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HTML化した人:lain.
魔法戦記リリカルなのは 機動六課vs黒円卓
1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)2011/03/23(水) 03:35:00.26 ID:aWX8dF1Ho
初めて書きました。はい。完全に妄想です
処注意
オリジナルキャラが出るよ!というか主人公だよ!
主人公は色々やっちゃってるから主人公の過去はあまり出ないよ!
フェイトちゃん√です。
時系列的には…Force見たいな感じで…というかForce出る前にし始めた妄想です!

頑張って書きますー
2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[saga saga]:2011/03/23(水) 03:36:17.47 ID:aWX8dF1Ho
彼の日こそ 怒りの日なり
Dies irae dies illa,

世界を灰に 帰せしめん
solvet saeclumn in favilla,

ダヴィデとシビラの 預言のごとく
teste David cum Sibylla.

大地は血を飽食し、空は炎に焦がされる。

人は皆、剣を持って滅ぼし尽くし、息ある者は一人たりとも残さない。
男を殺せ。女を殺せ。老婆を殺せ。赤子を殺せ。
犬を殺し、牛馬を殺し、驢馬を殺し、山羊を殺せ。

――大虐殺(ホロコースト)を。
目に映るもの諸々残さず、生贄の祭壇に捧げて火を放て。

この永劫に続く既知感(ゲットー)を。

超えるためなら総て焼き尽くしても構わない。
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[saga saga]:2011/03/23(水) 03:38:48.68 ID:aWX8dF1Ho
「おおおおおおお…でっかいところだな…これが新人育てるって試験部隊の本部かよ?」

今日から配属される新部隊の本部に到着して、建物を見ると自然に声が出てしまった。

「本部くらいの建物やったらこのくらい普通やけど?」
本部を見上げていたところ後ろから声をかけられた。

「あ、お久しぶりです八神さん…いえ八神二佐。このたびは新部隊の部隊長…凄いですね」

「ああ、はやてでええよー。部隊のことはまた後でほかの隊長たちと一緒に説明するからなー。」

「そうですか。わざわざありがとうございます。でも部隊長にそんな…」

それから少し他愛のない話をし、一旦別れて自分の部屋に向かった。

隊舎――

自分の部屋に荷物を置く。荷物と言ってもそう多くは無い。そしてまだ朝も早く、部隊設立の挨拶までまだまだ時間が余っている。そこで自分の置かれている立場を再確認することにした。
(自分はこの前までクロノ・ハラオウン提督の航行船で研修を受けていた…研修というよりこき使われただけだったが…。俺は事件を解決したが、そのかわりストレージデバイスを壊してしまった。資格なんてまだ持ってないが、あの実績が買われこの部隊に配属されたのだろう。………でもそんな事よりも…隊長達の中には彼女もいるんだ…)
――――
そうしている間にも人員は集結している。高町なのは、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン、ヴォルケンリッターの騎士達を初めとするJ・S事件を解決した元機動六課はほぼ全員召集されていた。
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[saga saga]:2011/03/23(水) 03:41:26.96 ID:aWX8dF1Ho
部隊設立の挨拶のために会場へ向かっているときに、懐かしい声をかけられた。

??「久しぶり、ドライ。」

??「あ、ホントに久しぶりだね!元気だった?」

「ん…フェイト…久しぶり。なのはさんも…」

フェイト「そんなこといって…この前の事件結構無茶をしたって聞いたよ?デバイスも壊れたって…大丈夫なの?」

「ああ…怪我なんてもうなおってるし大丈夫。デバイスがなくなったのはちょっと痛いけどね…」

なのは「んー…じゃあ模擬戦はまだ出来ないんだね?ざんねん…どれだけ強くなったか見たかったなー」

フェイト「なのは、まだ治ったばっかりらしいから模擬戦は…」

「いや、いいよ。デバイスが完成したら模擬戦しようか?いくつか新機能をつけてもらってるから楽しみにしていいよー」

なのは「うん。それでこそドライだね!楽しみにしとくよ!」

フェイト「もう…二人とももっとおとなしくしてよ…」

「ごめんフェイト。でも、フェイトと一緒に働けて嬉しいよ」

フェイト「え…ええっ!いきなり何言って…」

なのは「……」

―――――――
そしてこの新部隊、機動六課は再び試験的に設立された。部隊長に八神はやてを、分隊長に高町なのは、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン、など元機動六課とはあまり代わりは無いが、スターズ、ライトニング隊に加え、新たにランス隊が追加された。そしてその分隊長はドライ…人間兵器として生み出された男が任命された。
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[saga saga]:2011/03/23(水) 11:26:40.83 ID:aWX8dF1Ho
ミッドチルダのどこか―――

??「ようこそシャンバラへ。お待ちしていましたよお二人とも。本当にお久しぶりです。ベイ中尉にマレウス准尉。月並みですが相変わらずのようですね。」
町のはずれで僧衣に身を包んだ、神父に見える男はそういった。

ベイ「相変わらずってことは昔のまま進歩ねぇって言いたいのかよクリストフ。言葉選らばねぇと死ぬぞてめぇ」
百蝋のような人とは思えぬ肌の優男が笑いながら答えた。対して、

マレウス「ごきげんよう神父様。あなたは本当に変わってないわね。少し怠けすぎなんじゃないかしら」
鈴をころがすようなその声の印象どおりの可憐な少女もまた答える。声も姿もこの場にそぐわず、彼女がもっとも異彩を放っている。

クリストフ「私はしばらく隠棲していたものでして。まあ怠けているのは今に始まったことではなし、一応それなりの理由もあります」
ベイ「で、今シャンバラには誰と誰が入っている?」

クリストフ「レオンハルト、ゾーネンキント、バビロンにトバルカイン…そしてあなた達の計六名ですよ。私は後数日ここを動けないものでして。年寄りがでしゃばるなと言われましてね」

ベイ「ほぉ…レオンハルトがか?」

クリストフ「ええ、あのお嬢さん、どうしてなかなかたいしたものになりましたよ」

マレウス「へぇ…それは是非とも――」

クリストフ「二人とも。今は黒円卓に空きを作るわけにはいきません。まずは彼らを捜してください。総難しい事では無いでしょう」

ベイ「なるほど」
マレウス「了解―」

クリストフ「では…はじめましょう」
魔人たちは人知れず動き出した――――
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[saga saga]:2011/03/23(水) 11:30:07.39 ID:aWX8dF1Ho
――――――――――――――
暗い。固い床に横たわっている。私は誰なのか。記憶はある。ありすぎる。どれも私ではない。では私は何だ?何でもない…記憶の濁流に飲まれている。鉄格子の向こうに何かを見た。ああ、美しい、懐かしい、愛おしい。あの人に会ったのはいつだろう?
何か言っている。そんな言葉をかけられたのはここでは初めてだ。俺はもう会えないと思ってた…また君の手を握って…

??「――起きて。朝だよ?」

目を開けると朝日の中、フェイトが俺を起こしていた。どうやら人が部屋に入っても気付かないくらい熟睡していたらしい。

「ん、おはようフェイト。んー…あれ?なんでここに…?」

フェイト「もしかしたらまだ寝てるかもって思って来ちゃった。よく寝てたよ。でももう起きないと朝ごはん食べ損ねちゃうよ?」

「もうそんな時間?よく寝たな…わざわざありがとう。すぐに準備するよ―っと」

フェイト「じゃあ部屋の外で待ってるからね」

よく寝たからか久しぶりにあの時の夢を見た。あの時の事はひそかに何度も思い出しているくらい嬉しかった。
にやけた顔を見られないように顔を洗って、新しい制服に着替え部屋を後にした。
―――――――
そして機動六課の通常業務が開始された。なのはさん、フェイトは新人の教導をしているようだ。だが、平和なのはいいがやる事はあまり無い…ホントに何のために配属されたのか分からなくなってきた。一通りのトレーニングとデスクワークをし、やる事も無いので街を見回ろうと思い外に出た。一応外を見回りしてきます!と言ってきたからサボりでは無い!と思う。
街を見回りがてら歩いているとある施設に向かっているのに気付いた。せっかくだしお菓子でも買って行ってやろうと思い立って評判のいいお菓子屋に寄って行った。
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県)2011/03/23(水) 14:45:35.28 ID:1VDdWyn20
なのはさん達勝ち目なくねぇ?

いや、それでもシュピーネさんならやられてくれるか
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[saga saga]:2011/03/23(水) 14:50:31.54 ID:aWX8dF1Ho
おお、見てたか。うん、そんな気もするがなんとかなるって
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[saga saga]:2011/03/23(水) 14:53:09.65 ID:aWX8dF1Ho
「うー…買いすぎたかも…」
大量の袋を抱えながら施設に入る。この施設は教会直属の身寄りの無い子を預かる施設であり、今も元気な声が聞こえている。

女の子「あ、お兄ちゃん!久しぶりー!!」

「お、エリーゼ、元気kっごぶ!」

見つかった瞬間にものすごいタックルを喰らった…それでもなんとか受け止めお菓子の袋を死守した。それを見た子供達はおーとか歓声とか上げていた。

??「あら、お久しぶりですね。エリーゼ、元気なのはいいことだけどお兄さんが痛がってるじゃない」

エリーゼ「ごめんなさい…シスターリザ…」

「ああ、大丈夫ですよ。久しぶりですリザさん。これお菓子です。皆で食べてくださいね」

リザ「あら、こんなに沢山ありがとうございます。じゃあ皆、お菓子を食べましょうか」

子供達は喜びながらシスターの跡に続く。このシスター、この施設の子供の世話を任されている人で人当たりもよく人気者だ。そしてエリーゼは研修時代最後、この間の事件で助けた子でかなり懐かれてしまった。母親は重要参考人として拘束されているが、出所したらまた一緒に暮らせるだろう。それまでこの施設で暮らす事になっている。

エリ「ねえねえ、私お友達が出来たんだよ!」

と、そんな話をしていると背の高い神父さんが出てきた。
「ん?ここって神父さん居たっけ?」

??「これはこれは、あなたがドライさんですね。私、この間からこの教会でお世話になっているヴァレリア・トリファといいます。このたびは子供達へのお菓子の差し入れ、ありがとうございます」

「おお、新しい神父さんか。リザさんも忙しそうだったからかな?」

トリファ「ええ、昔にもここに居たことはありまして…このたび呼び戻されたんです。ええ」
それからは神父さん、リザと少し話し、子供達と遊んで施設を後にした。神父とリザさんは確かに知己らしく夫婦みたいに見えることもあった。本人達は否定していたが。

そして本部に帰ったらちょっと怒られた。指令無しに見回りはしなくて良いだそうだ。残念。
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[saga saga]:2011/03/23(水) 15:01:34.52 ID:aWX8dF1Ho
晩御飯――
スバル「いやいやー、今日は昼間に挨拶しようと思ってたのにいないからびっくりしたよー」

ティアナ「ホントよ。初日からサボりなんて…元々噂されてたのにさらに悪評が広まるわよ?」

エリオ「まあまあ、一応黙って居なくなった訳では無いですし…たいした仕事も無かったのでまだ良いですよ。でももうやめてくださいね」

「…はい…ごめんなさい。もうしません」

はやて「はは…ごめんな。すっかり連絡わすれてもうて…明日は新人達にもいろいろ教えてやってや」

「良いですけど…デバイスの無い俺でもいいんですか?」

はやて「魔法や戦略なんかはなのはちゃんとかが教えてるからなー。ドライには一部に戦闘技術を教えてやって欲しいんよ。デバイスもそろそろ出来上がるって聞いとるよ」

「ええ。わかりました…デバイスは楽しみですね」

スバル「あー、じゃあデバイス届いたら一度模擬戦しましょうよ!一回凄いって噂のドライの戦いを見てみたいな!」

「ああ、先になのはさんが言ってきてるから。体力が持てばね…」

ティアナ「なのはさんと戦った後にまだ戦えるって思ってるところが凄いわね…」

「ん?俺は結構強いんだよ。なのはさんとは相性最悪だけど…新デバイスの魔法を試すのにはもってこいだからね。苦手な相手だからこそ…」

なのは「へぇ…じゃあ楽しみにしてるね?」

「え…?聞いてたんですか…」
ちょっと怖かったのは秘密だ。
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[saga saga]:2011/03/23(水) 15:05:42.97 ID:aWX8dF1Ho
――――――――――夜―――――――
??「おや、ベイ中尉…どうしましたか?ここのスワスチカはもう成っています。あなたが感慨にふけっているわけでも無いでしょうに…」

ベイ「うるせぇぞクリストフ…!お前でスワスチカを開いても良いんだぞ…?」

クリストフ「おやおや…それは遠慮したい。それと既に開いたスワスチカでの戦闘、虐殺は遠慮していただきたい。なぜなら…」

ベイ「わかってらぁその程度。場所も見境無しに殺すのはシュライバー位だろうがよ」

クリストフ「わかっていればいいんです。ですが、仮にも私は今は首領代行…少しは敬意をはらってほしいものですね」

ベイ「カハッ!ああ、ああ聖餐杯卿下様、てめぇの指令は聞く。それで良いだろ?」

クリストフ「…ええ…とりあえずはそれで良いでしょう。相手は数が多い。とはいえ先の大戦ほどではありません。一兵卒の実力など我々の足元にも及ばない。そしてスワスチカも福首領閣下の術式が順番に縛られるようなものでは無い。一日にゾーネンキントが耐えられない、2つ以上のスワスチカを開かなければよいでしょう。それさえ守って頂ければ…」

ベイ「わかってる。わかってるぜぇ…ところで、シュピーネはまだはいらねぇのか?」

クリストフ「ええ、彼もすぐに来るでしょう…忠誠のために…」

ベイ「そうかいそうかい。ああ…戦いが楽しみだぜぇ…骨のあるのはいるんだろうなぁ!」

―――――――――――

夜…晩御飯の後にトレーニングで汗を流す。結構立派なトレーニングルームがあり、色々な筋トレが出来る。いつものメニューをこなし、次は型をなぞる。繰り返し繰り返し…かつての技術を体に染み込ませるように…

??「―――おい…おい!」
                                                                                        ・ ・ ・ ・
記憶を頼りに体に染み込ませる作業は意外と集中力がいるが、行ってしまえば一度習得したものをもう一度復習しているようなものだ。意外と早くなじめるが…

??「おい!聞いてんのか!」

「え?ああ、どうもヴィータ副隊長。どうしました?」

ヴィータ「どうしたって…トレーニングしに来たんだよ。そしたらお前が居たから声をかけた!それだけだ」

「そうでしたか」

ヴィータ「シグナムが手合わせしてほしそうだったぞ。デバイスなしで良いなら明日にでもやってやってくれないか」

「ん…良いですよ。そんなことしか出来ることもないですし」

ヴィータ「ん。よし」

「じゃあ…俺はそろそろ」

ヴィータ「おお」

―――――風呂
「ふぅ…お、エリオとザフィーラも今から風呂か」

エリオ「あ、どうも…」

ザフィーラ「お前も今からか。今日は賑やかだな」

「あ、エリオー、キャロとどんなカンジになってるの?」

エリオ「え!?いやいや、…そっちこそどうなんですか!」

と、男で色々盛り上がってのぼせてしまった…寝よう。
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[saga saga]:2011/03/23(水) 15:10:55.10 ID:aWX8dF1Ho
今日は夢も見ずに早くに起きれた。朝の運動をしてみんなと合流して朝ごはんを食べる。そろそろ大勢で食べるご飯も慣れてきた頃だ。

シグナム「ドライ、今日の手合わせ、午前中で大丈夫か?」

「ええ、大丈夫ですよ。というかそんなに楽しみにしなくても…」

シグナム「なに、素手とはいえ近接戦闘で手合わせできるのは久しぶりなのでな…期待している」

「ん…でも竹刀なら使って良いですよ。俺の武器は拳なので、そっちも武器を使わないと」

そこまで言ったところで周りの視線に気付いた。あれ、なんかまずかったかな。

シグナム「ふむ…相当腕に自信があるのだな。では、楽しみにしていよう」

エリオ「いいんですか?シグナムさん相当強いですよ?せめて竹刀は無しが…

「いや、アレは剣士だろう。武器がなければな…それに俺も強いんだよ。見ているといい。…どっちが勝つにせよ、勝負は一瞬で決まるよ」

スバル「へぇ…そんなに言うなんて…たしかに楽しみだね!」

「そういえば…ここにいる大部分の人は俺の戦いを見たことは無いのか。じゃあ気合入れていきましょうかね」
と、そんなこんなで試合の時間になった

フェイト「ああ…素手と竹刀なんて危ないよ…防具も無しなんて…」

シャマル「まぁまぁ、すぐに治せるから心配しないでいいわよー」

シグナム「では、3本勝負でいいな?」

「ええ、それでいいですよ」

神経を張り詰める。極度の集中で世界が捻じ曲がる。戦いのために不必要な要素が脳から削り落ちていく。戦いのための刃と化し、研ぎ澄まされた精神が相手を映す。

ヴィータ「始め!」
瞬間、シグナムの竹刀は颶風と化し、ドライを襲った。ドライは今だ動けず

シグナム(とった!!)
と竹刀が一閃された。試合開始から一瞬、1秒にも満たない交錯であった…が、竹刀は床に転がっていて、ドライの拳が喉元に突きつけられていた。

「奥義・無刀取り…こんな技知らないでしょう?」

シグナム「なっ…」

一瞬の静寂から一転、ギャラリーからの歓声が上がった。まだ1本目なのにな。
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[saga saga]:2011/03/23(水) 15:14:12.48 ID:aWX8dF1Ho
ヴィータ「…じゃあ、気を取り直して2本目行くぞー。戻って戻って」
(おそらく二度目は通用しないだろう…全力で…)

ヴィータ「始め!」
床を蹴ったのは同時、突進の速度を殺さずにドライは身を延べた。シグナムの剣は空振りに終わった…が、さらにその先…竹刀は急転し、ドライを狙った。ドライもまた、拳を放っていた…その結果は…

ヴィータ「…1本!シグナム!」

「速いな…さっきよりも。びっくりしたぜ」

シグナム「そっちこそ…あの動き、中々に厄介だ」

3本目。この交錯で勝負は決まる。



ヴィータ「じゃあ…始め!」

三度、激突する。今度は一撃では決まらない。拳を剣がいなし、剣を掌がそらす。何度も何度も突き放し、攻め、受ける。間合いをつめれば離され、手刀と竹刀が高速で交錯する。




シグナム(このままじゃ押し切られる…!)

と、勝負を決めに来たシグナムの本気の一撃が襲う…!

(避け切れないか…)

瞬時に判断し、その一撃を腕で受けた。だが、ただ受けただけではない。剣にあわせて腕を震わせ、相手の剣をはじく。予想外の衝撃にさしものシグナムも隙が出来…ドライの掌が螺旋を作りシグナムに突き刺さった。

シグナム「うっ…なぁ…」

ヴィータ「…あ…1本!ええと…勝者、ドライ」
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[saga saga]:2011/03/23(水) 15:19:09.75 ID:aWX8dF1Ho
「あー…結構疲れた…」

シグナムとの試合後、エリオやスバルやザフィーラなんかにまで手合わせをお願いされて律儀に付き合ったので、ものすごく疲れた気がしている。

「んー…でも、人と試合できたのはよかったな」

フェイト「あ!ドライ…大丈夫だった?防具もつけてないんだから…怪我して無い?」

「お、フェイト!大丈夫だよ。丈夫なのは知ってるでしょ」

フェイト「でも…痛かったでしょ…デバイス無いのに模擬戦なんて…」

「まあまあ、デバイスがあったって痛いときは痛いんだし、修行なんてもっと痛めつけられるんだよ。心配は要らないよ…でも、ありがとう」

フェイト「もう…そういえば、デバイスが完成したって。早くて明日には届くって言ってたよ」

「おお!そうか…デバイスが遂に来るのか…楽しみだ」

フェイト「ふふ…なのはと模擬戦だね…。どっちも応援するけど…頑張ってね」

「はは…ああ、ちょっと怖いけど頑張るよ」



――――――夜――――――――

夜のトレーニングとして、色々なところを走っていた。それは街中も例外ではなかった。夜の街でも人は多い。人ごみの中を走るのもなんなので散歩に切り替えることにした。

明日来るというデバイス、そして六課設立の意味など考える事は沢山あり、退屈せずに歩くことが出来た。だが、考え事に熱中していたからか…彼はある変化に気が付かなかった。

(ん…いつの間にか周りが静かに…)
勝手にドライの足は公園に向いて居たが、あれだけ居た人が誰も居ない。いや…二人しか居ない。
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[saga saga]:2011/03/23(水) 15:23:52.71 ID:aWX8dF1Ho
ベイ「よう。こんばんは、ツァラトゥストラ…待ってたぜぇ…」

マレウス「こいつがホントにツァラトゥストラなのかしら?何も持ってないけど」

ベイ「なに、やりあえばわかるだろ。死んだらそれまでの奴だったってことだ」

「なんだ…お前ら…」
頭の中で警鐘がなっている。やばい。こいつらはやばい。優男と少女の外見だが、その血の匂いの濃さは初めて感じるほど。あれは鬼の類だ。ならば…ここで捕まえなければならないだろう。

マレウス「じゃあ私は見ててあげるわ。せいぜい頑張りなさい」

ベイ「さあさあ!構えろよ…せいぜい楽しませてくれ」

「ああ…俺に喧嘩売ったこと、後悔するんだな」

奴は構えと言っても決まった構えは無いのか、変わったところは無い。遠慮なくいかせて貰おう。三体式…

ベイ「へえ…中々様になってるじゃねぇか…よっ!」

「!?」
本能でによって全力で飛びのく。奴は街灯に突っ込んだが…何のデバイスの発動も無し、何か術を施した気配もないのにあのスピード、さらに驚くべきは、ぶつかった街灯の方がへし折れていること。

「なんだそれ…化け物かよ」

ベイ「ああ…褒め言葉ありがとよ。次は当てる…そっちも本気を出しな」

冗談じゃない。あんなのバリアジャケット無しで当たったら流石の俺でも耐え切れない。

ベイ「そら……!?」

当たれば死ぬ、ならば当てられぬ前に拘束する。ドライの突進。ドライの体は津波のごとくベイの懐に沈みこんだ。地面をひび割れさせるほどの震脚。十全に練り合わさった応力と沈墜勁が、腰から脊柱、脊柱から両腕へとほとばしりベイの胸部へ突き刺さる。

手ごたえはあった。まるで壁を殴ったような手ごたえが。

「…!?な…」

ベイ「カハッ!素手でそれか。素手でここまでやるか!そそるねぇ…」

両手の骨が砕けた。あれだけの威力の拳を打ち込んでこっちの手が砕けるだけって何の冗談だ。常人ならばアバラが折れて動けなくなるような攻撃だったが…

「…殺す気でいかなきゃ駄目…ってことか」

ベイ「おうおう、やっと本気ってか?いいぜ…聖槍十三騎士団黒円卓第四位ヴィルヘルム・エーレンブルグ・カズィクル・ベイだ。名乗れよ。局は戦の作法もしらねえか?」

「生憎と無銘なもんで…ドライと名乗っている」

ベイ「ドライね…お前のほかに2体作られたわけだ」

「まあ、俺が殺したがな」

ベイ「そうかい。じゃあ殺しあおうぜぇはじめようぜぇ…!」

奴の突撃は先ほどの比ではない。速く、鋭く、今度はこっちの喉笛を掻っ切ろうとしている。


その突進に合わせて砕けた手を構えたが…その突進は寸前で止められていた。
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[saga saga]:2011/03/23(水) 15:30:56.68 ID:aWX8dF1Ho
??「誰がいきなり殺していいと言った。ベイ中尉」

ベイ「あぁ?てめぇ…レオン…!」

ヴィルヘルムと名乗った男の腕を横合いからつかんで止めている女が居た。レオンと呼ばれていたが…あの男の腕を止める女ってことはご同類か…

レオン「まだ殺すな。そういっただろう。ツァラトゥストラだと確定したわけではない」

ベイ「あぁ?ほぼ確定だろうが何アマ言ってんだ新参。…で、いつまで俺に触っている」

レオン「!?」
すぐさま女に俺は蹴飛ばされ…というか邪魔だったんだろうな。ヴィルヘルムの身体からなんか棘が生えていやがる。さっきまではホントに本気じゃなかったわけだ。
女のほうはどこからか剣を出して応戦してるし…仲間割れと見ていい

マレウス「ばぁ!」

「なっ…!」
あまりの異常性にまだ1人残っている事を失念していた。こいつもあんな化け物なんだろう。冗談じゃねぇ

マレウス「うん。よく頑張ったねぇ。私感動しちゃった。生身で挑むなんて…きゃーかっこいー!」

「…お前らはなんだ?何をしようとしている」

マレウス「あーあ、のってくれないんだー。残念。私達の目的?それを教えちゃったらつまんないでしょ。ヒ・ミ・ツ。うん。でも君はまだ本気で戦えないから。戦いにならないから今日はこれで引き上げるよ。追いかけても無駄ってことくらい…わかってるよね?」

「…ああ、お前ら三人になんて勝てないし、救援も呼べねぇ。どうしようもないな。俺はお前らが引き上げるのを見送るしかないと。クソッタレ」

マレウス「ああん、物分りもよくて助かるなー。悪態も様になってるぅー」

「ふざけてんのか」

マレウス「まさか。じゃあ、また今度ねー。ほらほら撤収―!もう、いつまで喧嘩してるのよー!ベイもレオンハルトももうやめてー泣いちゃうよ!女の子泣かせちゃうよー!」

なんだか間の抜けたような撤収の号令だったが…生き延びたと同時に奴らを取り逃がした悔しさが襲ってくる…

いつの間にか二人は居なくなっていた。

レオン「すまなかったな。いきなり襲って」

「…いきなり謝罪されるとは思わなかったが…それならとっ捕まえるぞ」

レオン「出来ないという事はわかっているだろう。私は櫻井螢だ。お前は?」

「…あの男にでも聞くんだな」

レオン「ふん…せいぜいお前達が私達の敵となることを祈っておくぞ」
そういい残して去っていった。あとに残ったのは両手の痛みと…化け物じみた敵との戦いが始まるという危機感だった。

「…誰も殺させるもんかよ…」
殺意には殺意を。俺の愛する人、その世界、総て守りきってやる。ああ、俺はお前らを敵と定めた。砕けた手を握り締める。化け物相手はなれているんだ残念だったな。
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[saga saga]:2011/03/23(水) 15:32:58.80 ID:aWX8dF1Ho
これで一区切り…また書き溜めの作業に入るぜー!主人公の設定って一気に出した方がいいのかな?
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[saga saga]:2011/03/24(木) 00:44:06.90 ID:9b8WHrhlo
―――――――――――――――

翌日、目が覚めたのは六課の保健室、シャマル先生の部屋であった。

「あ…もうこんな時間…朝ごはんには起こしてくださいよー」

シャマル「元気ねー。でもあなたは今普通のご飯は食べれないわよ。手が使えないから」

「え…?こんな怪我さっさと治してくださいな。前はもっと酷い状態から治って…」

シャマル「ええ、あれは酷かったはね。でも、治ったとたんにこれだもの。もうちょっと自分を大事にしてほしいわ。フェイトちゃんも心配していたし」

「ええ、フェイトは…なんにでも心配しますから。」
手を確認する。ああ、包帯だらけだが動く程度には回復しているようだ。

「ねえ、これもう大丈夫なんじゃ…骨折程度すぐに治るんじゃ…」

シャマル「駄目です!ドライは手を怪我し過ぎだから反省してもらいます」

「…いや、事件起こったらどうする…昨日報告したとおりなんかやばいのが居たんだが」

シャマル「…そのときはそのときです。何も戦うのはあなただけってわけじゃないんですから。1人じゃない。仲間を信じてあげてください。」

「ああ、でも明らかに最強は俺なんだよ。俺が皆を守る。相手を殺せない奴は今回戦いに出ない方がいい」

シャマル「犯人を?それは駄目よ。まずは確保しなきゃ…」

「それが駄目だ。現に俺はこのざま。殺す気でいったとしても殺しきれたかはわからないが、ここまでコテンパンにされて向こうは無傷ってね。新人達は出番無し」

シャマル「んー…でも相手の情報が少なすぎるわね。わかってるのは強さと…」

「組織名、あとは個人名。あの組織名から調査が出来ればいいけど…」
と、廊下のほうから足音が聞こえてきた。うん多分あの人だ。

なのは「おきてる?あ、起きたんだね」

「おはようございます。手以外はどうって事無いですし」

なのは「あれ?魔法で治せないくらい酷いっけ?」

シャマル「この前粉砕骨折治したばかりだから…反省の意味も込めて今日一日くらいはこのままいてもらいます」

なのは「ありゃりゃ、こりゃ今日の模擬戦は私の不戦勝だねー。せっかくデバイス貰ってきてあげたけど」

「おお!そうだったのか!デバイス!ありがとう!というか模擬戦は延期してくれないか?こいつの性能も見たいし」

なのは「いいよー私としても君を心置きなく撃てる機会は欲しいからね」

「…いや、そんなに嫌わないでくださいよ…怖いです。こっちは仲良くやりたいんですから」

なのは「嫌いでは無いけど好きにはなれないよ。いきなりでてきてフェイトちゃんを掻っ攫っちゃうんだから…しかも今は今でもどかしい!」

シャマル「そうね。なんでまだくっ付いてないのか不思議だわ」

「それは…色々あるんですよ。フェイトはまだあれの死から立ち直ってはいないから…俺が近づきすぎるのもあまりよくないでしょう」

そう。彼女は俺を見ていない。失った人の影を重ねているだけ。姿かたちが一緒だからこそ彼との差を感じ、また悲しむ。彼女はあれから…俺の元となったあれの死から前に進んでいない。
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[saga saga]:2011/03/24(木) 00:46:53.46 ID:9b8WHrhlo
なのは「そこはドライが何とかしなきゃ駄目でしょ!それとも自分の感情がわからないとかふざけた事言うつもり?」

「いやいや、それは無いよ。俺はフェイトを愛しているよ。クローン元のあいつと違うって理由で迷ってはいない。ただ、そういう経験無いからな…」

シャマル「えーっと…そんな理由?」

なのは「…ヘタレ」

「すいません。時間が解決…ってのは甘いか」

なのは「甘すぎるわよ!ああもう、ホントに…」

シャマル「まあまあ、フェイトちゃんが引きずっているのはわかるし、二人に任せましょうよ」

「いやぁ…そういえばフェイトは今は?」

なのは「今は捜査してるわよ。昨日の被害は少ないからすぐに終わると思うけど…おっと」
と、なのはさんに通信が入ったようだ。シャマル先生に許可を得て二、三言葉を交わして戻ってきた。

なのは「うん。もう戻るって。よかったね」
うお…シャマルさんがたじろぐような顔をしてる…怖いな…

なのは「まったく…デバイスの初期設定は出来る?」

「え?ああ、なんとか…もう行くんですか?」

なのは「うん。仕事もあるからね。じゃあシャマルさん、また後で」
なのはさんが立ち去った後、入れ替わりのようにフェイトが来た。手の包帯を見て心配そうな顔をしてる…

フェイト「大丈夫?無理しないでって言ってたのに…!心配ばかりかけて!」

「いや、手以外は大丈夫だけど…仕掛けてきたのは向こうだから俺は悪く無いって。それよりさ…少し歩きながら話せないかな?」

フェイト「え…うん。いいよ」
部屋を出る時にシャマルさんのニヤニヤ笑いが目に入った。無視しよう。

中庭を歩きながら話していたが、確かにいろんな人からじろじろ見られてる。
「ん…なんか凄く視線を感じるんだが…」

フェイト「うん。皆あなたが倒されたって聞いてびっくりしてるから。デバイスが無いってこともあまり広まって無いし、シグナムとあんな試合して強いって思ってたとたんの事件だから…それと捜査は全然進んでない…ごめん」

「謝る事は無いよ。情報も少ないし進まないのは当然だろう」

フェイト「そうだけど…なんとかしてあげたいし…


はやて「お!お二人さんおそろいで。ちょうどよかった。今から連絡取ろうと思っとったんや」
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[saga saga]:2011/03/24(木) 00:48:28.12 ID:9b8WHrhlo
フェイト「え?はやて…何か用かな?」

はやて「んー、隊長達は午後に聖王教会に私と一緒に行ってほしいんや。それより邪魔しちゃったか?ごめんなー」

フェイト「もう!からかわないで…」

「隊長たち全員ってことは…重要な話ですか」

はやて「そうや…詳しい事は午後…っても私も教会行く以外に仕事なくなっとるし、邪魔じゃなければ今から一緒に行くか?少し早いけどなのはちゃんも誘ってお昼も食べて…」

「俺は…いいですよ。フェイトは?」

フェイト「うん。私もいいよ。勿論」

はやて「そっか。じゃあなのはちゃん誘って出発や」


―――――――――――聖王教会

カリム「ようこそ。久しぶりね、皆。あなたは初めまして、ドライさん」

クロノ「こっぴどくやられたみたいだなドライ」

「いえ、ドライでいいですよカリムさん。あとこっぴどくはやられてねぇよ」

フェイト「まあまあ…久しぶりお兄ちゃん」

なのは「久しぶりだねクロノくん」

はやて「まあドライは初めてだろうけど、紹介は自分達で済ませてな。本題に入るけど…」

カリム「ええ。本題ね。皆知ってると思うけど、私のスキルは予知能力でしょ?その予言に今年に入ってこんな事が書かれたわ」

「????」

フェイト「あ、ドライ。カリムは予知したことを詩文形式で書き出せるってレアスキルがあるの。的中率は占い程度らしいけど、J・S事件を予知したのも彼女なの」

「お、そうなのか。じゃあこの予言で慌てて機動六課を再び立ち上げたってわけなのか」

カリム「ええ、そうなるわ。そしてあなたの報告にあった聖槍十三騎士団黒円卓という名前…」

なのは「なにかわかったんですか?」
カリム「ええ、教会に少しだけ記録が残って居たわ。旧暦の終わり、魔法エネルギーに変わるときに起こった世界を二分して行われた大戦。その記録に残っていました。質量兵器、魔法への移行をよしとしなかった国は多々あったけど、その中でも特に異彩を放った国の一機関。そこまで詳しい事はわからないけど、80年前から存在していて、未だに残っていたみたいね」

フェイト「80年前の組織…?どんな組織だったとかはわからないんですか?」

カリム「ええ…名前から想像すればあるロストロギアを持っている可能性が高いわ」

「ロストロギア…それはどんな?」

カリム「聖槍…ベルカの神話、聖書に書かれている、救世主を殺した槍よ」

「そんなロストロギアが…ただの魔力結晶体よりも厄介そうだな」

カリム「ええ。はっきり言うとロストロギアの中でも最高レベルの力があると思うわ。その分誰でも使えるってわけでは無いけれど…」

なのは「そう…でもドライが交戦したヴィルヘルムって人はデバイスも何もなく化け物じみていたみたいだけど…」

カリム「ええ、あの大戦、終盤は魔法側がほぼ勝利していたけど、局地的に大被害をこうむる事があったらしいの。数例の目撃証言から、その被害は1人でもたらされていると言われてるわ。間違いなく黒円卓とかいうのでしょうね。さらに、そのヴィルヘルム・エーレンブルグて名前の人物、80年前にも存在しているわ。写真がこれなんだけど、ドライの証言と特徴が一致しているの…」

「ああ…こいつだよ。完全に。どういうことだよ…」

はやて「それは…老化せずに生きとったという事?」

なのは「それは…完全に化け物ね。こんなのにいい思いでは無いし…」

フェイト「うん…目的なんかは…?」

カリム「わからないわね。予言を信じるなら虐殺、戦争を起こすのだろうけど、なぜかはわからないわ。いまさら魔法を生活から切り離すなんてむりだもの」

「目的がわからなくても、喧嘩を売ってくるんだ。殺す気でいくぞ俺は。手加減したら殺されるから、皆戦闘になったら気をつけて」

はやて「ん、今は後手にまわざるを得ない状況やけど、皆頑張っていこうや!」
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[saga saga]:2011/03/24(木) 17:56:25.72 ID:9b8WHrhlo
暗い空間だった。コロッセオのような広大な空間…その中心に円卓があった。濡れ光るような漆黒の大円卓。席は十三。十三とは不吉な数字、場の霊的環境を整えるために適した数であるとか。
ただ、円卓には空きがある。内の八つしか埋まっていない。
すなわち、二、三、四、五、六、八、十、十一…主を得ているのはその八つのみ。ほかの五つは沈黙している。特に十三の席は気配が死んでいるといっていい。

クリストフ「接触しましたか、ベイ、マレウス。で、ツァラトゥストラはどうでした?」

ベイ「ああ、人間としてはかなりやるな。だが正統派すぎる。拳法極めてようが俺達には勝てないだろう」

マレウス「そうねー。でもまだ魔導デバイスを使ってなかったから本当の力は未知数ね」

クリストフ「ほう…では、戦いにもなっていない、殺してもスワスチカは開かないような状況で彼を殺そうとしたんですか?ベイ中尉」

ベイ「敵があれ1人ってわけでもないし別にいいだろ。あれで死ぬんならそれまでだったんだ。誰かさんに邪魔されなきゃあな!」

レオン「私は聖餐杯猊下のご命令に従っているだけだ。不敬はどちらだ?」

ベイ「あぁ?てめぇ、誰に向かって言ってやがる…」

マレウス「はいはーい喧嘩しないで話が進まないでしょー!」

クリストフ「ええ、ありがとうございますマレウス。質問ですがレオン、彼らは私達との戦闘、闘いになると思いますか?」

レオン「…稀に魔導師の全力でエイヴィヒカイトの加護を超えるものを撃ってくる人も居ますが、あくまで攻撃が通るのはSランクの魔導師であろうと全力の攻撃のみ…難しいと思います」

クリストフ「ええ、そうですね。ですが…副首領閣下が用意したこの戦場…そう簡単にいくとお思いですか?皆さん」

ベイ「ありえねぇな。メリクリウスは正真正銘の化け物だ」

マレウス「つまりクリストフは彼もエイヴィヒカイトを扱えると?」
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[saga saga]:2011/03/24(木) 17:57:10.58 ID:9b8WHrhlo
クリストフ「さあ…でも気になったので調べてもらっていたんですよ」
そう言い、クリストフは十の席に視線を移した。そこにいるのは病的に痩せた、異常なまでに手足の長い蜘蛛のような男である。この場にいる他の者らは、皆容姿に優れた美男美女ばかりなのに。異形の男は立ち上がり言う

シュピーネ「同志諸君。久しぶりの再開早々恐縮ですが、聖餐杯猊下のご意向を尊重する為にしばらく私の指示に従っていただきたい。ついてはレオンハルト、あなたに少々、協力してほしいことがありましてね」

レオン「…私に?」

シュピーネ「ええ、あなたにしか出来ません。ベイもマレウスもバビロンも残念ながら役者不足。カインもゾーネンキントも論外です。あなただからお願いする。返答は?」

レオン「…いいだろう。私に出来る事なら協力する」

クリストフ「結構。では、そのように」

ベイ「待て、クリストフの意向を尊重するのはいい。だがお前は何を調べたんだ?そして何をしようとしている?」

シュピーネ「ええ…あなたが接触したという彼、その出自についてです…私に任せていただければあなたも満足できる戦いが出来ると思いますよ…」

ベイ「そうかよ。あぁそりゃあ楽しみだ。ならお前の指揮下に入るのには何も問題は無い。好きにやれ」

シュピーネ「ありがとうございます。まずは…」
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[saga saga]:2011/03/24(木) 18:21:11.04 ID:9b8WHrhlo
―――――――――――

??「なあ―――、こっちにおいで」

異端ながらに平和な日常があった。覚えている、幸せな記憶。

??「これは貰っていくよ、悪いなガキ」

恐怖と憎悪の記憶、魂にまで染み付いている。復讐の始まり。

??「あの時のガキか。ちょうどいいな」

敗北の記憶、鬼に喰われた記憶。10年と1000年の違いを見た。これで終わり。

??「うん。あなたを助けたいんだ」

そう言って笑った人に、恋をした。

ああ、思えばただそれだけの人生。体が変わろうと記憶が残り、未だに禁忌を内包している。


(嫌なことを思い出させる夢だ…)

目覚めは最悪。元のあいつは嫌いでは無いがあまりに違う。

記憶転写型特殊クローン、プロジェクトF・a・t・e

一体目は目的を果たせず処分。

二体目は個人で動ける兵器に目的を変え複数の記憶を持たせるも自壊。

三体目では受け答え、記憶の引継ぎは確認されたが自我は確認されず。

ああ、研究員達は焦ったんだろう。魔道と魔術の融合は魔術の知識が無いために断念。次に生物兵器、魔導兵器とはまったく違う、暗殺の生物兵器を作ろうとして出来たのは記憶を語るだけのクローン。いろいろに調整されている体をもってしても動かない。マッドサイエンティストたちの暴走。

出来上がったのは異形の兵器が蠢く毒壷。屍兵がいた、キメラがいた、亡霊がいた。

そんな毒壷の中で、再び彼女に会った。

彼女のために戦おう。今度は彼女の元から居なくならないように…

それがこの俺。三だ。ドライだ。あの毒壷で敵を殺し尽くしたように…今度も殲滅してやろう
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[saga saga]:2011/03/25(金) 00:19:47.07 ID:Z60q7U37o
今日、ミッドチルダにテロリストが潜伏していると発表された。出来るだけ夜出歩かないように、だそうだ。
そして昼間は、街の捜査…奴らが潜伏していそうなところの捜査に出る。勿論、隊長か副隊長が1人は居なければならないから部隊数は少なく期待は薄いが…

ヴィヴィオ「おかあさんー。そろそろいこ…あ、おはようございます」

なのは「ああ、おはよう。酷い顔ね」

と、廊下を歩いていると話しかけられた。ヴィヴィオはなのはさんもフェイトも寮に入ったので一緒に来たらしい。

「ちょっと嫌な夢を見たもので。おはようヴィヴィオ。久しぶりだ。元気だったか」

ヴィヴィオ「うん。昨日新しい先輩が出来たし、今日も学校が楽しみだよ」

「うん。それはよかった…先輩?」

ヴィヴィオ「うん。高等部だから先輩。とってもいい人達だよ」

なのは「はいはい、朝ごはんに行かないと遅れちゃうよー」

はーい、なんて返事をして去っていくヴィヴィオ。

「…学校か…警備の方は?」

なのは「…一応聖王教会の騎士とか居るし、一般職員も配備されているわ。主要設備には配備済み」

「仕事の早いことで」

なのは「全部はやてちゃんが手配してくれたんだよ。じゃあ私は行くね」

「ああ、はいはい」
彼女を見送る。フェイトとゆっくり話す機会がほしいが、そうも言ってられないらしいな…
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[saga saga]:2011/03/25(金) 00:31:16.32 ID:Z60q7U37o
今日中にシュピーネを倒したかったな…
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[saga saga]:2011/03/25(金) 15:45:59.25 ID:Z60q7U37o
さて、昼だ。数名の部下を引き連れて町を捜索する。だが何をもって奴らのアジトとするのかすらわからない。パトロールみたいな気分だ。因みに夜は夜でパトロールがある。

学校の近く。子供達が集まっている近くを歩いていると…感じる。嫌な気配だ。ああ、堂々としたものだ。長い黒髪とつり目…すぐに発見できた。しかし…あいつは背を向けて歩き出した。付いて来いということなのか…

部下を待たせて追いつくと、やはりそこで待ち構えていた。レオンと言われていた奴だ。

レオン「少し話があるわ。今は戦闘の意思は無い。いいかしら?」

「…こっちからの質問は?」

レオン「答えられる範囲なら。でもこっちが先。敵に塩を送ろうとしているんだから聞いておいたほうがいいわよ」

「…話の内容は?」

レオン「ええ…私達の力の秘密…それとこのゲームのルール。あなた達にとって得にしかならない情報よ」

「なぜそれを教えるんだ?何のために…」

レオン「じゃあまずその疑問から。まずこの街には私達が仕掛けたスワスチカという方陣があるわ。私達の目的はその八つのスワスチカを開く事。開くにはスワスチカでの大量の魂の散華、もしくは多量の魔力の解放が必要となるの。わかる?」

「大量の魂?虐殺か俺達魔導師との戦闘で開こうってことか?」

レオン「そうね。私達が死んでも開くけど、それはこの話が関係しているわ。私達の力はね…エイヴィヒカイト、ロストロギアを兵器として武装化し、超常の力を行使する理論体系。駆式には人間の魂を必要とし、私達は何万、何十万の人を殺しその魂を内包しているわ」
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[saga saga]:2011/03/25(金) 15:46:58.75 ID:Z60q7U37o
「…は?」

レオン「つまりね…あなた達とは魂の密度が違う。あなたがベイにしていた事は針で城壁を攻撃していただけに過ぎないわ。そして私達を殺せば大量の魂が散華する。私達もできれば虐殺よりも戦いでスワスチカを開きたいのよ。だからスワスチカで戦う、それ以外の場所では戦わない。いいかしら?質問は?」

「まて…お前らは…どれだけ殺して…スワスチカとか言うのを開いて何を…」

レオン「さあ?私は見た目どおりの年齢だし、殺した人数も団員の中で一番少ないわ。そして、スワスチカを開く目的は、私達の願いを叶える為。ハイドリヒ卿がお戻りになられたら私達に褒美をくださるのよ…人々の魂と引き換えに」

「…ふざけやがって…話は終わりか?今すぐにお前を捕らえるぞ」

レオン「それが無理だって言ってるの。私達に通常攻撃は効かない。程度の差こそあれ、人を殺せるような攻撃では殺せない。数万人規模で殺害可能な兵器なら効くかも知れないけど?…ベイやマレウスは大戦の際の空爆でも死ななかったわ。…つまりあなたがデバイスを持っているとしても、それだけではどうしようもないの。」

「…ああ…なら、エイヴィヒカイトとやらの情報をもっとくれ」
そうだ。こいつには今攻撃を仕掛けても無意味だろう…せめて情報を聞けるだけ聞き出そう。

レオン「そう。懸命な判断ね。ロストロギアを駆る式であるエイヴィヒカイトにはレベルが4段階あるわ。私、ベイ、マレウスなどはレベル3、これが平均的なレベルね。レベル1が活動位階、2が形成位階、3が創造位階よ。そして…この攻撃には物理、魔力の両方の属性が付属する。そしてロストロギアの加護がある限り不老不死…。ざっとこんなもんかな。そしてあなたが一番ほしい情報は…現実的な私達の殺し方…そうでしょう?」

「ああ…そうだ」

レオン「残念だけどデバイスだけじゃ無理ね。あなたもロストロギアを手に入れてエイヴィヒカイトを扱えるようになりなさい。おそらく、あなたはエイヴィヒカイトを扱える。そのための物は組み込まれている。それが私達の見解。話せる情報はここまで。じゃあね」

「おい…!それはどういう…!待て!」

レオン「待たない。自分で考えなさい。そこまで馴れ合うつもりは無いわ」

ひらひらと手を振りながら去っていく櫻井螢。わかったことは、スワスチカと呼ばれるところでしか奴らは戦わず、エイヴィヒカイトとやらを習得しなければ勝ち目は無いということだ。今はこの情報を持ち帰ることだ…
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[saga saga]:2011/03/25(金) 21:12:50.26 ID:Z60q7U37o
情報は総て話した。だが、ロストロギアなんてそう持っているはずは無い。故に奴らに対抗できうるエイヴィヒカイトも使えない。俺には扱えるものがある?それは俺も知らないものがあると…そういうことなのか…今まで記憶を何度も探ってみてもそんな物は見当たらない。どれだ…どこに…

フェイト「…!ドライ!起きて!ねぇ!」

「…ん?あれ?フェイト?」
記憶への没入に集中しすぎていたようだ。いつの間にか空も暗くなっている。

「ああ、もうこんな時間か…ありがとうフェイト」

フェイト「ううん、気にしないで。一緒にご飯…食べにいこ?」

手を引っ張られる。うん、顔が赤くなってるのが自覚できる。でも今はこの平和な時を楽しもう。



夜、パトロールが始まる。夜の闇にまぎれる魔物…それと遭遇したら生き残ることが出来るのか…しかし、スワスチカにて虐殺を行うかも知れないという懸念は付きまとい、力不足でも立場上、やるしかないのだ。

フェイト「ドライ、不安なの?」

「…ああ、不安だよ。対抗策は無い…でも…生きて帰ってきてよ」

フェイト「…それはこっちの台詞だよ!いつも心配させるのはドライなんだから!町に出る人員は皆強いから。背中を任せていいんだよ」
ああ、強いな。皆強い。でも会えばわかるさ。あの不条理さを…

「でも…負ける気はないさ」

なのは「うん。その意気だよ。じゃあ、フェイトちゃんはスバルと、ドライはティアナとコンビを組んでね」

「ああ、わかった」

フェイト「わかった。皆、気をつけてね」
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[saga saga]:2011/03/25(金) 23:57:15.78 ID:Z60q7U37o
ティアナ「なんか…喋ってくれないかな?」

「ん…?」

しばらく歩いてた時にそう声をかけられた。今の街はあまりにも静かだ。以前地上本部が攻撃されたからか…テロリスト潜伏の報道がされて夜の街は死んだように眠っている。

「ああ、怖かったか?執務官なのに怖がりなんだな」

ティアナ「そういう意味じゃなくて…二人きりなのにずっと黙りっぱなしでさ、やり辛いわ。フェイトさん以外だとそうなのかしら?」

「元からあまり喋るほうじゃないだけさ。特別なのは…そうなんだけどね」

ティアナ「ふーん…羨ましいわね。それだけ思ってくれるって。でも…」

「…惚れたか?」

ティアナ「…ばっかじゃないの」

「ははは、冗談だ」

ティアナ「当然よ。本気で言ったんならあなたの性格を疑うわ」

「それは厳しいな…」

ティアナ「…」
少し話しただけで再び沈黙が降りる。ああ、昔っからあまり知らない人と喋るのは苦手だったっけ、そういえばここはあのヴィルヘルムと交戦した公園の近くだ、とかそんな事を考えながら歩く。

ティアナ「あなたは…ドライさんは…なぜ戦うんですか?」

「ん?いきなり何だ?それと、呼び捨てでいいぞ。ほかの奴の前ならいざ知らず、二人しか居ないし礼を強要するような性格でも無いからな」

ティアナ「背中を預ける人の戦う理由くらいは知りたいと思って。駄目ですか?」

「ああ、いいさ。たいした理由じゃない。俺を助けてくれた奴に憧れて、そいつは思いのほか脆かった。だから俺が守ってやろうって思ったんだ。それだけ」

ティアナ「…1人だけに執着ですか?中々あなたは残酷ですね」

「はっはっは。違いないな。でも安心しろ。フェイトが笑っていられるには俺だけじゃ駄目だからさ。ティアナもその他大勢、全力で守ってやるよ」

ティアナ「…はぁ…ようはお人好しなんですね…でも…

そのとき、女の人の叫び声が上がった。公園の方からだ。ティアナとアイコンタクトをし、急いで公園に向かう。
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[saga saga]:2011/03/26(土) 00:03:47.93 ID:95aFVd8Do
異常に手足の長い男だった。そして醜い男だった。奴ら、おそらく黒円卓の物と思われる腕章をし、軍服を着ている。いや、それならいい。奴らとの遭遇は想定内だ。

ただ、異常なのは、奴は蜘蛛の巣のように張った糸の上にいて、そこには、蜘蛛の巣に捉えられた蝶のように、裸に剥かれた女が数人捕らえられて…

「…なにやってんだてめぇぇぇぇぇぇぇ!」

シュピーネ「おや、お早い到着ですねツァラトゥストラ」
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[saga saga]:2011/03/26(土) 00:07:25.66 ID:95aFVd8Do
見てる人なんて居ないかも抱けど、明日から実家に帰らなきゃいけないのでしばらく更新できないと思う…ゴメンネ
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2011/03/26(土) 00:50:04.89 ID:6Lkp68qJ0
いえいえ見てますよー。どちらの作品も大好きな私には、楽しくてたまらないです!

