◆qJX8kuiMZI<>sage<>2025/12/05(金) 19:44:48.35 ID:XTeJFan70<>【アンパンマンとばいきんまん】
雷鳴とどろく不気味な島にそびえる不気味な城。
それこそ、みんなの嫌われ者ばいきんまんのばいきん城だ。
その城に今日も高笑いが響く。
城主のばいきんまんの登場だ。

ばいきんまん「ハハハハ、ハヒフヘホー!」
かびるんるん「かびかびー」
ばいきんまん「遂に完成したぞ。おれ様の新兵器、どっきりメラメラだ!」
かびるんるん「かびー」

朝からテンション高いですね。
そんなばいきんまんの元に、ドキンちゃんが目をこすりながら現れた。

ドキン「何騒いでるのよ。私まだ眠い」
ばいきんまん「ドキンちゃん、いいところに。ちょっと見てるのだ」

ばいきんまんは、手にした筒をかびるんるんに向けた。

ばいきんまん「どっきりメラメラ、ファイヤー!」
かびるんるん「かびー!?」

突然、仲間であるはずのかびるんるん達にめがけて火炎を浴びせるばいきんまん。
かびるんるんはパニックになってそこらじゅうを走り回る。

ドキン「きゃああああ!? 何するのよ!?」
ばいきんまん「心配ご無用。よく見てみるのだ」
かびるんるん「かびかびー」

火のついたかびるんるん達は、面白そうにきゃっきゃと走り回っていた。

ドキン「ええ? 熱くないの?」
ばいきんまん「これこそおれ様の新発明。どっきりメラメラなのだ。熱くない炎を発射できるというすんごーい発明なの」
ドキン「へえー。こんなもの何で作ったのよ?」
ばいきんまん「……そのう、実は失敗作なのだ。火炎放射器を作るつもりが、何故だかこんなものができてしまって」
ドキン「何に使うのよ?」
ばいきんまん「えっと、その、何も考えてません」
ドキン「ふーん。あ、じゃあこういうのどうかしら?」

ドキンちゃんがばいきんまんに耳打ちをする。

ばいきんまん「ふんふん、なるほど」
ドキン「……で……するのよ」
ばいきんまん「さっすがドキンちゃん! それはいい考えなのだ!」
ドキン「お土産待ってるわねー」
ばいきんまん「了解なのだ。いってきまーす」

内緒話が終わるや否や、ばいきんまんはゴキゲンでばいきんUFOに飛び乗り城を飛び出していった。
それを見届けて、ドキンちゃんはあくびを一つ。

ドキン「ふぁああああ。さて、もうひと眠りしよっと」

そうして寝室に帰ってしまった。
あとに残されたのはかびるんるん達。
寝室に消えていったドキンちゃんを見て、ため息をつくのだった。



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<>アンパンマンとばいきんまん
◆qJX8kuiMZI<>sage<>2025/12/05(金) 19:46:28.32 ID:XTeJFan70<> 町に到着したばいきんまん。
さっそくお菓子工場に降り立つ。

ばいきんまん「よぉーし、いるな」

工場でお菓子を作ってる人々は、ばいきんまんの存在に気づいていなかった。
ばいきんまんは工場に向かってどっきりメラメラを向ける。
そこにくいしんぼうのカバおがやってきた。
ばいきんまんの姿を見て、カバおは叫び声をあげる。

カバお「あっ、ばいきんまん」
ばいきんまん「ん? カバおか? ちょうどいい、お前も見ていけ!」
カバお「ええ? 何を?」
ばいきんまん「お菓子工場が火に包まれるところをだ! ハハハ、ハヒフヘホー!」
カバお「え? えっ?」

ばいきんまんがどっきりメラメラのスイッチを入れる。
だが、どっきりメラメラは動かなかった。。

ばいきんまん「あれ? おかしいな?」
カバお「ばいきんまん。僕は何を見ればいいの?」
ばいきんまん「ちょっと待て。今すぐに……う、うーん?」

機械をかちゃかちゃ弄るが、ばいきんまんの新発明はうんともすんとも言わなかった。

カバお「僕、帰ってもいいかい?」
ばいきんまん「えーい、何だってんだ。この、このっ!」

焦ったばいきんまんは、どっきりメラメラのスイッチを何度も押す。
しかし、何事も起きない様子に、カバおもあくびをしてばいきんまんを放っておこうとしたときだった。
突然、どっきりメラメラが作動し、大きな炎を吐いたのだった。

カバお「う、うわぁー!?」
ばいきんまん「ガハハハハ、これがおれ様の新発明『どっきりメラメラ』の威力だ! 驚いたか!」
カバお「た、大変だよー! 大火事だよ!」

大炎上を起こす工場。
驚いてひっくり返るカバお。
工場で働いていた人々も、大慌てで工場から逃げ出す。
あたり一帯は大騒ぎとなった。
その騒ぎを横目に、ばいきんまんは行動を開始する。

ばいきんまん「さーて、みんなびっくりしてる間にお菓子をいただくとするか」
カバお「ええっ!? ばいきんまん、しんじゃうよ!?」
ばいきんまん「ガハハハハ、バーカ! この炎はニセモノだ! 全然熱くありませーん!」
カバお「だ、だましたんだな! ばいきんまん! ひきょうだぞ!」
ばいきんまん「なんとでもいえ! ハヒフヘホー!」

