◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/19(火) 01:06:16.85 ID:j/+2kGnd0<>



                   ―…***…―






雨が降る直前の空気が好きだった。



鉛色の息苦しくなるようなどろどろとした空。

アスファルトが微かに蒸されるような、独特の香り。

髪が湿っぽくなり、肌に張り付くような感覚は決して良いことなど無いはずなのに。



それでも自分は雨が降る直前の空気が好きだった。

あえて理由を考えてみる。多分ではあるが、一つだけ思い当たる節があった。



それはきっと、わくわくするからだろう。


雨が降り出す瞬間。

空が、空気が、風が、道路が、道行く人々が、瞬く間に色を変えていく。

リズムを叩くように降りしきる雨粒の音。

雨に染まり、藍色から黒に染まっていくアスファルト。

跳ね返った雨が視界を塞ぎ、霧状の雨は街の輪郭を曖昧にしていく。

傘を忘れたと、頭の上にカバンを置いて駆け出す学生達の慌ただしい姿。

お母さんに買ってもらったと、口々に言いながら嬉しそうに色とりどりの傘を差す幼い女の子達。

音が増えたはずなのに、喧騒が大きくなったはずなのに、雨が降り始めると街が少し息を潜めている気がする。




その変わり様を自分は楽しんでいるのかもしれない。







                   ―…***…―



<>一方通行「いい子にしてたかァ?」3
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/19(火) 01:08:34.61 ID:j/+2kGnd0<>


煙草を一本吸い終えて、一方通行はパン屋の店先、テントの下から本格的に降り出した空をぼんやりと眺める。

当分雨は止む気配を見せない。
天気予報を信じれば、既に晴れていても良いはずだ。
朝方から崩れた天気は雨雲が南西に流れていき、昼過ぎには太陽が拝めるだろうと言っていたというのに。

しかし、そんな無責任な予報とは裏腹に、一方通行の目に映る空はどうにもまだまだご機嫌を直してくれる気配は無い。


煙草の箱をトンと叩くと、二本目を咥える。

嘗ての彼ならば忌々しいと吐き捨て、敵を射殺すように空を睨みつけもしただろうが、生憎今の彼は天気に八つ当たりをするほど切羽詰った生活を送ってはいない。
ただ、面倒臭いと思うだけだ。
杖を持って更に傘を差す事の煩わしさを思えば、呆けたように煙草を吸っている方が幾分か生産的なことのように思えた。


あくまでも彼の精神衛生上の話であるが。



紫煙がじっとりとした空気に混ざり、心なしか視界を深い鉛色に変えていく。
勿論、そんなものは一方通行の気のせいであるが、それは彼自身がよくわかっている。
排気口から流れてくる香ばしいパンの匂い。けれどもパンを食べたい気分ではない。




雨の日に食べたくないものを上げろと聞かれたら、一方通行はパンとコーラを上げる。

雨を眺めながら冷たい炭酸飲料など飲みたくはない。

パンにいたってはしけったパン、カビたパンが勝手に彼の中に連想され、食欲を著しく奪うのだ。



煙を吸い込みながら、どうでもいいことを考えてる自分に呆れる。
要は、思考を弄びたいだけなのだ。
特にすることも無いから。
こういう時、喫煙者で良かったと思う。
手持ち無沙汰の人間がぼうっと雨空を眺めている光景はマヌケだが、少なくとも喫煙者は煙草を吸うという行為をしているように見える。
それだけで幾分かマシな気がしてくるのだから、不思議なものだ。


やがて、彼の視界に、白い影が浮かぶ。
影は、徐々にその輪郭をハッキリと形作り、遂には一方通行の前にまでたどり着く。


白いワンピースに、ミントグリーンのカーディガンを着た少女だ。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/19(火) 01:09:27.73 ID:j/+2kGnd0<>

「ちょっと入れてね」

「ン」

少女の為に、もたれ掛かっていたショーウィンドウから背を離し、一方通行はかっちり一人分のスペースを作ってやる。
小柄な少女はすっぽりと収まると蒼みがかった銀色の髪から雫をぽたぽたと落としながら、スカートの端を軽く絞る。
傘を忘れてしまったのかとも思ったが、少女は奇妙なことに、その手にしっかりと傘を握っている。
水色の、少女の白いワンピースにとても良く映える色だ。
すぐに一方通行は少女が濡れている理由に気付く。不自然に膨らんだ傘。おそらく骨が折れてしまったのだろう。

「もう…これ気に入ってたのに」

少女が頬を膨らませて溢す。
一方通行は小さく噴出した。


「……笑わないでほしいんだけど?」


返事の代わりに紫煙を少女の顔に吹きかけた。


「ちょ、ゲホッ…甘い?」


涙目になりながらも、甘い香りに戸惑う少女を尻目に、喉を震わせて笑みを押し殺す。
どうやら彼女の周りには甘い香りの煙草を吸う人間はいないようだ。
些細な発見に、少し嬉しくなっている自分に気付く。浮き足立った感情を知られまいと、責めるように睨みつけてくる少女の前で、わざとらしく細く長い煙を吐く。
少女は諦めたのか、それとも、彼がこういう振る舞いをする人間だと知っていたのか、溜息を吐くと、彼と同じく空を見上げる。


そして、少女がぽつりと、口を開いた。


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/19(火) 01:10:46.00 ID:j/+2kGnd0<>

「久しぶりだね……あくせられーた」

「ああ……久しぶりだな……インデックス…」




六年ぶりにあった白い少女 ――― インデックス。
既に二十歳を迎えたというのに少女という表現が似つかわしい。
淡い光を放つような白い肌、ただ頬だけは微かに、まるで桃色のように鮮やかに色付いている。
六年という月日をかけてこの少女もまた見違えるほどに美しくなっている。その美貌の横顔を、一方通行はそっと見る。


一方通行の方に視線を向けず、空を見つめたままだ。



「ありがとうね…」



何が?とは聞かない。一方通行は自嘲交じりに小さく笑うのをあえて聞かないフリをする。
煙草を挟んだ指が微かに震える。ガラにも無く緊張しているのか。
隣の少女に気付かれてないか、一方通行は誤魔化すように灰皿に煙草を捻り込む。



「本当はね、凄く恐かった。とーまが私の前からいなくなっちゃったらどうしようって、そう思うと」


感づいたのか、それとも聞いたのか。
敏い少女だ。賢い少女だ。そして、優しい少女だ。
いずれにせよ、心穏やかではいられないはずだ。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/19(火) 01:11:24.67 ID:j/+2kGnd0<>

「とーまにもう一度、本当は考え直してもらおうって思ってたの。捨ててしまったものを見つめなおしてもう一度って。

 でも、送り出してから凄く恐くて仕方が無かった。イギリスに行った頃はあんなにとーまが来るのを嫌がってたのに…寂しいけれど、本当に来ちゃいけないって思ってたんだよ。

 でも…ダメだった。もう身体がとーまのこと、覚えちゃったから。だからもうダメ。あの時みたいに、とーまときっぱりサヨウナラなんて出来ないんだよ…

 だから、とーまが帰ってきてくれた時は嬉しくて泣いちゃいそうだった……自分で送り出しておいてね……」




 ――― ワガママだね ―――



小さく、消え入りそうな声で呟いた。



「それ…まだ付けてたンだな」

「え?」


少女の白銀の髪を留めている色褪せた羽のヘアピンを見遣る。
見覚えならあった。選ぶ手伝いをしたのは自分だ。
気の利いたプレゼントを、と泣いて縋りつく上条に辟易して、そして根負けした。
けれども、いざプレゼント選びの時になって、乗り気になった自分と、任せるといいながらも自分のこだわりをしっかりと持っていた上条の意見は悉く対立した。
そして、ふと目に付いたのは青い羽。
『幸せの青い鳥』という童話を、上条は思い浮かんだようだった。
一方通行も打ち止めに読んでやっていた童話の一つだったとすぐに思い出した。
平行線だった二人は、何かに引かれるように、このヘアピンを選んだのだ。



「いいンじゃねェの?我が侭で。どうせ誰も彼も幸せになンて出来ねェンだ。だったらまずテメェ自身を幸せにするところから始めろよ。
 
 それに、テメェ自身の幸せってのを考えらンねェ野郎にはきっと誰も幸せになンざ出来やしねェンだよ。テメェはあの野郎を幸せにしてやりたくねェのか?」



少女はゆるゆると首を振る。

一方通行は安心したように、微かに口元を緩める。



「じゃあ、そのままあでいろよ。我が侭言って、あの馬鹿を振り回してやれ。存分に甘えてやれ。

 それから……それから、馬鹿みてェにアイツの側で笑ってろよ。それがあの野郎の幸せだろ」




煙草を吸うわけでもなく、手の中でジッポを転がしながら一方通行は苦笑する。
お前が言うな、と誰かが怒鳴る声が聞こえた気がしたからだ。
少なくとも、ついこの前までの自分が言っていいセリフではない。


『自分の幸せ』などという言葉など、一方通行から出てくるはずの無いものであった ――― 嘗ては。




<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/19(火) 01:13:33.65 ID:j/+2kGnd0<>


「オイ」

「うん?」

「お前は今幸せか?」


規則正しく振り堕ちる雫を紅の瞳に映しながら問う。


「うん。とっても幸せ」


少女は天使のように微笑む。
彼女の住む世界には地獄しか無い、彼女の住む場所は地獄しかないというのに。
それでも少女は笑う。心から。自分が今いる地獄の底が、本当に幸せだというように。
その笑顔を生み出しているのが誰なのか、一方通行には確認するまでも無かった。



「ハハッ……そォか…」



どうやらあの男はしっかりと約束を守っているようだ。



「ねぇ、ねぇ、あくせられーた」


甘い舌足らずの声が、一方通行の自嘲気味の思考を打ち切った。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/19(火) 01:14:17.32 ID:j/+2kGnd0<>

「あくせられーたは今幸せ?」






小さく、息を呑む。

投げかけられたのは無邪気で、そして残酷な言葉。

一方通行にとってそれはある意味最も苦悶を強いる言葉だった。

けれども、苦悶の果てに、彼は見つけ出した。

見つけたのではない、既にあった答えだ。

とっくの昔から手にしていて、気付かぬフリをしてきただけの答え。

受け止めることに勝手に怯えていただけの、シンプルな答え。


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/19(火) 01:14:50.13 ID:j/+2kGnd0<>


















「ああ…悪くねェな」
















<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/19(火) 01:15:27.50 ID:j/+2kGnd0<>


囁かれたハスキーボイスがあまりに優しく、甘く響いいたせいだ。
一方通行らしからぬ柔らかい声に導かれるようにインデックスは隣に立つ男の横顔に視線を向けた。
そこには子供が、母親に褒められて照れくさそうにする時に浮かべるような不器用で、幼い笑みがあった。



「そうなんだ」

「そォさ」


一方通行は、煙草の箱を取り出すと、一本口に咥える。
火を点けると、ゆっくりと吸い込む。




「こンな風に呑気に煙草ふかしてられるくれェには平和だからな」


        

                    ―――― 少なくとも、眩しくて、焦がれていた少女が幸せだと心から笑って言う姿を目にすることが出来たのだ。



本音はしまい込み、本気とも冗談とも取れない言葉を舌の上で転がす。



<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/19(火) 01:20:52.40 ID:j/+2kGnd0<>

                   ―…***…―






雨が止む。

少女は再び自分から離れ、上条の下へと行く。

その背を眺めながら、一方通行は小さな確信を抱いた。

これで報われたのだと。

ようやく報われたのだと。

安堵にも似た気持ちで納得する。

きっと、これは燻り続けていた彼の想い。

愛ではなかった。

それは恋であっても、決して愛ではなかった。

育む術を知らず、ただ、ずっと仕舞い込んでいた行き場の無かった恋心だ。

それが、今、やっと報われたのだ。

あの笑顔を見て。

吸い終えた煙草を灰皿にねじりこみ、空になった煙草の箱を小さく指先で千切っていく。

紙吹雪のように風に乗せて放ってやる。

あの少女は同じだ。

甘い香りを残して、口の中には微かな苦さを残していく。

一方通行は小さく笑う。

多分、これで本当に自分は前に進めるのだ。




「さてと……そろそろ帰らねェとな」



今日は珍しく美琴がお迎えに行っているはずだ。

自分の部屋に直行して、食事の準備をするだけの時間は十分にある。

雲間から差し込む光の梯子を見上げてから、雨の残滓の残る街の中へと踏み出す。




<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/19(火) 01:25:44.54 ID:j/+2kGnd0<> という訳で第3スレ突入します。
前回のお話のエピローグだと思って下さい。


ちなみに今までの流れは以下の通りです


上条「約束したよな?例え地獄の底でも、お前を ――― 」
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1297/12970/1297085602.html        
     ↓
一方通行「いい子にしてたかァ?」
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1296/12960/1296040573.html
     ↓
一方通行「いい子にしてたかァ?」2
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1299954919/


と時系列順になっています。
これからまたよろしくお願い致します。

それでは ノシ

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/04/19(火) 01:26:07.74 ID:Nqm6BHIto<> 待ってた乙

一方さんの方でも決着がついたか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/19(火) 01:26:19.29 ID:l2wv9J15o<> おお、早いな
乙です
期待してます <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/04/19(火) 01:31:53.19 ID:wn33wCH5o<> ふと目が覚めたら新スレとか…
超乙です <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/19(火) 01:37:58.33 ID:Ty0rAqeQo<> 乙乙
一方さんもインデックスのこと好きだったのか…
一方さんはインデックスと会ってようやく吹っ切れることができたみたいだけど
上条さんと会う前にとっくに吹っ切れてた美琴さんとはえらい違いだなww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<>sage<>2011/04/19(火) 01:48:34.64 ID:EgDCru77o<> 乙ー
今回も楽しませていだきます <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/04/19(火) 02:02:07.26 ID:8XS4WTsI0<> スレ立て&上条編エピローグW乙

一方さんの恋心もようやく決着を迎えたか
今までは上条さんを送り出した結果が分からなかったからな

前スレ>>726
>上条編⇒小話(軍覇×ねーちんとか)⇒上インED後から娘生まれるまで⇒日常編⇒エピローグ

今度のスレは小話と、もしかしたら過去編だな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/19(火) 02:12:04.00 ID:Z/6uSZxPo<> 生まれるまでの所は気になるな・・・
まだ美琴さん揺れてる頃だろうし、一方さんも今みたいにある程度落ち着いてはいないだろうし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/19(火) 02:27:28.84 ID:fhNnTpbLo<> 美琴→上条
 ×   ×
一方→禁書

なんという四角関係… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/19(火) 02:57:51.20 ID:tQ50DaJIO<> 妊娠が発覚してきっと一悶着あったんだろーな
早く続きが読みたいぜ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海・関東)<>sage<>2011/04/19(火) 03:15:54.85 ID:pkbo4AoAO<> リアルにうわぁ…って言ってしまった
ホント、ホント上手いわ。心の底からそう思う
読んでるこっちまで救われた気がした
今までの話で一番良かったわ
大分終わりが見えてきて早く読みたい分名残惜しくも感じる
後日談で是非お互いの平和な日常を見たいもんだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/19(火) 03:17:16.34 ID:vYN1mwU/0<> 新スレきたーw <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/19(火) 06:21:38.05 ID:Um5BZMDIO<> >>19
禁書と上条さん入れかえたら大惨事でござる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/19(火) 08:13:49.80 ID:UcXGuRReo<> 禁書と一方さん入れ換えても大惨事たな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/19(火) 08:38:44.10 ID:yJ6PYrOU0<> みこインはいっこうに構わないんだがな…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2011/04/19(火) 12:48:02.95 ID:XM5MSgTAO<> ウホッ、は勘弁してほしい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県)<>sage<>2011/04/19(火) 12:56:38.92 ID:BWFFrkxNo<> >>25
某スレが復活するといいね
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/04/19(火) 12:59:11.77 ID:KI6JaPl8o<> 美琴は上条さんが好きで禁書は一方さんが好きだけど
惚れた人がホモだった……ならレズになるよ!って事か

悲劇だな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2011/04/19(火) 13:10:18.62 ID:7rqgaXoKo<> >>28
むしろ喜劇 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/19(火) 13:16:21.22 ID:0vSG5peY0<> 乙
>>17
もしかしたらというか前スレで次スレでは過去話するって言ってる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/19(火) 14:39:00.95 ID:nGy9xRmDO<> >>28
次は美琴親子と禁書親子のほのぼのと薔薇園に旅だった父親達の話か… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<>sage<>2011/04/19(火) 15:20:42.59 ID:2FnUYDcP0<> やっと追いついた…乙!
最初電磁通行一家の日常が壊されると思ったけど…前スレの美琴に感動した
その後の電磁通行もあればいいなぁ

あれ?エピローグって結末って意味だっけ? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/04/19(火) 15:32:54.11 ID:p2jKdl6Mo<> >>28
逆に上条さんと美琴を入れ替えたら
惚れた相手がレズで振られた男共のホモか‥‥‥ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/19(火) 17:38:18.80 ID:6/PypERP0<> 一方通行「悪ィ子は居ねェかァ?」的なナマハゲータ一方通行を想像した
学園都市の暗部を翔ける超神アクセラネイガー、怖い <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2011/04/19(火) 20:04:40.78 ID:xoSZBp5+o<> 一通さん一皮剥けたなあ。剥いてもらったんだけど。いやらしい。

彼女にだけ素直な気持ちを向けられたのは、手が届かないのがわかってたからなのかもなあ。
決して一定以上自分のなかに入ってこないからこそ対等な関係を持てて。
恋だと思ってたそれは彼の初めての人と人との付き合いだったのかもしれないなあなんて。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<><>2011/04/19(火) 20:41:31.32 ID:n0nZnNwY0<> >>28 ちょww茶ァ噴いちまったじゃねーかwwww
切なくて俺涙目だったのにどうしてくれる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2011/04/19(火) 23:01:22.27 ID:0iuduH9k0<> シリアスssの一方さんの心理描写って難しいと思うんだよね。
何の描写もなく幸せそうなら罪悪感ってところに疑問があるし、
かといってネガティブで終わらすのも一方さんの成長がないし。

美琴との関係をここまで表現出来るってのは凄いと思う。
下手な小説読むよりよほど楽しい。
一方さんが幸せな描写がいっぱい読みたいなー。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2011/04/20(水) 00:43:51.55 ID:vzzgflfx0<> 乙です。
ここまでずっと読んできましたが、ほんと面白い。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大分県)<>sage<>2011/04/20(水) 01:28:36.49 ID:6N4MpbB30<> >>19
しかしここに矢印を書き加えて

美琴→上条
 ×   ×
一方→禁書

絹旗左天打ち止め番外結標20000号

とすると「一方さんもげろ」以外の感想が浮かばなくなる。不思議! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/20(水) 01:34:27.50 ID:FG8PM0J7o<> 美琴と禁書の入れ替えと上条と一方の入れ替えなら割と普通だな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/20(水) 01:50:15.31 ID:FEwKgYWIO<> 昨今の電磁通行ブームはここからきてるSSも多分少なくないよな
感謝感謝 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/04/20(水) 10:12:11.43 ID:TGkGeCPho<> >>39
第四波動でも使いそうなのが紛れ込んでるな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/04/20(水) 19:33:58.88 ID:T56xAqyS0<> >>39
おい春厨とスネークと姉御とドMと毒舌ンデレと黒夜とオルソラと神裂と風斬と浜面はどうした <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/20(水) 19:42:14.76 ID:T344zccKo<> 流石にここには関係ない雑談は控えろよ・・・
矢印の向きとか別のところで勝手にやってろ <>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/20(水) 20:58:35.97 ID:Mt9UmC0G0<> 12時前に投下します。
シリアス?何それ?な本編のストーリーに何の関係も無いお話です。それではまた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/04/20(水) 21:00:12.50 ID:wpKpocfIo<> またカカオ食ったのか?ww
wwktk <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/20(水) 21:16:09.63 ID:snUN/K8DO<> ほのぼのかな?
誰のターンか楽しみ。 <>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/20(水) 23:00:24.69 ID:Mt9UmC0G0<> 今から投下します。短めです。 <> ◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/20(水) 23:03:30.03 ID:Mt9UmC0G0<>
佐天涙子はパン屋でバイトをしている。
春休みの今は稼ぎ時だ。
朝から入る代わりに、午後は早めに上がる。
そんな彼女はバイト先から焼きたてのフランスパンを貰ったので美琴にお裾分けをするとメールを送った。

研究が終わって時間があるから、一緒に食事でもどうかと美琴からの返信。

丁度暇を持て余していた佐天は二つ返事でOK。

保育園が終わった絹旗も誘って、美琴とクレープ屋の前で合流してから向かうことになった。



「想ちゃんはどうしたんですか?」

「今日、超一方通行が迎えに来ましたよ」

「もう家に帰ってるって」


等と話している間に美琴のマンションに辿り着いた。




                   ―…***…―




ちなみに、初春飾利は恋人と春休みを利用しての旅行中。


白井黒子はアックア隊長と究極の桜餅を作るべく現在マレーシアにいる。
何故マレーシアかと電話口で尋ねた佐天の耳をつんざく騒音。
受話器口からけたたましい怒声や悲鳴が鳴り響く。


以下、電話口から佐天が確認出来た音声の一部を記す。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/20(水) 23:05:20.61 ID:Mt9UmC0G0<>


『ジョシュアーーーーー!!!』


『黒子副隊長!!ジョシュアが…ジョシュアが…』


『貴方達の目は何の為に付いてますの!泣くためですの?違いますわ。活路を見出す為にあるのですわ!!』


『黒子副隊長の言うとおりであ――あああぁぁぁーーーーーーーーーー!!!』


『しまった!!お色気要員のアックア隊長がまたしても!!』


『そ、そこは入れるのに適した穴ではないのである』


『何で貴方は毎回触手責めに遭いますの!?』







何だかお取り込み中であった為、佐天はそっと電話を切った。





                   ―…***…―


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/20(水) 23:07:32.96 ID:Mt9UmC0G0<>


「おっじゃましま〜っす」

美琴の部屋に上がった佐天の目に飛び込んだのはカーペットにこんもりと盛り上がるタオルケット。


「迎えに行ってそのままコッチ来てるって言ってたなそういえば」


コートを掛けた美琴はリビングを通り抜けてキッチンに行くと買い物袋の中身をテーブルの上に並べる。



「随分ぐっすりですね〜」


しゃがみこんで佐天涙子が覗き込むのは、白髪頭の青年の寝顔。
普段の気難しい表情はなりを潜め、眉尻の下がった顔は年不相応に幼い。
あどけないと言い換えてもいいだろう。

佐天が余りにも弾んだ声で覗き込むものだから、佐天ばかりずるいと絹旗も覗き込む。


「可愛い〜」

「た、確かに超可愛いです…」


青年の珍しい寝顔に、絹旗は頬を染めてまじまじと見つめる。
乙女丸出しの横顔を、佐天がにたりとしたにやけ面で見ているのにも気付かず。

「あっるぇぇ〜?絹旗さんてば随分素直じゃね?目キラキラさせてね?」
「さ、佐天さんだって今可愛いって、超可愛いって」
「言ったさ、可愛い〜〜――― 想ちゃんが」



そういってマシュマロのような頬っぺたをつんと優しくつついてやる。

佐天がつついたのは、白髪頭の青年こと一方通行 ――― の胸元にぴとりとくっ付いている幼い少女の寝顔。
片時も離れまいと、少女は一方通行の服を小さなマシュマロのような手で握って離さない。
親犬に子犬が寄り添っているようだ。


佐天の露骨なしてやったり顔にますます真っ赤になる絹旗。


「やぁ〜ん想ちゃん、ホント可愛い、つんつん」


つつくたびに、ふよんと弾力のある頬が微かに揺れるのが、お気に召したのか、佐天は少女の頬っぺたに夢中だ。


「あ、絹旗先生は想ちゃんじゃなくて、一方通行さんが可愛いんだっけ?」

「佐天さん…」

「ごめんごめん。でもさ、コッチの白いお兄さんも可愛いよね、確かに」


佐天は今度は一方通行の頬をつつく。
眠りが深いのか、微かに眉を寄せるだけで、一方通行は目を覚ます気配すら見せない。



不意に、突いた指を佐天は見つめる。

絹旗が首を傾げる目の前で、佐天は自分の頬を突いてみる。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/20(水) 23:12:24.02 ID:Mt9UmC0G0<>


「うわ…」


「どうしたんですか?」

「この人…年上なのに…男なのに…私より肌スベスベ…」



佐天は険しい顔つきになると、一方通行の頬を更につつく。
つつくだけでは飽き足らず、手のひらで顔を撫で始めた。緩やかに、そっと、優しく。
まるで、恋人に口付ける為に頬に手を添えるように。


「さ、佐天さん…?」


徐々に真剣味を帯び始めた佐天に不穏なものを感じ取ったのか、絹旗が慌てて声をかける。


「何かさぁ……キスしたら気持ち良さそうな肌してるよね…」


佐天は一方通行に視線を落としたままポツリと零す。
濡れた花びらのような唇が吐き出した吐息が心なしか熱い。

「ちょ、何言ってるんですか!?」
「しぃ〜〜起きちゃうよ。ホラ、絹旗さんも触ってみればいいじゃん」
「え、えぇ、あ…」

おずおずと伸ばした指先に触れる滑らかな手触り。



「……わぁ」


絹旗の口から感嘆の声が漏れる。


確かにスベスベとした肌だ。
この年頃の男には特有の脂っぽさは無く、かといってかさかさの干物のような乾燥した肌でもない。
寧ろ絹だとか、肌触りの良い布の感触に近い。
彼の低い体温がそれを一層連想させた。
ぷりぷりの弾力と柔らかさ、温かさに満ちた想の肌とは根本から異なる。
思わずその感触に止みつきになる絹旗と、私も私もと佐天が再び一方通行の頬に触る。
寝込みを襲っているようにしか見えない光景に美琴が遅れて顔を覗かせた。


「あ〜あ、タオルケットじゃ風邪引くっての」

呆れたような、けれども何処か嬉しそうな笑みを浮かべると、彼女はリビングを素通りして寝室へと足を運ぶ。


暫くして彼女が手にしてきたのは白い毛布。
今日結構冷えるって言ってたしね。そう言ってタオルケットの上から一方通行と想に毛布を被せてやる。


カーペットの上にいくつか詰まれた絵本に目を留めると、美琴は小さく笑った。


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/20(水) 23:15:06.70 ID:Mt9UmC0G0<>


ブレーメンの音楽隊


幸せの青い鳥


白雪姫


シンデレラ


赤頭巾ちゃん


七匹のこヤギ



読みかけなのであろう、開いたままの絵本は三匹の子豚。
見開きいっぱいに末っ子の子豚がレンガの家を建てているイラストが描かれている。


絵本を読んであげたまま眠ってしまったのだろう。
仲良く顔を寄せて、一方通行が想に絵本を読んであげている姿が容易に想像が付く。



「一方通行さん…絵本読んであげるんだ…」

「結構読んであげてるわよ。打ち止めにもよく読んであげてたって言ってたし」

「何というパパセラレータ」


照れが入った顔で、少したどたどしく、ハスキーな声で読まれる絵本は、存外耳に心地良い。
想におねだりされて、少し戸惑い、まごついた後に、少女の上目遣いの前に結局いつも折れる。
そうして一方通行が渋々読み始めると、美琴は足音を立てぬように飲み物を用意する。



想にはハチミツ入りのホットミルクを。

自分と一方通行には珈琲を。

普段は一方通行が殆ど専門と化している珈琲を淹れる役目は、この時ばかりは美琴の役目となる。


美琴は、淹れ終えた三人分のカップをトレイに乗せてリビングに足を踏み入れた時に目に映る光景が好きだった。
切りそろえた前髪を微かに揺らして、顔を絵本と一方通行の顔を交互に向けている愛しい娘。
そして、少し恥ずかしがりながら、それでも少女が望む絵本を読んであげている不器用な青年。
照れ隠しに青年が棒読みになると、すかさず少女は不満を訴える。すると青年は渋々感情を込めて読み直す。


その光景は、美琴の胸の内を温かくしてくれる。


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/20(水) 23:17:45.71 ID:Mt9UmC0G0<>


「子供って……超同じ絵本をおねだりしてくるんですよね。他の本もあるのに超脇目も振らずに」


絹旗も保育園で園児達によく朗読を強請られる。
お昼寝の時間、寝物語のつもりで一冊くらいならという見積もりが甘かったせいで興奮して目が覚めてしまった園児達の相手をする羽目になった事も何度もある。


「忘れちゃうわけじゃないんですよね。私もおぼろげだけど、結末まで知ってて読んでもらってた気がするんですよ」

「そうね」


佐天が想の寝顔をそっと撫でる。


勿論、この賢い少女は絵本の内容などとうに把握している。
何度も何度も読んでもらう必要など何処にもない。
けれども、想に限らず、幼い子供は絵本を繰り返し繰り返し親に読んでもらう。
同じところでハラハラし、同じところで胸を撫で下ろし、同じ結末で大喜びするのだ。美琴も身に覚えがある。


お気に入りの絵本を何度もおねだりするたびに、美鈴は「美琴ちゃんってば、本当に好きね」と呆れていたものだ。


美琴も母親になって、同様に呆れることとなった。
けれども、この二人の姿を少し離れて見ているウチに、何となく理由がわかった気がする。



「多分……実感が欲しいんじゃないかしら」




美琴の手が想の柔らかな髪を撫でる。
そして、一方通行の白い、ベランダから照り付けてくる西日に染まった髪も同じように撫でてやる。


一瞬、一方通行が身動ぎした。
起きるかと、三人の女は僅かに焦るが、一方通行はすぐに寝息を立てる。


美琴の手が心地良いのか、時折猫がするように小さく頭を摺り寄せる。




「実感…ですか?」


「うん、多分ね。っていうか私が勝手にそう思ってるだけだけど。何ていうんだろ、大切にされてるっていう実感。
 大好きな人の時間を自分が独り占めにしてるっていう実感って言えばいいのかな」



<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/20(水) 23:19:17.75 ID:Mt9UmC0G0<>

ふと、美琴は思う。

コイツは誰かにこんな風に寄り添って絵本を読んでもらったことがあったのだろうか。

一つの毛布に包まって、誰かに抱き寄せられながら眠っていたことがあっただろうか。



それは一体幾つの頃まであったのだろう。
それは一体幾つの頃から無くなったのだろう。

実感を得ているのは、この白い青年の方かもしれない。




「……絵本が重要なんじゃなくて、読んでくれる人との時間が超重要っていうことですか」

「多分ね。わからないわよ?その辺は現役保母さんにエラそうに言える程この美琴さんも人生経験豊富じゃないし」

「信憑性はありますよ。現役お母さんの言う事ですから」






「ねぇ、御坂さん」

「え?」

いつの間にか二人の寝顔に見入っていたことに、声をかけられるまで美琴は気付かなかった。


「それにしてもホント、ぐっすり眠ってますよね。こんだけ話してても起きないんですから」

「色々あったからね。少し気が抜けちゃってるのよ」


その色々とは何だろうか。
佐天と絹旗は引っ掛かった言葉を呑み込む。



「一方通行さんって……何かガード緩くなってません?」


佐天が一方通行の顔を見つめながら、こそこそと内緒話をするように囁く。
絹旗の眉がピクリと動いたのに美琴は気付かない。


「前は私達にこんなことされて起きないはずが無かった……ていうか、そもそも寝顔なんて見せなかったと思うんですけど」


おかげで良い物拝めたけど、と佐天は心の中で付け加える。
絹旗も佐天と同じことを思った。
泊まった時でも、この男は絹旗より先に寝ることも、後に起きることも無かった。
<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/20(水) 23:20:09.33 ID:Mt9UmC0G0<>


美琴は、一方通行と想の顔を交互に見つめると、小さく、唇の端を上げる。
まるで安心したような、それでいて、わが子を褒めるような眼差しで寄り添い眠る二人見つめる。


「いい加減観念してきてるのよ。毛を逆立ててもキリが無いって、ようやくわかってきたんじゃないかな」


佐天と絹旗は、顔を見合わせ、首を傾げた。
二人のそんな仕草に、美琴は悪戯っぽい笑みを唇に浮かべた。


一方通行と想は規則正しい寝息を重ね合わせ、心地良さそうに眠り続けていた。





<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/20(水) 23:21:40.92 ID:Mt9UmC0G0<> 以上投下終了です。暫くはこんな感じの話をgdgd書いていくつもりです。
退屈かもしれませんが、ご容赦下さい。佐天さんとモアイちゃんはただの趣味によるセレクトです。

それでは ノシ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/20(水) 23:23:29.46 ID:T344zccKo<> 乙
黒子はまだ探してたのかw
そして、一方さんは少しは自分の事も許せるようになったのね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大分県)<>sage<>2011/04/20(水) 23:24:21.24 ID:BEBybg0K0<> アックア隊長wwwwwwwwまだやってたのかwwwwwwwwwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/04/20(水) 23:25:11.04 ID:wpKpocfIo<> 乙

一応同じ魔術サイドなのにウィリアムとインデックスの差は何なんだ・・・wwwwwwww
それにしても久々に平和な日常な気がするな
絹旗佐天マジ天使 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/20(水) 23:28:13.74 ID:+MoLyi1Qo<> 乙
退屈だなんてとんでもない
読んでて和んで仕方ないのでむしろご褒美です

>何ていうんだろ、大切にされてるっていう実感。
> 大好きな人の時間を自分が独り占めにしてるっていう実感って言えばいいのかな」

ここの美琴さんが言うと深いっていうかズシっとくるな・・・
美琴さんマジ母性の塊 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[<>sage<>2011/04/20(水) 23:35:27.86 ID:K4OyeXaXo<> アックア隊長www黒子副隊長助けてやって! アックアさんがお嫁に行けなくなっちゃう!

お姉様…いえお母様強くて素敵
乙ー <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/20(水) 23:37:49.27 ID:MJTrIGZG0<> おいおい60も言ってるが… アックアさんお前なにやってんだよおおおおお!!!!

俺今イギリスにいるが第3王女が泣いてるぞ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/04/20(水) 23:41:29.12 ID:T56xAqyS0<> ちょっと待て。第三王女、泣きながら小声で
「ウィリアムの出番とお色気シーンが少なかった……」
って言ってるんだが <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(山陽)<>sage<>2011/04/20(水) 23:53:26.14 ID:eINvUSOAO<> ほのぼので良かったんだが



アックア隊長に全部持ってかれた件wwwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/21(木) 00:09:10.52 ID:x7OF3+Kto<> 人を怖がってた野良猫は、いったん気を許すとデレデレになってすごいぞ…
うちの猫も、捨てられたあげく近所の頭おかしいおやじにゴルフクラブで殴られたらしくて
血まみれでうちに逃げ込んできたのを保護した猫だったが、
1年目:触れない。家の中のどこかにいるらしい
2年目:触れない。リビングとかに顔を出すようにはなったが威嚇する
3年目:不意打ちすれば触れるが超ビビる。2m離れてれば隣に座っても平気になった
4年目:突然デレた。超甘えてくる。なでろと要求してきてウザい
今も膝の上にのってて超重い

毛を逆立てなくなった一方さんの警戒レベルがどこまで下がるか期待 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東)<>sage<>2011/04/21(木) 00:16:20.64 ID:RFBxb1BAO<> アックア隊長のせいで私の腹筋がマッハ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)<>sage<>2011/04/21(木) 00:24:27.89 ID:whysz8l70<> 黒子とアックアが強烈すぎて本編が頭に入らねぇww
なんで和菓子の桜餅の為にマレーシアにいんだよwwww

前回はメイスン、今回はジョシュアということはやっぱり…
ああ、アックアが(中の人的な意味で)触手とドッキングってそういう… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東)<>sage<>2011/04/21(木) 00:27:19.30 ID:Rix0lmLAO<> 黒子副隊長、完ぺきに隊に馴染んでる
てか、チョコ→桜餅と来て次はなんだ?

あと、佐天さんは俺の嫁
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/21(木) 00:38:48.69 ID:lSY+YXr/o<> だから何でフラッグファイターがいるんだよwwwwwwwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(山陽)<>sage<>2011/04/21(木) 10:03:54.80 ID:Tyuj74gAO<> >>68
次あたりダリルが犠牲になるな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/04/21(木) 15:29:29.24 ID:OFBqydFO0<> >>71グラハム隊長はどうなることやら… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/21(木) 20:19:46.98 ID:WRG0JKju0<>
PIXIVにこのSSの漫画あったな。

>>61
このセリフ何かグッとくるな。
あと佐天さんのセリフ。

>「……キスしたら気持ち良さそうな肌してるよね…」

…オイ…オイ…壁殴ってくるわ。


とりあえず、セリフ一個も無いのにやたら想タンが可愛い。
幼女萌えに目覚めちまったよ… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2011/04/21(木) 21:21:47.66 ID:Q2LM8fXto<> 確かにガキの頃って何回見ても何回読んでも新鮮だったなあ。
分かってても知っててもわくわくすんだよね。

黒子さん副隊長ですか志願兵ですか自らの意志で赴きましたか。
てかアックアにとって入れるのに適した穴ってどこだよwwwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(沖縄県)<>sage<>2011/04/21(木) 21:46:55.89 ID:8FgtY8qEo<> 想たんと絡めずハブられ続けるとか
黒子ェ・・・・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/04/21(木) 23:00:34.68 ID:ufw3Lv21o<> >>73
探しても見つから無いんだが…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<>sage<>2011/04/21(木) 23:11:20.86 ID:y6WTEshj0<> >>76
電磁通行で検索してみよう! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/22(金) 01:14:56.91 ID:dpY7/mv/0<> 漫画描いた本人です…
>>1
勝手に設定お借りしてすいません…


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/04/22(金) 10:44:49.10 ID:GEkC6+al0<> 五歳か……たしかその頃は図鑑とBB戦士に夢中だったな
可愛くない子供だったと心底思う

今日明日ぐらいに投下来るかな、と今からwktk <>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/22(金) 19:38:05.16 ID:ZsCYfME+0<> SSSなので、今日の投下は短いです。
八時予定です。それでは。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)<>sage<>2011/04/22(金) 19:42:28.87 ID:ipkZeL6zo<> 期待して待つ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/22(金) 19:50:50.04 ID:GEkC6+al0<> 予想的中で俺歓喜 <> ◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/22(金) 20:07:13.20 ID:ZsCYfME+0<> では投下します。外伝。 <> こんなにも空が近い<>saga<>2011/04/22(金) 20:11:48.23 ID:ZsCYfME+0<>

ぺきり。



乾いた枯れ枝は呆気ない音を立てて二つにへし折れる。

女の細腕でも大した抵抗も無く、綺麗に真ん中で折れた枝に小さな満足感を抱くと黒子は絶えずぱちぱちと爆ぜ続けている炎の中へと放り込んだ。
静寂の中に闇がべっとりと横たわる中、焚き火の音だけがまるで此処が人の住む世界だと主張しているようだ。



「今夜は満月ですのね」



学園都市で見るよりも、巨大で鮮明な月を見上げる。
ほんのりと青白い月明かりに顔を濡らしながら、黒子は月にうっとりと見惚れるわけでもない。
ただ、月を見上げた拍子にずり落ちた毛布と身体の隙間から差し込む夜風が冷たく、慌てて毛布を被りなおす。

砂漠の夜は冷える。それは黒子も十分に知っていることだ。

しかし、あくまでもそれは文献として得た知識。いわば生きていない知識だ。
嘆息する。知識として知るのと、実感するのとでは違う。
それこそ、よく聞く常套句であるが、骨身に沁みるようだ。
小さく身震いすると、毛布ごと身体を抱き締める。
焚き火に、少しだけ身体を近付ける。熱気が顔の産毛を微かに揺らす。


パチン、と一際高く弾ける音。


艶かしく、あるいは無邪気に、炎は黒子の目の前で揺れ続ける。
ひと時として、同じ形であり続けることの無い赤い曲線を見つめる。

<> 少女はいつしか少女を抜け出し<>saga<>2011/04/22(金) 20:14:29.97 ID:ZsCYfME+0<>
ふと、周りに目を向ければ何重にもセーターを重ね着した上に寝袋に入る男達が芋虫のようにあちこちに転がっている。
当番制とはいえ、見張りの度にこの呑気に眠りこける男達をまとめてテレポートしてやりたくなる。


もっとも、それは本心ではない。
確かに自分は寝ずの番であるというのに呑気に眠る姿は腹が立つ。
腹は立つが、それは自分を対等の仲間だと、皆が認めてくれている証でもある。



「まったくもう……大の男達が揃いも揃って間抜けなお顔で眠ってますこと」


故に、男達を見つめる黒子の顔は、母親のように優しく温かい。



「休める時に休むのもまた戦士の重要な責務である」
「隊長」


引き締まった巨体が黒子の隣りに座る。
手にはケトル。指先に二つのカップを引っ掛けている。
小さなカップは、男の太く長い指のせいでままごと用の玩具に見えてしまう。
不器用そうな外見のイメージとは裏腹に、洗練された手付きでアックアは小さなカップに真っ黒な珈琲を淹れる。

黒子が学園都市で飲むものの三倍は色が濃いのではないかとすら思えるこの珈琲が信じられない程の深みを持っていることを黒子は知っていた。
シュガーポットから、無造作に見えて、考えつくされた量の砂糖を注ぐと、アックアは無言で黒子の前に差し出す。



「ありがとうございますの」


カップを受け取り、息を吹きかける。アックアの手にも同様のイタリアン珈琲。
嘗て彼の友人から伝授してもらった特製のイタリアン珈琲だ。


『馬とテディベアとそして友を何よりも大切にする強い男だったのである』とアックアから聞いたのはマレーシアの夜だっただろうか。


エジプトの空の下。黒子は随分遠くまで来てしまったと思った。


苦味と甘みが如何に身体が凍え疲れているのかを教えてくれる。
珈琲は身体の芯を温めてくれる。焚き火の熱気が、先ほどよりも穏やかに感じるようになったのは、恐らくその為だろう。


炎を見つめる黒子の横顔は、本人すら気付かぬ間に随分と大人びたものになっていた。


黒子は赤いうねりを見つめながら、どうして今、自分は此処にいるのだろうかとふと思った。


<> エジプトの空の下で羽を休める<>saga<>2011/04/22(金) 20:16:45.75 ID:ZsCYfME+0<>
最初は、騙され芸人らしく、学園都市第一位の口車に乗せられるがままに飛行機に放り込まれただけだった。

アフリカから帰ってきた翌日の事である。偶々、桜餅に話題が及んだ結果である。
断じて、出し損ねたわけでもなければ、イギリスから来日する男のせいで忙しくなる本編をこれ以上ややこしくするキャラクターを強制排除したかったわけでは決して無い。
そしてマレーシアで知ったこと。


桜餅のヒントはマレーシアには無いということ。


それから、攫われたジョシュアとハワードの消息を掴んだ一行はベトナムに渡り、更にはインドへと渡った。
そこでとある財宝を狙う盗賊団と戦い、また、とある富豪にプレシャスの奪還を依頼されていく内に気が付けばエジプトに来ていた。
そうこうしているうちに、黒子の中から一方通行への恨みは消えていった。
代わりに、彼女の心に宿るようになったのは、この苦しいはずの旅を惜しむ気持ちだった。



「炎は幾ら見て居ても飽きないのである」


黒子が傍らに置いていた枝を投げ込みながら呟く。


「昔ある男が言っていたのである。炎は常に形を変え続ける。そこには何の意味も無い。見るものが勝手に己の心の在り様を投影していくだけだ、と」


「己の心の在り様…」


アックアが薄い唇を引き結ぶ。
それなりの苦難を共に潜り抜けてきた黒子にはわかる。
不器用なこの男なりの、柔らかい表情なのだこれが。


「白井副隊長が炎に何を見出しているのかは私にはわからない。しかし、副隊長が見ているものであれば、きっと意味のあるものなのである」

「そんな手放しの賞賛を受けても正直こまりますの。私なんて」


この小隊、そう呼んでも過言ではない荒くれ集団に身を置くようになってから思い知った。
今までの自分は学園都市という狭い箱庭でチンケなチンピラを小突いて粋がっていただけの子供だと。
世界を知り、己を知り、そして尚邁進することの苦しさを初めて黒子は知った。
アックアの厳しくも凛々しい横顔に目を向ける。


<> 少女は恋を知り、そして<>saga<>2011/04/22(金) 20:22:31.65 ID:ZsCYfME+0<>
この男の身体に刻まれた無数の傷を黒子は知っている。中には自分を庇うために付いた傷もある。

この男は傷を負う度に、一つずつ己の強さの壁を越えてきたのだろうと黒子には容易に目に浮かぶ。
一体、どれ程の涙を拭い、どれ程の夜を越えればこんな強さを得ることが出来るのだろうか。



そっと、ばれぬように切なく息を吐く。



黒子自身自覚がある。強く、優しいこの男に、自分は惹かれつつあると。
惹かれているといっても、恋愛感情かどうかと問われれば首を捻る。
一方通行が想や美琴に見せる淡い笑みに見惚れるのとも、浜面が妻の身を案じている姿を微笑ましく思うのとも違う。
もっと、心のそこからホッとするような不思議な感覚。
芯が寄り掛かるものを見つけたような安心感。それは一体何なのだろうか。
空になったカップの底を黒子はジッと見つめる。


「私なんて…などと言うのはよすのである」

「え?」


「確かに私は何度もお前を助けた。しかし、私とてお前に何度助けられたことか…」
「隊長…」

最初はとんだお嬢様を押し付けられたと内心うんざりした。浜面や一方通行の知り合いだから仕方が無くフォローしていた。


「こんな小さな身体の何処にあれほどの勇敢さが詰まっているのか…私は白井を尊敬すらしているのである」

「そんな…」


頬を染めて俯く黒子。しかし、アックアは決して褒め過ぎたとは思わない。

自分の先入観など嘲笑うように、このお嬢様は自分の想像を遥かに超えた傑物であったのだから。


「寧ろ私が白井の強さに抜かれはしないかと焦ったくらいなのである」


戦いを経る毎に強く、しなやかに研ぎ澄まされる姿は、一振りの名刀の誕生に立ち会っているかのような高揚感をアックアにもたらした。


「だからこそ副隊長の座をエーカーも快く明け渡したのである」


年下の小娘相手であるというのに、先代の副隊長の顔はとても晴れやかであった。


「そう…本当に白井には助けられてばかりなのである」


アックアが思い出す。

あれは、マレーシアでの戦いであった。


<> 絶望を知る。<>saga<>2011/04/22(金) 20:27:58.69 ID:ZsCYfME+0<>


「もう絶対無理というところでの白井のテレポート……危機一髪だったのである」


流石に三本は無理だった。
そこは未体験ゾーンであった。少し興味はあったが。


「それに…恥かしくてボラギノールを買いに行くのが恥ずかしい時…代わりに行ってくれたのである」


ガチムチで、ボラギノールってwという目で危うく見られるところだった。
もっとも、代わりに黒子と見比べられて、「やだ、こんなロリっぽいのに…」という目で見られたのであるが。


「白井には本当に助けられてばかりなのである」






死ねばいいのに。
黒子は傍らのお色気担当を憎く思う。
どうして綺麗に終わらせられないのだろうか。

「いい加減、下半身のガードを固めることを考えて下さいな隊長は……」




エジプトの空の下、黒子は思う。


これは恋ではない、と。


そう恋ではない。






あるはずが無い。










あるものか。






頼むから誰か無いといってくれ。













<> 黒コングはマッチョがお好き。<>saga<>2011/04/22(金) 20:30:13.02 ID:ZsCYfME+0<> 以上で投下終了です。
業界初の軍覇×神裂に続き、隊長×黒コングです。科学と魔術が着々と交差しています。
それでは ノシ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/04/22(金) 20:31:23.14 ID:jMqTkO4zo<> 乙

