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HTML化した人:lain.
唯「いでおん!」
1 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/03/17(木) 11:03:08.69 ID:DI7Rv+qu0
これはけいおん!で伝説巨神イデオンのパロディをする小説です

VIPも小説も初心者なので手探りでやっていきますので温かく見守ってください
2 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/03/17(木) 11:09:37.59 ID:DI7Rv+qu0

それは、唯が高校2年生の夏休み中、8月1日の事だった。

昼食を食べ終えて、うだるような暑さの中、扇風機に体を預けて宿題なんてする気にもなれず、居間でごろごろしていた。
しばらくぼーっとしていると、折角の夏休みだからどこかに出かけたい気分になり、気がつくと唯は着替えて外へ繰り出していた。
しかし、唯は外に出てから1分もしないうちに後悔していた。
「あっつぅい……」
暑いのが苦手なのをよく知っているのに、なんで出てきたんだろう。
しかも、一番気温が高いこの昼下がりに。
唯は不思議に思っていても、外を歩くのをやめない。
何かが唯の足を動かすような、そんな気がするのだ。
「……せっかく出てきたんだしね」
この暑い中をわざわざ出てきたのに、何も無かっただなんてちょっと寂しい。というか悔しいので、何か見つけてやろうと唯は躍起になっていた。
そんなことを考えながら歩いていると、住宅街を抜けたらしいのか緑が目に付く様になった。
「おぉ、こんなところがあるんだ」
いつもの通学路から少し逸れてみるだけで、風景がぐっと変わってどこか知らないところへ来た気分になる。
「ふふふ……」
辺りを軽く見まわしてみたり、歩道の白線を踏みながら歩いていると、今まで続いていた家が途切れて緑だらけになる。
「おぉ……」
最後の家の隣は大きな雑木林が広がっていた。
公園なのか私有地なのかよくわからないが、人が通るようで草が生えていない部分が見える。
「こんなところがあったんだねぇ……」
高校生になっても、こういうところは妙に好奇心をくすぐられる。
唯は道を覗き込むようにして中を観察してみる。
緑の光がさんさんと射し込み、奥に道が続いているようだ。
「……」
さわさわと体を撫でていく風が火照った体に気持ちいい。
(……入ってみたい)
不意に唯はそう思っていた。
吸いこまれそうな緑と、風が唯を呼んでいるようだった。
「……よし!」
好奇心に後押しされ、唯は一呼吸置くと雑木林へ入っていった。
さう……、さう……。
雑木林の中を進むたびに、草木が独特な音で歓迎してくれる。
「うぅ〜……ん。気持ちいい〜」
雑木林の中は日差しも弱く、涼しい風も吹いていて快適だった。
唯はさらに嬉しくなって、少し速足で進んでいく。
「……おっ?」
数メートルも歩くと、急に目の前が開けてきた。
どうやらここだけ木が生えておらず、広場のようになっているみたいだ。
「これは……やらなくちゃいけない気がする!」
唯はうずうずと体を震わせて、そいやっと草の絨毯に寝転んだ。
「はぁ……」
さわさわ……。
風が木々を撫で、唯の体も包み込んでいく。
自然の流れに身を任せて、日差しと風と草の匂いを感じていた。
「……」
緑の優しい木漏れ日は体をやんわりと温め、うるさいセミの声ですら遠くなって意識の奥底を揺すらない。
自然と瞼は落ちて、唯の意識は地と一つになっていた。
3 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/03/17(木) 11:11:48.88 ID:DI7Rv+qu0
かさかさ……。かさかさ……。
「……んっ」
遠くで何かが擦れるような音がし、唯の意識は瞬く間に戻った。
(何だろう……)
むくりと上体を起こすと、人影がこちらに向かってくるのが見えた。
そして、木漏れ日に照らされた顔がゆっくりと唯を見つめる。
「……」
「……」
女の子だった。
歳は唯と同じぐらいかそれより下だろうか。綺麗な黒髪を左右に結わえて、ツインテールにしている。そして、瞳は燈色で大きく可愛らしい顔立ちだ。
「あ、あの……」
唯が声をかけると、その子は少し後ずさる。
「ご、ごめんなさい。勝手に入ったりして……」
この土地の人かと思い、唯は謝りながら立ち上がる。
女の子は何の反応もせず、ふらふらと唯に歩み寄ってきた。
「あ、あの……」
何か様子が変だ。
そう唯が思った途端、女の子はかくりと力が抜けてその場でくず折れていく。
「わぁっ! ととと!」
唯はすかさず手を伸ばし、その華奢で白い体を抱き止める。
「ねぇ、君! 君!」
唯の腕の中で女の子は何度か肩を震わせて、うめき声を漏らした。
「ど、どうしよう……。熱中症かな」
おろおろとしながらもその子を横にし、携帯を取り出す。
「えっと、救急車……」
ダイヤルを押していると、手を掴まれた。
「えっ……」
女の子は唯の手を掴んだまま携帯を取り上げた。
「ち、ちょっと、何するの?」
唯が携帯を取り返そうとすると、女の子はさっと引いて避ける。
「……」
何か言いたげな目をしているが、女の子は何も言わない。
軽くため息をついて、唯は女の子を見つめて言った。
「わかった。電話しないから返して?」
唯は優しく問いかけ、手を差し出す。
「ね?」
「……」
女の子は渋々といった感じで携帯を返した。
「まったく、急に倒れちゃうからびっくりしたんだよ?」
女の子は黙ったまま唯の顔を見つめていた。
「でも、よかった。元気そうだね」
唯が笑いかけると、女の子はゆっくりと口を開いた。
「あ……りがとう……」
それは何とも拙い言葉で、弱々しかった。
「うん。でも、気分が悪いのなら家に帰ったほうがいいんじゃない?」
「……問題ない」
「も……問題、ない? 難しい言葉を話すんだね」
唯は違和感を覚えたが、不思議と嫌ではなかった。女の子の可愛らしい声は耳をくすぐるようでとても心地よかった。
少し黙ると、女の子はまた口を開いた。
「大丈夫ですから、心配しないで下さい」
「そ、そう?」
「はい」
女の子はそっと微笑んだ。
(か、かわいい……)
今まで見たこともないぐらい綺麗で、そして可愛い表情だった。綺麗と可愛いは相容れないものだと思われるが、これは別だった。
唯はただその顔に見惚れ、視線をそらせずにいた。
「……」
女の子も唯の瞳を見つめ、不思議な雰囲気が漂う。

風はしばらく2人の間に吹き抜けていた。
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[sage]:2011/03/17(木) 11:13:44.01 ID:VebuYx2qo
バッフクランから逃げられると思うな!
5 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/03/17(木) 11:14:35.71 ID:DI7Rv+qu0
「……あっ、ごめん」
唯は急にその女の子と視線を絡めるのが気恥ずかしくなって、さっと目を逸らす。
「どうしたんですか?」
「い、いや、何でもないよ!」
梓は疑いも何もない綺麗な眼差しで唯を覗きこむ。それがさらに唯の気持ちを惑わせ、顔を熱くさせる。
「そ、そうだ、名前聞いてなかったね。私は平沢唯。あなたは?」
「えっと……、あ、ずさ」
「梓ちゃん、か」
唯は何故か落ち着かず、何か話題は無いかと必死に考える。
(どうしたんだろう……、緊張する……)
初対面でもさほど緊張をしたことのない唯だが、この時ばかりは違っていた。
居心地がいい気がするのに、何故か落ち着かない。唯はなんとか間を持たせようと口をパクパクと動かして、話題を考える。
そんな中、梓が唯を呼ぶ。
「あの……」
「は、はい!」
咄嗟に呼ばれ、唯は極端な反応をしてしまった。自分の声に少し驚き、また恥ずかしく思いながら梓の声を聞く。
「唯は、なんでここに来たんですか?」
「なんでって……」
唯が予想だにしない質問だった。頭の中でぐるぐると考えがめぐり、口から出ていく。
「……何だか気持ちよさそうだったから、かな」
「気持ちよさそう……?」
梓が首を傾げる。
「うん。緑と風が呼んでいる気がしてここまで来たんだけど、そしたら思いのほか気持ちよくてさ」
唯は感じたありのままを話した。
「そうか。ここは気持ちいいんですね」
梓はまた頬笑みながら空を仰いだ。唯もそれに倣って、木々が柔らかくしてくれた日差しの向こう側を見つめる。
「うん、気持ちいいよね」
くっきりとした輪郭の入道雲が青い空の中を流れていく。
風が、また吹き始め、ふわりと風が髪の毛を梳いていく。
それに合わせて、梓の黒髪が気持ちよさそうに宙を泳ぐ。
その光景を唯はただ見つめていた。
綺麗とか美しいとかそんな感情は一切無く、ただ見つめていた。
いや、感情は無いと言うのは嘘になるかもしれない。
何か感触が無くふらふらして、それでいて胸を締め付けるような感情が心で芽生えている。
「……」
無言の時間が増えていくのと共に、見惚れる時間も増え、いつの間にか高かった陽は次第に傾き、影が周りを覆い始める。
「あっ……。そろそろ時間も遅いし、帰るね」
「そうですか」
梓は頬笑みを絶やさずに唯を見つめる。
「えっと……、また来るね」
唯はとっさにそう口走って、雑木林へ駆けこむ。
がさがさと草木を踏み荒らし、唯は駆ける。
(何で、また来るなんて言っちゃったんだろう……)
雑木林を抜けて、赤い日差しが染める道路へ出る。
「はぁ……、はぁ……」
無駄に走ってしまい、汗をかいてしまった。
立ち止まって雑木林を振り返り、また体にこみ上げる興奮が体を揺する。
唯は走らずにはいられなかった。抑えられずあふれ出る気持ちが体に漲り、無性に動きたいのだ。
(こういうの、嬉しいっていうのかな……)
走りながら、唯は梓の頬笑みが脳裏で浮かんでは焼き付いていくのだった。
(また、会いたいな)
唯は緩む口を戻そうとして不自然になる顔で、家へと走っていった。
6 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/03/17(木) 11:31:40.97 ID:DI7Rv+qu0
翌日。

「……おっかしいなぁ。確かこの辺にあったんだけどなぁ」
この前と同じ道を歩いてみたものの、あの雑木林は一向に現れない。
「確かこの道をずっと行くと途中で家が無くなっていて……」
必死に記憶をたどり、熱気が立ち込めるアスファルトの上を歩く。
「はぁ……、暑いなぁ……」
気温の上昇と共にセミの鳴き声も元気になっていくようで、耳に少し障った。
体に纏わりつく湿気とセミの声を振りほどく様に速足で歩く。しかし、熱気を体にぶつけるだけだった。
それでも梓に会いたいがためにずんずんと進んでいく。
「ダメだ……。見つかる気がしない……」
道を行けば行くほどあの雑木林から遠のいていくようで、へなへなと電柱に手をついてため息を漏らす。
雑木林を探してかれこれ30分は歩いた。
帽子をかぶってきたものの、目は暑さで湯であがってしまいそうで痛い。汗もじんわりと滲みでて玉となり、嫌な感覚と共に体中をなぞっていく。
(もう、会えないのかな……)
ビュウゥ……!
「わぁ!? 帽子が!」
咄嗟に吹き上げられた風に乗って、くるくると唯の帽子が空を飛んでいた。
「待ってよ〜!」
帽子は唯を弄ぶように空を舞い、どんどん遠くへと引き連れていく。
「はぁ……、はぁ……、もう、どこまで行くのぉ……?」
暑さで疲れていた足を動かし、ぎらぎらと目を焼く日差しに帽子を見失いそうになりながら、さらに追いかけていく。
青い空と白い雲の中に、ぽつんとUFOのように飛んでいく帽子。それは風に乗り急上昇をかけて、太陽の前へと躍り出る。
強い日差しに思わず目を瞑ってしまう。
「うぅ……。って、あれ? どこに行った!?」
見まわしてみるが、帽子はどこにも見当たらない。
「ふええぇ……。どこいったのぉ……」
建物のどこかに引っかかっていないものかと、上を見上げながらとぼとぼ歩く。
「う〜ん。風も止んでいるからどこかに……、あいたっ!」
「にゃあっ!」
前を見ていなかった唯は、わき道から出てきた人に思い切りぶつかってしまった。
「はっ! ご、ごめんなさ……」
慌てて謝ろうとするが、その姿を見て唯は固まってしまった。
「大丈夫ですか……」
そして、それはぶつかった人も同じようで、唯を見つめたまま固まっている。
「あ……」
綺麗な黒髪、緋色の瞳、白い肌。忘れるはずもない。それは唯が探し続けていた人なのだから。
「あなた……」
真夏の昼下がり。唯と梓は再び出会った。
7 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/03/17(木) 11:33:00.69 ID:DI7Rv+qu0
とりあえず今日はここまでです
続きはまた今度ということで

>>4 バッフ・クランめぇ!
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)[sage]:2011/03/17(木) 11:56:49.12 ID:W1NPgCgAO
ゲッター線は闘争心がある人を好み愛するけど
イデは汚れ無き純朴を好むんだっけ?
本編でアフロに非協力的なのは、そのためと聞いたが
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/03/17(木) 15:03:22.65 ID:uTKn+bwB0
ほう…これは
できたら


昼食を食べ終えて、うだるような暑さの中、扇風機に体を預けて宿題なんてする気にもなれず、居間でごろごろしていた。
しばらくぼーっとしていると、折角の夏休みだからどこかに出かけたい気分になり、気がつくと唯は着替えて外へ繰り出していた。
しかし、唯は外に出てから1分もしないうちに後悔していた。

「あっつぅい……」

暑いのが苦手なのをよく知っているのに、なんで出てきたんだろう。
しかも、一番気温が高いこの昼下がりに。
唯は不思議に思っていても、外を歩くのをやめない。
何かが唯の足を動かすような、そんな気がするのだ。

「……せっかく出てきたんだしね」


みたいな感じにでも改行してもらえると非常に読みやすいです

ともあれ乙
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)[sage]:2011/03/17(木) 17:58:20.57 ID:PJG+GKuAO
グレンキャノンもだっ!
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]:2011/03/18(金) 14:33:07.11 ID:/Q9Y3ynJ0
ナカノ・アジバか
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[sage]:2011/03/18(金) 18:25:34.47 ID:3VOu/HWAO
>>8けどコスモの怒りには反応してたはず
13 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/03/18(金) 19:54:36.60 ID:XO64YSli0
>>8-12
読んでいただいてありがとうございます。不定期更新になってしまうと思うのですが、がんばっていきたいと思います。
また、イデについてですが自分なりの解釈やネットでの考察を参考にして答えを出していきたいと思います。

それでは本編をどうぞ。




どれくらい経ったのだろうか。

ふと目をそらすと、梓の手には唯の帽子が握られていた。

「あっ! それ、私の帽子!」

「えっ、そうなんですか? 道に落ちていたんですよ。どうぞ」

「ありがと〜」

帽子を受け取り、暑い日差しからようやく解放されて梓の顔が良く見える様になった。

「えへへ、さっき風で飛ばされちゃって探してたの」

「こんな暑い中を、大変でしたね」

「そうでもないよ」

唯は帽子の縁を撫でながら笑った。

「そうですか?」

「うん。だってね……」

不思議そうに首をかしげる梓の手を握って、唯は続けた。

「梓ちゃんに会えたんだもん!」

「……そ、そうですか」

少し照れる梓を見て、唯は嬉しそうに笑った。

(もう、ドキドキしなくなったな)

梓と普通に話すことができて、唯は更に機嫌が良くなった。

「それにしても、さっきのかわいかったなぁ」

「さっき?」

「”にゃあっ!”だよ! ”にゃあっ!”」

「あ……」

先ほどの自分のあられもない声を思い出して、梓が赤面した。

「あ、あれは何と言うか私もぼーっとしていて……」

「ねこさんみたいだったよ〜」

「ねこ、ですか……」

「うん。そうだ! ねこさんだから、あずにゃんだね!」

「あ、あずにゃん!?」

もうこれ以上は無いというぐらい完璧なあだ名だと唯は思った。

梓は頭で少し考えて、意味を解釈して、それから呆れた。

「突拍子もなく何ですかもう……、ふふふ」

本当に予測不能な人だと思って、梓は少し可笑しくなった。
14 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/03/18(金) 19:55:36.76 ID:XO64YSli0
「でも本当によかった〜」

「帽子を見つけられてよかったですね」

にっこりと笑う唯をみて、梓もつい嬉しくなった。

「そっちじゃないよ」

「えっ?」

何が違うのかわからない梓は首を傾げた。

「あずにゃんのほうだよ」

「はい?」

更に意味がわからず、梓は笑顔のままの唯を見つめる。

「だって、今日はあずにゃんを探しに出てきたんだもん」

「私のことを……?」

「昨日、また来るねって言ったじゃない」

唯の言うことはもっともであったが、梓は少し警戒していた。

(……まさかね)

しかし、それも杞憂に感じられた。

何故か唯を見ているとそう思えてくるのだ。何の陰りもないこの笑顔。疑いを持つ方が悪いというものだ。

「どうしたの?」

ふと気がつくと、目と鼻の先に唯の顔があった。

「へっ? い、いや、何でもないです!」

「そう? また倒れられても困るからね」

初めて会った時のことを思い出し、唯は少し背筋を冷たくしていた。

「大丈夫ですから。心配しないで下さい」

「気分が悪くなったら遠慮なく言ってね?」

ドキドキと早まる鼓動を抑えつつ、梓は自分の感覚に戸惑っていた。

(でも……、この人は信用できる人だ)

まだ疑問に思っている部分もあるが、梓はそう確信した。

「ねぇ、あずにゃんってこの辺りに住んでいるの?」

今まで梓のことを見たことがなかった唯は、ずっと疑問に思っていたことを口にした。

「えっと……、まぁ、そうですね。最近来たばかりで……」

梓のその言葉を聞いて、唯はあることを思いついた。

「そうだ! 私が町を案内してあげる!」

「わあぁ! ちょ、ちょっと!」

唯は梓の手を引いて、勢いよく町へ飛び出していった。
15 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/03/18(金) 19:58:11.43 ID:XO64YSli0
「まずはどこがいいかなぁ」

梓の手を引いて、唯はうきうきと炎天下の町中を歩いていった。

「そうだ、あずにゃんはどこの学校に行くか決まっているの?」

「まだ来たばかりなので、そういうのは調べてないです」

「じゃあ、私の学校に来なよ! ここから近いし」

嬉しそうに梓の手を握り、唯が言った。

「……なら、ちょっと見てみたいです」

「よーし! じゃあ桜が丘高校に向けて出発!」

意気揚々と歩いていると、目の前に桜が丘高校が見えてきた。

「じゃーん。ここが私の通う高校です!」

「へぇ……、こんな感じなんですね」

目の前の白い校舎を眺めて、梓は嘆声を漏らした。

「さぁ、行こう!」

「ちょ、ちょっと。入って大丈夫なんですか?」

「大丈夫、大丈夫! 私がいるからね!」

心配する梓の手を引いて、校舎の中へ入っていった。

「はい、あずにゃん」

事務室から貰って来たスリッパを渡した。

「ありがとうございます」

「じゃあ、行こうか」

パタパタと床を鳴らしながら校舎を見てまわっていく。
16 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/03/18(金) 20:01:21.26 ID:XO64YSli0

「ここがいつも勉強をする教室だよ」

きれいに整頓されている机と椅子が、うす暗い教室で鎮座していた。

「いっぱい机がありますね」

「一クラス40人ぐらいはいるからね」

教室に入ってみると、外から運動部の掛け声が響いてくる。

「……ずいぶん賑やかですね」

「うちは部活動も盛んだからね」

しばらく教室で運動部の活動を覘いて、また校舎見学へ戻る。

「この建物、材質がいいですね」

「そうでしょ? この校舎はほとんどが木造なんだよね」

温かみを感じさせる木造の校舎を撫でながら、唯は廊下を進んでいく。

梓もそれに倣ってそっと壁に触れてみた。

「……気持ちいいですね」

「えへへ、いいでしょ」

そのまま階段の亀を撫でつけて、2人は上の階へやってきた。

「で、ここが私の所属している軽音部の部室です!」

鍵を開けて、梓を中へ招き入れる。

「けいおん……?」

「軽い音楽で、軽音だよ」

「はぁ……」

「まぁ、あんまり聞かない名前かもね」

腑に落ちないような顔をする梓を見て、唯は入部当初のことを思い出していた。

「でも、入部してみるとすっごく楽しいよ!」

「……唯を見ていると、本当に楽しそうなのがわかります」

「そうかなぁ?」

くすくすと笑いながら梓に言われて、唯は照れ気味に笑った。
17 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/03/18(金) 20:04:40.69 ID:XO64YSli0

「お姉ちゃん、どこ行ってたの?」

家に帰るとエプロンをした憂が、腰に手を当てて眉を下げていた。

「ごめんごめん」

てへへと唯は頭を掻き、憂もしょうがないなぁと笑った。

「もうすぐ夕食できるから待っててね」

「はぁい」

唯は今日の出来事をまた思い出し、そして嬉しさがつい口から滲みでてしまった。

「ふふふ……」

「何? いいことでもあったの?」

おかずを運びながら憂が嬉しそうに聞く。

「うん。梓ちゃんっていう女の子に会ったんだ」

「梓ちゃん、かぁ」

「うん。最近引っ越してきたばかりでね、黒髪がきれいでちっちゃくてとってもかわいいんだよ!」

「お姉ちゃんがそこまで言うのなら、その子相当かわいいんだね」

あの愛らしい笑顔、声、靡く黒髪。どれを思い出しても唯の口を綻ばせる。

憂もそんな唯を見つめながら頬笑むのだった。

「じゃあ、私と同級生になるかもしれないんだね」

ぽつりと憂が呟く。

「そっか。もしかしたら憂と同級生になるかもしれないんだね」

「楽しみだね」

「うん。もし桜が丘高校にきたら軽音部に入ってくれないかなぁ」

「入ってくれるといいねぇ」

「うん。学校共々ね」

梓が軽音部に入ってくれたらいいなぁ、と唯は密かに願った。
18 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/03/18(金) 20:05:55.52 ID:XO64YSli0
今日はここまでです。次はいつ更新になることやら……。
19 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/03/20(日) 22:07:53.43 ID:K1QSspJ60

「……でね、もしかしたらその子が転入してくるかもしれないんだよ」

「そっかぁ。この時期だけど新入部員が来てくれることはうれしいな!」

軽音部の活動中、唯が梓のことを話すと律が嬉しそうに言った。

「その、梓って子、来てくれるといいな」

「そうね」

澪と紬も軽音部に新しいメンバーが加わるかもしれないとなると、嬉しさを漏らした。

「で、梓って何か楽器をやっているのか?」

澪が聞くと、唯はしばらく唸った。

「どうなんだろう?」

「どうなんだろうってお前……」

「でも、私だって初心者だったし、入ってくれれば何かやりたいこととか見つけられるよ」

「そうだぞ、澪。いつだって始まりは来るもんだ!」

律もいいことを言ったと自慢げに鼻息を荒くしていた。

「……そうだな。まずはやる気だよな」

「でも、梓ちゃんがここに転入するかは、まだわからないんでしょ?」

紬が不安げに聞いた。

「まぁ、また会ったら誘ってみるよ」

「でもその前に、部員も増やせるように合宿でいっぱい練習しないとな」

澪が忘れてないだろうなぁと言いたげな顔で言った。

「もちろん、頑張ります!」

「私だって頑張るもんね!」

ふふんと唯と律が得意げに胸を張った。
20 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/03/20(日) 22:09:01.74 ID:K1QSspJ60

「ところで、唯。今日の新聞見た?」

「へ? テレビ欄は見たけど……」

「お前なぁ……」

呆れた様子で律が呟いた。

「な、何……?」

何だかよくわからず、唯の頭にはてなマークがたくさん浮かんだ。

「あぁ……、流星群のことか?」

澪がぱたぱたと下敷きで仰ぎながら言った。

「ペルセウス流星群の記事なら私も見たわ」

「ムギちゃんも!?」

何だか置いて行かれたようで、唯は少しショックを受けた。

「それにしても、ぺる……えっと、何だっけ?」

「ペルセウス流星群ね。唯ちゃんも自由研究とかで流星群のこと調べたりしなかった?」

「あぁ! 和ちゃんが昔やってた!」

「夏休みの時期に来るから、よく自由研究の題材になったりしているのがこのペルセウス流星群よ」

「へぇ〜」

紬のわかりやすい説明に、唯は感心してしまった。

「で、それがもうすぐ最大の量が来るっていうんだ」

「……じゃあ合宿の時と重なるのかな」

「そう! ムギの別荘で丁度見れるかもしれないんだぜ!」

「ムギの別荘で練習して、流星群を見る……。いいなぁ」

澪もうっとりと声を漏らして、ため息をついた。

「じゃあ、流星群観察の為に虫除け対策もしておかなくちゃね」

ぱんと手を叩いて、紬も嬉しそうに言った。

「じゃあ、虫除けスプレーとか蚊取り線香とか持っていったほうがいいな」

「そうだな。じゃあ、それらは各自で準備しておくこと!」

「了解です、りっちゃん!」

合宿の準備を考えるだけで、5人の期待はさらに膨らんでいくのだった。
21 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/03/20(日) 22:11:32.48 ID:K1QSspJ60
───

あれから数日。

唯は珍しく自分で合宿の準備をしていた。

「ふんふんふ〜ん♪ いよいよ明日から合宿かぁ〜♪」

着替えや新しく買った水着、虫除けや遊ぶための道具もスーツケースへと詰め込んでいく。

「これでよし! あぁ、流星群も楽しみだなぁ!」

目覚まし時計をセットし、ベッド脇に置いた途端、かたかたと音を立てて走っていく。

「な、何? 地震?」

小さな揺れが体を揺すった途端、ぐらぐらと家が揺れ始める。

「……違う。何だろう」

地震の揺れとは違い、激しい揺れと小さな揺れがまばらに起きている。それに伴って窓ガラスがビリビリと嫌な音をたてて震える。

「お姉ちゃん、大丈夫?」

憂が不安そうに部屋に入ってきた。

「うん、大丈夫。でも、何だろう……」

……ゴオオオォ……!

