VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<><>2011/03/18(金) 15:05:29.35 ID:aSwND5LAO<>
前スレ
浜面「俺は、どんな事してもお前を助けるって誓ったんだよ。インデックス」<br>
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1294924727/l20


※浜面仕上一巻再構成

※前スレの続きになります。読んでないと話が分かりません。

※全く分からないと言うわけでも無いですが読んでいた方が楽しめるし何より>>1が助かります。

※独自解釈、独自設定、原作と明確な矛盾が多々あります。原作22巻以降の内容に関してはちょっとだけ反映するかも。

※展開予想は控えめに

※今度こそ長いお付き合いになりますがよろしくお願いします。

ではでは


<>「――――心に、じゃないのかな?」<br> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<><>2011/03/18(金) 15:07:04.03 ID:aSwND5LAO<>



――1日目――





<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<><>2011/03/18(金) 15:07:43.68 ID:aSwND5LAO<>



・[ピーーー]





<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/18(金) 15:09:05.12 ID:aSwND5LAO<> それは、始まり。

本来あり得る事のないこの物語の発端は、1人の少女。

学園都市にたった数人しか存在しない超能力、その一角に座するレベル5。

その少女は歩いていた。闇に包まれた学園都市を、幽鬼の様にひたひたと。

少女の通った痕に付いて来るのは、赤く掠れた足跡に、どこからか漏れ響く音。

髪に隠れたその瞳に光はない、街を覆う夜より深い、闇の深淵を連想させるその眼には何も映っていない。

「…………」

少女は赤黒い何かにまみれていた。

栗色の髪も、健康そうな肌も、高名なデザイナーが制作したその制服も、たなびけば可憐なスカートも、それに隠れた短パンも、白のソックスも、艶のかかるローファも、

少女の脆い心までも、全て赤黒い血にまみれていた。

それは、彼女自身の血ではない。しかし、それは確かに彼女の血だった。

「…………」

最も血にまみれて居るのは、手。指先から手首までがべっとりと朱に染まったその手には何かが握られている。

それは、ただの鉄クズだ。

「…………」

彼女は何を思っただろう。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<><>2011/03/18(金) 15:11:16.64 ID:aSwND5LAO<> 有り得ない。それは分かっていた。見るからに生きてはいない。誰が見てもそれは明らかだった。自らの能力に身を焼かれ、脚がち[ピーーー]、圧倒的重量のモノに[ピーーー]れた

けど

でも

きっと

もしかしたら

もしかしたら

たった一縷の望みを賭けて機関車に[ピーーー]れた、自身と同じ姿の『人間』に駆け寄って何を思ったのだろう。

[ピーーー]れて、顔だけがやけに綺麗で、だけども腕も身体も脚も全身もぐちゃ[ピーーー]ち[ピーーー]になって、片方の脚が[ピーーー]て、砕けた[ピーーー]骨やちぎれた筋[ピーーー]維が[ピーーー]て、その体の深くに[ピーーー]いた、そのプレゼントだったモノを自身の素手でえ[ピーーー]出して何を思ったのだろう。

血みどろで牛の[ピーーー]の様な有り様になった自分と同じ姿だった『人間』であり『妹』だった[ピーーー]を抱き締めて何を思ったのだろう。

「―――――――」

どちらにせよ、それは少女には本来宿りようのない狂気、そして[ピーーー]に身を染めるには十分過ぎる地獄だった。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<><>2011/03/18(金) 15:12:03.57 ID:aSwND5LAO<>



『――お姉様』




<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<><>2011/03/18(金) 15:13:07.08 ID:aSwND5LAO<>
音が、耳から入って脳に伝わる。

その眼前に広がるのは忌々しい街だ。それを視界にいれるのが嫌で、少女はぎゅっと目を塞ぐ。瞑ってその街を視界から消し去る。

「――――あ」

真っ暗な闇の淵から迫ってきたのは、悪夢だった。

聞きたくもない音に、見たくもない姿が、自分を呼ぶ声が、身の毛もよだつ声が、混ざる。それらは混ざり合って、溶け合って、五感から自分を殺そうと歩みよってきた。

その一つになった悪夢は、人の形をしていた。

初めて邂逅は数時間前、ソイツは悪夢に相応しい黒の衣を纏っていた。目は赤かった髪は白だった。

声が蘇る。

――――――そうかそうか

――――予定と違うから何かと思ったら

――オマエ、[ピーーー]かァ

「あ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」

少女は叫ぶ。逃げるかの様に、血にまみれた少女は叫ぶ。

「あ…………」

しかし、少女の叫びは、その身体中から迸る紫電と共に虚しくも闇に呑み込まれた。

「――――ッ」

だが、少女は叫ぶ事をやめない。言い知れない何かを秘めたその叫びに応えるかの様に空が淀み――
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<><>2011/03/18(金) 15:13:50.93 ID:aSwND5LAO<>



その日、学園都市に雷が落ちた。




<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/18(金) 15:14:41.18 ID:aSwND5LAO<> 自然的に発生するには余りにも強大で、しかも少女には引き起こせるはずの無い程強大なその稲妻は、一片の容赦もなく学園都市に振りかかる。

それは学園都市の一部を削り殺し、これから起こる物語の幕をあげた。

魔術師達が入り込み、1人の少年が少女と出会い、少女に助けられ、しかし少女を助けられなかった少年が闇に身を堕とす。

そんな下らない物語の幕を

「―――――アハッ♪」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/18(金) 15:15:55.77 ID:aSwND5LAO<> 少女が笑った。とても愉快だと言わんばかりに、驚喜が混じったその声で、

少女は唇を歪めて笑った。その姿はかつての少女を知るものは怯え、はたまた否定するだろう。醜悪ささえ感じるその笑みで、

「――――アハハッ♪」

血にまみれた一歩を踏み出す。

それは闇へ至る始めの一歩。

それは学園都市を崩壊へと導く終わりの一歩。

「――――アハ、アハハハハハハハハッ!」

捜そう。学園都市第一位。アイツを捜して殺そう。どんなことをしても殺そう。殺そう殺そう殺そう。そうだ、今から捜して、朝には見つかる。殺せなかったら――――

殺せなかったら、どんなことをしても殺せばいい。何を壊しても、何を使っても、誰を殺しても、誰を使っても、自分が死んでも、



例えこの街を殺してでも。



<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/18(金) 15:17:15.01 ID:aSwND5LAO<> 「アハッ♪」

少女は笑う。その血にまみれた手に、潰された思い出を握りしめながら。

「アハハッ♪」

御坂美琴は笑う。

壊れかけた彼女はもう誰にも止められない。

壊れた少女はもう誰にも救えない。




――それは、誰も知らない始まりの一日目。




<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<><>2011/03/18(金) 15:19:30.07 ID:aSwND5LAO<> という訳で序幕。

再びお付き合いよろしくっす。加筆修正はほとんどしてない。ちょっと演出だけ変えたらピーピーうるさすぎわろた。続きます。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<><>2011/03/18(金) 15:20:23.17 ID:aSwND5LAO<>



――五日目――




<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<><>2011/03/18(金) 15:20:50.82 ID:aSwND5LAO<>



・舞台裏





<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/18(金) 15:22:19.46 ID:aSwND5LAO<>
とある無能力者の少年が闇に身を落としたその夜。

しかし時は少しだけ遡る。

とある無能力者の少年がたった1人の少女さえ救えないと嘆いていた、その瞬間。

垣根帝督はその日、柔らかいベッドの端に腰かけながら久しぶりに自由の夜を満喫していた。

と言っても狭いビジネスホテルに缶詰めになっているその身を自由と表現していいモノかは微妙な所だ。

だが、これまで毎夜毎夜アイテムの襲撃から逃げていたことを考えてみれば、この落ち着いた夜は十分自由と言っても過言ではないだろう。

心理定規「ねぇ、いつまでこんな生活続けるのかしら。いい加減うんざりなんだけど」

垣根「…………」

しかし、垣根の腰かけるベッドに仰向けに寝そべるドレスの少女は現状に不満を抱いているらしい。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/18(金) 15:24:28.59 ID:aSwND5LAO<> いつも後ろで留めていた髪は今はおろしており、垣根帝督と同じ色をしたその金髪は、仄かな電灯の明かりに照らされ、身に纏う豪奢なそれと共に白いシーツによく映える。

垣根「ドレス、乱れてるぞ」

心理定規「やだ、欲情したの?」

死ね。そう呟いて正面の窓ガラスに向かい合う。

垣根「…………」

この街は地獄だ。

暗部という学園都市の裏の顔。夜の漆黒より深い、塗りつぶしたような闇の深淵――深淵と呼べる程の深さにいたのかは疑問だが、とにかくそこに堕ちていた垣根帝督はそう思う。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/18(金) 15:25:33.20 ID:aSwND5LAO<> 超能力開発などと聞こえのいい言葉の裏で秘密裏に行われる人体実験。

脳という未だに未知の領域を弄り、人間の開発を行う教育機関。

その開発された人間が巻き起こす血みどろの殺し合い。

そしてそれを知らずに過ごし、何の違和感も感じていない230万人の学生達。

あまつさえ人体実験を下敷きにした能力を自分のアイデンティティとし、この学園都市が自分が自分でいられる最高の場所だなんて抜かす始末だ。

自分達がただのモルモットだと気付かず、この街を異常とせず、危機とせず、疑問を持たず、この街で日常を過ごし、この街を自分の定式に当てはめ、それは230万人の常識として機能する。

だから、彼は――

心理定規「ねぇ、聞いてるのかしら」

垣根「…………」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/18(金) 15:26:11.31 ID:aSwND5LAO<> はぁ……と、息を吐き出し、露骨に細めた視線をベッドに投げつける。ドレスの少女はそれを見て、何が可笑しいのやらくすりと笑った。

垣根「なんだよ」

心理定規「別に?」

垣根「……髪、乱れてるぞ」

心理定規「やっぱり欲情した?」

死ね。

声には出さず視線に乗せたその言葉は、ベッドに横たわりながらも自分を見つめてくる少女に届いたかは定かではない。

心理定規「で、さっきの質問なんだけど」

垣根「ん? ……ああ、そうだな」


いつまでこの生活を続けるのか。


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/18(金) 15:26:58.72 ID:aSwND5LAO<> 『アイテム』

原子崩し<メルトダウナー>

学園都市序列4位の超能力者――麦野沈利。

ソイツが率いる暗部組織『アイテム』に昼夜を問わずに追われ、その追撃をかいくぐり、逃げる生活。

その生活があとどれ程続くかと言えば、

垣根「もうアイテムからの追撃はない」

垣根帝督は街に視線を戻し、そう断言した。

笑みを崩し、意外そうな顔をしたのは心理定規だ。仰向けに倒していた体を起こし、垣根の横顔を見つめる。

心理定規「なぜ?」

柔らかいベッドに手を尽き、上半身を持ち上げ疑問を投げかけた心理定規の姿は窓ガラスに反射して垣根の視界に映り込む。

髪を下ろしたからだろう、雰囲気はいつもと違って見えた。一動と共に揺れる肩にかかる程の、少しクセの出来た金髪がガラス越しに街を眺めていた垣根の視線を誘う。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/18(金) 15:27:57.18 ID:aSwND5LAO<> 垣根「ん、あぁ……アイツらには足がないんだ。俺らを追い掛ける足がな。昨日は襲撃がなかったろ」

心理定規「……確かに車は何度も吹き飛ばしたけど」

垣根「ばーか」

そう返された呆れが籠もった一言に、いつかのような的外れな事を言ってしまったのかと気付いた心理定規が罰の悪そうな顔をする。

スクールでの活動時、それは仕事中でもそうでなくても、2人の間では日常的にみる光景だった。

垣根「アイツらの足は車なんかじゃねぇ」

垣根「アイテムの核となる能力者」

心理定規「…………」

内心笑い混じりなのだろう。垣根帝督が薄い笑いを浮かべ、言葉を続ける。その笑みは心理定規にはどうしても軽薄そうに映ってしまい、馬鹿にされているような錯覚を覚えながらも、目の前の男が発したその名前を耳で捉えた。

垣根「滝壺理后だ」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/18(金) 15:29:02.48 ID:aSwND5LAO<>
滝壺理后。

能力追跡<AIMストーカー>

大能力者<レベル4>

この数日、アイテムが昼夜を問わず、執拗にスクールの襲撃を続けて来れたのはこの能力者がいたからだ。

ベッドに腰掛け、学園都市を眺めながら垣根帝督はそう言う。

裏を返せば滝壺理后がいないならアイテムはスクールの居場所を特定する事が出来ない。追跡を続ける事が出来ず、追撃を開始する事が出来ない。

垣根「上の奴らも滞空回線の存在は知られたく無いだろうしな」

だから迂闊に垣根達の居場所を伝える訳にもいかない。滝壺理后無しでの追跡が続けられるとなれば、麦野沈利も絡繰りに気付くだろう。

この街の絡繰りに。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/18(金) 15:30:10.01 ID:aSwND5LAO<> 心理定規「……でも、確か滝壺理后はまだ生きてるはずだけど」

垣根の言葉を聞き、持ち上げた上半身を起こした。豪奢なドレスを引っ張り、後ろへ下がり壁にもたれる。手持ち無沙汰だったので、尻に敷いていた柔らかい枕を抱きながら、

心理定規「それに――」

続けた言葉は、そもそもの疑問。根本的な疑問。心理定規がここ数日抱いていた違和感。

心理定規「何故私達はアイテムから逃げているのかしら?」

スクール。

垣根帝督が率いていた小さな組織は学園都市から離反した。

裏切り者には死を。

言葉の通り、当たり前に追っ手はやってくる。麦野沈利率いる『アイテム』は垣根帝督率いる『スクール』を始末する為に、死を届ける為に連日連夜追撃を続けて来た。

しかしよく考えてもみて欲しい。

垣根帝督率いるスクール。

麦野沈利率いるアイテム。

垣根帝督が逃げ、麦野沈利が追う。

この構図がそもそもおかしい事に。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/18(金) 15:30:57.80 ID:aSwND5LAO<> 心理定規「返り討ちにすればいいじゃない」

脚を三角に折り、抱いた枕に頭を乗せながらそう呟いた。そう、わざわざ逃げずに返り討ちにすればいい。

同じ超能力者と言えど垣根帝督と麦野沈利には越えられない壁がある。その程度はこの数日、いや、長年この男と連れ添っている心理定規には分かっていた。

そうでなければ、今現在ホテルのベッドで談笑なんてしていないだろう。

垣根「あぁ、そうだな……まぁ今日は確実に襲撃の心配はねぇ。テメェの疑問にも1から10まで答えてやるよ」

心理定規「そうしてくれると助かるわ」

窓に向いていた垣根帝督の眼が心理定規を捉えた。いつもの笑みを浮かべた心理定規に対して、自分もいつものように軽薄そうな笑みを浮かべているのだろうかと、そう思いながら口を開く。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/18(金) 15:31:50.54 ID:aSwND5LAO<> 垣根「まず……そうだな。確かに滝壺理后は死んじゃいねぇ。アイテムの連中も健在だ」

しかしアイテムが追跡を続けられない理由。追撃が開始されないと断言出来る理由。

垣根「滝壺理后自身が能力を使えない状況に陥ったか、能力を発動する為のアイテムが尽きてきたか、だな」

まぁ、多分両方だろう。垣根はそう当たりを付ける。

心理定規「能力を発動する為のアイテム……?」

垣根「体晶ぐらいテメェも暗部にいたなら聞き覚えがあるだろう」

心理定規「あぁ……」

暴走能力の法則解析用誘爆実験。

学園都市の暗部でさえ禁忌として扱われている3つの人体実験の内の一角。

それは木原幻生主導の元、置き去りを使って行われ、その結果出来上がったのは能力を暴走状態へと誘発する能力促進剤とは名ばかりの劇薬中の劇薬。

それが体晶。

垣根「滝壺理后はソイツを使って意図的に能力を暴走させてるんだ」

そしてそんなモノが何の代償も無しに使えるはずがない。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/18(金) 15:32:38.37 ID:aSwND5LAO<> 心理定規「つまり……連日の襲撃で滝壺理后に限界が来た。そういう事?」

垣根「まぁそう考えるのが妥当だ。ただ、滝壺と一緒に消耗して少なくなった体晶を保険とか言って出し惜しみしてる可能性もある。なんせ、」



垣根「学園都市に存在していた大量の体晶は全て焼かれ、現時点ではアイテムが所持している分しか存在しないからな」



垣根「そう考ると出し惜しみしている可能性のが高いか。第4位ならそうするな」

そこまで言って、一息吐く。心理定規が起き上がった分、空いたベッドのスペースを埋めるかのように、垣根帝督は体を後ろに倒した。

一面が窓ガラスだった視界は一変、その視線は天井に向けられる。

倒れ込んだ衝撃は音にならず、優しくベッドが受け流し、垣根の体を柔らかい布団が包みこんだ。

垣根「お、結構気持ちいいなこれ」

心理定規「そこに頭を置くと私が寝るときに蹴られても仕方がないわよ?」

垣根「……少しぐらい我慢しろよ」

次の疑問。何故自分達はアイテムから逃げ続けているのか。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/18(金) 15:33:26.04 ID:aSwND5LAO<> 垣根「コイツの理由は単純だ。殺すのが惜しい」

天井を見つめながら垣根帝督はそう答える。無造作に投げ出された手が心理定規の足の指先に掠るように触れた。

言葉の意味を考えていた心理定規が足先に金属の冷えた感触を一瞬感じ、口に出した名前は

心理定規「……麦野沈利が?」

それを聞いた垣根が一瞬目を丸くする。一拍置いて、まさか、と呟き鼻で笑った。

垣根「滝壺理后がさ」

心理定規「…………」

垣根「……なんだよ」

心理定規「随分とお気に入りなのね」

垣根「……妬いてんの?」

死んで。とは言われなかったが、どこか不快感を抱いたのだろう、苦虫を噛み潰したような表情を作り、心理定規は抱いていた枕に顔をうずめる。折っていた脚を更に折り込み、垣根から距離を取るかのように体を丸めた。

垣根「……別に変な意味があるわけじゃねぇよ?」

心理定規「そう」

続きは? くぐもった声でそう冷たく呟く心理定規に対し、垣根は小さな溜め息を混ぜ天井に向かって言葉を吐き出す。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/18(金) 15:34:24.89 ID:aSwND5LAO<> 垣根「……能力追跡。アイテムでは俺ら含む敵対組織の追跡装置としての役割を与えられているが、俺が実際に見た限りアレの本質はそうじゃない」

心理定規「…………」

枕にうずめた視界は暗い。この空間に2人しかいなく、話し声だけで静かだと言うのも理由に挙がるのだろう。聴覚が鋭敏になり、垣根の声がいつもより明確にすらすらと耳に入ってくる。

今自分はどうして枕に顔をうずめているのか、ぼんやりと声を聞きながら考える。これが口に出したくもない俗な感情なら笑い事だ。仮にも精神感応系能力者だというのに、自分の感情に振り回されているこの現状は、あまりよろしくない。

しかし、どうにも顔を上げ、目の前の男を見つめる気にはならなかった。思考に耽りながらもその声はよく聞こえて、

心理定規「――え?」

よく聞こえたからか、飛び込んで来たその言葉に心理定規は思わずうずめた顔を持ち上げた。

心理定規「今、なんて?」

垣根「あぁ?聞いてなかったのかよ。だから、」


垣根「能力追跡の本質は他者のAIM拡散力場に干渉し、制御する事だ」


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<><>2011/03/18(金) 15:35:14.15 ID:aSwND5LAO<> ここまでだったかな。


ほんと手間かけてすいません。続きいきます <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/18(金) 15:36:42.35 ID:aSwND5LAO<>
それはこの連日続いた追撃戦の最中、能力追跡を実際に攻撃に転換し、自身のAIM拡散力場に介入されかけた垣根帝督が行き着いた一つの可能性。滝壺理后の本質。

言葉通りならそれが何を意味するのか。

能力者が無自覚に発するAIM拡散力場。それを自由自在に制御できるという事は、それを媒介にし、他者の『自分だけの現実』そのものを自在に制御出来るという事と同義。

つまり、能力者の強度は勿論能力の系統すらも自在に制御。現第一位のレベル5を超える能力者を生み出す事も、レベル5をレベル0にする事さえも可能にする、この学園都市の機能を一人で賄える可能性がある絶対無二の能力者。

一方通行や未元物質、学園都市のトップ2なんて霞んでしまう程の超能力。

垣根「滝壺理后が順当に成長していたら、そうなる可能性があった」

心理定規「……それなら尚更生かしておくべきじゃないと思うんだけど?」

心臓が掴まれたかのように、体から熱が引いて行くのを感じた。震えないように、自分の熱で温まった枕をギュッと抱き締める。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/18(金) 15:38:34.03 ID:aSwND5LAO<> 垣根の言った事が本当なら、滝壺理后はこの学園都市に存在してはいけない能力者だ。もしレベル5に到達してしまえば32万分の1の天才なんて生易しいモノじゃない。

230万に1の天災。全ての能力者の存在理由を根底から覆す能力者。

垣根「勿論、俺も初めは殺そうとしたさ。アイテムが襲撃してきた1日目に全員返り討ちにしてやろうってな」

だがな、と小さく呟いた垣根帝督は心理定規を見てはいない。いつになく真剣な眼差しは天井を、もしかしたらその先を見つめているかもしれない。

天井を超えた夜空、そこに広がる闇。その先を

垣根「アレは上手く使えば起こるかもしれない最悪の事態を覆す最強の一手となる」

学園都市を裏切り、追われながらの逃避行を続け、尚且つ物語の裏で暗躍する垣根帝督の掲げる目標、到達点。例えるなら、それは夜空だ。

垣根「アレイスターとの直接交渉権を手に入れる為には、どうしてもジョーカーが欲しい」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/18(金) 15:40:31.38 ID:aSwND5LAO<> 心理定規「それが、滝壺理后?」

垣根「あぁ、多分な……つっても、」

そこで区切り、垣根はベッドに沈めた体を横に転がす。未だ青ざめている心理定規に気付き、それは彼なりの優しさなのだろう。頬を緩め、柔らかい笑みを浮かべる。

心理定規「……似合わないわね」

垣根「チッ……少しは喜べよ」

心理定規「善意の押し売りは嫌いなの。何より貴方、軽薄そうにしか見えないわよ」
かわいくねぇな。そう小さく呟き溜め息を吐く。善意じゃなく好意なんだ、なんて寒い台詞を言ってみても軽薄そうな笑みを浮かべているらしい自分はただの軟派野郎にしか映らないだろう。

垣根「……つっても、」

それも癪なので、言葉を続ける。

垣根「あくまで予想だ。滝壺が覚醒する可能性なんざ俺の予測通り動いても余程の事じゃない限りありえねぇし、なったとしたらとてもじゃねぇが手に負えねぇ――けどよ、」

心理定規「……けど?」

垣根「ハッ……素敵に愉快じゃねぇか。もし運が向いて滝壺がレベル5に到達し、それを利用出来たなら、俺らはこんな回りくどい事をせずに済む。一発逆転が出来るんだ」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/18(金) 15:41:29.48 ID:aSwND5LAO<> 学園都市序列二位。

それはつまり、心理定規の目の前にいる男はこの学園都市で上から数えて2番目の頭脳を持つという事だ。

そしてその第2位が学園都市を裏切ってまで手に入れたいと願うモノ。それがこの街の統括理事の長。アレイスターとの交渉権。

彼がそこに至りたいと願った理由はさて置き、現状彼がそこに至れない理由というものが確かにある。学園都市第2位がその座に就くことの出来ない決定的な理由。

たった一つの障害。

垣根「第一位のクソ野郎さえブチ殺す事が出来れば、わざわざこんな策を巡らす必要もないんだからよ」

心理定規「…………」

学園都市序列一位。一方通行<アクセラレータ>

滝壺理后が230万分の1の天災に至る可能性があるならば、彼こそは230万分の1の天才。学園都市の頂点に君臨する最強の超能力者。

アレイスターにとっての最優先事項にして、その身に抱えるプランの核。言わば本命。

それはつまりアレイスターにとって垣根帝督はただの予備、あくまで代理、一方通行の代替品。見向きもされない第二候補。

結局は、一方通行さえなんとか出来れば垣根帝督の願いはその場で叶うのだ。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/18(金) 15:43:05.03 ID:aSwND5LAO<> 垣根「だが俺の力じゃ、あの野郎に勝てるかはわからねぇ。せいぜい五分五分、何の保険も無しに挑むにはでけぇ賭けだ」

だから、彼は学園都市を裏切った。落雷で混乱したセキュリティーの隙を突いて機密を盗み、この街の情報を集め、何が起こっているかを把握し、策を練った。

何の障害に阻まれる事もなく、一方通行でアレイスターの懐に入りこめる策を。

垣根「滝壺理后に期待している訳じゃない、けど種を残しとくってのも悪くねぇだろ?」

心理定規「…………」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/18(金) 15:43:40.85 ID:aSwND5LAO<> その種が芽吹く事は決してない。枕を強く抱きながら目の前の少年を見つめる心理定規はそう思う。

それは、きっと垣根帝督も同じだろう。

そんな都合のいい奇跡は、自分達の生きる世界には存在しないのだがら。

心理定規「……希望の種なんて、私達には一番似合わないと思うけどね」

垣根「ハッ、違いねぇ」

けど、と心理定規は思う。

だけど、なんて思ってしまう。

もしかしたら、そう思う。

ないとは思うが、そんな希望を抱いてしまう。

垣根帝督だって、きっとそうだ。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/18(金) 15:45:04.59 ID:aSwND5LAO<> 闇と地獄をたらい回しにされてきたとはいえ、自分達はまだ子供だ。希望を残しておきたいぐらいには脆いし、勝算もなく命を差し出せる程強くない。例え第二位でも、第三位でも第四位でもきっとそれは変わらない。

もし未元物質、心理定規――能力という衣を脱ぎ捨てられれば、自分達はただの少年少女なのだから。ただの少年少女で、ただの――

だが、例え今更衣を脱ぎ捨てられたとしても、自分達がいる場所は変わらない。少年少女だったとしても、学園都市の闇は自分達を食らうだろう。

心理定規「…………」

垣根「……どうした?」

どうやら視線が泳いでいたらしい、気付かない内に、天井に向いていた垣根帝督の視線が自分を捉えていた。

心理定規「……いえ」

そのまっすぐ向いた視線から目を逸らしたのは、きっと不安の表れだろう。

垣根「ふーん」

そんな間の抜けた返事をし、逸らす事なくこちらを見つめる彼はその不安に気付いただろうか。

気付かれたくはないかな、そう思い心理定規は逸らした瞳を垣根帝督に向ける。何かを言おうと迷い、唇から漏れた言葉は、

心理定規「服、乱れてるわよ」

垣根「……抱いてやろうか?」

心理定規「死んで」

そんな応酬。返した言葉に顔をしかめた少年はチッ、と小さく、しかし別に不快感を押し出すようなものではない舌打ちをし、ベッドに深く沈みこむ。

垣根「ま、今の所の問題はもっと先、交渉権の決め手だな。……確か、」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/18(金) 15:45:36.16 ID:aSwND5LAO<>



垣根「インデックス、だったか」




<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<><>2011/03/18(金) 15:48:25.25 ID:aSwND5LAO<> というわけでここまで。舞台裏の話が意外と長い。もうちょっと続きます。

はまづらぁの出番はいつになるやら。

ではでは。お手数おかけしました。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<><>2011/03/18(金) 17:03:26.85 ID:upQDxuK30<> 乙乙ー。
心理定規の描写がいちいち可愛いんだけどぉぉ!
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/18(金) 20:16:31.93 ID:vL8kpDqIO<> 乙!禁書さんをこういう形で科学サイドに関わらせるのか〜と素直に関心しました

そして上条さんは早く美琴を救ってくれ〜! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/03/18(金) 21:03:05.47 ID:P2lD+D8Z0<> 戻ったか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)<>sage<>2011/03/18(金) 22:09:35.70 ID:DqDdbkUAO<> 全力で乙
垣根ェ…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/21(月) 09:48:22.14 ID:lrFxciHDO<> 次スレキテタ━━(゚∀゚)━━!!
序盤ピーーー多すぎワロスwwwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/21(月) 10:55:17.70 ID:ass/d71G0<> 浜面の安否が気になるなぁ

つかアニメの浜面の声優だれになったん? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/23(水) 03:05:43.51 ID:R1TnrZFAO<> 心理定規「……目次?」

垣根帝督の口から出た聞き覚えのない単語に、首を傾げながらそう答える。クセの出来たブロンドの髪が頬を撫でた。

垣根「これでも人……それもガキの名前らしい。ハッ、偽名もここまで清々しいと笑っちまうな」

それはあの落雷が起こった日の夜。垣根帝督が掴んだ情報。言わば決め手。曰わく、

心理定規「……魔術師、だったかしら」

その単語を聞いた時はどこぞのファンタジーだと思いもしたが、垣根が言うにはソレは確かに存在したらしい。杖で炎でも操っていたのか、呪文のようなものでも唱えていたのか、多少の興味を惹かれ感想を求めたところ、彼はつまらなそうに、

……クソ弱かった。

と呟いた。魔術師という自分達にとっての非常識は、それ以上の非常識を操る未元物質には通用しなかったらしい。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/23(水) 03:06:39.24 ID:R1TnrZFAO<> 垣根「ああ、だが確かにあれは超能力とは別物だ。確実に違う法則が働いていた」

垣根「……きもち悪かったけどな」

心理定規「きもち悪い?」

垣根「なんつうか、肌にあわねぇ。むず痒くなるような違和感、だな」

心理定規「ふーん……」

シャンプーみたい。なんて言ったらそれこそ目の前の少年は不快感を露わにするだろう。容易に想像出来るその光景を避ける為に心理定規はそのまま軽く相槌を打ち、頬を撫でる髪をそっと手で払う。その拍子に冷たい何かが触れるのを肌が感じた。

心理定規(そういえば、まだシャワー浴びてないな……)

垣根「だが、何にせよあれはこの学園都市では未知の力だ。モノに出来れば必ず利用価値が出来る」

心理定規(……久しぶりに一緒に浴びようなんて言ったら怒るかしら)

垣根「そのインデックスとかいうガキの持つ魔術の情報を根こそぎ奪い、殺す。それにアレイスターが興味を持てば……おい、聞いてんのか」

心理定規「えっ?」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/23(水) 03:07:51.17 ID:R1TnrZFAO<> 心理定規が目を覚ます(寝ていたわけではない)声に顔を向けると、そこにいたのはベッドに沈みながら少しの不快感を露わにしている垣根帝督。どうやらシャンプー云々を自粛したのは無駄だったらしい。

心理定規「……ごめんなさい」

垣根「ったく、それでアレイスターの興味を引けば俺らの勝ち。引けなければ仕方がねえ、第一位をブチ殺す。あわよくば滝壺理后を利用する。以上だ」

簡単に言い放ったその言葉は、そう、簡単に言い放ったせいだろう。随分と雑に聞こえる。まるで中身が無いような計画。計画という名の無計画。

だが、それを言い放ったのはこの学園都市の第二位で、ピラミッドの頂点に唯一たどり着ける天才だ。

綿密、複雑、精密、繊細、それらの思考が重なり、層を成した結果がその言葉なのだろう。

ならば心理定規はそれを信じるしかない。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/23(水) 03:09:05.61 ID:R1TnrZFAO<> 心理定規「…………」

三角に折っていた脚を崩す。同じ姿勢を長時間維持するは思いの他辛く、抱いていた枕を放り投げ、前のめりに倒れ込む。

ベッドの面積的に、体を倒すと垣根帝督との距離が狭まり、必然的に一部分が重なる。その拍子に垣根が小さな声を漏らし、しかし心理定規はそれを気にも止めず、柔らかいベッドに包まれる感覚を味わい、同時に張っていた体を伸ばす。

垣根「……たまに思うがなかなかいい度胸してるよな。テメェ」

心理定規「あら、お腹を枕代わりにされたくらいで怒るような程度の低い人だったかしら。貴方って」

垣根「目上の人には敬意を払えって親に教わった気がするんだがな」

心理定規「ごめんなさい、常識が通用しないのよ。私」

なんせ――と言葉が続き、チッと小さな舌打ちが聞こえた。しかしそれ以上は何もない。

いつの間にか顔に出ていた不快感も消えているようで、内心ほっとしながらくすりと笑う。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/23(水) 03:09:51.14 ID:R1TnrZFAO<> 垣根「……んだよ」

垣根が不機嫌そうにそう呟く。不機嫌そうなのは声だけだ。表情にそれが出ていない事は、心理定規には手に取るように分かる。

心理定規「ふふっ……別に?」

垣根「……テメェには時折マジで能力かけられてるのかと錯覚しちまうな。ムカつくわ」

心理定規「お望みなら貴方にとっての神様にでもなってあげるけど?」

垣根「ハッ、丁度いい。暗部に堕ちてから一度はぶっ殺したいと思ってたんだ。」

腹に頭を置いているからだろう、垣根の声が響くように耳に伝わり、心理定規の心地よさを誘う。落ち着くべき場所、自分の居場所はここなのだろうと錯覚してしまうかの心地よさ。ほんのりと、瞼に眠気が近づいたのがわかった。

心理定規「奇遇ね……私も同じ」

垣根「そうかよ」

心理定規「……うん」

垣根「…………」

心理定規「…………」

沈黙。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/23(水) 03:10:40.80 ID:R1TnrZFAO<> 沈黙が部屋を満たしていく。元々話し声だけの静かな空間だったが、静かと沈黙は似通っているようで少し違う。何かに耽るようにお互いに何も言い出さない。垣根は天井を見上げぼーっとしているし、心理定規は頬に伝わる微かな温もりに酔いしれている。

酔いしれていた。

心理定規「……ねぇ」

垣根「あ?」

心理定規「いつまでこうしていられるのかな」

だからだろう、そんな言葉を口に出してしまったのは。手放したくない温かさ。学園都市の闇に捕らわれたからには手には出来ないはずの温もり。

それをほんの僅かな間でも手にしてしまった心理定規は甘えてしまう。

心理定規「……ごめんなさい」

ダメだダメだ、そう自分に言い聞かす。仰向けになっていた上半身を持ち上げ、温もりから距離を取る。

今の自分達は少年少女ではなく反逆者。その事を忘れるわけにはいかない。

一瞬でも溺れてしまえば、待つのは破滅だ。

心理定規「それで……そう、」

心理定規「アイテムからの追撃がもうないなら身を隠す意味もないんじゃないの?」

思考を切り替える。今ではなく、自分達の今後へと。

垣根「…………」

垣根「……ま、アイテムからの追撃がなくなったからって追っ手が来ない訳じゃねぇ」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/23(水) 03:13:39.75 ID:R1TnrZFAO<> 垣根「どうせ俺達の居場所も行動も滞空回線でバッチリ割り出されてるんだ」

滞空回線<アンダーライン>

この街に漂う何千万ものナノサイズ情報収集装置。どこに居ようが滞空回線は対象を捉えるし、捉えられなければ滞空回線の死角を潰せば捉えられる。

逃走者にとっては悪夢のような装置だ。

その目的が『逃走』であるなら、という話だが。

垣根「だがそれもいずれ機能しなくなる」

その言葉と共に垣根帝督が不敵に笑った。

垣根「奴のプランの核、まぁそれは一方通行や……他にもなにかあるんだろう。だが、アイツのプランに無くてはならないモノ。絶対に必要不可欠なモノがある」

垣根「それが滞空回線。この街の情報だ」

この街の全貌を常に把握しているからこそ、アレイスターは自分の駒を手足の様に動かし、そのプランを進められる。

垣根「予備のプランを全てぶっ潰せる程未元物質も全能じゃねぇ。奴のプランの全貌なんて見えねえからな」

垣根「なら奴の進めているプランを止めてやればいい。プランにとっての核じゃあなく要を奪う、その瞬間が付け入る隙だ。その上で『第二候補』の価値が『本命』を上回っていれば、アレイスターも俺を無視できねえ――まぁ、」

次の言葉を発する瞬間、垣根帝督の口角が微かにつり上がったのを心理定規は見逃さなかった。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/23(水) 03:14:35.64 ID:R1TnrZFAO<>



垣根「その為にこの学園都市には死んで貰う事になるがな」




<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<><>2011/03/23(水) 03:18:17.76 ID:R1TnrZFAO<> というわけでここまで。更新頻度が滞り気味で申し訳ない。四月の上旬まで少し忙しいのでちょっとおくれますめん。

あとなんか投下毎に同じような引きばっかしちゃってるのもすめん。今気付いた。

ではでは。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/23(水) 03:31:33.53 ID:riDj/TVY0<> 乙
垣根爆発しろ

てかヤバいほどシリアスだなぁ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2011/03/23(水) 03:33:27.43 ID:V88PE26yo<> 乙
ていとくんと心理定規もう結婚すればいいじゃん! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<><>2011/03/23(水) 20:13:10.26 ID:i+1D8A730<> 乙。
一緒にお風呂、だと…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/23(水) 21:09:53.52 ID:QO4s6Xty0<> 乙
カッキーが格好いい!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/03/24(木) 00:45:20.17 ID:CHHenYIQ0<> シリアスの垣根ってかっこいいよな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/03/24(木) 12:26:25.46 ID:WN3s1Hvd0<> ギャグだと冷蔵庫か工場長なのにな。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(富山県)<>sage<>2011/03/26(土) 14:59:28.68 ID:KguCDBZno<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/27(日) 04:27:25.54 ID:uNBUTtrso<> アアニメ浜面随分とイケメンになっちゃって・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>saga<>2011/03/27(日) 14:02:22.79 ID:wGWjfvZAO<>
心理定規「…………」

見下ろす男が何を考えているのか、心理定規には知り得ない。だだその頭の中には莫大な情報が詰まっているのだろう。それらを統合、計測、観測し導き出した答え。そう、あの落雷の日にも言っていた、

心理定規「……学園都市の、終わり。だったかしら?」

垣根「いや、終わりじゃねえよ。死ぬだけだ」

終わりはその後さ、そう呟いた垣根はくつくつ笑う。どこまでも愉快だと言わんばかりに。余程楽しいのだろう、促してもいないのに言葉は続く。

垣根「今この学園都市はたった一人の意思によって危機に瀕してるんだ。壊滅の危機にな。しかも質の悪い事にソイツが今この街で起きている独立した出来事の全てを複雑に絡めちまってる」

心理定規「…………」

壊滅の危機。

この叡智を極めた学園都市をたった一人で崩壊にまで追い込める人間、誰だろうと心理定規は考える。

答えはすぐに出た。

そんな人間は存在しない。

たが、可能性があるとすれば、

心理定規「……超能力者の誰かかしら」

目の前の少年を含むレベル5。一騎当千に相応しい力を持つ学園都市が誇る天才達。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/27(日) 14:03:15.06 ID:wGWjfvZAO<> しかし、その双璧に座する垣根帝督は心理定規の言葉を否定する。超能力者ではないと言い放ち、その名を口にした。

心理定規「……誰かしら、それ」

垣根「ま、知らねえだろうな」

その名に聞き覚えはない。似たような名前なら暗部の世界でも聞いた事はある気がするが、関連性はないだろう。

垣根「とにかくソイツが全ての元凶。しかも本人が無自覚っつうんだから厄介だ」

心理定規「無自覚……?」

垣根「ああ、言ったろ。全部絡めちまってるってな。第一位のクソがプチプチとやってる絶対能力進化計画、それにぶちギレれて研究施設を破壊しまくっている第三位、そいつのDNAマップを使って作り出された量産能力者計画、魔術師なんて異質の侵入に、頭のいかれた研究者共の実験や計画も入るか……独立した出来事なら厄介でもないそれらを全て絡め、それが学園都市を潰すデケェ要因になっている」

そこまで言って、一息。ふう、と息を吐いて

垣根「ただ、本人の目的は至ってシンプルなんだよなぁこれが」

垣根帝督は笑いながらそう言った。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/27(日) 14:04:15.33 ID:wGWjfvZAO<>
垣根「俺達と同じさ、学園都市の闇に渦巻く星の数程の悲劇。ソイツに触れて人生が変わった人間。そういう奴らが取る行動は決まってる」

ベッドに横たわる垣根帝督の腕が伸び、体を起こしていた心理定規の露出した肩をそっと掴む。

心理定規「え……ひゃっ」

驚いたような声をあげたが、その声色に拒絶の意思はなく、垣根帝督の腕に引き寄せられる。瞬間、心理定規に触れたのは先程と同じ少年の暖かさ、温もり。

垣根「そのまま闇に堕ちて身を費やすか、闇に刃向かい、出し抜く為に無駄な努力を費やすか、だ。そしてソイツの目的は恐らく後者、つまり――」

ベッドが紅く染まった。

少年と少女が纏う同じ色をしたドレスと学生服によって白の布地に薔薇のような紅が咲く。

垣根「この学園都市の闇を潰す事だ」

垣根帝督の腕に力が籠もる。肩を抱かれ、耳元で発せられたその言葉はよく聞こえはしたが理解出来る程の余裕はドレスの少女にはなかった。

心理定規「…………」

口元がまごつく、上手く言葉が出てこない。抱き寄せられ、全身に溺れてしまいそうな程の暖かさを押し付けられたドレスの少女は一瞬の逡巡の後、空いた手をそっと少年の胸元に添える。

垣根「影響はもう表れている。暗部の世界なんかじゃ特にな」

垣根「そして俺達はソイツを利用し、アレイスターまで登り詰める」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/27(日) 14:04:59.03 ID:wGWjfvZAO<> 垣根帝督の意識はこちらへと向いておらず、その瞳はもっと先を見据えている。何が見えているのかはわからない、しかし悪いビジョンではないだろう、それは少年が浮かべる不敵な笑みが証明していた。

心理定規「…………」

それはとっても素敵な事だが、今しか見えない自分にとってはどうにも歯痒く、それが得体のしれない不安を煽る。

垣根「まぁ見てろ。ニ日、あと二日だ。そうだな……夜、面白いモノが見れるぞ。全くもって愉快な人災がな」

心理定規「……あなたには何が見えているのかしら」

その言葉はやはり不安の表れだろう。余りにも遠くを見つめ、高い位置に立つ少年への不安の表れ。思わず、見つめていた目を伏せる。

心理定規「…………」

自分はこの少年の隣にいる事が出来るのだろうか。

垣根「決まってんだろ」

心理定規「え?」

そんな不安を浮かべた瞬間、呟かれた垣根の言葉にドレスの少女は呆けた声をあげる。未元物質というものは心まで読めるのか、なんて馬鹿げた思考に走ってしまう。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/27(日) 14:05:32.03 ID:wGWjfvZAO<> 垣根「全部だよ全部。どうせならアレイスターのやり方を真似てやるさ」

垣根「計画が詰まったとしても、並列するラインに一度軌道を乗せ換えて、後で再び元のプランに戻せばいい。修正不能な程のイレギュラーでもない限り先は確実に見えてるんだ」

心理定規(……そっちか)

内なる不安を気付かれたいとは思わない、
むしろ気付かれたくなんてない。が、少しは気付いてくれる素振りがあっていいんじゃないかな、なんて勝手な事を思っている自分に少し自己嫌悪。

ただ慰めて励まして抱いて欲しいだけなら素直になればしてくれるのにその言葉が出てこない。

先を見据えた垣根帝督に、今を感じる事しかできないドレスの少女。

その少しの差違はドレスの少女を不安に駆り立てる。この温もりが離れていくのではないかと、そんな不安。

いったいその差はどこにあってどれ程の距離なのだろう。如何に体が0距離だろうが、心の距離が近かろが、その距離はきっと埋まらない。

心理定規にとって垣根帝督の背中はとても遠く、測れない程の絶対的な距離がある。

心理定規(本当に、名前負けもいいとこね……)

ダメだ。また感情に振り回されてる。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/27(日) 14:06:30.39 ID:wGWjfvZAO<> シャワーでも浴びよう。そう思ったのと、すぐ耳元ではぁぁぁと、わざとらしい溜息が吐かれたのは同時だった。

心理定規「……何かしら」

気付けば意識を向けていなかったはずの垣根帝督が頭を横にしてじっと見つめている。少女は垣根帝督に肩を抱かれており、その距離は思うよりもずっと近い。

目と鼻の先。使い方は間違っているかもしれないが、そんな表現がぴったりだった。

熱をもった吐息が頬を撫でる。

垣根「お前さ、俺のこと本気で舐めてねえかコラ」

心理定規「え……? っいた……い!!」

回された腕に力がこもり、ごちんと鈍い音。額がぶつかる。ぶつけられたのは額だけではなく、地獄と闇をくぐってきたその眼光。

その真っ向から迫る射抜くような視線に、しかし悪意と殺意は感じない。声には少しの憤り。

垣根「テメェはいったい誰の側にいるんだか自覚が足りてねえみたいだな。なぁ、俺の名前はなんだ?言ってみろボケ」

心理定規「……垣根、帝督。」

垣根「ああ、そうだ。垣根帝督。この学生都市超能力者の第2位だ。つまり2番目に賢いって事をテメエは理解してねえな?」

心理定規「え……? え……?」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/27(日) 14:07:27.60 ID:wGWjfvZAO<> 似合わない声を出しているなとドレスの少女はふと思う。慌てふためき混乱し、涙目になりながら子供のように疑問をそのまま口に出す。普段の冷めたキャラクターが台無しだ。

垣根「ここまで来ちまったらテメェの居場所はもう俺の隣にしかねえんだよ」

心理定規「……え?」

垣根「そしてお前の隣にいるのは第二位だ。余計な心配してんじゃねえ」

心理定規「…………」

ドレスの少女はとある能力を有している。

心理定規〈メジャーハート〉

対象が他人に対して置いている心理的な距離を識別し、それを参考にして相手の自分に対する心理的距離を自在に調整できる。つまりは人の心の距離を自在に調節し、本物の感情を偽りで塗りつぶすという、哀しく、恐ろしく、そしてある種の欠陥を持っている能力でもある。

この場でいう欠陥。

『心理定規』は自分の心を塗りつぶせない。

そしてその欠陥は、精神感応系能力者特有のある感情を誘発させる。

俗にいう不信感、心を操作する能力者は、その能力故に他人との完璧な信頼関係を形成し難い。

ドレスの少女が垣根帝督との間に感じていた些細な差違も、つまりはそれが原因だ。

心理定規「……バレバレだったかしら」

垣根「当たり前だボケ。俺を誰だと思ってやがる」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/27(日) 14:08:27.10 ID:wGWjfvZAO<> 例え心の距離が近かろうが、心理定規にとって垣根帝督の背中はとても遠く、測れない程の絶対的な距離がある。

当然だ。

垣根帝督にとってドレスの少女が心理的距離が限りなく0に近いの絶対的な存在だとしても、ドレスの少女にとって垣根帝督はかけがえのない存在であると共に、本能的に僅かな心理的距離を置いてしまっているのだから。

心理定規「…………」

話を戻そう。

ドレスの少女はとある能力を有している。

心理定規〈メジャーハート〉

相手の心を偽りの感情で塗り潰す残酷な能力。それをフルに使用し、ドレスの少女は闇を生き抜いてきた。

書き換え、偽り、塗りつぶし、その心理定規によって測り直された感情は、そもそも感情というモノがどのように変化するものなのかは少女にはわからない。

わからなかった。ついさっきまで。

心理定規「…………」

少年の胸元に添えた手から伝わるのは鼓動。生の証、人間の証、一定のリズムを鳴らすそれは、ドレスの少女に意識させる。自分の胸の内に存在する不安に揉まれながらも早鐘と表現するのが相応しいそれを。

心理定規(……なんでドキドキしちゃうかなあ)

つまりそういう事だった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/27(日) 14:09:14.04 ID:wGWjfvZAO<> 完璧な信頼関係を得るにはどうしても心を塗り潰す必要がある。

どうしても自分の心が塗り潰される必要がある。

偽りではない感情で。

心理定規「……ねぇ」

それをいとも簡単にこなしてしまう第二位も第二位だが、簡単に塗り潰される自分も自分だ。

垣根「あぁ?」

単純すぎる。名前負け、という自己の評価は当分撤回出来そうにない。

心理定規「シャワー浴びようよ。一緒に」

けどまあいっか。とドレスの少女は薄く笑う。

異能の能力こそもっていれど、自分達はやっぱりただの少年少女なのだから。

垣根「死ね」

ぶっきらぼうにそう言い放つ少年に、しかし心理定規は笑みを崩さない。次の行動、言葉は予想がつくし、心理定規にはそれは手に取るようにわかる。

心理定規「じゃあ抱いてくれる?」

垣根「……はぁ」

今度は呆れたような深い溜息、

垣根「テメェさっき言ったよな。いつまでこうしていられるからって」

心理定規「えぇ」

垣根「暇つぶしにアイテムの連中に挨拶しにいくってのもいいがな。監視と追撃が完全に止む2日後までは動くつもりはねえよ」

心理定規「だから?」

そう促した瞬間、垣根帝督が不敵に笑った。

そして、

心理定規「――ん」

華やかな紅が咲いた。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/27(日) 14:10:27.75 ID:wGWjfvZAO<> 互いが身に着ける同じ色をした血のような深い薔薇色が一面の白に広がる。

そしてドレスの少女は全てを放り投げ自分の居場所を強く抱き締め、求め声をあげる。

アイテムも、滝壺理后も、滞空回線も、自身の立場も、魔術師も、アイテムに始末されたスクールの残党も、追撃される度に起きていた大地震も、学園都市の死も、終わりも、脅かすたった一人の驚異も、

今だけは全てを忘れ、ただの少女は自身の寄り添うべきそれを強く強く求め、その居場所、少年はそれに応える。

そして少年――垣根帝督は気付かない。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/27(日) 14:10:58.02 ID:wGWjfvZAO<>




垣根帝督は気付かない。





<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/27(日) 14:12:33.55 ID:wGWjfvZAO<>
今この瞬間、違う場所。


たった1人の無能力者がとある少女を助けて、否、更なる地獄に突き堕としてしまった事に、気付かない。


それによって完璧だったはずの自身の計画の根幹が崩れてしまった事に気付かない。

たった一つの過ちと油断が、その身を、その身に寄りかかる少女を破滅に導く事に気付かない。



垣根帝督は気付かない。



<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/27(日) 14:13:15.22 ID:wGWjfvZAO<>





浜面仕上という、修正不可能な程のイレギュラーの存在に、気付けない。






<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/27(日) 14:14:59.78 ID:wGWjfvZAO<>

その身を包む白のそれには紅い花が咲き誇っていた。

そして、咲き誇った花の運命は決まっている。


垣根帝督と少女は共に歩んでいく。


隣に並び、歩んでいく。


その身に待つのは垣根帝督が思い描く未来ではなく。絶望と破滅、そして確定的で避ける事のできない死だとも知らずに歩んでいく。


ただ、今の二人に、それを知る術はない。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/27(日) 14:19:23.78 ID:wGWjfvZAO<> というわけで長かった舞台裏はここまで。ていとくんの持ってる情報量と心理ちゃんの掘り下げで予想以上に長くなった。掘り下げむずい。ぶれてたらすめん。

さて、次は少し小話を挟んで、挟むかわからんけどやっと浜面パートいくぜー!!声優だれになんのかすげ気になる。

ではでは、かいてきまー <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2011/03/27(日) 14:32:35.73 ID:BX+DaK8AO<> 乙乙

浜面!浜面! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/27(日) 14:49:20.17 ID:TDJ6T4LIO<> 乙!
ようやく浜面がどうなったのかわかるな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/03/27(日) 14:56:32.04 ID:TFg9mQwO0<> 乙!

浜面パートに超期待です! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(愛知県)<>sage<>2011/03/27(日) 15:18:51.80 ID:2sSiEiCyo<> 乙

・・・え、ちょ、ていとくんと心理ちゃんバッドエンド直行? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<><>2011/03/27(日) 17:49:00.94 ID:GcOvhb1P0<> 乙。
まぁ魔術持ちの能力者ってもうインデックスがなっちゃったもんなぁ……
報われないカッキー
とにかく次は浜面のターンかwkwk <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/28(月) 14:00:13.47 ID:TkUkb8S30<> 乙!!

未元定規バッドエンド・・・か
浜面は今 一人行動中だっけか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(愛知県)<>sage<>2011/03/28(月) 19:53:43.68 ID:XTgB+LxW0<> 乙ー
次回ついに浜面かな? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/03/29(火) 00:36:09.71 ID:47Vs7dKG0<> 新訳読み直したから駒場さんの死が異常に悲しい…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県)<>sage<>2011/03/29(火) 03:09:55.95 ID:Bp2Uo1WSo<> 乙、浜面マジイレギュラー
一体彼のせいでどれくらいのキャラがバッドエンドを迎えるようになる事やら <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/29(火) 10:12:32.29 ID:hfhUXD//o<> 逆に原作のバッドエンドを回避できる可能性もあるけどな
フレンダとかフレンダとかフレンダとか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<><>2011/03/30(水) 11:06:05.32 ID:J6kr9/nAO<>




・傍観者






<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/30(水) 11:06:46.62 ID:J6kr9/nAO<> その部屋には窓がない。

ドアも、窓も、廊下も階段もエレベーターも通風孔すら、そこには存在しなかった。

学園都市のとある場所にそびえ建つそれは、ビル。

窓のないビルと呼ばれる巨大な建造物だった。

限られた者しか入る事の許されないそのビルの中は、星のような人工の光に満たされている。大小数万にも及ぶ機械類からは更に数十万にも及ぶコードやケーブル、チューブ類が伸びており、それは中央に置かれたある装置へと集束していた。

そして、そこに漂うのは、緑色の手術衣を来た『人間』

血のように赤い液に満たされた巨大なガラスの円筒の中で逆さに浮かぶ『人間』はうっすらと笑っていた。

「希望の種……か」

誰もいないというのに『人間』はポツリと呟く。

「それは誰にとっての種になるのかな、垣根帝督」

少なくとも、それが第2候補にとっての絶望になるだろう事は、その『人間』には簡単に予想がついた。

既に垣根帝督に一切の希望はない。何せ、彼の計画の『根幹』は既に崩れてしまったのだがら。

「…………」

多くは語るまいと、人間は薄く笑う。そして、
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/30(水) 11:09:30.51 ID:J6kr9/nAO<> 「――浜面、仕上」

『人間』はその名を呟いた。

浜面仕上

無能力者

スキルアウト

レベル0

そして、

「見せて貰おう『イレギュラー』がどこまで突き進むのかを」

『人間』は呟く。楽しみだ、と。

彼にそう言わせしめる事がどれ程の事か、それを理解出来る人間がいるとしたら、とても言葉では言い表せ無いだろう。

ただ一つ言えるとすれば、それは、そう……

『不幸』とでも言うべきか。

「ただ、今のままでは少し面白味にかけてしまうな。これは私に出来るささやかな贈り物だと思ってくれてかまわない」

瞬間、円筒形のガラスの側にモニターが表示される。聞こえてきたのは気怠そうな、声。

『人間』は簡潔に短く言葉を伝える。

その『仕事』の対象、日時、場所、行動。そして

「滝壺理后」

標的の名前を告げて、モニターは消え去った。

その場に残ったのは静寂に、1人の『人間』の薄く、小さな笑い声。

「さて、無理矢理だが、これで準備は整った……垣根帝督にも役に立ってもらおうか、なにせ彼の撒いた種だ」

物語が、加速する。




「『7人目』のレベル5。その覚醒に、な」




全てを掌握するアレイスター=クロウリーの手によって、数多の少年少女の運命が今、確実に歪んだ。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/30(水) 11:10:12.65 ID:J6kr9/nAO<>




・入り口





<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/30(水) 11:11:27.32 ID:J6kr9/nAO<> 何が起こったのか、それは浜面自身にも分からなかった。

最後に見た光景は閃光、自分の体を貫くべく真直線に迫ってきた圧倒的質量。何度も経験した圧倒的に迫り来る死。

なら自分は死んだのか。インデックスを救って、駒場の意思を受け継いで、これからだというのに自分は死んだのか。

浜面「……う」

しかし、それは自身が絞りだした滓のような呻き声が否定する。自分は生きて、まだ生きて――

浜面「……生きて、る」

浜面仕上は硬いアスファルトに這いつくばっていた。

自分の瞼が閉じられている事に気付き、うっすらと開く。

闇を開いたその瞳に飛び込んできたのは、その闇より深い夜の空、轟々と燃える炎に、

「……チッ」

その苛立ちを臆面もなく押し出し、整然と佇む1人の女。

能力者、浜面に向けて死を放った存在。


「で、これはどういう事なんだぁ?オイ」

そして次の瞬間、その女が放ったのは死ではなく疑問。

「なんでテメェがここにいるって聞いてんだよ」

それは、浜面仕上に向かって放たれた言葉であったが、浜面仕上に対して放たれた言葉ではなかった。

「何やってんだって聞いてんだよォッ!!」

「絹旗ァぁぁぁッ!!」

それは、浜面仕上を庇うようにしがみつき、守るように覆い被さる絹旗最愛に向かって放たれた言葉だった。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/30(水) 11:12:45.12 ID:J6kr9/nAO<> 浜面「――――!?」

思い出す。

あの時、閃光が浜面仕上を打ち抜くまさにその瞬間に聞こえた、自分を呼ぶ声。

あの落雷の日にも聞こえた、自分を呼ぶ声。

浜面「何、やってんだよ……」

絹旗「……、」

浜面「絹旗……」

絹旗「……ッ」

そしてその声に、絹旗最愛は顔を背ける。

見られたくないなにかを隠すかのように、そんな事に意味はないのに、絹旗は浜面仕上と目を合わそうとはしなかった。

絹旗「麦野……待ってください」

こめかみに怒りを浮かべ、一歩、また一歩と近付いてくる少女に、絹旗がそう言葉を投げる。

麦野「――――ッ」

返事はすぐに返ってきた。

絹旗「ぐ、うッ!!」

ただし、それは言葉ではなかったが。


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/30(水) 11:14:01.74 ID:J6kr9/nAO<> 大きく振られた爪先が腹を打ち抜き、絹旗の体が不自然に宙に浮かびあがる。

麦野「ハッ、なぁに苦しそうな声出してんのよ絹旗。アンタの能力なら痛みなんて全然ないだろぉがぁぁッ!!」

絹旗「がッあ!!」

二発目が、絹旗のわき腹を打ち抜き、浜面を庇うように覆っていた絹旗の体が引き剥がされた。

衝撃は殺しきれず、そのまま吹き飛ばれた絹旗最愛の小さな体はアスファルトの上を転がり駆ける。

浜面「絹は――痛ッ!!」

麦野「へぇ、なんだテメェ。絹旗の知り合い?ハッ、ボロボロじゃねぇか。こりゃ私が殺すまでもないかぁ?」

まぁ殺すけど。

絹旗「――ッ! 麦野ぉッ!!」

シュッ、と空気が焼き切れる音がして、縦に閃光が走った。

浜面「――――」

砕かれたアスファルトの破片が頬に触れる。温いなにかが皮膚から滲み出る感触。

麦野「……絹旗。いい加減にしときなさいよ」

多分、絹旗最愛が拳を向けていなければその閃光は浜面の額を貫いていただろう。

絹旗「お願いです麦野。話を聞いて下さい」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/30(水) 11:16:45.41 ID:J6kr9/nAO<> 麦野から放たれる殺意を含んだその視線に、絹旗最愛が真っ向から睨み返す。

這いつくばる浜面仕上を挟み、互いに必殺を抱きながら向かい合う2人の少女。

麦野「――――ッ」

閃光を撃ち出そうと腕を振りかぶったのは麦野だった。避けられない浜面仕上を狙い、その死を放つ。

絹旗「――ッ」

ガゴォッ、と極太の閃光が貫いたのはアスファルト。砕けた破片が、舞い上がる。

浜面「痛ッ!」

絹旗「超我慢してください浜面ッ、死にますよ!?」

麦野「ハッ、んなボロクズ庇って私とやるつもりか絹旗ァ!!」

自分の倍はあるであろう浜面を軽く背負い、絹旗最愛は後方へ駆ける。浜面に放たれた閃光を器用にも避けきり、麦野、麦野沈利と一定の距離を取る。

絹旗「ハッ――ハッ――」

額には汗。当然だ、背には手負い、本気の殺し合いとまではいかないとは言っても対峙しているのは超能力者。

学園都市の第4位。原子崩し<メルトダウナー> 麦野沈利。

絹旗「…………」

自分が適う相手ではない。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/30(水) 11:18:02.45 ID:J6kr9/nAO<> 麦野「ふーん。私に対して距離をとる……ね。どうしちゃったのかにゃーん絹旗ぁ。頭に酸素足りてないの?」

絹旗「麦野……お願いします。話を、」

麦野「ハッ、さっきから同じ台詞べらべら吐き出してんじゃないわよ」

絹旗「麦野……」

麦野「……ふーん、本気なんだ」

麦野沈利は考える。絹旗最愛の行動、言動の意味。

本気、そう。絹旗最愛は本気だ。

麦野「――くっ」

麦野「ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」

だから笑う。麦野沈利は腹を抱えて笑った。

麦野「ギャハハハハハハハハハハハハ、本気でそのスキルアウトのクズ助けたいのかよ絹旗ぁ!!アハハハハハハハハハハ」

絹旗「……ッ」

そう、絹旗は本気でそこのボロクズを助けたい。だから自分に刃向かい、距離をとった。絹旗にとっての射程圏外、自分にとっての射程圏。

優位性を目に見える形にする事で、自身の覚悟を表し、争いを避けようと――

麦野「舐めてんのかテメェ」

閃光――正式には粒子加速砲が大気を裂いて絹旗の右肩を、見えない鎧で覆われているはずの皮膚を撫で、

絹旗「――――」

轟音、どこまでも突き進んだそれは飴のように大地を溶かし、粉砕。

絹旗の心臓が萎縮する。目前に迫るリアルな死が、恐怖を燻し体の震えを誘発する。
麦野「ねえ、絹旗」

その言葉と共に、麦野沈利が一歩近付く。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/03/30(水) 11:19:07.18 ID:J6kr9/nAO<> 麦野「私達が何か、分かってるよな?」

絹旗「…………」

麦野「決まり事ぐらい、知ってるでしょ?」

一歩、また一歩。

絹旗「……ッ」

麦野「なぁ、絹旗」

震える絹旗の前に立ち、その瞳に殺意しか存在しない超能力者は言う。

麦野「テメェがなんの為にそこのボロクズを助けようとしたのかは知らないよ?」

けどさ

麦野「裏切り者には粛清を」

震える絹旗の耳元に顔を近づけ、麦野沈利は刃物のように研ぎ澄ませた言葉をそっと呟く。

麦野「さっき殺したスキルアウト共みたいに真っ二つにされたくないならソイツから離れろ絹旗最愛」

絹旗「…………」



「待てよ」



そう声を発したのは、目の前で小動物のように震える絹旗ではない。

麦野「……あぁ?」

その小動物のように震える絹旗に庇われるボロクズ――浜面仕上。

浜面「……ちょっと待て、よ。テメェら」

限界まで体力をすり減らし、最早一歩も動けるような体ではない、浜面仕上の発した言葉だった。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<><>2011/03/30(水) 11:21:28.63 ID:J6kr9/nAO<> ちょっと短いけどここまで。浜面パートと言いながら浜面置いてきぼりだけどまぁ、そこはまぁまぁまぁ。むぎのん粒子加速砲であってたっけ。

こっからしばらくは浜面のターン!

ではでは、かいてきま <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(富山県)<>sage<>2011/03/30(水) 11:46:11.95 ID:BVbM3UrFo<> 粒機波形高速砲だってさ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<><>2011/03/30(水) 11:50:19.79 ID:1q9jlb9B0<> 乙!

