◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/08(金) 09:57:47.82 ID:UHCYDIotO<>西暦894年、なんか世界は色々とヤバかった。


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<>勇者「魔王を倒しに行くぜ!」 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/12/08(金) 10:03:32.09 ID:E1hP3W4Lo<>   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄○ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
           O 。
                 , ─ヽ
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|__|__|__|_   __((´∀`\ )< というお話だったのサ
|_|__|__|__ /ノへゝ/'''  )ヽ  \_________
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|_|_| 从.从从  | \__ ̄ ̄⊂|丿/
|__|| 从人人从. | /\__/::::::|||
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────────(~~ヽ::::::::::::|/        = 完 =
<>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/08(金) 10:12:46.08 ID:UHCYDIotO<> 〜どっかの町〜

テレビ「魔王軍が長距離弾道ミサイルを国境付近に配備した模様です。この報告を受け、フンチャカ国王は遺憾の意を……」

勇者「う〜ん、マジで大丈夫なのかァ? この町ィ」

勇者「ガッチリ、ミサイルの射程圏内にあるじゃねーか。ったく、命がいくつあっても足りねぇな」

勇者はポテチうすしお味を喰っていた。うすしお味はポテチそのものでなく、手についた塩に価値がある。古代の賢人ソクラテスの述べた格言である。

勇者「そろそろ脱出計画でも立てるか。この町との無理心中なんてゴメンだぜ! なぁデブ」

デブ「そうだね、ハアハア。僕も肉まんを沢山食べたいし」

この汗臭い肥満児はデブ。名前がない孤児だったので、勇者はデブと呼んでいる。
<>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/08(金) 10:17:00.37 ID:UHCYDIotO<> その日の夜、魔王軍がミサイルを発射した。
すぐにニュースに流れた。
午前二時のことだった。

勇者「行くぞ!!!!」

勇者は荷物をまとめ、デブの家に走って行った。
ドアをドンドンと荒々しくノックする。
それでもデェブは出てこない。

勇者「仕方ねーな、お邪魔するぜ!」

勇者は窓を剣で叩き割り、ひっそりと侵入した。
テーブルの上に、デブが食い散らかした肉まんが落ちていた。 物音を立てず、寝室に入る。
そこではデブがよだれを垂らし、馬鹿笑いしながら寝ていた。 勇者は彼をベッドから引きずり下ろした。

デブ「ん……なんだぁ……?」ムニャムニャ

勇者「荷物をまとめろ! やつら、ついにやりやがった!」

デブ「え!?」

勇者「魔王軍のミサイルがこの町を狙って飛んでくんだよ! 逃げるぞ!」 <>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/08(金) 10:22:33.08 ID:UHCYDIotO<> デブ「なんでだよ! ミサイルがここを狙ってピンポイントで降ってくるわけないだろ! 頭おかしいんじゃないのか!?」

勇者「うるせぇ! 良いからまとめろ!」

デブはのろのろと荷物をまとめはじめた。
数分後、荷造りが済んだらしく、デブは立ち上がった。
勇者とデブは家から出て、町の終わりまでなりふり構わず走ったのだった。

やっと関所に着いた。
町と外界は高い塀で遮断され、扉はかたく閉ざされている。
塀を乗り越えるより他に、町を出る手段はなさそうだった。

勇者「俺が塀の向こうにロープを引っかけて上に登る」

勇者「デブは後から来い。お前は運動が苦手だから俺の支援が必要だろう」

デブ「いやいやちっと待ってくれよ勇者さんよォ! 僕は家でゴロゴロ……」

警官「やいやい! テメェら何もんだゴラ! 待てぇい!」

背後からキィキィ声が聞こえた。
二人をテロリストと見間違えた警官が追いかけてきたのだ。
確かに、深夜に大人の男がたった二人で、暗がりでゴソゴソやっているのだ。 テロリストが爆弾をしかけていると勘違いしても、おかしくない。

勇者「デブ! 乗り越えるぞ! 俺についてこいッ!」

デブ「わ、わぁ〜待っちくり〜」 <>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/08(金) 10:33:45.87 ID:UHCYDIotO<> 警官「おいクソ共、止まりやがれ! さもなければ、このマシンガンで貴様らを蜂の巣にし、城門に晒し首にしてくれるぞ!」

デブ「ひいい、勇者! ヤバいって……!」

勇者「デブ、止まるんじゃねぇぞ! 動きを止めたら終わりだ! 分かってんだろうな!」

警官がマシンガンを取り出した。 勇者は華麗な身のこなしで、あっという間に塀の上まで登っていった。
太いロープを垂らし、下にいる肥満児に呼びかける。

勇者「デブ! このロープに掴まれ!」

デブ「おう!」

デブはロープを使い、塀を登り始めた。

警官「おのれ、我が警告を無視するか! ならば良し、テメェらを銃殺刑に処す!」

パパン! パンパン!

マシンガンが火をふき、塀に無数の穴が開く。

デブ「どわあああ! おっかねぇなオイ!」

勇者「落ち着け、デブ!」

デブ「ヒエエエ! ワァワァワァワァ!!!!」

勇者「もうすぐだろ! マシンガンに怯えんな!」

デブ「あの警官、マジに僕らを殺しにかかってやがる! あれが国民の命を守る国家公務員のすることかよ! この町のやつら、みんな狂っちまってるヨォオオオオ!!!!」

チュドオオォォォォォォォォン!!!!!

勇者「ああああーーーーーーーッ!!!!!」

デブ「ギャーーーーーーーーーッ!!!!!」

ミサイルが市役所に着弾した。
爆風に勇者とデブは吹っ飛ばされたのであった。 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/12/08(金) 12:34:20.35 ID:jw1N/wMKO<> とりあえず西暦894年にテレビとミサイルとマシンガンがあることに突っ込んでいいのかな <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/12/08(金) 12:35:48.47 ID:s6V+IEAF0<> もう>>3の時点で作者特定できた

流石に今回は非安価にしたか <>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/08(金) 12:36:14.02 ID:UHCYDIotO<> 勇者「うぐぐ……痛ェな、コラ」

身体の節々がズキズキと痛む。腕の骨が折れたか? 脚は? 痛みはするが、自由に動かせる。別状はないようだ。
町の方を見ると、黒いキノコ雲がもくもくと上がっていた。

デブ「勇者ァ……あれって……」

勇者「間違いねェ。魔王の野郎、魔素弾頭を搭載して飛ばしやがった。魔素は人の遺伝子情報を魔族のものに書き換える、クソみてぇな元素だ」

デブ「町の人はみんな魔物になっちゃったんでしょ?」

勇者「然りだな。な? 逃げて正解だったろ? おっと、町へは近寄るんじゃねぇぞ。魔素が漂ってやがる。早くこの場から立ち去った方が正解のようだ」

デブ「でも、どこへ行けばいいんだよ。僕達、パスポート持ってないんだぜ! おまけに腹も減ってる!」

勇者「ついてきな。飯を奢ってくれる知り合いがいるんだ」 <>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/08(金) 12:45:55.52 ID:UHCYDIotO<> 突然、背後でドドッと地の割れる音がした。
勇者達が振り向くと、そこには巨大な昆虫がいた。

勇者「なんなんだこいつは……」

その昆虫は九つの複眼を持ち、大きな二本の棘のある腕が特徴的だ。 足は四本あり、いずれも丸太のごとく太い。 喩えるならばバカでかいカマキリと言ったところか。 いや、カマキリでは複眼の説明がつかないからカマキリの進化体としておこうか。
カマキリは肉食で、この砂地を通る旅人を襲っては血をすすり、その後に肉をむさぼるのだという。

デブ「見たところ、昆虫の身長は3m54cmだね」

勇者「なんだって!? かなり大きいじゃないかッ!」

デブ「このカマキリが、君の言っていた『飯を奢ってくれる知り合い』なのかい?」

勇者「テメェのアホさ加減には、呆れを通り越して畏敬の念すら感じるな。よし、そんなテメェに敬意を表してコイツを俺の知り合いってことにしておいてやる」

デブ「うーん困ったねぇ、僕ら肝心の武器を持ってないよ。死んじゃうよ……」

勇者「なら素手で闘えばいい! いいか? 人間には知恵って武器があんだよ」

勇者はまず足を狙うことにした。

勇者「デブ、奴の足を潰して動きを抑えるぞ」

デブ「う、うう。怖いよォ」

勇者とデブはカマキリの足に、そこいらで拾った石を投げだした。 <>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/08(金) 14:05:42.81 ID:UHCYDIotO<> カマキリの皮が破れて青黒い血がドロリと砂地を染めた。これは敵わじと感じたか、カマキリは這う這うの体で地中へと逃げて行った。

勇者「ま、ざっとこんなもんよ」

勇者とデブが出発しようとした時、背後でまた砂の落ちる音が聞こえた。 さきほどのカマキリもどきである。 性懲りもなく二人を喰らおうとノコノコ出てきたのだ。

デブ「また出てきた! 何としても、僕達を喰らおうと必死なのですね! あの太陽はまだ輝きを失わずにいるのですね!」

勇者「おいデブ、ちょっとどけよ。勇者の力使うわ」

勇者はなんか変なパワーを解き放った。勇者の膂力が三倍にまで上昇する!