楽しみに待ってます

33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[saga saga]:2011/03/26(土) 00:51:16.61 ID:95aFVd8Do
おお…見ている人が居たか!よし、実家でも出来るだけ書き溜めておくことにしよう!
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県)[sage]:2011/03/26(土) 01:02:25.87 ID:kLCA6xWko
見てるぜー。Force知らんけど
今度禁書とDies iraeクロスしようとしてるから参考にさせてもらうわ
練炭とか司狼とか主人公サイドは出てくるん?
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[saga saga]:2011/03/26(土) 01:07:08.14 ID:95aFVd8Do
あー、俺もForceは出さない。司狼は扱いがね…人数は十分いるし好きだけど出さないつもり、。チートだし
主人公サイドの人をいじりまくったってカンジかな。主人公はいじりすぎて完全に暴走してるけどwww

禁書はもろに聖槍とかそういう系だからつなげやすいかも名
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府)[sage]:2011/03/26(土) 01:50:28.07 ID:jliFogSWo
見てるぜ、黒円卓分からないけど
37 :1[saga saga]:2011/04/01(金) 16:34:14.76 ID:1hi61s2oo
一瞬で激昂した。それがいけなかった。その一瞬で腕を絡め取られ、ティアナと一緒に巣に絡め取られてしまった。

ティアナ「う…いつの間に…!」

「くそ…が…がふ…」

糸が首に食い込む…いびり殺すつもりらしい。数瞬先には死が待っている

ティアナ「あ…嫌…ぐ…」

「…く…」
だが一向に死ぬ気配はない。徹底的にいびるつもりなのか…

シュピーネ「おっと、少しきつくしすぎましたかね…おっと、無駄ですよ。今のあなたにそれは切れない」
ワイヤーはまるで意思を持っているかのようにその圧力を強めていく。という事は…

シュピーネ「そうです。それが私の聖遺物、ロストロギア。ワルシャワ・ゲットーで、劣等どもを数限りなく縊り殺した代物です。歴史こそ浅いですが吸い取った魂は100や200ではききませんよ。これに捕らえられれば聖餐杯猊下といえども脱出できぬ逸品であると自負しています」

ティアナ「聖餐杯…って…ん!」

シュピーネ「おや、御存知ないですか?おかしいですねぇ…」

「その名前…以前櫻井も言っていたな…」

シュピーネ「然り。我ら黒円卓を率いる首領代行、クリストフ・ローエングリーン……。恐ろしく、滑稽で、道化者ではありますが、油断のならぬ御方です。ベイやマレウスからは露骨に警戒されているものの、私はそれなりに信頼していますよ。少なくともあの五人に比べれば、人間らしい部分をお持ちのようですからね」

「…?」
五人…誰だ?こんな状況なのに、いや、それだからこそか、そっちに意識が向いた。その五人のことを口にした時にこいつは畏怖や憎悪、忌避、劣等感、そういった感情を出していた。仲間を恐れているのか…?
38 :1[saga saga]:2011/04/01(金) 16:36:46.93 ID:1hi61s2oo
シュピーネ「ふむ…いいでしょう」
そう呟きあいつは俺の近くまで寄ってくる

シュピーネ「元々今夜はあなたを殺しに来たのではありません。あなたに聞いていただきたいことがありまして…その気にさせる為なら隣の女をこっちの人達の中に加えてもよろしいのですけどね…」

ティアナ「…!ひ…」

「何をふざけた事を…」

シュピーネ「レオンハルトから聞いたのではないですか?我々は、あなたに強くなっていただく必要があると。正直、血の気の多い連中では教師に向かないので、彼女とこの私が、聖餐杯猊下からその役を仰せつかったというわけです。レオンハルトが講義を、そして私が実技の方を」
同時に首を締めていた糸の拘束が緩まった。

「くっ――――はぁ…」

ティアナ「はっ…―――――ぇ」

シュピーネ「あちらのアレは、あなたにやる気を出していただくように、遊びで用意しておいたものですよ。まぁ趣味が入っているのは否定しませんが」

「てめぇ…さっきからふざけるなよ…」

シュピーネ「人を殺しているのが許せないのですか?あなたも殺人の経験はおありでしょう?そちらの、あなたの相棒、それがああなっていないだけありがたいと思ってください」

ティアナ「…下衆め…く…ぁっ!」

シュピーネ「何か…?でも、そんな事はどうでもいい。せっかく得た千載一遇のこの機会、私は私のために有効活用したいのです。目的を果たす為にも…知りたいですか?」

目的…こいつはさっきから、そして今からも情報を垂れ流す気らしい。無効で吊るされている人はもう手遅れ…ティアナの方を見、アイコンタクトを交わす。大丈夫らしい

シュピーネ「ふふ…私はいささかほかの連中とは趣が異なる変り種でして…」
と、にやつきながらシュピーネは語りだす

シュピーネ「先ほど言ったように、今現在我々を率いているのはクリストフ……聖餐杯猊下です。しかし、彼は結局のところ代行に過ぎない」

ティアナ「代行…?」

シュピーネ「そう、つまり仮の盟主です。一時的な…ね。そして彼にあなたに第一に接触する権利を貰いました。実際骨を折りましたよ、ここまで漕ぎ付けるのはね」

「何が言いたい!」

シュピーネ「いえ…私は黒円卓を掌握したいのですよ。いや、別に同胞を虐げたいわけではないのです。ただ、約束させたいのですよ。私がやることに、以後一切干渉するなとね。この80年、他の者らにとっては屈辱と退屈の時間だったかも知れませんが…私にとっては至福の時だったと言っていい。誰にも縛られずに、命令されずに、自由に生を謳歌できた。殺したい時に殺し、喰らいたい時に喰らい、犯したいときに犯し、奪いたいときに奪う!これこそが人間!今さら過去の遺恨や妄執に付き合うなど、くだらなすぎてご免被る!そのためにあの五人には永劫眠ってほしいのですよ。副首領閣下の再来は決定的でしょうけどね…。ツァラトゥストラ…私と手を組みましょう。あなたの力を借りれば、共に永劫の自由を得る事も夢ではない」

「…何?」

ティアナ「…え?」
こいつは…何を言っている?

シュピーネ「言ったでしょう?私は最早誰の下にもつきたくない。…それが怪物の下ならなおさらだ!」
39 :1[saga saga]:2011/04/01(金) 16:38:57.82 ID:1hi61s2oo
ティアナ「怪物って…」

シュピーネ「黒円卓の首領、副首領そして、その下につき従う三人の大隊長―――
ザミエル。マキナ。シュライバー。黄金の獣と、ヘルメス・トリスメギストス。極限の戦争の化け物たち―――そう。私は彼らに二度と会いたくない」

いつからか、シュピーネの顔から薄笑いが消えて、その身も小刻みに震えだしている。

シュピーネ「わかりますか?私以外の者らの目的は、あの五人をこちらに呼び戻す事です。そうする事で彼らはここの望みを達成できる。かつて副首領閣下は言った。怒りの日まで、各々魂を蓄えよ、とき至ればそれに見合った祝福を与えよう…と。なぜ我々が魂を簒奪するのか…答えは単純な足し算ですよ。千人の命を持てば千倍の生命力を獲得できる。このシャンバラで起こるのは、そのストックを増やすための殺人競争遊戯です。多量の魂が散華した場は戦場跡として方陣と化し、それが八つ揃えばあの五人が戻ってくる。そして奪った魂に相当する、新たな力が授けられる。だが私は二度とあの五人に会いたくない!彼らはこの世に戻ってきてはいけない!」

怯えながらシュピーネは俺の顔を両手で挟みこんですがるように捲くし立てた。ティアナ、そんな目で見んな。

シュピーネ「彼らが完全な形で現界するには八つのスワスチカが必要です。しかし不完全なままでよければ、おそらく二つ三つでも構わないはず。恐ろしい…今ならまだ、この儀式を妨害して中止に導く事も出来るでしょう。ですから、さあ、早く貴方の真の力を見せてください。これ以上スワスチカを増やしてはいけない。そして共に黒円卓を制圧しましょう」

「……」

ティアナ「……」

一気にこんな情報を流し込まれて混乱したが、有益な情報であるのは確かだろう。そして、この目の前の恐怖に震えてる男は、弱者をいたぶるしか能のない下腰抜けだ。

「つまり、お前は雑魚だと…」

ティアナ「ふふ…あははははは!」

「要領悪いな。手を組むつもりで、あんなものを見せたのか?死ねよ不細工野郎。鏡見て出直せ」

シュピーネ「…なっ」

「顔が近いんだよ気持ちわリィ!」

首の拘束が緩んでいるのをいいことに、奴の顔面に頭突きを叩き込む。今度は魔力で強化し、硬気功も重ねがけしている。ヴィルヘルムに食らわせたのよりも強力のはず。その効果は―――――




シュピーネ「ぎゃぁっ!」

変な声をあげながらぶっ飛んでいく。ヴィルヘルムにはまるで効かない肉弾攻撃だが、こいつはやはり雑魚らしい。

ティアナ「やっぱり弱いのね」

「ああ、こんな弱いの見たことねぇぜ」
頭から血が出ていたが、構わない。挑発する。激昂した小物ほどわかりやすいことはない。

シュピーネ「この小僧がアアアアアアアアア!」
結果として俺を縛っていた街灯ごと蹴飛ばしてくれた。

「…ッ」

ティアナをかばいながら巣から脱出する。いや、街灯を倒したり、けり一つで俺も結構ヤバイけど…頭が足りてないな。

「この程度じゃあ…」

ティアナ「劣等ね。あなた」

シュピーネ「き、貴様らァァァ…!」




さぁ、随分長い前置きだったが、情報は引き出した。これから戦闘開始。初陣の相手ならこれくらいでいいだろう。

「交渉決裂だ。お前なんかがはむかうなんて笑わせるなよ。速攻で死ぬだろ」

シュピーネ「キ、キヒヒヒヒ…」

蜘蛛の巣に絡め取られた女、その死体がハムのように輪切りにされた。血と贓物が飛び散る。


シュピーネ「貴方達、本当に勝てると思っているのですか?ロストロギアもなしに!エイヴィヒカイトも扱えずに!貴方達は、すぐにああしてやりますよ!アハハハハハハハハハ」
40 :1[saga saga]:2011/04/01(金) 16:41:40.83 ID:1hi61s2oo
「…つまり…死にたいんだな」
ティアナは下がる。ああ、援護は任せた。俺は前へ――――


「最初から全力で行くぞ。バリアジャケットよりも攻撃優先。フォルムシフト」

デバイス「OK,set up」

デバイスの発動。通常はバリアジャケットと魔力ブーストで戦ウからフォルムシフトは隠し玉として取っておきたかったがそうも言ってられぬ。それは右腕のみに攻撃力を集中するための形態。身の丈ほどもある巨大な手甲。


シュピーネ「それがどうしたのです!ハァ!」
奴の糸が伸びる。通常の軌跡は描かないが、避けるのに造作はない。それよりも厄介なのは防御主体の型を取っている事…迂闊に近づけないが―――それはこちらが1人だった場合だ。


砲撃。ティアナの砲撃がシュピーネを襲う。が…

シュピーネ「アハハハハハハハハ!無駄ですよ!」

魔力砲が糸に切られるという不条理。しかし、その隙があれば間合いに入ることは可能。


シュピーネ「……!」

「…オオオオオオオオオオオオオオ!」


巨大手甲から繰り出される拳。だが…


「…な…!」

糸、シュピーネの操る糸によって止められていた…

シュピーネ「ハハハハハ!だから!無駄だといったのだ!」
そういいながら蹴り飛ばされる…あの糸、奴のロストロギアの突破が最優先事項、それはどうすればいいか…何かあるはずだ。しかしそう都合よく見つかってるなら今こんなに苦労は…


シュピーネ「小雨がチラチラと…煩わしい!」



ティアナ「…!!」

効かない魔力弾を撃っていたのか…ティアナが補足されている。いくらバリアジャケットとはいえ、奴の聖遺物、ロストロギアの一撃を喰らって無事ではすまないだろう…そう思っていたら、体が動いた。


疾走。足がちぎれる程の疾走をし、ティアナを庇おうとしたが、共に絡め取られた。

「っ…!なんで接近してんだよ!」


ティアナ「そっちこそ、何庇ってるのよ!これで二人ともお終いじゃない!」

シュピーネ「あら、終わりは意外と呆気なかったですねツァラトゥストラ」
体に奴の糸が食い込む。数瞬先にはあの死体と同じくバラバラになる…


糸を操る奴の指が動く。それがとてもゆっくりに見えた。



ここで死ぬのか?ティアナも一緒に?あんな奴に殺される?本当に何も手はないのか?
――――――――
41 :1[saga saga]:2011/04/01(金) 16:42:34.61 ID:1hi61s2oo


??「手はあるだろう?ツァラトゥストラ」



ああ、手があった




??「それで十分だろう。君は奪ったはずだ。あの毒壺で最強の者よ。使い方はおぼえているかね」






ああ、忘れられない





??「では、それを形にせよ。自分にあるものを思い出せ」





ああ、残滓がある。記憶がある。奪ったものだが、確かに存在している。
デバイス、俺の魔法をサポートする巫女。魔法があるならば、形にすることも出来るだろう。





??「ああ、正解だ。とてもよい。それが君の…





この、かつて葛城の聖遺物の鬼の腕こそが…












??「君の聖遺物、ロストロギア。さあ、今宵のグランギニョルをはじめよう!」




―――――――――――――
42 :1[saga saga]:2011/04/01(金) 16:45:43.13 ID:1hi61s2oo
―――――――――――――


ドライ隊長の攻撃が効かず反撃を受けた時点で、私達に対抗手段はなくなったと言っていい。あとは大量の魔力弾を打ち込み牽制しながら隊長を回収、逃走するしかない。空に逃げれば何とかなるかと思っていた。でも、蛇のような変則的な動き、間合いの違いから追い込まれた。そのとき、抱きとめられたのだ。庇われたとわかったのは一緒に糸に絡め取られたから。

ドライ「何接近してきてんだよ!」

「そっちこそ、何庇ってるのよ!これで二人ともお終いじゃない!」

こんなところでお終いか…糸がバリアジャケットも皮膚にまで食い込んでくる。ああ、これで死ぬんだなって思った…





ドライ「―――――――――」




「…え?」


ドライが何かを呟いた瞬間、自分を抱いている腕、抱いてる人の居る後ろから膨大な殺気が発生した―――


――――――――
43 :1[saga saga]:2011/04/01(金) 16:46:53.95 ID:1hi61s2oo
「――――――怨――――――」



一言。それだけがこの聖遺物の特性。それは呪。何を怨んでいたのかも忘れてしまった、1000年の呪の塊。それを我が魔法にて形にしよう。


デバイス「形成―――――」



「鬼太鼓・祭囃子―――――」



形は俺のフォルムシフトと変わらないが、内包している魔力、その性質は先ほどとはまるでちがう。その魔力に触れただけでシュピーネの拘束していた糸が焼き切れる―――――

シュピーネ「が…あぎ…そんな…!」
全身から血を噴出しのた打ち回るシュピーネ。本家本元のエイヴィヒカイトかわからない…いや、魔法で補助している以上違うのか。しかし、シュピーネの聖遺物を破壊できた。これは…

「これは貴様らの内包している命、存在、全てを等しく呪い殺す。そういう特性、それが俺の聖遺物だ。お前のとは格が違う」


シュピーネ「この…小僧ガァッ!」
シュピーネの糸が伸びる。法則を無視し、標的を細切れにするおそらくは奴の最大規模の攻撃。しかし、腕の一振りでそれらは全て砕け散る。

シュピーネ「あ…が…」

「…諦めろ。お前はここで死ぬんだよ。そうだ。色々情報をありがとうよ」



すでに奴は聖遺物を破壊され、そのダメージで満身創痍。それに腕を振り下ろす

シュピーネ「まっ…」


鈍い音を立てて潰されるシュピーネ。そして奴の体は急速に風化していって消えていった。
44 :1[saga saga]:2011/04/01(金) 18:07:29.73 ID:1hi61s2oo
風化する…それが聖遺物を操る超人の末路か…

ティアナ「…終わったの?というかそれは…」

「これか…あいつらの言うとおり、持っていたみたいだな、俺。でも、あいつらに対抗する術は得た。これをプログラム化、全員のデバイスに組み込む事、可能か?」


デバイス『ええ、本人の技量にも寄りますが、魔力攻撃にこの呪を乗せて撃てば先ほどのマスターと同じことが出来るでしょう』

「じゃあ、プログラム化を頼む」

ティアナ「ドライ隊長…先ほど連絡しましたから、皆、それと事後処理の人たちがそろそろ到着します」

「…は、呼び捨てでいいって言ったのにな。それよりも、お互いに酷い有様だな。大丈夫か?」

お互いに服もボロボロ、至る所から血が出てる。緊張が切れてから気付いたが、全身傷だらけだった。


ティアナ「…私は、ドライさんに庇って頂いたので…血こそ出ていますが傷は浅いです」

「俺も…まあ大丈夫だ。一応、手当てをしておこうか」

ティアナ「はい…」

隊員たちが公園に入ってくる。迅速な行動はありがたい。情報をまとめ早く休もう
45 :1[saga saga]:2011/04/01(金) 18:08:47.74 ID:1hi61s2oo
――――――――――

クリストフ「あぁ、シュピーネが逝きましたか。しかし二つ目のスワスチカは開いた。いやいや、しかし大儀でしたね」
聖痕から血を流しながら神父は嗤う。その顔は確かに、見るものに恐怖を与える狂気を孕んでいる。



クリストフ「ああ、そんなに怒らないでください。この痛み、―――さて、他の皆さんは大丈夫でしょうか?」


マレウス「痛い、痛い痛い痛い痛い!」

ベイ「ぐぉぉ…俺達は何も関与してねぇ…」

レオン「っく…!」

地下の黒円卓は血に濡れていた。そして苦しんでいた。一人でもあんなものを、不忠の輩を存在させた罪は連帯的に責任があるとでも言うかのように。




??「失望させるな。卿ら」





一瞬、Tの席に巨大な存在が出現した

マレウス「はい、

ベイ「了解」



「「「勝利を我が手に…」」」


――――――――――――
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山形県)[sage]:2011/04/01(金) 19:52:16.04 ID:FNIqMtHXo
ジークハイルヴィクトーリア!
47 :1[saga saga]:2011/04/01(金) 19:57:03.60 ID:1hi61s2oo
>>46
君はいいエインフェリアになりそうだね?
48 :1[saga saga]:2011/04/01(金) 20:56:06.93 ID:1hi61s2oo
――――――――――――

フェイト「…ドライ、ティアナ、血だらけだったけど大丈夫なの?」

「ああ、深い傷は負ってない」

ティアナ「私はドライ隊長に庇っていただいたので」

はやて「んでも、ようやってくれた。プログラム化までしてくれて…これで黒円卓に対抗する手段が出来たんや。あんたを隊長にしてよかった。これからも頼むでー!」

なのは「でも、報告を聞く限りじゃ…他のメンバーはレベルが違うんじゃない?」

「…ああ、櫻井螢、あれはレベル3、創造位階とか言っていた。ベイ、マレウスも…と。奴は形成…レベル2。創造が何かもまだわからない」

シグナム「しかし、我々が全員有効な攻撃手段を得ることが出来た。これは大きな前進だろう」

ヴィータ「でもスワスチカとやらの場所が判れば多少の対策も取れるんだけどな…これじゃあどうしても後手に回っちまう」

はやて「そこは…人海戦術でパトロール強化、とかあまり外を出歩かないように注意喚起するしかないなー。人死にが出た以上、人員の強化も必要やな。今日は夜も遅いし会議はこれまでにしとこうか。ドライ、お疲れのところごめんな」

「いえ、報告は義務ですから。ではこれで…」




フェイト「ドライ、お疲れ様」

「ん、ああ。少し疲れたな…やっぱり」

フェイト「そっか。じゃあ…もう寝ちゃうかな?」

「…ああ、もう流石に遅いからな。明日にはこの傷も治るだろうし、そしたら戦線復帰だ」

フェイト「ふふ…復帰も何も一日も離脱してないよ」

「ああ、まったくだ…」



部屋に帰る前に声をかけられた

ティアナ「ドライ隊長…」

フェイト「あれ?ティアナ、まだ寝てなかったの?」

「今日は大変だったろ。早く休め。俺ほど頑丈じゃないだろ?」

ティアナ「いえ…今日は庇ってくれてありがとうございます…それだけです」

「ああ、きにすんなよ」

フェイト「…それでそんなにボロボロに?」

「…いや、しょうがなかったんだよ…うん」

フェイト「…まあ、今度からは気をつけてよ?」
49 :1[saga saga]:2011/04/02(土) 17:03:24.58 ID:neN8ZdFlo
――――――――


闇の聖堂の中、1人の男が居る。長身の神父、その1人のみ。しかし、響く声は二人のものだ。対話は奇妙の様相となっていた。神父は無人の席の前に跪き頭を垂れている。勿論1人芝居などではない。目に見えず触れることも出来ないが、この聖堂には明らかにもう1人居た。それは、影。位相の異なる世界から、本体の一部を投影している。その向こう側……地獄のように渦巻く魂の混沌が、ごく一部の干渉だけで空間を波紋のように震わせて。

黄金の目と鬣を有する獣は、その気配のみをこちらに顕現させていた聖堂には尋常ならざる霊的圧力が覆う。常人ならば恐慌必至、悪くすれば脳障害を起こしかねない重圧。

クリストフ「つまり、引き続き私に指揮を任せて頂けると解釈してよろしいですね」

ラインハルト「言ったであろう、好きにしろ。卿の手並みが面白ければ、あるいは最後まで……ということもありうるだろうよ。それで…トァラトゥストラのほうは?卿は現状、どう見ている?」

クリストフ「…予想以上でしょうね。あの聖遺物は格が違う。本人の戦闘能力も高い。しかし真っ当。副首領閣下が用意したにしては、いささか落としどころが真っ当すぎるやもしれません」

ラインハルト「つまり、私には届かぬと?」

クリストフ「現状では…御身どころかこの聖餐杯にすら届きますまい。特に、役にもたたぬ者を連れている時点で甘すぎる。今思うことはこれに尽きます。正直、こんなものなのか―――と」

ラインハルト「そうか。…賭けをしようか。一度だけ、私が出よう」

クリストフ「――――――――――――――」
この怪物が自ら動く。それがどんな自体を招くのか、理解できない神父ではない。


クリストフ「…ご冗談を」

ラインハルト「そう思うか?」
楽しげに笑う獣の気配。彼は未だ幻影にすぎずこちらに干渉できるのは本来の数十分の一以下である。

だが、それでも現段階のあれでは対峙しただけで―――――――


ラインハルト「どうした聖餐杯。卿はそれほど、私に眠っていてほしいのか?」

クリストフ「……いえ。でしたらば、準備は私が整えましょう」


なんにせよ、結果は一波乱どころではないだろう。ことによると今夜で総てが終わるかもしれない。



クリストフ(さて、この場合…ほかに方法がありませんね。子供達との家族ごっこもどうやら終わりがきたようです)
50 :1[saga saga]:2011/04/02(土) 17:05:12.79 ID:neN8ZdFlo
―――――――――――――


夜。もう本格的に人は居ない。その街をなのはと二人で歩く。今日のパトロールはなのはとだが、昨日の殺人によっていよいよ街はしずかだ。

なのは「スワスチカとやらの場所の見当、つく?」

「いや…人の多く集まるであろう場所だとは思うが…ミッドには候補地が多すぎる」

なのは「そう…早く終わらせて皆安心させなきゃね」

「ああ、夜落ち着いて寝ることだってできないしな」
塔の近く…ここはデートスポットだし、まだ深夜にもなっていないから少し人も居る。


「やっぱり少し人は居るな。家にずっと引きこもれとも言えないからしょうがないけど…」

なのは「……カップルばっかり」

「そりゃあここはデートスポットだし?」

なのは「フェイトちゃんじゃなくて悪かったわね」

「…はぁ…。別にデートしに来てるわけじゃないだろ」

なのは「むしろあんたじゃなくてフェイトちゃんが良かった」

「そうかいそうかい。悪かったね」


なのはと話すといつもこんな調子になってしまう。険悪な空気ではないのだが、もう少し仲良くしてくれてもいいだろうに…

と話していると異変があった。


なのは「…人が!」


「人払い…」


さっきまでは結構な数の人が居たが、いつの間にか俺達二人以外誰もいなくなっている。全身の毛穴が開くようなこの感覚。首筋に刃物を当てられているような悪寒。

もうここは殺気の満ちた戦場へと変化している。

なのは「……レイジングハート。バリアジャケットを」


「…。出て来いよ」





ヴィルヘルム「少しはやれるようになったか、ガキ」






殺意が頭上から降ってくる。殺気まで俺達が立っていた場所を見えない何かが砕いていた。地面が穿たれ深い穴が開いている。

まるで、杭を打ち込んだように―――――

ヴィルヘルム「目を開け。肌で感じろ。古い目玉は抉って捨てろや。今ならてめぇにも見えるだろう」
嘲笑まじりの口調、その声には聞き覚えがある。お前が来たか。

なのは「あれが…」

「ヴィルヘルム・エーレンブルグ…」

あの時と同じ、全身から陽炎のような鬼気を立ち昇らせて笑う化物。俺を見据えるヴィルヘルムの相貌は、サングラス越しにも分かるほど赤く赤く、歓喜に、愉悦に燃えていた。
51 :1[saga saga]:2011/04/02(土) 18:32:00.93 ID:neN8ZdFlo
ヴィルヘルム「てめぇ、シュピーネを殺りやがったよなぁ。とりあえずは褒めてやる。これでちったぁマシな戦争になりそうじゃねぇか。しかしシュピーネも情けねぇよなぁ!お前みたいな小僧に殺されてよ!なぁ…俺よぉ、正味に欲求不満だぜ?お前責任とってくれるか?オイ?」

ヴィルヘルムの右手が上がる。そしてそこに禍々しい魔力が集中する。

ヴィルヘルム「試験だ。どの程度できるか見てやるよ」

飛来するヴィルヘルムの攻撃。常人にとっては、昨日までの俺たちでは不可視の攻撃。しかし、今の俺はエイヴィヒカイトが扱え、奴らと同じ地平に立っている。それはプログラムを入れられたなのは達も同じ―――――

飛来するのは杭。穿つ牙。これがヴィルヘルムの聖遺物!この程度では俺達は誰も殺せない。

ヴィルヘルム「――――ハッハァ」

杭の嵐の後から間を詰めてきたヴィルヘルム。右手の攻撃をかわすと同時に、踵が速東部に迫ってくる。

以前のこいつを凌駕する速さの攻撃。だが…今度はこっちも最初から殺す気だ。

ヴィルヘルム「ほぉ、やるねぇ。たいしたもんだ」

今の一撃で地面を砕き、大樹をへし折り、鉄柵も削り飛ばしている。そのヴィルヘルムの攻撃は常人や、魔導師、なのはのような接近戦を得意としない奴には防御できるようなものではないだろう。しかしバリアジャケットも強化され、エイヴィヒカイトで肉体も強化されている。まともに喰らえばそれでも死にそうな攻撃だが、俺の技量ならばそうそう喰らうこともない。

ヴィルヘルム「いいねぇ、そそるぜ、たまんねぇ。戦はこうでなくっちゃあつまらねぇ。てめぇも出せよ、見せてみろ。これまで待っててやったんだ、いい具合になってんだろ;お?素手でやり合っても俺はころせねえぞ」

「……いや、俺の攻撃は全て呪いを纏っているといっていい。殺せるぞ」
ヴィルヘルムに急接近。震脚から、その衝撃を倍増させて相手に叩き込む。


崩拳


ヴィルヘルム「ッくォ…!」


こちらもパワーじゃ負けるわけにはいかない。だが、―――――


螢「前にも自重しろと言ったはずだが、ベイ中尉」

こいつの乱入により、二対二。流石に怪物を近接戦闘で二人相手に出来ると自惚れてはいない。

ヴィルヘルム「よおレオン。てめえすっこんでな。俺は俺の獲物だ。わたさねえよ。鬼ごっこは終わっている。クリストフがてめぇに渡した指揮権なんてもう意味は無いんだぜ」

螢「分かっている。だがその猊下からの新しい命令を忘れたのか?お前に任せたら殺すだろう」
そうして櫻井はこちらに振り返る。


螢「こんばんは。一応聞いておくんだけど、今から私達についてくる気はあるかしら?聖餐杯猊下が会いたがっている。今夜の私達は、貴方を彼のところへ連れて行くのが仕事なの」
52 :1[saga saga]:2011/04/02(土) 18:37:12.94 ID:neN8ZdFlo
「…何?」
聖餐杯…現在の敵の首領…。

螢「抵抗しなければ危害は加えないと約束するわ」

ヴィルヘルム「アホらしい。もう止めろやレオン。そういう問題じゃねぇんだよ。こいつは俺達とやり合う気だ。言うことなんざきかねぇよ。だからよ、連れて行くならブチのめすしかねえだろうが」

「分かってんじゃねえか」

こいつらの言い合いに参加する気など毛頭ない。それにこいつらはなのはの存在を目に入れてない。おそらくは対抗手段がないと思っているんだろう。それは大間違いだぞ。今目にものを見せてやる。

「ごちゃごちゃうるせえよ。お前ら二人とも、ここで仕留めるぜ」


今度はこちらから。ヴィルヘルムに拳を叩き込む。腕でガードされたが、この目的はこいつを吹き飛ばすこと…――――

ヴィルヘルム「ハハッ!やるな!そうじゃなきゃあ面白くね……!」


二の句が告げないヴィルヘルム。それはそうだろう。あのなのはの砲撃をもろに喰らったのだ。


螢「…何っ!」


「はは!お前ら、俺は1人じゃねえよ。何、敵は俺だけだーって顔して突っ立ってんだ?」

ヴィルヘルム「…どぉいうことだ」

「どういうことも何も、最初から俺と一緒に居ただろ」


螢「なぜ…我々に攻撃が…」


 「ああ、俺の聖遺物を少し分けているからな。敵が増えて嬉しいだろ?」

ヴィルヘルム「……」


空を見据えるヴィルヘルム。そこには管理局のエースが居る。


ヴィルヘルム「おい。気が変わった。そっちはお前がやれ」

螢「……分かった」




なのは『一対一ね。私は大丈夫だし、そっちに集中して』

通信魔法で声をかけられる。お前もやる気満々か。

『じゃあ任せるが、あいつの危険度分かってるんだろうな?』

なのは『大丈夫!人払いもされているから被害も気にしないでいいから』

『…そうかい。じゃあ俺は別の場所へ…やばけりゃ逃げろよ』

なのは『そっちこそ…!』


同時に奔るディバインバスター。


そうしてその日の戦いが幕を開けた
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方)[sage]:2011/04/02(土) 18:56:36.41 ID:KYRrxQoR0
やっと見つけた、ありがとう
54 :1[saga saga]:2011/04/02(土) 19:06:24.49 ID:neN8ZdFlo
ここまで探して…見てくれてありがとう
55 :1[saga saga]:2011/04/04(月) 00:09:10.31 ID:jGHznTOro
ヴィルヘルム「ハッハァ!」
先ほどと同じ杭を射出する攻撃。大量の杭が空に居るなのはを襲う。だが、

なのは「!スターズ・ストライク!」

それは魔力砲にて飲み込まれる。

ヴィルヘルム「ほぉ…やるねぇ」

なのは「それが活動位階ね?それでは私は倒せないし、あなたは飛べないから私の攻撃を受けるしか出来ない。抵抗しないなら…」

ヴィルヘルム「おいおい、何言ってんだ?んな寂しいこと言うんじゃねぇよ。いやぁ、これを出すのは久しぶりだぜ…喜ぶんだなぁ…」

言うと同時にヴィルヘルムの体がうねりだす。それはまるで血液が意思を持っているかのように…そして…次の瞬間、ヴィルヘルムの体から棘が飛び出した。

なのは「それが…形成」


ヴィルヘルム「そうだ」

その棘が触れているところからはあらゆるものが生気をすわれている。コンクリートもガソリンも大気もだ。無機物がそれなのだ。生身で触れればどうなるか…

ヴィルヘルム「よぉ…今度は避けきれるか?」

なのは「!!シールド!!」

今度の飛来した杭は不可視ではない。だが、先の数倍の速さと量…

それはシールドでも防ぎ切れるものではない。

なのは「あ…く!かすった…!」

ヴィルヘルム「ほお…直撃しなかっただけすげえぜ…いやいや、楽しめそうだなあ!」

なのは「この…!ディバイン…バスター!」

奔る魔力砲…しかし…

ヴィルヘルム「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!うめぇ魔力だな…!」

なのは「砲を…喰った…?そんな…まるでそれ…」

ヴィルヘルム「吸血鬼みたいだ…ってか?カハッ!もうすっかり廃れて知られてねえと思ってたぜ…ならオマエ…分かってんだよな?」


ヴィルヘルム「…夜の俺は死なねぇ」

なのは「っ!きゃあ!」

ヴィルヘルム「あぁ…やっと殴れたぜ…お前、結構やるがここまでだ…スワスチカ、開かせてもらおうか」


なのは(打ち落とされた…さっきのかすった傷の痛さも異常で…このパワー。そして砲撃の魔力は喰われる…相性が最悪だ…なら)


今はヴィルヘルムは杭の上に乗っている…


なのは「ブラスター3!エクセリオン―――バスター!」



ヴィルヘルム「あぁ…!な…!」



そうしてなのはは全力で飛んでこの戦闘から離脱した。



ヴィルヘルム「……はっ!形成した俺を砲撃で吹き飛ばすかよ。で、逃げると…あー、やっぱあっちと戦っておくべきだったか?まあいいか…中々殺しがいのある奴らが揃っていそうだ」



なのは「あっ……痛!っく…」

わき腹の傷は浅いが、エイヴィヒカイトでの攻撃だ。霊的に魂が傷ついたのかもしれない。そしてブラスター3でも傷一つ付いていない強固さ。

なのは(予想よりもずっと手強いね。一対一は避けるべきかも…)

そうしてこちらの戦いは…
56 :1[saga saga]:2011/04/05(火) 01:50:10.87 ID:kkKloK4ho
橋の上、ここでもう一つの戦いが始まっていた。


螢「はっ!」

「…!」

螢のパンチで吹き飛び、壁にまでめり込む。なんてパワーしてるのか…

「…女の力じゃないな…」

螢「…女と殴りあうのは主義に反する?」

「いいや、そもそも、オマエを女だとは思ってねぇよ」

螢「そう?じゃあかかってきなさいよ。私、男の人のプライド折るのは好きじゃないけれど…あなたはちょっと苛めたいわね」


「…!ちぃ!」
ヴィルヘルムは獣のような、型にはまらない戦い方だった。パワーもスピードもある奴だからこそのスタイルだ。だがこいつは違う。こいつの格闘はよくも悪くも教科書どうり。しかしヴィルヘルム以下のパワーでも超人のこいつが使えばそれは十分な威力…形成を使う暇もない。


だが…それでも…俺には見える


「…喧嘩が強くて誇らしいか?」


迫る拳を受け止める

「俺が言えた義理じゃあないが…殺し合いが、殺し合いのどこが楽しいんだお前らは」

ああ、言えた義理じゃあない。だけどこいつはほかの奴らと違って、決定的に道を踏み外していないだろう。なのに、なんでここまで堕ちているのか…!


螢「…やる気になってくれた?」


「…ああ」


敵は斃す。

螢「そう?嬉しいわ。私にも魅力があるのかしら?」

「ああ、殺したくなるくらい魅力的だ」

瞬間、渾身の力で櫻井をぶん投げる…

螢「―――――――――!」

その1投でフェンスをぶち破り夜の空へと飛ぶ櫻井。その隙にこちらは…

「形成――――フォルムシフト、鬼太鼓・祭囃子」


呪いの腕。それを宿したデバイスを形成する。そして櫻井の落ちた場所、川の中を見据える―
57 :1[saga saga]:2011/04/05(火) 01:51:57.65 ID:kkKloK4ho
と…その場所が突如爆発した。


「水蒸気爆発…!そうか、それが…」

螢「そう…私の形成…緋々色金。凄いわ、貴方。ドライ。本当に凄い。貴方こそが。貴方こそが私達の恋人!
遅くなったけど名乗らせてもらうわ。聖槍十三騎士団黒円卓第五位櫻井螢、レオンハルト・アウグスト」


そう、アレは言うならば炎の剣。熱が凝縮して形を成し、櫻井の手に握られる。それはまさしく烈火の具現。

螢「たった数日でこんなにも。活動では歯が立たないまでに…信じられないわ。自分がとんでもない無能に思えてくる。ねえ。私が貴方ほどになるのに、何人殺して何年かけたのか分からないでしょう。あぁ、だんだん腹が立ってきたわ」

川の水面に立ち、笑っている。その微笑は薄く、かく透明で、そして何処か危うかった。今までずっと、取り澄ました顔で可愛げのない事しか言ってこない奴だったが、それも仮面だったか。


螢「貴方みたいに大事な人も傍にいて、好いて好かれて幸せね。馬鹿らしいわ。貴方死んでよ。ここならスワスチカも近い。首を持って行ってあげる」

「なにかお前の逆鱗に触れたらしいが…どうでもいい。殺せると思ってんのかよ」

剣が跳ね上がる。それを右腕で受け止める。響く音は金属音。

螢「貴方戦いが好きでしょう。血に飢えてるでしょう。でないと到底そんな物、形になんか出来るはずない」


「しるか」

水面を蹴る。水上で交錯する刃と手甲。

螢「…はっ!」

「…!」

そしていきなりの刺突―――これまで数十合打ち合った中で一度も見せてなかった点の攻撃…たしかにこの剣の形なら刺突こそが本命だろう。それをなんとか防ぎきる…!

「…熱いな…!」

螢「私は貴方やベイほど爆発力を持ってないから」

先とは比べられないほど早く流麗に…精密機器のような連続突き…

螢「見て、考えて嵌めるのよ。それが私の戦い方。器用貧乏だからね。殺さない。けど逃がさない。猊下の戯れを正気で乗り越えられたら褒めてあげるわ」

その年でその技量は確かに驚嘆に値する。まるでシグナムみたいだ。だが、その程度だ。エイヴィヒカイトのある今となってはシグナムのほうが強いんじゃないのか?

「お前に褒められる筋合いなんざないんだが」

震脚。魔力ブーストされているパワーを水上でぶちまけたらどうなるか・・・

螢「なっ!」

巨大な水柱。これでどうこうできると思っていないが、櫻井の剣により水蒸気が大量に発生する急造の煙幕となる。こちらは気配とかで完全に補足。あとはこの手甲で叩き潰せば終了だ。
58 :1[saga saga]:2011/04/05(火) 01:53:03.05 ID:kkKloK4ho
そのときだった。

唐突に、何かおぞましい違和感。自分が研究用のネズミにでもなったような。囚われている取るに足らない生物にでもなったような。

いや、これは違う。虫眼鏡で焼き殺される蟻―――誰かが熱戦に等しい目で見ている!

「――――――ッ!」

急遽方針転換。絶好の機会を棒に振ってまで、この視線を避ける一心で、逃走していた!

橋の上を疾走の勢いのまま駆け上がる!

螢「―――――――」

背後からそんな俺を追ってくる櫻井の声と気配。しかしあんな奴はどうでもいい。逃げろ逃げろ、わき目も振らずに逃走しろ。でなければ…確実に殺される

螢「はああああああァァッ―――――――」
なのにこの粘着女は俺を追ってくる。お前の相手をしえいる場合じゃない。お前もヴィルヘルムもルサルカも、確かに難物だといえるだろうが、―――-

これの主は、その数千万倍は凄まじい

「――――じゃまなんだよお前」

今すぐに、ここから逃走するため、お前を死体に変えてやろう

螢「――――――――」

手甲でのパンチを受け、櫻井はいとも簡単に吹き飛ぶ。対先ほどまでは強敵と思っていたが、今では小物にしか見えない。


螢「く…」


場所は再び橋の上。周囲に遮蔽物がないことが俺の恐怖を促進させる。

さっきのは生意気にもガードしたようだが、次はそうは行かない。霊格が、魂が、俺とお前ではものが違う。防御が間に合おうと、そのちゃちな炎ごと貫いてくれる。

「おおおおおおおおおおおォォォッ―――!」

創造するのは呪いを乗せた魔力杭。エイヴィヒカイトを殺す呪いを帯びた杭を最大の力をもって打ち込む。




パイルバンカー
59 :1[saga saga]:2011/04/05(火) 01:59:13.41 ID:kkKloK4ho


殺った――――



殺られた―――櫻井の顔がその絶望にこおばる瞬間を目にしたと同時―――






トリファ「素晴らしい」

俺の、たとえ何者であっても貫いてみせると自負した凶器は、それ以上の盾によって止められていた。

トリファ「が、いけませんねえ。死ぬならスワスチカで死ぬ程度の意地を見せなさい、レオンハルト」

「あんたは…嘘…だろ…」

その異常。この神父、ヴァレリア・トリファは…教会で子供達と遊んでいたあの優しい神父が…。こいつがそうであるならあの教会、孤児院は…!


「違うよな…?」

螢「聖餐杯、猊下……」

トリファ「さて、それでは戯れは終わりです。改めて自己紹介しますね、ドライさん。私の名は聖餐杯。聖槍十三騎士団第三位、首領代行、ヴァレリア・トリファ=クリストフ・ローエングリーン。貴方の親に等しいわが師からは、邪なる聖人―――などと祝福を賜った男ですよ」

「じゃあ…あの子供達は…」

トリファ「ええ、我々の手の内ですね。では、今より開戦といたしましょうか」

―――――――――――――――
ヴィルヘルム「こりゃあ、まさか…」
何故か、ヴィルヘルムは動かない。今からでも逃走したなのはを追いかけても補足することは可能であるだろうに……

だが、彼女を追うよりもこの異常を無視することが彼には、いや、誰にも出来ない。黒円卓のメンバーはこの感覚が何かを知っているから――――

白磁の肌に怒る異変。ヴィルヘルムのわき腹から血と激痛が溢れ出す。それは服従の印。彼が生まれて初めて敗北し、走狗となったことの証。

それを刻んだものがもうすぐそこに現れるという証―――――

ヴィルヘルム「橋か…了解、了解しましたよ。ただ、こんな姿なんで、俺がご尊顔を拝し奉んのはまた後日で。
クリストフの野郎、相変わらずえげつねえ真似しやがるぜ。レオンの奴、腰抜かして死ぬんじゃねぇか?」

そういってヴィルヘルムは姿を消した。
―――――――――――――――――――――――――――

マレウス「あら…痛いわねぇ…」

スバル「くっ…!」

ティアナ「動け…ない…」

ここは別の場所、学校にてマレウスを発見、戦闘を仕掛けたスバルとティアナは、動きを止められていた。

マレウス「あーあー、怖い怖い。クリストフも何やってるのか…あと少しで殺せたけど…。今日はやめておくね。怖い人来ちゃうから」

スバル「ふざけ…」

マレウス「ふざけてないし、私だって今すぐ殺したいけど?聖痕が痛くて痛くって…だから今日のところはやめておくって言ってるのよ。動けないのに虚勢はらないのー」

ティアナ「…くそっ!」

そしてマレウスも姿を消した。




何か得体の知れない重圧がこの夜に圧し掛かる。それは天が落ちるような…
60 :1[saga saga]:2011/04/05(火) 02:00:54.47 ID:kkKloK4ho
「…ごはっ!」

トリファ「さて、ようやくおとなしくなりましたか」

螢「猊下…」

トリファ「ああ、貴方もですよレオンハルト。そう無駄に恐縮する必要はない。命令はそれを告げたものが責任を負います。貴方は悪くない。私が悪く、相手が悪かったのですよ」

螢「………」

トリファ「不服でも?」

螢「いいえ」

トリファ「いいでしょう。では、ドライさん。貴方に質問です。我々の共通の隣人について」

「…なんだと…」

それは…この神父と俺との共通の知り合い…

トリファ「ええ、エリーゼのことですよ。率直に聞きます。貴方は彼女を愛していますか?」

「愛だと…」

トリファ「ええ…個人的に興味が尽きない。貴方は彼女を見るときにとても優しい目をする。アレは愛ですか?家族愛?
そして、それを…大義名分が立てば貴方はエリーゼをも殺しますか?」


「――――――――ッ」


トリファ「貴方は私を憎んだ。私を殺そうとしてきたでしょう。ええ、それはいい。敵同士だ。敵は殺せ。それを、貴方は彼女に当て嵌めますか?あなたも殺人者…経験者から言いますが、1人殺せば止まりません。答えてください。貴方は、エリーゼを。貴方が救い出したあの子を殺さないのか殺すのか、愛しているのか愛していないのか」

「俺は――――――ッ」

顔を上げる。

「俺は絶対にお前らに負けない!俺があの子を殺す?ふざけるな!そんなことして溜まるかよ!俺の大事な人も仲間も全員殺させるか馬鹿野郎!」

と、言ったそのときだった。


トリファ「ふふ、ふふふふふは、ははははははははははははははははははははははははははははははははは――――――――ッ!」


俺の答えを聞いた神父は壊れたように哄笑しだす。天を仰いで身をよじって、嗤っている。

トリファ「くくく、なるほどなるほど、そうですか、なんとも勇ましい!負けぬと、勝つといいますか。この私に?我々に?あなたが?ははは――――愛を信じて?打倒する?なんて眩しい!美しく羨ましく妬ましく愚かしい!実に実に実に至高!流石は流石、副所領閣下はこんな代替を作るとは、愛も変わらず狂しておられる!ああ良く分かりました理解しました。それが貴方だと。ではではならば、彼の言葉をお聞きになりましたか、我が主。これが貴方が盟友の代替―――――ツァラトゥストラですよ」


瞬間、天が落ちてきた。
61 :1[saga saga]:2011/04/05(火) 02:02:10.33 ID:kkKloK4ho
「――――――――ガッ」

螢「くぅ――――」

押し潰される。骨まで砕ける存在感。天が落ちてきたとしか思えない。

トリファ「率直なご感想をお尋ねします。どうでした?」

??「悪くない」

俺も櫻井も身動きの出来ない重圧の中、ただ1人飄々としている神父の頭上から声が響いた。

そこにあるのは黄金の大渦…いや、穴・・

螢「あぁ…」

そこから投影するように像が人型をとっていく。

??「黒円卓に負けぬと、良くぞ言った。その魂、敵に値する」

人体の黄金率。均整の取れた体格。夜気に踊る鬣のような金髪と、自殺衝動すら覚える麗貌には造形上の欠点を見つけられぬ。切れ長で涼やかで、地獄の底めいた燃える光を放つ瞳も黄金――――

こいつが奴ら全ての――――

??「名乗ろう、愛しい我が贄よ。私はラインハルト…」

ラインハルト「聖槍十三騎士団黒円卓第一位、破壊公――――ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ。愛すべからざる光―メフィストフェレス―などと卿の縁者から祝福された、曰く悪魔のような男らしいよ」

恐怖、指の一本すら動かない。だが…恐怖を感じた人間がすることは…逃げるか、それとも…あいつを…




瞬間、パチンと指を鳴らすように、俺の思考と視界が闇に落ちた。




??「一刀のもとに断てばよい」




ラインハルト「ほぅ…」


トリファ「これは…」


「ガァ…ァァァァァ…」


獣の重圧に歯向かい立ち上がろうとする。そして全身は悲鳴を上げる。


ラインハルト「暴走かな」

トリファ「これは共振。貴方の魂に呼応して、彼らは作り変えられている。副首領閣下のごとく評するのなら、身殺ぎ…生まれ変わりの最中ですな」

ラインハルト「ほぅ、ならば…」

トリファ「ええ、ならば、いずれ今の貴方を上回るやも知れません」

ラインハルト「願ってもない」

瞬間、獣の前足に押さえられていた鼠がそれを遂に跳ね返した。


「―――――――――――――」


ラインハルト「よかろう、参れ」
62 :1[saga saga]:2011/04/05(火) 02:04:31.63 ID:kkKloK4ho
右腕にはいままでで最高の呪いを。呪詛を、憎悪を、奴に叩き込め。

拳ではなく一点に、鬼の爪を形成、それを奴の心臓に叩き込む!

