◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/06/30(火) 23:40:22.96 ID:usvCEay50<>
――6月30日 23時40分
――事務所
ガチャッ バタン
モバP(以下P)「ふぅー……」
速水奏「おかえりなさい」
P「あっ……ああ、ただいま。誰も残ってないか?」
奏「そうね。ちひろさんが最後まで残っていたけれど……私がこんな時間までいるとは思っていなかったみたい」
P「そりゃまぁ、そうだろうな。……悪い、待たせた」
奏「大丈夫。まだ日付変わってないわ」
P「そうだけど、準備とかいろいろしてたらいつのまにか、なんてことも」
奏「そうかもね。でも、もう大丈夫」
P「うん?」
奏「こうやって、一番最初に祝ってくれる人が来たんだから」
P「あ、ああ……そうか」
奏「ふふ」
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<>速水奏「月の丘の裏側まで」
◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/06/30(火) 23:43:03.71 ID:usvCEay50<>
P「とりあえず、さっと準備しちゃおうか」
奏「ええ、よろしくね」
P「そっちはもう?」
奏「食べ物は軽く用意したわ。……封開けただけだけど、おつまみになるかしら?」
P「ああ、うん、大丈夫」
奏「この時間だから、私は少しにしておくわね」
P「そうだな…… ま、一日くらいいいんじゃないか」
奏「あら、悪い人」
P「はは…… はい、こっちは飲み物」
ガサガサ ゴト
奏「ありがとう。こればかりは、用意するわけにいかなかったのよね」
P「それを言ったら、本来この場を俺が用意するべきだったろうけど」
奏「仕事がある以上は、ね。大丈夫よ、私がお願いしたことなんだし」
<>
◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/06/30(火) 23:46:02.93 ID:usvCEay50<>
P「本当にこんなんで良かったのか……ってのも野暮なんだけどさ」
奏「そうね、いまさら。日付が変わった時に一緒にいてほしい、なんて素敵だと思わない?」
P「まぁ……事務所でやるべきことではないかも」
奏「じゃあ、Pさんの家に入れてくれた?」
P「そこなんだよなぁ……外泊して、なんてもっとマズいし」
奏「ふふふ…… あ、買ってきたの、見ていい?」
P「ああ。とりあえずで見繕ってきたけど……まぁ、余ったら持って帰るよ」
ガサッ ゴトゴト
奏「ふぅん…… じゃあ最初は、Pさんが選んでくれる?」
P「ああ、いいよ。……ここら辺か」コト
奏「じゃあこれで。Pさんはビール?」
P「ああ、そうしよう」ガサガサ
奏「グラスはいる?」
P「いやいい。洗い物とか増やさずに、さっと片付けられるようにしとこう」
奏「証拠隠滅ってわけね」
P「言い得て妙な。……あ、最近、推理ものでも観てるのか?」
奏「! ……むぅ……」
P「はははっ」
<>
◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/06/30(火) 23:48:20.90 ID:usvCEay50<>
P「ソファでいいよな」ギシ
奏「ええ」ギッ
P「あー……普通に横ですか」
奏「ええ。普通に、隣」
P「まぁ、今日は何も言わない。……とはいえ、こんな時間からで明日大丈夫か?」
奏「それを言うならPさんもだと思うけれど?」
P「俺は明日は午前休とっといたよ。実際、夕方からの打ち合わせくらいだし」
奏「そうね。私も明日講義があるけど……ふふ、アイドルって言い訳、本当に便利」
P「おいおい、悪用はしないでくれよ……」
奏「1回くらいいいでしょう。それも、今日くらいは」
P「悪い大人になりそうだな」
奏「誰のせいかしらね」
P「えー…… うーん、責任がなくはない、のか……?」
奏「あまり真剣に考えられても……だって仕方がないじゃない?」
P「ん?」
奏「プロデューサーさんと午前様できるなんて、なかなかできないもの」
P「それ言って炎上するの奏だけじゃないんだからな」
奏「はぁい」
<>
◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/06/30(火) 23:51:50.12 ID:usvCEay50<>
P「そういや、もう今日届いているプレゼントあったぞ」
奏「あら。せっかちさん」
