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HTML化した人:lain.
和「唯が事故に遭った…ですって?」
1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]:2011/03/22(火) 18:48:17.08 ID:MqWZVUsX0
最初から最後まで鬱展開&鬱エンドです。
この物語に救いなんてありません。

覚悟完了?



   幸せというものは、すぐ身近にある筈なのに気付けないもの。
   幸せというものは、失ってからこそその価値に気付けるもの。

   シアワセというものは…ある日突然消えて行くもの…

そんな世界の理を理解するのに、高校生の私たちはあまりに幼すぎたのかも知れなかった…
2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]:2011/03/22(火) 18:50:03.12 ID:MqWZVUsX0
―――
――


 唯が事故に巻き込まれた。

 私が澪からその話を電話で聞いたのは、生徒会の仕事を終えて一人、夕暮れに燃える下校道を帰る途中の事だった。



 「すぐに行くわ!病院は…!?」

 電話越しの澪は嗚咽交じりに病院の名前を叫ぶ。
 はっきりとは聞き取れなかったが、ここらで病院と言えばそこぐらいしかないし、ここからならそう遠くもない。

 手近なタクシーを拾い、私は病院に駆けつける…。

 嘘だ、唯が事故に巻き込まれて重体だなんて……
 そんなの…絶対に嘘だ………!!!


――――――――――――――――――――――――――――――
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]:2011/03/22(火) 18:50:54.35 ID:MqWZVUsX0
病院に着き、みんなと合流する。
 
 『手術中』のランプが光る部屋の前、そこにみんながいた…。


「律…律……唯が…唯がぁぁ…あっ…あっっ!…」

「…唯……。唯…嘘だろ……なぁ……? さっきまでお前…あんなに元気だったじゃん…っっなあ!! 唯!! 聞こえてんだろ!? 唯ぃぃ!!」

「神様……!! お願いします…!! お願いしますっ…!! 唯ちゃんを……助けてください…っっ。 ―――お願い…します…!!」

 澪や律…軽音部の…唯の仲間が、その部屋の前で泣いていた…。
 それを見て私は嫌でも現実を直視しなければならなかった。
 ああ、唯は。確かにそこにいるんだ…。
 その重々しい部屋で今…生きるか死ぬかの瀬戸際にいるんだ……。
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]:2011/03/22(火) 18:53:34.67 ID:MqWZVUsX0
――――――――――――――――――――――――――

 みんなが泣いてる中でも、私だけは何故か冷静だった。
 泣きたいのに涙一つ流れない…。
 それは心が壊れているのか…それとも、未だにこの現実がどこか違う世界の事に見えているのか…

 私はまだこう思っているのだろうか…

 そこにいるのが唯じゃないことに。
 唯は本当は無事で、今からでもその部屋から…冗談だよ〜と舌でも出して元気に出てくるのだと…
 そんな、ありもしない事を期待しているのだろうか…。

 自分が何を考えているのかがよく分からない…
 
 『手術中』と光る無機質なランプがただ、廊下に佇むみんなを照らしていた…

5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]:2011/03/22(火) 18:54:25.36 ID:MqWZVUsX0
―――
――


「イヤーーーーーッッッ!!!!!!」

 耳をつんざく金切り声が廊下にこだまする。

 全員がその声に振り向くと、友達二人に抑えられた憂が真っ赤な目で吠えていた…。

「憂ッッ!!落ち着いて…!!」
「二人とも離して!! お姉ちゃんは私が助けるの…!! 離してよ…ねぇ……ねえってばっ!!」
「憂!やめて…憂ってば!」

「純ちゃん…梓ちゃん…私の邪魔をしないで……私がお姉ちゃんを助けるんだ…私が……お姉ちゃんを守るんだ……!!」

「お姉ちゃん待っててね…! 私がすぐに行くから…私が…わたしが…!!」

 友達二人の静止を振り切り…憂は手術室のドアを叩く。

 ガンガン…ドンドンと、耳障りな音が廊下に鳴り響く…

「開けてよ…このドア開けてよ…!! 私をお姉ちゃんに会わせてよ!!! ねえ!!!」

「ちょっとあなた! 今手術中なのよ!!」
 騒動に気付いた看護婦さんが憂を止める。
 それでも憂は看護婦さんの静止の声を無視し、ドアに向かって叫び続けていた。

「離して!! お姉ちゃん…!!! 私が行くから……私が…ッッ!!」

「……………。」

 私は黙って憂に近付き…

「………っ!」

――パシンッ!!