いいシーンだなーとおもってたら最後でブチ壊しだよチクショウwwwwwwwwwwww
ってジャイロォォォーーーーッ?! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/22(金) 20:33:07.95 ID:GEkC6+al0<> 乙
黒子、それはきっと変だ
……っつーか、あれ、アックア第三王女はどうする気だ!?wwwwww

>断じて、出し損ねたわけでもなければ、イギリスから来日する男のせいで忙しくなる本編をこれ以上ややこしくするキャラクターを強制排除したかったわけでは決して無い。
おい本音が透けてるぞ>>1wwwwww

>桜餅のヒントはマレーシアには無いということ。
あwwwwwwたwwwwwwりwwwwwwまwwwwwwえwwwwwwだwwwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2011/04/22(金) 20:33:21.16 ID:ThuKPk5Io<> 乙

とりあえず、黒子スタートの段階で既に笑ってしまった
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/22(金) 20:44:42.93 ID:n7IRDzUT0<> 乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(愛知県)<>sage<>2011/04/22(金) 20:56:11.67 ID:U7OmidbMo<> 一瞬でもシリアスだと思った数分前の自分を殴りたくなったわwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(広島県)<>sage<>2011/04/22(金) 21:12:47.22 ID:6PyxzCbho<> 黒子は犠牲になったのだ。電磁通行の犠牲にな...
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2011/04/22(金) 21:27:55.33 ID:1u+tM7keo<> このスレで「〜のである」にはパブロフ反応だよもうwwww
この傭兵部隊の目的はなんなのか!雇い主は誰なのか!
やっべえオラわくわくしてきたぞ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/22(金) 22:12:43.29 ID:EtqOMvo9o<> ハムは元副隊長だったのかwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/22(金) 22:39:15.27 ID:hbJDBpSXo<> そのうち元副隊長は「これは死ではない!」とか言いながら特攻するんだろうか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(中部地方)<>sage<>2011/04/22(金) 22:40:34.89 ID:Jmc9V9RJo<> でもよ…恋だよな、コレ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/04/22(金) 22:45:29.11 ID:jMqTkO4zo<> いいえ、まさしく愛です <> 一方その頃学園都市では…<>saga<>2011/04/22(金) 23:05:42.52 ID:ZsCYfME+0<>
浜面宅にて、家主である浜面仕上と、友人であり、上の階の住人である一方通行。
そして、御坂さん家のお嬢さんの三人が仲良くテレビの前でお茶会をしている。
今日は祝日。浜面さん家の奥さんは鮭好きの友人と保母さんを仕事にしている友人と美味しいもの巡りに。
御坂さん家の家主こと美琴さんはカエルマスコットを買い漁りに、妹達とショッピングに出かけている。


膝の上に幼女…もとい少女を座らせた一方通行と、その隣りで浜面が見ているのは、嘗て社会現象となった某名作アニメ。
二つあるが、引き伸ばしに定評のある原典の方だ。
48人の歌声が余韻をぶち壊すことで定評のある古き名作のリ迷ク版など彼は決して見ない。

「俺さァ、ガキの頃がチチが嫌いだったンだよ」
「唐突だな。まぁわからんでもないが」

ヒーローの戦い、活躍、勝利を望む子供にとって、男の戦いに口やかましく介入し水を差す女と言うものは目障りでしかない。
浜面もまた、テレビの前でいつも「いいからさっさと行かせろよ」と舌打ちをする可愛げの無い子供だった。


「でもよォ…何だろうな。クソガキの面倒見るようになってからは平気になってきてよ。つーか寧ろチチの気持ちがわかるっつーか」

「ブルマ派からチチ派に鞍替えか?」

煎餅を齧りながら、視線は何気に画面に食いついている。
画面では某王子が負けフラグの連続エネルギー弾を撃ったところだ。
そろそろ背後に回られて凹まされる頃合だろう。

「そりゃ、血相変えて怒るだろ。五歳になったばかりの息子が殺し合い突入だぜ?」


間違いなく児童虐待だ。
膝の上の少女が五歳になってからは一方通行にはいよいよ他人事と思えなくなってくる。
他の大人達は何やってるんだと。しっかり修行しろよと、正座させて叱り付けたくなる。

<> 一方その頃学園都市では…<>saga<>2011/04/22(金) 23:08:30.00 ID:ZsCYfME+0<>

「あーくん、あーくん。想もおはなし。想も!」


自分に構ってくれずに、浜面と話しこんでいることが不服なのだろう。


少女は一方通行の腕をくいくいと引っ張る。
返事をする代わりに一方通行は、膝の上に乗せた少女の頭に口をくっつけると、息を吹き出す。
時折、悪戯半分で飼い犬によくやる人もいるだろう。きっと。いや、必ず。絶対。


「うわぅ〜くすぐった〜い!」


くすくすと少女が笑いながら子猫のように転がるのを、白い青年は逃さぬように腕でしっかりと抱き締める。


「あらあらまぁまぁ」


少女のお腹をくすぐっていた一方通行が「ンあ?」と間の抜けた声を上げる。
お前流石に気が抜けすぎだろうというツッコミを呑み込む。
電磁だ窒素だと言われてるが、多分この二人が一番ラブラブじゃないのだろうか。




                   ―…***…―


<> 一方その頃学園都市では…<>saga<>2011/04/22(金) 23:09:59.22 ID:ZsCYfME+0<>


ちなみに、娘大好き美琴さんは白いのと娘っ子も誘おうとした。



『想ちゃん。ママと一緒にゲコ太とか、ゲコ太とか、あとゲコ太なんて見に行かない?』

『ゲコ太縛りッスかァ…』

『ごめんねママ。想はね〜ラビ太郎がいいの』

『で、でもでも、ゲコ太っていうのも時にはね?ホラ、あーくんとママと三人、いえ、打ち止め番外個体、妹…全員でゲコ太でペアルックっていうのも』

『ペアじゃねェだろ。つーか24時間テレビみてェな光景になるだろそれ』

『まじかんべんしてくださいよ、みことさん』

『想ちゃん敬語!?』



という経緯によって玉砕となった。

やっぱり小さい子はカエルよりウサギだろJK。





                   ―…***…―




<> 一方その頃学園都市では…<>saga<>2011/04/22(金) 23:10:51.21 ID:ZsCYfME+0<>

イチャイチャと少女と戯れる光景に目を細めながら、浜面はふと関係の無い事を思い出す。


「そういやお前さ」


充電完了し、とりあえず気が済んだのか、二人は浜面の煎餅に手を伸ばす。
やっぱり煎餅には昆布茶だなァと、一方通行は昆布茶を啜る。
膝の上で、両手で煎餅を掴んではむはむと齧る想。
さも当然のように人の煎餅をコイツらと思いつつも、女の子が欲しかっただけに想には甘い。
次は是非とも奥さん似の女の子を所望している浜面仕上。余談である。


「この前ボッコボッコの顔してただろ。あれってご近所さんには何て言い訳したんだ?」


白くてイケメンモヤシのお兄ちゃんがいきなりボコボコの顔になっていれば驚くだろう。
事情を知らなければ確かにビックリするだろうし、事情を知っててもビックリだ。


「ああァ……」


ことりとテーブルに湯のみを置くと、DVDを一時停止させる。
画面では余裕を見せすぎた王子がエライ事になっている。


「シウバみたいになりたくてハッスルしすぎたってことにしてる」

「何その無理のある設定!?」


コイツ言うに事欠いてシウバと来たよ。


<> 一方その頃学園都市では…<>saga<>2011/04/22(金) 23:11:57.40 ID:ZsCYfME+0<>

「ザクレロ緑に塗って『エルメスでぇっす』っていうくれぇ無理があるじゃねぇか!」
「そこまでいかねェだろ。せいぜいデストロイ(MA)緑にして『ビグザムでェす』っていう程度の可愛いウソだろォが」
「図々しい!!二重の意味で図々しい!!今お前はファーストファンを敵に回した!!」
「っせェ!!引っ込め懐古主義者。いつもいつも。テメェらアレだろ。最新作観る度に『1stに勝るものはないな』って言いたいだけだろォが」
「事実ですぅ〜〜!!綺麗なだけで満足出来ないんです〜ゆとり世代みたいに。大体…――――











           〜〜〜〜*** 聞くに耐えない醜い争いが此処から3時間程続きます ***〜〜〜〜













「ハァ…ハァ…ダメだ埒が明かねェ…」

「…だな…はぁ、はぁ…やっぱり垣根と削板も呼ばなきゃ平行線だわ」

「削板の野郎はG一択じゃねェか…まァいい…」



気が付けば、膝の上の想が一方通行の薄い胸に頭を預けて、すやすやと寝息を立てていた。
少し身体を後ろに傾けてやり、少女が寝やすい姿勢に移る一方通行の湯飲みに浜面が緑茶を入れてやる。
つまりは休戦という意思表示だ。三時間の舌戦によって乾いた喉を、緑茶が潤していく。



「緑茶ウメェ……」

「ああ…滝壺の友達から送ってきたんだよ」

「お前の嫁、何気にネットワークスゲェよな」


ちなみにこのお茶は京都の友人とのこと。
浜面も緑茶の舌触りの良い苦味に相好を崩しながらポツリと呟く。


「ああ、和菓子欲しくなるな。羊羹とか」

<> 一方その頃学園都市では…<>saga<>2011/04/22(金) 23:13:26.69 ID:ZsCYfME+0<>
「悪くねェ。甘ェモンは苦手だが、和菓子のさり気ねェ甘さと緑茶のコンビネーションはパネェ……俺は桜餅とか食いてェな」

「ああ、季節的にもそうだよな。桜餅はあの見た目もいいよな。ピンクで可愛いくて、まるで理k ――」

「ああ、ごっめ〜ン。その後に続く嫁自慢はカットで」

「言わせろよ」



不服面の浜面の(掛けてません)文句をさておき、一方通行ははてと首をかしげた。



「どうした?」

「いや、何か忘れてるよォな…桜餅で……マレーシアが確か関係してたような…」

「マレーシア?オイオイ、桜餅と全然関係ねぇーじゃんか」

「それもそォだなァ」

「そうだろ」


二人の緑茶を啜る音がリビングに響いた。
少女はぐっすりと心地良さ気に青年の膝の上で眠っている。


今日も学園都市は平和である。













平和なのである。




<> 一方その頃学園都市では…<>saga<>2011/04/22(金) 23:14:34.78 ID:ZsCYfME+0<> 今度こそ本当に今日の投下終了です。
今の内にほのぼのやギャグは書いておきたくて。

それでは ノシ
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/04/22(金) 23:16:01.72 ID:jMqTkO4zo<> 二度目の乙

今の内・・・過去編いったらやっぱ重いもんなぁ
あとガノタ同士わかりあえないのがオールドタイプの悲しさってばっちゃが言ってた <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/22(金) 23:19:51.28 ID:48DUcqrk0<> 乙
一方さん送りだしておいて忘れんなよwwwwwwwwwwww

……まあいつもに一方さんか、うん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<>sage<>2011/04/22(金) 23:20:47.35 ID:yn5Eyuo6o<> ガンダムはW一択
ウサギってお前のことだろ 一方さん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/22(金) 23:22:58.95 ID:EtqOMvo9o<> まさかの二度目乙
過去編行ったらほのぼのでは済まなそうだしねぇ

それとガンダムは1stから00まで全部面白いだろうが・・・
νとかDXとか自由とか運命とかダブルオーライザーとか超かっけぇだろうが・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大分県)<>sage<>2011/04/22(金) 23:28:01.35 ID:KJrYspbP0<> >『まじかんべんしてくださいよ、みことさん』

>『想ちゃん敬語!?』

想ちゃん容赦ねぇwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海)<>sage<>2011/04/22(金) 23:30:47.55 ID:F/xcbIIAO<> まさかの追加乙

ガンダム?
見るなら08小隊、SS読むならX、プラモ作るならセンチネルが俺的ベスト
ニッチ? 安心しろ、自覚している <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/22(金) 23:37:31.47 ID:YOBRhuRHo<> 乙、白井に幸あれ
そして想ちゃんひでえwwwwwwwwwwwwwwwwママ泣いてるだろwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

あとガンダムはみんな好きって奴が一番好感持てる
貶したがり屋さんは通ぶりたいだけって感じなんだよな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/22(金) 23:45:41.37 ID:wOz/ymKDO<> 俺は種とかいいと思うほらディなんとかさんとかラモなんとかさんとかディなんとかさんとか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/22(金) 23:47:20.32 ID:ThuKPk5Io<> 浜面と滝壺で、ガロードとティファをやればいいと思うの <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<>sage<>2011/04/23(土) 00:03:06.77 ID:xjieXPrBo<> ジョシュアってなんとなく輪姦されているイメージがある。
本当になんとなく。

ダリルの奴は風になったのかな……

乙! 隊長は、もう人工括約筋になってしまえばいいと思うの。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)<>sage<>2011/04/23(土) 00:15:25.07 ID:PEvlB4LAO<> 乙

あれ……浜面さん宅にはもう一人……
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2011/04/23(土) 00:33:01.75 ID:GhnKp69Po<> もう3本でも4本でも好きなだけ入れろよ!
くっそう…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/04/23(土) 02:49:03.18 ID:G1Yns58T0<> ガンダムは08とWだなぁ
あとUCのスターク・ジェガンのシーンは好きだ


おい想www
言葉使いは誰に習ったんだwww <>
◆d85emWeMgI<>sage<>2011/04/23(土) 05:16:20.51 ID:w1GW06uJ0<> おはようございます。
いくつかショートストーリーを書いてから過去編に入るのでもう暫くこんな具合です。よろしくお付き合い頂けると嬉しいです。

ヒゲが好きです。精々BOXを買う程度にですが。あとポケ戦と]。
嫁になりたいのはスレッガーさんで、嫁にしたいのはシンです。

それでは ノシ
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(沖縄県)<>sage<>2011/04/23(土) 07:05:57.45 ID:pQMbtgSgo<> 乙
なんというか駄目な父とそれを世話する娘だなww>アックア&黒子 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<>sage<>2011/04/23(土) 07:17:38.30 ID:30DOdao50<> 京都の友人・・・・まさか姫神か!?

滝壺と姫神って相性いいとおもうんだが <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)<>sage<>2011/04/23(土) 08:06:46.08 ID:C4fbg9kGo<> 乙
ガンダムは1stとIGLOOだろう・・・
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(愛知県)<>sage<>2011/04/23(土) 11:07:28.34 ID:tInlsPMV0<> 色々言われてるが00も悪くないと思うんだ…
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(愛知県)<>sage<>2011/04/23(土) 11:10:16.35 ID:tInlsPMV0<> おわぁぁぁぁ!!肝心の文章が消えてた!
>>1乙です。想タン可愛い過ぎる。っていうか、何この可愛い生き物…

犬の頭に息を吹きかけるのは鉄板ですよ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(中部地方)<>sage<>2011/04/23(土) 12:45:59.35 ID:mGy7TzK20<> >>118
一瞬誰かわからなかった
買い物についてったんじゃね? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(石川県)<>sage<>2011/04/23(土) 13:10:08.55 ID:2qHes3C5o<> >>118,127
ホントに読んでいるのか?>>101に書いてあるだろ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(中部地方)<>sage<>2011/04/23(土) 13:21:21.07 ID:rBhjKDfHo<> 息子は犠牲になったのだ… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鳥取県)<>sage<>2011/04/23(土) 14:45:33.19 ID:DuLNskrAo<> 一通さんはWか00好きだと思うんだ、厨二病的に考えて
ていと君はナイトガンダム、メルヘン的に考えて <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/04/23(土) 14:47:28.51 ID:m+72D7jU0<> 最後の平和なのであるはアックアさんがどっかの国から叫んでました <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)<>sage<>2011/04/23(土) 15:08:44.58 ID:i0XPdOHq0<> >>130
浜面は懐古主義っぽいけど一番はXだろうな
アウトローとか普通の人間とか電波少女に一途とか一部(声、顔)残念扱いされたりとか
あとヤン気味の老けg…年上のお姉さんにつきまとわれたりとか <> VIPにかわりましてDTがお送りします(愛知)<>sage<>2011/04/23(土) 15:29:30.47 ID:tInlsPMV0<>
何だろ、前スレラストで流した涙は何だったんだろうというくらい壊れてないか>>1は?

つーか、佐天嫁スレの時に「美琴アンチなんだろ」的な言いがかりを食らってた頃はまさかこれほどの電磁通行を拝めるとは思わなかった。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東)<>sage<>2011/04/23(土) 16:04:55.73 ID:bkFIIitAO<> >>128
滝壺しか書いてなくね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/23(土) 16:09:25.28 ID:bX8ujxrLo<> 最近のガンダムは羽がうんたらかんたらーとか言ってる奴見る度にZはどうなんだって気持ちになる
そういや00系は羽ないのな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/23(土) 16:42:11.90 ID:7arWG3Gyo<> それはここで話す事じゃないな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<>sage<>2011/04/23(土) 16:56:56.27 ID:PIK803uQ0<> 過去編も気になるけど、日常ほのぼのも良いね〜
電磁通行一家でお出かけとかもあったら見てみたいわ
想ちゃんマジ天使 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/04/23(土) 22:12:35.91 ID:WBMqEjrXo<> >>130
ていとくんはゼロカスEW版だろjk <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/23(土) 22:59:22.66 ID:wjDPzi4DO<> ていとくんは∀じゃね?

メルヘン的な意味で <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東)<>sage<>2011/04/24(日) 00:43:45.58 ID:qhZEninAO<> >>103

ペアルックってゆうかゲコ太柄のロイヤルでストレートなフラッシャになっちゃわなイカ? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2011/04/24(日) 03:13:21.02 ID:bTjPfKj+0<> >>1乙
って、おいおいガノタ釣れすぎだろう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海)<>sage<>2011/04/24(日) 04:13:19.69 ID:fFUJR+AAO<> ガノタでサーセンwww
でも禁書×ガンダムって、悔しいけどついつい夢が広がっちゃうのよねビクンビクン



そういえば前スレでてっきりアックア隊長は偶々学園都市に友人を訪ねてきてた人なのかと思ってんだが、マレーシアにいたんだなwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/04/24(日) 06:26:54.90 ID:/qzpNPzlo<> >>135
なんか月光蝶みたいの出してたろ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/04/24(日) 08:30:05.83 ID:GN5aK+pR0<> >>142
ガンダムvs超科学兵器か……世界観が違いすぎるもんなぁ…… <>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/24(日) 19:51:24.09 ID:RtWgMQ9T0<> 11時頃に投下します。よろしくです。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/24(日) 19:57:33.62 ID:TzwjrFTL0<> 舞ってる

未元物質vsミノフスキー粒子 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東日本)<>sage<>2011/04/24(日) 22:07:50.42 ID:1GvB6FcN0<> 待機してる。それとKYだと自覚してるけど>>1に言わせてもらう


シンは俺の嫁 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(鳥取県)<>sage<>2011/04/24(日) 22:49:55.90 ID:3dnTEkP0o<> シン=マツナガを嫁にしたい奴がこんなにいるのか <> ◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/24(日) 23:07:06.19 ID:RtWgMQ9T0<> それでは投下します。
>>147でしたら差し上げます。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/24(日) 23:13:01.27 ID:RtWgMQ9T0<>


「これは…?」

女は差し出されたチケットと、それを差し出した男の顔を見比べる。
仄かにとうよりも真っ白な顔には何の感情も浮かんではない。いや、唯一浮かんでいるのはいつもどおりの彼の顔だ。
面倒事はゴメンだ、そう零す時の面倒くさそうな顔。やる気も興味も一切が欠落している表情。


「朝一のチケットだ。それに乗って明日帰れ」


男はそれだけ言うと、言うべきことは済んだとばかりに、丸太に腰掛ける。
轟々と勢い良く燃える炎を前に、いつものようにジャケットの胸ポケットから煙草の箱を取り出すと、一本を口に咥える。
鼻腔を突き抜けるメンソールの煙を心地良さ気に吐き出す。
中断していた銃の手入れに再び取り組み始める。
手渡されたチケットと男の顔を見比べながら女は徐々に怒りを顔中に滲ませていく。


「な、納得行きませんわ!!」

「知るか。納得しろ。出来なくてもしろ」

「ふざけないで下さいな」



隣に身体を捻り込ませるように座ると、女が金髪を揺らせて怒りを露わにする。
初めて出会った頃から、感情豊かな女だ。感情を抑制しろと何度も口を酸っぱくして言い聞かせてきたというのに。
結局女は、感情を押し殺すことを拒み続けたまま、それでも一人前へと成長してきた。


「今までずっと一緒にやってきたじゃありませんの!今更私だけ帰国ですの?明日がどういう日かご存知ですの?」

「……はァ…頑固なお嬢さンだ。まったく…」



ヤレヤレと呟くと、男はボソボソと頭をかく。端からチケットを渡しただけで女が納得するとは思っていなかったかのように。
男は目を細める興奮のあまり上気した女の頬を眩しそうに見つめる。
白い指先に挟んでいた煙草を、灰皿にそっと立てかけると、焚き火の木を軽く崩してやる。
話しこむには、少々火の勢いが強過ぎる。



「お前…年は幾つになった?」


唐突な質問に、一瞬女は何を言っているのだといいかけるが、男の表情が真剣なものであることに気付くと、渋々口を開く。


「先月二十歳になりました……けど…」

「そォか…二十歳か。お前を拾ってもう15年になるのかァ……」


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/24(日) 23:13:53.62 ID:RtWgMQ9T0<>
感慨深げに男は呟く。
喜びと寂しさ、懐かしさと実感の籠もった複雑な声に、女は沈黙を持って返す。
それ以外に女は相応しい言葉を知らない。
焼け野原で女が拾われたのは僅か5歳の頃だった。
両親、友人、そして自分の家に仕える家族のように気心の知れた召使達。
それらを戦火で一辺に失った彼女は、目の前の男に拾われた。
ぶっきらぼうで、不器用で、意地が悪く、そして優しいこの男に。


「最初は何も出来ねェガキだったンだよな」

「そうですわね……ええ、そうでしたわね。全て貴方に教えられましたわ…料理も、洗濯も、お掃除の仕方から ――― 」


女が懐かしそうに目を細める。


「銃の扱いまで…」


パチンと火がはじける。
女は娘であり、妹であり、弟子であり、そしてパートナーであった。
取るに足らない小娘であった彼女は、いつしか男が背中を預けるに足る女へと鮮やかに羽化を遂げていたのだ。
男の紅い瞳が懐かしさに微かに揺れる。


「私は貴方のパートナーとして ――― 」

「だが、そろそろ潮時だな」

「………潮時?」


灰皿に乗せていた煙草を口に含むと、男は銃の手入れを続ける。


「15年、そう、15年だ。そんなにも長い間俺はお前をこンな掃き溜めみてェな世界に置いてきた。今更地獄行きが恐くなったなンて言うつもりはねェ。

 だが、お前までそンなクソッタレなツアーに付き合う必要はねェ。地獄行きは俺だけで十分だ。お前はもう元いた場所に帰る時だろ」


表世界へ帰れ。そう突き放す男の言葉に、女は顔を歪める。
どうしてそんな事を言うのだ。ずっと一緒だと、そう言ってくれたのはウソだったのか?
理不尽とも思える男からの別れの宣告を受け入れることも出来ないまま、女の右目から一筋の涙が零れた。


「だったら…だったら貴方も一緒に…」

「言ったろ、潮時だって。物事にはすべからく潮時ってモンがあるべきなンだよ。ソイツを逃せば後は流されていくだけだ」

「そんな事…ッ」

「俺の左目は見えてねェ…昔そう言ったよな」


男が左目、焦点の合わぬ左目を向ける。
幼い頃、女はこの目で見られると無性に落ち着かずそわそわとした事を不意に思い出す。
何も映っていないはずの瞳に自分の本質が見透かされているような気がしてどうにも直視できないのだ。
男が白い頬皮肉気に歪める。


「見えてねェワケじゃねェ…ただ、見ようとしてねェだけだ。過去を見つめたまま、それ以外の何ものもな」


赤く照らされた白い表情が、一瞬能面のように凍りつく。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/24(日) 23:15:10.38 ID:RtWgMQ9T0<>

「テメェ自身の未熟さで相棒を死なせて以来、俺はずっと戦ってきた。生き抜く為じゃねェ……おあつらえむきの死に場所を見つける為にだ」

「死ぬ為に…生きてきたとでも?」

「そォだな。俺には学がねェから気の利いた言葉なンざ言えねェが……そォだな。あの日死に損なった俺が、きっちり死ぬ為の今日であり、明日だったンだろォな」


ねっとりとした湿気を帯びた夏の夜風に煙と共に乗せた言葉。
それは男が自分自身に言い聞かせるかのように悲しく響いた。


「そんな…悲しすぎますの、そんな生き方」

「いいンだよ、俺はそれで。納得してンだ。止まっちまった時計の針を進めるタイミングをずっと息を潜め続ける…お前はそンな風になるな」

男が小さく笑う。


「お前はまだ間に合う。好きな男を見つけて、家庭を持って、ガキを作れ。ありきたりかもしれねェが、そンなありきたりが一番掛け替えの無ェモンだって、

 お前もわかってるだろ?もうガキじゃねェンだ」


「ずるいですわ…こんな時ばかり一人前みたいに」


普段は何かにつけて子供扱いする癖に、何てズルイ男なのだろう。
15年もの歳月何度も、何十回も思い知らされてきた事実を再認識する。
そして、この男のズルイところは、どれだけ心配をしても、自分の身を決して省みないところだ。
鈍感なフリをして、気付かない風を装って幾人もの彼の身を案じる者達の心を蔑ろにして、自分の道を決して譲らない。
そんな馬鹿で頑固な男なのだ。


男は話すべきことは全て終わったとばかりに手元に視線を落とす。

煙草をくわえながら銃の手入れをするな、女が子供の頃から何度言っても直らない悪い癖だ。

炎の赤橙に白い毛が艶やかに照らされる。
俯き、銃の手入れをしている男の横顔が、女は大好きだった。
その好きという感情が、妹としてのものでも、ましてや娘としてのものでも無い事を二十歳を迎えた女は十分に自覚していた。


「一人前みてェじゃねェ。お前はもう立派な一人前だ」


不意に告げられた言葉に、女は言葉に詰まる。
溢れる涙を拭いながら、辛うじて女は呟く。
愛しい愛しい男の名を。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/24(日) 23:16:23.48 ID:RtWgMQ9T0<>









「ラビ太郎…ッ」










<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/24(日) 23:20:24.68 ID:RtWgMQ9T0<>

男は白い毛に覆われた指で器用に煙草を挟み、赤い瞳を伏せる。
女の言葉など聞こえぬように、その長い耳を寝かせて。
男は、雄兎は既に戦場に向かう決意をしているのだと、女はその頑なな横顔を見て悲しい程に理解してしまった。






――― ……***…… ―――










エンディングテーマが流れ終わり、スクリーンに幕が下りる。


「おもしろかったね〜」

想は興奮覚めやらぬという表情で隣りに顔を向けた。

学園都市において、カナミンと言えば女の子達にもっとも人気のある作品である。
そして、カナミンがドラクエだとすれば、ややマニアック且熱心なファンが多いメガテンに当たるのがこの『ラビ太郎』である。
その劇場版を見るべく想は一方通行と、そして研究が一区切り付いたという母親の美琴ときていた。



<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/24(日) 23:21:54.79 ID:RtWgMQ9T0<>

「……クソが……やられた…」

目頭を抑え、一方通行が呻く。

「何て不意討ちなのよ…」

一方通行とは反対側、想の左隣のシートに座る御坂美琴がハンカチを顔に押し当てていた。
メイクが落ちる心配などしている場合ではないと、目元を何度も何度も拭う。


「なンなンですかァ?ガキ向けとかブラフじゃねェか…大人の観賞にも耐えうる…いや、寧ろ大人にこそ観てもらいてェよ」


涙を決して見せないよう、青年は目頭を抑えたまま俯いている。
しかし、彼の震える声が十分過ぎる程彼の感情を物語っている。
感極まっているのは彼だけではない。美琴は何度も何度も一人何かに納得したように頷く。


「映画って…ただ難しくすれば奥が深いわけじゃないのね…子供にも十分わかるようにしても伝えるべき言葉は十分伝えられる。

 いいえ、子供にも理解出来るように徹底的に煮詰められたからこそこれ程の深みを持つに至ったんだわ…ねぇ、想ちゃん!」



「ああ…うん、そうだね…」



予想外に感情移入した大人二人に対して、年齢以上に大人びた顔で、想は一応の同意をしておいた。
自分が観るものを子供向けと笑われるのも面白くないが、想像以上にのめり込まれるのも、それはそれで複雑なものだ。

五歳の少女は何となく悟った。






                    ――― ……***…… ―――






映画を観終わり、メインストリートを歩いていると、甘い熱気が三人ぼ鼻腔をくすぐる。
バターとクリームと甘い生地の香りだ。
人だかりが出来ている広場の中心。学園都市でよく目にするクレープショップのケイタリングカーの客のようだ。
<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/24(日) 23:25:02.96 ID:RtWgMQ9T0<>
少女の目は、談笑しながらクレープを食べる女子高生のグループに向けられる。
キラキラと輝かせた瞳を、手を繋いでいる青年に向ける。

「あーくん、あーくん」
「おゥ」

少女の顔で、既に何を言おうとしているのか察した青年がやれやれと頷く。
想がくいくいと一方通行の袖を引っ張る。杖を突いている為に、一方通行の姿勢が不自然に傾く。
唯でさえ小さな少女が袖を引っ張るせいで、鎖骨まで襟元が広がっていくのを見て美琴は苦笑する。
あれではそのうち伸びてしまうのではないだろうか。
美琴は想の手をそっと袖から自分の手に絡め取る。

「想ちゃん。そんなに引っ張ったらあーくん転んじゃうでしょ」

「うぅ…ゴメンなさい」

しゅんとなった想の頭を撫でながら美琴はクレープのメニューに目を遣る。
店頭に置かれた冊子を一つ抜き取ると、しゃがんで想の目の前に広げてやる。

「わかればいいの。ホラ、想ちゃん好きなの選んで」

「うん!」

「一方通行も」

「俺もかよ」

「ママ。想ね、このマロンクリームがいい」

「へぇ、新メニューじゃない。ホラホラ、一人だけ食べないとか協調性が無くてよ?あーくん」

「何だそのムカつくドヤ顔。大体俺甘いの嫌いなンだけどォ?」

「ミールクレープにすればいいじゃない」

「お前…あくまでもクレープゴリ押しな」


所謂お惣菜クレープというヤツである。
一方通行としては、ミールクレープを食べるくらいならばサンドイッチを食べたいというのが本音である。
そもそも、一方通行としてはクレープ自体気恥ずかしくて食べる事に抵抗がある。
今時、クレープを男が食べていようともそんなものとして誰も特に気にすることはない。しかし、無駄なところで見栄、自分のキャラクターを鑑みてしまうこの男はイマイチ踏ん切りがつかない。
暗にいらないと言ったつもりであったが、美琴は三人仲良くクレープを食べることを譲らないようだ。



「あーくん、どれにするの?」



想が無邪気に広げたメニューを向けて首を傾げて聞いてくる。



「ホラ。観念して一緒に食べましょうよ」



想の肩に手を乗せて、美琴がにこにこと笑う。
この他愛も無いやり取りが楽しくて仕方が無いかのように想によくにた無邪気な笑みだ。


二つのそっくりの笑顔で見つめられては、基本的にこの母娘に弱い一方通行が頑なに意地を張り通すことなど皆無である。




「……じゃあこのフランクエッグってので」




観念したかのように嘆息すると、細い指がメニューの一点を指す。
ソーセージとスクランブルエッグのクレープだ。 <>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/24(日) 23:26:48.70 ID:RtWgMQ9T0<>

「じゃあ、想ちゃんはマロンクリームでよかった?」

「うん」

「ママはね〜この生キャラメルクリームね」


美琴はてきぱきと三人分を注文する。


三人分のクレープはすぐに出てきた。
余談であるが美人に愛想良くされた店主がサービスだと言って想と美琴のクリームを増量してくれた。

「お姉さん美人だね、あちらのは彼氏?それとも旦那さんかい?」

「うふふふ、秘密等」


美琴と店主のナンパとも世間話ともつかぬ会話を聞きながら一方通行は少女がクレープを落としてしまわないように注意を払う。
美人てのは得なモンだなと、一方通行は特に驚く事も無くその軽妙なやり取りを見ている。
黄泉川や芳川、番外個体といった美女と共同生活をしていると、少なからずこのような場面に出くわす。顔が良いとサービスをしてもらえるのよ、としゃあしゃあと芳川はのたまっていた。
自分の分のクレープを受け取ってきた美琴を促すと、めぼしをつけておいたベンチで食べることにする。
美琴が、あのおじちゃんが想ちゃんのクリームいっぱいオマケしてくれたんだよ、と囁いてやる。想が「ありがとう!!」と言って手を振ると、店主が目尻を下げて手を振り返す。
美琴ならばまだしも、想にまで鼻の下を伸ばすとは、と一方通行はさり気無く店主から想を隠すように抱き寄せた。


「うゆ?」

不思議そうに一方通行を見上げる想とは対照的に、美琴は口を抑えて噴出すのを堪えている。
ムッと眉間に皴を寄せて睨むものの、美琴にそんなものが通じるはずもない。






                    ――― ……***…… ―――



レンガ造りのメインストリートにあわせた赤茶色のベンチに腰掛けると、想は待ちかねたようにクレープに顔をくっつける。
かぶりつくというには少女の口は余りにも小さく、めいっぱい開いても、傍から見ればクリームの山に顔ごと突っ込んでいるようにしか見えない。
あどけない食べ方を頬綻ばせてみていた美琴は自分のクレープを齧る。
一方通行はと言えば、予想通り過ぎる味に特別感動も無く、ただ、少しケチャップが水っぽくないだろうか、等とダメ出しをしていた。


「おいし〜」
「美味しい〜」


同時に述べた感想まで母娘はそっくりだ。
あんな甘いものをよくもまぁと、呆れる一方通行を他所に、想は口の周りをクリームだらけにしあながらマロンクレープ攻略に取り掛かっていた。


「うふふ、想ちゃんたら、お口の周りクリームだらけよ」

「だってうまくたべれないもん」


美琴は嬉しそうに想の口元を拭いて行く。一方通行には美琴が嬉しそうに笑う理由がわかる。
普段から忙しさにかまけて中々構ってやれない少女にあれこれ世話を焼けるのが嬉しくてしょうがないのだ。
元来世話好きの彼女にとって愛娘の面倒を見てやれない時間は一方通行が想像する以上にきっと歯痒くて苦痛なのだろう。



まったく、世話の焼ける母娘だ、と一方通行は小さく溜息を吐くと、目の前にクレープが突きつけられた。
甘い香りがむわっと熱気を伴い胃の中にまで滑り落ちてくる。
眉を顰めると、クレープを差し出していた美琴が不服そうに頬を膨らませていた。


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◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/24(日) 23:27:59.95 ID:RtWgMQ9T0<>

「なぁ〜に『俺ァ関係ありませ〜ン』って顔してるのよ。ホラ」

「あァ?」

「折角違うの買ったんだから味見。ホラ」


甘いものは苦手だと、言いそうになったが、美琴がことのほか真剣な顔で見つめてくる。
その瞳に押し切られるように、渋々一方通行は美琴の食べかけのところを避けるようにして、クレープを齧る。


「……甘ェ……」

「アンタのも食べさせてよ」

「チッ…たかるなよ」


口ではそう言いながらクレープを美琴の口に持って行ってやる。


「美味しいじゃない。今度作ってみようかしら」



一方通行にとっては無難な味であったが、美琴の口にはあったらしい。
ふと、美琴が齧ったウインナーの断面が目に留まる。
半分も食っていやがると、呆れて美琴をもう一度見ようとして、一方通行の目の前に想の膨れ面がにゅっと現れる。
思わず仰け反る一方通行を逃がさぬように想が彼の膝の上にとすんと座る。


「ママばかりずるいの〜想もする!!」
「あン?」
「想ちゃん?」


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/24(日) 23:31:56.39 ID:RtWgMQ9T0<>

思わぬ矛先に、美琴もきょとんと首を傾げた。
グイッとマロンクレープを突き出すと、想は訴えるように強い口調で言う。


「あーくん、あーん!!」


「あ、あ〜ン?」

戸惑いながらも、少女の訴えどおりに口を開く一方通行とは別に、想が機嫌を損ねた理由を美琴はすぐに察知した。
言われて初めて美琴も気付いたが、二人の光景は他から見れば食べさせ合い、所謂『ハイ、あーんして』というヤツだ。
そして、容姿が目立つ二人の姿を盗み見している者は案外少なくない。
妬み、羨望、僻み、微笑ましさ。



(う、うあああああああーーーーーーーーー!!!)


美琴は声にならぬ叫びを上げて両手で顔を覆う。
数多くの種類の視線に曝されていることに気付き、美琴は今更羞恥で頬を染めた。
無意識過ぎて、自分達がやっていたことが如何にこっ恥ずかしい事かがわかったのだ。







「あーくん。想にもして」

「しゃあねェなァ………オラ、あーン」

「あーん」

「うめェか?」

「うん!!えへへへへ〜〜」

「なァににやけてンだか。ったく」



そんな美琴を他所に、白い青年と少女は食べさせ合いに興じている。


美琴は当分此処には恥ずかしくて来られないと思っていた。






<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/24(日) 23:33:56.76 ID:RtWgMQ9T0<> 以上で今夜の投下終了〜
一方通行、美琴、想ちゃんでダラダラとお出かけです。
次回もう少しだけお出かけ話し続きます。

それではまた。 ノシ

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/04/24(日) 23:35:37.36 ID:0XAu7VzOo<> 乙

あれ、新キャラ?誰だろ?って思ってたらまさかのラビ太郎wwwwwwwwwwwwwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/24(日) 23:35:47.02 ID:s1hq+T3IO<> あーくん
生き地獄 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/24(日) 23:36:08.48 ID:8HTZCQyDO<> 乙!!

超ニヤニヤさせてもらったよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/04/24(日) 23:37:42.42 ID:6QvMlINBo<> 可愛すぎんだろこの家族 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)<>sage<>2011/04/24(日) 23:38:55.54 ID:vXfvSZ5AO<> 乙

??????って思ってたら、
ラビ太郎で壮大に吹いた <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/24(日) 23:39:44.41 ID:kCKrHd88o<> なにこれズボン脱いで見たのが恥ずかしいぐらい可愛い家族話やないか

ちゃんとパンツ脱いでネクタイ靴下せなあかんな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/24(日) 23:40:34.60 ID:TzwjrFTL0<> 乙

ラビ太郎(劇場版)が予想外のハードものwwwwww
凄い渋い声で再生されちゃったぜ……ww

丸っきりラブラブ一家にしか見えませんゴチソーサマでしたww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(山陽)<>sage<>2011/04/24(日) 23:42:11.19 ID:rlGFe+UAO<> 黒子って金髪だっけ?と思ったらまさかのラビ太郎である <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/04/24(日) 23:45:27.67 ID:iiCiBjz7o<> しゃべり方まんま一方さんかよラビ太郎wwwwwwww

まさかのハードボイルド、
想ちゃんぱねぇ…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/24(日) 23:45:56.29 ID:oqsFYhlqo<> >>162
ミスターwwwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)<>sage<>2011/04/24(日) 23:52:42.80 ID:1/q1vyC7o<> 乙乙
なんというほのぼの、美琴かわいいよ美琴ww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/24(日) 23:53:08.29 ID:WdfBqXyho<> 金髪で、まさかのフレメアと思っちまったぜ。

もうあれですよね、この家族どもは幸せですよね、甘過ぎですよね。
早く、想ちゃんの妹か弟よろしく。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/24(日) 23:59:54.34 ID:NYFoFY0DO<> >「……クソが……やられた…」

wwwwこっちのセリフだwwwwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2011/04/25(月) 00:00:15.82 ID:Yursp7Bvo<> ラビ太郎て。
銃器の整備しながらメンソールの煙草ふかして15年も孤児を育ててきたのにラビ太郎て。
ラビ太郎なんでそんなすぐ死地を求めてまうん? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/04/25(月) 00:00:37.02 ID:RVvLwzbK0<> 金髪?地獄?ステファニーさんと砂皿さんかいやでも話し方変だな……と思って流し読みしてたらまさかのラビ太郎で吹いたwwwwwwww
しかし読み返すと結構感動した。そしてそのセリフをラビ太郎が言ってるのを想像してまた吹いた。
何なんだこの>>1の引き出しの多さは。格差がありすぎて嫉妬すら出来ないレベルだぜ。>>1の言ってたことはホントだったんだな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/25(月) 00:02:04.39 ID:BExBkKozo<> ラビ太郎でCAT SHIT ONE思い出したわww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/25(月) 00:03:15.26 ID:eBqCcru00<> あーくんの台詞は銀魂ネタ? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<>sage<>2011/04/25(月) 00:28:33.09 ID:cbPrfo2S0<> ラビ太郎が一方通行すぎて最初のくだり勘違いしてハラハラしちゃったじゃんかwwww
電磁通行一家のお出かけ見たかったから嬉しすぎる…どんどんやってくれい!
ああニヤニヤが止まらない <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(山陽)<>sage<>2011/04/25(月) 00:41:31.83 ID:lyS9WHYAO<> 乙
ほのぼのが相変わらず良いなぁ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大分県)<>sage<>2011/04/25(月) 01:04:31.19 ID:0gZDnIkh0<> >>177
あーそういえば。
休日出かけるも行き先がことごとく銀さんとかぶってイラつく土方の話な。
アレの土方の台詞まんまだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(宮崎県)<>sage<>2011/04/25(月) 03:35:15.51 ID:5yT43GG0o<> 乙
あれ一方通行と黒…子?でもあれ金髪だし、ほぇ?と思ってたらまさかのwwwwww
そして何この3人羨ましいよぉぉぉぉぉ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/25(月) 04:33:23.97 ID:8gj7peDDO<> 乙
もっとほのぼの見たいぃぃぃ!!
みんな可愛いよー <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(中部地方)<>sage<>2011/04/25(月) 04:39:37.30 ID:nEDwC6tjo<> >>176
一方さんに絵本読んでのノリでキャットシットワンを読んでとねだる想ちゃんが浮かんだ
なかなかえげつないぞおいww

それはさておきやっぱ電磁通行一家はなごむなぁ
もっと見たいぜ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海)<>sage<>2011/04/25(月) 08:33:27.47 ID:d+UQ5w0AO<> さあ、早くラビ太郎スレを立てるんだwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)<>sage<>2011/04/25(月) 10:02:20.04 ID:ixZZBxCAO<> くっそわろたwwwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[<>sage<>2011/04/25(月) 10:02:42.87 ID:7eE9ff0Wo<> クソッ! 掌の上で転がされてるのは分かってるが・・・何かあって未来編かと思ったぜ
しかしラビ太郎さん渋カッケェ・・・

ほのぼの良いなぁ。次回も楽しみにしてます! 乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/25(月) 10:03:42.51 ID:K2I29NaHo<> 乙!
くっそw
黒子かと思ったwww

いいなぁ、この家族・・・ <>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/25(月) 21:43:08.52 ID:yYOBky/z0<> 五分後くらいに投下します。
短めです。
昨日の続きと、ちょっと自己満足設定曝しです。それでは。 <>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/25(月) 21:50:59.78 ID:yYOBky/z0<>

クレープを平らげ、一方通行と美琴は今し方見てきた映画のパンフレットを広げる。

基本的に映画の話をするのであればカフェかパーラーでするというのが普段の流れであるが、4月に入ったこともあって、今日は日差しが強い。
風も少なく、今から手頃な店を探すのも何だか面倒だ。


想はクレープと未だに格闘中。


想を膝の上に乗せた一方通行は美琴に顔を寄せるようにしてパンフレットをのぞき込む。



「でもさ、あそこでラビ太郎の死んだ筈の相棒黒ウサギが登場するなんてね」

「死ぬ死ぬ詐欺って普通だったらシラケちまう筈の展開をまさかあンな風に見せるとは思わなかったぜ」

「ラビ太郎のネックレスとお揃いのをつけてたあの子がまさかラビ太郎の娘とはね」

「けどよ、確かに言われてみりゃ伏線あったンだよな。ラビ太郎が離婚した奥さンに親権取られた話がテレビ版でもやってたしよ」


突拍子もないようでいて、きちんと推理出来る材料は提示されていた。

丁寧に張られた伏線を見事にここぞというポイントで昇華させる。


二人のレベル5は、今日観てきた映画のクオリティの高さに改めて感心する。


「そういえば今回はエピソード1なんだよね」

「本当は前後編で終わらせるつもりが尺が足ンなくなって3部作になったンだとよ」

自販機で購入した缶コーヒーを美琴に渡すと、一方通行は自分のコーヒーのプルタブを開ける。

「三部作か。終わるのいつ頃なんだろ」

「半年ごとっていうから来年の春だろうな」

コーヒーを一口飲む。安っぽい苦みだ。缶コーヒーのこの人工的な苦さが一方通行は好きだ。
嗜好品を取っている実感がおもしろいのかもしれない。


「随分詳しいわね」

「馬ァ鹿。毎週付き合って観てりゃ覚えるイヤでも」

「そうよね〜アンタ達が仲良くラビ太郎の話してる横で私は録画しておいたゲコ太観てるもんね〜」

「メンドクセェな。何拗ねてンだよテメェ」


美琴は大学にいる時間帯なので、想とラビ太郎を観る機会はほとんどない。
美琴としては、同時間帯に放送している「ゲコ太危機一髪」を毎週録画しているので、一緒にそれを観たいのであるが、
どうにも愛娘は美琴的に愛らしさの固まりであるかわいいカエルのキャラクターはお気に召さないらしい。


彼女が夢中なのは、目つきと口の悪いあの白いウサギなのだ。



「お話がおもしろいのはわかったけどさぁ〜」

「じゃあ、今度からは録画して一緒に観てやれよ」

「うん」



頷き、想と約束しようとして、一方通行の膝の上からいつの間にか少女が消えている。




何処かでふらふらと迷子になってしまったのでは、等という心配をする前にベンチから少し離れた場所に想はいた。


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/25(月) 21:53:47.76 ID:yYOBky/z0<>

幼い少女は子猫を抱いてはしゃいだ声を上げている。
少女の周囲には、子猫の兄弟らしき子猫が二匹。そして、母親なのか、ほっそりとした猫がいた。
特に子供を抱いている想を警戒するわけでもなく、それどころか想の足下に身体をすり寄せてさえいる。



「ホント、あの子って動物に懐かれるわよね」

「………そォだな」


猫にくっつかれた娘を、うっとりとした目で見つめる。
猫と想という美琴にとっては可愛いもの同士のコラボが彼女を骨抜きにしていた。



「いいわね〜猫ってやっぱり可愛い〜」

寂しさと羨望混じりに想を見つめる美琴の横顔に溜息を吐く。嘘を付けないのだな。一方通行はつくづく思う。
羨ましいならハッキリ言えばいいのに。一方通行は美琴の背をたたく。


「痛っ!ちょ、アンタなにするのよ」

「くだらねェ意地張ってねェでおまえも行ってこい」

「意地なんて」

「張ってンだろォがボケが。混ざりてェって顔してやがるぞ」

図星であった。少々変わっているが、美琴は基本的に可愛らしいものが大好きだ。
当然、子犬や子猫も大好きである。だが、彼女の身体から自然と放たれている電磁波を動物は嫌う。



「だって…私が近づいたら猫ちゃんたちみんなどっか行っちゃうでしょ?」


もし自分が想の元へと行けば、間違いなく猫たちは逃げる。
残されるのは、突然友達がいなくなってしまった娘だけだ。
想の悲しい顔を思い浮かべると、とても美琴にはそんなことはできない。


