VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 00:33:07.21 ID:MjAwUwlio<>
中学の時だったかな。
林間学校で行った、なんとかかんとか自然の家とかいうところ。
バスに揺られて一時間半くらい。
山の中腹あたりに建てられた施設で、学年のみんなと二泊三日の研修。
何の研修だったのか今となっては思い出せないけど、非日常なイベントに私は内心わくわくしていた。
でも私は班長だったからそれを顔に出さないようにした。
二日目の朝、律が私の身体を揺すって起こして、散歩に連れ出した。
気乗りしない私の手を、律は引っ張りながら歩いて、そのうち私もなんだか楽しくなってしまった。
山間だから朝は霧が濃くて、五メートル先もよく見えなくて。
陰気臭さに気が滅入った私達は、三十分もしないうちに宿舎に戻ったっけ。
……あの時の霧とちょうど同じ感じだ。
今、私の頭には分厚い霞みがかかっていて、ついさっきまで見ていた夢もなんだかよく思い出せない。
だから、目を覚ましたこの場所が私の部屋じゃない事に気づくまで、少し時間がかかった。<>澪「私と唯とギー太とエリザベスとベッドと部屋」
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 00:37:59.59 ID:MjAwUwlio<>
『8月3日』
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 00:40:05.47 ID:MjAwUwlio<> ……ここはどこなんだろう。
この天井、私は知ってる。
木製のペンダント型のライトが天井から生えていて、前に私はそれを可愛いと思ったことがある。
カーテンの隙間から光が射してるって事は、朝か昼だ。
不意に、耳元にくすぐったさを感じた。
吐息……?いや、今のは寝息かな。
目を軽く擦ってから、壁に背を向けて横を向いた。
唯が顎の下まで布団を被って、口を開けて気持ち良さそうに寝息を立てている。
私はその唯の手をしっかりと握っていた。
そうか、ここは唯の部屋だ。
大学に入ってから、私も律もムギもよく唯の部屋に入り浸っていた。
この部屋で目を覚ますのもこれが初めてじゃない。
パパもママも唯の事は知ってるから、ちゃんと外泊するって伝えておけば叱られることもなかった。
なのに、この天井も、唯の寝顔も、どういうわけか私の目に新鮮なものとして映る。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 00:47:30.88 ID:MjAwUwlio<> ベッドの中で寝たまま、私は部屋を見渡す。
ここにあるのは、
ギターが一本、
ベースが一本、
ベッドが一床、
照明が三つ、
冷蔵庫が一台、
ゲーム機が一台、
CDが数枚、
テーブルの上に雑誌が二冊、
本棚に漫画がたくさん、
人形がいくつか。
唯はいい加減なところがあるけど、物は大切にする子だ。
だからいつもと変わらない部屋のはず。
……まぁいいや、微睡んでるのも心地いいけど、口の中がかぴかぴに渇いてて気持ち悪い。
洗面所でうがいしないと。
「あれ?」
身体を起こすと、私が感じていたのは新鮮さじゃなくて違和感だということに気がついた。
「は……?」
私はパジャマを着ていない。
というか、何も着ていない。
下着もつけてなくて、文字通りの全裸、生まれたままの姿。
私はすぐにまた身体を倒して、鼻の下まで布団を被った。
なんで?なんで裸?昨晩、何をしたんだっけ?
何を……。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 00:50:43.47 ID:MjAwUwlio<> 霧の奥にぼんやりと見える昨晩の記憶に、目を凝らす。
「ん……澪ちゃん、おはよ〜……」
裸の唯が目を瞑ったまま言った。
「えへへ……」
唯は布団の中で私の手を強く握って、嬉しそうに私の顔を見た後、首筋に唇を当ててきた。
頭のもやが薄れるのに比例して私の身体はみるみる硬直していき、三秒もしないうちに一本の木みたいになってしまった。
高校の演劇の時はロミオ役だったけど、今は私が木Gだ。
この状況、ドラマや映画で何度も見たことがある。
主人公の男の人が目を覚ましたら、知らない女の子が裸で隣に寝ているっていうアレ。
ドラマと違うのは、私も相手も女の子で、その相手のことを前々からよく知っているってところ。
それにドラマだと昨晩の記憶がないっていうのがパターンだけど、どうやら私はちゃんと覚えてしまっている。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 00:55:12.06 ID:MjAwUwlio<> 唯が私の下腹部を撫で始めたところで、私の頭の霞はきれいさっぱり消えていた。
記憶の大パノラマが、恥ずかしさと罪悪感で私を殴るように迫ってくる。
私は唯と寝たんだ。
睡眠じゃなくて、身体を重ねるほうの意味で寝たんだ。
お酒で前後不覚になったわけじゃなく、はっきりと、自分の意思で。
「あ、ゆ……唯」
私の身体を触る唯の手をそっとどかしてから、私は起き上がった。
「今何時……?」
「ん……」
唯は枕に顔を伏せたまま、ベッドの横にある目覚まし時計を指差した。
十一時過ぎ。
「服、えっと、私の服は?」
「あそこだよ」
唯が今度は床の上を指差す。
私と唯の服が乱雑に放られている。
それが昨晩いかに行為に夢中になっていたかを表していて、私はますます気分が悪くなった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 00:58:19.09 ID:MjAwUwlio<> 「ねえ澪ちゃん、もうちょっと寝てようよ。今日、大学お休みなんだし」
唯はそう言いながら、私の腕に無邪気に絡み付いてきた。
「あ……うん」
私が身体をベッドに戻すと、唯は嬉しそうに笑ってから、また私を触り始めた。
「あっ、ちょ、ちょっと待って唯!」
「え?」
「えっと、その……き、昨日はなんていうか……ごめん!ごめんなさい!私どうかしてた!唯とあんな事するなんて……」
唯は目を丸くして、不思議そうに私の顔を覗きこんだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 01:01:19.03 ID:MjAwUwlio<> 「え?なんで謝るの?」
「なんでって……」
「私は楽しかったよ。澪ちゃんは?」
楽しかった?
その前に色々考えるべきことがあるだろ。
恥ずかしいとか、悪いことしたとか。
でも、楽しかったかどうかと聞かれたら、それは……。
「……楽しかった」
それに、気持ち良かった。
あんな感覚が自分の中にあったなんて、世紀の大発見だった。
唯は今まで見たどんな唯よりも可愛くて、私はその唯の身体を好きなだけ触ることが出来て、唯も私の身体を触ってくれる。
こんなに楽しくて嬉しいことって、他にある?
「だよね〜。えへへ、良かったぁ、澪ちゃんが相手で。澪ちゃん、すっごく可愛かった」
唯はそう言いながら、私の背中にするりと手を回して、目を閉じ、私の顔の目と鼻の先まで、顔を近づけてきた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 01:04:44.03 ID:MjAwUwlio<> ええと、これは、キスをせがんでるってことだよね?
私は唯の唇を凝視しながら、
ああ、昨日何回もキスしたっけ、柔らかくて温かくて、
お互いの舌が何度も絡んで、二人とも初めてだったから最初は手探りで、
歯がかち合ったり鼻が邪魔に思えたり、途中で目を開けたら視線がぶつかって恥ずかしくなったり、
だんだん気持ちいいやり方がわかってきて、二時間くらいはずっとキスだけしてたんだっけ、
……なんて事を思った。
最初にキスをした時は高一のライブと同じくらい緊張したけど、今の私はもう唯の唇がどんなに気持ちいいのかを知っているし、ていうか昨日あそこまでしちゃってるんだから、今更緊張も何もないはず。
でもここで欲望に負けちゃだめだ。
唯は大事な友達だし、やっぱりこんな事しちゃだめなんだ。
ていうか恥ずかしい。
「あっ、お……お腹空かない?」
私は違う話題を振って流れを変えようとした。
でも唯は動じない。
「んーん、平気」
それから唯は自分から顔を近づけてきた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 01:07:46.78 ID:MjAwUwlio<> 私は慌ててベッドから這い出した。
「ごめん唯!先に顔洗ってくる!」
床の上に散乱した服の中から自分のラグランと下着だけを掴んで、私は洗面所に逃げ込んだ。
服を着た後、水道のレバーを倒して、水が温まるのを待たずに私は顔を洗った。
鏡の横にあるコップに水を入れて口を濯ぐ。
ぬるい水が不快。
洗面台に両手をついて、鏡に映った自分の顔を見る。
くしゃくしゃの黒髪と、腫れぼったい瞼。
そのくせやたら血色は良くて、毎朝見ている自分の顔となんら変わらない。
自分をポーカーフェイスだなんて思った事はないけど、この鏡の中の女の子の心の中がぐちゃぐちゃになっているようには見えなかった。
単に私が察しの悪い子ってだけかもしれないけど。
寝癖頭のこの子を他人と錯覚したのは、きっと私の身体と心が別の方を向いているからだ。
「はっ……」
自嘲的な嘆息が漏れた。
私はずるずると崩れ落ち、そのまま床に座り込んで頭を抱え、唇を噛んだ。
口の中に鉄の味が広がる。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 01:10:28.26 ID:MjAwUwlio<> 昨日までの私と唯、今日からの私と唯は、もう全く違うものとしてここにいる。
昨日は……
そうだ、私は講義が終わった後レコードショップで、律が話していた、ザスミスの元ギタリストが加入したバンドのCDを買って、
その後はいつも通りスタジオでみんなと練習して、それからムギと律はバイトに行って、私は唯と二人でファミレスに入ってお夕飯を食べた。
唯は散々メニューを見て迷ってからチーズのかかったハンバーグを、私はカロリーを気にしてチキンのソテーを注文した。
唯が太らないのは憂ちゃんの栄養管理が行き届いてるからだと私はふんでいたけど、一人暮らしを始めてからも体型が変わらないということは、本当にそういう体質なんだろう。
唯はハンバーグを食べ終えると、一緒にジャンボパフェを頼まないかと提案してきた。
私は遠慮すると言ったけど、唯がごねたから結局注文して一緒に食べる事になった。
私も本当は甘いものが大好きだし、食べてる間は幸せだった。
まして、唯は本当に美味しそうに食べる子だから、一緒に食べていると、つられて私の幸せ度も5割増しになる。
食べ終えてからが問題だ。
膨れた自分のお腹を見て、「ああ、明日からしばらく甘い物は控えないと」と思い、憂鬱になる。
でも唯は満足げな顔をしていたし、私が不満を言うのも野暮なので何も言わずに、美味しいものを食べられた事を素直に喜ぶことにした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 01:14:26.72 ID:MjAwUwlio<> ファミレスを出た後、特に用事もなかった私はそのまま唯の部屋に転がり込んで、二人でゲームをして、それからテレビを見た。
あのバラエティー番組、面白かったな。
私も唯も大笑いしたっけ。
番組が終わって私が帰ろうとすると、唯は私を引き留めた。
まだそんなに遅い時間でもなかったし、唯といるのは楽しいから、「少しだけだぞ」なんて偉そうな言い方をして、私は残った。
唯は私を部屋に留まらせたくせに眠くなってきたらしく、ベッドで横になりだした。
昨日の練習は珍しく頑張っていたから、疲れちゃったんだろう。
私は買ってきたCDを唯のパソコンに入れて曲をかけると、ベッドに腰かけた。
「寝るまで一緒にいようよ」と、唯はせがんできた。
いつだったか律にも似たような事を言われたけど、どうも私はこのフレーズに弱いらしい。
時計をもう一度確認すると、まだ9時半を回ったばかりだった。
唯が寝るのを待ってから帰ってたとして、家に着くのは遅くても10時半ってところだ。
私はママに「少し遅くなる」とメールをしてから、「寝るならシャワー浴びたら?」と唯に促した。
唯がシャワーを浴びている間、私は流れている曲のベースラインを耳でコピーしながら、これなら弾けるかな、とか、私だったらこうする、なんて事を考えていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 01:16:30.44 ID:MjAwUwlio<> 唯が部屋に戻ると、私は唯の髪にドライヤーをあててあげた。
水分を吸った茶色の柔らかい髪はしんなりしていて、私の指の間を滑った。
ハーブの甘い匂いがして、私はどこのシャンプーを使っているのか唯に訊ねた。
唯は「ムギちゃんに貰ったんだ」と答えた。
そう言えば、唯とムギは癖毛仲間ということでよく髪の話をしていた。
唯はパジャマを着た後、すぐに布団に潜った。
私は唯が眠れるように電気を消し、間接照明をひとつだけ点けた。
シェード越しの灯は唯の輪郭をぼかし、私と唯の伸びた影がカーテンに映った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 01:20:14.61 ID:MjAwUwlio<> 程よい暗さの中で、私は唯と色んな事を話した。
大学のこと、バンドのこと、梓のこと、今流れている曲のこと、将来のこと。
眠気が強くなってきたらしく、唯はだんだんとゆっくり話すようになっていって、ほとんど私の言葉に相槌をうつだけだったけど、将来の話になると途端に饒舌になった。
将来のこと……もしかしたらちゃんと考えたのも、誰かとそれを話したのも、あれが初めてだったかもしれない。
私も唯も、律もムギも梓も、今の事しか考えたことがなかった。
なんで将来の話になったんだっけ。
ああ、そうそう、私のかけっぱなしにしていた曲が英詞だったから、唯が歌詞の意味を訊いてきたんだ。
一緒に歌詞カードの和訳を読むと、そこに書かれていた内容は「生まれた街であらゆる事をしてきたと思っている人が、その街を出て都会に行く」みたいな、そんな感じだった。
そこから将来の話になった。
意外な事に、唯は自分の将来について不安を口にした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 01:23:55.99 ID:MjAwUwlio<> 高校に入った時も大学に入った時も、唯の頭には希望しかなかったように私には思えていた。
唯が話し始めると、今度は私が相槌をうつだけになった。
唯は自分の思考を言葉に換える事があまり上手くないけど、三年以上一緒にいる私には大体の意味が理解できた。
高校に入って部活を決める時、唯は「何かしなくちゃ」というある種の強迫観念に駆られていたらしい。
何をしたらいいかわからなくて悩んだ末の軽音部だったけど、結果的にこれ以上ないくらい楽しかったから、それは良かった、というような事を唯は言った。
大学に入ると、高校の時と違って、やるべき事、やりたい事ははっきり見えていた。
私はそういうものを「ドア」としてイメージしていたけど、唯は「宝箱」と表現した。
それを開けると楽しい事が飛び出してくるのも唯はわかっていた。
唯にとって新しい事と楽しい事はイコールで、それは私も同じだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 01:27:14.59 ID:MjAwUwlio<> 唯は、宝箱を開ける順番が判らないと言った。
普通の人にも、例えば私にはドアという形で、宝箱は見えている。
とりあえず目の前にある宝箱を手当たり次第に開けていけば、真っ当な人生を歩めるようにこの世界は出来ている。
真っ当が何なのかはよくわからないけど。
唯の場合、見える宝箱の数が普通の人よりも遥かに多かった。
人生を何回繰り返しても開けきれないくらいに。
宝箱で埋め尽くされた平原は、唯を圧倒した。
正しい順番で開けていかないと、人の言う幸せを得られないと唯は考えた。
唯の悩みはさらにもう少し複雑だった。
「あずにゃんにね、聞いたことがあるんだ。私に彼氏ができたらどう思う?って」
梓はちょっと寂しそうな顔をしてから、「いいと思いますよ」と答えたらしい。
「私って恋愛しちゃだめなのかな?」
「考えすぎだよ。だめなわけないだろ」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 01:29:25.17 ID:MjAwUwlio<> 「でも、あずにゃんは寂しそうだったよ」
梓が寂しいと思った理由はなんとなくわかる。
私も、前に律が、彼氏が出来たフリをした時は嫌な気持ちになった。
私に一言も相談してくれなかったこと、律が私の知らない世界に属してしまったこと、私達をないがしろにしたこと、全部嫌だった。
寂しさと不安と恐怖の区別もつかなかった。
嘘だとわかった時は、不覚にも安心してしまった。
「澪ちゃんは、私に彼氏ができたらどう思う?」
答えは梓と一緒だ。
ちょっと嫌だけど、でも「いいんじゃないか」と言うしかない。
女の子はみんなそういう風に出来てるのかも。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 01:31:54.64 ID:MjAwUwlio<> 唯は言った。
「結婚できないかもしれない」
「一生キスもしないまま死んじゃうかもしれない」
「澪ちゃん、私、どうしたらいいんだろう」
私にはまだ憧れでしかなかったけど、唯には高校の部活と同じように「今やるべきこと」としてのしかかっていた。
「別に急ぐ必要はないんじゃないか?」と私が言っても、唯は納得しなかった。
かたっぱしから宝箱を開けるには選択肢が多すぎて、開ける順番を考えないと本当に楽しい事を取り逃すと唯は思っているらしい。
だから、唯はまず女の子の至上命題のひとつである恋愛、もしくはそれに似たものに絞った。
ところが、どの宝箱の中に入っているのか、唯にはわからなかった。
それが唯を余計に焦らせた。
それ以前に、開けること自体を悪徳だと思ってしまった。
唯の話を聞いて、私も怖くなった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 01:35:39.37 ID:MjAwUwlio<> 何かしなくちゃいけない。
私は恋愛できるのかな?