 そして、半狂乱に叫ぶ憂の頬を打った。
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]:2011/03/22(火) 18:58:43.24 ID:MqWZVUsX0
「和…ちゃん……?」
 叩かれて紅くなった頬を抑え、憂が私を見る。

「憂、いいかげんになさい、そうやって叫びたいのはあなただけじゃないのよ…」

「和…」
「和…ちゃん…」
 みんなが心配そうに私を見る。
 私が誰かを叩くなんて柄にもないだろう…
 でも、そうでもしないとこの子は…いつまでも叫び続けているだけだ…。

 この子の邪魔で唯の手術に支障が出たら…それこそどうしようもない…!


「……でも…でもぉ……っっ!!」
「憂…唯の強さを信じましょう………あなたは、平沢唯の妹でしょう…?」

「和…ちゃん……!!和……ちゃんっっ…!っう…ぅうぅぅぅ……!!」

 憂を抱きしめる…
 私の中で憂はひとしきり泣き…ようやく落ち着きを取り戻してくれた。

 
「すみません、お騒がせしました…。」
「いいえ、お気持ちはわかりますが…他の患者さんもいるので、病院内ではお静かにお願いします…」

 看護婦さんに一言詫びて、私はみんなに向かって言う。

「…みんな、唯を信じましょう。大丈夫よ、必ず唯は助かるわ…」

 そう、根拠もない事を言い残して…

「それじゃ私…待合室に戻ってるから…」

 私は病院のロビーに戻っていった。
 
 戻り際に後ろを振り返る。
 
「唯先輩…私…もう先輩が音楽室散らかしても、練習しなくっても絶対に怒ったりしませんから…帰ってきてください…お願い…します……っっ」
「お姉ちゃん……無事に帰ってきて…お願い……っっ!!」

 手術室の前では、みんなが唯の無事を祈っていた…。

7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]:2011/03/22(火) 19:05:27.66 ID:MqWZVUsX0
――――――――――――――――――――――――――

 缶コーヒーを片手に、ベンチに座って時を待つ。

  『和ちゃ〜ん、また一緒のクラスだねぇ〜〜♪』

  『とりあえず、軽音部ってところに入ってみました!』


 こんな時に限って頭に出てくるのは…唯との思い出の数々だった…

 冗談じゃない、こんな時に何をそんな不謹慎な事を考えているんだ…私は……!!

「唯…どうか……助かって…お願い…!!」

 頭の中に浮かぶ思い出をかき消すように…空き缶を握りしめる…


……………。

 どれだけの時間が過ぎただろうか、ぼうっとした頭の中で唯の事を考えていた時だった。

「…真鍋さんっ!」

 私を呼ぶ声が聞こえる。
 ふと声の主を確認する。
 病院の入り口には誰かが呼んだのだろう。息を切らして、担任の山中先生が駆けつけてくれた。

「山中…先生…」

「…ひ、平沢さんの状態は…!?」
「今、手術を受けています…詳しい事はまだ…」
「そう……」

 私は現在の唯の状態を簡単に先生に伝える…。
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]:2011/03/22(火) 19:08:53.16 ID:MqWZVUsX0
そして…

「真鍋さんも…大変だったでしょう。」

「辛かったら…今は…泣いてもいいのよ…」
「山中…先生………」

 先生の腕が優しく頭を撫でてくれる……

 もう、限界だった…

 
「先生……先…生…っっ!!」

「…っ……せん……せい……!! あ…ぁぁぁっっ!!」

「…………………」
「……偉かったわね、よく今まで冷静に頑張っていられたわ…。」
「すごく立派よ、真鍋さん…。」

 そう、私を励ましてくれる先生の胸の中で…
 私は…大粒の涙をこぼして…泣いていた……。
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]:2011/03/22(火) 19:17:17.24 ID:MqWZVUsX0
それから私は、時間がたつのを…唯の手術が終わるのを待っていた…
 
