以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage saga<>2018/08/24(金) 21:16:12.29 ID:a6hnrGwy0<>容姿端麗という表現がある。
意味は、顔や姿が整い、美しい様のこと。
要するに、綺麗だってことだ。
その四字熟語に該当する人物は極めて少ない。
もっとも、美しさや醜さなんてのは相対的なものだから、集団の中で比較すれば自ずと1人や2人は当て嵌まるだろうが、それはまやかしだ。
絶対的な本物を見れば、すぐにわかる。
その瞬間に、認識を改める必要性が生じる。
嘘じゃないさ。現に、俺がそうだった。
俺の通う高校には、そんな存在がいた。
「失礼します」
柄にもなく、畏まりながら入室。
別に職員室ではない。先生の姿も見えない。
そこには同じ学年の生徒が数人座っている。
部屋の扉には【生徒会室】と書かれていた。
「んじゃ、行って来ます」
机の上に置かれたプリントを持って、退室。
中に居た数名は顔も上げずに黙ったまま。
皆、それぞれのお仕事で忙しそうだ。
邪魔にならぬよう、俺は俺の仕事をこなす。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1535112971
<>生徒会長「君の名を呼びながら胸を揉むと、すごく気持ち良いんだ」庶務「はい?」
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage saga<>2018/08/24(金) 21:20:43.10 ID:a6hnrGwy0<> 「よしっと、コピー完了」
各クラスに配布するプリントをコピー。
紙束を持って、それぞれのクラスを回る。
教卓の上に人数分のプリントを置いておく。
これで明日の朝には手元に行き届く筈だ。
「お疲れ、庶務」
「疲れるのはこれからだっての」
「ははは! ま、頑張れや」
放課後の教室には何人か生徒が残っており。
見知った同級生に労われながら、次の仕事へ。
尻のポケットから軍手を取り出して、装着。
これから校庭の草むしりをするのだ。
無論、ボランティアではない。これも仕事だ。
先程呼ばれた役職の腕章が、肩に付いている。
俺は、生徒会役員の末席を担う、庶務だった。
「……まあ、ただの雑用だけどな」
自嘲しながら、独りごちる。
俺の仕事は雑用全般だ。それが庶務の役割。
そもそも、役員選挙で選ばれたわけではない。
何の因果か、生徒会長から直々に指名された。
我が校の庶務は、会長に任命権があった。
もちろん、断ることも出来たが、引き受けた。
えっ? それは何故かって? そんなの簡単だ。
「なにせうちの会長、すげー美人だもんなぁ」
我が校の生徒会長は、美しかった。
まさに、文字通り、容姿端麗だった。
だから、断れなかった。単純な話である。
それはある意味純粋で、ある意味不純な理由。
純粋に、あの人の力になりたかったし。
不純に、あの人の傍に居たかったから。
目の保養と言えば、それまでかも知れない。
それでも、男子高校生には充分過ぎる理由だ。 <>
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage saga<>2018/08/24(金) 21:24:17.73 ID:a6hnrGwy0<> 「いつもすまないね」
「いえ、これも仕事ですから」
用務員のおじさんに愛想良く振る舞いながら。
俺はせっせと校庭の草むしりに励んだ。
事前に、制服から体操着に着替えている。
すぐに汗だくになったので判断は正しかった。
というか、これは果たして庶務の仕事なのか。
学校によっては、違うのかも知れないけれど。
それでも文句はなかった。気分は上々である。
鼻歌交じりに、ブチブチ草を引き抜いていく。
デスク仕事よりは身体を動かすほうが好みだ。
俺以外の役員は皆優秀で、足手まといになる。
だが、蛍光灯の交換や昇降口の掃き掃除等々。
俺にも出来る仕事は沢山ある。それをこなす。
それで少しでも会長の助けになれれば本望だ。
偽善かも知れないし、自己満足かも知れない。
けれど、それでも良かった。やり甲斐がある。
何故ならばちゃんと見返りを貰っているから。
何度でも言うが、俺はボランティアではない。
きちんと仕事に見合う報酬を受け取っている。
先程コピーしたプリントに添えられた、付箋。
そこには会長の字でコピーする枚数の指示と。
『いつもありがとう』
部下への労いの言葉が、綴られていた。
「我ながら、単純だよな」
思わず自分自身に呆れながらも、悪くない。
むしろ、単純で何が悪い。美徳だろうが。
そんな風に自己正当化出来る程、嬉しかった。
男子高校生なんてのは、そんなものだろう? <>
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage saga<>2018/08/24(金) 21:29:32.15 ID:a6hnrGwy0<> 「よっと」
ドサッと、むしった雑草を手押し車に載せる。
そのまま、うーんと伸びをして、固まった腰と背中をほぐしていると、突如、衝撃が走った。
「おらっ! サボってんじゃねぇっ!!」
「ぐあっ……い、痛いですよ、議長っ!?」
バシンッ! と、背中をぶっ叩いたのは、議長。
生徒会役員の一員で、見ての通り、乱暴者。
滅多に生徒会室には顔を出さない、風来坊。
振る舞いと同じく、性格は粗暴で、傲岸不遜。
「うるせー。オレ様のことは議長閣下と呼べ」
「……お疲れ様です、議長閣下」
「おう」
偉そうに腕組みをしながら、見下された。
だが、これでも同い年。無論、学年も一緒だ。
文句のひとつも言いたくなるが、やめておく。
「あん? なんか言いたいことでもあんのか?」
「いえ、滅相もありません! 議長閣下!」
ギラリと、眇めた相貌は、肉食獣の如し。
真っ黒な黒目と、青白い白目。おっかない。
その、黒と白のコントラストに、震え上がる。
もちろん、腕っぷしも折り紙つきであり。
「うらぁっ!」
「ひっ!」
空を切る平手打ち。いきなり殴ってきた。
「い、いきなり何をするんですかっ!?」
「ハチだよ、ハチ。刺されるとこだったぞ」
「えっ?」
見やると、地面には打ち落とされた、ハチが。
このように、とんでもない人物であるものの。
一概に悪い人間とは判断出来ない議長だった。 <>
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage saga<>2018/08/24(金) 21:33:56.69 ID:a6hnrGwy0<> 「草むしりなんてだりー」
「それなら、無理して手伝わなくても……」
「ああん? なんか文句あんのか?」
「いえ! ありません!」
雑草を引き抜きながら、文句を言われた。
しかし、何だかんだ手伝ってくれる議長閣下。
それは今日に限った話ではなく、ほぼ毎日。
雑用をしている俺を見つけると、寄ってくる。
おかげで助かっているが、正直、怖すぎる。
「あの、議長閣下」
「あん? 閣下なんて堅苦しい呼び方はやめろ」
あんたが呼べって言ったんだろうが!