してもいいのかな?
誰かに怒られたらどうしよう。
「こうでないとダメ」っていうのは私達らしくなかったけど、もう私達の半分は大人で、そういう縛りに従順になりつつあった。
唯は私の手を握って、
「澪ちゃんはこういうこと考えたりしない?私だけ?」
と訊いてきた。
薄暗い部屋で切実な光を放つ唯の瞳には有無を言わせない説得力があった。
考えたことはなかった。
余裕じゃなくて無知なだけだった。
でも唯に言われて、私もその必要性に迫られている事を感じた。
和や憂ちゃんと同じように、私も唯の世話をするのが好きだ。
だから唯を覆う不安を取り除いてあげたくなった。
それに加えて、唯から私に伝染する不安を振り払わないといけないと思った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 01:38:11.11 ID:MjAwUwlio<> 暗がりの中で唯は身体を起こして、視線で私にすがってきた。
しばらく無言で見つめあった後、どちらからともなく慰めるような抱擁をした。
唯は、梓やムギ、それに律や和にもよく抱きついていたけど、私が唯とこういうスキンシップをするのはもしかしたらこれが初めてだったかもしれない。
でも私がいつも横で見ていたスキンシップとは違い、この時の唯からは悲痛な感じがした。
身体を離すと、唯はまた私の目を見た。
おでこを突き合わせると、唯の吐息が私の鼻にかかった。
それから私と唯は唇を重ねた。
大袈裟に鳴る心臓も、お決まりの恥ずかしさも、不安から逃げたいという気持ちと唯を助けたいという気持ちには勝てなかった。
後の事を考えられるほど、私も唯も冷静じゃなかった。
恋愛の代理ではなくて、ほとんどやけくそな行為だった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 01:40:21.03 ID:MjAwUwlio<> 何度も唇を重ねていると、自分の呼吸が荒くなっていくのがわかった。
最初は深く吸い込むように、それから段々と浅く、速くなっていった。
唯の舌が私の口の中に入ってきた時、もう私は考えるのを止めていた。
舌を吸い合ったり、歯の裏を舐めたり、そうやってお互いが気持ちよくなれる方法を探った。
唯の服の中に手を入れると、唯は一瞬身体を強張らせた後、自分から服を脱ぎ始めた。
私もラグランを脱ぎ捨て、下着を外し、唯と抱き合った。
脚を絡めると、唯の肌の弾力と熱で、自分よりずっと大きな何かに包まれたような安心を得られた。
その安心は、ほとんど快楽だった。
身体中を、あやすように触り、痛め付けるように舐め、自分の身体の新しい使い方を私と唯はひたすら探した。
私はすすり泣くような声を出し、唯は……いつもの明るくて柔らかい声とは違う、鉄琴の低音みたいに耳の奥に心地好く刺さる、少しハスキーな声を囁くように出した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 01:42:18.29 ID:MjAwUwlio<> 疲れ果てるまで行為を続けて、私はいつの間にか眠ってしまい、目を覚ましてから冷静になって、そして今こうしてみっともなく洗面所でうずくまっている。
他にやりようはなかったのかな?
不安から逃げて、唯を助けて、それにはああいうやり方しかなかったのかな?
唯を助けるなんていうのは途中から大義名分ですらなくなって、私は自分が気持ちよくなりたい一心で唯の身体を触っていた。
「う、うっ……」
それを思うと私はさらに気分が悪くなり、両手で口を押さえながらトイレにかけこんだ。
便座の蓋を開けてしゃがみこみ、底の溜水を凝視した。
私は咳き込んで、胃液だけを吐いた。
昨日食べたパフェはとっくに消化されちゃってるらしい。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 01:45:02.09 ID:MjAwUwlio<> 「澪ちゃん?大丈夫?」
唯の声がする。
でも、唯の顔を見れない。
唯は可愛くて優しくて素直で、本当にいい子なのに、私はあんな事をしてしまって……いや、これは罪悪感なんかじゃない。
羞恥心だ。
この期に及んで、私は昨晩私の身体の至るところを触った女の子と顔を突き合わせるのを恥ずかしがっている。
「ごめん……唯……ごめん……」
しゃくりあげながら私が言うと、唯は私の背中を擦った。
「よしよし。澪ちゃん、大丈夫だからね」
「唯……ごめん……」
「はい、ティッシュ」
唯に促されるまま鼻をかみ、口を拭う。
「澪ちゃんは泣き虫だね〜」
私は俯き、何も答えなかった。
また涙が流れる。
「うーん、わかんないなぁ」
唯が唸った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 01:47:42.58 ID:MjAwUwlio<> 何が……?」
顔を上げて、遠慮がちに唯を見た。
唯はもうちゃんと服を着ていて、頭はボサボサで、でもどこかすっきりした顔をしていた。
「私も澪ちゃんも、悪いことしたわけじゃないよね?」
「……悪いことじゃないの?」
「だってさ、楽しかったんだよ?そりゃあちょっとはおっかなびっくりだったけど」
「でも恥ずかしかったよ……」
「えへへ、私も〜」
なんとか笑い返そうとした時、私のお腹が鳴った。
「あ……」
「お腹へったね。何か食べよっか」
そう言って唯は親指の腹で私の涙を拭った。
「澪ちゃん、タイくらい結びなさい」
「タイなんてないだろ……。それに唯、唯のほうこそ寝癖が酷いよ……」
私はようやく笑うことができた。
「コンビニ行く?あ、でも澪ちゃんお腹の調子悪そうだし……」
「大丈夫……。ご飯食べる」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 01:50:25.29 ID:MjAwUwlio<> 「そっか」
唯は立ち上がり、私の手を引っ張って立たせた。
私はいつもこうだ。
助けるつもりが、最後は私が誰かに助けられる。
「はい澪ちゃん。ズボン履いて」
私は唯に渡されたジーパンを履き、最後に目をきつく擦った。
立ち上がってもしばらく歩き出せなかった。
唯は私の背中を軽く押して「ほら、行こうよ」と言った。
外に出ると、日の光が目を眩ませた。
オートバイの走る音が響く。
ここから見える風景と音景は今までと何も変わっていないのに、私の五感をいちいち刺激する。
「もうお昼だもんね。うぅ、眩しい」
唯は部屋の鍵を閉めると、光の中を躊躇なく歩いていった。
マンションの階段を軽やかに降りていき、唯の姿はすぐに見えなくなった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 01:52:35.43 ID:MjAwUwlio<> 昨晩、唯の開けた宝箱は、私の開けたドアは、正解だったんだろうか?
唯の望んだ宝箱ではなかっただろうけど、でも唯は嬉しそうだから、もうハズレでもいいのかな。
私は財布を忘れた事を思い出して、部屋のドアを開けようとした。
何度かドアノブを捻ったけど、さっき唯が鍵を閉めちゃったから開かなかった。
「澪ちゃ〜ん!はやくー!」
唯はもう下まで降りていて、メガホンみたいに両手を口の前にあてて、部屋の前でもたつく私を大声で急かした。
とりあえず、朝食、いや、ランチかな?
そのぶんのお金は唯に立て替えてもらおう。
私は足を踏み外さないように、階段を一歩ずつ降りた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 01:54:58.33 ID:MjAwUwlio<> 私が自分の家に帰ったのは夕方になってからだった。
許可なしに外泊した事でパパとママは私をこっぴどく叱った。
夜になって、自分の部屋で机に向かい、私は携帯電話を開いた。
元々唯とは連絡をよく取り合っていたから、メール一覧のほとんどは唯か律だ。
その中から適当に唯のメールを開いた。
『そうそう!あのお店カワイイよね!私も気になってたんだ』
何て事のない内容だったけど、このメールを送ってきた唯にはもう会えない気がして悲しくなり、私は机に突っ伏した。
お風呂に入るのも億劫だしこのまま寝ちゃおうかな、と目を閉じながら思っていると、携帯が鳴った。
起き上がって、メールを開く。
唯からだった。
『今日はありがとう。昨日のことはみんなには言わないから大丈夫だよ!』 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 01:57:42.50 ID:MjAwUwlio<> みんなに隠すってことは、唯もあれがどういう事だったのかちゃんと理解してるんだ。
「悪いことをしたわけじゃない」なんてのは、都合のいい呪文でしかないんだ。
「泣いちゃってごめん。月曜はレポートの提出だからちゃんとやるんだよ。おやすみ」と返信して、私は携帯電話を閉じた。
落ち着かない。
パソコンを立ち上げ、ヘッドフォンを着ける。
ペンを持ってノートを開く。
ペンで机の上をコンコンと叩きながら、ヘッドフォンから流れる曲に耳を澄ませる。
でも、ムギが書いてくれた可愛い曲に合いそうな歌詞はまるで浮かんでこない。
内腿を擦ると、昨日の唯の顔が頭に浮かんだ。
私はそれをかき消そうとして、音楽のボリュームを上げた。
次に唯に会うのは月曜日。
結局私はお風呂に入らないまま寝て、一日を短くした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/08(火) 01:58:37.74 ID:MjAwUwlio<> 切りのいいところなので続きは明日 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/08(火) 02:03:22.23 ID:QFaO/vpjo<> ほう乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/08(火) 02:13:04.02 ID:FKTzD9sgo<> これは期待できる乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/08(火) 02:29:40.59 ID:YvzVkKxUo<> 明日に期待 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/08(火) 03:37:15.92 ID:/aPWs8RDO<> いいねいいね <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/08(火) 13:26:29.20 ID:mLtwwMlBo<> 遅くてもなんでもいいから完結してくり <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 21:46:50.23 ID:MjAwUwlio<>
『8月5日』
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 21:58:49.04 ID:MjAwUwlio<> 月曜になり、大学の事務室のポストにレポートを提出したあと、私は大学の側にある喫茶店に入った。
まだ前期試験期間中で、私は先週で全日程を終えていたけど、三限目が終わった直後ということもあって店内はほとんどウチの学生で席が埋まっていた。
ムギの家の系列の喫茶店みたいにオシャレじゃない、安かろう早かろうなチェーンの店だから落ち着いて話せる雰囲気じゃない。
普段なら、私もバンドのみんなもここを利用することは滅多にない。
それが好都合で、私はこの店を選んだ。
「すみません曽我部先輩、遅くなりました」
「ううん、私も今来たところだから」
曽我部先輩は立ち上がって上座を私に譲ろうとしたけど、私は遠慮して下座に座った。
先輩からメニューを受け取ると、私は紅茶を注文した。
「それで、相談って?」
「あ、相談ってほどのことでもないんですけど……」
語尾を濁して私が何も言わないでいると、気を利かせて先伸ばしにしようとしてくれたのか、曽我部先輩は天気の話、サークルの話、就活の話を始めた。
少しして、店員が紅茶を運んできた。
私はシュガースティックを一本とレモンポーションを入れて、一口だけ紅茶を飲んだ。
レモンの果汁が混ざりきってなくて、私は先輩の前で顔をしかめるのを我慢しなきゃいけなくなった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 22:03:01.53 ID:MjAwUwlio<> 「ケーキも頼む?」
「いえ、大丈夫です。こないだちょっと甘いもの食べ過ぎちゃったので」
「あら、ダイエット?」
「……はい」
「そんなことしなくても、秋山さんかわいいのに」
私は曽我部先輩が苦手だったけど、大学に入って律を介して何度か会う機会があって耐性がついたのか、以前ほど抵抗を感じなくなっていた。
でもこういう風に面と向かってかわいいとか言われるとやっぱり反応に困る。
ていうか二人きりで会うのはこれが初めてだし、緊張する。
「あ、真鍋さんは元気にしてる?私、最近連絡とってなくて」
「あ……はい。和はとっても元気です!」
「とっても、なんだ?」
口元に手を当てて、曽我部先輩はくすくす笑った。
「えっと、和とはこないだご飯一緒に食べて、なんだっけ……唯の面倒よろしくって言われました」
「唯ちゃん、危なっかしいもんね」
「そ、そうなんですよ」
なんだこの会話。
何しに来たんだっけ、私。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 22:05:43.07 ID:MjAwUwlio<> しばらく和の話をした後、曽我部先輩がまた切り出した。
「……それで、話は戻るけど、相談ってなに?」
「えっと……」
「もう少し世間話する?私は澪タンと話すの楽しいからいいけど」
「あ、いえ、言います。ちゃんと言います。ていうかその呼び方は……」
「ふふ、ごめんごめん」
私は深呼吸してから、曽我部先輩に訊いた。
「先輩は、私に彼氏ができたらどう思いますか」
曽我部先輩は一瞬驚いたような顔をした。
「えっ?秋山さん、彼氏できたの?」
「あ、いや、ちが、違います!そうじゃなくて……ちょっと訊いてみたかったっていうか……」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 22:10:50.83 ID:MjAwUwlio<> 曽我部先輩はコーヒーを一口飲み、カップを置くと、両手をテーブルの前に置いて困ったように笑った。
「秋山さん、もしかして私のこと同性愛者だって誤解してない?」
「そ、そういうわけでは……」
「秋山さんに彼氏ができたら……かぁ。そうね、嬉しいわ」
「嬉しい、ですか?」
「大人になったんだなぁ、って。しみじみ、ね」
「はぁ……」
「でもちょっと寂しいかな」
やっぱり。
「ファンクラブの子達は、どうなんでしょうか?」
「正直に言っていいの?」
「はい。お願いします」
「私みたいに嬉しい、って思う人もいれば、失望しちゃう子もいるかもね。ファンをやめちゃったり」
多分そうなんだろう。
唯とあの話をして初めて気づいたけど、私が貰っていた愛情は条件付きのものなんだ。
汚れていない私でいる事が条件なんだ。
もっと言えば、「こうあって欲しい秋山澪」を私が守っているっていう大前提。
それを反古にしたら、しゅるしゅるって消えちゃう愛情。
私が、例えば律に向けていたものも、それに近かったのかもしれない。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 22:20:22.81 ID:MjAwUwlio<> 「曽我部先輩は、恋愛って汚いと思いますか?」
……って、訊き過ぎだ、私。
勢い余りがちなこの悪癖は中々治らない。
「え……?ええと……私もまだ大学生だし、人に言えるほど経験があるわけでもないから、ごめんなさい、それはわからないわ」
「そうですか……」
「恋愛したいの?」
「今したいってわけじゃないんですけど」
「しちゃいけないんじゃないか、と思ってるとか?」
「……そう、です。はい。そういうことだと思います」
別に恋愛に限ったことじゃない。
私の行動全てが、重い粘着質の鎖か縄みたいなもので制限されている気がする。
もちろんそれを無視する権利もあるんだろうけど、みんなにそっぽを向かれるかもと思うと……。
「誰かに何か言われたの?」
「いえ、自分で勝手に思っちゃっただけなんですけど」
「しちゃダメってことはないと思うわ。少なくとも、私は秋山さんにはちゃんと恋愛でもなんでもして、いい大人になってほしいって思うから」
子供扱いされてる、と思った。
でも嫌な気はしなかった。
和が頼りにしていただけあって、曽我部先輩には独特の包容力があった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 22:24:10.26 ID:MjAwUwlio<> 「あ、じゃあ私の男友達を誰か紹介する?」
「ええっ!?そ、そんな、結構です!は、二十歳になってから!それまでそういうのは、あの、その……」
「……と言っても私の友達には、秋山さんに相応しいような人がいなかったわ」
そう言って曽我部先輩は肩をすくめて笑った。
私は笑っていいものかどうかわからず、俯いてしまった。
結局、私の悩み事は解決しそうにない。
そもそも悩み事の正体がぼんやりしすぎている。
「どうして私に相談したの?りっちゃんとか、バンドのみんなのほうが秋山さんのことはよくわかってそうだけど」
「みんなに言っても茶化されるだけです」
曽我部先輩を選んだのは、この人が一番私を知らないからだ。
知らないのに好意を持ってくれている。
とびっきりの条件付きの好意を。
実際は私が思っていたよりも冷静に私を見てくれていて、きっとそれは私と話す機会が高校の時より増えたからだ。
私は憧れの偶像ではなくて、一人の後輩で、友達になったんだろう。
それと、みんなには訊けなかったから、というのも人選の理由だった。
唯とあんな事になってしまった以上、少しでもそれを匂わせるような事は避けないと。
唯ならうっかり口を滑らせかねない。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 22:26:55.95 ID:MjAwUwlio<> 「秋山さん?顔色悪いよ?」
「すみません、ちょっと、御手洗いに……」
私は席を立ち、トイレに入り、さっき飲んだ紅茶を吐いた。
これからみんなに対して、隠し事を続けなきゃいけないと思うと気分が悪くなった。
何より、もう一度唯とああいう事をして、不安を解消したいと思う自分に吐き気がする。
私がトイレから戻ると、曽我部先輩はもう帰る準備をしていた。