その自信に迫る爪を見ながら、ラインハルトは笑っている。構えも防御もしない。

「――――――――――ッ!?」

確かに快心の一撃。だがその攻撃を受けて皮一枚すら、何の痛手も与えることが出来ない。先の身殺ぎで力は向上したはずなんだ。なのに、こんなにも差があるのか…

ラインハルト「ふむ…哀れな魂だ。この聖遺物、大鬼。よく飼いならしたものだ。だが、私なりに愛してやろう…」

ラインハルトの手に力が入る。そして手甲にひびが…


そのときだった。飛来するオレンジ色の魔力砲。それはラインハルトめがけて直撃する。

ラインハルト「ほぉ、魔導師とはこんなことも出来るのか。卿の仲間も我々に対抗できる…なるほど」

いや、直撃ではない。ラインハルトに触れる直前にかき消された。なんてでたらめな…

スバル「捕まって!」


「…!」

ラインハルト「ほう」

トリファ「これはこれは」

横合いからスバルが俺をつかんで奔る。これまで見たことも無いようなスピードだ。

「お前ら…助けに?」


スバル「…追っ手は来ない…わね。良かった。死ぬかと思った。ティア!急いで!」

ティアナ「ちょっと、早いわよスバル!」



スバル「……で、なにあれ」

「いや…助かった…ホントに死んだと思った…流石救助隊」

ティアナ「なんとか…なったわね」



すでに見えなくなった彼らから視線を切って、神父は傍らに目を向ける。

ラインハルトは虚像に過ぎない。注視せずとも背景が透けて見えている。本来の数十分の一の力しか出せていないのだ。

トリファ「満足ですか?ハイドリヒ卿」

ラインハルト「ああ、かなりいい。このまま引き続き頼むよ聖餐杯。ああ、だがな、一つ命令だ。カインを起こせ」

螢「―――――――――――」

トリファ「はい」


ラインハルト「楽しませろよ、聖餐杯。卿の手並みに期待しよう」


言って、次の瞬間彼は跡形もなく消えていた。

トリファ「やれやれ、大丈夫ですか、レオンハルト。そんなわけはないですか」

螢「……………」

トリファ「無理もない。我々は皆そうだ。ベイにマレウス、キルヒアイゼン、ザミエル卿やシュライバー卿に至るまでそうです。恥じることはありません。一足先に戻りなさい」


螢を見送り、トリファも歩き出す。

トリファ「さて、これからどうなることやら」
63 :1[saga saga]:2011/04/06(水) 01:44:37.04 ID:EGD6pNRwo
――――――――――――――――――――
はやて「ドライ、なのはちゃん、ティアナ、スバル、よお生きて帰ってきてくれた。特にスバルとティアナはドライを救出してくれてありがとう」

ティアナ「いえ…私はこの間助けてもらっていますしその借りを返しただけです」

スバル「私は、救助隊ですし」

なのは「…ごめん、そんなことになってるなんて…」

「いや、その傷じゃあ無理はしない方がいい…で、はやて。孤児院は…」

はやて「…さっき報告が入った。誰もいなくなってたそうや。子供達もどこに連れ去られたのか見当もつかないって…」

「そうか…」

ティアナ「…ドライ隊長、大丈夫ですか?」

「…ああ。無駄に突っ込んで死ぬようなことはしない。あいつらを追っていくうちに助けられると…すまん。今日はもう休む」

はやて「…仕方ないな。今日は色々あったんや。ゆっくり休めてな。明日も頼ると思うから…」

「ああ…新人達の教導は予定どうりに?」

はやて「ん。明日は予定どうり教導をお願い。あの子達を放って置くことも出来ないから…」

「了解。じゃあ、先に失礼させてもらう」


スバル「…辛そうでしたね。ドライさん」

ティアナ「仕方ないわよ。孤児院にはよく顔を出してたみたいだし…」

はやて「あれはちょっと危ないかもしれんな…フォローをしておいてくれるか?あいつは無茶をするから…」

ティアナ「はい。じゃあ、私達もこれで…」

はやて「ああ、お疲れ様」



――――――――――――――翌日、昼 食堂
スバル「エリオは昼から街だっけ?」

エリオ「はい、昼なので戦闘になるの確率は低いかなーって思ってるんですけど。まだ戦闘には巻き込まれてませんし」

ティアナ「…戦えるモンじゃないわよ。何もなければないのが一番なんだけど…」

キャロ「ティアナさんはシュピーネともルサルカとも戦ってるんですよね?どうなんですか?」

ティアナ「んー…最初のシュピーネはほとんどドライ隊長が1人でって感じだったし、ドライ隊長がいなかったら私、死んでたもん。だから、昨日は助けれてほっとしてるわ」

スバル「そうそう。昨日のあれ。ドライ隊長凄かったね。あんなのに攻撃を仕掛けて。あの年で隊長は違うねやっぱり」

フェイト「んー?皆何を話してるのかな?ね、ティアナ?」

なのは「あはは…ごめんねみんな」

ティアナ「あ…いえ、ちゃんとお仕事のことですよ。敵のことを話していました」

スバル「それよりなのはさんは大丈夫なんですか?」

なのは「あははー、まだ少し痛むけど、解呪はしたし治癒魔法もかけてるから大丈夫。今は休んでる場合じゃないしね」

フェイト「また無理をして…休んでもいいんだよ?せめて治るまでは…」

なのは「いや、傷事態は塞がってるから大丈夫だって…それよりもまた夜にドライが出るみたいだけど…大丈夫なのかな?」

キャロ「え…ドライ隊長…そんな連続で?」

フェイト「うん。じっとしてられないみたい。一度言ったら聞かない頑固なところ、誰かに似てるよね!でも、私がついていくから無理はさせないよ」

スバル「むー…こんな時にまで仕事の話って…おいしくご飯食べましょうよー」

ティアナ「…ふふ…あんたは…」
64 :1[saga saga]:2011/04/06(水) 02:22:22.88 ID:EGD6pNRwo
夜、はやる気持ちを抑えられない。でも、それを窘めてくれる人が隣にいる。

フェイト「だから、落ち着かないのは分かるけど、今出来ることは普通の業務をすることしかないから。無理はしないでね」

「分かったよ。というか何回おんなじことを…」

フェイト「いつも心配させるんだから…このくらいでちょうどいいの。きっと、エリーゼもきっと大丈夫だから。私達で助けよう」

「…ありがとう。落ち着いたよ。でも、二人きりって久しぶりだね」

フェイト「そうだね。最近ドライ他の人と組んでるんだもん。ちょっと妬けちゃうなー」

「いや、決めたのははやてだし。じゃあ、…明日は一緒に居ようか?」

フェイト「…いいかも。でも仕事になるかな?」

「今だって似たようなもんだ。やるときはやるさ」
静かな街で、平和な話をする。それは暖かく何よりも求めていたもの。

(そういえば…前になのはから俺達の関係どうにかしろって言われていたな…)
そう。俺達はこんなに仲良くても、決定的な溝がある。人によっては簡単に乗り越えられる溝だろう。だが、俺達プロジェクトFにとってはそう簡単でもない。

(うん。何もかも俺のコピー元が恋愛に疎いから。死人を悪く言いたくないけどあいつのせいだな)
だが、出来ることはある。夜の静かな街で仕事中ってシチュエーションだが、これは…

(手を繋ぐチャンスだよな?二人きりだし…うん。)

フェイト「…さっきから黙ってどうしたの?」

「俺そんなに喋ってるかな…あのさ…手、繋がない?」

フェイト「…ふふ、そういうのは黙って手を取ってくれないと…」
そう言って、手を握ろうとした瞬間だった。通信の着信音がそれをさえぎった。

フェイト「あ…ごめん。はやてからだ」

「あ…いや、いいよ」

フェイト「はやて?どうしたの?」

はやて『あ、大変や!二人の近くにあるホールで、どこぞのミュージシャンがゲリラライブをおっぱじめやがったわ!なんとかやめさせてくれへんかな?』

フェイト「うん。わかった」

簡単に場所を確認しながらフェイトは言う。

フェイト「…今日も結構大変そうだね…」

「…いいさ。人が死ぬよりはね」


ホールに着いたら、そこには数百人というくらいの人が居た。反社会的な唄を歌うミュージシャン、それに熱狂している観客。めんどくさい奴らだが、やろう。

「管理局だ!夜間のイベントは禁止されている!さっさと解散しろ!」

フェイト「ちょ…そんな言い方じゃ」

モブ「うっせーぞ!こらあああああああああ」

モブ「ファ○○○○○ク!」

ミュージシャン「何が管理だあああああああク○ニしろオラアアアアアアアアアアアアアア!」

フェイト(ボー然)

「おまえらな…全員しょっ引くぞ?」

モブ「やってミロやこらああああああああああああ!」

俺の声で一層騒がしくなったらしい。というかこんなのが音楽だ何て信じられん。
と、何か違和感。徐々に喧騒が収まっている。ステージに目を向けると…そこには…

「嘘だろ…リザさん…?」

いつものシスター・リザではない。メガネは無く、軍服を身にまとい、隣に仮面が浮いている。それは、彼女、リザ・ブレンナーも奴らの仲間ということで…あの神父が聖餐杯であった以上必然だったか、彼女もまた黒円卓のメンバーであった。
会場は完全に静になった。リザはステージでたたずんでいる。その口が動く。

リザ「形成――――――青褪めた死面」


その瞬間、仮面から巨人が生えた。
65 :1[saga saga]:2011/04/10(日) 16:31:30.92 ID:MhQekA+mo
モブ「うわああああああああああああ!」

モブ2「きゃああああああああああ!」

巨人を見たとたん観客は一目散に逃げ出す。あの巨人…2mは優に超えている巨体、太い筋肉で覆われたその肉体は、岩の塊から彫り上げた鬼神像を思わせる。左半身には複雑な模様の刺青が彫られており、見るからに奇怪な容貌に更なる拍車をかけていた。しかし、まるで存在感を感じない…その緋現実感…そして轟々と吹き付ける殺意。パニックになるのも無理ないが…これじゃ何人死ぬのか・・・!

リザ「聖槍十三騎士団黒円卓第十一位リザ・ブレンナー=バビロン・マグダレーナ。同じく聖槍十三騎士団黒円卓第二位トバルカイン。やって、カイン」

カイン「………!」

瞬く閃光。カインと呼ばれた巨人の担ぐ無骨な鉄塊……おそらくは奴の聖遺物。それが不吉な音を立てて鳴動する。帯電して咆哮する。
ステージで指揮者のように手を掲げて謳うシスター。彼女の声で阿鼻叫喚の組曲が開始される。走者は巨人。楽器は人間。これは殺戮のオーケストラ。

リザ「―――Crescendo」

フェイト「――――――ッ!」

フェイトが飛び出すが遅い。轟音と共にホールを紫電が迸った。爆ぜる雷光に視界がくらむ。壁に激突してから一拍遅れて全身に飛び散ってくるのは血と肉塊。落雷で死んだかつての人体。あの一撃のみでホールが死体の山と化した――――

「…!フェイト!」

フェイト「大丈夫…だけど…」

ああ、君はこの惨状に心を痛めているんだろう。だがそうじゃない。いましなければならないのは、生き残っている人たちを守りながらカインを殺すこと…!

俺が一歩を踏み出すと、カインもステージから飛び降りた。地響きを伴うほどの巨体。パワーも桁外れに違いない。だが、あんな死体のつぎはぎみたいな奴に負けてなんざ居られない。



リザ(今ので死んだのは…まだスワスチカ解放には至らない・・・か。でも残りを殺せば足りるはず…)

螢「まるで爆撃…私が知る限り、一撃でここまで出来るものはほかに居ない。黒円卓の現有戦力中、最強はやはり彼…でも随分と変わってしまった…バビロン、これは本当に…」

リザ「ええ、彼よ…」

螢「でも私が来ていて正解だ。貴方は武器が強力でも使い手が脆弱だという典型だ。護衛が居なければ戦えない」

リザ「そう…じゃあしっかり守って。それから、彼は……」

螢「生きています。そしておそらく戦う気かと。女の方は敵にもなりません」

見据える螢の視線の先には、立ち上がりこちらを睨むドライ。

リザの視線に連動して、カインもまたドライを向く。それは彼が意思の無い機械同然であることを物語っている。

フェイト「―――――ハァ!」

螢「………」

リザ「ッ早速ありがとう」

フェイト「――――――な…!」

普通ならこの一撃でしとめられるはずだった。普通なら…しかし相対するのは普通ではない超人。

螢「小うるさいわね」

フェイトのザンバーの方が巨大だが、それは軽々押しのけられる。だが、…

フェイト「…そっちの人が動かないのは、そういうこと」

リザ「―――――――――――!」

そう、リザは暴れ馬を操っている状態。たとえそれが手傷を負わせるような攻撃でなくとも、気をそらせることが出来れば暴れ馬の手綱を手放すには余りある。

フェイト「じゃあ、まずはあなたから…!」

螢「……貴方みたいなのには負けない」
66 :1[saga saga]:2011/04/10(日) 16:33:18.27 ID:MhQekA+mo
連続で響く剣戟からフェイトの意図を理解する。

「っだったら…それまで持たせないとな」

全力で行く。形成はすでにした。この巨大手甲を叩き込む。

「づおおおおおおおおおおオオオオオオオオ!」

体を砲弾と化しカインに突っ込む。いける。あの巨体に速さで負けるとは思わない。しかし…

「なッ、にい―――――」

カインの周囲に発生した落雷により、再びその場から吹き飛ばされた。しかもそれだけではなく、まさしく雷速を思わせるスピードで、カインは俺に追いすがる。この巨体であれほどの得物を持ち、その上で俺より速い―――――

しかし退けない!

「グッ、ガアアァァァァァァ!」

振り下ろされる鉄塊を手甲で受け止める。鬼共の悲鳴が聞こえるが、あの大質量とパワーとスピードで武器が砕けなかっただけで奇跡だ。しかし衝撃はもろに喰らい、ホールは俺を中心にクレーターのように陥没する。

「…………ッ」

斬撃と同時に発生する雷撃…これは厄介だ。危険すぎる。これ以上守勢に回って勝てる相手じゃない。だから攻めるしかない。

剣を逸らし上を取ろうとする。しかしそれが失敗だったのか…カインの剣は床を叩き衝撃が襲う!

「グ…は…」

かすっただけでこの威力。そして今ので後ろに居る百人単位の人が死んだはず。

「――――ッ、てめえ…」

怒りで視界が眩む。こいつらは警報に逆らって出てきているが、断じてお前みたいな死体に殺されるような死に様は受け入れられない。

立ち上がる俺に合わせて向き直るトバルカイン。いいだろう。最速最高の攻撃を与える。全身に魔力を溜める。筋肉が膨れ上がり最高の威力が溜まる。カインも構え雷を帯電させている。だが…雷速には敵わない。俺が1人であれば数瞬後には奴の雷に貫かれるだろう。




螢「…確かに貴方はやるわ。小さい頃から戦っているんだっけ?」

フェイト「そうよ…ずっとね…だからお前たちなんかには負けない!」

螢「でもあなた、私に勝ててないじゃない。それで負けないなんてよく言えるわ。その剣に恐怖を感じないもの」

確かに、この剣は螢の体に触れてもそれを切り裂くことは無かった。エイヴィヒカイトを手に入れているはずなのに。そうしている間にも向こうでは轟音が響いている。

フェイト(この子を倒すよりも優先するべきは…シスターの妨害…かな)
そして瞬時にライオットザンバー・カラミティを形成する

螢「剣がでかくなっても変わらないわ。でも今日はシスターが仕事をする番だから、貴方は殺さないであげる。あの男は死ぬかも知れないけどね」

フェイト「…!そんなこと、させない!」

そして激突するブレードと緋々色金。螢の言うとおりに押し勝つことは無い。が、それだけではなかった。カインのやったようにブレードからは雷が放射される!

螢「…!しまった!」

フェイト「もう…遅い…」

そして周囲に白い煙が立ち込める。雷は消火器に当たりそれが煙幕の役割を果たす。それはシスターがドライを視認できなくなることを示し、それは……

リザ「――――ッ」

背後のリザから焦燥の気配が伝わってくる。それだけで理解した。事実上、今のカインは制御を失った木偶となった。


螢(彼が…また死んでしまう。嫌だ、そんなのいやだ――――)
67 :1[saga saga]:2011/04/10(日) 16:37:33.23 ID:MhQekA+mo
轟音と共に黒雷は俺から逸れる。フェイトが上手くやってくれたらしい。今はシスターの目がふさがれてカインは完全に手綱が無い状態だ。

「っはああああああああああああ!」

会心の一撃。パワーもスピードも申し分なし。確実に無防備なカインを殺せるであろう攻撃は、カインの頭突きによって相殺された。

「な…動いた…?」

奴の仮面、シスターの聖遺物にどれだけの強度があるかは知らないが、それで軌道を逸らされた。不発。練りに練り上げた攻撃は奴の肉を切り裂いていない。

「こいつ…いま自分で動いたのか…?死体が?」

ゆらりと振り向くトバルカイン。やはりその動作には生者の気配は感じない。なのに、シスターの命令よりも正確に動き出すなど…

カイン「…ea…………ce」

死体が喋る。カインは誰かの名前のようなものを呟く。その凶つ声に俺の総身は凍りつく。その声で喋るな。生きているものに狂気を叩きつける、その声で…!

トバルカイン「ear、earrrr、OAHHHHHHHHHHHHHEEEEEEEARRRRRRRR――――ッ!!」

落雷にも劣らない大音声の咆哮が俺を吹き飛ばす。




フェイト「え…」

リザ「チッ…」
隠しておきたかった彼の本性が現れる。制御が困難になることよりも彼にそういう面があることすら気付かれてはならない。もし聖餐杯かザミエルに知られれば、そして彼女、彼女には知られるわけにはいかない――。

リザ「レオン―――!」

しかし螢はすでに飛び出している。そして、時すでに遅く、現場を目撃していた。立ちすくみ、呆然と、心ここにあらずの様子で呟いている。

螢「そんな…なんで…兄さん…?」

螢に知られた…アレはただの死体ではないと。その焦りが、次に起こる破壊の具現を止めることが出来なかった。




ひどくスローモーションに見えた。先ほどの数倍を越える死の雷―――それはここに生き残っている全ての者達―――フェイトもリザも螢も――を消し飛ばす極大の一撃。それがあと少しでやってくる。
体が自然に動く。ここであの技を出させはまずい。彼女を護ることが出来ない。ここに居る全ての、逃げ遅れた人たちも死ぬ。ならば、出す前…今この瞬間に奴を止めよう。
一瞬で爆発する魔力。そして雷と手甲が激突した――――――
68 :1[saga saga]:2011/04/10(日) 16:39:03.03 ID:MhQekA+mo
フェイト「く――」

紫電が目を焼き視界を奪う。直感していた。あれで皆死ぬと。フロアに響き渡る大音響。床も壁も砕け散って、私も十数メートル吹き飛ばされる。でも、それだけだった。予想よりもはるかに小さい被害しかだしていない…なぜ…

リザ「どうやら、三つ目のスワスチカが開いたようね…」

フェイト「……ッ」

粉塵の向こう側、シスターがいた。そのすぐ横い.には、再び物言わぬ彫像と化したカインの巨影。先ほどの一撃で、生き残っている人たちも死んだ…

リザ「安心しなさい。今日はもう帰るから。螢、帰るわよ」

螢「……どういうことですか…と言ってもあなたは教えてくれないですよね」

リザ「ええ…ごめんなさい」

螢「……先に帰ります。気分が悪い」

螢は1人で、フェイトには目もくれずに歩き出した。

フェイト「待て…!」

櫻井螢もリザも先の雷撃で弱っているはず…ならこの機会を逃してはいけない…

リザ「さようなら、心配しなくても私はもう貴方の前に現れない。それと…貴方は彼の心配をしてあげたら?彼が護ってくれたから私達は生きているのだから」

フェイト「え……」

視界を埋め尽くす漆黒の帳。カインの仮面に付属していた黒い布が爆発的に伸び広がり、フロア中を多い尽くして全てをかき消す。血も肉片も死体も残らずに消えうせた。

でもそんなのはいい。フロアの真ん中に横たわる人が居る。

フェイト「そんな…ドライ…目を覚まして…」

呼びかけにも応じない。

フェイト「ドライ…熱ッ!」

肩に触れると凄く熱かった。ありえない高熱。あの雷撃をほぼ爆心地で喰らったのだから当然だろう。今はまだ死んでいないが、ボロボロで今にも死にそうな様相だ。


フェイト「ねぇ…起きてよ…なんで…」



ドライは答えない。後は彼女の泣く声だけが響くだけだった……
69 :1[saga saga]:2011/04/10(日) 16:49:06.55 ID:MhQekA+mo
雨が降る。橋の上には傘も差さずに立ち尽くす女と異形の巨影。リザ・ブレンナーとトバルカイン。彼女達はクラブでの戦闘の後、すぐには戻らずこの橋へとやってきていた。氷雨だった。

「まるでカタリ派の鞭打ちね」
自嘲する。自分の罪がこの程度で流れ落ちてくれるはずが無いことを熟知している。

深夜、唯でさえ居ない人が、雨の日の橋という場所のせいもあって周囲には人影など見当たらなかった。どれほどの間そうしていたのだろう。長時間、雨に晒され、髪も服も既に濡れそぼっている。だが、肌に張り付くそれの感触もいとわずにぼんやりとかなたに光る街の灯りを見つめていた。胸中に渦巻く、支離滅裂な感情。何を考えて、何を望んでいるのだろう…私はこんなところで何を……

自分の仕事は終わった。任務も命令も誓いもはたした。後はただ座して待つだけ。なのになぜだろう。残ったのは恐怖と後悔と焦りのみ。
私の願いは叶うのか?叶えば失ったものを取り戻せるのか?取り戻せた時に、新たに失うものを見ているのか?

「情けない…いい歳をして…」

「貴方は…どう?良ければ聞かせてちょうだい。カイン……いいえ」

その、彼に秘められた真の名を口にしようとした瞬間だった。

「――――――――――まさか」

リザは虚空を見上げる。視線の先は橋塔の上。

いや、そんなことは有り得ない。気のせいだろう、決まっている。だが、この押し寄せる圧迫感は…

無言のまま微動だにせず、リザは視線を動かさない。そんな彼女の様子に感応したのか、傍らの巨人の仮面も、カタカタと震えだした。

「何か……くる」

ここではない何処かから、次元の壁に投影させて何かの影が落ちてくる。その気配、この圧力、そして何より、総てを焼き尽くす紅蓮のごとき焦熱の魂―――

「ザミエルッ」
瞬間、ミッドチルダを覆う結界を揺るがして、橋塔上にプロミネンスを思わせる緋の大輪が爆発した。飛散する熱戦と爆風は降りしきる氷雨を蒸発させて分厚い雨雲すら吹き飛ばす。天に穴を開け、尋常ならざる密度の魂がその場に像を成そうとしていた。

そこに立つのは煙る水蒸気と荒れ狂う火炎を纏い、血と業火を思わせる真紅の長髪を靡かせる女。リザとは異なる種類の美貌の持ち主だが、その半顔は醜く焼きつき引き攣れて、美醜入り混じった美貌はもはや戦場しか連想できない。

黒円卓を統べる双頭の下、鉤十字の象徴である三色の一。
「なぜ、あなたが……」
聖槍十三騎士団黒円卓第九位、エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグ=ザミエル・ツァンタウァ。

ザミエル「なぜ、と問うか、ブレンナー。お前、私に何か言うことは無いか?」

「………………」

出現と同時に、屑でも見下ろすような目と言葉を投げるエレオノーレ。リザは無言で、しかし真っ向から睨み返した。

ザミエル「ふん、変わらんな」

「あなたもね、と言いたいけれど……」

この女が、今の位階で完全に現れるなど有り得ない。おそらくアレは唯の幻影。先のラインハルトと同じ虚像に過ぎない。はずなのだが……

「あなたは随分とかわったわ。昔のあなたはまだ、そこまで……」

ザミエル「そうか?貴様が腑抜けただけであろうがよ。それでブレンナー、バビロンとは呼ばん。私は貴様に話がある。察しはつくという顔か?」

「……ええ」

ザミエル「ヴァルキュリア―――キルヒアイゼンはどこに居る。このシャンバラで、奴の魂が見当たらん。いや正確には、四散して所在がつかめぬ。何処だ」

「…………」

ザミエル「死んだか」

「……ええ。あの子、ベアトリスはもう居ないわ。今から十一年も前の話よ」

ザミエル「そうか死んだか。あの馬鹿娘」

「あの子の死を悼んでいるの?」

ザミエル「ああ、悼もう。悼むしかあるまい。出来の悪い阿呆だったが、アレは私の部下だった。どうせ死ぬなら、私が殺してやればよかったよ」

「―――――――――――」

ザミエル「私の目の届かん所で死ぬとはな。つくづく骨の髄まで度し難い、物の役にも立たん阿呆め。所詮アレは、黒円卓にあるべき器ではなかったのだ」

「あなたは――」

ザミエル「そして…――――誰があれを殺した?」

瞬間、総身が凍り付いた。

ザミエル「阿呆とはな、ブレンナー、身を儚むという雅も知らん。長命を倦んだ自死衝動など、あれに起こるはずが無いのだよ。であれば、頭の悪い手弱女を、摘み取ったものがいる。それは誰だ?」
70 :1[saga saga]:2011/04/10(日) 16:51:58.76 ID:MhQekA+mo
「ハイドリヒ卿は、おそらく気にもしておられないわ」

ザミエル「だろうな。あの方はたとえ何者が死のうとも、その御心に細波すら立てられん。腑抜けたなブレンナー。ハイドリヒ卿は誰が死のうとも気にもせぬ。よって……」
シガリロの火種が弾け飛ぶ。リザを見下ろす双眸に、魔性の焔が燃焼しだす。

ザミエル「誰が誰を殺そうと気にもせぬ」

「―――――カインッ!」

咆哮と同時にリザは跳び、彼女を追ってカインの鉄塊が揮われた。そのまま巨人の怪力に乗り砲弾のごとく水平に跳躍する。

ザミエル「ほぅ……私の砲を知る貴様が、まさか逃げ切れると思ったわけではあるまい。であれば、貴様の考えも透けて見えるぞ。そこは遊技場か、ブレンナー。そこに行かれては私としても、選択の余地はあるまいな。見事だブレンナー、誇り高きかつての同胞。潔いぞ、褒め称えよう。それほどまでにこの木偶を私に差し出したくはなかったか」

弾け飛んでいた葉巻の火種が、宙に乱舞し印を描く。

ザミエル「これは敬意だブレンナー。受け取れ。貴様の勇気と誇りと覚悟に免じ、馬鹿娘の件はその一命をもって赦免しよう」

鳴動する焼きが唸りを上げる。印が有り得ないほどの巨大極まる鋼鉄の怪物を“こちら側”へと招き寄せた。
その全体像は把握できないが、見えず触れず、しかし聞こえる。軋む鉄塊、油圧の音。装填、旋回、照準、そして―――

ザミエル「さらばだ戦友……貴様もまた獣に呑まれ、その一部となる名誉を味わえ」

轟砲一閃―――放たれた魔砲の一撃は闇を真紅に塗りつぶしながら標的へ…着弾。

爆裂した大火球は遊園地全域を飲み込んでなお収まらない。周囲を貪欲に喰らい、燃やし、灼熱させる。

ザミエル「…出て来い鼠。私がお前に気付かないとでも思ったか?」

トリファ「お久しぶりですね、ザミエル卿。ゴ壮健そうで何より」

ザミエル「貴様もな。こうしてみるのは初めてだが、随分と癪に障る容貌になったな」

トリファ「それはそれは」

印象はリザが口にしたものと変わらない。この女将校は、以前にもまして怪物的なものになっている。

トリファ「ご帰還早々の一仕事、感謝の言葉もありません。しかしザミエル卿、見ればまだ、本調子というわけでもなさそうですが」

ザミエル「問題ない。確かにまだ現身は得ておらんが、それもいずれ成すだろう。ハイドリヒ卿からのご命令だ。まずは私、そしてマキナとシュライバーもやってくる。ではな。私は幻影を解く」

トリファ「それはそれは」

そういって消え去る紅蓮の背に向けて、トリファは優雅に一礼した。

トリファ「ああ、4つ目のスワスチカが開いた…そして、やはりこれには何の興味も示されない。そういう方だ、あなたは。良かったですね。命拾いしましたよ、あなた。リザに感謝しておきなさい」

そこにあるのは、もの言わぬ異形の巨影。

トリファ「ふむ…カインは…誰に使わせましょうか…スワスチカの半分が開き、大隊長も出てきた。私の目的は…どうなりますかね」
71 :1[saga saga]:2011/04/10(日) 17:08:36.43 ID:MhQekA+mo
ううむ…すこし更新が遅くなり申し訳ない
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県)[sage]:2011/04/10(日) 17:09:11.05 ID:7Unz7fDho
見てんよ。大丈夫だ、ゆっくりやれ
73 :1[saga saga]:2011/04/10(日) 17:50:01.82 ID:MhQekA+mo
ありがとう…とうとう半分だな(スワスチカが)
74 :1[saga saga]:2011/04/16(土) 23:32:23.88 ID:Al4ym1I0o
なのは「フェイトちゃん…」

フェイト「……なのは…わたし、何も出来なかった……なのにドライは皆を護ろうとこんなになって…」

ここは、病室。あの後ドライは病院に運び込まれて応急処置を受け入院をした。はやては遊園地の爆発の事後処理に本局を駆け回っている。そしてフェイトは、いつから泣いていたのか、目が腫れていた。

なのは「大丈夫…ドライは死なないし、すぐに起きるから。安心して。というかフェイトちゃんにこんなに心配かけて、起きたら叱ってやらなきゃ」
そういってなのははフェイトを抱きしめた。いつ起きるのかは本当は分からない。でも、それで安心できるなら…

フェイト「………ありがとうなのは。こうしてる場合じゃないんだよね。ドライが戦えないから…私達がしっかりしないと……」

なのは「うん…頑張ろう」

そういって二人は帰っていった。ドライはまだ、目を覚まさない。


はやて「ふう…皆忙しい中集まってくれてありがとう。皆知っていると思うけど、昨日、ドライ隊長がやられた。そして、大量虐殺、遊園地の破壊…昨日の被害は想像も出来ない。そしてドライの不在における戦力の減少…最悪の状況や」

ここに集まったメンバーの顔は暗い。それもそうだろう。今までの戦いはドライが中心になっていたと考えてもいい。それがいきなりの敗北と戦闘不能になったのだ。

はやて「しかし、まだ負けではない。ドライもあれだけの怪我が異常な速度で治ってる。あいつが復帰するまでに私達で被害を食い止めるんや」

スバル「…でも、前ルサルカと戦った時にはこっちの攻撃が効かなくて。フェイトさんも今回はそうらしいじゃないですか。このエイヴィヒカイトのプログラム、ホントに大丈夫なんですか?」

ティアナ「ちょ、スバル!」

シグナム「構わん。それより、そうなのか?テスタロッサ」

フェイト「はい。私の剣では倒せないと言われました」

ヴィータ「……でもなのははヴィルヘルムに有効打を与えられたんだよな?」

なのは「うん。あれが効いてないんだったら私は生きてないよ。それほどまでに強かったし相性も悪かった」

エリオ「相手によるんでしょうか?」

はやて「わからん。でも私達はこれに頼るしかないんや。…もう負けん。誰も殺させない。皆、一対一の戦闘になるかもしれない。死ぬかもしれない。それでも、やってくれるか?」

なのは「もちろん」

フェイト「うん。もう負けたくないから」

トリファ「ああ…スワスチカも既に四つ…それに先の連続開放…体の方は大丈夫ですか?ゾーネンキント…エリーゼ」

エリーゼ「…このくらい」

トリファ「ああ、それと…ドライさんが負けました。トバルカインは現黒円卓最強の攻撃力ですからね」

エリーゼ「え…そんな…」

トリファ「大丈夫です。あなたは、私が救う。私の子供達も私が救う。そのためには…急ぐ必要がありますね」

エリーゼ「…神父…何を?」

トリファ「いえ…エリーゼ、あなたを救ってあげましょう、という事ですよ」
75 :1[saga saga]:2011/04/16(土) 23:33:50.79 ID:Al4ym1I0o
彷徨っていた。ここは何もない、夢。ただ広いだけの白い空間。明析夢というやつか。そこに何か影が現れる。

「…何だ?」

影「やぁ、初めまして息子よ。私は、聖槍十三騎士団黒円卓第十三位、副首領、カール・クラフト=メルクリウスだ」

「な…!」

そして思い出した。俺はカインに押し負けてそれからの記憶がないということに。そして今、こいつはなんと言った?副首領?息子?

メルクリウス「なに、今君をどうにかしようなどとは思っていない。すこし助言をしてやろうと思ってね」

「そうじゃねえ。本物か?どうやって…それに息子だと?」

メルクリウス「あぁ、人の夢をいじるくらいは造作もない。それくらいは君も分かっているだろう。そして…息子。君は私が造ったのだ。いわば私の使い魔、アガシオン。副首領の代替品。故に君はツァラトゥストラと呼ばれるのだよ」

「待て…それはどういう…」

メルクリウス「言葉通りの意味だ。君の作られた研究機関は私の息がかかっていた。ちょうどいい死体があったから君を造った。だが、君の出自など本来どうでもいいのではないかね?」

「……ああ、そうだな。大切なのは今だ。で、何しに来たんだ?」

メルクリウス「いや、君が予想以上に面白いのでね。もう少し背中を押してやろうという気分になったのだよ。トバルカインに負けたようだが、君は本来ならばあれに負けるなど有り得ないのだよ。壺毒…知っているだろう?」

「ああ……そういうことか」

メルクリウス「ああ、そういうことだ。あの研究所内のすべては君に喰わせるための生贄だ。そして君は彼らを殺し最強の私の使い魔となった。我が盟友、それに私を満足させうる、聖遺物を操る聖遺物に……ね」

「だからやつらには負けないってか?まるであいつらも生贄だな」

メルクリウス「そうであってそうではない。彼等は悪魔に魂を売ったのだ。そして望みを叶える。何も不都合はない」

「……まあ関係ないけどな。俺はあいつら全員斃すだけだ」

メルクリウス「それでよい。毒壷の王よ。面白そうなら私も参加しよう。君の望みを創造すれば、彼らの魂をも凌駕する」

「ああそうかい。お望みどうり、ラインハルトもお前も殺してやる」

メルクリウス「それはそれは。楽しみにしているよ。さぁ、そろそろ目覚めよ。呼ばれているぞ」



そうして意識は浮上していった。気がつくと唇には何か、柔らかいものが押し付けられていた。今まではフェイト、彼女が俺を呼び覚ましていた。ならこれも君かい?




フェイト?「ふふーん…起きた?お姫様のキスで目覚めるなんて贅沢ねー」

「な…お前!」




ああ、フェイトじゃあない。体が動かないし、見間違えるはずもない。目の前に居るのは―――



「マレウスッ」
76 :1[saga saga]:2011/04/16(土) 23:36:32.96 ID:Al4ym1I0o
ルサルカ「あーあー、ちゃんとルサルカって呼んでよー。今はプライベートなんだからね?」

「くっ……」

ルサルカ「動けないもんね。不安?確かに私は今すぐにでもここのスワスチカを開けるけど…君の態度しだいじゃ考えてあげようか?」

「…………」
最悪の展開。これは病人と医者達を人質に取られた様なもんだ。

ルサルカ「あはっ、きっつい目だね。そんな邪険にしないで?私、あなたとこういう関係になるのはあまり望んでなかったんだからね。

「…………」

ルサルカ「信用してないのね。でも、すぐに状況に合わせられるところ、あなたの美点よ」

「…………」

ルサルカ「やぁだ、ちょっとくらいおしゃべりに付き合ってくれてもいいじゃない。そりゃ、気分じゃないのは分かるけどさ」

「……何がしたいんだ、お前は」

ルサルカ「ふぅむ…何がしたいねぇ……分かんない。ああ、いや、別にふざけているわけじゃないからね。私も言われて不思議になっちゃって」

「ふん……ならさっさとこれ解けよ」

ルサルカ「嫌よ。これ解いたらあなた私を殺そうとするでしょ?だから解かない。少し話させてよ」

「……お前が人を殺さないって言うんなら」

ルサルカ「はいはい分かったわよ。ホントにあなたって変な人。ねえドライ」
顔を寄せて覗き込んでくる。息がかかるような近距離で囁くようにこいつは言う。

ルサルカ「どんな気分だった?あの人を前にして。まさか、勝てるなんて思ったわけじゃあ、ないわよね?気になるなあ。あなたのそういうところ、とても気になる。やせ我慢が通用する格差じゃないと思うんだけどね。何を根拠に…あなたは強いの?」

「……じゃあ俺からも聞くが、お前、あんなのに何を望んだんだ?」

ルサルカ「質問返し?まあいいけど。私はね、永遠になりたいの」

「永遠?永遠の命ね…何がいいのか、まったく理解できないな。それのために人を殺してきたなんて、今すぐにお前を殺してやりたいよ」

ルサルカ「――だって、私、歩くの遅いから……」

「ん?でもな、そんな化物みたいなの知ってるけど、いいモンじゃないと思うぞ。俺はそんなのごめんだね」

ルサルカ「……そう。あなたはまだ…」

「え?なんだ?」

ルサルカ「ううん。なんでもない。同じような事を言ったやつが、昔居たのよ」
そういうルサルカの目が、どうみても化物に見えなくて…俺は…

「へぇ……気が合うな。お前も、そいつみたいに生きればよかったのに」

ルサルカ「それ、死ねって言ってるようなモンだよ?私結構長生きなんだから」

「……今からでも遅くないだろ。どうせ永遠なんて理想と違うんだ。そんなこと辞めちまえよ。それで真っ当に生きればいいじゃねえか」

ルサルカ「……。あはは、そんな事言われたの初めて。でも今更だよ」

「………そうでもないさ」

ルサルカ「へぇ…ホントにあなた……いいわ。でも、今日はもう駄目かな。レオンが来ちゃった。あの子、今余裕無いからここで開くつもりね。私がここに居る局員追っ払っちゃったからあなたしかいないけど…」

「レオン…櫻井かッ!おい、ルサルカ。拘束を解いてくれ!」

ルサルカ「……んー、ここをレオンに取られるのもなんだし、今は私に手を出さないって約束したらいいよ」

「……お前も病院には手を出さないか?」

ルサルカ「今日はプライベートだし、面白い話が出来たからそれでいいわ」

そう言うと同時に、体が動くようになった。ベッドから飛び起き、ルサルカの目を見る。

「おい、約束破ったら、魔女裁判みたいな事してやるからな」

ルサルカ「おーおーそれは怖い。そんなのごめんだからおとなしくしてるよ」
その言葉を聞きドライは病室から飛び出した。
ルサルカ「はぁ…何のために…か。私は……またあいつに会いたいだけなのにな」
その小さな呟きには誰も答えなかった。
77 :1[saga saga]:2011/04/16(土) 23:37:57.92 ID:Al4ym1I0o
病院の外、人に被害を出さない為に、出来るだけ離れたところ、そこで櫻井を迎撃する。

「引く気は……ないだろうな」

螢「ええ、それならこんなところに来ない。でも、あなただけなんだ。せめて三人はいるかと思ってた。私にはもう時間がないの。すぐに残りのスワスチカを開かなければいけない。ここで、死んで」

「――――――ッ!」
一撃を横に飛んで回避する。地を走る炎が進行方向にあった大樹を一瞬にして燃え上がらせる。

螢「ほら、この前のが私の実力と思ってもらっては困る。あなたがここで死ねば、少なくともここの病人達の命は守れるわよ?」

「おまえ、本当にいちいちムカつく女だな」

螢「あなたこそ。でももう終わり。第一は活動、第二は形成。あなたの位階はそこまで。いや、あなたたち……ね。だけど私がいるのは第三だって、忘れたのかしら。教え甲斐のない人ね。形成の私と互角以上に戦えたから、いったい何?今はもう、加減する必要がないわ。だからちゃんと教えてあげる。私の本領と、それがどういうものなのか」

燃え上がる炎の勢いと反比例するかのように、体感する熱気がゼロ同然へと落ちていく。こんな事は有り得ない。まるで櫻井そのものが、この世界から切り離されていくかのように。

螢「これが創造位階……ルールの創造。魂の渇望が満たされる世界を創ること。私のルールはね、ドライ」

瞬間、爆発する火柱と共に櫻井が変生した。髪も肌も緋色に染まり、いまや背景すら透けて見える。まさしくそれは炎――――

螢「この誓いを、私の中で未来永劫なくさないこと。誰も巻き込まない。誰にも邪魔させない。二度と私のせいで好きな人たちを死なせない。取り戻してみせる。そしてそれが叶うまで、誰も要らない。一人でいい」


螢「Briah――――――!爾天神之命以布斗麻邇爾ト相而詔之」


火は切れず、穿てず、砕けず、折れない。遅まきながら形成した手甲も炎と化した櫻井を捉えきれず―――

切り札、それは確かに、必殺の技と言って間違いない第三位階の発現だった。




(く……一旦距離を――――)

螢「それはさせない」

真横になぎ払われた一撃は、剣の間合いを無視して俺に届く。寸前でかわしたものの、十メートル近くの距離を離れたにも関わらず胸元を切り裂かれた。

螢「火は不定形。ねえ、私のほうが強いでしょう?あなたに私を斃す手はない」

火は掴めない。火は殴れない。それで防御も攻撃も封じられた。だが、それよりも……

「……………こんなものがお前の望み?お前は好きな人を生き返らせたいのか?」

螢「……ええ、そうよ。私は、あの瞬間を取り戻す為に戦ってる」

「死人の為にか。永遠だとか、死人のためにとか、お前ら頭がおかしいぜ」

螢「……じゃああなたはどうなの?仮に、あなたの大事な人が死んだら?」

「はッ。俺が大切なのは今なんでね。そもそも死なせない!」

拳を叩き付ける。しかし熱気が撒き散らされただけで櫻井には傷一つない。

螢「ああ、それは本当にかっこいいね。幸せで、おめでたくて、想像力のない腹の立つ人。あなたは、例えばあの金髪の人が死んでも何もしないの?本当にそれを実行できるなら、強いけど冷たい人ね。誰も愛したことがないんでしょう。ふふふ……死人との再会を望むのが頭がおかしい?」
俯いて、肩を震わせ、櫻井は笑っている。俺の言葉を心底馬鹿にするように。許さないと糾しながら罵るように――――
78 :1[saga saga]:2011/04/16(土) 23:39:49.51 ID:Al4ym1I0o
螢「ご名答よ、私はおかしい!こんなのとても正気じゃやってられないッ!でも、あなたも私と同じになる。あなたの仲間、アレはせっかくあなたがエイヴィヒカイトへの対抗手段を持たせてあげたのに、てんで相手にならない。聖遺物の株分け……それが出来るあなたの聖遺物は私達のとは格が違う。でも、それでもきっと今日明日にも、あなたの好きな人は死ぬわ。私達と戦ってね。いい気味よざまあ見ろ。あなたもきっと私と同じになる。それで、どう?そのときあなたは何を選ぶ?私と一緒に残るスワスチカを開いていく?いいわよ、一緒に頑張りましょう。二人で競争しながら殺して捧げて、仲良くハイドリヒ卿にお願いしようよ。私達の大事な人を返してください。後4つ開いて黄金練成を完成させれば、死人だって生き返る!安い取引よ。名前も知らない何処かの誰かを千か二千か殺すだけで、亡くしてしまった掛け替えのない人を取り戻せる。それが私の望む奇跡!この街のスワスチカが成す不死の創造――否応もない!」

俺に剣先を突きつけて、櫻井は吼える。だから殺すのだと。戦うのだと。生き返らせたい死者のために、奇跡の代償である生贄を捧げ続けているのだと。なるほどこいつはやつらの殆どと違い唯の殺人狂ではない。だが…

「ふざけるな」

あまりに短絡。お前は馬鹿だ。度し難いほどの馬鹿だ。永遠を生きるなんてルサルカも大概だったが、度し難いほど頭が悪い。

螢「そいつらにも大事な人はいただろう……なんて綺麗事言わないでよ。私にとっての唯一無二は、そこらの有象無象と比べられない」

「当たり前だ」

そんな事、俺だって綺麗事を言うつもりはない。命の価値は等価じゃないなんて、俺が実を持って知っている。だが…

「お前、自分で言っても気付かないのか」

螢「何を?」

それほど大事に思っていたのなら……

「掛け替えがないってことは替えが利かないってことだクソ馬鹿!千か二千かそれっポッチで、戻るモンなんざ安っぽすぎて唯一でも無二でもねえんだよッ!なんにでも釣り合ってたまるか!お前がやってることは舐めてんだよ、ふざけんじゃねえッ!そんなクソくだらないモンのために、俺のせかいは渡さない。お前はそこらのゴミ山で漁ってろ」

螢「……ゴミ?ゴミと言ったの?――取り消せ」

「ゴミだろうがよ。お前らが捻り殺したエキストラで生き返る命なんか。人殺しが蘇生だ不死身だの図々しい。ゴミ屑いくら寄せ集めても、黄金になんかなるわけないだろ。おまえは安い取引で好きなものの価値を下げてるんだよ!」

螢「―――うるさいッ!うるさいうるさいうるさいうるさいッ!あなたに、あなたに何が分かる!何も亡くしてないくせに、のうのうと生きていただけのくせに!私の、私のいったい何が―――何が分かるって言うのよッ!」

怒号は爆炎となって広がりそれが推進力に変換される。憤怒に顔を歪めた櫻井は、泣き叫ぶように吼えて地を蹴った。そのまま激情と共に切り込んでくる。しかし唐突に、次の瞬間―――




??「見苦しい。貴様の負けだ小娘」





螢「ああぁァッ―――」

一瞬で、何かに叩き潰されていた。

「―――なッ!?」


??「そして貴様の口は良く回るな小僧。流石は副首領の代替か」


螢「ぁ、ぐ……ぅぁ……」

櫻井は正体不明の圧力に潰され、しかし恐怖の形相で上空を見上げている。そこには、赤い、赤い、紅蓮の陣。病院の敷地を覆い尽くし、内部にいる総ての者を瞬時に消し去れるであろう圧倒的な力を感じさせる。まるで巨人の掌にでも乗せられた気分だ。真紅に瞬く方陣は炎の塊。その熱量も禍々しさも櫻井のそれとは桁が違う。

焦熱地獄。

??「全員動くな。蟻の一匹さえも逃さん」

螢「ザミエル、卿……」

「赤化(ルベド)……」
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/04/16(土) 23:40:40.63 ID:HJgEIKDk0
ほぅ
なのはとfateのやつはいくつか知ってるが、Diesは初めてだ
これは期待
80 :1[saga saga]:2011/04/16(土) 23:47:02.03 ID:Al4ym1I0o
>>79
それ気になるな
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/04/16(土) 23:47:34.57 ID:HJgEIKDk0
首領って二期のリインでも戦うの辛くね?
82 :1[saga saga]:2011/04/16(土) 23:50:42.27 ID:Al4ym1I0o
ラインハルト強いからねー普通にリィンフォースTより強いだろうねー
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/04/16(土) 23:57:06.09 ID:HJgEIKDk0
>>80
なのは ss でググれば色々でてきた

魔法VS魔術って燃えるねー
でもこの状況じゃ、ヴィヴィオとアインハルト、トーマ、さらにフッケバインも全員でないと負けそう

これはwktk
84 :1[saga saga]:2011/04/17(日) 00:08:30.00 ID:4eiZ1Dzao
>>83
トーマとフッケバインは出さないよーイクリプスが分からんからねートーマくらいは出そうかと思ったけど
85 :1[saga saga]:2011/04/17(日) 02:25:24.20 ID:4eiZ1Dzao
ザミエル「開くのが遅いぞ情けない。私がこじ開けてやろう。聖槍十三騎士団黒円卓第九位、大隊長――エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグ=ザミエル・ツェンタウァ。さあ参れ、副首領の落とし子。私の炎で、ハイドリヒ卿へ捧げる者を見てやろう。鈍刀なら、骨も残らないと思え」
奴を見た瞬間直感する。格が違う。次元が違う。この世界に在るべきではない地獄の住人だと。

ザミエル「魔女がいるな。動くなと言ったはずだが。まあよい。立て小娘。行動を許可する。ここまで上がってくるがいい。魔女が何か言いに来るみたいだが、奴の戯言など聞く耳持たん。貴様が相手をしろ」

螢「……は」

櫻井は物言いたげな目で俺を睨んで、屋上へと行った。今はあいつなんてどうでもいい。

ザミエル「さて、貴様には参れと言ったはずだがな、小僧」

黒円卓の大隊長、こいつの力はおそらくは櫻井の十倍以上と思って間違いないだろう。

ザミエル「どうした?来ないのか?これは貴様の距離ではあるまい。ああ、それとも……私の技を見抜いているのか」

「―――――――――ッ」
無意識に飛び退くとまったく同時に、さっきまでいた場所から火柱が吹き上がった。

ザミエル「いい勘だ。まずは及第」
続く爆発は間断なく連続し、炎と土煙を巻き上げる。病院の庭が今や地雷原、それか爆撃機の絨毯爆破か。

「クァ―――――」
このままじゃ近づけない……砲撃手に上を取られた時点で圧倒的に不利。飛んでも、俺の飛行、というか走行は皆よりつたないから確実に打ち落とされる。最初から詰んでいる。どうする―――――

ザミエル「打つ手なしか。あまり落胆させるなよ。それでハイドリヒ卿に戦いを挑む気か?ならば死ぬがいい。鍛え直せとは言われたが殺すなとも言われておらん。さあどうする」

戦慄―――今まで下から吹き上げるだけだった火柱が、不意に横からの物に変化した。何もない空間からも唐突に四方同時に噴出する。

それを避けるには跳ぶしかなく……身動きの出来ない空中で無防備を晒すしかなく…それを紅蓮の炎で撃墜された。

「ぐ……あ、がぁ――――」
手甲で防いだが、それだけではどうしようもなかった。動けない。声も出ない。爆発的なその奔流に俺の体ははじき飛ばされ、既に痛みすら感じられない。

ザミエル「ほぉ、燃え尽きんか。大したものだ。では、これではどうかな」



見上げた視界に移るエレオノーレ。その前方に炎の印が組まれる。今までとは比較にならない熱量が、そこに凝縮している。


「う、おおおおおおおおお―――――」

駄目だ、アレは駄目だ。動け、這ってでも避けろ。あれを喰らえば魂まで蒸発する。

ザミエル「いいぞ足掻け。避けてみろ。私の砲から逃れられた者は一人もおらんが、試してみるといい。これを凌げるかが分水嶺だ。行くぞ」

「ぐッ――おおおおおおおおおオオオオオオオオオ!」

魔弾は発射寸前。この位置はやば過ぎる。あの獄炎が地面に着弾すればまず間違いなく遊園地の二の舞だ。そんな事はさせない。立つだけでは駄目だ。避けるだけでも駄目だ。ここでやるべきなのはたった一つ。

「――――跳べェェェェェェ!」

瀕死の体を無理矢理強化して跳躍した。これで―――

ザミエル「見事、英雄的だな。だが愚かだ」

「後は俺が――――!」

ザミエル「ほう、真っ向勝負という事か。面白い」
86 :1[saga saga]:2011/04/17(日) 02:26:43.02 ID:4eiZ1Dzao
右腕の、鬼共が騒ぎ出す。憎いと、呪うと。

空中での回避不可能の狙い撃ち。轟砲一閃、大火砲が放たれ、視界を真紅に染め上げる。その威力も脅威も嫌になるほど分かっている。これをまともに受けて無事な奴など、おそらくどこにも存在しない。


故に、殺す。全身全霊、全力を持って、乾坤一擲の覚悟と共にこの砲撃を呪い殺す。無茶も無謀も知った事か。この聖遺物は何より、呪殺にのみ特化したもの――――!


「おおおおおおォォッ――!」

奔る巨大手甲。空を裂く呪いの凶つ声。燃焼して弾けろ魂――――後のことは考えない!こんな、こんな虐殺など絶対に認めない!死んでたまるか、俺はお前らに勝つッ!





迫る紅蓮の焦熱に拳が届いたその瞬間、弾ける火炎の爆発で俺の意識は吹き飛んだ。





轟く大音響と炎の大輪が夜に裂く。火砲の一撃は四散し消滅し、それを成した者は煙を噴きながら屋上に墜落した。

ザミエル「……ふむ。私が万全であったなら……などと言うのは侮辱だな。見せてもらったぞ、素晴らしい意気だ。心から賞賛しよう」

ルサルカ「な……いくら半分ほどの実力しか出せないからってザミエル卿の砲を……」

ザミエル「しかし困ったな。主命の一つ果たしたが、スワスチカの開放はなっていない。貴様がその様では、結果を盗んだようで心苦しい。男の意地には応えてやる主義なのだが……貴様にとっての敗北はこの地を失う事。先の一戦は貴様の勝利。ならば二戦目も尋常にいきたいな。私にとって勝利は盗み取るものではない。立て青年。勇者ならば無理を通せ。ハイドリヒ卿は私ほど甘くない。常識を超えて見せろ。無から搾り出せ」

ザミエル「最早立てぬという状況から立ち上がる力。圧倒的戦力を覆す奇跡。史上英雄と呼ばれた者はそういった事柄を成したからこそ称えられる。無理という単語など、英雄にとっては更なる飛躍のための起爆剤だろう?それに……」

ルサルカ「……あ」

螢「…………」

ザミエル「局面を打開する天使の降臨……それも有りだ。女神に愛されるのも英雄の条件」

倒れ付すドライの前に、エレオノーレの方陣を切り裂きフェイト・テスタロッサ・ハラオウンが現れた。
87 :1[saga saga]:2011/04/17(日) 02:28:17.55 ID:4eiZ1Dzao
―――――――


「な……酷い」

病院の異変を察知して飛んで来ると、まず真っ先に目に入ったのはぼろぼろのドライだった。この間の櫻井螢は赤髪のルサルカに剣を向けて抑えている。おそらくはドライとあの女が一騎打ちをしたのだろうと予想する。

「動くな」

ライオットザンバーを展開し突きつける。

ザミエル「ほぉ……それはつまり、私を相手にするという意味か?」

「それ以外にどうとれる?」

ザミエル「そうだな。無謀だが……な。だが、彼にはまだ戦ってもらわなければ。ここのスワスチカを賭けて……」

「駄目に決まっている!ここで、お前を……!」

奔るザンバー。それは的確に、エレオノーレの首へと吸い込まれた。エレオノーレは避けようともしない。そして――――

フェイトの剣は、首の薄皮一枚も切ることは叶わなかった。

ザミエル「……殺すか?この程度で?貴様は戦いというものを解っていない。血の何たるかを知っているのか」


「な、―――」


ザミエル「知らなかったか?私は不死身だ。だが、これではそこの小娘1人も殺せまい。貴様は殺人の何たるか、まるで理解していない」

「え……」

ザミエル「ああそうだ。殺意だ。殺すという覚悟だ。それが貴様にはまるで無い。この程度の鈍刀でよく私の前に姿を現したな」

「え、ぁ―――きゃあッ」

肩を掴まれて投げ飛ばされた。飛行する暇も与えられず地面にぶつかり跳ね飛ぶ。壁にぶつかり目が眩む。

「あ―――、つぅッ」

次は腹を蹴られて飛ばされる。手も足も出ない。殺意が足りない?殺す気で?私は殺す気で剣を振ったのに……

ザミエル「殺意が無い。貴様らの魔道は人を傷つけないものだったな。それでは駄目だ。殲滅する気が無いのだろう?私達をも殺さず制圧できればと考えているのだろう?舐めるな。そんな思いで殺されるほど我々は甘くは無い」

「それでも……もう、ドライばっかり傷つけさせない」

この力が通じないのは殺意が足りないから?ならドライはどれだけの殺意を持っているの?本当は殺しなんて大ッ嫌いなのに。自分を傷付けながら戦っていたの?



