◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/09(金) 00:12:28.44 ID:On+4/IjK0<>篤(雪の峡谷で雅と戦ったあの日、俺は明たちを助けるために雅を食い止め、奴を道ずれに雪崩に飲まれた)

篤(だが雅は不老不死。当然、雪崩に飲まれた程度で死ぬはずもなく、それどころか瀕死の俺を救い、仲間になれと勧誘までしてきた)

篤(勿論、俺は拒絶した。それどころか、どうにか隙を突いて殺れないかと機を窺っていた)

篤(だが、そんな決意も長くは続かなかった)

篤(雅に犯され、殺されたと思っていた俺の婚約者、涼子が生きていたんだ)

篤(彼女は精神に異常をきたしており、路傍にうち捨てられ、誰にも相手をされず放置されていた)

篤(それでも構わなかった。彼女が生きていてくれた。ならば、俺は全てを投げ打ってでも護りたい。そう、思ったんだ)

篤(そのためには、吸血鬼である俺と涼子が生きていくには、雅の存在が不可欠だった)

篤(吸血鬼である以上、人間側では生きていけず、また、安定した血液の補充や吸血鬼間の治安の維持には雅の存在が大きいからだ)

篤(だから俺は奴の仲間になった。今もなお消えない憎しみを抱きつつも、奴に従い明や師匠たちと敵対する決意を固めたんだ)



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<>【彼岸島ss】新生活
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/09(金) 00:13:24.77 ID:On+4/IjK0<>
第一話『再会』


オ オ オ オ ォ ォ ォ

篤「......」ハァ ハァ

男「う、ううぅ...」コポコポ

篤(人間牧場...捕らわれた人間の何人かは、ここで椅子に縛られ血を吸われ衰弱し死ぬまで固定される)

篤(見るのはケン坊を救出しにきた時以来だが...相変わらず胸糞悪い)

篤「まさか俺がこんなものを使う時がくるとはな」ハァハァ

男「うあああ」コポコポ

篤「気は進まんが、邪鬼になるのを防ぐには飲むしかあるまい」

篤(すまない...本当にすまない...)

吸血鬼「ウラァ!なにやっていやがる新入りィ!」

篤「!」
<>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/09(金) 00:14:08.71 ID:On+4/IjK0<>
吸血鬼「こいつは俺専用のだ。勝手に手を出すんじゃねえ!」

篤「そういう決まりがあるのか...すまない、ここのスペースは共有だと思って...なら、俺用の奴はどこで手に入れればいい?」

吸血鬼「そんなもんねえよ。欲しけりゃ自分で人間を探してくるんだな」

篤「...そうか」クルッ

「そんなルールは俺は知らないがな」

吸血鬼「よっ、余計なことを言うんじゃ...!?」

篤「!?」

ドォン ドォン

斧神「メ"エ" エ" エ" エ" エ"」
<>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/09(金) 00:14:54.77 ID:On+4/IjK0<>
篤(なんだこいつは!?馬鹿でかい斧に巨体...新手の邪鬼か!?)

斧神「」ハー ハー

吸血鬼「ヒ、ヒイイイイ!お、斧神さまァァァ!!」

篤(斧神様?それがこいつの名なのか?)

斧神「...貴様、なぜ新入りに嘘を教えた」

篤(喋った!この邪鬼、言葉を話すことができるのか!?)

吸血鬼「こ、こいつは俺達吸血鬼をたくさん殺してきた奴で、この前俺の友達も...」

斧神「貴様の気持ちはわからんでもない。だが、この島では吸血鬼と化し雅様に忠誠を誓う者はみな同士。人間時代の因縁は忘れるべしと教わっているはずだが」

吸血鬼「も、申し訳ございませんんんん!!」

篤「」ハァ ハァ

篤(さっきまであんなに威張り散らしてた吸血鬼がこんなにへりくだるなんて、こいつはよっぽど偉い奴なのか?)

斧神「新入りよ」

篤「は...」

斧神「ついてこい。俺が案内した方が余計なしがらみがなさそうだ」

吸血鬼(チクショウ、あのクソ新入りが...!)
<>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/09(金) 00:15:24.64 ID:On+4/IjK0<>
―――――――――――

オ オ オ オ ォ ォ ォ


篤「」ハァ ハァ

斧神「」ハー ハー

篤(こいつ、案内するとかいってこんな人気のないところを連れまわしてどういうつもりだ?)

斧神「この辺りでいいだろう―――久しぶりだな、篤」

篤「久しぶり?」

篤(俺の知り合いでこれほどデカイ奴は師匠くらいしかしらないが...あの人がこんな短期間で捕まるとも思えない)

篤(ならば、こいつは何者なんだ?)

斧神「分からないか...まあ、無理もない。ならば」スッ

篤「!」

斧神「こいつで思い出してもらうしかないな!」グワッ

バ ァ ァ ン <>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/09(金) 00:16:04.52 ID:On+4/IjK0<>
篤「くっ、危ねェ!」

篤(なんだこいつ、いきなり切りかかってきやがった!)