>>96
ちょっと違うと思うけど別に気にしないからいい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2011/03/30(水) 11:57:51.64 ID:J6kr9/nAO<> >>97

うあーやっぱりちがったすめん。ありがとう。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2011/03/30(水) 20:32:59.90 ID:U6St/+u80<> 乙
むぎのんマジむぎのん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<><>2011/03/30(水) 20:48:09.67 ID:iSOEMjqg0<> 浜面きたーと思ったら初っ端から麦野戦でわろた <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/03/30(水) 20:50:15.05 ID:iSOEMjqg0<> sage忘れたすまん。あと乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/30(水) 22:53:54.15 ID:HWAtO4C70<> 原作で浜面>麦野みたいなもんだからなぁ

浜面<麦野+滝壺だろうけど <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<><>2011/03/31(木) 08:54:49.49 ID:uX5oULrw0<> >>103
原作でも一戦目はなめてたとはいえ、実力による完全な敗北だし
二戦目は運の要素が多かったがサイボーグ化してないと爆発で死亡していたからな。
三戦目も能力暴走させて情けかけてもらわなかったら、負けて死んでいた予感しかしない

浜面が強いのか麦野が弱いのかは分からんが、今回の麦野戦は本当に楽勝な気がする <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(愛知県)<>sage<>2011/03/31(木) 08:58:48.70 ID:ClJvgGF/o<> むしろ麦野が他の人に勝つシーンが思い浮かばない
自分より弱い人間には油断するし強い人間に対しても機転がきかなそう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/31(木) 09:18:44.04 ID:fdbQ6ASIO<> 原作じゃ一人で圧倒したのって確かフレンダくらいしかいないしなw <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/03/31(木) 12:09:42.70 ID:ud6fSvya0<> さりげなくアレイ☆が気になる事言ってるんだけど。
え、ソギーでるの? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/31(木) 13:02:26.73 ID:54nExp40o<> >>107
このスレの学園都市にはレベル5が6人しかいない
たぶん7人目ってのは滝壺のこと <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/31(木) 13:03:04.85 ID:54nExp40o<> すまん上げちまった <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<>sage<>2011/03/31(木) 14:06:15.37 ID:uX5oULrw0<> 俺も>>104sageれてなかったすまん

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/31(木) 16:17:56.01 ID:/Er7djiio<> 6人しかいないって誰が欠番か明記されたっけ? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<>sage<>2011/03/31(木) 16:34:53.26 ID:7rhMhomUo<> セレクトBB <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/07(木) 02:50:44.54 ID:uHZHZFMC0<> >>1まだ? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/09(土) 04:19:57.61 ID:B1eoCGKY0<> はよこい>>1
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/09(土) 18:22:29.69 ID:ujQP4DjV0<> 浜面もアニメで出た記念に、最初から読み返してきた
イメージが補強されたせいか一段と楽しかったぜ

続き待ってる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/04/10(日) 01:05:54.78 ID:FJmw4C2n0<> ああ、続きが待ち遠しい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/04/10(日) 02:53:08.67 ID:vQmJ0dhxo<> 浜面イケ面すぎて却ってモブ臭かった <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/11(月) 07:35:08.93 ID:S07iE8x10<> はーまずらぁ 早く来いよ

アニメにで出てるだぁ 関係ねえんだよ かんけいねえんだよぉおおおおお <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/12(火) 16:25:23.68 ID:c8VgOhmVo<> 今更前スレ読んだがすっげー面白かったよ
スキルアウト三馬鹿好きだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<><>2011/04/15(金) 01:14:45.17 ID:gZlBP2li0<> 漏れら極悪非道のageブラザーズ!
今日もネタもないのにageてやるからな!
 ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  ∧_∧   ∧_∧    age
 (・∀・∩)(∩・∀・)    age
 (つ  丿 (   ⊂) age
  ( ヽノ   ヽ/  )   age
  し(_)   (_)J <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/15(金) 23:35:36.12 ID:Z8Tvb7DP0<> 次マダー <> sage<><>2011/04/17(日) 12:40:34.53 ID:jD+UNQUT0<> まだかな? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/18(月) 19:51:59.31 ID:iLg9t9H70<> せめて生存報告は欲しいな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/04/22(金) 00:40:07.68 ID:ZHQe/QKm0<>   ∧∧_____∧∧       /"⌒ヽ____∧∧ (゚Д゚,,(゚Д゚,,)
  (゚Д゚,,)       (゚Д゚,,)      ./  ノ∪    (,,゚Д゚)  ̄ ̄ ̄ ̄
 ⊂⊂,,---------と   つ   .∧∧ /------∧∧つつ
            |  |  ⊂(゚Д゚,,)つ    (゚Д゚,,)"
      ∩∩ ⊂_⌒ .ノ〜           ∪∪,|
      | ⌒〜  ∪"              .|∧∧
      |   |                   (゚Д゚,,)
      ,ノ  ,,ノ                  /∪ ノ⊃
     ∧∧ /                  /,,  /
    (゚Д゚,,)                 〜( __ )
     ∪∪                   ∪∪ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/27(水) 22:53:01.75 ID:od0nBj8DO<> そろそろ1ヶ月たっちゃう… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2011/04/30(土) 01:33:55.02 ID:R19COg770<> なンか全作の>>795のURL行って過去ログ見たら作品あったんだが? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/05/09(月) 18:45:51.82 ID:auD6Chyx0<> GWもあけたんでage <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<><>2011/05/10(火) 19:19:31.61 ID:O/G1V2mAO<> いままでのあらすじ。

屋上から降ってきたインデックスを助ける為にステイルや神裂、魔術師達を機転と実力で切り抜け、強引な方法でインデックスを救った浜面に待っていたのは仲間であり親友の駒場利徳の死だった。

駒場の意思を受け継ぎスキルアウトとして学園都市の情報網の一部を無事に停止させた浜面仕上に訪れたのは暗部「アイテム」学園都市の第4位、麦野沈利。

怒りに狂った麦野沈利の放った原子崩しに貫かれたかと思いきや、何故か都合よくその場にいた友人の絹旗最愛に助けられるが状況はさほど変わらず、そして浜面仕上は麦野沈利から放たれた一言に待ったをかける←いまここ。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<><>2011/05/10(火) 19:20:48.62 ID:O/G1V2mAO<> 浜面「――――」

理解が追い付かない。

現状、浜面仕上は自身が置かれるこの状況を理解出来ずにいた。

見知らぬ女が自分の命を狙い、そして何故か絹旗最愛が自分を守ろうとその女の前に立ち塞がっている。

顔見知りらしい2人の会話は、ぼんやりと意識が捉えるも、その意味は理解しきれず、浜面仕上は庇われるまま、倒れ伏すまま、思考は回らず、言葉も発せず、

浜面「…………」

ただ、たった一つだけ理解した。

コイツだ、と。

直感が、そう告げた。

傷だらけでボロクズのように倒れ伏す浜面を、しかし震える体で守ろうとする少女――大能力者である少女。その少女を震えあがらせる程のこの女が、何者かは知らない。

ただ、たった一つ、確信した事がある。

半蔵が言っていた頻発していた能力者によるスキルアウト襲撃。

駒場利徳の死。

全部、この女の仕業か。

つまり、

浜面「テメェが駒場を、」

コイツが駒場を殺した。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/10(火) 19:22:29.75 ID:O/G1V2mAO<>
浜面「――ッ」

力を込める際に脳裏に過ぎったのは、ほんの少し前の日常。

インデックスと笑いあっていたそれより前の、自分を卑下し、劣等感に苛まれ、自己嫌悪にまみれた、しかし仲間がいた日常。

満ち足りていたとは言えないが、褒められたものではないが、それでも屑みたいな自分の痛みを理解してくれた仲間と、日常。

奪われた仲間と、日常。

絹旗「浜、面……」

浜面「どけよ絹旗」

用があるのはそっちの女だ。その言葉に女、麦野沈利のこめかみがピクリと反応する。

麦野「へぇ……」

短く吐き出したその言葉と共に、麦野の細く、研ぎ澄まされた視線が浜面仕上に刺さる。鋭利なそれに反して相手に重くのし掛かる殺気を纏う麦野を目の前にし、

絹旗「……ッ」

絹旗最愛が、無意識に足を一歩引いた。

そして浜面仕上は、

浜面「――う、おぉぉぉぉぉッ!!」

浜面仕上は――――







麦野「……ハッ、なんだそりゃ」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<>sage<>2011/05/10(火) 19:23:21.10 ID:d3Hx1dBWo<> きたああああああああああああああああああああああ
>>1で良いんだよな? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/10(火) 19:23:35.19 ID:O/G1V2mAO<>
乾いた嘲笑が投げかけられた

浜面「――ぅ」

浜面仕上は立ち上がらず、無様に地面に倒れ伏すままだった。

地に投げ出された腕に力を込める、腕を支えに立ち上がろうと体を持ち上げ――しかし、体は起き上がらない。脚が震え、肘が折れる。

ドサリと音を立て倒れ込む浜面に対し、

麦野「はっ」

女が笑う。満足に立ち上がる事も出来ず、立ち向かう事も出来ず、アスファルトの上でもがく無能力者を、唇を歪めた麦野沈利がまたも笑う。

浜面「…………」

嘲りが降りかかる中、舗装がされておらず、ゴツゴツとした地面の感触を頬に感じ、浜面仕上はぼんやりと思考する。

仇を討たないと。

目の前に立つこの女に、駒場利徳は殺された。

こんな自分を信じてくれた、託してくれた、リーダーでいてくれた、親友でいてくれた。

こんなクズの仲間でいてくれた駒場利徳を、この女は殺した。

だから、仇を討たないと。

だから、起きろよ浜面仕上。

浜面「…………」

浜面「…………」

浜面「…………」

体が動かなかった。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/10(火) 19:24:25.80 ID:O/G1V2mAO<> 立たなければと思考はするも、それに何もかもがが追いつかない。体力も、気力も、気持ちも、力を込めようとした腕はピクリとも動かなかった。

浜面「――――」

限界。

限界だ。

炎の魔術師、神裂火織、禁書目録、常人なら生き残る事なんて出来ないようなその戦いを三度も生き延びた浜面の体は、既に限界まで痛めつけられ、とてもではないが能力者を相手に立ち上がれるような体力なんて残ってはいなかった。

麦野「何かと思えば、一人前なのは威勢だけかよ」

聞こえたのはそんな言葉に、地面を叩く靴の音。

死が一歩ずつ近付いてくる、そんな音。

浜面「……あ」

立たなければ、殺される。刃向かわなければ、自分を覆うのは死だ。

それが分かっているのに、浜面仕上の体は動かない。

何度も何度も、魔術師を相手にいつだって限界を超えて絞り出せたあの力は、気力は、この局面に置いて絞り出す事ができなかった。

絞り出す為の原動力がどこにもなかった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/10(火) 19:26:39.33 ID:O/G1V2mAO<>

浜面「なんで……」

思考と心がすれ違う。駒場を殺されたという事実を受け、仇をとらないとと思う反面、そのための感情が沸いてこない。

感情が突き動かしてくれるなら、こんなボロクズの体でもまだ動くはずだ。インデックスを救いたいと、助けたいと願った時のように。

炎に焼かれようが、体を刃が貫こうが敵に立ち向かう事だって出来たんだ。体が動きさえすればきっとこの女だってぶちのめせるはずなのに、


なのに、


かつての自分の居場所を壊した相手を前にして、何故か燃料となる感情が湧き上がってこない。浮かんでくるのは喪失感。

一瞬の激情はとうの昔に沈みこみ、空虚になった心を静かに埋め尽くすのは、卑下と恐怖。

浜面「…………」

親友が殺されたというのに、それに対して何も沸き上がらない自分への嫌悪感。

そして、

麦野「無能力者の分際で私に喧嘩うった覚悟は出来てんだよなぁ」

黙っていれば整っているであろう、その顔を悪鬼のように歪め、今にも自身に向かって放とうとしている死への恐怖。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/10(火) 19:27:48.94 ID:O/G1V2mAO<>
浜面(……死んだら、インデックスに会えないな)

せっかく助けたのに。

もう、魔術なんてものに苦しまなくてもいいのに。

交わした約束だって、果たしていないのに。

ここで死んだら、もうあの日常にもどる事が出来ない。

あの笑顔を見る事が出来ない。

だから立てよ浜面仕上。


浜面「…………」


体は動かなかった。

浜面「……ははっ」

変わりに洩れたのは、嘲笑。いつの間にか駒場の仇を取る為ではなくインデックスに会う為に立とうとしていた自分への嘲り。

やはり自分はどこまで突き進んでもクズらしい。

麦野「そろそろ死んどけ。クズ」

バチッと、雷が弾けるような音がした。

麦野沈利が放った死の音だという事は、考えなくてもわかった。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/10(火) 19:30:04.88 ID:O/G1V2mAO<>


麦野「……ふぅ」



麦野沈利が浅く、溜め息を漏らす。気が立っている心を落ち着けようと試みたその行為だったが、

麦野「……チッ」

どうやら効果はないらしい。胸に渦巻く苛立ちを抑えるのを辞め、麦野沈利はスキルアウトのクズが倒れていたアスファルトの地面から、視線を目の前に移した。

そこに立っているのは、

麦野「絹旗」

一言、名前だけを投げかける。ありったけの殺意と敵意を込めて投げかけた。

絹旗「…………」

自分の二倍程の面積はあろうスキルアウトの少年を背負う絹旗最愛に向かって。

麦野「いい加減にしなさいよ。殺すぞ」

そんな言葉を投げかけた。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2011/05/10(火) 19:31:31.32 ID:O/G1V2mAO<> 書くの躓いてたら1ヶ月以上経ってたすめん。ゆっくり更新していきます。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/05/10(火) 19:33:31.38 ID:d3Hx1dBWo<> 良かった生きてたか
ゆっくりでも全然問題ない <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/10(火) 19:33:32.17 ID:hy0dPiPpo<> ずっと舞ってた。

ほんとうによく帰ってきたな。
絹旗かわいいよ最愛 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/10(火) 19:49:10.40 ID:Eo82HyO9o<> うおおおおおお生きてたか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(沖縄県)<>sage<>2011/05/10(火) 22:17:39.86 ID:U9SopQU/o<> >>137

期待してるぜ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2011/05/10(火) 23:07:14.38 ID:O3jLzYfi0<> おおおおおやっときたか。そしてはまづらあ・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/05/11(水) 01:56:34.12 ID:CMfP12pt0<> おおおおおおお乙うううううううううううう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/11(水) 02:23:32.28 ID:rNZ4ZmHa0<> 帰ったか!帰ったか!
乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sagr<>2011/05/11(水) 05:46:45.33 ID:oKFhZCDG0<> 待ってた
乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/11(水) 09:21:51.59 ID:YOrCEcuc0<> 駒場のリーダーは麦のんにやられたのか。
一方駒場ロリコンライン成らず、無能力者狩りは続いているのか。
フレメアもどうなってるんだかな。

なんにせよ難産を乗り越えた>>1乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/11(水) 20:23:16.69 ID:V0HK9CL00<> >>146
本当に麦野が駒場を殺したかどうかは確定情報じゃあないぞ

まず>>1乙 いやーホント待ちくたびれたぜ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/14(土) 01:31:32.14 ID:Ew9lL52AO<> 浜面「絹、は」

絹旗「黙っててください浜面」

掠れた声で呟いた名前は、浜面を背負う少女よって一蹴される。

絹旗最愛。

レベル4。常盤台のお嬢様。映画にうるさく、暇さえあれば浜面を付け狙う少女。

それが絹旗に対する浜面の認識だった。

だが、違う。

浜面「…………」

今ここにいる絹旗最愛は。浜面仕上と映画を見ていたいつもの少女とは明らかに違った。

顔付きは、日々スキルアウトとして過ごしてきた浜面だからこそわかる。それは力を奮う能力者。

絹旗「…………」

そして弱さをひた隠しにする弱者の顔。

麦野「ハッ、さっきから黙ってるとおもってたらこれか、いい加減にしろよテメェ」

もはや苛立ちを隠そうともせず――元々隠してなどいなかった女が、そう言い放つ。

絹旗「……麦野」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/14(土) 01:33:11.17 ID:Ew9lL52AO<> 殺す。

そう言った麦野の言葉は決して脅しではない。その気にさえなれば、目の前に立つ少女のその細い体を貫く事など、その場で足を一歩踏み出すより容易い事なのだ。

絹旗「……私は、」

しかし誰よりもそれをわかっているはずのその少女は、その場を動こうとしない。浜面仕上を捨てようとはしない。

そのまま全力で退くか、荷物を捨てるかをしなければ己に訪れるのは下半身との離別だという事は理解しているのに、絹旗はその小さな背で浜面を庇い、一秒後には押し潰されてもおかしくない程の威圧感を一身に受け、俯きながら麦野沈利の前に立っていた。

麦野「…………」

麦野沈利の口元がニィッと歪む。醜悪なそれは笑みであって笑みではない。

麦野「ねぇ、絹旗」

どす黒い血をイメージさせるような、そんな声で麦野沈利が呟いた。名を呼ばれた絹旗は肩を震わせ、それでもそこから退こうとはしない。


そして麦野はそんな少女を潰しにかかる。

麦野「き・ぬ・は・た」

絹旗「――ッ!!」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/14(土) 01:34:00.10 ID:Ew9lL52AO<> 麦野「アンタ、分かってる?」

絹旗「…………」

麦野「今お前が背負ってるそのクズは上手くいきかけてたうちらの仕事と計画を台無しにしたのよ?」

声を和らげ、しかしその裏に潜む苛立ちを隠せてはいない麦野が、浜面仕上を指さした。

浜面「……ッ」

麦野「ぷちぷちぷちぷちスキルアウト襲ってボスを殺して、突き止めたクズ共の計画を潰して最後に依頼主からブツを奪えばはいしゅーりょー♪……だったら良かったんだけどさ」

そして、一変。麦野の表情から繕っていた笑みが剥がれ落ちる。眼を覗きこみ、射抜くように、

麦野「テメェが今庇ってる馬鹿が全部台無しにしたんだよ」

絹旗「……、それは――」

絹旗「…………っ」

俯き、目を逸らす。何かを言いたげに下唇を噛み締め、意を決して口を開こうが、しかし言葉の続きは出てこない。

だって、そんな事は承知の上なのだ。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/14(土) 01:35:42.10 ID:Ew9lL52AO<> 『アイテム』

原子崩し〈メルトダウナー〉

学園都市超能力舎序列4位――麦野沈利。

目の前の彼女が率いるその非公式組織が、とある目的の為に暗躍していたのを絹旗最愛は知っている。

その組織の構成員であり、この麦野沈利と共に学園都市の裏を暗躍していた絹旗最愛は、当然それを知っている。

そしてその目的を、今現在絹旗が庇い、背負っているこの少年が潰してしまった事もなんとなく理解した。

麦野沈利はそれを許さない。許すはずがない。自分の遙か下層に位置するスキルアウトに目的を阻まれた。そんな事実を麦野沈利は絶対に善しとしない。

想定外のイレギュラー。原因となった少年。元凶となった浜面仕上を殺して、殺すに決まっている。当然だ。

浜面仕上という不良かぶれのこの少年は麦野にとって生かす価値もない、何の価値もないただのクズなのだから。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/14(土) 01:37:24.24 ID:Ew9lL52AO<> 絹旗「…………」

けど、

だけど、

絹旗「お願いです麦野。この人を見逃してください」

絹旗最愛にとっては違った。

麦野「だれが見逃すか。それ以上ごたつくようならテメェもろとも殺すから」

絹旗「………」

絹旗最愛にとっては――

学園都市の裏の顔、抜け出せない闇の底、血を血で洗う殺しの世界に属する者として、その言葉は言ってはいけない。似合わない。甘すぎて砂糖でも吐いてしまいそうな程、

絹旗「……友達なんです」

麦野「…………」

麦野沈利の顔が歪んだ。

しかし、それに構わず絹旗は言う。希望を吐き出す。

絹旗「死んでほしくないんです」

拳を握り、唇を噛み締め、体を震わせながら、

絹旗「お願いします麦野」

絹旗「見逃して、ください」

麦野沈利に懇願し、

麦野「知るか」

麦野沈利はそれを斬って捨てた。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/14(土) 01:40:16.87 ID:Ew9lL52AO<> 甘い。そう、絹旗最愛の選択は甘すぎる。

暗部という一切の容赦が存在しないその世界での絹旗最愛が選んだ選択はあまりにも馬鹿げてる。

そして、

麦野「アンタさぁ、なに期待してるわけ?」

その声には何も含まれていない。先ほどまで確かにあった激しい怒りも、敵意も、殺意も

カツ

ヒールが地面を叩く。麦野沈利が歩を進めたその音は、死を告げるカウントダウン。

絹旗「…………」

カツ

麦野「私が、本気で見逃すとでも思った?」

カツ

麦野「『仲間』の私ならもしかしたら見逃してもらえる?……ハッ、まさかね」

カツ

麦野「『アイテム』って単語の意味、わからないわけじゃないわよね?」

カツ

麦野「アンタは逃げるべきだった。そのボロクズを本気で助けたいなら、私の前からソイツを抱えて姿を消すべきだった」

カツ

麦野「それをせずに、私に刃向かって、あまつには見逃せ?」

カツン――

音が、止まる。それは最早歩む必要のない、息がかかる程の至近距離。


麦野「ふざけてんのか」


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/14(土) 01:41:55.31 ID:Ew9lL52AO<> 絹旗「う、ぅ……」

降りかかる何もこもっていない言葉に、その瞬間、絹旗は諦める。浜面仕上を生かす事も、自身が生き残る事も、何もかも。瞬きをした瞬間、死が自分を包むだろう。

思えばその選択は確かに間違っていた。

この世界において絹旗が望んだ選択は有り得ない。

何かを切り捨てずに何かと得る事など、あってはならないのだ。

絹旗があくまで浜面仕上の生存を望むなら麦野沈利がいうようにアイテムから姿を消すべきだったし、その逆を望むなら浜面仕上を切り捨てるべきだった。

麦野沈利なら迷わないだろう。彼女であれば、例え仲間だろうが邪魔をするなら切り捨てる。彼女にとって『アイテム』とはそういうモノだから。

そして絹旗がそうできなかった理由は単純。どちらも掛け替えのないモノだったからに他ならない、表の世界での数少ない友人である浜面仕上も、裏の世界でのたった一つ居場所であるアイテムも。

そしてその判断が絹旗最愛と浜面仕上、二人にもたらしたものは――



麦野「ソイツ、うちの下部組織に加えるから」



訪れたのは予想していた死ではなかった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/14(土) 01:42:43.76 ID:Ew9lL52AO<>
絹旗「――え?」

想定外のそんな言葉に、絹旗が疑問を漏らす。

麦野「昨日雑用が死んだばかりでしょ。腐る程いても補充が面倒だし、ちょうどいいからソイツにやらすわ」

浜面「な、なにを……」

絹旗「え、でも」

麦野「それともここで殺す?私はどっちでもいいけど」

絹旗「、〜〜ッ」

今、絹旗最愛はまたもや選択を迫られている。

『殺さない』とも捉えられる麦野沈利の言葉には、深すぎる意味がある。

殺しはしないが見逃さない。

殺しはしないがそのスキルアウトには闇に堕ちてもらう。

この場合に言う『闇』はそれこそ死より質の悪い学園都市の暗部。自らも身を置くこの街の裏の顔。

命の代償は、命以外の全て。

麦野沈利の言葉は、つまりそういう事だった。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/14(土) 01:43:47.70 ID:Ew9lL52AO<> 絹旗「……いえ、」

そして、絹旗は選択する。


絹旗「お願い、します」


その小さな体に背負う少年を助ける為に、ただ助けたいが為だけに、身勝手にもよく知りもしない浜面仕上の全てを闇の外へ投げ捨てた。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/14(土) 01:44:56.96 ID:Ew9lL52AO<> 麦野「……ふん」

そして麦野沈利は巡らせていた思考を静かに止める。

未だに絹旗が背負うクズに対する苛立ちは収まらないが今はこれでいい。これでいいはずだ。

麦野(チッ……これ以上脅しても絹旗はこのクズを諦めないみてぇだしな。本来ならまとめて殺すところなんだけど、)

本来。

そう、もしもこの状況が、いつもとなんらかわりなかったのならば間違いなく麦野沈利は浜面仕上もろとも絹旗最愛を殺していた。同じ組織に所属していると言っても、その手の事情を麦野は考慮しない。

裏切れば殺す。

邪魔になるなら殺す。

利用できないなら殺す。

自分達は『道具』だ。

替えはいくらでもきく。

使えなければ捨てればいい。

しかし、
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/14(土) 01:46:55.59 ID:Ew9lL52AO<> 麦野(今は無理、か。ここで絹旗を殺しちまえば――)

『替えがきかない』

端的に言ってしまえば、スキルアウトのクズを生かし、下部組織に加えた理由はそこだった。

どうせこの場でスキルアウトだけ無理やり殺せば、絹旗最愛は使い物にならなくなる。だからと言って一緒に殺してしまうと、本来ならばすぐに埋まるハズの補充要員――どうせ絹旗と同じような能力者の人材がくるはずだが、ソイツが用意出来ない。

理由はたった一つ。

麦野(……チッ、本当に何が起こってるんだか)



『学園都市』に訪れている未曽有の危機。



この数日間で学園都市の情勢は大きく変わった。落雷が引き起こした一部都市機能の麻痺、アイテムが阻止する事の出来なかったスキルアウト共が引き起こした通信情報網のカット。それがこの街に与える被害は計り知れない。

が、麦野沈利が本来取らないであろう行動を取らせたのはそこではない。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/14(土) 01:48:29.81 ID:Ew9lL52AO<> 未曽有の危機に見舞われているのは、正確には『学園都市の裏の顔』

詳しい話は知らないが、アイテムとのパイプ役を担っている電話の女が言うにはたった一人で学園都市暗部に喧嘩を売った馬鹿がいるらしい。

そして信じられない事に、その馬鹿一人に暗部全体が引っ掻き回されているらしいのだ。

何人かの能力者は襲撃を受け、何人かの上層部は消され、その影響は如実に裏の世界に現れ、表の世界と同様に一部が機能していない。

つまり、今ここで絹旗を失えば補充がきかず、様々な場面に支障がでる。ただでさえ今は複数の案件とスクールの追撃という厄介極まりない仕事を抱えている状況だ。

欠員を出すのは、最善ではない。

それに、

麦野(あのクズを手元に置いておけば絹旗も今後逆らう事はないだろうしね)

絹旗に背負わているスキルアウトに視線を向ける。加速度的に変わる自身の状況に戸惑いを隠しきれてはいないその少年は掠れた声で何かを喚き、闇に堕ちる事を必死に拒んでいる。

麦野(……コイツにも手を回すか)

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/14(土) 01:50:30.02 ID:Ew9lL52AO<> カツ、と一歩近寄り。背負われ喚くスキルアウトの髪を乱暴に掴みあげる。

浜面「痛ッ……」

麦野「ハッ、ボロボロね。こんなのじゃ雑用ですら務まりそうにねえな」

浜面「ふざけ……だれ、が」

ここまで来て、浜面仕上はまだ拒む。戻らねばならない日常があるスキルアウトの少年は頑なに闇の世界に足を踏み入れようとしない。

麦野「ふん」

だから、麦野沈利は後を押す。

闇の深い場所に立つ者として、



麦野「言っておくけど、テメェが逆らうようなら真っ先に絹旗を殺す」



同じく闇の入り口に立つ浜面仕上の背中を静かに押した。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/14(土) 01:55:07.87 ID:Ew9lL52AO<> 絹旗「……!!」

浜面「なっ……」

2人の顔が驚愕に染まる。絹旗はこうなる事を予想していたのだろう、唇を噛み締め顔を逸らす。浜面に至っては信じられないという表情。

麦野「それが嫌なら黙って従ってろ。クズ」

トドメの一言を浴びせ、浜面仕上が押し黙る。苦痛とやりきれなさに顔を歪め、それを見た麦野がせせら笑った。

麦野「ハッ、まぁ歓迎ぐらいはしてやるよ。名前は確か、浜面だったか?」

これでいい。

予想通りこのスキルアウトは絹旗最愛を気にかけた。お互いがお互いを庇いあう。これ以上に利用出来る関係はそうそうない。

どちらにしろ、アイテムの邪魔をしたツケ払って貰おう。利用出来るだけ利用して最後には殺してやる。

麦野「ぎゃはっ」

思考が終わり、お互い泥沼にハマってしまった2人を見下し、またも麦野沈利が笑った。醜悪な笑みを浮かべ、言い放つ。

麦野「クソッタレが行き着くクソッタレな地獄へようこそ、歓迎するよ。はぁぁまづらあぁぁぁぁ!!!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<><>2011/05/14(土) 02:00:18.95 ID:Ew9lL52AO<> こんなところで。次の投下はちょっとだけ遅くなりそう。はまめん暗部堕ちで序章も終わりが見えてきた。でも今回は色々無理やり感あるかもしれんねーすめん。

学園都市の危機はていとくんの言ってたあれだ。

あと散々待たしてすまんかったー待ってもらってありがとうございます。
まだまだ続きますがよければお付き合いよろしくっす。

ではでは <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/05/14(土) 02:12:43.38 ID:20dI/jVK0<> 乙!

浜面はやっぱり暗部堕ちか… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/14(土) 06:48:11.15 ID:1D7s61Wg0<> まさかこの選択が麦野の人生に大きな影響を与えるとは彼女には想像もつかなかったのである

>>1乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(沖縄県)<>sage<>2011/05/14(土) 08:37:37.18 ID:I2bPg7qGo<> 乙
まあ、はまづらは死なずにすんでよかった・・のか?
とりあえずインデックスの安否が心配だ
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/14(土) 08:45:11.75 ID:Q9k/pA4IO<> 乙!浜面は結局こういう形に収まったか
つかこのSSは浜面以外にも気になるキャラが多すぎて困るw
能力者のインさんとか原作より堕ちまくってる美琴とか一方さんとか全然話に関わってきてない上条さんとかetc…
こんなにも風呂敷を広げすぎた>>1を俺は心から応援してる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<><>2011/05/14(土) 11:12:35.65 ID:d7J0Jtdw0<> 乙!フラグばっきばきなていと君と心理定規も忘れないでやってください……
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/14(土) 17:36:43.93 ID:0rQOMd3A0<> 乙!
だけどここまで読んで何で学園都市のレベル5は六人なの?
たぶん、省かれたのはかまちーがなぜか出さない六位だと思うが、別に原作どおり七人でもいいわけで・・・・うーんわからん。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/14(土) 23:11:29.91 ID:b08arAbto<> >>168
お前の日本語がわからんわwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/15(日) 14:33:04.74 ID:NhRnFB8to<> うおー
原作よりアイテムがギスギスしそうだ
ドリンクバー往復係じゃいられねえぜ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/15(日) 20:10:59.37 ID:zQwwwC4/0<> 仲間殺されてるからなー、麦のんフラグは消滅したかも。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/15(日) 21:27:49.17 ID:Ku/ebeiRo<> 絹旗にとっちゃ浜面の傍は安らげる場所だったんだろうなあ
友達なんです、に泣いた

インデックス、御坂妹、絹旗最愛。彼女たちの今後はどうなるのか
楽しみです <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/15(日) 21:39:31.94 ID:whktKdAR0<> 一応上条さんも名前だけは何回か登場してるんだよな。ぼんやりだけど佐天さん登場回に描写もあったし

これから出番はあるのかどうか…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(沖縄県)<>sage<>2011/05/16(月) 08:54:45.44 ID:+cmBUxfQo<> とりあえず上条さんは姫神助けててほしいところだな。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/17(火) 20:31:19.93 ID:GF2CTGI70<> 一応、吹寄がクラスメイトなんだから浜面と上条は同級生なのか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<><>2011/05/17(火) 22:59:38.32 ID:GCRi2cEAO<> まぁ一応ね。でもクラスメイト設定はあまり大きな意味はなかったり。浜面学校いかないし
あと姫神さんとヘタ練は物語の都合上登場する予定も描写もないです悪しからず。

では投下。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/17(火) 23:01:00.04 ID:GCRi2cEAO<>



――六日目――




<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/17(火) 23:01:27.47 ID:GCRi2cEAO<>



・暗部




<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/17(火) 23:04:10.26 ID:GCRi2cEAO<> 交わす言葉など何もなかった。

浜面「…………」

行き場のない苛立ちが内から漏れ出し、人差し指が、タン、タンとそのボロボロの手で握るハンドルを叩く。

小気味よく連続的な音が車内を満たしていく中、しかしその音は浜面達が乗る車が鳴らす重厚なエンジン音によって掻き消され、結果その苛立ちは誰にも気付かれず、触れられず、それが浜面仕上の苛立ちを更に膨らませた。

信号が青に変わる。やっとか、と内心ホッとし浜面はアクセルを踏み、車を前へ、前へと発進させる。

数十秒だったはずの停止時間は無限の時間と錯覚しそうな程に長く、重かった。

麦野「にしても、本当に便利なスキルだね。殺さなくて正解だったかしら」

不意に、後部座席に座る麦野沈利が鼻で笑いながら呟いた。腕と脚を組み、窓から流れていく学園都市を眺めるその姿はまるでこの街の女王でも気取っているようだ。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/17(火) 23:04:45.69 ID:GCRi2cEAO<> 浜面「…………」

便利なスキル。

浜面仕上はスキルアウトとしてこの学園都市を生きていく過程でいくつかの特殊な技術、知識を身に付けた。

大袈裟なモノではない。運転技術やID偽造、錠開けなどの言ってしまえば犯罪の為の技術。

そして現在麦野達を乗せ、夜の学園都市を駆けている車はその錠開けの技術を利用し、路上に放置されていたのを盗んだ盗難車。

盗む際には、躊躇も何もない。誰の顔も浮かばない。足を用意しろと言われ、何も考えずに浜面は車を盗んだ。

浜面「……クソッタレ」

それを思いだし、小さく呟いたその言葉は、後ろに座る女に向けた言葉か、はたまた自分自身に向けた言葉か。

浜面仕上の暗部での初仕事。それは麦野沈利を目的地まで送る為の足になる事だった。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/17(火) 23:07:23.59 ID:GCRi2cEAO<>
暗部。

裏切りと血と殺し合いが絡まり合う学園都市の裏の顔。機密の漏洩や、同じ暗部の暴走を防ぐため存在し、そして暗躍する組織。

駒場利徳を殺した組織。

自分はその組織の更に下っ端。名前もない下部組織とやらに組み込まれたらしい。

浜面「…………」

確か都市伝説かなにかにそんなものがあったなと思い出しつつハンドルを切る。緩いカーブを曲がりきり、直進。

比較的人数が入る大型の車は運転席に浜面、助手席に絹旗、後部座席に麦野を乗せ進んでいく。

前へ、前へ。

浜面「……俺は、どこへ進んでいくんだろうな」

小さく呟いたその言葉は、誰にも届かない。

全てが一変していた。

数時間前、1日前とは、自分を取り巻く環境が何もかもが違う。

数日前はインデックスと笑いあっていた筈なのに。

駒場利徳や半蔵。仲間に囲まれていたはずなのに。

インデックスを救おうと必死にもがいて――――

浜面「……ッ」

赤信号。ブレーキを踏み、車を停止させる。少し深く踏みすぎ、体が前に揺れた。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/17(火) 23:09:48.76 ID:GCRi2cEAO<> 麦野「気を付けろ」

後ろから飛んでくるその言葉に、無言を返す。

浜面「…………」

間違えるなよ浜面仕上。お前はインデックスを救いたかったわけじゃないんだろ?

浜面「…………」

心が、勝手に自答する。浜面仕上はそれに何も返せない。

浜面「…………」

お前は誰かを見返したかった。役立たずのクズ。レベル0のスキルアウト。誰も救えないただのチンピラ。そんな自分が嫌で、嫌でたまらなかった。

浜面「…………」

だから、自分の自己満足の為にインデックスを利用したんだ。

浜面「…………」

インデックスを助ける事が出来て満足か?

浜面「…………」

自分を見下した魔術師を見返せて満足か?

浜面「…………」

今のお前は、惨めだよ。

絹旗「浜面?」

浜面「……っ」

名前を呼ばれ、意識を戻す。赤だった信号は既に青になっており、慌ててアクセルを踏み込む。

絹旗「あの……大丈夫ですか?」

助手席から絹旗が余所余所しく声をかける。目線は自分に合わそうとしない。

ああ、と軽く言葉を返し、ハンドルを握る手に力を込める。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/17(火) 23:13:24.91 ID:GCRi2cEAO<> 浜面「…………」

今の自分は、惨めだ。

駒場が殺され、意気込んでその意思を汲んだというのに、目の前に現れた仇に何も出来ず何もせずに、諦めて、足掻く事もしないで、挙げ句の果てにはその組織に組み込まれて、それを受け入れようといる。

死なずに済んだと、心の隅で思っている。

浜面「……クズだな」

何かが違う。何かが変わった。

しかし、浜面仕上はその何かに気付けない。

こんなハズじゃなかったのに。

どこかで間違えたのだろうか。そんな問いには、誰も答えてくれない。

インデックスを救いたかったはずの自分は、惨めな自分を救う為に戦っていた。

駒場の意思を受け継いだ自分は、足掻く事もせずモノの数時間で全てを投げ出し、流れに身を任せた。

こんなハズじゃなかったのに。

大切なモノをどこかで見失ってしまった浜面仕上は堕ちていく。

真っ白に染められた心と一緒に堕ちていく。

深い深い闇の底へ。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/17(火) 23:16:35.39 ID:GCRi2cEAO<>

麦野「ここでいいわ。止めて」


その言葉に従い、車を停める。重いエンジン音が響く中ドアが開き、カツンと靴が地面に当たる音。

麦野「ああ、浜面。朝までに荷物まとめときなよ」

どうせもう元の生活になんて戻れないんだから。

浜面「…………」

麦野「絹旗、回収場所と時間は分かってる?」

絹旗「……はい」

じゃあまた後でね。

そう言って振り返りもせず麦野沈利は夜の闇に溶けていった。残されたのはハンドルを握る浜面仕上に、助手席に座り、先程から黙り込んでいる絹旗最愛。

浜面「…………」

絹旗「…………」

先程よりは軽くなったが、それでも言葉を発するのを躊躇う程の重い空気が広い車内を満たしていく。会話の無い無音の空間は、それだけで息苦しく、普段気兼ねなく話せていたはずの絹旗との距離が遠く感じられた。

浜面「……行くか」

絹旗「……はい」

会話とは呼べない言葉の応酬はそれ以上続かず、浜面はアクセルを踏み込んだ。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/17(火) 23:19:44.67 ID:GCRi2cEAO<> 絹旗「怒ってますか」

ポツリと絹旗がそう呟いたのは、車を飛ばして数分後。

浜面「……なんでだよ」

絹旗「私のせいで、浜面の人生メチャクチャですよ」

絹旗「超身勝手な自分の都合で、アイテムも浜面も切り捨てる事が出来なくて……」

絹旗「私は……」

浜面「…………」

絹旗最愛。

常盤台に在籍するレベル4。

大能力者。

うるさくて、小さくて、執拗に浜面を付け狙うC級映画が好きな少し変わった女の子。

無能力者としての壁を感じる事なく接せられる友人で、

散る寸前の自分の命を救ってくれた恩人で、

駒場を殺した女の仲間で、

仲間を殺した組織の一員。

浜面「…………」

そして今の自分は、その組織の更に下っ端の下部組織の一員だ。

絹旗「私は、浜面に対して死ぬほど恨まれたって仕方のない事をしたんです」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<><>2011/05/17(火) 23:22:06.88 ID:GCRi2cEAO<> そんな自分が、こんな惨めな自分が、

浜面「ばーか」

肩を震わせ今にも泣き出しそうな程顔をくしゃくしゃに歪めている少女を、曲がりなりも自分の命を救ってくれたこの少女を、恨んだり出来るわけがない。責められるわけがない。

インデックスを利用し、仲間の死を無視した自分にはそんな資格すらないのだから。

絹旗「……すいません」

浜面「泣くなよ」

絹旗「泣いてませんよ」

浜面「…………」

絹旗「泣いてませんってば」

浜面「何もいってねえだろ」

絹旗「浜面の超ボロボロの顔に書いてます」

浜面「そうかい」

浜面「…………」

なら、この行き場のない感情は誰にぶつければいいのだろう。

自分に対する嫌悪感と、どうしようもないやりきれなさと、無力感、ありえない理不尽に対するこの[ピーーー]は、どう壊せばいい。

誰が受け止めて、誰が殺してくれる。

「ちくしょう」

その呟きは誰にも聞こえず、自分の心に突き刺さる。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/17(火) 23:26:05.68 ID:GCRi2cEAO<>

浜面「ちょっと待っててくれ」


絹旗にそう告げ、車を降りる。

たどり着いた。いや、戻ってきたと言うべきか。

浜面「…………」

先程までいたそこは、自分の住んでいた学生寮。浜面の部屋は比較的高い位置にあり、見上げるとその部屋は、外から見てもわかる程、他と比べて荒れていた。

それはインデックスとの戦いの傷痕。

明かりが灯るその部屋を目指し、階段をゆっくりと登る。足取りは重い。

半蔵「よう、浜面。遅かったな」

そしてやはりというかなんというか、部屋に入った浜面を出迎えてくれたのは半蔵だった。

半蔵「計画、成功したんだろ? やったじゃねえか!」

浜面「…………」

仲間の帰還を喜ぶ半蔵に対し、浜面の表情は硬く、重い。

半蔵「これから忙しくなるしさ!駒場の分までお前が、」

浜面「半蔵」

半蔵「――あ?」

そして半蔵が、気付く。

半蔵「どうしたんだよ、浜面」

仲間の異変に。

浜面「俺さ――」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/17(火) 23:27:59.34 ID:GCRi2cEAO<>
今、自分はどんな顔をしているのだろう。

情けなさに泣きそうになっているのか、悔しさで怒りを露わにしているのか。

半蔵「――、なんだよそれ」

多分、どれも違った。

浜面「…………」

半蔵には余す所もなく全て説明した。

計画は成功した事。駒場を殺した仇に追い詰められた事。しかし抵抗せず、何もせずに殺されかけ、そこにいた友人に救われ、その組織に組み込まれた事を、淡々と。

半蔵「はぁ……」

溜め息を吐いたのは頭を抱えた半蔵。

半蔵「そうか……ま、仕方ないよな。お前が生きてただけでもよかったか」

浜面「責めないのかよ」

半蔵「何を責めろって?」

わからないとでも言いたげな半蔵に、浜面はボソボソと呟くように言葉を絞り出す。

浜面「……結局、俺は駒場の仇も取ろうともせずに、流れに逆らわずに学園都市の暗部に堕ちたんだ」

浜面「駒場を殺した組織の下にさ」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/17(火) 23:30:17.62 ID:GCRi2cEAO<> 浜面「…………」

半蔵「なぁ、浜面」

半蔵「そもそも俺達は危ない橋を渡ってたんだ。下手打つと殺されても仕方ないようなギリギリの細い橋に」

半蔵「難しい事考えるなよ。駒場のリーダーだって、覚悟くらいしてたさ」

浜面「…………」

半蔵「俺はもう行くよ」

ポンと肩に置かれた手が別れの挨拶だった。半蔵は浜面の横を通り抜け、ドアを出る。

浜面「……なぁ」

半蔵「んー?」

顔は見えない。お互いに背を向け、だからこそ浜面は言葉を吐き出す。声を震わせほんの少しの弱さを晒す。

浜面「俺さ、本当は自分の事、もっとやれば出来る奴だって思ってたんだ」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/17(火) 23:32:09.15 ID:GCRi2cEAO<> 半蔵「ははっ、それは出来ない奴がよく言うセリフだ」

後ろから笑い声とそんな言葉が飛んでくる。浜面はそれを無視して更に吐き出す。

浜面「もっと、どんなに臆病でも弱くてもさ。誰に見下されても、能力なんてなくても、
大事なモノがあればそれの為に勇気を出せるような、そんな格好いい、ヒーローみたいな奴になれるって、
本気で思ってた」

半蔵「……どうだった?」

浜面「ダメだった」

そう呟き、その場に腰を下ろす。立ち尽くすのが、辛かった。視界は霞み、歪み、頬を冷たい何かが伝う。

浜面「ダメだったよ」

結局、自分はインデックスを自己満足の為に利用していたし、駒場の仇である麦野沈利を前にした時は立ち向かう勇気さえ湧いてこなかった。

所詮、こんなものか。

浜面「ははっ、情けなくて笑えてきた。やっぱり俺はただの臆病者のクズなんだってさ」

乾いた笑いが部屋に浮かび、静かに消える。自分もこんな風に消えてしまえば楽なのに。

ちくしょう。

半蔵「…………」

半蔵「なぁ、浜面」

半蔵「駒場のリーダーがお前にスキルアウトを任せた理由ってなんだと思う?」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/17(火) 23:35:35.06 ID:GCRi2cEAO<> 浜面「…………」

半蔵「きっと、確信があったからさ。多分、あのロン毛の兄ちゃんを相手にした時に確信したんだろ」

半蔵「お前ならきっと、誰にも選ばれず、資質らしいものを何一つ持っていなくても、
たった一つの大切なモノのためにヒーローになれるってさ」

浜面「…………」

半蔵「さっきはああ言ったけど、俺もお前の事そう思ってるよ」

半蔵「あの時、あのガキを助けようとしてたお前は、本当にヒーローみたいだった」

浜面「…………」

それ以上の言葉はかけられはしなかった。

残されたのは、痛い程の静寂に、部屋にうずくまる一人の少年。

浜面「……俺には無理だ」

漏れたのは、そんな言葉。

床に落ちたのは、一粒の水滴。

割れた窓から入りこむ風がボロボロの体を撫でる。

浜面「…………」

荒れ果てた部屋に小さな、本当に小さな嗚咽が漏れ続ける中、少年がその場から立ち上がる事はなかった。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<><>2011/05/17(火) 23:38:23.09 ID:GCRi2cEAO<> 結構いい感じのペースでこれてるんじゃないかと思いつつ、ここまで。

ペースはいいけど浜面と文章は迷走中ですね。ではでは <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2011/05/17(火) 23:52:39.15 ID:wVk/UVRAO<> はまづらあああぁぁ… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>sage<>2011/05/17(火) 23:53:45.33 ID:42tbAPeAO<> 乙

浜面…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/18(水) 00:00:50.40 ID:IeO9ajmDO<> 超乙

浜面を抱き締めてあげたい… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/18(水) 02:37:24.27 ID:35qX/pdIO<> 麦野と和解はまず難しいだろうな…
残りのメンバーが何とか緩衝材になってくれればいいんだけど、この浜面は必要以上に馴れ合うことはなさそうだしなあ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/18(水) 05:39:06.16 ID:oJccbYHso<> 麦野どころか滝壺と仲良くできるかすら怪しいレベルだな
無論フラグなど絶望的 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/18(水) 06:24:34.69 ID:CcdQTuob0<> 乙
いきなり暗部抗争というわけではないだろうし
どうなることやら楽しみだな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海)<>sage<>2011/05/18(水) 06:59:07.73 ID:GWKVA7qAO<> 凡人らしい苦しみに悩む……良いよね

1乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(沖縄県)<>sage<>2011/05/18(水) 07:19:59.81 ID:wO4hmcQ+o<> 乙
スレタイの台詞の意味がわかった気がするorz <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北陸地方)<>sage<>2011/05/18(水) 09:03:02.26 ID:JMjOGNDAO<> 暗部抗争の前に妹達との絡みありそうだな
しかしインデックスは今どうなってるんだろう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2011/05/18(水) 10:00:33.58 ID:JCtVai5AO<> 今の所気になるのはなんだろう。

・インデックスの安否
・一切話に関わってこない上条さん
・一瞬だけ登場した一方さん

くらい?

前スレから思ってたけどキャラクターの扱いが絶妙だな。気になるのにおあずけ感がヤバい。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/18(水) 10:15:15.02 ID:m45CoHE8o<> 絶賛ぶっ壊れ中の美琴の現状とかも気になる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/19(木) 19:57:02.69 ID:TP0RpsQAO<> 「にゃあー」

嗚咽も途切れ、静けさを取り戻したその部屋で鳴いたのは、一匹の猫。

ミサカが世話をし、インデックスが拾い、結局名前が決まっていないその猫は、うずくまる浜面に寄り添い、
柔らかい肢体をすりつけてくる。

浜面「……よう、無事だったか?」

「にゃあ」

小さな猫の頭を優しく撫でる。撫でられた猫は気持ち良さそうに体を伸ばし、喉を鳴らした。

浜面「……荷物、まとめないとな」

頭をあげ、ぐるりと一周見渡すと、数日前掃除をしたばかりのはずのその部屋は見事な程にモノが散らばり、
壁や天井、床は傷だらけで、それは激突の痕跡。

浜面「……これ、」

そして浜面の目に入ったのは、机に置かれた見覚えのない一丁の銃。

一般的な拳銃とはかけ離れた造形、性能を持ち、一つの精密機械と呼んでも差し支えないそれは、
駒場利徳が愛用していた銃。

重厚な鈍色の光沢を放つその名称は、演算銃器。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/19(木) 19:59:12.01 ID:TP0RpsQAO<> 手にとったその銃には、多分半蔵が気を利かせたのか、赤黒い血を拭き取った跡が微かに残っていて、とても重い。

曲がりなりも弱い者を守り、自分には持っていないモノを掲げていた、駒場利徳の死の際まで使い込んでいたこの銃は、
とてもではないが浜面に扱えるような代物ではなかった。

全てを放り出した浜面が扱っていいものではなかった。

浜面「…………」

演算銃器の側に添えられていた半蔵が残していったであろう、直筆の紙には簡単な演算銃器の扱い方、
改造を施した事によって、撃つ際の注意点が書かれていたが浜面はそれを読むことをなく演算銃器を元の位置へ戻す。

これは、自分には必要ない。

浜面「よくよく考えてみりゃあ、必要なモノなんてそんなにない、か」

「にゃー」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/19(木) 20:04:00.25 ID:TP0RpsQAO<> ぽつりと呟いた独り言に返事をしたのは、浜面の足下で体を擦り寄せる猫。
その猫の足下に落ちていた見覚えのある何かを、浜面は拾う。

手の中に収まるサイズのそれは、機械音痴の癖にインデックスが好んで使っていた音楽プレイヤー。

浜面「…………」

今では遠い昔の事のように感じる数日前の光景を振り切り、浜面は顔を歪める。
何も考えずに、手の中のそれをポケットに突っ込み、

浜面「……?」

突っ込んだ手に何かが触れる。
掴んでいるソレではなく、別の何か。取り出したそれは、

浜面「……結局、なんなんだろうな。これ」

浜面がこの部屋を出て行く際に、半蔵から受け取った手の平に収まる程度の円筒型の何か。
小さな宝石のようなモノが収められたソレを、浜面はポケットに押し戻す。

「にゃあ〜、にゃー」

浜面「……行くか」

ドアに向かい、部屋を出る際にもう一度振りかえる。

そこらに転がっているものを見れば、それはかつて吹寄制理が浜面に無理やり押し付けた、
特殊な電波が出ているらしいインチキ臭い鉄の塊、インデックスを補習に忍びこませる為に作った偽造ID。
駒場の遺した、血がこびりついた演算銃器。

窓ガラスは割れ、傷だらけの壁の隅には潰れたキャパシティダウンに、多分もう動かないパソコン。

浜面「…………」



どうしてこうなってしまったのだろう。

どうしてこんなに惨めなのだろう。

どうしてこんなにも諦めているのだろう。

どこで間違えた?

変わったはずだったの。

変われたはずだったのに。

どこで自分はこうなっ――



浜面「……えっ?」



<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/19(木) 20:05:03.32 ID:TP0RpsQAO<>




何かが、どこかに引っ掛かる。





<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/19(木) 20:06:57.34 ID:TP0RpsQAO<>


大事なモノを置き去りにした気がする。



大事なモノを見失った気がする。



大事なモノを忘れた気がする。



浜面「……ッ」


わからない。


わからない。見えない。思い出せない。


まるで白い霧がかかったように。


まるで見えない壁に阻まれるように。


まるでそれが幻想だったかのように。


かつて、自分はインデックスになんて言ったっけ?


思い出せ。


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>!orz_res<>2011/05/19(木) 20:08:35.85 ID:TP0RpsQAO<>


ねぇ、しあげ。



……ん?



思い出、たくさん作れるかな。



……ばーか、作るんだよ。



……ん。



忘れちゃやだよ?



忘れないよ。忘れてても覚えてる。



……それ、忘れてるんだよ。



忘れてない。



……むぅ、じゃあもししあげが忘れちゃったらどこが覚えてるの?



そりゃ……お前。



……?



<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>!orz_res<>2011/05/19(木) 20:09:07.05 ID:TP0RpsQAO<>







































<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>!orz_res<>2011/05/19(木) 20:09:39.10 ID:TP0RpsQAO<>


…………



……なんだよ。



……ぷっ。



お前な……



くすくす。



おい、なんか恥ずかしいだろうが。



ふふっ……



ったく



……私も、覚えてられるかな。



忘れさせない。



……ん。



<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/19(木) 20:10:15.68 ID:TP0RpsQAO<>



浜面「あ、あぁぁぁぁぁぁぁ―――




<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/19(木) 20:10:46.01 ID:TP0RpsQAO<>



思い出せない。




<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/19(木) 20:12:32.27 ID:TP0RpsQAO<> 絹旗「遅かったですね」

浜面「ん、まぁちょっとな……」

絹旗「……泣いてるんですか?」

浜面「泣いてねーよ」

絹旗「…………」

浜面「泣いてねーって」

絹旗「何も言ってませんが」

浜面「顔に書いてるんだよ」

絹旗「……そうですか」

「にゃあ〜」

絹旗「……猫、麦野が嫌がりますよ」

浜面「付いてくるんだよ。仕方ねえだろ」

絹旗「まぁ、そうですね……

絹旗「名前はなんて言うんですか」

浜面「シュレディンガー」

絹旗「……はい?」

浜面「冗談だよ」

絹旗「はぁ……」

絹旗「で、結局名前はなんて言うんですか?」

浜面「…………」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/19(木) 20:13:13.74 ID:TP0RpsQAO<>



浜面「さぁな」




<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/19(木) 20:13:49.63 ID:TP0RpsQAO<>



・滝壷理后



<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/19(木) 20:15:15.04 ID:TP0RpsQAO<>

かつて、滝壷理后にも今とは違う居場所があった。

かつて、滝壷理后にも今とは違う仲間がいた。

かつて、滝壷理后にも今とは違う心の拠り所があった。


笑顔が満ち溢れる居場所で、信頼しあえる仲間に囲まれて、自分を包んでくれて、伸ばしてくれて、必要としてくれ、

優しい笑みで自分達を見つめてくれる。大好きな人がいた。

こんな生活がずっと続けばいいのに

そう思った。



そしてそんな生活は、ある日一瞬で終わりを告げた。


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/19(木) 20:16:30.14 ID:TP0RpsQAO<>
目が覚めるとソコは冷たい棺の中で、見渡した居場所だっソコに溢れていたのは血の海と、何かの残骸。

「ひっ――」

それは、仲間だった何か。

体が硬直し、動かない。見上げた先には、あの人がいた。

「た――すけ、て」

声が出ない。唇を動かし、助けを乞う。気付いて、助けて――

「――――」

視線が絡まる。

「――で、」

自分を包んでくれて、伸ばしてくれて、必要としてくれ、優しい笑みで自分達を見つめてくれていたあの人は、

「なん――で――」

大好きだった人は、歪んだ笑みで自分達を見下ろしていた。

「――……」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/19(木) 20:18:03.32 ID:TP0RpsQAO<>

かつて、滝壷理后にも今とは違う居場所があった。

かつて、滝壷理后にも今とは違う仲間がいた。

かつて、滝壷理后にも今とは違う心の拠り所があった。


それは全て、過去の話だ。


今の自分には、昔とは違う居場所がある。

今の自分には、昔とは違う仲間がいる。

今の自分には、昔とは違う心の拠り所が――


麦野「じゃあそういう事だから、くれぐれも残りの体晶は使うんじゃないわよ」

滝壷「うん、わかった。またね、むぎの」
ピッ。

滝壷「…………」

今の自分には、必要としてくれる人がいる。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/19(木) 20:20:06.46 ID:TP0RpsQAO<>
通話が終わり、空を見上げると

ゴツン

背中を預けていたコンクリートのビル壁に、後頭部をぶつけ、しかし構わず見上げたそこは

闇だった。

いつもならもっと広がっている闇は狭い路地裏を作るビルによって阻まれ、やけに狭い。

滝壷「…………」

そこは、いつも通り、かわらない血の世界。

滝壷「むぎのがもうすぐ迎えをよこすって」

滝壷「フレンダ」

フレンダ「はーい。ったく、こっちも仕事が終わって待ちくたびれたって訳よ」

滝壷の言葉に、背を向けているフレンダと呼ばれた金髪碧眼の小柄な少女が振り向き、はにかみながら反応する。

ぴちゃっと、水が跳ねる音。

少女の足下には、その笑顔にはとても似合いそうにない、赤黒い液体を吐き出す人の形をした何かが転がっていた。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/19(木) 20:22:15.09 ID:TP0RpsQAO<> 滝壷「うん、それとね」

フレンダ「え? 結局、まだ何かあるっての?」

滝壷「むぎの、仕事失敗したって」

フレンダ「ぶっ!!」

滝壷の言葉に、金髪碧眼の少女が、驚きの余り吹き出し、

フレンダ「え、ぇぇぇぇ!? 失敗? 麦野が?」

信じられないとでもいいたげな少女は、次第に、うそーん。と小さく肩を落とす。

フレンダ「はぁ……じゃあ結局、うちらがこの数日間やってきた事も無駄になるんだね」

滝壷「うん」

フレンダ「結局、滝壷はいつも通りリアクション薄いって訳よ……」

滝壷「むぎのときぬはた、何かあったのかな」

フレンダ「スルーもいつも通りって訳ね……」

任務失敗。

本人から聞いた今尚、その実感は沸いてこない。

確かに、かつて『アイテム』が受けた仕事が全て成功を収めているかと言えば、答えはNOだ。予想外の出来事、予期せぬ事態、ケアレスミス。

フレンダ「……? どうしたの滝壷。私の顔に何かついてる?」

滝壷「ううん。なんでもない」

まぁ、大体の原因はこの少女だった気がするが。

フレンダ「ねー、なんな訳ー? じっと見られると恥ずかしいんだけど……」

滝壷「なんでもないよ、ふれんだ。そんなふれんだを私は応援してる」

フレンダ「へっ?」

だからこその、疑問。

この仕事には、万全を期したはずだ。普段は早いモノ勝ち、点数制の自由競争ではなく、麦野が全て指揮を取り、指示を与え完璧に計画を建てたハズ。

それが、失敗。

本物の、イレギュラーが起こったのか。

フレンダ「はー、でも結局、どうなっちゃうのかな。」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/19(木) 20:24:03.08 ID:TP0RpsQAO<>


フレンダ「こうなっちゃうと、アイテムも何も出来なくなっちゃうね」



<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/19(木) 20:25:32.74 ID:TP0RpsQAO<>
滝壷「……そうだね」

言葉を返し、そっと手をジャージのポケットに入れる。

手に触れたのは小さな、シャープペンシルの芯入れにも見える透明なケース。

それを取り出し、空に掲げる。

滝壷「…………」

夜空の闇が透けて見えた。

フレンダ「……それ、最後の体晶?」

滝壷「うん」

滝壷の持つ小さな透明のケース。そこに入っていたのは、ほんの僅かなの白い粉。

滝壷(もう、余り保たないかな……)

どう使っても残り数回分しか使用できないであろうソレを、滝壷は再びポケットへ突っ込んだ。

残り数回。使い切るのが先か、自分が壊れるのが先か、滝壷には分からない。

フレンダ「あ、滝壷。迎えがきたみたい!いこっ」

滝壷「うん」

けど、まぁいいか。

自分の居場所はここだけだし。

自分の必要としてくれる人の役にたてるなら、

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/19(木) 20:27:27.08 ID:TP0RpsQAO<> 絹旗「お疲れ様です、滝壷さん」

「にゃ〜」

比較的広いその車の後部座席に乗り込むと、出迎えてくれたのは助手席に座る絹旗となぜか運転席から顔をのぞかせる猫だった。

滝壷「きぬはた……無事だったんだね」

フレンダ「ねぇ、ねぇ! 麦野が仕事失敗したって何があった訳?ていうか結局この猫なに!?」

フレンダが嬉々として麦野の失敗談を聞き出そうとするが、触れられたくないかのように絹旗は言葉を濁す。

本当に何かあったのだろうか。

滝壷「きぬ

  「絹旗、もういいか」

それを訪ねようとした瞬間、運転席に座る少年と言葉が重なった。

絹旗「はい」

絹旗は、その少年に短く返す。

滝壷「…………?」

下部組織にこんな人いたかな?

滝壷(それに、どこかで、見たような……?)

絹旗の言葉と同時に、けたたましいエンジン音が鳴り響く。それを合図に4人と一匹を乗せた車はスピードを上げ進んで行った。

行き先は、いつも通り。



夜空より深い、学園都市の闇の底。



<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/19(木) 20:30:11.37 ID:TP0RpsQAO<> ここまで。誤字脱字がひどかった回。

今回ちょっと演出過多です携帯の人ごめんなさい。テキストコピーで頑張って下さい。

というわけでここまで。なかなかいいペースで来れてる気がします。ではでは

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/05/19(木) 20:31:27.67 ID:4qkpESev0<> 乙!
ペースよく走れているようでなにより
滝壺さんを掘り下げるのは珍しいので楽しみです <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<><>2011/05/19(木) 23:11:54.58 ID:flzowD4H0<> 乙ー。フレンダがかわいい
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北陸地方)<>sage<>2011/05/19(木) 23:28:12.68 ID:6/ppEe3AO<> 滝壷も原作よりワケ有りっぽいな
浜面といい、絹旗といい、美琴といい、滝壷といい、前途多難だな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/20(金) 00:10:58.38 ID:j5Wpn/Tc0<> なるほど>>209->>211は反転か。確か前スレであったやり取りだよな・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(中部地方)<>sage<>2011/05/20(金) 01:13:07.17 ID:36wD5TyOo<> 結局、滝壷じゃなくて滝壺な訳よ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/20(金) 09:12:58.91 ID:3+BRpUaO0<> 心にじゃないですか? ってセリフは原作では上条がペンデックス起動後の記憶喪失したときだよな
スレタイのセリフはいつになったらいうのかなぁ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(沖縄県)<>sage<>2011/05/20(金) 09:28:50.77 ID:ucqq5Nvoo<> >>231
まあ、口調で誰の台詞か予測つくけど……ねえ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)<>sage<>2011/05/20(金) 10:19:58.31 ID:DtjiLX+AO<> >>232

紛らわしいとは確かに思う。だから前スレ>>594を読んでこい。

そっから反転読むと多分予測は違ったものになると思う。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(沖縄県)<>sage<>2011/05/20(金) 12:36:59.48 ID:ucqq5Nvoo<> ボケたのにマジツッコミ……泣いていい? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2011/05/20(金) 17:10:02.36 ID:XvspH5UDo<> わりとマジで泣いてもいいと思うがいちいち報告せんでよろしい

>>1乙、本当に最近これのことばっかり気になるわ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/21(土) 01:44:08.53 ID:cTM9O5XV0<> 俺の端末PSP……泣いてもいいですか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>saga<>2011/05/21(土) 03:12:33.18 ID:N144FoXAO<>



・日常



<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/21(土) 03:14:35.95 ID:N144FoXAO<> 太陽が顔を出し、学園都市に光が射した。

暗躍の時間が終わる。

夜の闇が払われ、おおよそ230万人もの人間が活動を始める、そんな朝。

「はぁ……」

1人の少女が溜め息をついた。

「……はぁ〜」

もう一度、深く溜め息。

「……さっきから溜め息ばかりですわよ?」

朝っぱらから何度も幸せを吐き出す行為を見かねたのか、後ろを通りがかった同僚がかけてきたのは、そんな言葉。

「はぁ」

曖昧に、そう返す。

「……はぁ」

呆れられるか、喝をいれられるかのどちらかと思いきや、後ろから聞こえてきたのはまさかの溜め息。どうやら移ってしまったらしい。

「どうしたもんですかねー。ねぇ、白井さん」

見てくださいよ、これ。

そう言って少女が指さしたのは、パソコン。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/21(土) 03:15:46.11 ID:N144FoXAO<> 風紀委員第177支部の詰め所の奥。何台ものパソコンが設置された自分のデスクに座った少女が指したのは、ぼんやりと画面越しに自分が写るディスプレイ。

白井「……もう何度も見たんですの」

白井と呼ばれたツインテールの少女は、懲り懲りだとでも言いたげに画面から目を逸らし、自分のデスクへ戻っていく。

「……はぁ」

本来そこに写っているのは、学園都市の全体地図。

この学園都市で事件や異常が起きたら真っ先に察知するのは風紀委員でも警備員でもない。

常に情報を集め、発信し、この街の情報中継点となっている学園都市の上空を漂う飛行船だ。

空から街を見張る飛行船が異常を察知し、その座標を風紀委員やアンチスキルの支部へ送信。

そして今少女が見つめるパソコンに座標が表示され、それを整理、伝達。そのプロセスを踏んで、彼、もしくは彼女達の治安維持活動は初めて開始される。

今回も、そのハズだった。

「…………」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/21(土) 03:16:18.40 ID:N144FoXAO<> 今、少女が見つめるパソコンのディスプレイには、本来なら学園都市の地図が表示されている。

「…………」

そして今、少女が見つめているのは、その学園都市の地図を上から塗り潰す、おおよそ数えるのも馬鹿らしい、何万もの『異常』の位置を示す座標。

「すぅぅぅぅーっ」

息を思いっきり吸い込む。

そして口の中で飴玉を転がしたような、そんな甘い声で、

「……はぁぁぁぁぁ」


初春飾利は今日一番の深い溜め息をついた。


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/21(土) 03:17:32.54 ID:N144FoXAO<> 初春「よいっ、しょ……!」

そう力を込めて持ち上げたのは、誰かが、多分故意に不法投棄していった自転車だった。

こんな悪戯が『異常』だなんて笑ってしまう。

初春「……はぁっ」

ここが『緊急避難用の通路』じゃなければ、笑っていたのに。

佐天「うーいはーるーっ! この倒れたゴミ箱はそっちにおいて置けばいいのかなー?」

初春「はいー! お、おねがいしまひゅ〜」

佐天「あっははー、初春ーちょっとひ弱すぎ何じゃないのー?」

膝が折れてへなへなと太陽に熱せられたコンクリートに座り込む自分を見て、ゴミ箱を下げた少女――佐天涙子がケラケラと笑った。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/21(土) 03:18:29.37 ID:N144FoXAO<> 初春「む、むーっ! わ、わたしは白井さんや固法先輩と違ってデスクワーク派なんです!」

佐天「もー、初春ったら。たまには体を動かさないと太っちゃうぞ?」

初春「さ、佐天さん〜!!」

あはははははっ

そんな少女の輝く笑い声が響くそこは、比較的人通りの多い路地裏。そこに溢れているのは、故意に捨て置かれたであろう、人が通るには邪魔になるモノが多く転がっていた。

佐天「いやー、っていうかジャッジメントも大変だねー」

初春「アンチスキルだって大慌てなんですよ?支部に尋ねてきた黄泉川さんって人は、未曽有の危機じゃんって言ってました」

佐天「……なんだか軽いね、語尾が」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/21(土) 03:20:12.00 ID:N144FoXAO<> ――未曽有の危機。

そう、これは確かに未曽有の危機だ。

佐天「あれ、でもなんでアンチスキルの人が風紀委員にわざわざ尋ねてき……うぇ、生ゴミくさぁっい」

初春「だからさっきも言ったじゃないですかーあれですよ、あれ」

佐天「んー? うわっ眩しい」

初春が指差したその先を佐天が目で追う。
太陽が照らす夏空に浮かんでいたのは、常に学園都市に向けてニュースや天気予報などの情報を発信していた飛行船。

しかし、

佐天「あれ、そういえば何も写ってないねあれ」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/21(土) 03:22:10.01 ID:N144FoXAO<>
初春「……あの飛行船、各学区の風紀委員やアンチスキルがお互いの連絡を取り合う際の中継点になってるんです」

その中継点は、今はただの飛行船。空に浮かぶだけの単なるオブジェ。

佐天「へー……つまり?」

初春「……佐天さん。
  佐天さんの携帯電話に、例えば一気に100件の迷惑メールが来たらどうなっちゃいますか?」

佐天「えっ? そんなの受信に物凄く時間がかかっちゃって大変だよ?」

初春「あの飛行船、携帯電話だと思ってください。
  今日の深夜、あれに20000件以上の迷惑メールが届いて、自動的に学園都市の全支部へ一斉送信されたんです。
  どうなっちゃうと思います?」

佐天「え、そりゃあ……」

佐天「……ッ」

少女の笑顔が固まる。どうやらそれがどういう事かに気付いたらしい。

どれほどの非常事態かに、気付いたらしい。


初春「今、学園都市は本当にピンチですよ。佐天さん」


珍しく、初春飾利の表情が引き締まる。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/21(土) 03:24:19.82 ID:N144FoXAO<> 情報の中継点が使えない以上、学園都市で起こる事件と異常は風紀委員とアンチスキルには伝わらない。

情報の経由地点がない以上、風紀委員はアンチスキルと連携が取れず、身動きが取れない。

今の学園都市は、隙だらけだ。

佐天「初春……」

そこにいたのは、普段から甘ったるい声で喋り、すぐ涙目になって泣きついてくる親友ではなかった。

腕に付けたその腕章は、風紀委員<ジャッジメント>として、この街を守るという決意の表れ。

佐天「初春――」

そんな少女に、佐天涙子はそっと近寄る。

そして、

初春「ひゃ、ひゃあああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」

佐天「お。今日は花柄」

路地裏に少女の絶叫が響いた。

初春「さ、さささささささ佐天さん!?な、なんなんですかもうっ!!」

思いっきりスカートをめくられた少女が涙目になりながら佐天涙子をぽかぽかと殴りつける。

佐天「あははははははっ」

そして少女、佐天涙子は甘んじてそれをうけ――

佐天「やっぱり初春はこうでなくちゃ」

その笑顔は太陽のように、路地裏の中で輝いていた。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/21(土) 03:25:26.74 ID:N144FoXAO<>
初春「もう……わたしは真剣にですね……」

ぶつくさと呟き、作業に戻る。

まぁ、いくら学園都市が未曽有の危機だと言っても、今自分に出来るのはこの小さな異常を少しでも多くコツコツと取り除くだけだ。

佐天「あはは、ごめんごめん。お詫びに今日は1日中付き合うからさっ!」

佐天「ねっ?」

初春「う〜、そんな笑顔に釣られませんからねー!!」

えーひどーい。

もーっ佐天さんってばー

あははははー

初春「はぁ……」

今日、多分一番軽いであろうため息を吐く。

それはとても日常的な一場面で、それはきっとこれからも続く日常的な一場面。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/21(土) 03:28:36.10 ID:N144FoXAO<>


初春「とにかく、早く中継点が復活しない事にはポルターガイスト事件も、
   被害がどんどん増えてきた レベルアッパー 事件も進展しませんからねー」



<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/21(土) 03:30:19.40 ID:N144FoXAO<> 佐天「――――」

それは、きっと、日常的な

佐天「――は、」

少女の笑顔が、崩れた。

初春「あ、六日前に起きた落雷、結局あれの被害も――佐天さん?」

どうかしました?

佐天「あ――いや――――、ううん」

佐天「なんでもないよ、初春」

親友に向けたそれは、笑顔。

ただの、笑顔。

初春「……?」

初春飾利が首を傾げ、それに合わせ頭の花飾りも一緒に揺れた。

初春「佐天さ――

違和感を感じ、名前を呼んだ。その瞬間。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/21(土) 03:32:34.95 ID:N144FoXAO<>
初春「――ひゃあっ!!」

後ろから、衝撃。肩に何か、駆けていった誰かがぶつかる。

  「あっ――」

ぶつかって来たのは、制服姿の男性。多分年上、高校生くらいだろうか。
その男性と目が合い――

  「ごめん!!」

ツンツンの髪をしたその男の人は携帯電話を片手に、脚を止める事なく、何かを叫び駆けていく。
路地裏を風のように駆け抜けた彼の姿はすぐに見えなくなった。

初春「…………」

自分と言えば、少し前のめりになったが、なんとか地面に手を付ける事が出来たので転ぶ事はなく、

佐天「初春っ! だ、大丈夫?」

少女が駆け寄って声をかける。

佐天「なんなのよあれっ!助けようともしないでさっ!」

そう声を張り上げ、ツンツン頭の高校生が駆けた先をジッと見つめた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/21(土) 03:34:47.39 ID:N144FoXAO<>
初春「…………」

佐天「はい、捕まって」

初春「あ、ありがとうございます」

内心突然の出来事に呆然としていた初春の前に差し出されたのは、親友の手。

佐天「ほら、はやくっ」

太陽のように輝やく、佐天涙子の笑顔。

初春「……はいっ」

差し出された手を、笑って掴む。佐天涙子――親友は、力を込めてひっぱりあげる。

それはとても日常的な一場面で、それはきっとこれからも続く日常的な一場面。

佐天「――――

初春「……えっ?」

きっと、これからも

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/21(土) 03:35:16.22 ID:N144FoXAO<>

















                         ドサッ
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/21(土) 03:36:24.29 ID:N144FoXAO<>

初春「…………えっ?」



気付けば空を見上げていた。路地裏に阻まれた狭い夏空はそれでいてとても青く、とても眩しい。



まるで誰かの笑顔のように。



初春「…………えっ?」


気付けば誰かが自分に多い被さっていた。華奢な体には力が一切入っていなくて、とても重い。


初春「……佐天さん?」


名前を呼ぶ。返事は無い。


初春「……佐天、さん?」


名前を呼ぶ。



返事は、ない。



初春「……佐天さん?」



<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/21(土) 03:37:25.45 ID:N144FoXAO<>








                          佐天さん?









<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/21(土) 03:37:52.02 ID:N144FoXAO<>


それは、きっと、これからも、続いて――――



<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/21(土) 03:40:13.31 ID:N144FoXAO<>


「佐天さぁん」



<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/21(土) 03:43:38.08 ID:N144FoXAO<> ここまで。だいぶ役者が出揃ってきましたね。

上条さん?ははは

飛行船云々の話は完璧に捏造。ただしSS1巻で駒場達の計画が成功してたらこんなだったのかなーて感じです。PSPの人ごめん。

投下の仕方工夫ちゅう。なんかあれば意見ください。いつもレスありがとうございます。ではでは <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)<>sage<>2011/05/21(土) 03:52:33.55 ID:osiw2oueo<> 乙
時系列も弄ってあるんだな
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/21(土) 07:29:44.85 ID:c2/RrfJvo<> 作戦の第二段階までは果たせなかったんだな
そして解決しそうにない幻想御手事件、前スレの伏線もあるし心配だぜ。

上条さんにも期待 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/21(土) 08:58:36.02 ID:wGdX62DAO<> 乙華麗 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/05/21(土) 13:14:05.87 ID:QQfpsNOb0<> 乙。
前スレの伏線ってなんだっけ? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/21(土) 21:44:01.25 ID:N144FoXAO<>


・日常



<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/21(土) 21:44:54.78 ID:N144FoXAO<>



御坂美琴さんに妹っているんですか?




<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/21(土) 21:47:14.76 ID:N144FoXAO<> 絹旗最愛という余り馴染みの無い同級生からそんなメールが送られてきたのはつい最近の事だった。

「はぁ?」

余りの馬鹿げた質問にその時は思わず、名門お嬢様校に通う淑女としては
失格扱いを受けるだろう粗雑な言葉が口から飛び出したもので、今振り返り考えて見ると自分の事ながら呆れてしまう。

「……いるわけありませんの」

赤いリボンで結んだツインテールを揺らし、そう呟いた彼女――御坂美琴のルームメイトであり
生涯の(自称)パートナーである白井黒子は、呟いた言葉と同じ文章を素早くメールに打ち込み送信した。

数分後、返信。

To 絹旗最愛
sb Re:
超ありがとうございました!

白井「超……? 変わった口癖の方ですのね」

その時は、それで終わり。携帯を直し、ベッドに体を沈めた。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/21(土) 21:49:58.29 ID:N144FoXAO<> 白井「…………」

頭を過ぎったのは、先ほどの馬鹿げたメール。

白井「妹なんて、もしいるのならばわたくしが知らないはずありませんし……」

だからいない。いないはずだ。

白井「…………」

でも、

白井「帰ってきたらお姉様にお聞きしてみましょうか」

いない事は分かっている、こんなモノはただの戯れだ。

白井「はぁ〜ん。お姉さま〜早くお帰りになって下さいまし〜」

しかし、もし彼女に妹なんているのならば、是非ともあって見たい気もする。

歳はいくつ離れているのだろ。大きく離れているのならば、きっと愛らしいに違いない。
近いのならば……どうだろう。姉に似て活発か。それとも逆におとなしいか。

白井「……ハッ!! いけませんいけません。妄想が膨らんでしまいましたわ……じゅるり」

結局その問いを訪ねる機会は訪れず、そうして夜は更けていく。

学園都市に浮かぶ情報中継点が故意的に引き起こされた二万以上の『異常』により活動停止を余儀なくされたのは、その数日後の話だ。

そして、
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/21(土) 21:51:46.36 ID:N144FoXAO<> 白井「――ふうっ」

額を伝う汗を腕で拭う。汗で服や髪が張り付く嫌な感触が全身を包む中、白井黒子が行っていたのは――

白井「ぜぇ……これで全部。ですのね……ぜぇ」

学園都市を流れる人工川をせき止めるが如く、一カ所に集中的に放棄されたゴミの撤去。

固法「えぇ、お疲れ様。白井さん」

同じく頬に玉になった汗を浮かべ白井を労ったのは、風紀委員第177支部に所属する自分の同僚であり上司の固法美偉。

ようやく仕事が一段落終わり、溜め息を吐く。

どこかの誰かの溜め息が伝染したようで、今日は幸せを逃す回数が多い。

白井「はぁ……まったく。こんな低俗な悪戯が『異常』だなんて笑ってしまいますの」

固法「本当にね。この場所が『VIP専用の避難経路』じゃなければ笑っていいところよ」

こんなのがあと、何万件もある事を考えると肩が重い。いや、それ以上によくここまで仕込んだものだと呆れてしまう。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/21(土) 21:54:27.93 ID:N144FoXAO<> 固法「……少なくとも2日3日では直らないみたいね。あれ」

   固法が汗を拭いながら見上げたのは、学園都市を上空から眺める飛行船。
   それは今はただの飛行船で、ただのオブジェだ。

白井「……ならば、よりいっそのことわたくし達がしっかりしないといけませんの」

固法「……えぇ」

   今、学園都市は無防備だ。

   例えスキルアウトが暴動を起こそうが、どこかの設備が警報を鳴らそうが、それはアンチスキルやジャッジメントには届かない。

   自分達が守るしかない。学園都市を。

固法「でもまずは私達に出来る事からしましょう」

   例えばゴミ掃除とかね。

   そう笑って言った固法美偉の言葉に、

白井「はぁ……」

   やはり肩を落とす。気を引き締めてみたはいいものの、先は思いやられるばかりだ。

固法「まぁ、頑張りましょう。班を分けて初春さん達には2人でやってもらってるけど――――

   そこで言葉が途切れたのは、重なったからだ。

   白井黒子がよく知る彼女の、よく知る声が。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/21(土) 21:55:56.20 ID:N144FoXAO<>




「こっちには3人もいるんだからね、黒子。もっと張り切りなさいよー?」





<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/21(土) 21:56:27.44 ID:N144FoXAO<>






白井「えぇ……わかっていますわ」




白井「お姉様」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/21(土) 21:58:45.00 ID:N144FoXAO<> 固法「あら御坂さん。そっちはもう終わった?」

   固法美緯が、声をかける。

御坂「はい。なんとか」

   汗を振り払い、活発な笑みで答えたのは御坂美琴。
   暑いせいか少し着崩してはいるが、クリーニングに出したばかりらしい常盤台の清潔感漂う制服は彼女の明るい印象を際立てる。

御坂「て言っても、河辺なら湾内さん辺りを呼んだほうが手っ取り早いんじゃないかな?」

白井「お姉様……あの方達はあくまで一般人ですのよ? 私用で風紀委員の治安維持活動に一般人巻き込むわけにはいきませんわ」

御坂「えー、それなら私や佐天さんだって一般人じゃない」

白井「お姉様はわざわざ御自分から巻き込まれに来ているのでオッケーですの」

御坂「ぐう」

   返す言葉もないわ。そう言って笑う御坂美琴を前に、その状況を楽しみながらも頭を抱える白井黒子。

   それを眺める固法美偉はくすくすと笑う。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/21(土) 21:59:31.13 ID:N144FoXAO<>



・・・・・・
いつも通りだ。と、




<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/21(土) 22:03:42.30 ID:N144FoXAO<> 白井「大体、お姉様が最近寮にお帰りになるのが遅いせいで黒子は大変苦労していますのよ!?
   だから、今日はお詫びに仕事をお手伝いしたいというお姉様の申し出を黒子はー〜*@§★○#&」

御坂「あーはいはい。その点についてはいつも謝ってるじゃない。怒んないでよー」

固法「へぇ、常盤台のお嬢様でも夜遊びなんて出来るものなの?」

   夜遊び。言葉で表せばそんな所だろうかと、白井黒子は考える。
   最近夜中に寮を抜け出す御坂美琴が夜な夜な学園都市で何をしているのか、自分は知らない。
   知らないが、大体の予想はついた。

御坂「いえ、夜遊びっていうか……」

白井「またそんな困った顔をされて……どうせあの殿方との逢瀬に勤しんでおられるのでは?」

御坂「ち、違うわよっ!」

   自分が敬愛する御坂美琴という少女は、一言で言うとわかりやすい。

   簡単に顔に出る。

   何か思い詰めているなら口数は減る一方で、全てを1人で背負い、抱えこむ。

   何か舞い上がっているなら口数は増える一方で、その喜びを誰かと共有しあう。

   御坂美琴はわかりやすい。

   そして自分はそんな御坂美琴を側で見続け、一番よく知っている。

   何かが、あれば、自分は気付く。

   だから、お姉様は大丈夫。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>!orz_res<>2011/05/21(土) 22:05:12.48 ID:N144FoXAO<>


                   あはは



<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/21(土) 22:07:25.74 ID:N144FoXAO<> 御坂「っていうか、最近会ってもいないし……もにょもにょ」

白井「ムキー!! 語尾がどんどん小さくなっている所が怪しさ満点ですの!!」

御坂「えへへ……」

白井「    」

   そこにあったのは、少女達の日常の一場面。常に続いていくはずの一場面。


   何も変わらない、いつも通りの日常。


               ・・・・・・・・
   パンパンと手の平を叩き、いつもと変わらずに言葉を交わす御坂美琴と、固まったままの白井黒子の意識をこちらへ向ける。

固法「ほーら、さっさと次にいくわよ。御坂さんももう少し手伝ってくれる?」

御坂「はい!」

白井「はーいですの……」

そして3人で、川辺を歩く。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/21(土) 22:08:22.71 ID:N144FoXAO<>


あ、お姉様。またゲコ太のキャラクター商品をお買いになりましたの?



い、いいじゃない別にッ! な、なによ、あげないだからね?