(もうそんな事はさせないからね……)


そう思って決死の覚悟で切り込もうとした時だった




「――――――――」
88 :1[saga saga]:2011/04/17(日) 02:29:37.17 ID:4eiZ1Dzao
急に、がしっと後ろから抱きしめられる。

ザミエル「お目覚めかね、気分はどうだ?」

ドライ「……てめえ」

切り込むタイミングを逃したけど、それでも、泣きたいくらいに嬉しい。

ドライ「なに俺の女ボコってんだ、殺すぞ」

「え、ぁ……えぇ?」

いきなりそんな事言われても……

ザミエル「それは失礼。主命の一環だったものでね。だが効果はあったようだ」

(え、私無視されている?これでも死ぬ気で、この女を斃そうとしたんだけど。なんでいいところ持っていくのかな。酷いやドライ)

とか思いながらも、頬が緩む。

ドライ「フェイト」

「―――はい」

ドライ「すまない、俺のせいで。痛かったろ」

「ううん、全然。ドライに比べたら……」

今はあなたが起き上がったことが何よりも嬉しい

「ねぇドライ、一緒に戦おう」

ドライ「え……?」

「一緒に勝とう、私が何でもしてあげるから」

ドライ「あ、と…その……え?」

私を抱きしめるドライの手が、ボロボロに焼け焦げているのが許せない。よくもよくもこんな―――――

「わたしの男ボコってんじゃないわよ、誰にも渡さないんだから」

ドライ「なッ―――」

ザミエル「ふふ、ふふふふ……いいぞ、まったく面白い。実に小気味いい啖呵だよ。かかって来い!あまりもったいぶっていると、この区画ごと消し飛ばしてしまうぞ」



「そんな事―――」


ドライ「させるかよッ!」
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/04/18(月) 19:28:04.69 ID:CKlRc22c0
同じ金髪でかけてるんだろうか?






それより創造マダー?
90 :1[saga saga]:2011/04/18(月) 21:20:49.01 ID:P1sP57LMo
>>89
ちょっと平日はきついかも。さっき帰ってきたし。まあ本番はまだ…ね?
91 :1[saga saga]:2011/04/24(日) 17:42:21.27 ID:fcjHqo9yo
―――――――――


腕も体もボロボロだが、腕に感じる温かさが何よりもいとおしい。今ならば誰にも負ける気がしない。そう、今ならなんだって出来る。

ザミエル「ほう、位階が上がるか。まったく素晴らしい!貴様に心からの賛辞と灼熱をくれてやる」

再び魔砲が向けられる。それを撃たせまいと疾走しようとした瞬間……



??「退け、ザミエル。俺の獲物を獲るな」



「―――――ッ!」

フェイト「何時の間に……!?」

エレオノーレの後ろに佇む強壮な男。それは武と暴が究極域で合致したような神造作品としか思えない。

「こいつは……」

ルサルカ「マキナ……卿……」


マキナ「聖槍十三騎士団黒円卓第七位」
その光を発さない暗い瞳……堂々たる体躯と身に纏う破滅的な重圧にそぐわない、死んだ魚のような目を俺に向けて言った。

マキナ「ゲッツ・フォン・べルリッヒンゲン……懐かしいな、兄弟」

ザミエル「おいマキナ、どういうことだ。これは私とあいつとの戦いだ。おまえの獲物をとることはせん。邪魔をするな」

マキナ「なに、ハイドリヒに第五は俺が開けと言われただけだ。お前の受けた命令はあれを鍛えるだけだろう」

ザミエル「……あぁ解ったよ。ハイドリヒ卿のご命令であれば私は退こう。だが貴様はどうやって開くのだ?」

マキナ「無論、戦いで。そうだろう兄弟」

「……あぁ、おまえら全員、ここで殺しても足りねえよ」

右腕は最高の呪を孕んでいる。これを受けて無事なものはいないだろう。自己の渇望を具現する創造位階…そんなものいまなら簡単に出せると信じ込む。

マキナ「……だがな、その渇望では俺には勝てん。ハイドリヒなど論外だ。出直せ」

マキナが構える。それにあわせて拳を握る。聖遺物の駆動には問題ない。いけるはずだ。この胸の滾りを、その渇望を形にする。それを目の前のやつらに叩き込む!

「おおおおおおおおおおおお!」

マキナ「……それでは俺には勝てん。残念だ兄弟」

巨大手甲がマキナの拳と激突する。力では拮抗した。いや、単純なパワーでなら勝っていた。だが……

「ぐ……ぅ……」

マキナに右腕を殴られた。それだけで右腕に宿した鬼は悲鳴を上げている。

マキナ「ああその聖遺物は大したものだ。我々のものと比べても格が違う。だがな……怨みなどで死んでやるほど俺達は優しくない。練度が足りなかったな」

もう一撃、マキナの拳が襲い掛かる。それを咄嗟に右腕で防ぎ……

「な―――――――」


そうして右腕の聖遺物は砕け散った。
92 :1[saga saga]:2011/04/24(日) 17:44:50.94 ID:fcjHqo9yo
マキナ「……聖遺物だけでスワスチカが開くか。そしておまえは死んでいない。やはりその聖遺物は別格だったな」

ザミエル「少々味気ないが、これで第五は開いた。なら、ここでこれ以上の戦いは無用だ。喜べよ代替。おまえの努力、身代わりで最愛の人々は守れたぞ。だが、ここからは別格だ。せいぜい牙を手にいれ磨くんだな。それくらいで使い物にならぬやつに興味は無い」

マキナ「だがこれで五つ目のスワスチカは開いた」

??「ええ、これであなたたち大隊長を存分に使える」

「な――――――――ッ」

フェイト「なに……あれ」

空……ミッドチルダの空に不可視の髑髏の城が顕現していた。そこから少年の声が響いてくる。

??「第五の開放、大儀であったマキナ卿」

マキナ「構わん。俺はあれと本気の勝負が出来たらそれでいい」

ザミエル「……ではな代替。それとその女神。おまえ達の力、我らに届く事を期待している」



そういい残しやつらは消えた。見逃されたのだ。今追っても届かない。またしても圧倒的な力の差を見せ付けられた。だが、デバイスまで壊されていないのは暁光だ。あれで全力ではないのは脅威だが、それで救われた面もあるということか。

フェイト「ドライ……」

「フェイト……エイヴィヒカイトのプログラムを。俺のデバイスに入れてくれ」

フェイト「うん。でも、その前に……そっちへの対処が先かな」

フェイトが見据える先には、ルサルカと櫻井がいた。

螢「……今ここで戦う気は無い。ここのスワスチカは開いてしまった。ここであなたたちを殺してもどうしようもないもの。私達も帰る」

ルサルカ「…………」

櫻井は言葉通りにあっさりと、ルサルカは俺を一瞥して去っていった。だが、髑髏の城は未だに上空に浮かんでいる。

「……あの城が実体を持ったら俺達の負け……なんだろうな」

フェイト「うん。でも、そんなことはさせない……そうでしょう?皆いるんだから……負けないよ」

「ああ……俺1人じゃ無理だ。でも……皆が居れば怖くない。フェイト、一緒に戦ってくれるか?」

フェイト「もちろん」

不可視の髑髏の城の下で、笑う君のために。必ず勝利を……
93 :1[saga saga]:2011/04/24(日) 17:46:58.79 ID:fcjHqo9yo
―――――――――――――


思えば、考えれば分かることだった。そんな甘い話はないと。永遠なんて手に入るはずがないと。でも、あの黄金を見て、あの水銀を見て、何かを忘れてしまったんだと思う。常軌を逸した怪物達を見て、怖かったけど、願いが叶うと錯覚したんだ。

でも、大隊長と、あの髑髏の城を見て確信した。永遠、不死、それはあの一部となる事。獣の鬣の一部となり不死英雄として永遠に殺し合う。総てがハイドリヒ卿に飲み込まれるという事。

「何でこんな事に気付かなかったのかな。私ってホント、馬鹿」

でも、あなたのおかげで思い出したよ。あの人と似ていて、同じ言葉を言った人。大隊長に真っ向から立ち向かう、ハイドリヒ卿も怖れない人。私も、あなたみたいに立ち上がろうと思うよ。この先の部屋に居る、同じ馬鹿娘を連れて。




扉を開くと、櫻井螢がカインを眺めているのが目に入る。今にも腐りそうな巨人を眺める娘はホントに弱弱しい。


「ねぇレオン。あなた、ちゃんと気付いてる?」

螢「……なにをしに来たマレウス。笑いに来たのか?」

「違うわよ。でも気付いてるんなら上出来ね」

螢「…………」

「そう邪険にしないでよー。嫌われてるのは解ってるんだから。で、クリストフなんて信用できないし、ベイは論外だよね?」

螢「……何が言いたい?」

「もう、鈍いわねー。手を組みましょう?」

螢「断る。聖餐杯は信用も出来ないが、おまえも信用できない」

「裏切る気なんて無いんだけどなー。いいわ。あなた、ツァラトゥストラのところに行きなさい。彼なら投降して協力する人を害したりはしないから。彼じゃなくても誰でもいい。それくらいならいいでしょ?」

螢「……いいだろう。」

「よろしい。……生き延びなさいよ、レオン」

螢「え……」

今の言葉が以外だったのだろう、レオンは変な顔で固まっている。自分でも柄じゃない事はわかってるけど。今はなんだか、あなたも生きていてほしいと思う。おかしいかな?こんなに絶望的な状況なのに、少しだけ嬉しい。


――――――――――


はやて『そうか、あの城は…』

「ああ、今は手を出さずにスワスチカの開放を妨害するべきだ。おそらく……今日が」

はやて『わかった。ドライ……大丈夫か?』

「怪我はもう大丈夫だ。一応聖遺物の残滓も残っているからな。そっちこそ、大隊長には気をつけろ。今は戦力を分散せざるを得ないから……」

はやて『私も部隊長や。そうそう簡単に落ちへんよ』

はやてとの通信を切られる。上空に不可視の城が出現して数時間。あれから戦況に動きは無い。フェイトは空から街を見回っている。俺は教会に向かう。
94 :1[saga saga]:2011/04/24(日) 17:48:33.28 ID:fcjHqo9yo
―――――――――――――

私は、あなたに謝りたいと思ってるの。戦意は折れて、意思は挫かれて、炎は消えてしまった。私のやってきたことなんて馬鹿な子供の思い込みで、何も生み出さないで不幸をばら撒くだけの暴走だった。それを思い知った。彼の言う通り、替えなんてきかないのにそれを願って、それなのに自分で彼も彼女も貶めてしまった。

永遠に開放されない戦奴の誉れ。そんな狂った祝福を得るために、私は戦ってきたんじゃない。だから、今のうちに憎む人に殺されたら獣の祝福から逃れられるのではないかと……

「でも、あの人馬鹿だから」

本当に残酷だから。きっと殺してはくれないんだろう。マレウスはなにかやる気でいたけれど、本気ですらない大隊長に手も足も出ない私なんかじゃきっとどうしようもない。

だから嫌なの、苦しいの。萎えた戦意を無理矢理起こし、消えた炎を再び灯し、いつも通り憎々しげで可愛げのない、敵としての櫻井螢を偽装しなければならないことが。でももう少し、弱い私で居る事を許してほしい。頑張るから、外側だけ格好をつけることは得意だから。あなたもそうだよね?

「嫌い」

ドライは敵で、邪魔な人で、戦わなくてはならない相手。私の望みを叶えるために必要で、同時に障害となるべく用意された駒。希望へといたる戦場、ヴァルハラの敵手として配された黒円卓の恋人。その人が、その気配がこっちにやってくる。私を奮い立たせる魔砲の言葉を、どうか口にして欲しい。分かり合えず、混じり合えず、相容れない不倶戴天。それを感じさせてくれるなら、私もまた完璧に、あなたを憎む獣の爪牙へと戻るから……

視線を感じる。ここにもう1人がやってきた。私は目を閉じ、呼吸を整え、意を決してから振り向いた。これが私の最後の戦い。希望を求めて絶望に落ち、愛すべき二人の騎士を戦奴にしてしまった、私の罪を清算する刑を今、ここに。
95 :1[saga saga]:2011/04/25(月) 00:18:05.23 ID:7FkVkxEHo
―――――――――――


教会へ向かう途中、その公園。シュピーネが死んだスワスチカ。何か、弱い気配があると寄って見たらそこに櫻井螢は微動だにせず佇んでいた。長い黒髪が風に舞い、月光が彼女の華奢な肩や首を照らしていた。そして、見た目とは裏腹に、脆い。目には病院で見た意思が消えている。

「薄いぞ、櫻井」

螢「それはあなたもでしょ。いくらあなたが丈夫でも、いくらあなたが馬鹿な人でも、もう余裕なんて何処にも無い」

「確かに、聖遺物を砕かれ、今までのようなことは出来ないかもしれない。でも聖遺物が無くなろうが俺はまだ戦える。それが最初に撒いた俺の種だ」

そう、プログラムを入れた。状況的には後が無いが、拳はまだ握れる。だから戦う。

「それと、おまえの目的……だいたい予想はついたよ」

螢「そう。参ったな。あまり知られたくは無かったけど。あなた、意外と鋭いから流石に気付いちゃうか」

櫻井は自嘲気味に笑っていた。嫌な事が知られてしまったと、そんな子供みたいな顔で。

螢「それで」

何が言いたいと、どうしたいと、櫻井の目はそう言っている。

「死体を抱きしめて泣きでもしたら奇跡が起こって蘇る。そんなハッピーエンドなら、俺は祝福くらいしてやるさ。でもよ……」

こいつの望みは、黒円卓の祝福はそんな夢物語ではない。1人生き返らせるのに、数千万人を殺して捧げ、その魂が奇跡の代金として持っていかれる。そして生き返らせようとしているのはおそらく、俺の前で何百人も虐殺したあの死体……

断じて認めることは出来ない。この街を全滅させて叶う夢など、この街の住人であり、管理局の魔導師である俺が許すはずもない。

「いいか、櫻井。俺は、おまえらを殺す。いや、俺達……だな。もちろん、トバルカインも破壊する」

螢「そう。つまりあなたは、私の敵っていうことね」

言葉と同時に形成する緋々色金。月光を断ち切るように赤い聖遺物が具現化する。その狂気、凝縮した魂の塊。

おまえは、まだそんな歳で、そんな物のために何人殺してきたんだ?

そしてこれから、何人殺すつもりだ?

「おまえは嫌いだ」

螢「私も、あなたは嫌いよ」

緋々色金が燃え上がる。櫻井の戦意に呼応して、より強く激しく形を成す。だけど、それが泣いているように見えたのはなぜなのか。

螢「私は認めない。だから足掻く。なんだってする。泣いて祈れば起きるような奇跡なんて、要らないのよ。ねえドライ」

ポツリと漏れた声と共に、櫻井の姿が朧に霞んだ。

螢「あなた、邪魔だわ」

獅子の剣が迫る寸前に、炎で蒸発した涙の欠片を見た気がした。

迫る一閃。だが驚くほどに稚拙だ。以前までの剣の切れは見る影もなくなっていた。

螢「誰にも邪魔させないって言ったでしょ。後悔させてやる。私と会ったこと、私を助けた事、私に喧嘩を売ったこと。あなたみたいな甘ちゃんに、負ける私じゃない」


「おまえみたいなアホに、俺が負けるか」
96 :1[saga saga]:2011/04/25(月) 00:20:53.09 ID:7FkVkxEHo
――――――――――


(これが、今の私の全力か……)

情けない。本当に私は情けない。でも……

「殺す、ですって……?」

カインを、あの人を、私の大事な彼を殺すというドライ。その言葉を待っていた。そんな事はさせない。私の望みを砕こうとするなら殺してやる。闘志が満ちる。戦意が蘇る。魂が燃え始める。

「誰にも邪魔させないって言ったでしょ。後悔させてやる。私と会ったこと、私を助けた事、私に喧嘩を売ったこと。あなたみたいな甘ちゃんに、負ける私じゃない」

ドライ「おまえみたいなアホに、俺が負けるか」

ええ、そうね。きっとそう。ザミエル卿に立ち向かうあなたを見て、こんな人に勝てるわけないと思っちゃった。

でも、今からこの場を支配するのは私。あなたは私を、憎むべき馬鹿な女と認識したまま戦い斃す。そして気分晴れやかに、次の戦場へ向かえばいい。

私の目的は、今この場で終わること。獣の祝福から逃れる為に、すでに開いたスワスチカで命を落とす。最早それしか道は無い。だから―――

「勝つのは私。あなたなんかには分からない」

今、私は嬉しいの。あなたがあの言葉を口にしたから、下手な演技をしなくてすんだ。同志も戦意もはったりじゃない。理屈とは別に感情が、あなたを許さないと言っている。




振り下ろした渾身の一撃は、片手で受け止められてしまった。まだ形成もされてないのに、受け止められた。そのまま両断しようと力をこめるが、剣はピクリとも動かない。私の炎では彼の髪の毛1本も焦がせない。本当に強いな。

ドライ「そんなもんかよ、おまえ」

初めて会った日から、激変する環境と自分の体と力。あんな聖遺物、普通の人間なら発狂するか自殺すると思うのに。彼は折れなかった。人間らしさを失わずに、力に振り回されずに立っている。普段は甘くて優しそうな顔してるのに、性根はびっくりするらい男で……ちょっとだけ、彼の隣に立つあの人に嫉妬してしまった。

刀身を掴む手に力を込められる。身体が圧搾されるような感覚は、彼がその気になれば私の剣を握り潰せるということを告げていた。

聖遺物の無い、模造品のエイヴィヒカイトで戦ってるくせに、本気でもないのに負ける。十一年間戦い続けたこの私が、心の強さで負けている。それが悔しくて、情けなくて、眩しくて―――

私は、笑ってしまった。
97 :1[saga saga]:2011/04/25(月) 00:22:54.52 ID:7FkVkxEHo
――――――

掴んだ剣を捻り、そのまま櫻井を引き倒した。

螢「――――ぁっ」

ろくに受身も取れずにコンクリートに叩きつけられて、短い呻きをもらし、それきり……馬乗りの姿勢の俺を、振り落とそうともしなかった。


「終わりか、櫻井。随分とあっけない。弱いぞおまえ」

彼女の身体は弛緩して、最早抵抗の気配は伺えない。

螢「あなたが……強いのよ」

掠れた声でそんな事を言ってくる。

螢「悔しい、悔しいな……あなたなんかに負けるなんて、こんな結末、冗談じゃない」

「そう思うなら抵抗しろ」

螢「無理よ、出来ない」

「そうかい。おまえの過去は、そんなに薄っぺらなのか?」

螢「……違う」

「なに?」

螢「違うわよっ!」

叫ぶ櫻井。それは怒声というには儚すぎて、泣き声と言うには烈しすぎて。

螢「違う、違うわ……違うもの」

薄く開いた瞳から、涙が溢れ出る。

螢「なんで、なんでそんなこと言うの。どうしてみんな、私のこといじめるの。薄くない。甘くない。私の想いは……チャチなんかじゃない。頑張ったもん。頑張ったんだから……私本気で、命がけでやったんだから。同情なんかいらない。褒めてほしくないし、分かってくれなくていい。でも私、走ったんだよ。いい加減にふらふらと、あっちに行ったりこっちに行ったり、してないもの。餌なんかじゃない。雑草なんかじゃない。レオンハルトじゃなくても、ヴァルキュリアになれなくても、私は最後の……櫻井だもの。私がやらなくちゃ、誰がやるのよ。私が逃げたら、私がやめたら、いったい誰があの人たちを……兄さんとベアトリスを、救えるっていうのよ」

「…………」


螢「ねぇ、答えてよ。言ってみてよ。他にどうすればよかったのよ。あなたに、何が出来るって言うのよ」

「俺は……」

俺のやることは決まっている。だがこいつは感極まって支離滅裂な事を言ってるし、そもそも俺に問いかけている自覚も無いだろう。ただ悔しい、情けない、許せないと泣いている。

螢「もう嫌、何も上手くいかない……」

そして、何よりも自分自身に失望している。

螢「これ以上、自分の馬鹿さ加減を自覚したくない」

「だから殺せって?」

螢「そうよ。私のことが嫌いなんでしょ。だから早く殺してよ!私をここで殺さないと、沢山沢山殺すんだから。あなたの仲間も、みんなみんな、殺すんだから」

「させないさ」

螢「じゃあ―――」

「おい、おまえさ、なんで諦めてるんだよ。命がけでやってきたんだろ」

何千人殺してでも生き返らせたい人が居る。その願いは到底理解できないが、それを命を賭けて戦ってきたのは分かる。この若さで黒円卓に入り奴等と対等なこと自体がその証明だ。だけど、それをこんなに簡単に諦めるなんて、有り得ねえよ。

「そんなに怖いのか、おまえ」


螢「……え?」


「ラインハルトが、メルクリウスが。ヴァレリア・トリファが、マキナが、ザミエルが、大隊長が。そんなに怖いか?あれに勝てないって諦めるのか?だから薄っぺらだっていうんだ」

螢「―――――――――」
98 :1[saga saga]:2011/04/25(月) 00:24:23.60 ID:7FkVkxEHo
「何があったかは知らないが、どうせおまえが考えていたような甘いご褒美じゃなかったってだけだろう。だったら…なんで吠えない。騙しやがってって怒らない。あれがおまえの望みの邪魔になるんならなぜぶちのめそうとしない。俺達には出来てあいつらにはやれないって、舐めてんのか。おまえ俺があんなクソ共より弱いって思ってんのか」

螢「だ、だって……」

「俺はあんなやつら怖くない。フェイトもなのはも、はやてだってきっとそうだ。俺達はあんなやつらに負けない。断言できる。なのにおまえは何萎縮してんだ。ばかじゃねーのか」

櫻井は呆気にとられたような、呆然とした顔で見上げてくる。


螢「……勝てる気なの?」

「ああ」

螢「あの人たちの力、見たじゃない。あれでも本気じゃなかったのよ?それに……勝てるの?」

「知らないのか?いい男ってのは死なないんだよ。それに俺はおまえ達の恋人なんだろう?おまえらと戦うために用意されたんだろう?おまえみたいなおとは違うんだよ。俺の中じゃ、主人公は俺だ。少なくとも、俺が好きな話は主人公が死んだりヒロインが死んだり、そんな事は俺が許さない。
まぁ、少なくとも、おまえの話は、悲劇のヒロイン病みたいだけどな」

螢「……っ」

「なんだよ?何か文句あるか?」

螢「私だって…そんな話は好きじゃない……」

「だったらどんな話が好きなんだよ」

螢「私は……私も……そんな王道が好き」



「だったら…こんな事で命賭けようってんならよ。命を賭けてラインハルトと戦うぞ。お前も来い」


螢「な……え……?」

「強要はしねえよ。嫌なら俺達があいつらを倒すまでどっかに隠れて怯えてろ」

螢「……そんなの嫌よ。私、役立たずなんかじゃないんだから」

「それじゃあ、来るか?」



螢「……分かったわよ。あなたに従う。そして、黒円卓と戦うわ」

「そうか。心強いよ」

そういって俺は櫻井の上からどいた。そして二人で立ち上がる。


螢「……マレウスは……」


「ん?」
99 :1[saga saga]:2011/04/25(月) 00:24:50.26 ID:7FkVkxEHo
ヴィルヘルム「不忠だぞレオン?だが……嬉しいぜえ。これでおまえを引き裂ける。くく、ふふふふふ……」
100 :1[saga saga]:2011/04/25(月) 00:27:57.41 ID:7FkVkxEHo
そのとき、空中から杭の嵐が落ちてきた。


「あ…ぐぁ!」

螢「ああああああああああああああああぁぁぁぁぁァァァァッ」

ヴィルヘルム「おいおい開いてるスワスチカで戦闘たぁ、不忠だぜ?殺されても文句は言えねえよなぁ!」


螢「ベ…イ……」

「ヴィルヘルム……!」

さっき、戦うと言った櫻井が槍衾にされ、絶命の淵に落ちていく。でも……

櫻井に……

最後に、櫻井に笑いかけられたような気がした。


ヴィルヘルム「ははっはは、はははははははははははははははははははは!」


それから、どんどん空高く形成される杭と、その巨大な杭の上で繰り広げられる凄惨な虐殺ショー。

「やめろおおおおおお!」

それを止めようと、俺も空へ。フェイトやエリオよりも遅いこの足が今は恨めしい……そしてその杭の上へ辿りついた瞬間……


螢「――――――」

ヴィルヘルム「おら、死ぬならスワスチカで死ね」

櫻井の顔面にヴィルヘルムの拳がぶつかり、櫻井の身体が吹き飛ぶ。そして……




ヴィルヘルム「はははははははははは!これで6番目は俺のもんだぁ」




「ヴィル……ヘルムゥゥアアアアアアア!」


ヴィルヘルム「おっとぉ、おまえを殺すのはまだ後だ。毎度毎度同じ展開じゃあ流石にやってらんねえだよ」

「俺には関係ない。今ここで死ねヴィルヘルム」

ヴィルヘルム「はははははは!お前と戦うのは後だ。まずは根っこを修正しねえと……よ!」

ヴィルヘルムに殴られて距離を離される。こいつ、こんなパワーだったのか……?

そこで、いきなりの緊急通信が入り、緊迫した音声が流れ出した。

『本部が!本部に直接!今すぐ誰か助けてくれ!このままじゃあ!』

「な……本部が!?」

ヴィルヘルム「ほらよ、こういう邪魔が入るように出来てるんだよ俺はよ。今なら追わねえ。お前とは、ヴァルハラで殺しあうことにする。で、帰るのか?恐らく乗り込んだのは……クリストフか、シュライバーかだ」

「……おまえを見逃すなんざできるかよ」

ヴィルヘルム「そうかい。じゃあ……」



そしていきなり、巨大な杭が爆発した――――


「――――っ!」


爆発が終わった後には、ヴィルヘルムは居なくなっていた。その後には、屍兵の巨大な咆哮が響いた。
101 :1[saga saga]:2011/04/25(月) 00:30:27.63 ID:7FkVkxEHo
今日はこれまで……螢のファンの人ゴメンネ
102 :1[saga saga]:2011/05/01(日) 00:11:44.10 ID:tvK+X0ZWo
-――――――――――


時間は6つ目のスワスチカが開く少し前に遡る。機動6課本部は第五の解放による大隊長の帰還、そして出現した不可視の城により主戦力の殆どが居なくなっていた。今現在、本部に残っている戦力は一般兵と、スターズ1、2。スバルとティアナが本部の守護を担っている。そして、ここはその隊舎、とある一室。



ヴィヴィオ「……よいしょ……」


高町ヴィヴィオ。なのはの娘。そして、聖王の因子を持つ者。だが彼女は子供であり、このような戦いには無縁である。故に、ここで母親の帰りを待っているのだ。

ヴィヴィオ「うん…。もうすぐなのはママも疲れて帰ってくるし、これを食べて元気を出してもらおう!我ながら良い出来じゃないかな!」

(なのはママ、最近は帰り遅いけど……そろそろ帰ってくるよね)

その時、ちょうどいいタイミングで部屋のチャイムが鳴った。この時間は、なのはかなのはの帰りが遅くなるという言伝を伝にくる人が来る時間で、それゆえにヴィヴィオは扉を開けてしまった。

ヴィヴィオ「なのはママ?おかえりな






トリファ「こんばんは。申し訳ないですが、一緒に来てもらいますよ」
103 :名無しNIPPER[sage]:2011/05/01(日) 12:30:53.13 ID:w+IdRQRDO
変なトコで切れてるな、寝落ちか?
104 :1[saga saga]:2011/05/01(日) 12:54:35.75 ID:tvK+X0ZWo
あ、ごめん。続きまだ書いてないや…そして明日がテストがあると気付いた
105 :1[saga saga]:2011/05/03(火) 19:47:11.10 ID:I7OEh16So
ティアナ「ヴィヴィオー。今日もなのはさんは……」

今日も遅いと、そう伝えに来たティアナは見た。ヴィヴィオを担いでいる、神父の姿を。なぜ、本部のセキュリティは、さらに隊舎など人に気付かれずに来ること自体が……!

トリファ「おや、見つかってしまいましたか。まあ、この子を連れて気付かれないとは思っていませんので構いませんがね」

ティアナ「お前……!ヴィヴィオを開放しろ!」

瞬時に形成するクロスミラージュ。その刃が無防備な神父に突き刺さる。



だが、




トリファ「ふむ……中々」

ティアナ「そんな……」

刃は届いていた。この神父を殺そうと殺意を込めて突き立てた。それなのに、目の前の神父は笑っている。目を細めて邪悪に笑っている。

トリファ「ああ、警報が鳴り出しましたね。もう通報したのですか……いやはやあなたは素晴らしいですね。だが、それも無意味です。殺しはしませんが、私を止められない」

ティアナ「く――――」


轟く轟音。神父により吹き飛ばされたティアナが壁を破壊し吹き飛ばされる。そして…そこには武装している局員が待ち構えている。しかし……

トリファ「それは、あなた方がいくら集まっても変わらない。あなた方は確かにお強い。ここにいるのが私でなければ、もしくは…斃せたかも知れませんね。ですが……」

本部の総ての残存戦力、一般兵、スバル、ティアナ。その総ての前を歩きながら神父は嗤う。



スバル「ハァァァァァァァァァァァ!」



トリファ「あなた方に、聖餐杯は壊せない」
106 :1[saga saga]:2011/05/03(火) 19:48:54.51 ID:I7OEh16So
-――――――――――



「なんだよ……こりゃあ……おい!スバル、ティアナ!返事をしろ!」

はやて「ドライか?二人は何とか無事や。そっちは……?」

「悪い。ヴィルヘルムに第6を開かれて逃げられた。これは……本部が半壊してるんだが……」

はやて「……ヴァレリア・トリファや。あれが来てヴィヴィオを攫って行った」

「――――なのはは?」

はやて「今は気丈に振舞っているけど……」

エリオ「はやてさん!ドライさんも……なにが……」

はやて「ん……フェイトちゃんも来て全員揃ったか?」

フェイト「うん。それで、今どうなって……」

はやて「……ヴァレリア・トリファにより本部は襲撃を受け、ヴィヴィオを誘拐。本部は半壊し、けが人が多数……死人が出なかったことだけが救いや」

キャロ「そんな……」

フェイト「―――――」

「スバルとティアナは?」

はやて「二人とも負傷はしたけど、意識もある。状況によっては―――――!」

フェイト「え――――」

「これは………!」


なのは「この気配は……」


エリオ「学校!」
107 :1[saga saga]:2011/05/03(火) 19:50:37.28 ID:I7OEh16So
―――――――――――――

エリーゼ「う……」

目を覚ます。身を起こすが、瞬間に激痛が走り小さく呻く。この痛み、この倦怠感。本能的に理解できる。女ならば恐らく誰もがそうであろう。つまり、産みの苦しみ、陣痛。

トリファ「おや、目が醒めましたか?エリーゼ」

そこには自分を救うと言った神父が立っていた。そして、その傍らには金髪の女の子が……

エリーゼ「その子は?」

トリファ「…………」

エリーゼ「その子は何?あなた、巻き込んだの?」

トリファ「ええ。言ったでしょう。あなたを救って見せると」

エリーゼ「それで……!関係ない子まで巻き込んで、それで私が喜ぶと思っているの!?」

トリファ「ですが、どうせこの子も巻き込まれる。先の開放で既に6つ……あなたももう相当つらいはず。故に、私は私のやり方であなたを、救ってみせる」

エリーゼ「く……あなたは!」

トリファ「私が憎いですか?あなたを、この街の総てをこのような戦場に変えた我々が憎いですか?ああ、分かりますよ。私も80年間憎悪の虜だ。赦せないのですよ、私が、私自身のことを」

これまで緩く穏やかに、柔和な物腰を貫いていたヴァレリア・トリファ……しかし、声も態度もそのままだが、何かが決定的に違っていた。

トリファ「故に罰。私は永劫苦しまねばならない。救いなど要らぬ。祝福は遠ざかっていけばいい。たった独り、何処までも、歩き続けるのだ、永遠に」

剥げ落ちる。その鍍金が剥げ落ち、恐らくは誰も見たことがないヴァレリア・トリファという男の地金。それが確実に晒されようとしている。にもかかわらずその印象は正体不明。何を言っているのか分からない。何をやろうとしているのか分からない。怒気も殺気もまるでないのに、対峙しているだけで吐き気を催す。その渇望が腐臭を垂れ流している事だけが理解できる。これは壊れているし終わっている。怖い―――この男の歪みが怖い。これを理解しようとすれば……

エリーゼ「あなたは……いったい」

トリファ「唯の負け犬。臆病者の末路ですよ。私は強くなりたかった。私は弱い。心も身体も魂も、矮小でくだらなく、程度の低い凡俗だ。なぜ失ってしまうのだろう。なぜ守ることが出来ないのだろう。なぜ、なぜなぜ……答えは明白。この卑小さ故に。私の掌で掬えるものはあまりにも少なく、いとも容易く外圧で崩される。ではどうすればいい?零れ落ちた何がしかを、己が未熟さを盾に見捨てるのか?それが神たるモノの思し召しか?
否――――断じて否!認めぬ、赦さぬ、私は微塵も納得せぬ!強くなりたい。より大きく、より強固な、絶対に壊れぬ器がほしい。それさえあれば、何度でも、何度でも何度でも掬ってみせよう。誰も零さぬ、見捨てはしない!私が知る最強にして完全なる黄金。聖餐杯は私の呪いだ。永劫、永遠に掬い続けていくための。永久に償い続けるための」

エリーゼには言っていることが分からない。この男はどうしようもなく破綻している。

エリーゼ「あなたは、何を救う気なの……?」

トリファ「無論、総てを。わが愛し児達のために……祝福は陽だまりでなければ意味がない。修羅道の果てに地獄道など、誰がゆるすことが出来ようか。私は、地獄の流出など起こさせない。この聖餐杯のみを頼りに、不死創造という奇跡だけを掠め取り続けてみせましょう。さらば、眠りなさい。あなたもいずれ、次かその次には救うと約束しますよ」

エリーゼ「え……」

夜気が鳴動し唸りをあげる。邪なる聖者が、今その剣を抜こうとしている。

108 :1[saga saga]:2011/05/03(火) 20:26:31.23 ID:I7OEh16So
    Mein lieber Schwan.
トリファ「親愛なる白鳥よ
dies Horn, dies Schwert, den Ring sollst du ihm geben.
  この角笛とこの剣と 指輪を彼に与えたまえ 」

エリーゼ「な―――」

     Dies Horn soll in Gefahr ihm Hilfe schenken,
トリファ「この角笛は危険に際して彼に救いをもたらし
    in wildem Kampf dies Schwert ihm Sieg verleiht
    この剣は恐怖の修羅場で勝利を与える物なれど
     doch bei dem Ringe soll er mein gedenken,
   この指輪はかつておまえを恥辱と苦しみから救い出した 」


神気が増大し、集束しつつ先鋭化していく。謳いあげる詠唱の進行に呼応して、それがトリファの胸前に形を成そうと具現化していく。本気で彼はエリーゼを殺しにかかっている。


        der einst auch dich aus Schmach und Not befreit!
トリファ「この私のことをゴットフリートが偲ぶよすがとなればいい

     Briah――
      創造

   Vanaheimr――
    神世界へ 」



彼の創造が発動する。己が知る最強の存在。二度と失わず無限に掬い続けるために、狂おしく欲した器と力。


黄金たる獣へ変生せんとする渇望こそが彼の世界――――




      Goldene Schwan Lohengrin
トリファ「翔けよ黄金化する白鳥の騎士 」
109 :1[saga saga]:2011/05/03(火) 20:29:01.02 ID:I7OEh16So
目に映るのは、輝く黄金光と神気の奔流。止められないし防げない。

神槍――それは黒円卓の象徴である伝説の聖槍に他ならない。

エリーゼ「私は……」

奔る黄金の光に晒されてエリーゼは呆然としていた。死ぬ?殺される?それはそれでいいのかもしれないけど。



どうして?わからないことが多すぎるよ。あなたは何を考えて――


トリファ「―――心配無用。あなたは救われるのだ、エリーゼ。その忌まわしき血継をここに絶つ」


走る聖槍。奔る光芒が乙女の子宮を貫かんと空を裂く。そう、この黄金の穂先が“城”に繋がる産道を絶ち―――たとえ一瞬、一秒でも、資格を剥奪することによってスワスチカが選ぶ母体の順序が次にずれる。そして今この場には、その資格のあるもう一人の造られた子供が存在している。それは第五解法以降にしか意味がない業。後戻りが効かなくなった黄金練成が致命的な狂いを生む。



王手―――今こそ積年の大望にその手を掛けたと、トリファが勝利を確信した。その瞬間だった。





ザミエル「くだらんな。神父の強姦趣味か、あきれたものだ」





必中必殺の聖槍は、真の持ち主を恐れるかのようにその光を屈折させた。それにより校舎に着弾し轟音を撒き散らす。


エリーゼ「なに……」

あの絶対の光を曲げたという驚愕から声が出る。それを成した存在がこの粉塵の舞う場に傲然と仁王立ちしていた。焦熱を纏う大隊長、エインフェリアは、不快さに顔を歪めながら、しかし同時に快哉を叫んでいた。ここで獅子身中の虫を処刑できる喜びに魂まで打ち震えて。

ザミエル「馬脚を現したな、下種が。鍍金の剥げた貴様など、もはや一片の価値もない。分際を知れよ、劣等。貴様如き、どれだけ望もうともハイドリヒ卿にはなれん」

トリファ「あなたですか。むしろ好都合だ。あなたでも、いやあなただからこそ私には勝てない」

ザミエル「ほざけ。貴様は知らんのだよ。チェス盤でしか物を量れん篤学気取りが。戦場の駒は升目通りにしか動けぬものだと、勝手に思っているのだろう。敗因を教えてやる。貴様は戦士の何たるかを分かっていない。誰が1人で来たと言った」


先の王手を防いだのはキャスリングで、彼女はクイーン。その役ではない。ならばここにはもう1人。ルークが存在する。


その侵攻は強烈無比。正面からぶつかる限りは無敵を誇る移動要塞。彼の一撃で、今ビショップは詰む。
110 :1[saga saga]:2011/05/03(火) 20:36:39.79 ID:I7OEh16So
ザミエル「例の管理局の奴らを餌にしたつもりだったのだろう?」

不敵に冷笑するエレオノーレ。その背に、彼が、鋼鉄が、漆黒の闘気を纏って現れる。

ザミエル「共に英雄ならば全力でだ。今の我々が誅するなら、それは貴様だ」

ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン。鋼で鎧われた黒騎士は、ただ無言のままに赤騎士の台詞を肯定していた。



「―――――――――――――」

爆発する黒騎士の咆哮に、その場の全員が息を飲む。唯一気圧されていないのはエレオノーレ1人だけだが、彼女も驚嘆に近い思いを懐いていたのは間違いない。それは大気を、大地を揺るがすほどの鬨の声。音ではなく気の轟哮が、周囲の空間へ弾けた。単純な“意”の発露。それを“威”に変える技術自体は珍しくない。だが、彼の恐れるべきは落差。静と動の振り幅だ。先ほどまでは誰一人気付けなかった絶。そしてこの発。その手練、魂を支配し操るカール・クラフトの秘術に対して彼が最高の巧者なのかも知れない。まるでその為に誂えたとでも言わんばかりに、マキナは闇の水星から得た恩寵を使いこなしている。

トリファ「なるほど。戦士ですか。仰るとおり、確かに読みが外れたようだ。あなたは一刻も早く死にたがっているとおもったのですが、マキナ卿。私が用意した戦場では、お気に召さぬというわけですか」

マキナ「愚問。戯言だ聖餐杯。乱痴気騒ぎに興味はない。だがその果てが、俺にとっては最後の戦だ」

80年、待って待って待ち望んだ。その幕引きとなる一戦は、共に究極、共に全力――納得できる終わりでなければならない。今はまだそのときに非ず。

マキナ「ゆえに、お前は邪魔だな。不本意だが、俺が排除するしかあるまい」

トリファ「やれやれ、今夜はまた随分と饒舌ではないですか。しかし、我々は共にハイドリヒ卿の呪縛から解き放たれることを念頭に置くべきだと愚考しますが……」


瞬間、轟風を伴い鉄拳が走る。

トリファ「馬の耳に念仏。所詮奴隷のあなたには分かりますまい」

間一髪、僧衣の長身は飛び退って鋼の一撃を避けていた。そしてそのままここからの逃走を図るが―――

ザミエル「無駄だ」

トリファ「――――」

この学校の敷地全域が赤騎士の射程に握られていた。その巨大な砲身に飲まれれば最後、何人たりとも脱出できない。

ザミエル「貴様はこれにも耐えるだろうが、他はどうかな?まあ姫は私が責任をもって守るがね。あとは知らんよ。気張れよマキナ。貴様なら消滅だけは避けられるはずだ。この程度凌げんようでは、どだいハイドリヒ卿の近衛とは言えん。そうだろう?」

マキナ「構わん。問題ない」

つまりは、エレオノーレの砲撃に耐えられるのは、彼女と同格であるマキナ。そして破壊不可能の聖餐杯。それにエレオノーレが守ると言ったゾーネンキント、エリーゼのみ。

つまりはトリファの用意した偽りのゾーネンキント、高町ヴィヴィオは一撃の下に消滅する。それはつまり、神父の望みは潰えるということ……

ザミエル「だ、そうだ。どうする?死なれては困るのだろう?カラクリは読めた。そいつもプロジェクトFとやらの産物か。そしてゾーネンキントとしては不完全。そいつを代わりにすることで黄金練成を不完全なものにするつもりだったのだな。哀れだよ、その少女。いっそここで、何も知らぬまま逝かせてやるのが慈悲と思えぬこともない。まあ、何にせよ―――詰みだ、クリストフ。貴様の巡礼とやら、ここで終わる」
111 :1[saga saga]:2011/05/03(火) 20:40:06.89 ID:I7OEh16So
トリファ「ク――――カハッ」

これまでどんな攻撃にも無敵を誇った肉体が軋んでいる。

トリファ「今のは些か、非道でありませんかな、マキナ卿……。騎士たる御身が、婦女子を盾にするような戦法を選ぶとは驚きだ」

マキナ「俺は騎士道など知らん」

トリファ「グッ、があぁっ―――」

一発、そしてまた一発。鋼の黒騎士が拳をたたきつけるごとにトリファの何かが削れて消えていく。終わりだ。死ぬ。彼は負ける。だけど―――

エリーゼ「どうして……?」

なぜあなたはそんなに私を生かそうとするの?こんなに危険な女なのに。さっきは殺されると思っていたのに。


けど。


トリファ「―――く、おおォォォッ!」

らしくない真剣な顔で、余裕のない苦鳴を漏らして、それでも立っている。逃げ出さずに勝てない敵と対峙している。私のために?わからないよ神父様。エリーゼにとってヴァレリア・トリファは何者で、クリストフはゾーネンキントの何なの?

ザミエル「心配は要らない。言ったろう。我々は玉体を安んじ奉ると」

彼女の独白をさえぎるようにエレオノーレが傍らに立つ。

ザミエル「クリストフの守り、その度外れた強度の秘密には二つある。一つは80年前の黄金練成を元に副首領が―――というよりイザークが城を飛ばした際の副産物だよ。すなわち対魔、対物理。対時間、対偶然。そうした防御幕を極限まで強化、薄れないように永久展開させた盾。そしてもう一つは鎧―――」

当たり前のようにエレオノーレは聖餐杯最大の謎を暴露した。

                       レギオン
ザミエル「あの内に渦巻くヴァルハラの軍勢。魂の総和が常識外れの密度を有しているからに他ならない。わかるかな、あれはハイドリヒ卿の玉体なのだよ」

つまり、聖餐杯=ラインハルトの肉体。
ヴァレリア・トリファ=黄金の獣

ザミエル「今マキナが削っているのは前者だ。あれを崩せるのは奴しかいない。ゆえに安堵されよ。我々はハイドリヒ卿の玉体を破壊などしない。獅子身中の癌を叩き出そうとしているだけだ」

ラインハルトの城、彼の創造位階を80年留め続けた結界を打ち壊す。その結果に何が起こるのかは考えるまでもなく明白だ。

ザミエル「盾がなくなれば城の流出はもう止められん。まあ現段階では、それに近い創造だがね。いずれにせよ、そのときをもって首領代行は任を解かれる。奴は用済みでこの第七に溶ければよい。それが、怒りの日の始まりだ」

エリーゼ「……」

ザミエル「自害なら、いずれもっとしたくなる。だがその頂点は第八の開放でだ。せいぜい溜めておくがいいよ、エリーゼ。その祈りを持って、この世を修羅道に塗り替えよう」





マキナ「時間稼ぎは無意味だ、聖餐杯。俺の渇望を前に、お前はどんな時間稼ぎも出来ん」

そして漆黒の拳に気が満ちる。破格の魂が渦を巻き、魔力となって異世界を生む。

創造位階。その個人が持つ渇望の発露。我をもって世界と成す魔道の奥義。

覇道と求道。他者を食い潰して広げる野望か、己一人が突き詰めていく願いか。前者は空間そのものを、後者は自己の身体を変える。
112 :1[saga saga]:2011/05/03(火) 20:45:24.09 ID:I7OEh16So
       Tod! Sterben Einz’ge Gnade!
マキナ「死よ 死の幕引きこそ唯一の救い


そして、ここに究極クラスの求道がある。彼の渇望はすなわち終焉。その拳に触れたモノは、たとえ何者であれ物語の幕を引かれる。



      Die schreckliche Wunde, das Gift, ersterbe,
マキナ「この 毒に穢れ 蝕まれた心臓が動きを止め
             das es zernagt, erstarre das Herz!
         忌まわしき 毒も 傷も 跡形もなく消え去るように



それは歴史の終わりを意味する。生物も器物も知識も概念も関係なく、誕生して1秒でも歴史を刻んだ物語ならば、終焉の強制を起こすご都合主義。故に彼は機械仕掛けの神と呼ばれる。


        Hier bin ich, die off’ ne Wunde hier!
マキナ「この開いた傷口 癒えぬ病巣を見るがいい  

        Das mich vergiftet, hier fliesst mein Blut:
       滴り落ちる血の雫を 全身に巡る呪詛の毒を
        Heraus die Waffe! Taucht eure Schwerte.
             武器を執れ 剣を突き刺せ
 tief, tief bis ans Heft!
深く 深く 柄まで通れと
Auf! Ihr Helden:
さあ 騎士達よ
Totet den Sunder mit seiner Qual,
罪人に その苦悩もろとも止めを刺せば
von selbst dann leuchtet euch wohl der Gral!
至高の光はおのずから その上に照り輝いて降りるだろう
Briah――
創造


最早、起死回生の望みはない。



Mi?gar?r V?lsunga Saga
マキナ「人世界・終焉変生」
113 :1[saga saga]:2011/05/03(火) 20:48:48.55 ID:I7OEh16So
ここにヴァレリア・トリファは詰まされた。


マキナ「さあ、抗ってみろ、聖餐杯」

いまやマキナは人型の死と化している。彼の攻撃を防げるものは存在せず、しかも何発だろうと発射可能。

マキナ「おまえは俺を、奴隷と言ったな。否定はしない。俺は戦奴だ。ハイドリヒに屈服させられ、繋がれた身を蔑まれても反駁はできん。だがな、お前ほど、矛盾しては居ないつもりだぞ」




トリファ「ああ―――」



そう、この身は破壊の君。総てを壊す怒りの日の具現でしかない。故に総てを救うなど不可能で。



トリファ「エリーゼ……」



その呟きを最後に、終焉の拳を胸に叩き込まれた瞬間、遂に真の黄金が降りてくる。







ラインハルト「大儀だ、聖餐杯。卿の巡礼、私の中で永遠に続ければよかろう。そう悲観したものでもあるまい」



彼は総てを愛している。総てを飲み込み総てを壊す。
今、その世界が溢れ出す。


揺らめき、解れ、沸騰していく悪魔の城。その正体は、数百万を越える死者が折り重なった地獄。



114 :1[saga saga]:2011/05/03(火) 20:50:16.52 ID:I7OEh16So
    Dieser Mann wohnte in den Gruften, und niemand konnte ihm keine mehr,
ザミエル「その男は墓に住み あらゆる者も あらゆる鎖も
        nicht sogar mit einer Kette, binden.
あらゆる総てをもってしても繋ぎ止めることが出来ない 」

      Er ris die Ketten auseinander und brach die Eisen auf seinen Fusen.
シュライバー「彼は縛鎖を千切り 枷を壊し 狂い泣き叫ぶ墓の主
   Niemand war stark genug, um ihn zu unterwerfen.
この世のありとあらゆるモノ総て 彼を抑える力を持たない」

    Dann fragte ihn Jesus. Was ist ihr Name?
マキナ「ゆえ 神は問われた 貴様は何者か 」

          Es ist eine dumme Frage. Ich antworte.
ラインハルト「愚問なり 無知蒙昧 知らぬなら答えよう 」

             Mein Name ist Legion――
ラインハルト・大隊長「我が名はレギオン 」

        Briah――
ラインハルト「創造

Gladsheimr――Gullinkambi F?nfte Weltall
    至高天 黄金冠す第五宇宙 」
115 :1[saga saga]:2011/05/03(火) 20:52:15.70 ID:I7OEh16So
それは定め。ミッドチルダ誕生から、メルクリウスに定められた避けようのない現実。遂に空を塗りつぶしていく混沌から奇怪な城が姿を現し、その魔力に抵抗できない弱い者から魂を奪われていく。


ラインハルト「勝利を。共に約束の時を祝おう」

たなびく鬣のごとき髪は黄金。総てを見下す王者の目も、やはり黄金。
人の世に存在してはならない愛すべからざる光。ラインハルト・ハイドリヒは遂に肉体を得、帰還した。後一つ、あと一つの開放でこの城は流れ出す。

いと小さき者共よ、我がヴェルトールに渦巻く歓喜を知れ。

ラインハルト「果てに、未知の世界を渇望する」


魔城の出現により、あるものは歓喜した。
ヴィルヘルム「ク……ハハハハハ……ハハハハハハアハハハハハハアハハハハハハハアハ!」

あるものはさらに憎悪を。
カイン「セイ……サンハイ……カズィクル……ベイ!」


またあるものは、新たに決意を。
ルサルカ「レオン、クリストフ。二人とも居なくなっちゃったか。なら……」



またある者は、巻き込まれ。
ヴィヴィオ「なに……ここ……」



ある者は、自らの役目を知る
エリーゼ「あの子も城に招かれたの……?私は……私がしなければいけないことは……」




ある者は怯え

エリオ「なんだよあれ……あんなのに勝てるのか……」



ある者は覚悟を決める
ドライ「エリオ、お前なら勝てるさ。俺に初めて一撃を加えたのは、お前だったろ?」


そして、役者はここに

はやて「……フォワード陣は誰も、昏倒してないな。皆、つらいかも知んけど」

シグナム「我ら、ヴォルケンリッターの騎士、主の剣となりあの地獄を断ち切りましょう」

ヴィータ「あいつら、もうゆるさねえ」

ザフィーラ「…………」

シャマル「皆、誰も死なせないから」

キャロ「うん。絶対に負けない」

スバル「街の人も全員、助け出そう」

ティアナ「まあ、これだけ人数揃ってるんだし、負ける気はしないわ」

なのは「奪われたものを取り戻す。絶対に」

フェイト「こんなの、絶対に認めないから」

溢れ出る地獄を舞台にし、最後の戦いが始まる。
116 :1[saga saga]:2011/05/03(火) 20:56:01.43 ID:I7OEh16So
さて、書き溜めはここまでだ。そして、やっとここまで来た。もうしばし、お付き合いください
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)[sage]:2011/05/04(水) 09:05:16.47 ID:nNVw7ITAO
乙。頑張ってください
118 :1[saga saga]:2011/05/05(木) 03:03:38.91 ID:Yg6SUAsfo
ありがとう……もう最後までの構想は出来た。あとは文にするだけだよ
119 :1[saga saga]:2011/05/08(日) 23:50:39.95 ID:+zUW0XRno
ラインハルト「では、始めようか。ザミエル、マキナ、シュライバー。出陣」

大隊長「了解、我が主」

同時に膨れ上がる鬨の声。魔城が歓喜に震えている。我らに勝利を与えたまえ――――かつての約束を、ここに果たす時が来た。この閉塞した既知の牢獄を、今宵破壊して超越しよう。開いた城門から眼下を見下ろし、ラインハルトは号令を下す。今この場、城にまで殺気が届いている。重畳、真に愛しい者らよ、その儚い覚悟に祝福あれ。

ラインハルト「卿らに勝利を。各々、狂おしい飢えを存分に満たせ」

ザミエル「御意、仰せのままに」

シュライバー「空き果てるまで欲するまま」

マキナ「ここに、聖戦の終わりを」

同時に三隊長は空に身を躍らせた。常人ならば死のダイブに他ならないが、彼等は違う。万有引力を嘲笑うかのように、各々降下の仕方が違う。

シュライバー「ははははははははははははははははは――――」

まず一番手はシュライバー。弾け笑う声と共に、ぎらつく隻眼を殺意一色に染めながら、弾丸の速度で螺旋を描き落ちていく。唯一自由落下に身を任せているのはマキナのみ。彼は黙したまま、人というより鉄塊の重さで身動き一つしていない。そしてエレオノーレは自信を包む火炎で気流を操作し、浮遊するように滑り降りる。風は彼女を避けて通り、真紅の長髪は小揺るぎさえしていない。

そこへ飛び込むように飛んでくる者が居る。それは白い服、ピンクの魔力の跡を残し魔城へと飛行する、魔導師の杖を携える者。エースオブエース、高町なのは。不屈のエースがゾーネンキントと巻き込まれた子を助けようと魔城を攻める。

シュライバー「うふふ、ふははははは、あははははははははははははははは―――」

ザミエル「特攻か。芸のない」
                            アルベド ルベド
無論それを大隊長が許すわけもなく、なのはを白騎士と赤騎士の炎が攻める。だが…そこに迫るのは天を分かつ黄色の魔力光と、空を疾走する漆黒の魔力光。

フェイト「バルディッシュ!」

ドライ「おおおおおおおおらあああああああああああああ!」
アルベド
白騎士を打ち落とす大剣と、炎を散らす巨大手甲。そして現在、誰よりも長い射程を持つ夜天の主が城に照準を合わせた。それが、大隊長と6課隊長たちのファーストコンタクト。





だが




次の瞬間、その2騎士は飛び退いた。そこには、その向こうには、狙いを定めるように右手を前に出して構えているラインハルトが……!