得意気になって、炎上する工場の中に入るばいきんまん。
しかし、その手に火が付くと表情が変わった。

ばいきんまん「あ、あちいいいい!? 何で、どうして!?」
カバお「え?」
ばいきんまん「何故こんな熱い炎が? はっ、まさかさっきスイッチを連打した時か……?」

ばいきんまんは慌てた様子で、手元のどっきりメラメラを自分に向ける。
そして、数回ボタンを連打した。
すると、大きな炎がばいきんまんを包む。

ばいきんまん「あっちいいいいい!?」
カバお「ばいきんまん!?」

なんと、どっきりメラメラは失敗作ではなかったのだ。
ボタンを連打すれば、火が重なってちゃんと熱い炎が出たのだ。

ばいきんまん「ということは、この炎は全部本物? お菓子が燃えてしまう?」
カバお「自分で放火しといて何言ってるんだよ! ああっ、みんな燃えちゃうよぉ!」
ばいきんまん「うるさい! ぴーぴー泣くな! 手伝え!」
カバお「ええ? 手伝うって何を?」
ばいきんまん「ほれ! バケツに水! あとは分かるだろ!」
カバお「ちょっと待ってよ、ばいきんまん。これは水じゃなくって……」
ばいきんまん「ぎゃああああ!? なんで火が強くなるのだー!?」
カバお「これ、油だよぉ!」

なんと、消火しようとしたばいきんまんは、こともあろうか火に油を注いでしまった。
火はますます燃え盛り、もう手の施しようがない状態になった。 <>
◆qJX8kuiMZI<>sage<>2025/12/05(金) 19:47:36.70 ID:XTeJFan70<> ワー! ワー!
キャー! キャー!

炎はあたりの民家にまで飛び火し、焼け出された人が悲鳴を上げて逃げ惑う。
とんでもない大騒ぎだ。

アンパンマン「やめるんだ、ばいきんまん!」

騒ぎを聞きつけて、みんなのヒーローアンパンマンがやってきた。

カレーパンマン「にゃろう、とんでもねえことしやがったな!」
しょくぱんまん「許しませんよ! ばいきんまん!」

そこに、カレーパンマン・しょくぱんまんが続く。

ばいきんまん「げ、お邪魔虫ども」

ばいきんまんの顔色が悪くなる。
いつも悪事を働くと妨害してくる連中が登場したからだ。

ばいきんまん「い、いや、好都合だ! アンパンマン、頼む手を――」
アンパンマン「?」

そのとき、ばいきんまんの目の前に形而上学上の悪魔が現れた。

ばいきん悪魔「おい、バカ! おれ様は悪いこと大好きばいきんまんだろ! このままわざと大火事を起こしたことにしちまえ!」

すると今度は形而上学上の天使が現れる。

ばいきん天使「いや、ここは素直に助けを求めるべきだ! 失敗で大火事を起こしたなんて誇るべきじゃないだろう!」

悪魔と天使はばいきんまんの脳内で争いを始める。
だが、ひねくれもののばいきんまんはやはり素直になれなかったようだ。
悪魔が天使をノックアウトした。

ばいきんまん「は……ははは、ハーヒフヘーホ! 遅かったな、間抜けども! 町は大炎上だ!」
アンパンマン「なっ!?」
カレーパンマン「てめえ! こらしめてやる!」
しょくぱんまん「ええ、行きますよ!」
ばいきんまん「ちょうどいい! お前らもやっつけてやる!」

いつもの、そういつもの戦いだった。
カレーパンがぶっかけ、しょくぱんが殴りかかる。
ばいきんまんはばいきんUFOから拳や金槌を出して応戦する。
そして、どっきりメラメラをアンパンマンに放射して、アンパンマンの顔がダメになってピンチに陥る。
カレーパンとしょくぱんが耐える中、ジャムおじさんとバタコさんがアンパンマンごうでかけつける。
新しい顔を受け取ったアンパンマンは復活し、アンパンチでばいきんまんをやっつける。
そんないつもの戦いだった。
だが……。 <>
◆qJX8kuiMZI<>sage<>2025/12/05(金) 19:48:25.88 ID:XTeJFan70<> アンパンマン「カバおくん、大丈夫かい?」
カバお「う、うん。ありがとう、アンパンマン」
カレーパンマン「しかし、ひでえなこりゃ。家がなくなっちまったやつらも相当いるぞ」
しょくぱんまん「面白半分に町に火をつけたみたいですよ。許せませんね、ばいきんまん」
アンパンマン「ちょっと待って。ばいきんまんにも何か事情が……」
カレーパンマン「どんな事情があれば町にこんな大放火なんかするんだ!」
アンパンマン「それは、分からないけど。しょくぱんまんも何か言ってくれよ」
しょくぱんまん「少なくとも、その事情を聞いてみるまでは何とも言えませんよ」
アンパンマン「う、うん」
ジャムおじさん「おーい」
カレーパンマン「どうした、ジャムおじさん」
ジャムおじさん「とりあえず家の片づけを手伝っておやり。私は避難所の準備をするから」
しょくぱんまん「わかりました」
バタコ「私たちは炊き出しの準備をするわよ」
チーズ「あんあーん」
カレーパンマン「やれやれ、忙しくなりそうだぜ」
アンパンマン「そうだね」
カバお「あ、あの、アンパンマン」
アンパンマン「うん? どうしたんだい? カバお君?」
カバお「えっと、その……」
カレーパンマン「おい、アンパンマン。何してんだ、行くぞ」
アンパンマン「あ、うん。ごめんね、カバお君」
カバお「…………」

この小さなほころびが、大きな悲劇につながることをヒーローたちは知らなかった。
もちろん、ばいきんまんも。 <>
◆qJX8kuiMZI<>sage<>2025/12/05(金) 19:50:49.13 ID:XTeJFan70<> ばいきん城に落下するばいきんまん。
三度寝、四度寝を楽しんでいたドキンちゃんを巻き込み、カンカンに怒られていた。

ドキン「どういうつもりよ! 私の部屋を滅茶苦茶にして!」
ばいきんまん「どうもこうも、見ての通りでして」
ドキン「で、お菓子は?」
ばいきんまん「失敗しました……」
ドキン「はぁぁぁ!? この役立たず! もういい、片付けときなさいよ!」
ばいきんまん「そんな、ひどい……」
かびるんるん「かびぃ……」