斧神「どうだ、篤。これでも思い出せないか?」

篤「なにをいってるんだ。思い出せないもなにも、俺とあんたはさっきが...!」

篤(いや...違う。俺は知っている。先ほどの斧捌きを、なによりも俺を『篤』と呼ぶ男を)

篤(身体や武器の大きさはまるで違う。だが、先ほどの斬撃は、あいつの姿と重なった)

篤「お前...もしかして、村田、なのか?」

篤(俺のかつての親友―――村田藤吉と)
<>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/09(金) 00:16:31.47 ID:On+4/IjK0<>
斧神「ようやくわかったか」

篤「生きて...いたのか...」ハァハァ

斧神「お互い様だ」

篤「は、ハハッ」

ダッ ガシィ

篤「また会えて嬉しいよ...村田」

斧神「...俺もだ、篤。さて、屋敷の案内に戻るとしよう」

<>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/09(金) 00:16:58.21 ID:On+4/IjK0<>
ザッ ザッ

篤「温泉?この島にそんなものがあったのか」

斧神「ああ。元々沸いていたものを雅様が大層気に入られてな。俺はそこの管理を任されているんだ。今日はそこの定期報告に来たというわけだ」

篤「そんなところを任されるなんて、ずいぶん出世したんだな」

斧神「...まあな。師匠は元気か?」

篤「ああ。この前なんか雪山の池に飛び込んで魚を獲ってたし」

斧神「ふっ、相変わらずだな」

篤「それにしても助かったよ。知り合いが誰もいないんで心細かったんだ」

斧神「...それは本心か?」
<>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/09(金) 00:17:24.74 ID:On+4/IjK0<>
篤「えっ」

斧神「わかっているだろう。俺もお前も吸血鬼になってしまった。それはつまり、師匠や冷たちと戦うということだ」

篤「......」

斧神「場合によっては俺達が恩師を手にかけることになるかもしれん。俺たち二人がこちらについている以上、それを止められる者はいないだろう」

斧神「師匠たちを手にかけることに、お前は耐えられるのか?」

篤「...本音を言えば、あの人たちを手にかけることはしたくない。あの人たちには鍛えてもらった以上の恩義がある」

篤「だが、俺は決めたんだ。あいつを、涼子を護るためならなんだってやってやると」

斧神「...そうか。お前が覚悟を決めているなら、俺はもうなにも言わん」

斧神「しかし、涼子さんだと?彼女はもう...」

篤「そうか、お前はまだ知らなかったのか。涼子は生きてたんだよ」

斧神「なに?」 <>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/09(金) 00:18:16.69 ID:On+4/IjK0<>
屋敷

斧神「そうか...生きていたのは幸いだが、なんと声をかけていいものやら...」

篤「気にするな。俺は彼女が生きていてくれただけでも嬉しいんだからさ」

篤「あいつが生きていなければ、俺はまた雅のやつを殺しにいっていたよ」

斧神「...篤、親友のよしみでいまのは聞き流してやるが、雅様への侮辱はやめろ」

篤「えっ」

斧神「あの方へのお前の憎しみは解っているつもりだし、心の中でなにを言おうが責めはせん。だが、それを口に出せば、俺は雅様の側近としてお前を罰さねばならん」
<>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/09(金) 00:18:49.09 ID:On+4/IjK0<>
篤「な...何言ってんだ。お前、あいつを憎んでいないのかよ」

斧神「ああ。俺はあのお方を尊敬している」

篤「なんでだ?なんでお前ほどの男があんな野郎を...」

斧神「それは...」

斧神「...すまん。いまはまだ教えることはできん。教えられるのは、お前が雅様への憎しみを捨てあのお方へと忠誠を誓ってからだ」

篤「」ハァハァ

篤(村田...お前ほどの男が何故...)

篤「...すまん。お前にも、いまの立場や事情があるもんな」

斧神「俺のほうこそすまない。お前が雅様に忠誠を誓ったら改めて教えよう」

斧神「それと、二人きりの時はいいが、皆の前では村田ではなく斧神と呼んでくれ。威厳を損ねるわけにはいかんからな」

篤「...ああ、わかったよ」 <>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/09(金) 00:19:23.35 ID:On+4/IjK0<>

トトト

(早く持っていかないと冷めちゃう...)

ドンッ

「きゃっ!」

篤「おっと...すまない、大丈夫か?」

「い、いえこちらこそ...あ、それよりお茶は...」

篤「落ちる直前で拾えたからたぶん零れてないけど...手伝おうか?」

「いえお構いなく。それでは私はこのあたりで...」タタタ

篤(なんだかそそっかしい娘だな)

斧神「椿か...相変わらず、雅様のことしか見えていないな」

篤「知り合いか?」

斧神「雅様の小間使いだ。完全にあの方に惚れ込んでいるようで、たちまちに美しくなったと村で評判だ」

篤(あんなナルシストで自分勝手な奴のどこがいいんだか...)

斧神「篤よ、いま無礼なことを考えてないか?」

篤「いや、全然」 <>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/09(金) 00:20:00.07 ID:On+4/IjK0<>
斧神「ちなみに、いま椿が向かった部屋が雅様専用の私室だ。あのお方から呼び出されるまでは俺も入れん」

篤(あそこにあいつが...)

篤「勝手に入ったらどうなる?」

斧神「雅様の気分次第だが、ロクなことはないだろうな」

篤「わかった。気をつけるよ」

斧神「厠はあそこだ」スッ

篤「おう」
<>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/09(金) 00:20:26.03 ID:On+4/IjK0<>
篤「」ハァハァ

篤(改めて見ると、本当に広い屋敷だな...こりゃ全部覚えるのにも一苦労だ)

篤「ん」

オ オ オ オ ォ ォ ォ

「......」

篤(あんなところに金剛力士像...?雅の奴なんてセンスをしてるんだ)

斧神「久しぶりだな、金剛よ」

金剛様「うむ」

篤「なっ」
<>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/09(金) 00:21:03.20 ID:On+4/IjK0<>
篤(動いた!こいつも吸血鬼なのか!?)