ラインハルト「卿ら、中々に面白い。ゆえ、試させてもらう」




今、その神威が振るわれる




ラインハルト「Yetzirah―――――」

                                    ヴェルトール
収束する黄金光。魔城の全魂が渦を巻き、そこに形を持った宇宙が顕現する。

それは最強にして究極の聖遺物。神を殺し、その血を吸った伝説の―――


       聖訳・運命の神槍
ラインハルト「Longinuslanze testament」

ドライ「――――――――」

その神気、その霊力、規格外どころの話ではない。常人ならば穂先を向けられただけで蒸発し、黒円卓の戦鬼であろうとも気失は免れまい。

ラインハルト「これを止められるか、実に興味がつきぬよ。では、いざ参ろうか
120 :1[saga saga]:2011/05/08(日) 23:56:36.61 ID:+zUW0XRno
ドライ「――――――お前ら、逃げろ!」

なのは「え――――きゃあ!」

フェイト「何……あああ!」

仲間二人に攻撃し地に落とす。その程度のダメージなど無いに等しい。少なくともあの槍の前には。

ラインハルト「ほう。真に英雄だな。案ずるな。加減はする」


そして放たれる黄金光。

ドライ「う、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

それは何十にも張ったシールドを砕き、ドライを貫いた。

かくして、ドライは撃墜した




ラインハルト「ふむ……耐えたか、死んだか。どう思う?」

メルクリウス「死んだならばそれまで。しかし、あの程度で死んでもらっては困る。ゆえに、ツァラトゥストラは耐え切った」

言葉と同時、それまでラインハルトしかいなかった玉座の間にもう一人の人物が現れる。何の前触れもなく唐突に、像を成す為のあらゆる工程を無視した出現。それがあまりにも自然、ゆえに、80年ぶりの再会を祝す言葉もなかった。
黒円卓の首領と副首領。

ラインハルト「変わらんな、カール。しかしどうした?卿が出てくるとは」

メルクリウス「いや、ただ単に、楽しそうだから出てきた、それだけだ。我が愚息の成長、それが振りまいた敵手の増加、またそれの成長。これほどの役者が揃っている。いかに私であろうとも腰を上げるさ」

ラインハルト「ふむ……では、ここで前座を眺めるとしようか」

メルクリウス「ああ、そしてこの日が我らの願いの成就となる事を」


そしてここは城、その内部。

ヴィヴィオ「この扉の向こうに……」

エリーゼ「そう。私達の戦うべき相手がいるわ。巻き込んで悪いけど……」

ヴィヴィオ「ううん。私だって、戦いたい。それにこんなの、許せないから」

エリーゼ「……強いんだね。じゃあ、行くよ」

重い扉が開く。だが子供達は知らない。この先にいる者こそが黒円卓で一番狂っていることを。

そこは城の心臓部。そこに、彼が居た。

イザーク「……私に挑むか。ゾーネンキント」


ヴィヴィオ「この子が……」

エリーゼ「そう。彼が……」

イザーク「ああ、私が聖槍十三騎士団黒円卓第六位、イザーク=アイン・ゾーネンキント。ようこそエリーゼ。私のゾーネンキント」

その言葉を聞いて同時、ヴィヴィオとエリーゼは周囲の位置感覚を消失し、行きながらに地獄へ墜落していった。

イザーク「さあ、地獄巡りを始めよう」
121 :1[saga saga]:2011/05/09(月) 00:02:10.56 ID:3z3BWGJIo
ここは第一の戦場―――死を喰らう者―――


カイン「貴様、誰カ……」

ティアナ「そ、私達はこれと戦う……と」

スバル「まあ、けが人同士いいんじゃないかな?」

ヴィータ「ふん。ただの死体が私達の邪魔しやがって」

トバルカイン。その身体はシスターの死により腐りかけの状態で、しかしなお動いている。今デスマスクはなく、その両目は縫われているにも関わらず、腐臭を伴った殺意がそこから膿のように溢れ出す。

カイン「貴様、聖餐杯カァッッ!」

スバル「――――!」

ヴィータ「ち――――」

迅雷の速度に超重量の一撃。それは地面をクレーターのように陥没させる。それを避ける事が出来たのは日ごろから同等の速度で飛んでいる人を見ていたからに他ならないだろう。

スバル「私達は聖餐杯なんかじゃ……」

ヴィータ「ねぇ!!」

激突するスバルのリボルバーキャノンとヴィータのテートリヒ・シュラーク。この2人のパワーを受けて、さしものカインも吹き飛ぶ……!

ティアナ「これはおまけ―――ファントムブレイザー!」

そこに叩き込まれるティアナの砲撃。この攻撃で首、アバラなどの骨は確実に砕けている。

しかし、しかし、

カイン「畔放、溝埋、樋放、頻播、串刺、生剥、逆剥、屎戸。許多ノ罪ト法リ別ケテ、生膚断、白人胡久美トハ国津罪……」

ヴィータ「やっぱ、首砕いた位じゃ無理か……!」

カインの消えた向こうから、突如として地を這い回る声が響く。

カイン「己ガ母犯セル罪、己ガ子犯ス罪、母ト子犯セル罪、子ト母犯セル罪……畜犯セル罪、昆フ虫ノ災、高津神ノ災、高津鳥ノ災、畜仆シ、蠱物セシ罪」

それは忌まわしき禁忌の羅列。

カイン「種種ノ罪事ハ天津罪、国津罪、許許太久ノ罪出出デム、此ク出デバ―――」

カイン「―――創造」

穢れの祝詞。今屍が咆哮する。

カイン「此久佐須良比失比?―――罪登云布罪波良自」

その粘度さえ感じる殺意を浴びた途端、身体に異変が起こった。

スバル「う……ああぁ!」

ヴィータ「なん、だ……こりゃあ」

バリアジャケットが崩れていく。そして手足は黒く変色し、ひび割れ、―――

ティアナ「腐っていく……」

それは殺人の技と別次元で対象を死体に変える。毒。
122 :1[saga saga]:2011/05/09(月) 00:06:15.75 ID:3z3BWGJIo
カイン「ナゼ俺が……」

朽ちた物共を踏みしだきながら巨人が姿を現す。

スバル「……さっきまでと違う……?」

カイン「ナゼ俺ガ、コンナニ痛イ。ナゼ俺ガ、コレホド醜イ。貴様、美シイ。許セヌ、俺ヲ嗤ウカ貴様――――」

スバル「――――――ッ!」

ヴィータ「ぐあ!」

突進してきたカインの一撃、さらにそこから繋げられた斬撃。それはあまりに隙がなく、先ほどまでの戦闘スタイルとは異なっている。

回避、掠りながらも回避したヴィータに、瞬間移動のような体捌きで追い縋るトバルカイン。それは縮地もそれで……

ヴィータ「クソ……ぉ!」

スバル「ヴィータ副隊長!」

それを、ヴィータを両断せしめんと迫っていた剣をスバルが捕らえる。その刀身はいつの間にか、浅い反りを持つ片刃のものになっていた。

ヴィータ「―――馬鹿!お前こいつと力比べなんて!」

スバル「でも、こうでもしないと……!」

そして同時に、掴んでいた鉄塊が急激に震えだす。

カイン「其泣状者青山如枯山泣枯河海者悉泣乾是以惡神之音如狹蝿皆滿」

カイン「創造」

ティアナ「―――――嘘。創造位階が複数なんて……」

カイン「乃神夜良比爾夜良比賜也――――」

スバル「―――ッ!」

ヴィータ「くッ――――」

それは反射だった。スバルは手を離し、ヴィータも空へ逃げていた。しかし再度起こった戦術の移行。カインの武器は今や砲身のような形状に―――

カイン「オマエ、心臓止マレ」

それは遠距離武装。ゆえに、腐敗の毒は遠くから狙っていた司令塔に及ぶ

ティアナ「う――――あああぁ!」


スバル「ティア――――――!」

ヴィータ「おい!馬鹿おま……」


戦闘の最中に意識を敵から離す。その愚を犯した二人に、再びカインの剣が振るわれた。







カイン「―――――――――!」


確かに、カインの剣はスバルとヴィータを両断した。だが、その剣は今、橙色の魔力十重二十重に拘束されている。

ティアナ「ふふ……さっきのだけでやられはしないわよ……」

そう。それは幻術、そしてそれに仕込んだバインド。後はもう知らぬと、現状の全魔力を込めたバインドだ。そしてそれが今、カインの剛力を抑えている。

スバル「ティア!」

ヴィータ「でかしたティアナ!アイゼン!リミットブレイク!」

今しかない。奴の動きを封じている今、それが勝機。トバルカイン目掛けヴィータのツェアシュテールングスハンマーが振り下ろされる。
123 :1[saga saga]:2011/05/09(月) 00:15:08.11 ID:3z3BWGJIo
カイン「Briah―――」

しかし、黙って死んでくれる相手ではない。

      雷速剣舞・戦姫変生
カイン「Donner Totentanz Walkure―――」

ヴィータ「く……負けるかァァァァァァァ!」

縛散する紫電の奔流。それで既にティアナのバインドは砕け散っている。今はヴィータが抑えつけているが、このままでは幾分も持たないだろう。だが……

カイン「私ヲ、殺セ―――」

そんな事を、あの屍体は言った気がして。

スバル「なん……で……そんな事を……」

理屈はわかる。あれだけ濃密だった殺意が今は無い。恐らくアレは郡体で、今はその中の一人が出てきている。そして、今のカインはさも死こそが救いのような、そんな気がして。

スバル(私は、人を助けるために……)

だが、これは敵だ。これがどういうものかなんて知らないけど、何百人と殺戮した屍兵。情けをかけることは出来ない。

今はカインの殺気は止んでいるが、いつ戻るとも限らない。今この時が最大の好機。

スバル「マッハキャリバー!」

マッハキャリバー「All right,body」

故に、今ここで出来なければ総て終わる。


スバル「私が望むものは君の笑顔。私が忌むのはその剣。だからその剣を砕き折ろう」


マッハキャリバー「Briah―――」


スバル「右歯噛咬す獣の牙」


創造位階。その渇望を携えてスバルが飛び上がる!



ヴィータ「へッ……スバル!手伝え!」

その呼び声に呼応するかのようにハンマー後部へと連結するウィングロード。それを滑走する一筋の青。

スバル「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

カイン「―――――――――!」

スバル・ヴィータ「ソード……ブレイカァァァァァァァァ!」

ハンマーの推進力にスバルの創造と拳を足し打ち出す。周囲に響く轟音。巻き上がる土砂。陥没する地面。そして、その渇望、それは文字通りに武器の破壊。

スバル「ハァ…ハァ…これで……」

ヴィータ「どうだ…?」

カイン「a……ah……」

そして、今、トバルカインの聖遺物『黒円卓の聖槍』は砕け散った。それに伴い、屍兵の身体も風化し塵に還った。

その瞬間、ありがとうと、どこか精悍な青年の姿が見えた気がした。

ティアナ「スバル……終わった…?私達が、勝った?」

スバル「うん……でも、もう動けないかも……」

ヴィータ「ああ、ちょっと、これ以上は無理だ……皆ボロボロだな……」

スバル「うわ……もう腕、真っ黒……」

ティアナ「……うん。私ももう……」



――――スターズ1、2、副隊長ヴィータ、トバルカイン撃破。戦闘続行不可能―――――
124 :1[saga saga]:2011/05/09(月) 00:17:33.05 ID:3z3BWGJIo
カイン「Briah―――」

しかし、黙って死んでくれる相手ではない。

      雷速剣舞・戦姫変生
カイン「Donner Totentanz Walkure―――」

ヴィータ「く……負けるかァァァァァァァ!」

縛散する紫電の奔流。それで既にティアナのバインドは砕け散っている。今はヴィータが抑えつけているが、このままでは幾分も持たないだろう。だが……

カイン「私ヲ、殺セ―――」

そんな事を、あの屍体は言った気がして。

スバル「なん……で……そんな事を……」

理屈はわかる。あれだけ濃密だった殺意が今は無い。恐らくアレは郡体で、今はその中の一人が出てきている。そして、今のカインはさも死こそが救いのような、そんな気がして。

スバル(私は、人を助けるために……)

だが、これは敵だ。これがどういうものかなんて知らないけど、何百人と殺戮した屍兵。情けをかけることは出来ない。

今はカインの殺気は止んでいるが、いつ戻るとも限らない。今この時が最大の好機。

スバル「マッハキャリバー!」

マッハキャリバー「All right,body」

故に、今ここで出来なければ総て終わる。


スバル「私が望むものは君の笑顔。私が忌むのはその剣。だからその剣を砕き折ろう」


マッハキャリバー「Briah―――」


スバル「右歯噛咬す獣の牙」


創造位階。その渇望を携えてスバルが飛び上がる!



ヴィータ「へッ……スバル!手伝え!」

その呼び声に呼応するかのようにハンマー後部へと連結するウィングロード。それを滑走する一筋の青。

スバル「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

カイン「―――――――――!」

スバル・ヴィータ「ソード……ブレイカァァァァァァァァ!」

ハンマーの推進力にスバルの創造と拳を足し打ち出す。周囲に響く轟音。巻き上がる土砂。陥没する地面。そして、その渇望、それは文字通りに武器の破壊。

スバル「ハァ…ハァ…これで……」

ヴィータ「どうだ…?」

カイン「a……ah……」

そして、今、トバルカインの聖遺物『黒円卓の聖槍』は砕け散った。それに伴い、屍兵の身体も風化し塵に還った。

その瞬間、ありがとうと、どこか精悍な青年の姿が見えた気がした。

ティアナ「スバル……終わった…?私達が、勝った?」

スバル「うん……でも、もう動けないかも……」

ヴィータ「ああ、ちょっと、これ以上は無理だ……皆ボロボロだな……」

スバル「うわ……もう腕、真っ黒……」

ティアナ「……うん。私ももう……」



――――スターズ1、2、副隊長ヴィータ、トバルカイン撃破。戦闘続行不可能―――――
125 :1[saga saga]:2011/05/09(月) 00:19:24.59 ID:3z3BWGJIo
カイン「Briah―――」

しかし、黙って死んでくれる相手ではない。

      雷速剣舞・戦姫変生
カイン「Donner Totentanz Walkure―――」

ヴィータ「く……負けるかァァァァァァァ!」

縛散する紫電の奔流。それで既にティアナのバインドは砕け散っている。今はヴィータが抑えつけているが、このままでは幾分も持たないだろう。だが……

カイン「私ヲ、殺セ―――」

そんな事を、あの屍体は言った気がして。

スバル「なん……で……そんな事を……」

理屈はわかる。あれだけ濃密だった殺意が今は無い。恐らくアレは郡体で、今はその中の一人が出てきている。そして、今のカインはさも死こそが救いのような、そんな気がして。

スバル(私は、人を助けるために……)

だが、これは敵だ。これがどういうものかなんて知らないけど、何百人と殺戮した屍兵。情けをかけることは出来ない。

今はカインの殺気は止んでいるが、いつ戻るとも限らない。今この時が最大の好機。

スバル「マッハキャリバー!」

マッハキャリバー「All right,body」

故に、今ここで出来なければ総て終わる。


スバル「私が望むものは君の笑顔。私が忌むのはその剣。だからその剣を砕き折ろう」


マッハキャリバー「Briah―――」


スバル「右歯噛咬す獣の牙」


創造位階。その渇望を携えてスバルが飛び上がる!



ヴィータ「へッ……スバル!手伝え!」

その呼び声に呼応するかのようにハンマー後部へと連結するウィングロード。それを滑走する一筋の青。

スバル「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

カイン「―――――――――!」

スバル・ヴィータ「ソード……ブレイカァァァァァァァァ!」

ハンマーの推進力にスバルの創造と拳を足し打ち出す。周囲に響く轟音。巻き上がる土砂。陥没する地面。そして、その渇望、それは文字通りに武器の破壊。

スバル「ハァ…ハァ…これで……」

ヴィータ「どうだ…?」

カイン「a……ah……」

そして、今、トバルカインの聖遺物『黒円卓の聖槍』は砕け散った。それに伴い、屍兵の身体も風化し塵に還った。

その瞬間、ありがとうと、どこか精悍な青年の姿が見えた気がした。

ティアナ「スバル……終わった…?私達が、勝った?」

スバル「うん……でも、もう動けないかも……」

ヴィータ「ああ、ちょっと、これ以上は無理だ……皆ボロボロだな……」

スバル「うわ……もう腕、真っ黒……」

ティアナ「……うん。私ももう……」


――――スターズ1、2、副隊長ヴィータ、トバルカイン撃破。戦闘続行不可能―――――
126 :1[saga saga]:2011/05/09(月) 00:21:03.07 ID:3z3BWGJIo
なんか調子悪いのかな?連投しちゃったよゴメンネ。第一試合終了ーーー
127 :1[saga saga]:2011/05/09(月) 00:23:52.26 ID:3z3BWGJIo
3回とか…
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方)[sage]:2011/05/09(月) 01:15:46.31 ID:c7pE81md0
他でも不具合出てるし>>1のせいじゃないと思う

129 :1[saga saga]:2011/05/09(月) 08:12:33.67 ID:3z3BWGJIo
ありがとう。そして、ありがとう
130 :1[saga saga]:2011/05/15(日) 19:08:43.85 ID:0+g6jJVqo
幕間―――――


親に殺された子。炎の中で死んだ者。毒壷の中で殺された者。それらが死に続けている。そこにあるのは死だ。

死死死死死死死死死死死死死――――

永遠に自らの死を繰り返す。濁流のような記憶、痛みが流れ込んでくる。

エリーゼ「あ…………」

気が狂う。こんなイタミ、マトモデイラレルハズガナイ

イザーク「狂え、エリーゼ。そして私と同じになれ。そうして三代目ゾーネンキントは完成する」


ヴィヴィオ「こんな……もうやめ……」


地獄に溶けたものの記憶を、痛みを押し付ける。体験させる。それがイザークの地獄巡り。魔城の歯車であり黄金の寵愛。

イザーク「死を想え」

断崖の先にこそ救いがあると、そう信じる心は地獄を開く。

エリーゼ「あぁ、あぁ……」

逃げられない。逃げられない。壊せないし崩せない―――

心はもう決壊寸前。遠からず自分がただの歯車と化すだろうと、分かっていながらどうしようもない。


エリーゼ「助けて……」

その言葉に応えるものははたして……







ラインハルト「ほぅ……」

メルクリウス「これはこれは」

救いに手を差し伸べる、再び城に挑むのは、高町なのは。管理局のエースオブエース。そして……魔城に溶けた高町ヴィヴィオの母。今だ城へは到達していないが、彼女を阻む者は居ない。そのまままっすぐに魔城の核へと向かってくる。

メルクリウス「覇道の兆しが見える。ツァラトゥストラの偽のエイヴィヒカイトで覇道が持つのか、とても興味がある。獣殿、私が相手をしてもよろしいか?」

ラインハルト「それは構わんが。卿が戦うなど珍しい事もあったものだな」

メルクリウス「なに。イザークはゾーネンキントと共に居る。大隊長は城を開けている。この状況では私かあなたしか動けない。ではまず、副首領である私が出るのが相応かと。勿論私自身が出るわけではないのだが」

ラインハルト「それはそうだろう。あれは未だに創造位階に足をかけている程度。果ては未知数だと感じるが、私に勝てるとも思えん。好きに楽しめ」




                                Zerbrochener Marionette
メルクリウス「では、あなたの渇望を見せてもらおう。――壊れた操り人形――」





動き出す巨大な髑髏。最後の障害。この向こうにヴィヴィオが居る。



なのは「いくよ、レイジングハート」


RH「Yes, my master」



魔城と魔導師。鉄の大砲と魔力の砲。これよりその戦いが開始された
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)2011/05/15(日) 21:37:00.94 ID:4lzvwHwA0
更新キターーーー
132 :1[saga saga]:2011/05/15(日) 21:36:58.80 ID:0+g6jJVqo
今日は全然書けなかったねごめんね
133 :1[saga saga]:2011/05/15(日) 22:00:13.02 ID:0+g6jJVqo
俺の更新を心待ちにしている人が居るなんて…!だがあまり進めずに申し訳ない
今更だが質問にも随時答えるよ?
134 :1[saga saga]:2011/05/22(日) 00:10:42.06 ID:s4A11ZqSo
第二の戦場―――串刺し公―――



ここは6課本部、そこに巨大な杭の上に立つ男が居た。



エリオ「キャロ、後ろに下がって」

キャロ「エリオくん……わかった。勝って」

震える手でストラーダを握る。それも仕方がないだろう。エリオが黒円卓と相対するのはこれが始めて。それが後に引けぬ戦場で。さらに相手は黒円卓の中でも特に危険な男。

ヴィルヘルム「あぁ……やっぱツァラトゥストラじゃねえか……まあいいぜ。あいつとはヴァルハラでやりあう。今はお前らだガキども。楽しませてくれるんだろうなあ!!」

全身に纏う鬼気、殺気、それは異常ともいえる。そして全身の皮膚を突き破って生える杭。血の匂いが充満し、大気は粘性を帯びていく。

エリオ「……勿論だ。面白おかしく仕留めてやるよ白いの」

ヴィルヘルム「カハッ……いいねえ言うねぇ。精精頑張りな。お前が死んだら後ろの女も直ぐ殺すぜ。何でもやってみろ。牙もねえ虫けら百万潰したところで何も面白かねえからな!」

エリオ「――――――ッ!く!」

咄嗟に弾け飛ぶように回避する。直前まで居た場所は既に槍衾と化していた。

キャロ「我が乞うは、疾風の翼。若き槍騎士に、駆け抜ける力を」

キャロのブーストは、速度のみに重点を置き、キャロは全魔力をそれのみに専念する。発動が遅ければエリオは先ほどの杭で仕留められていただろう。

エリオ「うおおおおおおおお!」

ヴィルヘルム「がッ――――――」

そして反撃―――ヴィルヘルムにとってみればいきなりスピードが上がり、そのまま槍の突撃を受けたに等しい。ヴィルヘルムは衝撃をモロに受けて吹き飛ぶ。

エリオ(いける……機動力なら僕が勝っている……これなら渡り合える!)


そう思った刹那、ヴィルヘルムの居る場所が干からび、砕け、チリに還る―――


ヴィルヘルム「へぇ……なかなか効いたぜ、速いじゃねえか。あぁ、てめぇら飽きねえな。ホントに飽きねえ。いい戦場だ。じゃあ、本番いこうか」


そう言い、白貌の吸血鬼は愉悦に顔を歪める。

ヴィルヘルム「聖槍十三騎士団黒円卓第四位 ヴィルヘルム・エーレンブルグ=カズィクル・ベイだ」

キャロ「――――!エリオ君!創造が……!」


ヴィルヘルム「もう遅ぇ」
135 :1[saga saga]:2011/05/22(日) 00:12:17.57 ID:s4A11ZqSo
           Wo war ich schon einmal und war so selig
ヴィルヘルム「かつて何処かで そしてこれほど幸福だったことがあるだろうか


闇夜に殷々と響く声。謳うヴィルヘルムを中心にして、周囲の位相がずれていく。


     Wie du warst! Wie du bist! Das wei? niemand, das ahnt keiner!
あなたは素晴らしい 掛け値なしに素晴らしい しかしそれは誰も知らず また誰も気付かない

Ich war ein Bub’, da hab’ ich die noch nicht gekannt.
幼い私は まだあなたを知らなかった

Wer bin denn ich? Wie komm’ denn ich zu ihr?
いったい私は誰なのだろう いったいどうして

Wie kommt denn sie zu mir?
私はあなたの許に来たのだろう

W?r’ ich kein Mann, die Sinne m?chten mir vergeh’n.
もし私が騎士にあるまじき者ならば、このまま死んでしまいたい

Das ist ein seliger Augenblick, ――
何よりも幸福なこの瞬間

den will ich nie vergessen bis an meinen Tod.
私は死しても 決して忘れはしないだろうから


アメーバのように揺らめく闇。夜が、更なる夜に包まれていく。


――Sophie, Welken Sie
ゆえに恋人よ 枯れ落ちろ

舗装された地面がひび割れ枯渇し粉砕された。


Show a Corpse
死骸を晒せ

木々は砂になるまで朽ちていく。


Es ist was kommen und ist was g’schehn, Ich m?cht Sie fragen
何かが訪れ 何かが起こった 私はあなたに問いを投げたい

Darf’s denn sein? Ich m?cht’ sie fragen: warum zittert was in mir?
本当にこれでよいのか 私は何か過ちを犯していないか

Sophie, und seh’ nur dich und sp?r’ nur dich
恋人よ 私はあなただけを見 あなただけを感じよう

Sophie, und wei? von nichts als nur: dich hab’ ich lieb
私の愛で朽ちるあなたを 私だけが知っているから

――Sophie, Welken Sie
ゆえに恋人よ 枯れ落ちろ

白貌を敵への喜悦に歪め、高らかに謳うヴィルヘルム。凶暴に、放埓に、この上なく満足げに―――呪言がここに完成した。


Briah――
創造


Der Rosenkavalier Schwarzwald
死森の薔薇騎士 」
136 :1[saga saga]:2011/05/22(日) 00:13:17.39 ID:s4A11ZqSo
エリオ「―――――ッ!?」

キャロ「―――――クゥッ!?」

そのとき、夜が生まれていた。総てを枯渇させる死森のヴェールはその昏さを増し

一方で月は煌々と真紅に輝きだす。明るさと暗さ。それが共に増す空間。術者の根源ともいえる渇望を原則に変える異界創造。

この夜の中に居るものは、精気も魔力も奪われる―――即ち時間と共にこちらは弱体化していくということ。

ヴィルヘルム「これが創造位階だ。その様子じゃあ……ここまでは達してなかったか。ちっとばかり残念だが、まあそれも仕方ねえか」

白い手袋が。髪が。肌が。闇に浮かび上がるように、魔人は夜と同化していく。

ヴィルヘルム「お前は死ぬが……せいぜい、足掻けや」

轟音はそれと同時に。一気に十メートル近くの跳躍、月を背に舞うヴィルヘルムの両掌から杭が連続して放たれる。音速を超えるパイルバンカーの連撃は最早絨毯爆撃と変わらない。

ヴィルヘルム「避けろ避けろ避けろ避けろ避けろォ!豚みてえに逃げ回ってよぉ、俺を絶頂させろやッ!止まるんじゃねぇッ!」

エリオ「くッ――――」

エリオの機動力は、キャロのブーストと偽エイヴィヒカイトでの効果により人外の速度域に達している。しかし、ヴィルヘルムの速度は先ほどとは段違い……今やエリオの速度域に迫っている。しかもヴィルヘルムの創造により、こちらはどんどん弱体化するという限界状況。死の荊棘で編まれた夜は、薔薇の騎士を無敵に変える。

エリオ「―――スピードで負けるわけにはいかないんだよ!ストラーダ!リミットブレイク!」

唸るデューゼンフォルムのストラーダ。その急加速は一瞬でもヴィルヘルムを凌駕し、その懐に飛び込んだ。そしてその推進力をそのまま槍にのせて……


エリオ「はああああああああ!」


ヴィルヘルム「……甘え、甘えよクソガキが。俺と力で勝負なんざできるのはカインかマキナくれえのもんだ。お前は速いだけだろうが」
137 :1[saga saga]:2011/05/22(日) 00:14:25.07 ID:s4A11ZqSo
ストラーダはヴィルヘルムの身体から生えた杭により絡め取られていた。パワーでは敵わない。スピードもそのうち追いつかれる。そしてこの間合いを離す事も叶わない。


エリオ「……だからどうした。お前たちは斃す。ここがお前の死に場所と知れ」


ヴィルヘルム「ク…カハハハハハハハハハ!それだけ言えりゃあたいしたもんだ。それに中々様になってるぜぇ騎士様」


交わした軽口も束の間、再び始まる戦闘は何度やってもこの繰り返し。身を削って十の攻撃をかわしてもこちらが攻められるのは一度か二度で、その悉くが効いていない。それも純粋にパワーがないという理由で。既にエリオが負った傷は十や二十ではなく、全身を激痛が駆け抜けている。


エリオ「く……」

ヴィルヘルム「あー、やっぱりこんなもんか。中々良かったがよ、もう限界だろオマエ。やっぱ創造位階に挑むのは無理か……だががっかりはしねえよ。ここまでやれただけでもたいしたもん……だ!」


エリオ「グ――――――ガハッ!」


そしてとうとうヴィルヘルムの拳がエリオを捉える。力を吸い、創造位階のヴィルヘルムの力に対抗できるはずもなくエリオは無残に地面に這い蹲る事になった。


ヴィルヘルム「まあそう嘆くな。どうせ皆殺して同じ用にハイドリヒ卿に呑みこまれる。そう悲観する事はねえ」
138 :1[saga saga]:2011/05/22(日) 00:15:25.51 ID:s4A11ZqSo
そうして止めをさそうと手をかざすヴィルヘルム。その靴の音が近づいてくる。



この二人の、死せる者と生き延びる者の違いはなんだったか。
格が違う。
才能が違う。
生きている年月も違うし持っている力も生きてきた環境も総てが違った。



しかし、最も大きな差というのは、これだろう。






エリオ・モンディアルには、勝利の女神が付いている。







139 :1[saga saga]:2011/05/22(日) 00:16:46.71 ID:s4A11ZqSo
―――――


私は見ているだけだ。補助魔法を使っているだけで戦いはエリオにまかせっきり。そりゃあ当然自分のブーストがなければどちらも死ぬし、無論あんな中に飛び込んだら一瞬で死ぬのは別っている。それでも傷付きながらも戦っているエリオに何かできないかと考えずにはいられない。

薔薇の夜が発生してから自分の体力は刻々と減っている。エリオとヴィルヘルムの戦いは最早自分が目で追える範囲を超えている。そしてヴィルヘルムに対する決定打もないのはわかってる。


そのときだった。


遂に均衡が崩れエリオが撃墜された。

「だめ……あのままじゃエリオ君が……」


死んでしまう、なら、今は自分が何かをするべきだ。今出来ること。それは……

「……蒼穹を走る白き閃光。我が翼となり、天を駆けよ。来よ、我が竜フリードリヒ。竜魂召喚!」


これがキャロ・ル・ルシェの牙。そして召還と同時、新たな魔法を詠唱する。


「竜王の加護を持て、こなたとかなたを繋げたまえ!フリードリヒ、ブラストレイ!」


召還からいきなりの砲撃。しかしそれに答えてこその竜。その炎は空間を越えて……



「届いて……!」




―――――
140 :1[saga saga]:2011/05/22(日) 00:20:05.84 ID:s4A11ZqSo
それはエリオにもヴィルヘルムにも思考の外からの攻撃だった。さらに創造位階でのヴィルヘルムの判断能力は獣のそれに近く本能的である。
ゆえに空間を越えてヴィルヘルムに向かった明確な殺意を含むその炎を防げるどうりはない―――


ヴィルヘルム「おおおおおおおおおおおおおォォォッ―――――」


突然吹き上げるドラゴンブレス。その火柱は天を衝き、一瞬薔薇の闇を切り裂いた。そして、火は吸血鬼の弱点である。創造位階での異常なステータスアップの代償に弱点があるというヴィルヘルムにしか効きえないこの攻撃は、ヴィルヘルムに致命的な一撃を与えた。

ヴィルヘルム「くそがあああああァァッ!」

しかし、竜の一撃で身体の大半を消し炭と化しながらもヴィルヘルムはまだ生きていた。そして、この攻撃を放ったものを知覚した。

エリオ(やめろ――――)

いかにヴィルヘルムが甚大なダメージを負っていようと、キャロのところまで接近し首を折るのに一瞬あれば事足りるだろう。元々この薔薇の夜はこの空間自体がヴィルヘルムそのもので瞬間移動じみた事も可能だろう。

エリオ(それだけは、やめろ――――)

それだけはさせないと、強く思う。胸には強い思いが。

エリオ(動けよ、この身体!)


渇望が。
141 :1[saga saga]:2011/05/22(日) 00:20:45.70 ID:s4A11ZqSo
エリオ「黄昏は世界を誘い 我々は命を誘う

運命よ お前の手により紡がれた所以も知らず

しかし今でも覚えている よく似た星を抱いている 君を何時も傍に感じている

私が望むものは滅びへ向かう光ではなく 君へ届く閃光」



自然に口を突いて出る詠唱。それは世界を、自分を変える呪い。



ストラーダ「conation complete! Briah―――」


     トーテンターツ・ゲオルク
エリオ「雷速剣舞・滅びの槍」
142 :1[saga saga]:2011/05/22(日) 00:22:19.01 ID:s4A11ZqSo
これがエリオ・モンディアルの創造。求道、雷への変生。今やエリオの速度は自然界では最速であり、キャロを狙うヴィルヘルムよりも速い―――!

一瞬でヴィルヘルムの懐に潜り込む。今やどんなものよりも早く駆けるエリオにさしものヴィルヘルムも抵抗の術はない。

ヴィルヘルム「ぐ……があああああああああ!」

ヴィルヘルムを貫く雷。渾身の一撃をまともに受けてしかしヴィルヘルムは、

ヴィルヘルム「――――――俺は負けねぇッ!」

エリオ「ぐ……ガァァァァァ!」

半身を消し炭になり、砕かれながらもなおエリオを串刺しにするヴィルヘルム。異常なまでの執念と諦めの悪さならば英雄の資質が確かにあるだろう。しかしエリオの身体は今や雷。魂へダメージは通るが拘束は不可能だ。しかし……

ヴィルヘルム「俺に勝てるのは……あの人だけだァッ!」

死力とはこの事か。ヴィルヘルムの身体から、空間から、杭や棘が乱れ咲く。

ヴィルヘルム「おおおおおおォォォォォォォッ」

迫るヴィルヘルムに対してエリオが持つのは幾つもの雷を重ね合わせた槍。それは聖人の持つような、薔薇の夜を照らす激しい閃光。

エリオ「お前の負けだ……!」

そして薔薇の夜の中で、閃光の槍と数千の血の杭とが激突する!

ヴィルヘルム「ぎぃぃぃぃぃぃぃいっぃ!」

エリオ「ぐううううううゥゥゥゥゥゥっ!」

それはお互いを食いつぶし落下する。そして、ここに勝敗は決した。

エリオ「斃れろ吸血鬼、お前はここで渇いていけ!」

ヴィルヘルム「がッ、あ、ああああああああああァァァァッッ―――――」

エリオの閃光の槍が落下の衝撃をも加えてヴィルヘルムの心臓に突き刺さる。唯一の本物、絶対的な吸血鬼を自負する以上、その理からは逃げられず、夜の魔性はその聖性の前に敗北する。

ヴィルヘルム「あ、ぐッ…あ……」

塵になって消え去る間際、薔薇の魔性はエリオを睨み。

ヴィルヘルム「やるじゃ、ねえ、かよ……くそが」

苦痛の中に微かな開放感を滲ませて風の中に消えていった。

エリオ「く……あ……」

キャロ「エリオ君!」

全身を串刺しにされ崩れ落ちる英雄と、それを支える勝利の女神。肉体的にはエリオの傷はないが、聖遺物による攻撃は魂に深い傷を負わせた。

エリオ「……ありがとうキャロ、フリード。あの砲撃が無かったらきっとやられてた」

キャロ「そんな……こんなにボロボロで……大丈夫なの?」

エリオ「このくらい、……野良犬に噛まれただけだ」

キャロ「―――――ッ!馬鹿。強がらないで!今治療するから!」

無論あの無茶な召還と薔薇の夜の吸精、エリオへのブーストでキャロの魔力ももう殆どなくなっている。しかし、それでもなけなしの魔力で治癒魔術を施す。

エリオ「……まあ、僕らの役割は果たせたよね」

キャロ「うん……だから、少し休んでおいて」
143 :1[saga saga]:2011/05/22(日) 00:23:20.71 ID:s4A11ZqSo
さて、勝者が辛くも勝利し、死にそうになる。そこを彼の女神が抱きしめる。そんなありきたりの風景はどうでもいい。少なくとも彼らにとっては。ここで重要なのは、今ここで大量の魂が散華した、その一点のみ。つまり―――

ラインハルト「これは中々……」

メルクリウス「今ここに第八が開く」


イザーク「今、契約の時が来た。謳えよゾーネンキント。それだけがお前の役割だ」
144 :1[saga saga]:2011/05/22(日) 00:25:43.90 ID:s4A11ZqSo
         Vere filius Dei erat iste
メルクリウス「ここに神の子 顕現せり

それは死を告げる遺言の契約。

Auferstehn, ja auferstehn, wirst du,
蘇る そう あなたはよみがえる

Mein Staub, nach kurzer Ruh.
私の塵は 短い安らぎの中を漂い

Unsterblich Leben wird,
あなたの望みし永遠の命がやってくる」

     ハーケンクロイツ
回る契約の鉤十字。イザークの壺中天で、魔城の心臓が動き出す。なぜなら彼は、そのためだけの歯車。

       Wieder aufzubl?hn wirst du ges?t!
エリーゼ「種蒔かれしあなたの命が 再びここに花を咲かせる

Der Herr der Ernte geht
刈り入れる者が歩きまわり

und sammelt Garben Uns ein, die starben.
我ら死者の 欠片たちを拾い集める」

エリーゼの遺伝子、クローニングの途中に刻み込まれた呪いとは即ちこれである。
イザーク
黒円卓双首領の号令により、第八開放の時を持って歯車が回りだすこと。奴隷の子は奴隷であり、歯車の子は歯車。イザーク=アイン・ゾーネンキントは、その名の通り始まりの物。グラズヘイム・ヴェルトールという世界において、第一に誕生した原書のアダム。人の子が禁断の果実による現在を繰り返すように。愛を求めてこの世総てを?み込もうというイザークの課粒は上位にある。
抗えない。それは不可能。現にこうして彼らの言うとおりにこの口は呪いを紡いでいる。

    O glaube, mein Herz, o glaube. Es geht dir nichts verloren!
マキナ「おお 信ぜよわが心 おお信ぜよ 失うものは何もない」
                ニグレド
ゆえに大隊長たちにも迷いは無く。黒騎士は目の前の敵を見据えながら。

        Dein ist, dein, was du gesehnt.
ザミエル「私のもの それは私が望んだもの

Dein, was du geliebt, was du gestritten!
私のもの それは私が愛し戦って来たものなのだ」

ルベド
赤騎士は灼熱の中で、総ての攻撃をかわしながら。

           O glaube,: du wardst nicht umsonst geboren!
シュライバー「おお 信ぜよ あなたは徒に生まれて来たのではないのだと
   Hast nicht umsonst gelebt, gelitten!
ただ徒に生を貪り 苦しんだのではないのだと 」

アルベド
白騎士は、自分の邪魔をするものを見据えながら。

         Was entstanden ist, das mu? vergehen.
ラインハルト「生まれて来たものは 滅びねばならない」
          Was vergangen, auferstehen!
大隊長「滅び去ったものは よみがえらねばならない」
        H?r auf zu beben!
エリーゼ「震えおののくのをやめよ」
       Bereite dich zu leben!
大隊長「生きるため 汝自身を用意せよ」
        O Schmerz! du Alldurchdringer!
エリーゼ「おお 苦しみよ 汝は全てに滲み通る」
        Dir bin, o Tod! du Allbezwinger, ich entrungen!
大隊長「おお 死よ 全ての征服者であった汝から 今こそ私は逃れ出る」
          Nun bist du bezwungen!
ラインハルト「祝えよ 今こそ汝が征服される時なのだ」

そう、それこそが覇道の具現。大儀式魔術黄金練成。
アルベド ニグレド ウィリディタス キトリニタス ルベド
白化、黒化、翠化、黄化、赤化―――以上五色をもって成す奇跡。

       Atziluth――
メルクリウス「流出」

祝福の箴言が締め括られる。ここに約束は果たされて。

Heilige Arche――Goldene Eihwaz Swastika
壷中聖櫃 不死創造する 生贄祭壇
145 :1[saga saga]:2011/05/22(日) 00:28:04.93 ID:s4A11ZqSo
猛り狂う魔力の総和が、今、異世界を流れ出させる。


―――――――――

嫌だ。いやだいやだいやだ。こんなの見せないで。なんでこんなものを見せるの?

イザーク「そうだ。これが私の知る世界のカタチ」

祝福されないパスタロトの揺り篭。

イザーク「産み落とされ、生かされて、死をもって創造するに至った揺籃なのだ。

これしか知らない。

これしか持たない。

愛も、情も、歓喜も、祝いも、私の世界にそんな物は存在しない。

では問う。答えよ私の血に連なるもの。―――欲しいか?」

何をとは、問えなくて。彼何を奪われ、何を欲し、何を怖れて何を感じているのかが容易にわかって。狂おしいほどに理解できて。

返答は、か細い一瞬。

回る壺中の環の中に、エリーゼの意識は落ちていく。

「―――――」

堕ちていく。

「――――ゼ!」

堕ちていく。その手は……

ヴィヴィオ「エリーゼ!」

もう一人のゾーネンキントにより引き上げられていた。

イザーク「地獄に堕ちぬか。聖王」

ヴィヴィオ「誰が……!あんなもの!勝手になのはママとかフェイトママとかにへんな事喋らせないで!」

エリーゼ「……あなた……」

ヴィヴィオ「大丈夫?あんな幻覚に、あんなわけわかんない奴に負けないで!」

イザーク「……なぜ、そうして立っていられる?」

ヴィヴィオ「……私はね、皆を信じているから!だからあなたたちなんかに負けない!」

わからない。イザークにはわからない。目の前の子供がなぜこの地獄に抗えるのか。総てを飲み込む渇望が故に、異物、不必要なものを取り込んだ歯車の。これが最初の一筋の傷。
146 :1[saga saga]:2011/05/29(日) 17:30:23.18 ID:6O9FvNrmo
第三――――

上空の城から、一条の黄金が漆黒を貫いた。しかし加減がしてあったのだろう。貫かれたドライは気を失ってるものの生きている。今はそれよりも目の前のこれが最大の危機。

シュライバー「どうしたんだい?アンナ。こんなところで、君らしくもない」

ルサルカ「…………」

この白狂した大隊長からどうすれば生き延びられるのかが問題だ。

シュライバー「だんまりかい?別にいいけど、そこどいてくれないかな?」

ルサルカ「…………ッ」

シュライバー「どかないの?しょうがないなー。僕はその男を殺してハイドリヒ卿の一番槍だって証明しないといけないんだけど……キミがどかないって言うんなら―――」

ルサルカ「――――くッ!」

シュライバー「君ごと殺していいってことだよなぁぁぁ!」

言葉と共に叩きつけられる弾丸を叩き落としながら、刹那で創造位階を発動する。

ルサルカ「シュライバー!!」

シュライバーの動きが止まる。しかし決してルサルカの創造の効果ではない。ウォルフガング・シュライバー。あの暴風を止められる者など、ハイドリヒ卿しか居ない。

シュライバー「アンナ、今君が何をしているかわかっているのかい?スワスチカも開かずに。それは……」

まるで、ハイドリヒ卿への謀反ではないかと。

                                                                          エインフェリア
ルサルカ「ええ。そうよシュライバー。私は彼を守ってあなたを倒し、ハイドリヒ卿を殺してみせる。獣の祝福なんていらない。死せる英雄になんてなりたくない。そんなヴァルハラなら願い下げよ」

シュライバー「クハッ――――要らない?アンナ。80年黒円卓にいて、あの人の後に続いて……君はあの人の祝福を要らないと言ったのか?」

身体が強張る。ついに、黒円卓の大隊長が本気で殺しに来る。もはや遊びは一切ない。

シュライバー「逃げろ。逃げろよ今のうちだ。僕から逃げられるなら逃げてみろ。音速だろうと光速だろうと、たとえどれだけ速かろうと僕は絶対逃がさない。ハイドリヒ卿の愛を要らないとほざいた貴様、たとえ旧友だろうと消えてなくなるまで引きずり回して磨り潰してやる。さぁ、はじめようか、戦争だァ」

そして吼える二丁拳銃。しかしあの銃は聖遺物ではなく、それほどの脅威ではない。

ルサルカ「ク……あああァァァァァ!」

銃弾の回避を捨ててでも集中しなければならない理由は他にある。

シュライバー「あははははははははははははははははははははははははははは―――!」

駆ける。跳ねる。宙を走る。けたたましい笑い声を響かせて矮躯の少年が踊り狂う。彼が疾走した背後には瓦礫の山。第七開放で人がいなくなっているからこそ支死者こそ居ないが、あれの通った後には死体しか残らないのだろう。ただ目の前の、謀反を宣言したルサルカに対しての殺意のみで動いている。
147 :1[saga saga]:2011/05/29(日) 17:31:23.24 ID:6O9FvNrmo
  シュトゥルムヴィント
彼は暴風のシュライバー。誰よりも速く、誰であろうと捉えられない。

ルサルカ「まるで悪夢ね……」

大気が爆発するような轟音を弾けさせ、ビルが、アスファルトが砕け散る。まるで見えない巨人が暴れ回っているかのように。今はシュライバーの攻撃は絶対に回避するという特性を利用し食人影でしのいでいるが、それもいつまで持つのかわからない。

ルサルカ「く……」

シュライバーの音速の動き、それの後に続く衝撃波。それがルサルカの体力を削る。均衡はすぐに崩れる。

もともとルサルカは大隊長と真っ向から立ち向かおうとするつもりはなかったのだ。管理局の戦いに少し手を貸して、敵も見方も意図していない混乱を引き起こそうとしていただけ。それが、ドライが無防備にも大隊長のいる戦場で眠ってなんかいるから出てきてしまった。

ルサルカ(ほんと……馬鹿みたい)


いままでで最大の数の食人影を操りシュライバーを襲いながらルサルカは呟く。




シュライバー「――――――ッ!」

それは何度目の交錯か。一瞬、いや、完全にシュライバーの意識がルサルカを離れた。

ルサルカ(――――今!)


そして、遂に神速の白騎士は水底の魔性に足を捉えられた。


ルサルカ「――――いつまで寝てんのよ!いい加減に起きなさい!」


そう。シュライバーを捉えるということはありえない。それがなされたのはつまり―――


シュライバー「……ハイドリヒ卿。今この時が……」


そう。今この時、第八が開放された。
148 :1[saga saga]:2011/05/29(日) 17:32:50.46 ID:6O9FvNrmo
そして同刻、発生した戦場で最も速く戦端が開かれた現場では、すでに一方的な様相を呈していた。

シグナム「ぐ……ああ……」

ザフィーラ「ぐ……おおおおおおおおお!」

戦場は灼熱。息をするだけで肺が焼きつき常人ならば数秒と存在すら出来ない場。そして―――

ザミエル「どうした?その剣は、その炎は、その拳は飾りか?」

吹き上げる炎、襲い来るシュマイザー。

ザフィーラ「ぐ……がああああああ!」

シグナム「―――ザフィーラ!」

吹き飛ぶザフィーラを受け止める。二人ともすでに死に体。息があるのはドライのエイヴィヒカイトプログラムで身体強化されているからにほかならない。

そして攻撃の隙に彼方より飛来する氷結弾頭。

ザミエル「……無駄だとわからんか」

そして一瞥。ただのそれだけではやての氷結の息吹はかき消される。

ザミエル「近接と遠距離からの波状攻撃。ああこれは私のような砲手には有効だろう。だが肝心の騎士達が死にかけているぞ?どうする指揮官」





はやて「く……」

上空ではやては焦っていた。あれは桁外れの飛び道具を有している事は推測できた。そしてそれは確定だろう。だからそれを抜かせないように、シグナムとザフィーラに近接戦闘で砲を抜く暇を与えないとした。

しかし誤算は、赤騎士は個人の武にも秀でていた事。まさかシグナムとザフィーラの攻撃がかすりもしないとは誰も思うまい。

はやて(まだか……隙はまだなんか……!)