「な、何!?」

重い音と、揺れ、そして光芒が窓から溢れだす。急いで窓を開けると、夜の熱気と一緒に嫌な臭いが部屋になだれ込んでくる。

「……!?」

遠くの町の方が昼間のように明るい。それに目を凝らしていると、きな臭さが鼻を突く。

「……火事だ」

憂の言うとおり、目線の先の町で火事が起こっている。

救急車や消防車、パトカーのサイレンが街中を震わせ、赤く染まった道に野次馬が溢れだしてきている。

だが、どうも様子がおかしい。

唯が見つめていると、地上から伸びていく光が見えた。

「な、何……、あれ……?」

いくつもの小さな光が、流星群のように赤黒く染まった夜空に流れては小さく火の玉になって消えていく。

そして、耳に数秒遅れて聞こえてくる”ドーン”という音……。

「……!」

それらが何となく頭の中で繋がっていき、ある一つの答えが導き出される。

「お、お姉ちゃん……、あれ……」

憂も怯えた声で、唯の裾を握りしめる。

最も考えたくなかったことだった。

「……戦争、だ」

唯はいつか社会科で見た、沖縄戦の鉄の暴風を思い出していた。
22 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/03/20(日) 22:14:39.35 ID:K1QSspJ60
黒い煙が夜空を覆い、その中をキラキラと光る何かが飛んでいる。だが、それもぱっと小さな火花のように散っていく。

暑さのせいだけではない汗が、唯の体を濡らしていくのがわかった。

「住民の皆さんは至急、避難をお願いします! 住民の皆さんは! 至急、避難をお願いします!」

町の中から緊張を孕んだ放送が流れ、それが耳を抜けて一気に頭をかけ上り、唯の体を強張らせる。

「ど、どうしよう、お姉ちゃん……!」

「と、とりあえず避難しよう。憂、着替えとか準備して!」

「う、うん!」

幸い、唯の着替えは合宿へ行く用意をそのまま持ち出せばよかった。

憂の方は、事あるごとに唯の身支度を手伝っているので荷物をまとめるのにさほど時間はかからなかった。

「お姉ちゃん! 準備できた!」

「よし、とりあえず学校に行こう。あそこ避難所になっているはずだし……」

ギー太を背負い、右手には着替えを詰めたスーツケースを持って避難をする人の列に加わる。

「唯ちゃん! 憂ちゃん!」

「おばあちゃん!」

「2人とも大丈夫!?」

「うん。よかったぁ……」

とみの元気そうな顔を見て、唯は一安心した。

「おばあちゃん、何があったかわかりますか?」

「私も状況がわからないから、憂ちゃんに聞こうと思っていたんだけど……。わからないみたいね」

「お姉ちゃんと逃げ出すのに必死でしたから……」

遠くから聞こえてくる衝撃音と破裂音に怯えながら、憂が早口で言う。

「さぁ、早く非難しましょ」

「はい」

唯はとみの手を引いて、避難する人の列に加わった。
23 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/03/20(日) 22:16:35.20 ID:K1QSspJ60
「……」

誰も話さない。

だが、時々足元を揺らす轟音が嫌な声を漏らさせる。

唯も憂も話すことが全く思いつかず、ただ人の流れに身を任せて桜が丘高校へ向かう。

嫌な空気が流れていた。

人の臭いと、炎が焼いた何かの臭いと……。

(まだここら辺は大丈夫そうだけど……)

先程の光景を思い出し、唯は今すぐにでも走り出したい気分だったが、それも次第にしぼんで潰れた。

そんなことをしても、何にもならない。

何にもならないのだ……。

「和ちゃん、心配だね……」

不意に憂が口走った。

「えっ? あぁ、そ、そうだね」

家が近いはずだが、唯はまだ和の姿を見ていなかった。

それより、唯は和のことが全く頭になかったことに驚いていた。

現実に押し流されるように家を出てきたため、誰を見ていないかなど気にかける余裕もなかったのだ。

(みんな、大丈夫かな……)

酷い無力感が漂っていた。

「ゆ、唯……、唯!」

「はっ! りっちゃん!」

しばらく歩いていると、人の列の間に家族と並んでいる律と澪がいた。

「3人とも無事だったんだな……!」

澪が泣きながら唯と憂を抱きしめる。

「りっちゃんも、澪ちゃんも……」

「あぁ! これから学校に行くんだろ?」

「うん。あっ、ムギちゃんは……」

「まだ、見つけていないけど学校に行ったら会えるだろう」

律がいつになく震える声で言った。

「そっか。そうだよね……!」

心臓が嫌に跳ねたが、唯も律の言葉を信じ学校を目指して歩くことにした。
24 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/03/20(日) 22:22:59.86 ID:K1QSspJ60
───

「……あぁ……! ……おおぉ!」

「っ!?」

しばらく歩いていると、列の後ろの方から何かが聞こえてくる。

「お、おい……、何だよ……」

もう何も起きて欲しくないと、澪は震えながら律にしがみついた。

「澪、慌てるな。危ないぞ……!」

唯も後ろを振り向くと、何やら大きなものが空を飛んでいるのが見えた。

「まずいな」

誰かがそんなことをつぶやいた。唯は何がどのようにまずいのかよくわからず、空の物体を見つめていた。

「お姉ちゃん、あれ……、燃えている」

「本当だ……」

空を飛んでいるのはどうやら機械のようで、所々火花を散らせながらぐるぐると飛んでいる。

「……こ、こっちにくる!」

誰かが叫んだ瞬間、その機械は真っすぐに地面へ落ちていく。

「う、うわあああぁ!」

「早く逃げろ! 逃げろ!」

人混みが大きな波となり道を覆い尽くす。全員が脇目も振らずに走る。他人を押しのけ、罵声を浴びせ、転びそうになりながら必死に走る。

「おばあちゃん!」

「わき道に出ろ! 危ないぞ!」

律の父が走る人の波を掻きわけ、唯達の手を引いてくれた。

何が何だか分からない状況で、唯は律の父に引かれながら人混みから抜け出す。

「伏せろおおおぉ!」

バリバリバリバリイイイイィ!

人々の叫びは機械が落ちた音にかき消され、耳をつんざく。

「────」

激しく飛び散っていく破片が収まった頃、ゆっくりと目を開くと得体のしれない機械が家や道を潰して燃えていた。

「あ……、うぁ……」

あまりにも大きな音でじんじんする耳を気にしながら、唯は何とか立ち上がる。

「おい、大丈夫か!?」

「は、はい! おばあちゃんは……!」

律の父に言われて辺りを見回すが、ついさっきまで隣にいたとみの姿が無い。

「い、いない……。おばあちゃん!」

「早く行かないと巻き込まれるぞ!」

必死に探してみるものの、人の波にさらわれてしまったのか、もう姿は無かった。

「どこいったの!? おばあちゃああぁん!」

空を飛び交う機械の炎に追われて、人々はさらに大きなうねりとなって道を突き包んでいく。

唯は必死にとみの姿を探してみたが、律の父に引きずられるようにしてその場を後にした。

25 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/03/20(日) 22:25:22.07 ID:K1QSspJ60
とりあえず今日はここまでです
そろそろイデオンを出せると思うのですが……
26 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/03/24(木) 18:54:31.06 ID:FFZDvRtY0
戦場となってしまった町から命からがら逃げ出して、唯達は桜が丘高校へたどり着いた。

校舎はどこもかしこも人であふれ、各教室では生徒の点呼が行われていた。

唯達も教室で点呼を終えて、講堂で待機することになった。

「おばあちゃん……、どこにいったのかなぁ……」

「大丈夫だよ、お姉ちゃん。きっとどこかに避難しているよ……」

「そうかなぁ……。そうなのかなぁ……!」

唯は床に座り込んで、顔を腕に埋める。

「唯……」

律も、ただ唯の肩を抱いて慰めることしかできなかった。

「……唯!」

「の、和ちゃん……」

「無事だったのね……。大丈夫だった!?」

和の顔を見て、唯の顔が崩れていく。

「和ちゃん……、和ちゃあああぁん!」

堪え切れなくなった唯は、和に抱きついてしまった。

「唯……」

「和ちゃん……。よかった……」

唯は泣きながらぎゅっと服を握りしめ続けた。和も震える肩を抱きしめて、唯を床へ座らせた。

「みんなも無事みたいでよかったわ」

「和さんも……」

憂も和の元気そうな顔を見て、笑った。

「でも、和ちゃん……。おばあちゃんが……」

「おばあちゃんがどうかしたの?」

「と、途中ではぐれちゃって……!」

「っ!? ……そうなの」

「私、そばにいたのに……! 一緒にいたのに……!」

唯はまた和の胸に顔を伏せて、肩を震わせて泣いていた。

「唯のせいじゃないわ……。それに、どこかに避難しているはずよ」

和も何とか唯を元気づけようと話してみるが、どれも慰めにはならなかった。

「ほら、唯が元気を出さなかったらおばあちゃんが悲しむわ。さぁ、涙を拭いて?」

「うっ……」

深い後悔の念に押されて、唯の心は潰されていた。

「憂、唯のこと頼むわね。私、生徒会でまだ仕事があるから……」

「こんな時も、生徒会って仕事あるんですか?」

「生徒の安否確認に、物資の配当も考えなくちゃいけないみたいなの。だからごめんね?」

そう言うと、和は後ろ髪を引かれる思いで去っていった。

「ほら、お姉ちゃん。和ちゃんもあぁ言っていることだし、元気出さなきゃ」

「……うん」
27 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/03/24(木) 18:55:39.72 ID:FFZDvRtY0
涙を拭って一息つくと、きれいな黒髪が目に入った。

「……あずにゃん!?」

「唯……」

講堂に梓の姿があった。

「無事だったんだね!」

「唯もケガしていないようですね」

外傷が認められず、梓はほっとして笑った。

「何、知り合い?」

見たことのない顔であったので、律が聞いた。

「あぁ、この子が話していた梓ちゃんだよ」

「そっかぁ。初めまして、唯の友達の田井中律」

「ということは、軽音部の人ですか?」

「おぉ! そこまで知っているとは。私達2人も軽音部だよ」

「初めまして、秋山澪だ」

「中野梓です。よろしくお願いします」

梓は、そのきれいな髪を軽く揺らして頭を下げた。

「で、こっちが妹の憂だよ」

「初めまして、梓ちゃん」

「よろしく……うわぁ!」

外からの大きな音に、講堂の中が騒がしくなった。

「また、戦闘が近いのか……!」

窓の外からは嫌な爆発音や、赤い光がちらちらと迫って講堂の中に溢れていった。

「この地区は危険地区に指定されました! 速やかに避難をお願いします!」

校内放送でこんなことを言われ、校舎内は騒然となった。

「そ、そんな……、早すぎる!」

「早く逃げないと!」

「でも、どこに!?」

グシャアアァ!

「きゃあああぁ!」

避難勧告が出されて間もなく、何かが潰れる音とガラスが割れる音が次々と響いた。

「お姉ちゃん! お姉ちゃん!」

「くっ……!」

激しい揺れの中で、唯は逃げ出すどころか立っているのがやっとであった。

出口には我先にと人が殺到し早く外へ出せと喚き立てるが、嫌な音を立てて揺れる講堂は逃げ出そうとする人を閉じ込めて扉を開けない。

「押すな! この野郎!」

「早く出ろ! 死にたくない!」

「どけよこいつ!」

人々の叫びが次々と溢れていく中、それをかき消すようにさらに大きな轟音が響く。
28 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/03/24(木) 19:00:18.39 ID:FFZDvRtY0
「まさか……! みなさん、伏せて!」

梓が叫んだ途端、激しい地響きが起こる。

「うわあぁ! な、何!?」

戦闘の光と振動とは別の何かが起こっていた。

「まさか、こんな大きいものを……?」

梓は独り唸った。

地響きは止まるところを知らず荒れ狂い、激しい耳鳴りと共に、光の奔流を生んだ……。

「ううううぅ!」

エレベーターにでも乗っているかのように気分が悪くなり、建物も上下に揺られている感覚が襲う。

しばらく悲鳴やら慄きやらが木霊していたが、揺れと共に収まっていった。

「と、止まった……」

戦闘の激しい音も、何も聞こえなくなった。

「一体、何が起こったの……?」

唯もゆっくりと起き上がってみると、何やら外が騒がしいのに気付いた。

「大丈夫ですか……?」

「うん……」

梓に引き起こされ、辺りを見回してみるとどうやら外ではないようだった。

「そ、空が無い……」

窓から見えるものは、黄ばんだ光沢のある物体だった。

「やっぱり、使ったんだ……」

梓は空だった所を仰いで呟いた。

「つ、使ったって……、何を?」

「……ちょっと待っていてください」

梓は唯の問いに答えず、そのまま人の流れに乗って講堂を出て行ってしまった。

「……何なの?」

「お、お姉ちゃん、動いたら危ないよ……」

唯も梓に続いて外へ出てみると、空は明らかに人工物で埋め尽くされ、恐ろしく広い空間にぽつんと桜が丘高校が佇んでいた。

「何だよ、これ……」

「はぁ……!」

律も澪もその光景にただ唖然とするばかりであった。

遠くを見つめると、同じように飛ばされてきたのか建物がちらほらと見えた。

「どうなっているの……?」

憂が信じられないという声を漏らした。

……ゴゴゥ……!

「今度は何だ!?」

律の足元がぐらついたと思ったが、飛ばされた空間自体が揺れていた。

「う、うわあああぁ!」

またもや激しい揺れが襲い、空間がみしみしと嫌な音をたてた。

「もう、何なのぉ!?」

唯の叫びは、空間の轟音に呑み込まれていった。
29 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/03/24(木) 20:04:55.25 ID:FFZDvRtY0
───


桜が丘高校が謎の空間に飛ばされてから数時間。

少しずつであるが、状況が見えてきた。

「……しかし、ムギがこんなことをしているとは驚いたな」

澪が驚くやら感心するやらで、ため息をついた。

「私も、こんな状況になるとは思ってなかったわ……」

「でも、ムギのお父さんが関わっているんだろ?」

「えぇ。詳しくはまだ聞いてはいないけど、このソロ・シップにいる人たちと接触しているわ」

「せ、接触……?」

言葉に違和感を感じた律が、腑に落ちない顔をした。

「……私達を助けてくれたのは、異星人なのよ」

「いせいじん?」

言葉が頭の中で見つからない唯は首をかしげた。

「つまり、宇宙人ってことですか?」

「そういうこと」

憂が恐る恐る聞くと、紬もいまだに信じられないと言った。

「外での戦闘も異星人の襲撃らしいの。今わかっているのはこれぐらいね」

紬が話してくれたことは、どこかのSFの小説なのかと疑いたくなる話だった。

しかし、現実に巻き込まれてしまっては唯達も信じるしかなかった。

「じゃあ、まだ父の仕事の手伝いもあるから行くね」

紬は忙しそうに去って行った。

「まさか……、こんなことになるとはな」

飛ばされてきた人たちは状況説明の為にソロ・シップ内にある林に連れて来られていた。

そこで、人々は自分たちが置かれている状況を理解した。

バッフ・クランという異星人が地球を攻撃し、地上は壊滅状態であることを……。

船の中なのに林があるのに始めは驚いたが、この船を使う異星人が移住の為に使っていたと聞けば納得はいった。

「……あ、あずにゃん」

林の中を見回すと、梓が見知らぬ人と話しているのが見えた。

先程の梓の言動や行動を考えてみると、唯の中で何か考えが芽生えた。

「……」

唯はゆっくりと梓に近寄って行った。

「唯? どうしたんですか?」

「話はいいの?」

唯は梓と話を終えて立ち去っていく人を見送りながら聞いた。

「はい。大丈夫です」

梓の顔を見つめて、唯は質問するべきだろうかと悩んだ。

「どうしたんですか?」

「……あのね、怒らないで聞いてくれる?」

唯は意を決して聞いてみることにした。
30 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/03/24(木) 20:07:06.24 ID:FFZDvRtY0
「ねぇ……、あずにゃんは一体……」

何者なの?

その一言が口の中で止まる。唯の中で、これ以上進むと何かが壊れてしまう気がしたのだ。

「……もう、気づいていますよね」

梓が俯きながら言った。

「……まぁ、何となくだけど」

しばらく黙りこくった後、梓はゆっくりと顔をあげる。

「私、バッフ・クランから来たんです……」

一息で梓は言い切った。

「じゃあ、さっきの奴と仲間だっていうのか……?」

律の言葉には信じたくない気持ちが孕んでいた。

「……そういうことです」

小さく息を吐いて、全員が黙る。

「で、でも、あずにゃんは私達を助けてくれたじゃない。あんなことをするために来たんじゃないよね?」

唯が必死に問いかけると、梓は頷いた。

「あれは、過激派の人たちです。武力で侵略してしまえばいいって考えている人たちです……」

「じゃあ、梓は……?」

不安げに澪が尋ねる。

「私達はずっと地球の人たちと交渉を続けて、移住する準備をしていたんです」

「そうだったのか……」

ほっとしたような声を漏らして、澪は項垂れた。

「……ふざけないでよ」

しんと静まり返る中、憂がゆっくりと怒りと憎しみを孕んだ声を吐いた。

「私達を助けて偽善者ぶっているだけじゃないの?」

「ちょっと、憂……」

「……」

梓は唇を噛みながら黙ったまま。唯が止めるのも聞かずに、憂も更に続ける。

「あなた達が来なければ、みんな平和でいられたのに!」

憂が怒りと憎しみに震えながら、懐から手を出す。

「憂!?」

憂の手には何処から持ち出したのか、黒光りする銃が握り締められていた。

「あんた達のせいよ。お姉ちゃんのも、和ちゃんのも、みんな、みんなの幸せをあなた達は壊したのよ!」

梓は伏せていた目を上げて、憂を見据えた。

「……わかっています」

「わかるものですか! そんな利口ぶったセリフがなんになるの!? あなた達がここにいる何百人もの親や子どもを殺したのよ!」

「わかります!」

「だったら……、死んでください! 恨み晴らさせてください!」
31 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/03/24(木) 20:08:01.61 ID:FFZDvRtY0
「だめだよ! こんなことは……!」

唯が止めに入ろうとするが、梓はそれを制止した。

「……いいんです。気にしないで、唯」

「でも、でも……!」

ゆっくりと唯を突き離すと、梓は銃口の前に身を晒して、憂を見据える。

「それで、あなたの気が済むと言うのなら、私達への恨みがそれだけで晴れるというのなら、撃ちなさい。平沢憂」

「……っ!」

憂は戸惑った。

梓があまりにも無防備に自らの運命を委ねるのだ。

自分が言ったことも、ただの言いがかりであることはわかっている。だからこそさらに惨めに卑しく感じられる。

全員が、固唾をのんで銃口と梓を見つめる。

「……」

それに耐えきれなくなり、ゆっくりと梓が憂へ近寄っていく。

「……来なくていい!」

一発目。

梓のツインテールを揺らし、後ろの壁を少し削った。

二発目。

空を切る甲高い音が響いた。

三発目。

空しく砲撃音が響いた。

「しっかり狙って! 平沢憂!」

「狙ってます!」

撃たれる側の梓に怒鳴られ、憂はさらに逆上する。

様々な思惑が入り混じり、銃を握る手には汗が滲み、銃口はさらにブレる。

「くっ!」

続けざまに引き金を引いていくが、弾丸が梓に当たることは無い。

カチッ……。カチッ……。

「はっ……」

そして、いつしか硝煙の爆ぜる音が無くなり、金属同士がぶつかり合う音が響き始めた。

「……っ!」

憂は手に持った銃を見つめ、さらに引き金を引く。だが、やはり金属同士がぶつかり合う音だけが響く。

これが示していることはただ一つ。憂にはわかってしまった。
32 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/03/24(木) 20:08:38.95 ID:FFZDvRtY0
「……弾が無くなっちゃった……。弾が無くなっちゃったよぉ……!」

憎い相手を殺せない悔しさ。自分勝手な行動が不可抗力によってやめざるを得なくなったことによる安堵感。

こんな自分に命を差し出した梓に対する劣等感。そのすべてが憂の体を地に崩れさせ、目からは涙を零させる。

「憂……、もうやめよう? こんな切ないことはさ……」

「お姉ちゃん……。私……!」

抱き寄せてくれる唯の胸に顔をうずめて、憂は泣くしかなかった。

「わかってる。でも、こんなのは悲しいだけでしょ……?」

「……うわああああぁ!」

泣きじゃくる憂を、唯はただ優しく抱きしめて慰めた。

「はぁ……、あ……」

梓も糸が切れた人形のようにくず折れて、憂が捨てた拳銃を見つめた。

「大丈夫……?」

和が居た堪れなくなって梓に駆け寄る。

「大丈夫ですから」

わずかに震える体を何とか立ちあがらせ、梓は一息ついた。

「その、すまなかったな……」

「いいんです、律さん。元々私達が蒔いた種です。あなた達を巻き込んでしまってすまないと思っています……」

「そんな……。梓がいなかったら私達は今頃……」

律は想像するだけでぞっとした。

「本当なら、こういう風にみなさんに憎まれて当然な存在なんですよね。戦いを持ちこまれて被害を受けているんですから……」

「でも、梓だって不本意で巻き込まれたんだろ? お互い様さ」

「そう言ってくれると、ありがたいです」

微笑む梓だが、その声は罪悪感によって重く震えていた。
33 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/03/24(木) 20:09:27.86 ID:FFZDvRtY0
今日はここまでです。内容が行き詰り始めましたが、頑張ります。
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/03/24(木) 20:14:19.87 ID:8Rj9QsQn0
丁度投下中にでくわしちまったぜ!
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]:2011/03/25(金) 01:13:18.96 ID:7N5J3MHx0
>>1
 憂ちゃんがロッタかよ
唯が爆風受けてアフロになるシーンマダー?(・∀・)っ/凵⌒☆
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)[sage]:2011/03/25(金) 14:55:09.78 ID:6EDOv5XAO
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[sage]:2011/03/25(金) 22:42:32.82 ID:cpvppLgAO
あずにゃんがカララさんじゃ顔がグチャグチャに・・・
38 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/03/27(日) 16:21:57.73 ID:8NE1MY6N0

「ぐすっ……、すぅ……」

頬に光る跡を残したまま寝ている憂の頭を撫でながら、唯は辛かった。

(……あずにゃんが、バッフ・クラン)

自分たちの町を焼き、何百人もの人を殺した者と仲間である……。

それだけで、私達を助けてくれた人の命を奪いたいと思えるほどの理由になるのだろうか。

(……なってしまったんだよね。憂はやさしいから)

あれだけ激昂する憂を、唯は見たことがなかった。

「ごめんね、憂……。私の為にしたんだよね……」

しばらく憂の頭を優しく抱いて、唯は守衛に礼を言って鍵を渡してから独房を後にした。

広い通路を歩いていると、和が心配した顔でやってきた。

「和ちゃん……」

「唯。憂のほうはどう?」

「だいぶ落ち着いてきて、今は寝ているよ」

「そう……」

「ごめんね。憂がこんなことをしちゃって……」

「こういう状況だからね。誰も責められないよ……」

梓達が使用していた宇宙船、ソロ・シップに地球人が当然ワープし、挙句の果てに制御を受け付けず勝手に亜空間飛行を始めてしまっているのだ。

穏健派のバッフ・クランも困惑し、原因もつかめずお手上げ状態なのだ。

「それに、このソロ・シップにいる人たちで生き抜かなきゃいけないんだから……」

和はこれからのことを考えると、気持ちが滅入ってしまった。

「でも、憂はこれでよかったの?」

唯がひやひやしながら聞いた。

「梓ちゃんだっけ? あの子がそれでいいって……」

無抵抗な相手に発砲までして、独房で反省だけで済んでいるのだから奇跡ともいえる。

これも、梓が進言してくれたおかげであった。

これだけの被害を受ければ憎むのも当然だと……。

「でも、憂の言うこともわかるわ……」

和は苦い顔をして言った。

「あの人たちが来なければ、こんなことにはならなかった。それは事実なのよ」

「そんなこと言わないで……。あずにゃんだって、こんなこと望んでなかったはずだよ」

「それはわからないわ……。彼女は異星人で、私達と同じ考えなのかすらわからないんだから」

「それは……」

攻撃を仕掛けてきた人と仲間だったと知れば、疑いの一つも持ってしまう。

「……それでも、私はあずにゃんを異星人と思えないの。信じてみたいの」

唯の真摯な態度に、和は少し頬を緩めた。

「……そう。なら、私は止めないわ。それが正しいのか、間違っているのかはまだわからないものね」

和は優しく言うと、唯の肩を叩いて部屋へ戻っていった。
39 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/03/27(日) 16:22:45.12 ID:8NE1MY6N0
和と別れた後、唯は梓を探していた。

謝罪でも、慰めでも何でもいいから梓に声をかけたかった。

人伝いに聞いていくと、梓の部屋を見つけるのはそれほど難しくなかった。

「ここか……」

プラスチックのようなものでできている質素なドアだった。唯は軽くノックをしてみた。

「あずにゃん、いる?」

「……唯、ですか?」

閉められたドアの向こうからかすかに梓の声がした。

「うん。話があってきたんだけど、入っていい?」

「今は……、ダメです……」

ドア越しでも、梓が必死に息を詰まらせているのが唯にはわかってしまった。それを思うと、胸が苦しくなる。

「……でも、ちゃんと顔を見て言いたいの。あずにゃんのこと、心配だから……」

しばらくの沈黙の後、ゆっくりとドアが開いた。

「さっきは、ごめんなさい。憂があんなことを……」

「唯は悪くないです……」

そう言う梓だが、目は赤く腫れて頬にはまだ光る跡が残っていた。それを見て、唯は本当に痛ましく思えた。

「あの、入っていい?」

「……どうぞ」

しばらく悩んでから、梓は唯をうす暗い部屋の中に通した。

椅子に座るように促され、唯はベッドのわきの椅子に腰かけた。

「あと、ありがとうね。憂のこと……」

「……あれは、憂の言うとおりです。私達のせいで、ここはめちゃくちゃになってしまった……!」

ベッドに沈み、梓は言った。

「あずにゃんのせいじゃないよ」

「でも、私達が……、原因をつくってしまった……」

拭っても拭いきれないぐらい涙が溢れ、梓の言葉は嗚咽に変わっていった。

「あずにゃん……」

「ごめんなさい……! 私、どうしていいかわからないんです……!」

「……!」

唯は堪え切れなくなって、梓を抱き寄せた。

「ゆ……、唯……?」

梓が胸の中でくぐもった声を漏らす。

「……大丈夫だよ。私はあずにゃんのこと嫌いになったりしないから」

「……私、敵の女なんですよ?」

「私にとっては、あずにゃんはあずにゃんだよ。それは変わらないよ……」

しばらく黙っていた梓は、ゆっくりと唯の背中に手をまわしてきた。

「……ありがとう」

それだけ言うと、梓は唯の腕の中でしばらく声を押し殺して泣いていた。
40 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/03/27(日) 16:25:22.95 ID:8NE1MY6N0
───

唯達がソロ・シップに飛ばされてから数日が経った。

意図せずに何らかの力によって、地球人とバッフ・クランを乗せたソロ・シップはまたもや勝手に亜空間飛行から脱した。

「ムギ、この船どこに向かっているの?」

「まだ地球みたいなんだけど……」

「じゃあ、戻って来たってことか?」

嬉々とした表情で言う律だが、紬は浮かない顔をしている。

それもそのはずだった。

「これが、私達の町……?」

唯が窓から見たのは、大きく小さく抉れた大地と未だにくすぶり続ける瓦礫の山だった。

「な、何にもない……」

澪が窓にすがって覗き込むが、わずかに道がわかる程度で大きな建物はほとんど消え去っていた。

現実を受け入れられず、ただ無気力な雰囲気とあまりにも無力な自分を実感しただけで唯はへたり込んでしまった。

「DSアウトしたんですか?」

梓が来た時には、全員が俯いて窓から目をそむけていた。

「……唯?」

あまりにも雰囲気が違う全員を気遣いながら、梓は外を見てみた。

「……!?」

梓も外の光景を見て、大きく息を呑んだ。だが、それだけではなかった。

「まずいです……!」

唯は梓の反応に何か違和感を感じて、もう一度外を見てみた。目の前を遮るものが何もないため、向こうまでよく見通せる。

しかし、よく見てみると向こうの方に何やら大きな影が無数にあった。

「何だろう、あれ……」

空を飛んでいるらしいのだが、明らかに飛行機の形をしていなかった。

「……ドロワ・ザンです」

「ドロワ・ザン?」

梓が口走った言葉は聞いたこともない名前だった。

「唯は早く奥の方へ行ってください!」

「あずにゃん、どこに行くの!?」

梓は唯の顔を一瞥すると、走って行ってしまった。

梓の言葉の意味が汲み取れず困惑した唯だったが、何か嫌な予感があった。

「梓、どうしたんだ?」

「わからない。外のあれを見て何だか焦っていたみたいなんだけど……」

ビーッ! ビーッ!

「警報!?」

『総員、戦闘配置。民間人は安全なところへ避難してください』

ドゴオオオォ!