 涙は一通り流したし、もう平気だ。
 落ち着きを戻した私は、みんなのところに向かおうとする。

 その時。

「よ、お疲れ和。さっきはかっこよかった、さすがは生徒会長だねぇ」

 律と先生が揃ってロビーに戻ってきた。
 
 吹っ切れたのか落ち着いたのか、律もさっきまでとは違い、普通の顔に戻っていた

「一応私も部長だから、和を見てたら泣いてばかりもいられないなって思ってさ…」
「それに、いつまでもみんなが泣いてたらさ。唯だっておちおち寝てられないっしょ?」
 
「律は強いのね……」
「そんな事ないよ、でも、いつまでも泣いてばかりいられないだろ?」

「そう…ね、澪は?」

「ムギが送ってった。今日はムギの家に泊まるんだって。」

「唯ちゃんの手術は、明日までかかるんだそうよ。だから、あなた達も早く帰りなさい。」

 明日…か。
 授業が終わったらすぐに向かおう。

「分かりました…その、憂は…」
「梓と純ちゃんが慰めてる…今は唯から離れたくないんだってさ。」

「後で私が説得して帰しておくわ。ご両親には私から報告しておいたから大丈夫よ。」

「外にムギの車が止まってるからさ、それに乗ろう」
「ええ…それでは先生…憂の事、よろしくお願いします…。」
「ええ、任せなさい。」

 胸を叩き、笑顔で返す先生。
 頼れる先生だ…
 この時ほど、この先生の事を尊敬したことはなかったのかもしれない…
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]:2011/03/22(火) 19:20:51.02 ID:MqWZVUsX0
―――
――


「それで…どうしてあんなことに…」
 
 帰りの車の中で私は、唯が事故にあった原因を聞く。

「それがさ…」
 ぽつりぽつり…と、一部始終を見てた律が説明を始めてくれる。

「唯のやつさ、下校途中に猫を見つけたんだ。」
「捨て猫だったみたいで、あいつ可愛いの好きだからさ…」
 それだけ聞いて…なんとなく察しがついてしまった…

「でも、唯が抱いてた猫が急に道路に飛び出して…」

「…い…嫌っ…!」
「澪ちゃん…」
 後部座席で澪が小さい悲鳴を上げた。
 唯が轢かれた場面が頭をよぎったのか、身体が震えているのがミラー越しに映って見える。

「…そう。もう…分かったわ…っ」
「…ごめん……、話すんじゃなかったな…」

「いいえ…律は悪くないわ…ありがとう、どんな状況だったのか、やっと理解できた」

 …道路に飛び出した猫を助けて事故に遭うとは…まったく…唯らしい理由だ…

 馬鹿正直で優しくて…周りが見えてなくて…本当に…救いようのないぐらいに…優しいんだから……
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]:2011/03/22(火) 19:21:32.79 ID:MqWZVUsX0
―――――――――――――――――――――――――


 翌日、授業が終わり、私たちは先生と共にすぐに病院に向かった。

 憂は…あれから山中先生の説得で梓ちゃんと鈴木さんと共に家に帰ったらしい。

 日が明けても、みんなの顔色は変わっていなかった…
 当然と言えば当然だ、友達が、親友が事故に遭って…平然としていられる人間なんかいやしないのだから…


 そして、病室の一室。『集中治療室』と書かれた部屋の中に、唯はいた。

 点滴のチューブに繋がれ、頭や腕に大量の包帯を巻いている幼馴染の姿が目に止まる…


「あれから、なんとか峠は越しました…もう、命に心配はありませんよ…」
 医師のその言葉に、全員から安堵の溜息が漏れる…

 とりあえず…一安心だ…
 あとは…唯の意識が戻るのを待つだけか…


 その日はみんなで、ガラス越しの唯の姿を見つめていることしかできなかった。
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]:2011/03/22(火) 19:22:06.69 ID:MqWZVUsX0
その帰り道。

「唯が帰ってきたらお祝いしないとな〜」
「私、今までにない最高のケーキを持って来るわっ」
「あ、復帰祝いに唯先輩に歌とか作ってあげましょうよっ」
「梓ちゃん、私にも手伝わせて!」

「唯、本当に…良かった……本当に……!」
「澪ー、あまり泣かないの…綺麗な顔が台無しよ?」
「和…だって…だって…っ」

 安心しきった私たちは、それぞれ唯が復帰した時のことを考えて、あれこれとお喋りをしていた。

 でも…

「………。」
「先生、どうかしました?」
「…いいえ……」

 医者の先生と話をしてから…山中先生の表情が妙に暗い…。

「何か、あったんですか…?」
「まだ…私には何も言えないわ…」
「…?」

 頭に浮かんだ疑問符を打ち消す言葉を、先生は最後まで言ってはくれなかった…。
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]:2011/03/22(火) 19:22:40.06 ID:MqWZVUsX0
―――――――――――――――――――――――――――――