なんて、口答えは出来る筈も無く。
気を取り直して、俺は議長に質問してみる。
「どうして生徒会室に行かないんですか?」
「議長だから」
解答は簡潔すぎて、意味がよくわからない。
「意味がわからないのですが……」
「チッ! アホかお前は!!」
「ご、ごめんなさいっ!!」
罵声を受け反射的に謝ると、議長は嘆息して。
「あのな、議長は公平であるべきだろ?」
「まあ、そうですね」
「だから、生徒会役員とは馴れ合わねぇ」
なるほど。意外とまともな理由だ。しかし。
「俺も一応、生徒会役員なんですけど……」
「うっせ。庶務の癖に偉そうに役員名乗んな」
どうやら俺は役員と認められていないらしい。 <>
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage saga<>2018/08/24(金) 21:35:54.19 ID:a6hnrGwy0<> 「おい」
「えっ?」
「ちょっと、デコ見せろ」
しばらく互いに無言で草をむしっていると。
いきなり、おでこを見せろと、要求された。
言うが早いか、前髪を掴まれデコ丸出しに。
「も、もう平気ですって」
「でも、痕が残ってんじゃねーか」
「俺の不注意ですから、気にしないで下さい」
もう何度目とも知れないやり取り。
俺のおでこにはちょっとした傷があった。
それについて、議長は責任を感じてる様子。
あれは、まだ高校に入学して間もない頃。
掃除当番で、教室のゴミを捨てに行く道中。
俺は生まれて初めて、カツアゲを目撃した。
気弱そうな男子と、怖そうなヤンキー集団。
ギョッとして固まっていると、怒号が飛ぶ。
「おいっ! てめーら、何やってんだ!!」
それはヤンキーの怒鳴り声、ではなく。
のちの議長の怒声だった。これが出会い。
この人は、悪役に見えて正義の味方だった。 <>
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage saga<>2018/08/24(金) 21:40:14.27 ID:a6hnrGwy0<> 「失せろ、雑魚共!」
「クソッ! 調子に乗んな1年がぁ!!」
瞬く間にヤンキー集団を壊滅に追いやり。
往生際の悪い不良のリーダーがナイフを出す。
それはまるで、漫画のような展開だった。
ちなみに、被害者はとっくに逃げ出している。
睨み合う両者。互いに間合いを測る。
あとから思うに、心配は無用だった。
議長は空手、合気道、柔術の有段者。
凶器を持った相手でも無力化は容易い。
しかし、当時の俺はそんなことはつゆ知らず。
「危ないっ!」
不良の踏み込みと同時に、飛び出した。
間に割って入ろうと思ったの、だが。
足がもつれて、足元にヘッドスライディング。
「うわっ! なんだこいつ!?」
「隙だらけだぜ、馬鹿が」
「なっ!? ぐあっ!?」
ドジな俺が起き上がる前に、勝負はついた。
俺の奇妙な珍プレーに気を取られた隙に。
不良の腕を捻り上げて、ナイフを奪い。
そのまま首を絞め、気絶させた議長。
白目を剥いた不良のリーダーが、倒れ伏した。
「おい、お前……立てるか?」
「あ、はい。なんとか……」
立ち上がると、ボタボタ何やら垂れてきた。
真っ赤なその液体は、どうやら血のようで。
こうして、俺はおでこに傷を負ったのだった。 <>
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage saga<>2018/08/24(金) 21:45:43.80 ID:a6hnrGwy0<> 「たく、弱えー癖に無茶しやがって」
「すみません……」
あまりに情けない回想を終えて、現在。
あの日からずっと、俺は呆れられている。
我ながら、酷い失態だった。格好悪い。
とはいえ、誰だってあんなもんだろう。
なにせ、喧嘩の経験などなかった。
盛大にびびって、おしっこが漏れそうだった。
だからまあ、漏らさなかっただけ、マシだ。
「でもまあ、なんつーか、あの時……」
「えっ? なんですか?」
「ちょっとは、その、嬉しかったというか……」
何やらゴニョゴニョと口ごもる議長。
声が小さ過ぎて、よく聞こえない。
嬉しかったと聞こえたが、何故だろう。
俺の転ぶ姿に喜びを感じたのか。何それ怖い。
「あの、嬉しかったと言うのは……?」
「だ、だからっ! ……チッ。どうやら時間だ」
気になって尋ねると下校のチャイムが鳴った。
やむなく、片付けに入る。雑草を捨てにいく。
すると議長が、俺から手押し車を奪い取って。
「あとはやっとくから、お前は帰れ」
「いや、でも……」
「さっきからお姫様がお待ちかねらしいぜ?」
顎で生徒会室を示す議長。
まさかと思い、校舎を見上げるも。
窓から見えたのは会長の後ろ姿だけだった。
「揶揄わないでくださいよ」
「嘘じゃねーよ。さっき睨まれたし」
「会長が睨んだ? またまたご冗談を」
「うるせぇ! いいからさっさと帰れっ!!」
ヘラヘラしてたら、怒られた。
相変わらず、キレるポイントがわからない。
悪い人ではないのだけど、気難しい人だ。