「きゃあああぁ!」

アナウンスと同時に足元をふらつかせる揺れが大きく唸った。何とか堪えると、船の中は一気に慌ただしくなった。

「せ、戦闘……!」

警報と嫌でも感じられる戦闘のぴりぴりとした雰囲気に肌が痛み、唯達は奥の方へ行くことにした。
41 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/03/27(日) 16:28:18.30 ID:8NE1MY6N0
戦闘は瞬く間にソロ・シップを取り囲むように始まり、爆発が船体を揺すっていた。

「男の人はみんな防戦に行ったんだ……」

ブリッジの後ろの方に広がる大きな林の中で、民間人は戦闘の揺れに怯えていた。

男はみんな防戦に駆り出され、慌ただしく動く人の波の中にいた。

ソロ・シップには敵と同じく重機動メカ、ギラン・ドゥが数十機搭載されていたが、どれも作業用のもので申し訳程度にミサイルポッドが装備されているものばかりであった。

ましては相手は過激派で、戦闘のプロである。歯が立つわけがなかった。

あっという間に防衛線は破られ、ソロ・シップに攻撃が加えられていた。

「ううぅ……!」

体を揺さぶる振動が徐々に大きくなっていく。それに耐えながら唯は何とか奥の方へ行こうと歩いていた。

その時、唯の耳に聞き覚えのある音が聞こえた。

「唯、奥の方に行きましょう!」

「お姉ちゃん、早く!」

和と憂が呼ぶものの、唯は窓から見える戦闘の光を見つめたままで、時折聞こえるパイロットの声を聞いて固まっていた。

「ま、まさか……」

「もう、こんなところにいたら邪魔になっちゃうよ!」

もう一度よく聞いてみると、予感は次第に確信へと変わっていった。

「あずにゃんだ……! あずにゃんだ!」

そう、艦内に響く音声の中に梓の声が交じっているのだ。

「それより早く……!」

「あずにゃんが、あそこにいるの……?」

ノイズと共に断末魔や助けを請う声が飛び交う中で、梓の切迫した声だけが唯には良く通る。

『ミサ…ルの……が少な…の! 補給……る!?』

「第3ハッチから入れ! そこで補給を行なう!」

『り……かい!』

それを最後に梓の声は切れた。

「そんな……、あずにゃんが……」

頭が真っ白になった。

巻き込まれてきたとはいえ、別世界の話だと思っていた命の奪い合いに梓が身を投じているのだ。
42 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/03/27(日) 16:29:02.74 ID:8NE1MY6N0

死ぬかもしれないのだ。

「し、ぬ……?」

梓が私達の為に死んでしまう。

「あずにゃんが……、あそこに……」

行かなくては。

行ってあげなくては。

「ちょっと、どこに行こうとしているの?」

ふらふらとどこかへ行こうとする唯を和が止める。

「……私も戦うの!」

「何言っているの、落ち着いて、唯!」

「私達の地球なのよ! なのに、何であずにゃん達が戦って、傷ついていくの……?」

唯の叫びはどよめきの中に消えていく。

誰も答えられはしないのだ。

憂も和も、気まずそうに俯くことしかできなかった。

「確かに戦いを始めたのはバッフ・クランかもしれない。でもあずにゃんだって戦いに関係ないじゃない!」

「でも、私達に何ができるって言うの?」

きゅっと唯の裾を引っ張り、和が叫ぶ。

「機銃の一つぐらい撃てるよ! 重機動メカだって残っていれば……!」

「唯!」

唯は居ても立っても居られなくなり、和が止めるのも振り切って格納庫へ走っていった。

「もう、誰もいなくなってほしくないから……!」
43 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/03/27(日) 16:29:38.49 ID:8NE1MY6N0
「揺れが大きくなってくる……!」

ソロ・シップが重く揺すられる度に人のざわめきが起こる。

「このままじゃ、まずいかもな……」

戦闘要員ではない人ばかりが集まっているせいか、律の耳には時々悲鳴や嗚咽が転がり込んでくる。

「り、律……」

そして、それはすぐ隣りからも漏れてくる。

「大丈夫だって、澪……」

口にしてはみるが、この揺れが大きくなっていく度に死に近づいていく気がしてならない。

その中でも必死に握られた澪の手に、自らの手を重ねることで何とか平常心を保っていられる。

「くぅ……!」

このまま黙って死ぬのを待つなんて、律は考えたくなかった。

(……よし!)

こういう状況で何ができるかたかが知れているが、律は何かしら行動を起こさないと気が済まなかった。

「……澪、ちょっとここで待ってろ」

すっと立ち上がると、そのまま部屋を出ていく。

「ちょっと、どこ行くの……?」

律は何も言わず、ずんずんと進んでいく。

「ま、待って!」

慌てて律の体を捕まえて、抱きつく。

「わっ、な、何だよ」

「律……、行っちゃやだよぉ……」

「でも……、このままだと本当に死んじゃうよ。そんなの嫌だろ?」

律は震える声で澪の肩を抱き寄せた。

「……どうせ死ぬならさ、やれるだけのことをしてからのほうがいいじゃん」

「り、律……」

「せめて、大切な人ぐらい守ってさ……」

澪もただ震える律の体を抱きしめ返す。きゅっと唇を噛んで、澪は泣いていた。

「だったら、私も行く」

「澪……」

「私だって怖いけど……、律がいなくなる方がもっと怖いよ……!」

涙を拭いながら澪は力強く言った。

「……いいのか?」

律の問いかけに、澪はただ小さく頷いた。

「死ぬかもしれないんだぞ?」

「……律が守ってくれるんだろ?」

今にも崩れそうな笑顔で、澪は優しく言った。

「……そうだったな」

強く手を握り合って、2人は格納庫へ向かった。
44 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/03/27(日) 16:30:15.73 ID:8NE1MY6N0
「ダメです! お嬢様、おやめください!」

「私だって、ただのお飾りではないのです! 1人でも戦力が多いほうが……!」

「だからと言って、あなたが行くことはありません!」

斉藤も引きさがらず、紬の前に立ちはだかる。

「黙りなさい!」

紬のあまりにも強い言葉に斉藤は口をつぐんでしまった。

「……もう、個人の生き死にの問題ではないのです」

なおも引きさがらない紬の前にさわ子が立つ。

「さわ子先生……」

引き留めても無駄だと眼で訴えかけると、さわ子は真剣な眼差しで問いかける。

「どうしても行くのね?」

「……はい」

紬は力強く頷いた。

「そう。……でも、独りでは行かせないわ」

ぐっとさわ子が紬の肩を抱く。

「……いきましょう」

「!? ……はい!」

「ちょっと、先生!」

斉藤がさわ子に食ってかかった。

「先に行って。後から行くから」

「はい!」

紬はそのまま格納庫へ走っていった。

「どういうつもりなんですか!」

「斉藤さん。行かせてあげてください」

「あなたは子どもを戦場に出して、何とも思わないんですか!?」

「そんなわけないでしょう!?」

「なら、なぜ!?」

ぎりぎりと迫る斉藤に、さわ子は吐き出すように言う。

「……ムギちゃんも、いや、紬さんも言っていたでしょう。もう、個人の生き死にの問題ではないと」

「だからって……!」

斉藤がさわ子の胸倉を掴んで詰め寄った。

「せ、先生……」

しかし、さわ子の体が震えるのを見止めると斉藤は少し手を緩めた。

「私だって、あの子の代わりに行けるものなら行ってあげたいわ……!」

悔しそうに、本当に悔しそうにさわ子は涙を流して歯を食いしばっていた。

「一目散に戦って、あなたたちを守ってあげるって言ってあげたいわよ……。でも、あれは子どもにしか動かせないのよ!」

「……」

重機動メカを動かすのに必要な力が、子どもの方が強いことは斉藤にもわかっていたことだった。

だが、これだけは最後の手段として認められるものではない。だから大人たちは口外していなかったのだ。

「……私達ひとりひとりができる事を精一杯するしかないんです」

斉藤は、もうさわ子を問い詰めることはしなかった。
45 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/03/27(日) 16:30:51.98 ID:8NE1MY6N0
───

荒れ狂う空気の中を、たくさんの影が飛んでいる。

その間には激しい攻撃の応酬が繰り広げられており、嫌な音として周りに零れていく。

「反抗勢力の士気をそぐためにも、完全に叩き潰すのだ!」 

光る爪が宙を何度も駆け廻る中を、梓は間一髪で避けていく。

「どうにかしないと……!」

スラスターを吹かし、ランダム回避運動を取る。

「いかにも素人がやりそうなことを!」

一瞬の隙を突き、ジグ・マックの鋭い爪が梓のギラン・ドゥを捕らえて引き裂く。

「くっ……」

バラバラと金属の部品と赤い液体が飛び散っていく。しかし、それに気を留める暇も無く戦いに集中させられる。

咳込むように腕から細い光が次々と舞い、ジグ・マックに纏わりついていく。ぱっと火球が広がったかと思うと、容赦のない爆風がジグ・マックの体を殴る。

閃光が目を焼きつけようと迫るが、梓はその炎を見つめて爆発の中を探していた。

(あれだけでやられるはずは無い……)

小規模の爆発が続いているものの致命傷とはなりえない。梓はジグ・マックの影を探していた。

しばらくの沈黙。

梓が見渡す中、煙が歪んで尾を引きながら動く。

ビュンッ!

「!?」

梓が振り向いた瞬間、目の前を閃光が過ぎていく。

(速い!)

ジグ・マックの鋭い爪が空を裂いていく。それを横に流しながら、梓は体勢を立て直す。

しかし、その動きの先からジグ・マックの爪が逆行してくる。

(読まれている!)

みしっ……!

素早く腕で受け止めるがパワー負けしていた。そのまま押し切られ、バランスを崩していく。

「ううううぅ!」

二転三転する視界の中で、梓は必死にレバーを引いていく。

(こんなところで、こんなところで……!)

煙と破片を撒き散らしながら、梓のギラン・ドゥがゆらゆらと移動していく。

「唯が、唯がいるんだから!」

残りのミサイルの数を気にしつつ、ジグ・マックに狙いを定めて放つ。

「まったく、こんなもので抵抗しようなどと!」

梓を弾き飛ばしたジグ・マックが吠える。

軽々とミサイルを避けて見せ、あっという間に距離を詰める。

息を吸う暇もなく、梓は目の前に迫るジグ・マックに成す術がなかった。

「何? エネルギー反応?」

とどめを刺そうと言う時に、コックピットにアラームが嫌というほど響く。

「電気的なものでは無い。なんだ……?」
46 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/03/27(日) 16:32:24.07 ID:8NE1MY6N0

───

「このメカ、動く……?」

あまりにも広いコックピットの座席に座り、唯はレバーをいじっていた。

見た感じは戦車に近く、ここに残っているものでは一番大きい重機動メカだ。

「隅っこに残っていてよかったよ」

「おい! 何をしている! 勝手に入って……」

バッフ・クランの戦闘服を着た男がコックピットに入ってきた。

「わ、私にも戦わせてください! お願いします!」

「ったく、地球人が意気込んでいるのはいいが、この遺跡は動かないぜ?」

「えっ……?」

「使えるものだったら、もうとっくに……」

キイイイィ……ン!

「きゃっ!」

「うわぁ! な、何だよ!」

目の前にある半球体がオレンジ色に輝きだす。

「ひ、光っている……」

「まさか、動くのか……?」

バッフ・クランの男も信じられないと言う顔で、唯の隣の席に座る。

「今まで調査してきて、一向に動かなかったのに……。一体何をした!?」

「わ、私にもわからないです……!」
47 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/03/27(日) 16:32:51.12 ID:8NE1MY6N0
ピン!

『ゆ、唯!?』

「りっちゃん、それに澪ちゃん、ムギちゃん、さわちゃんまで……」

通信用と思われる小さなモニターにそれぞれの顔が映る。

『唯、お前何しているんだ!?』

「りっちゃんこそ……。っていうかみんな何しているのさ」

『私にも何かできないかなって思って、そこにあった重機動メカに乗っているんだけど……』

律と澪がレバーやらボタンやらを弄り、必死に操作する様子が見える。

『私も格納庫に置いてあった重機動メカにいるの。でも、勝手に動き出して……』

紬も一生懸命レバーやらボタンを弄り、操作を試みようとするが勝手に動いているようで止められない。

『律、どうなっているんだ?』

『どうやら動いているようなんだけど……』

3つの重機動メカが、ゆっくりとソロ・シップの甲板へと動き始める。

『何!?』

シートの下から突き上げるような振動と轟音が律の体を伝っていく。

『一体どうしたっていうんだ……?』

『律……、ゲージが……!』

『ゲージが……、光っている……』

Cメカとの通信モニターに、紬が驚きの表情と声で映る。

唯がゲージに目をやると、光る線が走り次々と模様を浮かび上がらせていく。

「I、DE……、O……、N」

重なっていく光の線は唯にはそう見えた。

そして、ゲージがひと際大きく輝くと、ごろごろという音をたてて後ろに押し付けられた。

「うぐっ! う、動き出した!」

「動くんですか!?」

「オートで動いている……。どうなっているんだ? ブリッジ! 応答しろ!」

『……どうした!』

「コスモだ! イデのマシンが急に動き出した! 今、コックピットにいる!」

コスモが必死にレバーやペダル、スイッチをいじるが一向に止まる気配がない。

「くそっ! 利かない!」

唯も何とかレバーを動かしてみるが、固くて動かない。

「……あっ、これは?」

「何だ?」

唯の左脇にあるモニターに何やら図形が描かれている。

それはゆっくりと伸び、中心から割れていく。

「このメカの機体状況らしいな……」

戦車だと思っていたのだが、その形はどうみても車両の形ではなかった。言うなれば、Hの字に似ている。

「まさか、伝説にあったのはこれだったのか……?」
48 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/03/27(日) 16:33:52.90 ID:8NE1MY6N0
律と澪が乗るBメカも形を変えて、唯の乗るAメカへと接近しつつあった。

「律……、左の奴」

澪があたふたしながら左側のモニターを見つめると、表示されていた図形は形を変えていく。

「あぁ、このメカニズムのことらしいな」

「外はどうなっているんだ……」

律も操縦方法を小耳にはさんだだけで、目の前の計器が示すものがいったい何なのか見当もつかなかった。

ガキン!

「と、止まった……?」

「モニターは映っているけど……、止まっちゃったみたいだ」

左側のモニターの図形では、唯の乗るAメカを咥えるようにドッキングしていた。

「どうする?」

「わかんない……。前の奴とドッキングしたみたいだけど……」

律が主モニターを見ると、何故か上向きに変わっており、振動と共に機械的な音がコックピットに響き始めた。

「後ろからも、来る?」

紬が乗るCメカも大きく伸び、Bメカの後に続いてドッキングした。

「まったく、こんな事も出来ないなんて、なんて情けない……!」

自分の力の無さに苛立ちながらも、さわ子はレバーを必死に動かしてみる。

しかし、動く気配は全くなくエネルギーだけが上昇をしていた。

「でも、この形は……」

紬が覗いているモニターには、3機が合体した状態が映し出されていた。

ソロ・シップの甲板で3機の重機動メカが合体し、その全長はゆうに100メートルを超えていた。

「人型になったらしい……」

次々と起こる予想外の出来事に、コスモも振り回されるしかなかった。

「腕らしいのが動く……!」

唯の手の辺りにあったレバーを動かすと、それに合わせて巨神の腕も動き出した。

「よし、振り回せ!」

コスモの声に押されてレバーを左右にやると、巨大な腕が振りあげられ戦闘機を殴りつけた。

「あ、当たっちゃった……」

戦闘機は粉々に吹き飛び、炎をあげて落ちて行った。

「そっちで操縦するらしいな。行けるか?」

「……何とかしてみます!」
49 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/03/27(日) 16:43:43.63 ID:8NE1MY6N0
唯はペダルを踏み込み、レバーを引いた。

「よーし! ロボットなら立ち上がって戦えってんだ!」

唯の声に呼応するかのように、合体した重機動メカが起き上がる。

「奴らの兵器か……?」

「しかし、異星人の兵器は確認済みだ。こんな巨大なものはなかったはずだが……」

「おい……、あれ、伝説の巨神じゃないのか!?」

「バカ言え……!」

「だが、あれは……」

「……巨神!」

慄く声を押しつぶすかのように、その巨体をゆっくりと起こしていく。

「動く、動くよこれ……!」

このような操縦の知識は全く無かったが、こうも上手く動かせると唯も興奮してしまった。

ギリギリギリ……!

各メカに乗り込んでいたパイロットは、それぞれに驚き、そして思った。

「律……!」

「あぁ、行ける!」

「先生、やりましょう!」

「えぇ!」

ソロ・シップの甲板で、巨神は目覚めた。
50 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/03/27(日) 16:44:46.68 ID:8NE1MY6N0
今日はここまでです。
やっとイデオンを出せました。我ながら話のテンポが悪くて嫌になります……。
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]:2011/03/28(月) 00:08:44.72 ID:0Ev00obw0
あ、バッフ・クラン同士の抗争に巻き込まれた形なんやね
コスモが出てきてて吃驚 って唯はデクポジションなんか

>律と澪が乗るBメカ

>Bメカ

>Bメカ

>Bメカ
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)[sage]:2011/03/30(水) 01:42:17.61 ID:r4QYPU+AO
乙、ageないと続き来たことに気付きにくいから
他の人みたいに最初の投下だけageた方が良いよ
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)[sage]:2011/04/01(金) 21:16:31.97 ID:Vo6vAVDAO
期待を込めて乙3つ!

唯とあずにゃんの子供が楽しみです
54 : ◆INjIt6nmxE2011/04/03(日) 18:35:47.82 ID:qvWccMNp0
>>51-53
読んでいただきありがとうございます。遅くなりましたがなんとかできました。
コスモたちは出る予定はなかったのですが、人が足りなくなってきてやむを得ずクロスオーバーのような形をとりました。




───

静止軌道上。

地球からさほど離れていないところに徳利のような形をした宇宙船、グラム・ザンがあった。

そこで、純は眼下の惑星を眺めつつ戦況報告を聞いていた。

「純様、先遣隊から巨神が出たと通信が入っております」

「巨神? 異星人のこと?」

「いいえ、メカが変形して……、と言っていますが」

通信兵からの報告を聞いて、純は少し妙だと思った。

「相手は寝返った穏健派の船でしょ? そのようなものが搭載されているとは思えないな」

「ロゴ・ダウの異星人の兵器だったりしてね」

依子が冗談半分に言った。

「まさか。ロゴ・ダウでそんなものは確認されてないよ」

純もありえないと鼻で笑った。

「で、その巨神とやらの情報は?」

「どうやらドロワ・ザン2号機と接触した模様です。戦闘も始まっているようです」

依子が戦闘中に撮られた写真を見ると、赤い人型のものが写っていた。

「戦闘が行われているとなると、それなりに戦闘力はあるということだね」

「イデなんて、眉唾物のものを探そうとしたらこれだよ」

純はやれやれとため息をついて見せた。

「だから最初から攻め込んでおけばよかったんだよ」

依子が今までの異星人の兵器を調べながら言った。

「出動する。大したものでもないだろうけど、一応見ておく必要があるからね」

「そうだね。コボラとデッカ・バウを出そう」

依子も純の提案に賛成し、ロゴ・ダウ───地球に降りることにした。



55 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/04/03(日) 18:37:14.28 ID:qvWccMNp0
───

『そこの重機動メカ、搭乗者は誰か?』

「コスモだ! 大丈夫か!?」

通信が入ったらしく、唯の横の小さなモニターにパイロットの顔が映った。

『ゆ、唯!? 何でそこに……!』

「あずにゃん、無事なんだね!」

声に驚いて目をやると、コックピットに座る唯を見て驚く梓の顔が映っていた。

「私もこのイデオンでやってみる! だから、あずにゃんは下がって!」

『そんなこと言っても……!』

「来るぞ!」

コスモの声でモニターに主モニターに目をやると、丸い円盤が迫るのが見えた。

「よし、行けぇ!」

大きく振りかぶり、円盤めがけて拳を繰り出す。だが、軽々と避けられミサイルを浴びせられる。

「ううぅ……!」

打撃音と振動が、コックピットを揺らす。しかし、唯は怯まなかった。

「このおおぉ!」

追い打ちをかけようとするコボラのミサイルに耐えながら、手元に引きつけて殴りつける。

いとも簡単に装甲は弾き飛び、火花を散らしてコボラは爆発した。

「やれた……!」

「よし、その調子だ! 次、行くぞ!」

モニターには、さらに重機動メカや戦闘機が映っていた。一瞬その数に怯んだが、唯は力強くペダルを踏んでいく。

ソロ・シップの甲板から降り、イデオンは敵機めがけて歩いていく。

「デッカ・バウだ!」

巨大なミサイルを抱えた戦闘機のような飛行物体がイデオンに迫る。

「ミサイルが来る! 避けろ!」

「え、えっと……! うわああぁ!」

戸惑っている間に、ミサイルが目の前で炸裂する。

ちかちかする目を何とか開き、戦闘機めがけて拳を繰り出していく。

だが、100メートルを超える巨神の腕で小さな戦闘機を捕まえることは難しかった。
56 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/04/03(日) 18:38:09.61 ID:qvWccMNp0
「ダメだ……。飛行機には当たらない!」

手こずっているうちにさらに攻撃を加えられ、イデオンがよろめく。

「くっ! こんなところでやられないよ!」

唯は敢然と立ち向かっていくが、次々と襲うミサイルが否応なく炸裂すれば怯えもしてしまった。

『唯! 何とかならないのか!?』

「そんなこと言ったって、りっちゃん……! うわああぁ!」

『唯、下がって!』

歯を食いしばって、必死にイデオンを動かそうをもがく。

「このぉ!」

纏わりつく戦闘機群を追いかけてみるが、いいように連れまわされるだけであった。

『唯! 相手はプロなのよ!? 早く逃げて!』

梓が必死に呼びかける。

「でも、あずにゃんだってやられそうじゃない!」

思うように動かないイデオンに苛立ちながら、唯は梓のギラン・ドゥを探す。

「……いた!」

左腕が無く、所々煙があがってはいるがまだ動けるようだ。

「せめて、追い払えれば!」

だが、イデオンの動きはぎこちなく唯は戦闘に慣れていないのだ。

激しく迫るミサイルはイデオンの体を瞬く間に削り、周りは炎で包まれる。

「きゃああぁ!」

『唯いいいぃ!』

激しい閃光に埋もれるモニターに、大きな影が入り込む。

『きゃああ……ガアアアアアアァ!』

梓の悲鳴がノイズに呑まれて消えた。

「あずにゃん!?」

『あずさああぁ!』

『梓ちゃん!』

その声にハッとなり、必死になって全員がモニターに目をやると梓の乗るギラン・ドゥがバラバラになっていくのが見えた。

「あずにゃん! あずにゃん!」

唯は何度も呼びかけてみるが、モニターは砂嵐とノイズしか出さない。
57 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/04/03(日) 18:39:02.24 ID:qvWccMNp0
「まさか、私を庇って……!?」

「おい、しっかりしろ! 敵はまだいるんだ!」

コスモが怒鳴るが、唯はモニターにかじりついて必死に梓のギラン・ドゥを見つめていた。

「コックピットはやられちゃいない! 気をしっかり持て!」

戦闘の光や振動が、唯の体を強引に揺さぶる。

「戦わないと、あいつがやられるぞ! それでもいいのか!」

「……っ!」

かたかたと鳴る歯を抑え、心臓がどくどくと跳ねまわる音を聞きながらシートに座りなおす。

唯は涙を振りらうと、レバーを握り目の前の重機動メカを睨んだ。

「……うああああぁ!」

唯の叫びに呼応するかのようにゲージが光り輝き、全てが重なった時、急にコックピットが震えだす。

「うおぁ! これ、大丈夫なんだろうな!」

勇ましく出てきた律でも、この不可解な現象には畏縮してしまった。澪も必死にレバーを握り、揺れに投げ出されない様に踏ん張ることしかできなかった。

「パワーがあがっているんじゃないのか!?」

「そんなの、わかるもんか!」

律が怒鳴るが、それも大きなうねりの中では蚊の鳴き声にしかならない。

エネルギーは止まるところを知らず、イデオンは咆哮をあげる。

それと同時に体中から光が走り、周りへ拡散してイデオンはオレンジ色の光に包まれる。

イデオンの瞳には、奇妙な流れと模様が次々と浮かんでは消えていく。

「せ、先生……!」

「空を飛んでいる……!」

さわ子が下を覗くと地上がどんどん離れていき、イデオンは敵を引き連れて空へと上がっていく。

「……よくも、あずにゃんを……」

空へ飛んでいくイデオンは、さらに輝きを増して周りの敵を怯えさせる。

「あずにゃんをいじめたなあああぁ!」

オオオォ……ン!

唯の叫びはイデオンと共鳴し、それは激しい唸りを起こして周りへとび散っていく。

バシュウウウウウウゥ!

イデオンの体中から光の束が伸び、辺りにいた敵機を次々と炎の中へと叩きこむ。

激しい空気の渦の中、イデオンは瞳に煌びやかな模様を描き出しあたかも意思があるかのように咆哮をあげた。

「はぁ……、はぁ……!」

空から爆発の光が失せて、イデオンはゆっくりと降下を始めた。

「こんなのまであるのか? この遺跡……」

イデオンから放たれた光跡を見つめて、コスモは戦慄した。

「……見ろ、撤退していくぞ!」

コスモが指差す先に、戦闘機が次々と遠くなっていくのが見えた。

「そうです、か……」

それを見届けて、唯は深くため息をついて糸の切れた人形のように座席に沈みこんだ。
58 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/04/03(日) 18:40:38.05 ID:qvWccMNp0
───

「私が到着する前に撤退させられたか……」

ロゴ・ダウの異星人にやられた事実に苛立ちながらも、巨神による被害報告書をぺらぺらとめくり、純はその戦闘力に舌を巻いた。

「この撃墜数はミスではないのだな?」

「推定ですが、4機以上は確実に……」

「ジグ・マックも1機やられている……」

依子も報告書を眺めつつ、眉間にしわを寄せた。

「ロゴ・ダウの異星人がこのような兵器を持っているなんてね……」

通常兵器の効力が認められないとの報告も、さらに不安にさせる。

「純、どうするの?」

今までの戦闘記録から予想ができない新しい兵器が現れたとなると、純も対策を練るしかなかった。

しばらく考えた後、純は指示を出した。

「この兵器が重機動メカに匹敵する戦闘力なら、データは欲しいな」

「それはそうだけど」

「デッカ・バウのミサイルが効かないとなると、ギル・バウのハーケンで仕掛けてみるしかないな」

「わかった。ギル・バウ隊を集めよう」

依子はすぐさまギル・バウの手配に動き出した。

「巨神だと……、笑わせる」

純はパイロットの招集をかけて、作戦会議を始めると伝えてから巨神の写真を見つめて一人ごちた。
59 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/04/03(日) 18:41:18.25 ID:qvWccMNp0
───

イデオンの活躍で敵は撤収をした。

「大丈夫か?」

「は、はい……」

しかし、イデオンから帰ってきた唯は、へとへとになっていた。コスモに肩を支えてもらい、コックピットからなんとか降りた。

未だに心臓の音が耳の奥で響いていて、先程のことを思い出すだけで緊張してきてしまった。

「はぁ……、私達やれたんだよな……」

澪がぐったりとして上を仰いで言った。

「あぁ、多分な……」

律も力が抜けきってしまって、壁に寄りかかっていた。

「ムギちゃん、ありがとう……」

「いえ、でもよかったわ……」

さわ子も紬に抱えられて、何とかコックピットから抜け出した。

「本当、よくやってくれたよ。女の子なのにさ」

コスモは唯を座らせると、感心した声をあげた。

「コスモ、この子たちが巨神を動かしていたのか?」

「はい。伝説にあったのと似てるようですが……」

駆け寄ってきたバッフ・クランの人々にコスモが答えた。

「まさか本当にあったとは……」

バッフ・クランの人々は、唯達とイデオンを交互に見比べて唸った。

「あ、あの……」

「何だ?」

「あずにゃん……、梓ちゃんはどこですか……?」

唯は一番気になっていたことを聞いてみた。

「梓……? 戦闘要員ならおそらく医務室にいるはずだ。君も疲れているようだし、行きたまえ」

「あ、ありがとうございます……」

「ベス、後は頼みます。さぁ、行こう」

コスモに支えられながら、唯は医務室へ向かった。

「君たちもゆっくり休みたまえ」

「ありがとうございます……。さ、行くわよ」

さわ子は3人を立たせると、唯達の後を追った。
60 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/04/03(日) 18:43:52.53 ID:qvWccMNp0
───

「……」

梓が気がつくと、眩しい光が目に入った。

思わず目をそらすと、逆光でよく見えないが誰かが傍らに座っているのが見えた。

「お姉ちゃん、体は大丈夫?」

「うん、私は何ともないよ」

「よかった……。戦いに行ったって聞いて……、本当に心配したんだから……!」

「ごめんごめん。心配かけちゃったね」

「本当。唯が飛び出して行った時はどうなることかと思ったわ」

「和ちゃんもごめんね。でも、私は大丈夫だから」

誰かが会話しているのをぼんやりと聞きながら、梓は体がまだ生きていることを感じていた。

「唯……?」

その柔らかな雰囲気と、優しい匂いで何となく名前を読んでみた。

「……あずにゃん」

そのように自分の名前を呼ぶ人物は他にいない。しばらく目を瞬いてみると、心配そうな唯の顔を見ることができた。

「よかった……、目が覚めたんだね」

嬉しそうに手を握り、唯は梓のことを見つめて言った。

「あれ? 私……」

「動いちゃだめだよ。軽いケガだからいいけど、まだ痛いと思うし」

起き上がろうとすると、唯に優しく毛布を掛けられてベッドに寝かせられた。

(そっか……、私、ギラン・ドゥで出て行って……)