いらないですわ……



でも似合ってるわよ御坂さん。その首にかけてるの。



ふふーん



いや、そんなどや顔されても黒子は反応に困りますの。


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/21(土) 22:10:47.01 ID:N144FoXAO<>

   それはとても日常的な一場面で、それはきっとこれからも続いたハズの日常的な一場面。


白井「あ、そう言えば、お姉様にお聞きしたい事がありましたの」

御坂「んー、なに? お姉様がなんでも答えてあげるわよ?」


   だから、白井黒子は思い出したように訪ねた。
   軽く、石ころでも蹴るような気持ちで。



<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>!red_res<>2011/05/21(土) 22:13:03.40 ID:N144FoXAO<>





白井「お姉様のご家族には妹さんなんておられますの?」





<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<><>2011/05/21(土) 22:14:05.07 ID:N144FoXAO<>




御坂「―――――――――――――――――」





<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>!orz_res<>2011/05/21(土) 22:15:37.66 ID:N144FoXAO<> 御坂「あぁぁあああぁぁああぁあぁあぁああぁあぁあぁぁあああぁぁああぁあぁあぁああぁあぁあぁぁあああぁぁああぁあぁあぁああぁあぁあぁぁあああぁぁああぁあぁあぁああぁあぁあぁぁあああぁぁああぁあぁあぁああぁあぁあぁぁあああぁぁああぁあぁあぁああぁあぁあぁぁあああぁぁああぁあぁあぁああぁあぁあぁぁあああぁぁああぁあぁあぁああぁあぁあぁぁあああぁぁああぁあぁあぁああぁあぁあぁぁあああぁぁああぁあぁあぁああぁあぁあぁぁあああぁぁああぁあぁあぁああぁあぁあぁぁあああぁぁああぁあぁあぁああぁあぁあぁぁあああぁぁああぁあぁあぁああぁあぁ!!!!!!!!!!!!!!!!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>!red_res<>2011/05/21(土) 22:16:50.37 ID:N144FoXAO<>



                 「お姉様?」




<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/21(土) 22:19:51.86 ID:N144FoXAO<>



御坂「――――――――――――――」




<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>!orz_res<>2011/05/21(土) 22:22:02.74 ID:N144FoXAO<> 御坂「あはは―― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>saga<>2011/05/21(土) 22:22:56.67 ID:N144FoXAO<>



御坂「あっははは。なに言ってんの黒子。私に妹なんているわけないじゃない」




<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>!orz_res<>2011/05/21(土) 22:24:19.08 ID:N144FoXAO<>



御坂「うん。いるわよ20000人程。10000人はぶっ殺されたから、これからソイツ殺しにいくんだけどね」




<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/21(土) 22:26:37.27 ID:N144FoXAO<> 白井「――――え?」

御坂「あはは。どうしたの黒子。」

   ――――あれ?

白井「……お姉様?」

御坂「あはは。なに?」

   ぴぴぴ、ぴぴぴ。

固法「白井さん、携帯なってるわよ?」

白井「あ、ああ……はい」

御坂「あはは」

白井「もしもし、初春?」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/21(土) 22:28:03.58 ID:N144FoXAO<> 御坂「………」



それはとても日常的な一場面で、それはきっとこれからも続くハズだった日常的な一場面。



固法「――御坂さん、どこ行くの?」



白井「えっ?あ、お姉さ――初春?いったい――あ」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/21(土) 22:28:39.09 ID:N144FoXAO<>




                   お姉様?





<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/21(土) 22:29:07.62 ID:N144FoXAO<>


それは、きっと、これからも、続いて―――



<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>!red_res<>2011/05/21(土) 22:29:46.28 ID:N144FoXAO<>



御坂「――アハッ♪」




<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>!red_res<>2011/05/21(土) 22:33:47.05 ID:N144FoXAO<> ここまで。御坂さんは案外普通に生活してました。こわいこわい。

ぶっちゃけこの話挟むの迷いました。すごく。黒子と固法先輩をこれから使っていくのに必要な判明、美琴への見方がすごくかわるような気がして

これをよんでなんかこのSSでの美琴の印象変わったりした方いたら教えて欲しいです。あと色々思考錯誤中。読みにくいなどの教えてくれれば幸いです。あとPSPの人ごめん。

次は多分新しい展開っていうか物語が進みます。多分。

ではでは
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<><>2011/05/21(土) 22:34:40.74 ID:N144FoXAO<> メル欄はずしわすれたoh……ではでは <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/05/21(土) 22:36:12.38 ID:Um9+Acmco<> 乙乙
伏線が思い出せない… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/21(土) 22:53:29.37 ID:BguVoKDIO<> 乙
もう既に壊れてたか… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/05/21(土) 23:12:59.44 ID:izgQm0m+0<> 乙
なんというかデ○ラ○ラ思い出した
他作品の名前出してスマン(陳謝 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/05/21(土) 23:24:42.49 ID:8hbMo0Zn0<> ああ、遠い話だがオチがどうなるのかが楽しみでしょうがないぜ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2011/05/21(土) 23:58:19.68 ID:xETrpT3ho<> 乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>sage<>2011/05/22(日) 00:02:27.12 ID:MofBcyZAO<> あぶり出し多いよ…
どんなこと書いてあるの? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/22(日) 00:13:41.68 ID:/vNW0RUX0<> >>296

272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [!orz_res]:2011/05/21(土) 22:05:12.48 ID:N144FoXAO



                   あはは




278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [!orz_res]:2011/05/21(土) 22:15:37.66 ID:N144FoXAO
御坂「あぁぁあああぁぁああぁあぁあぁああぁあぁあぁぁあああぁぁああぁあぁあぁああぁあぁあぁぁあああぁぁああぁあぁあぁああぁあぁあぁぁあああぁぁああぁあぁあぁああぁあぁあぁぁあああぁぁああぁあぁあぁああぁあぁあぁぁあああぁぁああぁあぁあぁああぁあぁあぁぁあああぁぁああぁあぁあぁああぁあぁあぁぁあああぁぁああぁあぁあぁああぁあぁあぁぁあああぁぁああぁあぁあぁああぁあぁあぁぁあああぁぁああぁあぁあぁああぁあぁあぁぁあああぁぁああぁあぁあぁああぁあぁあぁぁあああぁぁああぁあぁあぁああぁあぁあぁぁあああぁぁああぁあぁあぁああぁあぁ!!!!!!!!!!!!!!!!」

281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [!orz_res]:2011/05/21(土) 22:22:02.74 ID:N144FoXAO
御坂「あはは――


283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [!orz_res]:2011/05/21(土) 22:24:19.08 ID:N144FoXAO




御坂「うん。いるわよ20000人程。10000人はぶっ殺されたから、これからソイツ殺しにいくんだけどね」








<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/22(日) 05:46:15.76 ID:f+Vp37T3o<> 乙!

伏線は停電前に浜面がPCでやっていた以前の自分の置き土産云々と
吹寄にそれをあげたような描写のことかな俺もうろ覚え <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/22(日) 06:55:11.26 ID:UjzyeDseo<> 個人的な意見だけど
色変えとか反転とかはほんとにここぞって時に使うべきだと思うよ
一回の投下で何度も使ったり投下ごとに使ってたら安っぽくて飽きる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/22(日) 08:54:15.33 ID:IsTP/+Sp0<> 乙!
恐ろしいほど面白いな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2011/05/22(日) 10:43:06.70 ID:hD3NSbaAO<> >>299
覚えたての演出でハイになってた。確かにちょっと多用しすぎですね。これ以降はあまり反転も色替えも使う予定ないので気をつけます。


あー…文章消えた。

伏線云々についてなんですが。自分の都合で1ヶ月以上も間を開けてしまったのと、もともとの物語が長いせいで細かい部分などはあまり覚えていない、忘れた!って人は多いはずです。>>298なんて覚えてる人いねーだろと思ってた。

で、そういう人は出来ればもう一度読み返してきて欲しい……てところなんですけど、長いのとこれからも長くなるのとであまり声を大きくしては言えません。多分オチに着く頃には今と同じ「伏線?なんかあったっけ?」になってると思います。

でもー今後の展開100%楽しみたいーって方は是非、ゆっくり流し読みでもいいので読み返してみて下さい。多分色々と見方がかわったり、新しい発見や仕掛けを見つけたり、謎が解けたりすると思います。あ、でも先読みレスだけは勘弁してほしいです。展開予想してニヤニヤしておいて下さい。

めんどいーて方はそれはそれで構いません。これからの伏線回収は結構小出しですので、そのまま追っかけてくれても、そういやそんなのあったなーて感じで追っていけると思います。

が、

構想上このまま何の問題もなく突っ切ると、そのうち未回収の伏線を一気に回収していく展開にぶち当たります。

それを投下する際には事前に宣言させてもらいますので、その時は一度読み返してくれた人も、そのまま追っかけてくれた人も、100%話を楽しむ為に物語をもう一度初めから読み返して欲しいなーと思っています。

伏線についてはこのくらいで。本編投下するでもないのに長くなりました。不快になられた方がいたら申し訳ない。

いつもレスありがとうございます。すっげ活力になってます。当分先ですが、終わりまで付き合ってもらえると嬉しいです。

ではでは

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長野県)<>sage<>2011/05/22(日) 11:43:08.88 ID:969/vX630<> 前作から見てます面白いな。
今更年上スレに加えて常駐するスレになりました。

おれは演出全然気にならないしむしろ良かったと思うけど
好きなようにやってもらうのが一番だな
作者読みしたいなって思うくらいなんでコテハン付けてくれると
ずっと先だろうけど次回作とか探しやすくていいな。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長野県)<>sage<>2011/05/22(日) 11:43:42.85 ID:969/vX630<> 前作から見てます面白いな。
今更年上スレに加えて常駐するスレになりました。

おれは演出全然気にならないしむしろ良かったと思うけど
好きなようにやってもらうのが一番だな
作者読みしたいなって思うくらいなんでコテハン付けてくれると
ずっと先だろうけど次回作とか探しやすくていいな。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長野県)<>sage<>2011/05/22(日) 11:44:42.48 ID:969/vX630<> 大事なことなので二回言いm
エラーの癖に書き込めてたほんとすみません… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<><>2011/05/22(日) 12:02:33.01 ID:/vNW0RUX0<> みこちん……どうなってるのかすげー気になってたけど知りたくなかった……原作ではあんな思い詰めてたのにその素振りすらないなんて怖過ぎる。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>sage<>2011/05/22(日) 12:14:01.67 ID:F1CWkD4AO<> 乙
面白すぎてやばいです <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/23(月) 01:01:17.39 ID:j7IhQRSAO<>


・アイテム



<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/23(月) 01:04:16.36 ID:j7IhQRSAO<> 浜面「痛ッ!!」

   予期していたはずの、しかし予想外に大きかったその痺れるような痛みに耐えかね、思わず体が仰け反った。

   その拍子に、浜面達が乗る比較的広いバンが、ファミレスの駐車場で小さく揺れる。

   浜面達、とは言っても、

絹旗「傷の手足も大体こんなところでしょうか」

  「にゃー」

   今、車に乗るのは浜面と絹旗、名無しの猫の2人と一匹だけ。
   倒せる座席を全て倒し、それなりの広いスペースを確保した後部座席は中々に快適だ。

浜面「悪かったな。付き合わせて」

絹旗「いえ、別に超気にしてません。とりあえず片付けましょう」

浜面「……ああ」

   ほぼ空になった救護箱に、大量に散らばる血の染みた包帯やガーゼを詰め込む。

   数時間前、まだ深夜と呼ぶべき時間から始めた傷の手当てがようやく終わった。
   火傷打撲裂傷刺傷擦り傷、全てを一から十まで済ました頃には、辺りは日が照り、すっかり朝だ。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/23(月) 01:06:27.41 ID:j7IhQRSAO<> 浜面「傷だらけ、だな」

  ポツリと呟く。

  この数日間で浜面の体はボロボロだ。傷の無い箇所が無いとまで言っていい。
  先程まで傷の処置をしてくれた絹旗にも、ボロボロすぎると言われた程だ。

  こんな世界に身を置く人間からそう言わせるという事は、相当なんだろう。

  炎に焼かれ、刃に貫かれ、全身に傷を負って、死にかけて、

  こんなになるまで、どうして戦ったんたんだろう。

  自分は一体何を守りたかったんだろう。

浜面「…………」

  心に絡みつく白い靄を振り払おうと腕を振る。振った腕は虚空を凪いだ。

  吐き出してしまいたい程にこみ上げる空しさを、無理やり押し込み、

絹旗「浜面? どうかしましたか。超ぼーっとしてますけど」

浜面「ん、いや……」

  かけられた言葉に、意識を逸らす。


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/23(月) 01:09:39.61 ID:j7IhQRSAO<> 浜面「あぁ、それよりお前は怪我無いのかよ」

絹旗「いえ、全然大した事ありません。超掠っただけです」

浜面「どっちだよ」

   深夜。出会った瞬間に自分を殺しにかかってきた悪魔のようなあの女。

   名前は、確か麦野。

   本来、自分は本来ならあの場で、あの女に殺されていたハズだ。

   救ってくれたのは、この少女。

   堕ちたきっかけも、この少女。

浜面「てかお前結構ボコボコにされてたじゃねえか」」

絹旗「本当に大丈夫ですよ。私のはそういう超能力ですから」

浜面「……いつからレベル5になったんだ、お前」

   浜面の知らない所で、浜面の知らない暗い世界に身を置いていた、今も少し笑顔になり饒舌に喋る小柄な少女。

浜面「そういや、お前の能力って聞いた事なかったな」

絹旗「えぇ……? あー、まぁ、元々は気体制御系の超能力者でしたね。
   大雑把にカテゴリーを分けるならば風力使いと言った所ですか」

浜面「へぇ……とりあえずその口癖やめねぇの?」

絹旗「むっ、超浜面如きにどうこう言われる筋合いありません」

浜面「そうかよ」

絹旗「ふふん、だいたい浜面は……」

浜面「…………」

   言葉が、終わる。

  「にゃ〜?」


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/23(月) 01:14:04.22 ID:j7IhQRSAO<>    沈黙。いつの間にか2人を包んでいた、日常的で懐かしい雰囲気が霧散する。
   絹旗の言葉が途切れた事によって、それはまるで初めからなかったかのように消え去った。

   訪れたのは、今の状況にお似合いな、空気が重量を持つ暗い雰囲気。

絹旗「……すいません」

浜面「……いや、別に気にしてねぇよ」

   絹旗の表情から笑顔も途切れる。

   その消えた笑顔は浜面仕上がよく知るものだった。

浜面「…………」

   道端で出会った時によく見る笑顔だった。

   執拗に浜面を追いかけまわしていた時の笑顔だった。

   よくわからない映画鑑賞に付き合った時の笑顔だった。

   それは、もはや戻る事の出来ない日常で浜面がよく目にしていた絹旗最愛の普通の笑顔だった。

浜面「…………」

   笑顔。

   それがかつて自分にとってなんだったのかを、浜面仕上には思い出せない。

浜面「なんで暗部なんかにいるんだよ」

   飛び出たのは、そんな言葉。そんな疑問。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/23(月) 01:16:29.20 ID:j7IhQRSAO<> 絹旗「……私が、ですか」

浜面「ああ」

   どうみても普通の中学生で、常盤台のお嬢様で、変な映画好きで、普通のガキにしか見えないこの少女が、
   どうして片足どころか頭から爪先まで、全身どっぷりとこんな闇の世界に浸かっているのか。

浜面「お前だって、他の奴らだってさ、パッと見ただの普通の女の子じゃねぇか」

   運転の際、話す事はなかったが、ベレー帽ん被っていた小柄な金髪の少女は車中では言葉と笑顔を振りまいていたし、
   切り揃えられた黒髪の虫も殺さないような顔をした少女は終始ぼんやりと柔らかい雰囲気を放っていた。

   これが学園都市の裏で殺し合いの日々を送っている組織の一つだなんて言われても、冗談にしか聞こえない。

浜面「なんで……」

絹旗「…………」

浜面「…………」

  「にゃ〜?」

   沈黙の中、鳴いたのは猫。

絹旗「……いろいろ、」

   沈黙の中、呟いたのは絹旗。

絹旗「いろいろ、あったんです」

   表情は見えない。しかしどこか諦めがまじったような、そんな声で呟いた、絹旗最愛。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/23(月) 01:19:38.03 ID:j7IhQRSAO<> 浜面「…………」

   いろいろ。

   その一言には、どれだけの意味が込められているのだろう。

   この年齢で、一体何があればこんな世界に身を堕としてしまうのだろう。
   とてもではないが想像が付かない。考えようにも思考がそこに及ばない。

   それほどの事をこの少女は経験し、今ここに生きている。

  『いろいろ』

   短い一言、たったの四文字。少女が放ったそれだけのはずのその言葉は、とてつもなく重かった。

浜面「……すまん」

   不用意な一言を後悔する。

   他の少女達だってそうなのだろう。あの明るい金髪の少女も、黒髪のぼんやりとした少女も、
   自分には想像も許されない程の地獄に堕ちて、今に至っている。だからここにいる。

   しかし、それは自分も例外ではない。

   なんとか這い上がる事の出来た地獄とは違い、もう、這い上がる事すら許されないのだから。

   お互いが枷となり沈められたこの闇で、浜面仕上は生きていくしかないのだから。

浜面「…………」

絹旗「…………」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/23(月) 01:21:30.51 ID:j7IhQRSAO<>   「にゃー」

   沈黙の中、鳴いたのは猫。

  「にゃー?」

   鳴いたのは、猫。

   コン、コン

   叩かれたのは、窓。

   振り返る。

麦野「何やってんの、アンタら」

   そこにあったのは、見たくもない顔。

麦野「ハッ、フレンダと滝壺しかいないと思ったらこれかよ。
   アンタらデキてんの? ただのお友達じゃなかったのかにゃーん?」

  「にゃーん?」

麦野「猫?……おォぉぉい誰が猫なんざ連れて来いっつったんだよあァぁ!?」

  「にゃーん?」

麦野「…………」

  「みゃーお」

麦野「……はぁ、まあいいわ。2人共降りろ。そう、浜面アンタも。とりあえず着いてきなさい」

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(関西・北陸)<>saga<>2011/05/23(月) 01:21:57.65 ID:j7IhQRSAO<>



麦野「次の仕事の話でもしよっか」




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(関西・北陸)<>saga<>2011/05/23(月) 01:24:46.17 ID:j7IhQRSAO<>    今自分が足を一歩踏み入れたファミレスは学園都市でもなかなかメジャーな飲食店で、
   学生の行動時間ともなる夕方から夜にかけては人が溢れる事もしばしばある。
   深夜ならスキルアウトや仕事の終わった大人達がいるが、しかしこう朝方になると
   やはり人の入りも悪いらしい。
   店内は空いていて、暇そうにしていたウェイトレスは客が入ったのに気付くと、
   すぐさま駆け寄って来て先頭を歩く麦野沈利に向かってこう言った。


  「あの、注文されたお食事以外の商品をお持ち込みされるのは当店では禁止になっており――


麦野「あァ!?」

  「ひぃッ!」

   先頭を歩くシャケ弁を持った麦野沈利に向けて放った言葉は最後まで言い切る事は出来ず、
   その眼光に捉えられたウェイトレスは震えながら客3人と猫1匹を出迎える事になった。

麦野「つーか猫まで連れてこいなんて言ってねぇぞ浜面。
   テメェのせいで目付けられただろうが」

   シャケ弁持って堂々ファミレス入る女に言われたくない。

浜面「…………」

  「にゃ〜」

麦野「ハッ、喋りたくもないか。当然かもね」

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(関西・北陸)<>saga<>2011/05/23(月) 01:28:20.33 ID:j7IhQRSAO<> フレンダ「あ、絹旗おそーっい。って麦野ー! こっちこっちー」

滝壺「ねこ……」

   店に入った麦野に気付き、窓際に座っていたベレー帽を被る金髪の少女が立ち上がり腕を振る。
   向いに座っていたピンクのジャージを着た少女は、駆け寄っていった猫を目で追った。

麦野「はい、フレンダ。これ食べたがってた奴」

フレンダ「きゃはーサバ缶ー! しかも今ブームが来てるカレー味!
     やっぱこれっきゃないって訳よ!!」

滝壺「……珍しい」

   隣に座った麦野に手渡されたサバ缶を受け取り金髪の少女が声を張り上げる。
   どうやって開けるんだよ。という無粋な突っ込みは不要なようで、ガサガサと少女が取り出したのは、
   缶切りかと思いきや、何かビニールテープのようなもの。

フレンダ「ふっふふーん」

   それを缶詰めにぐるりと貼り付けると、更に取り出したのは電気信管。
   まさかと思う暇もなく、少女はそれを取り付け缶の蓋ごと焼き切った。

   店内に響く小気味良い爆発音。
   店員は知らぬ振りをすると決めたようで視線も合わさず寄ってこない。

浜面(なんだ、こいつら……)

   片やサバ缶、片やシャケ弁。やりたい放題だ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/23(月) 01:32:41.85 ID:j7IhQRSAO<> フレンダ「で、麦野ー。結局、仕事失敗したってマジな訳?」

   金髪の少女が隣に座る麦野にそう訪ねたのは炸裂音が止んでからの数分後。

絹旗「ばっ……」

麦野「…………」

   そしてその言葉をかけられた麦野沈利の箸を持つ手がピタリと止まる。

フレンダ「……む、麦野?」

麦野「……ったく、せっかくアンタの余計な事しか言わない口を塞ごうと
   サバ缶買ってたってのに、それも無駄になっちゃったみたいね」

滝壺「……なるほど」

   箸を置いた麦野が小さく笑う。
   どうやら金髪の少女は触れてはいけない地雷に触れたらしい。

フレンダ「は、はは……え、と。
     麦野さーん?」

麦野「フレンダァァァぁぁぁ!!!」

フレンダ「ひゃぁぁぁぁぁぁ!!」

絹旗「浜面、座ったらどうです?」

浜面「……いや、いいよ」

   ピンクのジャージを着た少女の隣に座る絹旗の言葉を流し、その場に立ち尽くす。

   ……これが学園都市の裏で殺し合いの日々を送っている組織の一つ?

浜面「冗談だろ」

   そういいたくなるような光景が、目の前にあった。


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/23(月) 01:35:29.87 ID:j7IhQRSAO<> フレンダ「でさぁ麦野。結局、さっきから聞きたかったんだけどソイツだれ?」

   席に座らずテーブルの側で黙りながら立つ浜面仕上を、
   手に持つフォークで差し、金髪を揺らす少女が言った。

滝壺「私も気になってた。きぬはたの知り合い?」

フレンダ「あ、結局そうなの?
     傷の手当てしたいから先にファミレス入っててーとか言われたから
     知り合いなのかなーって滝壺と話してた訳なんだけど」

麦野「まぁ間違ってないわよ。ねぇ、絹旗?」

絹旗「……はい」

麦野の言葉に、絹旗は目を逸らす。

麦野「ソイツ、新しい雑用。好きに使っちゃっていいわよ」

   へー、と品定めするようにサバを頬張りながら浜面を見る金髪の少女、
   何かを思いだすかのように首を傾げるジャージの少女。反応はそれぞれだ。

滝壺「名前は……?」

麦野「あぁ、そういや自己紹介してなかったわね」

   麦野沈利が視線を合わせ、首を振る。言えという事だろう。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/23(月) 01:39:25.92 ID:j7IhQRSAO<> 浜面「……浜面だ。浜面仕上」

   発した言葉に、感じたのは既視感。いつかどこかで同じような言葉を言った気がする。

   どこだっけ?

フレンダ「浜面? 結局、どこかで聞いた事のあるような……」

麦野「あぁ、それ私も思ってたのよね……どこだったかしら」

滝壺「やっぱり、どこかで会った?」

  「にゃ〜?」

絹旗「ちょ、超気のせいですよ!! きっと!! つ、次は誰ですか?」

麦野「あー、まあいいや。はい次フレンダ」

フレンダ「へっ?」

   突然振られ、金髪の少女が挙動を示す。しかし、アドリブは得意な方らしい。
   一拍置いて、少女は無難に自己の説明をこなす。

フレンダ「名前はフレンダ=セイヴェルンって訳よ! レベル3で好物はサバ缶!!」

   見てもわかる程サバ缶が好物らしいこの少女はフレンダというらしい。
   ヤケに流暢な日本語を話す外人さんだった。

浜面「…………」

   まるでどこかの誰かのように。

麦野「なんか一言は?」

   更に麦野に振られ、フレンダは少しだけ考える素振りを見せる。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/23(月) 01:42:50.58 ID:j7IhQRSAO<> 浜面「…………」

   浜面仕上は失念していた。

   目の前で行われているまるで茶番のような出来事に呑まれ、先程目の当たりにしたばかりだというのに、失念していた。

   こうも楽しそうに笑うこの少女は、こんな世界に身を堕としてしまう何かがあったから、今ここに生きているのだと。

   その事を忘れていた。

   そして、次の一言で浜面仕上は引き戻される。己の立つ場所を再確認させられる。



フレンダ「どうせすぐ死ぬだろうけどよろしくね、浜面」



浜面「――ッ」

   普通の少女からは聞ける事はそうそうないだろう、そんな言葉に浜面仕上は自覚する。
   太陽が輝く夏空が広がっていても、例え陽の当たる世界でも、今自分が立つこの場所は学園都市の闇の中だ。

浜面「…………」

   一瞬でもそれを忘れていた自分が憎らしい。

滝壺「名前は滝壺理后。よろしくね、はまづら」

   この常に微睡みの中にいるような黒髪の少女も、その住人。

   闇の中が当たり前。

   浜面が思い描く『普通』からはもっとも縁遠い4人組。

   自分にとってのこの違和感は、彼女達には普通なのだ。

   異常な普通。いずれ自分もこうなるのか。

フレンダ「結局さ、サバ缶がキてる訳よ。カレーね、カレーが最高」

麦野「あれ、今日のシャケ弁と昨日のシャケ弁はなんか違う気がするけど。あれー?」

滝壺「南南西から信号が来てる……」

絹旗「…………」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/23(月) 01:45:56.29 ID:j7IhQRSAO<>    闇の中だと言うのにも関わらず、彼女達を包む雰囲気はそれでいて日常のソレだ。

   多分、ずっとこうあり続けて、それがくずれる事はないのだろう。

麦野「あ、そうそう。ちょっと言い忘れたんだけどさ」

   そんな中、麦野が呟いた一言。

   変わらず弁当をつつく麦野の言葉に、滝壺以外の少女が意識を向ける。

麦野「一応、まぁめんどくさいんだけど、何か起こってからじゃ遅いし、
   ここに来る前に徹底的に調べてみたのよね。アンタの事」

   その視線、その言葉は、他ならぬ自分に投げかけられていた。

麦野「それでさぁ、ちょっと面白い事がわかったのよ」

   そして、一言。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/23(月) 01:47:42.60 ID:j7IhQRSAO<>






麦野「ソイツ、体晶の適性があるみたい」






<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/23(月) 01:51:13.59 ID:j7IhQRSAO<>

浜面「――――え?」

思わず言葉が漏れたのは、麦野沈利が発した言葉のせいではない。
   体晶という聞き慣れない言葉は意味もわからないし、理解も出来ない。


違う、そうじゃない。


いつの間にか、くずれていた。





8つの目玉が、一斉に浜面仕上を捉える。


麦野「…………」

滝壺「…………」

フレンダ「…………」

絹旗「…………」



浜面「え、……?」



麦野沈利が発したその瞬間、たった一言で、その場にあった4人を包む日常的な雰囲気が消し飛んでいた。



<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/23(月) 01:53:37.84 ID:j7IhQRSAO<>

   そこに無邪気に笑顔を振り回いていたフレンダはいなかった。

   そこに気まずそうに肩を小さくしていた絹旗最愛はいなかった。

   そこにぼんやりと意識を外に向けていた滝壺理后はいなかった



   冷酷さしか宿していないような細い瞳で浜面仕上を見つめるフレンダがいた。
   予想外の出来事に驚きを隠せないでいる絹旗最愛がいた。



   そして、その二人とは明らかに違う異様な雰囲気を黒髪の、虫も殺さないような顔をしていた少女が放つ。


滝壺「…………」


   常に眠そうにしてい瞳を大きく開き、柔らかい雰囲気が残らず吹き飛んだ滝壺理后がそこにいた。




   くすっ

   その様子を見た麦野沈利が笑う。


麦野「わかりやすく言おっか? 滝壺」


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>saga<>2011/05/23(月) 01:54:40.98 ID:j7IhQRSAO<>



麦野「そこに突っ立ってる雑用。アンタと同類よ」




<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<><>2011/05/23(月) 01:57:26.14 ID:j7IhQRSAO<> ここまで。物語が進むと言ったな……あれは嘘だ。

ちょっと長くなったんで区切りました。とりあえず新しい展開だけ出せたんで満足。うん、なかなかいいペースでこれた気がする。

それではまた近いうちに。流石に今日中には無理かもですね。ではでは <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<><>2011/05/23(月) 02:09:39.15 ID:j7IhQRSAO<> >>308

誤字ったうわー

傷の手足じゃなくて手当てです… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福井県)<>sage<>2011/05/23(月) 03:18:15.33 ID:Hd5cGAco0<> 乙です。
浜面が能力者って新しいな
そして滝壺がどう動くのか・・・
続きが気になって仕方ない <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/23(月) 03:40:08.84 ID:5Cgg+pCIO<> 乙!とりあえず浜面の能力がなんなのか気になって仕方ない <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2011/05/23(月) 07:29:21.47 ID:uSG3v82xo<> なんか……風呂敷がデカイ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県)<>sage<>2011/05/23(月) 07:43:01.67 ID:YU/dFH4do<> 乙
しばらくインデックスの安否は放置でアイテム掘り下げか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/23(月) 08:00:16.29 ID:sJkTb1550<> 乙、この作品ではフレンダは助かってほしいな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/23(月) 08:14:37.10 ID:pps8ey8Lo<> 乙!
それでも>>1なら…でかい風呂敷も生かしてくれるはず <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北陸地方)<>sage<>2011/05/23(月) 08:28:39.90 ID:qzJy/RnAO<> これで浜面もある程度の力は得られるが…
よりにもよって体晶か、事態が悪い方向にしか行かない予感 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/05/23(月) 10:38:46.89 ID:ePdfRVB50<> しかも体晶って残りわずかなんだろ?
どーなるのやら… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(沖縄県)<>sage<>2011/05/23(月) 11:01:50.06 ID:YU/dFH4do<> 暴走能力者の脳内分泌物質を採取して、凝縮、精製したものだし、体晶自体はいくらでも作れるんじゃね?
犠牲者がどんだけ出るか知らんけどww
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<>sage<>2011/05/23(月) 22:24:28.42 ID:vkJ0ZDkZ0<> 前スレでここの浜面は基本的に根性と実力と発想力で頑張るっていってたから
能力無しで泥臭い戦いをするんだと思ってた。あまり意味の無い能力ならともかく
浜面にはあまり強大な能力は持ってほしくないな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(愛知県)<>sage<>2011/05/23(月) 23:38:30.37 ID:MlHqIPRE0<> >>338
同意だけど、1が書きたいように書いて欲しい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/24(火) 04:02:49.20 ID:lBvAjk+70<> 乙。
相変わらず面白いというか緊張感がぱないな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/24(火) 20:15:50.46 ID:IJxb4i5X0<> 加速化ぐらいでよくね? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/25(水) 02:32:57.99 ID:wXEzKC7lo<> まだ不明のインデックスの能力と合体技を見せてくれると信じてる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/25(水) 03:26:36.62 ID:ZafG15LU0<> ネタを潰すな……と言いたいところだがこの1なら予想の上を行ってくれるから大丈夫なはずだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/25(水) 10:46:36.54 ID:9h2UzYOoo<> テレス姐さんの脳汁ハァハァ <> ◆SQ2Wyjdi7M<>sage<>2011/05/25(水) 22:38:58.25 ID:zqPno6bAO<>

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/05/25(水) 22:41:45.25 ID:zqPno6bAO<>
浜面「……同、類?」

   背筋が凍る程の視線が突き刺さる中、浜面仕上は言葉の意味も理解出来ずにファミレスの一角で立ち尽くす。

滝壺「…………」

   そんな浜面を覗きこむのは、異常とも異様ともとれる、麦野曰く『同類』らしい滝壺理后の大きく見開いた目。
   何を考えているのか、何を思い描いているのかも読み取らせない、全てを掌握するかのような底の知れない瞳。

浜面「う……」

   その瞳に、浜面は気圧される。一見どこにでもいるような女の子に見えるその少女の深い深い眼に。

フレンダ「……ねぇ、麦野。結局、適性があるってことはさ、」

   フレンダが慎重に、というよりかは恐る恐ると麦野に言葉を促す。
   嫌な想像でもよぎったのだろう、鋭く、しかし不安そうな顔で。

しかし麦野が何かを言う前に、未だに浜面を瞳に捉えて離さない滝壺が小さく呟き、

滝壺「……私はまだやれるよ、むぎの」

麦野「安心しなよ。別に後釜のつもりなんてないから。
   そもそもコイツ探知系能力者じゃないし」

   可笑しいのだろう、麦野は微笑みながらそう返した。

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/05/25(水) 22:44:47.28 ID:zqPno6bAO<> 浜面「……え?」

   また、言葉が漏れる。麦野沈利が発した言葉のせいではない。
   後釜だとか、同類だとか、体晶だとか、そんな意味もわからない理解も出来ない単語のせいじゃない。


   違う、そうじゃない。


フレンダ「はぁー、よかったぁ。もう……焦らせないで欲しいって訳よ!」

麦野「何焦ってんのよ。滝壺にはまだまだ仕事してもらわないといけないんだからさ。
   役に立たないテメェと違ってなフレンダァ」

フレンダ「ハ、ハハハ……」

滝壺「…………」

絹旗「……ほっ」

   またもや、くずれていた。

   そこには無邪気に笑顔を振りまくフレンダがいた。

   安心したかのように肩をなでおろす絹旗最愛がいた。

   そんな二人をからかうかのように意地の悪い笑みを浮かべた麦野沈利がいた。

   大きく見開いた瞼は嘘だったかのように、伏し目がちに猫を抱きかかえる滝壺理后がいた。

   先程の体に突き刺さるような視線も、息の詰まるような空気もそこにはない。

浜面「…………」

   一瞬垣間見えたのはなんだったのかと思う程の、少女達の楽しげな一場面がそこにあった。

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/05/25(水) 22:46:32.45 ID:zqPno6bAO<>    なぜそんな普通でいられるのかが、浜面には分からない。

   こんな掃き溜めのような立ち位置で、どうして笑っていられるのか浜面には分からない。

   こんな少女達の細い手が誰かの、自分が知っている人間の血で汚れているだなんて、浜面は思いたくい。

   異常だ。

   今浜面が立つこの場が異常だからこそ、普通でいられるこの少女達は異常だった。

麦野「なぁに、滝壺。まだ気になる?」

   気付くと、猫を抱いた滝壺の視線がまたもこちらに向けられていた。
   そこに先程の異様さはない。

滝壺「…………」

麦野「……別に適性があるって言ってもソイツは無能力者だよ。何の力もない。
   宛にもならない、それに」



麦野「体晶を使おうにも能力が無いなら、結局はクソの役にも立たないクズじゃない」



<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/05/25(水) 22:49:53.66 ID:zqPno6bAO<> 浜面「……ッ」

   ピクリと、小さく体が跳ねた。麦野から吐き出された言葉が弾丸となり、浜面の体を掠める。

   今まで何度も何度も自分を貫いてきたその言葉に、浜面は未だに慣れない。
   自嘲とはまた違う悔しさが奥から込み上げ、腕が震える。

滝壺「…………」

   そんな浜面を知ってか知らずか――いや、こんなやり取りは何度もやってきたであろう麦野は、
   確実にソレを知って特に感慨も込めず呼び掛ける。

麦野「あ、そうだ浜面。突っ立ってるなら飲み物汲んできてくれる? 私コーラでいいから」

フレンダ「浜面ー、私は水。結局、カレー食べてると最終的には水が一番なのよね」

麦野「テメェが食べてるそれはサバだ」

絹旗「……自分で汲んできます」

滝壺「私はあとでいい」

浜面「…………」

麦野「何突っ立ってんの? 早くいきなよ浜面。クズでもそれくらいは出来るでしょ?」

浜面「……ちくしょう」

   僅かに漏らしたそんな言葉が聞こえたらしい。

   麦野は小さくクスリと笑った。

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/05/25(水) 22:53:47.15 ID:zqPno6bAO<>
――

   乱暴にドリンクバーのコップを2つ掴みとり、言われた飲み物を透明のグラスに注ぐ。

浜面「ハッ……ドリンクバー往復係かっての」

   ジョボジョボと音をたててコーラが注がれる。その間に自嘲気味に漏らしたのはそんな言葉。

   カラン、と隣でガラスがぶつかり、音が鳴る。

絹旗「さっきは、すいません」

浜面「お前が俺に何したんだよ」

絹旗「……麦野はああいう人です。いつも口が悪くて、超乱暴で、」

浜面「…………」

絹旗「超理不尽で、暴れると手も付けられないし、残酷で――」

浜面「けど、実は凄くいい人なんです。って冗談ならやめてくれよ。
   俺はアイツに仲間を殺されたんだ」

   悪魔が女の子の皮を被って歩いているような奴がその実仲間想いで優しい一面があるとしたら、それはそれで笑えてくる。
   それじゃまるで――

浜面「――――」

   まるで、

浜面「大体、俺もお前もお互い何かしでかさないように脅しをかけたのもアイツだろ。
   ……躊躇なくお前を殺そうとしてたじゃねえか」

絹旗「…………」

浜面「…………」

   会話はそこで途切れた。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/05/25(水) 22:55:54.97 ID:zqPno6bAO<> 絹旗「…………」

   ドリンクバーの前に立ち、絹旗が横に並ぶ。グラスを設置し、選んだのはオレンジジュース。

浜面「…………」

   なんともかわいらしいチョイスで、それは年相応にも見えて、だから、やはりこの場にいるのは不釣り合いに思えて、


浜面「……どうしてさ、逃げようとか、思わなかったのかよ。
   お前だって、親や友達ぐらいいるだろ」

   だから、ポツリとそう訪ねた。

絹旗「……ッ」

   ピクリと、絹旗の肩が跳ねた。先程麦野の言葉が掠った先ほどの自分のように。

絹旗「…………」

   グラスを持つ絹旗の手が、小刻みに震えた。
   言われたくない言葉を投げつけられた先ほどの自分のように。

絹旗「……、……先に、戻ってますね」

   返事は、返ってこなかった。

浜面「…………」

   先程の閉塞感のある雰囲気とはまた違う、どんよりと重く沈みこむ空気が肩に乗る。

浜面「……馬鹿か、俺は」

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/05/25(水) 22:59:04.61 ID:zqPno6bAO<>

滝壺「はまづら」


   絹旗と入れ違いになったかのように、そこに滝壺が立っていた。

浜面「……なんだよ、お前も飲み物か?」

滝壺「ううん。お手洗いだよ」

浜面「……そうか」

滝壺「うん」

   それっきり、お互い足を動かさないのは、この場の雰囲気がそうさせたからか。
   単に自分が何かを言って欲しかったのか、滝壺が自分に何か言いたい事でもあるのか

滝壺「はまづら。一つ、聞いていい?」

浜面「……なんだよ」



滝壺「はまづらはどうしてここにいるの?」



浜面「…………」

   冷えたグラスが、手の熱でぬるくなっていくのがなんとなくわかった。

   どうして。

   絹旗にも聞いた言葉だ。少し前にも、ついさっきにも。

   こんな気持ちだったのか。

   それは、やっぱり簡単に説明出来る事じゃなくて、簡単に分かって貰える事じゃなくて、
   話しても楽になる事じゃなくて、惨めになるだけで、とてもじゃないけど人に言いたくなる話じゃなくて、



浜面「……いろいろ、あったんだよ」



だから結局はそんな一言で片付けた。

滝壺「そう」

浜面「……戻るよ。飲み物ぬるくしたら麦野にぶっ飛ばされそうだ」

滝壺「あ、ねぇ。はまづら」

浜面「ん?」



滝壺「私、カルピス」



浜面「……運んどく」

滝壺「ありがとう」 <>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/05/25(水) 23:02:17.95 ID:zqPno6bAO<> ――

麦野「さて、じゃあ今日の仕事の話なんだけど」

   コン、と弁当やサバ缶のゴミを片付けたテーブルに、空のグラスを置いた所で、
   端から見れば和やかにも見えるであろうこの日常は終わりを告げた。

   緩やかな、それでいてどこか異質な雰囲気が漂っていたファミレスの一角に
   張り詰めた空気が広がっていく。

麦野「まずは現状の整理から始めよっか、ちゃんと聞いとけよ浜面。アンタにも関係あるから」

浜面「……あぁ」

関係。それは、やはりきっかけ。ここに堕ちるきっかけとなった深夜の邂逅。
   あれの事だろうか。

麦野「今うちら『アイテム』はある組織を追っている。名前は『スクール』」


麦野「リーダーの名前は垣根帝督。学園都市のNo.2だ」


浜面「は、はぁッ!?」

思わず声を張り上げる。テーブルを挟んで目の前に座っている女は今それほどとんでもない事を言い放った。
   学園都市のNo.2、つまり、それは

浜面「第二位の超能力者。お前らそんなとんでもない奴ら相手にしてるのかよ……!」

麦野「ハッ、普段からスキルアウト相手にするようなチンケな組織だとでも思ったか?
   ちなみに私は第四位。序列はあのクソに劣るがレベル5の超能力者サマだ」


浜面「――ッ」

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/05/25(水) 23:05:29.46 ID:zqPno6bAO<>
   改めて認識する。この仲良しグループにでもいそうな4人の少女がとんでもない化け物達なのだと。

   超能力者。レベル0にとってのピラミッドの頂点が今目の前にいる。

   言い表しようのない違和感だった。

麦野「で、アイテムはそのスクールを潰す為に動いてたんだけど、やっぱり一筋縄じゃいかない。
   気色の悪いゴーグル野郎はぶち殺したが、残りの三人は未だ逃亡中」

フレンダ「ほーんと、携帯と一緒に車吹き飛ばされるわ、雑用が狙撃されるわ、何度も地震に巻き込まれるわで、
     結局、散々って訳ね」

滝壺「携帯……きぬはたのだけまた壊れちゃったよね」

絹旗「はい……」

麦野「ほら、喋ってないで続き行くわよ」

麦野「で、当然ながら私達はそいつらを追いかけて潰さなきゃいけない。そしてその連中の居場所を割り出すのに
   必要不可欠な能力者が今アンタと同じ席に座っている滝壺だ」

   指をさされ、こくりと、小さく滝壺が頷いた。曰わく同類の彼女は、か弱そうなに見えて
   この組織の中ではかなり重要な役割を担っているらしい。

麦野「けど、その能力をフルに引き出すにはあるモノが必要なんだけど、ハイ浜面君わかるかにゃーん?」

浜面「……それが、体晶って奴なんだろ」

麦野「正解。案外飲み込みが速いね。1日足らずでもう馴染んできた?」

浜面「ふざけろ」

   その言葉を聞き、麦野沈利の唇がつり上がる。どこまでも小馬鹿にしたような笑みだ
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/25(水) 23:08:20.51 ID:hY7C00Ra0<> ここでバニー画像が出たら吹く <>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/05/25(水) 23:08:24.17 ID:zqPno6bAO<>
麦野「そう、滝壺はその体晶があって初めて能力が発動出来る能力者。アンタもそうなのかもね浜面。
   一応能力系統も調べたけど聞く? まぁ何にせよ戦闘向けじゃない地味な能力だったけど」

浜面「…………」

   最後にシステムスキャンの結果を見たのは遠い昔だ。そこには身体表、各能力ランク、
   ○○系能力者と文字が表記されてた気もするが、それはもう覚えていない。


   そこにでかでかと書かれたレベル0という文字だけが浜面の記憶の中に焼き付いていた。

麦野「ふーん……そう」

   沈黙を否定と受け取ったらしい。どこかつまらなさそうな顔をした麦野が言葉を続けていく。

麦野「どこまで話したかしら。あぁ、体晶ね。で、その体晶って特殊な粉末が必要なんだけど、
   手持ちの体晶は殆ど使い切ってしまったのよ。度重なる追撃のお陰でね」

   カラン、とシャーペンの芯入れ程の大きさの空のケースが無数にテーブルにばらまかれた。
   滝壺が取り出したそれが体晶が入っていたものらしい。

麦野「ま、当然補充しようと思ったんだけど、ちょっとトラブルが起きてさ」

浜面「……トラブル?」

麦野「まぁ、このトラブルさえ起きてなきゃここまで苦労する事もなかったんだよ。
   どっかの馬鹿が引き起こした落雷で体晶を生産していた施設潰したりしなきゃね」

   忌々しそうに、髪をかきむしりながら麦野が顔を歪ませる。呪詛でもかけるかのように、
   余程手間をかけさせられたらしい、その人物に毒を吐いた。



麦野「第三位のクソッタレがッ……!!」


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/05/25(水) 23:11:34.78 ID:zqPno6bAO<>    第三位。

   御坂美琴

   常盤台の超電磁砲。

   二位と四位に加え、更に第三位の超能力者までもが話に並んだ。
   ここまで来るとそろそろ現実味がなくなってくる。

   現実味。魔術というものを目の当たりにした自分が今更言うのもおかしな話だが。

フレンダ「でもさぁ、結局あの落雷って本当に超電磁砲が引き起こしたの?
     規模が滅茶苦茶な訳なんだけど」

絹旗「それについては散々超議論したじゃないですか。最終的に御坂さ――
   超電磁砲の仕業って事で結論付いたはずです」

滝壺「……でも、理由がないよね。わざわざあんな雷まで落として体晶を焼きたかったのかな?」

フレンダ「そうそう、なにせ破壊されてるのってその施設だけじゃない訳だし」

絹旗「……学園都市の汚い施設が全域に渡って超襲撃を受けてるって話、ですか?」

滝壺「……全部超電磁砲の仕業なのかな?」

   次々に、三者三様の意見が広がる。

   落雷。六日前の深夜に起こった学園都市を大規模停電に追いやった雷。
   今考えてみれば、全ての事の始まりはあの雷だった。

   あれには、誰かの意思があったのか。

   物事の背景。誰かの意思。

浜面「…………」

   もし、自分がこの場にいることさえ、深夜の邂逅にも誰かの意思が介入していたのなら――

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/05/25(水) 23:14:31.21 ID:zqPno6bAO<> 麦野「んな事どうでもいいんだよ!!例え超電磁砲が学園都市の施設を100や200破壊してようがこっちには関係ねぇんだからさぁ!!!」

未だに三人が意見を飛ばし合う中、その間一言も言葉を発しなかった麦野が怒号をあげた。
   突然の激怒にフレンダ、絹旗の体が飛び跳ねる。

麦野「……この話はこれでお終い。続き行くわよ?」

フレンダ「は、はい……」

絹端「……すいません」

滝壺「…………」

麦野「さて、」

   と、麦野が荒れた呼吸を整える。荒々しさはどこかに消え去り、表情には意地の悪さが戻ってきた。そして

麦野「こっからが、今回――浜面。アンタに関係のある話」

浜面「……!!」

   ニヤリと笑う。

麦野「数日前にね、一つの依頼が来たのよ。上層部を経由してうちに舞い込んできたある依頼。
   はい浜面君わかるかにゃん?」

浜面「…………」

   おどけるようにそう言葉をかける麦野に対して、浜面は何も言葉に表せない。

   ただ、自分の心臓が跳ねるように暴れまわっている事だけがよくわかった。

   もし、もしもその内容が、今想像しているモノとぴったり一致していたのなら、

麦野「ま、わかんないわよねー。それの内容なんだけど、」


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/05/25(水) 23:15:09.85 ID:zqPno6bAO<>




麦野「学園都市の警備情報網遮断を計画しているスキルアウトの殲滅と計画の阻止」




<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/05/25(水) 23:17:42.24 ID:zqPno6bAO<> 浜面「――――ッ」

   想像と一致したその内容に、血の気が引いた。
   腹の底から、冷たい何かが押し寄せ、暴れる心臓を抑えこむ。

麦野「ま、状況が状況だから無視する所だったんだけどさ、今回は受けざるを得なかった」

麦野「目的はそれを依頼してきた人物が保有しているどうしてもうちらに必要なあるモノを奪う為。
   相手が相手なだけに目立つ事も出来ないから、さっさと依頼をこなして懐に入り込んだ所で奪う予定だったんだけど……」

   そこで言葉を切り、麦野が見てわかる程の苛立ちを抑えつけ浜面を睨みつける。
   しかし、それにどうこう言うような余裕も、今は無い。

麦野「まぁ、見ての通り、ムカつく事に依頼は失敗して、今に至る。相手との関係も切れて今後の方針を決めかねてるって所かな。
   大体現状の整理は終わったけど、理解は出来た?」

浜面「……ああ」

麦野「よろしい」
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/05/25(水) 23:19:05.45 ID:zqPno6bAO<>    つまり、深夜の邂逅、スキルアウトの襲撃、駒場の死、その舞台の背景に誰かの意思が存在したのだ。
   スキルアウトを疎み、駒場の死を望み、堂々と闇の舞台に登れない、そんな人間の意思が。


   そしてそんな人物、浜面が知る限り、そんな人物は1人しか存在しない。


麦野「じゃあフレンダ。今後の方針、うちらアイテムはどうするべきかな?」

   問われたフレンダが、意気揚々とそれに答える。これ以外の答えなんてないとでもいいたげに。

フレンダ「んなの決まってるっしょ! 結局、強引に奪いに行くしかないって訳よ」

   その答えを聞き麦野が笑う。溜まった鬱憤でも晴らしに行こうかと、そんな具合に

麦野「はいフレンダ珍しく正解。そう、それが今日の仕事。もうなりふり構ってられないわ。
   都合がいい事に『警備情報網はそこのバカが潰してくれた』からね」




麦野「正々堂々真っ昼間の正面から潰しにいくよ」




そして、
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/05/25(水) 23:20:17.01 ID:zqPno6bAO<>


浜面「――――」



容赦なく降りかかった悪意の記憶が蘇える。



『もしかしてアナタのボスの大男もまだ生きてるのかしら?』



麦野「目標はアンチスキル共の部署の一つ。先進状況救助隊――通称MARの研究施設」



『ったく、それでいて私達アンチスキルに楯突くつもりでいるっていうんだからよお、本当にムカつくわ』



麦野「目的はそこのトップが保有する能力体結晶――『体晶のファーストサンプル』を強奪する事」



『役に立たない街のゴミ、誰にも必要とされない嫌われ者、それがあなた達スキルアウト』


麦野「ターゲットは――」


浜面仕上は、そいつの名前を知っている。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/05/25(水) 23:20:53.92 ID:zqPno6bAO<>




麦野「ターゲットはテレスティーナ=木原=ライフライン」





<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/05/25(水) 23:23:41.29 ID:zqPno6bAO<> あ、酉つけました。よろしくです。

で、ここまで。暗部とアイテムに困惑する浜面を書きたかったんだけど難しい。文章追いつかないすね、わかり辛いと感じた方がいれば申し訳ないです。

ようやく話が動き始めました。こんだけ書いてまだこことか笑えてきた。まだまだあるのに。このスレで収まりきるのは無理かなぁ

さて、アイテム御一行の目的はテレスティーナの持つ体晶のファーストサンプル。それが今後物語をどう動かしていくのかは後のお楽しみとして、浜面の初陣です。活躍するかは微妙ですが。お相手はみんな大好き木原さん。まぁ木原違いすね。前スレではこの為だけに前振りとして登場してもらいました。

次の投下は少し空きます。早けりゃ来週に辺りに。ではでは



あと読み辛いと感じた方は遠慮なくいってください。なかなかうまいぐあいにできなくて申し訳ないです <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(岡山県)<>sage<>2011/05/25(水) 23:33:23.94 ID:5HGDGsqso<> 乙
何かこわいな、アイテム
テレスさんぐらいすぐやってしまいそうだ

確かに地の文が前と違って違和感を覚えるけど、
文章力が自分を引き込んで気にならないから大丈夫だよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/25(水) 23:59:28.85 ID:4Ck1wdYQo<> 乙です。一触即発の中どうなるかと思ったけど
麦野以外とはそれなりに上手くやれるかな・・・? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2011/05/26(木) 00:18:31.59 ID:50pynATAO<> >>355
シリアスな内容の最中にお前の発言で吹いたわwwwwww

>>1乙
今後の暗部編浜面の戦いが楽しみだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2011/05/26(木) 02:36:27.79 ID:1hfadvo70<> 古泉「それこそ神からの贈り物」ってスレにここの作者がイチャモンつけててワロタ
関西北陸バレバレやで <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2011/05/26(木) 02:43:03.59 ID:1hfadvo70<> 男の木原クンは幻生の孫?実験受け継いだの一族でテレスだけか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/26(木) 05:03:29.30 ID:UpBlE9Fbo<> 関西・北陸なんて結構いるだろう
5/21を見るに>>1は日付変わらないと基本ID変わらないし
ID違うなら別人じゃね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2011/05/26(木) 11:06:54.57 ID:MjN3PyFm0<> 変なイチャモンつけられててワロタ。日付とIDみたら一発でわかるだろ。

んで乙。浜面の能力系統がすごく気になる・・・
体晶の適正といいフラグたちまくりだぜー今後滝壺の能力も合わさって覚醒したりするのかな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/26(木) 22:47:00.25 ID:Li7yC6UD0<> この上条さんは記憶失ってないんだな。

根本は変わって無くても、多少は行動に変化が出そう。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/27(金) 12:12:22.04 ID:/6txOusd0<> 乙です。そっか、ここではフレンダはレベル3だから原作とは違って生き延びてくれるかな。
フレメアも出てくんのかな? 楽しみだわ〜 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/27(金) 19:14:41.31 ID:enZYDVHbo<> そもそも原作からして無能力者だったとは限らないけどな
道具を大量に持ち歩ける能力を持っていたというのが有力 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)<>sage<>2011/05/27(金) 19:16:49.30 ID:FwE3hUm5o<> え? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2011/05/28(土) 00:55:45.81 ID:PomfQkDFo<> 乙

すげえしっくりきた、スポンとはまってく感じだわ……流石 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2011/05/29(日) 11:56:08.00 ID:5QE2Ybjx0<> 最初に出てきた時は何事だと思ったけどなるほどなーこの為にテレスが出てきたのか
どんな終わり方になるんだろ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(沖縄県)<>sage<>2011/05/29(日) 12:05:07.85 ID:xet+FB/Eo<> ん、この感じだと美琴は枝先達助けてない&テレス捕まってないのかww?

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北陸地方)<>sage<>2011/05/29(日) 12:59:46.06 ID:2dpY+B5AO<> 原作では時系列順に起こる色んな事件がここじゃ同時進行してるじゃないのか?多分前スレから読んでる限りは、

一巻
スキルアウト反逆
絶対能力進化計画
暗部抗争
幻想御手事件
乱雑解放事件←NEW!

くらい?誰が誰に関与してどうなってるのかを整理しようと思ったけど頭こんがらがってきた <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/01(水) 00:38:43.85 ID:8WxL1aQA0<> >>1まだー?
続きが気になってしょうがないぜ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/07(火) 17:40:47.10 ID:wlZjYJw60<> そろそろ生存報告がほしいね <>
◆v2TDmACLlM<>sage<>2011/06/07(火) 21:24:46.23 ID:Kx9StPiAO<> 生きてます生きてます。ちょっと私事のゴタゴタで更新遅れて申し訳ないです。
今週中にはなんとか……なんとか…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/07(火) 23:32:52.23 ID:eah6x1ZIO<> 生存報告ktkr
待ってるにゃーん <>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/08(水) 10:59:33.69 ID:Ecak/phAO<>



・MAR襲撃戦




<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/08(水) 11:01:11.78 ID:Ecak/phAO<>    乱雑に停めた車の運転席に座りながら、浜面はぼんやりとそれを見つめていた。

   フロントガラスを挟んで目の前に建つのはMARの研究所。分厚い鋼鉄の扉が入る者を出迎え、
   それなりの広い敷地面積を持つこの建物はアンチスキルとしての詰め所も兼ねているらしい。

   研究所の周辺では駆動鎧に身を包んだ研究員が交代で異常がないかを見張り、侵入者を迎撃する為の
   何重ものセキリュティーが張り巡らされ、不法に踏み入れたら即警報がなるような仕掛けも施されて、

浜面「…………」

   いたのが数分前の話だ。

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/08(水) 11:04:20.42 ID:Ecak/phAO<>    今、浜面が乗る車の外では耳を裂くかのような警報が鳴り響き、そもそも落雷の影響で未だ復旧していなかった
   セキリュティーは役割を終える前に破壊しつくされ、地面には煙を上げ中の人間ごと動かなくなった駆動鎧が
   いくつも転がっている。

   そしてフロントガラスを挟み、浜面はそれを見つめる。

   直径数メートル程の大穴が開けられ、円周部分が熔解した分厚い鋼鉄の扉を。

浜面「……バケモノだな、レベル5ってのは」

   麦野沈利が軽く放った一撃によって出来たその跡は、いわば挨拶代わりのようなものらしい。
   ノックにしては些か派手すぎる気もするが、本人達は気にする様子もなく、開けた穴から建物の中へ入り込んで行った。

滝壺「むぎのは超能力者だから。ね?」

  「にゃーお」

   それも数分前の話だ。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/08(水) 11:07:02.12 ID:Ecak/phAO<>    その研究所の前でこうして浜面がぼけっと運転席に座り、助手席で猫と戯れるぽわぽわとした
   少女と共に暇を持て余している理由はたった1つ。そう命令されたから。

   あんた達は留守番。

   研究所に着くなり麦野が浜面と滝壺に言い放ったのは、そんな言葉。元より麦野沈利は浜面仕上を襲撃戦の人数には数えていなかったし
   今回の敵は能力を使わない白兵戦が主だろうから滝壺には不向き、そんな理由で留まる事を麦野は命じた。

   複雑な心持ちの中ここまで運転してきた浜面にとっては盛大な肩透かしを食らった気分だが、

浜面「……はぁ」

   そんな溜め息を付いたところで事態は変わらず、小さく猫の鳴き声が木霊する車内で、ハンドルに
   腕をのせ体重を預けながら浜面はフロントガラスを挟んで見える扉の大穴、その奥に続く暗闇を見つめる。
   今も麦野達があの中で暴れ回っている事だろう。

浜面「……テレスティーナ=木原=ライフライン、か」

   ぽつりと呟いたのは、駒場利徳が死ぬ契機を作った女の名前。

滝壺「はまづら?」

浜面「ん?」

滝壺「もしかして、むぎの達と行きたかった?」

浜面「…………」
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/08(水) 11:09:57.61 ID:Ecak/phAO<>    仮定の話、今からでも研究所に向かいこの女と相対したとして、自分は何が出来るのか。
   頭に浮かんだのはそんな思考。仇を取ろうにも、自分は一度全てを諦め、全てを投げ捨て、屈している。

   この少女が名前を呼んだ麦野沈利。

   駒場をその手で殺したあの女に。

浜面「さぁな、わかんねぇ」

滝壺「……なにが?」

浜面「どうすりゃいいのかわかんねぇのさ」

   その事実が邪魔をする。今になって踏み出すべきかと迷う浜面の両足を、高い壁のように阻んでいた。

浜面「……ちくしょう」

   小さく呟き、それは考えれば考える程、迷えば迷うほど思考が沈み、沈めば沈むほど心が揺れ、
   自分を刺すための言葉が暗い穴から溢れ出す。

   まだ自分を慰めたいのか?そうまでして駒場の為に何かをしたという事実が欲しいのか?
   麦野の時は立ち向かおうとさえしなかったのに?仲間が殺されたのに感情が沸いて来なか
   ったんだろう?まだ惨めな自分を認めたくない?自分の安全が保障されたから動くのか?

   卑怯者。

   クズ。

浜面「…………」

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/08(水) 11:13:18.05 ID:Ecak/phAO<>    意識を逸らそうとすればするほど浮かび上がってくるの自虐の言葉は、時として他人の言葉より強烈だ。

   ・・・・・・・・・・・・
   自分を一番に理解している自分の言葉だからこそ、一言がとてつもなく重くのしかかる。

   迷い、戸惑い、決めかねる浜面は――

浜面「……いいさ、大人しく待つ」

滝壺「いいの?」

浜面「…………」

浜面「ああ」

   滝壺の膝の上で伸びをする猫に視線を合わせ、運転席に深く座り込みながら至った結論はそんなモノ。
   麦野の軍門に下った時点で既に駒場の件は決着がついてしまった。無理やりにそう思い込む。

   ここで待っていればテレスティーナを殺すか何らかの口封じをした麦野が戻ってきてまた雑用としての扱いが始まる。
   それだけだ。

   それに納得出来ても、例え出来なくても、こんな自分に出来る事なんて何もない。
   誰かの為に動こうだなんて、今更すぎる。

浜面「……くそ」

   雪だるま式に増幅されていく暗い思考を切り替える。いつから自分はここまでうじうじした人間になったのか、
   無能力者というレッテルに悩む日々の中でもこうまで惨めになる事なんてなかったのに。

   スキルアウトで能力者に八つ当たり、そんな自分が嫌で抜け出したかったからインデックスを救い、
   結局はまたそんな自分に嫌気がさして、期待に応えようと駒場の跡を継ぐも全部放り投げ、またこうやって
  自己卑下のサイクルに陥っている。

浜面「ダメな奴だよな……俺」

滝壺「大丈夫。私はそんなダメなはまづらを応援してるよ」

浜面「……どーも」

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/08(水) 11:14:55.67 ID:Ecak/phAO<>    少女の言葉に、気怠く返す。
   応援してもらえるだけまだマシだろうが、思考の波は勢いをさらにあげ、浜面はそれに浚われ溺れていく。

滝壺「……本当に大丈夫だよ、はまづら」

   それが表情に出たのか、雰囲気を察したのか、少女がこちらに顔を傾けながら呟いた。
   絡まる視線は、やはりどこかぼんやりしていて眠そうで、言葉は続き、

滝壺「私達、みんなどこかダメになっちゃってるから」

浜面「…………」

   続いたのは、そんな言葉。

   励ましの言葉にしては、少しばかり重たい言葉。

滝壺「私は、体晶がないと麦野の役に立てないし」

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/08(水) 11:17:58.82 ID:Ecak/phAO<> 浜面「……体晶、か」

   体晶。詳しい事は知らないが、少ない情報をまとめるに能力を引き出せる道具。
   その程度の認識しかないが、効果があるかわからない幻想御手よりは確実そうだ。

浜面「じゃあ俺もそれ使えば少しはまともになれるかもな。
   レベル0が使ったってたかが知れてるだろうけどさ」

滝壺「……はまづらは使わないほうがいいよ。副作用があるから」

浜面「……副作用?」

滝壺「うん、使えば使うほど体のあちこちがボロボロになっていくの」

滝壺「痛覚とか、もうあまりないよ」

浜面「……ッ!!」

   何とでもない風に淡々とそのとんでもない事実を語る少女に背筋が冷たくなるのを感じ、
   思い出したのは先程いたファミレスでのやりとり。

浜面「じゃあ……あの空のケースの分だけ」

滝壺「もっと沢山使ってるよ。はまづらが来る前から、ずっと」

滝壺「……もう、あまり保たないと思うけど」

浜面「劇薬じゃねぇか!! そんなの使ってたらお前……」

   認識が甘かった。
   ただでさえ非公式のこんな連中がリスクのない合法的なものを使うはずがないのに、浜面はそんな事を欠片も考えていなかった。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/08(水) 11:21:02.08 ID:Ecak/phAO<>    今更ながらに恐怖を感じる。そんなものを平然と使い続け、平然と語るこの少女と、
   そんなモノを扱う資格があると言われた事実に。

浜面「大体、あいつらもそれがわかってるなら何で体晶ってのの為に、今みたいに
   研究所を襲ってんだよ……それ使ったらお前、死んじまうんだろ」

   そして少女はどこか寂しげな顔をしながら答える。

滝壺「私はいい」

滝壺「大丈夫。私は、むぎのが必要としてくれるならそれでいいの」

   死んだっていいと、そう答える。

浜面「……なんでそこまでしてあんな女の役に立とうだなんて思うんだよ」

   理解の追い付かないその言葉に、眼を逸らしながらそう呟く。

   麦野沈利。第四位。レベル5。有無を言わずに殺されかけ、絹旗をも殺そうとし、
   浜面を暗部に引き込んだ張本人で、駒場を殺した能力者。

浜面「どうして、そんな奴の為に……」

滝壺「…………」

滝壺「……はまづら。それ、フレンダが聞いたら多分怒るから、言わないでね」

浜面「…………」

滝壺「…………」

浜面「…………」

滝壺「私達、三人とも置き去りだったんだ」
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/08(水) 11:26:08.51 ID:Ecak/phAO<> 浜面「……!!」

   置き去り、チャイルドエラーと呼ばれるそれは、学園都市の社会問題ともなっている現象で――

浜面「……絹旗もか」

滝壺「うん」

浜面「――ッ」

   ドンッ、とハンドルに溢れるてくる後悔をぶつけた。ドリンクバーでの発言はやはり迂闊だった事を改めて感じる。
   事情を知らずに、絹旗にとんでもない言葉を投げかけていた訳だ。

浜面「……ただの置き去り、って訳じゃないんだろ」

滝壺「うん。フレンダも、きぬはたも、2人とも実験動物として体と脳を弄ばれて、
   用がなくなったら処分される。そんな所で生きてた」

滝壺「私も、いろいろあったよ」

浜面「…………」

   いろいろあった。絹旗からも聞いたその言葉が、消え入りそうだった表情が、押し殺したような声が蘇る。

『いろいろ』

   重いと感じたその言葉の中身は、まるで希望のないパンドラの箱のように、垣間見た事を後悔してしまう程の、それこそが地獄が詰まっていた。

滝壺「そんな私達を受け入れてくれたのがむぎの」

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/08(水) 11:30:48.13 ID:Ecak/phAO<> 麦野「一切の感情の余地が与えられない実験動物だった私達に居場所を作ってくれたのがむぎの。
   決していい方向にじゃないけど、ただ生きているだけの私達に役割を与えて、役立ててくれたのがむぎの。
   私達を決して『モルモット』として扱わないのが、むぎの」

滝壺「だから私達は『アイテム』だとしても、みんなむぎのが好きで、口が悪くて、乱暴で、
   理不尽で、暴れると手も付けられないけど、そんなむぎのが好きで、ここにいる」

滝壺「少なくとも、今の私の居場所はアイテムだけだから」

浜面「…………」

浜面「……ははっ」

   それが、理由。滝壺が身を削り、フレンダが笑顔を振りまき、絹旗が切り捨てる事の出来なかった、理由。

   ちくしょう。

   心の中でそう呟いたのは、似ていたからだ。

   決定的な違いこそあるものの、それは余りにも似ていた。

浜面「……くそ」

   滝壺が言葉にした麦野沈利と、浜面の知る駒場利徳は似すぎていた。

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/08(水) 11:32:09.19 ID:Ecak/phAO<>    アイテムとスキルアウト。似ても似つかないようなこの2つが、細い線で結ばれる。

   先程まで複雑に絡んでいた感情に新たなる糸が混ざり、更に絡まったそれは容易には解けず思考の整理が追いつかない。

浜面「……そんな話、聞いてもよかったのかよ」

滝壺「うん。興味があったから、いいよ」

浜面「……興味?」

滝壺「体晶に適性のある人なんて、初めてだったから」

浜面「…………」

   何にせよ事態は変わらず、話す事も出尽くしたのか、軽い沈黙。滝壺の膝は堪能したのか、猫がゆっくりと浜面の懐へ潜り込む。

   対して浜面は特にアクションも起こさず、目線を研究所に戻し、再び終わりのない思考に飲まれながら麦野達の帰還を待つ。


   結果から伝えると、その待つという行為は終わりを迎えたわけだが、


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/08(水) 11:35:15.16 ID:Ecak/phAO<> 浜面「――ッ!?」

   異常、未だ警報が鳴り響く中、風を切る音と共にフロントガラスに何かが撃ち込まれ、無数の穴が空く。
   麦野の放った原子崩しに比べると随分とかわいらしいモノだが、それでも命を奪うには充分すぎる威力だ。

滝壺「……!」

  「にゃっ」

浜面「――な、んだッ!?」

   撃ち込まれたのは無数の銃弾、途切れる事なく乱射されるそれを避けるように滝壺と共に身を屈め、
   ガチャッと勢いよく扉を開け放ち、左右同時に車から飛び出でる。

  「ふにゃー!!」

浜面「ばッ、暴れんなクソッ……!!」

   同時に軌道が逸れ、足下に着弾。狙いは自分。撃っているのは――

浜面「駆動鎧ッ……!アイツら壊し損ねたのかよっ!!」

   どうもまだ破壊しきれていなかったらしい、煙をたてほぼ半壊した駆動鎧が銃を構え、浜面へと狙いを合わせる。
   車のボディに身を寄せ弾を防ぐも、銃弾は一方的に飛来する。

滝壺「はまづら」

浜面「滝壺、無事か!?」

滝壺「うん、大丈夫。はまづらは?」

  「にゃーおん!」

滝壺「そっか、よかった」

浜面「ちくしょう突っ込まねぇからな!! とにかく逃げねぇと……!」

   今自分は丸腰だ。武器はボロボロの体に、拳が一つ。対する相手は全身が装甲で覆われた駆動鎧。
   生身ではない分能力者や魔術師より質が悪いし、滝壺も戦闘向けの能力ではないだろう、
   無闇に能力を使わせる訳には行かない。

   とは言っても、

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/08(水) 11:37:30.03 ID:Ecak/phAO<> 浜面「逃げ場なんか……どこに」

滝壺「…………」

   車の陰から見渡したそこは遮蔽物こそあるものの、逃げ切れるような場所がない。
   だからと言え銃弾の続く音は途切れる様子もなく、

滝壺「はまづら、こっち」

浜面「ッ!?」

   自分の手を引き、駆け出したのは滝壺。それに引っ張っられる形で、猫を抱えた浜面も駆け出す。

   銃弾が足を縫い付けるような事はなく、遮蔽物に身を隠しながら、ガタガタの脚を無理やり
   動かし向かったのは開けた場所よりは安全な――結局ソコ。

滝壺「はまづら、はやく!」

浜面「ちょ、滝壺!――ここはッ」

   麦野の鋼鉄の扉にぶち開けた大穴へ飛び込む。滝壺の選択に戸惑いながらも、弾が鉄に
   はじかれる音を背にほんのりと緑の電灯に照らされた研究所内を浜面は駆ける。

浜面「――はぁッ――はぁッ」

   とにかく銃弾が当たらないように蛇行し、通路も考えず走り、走った先で口から出たのは、

浜面「はぁっ――って!! ここ敵の本拠地じゃねぇか! ヤベェとこ逃げ込んじまった!」

滝壺「はぁっ――はぁっ――」

  「にゃ〜」

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/08(水) 11:39:43.00 ID:Ecak/phAO<>    胸に抱いていた猫が音もなく鋼鉄製の床に着地したところで、浜面と滝壺も徐々に歩を緩め、壁に寄りかかり息を整える。

滝壺「……ふぅ」

浜面「大丈夫か……?」

滝壺「大丈夫……それより、来ちゃったね。ここ」

浜面「……あぁ、とにかくアイツらと合流しよう。
   こんなとこで駆動鎧と出くわしたら間違いなく逃げ切れねえよ」

滝壺「……うん」

   幅3メートル程と案外狭い通路は入り組んでおり、逃げるのにはうってつけかも知れないが、
   駆動鎧が相手では大して意味もないだろう。

   通路の先、研究所の中央部分は、地下から最上階までの吹き抜けになっており薄い鉄製の
   渡り通路が何本も設置されている。

   そんな通路をカツカツと音を立てて歩く最中、聞こえるのは派手な破壊音、
   視界の端に見えたのは青白い閃光。

浜面「あれってさ……」

滝壺「むぎのだね」

   場所は離れているようだが合流は容易に行えそうで、一歩を踏み出し、

浜面「――ッ!?」

   一歩踏み出したその空間にあった物体を見て、思わず足が止まった。

滝壺「はまづら……?」

浜面「な、んだよ……これ」
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/08(水) 11:45:19.78 ID:Ecak/phAO<>    駆動鎧。

   一歩を踏み出したその広い空間には、中の人間ごとバラバラに破壊された数百もの色鮮やかな駆動鎧が
   積み上げられ、散らかされ、詰め込まれ、血溜まりとのその匂いが充満していた。

   思わず一歩後退る。

   目の前に広がっていたのは、凄惨、地獄、惨劇、どれだけ言葉を並べても足りない程のむちゃくちゃな光景だった。
   辛うじて直視出来るのは、余りにも現実味が薄いせいか。こんな惨劇、マンガや小説の中でしか見たことがない。

浜面「うっ……」

滝壺「…………」

   血肉と機械の破片がぐちゃぐちゃに飛び散り、靴の裏に嫌なモノがへばりつく。遠くで聞こえたのは、先程も耳が捉えた轟音。

浜面「……これも、あいつらがやったのか?」

滝壺「……違うよ」

   恐怖心から出た言葉を、隣に立つ滝壺が否定する。その眼はいつものようにぼんやり眠たそうなものではなく、
   どこからか緊迫感が迫っているような、そんなするどい眼。

滝壺「これは、違う」

浜面「……それって――」

   ザザザ――ザザ――

   その言葉の意味を追求する前に思考が雑音によって妨げられた。

   音の発信源は、すぐ側。浜面の近くに転がっていた駆動鎧、中の人間は動かないようだが、
   機械、通信機は半壊しているものの生きているらしい。ノイズが走り、そこからブツ切りの声が漏れ出す。

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/08(水) 11:48:42.14 ID:Ecak/phAO<> ザザザ――――

       ザザザ―――ザザ――



          『こちら―ザザザ―ッドマーブル―――ザザザ、応答を―――ザザザ』

      『侵入者―――ザザザ――対処不――ぎゃあああ――ザ――――』

            『こち―――ブルーマーブル―――侵入者により―ザザ――部隊は壊滅――ザザザ―――――』

『――侵入者――は3人――ザザザ――正門から直――、――能力者――ザザ――――』

        『こ――要請が受付――ザザ――ません!!警備連絡網が――ザザザ―――』

     『こち――イエローマー――ザザ―――別経路からの侵入者を―――ああああああ―――ザザ――』

                 『目標――ザザザ――攻撃が効か―――――ザザ―――――』

 『――セキュリティー――ザザ――作動しません――ザザ――落雷が――ザザ――監視カメラも――』

    『経路不明――能力者――ザザザ、1名確認――――』

             『――照合を――認―――3名のうち―――超能力者が混じって――ザザザ――――』

    『――ザザ―――侵入者は1名――栗色の髪――ザザ――能力者、電撃を――ザザザ――よって、部隊が壊め――ザ―――』

        『――ザザザ――情報を――整理―――』





ザザザザザザ――ザザザ――






  『2経路――能力者が侵入――ザザザ――人数は『4』名―――いずれも『能力者』――ザザザ――尚、超能力者が混じっている模様―――ザザザ――』


  『あ、ああぁぁぁあぁあ――ザザザ――――』




――――ブツンッ


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/08(水) 11:50:41.03 ID:Ecak/phAO<>

浜面「…………」

  「にゃー?」

滝壺「…………」

音が途切れ、訪れたのは静寂。

ブツ切りに聞こえてきた声は、おそらくこのMARの職員であって、侵入者というのは――

浜面「侵入者が、4人……?」

推測に過ぎないが、先程入りこんだばかりの自分達の情報はここには加わっていない。

そしてここに襲撃を仕掛けたのは、麦野の、絹旗、フレンダの3人であって、

浜面「……なぁ、滝壺」

滝壺「…………」

浜面「これ、やったのアイツらじゃないんだよな」

滝壺「……うん」

浜面「…………」

静寂に、嫌な空気が交わる。冷たい汗が頬を流れ、床に落ちた。

目の前に広がっているのは数百もの人間の死体、屍体、血、臓、残骸。吐き気を催す光景で――引き起こしたのは、



引き起こしたのは―――誰だ?