勇者「ほうれ」

石をカマキリの頭へ投げる。
見事、石はカマキリもどきの額に命中し、脳まで突き通した。
砂塵を巻き上げて斃れたカマキリもどきを、デブは食べようと提案した。

勇者「何言ってんだ。そいつの皮には魔素がある。焼いても消えねぇ魔素があるんだ」

デブ「はぁ? でも君はさっき食事を提供してくれる知り合いであると……」

勇者「悪いが、それは俺達のことじゃないぜ。砂地の生き物に対して言ったセリフなんだぜ」

デブ「ああ〜ん?」

デブには勇者の言葉がさっぱり理解不能であった。 <>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/08(金) 14:47:50.52 ID:UHCYDIotO<> 虫から逃げた後、勇者とデブはオアシスを探していた。
しかし、一つも見当たらない。
しばらく歩くと枯れているように見える草があった。

デブ「これはミズソウという。枯れているのになぜか水分が豊富なんだ。毒もないし、飲んでみようじゃないか」

デブは飲食物のことなら何でも知っている。
だから太っているのだ。
勇者らはそこらの木を拾い草を切り、水を飲んだ。
久々に生き返ったような気がした。

数日西に歩いて、勇者達はハゲーン町に着いた。勇者の知り合いが住む町だという。

勇者「いいか? ハゲーン町の内部には至る所に赤外線センサーが張り巡らされている」

勇者「もし、センサーに触れてしまえばライフルロボットに狙撃される仕組みになっているんだ」

デブ「じゃあどうするんだよ。僕なんか格好の餌食じゃないか」

勇者「そんなことだと思ったよ。それなら四つん這いになって進めばいいのだ」

勇者とデブは四つん這いになってセンサーを潜り抜け、城までやってきた。 ハゲーン町は市町村の一つであるが、何故か城が立っている。 町長が権威を諸地域に示すため、建てさせたものだろう。

城の門をくぐり、ハゲーン町の王に謁見する時が来た。
勇者は、友人でもある王を旅の仲間に加えようと考えていた。
彼の財力があれば、きっと安心して旅を進められるからだ。

大臣「王様の、おなーーりーー!!!」

勇者「あいつが来るぞ、毅然とした態度で迎えるんだぞ」

デブ「え、偉そうな態度を取ったら首を刎ねられちゃうよ」 <>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/08(金) 16:17:40.78 ID:UHCYDIotO<> 玉座に、つるッパゲの男が座った。
これこそが勇者の友人であり、ハゲーン町の王者でもある、ハゲである。

デブ「こんなヒョロガリのハゲが王様だって!? こんな不公平ってあるかよぉ!」

デブは驚愕し、思わず殴りかかった。

大臣「コラ! 王様に殴りかかるのは死刑と同等の罪であるぞ!」

ハゲ「まぁまぁ、大臣は下がっていなさい」

ハゲ「久しぶりですな、勇者殿。拙僧になんの用です」

勇者「俺の用件はなぁ、ハゲよ! 旅の仲間になってくれないか!? ということだぜ!」

ハゲ「いいでしょう!」

大臣「な、なんてことをおっしゃられます! そんなことをしてはこの町が……」オロオロ

ハゲ「いや、この町にはもう飽きました」

大臣「何ですとッ!?」ガビーン

ハゲ「回復はお任せあれ。勇者殿、デブ殿」

デブ「いくら何でも簡単に決めすぎだろ……」

勇者「思い切りの良さは健在ってわけか」

ハゲは群がる大臣達を押しのけ、城を出ていった。
勇者一行も彼の後を追って、城を出る。
この時、王の地位をハゲは永久に失ったのだ。
<>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/08(金) 16:29:04.33 ID:UHCYDIotO<> 〜ハゲーン町武器店〜

勇者「デブにはハンマーがお似合いだな」

デブ「僕が太っちょだからそんなこと言ってるんだ!」

勇者「俺はこの錆びた剣にするが、ハゲはもう決めたか?」

ハゲ「ええ、決めました。拙僧は普通の剣にします」

デブ「おい、ハゲ。回復役ならステッキかメイスにしとけよ。普通の剣なんか装備してもマジックポイントは増えないぞ」

勇者「別にいいだろデブ。回復役が杖、という常識自体間違っているのかもしれんし、何を選ぼうと人の自由だ」

デブ「う……」

勇者は錆びた剣、デェブは鉄の玉、ハゲは鉄の剣を選んだ。 会計に出すと、レジの老人は目を丸くして錆びた剣を見つめた。

レジの老人「これは……伝説の剣ですぞ!」

デブ「あんだって!?」

レジの老人「い、いつから私はこんな代物を売っていたのかいやはや……」

デブ「伝染の剣って何が伝染するんだ!? 菌か!? 斬ると傷口から感染症を引き起こす剣だってのかァ!?」

勇者「待ってくれ、話がかみ合ってないぞ。二人とも落ち着けって」 <>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/08(金) 16:34:19.12 ID:UHCYDIotO<> レジの老人「私は本当に知らんのです。ただのくっそボロい剣とばかり……」

勇者「誰から貰ったんだ?」

レジの老人「貰ったのではありません。店の屋根に突き刺さっていたので、避雷針として使用していたのですが、どうにも使えん」

レジの老人「なので、いっちょ売っぱらってやろうと思ったのです。しかし、よくよく見ればこれはでんせ」

勇者「そうか、では買おう」チャリンチャリン

しかし、こんなボロい剣を買っていいのか。
錆びている箇所が十か所もあり、ホコリだらけである。
いつ折れてもおかしくない。

勇者「おいデブ、たらいに水をいれて持ってこい。洗ってみよう」

デブ「ケッ。こういう仕事はハゲにやらせるのが一番だよ。彼は貧弱そうだからね」

水で剣の表面を洗うと、それは立派なプラチナ製の魔剣に変貌した。 一瞬、まばゆい光が店内を包みこんだ。 光が消えた後も、魔剣はキラキラと輝いているようであった。

デブ「すげぇな!」

勇者「これが……伝説の剣! ガチでヤベー掘り出しモンじゃあねーか! ありがとよ、爺さん!」

レジの老人「伝説の剣は使い手を選ぶと聞きます。お客様、あなたは剣に選ばれたのです。誇りに思いなさい」

勇者「言われなくても存分に傲り高ぶらせて頂くぜ!」 <>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/08(金) 18:17:00.09 ID:UHCYDIotO<> 〜1時間後・ハゲーン町の広場〜

勇者「ようし! サイゼリヤで飯も食ったことだし、ぼちぼち出発するとしようか」

ハゲ「出発といっても、どこへ参るのでしょう?」

勇者「ハゲーン町から北北西に向かって2kmの所に魔物の巣があるそうだ」

デブ「行って何をするんだよ。それより僕の胃袋はぺこぺこだ! それに乾燥している!」

勇者「あ? さっきサイゼリヤでイタリアンハンバーグ&ラージライス&シェフサラダ&ドリンクバーを頼んだのは誰だ? テメェはまだ食い足りねーのかよ!」

ハゲ「旅の途中でパンのひとつやふたつ、手に入ります。それまでの我慢ですな」

デブ「本来なら、ハゲにご馳走してもらう予定だったんだ。アンタがいきなり『平民に戻ります』なんてキチガイじみた行動を取るから……!」

勇者「落ち着け。いらだつ気持ちは分からんでもないが、興奮すれば腹が減るぞ」

デブ「ぬぐぐぐ。自分の腕でもかじって我慢するぜ」 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/12/08(金) 18:19:28.78 ID:43d9BpgUO<> 狙いすぎててつまらん <>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/08(金) 18:23:52.36 ID:UHCYDIotO<> 勇者一行はハゲーン町を出た後、北北西に突き進んだ。 しばらくは砂と岩だらけの荒地であったが三日後、壁のような崖に道を塞がれた。

勇者「この崖を越えたら、魔物の巣だ。俺が先に行き、デブを引き上げる。ハゲはしんがりでよろしく頼む」

デブ「あのさぁ……結局さ、僕達はどうして魔物の巣に行くんだ? 行く必要ないだろ? ここ数日、食事という食事にありつけなかったし」

ハゲ「昆虫はタンパク質が豊富です。コンビニの加工食品より遥かに健康的な食事だと思いますぞ」

勇者「魔物の巣にはパンが山ほど落ちているらしい」

デブ「まーた見え透いた嘘を。僕はもう騙されないからね!」
<>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/08(金) 18:27:18.78 ID:UHCYDIotO<> 〜魔物の巣〜

勇者「おい、用心して行けよ。武器は持ったか」

デブ「な、なんだか不気味だね。木の枝が荒ぶってるし」

勇者「木の枝くらいどうってことないぜ。ただ、デブの抱えてる鉄球が俺の足に落ちてこないかが心配だぜ」

魔物の巣は霧が大変濃く、歩いている内に三人は別々の方向へはぐれてしまった。

デブ「お〜い、勇者〜! ハゲ〜! 君達どこに行ってしまったんだよ〜う!」

デブ「……これってヤバくないか。完全に僕だけ遭難してるってことじゃないか」

デブ「所持品と言えばこの鉄球に、途中で拾った火打ち石だけ……」

デブ「勇者の嘘つきめ! やっぱり魔物の巣にパンなんて落ちてなかった!」

デブは腹立ちまぎれに、近くの草むらへ鉄球を投げつけた。
骨の砕ける鈍い音がして、草むらからヨロヨロと一匹のゴブリンが這い出してきた。 思わぬ収穫にデブは、鉄球を火打ち石代わりにして、ゴブリンのステーキを心ゆくまで堪能したのだった。

デブ「へへっ、このダンジョンもそんなに悪くないね」 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>saga<>2017/12/08(金) 18:30:40.87 ID:UHCYDIotO<> 一方、勇者とハゲは行く手を阻む魔物を斬り捨てながら奥へと進んでいた。 魔物の巣とは言っても遠くから見れば、ただの巨大な森である。 方向感覚が狂い、自分がどこを進んでいるかも分からなくなる。

勇者「まさか、こんなに魔物が隠れているとは思わなかった」ズバッ

ハゲ「魔物との激戦は免れぬと入る時点で気がつかなかったのですかな?」ドシュッ

勇者「いやね、少しは予想してたけどここまでかと。ホラ見ろよ、道を埋め尽くしちまってるぜ」バキッ

ハゲ「魔物の巣はかつて、新人兵士の修練場として用いられていたといいます」ガスッ

勇者「へぇ。そんな大人気のスポットなのに、どうして人っ子一人いないんさね?」シャシャシャシャ

ハゲ「最深部に『主』が棲み始めてから、誰も近寄らなくなった。そう拙僧は聞いておりますが」スパァン

勇者「『主』ってのがクソ強いから死を恐れて挑戦しなくなったと?」ズドドドドグワッシャーン

ハゲ「否、口車に乗せられてまんまと殺されたのがほとんどだそうです」ピシャンピシャンドンガラガッシャァァァァン

しばらく走ると、不意に視界が開けた。
最深部へと到達したのだ。
霧は晴れ渡り、中央に木製の椅子が揺れている。
そして、その椅子に鎮座するフード姿の男が一人。
勇者とハゲがフード男の放つ静かな殺気に圧倒されていると、肥満児が駆けてきた。

フード男「おっ血まみれの諸君……」

フード男の第一声を受けて、勇者は自分の服を見下ろした。
確かに服は魔物の血で赤黒く染まっていた。
デブやハゲも同じようである。

勇者「デブ、お前も魔物と闘ったのか」

デブ「そうだぞ。鉄球でブチのめしてきた」

ハゲ「やれやれ、勇者殿もデブ殿も恐ろしい方々ですな」 <>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/08(金) 18:42:44.45 ID:UHCYDIotO<> フード男が椅子から立ち上がり、話しかけてきた。