かすかに覚えている戦闘中の記憶を辿っていく。コックピットで衝撃に耐えながら、何とか意識は保っていたのだ。

軽く息を吸うと、胸が少し痛んだ。

「ごめんね……。私が上手く出来なかったからあずにゃんが……」

梓の体を包む包帯やガーゼを見つめながら、唯が苦々しく言った。

「そんなことないですよ……。それより、何で重機動メカで出てきたんですか? 唯は戦闘要員じゃないでしょう……」

「あずにゃんだって、戦いをするような人に見えないよ?」

自分より白く、そして柔らかい梓の体を見つめて唯は優しく言った。
61 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/04/03(日) 18:46:16.23 ID:qvWccMNp0
それを言われてしまえば、梓は何も言い返すことができなかった。

「図星でしょ?」

得意げに笑う唯の顔に気まずくなって目をそらすと、唯はやっぱりね、と寂しげに笑った。

「……何でこんなことしたの?」

「こっちが質問しているんですけど……」

「あっ、ごめんね」

梓は質問で困らせるつもりはなかったのだが、唯の反応が素直に返ってきたので少し戸惑ってしまった。

「い、いいえ。気にしないで下さい」

梓の反応を微笑ましく思い、少しだけ笑うと唯は言った。

「多分ね、あずにゃんと一緒」

「一緒……?」

「私でも、何かしたい。誰かの為に何かしたいって思えたんだ」

「……そうですか」

梓は、自分が感じていたことが間違いではないと思えた。

自分の命をかけて戦うに値する理由だったと……。

「さぁ、憂。そろそろ行きましょう」

「そ、そうだね……。お姉ちゃん、ゆっくり休んでね?」

「わかってるよ。憂も和ちゃんもね?」

まだ不安げな顔をしている憂を引いて、和は医務室を出て行った。

「おぉ、唯。元気そうだな」

「りっちゃん! 大丈夫?」

憂と和と入れ替わるように、律達が梓のベッドにやってきた。

「あぁ、元気そのものだってさ」

ふん! と胸を張って律が誇らしげに言った。

「唯もよく休めたか?」

「うん」

「みなさんも、あの巨神に乗っていたんですか?」

「一応な」

律が照れ気味にウィンクした。

「でも、みんな揃ってどうしたの?」

「いや、梓ちゃんに聞きたいことがあって来たの」

紬が梓を気遣いながら言った。

「私にですか?」

みんなが疑問に思っていることを、紬が代表して聞いた。
62 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/04/03(日) 18:54:26.46 ID:qvWccMNp0
「さっきからみんなが言っているんだけど、イデって何?」

「イデ……、ですか?」

意外な単語が出てきたので、梓は驚いてしまった。

「おとぎ話にでてくる無限力を生み出すものなんですけど、実在すると言われているんですがまだ見つかっていないものです」

「それって、どんな話なの?」

少し興味が湧いてきて目が輝いてきた唯が聞いた。

「あんまりおもしろくない話ですけどね」

そう断っておいてから、梓は話し始めた。

「昔、星を治めていたお姫様が凶悪な怪獣にさらわれてしまいます。そのせいで光は消え、緑は痩せ、そこに住むものは絶滅寸前まで追いやられました」

「そこで、お姫様を助けようとその怪獣に立ち向かっていった英雄がいました。しかし、怪獣の力に敵わず倒れてしまいます」

「そんな倒れた英雄のもとに天から一筋の光がさし、その中からイデの果実が現れました」

「その力を借りて英雄が怪獣を倒せれば、助けた美しいお姫様と一緒に平和に暮らせると言われています」

「でも、もし英雄が怪獣を倒せなかったときには、怪獣共々英雄も星の一つになってしまう……。というお話です」

覚えている限りを話して、梓は一息ついた。

「……意外と救いのない話だな」

律が素直な感想を述べた。

「でも、みんながイデについて話し始めたということは、もしかしたら……」

「どうしたの、あずにゃん?」
63 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/04/03(日) 18:55:55.17 ID:qvWccMNp0
少し考えてから、梓は話し始めた。

「もともとあなた達がここに飛ばされてきたのだって、私達のせいじゃないんですよ」

「そうなの?」

梓達が助けてくれたものだと思っていた唯は驚いた。

「転送のシステムはありますけど、こんなに大がかりなのはありません。エネルギーだって……」

「でも、それと何の関係があるの?」

「……イデが仕組んだってこと?」

紬の言葉に、梓は頷いた。

「そう考えれば、私達異星人同士がこの船で何故一緒にいるのか説明がつくと思うんです」

「でも何のために?」

話の内容にようやく追いついた唯が、首をかしげた。

「イデは善き力によって目覚めると言います。人と人の輪を求めるなら善き力を示し、そうでなければ……」

「……滅ぼされる?」

「そう言われています……」

思いつきで言ったものの、梓が真剣な顔をして言うのでどことなく不安が湧いてきた。

「……まるで、ノアの方舟だな」

ソロ・シップの状況を考えながら、ぽつりと律が言った。

「何です? その方舟っていうのは」

「確か、神様が洪水で全てを滅ぼすときにつくらせた舟じゃなかったっけ?」

梓の質問に何とか答えようとしたが、律が紬に説明よろしく! と目で合図した。

「簡単に言うとそうね。その話で生命体のつがいを乗せて、絶滅から逃れさせるためにつくられたのが方舟よ」

「絶滅、滅びから生命体を救うもの……か。イデがこのソロ・シップを方舟にしたってことか?」

澪の仮説は今の状況と似てはいるが、それが答えだとはどうしても考えられなかった。

「イデがどのようなものか、そのような力を示すものなのか全くわからないから何とも言えないわね……」

「ただ、ロゴ・ダウの人々がこの船に呼ばれてあの巨神が動き出したとなると、何らかの関係はありそうですね」

唯はそれぞれの話を聞きながら、とてつもなく大きなものに巻き込まれていることを感じていた。
64 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/04/03(日) 18:57:08.84 ID:qvWccMNp0
今日はここまでです。話をまとめるのに時間がかかり始めたので今度の投下はかなり後になると思います。
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)[sage]:2011/04/03(日) 19:41:28.25 ID:G3jhP6sAO
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]:2011/04/03(日) 23:22:09.84 ID:mUuL8f5K0
乙 なかなか地の文とか判り易くていいな
戦闘シーンなんかも面白かったよ
頑張ってな 次も期待してるよ
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)[sage]:2011/04/04(月) 15:08:11.33 ID:bic8ruqAO
イーデオーン
68 : ◆INjIt6nmxE2011/04/11(月) 17:44:16.79 ID:jkAydVzC0
どうも。遅くなりました。最近忙しくなってきたので今度いつ投下できるか……。
それでは本編をどうぞ。




「おっ、みんな元気そうね」

イデについて話していると、さわ子が嬉しそうに医務室に入ってきた。

「さわちゃん! どこ行ってたのさ!」

「いや、実はね……」

さわ子が振り返ると、後ろから男が現れてこちらに向かってきた。

「彼女たちですか?」

「そうです……」

見るからに厳しそうな男は、唯の姿を見て目を丸くした。

「君達か……」

男は唯の姿をまじまじと見つめてから、軽く咳払いをして話し始めた。

「私は、陸上自衛隊の本郷1等陸尉というものだが、あのロボットを動かしていたのは君達だね?」

「は、はい……」

話し方も見た目と違わず固い印象を受ける男だった。唯は何となく身構えてしまって、緊張しながら話の続きを聞いた。

「いや、そんなに構えなくていい」

慌てて本郷は笑顔を見せて、優しく言った。

「本当なら私のようなものが戦わなくてはいけないのだがな。いや、面目ない」

「そんなことは……」

「驚かせて済まなかった。まずは、礼を言わせてもらうよ」

その言葉には、本郷の人柄がよく出ていると唯は思った。

(優しいんだ。この人)

大人な雰囲気を残して、本郷は話を切り出した。

「実はな、あのロボットの動かし方を聞きたいんだ」

「と、言われてもですね……」

律が気まずそうに目を逸らした。それに首をかしげながら、本郷は唯達の顔を見まわす。

「あれは子どもが乗らないと動かないと聞いた。それが何故なのか調べたい」

「でも、私達も無我夢中でどうやって動かしたかわからないんですよ」

唯は申し訳ない気持ちで弁明した。

「とりあえず動かしてみて欲しい。動作原理がわかれば、後は私達の仕事だ」

唯達は顔を見合わせてしばらく考えた後、やってみるしかないと思いイデオンのメカに乗ることにした。
69 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/04/11(月) 17:45:03.13 ID:jkAydVzC0
唯達がイデオンのメカに着く頃には、地球、バッフ・クラン両者のメカニックがそれぞれに整備や調査を始めていた。

イデオンは3つのメカに分裂しており、本郷に引き連れられて唯達はAメカの方へ向かった。

「どうだ、動いたか?」

「いいや、ダメです。ゲージもつかないし」

コックピットの下からはい出してきたコスモがぼやいた。

「ゲージ?」

「あそこの丸い奴ですよ。あの時はゲージがついて動き出したんですけど、今は消えているんだ」

本郷が見ると、ゲージは小さな光がわずかに点滅をしているだけで静かだった。

「動力はわかったのか?」

「未知のエネルギーが流れているのは観測できたんだけど、それがどのように動力となるかはまったくわからないんだ」

本郷はコスモがまとめた配線図を見つめて、実物と照らし合わせながらチェックしていった。

「全身に武器らしいものが搭載されているようだな」

「ミサイルらしい。あの時も周りにばら撒いて敵を追っ払ったんだ」

「戦いに使えるなら、起動できるようにしたいな」

「それで、どうでした?」

「あぁ、連れて来たぞ」

本郷の後ろには、緊張で少し顔が引きつっている唯達がいた。

「よろしく頼むよ?」

「は、はい!」

かちこちに固まっている唯達を見て、コスモは少しおかしくなった。

「とりあえずシートに座ってくれ。起動実験をやってみたいと思う」

「わかりました」

最初に起動した時と同じようにAメカに唯、Bメカに律と澪、Cメカに紬とさわ子が乗り込んだ。

「さて、どうなるか……」

誰もがそれぞれ緊張し、イデオンのメカを見つめていた。

唯もシートに収まりながら、ドキドキと高鳴る胸の音を聞いていた。

「……」

「……動かないな」

静かな雰囲気に耐えきれず、不安げに本郷が呟いた。

「おかしいなぁ。配線は行っているはずなんですが」

コスモも唯の隣に座り、計器などをいじってたものの反応は見られなかった。

「まだ研究の余地ありだな」

「そうですね……」

動かないと聞いて、何だか力が抜けてしまった唯はシートに項垂れた。
70 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/04/11(月) 17:49:38.73 ID:jkAydVzC0
本郷が唯のシートの周りを調べてみるが、やはり何も起きなかった。

「唯さん、何かわからないか? その、起動したときの感じとか……」

「特にはわからないですね……」

「そうか……。何か気付いたら教えてくれ」

本郷にそう言われたが、唯もあの時何があったのかあまり覚えていないのだ。無我夢中でソロ・シップの中を走り、気がつくと格納庫にあったこのメカに乗り込んでいた。

「反応は無いようだな。どうします?」

コスモがお手上げといった感じで本郷に尋ねる。

「もう少し調査してからやってみるしかあるまい」

本郷も動きそうもないイデオンのメカを見て、ため息をついた。

「す、すみません……」

「いや、唯さんのせいじゃない。私達だってこれが何で動くのかわかっていないのだからな」

申し訳なさそうにする唯に、本郷は優しく言った。

しかし、いつ敵がくるかもわからない状況では本郷も焦らずにいられなかった。一刻も早く戦力を整えて迎え撃つ準備がしたい。

ビーッ! ビーッ! ビーッ!

「な、何!?」

「ブリッジ、どうした?」

『戦闘機の部隊がこちらに接近中!』

それを聞いて、唯は血の気が引いていくのがわかった。

「迎撃はどうだ?」

『機銃で応戦しますが、どこまで行けるか……!』

「やれるだけやってくれ! こっちはいつ動くか……」

『……了解!』

「どうします……?」

コスモが動きそうもない計器を見つめながら呟いた。

「……やれることをするしかない。君はここでメカのチェックを!」

「了解!」

本郷はコスモを置いて防戦に向かった。

「くそっ、何でこいつは動かないんだ!」

コスモが毒づくのを聞いて、唯は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。その間にソロ・シップは攻撃の震動で揺れ始め、嫌な音が響き始める。

唯は恨めしい目で計器を見つめて、レバーを握ってみた。しかし、ゲージはただ一定のリズムで点滅を繰り返すだけだった。

「唯、動かないか?」

レバーやらペダルやら目につくものをいじってみるものの、反応がない。

「動いてよ……。動かないと、みんな死んじゃうんだ。死にたくない……、死にたくないよ……!」

キイイイイィ……ン!

「ついた!」

まるで思いに反応するようにゲージが震え、輝きが大きく広がっていく。それに伴ってモニターも全て付き、計器も反応を示し始めた。

「本当か!?」

驚きを隠せず、コスモはただ突っ立って見ているだけしかできなかった。

「……行きます!」

唯は勢いよくペダルを踏んで、戦闘区域に飛び立っていった。
71 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/04/11(月) 17:50:32.24 ID:jkAydVzC0
───

「そろそろ来るか……?」

対空砲火を避けつつ純が見つめていると、戦艦から光が飛び立った。

それは大きな戦闘機のようで、赤いカラーリングが目を惹いた。

「あんな巨大な戦闘機があるのか? データは取っておけ!」

その戦闘機───イデオ・デルタはロゴ・ダウの兵器では見たこともない形をしていた。

デッカ・バウの編隊がイデオ・デルタに迫り、放たれたミサイルが次々と炸裂していく。

「大きいからさ!」

煙の中からイデオ・デルタが現れ、墜落するさまを見届けようと思ったが何の支障もなく飛び続けている。

「何……、無傷だと!?」

旋回して機体の状況を見つめても、被弾したところは見当たらなかった。

「純様! 後続来ます!」

通信を聞いて振り返ると、同じような赤い機体が2機、空を飛んでこちらにやってきた。

「編隊か。あの3機を合流させてはならない!」

ただちに3機の周りにデッカ・バウやコボラが取りついていくが、攻撃をものともせずフォーメーションを組んでいく。

一列に並んだ3機はオレンジ色の光を放ちながら高度を上げて、形を変えていった。

「変形をする……!」

純が驚いている間に、3機のメカはドッキングをして人型になった。

それは写真で見た伝説の巨神であった。

「あんな機械的なものが巨神なのか……!?」

有機的なラインは一切見受けられず、あまつさえ戦闘機から変形をする重機動メカを純は巨神と認めたくなかった。

第一、重機動メカを人の形を成すこと自体が兵器としての有用性がないことを示している。

しかし、それを微塵にも感じさせないほど目の前の巨神は雄々しく、そして力強く空を飛んでいた。

「何て異星人なんだ……! あんな巨大な重機動メカを空に飛ばせるとは……」

バッフ・クランの重機動メカでも軽いジャンプなどはできるが、巨神は対空しながら空中戦をやってのけているのである。

その様は異様でもあり、純を更に怯えさせた。

「機械的なものならハーケンが効くはずだ! ギル・バウ隊、前へ!」

三日月型の戦闘機、ギル・バウが巨神の周りを飛び交い取りついていく。

巨神が腕を振り上げるのを難なくかわし、ハーケンを次々と打ちこんでいく。
72 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/04/11(月) 17:51:29.00 ID:jkAydVzC0
───

「うまくやれば、死にはしない……!」

唯が必死にイデオンを操縦しているのをあざ笑うかのように、戦闘機は巧みにすり抜けては機銃で攻撃を仕掛ける。

右に左に飛ぶギル・バウが、爆発にまぎれてイデオンの体に何かを打ち込んでいく。

「攻撃された!」

「ギル・バウ……!? まずい!」

コスモが焦った時にはもう遅く、ギル・バウのハーケンから電撃が走った。

「ああああぁ!」

バチバチという音と共にコックピットに火花が迸る。それに驚く暇もなく、モニターはノイズが雑じりはじめて嫌な音をたてた。

イデオンのおかげなのか、体は少し痺れる程度で済んではいる。しかし、コックピットの計器は乱れて操作も受け付けなくなってしまった。

ぐらりと揺れたかと思うと、イデオンは力を失って重力に引かれて落ちていく。

『お、落ちるぞ!』

胃の中がふわりと浮かぶ気持ちの悪い感覚に襲われ、澪が怯えた声で叫ぶ。

「ムギちゃん!」

『き、利かない!』

下半身を司るCメカで紬とさわ子が必死に操作するが、全く反応せずみるみるうちに地表は近づいてくる。

耳の中がキンとし、腹の中のものと恐怖がこみ上げてくる。

「歯を食いしばって!」

様々な声が耳から遠くなっていき、重い音と共にシートに叩きつけられた。

ズン……!

一気に血液が下まで落ちて行き、頭がくらくらする。

何とか頭を起こすと、イデオンは地面にめり込むように着地していた。

取りついていたギル・バウは落下に巻き込まれて墜落してしまっていた。

「敵が落ちている……」

偶然とはいえ、敵の攻撃から逃れられて唯はほっと一息ついた。

『唯、まだ敵はいるぞ!』

「わかってる。りっちゃんも攻撃してよ?」

『……了解!』

「砲撃主、サポートしてやれ!」

計器が生き返り、イデオンが立ち上がるとまたもやギル・バウが襲いかかる。

それを見計らい、律と澪がミサイルを放ち、紬とさわ子がグレンキャノンを放つ。

素人ながらもその攻撃は気持ちよく伸びて、次々とギル・バウが炎の玉に呑みこまれて消えた。

『あ、当たった……!』

まさか当たるとは思わなかったので、全員が驚いていた。

唯も負けてられないとギル・バウのハーケンを避け、さらにそれを掴んで投げ飛ばす。

「いいぞ、その調子だ!」

「はい!」

ぐるぐると目を動かし、敵機がいないか探す。しかし、敵機はイデオンに迫ることはせずそのまま撤退していった。

「逃げた……?」

その引き際は鮮やかで、唯達はただ見送るだけだった。
73 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/04/11(月) 17:52:47.48 ID:jkAydVzC0
今日はここまでです。どんどんペースが落ちているのをなんとかしたいです……。
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[sage]:2011/04/11(月) 23:19:38.73 ID:NdiRmnDAO
聞こえるか聞こえるだろ遥かな轟き
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]:2011/04/12(火) 01:24:03.48 ID:glUDTZ6/0
闇の中 心揺さぶる 目覚め始まる
76 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/04/14(木) 14:40:17.32 ID:NPNF04cA0
大地割り そそり立つ姿 正義の証か
77 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/04/14(木) 14:42:12.86 ID:NPNF04cA0
いやぁ復活のイデオンはいい歌詞ですよね。富野さんの歌詞は本当に好きです。
まだ先は長いですけど、お付き合い願います。






───

純は戦闘で得られた巨神の性能を確認し、対策を練っていた。

「ギル・バウのハーケンが効かないとは……」

「あのオレンジの光も気になるね」

依子も戦闘中に撮られた写真を見て呟いた。

「バリアの類なのか、それとも本当に伝説の巨神なのか……」

依子が不安げに言うのを純は笑った。

「あんな機械的なものが? あれはロゴ・ダウの異星人の兵器だよ」

「そうだけど、あの姿は……」

それを言われてしまうと、純も少し暗い顔になった。

まるで生きているかのように咆哮をあげ、人と同じような手足を持つ機械。伝説の巨神である可能性を捨てられないのが悔しかった。

「淳に応援を頼もうか?」

「お兄様に……、ねぇ?」

父の意思を受けて堅物に育った兄が、純は苦手だった。それに未開の惑星の異星人にやられたとなれば、笑い物にされるのが落ちである。

「まだ重機動メカで戦闘を行なっていないし、相手が機械ならやりようはあるよ」

重機動メカを使った戦闘はこちらもノウハウがある。純は巨神の武器のリストを見つめながら、戦闘力はさほどのものではないと感じていた。

「完全にダメージを受けない訳じゃないし、ジグ・マックで直接攻撃をかければ仕留められるはずだ」

それを聞いて、依子は純も兄によく似て頑固だと思い微笑ましくなった。
78 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/04/14(木) 15:02:34.01 ID:NPNF04cA0
───

ソロ・シップは琴吹グループの協力によって補給を受けられることになった。

「ご協力感謝します」

「私達を助けてくれたのですから、これぐらいはさせてください」

ベスの仰々しい態度を抑えつつ、紬は言った。

「水と食料は出来るだけやらせます。重火器のほうは手に入りづらくて……。すみません」

「そんな。これだけしてもらえれば大助かりですよ」

外では巨大なコンテナが次々と運ばれ、唯達も小さな荷物の積み込みに駆り出されていた。

「はぁ……、疲れたぁ」

唯は荷物を降ろすと、腰をまわして一息ついた。

「唯、まだ荷物あるんだぞ?」

「澪ちゃん、まだたくさんあるんだからさぁ……。ちょっとぐらい休ませて」

「そうだな、澪だってずっと働きづめだし」

唯と律は荷物の横に腰を下ろすと、風に体を晒した。

「はぁ……、まぁそうだな」

澪もそれにならって地面にからだを投げ出した。

「……」

荷物を運ぶ機械の音を遠くに聞きながら、空を仰ぐ。

「……なぁ、何か聞こえないか?」

「……何?」

澪が耳を澄ますと、誰かが口論しているのが聞こえてきた。

「あ、あっちで何かやっている」

ソロ・シップの下の方で人だかりができていた。そして、そこから人々の声が大きく響いてきた。

「だから、彼らは違うんです!」

「嘘つけ! 異星人が責めて来ているんだろう! こんなやつに……!」

「異星人は出ていけ! お前らにやるものなんて何もない!」

必死に状況を説明しているようだが、焼け石に水だった。

「信じてください。彼らは私達の味方です!」

「そんなことあるもんか!」

「お前、洗脳されているのか!?」

「違いますよ!」

口論はどんどん大きくなり、唯はその姿に寒気を感じた。
79 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/04/14(木) 15:19:27.78 ID:NPNF04cA0
唯達は荷物を持つと、その場から逃げる様に歩きだした。

「お前ら、異星人の仲間だろう!」

その言葉にどきっとして振り向くと、目の前を何かが飛んで行った。

「……!?」

遠くに落ちたのを見ると、それは石だった。

「この異星人め!」

罵声と共に、また耳元を石が飛びぬけていく。

「ひっ……!」

「こいつ、殺しちゃえ!」

「やめろっ!」

次々と飛んでくる罵声の中、本郷が駆け寄ってきた。

「大丈夫か?」

「は、はい……」

「自衛隊が異星人を庇うのかよ!」

「女の子に石を投げて、何も感じないのか!」

本郷が怒鳴り散らすが、群衆はそんなこと気にもしていなかった。

「そいつは異星人だ!」

「違う! 彼女達は巻き込まれただけなんだ! 被災者なんだ!」

「そんなこと信じられるか!」

「そうだそうだ!」

本郷が必死に弁明するが、群衆は聞き入れることは無かった。

「本郷さん……」

「……行こう。気にする必要は無い」

何を言っても無駄だと悟った本郷は、唯達を連れてソロ・シップに戻った。

80 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/04/14(木) 15:41:34.49 ID:NPNF04cA0
───

純は先程の戦闘のデータから、重機動メカを中心とした部隊を組んでいた。

「巨神は大した武器を積んではいない。それに、接近戦となればあのバリアも効かぬはずだ」

「ジグ・マックのクローアタックでやれるかしら?」

心配そうに依子が聞いた。

「ギル・バウの攻撃で装甲にダメージを与えられたのだから、やれる」

巨神の装甲は一般的な重機動メカと大して変わらないデータが出ているのだ。

やれないはずは無いと純は確信していた。

「デッカ・バウ、ギル・バウはジグ・マックが接近するまで援護。巨神を捕らえて倒す。それまでは発進命令が出るまで待機」

「はっ!」

パイロットたちが慌ただしく去り、ブリーフィングルームには純と依子だけになった。

「後は待つだけだ……」

「純、気負いしすぎじゃない?」

「そんなことないよ」

純はそう言うが、依子には兄のことを考え過ぎるあまり気が立っているように見えた。

「少し肩の力を抜いて? 正しい判断ができなくなるわ」

「……そうかな」

「そうよ」

依子に諭され、純は大きく深呼吸をして椅子にもたれかかった。

「……そうだね。気を張り過ぎてもよくないかも」

上を見上げつつ、純はつぶやいた。

純は気を張り過ぎる自分が、苦手な兄に似ていると感じて嗤った。

そこに通信兵が慌てて飛び込んできた。

「純様、敵艦発見しました!」

「そうか……。よし、発進するぞ!」

「……了解!」

純と依子はジグ・マックに乗り込み、デッカ・バウとギル・バウを引き連れて発進した。
81 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/04/14(木) 16:04:20.08 ID:NPNF04cA0
ノートパソコンの充電が切れそうなので、この辺でいったん切ります。
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]:2011/04/15(金) 00:56:09.45 ID:TKMVFH+O0
乙 今回も楽しませてもらった
てかさ >正義の証か
コレって凄い嘘だよな 証か?って疑問形なんだろうな
83 : ◆INjIt6nmxE2011/04/26(火) 22:07:07.72 ID:3tLtjhAZ0
>>82
復活のイデオンは今聞いてもいろいろ考えさせられます。特に二番の
必殺の技が撃つのは 我が身なのかと
恐れるな心開けよ 復活の刻
というところとか……。イデの力とは何かをよくあらわしていると思います。

さて、長くそして遅くなりましたが本編をどうぞ。




───

「すまないが、しばらく船の中にいてくれ」

「わかりました」

本郷は梓に唯達を預けると、荷物の積み込み作業に戻った。

「大丈夫ですか?」

「うん。大丈夫だよ」

そう言う唯だが、顔は全く笑っていなかった。律も沈んだ表情で、澪は怯えた顔で震えている。

「……」

梓はその三人の顔を見ていられなかった。

自分達のせいで戦いに巻き込まれて、同行しているだけで異星人と罵られる。

唯達の苦痛は想像に難くなく、梓の胸を締め付けた。

ビーッ! ビーッ! ビーッ!