滝壺「…………」

浜面「…………」

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/08(水) 11:52:51.69 ID:Ecak/phAO<>


『何か』がいる。



この施設内に、麦野達以外の得体の知れない何かが。



アイテムは、その正体に気付かない。



その何かの、小さな笑い声に気付かない。



<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/08(水) 11:55:18.67 ID:Ecak/phAO<>




「ふふっ」





<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/08(水) 12:01:25.99 ID:Ecak/phAO<> まぁ大した山もなく盛り上がり所もなくこんな所で。いい感じに切れるとこまで書いてたらだいぶ時間かかった。更新遅れて申し訳ない。

さて、体晶をうばいにやってきたアイテムでしたが、予想外のイレギュラーが混じっていました。電撃で茶髪で能力者?だれだか全然わかんないぜ!!

浜面はなんだか滝壺となかよさげで絹旗ももう気が気じゃないね!浜面はメンタル弱すぎのぶれづらだけどね!!

という訳でここまで。MAR戦はそんなに続く予定でもないで次回はもうちょいはやくこれるよう頑張りたい……ではでは!いつもありがとうございます!
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/06/08(水) 12:16:02.68 ID:lXi9SegNo<> 乙です
電撃で茶髪で能力者…

まさか第6位か! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/06/08(水) 12:16:47.44 ID:lXi9SegNo<> 乙です
電撃で茶髪で能力者…

まさか第6位か! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)<>sage<>2011/06/08(水) 12:29:32.90 ID:HuILLdjwo<> 乙

なぞの侵入者、一体何者なんだ…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/08(水) 12:33:01.74 ID:H3LnR8ODO<> 本編はまづらはメンタルアップしすぎだもんな!
どっちも好きだがぶれぶれな感じも良いね、乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/08(水) 12:33:58.68 ID:geA+8s7IO<> おいおい上条さんは何をやってるんだよ… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/08(水) 12:47:17.03 ID:R/Kr6bMF0<> インさんの時との差が激しすぎるぞ浜メンタル・・・豆腐並みではないか。

にしても上条さんマジ空気だな。
一方さんより出番はあるも一方さんと違って今後の出番が
確定してないから登場しないってのもあり得る・・・そして謎のビリビリ侵入者は一体誰なんだぜ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/08(水) 13:17:36.59 ID:7znbzuoMo<> 精神的に一度へし折られてるしね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<><>2011/06/08(水) 17:44:14.35 ID:ZTWd18aR0<> やっべえ侵入者が誰なのか気になって寝られなくなりそう

>>1おちゅ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/08(水) 17:56:49.68 ID:rPUHSvYDO<> 侵入者って誰だろ? ワカンネ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2011/06/08(水) 19:33:22.07 ID:tjJswKkoo<> だがしかしこのSSのヒロインは一人です
>>1乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(富山県)<>sage<>2011/06/08(水) 20:49:53.82 ID:HVidnQw4o<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2011/06/08(水) 21:20:42.27 ID:xc2Mwg1L0<> ああ、侵入者ってこれひょっとするとビリビリ中学生じゃない人だよね…
でも予想通りの人だとするとテレサさんやむぎのんにあっさり返り討ちにされるな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/06/09(木) 06:57:16.24 ID:I3tKgMCG0<> 電撃? 
原作にいたか?  <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(愛知県)<>sage<>2011/06/09(木) 21:26:56.39 ID:hCadd+i00<> MAR襲撃する動機があって茶髪って一人くらいしか思いつかない。
一万人もいれば電撃使いの一人や二人いるだろうしねぇ……。
もしそうだとするとアイテムと獲物が思いっきりかち合うんだよなあ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2011/06/09(木) 23:45:57.46 ID:DxbuABsw0<> おいおい妹達はみんな電撃使いだぜ・・・って冗談はおいといて、
そっかあの人がいたなそういえば。普通に美琴と思った。いや、まだ確定じゃないか
もしかして全員わかっててこの流れか・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)<>sage<>2011/06/09(木) 23:54:38.95 ID:fVFhIqMeo<> もしかしたら、能力に目覚めた浜面(♀)かもしれないだろ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/09(木) 23:58:42.99 ID:2T8D4evx0<> 姫神・・・キャラ作りの為に髪染めて魔法のステッキ片手になんちゅーことを・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/10(金) 00:43:36.03 ID:RnRZS4pao<> え、稲妻僕っ娘カンフーマスターじゃないの? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県)<>sage<>2011/06/11(土) 19:46:11.25 ID:KgZBSn7M0<> やっと追い付けた。
なにこの浜面凄い主人公してる。
早く暗部で活躍する浜面が見たいぜ。
にしても襲撃者誰だろまさか魔術師? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/06/12(日) 16:41:07.84 ID:ZEpMTGsAo<> うーむ全く誰だかわからんぞ
ここに来てまさかのオリジナルキャラか? <>
◆GJolKKvjNA<>sage<>2011/06/12(日) 23:50:05.46 ID:0oxl6aJb0<>   
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/12(日) 23:50:55.54 ID:0oxl6aJb0<> ――――


   最初にその違和感を感じたのは、研究所を襲撃しながら目標を目指し、
   気付けば一人広い空間、下層階にたどり着いた麦野沈利だった。

麦野「……んー、あれー?」

   そう首を傾げながら、点と点を結ぶかのように直線を描き飛来する銃弾を原子崩しの
   放射によって消し飛ばし、貫いたのは目の前で大型の銃を構えていた鮮やかな色の駆動鎧。

   何重もの装甲によって守られていた、生命活動には必要不可欠な部分に
   ぽっかりと穴を空けられたそれはバチバチと音をたて爆散。
   黒煙をあげ飛び散るそれを一瞥する事もなく、麦野沈利は懐から取り出した一枚のカードを放り投げる。

麦野「うーん……」

   それがくるくると回転しながら落ちていく間、思考したのはふとよぎった違和感。
   気のせいか、はたまた正しいのか。材料が足りない故に判断のしようがなく、
   まぁいいかと呟き、青白く輝く閃光――原子崩しを射出。

   放り投げたシリコンバーンに触れ、弾けたかと思うとソレは全方位へ拡散。

   一つ一つが全てを貫く矛の如く、壁や、床、障害物を紙のように、その先にいたであろう
   大量の駆動鎧ごとぶち抜いた。

   鉄が焼け、火花がバチバチと音をたてる中、まぁこんなモノか。
   と、遠くから聞こえたいくつもの爆発音に自己の成果を感じ、麦野沈利は歩を進める。
   傷一つ負っていない麦野に比べ、彼女が通ったその跡には、超能力による圧倒的な蹂躙。
   大量の死と破壊が点在している。

   軽く見渡したそこには、更に下層へ続く通路。 <>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/12(日) 23:51:38.15 ID:0oxl6aJb0<> 麦野「…………」

   降りようと一歩踏み出したその瞬間に、死と血にまみれた空間には不釣り合いな程かわいらしい電子音が鳴り響いた。
   取り出した携帯端末に示されていたのはバカの2文字。

麦野「もしもしー? どうかした?」

フレンダ「あ、麦野ー!? 結局、ちょっとやりすぎだと思うんだけど!! 
     いきなり下から原子崩し飛んできたらたまんないって訳よ!!」

   どうやら先程シリコンバーンで拡散させた原子崩しの射線場に丁度フレンダがいたらしい。
   言葉から察するに、まだ麦野よりは上の階にいるのだろう。

麦野「あーごめんごめん。まぁいいじゃない、別に上半身と下半身が真っ二つになったって訳じゃないんでしょ?」

フレンダ「怖い事言わないで欲しいって訳よ……で結局、ファーストサンプルってのは見つかったの?」

麦野「んにゃ、ダメね。だいぶ下まできたけど雑魚ばかり。もうちょっと降りてみるから、
   アンタも何か見付けたら連絡頂戴」

   りょーかいー。と間延びした声は最後まで聞かず、通話を終える。

   ふー、と軽い溜め息を吐きかけ――――、

麦野「――――ッ」

   ターン、と渇いた音が響いた。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/12(日) 23:52:24.71 ID:0oxl6aJb0<>
   麦野沈利には見えない位置から撃ち出されたのは細い鉄の弾、通過したのは
   先程まで自分の頭があった位置。

   空気を裂いた弾は目標を外れ、床に穴をあけ着弾。避けた麦野沈利が瞬時に
   行ったのは軌道計算。死角からの狙撃だろうが弾道さえハッキリしていれば、
   視覚に頼らず位置を割り出せる。常人には出来ずとも、麦野沈利の脳はそれを可能にする。

   一瞬にも満たない時間に計算は完了。数値を入力し、ある程度出力を抑えての放射。
   青く光る閃光は障害物を難なく溶かし、銃弾よりも速く疾る。

   そして、

麦野「……ま、こんなモノかしら」

   当たった。確かな違和感を感じ、麦野はその場を後にする。目指すのは下層、目標は体晶。
   その障害となるのは恐らくはテレスティーナ=木原=ライフライン。

   どうせならこの手で始末したい所だが、

麦野「……ったく、どこに隠れてるのかしら」

   強襲を仕掛け、数十分。施設を破壊してしまわないよう能力の出力を抑えての襲撃だが
   未だに目標は見つからず、湧き出てくるのは大量の雑魚と、少しの苛立ち、僅かな違和感。

麦野「あーダメダメ。落ち着こう。苛立ってる隙を突かれて狙撃されたー、なんて事になったらとんだ笑い者だわ」

   気を落ち着かせ、周囲に気配を巡らせる。
   路地裏のスキルアウトならともかく、統率された組織を相手にするとこういう所が面倒だ。

麦野「…………」

   カツカツ、と靴音を立て麦野沈利は研究所の更に下層へと降りていく。 <>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/12(日) 23:54:14.24 ID:0oxl6aJb0<>
―――――――



   チキチキチキと小気味よい音がリズムを奏でる。超しょぼいBGMだなーなんて思いながら、直線に長い通路、
   銃痕だらけの壁に背を預ける絹旗最愛は、音の元凶、その場屈み込んでいるフレンダ=セイヴェルンに声をかけた。

絹旗「麦野、なんて言ってました?」

フレンダ「うー、結局、なんか見付けたら報告よろしくってさ」

   通話を途中でブチられたらしい。なんだか悔しそうな表情をしているフレンダは、100均にでも売っていそうな
   グリップ型の修正テープ――実際それは修正テープなんてモノではなく、電気反応によって作動する一種の爆発物
   のようなもので、それを先ほど突然飛び出してきた原子崩しによって大きな穴が空いた鋼鉄製の床にチキチキチキと貼っている。

絹旗「なんだか超張り切ってますね。麦野」

フレンダ「まぁなんだかんだで失敗続きな訳だしねーウチら。ほら、麦野って自分のミスとかは許せないタイプだし。
     昨日の仕事失敗しちゃって相当キてるんじゃないのー?」

絹旗「…………」

   こっからは3手に別れましょう。

   襲撃を仕掛け駆動鎧をなぎ倒す中、ものの数分もしないうちに麦野沈利はそう言い出した。
   その方が効率がいい、というのは事実でもあって方便でもあったようだ。

   原子崩しを用いて施設を侵攻するなら自分やフレンダは確かに邪魔だ。

   昨日、ミスを引き起こした自分がいれば、尚更だろう。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/12(日) 23:55:08.94 ID:0oxl6aJb0<>
フレンダ「ねー絹旗。麦野となんかあったの?」

絹旗「………どうしてですか?」

   唐突に振られたフレンダの問い掛けにピクリと肩が動いたのは、多分、未だテープを張りながら
   しゃがみこんでいるフレンダには気付かれていないハズだ。

フレンダ「んーだってさ、今日の朝からなんか2人ともずっとピリピリしてるし。
     喧嘩ならさっさと仲直りしてよねー」

絹旗「別に、そういうのじゃないです」

   そ、ならいいんだけど。と呟いて、フレンダは立ち上がる。壁や床に起爆テープを張り巡らせる作業は
   どうやら終わったようで、手にはどこからか引き寄せたかわいらしい人形が掴まれていた。

フレンダ「でもさ。結局、麦野怒らせて粛清されたーなんてオチは勘弁よ?
     絹旗が真っ二つになる所なんて見たくないし、私は誰も欠けて欲しくないんだからさ」

絹旗「麦野もそう思ってくれてるなら、私が超真っ二つになる心配もないでしょう」

フレンダ「あっははははんな訳ないってー。あの麦野だよ? 
     結局、私達なんか便利な道具ぐらいにしか思ってないってば」


   まぁ、私達からしたら違うんだろうけどさ。

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/12(日) 23:58:27.86 ID:0oxl6aJb0<> 絹旗「……そうですね」

絹旗「まぁ真っ先に超粛清されるとしたら毎回ミス連発のフレンダでしょうが」

フレンダ「うっ……いうね―――――ッ!?」

   会話が途切れ――いや、フレンダの言葉に音が重なった。
   それは自分のよく知る音で、日常的に耳にする乾いた音。

絹旗「痛ッ――ッ!?」

   直後、即頭部を金槌で殴られたかのような衝撃。体が揺れ、その勢いのままで吹き飛ば――される前に脚に力を込め、
   ガッ!!と倒れる事なくその場に踏み止まる。

絹旗「フレンダッ!!超隠れてくださいッ!」

フレンダ「はわわわわっ、け、結局遠距離だと私には相性が悪いって訳でッ!!」

   瞬間、能力を最大展開。体を縮め、脚をバネにし金属製の床を力一杯蹴り抜く。
   得たのは常人を越えた瞬発力。尚も直線上に向かってくる狙撃弾を、体を覆う窒素の膜で逆に潰し、駆け抜ける。

   弾の衝撃で勢いが殺されるも、数秒足らずに銃を構える駆動鎧を目視、腕を限界まで振り抜き――――

絹旗「あああぁぁぁぁッ!!!」

   撃ち抜く。

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/13(月) 00:00:40.55 ID:NKxxenZV0<>    零距離までに密接し振りかぶったその拳はゴキャバキと音をたて駆動鎧に沈み込んだ。
   乱射される銃弾は全て四方に向かい、やがて沈黙。腕を引き抜き、直後爆散。

絹旗「はぁっ――はぁっ――」

   黒煙が狭い通路に立ちこめる中、少女は汚れ一つなく立ち尽くす。

絹旗「――ッ」

   息を落ち着かせ一歩を踏み出した瞬間、脚がふらつく。狙撃による衝撃は能力で殺したとはいえ、
   不意の一撃は絹旗の頭を大きく揺さぶった。

   絹旗「そういえば……スクールにも超うざったい狙撃手がいましたね」

   数日間続いた追跡戦の最中、随分とあの狙撃手の為だけに『アイテム』が徒労をかけさせられた苦い記憶が蘇る。

   能力者の天敵というのは案外にも無能力者かもしれない。一連の追跡戦の中で、それは絹旗達が実感させられた事だ。
   異能の力を持つとはいえ、要するに構造はただの人間。殴って当たり所が悪ければ死ぬし、高い所から落ちても死ぬ。

   取り分け楽なのがたった今絹旗を襲ったような狙撃。
   下手をすればその一発の弾はこの学生都市の超能力者すらも沈めてしまい兼ねない。
   それは麦野沈利といえど、もしかしたら御坂美琴、垣根帝督ですら例外ではないだろう。

   諸刃ではあるが、意識外からの攻撃というのは、それ程までに強力だ。

絹旗「…………」

   ただ、自分のような少し特殊な能力や、唯一の例外、学園都市序列一位なら話は別だが。 <>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/13(月) 00:02:57.35 ID:NKxxenZV0<>    しかし、敵が自分を狙ったのはこの場合幸運だった。
   煙をあげながら火花を散らすこの駆動鎧の銃口がもしフレンダに向いていたら、ここでアイテムのメンバーは一人欠ける事になっただろう。

   少女の言葉を、思い出す。

絹旗「……私だって、誰も欠けて欲しくなんてありませんよ」

絹旗「…………」

   アイテムは自分の居場所だ。

   親も友人も存在せず頼れる人間のいないまま、脳と体をいじくりまわされ、使い棄てられるはずだった自分が行き着いた。
   例えるならそこは光の届かない海底の様な、血と死が混ざり合いながらも、だけど仲間がいる居場所。

   初めから人生としては底辺に堕ちていた自分に、そこ以上に心地いい場所なんてない。ハズだった。

絹旗「…………」

   浜面仕上。

   あの粗雑で馬鹿な不良かぶれの少年が、そんな幻想をぶち殺していったのは、もう随分と前の話だ。

絹旗「――――ッ」

   ガンッ!!と鳴ったのは、壁に思いっきり頭を打ち付けた音。
   意思に関係なく展開される忌まわしい能力のお陰か、痛みはない。衝撃だけが、脳に伝わる。

   頭を冷やせ絹旗最愛。意識外からの不意打ちを食らったばかりだというのに、これじゃさっきの二の舞だ。 <>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/13(月) 00:05:09.98 ID:NKxxenZV0<>
絹旗「フレンダ……は、大丈夫ですかね。無事だといいんですが。
   はぁー、ちっくしょう超調子狂いますね」

   ぼやきもそこそこに、歩きだす。

絹旗「…………」

   歩きだし、止まった。

   原因は、鋭敏な耳が捉えた微かな音。

   銃声のような乾いた音でもない、駆動鎧の移動の際に鳴る低い稼動音でもない。

絹旗「…………」

   丁度絹旗の向かい側、曲がり角。聞こえて来るのは、忍び殺した小さな足音。

   絹旗の脳が素早く思考し、可能性が振り分けられる。

絹旗「……これは、超当たりですかね」

   息を潜め、小さく呟く。

   狙うのは、足音の主が姿を表したその瞬間。飛びかかれるように腰を落とし、拳には武器を纏う、

   そして――

絹旗「――ふッ!!」

浜面「って、うぉぉぉぉッ!!」

絹旗「ッ!?」
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/13(月) 00:08:43.72 ID:NKxxenZV0<> 絹旗「って、はぁぁぁぁッ!?」

   思わず飛び出たのは、そんな言葉。姿を表したのは自分がよく知る人物、
   突然の襲撃に驚き、腕で自分の体を覆う浜面仕上。

   対する絹旗は、既に床から脚を離し、腕をギリギリまで振りかぶり―――

絹旗「―――ッ!!」

   何故、どうして、待機していたはずじゃ、留守番、浜面、滝壷さん? あれ、あれれー? 
   そんな言葉がレベル4の脳内で高速に処理されていくも追いつかない。

   とにかく、とにかく。

絹旗「浜面超どいてぇぇぇぇぇッ!!」

浜面「無理言うんじゃねぇぇぇッ!!」

   言葉虚しく、衝突。というよりは激突。
   
   先程絹旗が壁に打ち付けた音よりも遥かに硬い音が鳴り響き、
   ちょっとした騒動が静まったのは数分後。

   緊張感は既にどこかに霧散してしまったらしい。今狙撃されたらどうしよう、そんな事を考えながら
   絹旗はもみくちゃになった自分の小さな体にいろいろと多い被さった浜面の体を押し上げ、呟いた。

絹旗「……浜面コロス」

浜面「もう死にそう」

滝壷「大丈夫。私はそんな2人を応援してる」
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/13(月) 00:18:57.80 ID:NKxxenZV0<> 諸事情で他人のpcからこんばんは。とりあえずここまで。
もうちょいいい感じのところまで書きたかったんだけど、ちょっと時間とれなくて、キリのいいとこまで
かくといつ投下できるやらーて感じだったんでこんな中途半端になっちまったーつーわけで次もちょっと遅くなりそう。申し訳ない。
とりあえず謎の侵入者のながれわろたー、いったいどんな風に絡んでくるのかは乞うご期待。だれなんどろうねまじでーまじわかんねーわー(棒)

絹旗ちゃん超かわいいちなみにアイテムみんな超電磁砲仕様です。あと狙撃の話は後々少しだけ重要になってくるかもなんで覚えとくと吉かも。ではでは


<>
◆v2TDmACLlM<>sage<>2011/06/13(月) 00:56:42.35 ID:NKxxenZV0<> >>428
>当たった。確かな違和感を感じ、麦野はその場を後にする。目指すのは下層、目標は体晶。

確かな違和感てなんだー。確かな感触です。酷い誤字だ・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(岡山県)<>sage<>2011/06/13(月) 00:59:55.67 ID:c6/iiAuOo<> 乙

美琴と垣根が狙撃を防げないってのは
絹旗の予想ってことでいいのかな?
あの二人は自動防御ができるはずだし

次回も期待 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/06/13(月) 01:06:09.80 ID:j+yc9eOX0<> >>438 二人ともできんよ

絹旗は暗闇の五月計画で一方通行の反射も部分を埋め込んだから自動防御なだけ

御坂は無理 垣根も無理 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)<>sage<>2011/06/13(月) 01:07:06.78 ID:hrKV8SAgo<> 美琴はセンサーあるから防げるだろ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/13(月) 01:17:26.96 ID:PGOt7XWIO<> つっても垣根がたかが狙撃で死ぬとかあんまり想像できんがな。御坂は微妙だが
あくまで絹旗がどう思っているかであって実際に狙撃を防ぐ手立てくらい超能力者ならいくらでもありそうだけど <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2011/06/13(月) 01:20:23.85 ID:UCiWViaAO<> 戦闘中ならまだしも無防備な意識外だったらセンサーあっても対応出来ないと思うけど……前半麦野が避けることが出来てるって事はそういう意味じゃね? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/13(月) 01:23:56.08 ID:41ne3h8DO<> 今出てる情報で予想するなら御坂はレーダーあるから死角からの攻撃も対応はできるだろ
垣根はぶっちゃけ能力の詳細だったり情報が出尽くす前に退場したから不明。まぁ大丈夫じゃない?としか言えない
麦野はたぶん無理 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/13(月) 01:40:59.59 ID:u2Rdl9nYo<> ぶっちゃけかまちー次第
かまちーは(そのシーンの)メイン(主役・強敵役)に当てたキャラについては結構なんでもアリにする事があるので
話の作り次第では「え、そんなのあり?」な方法で凄いことを平気でやってのける

なんでSS上ではその作者の脳内設定次第だと思う
実際別SSで思い切り日常中に狙撃された弾丸をあっさり電磁バリアで止めてまっすぐ打ち返す美琴さんなんてのもあって
全く違和感無く読者には受け入れられてたぜよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)<>sage<>2011/06/13(月) 01:55:10.76 ID:hrKV8SAgo<> 上条さんなんてノーバウンドさんくらっても死なないし
浜面なんて何故か攻撃あたらないからな
まぁかまちー次第だな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/06/13(月) 08:41:34.61 ID:0W7k/nYe0<> はまずらイケメンだな
もげろ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/06/13(月) 15:56:26.32 ID:24uX+++z0<> ずらじゃない <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/13(月) 15:57:55.11 ID:e9P/dj9go<> づらだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/06/13(月) 20:04:56.58 ID:3WQKeGZo0<> 桂だ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/20(月) 19:51:56.77 ID:4tzRQXp40<> まだかー?
続きが気になるぜい
っていってもゆっくり書いてくれればいいんだが <>
◆v2TDmACLlM<>sage<>2011/06/21(火) 22:09:21.05 ID:frwB2DYE0<> いきてますいきてます。
なんとか筆も乗り安定中ー順調に欠けたら今日中・・・せめて今週中には投下したい。
MAR戦も区切りのいいとこまで書くんで次の投下は少しばかり長めです。
ではでは <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2011/06/21(火) 22:14:44.36 ID:Fxcs5adTo<> 頑張ってー、のんびり待ってる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)<>sage<>2011/06/22(水) 01:28:49.86 ID:nQ6nexhmo<> 応援しながら待ってるぜー <> ◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/22(水) 02:22:47.55 ID:tnyKJsqx0<> さて、区切りよく書けたかは分かりませんが、投下しますん <> ◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/22(水) 02:24:19.64 ID:tnyKJsqx0<> ーーーーーーー



フレンダ「あれー、滝壷? なんでここにいる訳?」

   頃合いを見計らったかのようにひょっこりと現れたフレンダ=セイヴェルンが見たのは
   なんとも緊張感の欠片もない光景、そして施設の外で待機を命じられたハズの仲間だった。

滝壷「フレンダ。なにかミスはしてない?」

フレンダ「う……目が合った仲間に向かっての第一声がそれってどういう訳よ」

滝壷「大丈夫、私はそんなフレンダをこの子と一緒に応援してる」

  「みゃー」

フレンダ「はぁー、結局、私ってばみんなからしてそういうキャラクターな訳よね」

   がしがしとベレー帽が落ちないように頭を掻くフレンダのすぐそばに立つのは、
   相変わらずぼんやりとした表情で猫を腕に抱える滝壷理后。

フレンダ「……胸で圧迫してんじゃねー? なんだか苦しそうな訳よ」

滝壷「……? なにか言った?」

フレンダ「なんにもー」

   そして滝壷理后の視線の先、壁際に大きな物体が一つ。

フレンダ「……で、何やってんの絹旗」
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/22(水) 02:24:52.65 ID:tnyKJsqx0<>

   暗い施設内で目を細めるとそれは滝壷と同じくアイテムの仲間。この中では最年少の絹旗最愛。
   と、その上に多い被さっているのは今日初めて入った浜面とかいうどこからどう見てもチンピラにしか見えない少年。

フレンダ「いやまぁ、あんたらが知り合いだってのは知ってたけど? 
     外でやるにしてももうちょっと節度ってものを考えて欲しいわ―。
     結局、こんな所じゃムードも糞も無いって訳よ」

絹旗「超んなわけねぇーッ!!!」

浜面「うがっ!」

   ガバッと、絹旗最愛がのしかかっていた少年を押しのけ立ち上がる。
   浜面死ね。超死ね!と叫ぶその表情はどこか戸惑いと不機嫌を足して2で割ったような、そんな顔。

絹旗「うぅ……」

   パッパッと、汚れてはいないがまるで何かを払い落とすかのように絹旗最愛は自分の体を手で叩く。
   まったく意味の無いその行為はなんとなく、それは気分の問題だ。

   なんだか揉みくちゃになりながら色んな所を触られた、気がする。

   いや、実際にはそんな事は『あったとしても有り得ない』のだけれど、今まで近付いた事のないような
   距離までこの少年と物理的距離が縮まったという事実がなんだか無性に気恥ずかしい。

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/22(水) 02:25:23.28 ID:tnyKJsqx0<>
浜面「いつつ……」

   押しのけた際に打ったのだろう。鼻を押さえた浜面がゆっくりと起き上がる。

滝壷「はまづら、大丈夫?」

浜面「お、おぅ……」

絹旗「む……す、すいません浜面」

   駆け寄る滝壷に、絹旗も続く。勢いで殴りつけてしまったものの、元はと言えば自分の不備だ(予想出来なかったというのも大きいが)
   倒れる浜面に手を伸ばし謝罪するも、しかし様々な要因で重なった後ろめたさからか、なんとなく視線を合わせる勇気が出ない。

浜面「あぁ、いや。……すまねぇ」

   対する浜面も、先程は驚きの余り叫んでしまったが、冷静になり絹旗を前にした事で若干の罪悪感に心を絞めていた。
   浮かぶのはファミレスで言い放った言葉に、その言葉に肩を震わした絹旗最愛。

浜面「…………」

絹旗「…………」

   差し出された手を掴み浜面は立ち上がる。結局、視線は交わらなかったし、掴んだ手には温もりも何も感じなかった。

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/22(水) 02:25:57.01 ID:tnyKJsqx0<>
フレンダ「ねー、とりあえず動かない? 結局、またさっきみたいに狙撃されたらたまったもんじゃないしさ」

   そのフレンダの言葉に、誰が何を言うでもはなく、4人と1匹は歩き出す。
 
   すぐに鳴り出したのは床を打つ足音に、チキチキチキ、と小気味よい音。
   音の発信源はフレンダの手に持つ何かから。

浜面「なにやってんだ?」

滝壷「フレンダのトラップだよ。今日ファミレスでも使ってた」

浜面「……ああ、缶詰開ける時の」

フレンダ「そそ。結局、本来ならドアとかを焼き切る為のツールなんだけどね。
     電気信管やスタンガンとかの電流で起爆できるから白兵戦での汎用性が高いって訳」

   そこまで言って、音が止む。先程までテープが握られていたフレンダの手にはどこから取り出したのか、
   女の子受けの良さそうなかわいらしいぬいぐるみ。それをぽいっと通路の壁際に放り投げる。

滝壺「……あれも爆弾」

   そういいながら、弧を描き落ちて行く人形に視線を釣られる滝壺。それを見たフレンダが、呆れたような笑みを返す。

フレンダ「結局、滝壺もああいうのに目がない訳よね。
     麦野もボロボロのぬいぐるみ抱かないと眠れない癖があるけどさ」

滝壺「……むぎのも、女の子だからね」

浜面「…………」

滝壺「そういえば、むぎのは?」
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/22(水) 02:26:41.31 ID:tnyKJsqx0<>


   思い出したかのように、滝壷がぽつりと呟いた。辺りを見渡すも、当然麦野の姿はない。
   にゃーと胸に揉まれながら鳴く猫の声と共に、振り向く事なく疑問に答えたのは先頭を歩く絹旗。

絹旗「麦野なら先に行きましたよ。三手に別れた方が超効率がいいと言ってました……
   もっとも、フレンダ1人じゃ駆動鎧を相手にするのは超分が悪いですし、
   連絡する為の携帯も持ってないので実際は二手に別れたんですけど」

滝壷「そっか。そうだね……?」

   返された言葉にひっかかりを感じ、滝壷が首を傾げる。
   なんだろうと考えるも、答えはなかなか浮かんでこない。数秒も立たないうちにその思考は遮られる。

フレンダ「あ、そうだ浜面ー。番号入れとくから携帯貸して。何かあった時呼び出せないし」

   チキチキと音を立てながらまた新しくトラップを仕掛けているフレンダが、よこせよこせとでも言いたげに、
   空いた方の手を浜面に向ける。

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/22(水) 02:27:24.54 ID:tnyKJsqx0<>
浜面「……ほらよ」

フレンダ「ボロっ。もう絹旗と一緒に携帯変えたほうがいいんじゃ……あれ?」

フレンダ「……あぁ、そういう訳、ね」

滝壷「……どうしたの?」

フレンダ「んー、なんにもない。滝壷もやっとく?」

   返事をする前にフレンダがほい、と、携帯を投げつける。

滝壷「……わ、と」

   反応が遅れるもなんとか落とさずそれを受け取る。
   カチカチと自分の連絡先を撃ち込むも、慣れない他人の携帯はどうも使い勝手が解らない。

   だからだろう、

滝壷「……ごめんはまづら。何かのファイル開いちゃった」

浜面「あぁ、俺がやるよ。貸してくれ」

   だから、

滝壷「はい」




   手渡された携帯のディスプレイにはぽかんとした表情の女の子が写っていた。



<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/22(水) 02:28:25.47 ID:tnyKJsqx0<>

浜面「――ッ、あ」

浜面「……イン、デックス」

   ぽつりと呟いたのは、少女の名前。

   偽名みたいな名前の少女。自分が救った、銀糸のように細い髪が綺麗な少女。

滝壷「……?」

浜面「…………」

   その写真は少女と過ごした短い日常を切り取った、たった一つの証。

   偽造IDにも使用したそれは少女が確かに自分といたという証拠。

浜面「…………」

   あの後、意識を失ったインデックスがどうなったのかを浜面は知らない。

   今頃は目を覚まして何か美味いものでも食べているのか、それともまだ眠っているか。

   今日にでも行くつもりだった病院は、結果として行く事は出来なくなったし、多分これからも訪ねる事はないのだろう。

   自分は学園都市の闇に堕ちた。日常的に凄惨な光景が流れていく科学の街の裏の世界。
   そんな世界に身を置いた自分は、もうインデックスに関われない。

   もしなにかに巻き込みでもしたら魔術師に追われていたあの少女は今度は能力者に追われる事になる。
   だから、もう関われない。関わらない。




<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/22(水) 02:29:10.55 ID:tnyKJsqx0<> 浜面「…………」

   違う。

   これもまた、自分のクズみたいな弱さを隠す為の言い訳、建前だ。

   浜面「……ハッ」

   本当に、笑えてくる。

   一言で言うと怖いのだ。

   浜面仕上はインデックスに会うのが怖い。

   怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて怖く、怖い。

   会ったらインデックスはきっと笑顔で浜面仕上を迎えるだろう。きっとはにかんだ声で感謝を述べるだろう、
   きっと嬉しそうに腰に手を回しにくるだろう。

   だから、あの少女には会いたくない。

   その行為は、全てが全て浜面仕上の心を突き刺し、殺す。

   少女を救うなんてヒーローみたいな建前を偉そうに翳して、自分を救おうとしていた浜面の矮小な心を殺し尽くす。

   そうなると浜面はきっと襲われるだろう。自責に、罪悪感に、羞恥に、慙愧に、忸怩に、後悔に、

   だから、嫌だ。

   これ以上、汚い自分を見るのは、

   傷付くのは、嫌だ。

滝壷「はまづら?」


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/22(水) 02:33:24.98 ID:tnyKJsqx0<>

浜面「ん……わりぃ、また後でいいかな」



   あぁ、ちくしょう。なんだよその自分勝手な考え。

   あいつはもう戻れないんだぞ?

   他ならぬ俺が、インデックスの魔術師としての退路をぶちこわしたんだぞ。

   あいつはもうここで過ごして行くしか無いのに、逃げるのかよ。



滝壷「……? うん」

   パタンと携帯電話を閉じる。

   それは逃げた音だった。

   それは投げ出した音だった。

   一度は自らの手で救い上げた少女を無視した。そんな音だった。

   自己卑下と自虐が剣を構えて自分を貫きにくる前に、心にもそっと蓋をする。

   何か大切なものを忘れた自分は小さく呟く。

   インデックスは助けたんだ。それでいいだろ?

   今、答えを出す必要なんてないならさ、

   逃げたって、いいじゃねえか。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/22(水) 02:33:55.64 ID:tnyKJsqx0<>


フレンダ「そういやさ、結局、なんで滝壷らはここにいる訳? 待機って言われなかったっけ?」

  「にゃー」

滝壷「駆動鎧、まだ動いてたから……逃げてきたんだ」

絹旗「……それ、施設に入る前にフレンダが超潰し損ねた一体じゃないですか?」

フレンダ「へっ? いや、ちょ……た、滝壷? なんな訳よそのジト目!!」

   やっぱりミスしていたか、とでも言いたげな滝壷がフレンダを睨みつけ、フレンダはその視線を避けるように逃げ回る。

滝壷「まぁ仕方ないよね。ミスはフレンダの特権だし」

フレンダ「えぇ〜!!」

浜面「…………」

   その光景はどこか楽しそうだ。

フレンダ「で、でも結局、ここに逃げてよく無事でいられたよね。浜面も滝壷もさ」

絹旗「落雷の影響ですかね。セキュリティーが超雑ですし、想定していたよりもずっと敵も少ないです」

   と、絹旗のその言葉を聞き、不意に浜面と滝壷がお互いの顔を見合わした。
   交差は一瞬、何を交わしたのか当人にしか分からず、滝壷はこくりと頷く。

滝壺「そのことなんだけど、」

   そして、
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/22(水) 02:34:35.87 ID:tnyKJsqx0<> ――――ーー


フレンダ「……え、と。結局、それマジ情報?」

滝壷「うん」

絹旗「…………」

   その瞬間、場に張り詰めたのは一種の緊張感だった。
   チキチキというあまりにも滑稽なその音は場にそぐわす、やがて静かに消えていった。

滝壷「私達以外の誰かがこの施設に侵入している」

絹旗「誰かって……」

滝壷「多分、なんだけど……」

滝壺「ーーーー常盤台の超電磁砲」

   浜面が見た駆動鎧の残骸、断片的に聞こえた声、そして滝壷が事前に持ち合わせていた情報。
   断片的なそれを紡ぎ出して浮かび上がった人物は、超電磁砲の異名を冠する1人の少女。

   超能力者序列第三位――御坂美琴。





<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/22(水) 02:35:35.20 ID:tnyKJsqx0<>


絹旗「……なる程。現在学園都市の施設を片っ端から超襲撃してる御坂さんとかち合ったって訳ですか。
   セキュリティーが予想以上に脆いのも超納得です」

   電撃使いの頂点に君臨する彼女からしてみれば、元から落雷によって脆くなっていた
   セキュリティーを破壊する事など、紙を裂くより容易い事だろう。

   気になるのは、

フレンダ「でも、一体何が目的でこんな施設に侵入してきた訳?」

絹旗「知りませんよ。ただ、バイオ医研やらDNA解析ラボやら〜〜あとなんでしたっけ? いろいろありましたよね。
   とにかく彼女が学園都市中の研究施設を既に50ほど潰して回ってるのは超事実ですし、警備員の詰め所といえ
   ここにも何かあるんでしょう」

絹旗「なにせーーーー」

   そう言って、そこで、言葉を切った絹旗の様子が、確かに変わる。
   内から漏れだしてくる感情を必死に押さえるかの様に、その拳に力を込め、俯きながら吐き出す。




絹旗「ここの超トップは、あの『木原』ですから」





<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/22(水) 02:36:03.12 ID:tnyKJsqx0<> 滝壺「…………」

フレンダ「…………」

   木原。

   その言葉は、その三人にとってはまるで呪いかなにかに思えるほどモノらしく、
   飛び出した1秒後には場の空気が重たい静寂に支配されていた。

フレンダ「……そっか、そうだよね。ま、結局わかっちゃいたけどさ」

   呟いたのは、ため息を吐きながらがしがしと頭を掻くフレンダ。
   そこにいつものような笑顔は存在しない。

滝壺「…………」

  「にゃー?」

   木原。

浜面「…………」

   事情は知る由もないが、どうやらその言葉が自分にとって悪い意味での
   特別だという事は、浜面もこの三人も同じらしい。

   テレスティーナ=木原=ライフライン。

   そして駒場利徳。麦野沈利。

浜面「……くそ」

   多分、いや、一種の確信めいたモノが浜面の胸中に浮かび上がる。

   徐々に迫り来ているそれを、浜面は目を逸らす。顔を背け、直視しない。

絹旗「……すいません。超余計でした。今は次の行動を考えましょう」




<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/22(水) 02:37:07.72 ID:tnyKJsqx0<>


   沈黙を作ってしまった事に負い目でも感じたのか、絹旗が場の空気を切り返す。
   とにかく現状の整理、今この場にいる人間で出来うる最善手を導きだす。
   
   至った結論は、

絹旗「二手に別れて各自麦野と超合流しましょう」

   言葉と共に立ち止まったその場所は、都合よく通路が左右に割れている。
   ここから別行動に移るという事だろう。

滝壷「……二手に別れて大丈夫なのかな」

絹旗「滝壺さんが言った通りなら、駆動鎧も大体は超片付いているでしょう。
   ただ、私達の能力は近接戦が主体ですし、あれも遠距離の火力自体は相当あります。
   こんな狭い場所で超能力者まで混じってるとなると、集団行動は的にしてくれって超言ってるようなもんですよ」                                                    
絹旗「とりあえず直接的な戦力として動ける私とフレンダはここで超別れるとして、」

フレンダ「え、え〜っ!? わ、私の能力じゃどっちも相性が悪い訳なんだけど……」

絹旗「あれだけトラップしかけたんだから、そろそろ超働いてください」

フレンダ「だうー(^p^)」
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/22(水) 02:38:03.15 ID:tnyKJsqx0<> 絹旗「…………」

   恐る恐る様子を確かめるように、絹旗の視線が先ほどから言葉を発しない少年、浜面のもとへ向く。
   何か思い詰めた様子の少年は、その視線に気づかない。

滝壺「きぬはた。私たちはどうすればいい?」

絹旗「えっ……あ、あぁ、そうですね」

絹旗「……え、と」

   一瞬、迷う。突風のような速度で絹旗の脳裏に様々な思考が駆け巡る。

   絹旗最愛は幼いながらも優秀な兵士だ。
   その身に宿された能力や、暗部で鍛え上げられた戦術、分析能力は一般的な能力者と比べると群を抜いて秀でている。
   
   そんな絹旗がどうするべきか、一瞬戸惑った。
   本来ならば、それは決まっている。この場において総合力が誰よりも高い絹旗は確実に滝壺理后と行動を共にすべきだ。

   そもそも、この施設を襲撃したのは滝壺の為と言っても過言ではない、麦野が待機を命じたのだって、
   アイテムの核とある滝壺に危害が及ばない為なのだ。最優先にすべきは滝壺。
   
   本人も言ったように、トラップで多少なりとも地の利を得たとは言え、フレンダとこの施設内にいる敵は相性が悪い。
   特に超電磁砲ともなると、確実に勝つ事はまず無理だろう。そう考えると、滝壺とフレンダを組ませるのは
   得策ではない。信用していない訳ではない、むしろ、信用してるからこそのこの行動。だが、一抹の不安は拭えない。
   だからといって全員で行動を共にすれば、主戦力となる絹旗一人では不足の事態に生身の人間三人を庇いきる事が出来ない。

   戦力の分断という危険極まりなく、誰かが欠けるかもしれないこれは、しかしこの場における最善手だ。
   故に、アイテムとして絹旗は、限りなく滝壺の生存確率が高い選択をすべきなのだが、

絹旗「…………」

   どうしても、その決断に踏み出せない。


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/22(水) 02:38:45.45 ID:tnyKJsqx0<>
   もしかしたら、なんて、そんな最悪な思考で心が埋め尽くされ、躊躇する。
   視線の先には、浜面仕上。

絹旗「……ッ」

   絹旗最愛は兵士としては優秀かもしれない。しかし、少女はまだ幼かった。

   この瞬間、絹旗はアイテムとしてでは無く、一人の少女として一歩を踏み出すか、踏みとどまるかの
   瀬戸際に立っていた。

   その揺れる感情は決して言葉に出来るものではない。

   逡巡、そして、

絹旗「わ、私はーーーー

フレンダ「滝壺は絹旗じゃないと駄目だって〜
     結局、私一人じゃ守りきれる自信もさっぱりないしさ」

滝壺「じゃあ、私はきぬはたとだね」

絹旗「……そうですね」



<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/22(水) 02:39:27.35 ID:tnyKJsqx0<>
フレンダ「はあー……ま、しゃあないって訳よ。
     滝壺になんかあったらそれだけで麦野の機嫌も悪くなる訳だし。ね?」

絹旗「……えぇ」

   絹旗は優秀だ

   だが、別にそれはフレンダや滝壺の戦術、分析能力が劣っているという事にはならない。  
   あくまで総合力が勝っているだけだ。自分たちがどう動かなければならないかなんて、
   別に絹旗でなくとも判断は出来る。

   フレンダだって、この狂った世界で生き残ってきた暗部の住人なのだから。

絹旗(……あぁ、もう。超絶調子狂うっ!!)

   自分は既に一度麦野に背いた。アイテムとしてあるまじき行為に走った。
   次はない。今度こそ違えでもしたら麦野は浜面と自分を殺すだろう。

フレンダ「じゃ、不本意だけどよろしく浜面。言っとくけど自分の身くらい自分で守ってよね」

浜面「……あぁ」

絹旗「…………」

   ここで自分が私的な感情で動く訳には行かない。

   落ち着け落ち着け、とざわつく自分の心を無理矢理に押さえ込む。かき乱される思考を平静に持って行く。
   こんな調子じゃ滝壺を守れない。考えるべき事は沢山あるはずだ。

滝壺「はまづら、なにか武器は持ってるの?」 <>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/22(水) 02:39:58.62 ID:tnyKJsqx0<>

   いざ二手に分かれようとしたその時、背中を向く浜面に話しかけたのは滝壺理后だった。
   胸に抱いていたはずの名前の無い猫はすでにそこを抜け出し、本来いるべき場所。浜面の元へと、
   駆け寄って行く。

浜面「……武器、か。いや、もってねえな」

   考えてみれば、自分は武器らしい武器など使った事が無い。頼ってきたのは運が多かった。

滝壺「これ。あげる」

   そんな浜面に滝壺が手渡したのは、レディース用の軽い拳銃。少女の持ち物からそんなモノが
   出てきたという事実にもはや驚く事はなくなったが、少し悲しくなる。
   軽く握ったそれは、浜面からしてみればあまり手に馴染まない。

浜面「銃、か……あんまり使った事ないんだよな」

滝壺「丸腰よりはマシだと思う。使い方なら今度……きぬはたが教えてくれるよ」

絹旗「へっ?」

フレンダ「あげちゃっていいのーそれ? 滝壺丸腰になっちゃう訳だけど」

滝壺「うん。私はきぬはたと一緒にいるから大丈夫」

フレンダ「……なーんか結局、滝壺ってば浜面に優しくない? もしかして惚れた?」

絹旗「い、いやいやいや超無いでしょう。常識的に考えて」

フレンダ「なんで絹旗がうろたえてんのよ……ま、いいや。じゃあまた後で会いましょうって訳で」

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/22(水) 02:41:25.68 ID:tnyKJsqx0<>


   ずいぶんと軽いノリで再会を交わしたフレンダの言葉と共に、浜面は歩き出す。
   無言のまま数分。足音に混じって次第にどこかで聞いたようなチキチキと小気味よい音が流れてきた。

  「にゃー」

浜面「…………」

   鳴らしているのは鼻歌を歌う金髪の少女。その表情は、伺い知れない。
   
   フレンダ=セイヴェルン。

   あの四人組の中ではいわゆるマスコット。ムードメーカー的な存在なのだろう。
   アイテムと接しての時間は少ないとは言え、それぐらいは浜面でも見て取れた。

   しかしこの少女も、ここに堕ちるに至った過去がある。

   ぼんやりと、車中での滝壺の言葉を思い出す。


  「私達、みんなどこかダメになっちゃってるから」


  「うん。フレンダも、きぬはたも、2人とも実験動物として体と脳を弄ばれて、
   用がなくなったら処分される。そんな所で生きてた」


浜面「…………」


  「少なくとも、今の私の居場所はアイテムだけだから」


浜面「…………」

   この少女にとってもそうなのだろうか。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/22(水) 02:42:26.31 ID:tnyKJsqx0<>
フレンダ「絹旗ってさ、しっかりしてると思わない?」

   いつの間にかチキチキという音はやんでいて、またぬいぐるみを放り投げたフレンダが
   ぽつりとその名前を呟いた。やっぱり、その表情は見えない。

浜面「……ああ」

   しっかりしている、と言われればそうだろう。
   それは先ほどまでの光景を見ても明らかだ。

フレンダ「でもさー、あれ。結局はうちらの中でも最年少のお子ちゃまなのよねー」

   あ、これ本人に言ったら怒られちゃうなーと、フレンダがケタケタ笑う。 

浜面「……何が言いたいんだよ」

フレンダ「経験が無い訳よ」

   経験? と浜面が言葉を返し、フレンダが何か悩むかの様に低くうなる。

フレンダ「ん、んー……まぁ、これくらいならいいかな。私達って置き去りだったんだけどさ、」

浜面「それは……ある程度滝壺に聞いた」

フレンダ「あ、何だ知ってたの。じゃあ言ってもいいか。
     ……結局、置き去りって言ってもね、まぁいきなり実験漬けーって訳でも無かったのよ」
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/22(水) 02:43:27.37 ID:tnyKJsqx0<>
   チキチキと鳴る音が止み、フレンダがその場に立ち止まる。
   やっと伺えたその表情は、なんだかとても辛そうな、そんな顔。

フレンダ「滝壺は仲間とか友達もいたし、私は……まあ、妹もいたし。
     物心つくくらいまでは、奪われるまでは自分たちの居場所でそれなりに
     楽しくまともに過ごしてたって訳」

フレンダ「実験動物扱いされてた時はホント、地獄だったけどねー 結局たいした成果も
     出せず、何人も死んで分かった事と言えばAIM拡散力場は脳に宿るって事だけーー……
     って、こんな話は関係ないか。とにかく、楽しかった記憶なんてものもあるわけ」

フレンダ「絹旗以外はね」

浜面「…………」

フレンダ「……結局、絹旗ってまだ13歳。少し前までランドセル背負ってた歳よ?
     本来置き去りでも経験できるような事すら、全部すっ飛ばしてきてんのよ。あいつ」

フレンダ「友達作った事ないし、誰かを好きになった事も無い。常盤台に籍はあるけど不登校。
     敬語なんか使っちゃって大人ぶってるけど、コミュニケーション能力は超絶ないし?」

浜面「……酷い言いようだな」

フレンダ「結局、事実って訳よ。うちらも人の事言えないけどね。必要ないから」

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/22(水) 02:44:36.81 ID:tnyKJsqx0<> 浜面「……結局、何が言いたいんだよ」

フレンダ「つーかさ、あれ、浜面でしょ? ほら、数日前絹旗がかけた電話に出たのって」

   数日前、と言われ思い出す。それは神裂火織との戦闘の翌日。
   忘れてしまったが、何かをしていた最中かかってきた絹旗からの電話。
   確か、第一声は、

浜面「……あの時の、お前だったのか」

フレンダ「ま、そうよね。やっぱり浜面かー、そっかそっかー」

   そう言いながらフレンダの脳裏に浮かんだのは、先ほど浜面の携帯をいじった時に見つけた
   絹旗最愛と登録された携帯のアドレス。
   何となく察しはついていたが、どうやらそういう事らしい。
   まさかこんな奴とはねー、と浜面には聞こえないようフレンダは小さく呟く。

フレンダ「なのに結局、どうして堕ちてきちゃうかな……」
   
   絹旗の日常に何か変化があったのは、自分も滝壺もなんとなく知っていた事だ。
   お気に入りの映画を見つけたときにしか、つまり滅多に見せないような歳相応の子供らしい
   笑顔を見せる事が増えていたし、携帯を変えてからやけに浮き足たっている絹旗の様子に麦野は不信そうに見ていたけど……

   多分、今回の麦野らしからぬ仕事の失敗、そして明らかにおかしい絹旗の様子。
   それにはこの少年が絡んでいるのだろう。



<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/22(水) 02:46:36.58 ID:tnyKJsqx0<>
フレンダ「アンタがただのクズで下っ端だったらこんな事言わないんだけどさ。
     ……絹旗だって年相応のガキな訳よ。確かにアイテムじゃ一番しっかりはしてるけど、
     物事の判断や、感情の揺れが制御できない事だってある」

   もし絹旗が普通の少女なら、それは当たり前の事で、多いに結構な事なのだろう
   しかし、ここは暖かい光が差す世界じゃない。ドロドロした闇の世界で、自分たちがいるのは『アイテム』だ。

   一つの人間らしいわがままでさえ粛正という名の死に繋がる、そんな場所。

フレンダ「私は、ちゃんとした理由と目的があってここにいる。危険な場所だし、
     出来れば滝壺だって、絹旗だって、他に居場所が出来ればそれはそれでいいとは思う……けど、」

フレンダ「結局、私は出来る限り誰も欠けて欲しくない訳よ」


   それだけ。何が言いたいかと言われれば、つまるところそれだけだ。




フレンダ「私の居場所は、あの3人がいるアイテムだけなんだからさ」


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/22(水) 02:48:10.95 ID:tnyKJsqx0<> 浜面「…………」

   浜面が見て聞いたのは、多分その少女の本質だった。

   多分、少女達には本当にここしか無いのだろう。堕ちた世界での拠り所。
   似た者同士の集まり合い。何かを無くした同じ境遇の少女達。

浜面「……くそ」

   かすれるような声でそう呟いたのはやはり、似ていたから。

   どうしてか被ってしまう。自分達と、この少女達が。

   そして、胸中に浮かび上がって来るのは先ほども感じたある種の確信。

   本来、麦野に命令され車の中で大人しく待つだけのはずだった……いいやこれも言い訳だ。

   大人しく待つと『逃げた』自分がなんの因果かこの施設に入ってしまった事によって、一つの決断を迫られる事になる。

   いつからか弱音を吐き出す事しかしなくなった、行動を起こす事を躊躇う様になったこの心が生み出した現状に対する
   決着をつけなければいけない。

   スキルアウトによく似た、しかし駒場を殺したこの組織に感化されつつある自分に対する、何らかの答えを出さなければいけない。

   そんな予感。

   そんな確信。

   こうなってしまったのなら、それがどんな形になろうとも。

浜面「…………」

   胸がざわつく。手は震えた。

   これは、恐怖だ。何らかを決断する事に対しての不安と恐怖。

   本当に、いつから自分はこんなにも臆病になったのだろう。

   うやむやのまま片付けたい。逃げ出したい。そんな思いに掻き立てられてしまう
   自分が情けない。こんな自分が、答えを出す事なんて出来るのだろうか。

   インデックスの事からも逃げ出した自分にーーーー










                                              ターン


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/22(水) 02:49:06.52 ID:tnyKJsqx0<> 浜面「ーーーーぁ」

   射抜くような衝撃が体を襲った。遠くから遅れて聞こえてきたのは、乾いた銃声。

   視界が暗転する。

フレンダ「浜面ッ!!」

浜面「ーーーーッ!!」
 
   間近で叫ばれたその声に、意識を引きずり戻す。折れそうになった脚に力を込め、

浜面「おおおぉ!!」

   既に駆け出していたフレンダとともに、硬い床を踏み抜き走り出す。大丈夫、生きている。弾は腕を擦っただけだ。

フレンダ「だ、大丈夫!?」

浜面「おお、てか、お前あれなんとかできねーのかよ!!」

   激しい靴音がだだだだっと混ざり合い、暗い施設内を全速力で駆け抜ける。
   靴音に混ざるのは、駆動鎧が標的を補足し、追尾を開始する機械音。
   生身の体とあれでは、性能が違いすぎる上にすぐに追いつかれる。

フレンダ「いやー、け、結局私ってーー、機械相手だと少し分が悪い訳でーッ!!」

浜面「言ってる場合かーーーーッ!?」


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/22(水) 02:50:03.75 ID:tnyKJsqx0<>    叫んだ瞬間、ヒュンと何かが風を切る。
   直線上の通路はマズい。そんな事は言葉を交わさなくても通じあったようで、
   蛇行しながら左右に別れた通路を二人同時に折れ曲がる。

   ーーーー浜面が右に、フレンダが左側に。

   「「はあぁぁぁぁぁっ!?」」

   二人の声が重なった。多分重なったのは、言葉だけではないだろう。

浜面「おまーーー」   

   なにかを叫ぼうとした浜面の言葉を遮ったのは、連射された銃弾。
   鉄の壁が弾を弾く音が連続的に鳴り響き、浜面とフレンダの間を割って撃ち出されるそれは
   言葉だけでなく自身の行く手も遮る。近づいてくるのは駆動音。

   二人の選択は早かった。お互いに背を向け、走り出す。

浜面「くそッ!!」

   戦力は更に二分され、もはや逃げ切れるかは運に頼るしか無いだろう。
   浜面は駆け抜ける。そしてT字になった通路に追いついた迷彩色の駆動鎧が選んだ標的はーーーー



<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/22(水) 02:51:16.44 ID:tnyKJsqx0<>

フレンダ「あぁぁ〜っ!!もう結局こっちにきてるしー!!」

   フレンダ=セイヴェルン

   振り向きながら確認する。銃を構えた駆動鎧はまっすぐに自分を追いかけてきていた。
   距離はずいぶんあるものの、フレンダの脚力ではすぐに追い付かれてしまうだろう。

   少しばかり真剣にどうするか考える。トラップを仕掛けたとは言ってもこの広い施設のほんの一部だ。
   そうそう都合良くおびき寄せる事は出来ないし、まずはこの状況を脱する事もーー難しそうだ。

フレンダ「ーーこうっーー走り回ってるとっーー演算もろくに出来ないしっーー」

   ああもう本当にめんどくさい。そう思いつつ、手に掴んでいるものをちらりと見る。

フレンダ(……これで倒せるか? まあ結局、モノは使いようによるってことかしら)

   どちらにせよ、だれも欠けてほしくないと言った本人がここで死んでは元も子もない。

フレンダ(それに、まだ死ぬ訳にもいかないって事で、)

   走りながら、それを壁から床に押し当てる。足音と一緒にチキチキチキチキと小刻みに素早い音がなり、
   フレンダが駆けると共にその通路に一筋の長い線が敷かれてゆく。





   数分後。少女の手により、施設内の一部の区画、一部の通路が丸ごと使いモノにならなくなった。





<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/22(水) 02:52:04.59 ID:tnyKJsqx0<>
ーーーーーー



浜面「はぁっーーーーはぁっーーーー」

   数分、いや数十分は逃げ回ったろうか。息を荒げながら、浜面はその場にへたり込む。

  「にゃあー」

   足下で猫が鳴く。あんな最中でも、しっかり浜面の後をついてきたらしい。

浜面「たいした奴だな……お前もよ」

   軋む脚はがたがたで、流れる汗が傷口に触れる度に鋭い痛みが体を走る。
   フレンダは無事だろうか、戻るべきだったかという思考は経過した時間によってもはや意味の無いものになる。

   どちらにせよ、今は自分の身の安全を最優先に考えなければ、それまでだ。


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/22(水) 02:55:18.46 ID:tnyKJsqx0<>
浜面「痛ッーー」

   壁に擦りかかりながら、姿勢を低くし一歩を踏み出す。緩く歩きながら、数分後。
   浜面が行き着いた先は誰もいない手広いモニタールームだった。

   いや、誰もいないというというのはこの場合正解ではない。

   そこには何かに使う機材が汚く散在していた。
   何が書いているのか分からない書類が散らばっていた。

   かつて人だった何かがいくつも散らされていた。
   
浜面「また、かよ……」

   中央管制室というらしい血に濡れたその部屋には、先ほど浜面が目にした惨劇と同じような光景が広がっていた。
   もはや生きた人の気配がしないその部屋に、ゆっくりと腰を落とす。その瞬間ーー

   まるで見計らったかのようにその音は鳴り響いた。

浜面「ーーーーえっ?」






   キィィィィィィィィィィィィィィィン




   

   煩わしく、耳障りで、不快で、嫌いで、耳を貫くかの様な音。

   施設中に響き渡るその音に驚いたのか、猫が飛び上がる。

   施設中に鳴り響くその音を、浜面仕上は知っている。



   そしてーーーーーーー

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/06/22(水) 03:04:35.84 ID:tnyKJsqx0<> ここまで。全然区切りよくなかったわはは。全体的に掘り下げ回でした。
こいつらメンタルひっくいなあーとか思いつつ特に山も無く申し訳ない。
むしろ次回は山場だけなんで勘弁勘弁。

フレンダさん長くなりそうなんでちょっと端折っちゃったけど
それもなんか申し訳ない。彼女はまたちゃんとしたとこで活躍してもらいましょう。
あとここまで猫ちゃんがタフなSSもそうないと思う。

もうなんだかんだでスレ半分来ちゃったたんですね・・・前スレ含めないお話的にはやっと1/3消費ってところですか
先は長い・・・
さて次回ぶれぶれの浜面はどんな答えをだすのやら。とりあえず次ぎはどうしよう。予告したほうがいいかな?
では来れたら来週中にでも、ではでは <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/22(水) 03:44:02.03 ID:+vq6rThIo<> おつおつ
まだまだ続くようでwwktk
細かいかもしれんが今まで「―――」使ってたのに「ーーー」になってるところが気になった <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/06/22(水) 04:06:00.40 ID:tnyKJsqx0<> あるえー

ーーー
―――

こうかな?
普段使わないpcで書いたからなんか読みにくかったらすまんです。
MacなんだけどWindowsから見るともしかしたら空白とかすげー
ずれてたりすんのか・・・?心配になってきた。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(岡山県)<>sage<>2011/06/22(水) 06:59:25.59 ID:iMNNB3KT0<> おっつー
まだ三分の一ってことは後三倍楽しめるってことだな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2011/06/22(水) 07:17:16.66 ID:Y5rtmVIAO<> 乙ー
これはあれか。流れ的に浜面が佐天さんポジションって事でいいのかな?

もしそうなら来週胸熱展開の予感

……つかテレスさんまだ生きてんの?

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(富山県)<>sage<>2011/06/22(水) 18:22:54.00 ID:Z/8S0w8Po<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/23(木) 02:18:49.19 ID:6oAk/uv20<> 浜面が佐天さんのポジということは
つまり浜面のバットが荒ぶるワケだな
期待 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/24(金) 00:05:08.12 ID:XbpqC8vJ0<> はまづらのバット・・・ゴクリ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/06/24(金) 00:29:54.66 ID:bRzcMJX90<> 侵入者ってまさかあの御坂美琴が最有力なのか!? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>saga<>2011/06/24(金) 01:16:39.95 ID:bag0QdVm0<> あの美琴じゃ確実に麦のん負けるだろ……その日のうちにアイテム大崩壊じゃねーか
わざわざ侵入する目的がないからもう一人のが有力なんじゃない?
ただその場合確実に麦のん勝つだろう……こうなると次に登場するのが本当にテレスさんなのかも怪しい。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2011/06/24(金) 08:34:41.04 ID:OYJr1foAO<> ageるなゴミ屑 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/24(金) 16:02:02.29 ID:zoSC9VDT0<> なんという神スレ…
  
インX浜とかねーよとか好き嫌いしてごめんなさい

でも王道の絹浜も忘ry <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/25(土) 03:19:03.64 ID:7UyUqevM0<> 浜イン 浜壺 浜麦 浜絹 浜フレンダ 浜フレメア  ……まじで爆発しろ

だれか浜郭書けよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/26(日) 01:21:53.65 ID:G7KPhQPy0<> インさん再登場まだかああああ!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(新潟・東北)<>sage<>2011/06/26(日) 17:18:31.69 ID:k7erf9fAO<> インさん来てもまだ浜面が向き合えないよな

あれ、今インさんどこいるっけ? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2011/06/26(日) 17:29:57.87 ID:S+KPVq3AO<> まさか出番のない所まで再構成されるとはインさんも思ってなかったろうな。
確か前スレ終盤でステイルと神裂が連れてったきりか

インさーん!そろそろ物語の1/3が終わるよー!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/26(日) 19:13:54.27 ID:lKT26XKH0<> つーとイギリスにいるのか?
まだこっちいんのかな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/06/28(火) 12:02:29.17 ID:VWFn/28n0<> キィィィィィィィィィィィィィィィン 来たな これは浜面のターン <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/29(水) 19:18:33.51 ID:TM+UDELk0<> キャパシティダウンの使い方うまいな>>1
待ってる待ってる <>
◆v2TDmACLlM<>sage<>2011/07/01(金) 06:37:49.87 ID:lRTEiZLAO<> 書き溜めてた携帯落とした。泣いた。
誰か大坂環状線で黒い携帯拾ったら教えてくれ。

生存報告兼ねた呟きになってしまったごめんなさい。
ちょっと遅くなりますちくしょう。なんとか土日中には投下したいー……
一応次でMAR戦は一区切りつけるつもりです。中弛みしてそうでこあい
あ、インデックスさんは学園都市で元気です。アイテム勢の登場であれだけどこのSSのヒロインは彼女です、よ。

長々と申し訳ない。ではでは
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(沖縄県)<>sage<>2011/07/01(金) 07:28:04.34 ID:jmJpj35co<> >>503
携帯落すと凹むよねえ
>このSSのヒロインは彼女
それ聞いてちょっと安心。
執筆がんがれ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(群馬県)<>sage<>2011/07/01(金) 21:12:39.41 ID:LeDC9Z1to<> >>1も不幸だな
まあ良い事あるさ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/01(金) 22:11:24.64 ID:ZDhq8h4Co<> 失意の内に訪れた携帯ショップで絹旗と遭遇フラグと見た
もしくはインデックス浜面ペアと

強く生きてくれ>>1 <>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/04(月) 06:31:42.96 ID:91BuKncp0<> はじめに。

いやほんとすません。
はじめからからかいてたんだけど結局区切れなかったよ。
これ以上投下のびるのもあれなんでキリの良さそうなとこまで、いきます。


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/04(月) 06:32:56.15 ID:91BuKncp0<>

――――――


   ほんの数分、時間を遡る。
   そこはMAR研究施設地下の最下層区画。
   広々とした白い空間が来る者を出迎え、高い壁の両端にいくつもカプセルが並び、
   広大な実験室とでも呼んだ方が早いかもしれないそこに、少女は立っていた。

麦野「……で、ここで最終面?」

   呟いた少女は麦野沈利。超能力者、レベル5、原子崩し<メルトダウナー>

麦野「はぁあ、疲れた。ったく、こんなとこに引きこもってんじゃねぇよ」

   そんな軽いため息を吐き出す彼女の前に群がるのは、両手で数え足りる程の駆動鎧。
   めんどくさそうな表情のまま、ウェーブがかかった栗色の髪を揺らす。

麦野「で、てめえら殺したらそろそろボスが出てくんのかしら?」

   少女から放たれた鋭い眼光に、駆動鎧の動作が一瞬止まった。
   見た目からは想像も及ばない様な荒々しい口調で死の宣告を放つその少女に、
   襲いかかるのは激しい音と共に打ち出される数十の銃弾。
   しかしそれは固定された電子の壁によって阻まれる。

麦野「チッ、いつまでぷちぷちぷちぷち雑魚倒せばいいんだよ」

   気だるそうに、ため息。しかしその佇まいに疲れの色は見えない。
   対能力者の装備を整えた警備員を相手に傷一つ負う事なく、
   地下に降りるにつれて不自然なほどに厳重になって行く防衛網を単身で全てを
   潰しにかかっても尚平然と突き進む。 その姿はまさしく超能力者の名を冠するに相応しいか。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/04(月) 06:33:53.51 ID:91BuKncp0<>



   だが順調に突き進む反面、一騎当千の如く敵をなぎ払い続けていた麦野沈利はある違和感も覚えていた。
   その違和感の一つはこの最下層区画にくる事で解消される事になるのだが。

麦野「へー、なるほど。ほんと、腐った街だねぇ」

   目の前の無骨な敵を確実に仕留めながら改めて辺りを見渡し、いま自分が佇むそこがどこかを再確認。
   どうやらアンチスキルの駐在所でもあり、本当に実験場でもあるようだ。
   どうみても警察機関の施設には見えない。そんなところには必要の無い機材がゴロゴロしている。

   まぁ、そこは相手があの有名な『木原』だという時点で予測はついていたが、まるでゲームの
   RPGよろしくとでも言うくらい深部にかけての警備が硬くなっていったのはそれが原因だろう。

   そしてそこから生まれる新たな違和感。

麦野「でも、それにしては……」

   目の前、今も青白い電子線に貫かれ一体ずつ減っていく駆動鎧。
   並の能力者なら脅威の戦力になりうるその鎧でも、流石に相手が悪かった。
   一個大隊を敵に回せる超能力者には、恐らく何百束になっても適わないだろう。

麦野「…………」

   なのに、麦野の今も先ほども歩みを阻んだのは、10にすら満たない機動兵器。
   今も麦野によって徹底的に破壊された、両手で数えられる程の駆動鎧。

   そこが違和感だった。



<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/04(月) 06:34:21.45 ID:91BuKncp0<>


   先進状況救助隊。名前だけは立派なこの組織は正規の警備員としての活動を目眩ましにし、
   非人道的な実験でもしていたのか、もしかしたら学園都市そのものが一枚噛んでいるかも知れない。
   しかし、今すべき話はそこでない。

   とにかく、何らかの行為をしている以上、この施設には死守すべき機密があり、
   それを守る為の設備と人員がいるはずなのだ。

   どこにでもあるだろう、時には何人もの命を賭けなくてはいけない。そんな秘密。
   表向きには警備員として活動をしており、裏と表で二足草鞋のこの組織は特に
   その機密については細心の注意を払わなければならないはずなのだが、

麦野「……誘い込まれた? いや、ないか」

   薄すぎるセキュリティー。

   そこが麦野の感じた最大の違和感だった。確かに襲撃し深部に近づくに連れ防衛網は硬くなっていった。
   しかし、それにさえ違和感を覚えるほどの、貧弱さ。

   理由を探せば、それは見つかる。6日前に降り掛かった規格外な程の雷は今も学園都市に、この施設の
   セキュリティーにも影響を与えているのだろう。アイテムが阻止出来なかったスキルアウト達の計画も、
   混乱を与えているはずだ。増援さえ呼べず、孤立の状態。確かに自分はそれを狙ったが、ここまで自分達を
   迎え撃つ警備員も作動する設備もないとなると、拍子抜けどころか逆に不気味だ。

   そして辿り着いた最深部。





<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/04(月) 06:34:50.35 ID:91BuKncp0<>

麦野「あぁ? まだいんのかよ」

   そこには求めるものも標的もなにもなく。あるのは広大な実験施設に湧いて出る敵。それに、

麦野「…………」

   カツカツと背後から鳴り響く足音。

   歩みよるその明らかに駆動鎧では無いだろう何かが駆けてくる。
   
   木原。脳裏に浮かんだワードは恐らくは体晶所有者である女の名前。
   投げかけられた言葉は、
   
フレンダ「む、麦野ー!! やっと見つけ」

麦野「チッ」

フレンダ「えぇ!? 何な訳ひゃうっ!!」

   逸れた銃弾が風を裂き、フレンダの頬を擦る。未だわらわらと溢れてくる駆動鎧が放つ銃弾は
   電子の壁を貫けない以上麦野には届かないが、現れたもう一人の標的に対してはそうではない。

フレンダ「わ、わわわわっ、わっとぉ!」

麦野「っと、てこらフレンダぁ!!」

   屈むように銃弾を避け、フレンダが盾にでもするかのように麦野の背後に隠れる。
   横目で見たその姿は施設内で別れた時より服が所々破れたり、焦げていたり、とにかくボロボロだ。
   白磁のような肌や長いブロンドの髪も埃で汚れている。




<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/04(月) 06:35:19.69 ID:91BuKncp0<>

麦野「ったく、隠れてないで仕事しなさいよアンタ」

   そういいながら腕を振り、放った轟音と共にまた一体、駆動鎧が一筋の光にぶち抜かれる。

フレンダ「い、いやぁ……あれ相手じゃ結局私とは相性が悪い方向に落ち着いたっていうか、
     下手したら死んじゃうっていうか……」

麦野「あなたが死んでも、変わりはいるもの」

フレンダ「あの、麦野? 結局、それ洒落になってないしネタ振りが唐突だし、台詞がちょっと違うし
     どっちかって言うと滝壷の方が似あう……な、なんでもない!なんでもないってば!!」

麦野「うっさいなぁ、ていうかブツは見つけた?」

フレンダ「見つけたら真っ先に報告してるって訳よ……」

   やっぱりねぇ、という軽い呟きと同時に麦野の視界から向かい来る駆動鎧が消え去った。
   目の前に残ったのは、もはや動く事の無い鉄の残骸。人の残骸。

麦野「じゃあ、やっぱりここのボスが持ってるのかしらね」

   見つからないとは、つまりそういう事だろう。なんとか見つけ出して奪わないと
   自分たちはいつまでもスクールの追撃に乗り出せない。

フレンダ「ふうん……あ、そうだ」

   麦野の影に隠れていたフレンダがひょっこり顔を出し、呟いた。
   報告すべき点。それがフレンダにはあった。麦野が感じた違和感の元凶。
   麦野が知らない、この施設の人員と警備が大幅に裂かれた理由。

   自分たち以外の侵入者の存在。



<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/04(月) 06:36:04.67 ID:91BuKncp0<>
フレンダ「――あ、」

   放たれた銃弾は、フレンダの肩を正確に貫いていた。

フレンダ「う、あぁぁぁぁぁぁッ!!」

麦野「――くッ!!」

   直ぐさま振り向いたその瞬間。フレンダが倒れた音と、もう一発の銃弾が放たれたのは同時だった。
   今にも狂ってしまいそうな痛みの中、演算を開始。形成された酷く弱々しい青白い盾は寸でのところで銃弾を弾く。
   
  「あーあ、当たんなかったか。こいつもまだ調整が必要かぁ?」

   音に混じって聞こえた声は酷く醜悪な声だった。

   麦野が破壊しつくした駆動鎧を挟んで、銃を構えた一人の女。
   紫色のスマートな駆動鎧に身を包んだその女は、表情を感情のままに歪め言い放つ。




テレス「はぁい糞モルモットの糞侵入者共。気分はどうだぁ!? あぁぁぁッ!!?」





<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/04(月) 06:36:31.93 ID:91BuKncp0<>

麦野「テレスティーナ……ッ!!」

   歯噛みしながら、崩れそうな足で支え必死にその場に立つ。こみ上げてくる嘔吐感に不快感。
   今の麦野はそれだけで必死だった。脳をぐちゃぐちゃにかき混ぜるかの様な音は
   依然として敵を見据える事すら困難にする程木霊している。

テレス「あぁ? 誰テメェ?」

   興味無さげに女が首を傾げた。そしてそのまま歩み寄る。
   重い足音と共に銃を構え、テレスティーナは躊躇いも無く引き金をひいた。

麦野「――ッ!!」

   バチィッ!!