「…ったくオレが誰かわかってて言ってやがンのか?」

チョーカーに手を伸ばす。プラスチックの軽い音。
一方通行は、美琴の頭に手を伸ばすと、しばらく瞳を閉じていた。


「一方通行?」
「よし…これで当分電磁波は流れねェはずだ」
「ベクトル操作?」
「多分猫にさわっても大丈夫だろ。オラ、行ってこい」


美琴の顔が瞬時に華やかに、明るくなる。

喜色満面といった表情を鼻で笑ってやる。



「馬鹿みてェにへらへら笑うなウゼェ。さっさと行けってンだ」


「ありがとう!!想ちゃん、ママにも触らせて〜」


「ママ〜!」
<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/25(月) 21:57:45.40 ID:yYOBky/z0<>

美琴がベンチから立ち上がり、足早に想の元へと向かう。
走れば猫たちが逃げてしまうとわかっているものの、どうにも逸る気持ちは抑えきれぬようだ。
呆れたように、その背を見て嘆息する。
単純親子。小さく呟く。


美琴がおそるおそる触れてみると、確かに猫達はあわてふためきもしない。
美琴は今度は、ゆっくりと慎重に猫達の頭と喉を撫でてやる。
徐々に慣れてきたこと、ずっと求めていた猫とのふれあい。
美琴は喜びに頬をリンゴのように染めながら猫に頬ずりする。


子猫達に囲まれている母娘を眺めながら、一方通行はつい先日、知り合いの女科学者が言っていた言葉を思い出す。


定期的に冥土返しの病院で受けさせている能力スキャン。

レベル5の子供である想や、滝壺理后の息子などがそこで内密に能力測定を行っている。

そこで旧知の科学者が言ったのだ。






<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/25(月) 22:00:44.58 ID:yYOBky/z0<>


「この子…能力者だね」


すやすやと自分の固い膝を枕に眠り込んでいる少女に視線を向ける。
女の目の下の隈は最早身体の一部と化しているのだろうか。
そんな疑問が過ぎったのは女の言葉から一時的に現実逃避をしていたからだ。


補足するように、傍らにいた旧知の女科学者、家族とも呼べる女、芳川桔梗が資料を手渡す。



「スキャンには反応しなかったけれどね」


「レベルは?」



反応しないということは、1にも満たないということだろうか。
浮かび上がった思考を即座にもう一つの思考が否定する。そうであれば、この二人がわざわざ言いに来るだろうか。

一方通行と御坂美琴の望みは、極普通の少女として想を育てること。
実験だらけの日々に少女を放り出させはしないと、一方通行は心に固く誓っている。

自ずと鋭く険しさを増す一方通行の表情に、芳川は苦笑する。



「そんな睨まないでよ。心配する必要なんてないんだから」
「なンで言い切れる」

「理由その一。今の学園都市は少なくとも昔のように子供をモルモットにはしない。
 そしてもう一つ。工業的利用価値が能力の価値だとすれば、この子能力はまったくの無価値ということ」


「………精神系能力者か?」


最も価値判断の難しい能力を挙げる。利用価値ではなく、工業的価値として考えれば当然の答えだ。
心理掌握クラスを覗いて、精神系能力者は工業分野としての旨味を見出しにくい分野である。
芳川は複雑な顔をして首を傾げた。振るのでも頷くのでもない。隈の濃いもう一人に向けると、女は肩を竦めた。



「どうにも把握の難しい能力でね。強いて言えば治癒系とでも言おうか」

「治療系?」

「そうだ。ヒーリング能力者…かな」


私が今勝手に作ったカテゴリーだがね。女は三つめのボタンを外し、胸元を手で扇ぐ。
女には此処の室温が高過ぎるらしい。隣りの芳川が顔を顰める。
口に出して注意しないのは、つまり慣れきっているということ。そして諦めていることでもある。


「ドルフィンセラピーって知ってる?」

「イルカと泳ぐと癒し効果があるとかいう話か」

「そう。イルカにはヒーリング効果があるの。これは迷信でも何でもなく、きちんと立証されていること。イルカの放つ音波がα波を促進させてくれるとも言われてるわね。
 一緒に泳ぐことで自然の持つ超音波が人の体を癒してくれるとも言われてるし、海と人間という生物の根源に関わる関連性が安らぎをもたらしてくれるなんて事も言われてるわね。
 これという決定打が定まっていないけれども、イルカという存在の持つヒーリング効果そのものには揺ぎ無い確証が持たれているわ」


「くどい。結論から言え」

「せっかちね。ま、良いわ。御坂想、あの子の能力はそれをもっと発展させたものね。心を読むのではなく感じる能力者」



能力者。放たれた言葉に一方通行は口を噤む。
この少女がそのような呼び名で呼ばれること自体が我慢ならないというように。 <>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/25(月) 22:07:03.45 ID:yYOBky/z0<>

「この子は傷ついた人、寂しい人の持つ乱れた心の電波を無意識に感知して、その人の心の壁を無効にする。
 
 そして、感情のベクトルを穏やかで正常な方向へ修正することが出来る。
 
 貴方達には悪いけれど、いくつかのデータを取ってわかったことだわ」


「データ?」

「あの子と対峙し接している人間の脳波を調べたのよ」


いつの間に、その言葉を飲みこむ。芳川は知り合いの名を幾つも挙げ、最後に麦野沈利の名を上げた。一方通行にはふと思い当たることがあった。
再生治療によって回復した腕と眼の診察に訪れた時だと彼女は言っていた。
偶然鉢合わせただけだと思ったが、おそらくはあの時に測定したのだろう。
この小さな少女を前にしてはあの原子崩しであっても、普段の激しい気性がなりを潜める。
原子崩し ――― 麦野沈利は特別穏やかな女でもなければ、子供にだけは甘いというわけでもない。
その彼女でさえも、この少女には不思議と甘い。最初は、この少女が甘え上手だからだと思っていた。
しかし、もし彼女達の言葉が正しいとするならば、麦野の気性を宥め、穏やかな精神状態へ持っていっていたのは想という事になる。



「あんまり難しく考えなくても大丈夫よ。科学者から言わせてもらえれば、この子の能力は本来能力と呼べるものですらないんだから」

「何?」

「ただ、貴方に知っておいて欲しかっただけなの。何があったか知らないけれど、随分いい顔するようになった親御さんにはね」

芳川はくすりと笑う。
見透かされているようで、一方通行は舌打ちをすると、ふいっと目を逸らす。


「これを能力と呼ばなければならないというのは本来嘆かわしいことなのだろうな。
 
 だからこそ、この少女は希少な存在なのかもしれない。レベル5としててはなく、人間として」


木山が、そっと眠る想の頭を撫でてやる。何かを胸に含むように。
その瞼の裏に何を見ているのか。柔らかく、そして寂しげな瞳で。
芳川が微笑む。一方通行と、その膝の上の少女を暖かな目で見つめる。まるで母親のように。




「温もりや癒しを求めてる人の心に気付いて、静かに寄り添い、癒すこと。この能力を人はね ―――





                    ――― ……***…… ―――






子猫に頬を舐められ、きゃっきゃと嬉しそうな悲鳴を上げる少女を見る。
屈託無く笑う美琴、彼女を笑顔にしているのも、或いはあの少女だろうか。
想と、美琴が一方通行の方を見る。
無邪気に少女は手を振り。美琴が一方通行を呼ぶ。
やれやれと、小さく零すと杖を手に取る。
きっとあの親子は自分が行くまでしつこく呼び続けるに違いない。



「ったく……馬鹿みてェにハシャぎやがって」


小さく、誰にも見せぬようにそっと笑うと、一方通行は立ち上がった。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/25(月) 22:08:03.01 ID:yYOBky/z0<>




                    ――― ……***…… ―――





『温もりや癒しを求めてる人の心に気付いて、静かに寄り添い、癒すこと。この能力を人はね ―――


                            ――― “慈愛”と言うのよ』




<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/25(月) 22:12:01.48 ID:yYOBky/z0<> 以上で投下終了です。
オリジナル能力出してしまった。痛いのはわかってるんですよ。
でもどうせ痛いならいっそ気持ち良くなるまで痛くしようと思いました。

それではまた。 ノシ





ちなみに、没案は電磁波でした。
相手の能力を分解して、電撃に再構築して反射してぶつけるみたいな感じの。
それで上条さんを吹っ飛ばすという展開を考えていたのですが、お蔵入りにしました。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<>sage<>2011/04/25(月) 22:13:41.97 ID:WQlQ9rmfo<> 上条さんを吹っ飛ばす…
それはそれで見たいものがありますな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/25(月) 22:15:09.08 ID:zNrTrDY50<> 乙

平和的な能力?でなんかほっとした
想ちゃんマジ女神 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/04/25(月) 22:17:26.76 ID:Mv09V88c0<> ヒーラーか
想ちゃんマジ天使

幻想殺しだったらどうしようかとかコッソリ不安(ちょっぴり期待)だったけど
よく考えたら不幸から一番離れたところに居る少女でした。まさに杞憂

素敵な能力名、期待してます <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<>sage<>2011/04/25(月) 22:20:24.89 ID:onlKvykKo<> 想ちゃんマジ天使だったか……
甘いのではなく、優しいのね。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東)<>sage<>2011/04/25(月) 22:20:45.53 ID:ixZZBxCAO<> >>195
ラビ太郎の深遠極まりないオリジナル設定の方をもっとくやしく <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/25(月) 22:21:13.52 ID:EGBGq4QDO<> これは能力じゃない……

単純な癒しをもたらす女の子だ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/25(月) 22:21:30.43 ID:vbxFnc8Ho<> 一方通行と美琴の二人にとって一番必要なものだったろうしなぁ>癒し
自分だけの現実のなせる業だろうか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/25(月) 22:21:35.80 ID:yYOBky/z0<> 能力名…?
そんな、今後の話しに絡ませる予定など欠片もないのに…
一方さんの眉間から皺を取り除く程度の能力です。
強いて名づけるなら……ハッピーターン。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2011/04/25(月) 22:28:57.36 ID:T1jyslBAO<> てか、オリキャラの能力らしきもの程度なんだし
そんな痛いとは思わんが…
これが、ぼくのかんがえたさいきょうののうりょく
とかなら最高に痛いけどなww

ともあれ乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/25(月) 22:30:07.70 ID:aDMpXjIZo<> >>203
それは悪魔の粉じゃないかwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/25(月) 22:31:25.85 ID:EGBGq4QDO<> 一方通行の能力って痛いかもって一瞬思うけどむしろかっこいいし強いし凄いよね

なにが言いたいかっていうとかまちーすげぇ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/25(月) 22:32:37.62 ID:K2I29NaHo<> 乙
想ちゃんのオリジナル能力よりもラビ太郎の意外とハードな設定のが気になるぜ・・・

そして、やっぱりこの家族いいなぁ・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/04/25(月) 22:47:31.17 ID:vHO7Ge7yo<> 乙

何気に木山先生も登場してる・・・やっぱ木山先生はクマがあってこそだよな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)<>sage<>2011/04/25(月) 22:53:07.14 ID:4z3atI2ho<> 乙
なんともまあ、優しい力
同時にモテる力だな。将来大変だな、色んな意味でww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2011/04/25(月) 22:53:19.05 ID:Yursp7Bvo<> ttp://digital-art-gallery.com/picture/613
こんなんだったらヤだなあ……育てた娘食っちまいそうだよなあ。
ちなみにコレは不思議の国のアリスのホワイトラビットがモチーフらしいです。

想ちゃんのそれは親父さんのそれと一緒なんだろね。
現象は見えないけど結果は出るっていう。小萌せんせーみたいなもんな気もする。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/26(火) 00:10:13.64 ID:RmRYc2vDO<> 乙!

つまるところ彼女は無能力者で、余りの可愛らしさにみんな顔が綻んじゃうってだけの話だな
想ちゃんマジ天使! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<>sage<>2011/04/26(火) 01:52:47.32 ID:y0P6ptBI0<> 乙
「想ちゃんの持つ力」痛いどころか感動したよ…パパママを幸せにしてあげてるね
イチャイチャ電磁通行一家をずっと見てたい気分になった

ところで
>>「ラビ太郎が離婚した奥さんに親権取られた話」
どんな話だよwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/04/26(火) 02:28:23.11 ID:+l3xsfnno<> ヒーリング設定ない方が良かったんじゃないか
本編でも一方や絹旗を救いあげたのって、上条や打ち止めや浜面の人間性だったんだし
光の世界=表の世界で暮らすステップに能力はいらないと思うんだがな。その世界に生きてる大半の人間はなんの能力もないんだし
想ちゃんの能力は能力と呼べるものじゃないとか、レベル5じゃなく人間としてとか、慈愛だとか、色々くっつけてるけど
実際とのところは受け継いだのは幻想殺し→慈愛でしたっていうミスリードを使いたかっただけに見えた <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/26(火) 04:12:39.43 ID:D68PTFLLo<> レベルいくつって表記もないし、ただ他人の感情を感じ取るのに優れた優しい子って感じだと思うんだけど
現実の普通の子にもそんな人はいるし、想はいい子なんですよ、それで救われてるんですよって感じでいい話だったと思うが <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/26(火) 04:31:32.48 ID:g2o6iOLq0<>
>この子の能力は本来能力と呼べるものですらないんだから

>これを能力と呼ばなければならないというのは本来嘆かわしいことなのだろうな


本来人なら当然持っていて然るべきものであって、能力なんて特殊性を帯びたものじゃない。
けれど、いつしか人から欠落してしまっていて、それを具えていることが特別っていう事に
なってしまった。それは何とも嘆かわしいことだ…
っていう事を言ってるのだと捉えた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/26(火) 04:49:06.40 ID:g2o6iOLq0<> 使いたかったのは寧ろ此処じゃないの?

>寂しい人の持つ乱れた心の“電波”を無意識に感知して
>その人の心の壁を“無効”にする
>そして、感情の“ベクトル”を穏やかで正常な方向へ修正することが出来る

美琴と上条と一方通行に関する言葉を入れて、母親と二人の父親から大切なモノを受け継いだみたいに見せたいんだと。
このお話は上条さんを父親じゃないみたいに否定してもいないし。
連投ですまん。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/26(火) 09:27:52.23 ID:aqU8rUoIO<> 父親がサイヤ人で師匠がナメック星人か
胸熱 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/04/26(火) 11:36:48.35 ID:es6Y0N0Uo<> 能力である必要がないものをわざわざ意味ありげな能力にしたのは

思春期で超センシティブになった小娘に振り回されながらデレる三十路あーくんを書きたいからだろ? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<>sage<>2011/04/26(火) 15:00:16.17 ID:y0P6ptBI0<> >>215
凄く同意!
本来は想ちゃんの持つ「人間性」みたいなものが学園都市では「能力」と呼ばれちゃうってだけなんだよ
それがまた学園都市の悲しいところなんだよね… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/04/26(火) 15:47:02.96 ID:kE2tsVja0<> >>219
なんか今週のめだかの善吉のセリフを思い出した
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/26(火) 17:54:03.51 ID:PRVbZrCF0<> >>220
あの台詞自体は意味不明だったけどね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/04/27(水) 19:32:38.33 ID:/n7bI7wn0<> >>221
俺イギリスでジャンプ買ってるからずれてるかもしれんが
それって19番? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/27(水) 20:36:19.62 ID:4ECezxb60<> >>222
イギリスってすげえww
俺が間違ってないならその次 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東)<>sage<>2011/04/27(水) 20:43:15.29 ID:DXsjQBDAO<> >>222
上条さんなにやってんの <>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/27(水) 21:04:31.28 ID:wqIou5i80<>
何か娘っ子の能力で色々言われてるけど、年頃になったらフラグを立てる程度の能力です(キリッ

こんばんは。性懲りも無くグダグダ投下します。でも次回かその次くらいから過去編始めようと思ってます。
じゃないとスレが案の定無駄な小ネタで埋まってしまう気がするので。
主に隊長と黒コングさんのせいで。

9時半に投下します。よろしくお願いします。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/27(水) 21:05:34.98 ID:GBFWUzdUo<> なんだ、父親と同じ能力かw <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)<>sage<>2011/04/27(水) 21:07:11.80 ID:ME90dR/Vo<> 親御さんと彼氏候補が大変そうだな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/27(水) 21:07:53.70 ID:ns+dym9Do<> なるほど、確かに父親と同じ能力だwwwwww <> ◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/27(水) 21:32:56.24 ID:wqIou5i80<> 投下します。 <> ◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/27(水) 21:33:45.41 ID:wqIou5i80<>
猫と遊び倒し想と美琴の春物の服を買うべく大型セレクトショップへと足を運ぶ。
想を着せ替え人形の如く扱う美琴を窘めたら、二人纏めて着せ替え人形にされることとなった。
美琴が自分用にチョイスした服は胸を強調するデザインであった為、一方通行と想は顔を背けた。
一方通行はあまりの不憫さ故。想は単に一方通行の真似っこだ。
憤懣やる方無しとばかりに選んだのは腰まで背中の開いた黒のノースリーブ。繊細なラインが浮かび上がるデザインであった為購入。
支払いは面倒だからと、一方通行がうラックカーードで一括払い。一方通行達は夕食の買い物に向かう。行き先はメインストリートに面している総合スーパー。
アミューズメント施設が豊富な第六学区らしく、品ぞろえが若年層向けで多彩かつ輸入品も数多くそろっている。何よりもドイツに本店を置くだけあって、ウインナー、ソーセージ、そしてビールやワインが豊富なのだ。
ワインが好きな美琴は、時折此処に来てはワインを買い貯めしていく。

ちなみに普段一方通行一人が買い物に行くスーパーは第七学区にある。想の保育園とマンションの間にある上に、価格が安い為に重宝している。


「セロリとブロッコリー、後はトマトだっけ。それ以外野菜切らしてるのあった?」

「ジャガイモ。メイクイーン頼む」

「了解」


漫然と買うつもりは毛頭なく、美琴と手分けして必要なものだけ籠に入れていく。


「あーくん、お菓子買ってもいい?」

「一個だけだ。晩飯前に食うなよ」

「は〜い」

想は元気よく返事をすると、すぐさま短いコンパスをフル回転させてお菓子の陳列棚に駆けていく。
肉類の棚へと足を伸ばせばお目当ての物をすぐに見つける。
この総合スーパーに立ち寄る時は滅多にないが、寄れば必ず購入する物の一つがこのウインナーである。
血を詰めたウインナーは、普段買うものよりも三倍近くするが、一方通行の好物である。
ボイルしてマスタードをつけてビールの肴にするが、余ればおかずとしても使える。
二袋籠に入れてから、美琴も好きだったことを思い出し、さらに二袋籠に放り込む。
そろそろ野菜コーナーに行った美琴と合流する頃合いだ。
もしかしたらワイン棚の前から動いていないかもしれないが。
<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/27(水) 21:34:25.55 ID:wqIou5i80<>

「一方通行?」


不意に掛けられた声に振り向く。
買い物籠を片手に、打ち止めと番外個体が目を丸くしていた。


「なンだオマエ等か」

「何だとは何よってミサカはミサカは会うなりいきなり失礼なアナタの態度にムカついてみる!」

「ちょっとぉ〜こんなところでお買い物?地元のスーパーにいつも行ってるのにさ。もしかして出禁とか?キモすぎてとか。それとも悪人顔が怖すぎるって通報があったとか?きゃははは」


一方通行は面倒臭そうにため息を吐く。一方通行にとってこの姉妹は大切な存在であるが、反抗期真っ盛りの彼女たちの相手をするのは結構な体力がいる。
一日中出かけていた彼に、その体力、気力は残っていない。


「何とでも言ってろ。そォいうオマエ等こそこンなところで買い物か」
「映画観てきたの。ゲコ太の」
「今日黄泉川家にいないから食事自分で作らなきゃいけないの、マジメンドクサいけどさ」
「そう言いながら熱心に練習してるよねってミサカはミサカはチクってみる」
「うるさいな。炊飯器飯に慣れると社会に適応出来ないってわかってきたの!!」
「ああ、否定はしねェが…オマエの口から社会に適応だなンて言葉が聞けるたァな…」
「何感慨深げな顔してるのさ、親御さん。マジキモいよ」
「ゲコ太って…そォか、そっちも今日が公開初日だったか」
「詳しいね。もしかして一人寂しくアナタもゲコ太観てたの?ぶひゃひゃ」
「あァ?俺達はラビ太郎の方にな」


一方通行の言葉に、二人の少女の顔つきが変わる。
偶然、この場で会えた事に対する喜びに微かに上気していた頬からすっと赤味が引いていく。


「俺……達…?」
「アナタ一人じゃなくてってミサカはミサカは…」


「あれ?アンタ達何してるの?」
「おねえちゃんだぁ〜」



振り返るまでもなく、二人の少女には声の主がわかった。
目の前の青年の表情が、微かに少女たちにわかる程度に、ふわりと柔らかくなったのだ。
彼にそんな表情をさせる人間は数えるほどしかいない。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/27(水) 21:35:54.67 ID:wqIou5i80<>
「そっちも済ンだのか?」

「うん。アンタの好きな白ワインもあったわよ」

美琴が満足げに籠を軽く上げて見せる。
想は両手にしっかりとお菓子の箱を抱えている。
言いつけ通りに、一つだけ選んだのだろう。
少女の目の高さにしゃがみ込むと、手にしたお菓子を籠に入れてやる。チョコチップのクッキーだ。

「ねぇ、もしかして今日はずっと三人で出かけてたの?」

打ち止めが挑むように一方通行をにらむ。
どうしてそんな目をされなければならないのだ、と言い返してやろうとするが、番外個体も口にこそ出さないものの同じような顔をしている。

「映画行って服買いに行ってきたくれェだよ。旅行みてェなそンな大層なモンじゃねェ」

遊びに連れてって欲しけりゃ今度連れてってやる、と投げやりに言う。



「そういう事じゃないんだもん……」

打ち止めが俯きつぶやく。




年相応に、そして不相応にだろう。恋する乙女らしいヤキモチだな。美琴は三人のやりとりを見て微笑ましく思う。
実年齢にするとまだ9歳の少女達。知識は見た目の年齢以上にあるくせに経験が見た目の年齢を遙かに下回る。
その両極端な心の在り方が、時として、少女達のアンビバレンスを加速させる。
おそらく打ち止め達自身も自分の感情をどう扱って良いのかわからないのだろう。
言い合い、というか、一方的に文句や罵倒を並べ立てている打ち止めと番外個体に、一方通行はうんざりした顔をする。

(馬鹿…)

美琴は心の中で一方通行を叱責する。好きな男に面倒くさそうに相手をされて傷つかない女の子はいないのに。
周囲の目も段々痛くなってきた。
端から見れば姉妹で男を取り合って痴話喧嘩を繰り広げているように見えないこともない。
見るに見かねて美琴は口論が止む一瞬に滑り込ませる。



「ああもう。口論の続きはウチでやる!どうせアンタ達家に誰もいないんでしょ?だったら一緒に夕食でも食べて行きなさいよ」


「…お姉さまが言うなら…まぁ、コイツの料理食べてやってもいいかなってミサカは妥協してやるよ」
「お姉さまの顔に免じて許してあげるねって、ミサカはミサカは追求の手を緩めてみる」
<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/27(水) 21:36:58.26 ID:wqIou5i80<>

「好きにしろ」

姉の言うことには案外素直な末の妹達に苦笑する。
根は素直で良い子なのだ。一方通行は参ったモンだぜと言いたげに肩を竦める。少し芝居じみた気障な仕草だ。けれど癪に障る事に、かなり様になってる。
さりげなく打ち止め達の買い物かごの中身を自分の籠に一緒くたにしてあげるあたり、面倒見が良いというか、親御さんだ。
憎まれ口を叩きながら一方通行にくっついていく妹達。



今日は久しぶりに三人で出かけて気分が良かった。
その弾んだ気分のまま三人だけで夕食をとるつもりだったのだが。
少し残念だ。


「…って、何が残念なのよ私」


首を振って打ち消す。思わずよぎった言葉を。その言葉の意味を考えるのはまだ早い気がした。





「お前な…暑いなら暑いって言わねェか」
「だって、そうしたらあーくん、ウサちゃんぬげって言うもん」

誕生日に美琴にプレゼントされたウサギのコートを想は大層気に入っている。ふわふわもこもことした襟元に、ぼんぼんが付いてる意匠は大層愛らしく、亜麻色の髪にとてもよく似合っている。
雪景色の中にいればたちまち雪ウサギのようにとけ込むだろう。
しかし、薄陽暖かな今日のような小春日和には、少々暑い格好でもある。
きっちりと留められた木のボタンを外してやり、コートを脱がしてやる。幼い体温が日差しを浴びてさらに熱を帯びていたのだろう。子供特有のミルクのような香りと、ほわんとした熱が一方通行を包む。


「当たり前だろォが。厚着して風邪引いたなンてマヌケを曝すつもりなンですかァ君ィ?」


ぺしんとおでこを叩く。あうっ、と想が額を押さえて膨れる。


「だってウサちゃん好きだもん。ママのくれたウサちゃんだもん」

「それで風邪引いて、アイツを困らせたいのか?」

「…ごめんなさい」

「…はァ……そンなにしょぼくれンな」


一方通行は諦めたようにうなだれる。変に頑固なところは母親や、妹達の姿そのままだ。
珍妙なキャラクターを可愛いと言い(実際、話の質はともかく、ラビ太郎なる口も愛想も悪いキャラクターの何処がいいのか一方通行は理解に苦しむ)、ミサカの遺伝子とはこうも顕著に現れるのだろうか。
うっすら汗ばんだ額に張り付いた前髪を丁寧に解いてやる。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/27(水) 21:38:34.61 ID:wqIou5i80<>
「まァいい。冷えちまわねェウチに入るか」
「うん!」


脱衣所に走る少女の後ろ姿を見ながら、一方通行は壁を見る。
隣の美琴の部屋のある方だ。今頃彼女たちも風呂に入っていることだろう。かしましい三姉妹で一緒に。





「もうミサカお腹いっぱ〜い」

「明日体重計乗るの怖いかも。っていうかお姉さまって料理できたんだ〜ひゃっひゃ」


しかも美味いし。番外個体は上機嫌に言いながらシャンプーを泡立てる。
食卓は主に映画の話題。
ゲコ太の映画に興味津々だった美琴はネタバレを承知で二人から事細かに内容を聞き、二人もまた話したくて仕方がないのか、そこまで言うのかとばかりに詳細に語った。
一方通行と想は早々に話題に追従する事を放棄し、ラビ太郎の話題にシフトした。

「絶対予約しなきゃ…初回特典付き」

食事が終わる頃には美琴はすっかりBRD購入を誓っていた。
そして、晩酌がてらの上映会に自分はつき合わされるのだろうと、一方通行は既に暗澹たる心地をこっそりと抱いていたのは彼だけの秘密だ。。




「うん、あの人程じゃないけど美味しかったね、ってミサカはミサカはグラタンのレシピを後で教えてほしいなって……お姉さま?」
「……炊飯器飯って胸にいいの?」
「え?」

湯船に浸かりながら姉の発した言葉に打ち止めはマヌケな返事をする。
あまりにも唐突だったかだ。姉の視線が打ち止めの胸に向けられている。そして、ゆっくりと隣でシャワーを浴びている番外個体の方にも向けられる。

「ミサカは栄養促進材特別性だったからね。ロシアの連中巨乳好きだったのかな」

にやにやと挑発するように笑う彼女は、言葉の通り巨乳と呼ばれる資格を十分に有するバストサイズだ。シャワーで濡れた髪の水気を払う度に、器に乗せられたプリンのようにふるふると揺れる。
そして、それは打ち止めにも当てはまる。

「ええっと…ミサカも子供の頃は心配してたけど、最近は特に気にも留めなかったかな」
「そりゃあそうでござんしょうね。そんだけたっぷりあったらさ、そりゃあ気にするまでもござぁせんわよね」


バスタブの縁に両腕を組んで、ふてくされ気味に顔を乗せる。
打ち止めが洗面器に湯を張るために身体を屈める。胸というよりも果実のように重力に従ってたわわな実がその拍子に揺れる。
美琴はこれ見よがしに(しか見えない)妹達の仕草に、これまたこれ見よがしに舌打ちをする。 <>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/27(水) 21:40:38.92 ID:wqIou5i80<>



「クソッタレが…当てつけか?当てつけか?」


「お姉さま……流石にキャラ的にやさぐれ過ぎじゃない?ってミサカちょっぴり萎縮しちゃう」
「そ、それに大きいからっていいことばかりじゃないよ?ってミサカはミサカは肩凝り気味の肩をもみほぐしてみる」
「うんうん、良いこと言った上位個体。可愛いブラも無いしさぁ、谷間に汗疹出来て夏かゆいし」
「走ると痛いしね。黄泉川訓練から帰るとしばらくしんどそうだもん」

いつしか巨乳の苦労話に花が咲く打ち止め、番外個体姉妹。
それが如何程に恵まれた者の贅沢な悩みなのか。持ち得る者の傲慢さなのか。
持たざる者筆頭(後に続くのは白井黒子嬢である)の御坂美琴は格差社会と言う言葉の意味をひしひしと感じる。


「そういう悩みにすらこちとら憧れてるのよ!察しなさいよ!!」

「「えええぇぇぇ ――― …」」

半ば理不尽な姉からの叱責に、顔を見合わせる打ち止めと番外個体。その表情はさながら酔っぱらいに言いがかりを付けられた素面の女子大生だ。


「でもさ、お姉さまの身体だって十分そそると思うんだけどぉ〜?」


身体を洗い終えた番外個体が、バスタブの縁に腰掛ける。足だけを浴槽に入れながら美琴の身体を上から下へと見回してく。


「なんか、しなやかな雌豹って感じ?どんな体位にも応えられちゃいそうな…」

「ちょ、アンタ目がイヤラシいわよ…」


美琴は恥ずかしげに自らの身体を抱きしめる。
その仕草は一児の母どころか、成人した女であることを忘れさせる程に初々しい少女のようだ。
同じ顔の打ち止めでさえもどきりとする。
美琴の身体は胸こそ慎ましいものの、スラリとしたダイエットに悩む女であれば誰しもが憧れる肢体をしている。
まず特筆すべきは手足が長いということ。それも無為に長いのではなく、ウエストからヒップ、太股からふくらはぎに至るまで優雅なラインを帯びている。
スタイルというものを頭の先からつま先までの一つなぎとして捉えるのならば、美琴の身体はその理想に限りなく近いと思える。

少なくとも、打ち止め達はこの姉以上にうっとりとするようなラインを持つ女を知らない。


「お姉さまその身体で贅沢言い過ぎだよ」

「そうそう。ミサカ達が勝ってるのって胸くらいじゃん。胸だけ圧勝」

「うん、最後の一言さえなければ素直に喜べたわ」


ほわりと微かな膨らみの胸に視線を落としながら、美琴は首を振った。



<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/27(水) 21:41:35.64 ID:wqIou5i80<>



「えぅ〜」

まるで一番風呂に浸かった老人が吐くような、感極まった溜め息に一方通行は声を殺して笑う。何度聞いても笑ってしまう。
こんな五歳程度の少女が、今にも「極楽極楽」と口にしてしまいそうなとろけきった顔で湯船に浸かるのだ。
妙なおかしさがこみ上げる。
軽く曲げた一方通行の脚を背もたれにして、想は一方通行と向かい合う格好で湯船に浸かる。
膝に広がる小さくてしこりのような固さを秘めた柔らかなお尻の感触がくすぐったい。
広い湯船は華奢な青年と幼い少女を悠々と収めて尚あまりがある。
広い湯船は、このマンションで美琴と想が気に入っているポイントの一つだ。
長い髪をアップにした想は一日中一方通行と美琴を独占できたのが余程うれしいのか、始終ニコニコとしている。


「なァ、想」

「なに?」

「明日な、ちょっと俺とアイツで出かけなきゃならねェンだ」

「想もいく」

「明日はダメだ。オイ、膨れてンじゃねェ。ダメなモンはダメだからな。土産買ってきてやるから」

膨れる想の頬を優しくつついてやる。

「うう〜〜」

「浜面ン家に行っててくれ」

「はまちゃんのおうち?」

「そォだ」


渋々納得したのか、想はこくんと頷く。こっそりと安堵の溜め息を吐く。
最終手段はラビ太郎のおもちゃを買ってやるという殺し文句であったが、物で釣るようで気が進まなかった。
最終手段を使わずに済んだ事への安堵の溜め息でもあった。 <>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/27(水) 21:42:45.53 ID:wqIou5i80<> 機嫌がやや傾いていたものの、すぐさま想が手遊びを始める。両手を組み合わせては湯をばちゃばちゃと叩く。
叩くというのは一生懸命な彼女に失礼かもしれない。
彼女は必死なのだ。教わった水鉄砲を再現しようと悪銭苦闘中である。これがここ最近のお風呂場の光景だ。
一方通行は見本だと手を組むと、湯を挟み込む。

「にゃっ!」

一本の綺麗な放物線を描いた湯が、想の顔にかかる。
意地の悪く一方通行は「ざっとこんなモンよ」などと大人げなく笑う。
顔を拭うと、想がムッと頬を膨らませる。ばしゃばしゃと水を叩く音。しかし、放物線にはほど遠く、闇雲に湯を飛び散らせるだけだ。
しばらくして、水鉄砲に飽きた想は一方通行の手を取って握っては開くといった他愛もない遊びに興じる。
本当に子供というのは動詞の宝庫だ。
じっとしている時がない。あきれたようにめまぐるしい表情の少女を見つめる。想はやがて一方通行の手を離すと、するすると身体をずらしていく。
一方通行のへその辺りまでお尻を移動させると、想の手が
一方通行の頬へと伸びる。
何をするつもりなのだろうか、と止めるわけでもなく少女の手の行方を目で追う。想の手は一方通行の眉尻にふれる。


「もういたくないの?」


鳶色の瞳が不安げに揺れる。

もみじのようなぷくぷくとしたマシュマロのような指がそっと撫でる。
くすぐったくなるような軌跡を感じとりながら、一方通行は少女の意図を知る。


「ああ。全ッ然平気だ。当たり前だろォが」

少女の撫でていたのは、傷跡。
上条当麻と殴り合った時に出来た傷跡だった。
深々と切り裂かれた傷口は、まだ薄く跡を残すものもある。冥土帰しの腕を知るだけに、そのうち傷跡すら消えていくだろうと、気にせずにおいたが、少女はそうもいかなかったらしい。

「ほんとに?」

「ああ」

「ほんとのほんとに?」

「ああ」

「ほんとのほんとのほんとに?」

「ああ。そこにあと100個くれェホントにが付くくれェな」
<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/27(水) 21:46:16.47 ID:wqIou5i80<>
「そっかぁ〜……えへへへへ」

小さな腕がきゅっと一方通行の首に回される。

「……チッ…なァにくだらねェ心配してンだ」

小さな背に手を回すと、安心させてやるようにぽんぽんと叩いてやる。
穏やかなリズムに、次第に少女の身体から力が抜けていく。
しがみつくように、一方通行の頭を少女が思いの外しっかりとした力で抱きしめる。
骨の形がわかる胸の固い感触と、幼子特有のぽこんとしたお腹のぷにぷにとした感触が心地よい。
熱い湯船において、尚熱い幼い少女の体温に、一方通行は驚くほど安らぎを覚えている自分に気づく。

(アイツ等には絶対見せられねェ…)

きっと、今の自分はそうとうだらしない顔をしている。
打ち止めや番外個体が見たら気持ち悪いとののしるか、腹を抱えて爆笑しかねないほどに。





「ねぇ、お姉さま」

「何?」

「一つ聞いていい?」

泡立てたスポンジで丁寧におへその辺りまでマッサージをするように洗いながら、打ち止めは慎重に切り出す。

「どうしたのよ、かしこまって」


「……あの人とさ、何かあった?」


打ち止めの言葉が浴室に広がる。
番外個体が茶々を入れるわけでもなく、その言葉が美琴に染み渡っていくのをじっと見つめる。
それは彼女たちが共通して抱いた疑問だ。
先日一方通行が入院したという報を聞きつけて彼の病室に駆けつけた時から違和感ははっきりとあった。
ただ、それを一方通行に問おうにも幼い少女が彼にべったりでタイミングを逸してしまった。
打ち止めと番外個体が、或いは美琴以上に体中を掻き毟りたくなる程に妬ましいと思う幼い少女。恐らく、最もダイレクトに一方通行の愛情を受けている少女。
違和感は一方通行そのものではなく、その幼い少女にも、そして美琴にもあった。
言うなれば違和感は薄くそして頑強な膜のように三人を包むようにして存在している。


「あの人も想ちゃんにやたら甘いし。甘いのは前々からだったけど…遠慮が無くなったような感じがしたの」

打ち止めは上手く言葉に出来ずもどかしげに唇を歪める。
ただ、彼女の言いたいことは番外個体にも美琴にもわかる。
何がと言うわけではない。ただ、一つ一つの仕草、接っし方が違うのだ。撫でる手、微かに緩める目元、和らげた声、抱きついてくる少女を受け止める時に背に回す腕。
一つ一つに躊躇が無くなってきているのだ。

まるで、きっちりと覚悟を決めたように。

最初こそ、自分の嫉妬がそう思わせているにすぎないとも思ったが、美琴の言葉がそれを否定していた。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/27(水) 21:52:17.18 ID:wqIou5i80<>
「やっぱりお姉さまは知ってるんだね」

「っていうか、お姉さまが関わってるの?」

うっかり砂糖を入れすぎてしまったコーヒーを飲んだように、ぎくりとした頬のこわばり。
事情を知る者だけが浮かべる心当たりに行き着いた瞳。
美琴の正直さが事実を悟らせる。同時に、おそらくそれを知るのが美琴と想くらいなのだろうと言う事実も。


「別に大した事じゃないわよ」


心の底からそう思っているように美琴は笑う。
過ぎた事を笑い飛ばすような清涼さで。


「アイツが自分が家族だってやぁ〜っと気づいただけっていう話。うん、ホントただそれだけのことよ」

パシャと湯を掬うと、美琴は軽く顔を洗う。
話を打ち切るのではなく、照れ隠しのようなその仕草に、打ち止めが唇をとがらせる。番外個体も不服そうだ。
事実を話されたが、重要なポイントをはぐらかされたような心地がした。
家族、家族、家族。番外個体が繰り返し呟いた。
手の中で着け方のわからぬアクセサリーを持て余すように。


「家族、家族、家族か」


短く息を吐くように打ち止めが笑った。
うんざりしたように、彼女にはおよそ似つかわしくないはずの笑みが大人びた横顔にしっくりとき過ぎていることに美琴は戸惑う。


「何か意地の悪い笑みね」

「あの人もいつもそう言うの。ミサカを家族って」


淡い笑みを浮かべる。





「便利な言葉だよ、家族って」



そう呟いたのが打ち止めだったのか。

それとも番外個体だったのか。

美琴にはわからなかった。





<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/04/27(水) 21:53:57.09 ID:wqIou5i80<> 以上で投下終了です。
根性馬鹿と年増処女…もとい、軍覇と神裂は過去編の後にします。

それではまた。 ノシ

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(広島県)<>sage<>2011/04/27(水) 21:59:58.77 ID:ch5yedmBo<> 乙。美琴さんの胸はベクトル操作で巨乳になるんだぜ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/27(水) 22:00:05.91 ID:GBFWUzdUo<> 乙

番外と打ち止め、そして妹達(の一部)はどう思ってるんだろうね。
複雑だろうな。
素直に祝福できるんだろうか、それとも…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/27(水) 22:00:55.83 ID:ns+dym9Do<> 超乙!

電磁通行一家のほのぼのが進む反面、打ち止め&番外個体のストレスが貯まっているのか……
なんとか吹っ切れるといいんだがなぁ

>根性馬鹿と年増処女…もとい、軍覇と神裂は過去編の後にします。
ねーちんはバージンか……でも膜は破れてそうだな、運動量的に <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(茨城県)<>sage<>2011/04/27(水) 22:01:07.41 ID:AVSptaGDo<> おい、そっちに長い刀もった女が行ったぞ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県)<>sage<>2011/04/27(水) 22:01:48.74 ID:g3AOmHmjo<> 乙
なんだかんだいって姉妹仲いいね、ほっこりする <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/27(水) 22:17:43.33 ID:3Fw8dyQIO<> つか美琴は結局妹二人を恋愛うんぬんで人のこと言えないって訳よ
ところでもし一方さんが巨乳好きだと答えたら美琴はどうするんだろう?
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)<>sage<>2011/04/27(水) 22:22:33.62 ID:U2cMhkODo<> おつおつ

次は過去偏か…
ほのぼのがいいんだが、そうもいかないんだろうな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<>sage<>2011/04/27(水) 22:35:38.71 ID:0usNWX1R0<> 乙!
次回は一方通行と美琴が出掛ける話かな?
wktkしっぱなしだわ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)<>sage<>2011/04/27(水) 22:44:45.14 ID:ME90dR/Vo<> 乙
二人でお出かけとか、ナニが起こるんだろう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<>sage<>2011/04/27(水) 23:17:52.70 ID:0nvChzBzo<> >>241
アイデンティティが無くなっちまうよ…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/27(水) 23:23:33.27 ID:dkBTKs7Io<> > 「便利な言葉だよ、家族って」

不覚にもwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww柚姉おつwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/28(木) 00:03:11.88 ID:iD3/7rWJo<> 乙
2人でってことは妹達関連かな・・・
打ち止めと番外個体には悪いが、三人の時のあーくんは本当に幸せそうでいいな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/28(木) 01:02:30.34 ID:o8F+8GwDO<> 打ち止めちゃんマンドクセwwwwwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2011/04/28(木) 01:28:38.60 ID:OUKvuCpG0<> まさかのうたらじネタかww
乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/28(木) 03:26:55.10 ID:IEWOKlUuo<> しみじみとした「便利な言葉だよ家族って」は脳内再生できない
初出のインパクト強すぎなんだよwwwwwwww
乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/28(木) 04:48:30.61 ID:hxb3lZR40<>

>小さくてしこりのような固さを秘めた柔らかなお尻
>骨の形がわかる胸の固い感触
>幼子特有のぽこんとしたお腹のぷにぷにとした感触



………ふぅ…
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/28(木) 07:01:05.48 ID:Sh/C3EFIO<> >>256
おまわりさー ん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/28(木) 08:17:12.81 ID:AmiYO2NTo<> >>256
親御さーん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/28(木) 10:21:16.19 ID:636JJSaDO<> >>256
そっちにラビ太郎によく似た人物が凄い速度で向かっていったぞ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2011/04/28(木) 11:05:32.51 ID:sTTnOg+zo<> >>256
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 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(鳥取県)<>sage<>2011/04/28(木) 11:27:51.34 ID:e03nQpJ3o<> 大恋愛して子供一人産んでるんだから女性ホルモンの影響で胸大きくなっててもよさそうなもんだが… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2011/04/28(木) 11:31:47.07 ID:OhiEwd0do<> 大恋愛って関係無くね?恋すればホルモン出て、成長とか言うけど、恋愛の質?みたいので分泌とか変わるのかね
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(沖縄県)<>sage<>2011/04/28(木) 12:51:15.40 ID:WE0PxQqgo<> >>261
貧乳の知り合いの話によると、授乳期は一旦大きくなるが、終わったら元戻るらしいよ
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/28(木) 12:53:39.90 ID:1ZwlctEdo<> つまり二人目を仕込めば・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/04/28(木) 17:33:16.53 ID:MuD0RHCG0<> つまり一方通行をシコれば… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/28(木) 18:04:37.81 ID:FAG51m3t0<> >>265
すごいパーンチ!×100 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/28(木) 19:44:21.69 ID:hxb3lZR40<>
想タン!想タン!想タン!想タンンンンぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!
あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!想タン想タン想タンんんんぅううぁわぁああああ!!!
あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん
んはぁっ!御坂想タンの亜麻色ロングの髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!
間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!
バレンタインSSの想タンかわいかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!
あーくん家族宣言してくれて良かったね想タン!あぁあああああ!かわいい!想タン!かわいい!あっああぁああ!
入浴シーンも書かれて嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!
ぐあああああああああああ!!!SSなんて現実じゃない!!!!あ…SSも幼女もよく考えたら…
想 ち ゃ ん は 現実 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!
そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!膨張熱ぅぅぅぅぅぅ!!
この!ちきしょー!やめてやる!!現実なんかやめ…て…え!?見…てる?PIXIVの想ちゃんが僕を見てる?
想ちゃんが僕を見てるぞ!想ちゃんが僕を見てるぞ!イラストの想ちゃんが僕を見てるぞ!!
幼女な想ちゃんが僕に話しかけてるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!
いやっほぉおおおおおおお!!!僕には想タンがいる!!やったよ姫神!!ひとりでできるもん!!!
あ、ウサギコートのぱっつんの想ちゃああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!
あっあんああっああんあ一方通行様ぁあ!!むぎのーんー!!はぁまぁづぅぅらぁぁああああああ!!!絹旗ぁぁぁぁああ!!
ううっうぅうう!!俺の想いよルイズへ届け!!学園都市の想タンへ届け!

ふぅ……


この>>1の描写には毎回唸らされるが、今回の入浴シーンは白眉の出来だったと思う。
特に幼女の身体の特徴を描き、その上でいやらしさを感じさせないという手腕。
この作者の描く人物は男性も幼女も何処か色気が漂う。
作品の描写や文章のバランスが私個人の趣向に合っているというのも勿論理由であるのだが。
何はともあれ、>>1乙。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/28(木) 19:53:53.59 ID:FAG51m3t0<> >>267
こ、これがレベル6…駄目だ、勝てない… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/04/28(木) 19:54:12.43 ID:Ns+HK4IQo<> 美琴の胸は打ち止めはともかく同じ程度になるはずの妹達よりも小さいから当時は相当穏やかじゃなかったんだろうな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)<>sage<>2011/04/28(木) 21:00:53.36 ID:Zbv1HOmMo<> オリジナルだけひんnスレンダーなのは運動のしすぎなんだろな。
放電体質のせいでめちゃめちゃ新陳代謝よさそうだしww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/28(木) 22:50:40.26 ID:AmlsVV+Yo<> 豊胸の方法ってメチャクチャたくさんあるじゃん?
そしてどれが効果的なのかって個人差があるじゃん?

妹達がそれぞれ別々の豊胸方法を試してみて
一番効果あったやつを全員でやればみんな巨乳になれんじゃね? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/28(木) 23:48:33.44 ID:pZ0duyK7o<> >>271
妹達を使った絶対豊胸進化(バストサイズシフト)計画か
胸が熱くなるな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/28(木) 23:53:04.83 ID:xnlGpfB1o<> 20000通りの豊胸の末、バストレベル6に到達するんですね。

そして貧乳派に邪魔されると。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/29(金) 05:37:30.78 ID:VyvJg3uIO<> 相変わらず心情描写ぱねぇ…何が凄いって心の距離感の表現が上手い。
あと一方さんと女の子を美しく描写しますよね。

貴方の書かれる物語はいつもいい意味でジリジリするよ、まったく? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/04/30(土) 18:41:34.24 ID:nkXegkku0<> まだかなー
<> インタビュー〜超御坂編<>saga<>2011/04/30(土) 19:26:04.43 ID:chLjPMpP0<>
初春「貴方の好きな人のいいところは?どんなところが好きになりましたか?」




打ち止め「これってオフレコ?あの人にバレないよね?」

――― はい、勿論。一方通行さんには内緒にしておきますから

打ち止め「良かった〜バレちゃったらどんな顔して会えばいいのかわからないところだったってミサカはミサカは胸を撫で下ろしてみたり」

―――(バレバレなのに…一方通行さん以外)

打ち止め「あの人はね、ミサカのヒーローなの。強くて、優しくて、でもホントは傷つきやすくてね…あと超寂しがり屋で、たまに迷子みたいな顔してるの見ちゃうと堪らなく胸が痛くなっちゃいますよね」


――― そういういじらしいところを前面に出せばいいのに…

打ち止め「そ、そんなことわかってるもん!!何度もリハーサルしてるんだもん。でもいざあの人を前にするとつい思っても無い事が…」

――― まぁ、遺伝子レベルでツンデレなら仕方ないですよ〜




番外個体「ハァ?好きなところ?あるわけねーってのぶひゃひゃひゃ!!ミサカがなンであンなモヤシのこと好きなわけ?マジ受ける〜
     大体あんなすぐに人の事ガキ扱いするわ、過保護だわ、真顔で『守ってやる』なんて恥ずかしいことほざくわで、ほ〜んと
     キモ過ぎてミサカ困っちゃうんだけど。吐きそ〜う。大体この前だってさぁ〜(以下略」

――― 誰も一方通行さんだとは一言も言ってないんですけどね〜

番外個体「に゛ゃッ!?」

――― インタビューを続けたいのですが、話せる状態じゃないので次いきましょう




美琴「好きな人のいいところ?」

――― はい。御坂さんはいないんですか?もしかして、亡くなった想ちゃんの旦那さんのことを話すのは辛いとか…

美琴「え?ああ、そういう心配いらないわよ。初恋は感慨深いけど、まぁ、所詮思い出は思い出。
   終わった過去だからね。
   思い出に浸って生きていく程暇じゃないし。第一操なんて立てる義理もないし。」

――― お、ということは今は別に好きな人が?