「ブリッジ、どうしたの?」

『敵だ! イデオン、発進してくれ!』

「……わかりました」

唯達は通信を聞くと、すっと立ち上がって格納庫へ向かった。

「唯、大丈夫?」

「大丈夫だよ」

力なく言う唯を見て、梓は決心した。

「……私も行きます」

「えっ……?」

「私だって、心配なんですからね?」

「あずにゃん……」

「さ、行きましょう」

梓はそのまま唯と一緒にイデオ・デルタに乗り込んだ。2人でコックピットに入ると、先に来ていたコスモが驚いた顔をした。

「あれ、梓も一緒なのか?」

「うん。砲撃主もいるでしょ?」

「そうか、頼むぞ」

唯はコックピットに収まり、梓は腕部のミサイルにまわった。

「出撃するぞ!」
84 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/04/26(火) 22:08:01.69 ID:3tLtjhAZ0
ソロ・シップの甲板でイデオンにドッキングし、空に向かって大きくジャンプした。

「敵はデッカ・バウとギル・バウだ。落ち着いてやれば大丈夫!」

「は、はい……!」

「来るぞ!」

目の前の青い空に散らばる敵の影にミサイルを撃ちこむ。

小さな爆発が次々と起こるが、数が減ったようには見えずイデオンに次々と群がっていく。

近くに引きよせて叩き落そうとするが、すいすいと避けられミサイルで体勢を崩される。

『唯、後ろ!』

澪の声に振り向いたときには、目の前にクローが迫っており衝撃音と共にコックピットが激しく揺れた。

「うぐっ! こ、この前の人型……!」

モニターの茶色い機体はイデオンに組み付いており、腕を振り上げて装甲に叩きつけてくる。

隙を見つけて腕を受け止めるが、ぎりぎりとイデオンの腕が悲鳴をあげた。

「パ、パワーが……!」

振りほどこうにも押さえこまれてしまい、目の前で加粒子砲が炸裂する。

「うあああぁ!」

『唯、振りほどけ!』

澪がミサイルで援護をするが、目標が近すぎるために当たらない。

その間にもじりじりと装甲は焼けていき、貫通されるのも時間の問題だった。

「グレンキャノン、正面の敵を撃て!」

『了解!』

紬が正面に迫る装甲に当てずっぽうにグレンキャノンを放つ。それに驚いたのか、ジグ・マックはイデオンから離れていった。

それを見計らったかのようにデッカ・バウのミサイルがイデオンを襲う。

「うううぅ! 次から次へと……」

「どうしよう、どうしよう……!」

空中をふらふらと逃げ回るが、上へ行くたびにデッカ・バウとギル・バウに取り囲まれ、それから逃れようと下に行けばジグ・マックが待ちかまえている。

「唯、地上に降りましょう!」

「何で!?」

「あれと組みあっていれば、戦闘機には攻撃されません。それに、1対1なら勝てる見込みもあると思います!」

「……そうか!」

唯はイデオンを降下させ、地上に降りはじめた。
85 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/04/26(火) 22:09:14.09 ID:3tLtjhAZ0
「……人がいる!?」

着地の為に下を確認すると、地上には先程の群衆が戦いから逃れようと白旗を振っていた。

「助けなくちゃ……!」

「あんな人を助けるんですか!?」

梓は驚いた。しかし、唯の決意は変わらなかった。

「誰だって、みんな死にたくない……。こんな状況で普通でいられる方がおかしいんだ……!」

急いでイデオンを向かわせると、それを見つけた人々は嬉々とした表情でタオルやらシーツやらを振り回した。

「……!? だ、ダメです! 逃げて!」

「えっ!?」

それを見た途端、梓が急に叫んだ。それに驚いていると、その一帯にミサイルや加粒子砲の雨が降り注いだ。

「───!?」

一瞬だった。

目の前で閃光があがり、そこにいたものはバラバラに吹き飛んでいった。

唯は一体なのが起こったのか理解できず、ただ固まって見つめることしかできなかった。

「あ……」

その時、残骸と一緒に目の前に何かが通り過ぎた。

それは、きれいな赤い放物線を描いて飛んでいった。

何が飛んで行ったのか。唯ははっきりと見てしまった。

「はうっ……! うぐぇっ……!」

「唯! しっかりして!」

胸が苦しくなり吐きそうになるのを堪え、攻撃に揺すられるイデオンを地上のジグ・マックに向かわせた。

攻撃が止まない地上でにはまだ人が残っており、バッフ・クランの攻撃から必死に逃げ惑っていた。

「やめて! 人がいるんだよ!」

揺れるコックピットで唯が叫ぶが、聞こえるはずもない。

なおも攻撃を続けるジグ・マックの前に立ちふさがり、何とか侵攻を食い止める。

だが、周りのデッカ・バウやギル・バウは容赦なく地上にいる人に爆撃を行なう。

「やめて! やめてよぉ!」

手当たり次第にミサイルをばら撒き、執拗に攻撃を加えてくる敵機を追い払う。
86 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/04/26(火) 22:10:01.64 ID:3tLtjhAZ0
「まだくる!」

戦闘機が散った瞬間を狙って、ジグ・マックがイデオンめがけてクローアタックを仕掛けてきた。

「こいつ……! やめろおおおぉ!」

加粒子砲が飛んでくるのも構わず、イデの唸りに任せて真正面から突っ込みジグ・マックの腹部を思い切り蹴り上げた!

グシャアァ!

ジグ・マックの腹部は大きく抉れ、バラバラと破片を撒き散らしながら吹き飛んでいった。

それが功を成したのか、ジグ・マックは編隊を引き連れて引き上げて行った。

「行った……!」

唯が脱力するのと同時にイデの力も収まり、イデオンは地上に降りた。

「そうだ……。生きている人がいたら助けなくちゃ……!」

唯はモニターで瓦礫の山を見つめて人の姿を探すが、コスモがそれを止めた。

「やめろ……。無駄だ」

「ど、どうして……?」

訳がわからずおろおろする唯に、暗い顔の梓が言った。

「生存者は……、いませんよ」

「でも、誰かいるかもしれないじゃない! 1人ぐらい……!」

「唯……!」

梓の言いたいことはわかっていた。

こんな状況で生存者なんているわけがない。みんな吹き飛んでしまったのだ。

「酷いよ……! あんまりだよ……!」

それでも必死に生存者を捜す唯の姿に見かねて、梓はイデオンをソロ・シップへ帰還させた。
87 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/04/26(火) 22:11:19.61 ID:3tLtjhAZ0
───

「酷いな……」

イデオンを降りて、改めて地上を見つめて律が呟いた。

避難していた人たちのキャンプは大きな穴となり、煙と瓦礫に塗れていた。

澪も紬も、瓦礫の中から生活の欠片を見つける度に胸が苦しくなった。

「ねぇ、何でこんな酷いことするの……? ねぇ、何で……?」

唯の脳裏には先程の光景が焼き付いていて、それを思い返すたびに悲しくなった。

それは梓も同じだった。二つの種族の文化を知っているために、あのとき梓は叫んだのだ。

「唯……。私達バッフ・クランでは、白旗、白い手袋、白いハンカチを投げる……。すべて挑戦の合図です」

「それも、相手を地上から1人残らず[ピーーー]という最大級のな……」

コスモもやりきれない表情で床に座り込んだ。

「そ、それって……」

「じゃあ、あいつらはあれを宣戦布告だと思ったってことか……?」

「そうでなかったら、あんな執拗に攻撃したりしない」

「でも、白旗を振っていたんだよ……! 白旗だったんだよ!」

唯が泣きながら必死に弁明するが、それが通じる相手ではなかったのだ。

「戦いをやめてって……、言っていたんだよ……!」

「唯……」

隣で肩を震わせて泣く唯に、梓はかける言葉が見つからなかった。
88 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/04/26(火) 22:13:05.55 ID:3tLtjhAZ0
今日はここまでです。レポートがなかったらもっと早く書けてたのに……。おのれぇ!
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)[sage]:2011/04/26(火) 22:32:59.06 ID:TD4KfqPAO
グレンキャノンもだ!
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]:2011/04/27(水) 03:16:50.38 ID:BK5lJAqF0
>>1
 
あ、赤と白のエピソードは出てきたな えぐいシーンだけど、ちょっとニヤっとしたわ

>きれいな赤い放物線を描いて飛んでいった
キッチンェ……
91 : ◆INjIt6nmxE2011/05/22(日) 10:12:53.33 ID:BSiiDp770
補給もままならず、ソロ・シップは数少ない穏健派のバッフ・クランを求めて彷徨っていた。

「で、どうするつもりなんだ? ベス」

コスモがイデオンの配線をチェックしながら聞いた。

「私としてもこの星の人間は巻き込みたくない」

「降ろすのか?」

「戦闘要員ではないのをいつまでも置いておく訳にはいかない。物資だってその分必要になる」

「でもこの星にいる限り、あの人達だって狙われるぜ?」

「いや、ソロ・シップはある程度は敵に目をつけられていると見て間違いない。あの巨神によってな……」

ベスの言うとおり、コスモもこの巨神には何かあると感じていた。そして、それは敵も同じはずだ。

更に、これが伝説のイデの巨神なるものなら尚更だ。

「……囮になれって言うのかい?」

「そうは言っていない。ただ、DSドライブしたときに敵がこっちを追ってきてくれればいいんだ」

「そういうの、囮って言うんだろ」

都合の悪いことをはぐらかして話すベスが、少し癪に障った。

「……そうだな。すまん」

気遣ってくれているのはわかっているのだが、コスモはありのままを話してほしい質なのだ。

「頼むよ、ベス。もっと状況を把握しなくちゃいけないんだから」

「わかっている」

ベスも現実から逃げようとした気持ちが、あんな言葉を吐かせたのだろうと反省した。

「じゃあコスモ、イデオンの方は頼むぞ」

「了解」

ベスはどこか非戦闘員を降ろせるようなところがないか本郷に聞くことにした。
92 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/05/22(日) 10:13:28.33 ID:BSiiDp770
───

ソロ・シップを追いつつも、純は別の降下部隊と合流を果たしていた。

部屋に隊長を呼ぶと、褐色の肌にきれいな銀髪の男が敬礼と共に入ってきた。

「第二降下部隊、ジルバル・ドク。ただいま参りました」

「御苦労であった。で、巨神の報告は読んだか?」

「はい」

椅子に座るように促し、飲み物を差し出した。

「貴官の意見が聞きたい」

ジルバルは差し出された飲み物を軽く口に含むと、純に進言した。

「純様のデータから、ジグ・マックとズオロ隊があれば勝てましょう」

「そう思えるか?」

「はい。元技術屋の私の立場から見ても、巨神の装甲は脆い。数にモノを言わせれば……」

純は自分の思惑をジルバルが自信を持って口に出してくれたので、機嫌が良くなった。

「そうか。なら、次の攻撃では共に出撃してもらうぞ」

「わかりました」

純は兄と父に対して面子が保てると思い安心した。

そこに艦内通信を知らせるアラームが鳴った。

「どうした?」

『純様、敵の逃走予測地点から時空の歪みが観測されました』

「時空の歪み? ……データを転送しろ」

通信してきた兵にデータを送らせて、それを眺めみた。

見やすいように時空を表すワイヤーフレームと地上の写真が二重に映っており、ある地点だけ歪んだ線が入り乱れていた。

「どう見る?」

ジルバルに目をやり問うと、それを見つめて少し顎をさすった。

「敵が自分の位置を知らせる訳がないと思いますが、この数値は調べる価値はあると思います」

「そうだろうな」

時空を歪めるほどの力がこの星にある。伝説の巨神が放つものなのか、それとも別の何かなのか。

「私が出ましょう。巨神も確かめたいですし」

「頼むぞ、ジルバル・ドク」

すっと立ち上がると、ジルバルは部屋を出て行った。
93 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/05/22(日) 10:16:09.97 ID:BSiiDp770
───

ソロ・シップは非戦闘員を降ろすために本郷の勧めで自衛隊の基地、通称ブラジラー基地に到着していた。

「異星人の襲来なんて聞いて、誰が信じるものかしら」

「しかし、現に起きてしまったのです。一文字指令」

「……そうね」

本郷と握手をしている芯の強そうな女性が、ここの指令の一文字遥だ。

一文字はソロ・シップのクルーを一通り眺めると、未だにパイロットスーツを着ている人物を見つけた。

「あなたが、パイロットなの?」

「えぇ、彼女がイデオ・デルタのパイロットの平沢唯です」

「この子にやらせているのか?」

本郷の紹介に一文字は感嘆の声をあげたが、どこか信じられないという顔をしていた。

「事情がありまして、私も不本意ですが協力してもらっています」

本郷が真剣に言うのだから、一文字も信じざるを得なかった。

一文字は、自分の娘と大して変わらない歳の唯をまじまじと見つめながら、胸に重いものが落ちていくのを感じた。

その顔は生気が感じられず、見つめている自分に気を配ることをせず、ただ突っ立っているだけなのだ。

「……疲れているのね」

「……」

唯はその言葉にも答えず、虚ろな目で自分のつま先を見つめていた。

「それで、受け入れの件はどうなりますか?」

「こちらも避難民が溢れている状況でね、いくつかの基地と連携して受け入れる予定よ」

「そうですか……」

「物資も足りない状況なの。急に人数が増えてしまうと困るから仕方ないわ」

一文字もわかって欲しいと本郷を諭した。

「それと、あの子」

「唯さんですか?」

「休息させる必要があるわ。私が連れていくけどいいかしら」

「お願いします」

それを聞くと、一文字は唯を連れて行った。

94 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/05/22(日) 10:16:46.27 ID:BSiiDp770
───

唯は一文字に連れられて、基地の中を歩いていた。

「娯楽施設と言っても、あなたのような女の子にはつまらないでしょうね」

少し奥の方へ行くと、簡素だが花壇があった。そこには黄色や紫のパンジーが小さく咲いており、戦いの匂いがしない所であった。

そこに唯を座らせると、一文字は自分の娘と少し重ね合わせていた。

(こんな子が、戦闘に出ている……)

虚ろな目でずっと一点を見つめている唯を見ていると、親として1人の大人として胸が痛んだ。

「何か悩んでいるなら話してみるといいわ。気が晴れると思うから」

優しく声をかけてしばらく寄り添っていると、唯は膝小僧を見つめながら話し始めた。

「……自分がやらなきゃ、みんなが死んじゃう。それはわかります」

「でも、何の取り柄もなくて、部活ばっかり必死にやってきた私が……、戦いなんてできやしないんです!」

唯はぽろぽろと涙をこぼしながら、必死に言葉を紡いだ。

「怖くても我慢して、必死にやってきたのに……! 酷いこと言われて……! それでも戦って! 守りきれなくて……!」

震える唯の体を一文字は優しく抱きしめた。

「そんなことない。唯ちゃんはよくやったよ……」

次々と甦る戦いの傷を振り返るたびに、思いが溢れていく。

「もう嫌だ……! もう嫌だよぉ……!」

一文字はただ唯の頭を撫でて、あやし続けた。

「大丈夫。もう大丈夫だからね……」

一文字に抱かれながら、唯はその腕の温かさに母の匂いを感じていた。
95 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/05/22(日) 10:17:37.19 ID:BSiiDp770
───

一通り非戦闘員の人数を調べ、ブラジラーに受け入れの準備が始まった。

ベスはブリッジから船を降りていく人の波を見つめて軽くため息をついた。

「ベスさん」

「あっ、山中先生」

少し気が遠くなっていたベスは、さわ子に声をかけられて少し驚いた。

「どうしました? 船を降りるのでしょう?」

「お礼ぐらい、言わせてもらおうと思いまして」

さわ子は優しく微笑むと、ベスの隣に寄り添った。

「山中先生、あの子たちはどうですか?」

「みんな疲れているわ。特に唯ちゃん……。指令がカウンセリングしてくれているけど……」

「そうですか……」

到着したときの唯の様子を思い出せば、ベスも気が滅入った。

「本当にすみません……。私達が巻きこんでしまったばかりに……」

「そんな……。私達だって今日まで生きて来れたのはあなた達のおかげです」

「……そう言ってもらえれば、少しは心が楽になります」

ベスはさわ子の言葉に少し笑みを見せた。

「先生、今まで本当にありがとうございました」

「ベスさん……」

「私達は、あなた達を巻きこまないよう宇宙へ脱出しようと思います」

「宇宙へ……?」

「はい。奴らはあの巨神を狙ってきていると思われます。だから、あれを持って宇宙のどこかへ行きます」

ベスがそう言うと、さわ子は少し寂しそうな表情をして手を差し出してきた。

「ベスさん、お元気で……」

「……この星でのやりかたですね」

ベスはそれに快く応じて、さわ子の手を優しく握った。
96 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/05/22(日) 10:19:46.13 ID:BSiiDp770

───

「あれか」

ジルバルが確認すると、レーダーにも時空の歪みによってはっきりと異常が見られた。

地形のデータも一致し、ここから時空の歪みが発生しているとわかった。

ジルバルが見つけたのは大きな異星人の基地だった。

「ドク様、報告にあった四足です」

カメラをまわすと、ここに似つかわしくない巨大な船が鎮座していた。

「ソロ・シップとか言ったか。あれがいるということは巨神もいるな」

「ではあの歪みは巨神が?」

「それはわからん。敵に位置を知らせるのなら罠なのだろうが……」

巨神の装甲はジグ・マックと同等というデータが出ていることが、ジルバルに自信を与えていた。

伝説のイデの力があるわけがない。あっても巨神は倒せる。

「純様に連絡しろ。攻撃を仕掛ける」

ジルバルは基地にジグ・マックとズオロ隊を向けることにした。
97 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/05/22(日) 10:20:30.88 ID:BSiiDp770
───

なんとか落ち着いてきた唯は、一文字の部屋に通されていた。

「しばらくここでゆっくりすればいいわ。荷物とかは降ろしてもらうから」

「はい、ありがとうございます」

唯も落ち着きはじめて、一文字が持ってきた食事に手をつけた。

一文字もそれを見て、唯に元気が戻ってきたと感じて嬉しくなった。

そこに緊急通信用のアラームが鳴った。

「どうした?」

『指令、敵です!』

慌てて取ってみると、切迫した声で状況報告がされた。

「対空砲火はどうなっている?」

『人員を集めているところです』

「急がせろ」

目立った戦闘がなかったこの基地にも、バッフ・クランの部隊が攻めてきた。

少々不安になったが、唯の姿を思い出せばそんなことを言ってもいられなかった。

唯の様子をちらと見ると、ゆっくりとだが食は進んでいるようだった。

「唯ちゃん、ご飯を食べ終わったらちょっと出かけましょう?」

「ん? ……わかりました」
98 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/05/22(日) 10:22:22.74 ID:BSiiDp770
───

ソロ・シップが戦闘配置についたころには、黒い点が空に散らばりながらも迫ってきていた。

基地の中の自衛隊の戦車やら戦闘機がいくつか発進して応戦したが、それも数秒もしないうちに地上の瓦礫に変わっていく。

「だめだ。彼らでは太刀打ちできない!」

「ハタリ、一文字指令と連絡は?」

「取れない……」

「だろうな……」

激化する戦闘の中でそう呟くベスの声に、焦りが滲んでいた。

「ソロ・シップを基地から離すぞ! イデオンはどうだ!」

「コスモ達が向かっている!」

「急がせろ、このままじゃ……!」

自衛隊もよく支えてくれていたが、損害が増えるだけだった。
99 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/05/22(日) 10:23:15.68 ID:BSiiDp770
───

「もうすぐシェルターに連れて行ってあげるからね」

車中で唯は、戦いの音と光に怯えてばかりいた。

「大丈夫だからね。私達があなた達を守るからね」

震える唯を励まし、車で攻撃を受ける基地の中をすり抜けていく。

何度目かの閃光を避けた後、車が大きく跳ねた。

「うわああぁ!」

そして、目の前に閃光が広がったかと思うと、体が急に投げ出されてぐるぐると視点が変わり激しい痛みが背中を刺した。

「くはっ……!」

息がつまり、熱を持った痛みが背中で脈打つ。

戦闘の振動が体を揺らし、何かが砕ける音が耳をつんざく。

唯はくらくらする頭をなんとか起こし、ずきずきと至るところが痛む体を持ち上げると、今まで乗っていた車はひっくり返り煙を上げていた。

「唯ちゃん! ケガはしてない!?」

「……!?」

どこからか一文字の声がした。見まわしてみると、車の方から聞こえてくる。

「大丈夫なのね……! よかった……!」

ゆっくりと近づいていくと、一文字が車の近くに倒れているのが見えた。慌てて駆け寄ると、一文字の足は車に挟まれて大量に出血していた。

「もういいのよ……! 早く逃げなさい!」

唯は無我夢中で、一文字を助け出そうと必死に手を引いた。

「……!」

迫る敵の音を受け、焦る気持ちを抑えられなくなりぐいぐいと引っ張る。

だが、唯は今まで聞いたことのない一文字の悲痛な叫びを聞いて驚いてしまった。

一気に心臓が跳ねまわるを感じ、目の前の状況を確認した。

自分の手は力なく倒れる一文字の体を掴んだまま。一文字はぴくりとも動かなかった。

地面にはきれいな赤い色がとめどなく溢れ、制服からは見たこともないものがはみ出していた。

「う……ぁ、……っ!」

つんと鉄の臭いが鼻を突き、それが血の臭いだと気づくのにはさほど時間はかからなかった。

ガンガンと頭が痛くなり戦いの音も遠くなって、ただ目の前の光景に圧倒されてしまっていた。

泣きそうなのか、吐きそうなのかよくわからない気持ち悪さを感じて唯は走り出した。

「はっ……! はっ……! はっ……!」

走って、走って、走って……。

瓦礫に転びそうになり、倒れている人を飛び越え、唯は鼻を押さえて泣きながらソロ・シップまで駆け抜けた。

パイロットスーツもろくに着ずに飛び乗ってきた唯にコスモが目を丸くした。

「唯!? お前降りたんじゃないのか?」

「……!」

先程の唯を思いだして心配したが、きびきびと発進準備をしているのを見コスモはて少し押されてしまった。

「とりあえずこれだけは付けとけ! 頭をやられる」

コスモは唯にヘルメットを渡した。それを素早くかぶると唯はシートに収まった。

「イデオ・デルタ、発進するぞ!」

イデオ・デルタは唯を乗せて発進した。
100 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/05/22(日) 10:24:17.16 ID:BSiiDp770
───

「巨神のメカが3機揃ったのか!」

ジルバルがモニターを見つめると、最後に飛び立ったメカがオレンジ色のバリアを展開し始め、3機は一直線に並んだ。

「ドッキングするつもりだ! 何としても止めろ!」

ミサイル、加粒子砲、手当たり次第に攻撃を加えるが、何の支障もなく巨神はドッキングを終えてしまった。

「足元に気を取られるな! 巨神が立ったぞ!」

慌てて旋回すると、目に不気味な模様を浮かび上がらせて巨神が飛び立っていった。

巨神めがけて加粒子砲を放つが、軽々と避けてこちらに迫ってくる。

「アームアタック!」

タイミングを見計らい巨神に攻撃を仕掛けるが、同時に繰り出された巨神の腕にパワーで撥ね除けられてしまった。

続けて凄まじい衝撃を受け、歯を食いしばるとジグ・マックに蹴りを入れられていた。

「くぅ! 単機ではダメだ。おびき出して包囲しろ!」

基地を離脱しながら、巨神を部隊の中心へ誘いだしていく。

「よし、ズオロ隊は巨神を取り囲め! ジグ・マック隊は巨神を足止めしろ!」

ジグ・マックの加粒子砲で牽制しつつ、ズオロ隊を散開させていく。

「アタック!」
101 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/05/22(日) 10:25:00.90 ID:BSiiDp770
───

離脱していくジグ・マックを追っていくと、天地無用に敵が乱舞しイデオンめがけて銃口を向ける。

敵の数をすばやく確認すると、その数に怯えたり命を奪うことへの嫌悪感も湧かなかった。

数なんて問題ない。ただ、相手を倒すことだけが唯を突き動かしていた。

「一文字さんの仇いいいぃ!」

唯の叫びはイデオンの唸りとなり、放射線状に空を舞った!

ズオロ・ジックが、ゼロ・ズオロが、ジグ・マックが、イデオンの乱れ撃ったミサイルの中に火球となって消えていく。

それはあたかも花火のようにイデオンの周りに咲き乱れて、その中でさらに爆発の光が広がっていく。

唯は敵の戦力の3分の1を一瞬にして叩いたのだ。

その攻撃にコスモも舌を巻いたが、唯の表情は硬かった。

目はギラギラと光り、いつもの少女の顔ではなかった。

「後退する……」

イデオンの攻撃翌力に圧倒されたのか、敵は攻撃をやめて引き揚げて行った。

イデオンが基地に降り立ったときには、あらゆる建物や乗り物が原型を留めていなかった。

そして、それは人間にも同じことが言えた……。

基地のあらゆるところで人に白い布が被せられて、運ばれていく。

イデのゲージは煌びやかに輝き、イデオンの瞳からはあたかも涙のように光が溢れて天へ昇っていった。

その中で唯は、ヘルメットの奥で一文字を思い誰にも聞かれない様に泣いていた。
102 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/05/22(日) 10:27:01.74 ID:BSiiDp770
今日はここで終わりです。
なんとか話がまとまってよかったです。
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]:2011/05/23(月) 04:41:16.35 ID:b+Juh83d0
乙 久々更新着てた!
あと自衛隊の人って、技の一号・力の二号?
104 : ◆INjIt6nmxE2011/07/02(土) 01:27:32.82 ID:8pWdzZTz0
>>103
元ネタはそうです。一文字さんがいれば本郷さんもいるだろうという安易な考えで登場してもらいました。

───

「はぁ……」

仕事の疲れからではない、何度目かのため息が憂の口から漏れていった。

あれから唯は逃げる様にイデオンのコックピットから出ていき、食事の時間になっても姿を見せなかった。

こうして調理場で料理の手伝いをしていても、憂は心配のあまり仕事が疎かになりがちだった。

「……憂、大丈夫?」

「あっ、梓ちゃん。大丈夫だよ」

そういってまた目の前の仕事に手をつけるが、思い浮かぶのは唯のことだけだった。

「はぁ……」

あまりにも憂が落ち込んでいくのを見かねて、梓は作業をやめさせた。

「ここの仕事はしておくから、食事持って行ってあげて」

「……でも」

「こういうとき、家族が支えてあげないと心が折れちゃうよ」

梓は軽く頷いて、憂の仕事を始めた。

「……ごめん。ありがとう」

憂は梓に礼を言って、食事をパックに詰めると唯の部屋に行った。

しばらく行くと、唯の部屋の前に到着した。

静かなドアに躊躇ってしまったが、憂は意を決してノックしてみた。

「お姉ちゃん、ご飯持ってきたんだけど一緒に食べよう?」

部屋からは何も聞こえてこない。とても静かだった。

不審に思った憂は、悪いと思いつつもドアを開けてみた。

「お姉ちゃん……?」

───中には誰もいなかった。
105 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/07/02(土) 01:28:24.99 ID:8pWdzZTz0

しばらく辺りを探してみたが、唯の姿は無かった。

食堂に行ったのだろうかと思い、戻ってきたがそこにも唯の姿は無かった。

「梓ちゃん、お姉ちゃん来なかった?」

「いや、来てないけど。いなかったの?」

「うん。何処行っちゃったんだろう……」

「仕事も終わったし、探しに行こうか」

「ありがとう」

憂と梓は二手に分かれて、唯を探すことにした。

「……一体どこに行ったんだろう」

梓は唯が行きそうなところを考えてみたが、このソロ・シップにはほとんどない。

手当たりしだいにうろついて人に聞いて見たりしたが、唯の姿を見た人はいなかった。

イデオンの整備をしている格納庫にも行ってみたが、そこにも姿は無かった。

「そういえば……」

避難民の居住スペースと化している桜が丘高校を探していなかった。

最近は戦闘ばかりで行くこともほとんどなかったので忘れかけていた。

「……よし」

梓は桜が丘高校に行ってみることにした。
106 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/07/02(土) 01:29:46.43 ID:8pWdzZTz0
桜が丘高校が佇む空間に足を踏み入れると、戦いの中であることを忘れさせるように人々の声が溢れていた。

この船の中で、ただ一つ残された日常。

唯と一緒に来た、思い出の場所。

今では人が生活している匂いが辺りに立ち込めており、心が落ち着いた。

「……」

階段を上がって行くと、人影も無くなり生活の音も遠くなった。

静かな通路を抜けていくと、音楽準備室のドアが見えてきた。

「……音?」

ドアノブをまわそうと手をかけると、中から音が漏れているのがわかった。

それはしなやかに空気を震わせて、心地よく聞こえた。

しばらくその旋律に耳を傾けていると、声が時折漏れてくる。

(泣いている……)

何とか耐えようとする声と、息と、梓の知らない楽器の音が不思議なメロディを紡いでいた。

「……唯、いますか?」

「……あずにゃん?」

予想通り、中からは唯の声がした。しかし、その声は力が無くふわふわといなくなってしまいそうで、切なかった。

「その……、一緒にご飯食べませんか? あれから食べてないようですし……」

「今は……、食べたくない」

扉の向こうの唯は小さく言った。

「憂も心配しているんです。顔ぐらい見せてあげてください」

憂の名前に動揺したのか、奏でていたメロディに不協和音が交った。

「……入っていいですか?」

「だ、だめっ……!」

「……」

「お願い、独りにして……」

唯はその言葉を最後に梓との会話を切った。
107 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/07/02(土) 01:32:02.57 ID:8pWdzZTz0