こうなったら聞く耳を持たないので仕方なく。
後片付けを任せて、その場から立ち去った。 <>
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage saga<>2018/08/24(金) 21:54:42.25 ID:a6hnrGwy0<> 「ただいま戻りました」
「おっ! お疲れ」
「庶務くん、お疲れさま〜」
生徒会室を開けると、そこには美男美女が。
「ねぇ、早く帰ろ?」
「おう。それじゃあ、また明日な」
「バイバーイ、庶務くん」
「はい、お疲れ様でした」
連れ立って帰っていく、お似合いのカップル。
彼らが副会長と書記だ。2人は付き合っている。
イケメンと、美少女。誰もが認める憧れの的。
副会長は背が高く、書記は巨乳。理想的だ。
しかし、どちらも容姿端麗とまではいかない。
本物は、もっとずっと、絶対的に美しかった。
「それじゃあ、俺たちも帰りましょう」
「ん」
部屋に残る役員は、俺を除いてひとりきり。
カタカタとキーボードを打ちながら、生返事。
その眼は真剣そのもので、吸い込まれそうだ。
艶やかな黒髪はセミロングで、ストレート。
書記と比べると些か起伏に欠けた身体つき。
「今、何か失礼なことを考えなかったか?」
「き、気のせいですよ、きっと」
勘の鋭さ示すような、鋭い視線で射抜かれた。
呼吸が出来ない。否、呼吸を忘れてしまう。
容姿端麗とはまさにこのこと。本当に美しい。
この麗人こそが、俺が仕える生徒会長だった。 <>
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage sage<>2018/08/24(金) 22:01:33.64 ID:a6hnrGwy0<> 「時に庶務」
「なんですか?」
「少し雑談に付き合ってくれ」
再びパソコンに視線を戻して。
カタカタとキーボードを打ち続けながら。
会長は顎をしゃくり、座るように促す。
指示通りに、俺は自分の席に着いた。
「君は随分、議長と親しいようじゃないか」
ガダガダとキーボードを打ちつけながら。
会長は、あらぬ疑いを投げかけてきた。
俺が議長と? いやいや、勘違いにも程がある。
「仕事を手伝って貰っていただけですよ」
「ほー? ふーん? 仕事を、ねぇ」
「な、何か問題でも?」
「いや? 別に? しかし、よもや議長が……」
何やら腑に落ちない様子の会長は話題を変更。
「君はあれか? 女にスタイルを求めるのか?」
「はい?」
会長はとても頭が良い人だ。
故に、会話が飛んだり跳ねたりする。
恐らく、脳みその演算速度が速すぎるのだ。
だから、俺にはちょっとついていけない。
「もう少し噛み砕いて貰えませんか?」
「議長や書記は、スタイルがいいだろう?」
「ええ、それがどうしましたか?」
「だから、大きなお胸が好みなのかと思って」
「いえ、あまり意識したことはないです」
「意識不明なのか?」
何故か意識不明の疑いをかけられてしまった。 <>
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage saga<>2018/08/24(金) 22:05:59.23 ID:a6hnrGwy0<> とりあえず、疑惑をひとつずつ潰していく。
「だいたい、書記さんは彼氏持ちですし」
「議長はフリーだぞ?」
「彼女はそもそも色恋には興味ないのでは?」
「いや! 油断は禁物だ! 気をつけろ!」
「は、はい。気をつけます」
どうも、会長は議長が気になる様子。
たしかに、議長は美人でスタイルがいい。
書記には敵わないが、それでも充分だ。
それに比べて、会長はこじんまりとしていて。
「おい、庶務。今、失礼な表現をしたよな?」
「いえ! 俺は別に何も!」
「やれやれ、これだから世の男どもは……」
会長は少々、気に病んでいるらしい。
たしかに、平均よりは下回っている。
それでも俺は、全然気にしない。何故ならば。
「大丈夫! 会長はふとももが魅力的です!」
「ふにゃっ!?」
やっべ。つい、思うがまま口走った。
聞いたことのない悲鳴をあげた、会長。
この人は潔癖だから、不埒な言動は許さない。
たぶん、怒られるだろうなと、思っていた。 <>
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage saga<>2018/08/24(金) 22:09:47.60 ID:a6hnrGwy0<> 「き、君は、私のふとももが好きなのか……?」
良かった。まだ猶予がある。慎重に返答する。
「はい、会長のふとももは最高です!」
「そうか……最高か」
「はい! 噛みつきたくなります!」
「そ、それはダメッ!! まだ早いっ!!」
おっと。このあたりが限界か。引き下がろう。
「そのくらい、魅力的なんです!」
「ほんと?」
「はい! 自信を持ってください!」
「私が1番可愛い?」
「はい! もちろんです!」
「私のふとももが1番?」
「はい! 会長のふとももは宇宙一です!」
「じゃあ、私のお胸は何番?」