美琴「ふふふ。ナ・イ・シ・ョ」

――― お願いですから。オフレコにしますから。ね?

美琴「う〜ん…放っておけないヤツならいるかな?」

――― ほほう。

美琴「危なっかしくて、不器用で、情けなくて、その癖自分ではしっかりしてると思い込んでる馬鹿よ」

――― 面倒くさい男ですね〜

美琴「でしょ〜?もう、ホント困ったものだわ。あははは」

――― 嬉しそうですね御坂さん。

美琴「そっかな〜?」

<> インタビュー〜超御坂編<>saga<>2011/04/30(土) 19:38:14.10 ID:chLjPMpP0<>
垣根「何やってるの?飾利?」

初春「インタビューを纏めてるんですよ」

垣根「インタビュー?」

初春「ええ。とある第一位のファンからお願いされまして。ちょっと一方通行さんの好感度調査を」

垣根「ふぅ〜ん…って御坂ばっかじゃん…」

初春「今回は御坂遺伝子編で。あとは美鈴さんとかもありますけど…これはまた今度で」

垣根「アイツも昔は結構アレだったからな〜土御門のナンパに付き合ったり…ところでこの俺にはそういう依頼は…」

初春「ありませんよ?」

垣根(´・ω・`)




〜おまけ〜


想「あーくんの好きなところ?」

初春「はい。あげられるだけでいいからね?」

想「ええとね、かっこよくてね、やさしくてね。それでね、ホットケーキもおしいの。
 
  あたまあらうのも気持ちよくてね。いいにおいするの。それでね、んーとね、ぜんぶ!!」

初春「あははは。そうだよね〜」(いや〜ん可愛いです〜〜!!)


初春「あ、それじゃ、特にここが好きっていうのあるかな?」

想「ひとつ?」

初春「うん。想ちゃんが一方通行さんのとくにここが好きっていうところ」(えへへ、ちょっと意地悪だったかな)


想「さこつ」







初春「……え?」

想「さこつ。あーくんのさこつ」


さこつ ――― 鎖骨


初春「鎖骨…ですか」

想「あい。さこつなの」

初春(この子……出来るッ)ゴクリッ







<> ちなみに依頼者は親船さんです。<>saga<>2011/04/30(土) 19:40:14.70 ID:chLjPMpP0<> 今日はちょっと小ネタを投下しました。今日は疲れすぎてちょっと無理ですこれ以上。
きちんとした投下は明日行いますので。それでは ノシ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)<>sage<>2011/04/30(土) 19:41:05.14 ID:KqvWzay0o<> 乙!

さこつクソ吹いた
想ちゃんレベル高すぎるだろ… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/04/30(土) 19:49:07.24 ID:nkXegkku0<> 乙つつつ!!!
想ちゃん…デキルな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/30(土) 20:08:27.57 ID:lZ00x6vRo<> 乙!
想ちゃんすげぇ・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/04/30(土) 20:11:54.17 ID:U52i/p+90<> 想ちゃんが俺と同じフェチズムでクソワロタwwww
想ちゃんとはおいしいレモンティーが飲めそうです <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(群馬県)<>sage<>2011/04/30(土) 20:16:04.11 ID:4u78N/AN0<> 乙セラレータ
くそっww流石俺たちの天使様は目の付けどころがちがうぜwwwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2011/04/30(土) 20:22:35.59 ID:JC/Re/myo<> 性格とかじゃなくて身体部位なのかww
迷いなくきっぱり言ってそうなところがまた罪深い。

初春かわいいなーさらっと全編に渡って黒いのがいいよいいよー。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/30(土) 20:35:24.89 ID:d9VraMAvo<> くっ、20000号を期待していた自分がいる……乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)<>sage<>2011/04/30(土) 20:46:39.68 ID:rUoPnmWKo<> この子の将来色んな意味で不安ですww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/04/30(土) 20:58:09.04 ID:9QfHklCKo<> なんか想ちゃんって将来とんでもない紳士・・・いや淑女になりそうで不安なんだがwwwwwwwwww
乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/30(土) 21:33:32.34 ID:haTcEepDO<> 想さんと呼ばざるを得ない <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/30(土) 21:38:14.77 ID:mD1bR8Xto<> 一方さんスレでも前に鎖骨部分がエロいといって
鎖骨〜首筋のあたりばっかり集めた画像貼られてたな… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/30(土) 21:40:22.58 ID:Bg8RLKP6o<> 「…………」ジーッ
「(……なァンか首元に視線を感じンだよなァ)」
「(良い鎖骨)」ウホッ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/04/30(土) 21:41:53.17 ID:oZSr0BK70<> 依頼人まさかの親船さんに吹いたwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/30(土) 21:53:58.55 ID:UbYrOTEYo<> 想ちゃんは美琴の娘だなー
潜在的な変態という意味で^p^ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/30(土) 22:10:33.78 ID:cOEXaYkDO<> 全然話進まないな

飽きた <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/04/30(土) 22:13:16.29 ID:oZSr0BK70<> >>293
逆に考えるんだ、話が速く進むと終わり(=俺達の精神崩壊)が早くなってしまうじゃないか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)<>sage<>2011/04/30(土) 22:13:45.77 ID:rUoPnmWKo<> なんかわからないけど、想もそうだけど鎖骨舐められる妹達とか
一方通行絡みのスレだと鎖骨ネタを良く見る不思議ww
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/30(土) 22:29:27.13 ID:DjhyhYUJo<> >>294
お前みたいな奴が書き終えた作者に「番外編投下してくれ」とか言い始めて良SSを腐らせる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/30(土) 22:47:35.72 ID:ZDDKKAwDO<> >>293

馬鹿めこれはメラゾーマではないメラだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<>sage<>2011/04/30(土) 23:25:26.71 ID:AmKWXKuX0<> 乙〜
鎖骨か…想ちゃんとは美味いジュースが飲めそうだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(徳島県)<>sage<>2011/05/01(日) 00:04:52.12 ID:41nwB/a40<> ところでどちらの親船さんなのかな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2011/05/01(日) 00:46:50.44 ID:NM9JCxdb0<> 最中じゃね?面白いし
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/05/01(日) 02:23:00.43 ID:cn0NfImSo<> 20000号が美琴のクローンなんだから
想ちゃんにもそれに近い性癖があるって事か・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/01(日) 06:06:30.78 ID:wwXz5TSIO<> 鎖骨で今日の5の2が浮かんだわ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海)<>sage<>2011/05/01(日) 06:11:00.88 ID:mI+cVY/AO<> うん、そうだね、一方さんの鎖骨ってペロペロしたくなるよね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/01(日) 08:24:47.75 ID:c8piLYJIO<> >>303
おい誰だ20000号呼んだの <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/01(日) 10:11:32.59 ID:Aj9Tu/mOo<> >>304
あら、20000号じゃなくても一方さんの鎖骨はペロペロしたくなってもおかしくないと思うわよ
ほら、甘そうじゃない
優しくないけど甘そうだから <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/01(日) 10:20:25.39 ID:FQd9fFL6o<> >>305
ニートは仕事探せ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/01(日) 10:35:40.11 ID:Hf1OGCfDO<> お前らいい加減にするじゃんよ <>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/01(日) 11:44:01.05 ID:5UIRYvZf0<> 時間が出来たので、今から投下します。
よろしくです。 <>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/01(日) 11:47:09.14 ID:5UIRYvZf0<>

雨が降りそうだ。
不機嫌に身体を捩るような鉛雲は天気予報を見るまでも無く雨を予感させる。

シャワーを浴びてからキチンと乾かしていない微かに湿った毛先を指で抓む。これくらいなら放っておけば良いだろう。
姿見鏡を確認する。濃紺のシャツに黒のスーツ。ネクタイはあれこれと悩んだ末に黒にする。
髪を留めるのは普段通り青いゴム。少女がバレンタインにくれた極々普通のものだ。
一度その感触を確かめるように指で転がしてから、髪を一括りに束ねる。

リビングで珈琲を淹れる。黒と蒼のマグカップ。
二つともブラック。シュガーポットは置くだけ。
多分美琴もブラックで飲むだろう。トーストを作ろうかと思うが、半端に齧って残しそうだと思うと作る気力が沸かない。
半分程飲んだところでドアを開ける音が玄関からする。インターホンなど今更するはずも無い。

「おはよ」

「おう。飲むだろ?」

「ありがとう。もらうね」

リビングに上がると、向かいに座る。
美琴は黒のパンツスーツに薄い水色のブラウス。ボディラインがはっきりと浮かび上がるパンツスーツが驚くほど似合う。
珈琲を啜りながら言葉にせずに一方通行は美琴の服装を眺める。

「想は?」

「ちょっと不機嫌。除け者にされてるって思ってるわよあの甘えん坊は」

目に浮かぶようで、小さく息を吐くように笑う。
花の方は無事に届いたと業者から電話があった。数日分仕事の空きは入れておいた。想は浜面に任せた。
とりあえずの心配の種はこれで全て摘み取っておいたことになる。
両手でカップを包み込むように持つ美琴の目は黒くどろりとした液体の表面に注がれている。
伏せた瞳から伸びる長い睫毛の優美なラインが際立つ。
美琴が珈琲を飲み終えるのを待つように、袖のカフスを指でいじる。意味など無い。



「そうそう、パパとママもこっち着いたから、向こうで合流しましょって連絡あったわよ」

「……美鈴さンだけじゃなくて、あのオッサンも来るのかよ…」

「そうよ。わざわざベネズエラから駆けつけたんだから」
<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/01(日) 11:48:12.51 ID:5UIRYvZf0<>
「別に命日でも何でもねェだろ」

「口実付けて会いたかったのよ、想ちゃんに」

幼い孫娘を前に、目尻をでろでろに垂れ下げた髭面を思い出したのか、美琴が薄く笑う。
一方通行も似たような想像をしたのだろう、小さく溜息を吐いた。
木山も芳川もわざわざスケジュールを調整したという。

「どいつもこいつも」

続く言葉は無かった。





バスを乗り継いで大10学区に着く。
相変わらずどこか肌に纏わりつくような湿った空気に、一方通行は顔を顰める。
故郷に戻ってきたような感傷など起こるはずもない。

統括理事の入れ替わりの前後で、学園都市はいくつかの変化がある。
内政的なものではなく、外観として。
そのうちもっとも大きな変化があるとすれば、大10学区の『集団墓地』だろう。
戦争、実験、学園都市の闇によって死んでいった者達を弔った総合施設だ。
処分場ではない。墓地だ。
簡易式墓地の前に、一人一輪のみの献花。一日辺り供える事の出来る数は限られている。
そんなところまで合理的なのかという批判もあるが、大半はそのような施設を建てたことへの素直な賛辞が占めている。
合理性についての批判は事実、存在するだけの価値が無いものだった。
弔われている者達の大半が出自の不明な者、名前すら定かではない者ばかりだからだ。
所謂『置き去り』と呼ばれている者などがそれに当たる。
納骨されているものは全体の2割にも満たないという話を一方通行は聞いた事がある。
恐らくそれも大袈裟な話ではないだろう。
遺体が見つからないもの、遺体が判別していないもの、口にするだけで吐き気のする理由には事欠かない。
そして、これから供える1万人は遺体など無いのだ。
総合墓地の一つに、女性の名ばかりが刻まれた一棟がある。
表向きはバラバラの苗字の女性ばかりが刻まれた其処は、しかしあくまでも表向きだ。


「おはよ〜お姉さま〜」
「ウダウダ歩いてるね〜きゃはっ」
「あら、御坂さんも一緒だったのね」


ロビーには既に先客の姿。

制服姿のアホ毛がひょこんと伸びた背中まで伸びた艶やかな亜麻色の髪の少女。
黒中心のミニスカートにニーソックスの釣り目の少女。
そして、眠たげな瞳の妙齢の女。こちらは黒っぽいもののカジュアルな服装だ。
白衣を脱いだだけの普段着といった様相である。おそらく研究室から直行してきたのだろうと一方通行はあたりを付ける。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/01(日) 11:48:57.25 ID:5UIRYvZf0<>
「早ェな」
「貴方が遅いんだよってミサカはミサカは一度家に帰って着替えたミサカ達の方が早く着いたことを疑問に思ってみる」
「大人には色々準備があるンですゥ」
「ムカッ!!またミサカを子供扱いするの?ってミサカはミサカは超憤慨」
「うるせェよ。騒ぐな。場所考えろ9歳児」
「むぅー!!」
「ハイハイ、仲良くじゃれてない。御坂さん、ご両親があちらにお見えになってるわよ?」

芳川桔梗の視線を追っていくと、喫煙コーナーには強面の男。父の旅掛だ。
少し離れてソファーで10032号と談笑している美鈴の姿がある。
美琴達に気付いたのか、美鈴が嬉しそうに手を振る。
一方通行の方を伺うように美琴がちらりと視線を向ける。


「いいから行って来い。つーかクソガキ共、お前らも一緒に行って来い」






「10032号のヤツもちったぁ人間らしく笑うようになったじゃねェか」

「御坂さんや他の妹達と頻繁に連絡を取ってるって言ってるからね。自然と感情も育つわよ」

「マメなことだ」

「そうね。イチイチ花の手配をする貴方ほどじゃないでしょうけどね」

「フン…」

人としての、社会に適応する為の名をクローンの少女達は皆持っている。
打ち止めも、番外個体も、そして当然10032号と呼ばれる少女も。
名付け親は美琴であったり、美鈴、旅掛、芳川や冥土返しが名づけた少女も居る。
一方通行は少女達は人間としての名で呼ぶことは滅多に無い。
そして、名付け親に一方通行は加わっていない。まるで彼女達を普通の人間だと、認めるのを拒むように。

「布束さんに会ったわよ」

布束砥信、クローンの少女達の名付け親に名を連ねる一人だ。
同じ顔をした三人の背を見送りながら芳川が何気ないことのように一方通行にだけ聞こえるボリゥムで話す。
頃合を見計らっていたのだろう。

「下らねェ気遣いしてンじゃねェよ」

何処かで安心していることに苛立ちながら吐き捨てる。

「メールとかやり取りしてるんでしょ?」

「仕事のな」

論文の依頼、研究のアドバイスを求めるものばかりだ。
プライベートなメールをした記憶は、ここ数年紐解いてみても思い浮かばない。
何より、一方通行自身がする気になれないのだ。
<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/01(日) 11:50:37.75 ID:5UIRYvZf0<>
「貴方はもっと別れた女に割り切れるタイプだと思ってたけど。意外に引きずってるのね」

「別れたもクソも、そもそも付き合っちゃいねェ」

「傷の舐め合いから始める恋愛はざらでしょ」

「舐め合いねェ…」

アレはそんな可愛いものではなかった。
傷の曝し合いだ。互いの醜い傷痕を見せ合っていただけだ。

黄泉川の家を出て、研究に没頭していた一方通行。
彼のマンションに布束がなし崩し的に半同棲の生活をするようになったのは夥しい数の妹達が命を落とすようになってからだった。

互いに責めてくれる相手を求めていた。呆れる程にお人好しに囲まれていたから、誰でも良い糾弾してくれる相手が欲しかった。
責めて、詰って、蔑まれて、嘲笑されて。そうされることで自虐心を満たしたかった。
それでも独りは寂しいから、離れることもせずに、人肌恋しさに突き動かされるように肌を重ねる関係。
爛れたと言うには冷めていたし、身体だけの繋がりと呼ぶには同族意識に心が惹かれていた。
布束の何処が好きだったのか、打ち止めが張り詰めた顔で尋ねたことがあった。彼女が高校に上がる前の頃だ。
それはとても難解な質問であり、結局答えることが出来なかった。
打ち止めはそれを彼女なりの思考の果てに不潔と捉えたようだったが、否定はしなかった。


今にしてみれば自分は布束の中途半端な母性が好きだったのかもしれない。

優しいけれども、何処か「足りない」ところが。

胸に頭を引き寄せて、抱き締めてくれるのが好きで、その関係の歪さに気付きながら自分からは離れるタイミングを見送り続けていた。


自分の家族だと名乗る女達も、自分を許し受け入れようとする少女達も、等しく心地良くて、心地良過ぎる彼女達に心の何処かで怯えていた。
誰かに甘えたくて、それが都合の良い考えだということも十分に自覚していた。
だから、ただ拒まず甘えさせずに其処にあるだけの距離感が心地良かったのだろう。それは、今の年齢になってようやくわかることだ。
過度な温もりは恐かった。毛布の暖かさ、ミルクの甘さを知ったら二度と野良に戻れなくなるから。
自分には雨宿りが出来る程度の軒下のような居場所でよかった。雨に濡れることはない、けれども決して温めてくれるわけでもない場所。


研究の終わりが中途半端なぬるま湯のような関係の終わりへと繋がった。
終わりは始まった頃から見えていた関係ではあったが、破綻したのはその頃だ。
完全な止めとなったのは、ある少女が一人の命を生み落とした時。

数少ない私物が引き払われ、流麗な文字で書かれた「元気でね」のそっけない一言と共にキーがテーブルに置かれていた。

あっけない幕引きではあったが、自分達らしいと、妙な納得をして、その日一方通行は久しぶりの独り寝をした。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/01(日) 11:51:43.82 ID:5UIRYvZf0<>

「うふふふ」

「なに笑ってンだよ。張り飛ばされてェか?」

「ふふふ、ゴメンなさい」

芳川が楽しそうに笑う。口ばかりの謝罪の言葉に眉間に皴を寄せる。
一方通行は人も殺せるのではないかという目で睨みつけるが、そんなものに怯える彼女ではない。
彼女にとっては、弟分が背伸びして強がって見せているに過ぎない。

「貴方もそういう顔をする年頃になったのかと思うとね」

「どういう顔だってンだよ」

「気まずそうな顔よ。別れた彼女の思い出でも思い出してたでしょ?」


眉間の皺を指で突く。図星だからか、一方通行は目を逸らすことしか出来ない。
昔の恋人に会った時の気まずさは男のものだ。別れた原因が男にあろうとも女にあろうともそれは変わらない。
女が上書きして塗り潰してしまった大多数の苦い思い出を後生大事に取っておくからかもしれない。
そして、女に会うと、該当する記憶からご丁寧に疚しい部分を切り取って自分自身の鼻先に突きつけるのだ。
少なくとも、一方通行は自分のことをそういう面倒で厄介な部類の女々しい男だと思っている。
平気な顔をしてるように見えるとすれば、単に外面ばかり取り繕う術を身に付けているのに過ぎない。


苛立つ指先が胸ポケットに伸びるのを、細い指が押し止める。
一方通行の手を握りながら、芳川が呆れた表情を浮かべる。

「君ね、せめて喫煙室に行きなさい。それから、煙草の本数はもっと控えた方が良いわよ。御坂さんが言ってたわよ?『本数が増えてる』って」

「そンなことまで話してンのかよ…つーか、逐一ンなところまでチェックしてるとか嫁かっつーの」

「いい子じゃない。嫁にしちゃいなさいよ」

「あァ?」

「冗談よ」

何処までが本音で何処からか冗談だったのか、読めない笑みに舌打ちをすると芳川の手を振り払う。
随分と丸くなった、或いは大人になったと言われる一方通行が未だに彼女の前では子供染みた振る舞いをする。
彼女は一方通行が数少ない頭の上がらない人間なのだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/01(日) 11:51:52.55 ID:RxYs99u20<> うわぁああい!! 生きてて良かった!! <> ◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/01(日) 11:53:02.82 ID:5UIRYvZf0<>
「あら、そろそろ集まったのかしら?」

いつのまにか合流していた10032号を交えて、美鈴と談笑していた美琴達が此方に向かってくる。
芳川が腕時計に視線を落とす。ローマ数字のシンプルな文字盤が8時55分を指す。
そろそろ全員が揃った頃だろう。別に自分ひとりで十分なのだが。一方通行は面倒くさいと言いたげに顔を歪める。

「そんな顔するもんじゃないわ。貴方一人にさせるわけにはいかないでしょ?」

「俺の問題だろォが」

「まだそんなこと言ってるの?」

何度も同じ間違いをする出来の悪い生徒を窘める教師のように、眉を僅かに下げる。



「私達全員の問題でしょ?」





11000本の花を供える。
作業としてもそれはかなりの重労働だ。
隣り合う簡易式に設置された墓地は壁面から50センチ四方のボックス状のスライド式だ。
一列につき100個設置された墓石。それが50列。1階から3階まで続く。
現在設置されているキャビネットは空きを含めて15000人まで収納出来る設計だ。
その内の、嘗てこの世に物として生み落とされた少女達の11000人を占めている。4000人の少女達は、それぞれ、彼女達が暮らしていた場所に弔われた。
本当は、全て此処に集約したかったのが本音だった。けれども、結局はそれぞれの土地で埋葬してもらうこととなった。

物として生み落とされた場所よりも、人として生きてきた場所こそが彼女達に安らかな眠りを与えられる場所だから。




わずか50センチでも一列は50メートルに及ぶ。その一つ一つに花を供えていく。
一階、二階、三階と手分けして供えていこうと、皆に指示を出すのは美琴だった。一方通行はそれを集まった人だかりから少し離れて見ている。
何処だろうと関係が無い。何処も等しく自分の犯した罪が拭い切れない汚泥のようにへばり付いている。
集まった人々の顔ぶれを、壁にもたれて眺める。
美琴、10032号、打ち止め、番外個体、芳川。御坂美鈴に夫の旅掛。そして布束砥信。

「ホラ、アンタと私は一階だから」

美琴の声に頷く。持分を確認してから、それぞれが自分の担当する場所へと向かうところだった。

「ぞろぞろ、ぞろぞろと…どいつもこいつも暇なことだ」

憎まれ口に美琴がわざとらしく溜息を吐く。
<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/01(日) 11:53:55.89 ID:5UIRYvZf0<>
「アンタに同情して皆集まる程暇じゃないわよ。ただ、アンタばかりズルイっての」

「なンだ、そりゃ」

「謝りたいことも懺悔したいことも、話したいことも……みんな山ほど抱えてるのよ。アンタばっかりに勝手気ままにケジメ付けてるんじゃねーっていうこと」


それが美琴の不器用な慰めだということはわかっていた。
死んでしまった少女達を悼むことはあっても、こんな風に時間をやりくりしてまでする必要は無い。
それぞれが自分の都合ですればいいのだからわざわざ集まって作業分担する理由はない。
それでもこうして集まるのは、それぞれが不要なまでに罪悪感を抱いているから。そして一方通行独りに背負わせないという気持ちからだ。
どいつもこいつもお人好しの馬鹿野郎共だ。口の中で毒づく。
美琴から20本で一束の花束を受け取ると、一方通行は気怠るげに一番端の墓石へと歩いていく。
片手に、黒いスーツの青年が歩く姿は、美琴に昔見た古いギャング映画を彷彿とさせる。
カツカツと革靴が冷たい音をタイルに響かせていく。
その一歩一歩をどんな気持ちで踏みしめているのだろうか。その後ろ姿から彼が何を思っているのかは伺えない。



一人あたり1200人。分担と言うと事務的な響きがする。
だから最初は一方通行は彼等とは別個に献花をするつもりだった。元々、最初は独りでしていたのだからそれで良かった。

「全員でやった方が早いでしょ」とさらりと言ってのけたのが芳川であり、

「ミサカ達と一緒では心苦しいのですか?」と挑発するように薄笑いを浮かべてきたのは10032号であった。

「水臭いぞシロくん」と美鈴に押し切られ、「全員で会いに行ってあげれば寂しくないよ」と邪気の無い打ち止めの言葉。

「自分で直接花を供えないと、侘び一つ入れられない程度のもんなのアンタ?」という美琴の言葉がダメ押しだ。

考え返せば、どうにも言いくるめられた感じが拭えない。
苦々しく思いながら、壁際のキャビネットの前に立つと、簡易墓地を引き出す。
可愛らしいサイズの墓石に刻まれた文字を見つめる。



『御坂   』



美琴の名から一文字取った名前の墓碑。

00001号 ――― 最初に殺めた少女に与えられた、ありふれた普通の女の子の名前。

一方通行は、瞳を眇め、墓碑銘をそっと白い指先で撫でる。

暫く、唇を引き結んだままじっと墓碑の前に立ち尽くす。
やがて、花束から一輪取り出すと、小さな墓石の前にそっと置く。
ボタンを押すと、墓石が引き戻される。形だけの墓だとわかっていても、胸に生じた苦さは消えない。


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/01(日) 11:54:37.46 ID:5UIRYvZf0<>

1万人の少女達の遺骨は存在しない。
少女達の遺骨を回収して、弔ってやろうとした時、既に少女達の身体は廃棄物として、処理された後であった。
損傷の激しい遺体は、臓器移植にも、実験用にも使えず、純然たるただの死体であった。
そして、それはタンパク質の塊としてしか少女達を見ていなかった学園都市の人間にとっては生ゴミに過ぎなかった。
少女達は死して尚、人間として扱われることが無かったのだ。
それもまた、自分の行いの行き着いた末路だ。一方通行は自嘲するように短く息を吐く。


それは毎年行われる儀式であった。

最初は一人で行っていた作業だ。

誰にも教えずに、何日もかけて一つずつ供えていく。

それは拷問のような時間であると同時に、底なし沼のような安心感を一方通行に与えてくれた。
何よりも一方通行にとって心地良かったのは、此処ならば思う存分一人で自己嫌悪と自虐的思考に耽る事が出来るということ。
11000人の献花は、うんざりする時間であるが、一方通行は長いと思ったことはなかった。
自虐、自己嫌悪、罪悪感、それらを胸の中で転がすには時間はいくらあったも足りない。
10000人を弄り殺してしまった罪悪感。
5000人を見殺しにしてしまった無力感。
墓の数が10000人から11000人に増える以上に、自身を責め苛む材料は増えていった。





<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/01(日) 11:55:15.09 ID:5UIRYvZf0<>

不機嫌だった鉛雲は、どうやら完全に癇癪を起こしたらしい。
泣きたくなるような雨が目の前で降り続けていた。
人気の無いロビー、灰色を中心とした石造りのビル。外も中も、自分の服すらモノトーンで固められている。

フロアの中心部に立てかけられた時計は5時を回っていた。
約半分を回り終え、残りは明日再び朝からすることになっている。




「さてと、何処かでお昼でも食べましょうか」

「じゃあ、おススメのお店教えてくれる?」

ロビーで交わしていた10032号と美鈴の会話を思い出す。
さばさばとした、割り切った会話だと思った。
彼女達だけではない、打ち止めも、番外個体も、芳川も、誰もが違和感無く話していた。
かなり遅めの昼食の、或いは早めの夕食について。
きっと、彼女達のなかでは、オンとオフのように切り替えることが出来るだけ、整理のついていることなのだろう。
それを薄情だとは思わない。寧ろ当然のあるべき姿。健全な証拠だろう。
死者を思ってメソメソと泣き伏し、食べ物も喉を通らないなどと言う状態から何年経っても立ち返れない方が異常なのだ。
ナイーブ過ぎることは決して美徳ではない。
いつまでも過去に囚われ続けるようなセンシティブな性格は寧ろ病に近い。
元来人は物事を忘れ、或いは思い出として、前に進むものなのだから。
一方通行自身も、そうだ。食欲が無くて、眠れないなどということはここ数年は無い。
それでも、終わった後に彼女達の顔を見ながら食事をするのは気が進まなかった。



黒のソファーに仰向けになるようにだらしなく座ると、ネクタイに指を掛ける。

一瞬の躊躇の後、緩める。



「シロくんったらネクタイが曲がってるじゃない。美琴ちゃん達もまだまだね〜」


献花の前、そう言って美鈴が正してくれた。
甘い香り。美琴や番外個体とも、打ち止めや想とも異なる香りがふわりと鼻腔をくすぐる。
いつの間にか頭一つ分低くなっていた美鈴の顔が近くにあることに、奇妙なざわつきを覚える。それは詩菜に対しても抱く落ち着かなさだ。
母性を強く匂わせる女を前にすると、不思議なまでに自分は無力に、或いは聾唖者のように無垢なまでに言葉を失う。
ただ、彼女達の為すがままに流されてしまいそうになるのだ。そうすることが心地良いと知っているから。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/01(日) 11:56:39.05 ID:5UIRYvZf0<>
ネクタイを緩めると、シャツのボタンを三つ開ける。
だらしないと咎める相手はいない。胸ポケットから煙草を取り出す。数時間ぶりの至福に瞳を細める。
紫煙が灰色の世界にするする、ゆるゆると溶けて行く。

世界全てが無彩色だ。

此処の冷たい空気は、静かに、ひっそりと心を何処までも沈めてくれる。


此処の空気は酷く陰鬱で、心地良かった。
それは何年経とうとも、不思議なことに変わらない。
あの頃、疲労困憊するまで自虐の海に浸れることは一方通行の心の均衡を危ういところで保つのに貢献していた。


今はどうだろうか。


ふと自分の中に問い質す。
あの頃のような沈みこむ感覚が無い事に気付く。
今の自分は単に、少しばかり感傷的になっている程度だ。


どうしてだろうか。


もう一度、自分の中に疑問を投げかける。
答えなど期待などせずに。
しかし、期待しない答えほど、案外向こうからやってくるものだ。


「なに浸ってるのよ?カッコつけるの好きよねアンタって」

「………お前…どうして」


水音を立てながら、びしょ濡れの美琴はその質問に答える前に、一方通行のとなりに無遠慮に座る。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/01(日) 11:58:07.30 ID:5UIRYvZf0<>

「イヤだ、びしょびしょじゃない〜このスーツまだ三回くらいしか着てないのに」
「オイ…」
「あ、ちょっと、向こう向いててくれる?」
「あァ?何言ってンだよ」
「エッチ!こっち見るな」

美琴は完全に雨水が染み込んでしまった上着を脱ぐ。
薄水色のブラウスの下からミントグリーンの下着が透けて見えた。
そっぽを向く一方通行の耳に衣擦れの音。
ひやりとした寒色のロビーに慌ただしくハンカチで水気を取るべくシャツを叩く音が何処か場違いに木霊する。
どうやら、乾くまで待てということらしい。
美琴の考え無しぶりに舌打ちをすると、ジャケットを脱ぐ。

「ちょっ…」

頭の上から乱暴にジャケットを投げつけられ、美琴が短い悲鳴を上げる。


「隣でばたばたごそごそウゼェンだよ。それ被って大人しくしてろ」


文句を言おうとした矢先に一方通行のぶっきらぼうな声が美琴の言葉を抑え込む。
言葉は美琴の口の中で行き場無く転がる。
霧散した言葉を掻き集めて紡ぐことが出来たのはたった一言だった。




「ありがと…」


ぽつんと呟かれた言葉に、口角を吊り上げる。

「ハッ…風邪引かれたらクソメンドウだからな。つーか、風邪ひきやがったら想を避難させて放置するからな?」


煙草をゆっくりと吸い込む不機嫌な横顔を美琴はじっと見る。
一方通行のジャケットを羽織ると、微かに甘い香りが美琴を包んだ。
それが彼の吸う煙草の銘柄と同じ香りだと気付く。
くん、と鼻をジャケットの袖、襟に近づける。
甘い煙草の香りの他に、一方通行自身の匂いの存在に気付いて美琴の頬が朱に染まる。
今更ながらの奇妙な恥ずかしさに黙り込む。
一方通行は雨を眺めたまま何も言わない。基本的に自分から何かを喋るほど口数の多い男ではないのだ。


静寂、静謐、静穏の中、一方通行の吸う煙草の煙だけが、ゆったりと空間の中を泳いでいた。


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/01(日) 11:58:53.56 ID:5UIRYvZf0<>

「どうして」

沈黙がどれ程続いただろうか。断続的に続く雨の打つ音が、心地良く美琴の耳朶に反響していた。
美琴の思考が輪郭を失うように曖昧になり始めた頃、ぼそりと呟く声が彼女を一気に引き戻した。


「どうして戻ってきた?」


少し咎めるような、窘めるような声色。
想が悪戯をした時に彼が上げる声と同じものだ。
前を見つめたままの一方通行の横顔から、美琴も同様に絶え間なく降りしきる雨に目を向けた。


「アンタが独りになりたそうだったからね」

「意味がわからねェ…」

「一人になりたくなるのは誰だってあるけど、アンタは独りになろうとするでしょ。すぐに。それで碌な事考えない。全く。勝手に。だから邪魔しに来たの」


余りにもあまりな物言いに、一方通行は暫く言葉を返すことが出来なかった。
雨がアスファルトを打つ音がしばらく鳴り響いた後、小さく息を吐き出すような笑い声がした。
馬鹿にするのではなく、純粋に彼が嬉しい時、楽しい時に見せる笑みだ。


「親子揃って……」

「どっちの意味?」


美鈴と美琴なのか。
それとも美琴と想を指しているのか。
純粋な興味として美琴は聞き返す。

「どっちもだ。犬コロみてェに嗅ぎ付けてきやがる」

                  ――― おちおち沈ませてもくれない。


「いや、お前らの遺伝子全部そうか」

声を立てて笑う。
美琴もつられるように笑う。


「今更気付いたの?馬鹿じゃないのアンタ。遅過ぎでしょ」

「まったくだ」

「ホント、ヘタクソね」

         ――― 生き方が。


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/01(日) 11:59:34.99 ID:5UIRYvZf0<>


「その言葉ホント好きだなお前」

「だってそれしかないじゃない。ずっと前からアンタそうでしょ?」

「そうだな…そうかもしれねェ…」

「ねぇ、どうして想ちゃん連れてこないの?」

「こンな空気に触れさせたくねェ…」

「過保護ね。あの子はそんなヤワじゃないわよ」

「………」

「いい加減此処の子達にも会わせてあげないと。皆の娘なんだから」

「皆の娘……か」

「そうよ」


懐かしい言葉だった。




「そういや…こうしてお前とベラベラ喋る日が来るなンざ想像もしなかったな」

「お互い必死だったもんね」





皆の娘。
それは、想が生まれた時に口にした言葉。
美琴ではない。
10032号だった。
独りきりの空間に、突如現れた美琴の存在が、隣に生まれた温もりが、一方通行の沈みかけていた気持ちを浮上させる。
同時に、彼の感傷はずるずると懐かしい記憶を呼び覚ましていく。


一方通行と美琴。
紅の瞳と、鳶色の瞳が灰色の世界を、その奥に横たわる追憶へと向けられる。
雨はまだ止む気配を見せない。





<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/01(日) 12:01:23.92 ID:5UIRYvZf0<> 以上で投下終了。
次回から過去編入ります。よろしくです。
冗長だと思われるかもしれませんが、出来るだけ省かずに描いて行くつもりです。
出来てるかどうかは別として。

それではまた ノシ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/01(日) 12:24:33.85 ID:FQd9fFL6o<> 「お互い必死だったもんね」

……いろんな意味だよなぁ……

乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/01(日) 12:31:40.71 ID:RiirjrhQo<> 乙
やっぱ、それぞれが自分の中で罪悪感を持ってるんだな・・・
で、一方通行はそれをまだ完全に吹っ切れてないのか・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/05/01(日) 12:53:09.67 ID:NM9JCxdb0<> 乙!!
一方さん… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)<>sage<>2011/05/01(日) 13:39:48.10 ID:X9+aAIPdo<> おつです
相変わらずの距離感がいいなぁ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(石川県)<>sage<>2011/05/01(日) 19:13:12.48 ID:ak49PvNuo<> 最近近すぎるというか
雰囲気が家族から恋人になってきてるよなあ。
男女関係でない電磁通行を期待してた身としては
複雑な思いだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<>sage<>2011/05/01(日) 19:20:58.84 ID:Km1KQxP00<> 乙です
切ないのに>>320の2人のやりとりにニヤニヤしてしまった
毎回思うんだけど>>1の文章力というか表現力?は凄い <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/01(日) 19:29:42.69 ID:RdwARGE10<> 過去編か……
見たいのは確かだが、まだ吹っ切れてない一方さんを見るとなると心が……
つまり何が言いたいかって言うと待ちきれないぜチクショウ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2011/05/01(日) 21:05:06.72 ID:jgy2tuBGo<> 我々はミサカだ。一方通行を同化する。抵抗は無意味だ。

徐々に彼だけの領域を侵食していくその手腕、御坂一族まじ怖いでえ…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/01(日) 23:54:55.20 ID:lH8Js02IO<> 本日から貴様らは妹達である
姉妹の絆に結ばれる
貴様らのくたばるその日までどこにいようと妹達は貴様らの姉妹だ

多くは絶対能力者計画へ向かう
ある者は二度と戻らない
だが肝に銘じておけ

妹達は死ぬ
死ぬために我々は存在する
だが妹達は永遠である
つまり―――貴様らも永遠である! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(徳島県)<>sage<>2011/05/02(月) 03:32:28.26 ID:DW/k35GD0<> >>332
微笑み[ピザ]が実弾装填してましたよ軍曹殿 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(沖縄県)<>sage<>2011/05/02(月) 09:02:55.07 ID:AwrBIO0lo<> >>332
エーリカ「気が済んだなら病院帰ろっか、トゥルーデ」 <>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/02(月) 23:25:49.44 ID:J/ybUMlu0<> 12時頃に投下します。よろしくお願いします。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2011/05/02(月) 23:28:10.21 ID:FG+FSoNl0<> 何だと…
すげぇ待ってる!!
今んとこ全裸待機だな。鼻水出てきた <>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/03(火) 00:06:28.54 ID:0VyzdqJM0<> 〜とある未来〜

男「そ、そ、そそそそ、想タン、僕の熱い想い受け取って欲しいんだな、ふひひひ」
想(14)「冗談は存在だけにしてよね、この三下がァ。私あーくんより強くて悪党系イケメンで料理上手で、
    おいしそうな鎖骨してる人以外は基本類人猿にしか見えないンですの…」
男「ひぃぃぃぃぃぃ!?」
想(14)「つーか、マジでキモイ顔これ以上晒して欲しくないんですの。愉快なオブジェになる前に消え失せろってンですの」にこり




一方通行「ハッ!?」


一方通行「……夢…か?」ちらり

想(5)「ZZz…あーくん…えへへへ…zz…」
一方通行「そうだよな。夢だよな…こンな天使みてェな想が…」
想(5)「この…しゃんしたがぁ…むにゅむにゅ…」
一方通行「!?」



では、投下開始します。 <>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/03(火) 00:09:17.88 ID:0VyzdqJM0<>

病院の敷地では入院患者が看護士に付き添われているか一人で散歩をする光景があちこちで見られる。

家族に付き添われている患者の姿はほとんど見られない。

学生が多くを占める学園都市の病院では当たり前の光景だ。

一方通行は資料の束に目を落としたまま缶コーヒーを一口飲む。
ムッと眉間に皺が寄る。思わず缶コーヒーを睨む。
ホットコーヒーは舌の上をぬるりと滑り、些細な不快感をもたらす。
買ったばかりだったコーヒーは随分と温くなっていた。
携帯を開けば、既にこのベンチに座ってから二時間が経過していた。
ベンチに置いたまま随分と時間が経っている。


そろそろ打ち止めと番外個体の調整が終わる頃だろうか。



「時間が足りねェ…」

吐き出した己の弱音に、舌打ちをする。
今更だ。時間が無い事は最初からわかっていたではないか。
嘆くのには遅すぎる。

首のチョーカーに手を当てる。

ネットワークから離れた今、彼女たちの負担は激減しているはずだ。
それでも尚、時間は足りない。
脚を組み替える。

膝に乗せた資料を畳み、ポケットを漁る。
煙草の箱が手に当たる。一方通行のものではない。

これを彼に無理矢理押しつけた男の顔が過ぎった。





<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/03(火) 00:11:43.04 ID:0VyzdqJM0<>


「隣り、良いかい?」

空をぼんやりと眺めていた一方通行に声を掛けてきたのは、派手なスーツに、髭面の恰幅の良い男だった。


美琴の電撃を浴び、入院生活を余儀なくされていた。
すぐにでも退院出来るという彼を押し留めたのは打ち止めだ。
治療に専念するようにと、病院の味気ない食事に、研究資料もとり上げられ、止めにコーヒーを制限された生活は退屈を通り越して苦行に近かった。
せめてもの気晴らしに外に出たものの、退屈なことには変わらなかった。
売店で買った新聞に目を落とす。


大物政治家の秘書、献金疑惑。

学園都市発のイギリス行きの旅客機の墜落事故から七日。日本人大学生の身元判明。

人気急上昇中のアイドル、六日間の不倫旅行?