主「ところで、だ。私はここの森番、すなわち『主』なのだが、諸君らはどうしたいのかね?」

主「魔物の巣を通りたいのかね?」

デブ(おい勇者、魔物の巣を通るってどういうことだ? ここは独立した一個のダンジョンなのだろ?)ヒソヒソ

勇者(もしや、魔物の巣を通り抜けた先に地図には載っていない未知なる世界が広がっているのではなかろうか)ヒソヒソ

主「通りたいのか、通りたくないのかはっきりせんか!」

勇者「まぁそういうことですよ」

主「ああ〜ん? 通りたいのか?」

勇者「まぁそういうことですよ」

主「通りたいということで良いのだな? ではこれを飲みなされ」サッ

森番が取り出したのは、小さな金色の杯であった。
赤色の液体がなみなみと注がれている。
杯からこぼれた液体が地面に落ちると、白色の煙が立った。

主「塩酸の毒素を強めた塩化ピポ水だ。これを飲めたら通してやってもいいが、どうする」

森番の足元を見ると、頭骨と思しき骨が転がっている。
以前、ここを訪れた修行者のものだろう。
デブは青白い顔でブルッと震えた。

勇者「おいおい、マジかよ……」

主「ククク……さぁ飲みなさい! この液体には人間の肉を溶かす力があるのだ!」

主「魔物の巣にある樹は全て、溶けた人間の肉体で育っているのだ。バカな修行者が騙されてくれたおかげでな!」 <>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/08(金) 18:47:11.44 ID:UHCYDIotO<> ハゲ「では、頂戴しましょう」

勇者「ヴォイ! ハゲお前、好んで死にに行くこたねぇだろ!」

ハゲ「大丈夫です。拙僧には策がございます」

そう告げた一秒後、ハゲは目の前のフード男に塩化ピポ水を叩きつけた。

主「ぬぁにうぉしゅるッ!!!」

ハゲ「人様に飲食物を出す際は、まず調理者自身が味見をする。重要なことを忘れていましたね」

主「だからって投げ返すなど……その発想は……なかった……」

主「ぐぬぬ……この私がァァァァ!!!! ハゲなんぞにィィィ!!!!」

勇者「まだ頭が溶け切ってないな。復活したら困るし、デブ、頼むぜ。お前の出番だ」

デブ「合点承知ィ!」

デブは森番に駆け寄ると、鉄球を無表情で落とした。 グシャリと潰れる音がして、森番の呪詛は永遠に終わった。 同時に周囲を囲っていた禍々しい木々が、次々に枯れ果てていった。

デブ「こいつぁすげぇや……」

ハゲ「ふふふ、魅せてくれますなぁ。森の主、とやらも」

勇者「これで、新たな進むべき道が示されたってことだな」

青空の下、勇者の目の前には地平線まで続くヒースの原野が広がっていた。
<>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/08(金) 18:54:10.72 ID:UHCYDIotO<> そよ風を顔に受けながら原野を進んでいると、こんこんと地下水が湧きだしている場所についた。泉の近くに巨大なニレの樹が一本立っていた。 勇者一行は泉で小休憩を取ると、ニレの樹を見上げながら通り過ぎた。

しばらくして。

デブ「見ろよ、またニレの樹が立ってるぜ。しかもさっきと同じで一本だけだぜ」

勇者「本当だ、誰が植えたんだろうな。一里塚みたいな感じで距離の標識的な役割を果たしているのではないか?」

ハゲ「ぬぬっ、こちらにも……ああ、あちらにも! 困りましたな、勇者殿。拙僧ら……囲まれておりまする!」

デブ「樹に囲まれてる!? ば、馬鹿を言え。樹が動くかってんだよ!」

ニレの樹「ぐふふ、お前たちは逃げられない」

勇者「きッ……樹が動いているッ! それにいつの間にか木の枝が剛腕に変化しているッ!」

デブ「信じられない……僕の両目はどうかしてしまったのかい!?」

ハゲ「落ち着くのです、二人とも。これを使いましょう」

ハゲは冷静にバケツを取り出した。
中には赤い液体が入っている。
勇者は目を丸くした。

勇者「こ、これは塩化ピポ水ではないか。どこで手に入れてきたんだ」

ハゲ「魔物の森に塩化ピポ水の湖があったのです。そこから少し取ってきました。何かに使えるのではと思いまして」

デブ「バケツ、大丈夫なの?」

ハゲ「修復魔法を断続的にかけているので、多分大丈夫です」

勇者「では早速、樹にかけてみようぜ!」 <>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/08(金) 18:58:55.34 ID:UHCYDIotO<> ニレの樹「む……それは塩化ピポ水! まさか、何をするやめ……」

樹は次々に溶けていった。

勇者「早く包囲網を突破するぞ! こんな場所にいては、一緒に仲良く溶けちまうからな!」

勇者「ただ、デブは脂肪燃焼の意味合いもかねて残った方が良かったと思うぜ!」

デブ「変な冗談は良してくれ。僕は確かに体脂肪率50%だ。しかし、残りの50%は全部筋肉でできてるんだぜ」

ハゲ「しかし妙ですな。いつの間に拙僧らを囲んでいたとは、恐るべき気配の消し方」

勇者「ここから魔物は強くなりますよってか?」

ハゲ「然り、旅人への警告であるやもしれませぬ」

デブ「じゃ、じゃあさ。もう家に帰ろうぜ!」

勇者「あ?」

デブ「家にはパンもあればベッドもある。もう『ヘルシィ』な食べ物を口にしなくて済むんだ!」

ハゲ「昆虫は貴重なタンパク源です。食通であるなら、知っていてほしい基本知識であったのですがね」

勇者「そうだそうだ。その『ヘルシィ』な食い物があってこそ、俺達は今こうして旅を続けられるわけだ」

デブ「そもそも、僕は好きでこの旅に参加してるわけじゃない! ミサイルで家がスッ飛んで、そんで勇者の野郎に無理矢理つき合わされて」

勇者「なら帰るか? 一人トボトボと、暗い獣道をあてもなく帰っていくか? 言っとくがよ、そのちゃっちい鉄球だけじゃ魔物は狩れないぜ」

デブ「ぐ、ぐうううう!!!!」

話が終わる頃、勇者達はニレの樹の包囲網を突破した。 <>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/08(金) 19:10:56.21 ID:UHCYDIotO<> 日が暮れる頃、パーティーは星形の奇妙な建物に着いた。人はおらず、中は暗い。 何かの研究所であるのだろうか。 玄関を過ぎるとすぐ横に、見たことのない魔物の標本があった。 それを見て、デブがハッと思いだしたように叫んだ。

デブ「おい勇者! この建物の名前を思い出したぞ!」

勇者「あんだって!?」

デブ「ここはパピプペポ実験所! 世界中から色々な魔物を集めて、自由に変形させていたんだ!」

勇者「クッ、面白ェな」

ハゲ「魔物を変形させて、どうするのです? 目的もなしに変形、というわけではないでしょうに」

デブ「それは僕も知らんぜ!!」

勇者「魔王もここで産まれてたりしてな」

デブ「ところで、ここは暗いなぁ。誰か電気つけてくれよ」

勇者「電気をつけようとしたが、ブレーカーが落ちてやがる。ブレーカーの位置が分からんから無理だ」

ハゲ「こんなことがあろうと電灯を持ってきました」

勇者「礼を言う。本当、お前がいると冒険が楽になるぜ」

透明な机の上にはガラクタが沢山あった。 そのガラクタの中には人骨とも思えるような物体があり、とても不気味に思えた。さらに進むと、看板らしき板が立っていた。

勇者「えーと……『ビャンビャン山を登山したい人はこちら』とあるぜ」

デブ「ああ〜ん? 研究所なのに登山案内だと? どういうこっちゃ?」

ハゲ「研究所と登山専門店が併設しているのではないかな。どうやら近くに拙僧らの越えねばならぬ山があるようですし」

勇者「ま、見るだけ損はないだろ。つかおいデブ! テメェ、デタラメこいてんじゃねぇ! 何がパピプペポ研究所だよ、看板にカギトレバ研究所って書いてあるじゃねーか!」

デブ「カ、カギトレバ……? ごめんよ、ここらへんのこと、あんまり知らなかったんだ」

ハゲ「デブ殿が知らないのも無理はありません。ここは多分、世界の果てから一歩外に踏み出した世界。誰も来たことのない、前人未到の地なのです」

勇者「言葉が読めるだけ、ラッキーっつーことか」

<>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/08(金) 19:39:31.16 ID:UHCYDIotO<> 勇者は建物の反対側に繋がる扉を見つけた。冷たい風が扉の隙間を縫って中まで吹き込んでいる。

勇者「こっから外に出れんじゃね?」

ハゲ「お待ちください」

勇者「どうした、そんな眉ひそめて。いつものハゲらしくねーぞ。心配すんな、俺は勇者だぜ?」

ハゲ「扉の向こう側から、濃い魔素の気配を感じます。魔素が濃ければ濃いほど、その魔族は強いということになります」

勇者「ケッ、伝説の剣があれば余裕だろ」

ハゲ「この扉の揺れ具合、尋常ではありません。そろそろ限界を迎え、内側に弾け飛ぶでしょう。勇者殿、デブ殿、今のうちに何か風を防ぐ『盾』になるものをお持ちくだされ」

デブ「二人とも、途中で円形のテーブルを拾ったんだけど、これ楯として使えないかな!?」

勇者「うーん。中々の材質だが、問題は俺とお前とハゲ、三人収まりきるかだよ。これ明らかに無理だろ」

ハゲ「時間がありません。もうその円形のテーブルでいいです。身を寄せ合えば、何とかなるかもしれません。急いで!」



<>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/08(金) 20:02:08.72 ID:UHCYDIotO<> 扉が乾いた音を立てて弾け飛んだ。吹雪のような凍える風が勇者、デブ、ハゲを襲う。テーブルを盾にして踏み止まっているが、そこから前へ進めない。予想以上に風の勢いは強かった。

勇者「やべッ……! なんだこれ、クッソやべェ……!」

デブ「さ、ささ寒い! 身体に力が入らないよ!」

ハゲ「消耗戦ではこちらが不利……マズイですな。勇者殿、デブ殿! 1、2で前へ進みましょう! ハイ1、2!」

勇者「1、2!」

デブ「1、2! ……うわ! なんか地面が蒼白く光ってる!」

勇者「地面が!? なんか魔法を撃ってくるだろそれ!」

ハゲ「気にしないで! 別に何かがあるわけではありません! さぁ押せ押せ! 風に負けてはなりませぬ、ここが我らの正念場! ハイ1、2! 1、2!」

三人はカギトレバ研究所の裏口から外へ躍り出た。目の前にそびえるビャンビャン山、吹きすさぶ冷たい突風。地面を蒼白く照らし出す太陽。

デブ「見えた、あの太陽が魔物か!」

ハゲ「足元注意! ここから下り坂が続きますぞ!」

勇者「クッソ、晴れてやがんのに吹雪とかツいてねぇな。あの魔物、絶対に叩ッのめしてやる!」

<>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/08(金) 20:19:32.44 ID:UHCYDIotO<> やっとの思いで麓の村を訪れた勇者は、まずそこら辺をほっついている男に質問した。