ぷんぷん怒りながら部屋を出ていくドキンちゃん。
その様子をホウキとチリトリを持ったかびるんるん達が見送るのだった。
これもいつもの光景。
そう、いつもの光景だった。




一方、そのころアンパンマンたちは、パン工場で少しもめていた。
原因は、もちろんばいきんまんのことだ。

カレーパンマン「ふざけんな! ばいきんまんは、一度がつんと懲らしめないとだめだ!」
アンパンマン「そんな。無理やり謝らせることもないじゃないか。そうだろ、しょくぱんまん」
しょくぱんまん「……今回は被害が大きすぎます。このまま何もなしというのはさすがに」
アンパンマン「そんな」
カレーパンマン「逆にてめえは何であんなやつをかばうんだ!」
アンパンマン「かばってるわけじゃない。ただ……」
カレーパンマン「もういい! 勝手にしろ! とにかく、片付けが済んだらオレはばいきんまんを懲らしめにいくからな! 止めるなよ!」
アンパンマン「あっ、カレーパンマン!」
しょくぱんまん「私も理解できませんよ、アンパンマン。カレーパンマンみたいにばいきんまんを攻めようとまでは思いませんけど、次に見かけたらやっつけるつもりです」
アンパンマン「しょくぱんまんまで……」
しょくぱんまん「とにかく、休憩が済んだので火事にあった人たちの手伝いにもどります。では」
アンパンマン「ああっ!」

アンパンマンはがっくりとうなだれた。
何かがおかしい。
いつもなら、ばいきんまんをぶっ飛ばして終わるはずだった。
それなのに、今日はみんな怒ったままだったのだ。

ジャムおじさん「どうしたんだね、アンパンマン」
バタコ「私も分からないわ。どうしてばいきんまんをかばうの?」
チーズ「あんあーん」
アンパンマン「僕にも分からないんです。ただ、ばいきんまんを攻撃するのは何か違う気がするんです」
ジャムおじさん「そうかい。でも、『何か違う』ではカレーパンマンもしょくぱんまんも納得できないだろうね」
アンパンマン「分かってます。僕も片付けの続きに行ってきますね」
バタコ「アンパンマン……気を付けてね?」
アンパンマン「何がですか?」
バタコ「わからないけど、私なんだか怖いの」
アンパンマン「大丈夫ですよ。行ってきます」

笑顔で飛び出したアンパンマンだったが、その顔はすぐに不安な顔へと変わる。
何かがおかしい。
アンパンマンは、そんな不安を振り払うように首を振り、町へと飛んだ。

<>
◆qJX8kuiMZI<>sage<>2025/12/05(金) 19:52:21.10 ID:XTeJFan70<> しかし、町の状況は酷いものだった。
油で広がった火災は、ばいきんまんとの戦闘中にさらに燃え上がり、町の大半を焼き尽くしていた。
さらに悪いことに、負傷者も大量に出ていたのだった。
町のあちこちから声が聞こえる。

「ううう」
「いたい。いたいよぉ」
「なんでこんなことに」
「私達の家が……」
「うわああん。ぬいぐるみが焼けちゃったよぉ」

負傷者に焼け出された人を見て、アンパンマンの気分はさらに沈んだ。
酷すぎる。
もっと被害を抑えることはできなかったのか?
アンパンマンは悩んでいた。
そこに、子供たちが駆け寄ってくる。

ちびぞう「アンパンマーン!」
アンパンマン「ちびぞうくん。大丈夫だったかい?」
ちびぞう「家が焼けちゃった……」
ウサこ「私の家も。パパとママも火傷しちゃって」
アンパンマン「家はまた建て直せばいい。僕も手伝うよ」
ちびぞう「…………」
ウサこ「…………」
アンパンマン「どうしたんだい?」
ちびぞう「アンパンマン、僕ばいきんまんが許せないよ!」
ウサこ「そうよ、うんと懲らしめて!」
アンパンマン「ええっ!? それは……」
ちびぞう「……何で何も言ってくれないの?」
ウサこ「ばいきんまんはこんな酷いことしたのよ?」
カレーパンマン「そいつに頼んでも無駄だぜ。へたれちゃんだからな」
アンパンマン「カレーパンマン!」
カレーパンマン「オレに任せておきな。片付けが済んだら、あいつを懲らしめに行ってやるからよ」
ちびぞう「やった!」
ウサこ「お願いね!」
アンパンマン「待つんだカレーパンマン!」
カレーパンマン「これがみんなの意見さ。悪いが、今回はおめーには従えないな」
アンパンマン「…………」

はんっ、と鼻を鳴らして去っていくカレーパンマン。
ちびぞうとウサこはその後についていってしまった。

アンパンマン「みんな間違ってる。ばいきんまんは……」
カバお「アンパンマン……」
アンパンマン「カバお君!? いたのかい!?」
カバお「ごめん、なんでもないよ」

姿を現したと思ったら、すぐに消えるカバお。
アンパンマンにはさっぱりだった。 <>
◆qJX8kuiMZI<>sage<>2025/12/05(金) 19:54:29.89 ID:XTeJFan70<> 一方そのころ……。
ばいきんまんも悩んでいた。

ばいきんまん「うーん、やっぱり謝った方が……いや、おれ様は悪いこと大好き、もちろん放火も大好きばいきんまん! いや、しかし、あんなミスを誇るのは何か違うような……」

再度悪さをしようとばいきんUFOで飛んでいたのだが、その表情は晴れなかった。

ばいきんまん「やっぱり謝ろう。このままじゃ、悪いことをしても気分が悪いままなのだ。どうせなら気分よく悪いことしたいのだ」

ようやく、ひねくれもののばいきんまんも、素直になることを決めたようだ。
悪いことをするために謝る、というのがなんともばいきんまんらしいが。
謝ると決めたばいきんまんはパン工場へと飛んだ。
そしてアンパンマンとジャムおじさんを探して、こっそり近づいたのだが……。