大隊長撃破のための策、このままではそれを使う間もなくやられてしまう。







ザミエル「だが……おまえの仲間は存外やるらしい。今、第八が開いたぞ」
149 :1[saga saga]:2011/05/29(日) 17:33:30.63 ID:6O9FvNrmo
その拳の一撃で、大地は砕け建物の瓦礫の雨が降り注ぐ。その向こう。感情の読み取れない、暗く濁った死魚の瞳。顔を見るのは二度目の、この男。

マキナ「……まずは、おまえか」

フェイト「……ドライでもそんな一撃、できないって……」

鋼の黒騎士が叩きつける殺意が全身を貫く。下手に動けない。速さでは圧倒的にフェイトのほうが上。しかしマキナの不吉さが動く事を許さない。



マキナ「……あまり、戦いを長引かせるのは好ましくない。だが、今第八が開いた。いつまでもそうして立っているだけか?」
150 :1[saga saga]:2011/05/29(日) 17:34:06.29 ID:6O9FvNrmo
――――――
何かを詠う声が聞こえる。そして…

ルサルカ「――――いつまで寝てんのよ!いい加減に起きなさい!」

その声に叩き起こされた。

「ぐぅッ!」

身体の痛みが尋常じゃない。加減されたとはいえ神槍に貫かれればそうなるか。ではなぜ気を失っている俺が生きている?こんな好機を奴等が見逃すわけは……

ルサルカ「……やっと……起きたわね……」
151 :1[saga saga]:2011/05/29(日) 17:35:21.43 ID:6O9FvNrmo
――――――
あの時、確かに私の創造はシュライバーを捉えた。だけど、動きが止まったのは第八開放によるゾーネンキントの呪文詠唱のためだった。動きを止めていただけの私の創造はいとも容易く破られて、今はこんなふうに、彼の元に辿りつくのが精一杯だ。

星空の下、月の光を浴びて、いまや城から拡大する方陣と化したものを背にしてドライが目を覚ます。

「ああ、恋しい……」

ああ、妬ましい。

「ああ、眩しい……」

ああ、届かない。

「追いつけないなら、止めてやろうって思ったのに……」

この刹那の煌きを愛しく思うと、昔そう言ったのは誰だったか……思い出せなくて、分からなくて、不変に留めたかったその記憶すら、ボロボロに崩れているのに気がついて…

それでもあなたは、その何かを思い出させてくれそうで……だから……砕ける寸前の身体を軋ませ、あなたの顔を撫でてみる。

ルサルカ「いつまで寝てるのかな……このねぼすけさんは……」

顔に這わせた手を握られる

ドライ「……俺は……?おまえは……ルサルカ?」

「……やっと……起きたわね……」

でも、ドライの目の焦点があっていない。

「あなた……目が……」

ドライ「おまえ、俺を守ったのか?」

質問をさえぎるように、ドライは言う。

「えいえんが、よかったから……だけど、黄金の祝福なんて、いらない」

ドライ「………ッ!」

今、彼は私がどうなっているか知ったのだろう。目が見えなくても、腕の中で死にそうにしていればだれだって気付くことだ。

ドライ「ありがとう、ルサルカ。お前のことは忘れない。任せとけ。ラインハルトは斃す。お前もそれ以外も、全員奴の地獄から解放してやる」

そんなふうに、今一番言ってほしいことを言ってくれるもんだから。こんな死に際なのに、今まで流した事のない涙を流してしまう。

「じゃあ……わがまま聞いてよ……。私の代わりにこれを……一緒に連れて行って……」

ドライ「ああ……全部連れて行ってやる」

「……ありがとう。勝ってね……さようなら」
ロートス……



そうして少しの幸福感を噛み締めながら、私は夜に溶けていった。




歌え、踊れ、水辺の妖精。月よ、すべてを優しく照らしてほしい。わたしはついに見つけたから。彼に出遭うことができたから。

総ての影を、あなたの光で消し去ってほしいと強く望み―――



そして、信じる事にする。


152 :1[saga saga]:2011/05/29(日) 17:36:59.81 ID:6O9FvNrmo
――――――
ルサルカ・シュヴェーゲリンは死んだ。俺を守り、俺に総てを託し逝った。ああ、その約束は必ず果たす。目が見えなかろうが、左腕が上手く動かなかろうが関係ない。まずは、月下でこちらを眺めている、隻眼の少年。白騎士。大隊長。


シュライバー「自己紹介は必要かい?」

「いらねえよ。ヴォルフガング・シュライバーだろ?どうせすぐに殺してやる」

シュライバー「うふ、うふふふふははははははははは――――」

そうだ。あれは狂ってる。あれは殺意しか感情を持たないような真性の殺人鬼。いや、それすら生ぬるい。魔道も武道も知らず、誰よりも殺すことに秀でた壊れた人間。

シュライバー「ほざけ劣等ォォォォォ!」

接触を拒むが故攻撃は銃で。しかしそんな銃は俺には効かない。俺の皮膚すら貫けん。




形成     エリザベート・バートリー
「Yetzirah―――血の伯爵夫人」




ルサルカから託された聖遺物。その中身の魂まであいつは俺に移し変えたようだ。プログラムでも模倣でもない、正真正銘のエイヴィヒカイト。これを用いお前らを打倒する。

シュライバー「力を見せろッ、資格を示せッ、ハイドリヒ卿を失望させるなら許さないッ」


「……いくぞ蚊トンボ。跡形もなく吹き飛ばしてやるよ」
153 :1[saga saga]:2011/05/29(日) 17:38:43.37 ID:6O9FvNrmo
               エインフェリア
第三の戦場―――――不死英雄―――――
154 :1[saga saga]:2011/05/29(日) 18:09:29.19 ID:6O9FvNrmo
ちょっとテスト期間入るからしばらく更新できないかもです
155 :名無しNIPPER[sage]:2011/05/29(日) 19:03:40.01 ID:DCs6gyIDO

気長に焦熱世界・激痛の剣に焼かれながら待ってる
156 :1[saga saga]:2011/05/29(日) 19:36:15.94 ID:6O9FvNrmo
それはつらそうだからエレオノーレさんを頑張って攻略してください
157 :1[saga saga]:2011/06/12(日) 20:31:33.68 ID:CcbUYIjFo
目は潰れた。左腕は自由に動かない。そしてデバイスも起動不可。対してシュライバーは音速に等しい速度を誇っている。

(構わない。もとより奴は目に見えない。右腕一つあれば勝てる……!)

銃の音。シュライバーの咆哮。その音から方向は割り出せる。

「そこかぁ!」

銃は効かないとなれば、どうあってもシュライバーは肉弾に頼る事となる。そして、銃なんかよりもあの速度の肉弾攻撃の方がよほど怖い。しかし、逆に言えば標的である自分の位置こそシュライバーが絶対に通る道。そこを中心にして全方位、シュライバーの後を追う形で鎖が射出される。
だが―――

シュライバー「あははははは―――ノロいんだよォッ!」


常識外の怪物にそんな常套戦法は通じない。網の目を潜るように、総ての鎖をすり抜けシュライバーは迫る。その速度は、活動位階にしてすでに音速を超えている……!


だが―――

それこそ狙い通り。網はシュライバーの動きを限定するもの。

シュライバー「――――――ッ」

息を呑むシュライバー。自らの速さにまさか追いすがるものがいようとはこいつは思ってもみなかったのだろう。

(貰った……!)

震脚からそのエネルギーを、全身の頚力を練り上げ、拳に乗せる。なまじ脅威のスピードで突進していたシュライバーにこれをかわす術はない。急停止など不可能だ。


―――が。


シュライバー「―――――」


刹那の間に血走ったシュライバーの隻眼と視線がぶつかる。そこに渦巻くのは判別不可能な狂気の混沌。その刹那の瞬間に、確かにドライには見えた。縦に細長い獣めいた瞳孔が微かに揺らめき、口許が吊り上る。笑み。嘲笑。こいつはこのとき、紛れもなく嗤っていた。


          形成       暴風纏う破壊獣
シュライバー「Yetzirah――――Lyngvi Vanargand―――」
158 :1[saga saga]:2011/06/12(日) 20:34:43.25 ID:CcbUYIjFo
「―――――――」

大音声の爆発と共に、土砂の粉塵が舞い上がる。必勝の確信をこめた拳は空を切った。奴はあの瞬間、あの状態で、一切の減速をせずに真後ろに加速した。慣性の法則、物理法則を無視した逆走。その異常な出鱈目ぶりは……

シュライバー「うふ、うふふふふふふ……」

立ち込める土煙の向こう側……聞こえてくる忍び笑いは決して人間の笑い声などと思えない。この世のありとあらゆる悪意の精髄を抽出して、その選りすぐりを大釜で煮詰めたような笑い声。そして鼻腔を抉りぬく、吐き気どころか骨まで腐り堕ちそうな血の匂い。今、おぞましく血をすすった殺戮兵器が顕現した。魔獣の咆哮めいたエグゾースト。夜と土煙を切り裂いてこちらを照らす、主と同じ単眼の光芒。

シュライバー「出させたね、これを……」

現れたのは鋼鉄の獣。機会の心臓に可燃性の血を流して猛る二輪の暴威。あれこそがシュライバーの聖遺物。

シュライバー「でも驚いたよ。君、僕に追いつけるんだねえ。目も見えないのに良くやるよ。面白い」

「……みえみえなんだよ。闇の中に白々とお前の殺気がな。魔道も武道も知らないお前には分からないだろうがな」

シュライバー「うーん……たしかに凄いけど。それでも君は僕には勝てないよ」

「……何?」

シュライバー「これはクラフトが言っていたんだが、大隊長は三竦みってやつらしい。別に認めちゃいないけど。でも三人の特性を鑑みれば、そうしたこともありえるって事らしい。当てれば必殺のマキナ。必ず命中させるザミエル。そして……絶対に攻撃を受けない僕」

誰であろうと触れられない。その神速を越えた速度で躱し続ける。要は単純なスピード。この世の誰よりも速い。時間そのものを止めでもしない限り、狂乱の白騎士は捕まえられない。

シュライバー「マキナは強いよ。それなりに敬意もある。だけど彼じゃ僕を斃せない。ザミエルならあるいは僕を捕まえ得る……らしいよ?まあキミの戦い方はマキナにそっくりだし、真似は出来ない。だから僕にも勝てない」

「……マキナがザミエルに勝つって理屈はどうなんだよ」

シュライバー「ああ、それね。簡単だよ。魂の強度が互角なのさ。マキナはザミエルの砲を躱せないけど、一発じゃあ恐らく死なない。となれば、あとは重火器の常識だ。再装填、つまり溜めが必要となり、その間にドカン。大砲の撃ち合いなら決め手はそこだね。どっちがより耐えられるか、我慢比べの結果だよ。だからね。他の場所でも君達戦ってるけど相性が悪かったね。誰も僕達に勝てないよ」

「……なるほど。つまりやっぱりお前は、一発食らえば吹っ飛ぶ蚊トンボっていうわけだ」

シュライバー「へ?」

そんな事、初めて聞いたとばかりにシュライバーは目を丸くし、ついで堰を切ったように弾け笑った。

シュライバー「はッ――――はは――――なるほど確かに、確かにそうだ。そうかもしれない。攻撃なんて受けたことがないから分からないけど、その可能性は多分にあるよ。く、ははは―――、いいなあ、君は本当に面白いなあ!じゃあ……キミがそれを証明して見せろォッ!」

突然の攻撃。いや、あれは理性の壊れた怪物。むしろこの殺意を振りまいてこそが正常だろう。

対してドライは―――



「ああ、いいぜ。仕込の時間はたっぷりとあったからな」

その神速を捉える策はある
159 :1[saga saga]:2011/06/12(日) 20:36:36.84 ID:CcbUYIjFo
そして、こちらも一つの策に賭けたもの達。


ザミエル「私のもの それは私が望んだもの」



灼熱の中で謳いあげる赤騎士。対するシグナム、ザフィーラはすでに死に体。動く事も儘ならず今までの均衡は崩れ、数刻後に詠唱を終えたザミエル卿に遠距離から狙うはやても撃ち落されるだろう。


はやて(ザミエルは万能や。そしてその総ての能力が高い。どれか一つでも上回らなければ勝てない……。策は……)


策は用意した。だが、一回きりの策。使うタイミングを逃したらまっているのは敗北のみ。しかし


はやて(使うなら……今以上の隙が出来る今しかない!詠唱してる今がもっともアレが無防備になるときや!)


しかしそれでもザミエルに隙はない。現に今もシグナムとザフィーラの攻撃をかわし続けている。


はやて(……いや、今以上の好機はない。頼むで!シャマル!)


そして夜天の主は自らの騎士を信じて、ここには居ない騎士の名を呼んだ。
160 :1[saga saga]:2011/06/12(日) 20:38:58.45 ID:CcbUYIjFo
ザミエル「な……ばかな…これは……」


それはザミエルの意識の外からの攻撃。ザミエルの胸から腕が突き出している。

はやて「舐めるな……!こっちかてロストロギア持ちや!ドライのエイヴィヒカイトは理解できんから応用はできなかったから、あんたのリンカーコアを貰ってあんたを弱体化し、夜天の書を用いてエイヴィヒカイトを貰う!それが私達の必勝の策や!」

相手のリンカーコアを蒐集し自らの力として扱う。その夜天の書の特性を使い大隊長の力を奪う。それがザミエルに対抗するための手段。

――――だが

ザミエル「なるほど……それが貴様の聖遺物か。だが、その程度で私は獲れんぞォォォッ!」


シャマル「ぐ……ううぅぅ……!」

シャマルの口から悲鳴が漏れる。それも当然だろう。いま彼女は溶岩の中に手を突っ込んでいるのとかわらない。だが―――それでも

シャマル「私は……ヴォルケンリッターの……湖の騎士!ここで負けてなんていられない……!」

ザミエル「くッ―――ぐううぅぅぅぅ!」

魔力がこめられる。むしろリンカーコアを捉えられ、ここまで抵抗できたエレオノーレこそが異常である。

だがそれももう終わり。

シャマル「リンカーコア……蒐集……!」


今、夜天の書の項に新たなページが加えられた。

はやて「……ありがとう、シャマル。あとは任せてや」

大隊長の力。そのエイヴィヒカイト。ドライの擬似的なものでもなく、正真正銘の本物。それを夜天の書を聖遺物として発動する。

ザミエル「き、さま……!」

自らの力を持っていった敵に吼える。


はやて「形成――――夜天の書」


ザミエル「貴様ァァァァァ―――!」

はやてに向かって槍のように伸びるパンツァーファウスト。しかしそれは

ザフィーラ「うおおおおおおおおお!」


鋼の軛に止められる。さらに加えて―――


シグナム「はああああああああァァァァッ―――!」


炎と灼熱を踏み越え烈火の将の剣が襲い掛かる……!


ザミエル「―――――」


瞠目するエレオノーレ。すでにこの二人の身体は死んでいた。腕は火を噴き、関節は消し炭となり、顔もすでに原型を保っていない。確実に仕留めたと思い込んでいた。

その油断、その隙を突き、炎を伴う連結刃が、魔力の爆発と共に赤騎士の顔面を抉っていた。


ザミエル「……がッ」

エレオノーレは顔を覆い、苦悶に肩を震わせている。

そう。夜天の書の形成により守護騎士プログラムに不死性が付け加えられた。いま騎士にはドライのエイヴィヒカイトの他に夜天の加護も付け加えられている。
161 :1[saga saga]:2011/06/12(日) 20:39:48.50 ID:CcbUYIjFo
ザミエル「……そうか。さながら劣化品のエインフェリア製造機だな。虫唾が走る」

シグナム「ばかな……あのタイミングの一撃を……」

ザミエル「甘く見るなよ。この程度凌げんで何がハイドリヒ卿のエインフェリアだ。何が不死の英雄だ。貴様等ごときの命などで、私は殺せん!のぼせ上がるな!」

はやて「く……」

エレオノーレを斃すには、単純に何かを上回るしかない。そしてはやてに上回れる可能性があるとしたら、それは火力。火力でもってエレオノーレを上回り彼女を斃す。それにはまだ溜めがいる。

はやて『頼んだで。ザフィーラ、シグナム。あとちょっとの辛抱や』

シグナム・ザフィーラ『はい、わが主』

しかし火力でエレオノーレを上回る事が可能なのか。

ザミエル「誇れよ貴様等。私に一矢を報いるなどまさしく英雄にふさわしくはある。だが、その聖遺物は気に入らん。消し飛ばしてやる」

いや不可能だ。ザミエルの背後は沸騰する。極大の痛みを、極大の恐怖を――文字通り魂にまで刻んでやると。

ザミエル「枷を外してやろう。光栄に思うがいい。これを見るのは貴様たちが始めてだ」

膨張する大気。流れてくるのは焼けた鋼鉄と油の匂い。冗談じみた大火砲が今出現する。
162 :1[saga saga]:2011/06/12(日) 20:41:43.46 ID:CcbUYIjFo
      彼ほど真実に誓いを守った者はなく 彼ほど誠実に契約を守った者もなく
ザミエル「Echter als er schwur keener Eide;treuer als er hielt keener Vertrage;

      彼ほど純粋に人を愛した者はいない
       Lautrer als er liebte kein andrer:

      だが彼ほど総ての誓いと総ての契約 総ての愛を裏切った者もまたいない
       Und doch, alle Eide, alle Vertrage, die treueste Liebe trog keener wie er

       汝ら それが理解できるか
       Wi?t ihr, wie das ward?

       我を焦がすこの炎が 総ての穢れと総ての不浄を祓い清める
       Das Feuer, das mich verbrennt, rein’ge vom Fluche den Ring!

       祓いを及ぼし穢れを流し 溶かし開放して尊きものへ 至高の黄金として輝かせよう
       Ihr in der Flut Loset Ihn auf, und lauter bewahrt das lichte Gold,das euch zum Unheil geraubt.

       すでに神々の黄昏は始まったゆえに我はこの荘厳なるヴァルハラを燃やし尽くす者となる
       Denn der Gotter Ende dammert nun auf. So-werf’ ich den Brand in Walhalls prangende Burg.


       創造
       Briah―――


抜刀が起きる。何が何でも抜かせてはいけなかった焔の剣が、今ここに鞘走る。絶対に逃げられず、絶対に命中し、総てを焼き尽くす炎が凝縮した世界。

その銘は―――


        焦熱世界・激痛の剣
       Muspellzheimr L?vateinn」
163 :1[saga saga]:2011/06/12(日) 20:42:29.76 ID:CcbUYIjFo
周囲の景観は一変し、対峙する4人を残して周囲は赤き灼熱の国へと変じていた。まるで溶鉱炉。あらゆるものが解けて燃え、沸騰して熱風と化す。出口はない。避難場所もない。地平線すら揺らぐ広大な空間であるにも拘わらずまるでトンネルのような閉塞感に満ち満ちている。

ザフィーラ「これは……」

はやて「砲身の……中?」

ザミエル「そうだ。ゆれに分かるな貴様等。絶対に逃れられない。逃げ場など最初から何処にも存在しない」

          ムスペルヘイム
ただ業火のみの大焦熱地獄。

ザミエル「勝負ありだ。もはやどうにもならん。受け入れろ。諦観して座すがいい。しょせん貴様らはハイドリヒ卿を斃すどころか、私すらも越えられん」

その絶望的な宣告を受けてなお―――


はやて「……それでも、私らは負けん」
164 :1[saga saga]:2011/06/12(日) 20:43:49.31 ID:CcbUYIjFo
    Mi?gar?r V?lsunga Saga
マキナ「人世界・終焉変生」

開放の号令と共に、鋼の黒騎士がその本性を曝け出す。それに伴い拡大する圧力は無双の極致。アレの戦意に直撃されたというだけで、体が粉々に砕けそうだ。

フェイト「いきなり本気……」

様子見や小手調べなど一切ない。初手からの全力。漆黒に染まる鋼鉄の双腕。そこから滲み出る不吉な気配が大気を伝播し、肌の温感すら狂わせる。あれに触れれば死ぬ……!

マキナ「行くぞ」

重く寂びた声と共に鋼の偉丈夫が前に出る。瞬間、フェイトは飛んでいた。傍らを通り過ぎた拳圧は、重火砲の爆撃にすら匹敵する。

フェイト「――――――ッ、!ハーケンセイバー!」

発生した轟風に巻き込まれないように、身体を引き千切るように距離をとり、追撃を封じる為の攻撃をおいていく。無論それは黒騎士の拳により終焉する。

黒騎士はそれほど速くない。常人とは比べられるものではないが、確実にフェイトの方が速度では勝っている。

しかし―――

マキナ「無駄だ。その程度で速いなどと笑わせるな。創造を出さぬなら直にお前を殺して奴を殺しに行くぞ」

フェイト「――――!そんなこと!」

マキナ「させぬというなら早くしろ。全力を絞れ。俺を前に出し惜しみなどするな。俺は奴を殺さん限り終われないのだから」

フェイト「――――ッ!」

続けて放たれた拳、その発生した爆風に巻き込まれ錐揉み状に回転しながら、数十メートル飛ばされた。

フェイト(創造……渇望をルールに変える……それは)

あの病院の屋上でドライと共に至った位階。そしてすぐさまこいつに叩き潰されたもの。

マキナ「……次は外さない」


そう。いくらフェイトが早くてもマキナの拳を二撃も凌いだことが奇跡なのだ。


これ以上を望むなら創造位階は必須。
165 :1[saga saga]:2011/06/12(日) 20:45:21.08 ID:CcbUYIjFo
     Die Sonne toent nach alter Weise In Brudersphaeren Wettgesang.
フェイト「日は古より変わらず星と競い

     Und ihre vorgeschriebne Reise Vollendet sie mit Donnergang.
     定められた道を雷鳴のごとく疾走する

 自らの渇望を意識する。

     Und schnell und begreiflich schnell In ewig schnellem Sphaerenlauf.
      そして速く 何より速く 永劫の円環を駆け抜けよう

時間が止まればいいと思った

      Da flammt ein blitzendes Verheeren Dem Pfade vor des Donnerschlags;
      光となって破壊しろ その一撃で燃やし尽くせ

失いたくないから、今この時の幸せを何度でも噛み締めたい

      Da keiner dich ergruenden mag, Und alle deinen hohen Werke
      そは誰も知らず 届かぬ 至高の創造

      Sind herrlich wie am ersten Tag.
      我が渇望こそが原初の荘厳



今ここにその渇望が現れる



       創造     美麗刹那・序曲
       Briah――Eine Faust ouverture」
166 :1[saga saga]:2011/06/12(日) 20:47:14.42 ID:CcbUYIjFo
停滞する。時の体感速度を遅くしての疾走。創造位階により、たとえ光速だろうと凌駕する。ライオットブレードを展開、最高速度にてマキナを撃滅せんと肉薄する。

マキナ「―――――ッ!」

マキナにとってみればいきなりの加速、それが突然自分に襲い掛かってきたのだ。そこにたった刹那だけの隙が生じた。無論この程度の隙などドライやなのはなんかでは隙のうちにも入らない、その程度の空隙。しかし、創造位階でのフェイトにとってその猶予は百倍以上の効果がある。

フェイト「おおおおおおおォォォォ!」

全身の力を込めて、追撃を躱しながらライオットブレードを叩きつける。それがマキナの側頭部に叩き込まれた。だが……

フェイト「―――――何……あれ……」

弾け飛んで瓦礫の山に激突するマキナ、それを呆然と見るフェイト。これだけの大威力を頭に食らえばマキナもただではすまないだろうと分かってはいる。だが



マキナ「ぬるいぞ」


瞬間、瓦礫の山が風葬されていくように、塵となって掻き消えた。

フェイト「あなた……その顔は……!」

こちらを見据えるマキナの顔は、頬が僅かに裂けていたが、アレは負傷ではない。なぜなら、その下から覗くものはどうみても人間の身体じゃなかったから。


フェイト「機械……なんて……」

血の流れない皮膚。鋼で編み上げられた筋繊維と骨格。こいつは全身が鋼鉄。

マキナ「何を驚いている。ツァラトゥストラも似たようなものだろう」

まるで人型の戦車だ。こいつは物理的な意味において、文字通り骨の髄まで人間ではない。恐らくは脳までも、人間らしい部分なんてない―――

マキナ「あいつも俺も、共にカール・クラフトの玩具だ。それにお前も似たようなもの。そんな目で見られるのは心外だな」

フェイト「……え?」

マキナ「俺はよく知っているぞ。あいつの事を。お前も知らない事をな」

そんなワケの分からないことを言いながら、鋼の化け物は光のない目でフェイトを見る。哀れむように。


マキナ「お前は直接はかかわってはいないが、間接的には関わっている。プロジェクトFateという一点でな。だから殺す前に、お前に聞きたいことがある。答えてくれ。お前はどうして死んだか覚えているか?」

フェイト「―――――――」
意味が、マルデ、ワカラナイ。
167 :1[saga saga]:2011/06/12(日) 20:48:47.39 ID:CcbUYIjFo
フェイト「そ……れ……は……」

マキナ「俺は覚えていないのだ。ゆえに、あいつが持っていったのかもしれん。戦場……だったか、そんな気もする。では誰に?何処で?どうやって?分からんのだ。思い出せない。砲火を受けたときの熱さ、死を覚えたときの絶望。……それとも安息なのか、よく分からん。ある日気付けば、俺はハイドリヒの城にいた」

茫と宙に視線を向けつつ、天の方陣を見上げる黒騎士。隙だらけで攻め込むなら絶好の機会だったが、最初の一歩が踏み出せない。

マキナ「そういえば、まだ名乗っていなかったな。無意味だが、言っておこう。聖槍十三騎士団黒円卓第七位―――大隊長、ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン……他の者らはマキナと呼ぶが、どちらでも構わん。お前も好きにすればいい。俺は名などどうでもいいのだ」

なぜなら、自分の本当の名も覚えていないから。

フェイト「―――――私は!」

連続する破滅の拳に追い詰められる。たった一発食らっただけで致命傷となる攻撃に神経が削られる。


フェイト「私はアリシアとは違う!記憶があっても、あの気持ちを覚えていても!私はフェイト・テスタロッサ・ハラオウンだから!あなただって―――」

マキナ「お前と俺、それとあいつ。その一点だけでは似ている。だがお前は、決定的に俺とあいつとは違うのだ。そして渇望に喰われて単一思考しか出来なくなった者など人ではない。俺よりもお前のほうがそいした意味ではよっぽど負に寄っている。分かるぞ。繰り返したいんだろう?」

フェイト「な―――――」

絶句。なぜこいつがそんな事を……と。

マキナ「愛しい過去を無限に味わいたい。そのために未来を超速で駆け抜けつつ吹き飛ばす。疾走する停滞。お前の渇望はそれだろう。よく分かるよ」

フェイト「――――――」


もう声はない。自分の口でも上手く説明できない渇望を、目の前の機械は的確に表現した。そう。私はあの日々に帰りたい。皆が笑っているあの暖かい陽だまりに。そのために疾走しようと決めたのだ。


マキナ「俺はそうした旅に倦んでいてな。別の停止に憑かれたのだ。即ち―――」

鋼の拳が握りこまれる。軋むような音を立て、総てを砕き終わらせようと―――

マキナ「ドライは呪い、お前は疾走、そして俺は、死だ」
168 :1[saga saga]:2011/06/12(日) 20:49:30.75 ID:CcbUYIjFo
言葉と共に放たれる一撃をフェイトは躱す。その一撃はまるで何度も見てきたかのような一撃で。被せるように放った反撃もマキナは難なく躱した。

応酬は共に紙一重の一髪千鈞。にもかかわらず当たらないし当てられない。なぜならこの動きは知っているから。とても良く似た戦い方を沢山見てきたから。手数は圧倒的にフェイトが多い。時間の停滞、それに加えての連撃が完全に見切られる。つまりマキナのほうがより巧者であることを示している。そんなところまでそっくりで。ならばこの速度を維持しきれなくなった瞬間にこの均衡は崩れてしまう。ならばさらに速く、速く。限界を超えた加速を。加速の切り返しで震える大気。それを踏みしめて、いままでで最高速度の突撃を開始した。どだいこれを凌げぬようではラインハルトには届かない。

マキナ「やはり―――」

しかしそれにこたえたのは絶望的を与える声で。

マキナ「そうきたな」

フェイト「―――――――ッ」

大地を陥没させる踏み込みと共に、マキナがフェイトの足を踏み潰していた。

マキナ「その程度では俺には敵わん。あいつにも通じなかったろう?」

フェイト「な、それは―――」

マキナ「俺とあいつはな」

共に肩が触れ合う至近距離で言う。

一発で終わる。一撃で必滅させる。たとえ何者であろうと物語を終焉させるマキナの拳には抗えない。

マキナ「何処とも知れぬ戦場で共に斃れ、ハイドリヒの城で目覚め殺しあった戦奴だよ」

上体を捻転させ、大砲を放つ隙間がそこに生じる。足を踏みつけられたフェイトには、それを躱す術はない。

終わる―――次の一撃をまともに受けてしまう。

マキナ「俺とあいつは殺しあった。あいつの技は全て覚えた。第七、俺は十三の天秤。クラフトの筋書きを左右させる権利を持つ」

その終焉が落とされて……―――――
169 :1[saga saga]:2011/06/12(日) 22:15:34.14 ID:CcbUYIjFo
いいところだが今日はここまで。大隊長マジ強ええ
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)[sage]:2011/06/12(日) 23:45:46.66 ID:iNgZOfUAO
乙なんだよ!
171 :1[saga saga]:2011/06/26(日) 23:28:42.46 ID:rplBHEDNo
すまねえ…忙しくて書いている暇がねえ…来週日曜には進めることが出来ると思う…すまねえ
172 :1[saga saga]:2011/06/26(日) 23:30:23.38 ID:rplBHEDNo
すまねえ…忙しくて書いている暇がねえ…来週日曜には進めることが出来ると思う…すまねえ
173 :1[saga saga]:2011/07/03(日) 21:11:48.03 ID:mDcuqp+oo
鋼の魔獣、その吐息。それを見据え対峙するドライ。ここがおまえの終点。八十年に渡る狂気と戦争の遍歴を、今夜この場所で終わらせてやると。対してシュライバーは一瞬でドライの策を看破した。すなわち―――

シュライバー「うふふふ、あはははははははははははは―――――」

吹き上がる狂笑と共に、遂にヴァナルガンドが咆哮する。その身を不可視の流星と化し、敵を轢殺せんと超絶の疾走を開始する。そしてその足元で爆裂する凶器。飛び出す鎖―――駆けるシュライバーの足元から、ドライの魔力からなる地雷が炸裂する。さらには鎖のオマケ付き。先の鎖を全方位に延ばした時、この策のために地雷を設置していたのだ。それはもはや魔法と聖遺物の融合―――

シュライバー「あはははははは、無駄無駄無駄ァッ―――」

しかしそれでもシュライバーには当たらない。地雷に掛かってなお躱すという、悪夢のような操車技術とその速度――既に魔性の業であり、この程度の小細工で白騎士は止まらない。

「まあ、ここまでは予定通り」

そして、ドライもそのことは読んでいた。もとよりこんなもので決め手になるような奴ならば脅威にはならない。地雷、それはシュライバーの走行を限定するもの。あれが絶対に回避するというのならその走行ルートは手に取るようにわかる。そして、この作戦で難点があるとするなら唯一つ―――

「……一撃」

そう。策はこの一度きり。ぶっつけ本番で出来るかどうか。この一撃で殺しきれなければあとは泥沼。この先のラインハルト戦は絶望的になる。

目前に迫るシュライバーの気配。こんな殺気をばら撒いていれば目が見えなくとも感じられる。そしてドライは最後の策を起動した。

自らの傍、そこに設置していたのは地雷ではなく任意に爆裂する機雷―――踏んでもいない物が突如爆発したというその異変が、地雷に慣れていたシュライバーの感覚を刹那だけ狂わせる。それに加え、発生した魔力光が煙幕となりドライの位置を不明にした。


シュライバー「――――――」


それは万分の一秒以下の反射。どんな攻撃もかわさずにはいられないという魂が、絶対不可避の引力を持ってシュライバーをその場所へ誘導する。さらに―――

シュライバー「どこだ……どこに行った!」

黒円卓の大隊長が煙幕ごときで標的の位置を見失う。普通ならばありえない。狂っているがゆえに幻覚も錯乱もどんなものも効かないシュライバーが獲物の位置を見失うなどありえない。普通ならば―――

「―――――――」

気を使い、周囲の状況を感知し、自らの存在を消失させる。


圏境。


その達人の記憶、それをドライは持っている。今、人間兵器として生まれた力を使おう。

見付けた、捉えた、もう逃がさぬ。この一撃で死ね白騎士。

煙を切り裂き、魔力にて強化し、聖遺物の特性を纏い、気で呑みこむ。その絶技が今、完成する。

「ハアアァァァァァッ!」

今、ドライの拳は白騎士を捕らえる。

シュライバー「――――ァ」
174 :1[saga saga]:2011/07/03(日) 21:12:47.06 ID:mDcuqp+oo
この絶技を、魔道も武道も知らぬシュライバーが躱せるわけもない。肉をそぎ、骨を砕き、臓器を破壊した。これで、大隊長の一角を落とした。そう確信した瞬間に――――それはやってきた。

シュライバー「……あ……あ、ああ……」

呆然と突っ立ったまま、殴られた胸部を押さえるシュライバー。眼帯は吹き飛び、右目のあった場所の空洞をさらして呻いている。何かがおかしい。殺しきれなかったのか、そう思った瞬間だった―――

シュライバー「あ、あ、あぁ、ああぁぁあああぁぁあぁぁぁぁぁぁ―――」

「―――――ッ!?」

おぞましい異変。奈落のような口を開けるシュライバーの右眼窩……そこから血と膿と腐汁が堰を切ったように溢れ出す。それだけに収まらず、蛆虫が、精液が……そして細切れの人体の残骸がドロドロの汚液に塗れて流れ出る。吐き気のするような匂いが周囲を犯す。

これがシュライバーの凶器の源泉―――奴が今まで喰い貪り、殺し続けてきた総ての犠牲者。致死レベルの悪臭と渦を巻く怨念。

「クソ―――――!」

そうだ、何を馬鹿やっていたんだ。シュライバーは殺せない。あれは不死身の不死英霊。あれを仕留めるには奴の聖遺物を狙わなければいけなかった。しかし、奴の気配を補足してしまった。止めを刺そうと走る―――が、届かない。奴に近づくことが出来ない。

こちらがどれだけ早く動こうとその上を行かれるような感覚。時間軸が歪みに歪んでいる。どれだけ加速しても追いつけない。どんな速さで攻め込もうと、さらに一歩上を行く。

何者にも触らせないという渇望。己こそが最速だというルール。それがこのウォルフガング・シュライバーの――

「―――創造か……ッ!」
175 :1[saga saga]:2011/07/03(日) 21:14:00.32 ID:mDcuqp+oo
        ああ 私は願うどうか死神よどうか遠くへ行ってほしい
シュライバー「Vor?ber, ach, vor?ber! Geh, wilder knochenmann!」

未だ忘我の顔と口調で、破滅の詠唱が紡がれる。それに呼応するかのように、奴の銀髪がおどろに乱れて伸びていく。既に銃もバイクも消えうせて、今のシュライバーは徒手空拳。にも関わらず跳ね上がり続ける重圧は、この姿こそが真のものだと告げていた。

「……融合型―――」

口から零れる誰かの声。それは血を好み、殺しを好み、悲鳴と断末魔を愛する使い手が発現させる戦闘形態。ヴィルヘルムよりも、シュピーネよりも、殺戮の権化たるシュライバーは、他の誰よりもこのスタイルに相応しい。バイクに跨っていた状態などこいつにとっては偽装。本人すら制御できない狂気が爆発した瞬間こそがシュライバーの真の力が開放される。

   私はまだ老いていない 生に溢れているのだからどうかお願い 触らないで
シュライバー「Ich bin noch jung, geh, Lieber! Und r?hre mich nicht an.」

                エインフェリア
鋼鉄の魔獣と融合し、狂戦士と化す不死の英雄。文字通りの最速にして絶速を誇る人面獣心の怪物に―――

     美しく繊細な者よ恐れることはない 手を伸ばせ 割れは汝の友であり奪う為に来たのではないのだから
シュライバー「Gib deine Hand, du sch?n und zart Gebild! Bin Freund und komme nicht zu strafen.

ああ怖れるな怖がるな 誰も汝を傷つけない 我が腕の中で愛しい者よ 永劫安らかに眠るがいい
Sei guten Muts! Ich bin nicht wild, sollst sanft in meinen Armen schlafent!」

         フローズヴィトニル
総てを喰らい尽くす悪名の狼―――詠唱の進行と共にその骨格が組み変わり、さながら獣人化とでも言うべき変身を遂げていく。

         創造    死世界・狂獣変生
シュライバー「Briah―――Niflheimr Fenriswolf―――」
176 :1[saga saga]:2011/07/03(日) 21:15:29.14 ID:mDcuqp+oo
白銀に光る髪を靡かせて、今死の世界が顕現した。狂乱する嵐は周囲を瓦礫に変えながら疾走する。

「く――――」

今のシュライバーに意識はない。自我などとうに吹き飛んでただ無制限の殺戮を発生させる死の風と化している。

シュライバー「Und ruhre mich nicht an―――Und ruhre mich nicht an!」

空を爆砕する衝撃波を纏いながら、周囲を震撼させる狂獣の轟哮――何かに触れれば触れられた者、触れたシュライバー、そのどちらもが砕け散る。しかしシュライバーは砕けた部分を一瞬で再生している。狂う狂う狂気の殺意。壊れて壊れて渦を巻く。

殺したものほど強くなる。破壊と再生を繰り返す彼のレギオン――怨念の源である右目に詰め込んだ死者の数は実に十八万五千七百三十一人。雑魂の塊であるものの、数で言えばマキナとエレオノーレの三倍以上。その分再生する奴をどう斃す?

「ぐ……ああああああああああ!」

拳は空を切る。アデプトの技量をもってしても今のシュライバーは捉えられない。襲い来る暴風に身を任せるしか道はなく……

「ぐあああああああ!」

喰らいつくシュライバー。もっとも弱っている左腕。それを喰い千切られた。

シュライバー「餓、亜、垢苦……」

そして聞こえてくるのは咀嚼音。


「……喰ってるのか……?」

血の愉悦に嗤う怪物。それに左腕を喰われる。ああ、これぞどうしようもなく危機だ。敵の肉を喰らうなど言語道断



血を噴出しながらドライもまたほくそ笑む。


「パスが、繋がったぞ」

と。再び暴風に足を削られながら、折られながら、なお嗤う。

「く、ふ、ははははははははは!――――――」

シュライバー「Voruber, ach, voruber! Geh, wilder knochenmann!」

「ことよさしまつりき、かくよさしまつりし、くぬちにあらぶるかみたちをばかむとはしにとはしたまひ、かむはらひにはらひたまひてこととひし、いはねきねたちくさのかきはをもこと」

祝詞が謳いあげられる。シュライバーは足を狙い喰らいつき、ドライの片足が砕け散る。

「いくたま たるたま たまとまるたま くにとこたちのみこと」

神道の祝詞。しかしこれはドライにより魔道が混ざっている。ゆえに本来の意味から外れ一つの魔法が成立する。そう、すなわち―――
177 :1[saga saga]:2011/07/03(日) 21:17:41.81 ID:mDcuqp+oo
シュライバー「餓……!亜!」

自らの罪、穢れ、それを祓い相手に押し付ける。押し付ける相手は人形ではなく人間。ドライの儀式魔法、その最高の魔法。つまり、いまのシュライバーはドライと同じ。目は見えず、左腕は千切れ、片足が砕けている。

シュライバーの疾走、それが片足になったことで刹那の遅れが発生する。そしてドライは振魂により魔力が活性化している。

「―――――――」

しかし、攻めない。ここは攻めるときではない。やることはわかっている。この一瞬を勝利に繋げるためには、こちらも最強の創造を出すしかない。

Die Sonne toent nach alter Weise In Brudersphaeren Wettgesang.
     「日は古より変わらず星と競い
Und ihre vorgeschriebne Reise Vollendet sie mit Donnergang.
   定められた道を雷鳴のごとく疾走する


紡がれる詠唱はフェイトの行ったものと同一。それもそうであろう。彼女を、さらには皆を創造位階に引き上げているのはドライのエイヴィヒカイトのコピーなのだから。

Und schnell und begreiflich schnell In ewig schnellem Sphaerenlauf.
   そして速く 何より速く 永劫の円環を駆け抜けよう


彼女の為に、皆の為に、しかしこの祈りは何処へ行く?


Da flammt ein blitzendes Verheeren Dem Pfade vor des Donnerschlags;
    光となって破壊しろ その一撃で燃やし尽くせ


力を寄越せと吼えている。


Da keiner dich ergruenden mag, Und alle deinen hohen Werke
   そは誰も知らず 届かぬ 至高の創造

  Sind herrlich wie am ersten Tag.
   我が渇望こそが原初の荘厳


   Briah――
   創造

  その渇望により、今究極の覇道が流れ出す


  幻想世界・終焉
  Eine Phantasie Finale」
178 :1[saga saga]:2011/07/03(日) 21:19:23.09 ID:mDcuqp+oo
シュライバー「ギィ……――――!」

それは、己が最強であるという覇道。その拳に砕けぬものは無く、何者にも犯せない。肌は赤黒く、腹にはカドゥケウスの刻印。失った左腕と片足には刃の義手、義足。そして、血の伯爵夫人に記されているもの、総ての属性が宿っている。即ち、鎖、針、車輪、桎梏、短刀、糸鋸、毒液、椅子、漏斗、螺子、仮面、石版。

シュライバー「Und ruhre mich nicht an―――!」

狂獣は襲い来る殺意を殺意で返しながら疾走する。その速度は形成時の300倍を越え悪夢じみた衝撃で大気が震える。一瞬でドライの身体に叩きつけられる、いまや隕石にも等しい衝撃。

「……無駄だ」


しかし何度ぶつかろうとドライは傷一つつかない。ここに勝負は決まった。決まってしまった。


片や脆いが無限に再生し続ける神速の白騎士。片や再生はしないが絶対に壊れぬツァラトゥストラ。ドライの覇道でシュライバーの創造は破れない。シュライバーの創造でドライの最強は破れない。ぶつかり合いを繰り返すだけ。よって、あとは我慢比べ。どちらが咲きに燃料が尽きるかの勝負で、それはシュライバーが圧倒的に有利

シュライバー「Voruber, ach, voruber! Geh, wilder knochenmann!」

「おおおおおおおおおおおおおお!」
ゆえに、このまま続けば決着は見えたも同然
179 :1[saga saga]:2011/07/03(日) 21:21:17.29 ID:mDcuqp+oo
エレオノーレの後方、煮え滾る獄炎が火砕流のように迫ってくる。

ザミエル「ああ、ここまで食らいつくとは思いもしなかった。だがその聖遺物……」

夜天の書。リンカーコアを蒐集し、相手の魔法をコピーする。しかし特筆すべきなのはそこではない。最もあの聖遺物の恩恵を受けているのはこの二人。

シグナム「はぁぁぁぁぁ!」

ザフィーラ「おおおおおおおお!」

この獄炎の中でなお前に進む事をやめないこの二人こそが最大の恩恵を受けている。

それはさながら劣化品のエインフェリア。書の守護騎士達にはある程度の不死性が付与されている。

ザミエル「だが、見るに堪えんよ。その能力、虫唾が走る」

シグナム「く、うぁあああああああ!」

ザフィーラ「―――く!」

燃える。二人の身体は最早死に体。そしていかに不死性が付与されようとレーヴァテインの炎に飲み込まれたら燃え尽きる。そう。八神はやてに与えられた時間はあの炎がすべてを飲み込むまで。

はやて「ごめん、シグナム、ザフィーラ。でも、これで終わらすからな」

ザミエル「な――――――」

その時、エレオノーレは驚愕した。この戦場を覆う魔力に。魔法に。

エレオノーレの創造した地獄の中で。炎が照らす空に。それはあった。

シグナム「ふ……ふふ…私たちの勝ちだ。大隊長」

夜天の書の恩恵を最も受けたのは確かにこの二人。なぜならばこの二人が二人がかりでエレオノーレを抑えなければ八神はやてが落とされるから。そして今までのはやての砲撃はすべてエレオノーレが撃墜している

火力の差で。

だがこれはなんだ?今までこれだけの力を隠していたのか?

ザミエル「ありえん……!なんだそれは……!」

            ビブリオティカ・パンマギカ
はやて「巨大複合魔方陣……万魔図書館。これが私の、夜天の書の全力や」

夜天の書は今まで様々な時代で、様々な魔法を蒐集してきた。よって、ここに成された巨大な魔法はそのすべての力を集め、統合し、打ち出すもの。最強の砲。
180 :1[saga saga]:2011/07/03(日) 21:25:06.21 ID:mDcuqp+oo
ザミエル「だが……それで私の火力を上回ったつもりか?舐めるな」


シグナム「ぐぅぅぅぅ!く……」

ザフィーラ「く……まだ火力が上がるだと!?」

ザミエル「もとよりこれを出したら手加減などできん。どちらが勝利するか試してみようじゃないか」

そして遂に、魔法と魔砲が放たれる

ザミエル「貴様らの足掻き、中々のものだったよ」

はやて「く……ううううああああああ!」

砲は拮抗する。夜天の書のすべてが炎により蹂躙される。

ザミエル「まさか私の今の全力に拮抗しうるとは、夢にも思わなかった。だが、死ぬな。何事も分相応というものがある。貴様の身体がその魔力に追いついていない。貴様も不死人となればまだわからなかったんだがな」

はやて「……そうや。やから―――」

ザミエル「また、小細工も無駄だ。さっきの二人が残っている?確かに私の砲はおまえのよりも範囲が広いからな。針を通すように打てば私に届くかもしれん。だがそれだけだ。私は斃せんよ」

                      ロー・アイアス
ザフィーラ「ならば……やってやろう。織天覆う七つの円環!」

ザフィーラ誇る最強の盾がザミエルの砲を減衰させ―――

シグナム「シュツルムファルケン!」

シグナムのすべてを賭けた矢が、はやての砲に上乗せされる―――
181 :1[saga saga]:2011/07/03(日) 21:26:50.05 ID:mDcuqp+oo
ニグレド
黒騎士の拳を受け、何かがガラスのように砕け散っていくのを感じた。これで、終わりなのか?

フェイト「なのは……はやて……ドライ……」



「―――――――――」



フェイト「え―――――」

マキナ「―――馬鹿な」

そう。砕けたのは何かであってフェイトではない。そしてその何かがなんなのかはっきりとわかる。この温もりは紛れもなく……

フェイト「ドライ……」

マキナ「有り得ん、なぜだ―――なぜ終わらん!」

理屈として、マキナの一撃を防げるモノは存在しないはずなのに。それを防いだ事実。それに対抗しうるものは同格かそれ以上の物。インパクトの瞬間、同時に誕生した世界。

すなわち―――第三の新世界―――

だから。フェイトは生きている。

マキナ「おのれ、有り得ん!」

うん。今すべてを理解したよ。これはドライの覇道。それが私を護っている。

マキナ「滅びろォッ―――!」

ならば何も怖れる事はない。

フェイト「はああああああああああああァァァッ!」

全霊をこめて振り下ろすライオットザンバーが、マキナの2撃目と激突する。今この瞬間において、もはやこいつの拳は必殺じゃない。

マキナ「馬鹿な……」

創造位階にある限り、たとえ何発だろうと幕を落とせる英雄譚。黒の大隊長が揮うその奥義は確かに凶悪かつ剣呑で、当てればラインハルトでさえ屠るだろう。

だが、例外はツァラトゥストラ。

マキナ「二発だと?続けてだと?有り得ん―――有り得んぞ、何だそれはッ!?」

そう。インパクトの瞬間に生じたもので相殺しようと、それが通じるのは一度きり。マキナが終わらせているのは歴史。生物、器物、知識、概念すべて等しく内包している時間、積み上げられた物語。その道の事だ。

すなわち、デウス・エクス・マキナを封殺するなら、ゼロであり続けなければならない。

ゆえに、この業はフェイト・テスタロッサにしか成しえない。

ゼロの停止。

フェイト「時間が止まってほしいと思った」

繰り出した一閃が、再度マキナの拳とぶつかり合う。都合三度目の結果、やはりこちらにダメージはない。

フェイト「この今が永遠に続いて欲しいと思った」

非現実的で青臭くて、誰もが一度は懐いただろうそれは陳腐だけど真摯な祈り。

フェイト「この日常が終わって欲しくない」

私の好きな人が笑っていられる世界が―――

フェイト「いつか終わると分かっていても―――」

じゃあ終わってもいいなんて思えない!

マキナ「ぬッ、がああァッ――」

打ち合う。あのマキナと正面からぶつかり合う。

マキナ「おのれ……クラフトの副産物がァッ!」

フェイト「ラインハルトの奴隷が粋がるな!」
182 :1[saga saga]:2011/07/03(日) 21:27:29.32 ID:mDcuqp+oo
マキナ「かつて蛇はオレに言った―――選べとな。終焉と疾走―――その背反を二つに分けろと。どちらにするか、どちらを選ぶか、内の一つにしか俺の個我は宿れぬと」

フェイト「それで、あなたは終わりを選んだの!?」

マキナ「そうだ。俺はその瞬間を覚えている」

ゆえにドライではなく自分こそが自分だと言う。

マキナ「おまえらは形骸から作られたクラフトの玩具だ。奴の傀儡として、放し飼いにされているだけの人形にすぎん!」

フェイト「なにを―――男が分けわかんないことをべらべらと!ドライはそんな事言わないわよ!」

一瞬の隙を突いて胸元に切り込む。同時にマキナの拳も俺に迫った。それは確かによく見た拳。ドライと同じ戦闘スタイル。その方法。

お互いの一撃は互いに交差し、共に被弾。

マキナ「グゥッ――」

フェイト「うああああ!」

マキナ「……ぬるいわ!」

そう。まだ足りない。これでやっと五分なんだ。


「――――――」


そして、なにをすればいいか、なにができるかはなんとなく理解してる。ここにドライの覇道を感じるから。
183 :1[saga saga]:2011/07/03(日) 21:28:28.82 ID:mDcuqp+oo
     Die Sonne toent nach alter Weise In Brudersphaeren Wettgesang.
フェイト「日は古より変わらず星と競い

     Und ihre vorgeschriebne Reise Vollendet sie mit Donnergang.
     定められた道を雷鳴のごとく疾走する

     Und schnell und begreiflich schnell In ewig schnellem Sphaerenlauf.
      そして速く 何より速く 永劫の円環を駆け抜けよう


それは序曲と同じ詠唱。呼びかける渇望も同一。


      Da flammt ein blitzendes Verheeren Dem Pfade vor des Donnerschlags;
      光となって破壊しろ その一撃で燃やし尽くせ


この祈りは何処へ行く?