金剛「斧神よ。その男はなんだ?」

斧神「新入りの篤だ。少し前まで、抵抗組織たちの主戦力だった男だ」

金剛「ほう。そいつが噂の雅様のお気に入りか」

篤「」ハァハァ

金剛「なるほど。纏う空気が違っておる。流石に、あのお方がお気に召すだけのことはある」

金剛「いずれ手合わせを願いたいものだ」クルッ

ザッザッ

篤「むら...いや、斧神。あいつは誰なんだ?」

斧神「奴は金剛。俺と同格の側近だ。普段は離れ小島の護衛をしているが、奴も今日は定期報告に来たようだな」

篤「離れ小島?なんたってそんなところを」

斧神「それは教えられん。少なくとも雅様の許可が下りるまではな」
<>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/09(金) 00:21:33.10 ID:On+4/IjK0<>
篤「これで屋敷は一通り見終わったか?」

斧神「ああ。後は、お前が慣れるかどうかだな」

篤「...なあ、いま、時間は空いてるか?」

斧神「ああ。特に問題はない」

篤「なら俺の家に来いよ。お茶くらいしか出せないが、色々と積る話もあるしな」
<>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/09(金) 00:22:03.47 ID:On+4/IjK0<>
ザッ ザッ

斧神「ずいぶんとはずれの方に行くのだな」

篤「俺は嫌われ者だからな。肩身がせまいんだ」

篤「尤も、涼子さえいてくれれば、連中にいくら嫌われようが屁とも感じないけどな」

斧神「涼子さんか...そういえば、俺はまだ見たことがなかったな」

篤「びっくりするほどのいい女さ。驚くんじゃねえぞ」

斧神「ふっ、期待させてもらうとするよ」

斧神「ん...?篤、これを見ろ」スッ

篤「これは...足跡?しかもまだ新しい。妙だな、この辺りは人通りが少ないはずだが...」

篤(...まさか!)ダッ
<>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/09(金) 00:22:41.47 ID:On+4/IjK0<>

篤(家にたどり着いた時、俺の目に飛び込んで来たのは、裸に剥かれた涼子と先ほど俺につっかかってきた吸血鬼だった)

篤(下半身を露出させ、涼子の腰を掴む吸血鬼の下卑た笑みは、俺の脳裏にあの時―――涼子が雅に陵辱された時の光景を過ぎらせた)

篤(気がつけば、俺は刀を抜き、斧神の制止よりも早く吸血鬼の首を刎ね、うわ言のようにぶつぶつと言葉を漏らす涼子を抱きしめていた)

篤(今回はギリギリで助けることが出来た。だが...)

斧神「まずいな...この現場は流石に誤魔化しきれん。もしも住民に見つかればただでは済まん」

篤(そう...ここで俺達の居場所を確保するのは困難になってしまった)
<>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/09(金) 00:23:15.69 ID:On+4/IjK0<>
斧神「もしもこれが見つかれば、雅様のお気に入りであるお前は住民にも殺されんとは思うが、涼子さんが危険だ。また留守中に狙われる可能性は高い」

篤「すまない、村田。心配をかけさせてしまって...」

斧神「なに、この件は悪いのはあいつだ。...完全な第三者の住民達がそれで納得するとは限らんが」

斧神「ひとまずはこの死体を処理したいが...下手に表に出るわけにもいくまい」

篤「そうか...別の場所に住む必要があるかもしれないな。ごめんな、怖い思いをさせちまって」

涼子「ギ?」

篤「大丈夫だ、涼子。どんな奴等相手だろうがどんな環境だろうが、俺は決してお前を見捨てるようなことはしないから」
<>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/09(金) 00:23:57.70 ID:On+4/IjK0<>
ワー ワー

篤「なんだ?外が騒がしいな」

「ゴアアアアア!」

斧神「あの叫びは、まさか邪鬼か?...そうだ!」

斧神「聞け篤、この場を上手く処理する方法を考えた」

篤「えっ」

斧神「おそらく、いま村の方で制御の失敗した邪鬼が暴れている。そういった手合いを処分するのも俺の役目だ」

斧神「俺はそのためにここで邪鬼を倒し、吸血鬼もその時に食われたとして隠蔽する」

斧神「そこで、お前には邪鬼をここまで誘導してほしい。この家は壊れるかもしれんが、新しい家は手配しよう」

篤「...わかった」
<>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/09(金) 00:24:24.42 ID:On+4/IjK0<>
ワー ワー

邪鬼「クエーッ!」

吸血鬼「いやああああああ!!」

篤「」ハァハァ

篤(あいつを誘導するには、奴と対面しなければならない。だが、邪鬼は手ごわい。果たしてそう上手くいくだろうか...)

邪鬼「ギ」クルッ

篤「ん」

子供「あ...あ...」

篤(子供だ!逃げ遅れた子供を狙っているんだ!)
<>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/09(金) 00:24:50.08 ID:On+4/IjK0<>
吸血鬼「ボウズ!なにしてるんだ!早く逃げろ!」

子供「うああ...あぁ...」ガクガク

篤「チッ!」バッ

篤(間に合え...!)