ばいきんまん(うん? ジャムおじさんにアンパンマン? 何をしているのだ?)
アンパンマン「ジャムおじさん、僕ばいきんまんを連れてきて一緒に謝ります」
ジャムおじさん「君が一緒に謝るのかい?」
アンパンマン「きっとばいきんまんは意地になってるだけなんです。本当に放火したくてしただけかもしれませんけど、それでも僕は謝ります」
ジャムおじさん「なんでそこまでしようと思うんだい?」
アンパンマン「ばいきんまんだって僕らの仲間です。それがみんなから敵のように思われるなんて、僕はつらいです」
ばいきんまん(うげ〜! なんつー気持ち悪いこと言ってるのだ。お前なんかに謝ってもらわなくても、一人で謝れるわい。うっ、寒イボが……)
ジャムおじさん「だが、私はこの際ばいきんまんをやっつけてしまうのも手だと思ってるよ」
アンパンマン「そんな、ジャムおじさんまで!?」
ジャおじさん「今回のことは酷すぎる。火をあんなことに使うのは許せないんだ」
アンパンマン「それでも、僕は謝ります」
ジャムおじさん「何故そこまで。やっつけてしまったほうが早いじゃないか」
ばいきんまん(そーだそーだ。やっつけるのがおれ様ってのは気に入らないけど、お前の言ってることの方がおかしいのだ)
アンパンマン「ばいきんまんをやっつけたところで、それで平和になると思いますか?」
ジャムおじさん「? 君はならないと?」
アンパンマン「なるかもしれません。でも、それ以上に悪いやつが現れるかもしれません」
ジャムおじさん「ふむ」
アンパンマン「そいつはばいきんまん以上に悪賢くて、悪事を僕らにばれないようにやってくるかもしれません」
ジャムおじさん「そんなのがいるなら、なおさらばいきんまんを放ってはおけないじゃないか」
アンパンマン「いいえ。ばいきんまんは悪いやつですが、自分より悪いやつは許しません。それだけは信じれるんです」
ジャムおじさん「だから君は、ばいきんまんを倒さないというのか」
アンパンマン「そうかもしれません」
ばいきんまん(〜〜〜〜〜! あ、あいつ……!!)

黙って聞いていたばいきんまんは、血相を変えてパン工場に背を向けた。
情けをかけていたというのか!
このおれ様に!
ふざけるな!!
ばいきんまんの腹の中に、どす黒い怒りの炎が燃え上がった。
しかし、飛び出して行ってばいきんまんは知らない。
この後、アンパンマンとジャムおじさんが会話した内容を。

アンパンマン「……まあ、『倒したくない』なんて言ってますけど、いつも必死ですけどね」
ジャムおじさん「だろうね。分かったよ。カレーパンマンやしょくぱんまんは私が説得しよう」
アンパンマン「ありがとうございます」
ジャムおじさん「私こそどうかしてたよ。多分、火をいい加減に扱われたことで頭にきたんだろうな」
アンパンマン「ジャムおじさんが?」
ジャムおじさん「私だって怒ることはあるよ」
アンパンマン「あはは、そうですよね」

いつもの柔和な笑顔を浮かべるジャムおじさん。
ようやくいつもどおりが戻ってきた、とアンパンマンは安堵したのだった。
もうそんな安堵など無駄だということも知らずに。 <>
◆qJX8kuiMZI<>sage<>2025/12/05(金) 19:55:52.34 ID:XTeJFan70<> 翌日。
パン工場にバタコとチーズが朝の小麦粉を運んでいる時だった。
現れる謎の影。

ばいきんまん「バタコ、一緒に来てもらおうか」
バタコ「ばいきんまん!?」
ばいきんまん「いやだと言っても、無理やり連れていく。来い!」
バタコ「きゃあっ!?」
チーズ「あんあーん」
ばいきんまん「ええい、うるさい! お前は黙ってろ!」
チーズ「あうん」
バタコ「チーズ!」
ばいきんまん「さあ。来い!」
バタコ「きゃあああああ!」

バタコと気絶したチーズをUFOのハンドで掴み、ばいきんまんはその場を飛び立った。
少し遅れてアンパンマンたちが駆けつける。

アンパンマン「バタコさん? バタコさーん?」
カレーパンマン「チーズもいねえぞ?」
しょくぱんまん「おや、これは?」
カレーパンマン「どうした、しょくぱんまん」
しょくぱんまん「ばいきんまんの置手紙です」
カレーパンマン「なんだと? なんて書いてある?」
しょくぱんまん「『バタコは預かった。返してほしければドクロ島にて待つ』だそうです」
カレーパンマン「あのやろー! 昨日の今日でもう許せねえ! ぶちのめしてやる!」
アンパンマン「待つんだ、カレーパンマン!」
カレーパンマン「うるせえ! へたれは黙ってろ!」
アンパンマン「そうじゃない! 君はドクロ島がどこにあるのか知ってるのか!?」
カレーパンマン「あ……」
しょくぱんまん「やれやれ。どうやらこの件については冷静なのはアンパンマンのようですね」
カレーパンマン「ちっ、しょうがねえ。ジャムおじさんに知らせるぞ」

アンパンマンたちはパン工場へ駆け込んだ。 <>
◆qJX8kuiMZI<>sage<>2025/12/05(金) 19:57:08.23 ID:XTeJFan70<> ばいきんまんが城に帰還する。
バタコとチーズはUFOのハンドの中で震えたままだ。