「……前にもこんなことありましたよね」

「あの時は私が閉じこもっていて、唯が心配して来てくれました」

「だから今、私がどんな思いでいるかわかりますよね? 憂だって、みなさんだって……」

ドアの向こうからは何も聞こえない。それでも、梓は続けた。

「お願いです。ここを開けてください」

梓は唯の気持ちを痛いほどわかっていた。

だから梓はただ待った。唯が自らこのドアを開けてくれるまで。

「……」

それから少しして、音楽準備室のドアは開いた。

「唯……」

ドアから出てきた唯の顔は涙でぐしゃぐしゃで、酷い有様だった。

梓は唯の肩を抱いて音楽準備室へ入った。

「……落ち着いたら、憂の所へ行きましょう。心配していましたよ?」

「……っ」

憔悴しきった唯を椅子に座らせて、持っていたタオルで涙を拭ってやった。

「私、また守れなかった……!」

「えっ?」

涙を拭き終わると、唯がぽつりと呟いた。

「また、目の前で……! 人が……!」

ギー太を抱きしめて嗚咽を漏らす唯を見て、梓はその涙の理由を思い痛々しく感じられた。

「……1人の人間が出来ることには限界があります。それを自分のせいにして悔まないで下さい」

「でも……!」

「唯は普通の女の子なんですよ……?」

「でも……!」

「もう……」

自分を責め続けるのを見かねて、梓はそっと唯の体を抱きしめた。

「独りで気負わないで下さい。唯だけが戦っているんじゃないんです」

「だって……、みんなが……!」

「唯だって、誰かを頼っていいんです。ずっと辛かったんですよね?」

「……あずにゃん」

「唯はお姉ちゃんですからね。憂とかにそういうところ見せない様にしていたんでしょ?」

やさしく問いかける梓に、唯はただ涙を流して抱きついた。

「ごめん……! 私……!」

「いいですよ。辛かったら、頼っていいんですよ……?」

唯は梓の胸に顔を埋めて、大声で泣き腫らした。

赤子のように、獣のように、力強く……。
108 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/07/02(土) 01:33:02.92 ID:8pWdzZTz0

「……落ち着きましたか?」

「……ちょっと」

「そうですか……」

梓はこんな状況で落ち着けるわけがないことぐらいわかっていた。

これだけ命のやりとりに投げ込まれてしまえば、肉体的にも精神的にも参ってしまう。

「行きましょうか」

「……うん」

だからこそ支え合わなければいけない。現実の波に呑まれて命の炎を消させないために……。

食堂に戻ってみると、心配で涙が溢れそうな憂が待っていた。

「お、お姉ちゃん」

「憂、心配かけてごめんね?」

「そんな事、ないよ」

久しぶりに唯の笑顔を見て、憂も嬉しくなった。

「一緒にご飯食べようか」

「うん!」

憂の嬉しそうな笑顔に、唯は少し救われた気がした。
109 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/07/02(土) 01:38:04.23 ID:8pWdzZTz0
───

純は巨神のデータを整理していた。

「巨人のパワーは以前より上がっているようですな」

ジルバルは戦闘記録を見ながら、巨神の素人のような戦いぶりに敗れたことに苛立っていた。

「奴らとて遊んでいるわけではない」

「私が油断していたと?」

「そうだろうが。ジグ・マック3機とズオロ隊で巨神と渡り合えるわけがない」

純の指摘はもっともだった。それが正論であるからこそジルバルの苛立ちはさらに増していった。

軽く頭を振り、気持ちを切り替えてジルバルは新たな戦闘記録を加えて巨神との戦闘シミュレーションを始めてみた。

「巨神は全身にミサイルを搭載し、小さいながらも加粒子砲も見当たりました」

「武器だけみるとジグ・マックより少々優れている程度なのだが……」

「巨神にはバリアがあり、通常攻撃では突破するのも難しい」

巨神の性能はどの重機動メカよりも優れているように見えた。

「地上では奴らに分があります。どうにかして宇宙へおびき出すことができれば」

「重機動メカも宇宙のほうが戦いやすいか」

重機動メカは空を飛ぶことができない。しかし、巨神はズオロ隊と空中戦までやってのけてしまう。

「何か策があるのだな?」

「はい。しかし、かなり卑怯な手であります」

「それでもよい。巨神相手では道理が通らん」

「了解しました」

ジルバルの目が自信で光った。
110 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/07/02(土) 01:38:39.82 ID:8pWdzZTz0
───

「……ダメだ。どこも受け入れてくれそうにない」

本郷が深いため息と共にインカムを投げた。軽く伸びをすると、同じようにベスもインカムを置いていた。

「こっちもだ。穏健派のどこにもつながらない」

幾度となく戦闘を重ねていたソロ・シップは、いつしか味方からも避けられるようになっていた。

「せめて非戦闘員を安全な場所に降ろせたらいいのだが……」

「こうも立ち寄った場所が壊滅してしまえばな……」

ベスも苦い顔をして、また穏健派との通信を始めた。

その時、レーダーから警告音が響いた。

「どうした?」

「機影、多数こっちに向かってくる!」

「敵か!?」

「いや、バッフ・クランじゃない……」

こちらに向かってくる機影に本郷は見覚えがあった。

「……地球の軍隊だ」

数十機を数える編隊がソロ・シップを取り囲んでいく。

本郷はほっとしてそれを見ていたが、肌に感じられたのは出迎えてくれる雰囲気ではなかった。

「……様子がおかしいぞ」

戦闘機は旋回を続けて、一斉に発砲してきた。機銃の光が空に流れ、ミサイルが白い尾を引いてソロ・シップに炸裂していく。

「何故だ! 私達は味方だ!」

「彼らと通信は?」

「応答無し!」

何度も呼びかけてみるが、通信を切っているようで取り合う気も無いらしい。

「まずいぞ、バッフ・クランも来ている!」

「何だと!?」

地球の軍隊の後ろの方からズオロ隊も迫り、いくつかの編隊を組みながら攻撃を仕掛けてきた。

「こいつら、結託したのか!?」

「そんなバカな話があるか!」

本郷はベスに反論して見せたが、戦闘を見る限りそうとしか言えなかった。

「くそっ! どうしてこういうことになるんだ……!」

「……厄介払いをしようってわけか!」

ぎりっと本郷から悔しさの歯ぎしりがした。
111 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/07/02(土) 01:39:54.90 ID:8pWdzZTz0

敵の攻撃となれば、イデオンは発進せざるを得なかった。

イデオンは様々な国家の戦闘機に取り囲まれ、ミサイルやら機銃やら様々なものが炸裂していた。

「こいつら! 叩き落してやる!」

「コスモ、だめだよ!」

勢いに任せてミサイルのボタンを押そうとしたコスモを、唯が慌てて止めた。

「くそっ! わかってるよ!」

イデオンが戦闘機を落とせば、相手に大義名分ができる。それは唯達にとって、最も避けなくてはいけないことだった。 

しかし、唯が何度相手を思ってみてもそれは伝わらない。ただ攻撃に身を晒すしかなかった。

「お願いです! 攻撃をやめて下さい! 聞こえますか!」

「無駄さ! こいつらは俺たちで厄介払いをしようとしているんだ!」

必死に通信回路を開いてみるが、応答する気配は無い。

バッフ・クランの戦闘機も加わり、敵味方が入り乱れた攻撃は徐々にイデオンを押していた。

戦闘を避けつつ戦闘機との距離をとるが、執拗にイデオンを追ってくる。

何度目かの爆発。この程度の攻撃ではイデオンはびくともしないが、心の方が参ってしまいそうだった。

「……何!?」

その時であった。

イデオンが勝手に動き出し、ソロ・シップに着艦を始めた。

『唯、どうするつもりだ!?』

「私は何もしていないよ!? 澪ちゃんこそ何かしたんじゃないの?」

『いや、何もしていないが……!」

イデオンはオレンジ色のバリアを展開し始め、それはソロ・シップもろとも包み込んでいく。

唯達は何もできず、ただその状況に流されるだけであった。

ガクンッ!

「な、何!?」

ソロ・シップに着艦したのと同時に、ゲージの光とコックピットが急に震えだした。

外ではイデオンのバリアの色が変わり、周りに金色の光が満ちていく。

この震えを梓は知っていた。

「……あの時と同じ! DSドライブを始める気です!」

「全員、何かにつかまれ!」

ゲージの光が満ちると、爆発のように弾けてソロ・シップから一筋のきらめきが宇宙へと貫いていった。

オオオオォ……ン!

ソロ・シップは辺りに反物質を撒き散らし、地形や襲いかかる敵はそれに呑みこまれて次々と消滅していった。

神々しく光り輝く中で瓦礫は舞い上がり、それを見つめていた人々は戦慄し、恐怖した。

宇宙へ伸びる一筋の光。

その流れに導かれるように、ソロ・シップはぐんぐんと空へ上がっていった。

───イデの力は、唯達を何処へ連れて行こうというのだろうか……。
112 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/07/02(土) 01:43:40.61 ID:8pWdzZTz0
今日はここで終わりです。
最近忙しくて更新がかなり遅れてしまってすみません。
少しはペースアップしたいです。
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)[sage]:2011/07/02(土) 05:32:28.66 ID:jcUFSm4AO
乙です

ソードマダー
114 : ◆INjIt6nmxE2011/09/17(土) 16:27:23.03 ID:Eu/RKmG40
>>113
やっと宇宙に飛んで行ったので、もう少しでイデオンソードは出す予定です。

それでは本編です。



───

「あの光は重力波でも磁気圧でもない……! あの巨神が出すというのか!」

あまりにも巨大なエネルギーの流れが、宇宙へ突き抜けていく。

それは周りのものを呑み込むように広がり、緊急退避する艦の中で純はただ驚いた。

「うっ……!」

一際大きく閃光があがり、ソロ・シップはむき出しの地表を残して宇宙へ消えて行った。

───純はただそれを見送ることしかできなかった。

「……ロゴ・ダウの船はキャッチできるか?」

我に返った純は兵に怒鳴った。

「まるでついてきて欲しいみたいに時空が歪んでいます」

亜空間レーダーがソロ・シップの移動した部分を移すと、あの時と同じような時空の歪みが少しずつ移動しているのがわかった。

「よし、ドロワ・ザンで追跡にうつる。各員はグラム・ザンから移動。亜空間での戦闘も考えておけ」

「了解」

慌ただしく搭乗員の移動が始まる中、純は時空の歪みが移動する様を見つめた。

「これで我々も戦いやすくなりましょう」

ジルバルは残留した光の粒子を見つめて、得意げに言った。

「……よくもそのようなことが言える」

「は……」

純は無神経なジルバルにイライラしながら毒づいた。ジルバルは一体何がいけなかったのか全く分からなかった。

純はとんでもないものを呼び起こしてしまったのではないかと恐ろしくなっていたのだ。

(それをこの男、全く……)

ブリッジから人気も無くなりつつあり、依子が肩を叩いた。

「純、準備完了したわ。移動しましょう」

「わかった。お兄様と連絡は?」

「すでについているわ。増援の件も滞りなく進んでいるみたい」

「そうか……」

複雑な思いを抱いたまま純はドロワ・ザンに移り、ソロ・シップを追って亜空間飛行に突入した。
115 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/09/17(土) 16:28:34.46 ID:Eu/RKmG40
───

白い雲を突き抜け、青かった空は黒い宇宙へと変わり、揺れる船体は不気味な金色に輝いていた。

唯は激しく揺れるイデオンのコックピットで固く目を瞑って、レバーにしがみついているしかなかった。

───どれくらい経っただろうか。

大気圏突破の轟音も消えて、イデオンもソロ・シップも静かになった。

「……終わったの?」

唯がモニターで状況を確認すると、青い煌めきや人魂のような白い閃光がソロ・シップの周りを流れていた。

「何……、ここ」

見つめれば見つめるほど命の暖かさが感じられず、暗闇に吸い込まれそうだった。

それはまるで死後の世界のようで、とても不気味に感じられた。

「亜空間です……」

「あくうかん……?」

梓が驚いたような声で呟いたのを、唯は訳がわからず聞いてみた。

「ソロ・シップがDSドライブに入ったんですよ」

前にもDSドライブで亜空間に飛んだことはあったが、唯はこうして実際に見るのは初めてだった。

「唯達を降ろしてからDSドライブする予定だったんだが、ベスは何を考えているんだ?」

コスモがイライラしながらも、状況の確認のために計器のチェックに入った。

「何で急にこんなことになったの?」

「わかりません。もしかしたら、またイデが……」

梓は微かに震えているイデのゲージを見つめて、背筋に悪寒が走った。
116 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/09/17(土) 16:29:24.57 ID:Eu/RKmG40
───

ソロ・シップのブリッジは、DSドライブが始まった途端に慌ただしくなっていた。

「ハタリ、座標はどこになっているんだ」

「以前セットした星域間になっている。しかし、俺はDSドライブさせていない」

非戦闘員を降ろして宇宙へ脱出しようと計画していたソロ・シップは、イデの力で宇宙へ発進してしまった。

「制御はどうだ?」

「だめだ……。DSアウトも出来ないみたいだ」

ハタリがお手上げといった顔でシートに沈むと、ソロ・シップの操舵を諦めた。

「非戦闘員も降ろせずに……」

ベスは何もできないという無力感に襲われて、ため息と共に愚痴を漏らすとハタリと同じようにシートに沈んだ。

「でも、それがイデの意思なのかもしれないぞ?」

ハタリが重い表情で呟くと、ベスもそうなのだろうかと天井を見つめて考えてみた。

「人と人の輪を求めるなら善き力を示す。イデはそれを望んでいるというのか……」

異星人同士の乗り合わせるソロ・シップを守るために、イデの力が発現したというのだろうか。

そう考えれば確かに道理は通る。

だが、伝説にあるイデの力があの巨神にはあるというのか。

人の運命すら歪曲させる強大な力が……。

大きなうねりの中で、人々はただその流れに身を任せることしかできなかった。

イデの導く先に、何があるのかわからないままソロ・シップは指定した座標までDSドライブを続けた。
117 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/09/17(土) 16:30:43.28 ID:Eu/RKmG40
───

「ベスさん、右に何か見えませんか?」

あと少しで星域間へ到着するという時になり、、さわ子がレーダーに何か影を見た。

「右? 右舷、監視モニター目を放すな。総員……」

その時、目の前を覆い尽くさんばかりにブリッジに緑色の物体が現れた。

「て、敵艦!?」

機銃がすぐさま応戦すると、亜空間飛行の座標がずれたのか姿が見えなくなっていった。

「待ち伏せていた……? いや、そんな感じではなかったが……」

ハタリが慌ててソロ・シップの操舵を始めると、今度はコントロールを受け付けるようになっていた。

「そんなことよりベス、敵艦を振り切れないときは亜空間で戦闘することになるができるのか?」

「……パワーロスが酷くて、無理だな」

ベスがちらと見ると、ソロ・シップのエネルギーは通常よりはるかに消費が激しく今の速度で進むのが精一杯だった。

「どう戦えばいいんだ……!」

「ベス、唯達にはイデオンで待機させる。いいな?」

「やらせろ!」

戦闘準備を始めた途端、ソロ・シップがごろごろと雷のような音を立てて揺れた。

「重力干渉だ! 船が接近し過ぎると、こっちも引っ張られる!」

ソロ・シップは敵艦と距離を取ろうとエンジン出力を上げていったが、大した効果は現れず無駄にエネルギーを消費するだけだった。

118 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/09/17(土) 16:31:25.66 ID:Eu/RKmG40
───

その頃、純たちの乗るドロワ・ザンも慌ただしく状況確認と戦闘準備の声に溢れていた。

「右前方に四足をキャッチ!」

「接近し過ぎているぞ! 亜空間飛行の座標戻せ!」

緊迫した雰囲気が立ち込め、慌ただしく航路と亜空間レーダーの確認が取られた。

重い響きを伴った唸りが足元を揺らし、ドロワ・ザンが方向転換を行なおうとするがうまくいかなかった。

「だめです! 四足に引かれて、ドロワ・ザンがラン[ピザ]ー現象を起こしています!」

「この距離を保つのが精一杯です……!」

ソロ・シップに近づくたびに計器に異常が見られ、不気味な震えが足元を揺らした。

「時間も空間も歪める力が、あのロゴ・ダウの異星人の船にはあるというのか……!」

異常事態を告げる報告が飛び交うブリッジで、純は独りごちた。

そんな感傷に浸っている暇も無く、亜空間にゆらゆらと蜃気楼のように見え隠れするソロ・シップが急激に近づいてきた。

「脱出する! 対艦砲撃をしながら亜空間飛行を解除!」

純の号令によりドロワ・ザンの船体からいくつもの砲台がせり上がり、ソロ・シップに向けて砲撃が開始された。

「万一のことがあるから宇宙服を……」

「わかった」

ブリッジをジルバルに任せて、純は依子を連れて宇宙服を着用しにいった。

砲撃が次々とソロ・シップに閃光をあげさせるが、ダメージを与えられていないようだった。

イデオンが発生させるオレンジ色のバリアがミサイルや加粒子砲を受け流していたのだ。

純が宇宙服を着て、ブリッジに戻ってもソロ・シップへの攻撃はまだ続いていた。

「ミサイルを惜しむな! 撃って撃って撃ち尽くせ!」

あんな民間船にすら攻撃が効かないとは一体どういうことなのか。

純は攻めあぐねているドロワ・ザンにいらついた。

「純様、無線が入っています」

「構うな、目の前に敵がいる」

「しかし、純様を出せと……」

「……拡大しろ!」

イライラしながら命令すると、通信の音声が拡大されてブリッジに響いた。

『ドロワ・ザン、至急指定の座標に亜空間飛行を解除せよ! 聞こえるか……』

その声に、純は聞き覚えがあった。
119 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/09/17(土) 16:32:16.26 ID:Eu/RKmG40
───

「敵の通信らしいのを傍受しました! 翻訳お願いします」

ベスがヘッドフォンを受け取り、さわ子が録音した音声をリピートさせた。

「……亜空間飛行を解除するようだな。ハタリ!」

「総員に告げる! DSブレーキだ!」

ソロ・シップの操舵を始めると、今度は操作を受け付けた。DSアウトも可能だった。

「座標合わせはRK、15、26……!」

「よし、DSブレーキ、スタート!」

ベスの指示に従い、座標を固定して通常空間に脱出を始めた。

「……あの船を沈めなければ後が来るぞ!」

ソロ・シップの甲板にイデオンの準備は整っていた。あとは敵艦に特別な装備が無いことを祈るしかなかった。

亜空間の闇が晴れ始めて、通常空間に抜ける光の波がソロ・シップを包んで溢れていった。

120 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/09/17(土) 16:32:45.06 ID:Eu/RKmG40
───

通常空間に脱出し、ドロワ・ザンは全方位策敵を開始した。

「通信を送ったものがこの付近にいるはずだ。急ぎ探知しろ」

ぐらっ……!

「何だ……!」

周りには何も見当たらないが、ドロワ・ザンが急に揺れ出した。

「わかりません。なにか強力な磁場が発生しています!」

「全員、各員のパネルをよく見ろ!」

「ドロワ・ザンの周りに異変が認められるようだ」

次の瞬間、激しい振動と共に閃光が目の前を埋め尽くしていった。

「よ、四足……!?」

亜空間から脱出してきたソロ・シップがドロワ・ザンの真下に現れた。

「な、何故こんなことが……」

息を呑んで見守っていると、焦った兵士が攻撃をかけたがために至近距離の爆発が伝わってきていた。

「敵艦への攻撃をやめろ! こちらも巻き添えを食ってやられる!」

ジルバルが大声を張り上げて指示するが、目の前に敵を見据えてじれったい思いが溢れていた。

「どうするか……、ジルバル・ドク」

「白兵戦しかありません……」

「よし、白兵をかけて四足を乗っ取る! 前方のミサイルは巨神が発進しない様に狙いをつけろ!」

121 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/09/17(土) 16:33:30.69 ID:Eu/RKmG40
───

「敵が来るぞ!」

ドロワ・ザンから白い宇宙服をまとった兵士がわらわらと吐き出され、ソロ・シップに次々と取りついていった。

「女子供でも武器を持たせろ! 白兵だ!」

慌ただしく足音が響き、誰それ構わず次々と武器を持たされては応戦に駆り出されていった。

「使い方はさっきのでわかったな。後ろにいてくれればいいから!」

憂も和もライフルを持たされてコンテナを流用したバリケードの前に連れて来られた。

「本当に戦うの……?」

怯えた声で憂がライフルを受け取った。

「でなきゃ、やられちゃうわ!」

和が慣れない手つきでライフルの安全装置を外し、バリケードにしているコンテナから構えた。

憂は銃を扱うのは初めてではなかったが、状況が違う。

(……梓ちゃんに銃を突きつけた人が言うことじゃないけどね)

何とか落ち着こうと自嘲気味に考えてみるが、確実に近づいてくる戦闘の足音が心臓を跳ねさせた。

「来たっ!」

「はっ!」

気がつくと、目の前に火花が散り1人が床にごろりと倒れた。

「伏せろ!」

横の男に殴られるように床に伏せさせられると、頭の上に甲高い音が飛んで行った。

通路には敵兵が見え始め、こっちの意思に関係なく銃口を向けてきた。

憂も慣れない手つきでライフルを構え、引き金を引いた。

「くっ!」

火薬が爆ぜる音と共に肩を強く弾かれ、息が詰まった。

思わず目を瞑ってしまうが、そんなことをしても恐怖が薄らぐことは無かった。

乾いた音が響くたびに、確実に誰かが転がる音がする。

それが敵なのか、味方なのかはわからない。

ただ、全員が自分がそうならない様に必死に引き金を引き続けるしかなかった。
122 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/09/17(土) 16:35:26.58 ID:Eu/RKmG40
戦闘員がほとんどいないソロ・シップではあっという間に防衛線を崩され、侵攻を許してしまった。

バッフ・クランの兵士はソロ・シップのブリッジまで侵入していた。

「敵だ! 非戦闘員はさがって!」

「こんなところにまで……!」

激しい銃撃戦の音が周りの人間をおびえさせ、慄く声を呼んだ。

すぐさまベス達が応戦に出たが、流れ弾は戦う意思のない者を求めるのだった。

「っ! 先生!」

火花に怯えるさわ子を庇いつつ叫んだ瞬間、銃弾がベスの肩を貫いていた。

「……こいつ!」

振り向きざまにベスが投げた手榴弾が炸裂し、ブリッジに黒煙があがった。

「ベスさん!」

「大丈夫だ! 非戦闘員を逃がせ!」

転がっていたコンテナをバリケード代わりにし、手伝いをしていた人たちを守りつつ銃撃戦を演じた。

敵も味方も関係なく重い音を立てて床に転がっていけば、ただの少女たちには辛い光景だった。

慣れない銃を持たされ、人のうめきと薬莢の転がる音が耳に残っていくのだった。

そして、体には血の臭いが染み付いていった……。
123 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/09/17(土) 16:37:23.30 ID:Eu/RKmG40
いくつもの命が消えていく中、イデのゲージは不気味なほど生き生きと輝いていた。

「パワーが来た!」

「三機の連携システムはこれでいいのか?」

「発進する!」

ドロワ・ザンのミサイル攻撃に怯むことなく、待機していたイデオンはソロ・シップの甲板から滑りだした。

「でも、どうしたらいいの?」

『乗っ取られる前に、こっちを潰しちゃえ!』

「そうか……!」

律の言葉に従がい、唯は周りの兵士を吹き飛ばしながらイデオンを突進させた。

『ブリッジだ! ブリッジを狙え!』

「了解!」

反撃に出た機銃の攻撃も跳ねのけて、イデオンはドロワ・ザンに突っ込んだ。

イデオンの拳はいとも簡単に装甲を抉り、中からは火花と煙が溢れだした。

ミサイルもふんだんにばら撒き、爆発の炎がドロワ・ザンを焼いていった。

墜ちるのも時間の問題に見えた。

「沈んでちょうだいよ……」
124 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/09/17(土) 16:38:05.32 ID:Eu/RKmG40
目の前の船が崩壊するのを見届けると、その中から何かが飛んで行った。

「脱出カプセル……?」

「逃がすもんか!」

カプセルを追ってイデオンを直進させると、突如コックピットが揺れた。

「何!?」

続けて揺れが襲い、爆発の煙と音がイデオンを包んだ。

モニターに紫色の重機動メカが横切り、そのまま距離を置いて離れていった。

「紫色の重機動メカ……!」

紫色の重機動メカが大きく旋回し、腕の先に装備されているミサイルランチャーを向けて迫ってきた。

「弾幕を張る!」

迫るミサイルが次々と爆発し、重機動メカにも直撃したように見えた。

ゴオオオオォ!

「っ!?」

煙の尾を引いて、紫の機体が体当たりをかけてきた。

激しい衝撃音と、何かが爆ぜる音が次々と巻き起こり火花が降り注いだ。

「くはっ……!?」

その時、唯の脇腹に何か涼しい感覚が走った。

「大丈夫!? 唯!」

「だ、大丈夫……! て、敵から目をそらさないで……!」

激しい痛みがわき腹に熱と共に湧き起ったが、歯を食いしばって耐えた。

ミサイルで追撃をしたが、紫の重機動メカはそのまま離脱していった。

「逃がしちゃった……」

「そう……」

「唯、ケガは大丈夫?」

「大丈夫……。大丈夫……」

そう言う唯だが、目の前は霞んで次第に意識は遠のいていった。

「唯……。唯!」

梓が慌てて見てみると、パイロットスーツからは黒い染みが見えて、ヘルメットの中に赤い水滴がふわふわと漏れ始めていた。

「出血が酷い……! 医療班! 準備して!」
125 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/09/17(土) 16:38:48.76 ID:Eu/RKmG40
───

見たことのない紫色の重機動メカに連れられて、純は近くの小惑星に着陸していた。

近くには見たことのある船が来ており、味方であることが心を安心させた。

言われるままに外に出ると、見なれた姿が待っていた。

「……礼を言わなくてはならないようですね。お兄様」

そこに立っていた純の兄、淳に敬礼をすると同じように返してきた。

「巨神の戦力をあぶり出すために出撃が遅れてしまった。すまない」

「……口だけの謝罪など聞きたくありません。これだけの部隊を持っていながらその言葉は聞けませんな」

純は精一杯の皮肉をこめて毒づいたが、淳はどこ吹く風で淡々と続けた。

「以後の作戦では私が指揮を執る。いいな?」

「それは総指令が自ら下された命令ですか?」

「当たり前だ」

当然と言わんばかりに淳は鼻を鳴らした。

兵に促され、ドロワ・ザンに歩を進めながら横目に見ると淳は依子と何かを話していた。

(……バカ正直な兄か)

恋人を目の前にして、上機嫌なのが宇宙服越しにわかってしまった。

純はイライラした思いを抱いたまま、ジルバルを連れてドロワ・ザンのタラップを登った。

しかし、純がイライラしたのは一方的なものでしかない。

身近な他人に感じるコンプレックスから、一方的に嫌っているにすぎなかった。

それに気付くには、純はまだ若すぎた。
126 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/09/17(土) 16:39:58.41 ID:Eu/RKmG40

───

「傷口は塞ぎましたけど、O型の血液とは……。厄介なことになりましたね」

ラポーが保管していた血液がほとんど無くなっているのを見て、暗い声を出した。

「血液はもうないんですか?」

「さっきの戦闘で、負傷している人がたくさんいますから……」

このような事態を想定して少し前に自らの血液を輸血用に保管してはいたものの、唯の出血は酷かったのだ。

「あの、私の血は使えませんか?」

梓が耐えきれずに申し出た。

「そんな……。体のつくりは同じようだけど、異星人同士で輸血できるか……」

「お願いします。このままじゃ唯が……」

「……」

「調べてみる価値はあると思うな」

コスモも唯が苦しそうに呻くのを見かねて、ラポーに進言した。

「……わかりました。一応検査しましょう」

ラポーは血液のデータを照合しはじめた。

「異星人同士で、輸血なんて出来るかな……」

もはやこれしか手が残されていないが、梓は不安だった。

「思い付きだけで言ったわけじゃないが、信じてみたいこともある」

コスモは軽く肩を叩いて、結果が出るのを待った。

コンピュータが検査の結果を表示すると、ラポーは驚きの声をあげた。

「コスモ! あなたの血液を貰います。急いで!」

「俺の? わかった!」

コスモはすぐさま輸血の準備に向かった。

「コスモの血が使える……! よかった……!」

結果にほっとした梓は、邪魔にならない様に医務室を出て行った。
127 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/09/17(土) 16:44:39.16 ID:Eu/RKmG40
消毒を終えて、コスモは唯の横に横たわった。

「唯……」

コスモの腕に針が刺され、血液が抜かれていった。

それはするすると機械に溜められて、唯に流し込まれていった。

……。

……。

……。

ゆっくりと、温かな流れが唯の体を満たしていき、体はどこかへ溶けて行きそうに気持ちが良かった。

唯はただその温かさに身を委ねて漂った。

───その時、何かが聞こえた。

「……誰?」

凛とした響きを持って、唯の心に語りかける何かがあった。

「私に話しかけてくるのは、誰……?」

……。

……。

……。

巨神めぇ……!