 それから数週間後、家で勉強をしてた休日の時だった…

『和ちゃん!お姉ちゃんが…お姉ちゃんの意識が…!!』

 憂の電話を受けて、私はすぐに病院に向かった。


 入院中の唯の病室、そこには唯のご両親と憂がいた…。

「お姉ちゃん…っ! お姉ちゃん……!!」
「唯…!もう、大丈夫かい?」
「唯…本当に…良かった…」

「お父さん、お母さん…憂…心配かけてごめん。」

「いいの…! お姉ちゃんが元気になってくれたのなら…私…私…!」

「すまなかった…こんな大事な時でも仕事仕事で…唯や憂にどれだけ寂しい思いをさせていたことか…!」
「お母さん、海外の仕事はもうやめだ、今後こんな事がないよう、僕達は日本で唯たちと一緒に暮らそう…」
「あなた…ええ、そうね」
 
 ……………。

14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]:2011/03/22(火) 19:24:34.34 ID:MqWZVUsX0
唯と憂は、たぶん世界一の幸せ者だろう…。
 こんなにみんなから…両親や妹から愛されていて…不幸なわけがない…


 私も、唯に駆け寄ってみる。

「唯…!」
「あ、和ちゃん〜〜♪」

「馬鹿っ…!みんな…心配したのよ?」
「あはは…ごめん……」

「まったく…この子は……!」
 
 照れ隠しの叱責を終え、私も唯に駆け寄る。

 そして、包帯に巻かれた腕に気を付け、優しく唯に抱きついてみる…。

「あははっ、和ちゃんから抱きついてくれるなんて、初めてだね〜♪」

 今までと変わらない笑顔で唯は微笑んでくれた…。
 その笑顔を見て、心の底から私は言うことができる…

「おかえり……唯…。」

「うん…ただいま、和ちゃん」
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]:2011/03/22(火) 19:25:48.21 ID:MqWZVUsX0
「唯〜〜〜〜〜!!!!」

 病室の扉が開き、律達軽音部のみんなが病室になだれ込んできた。

「心配かけやがってこの…この〜〜!」
「唯ちゃん、これからは私の車で送り迎えするから、もう絶対にあんな事にはならないようにするからねっ!」
「これ、クラスの皆からの千羽鶴、勉強の合間縫って折ったんだ。」
「唯先輩…本当に…本当に…良かったよぉぉ……っ!」

「りっちゃん、澪ちゃん、ムギちゃん…あずにゃん…みんな、心配かけてごめん…でも、もう平気だよっ!」


 そんなみんなの声に一言、ふんすっと…お決まりの笑顔でみんなに笑いかけていた。


「平沢唯さんのご家族の方で宜しいでしょうか…?」

 医師の先生が、真面目な顔で唯たちの両親に話しかける。

「先生、この度は娘の命を救って頂き…ありがとうございました!」
「先生…!あなたは娘と僕たちの恩人です…本当に…本当にありがとうございました!!」
「いいえ…急患を救うのは医師として当然です…それで…娘さんの事でお話が…」

 そうして、憂とご両親が医師に連れられていくのに、おそらく私達は気付いていなかった。


 …この頃の皆には想像もできなかった…。
 まさか事故の後遺症で、唯の腕が二度と動かなくなるなんて…ここにいる誰が想像できたものか……

16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]:2011/03/22(火) 19:26:31.85 ID:MqWZVUsX0
―――――――――――――――――――――――――――

 唯の意識が戻ってから数日。

 唯も含めた全員がその話を聞いて、固まっていた。


「お姉ちゃん……っ…っっっ」
 元から話を知っていた憂は、唯の傍ですすり泣いている…

「…嘘……だろ?」
「唯の腕が…もう二度と…動かないって……?」
「…あはは、唯先輩のご両親も、冗談が好きなんですね…!」
「そ…そうよ、でも、今のは少し冗談としてはナンセンスだわっ」
「そ…そうだよな、同じ冗談なら、私の方がもうちょい笑えるって!」