勇者「ビャンビャン山について知って……」

男「んなもん知らねーよハゲ!」

勇者「俺はハゲじゃねぇッ!!!」

ハゲ「まぁまぁ、聞いた人が悪かったのです」

ハゲ「この村には見たところ、101歳になる老人が住んでいます。その方に伺うのがよいでしょう」

〜御年101歳の老人の家〜

老人「ビャンビャン山に!? もうあそこは宇宙生物に支配されて10年も経つぞ!」

デブ「へん、宇宙生物なんてどうだか。ひょっとして爺さん、ボケていませんか?」

老人「わしの頭は聡明だ! 断じて間違ったことは言ってない! その宇宙生物はバカでかいのじゃ!」

デブ「いかにも妄想って感じの内容だな」

勇者「そう疑いの目で見るな。ビャンビャン山について多くを知りたい俺にとっては神からの啓示、女神の囁きにも聞こえるね」

老人「そうじゃ! わしの頭は聡明であるから、ビャンビャン山についてこれでもかというほど知っておる!」

ハゲ「ご老人、宇宙生物の知能は高いのですか?」

老人「おう、高い高い! 水道代ガス代電気代込みで月60万くらいじゃな! わしの頭は聡明であるので、これくらいのことならバッチシじゃ!」

デブ「あ、あん? 何の話をしてるんだこの人は……」

勇者「ともかく、聞くには聞けたからレストランにでも行こうか」

デブ「よっしゃあ! やっと肉汁の溢れるステーキが食えるぜ! ハアハア!」

3人はすっかり腹ペコであった。 <>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/09(土) 11:07:14.94 ID:UyOZ6uiTO<> 〜ファミレス〜

ウェイトレス「松阪牛のサーロインステーキでございます」

勇者「お、きたきた」

カチャカチャ、ムシャムシャ

デブ「この肉かてぇな! スジとかそういう問題じゃなくて、肉自体が石みてぇにかてぇんだ! シェフが間違って石化魔法をかけたとしか思えねェ!」

ハゲ「やはり世界の果ての向こう側となると、サイゼリヤやデニーズなど大手チェーン店が手を伸ばしにくい。それゆえ、微妙な料理しか出せない無名ファミレスがのさばっているのでしょうか……」

デブ「これ本当に松阪牛の肉かよ!」

勇者「う〜ん、俺もここまでマズいステーキを食ったことないから、何とも言えねぇな」

ハゲ「宇宙生物のせいかもしれませぬ」

デブ「おいおいハゲさんよ。まさか君、あの老人の言葉を本気にしているのかい?」

ハゲ「もし、本当に宇宙生物がいて食料の供給を妨害しているのだとしたら」

ハゲ「牛にストレスを与えて肉の質を落としているのだとしたら……」

勇者「あり得る」

デブ「ハァ!? いや有り得ないよそんなバカみたいなこと!」

勇者「ここまでステーキがマズいんだ。どう考えても肉の質が悪い」

勇者「牛が何かにストレスや恐怖を感じて、肉の質が落ちているんだ」

ハゲ「その原因を排除したら、麓の村から何か報酬が貰えるかもしれません」

勇者「ま、その時は俺たちゃ山の反対側に行ってるんだけどな」

ハゲ「がはははははは」

勇者「わはははははは」
<>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/09(土) 12:10:40.87 ID:UyOZ6uiTO<> 夕食を済ませて、三人はついにビャンビャン山を登り始めた。満天の星空を背景に、傾斜のある砂利道を歩いてゆく。 振り返れば、村の明かりが遥か下に見えた。 額の汗を拭うと勇者は近くの岩に腰かけ、おにぎりをズボンのポケットから取り出した。

デブ「なんだいそれ」

勇者「おにぎり。見れば分かるだろ」

デブ「今食べるんだね」

勇者「行動食にはチョコやキャンディが最適と昔、おばあちゃんに教わった」

勇者「だが俺はおにぎりでいかせてもらうぜ。チョコやキャンディだと食った気がしないんだよな」

勇者「そうだ、デブにもやるよ。ここまでついてきてくれたお礼に」

デブ「え!? くれるの!? いよっしゃー!」

勇者「デブの奴、いい食いっぷりじゃあねぇか。ハゲはなんか食わないの?」

ハゲ「拙僧は水で結構。もともと小食なので」ゴキュ

勇者「だよなぁ、いっつも断食してる感じだもんなお前」

ふと、星々の中でひときわ輝くものがあった。 光球は落ちてゆき、山の頂上に隠れた。 直後、激しい揺れが三人を襲った。

デブ「なんだ!? 今の揺れ!」

勇者「流れ星みたいなのが山頂に落ちてったの、デブもハゲも見たよな。確かめに行ってみようぜ」

勇者は食べかけのおにぎりを放り出し、頂上へ急いだ。 <>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/09(土) 12:21:25.85 ID:UyOZ6uiTO<> 〜頂上〜

勇者「見ろ! 石が割れるぞ!」

ハゲ「何かが這い出してくるぞ……。あれは、ゴキブリ?」

勇者「ああ、ゴキブリだ。……っておい! ゴキブリが立ち上がるぞ!」

デブ「見たところ、身長は10m74cmだね。僕と勇者が最初に出会ったカマキリもどきが幼児に見えるくらいの大きさだ」

勇者「へぇーイイじゃん」チャキ

デブ「まさか、戦う気?」

ハゲ「このゴキブリは、隕石に乗ってやってきました。多分、これまでに似たようなことが何度もあったのです。牛にストレスを与えていることなど明白でしょう」

勇者「くふふ、久々の戦闘ッスか。俺のエクスキャリバーが早く敵を蹂躙したいとウズウズしとりまっせ」コキコキ

デブ「マジかよ……踏み潰されるに決まってんだろ!!」

勇者とハゲが飛び出そうとした瞬間、横合いから黒い影が先に飛びかかり、ゴキブリを襲った。 ゴキブリと同じ大きさのライオンである。 2体の宇宙生物はたちまち取っ組み合いをはじめた。

デブ「おい! 今のうちだ。血が降りかかるかもしれんが、気にするな。逃げようぜ!」

勇者達はゴキブリとライオンの間を通り抜け、下山道に入った。 その途端、再び地面が激しく揺れた。 どこからともなく今度は巨大なタコが現れ、争う二者の仲裁に精を出している。

デブ「ひいいい! ゴキブリ、ライオンの次はタコかよ!」

タコの口から墨が発射され、ゴキブリを撃ち抜いた。 ゴキブリはバラバラになってしまった。

勇者「すげぇ」

デブ「ヴォイ!! 見とれてないで、逃げろよ! 巻き添えなんてくらいたくないよ!」スタコラサッサ

勇者「あのライオンとタコを同時に相手取るのは面倒だな。デブの言う通り、ここは撤退戦と洒落込むか」 <>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/09(土) 12:59:08.04 ID:UyOZ6uiTO<> 下山道に入った三人は、ゆるやかな坂道を下っていった。

デブ「クソッ、クレバスのせいで道が途中で断ち切られてやがる……向こう岸に行くにはジャンプしなければならんぜ」

勇者「ジャンプってもこのクレバス、幅が見たところ10mもあるぞ。普通に飛んでは谷底に落ちるに決まってる」

ハゲ「……逆に、谷底へ飛び込んではいかがでしょう」

デブ「ああ? この高さから落ちたら死ぬでしょ」

ハゲ「いえ、川が流れているから死にません。試しに拙僧が最初にゆきます」ピョーン

デブ「ああっ!」

ハゲはどんどん落ちていき、水しぶきを上げて急流に突入した。

ハゲ「少し体を打ちましたが、骨が折れるほどではありません!」

勇者「あんだって!? それは本当なのか!?」

ハゲ「流れは急ですね。しかし、岩にしがみついておけば問題なし!」

デブ「はぁ……」

ハゲ「現に拙僧がこうしてお二人に呼びかけているでしょう! 心配せずにこっちへおいでなさい!」

勇者「分かった! 今ゆくからスペースを空けておいてくれ!」ピョーン

デブ「無茶やるよなぁ。うちのリーダーさんもよォ」ボヨーン <>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/09(土) 13:02:19.15 ID:UyOZ6uiTO<> 勇者「……プハァッ! ハァ、ハァ……二人とも、無事か!?」

デブ「足が底に着かないが、なんとか立ち泳ぎしているぜ」ザブザブ

ハゲ「拙僧も無事です」

勇者「流れが速いな。岩を掴まないと、簡単に流されちまうぞ」ザバァ

デブ「てか、流されるとかそういう問題でなくて」

勇者「あん?」

デブ「ハゲの提案で谷底まで来たわけだけど、これからどこを目指して進めばいいんだよ!」バシャバシャ

デブ「あの程度のクレバスなら、近くから手ごろな丸太を持ってきて橋として使えば良かったのに!」

デブ「僕らって本当に馬鹿だね!」グギギ

ハゲ「川あるところに村あり。遭難した際、人里へ出るにはまず川を見つけることが最優先事項なのですよ」

勇者「なるほど、川に落下したのは逆に幸運だったと……」

ハゲ「さよう」

デブ「いや、もしこの川が猛烈に巨大な滝に通じていたら、ドーム型の地下湖に通じていたらどうするんだい?」

デブ「特に後者はヤバいぜ! 日の目が一生、拝めなくなるかもしれんのだぜ!」

ハゲ「その時はその時。臨機応変に対応するのも従者の務め。とにかく今は急流に身を任せ、人里へ出ることが重要です」

デブ「なんで僕が勇者の従者になってんの!? 主従の関係を結んだ覚えないけど!」 <>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/09(土) 13:25:35.80 ID:Oaj0YV9HO<> 川の流れに身を任せた三人は、昆布のように流れ流れて、人里の近くへと出た。

勇者「へー、やっぱ川沿いに人里あるじゃん。スゲェ」

デブ「ハァーッ! ここまで来るの生きた心地しなかったよ」

勇者「お、どうした」

デブ「尖った岩にぶつかるわ、鉄砲水に揉みくちゃにされるわ、藻が足首に巻き付いて溺れかけるわ」

デブ「この村でご馳走してもらわないと、僕は飢えと疲労で死すだろうね! 勇者、ハゲ、君らもそうだろう!?」

勇者「確かに腹は減ってる。けどよ、喰えないからってお前みたいに人が変わったりはしない」

ハゲ「ビャンビャン山の麓で見た、蒼白い太陽の問題も解決しておりませんしな」

デブ「君達は、僕に食事を我慢しろと言っているのか!?」

勇者「いいや。喰いたいなら喰えばいいし、飲みたいなら飲めばいい。一人でやれっつってんの。俺とハゲは調べることがまだあるから、遅くなるけど」

デブ「はは……ははは! それでいいんだよ! これから僕はあの村で飯をたらふく喰らう。文句はないね?」

勇者「ないぞ」

ハゲ「お好きにどうぞ」

デブ「よし、言質取ったからな! では行くぜ!」

デブは村の中へ駆け込んでいった。

ハゲ「大丈夫ですかね、デブ殿」

勇者「さあな。ま、死にやしないだろ」 <>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/09(土) 15:06:50.48 ID:Oaj0YV9HO<> 村には誰もいなかった。子供はおろか、犬猫や烏の類もいない。炊煙が見えたので、誰か暮らしているのかと思っていた。勇者の予想は大きく外れたようだった。