うああああああぁ!

死ぬかよおおおおぉ!

激しい怒りと、戦いの記憶が流れていた。

辛い。どこまでも辛い記憶だった。

人の呻きと、絶望と、死への恐怖と……。

運命に、神に逆らう激昂の荒波に立ち向かってたくさんの命が流されていった。

その中でも一際激しく、疲れ切った命があった。

自分の存在を賭けて戦い、人の業の深さに嘆き、最後まで抗い続けたのだ。

「これは……」

───幾千、幾万、幾億の意思の集合体たる我……。───

───我、自らを守り生かすために新たなる力を……。───

「そのために私達を戦わせるの……?」

───新たなる力の為に……。我は、汝らを……。───

「私達は、生贄じゃないんだ! 自分で示せ……!」

───善き力を求めよ……。さすれば、汝らを……。───

そして、唯の意識はふたたび闇の中へと落ちていった。

128 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/09/17(土) 16:50:22.63 ID:Eu/RKmG40
今日はここまでです。

けいおん!の原作でやっと純の兄がでてきました。
この話で出そうと思ったときに名前を予想して「敦」と勝手につけたのですが、原作では「敦司」となっています。
名前を変えようかと思ったのですが、途中で変えるのもおかしいので「敦」のままで行こうと思います。
ご了承ください。
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/09/17(土) 17:03:10.90 ID:TdZFfyeuo
乙!
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]:2011/09/17(土) 23:54:56.27 ID:Fi5rsla40
>>1乙 久々更新キテルワー てか、ガンガ・ルブカッコいいよね 最初のうちだけ
131 : ◆INjIt6nmxE2011/11/19(土) 00:33:51.81 ID:8ADrhUlw0
どうも。更新が遅れている>>1です。
SS速報のローカルルールが変わったのを知って慌てて書きあげたのでちょっと変かもしれません。
2か月で次の話がまとまるかとっても不安です。でも、なんとか書き上げたいと思います。
それでは、本編です。




ソロ・シップの奥に不自然に佇む桜が丘高校は死傷者で溢れかえり、血と消毒液の臭いが充満していた。

「本郷さん、無事でしたか」

「あぁ……、何とかな」

頭の包帯を巻いていた本郷に、腕の傷を消毒し終えたベスが歩いてきた。

「ロゴ・ダウでみんなを降ろせていたら……」

「今さら言っても仕方がない。他の方法を考えよう」

項垂れるベスを励まそうと声をかけるが、本郷もこの状況を見てしまうと楽観的な考えだと認めざるを得なかった。

ため息をついてみても、そこから入り込んでくる臭いがさらに2人気分を落ちこませた。

2人はそれを振り払おうと医務室を出ていった。

「とりあえず、どこかの惑星で休めないか? ベス」

「そういきたいが、過激派に見つかるのはおもしろくない」

ブリッジに上がると空気にはまだ焦げ臭さが漂っており、床には様々な汚れがこびりついていた。

「ハタリ、近くにソロ・シップを隠せるような場所は無いか?」

「ちょっと待ってくれ」

ハタリが全天宇宙図を出し、周辺の星々のデータをあげた。

「大きい小惑星のようなものがある。あそこならソロ・シップも隠せるんじゃないか?」

「衛星のようだな。付近にバッフ・クランもいないようだ」

かなり大きなガス惑星を中心にした衛星のひとつのようで、月によく似ていた。

「イデオンも本格的に調べなくちゃならないしな」

「そうだな」

本郷の言うとおり、イデオンには何らかの力が秘められているように思えた。

それが伝説のイデの力ならば、制御する方法も調べなくてはいけない。

「あの衛星に乗りつけるそ。各員は準備してくれ」

「了解」
132 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/11/19(土) 00:35:54.65 ID:8ADrhUlw0
───

淳はゲロワ・ザンの指令室で、純の製作した巨神の報告に目を通しながら首を軽く回した。

「イデの巨神……、か」

バッフ・クランにはいくつかの伝説があるが、その中でもイデは異質の存在だった。

「イデの力をつくったのは、巨神という伝説もある。あれ自体は伝説の巨神ではないのかもしれない」

淳は伝説をひも解くほど興味があるわけではなかったが、こうも事実が重なると嫌でも興味が湧くというものだ。

「まぁ、どちらにせよ同じことだ。相手が重機動メカのようなものであれば対策も立てやすい」

「そうはいいますが、あれは普通ではありません」

純は過去の自分を振り返り、淳にくぎを刺した。

「そうかな? あれには重機動メカのように人が乗り込むと聞いている」

「はい。白兵戦を仕掛けた時に兵が見ております」

「ならば、これが役に立つかもしれん」

淳はモニターに魚のような形をした機体を出した。

「このメカは?」

「バルメ・ブラムだ。これは2機に分離してゲル結界を発生させて、中の生物の脳細胞を破壊する」

データを見る限りとても巨大なメカのようで、巨神の2倍以上はあった。

「いくら巨神でも、ゲル結界には持つまい」

「兄上。お願いがあります」

「何だ?」

「このバルメ・ブラムで巨神と対決させてください」

そのセリフに淳はにやりとした。

「いいだろう。お前の好きなようにやってみるといい」

「はっ」

汚名返上の機会を与えられて、純は意気込んで敬礼した。淳はそう思った。

しかし、純の心には別の思惑が渦巻いていた。

(イデ……。無限力……。あれは本当に存在している……)

幾度となく戦ってきた純だからこそ感じられる巨神の異様な感覚は、とても恐ろしいものに思えた。

伝説の力を封じ込めた巨神。あの力はまさしくイデの力だった。

(ならば、あれは刺激してはならないのではないか……)

反射的に口走った自分に呆れつつも、純はイデの力を確かめるべく出撃する決意を固めた。
133 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/11/19(土) 00:38:09.96 ID:8ADrhUlw0
───

衛星に身を隠したソロ・シップでは、イデの力の調査を行なっていた。

分離したイデオンのメカの周りに様々な計測機器がとりつけられて、スーパーコンピュータ、グロリアとの連携でデータの解析を行うのだ。

「伝説のイデの力……。本当に存在するのなら調べておく必要がある」

ベスの言うとおり、イデオンという記号を発するこのメカはイデの力を発現させるものだとしたらあまりにも危険すぎた。

今まで何とか制御できたものの、突発的なイデの力の発現が見られるようになっている。

伝説にあるような無限力ならば、全てを滅ぼす悪魔の力になりかねない。

「梓、ゲージはどうだ?」

「戦闘中のような激しい光は見られませんけど、反応はしています」

コスモもAメカのコックピットから配線を回して、イデの力を観測しようと計器をいじっていた。

「しかし、スーパーコンピュータに無限力なんてわかるのか?」

律が大掛かりな計器を見つめながらつぶやいた。

「でも、これぐらいしか解析する方法が無いですよ」

「そりゃそうだ」

律は計測の邪魔にならない様に端のほうへより、澪と一緒に経過を見守ることにした。

コスモは不定期に流れるエネルギーを観測していたが、眺めているうちに気になることがでてきた。

「なぁ、ベス。これって……」

「何だ?」
134 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/11/19(土) 00:41:54.23 ID:8ADrhUlw0
コスモが示したエネルギーの流れは、増減を繰り返して一定の波形を描いていた。

それは、人間の心拍によく似た波形を持っていた。

「調査で人が入りはじめてからエネルギーが増えているんだ」

「イデは、人の意思をエネルギーに変換するもの……、ということか?」

「そう考えられないか?」

「イデが知的生命体の意思に反応するというのは、こういうことなのか……」

「もし、イデが人の意思が集中する場だとすると、エネルギー係数は……」

コスモはグロリアと接続している端末にデータを入力し始めた。

律と澪も固唾をのんで見守っていると、遂にモニターに数字が現れ始めた。

99.999999999999999……∞

「無限……!?」

「力の場として存在しうるというのか……!」

グロリアのはじき出した結果に、澪も驚いて言葉を失った。

「……」

「どうした? 澪」

律が心配そうに声をかけると、澪はわずかに身を震わせた。

「何だか、怖くて……」

「そうだな……。私だって、怖い……」

震える澪の体を抱いて、律も胸の内を明かした。

「唯だって、あんなケガをしてさ……。怖くない方がおかしいよ」

「この力は私たちを救う力になるのか……?」

澪が不安げに聞いた。

「あるいは私たちを滅ぼす力になるか……」

律もこの周りに漂う見えない力の圧迫感に、息が詰まるような気がした。

「まだまだ調べなくちゃいけないことがある。コスモはとりあえず作業を続けてくれ」

「わかった」
135 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/11/19(土) 00:44:35.93 ID:8ADrhUlw0
ベスがコックピットから出ていくと、入れ替わりに憂が入ってきた。

「あの、頼まれていたモニター持ってきました」

「ありがとう」

コスモは手際よくモニターを繋ぐと、今までのデータを確認しつつ記録を始めた。

「憂ちゃんも大変だな」

「いえいえ。私なんて、澪さんとかと比べたら全然……」

憂は唯のことを思い出して暗い顔になってしまった。

「……唯はどうなんだ?」

「目を覚まして、今は横になって休んでいます」

「そっか。憂ちゃんもなるべくそばにいてあげたほうがいいよ」

「そうだぞ。他人を心配させていることが唯は一番堪えるからな」

「……ありがとうございます」

憂は、澪と律のやさしさに嬉しくなった。

ごおぉ……!

「な、何!?」

その時、重々しい振動と爆発音がコックピットを揺らした。

「攻撃!?」

立て続けに攻撃の振動が襲い、全員が立っているのがやっとであった。

慌ててコスモが通信パネルをつけて、ブリッジと連絡をとった。

「ベス! 敵襲か!?」

『そうだ! イデオンメカ各機、出撃してくれ!』

「了解! みんな、行くぞ!」

「憂、これを持ってソロ・シップに戻って」

梓は今までのデータを収めた記憶装置をアタッシェケースにしまうと、憂に渡した。

「わかった。頑張ってね!」

憂はそのままAメカのコックピットから出て行った。
136 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/11/19(土) 00:48:09.89 ID:8ADrhUlw0
「イデオ・バスタ、発進準備」

紬がイデオ・バスタの計器をチェックし、発進準備を整えているとヘルメットの通信機から声が聞こえてきた。

「ム、ムギちゃん、待って……!」

「ゆ、唯ちゃん! 寝ていたんじゃないの!?」

「そんなこと、言ってられないよ……」

ずきずきと痛むわき腹を堪えて、唯はなんとかイデオ・バスタに乗り込んだ。

「ミサイルの発射ボタンぐらいは押せるしね……」

「でも……」

「寝ていても、怖いだけだから。だから……」

「……無理しちゃだめよ」

「わかっているよ」

「じゃあ、行くわよ! 発進!」

敵機が次々と閃光を上げて砲撃が迫る中、三機のイデオンのメカは飛び立っていった。
137 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2011/11/19(土) 00:49:39.47 ID:8ADrhUlw0
今日はここまでです。

2か月でなんとか話をまとめられるようにがんばります。

そろそろイデオン・ソードもでるよ!
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区)[sage]:2011/11/19(土) 21:11:45.64 ID:x+OPW6Neo
>>137
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関東・甲信越)[sage]:2011/11/19(土) 22:29:32.23 ID:Jvf0aHMAO
イデオンソードだと……



グレンキャノンもだ!
140 : ◆INjIt6nmxE2012/01/04(水) 21:38:45.62 ID:HcQdNpMH0
あけましておめでとうございます。
正直こんなにも長い話になるとは予想していませんでした。
しかし、こんな話にも付き合ってくれる人がいてとてもうれしいです。これからもがんばります!

それでは、本編です。








「総員、ソロ・シップに退避だ!」

「ほら、急いで!」

イデオン、ソロ・シップに向けて砲撃が迫りくる中を憂は作業員と共に逃げていた。

衛星の重力が弱いせいか跳ねまわるように移動するしかなく、宇宙になんて出たことのない憂にはあまりにも辛い状況だった。

「きゃあああぁ!」

「第17番ハッチ! 収容していない人がいる! 急げ!」

宇宙服に備えられている通信用のスピーカーからは、誰かの悲鳴や避難を促す声が溢れてさらに焦りを掻きたてていく。

体の周りが爆発で震える度に足が竦んでしまったが、それでも憂は力強く大地を蹴って跳んだ。

死にたくない。ただそれだけが憂を突き動かしていた。

目の前のハッチで差し伸べられた手を掴もうと、憂は勢いをつけて跳び上がった。

「っ!?」

その瞬間。

一瞬の閃光と、体中を殴られたような衝撃が走り、憂は悲鳴を上げる暇も無く吹き飛ばされた。

ソロ・シップに砲撃が着弾したのだ。

だが、そんなことを知る由も無く、吹き飛ばされた憂はそのまま意識を失ってしまった。
141 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2012/01/04(水) 21:39:46.86 ID:HcQdNpMH0
───

三機のイデオンのメカが戦場を駆け抜け、それを取り囲むように小さな閃光が宇宙を走っていった。

「ゼロ・ズオロか……!」

モニターに映る小さな光が動き、ミサイルの大群が縦横無尽に迫ってきた。

初弾を避けつつ牽制のミサイルをばら撒き、イデオンのメカは左右に散開していった。

「ミサイルが当たらない!?」

「ムギちゃん、もっと右に! きゃああぁ!」

宇宙での本格的な戦闘なぞ経験したことのない唯達は、敵からすれば格好の的であった。

どう動いていいかわからずおろおろしている隙に死角から回り込まれ、次々とミサイルが炸裂していった。

「うああっ!? 律、もっと左に!」

「わかってるけど、うまくいかない!」

反撃の機会をうかがうためになんとかバリアを利用してミサイルの上へ飛びだした。

「くそっ! どうする!?」

「イデオンで一気に叩きましょう! これじゃあやられるばかりです!」

梓は合体の為にイデオ・デルタに先陣を切らせた。

「よし! 各機、軸合わせ!」

バリアを展開して各メカが一直線上に並ぶと、ドッキングサインが現れ変形が始まった。

襲いかかるミサイルの妨害を跳ねのけて、三機のメカはイデオンに合体を終えた。
142 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2012/01/04(水) 21:40:38.64 ID:HcQdNpMH0
「状況は!?」

「ゆ、唯! 乗っていたんですか!?」

イデオ・デルタのコックピットに入ってきた唯の姿を見て、梓は驚きを隠せなかった。

「だめじゃないですか、寝ていなくちゃ……!」

「大丈夫だから……」

「足元ふらついているじゃないですか!」

ふらふらとする唯の体を支えて、梓は唯を座席に座らせた。

「ごめんね、あずにゃん。でも、私はやらなくちゃ……!」

唯は気合を入れ直して、イデオンの操縦を始めた。

「まったく、唯は肝が据わっているというか何と言うか……」

コスモはすっかり感心してしまって、ため息を漏らした。

「コスモもごめん……。うわっ!」

「唯、押されているぞ!」

「わ、わかっているって!」

モニターにはゼロ・ズオロが縦横無尽に飛び交い、ミサイルが次々と閃光を上げて炸裂した。

唯は慌ててイデオンの腕を振り回し、出来るだけ敵機を振り払おうとしたが無駄に攻撃を受けるだけだった。

唯のヘルメットには焦る全員の声が飛び交い、状況が悪い方向へ流れているのが嫌でもわかった。

「律、手足のミサイルのコントロールがうまくいかない!」

「どこか配線がやられたのか?」

「澪ちゃん、足のミサイルは私がやるわ!」

「ムギ、頼む!」

群がる敵機を寄せ付けまいと、標準を覗きこむ暇も無くがむしゃらに弾幕を張り続けた。

「こっちだってパワーが上がっているんだ! させないよ!」

バリアを利用しつつ、唯は敵を正面に集め始めた。

「ミサイル一斉発射!」

「グレンキャノンもだ! 行けええぇ!」

唯はイデオンの全ての砲門を開き、手当たり次第にミサイルやグレンキャノンを乱射した。

宇宙に無数の放射線が伸びて、敵機めがけて次々と爆発を生んでいった。


143 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2012/01/04(水) 21:41:55.16 ID:HcQdNpMH0

───

「うまくおびき出してくれたか……」

バルメ・ブラムのコックピットから戦闘の光を見つめて、純は計器のチェックを済ませていた。

「先発隊をどけさせろ! ゲル結界を張るぞ!」

「了解」

バルメ・ブラムで戦闘区域に突入すると、ゼロ・ズオロが飛び交い巨神の周りには爆発の光が広がっていた。

「バルメ・ザン、ブラム・ザン分離します」

「ゲル結界、準備!」

バルメ・ブラムは二機に分離すると、そのまま巨神に直進していった。

ゼロ・ズオロが巨神から素早く退避したのを確認し、2機は巨神を挟むように取り囲んだ。

「巨神を捕らえました!」

「ゲル結界、オン!」

ヴォオオオオォ……!

ジルバルが出力を上げると、巨神を押しつぶすように2機の間に強力なエネルギー力場が発生した。

「巨神が動きを止めたぞ」

「予想以上の効果があるようだ」

巨神はゲル結界の中で悶え苦しんでいるようだった。

144 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2012/01/04(水) 21:43:16.64 ID:HcQdNpMH0



重機動メカから発せられたエネルギー力場に捕らえられ、イデオンに乗っていた全員に激しい頭痛と吐き気が襲った。

「うああああぁ!」

「う、うおお……! あ、頭が……!」

抵抗しようにも頭全体が抑えつけられるように痛み、じりじりと目の奥が熱くなってどうすることもできなかった。

次第に胸の奥から気持ち悪い感じが湧き上がり、吐き出すものも無くさらに苦しくなっていく。

計器は訳のわからない表示を示し、イデのバリアをもってしても事態は好転しなかった。

「く、うあぁ……!」

バチッ! バグンッ!

イデの力も限界に近付き始め、制御するBメカには多大な負荷がかかりところどころ爆発が起こった。

「ああああぁ……!」

「うわああぁ!」

激しい火花と破片がBメカのコックピットに降り注ぎ、中は激しく燃えて命を奪おうと炎が荒れ狂った。

「律っ……!」

「だ、大丈夫だ! それより敵を……!」

この状況を打開するにはイデの力を調整する必要がある。だから、律はここを離れるわけにはいかなかった。

「こんなことで、私たちの運命を変えられて……、たまるかっ……!」

しかし、その決意も空しく爆発の炎と敵の攻撃によって混濁する意識の中に埋もれていった。

145 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2012/01/04(水) 21:44:39.73 ID:HcQdNpMH0


「何だ、巨神が動いているぞ!」

先程までとは打って変わって、巨神の体に少しずつ力が戻り始めていた。

瞳には力の漲りを感じさせる光跡がいくつも走り、ゲル結界に抗おうと体が震えた。

「パイロットが悶死をすれば、巨神が手に入る! 出力を上げろ!」

純の命令でジルバルがゲル結界の出力を上げていったが、巨神の力はそれすら跳ねのけて増大していった。

「だ、だめです! 巨神が……!」

そして、巨神は力の目覚めと共に咆哮をあげた。

オオオオオオオオオオオオオオオォ……ン!

イデのゲージは激しく光り、そのエネルギーがイデオンに新たな力を与えた。

きいいいいいいいいいぃ! ……あああああぁ! ……おおおおおぉ!

人の悲鳴か。金切り声か。悲しげな叫びが宇宙を裂き、漲るイデオンの両腕から2本の閃光が迸った。

ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!

それは閃光の剣のように鋭く、そして破壊の意思を持ってイデオンの腕から溢れだしていた。

閃光の剣はとめどなく伸びていき、その輝きは遠くにいたソロ・シップからも見えた。

「何だあれは……?」

「あの真っすぐに伸びた光は……!」

「イデオンの、輝き……!」

口々に慄く声が漏れていき、観測用に取り付けられたソロ・シップのイデのゲージも呼応するように生き生きと輝きを増していった……。

146 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2012/01/04(水) 21:47:05.32 ID:HcQdNpMH0



「……と、止まった?」

イデのエネルギーが上がるにつれてバリアも強くなり、頭を痛めていた攻撃を緩和していった。

何とか意識を取り戻し、全員が辺りを見渡す余裕が出てきた。

『な、なに……、あれ……』

『エ、エネルギーが、腕から放出している!?』

紬の驚いた声に唯が外を見ると、イデオンの腕から2本の閃光が宇宙を突き刺すように伸びていた。

「……これ、ビームなんですか!?」

梓はイデオンの腕から伸びる閃光の剣を見つめて、溢れる力に圧倒されてしまった。

「エネルギーの束なら……! 唯、振り回してください!」

「う、うおおおおおぉ!」

唯がイデオンの腕を動かすと、閃光の剣もそれに合わせて漆黒の宇宙を蠢いた。

ピギャアアアアアアアアァン!

閃光の剣が左右の重機動メカに接触すると、奇妙な音を立てて抵抗なく機体を切り裂いていった。

爆発で飛び散る破片すら溶かして、光の渦の中に溶けていった。

重機動メカは両断された所から火花が散り始め、程なくして炎に包まれてあっという間に崩れていった。

「何て力だ……!」

イデオンの腕から伸びていた白濁光は、僅かなきらめきを残して消えていった。

「はぁ……、残るは戦艦だけだ!」

唯は遠くに光る敵の船にイデオンを向かわせた。

147 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2012/01/04(水) 21:53:31.81 ID:HcQdNpMH0


───

ゲロワ・ザンのブリッジから戦闘を見ていた淳に、大きな爆発の光の中から現れる赤い巨神の四肢が見えた。

「下がれ! 巨神の力があがっているように見える! あれは……!」

予想外の事態に淳は咄嗟に叫んだが、それよりも速く閃光の剣が再び宇宙を切り裂いていった。

ウオオオオオオオオオオオオオオオオオォ……ン!

「うああっ!」

伸びていく閃光の剣はわずかにずれて、ゲロワ・ザンの横を通り過ぎた。

閃光の剣はそのままドロワ・ザンに直撃し、易々と両断していった。

激しい閃光と衝撃音がブリッジを揺らし、撃沈していくドロワ・ザンの残骸がばらばらと降り注いできた。

「この場にいるには危険だ! すぐさま現空域を離脱しろ!」

閃光の剣が収まるのを見届けながら、ゲロワ・ザンは亜空間飛行に移り飛び立っていった。

「あんな光の報告は無かった……! 巨神があんな光を出すというのか……!」

イデの力の報告は受けていたものの、重機動メカ程度の性能しかないと考えていた淳は唇を噛んだ。

「純も、依子も……! 落とされたというのか……!」

身内の命を失うことによって、淳は初めてイデの力をその身で感じたのだった。
148 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2012/01/04(水) 21:55:22.39 ID:HcQdNpMH0


何とか窮地を脱したイデオンだが、その損傷は激しかった。

特にBメカは爆発の跡が痛々しく残っており、火花がいまだに散っていた。

「りっちゃん! 澪ちゃん! 大丈夫!?」

唯が必死に呼びかけると、通信用モニターには砂嵐ばかり映っていたが微かに律の声が聞こえた。

『……ゆ、い?』

「りっちゃん! 大丈夫なんだね!?」

とりあえず律の無事を確認して、唯はほっと一息ついた。

『澪……。澪……?』

律のか細い声が澪を呼び続けるが、澪の声は一向に聞こえてこなかった。

「りっちゃん、澪ちゃんは!?」

焦りを抑えられずに語気を荒げて問いかけると、律のわなわなと震える声が聞こえてきた。

『そんな……、澪……!』

その言葉を最後に、スピーカーから律の声もしなくなってしまった。

「……」





───律の目の前には、変わり果てた澪の姿があった。







149 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2012/01/04(水) 21:57:49.44 ID:HcQdNpMH0



───

脱出した純たちはカプセルで母艦を探していた。

「早くドロワ・ザンに合流しなくては……!」

レーダーで母艦を探してみたが、どこにも反応が無かった。

とりあえず戦闘宙域の辺りを飛びまわってみたが、やはり見当たらなかった。

ガクンッ!