 …みんながみんな、その話を冗談として笑い飛ばしていた。私も、そう笑えるのならそうしたかった…
 
 でも、私は知っていた…唯と憂のご両親は、こんな性質の悪い冗談を言うような人では決してない…。

「ごめんなさい…でも、これは事実なの…」

 唯のお母さんが、とても悲しい声で『現実』を私達に告げる。



――――――唯の右腕は…もう二度と…動かない……そうです……――――――
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]:2011/03/22(火) 19:36:09.28 ID:MqWZVUsX0
…事故の際、唯はスピードを出していた車のタイヤに右腕が巻き込まれた。

 勢いに引きずられ、全身と頭を強打しても尚、奇跡的に一命は取り留めたが。肩から腕にかけての腱と神経が完全に切れてしまったと、医師の先生が言っていたそうだ…

 骨が折れた程度であれば、数か月のリハビリで完治も出来る…だが、神経と腱が切れてしまっては…二度と動きはしない…

 医師並に人体に詳しくない私でも、そのぐらいの知識はあった。


「……じゃあ…もう唯は……ギター、弾けないんですか…?」
「…唯ちゃん…やっと元気になってくれたのにそんな……そんなのって…ない……っ!」
「私…嫌ですよ……?まだ、先輩には教えてないコード…いっぱい…いっぱいあったんですよ?? それが…もう……できない……なんて…………………。」


 私もショックを隠し切れない…。
 病室にいるみんなが、涙を流し…ただ泣くだけしかできなかった…。


 …もう二度と、唯の腕がギターを鳴らす事はない。
 唯が講堂でギターを弾き、皆を感動させる演奏をすることは…もうない…

 高校に入り、何かをしなきゃあれこれと悩んで見つけ、そして、大切な仲間とギターに巡り会えた軽音部。
 そんな軽音部を…唯は、誰よりも愛していた。
 その軽音部で…もう……唯はギターを弾くことが出来ない………
 
「…………………。」
 唯は、ベッドに俯いたまま、涙をこらえていた。

 そして、ぽつり…ぽつりと、声を上げる…。
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]:2011/03/22(火) 19:37:50.53 ID:MqWZVUsX0
「そっか…あははははっ…それは…困ったねぇ…」
「でも、私…大丈夫…だよ。」
「ギー太に触れないのは残念だけど……音楽できなくても…みんないてくれるしさ……!」

「覚えは悪くてあずにゃんやみんなには迷惑かけっぱなしだったし……もともと…私に才能なんて……っっっっ!!!」


 嘘だ。

 唯が強がりを言っているのは誰にも分かっていた。
 
 でも、この場の誰に、唯の心に触れられるだろう…
 誰が、唯の心を救ってやれるだろう……。

 誰も、いるはずがない…
 同情や慰めならいくらでもしてやれる…けど…。
 大好きなモノを永遠に奪われた…その唯の気持ちに…誰が触れられるというのか…!

 
 それが分かっているから…誰にも…唯の言ったことを間違いだとは言えなかった…
 
 それは心が冷たいからではない…
 本当に唯の事が好きだから…唯を誰よりも愛しているから…言えないんだ…。生半可な言葉がどれだけ唯の心を傷つけるかを…知っているから…。


「先輩…っ……!いやですよ…私…唯先輩がいない軽音部なんて……っ」
「私嫌だ……唯がいない軽音部なんて…そんなの絶対に嫌だああぁぁ…っっ…」
「斉藤…! すぐに世界中の医者を日本に呼んで……! 待っててね唯ちゃん…! すぐに世界最高の医者を呼んで…腕を…なお…し…て…あげる…から……っっっ」
「ムギ……っっむぎ……っ…!」
「…澪……ちゃん…っ!」
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]:2011/03/22(火) 19:38:56.18 ID:MqWZVUsX0
「もう…いいよ……みんな……ありがとう……」