「秋山さん、大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
私はお腹を押さえて、生理のフリをした。
「ごめんね、私この後サークルの話し合いがあるの。続きはメールでも電話でもちゃんと聞くから……」
「いえ、こちらこそわざわざありがとうございました」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 22:29:29.05 ID:MjAwUwlio<> 「お代はさっき払っておいたから、秋山さんはゆっくりしていってね」
私は慌てて財布を取り出した。
「あ、そんな、悪いですよ。ちゃんと払います」
私が自分の紅茶代を渡そうとすると、曽我部先輩は手でそれを制して、小さく手を振って店から出ていった。
「行っちゃった……」
私は仕方なく席に戻り、冷めきった紅茶を飲んだ。
次に誰かとお茶する時にトイレに行くなら、伝票を一緒に持っていかないとだめだな。
店の中からぼんやり外を眺めると、うちの大学の学生らしき女の子と、その子の彼氏と思われる男の子が楽しそうに歩いているのが見えた。
あの女の子が今どういう気持ちなのか、私にはよくわからない。
ちょっと刺激が強そうだけど、悪いことをしてるようには見えない。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/08(火) 22:33:31.75 ID:MjAwUwlio<> 私は窓から顔を背けて、さっきまで曽我部先輩がいた正面の席を見た。
いたずらに怖がってたけど、律の言う通り、いい人だったな、やっぱり。
大人っていうか。
もう苦手意識なんてないかも。
携帯が鳴る。
メールを開くと、曽我部先輩からだった。
『澪タン、またいつでも呼んでね!悩んでる澪タンもかわいかったよ!』
私は返信せずに携帯電話を閉じた。
……やっぱり苦手だ、曽我部先輩は。
バンドの練習まではまだ少し時間がある。
とりあえずここで時間潰すしかないかな。
私はスプーンで紅茶をくるくる混ぜてから、くっと飲んだ。
紅茶を飲み干しても、カップの底には焦げた茶葉が残った。
メニューを手に取り、ケーキを頼むのを我慢して、紅茶をもう一杯注文した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 22:41:23.31 ID:MjAwUwlio<> ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
唯は私と違って、本当に悪びれない。
喫茶店で時間を潰した後、スタジオでの練習が終わって、みんながいる中、唯はベースを仕舞う私の肩をつつき、そっと耳打ちした。
「ね、澪ちゃん、一緒に帰ろ?」
みんなに聞こえないように私にだけ言うって事は、きっとそういうことなんだろう。
私はどうするべきか迷った。
あの日だけならものの弾みとか何かの間違いとか、そういう言い訳ができるけど、二回目をやらかしてしまったらもう後戻りはできない。
三回目、四回目を唯はせがむようになるだろうし、私もしたくなるに決まってる。
私が何も言わないでいると、唯は顔を曇らせて、
「あっ、ごめん。い……イヤ?」
と申し訳なさそうに言った。
私はあの後、唯としたことを何度も思い返しては恥ずかしさでベッドの上をのたうち回ったけど、その一方で唯からお呼びがかかるのを心待ちにしていた。
初めてベースを触った時みたいな、世界が一新されたあの感覚を反芻すると、どうしても嬉しくなってしまう。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 22:46:02.12 ID:MjAwUwlio<> 「うぅ……ダメでしょうか?」
唯は指をもじくさと弄りながら伏し目で言った。
『悪いことをしてるわけじゃない』と自分に言い聞かせてから、私は答えた。
「いいけど、みんなとご飯食べてからな。せっかく梓もいるんだし」
唯は笑顔を見せると、ギターケースを肩にかけ、梓のほうに駆け寄っていった。
梓は私達が卒業したあと、鈴木さんと憂ちゃんと一緒にバンドを組むことにしたらしい。
新入部員も入り、なんとか廃部を免れ、ごたごたが落ち着いた最近は、梓も時々私達に混ざってスタジオで練習するようになった。
「梓ちゃん、学祭のほうは順調?」
唯にまとわりつかれる梓に、ムギが訊ねた。
「はい。ばっちりです」
梓はムギにそう言ってから、律の顔を見て意地悪く笑った。
「ちゃんと練習してますし」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 22:51:23.62 ID:MjAwUwlio<> 「なにぃ?まるで私達はロクに練習してなかったみたいな言い方だな?」
律が梓の肩に腕を回しながら言った。
「してなかったじゃないですか」
「ほぉう?だらけても怒らないから〜って泣いちゃったのは誰だったかなー?」
「そ、そんなの覚えてません!」
「写真に撮っておけば良かったな〜」
「もう!しつこいですよ律先輩。そのネタ何回目ですか」
卒業式の日に梓が泣き出してしまったことも、今となっては冗談にできた。
それくらい梓は今の軽音部を楽しんでいたし、いつでも私達と演奏できるという事が梓を安心させたみたいだ。
梓の当面の目標は10月のライブで、私達との練習は気晴らしというか息抜きというか、きっとそんな感じ。
「ほら、もうスタジオ出るぞー」
スタジオの重いドアを開けて、私はみんなを急かした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 22:55:45.83 ID:MjAwUwlio<> ムギがどうしても食べてみたいということで、私達は最近駅前にできたもんじゃ焼き屋に向かった。
事前に調べておいたのか、ムギはもんじゃ焼きの焼き方を知っていた。
キャベツベースの具で鉄板の上にドーナツ状の堤防を作り、火が通ったところで真ん中に汁を流し込む。
ムギが嬉しそうにその作業をしているのを、私達は感心しながら眺めた。
「はい!完成!……だと思う」
お好み焼きと違って、もんじゃ焼きははっきりとした型にならないから、完成のラインがよくわからない。
「じゃ、食べようぜ」
「お〜」
唯と律は小さい金属のヘラで、具と汁を混ぜ、鉄板に押し付けて焦がしてから、それを口に運んだ。
「おいしい〜!ムギちゃん上手だね」
ありがとう、とムギは笑顔で返した。
梓とムギも食べ始めたので、私もヘラを使って具を焦がした。
「……熱っ!」
口に入れると、熱した汁で私は舌をヤケドした。
「ははは、食い意地はってるなー澪は」
うるさい。
律には言われたくない。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 23:00:30.14 ID:MjAwUwlio<> それから四玉ほど追加注文をしたけど、お腹はほとんど膨れなかった。
「美味しかったけどなーんか食った気しないなぁ」
店を出たあと、律がぼやいた。
帰り道、途中で私と律は唯達と別れた。
律と内容のない会話をしながら歩いてると、バッグの中で携帯が震えた。
唯からだ。
「もしもし?」
「澪ちゃん、今ひとり?りっちゃん隣にいる?」
私は律のほうをちらっと見てから、何食わぬ顔で「うん」と答えた。
「えっと、今日どうしよっか。りっちゃんと別れたあと、私の部屋に来れる?」
唯は声を潜めた。
「うん。大丈夫。じゃあ」
私は事務的に聞こえるように意識して言ってから、電話を切った。
「ん、誰から?」
私は律の顔を見ないで答えた。
「ママから。早く帰ってきなさい、だって」
「そっか」
適当についた嘘だったけど、そのおかげで律は少し歩みを早めてくれて、私にとって都合が良かった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 23:04:19.21 ID:MjAwUwlio<> 律と別れた後、私は駆け足で家に帰り、ベースを部屋に置いて、ママに「友達の家でレポートやってくる」と言って、自転車に乗って唯の部屋に向かった。
あれほど悶々としていたのに、いざ唯のところに行けるとなると、私の心は躍った。
「えへへ、いらっしゃい」
息を弾ませた私を、唯は笑顔で出迎えてくれた。
シャンプーの匂いがする。
唯はもうお風呂も済ませたらしく、あの変な文字が書かれたシャツの寝巻きを着ていた。
「あ、ジュース飲む?お菓子、えっと、チョコとかあるけど食べる?それともテレビ見よっか?何か欲しいものある?」
憂ちゃんと違って、人をもてなす事に慣れていないんだろう。
唯はキョロキョロしながら、頭に浮かんだ事をかたっぱしから口にするような聞き方をした。
「ええと、水でいいよ」
唯は私からもてなしの答えを貰えて安心したのか、少しだけ落ち着いた様子でグラスに水を入れて私に手渡した。
私はベッドの横に座り、水を一口飲んだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 23:09:18.67 ID:MjAwUwlio<> 高校の時から、唯の作る部屋が私は好きだった。
ベッドの形や布団の柄、照明の形、カーテンの色、置かれた人形、その全部が可愛い。
私も可愛いものは大好きだし、こういう部屋にしてみたいけど、自分にはちょっと合わない気がしてなかなか踏み出せない。
自分の好きなものを迷わず置ける唯の素直さが、少し羨ましい。
表向きの私と唯は真逆の性格だけど、可愛いものと楽しいものに対する感覚はよく似ていた。
初詣で唯に「可愛い」と言われた時は、証明書でも貰ったような気持ちになって嬉しかった。
「澪ちゃん、テレビ観ようよ」
唯はリモコンでテレビをつけたかと思うと、チャンネルを回し始め、それからまたすぐに電源を切った。
落ち着かない唯を見て、私もそわそわし始めた。
なんでこんなに急いで来たんだろう?
決まってる。
この前と同じことを唯と出来ると思ったからだ。
恥ずかしさと罪悪感に苛まれていたはずなのに、私はそれが楽しみで仕方ないんだ。
で、ここに来たはいいけど、どうやって事を運べばいいんだろう?
ていうか運んじゃっていいのかな?
今日もああいう事をしちゃったら、それはもう常習化するのを許したのと同じになってしまう。
唯はどうするつもりなんだろう? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 23:21:07.29 ID:MjAwUwlio<> ベッドに腰掛ける唯を見ると、唯もどうしたらいいのかわからないらしく、指先を弄ったり携帯を開いたり足をぱたぱたさせるだけで、何か言ってくる様子はない。
こうなった以上、私から何か言うべきなんだろうか。
でも何て言えば?
いきなり触るのもどうかと思うし、ていうかそんな度胸私にはないし、恥ずかしいし。
この前と同じ状況を作るとか?
将来の話をして、自分を不安に追い込む、みたいな。
……なんだ、もうする事を前提に考えちゃってるな、私。
「あ、マンガ読む?」
唯は棚にあったマンガの中途半端な巻を私に差し出した。
「うん、読む」
私はそれを受け取って、ページを開いた。
マンガの内容は全く頭に入ってこない。
なんで唯相手に緊張しちゃってるんだ私は。
唯は手持ち無沙汰を感じたのかスタンドからギー太を取り、ベッドの上で演奏を始めた。
いつも以上に間違いまくって、気恥ずかしそうに私の顔を伺う。
私もただ苦笑するだけ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 23:25:32.53 ID:MjAwUwlio<> ページをパラパラめくっているうちに、口の中が渇いていくのを感じて、私はまたコップの水を飲んだ。
「あっ、シャワー!」
私は立ち上がって言った。
「え?」
「シ、シャワーかして!」
声が上擦る。
「あ、うん」
唯にバスタオルをもらい、洗面所で服を脱ぎ、私は浴室に入った。
シャワーヘッドから出るお湯を、目を閉じながら顔に浴びる。
そう言えばこの前は身体を洗ってなかったな。
どうしよう、汗臭くなかったかな。
唯は何も言ってこなかったけど。
途端に叫びたくなるくらいの恥ずかしさが襲ってきた。
んーっ、と外に漏れないように口の中で私は叫んだ。
ハンドルを戻してシャワーのお湯を止め、滴る水の音に耳を澄ませると、少しだけ落ち着くことができた。
ふぅ、と息を吐いてからシャンプーを手にとり、掌で泡立たせた。
浴室にハーブの匂いが広がる。
唯の匂いだ。
私は髪を洗った後、シャンプーの入れ物を手に取った。
よくわからない言語……多分フランス語で書かれたラベルを見て、ムギに貰ったと唯が言っていた事を思い出した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 23:31:37.05 ID:MjAwUwlio<> 身体を洗って浴室から出て、唯に借りた高校のジャージを着た後、私はタオルで髪を拭きながら部屋に戻った。
「澪ちゃん、ジャージも似合うね」
「いや、同じのつい最近まで着てただろ……」
「ドライヤーここにあるよ!乾かしてあげよっか?」
「え?あ、ええと……自分でできるから……」
「えー」
「自分で乾かすからっ!じ、自分で」
私はひったくりみたいに唯からドライヤーをもぎ取った。
私が髪を乾かしている間、唯はベッドの上で寝転がったり起き上がったりカーテンの隙間から外を見たり、とにかく落ち着かない様子だった。
乾かし終わってドライヤーのスイッチを切ると、部屋には何の音もしなくなった。
私はベッドの横に小さく体育座りをして、いよいよどうしていいかわからなくなった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 23:35:59.11 ID:MjAwUwlio<> 唯はベッドから起き上がり、部屋の中をうろうろし始めた。
いっそこのまま帰っちゃおうか。
こんなんじゃ、もう今日はできそうもない。
そう思うと、身体が萎んでいく感じがした。
でもそのほうがいい。
そのほうが健全なんだよ。
女の子同士であんなことするほうがどうかしてるんだ。
「あっ!そ、そうだ〜」
わざとらしい言い方をしながら、唯は立ち止まった。
「澪ちゃん、今日もんじゃ焼きでヤケドしてたよね?大丈夫?」
なんでいきなりその話なんだ、と思いながらも、
「大丈夫だよ」
と私は答えた。
「ほんと?ちょっと見せて!」
唯が四つん這いで私にせがむ。
私は言われるままに舌を小さく出す。
唯は私の舌を少し眺めたあと、顔を近づけてぺろっと舌を舐めた。
自分の顔が火の玉みたいになっていくのがわかった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 23:39:44.04 ID:MjAwUwlio<> 唯は膝で半立ちになって、私の頭を胸に埋めるようにして抱いた。
始まっちゃった。
私は唯の背中に恐る恐る手を回して抱き返した。
すると、私の頭を抱く唯の腕の力が強くなった。
苦しくなって、私は唯の背中をぽんぽんと叩いた。
唯はパッと腕を離した。
「あっ、ごめん!苦しかった?」
えへへ、と笑いながら、唯は頭を掻いた。
唯は私のおでこに唇を当ててすぐに離した。
私も同じ事を唯の首筋にやり返す。
そうやって、お互いの耳や頬に何度も唇を当て合った。
次第に当てる時間が長くなり、私が唇で唯の耳朶を挟むと、唯は小さく声を漏らした。
その声で、私達の間に遠慮がなくなった。
唯は私の肩に手を置いてぐっと力を込め、私はそれに従って床に身体を倒した。
お望み通りの、二回目だ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 23:43:50.49 ID:MjAwUwlio<> ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「あ、ねえねえ。明日の練習って二時からだよね?何時に目覚ましセットする?」
「お昼食べてからいきたいし、11時くらい」
「えー?早くない?」
「唯はのんびりすぎるよ」
「そうかなぁ。まぁいいや。じゃあ11時にセットするね」
目覚まし時計をセットした唯は、そのまま布団に潜り込んだ。
かけ布団の中で、私と唯は手を握り合った。
向かい合って「おやすみ」と声を掛け合い、私は目を閉じた。
朝になったら、また私は後悔して泣き出すのかな。
そんな風にはなりたくないな。
私も唯もこんなに楽しんでるんだし。
この前はお互いわけもわからないまま身体を重ねてそのまま寝てしまったけど、今は違う。
恥ずかしさもちょっとは薄れてる。
後悔する必要なんてない。
私はなるべく唯とくっつくように身体を動かしてから、目を閉じた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 23:48:16.35 ID:MjAwUwlio<> この日から、夏休みの始まりから終わりまで、私は何度も唯の部屋に通い、ベッドの上で抱き合った。
事前はどうしても身体が硬くなってしまったけど、唯がいつも仕掛けてきてくれたから、生理の時以外は滞りなく楽しむことができた。
みんなにひた隠しにしながら、私と唯は新しいオモチャを貰った子供のように、この遊びに熱中するようになった。
暗黙の了解で、純潔に手を出すことはしなかった。
これはスキンシップの延長で、決して互いを貶める行為じゃない。
ほとんど自分達への言い訳のために、そういうルールが私達の間に横たわった。
会う時は唯が私にメールをよこすのが習慣になった。
メールの文面は直球そのもの、「今日えっちする?」とか「早くしたいよ〜」とかそんな感じで、私はどうしてもそれに慣れることができなかった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 23:52:01.89 ID:MjAwUwlio<> 夏休みが終わる前くらいに、「恥ずかしくないの?」、と訊くと、唯は「ちょっとだけ恥ずかしいけど、澪ちゃんには敵わないよ」と答えた。
「敵わない?どういうこと?」
「女の子って、誘うより誘わせるほうがテクニシャンらしいよ」
「……なんだそれ。変な雑誌の読みすぎじゃないのか」
「だから澪ちゃんは私より一枚上手だね」
私はただへたれてるだけ、唯が誘ってくれるのを待ってるだけで、駆け引きなんて全然だ。
ていうか唯が辛抱なさすぎだよ。
突っ込んでやろうと思ったけど、唯がそう思って毎回誘ってくれてるならその方が都合が良いから何も言わないでおいた。
でも唯はそう言ったすぐ後にいたずらっぽく笑ったので、冷やかしただけみたいだ。
もしかしたら、そうやって冷やかせば、意地になった私から唯を誘うようになるって魂胆かも知れない。
「澪ちゃん、明日も来るよね?」