邪鬼「ガアアアアアア!」

子供「ひいいいいい!」

バァン <>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/09(金) 00:25:53.61 ID:On+4/IjK0<>
篤(よしっ、間に合った!)トッ

子供「ひぐっ...うええええ」

篤「よしよし、もう大丈夫だぞ」

篤「流石は吸血鬼の力...これなら、問題はなさそうだ」

吸血鬼「おい...あいつ新入りだよな」

吸血鬼B「あいつ、誰もビビッて手出しできなかったのに...」

ザワザワ

篤「あんたたち、この子を連れて今すぐ逃げろ。俺が奴を人気のないところへ誘導する」

吸血鬼B「な、なら男衆みんなであんたの手伝いを」

篤「いや、囮は少ない方がいい。下手に固まれば、逃げ場を減らしてしまうだけだ」

吸血鬼「わ、わかった。避難ついでに雅様をすぐに呼んでくる。それまで持ちこたえるんだぞ」

篤「頼んだ」

篤(さて...雅が来る前に終わらせないとな)

<>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/09(金) 00:26:22.18 ID:On+4/IjK0<>
邪鬼「ガアアアア!」ブンッ

篤「」サッ

ザンッ

邪鬼「ギイ!」

篤「こっちだ、俺を捕まえたければ追って来い」ダッ

邪鬼「ビギャアアアアア」

バタバタ
<>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/09(金) 00:26:57.65 ID:On+4/IjK0<>
篤(よし、ついて来ている。他に追ってくる奴もいない)

篤「村田!おびき寄せたぞ!」

斧神「よし。篤よ、涼子さんを連れてここから出るんだ」

篤「なっ」

斧神「放置された涼子さんが巻き添えをくうかもしれん。お前がこの家から彼女を連れ出すんだ」

篤「ひとりで大丈夫なのか?」

斧神「誰にものを言っている。俺は雅様の側近、斧神だぞ」

篤「ハッ、心強いじゃないか。...任せたぞ」
<>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/09(金) 00:27:26.29 ID:On+4/IjK0<>
ドォン ドォン

斧神「メ"エ" エ" エ" エ" エ"」

邪鬼「ク エ エ エ エ エ」

斧神「お前に恨みはないが...雅様に逆らう者には、罰を与えんとな」

<>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/09(金) 00:27:59.77 ID:On+4/IjK0<> ――――

ザンッ バァン

涼子「エヘアヘヘ」

篤「」ハァハァ

篤(さっきからひどい音がするが...村田は大丈夫なのか?)

吸血鬼「新入りの兄ちゃん、雅様を連れてきたぞ!」

篤「!」

篤(雅...早すぎる...!)
<>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/09(金) 00:28:27.07 ID:On+4/IjK0<>
雅「篤よ、お前は邪鬼を引き付けていたと聞いたが...状況を説明してもらおうか」

篤「はっ...」

篤「私は邪鬼を引きつけた後、見回りをしていた斧神様と出会いました。彼は、一介の吸血鬼の私では歯が立たないと判断し、あそこの家屋で邪鬼と交戦しています」

雅「そうか、村田...いや、斧神の奴がか。ならば、私が手を下す必要もないだろう」クルッ

吸血鬼「よ、よろしいので...?」

雅「不安か?ならば耳を澄ませてみろ」

吸血鬼「へ?」

篤(いつの間にか音が止んでいる?)

<>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/09(金) 00:29:11.07 ID:On+4/IjK0<>
ガララ

斧神「メ"エ" エ" エ" エ" エ"」

篤(村田...勝ったのか...!)ホッ

吸血鬼「ヒイイイイ、斧神様全身に血があああ!!」

雅「ご苦労だったな、斧神よ」

斧神「これは雅様。ご足労をかけ申し訳ございませぬ」

吸血鬼「斧神様、支給止血道具を用意いたします!」

斧神「いらん。この血は全て返り血だ」
<>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/09(金) 00:29:47.20 ID:On+4/IjK0<>
斧神「雅様、邪鬼は制御が不能と判断し、ご覧の通り処分致しました」

吸血鬼「ウソ...邪鬼があんなにもバラバラに...」ハァハァ

篤(すげェな、村田のやつ...邪鬼をほとんど五体満足で倒すなんて、かなり腕をあげたんだな)

斧神「私の判断が雅様の思惑から外れているようでしたら、如何な罰も受けましょう」

雅「構わん。私が処分する手間が省けただけだ。斧神よ、あとのことは任せる」クルッ

斧神「はっ」 <>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/09(金) 00:30:13.75 ID:On+4/IjK0<>
篤(村田...あんなにも強くなったのか)ハァハァ

吸血鬼「助かったよ、新入りの兄ちゃん。あんたがいなけりゃどうなってたことか」

篤「いや、俺はなにも...」

吸血鬼「兄ちゃん、身を挺して子供を庇ったじゃねぇか。他のやつ等は誰一人として動けなかったのによ」

吸血鬼「俺達、あんたのことを誤解してたみたいだよ。今まですまなかった」

篤「......」

斧神(雨降って地固まるという奴か...これで篤たちの生活も少しは楽になるといいのだが)

<>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/09(金) 00:31:49.00 ID:On+4/IjK0<> 一旦ここまでです。時系列的には兄貴が吸血鬼になって間もない頃のssです
続きは後日投下します <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2018/03/09(金) 00:36:31.42 ID:wBANCk6ZO<> あったよ?? 未読の彼岸島ssが?? <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2018/03/09(金) 07:45:11.34 ID:Br3KBNPAo<> みんな丸太持ったか!? <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2018/03/09(金) 12:10:25.60 ID:c9EeAnolO<> ハ、キモ傘とマツモティーヌセンセェにこんなに知性があるわけない
<>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/10(土) 01:09:12.56 ID:czakhG4g0<>

第二話『新居』


篤(村田が邪鬼を倒したことで騒動は止み、俺の吸血鬼殺害を問われることもなくなった)

篤(一人で邪鬼を倒したことにより、武勇伝が増えたと村田は密かに喜んでいた。なんでも、力を誇示できたことで部下達の統制がやりやすくなるだとか)

篤(また、これは数日後に知ることになるのだが、この件により村人達は俺を信頼するようになり、以前の風当たりの強さは消えうせた)

篤(だが、そのことを知らない俺は当面の問題に直面していた)

斧神「すまんな。ああでもしなければ死体を隠すことが出来なかった」

篤「気にするなよ。家くらい適当に見繕うからさ」

斧神「お前はそれでもいいかもしれんが、涼子さんはどうする」

篤「それは...」 <>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/10(土) 01:09:40.59 ID:czakhG4g0<>

涼子「うー」

篤(涼子を雨ざらしになんてさせたくはない。だが、こんな誰も信用できないところで暖を借りるわけにもいかない...)