「どうした!?」

順調に飛んでいたカプセルが急に変な音をたてた。

「コ、コントロールが利きません!」

「何!?」

そのまま脱出カプセルは揺れ始め、激しい音を伴って地表に墜落した。

「純様っ……!」

「だ、大丈夫だ」

カプセルは止まったようだが、目の前の計器に火花が散りはじめた。

「早く脱出しろ!」

純がなんとかハッチをこじ開けると中から炎が噴き上がった。

あっという間にカプセルから閃光が上がり、純の体は突き飛ばされていた。

「ぐあっ……。くっ……」

銀色の砂にまみれながら転げ回り、背中をどこかに激しく打ちつけた。

「はぁ……、はぁ……」

落ち着いたところで見渡してみると、脱出してきたカプセルは多少の残骸を残して無残な姿になっていた。

「そんな……」

純は救いを求めるように戦闘宙域を見上げてみたが、やはり母艦の姿は無かった。
150 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2012/01/04(水) 21:59:48.05 ID:HcQdNpMH0
通信機も繋がらず、母艦の信号も無かった。

「沈められたというのか……」

広大な宇宙のなかでたった独り。

体からみるみるうちに力が抜けていくのが感じられた。

純は行く宛もなく、死に場所を求めるように見知らぬ星の地表を歩いた。

「……」

”虚しい”という感覚は、こういうことを言うのだろうか。

なにも無い。ただ、命をすり減らすだけの無駄な時間が過ぎていく。

それでも、純はそれ以上の恐怖を感じていた。

イデと言う運命すらねじ曲げる巨大な力を……。

「……?」

しばらく歩いていると、何か大きなものが落ちているのに気付いた。

近寄ってみるとそれは宇宙服だった。

注意深く近寄ってヘルメットを覗いてみると、かすかに瞼を震わせる少女の顔があった。

(……生きている)

宇宙服はバッフ・クランのものではなく異星人が使用しているものらしかった。

ふと見ると、その少女は腕に頑丈そうなアタッシェケースを握っていた。

「……」

純は、そのアタッシェケースを開けてみた。

中にはバッフ・クランでは見なれた記憶装置が入っていた。丁寧にも表示するためのモニターも付いており、何かのデータが入っていた。

純は記憶装置をモニターに入れ、中身を呼び出した。

「……これは」



151 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2012/01/04(水) 22:09:40.81 ID:HcQdNpMH0


───

憂は肌寒さを感じて、目を覚ました。

「いっ……! ううぅ……」

体中に痛みがあったが、動けないほどではなかった。

意識がはっきりとしていくにつれて、自分がまだ生きていることを実感できた。

わずかに体を起してみると積み上げられたコンテナが目についた。

いったいここはどこなのだろうと見渡そうとすると、憂は何かの気配を感じた。

「痛む?」

ふいにかけられた言葉に憂はどきっとした。

振りかえると、見覚えのない人物が憂を見下ろしていた。

しかし、憂はその顔をどこかで見たような気がした。

「あなた……、バッフ・クラン?」

「……そうだ。平沢憂」

目の前の人物───純は正体がばれたにもかかわらず毅然とした態度で言った。

「わ、私をどうするつもりなの……!」

「見捨てるつもりなら助けたりしない」

力強く、だが優しく口を押さえて、純は怯える憂を諭した。

「ここはあなた達の船の中だ。物資搬入に紛れて潜り込んだ」

「……船で何かするつもりなの?」

憂の問いかけに純は首を横に振った。

「……イデに関するデータを見せてもらった」

憂は足元に転がっていたアタッシェケースを見て、純の真剣な瞳に戻した。

「私は今日まで巨神を見てきた。そして、あんなものを見れば伝説というのも信じてみたくなる」

「それが……」

「……それがどれだけ自分勝手な事かは分かっている。でも、私はそれすらも忍んでいいと思っている」

憂の口から手を放して、純は素直に話し始めた。

「巨神の力が、イデとは何かを知りたい」

「知って、どうなるの……」

「イデが善き力の示しならば見たい!」

純の言葉に嘘は無かった。そして、その言葉に含まれている恐怖を憂は痛いほど実感していた。

「あなた方が善き力なのか。バッフ・クランなのか。ひょっとすると共に善きものかもしれない。悪しきものかもしれない」

「……」

「それを、私は知りたい!」



152 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2012/01/04(水) 22:11:51.86 ID:HcQdNpMH0
今日はここまでです。
2か月でまとめるというのはとても辛いです。もしかしたら次は間に合わないかも……。
153 :以下、あけまして[sage]:2012/01/05(木) 04:04:51.99 ID:gB/W2UfNo

次ものんびり待ってるから、ゆっくり書いてくれておk。
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県)[sage]:2012/01/05(木) 22:05:10.23 ID:xoXxliN0o
こんな良スレを今まで見つけられなかったなんて悔しいビクッビクッ
期待してるよ!
155 : ◆INjIt6nmxE2012/03/03(土) 23:13:26.48 ID:hibiqpRN0
ぎりぎり間に合ったー!
待っていた人(いるのか?)お待たせしました。







3年前のことだった。

とある星で、かつてそこで生きていた異星人が残したと思われる遺跡が発見された。

我々が6度目に遭遇した未知の文明だった。

それを作り上げた異星人を第六文明人と名付けて、我々は遺跡の調査を行なった。

すると、地底から巨大な船のような物や、武器と思われる大砲が発見された。

異星人の遺跡が発掘されことも驚きだが、発見された星の驚きのほうが大きかった。

その星は、イデの伝説に関する星だったのだ。

実在する星が伝説に登場することはよくある。しかし、イデの伝説となると話は変わる。

宇宙を滅ぼすかもしれない無限力を秘めているのがイデなのだ。

そして、その星から発見されたものは伝説にあったイデの力を発動するものによく似ていた。

発掘された遺跡がイデの力を発動させるものならば、世紀の大発見である。

これがきっかけで、バッフ・クランはイデの力を手に入れようと宇宙の捜索を始めたのだった。

「それが……、ねぇ……」

純は天井を見つめながら自嘲的に呟いた。

どんな事情があったら敵の船に潜り込むようなことをしてしまうのだろう。

自分の意思か。イデのなさしめる業だと言うのか。

「はぁ……」

ひんやりとした部屋の空気に徒労感が漏れた。
156 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2012/03/03(土) 23:18:19.67 ID:hibiqpRN0
ガチャン。

素早く開いたドアに反応して、純はベッドの横に身を隠して様子をうかがった。

「……」

ドアが閉まり、人影は徐々に憂の姿を浮かび上がらせていった。

憂は純が部屋にいることを確認すると、手に持っていたものを差し出した。

「ご飯……、持ってきた……」

差し出された憂の手には、小さなランチボックスがあった。

「あ、ありがとう……」

思いもよらないことで狼狽してしまったが、純は素直に憂の好意を受け入れた。

毒を盛られている可能性もあったが、純はそんなことを疑いもせずに差し出されたランチボックスを受け取り食べ始めた。

「……」

そんな純を、憂はただ見つめていた。

見た目は自分と同じ年ぐらいで物腰も柔らかいが、どこか固くて鋭い殺気のようなものが喉元を圧迫しているように感じられた。

「……どうした?」

「えっ、あの……、ごめんなさい……」

息を詰まらせている憂を心配して純が問いかけると、よほど驚いたのかぴくりと跳ねた。

「……おかしい?」

「そんなこと……」

少しとぼけた感じに言ってみたが、憂の緊張は解けることは無かった。

(当たり前か)

純はもじもじとしている憂を横目に手早く口の中に食べ物を放り込んだ。

しかし、純はひとつだけわからないことがあった。

───なぜ、憂は自分を匿いこんなにもよくしてくれるのか。

敵を目の前にして落ち着かないのはわかるが、そうまでして自分のことを匿う理由が見当たらなかった。

(私にとっては好都合だけど……)

奇妙な雰囲気の中で、純は事の成り行きに身を任せるしかなかった。
157 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2012/03/03(土) 23:27:20.10 ID:hibiqpRN0
───

「状況は?」

「調整は済んでおります。いつでも出撃できます」

その報告を聞いて、淳は満足げに資料に目を通し始めた。

「スプリ・ガンか。ようやくだな……」

バルメ・ブラムが沈められて、

遺跡の守り手。発掘した兵器にそのような名前をつけるとは、父上にもかわいいところがあるものだと淳は思った。

だが、それはもう一つの可能性を抱かせた。そして、それを考えれば何かしらの意図が見えてきた。

「……何かしらの動きがあった、ということか」

父上を変えさせた何か。淳は最近噂になっているオーメ財団を思い出した。

バッフ・クランの中でも屈指の財力を持ち、最近では重機動メカなどの開発費を提供してくれている。

おおかた、スプリ・ガンに搭載されている波導ガンの発掘にも手を貸していたのだろう。

父、公三はイデの力を手に入れ、バッフ・クランの頂点に立つズオウ大帝打倒を目論んでいる。

しかし、未だにイデの力は異星人の手の中にある。

先日送った閃光の剣についての報告も後押しして、オーメ財団の総裁と手を組ませる要因になっていたのは明らかだった。

「しかし、淳様。波導ガンとはいかなるものなのでしょうか」

「私も数回テストをしたところを見ただけだが、巨大な重力震を引き起こす大砲だ」

スプリ・ガンに搭載されている波導ガンは、巨神と同じように発掘された謎のメカニズムであった。

見た目は巨大な大砲のようで、重機動メカが持って使用できるほどの大きさであった。

スプリ・ガンはそれを搭載させた急造の重機動メカである。

急造と言ってもその威力は絶大で、試射では竜巻のような重力震を引き起こし小惑星帯を消滅させた。

「伝説のイデの力を発現する大砲。その力を発現する巨神。どちらが強いかですね……」

「そうだ。弔い合戦とは言いたくないが、力を貸してほしい」

「淳さまの心の痛まれよう、お察しします」

「部隊を編成しろ。出撃する!」

「はっ!」
158 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2012/03/03(土) 23:31:42.81 ID:hibiqpRN0
すみません。>>157の文が一部消えてしまっていたので再投稿させてもらいます。





───

「状況は?」

「調整は済んでおります。いつでも出撃できます」

その報告を聞いて、淳は満足げに資料に目を通し始めた。

「スプリ・ガンか。ようやくだな……」

バルメ・ブラムと共に手配していたスプリ・ガンが3日ほど遅れて到着した。

今までなら3日遅れても苛立つことはなかったが、今回はそうもいかなかった。

「しかし、スプリ・ガンとは……」

遺跡の守り手。発掘した兵器にそのような名前をつけるとは、父上にもかわいいところがあるものだと淳は思った。

だが、それはもう一つの可能性を抱かせた。そして、それを考えれば何かしらの意図が見えてきた。

「……何かしらの動きがあった、ということか」

父上を変えさせた何か。淳は最近噂になっているオーメ財団を思い出した。

バッフ・クランの中でも屈指の財力を持ち、最近では重機動メカなどの開発費を提供してくれている。

おおかた、スプリ・ガンに搭載されている波導ガンの発掘にも手を貸していたのだろう。

父、公三はイデの力を手に入れ、バッフ・クランの頂点に立つズオウ大帝打倒を目論んでいる。

しかし、未だにイデの力は異星人の手の中にある。

先日送った閃光の剣についての報告も後押しして、オーメ財団の総裁と手を組ませる要因になっていたのは明らかだった。

「しかし、淳様。波導ガンとはいかなるものなのでしょうか」

「私も数回テストをしたところを見ただけだが、巨大な重力震を引き起こす大砲だ」

スプリ・ガンに搭載されている波導ガンは、巨神と同じように発掘された謎のメカニズムであった。

見た目は巨大な大砲のようで、重機動メカが持って使用できるほどの大きさであった。

スプリ・ガンはそれを搭載させた急造の重機動メカである。

急造と言ってもその威力は絶大で、試射では竜巻のような重力震を引き起こし小惑星帯を消滅させた。

「伝説のイデの力を発現する大砲。その力を発現する巨神。どちらが強いかですね……」

「そうだ。弔い合戦とは言いたくないが、力を貸してほしい」

「淳さまの心の痛まれよう、お察しします」

「部隊を編成しろ。出撃する!」

「はっ!」
159 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2012/03/03(土) 23:33:18.71 ID:hibiqpRN0
───

律は一呼吸入れると、医務室のドアを開けた。

「澪……」

そっと呼びかけてみると、ベッドに横たわる澪が力なく笑った。

「律、来てくれたんだ」

3日ぶりに聞く澪の声に、律は自然と息が上がっていた。

しかし、澪の体に取り巻く白い包帯が見えてしまえば嫌でも落ち込んでしまった。

ベッドに寄ると、澪の顔は火傷を隠すように白いガーゼが張られ、腕にはギプスが取り巻いていた。

「その、気分はどうだ?」

慎重に言葉を選んで話す律を見て、澪は何だかおかしくなってしまった。

「……律らしくもない。いつもどおりにしてくれよ」

「そ、そっか……」

律はなんとかいつも通りに振る舞おうとしたが、やはりどこかぎこちなかった。
160 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2012/03/03(土) 23:34:22.55 ID:hibiqpRN0
「律は大丈夫か?」

「う、うん……」

「なら、よかった」

「……ごめん、澪。私がもっとやれていれば……」

「律……」

律は自分の不甲斐無さに心が痛み、溢れる涙を抑えられなかった。

そんな律を、澪はただ優しく慰めていた。

「ありがと……」

「うん」

何とか落ち着いた律は、涙を拭って一息入れた。

「私、決めた。もう、澪がイデオンに乗らなくてもいいようにする」

「えっ?」

「澪には、やっぱり辛すぎたんだよ」

「……」

澪も自分で感じていたことだが、今までがうまく行き過ぎていたせいか必然と振りかかる危険を忘れていた。

これは命を賭けた戦いであるということ……。

「でも、律だって……」

「それは言うな」

律は優しく澪の頭を撫でて、その先を言わせなかった。

「……」

澪も律にそれ以上問いただすことはしなかった。
161 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2012/03/03(土) 23:35:39.72 ID:hibiqpRN0
ビーッ! ビーッ! ビーッ!

「警報!?」

「澪、行ってくる!」

「ま、待って!」

「何?」

澪は何とか体を起こして、律を見つめた。

「私の仕返しとかそんなのはいいから……」

そのきれいな目に息を呑みながら、律は澪の言葉を待った。

「……帰ってきて」

「澪……」

「お願いだから……」

律は優しく澪の手を握ると、力強く頷いた。

「……そうだ、これ」

律はカチューシャを外すと、澪の手に握らせた。

「ヘルメットに引っかかるからいつも取るんだけど、澪が預かっておいてくれ」

「律、お前……」

無理に話そうとする澪を優しく抑えると、ベッドに寝かせた。

「大丈夫だから。必ず戻ってくる」

そう言うと、律はできるだけ優しく澪の頭を撫でた。

「行ってくる!」

律は、するすると澪のきれいな黒髪を指に滑らせて医務室を出て行った。

「……帰ってきてくれ、か」

まだ腕に残っている澪の匂いを抱きしめて、律は前髪をゴムで縛った。

「そうもいかないかもな……」

162 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2012/03/03(土) 23:37:28.88 ID:hibiqpRN0
今日はここまでです。
投稿のミスはほんとうにすみません。確認を怠ってしました。m(_ _)m

163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県)[sage]:2012/03/04(日) 00:17:39.38 ID:bAbXBVxko
乙、ちゃんと見てるぜー
164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2012/03/07(水) 00:21:15.44 ID:/CE34Z4To
乙!待ってた!!
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)2012/05/03(木) 01:28:05.46 ID:32BO39Yr0

イデオンが発進するころには敵の編隊がレーダーにかかり、スラスターが放つ光が目に見えた。

「中に大きいのがひとついます。新型みたいです!」

梓の焦る声にモニターを見ると、お尻が盛り上がったモグラのような奇妙な形をした重機動メカが飛んできていた。

「また新型……?」

得体の知れない不安が体を駆け巡るが、止まるわけにはいかない。

止まることは死に繋がる。

動いている方がその恐怖も紛れる気がするものだ。

「前に出る!」

唯は短く息を止めると、イデオンを直進させた。

「先手を打つ!」

新型の重機動メカ目がけてミサイルをばら撒き、相手の出方を窺うことにした。

ミサイルは重機動メカの周りに次々と爆発を生んだが、大した効果は見られなかった。
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)[sage]:2012/05/03(木) 01:29:22.39 ID:32BO39Yr0

───

戦闘中の混乱を利用して、純はソロ・シップの中を探っていた。

「何だ……?」

ブリッジと思わしき所に近づくと戦闘中の混乱している声が響いてきた。

そして、戦場を映しているであろうモニターに恐ろしいものを見た。

「あれは……、スプリ・ガン!」

その姿は見間違うはずも無かった。そして、それを持ち出すような人間は1人しか知らない。

純は運命の糸が引かれているのを感じた。

「な、何だよ!」

ブリッジに入るなり驚く声を尻目にインカムをひったくると、純はチャンネルを合わせて通信を入れた。

「お兄様なのでしょう!? やめてください!」
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)[sage]:2012/05/03(木) 01:34:24.54 ID:32BO39Yr0

「純……!?」

純の声は淳の耳にはっきりと聞こえた。

『伝説のイデは実在します。それがどういうことなのか、お分かりになりませんか!?』

「淳様! て、敵艦から……!」

部下の驚きを隠せない声を聞きながら、淳は変な気分になっていた。

純が生きていた。

それがとても嬉しく感じられる一方で、純の言葉によって沸き起こった感情が強くなっていたのだ。

「サムライの娘とあろうものが……! 寝返りなどと!」

『そんなことにこだわるから、伝説は訴えかけるのですよ!』

その性格が、生真面目さが純の態度に対してどうしようもなく苛立った。

(いつもそうだ、お前はいつも自由で私の苦労なんて何一つ知らないで……!)

淳は頭に血がのぼってしまい、マイクに向かって怒鳴り散らした。

「こういう風に育てられた悔しみは、お前にはわかるまい!」

乱暴に通信を切ると、淳はスプリ・ガンをソロ・シップに向けた。
168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)[sage]:2012/05/03(木) 01:35:48.03 ID:32BO39Yr0

波導ガンのトリガーを引く瞬間、部下の焦った声と共に凄まじい衝撃が襲った。

「何だ!」

「巨神が!」

モニターの死角で見えはしなかったが、スプリ・ガンの腹とも言うべき所に巨神が体当たりをかけていた。

波導ガンの射線も固定できず、巨神に押されるままに敵艦から離されてしまった。

「えぇい!」

悪態をつきながらも、淳は距離をとりつつスプリ・ガンを巨神に向けた。

「巨神に波導ガンを使う!」

波導ガンのエネルギーは発射に至るまで溜まっていた。
169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)[sage]:2012/05/03(木) 01:39:59.93 ID:32BO39Yr0
───

重機動メカの左右からアンカーのようなものが射出され、イデオンの腕に絡まった。

「つ、捕まった!」

何とか振りほどこうともがいてみるが、相手の方が大きい上にパワーがあった。

そうこうしているうちに距離を詰められ、目の前で砲門が開いた。

「や、やられちゃう!」

『唯、イデオン・ソードを使え!』

「使えるの!?」

『いけるはずだ。さっきからサインが出ている!』

コンソールを見ると不思議な点滅と共にイデオンの腕のあたりが光っていた。

「わかった! パワーの制御よろしく!」

唯はイデオンを構えさせると、ゲージの輝きを見つめた。

「イデの流速、反転!」

「バイオニックコンデンサー、上がっている。行けるわ!」

律と紬の確認を聞いて、唯はイデオンの腕を突き出した。

「よぉし! いけえええぇ!」

イデオンの腕と重機動メカの砲撃が同時に光り、2つの破壊の意志は宇宙で激しくぶつかり合った。
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)[sage]:2012/05/03(木) 01:49:00.26 ID:32BO39Yr0
ピギイイイイイイイイィン!

奇妙な音が宇宙を震わせて、稲妻にも似た衝撃波が辺りに飛び散った。

「うああああぁ!」

イデオンのバリアですら受け流すことはできず、至る所が嫌な音を立てて軋んだ。

イデオン・ソードは竜巻の中に呑み込まれ、光の粒子となって辺りに霧散していた。

互いに一歩も譲らない状況だが、エネルギーの差が少しずつ見え始めていた。

「エ、エネルギーが……!」

今までの敵とは比べ物にならないエネルギーの消費によって、イデのゲージが低下を始めていた。

「りっちゃん! イデのエネルギーが!」

「わかってるよ! くそっ……! こんなことじゃ、澪に……!」

律は必死にイデのエネルギーの制御を始めるが、ゲージの光は確実に失われつつあった。

その影響をうけてイデオン・ソードも竜巻の中に揺らいで消滅してしまった。

「まだだ……! まだなんだよ!」
171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)[sage]:2012/05/03(木) 01:50:23.52 ID:32BO39Yr0
必死にもがくイデオンをあざ笑うかのように重機動メカの竜巻はさらに勢いを増して襲いかかってきた。

轟音と共に宇宙は激しく揺れ、竜巻は辺り一面を呑み込みながら遂にイデオンのバリアを破った。

「うあああああああぁ!」

荒れ狂う竜巻の中で唯達は成すすべも無く叫び、怯え、そして体の中に寒気が起こるのを感じた。

次々とイデオンの装甲はめくれ、機銃もミサイルも誘爆を起こし宇宙の闇の中に消えていった。

爆発に次ぐ爆発の中、モニターは次々と消えてコックピットは暗闇に包まれていった。

「澪……、約束、守れない……」

誰もが死を覚悟した波導ガンの竜巻の中で、イデのゲージにいくつものラインが伸びその像は結実した。

そして、イデオンは再び目覚めの咆哮をあげた。
172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)[sage]:2012/05/03(木) 01:51:36.96 ID:32BO39Yr0
今日はここまでです。
イデオンと波導ガン搭載のスプリ・ガンの戦いはもうちょっと続く予定です。
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2012/06/27(水) 19:02:04.65 ID:jeb4PCsto
保守
174 : ◆INjIt6nmxE2012/07/29(日) 02:09:43.14 ID:X1yPq+0G0
どうも、お久しぶりです。
とりあえず生存報告と最新作の投下をします。
それと真に身勝手ながら、このSSは今回でとりあえず一区切りにさせてください。
理由は最近忙しくなり筆が遅いのも手伝ってストーリーを短期間でまとめられなくなってしまったためです。
本当はもうちょっと短期間で終わる予定だったのですが……。
このSSは劇場版にならって「接触篇」ということでひとまず終了します。
本当にすみません。しかし、時間がとれてストーリーが完成したら「発動篇」として後半を新スレをたてて投下したいと思っています。
ここまで付き合ってくれた様々な方にお礼とお詫びを申し上げます。
それでは「接触篇」最終話をどうぞ。
175 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2012/07/29(日) 02:11:21.81 ID:X1yPq+0G0

───

波導ガンの竜巻の中でおぼろげに見える巨神は、不気味な光を放ちはじめた。

「何だ……?」

頭がゆっくりと動き、不可思議なラインが走る瞳を目が合った。

その時、得体の知れない寒気が背筋を駆け抜けた。

冷や汗が止まらなかった。何だ? あれは機械ではないのか?

淳は確かに巨神から殺気のようなものを感じた。

(いや、あれはパイロットの殺気だ!)

敵の殺気が装甲を通して感じられると言われているのを必死に思いだし、淳はどうにか冷静に物事を見ることができた。

だが、それにしてはあまりにも禍々しく、重い殺気であった。
176 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2012/07/29(日) 02:14:34.04 ID:X1yPq+0G0

巨神の光り輝く巨体が大きく動きだしたかと思うと、徐々にスプリ・ガンに迫りはじめた。

「波導ガンはどうした! 巨神が来るぞ!」

「パ、パワーが出ないんです!」

「何故だ!?」

「原因不明!」

先程まで好調だったバイオニックコンデンサーも徐々にエネルギーを落とし、スプリ・ガン自体にも異常が見られ始めた。

波導ガンの竜巻が弱まり、その隙に巨神は射線上から離脱してしまった。

「巨神が逃げるぞ! 追え!」

巨神を追うべくスプリ・ガンを動かした瞬間、巨神の腕から閃光が走った。

「回避!」

「だ、だめです! スプリ・ガンが!」

まるでその身を差し出すかのようにスプリ・ガンは動きを止めてしまい、閃光の剣に焼かれてしまった。

「うわああぁ!」

閃光の剣はスプリ・ガンのバイオニックコンデンサーをあっという間に吹き飛ばしてしまった。

淳は半壊したスプリ・ガンの中で死をも覚悟したが、かろうじて生きていた脱出装置が作動し命からがらスプリ・ガンから離れていった。
177 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2012/07/29(日) 02:15:15.85 ID:X1yPq+0G0

───

敵の重機動メカが活動を停止した頃、唯たちはどうにか体勢を立て直していた。

「また、光の剣が……」

「やった……?」

「そうみたいだな……。うああぁっ!」

重機動メカを撃退し一息つく暇も無く、イデオンに次々と爆発が起こった。

「まだ、艦が残っている……! あれをやらないと……!」

「イデオン・ソードを……!」

エネルギーも充分にイデオン・ソードを構えようとしたその時、イデのゲージが今までとは違う輝き方をしはじめた。

「な、何……! 勝手に……!」

唯のコントロールを受け付けず、それぞれのモニターに模様がいくつも浮かび再びイデオンが動き始めた。

178 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2012/07/29(日) 02:17:52.89 ID:X1yPq+0G0

「なんだよ……、何が起こっているんだよ……!」

イデのゲージが脈打ち、慄く律の目の前でイデオンは破壊した重機動メカを引きちぎり始めた。

装甲を剥いでいくと、中には太い大砲が積まれておりイデオンはそれを引きずり出した。

「使えって言うのか……?」

イデオンは宙に浮く大砲を掴むと、伸びる二本のコードを腹部に接続した。

「モ、モニターに何か映った……!」

様々な図形や記号が流れ、計器のスイッチのいくつかが光りはじめた。

それに従うようにスイッチを押していくと、何かのプログラムが走った。

「こいつ、動いている……!」

どうやらイデオンから大砲へエネルギーが送られているようで、謎のゲージが上昇するに従って大きな震えが襲った。
179 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2012/07/29(日) 02:21:19.54 ID:X1yPq+0G0
「パワーが溜まっていく……。撃てってことじゃないの?」

手から伝わる悪魔のような力の振動は、律に大きな闘争心を呼んだ。

「イデオンのコントロールは私がやる! りっちゃんは、砲撃に集中して!」

「わかった!」

イデオンの操作を唯に任せて、律は大砲の引き金に指をかけた。

律は敵艦に標準を合わせて、息を軽く吐いた。

静かにコックピットが振動し、大砲にエネルギーが漲るのを感じた。

ピ……。ピ……。ピ……。

動きを止めたイデオンには次々とミサイルが着弾したが、ひるむことなく律は狙いを定め続けた。

「はぁ……、はぁ……」

エネルギーが溜まり、爆発の光の向こうに標準の光が一点に集まった。

律は直感的に引き金を引いた。

「……っ!」

大砲は先ほどとは比べ物にならないぐらい大きな竜巻を呼んだ。

もはや、嵐と呼ぶ方が相応しいか。

荒れ狂う嵐は稲妻を起こし、残骸を巻きあげ、宇宙を震わせながら射線上のもの全てを呑みこんでいった。

難を逃れた数隻の戦艦はその嵐に慄き、撤退を余儀なくされたのだった。
180 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2012/07/29(日) 02:23:12.01 ID:X1yPq+0G0

───

「バッフ・クランの鈴木純なんでしょ?」

誰もが重く口を閉ざす中で、ヒステリックな紬の声が響いた。

「一番強敵だった人でしょ!? そのうえで敵に許してくれっていう破廉恥な女なのよ!」

敵であることよりもその行為自体が許せず、紬は無意識に拳を握りしめていた。

「イデの試しなのかもね……。私達が善き生命体なのか、そうでないのか……」

唯は沸き起こる嫌悪感を何とか受け止めようと呟いてみたが、酷く惨めな気分に陥るだけであった。

「イデが現れるまでは、生き延びさせて……」

そんな中、心の内を吐露した純は体一つで許しを乞うしかなかった。

「しかし、私たちのあなたへの憎しみはどうなる?」

ベスもこんな状況でなかったら今すぐにでも拳銃を抜いて引き金を引きたい気分であった。

だが、同じ軍人であるからこそ純の気持ちも痛いほどわかっていた。

「憎しみも悲しみも晴らせぬ我々は、あなたと同じに苦しく惨めでもある」

「すまない……。が、今の私は償う術を知らないの……」

溢れていく思いは涙となって、純の頬を濡らしていくのだった。
181 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2012/07/29(日) 02:24:26.06 ID:X1yPq+0G0
───

「み〜お!」

「り、律……!」

医務室へ入ってきた律を見るなり、澪は怒ったような顔で睨んだ。

「な、なんだよ」

ベッドの横に恐る恐る座ると、強張っていた澪の顔は次第に涙で崩れていった。

「み、お?」

どうしていいかわからずうろたえていると、澪に抱きつかれてベッドに引き倒されてしまった。

「何が”預かっておいてくれ”だ……! 何が”必ず帰ってくる”だ……!」

「……あぁ」

「そんな……、死ぬようなこと言って出て行くなよ……!」

「……ごめん」

律は自分の行動を少しだけ恥じた。

そして、せめてもの罪滅ぼしにと澪のきれいな髪の毛を梳いて、頭を撫でた。

「おかえり、……バカ律」

「……ただいま」
182 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2012/07/29(日) 02:26:29.89 ID:X1yPq+0G0

───

「……」

あれからどれくらい経ったのだろうか。

純は観察期間ということで冷たい独房に入れられていた。

(これで、私は本当に天涯孤独になってしまった……)

バッフ・クランを裏切り、敵の異星人に身を寄せて、今もこうして生き恥を晒している。

だが、それすら小さなことであると思えるほど、イデの力というものは恐ろしいものだと確信があった。

この目で確かめる価値があると思ったのだ。

「……どうした?」

気配に気づいて呟くと、はっと息をのむ音が聞こえた。

「怯えなくてもいいよ。こうして檻に入っているから」

暗闇の中から人影が表れて、その顔が見えた。
183 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2012/07/29(日) 02:30:06.39 ID:X1yPq+0G0

「……」

怯えたような顔で憂は恐る恐る近づいていくと、純の顔を見つめた。

自分と大して変わらない顔。もしかしたら年齢も近いかもしれない。

そんな人が敵で、自分を、みんなを助けてくれた。

「生きるも死ぬもあなた達次第だ。今や私は捕虜以下だからね」

憂は複雑な思いを抱きつつ、用意していた言葉を口にした。

「その……、助けてくれてありがとう」

それだけ言うと、憂は去って行った。

遠のいていく足音が静寂さをさらに引き立たせて、純の心を揺さぶった。

耳が、痛かった。

独り言でも言ってみなくては気が狂いそうだった。

「……私は、破廉恥な女だ」

漏れた独りごとは、あまりにも自嘲的だった。









様々な思惑を乗せてソロ・シップはどこへ向かうのか。

イデはただ見ているだけである……。
184 : ◆INjIt6nmxE[sage]:2012/07/29(日) 02:34:19.25 ID:X1yPq+0G0
これで「接触篇」は終了です。
「発動篇」は一体いつになるのやら……。
私としても不完全燃焼なので絶対最後まで書き上げたいです。



最後にこんな自分勝手なSSにお付き合いいただいてありがとうございました。また「発動篇」でお会いしましょう。
185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/07/29(日) 02:38:01.70 ID:2/xedDMXo
ひとまず残念だけど、長い間乙でした!
186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県)[sage]:2012/07/31(火) 00:03:21.38 ID:7uJgq88Do
一旦乙
続きを楽しみにしてるよ!



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