ぐっ!? 答えに詰まる。詰まって、しまった。
「庶務、質問に答えて」
「あ、あはは……質問、変えませんか?」
「変えない」
「しかし、みすみす傷つけたくないですし……」
「なんだそれは!? どういう意味だ!?」
やばいやばいやばい。完全にレッドゾーンだ。
「そう言えば、会長!」
「なんだ、藪から棒に」
「胸は揉むと大きくなるらしいですよ!」
ちょっとした冗談のつもりだったの、だが。
「うん、知ってる」
「あ、そうすか」
「毎日自分で揉んでるもん!」
「えっ?」
流石に聞き流せない『揉んだい発言』だった。 <>
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage saga<>2018/08/24(金) 22:14:52.99 ID:a6hnrGwy0<> 「ま、毎日、ですか……?」
「はっ!」
尋ね返すと、ようやく失言に気づいたらしく。
「ち、違う! 今のは、その……言葉の綾で!」
顔を真っ赤にして、必死に弁明する会長。
ここまで取り乱した姿は、初めて見た。
唖然としていると、特大の墓穴が出現した。
「だって胸を揉むと気持ちいいし!」
もう目的がすり替わってると気づいたようで。
「い、いいじゃないか、たまには!」
「いや、さっき、毎日って……」
「うるさいっ! いけないのか!?」
「いえ、大変健康的でよろしいかと」
開き直った会長に思わず指摘すると。
言い訳をすることなく、お認めになられた。
会長のような人も毎日そんなことをするのか。
ついつい、あられもない姿を妄想してしまう。
すると、拍車をかけるように、燃料が追加。
「これは最近発覚したことなのだが、君の名を呼びながら胸を揉むと、捗ることに気づいた」
「えっ?」
「か、勘違いするなよ! たまたま偶然そうだったというだけで、特別な意味はないからな!」
この人は、胸を触りながら、何をしてるのか。
「えっと、捗るというのは……?」
「君の名を呼びながら胸を揉むと、すごく気持ち良いんだ」
「はい?」
「この間なんて、思わずおしっこが漏れたぞ」
思わず耳を疑う。おしっこを漏らした、だと?
「あっ! いや、浴室だったから平気だし!!」
いやいやいや、そういう問題じゃありません。 <>
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage saga<>2018/08/24(金) 22:20:36.56 ID:a6hnrGwy0<> 「湯船に浸かりながら漏らしたんですか?」
「湯船ではしていない! 頼む、信じてくれ!」
若干涙目で懇願する会長は、弱々しくて。
いつもの凛々しさや、強さは見当たらなくて。
なんとなく、嗜虐心を煽られた気がして。
ついつい、意地悪をしてみたくなった。
「うーん……俄かには信じられないですね」
「なっ!? 私を信じられないのか!?」
「そもそも本当におしっこが出たんですか?」
「本当だとも! 盛大に漏らしたとも!」
「それなら、実験してみましょう」
「へっ?」
真偽を確かめるべく、実験内容を伝える。
「ちょっとふとももを齧らせてください」
「ふ、ふとももを!?」
「それで反応を見させて貰います」
俺は調子に乗っていた。それはもう有頂天だ。
何を口にしても許されると、そう思っていた。
しかし、ここに来て会長は冷静さを取り戻し。
「ただ私のふとももを齧りたいだけだろう?」
ズバリ、こちらの目論見を看破されて、狼狽。
「いや、俺は別に、そんなつもりは……」
「変態」
「か、会長にだけは言われたくないです!」
変態呼ばわりにむっとして言い返す。
会長は侮蔑の眼差し。ゾクゾクした。
しばらく睨み合うと、不意に会長が笑って。
「君は本当に、わかりやすいなぁ」
「口答えをして、ごめんなさい」
「ふふっ。まあ、いいさ。許可しよう」
「はい?」
「私のふとももを齧りたいんだろう?」
「いや、でも……」
「いいから、こっちにおいで」
素直に謝ったら、許してくれた。
おいでと言われたので、ほいほい向かう。
我ながらチョロいけれど、不満はなかった。 <>
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage saga<>2018/08/24(金) 22:26:08.40 ID:a6hnrGwy0<> 「ぜ、絶対に下着は見るなよ」
「大丈夫です。見えませんので」
そんなこんなで俺は現在、すごい場所に居る。
お言葉に甘えて、執務机の下に潜り込んだ。
目の前には、会長の下半身。絶景だった。
もちろん、スカートの裾は閉ざされている。
それでも魅惑のふとももに左右から挟まれて。
もう思い残すことはないとさえ、思えた。
「会長、なんだか良い匂いがします」
「ど、どこを嗅いでるんだ!?」
またしても思ったことを口にしてしまった。
怒らせるのは得策ではない。自重せねば。
会長はほっぺを膨らませながら、厳重注意。
「いいか? 不埒な真似は許さんからな」
「はい、肝に銘じておきます」
「ならば、さっさと齧れ」