P「一日前後くらいは仕方ないよ。一応中身さらっと確認しておくな」
奏「ええ。あー……明日はちょっと事務所には寄れないから、家に送ってくれた方がありがたいかも」
P「OK。明日は何か予定が?」
奏「パーティー開いてくれるんですって」
P「おー。呼ばれてない」
奏「ふふっ、欲張りね」
奏「でも行きたい? 主催は楓さん」
P「あー……」
奏「LiPPSの面々と、美波と伊吹と……加蓮はどうだったかな」
P「うん、よしておく。それにしても、ファンが悲鳴あげそうな面子だな」
奏「ふふふ……写真くらいはアップしておくわ」
<>
◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/06/30(火) 23:54:13.13 ID:usvCEay50<>
奏「こうやって祝ってくれる同僚や友人がいる」
奏「素敵な道を用意してもらって、着飾って、歌って、踊って」
奏「そして、あなたの時間を独り占めして。贅沢よね」
P「俺の時間はともかく。まぁなんだ、薔薇色の人生、なんていうと陳腐かもしれないけど」
奏「そうね。……でも、色を付けるなら薔薇色じゃ足りない」
P「ん?」
奏「目の眩むような白も、燃えるような赤も、深い蒼も、愛らしいピンク色だって」
奏「私の人生は虹色でも足りないものになっていくと思うの」
P「……欲張りだな」
奏「ううん。きっと、誰もがそう」
奏「視方を変えれば、目に映る、耳で聴ける全てのものが自分を形作るんだって気付けば。それは、すべてを自分のものにできることと同じなのよ」
奏「私はその経験を、この小さな身体の全てで、少しだけ世界に還しているだけ」
P「ああ」
奏「だからね」
奏「ようやく私、あの頃の自分が許せそう」
P「あの頃…… ああ、あの頃か」
奏「ええ…… あなたと、出会った頃」
<>
◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/06/30(火) 23:58:05.05 ID:usvCEay50<>
――6月30日 23時58分
奏「Pさん」
P「ん?」
奏「私、今日ここでこうやって誕生日を迎えられたことが、とても幸せだなって思ってる」
P「幸せ?」
奏「私に、アイドルという道を教えてくれた人に、こうやって我がままを聞いてもらって」
奏「いままで見守ってもらって。……感謝しているわ」
P「……」
奏「ふふ……感動させちゃった?」
P「……やっぱり、グラス出すか」
奏「え?」
P「せっかくの乾杯を、缶のままでやっちゃうのはもったいないかなって」
ギシッ
奏「こだわりかなんか?」
P「速水奏のプロデュースに、手間を惜しむことはないってだけだよ」
奏「……」
<>
◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/06/30(火) 23:59:51.12 ID:usvCEay50<>
カチャ
P「よっと、まだ間に合うかな」
奏「ふふ、本当に日付変わりそう」
P「あぶなかった。じゃあ、注ぐのは日付変わってからで」
奏「そうしましょう。……あと5秒」
P「4」
奏「3」
奏「……」指2本
P「……」指1本
カチ
奏「……」
P「誕生日おめでとう、奏」
奏「ありがとう。Pさん」
P「……」
奏「……ぷふっ、なんでキュー出しなのよ!」
P「ははは、言わずに指出したの奏の方じゃないか!」
奏「一番聞き慣れてるカウントだったからかしら」
P「職業病じゃあ仕方ない、ははは」
<>
◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/07/01(水) 00:01:06.94 ID:MCtThbec0<>
P「あー笑った…… じゃあ、早速飲むか」
カシュッ
奏「ええ」
プシュッ
P「ほら、グラスもって」
奏「はい」
トトト… シュワシュワ
奏「それでは、私も」
P「貰おう」
トトトト… シュワワワ…
P「それじゃぁ」
奏「ええ」
P「20歳を祝して」
奏「乾杯」
P「乾杯」
チン
<>
◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/07/01(水) 00:05:13.09 ID:MCtThbec0<>
ゴク ゴクッ
P「……はぁー! 染みる」
奏「ふぅん。アルコールの匂いはあるけど……ジュースみたい」
P「さすがに飲みやすいの選んだからな」
奏「そうね。他にはどんなのがあるの?」
P「うーんと、果実酒として梅酒、王道の日本酒、あと蒸留酒枠でブランデー」