ばいきんまん「ふん。ちょっと待ってろ」

ばいきんまんはUFOから降り、ドキンちゃんの部屋に直行した。

ばいきんまん「ドキンちゃ〜ん」
ドキン「何よお?」
ばいきんまん「お友達を連れてきました。よかったら遊んでやってもらえないでしょうか?」
ドキン「気持ち悪いわね。誰を連れてきたのよ?」
ばいきんまん「じゃーん! こちらです!」
ドキン「って。バタコさんじゃないの! どうしたのよこれ!?」
バタコ「あ、ドキンちゃん」
チーズ「あんあーん」
ばいきんまん「ドキンちゃんが暇してるんじゃないかと思って連れてきました」
ドキン「あら、珍しく気が利くじゃない! 遊びましょ、バタコさん」
バタコ「……え? う、うん?」
チーズ「あうん?」
ばいきんまん「それじゃ、好きなだけ遊んだらパン工場に返してあげてね。じゃ、ばいばいきーん」

バタコとチーズを預け、ぱたり、とドキンちゃんの部屋の扉を閉めるばいきんまん。
その表情は、先ほどまでのひょうきんなものではなかった。

ばいきんまん「お前ら。来たくないやつは残っていいのだ」
かびるんるん「かびぃ……」
ばいきんまん「よし、なら行くぞ」

かびるんるんを連れて城を出るばいきんまん。
その目には、怒りの炎が燃え上がっていた。




そのころ、アンパンマンたちは作戦会議をしていた。
地図とにらめっこしていたジャムおじさんが顔を上げる。

ジャムおじさん「わかったぞ。ここから南の海に浮かぶ島だ。その名前の通り、ドクロ型の奇妙な石が目印だ」
カレーパンマン「よぉし。早速乗り込んでぶちのめすぞ!」
しょくぱんまん「待ってください、カレーパンマン。罠だったらどうするんですか」
カレーパンマン「関係ねえ! そんなもんぶっとばしてやる!」
ジャムおじさん「ばいきんまんが嘘をついている可能性もある。慎重に行動した方がいいだろうね」
カレーパンマン「うっ」
アンパンマン「僕が行きます」
カレーパンマン「はぁ? おめえ、罠だった場合どうするんだ?」
アンパンマン「それでも僕は行く。カレーパンマン、君はしばらく待機していてくれ」
カレーパンマン「はぁ!? オレをへたれ扱いする気か!」
しょくぱんまん「少なくとも、頭に血が上ったあなたが行くよりマシですよ」
カレーパンマン「なっ!?」
ジャムおじさん「しょくぱんまんの言う通りだ。少し落ち着こうか、カレーパンマン」
しょくぱんまん「アンパンマン、バタコさんたちは任せます。僕らも少し後から行きますので」
カレーパンマン「ちっ、しょうがねえ。わかったよ」
アンパンマン「では、行ってきます!」

そう言って、アンパンマンが煙突から飛び出そうとした時だった。
カバおがパン工場に飛び込んできたのだ。

カバお「アンパンマン!」
アンパンマン「カバお君!? どうしたんだい?」
カバお「ばいきんまんを許してあげて! 悪さをしようとはしてたけど、放火は誤解みたいなんだよ!」
カレーパンマン「放火は誤解? どういうことだ?」
しょくぱんまん「カバお君、話してもらえませんか?」
カバお「う、うん」

カバおは説明した。
火をつけたのはばいきんまんで間違ってないけど、ばいきんまんはその後慌てていたこと。
そして、火はニセモノのつもりだったようだということを。

ジャムおじさん「なるほど。それでは、ばいきんまんはいたずらのつもりだっただけで、あんな大火事を起こすつもりではなかったと」
カバお「うん……」
カレーパンマン「なんでえ、素直じゃねえなあ、あいつ」
しょくぱんまん「ばいきんまんらしいとも言えますけどね」
アンパンマン「ジャムおじさん、僕ばいきんまんを説得してきます。そして一緒に謝ります」
ジャムおじさん「そうしておあげ。君たちが割って入ったから、ばいきんまんも引っ込みがつかなくなったのだろう」
カレーパンマン「別に俺達は悪くねえと思うけどな」
しょくぱんまん「ばいきんまんの中では私達が悪いことになってるんですよ」
カレーパンマン「分かってらあ。とりあえずオレは引っ込んどくぜ。またあいつと会ったらケンカになっちまうだろうしよ」
しょくぱんまん「まずはアンパンマンにお任せします。聞き分けがないようでしたら、力づくで行きましょう。我々も加勢します」
ジャムおじさん「とりあえずドクロ島にばいきんまんがいるか確認するんだ。頼んだよ」
アンパンマン「分かりました! 行ってきます!」
カバお「がんばってね!」

アンパンマンは飛ぶ。
ドクロ島への道を、一直線に飛んで行った。 <>
◆qJX8kuiMZI<>sage<>2025/12/05(金) 19:59:02.15 ID:XTeJFan70<> アンパンマンがドクロ島に向かっている最中。
遊び疲れたドキンちゃんはバタコとチーズをパン工場に送っていた。