……それは違うか。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/08(火) 23:53:11.06 ID:MjAwUwlio<> 今日はこのへんで
明日の夜にまたちまちま投下します
とりあえずようやく前置き段階終了 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/09(水) 00:01:43.31 ID:9jSXD8YIo<> 乙
めちゃめちゃ期待してる <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/09(水) 00:06:00.83 ID:eDSrqwrqo<> 乙! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/09(水) 00:06:25.43 ID:YcKmIQODO<> いいよいいよ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/09(水) 20:47:13.88 ID:atZBIoAlo<>
『9月18日』
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/09(水) 20:52:16.56 ID:atZBIoAlo<> 二限目後の昼休み。
食堂でムギを待ちながら床の模様と睨めっこ。
夏休みが終わった直後で、五月病そのままに自主休校が癖になっていた学生も仕切り直しで登校するため、いつもより人が多い。
高校と違って、大学はどの人が上の学年なのかパッと見分けがつかない。
でも二年生、三年生になると落ち着きが出てくるらしく、少し観察すると一年生じゃないことがわかる。
曽我部先輩の話だと、四年生はもうほとんど大学に来なくなる人が多いらしい。
一年生は落ち着きなくキョロキョロしながらご飯を食べるか、もしくは唯と律みたいにやたらはしゃぎながら食べるかのどちらかだ。
私はどちらでもない。
単に一人でいるのが心細くて、活気のある食堂の隅にある券売機の横で後ろ手を組みながら床を眺めている。
「ごめん、澪ちゃん。おまたせ」
ムギはルーズリーフのバインダーをバッグにしまいながら駆け寄ってきた。
「そんなに急がなくても良かったのに」
「澪ちゃん、寂しいかと思って」
「いや、子供じゃないんだから」
ムギは「そうだよね」と言いながら、親が子供を甘やかすような笑顔になった。
いまさらムギに見栄はってもバレバレか。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/09(水) 20:54:32.88 ID:atZBIoAlo<> 私は甘口のカレーを、ムギはオムライスをそれぞれトレーに乗せて、向かい合って席についた。
私の後ろに座っているグループがやたら大きな声で喋ってる。
どうやら彼氏の悪口みたいだ。
私が顔をしかめると、ムギはまあまあと宥めるように手を上下に動かした。
会話の途中で、私はそれとなくムギに訊いた。
「唯の使ってるシャンプーって、ムギがあげたんだって?」
口に入ってるオムライスを飲み込んでスプーンを置いてから、ムギは答えた。
「うん。前に、使ってるシャンプーの話になってね。私が使ってるのと同じのをあげたの。いい匂いだから使ってみたいって唯ちゃんに言われて」
「そっか」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/09(水) 20:57:15.00 ID:atZBIoAlo<> 「良かったら澪ちゃんのぶんも持ってくる?」
本当は最初からそのつもりでムギにこの話をしたけど、私は少し考えるふりをしてから答えた。
「うん、お願いしようかな」
「三人でお揃いね」
ムギは嬉しそうに言って、またオムライスを口に運んだ。
以前のムギなら口元を手で隠しながら噛んでいたけど、最近はそういう仕草がなくなった。
唯か律の影響なんだろうけど、いいことなんだか悪いことなんだか。
「お揃い、か」
ムギに言われるまで、そのシャンプーを私が使えば三人お揃いになるということに私は気付かなかった。
「そうだ、りっちゃんにもあげようかな」
「律はシャンプーなんてこだわらないって」
「そうかな?」
「石鹸で洗ってるんじゃないか、律は」
私がそう言ってカレーを口に運ぶと、頭のてっぺんに何かが落ちてきた。
私はその衝撃でスプーンをがちっと噛んでしまった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/09(水) 21:01:40.51 ID:atZBIoAlo<> 「シャンプーくらい使ってるっつーの」
振り向くと、律がトレーを持ちながら私の頭に手刀を乗せて立っていた。
その隣の唯はコップの水が零れないように、両手でおそるおそるトレーを持っている。
ムギが椅子を引いてやり、唯はムギの横に座った。
「まーったく!私がいないと澪はすーぐそうやって言いたい放題だ」
律は椅子を引いて私の隣に座った。
律の声が大きかったせいか、私の後ろにいたグループが別の場所に移動し始めて、私は胸がすっとした。
「りっちゃん、今ね、澪ちゃんとシャンプーの話してたんだけど、良かったら一緒の使わない?」
ムギが身を乗り出して言った。
「え?いーよそんなの」
「あのね、ハーブの香りがするやつなの。ロクシタンっていうフランスのシャンプーなんだけど」
「おフランスだとっ」
わざとらしく驚いてから、律は苦笑いして手を横に振った。
「いいっていいって。なんかそーゆーの苦手だし」
ほら、やっぱり律はシャンプーなんて適当じゃないか。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/09(水) 21:03:53.61 ID:atZBIoAlo<> ムギが残念そうな顔をして身体を戻した。
「シャンプーって私がムギちゃんにもらったやつ?」
サラダにドレッシングをかけながら唯が言った。
「うん。せっかくだしみんなで使ったらいいかなぁと思ったんだけど」
「あれいい匂いだよね〜。澪ちゃんなんてあの匂い大好きだもんね」
私は「あっ」と声を出して、唯を制そうと手を前に出した。
唯は「しまった」という顔をして、口を手で塞いだ。
……ってこれじゃ逆効果だ。
何かあると律とムギに言ってるようなもんだ。
「は?何?」
律が怪訝な顔をして私と唯を交互に見た。
ムギはきょとんとして、スプーンを空中に静止させたまま止まってしまった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/09(水) 21:07:24.06 ID:atZBIoAlo<> 「あ、いや……」
私は口ごもって、目を泳がせながらあさっての方を見た。
「ごめん澪ちゃん。りっちゃんには内緒だったのに言っちゃった」
唯はスプーンをひらひらと動かしながら言った。
「なんだそりゃ」
「えへへ、澪ちゃん、私のシャンプー使いたいんだって。いい匂いだから。りっちゃんに知られたらからかわれると思ってたみたい」
「いや、別にそんなのからかうネタにならないし。私ならもっとでかいネタでからかうっつーの」
「だってさ。良かったね澪ちゃん」
唯がなんとかその場を誤魔化したけど、私は顔を上げる事ができなかった。
「って私はどんだけ信用ないんだよ。ひどくない?大親友に対してさぁ」
私が何も言わないでいると、律も不安になってきたらしく、
「澪?大丈夫だって。からかわないよ」
と説得するように声を低くして言った。
私は顔をあげて、
「気にしすぎだったかな」
と言った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/09(水) 21:11:28.75 ID:atZBIoAlo<> 昼食を済ませた私達は、次の講義のために食堂から少し離れた学部棟へ四人一緒に向かった。
講義の途中で私はトイレに立ち、用を足して手を洗っていると、唯が追ってきた。
「澪ちゃん、ごめんね」
「いいよ。私のリアクションのほうがダメだったし」
「今度からはちゃんと気をつけるよ」
私は唯に隠し事をさせていること、律とムギに嘘を吐かせてしまったことを申し訳なく思った。
「ていうか、やっぱり律達に隠さなきゃダメなのかな」
「え?」
洗面台の大きな鏡に映る唯の顔を見ながら、言葉を続けた。
「だって誰かに迷惑かけてるわけじゃないんだし」
「みんなに話すの?澪ちゃんは恥ずかしくないの?」
鏡の中の唯の顔に不安が滲む。
いや、不安というのは少し違うな。
私に対する心配って感じだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/09(水) 21:17:41.19 ID:atZBIoAlo<> 「唯はどう思う?」
私が訊ねると、唯は用を足してないのに水道のハンドルを倒して手を洗い始めた。
「うーん、わかんないよ」
私は、みんなに話した場合の事を考えた。
ムギはああいう性格だから、もしかしたら応援してくれるかもしれない。
けど私と唯は別に付き合ってるわけじゃない。
お互い恋愛感情もない。多分。
ムギは誰よりも、私達みんなの関係を大切にしている。
私と唯の変な関係がそこに加わると、全体に歪みが生じるのは明らかだ。
今まで通りお茶をしながら話していても、「平沢唯と秋山澪は家に帰ったらいやらしい事をしている」というイメージは常にまとわりつく。
平穏で綺麗な時間は永久に失われる。
ムギはそれを悲しむかもしれない。
律に話した場合、どうなんだろう、からかってくるのかな。
からかうにはネタがエグすぎるかも。
そうなると、からかう事も出来ずにとりあえず頭の片隅に追いやって、気にしてないフリを強いることになる。
ダメだな。
律とは勝手知ったる仲だけど、そういう事はさせたくない。
梓に話したら、私は確実に軽蔑される。
唯のスキンシップにも怯えるようになるかもしれない。
そうじゃなかったとしても、梓は放課後ティータイムと部活のバンドを掛け持ちでやってるし、おまけに今は受験生だ。
余計なストレスは与えたくない。
……どう考えても、みんなに話したところでロクな事にはならなさそうだ。
そもそも今の私と唯の関係をどう言葉で説明すればいいのかもわからない。
どんな言い方をしても、唯の指摘通り私は恥ずかしくなって死んじゃう。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/09(水) 21:20:48.91 ID:atZBIoAlo<> 「ごめん、やっぱり隠しておいたほうがいいな」
「だよねぇ……」
水道のハンドルを戻し、唯は手をぱっぱっと振って水を落とした。
備え付けの乾燥機で手を乾かすと、鏡を見ながら前髪を直し始めた。
私も唯も、「やめる」という選択は口にしなかった。
「澪ちゃん、今日はどうする?そういう気分じゃない?」
唯は首を傾げて髪型を確かめながら訊いてきた。
「ううん、行くよ」
「そっか。良かった〜」
笑ったあと、横髪の形が気に入らないのか、唯は不満そうな顔をして「うーん」と唸りながら何度も髪を引っ張ったり伸ばしたりした。
「もう戻ろうよ。律とムギが変に思っちゃうし」
唯は髪形なんてどうにでもなれといった感じに頭をぶるぶる振った。
私はそれを見て、ぷっと吹き出した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/09(水) 21:27:35.03 ID:atZBIoAlo<> ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
バンドの練習はお休みだったから、私は律と一緒に帰り、それから唯の部屋に向かった。
夕飯の食材がないということで、私と唯は近所のスーパーに行った。
買う物を選んでる途中で、唯は立ち止まり、試食コーナーでお肉を焼く店員の動きをじっと見始めた。
「これ食べたいの?」
私が唯に訊くと、唯は首を横に振って、また店員のほうを向いた。
唯の横顔は映画でも観てるように興味津々といった様子だ。
なるほど、唯はデモンストレーション的に調理をする店員の動きを見ているのが好きらしい。
私も子供の頃、ママに連れられて行ったスーパーで、同じように店員の動きに見入ったことが何度かあった。
最近は唯と一緒にいるとこうやって子供の頃の事をよく思い出す。
「あっ、ごめんごめん。いこっか」
「いいよ。もうちょっと見てようよ」
私も唯も身体は大きくなっていたけど、きっとこの店員さんには子供が二人並んでるように見えてるんだろう。
店員さんは爪楊枝にお肉の切れ端を刺し、私と唯に手渡した。
せっかくなので、このお肉も買うことにした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/09(水) 21:33:54.32 ID:atZBIoAlo<> 「あ、これも買おうよ」
私の押すカートに、唯がイチゴのポッキーを入れた。
「あとこれも!」
今度は梨を4つ。
憂ちゃんは苦労しただろうな、と思った。
「買いすぎだって。誰がこんなに食べるんだよ」
「私が食べます!」
「いいけどさ。あんまり無駄遣いすると憂ちゃんに怒られるぞ」
「う……わかった。我慢する……」
唯は口を尖らせてぶつぶつ言いながら、梨を全部元の場所に戻した。
私は二個だけその梨をカート籠の中にまた戻した。
唯は口に手を当てて、「へぇ」という顔をしてにやにやしながら私を見た。
「か、買い物はこれでおしまい!」
逃げるように勢いよくカートを押すと、横の棚にがつんとぶつけてしまった。
店員のおばさんが何事かと寄ってきて、私は頭を下げてからさっさとレジに向かった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/09(水) 21:36:19.10 ID:atZBIoAlo<> スーパーを出て唯の部屋に戻り、私達は買い物籠の中身を取り出した。
私も唯も料理はあまり出来なかったけど、憂ちゃんが大量のレシピを作ってくれていたので、それを見ながら料理をするようになっていた。
「少々」というのがどれくらいかわからず、私達はよく味が薄かったり、逆に濃すぎるものを作った。
その上、基礎ができてないくせに、二人とも何かアレンジしたくなる性分で、悲惨な結果を後押しした。
「今日はちゃんとレシピ通りに作ろうね!」
唯は腕を捲って息巻いた。
「ええと、私がアボカド切るから、唯はマグロと玉ねぎをお願い」
「はいはーい」
アボカドを半分に切り、真ん中の種を抜き、縦に二本、横に四本切れ目を入れる。
それからスプーンで掻き出してボウルに入れる。
これを二つぶん。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/09(水) 21:41:54.45 ID:atZBIoAlo<> 唯はマグロの切り身をそのアボカドの欠片と同じくらいの大きさに切ると、キッチンから出てクローゼットの中を漁り出した。
「唯?何してるの?」
「じゃーん!ゴーグル!」
唯は水泳用のゴーグルを着けて、両手を広げてポーズをとった。
「これ着けてれば玉ねぎ切っても目が痛くならないよ!」
誰でも一度は思い付く方法だけど、実践する人は初めて見た。
「ぷっ、あはははは」
「ええ?なに?なんで笑うの?」
唯が切った玉ねぎをボウルに加え、マヨネーズとマスタード、塩胡椒をふってかき混ぜる。
お皿に盛り付けてトマトを添えて、サラダの出来上がり。
「これ焼いたら美味しくなるかな」
唯がフライパンを取りだしながら言った。
「いや、このままでいいよ。ていうか今日はレシピ通りにやるってさっき決めただろ」
「ちょっとだけ!ちょーっとだけ火にかけてみない?」
「ダメだってば。これサラダだし」
唯は渋々フライパンを戻して、ゴーグルを外した。
目の周りに赤く痕が残っていて、それが可笑しくて私はまた笑った。
とりあえず、今日の調理はこれでおしまい。
後は出来合いのものを火にかけて、レンジでチンして終わり。
……ひとつずつ覚えていけばいいんだよ、こういうのは。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/09(水) 21:46:02.13 ID:atZBIoAlo<> 夕食を済ませて一緒に洗い物をした後、順番にシャワーを浴びて、私と唯はテレビを観た。
しばらくして唯がベッドに潜り、私もそれに続く。
電気を消して、ベッドの中でぽつぽつと会話していると、唯が私の脇腹をつついた。
私も唯にやり返して、それを何度か繰り返し、二人でくすくす笑う。
それから、互いの身体を使った遊びを始める。
最中の唯の声が、私は好きだ。
優しくて頼りなくて、切羽詰まっていて全身全霊で、でも下品じゃない声。
逆に私の声は、押し殺そうとしてるのに漏れ出てくるような感じがして、あまり好きになれない。
「我慢しなくていいのに」
遊びが終わって私が微睡んでいると、唯が言った。
「ここ防音ちゃんとしてるから、お隣さんには聞こえないよ?」
「うん」
「恥ずかしいの?」
「声の出し方がわかんないんだ。唯はどうやって出してるの?」
「うーん……勝手にでちゃうんだよ」
それくらい、唯は自然にこの遊びを楽しんでいるんだろう。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/09(水) 21:52:28.77 ID:atZBIoAlo<> 「私はまだちょっと無理かも」
かけ布団を目の真下まで被りながら私は言った。
唯はベッドから身を乗り出して、スタンドに立てられたギー太に手を伸ばした。
「ギー太は知ってるんだよね」
ペグを触りながら唯は言った。
「ギー太には全部見られちゃってるもんね」
言われてみれば、最初から全部見られてる。
時々ベースを持ったままこの部屋に来ることもあったから、エリザベスにも見られてる。
今もエリザベスはこの部屋にいる……ていうか置きっぱなし。
キッチンに繋がるドアの横に立て掛けられている。
名前って不思議だな。
エリザベスは唯に名前をつけられる前から私の愛機だったけど、名前を与えられた瞬間、魂が宿って人格を持ち始めたように感じる。
そのうち声を出して喋っても、私は驚かないかも。
なんて事を考えながら、ベッドの中からエリザベスの入ったケースを眺めていると、急にエリザベスが自分の物じゃなくなったような感覚に襲われた。
エリザベスが、まるでこの部屋の一部として最初からそこにあるような。
「なんか……嫌だな」
私が呟くと、唯はギー太に向けていた顔を私の方に戻した。
「え?ギー太に見られてるのが?」
「そうじゃないんだけど……」
「大丈夫だよ。ギー太は口堅いから」
「……それは良かった」
一部始終を見ているギー太は、私と唯のことをどう思っているんだろう。
子供が二人、大人の遊びに夢中になっているさまはどう見える?