      Da keiner dich ergruenden mag, Und alle deinen hohen Werke
      そは誰も知らず 届かぬ 至高の創造

      Sind herrlich wie am ersten Tag.
      我が渇望こそが原初の荘厳


無論、それは決まっている。彼に、彼女に、愛する皆に。


ドライの創造、それに押し上げられ結果発生するのは、グラズヘイムにも劣らぬ究極の異世界。



       創造    涅槃静寂・交響曲
       Briah――Eine Faust symphonie」
184 :1[saga saga]:2011/07/03(日) 21:30:17.01 ID:mDcuqp+oo
ここにもう一つの覇道が流れ出す。


ザミエル「な……」

その時、エレオノーレは自分になにが起きたのか分からなかった。あまりにも唐突すぎて。あまりにも不明すぎて。

ザミエル「馬鹿、な……」

突然、八神はやての万魔図書館の威力が跳ね上がり、エレオノーレの砲に一筋の道を作った。それだけならばまだいい。それこそが奴らの狙いだと分かっていた。だが……

ザミエル「ッ、は……、この……剣―――」

シグナム「――当たった……のか?」

驚愕はこの三人も同じ。ついさっき一瞬だけ、何か奇妙な感覚に囚われた。気のせいかもしれない。だが確実にそれはあった。私達の力が増し、剣を放ってから命中するまでの刹那、時間が止まった気がしたのだ。そして、放った矢だけは止まった時間の中を常速で飛んでいた。あれが無ければ確実に砕かれていた。エレオノーレは時間停止に巻き込まれ、文字通り硬直した状態で止めの一撃を受けてしまい……

はやて「どうやら……私たちの勝ち見たいやな、ザミエル卿」

ザミエル「おの、れが……忌々しい。まあ、構わん、さ……ハイドリヒ卿は、誰にも負けん。図に乗るなよ、小娘共……ヴァルハラで会えば、次こそは消し潰してやろう」

不敵に、どこまでも不敵に、全身を朱に染めながらも赤騎士は笑う。騙まし討ちに等しい結末だったが、不満は一切漏らさない。これはこれで、確かに英雄たる存在の矜持なのだろう。

はやて「いや……もう二度と、あんたの顔は見たくない」

ザミエル「くく、くくくく……ははははは、はははははははは―――!面白い、実に面白かったぞ、いい戦場だった!次は貴様を我が敵と認め、全力で殺しあおうじゃないか!」

はやて「せやから……嫌や。私は逃げるから、勝手に追いかけてればいいやろ」

ザミエル「ふふふ、はははははははははははははは―――!」

弾け笑うエレオノーレ。激痛に焼かれるのが嬉しくて堪らない。

ああ、そうだ。私は届かないものを未来永劫追い続ける。どんな苦痛も、どんな渇きも、

            ほのお
すべて私を焼く愛しい情念だ。

ザミエル「なあ、キルヒアイゼン」

言って、自ら首に突き立つ剣をつかむと、そのまま一気に真横へ引いた。消え行く炎の上で、エレオノーレの首が飛ぶ。

     ジークハイル
ザミエル「勝利万歳。御身に勝利を、ハイドリヒ卿」

        ルベド
そういい残し赤騎士は消滅した。

はやて「ほな……私達の勝ちや」

シグナム「ええ……もう無理矢理なエイヴィヒカイトでの加護も……限界ですね……」

ザフィーラ「だが……絶対勝て―――」
185 :1[saga saga]:2011/07/03(日) 21:31:49.22 ID:mDcuqp+oo
そして――――



「―――止まってる?」

白騎士の創造とドライの創造。後はその削り合いをするだけで、魂の量が圧倒的に足りないこちらは負けるだけしかできなかった。ゆえにその後、恐らく数分で、戒めの鎖から放たれた魔性の狼は血の嵐を巻き起こす。そのはずだったが。

「―――――」

シュライバーの背が迫ってくる。どうあっても届かなかった俺の手が、遂にシュライバーを捉えた。無論、こんな好機を逃すはずも無く、今度こそ殺し損ねないようにあらゆる殺しの概念を持ってシュライバーを射抜く。

首を絶ち、腹を突き破り、心臓を貫く。

シュライバー「亜……我……」

凶器の白騎士は、そんな音を出して消滅した。

「――――はぁ……斃したぞ、大隊長……!」

既に俺の身体もボロボロだけど……

「待っていろよ、ラインハルト、メルクリウス―――!」
そうしてドライは、空へと走る。

包まれている。地獄に居ながら抱きしめられている。陽だまりのまどろみに似たそれは、逆に意識を覚醒へと導いていく。

この壺中天で、そのぬくもりはあまりに異質だから。輝いて見えるから。

弾ける命の閃光と、強く優しい私の大事な人達。

すべての戦いを知覚できる。彼らの魂を私は感じる。

ヴィヴィオ「フェイトママ、なのはママ―――」

エリーゼ「ドライさん……はやてさん……」

一度落ちれば溶け消えるのみの壺中天。その中心で、ゾーネンキント二人は己が声を聞いていた。なぜ自分を取り戻し、イザークの思念が止まったのかも分からない。でも…――

エリーゼ「目が覚めたよ。ありがとう」

ヴィヴィオ「私たちも頑張る。頑張るから」




『勝って』
186 :1[saga saga]:2011/07/03(日) 21:33:08.46 ID:mDcuqp+oo
マキナ「――――」

フェイト「さあ、仕切りなおしよ。これが私達の、全力全開―――!」

マキナ「抜かせ、まだぬるいわ」

一歩、足を踏み出す。このフェイトとその仲間にしか疾走というアドバンテージを渡さない世界で、マキナは止まらない。

フェイト「―――動けるからって、いい気になるな!」

クラフトの玩具?知らない。ラインハルトの支配下から逃れられないこいつの方が、明らかに私達よりも格下だ。

フェイト「気に入らないのよ!あなたは、ラインハルトを倒せるでしょう!」

連続を繰り返す剣戟の中、真っ向見据えて言う。

フェイト「それで殴れば、あいつだって死ぬでしょう」

死んだ魚みたいな目をして、できる事をやろうとしない。それが私は許せない。

フェイト「何処まで奴隷なのよ、あなたは。そんな腰抜けが、私達に偉そうな事言うな」

マキナ「おまえには分からん。俺はもう、二度と死から目覚めたくない」

重く、重く漆黒の声で、鋼鉄の男はそう絞り出す。

マキナ「おまえは覚えてるのか?自らの死を」

それはこいつが投げてきた問い。死んだ瞬間を覚えているかと。自分にはそれが分からないと。

マキナ「ある日目を覚ましてみれば、俺はハイドリヒの城にいた。分かるか?文字通り目が覚めたという程度でしか俺は認識していない。夜に三本足のものが、朝に四本足になるのと変わらん。死は一度きり。ゆえに烈しく生きる意味がある。その唯一をワケの分からぬまま使い切られた俺はどうすればいい。吼えたところで、すでに起こった事実は変わらない。ならばやり直すだけだろう。取り零した死を。その唯一、二度と失敗の許されぬ唯一無二。俺にとって絶対に譲れぬ聖戦だ。それをなぜハイドリヒなどに使わねばならん!奴を斃す?ああ、万回やれば一度や二度はいけるかもな。だがそのために、何回死ねをおまえは言うのだ。俺の唯一を、何処まで安く見るのだ」

フェイト「――――ッ」
気圧されたわけじゃない。だけど、こいつの理屈がよくわかる。そんな事を笑いながら言っていた奴が居た。死は一度きり。反魂なんてしてまで生きる生に意味は無いと。

簡単に取り戻せるものは

マキナ「そんな物はゴミだ。一度しかない死。もう逃せない死。ハイドリヒは墓の王だ。奴が率いる死は無限にある。意味が無い」

フェイト「だから、私を殺してドライを殺すの?」

マキナ「言ったろう。奴とは過去に戦った事がある」

マキナの拳を真正面から弾き返す。この動きは嫌になるほど見てきた動きで。

マキナ「城で目覚めた初の蘇生と、おまえと別れた時は別だ。教えてやろうか?俺とあいつの秘密を」

フェイト「え……?」
187 :1[saga saga]:2011/07/03(日) 21:34:45.03 ID:mDcuqp+oo
マキナ「黒円卓には、一つだけ空席があった。最初期は、ハイドリヒとクラフトを頂点とした九人。ベイ、ザミエル、シュライバー、マレウス、バビロン、クリストフ――そしてヴァルキュリア。トバルカインとシュピーネが跡に続き、ゾーネンキントは最初から予約席だ。なあ、一人足りんだろう?」

    ズィーベン
フェイト「第七――」


マキナ「そう、天秤だ」

打ち下ろしを受けて弾き返す。中距離に戻ったマキナは構えを取って、拳に力を集中しだした。

マキナ「ではどうする?駒が足りなければ埋めねばならん。しかし欠番は第七、黒円卓の中央にある天秤の座。生半可なものは据えられん。ならばもう分かるだろう?カール・クラフトがそうした時、どういう手段を用いるか」

低く笑う。陰惨に。おまえも同じだろうといった風情で、こいつの言わんとしていることが用意に分かった。

マキナ「いないのなら」

フェイト「創ればいい」

マキナ「ハイドリヒの城で目覚めた戦奴たち、そこで最後の一人になるまでの殺し合いだよ。負けたものは勝った者に吸収され、遂に俺が最後まで残った。無論、楽だった戦いなど一度も無い。全員が自立的に城で目覚めたエインフェリアの資格者だ。しかし俺は、そんなところで死ぬわけにはいかない。そこであいつとは戦っているはずだ」

蠱毒の壷で、全員が魔城からの解放を求めて殺し合った。

マキナ「俺は最後まで残ったが、結果として最も強くハイドリヒの城に縛られている。ゆえにそこから、さらにもう一戦だ。最強たる蠱、万のエインフェリアと融合した俺を、さらに二つへ。あいつはその片割れだ。兄弟だと言ったろう。あいつと俺は一時血肉を共有したが、別に同一人物なわけではない。ハイドリヒ、クラフト、そして俺の利害は一致している。奴らは俺たちを噛み合わせて最強の蠱を生み出し、俺はお前を殺すことで、城からの解放を約束された。求める死はその時だ。お前らがラインハルトを倒してもこの望みは叶うが―――確率として低すぎる。不可能だ。あいつは過去俺に負けている。お前らもハイドリヒには届かん。それに、奴らの理想はあいつの勝利だ。ゆえに気に食わん。鼻を明かしてやりたい」

爆撃に等しい轟風が大気を砕き、マキナの拳が放たれる。
188 :1[saga saga]:2011/07/03(日) 21:35:45.72 ID:mDcuqp+oo
マキナ「その時、奴らの顔は見ものだろうよ。八十年が水泡に帰した間抜けさを、存分に未知として噛み締めればよいのさ!ふふふ、ははははははははははははは――――」

フェイト「よく分かったよ。でも、それでもドライは負けない。負けさせない」

迫る拳を真っ向睨んで、言い返す。

フェイト「私の好きな人達を舐めるな!」

そして、疾走を再開する。




渾身の一撃が炸裂したと思った瞬間、不意に目の前から標的が掻き消える。

マキナ「―――――」

驚愕は押さえ込む。今更この程度で動揺するほど、魔城の最強闘士は甘くない。

マキナ「そこか」

完全な勘だが外れていない。心眼。これが外れても問題は無い。空振りに終わった拳を戻そうとせずに、そのまま回転して左の蹴り。

今度こそ捉えた。そう確信したにも関わらず――

マキナ「―――――」

またしても空を切る。絶対と信じる勘と予測を、敵が上回り始めている。

既にフェイトは瞬間の残像としか捉えられない。この、自分の定めた聖戦以外の戦いで、こんな力を見るなど思っても見なかった。

フェイト「だから――」

迫る金の閃光――刃が視認できない速さで走る。

フェイト「ドライとあなたは違うんだ」

数ミリ、首を裂く。敵が速い。さらに速くなる。

マキナ「おおおおおォォォッ!」

怒号して揮った拳は、先ほどより輪をかけて的を外した。当てさえすれば粉と砕いてやる自信はあるのに、これでは風車と変わらない。

フェイト「あなたは一人で」

また首を裂かれる。

フェイト「どうやって成長するの?」

マキナ「無論、最後の死をもって完結するため」

フェイト「未来を見ないで、どうやって前に進む」

マキナ「なるほど、確かにお前たちと俺は違う。ゆえにお前の世界から俺は排除されつつある。だが……お前にハイドリヒが斃せるのか!?」

あの黄金を、墓の王を、たかが友情のみで倒すと?

マキナ「俺の望みは俺の力で完遂する。他力などに頼らん。それでも行くというのなら…敗北させてみろ、この俺を―――させんがなッ!」
189 :1[saga saga]:2011/07/03(日) 21:36:23.52 ID:mDcuqp+oo
フェイト「あなたは―――!あなたの唯一と私とドライの唯一は違うから!」

その一瞬、ニグレドの勘がフェイトを捉える。未来予知さえ手中に収めて打ち下ろす拳。これを避けられるはずが無いと確信する。しかし――

フェイト「あなたの歯車は、誰が埋めたの?」

こいつの言葉が、こうも魂を揺さぶるのか。


フェイト「ミハエル。ラインハルトは私達が斃す」

何かの名を呼ばれた。それだけで、この拳はこうも揺らぐ。

マキナ「その、名は……」

首を切られていることがどうでもいいかのように、マキナはフェイトの目を凝視している。

戸惑いと逡巡。そして隠しようがない懐かしさ……まるで遥か昔になくしたものを取り戻した子供のように。

フェイト「私は、フェイト。彼は、ドライ。それが私たちの掲げる唯一。この名前が私達の誇り。貴方は……あの人と一緒にいたのにそんな事も忘れちゃったの?」

マキナ「俺を……知っているのか?」

フェイト「……ええ。ミハエル。少しだけ」

マキナ「ああ、ミハエルか。そうだったな……俺の望みは砕かれたが、その名を思い出せたなら悪くない。これもまた一つの救いだろう」

それだけ言って、鋼鉄の黒騎士は姿を消した。
190 :1[saga saga]:2011/07/03(日) 21:39:04.99 ID:mDcuqp+oo
メルクリウス「―――見事」

その決着を見届けて、笑う水銀の超越と。

ラインハルト「ああ、素晴らしい。しかし、この場にはいささか不必要なものが多いな。贋作がマキナを斃すとはまったくの予想外だ」

メルクリウス「ああ、我らが敵手はツァラトゥストラ。贋作などはいらぬ。ならばこの場は最後の決戦場。ゆえに、資格者しか立ち入れない」

それは以上の排除。に他ならない。今メルクリウスの言葉によってこの方陣の上には本物の聖遺物を持つ者しか立ち入れない。

そしてまったくの同時に打倒された赤騎士と白騎士の魂が、黒騎士のそれと共にラインハルトの下へと還っていく。

膨れ上がる彼の総軍。もはや先ほどまでの比ではない。



最後の決戦、ラインハルト打倒の為にフェイトは空へと飛ぶ。しかし、届かない。その時、何かが見えた。

「――――フェイト!」

フェイト「―――ああ、ドライ!あなた……目が!」

目だけではない。ドライの身体はもはや変わり果てている。腕も足も、片方しかなく。

地面に降りる。いや、落とされる。さっきからフェイトはその繰り返しにはまっている。

「行けないのか?」

フェイト「うん……なんか、近づけない。それより、その身体……!」

「なに、このくらいへっちゃらさ。あとはラインハルトとメルクリウスだけだ」

が近づけないという事実。それがなにを示しているのかわからないほど鈍くは無い。

「それより、多分ここからは俺だけが向こうにいけるみたいだ。フェイト、キミのおかげで勝てたよ。ありがとう。後は俺に任せて」

フェイト「だ、駄目!そんなの……一人でなんて―――そんなのまた」

あの時と一緒じゃない―――と、言葉にできなくとも目がそういっていた。

「でも、俺が行かなければならない。うん。約束しよう。俺は帰ってくる。帰って来たら―――」

フェイト「―――――!」

「告白するよ。だから、俺は死ねない。うん。今からちょっとドキドキするけど、まっててくれればいい」

フェイト「う……ううう―――」

重なる。ドライが普通の人間だったころと。あの時は―――

フェイト「そんな事言って、前は死んだじゃない!もうあんな事やめてよ!」

「だから、もう約束は破らない。勝って、生きて、帰るんだ」

背を向けるドライ。ボロボロになってなお、進む。

「じゃあ、行ってくるよ。フェイト」

フェイト「待――――」

そして、一つの約束を手にドライは疾走する。目指すは方陣の上。愉悦の相を隠さぬラインハルト。

「うおおおおおおおおおぉぉぉぉ!ラインハルトォォォォォォォォォォ!」

ラインハルト「まぐわいはあれだけでいいのかね?ツァラトゥストラ」

メルクリウス「既に死に体。決死ゆえの優しさとでもいうのかな」

ついに駆け上がったその場所で、火蓋は切って落とされた。
191 :1[saga saga]:2011/07/03(日) 21:41:29.42 ID:mDcuqp+oo
よし、久しぶりの更新になってしまい申し訳ない
そして今日はここまでだー
192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)[sage]:2011/07/04(月) 09:47:02.48 ID:ydR9+PJAO
乙なんだよ!
193 :1[saga saga]:2011/07/10(日) 23:06:14.27 ID:aVq0WOSqo
「うおおおおおおおおおおああああああああああ!」

殺す。敵は魔王二人。それでも構わない。左手に刃を形成し、ラインハルトに叩き付ける。が――

       形成     誓約・運命の神槍
ラインハルト「Yetzirah――Longinuslanze Testament」

神気――霊格として最上位にある神槍の形成は、ただそれだけで見る者の魂を焼き尽くす。金色の光を放つ穂先には錆も疵も何一つなく、誕生より数千年の時を経て不変かつ不滅。

これを前に正気でいられる者などいるはずが無い。内に渦巻き、猛り狂う魂の質と総量。それはもはや、完全に一つの世界だ。無論それに触れれば、砕け散る。

「ぐ、あ-――」

聖遺物破壊の反動。だがそれでも身体は動く。エリザベート・バートリーは元より集合体。構成要素の一つが砕けたといえ死ぬわけではない。

「あ……」

そう。機は今なのだ。俺は時間と共に死に近づく。ラインハルトはいまだ本気を出して折らず、メルクリウスは傍観している。故に――

涅槃静寂・交響曲
「Eine Faust symphonie」

今ここで奇跡をおこせ。

「おおおおおおおおぉぉォォォ-――!」

ラインハルト「む……」

突如目の前から掻き消えた存在に、ラインハルトは反応した。他の者ならば何が起きたかも分からぬうちに両断されたであろう。その一撃はまさしく神速。彼が見知った者の中で最も速い。

ゆえに、ここで真に恐るべしというならばラインハルト。目に映らず、感知もできず、長物の死角である懐からの攻撃を防御してのけるというその技量は超常などというレベルではない。紛れも無い魔性の絶技。だがしかし

「な……――」

防がれてしまったのだ。この機を逃せばもうチャンスは無いという状況で。

ラインハルト「ほう、カールの血を受けし者の証、遂に証明したな、御敵よ。なるほど複数の創造の同時展開。それは卿にしかできまいよ」

「…………ぐ」

ラインハルト「だが、卿は根本的に間違えている。聖遺物を行使するための聖遺物。筆を選ばぬのは大したものだが、そんな代物では意味が無い。針で山は崩せん。根本的な霊格の劣化。加えて肉体の死。今の卿は気力で動いているにすぎぬ。そんな様で何を成すと?興醒めだ。白けさせる男よ。犬死が望みか」

「―――ごああァァッ」

鳩尾に拳を叩き込まれる。既に半死人。自覚しているそんなこと。だからあの一撃に賭けていたのに……

ラインハルト「足掻け、私の愛しい贄よ。貴様の同胞と共に我がエインフェリアとなるがいい」

「させねえよ……だれも、殺させねえ。お前はここで……」

メルクリウス「殺させぬとな。これは異なことを言う」

そして遂に前線へと出てくるメルクリウス。これで完全に2対1 。

「いや、やる……そして帰る。皆のところへ、お前らを斃して……!」

ラインハルト「ほう……卿はまだ気付いておらぬか」

「……は?それは……」

メルクリウス「君の帰る陽だまりなどもう無いということだ。では見せようか」

その声と同時、俺の脳裏にある光景が浮かび上がる。俺の目は見えないのだから、これはメルクリウスが直接俺に送りこんでいる映像だ。そこには……

メルクリウス「これは誓って真実の光景だよ、わが代替」

そこには、腐り落ち死ぬスバル、ティアナ、ヴィータ

精気を吸われ死んだエリオ、それに寄り添うように力尽きたキャロ。

燃え尽きて焼け死んでいるはやて、シグナム、ザフィーラ、シャマル。

「あ……あああああ……ああああああああああああ!」

ラインハルト「そう悲観する事もなかろう。どのみち総て私に呑みこまれるのだから」

メルクリウス「ああ、その悲哀、その絶望はどこにいくのかな?」
「殺す……お前らは、殺す」
194 :1[saga saga]:2011/07/10(日) 23:08:17.63 ID:aVq0WOSqo
瞬時に倍加するドライの覇道。しかしその中にあってなお双首領は愉悦の表情を崩さない。

「うおおおおおおおおおおォォォォォッ!」

気迫は最上。だが限界は近く、

ラインハルト「そろそろ卿を終わりにしようか。その慟哭、聞くに堪えんよ」

メルクリウス「ああ、この程度凌げんような愚昧ならば、新たに作ったほうが早いというもの」

「が――――――」

そう。勝てないのだ。ドライはもう黒円卓の双首領には勝てない。

メルクリウス「――――これはこれは」

ゆえに、ここで一手。新たな何かが必要で――

ラインハルト「―――ほう。カールの結界を抜けてきたか」

そこには魔導師の杖を携えた者が一人。

「あ――なのは、なんでここに?」

管理局のエースオブエースが今ここに降臨する。

なのは「もう、いいから。後は私に任せて。これでも私、一番元気なんだから」

そうだ。6課で唯一、大隊長と戦わずに今生きているのは高町なのは唯1人。だが勿論メルクリウスの操る髑髏と戦ったので無傷とはいっていない。

メルクリウス「斃したか。私の人形。いやそれよりも……」

ラインハルト「なぜあれが入ってくる?カール。相変わらず女には甘い」

メルクリウス「いえ、私はきっちりと結界を張った。聖遺物を持たざるものは確実に排除する、また所持していても力が無ければ排除する結界をね。つまり……」

ラインハルト「あの女は聖遺物を持っていて……」

メルクリウス「この場に立つに相応しい力を持っている」

「ふざけるなよてめぇら……ぐ……」

メルクリウス「これで謀らずとも2対2。ツァラトゥストラはあと少しで流れ出す。そして方や正体不明。いやはや、少々面白くなってきた」

なのは「御託はいいから。さあ、きなさいよ」

「やめろ……なのは――!」

なのは「ディバインバスター――――!」

ドライの声には耳をかさず、ついに火蓋が切って落とされた。いまやその砲はドライの覇道により猛り狂う魔性が宿っている。

なのは「あなた、へばってるなら寝てなさい」

「……ったく。さっきは任せてって言ってなかったか?」

なのは「まあ、そうなんだけど……さすがに一人であれはきついかな……」

「ああ……渇が入ったよ。もとよりこっちは命かけてんだ」

なのはの魔砲が標的目掛けて突き進む。だが、無論こんなもので終わるわけが無い。ラインハルトの槍の一振りで霧の様にかき消される。

ラインハルト「ふむ……これはそこの死にかけよりは愉しめそうか」

メルクリウス「では……愚息の教育は私がしよう、獣殿。よろしいかな?」

ラインハルト「許す。遊んでやるがいい」

メルクリウス「では――」

その会話の意味は、この2対2を一対一にするというもの。
195 :1[saga saga]:2011/07/10(日) 23:10:49.38 ID:aVq0WOSqo
「させるか――」

メルクリウス「いや、するのだよ」

爆発する黒外套が周囲を包み?み込んでいく。それはまるでこのヴァルハラに突如として別の宇宙が生じたような。まるで俺たち二人を分断するような。

「―――なのは!」

なのは「ドライ――」

そしてドライは外套の中のメルクリウスの下へと落ちる。

これ以上ないほどの異常なのに、その世界自体は凡庸だった。そう見えるしそう感じる。

メルクリウス「当然だろう。これは君らの言う日常だからな」

唯の在り来たりな、皆が知っている現実風景。その世界の名を既知という。

メルクリウス「何か劇的なものでも期待したかね?真逆だよ。なぜなら私はこういう者だ」

到達した世界は漆黒の空。浮かぶのは数多の星。そこはまるで宇宙。

「ここは……」

メルクリウス「ようこそ、私の世界へ。わが息子よ」

水銀が嗤う。

メルクリウス「だが、いささか劣化が激しいな。後少しだというのに」

水銀の吐息が掛かる。俺はそこまで至近距離に近づかれるまで気付かなかった。

だが、次の瞬間起こった事はまさに俺の想像を越えていた。

「な……なんで……?見える――」

失った腕も脚も視力も、壊れていたデバイスさえもが再生する。死に掛けていた俺を一瞬で復活させるその力、まさに黒円卓の副首領に相応しい。だが、分からない。

メルクリウス「なぜ君を助けるか分からないという顔だ。ああ、これを君から引き剥がすついでだよ」

そうして掲げられるのはエリザベート・バートリー。

「なっ-――」

つまり今の状況は時間回帰か何かで強制的にエリザベートバートリーとの契約を切られたという事。聖遺物を失ったという事。

メルクリウス「そのデバイスに組み込まれているプログラム。まさかそれで戦おうなどと、無粋なことを考えないでくれよ」

「てめぇ……」

メルクリウス「そう怖い顔をしないでくれ。今は、なぜ君を助けたか、だったかな?助けるさ。あと少しなのだから。何度繰り返したと思っている。やっとここまでたどり着いたのだ。あと一押し。それで我らの悲願は成就する。まずは話を聞きたまえよ。どうせ、聖遺物無しで私とは戦えない」

デバイス「Master―」

「いや、わかった。今は話を聞こう。それしかない。お前は過去に何回か俺に助言をくれてる。殺すのはその後でもいい」

というより、今は完全に勝ち目が無い。身体は全快したが、デバイスは再起動に時間が掛かっている。いまこいつに対抗する術が無い。
196 :1[saga saga]:2011/07/10(日) 23:13:42.58 ID:aVq0WOSqo
メルクリウス「ああ。君は間違えた。エリザベート・バートリーなどでは私達には勝てない。私が与えた聖遺物を使っていない。そして渇望さえもが君の真の渇望ではない。最強であつ渇望、敵への呪いなどが私の代替の渇望として相応しいと思うかね?否だ。そんなものでは勝てぬ。エリザベート・バートリーなど低格の物で我々に対抗できると?否だ」

「なんか、恩人をけなされてるようでムカつくが」

メルクリウス「だが事実だ。では聞こうか。このたびの戦場で創造を発動したものは、スバル・ナカジマ、エリオ・モンディアル、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン、そしてツァラトゥストラ。能力を考えると、スバル・ナカジマは普段の自分の能力の延長であり、真に創造というには力がたりぬ。君のプログラムを使っての強化であろう。では、その他の三人に共通する事項はなんだ?」

「それは……」

メルクリウス「そうだ。その三人ともがプロジェクトF.A.T.Eによって生み出されたもの。ではなぜ、君を除く二人は聖遺物も無しに我等のような創造を成しえたのだろうか。君のエイヴィヒカイトは鬼の株分けであり、デバイスからの魔法に我等の防御を破る機能しかついてなかったというのにな」

「それは……第五解放後は実質俺は創造位階……すぐに砕かれたけどあそこで創造に足をかけた。だから、そのコピーである皆も創造位階に――」

メルクリウス「違うのだよ。それではスバル・ナカジマのように自信の延長での能力しか発動しえない。彼らがそうしたものを得たのは、プロジェクトF.A.T.Eにより生まれたからだよ。私はこの戦場のために、それを二度使ったのだから」

「あ……なんだと?」

メルクリウス「そう。一つは無論、ゾーネンキント。彼女を作る際にイザークの遺伝子を入れること。彼の血族のように仕立て上げること。だが、これは唯のクローンという肉体を使用したに過ぎない。ゆえに、このシャンバラに本命のゾーネンキントと我々が使う基の無かったゾーネンキントが居たわけだが……本命はもう一つ。こんなのは唯のクローンでも良かった。ツァラトゥストラ、記憶転写クローンだよ。それはまさしく、死からの蘇りといえる。人間の構成要素である、肉体、霊、魂。そのうち肉体のみの再生であるがゆえ、完全な復活とはいえないが……死を乗り越えた、そういった概念を持っている」

「―――――」

そうだ。もとよりプロジェクトF.A.T.Eなんてそんなもんだ。生き返らせる。それが目的だ。だが完全に同じようにはいかなかった。人格が、素質が、何もかもが変わっている。

メルクリウス「ここまで言えば分かるだろう?君は私の代替。私の駒。私の息子。君の魂、霊が何処に行ったのか……まだ思い出せないわけではあるまい」

「あ……ああ……おまえは……」

そうだ。城、あの毒壷。マキナ。それが符号。あの時死んだ俺はミハエルと共にこいつに魂を飲み込まれ、ラインハルトの城で殺し合った。そして……

メルクリウス「そう。君はクローンで元の肉体を作り、記憶を転写し、同一の魂と霊を我々に組み込まれ作られた。まあ、肉体には私の血も混ざっているがね。そんなことは瑣末な事だ。肉体、霊、魂。その総てが生前より強化され、新たな命を得た。生前と同じ魂、肉体で。これは、まごうことなき復活。救世主のようではないか。ならば……その身体こそが聖なるもの。遺物ではないが、世界を終わらせるに足るロストロギア」

「ふざ……けんなよ……そんな人を玩具みてえに」

メルクリウス「無論。そんなこと私にとって瑣末なことにすぎぬ。そして、君の真の渇望は――抱きしめたい――だよ」

「なんだよ……お前、知った風な口ききやがって……!」

メルクリウス「知っているのだ。君は私が造ったのだから。正確には私の駒だがね。さあ、真の聖遺物、真の渇望。それを与えてやったのだ。期待にこたえてくれよ。せっかく助けてやったのが無為になる」

「―――こんなに殺したくなる相手は初めてだ」

メルクリウス「ならば、さぁ、やってみるがいいツァラトゥストラ」

ああ、言われなくとも殺してやるさ。幸い、何をすればいいかはお前が全部しゃべったのだから。
197 :1[saga saga]:2011/07/10(日) 23:14:25.24 ID:aVq0WOSqo
Es schaeumt das Meer in breiten Fluessen
「海は幅広く 無限に広がって流れ出すもの

Am tiefen Grund der Felsen auf,
水底の輝きこそが永久不変

Und Fels und Meer wird fortgerissen In ewig schnellem Sphaerenlauf.
永劫たる星の速さと共に 今こそ疾走して駆け抜けよう

Doch deine Boten,
どうか聞き届けてほしい

Herr, verehren Das sanfte Wandeln deines Tags.
世界は穏やかに安らげる日々を願っている

Auf freiem Grund mit freiem Volke stehn.
自由な民と自由な世界で

Zum Augenblicke duerft ich sagen
どうかこの瞬間に言わせてほしい

Verweile doch du bist so sch?n――
時よ止まれ 君は誰よりも美しいから

Das Ewig-Weibliche Zieht uns hinan.
永遠の君に願う 俺を高みへと導いてくれ

Atziluth――
流出

Res novae――Also sprach Zarathustra
 新世界へ    語れ超越の物語」
198 :1[saga saga]:2011/07/10(日) 23:16:19.81 ID:aVq0WOSqo
腕は赤熱と漆黒に。赤と黒の模様が浮かび上がり、ドライの周囲には刃の衛星が旋回する。これがドライの流出位階。抱きしめるための腕。ゆえに憎悪も凶器も懐かずに、それらはドライの周りを回り続ける。

メルクリウスの目が細まり、口許が釣りあがる。常に甘く、穏やかに、柔らかな物腰でいる男だったが、今ここに来て、初めてこいつの笑みを見た気がした。言い難い憤怒と絶望は喜劇に似て、悶え狂うほど笑い転げた後も残滓が消えなかった男の貌――

いや、そんなことは知らない。

「おおおおおおおおォォォッ!」

流出に至ったことにより、俺の力は形成時の3000倍を超えている。これが俺の超越の物語。エイヴィヒカイトの最上位階を最高霊格の聖遺物をもって操るのだ。いかに黒円卓の副首領といえどもこの攻撃はひとたまりも無いはずだ。

なのに―――

こいつには全くと言っていいほど手ごたえが無い。

メルクリウス「ふふふふふ……」

メルクリウスの身体を妙な文字が取り囲む。みた事の無い形だが、あれは間違いなく魔方陣。

「させるかよォォォォォ!」

拳で、衛星の刃で叩き潰す。だがない。血も肉も髄も、魂も持ち合わせていない。虚像。そんな言葉が浮かび上がり……

「ふざけるな!ここまできて……」

メルクリウス「ああ、そんな事は言わんさ」

「―――――!」

突如メルクリウスからの攻撃。それは星を束ねての一筋の流星。

「く……この程度で!」

それは覇道と覇道の鬩ぎ合い。世界を一枚の紙に例えると、この結界内限定で既知と抱擁の二色が重ね塗りを続けているのだ。ゆえに、紙には穴が開く。すなわち――

メルクリウス「特異点が、今開く―――ついに我が望みの一つが成就する!」
199 :1[saga saga]:2011/07/10(日) 23:17:40.07 ID:aVq0WOSqo
「な―――嘘だろ……」

そう。今、ドライの目の前で世界の空間はひび割れ、砕ける。空が割れる。虚像であるメルクリウスは消滅する。だがそんな事に構ってはいられない。穴の向こう。そこにある風化したエメラルドとルビーの門。その奥から響く声はまさしく絶望。覗くのは巨大な四つの目。カドゥケウス。

メルクリウス「――――――――――――――――――」

響き渡る声は静かに、しかし無限の情熱を持って綴られる。

メルクリウス「――――――――――――――――――――――――」

その言語を理解することは誰にもできない。謳う蛇すらも、既に忘却した神話の残滓なのである。

メルクリウス「―――――――――――――――」

ゆえに彼は、己が渇望が分からない。想像して、予想して、推察することはできていても、本当の自分が真実何を求めたのかは分からない。

メルクリウス「――――――――――――――――――」

何も見えない。何も分からない。

メルクリウス「――――――――――――――――――」

蛇は永劫狂し続けているのである。その永劫の後、たどり着いたのは愚の境地。ただ流れ出すのみの影となり、宇宙を覆い尽くした妄執こそが総て。

メルクリウス「―――――――――――――――――――――――――」

何度も繰り返し何度もやり直し、飽き果てながらも捨てられない夢――

メルクリウス「ああ、私はまだ死ぬわけにはいかんのだ。おまえはもう要らんぞ、ツァラトゥストラ。特異点を生じさせ、こちらとあちらを繋げ、私の本体を解放するに至った。ああ、褒め称えよう愚直で素直なわが息子よ。だがここまでだ。これより先は女神の独り舞台だ。これより怒りの日が始まる。それが私の――神の意志と知れ」

殺意。殺意。宇宙の根源ともいえる事象が懐き、一人の対象に叩き付ける。それは必滅。だが、ドライも同格なのだ。

       未知の終末を見る
メルクリウス「Acta est fabula」

「それが真の貌か。それがお前の本体か!お前……いったい何なんだ!」

そして降臨する絶対の■■。この馬鹿げた自体の総てを裏から操ったであろう黒幕。カドゥケウスを引きつれ、外套から軍服に変わり、覇気も気配も先ほどとは桁違い。その正体は……

メルクリウス「私は、アルハザードの神だよ。息子よ」
200 :1[saga saga]:2011/07/10(日) 23:18:09.39 ID:aVq0WOSqo
とりあえず、今日はここまでです
201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)[sage]:2011/07/11(月) 08:24:54.87 ID:YZIA8T2AO
乙っぱい
202 :1[saga saga]:2011/08/01(月) 01:40:08.15 ID:sDQvhYyVo
「アルハザード……失われた秘術の眠る地……だと……」

メルクリウス「ああ、そうだ。君はもう理解できているだろうが、エイヴィヒカイトはアルハザードへと至る法だよ。本来は君とハイドリヒとをぶつけ穴を開けるつもりだったが……私でも穴は開いた。虚像だったがゆえ穴自体は想定よりも小さいがね。だが、結構だ。穴があけば、こじ開けられる。そして、そこからは女神の独壇場でなければならぬ。もうおまえは要らんよ、ツァラトゥストラ。用済みの役者には退場願おう。それが私の――座の意思と知れ」

それは別にいい。どの道こいつとは戦う運命だった。だが、それよりも……

「女神って……なんだよ」

メルクリウス「わからぬかね。彼女こそが新世界を生むに相応しい者だ。私は何度も繰り返した。彼女をアルハザードから解放するために。そして今、この場、この穴の向こうに彼女がいる。今この場にいるのは、この私のための勝利の女神。ああ、君を殺して世界を彼女の色に塗り替えよう」

瞬くカドゥケウスが鳴動する。光と認識できない意思の波を放ちながら、宇宙の法則を操りだす。アルハザードの“座”の周囲に在る総ての事象、総ての既知。奴の言う女神と、代替と黄金とその軍勢、それらを除くあらゆる人間の人生、渇望、魂は、等しく彼が支配する領域だ。既知世界開闢より今に至るまで生じた泡(ヒト)の総数など、最早誰にも分からない。その悉くが彼の掌。億の魂が流星となってドライに襲い掛かる。

メルクリウス「さて、私が創ってやった忌み子はどこまで戦えるのか。私を楽しませてくれるのか。見物だな」

迫り来る流星は打ち落とせない。その一発一発がラインハルトの総軍にすら匹敵する魂の密度。だがそれでも――

「舐めるな」

デバイス「――buster」

撃ち出されるのは漆黒の魔力と轟哮。流出によりデバイスの出力も上がっているのか、ただの魔力砲で百の流星のうち三分の一が砕け散った。残りは無論直撃したが、致命的な損壊は受けていない。

「おまえにとっては総てが塵芥だろうが、雑魂程度で俺を殺せると思うなよ」

メルクリウス「ああ、そういえば君の過去は守人だったな橘蓮。収めた魔術は神楽。そのデバイスが巫女の役割も果たしている。その名の通りに楽しませてくれそうだ」

そんな水銀の嗤いが、どうしても許せない。

「……ふざけるなよ。名は捨てた。お前に俺達は玩ばれた。お前のせいで……!皆死んだ!ああ、お前に死という未知を見せてやる!」

轟、とドライの魔力砲が放たれる。それはまさに総てを飲み込む漆黒の奔流。先の流星に勝るとも劣らなかった。だが

メルクリウス「女神以外に私を殺せるものか。否、死になどせん」

防いだのは双頭の蛇。カドゥケウスが総てを喰らったのだ。

メルクリウス「返すぞ、この力。避けられるなら避けてみろ!」

返す刀で発射される超新星爆発。それはドライをめがけて流れ落ちる。

「――――」

メルクリウス「フ――――」

あの流出はその腕力こそが脅威だが、速度はそれほど脅威ではない。交響曲では流出位階であるメルクリウスを止めることなど不可能。故に、この流星は絶対不可避。いかに耐えようとこの間合いならばメルクリウスの優位は崩れない。

メルクリウス「ああ、やはりこの程度で潰れるか。しかし構わん。アルハザードへの扉は開いている。さらばだ、我が息子よ」

そう。超越の水銀は思い込んでいた。しかし――
203 :1[saga saga]:2011/08/01(月) 01:41:18.25 ID:sDQvhYyVo
「―――疾ッ!」

メルクリウス「―――――」

原初の炎はドライを捉えない。いや、彼はもともとそんなところに居なかった。

「シュライバーと同じだな。お前からは武の匂いがしない。助かったよ」

錯覚。虚像。ドライは気配も感じさせずに接近し、カドゥケウスを殴り飛ばしたのだ。

メルクリウス「ふふ、ふははははははは……一撃とは、まるでマキナではないか。面白い」

知らず呟いた彼は愕然とする。今、自分は何を言ったのか。カドゥケウスを一撃で葬り、ツァラトゥストラの間合いに入ってしまった。いま水銀はまさしく無防備を晒している。不愉快で仕方ないはずなのに――

「――杭」

このカドゥケウスにとどめをさす、私が作った代替品。なぜ、こんなにも、この戦いに悦を覚える?美しいと胸が痺れる?

なぜかどうしてどうやっても、この果てを見たいと切望する気持ちはなんなのか。

メルクリウス「見せてくれるのか、私の真実が何なのか」

「ああ、ありがたく噛み締めろ」

メルクリウス「ああ―――― ―――――――」

恐らくは生涯初の戦慄(かんき)と共に、総ての星を凝縮させた。

メルクリウス「――――――」

――暗黒天体創造――

「く、うううううぅぅゥゥッ――」

メルクリウス「おおおおおおおおおォッ――」

暗黒の天体と漆黒の魔力が拮抗する。ドライはもう退けない。次にメルクリウスから離れたとき、再び近づくこともできずに殺されるとわかっている。

「――滅びろォ!」

メルクリウス「抜かせよ、消えるのはどちらか知るがいい。勝つのは私だ!女神の地平を生む礎となれッ!」

メルクリウスの作った異界の中、宙は漆黒に塗りつぶされる。

――――――
204 :1[saga saga]:2011/08/01(月) 01:42:01.96 ID:sDQvhYyVo
――――――
イザーク「意識を取り戻したのか。だが、私の壺中天は何度でもお前達を溶かす。お前達もそれが幸せだろう」
イザークは無感情に二人を見下ろす。ここでヴィヴィオとエリーゼに突き付けられたのは一つの事実。この戦場での生存者と死んだ者達。
イザーク「嘆くな。総ては父様のヴェルトールに飲みこまれるのだ。君達と同じように。何も嘆く必要は無い。再びこの壺中天に溶けるがいい」
そう言う顔はどんな感情も伺えない。
ヴィヴィオ「……違う。あなたたちなんてなのはママが絶対に――」
イザーク「父様は誰にも負けない。副首領閣下の方は分からないが、今お前の言った高町なのははもうすぐ負ける。見てみるか?」
次の瞬間、ヴィヴィオは見た。ラインハルトに聖槍を宛がわれ、絶叫しているなのはを。
イザーク「あの聖槍の切っ先が肉を抉り、魂にまでめり込めば、戦奴の証である聖痕が刻まれる。喜べ。お前の母は父様に認められた」
目の前の私生児は語る。魔城のエインフェリアが最大の誉れであると。見せる。ゾーネンキント達に絶望を。
ヴィヴィオ「あぁ……あああぁぁぁぁ……」
イザーク「そう悲観することはない。グラズヘイムはこの世界の総てをのみこむのだから」
それは希望のない死刑宣告。高町なのははもうラインハルト・ハイドリヒに敗北する。即ち、あと戦える者はツァラトゥストラしか居ない。


そのドライは―――

―――――


「――――――が……貴、様……」

磔。聖書の救世主のように磔にされ、腹は剣で貫かれている。対してメルクリウスは――

メルクリウス「終わりだな、ツァラトゥストラ」

胸を杭で貫かれながら、しかしそんな傷など意味が無いとでも言うかのように嗤っている。

メルクリウス「ベイならばこの一撃で死に至ったろうが、私は吸血鬼ではないのでな。パイルバンカーなど怖れるに足らん。事象の地平線で足掻きながら散るがいい」

「ぐ……ぎぁぁぁ……」
205 :1[saga saga]:2011/08/01(月) 01:44:12.91 ID:sDQvhYyVo
しかし、ドライの目から闘志は消えていない。

メルクリウス「まだ、抗うか」

「ああ……抗うさ」

光をも逃さぬ超重力の中、動き始めるドライ。今ドライが総てを超越せしめんと動き出す。

「お……おおおおおおおぉぉぉォォォッ!」

一喝。それがメルクリウスの暗黒天体を消滅させた。

メルクリウス「――馬鹿な!いや……まさか……神道の特性は――」

ぶちぶちと音をたてながら剣を横に引く。ドライの動きを封じるものはこれで総て排除した。

「ぐうぅぅぅ……いってぇええ……ああ、禊ぎだよ。魔力に物を言わせたごり押しだけどな。だが、これでお前を越えられる」

メルクリウスは背筋が凍りつくのを感じた。血を流しながら不適に笑う、この男はまさに鬼だった。

メルクリウス「く……はははははははははははははは!」

傷だらけになりながらドライは進む。嗤い続けるメルクリウス。狂した蛇の間合いへと。生半可な攻撃はこいつには効かない。ならば今、敵を前にして哄笑するという愚を犯したこいつを、今まで最も研鑽し続けた技術にて葬ろう。

「―――――ッ!」

即ち、武術の基礎の基礎。なおかつこの流出、この魔力との相性が良いもの。

ねじり合わせた両手から鎌を振り下ろすがごとく、手刀が落ちる。

金行劈拳。

メルクリウス「――くぁっ!」

その拳は単なる打撃ではない。流出に至った出力によりその衝撃は隕石に匹敵する。さらには記憶の中の知識、デバイスによる魔力制御により、五行のなかの金行を意味する魔力の発露。そして勿論、これだけでは終わるはずが無い。

硬直したメルクリウスに、半歩前に進み、ドライの腰と両足から力が絞り上げられる。宙の銀河を砕く震脚、その反発を十分に伝え、悶絶したメルクリウスの顎を抉る天への拳。

水行鑚拳。

金生水の理をもって相乗された力がなお勢いを増す。

さらに前へ。

メルクリウスの目測を常に誤らせつつ、これまでの拳のベクトルを十全に活かす。身体に巡る魔力、頸力に一定の方向を与え、水生木の断りで三乗される力をコントロールする。宙を踏みしめた震脚から、隕石にも勝る勢いで打ち出される拳。

「おおおおおおお!」

木行崩拳。

メルクリウス「ぐ――――あぁ」

衝撃はメルクリウスの防御を砕き、体組織を蹂躙する。そして、さらに半歩。

4乗する魔力の猛りか、両腕は紅く、黒く、輝いていた。脇腹へ放つ一打。その拳はまさしく炎を打ち込んだかのように。

火行炮拳。

さらに前へ。メルクリウスの手を取り、腰をぐるりと回す。引き裂かれた傷から血がでるが無視する。もはや、ドライの身体の中に巡る魔力は、身体が爆ぜてしまいそうなほどの魔力が巡っていて、打ち出される瞬間を今か今かと待っているようだった。

「う、おおおおおあああああぁぁぁぁぁぁ!」

火生土。万物の始まりとなる土の魔力がメルクリウスを絡め取る。それは新世界の始まりを告げる福音か。ドライの拳がハンマーの用に、メルクリウスの胸に打ち込まれる。

土行横拳。炸裂する魔力と衝撃はまさしく星をも砕く力だった。



メルクリウス「か……は……まだ……だ。まだ、死なぬ」

だが、蛇は耐えた。腹を半分引き裂かれたドライも満身創痍なのは同じだと、ならば勝つのは自分だと蛇は言う。だが――
206 :1[saga saga]:2011/08/01(月) 01:45:25.07 ID:sDQvhYyVo
「いいや。お前はもう終わりだ。気付かないか?」

メルクリウス「なに……を……?」

ドライは脇腹を押さえているだけ。流出は以前顕在だが、そのほかは何も――

その時だった。メルクリウスの胸に刺さった杭から剣がとびだした。それは釘も刃も、およそ武器と取れるもののほぼ総てを吐き出していく。

メルクリウス「が――アアアアアア!これは……!」

「俺の周りを廻ってた星だよ。それを杭に組み込み突き刺した。それをさっき炸裂させた。ああ、お前の言うとおりに俺の渇望は抱きしめたい、だ。お前はこれで死に抱かれ死ね。死にたがりの神様よ」

メルクリウス「あぁ……死にたがり、か。確かにそうだったかもな……だが、諦めきれない。そんな諦観を許容できれば、もとより流出など起こしておらぬ。口惜しいのだ。次こそはという妄執を切り離せん」

刃で編まれた衛星に身体を引き裂かれ、胸から下を無くしたメルクリウスが言う。

メルクリウス「ゆえに、私を破壊してくれよ、我が息子よ。今のうちに殺さねば、元の木阿弥だぞ。自分では死ねない。私はつまらぬ男なのだ。幾未知が地獄と知りながら歩を止められん。ゆえに、なあ、頼む……」

この苦しみから救ってくれと思いながら、流出が始まりかけている。

「お前……ここがお前の流出の起点か。難儀だな。その様子じゃ本当は分かっているんだろう?」

メルクリウス「あぁ……私の女神が死んでいることなど、本当は分かっている。だが、行ったろう。次こそは、そんな思いを捨てられない」

「まったく……お前は生きてても死んでてもはた迷惑な野郎だな」

メルクリウス「今ならば、私を殺しきることも可能だ」

「そうさせてもらうよ」

メルクリウス「……彼女に抱かれて死にたかった――――」

「――――ッ」

その言葉を最期に、失われた地の神は死に抱かれながら死んだ。それに伴い、メルクリウスの作った異世界が砕け散る。
207 :1[saga saga]:2011/08/01(月) 01:48:26.46 ID:sDQvhYyVo
デバイス「Master――」

「ああ……この程度、大丈夫だ……」

メルクリウスを倒すことは成功したが、まだラインハルトが残っている。そして死にたがりの神よりも総てを破壊する悪魔のほうが厄介なのは火を見るよりも明らかだ。

「きついが……あともう一戦。最期の戦い――行くぞ!」

デバイス「All right!」

流出位階に至ったからか、同様の存在を感知できるようになっている。反応は二つ。巨大な力が二つ感じられる。その力のでかさを理解して、今の傷だらけな俺に勝てるのか不安になるが、そんな心に渇を入れる。ラインハルトの世界など、絶対に認めてはいけないのだから。

「いかねえとな――」

瞬間、ドライは疾走を開始する。目指すはラインハルトとなのはの戦場へ―――

――――――――

ラインハルト「――――なに?」

砕け散る結界。それが示すものは――

ラインハルト「死んだか、カール。ならば、卿はいらんよ。卿では本気など出せぬ」

なのは「――か!は……ぁ、はぁ、」

そして興味は無くなった、とばかりにラインハルトはなのはを捨てる。メルクリウスが敗北したということは、その勝者がここに来るということなのだから――――



そして――――それは来た。一瞬で。ラインハルトに背を向け、なのはを案じている。

「大丈夫か?」

なのは「……少し、駄目かも。ごめん……」

「そうか。休んでな。俺がやる」

ラインハルト「ほぅ……早かったな。結界内では時間の進みが違ったのかな?」

「そんなことはどうでもいい。俺が間に合った。それだけだ」

ラインハルト「そうか。見違えたな、ツァラトゥストラ。では、怒りの日を始めようか!」
208 :1[saga saga]:2011/08/01(月) 01:50:01.63 ID:sDQvhYyVo
更新が遅くなってしまい申し訳ない。それとテストやら院死やらいろいろあるので今月はしばらく更新できないかな?一月くらいなら落ちないよね!
209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/02(火) 14:04:06.77 ID:vznS9DtG0
内容的にもなろう向きだな
クロスでオリ主って…
なろうで書いたら?
210 :1[saga saga]:2011/08/03(水) 23:32:01.66 ID:1QHSCHmpo
もっと早く言ってくれれば……
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/17(水) 20:57:12.38 ID:xigJOvEp0
どっちにしろ黒円卓の弱体化が半端ねーな
ベイですら音速の数百倍での戦闘が可能なのに
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/17(水) 22:44:00.89 ID:3SOx27/Zo
まあベイさんは司狼に負けることもあるしな
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/20(土) 04:24:34.17 ID:Bbn8gBA40
黒円卓がなのは勢に押されるのはたしかに想像できないね
てかオリ主を出すSSに期待はしないほうがいいんじゃね
クロスでオリ主とか駄作の法則をここまで伴ってるのも珍しいwwww
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/26(金) 08:28:27.14 ID:lAtKnn4e0
ぶっちゃけマキナも蓮だからこそベラベラ喋ったわけで
本来は寡黙だから喋らずに戦うんだがな…
たぶん>>1は碌にDies iraeプレイしてないんだろ
プレイしてたらこんなSS書かない筈
215 :名無しNIPPER[sage]:2011/08/26(金) 13:26:31.55 ID:+MNqxi6DO
つかエイヴィヒカイトってルサルカでもろくに解析できないんじゃなかったっけ?
それをプログラム化してデバイスに組み込むって違和感が…
216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/27(土) 18:10:08.30 ID:qF9ocULQ0
副首領閣下の術式を人間が解読できるわけがねーだろ
色んな意味で頭が悪い作者だな
内容も台詞も全部既存の台詞を弄っただけだし

本当に駄文だ
217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/27(土) 20:46:52.32 ID:OtF6N05SO
俺は黒円卓の元ネタのほう知らんから何とも言えないが普通にSSとしては面白いだろ

お前らほんとなんなの?
218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/28(日) 06:45:16.13 ID:4ejfgvHT0
元ネタ知ってる奴にとっては駄文なんだろ
クロスなんだから元ネタ知ってる奴推奨らしいし
そんなのも分からないとかなんなのww
219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/29(月) 23:39:31.81 ID:CpNYYJcSO
続きまだ?
220 :1[saga saga sage]:2011/08/30(火) 01:22:32.78 ID:eZxRXWgBo
設定を詳しく書いてなくてごめんなさい……
エイヴィヒカイトを扱えるのは厳密には蓮たんだけで、蓮たんの組んだプログラムは偽エイヴィヒカイト。聖遺物の概念を分割、魔法により具現化してエイヴィヒカイトを呪い黒円卓に攻撃可能ってことになってる

あと蓮=ドライとマキナ=ミハエルとメルクリウスの設定は結構いじって、それをだそうとおもってたのが最後だからちょっと違和感を感じたんだろうと……

では、途中まで投下します
221 :1[saga saga sage]:2011/08/30(火) 01:24:48.68 ID:eZxRXWgBo
         Dies irae, dies illa solvet saeclum in favilla.
ラインハルト「怒りの日 終末の時 天地万物は灰燼と化し