勇者「おいおい、勘弁しろよ……。誰もいないとか不気味過ぎんだろうが」

ハゲ「かまどに火が点いていますし、ベッドもまだ温かい。さっきまで人がいた証拠です。時間的に、村民は遠くまで行っていないはず」

勇者「どっかに隠れて俺らを見張ってるのか? ……クソッ! 嫌らしい真似をしやがって。テメェら、出てきやがれ!」

勇者は漬物の入った壺を割ったり、タンスを引き倒したり、滅茶苦茶に暴れ回った。それでも辺りはシンと静まり返っている。

デブ「たすけてくれ〜たすけてくれ〜」

勇者「デブ!?」

ハゲ「外の広場から聞こえておりますな。急いで見に行ってみましょう」

広場には後ろ手を縛られているデブがいた。

勇者「テメェ、どれだけパーティーの足を引っ張れば気が済むのだ。待ってろ、縄を切ってやる」

デブ「勇者、これ以上近づくな。常人には見えない魔法の糸が張り巡らされてる」

勇者「あんだって!? 聞こえねぇな! おいハゲ、デブを助けに行くぞ!」

デブ「やめろ、自ら罠に引っかかるバカがいるかよ! 勇者、ハゲ、来ないでくれ!」

勇者「うおおおおおおッ」

駆け出す勇者。追うハゲ。糸の切れる音。左右から繰り出される巨大な漁網。掬われる足、回る視界。衝撃。暗転。 <>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/09(土) 16:12:46.85 ID:Oaj0YV9HO<> ……どの!

勇者「ん……」

……どの! ……しゃどの!

勇者「誰だ、俺を呼ぶのは……」

……ゆうしゃどの! ……ゆうしゃどの!

ハゲ「勇者殿! おや、目覚めましたか」

勇者「ハゲ……俺はどうなっちまったんだ? 死んだのか?」

ハゲ「いえ、生きております。デブ殿も横におりますよ」

勇者「随分とジメジメした場所だな。鉄格子もはまってる……鉄格子ィ!? 鉄格子だってェ!?」

ハゲ「勇者殿。拙僧達は村人に捕縛され、地下の牢獄に閉じ込められてしまったのです」

勇者「はぁ!? なんでだよ!」

ハゲ「おおよその検討はつきます。@余所者で怪しい風態だから。Aデブ殿がやらかしたから。B食人族で久々の獲物を逃すわけにはいかないから」

勇者「@だと思いたいが、最悪Bっつーのもありえるよな。何せここは世界の果ての向こう側。異世界と言っていい。俺らの常識が通じねぇんだ」

ハゲ「まずはこの牢獄から脱出しましょう」 <>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/10(日) 14:29:15.71 ID:hANHOU7UO<> 勇者「ようやく伝説の剣のお出ましってわけだな。鉄格子を斬り裂いてやるぜ!」

ガキイ! ……ィィィン!!

耳障りな金属音と火花が飛び散っただけである。鉄格子自体は傷一つ見当たらない。勇者はもう一度斬りつけた。結果は変わることなく、金属音が牢内に響き渡る。

勇者「意味が分からねぇ……頑丈にも程があんだろ! 聖剣ですら刃毀れするレベルだぜ? オリハルコンでも使ってやがんのかァ!?」

フード姿の女「やめておきな、坊や。その鉄格子には強力な魔法がかかってる」

勇者「アァ!? 誰だテメェは!」

ハゲ「勇者殿、落ち着いてください。彼女も拙僧達と同じ囚われの身。ここは友好的に接し、脱出計画の仲間に引き入れるべきです」

勇者「なんで!?」

ハゲ「このパーティー、よく見れば野郎しかいないではないですか。そろそろ若い女の子を投入する時だと思います」

勇者「あのフード女が三十路のババアだったらどうすんだよ! 俺は三人でいいと感じるぜ! 女と旅すると調子狂うしな!」

フード女「あんたら、さっきから聞いてりゃ失礼なことばかり言って。あたしが誰だか知ってるのかい?」

勇者「それはこっちの台詞だぜ! テメェこそ、勇者を前にしてよく畏まらずにいられるな」

フード女「勇者……? あんたが? 嘘おっしゃい。本物の勇者様なら、こんな牢獄で無様な醜態を晒しているはずがないもの」

勇者「クソが……!」 <>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/12(火) 13:59:49.37 ID:VIFN8fk0O<> ハゲ「勇者殿、とにかく今は落ち着いてください。まだ塩化ピポ水がバケツに残っていましたので、それをかけてみます」

勇者「俺は最初から落ち着いてらァ……!」

フード女「ふん、どの口が言うのかしらね」

勇者「テメェなァ……! 終いにゃ××××××××××!」

デブ「うっうう〜ん……なんだよ、うるさいなぁ〜」

勇者「お、デブ! 起きたみてぇだな!」

デブ「勇者、僕のところには来るなと言ったのに」

勇者「まさか網があるなんて知らねーからよ。これは俺が迂闊だった。ハゲにもすまないと思う」

ハゲ「勇者殿、デブ殿! 鉄格子が溶けましたぞ!」

勇者「あんだってェ!? でかしたぞハゲ!」 <>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/12(火) 14:10:05.50 ID:VIFN8fk0O<> 勇者「よっしゃ、さっそく地上のクソ野郎共を叩いてのめしに行きますかね!」

フード女「あんたら、出られたのか」

ハゲ「勇者殿、あの女性も牢から出してあげましょう」

勇者「行くぞ、デブ! ハゲ!」

デブ「ちょ、あの女の人仲間にしなくていいの?」

ハゲ「そうですぞ。このまま野郎三人で旅を続けるのですか」

勇者「あの女は俺を侮辱した。それが許せねぇ! 性根が腐ってやがる! まるで灰の中で何ヶ月も腐らせたアヒルの卵みてぇになァ! あんな奴、誰が助けるかってんだよ! ケッ!」

フード女「くくく……あははは!」

勇者「何がおかしい!」

フード女「そうやってあんたは貴重なチャンスを逃し続けるんだ。チャンスを逃して逃して逃し続けて、魔王を倒すチャンスすら逃して! あんたは死ぬんだよ……」

勇者「なにィ」

フード女「ずっと見てるからな。あんたがズタボロになって地に這いつくばって惨めに死ぬ姿を! 見てるからなぁ!」

勇者「ぶ、不気味な女だ。行くぞ、テメェら!」 <>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/12(火) 14:40:26.86 ID:jgPUHnZ+0<> 螺旋階段を登っていく。

デブ「おい勇者、壁になんか曼荼羅みてーのがあるぜ」

確かにそれは曼荼羅だった。
中央に蒼白い太陽が描かれている。
ビャンビャン山で見た魔物と、まったく同じ形だ。

ハゲ「ビャンビャン山の魔物を神格化しておりますな」

勇者「つーことはよ、村人は魔物に操られてんのか?」

ハゲ「分かりません。ただ、拙僧達は勇者一行。あの魔物にとって、邪魔な存在であることは確か」

勇者「村人に命じて、始末させようとした……ってことか」

ハゲ「元凶を断てば、村人の洗脳も解けるかもしれませぬ」

勇者「ビャンビャン山に戻るが得策、か」 <>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/12(火) 20:29:57.43 ID:nKf8LLbzO<> 勇者達はビャンビャン山の頂上に再びやってきた。もう馬鹿でかいゴキブリとライオンとタコはいなかった。代わりに、蒼白い太陽が星空を背に浮かんでいたのである。
ぼんやりした球体から噴き出す、蒼いプロミネンス。
背筋にゾッと冷たい何かが走る。

勇者「ぐああッ! 俺の腕が、脚が、鳥肌まみれに……!」

デブ「その鳥肌を引っぺがしてこんがり焼き上げたら、旨い北京ダックになるであろうか!?」

ハゲ「なりませんな。少なくとも勇者殿がダックではなく人間である以上は。二人とも、恐怖に屈してはなりません」

ヒュゴオ! 冷たい突風が肌を切り裂く。

勇者「ぐわあああああッ!」

デブ「いだい! いだだッ! かまいたちってやつか?」

勇者「バカ言え、太陽がかまいたちを放つかってんだよ!」

ハゲ「ここにいては危険です。物陰に身を隠しましょう」 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/12/15(金) 09:23:38.14 ID:Ism9d0FDO<> 乙
<>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/15(金) 15:15:06.63 ID:xBAh6ijXO<> 勇者達は物陰に隠れた。風刃が収まる気配はない。

勇者「ちっきしょ〜、このままだと遅かれ早かれズタズタに切り裂かれちまうぜ! どうすりゃいいってんだ!」

デブ「せめて近づくことができれば……」

勇者「あんだって!? 耳が遠くてよく聞こえねぇな! もっとハキハキ喋れってんだよ!」

デブ「勇者! 君はカマキリもどきと対峙した時、意味不明なパワーを発揮してカマキリもどきを蹂躙しただろう!?」

勇者「ああ、したぜ!」

デブ「例えばさ、イグザンポゥの話だがよ! この岩盤を盾にして近寄って、君のパワーを発揮したらどうなる!? あの魔物を始末する自信はあるか!?」

勇者「確証はできねーが、ブチのめす自信はあるぜ!」

ハゲ「しかし、誰が岩盤を持ち上げるのです!? 拙僧は回復専門ゆえ、難しいですぞ! 勇者殿もデブ殿も無理でしょう!」

勇者「……ハゲ、塩化ピポ水はまだあるか」

ハゲ「何をなさるつもりです」

勇者「ひとっ走り、囚われの姫様を助けに行くのさ!」 <>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/15(金) 15:24:40.73 ID:xBAh6ijXO<> 〜牢獄〜