 俯いたまま、唯は言った…。
 目の色は光を失い…、顔色が酷い…

「ごめんね…みんな…………私…少しだけ…一人になりたいんだ……」
「お姉ちゃん…私、そばにいるよ…?」
「ごめんね…憂……少しだけ……少しだけ…だから……っっ」 

 絶望に打ちひしがれた私達に…唯にかけてやれる言葉は見つからなかった……。
 今日ほど自分の無力感を感じた日があったであろうか…

 みんなと共に、私達は病室を抜ける…

 その時、聞こえた…嫌というほど耳に入ってくる…唯の嗚咽…

 「――――ぁ…あ……っっ…あ…っっぁぁぁっっ!!!!」
 「っっっっ……!!ギー太ぁぁ…みんなぁ…ごめんね…ごめんねぇぇぇぇ……っっっ!!!!」

 病室から聞こえる嗚咽が…静かな病院に響く…
 それはまるで、唯が無力な私達を罰しているかのよう…
 この時、この場の誰もが、自分達の無力さを呪っていた……。

―――――――――――――――

 唯のご両親からのお願いもあり、私達は帰ることとなった。
 
 本当はずっと唯の傍にいてやりたかった…でも、唯からの頼みというのもあり…その日はそれでお開きになったのだ…。

 その帰り道…私は憂と公園にいた。

「お姉…ちゃん…っ…! おねえ…ちゃぁぁん……っ!!」
「…っっっ……! 憂……唯………っっ!」

 いくら泣き叫んでも…何も変わらない…
 そんなこと分かっているのに…涙は尚も溢れてくる……

 …どうしようもない、奇跡でも起こらない限り…私達に唯は救えない…
 神様というものがいるのなら、なんて酷い事をするんだろう…

 唯が何をした…
 あんなに一生懸命に…ただ音楽が好きなだけの、普通の女の子の唯が…何をしたっていうんだ…!!

 この世界は不条理だ…
 唯のように真面目に生きてる人間があんなに苦しんで…私のような平凡な子供が…何の苦労も知らずに図々しく生き永らえていて……

 そんな、人の世の理に絶望していた時だった。
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]:2011/03/22(火) 19:40:17.65 ID:MqWZVUsX0
――その子を助けたい…?


 どこかから声がする…

「…今、誰か何か言った?」
「うん…私にも聞こえた…」

――こっちこっち、キミたちの上だよ…

 言われるがままに顔を見上げてみる。よく見ると、木の枝の上に、白い猫のぬいぐるみのような、赤い目をした生き物がいる。

 その生き物は枝から飛び降り、私たちの前に寄ると…。


――その子を助ける方法なら…あるよ

 口は動いていないが、その生き物は確かに私達に話をかけている。
 若干気味は悪いが、唯を助ける方法があるというその言葉に、私達は食いついていた…。

「唯を助ける方法…ですって?」
「その方法を使えば…お姉ちゃんは、またギターを弾けるの…?」

 憂が驚いた顔でその生き物に問いかける。

――うん、その子がまた音楽を奏でられる方法を…僕は知ってるよ。

「どんな…方法?」

――教えてあげるけど…その代わり、キミたちさ…

 その生き物が、口をかすかに上げた…気がした。
 そして、意味深な言葉をつなげる…


――僕と契約して、魔法少女になってよ!


…そして、私達の日常は狂って行く。

 今思えば、その時に気付くべきだったんだ…でも…。
 その頃は、私や憂の…みんなの日常が、この生き物に壊されていくことになるなんて…。
 
 唯の事で絶望していた私たちに気付けるはずなんて…なかった……
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)2011/03/22(火) 19:41:12.52 ID:MqWZVUsX0
―――――――――――――――――――――――――――――――


   幸せというものは、何かを犠牲にして得られるもの
   幸せというものは、誰かの不幸の上に成り立っているモノ

   シアワセというモノハ、永遠には続かないモノ

   シアワセとイウモノハ……気持チイイコト……!!


「…あはは……あははははっっっっっっっっっ!!!!」

「あーーーーーっっっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!!」

魔法少女のどか★マギカ 終
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/03/22(火) 19:46:56.51 ID:sCYKTn+SO
終わってしもうた
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]:2011/03/22(火) 19:51:47.64 ID:MqWZVUsX0
長々と引っ張るつもりがなかったもので
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)[sage]:2011/03/22(火) 19:52:47.36 ID:XFfzdg2AO
なんか唐突に始まって終わったーーー!!!!?
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/03/22(火) 21:05:51.04 ID:LE5EHhLDO
え?終わりですって?
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[sage]:2011/03/22(火) 21:08:05.13 ID:rNqNHKIi0
まさかのキュゥべえか……
とりあえず乙、で、魔法少女のどかの活躍を期待
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)[sage]:2011/03/22(火) 21:13:52.59 ID:XFfzdg2AO
おのれQB
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)[sage]:2011/03/23(水) 00:35:10.19 ID:04rszHtAO
まなべのどかとかなめまどかって名前の響きが似てる
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州)[sage]:2011/03/28(月) 05:50:46.12 ID:hTpbbEEAO
BJ先生ー!早く来てくれー!
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/06/06(月) 03:06:42.02 ID:DDFv4cYSO



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