛そうな顔なんて見たくないの」

 唯を失った悲しみ。何も出来ない今の状況に対する妬み。
律はそんなネガティブな感情を一身に受け止めて、言った。

律「大丈夫」

 和の両肩に手が置かれる。
小さくて頼りないその手は、とても温かかった。

律「皆唯が大好きだよ」
992 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[saga]:2010/11/17(水) 22:13:46.32 ID:7mHqgQAO
紬「ええ、仮に従者衆全員を殺める事になっても、私が死ぬ事になっても……。私は唯ちゃんを恨んだりなんかしない」

純「むしろここで動かなかったら私は私を許せませんね。脇役に成り下がるなんて真っ平です」

姫子「私達は大丈夫。失う覚悟なんてまだ決められる自信は無いけど、失わない為に傷付く覚悟ならとっくに出来てるからね」

 純と姫子は自信に満ち溢れた笑みを貼り付け、紬の部屋から退出した。
 和は幼馴染みがここまで皆に愛されている事にうち震えていた。

澪「私は和の仲間だよ」

 澪の表情は氷のように冷たい。
だが紡ぐ言葉はとても優しかった。

澪「だから大丈夫」

 和は顔を伏せる。
和の頬を何かが伝うのを見た者は誰も居なかった。
993 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[saga]:2010/11/17(水) 22:14:44.40 ID:7mHqgQAO
いちご「斎藤、これを見てくれる?」

斎藤「はい」

 南極の氷を掘り砕いて作った一室。
所謂機関本部の地下室に二人は居た。
 斎藤はいちごから手渡された何かの設計図らしきものに目を通す。

斎藤「…………」

いちご「それを明日から三日以内に完成させるわ。参考までに聞きたいんだけど……」

 そこまでのいちごの言葉は斎藤の耳には入っていなかった。
それほどまでに、書類に書かれている事は驚愕に値していたのだ。

いちご「あなたとこれがやり合ったとして、これに勝てる自信はある?」

斎藤「ありません」

 斎藤は即答した。
994 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[saga]:2010/11/17(水) 22:15:50.22 ID:7mHqgQAO
斎藤「十中八九私の負けでしょう。運良く勝てたとしてもただではすまない筈です」

 いちごは分かっていたとでも良いたげにほくそ笑んだ。

いちご「もう一つ質問。『龍』を奪った時にあの場に居た子の中で、あなたより強い子は居た?」

斎藤「恐らく『龍』の片割れだけでしょう」

 それを聞いていちごは更に口角を上げた。

いちご「そう。ならこれの製造を決定するわ」

斎藤「…………」

 斎藤は自分の口を憎んだ。
自分の選択の結果、こんな化け物が世に生まれてしまうのだから。
 設計図には何かのパーツらしきものが無尽蔵に書き連ねられている。
紙の左端の辺りには一際大きな文字で『タナトス』と書かれていた。
995 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[saga]:2010/11/17(水) 22:21:09.42 ID:7mHqgQAO
唯「このスレはもう持たないよ……。皆、私に構わず逃げて!」ググッ

律「お前ばっかにカッコいい真似させるかよ!」

澪「お前達だけじゃあ危なっかしくて見てられないよ」

唯「りっちゃん……。澪ちゃん……」

紬「私死亡フラグをブレイクするのが夢だったの〜」

梓「水臭いですよ唯先輩。たまには後輩も頼って下さい」

唯「皆……。ありがとう、じゃあ行くよ!」

唯律澪紬梓「新しいステージ(2スレ)へ!!!!」カッ

そんなノリ
996 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/11/17(水) 22:25:14.34 ID:JnPx2wAO
しずかがH×Hのノウ゛になるわけか
斎藤の闘気にあてられ禿げるわけか
997 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage]:2010/11/17(水) 22:37:00.45 ID:cDQlZeEo
乙!
しずかかわいいよしずか
998 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage]:2010/11/17(水) 22:45:49.79 ID:cDQlZeEo
勝手に次スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1290001521/
999 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage]:2010/11/17(水) 22:47:36.79 ID:zF.7YEAO

次スレワクテカ
1000 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage]:2010/11/17(水) 22:50:54.43 ID:qDzQMvEo
じゃ1000
1001 :1001Over 1000 Thread
    ´⌒(⌒(⌒`⌒,⌒ヽ
   (()@(ヽノ(@)ノ(ノヽ)
   (o)ゝノ`ー'ゝーヽ-' /8)
   ゝー '_ W   (9)ノ(@)
   「 ̄ ・| 「 ̄ ̄|─-r ヽ
   `、_ノol・__ノ    ノ   【呪いのトンファーパーマン】
   ノ          /     このスレッドは1000を超えました。
   ヽ⌒ー⌒ー⌒ー ノ      このレスを見たら期限内に完成させないと死にます。
    `ー─┬─ l´-、      完成させても死にます。
        /:::::::::::::::::l   /77
       /::::::::::i:i:::::::i,../ / |
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       l;;ノ:::::::::::::::l l;.,.,.!  |
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       /:::::::;へ:::::::l~   |ヌ|
      /:::::/´  ヽ:::l   .|ヌ|               製作速報VIP@VipService
      .〔:::::l     l:::l   凵                  http://ex14.vip2ch.com/news4gep/
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1002 :最近建ったスレッドのご案内★Powered By VIP Service
唯「ボディがお留守だよ!」 @ 2010/11/17(水) 22:45:21.31 ID:cDQlZeEo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1290001521/

▽ 【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-17冊目-【超電磁砲】 @ 2010/11/17(水) 22:42:28.31 ID:m3Iffqgo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1290001348/

中学生の時の日記が出てきた @ 2010/11/17(水) 22:41:37.14
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4vip/1290001297/

携帯新機種買おうと思うんだけどどれにしたらいい? @ 2010/11/17(水) 22:41:06.96 ID:0tCX6Nc0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1290001266/

VIP-World TRPG 灰色のくま2ch版 質問・雑談・セッション・観戦スレ661 @ 2010/11/17(水) 22:38:12.30 ID:Q8mdB4wo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1290001092/


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