斧神「...篤よ。俺の知っているところでよければ、最適な場所の心当たりがある」

篤「本当か」

斧神「ただ、屋敷からはだいぶ遠く離れてしまうが...それでもいいか?」

篤「安全ならば構わないさ」

斧神「そうか...ならばついてこい」

<>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/10(土) 01:10:27.90 ID:czakhG4g0<>
―――――――

ザッザッ ドプッ

斧神「気をつけろ。しっかり俺の後を着いてこないと底なし沼に飲み込まれるぞ」

篤「なあ、いったい何処へ向かってるんだ?」

斧神「本当ならば俺の村に案内してやりたいところだが、雅様からはまだお前を監視下から外したくないと窺っている」

斧神「それに、俺が目を離した隙にまた今回の件のようなことがあるかも知れん。ならば、確実に安全な場所の方がいいだろう」

斧神「...着いたぞ」 <>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/10(土) 01:10:57.41 ID:czakhG4g0<>
オ オ オ オ ォ ォ ォ

篤(村だ。...だが、心なしか雅のところに比べると活気がないな)

斧神「ここはもともとちょっとした遺跡があった。そこに目をつけ村として利用しているという訳だ」

老吸血鬼「あ...斧神様、こんにちわ」ヨロヨロ

斧神「ウム。今日も精が出るな」

老吸血鬼「おや。そちらの方々は?」

斧神「新入りの篤とその妻だ。済まないが、今日からこの村で住まわせてもらえんか」

老吸血鬼「ええ、ええ。もちろん構いませんよ」

老吸血鬼「さて、空いてる住まいを案内致しますので...うっ」ヨロッ

篤「おっと、大丈夫ですか」

老吸血鬼「ありがとうございます。どうもこの歳になると、身体が言うことを聞いてくれなくて」

篤「俺の背中を貸します。さあどうぞ」スッ

老吸血鬼「世話をかけます」 <>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/10(土) 01:11:25.17 ID:czakhG4g0<>
篤「」ハァハァ

篤(こうやって見回してみると、この村の住人は年寄りしかいない気がするな)

老吸血鬼「年寄りばかりで驚いたでしょう。この村は、年老いたり大きな失敗で追放され、戦えなくなった者たちが集う集落なんですよ」

篤「なるほど」

篤(どうりで活気がないわけだ)

<>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/10(土) 01:12:11.79 ID:czakhG4g0<>
老吸血鬼「こちらの穴倉です」

斧神「ふむ。俺には少々窮屈だが、お前達二人で住む分には悪くないだろう」

篤「ああ。このゴザとカーテンも嫌いじゃない」

涼子「あうあうあー」

篤「ハハッ、涼子も気に入ったか。助かりましたよ、ご老人。このご恩は決して忘れません。俺になにかできることがあれば遠慮なく言ってください」

老吸血鬼「いえいえ。気に入っていただけたようでなによりですじゃ。それでは、なにかご用件があればまた声をかけてくだされ」
<>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/10(土) 01:12:44.18 ID:czakhG4g0<>
篤「...なあ、村田」

斧神「ん?」

篤「ここの人たちは弱ってる人ばかりだが、人間の血はどうやって手に入れてるんだ?流石にあれでは師匠たちは勿論、一般人にも勝てるか怪しいが」

斧神「屋敷の者が定期的に持ってくることになっている。下手に放置して邪鬼になられても困るからな」

篤「それならいいが...」

ヒャアアアア

篤「!?」

斧神「悲鳴だな...まさか!」
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◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/10(土) 01:14:19.61 ID:czakhG4g0<>

婆吸血鬼「ヒイイィィ」

斧神「どうした、なにがあった」

婆吸血鬼「浩二が...私の旦那が...あぁ...」

邪鬼「ギエエエエエエ!」

斧神「くっ」ダッ

バァン

邪鬼「ギエッ!」ドタッ

斧神「ガアアアアアア!!」

ザンッ

斧神「」ハーハー

婆吸血鬼「ああ...あんたぁ...」ポロポロ

斧神「すまない。邪鬼になってしまった以上、始末する他ないのだ」

婆吸血鬼「わかっております。わかっておりますじゃ...」
<>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/10(土) 01:14:50.27 ID:czakhG4g0<>
篤「どういうことなんだ、村田。定期的に人間の血が届けられているはずじゃなかったのか」

斧神「俺にもわからん。...もしかしたら、今期の担当は涼子さんを襲ったあの男なのかもしれん」

篤「!」

篤(そんな...じゃあ、俺があの時奴を斬ったから、この婆さんの旦那は邪鬼になってしまったのか!?)

婆吸血鬼「あんたぁ...あんたぁ...」

篤(だったら...)