          Teste David cum Sybilla.
        ダビデとシビラの予言のごとくに砕け散る

         Quantus tremor est futurus, Quando judex est venturus,
        たとえどれほどの戦慄が待ち受けようとも 審判者が来たり

           Cuncta stricte discussurus.
        厳しく糾され 一つ余さず燃え去り消える

         Tuba, mirum spargens sonum Per sepulcra regionum,
         我が総軍に響き渡れ 妙なる調べ 開戦の号砲よ

          Coget omnes ante thronum.
         皆すべからく 玉座の下に集うべし

          Lacrimosa dies illa, Qua resurget ex favilla
         彼の日 涙と罪の裁きを 卿ら 灰より蘇らん

          Judicandus homo reus Huic ergo parce, Deus.
         されば天主よ その時彼らを許したまえ

          Pie Jesu Domine, dona eis requiem. Amen.
         慈悲深き者よ 今永遠の死を与える エイメン

         Atziluth――
         流出

         Du-sollst――
         混沌より溢れよ

         Dies irae
         怒りの日 」
222 :1[saga saga sage]:2011/08/30(火) 01:27:58.17 ID:eZxRXWgBo
流れ出す死の理。溢れ出す髑髏の戦奴達、それを引き連れているラインハルト。その運命の槍と超越の腕がぶつかり合う。

「――――ッ!」

ラインハルト「なるほど、強いな」

「そうか……よ!」

言葉と共に拳を叩きつける。その一撃もラインハルトの聖槍に防がれる。

ラインハルト「だが、それだけだ。卿では私には勝てぬ。全力を出すに足る相手ではあるが……カールを斃し、さらに私をも倒すなど、そんな奇跡は起こらんよ」

「起こす!お前は絶対に、ここで斃す!」

聖槍の一撃を弾き返し、ラインハルトがわずかに仰け反る。その僅かな隙、そこに渾身の手刀を叩き込む。体勢を崩したこいつが、これを凌げるとは思えない。

ラインハルト「その身体で、私の全力を耐えられると思っているのかね?」

その、瞬間――

ラインハルト「第九――ホーエンシュタウフェン」

「――――――――!?」

奴が纏う髑髏の一部が戦車に変わった。その数――実に百台以上。

こちらに向けられた全ての砲が、残らず一斉に火を噴いた。

「ぐッ、がああああああぁァァッ!」

身体をなぎ倒すようにして転げながら、間一髪で弾幕から逃れ出る。

ラインハルト「第三十六――ディルレワンガー」

驚愕してる暇もなく、今度は下方から万を越える銃剣が突き上がる。

「くそ、がァァァ」

思考よりも先に、跳び下がって槍衾から逃れる。足元には牙を噛み鳴らす髑髏の兵団が、殺意に滾った目でこちらを見ている。

「今のは……――」

僅かに視線を切った一瞬の隙に、こいつも跳躍して俺の前に現れていた。

ラインハルト「何を驚いている、まだ序の口だろう」

そして、まるで指揮をするようにラインハルトの腕が揮われる。

ラインハルト「第十二――ヒトラー・ユーゲント」

今度はパンツァーファウストの集中砲火。空中にいる俺にはこの鉄と火薬の豪雨はかわせない。ならば――

「――防げ!」

デバイス「OK, master .round shield!」

砲弾の爆発によりシールドが鳴動する。止むことのない嵐の砲弾。その数はすでに六十を超え、いまだに収まる気配はない。そして、硝子の割れるような音を残し、シールドは砕け散った。

「避け、ろォォォォ――!」

砲弾の雨から全力で脱出する。これが奴の武装親衛隊。ラインハルトの総軍において中核をなし、かつて魔法へと移り変わる世界に戦いを挑んだ髑髏の兵団。

その士気、練度、そして何より狂的な勝利への飢え――――背筋が凍る。

しかし――


「う、おおおおおおおおぉぉぉぉぉォォォッ!」

ついに百発を超える砲弾を凌ぎきった。いかに膨大な兵力だろうと、メルクリウスに勝利しラインハルトに挑む俺が奴隷相手に不覚は取れない。
223 :1[saga saga sage]:2011/08/30(火) 01:28:36.96 ID:eZxRXWgBo
ラインハルト「ふむ……」

そんな俺を、百万を超える死者を率いたラインハルトは興味深げな目で見ていた。

ラインハルト「焦っているのかね?ツァラトゥストラ」

「何……を……」

ラインハルト「分かるさ。共に流出位階なのだから、同格の物について知覚できる。卿もそうであろう?」

「…………何を」

ラインハルト「ごまかす必要はない。我らの生きていた時代よりもこの時代には魔法が溢れている。そして卿らの持つ魔道デバイス……卿が最初に選んだあの聖遺物、鬼の概念を写し取りエイヴィヒカイトの真似事をして我らに対抗した……確かに魔法というのはやっかいだ。だが、その程度では我らへの攻撃手段を得るのみだ。恐るるにたらん。だが、あれは別格だ。何故あんなものが普通のデバイスとして動作しているかは知らぬが……今の卿よりは勝算がありそうではないか?」

「――うるせぇよ……」

ラインハルト「言ったであろう。カールとこの私二人を打倒しようなど高望みがすぎる。ましてや卿はいまや死にかけの状態だ。それでも私と渡り合うという事実は驚愕に値するが……卿では私には勝てぬよ」

「そんなこと、お前が決めるんじゃねえ!奇跡を起こす、それこそが魔法なんだよ!」

ラインハルト「ならば……証明して見せろ。既に理解したと思うが、私は私のレギオンを操れる」

聖槍を構えるラインハルト。その槍の穂先には今までと比較にならない魔力が集中する。

ラインハルト「その魂、その渇望、我がヴェルトールに溶けるいと小さき愛児たち……彼らは私で、私は彼らだ。今や、同化しているのだよ、我々は」

聖槍が不気味に鳴動する。同時に膨れ上がるのは暴力的な凶念と血の匂い。その気配は忘れるはずもない。
224 :1[saga saga sage]:2011/08/30(火) 01:29:26.20 ID:eZxRXWgBo
ラインハルト「ああ、日の光は要らぬ。ならば夜こそ我が世界

夜に無敵となる魔人になりたい。この畜生に染まる血を絞り出し、

我を新生させる耽美と暴虐と殺戮の化身――闇の不死鳥

枯れ落ちろ恋人――

死森の薔薇騎士
Der Rosenkavalier Schwarzwald」
225 :1[saga saga sage]:2011/08/30(火) 01:30:58.69 ID:eZxRXWgBo
瞬間、全身に抉るような虚脱感が襲い掛かった。

「ぐ、ああああああああああああァァァァァッ――」

立てない。傷口からオドが流れ出す。まるで自分の全精力がラインハルトに吸い上げられているかのように。上空に出現した月がみるみる真紅に染まっていく。これは血で飽食した夜の異世界。

「ヴィル……ヘルム……」

ヴィルヘルムの能力はみたことがないが、この気配は間違いなくあの男。

ラインハルト「その業は吸収、略奪。私のグラズヘイムとよく似た技だが、敵の弱体化を狙うというのはあまり好みではないな。とはいえ、卿らに敗れ去った愛児の祈りだ。ならば一矢報いさせてやるのが親というものだろう」

体力が奪われる。ラインハルトは悠然と構えながらなお語る。

ラインハルト「奇跡を起こすのが卿の魔法、といったな。確かに、我らをここまで追い詰めたのは卿の手腕。偶然だろうと必然だろうと、相性の問題だろうと卿の仲間は我等に勝利した。ならばもう一度、その奇跡を起こして見せろ。この私の、生まれて初めての全力を受けて見せろ」

「――――クッ……!」

狙ってやったのか、俺の真後ろにはなのはがいる。言葉通り、回避はできずに真正面から受け止めるしかない。運命の槍に満ちる神気。その霊力が破壊力に変換され、大破壊の一撃が放たれようとしている。

ラインハルト「加減はせんぞ。もはやそんな物は生涯せん。ここで終わるならそれまでのことよ。私はこの星の、次元の果てまで怒りの日を進軍させる。アウフ・ヴィーダーゼン・ツァラトゥストラ」

そしてついに、黄金の爆光が炸裂した。迫る破壊の超霊力――今まで見たものの何倍もの魔力。確かにまったく手加減をしていない。そしてそれは、シールドも刃の衛星もまるで紙の用に食い破り飛来する。

「――があああァァッ!」

迫る破壊の黄金光を、超越の左手で受け止めた。

ラインハルト「ほぅ……」

全身が泡となって蒸発しそうな衝撃に蹂躙される。四肢が痙攣し、目からも血が迸る。

噛み締めた歯が砕き割れる。全身の神経が聖槍の魔力に侵される。そして遂に……
226 :1[saga saga sage]:2011/08/30(火) 01:31:46.30 ID:eZxRXWgBo
「――な…………ッ!」

水銀すらも超越した腕が運命の槍の前に砕け散る。肉片と血を撒き散らし、傷口からさらに吸精月光によりオドが流出する。

「ぐ、ああぁぁぁ……あああああああああ!」

肩を押さえても血とオドの流出は止まらず。もう無理なのか。

ラインハルト「ふむ……槍を逸らしたか。だが、もうカールから貰いうけた遺物、資質も術も終わりかね?いや、終わりだろう。その肉体こそが救世主と同一の器なのだから。なに、興醒めとは、言わんよ。卿は私の全力を受けてなお、生きている。私のグラズヘイムに溶けた後、全快の卿と戦わせてもらえばそれでよい」

ラインハルトが近づいてくる。まだ俺の流出は途切れていない。戦えるはずだ、負けてはならない。まだ――

ラインハルト「いや、内包している魂、卿の残存魔力、肉体。その全てをかんがみてももう私には勝てんよ。さあ、交代だ」

「グ……」

聖槍の横薙ぎにより吹き飛ばされる。身体がバラバラになりそうな衝撃、実際には骨が何本折れたのかも分からない。

ラインハルトは高町なのはの元へと。

ならば、この流出位階だけは保持しよう。彼女を殺せないように……
227 :1[saga saga sage]:2011/08/30(火) 01:48:34.38 ID:eZxRXWgBo
幕間―――――――――――

イザーク「あ……、が……」

子宮口が広がらない。超越がこの新世界をも抱き締め、私の出産を邪魔している。

ですが、だからあなたはその邪魔者を排除しようとしているのではないのか?

むしろ邪魔であると?

窮屈だから吹き飛んでしまえと?

流出が成った以上、私はもう要らないから……それではあまりに……

イザーク「あまりにも、非情ではありませんか……」

鬩ぎ合う二つの世界、その圧力で軋みをあげる産道のなか、ヴィヴィオとエリーゼはイザークの嘆きを聞いた。拒絶され、恐れられ、祝福されぬパスタロト。
彼のその最期は……

イザーク「父様……」

彼がそうだと信じている男に、縋るように。まだ何処かに一人でも、抱きしめてくれる者がいるのではないかという希望を捨てられずに。その渇望に焦がれたまま。

イザーク「私も……あの子らのように……」

声をかけられず、壺中天に溶けたヴィヴィオとエリーゼの二人の前で。

イザーク=アイン・ゾーネンキントは、誰からも不要とされたまま父の手により消し飛んだ。

エリーゼ「そん……な……」

その次の段階。死の理が世界を包む。この二人はそのために作られたもの。



ヴィヴィオ「あの人……最期まで……。うん。そうだ」

そして、二人は動き出す。


ヴィヴィオ「行くよ。二人でなら、きっとできる。私達の勝利の為に」

エリーゼ「……うん。もう、大丈夫。なんとか動けるようになったから」
228 :1[saga saga sage]:2011/08/30(火) 01:51:17.62 ID:eZxRXWgBo
幕間―――――――――――――――――

ドライ「大丈夫か?」

彼は大きな傷を負いながら、こっちを見ていた。メルクリウスの生んだ隔離結界が消えたと同時、彼は現れた。

ドライ「俺がやる」

背を向けられる。血に染まる背を見ると、全身の痺れ、痛みが引いていく。

死者の理が流れ出し、ドライとラインハルトが激突する。双方共に個人の武としては最高である。かたや百万を超える魂を内包するラインハルト、かたや武道、魔道、それらの道を究めた者の記憶を継承させられたドライ。彼らの攻防は到底なのはには追いきれない。そして二人がぶつかり合うたびに、天に穿たれた穴が大きくなる。

なのは「あれは……」

見ただけでわかる。あれはなにか良くないものだ、と。

そして、この場を暗闇が包み込んだ時、なのはのバリアジャケットが消滅した。

なのは「え……?レイジングハート!?どうしたの……?」

R.H.「ma…te――I――em――ou……」

そう、ノイズ交じりの声を出しながらレイジングハートは沈黙した。

なのは「レイジングハート!一体何が……」

そして瞬間、黄金がなのはの隣を通りぬけた。そちらを向くと、ドライは腕を失い、ラインハルトが悠然とこちらに向かってくるところだった。

なのは(今……こんな状態であんな奴の前に立ったら……)

ラインハルト「ふむ……デバイスは落ちたかね?だが、カズィクル・ベイの創造には対抗している……これは彼の最後の意地……というところか」

そして、ついに黄金の獣が目の前に来る。

なのは「……殺しに来たの?」

ラインハルト「いや、戦争に来た」

なのは「……レイジングハートも壊れて、ドライでも勝てないあなたに私がやりあえるわけ無いじゃない……」

その言葉を聴き、ラインハルトは薄く笑う。

ラインハルト「いや、そうとも限らん。ツァラトゥストラも聞きたいはずだ。なぜ卿はカールの結界の中に入れたのか。なぜツァラトゥストラはこの戦場に来た時卿の方を向いていたのか。なぜ、流出に至った我々が、卿の、いや卿の持つそのデバイスが、我等と同等の存在であるのか。卿、その魔道デバイスはどこから来たのだ?」

なのは「……え?これは……ユーノ君がくれたもので……でもその出自は不明って……!」

ラインハルト「なるほどな。よく分かった。だが、もう待てぬのでな。できる事ならグラズヘイムにて殺し合おう」

なのは「……ッ!」

そうだ、ラインハルトの懐に無防備に入っている。それはもう確実な死。グラズヘイムへ落ちる。残った希望はR.H.。だがその起動が分からない。何も分からない。

聖槍が振り下ろされる、その瞬間……









宵闇が巨大な魔力光に貫かれた。
229 :1[saga saga sage]:2011/08/30(火) 01:54:01.92 ID:eZxRXWgBo
今回はここまでで。あと一回で終わらせられたら嬉しいけど、二回になるかも……
230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/30(火) 07:55:53.54 ID:6h+89RF/0
とっとと完結してスレ落とせよ

自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/31(水) 00:26:36.37 ID:Ab73Vcvg0
黒円卓の弱体化も酷いけど原作の話の流れを切り貼りした展開ばっかりじゃねーかよ
台詞もキャラも描写も劣化トレースってどうなんだ
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/31(水) 01:47:25.72 ID:xH/RySLDO
なにこれ一人で批判書きまくってるの?
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/31(水) 06:15:38.80 ID:COu66WpJ0
蓮とマリィが登場してない・・・
ニートって既知感の脱却+マリィを新世界の女神にするのを信条にしてたのにどうしてこうなった
書き手はもう何回かDiesをプレイするべき
それともニコニコでプレイ動画みたタイプなのか?

自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/01(木) 10:25:24.53 ID:QB6fQZD30
禁書とDiesのクロスが面白かったから見てみたら期待ハズレだった
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/09/01(木) 11:31:59.64 ID:4pzIhT2DO
確かに設定だけで禁書みたいなつまらなさだ
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/09/06(火) 14:06:35.67 ID:smcJM+UIO
ほとんど原作のセリフ使ってて既知感発動しまくりやべぇ
もっと自分で文章考えようぜ劣等
ただキャラ挿げ替えただけになってる
237 :1[saga saga sage]:2011/09/29(木) 01:20:11.68 ID:fdaLYzc4o
ティアナ「スターライト・ブレイカー」

荒れる魔力の奔流、そのエネルギーは街を蒸発させうるにたる魔力量、さしもの薔薇の夜の結界も軋み、ひび割れ――

ヴィルヘルム「――ッざけんじゃねぇぇぇ!」

夜の闇が鳴動し、理を強化、薔薇の夜は崩壊を免れる。だが、さらに――

ヴィータ「――はぁぁぁぁ!」

スバル「――イェヤアァァ!」

ラインハルト「なるほど……遠距離からの大破壊に加え、前後からの挟撃……確かに、私以外にはとても有効な攻撃だろう」

驚異的なスピードで迫った二人、その攻撃をラインハルトは片手で防いでいた。
ヴィータ「な……嘘、だろ……」

スバル「……なのはさん、ヴィータ副隊長!離脱を!」
ラインハルト「させると、思うかね?」

旋回する聖槍、それは容易く二人を引き裂くだろう。
ザフィーラ「それを、させると思うかぁぁぁ!」

シグナム「――――ッハァ!」
闖入者は二人、守護の獣と烈火の将。

ラインハルト「ほぅ……刃が届いたか。しかし、聖餐杯は断てぬようだな」
シグナム「…………ッ!」

その隙に離脱するスバルとなのは、ヴィータ。
スバル「ちょっと!ティア!この結界壊せるって言ってたじゃん!」

ティアナ「しょうがないでしょ!威力的には十分のはずなのに……」
シグナム「く……これは予想以上に……」

ザフィーラ「…………」
そこにラインハルトからはなれた二人が合流する。

ラインハルト「よもや、この程度、というわけではあるまい?」
嗤いながら、ラインハルトは歩く。この状況がおかしくてたまらないというように。

エリオ「勿論、この程度では終わらないさ」
地を這う咆哮、天地を貫く雷。それは赤い月を貫きついに薔薇の夜を破壊した。吸精の重圧から解法される。

ラインハルト「ふむ……やはりベイ中尉は卿にだけは相性が悪い。だが……なるほど。ツァラトゥストラの流出の真の力は――仲間への力の底上げ。死からの蘇生すら可能なレベルでの力の増強。ならば、卿ら全員流出位階と同等であるか」
エリオ「おおおおおおお!」

雷速でラインハルトに肉薄する。それは理論上、どんなものよりも早い。だが、それはラインハルトの片手で押さえられる。

ラインハルト「しかし、その渇望では聖餐杯は断てぬ。いかに雷速で動けようと、決定打にはならん」
エリオ「グ、あああぁぁぁ!」

聖槍の柄で殴られ、ただそれだけでエリオは吹き飛ぶ。

エリオ「なん……だ……」

そして見る。黄金の獣。自分は強くなったと、ドライのエイヴィヒカイトで強くなったと思っていた。事実今ではドライの流出による底上げでカズィクル・ベイの創造を一撃で砕く力があった。それはここに集った者達も同じ。ティアナ、スバル、ヴィータ、シグナム、ザフィーラ。ラインハルトの言ったとおり全員が流出位階と同等なのだ。なのに、この力の差は何なのか。まだ足りないのか。
ラインハルト「ああ、足りんよ。ツァラトゥストラのエイヴィヒカイトなど所詮能力の強化にすぎん。“鬼”という聖遺物の特性から我らのエイヴィヒカイトを呪うだけの物だ。卿らは聖遺物を持っていない。それ故に私を斃す事は難しい」
それは空にあるエリオへと穂先を向ける。その霊力、霊格、穂先を向けられただけで感じる。
238 :1[saga saga sage]:2011/09/29(木) 01:20:54.36 ID:fdaLYzc4o
次元が違う。

ラインハルト「まずは勇敢な卿からだ。無論、加減はせぬ」

そして放たれる黄金光。エレオノーレのように必中でマキナのように一撃必殺。それは真っ直ぐにエリオへと飛ぶ。

エリオ「あ……――」
その発狂するような圧力の中、ふいに、槍の速度が遅くなった。刹那にも満たない時の中、別の黄金が飛来する。

エリオ「――これは……」
それに助けられ、エリオは聖槍から逃れる。そしてラインハルトと聖槍は氷の柱に閉じ込められている。

フェイト「大丈夫?エリオ」

エリオ「ええ……あれはフェイトさんが?」
フェイト「あの氷ははやてちゃんが――」

ラインハルト「――そうか。まだいたな」
巨大な氷の柱。それを砕き、何事もなかったかのように現れる。

ラインハルト「偽神に最も近い者と、力を奪った夜天の主。卿らが――」
フェイト「――――疾ッ」

ラインハルト「――流出を維持するツァラトゥストラを守護する最後の騎士、というわけだ」
時の停滞、その中で何よりも早く駆けたフェイトの速度は過去最高。その連撃は――

当たらない。届かない。視認できるはずのない速度の剣を全て防がれる。だが、それが複数なら――
エリオ「はあああああああああああ!」

はやて「貫け……ミストルティン!」
三つの刃がラインハルトを貫こうと、光速を超えて飛来する。三方向同時攻撃。その結果は――

ラインハルト「――ほう……」
首に食い込んだフェイトのバルディッシュの刃。そこから一筋、血が流れる。薄皮一枚を切り裂いて刃は止まっている。

フェイト「そんな……」
ラインハルト「Fの遺産。なるほど、卿らの中では最も厄介だな。その肉体の特性と、その渇望」

フェイト「――――!く……」
魔力も力も、いくらこめても刃は動かない。

ラインハルト「まさか偽のエイヴィヒカイト。それがここまでやるとはな。だが、それもここまでだ。今、騎士達はここにいる。ツァラトゥストラを守る者はいない」
はやて「……しまった!エリオ、フェイトちゃん!はやく……」

ラインハルト「もう、遅い」

エリオ「ぐ――――」
そして再び聖槍が放たれる。至近距離で爆発する黄金の光。それはフェイト、エリオ、はやてを吹き飛ばしツァラトゥストラへ。

六課の面々が流出位階のラインハルトに対抗できるのはドライの流出により強化されているからに過ぎない。それでも絶望的な実力差があるのだが、これはすなわちドライが流出を維持できなくなればラインハルトに対抗する術はなくなる。
「――――――な」

この身を引き裂こうとしていた黄金の光。キングを取るためのその槍は、しかしまた別の槍により叩き落された。
239 :1[saga saga sage]:2011/09/29(木) 01:21:42.65 ID:fdaLYzc4o
ラインハルト「……ほぅ」
まるで霧が実体を持つように、この場に現れたのは間違いなく屍兵の武装。

??「お初にお目にかかります、ハイドリヒ卿。拝顔の栄に浴し光栄ですが……」

ラインハルト「黒円卓の聖槍……なるほど……ゾーネンキントか」
??「――今、ここで消えろ。墓の王」
ラインハルト「くく、くくくくく……無論、否だ。謀反かね、トバルカイン。ならば、この私を斃して見せろ」
戒「ご要望なら。聖槍十三騎士団黒円卓第二位、櫻井戒=トバルカイン、いざ」

ラインハルト「万死に砕けろ。亡霊になど興味はない」
「――おい!あんた……」

声は届かず、黄金の破壊が炸裂する。轟音と爆発がそこにいた彼を飲み込んでいく。だが、その姿は消えていない。その魂は砕けていない。ラインハルトの全力の一撃を正面から受け止め耐えるなど、そんなことは想像もできないが――
戒「複製とはいえこれも聖槍。ツァラトゥストラの流出に包まれている今なら、僕でもそう不足はないと思いますが」

ようやく視認できた顔には、トバルカインだったころと同じデスマスクで隠されている。でも、その口元は笑っていた。黄金の獣を前にして、嬉しそうに。

ラインハルト「いいや、不足だ。卿では足りん。その腐敗など、焼き払えばよいだけよ」

我は輝きに焼かれる者。届かぬ星を追い続ける者。


届かぬゆえに其は尊く、尊いがゆえに離れたくない。

追おう、追い続けよう何処までも。

我は御身の胸で焼かれたい――逃げ場なき焔の世界

この荘厳なる者を燃やし尽くす――

Muspellzheimr L?vateinn
焦熱世界・激痛の剣

それに呼応するように、

War es so schm?hlich,――
私が犯した罪は

ihm innig vertraut-trotzt’ ich deinem Gebot.
心からの信頼において あなたの命に反したこと

Wohl taugte dir nicht die t?r’ ge Maid,
私は愚かで あなたのお役に立てなかった

Auf dein Gebot entbrenne ein Feuer;
だからあなたの炎で包んでほしい

Wer meines Speeres Spitze furchtet, durchschreite das feuer nie!
我が槍を恐れるならば この炎を越すこと許さぬ

Briah――
創造

Donner Totentanz――Walk?re
雷速剣舞 戦姫変生

詠唱と同時に飛び出す閃光。帯電する雷と炎の壁とが対峙する。

ベアトリス「戒……強くなったね……」

戒「ああ……君も変わらず奇麗だよ」

ベアトリス「え……ちょ、ちょっと戒!こんなときに何を言ってるの!?」

ラインハルト「ほう……そこにいたのか、中尉よ。卿は良いエインフェリアになると思っていたのだがね」

ベアトリス「……いいえ。なりませんよ、そんなもの。それに、私だけじゃない」
240 :1[saga saga sage]:2011/09/29(木) 01:22:12.86 ID:fdaLYzc4o
閃光。雷の炸裂と共にもう一つの声が生まれる。

Die dahingeschiedene Izanami wurde auf dem Berg Hiba
かれその神避りたまひし伊耶那美は

an der Grenze zu den L?ndern Izumo und Hahaki zu Grabe getragen.
出雲の国と伯伎の国 その堺なる比婆の山に葬めまつりき

Bei dieser Begebenheit zog Izanagi sein Schwert,
ここに伊耶那岐

das er mit sich f?hrte und die L?nge von zehn nebeneinander gelegten
御佩せる十拳剣を抜きて

F?usten besa?, und enthauptete ihr Kind, Kagutsuchi.
その子迦具土の頚を斬りたまひき

Briah――!
創造

Man sollte nach den Gesetzen der G?tter leben.
爾天神之命以布斗麻邇爾ト相而詔之

生まれるのは雷の騎士剣と炎の緋々色金。爆発するエネルギーの奔流がラインハルトを襲う。

螢「兄さん……!ベアトリス……!」

戒「大きくなったね、螢」

ベアトリス「ええ……螢。後は一緒に、ハイドリヒ卿を斃しましょう」

兄と、姉代わりの人と、それを追いかけて黒円卓に入った。そしてスワスチカの生贄にされて死んだ。そんな私に彼と彼女は何を思うだろう。でも、だからこそ今、再び再開できて、一緒に戦うことができる。グラズヘイムからの開放を目指して戦える。今、彼ら三人に絶望は無い。だから――
螢「ハイドリヒ卿……私達は負けません。だから、あなたの進軍もここまでです」
241 :1[saga saga sage]:2011/09/29(木) 01:22:45.74 ID:fdaLYzc4o
ラインハルト・ハイドリヒは分からない。彼らの絆が。何が彼らの力になったのかが。なぜこの絶望的な状況で笑っているのかが。だが、それを考える事もまた、無い。

ラインハルト「あぁ、その絆もその愛情もその恋慕も、卿らの全てが愛おしい」

だから破壊する。人を、世界を、何もかもを。破壊できないものを探し出すまで。

ヴィヴィオ「だから、あなたは負けるんだよ」

と、心臓から声をかけられた。ゾーネンキントの片割れ。ヴァレリア・トリファが用意した偽りのゾーネンキント。

ラインハルト「ほう……私が負けると?いくら卿らが我がヴェルトールから蘇生しようと、この戦況は覆らない。して、卿らは死ぬつもりなのか?」

ヴィヴィオ「……死なないよ。私達は一人じゃないから。でも、あなたは一人。そんな数の魂を飲み込んでもあなたは一人だから、だから負けるんだよ」

ラインハルト「ははは……一人か。だが、総軍を凌駕する単騎。それが私だ。なに、ここからは次元が違う。直ぐに終わらせるさ」



接触を恐れる。接触を忌む。我が愛とは背後に広がる轢殺の轍

ただ忘れさせてほしいと切に願う。

総てを置き去り、呪わしき記憶(ユメ)は狂乱の檻へ。

我はただ最速の殺意でありたい――貪りし凶獣

皆、滅びるがいい――

Niflheimr Fenriswolf
死世界・凶獣変生
焦熱の世界にさらに生まれる死の世界。雷と炎の奔流から出てきたラインハルトと対峙するトバルカインだった者達。
ラインハルト「来い。そして、再び堕ちるがいい」
242 :1[saga saga sage]:2011/09/29(木) 01:23:38.26 ID:fdaLYzc4o
キャロ「隊長、動いちゃ……」
「動けるなら問題は無い。戻るぞ」

ここは戦場から後方、強制召還で一度下げられ、ドライとなのはの治療を行っている。
シャマル「でもあなた、体が……」

「動けるようになった。それで十分ありがたい」
なのは「それで……勝てる?」

「…………あぁ……わかんないな」
今、身体は影のように希薄な存在へとなっている。
シャマル「もうあなたは……人間でも人造生命でもなくなってしまったのよ」

まるでメルクリウスのように。
「まあ、元々あいつの代替って時点で人間からは外れてたんだろう。これで勝てるんならありがたいが……」
なのは「死ぬつもり……?」
「……死んでなんとかなるんならな」

??「ならんよ。お前では無理だ」
「――――!」
唐突に襲い来る漆黒の拳。突然、ここに実体化した。

「お前……マキナ……!」
マキナ「……お前……その名前で呼ぶのか……」

キャロ(あ、なんかしょんぼりしてる……)
「蘇生されたか……マキナ――!」

マキナ「マキナではない。ミハエルと呼べよ」
「――――お前、何が……」

マキナ「何、どこぞの誰かのおかげで色々思い出しただけだ。ゾーネンキントはさっさと決着をつけろと言っているぞ」
なのは「あなた、まさか一緒に戦って――」

マキナ「お前か、魔導師。――名を取り戻したからといってハイドリヒとは戦わん。死は俺にとって唯一だ。やつと戦えばその唯一が塵に堕ちる。今更共に戦うなどはせんよ」
「じゃあお前は何を――」
マキナ「お前と決着をつけに……な。俺の聖戦はお前との戦いだ。だからさっさとハイドリヒを斃せ。そのために使えるものを全て使えよ。お前の特攻では道は開かん」
キャロ「―――!危ない!」

その時、マキナとここの皆を滅するために聖槍が飛来した。何十ものシールドを貫く黄金。が、それはマキナの拳により弾かれる。

ラインハルト「マキナよ、魂を二つ持ち出した位で、謀反かね?」

遠くから、ラインハルトの声が届く。
マキナ「……マキナではないよ、ハイドリヒ。それに、俺はお前などに忠誠も無いからな」
なのは「ミハエル……あなた本当に……?」

マキナ「戦友のよしみだ。一度目は80年前のこの地、二度目は日本の海鳴市。そして、三度目の邂逅が今だ。そのよしみでこいつらは護ってやる。だからお前はハイドリヒを斃す算段でもつけておけ。今のお前ではハイドリヒの聖槍を目にしただけで動けなくなるはずだ」
キャロ「それはなんで……?」

マキナ「かつての救世主と同じ復活の奇跡こそが蓮の聖遺物だ。そしてハイドリヒの聖槍はそれを殺した槍。その聖遺物を選んだ時点でハイドリヒには勝てん」
「だから仲間を使えってことか。というかその名前で呼ぶな」

マキナ「それで、できるか?できなければ――」
「……皆、死ぬ事になるかもしれないけどな。特に、なのは――」

なのは「いいわよ。ここで負けても同じなんだし、あなたと一緒に死んであげる」
「……すまん。俺のことは嫌いだろうが、頼む。じゃあ、通信を入れてくれ。ティアナとスバルにはこの街に陣を描いてほしい。概念と図は今転送するからできるだけ急いで。その他、八神はやてとヴォルケンリッター、フェイト、エリオは蘇生されたカインと共にラインハルトを抑えてくれ。前線は交代しながら治療も受けてすこしでも長く時間を稼いでくれ。戦闘の指示ははやてに頼む。それでいいか?」
スバル『あー、やっぱこれじゃあ聖遺物の代わりにはならない?』

ティアナ『代わりになっても聖餐杯には歯がたたない、ってことよ。了解したわ』
はやて『任せて!でもそろそろフェイトちゃんの時間停滞もあいつに効かなくなってきてるから気をつけて!』
マキナ「ふん……俺は戦いはしないが、俺に向かってきたものくらいは撃ち落とすぞ」

なのは「それって、ミハエルはドライを殴りに来たの?」
マキナ「いや、俺の蘇生はついででな。俺の喰らった魂が、どうしても戦いたいと騒いでな」
「それで今のお前はすっからかんなわけだ」
マキナ「そういうことだ。それはいいが、お前だけここに残り、何をしようとしている?」
「簡単。俺を造った奴の贈り物。記憶の中の一つ。【魔女】の知識を使ってね……【超越存在】を作り出す」
243 :1[saga saga sage]:2011/09/29(木) 01:24:28.66 ID:fdaLYzc4o
フェイト(駄目……これじゃあ駄目。このままじゃあなのはも、皆死んじゃう)
先の通信で全てを知った。勿論、彼女には仲間の死なんて認められない。だから――

戦場は今、大剣を持つ男と雷の女、戒とベアトリスが主導権を握っている。そして、この場にはフェイト以上に迅く駆ける者はいない。

フェイト(私が、いまここでラインハルトの首を断つ!)
それは刹那にも満たない、そこに居る全ての人が知覚できない速度域。光速以上の、そのさらに先。その最高速度、最高魔力、全てを乗せて放った一撃だった。

ラインハルト「やっと来てくれたな」
フェイト「な――――」

ラインハルト「卿の創造はすこし厄介でな。シュライバーの創造を発動していれば卿らより速く動けるが、それではツァラトゥストラを討てぬ。故に、ここで卿は喰わせてもらう」
それは後手が先手を覆すという不条理。だが、何にも触れられないというシュライバーの創造をラインハルトが発動している以上触れることは不可能。

遠くで皆の声が聞こえる。だが、この二人の速度域には流出の強化があっても追いつく事はない。だから、―――その瞬間、光が爆発した。


その驚愕は誰のものか。
はやて「嘘や……」
恐らくは誰もが、その光景に驚愕した。

なのは「なんで……」
フェイトを護るように、黄金光を受け止めるのは多数の宝石。その背中は雄弁に、護りきると語っていた。
フェイト「――母さん……!」


ラインハルト「私の全力を防ぐか……毒壷での敗残兵が」
プレシア「ええ……護るものがあるのだから。フェイト、下がっていなさい」

ラインハルトの総軍の中から、母が蘇生され今この戦場に降臨した。その願いは一つ。娘を護るために。

プレシア「私は気付くのが遅すぎた。だけど、もう私の娘は傷つけさせない」
ラインハルト「だが、どうするかね?21個中何個、今の攻撃で使い物にならなくなった?卿の渇望で、大隊長二人の渇望を破るなど……」

プレシア「いいえ。私達、毒壷に落とされた者達は少なからず思っているんです。もう、終わりにしたいと。それに――」
話している途中で、ラインハルトは槍を振りぬく。黒円卓にすら名を連ねなかった敗残兵の言う事など聞くに値しないというように。しかし、プレシアの身体は消え、そこには一つのジュエルシードが――
ラインハルト「私を捕縛するか――!」

プレシア「今の移動とバインドで1個ずつ。確かに、今のあなたに私は触れられない。だけど、蘇ったのは私だけではないわ、ハイドリヒ卿」
そして、ラインハルトの周囲が紫の魔力で包まれる。それは空間ごと殲滅する魔法。

プレシア「誰にも触れられないという渇望でも、覇道は効いていたようだから。空間殲滅魔法は当たらざるをえない。そして――」
リィンフォースT「私達はロストロギアを操るもの。ロストロギアとは世界を滅ぼした遺物だから。他人を本当に理解できていないあなたが使うような創造ならば、私のような者の渇望でも簡単に壊せます、ハイドリヒ卿」
次に、次元ごと、ラインハルトとザミエルの創造である檻が巨大な紫電に貫かれる。

プレシア「これで、大隊長の渇望はなくなった。あとはその守りである聖餐杯を壊すだけね」

ラインハルト「は……ははははははははははははは!面白い。トバルカイン、ヴァルキュリア、レオンハルト、それに毒壷の餌と魔導師が、私の鬣を食い破るなど……滑稽だ。ここまで力をつけた卿ら、素晴らしくもあるが……その程度で私と勝負になると思っている時点で滑稽だ!だが、許そう。卿ら、全て私の愛おしい愛児達なのだから!さあ、どこからでもかかってくるがよい!そして私を、笑わせてくれ!」
244 :1[saga saga sage]:2011/09/29(木) 01:24:56.17 ID:fdaLYzc4o
なのは「プレシアに……リィンフォースT?あれは……」
マキナ「……毒壷に集められた魂の一つだっただけだ。あの人数ならばあと少しは持つだろう。さあ、見ろ魔導師」

ティアナ『置いたわよ!呪物!というかなんてもの運ばせてくれたんだ……』

スバル『こっちもこれで完成!あとは頼んだよ!』

「ああ、これで完成する。ありがとう。下がっていてくれ」

その陣は人からハズレタ者の血と肉で描かれた。巨大な陣。数多もの魔術の理論からなる超巨大複合魔方陣。
「さあ、召還だ」

アルハザードという異常の中の異常が開いている今だからこそ、このアルスマグナが短時間で再現できることを信じた。

「これこそが俺の魔法だ。かつて何処かの世界であった、約1000年を生きた不死の魔女の術を今再現しよう」

まったく同じ、というわけにはいかないが、魔法に限っては本物であるという必要は無い。ましてや人ならぬ身だから、この無理な魔術の代償にも耐えうる事ができる。
「模倣奇跡・奈落堕し」
245 :1[saga saga sage]:2011/09/29(木) 01:25:56.27 ID:fdaLYzc4o
ラインハルト「馬鹿な……なんだ、あれは……」

その声は誰も聞き取れなかっただろう。天にある黒い月。そこから流れ出す極悪の呪力と、それが形を成した蛇が蠢く。そしてその黒い月こそが……

『これが、鬼神だよラインハルト。全てを怨み、呪い、憎み、何を憎んでいたかも忘れてしまった魂達、その鬼達の神だ。そして、この右腕こそが俺が最初に選び取った聖遺物。お前たち黒円卓の奴らを殺す毒として使った呪いだ』

ラインハルト「これほどのものを召還する魔法……カールの代替というだけのことはある。どうやって?」

『本物は闇聖霊を使うんだが、記憶持ちだけだとそっちのパスは足りなくてな。だが、これならなんとか召還できそうだった。だから闇聖霊の代わりにした。どうだ、中々のものだろう?』

ラインハルト「その代償に卿はさらに人からはずれた……気付いているか?見た目も気配も、中身までもカールと同一になっているぞ」

『…………』

ラインハルト「なに、それに唯同じ事しか喋らぬような化け物に負けるような私ではない。これが奥の手、というのは面白くはあるがいささか足りぬよ」

『いや、違うな。これだけではない。既に、お前のレギオンからも蘇生されたものが居る。それが俺たちの味方になった。でもお前は一人だ、ラインハルト』

その時闇と、呪いと憎悪が渦巻く戦場に炎と雷と閃光が貫いた。

リィンフォースT「いかに100万を越える魂を従えようとも、あなたはここでも一人だった。でも、私達は違う」


『で、ラインハルト。俺はこいつでお前に挑もうなんて思ってない。こいつを呼んだのはさ…………こいつの溜め込んでいる呪力が欲しかったのさ。さあ、行けよ』

次の瞬間、鬼達が殺到する。なのはに、レイジングハートに。

なのは「あ……あぁ……!」

『それが何か、はある意味賭けだったが……陰の者が欲しがるものでよかった。アレが開いて反応したとなれば恐らくは……』

ラインハルト「そうか……正直眉唾物だと思っていたが……石碑の欠片か、あれは」

鬼を、膨大な呪力を喰らい変貌するレイジングハート。それは材質か、もっと根本的なところから変質していく。

『おそらくは、過去現在未来、その全てを記したとされる女神の石碑。その欠片。本体はアルハザードにあったが、砕け散った欠片を使いどこかの誰かがデバイスを作った。それがアレだ。本体との繋がりが復活し本来の姿に戻ったんだろう』

神々しく、ヒトでは触れられぬような最強の魔。神代の遺物。それを触媒にして今女神の杖がなのはの手に握られる。
『さあ、澱みも怨みも神すら喰らわせたんだ。頼むぜ、エース』

なのは「我、使命を受けし者なり。

 契約の下、その力を解き放て。

 風は空に、星は天に。

 そして、不屈の心はこの胸に。

 この手に魔法を。

 レイジングハート、セット・アップ!」

フェイト「あれは……」

プレシア「下がりなさい、フェイト。超越存在の誕生に巻き込まれるわよ」

そして現れる、全てを超越する存在。その存在に皆、息を呑んだ。ただ、一人を除いては。
246 :1[saga saga sage]:2011/09/29(木) 01:26:37.22 ID:fdaLYzc4o
ラインハルト「くく、くくくくくくく……」

マナを世界から吸い上げる超越の女神を見上げ、黄金の獣は嗤う。

ラインハルト「見上げるなど、初めてだよ魔導師」

そして互いが互いを狙い、槍には黄金の光が、杖には漆黒と桜色の光が収束する。

ラインハルトの渦巻く魔力は、先ほどまでと比にならない。決して手加減をしていたわけではない。自分よりも強いものをみてさらに喰らいついたのだ。


リィンフォースT「いけない!撃たせるな!」

先陣を切ったのは守護獣。

ザフィーラ「させぬ!我が主と守護獣と、帰ってきた仲間に賭けて!」

シグナム「ああ、ゆくぞ!黄金!」

螢「私たちの、陽だまりを返せ!」

ラインハルトは避けない。避ける必要もないと判断した。今この場に敵はかの女神の杖のみだと。その判断が間違いだと気付いたのは肩と腹を切られてからだった。

ラインハルト「聖餐杯を……断つだと……何をした…!」

『……鬼の声を聞いたんだ。防御能力も呪われたんだろうな。それこそが死の呪いをお前は全身に浴びた。俺の加護の無いお前には十分に効いただろう?』

なのは「あと、ちょっとで全部集まる!」

ベアトリス「なら、あとすこし抑えておきますか!」

戒「そうだね、ベアトリス」

閃光と腐敗の剣、それに続き全ての力を結集させ、ラインハルトを抑える。

はやて「全員、ラインハルトにバインドを!」

十重二十重に縛り上げられるラインハルト。だが、

ラインハルト「これで私を、縛れると?」

聖槍一閃。魔法も剣も、人さえもその直撃を受けて散る。

ラインハルト「さあ、チェックメイトだ」

見上げる先には巨大な、超高密度の魔力が収束した魔法。世界全てから魔力を吸い上げ、強化し、自らのものとした超越存在。あの魔力を喰らえばラインハルトといえど、聖餐杯といえどひとたまりもない。それがあの神代の魔具

ラインハルト「神代の時代は終わったのだ。一手、届かなかったな!」

黄金の魔力が爆発する。
247 :1[saga saga sage]:2011/09/29(木) 01:27:05.31 ID:fdaLYzc4o
だが、それに重ねて

『In der Nacht, wo alles schl?ft
ものみな眠るさ夜中に

Wie sch?n, den Meeresboden zu verlassen.
水底を離るることぞうれしけれ。

Ich hebe den Kopf ?ber das Wasser,
水のおもてを頭もて、

Welch Freude, das Spiel der Wasserwellen
波立て遊ぶぞたのしけれ。

Durch die nun zerbrochene Stille, Rufen wir unsere Namen
澄める大気をふるわせて、互に高く呼びかわし

Pechschwarzes Haar wirbelt im Wind
緑なす濡れ髪うちふるい……

Welch Freude, sie trocknen zu sehen.
乾かし遊ぶぞたのしけれ!

Briah――
創造

Csejte Ungarn Nachatzehrer
拷問城の食人影』

月光の影が蠢き、立ち昇り、ラインハルトに触れる。それは第3世界のレギオンの中核をなす魂の渇望。流出位階へ強化され、いま限りなくそれに近い。そう、その手は神すらも地星に堕としうる。

ラインハルト「な……マレ……ウス……」

ルサルカ「ハイドリヒ卿。あなたの祝福は、永遠は要りません。だから――」

ラインハルト「く――おおおおおおおおおおおおおおおお!」

そして影は砕かれ、動きは戻る。だが、カウントは0を数えた。
248 :1[saga saga sage]:2011/09/29(木) 01:27:40.66 ID:fdaLYzc4o
なのは「スターライト・ブレイカー」
その破壊の星光は周囲の次元すら砕き割りながら、星の、世界の、禁忌の、全ての魔力をラインハルトへ発射した。

ラインハルト「う……おおおおおおおおおおおおお―――――――――――――――」
桜色の魔砲が黄金の獣を次元、世界ごと葬り去った。

はやて「……やったんか?あれが……超越存在……」

フェイト「やった……やったよ、母さん!」


プレシア「ええ……フェイト。私は一言、貴方に言いたかった。ごめんなさい、大好き、と。それがこんなところまで……」

フェイト「うん……!うん……!」

リィンフォースT「戦いなんてしたくなかったが……またこのように皆に会えるなんて夢のようだ。私の後継も、頑張って主を護るのだぞ」

『…………』

その光景を見る。世界の穴は二つ。そのしたで皆、勝利に喜び、再会を祝っている。
だが、致命傷だ。


ルサルカ「行くの?」

『ああ……こうするしかないだろ?』

戒「ありがとう。僕達を解放してくれて。あとは、頼むよ」

螢「うん……まさかホントに斃しちゃうなんて思わなかった。でも、また皆と会えて嬉しいよ」

ベアトリス「そういうこと。さ、貴方もやることやって還りなさい?」



『……ああ。じゃあな』
見上げる先は上空。ラインハルトから開放されたはずの魂達を従えて、こっちを見つめる男。

マキナ「お前の勝ちか。まずは祝おう。そして、俺の聖戦に付き合ってもらう。思えば、過去に決着がついたというのはハイドリヒの毒壷の中だけだ。もう一度、戦ってみないか?」

『ああ。お前は創造まで出してもうやる気満々じゃないか。いいよ。決着をつけよう』

武器はともに素手。一撃で万物を殺しうる拳と、全てを抱く腕。

『俺とお前だ。懐かしく殴り合おう』
249 :1[saga saga sage]:2011/09/29(木) 01:28:08.13 ID:fdaLYzc4o
マキナ「ああ……強かった。これでこそ待ったかいがあった。ではな、戦友。また、会おう」

『――――』

あいつらしからぬ、あいつらしい、最後の笑顔。それを見て、仲間達をみた。

『ああ、この世界は未来がない。だから、帰ろう。あるべき場所へ』

そして、アルハザードへと足を踏み入れた。
250 :1[saga saga sage]:2011/09/29(木) 01:28:34.69 ID:fdaLYzc4o
そこは屍体を抱く揺り篭と、それを縛る鎖。そしてその前に

『しぶとく生き残ってたのか。メルクリウス』
メルクリウス「君が、存在すら許さないと思ってくれたら死んでいたはずさ。だが、死ねないのだよ。それよりもよく我が友に勝った。これで私の目的はくじかれ、もう一度やり直すほかなくなった」
『お前を殺せば代替である俺も死んだろう?だからうすうす気付いてはいたんだ。で、もう一度やり直す?させないよ。俺が還り、あの場所で流出する。それでお前が狂わせたものは全て元通りだ』

メルクリウス「ああ……そうか。無理か。君のようなものと戦おうと、死にたがりの私では排除できぬ。ああ――だが、いいのかね?君が帰ることになるのは海鳴ではなく……」

『知っているよ。でもいいさ』
そして去っていく流出へ至る者。80年前の黒円卓黎明を防ぐため。

メルクリウス「ああ、なんと優しい我が息子。我が友の目的は防いだ。だが、私の目的は果たしてくれた。ああ、その聖遺物を選んでくれたからこそ、三番目でついに、叶った」

水銀の見つめる先は、揺り篭。そこには純真無垢な少女がいた。なにがおこっているのか分からないという顔をしてこちらを見ている。

メルクリウス「分からないかい?でも君は復活できた。彼のおかげで。さあ、彼の国は転生の概念がある。私達もまた産まれることができるよ。だからこそ誓おう。あなたとまた何度でも出会い、何度でも語らい、必ずや、あなたを解放してみせる」

メルクリウス「ああ、そのためにはまた、集めなければいけない。彼の国にしようか。彼の世界にしようか。真理を辿る者達がいた彼の世界ならば、舞台としても申し分ない。なら……かの橘蓮には餌となってもらおう。この三度、あの地でわが代替を殺した血を吸う鬼の餌になってくれればいい。もう一人、つくればいいから」

メルクリウス「さあ、次に我々が出会うまで。再び黒円卓ができるまで刹那の夢を見るといい、獣とその鬣達。女神の死の鎖を破壊してくれた魔導師たちは、もう要らぬ」

そう、狂した蛇は笑いながら、新世界の流出に飲み込まれた。
251 :1[saga saga sage]:2011/09/29(木) 01:29:09.63 ID:fdaLYzc4o
ヴィルヘルム「おおおおおらあああああああ!」
シュライバー「はははははははははははははははは!」

連続殺人行為にて、ヴィルヘルム・エーレンブルグ、アンナ・シュライバー両名は拘束、処刑。

アンナ「ちょっと!ベアトリスのみすぎ!」
ベアトリス「だってー中尉がかっこよかったんですよー『銃など向けられても存外怖くはない』って、あいたぁ!」

エレオノーレ「うるさいぞ馬鹿娘!もうすこしおとなしく食えんのか」

ロータス「おいおい、酒場でうるさくしないのはマナー違反……」

アンナ「人に迷惑はかけないで?で、ゲシュタポの長官殿は大丈夫だったの?」

ロートス「ああ、なんか普通に大丈夫だったぞ?なんかへんな事言われたけど、いい人だったな」

アンナ「ふぅー……あんたが何かしたのかと思ったわよ……」

ベアトリス「ははー、アンナちゃんは相変わらずこいつにぞっこんだねえー。そこんところ、どうですか!?はい!」

ミハエル「……いや、いいんじゃないか?」

アンナ「もう!ベアトリスちょっとうざいー!」

エレオノーレ「で、なぜブレンナーがおらんのだ!」

アンナ「ああ、こっちまで!?ヴァレリアンの教会に子供捨てられてそれを育てるとか言い出したあいつをてつだってあげてるんでしょうがー!」

ミハエル「トリファ神父が子供なぁ……名前はなんだったか」

ベアトリス「エリーザベトですよエリーザベト!エリーゼちゃーん!っていってるんですよあのロリコン神父!」

アンナ(ああ……今日もこいつらうるさい……たまにはロートスと二人きりにしてくれても……)

ベアトリス「おーい!アンナちゃーん!いま何考えた?ん?」

アンナ「もういやーーーー!」
252 :1[saga saga sage]:2011/09/29(木) 01:30:13.14 ID:fdaLYzc4o
現代――海鳴市

はやて「あー、やっと休暇やー!」


フェイト「かなり久しぶりだよね。こうして街を歩くのも」

なのは「んー、あ、あれヴィヴィオに買っていってあげよう……かな……」

人ごみが割れる。そして通り過ぎる大男。その顔はまるでロボットのような――

なのは「……何?あれ……」

はやて「うーん……なんやろなー?ただの大きな人みたいやったけど」

フェイト「――――――――」


目立つといえば、この三人組も十分に目立っているのだが、ふと、ある男が三人のそばを通り過ぎた。

フェイト「あれ……?」

どこかで会ったことがある?

蓮「…………?」

いや、そんな気もするけど、きのせいだ。

これが現代日本のとある街での、魔導師達と蛇の残滓と機械仕掛けの人形との最初の邂逅だった。
253 :名無しNIPPER[sage]:2011/09/30(金) 16:24:24.76 ID:FX+S3CHDO
かなり強引に終わらせたな。
254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/04(火) 01:16:29.90 ID:wz/Ybsqc0
結局何がしたかったのかよくわからんかった
>>1は何がしたかったん



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