想像しようとして、眠気が強くなり、私は瞼を閉じた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/09(水) 21:54:38.54 ID:atZBIoAlo<> 次の日、ムギは頼んでおいたシャンプーを4セット持ってきてくれた。
家に帰り、お風呂に入って、私は早速使ってみた。
確かにいい匂いなんだけど、唯の髪みたいな、鼻から骨の芯まですっと入っていくような感じはしなかった。
きっとシャンプーと唯自身の匂いが混ざって初めてあの匂いになるんだろう。
それがわかると、途端にこのシャンプーに対する私の興味は排水溝の周りの泡みたいになって消えてしまった。
でもせっかくムギがくれたものだし、使い続けないと。
最後の一本までちゃんと。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/09(水) 21:56:39.80 ID:atZBIoAlo<> 今日はこのへんで <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/09(水) 22:04:12.58 ID:9jSXD8YIo<> 乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/09(水) 22:06:47.91 ID:deZfoPIuo<> 乙です
ギー太は口堅いって
可愛いなあ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/09(水) 23:22:00.69 ID:YcKmIQODO<> いいぞいいぞ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/10(木) 15:51:40.15 ID:Ebwpqeoao<> 乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/11(金) 00:00:11.88 ID:39E4k7wCo<>
『10月1日』
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/11(金) 00:04:33.86 ID:39E4k7wCo<> 何度携帯電話をチェックしても、唯からのメールは来ていなかった。
土曜日なのに予定が何も無い。
こういう事はたまにある。
律とはまた違った風にいい加減な性格の唯だ。
休日は前もって約束しておかないと、今みたいに暇をもて余すことになる。
私から誘えばいいんだろうけど、それができるような性格だったら私の人生はもっと楽なものになってるはず。
今が辛いわけじゃないけど。
十分楽しんでるけど。
唯はいつも、「今から来れる?」といった感じに、土壇場で連絡をよこす。
私はいつ連絡がくるかと待ちわびて、その時までこうして自分の部屋でそわそわしながら時間を潰すしかない。
例えば、音楽を聴いたり、歌詞を書いたり、本を読んだり。
でも全部半端にしか手がつかない。
お昼までそうやって過ごして、連絡がなかったから、私は結局律の家に行くことにした。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/11(金) 00:11:08.27 ID:39E4k7wCo<> 「おーっす。お互い暇人ですなぁ」
昼寝でもしてたのか、律は前髪を垂らして、腫れぼったい顔で私を迎えた。
ほとんど私の身体の一部みたいだ、律の部屋は。
小学生の頃から、自分の部屋の次くらいに私はここで多くの時間を過ごしている。
人の家の匂いはそれぞれ違って、入るとすぐにその違いに気づくものだけど、この部屋の場合、自分の家の匂いに気付けないのと同じで、私は何も感じない。
そんなわけで、部屋の中に新しいモノがあればすぐに気づく。
「あれ?律もこのバンドのCD買ったのか?」
「ん?ああ、うん。梓がしつっこく勧めるからさぁ。澪も買ったの?」
「うん。そっか、律は梓に教わってたんだな、このバンド」
「なんであいつジョニー・マー好きなんだろうな。イメージ違くね?」
「さあ?律だってムーニーが好きな理由、かっこいいから、だろ?そんなもんじゃないの?」
「そういうもんか」
律が買ったのは、私がこの前買ったアルバムより新しいやつだった。
そう言えばあのアルバム、全然聴いてないな。
私は律に断りもなくCDを取り出して、パソコンに入れて曲をかけた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/11(金) 00:16:44.75 ID:39E4k7wCo<> 「なんか私の買ったアルバムとは全然雰囲気違うな。違うバンドみたいだ」
「そう?そのアルバムからマーが加入したらしいよ。そのせいじゃね?」
「え?じゃあ私が買ったやつにはいないのか……」
「買う前に調べとけよ……」
「これ借りていい?」
「いいよ、私もうパソコンに入れたし。じゃ、澪も貸してよ、このバンドのCD」
「うん。いいよ。ちゃんと返せよ」
律はにっと笑ったあと、ゴムで前髪を縛って大きく伸びをした。
「あ、澪。歌詞書けた?」
「ごめん、まだ書けてない……」
「なんだ?スランプ?」
「……深刻な」
唯の部屋に通うようになってから、一人の時間はほとんど無くなり、筆が全く進まなくなってしまった。
たまに作詞ノートを開いてみても、前みたいに言葉がすっと降りてこない。
頭の中が作詞どころじゃないからな、最近は。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/11(金) 00:20:14.26 ID:39E4k7wCo<> それから私達は会話をしたりしなかったり、雑誌を開いたり閉じたり、ぼんやりしながら、何の目的もなく時間の浪費を楽しんだ。
律は時々ペンをスティックに見立てて机をトントン叩いた。
「今のシャッフルのところ、ちょっと走ってたぞ」
雑誌の記事を読みながら私が言うと、律は消しゴムの端をちぎって私の頭に投げた。
それから思いっきり16ビートで机を叩いた後、ペンを置いて、
「どっか行くか?」
と言った。
私は時計を見た。
午後四時。
唯からはまだ連絡がないけど、いつ来るかわからない。
来るかも知れないし、来ないかも知れない。
今から出掛けてしまったら、連絡が来ても断らないといけない。
「いいよ、もう。時間も中途半端だし」
「だよな。今日ご飯食べてくの?」
「今日は自分の家で食べるよ」
「そっか。……あーあ、もう十月か」
「なんだ急に」
「1年ってはえーな。高校の時は全然そんなじゃなかったのに」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/11(金) 00:24:10.60 ID:39E4k7wCo<> 「まだ入学して半年だろ。最近親父臭いぞ律」
「うるせー。梓達、上手くいくといいな」
「あ、もうすぐ学祭か」
「梓達はさわちゃんにどんな衣装着させられるんだろうな」
「いや、着ないだろ」
「どうかなぁ?梓もああ見えて案外嫌いじゃなさそうだし」
それは私も薄々感じていた。
「盛り上がるといいな。梓、頑張ってたし」
「私が客になるから大丈夫だ!最前列で盛り上げまくってやる。こう、拳をあげて!」
「それただのサクラだろ……」「いーんだよ。澪もちゃんとノッてやれよな」
「それはもちろん」
律はへへっ、と笑い、またペンで机を叩きながら鼻歌を歌い始めた。
律はあんまり歌が上手くない。
消しゴムのカスを投げられたくないから何も言わないでおこう。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/11(金) 00:28:05.86 ID:39E4k7wCo<> 「あ、律。私ちょっとトイレ」
「んー。いってらー」
部屋を出てトイレに入り、便座に座ると、閉めたドアの内側にカレンダーが貼ってあった。
その日付を見る。
梓のライブは三日後だ。
新歓の時の演奏はバッチリだったし、きっとあの時よりもっといい演奏をしてくれるはず。
小さい身体で懸命にギターをかき鳴らし、講堂を湧かせる梓を想像したら、なんだか嬉しくなって頬が緩んだ。
トイレから戻ると、律はベッドに身を投げて天井を眺めていた。
「律、眠いの?だったらそろそろ帰るけど……」
「ん、ちょっと眠い。なんか疲れたし」
「別に何も疲れるようなことしてないだろ」
「女の子は色々あるんだよ」
「なんだそれ。……じゃあ、今日はもう帰るぞ」
「おう。またなー」
律は寝たままの姿勢で手を振った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/11(金) 00:30:25.63 ID:39E4k7wCo<> 「あ、そうだ律」
「何?」
「中学の時にさ、林間学校で行ったところ覚えてる?」
「はい?」
「律が私を起こして散歩に行ってさ」
律は身体を起こして、少し考えるように指先で頭をとんとん叩いた。
「そんなことあったっけ?」
「霧が濃くてすぐ引き返したんだけど」
「覚えてないや。それがどうかした?」
「いや、なんとなく。思い出したから聞いてみた」
「……澪ってたまにわけわかんないこと言うよな」
確かに。
なんで今この話をしたのか自分でもよくわからない。
首を傾げた後、私は律の家を出た。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/11(金) 00:33:12.22 ID:39E4k7wCo<> 家に着き、携帯電話を開くと唯からメールが来ていた。
『今日ちょっと風邪ひいて寝込んでるからえっちできないや〜。ごめーん!』
相変わらず身も蓋も無い物言いだ。
メールを開くまであった期待はパッと消えて、私は肩を落としながら返信した。
『いいよ。風邪大丈夫?看病しに行こうか?』
『憂が来てくれてるから大丈夫だよ』
『わかった。お大事に。憂ちゃんに風邪うつしちゃダメだよ』
携帯を閉じようとして、着信がきた。
律からだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/11(金) 00:39:42.24 ID:39E4k7wCo<> 「もしもし?」
「澪、CD忘れていってるぞ」
「ああ、借りようとしたやつか。今度律の家行くときでいいや」
「そっか」
「それだけ?」
「あ、いや」
躊躇したのか、律は少し黙った後に言った。
「澪さ、明日ヒマ?さっき言ってた林間学校のとこ、行ってみようぜ」
「はぁ?まぁ、暇だけどさ、別にそこに用があってあの話をしたわけじゃ……」
「じゃあ決まり!んじゃな、また明日〜」
そう言って律は一方的に電話を切った。
釈然としないまま、私は律に貸すCDを探した。
机の上、本棚、ラック、バッグの中。
「あれ?どこにしまったっけ」
あるはずの物がなくて、ふと、今いる部屋が自分と無関係な空間に思えた。
でも大丈夫。エリザベスはちゃんとあるし、ここは私の部屋だ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/11(金) 00:42:07.93 ID:39E4k7wCo<> 今日はこのへんで失礼 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/11(金) 01:30:44.33 ID:wiY6IYfDO<> 毎日おつだな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/11(金) 01:30:57.08 ID:S4Y0nE+Ho<> いいよーいいよー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/11(金) 01:41:36.61 ID:rmNTpdbJo<> なんだか不穏な感じに… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/11(金) 01:46:24.42 ID:xq3HW5uFo<> 乙
クリブスなのかモデストマウスなのか
どっちもいいよねー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/15(火) 02:11:17.18 ID:goy8rDSzo<> おつおつ
続き楽しみにしてる <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/03/19(土) 21:42:14.90 ID:nisLw0fMo<> 作者さん無事だろうか?まぁSS書いてる場合じゃないだろうが
いつでもいいので続き期待してます <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/20(日) 22:56:10.21 ID:w/45W99ro<>
『10月2日』
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/20(日) 23:09:54.03 ID:w/45W99ro<> 律に昔話なんてしたのが間違いだった。
律の言う明日というのは日曜で、丸一日時間がある。
唯が風邪を引いて寝込んだままで、あの部屋に遊びに行けないからだ。
あまり気乗りしなかったけど、ここのところ行き詰まってる作詞のヒントになるかもと思い、私は律の誘いに乗った。
朝、バス停で律と待ち合わせをして、一時間かけてその施設の近くまで行った。
車窓を流れる風景はどんどん緑が多くなっていって、目的のバス停に着く頃には山と田畑だけになっていた。
気乗りしてなかったくせに、風景が変わるにつれて私は不覚にもワクワクしてしまった。
降車時に運賃を払う際、律はカードのチャージを切らしてしまっていて、私は慌ててすぐに立て替えた。
他の降車客に迷惑が掛からないようにそうしたつもりだったけど、バスを降りてから、私達以外に客なんていなかった事に気づいて少し恥ずかしくなった。
携帯で番号を調べて、私達はタクシーを呼んだ。
タクシーは20分くらいで到着した。
施設の名前を告げると、運転手は「あそこはもう建物があるだけで、閉鎖されてるよ」と言った。
県営の施設だったため、県の財政が悪化したせいで閉鎖になったらしい。
「あ〜、別にいいです。行ってください」
律は構わずそう言った。
運転手は肩を竦めてからアクセルを踏んで、車はゆっくりと走り出した。
車内に煙草の匂いがこもっていたので、私は口で呼吸をしなきゃいけなくなった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/20(日) 23:20:17.04 ID:w/45W99ro<> 「ん?何口パクパクさせてんの?」
不自然な呼吸をする私を見て律が訊いてきた。
「あ、いや……」
私が鼻をつまんで車内の匂いの事を律に示すと、ミラーで見ていたのか、運転手は笑いながら全部の窓を開けた。
「すみませんね。この子バンドのボーカルやってるから、煙草はダメなんですよ」
律はなぜか嬉しそうに運転手に言った。
煙草の匂いとボーカルは関係ないだろ。
吸わなければ多分大丈夫なはず。
「ていうか律、廃館なんだろ?行く意味なくないか?」
「だってここまで来ちゃったし。それに廃館なんてワクワクするじゃん」
「怖いだけだろ……。私は入らないからな」
「へいへい」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/20(日) 23:23:05.33 ID:w/45W99ro<> 三十分ほどで施設の広い駐車場に着いた。
私達は運転手にタクシー会社の電話番号が書かれた名刺を貰った。
帰りはこの番号に電話すればいい。
山の中だけど、一応携帯の電波は入っている。
山中と言っても、木々が鬱蒼としているわけではなく、施設の敷地内は拓けていて、霧もかかってないから見晴らしがよかった。
空には薄く伸びた雲が少しある程度で、よく晴れている。
想像していたのとは違い、気持ちのいい場所だ。
引き返して行くタクシーが見えなくなり、その車音も聞こえなくなると、辺りは鳥の声と風の音だけになった。
「じゃあ行くか」
律は私の手を引いて、施設の入口のチェーンを乗り越えた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/20(日) 23:28:41.60 ID:w/45W99ro<> 前に来た時は建物の形なんて意識してなかったけど、長方形の建物は洋風でも和風でもなく、ただの容れ物といった感じで、白いコンクリートの壁が無機質な印象を抱かせた。
可愛く造る気なんてさらさらなかった感じだ。
「って私は入らないってば」
「ここまで来てそりゃないだろ」
「律が誘ったんだろ」
「だーいじょうぶだって。なんも出ないから」
律はそう言いながら施設の観音開きの大きなドアを押した。
「ありゃ。閉まってんじゃん」
「そりゃそうだろ。閉鎖されてるんだし」
「よーし!澪!そのへんに石ないか?ガラス割って入るぞ!」
「おい律!」
私が咎めると、律は指で頬を掻きながら笑った。
「冗談だって」
「まったく……」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/20(日) 23:36:01.88 ID:w/45W99ro<> 「とりあえず散歩でもするか」
律は私の手を離すと、勝手にすたすた歩き始めた。
実際散歩以外にここで出来ることなんてなかったから、私もそれに付き合うことにした。
律と並んで施設の周りをぶらついていると、私はなんだか昔の自分が形を失っていくような感覚に襲われた。
廃墟というほど建物が老朽化しているわけではないけど、閉じた窓から覗く内部は、空気が押し込められているみたいだ。
コンクリートの地面の亀裂から雑草が生えている。
車が一台も停まっていない駐車場は、なんのためのスペースなのかもうわからない。
本当に誰もここを管理していないらしい。
青春の一ページというほどの思い出がある場所ではないけど、自分の関わった場所が風化する様を見るのは、あまりいい気持ちにならない。
それでも街を一望できるくらい眺めは良かったから、私はバッグからカメラを取り出して、何枚か写真を撮った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/20(日) 23:42:20.28 ID:w/45W99ro<> 「そろそろ帰る?」
私が写真を撮っていると、駐車場のチェーンを結ぶポールに座りながら律が言った。
「飽きるの早すぎだろ……」
「だってなんにもねーじゃん」
「だから言っただろ。もうちょっと撮ってから」
「はーいはい」
それきり律は何も言わなくなった。
少しして写真を撮るのに満足した私は、さっき貰った名刺に書かれた番号に電話をしてタクシーを呼んだ。
バス停まで乗せていってもらい、そこからはまたバスに乗り、桜ヶ丘に帰ってきた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/20(日) 23:47:45.51 ID:w/45W99ro<> 「まだ3時だぜ。どうする澪?」
「うーん……」
「とりあえずさ、お腹空かない?」
律がハンバーガーショップを指差して言った。
遠足みたいなものだったのに、私も律もお弁当を持っていくという発想がなかった。
そのせいで私もお腹がぺこぺこだった。
私達はマックスバーガーに入り、注文したものを受けとると、席についた。