奏「いろいろあるわね」
P「持って帰るつもりで買ってきたからな。この場で全部飲む気はないよ」
奏「好きなのが試せるってわけ」
P「あとはバーでカクテルとか飲んでみるといいかもな」
奏「それは素敵そうね」
P「……」ジー
奏「なに?」
P「いやぁ。バーとか似合いすぎだろと思って」
奏「ようやく、外見に年齢が追いついてくれたのかしら」
P「雰囲気はまだまだかな」
奏「それって褒めてる?」
P「たぶん」
奏「なにそれ。ふふっ」
<>
◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/07/01(水) 00:10:04.93 ID:MCtThbec0<>
奏「ビールってどんな味?」
P「はい」コン
奏「あら、缶に直接口つけさせるの?」
P「……はい」コト
奏「素直でよろしい」
P「前からからかわれてばかりだったけど、もう最近は勝てる気がしないな」
奏「なら、敗けちゃう?」
P「……もう少し頑張ります」
奏「よかった」
ゴクッ
奏「……苦い」
P「舌で味わうと苦いよ」
奏「これはしばらく、慣れそうにないわね」
P「ああ。無理して飲めばすぐ慣れるけど、酒は無理するもんじゃない」
奏「ふぅ…… 少し、暖かくなってきたかも」
P「奏のそのチューハイもビールも、身体冷やす方の酒だから、あまり薄着になるなよ」
奏「ふぅん」
<>
◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/07/01(水) 00:16:57.69 ID:MCtThbec0<>
P「しかし、速水奏がビール飲んでるとこを見られるとはな」
奏「お望みならいつだって…… うーん、でもビールじゃ色気ないかしら」
P「ジョッキで口に白ひげつけてぷはーって」
奏「……想像できる?」
P「しないようにしておく」
奏「ふふっ」
P「それが似合うのはそれで、魅力なんだろうけど」
奏「そうね。無理して追わないようにするわ」
P「……大人になったよな」
奏「無理をしないってことが?」
P「ムキにならないことが」
奏「それは……ふふ、そうね。いつまでも子どもじゃないもの」
奏「でも、いまでも大人になれた気はしないわ」
P「ああ。そんなもんだ。立派な大人かどうかなんて、自分でわかる人間は少ないよ」
奏「真面目にやっているだけじゃ大人にはならないのかしら」
P「ならないさ」
<>
◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/07/01(水) 00:24:27.36 ID:MCtThbec0<>
奏「……」
ゴクッ
奏「ふぅ……」
奏「……真面目で、優等生なフリして。でも、実際真面目で優等生から抜けきれなくて」
奏「アイドルだって同じ気持ちだった」
奏「ヤケで始めたことだけど……子どものお遊びだなんて言われたくなくて」
奏「それで、華やかな世界に触れて、この世界での生き方を探って」
奏「全部……そう、私の全部。自分の為のようでいて、もしかしたら私じゃない人のためにやってきたのかも」
P「……ファンのため?」
奏「そう、ね。自分の為だけなら、ここまでは来られなかったと思うもの」
P「そうかもな」
奏「……分かってる?」
P「うん?」
奏「Pさんも、そのファンの一人なんでしょう」
P「え? あー」
奏「ふふ……少しはあなたの期待に応えられた?」
P「期待以上だったよ、いつだって」
奏「そう」
奏「なら、よかったのかも」ゴク…
<>
◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/07/01(水) 00:31:44.46 ID:MCtThbec0<>
奏「あなたの期待に応えられるアイドルになれたんだから……次は、Pさんの隣で笑えるくらいの、大人になりたいな」
P「それは、多分良い大人じゃないな」
奏「それじゃあ、良い大人じゃなくていい」
P「おいおい」
奏「仕方ないわ。悪い人、だもの。Pさん」
P「はは、なら仕方ないか」
奏「ふふふ…… ……んー」
P「どうした?」
奏「少し、回ってきたかも」
P「あんまり強くはなさそうだな」
奏「味は嫌いじゃないと思うよ」
P「なら、嗜むくらいにしておくといい」
奏「はぁい。……悪い人って言ったらね」
P「ん?」
奏「いつか楓さんとフランス行ったじゃない、映画の撮影で。これはもう時効だと思うけど……あのひと、昼間からお酒飲んでて」
P「……あの人は……」
奏「私も、一杯までなんて言って手綱握っているかと思っていたんだけど」