   真直ぐに自分を貫こうと迫ってくる弾丸をまたも脆弱な盾で防ぎ、攻撃へ転用。
   しかし、放出された青白い光は目の前に立つ女に擦る事も無く、
   まるで検討違いな方向へ突き進む。

   演算が、阻害される。

麦野「まさか……この音ッ!」

テレス「へぇ、この強度のキャパシティダウンでも能力が出せんのか。
    まぁ、飛んでくのは全然関係のない方向みたいだけどなぁッ!!!」

麦野「ッぐ、あ!!」

   横に振りかぶられた鉄の腕が、麦野の細い体を吹き飛ばす。
   打ち上げられたボールのように麦野の体が宙に投げ出され――

テレス「ひゃっはぁ!! そのまま地面に頭打ち付けて死んじまえぇ!!!!」

麦野「――――ッ」

   まず――ッ

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/04(月) 06:37:05.96 ID:91BuKncp0<>

絹旗「麦野ぉッ!!」

   硬い鉄に打ち付けられるその瞬間、寸での所で麦野を抱えたのはフレンダに遅れ、
   滝壺と共にこの最下層区画に辿り着いた絹旗最愛。
   自身でさえ脳を狂わされているその状況下で駆け出し、落ちる寸前、受け止める。

絹旗「ぐッ……う、麦野……超大丈夫ですか」

滝壺「むぎの……これっ、てッ」

麦野「絹旗ッ、なんで滝壺も……ッ!!」

   激痛。鳴り続ける音が思考を邪魔する。この音は何なのか、なぜ滝壺がいるのか、
   この状況をどう脱するか、使えるものは何か無いか。並列して思考を展開するも
   全てが音によって霧散する。唯一分かるのは、自分達が追い込まれたと言う事だけだ。

   想定外のイレギュラー。ただの音が、悠然と歩んできた麦野の足を、突き崩す。

   超能力者さえをも突き崩す音響兵器。

   その中で唯一それの影響を受けずに立つ女。 
   
テレス「……あぁ、そういうことかぁ」

   その女がニヤリと、口を大きく歪ませて笑う。

   その場に立つも表情を苦痛に染める麦野を見て、その麦野に寄り添う
   絹旗をみて、無様に倒れふすフレンダを見て、そのフレンダに駆け寄る滝壺を見て、

テレス「まさかテメエら『アイテム』かよ!! あぎゃははははははははははははっ
    スキルアウトのゴミ掃除すら出来ねぇ役立たずじゃねぇかっ!!  あははははははははっ」

   何かに納得した様子で、その女は腹を抱えどこまでも可笑しそうに笑った。

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/04(月) 06:37:31.49 ID:91BuKncp0<>


テレス「テメェらのせいでこっちは大迷惑なんだよふざけんじゃねぇぞあぁぁあぁッ!!!?」

   そして一転、女が怒号と共に顔を歪める。振り抜いた鋼鉄の腕は絹旗へ向かい、
   ろくに防御態勢もとれないまま派手に吹き飛ばされる。

麦野「絹……ぐッ……が」

テレス「おーおー他所見てる場合かよブス。このままその細い首ポッキリ折っちまおうかぁ?」

麦野「……か……ぁ」

フレンダ「麦、野……」

   肩の痛みに耐えながら、伏せていた顔をあげたフレンダの目に飛び込んだのは
   駆動鎧によって常人以上の力を得たテレスティーナの腕によって持ち上げられた麦野。
   細い体が揺れ、掠れるような息が喉から漏れていく。

テレス「おっとぉ、動くなよ金髪。マジで首折るぞ」

麦野「……ぁ、っぁ!!」

   テレスティーナによる牽制。たった一言によってフレンダと滝壺の動きが封殺される。

テレス「にしてもよぉ、アイテムっつうことはテメェ、もしかしなくても第4位。
    原子崩しか? ハッ、おいおい無様すぎんだろ」

麦野「う、るさ――、」

テレス「あぁ? 聞こえねぇんだよぉ!!!」

麦野「この――ッ」

   音に演算を阻まれながら、奪われる酸素に思考が掠れながらも全神経を研ぎすせ、能力を発動。
   それによって放出されたすべてを貫く電子の槍は、しかし目の前の女に擦る事無く伸びて行く。

テレス「少し出来のいいマウスじゃこの程度が限界かぁ!!? なんにしても無駄なんだよ糞ガキ。
    例え超能力者だろうがキャパシティダウンからは逃げられねぇ。
    所詮テメェらレベル5なんざ絶対能力者に至れなかった失敗作でしかねぇんだから、なぁッ!!!」

   麦野を掴むテレスティーナの腕が大きく振られた。直後麦野の視界から見えていた世界が歪んで、歪んで、
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/04(月) 06:38:05.46 ID:91BuKncp0<>
麦野「が、ぁぁぁッ!!」

   遅れて体に襲いかかったのは体ごと壁に叩き付けられた衝撃。ただでさえ絞りとられていた酸素が
   肺から残らず吐き出される。その駆動鎧の常人を超えた力で投げ飛ばされたと気付いたのは、その場に崩れ落ちた後だった。

麦野「く、ぅぅ……」

   超能力者。この街の頂点に立つ麦野は、しかしただの人間だ。
   彼女は能力に頼り切るような人間ではない。暗部に身を置く以上、例え高位能力者であっても
   必ず身体能力は必要となってくる。常人以上に鍛えてらあげれている麦野にとって、この程度のダメージなら
   まだ立てる。そうでないと暗部では生き残れない。生き残れるのは日常ですら能力に頼り切りの第一位くらいだろう。



   キィィィィィィィィィィィィィィィン




   だが、立てない。

   音。モスキート音にも似たこの音だ。この音がどうしても邪魔をする。
   超能力者である自分が、立つ事さえ許されない。
   
   歯を噛み締めるも、だんだんと意識が遠のく。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/04(月) 06:38:44.37 ID:91BuKncp0<>


テレス「レベル5ってのが仇になったなぁ、アイテム」

   テレスティーナが這いつくばる麦野を見てせせら笑う。
   内に溜まったストレスを発散させるかの如くぶん投げた女は、起き上がっては来ない。

テレス「つぅーかよぉ、てめぇら一体何しにここに来たんだ? 別に暗部に恨み買うような事は
    しちゃいねぇし、理由もなしに潰されるいわれもねぇんだけど……ハッ、まぁいい。
    今少し機嫌が悪くてなぁ。玩具にでもなってもらうか。」

   その言葉はテレスティーナの後ろに向かって投げかけられていた。

テレス「なぁ?」

絹旗「!!」

   正確には、背後から拳を振り被り飛びかかってきた絹旗最愛に、だ。

テレス「見え見えなんだよぉッ!!!!」

   勢いに任せ打ち出された絹旗の拳は、しかしテレスティーナには当たらない
   避けられたその瞬間、辛うじで形成できていた窒素の膜が文字通り霧散する。
   同時に、勢いのまま飛び出したその華奢な体にテレスティーナのカウンターが
   まともに入り、こみ上げるのは痛みに嘔吐感。その場にうずくまる自分に
   投げかけられたのは嘲笑、そして――



テレス「暗闇の五月計画の産物。糞モルモットの演算パターン植え付けてもこの音にかかりゃ意味ねぇな。糞ガキ」



   思い出したくもない、自分の過去。

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/04(月) 06:39:10.99 ID:91BuKncp0<>

絹旗「なん、で……それを、」

   音が鳴る中、それも忘れ、絹旗の目が見開かれる。卑下た笑みを浮かべながら自分を見下ろす女の顔は、
   かつて自分を切り刻み玩んだ研究者の顔によく似ていた。

テレス「ぎゃははははっ!! わからねぇとでも思ったのかなぁモルモットちゃんよぉ!!」

絹旗「グ、ぅッ!!!」

   言葉と共に、重たい蹴りが絹旗の腹を抉る。鈍い激痛。久しぶりに感じる痛み。
   鳴り響くモスキート音にも似たこの音によって、普段の自動演算による窒素膜は全て消失していた。

テレス「知ってるに決まってんだろうが。つーかテメェもどうせわかってんじゃねぇのかよ」

   また、一撃。

テレス「なぁ、まさか自分の脳みそ弄くった奴の名前、忘れたのか? あぁ?」

絹旗「や、め……が、ぁッ!!」

   痛みによって、甦る。ぐちゃぐちゃに掻き回された脳によって、
   過去の映像がフラッシュバックする。あぁ、やめろ。思い出させるな。

テレス「忘れたなんて言わせねぇぞ」

   女が笑う。笑えば笑う程、その醜悪な笑みはあの研究者の顔によく似ていた。

   汚い口から、その言葉が絹旗に向かって吐き出される。

   モスキート音に混じって吐き出されたその名前は、大嫌いな科学者の名前。


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/04(月) 06:39:38.22 ID:91BuKncp0<>





テレス「木原数多」





<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/04(月) 06:41:03.83 ID:91BuKncp0<>



    女が笑う。あの男に似た醜悪な笑みで。

テレス「覚えてねぇ訳、ないよなぁ?」








<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/04(月) 06:42:24.37 ID:91BuKncp0<> うっひゃあ短すぎわろたー

あ、そういや前スレ落ちてた。なぜなんだぜ。
というわけでここまで。待たせた挙げ句結局区切れずに申し訳ない。次こそ絶対に浜面のターン
さて、みなさん大好きあの人が出てきました。名前だけ。
まぁ出たからにはいずれどこかで登場してもらうか名前だけで終わるかは乞うご期待。
次回はアイテムメンバーの新たなる驚愕の事実が明らかにー(棒)

あとご報告。7月ちょっとくっそ忙しいんで投下のろくなります。
いや既にのろいんだけどまたまた申し訳ない。完結までまだまだ遠いかもしれんけど
よろしくです。

今更ながら独自設定のオンパレードすなぁ……ではでは
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<>sage<>2011/07/04(月) 06:55:25.50 ID:2er+Jl1No<> 乙乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県)<>sage<>2011/07/04(月) 07:59:04.34 ID:CjplrFaRo<> 乙
流石、ゲスいぜテレスさん、そこに全然憬れないww
木原姓でまともなのなゆたんぐらいだな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/04(月) 08:34:31.95 ID:jJsaFNvIO<> 乙です〜
いやいや、このクオリティで投下してくれるなら1ヶ月でも待ちますよ〜
次回も期待しております〜 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2011/07/04(月) 12:48:38.81 ID:/16jOHzq0<> 浜面はやくきてえええええええええええええ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<><>2011/07/06(水) 19:44:28.51 ID:hjh7DqNc0<> 乙
超期待です
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<><>2011/07/07(木) 17:40:01.49 ID:iQKqe6NI0<> 乙
期待してるってわけよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2011/07/08(金) 02:40:25.10 ID:InBAqH3AO<> 木原くンも絡んでくるのか……風呂敷がどんどん広がっていくな。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/16(土) 10:34:41.42 ID:tUODKxJ4o<> なぜ前スレが落ちたかはローカルルール読めば分かるんじゃないかな^^
つーか放置してても落ちずに永久保存してもらえるとでも思ってたの? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2011/07/19(火) 19:38:47.12 ID:FjBsYsQ6o<> 生きてるか>>1 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/07/20(水) 14:49:58.50 ID:h4d/4kvP0<> あげ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/20(水) 15:53:07.06 ID:8o9b7zCAO<> んな <> ◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/20(水) 20:58:49.03 ID:J9K1C0nz0<> >>530
一応残りも使うつもりだっだんだ……
完結してから依頼する!って書いてたから大丈夫かなーってちょっと安心してた。反省。

あ、生きてます生きてます。今日明日中には投下できますです。
今月は遅れに遅れて申し訳ない <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/20(水) 21:42:38.23 ID:9GvJlJFGo<> いえーい
舞ってた!! <>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/21(木) 01:23:36.91 ID:H86eYoA60<>


絹旗「木原……やはり、あな、たは――ッ」

   言葉はテレスティーナの軽く足を振る動作によって遮られる。
   一瞬、宙に浮く。体をくの字に曲がり、吐き出されたのは肺の中の酸素。

テレス「あぁ、血縁だよ。あの糞とは、なぁッ!!」

   サッカーボールを蹴るかのように女の足が振られ、再び、重い一撃。
   今度は一瞬などではなく宙に蹴り上げられ、そのまま床を何度も跳ねる。

フレンダ「きぬ、は……痛ッ!」

   吹き飛ばされたすぐそばには、倒れふすフレンダに、身動きの取れない滝壺。
   麦野も、立ち上がる様子が無い。自分も、動けそうにない。

テレス「く、はは」

テレス「笑えるねぇ、アイテム」

   そういったテレスティーナの視線はいつの間にか、フレンダ、滝壺、絹旗に向けられていた。
   3人を見て、女はさらに笑う。心の底から愉快そうに。

テレス「よくよく見たらどこかで覚えのある奴ばかりじゃねぇかぁっ!! アイテム!? モルモットの間違いじゃねぇの!!?」

    ぎゃははははははははは。そんな笑い声が、不愉快な音に混じって研究所内に木霊する。

テレス「『プロデュースの被験者』まで混じってやがる!! あっははははははは!!! 傑作だなぁおいおいおいおいおい
    暗部の掃除屋っつうからどんな奴らかと思ったら木原印の実験動物の集まりじゃねぇか。
    それに……あぁ、なるほど。最近の異変の原因はテメェか」

    テレスティーナが笑いをこらえながら、一歩、また一歩と滝壺の元へ歩み寄る。

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/21(木) 01:24:02.86 ID:H86eYoA60<>

滝壺「つ、あ……ぁ」

    音に支配権を奪われ、身動きのとれない滝壺の首をテレスティーナが乱雑に掴み上げた。
    いびつに歪む口元から吐き出される言葉は、この場にいる全員に向かって吐き出される呪いの様な言葉。

テレス「く、っはは……なぁ、学園都市が何の為に存在して、どうしてテメェらみたいなモルモットが生まれるか。
    その理由がテメェらに分かるか?」

    それは、学園都市の存在理由。この科学の街が生み出された根本的な目的。

テレス「神ならぬ身にて天上の意思に辿りつくもの」

テレス「『SYSTEM』この街の全ての研究の根底にあるのは全部これだ。未だ誰もが成し遂げてねぇ
    人の身にて神様の域まで到達する事。神と対等に張り合うような存在を造り出す事」

テレス「分かるか?テメェらみてぇなマウスも、この街の学生も、そこで転がっている超能力者も、
    丸ごとそいつのオマケでしかねぇわけだ……く、くく。かぁわいそうになぁ!!」

    テレスティーナの嘲笑が響き渡り、その言葉は這いつくばる三人に、かつて実験動物として
    扱われた少女達に突き刺さる。


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/21(木) 01:24:35.27 ID:H86eYoA60<>

滝壺「ち……が、う」

   掠れた声で、少女が呟いた。

テレス「……あぁ? なんか言ったか。糞ガキ」

   テレスティーナが、その腕に掴む少女に視線を向ける。
   黒髪を揺らしながら、息も絶え絶えに、それでも少女はテレスティーナに言葉を投げる。

滝壺「私、たちは……もう、モルモットなん、か、じゃ……ない」

テレス「…………くっは、」

   ぎゃははははははははははははははははははははははッ!!

テレス「わかってねぇのかなぁ!? テメエらはこの街にいる限りどこまでいっても実験動物なんだよ!」

テレス「何なら今からそれを証明していってやろうか? テメェら程の素材なら、
    どこの研究機関も……まぁ解剖しちまうくらいの興味は湧くんじゃねえの?」

   その言葉に、『アイテム』の少女達が震える。それは、戻るという事だ。アイテムになる前の、モルモットに。

   そして少女達が感じた恐怖を、テレスティーナは敏感に嗅ぎ分ける。



<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/21(木) 01:25:11.82 ID:H86eYoA60<>
テレス「決まりだ、テメェらはここで詰んだんだよ」
 
テレス「侵入した4人ともが能力者だったつうのがお前らの運の付きだ。アイテム」

   テレスティーナが笑う。彼女の頭の中には既に様々な算段が立っていた。
   超能力者という極上のサンプルに、様々な実験の果てに作り出された能力者達、
   解析すれば暇をつぶす程度にはなるだろうし、その中にはテレスティーナが諦めていた物事に対しての一筋の光明もある。

テレス「あははははははははッ!!」

   しかし、テレスティーナは知らない。

   この施設に入り込んだ侵入者が、合計で6人だと言う事実を。

   その中に、キャパシティダウンの影響を受け付けない無能力者がいるという事を。

   少女達を見下し笑うこの女は知らない。

   そして、
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/21(木) 01:25:44.82 ID:H86eYoA60<>

――――――――



浜面「クソッ!! どこだ!?どこだよッ!?」

   カタカタカタカタとキーボードが音を立て、それにあわせ目の前に設置されているモニターに、
   いくつものウインドゥが表示され、意味の無い文章が流れていく。

浜面「違う……これじゃない……クソっ」

   ガンッ!と焦る苛立ちを拳に乗せ、机にぶつける。

浜面「ちくしょう……!!どうやったら止められるんだ」



   キィィィィィィィィィィィィィィィン



   今も施設中に鳴り響いているこの音。浜面もよく知る音。キャパシティダウン。
   能力者を完全に無力化してしまう音響装置。

   この音が鳴り続けているという事はどういう事か、そんなのは考えなくても分かる。

滝壺『あ、あぁぁあぁ!』

絹旗『滝壺さん――ッ!!』

   目の前のモニターには既にその答えが映し出されているのだから。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/21(木) 01:26:22.15 ID:H86eYoA60<>
テレス『ぎゃはははははッ。頓挫した計画の変わりにテメェを使うってのもいいかもなぁ!!』

   今にも滝壺を手にかけようとする女の下品な笑いが、キャパシティダウンの音に混じりモニターから漏れる。
   
浜面「くっそが……!!」

   また、キーボードに手をおき、目を見張りながらデータを探す。
   これだけの規模の音響装置なら機械制御のはずだ。そしてここは中央管制室。
   全てのデータが纏められたこの部屋なら、鳴り響いているこの音をどうにか出来るかも知れないと、
   そう思った浜面の行動は早かった。キャパシティダウンが鳴り始めると同時にモニターに向かい
   必死に指を走らすが、

浜面「……ッ!!」

   無い。

浜面「どうする……どうするッ」

   目の前のモニターに映し出されたのは、横たわる麦野にフレンダ。もがく絹旗に滝壺。
   状況はどう見ても劣勢だ。

   なんとかしないと、このままでは、

浜面「…………」

   このままで、は――?

   このまま何も出来ずにいると、あの4人が死ぬ。

   いや、死ぬよりもっと酷い扱いを受けるかもしれない。

   だから――

浜面「…………」

   必死にこのうるさい音の対処法を探していた浜面の脳裏に、とある疑問と思考が走る。
   それは、本来ならば走るはずのない疑問。クズで臆病な自分が導きだした思考。

浜面「…………」





   助けるのか?

   駒場を殺したあの組織を?

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/21(木) 01:26:51.04 ID:H86eYoA60<>
   キーボードに走らせていた浜面の指が、止まる。
   思考は、止まらない。

   

   助ける必要なんて、あるのか?



浜面「そうだよ。俺が、助ける必要なんて……」

   頭の中で、声がささやく。

   お前がわざわざ助ける必要なんて、どこにある?
   麦野にされた事を思い出せよ。麦野がした事をよく考えろよ。


   アイツが誰を殺したのか、よく考えろよ。


浜面「…………」



   逃げ出してしまおうか?



浜面「……今、逃げたら」

   今逃げたら、助かるかもしれない。

   この闇から抜け出せるかもしれない。

   今なら、誰も見てない今なら――
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/21(木) 01:27:21.11 ID:H86eYoA60<>
絹旗『が、あ、ぁぁぁぁぁぁッ!!』

浜面「ッ――!!」

   そんな事を考えた浜面の思考に割り込んできたのは、少女の悲鳴。

   絹旗最愛の、叫び声。

   モニターに映る彼女は、テレスティーナに文字通り踏みにじられ、苦痛を漏らす。

テレス『だぁから、無駄だっつてんだろうがよ』

テレス『テメェらの糞みたいな人生も、ここで終わりだ』

浜面「…………」

   ここでおわり。そう言ったテレスティーナの言葉が、頭の中に響く。
   そう、終わりだ。浜面が何もしないとなると、絹旗は確実に終わる。そして、駒場を殺した麦野も、アイテムも。

浜面「ッ……う、ぅぅぅぅ!!」

   やり場のない感情を手元にあったキーボードにぶつけ、歯噛みする。
   浜面は揺れていた。ぐらぐらと落ち着きなく揺れる天秤のように。


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/21(木) 01:28:10.05 ID:H86eYoA60<>
   ここで麦野を助けるなんて選択は、あり得るはずない。アイツは奪ったんだ。
   浜面のいた日常を、残らずぶちこわして行った。

   ここで、死んだってしょうがないような奴じゃないか。
   自分が助ける必要なんて、ないじゃないか。見捨てるのが当然の相手だ。

   助けたって、折り合いなんてつく訳もない。何でもないように接する事なんて出来るはずない。



   けど、



   けど、どうしても揺れて、揺れて、投げかけられた言葉が浮かぶ。
   それはフレンダや滝壺、そして絹旗の、少女達の願い。




――――私の居場所は、あの3人がいるアイテムだけなんだからさ


――――みんなむぎのが好きで、口が悪くて、乱暴で、 理不尽で、暴れると手も付けられないけど、そんなむぎのが好きで、ここにいる


――――……友達なんです。死んで欲しくないんです



浜面「〜〜〜〜〜〜!!」

   その言葉が、浜面を迷わせる。

   逃げ出すなんて答えを出す事を、躊躇わせる。

   躊躇う時間なんて、あるはずないのに。

   そして、決断の時、浜面は


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/21(木) 01:28:59.95 ID:H86eYoA60<>

浜面「…………」

滝壺『ゔ……っああぁぁ』

テレス『あぁ、そういやさっきテメェおもしろい事いってたなぁ』

   響いたのは、下劣な声。

テレス『私たちはモルモットじゃない? く、はは何度聞いても笑っちまう。
    そうだなぁテメェらだけがモルモットじゃねぇ!!テメェらを含むこの街のガキ全員がモルモットだ!』

浜面「…………」

テレス『テメェら暗部もッ!!あのくそったれのスキルアウト共もなぁッ!!』

浜面「……が、う」

   絞り出したのは、声。

テレス『学園都市は実験動物の飼育場。テメェらガキは一人残らず家畜なんだよぉッ!!!』

   たたき出した答えは、






浜面「――違うッ!!!」



<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/21(木) 01:29:47.29 ID:H86eYoA60<>
   
テレス『……あぁ?』

   モニターの中で、テレスティーナが突如振ってきた否定の言葉に顔を歪める。
   どうやら先ほど殴りつけた衝撃で音声が繋がったらしい。そしてそれが、
   何を意味するのか、それを理解したテレスティーナの表情に焦りが生まれる。

テレス『ガキがもう一匹!? なぜ動け――』

浜面「スキルアウトも、そいつらもッ!! 俺たちはテメェのモルモットなんかじゃねぇッ!!!!」

   最中、脳裏に走ったのはなんて事のない思い出だ。どうしようもない自分を迎えてくれたスキルアウト、駒場利得。
   満足していた訳でもなく、満たされていたとは到底言い難かったけど、あそこは確かに自分の居場所だった。
   楽しかった。仲間がいて嬉しかった。まるで、あの少女達のように。

   こんな事、自分に言う資格があるのかは分からない。けど、

浜面「分かってるさ!麦野は駒場を殺したんだ!!納得なんてできるはずないし許せるはずもねぇ!!
   アイツは俺達の居場所だった奴を奪っていったんだ!!!」

   激情に任せ、言い放つ。本当にこれでよかったのかなんて、そんな自問自答はもう遅い。
   納得出来るのかなんて問いも、駒場がどう思うかなんて問いも、答えなんて見つからない。

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/21(木) 01:30:45.95 ID:H86eYoA60<>
浜面「けどな、だからって俺が――」



   しかし、分かりきっている事が一つだけある。



浜面「そいつらがやっと見つけた居場所を奪っていい理由になんて、ならねぇんだよッ!!!」



   もう、止まらない。浜面はその腕に力を込める。ボロボロの腕に力を込め、モニターに映るテレスティーナを見据えて



浜面「だから……立てよ、麦野」



   何も考えずに、   



浜面「立てエエエええええええええええええええええええええええええええええッッッ!!!!!!!」




   思いっきり、ぶち抜いた。



<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/21(木) 01:31:39.08 ID:H86eYoA60<> ――――――


天井に設置されたスピーカーから、何かが割れる激しい音が聞こえたその瞬間。

フレンダ「音が……!!」

滝壺「や、んだ?」

   施設中に木霊していた脳を狂わす音が止む。

テレス「な、な!?」

絹旗「――――ッ!!」

   そして、突然の事態にうろたえるテレスティーナのその隙を、絹旗は見逃さなかった。

テレス「な、あぁっぁぁぁぁ!!」

   能力を最大展開。全身に窒素膜を纏った絹旗の最初の行動は、滝壺の救出。
   同時に、嬲られた分とでも言わんばかりに重い一撃を叩き込み、吹き飛ばす!
   
滝壺「ケホッ……ゴホッ!!」

絹旗「滝壺さん、大丈夫ですか――ッ」

フレンダ「ちょ、絹旗も相当ダメージ負ってるってば!」

絹旗「フレンダこそ……肩の血、超すごいですよ」

   三人の少女が、苦痛に表情を歪めるも、音からの解放によって精神的な余裕を取り戻す。
   それほどにキャパシティダウンは少女達の脳を責めていた。

   しかし、それももう終わりだ。

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/21(木) 01:32:12.25 ID:H86eYoA60<>
テレス「ハ、ハハハ……」

   乾いた笑いが、ぽつりと浮かぶ。吹き飛ばされたテレスティーナが立ち上がりながらも浮かべた笑みに
   先ほどまでの余裕はない。

   全てが一変していた。

テレス「は、なんだこりゃあ、たっくよお、どういう事なんだよ、あぁぁぁぁッ!?」

   吠えるその姿に、もはや先ほどの勢いはない。

テレス「おい、なんだテメェら、あぁ? おい家畜の分際でよぉッ!!!」

テレス「おいおい。まさかこれで勝てるだなんて思ってねぇだろうな、手負いの分際で」

   額に焦りの汗を流し虚勢を張るその女に対し、絹旗は哀れに思う。そして、いまだ状況がどう一辺
   したかのか理解していない女に対し、少女三人は、   


   その場にどさっと座り込んだ。

テレス「……あぁ?」

滝壺「つかれた……痛い」

フレンダ「ひゃー、結局、ちょっと働きすぎっしょうちら」

絹旗「超這いつくばってただけじゃないですか……てことで、」





絹旗「ぶちのめせないのは惜しいですが、締めは超お譲りします。麦野」 <>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/21(木) 01:32:43.65 ID:H86eYoA60<>

テレス「――っ!!」

   その言葉と共に感じたのは、怖気。

   バッ!!と、後ろを振り返ったその瞬間に垣間見たものは、青白い、光。

   ドゴオォンッ!という音とともに残ったのは、極大の破壊の痕跡。
   抉れた床は煙を立て、火花を散らす。

   それはテレスティーナに向けられて放たれたものではなく、単なる八つ当たりだろう。
   まるで見当違いの方向に撃ち出されていた。

テレス「は、はは……」

   しかし、視線の先に立つ超能力者。麦野沈利の捕食者と同様の鋭い眼光は一直線にこちらに伸びており、

   その表情は――

麦野「――きぃぃぃはらぁぁぁぁぁ」

   まさに、悪鬼。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/21(木) 01:33:10.92 ID:H86eYoA60<>

   バチバチと青白い電子を纏わせ一歩、また一歩と麦野沈利が歩みを進める。

   今にも狂いだしそうな程の怒りに身を染め、目の前の女に放ったその言葉は、




麦野「ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ね」




   なんて事は無い、ただの死刑宣告。



<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/21(木) 01:33:50.21 ID:H86eYoA60<>

テレス「――――ッ!!」

テレス「…………」

テレス「……は、そうかい」

   くつくつとテレスティーナが俯きがちに笑う。

テレス「もういいわかった。わかったよ」

   一瞬、諦めともとれるような言動の後、テレスティーナがとった行動は、

テレス「テメェらみんな纏めて、この施設ごと吹き飛ばしてやるよぉッ!!!」

   レベル5との真っ向からの勝負。

   テレスティーナが駆動鎧に装備された機械仕掛けの重槍を構え、麦野に向ける。
   駆動音と共に重槍が先端から分解されていき姿を現したそれは――――

テレス「こいつは第三位の能力を解析して作ったもんだ。第三位、分かるかぁ?テメェより序列が上の
    超電磁砲より強力になぁ!!」

   バチバチィッ!!っと激しい音を立て、テレスティーナが構える疑似超電磁砲に紫電がまとわり、
   エネルギーとなって蓄積されて行く。

テレス「たかがモルモットが敵う道理なんてこれっぽちも存在しねぇんだよぉッ!!!」

   勝利を確信した女の高笑いが、響き渡る。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/21(木) 01:34:42.57 ID:H86eYoA60<> 麦野「…………」

   対する麦野は、静かに佇み、

麦野「はっ、分かってないわね」

   切って捨てる。

   そう、目の前で高らかに勝利宣言をしたこの女は能力の序列は研究利益の基準で決ま来るという事を失念している。

   それはつまり、決して能力の序列が勝敗を決めるものではないという事。

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/21(木) 01:36:09.31 ID:H86eYoA60<>

麦野「――ッ」
   
   エネルギーの余波が烈風となって施設中を駆け巡る。テレスティーナの構えた疑似超電磁砲には、
   既に凄まじいほどのエネルギーが蓄積されている。放たれてしまえば、施設の崩壊は免れないほどの。

テレス「原子崩し<メルトダウナー>レベル5。この街じゃてめぇなんざただのデータ。ぎゃあははは!!減らず口をたたくただのデータだぁ!!」

麦野「ったく。ぎゃーぎゃーうるせぇんだよ……まぁ、テメェの言う事も間違ってはねぇかもな――だけど、」

   麦野沈利の顔つきが変わったその瞬間、

麦野「どっかのクズが言った通り、私たちはモルモットじゃない」

   白く輝く電子線がループを描く。それは徐々に輝きを増し、強く、より強く

テレス「てめぇらは人間じゃねぇ。 ただのサンプルだ!!!  それが学園都市だぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」

   半狂乱になりながら女が叫び、その瞬間に音速の三倍の速度で電磁砲が射出される!!




麦野「『アイテム』を舐めるなよ。糞ババア」




   そして全く同時に放たれた極大の原子崩し放たれ、衝突。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/21(木) 01:37:07.49 ID:H86eYoA60<> 麦野「ぐッ!!」

   ぶつかり合ったエネルギーの塊が生み出した衝撃が部屋中のものを巻き込み、荒れ狂う。
   鋼鉄の床には余波によって亀裂が入り、疾風が顔に叩き付けられ、前が見えない。

   確かに、超電磁砲だと名乗るだけある。

   しかし、

テレス「な、押され――ッ」




麦野「あ、あああああぁぁぁあああぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!!!!」



   
   勝負は一瞬だった。

   最後まで立っていたのは誰かなんて、言うまでもなかった。 <>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/21(木) 01:38:27.20 ID:H86eYoA60<>
――――――――



麦野「ほら、いつまで座ってんの。さっさと目的のもん見つけて帰るわよ」

   パンパン!と手を叩く少女のかけ声によって、腰を下ろしていた少女達が各々立ち上がる。

フレンダ「う〜、結局。大苦戦しちゃった訳よ」

滝壺「ボロボロだね……」

絹旗「はぁ、何にしても滝壺さんが超無事でよかったですよ」

麦野「あー、そういや浜面。アイツどうしてやろうかしら」

フレンダ「結局今回はアイツのおかげで助かったんだよねー。ホント、途中までいる事忘れてたわ」

絹旗「途中まで超一緒にいたのはあなたでしょう……」

フレンダ「え? あ、そうだ聞いてよ絹旗! さっき麦野が突然映画のパロディネタ挟んできてさー」

絹旗「ほう」

滝壺「……はまづら、すごい事言ってたね」

フレンダ「え? あー、あれね。いやいやー、結局、あれって根っこはいい人な訳よね」

絹旗「私はそんなの超知ってました」

麦野「は? アイツなんか言ってたの?なんか煽られたのはぼんやり覚えてるんだけど」

絹旗「あー……」

フレンダ「んー……」

麦野「あーなんか思い出したらむかついてきた」
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/21(木) 01:39:21.35 ID:H86eYoA60<> 滝壺「はまづらに、何かしてあげる?」

麦野「冗談。つうか留守番釣つったのに滝壺連れ出しやがって。何考えてんのかしらあの馬鹿。お仕置き確定ね」

絹旗「……それはフレンダのせいじゃ」

フレンダ「えっ!?」

麦野「フレンダーちょっとこっち来なさい」

フレンダ「ひゃ、ひゃあああああああ!!!」


   4人の少女達の姿がそこにあった。

   一際スレンダーな少女を中心に笑い合う少女達の姿が

フレンダ「あ、ちょ、ま、むぎ、っそこらめっ!!  あふぅん!」

   また、楽しげな笑いが起こる。

   それは、例えるならば嵐の前の何とやらだ。

   これから先、自身になにが待ち受けているのかを、彼女達はまだ知らない。

   それは修復しようのない悲劇か、救い様のない惨劇か、はたまた――

   今でさえその嵐は、既に限りなく静かに彼女達の元に迫っている。



   今日、この日。彼女達『アイテム』によるMAR襲撃戦はこうして幕を閉じた。


   この日が、彼女達『アイテム』の4人が共に笑いあえる最後の日となった。


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/21(木) 01:47:07.43 ID:H86eYoA60<> むぎのんが怒った理由は木原さんにブスって言われたからです。
というわけでここまで。どうも遅くなってしまって申し訳ない。
長らく書く暇がなかったんで一気に書いたんだけどテンポと設定ミスしてないかびくびく

ちょっと中だるみしちゃったかなMAR襲撃戦。なげーよって感じたら申し訳ないです。次回から気をつける


さて、次回からは日常編。たぶんこのSSの中では最後の日常編になると思います。
全然姿を現さないあの人もようやっと登場しますし、前スレでの重要な伏線や謎も回収されます。
まぁ、日常編という名前だけですね。この時点で物語は1/3消化しました。残り2/3
長くなると思いますがよろしくお願いします。ではでは <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/07/21(木) 08:42:06.68 ID:rWP/rAgU0<> おつおつ

全然姿を現さないあの人ってもしかしてあの人!?ってミサカはミサカはry <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/21(木) 08:51:51.28 ID:F0oFg/gjo<> おおお、あと三分の二もあるなんて!
これからもがんばれ

>>1はキャパシティダウンの使い方がうまいな
無能力者をジョーカーにしてしまう反面、使いどころが難しいギミック
本編じゃ美琴が引っかかり過ぎて萎えたりしました

そしてあの人
あの人っていったらあのひとだよな?
舞ってる
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(岡山県)<>sage<>2011/07/21(木) 09:24:11.34 ID:58EjjZyK0<> 遂に奴が姿を現すのか。

この量の三倍をこなすって言うのか応援してる。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2011/07/21(木) 11:43:29.80 ID:lOaZvSAAO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/21(木) 13:34:34.38 ID:xmnJO/Ry0<> 乙です <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)<>sage<>2011/07/21(木) 14:05:19.35 ID:FQpVc+kAO<> おつ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)<>sage<>2011/07/21(木) 14:39:19.11 ID:iM3+xe4jo<> 乙、続き楽しみにして待ってる。
浜面はちょっと前向きになれたのかな? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/07/21(木) 16:24:36.05 ID:aRICJC2q0<> テレスさん、物理学上無敵である原子崩しに真っ向から挑むなんて研究者としてどうなんだろうな
レールガンじゃあ力の量じゃなくて質的に無理なのに

……バ可愛いな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/21(木) 20:21:33.54 ID:WpvzICbQ0<> アイテムのメンバーはみんな可愛いな
浜面は爆ぜろ <>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/21(木) 23:36:40.37 ID:H86eYoA60<>




・路地裏





<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/21(木) 23:38:31.76 ID:H86eYoA60<>

     衛星の監視や太陽の光が届かない暗闇の世界。
     落ちぶれた不良や徒党を組むスキルアウトらが蔓延るそこは閉塞感を感じる狭苦しい路地裏。

     そんな路地裏の真ん中で、少年は立ち止まっていた。

    「…………」

     理由は、なんて事はない。視界に邪魔なモノがうじゃうじゃと群がっていたから。

     通路を遮るゴロツキ共は人数に余裕を感じているのか、うっすらと笑みを浮かべ、
     その手に掴む鉄パイプや長物を地に擦り付け、じわじわと距離を詰めてくる。
     自分を囲む様に背後にもいるのだろう、人数は、数えるのも馬鹿らしくなるような大所帯。
     それでも普段よりはかなり少ないほうだ。

     少年はめんどくさそうに溜め息をつく。

     目の前にいたゴロツキが――おそらくリーダー格なのだろう。
     ゆっくりと、そして勢いよく大地を踏み抜いた。触発されたのか、後ろに控えていた不良達も、後に続く。

    「はァ……」

     少年はまたも溜め息をつき、そしてゆっくり瞳を閉じる。

     最後に視界に映ったのは、鉄パイプを振りかぶりながら自身の通り名を叫ぶゴロツキ。

    「一方通行ぁぁぁぁぁぁあッ――――――――」

     それも、瞳を閉じた瞬間には聞こえなくなった。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/21(木) 23:42:23.04 ID:H86eYoA60<>
――――――――

     数分ほどそうしていただろうか、ゆっくりと目を開けると、ソコには見慣れた惨劇が広がっていた。
     いずれもどこかの骨を折り、地べたに這いつくばるゴロツキ共を見下し、
     少年――学園都市序列一位の超能力者。一方通行は鼻で笑う。

     うめき声や悲鳴、恐怖に震える声がそこらかしこから浮かび上がっては消えて行く。
     再び歩き出そうとした一方通行の進路を邪魔したのは、痛みと恐怖に顔をぐしゃぐしゃにしたゴロツキのリーダー格。

一方通行「さァて、どンな死に方がご希望だァ?」

    「ひ、ひぃぃぃぃッ!!」

一方通行「オイオイ、絡ンで来たのはてめェらじゃねェか」

     必死に後ずさり、悪魔のような少年から距離を置こうとするゴロツキを、一方通行は笑いながら追いつめる。
     ゴロツキの背が、壁にぶつかる。逃げ場はもうないし、一方通行を阻むものも何もない。

    「は、はは……」

     ゴロツキの顔が引きつる。心が死の恐怖に埋めつくされて行くのを、肌で感じた。

     ドゴォォン!!! と、顔のすぐそばの位置でコンクリートが砕け散る。
     一方通行の足が顔をかすめ、コンクリートの壁を蹴り抜いたのだと理解した時、股間の辺りが生暖かくなって行くのを感じた。

     悪鬼のような笑みを浮かべ、少年が嘲る。

一方通行「何か言い残した事はあるか? 遺言ぐらいなら聞いてやンよォ」

    「は、だ……め」
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/21(木) 23:43:46.84 ID:H86eYoA60<>
     自分ですら理解できない言葉が唇から漏れていく。なぜまだ意識があるのかそれ自体を恨めしく思うほどに、
     ゴロツキの心は恐怖に支配されていった。そして恐怖の果てに、言葉が漏れる。  

    「た、助けて……」

一方通行「……あァ?」

    「し、死にたくないぃぃぃ……ッ!!」

     大声で命乞い。無様に情けなくわめき散らす。

一方通行「ハッ……」

     気付けば、くつくつと一方通行が笑っていた。

一方通行「それが言えンならあの人形共よりはてめェらの方が何倍もマシだ」

    「だ、だれか!! た、たすけ……っ人殺し!!!」

一方通行「おいおい、勘違いしてンじゃねェよ。俺が誰を殺したって言うンですかァ?」

一方通行「あァ……まァ命乞いすらしねェクソみたいな人形共なら、毎日ぶっ殺してるか。
     それでもテメェらみたいな『人間』に手かけた事なンざ一度もねェよ」


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/21(木) 23:44:40.19 ID:H86eYoA60<>
     くつくつと、一方通行は小さく笑う。

     何がおかしいのか、ゴロツキには分からない。
     言葉の意味も、分からない。
     しかし、一筋の希望がゴロツキの胸中に芽生えた。

     もしかしたら助かるかもしれないなんて、そんな希望が。

     そしてそれは、現実のものとなる。

一方通行「安心しろよ、殺しはしねェ。俺は何も人殺しや殺人鬼なンかじゃねェンだ。
     どンなクズだろうが生かして帰してやる」

     限りなく絶望に近い現実に。

一方通行「ただし、五体満足でいられるなンて思ってると――痛みで死ンじまうかもなァァァァァァァッ!!!!!!!」

    「ひ、ひゃ、ぎゃああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

     


     狭苦しい路地裏で何十人もの泣き叫ぶ声が途切れる事なく響き渡った。

     悲鳴が止み終わった後に満足に動けた者は、誰もいなかった。


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/21(木) 23:46:11.14 ID:H86eYoA60<> ――――――――


一方通行「あー、無駄な時間喰っちまった」

     そう呟いて、少年は改めて歩き出す。

一方通行「…………」

     ふと振り返るとソコにあったのは瓦礫に血にまみれたゴミに、もはや救いようのない惨劇。

     閉塞感が漂うただの路地裏だったソコは、凄惨なる地獄絵図と化していた。
     この類いの出来事が何度目か、数えるのは既に辞めていた。
     間違いないのは、全て自分の力でねじ伏せ、壊してきたという事だけだ。

     壊す事しか出来ない自分の能力にはお似合いの結果。

     だからいつも通り、一方通行は笑う――はずだった。

一方通行「…………」

     脳裏を駆けるのは、あってはならない疑問の言葉。

     壊す事でしか自分の道を歩んで来れなかった少年の僅かな疑問。

一方通行「…………」





     もしかしたら、こんな道を歩まなくてもよかったのかもしれない。なんて、そんな疑問。


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/21(木) 23:47:09.52 ID:H86eYoA60<>
一方通行「…………」

     きっかけは、数日前。あの雨の日の夜。ゴミの様に沈んでいた、死にかけのスキルアウト。

     ほんの少し、生き延びさせる為に使用した、自らの超能力。

     はじめて壊す事以外の可能性を見せた、自分の力。

一方通行「……ハッ、馬鹿らしい」

     しかし、一方通行はそれを斬って捨てる。その可能性を否定する。

一方通行「そうさ、今更それがなンになるってンだ」

     そもそも、あの行いは自分の意思ではないし、あのボロクズが生きているのかも自分は知らない。

一方通行「そうさ、俺はなンの為に面倒な事して進んでンだ。絶対的な力を手に入れる為だろォが」






     ――本当に?




<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/21(木) 23:48:10.58 ID:H86eYoA60<> 一方通行「……そうさ。人形をぷちぷち壊して行きゃ無敵になれンだ。楽なもンだろォが」

     そうして最強の果てに行き着けば、何かが変わるはずだ。

一方通行「……そうさ、立ち止まる訳にはいかねェンだ」

     だから、少年は歩きだす。

     いつからか、進むうちに彼を阻むものはいなくなった。
     少年は進んで行く。その名に相応しく、たった一人で突き進む。

     その道は自由で、誰にも邪魔されず、何も背負う事なく、浮いてしまうかのように身が軽い。
     一方通行にとってそれは最高の環境のはずだった。自分でだって、そう思う。

一方通行「クソッタレ」

     なのにこうして吐いてしまう言葉は悪態ばかりだ。
     
     ――それでも。 <>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/21(木) 23:48:40.50 ID:H86eYoA60<>




    「現在時刻は16時59分です」

                
    


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/21(木) 23:49:33.51 ID:H86eYoA60<>
    唐突に背後から投げかけられたのは、そんな言葉だった。


一方通行「あァ……出迎えご苦労ォさン」


     真直ぐに結ばれていた一方通行の唇が邪悪に裂ける。
     三日月の様な笑みを浮かべた少年の後ろに立つのは、一人の少女。


一方通行「ぎゃはっ、毎日毎日飽きねェもンだよなァ、ちったァなンか考えたりしねェのかよ
     テメェもあの路地裏通ってきたンなら見たンじゃねェの?」


    「第10030次実験開始まであと25秒です。
     被験者一方通行は所定の位置に着いて待機してください。とミサカは伝令します」


一方通行「チッ……調子が狂う。やっぱ駄目だな。人形ってェのはよォ。ちょっとはオリジナルみてェに
     感情的になったり――あァ、感情が無いから人形なンだったか。
     ハッ、あの雨の日の件でテメェらになンか期待しちまった俺がバカみてェじゃねェか」


一方通行「――あァ、そうだ」
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/21(木) 23:50:11.88 ID:H86eYoA60<> 一方通行「なンか言い残した事はあるか?」


    「17時になりました……これより第10030次実験を開始します」













一方通行「オーケィ、スクラップ決定だ。さっさと死ンじまえ。出来損ないの乱造品」
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/21(木) 23:55:47.90 ID:H86eYoA60<> ここまで。世間はテストですね。こっちもすこし遅れそうですがあしからず。
というわけで舞台裏的なあれで一方さん回でした。
神裂戦後の浜面の謎が少し明らかになりましたね。でも回想にすら出てこない神裂……

>>566
ちょっとは張り合えたほうが熱いじゃないか。
という事でお願いします……ほらノリでいこう。

次回からも日常パート。ちょっとの間続きます。ではでは。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/22(金) 00:04:32.15 ID:2dw3xLVyo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福井県)<>sage<>2011/07/22(金) 01:26:56.17 ID:54Y12gLTo<> 乙ー
まだ10030次か。原作より美琴が壊れてるんだなぁ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<><>2011/07/22(金) 08:27:49.14 ID:U2Gex8VAO<> おつーいきなり一方さんでてきてわろた。

ここのミサカって何号なのか明言されてたっけ?もし10032号じゃないならアイテム共に死亡フラグな予感がするぜ…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/07/24(日) 15:16:09.44 ID:YyKxdmps0<> 原作より浜面がかっこいい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/07/24(日) 15:17:08.75 ID:YyKxdmps0<> 原作より浜面がかっこいい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/07/24(日) 15:17:34.37 ID:YyKxdmps0<> 原作より浜面がかっこいい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/07/24(日) 15:18:02.45 ID:YyKxdmps0<> 原作より浜面がかっこいい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/24(日) 15:23:08.13 ID:dwpdW9QDO<> 連投するほどかっこよく感じたのか…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/24(日) 15:24:18.39 ID:F3nLS9Iuo<> 大事なことだけど、さ
更新キターとテンション上げまくった俺のトキメキを返してくれ

1乙
楽しみにしてる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/24(日) 17:30:46.83 ID:Ibl5iw7X0<> 一方さんやっときたぁぁぁ!
やっぱり神裂戦後の浜面助けたのは一方さんだったんだな

後は上条さんとインデックスだけか……いつ登場するんだろ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/24(日) 19:53:15.70 ID:mOr8YiI+0<> 乙ー
次回も楽しみにしてる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/24(日) 22:22:45.31 ID:L0RacYyz0<> 浜面がかっこいいのは認める
だが爆ぜろ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/07/26(火) 19:28:19.06 ID:tJtkghau0<> >>1
生きてるか〜生存報告がそろそろほしい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/26(火) 19:48:09.86 ID:sUoEcadIO<> おまいは1週間も待てないのか心配性なのかどっちなんだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(愛知県)<>sage<>2011/07/26(火) 21:08:53.98 ID:VHnN5/upo<> たぶん違う時間を生きてる人なんだよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>sage<>2011/07/26(火) 22:32:17.71 ID:Xt6yjEXAO<> 未来から来たのか。今ストーリーがどこまで進んでるのか教えてくれ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/26(火) 22:55:59.86 ID:MxbrgrkWo<> 俺の時間軸では14巻まできたとこ
どうやら上条さんがラスボス、あと一方さんがデレて、美琴に天使の羽、そしてサイボーグ駒場 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/27(水) 11:51:30.17 ID:Rj6cXd7wo<> それ違うすれwwwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/07/30(土) 19:46:24.23 ID:+NIZG8t40<> >>1待ってる <>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/31(日) 22:21:25.85 ID:wSsXNLKt0<>




・猫




<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/31(日) 22:22:10.44 ID:wSsXNLKt0<> 結局、答えとしては、浜面は目の前の少女達を見捨てる事が出来なかった。

それが、駒場を殺した女を助ける事になるとは分かっていても、それでも、あの女を中心としてでしか成り立たない居場所を、
自分たちとよく似た少女達が失ってもいいなんて思えなかったから。

出した結論は、答えは、そんなもの。

浜面は浜面自身の考えで立ち位置を選び、駒場の死の根幹にいた人物に一矢報いた。

しかし、事実は変わらない。

浜面があの時、少女たちを見捨てて逃げ出そうとした、思考した事実は変わらない。

逃げだした先に待つナニかが怖くて少女達の方へ天秤が傾いたという事実も、きっと変わらない。

あぁ、どうして自分はこんなにクズなんだろう。と、そんな事を考える。

何かが違う。何かが変わった。しかし、それが何なのかが分からない。

すっぽりと、大事な何かが抜け落ちた。

「インデックス……」

それは、まるであの少女のように。



<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/31(日) 22:23:53.20 ID:wSsXNLKt0<>
――――――――


麦野「…………」

絹旗「…………」

フレンダ「…………」

滝壷「…………」

  「にゃー」

   隠れ家らしい。その豪奢なホテルの一室。4人の少女達が醸し出す空気は重く、
   淀んでいた。いや、他の3人はその雰囲気に呑まれてるだけだろう。

   ソファに深く腰掛け、全身から不機嫌かつ不穏なオーラが滲み出ているのは
   言わずもがな、麦野沈利。

麦野「チッ」

   舌打ち。カツ、カツという靴が床を叩く音と共に聞こえた小さなそれは
   空気の重さを加速させる。こんな時では真っ先に船を漕いでいそうな滝壺でさえ、
   他三人と同じく緊張で肩を縮めているという事は、この状況はそれほどの事らしい。

   足下に擦り寄る猫以外は、誰も言葉を吐き出さず。微動だにせず、
   嵐のようなそれを過ぎ去って行くのを願うが、端からそれを見ている浜面にさえ、
   それがとてつもなく大型な台風のようなものだというのが見て取れた。




<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/31(日) 22:25:01.27 ID:wSsXNLKt0<>

絹旗「…………」

フレンダ「…………」

滝壷「…………」

   ホテルの一室だというのに、戦場であるかのような緊張感を強いられどれ程経っただろう。

絹旗「……すいません麦野。少し、超外に出てきます」

   切り出したのは、絹旗。

麦野「あぁ?……あぁ、そう」

   別段、引き止める理由もないのだろう。
   目を細め絹旗を一瞥するも、麦野からはそれ以上の言葉はない。

フレンダ「…………」

滝壷「…………」

   他二名はなにやら物言いたそうに絹旗を見ているが。

絹旗「携帯も買わなければいけないので……浜面。運転は超よろしくおねがいします」

浜面「ん、あぁ……」

   突然振られ、考えもせずに言葉を返す。
   やや早歩きの絹旗について行き猫と共にその部屋を出る際、
   やはり後ろの二人の視線が突き刺さったような気がした。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/31(日) 22:26:19.80 ID:wSsXNLKt0<>



浜面「なぁ、いいのかよ」

  「にゃー?」

絹旗「浜面はあんなギスギスした空間に超何時間も居座りたいバカなんですか?」

   時刻は夕刻。太陽は傾き、あと何時間かしたら夜が訪れるだろう、そんな時間。
   やけに人通りが少ない学園都市の大通りを浜面と絹旗と、名無しの猫が並んで歩く。
   運転と言ったのは口実のようで、必要ではないらしい。

絹旗「あの様子じゃ麦野の機嫌も当分は超悪いままでしょうし、ね」

浜面「……そうだな」

   あれじゃ八つ当たりで殺されかねない。それ程今の麦野沈利は荒ぶっていた。
   当然と言えば当然だろう。なんせ、



浜面「あの襲撃戦が、まんま無駄足だったって言うんだからなぁ」



絹旗「……えぇ」
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/31(日) 22:27:15.76 ID:wSsXNLKt0<>


   アイテムとしては予想外の苦戦を強いられたMAR襲撃戦は、麦野沈利の勝利によって幕を閉じた。

   しかし、本来の目的を思い出して欲しい。アイテムの本来の目的。
   なぜ自分たちがMARに向かったのか、その理由。

絹旗「本当に、何が目的で持ち出されたんでしょうかね」

   体晶のファーストサンプル。麦野達が求めたそれは、事が全て終わった頃には
   何者かによって施設から持ち出された後だった。
   いつの時点で持ち出されていたのかは不明だが、おそらくは麦野達がテレスティーナと戦っていた前後。

   侵入者、テレスティーナにとっての予想外が浜面なら、アイテムにとっての予想外はその侵入者だろう。

   常盤台の第3位。御坂美琴。忍び込んでいたもう一人の超能力者によって
   持ち出されていた体晶のファーストサンプル。目的は分からないが、その後の麦野の荒れっぷりは
   言うまでもないだろう。あそこまでボロボロにされて収穫が無いとなると仕方の無いような気もするが。

浜面「侵入者、か」

絹旗「考えても超仕方の無い事ですよ。それより浜面、さっさと……あ」
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/31(日) 22:27:50.63 ID:wSsXNLKt0<>

   ふと、絹旗が立ち止まる。道路を挟んだ視線の先にはなんとも人の出入りが少なそうな寂れた映画館。
   あぁ、なんだか隣のちびっこの目が年相応にキラキラしてる。

浜面「ってぇ!! おい携帯買いに行くんじゃないのかよ!!」

  「にゃー」

絹旗「パ、パンフレット見るだけですよ!!」

   ふらふら〜と、絹旗と猫が引き寄せられるかのように道路を横断。人もまばらなそこは車も通る事無く、
   浜面も絹旗の後ろに付き映画館のなかに入る。

浜面「っつても見事に人の気配しねぇな。廃墟じゃねぇのか」

絹旗「大通りに廃墟なんてある訳ないでしょう。珍しく誰もいませんが、いつもはもう少し人がいますよ」

   お前とかか。とは言葉には出さず、辺りを見渡す。
   上映予定表に載せられている映画のタイトルはどれも際物ばかりだ。

浜面「忍者vsエイリアン。サイボーグヤクザ。一撃必殺ワンパンマン……地雷臭しかしねぇな」

絹旗「その中から真に超面白い映画と出逢うのがC級映画巡りの醍醐味です」

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/31(日) 22:29:24.18 ID:wSsXNLKt0<>

   ふうんと適当に相づちを打ち、きょろきょろと楽しそう視線をあちらこちらと向ける絹旗を尻目に、
   浜面も目についたパンフレットを手に取る。どうやらファンタジーものらしい

   とある少年が少女と出会い、困難に見舞われるその少女を少年が助けていくという、
   かいつまめばそれはどこにでもあるようなありきたりなストーリー。

浜面「へー、普通そうなのもあるじゃねぇか」

   開いたそのページに写っているのは傷だらけの青年。主人公、なのだろう。
   少女を必死に助けようと駆け出しているその姿はどこからどう見てもヒーローだった。

浜面「…………」

   数日前、自分もこんな風に必死に駆け出していたのだろうか。
   半蔵や駒場からは自分はこんな風に映っていたのだろうか。

浜面「…………」

   とてもそうとは思えなかった。少なくとも、今の情けない自分では何をしてもこんな風に映らないだろう。

   ペラッと、ページを捲る。そこにはやはり傷だらけの主人公に、迎え撃っているのは少女。
   どうやら助けたい少女は敵に回ったらしい。ネタバレにも程がある。
   少女を敵として倒すのか、救うのか、そこでストーリーの説明は終わっていた。
   どう考えてもクライマックス。話の9割を解説するのはやりすぎだ。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/31(日) 22:30:27.58 ID:wSsXNLKt0<>

浜面「監督はビバリー=シースルー……聞いた事ねぇ。つうか際物揃いの中結構普通の構成だな」

絹旗「まぁそういうのが案外超当たりだったりするんですけどね」

浜面「……この主人公、最後はちゃんとヒロインを助けられんのか」

絹旗「大衆向けの映画じゃありませんし。
   もしかしたら主人公が死んで超バッドエンド。かもしれませんよ」

   見ていきますか?と言う絹旗の問いに、少しだけ迷う。

   目の前に映るヒーロー。一人の少女を助けようとしている彼の物語は、
   どういう結末を迎えるのか、少し気になった。

   自分が迎えた結末は、救いはしたがグッドともバッドとも言えないような、限りなく中途半端で、
   結局はいまも逃げているだけだから。

浜面「いや、いいよ」

   そういって、パンフレットを元の棚に戻す。

   にゃー、と肩に乗りかかってきた猫が鳴いた。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/31(日) 22:31:08.68 ID:wSsXNLKt0<>

浜面「そういや、お前と初めて会ったのも映画館だっけ」

絹旗「あー、そういえばそうでしたね」

   暇つぶしに映画を見ていて、隣に座っていた絹旗がうるさく騒いでるチンピラに
   絡まれていたのを追い払ったのがきっかけ、だった気がする。

浜面「そんで、第一声が『これつまんねー』だったか?」

絹旗「そういう浜面はちょっとうるうるきてましたよね。今でも神経を超疑いますよ」

浜面「うっせ」

浜面「そんで激論交わして行くうちにお前が面白い映画見せてやるっつって俺を引っ張って、」

絹旗「超面白かったでしょう!」

浜面「二人同時に誰もいない映画館でつまんねーって叫んだだろうが!」

   思えば、事あるごとにつきまとわれるようになったのはあの頃からだろうか。

浜面「あの頃は、」

   あの頃は、こんな事になるなんて思いもしなかったけど

絹旗「…………」


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/31(日) 22:31:49.44 ID:wSsXNLKt0<>
   まだ浜面にとって絹旗は常盤台のお嬢様で、普通に年相応の女の子で、
   でもそこにはフレンダの言葉の通りの重い過去があって、

浜面「……悪かったな」

絹旗「……何がですか?」

浜面「ファミレスとかでさ。俺、お前の事何も知らなかったのに」

絹旗「…………」

絹旗「いいんですよ。別に、親はいませんけど、友人ならもういますから」

浜面「ん……」

絹旗「どうしてもって言うんなら、約束超守ってくださいよ。浜面」

浜面「約束?」

絹旗「前に言ったでしょう? 次の映画を一緒に見て、超奢ってください」

浜面「……あー、そういやそんな約束したな」

絹旗「まぁ、超一段落ついたらですけどね」

   そろそろ行きましょう。そういって大量のパンフレットを腕に抱え、
   何とも締まらない姿で、年相応の少女の顔で絹旗は笑った。




<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/31(日) 22:33:00.91 ID:wSsXNLKt0<>
――――――



絹旗「浜面は新しい携帯、買わないんですか?」

   新機種が並ぶ棚から目を逸らし、不思議そうに絹旗最愛がそう訪ねた。

浜面「んぁ? なんでだよ。俺のはちゃんとあるじゃねぇか」

絹旗「おや、昨日会った時に超吹き飛んだとか言ってませんでしたっけ?」

浜面「昨日……?」

絹旗「えっ……」

   まさか忘れたのかコイツ、というようなじとーっとした視線を絹旗が向けてきた。
   昨日、昨日、白い靄がかかったような記憶をゆっくりと辿って行く。いつそんな事言ったか?

絹旗「昨日スーパーで超会ったでしょう。若年性健忘症ですか?」

浜面「あ、あー会ったなそういや」

   確か、そう。会った気がする。

絹旗「まぁあの時はお互い超虚ろでしたし。責めはしませんが」

   それでもどこか拗ねた様に絹旗が再び新しい携帯を選び、
   浜面は店の外に残してきた猫の様子を小刻みに確かめ、手持ち無沙汰に店内を回る。



<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/31(日) 22:33:21.72 ID:wSsXNLKt0<>

絹旗「浜面ーこれ、あげます」

   数分たった頃だろうか、言葉と共に絹旗の手から何かが放り投げられた。

浜面「お、っと。何これ、ネックレス?」

   手に巻き付いたのは、かわいらしい猫のマスコットが取り付けられた
   ネックレス。対象年齢は3歳くらいか。

浜面「なんだよこれ」

絹旗「今新規契約のキャンペーンで配ってるそうです。
   釣り餌にしては超お粗末ですけど」

浜面「……つけとけば?」

絹旗「超ぶっ飛ばしますよ?」

   C級映画以外はとことん興味が無いらしい。
   だからと言って俺に寄越すな。とも言えず、とりあえずそれをポケットに突っ込む。
 
   絹旗と言えば、機種を選んだのはいいものの、設定にはもう少しかかるらしい。
   カウンターに座りあーだこーだと文句をつけていた。




<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/31(日) 22:34:14.20 ID:wSsXNLKt0<>

浜面「…………」

   ぼんやりとした時間を過ごす。ガラス越しに見える太陽は沈みかけ、
   時計の針はそろそろ17時を刺そうとしていた。

   まだ時間がかかりそうな絹旗を待ち、外に出る。夏の温い風が頬を撫で、熱が体を包み込んだ。

   大通りに面した店だというのに、辺りには人っ子一人いず、微かなデジャヴを感じるが、
   それを完全下校時刻の近いせいだと切り捨てる。

  「みゃー」

   どこからともなく猫が駆けて来た。名前のない猫。その後ろに立つのは人の影。

   なんだ、人いるじゃねぇか。と安心し、その人物が顔見知りだった事に気付き、少し驚く。

   額にひっかけられた軍用ゴーグルが、夕暮れの光に照らされ赤く光った。

   声をかけてきたのは、向こうから。




  「ご無事だったのですね。とミサカはこの子猫の飼い主が生きていた事を確認でき内心安堵します」




   ミサカ

   御坂美琴の妹が、そこに立っていた。





<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/07/31(日) 22:40:34.55 ID:wSsXNLKt0<> まぁこんなところで。くっそ重いな今日。

なかなか筆が乗らずなんだか申し訳ない。さて久方ぶりにミサカさん登場。
日常編らしい日常編はもう無いです。多分。中編はこっからジェットコースター展開ばかりなのでお楽しみに。
リアルタイム投下も沢山したいなーとか思いつつ。
前スレでは猫のキャンペーンの伏線なんて無駄なものも書いてた……活かせないうえに地味すぎる。

ではでは。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/31(日) 22:46:36.74 ID:3eGXN/jho<> 待ってたぜ!
このタイミングで妹とは……!
絹旗の二重の意味での戦慄は果たして!