促されるまま、齧ろうとして、ふと思う。
本当にこのまま、齧って良いのだろうか。
今更怖気付いてしまった。俺の悪い癖だ。
基本的にチキンなので、後先を考えてしまう。
この先、俺と会長は、どうなってしまうのか。
現状に不満がないからこそ、変化が怖かった。
積み上げてきた関係性が、壊れてしまうかも。
そう考えると、今の自分が愚かに思えた。
何がふとももを齧りたいだ。馬鹿か俺は。
きっと会長も内心では呆れているだろう。
軽蔑された可能性が高い。嫌われたかも。
やばい。ちょっと泣きそうになってきた。
「会長」
「ん? どうかしたのか?」
「お願いですから……嫌わないで、ください」
「はあ?」
泣きながら、俺は会長の足に縋り付いた。 <>
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage saga<>2018/08/24(金) 22:30:07.95 ID:a6hnrGwy0<> 「ど、どうしたんだ、庶務!」
「なんか、急に怖くなりまして」
「大丈夫だ。私はお前を嫌ったりしない」
泣きじゃくる俺を見て、慌てて宥める会長。
頭を撫でられて、だんだん落ち着いてきた。
冷静になり、やはり間違っていたと実感する。
こんな馬鹿なことはやめよう。そうしよう。
とりあえず、誠心誠意、会長に謝罪しておく。
「おかしなお願いをして、すみませんでした」
「えっ?」
「やっぱり、こんなことはやめておきます」
「えっ? えっ?」
「失礼しました。すぐに退きますから……」
「お、おい! ちょっと待てっ!?」
会長の足元から退こうとすると。
何故かふとももで顔面を拘束された。
柔らかな感触で理性が飛びかけるも、堪える。
なけなしの自制心を掻き集めて、叫んだ。
「な、何をするんですか!?」
「今更やっぱりなしなんてあんまりだ!」
「でも、俺は会長の為を思って……!」
「余計なお世話だ! いいから早く齧れっ!!」
なんだろう、この人は。
こっちは苦渋の決断をしたというのに。
あまりにも身勝手。あまりにも理不尽。
容姿端麗ならばこんな横暴が許されるのか?
もしかしたら、そうかもしれない。綺麗だし。
いや、しかしそれは、会長の為にはならない。
そうだ、全ては会長の為。教育しなくては。
思えば、今日の会長はちょっとおかしい。
毎日胸を揉んでるなんて、会長らしくない。
大方、副会長と書記に毒されたのだろう。
2人が乳繰り合ってるのを見て、乱心したのだ。
うん。きっとそうに違いない。間違いない。
まったく、本当にあのカップルは困りものだ。
会長の情操教育に悪影響を及ぼしている。
ならば、俺がしっかりせねば。再教育せねば。
「もうどうなっても、知りませんからね」
これも庶務の役目と割り切り、俺は齧った。 <>
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage saga<>2018/08/24(金) 22:39:59.36 ID:a6hnrGwy0<> 「あむっ!」
「ふぁっ!?」
齧った瞬間、会長がびくんと跳ねた。
ちょっと強く噛みすぎたかも知れない。
でも、もう遅い。もう誰にも、止められない。
「がじがじ」
「んんっ……ぁんっ……もう、だめっ!」
時間にして、10秒足らず。それが限界だった。
敏感な会長は、一際大きく痙攣をして。
キュッと内股になった、次の瞬間。
しょわしょわしょわしょわしょわしょわぁ〜。
涼やかな擬音と共に、おしっこを漏らした。
「フハッ!」
なんだ、今の笑い声は? いや、それよりも。
椅子から滴る雫。
ガクガク震える膝小僧。
ふとももに浮かび上がる鳥肌。
何より完全に朱に染まった、会長の照れ顔。
「うぅっ……庶務の、バカ」
子供みたいに口を尖らせて、文句を言われた。
それがまたなんとも可愛く、なんとも愛しい。
ていうか、マジで漏らしたよこの人。嘘だろ。
あの容姿端麗な会長が、おしっこを漏らした。
それを誘発したのは、この俺。庶務の、俺だ。
前代未聞の下克上を果たし、愉悦が溢れ出る。
「フハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
哄笑しながら、俺は悦に浸った。浸りきった。
もう何も考えられない。全てがどうでもいい。
この先どうなろうが知ったことか。今が全て。
時空の連続から孤立したかのような、感覚だ。
視界は暗転して、意識が遠のき、虚空を漂う。
「やあ、待っていたよ、助手くん」
その先で、何故か俺は、天才少女と邂逅した。 <>
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage saga<>2018/08/24(金) 22:48:35.84 ID:a6hnrGwy0<> 「おーい、助手くん? 聞こえてるかい?」
「……あれっ? どうして教授がここに?」
気がつくと、そこは見知った自分の部屋。
おかしい。さっきまで生徒会室に居たのに。
それに、なんで俺の部屋に、教授が居るんだ?