難航する宇宙開発事業、未だ残る戦争の爪痕、etc…

読むに足る記事はほとんどなく、すぐに読み終えてしまう。
腹が立つくらいに晴れ渡った空を見上げていたら突然声を掛けられた。


実験に勧誘してきた研究所の人間を彷彿とさせる姿に、警戒の目を向ける。
それは射抜くような眼光であったが、男は気づいていないのか、返事を待たずに隣に重石を乗せるようにどっしりと隣に座る。

「煙草吸ってもいいかい?」

煙草の箱を振って見せる。
楽々と一方通行の顔くらいなら掴めてしまいそうな手に煙草の箱はやけに小さく映る。

「好きにしろ」

言うが早く、男はむしり取るように一本取り出し火を着ける。
ごつい外見の通り武骨で長い指が煙草を挟むと不思議と目を引く。

男は目を閉じ、これ以上美味いものは無いかのようにゆっくりと丁寧に煙を吸い込んでいく。
あまりにも美味そうに吸う男を、他に見るべくもののない一方通行はまじまじと見る。
<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/03(火) 00:15:24.55 ID:0VyzdqJM0<>
一方通通行の視線に気づいたのか、男は煙を吐き出すと照れくさそうに笑う。

「いや、すまないね。最近本数が増えてきてると女房がうるさくてね」

男臭い笑みだった。人を見下す時に木原が浮かべていた笑みとも違う。
冥土返しを除き周囲に同年代の男しかいない一方通行にとっては新鮮な笑みだった。
一方通行は返事をすることなく、視線を空へと向ける。
男が吐き出した煙が溶けていく様を、半目で見つめる。

「娘が学園都市にいるんだ」
「あァ?」
「5年になるのかな。今年で高校二年になる。とても可愛くて賢い自慢の娘だよ」

男は聞いてもいない世間話を始めた。
うるさい。黙れ。
普段ならばそう切って捨てているはずだった。
それが男がしゃべるのに任せているのは男に興味が沸いたからではない。
単に暇だったからだ。


「一時は連れ戻そうとしていたのだが、治安もまともになった上に、どうにもこちらの方が居心地が良いみたいでね。親としては少々複雑なんだが」


息継ぎをする代わりに煙草を吸うように、男は話すのと吸うのを繰り返す。


「それにいつの間にかこちらで夢も見つけたみたいでね」


嬉しくも寂しげに瞳を細める。



「子供というのは、自分の知らないところでもどんどん大人になっていくものだとわかってはいたんだが……何とも慣れないものだよ」


娘の成長を喜ぶ反面、自分の手から離れて行ってしまっているのを寂しく思っているのだろう。
それくらいは一方通行にもわかる。
<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/03(火) 00:17:41.38 ID:0VyzdqJM0<>
自分も打ち止めが大人になったときはこんな目をするのだろうか。


これまで考えたこともなかった考えがよぎる。
もし、そんな日が来るとして、それまで彼女は生きられるのだろうか。
打ち止めだけではない。番外個体や多くの妹たち。
彼女たちが無事幸せになってくれるのをこの目にすることが出来るのだろうか。


「何で俺にそンな話をする?」


男は思いもよらぬ事を聞かれたとばかりに目を丸くする。
自分はそんなにおかしな事を言っただろうか。一方通行は怪訝な顔で男を見る。

「いや、すまないな。退屈な話だったな。妻に話しても子離れが出来ていないと笑われるんだよ。
 
 君が娘と年が近そうだったからつい話してしまった」


だとすれば、もう少し相手を選べ。
心の中で毒づく。見た目はともかく、この男はきっと良い父親なのだろう。
父親の記憶が無く、父親代わりの男は最低の屑だった自分にもわかる。
男の言葉の端々から、娘への愛情と信頼がにじみ出ている。


「最近娘が増えてね。顔が見たくて今日は来たんだよ」


増えた。言葉の奇妙さに、一方通行は眉をひそめる。
顎の髭を撫でながら男は嬉しい報告だと呟く。
そいつは良かったな、などという気の利いた言葉を自分に期待しているのではあるまいな。
一方通行はイマイチ掴めない目の前の髭面を凝視する。
どこか油断の出来ない男だと一方通行の中の本能が告げる。
木原のような殺意や敵意が見えないことが一層不安をかき立てる。
男が困ったように苦笑を浮かべた。



「こんなただのオジサンにそこまで警戒しなくてもいいぞ一方通行君」


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/03(火) 00:20:18.35 ID:0VyzdqJM0<>
虚を突くように、刺し込まれた言葉に、短く息を呑む。

「ただ、君に会ってみたくてね」

「ハッ…随分自信があるみてェだな。それとも命知らずのバカか?」

チョーカーに指を掛ける。
爪で弾くだけで、スイッチを切り替えられる。

「そんなに好戦的な顔をしないでくれないか。別に学園都市の暗部に遣わされた、なんていうオチは無いよ一方通行君」

「ハイ、そォですか。なンで信じるとでも?」

「少なくとも君が守りたい子達に害を為す者ではないよ。絶対に」


男の言葉を信じる根拠はなにもない。
口先だけならば何とでもいえる。男は名前すら名乗っていないのだ。


しかし、一方通行はチョーカーに掛けた手を下ろす。



「ありがとう」


男の言葉に舌打ちをする。
一方通行もまた自分自身の行動に戸惑っていた。

「それにしても…」

男は感嘆の息を吐く。

「世界を巻き込んだ戦争を終結に導いた立役者の一人が、まさかこんな華奢な子供だったとはね」

「誰がガキだ」


19の男をつかまえて子供扱いをする男を睨む。


「ははは、気を悪くしたなら謝るよ。だが、アレイスターを君たちが倒した時はもっと幼かったろう?」


アレイスターの名まで知っている事に一方通行の瞳に警戒の色が再び濃く浮かび上がる。
すぐにでも立ち上がれるように姿勢をずらし、油断無く男を見る。


「テメェ…何者だ」

「商社マンみたいなもんだ」

「商社マンだァ?」




「そう。世界に足りないものがあれば、それを手配するのが俺の仕事だ」



<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/03(火) 00:22:57.90 ID:0VyzdqJM0<>

男の言葉の意味を計りかねるように、一方通行が黙り込む。
男は楽しげに頬をゆるめると、おもむろにくわえていた煙草を靴の裏でもみ消す。


「君は世界に足りないものは何だと思う?」


挑むような瞳。
試すような口振り。

ウゼェ。

小さくつぶやく。
呟きは聞こえていたらしく、男は苦笑いを口の端に滲ませる。


「試すような言い方が勘に障るかい」

「わかってンじゃねェか。だが、まァいいさ。どォせアンタが期待しているよォな答えなンざ俺は持っちゃいねェ」


皮肉げに口角をつり上げる。

この男は何という答えを求めているのだろうか。

愛か。

平和か。

それとも笑顔とでも言って欲しいのか。
上条ならば、さらりと真顔で言いかねない答えだ。
ヒーローらしい答えとして。

馬鹿馬鹿しい。

そんなもの、自分のどこを探しても出てこない。
自分の中の「本当」ではない。
普段ならば「知るか」と切って捨てる男の問いに、耳を傾け、答えを探していることに一方通行は気づいていない。


期待を秘めた男の目に挑むように、一方通行は真正面から睨みつける。




「ンなモン無ェよ」


理解が及ぬ答えに男が目を見張る。



「だから、無いって言ってンだ。足りねェモノなンてな」


「ほう…」


興味深げに男が顎をなでる。



「世界に必要なものは君の考えでは何も無いのか?」


「ああ、そォだ。金か暇か、それか欲望なンてモンを持て余したクソ共がかき集めるから足りなくなるンだよ」


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/03(火) 00:24:15.65 ID:0VyzdqJM0<>
身に余り過ぎる理想などという言葉で誤魔化した欲望の犠牲になり続けてきた。
この都市の子供が、少女達が。自分自身すらも。
あったモノを奪われて。だから足りなくなったのだ。


奪われた者は必死にそれを取り戻そうと足掻く。

独占したがる者はそれを手放したがらない。

結果、血が流れる。


「足りねェなンて吠えてるモンはただの無駄ばかりだ。けどよ」


そして、一度手にすると、再現無く次を求めていく。
それは無駄でなければ何なのだ。
罪を償う為に少女達を守れればいい。それがスタートだった。
それが笑顔がみたいとなり、幸福になる為の手助けをしたいへとなった。
人並みの扱いを受けて欲しいというささやかな願いは、他の人間よりも幸せになって欲しいという願いへと変わった。


自分のような屑が、身の程もわきまえず、そんなことを思っているのだ。


「その無駄が面白ェから必死になってンだろ」


手のひらにある物に満足出来なくて、今度は両手で掬おうとする。
それでも足りなくなれば両腕で抱えられるだけ抱え込もうとする。


「その無駄が欲しいから、馬鹿みてェに足掻くンだよ」


自分の手がどれほど細く、小さく、非力で、傷だらけだろうと関係無い。


煙草を新たに取り出すと、男はゆっくりと吸う。
一方通行の言葉の真意を探るように。
男の寄越す視線が品定めするように、無遠慮なことに気づく。


「何だよ。そンなに期待外れだったか?」


それがどうしたと鼻で笑う。
しかし、男は無遠慮な瞳から一転して、人なつこい柔らかな目をする。


「いや、悪ぃ悪ぃ。予想外だったからちょっとオジサン固まっちまったよ」

急に砕けた口調になると、男は満足したのか、深く吸い込んだ煙を空に向けてがばりと吐く。
いちいち男臭い仕草をする奴だと、一方通行は呆れる。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/03(火) 00:25:18.52 ID:0VyzdqJM0<>

「予想外の答えだっが…期待外れじゃあねーな」


何が嬉しいのか、フィルターを噛みながら喉の奥で笑う。


「そうか。無駄が面白ぇか」

「アンタのソレもその一つじゃねェのか」


ニィっと唇をひん曲げ、指さすのは男の手にしている煙草。
男はしてやられたと、頭を撫でるように掻く。


「さてと、そろそろ時間だからオジサンは退散するよ」

スーツを軽く払うと、男は一方通行に煙草の箱を投げて寄越す。


「話につき合わせたお礼ってことで」

「俺は吸わねェぞ」

「だったら誰かにやってくれ。海外産の結構珍しい煙草だ」

「体の良いゴミ箱代わりにしてンじゃねェよオッサン」

「いいんだよ。細けぇことは。それじゃあ、またな」


ぶんぶんと、腕全体を振りながら男が背を向ける。
その後ろ姿が見えなくなると、一方通行は押しつけられた箱を見る。
手の中の煙草が所在なさげなのは気のせいではないだろう。





<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/03(火) 00:27:32.16 ID:0VyzdqJM0<>



資料を読み終え、ぽっかりと空いた時間を埋めるようにいつしか物思いに耽っていた。
煙草の箱を眺めていると、見知った白衣姿の男が一方通行に近付く。


「ほう、珍しい銘柄を吸うのだね」

「俺のじゃねェよ。押し付けられたンだよ。ワケのわかンねェオッサンに」


カエルに似た何処か愛嬌のある顔で近付くのは学園都市最高の、いや、恐らくは世界有数の腕を誇る医者。
直接医学を学んでいる彼からすれば師に当たる。最も、彼がしおらしく彼を先生と呼ぶことは滅多に無い。

「アンタ煙草吸うのか。寿命を縮めるとか何とか言って認めねェクチだと思ってたけどなァ」

冥土返しの手の中にある箱を見ながら一方通行は意外そうな声を上げる。
白衣から取り出したライターで咥えた煙草に火を点ける。逆さまにするとイラストのビキニ姿の女が裸になるという彼のイメージから程遠いデザインだ。
一方通行の鼻先にバニラエッセンスのような香りが届く。カエル顔が煙を吐く姿は、昼のテレビでやっていた古い日本の忍者映画を思い出させる。

「甘ったるい匂いだな…それ煙草かよ」

「子供の患者の中には煙草の匂いが嫌いな子もいてね。これだと嫌がる子は少ないんだよ」

「ハッ。ガキに気ィ遣ってまで吸うよォなことか」


溜息を吐く様に白い煙を口から上らせると、冥土返しは肩を揉み解すように抑える。
この病院で看護師をする妹の一人が、朝から手術があると言っていたのを思い出す。この医者の腕ならば既に終わっていても可笑しくはない。
手術が無事に終わると、この医者は大袈裟に喜ばないが、それでも納得した笑みを浮かべる。
あるべきところにあるべきものが収まったのを見届けたような、静かな満足感だ。
紫煙を吐く横顔にそれは無い。一方通行が何かを言う前に、冥土返しが呟く。


「フラれてしまったよ。いくら僕がエスコートを申し出ても、“あちら”が良いそうだ」

「アンタでもフラれンのかよ」

「当然さ。唯一無二の正しい口説き方があるなら知りたいものだよ」

「で、それが手向けか?」


咥えた煙草のちりちりと小さく燃える橙を見る。
苦笑し、微かに首を振る。冥土返しが弱った顔を見せることは滅多に無い。
一方通行は目を逸らして遣るべきか、僅かに迷う。


「自傷癖みたいなものさ。命の冒涜だと言われても、この癖は中々治らない」


物に当たるよりも建設的だよ。僕等の周りには高価な機器が目白押しだからね。
冗談なのか、本気なのか、静かな口ぶりからは窺い知れない。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/03(火) 00:31:00.53 ID:0VyzdqJM0<>
「………」

手の中の箱に視線を落としていた一方通行は、おもむろに一本取り出すと、口にそっと咥える。
意図を察した冥土返しがそっと先端に火を灯してやる。
ライターをポケットにしまいながら、冥土返しは白い青年が恐る恐る煙を吸い込んでいくのを眺める。
喉が、微かに引くつき、一方通行の中を煙が満たしていく。


「ゲホッ!!ゴホッ、ゲッ、ガハ……ッ ッァァァー…なンだ、これ」

「いきなりそんなに吸い込むからだよ…」


思い切り吐きそうな勢いで咽る姿に、呆れた冥土返しの視線が突き刺さる。


「何で吸おうと思ったんだい急に?」


至極当然の疑問に、一方通行は「別に」とだけ答える。
言えるはずがなかった。彼が大人だと強く感じる男が、揃って吸っていたのだ。
吸えば自分も少しは今の自分から脱却できるその切欠くらいにはなるのではないか。


そんな事を思っていたなどと、言えるはずがなかった。



「ま、悪いことは言わない。煙草なんて止めておきなさい」

「………言われなくても吸うかよ、こンなモン二度と」

「そうだね。その方が良いよ。彼女達も心配してるみたいだしね」



冥土返しが自分を通り越したところに視線を向けているのに気付き、一方通行が振り向く。


「あ、貴方が不良さんになっちゃった…ってミサカはミサカは煙草を吸って思い切り咽てた貴方の姿を信じられない心地で見てみたりする…」

「ブフッ!咽てやんの。ゲホって。ゴホッ。ぷぷぷ…大人の階段登りたかったんでちゅか第一位ちゃんは?ぎゃはははは」


一方通行の醜態の一部始終を見ていたクローン末っ子組。打ち止めは愕然と、番外個体は爆笑しながら見ていた。

しくじった。

唇を噛む。みっとも無い姿を思いきり見られた。
一方通行の中に途方も無い後悔が過ぎった。
打ち止めは「不良さんになっちゃったよ…グレちゃった…」等とドラマの影響をまた受けたかのようなセリフを連呼している。
番外個体に至っては腹を抱えて笑っている。外で無ければ間違いなく笑い転げているレベルで身を震わせている。

からかわれ、いじり倒されるネタを提供してしまった自分に怒りが込み上げる。




「絶対ェ煙草なンざもう吸わねェ……」

「賢明な判断だ」


一方通行の肩に手を置きながら、冥土返しがしみじみと頷いた。



<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/03(火) 00:33:02.00 ID:0VyzdqJM0<> 以上で投下終了。
髭ダンディは煙草吸わなきゃウソ。カエル医者が煙草吸ってたらギャップカッコいいと思います。
結局のところ煙草吸う切欠話を書きたかっただけです。

それではまた。 ノシ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/05/03(火) 00:34:22.96 ID:otxHQjAD0<> 乙!!!ダンディかっけーなぁ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/05/03(火) 00:34:34.86 ID:nDZw49Aeo<> あのオッサンのせいであーくんが不良に……
許さない、絶対にだ。

乙乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/03(火) 00:35:11.24 ID:ajsvuB+no<> 乙

煙草が似合うのは一人前の証ですねわかります
アイドルの不倫旅行が何かの伏線かとつい疑ってしまうぜ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/03(火) 00:44:50.01 ID:SfoL8+66o<> 乙
あーくんが不良に・・・

てか、カエルが失敗してるのはなんか新鮮だな・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/03(火) 01:23:02.25 ID:2FkTGF7D0<> この世にも二次元にも絶対なんて言葉はないんだよ… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/03(火) 01:33:10.79 ID:f81VU3tDO<> 1乙!次の更新も待ち遠しいな!

大人が揃って煙草吸ってるっていうのは、旅掛さんとカエルさんと木原くんかな? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[<>sage<>2011/05/03(火) 01:36:01.49 ID:zntx0Z9no<> オッサン達格好良いなぁ…子供は憧れてマネしたくなっちゃうんだよな
格好いい大人がいるってのは良いね
乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)<>sage<>2011/05/03(火) 01:55:48.91 ID:+OYpzSqjo<> 乙
想、このまま育ったらかなりのドSになりそうだなww
原作だと失敗許されないからなカエル、失敗するカエルってのは妙なリアリティがある。そして渋い <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2011/05/03(火) 07:52:29.83 ID:InxZLiOso<> 想ちゃん煮こごりみたいになってんなもうww
タバコはニオイさえなんとかできりゃ悪いもんじゃないと思うよ、うん。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海)<>sage<>2011/05/03(火) 09:20:55.39 ID:CZ4v4llAO<> ウソだッ!
タバコを吸う切欠話を書きたかった「だけ」とか言って、
どうせあちこちに伏線仕込んでんだろ
大物政治家の秘書が雲川先輩だったり、不倫旅行してたアイドルが一一一だったりするんだろ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/03(火) 10:28:52.88 ID:Mav+We01o<>  乙
未来想ちゃんに黒子が混じってて笑った。
で、今回の邂逅は、出産話の伏線になったりするんかなぁ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/03(火) 11:23:48.25 ID:cKEIndo8o<> 大人たちかっこよすぎぬれた
禁書って大人たちがさりげなくかっこいいんだよなあ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/03(火) 19:22:05.87 ID:WnKR7wJDO<> 一方さんのクソ甘いタバコの銘柄って出てきたことあったかな? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/03(火) 19:31:04.96 ID:i/5ITHxo0<> ブラックデビルじゃなかったか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/03(火) 19:38:33.90 ID:ncZ4+Xewo<> ブラックサンダーじゃなかったか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県)<>sage<>2011/05/03(火) 20:15:39.07 ID:cTN3ZJIa0<> ブロークンアローだったっけ? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/05/03(火) 21:57:01.89 ID:OyGxwNL5o<> ブロークンマグナムだっただろ? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)<>sage<>2011/05/03(火) 23:51:08.70 ID:og501Izu0<> ブロークンファンタズムの筈だろ? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/04(水) 00:03:10.29 ID:2PbIC+9X0<> 乙。カエル医者何気に好きだよね。

>>363-366
あのさ、雑談スレ行ってくれないか?
雑談が多くて見づらいクソスレ呼ばわりされてるんだよ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/04(水) 00:18:51.73 ID:2PbIC+9X0<> 連投ですまない。

>学園都市発のイギリス行きの旅客機の墜落事故から七日。日本人大学生の身元判明。

これって、上インスレで土御門が言ってた上条さんの死の偽装でいいんだよな?
さらっと書かれていたから、見落としそうになったけど。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/04(水) 00:24:45.27 ID:vHiD/y7h0<> >>368
そこに気づくとは…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/04(水) 00:25:51.59 ID:NV8Wl+Xzo<> いや、普通に気付くだろ
どんだけ流し読みしてんだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/05/04(水) 00:27:38.28 ID:PMtB3Jdvo<> 旅掛さんならお小遣い事情的にアークンロイヤルより安い国産だろ、と思ったが、現地購入すれば割安なのかな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(徳島県)<>sage<>2011/05/04(水) 00:33:47.64 ID:u2nyLTBQ0<> >>371
甘い香りの吸ってるのは冥土返しだろ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(鳥取県)<>sage<>2011/05/04(水) 01:08:41.12 ID:M0CarM5Ao<> >>361
甘いバニラの匂いが香るならブラックデビルのココナッツミルクかアークロイヤル、キャスター辺りが簡単に手に入る <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/04(水) 01:19:52.39 ID:2PbIC+9X0<> 作中では両方吸ってるな。
つか、このシリーズの他にも>>1のSS読んでて上手いのは、年齢毎に一方さんの雰囲気が違うんだよな。
一方座標の一番荒んでる時期、一方佐天の子供っぽい時期。
今回の過去編は一人前の男になる直前って感じだな。19歳と25歳の差というか。
いわばあーくん未満だな。


>ハッ。ガキに気ィ遣ってまで吸うよォなことか

そして、これがブーメランってやつなんだな… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/04(水) 02:03:30.72 ID:DV9fFI740<> http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1298646711/ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/04(水) 02:34:56.31 ID:Z+YPNX4Ho<> なにがしたいんだよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/05/04(水) 04:11:17.67 ID:GVo8bd6U0<> 375はなにが死体の?

ここはあーくん萌え!!のssなんだよ?
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福井県)<>sage<>2011/05/04(水) 14:40:02.09 ID:M0+uBg5Q0<> >>377
お前も何がしたいの
なんかきもちわるい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/04(水) 14:48:37.21 ID:7eR7QdcPo<> >>378ちわーす福岡け…え?福井県? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/05/04(水) 15:25:09.50 ID:vHiD/y7h0<> >>377
そんなわけないだろ。休日だからって
のんびりしすぎて、頭おかしくなった?馬鹿みたいに
とち狂ったこと言いやがる
お前はなんなの?
リアルが辛いからって現実逃避してんじゃねぇよクズ
! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/04(水) 16:45:48.54 ID:NV8Wl+Xzo<> コレがGW効果か <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/04(水) 16:54:50.42 ID:vHiD/y7h0<> >>381
縦読m……なんでもない <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/04(水) 17:11:13.07 ID:NV8Wl+Xzo<> >>382
それは流石に解ってるよwwwwww
安価しても切りが無いからしないけど、気持ち悪い奴がまた増えたなーって意味 <>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/05(木) 20:02:09.95 ID:iYc2OteD0<>
アレイスター「遂に私の悲願が達成された。最早君達に用はない」
上条「まさか…妹達を世界中に配置したのは、それぞれを天使降臨の生贄にするため…と俺達に思わせることも全部…」
アレイスター「そう、プランの内だよ。全ては私が神を超えた存在になるためのね」
浜面「この世界はてめぇのレベル上げの訓練場も何でも無いんだぞ!!」
アレイスター「わかっているさ。そんな俗なものではない。この世界はいわば祭壇だよ。私という存在を引き上げるためのね。
       そして君達はそこに捧げられた子羊の群れだよ」
一方通行「そうまでして神とやらに復讐したいってのか?そこまで神が憎いのかよ!!」
アレイスター「ああ憎い。私から【彼女】を奪った上に、【アレ】をまさかあんな風にするなんて…私から【彼女】と【アレ】を奪い、
      世界を【こんな風】にした存在を決して私は許さない」
上条「てめぇの勝手な復讐に世界を巻き込むんじゃねぇ!!」
アレイスター「子供の青臭い討論に付き合っている暇は無いのだよ。ここはしゃべり場ではないのだからね。さて、
       既に今の段階でも私は十分にあの領域を超えている。君達如き埃を払う程度の力でも十分に滅殺してしまえるのだが……
       此処まで来れたご褒美に少々楽しい余興をプレゼントしよう」
一方通行「余興だ?」
アレイスター「そうだよ。さぁ、出てきたまえ。我が忠実なる騎士、裏レベル5よ!!」

浜面「裏…レベル5…だと?」
上条「お前は!?」
青ピ「ゴメンなカミヤン。ずっと騙してて。僕は裏第一位…カミヤンの敵や…」



それは嘗て学園都市において繰り広げられた戦い…――


滝壺「はまづら…死んじゃうよ…はまづらが死んだら私は…」
浜面「泣くなよ、たきつ…理后」
滝壺「はまづら?」
浜面「俺は絶対勝つ。そして絶対生きる。お前を守るために!!」
滝壺「はまづら…」
エイワス「絶対に勝つ…か。随分と大きく出たものだな。人の作りしドラゴンライダー如き玩具でどう勝とうというのか興味深いが」
浜面「これだけは使っちゃいけないって言われてたんだけどよ」
エイワス「パワーに重点を置いた“サバイバル”のカードと…スピード特化の“ダンス”のカード?下らないな。
     どちらのフォームも私には遠く及ばないというのに…左腕を失った程度では忘れてしまったかね?」
浜面「ああ、わかってるよ。骨身に染みるほどにな…けど二つならどうだ?」
エイワス「何?」
浜面「一つでは届かない。けれど二つ合わされば届く…いや、超えられる!!」

dragon rider – mode“survival”-“dance”---“survival dance”

エイワス「まさか…それは嘗て滅んだムーの禁断の技術の応用…ッ!?」
浜面「これがドラゴンライダーの最終形態……“サバイバルダンス”だ!!」




――― 愛する者の為、限界を超えようとする者 ―――
<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/05(木) 20:03:34.85 ID:iYc2OteD0<>

青ピ「なぁ、カミヤン。もう降参してくれへん?これ以上やっても無駄や」
上条「……何ふざけた事言ってやがる…俺はまだ負けて…ねぇぞ…!!」
青ピ「だってカミヤンぼろぼろやん。僕に傷一つ付けらへん…幻想殺しじゃ僕の“この力”には勝てないで?」
上条「ああ…そうかもな…」
青ピ「僕、アレイスターさんに頼んでツッチーと小萌先生とカミヤンは生かしてもらえるように頼んだるよ?」
上条「生かしてもらえる……か…はははは…」
青ピ「……何がおかしいん?」
上条「いえいえ、生かしてあげるなんてお優しい言葉過ぎて上条さん思わず苦笑が零れてしまいましたのですよ」
青ピ「カミヤン…変な気起こさんといてくれるか。“この力”は扱いが難しいんや。いつ手元が狂うかわからんで?」
上条「ああ、確かにソイツは凄い力だよ。幻想殺しの“まま”じゃ勝てないな」
青ピ「…幻想殺しの……まま…?」
上条「あ〜あ。インデックスを助け出すまで取っておくつもりだったのによ。まさかもう“コイツ”を見せる羽目になるなんてな……」
青ピ「ば、馬鹿な…この波動は……幻想殺しは僕がもうアレな感じにしたはずなのに」


上条「これを見せるのは一方通行に続いてお前が二人目だ……歯ぁ食い縛ってしっかり防げよ?じゃないと ――――


                    ―――― うっかり幻想ごとブチ殺しちまうからな」




――― 愛する者の為、友の血に汚れる覚悟を決めた者 ―――




一方通行「」
アレイスター「中々しぶとかったね。だが、此処までだ。人の身で天使に近付いたのは褒めてあげよう。だが、今の私は人の身を捨て、神に最も近付いた者……
       天使モドキの君が歯が立つわけもなかろう。だが君は随分私のプラン短縮に貢献してくれた。それに敬意を評して、せめて一撃で葬ってあげよう。
      “あの御方”の力で煉獄へと堕ちることの喜びを噛み締めたまま死にたまえ」


――― そして… ―――


アレイスター「…………何?」
一方通行「」
アレイスター「ば、馬鹿な…なぜ無事でいる。いや、そもそも何故立っていられる?演算が切れ、心臓も止まっていたはず…」

一方通行?『久しいな……小僧……こうして向かい合うのは千年ぶりか?』

アレイスター「!?」
一方通行?『どうしたそンな情けない顔をして。恐い夢を見て眠れなくなったと、そう言って彼女のベッドに潜り込んで来ていたあの頃と変わらない顔だぞ?』
アレイスター「そ…そんな…その声……馬鹿な…な、なぜ…いや、こけおどし…違う、このテレズマは…世界を侵食する量のテレズマは…」
一方通行?『寂しいな…もう忘れてしまったのか?我の声を?』
アレイスター「…プランにも無い……ありえないことだ……あの時の戦いで…」
一方通行?『中々苦労したぞ?慣れぬ人の子の身体から起きるのは……なァ…?』
アレイスター「あの戦いで、“彼女”と共に砕かれたはず……貴方の父なる者によって…それがどうして今、顕現しているのだ…
       貴様が…お前が……貴方が……ッ」
一方通行?『アレイスターの小僧よ』



アレイスター「大堕天使ルシファー!!」


――― そして、愛する者の為、人の衣を脱ぎ捨てる者… ―――





ウソです。今から投下します。よろしくお願いします。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/05(木) 20:07:41.71 ID:XKJ6RjKto<> 何が起こった!?
って思わず酉確認しちゃったぜ待期ww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2011/05/05(木) 20:10:25.70 ID:BbLsUVgAO<> 次回作はそれですねわかります <> ◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/05(木) 20:11:21.84 ID:iYc2OteD0<>
「彼なら退院したよ?」
「退、院…ですか?」
「うん。とっくに」
「とっくに…」
「知らなかったのかい?」
「知らなかった…です」
「………」
「………」
「…まったく…あの子は…」

冥土返しのため息だけが病院の通路に響く。
行き場を失った包みが「姐さん。こりゃいったいどういうことですかい」と美琴の手の中で不満げに訴えている気がした。



「…退院するならするって言ってくれても良いじゃないあんにゃろう」
「お姉さま…はしたないですわ」

オープンカフェの丸テーブルに頬杖を突いて美琴が不機嫌さ全開の美琴が唸るようにつぶやく。
ストローを口にくわえながら愚痴る美琴を黒子が眉を顰め窘める。
白井黒子は美琴が関わると非常識であるが、基本的に融通が利かぬほど真面目な少女である。
既に常盤台の先輩後輩ではないのだから、お姉さま呼びは止めて欲しいと、ストローを離しながら美琴は思う。

「先輩って呼ぶアンタは想像できないけどさ」
「は?」

何のことかと首を傾げる白井の隣で佐天がテーブルの上に置かれた包みのリボンを解いたり結んだりと遊んでいる。

「結局、これどうするんですか?せっかく上手に出来たし、いっそここで食べちゃいます?」

「ちょっと…佐天さん、まだデザートも注文してないのにそれは」

「いいじゃん、初春。常連なんだし。初春なんていつもパフェってるんだからそれくらいいいって」

「そ、それはそうかもしれないですけど」

「御坂さん手作りのクッキーだよ?超電磁砲の手作りクッキーだよ?食べなきゃもったいない気がしない?」

「そうしてくれますか、佐天姐さん」、と包みが思ったかは定かではないが、うまく出来たクッキーを無駄にするのは初春とて気が引けた。

「確かに…お姉さまの手の温もりと、匂いと、エキスのしみこんだクッキー…
 
 エルマドロンのクッキーなんて裸足でエスケープするレベルの価値がありますわね…ひひひ」

だらしなく垂れる涎を拭いながら、白井が女の子が浮かべてはいけない類の笑みを浮かべる。

「黒子キモい。言動諸々」

「お姉さま…クールな口調でのつっこみは少々堪えますの…」

「でもさ」

佐天がソーダフロートを崩しながら首を傾げる。



「その人って、ずっと御坂さんのこと避けてますよね」
<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/05(木) 20:15:40.36 ID:iYc2OteD0<>
「避けてるって……たまたまお見舞いに行ったら姿が見えないだけよ」
「いや、遭遇率低すぎですよ。彼氏さんのお葬式の時くらいですよね、会ったのって」

「あ…ああ、そうね、そうよね」


佐天の言葉の意味が把握できず、一瞬美琴は固まる。
上条当麻の葬式ーーーと世間一般には認識されているそれが行われたのは二週間前。
上条と結局面識の無いまま終わった佐天や初春は、名前すら知らない。


「それって絶対御坂さんの事避けてますよ」

「まぁ…お姉さまの訪問を拒むなんて…万死に値しますわ!」

白井が不機嫌に紅茶をすする。当然砂糖は入れずに。

「避けてる…のかな」

その言葉に、なぜか美琴は少しショックを受ける。

あの時、上条の形ばかりの葬式の日。
美琴は確かに一方通行に会ったが、彼の知人であり、上条の友人、そして舞夏の義兄というサングラス胡散臭い男。
土御門元春から聞かされた真相を理解するので美琴は精一杯だった。

わかったのは、一方通行が事情を一から十まで把握していたこと。
その上で、上条を送り出したということ。
そして、その罪悪感から美琴の電撃を食らったということだ。それも心臓が一時止まるレベルで。

(あの雰囲気だと…アイツ、あのシスターの事好きだったんだわきっと…)

好きな子の笑顔を取り戻せるのが上条だけだからと知っているから、送り出したのだ。
美琴の持っていたイメージの一方通行にしては、あまりにも潔過ぎて逆に気持ち悪い。


「避けるっていっても、御坂さんのことが嫌いじゃなくて、好きで恥ずかしくてってこともありえますよ」

初春がフォローを入れる。
美琴が目に見えてしょんぼりとしてしまったことに焦ったのだ。

「と、いうか、御坂さんの場合だったらその可能性の方がむしろ大きいですって、ね、佐天さん」
「う、うん。そうですよ〜恥ずかしくて顔見れないんじゃないですか」
「またお姉さまに要らぬ虫が寄りつこうとしてますの…?」


「違うわよ。たぶんソレはない」


美琴は首を振る。


「だって、私たちお互いにそういう感情抱けるような関係じゃないもん」


ホント、そんな関係じゃない。
齧ったストローをぴこぴこと揺らしながら声には出さずに念を押す。
<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/05(木) 20:17:51.27 ID:iYc2OteD0<>
自分が入院させてしまったこともある。
しかし、もっとも大きいのは、あの男が犯した罪。

一万人の妹を殺したという拭い去ることの出来ない大きすぎる罪だ。


「何かあったんですか?」
「うん、まぁ話すといろいろあるけどさ。私はアイツに散々傷つけられて、踏みにじられて、沢山のものを奪われたの」
「お、お姉さまを、ふみにじ、奪う」
「アンタの想像してるのとは絶対違うわよ」

何を妄想したのか、白井の顔色が赤と青に点滅する。
確認せずともいかがわしい妄想をしているとわかる後輩の頭を軽く叩く。

「とにかく、私はアイツを許しちゃいけないの。無かったことになんて出来ることじゃないし、それは向こうだってわかってるはずよ」


だからこそ、一方通行は自分に何の接触も図ってこない。
妹達、打ち止め等を美琴と触れ合わせても、自分は決して姿を見せない。
美琴の電撃を受け止めた時も、慰めの言葉らしいものなど何も掛けてこなかった。
そして、佐天の言うとおり、おそらく自分が見舞いに来るる事すら、避けている。


なぜだろうか。

罪悪感。自分の顔を見て罪悪感に苛まれるから。
そして、会わせる顔が無い。そんなところだろうか。


「でも、御坂さん」

初春が納得のいかぬ顔で隣の御坂を見つめる。

「許しちゃいけないっていうのはおかしくないですか?」

「え?」

まっすぐな初春の視線に、美琴はどきりとした。

「ええ〜でもさ、酷いことされたら許せないでしょ」

「許せないっていうならわかるんです佐天さん。どうしても、気持ちがそちらに向いて動いてくれないならもう仕方がないですから。
 でも許しちゃいけないっていうと、まるで御坂さん本当は許してあげたいって思ってるみたいに聞こえますよ?」


高校生になり、髪が伸びたこともあってぐっと大人びてきた初春のまっすぐな瞳に、美琴は言葉に詰まる。


「許してあげたい…」


そうなのだろうか。
美琴は己に問う。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/05(木) 20:24:04.20 ID:iYc2OteD0<>
一万人の妹達を殺した男。
笑いながら殺した男。
弄びながら殺した男。


許していいはずがない。率直に美琴は思う。


けれども、美琴の内から小さな反論があがる。

一万人の妹達を守ってくれた男。
守り続けてくれている男。
その為に取り返しの突かない傷を負った男。


感謝を述べてもキリがない。素直に美琴は思う。



「御坂さんはどうしたいんですか?」

『お姉様はどうしたいのですか?』


初春の言葉に、先日言われた妹の言葉がだぶった。



「彼は一万人のミサカ達を殺しました。それは例え彼が残った一万弱のミサカ達を十回助けようが百回助けようが変わらない事実です。
 だからこそ、お姉様には彼を憎む権利も嫌う権利もありますし、彼にはそうされる義務がありますとミサカは客観的事実を述べます」

五回目の空振りの後であった。
偶然出会った10032号と美琴は近況報告も兼ねてベンチでお茶をした。
甘ったるい人工的な紅茶を無表情で流し込みながら10032号は問い詰めるというよりも純粋な疑問を美琴にぶつけた。

「故に、お姉様がもしミサカ達の仇討ちを検討されていないのでしたら、彼に関わらないことがもっともお姉様の精神衛生上に良い対処かと
 ミサカは放っておいたらどうだあんなもやしと暗に言います」

妹の言おうとしていることはわかった。
許すことが出来ず、既に罰する気も無い者を相手にする事ほど無駄なことはない。
憎く、嫌悪感を抱く相手が側に居ることほど心を苛むことはない。
もし、排除するつもりがないのだったら、自分の身の回りから遠ざけるのが一番の打開策だ。

「それとも、お姉様はそんなに今回のことを恩に感じているのですか」

「そりゃあ…感じてないはずないじゃない。私のせいで入院してるんだし」

「そうでしょうか?」

「何がよ」

「お姉様の受けた痛みに比べれば、それもまた当然の報いじゃないでしょうか、とミサカは個人的意見を述べます」

「報いって…」

「あのモヤシも少なくともそう思ってるから無防備で受けたのだと思いますがとミサカはマゾ疑惑濃厚な真っ白白助の顔を思い出します」

彼女の言うことはもっともだ。一方通行はそうされても文句が言えないほどのことをした。
美琴も許してはいけないと思っている。
しかし、美琴は触れてしまったのだ。
真っ直ぐに自分の怒りの全てを受け止めた不器用な姿を。
何度電撃を浴びても立ち上がる愚直さを、不器用な優しさを。

そして、堪えきれない寂しさと後悔を閉じ込めた孤独な瞳を。


嘗て背筋を這いあがり、腸を焼き尽くすかと思っていた憎しみ己の内に感じ取ることが出来ない。
元来、御坂美琴は憎悪に魂を長い歳月くべ続けられるように人間が作られてはいなかった。
故に、一度抜けてしまった憎悪を取り込みなおそうとしても上手くはいかない。

炭酸の抜けたコーラが二度と元のコーラには戻らないように。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/05(木) 20:25:59.14 ID:iYc2OteD0<>


「そうは言うけど初春」

佐天の声に、美琴は思考の海から素早く浮上する。
唇を尖らせて佐天が初春にどうにも納得がいかないという視線を送る。

「自分の大切な者が奪われたって、そんな人許せる?私だったらむり。初春とか、白井さんとか、御坂さんとか、
 友達がもし殺されたりしたら、私その人のこと絶対一生許さないもん」

「殺すって、そこまで物騒なこと言ってませんよ佐天さん」

「そうですわ。初春のように肩を砕いた相手を許せるのだって十分すごいことですのに、私ももし友人や家族が殺されでもしたら…
 考えるだけでも怒りがこみ上げますの。お姉様もそうですわよね」

「そりゃあ、当然絶対許せないわね……――― あ」


思わず美琴は口を押さえた。
許せない。自然にでてきた言葉だ。
確かにそうだ。もし、一方通行が殺したのが妹たちでなかったら。
白井を玩具のように殺し、初春を食らい、佐天を蹂躙したら。
考えるまでも無い。絶対許せない。
上条に止められようとも、きっとどんな手を使ってでも殺す。
その後償いとして、何度自分の大切なものを守ろうとも、自分自身を救ってくれようとも、絶対に許しはしないだろう。

許してはいけないのではなく、許せないだろう。

それでは、いったいどうして違うのだろうか。
奪われた者が違うからだろう。何が違うのか。


「どうしたんです?御坂さん?」
「ううん、何でもない」
「お姉様、顔色が優れませんの」
「ちょっと、寝不足かな、あははは」

心配する友人たちに、美琴は笑って誤魔化す。






自分はあの実験を知るまでなんと思っていたのか。

『気持ち悪いわね』

『消えてくれって思うわね』

そう思っていたではないか。
それが、一人のクローンの少女と出会って、考え方が一転した。
大切な妹を、守ろうと奮闘し、そして一人の少年によって助けられた。
命を救われた妹とは、今では本物の姉妹のように仲睦まじい。

本当にそれだけだろうか。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/05(木) 20:28:07.39 ID:iYc2OteD0<>

美琴の回転の早い頭はすぐにその答えをはじき出す。

美琴は気づいた。
自分の中に残っていた偽善性に。

クローンを守る。
それは、上条当麻のように、一人の少女を守るという単純な動機ではない。
命を守ると同時に、美琴は幼い自分が知らずに犯してしまった過ちにケリを着けようとしていた。
積み重なっていく数に焦りと罪悪感を募らせながら。
彼女が止めたかったのは、一方通行が奪っていく命であり、自分の過去が奪っていく命でもあった。
美琴は一方通行を憎むことを通して、自分の過去を憎んでいた。
そしてもうひとつ。
美琴はクローンの少女たちを妹と呼びながらも、彼女たちを殆ど知らない。
10032号を除き、打ち止めの存在すら知らなかった。
死んでいった命を悼むが、心から悲しむのは、わずかな一時を共に過ごした一人の少女の死のみ。
人は、人の死に悲しむことが出来ると同時に、顔も知らず触れ合った事もない人の死をたやすく割り切ることが出来る。

ニュースで流れる百万人もの他人の死よりも、たった一人の友人の死が遙かな重みを持つ。

そして、美琴にとって、殺されてしまった妹たちの大半がニュースの向こうの出来事だった。
大切な妹たちという言葉で一括りにしながらも、美琴の中では10032号、打ち止め、番外個体と、その他の妹たちは決して平等ではなかった。


「アンタ達は平気なの?よく自分達を殺してきた奴と話せるわよね」
「ミサカが標準的な女子中学生の感情を持っていれば違っていたのでしょうねとミサカはあの頃の自分はまだ若かったと過去を懐かしみます」

飲み終えた缶を妹はくずかごに放り投げる。
鮮やかな放物線を描いて缶は屑籠に吸い込まれていく。
小さくよっしゃとガッツポーズをとる10032号は何処から見ても感情豊かに見える。

「ミサカとて少しは大人になったつもりです。ネットワークがなくなって、自分で物事を考える機会も増えました。
 ですから、これはあくまでもこのミサカの意見ですとミサカは妹達の総意ではなく個人的な一方通行への見解を述べます」





「そういえばさ、初春そろそろオッケーしてあげたの?」

美琴が黙ったことで重くなり掛けた空気を一掃するように佐天が努めて明るい声を上げる。
追加のモンブランを注文したばかりの初春は佐天の言葉に露骨に顔を顰める。
<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/05(木) 20:31:12.02 ID:iYc2OteD0<>
「あり得ません!!」
「ま、あの殿方まだ性懲りもなく言い寄ってきますの?」

白井も知っているのか呆れたように口を挟む。
もっとも、視線は年相応の少女らしく興味津々に初春を見ているが。


「え?それって前に話してた人?」

美琴も気まずい空気を払拭するように話題に加わる。
佐天が素早くその場の空気に便乗した。

「でもイケメンだったじゃん。年上だし。アンタ年上好みじゃなかった?」
「私はもっと誠実そうな人が好みなんです」
「でも謝りに通ってた時はスゴく真剣で誠実な感じがしましたの」
「そうですよ。それで許したらいきなり惚れた!ですよ。切り替え早すぎます。見直して損しました」


告白された時のことを思い出したのか、初春がお餅のような頬を赤く染めて膨れる。
美琴、白井、佐天は互いに顔を見合わせる。
「おや?」「あらあら?」「ほほう?」等というアイコンタクトが一瞬の内に交わされるあたり付き合いの長さが伺える。

「じゃあ、すぐに告白しなかったらOKだしてたんだ?」

美琴が意地の悪い笑みを浮かべる。

「まんざらでもありませんのね」

白井が獲物をいたぶるように唇を釣り上げる。

「ちょ、勝手に決めないでください!!私はただけがの事を許しただけで…怖いし嫌いなことに代わりは…」

「な〜んか意地でその人のこと認めないようにしてない?」

佐天の言葉に言葉を呑み込んだのは初春だけではなかった。




「ミサカの勘違いでなければ、お姉様はもしかして、一万人のミサカへの義務感で彼を憎もうとはしてませんか?」

「義務…感?」

「彼を憎まなければならない、そうしなければミサカ達に申し訳ないと、そう思ってませんか」

「アンタは違うの?」

「ミサカは少し違います。ミサカ達は直接の被害者ですが、同時に彼への加害者でもあります」

番外個体と同じ事を言うなと、美琴は妹達で自分が知る限り唯一嫌悪感をはっきりと自分に示してくる末妹を浮かべる。

「ミサカ達を一方通行が一万回殺したことを忘れないのにミサカ達が一万回彼に銃口を突きつけたことを忘れることは許されないでしょう
 とミサカはフェアな視点に立って考えます」

「フェア…」

思わぬ言葉だった。慣れぬ言葉が美琴の舌の上で戸惑い気味に転がった。
ブラックのつもりで砂糖の入った珈琲を飲んでしまったような顔をする美琴に10032号は硝子のような瞳を向けた。
<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/05(木) 20:32:31.79 ID:iYc2OteD0<>










「お姉様……一万人の殺された妹達の為に彼を認めないというのならば……

 生きている一万人の守られた妹達の為に彼を認めることもあり得るのではないでしょうか」









<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/05(木) 20:38:18.26 ID:iYc2OteD0<>



「な、何言ってるんですか佐天さ〜ん!!御坂さ〜ん。何とか言って下さいよ」
「初春さんさ」
「はい」
「きっと、その人のこと自分で思ってるよりもずっと嫌いじゃないんだよ」
「御坂さんまで!?」
「あ、すいませ〜ん。こっちのミックスサンド一つ」
「御坂さ〜ん」

裏切り者と言いたげな初春の涙目を避けるように美琴は追加のオーダーを頼む。






上条当麻は一万人もの命が奪われることが許せないという英雄的行動ではなかった。
彼は一人の少女の命を救うため、そして、泣きじゃくる14歳の少女の涙を止める為に立ち上がった。
結果として1万人命を救ったにすぎない。
彼は常に英雄的行動をとるのではない。自分勝手に動いた結果に英雄的行動という後付けが生まれるのだ。
故に、上条当麻の中に失われた一万人への感傷はなかった。

御坂美琴は己がきっかけとなった一万人もの命が奪われたという罪から、そしてこれから失われる一万もの命という罪を防ぐ為に立ち上がった。
自分のクローンという存在への拭いきれない不快感、罪悪感、クローンも一人の人間であるという事実が綯い交ぜとなって彼女をつき動かした。
故に、美琴の中には一万人への罪悪感と後悔、そして煩わしさがあった。

美琴の胸の内に小さな興味が生じる。


では一方通行はどうなのだろうか。

人形として殺した一万人。

人間として守った一万人。

彼の中の妹達のへの認識は、上条よりも美琴に近いのではないだろうか。
もう少し、自分はあの男のことを知ろうとすべきなのではないだろか。
美琴は一方通行を憎むことで、過去の自分をも憎んでいた。
だが妹達自身が自分と彼女達を肯定し、生を喜ぶことを通じて、美琴はそれをやめた。
前に進むことを決めたのだ。
許すことは、前に進むことである。
美琴は過去の自分を許そうと、認めようとすることで、同時にそれに付随する存在をも認めようとし始めている。




「あの人は甘いものが嫌いなんだよってミサカはミサカはブラックばかり飲んでる事を思い出したり」





クッキーの入った包みを見る。
作ってからそう美琴は打ち止めに聞かされた。
あれほど憎んで殺しあって、傷つけた相手の事を美琴は何も知らないのだと、初めて気づいた。
上条が消え過剰に熱されていた彼女の中の彼女の現実が鎮静化される。
同時に狭くなっていた視界が開け、美琴は上条と出会い、実験に巻き込まれて以来、初めて本当の意味で冷静に自分の心を見つめ直す。



上条しか存在しなかった世界が消え、様々な事が改めて並べ替えられていく中、妹達とちゃんと向き合おうという気持ちが生まれた。


そしてもう一つ、一方通行という青年のことを知らなければならないという意志が美琴の中で息き始めていた。


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/05(木) 20:40:00.20 ID:iYc2OteD0<> 以上で投下を終了します。
個人的に美琴は良くも悪くも自分で触れて確かめたものしか認めないと思います。嫌悪も好意も。
過去編はこんな感じに出来るだけ交互に描いていきたいと思っています。

それではまた ノシ

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/05/05(木) 20:41:58.49 ID:Ru3Wzzrl0<> 乙!!!
美琴さん… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/05(木) 20:52:27.37 ID:XKJ6RjKto<> 乙!

会っても互いに距離を測りかねてぶつかったり離れたりするんだろうなぁ、と考えるとなんか今からもぞもぞする <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/05(木) 20:53:42.65 ID:gSTuPe3DO<> 乙乙

一方さんから歩み寄ること間違いなくはないだろうな… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/05(木) 21:35:37.61 ID:0eNSMrkV0<> 乙!!

改めてこうしてみると一方通行マジかっけぇ…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<>sage<>2011/05/05(木) 22:06:44.18 ID:xWC4riXQo<> 許せない、ではなく許しちゃいけない、か……
確かにそういう心境かもしれないな。
妹達って言っても、赤の他人も同然だろう。

結局実験は殺し合いだったわけだし、
喧嘩両成敗じゃないが、一方だけ責められるのもおかしいかも。
自分の罪を一方通行に重ねているのかもしれないな……

まぁ、原作じゃ全く描かれていないから全然わからんがww
存外、あそこの倫理観的にちょっと気まずい程度かもしれんよねwwww


乙乙! 楽しませてもろうてます!
青ピでしゃばんなwwwwwwww
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2011/05/05(木) 22:19:31.37 ID:2RCI6crro<> すげえ筋の通り方だ。
実体に根ざさない感情てのはモヤるわなあ。

垣根はほんとに無関係な人間を巻き込まない活動をしてたのかな。
んで謝罪に訪れる度に逆に体の心配されたりして初春マジ天使であってカキネコロヌ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/05(木) 23:43:32.66 ID:QGPKmvtJ0<> そうだよな、妹達だって一方通行を殺そうとしてたんだもんな……。
殺さなければ殺される。そんな状況で殺したのは、
致し方なかったのかも知れないな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/05(木) 23:58:38.23 ID:rkAWzHyyo<> 一方さん視点からすりゃ致し方なかったという結論を出すのは短絡的過ぎる
妹達視点からすれば無知故とはいえ考えなしに虐殺に加担してたので殺されるのは致し方なしと言ってもいいかもだけど

美琴は実行犯として一方通行を憎み、嫌悪するのはトラウマ的には仕方ない面があるにせよ
根本的にはその実験の引き金を引いた自分への悔恨があり学園都市の闇への嫌悪や憎悪、恐怖が芯だろうから
義務感的な「許してはいけない」みたいな気持ちに捉われてるのかもだね
それ以上に「自分自身を許しちゃいけない」って気持ちに陥りそうな思考形態持ってるコだけど
その幻想をぶち壊したのが原作の上条さんなわけで <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)<>sage<>2011/05/06(金) 00:04:34.90 ID:Qm22RlXmo<> 乙
出会い方最悪、1万人殺しと来てるからな。
これを許すというのは普通の感性じゃキツイし、許さなきゃいけないってものでもないから悩ましい。
だから一方さんが距離とったのもわかる。変に距離感に悩むより、恨み恨まれの関係のがシンプルでお互い楽だからな。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2011/05/06(金) 00:30:00.82 ID:t+eTcJBAO<> 一方の過去を知れる時は原作何巻だろうか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県)<>sage<>2011/05/06(金) 00:34:06.05 ID:Mhv6aHw6o<> 妹編での一方さんの心理描写は最近になってやっとレールガン漫画で補完されたからな
つか原作はキャラばっか増えて全然掘り下げないからなぁ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/06(金) 01:47:40.04 ID:upRQu3plo<> 乙
許さないじゃなくて許しちゃいけないか・・・
なんかスゲー納得させられた気分だわ
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/05/06(金) 02:39:25.80 ID:fw8IjkDCo<> おつおつ
相変わらず心理描写がうまいな
そしてていとくんはこの頃からちょっかい出してるのかww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<>sage<>2011/05/06(金) 03:35:32.70 ID:y7LuuVkY0<> おつ
殺し合いといえど能力的にも一方的で[ピーーー]事前提の計画だしなぁ…
確かに殺された妹達の事を考えたら「許しちゃいけない」と思っちゃうよな。一方通行の事も自分の事も。
思ったんだけどやっぱ一方通行は過去を背負って後悔してる姿が人気あるんだと改めて確信した
これから一方通行の人格に触れて、未来の2人の関係になるんだと思うとワクワクするのう

てか、ていとくんは謝りに行って惚れるとかこっちはこっちで気になるwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/06(金) 09:39:51.61 ID:fFMy6feIO<> なんか頭の中が一方のことで占めてる辺り上条のことはこの時点でほとんど吹っ切れちゃってるっぽいよな
ところで葬式まで真相知らなかったってことは上条の乗る飛行機が墜落したと聞いて美琴はどう思ったんだろうか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/06(金) 14:58:44.10 ID:uVNTKD6u0<> 美琴「ざまぁwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

美琴「そんな……なんでこんな事に……」

美琴「まぁもうあいつ居なくても平気だし」

美琴「あいつの死は無駄にしない!!」

美琴「あいつを乗り越えてやる!!」



さてどれかな? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/06(金) 17:52:08.55 ID:67IXWKbB0<> 美琴「……上……条……?」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/05/06(金) 18:19:20.53 ID:RLC4UGcro<> 飛行機墜落事故なんかに偽装したら
疫病神として再燃して両親への非難がすごいことになりそう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/05/07(土) 00:56:21.09 ID:1WNPsb1W0<> >>415
上条はそれを覚悟にいったんだよ

お前もう一度
上条「約束したよな? をよんでこいks <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/05/07(土) 01:01:26.38 ID:ilbjROH3o<> >>416
「覚悟はできてる」で許されるってなんだか種死のキラ様みたいね
そこいらはどーでもいいんだけど単純に偉そうなのが気にくわねーから失せろ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(中部地方)<>sage<>2011/05/07(土) 01:04:51.71 ID:6AWgF7Mbo<> スレタイ読んで自分らのレスがどうだったかを考えよう <> ◆d85emWeMgI<>sage<>2011/05/07(土) 01:23:39.76 ID:VZmoSYbt0<> >>415
土御門さんがきっと何とかしてくれてます。あとマザコン(予定)の一方さんが。

ここまでスレが続いてしまったのでこれからちょくちょくキャラクター紹介をしていこうと思います。
二次創作らしく、自己満足全開で。とりあえず主役級キャラ五名の紹介だけ今日はします。


・コングさん
愛称:白井黒子。淑女系能力者。アックア隊副隊長。
黒コング改めコングさンに改名。このスレの真の主人公。
ハザードレベルの高いプレシャスを回収するついでに、一方さんからのムチャ振りに付き合う心優しい淑女。

・隊長
本名はウィ(略)さん。どんな触手でも受け入れるイギリスが生んだビッチ。
アックア隊隊長。得意技は爆肉鋼体。回転があれば何でもできると言って憚らない友人が悩みの種。

・幼女
一方通行さんとお風呂に入って、デコチューしてもらうだけの簡単な仕事に就いている勝ち組。
白い人とお母さんが思ってるほど、実父の存在を気に掛けてない気がする。

・親御さん
美鈴さんからはシロくん、幼女にはあーくん、お隣の安田さんや鈴井さんにはいっぽうちゃんと呼ばれてます。
他にももやし、嫁、あの人、第一位等呼ばれ方が一定じゃない人。禁書界の飛影兼べジータ。
上条さんに対してべジータポジションでも垣根さんといると悟空ポジという人の立ち位置は人間関係によって絶えず流動的であることを示してくれる好例。

・ヅラさん
リア充。禁書界の桑原(顔的に)。
幽白界最強のメンタルイケメンたる桑原並みのメンタルイケメンになる日はまだまだ先。


ついフラフラと書いてしまった人物紹介。次はきちんと更新します。 それでは ノシ
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[<>sage<>2011/05/07(土) 01:34:19.03 ID:AmaGX/uuo<> そうか真の主人公は大統領だってぶん殴ってみせらぁ。でも飛行機だけは勘弁なの人だったか
やけに影が濃いと思ったんだよなぁ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(徳島県)<>sage<>2011/05/07(土) 02:43:14.76 ID:ay4ia9tX0<> 安田さん、鈴井さんは総合のネタか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/07(土) 05:49:48.34 ID:6o/1GT2bo<> 真の主人公だったのかコングさん……!wwwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)<>sage<>2011/05/07(土) 06:20:57.98 ID:9xh1AsuAO<> そんな、セロリさんがまさかとびかげでイッパイアッテナだったなんて……!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/07(土) 09:05:40.85 ID:ruDgyFaLo<> 打止・番外「一方通行はそんなこと言わない」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/05/07(土) 09:10:33.09 ID:hxIV1k0ho<> 浜面が桑原……だと……?