次も楽しみです <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/07/31(日) 23:07:11.01 ID:XFThbbHWo<> まさかここでワンパンマンを目にするとは
乙です <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福井県)<>sage<>2011/07/31(日) 23:53:12.14 ID:UtkybJqYo<> 乙だぜェ
御坂妹といえばあの人だけど、浜面じゃあ絶対に勝てないしな。
どういう話になるのか楽しみにしてます! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福井県)<>sage<>2011/07/31(日) 23:53:51.44 ID:UtkybJqYo<> 乙だぜェ
御坂妹といえばあの人だけど、浜面じゃあ絶対に勝てないしな。
どういう話になるのか楽しみにしてます! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2011/08/01(月) 06:05:21.14 ID:jM4ZYo9AO<> とかいわれつつなんだかんだで神裂やペンデックスも倒したからなぁ。ここの浜面ならもしかするともしかするかもしれん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/01(月) 21:00:40.16 ID:HuaVNXn/0<> 来てたー!!
次回も楽しみにしてる、乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/08/02(火) 23:16:16.85 ID:m+mwleu50<> しかしそうなると、
浜面は命の恩人を敵に回すことになるのか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/04(木) 20:33:11.30 ID:/0KRaOoDO<> >>620
その伏線をどう活かすのか楽しみだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<>sage<>2011/08/06(土) 21:58:49.41 ID:SZibqFSJ0<> いちおつなんだよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/09(火) 17:59:33.90 ID:iP+pm7tu0<> 待ってる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/08/14(日) 00:39:29.12 ID:uJDXy1qL0<> 持ってる <> 生存報告 ◆v2TDmACLlM<>sage<>2011/08/15(月) 07:05:51.43 ID:mrg/XkrAO<> 今週中にはなんとか……なんとか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/16(火) 00:12:41.24 ID:M6iNUHDu0<> 待ってるよ!! <> ◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/17(水) 12:30:20.44 ID:a77ASdoN0<>
浜面仕上が神裂火織の手によって死の寸前まで追いやられたのは、ほんの数日前の話だ。

炎に焼かれ、刃に貫かれ、まさにそこは死の淵だった。
薄暗い路地裏でボロ雑巾の様に倒れた自分が最後に目にしたのは赤く、ぬるい水たまり。

そして、その死に行く浜面を拾い上げたのは――

浜面「よう、なんかの帰りか?」

ミサカ「その問いに正確に答える事は出来ませんが、強いて言うなら逆です。
    今から行くところですよ。とミサカは答えます」

一人の少女。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/17(水) 12:30:54.28 ID:a77ASdoN0<>

並ぶ浜面とミサカの間に、みゃー、という猫の鳴き声が割り込んだ。

すぐさま反応したのはミサカの方で、その場にしゃがみ込み、

ミサカ「…………」

浜面「……どうしたんだ?」

ミサカ「猫が震えています」

見ると、ミサカの足下で縮こまる猫は何かにおびえる様に震えている。

ミサカ「ミサカの体からは特殊な磁場が形成されていて動物に触れる事が出来ません」

浜面「いいじゃねぇか。そのままさわっちまえよ」

ミサカ「しかし……」

浜面「いいって。もともと世話してたのお前じゃねーか」

   「みゃー?」

おそるおそる、ミサカが手を伸ばす。
びくっと体を縮めた猫はしかしその場から逃げ出しはせず、ミサカの手のひらに体をゆだねている。

ミサカ「元気でしたか?と、ミサカは子猫に訪ねます」

「みゃー」
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/17(水) 12:31:56.43 ID:a77ASdoN0<> ミサカ「……いぬも元気そうで何よりです。
    とミサカは手に触れるいぬの柔らかさに癒されます」

にへら〜、とミサカが笑みを浮かべる。余程猫に触れられる事が嬉しいらしい。

浜面「というか、名前は本当にいぬでいいのかよ」

ミサカ「当然です。とミサカはあなたの言葉に若干の憤りを感じます。
    それともあなたはスフィンクスという壊滅的な名前の方がよろしいのですか?」

浜面「あぁ、いや……どっちもどっちっつうか」

なんだかすごい剣幕(表情はあまり変わらないが)で捲し立てられた。
名付け合戦は終わらず、お陰でミサカの撫でる猫は未だに正式な呼び名がないままだ。

浜面「あー、そうだ。んなに猫が好きならよ」

と言って、首を傾げるミサカの目の前で取り出したのは先ほど絹旗から受け取った猫のマスコットが取り付けられた首飾り。
このまま持っていてもどこかに投げ捨てられて埃を被るのが目に見えているそれをしゃがむミサカの首にかける。

浜面「ん、こんなもんだろ」

ミサカの胸の辺りでぶらぶらと猫のマスコットが揺れる。
心なしかそのマスコットはミサカが今手に触れている猫と似ているような気がして、みゃーとちいさな鳴き声が聞こえた。

そして当のミサカはぼんやりとそれを見つめ、

ミサカ「いやいやこれはねーよ」

浜面「ぐッ……! いや確かにガキっぽいとは思ったが……」
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/17(水) 12:32:38.78 ID:a77ASdoN0<>


ミサカ「まぁこれは既にミサカの所有物ですので手放しはしませんが、
    とミサカは首飾りに向かって手を伸ばそうとするあなたに釘を刺します」

猫のマスコットを物珍しそうに眺める様子を見ると、なんだかんだで嬉しいらしい。
まぁこのまま誰も使わず捨てられるよりはマシな選択だろう。

ミサカ「……プレゼントをもらうのは、これで二度目です」

浜面「プレゼントって……そんな大したもんでもないだろ」

ミサカ「ええ、そうですね」

浜面「あのな……」

ミサカ「それでも、ミサカが受け取った事には変わりありませんから。
    とミサカはお姉様に頂いた缶バッチを思い出します」

お姉様。

浜面「……御坂美琴、か。超能力者がプレゼントする缶バッチってのも想像つかねぇな。
   見てみてぇよ。純金製かなんかか?」

ミサカ「頂いたのはミサカですが、ミサカ自身が受け取った訳ではないので見せる事は叶いません」

浜面「なんだそりゃ」

ミサカ「ただのがちゃがちゃの景品ですよ。とミサカはなんて事無い真実を告げます」

ふうんと呟く浜面に対し、ミサカがどこか寂しそうな表情を作る。

ミサカ「それに、あれはもう――」

浜面「ん……?」

風が強く吹いて、そこからの言葉は聞こえなかった。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/17(水) 12:33:19.00 ID:a77ASdoN0<>
ミサカ「……17時ですね。とミサカは遠くに聞こえてくる完全下校時刻の知らせを耳に呟きます」

浜面「あぁ、そういやどこかにいくんだったか。大丈夫なのか?」

ええ、と答えるミサカは未だに猫をなで回している。店内の様子を見ると、絹旗もまだ出てくる様子はない。
会話が途切れ軽い沈黙が続く中、会話を振ってきたのはミサカ。内容は、

ミサカ「あのシスターは元気ですか。とミサカは訪ねます」

浜面「…………」

今の浜面にとって一番避けていたい話題だった。

浜面「あぁ、今は……元気だよ。多分、」

要領の得ない噛み砕いたかの様な返事に、ミサカが首を傾げる。

浜面「ん、いや……そういや数日前、助けてくれたんだってな」

ミサカ「……えぇ、助かるかは分かりませんでしたが。
    とミサカはあれが大きな賭け事であった事を伝えます」

数日前。

暗い路地裏でボロクズの様に倒れていた死にかけの少年を、ミサカは思い出す。


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/17(水) 12:34:14.84 ID:a77ASdoN0<>

ミサカ「あなたの部屋にはナニか特別な代物でも置いてあるのですか?とミサカは訪ねます」

浜面「特別な物?」

と言われ、振り返る。心当たりは……キャパシティダウンくらいだろうか。

ミサカ「ミサカは発電系の能力者なので電波や電磁波を敏感に感じとる事が出来ます。
    今も、ですがあなたの部屋からは恒常的に特殊な形で形成された電磁場のような物が
    放出されています。とミサカは告げます」

あなたを運び込む際の特徴敵な目印になりました。と呟くミサカの言葉を聞くも、心当たりはやはり無い。
そう告げるも、その事自体にはあまり関心は無いらしい。そうですか、と呟きミサカはゆっくりと立ち上がった。

   「にゃー?」

ミサカ「ミサカはそろそろ……あぁ、最後にもう一つ、とミサカは質問を投げかけます」

ミサカ「あのシスターはまだこの子の事をスフィンクスと呼んでいるのですか?」

浜面「……そうだな」
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/17(水) 12:34:47.51 ID:a77ASdoN0<>
ミサカ「そういう事ならば、あのシスターともいつかは決着はつけなくてはいけませんね。
    とミサカはこの子猫の正式な命名権を獲得する事を誓います」

ふんすっと鼻息を荒くするあたり、やはりいぬという名前は譲れないらしい。
そのうちこの猫もいぬかスフィンクスかで呼ばれる機会が近いかもしれない。

浜面「…………」

いや、そんな日はくるかどうか。

ミサカ「では」

胸の辺りで猫のマスコットが揺れる。
簡単な挨拶を済まし、ミサカは大通りを歩いて行った。

絹旗「浜面ー、超お待たせしました」

ミサカの姿が見えなくなったのと、後ろからようやっと携帯を買い変えた絹旗が声をかけてきたのは同時だった。


そして、



  「こんな事してたって! 意味なんて無いじゃないですか!!」



そんな少女の悲痛そうな叫び声が聞こえてきたのも。

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/17(水) 12:35:22.10 ID:a77ASdoN0<>

絹旗「な、なんでしょう、超ケンカですか?」

突然の大声に一瞬だけ肩を振るわせた絹旗が、周囲を見回す。

声がしたのは、すぐそばにある路地裏の入り口。

  「ですが、わたくし達にはジャッジメントとしてやらなければならない事が――」

  「実際に被害が起きて! 私たちの身近な人が苦しんでるんですよ!? 
   どうしてそんなに冷静でいられるんですか!!」

そこで二人の少女が言い争っていた。
小柄な少女が、とてつもない剣幕でもう一人のツインテールの少女に掴み掛かっている。

その少女達が何なのかは、その腕につけている腕章を見れば一目で分かった。

風紀委員。学生で構成される治安維持組織。

あまり関わりたくは無い。
スキルアウトとしての行動が本来ならば浜面をその場から遠ざける要因になったのだろうが、

浜面「あの子……」

今回は違った。

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/17(水) 12:36:17.56 ID:a77ASdoN0<>

その少女には見覚えがあった。
ツインテールの、ミサカと同じ常盤台の制服を来ている少女とは別の、どこにでもいそうな中学生。

しかしその頭に咲いた花飾りは印象に残りやすい。

会話こそ無かったものの会ったのは昨日で、名前は確か、

初春「どうして白井さんは……ッ」

浜面「…………」

涙も浮かべた少女の目線が浜面を捉えた。何となく逸らす事が躊躇われ、浜面もその少女と視線を交わす。

初春「あなたは……昨日の」

その呟きに、ツインテールの少女がこちらを振り返った。

いかにも素行が悪く、ボロボロのその姿はツインテールの少女にはあまりいい印象は与えなかったらしい。
訝しみながらこちらを見て、

  「……えっ?」

次の瞬間、意外そうな顔をした。

その視線は浜面には向いておらず、少女が見ていたのは隣で気まずそうな笑みを浮かべる絹旗最愛。

絹旗「どうも……白井さん」

白井「たしか……絹旗さん、でよかったですの?」

絹旗最愛、浜面仕上。

初春飾利、白井黒子。

双方が双方しか知らない4人が向かい合うその場には、なんとも言えない妙な雰囲気が漂い始めていた。

<>
◆v2TDmACLlM<>sage<>2011/08/17(水) 12:39:46.65 ID:a77ASdoN0<> ごめんなさい1レス抜けてたから投下しなおさせてもらいます。ホントにすいません <> ◆v2TDmACLlM<>sage saga<>2011/08/17(水) 12:42:15.99 ID:a77ASdoN0<>
浜面仕上が神裂火織の手によって死の寸前まで追いやられたのは、ほんの数日前の話だ。

炎に焼かれ、刃に貫かれ、まさにそこは死の淵だった。
薄暗い路地裏でボロ雑巾の様に倒れた自分が最後に目にしたのは赤く、ぬるい水たまり。

そして、その死に行く浜面を拾い上げたのは――

浜面「よう、なんかの帰りか?」

ミサカ「その問いに正確に答える事は出来ませんが、強いて言うなら逆です。
    今から行くところですよ。とミサカは答えます」



一人の少女。



並ぶ浜面とミサカの間に、みゃー、という猫の鳴き声が割り込んだ。

すぐさま反応したのはミサカの方で、その場にしゃがみ込み、

ミサカ「…………」

浜面「……どうしたんだ?」

ミサカ「猫が震えています」

見ると、ミサカの足下で縮こまる猫は何かにおびえる様に震えている。

ミサカ「ミサカの体からは特殊な磁場が形成されていて動物に触れる事が出来ません」

浜面「いいじゃねぇか。そのままさわっちまえよ」

ミサカ「しかし……」

浜面「いいって。もともと世話してたのお前じゃねーか」

   「みゃー?」

おそるおそる、ミサカが手を伸ばす。
びくっと体を縮めた猫はしかしその場から逃げ出しはせず、ミサカの手のひらに体をゆだねている。

ミサカ「元気でしたか?と、ミサカは子猫に訪ねます」

   「みゃー」 <>
◆v2TDmACLlM<>sage saga<>2011/08/17(水) 12:43:51.76 ID:a77ASdoN0<>
ミサカ「……いぬも元気そうで何よりです。
    とミサカは手に触れるいぬの柔らかさに癒されます」

にへら〜、とミサカが笑みを浮かべる。余程猫に触れられる事が嬉しいらしい。

浜面「というか、名前は本当にいぬでいいのかよ」

ミサカ「当然です。とミサカはあなたの言葉に若干の憤りを感じます。
    それともあなたはスフィンクスという壊滅的な名前の方がよろしいのですか?」

浜面「あぁ、いや……どっちもどっちっつうか」

なんだかすごい剣幕(表情はあまり変わらないが)で捲し立てられた。
名付け合戦は終わらず、お陰でミサカの撫でる猫は未だに正式な呼び名がないままだ。

浜面「あー、そうだ。んなに猫が好きならよ」

と言って、首を傾げるミサカの目の前で取り出したのは先ほど絹旗から受け取った猫のマスコットが取り付けられた首飾り。
このまま持っていてもどこかに投げ捨てられて埃を被るのが目に見えているそれをしゃがむミサカの首にかける。

浜面「ん、こんなもんだろ」

ミサカの胸の辺りでぶらぶらと猫のマスコットが揺れる。
心なしかそのマスコットはミサカが今手に触れている猫と似ているような気がして、みゃーとちいさな鳴き声が聞こえた。

そして当のミサカはぼんやりとそれを見つめ、

ミサカ「いやいやこれはねーよ」

浜面「ぐッ……! いや確かにガキっぽいとは思ったが……」

ミサカ「まぁこれは既にミサカの所有物ですので手放しはしませんが、
    とミサカは首飾りに向かって手を伸ばそうとするあなたに釘を刺します」

猫のマスコットを物珍しそうに眺める様子を見ると、なんだかんだで嬉しいらしい。
まぁこのまま誰も使わず捨てられるよりはマシな選択だろう。

ミサカ「……プレゼントをもらうのは、これで二度目です」

浜面「プレゼントって……そんな大したもんでもないだろ」

ミサカ「ええ、そうですね」

浜面「あのな……」

ミサカ「それでも、ミサカが受け取った事には変わりありませんから。
    とミサカはお姉様に頂いた缶バッチを思い出します」

お姉様。

浜面「……御坂美琴、か。超能力者がプレゼントする缶バッチってのも想像つかねぇな。
   見てみてぇよ。純金製かなんかか?」

ミサカ「頂いたのはミサカですが、ミサカ自身が受け取った訳ではないので見せる事は叶いません」

浜面「なんだそりゃ」

ミサカ「ただのがちゃがちゃの景品ですよ。とミサカはなんて事無い真実を告げます」

ふうんと呟く浜面に対し、ミサカがどこか寂しそうな表情を作る。

ミサカ「それに、あれはもう――」

浜面「ん……?」

風が強く吹いて、そこからの言葉は聞こえなかった。 <>
◆v2TDmACLlM<>sage saga<>2011/08/17(水) 12:44:37.00 ID:a77ASdoN0<> ミサカ「……17時ですね。とミサカは遠くに聞こえてくる完全下校時刻の知らせを耳に呟きます」

浜面「あぁ、そういやどこかにいくんだったか。大丈夫なのか?」

ええ、と答えるミサカは未だに猫をなで回している。店内の様子を見ると、絹旗もまだ出てくる様子はない。
会話が途切れ軽い沈黙が続く中、会話を振ってきたのはミサカ。内容は、

ミサカ「あのシスターは元気ですか。とミサカは訪ねます」

浜面「…………」

今の浜面にとって一番避けていたい話題だった。

浜面「あぁ、今は……元気だよ。多分、」

要領の得ない噛み砕いたかの様な返事に、ミサカが首を傾げる。

浜面「ん、いや……そういや数日前、助けてくれたんだってな」

ミサカ「……えぇ、助かるかは分かりませんでしたが。
    とミサカはあれが大きな賭け事であった事を伝えます」

数日前。

暗い路地裏でボロクズの様に倒れていた死にかけの少年を、ミサカは思い出す。

<>
◆v2TDmACLlM<>sage saga<>2011/08/17(水) 12:45:15.34 ID:a77ASdoN0<>

ミサカ「…………」

放っておけば間違いなく死んでいたであろう少年を助ける為に何をしたのか、ミサカは思い出す。

ミサカ「…………」

本来介入してはいけない問題へ踏み込んでしまったのはなぜなのか、ミサカは考える。

ミサカ「…………」

   「みゃー?」

ミサカ「この猫の為です。とミサカは自分に言い聞かせます」

浜面「ん? 何か言ったか?」

ミサカ「いいえ……」

そういえば、と浜面を見上げたのはしゃがみ込むミサカ。
<>
◆v2TDmACLlM<>sage saga<>2011/08/17(水) 12:46:20.39 ID:a77ASdoN0<>
ミサカ「あなたの部屋にはナニか特別な代物でも置いてあるのですか?とミサカは訪ねます」

浜面「特別な物?」

と言われ、振り返る。心当たりは……キャパシティダウンくらいだろうか。

ミサカ「ミサカは発電系の能力者なので電波や電磁波を敏感に感じとる事が出来ます。
    今も、ですがあなたの部屋からは恒常的に特殊な形で形成された電磁場のような物が
    放出されています。とミサカは告げます」

あなたを運び込む際の特徴敵な目印になりました。と呟くミサカの言葉を聞くも、心当たりはやはり無い。
そう告げるも、その事自体にはあまり関心は無いらしい。そうですか、と呟きミサカはゆっくりと立ち上がった。

   「にゃー?」

ミサカ「ミサカはそろそろ……あぁ、最後にもう一つ、とミサカは質問を投げかけます」

ミサカ「あのシスターはまだこの子の事をスフィンクスと呼んでいるのですか?」

浜面「……そうだな」

ミサカ「そういう事ならば、あのシスターともいつかは決着はつけなくてはいけませんね。
    とミサカはこの子猫の正式な命名権を獲得する事を誓います」

ふんすっと鼻息を荒くするあたり、やはりいぬという名前は譲れないらしい。
そのうちこの猫もいぬかスフィンクスかで呼ばれる機会が近いかもしれない。

浜面「…………」

いや、そんな日はくるかどうか。

ミサカ「では」

胸の辺りで猫のマスコットが揺れる。
簡単な挨拶を済まし、ミサカは大通りを歩いて行った。

絹旗「浜面ー、超お待たせしました」

ミサカの姿が見えなくなったのと、後ろからようやっと携帯を買い変えた絹旗が声をかけてきたのは同時だった。


そして、



  「こんな事してたって! 意味なんて無いじゃないですか!!」



そんな少女の悲痛そうな叫び声が聞こえてきたのも。
<>
◆v2TDmACLlM<>sage saga<>2011/08/17(水) 12:47:34.79 ID:a77ASdoN0<>
絹旗「な、なんでしょう、超ケンカですか?」

突然の大声に一瞬だけ肩を振るわせた絹旗が、周囲を見回す。

声がしたのは、すぐそばにある路地裏の入り口。

  「ですが、わたくし達にはジャッジメントとしてやらなければならない事が――」

  「実際に被害が起きて! 私たちの身近な人が苦しんでるんですよ!? 
   どうしてそんなに冷静でいられるんですか!!」

そこで二人の少女が言い争っていた。
小柄な少女が、とてつもない剣幕でもう一人のツインテールの少女に掴み掛かっている。

その少女達が何なのかは、その腕につけている腕章を見れば一目で分かった。

風紀委員。学生で構成される治安維持組織。

あまり関わりたくは無い。
スキルアウトとしての行動が本来ならば浜面をその場から遠ざける要因になったのだろうが、

浜面「あの子……」




今回は違った。



その少女には見覚えがあった。
ツインテールの、ミサカと同じ常盤台の制服を来ている少女とは別の、どこにでもいそうな中学生。

しかしその頭に咲いた花飾りは印象に残りやすい。

会話こそ無かったものの会ったのは昨日で、名前は確か、

初春「どうして白井さんは……ッ」

浜面「…………」

涙も浮かべた少女の目線が浜面を捉えた。何となく逸らす事が躊躇われ、浜面もその少女と視線を交わす。

初春「あなたは……昨日の」

その呟きに、ツインテールの少女がこちらを振り返った。

いかにも素行が悪く、ボロボロのその姿はツインテールの少女にはあまりいい印象は与えなかったらしい。
訝しみながらこちらを見て、

  「……えっ?」

次の瞬間、意外そうな顔をした。

その視線は浜面には向いておらず、少女が見ていたのは隣で気まずそうな笑みを浮かべる絹旗最愛。

絹旗「どうも……白井さん」

白井「たしか……絹旗さん、でよかったですの?」

絹旗最愛、浜面仕上。

初春飾利、白井黒子。

双方が双方しか知らない4人が向かい合うその場には、なんとも言えない妙な雰囲気が漂い始めていた。
<>
◆v2TDmACLlM<>sage saga<>2011/08/17(水) 12:55:01.37 ID:a77ASdoN0<> ここまで。アホなミスして申し訳ない。書き込んだと思ったら書き込めてなかった……
あとだいぶ間空いてしまって申し訳ない。次は2週間空くような事はないっす。

今気付いたら文前の空白も忘れてた……あー、でもこれ読みにくいとかあれば意見待ってます。


とりあえず次はこの四人で回ります。佐天さんとみこっちゃんの運命やいかに。

ではでは <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(岡山県)<>sage<>2011/08/17(水) 13:11:51.13 ID:Q8FKRqUK0<> 作者よ、乙である。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/17(水) 13:14:59.37 ID:L215EqsA0<> うむ、苦しゅうない、乙であるぞよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2011/08/17(水) 13:29:39.99 ID:jneH0Bt/o<> 乙でござりまするぞ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県)<>sage<>2011/08/17(水) 13:42:35.04 ID:nXLR2pfRo<> まことに乙でござる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/17(水) 14:42:04.09 ID:SfvaOKbHo<> 乙でおじゃる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)<>sage<>2011/08/17(水) 19:29:36.01 ID:Mp0TnPFto<> 乙。ミカサ編楽しみにしてます。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/08/17(水) 23:43:14.43 ID:Zs49XQU00<> ageられてなくて始め気づかんかった
人間関係がどんどん絡まっていくのが期待を膨らませやがる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<><>2011/08/17(水) 23:59:15.84 ID:ZyqksegAO<> なんか知らんがスレ番狂ってんのが悪い。あげとく。

着実に幻想御手ルートと一方通行ルートに向かってるな。どうなる浜面。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(群馬県)<>sage<>2011/08/18(木) 00:01:59.26 ID:RjWImf2Po<> 浜面が木原神拳を習得すれば確実に上条さんや木原くンよりは身体能力は高いだろうからな
勝てる気はする
それが無理でもキャパシティダウン使えばなんとかなるんじゃないのかな? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)<>sage<>2011/08/18(木) 00:17:11.13 ID:lWwqpqa5o<> 木原くンは格闘技のほうも一流だぞ <> ◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/19(金) 03:50:21.40 ID:RkSE6OiU0<>
初春「あ、あのッ!」

と、一番に言葉を発したのは花飾りの少女だった。

初春「浜面さん……ですよね? 佐天さんから聞きました」

昨日はありがとうございました。と少女が頭を下げる。

佐天。佐天涙子。

その名を聞き、昨日ぶつかってきた少女が、かき氷を食べ活発に笑った少女が、
劣等感と自己嫌悪に苛まれた少女が頭に浮かぶ。

絹旗「浜面、知り合いですか?」

浜面「あぁ、昨日ちょっと……そっちの子は、お前の知り合いか?」

白井「白井黒子と申しますの。絹旗さんとはクラスメートですわ……まぁ」

あまり話した事はありませんが。と絹旗と白井がぼそりと呟く。
そもそも絹旗がまともに学校に通っていないというのも理由にあがるだろうが
クラスメートでもお互いの印象は薄いらしい。


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/19(金) 03:50:54.17 ID:RkSE6OiU0<>


白井「初春。こちらの方は?」

初春「昨日スキルアウトに追われる佐天さんを助けて頂いたらしくて……浜面さんです」

どこかむすっとした初春が少女にそう告げ、白井は軽く頭を下げる。
一連の動作はどこかぎこちなく、二人を包む雰囲気は険悪だった。

初春「あ、あの! 昨日、佐天さんにおかしな様子はありませんでしたか?」

浜面「えっ?」

初春「なんでもいいんです! なにかあれば教えてください……!!」

戸惑う浜面を尻目にツインテールの少女がはぁ、とため息を吐く。

白井「申し訳ございませんの……いま少しぴりぴりしておりまして」

絹旗「……なにかあったんですか?」

絹旗の問いに答えたのは花飾りの少女。

初春「佐天さんが……私の親友が倒れて、目を覚まさないんです」

その表情は必死さが滲み出ていて、どこか疲弊した様子だった。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/19(金) 03:51:22.32 ID:RkSE6OiU0<>

あの少女が倒れた。笑いながらインデックスに別れを告げたあの少女が。

浜面「なんで……」

理由の見つからないその出来事は、浜面にとってどこか現実味が湧いてこず、反射的にそう訪ねた。

初春「幻想御手……」

浜面「ッ!!」

言葉は、頭が殴られたかと思うほどの衝撃と共に浜面に降り掛かる。




初春「幻想御手の副作用で……佐天さんが目を覚まさないんです」




嗚咽を漏らしながらその言葉を振り絞った花飾りの少女は、今にも泣き出しそうだった。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/19(金) 03:52:21.65 ID:RkSE6OiU0<>

その名前を聞いた事は、あった。
ネット上の都市伝説になっているあるかないかも分からない正体不明の能力増幅装置。

浜面「幻想御手……副作用なんてどの掲示板でも聞いた事が」

初春「あるんです」

目の前の少女は言い切る。言い切った。

それは、本当に彼女の親友であるあの少女が倒れたという事で、
それは本当に幻想御手には人体に悪影響を及ぼす副作用があるという事で、

浜面「…………」

絹旗「浜面、どうかしましたか?」

浜面「……なん、でもねぇ」
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/19(金) 03:53:48.68 ID:RkSE6OiU0<>
絹旗「それにしても、幻想御手と言えば都市伝説で超有名なあれですか?
   存在したんですね」

白井「ええ、被害者も相当な数にのぼっている……はずですの」

はず。という曖昧な言葉に、絹旗が首を傾げる。

そんな絹旗をみて、あれをご覧なまし、と白井が指差したのは日の沈みかけた空。

それを見て、絹旗が小さな声をあげた。釣られて見た浜面は――

浜面「……!!」

思わず肩がびくりと震えた。

自分が一体何をしたのか。浜面は気にも留めていなかった。
それがどこにどのような利益と不利益をもたらすのか、
分かってはいたのに、今の今まで浜面はそれを忘れていた。

白井「……昨日、学園都市の警備情報中継点が何者かによって機能不全に追いやられましたの」

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/19(金) 03:54:24.04 ID:RkSE6OiU0<>
そこにあったのは何も映らないオブジェと化した飛行船。

白井「あれが止まってしまったおかげで、わたくし達は今そのままの意味で何も出来ません。
   えぇとても歯がゆいことに」

どことも連絡がとれず、情報が行き来せず、孤立無援。

今の風紀委員と警備員は実質壊滅状態と言っても違いは無い。と白井は言う。

浜面「…………」

冷たい汗が頬を伝う。

その原因を作ったのは自分で、引き金を引いたのも自分だった。

あの選択は確かに、浜面にとって正しい選択だったのかも知れない。

しかし、目の前のツインテールの少女はそのせいで悔しさに歯を噛み締めていた。

しかし、花飾りの少女は無力さに涙を流していた。

浜面「――ッ!!」

自分の起こした結果のしわ寄せに押しつぶされそうになりながらも、なんとかそこに踏みとどまる。



<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/19(金) 03:56:00.26 ID:RkSE6OiU0<>

白井「わたくし達はこの件を片付けて、早急に事件の解決に乗り出さなくては行けませんの。なんとしても」

決意を込める様に、風紀委員の腕章を撫でながら少女は言う。

しかし、

初春「違います」

もう一人の風紀委員の少女は、白井の言葉を否定する。

初春「私たちは今すぐ事件解決に乗り出さなきゃ行けないんです」

初春っ!! と、ツインテールの少女が、少女の肩を掴み振り向かせた。

白井「さっきも言ったではありませんの初春!! 本来風紀を正すべき私たちが勝手な真似を、」

初春「〜〜!! じゃあ白井さんは!! 佐天さんが助からなくてもいいって言うんですか!?」

少女は叫び返しながら掴まれた肩を思いきり振り払う。

白井「そうは言ってませんの! 私達はまず私達のやるべき事を――」

初春「いつ終わるか分からない路地裏のゴミ掃除なんかして佐天さんが起きるんですか!?
   幻想御手で眠った人たちが目を覚ますんですか!?
   こんなことしなくたって、私たちが他に出来る事だってあるかもしれないじゃないですか!!!」

白井「――ッ!!」



初春「こんなことしてて、本当に行方不明の御坂さんが見つかるんですか!? 見つかる訳ないじゃないですか!!!」



白井「初春ッ!!」

初春「ッ……!!」

その少女の叫びと共に、場は静寂に包まれる。
息を荒くした花飾りの少女は、本当に余裕が無いのだろう。
唇を噛み締め、泣きそうなほどに顔をくしゃくしゃに歪ませ、白井を押しのけて路地裏の奥へ駆けていった。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/19(金) 03:56:36.94 ID:RkSE6OiU0<>

静まり返ったその空間に流れたのは、ひたすらに気まずい雰囲気。
白井がぽつりと言葉を吐き出す。

白井「……見苦しいところを見せて申し訳ございませんの」

浜面「あぁ……いや」

白井のその謝罪に、浜面はうまく言葉を返す事が出来ない。
少女は知らないだろうが、この惨事の原因を作ったのは自分なのだ。
何喰わぬ顔で言葉を返せる訳が無かった。

絹旗「あの……」

代わりに白井に言葉を投げたのは、絹旗。
それは先ほどの言い争いの最中に聞こえた、一つのキーワード。

絹旗「御坂さん……行方不明なんですか?」

超能力者、常盤台の超電磁砲。

未だ確証は無いが、MARの研究所に侵入し体晶のファーストサンプルを持ち去ったアイテムにとっての最重要人物。

白井「いえ、まぁお姉様の放浪癖はいつもの事なのですが、なにぶん昼頃に突然いなくなられたものでして……」

ついさっき。と言えば語弊があるが、それは今日の昼頃。ふらっと御坂美琴は白井黒子の前から姿を消した。
常に取れていた連絡も取れなくなり、何よりも気になったのは――

白井(あのお姉様は、明らかに様子がおかしかった)
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/19(金) 03:57:40.81 ID:RkSE6OiU0<>

常に共にいた彼女だからこそ感じ取れた明らかな異常。
そして、常に共にいたにも関わらずああなるまで気付けなかった異常。

白井「…………」

白井の胸中に宿ったのは漠然とした不安だった。
このまま、もう彼女には会えないかもしれないという、そんな不安。

白井「……っ」

頭を振って、そんな不安を振り払う。

白井「とにかく、心配ないとは思いますがもしよければ街で見かけた際には
   わたくしに一報いれてくれるとうれしいのですけれど……」

絹旗「……ええ、わかりました。超任せてください」

白井「あぁ、それと……貴女、たまには学校に来ないと進級できませんわよ?」

う、と絹旗の顔が若干引きつる。

絹旗「……あ、ははは」

絹旗「そ、それより白井さんは心当たりないんですか? 御坂さんが超行きそうな場所とか」

昼頃突然いなくなった。目の前の御坂美琴のルームメイトはそう言った。
その時間帯は自分たちが研究所を襲撃していた時刻とはっきり合致する。

絹旗(これは超確定ですかね)
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/19(金) 03:58:51.91 ID:RkSE6OiU0<>

白井「ん〜〜、いえ、わかりませんの。
   探したいのも山々ですが、わたくしもやらなければならない事が山積しておりまして……」

はぁ、と少女がため息を吐く。頭に浮かんだのは花飾りの少女。自分の相棒。

白井(あれも優秀なのですが、思い込んだら一直線になってしまうのがまだまだ半人前ですの……)

まぁ、それも仕方ないのかも知れない。被害にあったのは彼女の親友なのだ。
そんな所に直面して感情を押さえつけていられるほど、自分たちは大人でもない。

絹旗「せめて御坂さんの居場所を超知ってそうな人がいればいいんですけどね」

白井「そうですわね……」

常盤台の少女二人が腕を組む。一方は彼女の身を案じ、もう一方は彼女の居所を掴むために。

そんな二人を見て、浜面がぽつりと呟いたのは、単純にそうすればいいと思ったからだ。

むしろ、なぜ彼女の名前が挙がらないのか、浜面は心の片隅でずっと疑問に思っていた。訪ねたのは、だから



浜面「妹に聞けばいいじゃねぇか」



だから、ミサカという選択肢を二人に投げかけた。




<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/19(金) 03:59:50.89 ID:RkSE6OiU0<>
白井「……何を言ってるんですの?」

絹旗「浜面……」

その言葉を聞いた二人の少女の反応はどちらも同じ物だった。
ツインテールの少女は訝しむ目で浜面をみつめ、絹旗はあきれる様にはぁ、とため息をつく。

足下で、にゃー、と猫が鳴いて、不思議そうにこちらを見た。

浜面「……え? いや、だから妹に、っ」

体を這う様な違和感が浜面を襲う。今この場に少女と浜面の間で決定的な齟齬が発生していた。
言葉が詰まる。なんだ?自分は何を勘違いしている。

絹旗「あのですね、浜面。昨日会った時も超言ったじゃないですか」

忘れたんですか?と、絹旗があきれた様に首を振る。

浜面「…………」

頭を手で覆いぼんやりとした記憶を辿る。昨日は、そう。
佐天涙子という少女とぶつかり、初春という少女と知り合い、スーパーで絹旗に……

絹旗「携帯ショップでもなんだか超忘れていたみたいですが。もう一度言いましょうか?」

流石に心配したのか、そんな絹旗の声が浜面に投げかけられる。

そして、その言葉は、確かに昨日浜面自身が直接聞いた言葉だった。



絹旗『常盤台の超電磁砲に妹はいません』



浜面「――っ!!」
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/19(金) 04:01:17.25 ID:RkSE6OiU0<>
で、よかったんですよね。白井さん。

えぇ、そんな事私が知らないはずありませんし、お姉様にもちゃんと確認しましたの

  『妹なんて存在しませんわ』

浜面「…………」

胸を思い切り突き飛ばされたかのような衝撃だった。

ぐらりぐらりと世界が揺れ、一歩足が後ろに下がる。

少女達の声が遠くに聞こえる。そうだ、どうして忘れていたんだろう。
超電磁砲に妹はいない。その事実が頭の中からすっぽりと抜け落ちていた。

いや、違う。問題なのはそこじゃない

浜面「……じゃあ」

先ほどの光景がフラッシュバックする。

猫を撫で緩い笑みを浮かべたミサカ。

我が物顔で首飾りの所有権を主張したミサカ。

どこか寂しそうな表情を作ったミサカ

猫の所有権を得ると鼻息を荒くしたミサカ。

浜面「…………」


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/19(金) 04:01:44.50 ID:RkSE6OiU0<>




浜面「じゃあ、アイツはいったい誰なんだよ」





<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/19(金) 04:03:11.70 ID:RkSE6OiU0<>
幽霊な訳が無い。存在していない訳が無い。自分を助けてくれたのはミサカで、
立った今この場にいて、この場で話していたのは確かにミサカだった。

絹旗「……浜面?」

浜面「悪い絹旗。先に帰っててくれ」

浜面の足を動かしたのは、今も体に這う得体の知れない恐怖を
否定したいという思いだったのかも知れない。

絹旗「え、ちょ、浜面!?」

とにかく、浜面は走りだした。釣られたのか足下にいた猫も平行する様に隣を駆ける。

浜面「――はっ、はっ!!」

激しい動きに傷口が徐々に痛みを放つ。だが気にしてはいられなかった。
今は自分を包み込むかの様に広がっていく気味の悪さを払拭したい一心で浜面は走っていた。

走って――

浜面「――ッ!?」

止まった。

いや、違う。止まったのは、猫。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/19(金) 04:03:51.59 ID:RkSE6OiU0<>


浜面「……どうした?」

足下で、フルフルと猫が震える。
何かに怯える様にその二つの小さな目玉は暗い、暗い路地裏に向いていた。


ミサカ『ミサカの体からは特殊な磁場が形成されていて動物に触れる事が出来ません』


いるのか、この先に。

浜面「…………」

小さく鳴く猫を抱え、浜面は一歩を進む。

既に地平線に沈もうとしている夕日は建物の隙間に入り込まない。
そこは暗い闇。少し覗き込んだくらいでは何も見えず、だから浜面は一歩、更に踏み込む。

浜面「……っ!」

生温い風が、頬を撫でた

夏だと言うのに、それだけで周囲の温度が一気に落ち込んだような錯覚に捕われる。
これじゃタチの悪いホラー映画だ。さぞ絹旗が喜ぶ事だろう。

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/19(金) 04:04:49.80 ID:RkSE6OiU0<>
ゆっくりに進んでいるつもりなのに、自然と足が、それに釣られて鼓動も、息使いさえどんどん早くなる。
何を自分はこんなにも焦っているのか、自嘲の笑みを浮かべようとも、焦りは払拭されない。

浜面「ッ!?」

足が、何かを踏みつけた。
それは金属の筒のようなスキルアウトとして過ごしていたあの時代も頻繁に目にしていたもの

薬莢。

ぐるりと見渡すと、それはあちこちに散らばっていて、壁には鉄の杭でコンクリートを削ったような痕
一つや二つではない。それは明らかに何者かの戦闘の痕跡だった。

浜面「…………」

無意識に、声を出すのを押さえていた。足音も殺し、それでも奥へ進む。
一歩一歩踏み込む度に、空気が濁るような、そんな澱みが自分を包み込む気がした。

それでも浜面は進んで、進んだ先に見たのは、

浜面「……ミ、サカ?」

常盤台の制服、それを着た少女。

にゃー、と猫が小さく鳴いた。


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/19(金) 04:06:33.60 ID:RkSE6OiU0<>

なんだ、やっぱりミサカは存在していた。とどこか安心して、息をつく。

あの少女達がミサカの存在を否定した理由は分からないが、確かにミサカはこの世界に存在していて、
幽霊でもなんでもなく、生きていて――

浜面「……ミサカ?」

生きていて、

浜面「…………」

浜面が見たのは一人の少女だった。

浜面「……ミサカ?」

路地裏に倒れた一人の少女だった。

ここからだと足が見える。常盤台の制服から飛び出した二本の足。

上半身は闇に喰われてしまったかの様に見る事が出来ない。

浜面「…………」

だから、浜面は一歩進む。そうしてきた様に。見えない闇を裂くかの様に。

ふと、この鼻をつくような臭いは何だっただろうと、心のどこかで考える。
今日も同じ物をどこかで、そう……MAR研究所。あそこでも同じ臭いがしたのを浜面は覚えてる。

血の臭い。

だから、それはつまりそういうことで、

浜面「…………」

――そこに彼女はいた。

浜面「……なん、で」



ミサカは死体となって転がっていた。



そして、


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/19(金) 04:07:10.78 ID:RkSE6OiU0<>




  「vexing 今回も食い止める事は出来なかった」




<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/19(金) 04:08:21.71 ID:RkSE6OiU0<>

浜面「ッ!!?」

突然投げかけられたその言葉に、バッ、と後ろを振り返る。

薄暗い中に立っていたのは、年齢は自分と同じ程だろう、一人の少女。
夜の色と同じ、ウェーブのかかった髪が風に揺れ、その鋭い視線は浜面を射抜く。

浜面「な……」

あまりの出来事に思考が追い付かない。
さっきまで話していた人間の死体を前にして浜面は冷静にはいられなかった。

舌が回らない浜面を一目見て、少女は軽くため息をつく。
その表情はどこか悲しそうで、やるせなさそうで、

浜面「……なんなんだよ、アンタ」

コツコツとこちらに向かって歩みを進める少女に浜面がやっと言えたのは、そんな言葉。



  「布束砥信。覚えなくてもいいわ」



少女が答える。

そのぎょろりとした大きな目玉は、浜面を見てはいなかった。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/19(金) 04:18:51.93 ID:RkSE6OiU0<> 久しぶりの布束さん登場。区切り悪いかもしれないけど引きは良さげなんでこんなところでどうでしょう。
章としての残りはあまりないんで近いうちに投下します。

徐々に日常編もシリアスってきました。ただの前座なんですけどね。
さてこれから幻想御手編に入るのか、絶対能力シフト計画編に入るのかはお楽しみです。
ただし一方通行戦はしっかりやりまっせー。乞うご期待。

再構成もだんだんできてきたような気がします。
行き着く先はどうなるのやらーって感じですが、よければ最後までおつきあいください。

ではでは。


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/19(金) 05:12:21.31 ID:DEQaRPySO<> 続きが気になってしょうがないな

乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/19(金) 05:48:48.40 ID:QFyXpWqIO<> うおー!一方戦やるのか、胸熱!
原作での能力制限あり一方さんに手も足も出なかった浜面が全盛期一方さんにどう抗うのか超期待してます

そして空気ヒロインと化しつつあるインなんとかさんと元々空気の原作主人公の出番も密かに期待… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(沖縄県)<>sage<>2011/08/19(金) 07:32:55.33 ID:034hAJQbo<> 上条さんは空気の方が幸せだろ
たまには平穏無事に生きてもいいじゃん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2011/08/19(金) 07:47:15.64 ID:/fnTmD9AO<> 上条さんらしき人は何度か登場してるけどね。佐天さん助けたり、初春にぶつかったり

それ以外は欠片も出てこないけど <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福井県)<>sage<>2011/08/19(金) 09:59:00.22 ID:ORB0w8CKo<> いつも良い所で終わるなぁ。
乙です。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/19(金) 10:39:53.05 ID:YwXczfCAO<> マーベラス <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/19(金) 18:56:13.12 ID:aFUT4qmR0<> 乙!
上条さんは上条さんで忙しいんだろ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/08/19(金) 22:36:51.37 ID:AiKzhaps0<>  乙! うわあああ、続きが気になる〜!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/08/19(金) 22:37:32.90 ID:AiKzhaps0<>  乙! うわあああ、続きが気になる〜!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/08/19(金) 22:38:01.27 ID:AiKzhaps0<>  乙! うわあああ、続きが気になる〜!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県)<>sage<>2011/08/20(土) 15:33:52.10 ID:8d+xDMp60<> おいおい一方さんと戦うのか浜面。
続き待ってるぜ。 <>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/21(日) 17:28:44.73 ID:pbhkyG+30<>
浜面「……ッ」

歩む少女は身構える浜面を素通りし、無造作に倒れる死体へと向かう。
血と臓物が吐き散らかされたミサカの死体へ、ゆっくりと近づく。

布束「……っ」

もはやただの肉の塊となった少女の顔は、とても苦痛に歪んでいて、
だから布束はそっと少女の見開かれた瞼に手を置いた。

布束「least 死ぬ時ぐらいは目を閉じていなさい。
   この世界は、あなたが思うほどまぶしくないわ」

優しく、まるで母のように言葉をかけるそれは、彼女なりの優しさだったのかもしれない。

すっ、と少女が立ち上がる。ぎょろりと2つの目玉が、猫を抱え立ち尽くす少年に向いた。

布束「question あなたは、関係者かしら」

浜面「え、な……」

布束「違うようね」

対する浜面は訳もわからず、言葉の通り立ち尽くしているだけだった。
ミサカはちゃんと存在していて、しかし目の前にあるのは死体。

ミサカの、死体。

浜面「――――ッ」

胸の奥から焼けるような酸が込み上げるのを必死に押さえる。思考はまだ纏まらない。

なんだこれは。なんだこれは――

どうして先ほどまで猫を撫でながら笑っていたような少女が死んで、死ななければならない。そんな理由が見つからない。

浜面「なんなんだよこれ」
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/21(日) 17:29:22.69 ID:pbhkyG+30<>




  「妹達ですよ。とミサカは答えます」




<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/21(日) 17:29:53.66 ID:pbhkyG+30<>


浜面「――――ッ」

その答えは、意図せず返ってきた。小さく答えたのは、目の前に立つ布束という少女ではない。

布束「相変わらず、速いわね」

少女が見つめたその先は、暗い闇。日はもう沈んでしまって、そこに光は存在しない。

その闇の奥からコツコツと足音が聞こえた。
一人の足音ではない。複数の足音と共に、その少女は闇の中から姿を現す。

浜面「…………」

その少女は、足元で血を撒き散らしながら死んでいる少女と同じ顔をしていた。

同じ服を着ていた。

同じ背丈をしていた。

唯一違うのは、

  「にゃー?」

少女の胸のあたりで、ふらふらと猫のマスコットが揺れていた。

ミサカ「先ほど別れたばかりですが、こんばんわというのがこの場合は正しいのてしょう。
    とミサカは猫を抱えるあなたに呟きます」

浜面「ミサ……カ」

そこにいたのは、確かにミサカだった。先ほどまで自分と会話をしていた御坂美琴の妹。
いないものと認識されていた少女。ほっと安心する反面、しかしその光景は絶対的におかしかった。

浜面「なんだよ、その……後ろの奴ら」

ミサカの背後に群がる寸分狂わず同じ顔をした少女達は一体なんなのだ。

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/21(日) 17:30:50.95 ID:pbhkyG+30<>



  「ミサカはミサカですよと「ミサカは混乱したあなたに理解を「とにかくミサカは「無事で「事件性はありま「ん。とミサカは――




<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/21(日) 17:31:33.44 ID:pbhkyG+30<>
そんな風に、まるでリレーでもしているかの様に途切れる事無く声が降る。

足下に死体が、死体と同じ姿をした少女達に取り囲まれるという異常な世界に、震えながら呟いたのは一言。

浜面「お……前は、お前らは誰なんだよ」

ミサカ「学園都市に六人しか存在しない超能力者。
    お姉様の量産用軍事モデルとして作られた体細胞クローン――妹達ですよ。
    とミサカは先ほどと同じ様に答えます」

浜面「お前らは……なにをやってるんだよ」

ミサカ「ただの実験ですよ。本実験にあなたを巻き込んでしまった事には重ねて謝罪しましょう、
    とミサカは頭を下げます」

浜面「お前は……なんで……」

浜面「…………」

いつの間にか、何も言えなくなっていた。

目の前にいる少女はあまりにも違いすぎて、あまりにも遠すぎた。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/21(日) 17:32:13.30 ID:pbhkyG+30<>

――――


浜面は猫を抱えたまま路地の硬い壁に背を預け、座り込んでいた。

猫の鳴き声が暗い路地裏で小さく響いて、泡の様に消える。
先ほどからその繰り返しだった

浜面「…………」

沢山いたミサカ達は、いつの間にか姿を消していた。死体も、血の痕も、なにもかも。

そこには何も無かったかの様に、全てが全て消えていた。

  『超電磁砲に妹はいません』

絹旗と白井の言ったその言葉を思い出す。確かにそれは正しかったのだろう。
いたのは彼女の軍用クローンで、存在したのは学園都市が生んだ頭のネジが飛んでいるとしか思えないような現実だった。

布束「why まだいたの」

声が、頭上から投げかけられる。
力無さげに座り込む浜面の前に立つのは、布束と名乗った少女。

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/21(日) 17:33:36.87 ID:pbhkyG+30<>


布束「立つ気力もなくしたかしら?」

浜面「……今まで喋ってきた奴が何人もいて、それがクローンだってよ。映画みてぇな話だ」

布束「そうね、映画ならどれだけマシだったかしら」

そう言った少女の視線は、何も無いコンクリートの地面に向けられていた。
そこに先ほどまであった物を、浜面はまだ鮮明に覚えている。

浜面「なんなんだよ。実験って」

実験。沢山いたミサカの一人は、事も無さげにそう言った。
目の前に自分の死体が転がっているのに、まるでそれを実験動物でも見るかのように

布束「……これからもあなたの知らないところであの子達が死ぬ。ただそれだけの話よ」

浜面「……狂ってやがる」

布束「ええ。ただし、狂ってるのは私達」

浜面「…………」

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/21(日) 17:35:50.14 ID:pbhkyG+30<>

布束「あなたの目には、彼女達はどう映ってる?」

浜面「…………」

投げかけられた問いかけに即座に答える事は出来なかった。

作られた生命。生体クローン。実験動物、生物兵器。

彼女達を表す固有名詞は様々に存在するのだろう。

しかし、人として彼女達を『人間』という固有名詞で呼んでいいのか、浜面は分からなかった。
俺達は実験動物ではない。今日、浜面自身が叫んだ言葉だ。
じゃあ、実験動物として産み落とされたミサカ達は?

浜面「アイツらは、人間……なのか」

布束「彼女達は人間よ。少なくとも、私は彼女を造りものだなんて思えないわ」

ぽつりと吐き出されたその疑問に、少女はなんの迷いもなくそう答えた。
きっと、彼女にはそう思わせる何かがあったのだろう。浜面には、それは分からない。

しかし、
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/21(日) 17:37:17.98 ID:pbhkyG+30<>

  「にゃー?」

抱えた腕の中で、猫が鳴いた。
何も理解していなさそうな猫は、心地良さそうに鼻をすりつけてくる

浜面「…………」

生み出された存在、妹達。しかし、

猫に餌をやっていたあのミサカは、
必死に探したあのミサカは、
撫でて笑っていたあのミサカは、
どこか寂しそうな表情を見せたあのミサカは、

浜面「…………」

布束「実験は続くわ。あの娘達が一人残らず死ぬまでね」



知りたい? と少女は言う。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/21(日) 17:39:06.07 ID:pbhkyG+30<>
浜面「……何を」

布束「もし、あなたが彼女達を人として見れるのなら、教えてあげるわ。
   あの子達を救えるかもしれない手立てを」

どっちにしろ、見る事になるのは地獄だろうけど。
そういって少女は真直ぐに浜面を見下ろし、その細い腕を差し出した。

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/21(日) 17:42:20.12 ID:pbhkyG+30<>
浜面「――――っ」

思い出したのは、その瞬間。今と同じような出来事を、自分はどこかでしていた。その記憶が掘り返される。



  『なら私と一緒に地獄の底までついてきてくれる?』



浜面「…………」

あの時と、今が重なる。
手を伸ばせなかったあの時と手を差し出された今が重なった。



1年周期の死を課せられたインデックスと、気が遠くなるほどの死を課せられたミサカが重なった。



浜面「…………」

また繰り返すのかと、そう脳が警告する。
あまりの拒否感に体が震えた。植え付いた惨めな記憶が甦る。

次は何のために人を助けるんだ?
今度はミサカを出汁に使うのか?
誰を見返したい?
せっかく抜け出した地獄にお前はまた戻るのか?

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/21(日) 17:53:53.67 ID:pbhkyG+30<>

浜面「…………」

自分に対する嫌悪感が波となって押し寄せる。リアルな死の恐怖が嵐となって吹き荒れる。

漫画やアニメに登場するヒーローだったらすかさずここで腕を掴んだのかもしれない、
しかし浜面はかつても、今も、そうではなかった。
地べたを必死に這いつくばって生きている彼にはそんな真似は出来なかった。

もしかしたら、数日前の彼なら出来たかもしれない。
天才を打ち負かし、聖人でさえ倒した少年なら手を取って死の運命にいる少女達を救えたのかもしれない。

しかし、それも敵わない事だった。今日だって浜面は逃げ出そうとした、今だって逃げている。
そんな何かが変わってしまった彼にとって到底無理だった。

だって自分は、

浜面「俺は……レベル0の無能力者なんだよ」

布束「…………」

浜面「ただのクズが、そんな大それた事できる訳ねぇだろ」

布束「…………」

浜面「俺にはわからねぇよ。あいつらが人間かそうでないかなんて」

布束「……そう」

コツコツ、と足音が響いて、訪れたのは無音の世界。
そこは、暗い闇の中。今の自分がいるべき居場所。
お似合いの場所だった。

浜面「…………」

浜面「……ははっ」

また、逃げた。

そんな風に自嘲する。

自分はあの瞬間と何も変わっていない。クズのままだ。
二度目も、結局は手を伸ばさなかった。

正しい選択をした。そう思う。
あそこで手を掴むとまた巻き込まれていただろう。
もしかしたら今度こそ死んだかもしれない。
だからこの選択は正しいと、そう言い聞かせる。

浜面「そうさ、得るものなんて自己満足だけじゃねぇか。
   だから、そうだよ……間違ってねぇさ」

必死に、にそう言い聞かす。
それがどこまでも間違っているとは分かっていても、浜面はそう言い聞かすしかなかった。


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/21(日) 17:58:21.99 ID:pbhkyG+30<> 全部、幻想だったのだ。

インデックスに出会って変われたと思ったあの瞬間も、

自分が誰かを救おうとしたあの瞬間も、

駒場や半蔵からヒーローのようだと言われたあの時の自分も、

浜面「……くそ」

  「にゃー」

小さな呟きを聞いたのは、腕に抱える名の無い猫。

浜面「…………」

更に闇が濃くなっていく中、少年は壁に背を預け、立ち上がる事は無かった。

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/21(日) 17:59:17.81 ID:pbhkyG+30<>




――七日目――




<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/21(日) 17:59:49.89 ID:pbhkyG+30<>



・無能力者が抱いた幻想




<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/21(日) 18:00:36.34 ID:pbhkyG+30<>


その日の空はとても晴れていた。
強い陽射しはコンクリートに熱をこもらせ、照り返す熱気は嫌でも夏の鬱陶しさを感じさせる。
いつも肌を撫でていてくれた涼しい風は今朝から一切吹かず――無風。だからだろうか、




学園都市は異様な静けさに包まれていた。


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/21(日) 18:01:03.59 ID:pbhkyG+30<>




それは、まるで何かの前触れのように




<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/21(日) 18:11:04.78 ID:pbhkyG+30<> 途中から直書きになってしまった。
なんか書いてる事ぶれすぎてないか心配だ。浜面がぶれすぎだ。
ただ単に自分の汚い部分目の当たりにしちゃって自己嫌悪サイクラーになってるだけなのに
さぁて浜面の幻想は誰が殺してくれるのかはまた置いといてって書いたらあの人のフラグっぽいね。
上条さん。登場するかは秘密です。

とりあえずやっと7日目にきたよ。つうかインさん降ってきて一週間しか立ってないのにびっくりだよ。
1日目からこの七日目に関してはいろいろ言われてますね。やっと書けそうで嬉しいです。
ジェットコースターも温いくらいの怒濤の展開しかないような日です。出来るだけ早く来れる様に

ではでは <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/08/21(日) 18:19:43.99 ID:YOZrMHUQo<> 乙!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/21(日) 18:28:03.38 ID:1Mui41B20<> 乙です <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/21(日) 18:30:02.75 ID:dMMBBmySO<> 乙!

やっぱり浜面っていいキャラしてるよな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/21(日) 19:22:11.75 ID:ZmCl/viIO<> 乙!相変わらず面白いすなあ
つか超能力者が6人しかいないのってなんか説明あったっけ? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(新潟・東北)<>sage<>2011/08/21(日) 19:36:39.86 ID:p9xf08xAO<> 複線だべ超期待 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/08/21(日) 20:40:29.02 ID:0ovzVbAJ0<> 乙
一週間濃密すぎるだろ…そこは同情するわ… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/21(日) 20:55:20.49 ID:Xtnt4chT0<> 乙
最近早くて嬉しい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/21(日) 21:15:28.03 ID:CTPFzgze0<> 乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(岡山県)<>sage<>2011/08/21(日) 23:19:46.83 ID:84KPn1mK0<> 乙
えっ……一週間しか経ってないの?
そりゃこんな短い期間にあれだけ経験すればこんな状態になるわな。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2011/08/22(月) 00:33:43.04 ID:3+3/Kk0AO<> 一日目
インデックス降ってきてステイル撃破
二日目
神裂撃破。ガチで死にかけるも一方さんまじヘヴンキャンセラー
三日目
木原にボコられる。
四日目
インデックス倒れる
五日目
ペンデックス撃破。の裏で駒場死亡。仇討ち向かうも麦野にあっさりやられ暗部堕ち六日目
黒幕の木原撃破(のお手伝い)
ミサカの死体発見。布束のお誘いを却下。

七日目←いまここ



はしょりまくってこれだよ。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/22(月) 12:36:04.17 ID:wmiysnDD0<>

一般的な部屋よりは比較的広いそこは第七学区に位置するアイテムの隠れ家。

とあるホテルの一室だった。

浜面「……っ」

まっすぐ伸ばした腕にズシリと重い重量感がのし掛かる。

手に握られていたのは、ゴツゴツとした黒い光沢を放つ、人殺しの道具。

今も懐に隠してある滝壺に手渡たされたレディース用の小さなソレではなく。
ガッシリとした浜面の手にも馴染むような重い拳銃だった。

絹旗「浜面、しっかり構えてください。超ぶれてますよ」

すぐそばで、そんな絹旗の言葉が投げられる。

浜面「……わかってるよ」

目の前、といっても遠くの距離に置かれたのは、どこにでもあるような人の形をした的。

ゆっくりと引き金に指をかける、そして、


パァン。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/22(月) 12:36:54.24 ID:wmiysnDD0<>


絹旗「あーあ、外してます。超下手ですね浜面」

浜面「うっせー」

はぁ、と最早投げやりに息をつき腕を下ろす。

絹旗「銃の取り扱いは上手いんですけど、撃つとなったら超だめですね。
   こんなんじゃそのうち死んじゃいますよ?」

浜面「……ん」

もう一度です。そう言われ、銃を構える。火薬の臭いがいやに鼻をついた。
引き金を指にかけ、撃つ。

パァン!

絹旗「ハズレ。もう一回です」

浜面「はぁ……」

ホテルの窓から日差しが入り込む。
朝っぱらから何をしてるのか、自問するが答えは帰ってこない。

きっかけは、昨日の滝壺との会話なのだろう。
銃の扱いなら絹旗が教えてくれるよ。
その言葉通り、今朝から絹旗最愛先生の銃の訓練が開始された。

絹旗「浜面、いいですか?今から言うのは銃を撃つ際に最も大事な事です」

飽きれたのか、実技は中断。絹旗の講義が始まる。

絹旗「浜面は銃の扱いは超完璧です。意外と、本当に意外と手先は器用なんですね」

浜面「おいなんで二回言った」

絹旗「大事な事なので。でも撃つときが超駄目ですね。
   型のハマったフォームは暗部じゃクソの役にも立ちませんけど、
   それでもフレンダの方がマシなレベルです」
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/22(月) 12:37:34.12 ID:wmiysnDD0<>
絹旗「ぶれてるんですよ。伸ばした腕も。構えた手も、引き金にかけた指も
   撃つ瞬間には必ずぶれています。これじゃ超当たらないのも当然ですよ」

浜面「…………」

自分が銃を向けて撃った的を見る。人の形をしたそれは、
そこまで距離が空いていないにも関わらず擦った程度で、穴一つ空いていなかった。

絹旗「浜面が何を思ってその銃を握っているのかは知りませんが。
   銃は人を殺す道具で、自分を守る道具です。撃つ事への躊躇いは捨ててください」

浜面「躊躇い、ね」

絹旗「殺す事に躊躇いを覚える人はいます。自衛の為だとしても、躊躇いを覚える人はいます
   でも、撃つ時はその躊躇いをなくさない限り弾は絶対に敵に届きません」

まずは意識してください。自分が躊躇いを捨てられるような状況を超思い浮かべて撃つんです。

浜面「そうすれば自然にぶれなくなる……か」

浜面「…………」

自分は、一体なんの為ならこの引き金を躊躇い無く引けるだろう。

浜面「…………」

スッ、と銃を構える。

その時何を考えたのか、それは少年にしか分からなかった。



パァン。



絹旗「……おめでとうございます」

浜面「……肩に穴空いただけじゃねぇか」

絹旗「それでも、当たった事には超変わりないですよ」
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/22(月) 12:38:15.81 ID:wmiysnDD0<>

続けて行きましょうか、と絹旗が構えるよう促し、再び銃口を的に向ける。

と、撃つ前に浮かんだのは一つの疑問。

浜面「つうかさ、こんなパンパン撃って大丈夫なのかよ。ここ一応一般も使うホテルだろ?
   目覚ましの音でこんなん聞こえてきたら俺ならすぐ警備員に通報しちまうけど」

絹旗「大丈夫ですよ。ここ昔に麦野が買い取って超放置していたホテルですから」

浜面「……超能力者の財力を垣間みた」

絹旗「それに、今は警備員も風紀委員も動けないそうですし、そんな心配は無いでしょう」

浜面「……そうだな」

再び銃を構え、的に銃口を向ける。
今の会話のせいか、妙にあの花飾りの少女の顔がちらついた。

彼女の言う通りなら、今もあの佐天という少女は寝たきりなのだろう。
思えば片鱗はどこかにあったはずだ。浜面と話した時の少女は、それが前面に押し出されていた。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/22(月) 12:38:50.81 ID:wmiysnDD0<>

意識する。先ほどと同じ様に。

浜面「…………」

しかし、どうした事か頭の中に浮かんできたのは、あの少女の言葉だった。

それでも、引き金にかける指に力を込める。

  「私……やっぱり価値ないみたいです」

パァン

  「あの子は私の事、誰かの為に何か出来る人間って言ったんですけど……
   私本当は助けた人の事なんてどうでもよかったんですよね」

パァン

  「何も出来ない自分が嫌で、誰かを助けたって事実で自分を慰められる事ができればー
   ……なんて思ったり」

パァン

  「……あはは、すいません。初対面の人に何言ってるんだろ、私」

カチッ、カチッ

絹旗「……全部はずれてます。浜面」

浜面「……あぁ」

どこか、絹旗の声が遠く聞こえる。

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/22(月) 12:40:33.87 ID:wmiysnDD0<>
佐天の独白が頭の中でぐるぐると回る。
あの少女の言葉は、まさしく自分が胸の内に秘めていた言葉だった。

浜面(こんなんじゃ、やっぱりインデックスに顔合わせられねぇな)

いや、違う。合わせたくないのだ。
少女の全部を許してしまいそうな笑みで、傷つくのが嫌だから。

このまま逃げ続けられる分けないのは分かってる。
でもせめて、そのときが来るまではここにいよう。

情けないな。と自分でも思う。本質は、こんな物なのだ。

これでヒーローになりたかったというのだから笑いが止まらない。
ミサカの死を知っても、伸ばされた手は掴もうともしなかった。
これじゃ悪党でもない。ただの脇役だ。臆病な少年Aだ。

これから自分はこうやって、どこかで野垂れ死ぬまで生きて行くのだろう。

決して、あのパンフレットに載っていた映画のようなヒーローにはなれず、悪党にもなれない。

プロローグすら始まらない。

カチッ

引き金を引いた銃からは、そんな間抜けな音がした。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/22(月) 12:41:22.05 ID:wmiysnDD0<>
――――――


ホテルの一室。
部屋に戻ると、そこにいたのは当たり前のようだがアイテムの面々だった。

昨日の濁ったような雰囲気は未だ残っていたが、少しはマシになったようだ。
誰も言葉を発せようとはしなかったが、それぞれの面々が各自の作業を行っていた。

とは言っても、大した事ではない。麦野はぬいぐるみを抱いてなにかを考える様にベッドに伏しているし、

滝壺は紙の資料が散らばった机に向かいぼーっとしながらコーヒーをすすっている。

肩を撃たれたフレンダはまだ痛むのだろうか、ぎこちなく腕を動かし、
MARでもどこからか取り出していたぬいぐるみに何かを詰めていた。

絹旗も、部屋に入ると黙ってテレビに向かい映画を見始めた。

浜面「…………」

自分も、大してすべき事も見つからないので、滝壺の向いの席につき、

浜面「……これ、」
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/22(月) 12:42:04.36 ID:wmiysnDD0<>


机には、様々な物が散らばっていた。ファミレスでも見た大量の空のケース。
薬莢に、電気信管。目の前に座っている少女は、コーヒーが苦かったのだろうか。
スティックシュガーを何本もカップの中に注いでいる。

浜面が気になったのはそこじゃない。その散らばったものの下敷きになっている、何枚もの紙だ。

散らばった物に隠れていても、自分の名前が書かれたその資料は見間違いようが無かった。


  『一応、まぁめんどくさいんだけど、何か起こってからじゃ遅いし、
   ここに来る前に徹底的に調べてみたのよね。アンタの事』

浜面「…………」

そう言っていた、麦野の言葉を思い出す。これはその資料。そう言う事だろう。

滝壺「……はまづら? どうしたの?」

浜面「ん、いや……なんでもねぇよ」

余った砂糖をどうしようか。そんな事でも考えていたのか、スティックシュガーと空のケースに
にらめっこしていた滝壺が不思議そうな顔をする中、散らばっていた紙をかき集め、束に纏める。
一枚ずつ捲って行ったそれに書かれていたのは、

浜面「…………」
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/22(月) 12:42:44.00 ID:wmiysnDD0<>
目についたのは、体晶の適正ありと書かれた一文。それ以外は本人が読んでも、
さして興味を引かれるような内容では無かった。この学園都市に来て、
浜面がどう過ごしていたのか書かれているだけだ。

能力開発に挫折し、スキルアウトの道へ堕ち。八つ当たりをするかの様に毎日を過ごした。
そんな日々を文章にしただけだった。典型的な、落ちこぼれだ。そこに何の価値もない。

浜面「…………」

唯一目に止まったのは、最後の一枚。

それは過去に自分が行ったシステムスキャンの結果だった。

平均的な数値を示す身体表に、最低の数値を示す各能力ランク。

でかでかと書かれたレベル0という烙印。

浜面「……ははっ」

思わず笑ったのは、そこに書かれていたある文字を見てあまりにもバカらしくなったからだ。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/22(月) 12:43:32.28 ID:wmiysnDD0<>
浜面仕上は厳密に言うと無能力者ではない。能力開発によって能力が開花しないのは極一部。
大部分の学生、例えスキルアウトであっても観測できない程の極めて弱い能力は保持しているのだ。

だから当然浜面もその一人であり、能力があるからには系統に分けられる事になる。

発電能力、空間能力、念動力、と言った具合に。

しかし、分からない程度の能力など無いのと同じだ。

浜面は忘れていた。自分がどんな能力を持っているのかなんて、覚えていなかった。

  『アンタもそうなのかもね浜面。 一応能力系統も調べたけど聞く?
   まぁ何にせよ戦闘向けじゃない地味な能力だったけど』

浜面「ははッ」

確か麦野はそう言っていたはずだ。それはそうだろう。
こんな能力、例えレベルが3あったとしてもなんの役に立つと言うのだ。

自分は能力があったとしても、役立たずだったという訳だ。
結局は、日常に満足出来ず、八当たって過ごしていたに違いない。

纏めた資料の束を、絨毯のしかれた床に放り投げる。

そこに書かれていたのは――――
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/22(月) 12:44:04.07 ID:wmiysnDD0<>










<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/22(月) 12:45:07.16 ID:wmiysnDD0<>

麦野「集合」

ベッドから起き上がった麦野の第一声はその言葉だった。
全員が動きを止め、麦野の方を向く。

麦野「そろそろアイテムのこれからの方針を纏める前に……フレンダ」

フレンダ「は、はいっ!?」

麦野「聞くの忘れてたけど、アンタ昨日の施設から爆薬とかちゃんと回収した?」

フレンダ「……あ。   っぶ!!」

というつぶやきと共に、ばふっとフレンダの顔に麦野の抱いていたぬいぐるみが直撃する。

麦野「ハイこの仕事終わったらお仕置きね」

えぇぇぇぇー!! とぬいぐるみ片手のフレンダが声を上げた。
大量に消費された爆薬の大半は施設に放棄されたままらしい。

絹旗「で、これからどう動くんですか?」

いつもの事なのか、それには言及せず、映画を停止状態にしたまま訪ねた
絹旗の質問の答えは至ってシンプルで、麦野はそれを大して表情を変えずいい放った。



麦野「スクールを潰す」


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/22(月) 12:45:41.66 ID:wmiysnDD0<>
絹旗「…………」

フレンダ「…………」

その言葉に、元々静まり返っていた部屋に更に沈黙が増した。

二人の目線は麦野を捉えて離さない。しかし、注意は明らかに別の人物に向いていた。

滝壺「…………」

滝壺理后。アイテムの要でもある能力者。

フレンダ「け、けど体晶はもうないんじゃ」

沈黙を破ったのは、フレンダの問いかけ。
滝壺の能力は体晶が無ければ機能しない。だから自分たちは昨日MARを襲撃したのだ

結果は、無駄足だったけど。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/22(月) 12:47:04.25 ID:wmiysnDD0<>
麦野「滝壺。あと何回使える」

滝壺「二回。それ以上は……多分無理」

麦野「そう。じゃあ今使え」

冷たく、まるで死刑宣告をするかの様にそう言い放つ。
その麦野に待ってくださいと意義を唱えたのは絹旗だった。

絹旗「もう体晶も尽きるなら、今使わずとも超温存した方が……」

フレンダ「そ、そう! それにまた逃げられたら……!」

麦野「うっさいなぁ! だから潰すって言っただろうがッ!!」

怒号が、響く。二人の肩がびくりと跳ねた。
未だ怒りが収まらないのだろか、麦野がめんどくさそうに後ろ髪をガサガサとかき上げる。

麦野「もうね、んな事言ってる場合じゃなくなったのよ」


   迎電部隊。


浜面「スパーク……シグナル?」

麦野の口から飛び出した聞き慣れない単語に、浜面が眉を潜める。

麦野「アイテム、スクールと同程度の機密部隊。うちらとおんなじ暗部の連中よ」

絹旗「その部隊が、どうかしたんですか?」

麦野「潰された」
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/22(月) 12:48:19.26 ID:wmiysnDD0<>

その言葉に、麦野以外の三人の表情が険しい物となる。

アンタ達には言ってなかったけ。と麦野が思い出した様に語りだしたのは、
今現在学園都市に訪れている未曾有の危機。

正確には自らが属する暗部の崩壊。

絹旗「暗部に一人で喧嘩を売ったって……超ありえないと思うんですが」

麦野「知るか。電話の女が言うには実際引っ掻き回されているんだから事実なんでしょ」

と、言っても麦野自身信じられない部分もあった。
超能力者ですら飼いならす学園都市暗部にどうして張り合えていられるのか。
話に聞くには、そのイレギュラーはたった一人で学園都市を敵に回し、暗部を翻弄し続けているらしい。

そんな事が果たして可能なのだろうか。

それが『どういう事』なのか、その人物は分かっているのだろうか。

麦野「……ッ」

しかし、今はそうも言っていられない。

麦野「多分このままだとそう遠くない内に命令が来る。そのバカを探し出して潰せって命令がな」

麦野「このままスクール追撃と並行してそんな仕事が来たとして、たった4人で捌けると思う?」

絹旗「…………」

フレンダ「…………」

その言葉に、今度はだれも答える者はいなかった。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/22(月) 12:49:14.21 ID:wmiysnDD0<>
滝壺「検索対象は『未元物質』でいい?」

呟いたのは、机に向かい話を聞いていた滝壺。

ポケットから少しだけ白い粉末の入った小さなケースを出し、手の甲に落とす。
麦野が返事をすると同時に、まるで砂糖でも舐めるかの様にほんの少しだけ舌ですくった。

彼女の目に光が灯る。

滝壺「AIM拡散力場による検索を開始。近似、類似するAIM拡散力場のピックアップは停止
   該当する単一のATM拡散力場のみ結果報告する者とする。検索終了まで残り5秒」

機械の様に放たれる声。

フレンダや絹旗が固唾を飲んで見守る中、正確な答えはやってきた。

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/22(月) 12:49:43.04 ID:wmiysnDD0<>



滝壺「結論『未元物質』はこの建物の中にいる」



<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/22(月) 12:52:15.14 ID:wmiysnDD0<>
なに!? と、その場の全員。麦野でさえ愕然とする最中、次の動きがあった。

ホテルの扉が、外側から思い切り蹴り破られる。

愉快そうに、誰かが笑う。

両手をポケットに突っ込み、あまりにも不遜な立ち振る舞いをしたのは一人の少年。
浜面にとって見覚えのないその少年が誰かなんて、考えなくても分かった。

麦野達がずっと追っていた組織。

スクールのリーダー。

そして、学園都市序列第二位の超能力者<レベル5>



垣根「よう、アイテム。遊びにきたぜ」



そう言って、垣根帝督はどこまでも不敵に笑った。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/22(月) 12:53:11.16 ID:wmiysnDD0<>


Q、幻想御手編に入るの?レベル6シフト計画編に入るの?

A、暗部抗争編に入ります。


冗談です。
ていとくんが「暇つぶしにアイテムの連中に挨拶しにいくってのもいいがな。監視と追撃が完全に止む2日後までは動くつもりはねえよ」 とか言ってたのも冗談です。
理由は追々。という訳でていとくんが登場しても日常編はまだ続く。
何編に入るかの確定は4〜5回投下後になりそう。
先は長いけど退屈はさせないぜー。というわけでいつもレスありがとうございます。
すっげ活力になってます。

うん、なんとかいいペースで来れてる。
次回かその次の投下は多分予告してから投下になります。

このまま文はじめの空白は無しでいいですかね。
携帯がくっそ読み辛そうなんでちょっと考え中です。
なにかあればぜひ

ではでは。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/22(月) 14:50:23.88 ID:rZ5AFxlSO<> 乙
垣根くんでてきたか…
どうなるんだろうか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/22(月) 15:50:37.95 ID:IWDYzGpAO<> 乙
葛藤がいいな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/23(火) 21:40:02.90 ID:r4CJppjSO<> あいからわずいい文章 <>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/25(木) 15:15:15.10 ID:384PIWw80<> 誰よりも早く動いたのは絹旗最愛だった。

どこにそんな力があるのか、そばにあった大型のテレビを持ち上げ、ぶん投げる。
超速で投げ飛ばされたテレビは垣根帝督に反撃させる暇も与えず衝突。しかし、

垣根「いてぇ。そしてムカついた。まずはテメェから粉々にしてやる」

麦野「させると思ってんのかクソ野郎がぁぁぁ!!」

麦野の怒号と共に、目を潰したのは激しい閃光

次の瞬間、ホテルの一室で拡散した原子崩しが建物を内から崩壊させた。

絹旗「浜面ッ!! こっちです!!」

誰もが動けず爆煙が立ちこめる中、絹旗が迅速に行動し浜面の手を引いた。

絹旗「……ッ!」

絹旗がベッドを縦に持ち上げ、粉塵を遮る壁を作る。
その影に引き入れられ、そこにいたのは――

浜面「滝壺ッ!?」

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/25(木) 15:15:45.89 ID:384PIWw80<>
そこに息を荒くし、苦しそうに肩を上下させる滝壺が横たわっていた。
熱に浮かされたように冷たい汗を流し、視点も定まっていない。

絹旗「体晶のツケが回って来たんですよ……これ以上滝壺さんを戦力に数える事はできません」

絹旗が腕を降りかぶり、叩き割るかのように床に拳をうち下ろした。轟音。
それだけで浜面の足元に階下の部屋、ちょうどベッドの置かれた位置へと繋がる大穴が穿たれる。

絹旗「浜面、滝壺さんを連れてここから逃げてください。猶予は超ありません」

浜面「けど……勝てんのかよ」

絹旗「…………」

浜面「なら、ッ」

絹旗「相手は麦野より超格上の第二位です。戦えない人は邪魔なんですよッ!」

浜面「……ッ」

格上。それは麦野ですら勝てるかわからないと言うことを示していた。
昨日戦った相手は結局は科学者。無能力者という同じ土俵だからこそ張り合えたのだ。

ここからは能力者同士の戦い。

先ほど戦力にも数えられていなかった自分は、この場にいる事すら許されない。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/25(木) 15:16:22.42 ID:384PIWw80<>

絹旗「……すいません浜面。でも昨日のようにはいかないんです」

どこか申し訳ないけなさそうに、絹旗が肩を沈める。

絹旗「滝壺さんはアイテムの要です。
   ここでむざむざ殺される訳にはいけません……浜面も、……」

絹旗「…………」

言葉はそこで途切れる。何かを噛み締めるように、だけど結局は何も言わず

絹旗「……銃の使い方、覚えておいてくださいね」

ゆっくりと、浜面の手を引いた。

浜面「絹旗……!」

体が揺らぐ。すぐそこに空いた大穴へ。

触れた手には、まるで温もりを感じなかった。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/25(木) 15:17:11.22 ID:384PIWw80<> ――――――



轟音が響く。
フレンダが爆弾を放り投げたのかもしれないし、麦野が新たに原子崩しを放ったのかもしれない。
盾にもならないであろうが、ないよりはマシなベッドが視界塞ぎ、状況はわからなかった。

絹旗「……大丈夫ですか。滝壺さん」

滝壺「はぁ……はぁっ……!」

絹旗「役に立つかは超わかりませんが、これを渡しておきます。
   貴女は、あの人に銃を渡してしまったようですし」

そう言って、息を荒くする滝壺の懐にスタンガンを忍ばせる。
こんなものが何になるかもわからないが、ないよりはマシだろう。

滝壺「……きぬ、は……た」

絹旗「……はい?」

滝壺「……死なないで」

絹旗「…………」

滝壺の必死の請いに、絹旗がにこりと笑う。



絹旗「       」



その言葉は、耳元で鳴り響いた轟音によって掻き消された。


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/25(木) 15:17:55.01 ID:384PIWw80<>
滝壺「あっ……」

絹旗「…………」

滝壺を階下へと送り、これですべき事は終わった。
絹旗はスッと立ち上がる。

その瞬間、ゴォンッ!とベッドを半分に割り吹き飛ばされてきたのは既に満身創痍のフレンダ。

フレンダ「っ痛〜、なにあれ、めちゃくちゃな訳なんだけどっ!」

絹旗「んなの前々から超わかってた事でしょう。なんにせよ――ッ」

言葉を遮ったのは、またも爆塵。

垣根「能力追跡は逃がしたか。賢い判断だが、それが命取りだ」

そこに立つのは、埃すら被っておらず、先程の姿と何ら代わりのない少年の姿。
その勝ち誇った表情には焦りも、危機感も一切感じられない。

学園都市最高位に位置する能力者。その中でも頂点に君臨するレベル5の片翼。垣根帝督
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/25(木) 15:18:35.29 ID:384PIWw80<>
麦野「ハッ、どんせアンタの狙いはアイツでしょうが。いい加減決着つけてやるよ未元物質ッ!!」

垣根「俺には垣根帝督って名前があるんだ。ちゃんと名前で呼べよ。第四位」

麦野「……んなに殺してほしけりゃ殺してやるよ未元物質ぁぁぁぁぁッ!!!」

麦野の叫びと共に人間一人なら跡形も残らない程の強大な光が放射される。
床を、壁を、天井を、全てを抉りながら突き進む死の閃光は――




垣根帝督に触れるその瞬間。唐突に掻き消えた。



麦野「……チッ」

何のモーションもなかった。垣根が何かをした様子もない。
いや、実際は何かをしたのだろう。目の前の少年は余裕の笑みを絶やさず、悠然とそこに君臨していた。


垣根「格下が。既存の物質が俺に届くと思うなよ」
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/25(木) 15:19:41.49 ID:384PIWw80<>

麦野「く、そがぁ……ッ!!」

垣根「そう睨むなよ第四位。せっかくの美人が台無しだぜ?」

麦野「じゃあモノ出してそこのベッドに寝ろよクソホスト。
   食いちぎってから消し炭にしてやる……よぉッ!!」

踏み込み、駆ける。一歩で垣根の懐まで入り込み、

垣根「おっと、」

麦野「く、ッ!」

垣根「魅力的なお誘いだが悪いな。他の女に走るほど不自由してないんだわ」

垣根の首を狙ったその腕は簡単には絡め取られ、動きが封殺される。それでも、垣根の笑みは消え失せない。

垣根「このまま能力を発動させようとしても無駄だぜ?もうこの空間にはテメェが司る電子は存在しねぇ」

麦野「ハッ、黙りなさいよ粗チンが。あんな頭悪そうなビッチとくっついてお似合いじゃないの。
   クソと脳味噌撒き散らして死ね」

垣根「おぉ、テメェらのせいでスクールも今や二人しか残ってねぇしな。いちゃつくのも楽だわ」

麦野「そう、あのウザかった狙撃手がアンタに始末されたって聞けてスッキリしたわ。
   あとはテメェとあの女を殺れば仕事は完了だ。オラさっさと殺されろよ不能野郎」

麦野が勝ち誇ったかのような笑みを浮かべたのと、絹旗が爆発的速度で垣根の背後を取り、
その超硬度の窒素の膜で覆われた腕を降り下ろしたのは同時だった。



垣根「おいおい、始末したのはテメェらじゃねぇか」



絹旗「……っ」

麦野「なっ……」

瞬間、垣根がニヤリと笑ったのも、麦野と絹旗が二人揃って不可視の力で吹き飛ばされてたのも。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/25(木) 15:20:48.56 ID:384PIWw80<>
フレンダ「麦野! 絹旗!」

フレンダが吹き飛ばされた二人に駆け寄る。

絹旗「チッ、超訳わかんない能力ですね」

垣根「そりゃそうさ、わかんねぇのもしょうがねぇ。それが未元物質。それが垣根帝督だ。
   電子も窒素も関係ねぇ。ここはテメェらの知る場所じゃねぇんだよ」

麦野「くっ……!!」

垣根「もう少し遊べると思ったんだがな……まぁいいさ。そろそろ終いだ」

未元物質が、一歩を踏み出す。先程から一歩でさえ動こうとしなかった序列二位の超能力者が、動きだす。

垣根「最後に一つだけ教えてやるよ。アイテム」

ニヤリと、垣根帝督が笑った。それはやはりどこまでも不敵で、尊大に、



垣根「俺の未元物質に常識は通用しねぇ」


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/25(木) 15:21:34.73 ID:384PIWw80<>
――――――



一際大きな爆発音が、建物全体を頼りなく揺らした。

浜面「はっ、はっ――ッ」

駆ける足がぐらりと揺らき、なんとかその場に踏みとどまる。

滝壺「はまづら……ッ、大丈夫?」

浜面「……ああ」

背に抱える滝壺を落とさないように、足に力を込めて走りだす。
再び聞こえたのは轟音。アイテムの隠れ家だったそこは最早危険すぎる戦場になっていた。

浜面「とにかくこっから抜け出さねぇと……」

向かうのは出口。全力で走った浜面と滝壺には既にその扉は見えていて、

心理定規「止まって」

抜け出した瞬間、ソコには銃を構えたもう一人の敵が待っていた。

浜面「……ッ」

冷たい汗が頬を伝う。戦場から逃げ出した浜面達を待っていたのは一人の少女。
フレンダと似たブロンドの髪が少女の仕草によって揺れ
い豪奢なドレスは第二位の超能力者と同じ圧倒的な存在感を醸し出していた。

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/25(木) 15:22:00.23 ID:384PIWw80<>

心理定規「ゆっくりとそのまま進んでくれる?」

少女が微笑みながら言う。ガチャッという音と共に構えた銃は、滝壺の頭に押し付けられる。

浜面「……ッ」

心理定規「はやく」

その銃口に、ブレはない。

浜面「…………」

心理定規「そう、偉いわね」

止まれと言われたのは、未だに戦場と化しているホテルから歩いて数十mだろうか。
広い公道だというのに、そこには人が一人もいなかった。

浜面(くそ……補習通いの学生ぐらいいてもいいだろ……ッ!)