「よーし。とりあえず、成功したようだね」
「成功ってなんのことですか?」
「助手くんの深層心理にハッキングしたのさ」
にやにやと、危険な笑みを浮かべる教授。
まるでマッドサイエンティストみたいな人だ。
しかし、見た目はまだ幼さが残る女の子。
スーパーロングヘアが、床に散らばっている。
特筆すべき点は、素足であること。裸足だ。
教授は生徒会役員の一員で、役職は会計。
彼女は俺を助手くんと呼び、俺は教授と呼ぶ。
いつからそう呼んでいたかは、わからない。
教授は昼休みに会計の仕事をこなしている。
故に放課後は、生徒会室に現れることはない。
しかし俺は授業中などにたびたび会っていた。
基本的に教授は、保健室から俺を呼び出す。
校内放送で呼ばれて向かうといつも寝ている。
起こすと決まって、おんぶをせがまれるのだ。
「いや〜いつも悪いね、助手くん」
そのまま、何度か家まで送ったこともある。
しかし、どんな家だったかは、記憶にない。
あっち、そっちと、指示された通りに進む。
すると、現在位置がわからなくなる。迷子だ。
黄昏時の、マジックアワーで、幻想的な風景。
教授は裸足にクロックスを履いていたのだが。
道中、何度かポロポロ落として俺に拾わせた。
クロックスのカラーは、ショッキングピンク。
「良い色だろう?」
ショッキングピンクが、目に焼き付いている。 <>
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage saga<>2018/08/24(金) 22:56:14.40 ID:a6hnrGwy0<> 「たしか俺は、教授を家まで送って……」
「助手くんはボクを自宅に連れ込んだのさ」
そんな、馬鹿な。いや、そうかも知れない。
「身の程知らずで、申し訳ありません」
「いいよ。気に病むことはない」
寛大な教授は、俺の無礼を許してくれた。
そこで気づく。俺は何故か、正座をしていた。
教授は目の前で椅子に座って足を組んでいる。
組み替えるたびに、スカートが、チラついた。
奥にクロックスと同じ、ショッキングピンク。
「良い色だろう?」
極めて平坦な口調で、同意を求められた。
俺は黙って頷くことしか出来ない。目が痛い。
覗いたことを叱責されたような感覚に陥る。
慌てて目線を下げ、素足のつま先を見つめた。
「なにか、ボクに懺悔することはあるかい?」
いきなり懺悔と言われても、困ってしまう。
「素直に話せばいいだけさ。ありのままをね」
色素の薄い瞳で全てを見透かされた気がした。
「実は、生徒会室で、会長と……」
俺は、先程の会長との出来事を、打ち明けた。 <>
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage saga<>2018/08/24(金) 23:03:11.98 ID:a6hnrGwy0<> 「……と、言うわけでして」
「へぇ〜なるほど。それで懺悔しに来たと」
にやにやしながら、相槌を打つ教授。
改めて、おかしな状況だと思う。
さっきまで生徒会室に居たのに、なんで?
その疑問に対する答えを、教授は示した。
「ボクはね、助手くんの良心なのさ」
「良心?」
「そう。良心の呵責を覚えるとボクが現れる」
「ちょっと意味がわかりません」
「まあ、白昼夢だと思ってくれたまえ」
どうやらこれは、夢らしい。
しかし、妙にリアルな夢だ。
本当に夢なのかと疑っていると。
「どれ、ほっぺをつねってあげよう」
「えっ? 痛い痛い痛いっ!?」
「あははっ! 素晴らしい! 良い反応だ!」
夢なのに、すげー痛かった。なんでだ?
「それはボクが天才だからさ」
その答えを俺は知っていた。
教授は天才少女で、孤高の会計。
たぶん、同じ年齢ではないだろう。幼すぎる。
飛び級して高校に通っていると思われる。
そうした制度が本当にあるかどうかは不明だ。
だが、その制度の稀有な実例が、教授だった。
そんな天才少女はいつも独りで、保健室通い。
優れた頭脳と引き換えに、孤立していた。
誰も彼女を理解することは出来ない。
それはもちろん、俺とて例外ではない。
この幼い少女の考えなど、読めやしない。
「ボクが愉しければ、それでいいのだよ」
どうやら俺は、教授のオモチャらしかった。 <>
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage saga<>2018/08/24(金) 23:05:25.26 ID:a6hnrGwy0<> 「さて、会長が漏らした件についてだけど」
教授はいきなり本題について意見を述べた。
「客観的に見て、異常だよ」
冷笑と共に、教授は俺の罪を咎める。
「人のお漏らしで愉悦を感じてはいけないよ」
静かな口調で諭されると、泣きそうになった。
「助手くんは頭がおかしい。変態だ」
やっぱり、そうだったのか。俺は変態だった。
「良い顔だね」
「……そうですか?」
「ああ、今にも首を吊りそうな目をしている」
にやにやと、愉しげに嗤う教授は、不意に。
「しかし、そう悲観しなくてもいい」
救いの糸を、目の前に垂らしてくれた。
「教授が、俺を助けてくれるんですか?」
「ボクじゃなくて、助手くんの主観がね」
「俺の、主観……?」
「そう、客観ではなく、主観が肝心だ」
そう言って、ぐいっと、教授は身を乗り出す。
鼻先が触れそうな距離に、顔を近づけてきた。
色素の薄い瞳に、俺の間抜け面が映っている。 <>
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage saga<>2018/08/24(金) 23:09:22.91 ID:a6hnrGwy0<> 「客観的なモラルなんてものは、くだらない」
「でも、モラルは大切ですよ?」
「真に大切なのは、主観的なモラルの方さ」