フード女「あたしは死ぬのか……こんな所で……まだ目的を果たしていないのに……行くべき場所が……」

カツカツカツ

フード女「足音……? 誰だッ!」

ジュワ〜ジュワ〜

フード女「鉄格子が溶けているッ! 塩化ピポ水!?」

勇者「ブツブツ独り言、キメェぞ」

フード女「貴様、なぜ戻ってきた!」

勇者「俺の仲間が魔物に苦戦してる。ブッ殺す手伝いをしろ。魔法は使えるか?」

フード女「重力魔法が数種類と闇属性魔法なら」

勇者「十分だ。見張りの兵はいない。ついてこい」
<>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/15(金) 15:40:29.31 ID:xBAh6ijXO<> 勇者「しっかしよ〜、テメェが貴様とか硬い物言いするとは予想外だったぜ。てっきり姉御肌の奴かと思ってたわ」

フード女「あたしは元々、城で近衛騎士をやっていた。もう十年も前のことだ」

勇者「へー」

フード女「まだその頃は剣と魔法が主流の世界だった。弓や遠距離魔法が最強と持て囃され、純粋な武力が評価される時代だった。……魔王が弾道ミサイルという概念を持ち込むまでは」

勇者「ふーん」

フード女「開発初期段階のミサイル実験はしばしば失敗した。空に向かって吐いた唾が、自分にかかったみたいなアレだ。陛下もロケットマンのお遊戯と見くびっていた」

勇者「なるほどね」

フード女「そうこうしているうちに、魔族の開発した中距離弾道ミサイルが、王都の上空を通過した。最初は自国の領土で爆発していた、出来損ないのミサイルがだぞ?」

勇者「すげーなー」

フード女「あたしは陛下に献策した。魔族のミサイル開発チームを捕縛して、我らも同じ装備を備えるべきだと。こちらが核を持てば、相手も容易には攻め込めないと」

勇者「はぁ」

フード女「だが陛下はあたしの献策を却下した! 誇り高き王族が敵の装備に倣うなど、プライドが許さないのだとな! あたしは何故かテロ等準備罪として裁かれ、国を追放された」

勇者「大変だったんだな、テメェも。だが生憎、俺や大半の人間は国がどうしたとか戦争とかに興味は無ェ。明日のメシはどうすっか、寝床はどうすっか、良い女は抱けるか。そんなくだらねー目先のことしか考えてねェんだよ」
<>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/15(金) 18:51:02.54 ID:xBAh6ijXO<> 勇者「連れてきたぜ! 重力魔法を操る女だ」

フード女「よろしく頼む」

デブ「僕はデブ! 好きな食べ物は肉まんとパン(余計な具がなく、100%小麦粉で練ってる素晴らしいやつ)! よろしこ!」

ハゲ「拙僧はハゲ。回復担当です。さて、自己紹介はこれくらいにしておきましょう。重力魔法とはどんなものなのです?」

フード女「重力魔法には三段階ある。あたしがこれから使うのは一段階目、一番弱い魔法さ。一番弱いと言っても、岩盤を持ち上げるくらいならお茶の子さいさいだよ」

勇者「つべこべ言わず、さっさと始めろ」

デブ「勇者! 彼女は僕達を助けに来てくれたんだぞ」

勇者「うるせぇな、こっちは時間がおしてんだよ。時間っつーのは死ぬまでの時間な。チンタラと話なんかしてたら、あの蒼白い太陽に切り刻まれるっつってんだよ!」

ズゴゴゴゴゴ……

デブ「嗚呼ッ! 岩盤が、持ち上げられているッ!」

ハゲ「こ、これが重力魔法……!」

フード女「ほれ、盾にしたよ。風も当たらないだろ。こっからどうすればいいんだ、勇者殿?」

勇者「ケッ、なかなかやるじゃあねーか。前に進めろ。俺の攻撃が太陽にヒットするくらいにまでな」 <>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/15(金) 19:13:11.60 ID:xBAh6ijXO<> 勇者達は岩盤の盾に守られながら、蒼白い太陽へ近づいていった。もはや感じるのは気持ち良い微風のみ。最初からフード女を解放していれば良かったのだ。わざわざ危険を冒して村まで戻る必要もなかった。

デブ(勇者は反省しなくちゃいけないな。彼女を腐ったアヒルだか卵だか、侮辱した点について)

ハゲ(そうですな。勇者殿は最近、傲慢になっております。人は普通、修羅場を潜り抜けて成長するものです。しかし勇者殿は逆に退化している)

勇者「キャハハハハ! それにしてもスッゲーなぁ、こいつはよォ〜ッ! なんつーかよォ〜! アレだよアレ! なんつーかアレ! ヤベーわ、マジヤベー!」

フード女「騒々しい男だ。静かにしていろ!」

デブ「彼は面白くてはしゃいでるだけなんだ。許してやってくれよ、難しいだろうけど」

勇者「おいデブ! テメェ、俺のこと愉快なチンパンジーだなんて思ってねェ〜だろォ〜なァ〜!? 他人をチンパンジーと侮蔑した時、テメェはもうチンパンジーになってんだよォ!」

フード女「あんたはチンパンジーじゃない……クズだ!」

勇者「あんだってェ? あたしゃ耳が遠くてよく聞こえねぇよ。クズがどうしたってェ?」

デブ「聞こえてんじゃねーか!」

ハゲ「……勇者殿、錯乱してはおりませぬか」
<>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/15(金) 19:33:06.79 ID:xBAh6ijXO<> 勇者「あァ? どういう意味だ」

ハゲ「勇者殿。ビャンビャン山に入ってから自分がおかしくなっていることに、気づいていないのですか?」

デブ「いや、この人最初からおかしかったけどね」

勇者「俺は正常だぜ! キヒヒ」

ハゲ「ほら、その笑い方! キヒヒとは何ですか!」

勇者「あんだって? よく聞こえねぇ〜なァ〜アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャアアアアア!!!!」

デブ「ヨダレ垂らしてるし、白眼も剥いてる……。完全に取り憑かれてるよ! ハゲ、勇者を治すことはできる?」

ハゲ「できないことはないですが、安定した場所が必要です。こう魔物に襲われていては、処置ができません」

デブ「魔物を倒すには勇者の力が要るんだよ!」

フード女「デブ、ハゲ」

デブ「なんだよ」

フード女「あたしに任せな。重力魔法で勇者の体内に潜む不届き者を引っ張り出してやるよ」 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/12/15(金) 22:58:26.25 ID:Ism9d0FDO<> 乙
いいよいいよ〜! <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>saga<>2017/12/16(土) 00:03:24.58 ID:J5eINESa0<> フード女がパチンと指を鳴らした。

フード女「始めるとしようか」

途端に勇者の体が宙へ跳ね上がる。
跳ね上がり、今度は地面に叩きつけられた。
全身の骨が砕けてしまいそうだ。

勇者「お、おええぇ」

デブ「ヴォイ! なんだか苦しそうだぞ? ガチで大丈夫なのかよ!」

フード女「無理やり引きずり出すんだ。荒療治になるのは百も承知だろ?」

ハゲ「拙僧は貴女の腕を信じることしかできませんな」

勇者「ぐわあああああッ」

ドロリ。

勇者の両目と鼻から、黒いコールタールのような液体が零れ落ちた。

デブ「うわッ……きめぇ!」

フード女「こいつ、勇者の大脳に絡みついてやがる。シェイクして気絶させるよ!」

デブ「シェ、シェイク!? 脳味噌がぐちゃぐちゃになったりしないの? 僕、吐き気がしてきたよ」

ハゲ「たとえ片方の脳がぐちゃぐちゃになっても、もう片方が残っていれば結果オーライなのですぞ、デブ殿」

デブ「なぁハゲよ、そいつぁ無理があると思うぜ!」

<>
◆EpvVHyg9JE<>sage<>2017/12/16(土) 00:27:11.61 ID:J5eINESa0<> ぶりゅりゅりゅりゅ! 奇怪な音を立ててタールまみれのナメクジが引きずり出された。
勇者は涎を垂らしながら気絶している。

フード女「あんたが勇者に取り憑いていたクソ野郎か。下品極まる醜悪な魔物め」

ナメクジ「ぐぬぬぅ……、せっかく勇者に寄生して暴れ尽くしてやろうと思っていたのに」

[ピザ]「どうしてこんなことをしたんだ。話が通じるなら聞かせてもらうけど」

ナメクジ「俺みてェな小さい魔物はよォ〜、すぐに鳥とかトカゲとかやべェ輩に喰われちまうんだ。だから、生き残るためには体のデカい人間に寄生しなくちゃならんかったのよ。ゲヒィゲヒィ!」

ハゲ「ふむ、拙僧も聞いたことがありますぞ。レウコうんたらかんたらという寄生虫が、カタツムリに寄生してうんたらかんたらする話を。あれと似たようなものでしょう。よく分かりませんが」

ナメクジ「参謀気取りのハゲさんよォ! テメェあんまし頭が良くねぇなァ! そのレなんちゃらは繁殖するためにカタツムリに寄生してんだ。わざと鳥に食べられるために、寄生してんだよ! 穏やかに暮らすための俺とは、根本的に目的が違う。んなことも分かんねーのか、このビチグソがァ!」

フード女「誰に向かって口を利いている。あたしがもう少し足に力を加えれば、あんたは踏み潰されるんだぞ」

ナメクジ「アヒーッ、ちょっと待ってくださいよォ姐さん。俺はまだ死にたくないんスよォ。何でも言うこと聞きますキヒヒヒヒ」

フード女「そうか、なら死んでくれ。声を聞くのも不快だから」

ナメクジ「ええッ」

ブチィ








<>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/16(土) 00:58:27.95 ID:J5eINESa0<> シュウシュウ……

デブ「あッ、蒼い太陽が灰になって消えていく!」

フード女「おそらく、あたしの踏みつぶしたナメクジが自律型のオールレンジ魔攻兵器を生み出していたんだろう」

ハゲ「このちっぽけなナメクジに、そんな真似ができるのでしょうか?」

フード女「体の大小だけが強さを決めるわけじゃない。生まれ育った環境、強くなりたいと願う精神力。これらの要因も含めて強さってのは決まるのさ」

デブ「じゃあ僕も強くなりたいって思ったら、そうなるのかな?」

フード女「実行に移せばね。まずはその腹に溜まった脂肪を筋肉に変えることから始めな」

デブ「ふぇ〜、じゃあ無理だ諦めたわ」

ハゲ「デブ殿は怠け者ですからなぁ」

フード女「おい、いつまで寝てるんだ」ペシペシ

勇者「う……うむ。なんだか、酷く興奮していたような気がする」

ハゲ「おお、勇者殿。やっと元に戻られたみたいですな」

デブ「いや、元からおかしかったからねこの人」 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/12/16(土) 10:15:47.86 ID:3xskk5tBO<> >>1の時点で寒いわ
まあ、一生懸命頑張ってね <>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/16(土) 11:26:49.44 ID:J5eINESa0<> こうして魔物を討伐した勇者一行は、麓の村に下りて行った。
洗脳が解けているなら、快く迎え入れてくれるはずだ。
しかし、なぜだか村人の表情は険しかった。