P「あの頃の奏にどうにかできる相手じゃなかっただろ」
奏「私もそう思う。うふふっ」
P「ははは……」
<>
◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/07/01(水) 00:32:31.05 ID:MCtThbec0<>
奏「どうしようもない人、なんて思って呆れたこともあったのだけど」
奏「いま思えば、握った手綱の下でおとなしくしてくれていたんでしょうね」
奏「あの頃の楓さんに、あと5年たっても追いつけるか分からないわ」
グイ ゴクッ ゴク
P「お、おい一気に飲むなよ」
奏「……ふぅっ……」
奏「……勝手に憧れて、勝手に絶望して」
奏「自分の想いだけを募らせるのがこんなにも危険だなんて、教えてくれた」
奏「ま、あの人が意図していたかは分からないけど」
P「8歳差だろ。大きな差だよな」
奏「そうねぇ…… ところでPさんとは何歳の差だったかしら」
P「お……そこで引き合いに出されるとは」
奏「おかしいわ、仕事ではともかく、Pさんには何故か追い付けそうな気がするの」
P「まぁ、余り成長してないってことだな、はは」
奏「たぶん違う、でしょ」
P「……」
<>
◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/07/01(水) 00:34:03.17 ID:MCtThbec0<>
――7月1日 0時34分
奏「たぶんだけど……」
奏「……私を……」
奏「……いえ、あなたのために言わないでおくわ」
P「じゃあ、そうしてくれ」
奏「ん…… ふぅ」
コト
P「カラか」
奏「ええ」
P「じゃあ別の出すか。梅酒なんかは飲みやすいと思うよ」
奏「あと日本酒とブランデーだったわね。どっちがいいかしら」
P「度数は日本酒の方が低いな。まぁ、ブランデーも飲み方次第だし」
奏「……ちょっと強いの、試してみたいかも」
P「じゃ、こっちだ。グラス貸して。氷いれてくる」
奏「はい」
<>
◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/07/01(水) 00:37:10.81 ID:MCtThbec0<>
カラン
P「じゃあ今日は指一本分だけ」
トクトク…
奏「それだけ?」
P「ゴクゴク飲むお酒じゃない。アルコールもさっきのより多いんだから」
P「一気に飲むんじゃなくて、ちびちびとじっくり飲む感じで」
奏「なかなか優雅なお酒ね」
P「もし気にいったら、氷無しで飲んでみるといい。そっちの方が香りが強い」
奏「へぇ…… これに合うのは?」
P「好みだけど……ナッツとかドライフルーツとか。チョコレートなんかも合うな」
奏「ああ、お菓子作りにも使うものね」クイ
奏「……んっ、んくっ」ゴク
奏「はぁ……喉があったかい……」
P「はは。もっとゆっくりでいい」
奏「うん」
<>
◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/07/01(水) 00:40:03.29 ID:MCtThbec0<>
P「顔、少し赤くなってる」
奏「あら、本当?」
P「奏は先に耳に出るけど」
奏「……まぁ、自覚はしてるわ」
P「意外という訳じゃないけど、本当にいままで飲んだことないのか」
奏「ええ、ちゃんと未成年していたもの」
奏「念のため言っておくけど、周りもきちんとしていたわよ。いまでも集まるときは、私と美嘉はお酒無し。……プライベートまでは分からないけど」
P「宅飲みとかやってるんだな。どうだ、他は」
奏「うーんと……周子はすこーし赤くなるけど、かなり飲むタイプ。フレデリカは顔色も変わらず飲むわね」
奏「志希は弱いのよ。次の日はケロッとしてるけど。……美嘉と飲めるのは楽しみね」
P「じゃあ次は、美嘉の誕生日待ちか」
奏「そうね」
<>
◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/07/01(水) 00:42:05.51 ID:MCtThbec0<>
奏「……」
P「……」
奏「ああ」
奏「いいわ、この時間」
P「うん?」
奏「時間がゆっくり流れている」
P「……ああ」
ゴク ゴク
P「ふーっ、せっかく開けたんだし、俺もブランデー飲むか」
奏「ん」
コト
P「いや、グラス洗ってくるし」
奏「いいでしょ、ここに足せば。同じよ」
P「……同じか……?」
奏「わからない。ふふふ」
P「酔ってきてんな」
<>
◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/07/01(水) 00:44:09.59 ID:MCtThbec0<>