ヒュー……危険なことを言うぜ。
桑原ファンが暴走したら半島が消えちまうって話だ。

乙! 楽しみにしてるぜ!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(愛知県)<>sage<>2011/05/07(土) 11:36:27.01 ID:XBWewx+v0<> 遅ればせながら3スレ目乙!!
なんか、このスレ追ってると、毎週欠かさずドラマ見てる気になる。
一方さんに助けられた⇒恋に落ちる、と安易にならないところが>>1テイストだな。
心情の変遷を凄く丁寧に描く>>1の作風が凄く大好きだよ。

それと、>>1がどうあがいてもまともに人物紹介をしないつもりだということがようくわかったwwwwww
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/07(土) 17:39:33.45 ID:wcNZt0NIO<> 桑原ww懐かしいなw
確かに浜面似てるな、雪菜絡みならやけに強くなる桑原と滝壷絡みでやけに強くなる浜面か <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2011/05/08(日) 09:44:56.39 ID:WWpmNidAO<> 浜面はどっちかってーとカイジみたいなイメージあったな
逆境に強い的な意味で
桑原は元のポテンシャルが高いからなぁ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/08(日) 10:04:01.78 ID:lbB15v7wo<> 中条さんが覚醒した上条さんが竜王の顎で相手を一撃のもとに葬り去って「納得いかねえ、リターンマッチだ」ってか

まあ、これ以上はスレチだ
誰か小ネタスレか総合スレにでも投下してこい
全裸で待ってる

もちろん更新の方も全裸で舞ってる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/08(日) 13:06:04.12 ID:Uyw+gMGko<> なんかここの>>1って痛々しいんだよな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/08(日) 13:49:53.45 ID:GGuNPekho<> >>430なら読まなければいい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/08(日) 13:58:59.39 ID:TQne646DO<> 確かに他スレに荒らしを輸出はしているが…
>>1が悪いわけではない <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage saga<>2011/05/08(日) 15:38:00.79 ID:2T2DupQA0<> >>430
漠然と言ってもわからないだろうに。
具体的に『どこが』ダメなのか指摘すれば、直すべきところ(まぁ、そんなところがあるとは思わないが)
も見つかり、改善されるかもしれない。
このスレを良くしたいと思って書いたなら上で言ったようにして、
適当に書いたんだったらちょっと反省して、
荒らしのつもりなら死ね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/08(日) 16:29:02.18 ID:03+GQt8SO<> スイーツ(笑) <>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/08(日) 23:53:17.26 ID:ScXlPlph0<> 12時に投下します。短めですがよろしくお願いします。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/05/08(日) 23:59:53.72 ID:tZlxTy08o<> ばっちこーーい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)<>sage<>2011/05/09(月) 00:02:12.90 ID:Wi3TIpwzo<> なったぜ <> ◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/09(月) 00:02:15.35 ID:sse3fi4p0<>
長点上機高校からそのままエスカレーター式になった大学。
ワックスで磨きあげられたリノリウムの光沢が眩しい校舎の七階。
突き当たりに位置するところに学園都市第一位の研究室はあった。


「アンタさ、退院したなら、退院したってちゃんと教えなさいよ」

「テメェに言う必要がどこにある」


随分と伸びてきた髪を指先でいじりながら、一方通行は美琴を見ることすらしない。
長点上機の白と青を基調とした制服は大学の研究室においては目立つ。
常盤台の頃の癖が抜けていないのかと、一方通行は美琴の頓着のなさを煩わしく思う。
ただでさえ目立つ容姿の彼女が更に制服姿で自分の研究室に来ているなど、妙な噂を立てられたら叶わない。
風評を気にするわけではないが、鬱陶しい雑音から離れて研究に勤しみたい一方通行からすればい言い迷惑だ。

「必要ならあるわよ。私がアンタを入院させちゃったんだもん…それくらい聞く権利はあるでしょ」


研究室の機器を珍しげに見回していた美琴は咎める口調で一方通行を見据える。
視線から不満がありありと伺える。


「知るか。テメェの都合じゃねェか。まァいい。これで気は済ンだろ。さっさと失せろ」

「邪魔そうに言わないでよ…」

「……邪魔なンだよ。ガキと違ってこっちは忙しいンだよ」


これは本音だった。
彼の研究は時間との戦いだ。ただでさえ忙しいというのに、更に美琴の相手などしていられなかった。

「用なら他にもあるわよ。ホラ、これ」

テーブルに置かれた包みを怪訝そうに見る。

「クッキー」

「いらねェ」

「受け取ってよ。せっかく作ったんだし」

「頼ンだ覚えはねェ。第一、甘ったるいモンなンざ食えるか」

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/09(月) 00:03:55.46 ID:sse3fi4p0<> 手で払うように、しっしと振る。
美琴は、一瞬傷付いたように顔を歪めるがすぐさまその表情を消す。
一方通行は気づかぬフリをする。


「……お願いだから、貰ってよ。これくらいしないと気が済まないのよ、私の」


最後の方は殆ど懇願だった。
心臓が止まる一撃を与えたのは思っていた以上に美琴の心に深い影を落としていたのだろうか。
一方通行は舌打ちをする。自分のことなど気にする必要もないというのに。
そのまっすぐな、人の好い気性がいっそ疎ましく思えた。


「何でテメェが気の済もうが関係なンざねェ。大体…お前は何がしたい?」

「何がしたいって…」

「俺は別にテメェの為にやった覚えはねェ。ぶち殺されても文句が言えないことをした埋め合わせみたいなモンだ。
一度サンドバックにでもなりゃあくだらねェ因縁ふっかけてくることもねェだろうしな」

馬鹿馬鹿しいとでも言うように肩をすくめる。

「言ってみれば俺の自己満足に利用したにすぎない。好都合に色ボケしてた馬鹿ガキがフラれてトチ狂ってたしな」

「アンタ…ッ」

美琴の眉がつり上がる。
怒りで彼女の頬が赤く上気するのを冷めたまなざしで見つめる。

「勘違いしねェうちに言っておく。俺はテメェなンぞとなれ合う気はさらさらねェ。…寧ろ」


杖を手に、ふらりとイスから立ち上がる。
たった拍子にローラー付きのイスがからからと動く。

「目障りだ。いつまでもブチ殺した人形共そっくりの面が目の前にぶら下がってるのは」
<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/09(月) 00:05:34.23 ID:sse3fi4p0<>
美琴が言葉を呑むのがわかった。

「被害者面されンのもウゼェが、それ以上に勝手に悟った面されンのは虫酸が走る。もし仮に『寛大な心で俺を許してやる』って優越感に浸りてェなら止めねェ。
それはテメェの勝手だ。だが、俺は別にテメェに許しを請うつもりもねェし、テメェの自己陶酔につき合うつもりもねェ」

怒り以上に、ショックが彼女から言葉を奪う。

「それとも何か?クローンの人形共殺したことなンざ些末なことだから気にするまでもねェのか?オリジナル様にとってはよ」

鼻で笑うと同時に、一方通行の顔に思い切りクッキーの包みが叩き付けられた。


「やっぱりアンタは最低だわ……」


美琴の瞳は怒りとショックで潤み、揺れていた。
癇癪を起こした時の打ち止めに似ていると、一方通行はどうでも良い事をふと思った。


「最低で最悪にムカつく嫌な奴だわ。少しでも歩み寄ろうとした私が馬鹿だったわよ!」

「テメェが何を思おうが知った事か」

「ええ、そうね。悪かったわね邪魔して!!」


乱暴にドアが閉められる。
廊下に響く荒々しい足音が遠ざかっていくのが室内でも十分に聞き取れた。




<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<>sage<>2011/05/09(月) 00:08:41.09 ID:xLn+0DrZo<> 不器用な奴だ…… <> ◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/09(月) 00:08:54.14 ID:sse3fi4p0<>


一方通行の研究室はフロアの半分近くを占める。
元々は二つの研究室となっていたのを、中央の壁を撤去して一つの部屋としているその大部屋は一方通行一人だけの為の研究室であった。
大学二年になったばかりの青年に個室の、それも二部屋分の広さと、埋め尽くす程の最新機器は破格という言葉でも足りない。
それに異を唱える者は当然多かった。学生の中にも、そして教授の中にも。
しかし、実力主義がまかり通る学園都市において、抗議の声はすぐさま消えることとなる。
異を唱えた者達の数年分の研究に匹敵する成果を最初の一年で優に上げてしまったからだ。
一方通行には研究に必要な機器と環境があればそれでよく、最初の一年は彼にとって馬鹿共を黙らせる為の無駄な時間だったと考えている。


本腰を入れて彼の目的の研究に移ったのは一年目の秋であった。
分野は遺伝子工学。テーマはクローン人間の延命処置である。
クローニング処理の段階における延命についてはほぼ見通しがついていた。
研究そのものは大学に入る前から行ってきたのだ。
しかし、彼にとって強制的に成長させられたクローンの寿命という点が非常に厄介な問題であった。


「生後数日で十数年分の成長促進と知識の吸収だけでも負担の予測は付かないわ、still彼女達は長年貴方の演算を代理していた」

「それがわかってるから急いでンだよ…」


長テーブルに腰掛けたまま、一方通行は吐き捨てた。組んだ足に乗せられた指先が苛立たしげに膝を打つ。
一方通行の椅子に腰掛けている布束砥信はぎょろりとした瞳を瞬かせるとパソコンの画面に改めて目を向ける。
スクロールされている文章は論文ではない。



「376人」



口にした人数に、一方通行は更に不機嫌そうに眉をしかめる。


「原因はどこの研究所も解明出来ていないのね」

「別に、無能共のおつむには端から期待なンざしちゃいねェ。心配なのは下らねェ保身の為に何か隠匿してねェかってことだけだ」


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/09(月) 00:12:01.97 ID:sse3fi4p0<>

ウサギのイラストの付いたマグカップに満たされたコーヒーを一口啜る。スリッパも同じキャラクターのイラストが描かれている。
大学入学の際に、打ち止めと番外個体からプレゼントされたものだ。
自分には甚だ似合わないそれを、彼は文句を言いながら大切に使っていた。


何でもないことのように話しているが、実際には腸が煮えくり返る程目の前の男が怒りを覚えていることが布束にはわかる。

表面に表すまいとしているのは、この男の怒りの矛先が自分自身に向いているからだ。



「so、私はどうすればいいかしら?」

「どうするも何もねェ。幸いサンプルが増えたンだ。少しは前進するだろ」

愚問だったなと、布束は自分の問いの愚かしさに辟易した。
今更この男が狼狽えて膝を付くはずがなかったのだ。
それでも問わずにいられなかったのは、布束の方が滅入っているからだろう。
学園都市の誇るトップレベルの頭脳。それぞれの分野からのアプローチは決して停滞しているわけではなかった。
寧ろ、他の人間がみれば信じられない速度で研究が掘り下げられていると言っても良い。
しかし、彼らは何の満足感も達成感も覚えない。彼らが自らに課せられた時間はあまりにも短すぎた。


「………so…これまで通りなのね」

布束は溜息を吐くと、テーブルに置かれた包みを見る。

「それ…食べないの?」

「欲しけりゃくれてやる。どっちにしろ俺に食う資格なンざねェ」

「繊細な子なんだから、もう少し優しく遠ざけてあげて」

「別に俺はあのガキのアフターフォローをする筋合いはねェ。大体、どうして此処にのこのこ来やがったのかさえわからねェンだ」

「それ本気で言ってるのだとしたら、貴方は本当に人の心に鈍感なのね」

表情一つ変えずに布束はわざとらしく溜息を吐く。一方通行が眉を寄せて睨もうともどうでも良さそうに子猫のイラストが描かれたカップのお茶を啜る。



「well…あの子はようやく貴方を一人の人間として見ようとしているのだと思うわ」


謝るという行為も罪悪感を抱くのも、全ては相手を一人の人間だと思っているからこそ生まれる感情だ。
仮に、妹達を快楽と愉悦の為だけに殺していた化け物としてしか一方通行を見ていないのであれば、それは生まれるはずのない感情であると布束は考える。
<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/09(月) 00:20:45.41 ID:sse3fi4p0<> 一方通行はそれを喜ぶわけでもなく、ひたすら苦虫を噛み潰したように渋面を作る。

「くだらねェ…どうなるモンでもねェだろうが」

「余り傷付けずに追い払ってあげて欲しいものだわ。あの子達が傷つくのをこれ以上見たく無いもの」


遠ざけることそのものを布束は否定しない。
彼女もまた御坂から、そして妹達から距離を置く人間だからだ。
一方通行は空になったカップにインスタントコーヒーを測りもせずに乱雑に放り込む。
スプーン三杯分はありそうな量は苦いだけでコーヒーとしての風味すら保ててはいない。
愛飲する理由は単純に簡単だからだ。不味そうに顔を顰めて苦いだけのヘドロのようなコーヒーを流し込む。



「オイ、今日は……飯に付き合え」


ぽつりと一方通行が口にする言葉を布束は感情の読めない顔で受け止める。
一方通行の言葉はいつもどおりだから考えるまでもない。
それは一方通行の横顔を見た時点で布束にはわかりきったことだった。
泣きそうなくせに虚勢を張る、意固地な子供の横顔。彼の保護者兼研究仲間の科学者の例えだ。
言い得て妙だ。
償うべき少女を手酷い言葉で追い返してしまったことに自己嫌悪を抱き、そして、救えなかった守るべき少女達への申し訳なさでこの男の中はいっぱいになっている。
だからこそ、今の言葉なのだ。

食事の後に来るであろう展開まで、全てが布束にとって慣例と化している。



「別に構わないわ」

故に、布束は逡巡することも無く答える。彼女の言葉を一方通行もまた当然のように受け止める。
布束は美琴の残していった包みをそっと解く。
濃い焦げ茶色の行儀良く包まれているクッキー、その中の一枚を手に取ると、一口齧る。




「苦い」

市販のビターチョコよりも更に苦い味付けのクッキーに、少しだけ困ったように眉を寄せ布束は呟いた。
一方通行は聞こえていないかのように、窓の外に目を向けていた。


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/09(月) 00:23:56.70 ID:sse3fi4p0<>





「ホント……嫌な奴」


美琴は顰め面で灯りの点る窓を見上げていた。
いくら鈍い自分でもわかる。
一方通行が明らかに距離を取りたがっているのが。
しかし、一方通行の言葉をそのまま置き換えれば、「知った事か」という話だ。
一方通行は美琴の意識下において、完全なる加害者であると同時に、共犯者でもある。
しかし、美琴と彼とでは、明らかに負う罪の大きさに差がある。きっかけを作ったのが自分であろうとも、直接手を下したのは一方通行だから。
故に、彼女は「罪を背負っているのは私も一緒だわ」などという綺麗な言葉をかけてやるつもりはなかった。
ただ、美琴は知りたかった。一方通行のしていることを。彼が何を思っているのかを。
それは、愛情や同情でも好奇心でもなく、自分の罪の末路を確認したいという欲求だった。

だから、それまでアイツには自己満足に付き合ってもらうわ。

美琴は不機嫌な顔を一転させて、不敵な笑みを浮かべる。
彼女を知る者ならばわかるだろう、彼女が戦いを挑む時に浮かべる笑みを。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/09(月) 00:28:11.61 ID:sse3fi4p0<> 以上で投下終了。
布束さん超電磁砲で佐天さん並に好きなのに書きにくいです。英語苦手なので言葉遣いおかしかったらすみません。

それではまた。 ノシ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/09(月) 00:32:25.03 ID:ZW+MoWjDo<> 乙

もうこの時点で布束さんとの爛れた関係の真っ只中なのか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/09(月) 00:36:42.07 ID:+ubpceSLo<> 乙

寿命通行まで見られるなんて。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<>sage<>2011/05/09(月) 00:37:06.87 ID:xLn+0DrZo<> あの人のしゃべりはムズいよな……
接続詞だけじゃなく感嘆詞、んで時折単語も使う。
最初に使ったと思ったらしばらく使わなかったり……
SSでの不遇はそこから来ていると思うの。

乙乙!
一方通行も御坂もかなり頑固だから困る……
扱い的にも、心情的にも。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/09(月) 00:37:18.65 ID:+ubpceSLo<> 乙

寿命通行まで見られるなんて。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<>sage<>2011/05/09(月) 00:37:41.02 ID:xLn+0DrZo<> あの人のしゃべりはムズいよな……
接続詞だけじゃなく感嘆詞、んで時折単語も使う。
最初に使ったと思ったらしばらく使わなかったり……
SSでの不遇はそこから来ていると思うの。

乙乙!
一方通行も御坂もかなり頑固だから困る……
扱い的にも、心情的にも。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/09(月) 00:37:56.01 ID:TPF3J+Mf0<> 乙
一方さん…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<>sage<>2011/05/09(月) 00:38:09.66 ID:xLn+0DrZo<> あの人のしゃべりはムズいよな……
接続詞だけじゃなく感嘆詞、んで時折単語も使う。
最初に使ったと思ったらしばらく使わなかったり……
SSでの不遇はそこから来ていると思うの。

乙乙!
一方通行も御坂もかなり頑固だから困る……
扱い的にも、心情的にも。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/09(月) 00:38:11.67 ID:+ubpceSLo<> 乙

寿命通行まで見られるなんて。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<>sage<>2011/05/09(月) 00:39:44.39 ID:xLn+0DrZo<> あの人のしゃべりはムズいよな……
接続詞だけじゃなく感嘆詞、んで時折単語も使う。
最初に使ったと思ったらしばらく使わなかったり……
SSでの不遇はそこから来ていると思うの。

乙乙!
一方通行も御坂もかなり頑固だから困る……
扱い的にも、心情的にも。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/09(月) 00:39:12.30 ID:ztmss8Wfo<> 乙

どっちって言うか、全員不器用すなぁ・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/09(月) 00:40:52.27 ID:ztmss8Wfo<> 乙

どっちって言うか、全員不器用すなぁ・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/05/09(月) 00:41:43.56 ID:rlk6J9Ito<> 乙乙
ただでさえ雑談多いスレなんだから重い時間は時間おいてリロードしようぜ流石に

この重苦しいシリアス展開にウサギスリッパ&マグカップは評価する <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/09(月) 01:01:18.98 ID:WhdxeI8DO<> 乙!!

こ、これはしている最中に美琴がくるフラグッ!!
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2011/05/09(月) 01:02:38.33 ID:PVoDRqUNo<> 苦いクッキーからどんどん妄想が膨らんでくわー。
先が楽しみだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/09(月) 01:49:31.16 ID:eykGsjBDO<> soは「だから」だから、「じゃあ」的なニュアンスだとthenの方がいいような気がする <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/09(月) 08:39:44.80 ID:VQU8z1P60<> 前に少し言及されていた「寿命通行に対する打ち止めの葛藤」を当時の様子で是非……
番外個体もあると嬉しいなぁ チラッ <>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/09(月) 21:52:03.51 ID:WIgmhYuQ0<> 10時になりましたら投下させて頂きます。
よろしくお願いします。 <>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/09(月) 22:02:58.89 ID:WIgmhYuQ0<>
打ち止めはご機嫌だとばかりに満面の笑みを浮かべていた。
対照的に困惑を露わにしているのは番外個体だった。
二人を対照的な表情にさせているのは視線の先、キッチンに立つ後ろ姿だ。
長点上機の制服にエプロン姿の美琴が立つのは黄泉川家のキッチンである。
手際よく包丁がまな板を打つ音、傍らの電気コンロに乗せられた鍋はコトコトと心地よい音と、香ばしい香りを上げている。
切り終えた野菜を油を敷いたフライパンで手早く炒める。
塩を振って程良い焦げ目の付いた魚は三人分既に盛りつけられている。


「このおうちでフライパンが活躍してるのって久しぶりにみたってミサカはミサカは炊飯器以外存在意義のなかった器具がようやく得た活躍の場を喜んでみたり」


打ち止めはひょこひょこと美琴の隣に立つと彼女の手際をのぞき込む。番外個体は怪訝な、というよりも不審な表情を崩す事なくソファーに腰掛けたまま二人の後ろ姿を見ていた。


「打ち止め、お皿用意してちょうだい」

「は〜いってミサカはミサカは元気良くお返事をしてみる」

細切りにされたピーマン、タケノコ、もやしと牛肉の炒め物を美琴は三つの皿に均等に盛りつけていく。
打ち止めは、ふきこぼれる寸前の味噌汁をお椀に注いでいく。

「お待たせ。さて、食べましょう」

テーブルに手際よく用意された料理はシンプルであるものの、食欲をそそるだけの見栄えを十分に兼ね備えていた。

「わーい、いただきま〜すとミサカはミサカは初めてのお姉様の手料理に興奮を抑えきれなかったりする〜」
「はいどうぞ。たくさん作ったから慌てなくてもいいわよ」


エプロン姿のまま美琴が恥ずかしそうに笑う。
ここまであけすけに手料理を喜ばれるなど随分久しぶりだ。
勢い良く料理を口に運んでいく打ち止めから美琴は番外個体に視線を移した。
番外個体は箸に手を伸ばすことなく、じっと美琴を見つめる。
<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/09(月) 22:03:59.28 ID:WIgmhYuQ0<>
「なに?どうかした?」

「あのさぁ〜ミサカ基本的に腹の探り合いとかマジ勘弁だからはっきり言うけどさ〜一体何しに来たの?お姉さま?」


お姉さま、の部分を皮肉げに強調する。
基本的にクローンの少女達は自分達が生を受けるきっかけである美琴に対して好意的である。
崇拝に近い感情を抱く者もいれば、母親に近い感情を抱く者もいる。
番外個体はその中では珍しく、美琴に好意を示さない妹だ。
それどころか、時折敵対するような眼差しを向けることさえある。
それは例え知り合ってから四年目になっても変わらない。


「何しにって…可愛い妹達にご飯作りに来たのよ」


白菜とかぼちゃの味噌汁を啜りながら美琴はとぼけた声で言う。
番外個体が小さな舌打ちをする。

「可愛い妹?散々男にべったりだったくせに、暇が出来たらお姉ちゃんぶるんだ?」


番外個体の唇がめくれるようにつり上がる。

「優しいお姉ちゃんっていうのは随分お手軽なお仕事なんだね、あひゃははは」

下品な笑い声とは裏腹に、番外個体の軽蔑の表情は美しい。
美琴と同じ鳶色の瞳が冷たい光を帯び、眉は美しくカーブを描く。
外見的には美琴よりも一つ二つ年上の少女は基本的なパーツが美琴譲りの美貌である為、軽蔑の表情は凄みと高慢な美しさを放つ。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/09(月) 22:06:11.83 ID:WIgmhYuQ0<>

「言いたい放題言ってくれるわね…確かに男にべったりだったのは否定出来ないけれどさ。
 別に急にお姉ちゃんぶってるつもりもないわよ?アンタが取り付くしまもなかっただけで」

「当然じゃん。ミサカは他のミサカと違って「お姉様〜」なんてキモいキャラじゃないから。ただミサカ達がお姉様呼びで統一してるからそう呼んでるだけ。
 何だったらクソ姉って呼んでもいいよ」

「ふん、私だってアンタみたいな性悪に無理してお姉様なんて呼ばれたくないわよ。生憎、可愛い妹達なら十分間に合ってますから」

「きゃはははは!!ムカつく〜ムカつき過ぎてミサカ凄く血のつながり感じちゃうんだけど?
 マジミサカの性格の悪さって思い切りお姉様似じゃね」

「アンタみたいな面が自分の遺伝子に含まれてるなんて思うとぞっとするわね」



美琴は沸点の低い少女である。
例え喧嘩をするつもりはなくとも、一言が勘に障れば即座感情のメーターは怒りにまで跳ね上がる。
そして、ネットワークこそ解除されたものの、負の感情を浴びて生きてきた故に歪んだ性格は結局直ることのなかった番外個体も忍耐強い少女ではない。
険悪な空気をすぐさま向かい合って放ち始めた二人に挟まれていた打ち止めは、右、左と視線を交互にやると、小さく深呼吸をする。


「もう!いい加減にしてってミサカはミサカはいい女レベルの低い二人に切れてみる!!!」


幼いさを含んだ子供特有の高い声が鋭く響く。
あまりにも会話の沈黙の瞬間を鮮やかに付いた叫びは二人の喧嘩の熱を冷却し、呆然とさせる。
中学生になったばかりの少女に高校生と大学生ほどの年齢の少女二人が圧されるのは少々滑稽な図柄である。


「どうして番外個体はいつもお姉様に喧嘩腰なの?そんなんじゃまともにお話もできないよ。
 それに、お姉様もお姉様。はぐらかすような言い方されたらこの子も怒るし、何よりそんなのぜんぜんお姉様らしくない!」


年下の少女の言葉はいちいち正論であった。
故に、美琴と番外個体は共に気まずげに顔を歪めるのみで返す言葉もない。



「ああ〜…ったく…何やってるのかしらね」


美琴は自己嫌悪をどうにか飲み下すと、気持ちを切り替えるように髪をバサバサと振る。



「そうよね、アンタの言った言葉私にもそのまま当てはまるわ。腹の探り合いって私も好きじゃないもの」


唇を湿らせるように、一口お茶を飲むと、美琴は気持ちを落ち着かせるように短く息を吸って吐く。
<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/09(月) 22:08:03.72 ID:WIgmhYuQ0<>

「言っとくけど私が今日来たのは本当にアンタ達の顔見にくるっていうのが目的。
 ずっとほったらかしにしてた妹達に妹孝行したくてね」


ほわっと穏やかな笑みを浮かべると打ち止めのさらさらとした髪を撫でてやる。
くすぐったそうに首をすくめる打ち止めを見つめる美琴の柔らかい視線に、嘘ではないことを悟ったのか、
番外個体が決まり悪そうに、ほうれん草のおひたしを口に放り込む。


「それと、もう一つ。アンタ達からもう一回聞きたいの。アイツのこと」

「あの人のこと?」

「………何でよ」


打ち止めは美琴が一方通行に歩み寄ろうとしてくれているのかと喜色を浮かべ、番外個体は何となくおもしろくなさそうに眉を顰めた。


「今まで私ぜんぜん知ろうとしてこなかった。アイツが何をやってきて、今何をしてるのか。確かに打ち止めから聞いたこともいろいろあるけど、正直他人事だった。
 ぜんぜん自分には関係なんてない人間の話を聞いてるみたいに。でもそうじゃなかった。自分とも妹達とも向き合うには、もっときちんとアイツのことしらないとダメだって最近わかったの」


「それって…あの死んじゃったお姉様の彼氏とのことに関係してるの?あの人が入院したアレと」




美琴は一瞬考え込んでから頷いた。
迷った為ではなく、しっかりと自分の感情を整理する為の間だった。



<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/09(月) 22:11:04.09 ID:WIgmhYuQ0<>


目を覚ますと、布束は猫のように瞳を見開き暗い寝室の壁に掛けられた時計を探す。
無駄な装飾の無い、純粋に時間を知らせる為だけの役目を求められたシンプルな時計。短針は3と4の間を示していた。
逆算して、三時間近く眠っていたと判断するシーツから手だけをのばして床を探る。
指先にフリル付きのレースの触れる感覚。
指をレースに引っかけると、ようやく身体をのろのろと起こと、腰を持ち上げて下着を履く。
疲れ果てていない限り素っ裸でベッドに眠るのは嫌いだ。

黒の布地にピンクのフリルをあしらった下着は一方通行曰く「目眩がするほど少女趣味」だそうだ。
ゴスロリ系の服を好んで着る布束にはそれは特別驚くようなことではなかった。
自分がゴスロリを着るのにふさわしい容姿をしているとは思っていないし、下着の趣味も年齢からすればやや装飾過多の少女趣味と言われても仕方がない。
しかし、特にそれがどうしたと布束は思う。
自分が似合う服よりも自分が着たい服を着ること。
懐を痛めて買う私服はそうあるべきだというのが彼女の持論だ。

同年代と比較すると間違いなく大きいサイズに分類される胸を下とお揃いのブラジャーで包む。
隣を見下ろせば、人一人分のスペースがあった。



布束と同じく、一方通行も裸でシーツにくるまることを嫌う。

嫌う理由はそれぞれ異なる。

布束は何となくふしだらな感じがするから、一方通行は野良犬のような侘びしい気持ちになるからだ。
セックスの後のしびれるような手足の怠さとふわふわとした身軽さを振り切るようにしてシーツから這い出る。
ヒヤリととしたフローリングの冷たさが覚束ない足の裏に突き刺さる。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/09(月) 22:16:48.39 ID:WIgmhYuQ0<>
喉が乾いていた。
冷蔵庫に500ミリリットルのミネラルウォーターがあったはずだ。
下着姿に抵抗があるので、目に付いた一方通行のトレーナーを着る。
一方通行の華奢な身体にぴったりと合うサイズのトレーナーは布束には少々胸元が窮屈だった。

キッチンとつながったリビングに足を踏み入れると、オアシスの『フー・フィールズラブ?』が低いヴォリウムで流れていた。

雑音からして、彼の持つ音楽ソフトではなく、ラジオだろう。
UKを延々と流し続ける番組がやっていたと、布束は箱の隅をほじくるように記憶を引っ張り出す。


チノパンにシャツを着た一方通行は片膝を抱えて浅黄色のソファーに沈み込んでいた。
膝に頭を付けてはいるが、音楽に耳を傾けている風ではない。
眠っているのかと思ったが、伏せられた瞼の隙間から赤い瞳が覗いていた。

冷蔵庫から半分ほど減っているミネラルウォーターを取り出すと、一口、二口と飲む。



「飲む?」
「くれ」


自分で聞いておいて返事があったことに布束は軽く驚く。
ぺたぺたと裸足がフローリングを踏みしめる音を立てながら隣に座り、ペットボトルをソファーに力無く乗せられた一方通行の手にそっと添える。
一方通行は布束から受け取った水を一息で飲み干した。



「妹たちのことを考えていたのね?」


疑問というよりも確認だった。
一方通行は否定も肯定もせずに空になったペットボトルを握り潰した。


「情けねェ…何が情けねェって、アレイスターならあンな仕込みしていてもおかしくねェと何故思わなかったのかってことだ。
 学園都市最高の頭脳だ何だとジジィどもに煽てられようとも、結局俺はこのザマだ」


憤りと無力感に、一方通行の声は震えていた。


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/09(月) 22:19:27.43 ID:WIgmhYuQ0<>
「yet…私たちは彼女達の身に起きていることを解明出来ないでいるわ。but何も進展していないわけじゃない。
 確実に近づいてるはずだわ」


言葉を継ぎ足しながら何の慰めにもなっていないと布束は冷静に思う。
一方通行を打ちのめしているのは、こうしている今にも失われているかもしれぬ少女達の命なのだ。
自分の言葉の軽さ、呆気なさにうんざりする。

しかし、それ以外何も言いようがないのだ。

妹たちの死の原因は冥土帰しも調べている。
今までの研究をどれほど修正すべきか、それはこれからのことなのだ。
現状において言えることは諦めるなというただそれだけのことでしかない。


「それまでに、あと何人死ぬ?」


布束は答えられない。
年々没する妹達の数は自乗式に増えている。
既に、彼が守ってきた妹達は八割を切ろうとしている。


「アイツ等に何て言えばいい?」


一方通行はそのことをまだ打ち止めにも番外個体にも話していない。
そして、当然御坂美琴にも。
どうすればいいのかわからない。途方に暮れた子供のような横顔は雄弁に語っていた。
布束は膝立ちになると、一方通行の髪を撫でてやる。
シャワーを浴びたのだろう、細い髪がわずかに濡れている。
しばらく為すがままにされていた一方通行の腕が布束の腰に回される。
布束の胸を枕にするように、白い頭がのし掛かる。
中腰の姿勢がつらい布束はそのまま一方通行の引き寄せる力にあらがわずにソファーにもつれ込む。
抱き枕にするように布束の胸に顔を埋める。


「しばらく大人しくしてろ」


強がりを含んだセリフに、布束は仕方がないとばかりに溜め息を吐く。面倒くさい男だ。
所有はしたがらないくせに執着はする。
美琴を避け、打ち止めや番外個体から距離を置こうとするのはそのせいだ。
近付き過ぎると慌てて離れる。野良猫が野良であることを忘れようとするようだ。
けれども執着はする。彼女達が彼の中心に存在することなどわかりきっている。


「naturally…」


この受け答えも既に慣れたものだった。
布束は猫のようなふわふわとした白い髪を胸の奥底にしまうように、ぎゅっと一方通行の頭を抱き締めた。



<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/09(月) 22:21:04.94 ID:WIgmhYuQ0<>


回診が終わり、付き添っていた一方通行はこっそりと息を吐く。安堵の息だ。

「子供は嫌いかね?」

振り返ることなくカエルによく似た医者は苦笑を含んだ声で問う。
後ろに目でも付いてるのじゃないかと、顔をしかめるが、今の段階でこの医者に勝てるとは思わない一方通行は口篭ってから、ぽつりとつぶやく。


「好きじゃねェ…」


学園都市の年齢層自体が若いせいもあって、子供の患者が多い。
この病院にこれ程子供がいたのかと一方通行は目を剥く思いだった。


「意外だね。あの子をあんなに大切にしていて」
「そりゃ話が違うだろ」

それもそうだと、何が楽しいのか小柄な丸みを帯びた身体を震わせて笑う。
一方通行に背を向けたまま、冥土帰しは使い古したキャビネットに並べられている分厚い本を一冊一冊確かめ、吟味し手に取っていく。

「ガキ共のあの目がどうにも落ち着かねェンだよ。テメェで見たくねェモンまで見られちまってる気がしてよ」

声も無く、冥土帰しが笑うのがわかった。自分はそんなにおかしなことを口走っただろうかと発言を振り返る。
キャビネットからあらかた本を出し終えたのか、身体を解すように腕を上げて腰を伸ばすと冥土帰しが満足げな笑顔で振り返った。
一方通行には冥土帰しの笑みの理由がわからなかった。



「さてと、すまないねまたせて」

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/09(月) 22:28:14.24 ID:WIgmhYuQ0<>
ありったけの冥土帰し厳選の医学書を次々と手渡される。
本の表紙に書かれた言葉をなぞる。

循環器学、消化器学、内分泌学、血液学、神経学、脳神経外科学。

果ては小児科学、産婦人科学といった分野の本まである。



「大事にしてくれよ。今だとどれも高値が付いてる絶版ばかりなのだからね」

「オイ…俺は産婦人科にも外科医にもなる気はねェぞ」


「命を扱おうというならば、知っておいて損はないはずだ。君なら読破するのにそう大した時間は掛からないだろう」

「だからって、節操なさすぎンだろうが」

「命に結びついていない医学は無い。ジーンマップと睨めっこするだけでは埒が明かないと思ったから私を訪ねたのではないのかい?」



言い返すことも出来ず、一方通行は露骨にうんざりとした顔を作る。
本に込められた膨大な知識量に対してではない。途方も無い質量の紙媒体そのものにうんざりとしたのだ。
彼の疑問を汲み取ったように、手にしていた最後の一冊を一方通行の抱えた本の束の一番上に乗せる。


「子供は命の塊だよ。君が彼等を前にして気圧されるのは、即ち彼等の命そのものに気圧されているということさ」


突然の言葉に、一方通行は本を抱えたまま、ただ目の前の医者をじっと見つめることしか出来なかった。


「命の価値を知らない人間は、命に気圧されることも無い、つまりそういうことだよ」


本の表紙に押し花で作ったしおりを置くと冥土帰しは一人で納得したように一方通行を置いたままさっさと出て行ってしまった。
命の価値。
冥土帰しはそう言った。
決して彼は命の重さとも、命の大切さとも言わなかった。


「意味わかンねェンだよ、オッサン…」


何となく、褒められたということだけはわかる。それも、父親が出来の悪い息子の成長を喜ぶような類の何とも一方通行にとっては居心地の悪い笑みで。
冥土帰しの本が収納された資料室の椅子に腰掛けると、一冊を手に取った。
蛍光灯に焼けた本は、開くとカビと埃と、古紙独特の香りがした。
それは決して不快な香りではなかった。
一方通行が出てきたのは結局手に取った一冊を読み終えてからのことだった。


病院から出ると切っていた携帯の電源を入れる。
着信を見ると打ち止めからのメールがあった。今日黄泉川の家に食べに来ないかという夕食への誘いのメールだ。
その次の着信には布束からのメール。

「………」


考える時間は一分にも満たなかった。大学行きのバスの時間を携帯で調べると、一方通行は気持ちを切り替えるべく深く息を吐き出す。
アスファルトを突く杖の音は黄泉川の家とは逆方向へと遠ざかった。



<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/09(月) 22:31:38.31 ID:WIgmhYuQ0<> 投下終了です。
病院のシーンは、数日後です。わかりづらくてすみません。
あと一方さんのスリッパとマグカップのウサギは口が × ←な風になってるあのウサギです。

それではまた。 ノシ

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<>sage<>2011/05/09(月) 22:38:23.81 ID:gAQ8k9Q30<> 乙乙
いやーなかなかアダルティですなぁ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/09(月) 22:41:50.51 ID:rKPfToxro<> 乙

ここの番外個体はいい。とてもいい。
布束さんもいい。

みんないい。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/09(月) 22:50:49.48 ID:TPF3J+Mf0<> 乙乙乙
ホントにみんな最ッ高!
しかし、最後まさかのミッ●ィーに持ってかれたwwww一方さん可愛いな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[<>sage<>2011/05/09(月) 23:01:34.78 ID:oxDaxWh6o<> 布束さんの距離感凄いな…構いすぎず、かといって放ったらかしってわけでもなく
寄りかかってきたら支えてあげる猫の飼い主みたいなこの絶妙感が素敵
おつおつ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)<>sage<>2011/05/09(月) 23:30:30.04 ID:H3hHyQVoo<> 乙!