ドキン「あー、楽しかった! ばいきんまんも気が利くじゃない!」
バタコ「う、うん」
チーズ「あーん……」
ドキン「どうしたの? まだ遊び足りない?」
バタコ「ねえ、ドキンちゃん。ばいきんまんのこと、聞いてないの?」
ドキン「えー? 何を?」
バタコ「ばいきんまん、昨日町に大火事を起こしたの。みんな怒ってるわ」
ドキン「はぁ!? 何でそんなことしたのよ!?」
バタコ「私も分からないの」
ドキン「まったく、どうしようもないやつね。お菓子は奪うのを失敗するわ、町を大火事にするわ……」
バタコ「え……?」
ドキン「どっきりメラメラとかいう変なマシン作ってたから、それでお菓子工場をびっくりさせてお菓子奪って来いって言ったのよ。何で火事を起こしてるんだか」
バタコ「ちょっと待って! あれ、ドキンちゃんの指示だったの!? 町が大変なことになってるのよ!?」
ドキン「え? どっきりメラメラで火をつけたんでしょ? あれ、熱くない炎を出すヘンテコマシンよ?」
バタコ「全然違うわ! ほんとの大火事が起きたのよ!」
ドキン「ちょっと待って。私そんな話全然聞いてないわよ!?」
バタコ「え!?」
ドキン「なんで放火なんかしてんのよ、アイツ。わけわかんない」
バタコ「ねえ、そのどっきりメラメラって、熱くない炎が出るって本当なの?」
ドキン「本当よ」
バタコ「事故が起こって、本当の炎が出たってことは?」
ドキン「!! だ、だとしても私は関係ないし! マシンの不具合はアイツのせいよ!」
バタコ「火で遊んじゃだめなの!!」
ドキン「!?」
チーズ「あうん!?」
バタコ「あ……ごめんなさい、つい」
ドキン「どうしたのよ、一体」
バタコ「以前、ジャムおじさんに怒られたことがあったの」
ドキン「え……ジャムおじさんが?」
バタコ「うん。以前、かまどに火を入れてるのを忘れて遊んでいたことがあって、パン工場を焼きそうになったの。ものすごく怒られた」
ドキン「あのジャムおじさんが怒るんだ……」
バタコ「その時言われたの。火は私たちの頼もしい味方だけど、恐ろしい敵でもある。火事を起こしたら、自分だけでなく他の人にまで迷惑をかけてしまう。だから、火を扱うときは絶対油断をしちゃだめだって」
ドキン「…………」
チーズ「あうん……」
ドキン「私、謝る。ばいきんまんの分も謝る」
バタコ「え?」
ドキン「いいの! 私が謝りたいから謝るの! あんた達の許しなんて別にいらないもん!」
バタコ「うふふ、ありがとう」

こうして、ドキンちゃんの心は救われた。
だが、ばいきんまんは……。

<>
◆qJX8kuiMZI<>sage<>2025/12/05(金) 20:00:07.39 ID:XTeJFan70<> アンパンマンは海の上を飛んでいた。
まもなくドクロ島が見えてくるだろう。
そんなアンパンマンの視界にかびるんるんが目に入った。

アンパンマン「かびるんるん?」

かびるんるん達は、とある島に向かって一列に伸びていた。
その島の中央に位置するドクロのような顔型の岩。
まちがいない、ドクロ島だ、とアンパンマンは思った。

アンパンマン「そこにいるんだな、ばいきんまん!」
かびるんるん「かび!?」

アンパンマンの接近に気づいたかびるんるん達は、一目散に逃げだした。
その後をアンパンマンは追う。
やがて、ドクロ島の砂浜に降り立った。

アンパンマン「ばいきんまん! どこにいるんだ! 出てきてくれ!」

どこからともなく、ばいきんUFOが現れる。

ばいきんまん「来たな、アンパンマン。お前一人か?」
アンパンマン「そうだ。まずはバタコさんを返してくれ」
ばいきんまん「バタコなら今頃パン工場に帰っているだろうさ」
アンパンマン「え?」
ばいきんまん「おれ様の目的は、最初からお前だけだ。のこのこ一人でやってくるとは間抜けなやつめ!」
アンパンマン「それはよかった。僕も君と話したいと思ってたんだ」
ばいきんまん「話すことなど、ない!」

ばいきんUFOが地面に潜る。
すると、出てきたのは真っ赤な姿の巨大ロボ『だだんだん』だった

ばいきんまん「ファイヤーだだんだんだ! こいつで[ピーーー]! アンパンマン!」
アンパンマン「!! やめるんだ、ばいきんまん!」

ファイヤーだだんだんは、巨大な腕を振り回す。
アンパンマンは、必死にそれをかわした。

アンパンマン「何をするんだ! やめてくれ!」
ばいきんまん「うるさい! 余裕をかましてられるのも今のうちだ!」
アンパンマン「余裕? 何を言ってるんだ、うわっ!?」
ばいきんまん「これもかわすか! なら、こうだ!」

だんだだんの腕が飛ぶ。
不意打ちに驚きながらも、アンパンマンはそれをかわした。

ばいきんまん「ちっ!」
アンパンマン「ばいきんまん! 聞いてくれ!」
ばいきんまん「うるさい!」
アンパンマン「町に謝りに行こう! 僕も一緒に謝るから!」
ばいきんまん「その必要はない!」
アンパンマン「僕らはもう知ってる! 君は本当は火事を起こすつもりはなかったんだろ!?」
ばいきんまん「うるさいうるさい! 黙れ、アンパンマン!」
アンパンマン「みんなは誤解してるだけなんだ! だから!」
ばいきんまん「もう、そんなことはどうだっていいのだ!」
アンパンマン「えっ?」

アンパンマンが驚いた隙を、ばいきんまんは見逃さなかった。
スイッチを連打すると、ファイヤーだんだだんの頭が割れる。
そこにあったのは、あのどっきりメラメラだった。

アンパンマン「しまった!?」
ばいきんまん「くらえ! どっきりメラメラ10連打だ!」 <>
◆qJX8kuiMZI<>sage<>2025/12/05(金) 20:02:13.22 ID:XTeJFan70<> 巨大な炎がアンパンマンを襲う。
かろうじてかわしたアンパンマンだったが、顔の一部が焦げてしまった。

アンパンマン「顔が焦げて力が出ない……」
ばいきんまん「それがどうした!」
アンパンマン「!?」

いつもの展開。
しかし、ばいきんまんの反応はいつもと違った。
力を失ったアンパンマンに、全力でファイヤーだんだだんの拳を見舞ったのである。
ふらふらと飛びながら、かろうじて攻撃をかわすアンパンマン。

アンパンマン「やめるんだ……ばいきんまん……」
ばいきんまん「そうやって、はいつくばっていればいい。みじめな姿のまま潰されろ!」
アンパンマン「うわぁ」

おかしい。
アンパンマンは焦った。
いつものばいきんまんじゃない。
いつもだったら、自分の顔が汚れたら勝ち誇って大笑いしてるはずのばいきんまんが、一切笑わず追撃をかけてきた。
いったい、ばいきんまんはどうしてしまったのか、と。

アンパンマン「うわぁ……ひゃあ……うっ……」
ばいきんまん「くらえ!」
アンパンマン「うわあ!」

必死に攻撃を避けるアンパンマンに、再びどっきりメラメラ攻撃。
アンパンマンの顔がさらに焦げた。

アンパンマン「…………」

アンパンマンはきょろきょろとあたりを見回す。
おかしい、そろそろ救援が来てもいいはずだ。
カレーパンマンたちは何をしているのか?