奏「ほら、よく見て」
奏「グラスに、リップの跡ついてる」
P「……」
奏「私は、ここにしか口を付けないけど」
奏「Pさんはどこにするのかしらね」
P「……はぁ」スッ
クイッ
P「……」ゴクッ
コト
P「ふぅ」
奏「チビチビ飲むものじゃなかったの?」
P「次の一杯はそうしたいね」
<>
◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/07/01(水) 00:46:02.49 ID:MCtThbec0<>
トクトク… カラン
奏「リップの跡の、ちょっと隣、か。ふぅん」
P「ちょっと隣で十分だ」
奏「そうね。そうかも」クイッ
コト
P「……」
奏「どうしたの?」
P「似合ってるな、と」
奏「ありがとう。ふふ、そんな仕事も良さそうね」
P「確かにだいぶアリだ」
奏「似合っているってことは、私が飲む仕種に魅入っていたってことかしら」
P「……さぁ」
奏「ふふふ……」
P「……なんだよ」
奏「これでも、ちょっとはアイドルやってるのよ。私が他人からどう見えているか、分からないわけじゃないわ」
P「というと?」
奏「あなたを惹き付けたのは、私の仕草や雰囲気じゃない」
奏「もっと具体的な場所」
<>
◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/07/01(水) 00:48:02.72 ID:MCtThbec0<>
――7月1日 0時48分
奏「魅入ってたのは……ここかしら?」
スッ
奏「ね。ルージュを薄くひいた唇を少しだけつき出して」
奏「眼を閉じて少し上を向けば、それだけで」
奏「どう?」
P「……」
P(幾度となく)
P(幾度となくその顔を見せておきながら、一度だって成功したことのない、誘惑)
P(俺の方からするなんてことは無く)
P(そして、奏からくることもない)
奏「まだ、してこないの?」
P「……まぁ、いつも通りだよ」
奏「じゃあ」
ギシッ
奏「私からしちゃうわよ」
P「……」
奏「……」
P(いくら奏の顔が目の前にあっても)
P(この先は、彼女からくることはない)
奏「……」
ギッ
P(はずだった)
<>
◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/07/01(水) 00:49:04.10 ID:MCtThbec0<>
――7月1日 0時49分
P「……」
奏「……ん……」
P「は……奏……」
奏「ふふ、ふふっ……」
P「……酔ってるな」
奏「酔ってるかも」
P「そうか……」
奏「お酒じゃない……なんて言ったら?」
P「……」
奏「いかが?」
P「……気は済んだか?」
奏「つれないわねぇ……ああ、でも、ふふっ」
P「?」
奏「嬉しい」
P「その……コレが?」
奏「ううん、キスじゃない」
奏「ようやくあなたを、裏切れた」
<>
◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/07/01(水) 00:50:02.97 ID:MCtThbec0<>
P「……」
奏「期待通り、いいえ、期待以上の成果を出してきたんでしょう?」
奏「期待外れなんてさせたことのない私が、ついにあなたに応えなかった……どう? 感想は」
P「……不思議な気分だ」
奏「どうして?」
P「……」
P「奏を……見くびっていたのか、信じていたのか、自分でもわからないけど」
P「……もしそんなことがあるとしたら、俺の方からするんじゃないかって……考えたことくらいあったよ」
奏「……」
P「俺自身でも、どこまで本気か分からなかったけど…… ……そうか……」
奏「……?」
P「もう一度、いいか?」
奏「え?」
P「今度は俺からしたい」
<>
◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/07/01(水) 00:51:07.71 ID:MCtThbec0<>
奏「えっ」
P「ダメか?」
奏「いえ、そうじゃなくて……ちょっと想定してなかっただけ……」
P「……奏」パシッ
奏「あ……Pさん、う、腕……」
ギシッ
P「耳まで赤いのは……酒のせいだな」サラ…
奏「……そうかも……耳、さわっちゃだめ……」
P「……」
奏「うん……」
P「……ん」
奏「ふ……」
P「……」ヌル
奏「! ……は、あっ……んっ……」
<>
◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/07/01(水) 00:52:02.95 ID:MCtThbec0<>
――7月1日 0時52分
奏「…………はっ、は……」
P「……ふ…… ん……」
奏「ぷは…… はぁ……」
P「……」
奏「…………こんなの……知らない」
P「すまん、やりすぎた」
奏「もう…… ……謝らなくていいわ」
奏「謝らなくていいけど……ねぇ、どうするの?」
P「どうするって……」
奏「まさか、酔った勢いだった、で終わらせる気?」
P「そんなことは…… したら楽かもしれないけど」
<>
◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/07/01(水) 00:54:02.19 ID:MCtThbec0<>
奏「答えてくれる、のよね?」
奏「私はあなたに……Pさんが好き、って伝えたの」
奏「1度だけじゃないって、思ってる」
P「……ああ、そうだな」
奏「立場だって、歳の差だって……燃え上がらせる障害でしかなかった」
P「はは…… 物好き」
奏「誰のせい?」
P「やっぱり俺に責任があるのか?」
奏「そう。だから」
奏「……どんな答えでもいい。ただ、答えてほしいの」
P「……」
<>
◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/07/01(水) 00:55:49.05 ID:MCtThbec0<>
P「出合ってから3年か」
奏「……」
P「……答える……って言うのかな、これは」
ゴソ…
P「酔った勢いなる前に、渡しておくよ」
奏「……誕生日のプレゼント?」
P「いや……」
P「……最後まで悩んだし、いまでも悩んでる」
P「ただ、いま渡さないと、次いつ渡せるか分からないって思ったんで」
奏「?」
P「奏がそういう、もの好きなら……俺も同じだ」
P「ただ、受け取るかどうかは、奏が答える番になるけど」
奏「なに……?」
P「……」
カパ
奏「……!」
P「悪い、待たせた」
<>
◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/07/01(水) 00:57:03.30 ID:MCtThbec0<>
奏「……これ……」
P「……俺も、ただ待っていたわけじゃない」
P「17歳から3年間って青春をアイドルに……自惚れじゃなきゃ、俺に捧げてくれた」
P「なら、それに応えなきゃいけない時期に来たんじゃないかって、勝手に思ってただけで」
P「……いますぐじゃなくていい。そんなことも無理だし」
P「それでも、奏がいつか、アイドルをやめた後に」
P「……い」
奏「……」
P「……」
奏「……」
P「一番近くにいて欲しい」
<>
◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/07/01(水) 00:58:03.91 ID:MCtThbec0<>
P「……」
奏「……」
バッ
P「わっ」
ギュゥッ
奏「……」
P「……」
奏「…………」
P「…………」
奏「はい……!」
<>
◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/07/01(水) 00:59:32.15 ID:MCtThbec0<>
P「……」ブルッ
奏「Pさん……?」
P「……さすがに緊張した……」
奏「これを受けられなかったら、何もかも嘘よ」
P「これに関しては、奏が悪い」
奏「あら、やり返されちゃった」
P「得意だろ、嘘」
奏「そうかもね……可愛い嘘つきになら、なってあげる」
P「なんだよそれ。ははは……」
<>
◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/07/01(水) 01:01:03.18 ID:MCtThbec0<>
奏「……私、さっきPさんには追いつけそうって言ったじゃない?」
P「え? ああ」
奏「たぶん……私があなたに追いついたんじゃない」
奏「それまで待ってくれたのは、Pさんの方だったわ」
P「……はぁ……言わないでいてくれるんじゃなかったのか?」
奏「ね?」
P「うん?」
奏「可愛い嘘つきって言うのはこういうことよ」
奏「真剣な男性の告白を無下にしたりすることじゃないわ」
P「そうか…… ……嬉しいよ」
<>
◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/07/01(水) 01:02:31.28 ID:MCtThbec0<>
奏「ねぇ」