デブ「もう大丈夫、洗脳は解けた! そんな怖い顔しないで、旅人である僕らに食料と寝床を提供してくれよ!」

ハゲ「デブ殿の仰る通り、ビャンビャン山の魔物は勇者殿とこちらの女性が討伐致しました」

勇者「おうよ、この女には随分と助けてもらったぜ」

フード女「……」

村長の体がわなわなと怒りに震え始めた。

村長「神を、討ったじゃと? 貴様ら、なんということをしでかしてくれたのじゃ!」

デブ「えッ!? まだ洗脳が解けてないのか!?」

村長「洗脳などされとらんわ! わしらはな、自らの意思で神を崇拝しておったのじゃ。神が貴様らを不穏分子と見なしたから、牢へ閉じ込めたのじゃ。神の御言葉に従っておれば、村民は穏やかな日々を過ごすことができたのじゃ!」

フード女「人の信仰心とはおっかないもんだね。もはや狂信者といっていい」

ハゲ「いかがします」

フード女「いかがするって、また牢獄に放り込まれたくはないだろ。三十六計逃げるに如かずだよ」

村長「逃がすか、きえええええッ」

飛び掛かってきた村長が、遥か後方に吹き飛ばされた。否、落ちていったように見えた。
フード女の重力操作によるものだ。
村民がざわついている隙を見て、勇者達は命からがら逃げだしたのであった。


<>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/16(土) 11:39:15.15 ID:J5eINESa0<> 北へ暫く歩いてゆくと、急に開けた場所へ出た。
雲ひとつない青空の下、ラベンダー畑が地平線の彼方まで広がっている。
その中央に、場違いなほど白い輝きを放つ建物があった。

デブ「お、あれファミレスじゃね!? 今度こそ旨いステーキあるかなぁ」

勇者「ハゲ、あとどれくらい金が残ってる。四人でメシ食えるか?」

ハゲ「金貨が数枚、銀貨が十数枚、ですな。まぁ大丈夫でしょう」

デブ「はやく食いに行こうぜ! 僕、魔物討伐戦ですっかり疲れちゃったよ」

勇者「そうだな。俺も憑き者が落ちたついでに腹ごしらえしていくか」

フード女「待ちな」

デブ「あ?」

フード女「あの建物から、禍々しい気が溢れているんだ。憎悪、嫉妬、怨念。負の感情を煮詰めたようなオーラがね」

デブ「ただのファミレスだぜ? 流石にあれも罠とかありえないだろ。そんなんだったら、僕は旅をやめて家に帰るよ」

勇者「帰る家なんてないだろ。アホか」

ハゲ「喧嘩に無駄な労力を割いてはいけません。まずは中に入ってみて、それから考えましょう」

勇者「そうだな。ここはハゲに従おう」


<>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/16(土) 11:49:34.32 ID:J5eINESa0<> カランカラン! 

ウェイター「いらっしゃいませー、何名様でしょうか?」 

勇者「四名だ。禁煙席で頼む」

ウェイター「かしこまりました。それではこちらのお席などはいかがでしょうか?」

勇者「ラベンダー畑がよく見えるな。ま、及第点といったところか」

席に座った勇者は、さっそくメニューを開いた。
ヒレカツ定食にドリンクはメロンソーダ。たまにはステーキではなく別の料理も味わってみたい。
左隣に座るフード女にメニューを渡す。

勇者「俺は決めたぜ。お前はどうするんだ?」

フード女「特に腹は減ってないから、アイスティーにキウイのジェラートでいいよ」

ハゲ「おやおや、拙僧も同じものを頼もうと思っていました」

デブ「ええっと、僕はハンバーグステーキにラージライスにマルゲリータピザに鶏の竜田揚げ定食、それから豚骨ラーメン、アラビアータ、あとはドリンクでコーラ」

勇者「流石、デブは食べる量が違うな」

フード女「そんなに食べて、腹を壊さないのかい?」

デブ「うん、胃を鍛えてるからね」

ハゲ「それでは、注文しましょうか」

ハゲが手を挙げたその時。
奥のテーブルで大きな音が鳴った。

???「貴様ッ! 赦さぬぞ!」 <>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/16(土) 12:00:24.74 ID:J5eINESa0<> 勇者「どうしたどうした」

勇者が奥を覗くと、全身に黒い鎧をまとった騎士が一人、席に座っていた。

フード女「あれか、禍々しい気の正体は」

黒騎士「白米を炊くのに30分かかるので、ターメリックライスに変えてくださいだと? そんな道理が通ると思うか!」

ウェイター「申し訳ございません。当店としても全速力で炊いておりますが……」

黒騎士「15分」

ウェイター「は、はい?」

黒騎士「15分で炊け。私は白米を食べに来たのだ。黄色い米を食べに来たわけではない」

ウェイター「そ、そんなことを言われましても……ああ、困ったな」

黒騎士「まさか、できぬと申すか。この黒騎士が頼んでやっているというに、できぬと申すか!」

黒騎士が雷のような怒号と共にテーブルを叩く。
ウェイターは脂汗を額に浮かべ、縮こまっている。
クレーマーどころの騒ぎではない。

勇者(行くしかねぇよな、ここは)

黒騎士「15分で白い米を持ってこい。さもなくば、貴様の首を食堂の入り口に掛けてやる」

ウェイター「ぐ、ぐぎぃぃ……。そんなの、できるわけがないのにッ……」

勇者「おいおい黒騎士さんよ、滅茶苦茶な注文をしてくれるじゃあねーの」

黒騎士「なんだ、小僧」

後に因縁の好敵手となる勇者と黒騎士。
初めての出会いであった。
<>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/16(土) 12:28:05.42 ID:J5eINESa0<> 勇者「いやね、ターメリックライスも悪いもんじゃないと言いに来ただけっすよ」

黒騎士「何? 貴様の如き鼠輩が私に意見するか」

立ち上がる黒騎士。腰の剣柄に手をかけている。

勇者「店側はテメェ一人を相手してるわけじゃねぇ。何十人も客がいるんだ。それは分かるな?」

勇者も聖剣の柄を握りしめる。一触即発。どちらが先に剣を抜くか。
周りの客は固唾を飲んで展開を見守っていた。

黒騎士「私は王に仕える黒騎士なのだ。他の凡骨より私の注文が優先されるのは当然のことだろう」

勇者「いいや、違うね。ファミレスでは誰もが平等だ。王だろうと騎士だろうと、奴隷であろうと」

黒い兜の隙間に、強烈な眼光が宿った。
全身が殺気を帯びる。肌がビリビリと震える。

勇者「テメェに決闘を申し込む。俺が勝てば、ターメリックライスで我慢してもらう。テメェが勝てば、どうとでも好きに振る舞うがいい」

黒騎士「ああ、そうさせてもらおう」

先に鞘走らせたのは黒騎士だった。大きく踏み込む。漆黒の剣。
避ける間もなく、勇者は鞘で斬撃を受け止めた。

勇者「グッ……重い!」

黒騎士「ほう、我が一撃を受け止めたか」

今度は勇者が黒騎士の剣を跳ねのけ、素早く鞘走らせた。
所有者の勇敢さに比例して切れ味が増す伝説の聖剣。眩しいほどに光り輝いている。
甲高い金属音。衝撃波がテーブルの上の料理を吹き飛ばす。

勇者「これでもダメかッ!」

黒騎士「正面から打ち込んでも私は倒せぬぞ、小僧!」

二人は鍔迫り合いのまま、ファミレスのガラスを割って外に躍り出た。
<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/12/16(土) 13:31:17.57 ID:9nDWchFFO<> あ、そう。一生懸命頑張ってね <>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/16(土) 14:26:25.43 ID:J5eINESa0<> ラベンダー畑の中央で剣をぶつけ合う二人の剣士。
見ただけでは、黒騎士の方に分があった。彼は王の矛として、想像を絶するほどの過酷な修練を積んできたのだ。
火花と共に、勇者が吹っ飛ばされた。

勇者「ぐわあッ!」

黒騎士「そこまでか? 腹ごなしの運動にすらならんわ」

勇者「テメェ……絶対にウェイターの首は渡さねぇ!」

再びぶつかりあう勇者と黒騎士。

黒騎士(この小僧もなかなかセンスがある。磨けば光るダイヤモンドの原石と呼ぶべきか)

黒騎士(だが、磨いていない以上はただの石ころ……。私の敵ではないッ!)

勇者「うう……クソッ! ふざけんなぁああああ!」

黒騎士(自分が勝てないと知り、技を捨て突進してきたか。やれやれ、もう少し楽しめると思っていたのだが)

デブ「ヤバい、このままだと勇者が斬られちまうよ!」

ハゲ「最悪、拙僧の回復魔法で傷は癒せます。しかし、それは黒騎士に好き勝手振る舞う権限を与えてしまうのと同義。マズいですぞ!」チラッ

デブ「うぐう、僕はどうすることもできないのかよぉ!」チラッ

フード女「どうしてあたしを見るんだ」

デブ「単刀直入に言うぜ。重力魔法で勇者の助太刀をしてくれ」

フード女「は? 決闘だろ? 外野は口挟まないで、おとなしく観戦に徹するのが礼儀だよ」

ハゲ「拙僧からもお頼みします。勇者殿が、魔王を倒す唯一の希望! ここで失うわけにはゆきませぬ!」

フード女「な、なんだよあんたら。あたしにズルしろってのかい……」


<>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/16(土) 14:57:30.27 ID:J5eINESa0<> デブ・ハゲ「「そうだ!」」

フード女「仕方ないねぇ……いっちょやったげるか」

フード女は渋々、黒騎士の背に手を向けた。黒騎士の鎧にかかる重力を五倍にする。
並大抵の騎士なら、剣を振ることはおろか地に這いつくばる他なにもできなくなるのだ。
指先に紫色のマナが集まり始める。

フード女「潰れろ」

ウェイター「ちょっと待ってください!」

フード女を押しのけて、ウェイターが外へ駆け出していった。
押す押されるを繰り返す勇者と黒騎士に声をかける。

黒騎士「貴様、決闘の邪魔をする気か」

勇者「そうだ、まだ決着はついていない」

ウェイター「炊けたのです、白米が!」

黒騎士「何ッ!? 白米が!? 見せろッ」

ウェイターの持つ皿をひったくると、黒騎士はこんもりと盛られたライスを食い入るように見つめた。

黒騎士「確かに、白い。貴様、これを15分で炊いたのか」

ウェイター「いえ、恥ずかしながら30分かかってしまいました。それだけあなた方が決闘に夢中だった、ということでございましょう」

勇者「時を忘れるほど、戦いが激しかったんだな……。いつの間に30分も経っていたなんて」

黒騎士「フン、我が猛攻を受けて生き延びるとはな。褒めてやってもいい」

勇者「あんたこそ、聖剣の威力を前に持ちこたえた方だぜ」

ウェイター「雨降って地固まる、ですね。それでは将軍、改めて席にご案内致します」

黒騎士「フッ、面白い小僧だ。貴様の成長、遠くから見守らせてもらう」

勇者「次は勝つ。あんたも、武運を祈ってるぜ」

その後、黒騎士と一緒に昼食を食べた。




<>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/16(土) 15:10:17.64 ID:J5eINESa0<> デブ「あ〜、おいしかった。久々に食事というものをした気がする」