思えば昨日もそうだ、学園都市から極端に人の通りが減っている。例え警備員や風紀委員でなくてもいい。
誰かがこの異常な事態に気付いてくれれば、策の練りようもあるというのに。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/25(木) 15:22:27.29 ID:384PIWw80<>


心理定規「ここらでいいかしら。瓦礫に潰されたりしたらたまらないしね」

浜面(……ちくしょう)

心理定規「じゃあ、その娘を降ろして。
ゆっくりね……降ろしたら貴方もこっちを向いて手を上げなさい」

浜面「…………」

今、浜面には決め手がない。両手が塞がり、背後には動けぬ少女。
懐に銃を隠してはいるが、構えたとしても当たるかどうかすらわからない。

浜面「…………」

ゆっくりと、それは緩慢な動きだった。
傷付かぬよう、ぐったりとした滝壺をコンクリートの地面に寝かす。
その際、浜面の背が心理定規に向き、滝壺の姿を覆ったその瞬間。

滝壺「……っ」

浜面「……!」

少女の手からそれは渡された。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/25(木) 15:23:07.95 ID:384PIWw80<>

心理定規「立って」

鋭い声が後ろから飛ぶ。バレてはいないはずだ。

浜面「…………」

心理定規「素直ね。お陰で助かるわ」

浜面「うるせぇよ」

心理定規「くすっ。怖い怖い……そうね――――」

心理定規「一応保険はかけておこうかしら」

少女の瞳が、優しく歪む。艶がかかったその唇から吐き出されるのは

心理定規「浜面仕上」

呪いの言葉。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/25(木) 15:23:39.71 ID:384PIWw80<>
浜面「ッ!?」

名乗ってもいない名前を呼ばれ、肩が跳ねた。

心理定規「ふぅん。それなりに交友関係は広いのね……駒場利徳。服部半蔵」

挙げられたのは、友の名前。目の前の女が知るはずのない二人の名前。

浜面「お前……何、を」

あから様な動揺が見えたのか、女の笑みが更に深まった。言葉は続く。

心理定規「絹旗最愛。距離単位は20。へぇ、あのおチビさんと仲がいいのね」

心理定規「滝壺理后。フレンダ=セイヴェルン」

心理定規「麦野沈利……は最悪。流石にコイツとは距離も遠いんだ。くすくす」

浜面「なんだよ……!なんなんだお前ッ!!」

銃を向けられている事も忘れ、浜面が怒号を放つ。
少女は顔色一つ変えず、その場で小さな笑いを漏らして、

心理定規「――ッ!!」

突如その表情が驚愕に染まった。まるで予想外の事実でも突きつけられたかの様に。
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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/25(木) 15:24:51.28 ID:384PIWw80<>

心理定規「……へえ、そう。本当に、でも距離は……遠いのね。どういう関係かしら」

金髪の髪を揺らし、少女が浜面を見据える。
想定していなかった事態に、それは長時間その細い腕で鉄の塊を支えていたせいでもあるのだろう。

微かに少女の構える銃がぶれ、

浜面「……ッ!!」

そして浜面仕上げはそれを見逃さなかった。

心理定規「ッ、来ないで!!」

一瞬で距離を詰めてくる浜面を前に、反射的に少女は叫ぶ。

――本来なら、これで十分なはずだった。


『心理定規』


心の距離をを塗りつぶす彼女の能力は既に発動していて、現在の彼女と浜面の距離単位はおよそ20。
拒絶すれば、一瞬の隙を生むことなど造作もないような距離であって、ましてや危害を加えるなど論外であるはずの距離。
その隙に銃を構え直せば――そんな少女の思考は、

浜面「うぉぉぉぉッ!」

心理定規「なッ!」

一切の迷いも見せず懐からスタンガンを取り出した浜面仕上によって塗りつぶされた。

心理定規「――ッ!!」

二度目の驚愕。なぜ、どうして、どんな理由で能力が通じていない。
疑問が底から沸き上がる。早く銃を構えないと――そう考えた時には既に遅かった。

バチバチと青白い火花を散らした凶器が少女へと向かう。

心理定規「――やッ!!」




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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/25(木) 15:25:17.95 ID:384PIWw80<>
心理定規「…………」

心理定規「…………」

予想した痛みはやってこなかった。

心理定規「……え?」

視界が暗い。それが反射的に瞳を閉じたせいだと気付き、ゆっくりと瞼をあげる。

電撃は、寸での所で少女には届いていなかった。

それを構えた少年は先程の自分と同じ、顔に浮かべるのは驚愕。

もう一歩伸ばせばそれは届くのに、しかしその一歩がどうしても不可能だった。

理由は、腕を掴むそいつを見れば明らかだ。

垣根「なにやってんだ。ばーか」

心理定規「……ごめんなさい」

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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/25(木) 15:26:36.79 ID:384PIWw80<>
浜面「ッ!?」

不可視の暴力が、浜面に襲いかかった。

地から足が離れる浮遊感。暗転、衝撃。
目を開けた次の瞬間には無様にコンクリートの大地に這いつくばっていた。

垣根「怪我はねぇか」

心理定規「……えぇ」

少女が、どこか罰が悪そうに俯いた。

垣根「ちッ、雑魚相手に油断すんな。
   テメェが荷物のせいでいちいち地に足付けてねぇといけないのは俺なんだ。
   いくら飛べても背中が重くちゃ意味がねぇんだよ」

心理定規「……ごめんなさい」

ふん、と少年は鼻を鳴らす。実際に、言った事は事実だった。
第二位という強大な力を振るう前には、垣根にとって後ろにいる少女は大きな障害になる。

言ってしまえば、邪魔なのだ。

しかし、その存在を疎ましくは思わない。この少女を背負っていくと、かつて垣根は決めてしまった。
そこに何があったのかは本人以外は知り得ない、彼が何を思って少女を背負うのかは本人以外は分からない、

垣根帝督は進んで行く。

頂点に辿り着くために、地に足をつけながら。
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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/25(木) 15:27:20.48 ID:384PIWw80<>

垣根「ッは、まぁいいさ。それより」

どうすんの? と、そんな言葉が投げかけられた。動けない滝壺と

浜面「く、ぐッ……」

なんとか腕を支えに、起き上がろうとする浜面に。

浜面(――最悪だ)

脳裏に浮かんだのは、そんな一言。
焦燥感が襲い掛かる反面、激痛によって体がまともに動かない。

冷静に、今の状況をはじき出す。コイツがここにいるという事は、どういう事なのか。

声が震える。言葉に出すのは躊躇われた。

浜面「む、麦野達は……」

垣根「ん、あぁ。大したことなかったな」

浜面「――ッ!!」

事も無さげに、軽く振り返る様にそう言った垣根帝督の言葉に怖気が走る。
麦野だって、コイツと同じ超能力者のはずだ。大能力者の絹旗もいた。強能力者のフレンダもいた。

なのに

浜面「くそ……が、」

その瞬間に、悟ってしまった。
第四位をも簡単にあしらってしまうようなバケモノに、いくら抗っても無駄だという事を。

それは浜面達がこの空間から逃げ切る事はもはや不可能だという事も表していた。
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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/25(木) 15:28:04.70 ID:384PIWw80<>
垣根「心配すんな、殺しちゃいねぇ。今日は遊びにきただけだ。
   言うならば暇潰しさ」

垣根が大仰に手を振りながら、歩み寄る。カツカツと靴を鳴らし、

垣根「ソイツには死んでもらっちゃまだ困るんでな」

その足は、滝壺の元へ。

浜面「動くんじゃねえ」

ガチャッと、銃を構える。無駄だとわかりながらもなんとか立ち上がった足はいまにも折れそうで、
手に馴染まない銃にはカタカタと腕の震えが伝わっていた。

垣根「……あぁ?」

興を削がれた垣根の視線が研ぎ澄まされる。
暗部に君臨していた超能力者の、そのままの殺意が浜面に向かった。

浜面「…………」

垣根「く、くく……」

第二位が、笑う。




垣根「切り札は最後まで見せるな。見せるなら更に奥の手を持て」




その言葉が自分に向けられた物だと気付いたのは、垣根が進行方向を変え、
真っ直ぐにこちらを向き、追い詰めるように歩んできた時だった。

垣根「これは雑魚が格上に勝つ事ができるかもしれない唯一の方法だ」

コツ、と靴音が鳴る。

浜面「……来るなよ」

ニィ、と唇が吊り上げられる。

垣根「本当に、無能力者ってのは馬鹿だよなぁ。
   そんな銃でも出し惜しみしてギリギリまで粘れば、もしかしたら第四位ぐらいなら殺せたかもしれないのによ」

もうその時には、既に立場は決定されていたのだろう。

浜面「来るなっつってんだよぉッ!!」

垣根「お前には撃てねぇよ」

狩るものと、狩られる側に。
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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/25(木) 15:28:47.24 ID:384PIWw80<>
浜面「ッ!!」

気づけば目前、密着状態。一歩踏み出せば吐息がかかる距離に、垣根帝督がそこにいた。

銃をその額に突きつけられながらも、場違いなまでに整った顔は焦りを微塵も感じていない。
そんな状況であるにも関わらず見下しながら、頂点に座する垣根は言う。

垣根「暗部にはテメェみたいなクズがうじゃうじゃいたよ――その濁った目は臆病者の目だ」

浜面「……んだと」

垣根「背負うものも守るものも決意も誇りも何もねぇ。我が身が一番かわいい。
   立ち向かうのが怖くて、逃げたい。そうだろ?」

浜面「…………」

沈黙は、肯定。

腕の震えは、肯定。

垣根「そう言う奴は決まってテメェに失望を感じていたぜ? まぁ、何にせよテメェは殺す。
   アイテムでも何でもねぇ下部組織のクズなんて生かしていてもしょうがねぇしな」

浜面「……は、はは」

迫る圧迫感に全身から汗が噴き出し、思わず笑ってしまう。

信じられないものを見た気がした。

垣根の背後から突如顕現した純白のその翼。
全てを洗い流してしまうかのような、まるであの少女のような圧倒的な白。

しかしそれは、浜面には全く違ったモノに見えて、

垣根「ここでサヨナラだ」

そこで、ブッツリと意識が――
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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/25(木) 15:29:39.66 ID:384PIWw80<>





垣根「――――おい。今、なんつった」






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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/25(木) 15:30:08.76 ID:384PIWw80<>
浜面「――っ、はッ」

瞬間的に、体を押しつぶしてしまうかのような威圧感から解放される。
体が揺れ、ドサッと腰に衝撃。自分の腰が抜けてしまったと気付いたのは、少しあと。

何が起こったのか、分からなかった。

不可視の絶望が浜面を包み殺すその一瞬に、何が起こったのか。

垣根「……それは、確かなんだろうな」

心理定規「ええ、本当に、その『名前』があった」

声が、頭上から降ってくる。

見上げたそこには、天にも届きそうなほどの神々しさを持った、翼。
その翼を宿す垣根帝督の目は、しかし先ほどの自分を見下す視線とは少し違って見えた。

垣根「おいおい……マジかよ」

うすら笑いを浮かべる垣根から言葉が吐き出される。

垣根「テメェ、」

それは――
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/25(木) 15:31:17.28 ID:384PIWw80<>







垣根「インデックスを、知ってやがるのか」







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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/25(木) 15:31:47.61 ID:384PIWw80<>

それは、決してその男からは出てくるはずの無い言葉だった。

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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/25(木) 15:32:40.97 ID:384PIWw80<>

自分の事でもないのに、心臓がそのまま絞られるような錯覚に陥った。

浜面「な、んで……」

恐らく、自分の顔はかつてこれほど歪んだ事が無いと断言できる。

それほどまでに、衝撃を受けて、混乱して、どうして、どうして、

浜面「どうして――」

垣根「は……くははははッ!! 今日はラッキーデイだな。
   しかもよりにもよって今日かよ! あはははははッ!!」

垣根帝督が、空に向かい高らかに笑う。どこまでも愉快だと言わんばかりに。

浜面「あ、な……」

対する浜面は、混乱していた。動揺、と言った方が正しいのだろう。

どうしてコイツがインデックスの事を、存在を知っている。
ここは科学の街で、アイツは魔術師で、垣根帝督に接点なんて。いや――それは些細な事だ。

学園都市第二位が、この街を裏切った超能力者がインデックスを知っていて、
しかも常に余裕の笑みを絶やさなかったその表情を崩させた。

これが意味する事。そんな事は、クズでも分かる。

浜面「――まさか」

インデックスに、危険が迫ってる。
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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/25(木) 15:33:42.14 ID:384PIWw80<>

垣根「魔術師も、当然知ってるよな」

唐突に、垣根が浜面を見下ろしながらそう呟いた。

浜面「…………」

その問いに、浜面は反射的に答えてしまう。その無言の肯定で。
関係がないのなら不信に思うその単語を聞いて。尚も驚愕を浮かべてしまったその表情で。

垣根「……殺すのはヤメだ」

超能力者が、ニヤリと笑った。

今にも目の前で死を振り下ろそうとすれば出来るはずなのに。垣根帝督が踵を返す。
肩を振るわせながら、まるで笑いをでもこらえる様に。

心理定規「……距離はずいぶん遠いわよ?」

垣根「いいんだよ。距離なんてな、この際どうでもいいんだ。くくッ……あぁ、浮かれちまうな」

垣根「本当は、ド本命もいたが……」

ちらりと垣根が見たのは、コンクリートの大地に横たわる滝壺理后。

ゆっくりと近づき、そのピンクのジャージのポケットから取り出したのは、

垣根「たかが体晶のケースに砂糖混ぜたもので俺を欺けるとでも思ったのか? 能力追跡」


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/25(木) 15:34:32.52 ID:384PIWw80<>
パキン、と、垣根の手のひらの中で何かが砕けた。
元はコーヒーに入れるはずだったそのスティックシュガーは、さらさらとこぼれ落ちて行く。

垣根「遊びついでに体晶も頂くつもりだったが、あぁ……もういいか。
   どうすればテメェの覚醒に繋がるなんざ俺にはわからねぇしな。
   どっちにしろ賭けでしかねぇ訳だし」

スッと、垣根が立ち上がる。

目の前では未だに体晶の副作用に苦しむ滝壺理后。
すぐそばには呆然とした浜面仕上が、その地に腰を着いている。

垣根「…………」

予想外の収穫だった。

垣根(あの下部組織のクズと、インデックスがどういう関係かはしらねぇ、が。
   魔術師って単語を知っているのなら、比較的深い位置まで関わっているはずだ。
   もしかしたら接触してくる俺の知らない魔術師が来るかもしれねぇ)

垣根(それとも、直接インデックスとやらと接触するか)

可能性は低いかもしれない。だから、これはその為の布石だ。

垣根「さて、これでもうこの場に用はねぇ。あとは――」

垣根の唇がつり上がる。出来る限り醜悪な声で、それを吐いた

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/25(木) 15:35:07.96 ID:384PIWw80<>







垣根「インデックスとか言うガキを捜し出して、殺すだけだ」







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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/25(木) 15:36:03.35 ID:384PIWw80<>
浜面「ッ!!」

垣根の言い放った言葉に、体全体がびくりと跳ねた。
呆然と硬直していた脳を起こし、周りを見渡す。
すぐそばにはスタンガンが落ちていて、手には未だ銃が握られていた。

そこには既に学園都市第二位の超能力者も、ドレスの少女もおらず、
残っていたのはその二人がいたという痕跡。発光する、一枚の羽根。

浜面「……クソッ!!」

どうする。どうする。どうする。

思考がその言葉で埋め尽くされる。奴は、垣根帝督はなんと言って去った?

浜面「……インデックスを、殺す?」

なぜ、どうして、あの男とインデックスの因果関係が繋がらない。
何が起きてそうなった。いや、理由は、この際どうでもいいのだ。

問題は、問題は

浜面「インデックスが危ない……ッ!!」
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/25(木) 15:36:34.63 ID:384PIWw80<>

傷の痛みも無視し、立ち上がる。

浜面「…………」

立ち上がって、止まった。

浜面(……会いに、行くのか?)

脳裏にぼんやりと少女の声が、笑顔が映る。

  『しあげー!』

そう笑顔で呼んでくれた、少女の笑顔が甦る。

浜面「…………」

ただの自己満足の為だけに救った、少女の笑顔が甦る

浜面「…………」

足が、動かなかった。

怖かったから。傷つくのが、嫌だから。

垣根に言われた言葉は、全てが全て正しかったのだ。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/25(木) 15:37:12.66 ID:384PIWw80<>

滝壺「はま……づ、ら」

蚊の鳴くような声が聞こえた。そこにいたのは、一人の少女。
腕を支えに立ち上がろうともがく滝壺の元へ、駆け寄る。

大丈夫か。と、そうかけようとした声は、

滝壺「はまづら……行かなきゃ、だめだよ」

浜面「……ッ!!」

先に投げられた言葉によって行き場を失った。

滝壺「話は……っ、聞いた……はぁっ」

浜面「滝壺……」

肩に回した手を、力の入っていない腕で振り払われる。
よろよろと、頼りなく滝壺が壁に肩を擦り付けながら立ち上った。

滝壺「はまづらの……大事な人なんでしょ? インデックス……昨日、携帯に写ってた、銀髪の女の子」

浜面「…………」

滝壺「駄目だよ……危ないって教えてあげなきゃ、絶対に後悔する」

そう言って、滝壺は一人でゆっくりと、一歩一歩、足を踏み出す。
私は大丈夫だから。そう言って、崩落寸前のホテルへ戻って行く。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/25(木) 15:37:46.51 ID:384PIWw80<>
滝壺「むぎのには……なんとかいっとく。だから、はまづら――」

浜面「…………」

その言葉に、答える事は出来なかった。

浜面「…………」

違うんだ。

何も知らない滝壺にそう言いたかった。

俺はアイツに顔を会わす資格も無いんだと。そう声を大にして言いたかった。

会うのが怖くてたまらない事も、傷つくのが嫌な事も。

自分はこんなにもクズで臆病なのだと、逃げたいんだと言いたかった。

滝壺「……はまづら」

浜面「……ごめん滝壺――少し、行ってくる」

滝壺「……うんっ」

振り向き、その一歩を踏み出すには、ずいぶんと時間がかかった。

浜面「――っ!!」

走り出す。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/25(木) 15:39:16.73 ID:384PIWw80<>

会うのは怖い。傷つくのは嫌だ。逃げ出したい。

会いたくない、会わなければいけない。そんな二律背反が心の中を埋めて行く

けど、違うのだ。

いくら自分がとんでもない程のクズでも、ここで留まるのは間違いだというのは容易に分かった。

いくら関わりを断ちたいとしても、少女をむざむざ見殺しにするのは絶対に間違っているから。

だから、浜面は走る。会いに行く。

浜面「はぁっ、はぁっ……インデックス――ッ!!」


純白の少女の元へ。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/25(木) 15:39:51.55 ID:384PIWw80<>

つーわけでお待たせしました。次回やっとあの人が登場。
今回切りどころ見誤ってかなり長くなりました。でもお話も動きましたね。
次回は個人的な重要回なんで、投下する際は事前に予告しようと思います。

あと一度すごく次回予告というものをやってみたかったので、今回は次回予告付きです。
毎回はきっと余裕が無いので、たまに、山場とかでちょくちょくやりたいなー、なんて。

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/25(木) 15:41:02.17 ID:384PIWw80<>


             【次回予告】


  「あの時、浜面さんはこう言いましたよね。
   副作用なんてあるのかって……どうしてですか?」

                      風紀委員・初春飾利


  「インデックス、なにやってんだよ……?」

                      無能力者・浜面仕上


  「………………………………………………」
                      
                      禁書目録・インデックス


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/08/25(木) 15:41:23.74 ID:xlt9W2sR0<> 鞍馬さんの名台詞に痺れた
乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/25(木) 15:43:09.94 ID:XJsiu2ps0<> 乙です、相変わらず面白い <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/25(木) 18:23:15.02 ID:EDzo1QrSO<> 乙

熱い展開でなんか燃えてきた
今なら発火能力者になれそうだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福井県)<>sage<>2011/08/25(木) 18:55:12.29 ID:D1U0vTaQo<> 乙!
やっとインデックス登場かー
能力に目覚めて、どうなってるんだろう。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<>sage<>2011/08/25(木) 19:46:27.53 ID:tKSHlIc90<> 乙

もはや心理定規の能力が意味をなさないぐらいに
なってしまった浜面の心が心配だ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北陸地方)<>sage<>2011/08/25(木) 20:42:13.09 ID:OPTcfJXAO<> 乙

次回がすげー楽しみだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(新潟県)<>sage<>2011/08/25(木) 21:23:12.61 ID:ADNX9wFJ0<> >>1乙
インさんには超能力者になれるポテンシャルありそうだけどな、天才設定だし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/08/25(木) 22:57:25.46 ID:uL3j8d1u0<> 乙!
これからが楽しみすぎて気持ちが昂ぶってヤバイ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長野県)<>sage<>2011/08/25(木) 23:24:30.00 ID:ZFJ2ZL0t0<> 乙
一旦離れててある程度たまってから読もうと思ってて今日読んだら
なんていいタイミングだったんだ次回が楽しみ過ぎる <>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 16:10:29.97 ID:JoJqfXO40<> 投下予定は今日の夜11時です。一応、また晩に一度あげようと思います。

ではでは。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/08/27(土) 17:41:19.41 ID:0k0/Qm4R0<> wwktk <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県)<>sage<>2011/08/27(土) 17:47:08.86 ID:4Me1erh40<> ラッキーデイとか言ってたら、右腕が無くなるかもしれんぞ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<><>2011/08/27(土) 19:06:55.82 ID:0tdlKM/AO<> 次回予告の不穏な空気が不安になる。初春ちゃん…… <> ◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 21:31:20.59 ID:JoJqfXO40<> 投下予定は今日の夜11時です。
よろしければリアルタイムでお楽しみくださいな。

次は投下で。ではでは。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/27(土) 21:38:20.48 ID:2IpnxKVAO<> 待ってるさー <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<>sage<>2011/08/27(土) 22:05:31.32 ID:wbCAcM400<> いちおつ、あと一時間?
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 22:58:10.76 ID:JoJqfXO40<> ちょっとはやいけど行きます。途中5分ほど休憩入れる。かもしれない <> ◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 22:58:55.30 ID:JoJqfXO40<> たどり着いた場所は第七学区に位置する巨大な病院だった。
浜面もなんどか来たことがある、一度に万の数を収容できる程の巨大な病院。

考える中で、唯一インデックスがいる可能性の高い場所。

一歩踏み入れたのその待合場所には、外とは違い驚く程に人が溢れ帰っていた。
ざわざわと、繁華街にいるようような雑踏が本来静かなはずの空間を埋めている。

浜面「…………」

ここに、インデックスがいる。

確証はない。ただ、ここ以外は考えられなかった。

2日だ。

浜面がインデックスを救ってから、まだ2日、正確には1日と半分しか経っていない。
あの魔術師達かここにインデックスを連れ込んだのならば、恐らくは検査入院。
検査は終わってもまだ外に出ることは出来ないハズだ。

だから、あの少女はここにいる。

浜面「…………」

しかし、その事実は心臓に鉛を縛り付けたような、
そんな沈むような錯覚となって浜面に重くのし掛かった。

少女はいま何をしてるのだろう。

腹を空かせて喚いているのかもしれない、
外に出れなくて悶々としているかもしれない、
知らない場所に不安がっているのかもしれない。


……浜面が居なくて、心配しているかもしれない。


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:00:09.97 ID:JoJqfXO40<>

浜面「……ははっ」

思わず笑う。自惚れ、とはまた違う気がした。少女なら本当に心配して寂しがるだろう。
最後があの別れ方だ。出会った瞬間、瞳に涙を浮かべ思いっきり抱き付かれるかもしれない。
その後に、ガブリと噛みつかれて、

そして自分は、

浜面「…………」

きっと、罪悪感を感じてしまうだろう。

違うんだ。と、

俺は自分の為に戦ったんだよ。と

誰かに八つ当たりして生きていく自分が嫌だったから、
お前を助ける事でそんな自分を洗い流そうとしてただけなんだ。

利用してただけなんだ。

浜面「…………」

ここまで来て、また足が止まった。

見えない壁でもあるかの様に、体が前に進まなかった。
そんなもの、あるわけないのに

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:00:44.18 ID:JoJqfXO40<>




  「浜面、さん?」




<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:01:13.67 ID:JoJqfXO40<>
浜面「えっ?」

自分を呼んだ少女の声に、心臓かドクンと跳ねた。
一瞬遅れて、アイツはさん付けなんてしないと気付き、振り向いた。

浜面「……あぁ、」

そこにあったのは鮮やかな色彩。頭に咲いた自己主張の激しい花飾り。

昨日と違い、そこに風紀委員の腕章はない。

初春「……こんにちは」

昨日と違い、どこか影のある暗い面持ちでそう言った少女の名前は、初春飾利。

初春「浜面さんも……お見舞いですか?」

ぼそりと少女が呟いた。
あめ玉を転がしたような甘ったる声は、しかし感情による起伏がない。

浜面「あぁ、まぁ……そんなところ、かな。そっちは、」

言葉には、出さなくても分かった。

佐天涙子。恐らくは未だ幻想御手の副作用によって意識が堕ちた彼女の見舞いだろう。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:01:56.79 ID:JoJqfXO40<>


初春「はい、佐天さんのお見舞いです……あの、昨日はすみませんでした」

初春「急に怒鳴ったりして……その、とにかくごめんなさい」

そう言って、少女が頭を下げる。
昨日、目の前に一般人がいたにも関わらず、
落ち着きを無くしもう一人の少女と口論になった事を気にしていたらしい。

浜面「いや、いいよ。別にさ。あの娘、まだ目覚まさないんだろ……?」

はい、と少女が頭をあげる。しかし、俯いていてその表情は伺えない。

初春「幻想御手事件を調べようにも、上からの許可が降りないんです。
   落雷と中継点停止に伴い設備が一切使えない今は、
   目の前の一人よりも、学園都市全域に訪れた危機に対応するようにって」

浜面「…………」

初春「……目の前で人が苦しんでるのに、こんなのおかしいですよね」

初春「もう、一人でどうにかするしかないですよね」

ぽつりと少女が呟いたその言葉は、どこまでも暗い所に堕ちていくような。
そんな声だった。

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:03:28.08 ID:JoJqfXO40<>

初春「私、もう行きます。佐天さんを待たすのも悪いから」

最後まで俯いた顔をあげる事なく、少女が浜面の横を急ぎ足で駆ける。

後ろからタッタッタ、と聞こえた少女の足音は、すぐに聞こえなくなった。


初春「……浜面さん。一つ、いいですか」


少女がピタリとそこに立ち止まった事によって。

浜面「……ん?」

振り向かなかったのは、何故だろう。

初春「浜面さん――」







初春「――幻想御手について、何かご存知なんじゃないんですか?」







多分、少女の声が、異様に冷たく感じたからだろうか。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:04:17.83 ID:JoJqfXO40<>

ぽたっ、と。冷たい汗が落ちた。

浜面「どうして、そう思うんだ?」

初春「私、一つだけ疑問に思った事があるんです」

いやに人が多いそこで、背中合わせになった少女の声と自分の心臓の音が鮮明に聞こえる。

初春「浜面さん。昨日私が幻想御手の話しをした事覚えてますか?」

早まっていく、胸の鼓動。

かさりと布の擦れた音は、多分少女が振り向いた音だ。

こっちを、見ている。

初春「あの時、浜面さんはこう言いましたよね。
   副作用なんてあるのかって……どうしてですか?」

浜面「…………」

初春「幻想御手は都市伝説上の存在です。噂なんですよ」
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:05:07.20 ID:JoJqfXO40<>
じわりと、気持ちの悪い汗が滲んできた。
先程経験した、一歩一歩追い詰められる感覚が再び近寄ってくる。

初春「それがあるって知った人はみんな同じ反応をするんです……
   へぇ、そうなんだ。幻想御手なんて本当にあるんですねって」

その言葉は、昨日ある少女が言った言葉だった。
浜面ではない、その隣にいた――

初春「……まるで絹旗さんのように」

浜面「…………」

初春「失礼ながら、佐天さんに聞きました。
   浜面さんは、無能力者なんですよね」

浜面「……ああ」

初春「なら……もう一度聞きます」

喧騒が掻き消えていた。勿論、それは錯覚なのだけれど。

初春「浜面さんは、幻想御手についてなにか知ってるんじゃないですか?」

浜面「……しらねぇよ」

初春「もう一度、こちらを向いて言ってください」

浜面「…………」

ゆっくりと足を引き、振り返る。
その先にいた、少女の瞳は――――

初春「本当に、知らないんですか」

浜面「…………」

知らない。と
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:05:47.86 ID:JoJqfXO40<>




浜面仕上は嘘をついた。



<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:06:32.13 ID:JoJqfXO40<>

初春「そうですか」

引き留めてすいませんでしたと一礼し、少女が足早に去っていく。

残ったのは大勢の人の動きが生み出すざわめきと、一人立ち尽くす浜面。

浜面「…………」

あの少女は、優しいのだろう。
人の為に周りが見えなくなるタイプに違いない。
そして風紀委員としてもきっと優秀だ。

浜面「…………」

脳裏に浮かんだのは、一人の少女。

清く正しく気の強い彼女は、自分が渡した『アレ』を使ったのだろうか。




幻想御手。




簡単にレベルが上がる正体不明の能力増幅装置。


正体は聴くだけでレベルが上がる、音楽データ。


かつての自分からの――
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:06:59.10 ID:JoJqfXO40<>




――置き土産。



<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:07:37.16 ID:JoJqfXO40<>

  「にゃー」
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:08:47.24 ID:JoJqfXO40<>


浜面「ッ!」

どこからか聞こえた猫の鳴き声に、振り返る。そこは通路の先の、曲がり角。


浜面「――――」


それは後ろ姿だったが、そこにあったのはいやでも目立つ忘れ様のない黒と赤。

漆黒の修道服を纏い、炎のような髪を揺らすソイツがいた。

浜面「ステイル=マグヌス……!」

何かを拾っているのか、その場にしゃがみ込んでいた炎の魔術師はすぐに立ち上がり、曲がり角に消えていく。

気付けば足は奴を追いかけていた。

浜面「なんで……ッ!」

なんでアイツがここにいる。

インデックスは救われた。少女を狙っていた魔術師にとって、もはやこの街にはなんて用はないはずだ。

言ったのに。姿を消せと、自分とインデックスの前から消えろと。

まだ、インデックスを諦めきれないのか。

浜面「……ッ!」

魔術師を追いかけ、角を曲がって、

浜面「…………」

そこにステイルの姿はなかった。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:10:08.38 ID:JoJqfXO40<>

あるのは真っ直ぐに伸びた廊下に、限りなく並ぶ、病室への扉。

ステイルの姿がないという事は、そのままの意味だろう。

この扉のどれかが、インデックスの病室。

浜面「……ッ」

喉が干上がる。先程とは比べ物にならないくらい鼓動が鳴る。
頭の中でなってるのかと錯覚するほどにうるさく、早く。

浜面「…………」

一歩、一歩と頼りなく歩き出す。

扉に近付き、一つ一つ触れていくのは、簡素なネームプレート。

苗字だけが書かれたそれを、まるで時間を引き延ばすかのように確かめていく。

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:10:47.83 ID:JoJqfXO40<>

浜面「介旅」

        ちがう

浜面「鋼盾」

        ちがう

浜面「丘原」

        ちがう

浜面「土御門」

        ちがう

浜面「釧路」

        ちがう

浜面「   」

        …………

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:12:27.28 ID:JoJqfXO40<>
浜面「…………」

触れた手のひらの先にあったのは、何も書かれていないまっさらなネームプレート。まるであの少女のような。

この中に、いる。

インデックスが、いる。

浜面「…………」

スライド式のドアに、手をかけた。冷たい金属が熱くなった手のひらに触れる。
横に引けば簡単に開くその扉が、鉛のように重い。

会わなくては、インデックスに会わなきゃいけない。

命が脅かされている。
あの絶望を形にしたような男に狙われていると、そう警告しなければいけない。

あって、それだけ伝えれば彼女の命は助かる。

自分の罪悪感と一人の命、天秤にかけたらどちらが重いかなんてクズでもわかる。
だから今お前はここにいるんだろ。

だから、

開けろ。

浜面「――――ッ!!!」

鼓動しか聞こえない世界に響いたのは、勢いよくドアがガラリと開かれた音だった。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:13:24.67 ID:JoJqfXO40<>



小さな個室だった。



<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:14:30.96 ID:JoJqfXO40<>
清潔を感じさせる白を基調とした部屋の壁には、学園都市を眺められような窓。

ベッドに、丸椅子。

長期入院患者の為に日用品を納めておく棚の上には、綺麗に畳まれた白い修道服が置かれていて、
その上ではいつも一緒にいる、名前の無い猫が気持ち良さそうに眠っていた。

そして、


浜面「………………インデックス」


少女はそこにいた。






そこに、いた。けど、
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:15:03.74 ID:JoJqfXO40<>



浜面「インデックス、なにやってんだよ…………?」






禁書「…………………………」






返事は返ってこなかった。




<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:16:02.21 ID:JoJqfXO40<>

浜面「インデックス……?」

銀糸のような奇麗な髪がベッドに散らばっていて、
その小さな顔に取り付けられていたのは、無骨な酸素マスクだった。

浜面「…………」

声が、震える。

浜面「なんで……」

綺麗に布団から放り出されたその細い腕には、
濁った色の液体が通ったチューブが突き刺されていた。

浜面「イン――――」

ピッ……ピッ……と一定のリズムを遅く奏でる電子音は彼女が生きている証ではなく、
彼女の心臓を無理矢理に動かしているという証だった。

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:16:59.42 ID:JoJqfXO40<>
浜面「――――」

視界が、ブチブチと点滅して、音が途切れる。
足元が揺れる。今までの浜面仕上を支えていた何かが崩れ去って、殺された。

脳がからっぽになる。どうして。そんな一言しか呟けない。

浜面「あ――――」

浜面「インデックス――?」

少女の名を呼ぶ。

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:17:35.85 ID:JoJqfXO40<>





インデックス?





<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:18:40.73 ID:JoJqfXO40<>


救ったはずの少女はそこにいた。

けど、

救ったはずの少女はいなかった。



救えてなんていなかった少女が、そこにいた。



浜面「なぁ、冗談だろ?」



返事は、返ってこない。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:20:06.16 ID:JoJqfXO40<>





救う事が出来たと思っていた女の子は、ベッドの上で息をするだけの存在となっていた。





<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:21:45.32 ID:JoJqfXO40<>

ステイル「この姿を見てみなよ。無能力者」

いつの間にか横に立っていた冷たい声が、浜面を刺し貫いた。

浜面「…………」

瞳に映る少女の姿に、しかしそも面影はどこにも無い。
あの笑顔も、微笑みも。

ステイル「こんな姿にならないように、
     僕たちは彼女の記憶を消してきたはずだったのにね」

ふぅ、と自嘲気味に小さくため息を吐く魔術師は。どこか諦めた様に笑っていた。

ステイル「……で、どの面を下げて君はここまで来たんだい?」

投げかけた言葉が少年に届いているかどうかは、ステイルには分からなかった

浜面「……な、んで」

どうして。 <>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:22:24.04 ID:JoJqfXO40<>
浜面「……な」

まるで機械のように、浜面の口から同じ言葉がぶつぶつと漏れていく。

その虚ろな瞳はただまっすぐに一人の少女を捉えていた。

インデックス。死んでしまったかの様に意識を落とす、白い少女。

沢山の機械に繋がれた。銀色の女の子。

フラッと、体が揺れる。一歩を踏み出したつもりなのに、崩れる様にその場に膝を付き、

浜面「……インデックス」

呟かれたのは、枯れた言葉。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:23:22.93 ID:JoJqfXO40<>
思考が、おぼつく。心をなくしてしまったかのように、何も考えられなかった。

紡いだ言葉が、浮かんだ先から消えて行く。駄目だ。駄目だだめだ。

浜面「………」

目の前にした現実が、大きすぎた。一人の少年に受け止められる許容量を軽く越えてしまった。

浜面「…………」

インデックスを救った。

無能力者が、女の子を助けた。

その事実は、いつからか嫌悪の海に溺れる浜面にとっての支えとなって、
例えるならそれは、自分だけの現実。能力者にとっての、パーソナルリアリティ。

それが砕かれた人間の行く先は、

ステイル「……」
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:24:08.88 ID:JoJqfXO40<>
何の反応も示さない浜面に、ステイルの顔に徐々に苛立ちが灯る。

ステイル「――――ッ!!」

神裂「ステイル」

凛とした、女の声が静かに響いた。

神裂火織。涼しげな顔で浜面の目の前にその女は立って、

神裂「久しい……と言っても、たったの数日ですが。どうですか、少年」

それは、いつかの意趣返し。神裂なりの、チェックだったのかも知れない。



神裂「これが、あなたが絶対に助けると誓った少女の末路です」



その言葉は、確かに浜面仕上の心を突き刺した。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:24:35.73 ID:JoJqfXO40<> きゅーけー
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:30:34.41 ID:JoJqfXO40<>
浜面「…………」

神裂「私は、魔術師です。科学の事は欠片でさえ分かりません」

ですが、と神裂は言葉を切る。

神裂「医者が言うには、音。
   あなたの聴かせたあの音が彼女の脳に何らかの影響を与えたそうです」

浜面「…………」

音。

心当たりは、一つしか無かった。

キャパシティダウン。
あの対能力者に置いては反則的なまでの威力を持つあの音が、インデックスの脳を傷つけた。
いや、もしかしたら脳開発の時点で何かに失敗していたのかもしれない。

もともと、それは危惧していた事だった。
魔術師であるインデックスに、本当に能力者としての道を歩ませていいのか。
危険はないか。影響は無いのか。二人で考えて、結論を出した。

結果的にそれがインデックスを突き落とした。

地獄の、底のさらに底へ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/27(土) 23:31:04.39 ID:krjuSTWwo<> 乙!
にゃー、が気になるにゃー <>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:32:21.37 ID:JoJqfXO40<>

浜面「…………」

神裂「あなたのせいではありません」

そんな、薄っぺらい言葉が聞こえる。

神裂「先ほども言いましたが、私は魔術師です。
   医者の言っていた言葉でさえ、半分も理解できていません」

神裂「そしてあなたは、科学の街の人間です。
   魔術の事や、インデックスがどれほどの存在か、分からなくて当然なんですよ」

実際、少年はよくやった。掛け値無しに、神裂はそう思う。
無能力者の身でありながらステイルや神裂を倒し、自分達の知らない首輪の存在までも暴き、
インデックスを救うあと一歩のところまで辿り着いた。

奇跡としか言いようが無かった。

しかし、最後の最後で足りなかったのだ。



少年には一人の少女を救い出す為の決定的な『特別』がたりなかった。



浜面仕上という人間は、少女を救うにはあまりにもスペックが平凡すぎた。

ただ、それだけの話。

これが、例えば奇跡を右手に宿す少年なら、こうはならなかったのだろう。

それも、あり得ない話だが。

神裂「あなたは、事の大きさを勘違いしているようなので言っておきましょう」

神裂「魔術と科学の世界は、お互いが非常に危ういバランスで成り立っています
   科学の世界は魔術の世界に関わらず、魔術の世界も科学の世界に干渉しない。
   そういうルールなんですよ」

神裂「そしてそこで眠る少女。インデックスは、魔術の世界において秘蔵中の秘蔵
   ……そんな少女が、魔人なりうる少女が科学の世界の能力者になってしまった」

それが知れたら、どうなるとおもいますか?

崩れ落ちた少年に、冷たくそう言い放つ。

神裂「戦争ですよ」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2011/08/27(土) 23:33:27.51 ID:0tdlKM/AO<> つっちーどうしたん…… <> ◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:34:45.84 ID:JoJqfXO40<>

浜面「…………」

それは、あまりにも現実味の無い言葉だった。
あの日、インデックスを助けたと思ったあの瞬間。
コイツらが激昂したのは、つまりそういうことだったのだ。

神裂「あなたは悪くありません。これは私たちの力が及ばず招いてしまった結果です」

しかし、

神裂「恨みますよ、少年。えぇ、これが筋違いだと言う事は承知の上です」

神裂「確かにあなたは我々のなし得なかった呪縛を解いたのかもしれない。 
   現に、こうやってインデックスは生きています。けど、」


あなたは10万3000の魔導書を台無しにしてしまった。


あなたは少女を眠りから覚めなくしてしまった。


あなたは彼女を強大な火種にしてしまった。


神裂「インデックスを目覚めさせる方法は、今のところ無いそうです。
   彼女が目を覚ましさえすれば、あなたの思惑通りに本当に彼女が助かって、
   救えていたなら、まだ別の道はあったかもしれませんね」



浜面「…………」



神裂「消えてください」

その言葉には、確かな殺意がこもっていた。

神裂「私たち3人の前から、姿を消してください」

その言葉には、確かな願いがこもっていた。

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:35:50.85 ID:JoJqfXO40<>

浜面「…………」

ゆっくりと、立ち上がる。
どこにそんな力が残っていたのか、自分でも分からなかった。

歩く気力も、体力もない。それでも、歩けた。

浜面「…………」

禁書「…………」

目の前の現実から目を背ける様に、駆け出す。

なにも考えたく無かった。

「にゃー」

猫の鳴き声だけが、嫌に耳に残った。


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:36:41.35 ID:JoJqfXO40<>
―――――



どこをどう歩いたのかは、覚えてなかった。
まだそこは病院で、流れる時間はやけにゆっくりで、この世界はやけに灰色に見えた。

繰り返すのは、同じような言葉だ。

浜面「…………て」

どうして。

浜面「なんで」


ど  う   し   て   


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:37:40.17 ID:JoJqfXO40<>
うまくいったハズだった。

脳を開発した者に魔力は精製できない。
インデックスが能力者になれば、インデックスの魔力を糧に動いている霊装も停止し、
その結果にもし暴れだしてもキャパシティダウンさえあれば、なんとかなると思った。

そしてなんとかなった、ハズだった。

二人で笑い合える日常をおくるはずだった。

自分は、堕ちてしまったけど、少なくともインデックスは救えたハズだった。

なのに、なのに、なのに!

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:38:51.37 ID:JoJqfXO40<> 浜面「……ははっ」

なにが腹を空かせて喚いているのかもしれない、だ。

浜面「はははっ」

なにが外に出れなくて悶々としているかもしれない、だ。

浜面「あははははははッ」

なにが知らない場所に不安がっているのかもしれない、だ。

浜面「は、は……………」

なにが……自分が居なくて、心配しているかもしれない、だ。

浜面「………う、あ」

気付けば、頬を伝うのは涙だった。

浜面「う、ぅぅあ、あぁぁぁぁっぁぁぁぁぁ……」

足が縺れ、その場に倒れ込む。中途半端に鈍い痛みは物足りなかった。
自分のしていた都合のいい妄想に、涙と一緒に笑いが起こりそうだ。
なんなら自分で自分を殺してやりたい。

会ったらインデックスはきっと笑顔で自分を迎えるだろう?
きっとはにかんだ声で感謝を述べるだろう?
きっと嬉しそうに腰に手を回しにくるだろう?


バカじゃねぇの。


浜面「うぁ、ぁぁあぁああぁぁっぁぁぁぁぁ……」


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:39:50.41 ID:JoJqfXO40<>

思えば、それは幻想だったのだ。


無能力者が抱いた幻想。


愚かにも驕ってしまったバカなレベル0の抱いた、幻想だった。


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:41:21.52 ID:JoJqfXO40<>

浜面「なにが……なにが、助けただ!! 救っただ!! 
   こんなの、女の子一人殺しちまっただけじゃねえかッ!!!!」

自分はヒーローでも悪党でも、脇役ですら無い。ただの道化だった。

観客がいるなら、今の自分はおおいに笑われているだろう。
アイツはなにに罪悪感を感じているんだ?
自分の満足感を得る為だけに助けた事に?ははは何言ってんだ。



女の子一人救えなかった癖に。



浜面「ちくしょう」

そこは、物語の舞台ですらない。

浜面「……ちくしょう」

通り行く人々が、うずくまりながら涙を流すスキルアウトをじろじろと見ていた。

テレスティーナに言われたあの時と同じ様に、笑われている気がした。

あのインデックスの笑顔はもう見れない。
自分が、少女を壊してしまったから

浜面「ちくしょう」

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:42:11.59 ID:JoJqfXO40<>



  「病院の廊下でうずくまるのは感心しないな」


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:42:59.17 ID:JoJqfXO40<>

浜面「…………」

声が、投げかけられた。

どこかで、聞いた事のあるようなそんな声。

  「おまけにここはペットの持ち込みは禁止されている」

にゃー、と小さな鳴き声が浜面にすり寄る。どうやらついてきたらしい。

  「さらに、おまけだが、私の研究室にはコーヒーや顔を拭くタオルくらいならある」

泣き腫らした顔をあげると、小さく体を縮めた浜面の前に立っていた白衣の女性は、
ぎこちない笑顔を作って笑みを浮かべた。

木山「昨日ぶりだな。着いてきたまえ……話ぐらいなら聞こう」

そう言って、木山春生はゆっくり手を差し出した。

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:44:13.77 ID:JoJqfXO40<>
――――

木山「昔、私が教師をしていた話はしたかな。
   その時の教え子と君が重なって見えただけさ」

浜面「……そうかよ」

それが、浜面に手を伸ばした理由らしい。

木山「飲まないのかい? 冷めてしまうが」

浜面「…………」

座るソファーに少し硬さを感じながら、浜面は両手に握るコーヒーカップを眺める。
湯気がのぼる水面に映った自分の顔は、とても自分とは思えないほど疲れきっていた。

にゃー、と、隣で猫が鳴く。くつろぐ様に。ソファに寝そべっていた。

木山「それにしても、ふむ……あの少女がね」

デスクに座り、パソコンを眺める木山が顎に手をやり、なにかを考える。

浜面「…………」

とにかく、溜め込んだ毒を少しでもいい。吐き出したかった。
自身の置かれた立場をかいつまんで吐露してしまったのは、
やはりそんな気持ちが膿みのように溜まっていたからだろう。

魔術や暗部。そんな話は一切伏せ浜面はほんの少し吐き出した。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:45:20.18 ID:JoJqfXO40<>

外部から来た無能力者の少女と出会った事。
狙われていた事。警備員は頼れなかった事。
能力者にしてしまった事。キャパシティダウンで脳にダメージを与えてしまった事。

そしてその少女は寝たきりで、目を覚まさなくなってしまった事。

ただ、たった一つだけ隠したのは、汚い自分の側面。
人を助け、驕ってしまった事。
自分の為だけに、少女を助けてしまった事。
少女の事は、結局は何も考えていなかった事。

浜面「…………」

今もこうやって、都合良く救いを求めているという事。

浜面「…………」

木山「少し、昔の話もしようか」

パタン、とノートパソコンをたたんだと同時に、木山がそう呟いた。

俯いた顔をゆっくりとあげ、視線を合わせる。


木山「私は生徒を一人殺してしまったんだ」


平坦な言葉で吐き出されたのは、素の状態で聞いたら確実に戸惑い、動揺するであろう内容だった。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:47:54.97 ID:JoJqfXO40<>
浜面「…………」

ただ、今の自分にとっては、それ程衝撃的でもない。

同じようなものだから。

木山「言っておくが、直接手を下した訳じゃない。間接的にだ。
   ……いや、その瞬間は何も考えられなかったよ。顔も歪に引きつってしまっていた」

木山「君の様にうずくまって、泣いたよ」

浜面「……何が言いたいんだよ」

木山「続きはまだある。君が不快な思いをするならここで辞めよう」

浜面「…………」

木山「……被害を受けた生徒はその子だけではなくてね。
   他の十数人は、今も目を覚まさないまま眠っている。恐らく君の彼女と同じ状況さ」

浜面「…………」

木山「私はあの子達を助けられなかった。今も助けられていない
   それでも、諦めるつもりはないよ。何年かかっても、何をしてでも私はあの子達を助けるつもりだ」

木山「そうだな。そして報いでも受けさせるさ。私の生徒を殺した連中にね」

冗談でも言うかの様に、木山が薄く笑う。
浜面には、彼女が何を言いたいのかよく分からなかった。

そしてそんな浜面に、木山は力強く言う。まるで、教壇に立つ教師の様に。

木山「諦めるのは、まだ早いという事さ」

木山「絶望するのもいい、悲観するのもいい、満足したのならよく考えてみたまえ
   肝心なのは君が諦めない事だ。要はそこで終わるか、終わらないかだよ」

浜面「…………」

浜面「俺は、そこまで強くねえよ」

木山「なら彼女は誰かに預けるといい、君がそれで納得するのならば」 <>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:48:57.13 ID:JoJqfXO40<>
浜面「…………」

コツ、と。コーヒーカップをテーブルに置き、立ち上がる。
よろけながらも、ドアを開けた。小さな鳴き声をあげて、猫が飛び出していく。

木山「心配せずとも、助かるさ」

浜面「……気休めはやめてくれ」

木山「もし目覚めなくても、あの少女は心配ないだろう。
   君でなくとも、きっと誰かがあの子の為に走り回る」

浜面「……アンタみたいにか」

くすっ、と軽い笑みが聞こえた。

木山「あぁ、なにをしてでも助けるよ。私ならな」

浜面「何を、してでも……」

繰り返したのは、その言葉を言い放った木山晴生に、それほどの覚悟と気迫が感じられたから。

振り返ってその目で見た表情は、決意に満ち満ちていた。

木山「そう、なにをしても。さ……例え――」

ただ、
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:49:43.16 ID:JoJqfXO40<>





木山「――この街の全てを敵に回しても」





<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:50:10.38 ID:JoJqfXO40<>



浜面「――っ!!」

木山の言い放ったその言葉だけは、言いようのない怖気を感じた。


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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:50:44.37 ID:JoJqfXO40<>
――――


コツコツ、猫を引き連れて、廊下を進む。

思考は混濁していた。

木山春生の言葉が揺れるも、だからと言ってその言葉だけで
何かが変わるほど。浜面の心は浅くはなかった。

例えるならば、それは海の底に溜まった汚泥だ。
掬いとる事など、出来はしない。

浜面「インデックス……」

呟いたのは、少女の名前。

浜面「――――っ」

浮かび上がるのは、面影も無い少女の姿。


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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:51:26.60 ID:JoJqfXO40<>
どうしてこうなってしまったのか。

言葉は、ぐるぐるとループする。
どうすればいい、どうすればいい。どうにか出来ないのか。なんとか出来ないのか。

浜面「どうすれば」

どうやったらこの苦しみから逃れられる。どうすれば楽になる。

浜面「ちがう」

どうすればインデックスを助けられる。どうすればあの少女を目覚めさせる事が出来る。

浜面「どうすれば……」

どうすればこの荷を下ろせる。どうしたら忘れられる。

浜面「ちがうッ!!」

どうすれば諦めがつく、どうしたら見捨てられる

浜面「ちがうんだ……」

浜面「…………」

気付けば、あの少女の事なんて欠片も考えていない自分がそこにいた。

これがお前だ。これが本質だ。心の底の汚泥から、誰かがそう語りかける。
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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:52:09.67 ID:JoJqfXO40<>
浜面「ちがう……」

そんな事は分かっている。それでも否定したかった。
さんざん肯定してきても、今この場で否定したかった。

本当に自分がそんなクズだなんて、認めたくは無かった。

浜面「……諦めちまうしか、ないのか」

諦めてしまえ。そうしてしまえ。

お前が助ける必要なんてどこにあるんだよ。
無能力者が何出来るんだよ。

浜面「…………俺は」

ミサカの時だって、そうやって見捨てたんじゃねぇか。

浜面「俺は――――ッ!!!」



何かが違う。何かが変わった。しかし、浜面仕上はそれに気付かない。

何が変わって、何が変えられたのかに、気付けない。



浜面「俺は……もう、」


その瞬間だった。
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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:52:40.38 ID:JoJqfXO40<>



  「待てよ」



<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:53:41.34 ID:JoJqfXO40<>



浜面「…………」

またしても、声が投げかけられた。

呼び止められたのだろうか。声の主はこちらへ一歩一歩近づいてくる。

そのどこか見覚えのある少年は、誰がみても分かる怒りに顔を染めていて、

  「テメェか」

唐突に浜面に向かってそう言った。




ツンツン頭の少年は、浜面に向かってそう言った。



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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:55:01.71 ID:JoJqfXO40<>

舞台に新たな役者が登る。

今の今まで、一切関わりを持たなかったその少年の名は、

浜面「――!!」

浜面仕上はその少年の名前を知っている

浜面「お前、……」

とある少女から何度も聞いたソイツの名は――


上条「テメェかって聞いてんだよ」




上条当麻。





上条「テメェが吹寄にレベルアッパーなんてもんを渡したのかって聞いてんだよッ!!」
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:55:50.89 ID:JoJqfXO40<>






そこに、上条当麻が立っていた。






<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:57:24.25 ID:JoJqfXO40<>


Q.ヒロインだれだっけ?

A.ピーチ姫って知ってry ちゃんとインさんも見せ場はありますよ。

Q.あの人って?

A.あの人達です。

つーわけでここまで。やっと上条さん登場。
ってことであの人達の回でした。予想以上に長くなった…
某スレで活躍中の無能力者さん達もここじゃ幻想御手ってます。
無能力者再構成も増えてきて展開被るの怖いから速度あっぷちう。
八月後半からなかなかいいペースで来れてる気がする。

つぎも早めに来れるよう頑張ります。
予告ありかは迷ってます。

今回も次回予告は置いて行きます。

ではでは。


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/27(土) 23:58:08.28 ID:JoJqfXO40<>



                【次回予告】


  「結局は自分の為に、誰かを見返したくて俺はアイツらを食い潰したんだよ!
   そうさ、俺みたいな無能力者には!力のない奴はそうやって生きていくしか道はねぇんだ!!」


                      無能力者・浜面仕上





  「それでもテメェには守りたいものがあったんだろ!」


                      無能力者・上条当麻

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<>sage<>2011/08/27(土) 23:58:27.82 ID:aV0CGdVdo<> 吹寄に幻想御手なんて渡してたっけ? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/28(日) 00:07:59.71 ID:7hld8Welo<> 明記はされてなかったけど伏線はあったな

上条さん登場! 熱いな!
乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/28(日) 00:14:20.47 ID:3yWZzSESO<> 乙

上条さん登場か、熱くなってきたな
っていうか吹寄の伏線あったのか…読み直すか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2011/08/28(日) 00:20:55.60 ID:KUKGAPpAO<> はまづらぁ……そりゃ泣くわ。

上条さん登場で熱いけどインさんが心配すぎるよ……てっきり元気だと思ってただけにショックでかい。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福井県)<>sage<>2011/08/28(日) 00:21:27.08 ID:2a3kBoK3o<> 乙ー

一気に沢山読めて嬉しいです。
やっと上条さんが登場で、まさかのインデックス意識不明で、続きが全く予想できないわ。
登場人物皆が不幸になってるけど、最後は幸せな終わりが良いなぁ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2011/08/28(日) 00:31:14.66 ID:7A4TJlMAO<> 乙なんだよ!
続きが気になって自慰行為も出来ないよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(岡山県)<>sage<>2011/08/28(日) 00:38:29.61 ID:QyzhOV8d0<> 色々忘れてることがあるからちょっと読みなおすわ。
凡人代表の浜面の苦悩が描かれていて面白いな。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/28(日) 09:00:41.23 ID:Gwo+fstAO<> 無能力者は熱いな
乙です <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/28(日) 09:43:31.63 ID:GgRb/wXQ0<> いい感じに浜面の泥臭さがでてる
乙っ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/08/28(日) 10:21:43.56 ID:/K5WDdIL0<> 上条さんの説教来た!
これで何かが変わるハズ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長野県)<>sage<>2011/08/28(日) 15:57:09.78 ID:iLTkR/U+0<> いちおつ
次回も楽しみ <>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/28(日) 20:48:16.34 ID:sZS93zGk0<> 明日の夜には投下出来そうな。
余裕があれば今日の日付変わる頃に
吹寄さんのはちょっと細かい伏線で申し訳ないです。
これからもちょくちょく拾っていきます。
前スレの日常パートとかさらりと目を通しておいてもらえるとだいぶ分かるかなーと思う。

あと分かりきった事だけどこのスレじゃ終わらんね……ではでは <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(山梨県)<><>2011/08/28(日) 21:06:40.99 ID:oKMDjFOm0<> おつ
楽しみに待ってる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/28(日) 22:55:25.08 ID:ve5Xd94SO<> なるほど上手いね〜 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福井県)<>sage<>2011/08/28(日) 22:58:18.98 ID:2a3kBoK3o<> 楽しみにしてます。
これで今週も生きられる! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2011/08/28(日) 23:36:58.43 ID:0Mul3X8So<> どうしても伏線分かんなかったから読み返してきた
wwktkが尋常じゃなくなったwwktk <>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/28(日) 23:49:49.38 ID:sZS93zGk0<> 1時までには投下できそうだわ。がんばる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/29(月) 00:02:27.70 ID:oVuWYfduo<> がんがれ <> ◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/29(月) 00:55:28.71 ID:Jq0MGcRl0<>




・幻想殺しが殺した幻想




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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/29(月) 00:57:22.52 ID:Jq0MGcRl0<>

浜面仕上がをそのHPを見つけたのは、あの落雷が落ちる日の少し前だった。
暇を持て余したまに見ていたそのサイトで、ほんの偶然見つけた隠しリンク。

そこに映っていた文字の羅列に、一度は目を疑った。

TITLE : Level Upper
ARTIST : UNKNOWN

決断は早かった。駒場や半蔵に何を言われるか、どう思われるか。
そんな事は考える暇さえなく、浜面はすぐさまそのファイルをダウンロードする。

そうさせたのは無能力者としての性か。何かを変えたかったからか。
怠惰な日々を貪り、結局はこの街にとってマイナスの自分をプラスだと言い張り、
それを理解しながらも他人にやつ当たる日々に限界を感じていたのかもしれない。

ただ、そのファイルはダウンロードの最中に起こった落雷によってパソコンは止まり、



浜面はインデックスと出会った。



そして、何かが変わった。

結局、必要のなくなった幻想御手の情報という自分が残した置き土産は、
紆余曲折を経てとある少女に渡る事になる。

上条「…………」

浜面「……ふき、よせ」

まるで死んでしまったかのように瞳を閉ざし、ベッドに横たわるこの少女に。

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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/29(月) 00:58:24.51 ID:Jq0MGcRl0<>

沈黙が包み込むその小さな個室に、機械的な電子音だけが小さく鳴り響いていた。

上条「なんで、吹寄にあんなもん渡した」

浜面の後ろに立つ少年。上条当麻が、悔しそうにそう呟いた。
見るに耐えないのだろうか、同じクラスでありながらをまとも会話もした事が無いその少年は
拳を硬く握りしめ、眠る少女から目を逸らす。

浜面「……知らなかったんだ」

どうして。という問いに、答えたのは、虚ろな言葉。

浜面「幻想御手に副作用があるとか、んな事知らなかったんだよ」

まるで、言い訳のような。そんな言葉。

浜面「そうさ。俺は、何も知らなかった」

だから、何だというのだろう。
悪いのは俺じゃない、とでも言うつもりだろうか。

浜面「だから悪いのは俺じゃねぇ」

どこまでもクズな奴だ。
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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/29(月) 00:59:00.96 ID:Jq0MGcRl0<>
上条「テメェっ!!!」

怒号、呆然と立ち尽くす浜面の胸ぐらが、引き寄せられる。

浜面「……っ」

上条「何ふざけた事ぬかしてんだ。テメェが悪いに決まってんじゃねぇか!!」

そう言って、鬼気迫る勢いで少年に詰め寄った上条は、気付いただろうか。

浜面「俺は方法を教えただけだ。決断したのは吹寄じゃねぇか」

その言葉に、何の感情も込められていない事に。
感情を生み出す大切な場所が、壊れかけている事に。

上条「……逃げんのか」

浜面「…………」

ぴくりと、少年の肩が跳ねた。

上条「そうやって逃げんのかよ」

浜面「うるせえよ」

上条「そうやって全部誰かに押し付けて、お前は――」

浜面「うるせぇっつってんだよッ!!!」
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/29(月) 00:59:38.42 ID:Jq0MGcRl0<>
掴まれた手を、振り払う。
勢いに任せ押しのけた上条の体は揺れ、ベッドのそばにある棚にぶつかる。

ガッシャーン、と陶器の割れる音。花瓶が落ちた音だった。

浜面「……っ」

病室の扉を背に、浜面が見たものは何も変わらない。
怒りを込める少年に、ベッドに眠る吹寄制理。

濁った色の液体が通ったチューブを腕に刺し、ベッドに沈むその姿は、ある少女と重なった。

浜面「――――っ!!」

自分が壊してしまった。あの白い少女と重なった。

上条「――ッ、待てよ!!」

バンッ!!と勢いよくドアを叩いて部屋を飛び出した浜面に、
上条の動きが一瞬遅れた。伸ばしたその右手は、あと一歩届かない。

上条「くっそ、悪い吹寄。あとで片付けに来るからなッ!!」

そう言って、自身も部屋を飛び出し。走り去る浜面の背中を追う。

吹寄「…………」

酸素マスクに覆われた彼女の表情に、応えるものは何も無かった。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/29(月) 01:00:28.40 ID:Jq0MGcRl0<>

浜面「ちくしょう……ちくしょう!!」

どこをどう走っているのか、全く分からなかった。
長い廊下を走り、階段を駆け上がり、それでも口から漏れる言葉は変わらなかった。

浜面「なんでだ。なんでッ!!」

どうして。

どこで間違った。

なにを間違った。

一体なにが悪かった。

浜面「……ッ!!」

予想はしていた。あの花飾りの少女から副作用があると聞いた時には。
もしかして、吹寄も被害にあったんじゃないか。もしかしたら、意識を失ったんじゃないか。

予想はしていた。想像の範囲内だった。

浜面「う、ぁ……!!」

ただ、少年に襲いかかった目の前の現実が、想像以上に大きかっただけだ。

心が、折れてしまうくらいに。

浜面「……なんでだぁっ!!!」
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/29(月) 01:01:07.29 ID:Jq0MGcRl0<>

どうしてここまで取り返しのつかない事になった

どうしてこんなにも全てが裏目にでた。

どうしてこうなってしまった。

どうしてこんなに惨めなんだ。

どうしてこんなにも諦めているんだ。

どこで間違えた?

変わったはずだったの。

変われたはずだったのに。

どこで自分はこうなった。

全部、全部助けるためだったのに。

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/29(月) 01:01:44.86 ID:Jq0MGcRl0<>

全部一人の少女を助ける為だったのに

浜面「ちがう」

全部自分を助ける為だったのに。

浜面「ちがう」

全部一人の少女を助ける為だったのに

浜面「ちがう……ちが」

意識の齟齬が、渦を作る。
思えばこんなに自虐的に、臆病に、弱くなったのはいつだろう。

元からだった気がするし、つい最近だった気もする。

何かがどこかに引っかかる。

自分がもう少し自虐的でなければ、
もしかしたらミサカの件で手を伸ばせたかもしれなかったのに。

自分がもう少し臆病でなければ、
もしかしたら駒場の意思を継いで、仇も取っていたかもしれなかったのに

浜面「……う、ぁ」

自分がもう少し強ければ、

  『……むぅ、じゃあもししあげが忘れちゃったら、
   どこが覚えているの?』

  『だめだよ、しあげ。しあげは私が守るんだから、
   無理しちゃやだよ……けど、まってるね』

浜面「ぁぁっあ、うぁっ……ぁぁぁぁぁぁ」

少女を救う事を諦めなかったのかもしれないのに。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/29(月) 01:02:19.76 ID:Jq0MGcRl0<>


浜面「くそ……くそぉ」

何を守りたかったのかさえ思い出せない。

大事なものを置き去りに、大事なものを見失って、大事なものを忘れてしまった。

まるで白い霧がかかったように。

まるで見えない壁に阻まれるように。

まるでそれが幻想だったかのように。

  『     』

交わした言葉も、約束も、今では記憶になかった。

どの道、ここで自分はリタイヤだ。
もう、インデックスは救えない。
目覚めさせる方法も分からないし、手がかりもない。自分にはなんの特別も無い。

諦めて、心を軽くしよう。

自分はただの、無能力者なのだから。

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/29(月) 01:03:09.11 ID:Jq0MGcRl0<>

浜面「…………」

気付けば、そこは屋上だった。日は照っていて風はなく、無風。
熱の持ったコンクリートが崩れ落ちそうになる浜面を焼く。

浜面「……まだ、なんか用かよ」

うなだれた浜面から漏れた言葉は、後ろで息を荒くする少年に向けられていた

上条「あぁ、まだ話は全然終わっちゃいねぇぞ」

少年は息を整え、詰め寄る様に近づいてくる。
収まらない怒りを拳に握って。

上条「もう一回聞く。なんで吹寄に幻想御手を渡した」

浜面「……さっきも言って、」

上条「俺はお前のいい訳を聞きたいんじゃねぇんだよ」

浜面「……ッ」

吹寄に幻想御手の情報を渡した理由。
あの時、どうして吹寄に渡したのか。

ぽつり、ぽつりと、降り始めの雨の様に言葉を紡ぐ。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/29(月) 01:03:57.40 ID:Jq0MGcRl0<>

浜面「……インデックスを、助けたかった」

上条「インデックス……?」

浜面「ただの……記憶力がいいだけの女の子だ。
   ソイツを助ける為に、どんな事でもする必要があった。
   どんな事でもしなきゃいけなかった」

インデックスを能力者にする為に。

インデックスを問題なく校内に忍び込ませる為に。

浜面「その為には、吹寄の協力が必要だった。
   確実にする為に、幻想御手で釣ったんだよ……
   無能力者なら、あんな堅物でも興味を示すと思ったからな」

上条「……ッ!!」

上条の腕が勢いよく伸び、再び浜面の胸ぐらを掴んだ。

上条「だからお前は、利用したんだな。幻想御手を利用して、吹寄を利用して……!!」

浜面「あぁ……だからどうした」

それの何が悪い。

上条「――ッ!!」

ぶちっ という音が聞こえた気がした。

浜面「ッぐ!!」

次の瞬間には衝撃、右頬に鈍い痛みが広がる。倒れそうになる体を、足で支える。
殴られた。それを理解した瞬間に、次の言葉が降ってきた。

上条「ふざけやがって……!!」

その言葉に、小さな火。マッチ程度の苛立ちが何かを灯す。

浜面「……テメェに何がわかるんだよ」
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/29(月) 01:05:01.00 ID:Jq0MGcRl0<>

つぶやきが、頬の痛みが、今の今まで溜め込んだ何かが、燃料となって燃え広がる。

浜面「テメェに何が分かるんだよッ!! あぁッ!? 何も知らねぇだろうが!!
   アイツの事も、俺がどんな気持ちでアイツのそばにいたのかなんて事も!!!」

爆発したその感情は、その言葉は、どこかで聞いた事がある言葉だった。

……どこだっけ。

上条「あぁ、知らねぇよ。でもテメェはやっちゃいけない事をした。
   誰かを守りたいからって、他の誰かを利用するなんて一番やっちゃいけねぇ事なんだ!!!」

浜面「奇麗事抜かしてんじゃねぇッ!!」

上条「じゃあテメェは吹寄の気持ち知ってんのかよ!! お前の都合に巻き込まれて、
   あんな風になった吹寄の事を少しでも考えたのかッ!!」

浜面「ッ!!」

浜面の言葉が途切れる。それは肯定の証拠だ。
少女の気持ちを考えたか。
幻想御手を渡して少女がどう悩むか考えたか。

答えは、今の浜面のそれだ。

上条「アイツは泣いてたぞ!! 泣いてたんだ! 泣きながら自分が悪いって言って朝から電話かけてきた。
   そんな状況に追い込んだのはテメェじゃねぇかッ!!それでもテメェは悪くないって言えんのかよ!!」

浜面「う、っるせぇんだよ!!」


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/29(月) 01:06:28.14 ID:Jq0MGcRl0<>
力任せに拳を振るい、怯んだ隙を浜面は見逃さなかった。
腕が浮き、がら空きになった上条の体に路地裏仕込みの一撃を叩き込む。

上条「ぐッ!」

強制的に空気が吐きだされる。
体勢を崩し、次の一撃を防ごうともがく上条に降り掛かったのは、


浜面「じゃあ、俺はどうすればよかったんだよ……」


暴力ではなく、悲痛な言葉。

浜面「俺は能力者でもねぇどこぞの主人公でもねぇ……
   神様のシステムも打ち消せるような特別な何かも持ってねぇただの、無能力者なんだよ」

それはこの学園都市に生きてきて、何度も、何度も何度も何度も呟いた言葉だった。

何度も何度も確認させられた現実だった。

浜面「そんな俺が、無能力者でなんの力もないような俺がッ!! 化け物みたいな連中相手にしながら
   アイツを助けたようとするんなら、誰かを食い物にするしかねえじゃねぇかッ!!!」

浜面「誰かを、踏み台にするしかねえじゃねえかッ!!」
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/29(月) 01:07:07.27 ID:Jq0MGcRl0<>
上条「……ッ、テメェ!!」

握られた拳が浜面の腕を払う。そのまま頬を打とうと握った手は、

上条「――っ」

浜面に届く事無く、止まった。上条は見てしまったから。
今にも壊れてしまいそうなほどぐしゃぐしゃに歪んだ少年の顔を。

上条「お前……っ」

その一瞬。上条が止まり、浜面は動いた。
伸ばされた腕が上条の胸ぐらを掴み引き寄せ、叫ぶ。

まるで何かを訴える様に。

浜面「俺だって必死だった。必死だったんだよッ!!
   アイツを助けたかった……どんな事をしても助けたかったんだ」

それはどこかで聞いた覚えのある言葉だった。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/29(月) 01:07:38.55 ID:Jq0MGcRl0<>




……あぁ、そうだ。思い出した。

これ。

インデックスを救おうとしてたあの魔術師達と、同じ事言ってるんだ。




<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/29(月) 01:08:53.70 ID:Jq0MGcRl0<>
浜面「でも助けられなかった……救えなかったんだよッ!!!」

……ははっ

刹那の沈黙に、そう笑ったのは浜面。

浜面「お前の言う通りだ。そもそもが間違ってたんだよ」

上条「…………」

浜面「俺みたいなクズが人を救おうとしてもうまくいくわけなかったんだ」

上条「…………」

自虐的に笑い、そう呟かれた言葉に、上条の肩がぴくんと跳ねた。

浜面はそれに気がつかない。

ただ、もう押さえつけようのない内心が爆発する。

浜面「当たり前だよ、本当に助けたいなんざ思ってなかったんだからな!!
   俺はアイツを助ける為に戦ったけど、アイツの為に戦ったんじゃねぇんだ!!!」

浜面「結局は自分の為に、誰かを見返したくて俺はアイツらを食い潰したんだよ!
   そうさ、俺みたいな無能力者には! 力のない奴はそうやって生きていくしか道はねぇんだッ!!」

それは端から聞いてみればそれはまるで言い訳のような言葉。
浜面仕上が今まで能力者に対してやつ当たってきた人生に対する言い訳のような。
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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/29(月) 01:09:20.51 ID:Jq0MGcRl0<>



上条「……ふざけんな」



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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/29(月) 01:10:11.54 ID:Jq0MGcRl0<>
浜面「あぁ……ッぶ!!」

鼻っ面、顔のど真ん中に突然訪れた衝撃に思わず、掴んでいた手を離す。
崩れ落ちそうになりながら、頭突きを食らった事が分かったのは反撃の体勢を整えた時だった。

上条「無能力者にはそれしか道はねぇだ?」

上条「ふざけんなッ! あるに決まってんだろうが、てめえの物差しで全てを測ってんじゃねぇよ!!」

浜面「こ、のぉッ!!」

怒りに拳が振り被られる。しかし、当たらない。
喧嘩慣れしているであろうツンツン頭の少年は一歩、二歩、
とステップを踏み、浜面の拳を避けていく。

上条「他に道なんて、いくらでもあったはずだろっ!!」

浜面「ねぇよそんなもん! 知った風な口を叩いてんじゃねぇ!!」

上条「ぐッ!!」

肉を打つ音が響いた。握った手には、頬を打ち抜いた確かな感触。

浜面「――っ」

しかし、上条当麻は倒れない、大きく体勢を崩したにも関わらず、
その場に踏みとどまっていた。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/29(月) 01:11:11.50 ID:Jq0MGcRl0<>
上条「……あったさ。きっと、あったはずだ。わざわざ幻想御手なんか
   使わなくても、話せばきっと吹寄だって分かってくれた!!
   そういう努力はしたのかよ! それを怠ってたのは、テメェじゃねぇのかよ!!!」

浜面「く、ぅ……ッ」

放った腕が、掴まれる。
この細い右腕のどこに、そんな力があるのか浜面には分からない。

上条「お前がいままで何を守りたくて、どんな風に傷ついてきたなんて詳しい事は知らない。
   けどな、――」



上条「それでもテメェには守りたいものがあったんだろ!」



浜面「――ッ!! ッ、が」

脳を揺さぶるような、そんな衝撃が襲いかかった。
視界の右側が点滅し、腕を掴まれながら思わず崩れそうになる。

守りたいもの。そう、確かに浜面にはそれがあった。

しかし、なぜだろう。

どうして。

浜面「忘れちまったよ……んなもんはなぁ!!!!」

思い出せない。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/29(月) 01:11:55.30 ID:Jq0MGcRl0<>
上条「嘘吐くんじゃねぇ!! 他に道を探そうとしたのかよ! 
   てめぇのやった事で誰かが泣いたんだぞ! そんな事で助かってそいつは喜ぶのかよ!!」

浜面「黙れよ……ッ!!」

自分の為に誰かが泣いた。そんな事を知ったらあの少女はどう思うだろう。

泣くな。ああ、絶対泣く。悲しむに違いない。

上条「なりふりかまってられなくたって! カッコ悪くたって! 例え自分のためでもいいッ!!
   せめてソイツにだけは誇れるぐらいの道を歩いてみろよ!!」

浜面「黙れぇぇぇッ!!!」

上条「が、はッ!」

誇れるような道。そんなモノある訳ない。
そんな清く正しい茨の道を歩いていた奴なんて、浜面は一人しか知らない。

浜面「そうやって自分の道をすすんでいった駒場って奴は殺されたよ。
   無能力者のくせに、場違いにも誰かを守ろうとしてなあッ!」

上条「ならその駒場って奴が見てた世界はきっとお前とは違ったはずだ!
   でもテメェだって守りたいものがあるなら、」

浜面「俺は駒場みたいにな善人じゃねぇんだよ!!」

上条「ぐ、ッ!!」
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/29(月) 01:12:57.02 ID:Jq0MGcRl0<>

体勢を整える前に、懐に入った浜面が畳み掛ける。
膝が、肘が、止まらない打撃が何発も何発も上条の体に叩き込まれる。

浜面「常に保身しか考えてねぇこんなクズが、誰かを助けるなんて出来る訳がねぇんだ!」

上条「が、ぁッ!!」

浜面「逃げたっていいじゃねぇか!!! 諦めるのが、悪いのかよッ!!!」

上条「ッ……!!」

勢いに負けてか、それとも押し勝ったのか、とうとう上条がその場に倒れた。

浜面「はぁっ……はぁっ……」

息も絶え絶えになりながらも口元を拭うと、べったりと血と汗が混じっていた。
あれだけ殴り合えば当然かもしれない。浜面自身も足が震え、今にも倒れ込みたい気分だった。

上条「…………」

上条当麻が、立ち上がりさえしなければ。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/29(月) 01:14:24.79 ID:Jq0MGcRl0<>

上条「いい、加減……に、しろよ」

同じ様に、口元についた血を拭い。
唾と一緒にそれを吐き出す。

思いと一緒に、言葉を吐き出す。

上条「言っただろうが!善人でも悪党でも情けなくてもカッコ悪くても
   保身しか考えてねえよなクズだろうがそんなの関係ねぇんだよ!!
   逃げたって誰も文句いわねぇ!」

浜面「…………」

いつの間にか、体が一歩引いていた。
それは、目の前に立つこの少年がとてつもなく恐ろしく感じたからで、
純粋に、気圧されたからで

上条「けどたった一つだけ答えろ。無能力者」

すう、と上条が大きく息を吸う。
呼吸を整え、目の前にある幻想を砕く為に、その言葉を叫ぶ。



上条「テメェは、誰かを助けたいんじゃなかったのかよ! 
   力が無くても、それでも誰かを助けようとしたんじゃなかったのかよ!!!」


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/29(月) 01:15:32.45 ID:Jq0MGcRl0<>
浜面「ッ……それ、は」

上条「さっきから聞いてりゃテメェがどうしたいかなんて、ちっとも吐き出されてねえじゃねえか!!
   自分のためだろうが見返すためだろうが、んなつまんねぇ事どうだっていいんだよ!!」

浜面「なん、……」

つまらない。どうだっていい。少年はそう切り捨てた。
浜面が今の今まで積み上げてきてしまった負の感情。
あってはいけないもの。自分の中でひた隠しにしていた気持ち。罪悪感。

上条「お前はこのまま終わらして本当にいいと思ってんのか!! 一度助けられなかったからって、そこで終わるのかよ!
   そんな最低な結末で終わらしちまうのか!! お前だって誰かを助けるような善人に、ヒーローになりたかったんだろッ!!
   だったらそれは全然終わってねぇ、始まってすらいねぇ! ちっとばかし長いプロローグで全部を終わらせてんじゃねぇよ!」

浜面「俺、は……、」

どうしたい。インデックスを助ける? いまさら?
自分が壊したくせに? 自分の為に助けたくせに? 利用したくせに?
逃げに逃げたくせに? こわかったくせに? 慰めたかっただけのくせに?