P「? ああ……」
奏「……ん」
P「……」
奏「ふ…… ……キスって、気持ちいいのね」
P「ああ……」
奏「唇って、性感帯なんだって」
P「……そうか」
奏「ん……」
P「……ふ」
<>
◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/07/01(水) 01:04:02.02 ID:MCtThbec0<>
――7月1日 1時4分
奏「ねぇ、Pさん」
P「ん?」
奏「貰っていいのよね」
P「ああ……付けていいか?」
奏「ええ」スッ
P「……なんか緊張するな」
奏「私もよ」
P「そうか……」
P「なら良かった」
キュッ
奏「……綺麗ね」
P「ああ」
奏「んー?」
P「……どっちのことだろうな」
奏「もうっ」
<>
◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/07/01(水) 01:04:58.01 ID:MCtThbec0<>
奏「これを付けて人前に出ることは、いつになるかしら」
P「いつにしたい?」
奏「うーん…… ……しばらくは、いい」
奏「あなたにここまで応えてもらった。次は私が付き合うわ」
奏「あなたがいけると思う速水奏を……好きなだけプロデュースして」
P「ああ……分かった」
P「……しばらくはバレないようにしないといけないんだよなぁ」
奏「大丈夫よ。匂わせたりはしないから」
P「徹底的に頼む」
奏「声を掛けてくる男性を断るのも、心苦しいわね」
P「嘘つけ」
奏「ふふ……興味ない男性からいくら言われてもね。お互いのためと思って、いままで通りきっぱり断らせて貰うわ」
P「あと根回しする範囲を……他に同じような境遇のアイドルいないかな」
奏「それ、噂が漏れてきてちゃダメなやつじゃない?」
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◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/07/01(水) 01:05:24.64 ID:MCtThbec0<>
P「基本的にスケジュール調整とかはしないだろうけど……そうだな、少しは会えるタイミングを……」
奏「ふふふ……」
P「なんだ?」
奏「なんだか、悪巧みしてるみたい」
P「そうだな」
奏「悪い大人になったのかしら?」
P「勘弁……結局引き込んだの俺かぁ」
奏「自覚はあるのね」
P「悪い大人なんだろ」
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◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/07/01(水) 01:05:50.22 ID:MCtThbec0<>
奏「じゃあ、良い大人にしてくれる?」
P「そっちの方が難しいよなぁ」
奏「じゃなかったら」
P「……?」
奏「……大人にして?」
P「んっ、ごほっ……!」
奏「ふふ、ふふふっ」
P「お前な……」
奏「ないとおもっていた?」
P「……」
奏「私の気持ちを知って、それであなたも応えてくれた」
奏「今日以上のタイミングがあるかしら」
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◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/07/01(水) 01:06:39.46 ID:MCtThbec0<>
P「…………」
奏「悩んでる?」
P「どうしたら一番リスク低いか考えてる」
奏「ふふっ……このまま家に連れて帰ってくれるの?」
P「どうしような。車は乗れないし」
P「タクシー捕まえて……いや、ここら辺なら大丈夫か」ポチポチ
奏「?」
P「ああ、いっぱいある」
奏「月の丘の裏側、ということかしら」
P「……まぁ、そういう事」
クイッ ゴクッ
奏「……結構残ってたと思うけど」
P「申し訳ないけど、ちょっとシラフでできることじゃないんで」
奏「ふぅん、大した職業意識ですこと」
P「奏に言われたくはない」
奏「うふふっ、たしかに」
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◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/07/01(水) 01:07:05.88 ID:MCtThbec0<>
奏「片づけたら……出ましょうか」
P「ああ」