美琴と番外個体の関係が珍しい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<>sage<>2011/05/10(火) 00:21:25.84 ID:fgPCLXv+0<> 乙
そういえば前スレに布束さんには人としての好意はあったけど恋愛感情は無かったって書いてあったな
なんとアダルティな関係 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/10(火) 00:43:56.48 ID:TRAZDi1qo<> 乙
冥土帰しカッケェ・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(中部地方)<>sage<>2011/05/10(火) 00:54:10.60 ID:H6hs2TS7o<>   ∩∩
 (・x・) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/10(火) 04:29:24.84 ID:S23DFyHUo<> 医学書一冊をあっさりと読み終えるとか一方さんやっぱり半端ないな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2011/05/10(火) 05:36:31.62 ID:DuWlaeJBo<> 子供のエネルギーに当てられて気不味くなるヤツが想ちゃんの前ではデレデレになんだよなー。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/11(水) 21:44:44.64 ID:2QZiYPUIO<> 布束好きとしては非常に嬉しい描写が続くな。悩める一方通行も良いし。 <> ◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/12(木) 20:58:57.96 ID:Up2sVeBF0<> 12時までには投下したいと思っています。よろしくお願い致します。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/12(木) 21:08:06.58 ID:jlZo0HQuo<> 待ってる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/12(木) 22:03:41.29 ID:QxGXO4/Co<> 舞ってるぜ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<><>2011/05/12(木) 22:10:21.75 ID:1Xr2GNcAO<> 待ってるぜよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2011/05/12(木) 23:07:17.52 ID:KXEEYHQ/0<> もうマジでsageてくれよ
これで3回目だよ、ageられてわくわくしていったらただのコメだったことが <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/12(木) 23:11:08.11 ID:QxGXO4/Co<> >>489専ブラにすれば気にならないよ、ブクマ機能から巡回すればいいんだから <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2011/05/12(木) 23:15:29.89 ID:KXEEYHQ/0<> そうか、サンクス!デュフww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2011/05/12(木) 23:30:18.91 ID:+Uo91HQ8o<> >>489
コメ・・・? <>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/12(木) 23:42:43.48 ID:Up2sVeBF0<> では投下します〜 <> ◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/12(木) 23:45:31.45 ID:Up2sVeBF0<>
込み上げる笑みを必死で堪える。
目の前の少女に不審に思われてしまったら元も子も無い。


「へぇ…ウチの教授の研究室に入りたいんだ。ま、君なら余裕だろうけどさ」

「そうなんですか?よくわからないです。ただ、入るには推薦が必要だって布束先輩からお聞きして」

「布束…へぇ、布束砥信がね」


にこりと笑う少女に愛想笑いを浮かべつつ、内心呻く。
布束砥信。若くして精神医学の分野において目覚しい成果を挙げている生徒だ。
胎児期における脳内情報への干渉について彼女が書き上げた論文は学会で先日議論を引き起こした。
現在は脳医学の研究にまで手を伸ばしつつある。自分の大学が誇る天才の双璧の一方を為す。



(好みじゃねーんだよな…何か不気味だし)



不細工というわけではないのだが、異様な容貌をしている女だ。
胸はでかいし、スタイルは抜群なだけに勿体無いと常々思っているのだが、何を考えているのかわからない。
その上似合いもしないゴスロリに白衣という組み合わせは近寄りがたさに拍車を駆けている。
まさか目の前の少女の知り合いだとは思わなかった。

「布束先輩が、貴方に頼めば確実だからとおっしゃってまして」

「まぁね。これでも結構コネクションはあるつもりだし」

「ですから、こうしてお願いに伺っているんです。ウチのOBだともお聞きしまして」




見目麗しい少女に頼りにされて悪い気はしない。テーブルに置かれたベーコンたっぷりのカルボナーラを啜る。
冷めないうちに食べなよと、少女にもさり気無い気配りをしてやる。
目の前の少女は第3位の超電磁砲 ――― 御坂美琴。超が付く程の有名人だ。知名度だけで言えば第一位を大きく上回る。学園都市のアイドルだ。
そのアイドルが今目の前にいるのだ。そして話を聞けば自分の研究室に来年から入りたいと申し出てきている。
彼女と同じ高校、大学と通っているが、成績はギリギリである。偏に親が長点上機多額の寄付をしているからに過ぎない。
高い学歴は有利にはなっても不利になることはないのは、どれだけ科学が発達した学園都市であろうとも変わらない。
男は、慎重に自分に舞い込んできたこのチャンスをものにしようと、それなりに優秀な頭脳を回転させる。
自分の研究室は競争率が高い。教授の知名度も勿論、研究機材が充実しているのが特徴だ。
単に優秀なだけでは確実に入ることは出来ない。しかし、ここで自分が口利きをしてやればどうだろうか。
目の前の少女に恩を売れば、彼女の友人だという布束砥石だけではなく、その恋人と目されている男との繋がりが出来るのではないだろうか。
学園都市統括理事会にコネが出来るのは将来大きな利益に繋がる。
それだけではない、上手く事を運べばこの御坂美琴を自分のものに出来るかもしれないのだ。
空色の制服を可憐に着こなす少女をさり気無く上から下へと見回す。
噂どおり、美しい少女だ。常盤台中学時代の写真をネットで見た事があったが、まだ子供臭さが抜けていなかった写真と違い、手足が伸び、すらりとしたスタイルは大人に着実に歩を進めている。
何よりも無垢で何も知らなさそうな垢抜けていない雰囲気がいい。
<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/12(木) 23:46:58.82 ID:Up2sVeBF0<>


(間違いない。処女だなこりゃ)


下種な欲望がむくむくと頭を擡げる。

まだ何も知らなさそうなあどけなさすら漂う顔を自分の好きなように出来るとしたら。
世界の広さも厳しさも恐ろしさもしらないお嬢様然とした美しく賢く、アイドルのような少女を自分の女に出来たら、どれ程誇らしいだろうか。
想像するだけでにやけそうになる。

パスタを平らげると、男は紙ナプキンで口を拭い空いた皿に放り込む。


「オッケー。教授に口利きしてあげるよ美琴ちゃん。だからさ、この後時間があるんだったら場所変えてゆっくり話さないかい?」







くだらない時間を過ごした。

美琴はマンションに入ると制服を脱ぎ捨てた。皴になるがどうせクリーニングに出すのだ、構うものか。
冷蔵庫からジンジャーエールのペットボトルを取り出すとグラスに注いで半分程飲む。
薄っすらと額に汗が浮かぶ。五月特有のねっとりとした絡みつくような暑さだ。


そう、五月。

上条当麻がいなくなってから一月が過ぎていた。

そういえばまだ来ないなと、美琴はふと自分の生理が遅れていることに気付いた。



しかし、すぐさま意識は今日の無益な時間についての反省へと移る。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/12(木) 23:49:31.25 ID:Up2sVeBF0<>

『下らない男だわbutコネだけはそれなりに使えるから苦痛でないなら利用してみなさい』

電話で布束がそう言って紹介してくれた男との食事を終えた瞬間心底ホッとした。
お茶までは付き合ったが、その後何を血迷ったかマンションまで送ると言い始めた時は電撃でもお見舞いしてやろうかと思った。
それでもグッと堪えたのはひとえ使えるかもしれないと思ったからだ。
しかし、それも果たして嫌悪感、虚無感と引き換えにするほどの価値だろうか。
下着にワイシャツだけの姿で椅子に座ると、足を組んで考え込む。


「無いわ」

結論はすぐに出た。

初対面で美琴ちゃん呼びがまず勘に障った。

ところどころで舐めるような視線を寄越すのも気持ち悪かった。

口を拭き終えた紙ナプキンをまだパスタを追加すれば十分食べられそうなほど汚い食べ後の皿に放り込んだのはダメ押しだった。

この男は生理的に無理だと美琴はその時点で結論を出した。
まだ、向こうに下心が無ければ我慢できたものの、あそこまで露骨に自分のモノにしたがっている男の目を見ると興醒めする。
美琴はジンジャーエールの残りを一気に飲み干す。よく冷えた炭酸と抑え目の甘さが心地良い。
グラスを流しに置くと、水を勢い良く流す。掬って顔を洗うとしゃっきりとした心地になる。


「でも…これも必要なことだもんね」





彼女の脳裏に先週のことが過ぎる。



彼女が交わした一つの約束。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/12(木) 23:50:53.87 ID:Up2sVeBF0<>

ゴールデンウィークの最中、美琴は一方通行の研究室を訪れた。
打ち止めから『お休みなのにあの人帰ってこないの』との愚痴を聞いていたからというのもあったが美琴としても彼に言おうと思っていることがあった。
休みだというのに、長点上機の大学部は生徒や教授らしき人間の姿がチラホラとうかがえた。
今度は制服ではなく、私服姿であったため美琴は奇異の目で見られることなく一方通行の研究室にたどり着くことが出来た。


「いらっしゃい。やっぱり来たのね。上がっていって」

「布束先輩?」

美琴を出迎えたのは布束であった。
猫のイラストのマグカップにコーヒーを入れ、勝手知ったるという風に家主の一方通行の意向を聞く前にさっさと上げてしまうと布束は気まぐれな猫のように部屋を出て行ってしまった。
残されたのは、不機嫌そうにモニターやデータ類に囲まれながらうず高く積まれた本を読み耽っていた一方通行と持参した手土産を何処に置くべきかまごついている美琴だけであった。


「何の用だ?」

「アンタってさ、妹達の寿命延ばす研究してるんだってね。ずっと」

「……打ち止めか」

「何で私に黙ってそういうことするかな」

「何度も言わせるな。イチイチ何でテメェに報告する必要がある?」

「相変わらず可愛げの無い事しか言えない奴ね。それとアンタ打ち止め達のところに帰ってあげてるの?寂しがってるわよ」

「それこそ大きなお世話だ。大体俺がどォしてよォが関係ねェだろテメェには」


舌打ちがやけにはっきりと聞こえる。
ムッとするが、それは一方通行への怒りではなく、不満だった。どうしてという純粋な彼に対する疑問。
美琴が不服そうな眼で見ていることに気付いた一方通行は半分程読みかけの本を閉じて積まれた本の塔に重ねる。
一冊一冊が辞書のような分厚さの本。今時こんな膨大な情報を紙媒体で収集することが不思議だった。

「医者にでもなるつもり?」

「暇つぶしだ。下手な三流ホラーよりゾッとする内容だぜ」

喉の奥で笑う。悪趣味なジョークだが事実だ。
少しずつ話すようになってから、わかったことがあるが、この男のジョークはブラックであるが、真理を指す。
ウィットに富んだとはお世辞にもいいがたい、ペシミズムに満ちたものだが。
慣れれば案外不快ではないと美琴は思う。


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/12(木) 23:53:00.59 ID:Up2sVeBF0<>

「打ち止め達と急に距離置くようになったわよねアンタ」

「あァ?」

「昔はもっとベッタリしてなかった?」


この男は打ち止めを大切にする余り過保護な親御さんだの、ロリコンだのと、散々な言われようだった。
学園都市の闇の元凶が消えた頃が切欠だろうか、徐々に距離を置き始めていると美琴は黄泉川達から、そして打ち止めや番外個体本人から聞いている。
時折顔を出してはいるようだが、基本的は彼が一人で暮らすマンションと研究室の往復だという。

「それって研究のせい?」

手にした束には、様々な遺伝子配列パターンが記されている。クローン人間の臨床データ。
学園都市がシスターズ計画以前から行っていた非合法のモノが無造作にアウトプットされたものを手に取る。
さらっと目を通すだけで吐き気が込み上げて美琴は束を元の場所に戻す。
一方通行はそれを眠たげな目で見ながら、手にしたカップのコーヒーを啜る。

「だったらさ、私が手伝ってあげようか」

さり気無さを装った声の裏で美琴はありったけの勇気を振り絞った。
一方通行は窓の外に目を遣る少女の緊張のあまり朱の差した横顔を眺める。
それが今日の用件か。納得すると同時に暗澹たる思いが一方通行の胸に去来する。
何と言えば良いのだろうか。自分の不甲斐無さを知らしめられたとでも言おうか。
美琴の言葉は井戸の其処に物が落ちたような、そら寒い反響を残して、研究室に沈黙が降りた。
一方通行はウサギのイラストを指でなぞりながら、言葉を口の中で吟味するように口を小さく開く。

「いいのか?」

美琴はそれが協力を期待するニュアンスだと思った。
予想外の早い回答に面食らいながら言葉を返そうとして、窓に向けていた視線を一方通行に戻す。
一方通行は硝子のように透徹した瞳で美琴を見ていた。
不機嫌な、怒っているような、悔やんでいるような、奇妙で曖昧な表情の中で、瞳だけが感情を代弁するように澄んでいた。



「テメェの夢ってのはいいのかって聞いてンだ」

「……アンタ知って…」

「口が軽いのがテメェの妹共の特徴だな」


けけけけけと耳障りな笑いを立てる一方通行をキツく睨みつける。


「何がおかしいのよ」

「いやいや、御坂様はお優しいこった」

「どういう意味?」

「罪滅ぼしの手段にようやくありついたワケだ」

「あ、アンタ、何言って…意味わかんない」


舌打ちが美琴の耳に届く。
小馬鹿にした笑いを含んだ声から一転して、心底苛立つとでも言いたげに一方通行が顔を歪めている。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/12(木) 23:56:04.70 ID:Up2sVeBF0<>

「テメェの勝手な罪滅ぼしに人をダシにしてンじゃねェよ。コイツは俺の問題だ。

 俺の弱さが招いた俺自身のケジメだ。誰にも手出しさせるつもりはねェ」



何て勝手な言い分だ。美琴は殴りかかってやりたい衝動に駆られる。
一方通行自身の納得する形での罪滅ぼしに妹達が利用されているようではないか。
確かに一方通行の言うとおり、美琴は一方通行が行っている研究について具体的に知った時、コレだと思った。
コレしか自分が妹達にやってあげられる罪滅ぼしは無いと思った。
それに一方通行の頭脳に近いレベルでアシストできるのは自分くらいだと美琴は自負している。
だからこそ勇気を振り絞っての提案だったというのに。
握り締めた手のひらに爪が食い込む。


「だったら…だったら私には何もするなって言うの……?アンタみたいに守ることも出来なくて、救う事も、その手伝いもさせてくれないっていうの?」

「お前」


一方通行のことを改めて聞くうちに、美琴はふと絶望的な気持ちに陥った。
自分自身への焦りと失望とも言い換えられる。
嘗て上条に言った『勝手にやってればって思うわ』という自分の言葉が、月日を跨いで降りかかってきたような気がした。
自分が上条と過ごしていた時間、白井達と笑い合っていた時間。それらの時間をこの男は妹達に費やしていたのだ。
勿論、一方通行とて、四六時中妹達のことばかり考えているわけではない。
インデックスと料理をしたり、垣根の下らない話に付き合わされたりと、彼なりの時間はやはり存在していた。

しかし、美琴はそれを知らない。そして、美琴のように大半の時間を学校と上条に費やしていたわけではないことは確かなのだ。



「打ち止めはとてもいい子。番外個体もクソ生意気だけど本当は優しい子だってわかる。ほかの妹達だってそう。

 でも私は全然知らなかった。知ろうともしてこなかった。

 そもそも、どれだけの妹が何処にいて、何をして、どんな風に笑う子なのか、私は全然知らない。

 アンタよりずっと妹達のことを知らない。だから、だから……」

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/12(木) 23:57:22.74 ID:Up2sVeBF0<>

だから今からでも償おうとしているのか。
一方通行はどっと疲労感が圧し掛かるのを覚える。
ちらりと見上げた美琴の表情は気が付けば随分と張り詰めていた。
それ自体は決して悪いものではない。少なくとも、上条に捨てられて自棄になっていた時とは張り詰めた表情の種類が異なる。
自分の言葉で改めて自身への使命感と責任感が甦ったのだろう。

典型的な自分の言葉で自分自身を奮起させるタイプだ。良くも悪くも真面目な少女なのだ。




そして、酷く不器用な少女だ。


「テメェは…ホントに勘違い女だな」
「何がよ!!」
「ウッセェ。怒鳴ンな馬鹿。ったく……クソが…わざわざ言われなきゃわかンねェか」


煩わしそうに髪を掻き毟ると、椅子の背もたれに身体を預けるように身体を反らす。
気持ちを入れ替えようとしているようにも見える。


「テメェの中じゃ、自分がサボってる間に、俺ばかりが妹共に償いってのをしてるように見えてンのかもしれねェ。けどその前提からして間違ってンだよ。

 テメェが償う必要のある罪なンて何処探したってねェンだよ。三つかそこらのガキが騙されただけだってのに、何勝手に後付けで罪悪感持ってやがる。

 勝手に背負う必要のねェモン背負って、勝手に追い込まれてるだけだろォがテメェは。

 さっきも言っただろォが。コイツは俺の弱さのケジメだって。打ち止めのことだ、俺が本当は優しいだの、実験に反対しなかった妹達も悪いだの、俺にやたら甘ェ解釈垂れてンのかも知れねェ。
 
 だがな、実行したのは俺だ。俺がテメェの意思でやったことだ。妹達が命乞いをしなかったのが悪い?ははは、あンだけ痛がってる姿晒しといて今更言葉がどォのかなンて関係ねェだろ。

 アイツラが死にたくて死んでたわけじゃねェことなンざまともな奴が見りゃ誰だってわかるだろォが。事実、上条はすぐに俺を止めたしな」


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/13(金) 00:00:56.61 ID:0g+iAlmT0<>

「じゃあ…なんでアンタは…?」



――― 実験をやめなかったの?

後に続く言葉は呑み込んだ。言う必要の無い言葉だ。
その一言だけが精一杯だった。
美琴は緊張していた。それは、目の前の男が恐いからではない。
初めて、直接手を下した男が、ずっと目を背けていた事実を直に聞くという状況に緊張しているからだ。


多分それは打ち止めすら聞いたことの無い本心。

一方通行の本心。

ほんの一瞬だけ、一方通行が痛みを堪えるように唇の端を歪めたのがわかった。


「恐かったからだよ」



初めて聞く言葉のように、美琴は心の中で繰り返した。





「今更止めたら俺はただの人殺しだ。レベル6になれば、全てが正当化されンじゃねェか。

 あいつ等は単価18万のスイッチ一つで生まれる人形だ。人間じゃねェ。

 俺は科学者達の話に乗っかっただけだ。自分から進んで殺そうとしたわけじゃねェ。

 あいつ等だって俺を殺そうとしてきやがった。だから正当防衛だ。誰だって自分が死ぬのは嫌に決まってる。

 殺したくて殺してたわけじゃねェ。誰も近づけない無敵の力を手に入れる為には仕方の無い犠牲だったンだ……




 ―――― なンて言い訳を並べ立てておいて、俺はただビビッてただけだ。

 引き返せねェってわかってから止まるのが恐くなった。
 
 それどころか、実験を止めようとしないクローン共を憎むようにさえなってた。

 はははは…八つ当たりだってのにな。そンで、そのうち俺は楽しみ始めた。実験を楽しもうとするようになった」



そうでもしなければ心が保たなかった。
美琴は一方通行が噤んだ言葉の続きにそう繋いだ。
何となくそんな気がしたから。


一方通行は自嘲するように息を吐くと、話は此処までとばかりにコーヒーに口を付ける。
<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/13(金) 00:04:50.29 ID:0g+iAlmT0<>


「だから…コイツは俺にやらせてくれ。テメェはテメェですることあるンだろ?」

「でも…」

「テメェの妹共は、姉貴に夢諦めさせてまで何かさせて喜ぶような奴等なのか?」

「そんなわけないでしょ」



ぶつけられた強い語気に、一方通行はわかってるじゃないかとばかりに鼻で笑う。



「だったら、これでこの話はお終いだ。テメェはテメェで好き勝手やってヘラヘラ笑ってやりゃァそれでアイツ等は満足すンだよ。

 そォいう御目出度い馬鹿共なンだよ。だから…約束しろ。テメェは絶対」

「治すわよ。子供の頃からの私の目標だもん」

「フン…」


椅子を回して、一方通行は美琴に背を向けた。
何か言ってやろうとして、結局美琴は何も言えずに、研究室を出た。
ドアを開ける直前に、「時々あのクソガキ共の相手してやれ。クソ面倒だろォがよ」とだけ一方通行は声をかけた。
振り返れば、既に彼の視線は手の中の本へと注がれていた。
その頑なな横顔を見て、美琴は何故だか泣きたくなった。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/13(金) 00:06:30.83 ID:0g+iAlmT0<>
ベランダを開けると湿った風が身体を包む。生温い風であっても、汗ばんだ身体には心地良い。
ワイシャツ姿で美琴は膝を抱えて縁に座る。今日は満月だ。

蛍光灯のような月だと美琴は思う。

まるで作り物のように、換えたての蛍光灯のように白々しいくらいに明るい満月。

黄泉川家の人々は四人仲良くこの月を眺めているのかもしれない。意外と言っては失礼だが、黄泉川という教師は風流を好む女性だ。
黄泉川と芳川が上機嫌に酒盛りを始めて、番外個体がそれに突き合わされ、最後に一人しらふの打ち止めが拗ねるというのがパターンなのだそうだ。
病院で働く妹達はもう眠ってしまっただろうか。
黒子は勉強中だろう。初春はゲームに夢中で気付かないかもしれない。佐天あたりは美琴と同じくベランダから眺めているかもしれない。



一方通行はこの月を見上げているのだろうか。
余裕の無い横顔を思い出す。
彼は暗に自分は優しい人間ではなく、これは当然の償いだから気にする必要はないと言っていた。
幼い自分が騙されたことは罪ではないといい、美琴が文句を言う前にそれをさっさと背負って走っていってしまった。

一方通行は弱い。上条当麻や浜面仕上に比べて弱い。
彼等のような堅牢さなどとは程遠く、余りにも脆い。
遠ざかれば孤独に苛まれるくせに、近ければ不安を覚える。
打ち止めから離れて見守っているのは、彼女達を思ってではなく、彼自身の自衛手段に他ならないのではないだろうか。
それでも、美琴は寂しい背中を思い出す。それでも、やはりアイツは優しいと美琴は思う。
強くて優しければ実験には加担しない。強いだけならば過去など振り返らない。


弱くて優しいから償うのだ。そのことに、一方通行はいつか気付けるのだろうか。


一方通行の心配をしている自分の心の奇妙さに、美琴は気づかない。






些か夏を前借したように強い日差しの下、オープンカフェの一角で一方通行は冥土帰しから借りていた本を読んでいた。
一雨去って、珍しくからっと心地良く乾いた空気が心地良い。
しかし、天気とは裏腹に、一方通行の視線はひたすら紙面を滑り、なぞった文字はループしていた。
彼の中にあるのは、研究のことでも妹達のことでもない。ひたすら自分への自己嫌悪だ。
美琴に対する自分の態度に対する自己嫌悪。もっとフレンドリーに接すれば良かった等という理由ではない。



余りにも必死で、思いつめて、泣きそうな顔に、よく知る少女の顔がダブったのがいけなかった。


思わず話してしまった。


話しすぎてしまった。



病院を訪れる度に妹達が語っていた美琴の研究。
一方通行はそれを聞き流すように適当な相槌を打っては彼女の反感を買っていたが、内心羨ましく思っていた。
夢を持っていることも、それに向かって邁進するのも、自分には出来ないことだ。
<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/13(金) 00:10:09.08 ID:0g+iAlmT0<>
『私の目標だもん』

美琴はそう言った。夢ではなく、目標。綺麗な届かぬ響きを持つ言葉ではなく、リアルな語感を用いた。
達成してみせる、そんな意思があの言葉からだけでも十分に伝わってきた。
強い奴だ。感嘆の念と共に心の中で呟いていた。自分には絶対持ち得ない純粋なひたむきさ。眩しくすらある。

そして、それを我が事のように誇らしげに語る少女達。
美琴が如何に優しいか、笑顔で話す打ち止め。彼女がいるから自分達がいられるのだと言い切る妹達。


綺麗な関係だ。強い絆だ。清廉な奴等だ。


言葉にせずに、強く思った。憧れすら抱く。いつも自分はこうだ。


打ち止め。上条当麻。インデックス。そして御坂美琴。

真に強く、気高く、綺麗な者達を前にすると、自分は無力になる。
項垂れて跪いて許しを請いたくなるような心地になる。
懺悔をしたい。罪を洗い浚い話してしまいたい。そうやって救いを求めてしまいたくなる。

研究室での美琴との会話は完全に話し過ぎたと一方通行は思っている。

あそこまで赤裸々に話す必要はなかった。

弱い自分を曝け出して、そしてどうなるというのだ。
同情して欲しいのか。
そもそも、アレでは自分が彼女に許しを請うているようではないか。
何と見っとも無く、そして無様なのだろうか。おこがましい。請う事すらあってはならないというのに何を期待しているのだろうか。
女々しい奴だと自分自身を罵倒する。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/13(金) 00:10:43.45 ID:0g+iAlmT0<>

「なァにやってンだよ…俺は。集中しろ。時間はねェンだ…わかってンのか?」

「誰に話しかけてるんですか?」

「うるせェ、独り言だ」


「うわ、独り言とか、オープンカフェで超独り言とか…激しく超キモイですね」

「あン?」


本に視線を落としていた一方通行は、ようやくおかしなことに気付いて顔を上げた。



「テメェは…」

「久しぶりですね、超一方通行


頬杖の上に乗っかっているのは、挑発するような不敵な笑み。
向かいの席には断りも無く座る一人の少女。ブラウンのややカールした髪に、つぶらな瞳の少女。
膝丈どころか、太腿のキワドイ部分まで上げられたジーンズミニスカートにブーツというやや背伸びした印象の少女を、一方通行は知っていた。



「モアイ…か。絹旗モアイだったな」

「さ・い・あ・い!!超最愛!!」

「悪い悪い。超最愛」

「今、もあいって言いましたよね?字面に誤魔化されませんよ!?」



一方通行と因縁浅からぬ少女、絹旗最愛はテーブルに勢いよく手を叩き付けるとお決まりの如く間違われる名前を、これまたお決まりの如く訂正した。





<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/13(金) 00:12:49.98 ID:0g+iAlmT0<> 以上で投下終了します。心理描写が性急だったりする感じがありますが見逃して下さい。
モアイちゃんは美琴より一つ二つ年下という設定です。
出来れば明日投下したいと思っています。

それではまた。 ノシ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/13(金) 00:14:06.78 ID:tV2PgJ97o<> 乙

実験に対する一方さんの心情がここまで書けるって凄い
そしてついに超最愛ちゃんが <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/13(金) 00:20:51.54 ID:0XIQTsQV0<> 乙なんですよ
絹旗やっぱいいなぁ 一方さんもSっ気が出て元気になれそうだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)<>sage<>2011/05/13(金) 00:35:38.58 ID:fwCMj6OWo<> 乙
似た者同士というか、二人揃って責任感というか義務感強すぎでしょ?
自己犠牲に走り過ぎですよ、そら周りも心配するわぁ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/13(金) 00:37:16.43 ID:+SBPVQbfo<> 乙

とりあえず、布束さんを侮辱したキモヲタ(とは書かれていないがそうに違いない)先輩には制裁を。

絹旗は、一方さんのセーフティネットになるんやろか。

身体は布束さん、精神は絹旗。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2011/05/13(金) 00:46:32.99 ID:ufDpx5QAO<> 乙です。
続きが気になるなる〜 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/13(金) 00:52:19.84 ID:C+e7sWszo<> 乙
一方さんも美琴も実は似たもの同士なんじゃないかと思ってしまったわ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/13(金) 06:40:30.76 ID:njmqqJNDO<> ほんっとキャラの書き分けウメェな
物事の受け取り方をこうも多面的に書ける奴はそう居ねえぞ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2011/05/13(金) 18:43:13.52 ID:nRqxO1PS0<> 五月シスターズのもう1人の出演に期待 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)<>sage<>2011/05/13(金) 19:56:46.99 ID:GhZI+Khho<> なんつうかアッパーツンデレとダウナーツンデレの壮大な戦いなんだなww
ダウナーのほうは家族宣言までほぼツンつう鬼畜っぷり。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/05/13(金) 21:24:42.03 ID:WWtUA8+S0<> 超乙です <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/13(金) 21:45:02.00 ID:RK256OQDO<> 原作以上にキャラの性格や心理描写を正しく掘り下げてる気がしてしまうw
上手いなぁ…うらやましい <>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/13(金) 22:02:50.15 ID:HwpUsQ2T0<> 今から投下したいと思います〜 <> ◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/13(金) 22:11:23.50 ID:HwpUsQ2T0<>

保育士になろうと思ったきっかけは実に下らない。

子供の頃からの夢だったわけでもなく、子供が特別好きだという理由でもない。

ただ、学園都市での自分の、ある意味では人生そのもののスタートが置き去りという一方的な大人の都合によって切られ、
暗闇の五月計画の実験台になり、暗部落ちという見事な転落人生をローティーンにして一通り味わった絹旗にとって、
表に出てまで大人と積極的に関わりたいとは思えなかっただけだ。


汚い大人が

汚い思考で

汚い欲望を

汚い笑顔で

汚い行為を

汚い世界でするのをずっと目にしてきたのだから、気分的には「もうお腹超いっぱいです」というものだ。

保育士は全国的にみても合格率10パーセントの難関国家試験であるが、学園都市内においてはそれは更に高いハードルであった。
能力カリキュラムを実施していないところであっても、能力に対する知識を求められる上に、
園児達を能力者から守るための警備員の真似事もしなければならない。


故に、勉強はしてもし過ぎということはないのだ。



<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/13(金) 22:13:47.25 ID:HwpUsQ2T0<>

「一方通行は超お医者さんになるつもりなんですか?正直白衣着てもマッドサイエンティストが関の山だと思いますよ」

「ならねェよ。つーか食いながら喋るンじゃねェ」

「む」

頬張っていたチーズケーキを飲み込む。
コーヒーを啜る一方通行の目が明らかに「ガキめが」と語っていた。


「じゃあ、何でそんなもの読んでるんですか?超知的アピールですか」

「誰に向けてのアピールだよ」

「それはやはり可愛い子に手当たり次第。この場合は可愛い子筆頭のこの私でしょうか?
 うわ、いやらしい目で見ないでくださいキモい」


自分の腕を抱く仕草をしてみせる絹旗を一方通行は鼻で笑う。

「生憎と〜幼児相手に〜性的興奮を覚えるたちじゃないんですゥ〜」
「幼児じゃねー!超17歳です。あなたと三つしか違わないです!!」
「あれ?」
「オイ!何『俺そンな話聞いてないぞ』みたいな顔してるんですか!!」
「中1じゃなかったか?」
「それ初対面の時ですから。超前の時です」
「やべェ…老化を防ぐ研究は既に実用化に…」
「それ先週のボケですから」
「悪ィ、悪ィ、モアイ」
「さいあい!!」

こんなやりとりが既にここ最近の風物詩だ。
人目を引く二人組の夫婦漫才は、常連客にとっても一つの娯楽と化している。


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/13(金) 22:15:20.45 ID:HwpUsQ2T0<>

先月の五月以来、絹旗は一方通行と度々このカフェで会っていた。
もちろん待ち合わせてデートというわけではない。
会う約束をしているわけでもない。
ただ、時間がかち合ったら相席して他愛もない会話に興じるだけだ。
相席している時間といっても、その大半は互いに研究、勉強に使われている。
これは要は息抜きだと絹旗は思う。
一人で机にかじり付いているのが性に合わない絹旗にとっても、そしておそらく一方通行にとっても。

暗闇の五月計画にまつわる因縁から思えばこうしていることが絹旗には不思議だ。
浜面が滝壺と婚約し、彼を連れまわすことに遠慮をするようになってから入れ替わるように会うようになった白い髪の青年。
随分とここ一月で知った事が増えた。
意外と健啖家であること。
超能力者は消費するカロリーが多いせいだろうか。麦野も何気に食べっぷりの良い女だ。
そして、偏食家。というよりも、それを治そうとしているのがわかりやすい。
野菜サラダを頼んだ時の気の進まない顔付きは思い出すだけで笑いそうになる。
煙草を最近覚えたということ。
そして、過保護。クローンの少女達(打ち止めと番外個体というらしい)のことを話題に出す時の顔は正に親馬鹿な父親そのものである。


(何だかんだで保育士のこと調べてますよね)

合格率10パーセントを学園都市においては切ることを話題に出したのは一方通行だ。
以前病院で話したことを頭の片隅に留めておいたことが絹旗には少し好ましく思えた。


「貴方って結構超普通に喋りますよね」
「問答無用でブン殴って欲しい趣味でもあったのか?」

チリソースとチキンのサンドイッチを平らげると、紙ナプキンで口元を拭い、空いた皿ではなくトレイの上に置くと一方通行が怪訝な表情を浮かべる。

「暗部の頃にぶっ飛ばされて目覚めちまったか?生憎開いた扉の面倒はみれねェから一人で極北に向かって突っ走ってくれ」
「勝手に変態認定しないでください!そうじゃなくて、もっと無視したり、脅してきたりするんだと思ってたんです」
確かに言葉は意地が悪く、皮肉や毒に満ちている。
しかし、キャッチボールが出来ないわけではない。

「それに私のこと笑いませんでしたし」

暗部の人間が表の世界、それも子供相手の仕事を目指すことを侮蔑も嘲笑もしなかった。
幼い絹旗の外見をからかいはしても、決して一方通行は馬鹿にはしなかった。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/13(金) 22:17:26.08 ID:HwpUsQ2T0<>

「馬鹿げた目標ぶら下げてンのはお互い様だからな」

苦笑すると、一方通行はグラスの水を飲み干した。





「ええーー!!もう別れたんですか?たった三週間ですよ」

パフェを運んでいたスプーンをくわえたまま、初春が絶叫に近い叫びをあげる。
周囲の客が好奇心混じりに視線をよこすのを、白井が慌ててごまかす。


「初春声大きすぎますの!」

「あう、ごめんさない。でも、でも、白井さん。だって…御坂さん、あの彼氏さんと結局…」

「彼氏じゃないってそもそも。なんか必要以上になれなれしいから、もう関わらないでって言っただけだし」


むしろ、三週間も自分はよく我慢出来たものだ。主に電撃を。
美琴は、本人は決して認めないが、長点の美琴が入りたいと思っていた研究室のOBに口利きを頼んだ。
浅ましいコネ作りと言ってしまえばそこまでだが、有利になることなら何でもしておきたかった。

教授への口利きを頼んでから、持参した論文を見せると
「ほう。よくここまで徹底的に調べたね。所々粗も目立つが、刺激的な論文を読ませてもらったよ。これならすぐにでも招きたいくらいだ」
という色よい反応に肩すかしを食らった。


結果から言ってコネクションに頼るまでもなく、美琴は研究室入りを確定させた。
それに伴い、しつこく関係を迫ってき始めた男を一蹴。
友人として何度か食事に行くなどしたが、あくまでも美琴としては友人だった。

それも形だけの。

利用するだけ利用したようで気が咎めたが、下心丸だしで彼氏気取りで白井達との集まりにまで付いてこようとしたのだから同情の念はすぐさま消える。


最後には「せっかくしてやったのに、お高く止まりやがってクソガキが」という罵声と共に無理矢理押し倒そうとしてきたので、
一日ほど目を覚まさない程度に焦がしておいた。


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/13(金) 22:19:26.99 ID:HwpUsQ2T0<>

「じゃあ、お姉さまは来年には長点の大学に」

「うん、教授が研究室に是非って。決定ってほどでもないけどさ」

あくまでもほぼ確定であって、決定ではない。
しかし、研究室入りが出来ずとも美琴の最新の設備が使えなくなるだけであり、研究の道そのものが閉ざされるわけではない。

「いざとなったら実力で研究室の一つや二つくらいもぎ取ってやるわよ」


強がりではなかった。


一方通行や布束がそれなのだ。彼らが出来たのだから自分が不可能ということはないだろう。
美琴はレモンたっぷりの紅茶を砂糖も入れずに飲む。


「御坂さん紅茶だけでいいんですか?私のケーキ少し食べます?」

「………ちょっとだけもらおうかな」


美琴の発した間に首を傾げながら佐天はフォークに乗せたイチゴのショートケーキを美琴の口に運ぶ。
白井が羨ましいを通り越して、妬ましげに見つめるのはあえてスルーだ。


「ここのイチゴ甘くて美味しいんですよ?」

「ホント、美味し…―――ッ」




美琴は突然強烈な吐き気を覚え、思わず口を抑えた。




「お姉さま!?」


美琴の青ざめた顔に、真っ先に白井が反応する。
それを美琴は手で制すると、一言「ごめん」と断りを入れて席を立つ。






「御坂さん大丈夫なんでしょうか」


トイレに駆けて行った美琴の背を見つめながら、初春が心配そうな顔で残り少ないパフェを綺麗に平らげた。
いくら甘いものを食べても太らない初春が妬ましいのか、空になった器を白井が横目でどこか物欲しげに見ると溜め息を吐く。


「お疲れなのでしょうねお姉さま」

「最近そんなに無理してたの御坂さん?」

ショートケーキを崩しながら佐天がトイレの方に向けていた視線を白井に移す。


「例の教授に見せる論文と、学校の方のテスト勉強で最近碌に寝ていらっしゃらなかったみたいですから…」


無理をするのも無茶をするのも変わらない美琴が誇らしくもあり、苛立たしくもあるだけに白井は何ともしようがないと顔をしかめる。
頑固な性格を十分すぎる程に熟知しているのだ。


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/13(金) 22:23:46.41 ID:HwpUsQ2T0<>
「でも、御坂さんあっさりフっちゃったんですね」

話題を変えるべく、初春が口にしたのは今し方美琴の投下した爆弾発言だ。


「カッコいい彼氏さんだったのに。もったいないです」


少しバタ臭いがイケメンの部類であった。
スポーツが得意なのだと言っていた通り、日に焼けた姿が力強く爽やかな印象を与える。
ただ、初春として不満だったのは、上条が死んでから一月程経ってすぐに特定の男と交際をしているという美琴の切り替えの早さだった。


初春の中では、恋は神聖で長く息づくものであった。

すぐに取っ替え引っ替えというのは価値観そのものが受け入れられない。



「彼氏じゃないって言ってたじゃん。御坂さんに勝手に付いてきてただけだっていうし」

「御坂さん照れ屋だからそう言ってただけで」

「いや、あれは御坂さんガチでウザそうだったよ」


あんな男のどこがいいんだか。
御坂にくっついてなれなれしく佐天達に自己紹介を求めてきた男を一発で嫌いになった。
まず目がやらしい。優しいのと下心を混同しているタイプだ。
何よりも甘えたような声が鳥肌が立つ程気持ち悪かった。
甘えるのが様になる男とならない男というものが世の中にいるとすれば、間違いなくあの男は様にならない男だ。


甘えるのがうまい男は、多分もっと危なっかしくて無自覚だろう。
無自覚というのは危なっかしいとも言える。あくまでもこれは佐天の自論であるが。

佐天は交際経験がゼロに近い。
一人目は御坂に紹介しれくれとうるさかったので、付き合って一月も経たないうちに、何もすることなくフった。
二人目は三回目のデートの帰り道、ムードもへったくれもなくいきなり制服越しに胸を触ってきたのが気持ち悪くて別れた。

故に、初春のことをどうこう言える程の立場でもないのだが。


白井は御坂があの男をすぐに遠ざけることがわかっていた。
おそらく研究室へのコネ作りの為に利用したに過ぎないから、そのせめてものお詫び程度の愛想だったのだろう。
その我慢期間も無駄であり、無益だった。
だから切ったのだ。

本質的にはウエットなくせに、驚く程ドライな面が美琴にはある。





「それでですね、浜面ってばテンパって…」
「アイツ、マジでネタキャラ過ぎンだろ」

佐天達のテーブルの横を男女のペアが通り過ぎる。
杖を付いた白髪頭の青年と、栗色のボブに、ニットワンピの少女。
カップルなのか、それとも兄妹なのだろうか。
どちらともとれる二人組は窓際の佐天達の場所からはしきりで見えない店の奥、薄暗い照明のテーブル席へと入っていく。
<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/13(金) 22:27:16.72 ID:HwpUsQ2T0<>

「今の人…あれ?」

初春が首を傾げる。どこかで見たことがあると、記憶が彼女に訴えかける。

「カッコいいね!ね!」

佐天が瞳を輝かせて言う。
バタ臭い美琴にまとわり付いて来ていた男なんかよりもずっと良い。
特にあの透き通るような肌と高い鼻梁が良い。

「今の方って…確か…」

以前風紀委員のデータベースで見た情報、写真の数年先の姿と言える外見に白井はぽつりとつぶやいた。

「第一位?」

「「え!?」」





蓋をした便座に座り、ぼんやりと戸に書かれた落書きを目で追う。荒い息を吐きながら美琴は呼吸を整えていた。
元々朝からほとんど何も食べていなかったのだ。
でるとしても胃液くらいのものである。
生理がどれほど来ていないかを頭の中で浮かべてから美琴は深く息を吐いた。



「どうすればいいんだろ」



こんな大切な時期に。煩わしさと自分自身への怒り、苛立ちに噛み締めた歯が軋む。
両手で顔を覆い項垂れる。美琴の肩は震えていた。




<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/13(金) 22:29:49.01 ID:HwpUsQ2T0<> 以上で投下終了〜です。
過去編はなるべくピッチを上げて行きたい所存です。
美琴は高3の二月という受験生の一番大事な時期で娘産みます。

それではまた ノシ

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/05/13(金) 22:30:58.85 ID:Kz7kLtfT0<> 乙なんだぜ!
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/13(金) 22:35:41.24 ID:+SBPVQbfo<> 乙

御坂へのフォローは、

「(異変に気付いた)御坂妹が一方通行に泣きつく」 と回想されてたね。

黒子達はどう関わるのか。
そして、この騒ぎに浜面達が関わってくると昔聞いたような気がするっ!
楽しみだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/13(金) 23:33:44.22 ID:C+e7sWszo<> 乙
高3の二月って受験真っ只中・・・
同じ店に一方さん居るってことはここで気づくんだろうか・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2011/05/13(金) 23:55:45.81 ID:ufDpx5QAO<> 乙です〜 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県)<>sage<>2011/05/13(金) 23:58:03.40 ID:fwCMj6OWo<> 乙
男がアレなのは理解しているが、美琴達の対応と評価にいたたまれない気持ちになってくる俺は童貞 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2011/05/14(土) 00:33:21.50 ID:wH1DX6el0<> 乙!
ついに想ちゃんが生まれるのか…
一方さんとの関係含めwktk <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海)<>sage<>2011/05/14(土) 01:38:34.14 ID:Weo4cGKAO<> 話が加速してんなあ…
ちゃっかり佐天さんのフラグもここで立ってるし
ていうか、佐天さんて確かに男運悪そうだな
俺も佐天さんのおっぱいもみたい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/14(土) 02:23:28.91 ID:vPfpwBsDO<> 冬川絵で脳内再生余裕でした <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage saga<>2011/05/14(土) 03:22:56.04 ID:TuFihA4Ao<> なんだろう…この説明できないwktk感は? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/05/14(土) 09:27:54.48 ID:qoUzCyeN0<> 誰か
ピッチを上げていく

ビッチを上げていく
に見えた俺を殴ってくれ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/14(土) 10:43:48.83 ID:YRKEEEkro<> >>536
お前は俺か <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)<>sage<>2011/05/14(土) 11:27:41.12 ID:U5AWitN3o<> >>536
気にするな、俺もだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2011/05/14(土) 12:06:43.57 ID:uEBtZnz70<> なんかまたpixivにここの絵が投下されてたな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/14(土) 12:34:45.56 ID:Q9k/pA4IO<> >>536
あれ?俺がいる

>>539
前も同じ人が書いてたよな
想が自分のイメージと若干違ったけど結構好みのイラストではあった <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/14(土) 12:38:56.09 ID:DHE3zG1IO<> >>536
おい、お前。ちょっとそこの居酒屋行こうぜ奢るよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/14(土) 12:46:18.65 ID:nRVwQ2Ri0<> 布束さんにムラムラ来た。あと過去編の二人がもうね…背中合わせとかツボ過ぎる。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/14(土) 15:08:10.82 ID:Sd8YhvnX0<> 超乙〜
愛も変わらず丁寧かつ説得力のある描写に唸る。
こういうそれぞれがそれぞれの価値観を秘めた話って好きだわ。

確かに初春は爽やか系好きそうだよな。チャラ男はお断りそうだww
佐天さんはちょっと悪そうというか影のあるタイプが好きそうだけど。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(三重県)<>sage<>2011/05/14(土) 15:21:11.66 ID:jfhli6c/0<> >確かに初春は爽やか系好きそうだよな。チャラ男はお断りそうだwwww
垣根ェ…でもまぁメルヘン同士通じる所があったんだろうな

>>536
むしろそう言われるまで「ビッチを上げていく」と勘違いしてた、ありがとう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東)<>sage<>2011/05/14(土) 21:55:56.54 ID:iD6uTZfAO<> 佐天さんの胸揉んだ男は爆発しろ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/14(土) 23:29:57.57 ID:5/aAZ6a/o<> 爆発するだけで佐天さんのパイオツ揉めるんなら本望だ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/14(土) 23:32:05.09 ID:b08arAbto<> ならば俺は半殺し覚悟で佐天さんの谷間に顔をうずめたい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)<>sage<>2011/05/14(土) 23:35:27.80 ID:GMizS5A5o<> >>1は想ちゃんを書きたくてたまらないと見える。
一通さんが見た白昼夢でもいいんだぜ。

美琴がどう思い何を感じたかが気になって仕方ないなー。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/15(日) 14:18:38.83 ID:yIkVV5G/0<> 女性の男性観がイチイチリアルだよ相変わらずww
要はアレだよね「甘える男は母性本能をくすぐられる。ただしイケメンに限る」という…
初春…ていとくん頑張ったんだな…


今更だが>>539のイラスト見てきた。
ミッフィーマグカップ持った一方さんとかいいなww
SS書いてる身としてはああいう支援イラスト描いてもらえるのが羨ましい…

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/15(日) 18:22:37.82 ID:Qs5w5bbio<> この流れなら…っ!支援絵投下しても怒られない…はず…っ!
ttp://wktk.vip2ch.com/vipper6710.jpg <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(広島県)<>sage<>2011/05/15(日) 18:29:27.13 ID:WM9Zvt1zo<> >>550
完璧俺じゃん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/15(日) 18:31:20.51 ID:yIkVV5G/0<> >>550
乙乙〜!っていうか、一方さん色っぽ過ぎるだろ…!!

>>551
俺得ってこと?
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(広島県)<>sage<>2011/05/15(日) 18:33:33.35 ID:WM9Zvt1zo<> >>552
似てるよね…俺にσ(゚∀゚ ) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)<>sage<>2011/05/15(日) 18:43:16.22 ID:4bUYIHf3o<> >>553
えっ?あ・・・うん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/15(日) 18:54:20.46 ID:qDMqH5lzo<> >>553あ…ああ…そうだな… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/05/15(日) 19:16:13.86 ID:EUmVN5mIo<> これは冥土帰しでも匙を投げるレベル

>>550
鎖骨ペロペロッ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/15(日) 19:18:04.03 ID:yIkVV5G/0<> 何か事後みたいだな…
こんな色っぽいのが父親役とか思えないだろ想ちゃん。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(中部地方)<>sage<>2011/05/15(日) 19:57:22.20 ID:AeC3Q0RNo<> 少女漫画っぽいっすなァ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/05/15(日) 20:33:01.30 ID:dQ0GzvlV0<> >>557
ポジション的には母親です <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東)<>sage<>2011/05/16(月) 06:28:05.16 ID:INK79jAAO<> >>550
この色気……セーラーの濡れデックス描いて幼女を発狂させた人だろうか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/16(月) 07:35:20.67 ID:pBiuEsGlo<> おつおつ。

>>560
画風がぜんぜんちがくね?

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東)<>sage<>2011/05/16(月) 12:16:34.02 ID:INK79jAAO<> >>561
すみませんでした。色気で発狂してたのは俺ですね。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/16(月) 17:56:00.22 ID:6Zd4yoqv0<> >>562
安心しろ、発狂してて今までレスできなかった俺がいる <>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/16(月) 22:31:16.09 ID:Q9NN+qkE0<> 11時くらいに投下します。よろしくお願いします。 <> ◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/16(月) 23:03:02.34 ID:Q9NN+qkE0<>


第七学区でも特筆すべきところの無いごくありふれたカフェであった。
無造作に決めて入ったわけではない。絹旗が前々から憧れていたカフェだ。


理由を聞かれれば的確な説明が出来ると絹旗自身思っていないが、強いて言えばそのありふれたところであろうか。

そこは“仕事”の帰り道に面していた。

仕事の帰りなどに絹旗は制服姿の少女達をよく見かけた。
制服は特に名のある学校のものではなく、少女達の年齢から中学生だろうとわかるくらいだ。
ありふれたカフェでありふれた学校の生徒が談笑するという光景が絹旗の心の隅に残っていた。

だから一度来てみたいと思っていたのだ。
それも仕事の打ち合わせなどというものではなく、ありふれた日常の一端として、極当たり前の用事で。
一方通行とは時間を決めて待ち合わせをしている訳ではない。
しかし、彼が足を運ぶ場所、その時間帯を覚えていた絹旗はさりげなさを装って一方通行と合流していた。


「超偶然ですね一方通行」

「何だお前。遊び歩いてばっかなンじゃねェのか」

呆れたように片眉を下げると、絹旗は歩調を微妙に調節してさりげなく隣を歩く。
杖を付きながらにも関わらず、一方通行の歩くペースは決して遅くはない。


「超侮らないで欲しいです。一通りの学習ならとっくに済んでるんですから」

「ほォ、大した自信だ。それで落ちたら腹抱えて笑ってやるよ」


浜面の失敗ネタを中心に談笑していると気づけば目的のカフェに着く。一方通行は店の一番奥を指さした。
幸い客が出払ったばかりの空きスペースは、薄暗く、けれどもじっとりとした辛気くささがなかった。
ラジオから流れるJPOPは絹旗の好みではなかったが、店の雰囲気には合っているし、何よりも二人きりで過ごすには違和感の無い系統である。


まずまずだと絹旗はこっそり満足する。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/16(月) 23:04:39.44 ID:Q9NN+qkE0<>

(いえ、別に超ムードがあるからといってどうというわけではないんですよ)


誰にいいわけをしているのだろうかと、絹旗は少し舞い上がっている自分に失笑する。
テーブル席の一角に、おそらく高校生だろう、三人の少女達の集団が目に留まった。
目に付いたのは、常盤台高校の制服の少女が一人いたこともあるが、何より、彼女たちが総じて美少女の部類に属する容姿をしていたせいだろう。
何となく一方通行を見る。



「何突っ立てるンだよ?」

「いえ、何も」


少女達に見とれるなどということもなく、至って普段通りの一方通行に何故か安心してしまう。


一方通行と付き合うようになって(恋人的な意味ではなく)、いろいろと彼について発見することが増えた。
浜面くらいしか親しい異性のいなかった絹旗にとって、それらは新鮮だった。
頭の回転の早さや顔立ちが整っているということは今更特筆してあげるまでもない。


新鮮なのは性格だ。

気が利かないながらも、相手を楽しませようという意志が空回り気味ながらも伺える浜面に対して、一方通行の中に絹旗を楽しませようという姿勢は欠片も無い。
絹旗との談笑に興じたかと思えば、気づけば医学書や研究論文に目を通す作業に戻っている。いや没頭している。
そこに絹旗がいようといまいと、彼女が退屈していようとしていまいとおかまいなしだ。
仮に、急に絹旗が帰ると言い出しても一言、そうか。で済ませてしまうだろう。


そして、意外なことに彼はものを知らない。
流行もの、特にテレビドラマであったり、小説であったり、映画であったり、それらにとんと疎い。
絹旗でも小学生の頃読んだことのある本をまったく知らなかったり、童話(それも人魚姫や七匹のこやぎなど)でも知らないものが多い。
それらのどこかちぐはぐさが絹旗には無性に面白かった。

自分を楽しませようという気が無いことなど気にならない。元々、そんなお嬢様気質など持ち合わせていない。
自分が楽しめればいい絹旗はわざわざ娯楽を提供してもらう必要も感じなければ、それを他者に依存したりもしない。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/16(月) 23:05:30.31 ID:Q9NN+qkE0<>



「浜面ついに滝壺さんに超プロポーズしたんですよ」

「この前の病院の時はしなかったのか?」

「あれは婚約です。結婚です。超結婚」

「第四位は大丈夫だったのか?」

「超自棄酒に付き合わされました」

「浜/面にならなかっただけ良かったじゃねェか」

「麦野だっていい加減大人になったっていうことです」

「ガキが大人について語るとかねェよ」

「三つしか違わないじゃないですか!!」

「三歳差ってのは小せェよォでデケェンだよ。それにしてもアイツ、この先何十年分の幸運使ったンだろォな」

「何十年分っていうか、むしろ一生分の幸運をベットしましたよきっと」

分不相応な花嫁をもらうものだ。一方通行と絹旗の共通認識。

「ま、あのヤロウしかいねェだろォがな」

「ですね」



<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/16(月) 23:07:04.67 ID:Q9NN+qkE0<>

しかし、あの不思議少女、ある意味レベル5達よりも学園都市にとって希少価値のある存在を守り抜ける男は他にいないとも思う。
一方通行はロシアに向かう浜面達の姿を目にしている。
みっともなかろうと、無様だろうと、泥臭かろうと、一本芯の通った信念に基づいて行動する男は眩しくすらある。


「あのピンクがらみだったら俺だって敵対したくねェよアイツは」


絹旗は少しだけ驚く。素直に浜面を認める言葉を吐いたことにもだが、小さく微笑むということをいつの間にか身につけていることに驚いた。


「一方通行超笑えたんですね。思ったよりキモくない笑顔だったのが意外です」


一方通行はしまったと一瞬呆気に取られたように口を開けると、すぐさま普段の仏頂面に戻る。


「笑ってねェし」

「笑いましたよ」

「気のせいだ。耳鼻科に行け」

「超素直じゃありませんね」

「うるせェ失恋チビに言われたくねェし」

「し、失礼です!!っていうか超無神経です…」






「一方通行、何してるのよ」


ほとんど忘れかけていた初恋の痛手をつつかれて絹旗が思わず声を上げかけて背後から不意に被せられた声に、絹旗が振り返る。

<> 眼科に行けってばよ。耳鼻科じゃないってばよ。<>saga<>2011/05/16(月) 23:09:12.07 ID:Q9NN+qkE0<>

「お前来てたのか」


振り返った絹旗の後ろから、一方通行のうんざりした声。


「こんなところでデート?布束先輩という人がいるのに」


絹旗を通り越えて、一方通行に向けられる声。


(布束?誰でしたっけ…)


肩まで伸びた鳶色の髪の少女が、不機嫌そうに立っていた。
すらりとした背筋を伸ばし、しなやかな空気を纏わせる少女の後ろにはさっき見かけた少女たちがいる。
背後の少女たちは、ある子はおろおろと、ある子は興味津々にこちらを見ている。








トイレから戻ると、佐天を中心に何やら話が盛り上がっていた。彼女達が色めき立っているのに気づくと、美琴は彼女達の視線の先に目をやった。
しかし、敷居のせいか、彼女たちの視線の先にいるであろう人物は見えない。
わざわざ立ち上がって覗き見るのもいやらしくて、美琴は微かに話題に入れないことに焦りを感じる。


「思い出しました。あの人私を第二位さんから助けてくれた人です」

「学園都市第一位、一方通行。まさかこんな普通のお店で見ることになるとは思いませんでしたの」

「何か想像と違って華奢なんだね。もっとマッチョ想像してた。五メートルくらいの剣とか軽々振り回しちゃうような」

「そんな人間会いたくないですの」



「第一位…?」


<> でも、学園都市の耳鼻科医はドジっ子だから間違え目を治療するという設定にすれば…<>saga<>2011/05/16(月) 23:10:39.50 ID:Q9NN+qkE0<>

気づけば立ち上がって、テーブルまで近寄っていた。
近頃よく目にする白髪頭と、その向かいにいる小柄で可愛らしい少女。
お節介な美琴は瞬間的に声を発していた。棘があるのは承知の上だ。



「こんなところでデート?布束先輩という人がいるのに」



煩わしそうな一方通行の声にカチンとくる。
美琴の目には、彼女がいるのにぬけぬけと他の女とデートを楽しんでいる姿にしか見えない。


「何で布束がここででてくる?」

「何でって、恋人でしょ?先輩の」

「誰がそンなこと言ってンだよ」

「番外個体よ」


末妹達が目の前の白髪男に家族愛とは異なる愛情を向けていることなどとうに知っている。
そして、一方通行の側にいる存在に胸を痛めていることも。
可愛い妹達を悲しませてコイツはなにをやっているのだ。
美琴は自分の怒りの理不尽さに気づかぬフリをする。


「アイツがそォだって言ってたのか?」

「先輩からは何も言ってないけど…」

「ならそォいうことだ。少なくともアイツとはそンな関係じゃねェ」

「じゃ、じゃあ、そっちの人が………彼女さん?」

「えっ」



彼女という言葉を口にするのに、思わぬ労力が要った。
美琴は胸の奥がもやもやとするのを覚える。


小柄な少女が目を白黒させる。やがて、ようやく意味が通じたのか見る見る内に顔を赤くさせていく。


「いや、別にそういうワケじゃねェな」


しかし、一方通行は焦ることも照れることもなく、淡々とした口調で答える。


遠巻きに眺めていた佐天には、二人の少女が同時に落胆の表情になったのが見えた。
それぞれ理由は異なるが。






<> もう、眼科も耳鼻科も似たようなものだからいいんだよ。<>saga<>2011/05/16(月) 23:13:13.37 ID:Q9NN+qkE0<>



「っていう事がこの前あったのよ!」

「はぁ…」


姉の機嫌が悪いのは、電話が来た時から察していた。
また言い寄ってくる男のグチか、女子からのやっかみに対するグチだろうかと高を括っていた10032号こと御坂妹は
自分の読みがまだまだ甘いことを思い知る。
わざわざマンションまで来て美琴が一方通行のグチを言うとは思わなかった。
打ち止め達から、最近和解傾向にあるという連絡を事前に聞いていたから、やれやれと思っていたばかりだったのに。
10032号は特別一方通行と美琴が仲良くなってほしいと思っているわけではない。
ただ、お互いの事を知る必要があるだけだと思っているに過ぎない。
現に、美琴に一方通行の事をはなした際にも、仲良くなってくれと言った覚えはない。



「えっと…要は、一方通行は布束砥信とすることしておいて彼女ではないと。そして、同席していた少女とも特別な仲ではないと言っていたのですね」

「そうよ」

「ふむ。セフレだけには事欠かないとか、流石のクズっぷりというか、爛れっぷりですねとミサカはあのコミュ障もやしが
 
 そうそう彼女なんて作れるわけねーだろと冷静にツッコミを入れてみます」


「せ、セフレって。いや、さすがにそこまでは」

上条当麻とやることやっておいて何をネンネのようなリアクションしてるかなこのかまとと姉は、
と妹が思ったかどうかは定かではないが、10032号はこれ見よがしに溜息をを吐く。


「何よ、いやらしいわね」

「それで、結局お姉さまに言いたい放題言われたヘタレはすごすごと去っていったと」

「同情します。同行していたその女の子に」

「う…」

確かに、一方通行と一緒の時間を楽しんでいた少女には言い迷惑だっただろう。

「それと、一方通行に」

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/16(月) 23:14:36.69 ID:Q9NN+qkE0<>
「なんてアイツに同情するのよ」

「上位個体達が奴に弄ばれて捨てられたならともかく、勝手に関係のないところで爛れた日々を送っていようがそれは彼の勝手なのでは?