「澪さ、最近よく食べるよな」
「そうか?」
「前ならそんな油っこいのは太るから〜とか言って食べなかったじゃん」
特大のハンバーガーを食べ終えてから私は答えた。
「最近太らなくなったからな」
「へえ」
唯と遊び始めるようになって、私は体重があまり変わらなくなった。
唯のそういう体質が、遊びを通して伝染したのかな、なんて考えたこともあったけど、多分単純にベッドの上で運動してるからってだけだろう。
それと、多分心労だ。
二十四時間、唯と遊んで、そのことだけに頭を使うことができれば楽なんだろうけどそうもいかない。
朝起きて大学行って勉強してバンドの練習をして、そういう日常を放り出すわけにはいかなかった。
隠し事をするのにもやたらとエネルギーを使う。
だから栄養はきちんととらなきゃいけないんだ。
へにょへにょってならないように。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/21(月) 00:03:30.71 ID:rJEljAO6o<> マックスバーガーを出て、私と律は楽器屋に入った。
お気に入りのバンドの新譜を買っても、律はどこか浮かない顔だった。
「明後日、学祭だなー」
帰り道、律が言った。
「梓達のバンド、楽しみだな」
「うまくやってくれるといいけどなー」
「梓はしっかりしてるし大丈夫じゃないかな」
「あいつまた上手くなってたな」
「ちゃんと練習してる証拠だよ。誰かさんと違って」
律は聞き流すような笑い方をして、それきり何も言わなくなった。
私は律ともう何年も一緒にいる。
だから律の様子がいつもと違うことにすぐに気付いた。
……すぐにっていうのは違うか。
よくよく思い出してみると、律は朝からどこか上の空だったんだし。
律が行き当たりばったりで行動するのはいつものことだけど、それにしたって一貫性がない。
強引に私を誘ったわりにあの施設に対してもあまり興味がなさそうだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/21(月) 00:07:48.51 ID:rJEljAO6o<> しばらく黙ったまま歩き続けて、私は切り出した。
「今日の律、なんか変だぞ」
「え?そう?どこが?」
「どこがってわけじゃないけど」
「別に変じゃねーし」
そう言われると、余計に変な気がした。
でも律が言いたくないなら無理に問い詰めるのも良くないか。
はぁ、と息を吐いて、律が言った。
「あ、そうだ。澪さぁ」
思い出したような言い方がわざとらしい。
なんだ、結局言うのか。
「何?」
「ええと……怒るなよ?」
律が口ごもると、私はじれったくなった。
「何だよ」
律は私の顔を見ないで、前を向いて歩きながら言った。
「澪さ、最近唯の部屋に通ってんの?」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/21(月) 00:16:12.15 ID:rJEljAO6o<> 急に頭の中が真っ白になった。
思考が全部風に吹き飛ばされて、身体の真ん中に点いた火が延焼して全身の皮が一気に焼け上がった気がした。
私がなんとかひり出した返事は、
「は?」
と、ただ一言。
歩くペースだけはどうにか律に合わせ続けることができた。
律は声を震わせて、でも飄々とした感じなるように言った。
「いや、悪気はなかったんだよ。なかったんだけど、あー……ごめん。メール見ちゃってさ」
私は口を開けたまま何も言えなくなった。
タクシーの中でしていたような、口呼吸。
いや、息を吸えていないから、本当にただ口を開けているだけ。
「前に澪がウチに来た時にさ、澪がトイレ行ってる間に携帯が鳴って、唯からのメールで、えっと、それからなんだったっけ」
律の歩くペースが少し早くなる。
「知らない人だったらさすがに勝手に見たりしないけど、唯だったし、何も考えないで見ちゃったんだ」
私は律の腕を引っ張り、歩くのをやめさせた。
「何て書いてあったんだ」
気圧されたのか、律は私と目を合わせようとしない。
「何って……」
「言えよ」
顔を赤らめて、律は答えた。
「いや、その……エッチがどうとか……」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/21(月) 00:22:27.66 ID:rJEljAO6o<> 怒鳴り付けてやりたくなった。
顔を殴って組伏せて、「何で勝手に見たんだ」とか「デリカシーはないのか」とか「最低だ」とか、言葉の限りを尽くして律を罵倒してやりたい衝動に私は駆られた。
それと同時に、今すぐ地面に頭を擦り付けて許しを請いたくなった。
「隠しててごめんなさい」、「いやらしいことをしてごめんなさい」と、なりふり構わずに謝りたくなった。
結局そのどちらも出来ずに、私は黙って律の腕を掴み続けた。
「ごめん澪。ホントにごめん」
私が腕の力を強めて、睨むわけでも泣き出すわけでもなく律の顔をじっと見ていると、律は慌てて話し出した。
「あ、違うって!別に責めてるわけじゃないんだ!えぇっと、唯と澪が付き合ってんなら、私はそーゆー趣味はよくわかんないけど、ちゃんと応援するし!」
は?付き合ってる?
そんなんじゃない。
私も唯も恋愛がなんなのか、まるでわかってない。
「付き合ってるとかじゃないって」
声が震えて、自分が情けなくなった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/21(月) 00:28:50.30 ID:rJEljAO6o<> 律は、メールを勝手に見た事に対して私が怒ると思っていたんだろう。
実際の私の反応が律の予想と違って、律は明らかに動揺しはじめた。
「あ、そ、そっか!よくわかんないけど、私はそういうの気にしないし、なんていうか、相談にも乗るし。あー、でも梓には言わないほうがいいかも……」
私は何も答えなかった。
律の腕を離して、私は勝手に歩き始めた。
「ちょっ、待ってってば澪」
律はパニックになってるけど、私も今何か言おうとしても、頭にデタラメな単語が浮かぶだけで会話になりそうもなかった。
「ごめんってば。誰にも言わないし、あー、そうだ、唯にも気付いてないフリするし!」
律は私の肩を揺すりながら、何度も謝罪の言葉を口にした。
律のそれは家につくまで続いた。
律が今にも泣き出しそうになっていたので、私はなんとか
「怒ってないよ」
とだけ答えた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/03/21(月) 00:29:27.26 ID:rJEljAO6o<> きりの悪いところだけど今日はこのへんで… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県)<>sage<>2011/03/21(月) 00:35:28.89 ID:GtrEw9t5o<> 乙
切ない感じになってきた <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/03/21(月) 00:47:49.27 ID:2nyHQLdLo<> ふむ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/21(月) 01:15:46.67 ID:g+casQafo<> おお来てた 乙
なんか雲行きがあやしくなってきたな… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/21(月) 01:44:00.81 ID:D6Q7Nx4Mo<> 乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/21(月) 02:14:07.24 ID:KOQN7jAwo<> りっちゃんが介入してなんかドラマみたいになってきたな。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/23(水) 14:11:21.97 ID:51uU4+R3o<> すごく…続きが気になります… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/24(木) 23:36:27.02 ID:SaBN00oho<> 律と別れて家に帰り、自分の部屋に入ると私はすぐに唯に電話した。
「もしもし?澪ちゃん?」
唯の鼻声が、ぴったり耳にくっつけられた電話口から聞こえる。
「律にバレた」
「え?」
「どうしよう、律にバレちゃった。どうしよう」
咳き込んでから唯は答えた。
「バレたって、話しちゃったの?」
「違う、メールを見られてた。ねえ唯、どうしよう」
「りっちゃんは何て言ってたの?」
「律は……」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/24(木) 23:40:37.09 ID:SaBN00oho<> 律は何て言ってた?
気にしないとか、応援するとか。
気にしないっていうのは嘘だ。
怒られるかもしれないと思いながらわざわざ私に確かめたってことは、気になってしょうがなかった証拠だ。
応援なんて、私と唯は勝手に楽しんでるだけだし、応援してほしいなんて思っていない。
大体、応援ってなんだよ。
どういうのが応援になるんだ?
「気にしないって言ってたけど、絶対気にしてると思う……」
律はこれからも、「気にしないフリ」を続けてくれるだろう。
でもそれは、五人の空間に影が出来るのと同じだ。
唯は電話の向こうで苦しそうに咳をした。
「う……わかった。澪ちゃんごめん、私風邪引いてて外出れないから、澪ちゃん今から私の家これる?」
「うん。行く」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/24(木) 23:46:51.08 ID:SaBN00oho<> 「今、憂が来てるからね」
「うん、わかった」
電話を切り、私はすぐに唯の部屋に向かった。
ベルを鳴らすと、憂ちゃんが私を出迎えた。
憂ちゃんは私を招き入れ、
「わざわざお見舞いに来てくれてありがとうございます」
と言って、お茶とお菓子を用意してくれた。
唯はベッドの上で辛そうに鼻をすすって、ひとつくしゃみをした。
「明後日のライブ、頑張るんだよ」
と私が言うと、憂ちゃんははにかみながら頭を下げて、
「私、お夕飯のお買い物に行ってくるので、ちょっとお姉ちゃんのこと看ててくれますか?」
と言って部屋を出た。
部屋のドアが閉まると、私は先輩の顔をやめて、ベッドで寝ている唯に駆け寄った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/24(木) 23:50:13.49 ID:SaBN00oho<> 「唯、どうしよう、どうしたらいい?」
「澪ちゃん落ち着いて」
「どうしよう……」
唯が重そうな掛け布団の中からのそのそと手を出して、私の手を弱々しく握った。
それから二、三回咳をする。
「考えすぎだよ。もうやめろー……って言われたんじゃないんだよね?」
「うん……」
「じゃあ大丈夫だよ」
唯はまた咳をした。
何がどう大丈夫なのかさっぱりわからない。
でも、唯にそう言われると安心できた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/24(木) 23:55:15.04 ID:SaBN00oho<> 「ね、澪ちゃん」
身体を起こしながら唯は言った。
「しちゃおっか」
「え?」
「しようよ」
唯は私の頬をつねって伸ばした。
「いや、憂ちゃんがいるし……」
「きっとすぐには帰って来ないよ。バレたらバレたで仕方ないよ」
「ダメだってそんなの。今はそれどころじゃ……」
「え〜……しようよ」
唯は駄々をこねながら、私の二の腕をさすった。
「ね?澪ちゃん」
唯の声は、人の自制心をどこかに消し去ってしまう力を持ってるみたいだ。
いや、自制心ごと支配するような、そんな声。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/25(金) 00:03:24.11 ID:M7CWDT00o<> 私は部屋の鍵を閉めて、唯とベッドに入った。
気遣うような言葉を囁きながら、私は唯の身体を触った。
遊びの最中の唯はいつも天真爛漫だったけど、今日は熱のせいでやたら弱々しくて従順で、いつも以上に可愛く思えた。
でもその可愛いと思う気持ちも、きっと恋愛ではないんだろう。
恋愛っていうのは、初めてでも「これが恋愛だ」と自覚出来るものらしい。
私が「恋愛じゃない」と思ってしまうってことは、つまりそういうこと。
頭まで布団を被ると、私と唯以外のもの全てがきれいさっぱり消えた。
唯は前髪を汗でおでこに張り付けながら時折咳き込んで私の乳房を舐め回して、
私は唯の頭を抱えるようにして髪のこもった匂いを嗅ぎながら声を出そうとして、
唯は喉が腫れているせいかヤスリで削られたような声を出し、
すぐに奥歯をぎりっと噛んで、声を殺そうとした。
唯は下着の上から私の股のあたりを、
声を出すようお願いするみたいにしつこく触りだし、
私はあっさり声を出してしまい、
ほとんどやけくそになって唯の背中をすっと下に向かって撫でて、
下着の中に手を入れ、
指の腹で湿った部分に触れると、
唯はしゃがれた声を出した。
唯の体温があっという間に上昇していくのがわかった。
辛そうなのに、楽しそうに見えた。
今までの唯にはない独特のムードがある。
身体が弱ってるはずなのに、私の不安を全部飲み込むくらい、唯は優しく見えた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/25(金) 00:08:34.89 ID:M7CWDT00o<> 「唯、指入れてもいい?」
唯は私の顔をじっと見てから、小さく頷いた。
人は何か罪を犯すと、もっと大きな罪で過去の罪を塗りつぶそうとするって聞いた事がある。
でもこれが、今までやってきたことが、罪だとは思えない。
頭でわかっていても、それは後天的に押し付けられたものによっていて、納得できない。
私も唯も、誰にも迷惑をかけずに楽しんでるだけ。
子供が砂場で遊んでいるようなものなのに、それがどうして罪になっちゃうんだ。
唯の中にゆっくり指を入れると、唯は歯を食い縛りながら呻き声を上げた。
奥まで入ったところで、私は指を止めた。
「い……痛い……」
大粒の涙を流す唯を見て、
「ごめん」
と私は咄嗟に謝った。
「え、へへ……大丈夫だよ……」
インターフォンが鳴った。
私と唯は一瞬顔を見合わせたけど、それを無視することにした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/03/25(金) 00:12:56.84 ID:M7CWDT00o<> 今度は唯の携帯が鳴った。
唯は携帯を放り投げてから笑って見せた。
唯の呼吸が落ち着いたところで、私はゆっくり指を抜いた。
指先についた血を見て、やっぱりこれは悪いことなのかも、と思った。
「お返しして、いい?」
やせ我慢の笑みで、唯が言った。
私は人差し指に滑る唯の血を親指で擦り、それから頷いた。
ベッドに寝たまま向かい合って、唯は私の顔を見ながら、下着の中に手を滑り込ませた。
私の身体がびくっと震える。
唯の柔らかい指が私の割れ目をなぞって、入り口を探る。
私は唯の首の後ろに手を回して、目をきつく閉じた。
唯の指が入ってくると、すぐに痛みが走った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/25(金) 00:17:56.97 ID:M7CWDT00o<> 指が奥に入っていくにつれて痛みは増し、股間から臍のあたりまで裂かれているような気がした。
「痛い、唯、い……たい……」
布団の中で唯の腕を掴む。
すると唯は、私の中で指をくっと折り曲げた。
「っ……」
激痛に顔が歪む。
「ちゃんと我慢するから、もう一回」
耳元で唯が囁く。
言われるままに、私は唯の中にまた指を入れた。
互いの身体を痛め付けて、
もったいぶらずに純潔を捨てて、
そうするとベッドの中以外には世界が存在していないような気がした。
互いの声と指と痛みだけで構成された世界に身を委ねると、
相対性はなくなり、善悪が消えて、罪悪感も部屋の四隅に吸い込まれて、最初からなかったみたいに消えた。
今のこの感覚、この痛みと快感のためだけに身体があるみたいだ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/25(金) 00:23:02.86 ID:M7CWDT00o<> ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「私達、女子大でよかったね」
私にパジャマを着させられながら、唯が言った。
「共学だったら、私達きっと男の子にころっと騙されちゃってたよ」
「そうかもね」
私は唯を寝させて布団をかけてやりながら答えた。
唯は一つ咳をしてから言葉を続けた。
「澪ちゃんとだったら、そんなことないもんね。妊娠もしないんだよ」
安全だし、何もデメリットはない。
恋愛じゃないから嫉妬とかそういう確執はないし、唯の言うように妊娠もしない。
健全で健康的な遊び。
唯が寝つくと、私は身支度をして帰ることにした。
解錠してドアを開けても、憂ちゃんはいなかった。
郵便受けに紙が一枚挟まっていて、
『鍵持ってなくて入れないし、携帯も出ないので食材だけ置いていきます。これに気付いたら連絡下さい』
という憂ちゃんのメッセージが書かれていた。
外側のドアノブには買い物袋がかかっている。
私は憂ちゃんに電話して、寝ていたと嘘をつき、唯はそのまま寝かせてるから大丈夫と言った。
憂ちゃんは懇ろに私にお礼を言った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/25(金) 00:27:42.35 ID:M7CWDT00o<> 唯の部屋に戻り、憂ちゃんが置いていった食材でおかゆを作って、
『起きたら食べて。お大事に』
と書き置きをしてから、私はようやく家路についた。
腕時計に目をやると、もう九時を回っている。
辺りは暗くて、でも私にそれを怖いと感じる余裕はない。
空を見上げる気にもならないから、曇ってるのか晴れてるのかわからないし、お月様も星も、出てるのかわからない。
私は何をしに唯の家に行ったんだっけ。
ああ、律にバレたからだ。
でももうバレた以上の事をついさっきしてきたんだ。
今律が私達について知ってることなんて、もう問題にならない。
道の端に連なる街灯は、その一つが切れかかっていて不規則にちかちか光っている。
その下をおばあさんが犬の散歩をして歩いている。
犬もおばあさんも私には目もくれず、そのまますれ違い、私が振り向いても向こうはこちらを気にしている様子なんてなかった。
下腹部はまだ痛む。
きっと歩き方が変。
道行く人に、私のしたことを見透かされそうで嫌だ。
家に着いて自分の部屋に入るのと同時に、律から電話がかかってきた。
でも、出る気にはならなかった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/03/25(金) 00:32:15.99 ID:M7CWDT00o<> 今日はこのへんで
多分あと2回くらいの更新で完結 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/25(金) 01:36:13.59 ID:grYFduwDO<> そこに愛はあるの?