話しながら、至近距離で見つめ合う。
なんだか自問自答しているような感覚だ。
しかし、いい加減離れるべきだろう。
このままではうっかり接触してしまいそうだ。
そう思ったら、両手で顔をぎゅっと挟まれた。
「ボクから逃げられるとでも?」
「そ、そんなつもりは……」
「じゃあ、このまま話そう」
おでこをくっつけながら、教授が続きを話す。
「要するに、価値観の置き場所の問題なんだ」
「価値観の置き場所?」
「うん。それを自分の主観で定めればいい」
さっぱりわからん。ちんぷんかんぷんだ。
「そう言われても、よくわかりません」
「人の価値観に合わせる必要はないってこと」
ああ、なるほど。ようやくわかった。しかし。
「でも、周囲から逸脱してしまいますよ?」
「怖いのかい?」
「ええ、まあ、人並みには……」
「人並みに合わせる必要が、どこにある?」
なんとも教授らしい理屈だ。だが、俺は違う。
「孤立することは、怖いです」
人と違う価値観を持つことは、許さない。
他人に理解されなければ、孤立する。
だって人間は、本能的に群れる生き物だから。 <>
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage saga<>2018/08/24(金) 23:11:30.68 ID:a6hnrGwy0<> 「良い反応だ。いかにも助手くんらしいね」
「俺らしいって、なんですか?」
「平凡で、退屈で、つまらないということだ」
「お気に召さないようで、悪かったですね」
「違うよ。だからこそ、気に入っているのさ」
サンプルとして非常に優秀だと教授は褒めた。
「そんな人間こそ、弄りがいがあるのさ」
ペロリと赤い舌を出して教授は唇を湿らせる。
ちょっと鼻息も荒くて、興奮気味なご様子。
身の危険を感じていると、鼻で嗤われた。
「別に取って食ったりしないよ」
そう言いつつも、邪悪に口角を吊り上げて。
「ちょっとばかし、改造を施すだけさ」
やべーよ、この人。マジで危ない人だよ。
「か、勘弁してくれませんかね……?」
「やだ」
「せめて、お手柔らかに……」
「んー考えとく」
一見無邪気なにっこりスマイルが、怖かった。 <>
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage saga<>2018/08/24(金) 23:15:45.10 ID:MwMFmLtgO<> 「さあ、助手くん。結論を出そう」
にやにや嗤いながら、教授は俺に質問する。
「会長のお漏らしを見て、どう思った?」
「えっと、可愛かったです」
「なら、それでいいんじゃない?」
どうでも良さそうに、教授はそう結論付けた。
「いいんですかね? キモくないですか?」
「えっ? そりゃあ、キモいよ」
「そ、そうですか……ですよね」
グサッときた。思わず打ちひしがれていると。
「でもさ、別にいいじゃん」
またもやどうでも良さそうに、教授は続ける。
「結局は自分の主観が正義なんだよ」
「他人にとっては悪でも?」
「所詮、絶対的な正義なんて存在しないのさ」
それについては、なんとなくわかる。
子供じゃあるまいし、俺はもう高校生だ。
正義とは相対的なもので、絶対的ではない。
無論、悪も同じく、絶対的なものではない。
その拠り所は結局、自分の主観にある。
他人にとっては悪でも、自分にとっては正義。
それが当たり前で、そうでなくては不自然だ。
だけど、それでも。
「……会長は絶対的に、容姿端麗ですけどね」
あの人だけは、絶対的な存在だと信じていた。 <>
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage saga<>2018/08/24(金) 23:20:32.52 ID:a6hnrGwy0<> すみません!
Wi-Fiの調子が悪く、IDが変わってしまいました。
内容に変更はありませんので、お気になさらずに。
それでは以下、続きです。 <>
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2018/08/24(金) 23:22:49.51 ID:a6hnrGwy0<> 「それもまた、助手くんの主観に過ぎない」
そうなのだろうか。だとしても、別に良いさ。
「俺は自分の価値観を信じるだけです」
「ちぇっ……妬けちゃうなぁ」
何故か教授はヤキモチを焼きながら、愚痴る。
「だいたい、深層心理も付箋だらけだし……」
見ると、部屋中会長直筆の付箋だらけだった。
「ベタベタあちこち貼り付いて取れやしない」
不貞腐れた様子の教授は、また顔を近づけて。
「結論が出たなら、さっさと行きたまえ」
「行くって、どこへ?」
「現実世界に決まってるだろう?」
目の前で、パンッ! と、手を打ち鳴らす教授。
「ほら、夢の時間は終わりだよ」
「教授、ありがとうございました」
「ふんっ。ボクは敵に塩を送っただけさ」
意識が遠のいて、暗転する間際、鼻が当たる。
「だからこれは、会長への当てつけさ」
唇に、柔らかなものが触れたような気がした。 <>
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage saga<>2018/08/24(金) 23:27:57.99 ID:a6hnrGwy0<> 「うぅっ……ぐすんっ」
「あれ? 会長、どうして泣いてるんですか?」
夢から覚めて、現実に帰還。
時間はさほど経っていないようだ。
随分長い夢だった気がするが、記憶が曖昧だ。
それでも不思議と憑き物が落ちたような感覚。
悩みから解放されて、清々しい気分だった。
とはいえ、浮かれている場合じゃない。
夢から覚めると、目の前で会長が泣いていた。
「目にゴミでも入ったんですか?」
「そ、そんなわけあるかっ!」