カタカタ カチャ ジャー…
P「酒瓶は……デスクの下に隠しておくか」
P「つまみも冷蔵庫いれて……あー、これバレるなぁ」
ガサガサ
奏「楓さんに見つからないようにね」
P「なんでだろう、匂いで見つけそうで怖い」
奏「明日そんなこと言ってたって言っちゃおうかな」
P「勘弁してください」
奏「ふふ……」
ジャー…キュッ カタンカタン
P「はい、帽子と眼鏡」
奏「ありがと」
P「俺もサングラスくらいしておくかな……」
奏「似合う似合わないはともかく、夜にサングラスはどうなの」
P「すっぱ抜かれても面倒だろ」
奏「そうね、確かに」
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◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/07/01(水) 01:07:32.73 ID:MCtThbec0<>
奏「でももし、本当にそうなっちゃったら……」
奏「ねぇ、どうしましょうか、Pさん」
P「そうだな……ふたりで逃げるか?」
奏「いいわね、それ」
P「ばか、冗談だ」
奏「残念」
P「……最悪の最悪な。できることなら、引退までプロデュースしたいし」
奏「ふぅん。……できることなら、引退してからも私の人生をプロデュースして欲しいところだけど?」
P「そうはいかない」
奏「あら、どうして?」
P「そこからはもう、アイドルとプロデューサーじゃない」
P「奏と俺は、そうじゃない関係を築いていくんだ」
奏「……」
P「今日がスタートみたいなもんだよ」
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◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/07/01(水) 01:07:59.76 ID:MCtThbec0<>
奏「……」
奏「やっぱり、待ってた振りをしていただけみたいね」
P「うん?」
奏「なんでもないわ」
P「そうか」
奏「……」
P「奏?」
奏「……Pさん」
P「うん」
奏「いま私、あの時のことを思い出してる」
P「あの時?」
奏「あの海岸で、Pさんと初めて出会った時のこと」
P「……ああ」
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◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/07/01(水) 01:08:29.25 ID:MCtThbec0<>
奏「あのやり場のない感情の渦の中から、私を連れ出してくれた」
奏「あの時の言葉、私、まだ覚えてる」
奏「いまこの場で、キスしてくれる? って」
奏「あなたは顔を赤くしながら、わかった、って言ってくれた」
奏「たぶん……あの時から、ずっと」
奏「ずっと、ずっと……」
P「……」
奏「あの時の私のお願い、覚えてる?」
P「……私をここから連れ出して」
奏「あなたは本当に私を連れ出して……変えてしまった」
奏「ありがとう」
奏「私、今とても幸せよ。あなたのおかげで」
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◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/07/01(水) 01:09:02.68 ID:MCtThbec0<>
奏「……ふふっ」
P「……」
奏「プロデューサーさん、顔が赤いよ」
P「ああ……俺も酔ったんだろう」
奏「好きよ、Pさん」
P「俺もだ。奏」
奏「……」
P「……」
奏「……うん」
P「そろそろいくか」
奏「ええ……連れていって」
奏「月の丘の裏側まで」
奏「ね」
ギュッ
おわり
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◆WO7BVrJPw2<>saga<>2020/07/01(水) 01:09:28.38 ID:MCtThbec0<>
お読み頂きありがとうございました。
誕生日おめでとう。
その他過去の奏SS、よければこちらもどうぞ。
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以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2020/07/02(木) 03:26:58.15 ID:99ZRWkjL0<> 乙
良き良き <>