ばいきんまん「助けは来ないぞ」
アンパンマン「……え?」
ばいきんまん「かびるんるん達がいないのを不思議に思わなかったか? あいつらには今、別の島でオトリ役を頼んでいる。本物のドクロ島でな!」
アンパンマン「なんだって……?」
ばいきんまん「まんまとつられたな。お前は、あの岩がドクロに見えるのか?」
アンパンマン「あ、ああ……!」
ばいきんまん「そうだ! ここはハニワ岩島だ! 助けなんか来るか、バカめ!」

なんと、アンパンマンがドクロだと思った岩は似ているだけの別物。
この島はドクロ島などではなく、ハニワ岩島だったのだ。
カレーパンマンやしょくぱんまん、ジャムおじさんが救援に来たとしてもこれではたどり着きようがない。
しかも……。

ばいきんまん「不運ってものは重なるものだな」
アンパンマン「顔が濡れて力が出ない……」

空が黒く染まっている。
ポツポツと雨が降り始めていた。
すなわち、アンパンマンにとってはまさに泣きっ面に蜂という状況だった。

ばいきんまん「[ピーーー]!」
アンパンマン「うわぁ」

それは凄惨な状況だった。
戦う力をなくしたアンパンマンを、ばいきんまんのファイヤーだんだだんが踏みつぶそうとする。
アンパンマンは地面を転がって避けるしかない。
何度も地面を転がった。
そのたびごとに、アンパンマンはボロボロになっていく。

ばいきんまん「はぁー、はぁー」

一方で、ばいきんまんの様子もおかしかった。
これだけアンパンマンを追い詰めているにも関わらず、高笑いの一つさえあげていない。
それどころか、目からは涙がこぼれているようだった。 <>
◆qJX8kuiMZI<>sage<>2025/12/05(金) 20:03:10.79 ID:XTeJFan70<> ばいきんまん「もうないのか?」
アンパンマン「…………」
ばいきんまん「もう手がないなら、終わらせるぞ!」
アンパンマン「!!」

トドメを刺そうと、拳を振り上げたファイヤーだんだだん。
しかし、その一撃を避けてアンパンマンは空へと飛びあがった。
そのボロボロの体で。
そして、一直線に空へと飛んでいく。

ばいきんまん「ええい、往生際の悪いやつめ!」

わずかに遅れて、ファイヤーだんだだんからUFOを分離しばいきまんがその後を追った。

ばいきんまん「待て! アンパンマン!」
アンパンマン「…………」
ばいきんまん「この、くらえ!」
アンパンマン「!!」
ばいきんまん「くそ、雨か!」
アンパンマン「う、うう……」

アンパンマンを打ち落とそうと、どっきりメラメラを発射するばいきんまん。
しかし、今度は逆に雨があんぱんまんの味方をした。
どっきりメラメラは火力が落ちて、使い物にならなかったのだ。
ならば、とハンマーなどをUFOから取り出すばいきんまんだったが、ひたすら上を目指して飛ぶアンパンマンにそんなものはあたりはしなかった。
アンパンマンもフラフラだが、ばいきんまんも攻撃を空ぶるたびにスピードが落ちる。
当たりそうで当たらない、奇妙な追跡が始まった。


『そうだ うれしいんだ 生きる喜び
たとえ 胸の傷がいたんでも』
〜〜〜♪ 〜〜〜♪

ばいきんまん「いったいいつまで飛び続ける気だ! そろそろ諦めろ!」
アンパンマン「はぁ、はぁ……」

『なにが君のしあわせ なにをして よろこぶ』
〜〜〜♪ 〜〜〜♪

アンパンマンは雲を突き抜けた。
ばいきんまんもその後を追う。
だが、雲を抜けたばいきんまんが見たものは、ギラギラと輝く太陽だった。

『そうだ うれしいんだ 生きる よろこび』

ばいきんまん「う、うわ、まぶしい!?」

『たとえ どんな敵が あいてでも』

アンパンマン「あ〜ん……ぱんち〜……」

ばいきんまんが怯む。
まさに、その瞬間、太陽を背に自由落下するアンパンマンが拳を突き出した。
いまだかつてないほど情けないアンパンチ。
だが、落下スピードがそのまま拳に乗る。
結果、いつもと変わらない威力のアンパンチがばいきんまんを襲った。

ばいきんまん「う、うぁぁあああああ!?」

『ああ アンパンマン やさしい 君は
いけ! みんなの夢 まもるため』

アンパンマン「ばいきんまん……」 <>
◆qJX8kuiMZI<>sage<>2025/12/05(金) 20:04:06.51 ID:XTeJFan70<> 不安げな表情でアンパンマンがばいきまんの後を追う。
はたしてその先には……。

アンパンマン「ばいきんまん……しっかりしてくれ……」

UFOから放り出され、触角は折れ、足はおかしな方向に曲がり、羽はボロボロになったばいきんまんがいた。
アンパンマンは分かっていたのだ。
アンパンチを下に打ち下ろせば、どうなるかを。
吹っ飛ばれたばいきんまんが、地面に向かって一直線に落下したらどうなるかを!