見守ろう <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/25(金) 04:57:36.06 ID:Hi9/q6q7o<> 憂ちゃん可哀想… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/03/25(金) 08:22:16.64 ID:YuHm04Zko<> よいよ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/25(金) 08:25:12.70 ID:qwkDVyioo<> おつ
後2回か・・・
もっといっぱい見たい気もするが <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/03/25(金) 08:51:50.12 ID:YuHm04Zko<> たしかに <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/26(土) 00:54:59.10 ID:yMipm7Bio<>
『10月3日』
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/26(土) 01:03:07.07 ID:yMipm7Bio<> お見舞いという名目で、私は夕方になってから唯の家に行った。
唯はまだ咳が少し残っていたけど、大分良くなっていた。
「明日はあずにゃんのライブだもんね。ちゃんと治したよ」
「今日は憂ちゃんは?」
「心配かけたくないから、呼んでないよ。風邪伝染しちゃっても大変だし」
もちろん憂ちゃんもライブに参加するわけだし、確かに憂ちゃんは唯を優先して練習に身が入らないってことになりそう。
「安静にしてるし、もう良くなったからって言っておいた!」
でもやっぱり安静にしているつもりはないらしい。
ベッドに座るなり、唯は私の身体に腕を絡めてきた。
安静にしてなきゃ駄目だろ、なんて言うつもりはなかった。
さっさと服を脱いで、二人でベッドに潜り込む。
毎度不思議なのは、こうしていても私には性欲みたいなものが湧いてこないことだ。
それがどんなものか知らないけど、少なくとも唯の裸を見て何かを感じる事はない。
唯の何かによってじゃなくて、単純に身体を触られる事で私の理性は弾け飛ぶ。
追いかけるのと逃げるのと、その両方で自制が利かなくなる。
唯を見て可愛いと思う普段の気持ちが、何倍かに膨れ上がるだけ。
それなのに、唯とこういうことをしたくてしたくてたまらなくなる。
きっとこれは、恋愛とも性欲とも違う、私と唯専用の、人類史上、名前のない感情が、初めて肌を合わせた時に生まれたんだと思う。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/26(土) 01:08:15.02 ID:yMipm7Bio<> あれだけ痛がってみせたのに、唯は懲りずに指を入れようとしてきた。
私もそれを受け入れたけど、やっぱりまだ痛い。
二人で痛いのを我慢しながら、本当にこれが気持ちよくなるのかな、そのうちなるんじゃないか、なんて言葉を交わした。
遊びが終わると、私は唯に風邪薬を飲ませて寝かせた。
でも唯は言う事を聞かずにグズった。
買い置きのカップ麺を二人ですすって、それからシャワーを浴びた後、私も眠くなってきたので、ベッドに入って寝ることにした。
深夜に目を覚ますと、横で寝ている唯を触りたくなった。
だらしなく開いた口に指を入れると、反射的に唯はそれをしゃぶった。
私は唯を揺すって起こした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/26(土) 01:12:25.50 ID:yMipm7Bio<> 「ん……澪ちゃんどうしたの?」
目を擦り、しゃがれた声の唯は眠そうだ。
今まで私から唯を誘ったことはなかったから言葉にするのは気が引けた。
私は黙って唯を見詰めた。
物欲しそうな目をしたつもりだけど、唯にそれは伝わらなかった。
「え?なに?」
察しの悪さに苛々する。
もういいや、さっさと始めちゃおう。
私は唯の下着の中に手を入れる。
「あっ?も……う、明日起きれなくなっちゃうよ……」
唯は喘いで、つっかえつっかえ言った。
早朝まで楽しんで、私と唯はまた眠った。
私が目を覚ましたのは、律から電話がかかってきてからだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/26(土) 01:17:38.44 ID:yMipm7Bio<> 「あ、やっと出た」
「律……?おはよう……」
「おはようじゃないっつーの。何やってんだよ。もう梓のライブ終わっちゃったぞ」
眠気が一気に吹き飛んだ。
朦朧からの覚醒じゃなくて、混乱。
寝呆けと変わらない。
全身の血の気が引いていく音が、電話を通して律まで聞こえてるんじゃないかと思った。
外を見ようとして窓の方に目をやる。
カーテンが閉まってて、外の様子は伺えない。
でも隙間からオレンジ色の光が射していて、明らかに、日が傾いているのがわかった。
「うそ……今何時……?」
律の溜め息が電話越しに聞こえる。
「もう4時過ぎてる。何回も電話したんだぞ。今どこだよ」
私は隣でまだ寝息を立てている唯をちらっと見て、言葉に詰まった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/26(土) 01:19:56.38 ID:yMipm7Bio<> 「唯と一緒?」
「……うん」
「まぁもう仕方ないけど。これから梓達と憂ちゃんの家にご飯食べに行くから、ちゃんと来いよ」
「わかった。ごめん……」
電話を切り、私は唯を起こした。
「澪ちゃん、早く仕度しよう?」
膝を抱えて座る私に唯が促した。
「ごめん、唯。私が昨日……」
「ほら、早く行こうよ。みんなに謝らないと」
誰にも迷惑かけていないなんて思っておきながら、のめり込みすぎて後輩の晴れ舞台も見てやれなかった自分が情けなかった。
私と唯は身支度を済ませて、部屋を出た。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/26(土) 01:23:26.27 ID:yMipm7Bio<> 唯の実家に着くと、ムギが私達を出迎えた。
「待ってたよ。もうすぐ準備できるみたい」
「ムギちゃん、ごめん。私達寝坊しちゃって……」
「お泊まりしてたの?」
私と唯は顔を見合わせてから、申し訳なさそうな顔を作った。
ムギは眉をひそめて笑いながら言った。
「あ、大丈夫よ。私もみんなも気にしてないし。ちゃんとこうしてみんな揃ったんだし……」
ムギは私達の事情を全く知らない。
たまたま寝坊しただけだと思ってる。
だから怒らないでいられるんだ。
「お姉ちゃんおかえり。もうご飯の準備できるよ」
リビングの奥から憂ちゃんが出てきて言った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/26(土) 01:26:13.84 ID:yMipm7Bio<> 「憂、ごめんね。ライブ見に行けなくて」
「ううん、気にしないで。早くみんなとご飯食べよ?」
憂ちゃんはそう言ったけど、やっぱりどこか寂しそうだった。
リビングに入ると、テーブルにところ狭しと料理が並んでいた。
梓と鈴木さんと、律がそれを囲んで座っている。
私は律に会うのが怖かった。
律とはあの日以来会っていない。
メールも電話も私は無視してしまっている。
さっきの電話の声では伺えなかったけど、律が怒っているんじゃないかと私は思っていた。
「ほら、二人とも早く座んなよ」
そう言う律は、怒っているどころか呆れているように見えた。
何年も一緒にいたけど、こういう律を見るのは初めてだ。
きっと律は、私に心底失望したんだろう。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/26(土) 01:28:31.47 ID:yMipm7Bio<> 私は律から離れて座って、梓に謝った。
「ごめん梓。私、寝坊しちゃって……」
梓は顔の前で両手を振って、
「そんな、謝らなくていいですよ。仕方ないですし……」
と言った。
私が悄気たままだったせいで、食事の間中、みんな私達を気遣い続ける事になった。
それが余計に惨めだった。
鈴木さんは終始、私に話しかけてくれた。
「憧れてます」
とか
「今度ベースを教えて下さい」
とか、
色々言っていたけど、私がライブをすっぽかした理由を知ったらこんな風には接してくれなくなるだろう。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/26(土) 01:32:16.63 ID:yMipm7Bio<> 打ち上げが終わり、唯はそのまま実家に泊まる事になって、私達は解散した。
帰り道、律と二人だけになると沈黙が横たわった。
律は薄着だったけど、夜道の空気はまだ十月なのにずいぶん冷え込んでいる。
普段は全く気にならない排気ガスの臭いがたまらなく不快。
バス停に着き、時刻表を見ると次発は二十分後だった。
沈黙に耐え兼ねた私が口火を切った。
「律、ごめん」
「ん?」
「ごめん」
「いいって、もう」
「良くないだろ。怒ってるじゃん律」
「怒ってないって」
「じゃあ、呆れてる」
律は頭を掻いて答えた。
「ん、まぁ……それは当たってる」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/26(土) 01:36:10.27 ID:yMipm7Bio<> 「ごめん。本当にごめん」
ひとつため息をついて、律は答えた。
「だからぁ、謝んなくていいってば。つーか、これじゃこないだと立場が逆だな」
律は笑いながらそう言ったけど、バス停の空気は変わらない。
「律。本当はどう思ってるんだ?」
「なにがだよ」
「やめたほうがいいって思ってる?」
「別に思ってないよ。澪の勝手じゃん」
「嘘だ。思ってる」
「思ってないってば」
思っててほしかった。
やめろ、と誰かに叱られなかったら、また同じような失敗を私と唯はやらかしかねない。
「律だっておかしいと思うだろ。女の子同士で、その、そういうことするのは」
「いや、それ以前に友達同士でする事のほうがおかしいだろ」
強い口調で、律は即座にそう返してきた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/26(土) 01:39:45.46 ID:yMipm7Bio<> 「女同士とかはさ、私にはさっぱりわかんないけど、ムギが言ってたみたいに本人の自由なんじゃねーの?でも友達同士はそうじゃないと思うぞ。澪、お前、唯のこと今もちゃんと友達として見てるか?」
見てない、というより、忘れていた。
「……律、やっぱり、やめたほうがいいって思ってるだろ」
「だから思ってないって」
私は律から本音を引き出そうと、律の手を握った。
律は咄嗟にそれを振り払った。
ほとんど怯えるように。
それから申し訳なさそうに言った。
「……ああ、うん。思ってるよ」
律は続けた。
「思ってるさ、そりゃ。そんなわけわかんないこと、やめたほうがいいって。当たり前じゃん。澪だってわかってるんだろ?」
私は黙って頷いた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/26(土) 01:44:20.49 ID:yMipm7Bio<> 「じゃあなんでやめないのさ?」
「やめられないんだ……」
「え?あ、あぁ、そりゃそうか。わかっててもやめられない、うん、そうだよな」
そんな、理解したような事は言って欲しくない。
私が律に求めてる言葉は、そうじゃない。
同意じゃなくて議論を、理解じゃなくて否定を、私は求めている。
黙っている私を見て、律はすぐにそれを察してくれた。
「澪、もうやめろ」
「なんで?」
「続けても澪が辛くなるだけだから。まわりが澪から離れるだけだから」
「律は?」
「私も嫌だ。澪がそういうことをしてるのは」
「なんで?」
「さっき澪に触られた時、めっちゃびびっちゃったから。澪がウチに来ても、びくびくするかもしんない。なんでかわかるよな?」
私は頷いた。
私が律をそういう対象として見たことは一度もない。
というか、唯に対してすら、性欲とは違うんだ。
でも律が怯えるのは理解できた。
それで律との間に亀裂が入るのは嫌だ。
律の部屋で、お互いに表情を作るようになるのは嫌だ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/26(土) 01:48:03.62 ID:yMipm7Bio<> 「まぁやめたところで、私がすぐにビビらなくなるわけじゃないけどさ、少なくとも続けられちゃあ風化もしないってこと」
「うん」
「唯も同じ。あいつのためになんないって」
「うん」
「だから澪、唯と変な事するのはもうやめろ」
はっきり言われて、ようやく救いの手が来たような気がした。
子供は叱られると悲しくなるけど、同時に安心する。
その言葉に従えば、間違いはないから。
「うん、わかった。やめるよ。もう、やめる」
へへ、と律が笑うのとほとんど同時に、バスが着いた。
律は私の手を引いて、バスの中に導いた。
暗く寒いバス停から入った車内は、明るくて暖房も効いていた。
走り出してからは酷く揺れたけど、あやされているようで心地好かった。
私は席に座ったまま律に手を握られて、自分が戻っていくのを感じた。
私の片割れを、律が大事に持っていてくれたみたいだ。
「あ、そうだ澪。これ」
律はバッグからCDを一枚取り出して、私の膝の上に置いた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/26(土) 01:57:46.57 ID:yMipm7Bio<> 「こないだ澪が貸してって言って忘れてったやつ」
「あ……」
膝の上に乗ったCDのジャケットを眺める。
男の人が書斎のような所で、涙みたいなものを目から出している絵。
全然可愛くない。
悪趣味なジャケット。
「ありがとう、律。大切にする」
「いやいやいや、あげないからな!貸すだけだって!」
「あ、そっか……。あはは……」
私は律にCDを貸す約束をしていたことなんてすっかり忘れていたのに、律はちゃんと覚えていた。
私がこんな風になっても。
律が友達で良かったと心の底から思った。
そんな事は口が裂けても言わないけど。
「あ、澪。こんな話知ってるか?バスの客がいつの間にか一人一人消えていって」
私はすぐに耳を塞いだ。
「最後は二人と運転手だけになって、その後はなんと……」
律は嬉しそうに私に顔を近づけて、話を続ける。
友達で良かったなんて、私は言わない。
絶対にからかわれるから。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/03/26(土) 01:58:22.51 ID:yMipm7Bio<> 今日はここで終わりです
次回で完結します <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/03/26(土) 02:05:21.14 ID:oM16YEgOo<> 乙
クリブスか <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/26(土) 15:54:59.73 ID:n0i+73ZQo<> おつおつ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/26(土) 20:27:05.66 ID:G6SwzcjTo<> うおお続きが気になる乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/28(月) 00:50:04.93 ID:rngDF38co<>
『10月5日』
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/28(月) 00:55:22.71 ID:rngDF38co<> 雨が屋根を打つ音が聞こえる。
今はまだシトシトといった感じだけど、天気予報によると夜には強くなるらしい。
風が窓を叩く。
急かしてるのか、それとも脅してるのかな。
今日は自分の部屋から出たくないな。
私の決意を唯にどう伝えようかあれから考えたけど、結局直接言う他ないという結論に至った。
でも唯から連絡は来ない。
自分からメールでも電話でもして都合つければいいんだろうけど、私の臆病風速は外の風といい勝負だ。
もしかしたら、唯もこの前の一件でもうやめようと思ったのかも。
だから連絡をよこさないのかも。
それならそれで都合がいい。
自然消滅ってやつだ。
はっきり拒絶するよりウヤムヤにしちゃったほうが、今後の関係への影響も少なくて済む。
でも私のそういう浅はかな考えは、あっさり打ち破られた。
夕方になって、思い出したようなタイミングで唯からメールが来た。