勇者「あの黒騎士も神経質なだけで、根は悪い奴じゃなかったな。食卓を共に囲んだことだし、次に会ったら遠慮なく首を掻き切れるぜ」

ハゲ「そうそう。黒騎士殿が仰っていたのですが、この先にジャングルがあるようですな」

デブ「ジャングル? なんか食人族とか山賊が住み着いてそうだな。装備も一新した方がいいんじゃない? フードさんも仲間に加わったしさ」

勇者「俺は聖剣があるからいいとして、デブとハゲ、お前らの装備は流石に強化すべきだと思うぞ」

ハゲ「鉄球と普通の剣ですからな。拙僧も薄々『このままじゃマズい』と感じておりました」

フード女「とは言っても、武器屋がある街までは密林地帯を越えなければならない。あんたら、覚悟はできてるだろうね」

デブ「こ、怖いこと言うなよ……。やばい、なんか食べたくなってきた」

勇者「ストレス食いは体に悪い。そこらへんに落ちてる石でも舐めとけ。キャンディのように」

デブ「分かったよ、この苔が生えてるやつね。ぺろっ、苦いッ!」

フード女「バカな真似してないで、さっさといくよ」 <>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/16(土) 15:42:43.77 ID:J5eINESa0<> 勇者、ハゲ、フード女。前を歩く三人の背中を見ながら、デブは自分の存在意義について考えていた。

勇者には魔王を討つ大義がある。
ハゲには仲間の傷を癒す力がある。
フード女は強力な魔物を倒す魔法がある。

なら自分には何がある? ただの暴食漢ではないのか?

デブ(旅が進めば進むほど、自分の無力さを痛感するんだ。僕はいつも、みんなに助けられてばかり)

デブ(勇者とハゲとフード女だけで、魔王を倒せるんじゃないか? 僕がパーティーにいる必要などあるのか?)

デブ(これまで何度も家に帰ろうとしてきた。でも、僕の故郷は魔王軍の爆撃で消し飛んだ。僕に帰る家はない。だからパーティーにいる)

デブ(結局、後ろ向きな理由でついてきているだけ。だったらせめて、パーティーで一番強くなって、みんなに迷惑をかけないようにしたい)

フード女「デブ、浮かない顔をしているようだけど。ジャングルがよほど嫌いなのかい? 確かにここはジメジメしてるし、虫も多い」

デブ「別に、虫は嫌いじゃない。ただ、少し考え事をね」

フード女「勇者、ハゲ。止まってくれ。ここで一旦休止だ。デブの気分が悪いようだから、あたしが介抱してくる、ちょっと待っててくれ」

勇者「デブが? 珍しいな。デブといやあ無尽蔵の体力だけが取り柄だったろ」

ハゲ「拙僧も疲れました。近くに川もあるみたいですし、休むのもありですね」

<>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/16(土) 16:02:53.94 ID:J5eINESa0<> デブは小川のそばに連れて来られた。
勇者とハゲは離れたところで休んでいるらしい。

フード女「あたしはウジウジした男が嫌いだ。思っていることを簡潔に話せ」

デブ「強くなりたい」

フード女「あんたは今のままでも十分に強いじゃないか」

デブ「もっとだよ。勇者や君を凌ぐくらいに強くなりたい」

フード女「それは無理だな。人にはそれぞれ、限界というものがある。力の上限みたいなものさ。分析してみるに、いくら頑張っても勇者の半分程度の力にしかならない。聖剣ってのは、それほど強力なんだ」

デブ「これ以上、パーティーのお荷物にはなりたくない。僕だって、黒騎士と互角に闘いたいんだ」

フード女「太っちょのくせに、言うことだけは一人前なんだね。で、どうしたい?」

デブ「良い鍛錬場を知っていたら、教えてほしい」

フード女「なるほどね。知らないことはない。でも、本当に良いのか? 全てを捨てることになる」

デブ「僕に捨てるものなんかない」

フード女「よろしい。じゃあこの小瓶を渡そう。中にエリクサーが入っている。飲みな」

デブ「う、うん」

ごくり。甘い液体が喉を通る。
眩暈がする。視界が狭まる。デブは地面に倒れた。
最後に目にしたのは、ジャングルの緑だけだった。




<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/12/16(土) 22:00:34.94 ID:aNzpQgUOo<> あ、そう。一生懸命頑張ってね

まだ続くの? <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/12/18(月) 02:44:02.25 ID:gd53D+3DO<> 乙

>>65
ウゼェから艦コレスレから出てくんなよ
<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/12/18(月) 02:54:11.19 ID:18D9OHSA0<> >>66
この作者が他のスレで
あ、そう。一生懸命頑張ってね
ってレスしてたんだぞ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/12/18(月) 09:35:14.15 ID:gd53D+3DO<> >>67
やられた当事者がやり返すなら話はわかるが?
てかそのスレでは読者様だから何言っても良いんじゃないのか?
自分は批判するけど他が批判するのは許しませんってどんな理屈だよ

まあID変えるくらいはしろよと思うけどww
<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/12/18(月) 10:51:46.75 ID:AZMb198iO<> >>68何が読者様だよ、糞作者にして糞読者だろ
というか、その言い分が通るならこのスレで誰が何を言っても問題ないよな?
読者様なんだから <>
◆EpvVHyg9JE<>sage<>2017/12/18(月) 13:29:33.29 ID:0lkcQTJ9O<> フード女「休みは終わりだ。二人とも立ちな」

ハゲ「[ピザ]殿はどうされました? 確か、貴女と一緒に川上で休むと仰っていた気がしますが」

フード女「あいつは、パーティーから抜けた。強くなるために、一人で鍛錬場に行ったのさ」

勇者「鍛錬場? なんだそれ、俺も連れていけよ」

フード女「ダメだ」

勇者「あ!? なんで!?」

フード女「鍛錬場へ行くためのエリクサーを切らしてしまったからさ。滅多に手に入らない、貴重品だった」

勇者「それを、俺じゃなくて[ピザ]なんかに使ったってのか! なんて無駄なことを……!」

フード女「熱意に押されたんだ。強くなりたいという精神力。少なくともあんたの数倍はあった」

フード女「あとは[ピザ]がどんな成長をするか。見ものだね」

フード女「それに勇者、あんたは薬なんかで強くなるような人間じゃないだろ?」

ハゲ「……貴女は一体、何者なのですか」 <>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/18(月) 13:41:28.33 ID:0lkcQTJ9O<> 密林を抜けると、海に到着した。舐めてみると、塩ではなく泥の味がした。巨大な湖だったのである。

勇者「あ〜! 気分がいいぜ! 密林の中は息苦しかったからよ、こうやって広々とした場所に出ると叫びたくなるんだよな!」

ハゲ「海水浴、ではなく湖水浴ですかな。スイカ割りでもやってみたかったのですが」

勇者「テメェの頭をカチ割ってやらァ!」

ハゲ「おっとっと、勇者殿。聖剣を振り回すのはやめなさい。危ないではないですか。アッハッハ」

フード女「あんたら、イチャイチャしている暇じゃないだろ。湖を渡る筏を作らなきゃならない」

勇者「筏? 湖を迂回することはできねーの?」

フード女「あんたね、こんなデカい湖を回り込むったら、どれだけ時間がかかると思ってるのさ」

ハゲ「船着場で小舟を一艘借りたいところですがね」

フード女「船着場すらないね。つまり、あたしらで筏をこしらえて渡るしかないのさ」 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/12/19(火) 23:47:52.70 ID:duZJFZFgo<> あ、そう。一生懸命頑張ってね <>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/20(水) 01:23:11.20 ID:zPAwmRea0<> 勇者「よっしゃ、ここで聖剣の出番だな! 近くに森もあることだし、スパパァンと切り倒してやるぜ!」

勇者はポプラの木を切り倒し、いくつか丸太を作った。
並べてみると隙間ができる。

勇者「ヴォイ、隙間があったら沈んじまうじゃねぇか」

ハゲ「ゴムの木があれば、樹液で隙間を埋めることが可能なのですが……見たところポプラしかありませんな」

フード女「仕方ない奴らだね。あたしの闇魔法に、ゴムの樹脂を生成する魔法があるんだ。それでなんとかしてやるよ」

チュイーン

こうして簡単な筏が完成した。 <>
◆EpvVHyg9JE<>saga<>2017/12/21(木) 09:32:35.51 ID:a7EgKgA3O<> 勇者「筏も乗ってみると意外に快適じゃねーか」

フード女「寝そべらずに櫂を漕ぎな。風も帆もないんでね、あたしらの力で筏を進めなきゃならんのさ」

勇者「あ〜めんどくさ。ハゲ、なんか釣れたか?」

ハゲ「画鋲のような頭をした魚なら数尾」

勇者「あんだって? 画鋲のような頭ァ? そんなのが魚なわけねーだろ。キモいから捨てろよ」

フード女「ヒラコテリウムという、魔物魚だね。画鋲の針のような口唇を敵に突き刺し、体液を啜るんだ」

勇者「つまり、蚊みたいなモンだろ?」

フード女「蚊でもあり、ヒルでもある」

勇者「頭を取ったら、普通に喰えそうだな」

ハゲ「拙僧は遠慮しておきます。魔物の魚など喰えたものじゃないでしょう」 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/12/21(木) 17:42:59.30 ID:rSStM4Y7o<> あ、そう。一生懸命頑張ってね <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2018/01/03(水) 14:20:23.04 ID:Ic+MS72qo<> あ、そう。一生懸命頑張ってね <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2018/01/03(水) 18:00:18.59 ID:0y33kF5p0<> >>76
これは完全に濡れ衣
>>60の一回だけで、他は一切ネタレスしていないからな
こういった類の輩は言っても信じないだろうが
<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2018/01/03(水) 18:04:49.78 ID:0y33kF5p0<> それから>>77のレスは例のスレには貼るなよ
何か文句を言いたいならこっちに書け
<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2018/01/03(水) 21:36:04.28 ID:8pyrz2JDO<> 粘着キチガイはほっとけよ
<>