「じゃあ、どうしたんですか?」
「き、君に……嫌われたかと、思って」
ああ、なるほど。ようやく状況がわかった。
あれだけ盛大に漏らしたのだから、当然だ。
どうやら会長も、俺と同じく不安だったのだ。
他人と価値観を共有出来ないのは辛いことだ。
思わず涙が出てしまう気持ちも、よくわかる。
俺は会長の涙と共に、その不安を拭った。
「大丈夫ですよ。何も心配はいりません」
「き、嫌わない、のか……?」
「ええ、もちろん。嫌いになんてなりません」
「ほ、本当か……?」
「はい。とっても可愛かったですし」
心配は杞憂だと微笑むと、会長は頬を染めて。
「か、可愛いとか、言うなっ!」
「今日の会長はまるで子供みたいですね」
「うるさいっ! 笑うな!!」
ぷいっと、顔を逸らすその仕草がおかしくて。
思わず腹を抱えて笑うと、怒られた。
今日は会長の色々な一面が見れて、幸せだ。 <>
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage saga<>2018/08/24(金) 23:34:07.59 ID:a6hnrGwy0<> 「もう平気ですか?」
「うん、ありがと」
「では、少々お待ちください」
会長が落ち着くのを待ち、後片付けを開始。
素早く廊下で体操着を脱いで制服に着替えた。
そして脱いだハーフパンツを、会長に手渡す。
「とりあえず、俺の体操着を貸しますね」
脱ぎたてだが、この際我慢して貰おう。
「ん。すまん、恩に着る」
「いえ、お気になさらずに」
「ちゃんと洗って返すから、安心してくれ」
「いえ、そのままで結構ですから」
「必ず! 洗って! 返すからなっ!!」
漏らした会長は直にハーフパンツを穿く。
無論、ノーパンで。洗って欲しくなかった。
とはいえ、それを議論している暇はない。
部屋の隅で着替える会長をよそに、床を拭く。
「絶対にこっちを見るなよ?」
念を押すくらいなら俺を追い出せばいいのに。
「いいからさっさと着替えてください」
「なんだその態度は!? 興味ないのか!?」
「なんですか、覗かれたいんですか?」
「バカ! エッチ! スケベ! 変態!」
どうしろってんだよ。嘆息しながら床を拭く。
煩悩を捨て去り、無心でおしっこを拭き取る。
人の尿なのに全然嫌じゃないのが、不思議だ。 <>
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage saga<>2018/08/24(金) 23:37:37.41 ID:a6hnrGwy0<> 「着替えた」
「よくお似合いですよ」
「そ、そうかな……えへへ」
世辞を言うと、テレテレ。かわいい。
とはいえ、正直言って変な格好だ。
上は制服で、下はハーパン。かなりダサい。
それでも会長は変わることなく、美しかった。
絶対的な存在は服装に左右されないのである。
「こっちも掃除が終わりました」
「ん。ご苦労」
部屋の掃除は完璧だ。痕跡は全て消した。
「それじゃあ、今度こそ帰りましょう」
「ああ、その前に」
帰宅を促すと、 待ったをかけられた。
「時に庶務」
「はい、なんですか?」
「付箋が体操着のポケットに入っていたぞ」
やば。後生大事に仕舞った付箋が見つかった。
「よもや、持って帰るつもりだったのか?」
「まあ、捨てるのも忍びなくて……」
「おかしな奴だな」
くすくす笑われて、顔から火が出そうだ。 <>
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage saga<>2018/08/24(金) 23:49:05.37 ID:a6hnrGwy0<> 「そもそも付箋のメッセージは君の芸だろう」
ひらひら付箋を振りながら、昔話をする会長。
「あれは1年の頃だったか?」
「……気づいていたんですか?」
「当たり前だ。君はわかりやすいからな」
まさか、気づかれていたとは。
1年の時、俺は会長と同じクラスだった。
会長はまだ生徒会長ではなく、学級委員長。
面倒な仕事を押し付けられて、気の毒だった。
何か手助けをしたくて、こっそり手伝った。
その際、一度だけ付箋にメッセージを添えた。
「内容は『いつもありがとう』、だったか?」
それは奇しくも、同じ内容。絶対狙ってる。
「こちらこそ、ありがとう。嬉しかったよ」
「……左様でございますか」
「ああ。だからこそ、君を庶務に抜擢した」
なるほどな。道理でおかしいと思ったよ。
「手伝わせてくれて、ありがとうございます」
「こちらこそ、手伝ってくれて、ありがとう」
精一杯の虚勢を張った俺に対して。
会長は満面の笑みでそう答えた。ずるい。
口頭で感謝をされると、気恥ずかしい。
やはり、会長には敵わないなと思いつつも。
同時に、ちょっとだけ親近感が湧いた。
この人も俺と似たようなことをしている。
意外と子供っぽくて、わがままな一面もある。
存外、高嶺の花では、ないのかも知れない。
今はまだ、恥ずかしくて顔も見れないけれど。
いつか、面と向かって直接、想いを告げよう。
俺は貴女のことが好きだと真っ直ぐ伝えよう。
いや、そんな度胸はないから、付箋を使おう。
たぶん、この人ならば、呆れつつも、きっと。
笑って、受け取ってくれる、そんな気がした。
【会長から庶務宛ての付箋の伏線】
FIN <>
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2018/08/25(土) 01:24:04.16 ID:4GphzWADO<> 病み議長のストーリーも書くべき <>
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2018/08/25(土) 07:42:05.00 ID:JbvUhD8Do<> 議長途中まで男かと思ってたわ <>