篤「村田...いや、斧神。その血液を運ぶ係、俺が引き受けることはできるか。定期的なんかじゃない。彼らの分が手に入り次第、いつでもだ」

斧神「...可能だが、それがなにを意味するのかわかっているのか。お前はその手で多くの人間を狩ることに...」

篤「言っただろう。涼子を、大切な者を護るためならなんだってやってやると」

斧神「...そうか。ならばなにも言うまい。この村の管理は、お前に任せるよう雅様にお伺いを立てておく」
<>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/10(土) 01:15:23.65 ID:czakhG4g0<>
数日後

雅「斧神から聞いたが、あの村の管轄をしたいそうだな」

篤「はい。弱っているとはいえ、彼らも同胞です。無碍には扱いたくはありません」

雅「ハッ、あの鬼のように冷酷だった男が随分と丸くなったものだ」

篤「......」

雅「まあいいだろう。以前の邪鬼騒動を収めた褒美だ。好きにするといい」

篤「ありがとうございます」
<>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/10(土) 01:15:54.33 ID:czakhG4g0<>
篤「......」

雅「なにか言いたそうだな」

篤「無礼を承知で申し上げます。私は、雅様は同じ吸血鬼には寛容だと思っていました。実際、あなたの部隊に多大な損害を与え続けた私にも、こうして気を遣ってくださっている」

篤「なのに何故、彼らを追放したのですか」

雅「ハッ、なにを考える必要がある。奴らは使い物にならなくなった。ただそれだけじゃないか」

雅「私が寛容なのは、私に従う優れた者達に対してだ。使えないものに気をまわす必要などないだろう」

篤「......」

篤(わからない...何故、みんなはこんな男についていけるのか...)




篤(かくして俺は、晴れてはぐれ者たちの村の管轄を任命されることになった)

篤(収穫はそれだけではない。雅と彼らについて話して安心したことがある。それは、たとえ吸血鬼になろうが、俺が奴に染まりきることはないということだ)
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◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/10(土) 01:16:32.63 ID:czakhG4g0<>
第三話『涼子』

涼子「うー」

婆吸血鬼「はい、腕を吹きますよ」

涼子「あー」

婆吸血鬼「そろそろ篤さんも雅様のところから帰ってきますから、それまで...」

涼子「―――あああああああ!!」

バシイッ

婆吸血鬼「ひゃぁっ」

涼子「うあ、ああうああ、う、うあ」ガタガタ

婆吸血鬼「ど、どうしたの」

涼子「ぐ、ぐひっ、ぐひぃ」ポロポロ

婆吸血鬼(こんなに怯えて...なにか怖いことでも思い出したのかしら)

婆吸血鬼「...大丈夫。安心して」

涼子「?」

婆吸血鬼「怖いことがあったなら、無理に思い出さなくてもいい。そんなことであの人があなたを見捨てることなんてありませんよ」

婆吸血鬼「ゆっくりいきましょうよ。あなたたちはまだまだ先が長いんだから」

涼子「...うー」 <>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/10(土) 01:17:00.62 ID:czakhG4g0<>

篤「ただいま」

婆吸血鬼「あらお帰りなさい」

篤「すみません、涼子の世話を頼んでしまって」

婆吸血鬼「いいんですよ。好きでやっているようなものですし」

篤「どうですか涼子の様子は」

婆吸血鬼「前よりは意思表示をしてくれるようになったんですがねえ。先ほどなんかはよほど怖いことを思い出したのか、急に震えだして」

篤「...そうですか」

婆吸血鬼「篤さん、あまり焦ってはいけませんよ。涼子さんには涼子さんのペースがあるんですから」

篤「わかってます。たとえ百年時が過ぎようが、いくらでも待ってやりますよ」

婆吸血鬼「ふふっ、その意気よ」
<>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/10(土) 01:19:12.37 ID:czakhG4g0<>
篤(この村の管理人になったことを伝えた俺は、その夜、村の皆に出世祝いだと盛大に祝ってもらえた)

篤(温かい鍋を囲み、暖かい団欒で迎えられた小さな宴。この日は、今までで一番の笑顔になれた日かもしれない)

篤(ふと、俺は本土の両親を思い出す)

篤(実家を継ぐことになっていた俺は就職活動なんてものには無縁だった)

篤(けれど、もしも俺が実家を継がず就職活動をしていたら。彼らにもこうやって祝ってもらっていたのだろうか―――なんてことが脳裏に過ぎった)

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◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/10(土) 01:19:42.02 ID:czakhG4g0<>
深夜


婆吸血鬼「それじゃあ篤さん、そろそろお暇するよ」

老吸血鬼「おやすみ篤さん」

篤「はい、おやすみなさい」

涼子「むー」

篤「...さて。歯を磨いたら俺達ももう寝るか」

涼子「あー」
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◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/10(土) 01:20:13.77 ID:czakhG4g0<>
キチキチキチ

篤「キリギリスが鳴いてるな。...涼子、まだ起きてるか?」ボソリ

涼子「ぅー...」

篤「この村の人たち、いい人ばかりだよな。絶対守ってやりたいよ」

涼子「......」

篤「もしも師匠たちに見つかったら、頼み込んでどうにか...って訳にもいかないよな」

涼子「......」

篤「でも安心してくれよ。お前も村の人たちも、どんな奴からも守るからさ」

涼子「......」

篤(...寝ちゃったか?仕方ないよな、みんなあれだけ騒いでたし)

篤(俺もいい加減に寝るとするか)ゴロリ

ギュッ <>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/10(土) 01:21:06.84 ID:czakhG4g0<>
篤「えっ」

篤(寝返りをうった俺の背に温もりと共に柔らかな感触が押し付けられた)

篤(それがなんなのか―――考えるまでもないだろう)

篤「涼子...?」ハァハァ

涼子「......」

ドキドキドキ

篤(こんなことは初めてだった。涼子と再会して以来、彼女から手を握ってくれることもなかった)

篤(まさか、涼子の記憶が少しでも...?)