ばいきんまん「……おれ様、負けたのか」
アンパンマン「ばいきんまん……気付いたのか……!」
ばいきんまん「……おれ様、心のどこかで分かってたんだ……」
アンパンマン「え……?」
ばいきんまん「お前が正しいって……間違ったこと言ってないって……」
アンパンマン「何の話を……してるんだ……!」
ばいきんまん「たぶん……おれ様、お前とケンカしてても……自分より悪いやつがいたら協力して倒してたんだろうな……」
アンパンマン「ばいきんまん…!? あの話、聞いて……」
ばいきんまん「分かってたのに……お前が本気で戦ってないって知って……許せなかったんだ……」
アンパンマン「それは違う! 違うよ、ばいきんまん! 僕は普段から本気で……」

アンパンマンは必死に弁解しようとした。
しかし、ばいきんまんにはもう時間がなかった。
だから、彼は最後に一言だけ残して逝った。

ばいきんまん「ごめん……な……」
アンパンマン「うわあああああああ!」

ハニワ岩島に叫び声がこだまする。
アンパンマンの顔を濡らした通り雨は過ぎ去っていた。 <>
◆qJX8kuiMZI<>sage<>2025/12/05(金) 20:06:15.18 ID:XTeJFan70<> 「……きんまん、ばいきんまん」

誰かが自分を呼ぶ声がする。

「しっかりして、ばいきんまん。ねえってば」

やけに甲高い声が鬱陶しい。
ばいきんまんは頭を振って起き上がった。

ばいきんまん「だぁ〜〜〜!! うるさいのだ!」
メロンパンナ「あ、目を覚ました」
ばいきんまん「……お前、誰だ?」
メロンパンナ「メロンパンナよ!」
アンパンマン「ばいきんまん、目を覚ましたんだ。よかった」
ばいきんまん「アンパンマン……」
カレーパンマン「けっ、あのままくたばれば静かでよかったのによぉ」
しょくぱんまん「いけませんよ、カレーパンマン」
クリームパンダ「よかったぁ、死んじゃったのか思ったよ」
ばいきんまん「……お前も誰だ?」
クリームパンダ「僕はクリームパンだ」
ばいきんまん「パンダ?」
クリームパンダ「パンダじゃないやい! クリームパンダ!!」
ばいきんまん「???」
カレーパンマン「どうしちまったんだ、こいつ」
しょくぱんまん「頭を打ってましたからね。記憶が少し飛んでるのかもしれません」
ばいきんまん「おれ様、一体どうなったのだ?」
アンパンマン「君にアンパンチをしたら、木にぶつかってしまったんだ。大丈夫かい?」

ばいきんまんは目をぱちくりさせながらあたりを見回す。
すると、壊れてボロボロになってるUFOが目に入った。
どうやら、本当に木にぶつかったらしい。
城まで吹っ飛ばされるあのパンチを受けて、すぐ近くの木にぶつかったのだ。
相当な衝撃だっただろう。
しばらく気を失ってる間に、おかしな夢まで見ていたようだ。

ばいきんまん「アンパンチだ、アンパンマン」
アンパンマン「ええっ? 何で!?」
ばいきんまん「頭がふらふらするのだ! アンパンチだ! 早くしろ!」
アンパンマン「うわ、揺らさないで」
ばいきんまん「顔をなめてやる! これでどうだ!」
アンパンマン「やめるんだ! ばいきんまん!」

ばいきんまんを引きはがそうと出した拳が、ばいきんまんにクリーンヒットする。

アンパンマン「あ」
ばいきんまん「ばいばいきーん」

ばいきんまんは吹っ飛んでいき、星となった。
そして吹っ飛んでいったばいきんまんは……。

ばいきんまん「うぎゃー!!」
ホラーマン「ホラー!?」
ドキン「こらー!! いきなり何よ!!」

ホラーマンを巻き込み、いつものようにドキンちゃんに怒られる。
しかし、ばいきんまんはなぜかご機嫌だった。

ばいきんまん「ちゃんと痛い。おれ様生きてるーハヒフヘホー」
ドキン「何よこいつ。頭おかしくなっちゃったの?」
ホラーマン「……ホラーですねぇ」

その様子にドキンちゃんとホラーマンは首をかしげるばかりだった。
さて、一方アンパンマンは……。


<>
◆qJX8kuiMZI<>sage<>2025/12/05(金) 20:06:54.67 ID:XTeJFan70<> アンパンマン「大丈夫かな……ばいきんまん」
メロンパンナ「私のこと忘れるなんて失礼しちゃうわ!」
クリームパンダ「そうだそうだ! 僕のことも忘れるなんて!」
カレーパンマン「ま、大丈夫だろ。いつものようにまた悪さをするに決まってるぜ」
しょくぱんまん「ばいきんまんにもほんとに困ったものですね」
「おーい」
アンパンマン「あ、ジャムおじさん」
ジャムおじさん「ばいきんまんも無事だったし、そろそろ帰ろうか」
バタコ「今日もパトロールお疲れ様」
チーズ「あんあーん!」
アンパンマン「あはは、そうですね」

こうしてアンパンマンたちは帰路につく。
夕日に照らされる森の中、ジャムおじさんは振り返って呟いた。

ジャムおじさん「そうかい。君が救ってくれたんだね。ありがとう」

視線の先には、薄暗い雲が一つ。
そこに乗ったばいきん仙人も笑いながら呟いた。

ばいきん仙人「ふぉっふぉっふぉっ、夢で良かったのう。ばいきまんよ」

その頬に涙が一筋。
その涙が消えると同時に、ばいきん仙人の雲はどこかへと消えたのだった。


<>
◆qJX8kuiMZI<>sage<>2025/12/05(金) 20:07:33.32 ID:XTeJFan70<> 以上です。 <>