浜面「…………」

まだ、間に合うのか?

浜面「あ……ぁ」

気付けば、手すりが邪魔で、もう後ろには下がれなかった。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/29(月) 01:16:55.39 ID:Jq0MGcRl0<>
上条「選べよ。今ここで」

上条当麻が、一歩を踏み出す。そこに、確固たる意思を持って。

上条「テメェがソイツを捨てていこうが他人に預けようが何もいわねぇ。
   けどもしお前にも欠片でもいい。まだそのインデックスって子を助けたいって思うんなら、
   笑顔でいてほしいって言うんなら」

上条当麻が、駆け出す。

その右手を硬く握って。



上条「――せめてその子にだけは胸を張れるぐらいにヒーローでいてみせろッ!!!
   傲慢だろうが自己満足だろうが、お前自身が胸を張れる答えを自分で選んでみろよッ!!!!」



浜面「う……あ……ッ」

浜面が迫る上条に向かって取り出したそれは、レディース用の馴染まない小さな拳銃。
まともな思考なら、どうかしている。でも、とにかくコイツを黙らしたかった。

インデックスを助けたい。諦めたい。食い違う意識が混ざる。
とにかく、もう、もうなにも考えられずに、

浜面「うあああああああああああああああああああああッ!!」
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/29(月) 01:18:25.54 ID:Jq0MGcRl0<>
パァン

上条「ッ――」

しかしそれは当たらない。当然だ。こんなに腕が、心がぶれていたら、当たるはずが無い。

絹旗の言った通りだ。

浜面「あ、」

気付けば、もうそこにソイツはいた。拳を握って、ソイツは、

上条「いいぜ、それでもテメェがここでなにもかもを全部投げ捨てて、諦めるって言うんなら――」








上条「まずは、そのふざけた幻想をぶち殺すッ!!」







上条「その後どうするかは自分で考えやがれ、この大馬鹿野郎ッ!!」




<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/29(月) 01:20:07.59 ID:Jq0MGcRl0<>
轟音が炸裂した。

上条当麻の右腕が、浜面仕上の頬を確実に貫いた音だった。

そして、





――――キュイン






同時に、夏空が覆う病院の屋上で、何かが砕けるような、そんな音が響いた。

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/29(月) 01:21:39.10 ID:Jq0MGcRl0<> 浜面「――あ、」

何かが壊れ、何かが殺され、何かが晴れて行くのを感じた。

そもそも、自分は何に、罪悪感を感じていたんだろう。
インデックスを救う事を建前に、自分を慰めたかっただけだから?
あの情けない生活に戻るのが嫌でインデックスに依存していたから?
少女の事は二の次で、自分の事しか考えてなかったから?

そんな、他人からつまらないと一言で片付けられるような事で?

それでもあの少女を救いたいと思った事には変わりないのに?

浜面「あぁ、」

認めるさ。

自分は確かにクズみたいな自分から変わりたかった。

自分は確かに見返したかった。それも認める。

自分を慰めてたし、インデックスを出汁に使った。確かにそうだ。

けど。

インデックスを救いたいって気持ちは、確かにあの時にあったんだ。

それは誰にも、自分自身にだろうが否定させる訳には行かない。させてたまるか。

あぁ、ちくしょう。どうしてそんな事を忘れていたんだろう。

どんな事をしても助けるって誓ったのに。

一瞬が忘れられない彼女の為に、あの笑顔を守り通すって決めたのに。

ほかの誰でもない、あの少女に。

浜面「バカだよなぁ……俺」

ドサッ、ドサッと、そんな続けて二人倒れる音が、夏空に静かに響いた。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/29(月) 01:22:27.07 ID:Jq0MGcRl0<>
――――――――

日に照らされて、どれほどの時間が経ったろう。

ぽつりと呟いたのは、大の字になってクソ熱いコンクリートに寝転がる浜面だった。

浜面「なぁ、上条」

上条「んー、なんでせう」

浜面「……お前さ、これからどうすんの?」

あ〜、と同じく大の字に寝転がる上条が答える。

上条「助けるよ。吹寄を。……約束しちまったし」

浜面「そうか」

浜面「……俺も、インデックスを助けたい」

上条「……おう」
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/29(月) 01:22:58.29 ID:Jq0MGcRl0<>

浜面「一緒に動かねぇか?」

は? と、突然の浜面の提案に、そんな気の抜けた返事が返ってくる。

上条「いつつ……一緒って? いや、俺は別にいいけど」

痛みを訴えつつ起き上がった上条が、何かを言いたそうに覗き込む。

浜面「あぁ、その心配ならねぇよ」


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/29(月) 01:24:39.20 ID:Jq0MGcRl0<>

インデックスを目覚めさせる方法は、いくら考えても分からない。
魔術師であるインデックスに無理矢理な脳開発を施した影響か、
はたまたキャパシティダウンの影響でインデックスが目を覚まさないのだったら、
ただの無能力者である自分にはもうどうしようも無いだろう。手の出しようがない。

魔術の事も脳の事も、自分にはさっぱり分からないのだから。

ただ、それは前提が『魔術師であるインデックスに無理矢理な脳開発を施した影響か、
キャパシティダウンの影響だったら』の話だ。


そもそもどうしてインデックスが目覚めないのか


その理由を浜面は知らない。当然だ。



  『先ほども言いましたが、私は魔術師です。
   医者の言っていた言葉でさえ、半分も理解できていません』



神裂でさえ半分も分かっていないのだから。


浜面「はぁ、あ」

体の奥から、絞り出すようにため息を吐く。

冷静に考えてみれば、分かりきった事だった。

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/29(月) 01:25:59.66 ID:Jq0MGcRl0<>



そうさ、自分は吹寄に『何』を渡した?



自分は落雷の前に『何』をしていた?



停電後パソコンを初めて起動させた時パソコンの画面には『何』が映っていた?



なんと言う『文字』が表示されていた?



自分と過ごしていた時、インデックスは常に『何』をしていた?


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/29(月) 01:26:39.92 ID:Jq0MGcRl0<>



携帯電話さえ扱う事との出来ないインデックスが唯一『まともに扱えた電子機器』はなんだった?



<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/29(月) 01:27:21.96 ID:Jq0MGcRl0<>
浜面「…………」

痛む腕を動かし、ポケットから取り出したそれは音楽プレイヤー。
150曲入ってるはずのそのプレイヤーには、151曲の曲が入っていた。

そして、

ピッ

浜面「……やっぱり、か」

TITLE : Level Upper
ARTIST : UNKNOWN

どさ、っと、腕を投げ出した。

浜面「分からない者は分からない、ね」

確かに、科学の世界に触れた事の無い魔術師にキャパシティダウンと幻想御手、
どちらも音の出るモノの区別なんてつかないだろう。

浜面「分かれよそれくらい」

だが、そう言わずにはいられない。

やっぱりインデックスが目が覚まさないのは自分のせいだった。

けど閉ざされていた道がこれで見えた。

浜面「今度こそ、絶対に助けてやる。インデックス」

それは、少年の新たな誓い。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/29(月) 01:28:04.53 ID:Jq0MGcRl0<>
理解したのかしていないのか、上条が不意にぼやく。

上条「つっても手がかりもなにもねぇとなるとな……どうしたら」

浜面「それなら心配いらねえよ」

上条「え?」

痛む体に鞭を打ち、起きあがる。

その時浜面が思い浮かべたのは、一人の少女。
あの時、泣きそうな目をしていた風紀委員の、女の子

浜面「もう一人いるんだ。俺たちと同じような奴が」

向き合って。上条がどこか感心したように、へぇと言う。
その表情はどこか活き活きとしていて、

浜面「そいつに力を借りればいい」

その目はかつての輝きを取り戻していた。
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/29(月) 01:29:21.42 ID:Jq0MGcRl0<>

というわけでここまで。説教回でした。
浜面大復活おめでとう。ねがてぶ書くのしんどかったからうれしいよ。
というわけで前スレでしつこく張った伏線も回収した事ですし、次回は3人が主体になります。
日常編も終わりが見えてきたね。8月後半はいいペースでこれました。
皆さんのおかげです。次は九月。よろしければおわりまでおつきあいくださいな。ではでは。

次回予告。置いて行きます。


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/08/29(月) 01:29:50.65 ID:Jq0MGcRl0<>

                     【次回予告】  


  「それでも、私は風紀委員<ジャッジメント>です。目の前で泣いている人や、苦しんでいる
   人がいるなら、例えその人がどんな悪人だろうと私は迷わず手を差し伸べてみせます」

                   
                                     風紀委員・初春飾利

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/29(月) 01:31:32.42 ID:oVuWYfduo<> 乙!濡れた <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<>sage<>2011/08/29(月) 01:31:49.16 ID:HYVm5b44o<> 乙乙
あれ伏線だったのか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2011/08/29(月) 01:33:04.36 ID:f+154QVAO<> 乙なんだよ!
上条さんはいつも通りファンキーだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/29(月) 01:35:28.75 ID:gtyoxWmr0<> 乙
伏線がうますぎる
しかし、浜面は結局上条さん居ないと変われないのね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北陸地方)<>sage<>2011/08/29(月) 01:36:55.82 ID:Qynmk6+AO<> 乙

最っ高に熱い展開だ!
この浜面に上条さん、そして初春が加わればきっともう何も怖くない <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2011/08/29(月) 01:38:26.02 ID:N1BGkidAO<> 乙
>>900
正直自分もそう思ったが読んだら読んだでまあいいやってなった <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2011/08/29(月) 01:42:37.49 ID:orrKXM2AO<> 乙。

浜面が変わった変わってないってのは文中でもよく書かれてるけどなんなのかがよくわからん。

あと幻想殺し発動してるのはどういう訳なんだぜ? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/29(月) 01:49:22.92 ID:fUGnx59SO<> 乙

相変わらず浜面は浜面だったか
上条さんがいてよかった。これで超浜面になれる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/29(月) 01:50:09.56 ID:ELhzyyD+o<> 乙でしたー
うーん、浜面視点だとこんなにも暑苦しい奴なのか上条さん…ww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(四国)<>sage<>2011/08/29(月) 02:24:11.91 ID:z7wz6NGAO<> いつか浜面が上条さんをそげぶする日がくるといいな。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/29(月) 02:37:07.96 ID:XJxf9HZ6o<> 食蜂さんに脳いじられてネガティブにされてたのがそげぶされたのかと一瞬思ったww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)<>sage<>2011/08/29(月) 03:03:54.52 ID:rw4udQfxo<> 乙
熱かったー。
やっと浜面が動き出したか。初期みたいに活き活きした浜面が楽しみです。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/29(月) 03:05:15.45 ID:Do3ED0xN0<> 乙
上条さんは、主人公の原石が光り輝くヒーローになる為の研磨剤みたいな物なんだよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/08/29(月) 12:33:53.83 ID:0Q9a98K2o<> 乙

しかし主人公全員が無能力者って珍しいな
話つくるの難しいし すげーわ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/29(月) 14:03:25.49 ID:4snHLOCAO<> 初春さんの能力もあってないようなもんだしな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2011/08/29(月) 14:49:47.39 ID:pWyCOgEHo<> 乙
そりゃ飽きるわインさん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/29(月) 17:21:53.07 ID:bC9MOEIU0<> 浜面が心理定規の能力効かなかったのはすでになんかの能力を受けてたからなのかな
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/08/29(月) 17:42:01.88 ID:wKN95CRH0<> いつ見ても無駄が少なく濃密に構成されたストーリーだな
上条さんもいい感じにそぜぶしたし素晴らしすぐる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/08/29(月) 18:40:13.47 ID:9dNY89mx0<> 前作のギャグの頃から見てるけど本当にキャラの扱い、話しの構成と切り方がうまい。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/29(月) 23:43:37.11 ID:WtU46EJy0<> なんだが植物人間になった上条さんに代わって軍覇さんが浜面に説教する話を思い出した。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/30(火) 14:24:58.40 ID:+dxFnhSSO<> ん?インデックスにキャンパスシティを聞かせたと思ったらレベルアッパーだったんだよな
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/30(火) 14:55:51.24 ID:zgOBVA3K0<> 浜面が変わるには叱咤してくれる奴か支えてくれる奴が必要なんだろな
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(岡山県)<>sage<>2011/08/31(水) 01:17:53.61 ID:aiQaO/5p0<> ここの浜面をみると……不覚にも勃起してしまいましてね。

>>917
まだインさんが開発を受けてない時、浜面の音楽プレーヤー中にあったアッパーを聞いたんだろ。

自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2011/08/31(水) 09:31:43.51 ID:dvPl6LmAO<> あー、てことはあれか。ペンデックスが強制終了したのってキャパシティダウンの影響じゃなくてレベルアッパーのネットワークに引き込まれたからなんか。

……あれ、インさん起こしたらやばくね?
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福井県)<>sage<>2011/08/31(水) 09:44:43.27 ID:fsPv4CmEo<> >>920
いや、強制終了したのはキャパシティダウンによって脳に負荷がかかったせい。
気絶している間にレベルアッパーのせいで昏睡に入ったってことだろ。
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/31(水) 13:32:23.39 ID:j+x4xJn+0<> プレイヤーに入れたのは誰になるんだろ
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2011/08/31(水) 14:50:45.95 ID:jnwNeJKQo<> 雷の時にはもう入ってたんじゃないか?
浜面は落雷で失敗したと思ってたから、151曲入ってたことを知らなかった
だからこそインデックスの昏睡の理由が咄嗟には分からなかったと
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(沖縄県)<>sage<>2011/08/31(水) 16:02:16.97 ID:H55UXxHRo<> そういや上条参戦だと、担当は木山センセとAIMバーストそげぶかねえ
大怪我しそうだがww
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(愛知県)<>sage<>2011/09/03(土) 21:54:52.81 ID:oKYTulSB0<> そういや上条さんはどうやって浜面がレベルアッパーの出どころであることを突き止めたんだ?
自分が悪いと言っていた吹寄がチクったのはいささか不自然な気もするのだが…
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/03(土) 23:23:11.83 ID:yECOBCOc0<> 1乙
垣根はどうなるんだ?
  
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/09/03(土) 23:35:04.53 ID:h4tAQI8O0<> 多分>>249で出てきた上条さんがちょうど吹寄と件の電話中だったんだろ。
で、初春みたいに家に駆け込んでなんかの痕跡発見。まで想像できた。
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2011/09/04(日) 02:34:59.16 ID:/lR+PeYg0<> 1乙!
久しぶりに覗いたらすんげー熱い展開になってた。
これからは毎日追うぜ!
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2011/09/04(日) 02:35:26.21 ID:/lR+PeYg0<> 1乙!
久しぶりに覗いたらすんげー熱い展開になってた。
これからは毎日追うぜ!
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2011/09/04(日) 02:35:52.95 ID:/lR+PeYg0<> 1乙!
久しぶりに覗いたらすんげー熱い展開になってた。
これからは毎日追うぜ!
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/04(日) 20:19:31.17 ID:J/SPsOd4o<> 大事なことなので <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/05(月) 21:51:56.03 ID:kJtK2jPSO<> すげぇ面白いです、SS書いてる身として演出とか参考になります <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/09/11(日) 02:07:34.02 ID:rtJpiZHW0<> 9月は私事続きで少し遅れています。既に半月も間があいて申し訳ない
来週中には来たい。
次の投下でこのスレと日常編は最後になると思います。
今はジェットコースターでいう山の頂点付近。こっから先はおちる一方でさぁ。
<>
◆v2TDmACLlM<>sage<>2011/09/11(日) 02:08:47.47 ID:rtJpiZHW0<> あ、酉わすれたすません <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2011/09/12(月) 22:14:27.03 ID:7+oMbPP50<> 待ってます <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2011/09/12(月) 23:15:04.25 ID:uEmkVl8Oo<> 待ってるよ〜 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2011/09/19(月) 09:43:37.80 ID:VS08C9Ie0<> 待ってる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/09/19(月) 13:01:25.43 ID:8op1WER40<> 全裸で <> ◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/19(月) 18:48:51.28 ID:JmtHzFa+0<> なんとか今日にはこれそうな。
期間が空きすぎて申し訳ない。このスレももう終わりです。
順調に来れれば日付が変わる頃に <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/19(月) 18:51:36.13 ID:xZ1zTGNio<> マテイル <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/09/19(月) 19:19:49.80 ID:4ik3xqGJo<> マツヌス <> ◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 04:58:47.75 ID:xWIJga+F0<>




・信念と齟齬




<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 04:59:14.84 ID:xWIJga+F0<>

しんねん [信念]〔名〕
正しいと信じ、堅固に守る自分の考え。
自信の念。


そご [齟齬]〔名・自サ変〕
物事がうまくかみあわないこと。
食い違ってうまく進まないこと。
ゆきちがい

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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 04:59:59.74 ID:xWIJga+F0<>
やたらと人がひしめき合ってる病院の待合場はざわざわと騒がしく、今なら外の方が静かな気がした。

初春「…………」

一際目を引く花飾りを頭に乗せた少女、初春飾利。
は、やはり別の場所へ行こうかとも考えたが、結局はその場所から動く事はしなかった。

どこへ行こうと、現状は何も変わらない。

先ほどから腰掛けている沢山並ぶ長椅子の一つに背を預け、険しい表情でなにかを考える様に天井を見上げる。

初春「…………」

その脳内で高速に構築されているのは、計算式。
例えるならば、それは幻想御手という巨大なモンスターに立ち向かう為の式だ。

小さな少女に備わる莫大な演算能力が、一つの事柄に注がれる。

初春「……っ」

しかし、それは音を立てず瓦解した。

再度、式を構築する。どうすれば倒せるか、どうすれば、

初春「…………」

どうすれば、親友を助けられるか。

初春「……ッ」

また、失敗。

幾度となく初春飾利の試みは無駄に終わる。

初春「…………」

上を向いていた少女は、やがてその表情から覇気が消えうせると同時にうなだれる。
どうしても突破口が見つからなかった。情報が足りなかった。味方がいなかった。

初春「…………」

しかし、少女は諦めない。歯を噛み締め、再度頭の中で構築する。どうすれば、どうすれば、と。

そう、心の中で唱えて。

初春「…………」

また、失敗。

初春「……ッ」

結局は低能力者に過ぎない自分がこの事件を解決する為に出来る事。
それは考える事だった。情報処理で培った巨大な演算能力を駆使し、
一つ一つの情報を繋ぎ合わせ、解を導く。

しかし、どうしても辿り着けない。
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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:00:38.80 ID:xWIJga+F0<>
初春「…………」

圧倒的なまでに情報が足りなかった。
10の情報のうち半分以下の数字しか持ち合わせていない状態で、答えをはじき出せるか。

出せるわけが無い。

初春「…………」

思考を打ち切る。これ以上は無駄だと本能的に察知した。
ならば次はどうするか。

初春「…………」

たった一人で、どうするか。
全貌すら見えないこの事件の情報を何の設備も無く、誰の力を借りず、たった一人で集める事は出来るのか。

初春「違う。やるしか……ないんだ」

呟きはざわめきに飲まれ、静かに少女は立ち上がる。その足取りはどこか重くて――

初春「………ねこ?」

すり寄る猫に、立ち上がるまで気付かなかった。
一瞬だけ頭が真っ白になる。どうしてこんなところに動物が、

初春「…………」

いるのだろう。と考え、吐き出した言葉は、

初春「……何か、御用ですか」

少女の目の前に立つ少年に向けられていた。

浜面「……ああ」

初春が向かい合うその少年と目を合わせる。そこにいたのは、浜面仕上。
その姿は先ほど会った時よりなぜかボロボロで、

浜面「頼みがあるんだ」

なぜかその目は先ほど会った時とは別人の様に輝いて見えた。

初春「……すいません。今は、」

浜面「幻想御手について知っている事を全部話す」

初春「っ!?」

ズガンと、金槌で頭を打たれたような衝撃が走る。
突如飛び込んで来た言葉は、初春にしてみればまさに今必要としているもの。

初春「……それって、」

しかし、少女の心を動かしたのは次の瞬間、浜面仕上から放たれた言葉。

浜面「俺達にも、助けたい奴がいるんだ」

浜面「だから……協力して欲しい」


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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:01:15.41 ID:xWIJga+F0<>


――――――――――





上条「三十分後……病院の入り口前、ね」

パタンと携帯を閉じる。
アドレスを交換して初めて送られきた浜面からのメールはそんな
連絡事項だった。どうやら屋上で言っていた『同じ境遇の奴』は協力してくれるらしい。

上条「さーてっと、あとは水を拭くだけだな……雑巾は」

きょろきょろと辺りを見回す。いま上条がいるのは小さな個室。
吹寄制理の眠る病室だった。あまり話した事の無かったクラスメイト、
浜面仕上が倒してしまった花瓶を片付ける為に再び戻ってきたのだが、

上条「……ないな。不幸だ」

上条「とりあえず看護婦さんに借りてっくっかなー」

そう言って病室を出る。沢山の病室が並ぶ長い廊下にはなぜかいつもより人の姿が多い様に感じて、

上条「……あれ?」

上条はその中に見覚えがある人物を発見する。
見覚えがある、というか病院内でメイド姿のその少女はひたすら目立つ。

上条「よう、舞夏」

舞夏「ん? おー、上条当麻」

廊下に置かれた椅子に腰掛けていたのは土御門舞夏。
名前を呼ぶと少女はいつもより控えめな声でその手を振る。

上条「丁度よかった。何か拭くもの持ってないか?」

舞夏「うーい、メイドさん見習いには愚問なのだー。ほれ」

投げられたのは布巾、のような布。メイドたる者こういう日用品は常に持ち歩いているらしい。



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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:01:58.96 ID:xWIJga+F0<>


舞夏「今日は兄貴の見舞いかー? というか上条が入院していないなんて珍しいなー」

上条「いやいや、上条さんも常に入院してるわけじゃねーっ、て……え?」

そこまで言って、上条の表情が崩れた。
感じた違和感を辿り、唇を動かす。

上条「土御門……入院してるのか?」

呟いた名は目の前の少女ではなく。少女の兄。
自分のクラスメートで、三馬鹿扱いされてる親友。

舞夏「ん? 知らなかったのかー」

上条「……なんで」

手が、震える。胸中には嫌な予感があった。

そう、知らない。

上条当麻は、浜面仕上は、初春飾利は、決定的な事を知らなかった。

様々な出来事が同時に頻発しているその水面下で、自分たちの挑む闇がどれだけふくれあがっているのかを、
真に理解できていなかった。

上条が今感じているの違和感ですら、ほんの一端に過ぎない。

舞夏「うちのバカ兄貴、なんか幻想御手っていうのを使っちゃったみたいなんだなー」

人が生み出すそのどす黒い闇は、静かにこの学園都市を喰い進んできていた。


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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:02:40.46 ID:xWIJga+F0<>
――――――――



浜面「…………」

抱える猫を腕に、そのドアの前に経つのは今日で二度目だった。
ドアのすぐそばにあるネームプレートには、何も書かれていない。

ドアに伸ばした腕、躊躇いでもあるかの様に震えていた。

浜面「……ふぅ」

大きく、ため息。大丈夫だと自分に言い聞かせる。

浜面「……っ」

ガラッ、という音と共に開いたドアの先には、自分が引き起こしてしまった現実があった。

神裂「……数時間前に、消えてくださいと言ったはずですが」

今も眠るインデックスのそばには、振り向く事無くそう言い放った神裂が座っていた。

浜面「話があって、ここに来た」

ステイル「まだなにか用があるのかい」

窓を背に、苦々しそうにステイル=マグヌスが言葉を吐き出す。
視線にこもるのは、確かめるまでも無い殺意。

神裂「……聞く気はありません」

浜面「幻想御手、この言葉に聞き覚えはあるか」

ピクリと、肩が小さく跳ねたのを浜面は見逃さない。
相手の言葉を無視し一方的に、詰める様に言葉を放つ。

浜面「インデックスを看た医者からはそう聞いた。違うか」

神裂「それが……どうかしましたか」

浜面「助ける事が出来るかもしれない」

ステイル「ッ」


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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:03:14.95 ID:xWIJga+F0<>

先に動いたのはステイルだった。怒りを露にし、浜面仕上の胸ぐらを掴み上げる。

ステイル「ふざけるなよ無能力者。誰のせいでこうなったと思ってる。
     かもしれないだと? 僕たちをコケにするのもいい加減にしろッ!」

小さな病室で、響く怒号。

ステイル「この子を救えなかった貴様に今更何が出来る。そんな曖昧な言葉を盾に、
     またこの子を傷付けるのかッ!! そんな言葉を、信用できると思っているのか!!」

浜面「……ッ」

降り掛かる言葉はどれも正確に浜面を貫く。この男の言葉に、間違いはない。
インデックスはこうして目覚める事の無い状態になってしまったのは、まぎれも無く自分のせいだ。
あれだけ助けると言っておきながらも、救えなかったのは自分だ。

浜面「……俺は、」

今なら、魔術師達の気持ちがよくわかる様な気がした。
コイツらは記憶を消す事になっても生きていて欲しいと願い。
自分は能力者にしてでも生きていて欲しいと願った。

前者では記憶を失い、後者では目覚めなくなってしまった。
根本的なところで、違いなんて無い。

本当に救いようが無いのなら。もう諦めていたかもしれない。けど、

浜面「俺はインデックスを助けたい。お前らも、そうだったんだろ」

ステイル「……っ」

浜面の視線が、ステイルへとぶつかる。
そこにあるのは、先ほどは無かった輝き、かつて対峙した時には確かにあった決意。
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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:03:51.13 ID:xWIJga+F0<>




ステイル「…………」

パッ、と無意識に手を離していた。

ステイル「…………」

浜面「今から俺はインデックスを助ける為に動くつもりだ。
   その間、お前らはインデックスを守って欲しい」

話したのは、垣根帝督の存在。
学園都市の第二位がインデックスを狙っていると言う事実。
その言葉に、微かに神裂が眉を潜ませ、ステイルが苦い顔をした。

神裂「もし……どうしようもなくなった時はどうする気ですか」

そんな言葉がかけられたのは、
言うべき事は全て言って病室から出ていこうとしたその瞬間。

ぽつりと浮かんできたのは、先ほどまで忘れていた、

浜面「……あの最後の瞬間、約束したんだ」

大事な約束。





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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:04:25.70 ID:xWIJga+F0<>




――助けてやるから。

――――絶対に、何をしてでも。何を捨ててでも、何を拾おうが、誰を犠牲にしようが、誰を利用しようが、きっと、

――――――きっとお前を助けるから。

――――――――――死の運命からも、10万3000冊なんて魔導書も、何もかも、全部、一つ残らずぶっ潰して救ってみせる。






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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:04:56.88 ID:xWIJga+F0<>
浜面「足掻いてやるよ。何をしてでも」

その言葉に諦めは無かった。
その言葉には決意があった。

  「にゃうー」

彼女がかわいがっていた猫が少年の腕で鳴く。

少年は一歩を踏み出す。
一人、地獄の底に置き去りにしてしまった少女の為に。
やっとの思いで這い出した地獄へと戻って行く。

しかし、浜面仕上は知らない。

少女の元へ辿り着いた先に、そこで待つもはやどうしようもない絶望と現実を、


浜面はまだ知らない。



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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:05:24.43 ID:xWIJga+F0<>

――――――――――


ステイル「……イギリスの方から、連絡はあったかい」

炎髪の少年がぽつりとそう呟いたのは、浜面仕上の二度目の来訪が終わり、少し経った後だった。
相変わらず病室には沈黙、流れるのは機械的な電子音。

神裂「いいえ……必要悪の教会の方も大わらわでしょう。
   返事にはもう二、三日かかるそうです」

ステイル「ふん。あの女狐も慌てている、か。見てみたい気もするね」

壁にもたれ、ステイルが自嘲気味に笑みを浮かべる。
言葉は続かず、またも沈黙。

ステイル「……よかったのかい」

再び言葉を発したのは、ステイル。
問いかけるようなその言葉に神裂はゆっくりと答える

神裂「……止めても無駄でしょう。私たちが何を、」

ステイル「神裂」

ステイルの言葉が割って入った。
名前を呼んだだけのその言葉は、神裂にはどこか責めるような声に聞こえ、

ステイル「まどろっこしい話はよそう。僕はそんな事を言いたいんじゃない」

すうっと、ステイルが息を吐く。それは何かの宣告の様に。



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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:05:52.63 ID:xWIJga+F0<>





ステイル「自動書記<ヨハネのペン>の事を、彼に言わなくてもよかったのかと聞いたんだ」





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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:06:29.24 ID:xWIJga+F0<>



神裂「…………」

その瞬間、沈黙の質が変化した。
まるで戦場にでもいるかのような緊迫感が小さな病室に広がって行く。

神裂「……言ったところで、どうしようもないでしょう。それに、まだ確定は――」

ステイル「神裂」

また、だ。今日はよく言葉を遮られるな、とどこか可笑しく感じる。

ステイル「君も、あぁ……僕も、とことん意地が悪いね」

ステイル「どうして去り際にあんな質問をしたんだい?」

分かりきっているじゃないか。そうステイルは言う。
そして次の言葉を、言い切った。

ステイル「彼にインデックスを救える可能性なんて『無い』という事を僕たちは知っている」



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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:07:06.47 ID:xWIJga+F0<>


神裂「……そうですね」

神裂がゆっくりと顔を伏せる。インデックスの姿をまともに直視できなかった。

神裂「もはや、彼にはどうしようもない域まで来てしまった」

神裂「例え――魔術師を倒しても、聖人に勝ち得ても、彼に世界を救う程の力があるとは私は思いません」

ステイル「なんの特別も無い人間には、せいぜいそこらが限界だろう。
     ……聖人に打ち勝った時点で相当常識から逸脱した存在だけどね」

神裂「しかし、もう抗う事さえ許されない」

ステイル「…………」

ゆっくりと、ステイルがインデックスの眠るベッドに近づき、その頬に触れる。
いつも着ていた修道服は今は棚の上。彼女を包むのは簡素な入院着だ。
さらさらとした銀髪は、昔触った時と同じで、その感触が懐かしさを甦らせる。

同時に甦るのは、少年の言葉。

  『俺はインデックスを助けたい。お前らも、そうだったんだろ』

少年の、眼。

ステイル「…………」
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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:07:50.34 ID:xWIJga+F0<>


インデックスの頬の熱が、じんわりとステイルの手を温める。
少女が静かに眠るその姿は、どこか心が洗われるようで、

神裂「……どこへ?」

気付けば足は動いていた。

ステイル「……確かに、ただの無能力者に世界を救う力なんて無い。分かりきった事さ
     せいぜい救えるのは、小さな小さな自分の世界だけだろうね」

神裂に背を向け、彼もまた病室の外へと向かう。

ステイル「だからこそ分かる気がするよ。彼はインデックスを助けるだろう。
     この世界がどうなろうと、どうでもいいのさ。彼も、僕もね」

ステイル「君は見たかい? 彼の目をさ、まるで昔の自分を見ているようだったよ」

なんてバカな事を言っているんだろうと考え、思わず笑う。
しかし、あの何かを吹っ切ったような目の輝きは、今現在のステイル=マグヌスに無いものが宿っていた。

ステイル「僕は僕で足掻くさ。神裂、君はインデックスを守ってやってくれ。
     彼は彼なりの誓いを立てたようだけど……僕は、何年も前に誓ったんだ」

振り向いたステイルの目に映っていたのは、今も眠るインデックス。
多分、それは遠い昔の初恋だったのだろう。

ステイル「その子の為に、生きて死ぬ。ってね」

どこか照れくさそうに、ステイルはそう言った。




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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:08:34.41 ID:xWIJga+F0<>

――――――――――




初春「……佐天さん」

白を基調としたその部屋で、場違いな程に色の鮮やかな少女がぽつりと呟いた。

側に寄り添い見つめるのは、ベッドに眠り意識の失った親友。

目を覚まさない親友。

今も、苦しんでいる親友。

初春「…………」

そんな少女を見つめるのは、何も出来ない自分だ。

初春「……ッ」

ぎゅうっ、と膝におく手を握る。
ぽつりぽつりと、意識をどこかに逸らすように言葉をかける

初春「佐天さん……今ね、学園都市はすんごく大変なんですよ」

佐天「…………」

初春「大変すぎて、今は佐天さん達の為に動けないって言うんです……」

佐天「…………」

初春「その判断が正しいっていうのは、私にもわかります……けど、おかしいですよね」

佐天「…………」

初春「だから、――」

悲痛なまでの少女の言葉は、ぽつりと浮かんで霧散する。

初春「…………」

どれ程そうしていただろう。数十秒か、はたまた数時間か。
親友が眠り、規則的な機械音しか聞こえてこないその空白の空間は、
少女の中で燻り続けていたそれを決断させる。

その言葉は、どこか優しさが感じられるような声色で

初春「……だから、待っていてください」

少女はにっこり笑ってそう言った。


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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:09:01.13 ID:xWIJga+F0<>


椅子から立ち上がり、踵を返し力強く少女は歩む。

そろそろ三十分。浜面仕上、あの少年との約束の時間だ。
信用していいのかは、正直なところ未だに決心がつかないでいた。
彼の話によれば、いまのこの学園都市の状況を招いた一端を背負っているのはあの少年だ。
本来ならば、勾留するべきなのだが、

初春「…………」

彼は助けたい人がいると言った。
嘘はつかれたが、あの言葉に嘘は無いと、直感的にそう感じた。

そして何より、風紀委員として動けない今は人手が欲しい。

初春「…………」

と、そこまで考え、初春は携帯電話を取り出しアドレス帳からある人物の番号を引き出す。

何度目かのコールで、

白井『初春? 今どこにおりますの?』

声が繋がった。


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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:09:32.56 ID:xWIJga+F0<>


初春「白井さん……その、昨日はすいませんでした」

白井『あぁ……いえ、別に気にしてないですの。わたくしも少し配慮が足りなかったようですし……』

電話越しだというのに、不自然な沈黙が流れる。

初春「白井さん」

白井『……なんですの』

初春「昔、まだ私たちが小学生の頃、白井さんは教えてくれましたよね」

白井『…………』

初春「己の信念に従い、正しいと感じた行動をとるべし」

それは、白井黒子がまだ未熟で、初春飾利が風紀委員で無い頃の、小さな思い出。

白井『結局アナタ、腕立てできる様になりましたの?』

初春「ちょ、ちょっとはできますよ! 私だって成長してるんですよ!?」

白井『そう言えば頭の花が増えましたわね』

初春「し、白井さん〜……!!」

くすくすと、小さな笑いが漏れる。
軽く思い出に耽る中、初春のその言葉は唐突に放たれる。

初春「私、佐天さんを助けます」

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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:10:18.91 ID:xWIJga+F0<>

白井『…………』

返ってくるのは、沈黙。

初春「すいません。私は……この事件を解決します。
   命令に背くのは、あるまじき行為かもしれません。けど、」

初春「……っ」

言葉が詰まる。電話の向こうにいる同僚はどんな顔をしているだろうか。
こんな事を言ってしまって、失望されるだろうか。ショックを受けているだろうか。
それを考えると、どこか胸が締め付けられる。けど、


初春「それでも、私は風紀委員<ジャッジメント>です。目の前で泣いている人や、苦しんでいる
   人がいるなら、例えその人がどんな悪人だろうと私は迷わず手を差し伸べてみせます」

初春「それが、私の信念です」


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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:11:13.71 ID:xWIJga+F0<>

初春「…………」

静かな沈黙が続いた。

白井『……はぁ』

続いて、深いため息が聞こえた。

白井『がんばりなさいな、初春』

初春「白井さん……」

白井『その思いを貫き通す意思があるのなら、結果は後からついてくる……そうでしたわよね?』

初春「はいっ!」

白井『た だ し 今まで書いた事の無いほどの始末書を書かされるのは覚悟の上ですの?』

初春「はいっ!」

白井『はぁ……もう止まりませんのね。くれぐれもお気をつけなさいな。
   何か分かったら絶対に連絡をする事。わかりました?』

初春「はいっ!」

その言葉を最後に、通話は終わった。
少女は少しだけ駆け足で廊下を歩く。


待合場の先、病院の入り口前には二人の少年が既に自分を待っていた。


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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:11:43.31 ID:xWIJga+F0<>

――――――――――


外の方が静かかもしれないと言う初春の予想は当たっていた。
通る道には人が疎らで、いつも感じる人の熱を感じない。

風が一切吹かないせいで、空から照る太陽の熱は、
感じたくなくなるほどに自分たちを照らしているのだが。

上条「で、今どこに向かってるんだ?」

初春「風紀委員の詰め所です。そこに私のパソコンが置いてあって、
   支部の施設は一切使えませんが、私個人のとなるとまた別です」

浜面「部外者の俺たちが入って大丈夫なのか……?」

初春「平気ですよ。今は出払っていて誰もいません……けど」

ひょい、と初春の視線が下を向く。
その戸惑うような目は浜面の足下を歩く猫に向けられていた。

  「にゃー?」

初春「その猫さんは……?」

浜面「ついてくるんだ、見ない振りしてくれ」

上条「名前とかあるのか?」

浜面「……名前、なぁ」

名前、それはこの猫について度々振りかけられる質問だ。
結局、この猫の名前は決まっていなかった。候補は二つ。
スフィンクスといぬ。どっちもどっちだとしか言いようが無い。
少なくとも、インデックスが目を覚ますまでこの猫の名前は保留だろう。

だから、一刻も早く、

浜面「いや、そんな事より。俺たちは何から調べるべきなんだ?」

その一言で、場が静まり返る。


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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:12:10.58 ID:xWIJga+F0<>

初春「私たちが今ある情報を一度整理しましょう」

・幻想御手の正体は音楽。
・ファイルはネットからダウンロード可能。
・聴くとレベルが上がる。
・被害者は数日前の時点で数千人を超えている。

初春「これくらい、でしょうか?」

上条「まず聴くとレベルがあがるってのが嘘臭いんだよな……どういう仕組みなんだ?」

浜面「能力に影響するってことは直接脳に作用してるんじゃないか?」

初春「それは間違いないと思いますけど……
   細かい仕組みは専門家でないとわかりませんよ」

  「にゃー!!」

炎天下の中、三者と一匹が見解を述べて行く。
情報はやはり少なく、簡単に答えには辿り着けない。

初春「まず、一つの情報を更に踏み込んで調べてみようと思います」

初春の言葉に、二人が頭をひねる。
立ち止まった少女はにっこりと笑った。

初春「着きました。どうぞ、ここが風紀委員支部です」





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◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:13:08.06 ID:xWIJga+F0<>

――――――――――


カリカリカリと立ち上げたパソコンから小気味よい音が漏れる。
書類やら何やらが散らばった風紀委員詰め所の一角で、
少女の肩越しに上条と浜面がパソコンの画面を眺めていた。

初春「浜面さん、幻想御手をどのサイトからダウンロードしたか覚えてますか?」

浜面「ん? ……あぁ」

席を代わり、ぽちぽちと検索をかけて行く。画面に映し出されたのは、

上条「……都市伝説?」

初春「佐天さんが見ていたのとはまた別の掲示板ですね……」

開いたのは、学園都市にはびこる都市伝説を集めたサイト。
かつて、インデックスと一緒に見たホームページ。

浜面「…………」

書かれていたのはキャパシティダウンや幻想御手、学園都市の裏の世界、何万体も量産されたレベル5のクローン人間。

胡散臭いと思っていたそのうわさ話は、ほぼ事実で構成されていた事を今になって知る。
少し住む世界が変わっただけで。こんなにも違って見えるものなのか。

あとは――

浜面「……な」

適当にマウスを操作し、飛び込んできた文字に思わず声が漏れた。



<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:13:47.90 ID:xWIJga+F0<>

浜面「……ごめん、少しの間いいか」

初春「え?……」

カチッ、カチ、とゆっくりマウスを操作し、その文字をカーソルで追う。
なんども、なんども。

浜面「……ははっ」

思わず声が漏れた。可笑しくて、可笑しくて、これはなんの悪戯だろうと。

浜面「なんだよ、これ」

浜面が見て笑ってしまったのは埋もれてしまった一つのレス。
それは掲示板にいる住人達に向けられたものではないし改行も変なところでされていて、文章は脈絡が無い。

その名前欄には『インデッくす』と打ち込まれていた。

浜面「……あのバカ」

思い返せば確かにあの日、インデックスはパソコンに向かって文字を打ち、何かを書き込んでいた。

書き込み画面から戻れなくてパソコン相手に噛み付いていた。

浜面「バカっだよなぁ……もう」

そこには、

<> インデッくす<><>2011/09/20(火) 05:15:15.48 ID:xWIJga+F0<>





この街にきてはじめてせっした人はすごくやさしい人でなんども何度も私をたすけてくれた。その人は特別な力も無いのに、魔術師からわたしを助けてくれたんだよ。

でもしあげはほんとにあぶないことばっかりsうるから、わたしはすごく心配かも。きのうだってボロボロになりながら返ってきて本当に本当になきそうになった

だから、しあげはわたしがまもるんだ。そう言ったらしあげはわらって、すごくうれしかったんだよ。

・・・けど、今回は少しこわいかも。しあげはだいじょうぶだって行ってくれたけど、ほんとに助かるかなんて、わからないから。でも、やっぱりわたしはしあげの事を忘れたくない。覚えていたい。

助かるかな、わたしはしあげと一緒にいれるかな?いれたらいいな。助からなかったら、いやだよ。忘れちゃうのはもういやだ。覚えていられるかな、生きていられるかな。たすかるのかな

ううう。やっぱりこのぱそこんnはあまりなれないかも。スフィンクすにもきいてもらうんだよう






<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:15:53.99 ID:xWIJga+F0<>


浜面「…………」

そこには、浜面が聞けなかったインデックスの胸中が書かれていた。
あの日、魔術師であるインデックスに能力者になる道を示したあの日。
彼女に襲いかかっていた不安を書き連ねた言葉が、そこにあった。
これも、一端に過ぎないのだろう。全てを知っているのは多分、

  「にゃうー?」

この猫だけだ。

浜面「…………」

カタカタとキーボードを打ち、その書き込みに返事を返す。
本人が見る事になるのはまださきだろうから、これは浜面なりの決意表明だ。

浜面「……迎えにいくからな、すぐに」

言葉を書き込み、呟いたのはこの場にはいない少女へと向けた言葉。
今も地獄の底で、一人取り残されてしまっている白い少女。

浜面は向かう。ゆっくりと、だが確実に一歩ずつ彼女の元へ


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:16:28.22 ID:xWIJga+F0<>

初春「あの……?」

少女がおそるおそると浜面へ声をかける。

浜面「あぁ、悪い。もう用はすんだよ。ダウンロードページだよな」

カチカチと適当にマウスを操作し、何も無いそこをクリックすると、別のページが開いた。

初春「隠しリンク……? でもこれって……すいません、変わってもらえますか」

再び初春がパソコンに向かう。
瞬時に複数のウインドウが展開され、キーボードを叩く音は途切れる事無く連続して続いた。

既に上条や浜面には理解できない作業を繰り返され、そして数分。

初春「……やっぱり」

ぽつりと、少女が呟いた。

上条「……上条さんにはなにがやっぱりなのかさっぱりなんだけど」

浜面「俺もだ」

初春「えー、とですね」



<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:17:08.97 ID:xWIJga+F0<>



簡単に言うと、今初春はダウンロードページから幻想御手をアップロードした人物を辿ったらしい。

初春「以前、佐天さんが使っていた掲示板から飛んだダウンロードページからは
   ギリギリ特定できなかったんです。分かったのは、アップロードに携帯端末が使われた事ぐらいなんですけど」

初春「この掲示板から飛べるダウンロードページから辿ると、痕跡は何も残っていません。処理は完璧です」

上条「…………」

上条がつまりどういう事だと目で訴えてくる。

浜面「あー、つまり身元が割れない様に幻想御手のファイルをアップロードしているかと思えば、
   足がつきやすい携帯端末でのアップロードもしている。それが不自然だってことだろ」

初春「もう少し、調べてみます……他の場所で隠しリンクも探してみましょう」

カタカタとキーボードが弾かれる。

上条「幻想御手をダウンロードした奴がアップロードした可能性は?」

初春「あり得ない話じゃないかもしれませんが……メリットがありません。
   数十万で取引されるようなものですし」

浜面「わざわざ隠しリンクを張るってのもなぁ……しかも痕跡は特定されない様に
   消してるんだろ? わざわざそんなめんどくさい事するか?」



<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:17:47.51 ID:xWIJga+F0<>
初春「やっぱり……いくつか調べてみましたが完璧に痕跡を消している方と
   ギリギリ特定されないレベルまで残っている方。どのアップローダーを調べても、
   この二種類しかありません。」

上条「あのさ……そもそもこのレベルアッパーって何のメリットがあるんだ?」

上条のその言葉に、初春が振り向く。

初春「メリットって……簡単にレベルが上がる事、じゃないんですか?」

上条「それは使用者のメリットだろ?」

浜面「ばらまいている側の……メリット」

その言葉に引き寄せられるかの様に、思考の海に飛び込む。
そもそもこの幻想御手というものを使って、犯人はどんな得をするのか。

浜面「……愉快犯じゃねぇの?」

初春「それは思考放棄だとおもいます……」

浜面「…………」

上条「…………」

初春「…………」

結論は保留。特定するには、まだ決定的な何かが足りない。

浜面「分かったのは……これだけか」

軽く、ため息。同時にソファーに転がっている猫も鳴いた。

初春「それだけでも成果です、多分。わたし一人じゃ分かりませんでした」

振り向く事無くキーボードを鳴らし続ける彼女がそう呟く。

初春「それに、まだまだ分かる事はたくさんありますよ」

浜面「……あぁ」


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:18:50.52 ID:xWIJga+F0<>
なにか気にいらなかったのだろうか、にゃー、と猫が駆け回った。

上条「うおっと」

浜面「あ、ぶなっ」

駆け回った跡に書類が舞い散る。上条と手分けをして拾う中、浜面がふと手にしたものは、

浜面「……これ」

それは、小型の携帯端末。
画面にはさっきも目にした英字が映し出されていた。


TITLE  : Level Upper
ARTIST  : UNKNOWN
     : 1

初春「あ……はい。佐天さんの携帯端末です」

浜面「そう……か。この数字は?」

上条「再生回数じゃないのか? 吹寄のにも表示されてたしけど」

浜面「……ふうん」

再生回数。浜面の想像が正しければ、多分それはとんでもない回数になっているはずだ。
日中音楽プレイヤーを片手に何かを聴いていた少女の姿を思い出し、手に持つ携帯端末を
初春へと手渡す。

もし、あそこで止めていればこうはならなかったのだろうか。

浜面「次は、何を調べる」

そんな意味の無い想像をかき消す。
今は、インデックスを助ける事だけに集中しよう。



<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:19:49.66 ID:xWIJga+F0<>



上条「共通点、とかはどうだ?」

不意にそう言った上条の言葉に、再び少女が耳を傾ける。

浜面「共通点、ていうと……それ調べる意味あるのか?」

多分、上条が言ったのはレベルアッパーを使用した者に共通する事は無いか、という事だろう。
それなら答えは簡単だ、低能力、もしくは無能力者の人間が圧倒的に多いに決まっている。

上条「いや……分かりきってる事でも調べてみりゃ何か分かるかもしれないだろ?」

浜面「調べるのは俺らじゃないだろ……」

ちらり、と横目で少女を見る。
花飾りの少女は既に真剣そうな表情でパソコンに向かっていた。

初春「調べましょう。共通点。考えてみれば被害データは数日前に止まっていて、
   正確な数は私も把握できてはいません」

上条「数千……超えてるんだったか? でもどうやって」

初春「あまりしたくはありませんが、学園都市中の医療機関にアクセスして、
   幻想御手被害者のデータだけを抜き取って照らし合わせます」

それは俗にいうハッキングという奴ではないのだろうか。という疑問は少女の前では口に出さない。
そんな事はこの少女も分かりきっている事だろう。

初春「多分、かなり時間がかかると思います。
   上条さん達もなにか自分たちに出来る事をしてもらえますか?」

切り詰めた口調で初春は言う。その目はもはや自分たちには向いていなかった。





<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:20:53.15 ID:xWIJga+F0<>

―――――――――





外に出てみれば相変わらず太陽の光と熱が襲いかかってきた。
なかなか風が吹かないせいもあってか、蒸し暑い。一歩足を踏み出せば汗が流れる。

そんな中、浜面仕上と上条当麻(と猫)は、

浜面「――はぁッ、はぁッ!!」

上条「ふっ、ふッ!!」

  「まてやゴラァァアァァァァァ!!!」

全速力で走っていた。

追いかけられていた。という方が正しいか。

上条「ふ、不幸だぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

浜面「ふ、ふざけんな!! なんで外で出ていきなり十数人の怖いお兄さんに追いかけられなくちゃならねぇんだ!!!」

ビュン、と風の切る音と共に背後からおおよそ現実には存在しないであろう物体がいくつも飛んできた。

浜面「しかも能力者かよッ!!!」

最悪だ。と浜面は心の中で呟く。
思い返してみれば絡まれ方から既にどうにかしていた。
後ろにいる怖いお兄さん曰く、カモに出来るレベル0がすっかり減ってしまったから。らしい。
恐らく駒場が駆逐しようとしていた無能力者狩りの一派なのだろう。
まさか自分がカモにされる日が来るとは予想外だった。

浜面「あぁぁぁぁしつけぇぇぇぇぇ!! どうすんだよこれッ!!」

上条「か、上条さん的にはこのまま撒きたいでせう!!」

浜面「賛成だ!!」

二対十の時点で言葉を交わさずとも逃げると言う選択肢を瞬時に選んだ二人の意見が一致した。
喧嘩慣れしている互いの言葉に文句は無いし、共闘して倒そうとするほど血気が盛んなわけでもない。



<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:21:41.54 ID:xWIJga+F0<>

上条「あ、あーちょっと待て浜面っ!!」

浜面「あぁッ!?」

全速力で走りながら上条が言葉を投げる。
返す言葉はどうにも乱暴になってしまいう。

上条「あ、あのさッ」

遮る様にバチィっとはじける音が後方から飛来する。
雷撃が上条を擦った。

上条「あぁくっそ、確かめたい事あったのに!!」

浜面「は、早く言え!!!」

上条「お、お前ッ! 吹寄以外の奴にレベルアッパー渡したりしてないよなぁ!!」

浜面「はぁッ!?」

上条「つ、土御門、とかに!!」

浜面「誰だよッ!!」

土御門、どこかで聞いた覚えのある名前だが、今は頭を回転させるような余裕も無い。
後ろからは絶えず屈強な能力者達が追いかけ回してくる。

上条「な、なら、いい! 後で詳しく説明する、からッ」

上条の視線が前を向く、そこにあったのは二股に分かれた道。
浜面は意図を素早く察知する。

浜面「なにか分かった事があったら、」

上条「連絡をよこす!」


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:22:35.43 ID:xWIJga+F0<>

その言葉だけで十分だった、瞬時に二人は左右へと別れ全速力で駆ける。

後ろの能力者達は、

上条「ふ、不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

ほとんど上条の方へ向かって行った。

浜面「あーあ、大丈夫かアイツ」

息を切らし、足を緩める。後ろを追いかけてきてるのは二人。
この程度なら何とかなるだろう。

  「にゃうー」

浜面「……タフだな。お前。」

立ち止まったら汗が溢れてきた。
気持ちの悪い感触が体全体に伝わって行く。

浜面「さて……と、お?」

振り向いた先に待ち構えた能力者二人、はいなかった。

浜面「……は?」

その能力者達は既に地面に倒れ、気を失っていた。
誰か助けてくれたのかとも思ったが、周囲には人が全くおらずそこは静かな空間だ。

  「にゃー」

おそるおそる、近づいて行く。
這いつくばる能力者を見て、理由はすぐに理解できた。



<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:23:26.52 ID:xWIJga+F0<>

浜面「幻想御手、か」

倒れている男のズボンから伸びているイヤホン。つまりそう言う事だろう。
浜面はそれを手に取り、軽く操作する。


TITLE  : Level Upper
ARTIST : UNKNOWN
     : 24

浜面「…………」

おそらくは、強化された能力を試したいとかそういう理由だったのだろう。
能力の優劣に人格は考慮されない。
この街の隠れた問題ともなっているそれは、解決される事は無いのかもしれない。

浜面「つーか二十四回も聴いてんのかよ……」

浜面が軽く一瞥した後、それを自分のポケットにねじ込む。
必要性は薄いかもしれないが、一応初春には渡しておこう。

浜面「コイツらは……あー、まぁいいか。死にやしないだろ」

そう言ってもう一人の男からも携帯端末を抜き取る。

浜面「…………」

ふと、気になったのは、先ほども思った事だ。

再生回数。

佐天涙子は一回しか聴いていなかった。
この男は二十四回聴いていた。

なら、インデックスは?



<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:24:55.92 ID:xWIJga+F0<>

浜面「…………」

少し躊躇ったが、浜面は自分の音楽プレイヤーを取り出し軽く指で操作する。

浜面「え……はっ?」

目を疑った。

もう一度、操作する。

言葉を失った。

浜面「……なんだよ、これ」

そこに表示されていたのは、


TITLE  : Level Upper
ARTIST : UNKNOWN

浜面「……あ」

声が震える。手も、体も、

汗が一気に引いて、喉もからからで、唇を動かす。








浜面「……再生、されてない」








浜面仕上の音楽プレイヤーに入っていた幻想御手は、一度も再生されていなかった。




<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:25:51.10 ID:xWIJga+F0<>

浜面「待てよ」

待て待て待て待て。

どういう事だ?一体何がどうなっている。
おかしい。あってはならない矛盾が存在している。
噛み合ない。何かが食い違っている。

なんだ?どういう事だ?

どうしてインデックスが聴いていたはずの幻想御手が一度も再生されてない。

おかしい。おかしい。

再生回数が表示されない機種?いや、違う。他の曲はちゃんと表示されている。

まさか、前提条件が間違っていたのか?
インデックスは本当は幻想御手の影響で眠りに落ちているのではないという事か?

……いや、違う。神裂はちゃんと幻想御手と言う言葉に反応した。
いくらアイツでもキャパシティダウンとレベルアッパーを聞き間違えたりしないだろう。

それに、吹寄とインデックスは全く同じ状態でベッドに寝かされていた。
だからインデックスは幻想御手の影響で目覚めない。それで間違いないはずだ。

浜面「……なら、なんで」

心臓を鷲掴みされたような嫌な感覚が襲いかかる。
気味の悪さに思わず投げ捨てたくなった。思考が定まらず、



ミサカ「こんにちわ。と通りすがりのミサカは挨拶をします」



定まらないまま、浜面はミサカと出会った。




<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:26:33.65 ID:xWIJga+F0<>

浜面「ッ!?」

途端に、思考が切り離される。
フラッシュバックするのは昨日自らの目で見た映像。
死体、死体、死体。

浜面「う、っ」

本格的に胃から何かが押し寄せ、思わずその場で嘔吐く。
ミサカはそれを感情のこもらない目で見下ろしていた。

ミサカ「大丈夫ですか? とミサカは言葉をかけます」

浜面「お前……あのミサカ、か?」

口元を手で覆いながら、息も絶え絶えにミサカに言葉を投げた。
いや、これは単なる繋ぎだ。このミサカがあいつでは無い事ぐらい、見れば分かる。
その胸には昨日かけてやったはずの猫のマスコットが吊られていない。
それに『あの』ミサカなら真っ先に足下にいる猫に反応を示すだろう。アイツはそんな奴だ。

ミサカ「……あのミサカというのがどのミサカなのかは皆目分かりませんが、
    強いて言うならミサカとあなたは今日が三度目の邂逅です。とミサカはあなたに告げます」

浜面「…………」

浜面「……三、度?」


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:28:22.84 ID:xWIJga+F0<>
違和感が、また頭の中に引っかかる。三度。今この目の前のミサカはそう言ったのか?
二度目、ならばまだ分かる。昨日あの場に現れた大勢のミサカの中の一人なのだろう。

浜面「おい、ちょっと待て、三度ってどういう事だ……一度目はどこで会ったんだよ」

その言葉に、ミサカがぽかんとした表情を作る。数秒、どこか納得した様にソイツは言った。

ミサカ「あぁ……たしかあなたは意識を失っていましたね。とミサカは一人納得します」

浜面「はぁ?」

脈絡の無いその言葉は理解できず、しかし次の瞬間繋がった。



ミサカ「日数換算にしておよそ五日前の夜。瀕死の重傷を負ったアナタを

              一方通行    

     が治療している時、その場にミサカもいたんですよ。とミサカは事実を述べます」


浜面「――――」

声も失う。というのはまさしく今のような状況を差すのだろう。
吐き出す言葉が一つも見つからなかった。
五日前、それは多分、あの時、神裂火織と戦ったあの日の事だ。

しかし、重要なのはそこじゃない。

今目の前のコイツは、なんて言った? 何を言った?

浜面「アクセ、ラ……レータ」

一方通行。その名は、路地裏にいたのなら誰だって知っている悪魔の通り名。

学園都市序列一位。

最強の超能力者。

浜面「なん、で……そんな奴が」

確かに、傷は驚くまでに手当されていた。
まるで不自然なほどに意識を取り戻したのが早かった。

けど、そんな事はあり得ない。

浜面「なんで、なんで学園都市第一位がそんな場所にいたんだよ。なんだその都合の良さ!
   通りすがりに頼んだら治療してくれましたってか!?」

半ば自棄になりながら言葉を放つ。


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:29:38.93 ID:xWIJga+F0<>


ミサカ「いいえ。詳細は話せませんが妹達と一方通行の存在によってこの実験は成り立ちます。とミサカは、」

浜面「……っ、何が詳細だ。こっちは昨日ほとんど見てんだよ」

不明瞭だったその実験に、判明したワードをはめ込むと面白いぐらいに事実が見えてくる。
全貌は分からないが、第一位がミサカを殺して回る事で実験は進むのだろう。

悪魔にはお似合いの悪魔のような実験だ。

だからこそ、分からない。

なぜ、その悪魔が自分を助けたりなんかしたのか。

ミサカ「単に、妹達の一個体、あなたと最も会っている回数が多い検体番号10031号が
    脅しをかけただけですよ。とミサカはあの雨の日の夜を思い出します」

浜面「おど……し?」

言葉の意味が分からなかった。脅し?
誰も勝てないあの最強を脅した?どうやって?

ゆっくりと、目の前のミサカは言う。





ミサカ「この少年を助けなければ、ミサカはアナタに殺される前に自ら死にます、とそう言っただけです」





浜面「…………」

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:33:04.36 ID:xWIJga+F0<>

ミサカ「本実験に計算のミスやミサカの存在は欠かせません。
    まだ生きているミサカの存在を盾に取ってしまえば、一方通行は言う事を聞かざるを得ないんです」

その言葉を遠く聞き、思い出すのは昨日会った、ミサカの言葉だ。

  『……えぇ、助かるかは分かりませんでしたが。
   とミサカはあれが大きな賭け事であった事を伝えます』

自分の知らないところで、アイツは命を賭けていていた。

その事実に、思わず頭が真っ白になる。

ミサカ「あぁ、そう言えば、」

ミサカが忘れていたかの様に呟いた。

ミサカ「先日は猫の首飾りをありがとうございました」

浜面「……俺は、お前には何もやってねぇよ」

ミサカ「個体は違えど同じですよ。あのミサカも、今ここにいるミサカも」

浜面「……どういう事だ」

ミサカ「ミサカ達はお互いの脳波を能力によってミサカネットワークというものを形成しています。
    意識、視聴覚の共有や記憶のバックアップ。全てを共有する事によって、
    そこに個体差は生まれません。全てのミサカは、一人のミサカでもあるのです」

浜面「…………」

  『頂いたのはミサカですが、ミサカ自身が受け取った訳ではないので見せる事は叶いません』

浜面「…………」

<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:35:05.70 ID:xWIJga+F0<>

ある女の言葉を思い出した。

浜面「……、が」

布束砥信。確かあの女は昨日こう言っていたはずだ。

  『彼女達は人間よ。少なくとも、私は彼女を造りものだなんて思えないわ』

そして、自分はこう言った。

  『俺にはわからねぇよ。クローンが人間かそうでないかなんて』

浜面「クソが」

溢れてくるこの感情は、多分後悔なのだろう。あの時の自分を殴りつけてやりたい。
あの女の手を、浜面はとるべきだった。何が何でも、あそこで手を握るべきだったのだ。

浜面「なら……答えてみろよ。どうしてお前はあの時、命を賭けてまで俺を助けた」

ミサカ「…………」

浜面「答えられないんなら、お前はあのミサカじゃねぇよ」

ミサカ「ミサカはミサカですよ。御坂美琴お姉様を元に作られた――」

浜面「人間だ」

ミサカ「!」

目の前の少女の表情が初めて揺らいだ。
戸惑いと言うものは、はじめてなのだろうか。


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:36:33.36 ID:xWIJga+F0<>


浜面「アイツにも、そのミサカネットワークって奴できっちり伝えとけ」



そうだ、どうしてこんな簡単な事に気付けなかったんだ。
分かりきっている事なのに。 


  「にゃー?」


そうさ、
猫に餌をやっていたあのミサカは、
必死に猫を探したあのミサカは、
猫を撫でて笑っていたあのミサカは、
どこか寂しそうな表情を見せたあのミサカは、

今、自分と話しているコイツは、


浜面「お前は、世界に一人しかいねぇじゃねぇか」



<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:41:16.43 ID:xWIJga+F0<>



ピピピピピピピピ、ピピピピピピピ

その言葉を言ったのと、浜面の携帯端末のコールが鳴り響いたのは同時だった。
噛み締める様に浜面の言葉を受け止めたミサカの傍ら、何度も続く電話の音に浜面が携帯端末に手を伸ばす。
上条か、それとも初春辺りだろうか、その思いながら手に取った携帯端末のディスプレイに表示されていたのは、

絹旗最愛。

浜面「ッ!?」

その名を見て、反射的に通話ボタンを押していた。

浜面「絹旗ッ!? よかった、無事だ――」

繋がった声は、




  『はぁぁぁぁまづらぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』




浜面「ッ!!!」

麦野沈利。




<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:42:55.62 ID:xWIJga+F0<>

麦野『どこうろついてんだてめぇは、あぁ?』

浜面「む、ぎの……」

声が震える。上手く言葉を紡げない。
急に、周りの大地がすっぽりとなくなったような錯覚に陥った。
少しでも間違えると……死ぬ。そう思わせるような、殺意。

麦野『さっさと戻ってこいよ浜面。テメェが生きている条件、
   忘れたわけじゃねぇよなぁ?』

浜面「……っ」

忘れてしまえるわけが無い。
絹旗の携帯を使いわざわざかけてきたのは、その為だろう。

ミサカ「…………」

目の前では、ミサカがぼんやりと浜面を眺めている。
その瞳は、どこか虚ろで、

麦野『あーそうだ、戻るついでに足用意しといて。新しい仕事がきたから』

浜面「仕事……?」

麦野『そう。コケにされっぱなしもムカつくから今度こそスクールを潰すって言いたいとこなんだけどね。
   体晶はあのクソメルヘンが踏み砕いたらしいし、残念ながらそれより優先しなきゃなんない仕事が入った』

聞き返したのは失敗だったか。その言葉を言うに連れ声が不機嫌に染まって行くのが分かった。

麦野『クソかったるい学園都市上層部からの命令だ』
<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:44:22.28 ID:xWIJga+F0<>


浜面「……まさか、今朝言ってた」

麦野は近いうちに命令が下るかもしれないといっていた。
今現在学園都市に訪れている未曾有の危機。
暗部の崩壊を招くイレギュラーを潰せと言う命令が。

麦野『あぁ、違う。そいつじゃない』

しかし、麦野は浜面の言葉を否定する。ソイツじゃないと。
ならば、いったい誰なのか。

麦野『今回の仕事は昨日とは逆。ある施設の防衛と侵入者の殺害が目的。 
   上層部も散々引っ掻きまわされて、とうとうアレを本気で学園都市の敵と認めたらしいわ』

一転。愉快だとでも言わんばかりに麦野が笑った。
焦らす様に、言葉を紡ぐ。

麦野『あぁ、アンタにも一応言っとこうか。今回の仕事内容』

息を呑む。なぜだか、体がとても緊張していた。
思考だけが先へ先へと続いて、

ミサカ「…………」

目の前には変わらずミサカが立っていた。
その瞳は先ほどとは違って見えて、けど、



麦野『防衛施設は樹系図の設計者情報送受信センター』



やっぱりどこか虚ろだった。



<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:44:52.72 ID:xWIJga+F0<>




麦野「ターゲットは学園都市序列第三位。御坂美琴」




<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:45:20.16 ID:xWIJga+F0<>


                       【次回予告】


   「アハハ」

          超能力者・御坂美琴


<>
◆v2TDmACLlM<>saga<>2011/09/20(火) 05:50:21.80 ID:xWIJga+F0<>

ずっと止まってると思ったら動いてたんすねーてことでここまで。
やっとここまでこれたぁぁぁぁぁぁ!!
期間があいて本当に申し訳なかったです。
いつもの4倍ぐらいの量なので時間がかかりすぎた……つめつめで読みにくかったらすいません。
というわけで日常編は終わりです。こっから先が地獄だぜ!
なんせ次は二番目に書きたかったシーンです。楽しみです。

結局は幻想御手編にも絶対能力進化計画編にも入らず、施設防衛編に入るというのが正解でした。

ここで丁度折り返しでしょうか。とにかくこっから先は下りです。
一スレまるまるありがとうございました。

この先は次スレになります。

「――――心に、じゃないのかな?」2<br>
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1316465163/

残りは適当に埋めてくださると嬉しいです……ではでは!


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/09/20(火) 06:03:35.74 ID:Dg+0oyPc0<> 乙

これからどうなるのか、楽しみでしょうがないな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/20(火) 07:37:27.62 ID:neD124J40<> 乙

このままだと浜面の精神が神上になるな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/20(火) 09:03:01.87 ID:8//CbZya0<> 乙
浜面どんだけ大変なんだwwwwww
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/20(火) 09:06:47.05 ID:2l6JTlDIO<> 超乙

ここの浜面は少なくともインデックス、アイテム、幻想御手、妹達と4つ以上の問題を同時に抱えているわけだが、これらをどう収集つけるのか期待だな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北陸地方)<>sage<>2011/09/20(火) 09:43:43.30 ID:lpyu322AO<> 乙

抱えてるどの問題もキツすぎだな
肉体的にも精神的にもこれから更にやばくなりそう…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/20(火) 09:45:31.76 ID:T9qJqatjo<> 浜面がストレスで白髪になりそう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福井県)<>sage<>2011/09/20(火) 09:59:07.01 ID:g9E90rjRo<> 乙。
浜面ったら、過労死しそう。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/09/20(火) 10:58:53.43 ID:DU1doQ/R0<> うめ乙
浜面マジ同情する… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(岡山県)<>sage<>2011/09/20(火) 11:26:42.75 ID:wuTL4aL+o<> さっと突然あらわれて

読んでもないのに1000げとずさー!! <> 1001<><>Over 1000 Thread<>       / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
       | アパム!アパム!次スレ建てて来い!アパーーム!
       \_____  ________________
                ∨
                      / ̄ ̄ \
      /\     _. /  ̄ ̄\  |_____.|     / ̄\
     /| ̄ ̄|\/_ ヽ |____ |∩(・∀・;||┘  | ̄ ̄| ̄ ̄|
   / ̄ ̄| ̄ ̄| ̄|  (´д`; ||┘ _ユ_II___ | ̄| ̄ ̄| ̄ ̄|
   / ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄|( ” つつ[三≡_[----─゚   ̄| ̄ ̄| ̄ ̄|
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<> 最近建ったスレッドのご案内★<><>Powered By VIP Service<>三重県が…エラそうです… @ 2011/09/20(火) 10:49:11.41 ID:a04Tl/zAO
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和「そうなんだ、じゃあ私自殺してくるねゴッシャアアアアアアアアアアア!」 @ 2011/09/20(火) 10:33:01.73 ID:L9vJ29jJ0
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アラクネプロット案 @ 2011/09/20(火) 08:30:35.90 ID:Q6dVsVJpo
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食後のデザートイーグル @ 2011/09/20(火) 07:28:56.90
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「――――心に、じゃないのかな?」2<br> @ 2011/09/20(火) 05:46:04.06 ID:xWIJga+F0
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中島「おーい磯野、柳生しよーぜ」 @ 2011/09/20(火) 05:09:26.02
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親友に車貸したんだが @ 2011/09/20(火) 02:56:32.08 ID:XZs78VMAO
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お前のAA @ 2011/09/20(火) 01:45:34.30
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