スッ

篤(涼子の指が背中をなぞっている...これは、文字か?)

【あ】

【り】

【が】

【と】

【う】

篤「涼子...!」

篤(俺はすぐにでも振り返り彼女を抱きしめようとした)

篤(けれど、綴られる文字はそれを阻み、俺の身体はその場に縫いとめられてしまう)
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◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/10(土) 01:22:33.82 ID:czakhG4g0<>
【ご】

【め】

【ん】

【ね】

篤「涼子?」

【ご】

【め】

【ん】

【ね】

篤「あ、謝らなくていいよ。俺は自分で全てを守るって決めたんだから」

【ご】
【め】
【ん】
【ね】

【ご】
【め】
【ん】
【ね】

篤「お、おい」


【ご】【ご】【ご】【ご】【ご】【ご】
【め】【め】【め】【め】【め】【め】
【ん】【ん】【ん】【ん】【ん】【ん】
【ね】【ね】【ね】【ね】【ね】【ね】

『あっちゃんごめん...気持ちいいの』

【ご】【ご】【ご】【ご】【ご】【ご】
【め】【め】【め】【め】【め】【め】
【ん】【ん】【ん】【ん】【ん】【ん】
【ね】【ね】【ね】【ね】【ね】【ね】


【ご】【ご】【ご】【ご】【ご】【ご】
【め】【め】【め】【め】【め】【め】
【ん】【ん】【ん】【ん】【ん】【ん】
【ね】【ね】【ね】【ね】【ね】【ね】

『もっと血を吸って。ああっ、ああっ、気持ちいいの』


【ご】【ご】【ご】【ご】【ご】【ご】
【め】【め】【め】【め】【め】【め】
【ん】【ん】【ん】【ん】【ん】【ん】
【ね】【ね】【ね】【ね】【ね】【ね】


【ご】【ご】【ご】【ご】【ご】【ご】
【め】【め】【め】【め】【め】【め】
【ん】【ん】【ん】【ん】【ん】【ん】
【ね】【ね】【ね】【ね】【ね】【ね】


【ご】【ご】【ご】【ご】【ご】【ご】
【め】【め】【め】【め】【め】【め】
【ん】【ん】【ん】【ん】【ん】【ん】
【ね】【ね】【ね】【ね】【ね】【ね】
<>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/10(土) 01:23:10.29 ID:czakhG4g0<>
篤「涼子!」

涼子「う...うぅ...」ガタガタ

篤「すまない...俺が、お前が元に戻るのを望んじまったから...!」

篤(俺はバカだ。涼子を戻すということはあの忌まわしき過去を思い出させるということだ)

篤(何故俺は彼女が戻ることを望んでしまった。何故気付いてやれなかった。俺は...)

篤「涼子、そんなに無理をして思い出そうとしないでくれ。お前がそこまで苦しむのなら、俺との記憶なんて捨てて欲しい」

涼子「ぁ...」

篤「いいんだよ、辛い記憶なんて捨ててしまえば。俺は、お前が生きていてくれるだけで充分なんだ」

涼子「......」

篤「だから...もう、いいんだよ」
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◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/10(土) 01:23:51.91 ID:czakhG4g0<>
【お】

篤「!」

【や】

【す】

【み】

【あ】

【っ】

【ち】

【ゃ】

【ん】

篤「...ああ、ゆっくりとお休み、涼子」
<>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/10(土) 01:24:27.48 ID:czakhG4g0<>
――――――――

翌朝

チュンチュン

グツグツグツ

篤「ん...」

篤(いつの間にか寝てたのか...それにイイ匂いが...お婆さんが来てくれたのかな?)

シャッ

篤「あ...」
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◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/10(土) 01:24:53.43 ID:czakhG4g0<>


婆吸血鬼「大体このくらいの火加減で...」

涼子「なるほど」

婆吸血鬼「おや、目を覚ましてしまいましたか」

涼子「えっ」クルッ

篤「」ハァハァ

篤(信じられん...涼子の記憶が戻ったのか...!?)

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◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/10(土) 01:25:30.66 ID:czakhG4g0<>
涼子「起こしちゃいましたね。もう少しゆっくり寝てもらってもよかったんですけど」

篤「お、お前、大丈夫なのか?」

涼子「?」

篤「昨晩はあんなに...」

涼子「ごめんなさい。なんのことだかわかりませんが...」

涼子「えっと、篤さん、でしたよね。見ず知らずの私を一生懸命に面倒を見てくれたとお伺いしました」

篤「」ハァハァ

篤(『篤さん』...?)

涼子「見ず知らずの私に手を尽くしてくださって、ありがとうございました」ペコリ

篤(涼子...正気にはなったが、記憶が戻ったわけじゃないのか)

篤(......)