『遊ぼうよ〜!雨降ってるけど来れる?』
気が重いし、滅入るし、引ける。
だけどそうも言ってられない。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/28(月) 00:57:40.53 ID:rngDF38co<> 『わかった。今から行くよ』
淡白に返したつもりだったけど、私の返信なんていつもそんな感じだったから、唯は何も思わないんだろうな。
家を出て傘を差し、バスに乗って、唯のマンションに着く頃にはブーツの中まで濡れていた。
「わっ、澪ちゃんびしょびしょ!」
唯はいつもと変わらない調子で私を迎えた。
「先にタオルと……あ、やっぱりシャワー貸して。風邪引いちゃうし」
「どうぞどうぞ〜」
唯は嬉しそうに言った。
私は「先に」って言ったけど、唯の考えてる意味とは違う。
悪びれない唯を見て、少し動揺する。
ここでほだされちゃ駄目だ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/28(月) 01:02:19.92 ID:rngDF38co<> シャワーを浴びて、唯に髪を乾かしてもらい、私は唯の部屋に置きっぱなしの自分の服を着た。
「あれ?服貸すよ?」
「いや、いいよ。今日はこれでいいから」
「そう?」
首を傾げながら、唯は私に渡そうとした服をタンスに戻した。
ベッドに座ると、早速唯は私の手を握って顔を近づけてきた。
私はそれを無視して立ち上がり、部屋に置いてあった他の自分の服をバッグに詰めていった。
ヘアゴムと講義の参考書とノートとペンと、あと、エリザベスもこの前から置きっぱなし。
「澪ちゃん?どうしたの?」
窓を打つ雨の音が強くなる。
言え。
もう言っちゃえ。
時間をかけたって余計言い辛くなるだけだ。
「澪ちゃん?持って帰るの?」
参考書を拾いながら、唯を見ないで私は言った。
「唯、もうやめようよ」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/28(月) 01:05:00.19 ID:rngDF38co<> ベッドに腰掛けている唯の方を私は見る。
「梓のライブすっぽかして、みんなに迷惑かけてさ。やっぱり悪いことなんだよ、私達がしてきたのは。
バチが当たったんだ。だからもうやめよう」
唯は何も答えない。
ベッドに腰掛けたまま、所在なく指先を弄って一人遊びをするだけだ。
「私の荷物も、もう全部持って帰るからな」
部屋の中を見渡して、自分の物が他にないか捜す。
私はテーブルの下に、律に貸すつもりのあのCDを見つけた。
あの日から、ずっと唯の家に置き去りにしていたんだ。
私はそれを拾おうとした。
すると、唯は立ち上がり、私の腕を掴んだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/28(月) 01:08:05.80 ID:rngDF38co<> 私の手からCDが落ちて、中のディスクが床に転がる。
「絶交しちゃうの……?」
私は首を横に振って答えた。
「違うよ。唯とは友達。これからも、ずっとな。でも、ああいうのは友達のする事じゃないだろ?」
「わかんないよ、そんなの」
「私もわかんないけどさ」
「だったら、やめることないよね?ね?」
私の腕を掴む唯の手をそっと離してから、私は言った。
「ごめん、唯。唯のためでもあるんだ」
「やだよ」
「聞き分けてよ」
「やだ。大丈夫だよ。寝坊しなければいいんでしょ?」
「そういうことじゃなくて」
「やだ」
唯の目に涙が溜まる。
唯は私の首に腕を回して抱きついて、耳元で何度も「やだ、やだ」と言った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/28(月) 01:13:16.25 ID:rngDF38co<> 私だって、出来ることならやめたくない。
これからもここで、唯とベッドの中で、極端な事を言えば一生唯とひっついたままでもいい。
でもそんなのは律が許してくれない。
ムギも梓も憂ちゃんも、誰も、許してくれない。
恋愛だったら何人かは許してくれるのかもしれないけど、それが伴わない、そう、火遊びはしちゃいけないって私はママに教わってる。
全部決まってるんだ。
世界はそういう風に出来ている。
そこで、私はふと疑問に思った。
本当に?
じゃあ、ここはなんなんだ?
この部屋は、私達を責めたりしない。
今まで一度も、そんなことはなかった。
ロケットのパーツみたいに本体の世界から切り離されて、ポトンと落ちたように、ここは独立していて、決まり事なんてなかった。
私の峻巡を気取ったのか、唯は私の首に回していた腕の力を強めた。
私は慌てて唯を引き剥がした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/28(月) 01:18:23.70 ID:rngDF38co<> 考えるな。
何をしにここに来たんだ。
今更迷っちゃダメだ。
「帰る。帰るから」
急いでCDを拾い、バッグに入れて、濡れたままのコートを着て、私は部屋を出ようとした。
唯が私の腕を掴んでそれを止める。
「唯、離して」
「やだよ……。行かないで……」
「離してってば」
「澪ちゃん、行かないで……」
「唯!!」
私が怒鳴ると、唯はびくっとして腕を離し、ぺたんと床に尻をついた。
「ごめん唯。また大学でな」
私は唯を置いたまま、部屋を出ようとした。
ドアノブに手をかけたところで、私の動きが止まった。
雨音はますます強くなっていて、ドアの向こうから轟く。
目をぎゅっと瞑って、ドアノブを捻る。
その時、私の後ろから声がした。
私のお気に入りのあの声。
耳の奥に刺さる、鉄琴を優しく叩いたような、大声で囁くような、唯の声。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/28(月) 01:22:15.10 ID:rngDF38co<> 私は振り向いた。
唯は床にべったりと座ったまま、自分の下着の中に手を入れていた。
その手が蟲みたいにもぞもぞと動く。
「う、う……あ、あぁ……」
私は耳を塞ぎながら、喘ぐ唯に駆け寄った。
「何やってるんだよ……」
唯は手を動かし続ける。
「ふっ、う……ううっ……」
誘ってるつもりか?
こんな不様なやり方で。
「唯、やめてよ。そんなの見たくない」
「うぐ……あっ……あ……」
大粒の涙を流しながら、唯は声を出し続けた。
「やめろって言ってるだろ!いい加減にして!」
私が強引に唯の手を取り、下着の中から引き抜いた。
濡れた唯の指先がぬめる。
唯の手を離すと、唯はだらんと力無く項垂れた。
それから、唯は顔を上げて、テーブルの上に置いてあった財布を取った。
「澪ちゃん、これ」
「……なんのつもり?」
唯は財布からお札を数枚取り出して、くしゃくしゃに握り締め、私の胸のあたりに差し出した。
「お金、お金あげるから……。ね?しようよ……」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/28(月) 01:25:25.88 ID:rngDF38co<> どうして唯がここまで私に固執するのかわからなかった。
「澪ちゃん、ほら。ね?」
そう言う唯の目は、涙で潤んでいるけど、全く濁っていない。
純真無垢そのものだ。
私にとって唯は、可愛い友達で、今までしてきたのは新しいスキンシップだった。
友達であり続けるために、私は関係を終わらせようとした。
でも、唯はとっくの昔に、私の事を友達とは思わなくなっていたらしい。
その自覚こそなくても、お金で私の事を引き止めようとするっていうのは、そういう事だ。
いや、私もつい最近まで、唯を友達として見る事が出来なくなっていた。
一緒に料理なんて、もう随分していない。
買い物も行ってない。
会話だって、ベッドに入る前の義務に成り下がっていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/28(月) 01:33:58.69 ID:rngDF38co<> 「唯、そんなの仕舞って」
私はお金を握る唯の手をそっと押し返した。
「澪ちゃんに……あげるから……」
唯はなおも懇願する。
どうすれば唯は聞き入れてくれる?
どんな話をすれば。
会話、そうだ、会話だ。
全てそこから始まったんだ。
あの時の、将来の、唯の抱える不安の話。
あの続きをするんだ。
私は唯の手からお金をむしりとって、床に捨てた。
唯の肩に手を置いて、唯の目を見る。
「唯、ごめん。ちゃんと話そう。唯は怖いんだよな?将来が、大きすぎて怖いんだよな?」
唯は私の頬を両手で包んで目の中を覗き込んだ後、私のコートを脱がせた。
「違う……。唯、待って。話すんだよ、ちゃんと」
唯は私の上着の中に手を入れて、胸を触った。
「唯……」
唯に議論をするつもりはないらしい。
あの時喋りすぎたのか?
いや、きっと唯はもう忘れちゃったんだ。
将来の不安だとか、未来の選択肢だとか、そんな話、もうどうだっていいんだ。
それはそうだな。
私だって忘れていた。
あの時は確かに私も唯も不安に隈なく覆われていたけど、あれ以来、あんなことは一度も考えていない。
あれは身体を重ねる目的じゃなくてただのきっかけだ、今となっては。
気持ちよくて楽しいから、私達は続けていたんだ。
あの時の議論に照らし合わせるなら、唯は、目の前の宝箱を全部無視する事にしたんだろう。
私の身体を触って、私が次にどんな反応をするか……霧中に映る唯の未来は、それだけなんだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/28(月) 01:38:30.25 ID:rngDF38co<> 「澪ちゃん、可愛い……」
唯に首筋を吸われて、もう普通の友達には戻れないと悟った。
私は涙を流した。
それを見て、唯は私から身体を離した。
「澪ちゃん?」
本当にもう元には戻らないとわかり、怖くなった。
楽しい事は、楽しい事と引き換えになった。
雨音が私を笑っている気がした。
止んだ風音が私に呆れている気がした。
この部屋から出たくない。
外の世界は、轟音で私を虐める。
沈黙で私を問い詰める。
私は雨音を掻き消すように、声をあげて泣いた。
「大丈夫だよ。怖くないよ」
唯は自分の胸に私の頭を埋めさせて、何度も撫でた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/28(月) 01:42:44.70 ID:rngDF38co<> ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
どれくらい泣いていたんだろう。
泣き終えて、私は唯から離れた。
頭の芯が麻痺したみたいにぼうっとする。
「澪ちゃん、もう平気なの?」
鼻をすすって私は答えた。
「うん。唯は……?」
唯は、えへへ、と笑ってから、私を抱き締めた。
唯にとって、私は友達じゃない。
でも、唯は私に優しい。
私はなんなんだろう?
唯にとって、友達でも恋人でもないなら、私は一体?
唯は私の首筋に舌を這わせた。
私は拒もうとして唯の肩に手を置いて、ふと、部屋の隅に目が行った。
視界の下半分で唯の頭が動き、上半分が部屋を映す。
端にあるのは、ギー太とエリザベス。
視界の真ん中にそれを移す。
いつか見た様に、エリザベスは随分ここに馴染んで見える。
そして、私の正体がわかった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/03/28(月) 01:51:12.39 ID:rngDF38co<> 私は肩に置いていた手を背中に回して唯を抱き返し、それから唇を重ねた。
唯の唇は柔らかくて暖かくて、でも少し乾いていたから、舌先で湿らせてあげた。
友達に戻れないなら、もうやめる必要なんてない。
唯の言うように、寝坊さえしなければいいんだ。
律が責めても、ムギが悲しんでも、梓が蔑んでも、そんなのは全部外の出来事。
雨音でうるさい世界の話だ。
涙涙のお話は、もうここにはない。
唯は嬉しそうに私の下着の中に手を入れた。
今なら、ようやく私も唯みたいに気兼ねなく声を出せる気がする。
「唯」
「なあに?」
「お金なんていらないからな」
「本当に?」
「本当に」
お金はいらない。
対価は何もいらない。
この部屋に愛情の条件なんてない。
ここにあるのは、
ギターが一本、
ベースが一本、
ベッドが一台、
照明が三つ、
冷蔵庫が一台、
ゲーム機が一台、
CDが数枚、
テーブルの上に雑誌が四冊、
本棚に漫画がたくさん、
人形がいくつか。
それから、私がひとつ。
おしまい <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/03/28(月) 01:55:35.43 ID:rngDF38co<> 終わりです
ここまで読んでくれた人ありがとう
HTML化依頼ってどれくらいで出せばいいんでしょうかね? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2011/03/28(月) 02:03:30.37 ID:0bw40IlFo<> 乙
生々しくてすごく良かった
一週間くらいあれば良いんではないかと <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/28(月) 02:10:18.63 ID:il/XxIVIO<> とっても
とってもぉ
良かったです乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/03/28(月) 02:16:48.96 ID:rngDF38co<> >>174
一週間了解
うーん、じゃあ金曜あたりに出します <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/28(月) 02:35:43.52 ID:Avpi0+ySO<> ううむ面白かった
もっと続いて欲しかったが次回作に期待 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/28(月) 02:40:49.46 ID:kmjF//vDO<> よかった…
もっといい感想が書きたいがなんかよかった
おつです <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/28(月) 02:43:08.83 ID:uAdzO0OFo<> おつ!
この艶かしい雰囲気がものすごい好きだ
是非また書いてください <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/03/28(月) 03:05:36.53 ID:vWTUt8Bpo<> GJ!
毎回、更新楽しみにしてたよ。
終わってしまって寂しい
次回作も待ってる。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/28(月) 04:13:12.04 ID:+qJ0I/dIO<> 乙です
肉欲だねー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/28(月) 05:36:31.65 ID:wj4x8sMho<> 終った…まぁよくわからんけど終った <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2011/03/28(月) 10:58:07.19 ID:x0FPZlGwo<> 乙
ついさっき頭から一気に読んだけど良かったー
この手のエンドは唯澪では初めて読んだかもしれない <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/03/29(火) 07:48:24.98 ID:xPfhpvebo<> なんて暗い悲しい終わり方なんだ
良かった乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府)<>sage<>2011/03/29(火) 08:37:19.88 ID:nOrtNrnmo<> 乙
こんな地の文俺も書きたい <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/29(火) 11:55:02.98 ID:dkMYu9iSO<> 重くて悲しいエンドだけどよかった
こういう唯澪もいいな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/31(木) 17:45:32.48 ID:cQbZXdCNo<> 今読み終わった
湿った雰囲気の話だな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/04(月) 07:20:07.85 ID:3VIEFtFwo<> 唯視点の話も見てみたい
よかったらいつか書いてほしいな <>