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◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/10(土) 01:26:01.74 ID:czakhG4g0<>
篤「...なあ、もう元気なのか?」

涼子「はい。少し気だるさはありますがへっちゃらですよ」

篤「気だるさが残ってるなら今日は休んでおけよ。ここでぶり返したら洒落にならない」

涼子「え...でも」

婆吸血鬼「篤さんの言うとおりですよ。ここはそんなに忙しい村じゃないから、ちゃんと疲れを取っておくれ」

涼子「そういうことなら、お言葉に甘えて」

篤「...お婆さん、少し話があります」コソッ

婆吸血鬼「?」 <>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/10(土) 01:26:45.82 ID:czakhG4g0<> ――――――――

篤「お婆さん、俺と涼子が元々婚約していたことは伏せておいてくれませんか?」

婆吸血鬼「何故です?」

篤「昨晩、彼女は記憶の片鱗を思い出しかけたんです。けれど、その時の彼女は酷く焦燥し苦しんでいました」

篤「俺、思ったんです。思い出すのが全てじゃない、忘れてしまいたいものは忘れてしまった方がいいと」

婆吸血鬼「けれど、それじゃあ篤さんが」

篤「俺は大丈夫です。確かに彼女との思い出はかけがえのないものです。けれど、それは涼子を苦しめてまで優先することじゃない」

篤「俺は、彼女が幸せでいられればそれでいいんですよ」

篤(村の皆は、俺と涼子の昔の関係を彼女に伝えないでほしいという俺の頼みを引き受けてくれた)

篤(そのお陰で、俺と涼子が初めて出会ったのは再会したあの時ということになっている)

篤(勿論、涼子がなにも訝しがらなかったわけじゃないが、いま村で暮らしている現状が幸せだということで深く言及はされなかった)
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◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/10(土) 01:28:02.54 ID:czakhG4g0<>
山道

ジョー ドボドボドボ

斧神「そうか...涼子さんが正気に戻ったのか」

篤「ああ。これも、あの村に引き合わせてくれたお前のお陰だよ」

斧神「ふっ、紹介した甲斐があったというものだ」

篤「明日、皆で鍋でもやるからお前も食べにこいよ。村の皆もきっと喜ぶぞ」

斧神「...すまんな。しばらくはまた温泉村へと戻るから、食事は無理だ」

斧神「お前の村とは違い、俺の統括する村は血気にはやった連中ばかりだからな」

篤「あまり留守にするとなにをしでかすかわからないってことか。わかった。なら、またの機会にな」

斧神「...ああ」

斧神(食事を共にすればこの山羊のマスクを取らなければいけなくなる。篤、俺の顔を見たときのお前を、俺は恐れているのかもしれん)

斧神(他の者ならばまだいい。だが、唯一の親友である篤にはこの顔を侮辱されたくはない)

斧神(だから...俺の顔を晒すのは、お前が雅様への忠誠を誓った時だ)

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◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/10(土) 01:28:46.57 ID:czakhG4g0<>
篤(そして数ヶ月が経ち、春の日差しで雪も溶け始めた頃だった)

篤(雅は突如として501ワクチンの存在を口にし、俺に破壊するように命令を下した)

篤(本当ならば、場所を知らない体ですっぽかし間接的に明たちの力になりたかったが、何故か雅はワクチンの所在を知っていた)

篤(恐らくは五十嵐中佐の性格から推測してのことだろうが、見事にその推測は当たってしまっていた)

篤(そして、奴は明たちが動くことも恐らく感づいている。それを承知の上で俺に命じたということは、奴にとってワクチンそのものは遊び半分の余興でもある)

篤(肉親の情を語った俺に対する最高の皮肉として、奴は俺のザマを楽しむつもりなのだろう)

<>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/10(土) 01:29:30.53 ID:czakhG4g0<>

ゾロゾロゾロ ワーワー

老吸血鬼「篤さん、ウチの大根を弁当に持っていっておくれよ」

婆吸血鬼「これ、お守りの四葉のクローバー」

老吸血鬼B「あのとんでもなく長ェ刀、研いでおいたよ」

篤「ありがとうございますみなさん」

涼子「篤さん...」

篤「そんな心配そうな顔をするなよ。1度行ったことのある場所だから平気だって」

涼子「...そうよね。篤さんなら、平気よね。だから...」

チュッ

涼子「これは、いってらっしゃいのキスよ」

篤「ありがとう涼子...みんな、いってきます」

<>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/10(土) 01:30:43.24 ID:czakhG4g0<>
―――――――――――

篤(吸血鬼になってから、俺は守りたいものがたくさんできてしまった)

篤(親友の村田、俺を慕ってくれるあの村の人々、そして記憶を失っても再び俺を愛してくれた涼子)

篤(俺はあいつらを絶対に守る。雅にも、誰にも決して渡さない)

篤(だが、それはお前も同じだ。お前にも、決して譲れないものたちがいる)

篤(だから―――)

篤「いいか明!次に会った時、俺は、本気でお前を殺しにいく!お前も本気でかかってくるんだ、犬死にしたくなければな!」

篤「これは明、俺からお前への宣戦布告だ!!」

明「ちっ...ちくしょう...」

明「どうあがいても俺たちは、戦うしかねェんだな兄貴」

明「―――やってやろうじゃねェか、ワクチンの争奪戦ってやつを!!兄弟で殺し合いだ!!」


篤(俺達はもう止まれない。たとえこの戦いが、奴の掌の中の人形劇だとわかっていても)

篤(奴に巻かれたゼンマイが切れるまで、俺達がガラクタに変わるまで、この悲喜劇は止まらない)
<>
◆do4ng07cO.<>saga<>2018/03/10(土) 01:40:23.18 ID:czakhG4g0<> これにて終了です。もしも兄貴が斧神と出会っていたら、あの村の人たちとどうやって出会ったのかという想像で書きました。
松本先生には兄貴番外編のような、隊長外伝などもまた書いてもらいたいです
<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2018/03/10(土) 11:13:00.04 ID:+UkIxlxSO<> このssが傑作だからちくしょう!!! <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2018/03/10(土) 23:24:16.69 ID:rb4ViW960<> ワーワー <>