 とミサカはさすがに人の恋路まで口を挟むのはどうかと思うよと暗にほのめかします」


10032号はよく練ったココアを二つのカップに煎れる。
最近、ココアにハマっているのだ。
体重が気になるが、ココアの分、普段からのお菓子を減らせばいいだけである。問題はまったくない。
という言い訳をして、妹はうっとりとチョコレートの甘さに目尻を下げる。


「で、でも打ち止めが可哀想なのよ。しゅんってなって。番外個体もどこと無く元気ないし。それなのにアイツは知らん顔ってひどくない?」

「酷くなんてありません」


妹はうんざりするように、横目で美琴を見る。
呆れきった顔に、美琴がクッションを抱きしめたまま後ずさる。

「一方通行を上位個体が好きになるのと、一方通行が誰を恋人にするかは別問題ですから。とミサカは初恋は実らないものだという恋愛の鉄則を思い出します」

思い切りその鉄則が当てはまっている内の一人として、美琴は黙り込んだ。
冷静になれば確かにその通りだ。
一方通行が特別打ち止め達を大切に思っていることはわかっている。
最近冷たくなったというわけでもない。ならば、美琴が怒る理由は無いのだ。
しかし、美琴が黄泉川家に泊まったある日の夜。意気消沈しながら胸の内を吐露した打ち止めのいじらしい姿に胸が詰まった。
もっと言ってしまえば、嘗ての自分に外見年齢13歳の打ち止めが重なってしまった。つい、少女の応援をせずにはいられなかったのだ。




「お姉さまの考えていることはだいたいわかっていますけれどねとミサカは伊達につき合い長くないですよと姉妹の絆を強調します」



10032号は、空になったココアのカップをテーブルに置く。
美琴のカップからは並々と注がれたどろりとした表面から既に湯気が消えている。
一口も口を付けていないことがふと気になった。
確か美琴も大好きなココアだったはずだ。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/16(月) 23:19:10.81 ID:Q9NN+qkE0<>
「お姉さま?お口に合いませんでしたか」



美琴はカップに手を付けようともせず、青白い顔で曖昧な笑みを浮かべる。
誤魔化すような、彼女に似つかわしくない笑みに10032号は怪訝な表情を浮かべる。


「お姉さま?」
「いや、私ちょろっとダイエット中で…」



太らない体質だと自分で言っていたのに。
10032号の眉が更に不審の色を呈する。


「お姉さま…顔色が悪いですよとミサカは土気色になったお姉さまの顔をのぞき込みます」


テーブルを挟んで美琴と向かい合っていた10032号はテーブルを迂回して美琴の顔をのぞき込もうと顔を近づける。
美琴の鼻孔を、シャンプーと微かな柑橘系の香水(美琴が選んであげたもの)の香りと、そして、ココアの甘い香りがくすぐる。



「う、ごめん…っ」


美琴の顔色が変わる。
逃げるように、トイレの奥に走っていく美琴の姿を呆気に取られたように10032号はそれを見送ることしかできなかった。やがて、トイレから苦しげに嘔吐する美琴の声が響いた。







「二ヶ月だね」


深夜の大学研究室、ソファーに寝転がり、腕を枕にとろとろと浅い眠りに就いていた一方通行を無慈悲に叩き起こしたのは
彼のよく知る、そして、最大級の罪悪感を抱く少女からのものだった。

滅多にかかってくることのない電話に、とっさに浮かんだのは、クローンを利用して何らかの実験に着手せんとする学園都市の暗部の動きについて。

電話口から聞こえてきた声は、本人なのかと耳を疑うばかりに取り乱した10032号の声。
「お姉さまが、お姉さまが」と連呼する声に、更に魔術サイドまで絡んで来ている可能性を考慮しかけたところで、居場所を聞き出し、車を走らせた。
着いてみれば、美琴の顔色が悪いこと以外は二人とも無事であった。その事に安堵しつつも、無表情で取り乱すという器用な真似をする10032号を伴って
向かったのは第七学区、冥土帰しの病院であった。


そして、一時間の診察の後に呼び出されて告げられたのが前述の言葉だ。


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/16(月) 23:25:32.94 ID:Q9NN+qkE0<>


『しかし、あの子達にも言ってなかったみたいだね…本人は既に知っていたようなんだけどね』


あの子というのは恐らく妹達のことであろう。


「―――― ッ !!」


ぐしゃぐしゃと髪を掻き毟る。
伸び過ぎだと、打ち止めや黄泉川に注意を受ける前髪が視界に絡む。
出来る事ならば、今すぐこの場に座り込んでしまいたい。
どうして自分がこんなにもやもやとした気持ちにならなければならないのだろうかと、思わなかったと言えば嘘になる。


「あの…馬鹿が……」


結局一方通行に出来たのは吐き捨てることだけだった。


誰にぶつけるのが正しい苛立ちなのか、上手く掴みかねていた。
診察室を出ると、長椅子に並んで腰掛ける姉妹が目に留まる。
ゴーグルが無くとも昔にくらべて見分けが付くのは妹の方は髪をベリーショートにしているからだ。
別に自分に見分けが付きやすくする為ではないことはわかっているものの、正直一方通行には助かる。
俯き、膝の上で手を強く握り締めた少女と、その肩を抱き締める瓜二つの少女。
昔よりも長い髪は俯くと少女の顔をまるっと覆い隠してしまう。
少なくとも微動だにせずに座っている少女の表情は立ったままの一方通行からは見えない。
10032号が視線で一方通行に「どうしましょうか」と問う。
何故自分に選択を委ねるのだという憤りと苛立ちを辛うじて噛み殺したのは、少女達を思いやってではなく、煙草が吸いたいと思ったからだ。


「とりあえず外に出るぞ。まだマシだろ」


「そうですね。さ、お姉さま」

「うん…」

弱々しく頷き、それでも手を借りずに立ち上がる美琴を、一方通行は見ようとしなかった。
上手く感情を整理する必要があるのは寧ろ自分の方かもしれないとポケットの中を探りながら思う。


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/16(月) 23:30:52.27 ID:Q9NN+qkE0<>
芝生を月の濡れた光が覆いつくしている。

青白い月は三日月と呼ぶには太り過ぎで、それを何と呼ぶのか一方通行にはわからなかった。

布束ならば無駄に知っているだろうか。研究室を出て行く時の布束の顔が浮かぶ。
電話があったのが事の最中でなくて本当に良かった。生々しいが本音だ。
ミサカ達の為に奔走する自分を呆れるように、羨むように見ていた布束の視線を振り払うと、煙草の箱を取り出す。
冥土帰しの吸っていたバニラの煙草。本を返しに行った際に、一箱寄越されたものだ。
髭面の男から押し付けられた煙草を吸い終えたばかりだったから丁度良い頃合と言えば頃合だった。

箱の底を叩いて一本咥えてから、ふと美琴達が気になったが、外だから構うまいと火を点ける。
ベンチに腰掛けて、俯いたままの美琴と、元々寡黙故にかけるべき言葉を出し尽くし、途方に暮れるように月を見上げている妹。
彼女達に背を向けて、気を紛らわせる為に覚えたばかりの煙草を吸っている自分が一番うろたえているのではないだろうか。


一方通行は身体中からかき集めた疲労感を排出しようとするように深く煙を吐き出した。



「甘い…」


咎めるわけでもなく、純粋に驚いたように美琴が呟いた。
風向きが変わり、一方通行の煙草の煙は美琴達の方へと流れてしまったようだ。
10032号が僅かに責めるような視線を向ける。妊婦がいるのにと言いたいのだろうか。
その視線に理不尽さを覚えながら、一方通行は視線を逸らす。


「なンで言わなかった」


逸らした視線を月に向けながら出てきた言葉の白々しさに吐き気がした。


「アンタに言わなきゃいけない理由があるの?」



苛立ちを多分に含んだ声。
仰る通り。美琴に背を向けたまま苦笑する。
自分でも何を言ってるんだと思ったのだ。彼女の言うとおりだ。
しかし、沈黙を一方通行が傷ついたが故のものだと思ったのか、泣きそうな声で美琴が「ゴメン」と謝る。


「こんなに迷惑かけておいて、何言ってるんだろね、私。ゴメン」


謝るなとも、何故謝るとも言えず、空に向けて煙を吐き出す。


「どうすればいいかな」

「どうして俺に聞く」

「わかんないわよ、そんなの…」



不意に、此処にはいない上条への怒りが腸からぐつぐつと生じる。何故置いていったのだと、今更過ぎる怒りだ。
とりあえず何処かに怒りをぶつけたいというのが一番の本音だった。
<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/16(月) 23:33:27.69 ID:Q9NN+qkE0<>


「どうして言ってくれなかったのですかお姉様?言ってくれればもっと…」


そこで妹は言葉に詰まる。もっとどうすることが出来たのだろうか。
妹の疑問に対して、美琴は首を振る。


「どうしてだろうね」


妹と自分。どちらに向けた言葉なのだろうか。
返すべき言葉を探し、言葉を返すべきなのか迷い、結局沈黙に陥る。


「ただ…何となく、ホントどうしたもんだろうって思ってて……結局決められなかった」


“決める”という言葉の響きに一方通行はひやりとしたものを感じる。
決める。何を秤にかけて決めるというのだろうか。


そんなものはわかりきっている。


生むこと、そして ―――



「生まない方がいいのかな」



最後の語尾は、誤魔化すように力無い笑い声が混ざっていた。
妹が絶句するのが、背中越しにもわかった。



瞬間、一方通行の血の気が引く。恐怖でも不安でもない。


怒りの余り感情が冷めるように血の気が引いた。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/16(月) 23:36:38.43 ID:Q9NN+qkE0<>
何故よりにもよって妹がいる前で言ったのだ。
『普通』の生まれ方をせずに、そのために誰よりも『当たり前』の命に憧れているはずの少女を前に。

そんな疑問を冷静に吐こうとしても、言葉が上手く喉を上ってこない。

言葉が、声が、美琴が浮かべているであろう表情が癇に障った。



「……本気で言ってンのか?」


「え…―― 」


ぞろりと地を這うように、血を吐くように呟かれた低い声が誰のものか、にわかにはわからなかった。


ガツンと一方通行が横に払った拳が手近にあった外灯を叩く。


美琴は思わずビクリと肩を震わせた。
一方通行は煙草を吐き捨てると、靴底で踏みつける。


「一方…通行?」





「好きにしろよ。生むなり殺すなり」



戸惑い、怯えた美琴の声に振り返らずに吐き捨てた。




<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/16(月) 23:39:42.91 ID:Q9NN+qkE0<> 以上で投下終了です。途中痛恨のミスがありました。すみません。
上条編でグダグダし過ぎた感がしたので、ペース上げて行きます。超展開かもしれませんが。
一方さんは堕ろすこと自体にキレた訳じゃありません。

それではまた。 ノシ

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/16(月) 23:40:55.16 ID:cXhFhELJo<> 乙

シリアスな展開よりもこの時点で隊長とのフラグを立てたコングさんが気になって仕方無いwwwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/05/16(月) 23:42:30.25 ID:86tgV17h0<> 乙!
そんでこっから想ちゃんが来るわけか?
想ちゃんデュフフwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/16(月) 23:42:32.83 ID:yeI/VE9DO<> 美琴さんよ………その言葉は誰よりも一方通行を傷つけた……… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)<>sage<>2011/05/16(月) 23:42:36.15 ID:VXX7m4Jfo<> 乙
一方通行が切れた理由はこれから明かされるのか、上条さんの方のスレを読んでないからわからないだけなのか
後者なら向うのスレ呼んできた方がよいのかな? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/16(月) 23:44:31.28 ID:/ap27MSgo<> ……そして自分は浜面達の絡みかたが気になる。
どう繋がるんだろう。

乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/17(火) 00:08:33.06 ID:vf0r8j/M0<> 乙!!

>>582
理由は明かされるだろうが、そことは関係なく取り合えず読んでくることをオススメする。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/05/17(火) 00:22:44.24 ID:Tu7qpMv20<> >>582
多分一応上条をよんだほうがいいと思う

あと多分だが妹達を思って そして
命の重さを実験で学んだ一方通行だから きれたんだと思う <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/17(火) 00:25:14.44 ID:hZSuCZ+no<> 乙

打ち止めたちの気持ちをこの時点で知りながら、結局あーくん持ってく美琴さんマジパネェ

まあ、妹の前で言っちゃたってことなんだろうなぁ・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2011/05/17(火) 01:23:07.41 ID:9j5+kCFoo<> 一方さんはこの時妹達の延命に必死でさ、それを根底から覆されるような意見だよ。
美琴はたぶんその事実を知らないだろうしなあ。

黒子がフラグ立ててたり萌え医者になぜか木山先生が浮かんだり大変ですよね。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/17(火) 05:34:19.95 ID:DxixZPiDO<> クローンと妊娠とじゃ生む側のスタンスが全く異なるんだから、
命を産んでるという類似点だけで脊髄反射しちゃうあーくんちょとズルいと思た <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(沖縄県)<>sage<>2011/05/17(火) 07:27:20.73 ID:b1BvE/tAo<> >>588
>クローンと妊娠とじゃ生む側のスタンスが全く異なる
一方通行にとっては、その考え自体が受付けられないってだけのことだろ
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/17(火) 08:48:22.81 ID:PFqr9Uye0<> 文字通り命がけで妹達を守ろうとした口から、
お腹の命抹殺宣言が出たんだ。

双方に関わった人間なら、一方さんでなくても驚く。

あと、このセリフ上条に聞かせたいなぁ。心の中で血涙流してもだえ苦しみそうだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/17(火) 11:57:50.96 ID:D6g4FDlDO<> 俺はてっきり生きたいのに死んでく妹達の前で生まれて来る子を自分から殺そうとしてることに怒ったのかと <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)<>sage<>2011/05/17(火) 13:42:47.29 ID:0zPUkc96o<> 妹たち関係無しに男と女で見れば美琴の言い分は間違ってないだろ
実際お腹痛めて産むのは美琴だしこの時点じゃ将来のこともあるし悩むのは当然だよ
産むか産まないかなんて自分の人生に関わる重大な選択なんだから <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/17(火) 13:56:23.51 ID:AsEHPO0eo<> >>592
そんなこと言われても、お腹空かせて飢え死にしそうな子の前で
最近食べすぎで肥っちゃった、ダイエットしないととか言うやつが居たら切れられても何も不思議じゃない <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/17(火) 13:59:51.60 ID:GIQi5DUDO<> この時点で妹たちのこと持ち出すのはちょっとなぁ
同じ命って考えればそりゃ間違ってはないんだろうけど
一方さん自分から他人を遠ざけて事情も伏せてるのにな
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(沖縄県)<>sage<>2011/05/17(火) 14:25:04.35 ID:b1BvE/tAo<> >>592
誰も間違ってるとはいってねえだろ
つか、一方通行がどう感じるかってだけのこと
それが身勝手なのは否定せんが <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2011/05/17(火) 18:23:38.83 ID:9j5+kCFoo<> あー、単純に、簡単に投げ捨てちゃうような物言いにカチンと来ただけかも。
そんなヤツなのかって失望とか、逆にそういうことを言えることに対する羨望なんかもあったりして。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/05/17(火) 19:21:34.26 ID:66AiM4t+o<> ここは、他の女に走った男の子供なんて憎しみが生まれてもおかしくないケースで妊娠発覚の超ナーバス状態に「[ピーーー]」なんて言葉を浅はかにも言ってしまって、かといって俺が面倒みてやるけェとも言えないヘタレギレしてるあーくんに萌える所だろ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/17(火) 20:06:06.69 ID:484Mqp2eo<> 考えるな
感じるんだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[<>sage<>2011/05/17(火) 23:42:29.89 ID:r3xvuNxMo<> >>596
俺もそれ系の感想だなぁ
光の世界の住人に夢見てるし、美琴もヒーロー側の一人で、勝手に期待して勝手に失望して
自分の都合で勝手に作って捨てる親なんてのは、孤児にとっちゃ逆鱗だろうし

逆に産んでどうすんのとか、年下に厳しすぎだろっちゃそうだが、でも一方さんならありえる反応だなと思ったわ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/17(火) 23:53:06.41 ID:4BJy2gkwo<> 美琴だって事が事だけに+実際に体調にダメージ来てるからそれに引き摺られて精神が不安定になってるだけ
そんな状態で弱気に弱音くらいは吐くだろう

一方さんも連日の焦燥感に参ってる中で衝撃的な事実を知らされたばかりでグラグラ来てるから
考えるより先に苛立ちが発露する位は当然

どっちも仕方の無い反応でどっちが悪いとかじゃない筈
元々そういうお話でしょこれ
発端たる子種吐き出してったあの方関連の時だってこんな感じだったわけだし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/18(水) 00:47:20.19 ID:c/NvfilDO<> 女視点で考えると美琴の立場で子供を産むのは難しいと思うなぁ。まだ学生だし父親はいないし現実的ではない。
もし友達だったらおろす事を薦めるレベル


だがファンタジーだしな。想たん産んでくれてありがと美琴ママ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/18(水) 00:59:59.30 ID:m45CoHE8o<> 美琴は下手に周りへの責任感持ってるタイプだからな
自分の欲では産みたい気持ちがあっても周りの気持ちや与える迷惑も含めて一人で抱え込んで
追い込まれるところまで追い込まれちゃってそう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/18(水) 02:13:14.95 ID:lQpBG0d/o<> >>601
その問題は金がなくて生活できないから出てくる問題じゃないか?
レベル5だからお金もあるし現実的でないことはないと思うよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)<>sage<>2011/05/18(水) 02:49:03.58 ID:WGvNU0eQo<> いや金の問題じゃないだろ… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/05/18(水) 06:21:33.39 ID:ZC5157b6o<> 命を軽視した発言にかちんときたとか、上条さんに対する怒りとかそんな単純な話じゃないだろ
そういうの全部ひっくるめていろんな感情がないまぜになって、それでも結局真の当事者としては何もできない無力な自分への怒りもさらにプラスされて…うんたん
つまりベリーショートの御坂妹ってどういうことだ参考画像を要求する <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東)<>sage<>2011/05/18(水) 06:29:15.65 ID:JzxftZCAO<> やたら伸びてると思ったら名無しの三下どもの俺様理論発表会になってたでござる。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)<>sage<>2011/05/18(水) 07:21:40.01 ID:CgilT7IAO<> どうしようもないわな
もう何言っても逆効果だよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/18(水) 09:54:48.86 ID:6PXY+BoP0<> かもね。
今の御坂には何を言っても逆効果かもしれない。
まずは冷静にならないと。 <> 588<>sage<>2011/05/18(水) 15:21:36.38 ID:3HqX5EIDO<> 誠に申し訳ない
デリケートなスレかつ問題だと分かっていたのに、煽りのような感想をわざわざ述べてしまった
罰として想さん(18)に罵られてきます!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/18(水) 16:46:02.49 ID:ySeJNFBJ0<> >>609
おい今そっちに白い羽根生やした人×2と水の羽根生やした人と
巨乳な保母さんとその他大勢が向かってったけど大丈夫か <>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/18(水) 22:36:38.01 ID:9yg551s/0<> もうちょっとしたら投下します。よろしくお願い致します。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>sage<>2011/05/18(水) 22:46:09.03 ID:Ump9W1AAO<> >>609はもうだめだ
俺がかわりに罵られてこよう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)<>sage<>2011/05/18(水) 22:54:32.61 ID:cJF3kIRAO<> >>612お前だけに任せておけるかよ。俺もついていくぜ <> ◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/18(水) 23:01:43.25 ID:9yg551s/0<> 遅くなりました。今から投下開始します。 <> ◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/18(水) 23:03:11.78 ID:9yg551s/0<>
「御坂、帰りどこか寄って行かない?」

「ごめん。また今度誘って。今日先約ありなの」

「付き合い悪いわよ。もしかして彼氏?」

「違うっての」

各々が実験、研究を抱えている長点の生徒は交友関係において過剰な連帯感を求めない。
ありきたりな女同士の友情に付きまとう結束感もなければ、常盤台のような温室特有の同族意識もない。当然派閥など存在しない。
籍だけ置いて企業の研究室に出入りしている者や、実験レポートだけを提出して単位を取得する者も少なくない。
徹底した個人主義であり、ある意味ではこれ以上ない気楽な環境である。
今の誘いとて、半ば社交辞令めいたものだと美琴はわかっている。
だからこそ、多少素っ気ない物言いとなっても彼女は気に病むこともない。
備え付けのPCを畳むと、その上に突っ伏す。電源を切ったばかりのPCの熱が頬に伝わる。


一つ溜息。


誰もいなくなった教室で美琴はぼんやりと窓の外を眺める。



『好きにしろよ。生むのも殺すのも』



一週間になろうというのに、一方通行の言葉が頭から離れない。


責められている。


美琴ははっきりと感じる。
おろす、ではなく、殺すという言葉を一方通行は使った。
その言葉が無意識であれ、意識的であれ、彼ははっきりと美琴を責めているのだ。
美琴に宿った命を、美琴が絶とうとしていることに。


勝手な事を ―――



一方通行の言う通り、これは美琴の問題だ。
美琴の好きにすることに何の云われもない。
<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/18(水) 23:06:05.65 ID:9yg551s/0<>

不思議な事に、お腹に宿った命への憎しみは無かった。

捨てた男の遺伝子を受け継いだ忌々しいものというよりも、自分と好きだった男の両方の遺伝子を持つ存在を、不思議な程穏やかに受け止めていた。


しかし、現実問題がすぐさま美琴の小さな甘い満足感にのし掛かる。
それは重たい鉄綿のような圧倒的質量を持って美琴の胸の中に居座る。
中絶費用など、美琴にしてみれば微々たるものだし、まだ負担も少なくて済む。
第一、生んだ後はどうする。今年でようやく18歳になろうとする小娘が、父親も無く子供を産むのか。
経済的には問題無い。しかし、服を与え、寝床を与え、食事を与え、それで子育てが済む話であるはずがない。
ならば両親の力を借りるのか。彼らは必ず聞いてくるだろう。父親のことを。美琴は当然言わない。

土御門から口止めされていることももちろんだが、上条の両親が余りに気の毒だからだ。
息子を失った(と思っている)だけでも彼らの心の傷は大きいのに、これ以上揺さぶるような事をしてどうする。


葬式の時の、泣き崩れた詩菜の姿が蘇る。


上条に捨てられた時にさえ、上条自身への恨みなど抱かなかった。
ただただ彼をつなぎ止めることの出来なかった自分の不甲斐無さが悔しかっただけの美琴は、初めて上条に怒りを覚えた。
知れば土御門はすぐさま記憶を消す動きを見せるだろう。
秘密厳守というよりも、無用なトラブルに上条の両親を巻き込まない為に。
コレ以上の少女のような可愛らしい母親を自分たちの都合で振り回したくないというのが本音だ。


ならば、美琴のとるべき選択肢は最初から一つしかない。



「資格もないのに生めるわけないでしょ…馬鹿…」



言い訳めいているなと、自分の声を聞いて思う。
誰に対しての言い訳だ。深く考えるのを止める。


「…人の気も知らないで勝手なこと」


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/18(水) 23:08:32.59 ID:9yg551s/0<>
髪を指で絡めながら、美琴は小さく毒づく。
一方通行の口の悪さは今に始まったことではない。
そもそも美琴に子供が出来たことと彼はまったく無関係のことである。
もっとも事情を知る者であるにすぎない。
美琴にもそんなことはわかっている。それでも美琴の気は晴れない。
突き放すように言われた言葉に、まるで見捨てられたような気がする。
失望したような声が、何度も繰り返し美琴の心を切り刻む。

「ホント…馬鹿みたい」

腕に顔を押しつけて、泣き出しそうな美琴の呟きが夕暮れで噎せ返るように赤く染まった教室に消え入った。




「子供…か」

珍しく苦渋を滲ませた声を口の端からこぼしながら土御門元春は眉間を指でもみほぐす
一方通行がまず最初に連絡を入れた相手は美琴の妹たちでも、美鈴達でもなく、土御門であった。

「このこと知ってるのは?」

「俺とお前。10032号…上条と一番接触のあった妹だ」

「最大主教がクールビューティーって呼んでる個体だな」

「それと冥土帰し。多分そンなところだ」


一方通行は春巻きを一つ口に放り込むと、顔をしかめる。
洗い流すように砂糖の入っていない紹興酒を一気に飲む。
高くて不味い中華料理屋程密談をするのに適した場所はない。
人は来ない上に、見た目ばかりにこだわる店内は個室スペースが無駄に充実している。
年齢的に料亭は違和感が強い。
チンジャオロースを小皿に取り分けると、土御門はピーマン、細切り肉、タケノコを一切れ一切れ並べていく。

コンと皿を箸の先で叩く。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/18(水) 23:10:52.23 ID:9yg551s/0<>

「出来るだけ秘密を分かちあう人間は少ない方がいい。だが、執拗に隠そうとすれば軋轢が生じる」

「境界線を引けってことか」


土御門は頷くと更に並べていく。


「ある程度親しい奴らには父親が誰なのかは教えておいた方がいいかもな。その上で、あまり触れないようにする」

上条の死の真相については黙っておけと、暗にほのめかす。

「もっとも、生んだ場合の話だ。生まないならそれに越したことはない……お前は気に食わないみたいだけどな」

ムッと一方通行は自然と眉間に皺が寄るのを感じる。

「睨むなよ。当たるならカミヤンだ。こっちだって頭が痛いんだぜい?」

土御門は並べていたチンジャオロースをひょいひょいと片づけていく。
土御門の味覚にはそこまで合わないものではなかったようだ。
一方通行はよくもそんなに食べられるものだと言いたげに顔をゆがめて紹興酒の二杯目を飲む。

「この街にとってはレベル5の子供だが、“こちら”にとっては神上の子だ。重さが違う……情報隠蔽が必要なのは寧ろ魔術側だ」

やれやれとばかりに土御門はテーブルを回転させるとシューマイの大皿を引き寄せる。
小皿によそっていたべじゃべじゃとしたカニチャーハンをかき込むと、三杯目を一息に飲む。
口の中のぬめぬめとした感触が残ってる気がして、すぐさま四杯目を二口で更に飲み干した。
キツい酒の筈なのに、酔いの兆候は一向にやってこなかった。





あの夜の自分の態度は明らかに八つ当たりだ。

つわりに苦しむのも、不自由を強いられるのも、お腹を痛めるのも、負担を背負うのも、全て美琴なのだ。

彼女一人が背負い込むものの重さは想像するだに大きい。
18にもならない小娘には荷が勝ち過ぎる。経済的な問題ではなく。
美琴がナーバスになるのは当然のことであり、彼女の選ぼうと迷っている選択肢は実に正しい。


命を奪う行為を頭ごなしに否定するつもりはない。

生まれてこない方が良かったと言える不幸など腐る程あるし、命は地球よりも重いなどと言う寝言を唱えるつもりも毛頭無い。

何よりも、自分は彼女の親友でもなければ親兄弟でもない。当然恋人でもない。口を出す権利など一つとして存在しない。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/18(水) 23:13:16.51 ID:9yg551s/0<>
一方通行は柔らかな感触に顔を埋める。頭の上で聞こえる寝息。布束はぐっすりと眠っている。
ベッドから出ようにもしっかりと頭を抱え込まれている為、出るには彼女を起こさなければならない。
蹴落としてやろうと、昔なら思っただろうし、事実その通り実行していただろうが、それは思い出すだけでも恥ずかしくなる少年時代の話。正に若気の至りだ。
微かに汗の香りのする甘い匂いに瞳を閉じて浸ろうとして、暫しの逡巡の後、ゆっくりと息を吐く。
くすぐったいのか、布束の身体が微かに震える。安堵ではなく、小さな不安故の溜息。

甘えるのは苦手だ。






「もっと超攻撃的な性格だと思ってました。威嚇するか脅すか怒鳴るしか感情ボタンが無いみたいな」

そう言ったのは絹旗だった。
それはある意味間違っていない。威嚇し、罵倒し、遠ざける。自分が対人において行う反応はこの流れだった。
しかし、いつの頃からか、それらの攻撃性はなりを潜めた。大人になったと人は言うが、話はもっと単純だ。
そんな気力が無くなった。
それだけであった。暗部でただ目標に向かって戦う日々は、傷つき磨耗して行く一方で、シンプルな日々だった。
表に放り出され、慣れぬ平穏な日々と駄賃代わりに手渡されながら、妹達を救うべく研究に没頭する毎日は、居心地の悪さと、焦燥をもたらす。
自分の問題だけでも手一杯だったところに、上条やインデックス、そして美琴の問題だ。
常に毛を逆立てて、敵意をむき出しに牙を立て続けるには、些か疲れ果ててしまった。

「妊娠ですか!?」
「知人の話だ。つか、声デケェよ馬鹿」
「ハァ〜最近何処もかしこも…それで、その人は幾つなんですか?」
「17…高三だから、今年で18か」
「超小娘ですね」


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/18(水) 23:14:38.58 ID:9yg551s/0<> 「………で、お前はどォ思う?」

うるせェよ小学生という言葉を呑み込む。
普段どおりの憎まれ口の応酬はつまらなくもないが、目的が遠ざかる。さっさと本題に入りたかった。

「そりゃ、おろすでしょ」

美琴の状況を完結に、伏せるべき点は伏せて話し終えると、クリームソーダのアイスを崩すタイミングに注意を払っていた絹旗がさらりと言う。
躊躇無く、迷い無く、間など無く。
一瞬呆けた一方通行は、持っていたカップをソーサーに落としそうになるのに気付いて慌てて持ち直す。

「何超裏切られたみたいな顔してるんですか。出来たから、じゃあ生むって、そんな簡単な問題じゃないのは私達が一番よく知ってるはずですよ?」





絹旗と会って他愛も無い談笑に耽ることは、気付けば一方通行の日々の楽しみの一つになっていた。
無邪気に、他愛もないことで喜怒哀楽を見せる彼女の姿に、期待をしていたのかもしれない。
当然生むべきだという、子供のような単純明快な理屈を。それは勝手な一方通行の思い込みであり、期待に過ぎない。
だから、それを裏切られたような気になるのは完全な自分の勝手だ。
布束はブラジャーを着けていない。事を終えてそのまま眠りに就いてからまだ一度も目を覚ましていない証拠だ。
彼女は自分と同じく裸でベッドに寝ることを好まない。


そういう、自堕落に落ち着くことが出来ない、収まりの良い場所を上手く見つけることの出来ない神経質な猫のような彼女の性質が一方通行は嫌いではなかった。



自分の頭を抱き締めているのも、愛情が溢れての行為ではなく、単なる無意識に手ごろな抱き枕代わりに手繰り寄せたに過ぎない。
視線をそっと壁際の時計に向けると、まだ時刻は3時を回ったところだった。
快楽の余韻も、眠りの薄靄も消えて、きんと冷えた感触が後頭部に広がる。


自分は美琴に子供を産んで欲しいのかと、一方通行は熱の冷めた頭でもう一度考える。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/18(水) 23:18:29.97 ID:9yg551s/0<>
違う。そうではない。

答えはあっさりと出る。まだ見ぬ他人の子供に愛情を抱けるほど、一方通行は情が深い男ではない。
少なくとも一方通行自身はそう感じている。もし、仮に美琴の立場にあるのが、黄泉川であったら。芳川でも、布束でもいい。結標でも絹旗でも。
そうであれば、自分はこれほど苛立ちを覚えるだろうか。答えはノーだ。
理由は明白である。

勝てぬとわかって懸命に抗い守ろうとした少女。

誰一人死んでやらないと誓った少女。

生まれてきたことを呪いながら、それでも生きようとする少女。

人の心を持って、人になろうともがいている少女達。


それは彼女が美琴だからだ。御坂美琴だからだ。『彼女達』の姉だからだ。
美琴だけではなく、恐らくミサカと名の付く少女であれば、同じ気持ちを抱いたのだろう。
一方通行が抱いたのは、生んで欲しいという前向きの苛立ちではない。
彼女にそれをして欲しくないという極めて受動的な衝動。
命を消す、その行為を彼女が肯定する、行う、望む。それが自分は我慢ならないのだ。
もし仮に子供を育てるつもりが無いとしても、その決定を彼女に下させたくない。

自分本位の願いだと痛過ぎる程わかっている。

一方的に憧れて、一方的に期待して、一方的に美化をして。

そして、今、一方的に失望して、一方的に苛立っている。

やはり、関わるべきではなかった。一方通行は後悔を噛み締めるように、布束の身体を抱き締めた。




冥土帰しの病院が産婦人科も兼ねていたのは、美琴にとって幸運なことであった。
事情を知った上で、きっちりと情報を守ってくれる信頼の出来る医者。これらの条件を満たす病院をわざわざ探す必要がないからだ。
流石に、冥土帰し本人が診察するわけではないとわかっていても、軽くなる気持ちは否定出来ない。
周囲を見渡せば、驚くほど若い女の姿が見受けられる。学園都市の人口比率を考えれば驚くほどのものでもない。
美琴は中学生や高校生くらいの少女が産婦人科の待合室にいるという光景をテレビで見る度に何処かで軽蔑していた。
今日という日になるまで何処かで他人事のように捉えていた風景の中にあって、しかし美琴は未だに現実味がなかった。
体調が優れないという理由で学校を休み、何となくお腹を締め付けるベルトではなく、普段余り着ないカーキ色のワンピースを選んできた。
お腹を擦ってみると、滑らかなサテンの手触りと、スレンダーと評される引き締まったお腹の感触のみ。
<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/18(水) 23:20:11.22 ID:9yg551s/0<>


本当にこの中にいるのだろうか。


首を傾げたくなる。
付き添うと言って聞かない妹を宥めて一人で来たのは、先日の一方通行に対しての意地だ。
一人でキッチリ自分のことはやってみせるという、一種の対抗心ともいえる。
未だに耳の奥に残る声に、不意に泣きそうになるのを堪えて、美琴は膝の上に置いた手を力を込めて握り締める。


「なぁ、本当に大丈夫か?俺待ってるぞ?そうだ、終わったら迎えに行くよ。すぐに電話入れてくれれば…」

「大丈夫だよ。心配しすぎ」

「でもよ〜」


比較的静まり返った待合室に、場違いな声が響く。
心配性なご主人だなと、煩いというよりも微笑ましい気持ちでふと視線を若い夫婦らしき


「はまづら。お仕事早く行かないと、はんぞう怒るよ?」

「本当の本当に大丈夫か?もし何かあれば、すぐに呼ぶんだぞ?」


そう言って、周囲にすいませんと謝りながら去っていく夫らしき男。美琴は目をしばたたかせた。
遠ざかる背中を見送った少女と目が合う。淡いピンク色のワンピースのラインがぽこりとお腹のところで膨らんでいる。
美琴の記憶の中よりも僅かにふくよかに、そして数段美しくなった少女は、きおく通りねむたげな、おっとりとした表情でこてんと首をかしげた。


「みさか?」

「…滝壺さん?」





<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/18(水) 23:23:03.66 ID:9yg551s/0<> 以上で本日の投下終了。三主人公中、唯一頭脳派なので、悩むの担当一方さん。
未来設定なので美琴と滝壺、浜面の面識はあります。面識があるという程度であって友人というレベルではないですが。
ぐずぐずかもしれませんが、悩まないと嘘だと思うのでウンザリしてる人には申し訳ないです。

それではまた。 ノシ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(西日本)<>sage<>2011/05/18(水) 23:25:53.99 ID:5Dko70q50<> >>1おつ!!!!
リアルタイムで更新に立ち会えるとは
一方さんも美琴も妹達も切ない・・・
続き待ってます <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/18(水) 23:30:19.65 ID:YgDanssDO<> 乙!!

自分で一方通行が怒った理由をいろいろ考えてたがこれは凄く納得した感じがする
そういえば一方通行って想タンが生まれる前から過保護だったということはそれがこの過去編で見られるのだろうか


そして俺はしている時よりも事後という方がエロスを感じるのは何故だろう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/05/18(水) 23:35:31.08 ID:/+sZE8li0<> 乙!!!
確かに、頭がいい人って賢すぎて変にごちゃごちゃ考えるよなー
そこが萌えるけど
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/18(水) 23:44:58.09 ID:pIYdJrAKo<> 乙
そう言えば、二人の子供同じ歳だったな。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[<>sage<>2011/05/19(木) 00:43:01.23 ID:MQ4dAwRmo<> ここでくるか浜面夫妻…先がホント気になる
次回も楽しみにしてます乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2011/05/19(木) 06:34:05.93 ID:Aci+MzP6o<> この時点で一通さんは妹達を単に守るってだけじゃなく互いに大きな存在としての交わりがあるんだなあ。
10032号が真っ先に助けを請う存在であったり、個の人格を汲んでたり。
だから美琴は特別で大切なんだな。
逆に美琴にとっては知らない間に外堀を埋められまくってるなー。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/19(木) 07:29:11.95 ID:5Dw798Kzo<> おなかぽっこりの滝壺さんきた!これで勝つる!

なにげに半蔵さんは初登場だな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/19(木) 10:40:03.74 ID:sLra1AwIO<> 他の二人は考えずに感じるタイプなのに考えちゃうから苦労が増える一方さん、でもそんなとこも良いよな。

あと抱きしめて来る布束さんイメージして萌えた <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/19(木) 15:25:40.54 ID:+X/wzXJNo<> 乙
一方さんにとって美琴は光の象徴ってところなのかねぇ

くそ、浜面爆発・・・すると滝壺が悲しむから、タンスの角に小指ぶつけろ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/20(金) 14:36:59.61 ID:ZDL+PJin0<> >>632
そんな地味に辛いことを……
浜面机の上から落ちそうになった消しゴムを急いで取ろうとして机の角に肘ぶつけろ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/05/20(金) 23:14:22.46 ID:6nCi8a7b0<> うんこ踏め <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/20(金) 23:56:01.58 ID:uabQKLPDO<> 太ももの裏を虫に刺されろ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)<>sage<>2011/05/21(土) 01:36:57.57 ID:VTgkVmtro<> 寝てる時にカグンッて落ちる感覚味わえ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/05/21(土) 05:50:41.77 ID:MI8Fwd+Jo<> あれ?それ上条じゃね? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage <>2011/05/21(土) 13:14:02.33 ID:iLUnlX5d0<> 上条も <> ◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/22(日) 12:32:27.36 ID:mbghDMSg0<> 時間が出来たので半端な時間ですが、もうちょっとしたら投下します。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2011/05/22(日) 12:59:03.81 ID:90K7rxAE0<> ひゃっほおおおおおおおお! <> ◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/22(日) 13:33:31.05 ID:mbghDMSg0<> 投下を開始します。よろしくです。 <> ◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/22(日) 13:34:31.90 ID:mbghDMSg0<>

「母子共に安定していますね」

「安定、ですか」

「もう決心したのかしら?」


女医の言葉に美琴は俯く。


「早めにした方が負担が軽くて済みますよ?」


言われるまでもないことだった。
場合によっては二度と子供が生まれなくなることもありうる。
本来不自然な処置を施すのだから仕方がないことだろう。
今日診察に足を運んだ目的を思えば、女医の言葉はもっともなのであるが、美琴は反発を覚える。
早めにするという事務的な物言いが引っかかった。
自分でも勝手な反発だとはわかっている。

「貴女はまだ学生なんだし。それに…相手はいないのでしょう?」

堪えきれない反発を飲み込んで、美琴はもう少し考えさせてほしいと回答を先送りにした。




診察を終えた美琴は滝壺と待ち合わせていた喫茶店に足を運ぶ。
学生の姿が見えない代わりにスーツ姿や買い物途中の主婦らしき姿が目に付いた。
注文を言う前に店員がホットミルクをテーブルに二つ置く。


「あ、すいません」

本音を言えば美琴はアイスティーが飲みたかった。
滝壺はたっぷりの蜂蜜を入れるとかき混ぜる。

「身体冷やしちゃダメだよ」

心を読んだような一言にどきりとする。。

「滝壺さんも通ってたんですね」

滝壺理后の膨らんだお腹に知らず知らず向けていた視線を不躾だと思ったのか、美琴は慌てて目をそらす。
それでも気づけば美琴は横目で滝壺のお腹に目をやってしまう。


依然として変わらぬ美琴と異なり、滝壺のそれは確かな命の存在を匂わせていた。

滝壺とは異なる人間の命だ。


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/22(日) 13:36:58.03 ID:mbghDMSg0<>
「うん。五ヶ月だって」

自分のお腹に視線を落としながら滝壺は喜ばしいことのように笑う。
時日滝壺は柔らかい笑みをこぼし、お腹を撫でる。
五ヶ月という言葉が、初めて聞く言葉のように美琴の中に確かな存在感をもって響く。


「みさかは何ヶ月なの?」

「私は…」

言葉に詰まった。
二ヶ月と口にしようとして躊躇する。
二ヶ月、そう口にしたら自分が生むことを決断したみたいではなかろうか。
まだ二ヶ月だと、言ってしまえば生むことを待ち遠しく思っているようだ。
ならば、もう二ヶ月と言うべきだろうか。
もう二ヶ月ならば、早くしなければという焦りを響かせる。
早くしなければ、とは一体何を早くする必要がある。
当然のごとく導き出される言葉が怖くて、美琴は詰まったまま言葉を放棄した。
滝壺は首を怪訝な表情をするでもなく、きょとんとした顔で美琴を見つめる。


「滝壺さんは…やっぱりうれしいですか?」

「うれしい?赤ちゃんのこと?」

赤ちゃん、優しい言葉だと頷きながら美琴は改めて思う。
滝壺の口から出ると、それだけでとても優しくて素敵な響きになる。
子供と呼ばずに、赤ちゃんと言うところが滝壺らしい。
滝壺の人となりにそこまで詳しいわけではない美琴ですらそう思った。


「嬉しいよ。大好きな人の赤ちゃんだもん」


にっこりと無邪気に言う滝壺の言葉が突き刺さる。

大好きな人。

自分だってそうだ。大好きだった人の子なのだ。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/22(日) 13:39:38.54 ID:mbghDMSg0<>

「みさかは嬉しくないの?」

「…わからない、です」


お腹の子は憎くない。

けれども、父親はもういない。

それを滝壺に話すことは憚られた。
自分の問題だから自分一人で解決したかったから。
もっともらしい理由を思い浮かべてから、一体誰に言い訳をしているのだろうかと馬鹿馬鹿しくなる。


「滝壺さんは…浜面さんと結婚するんですよね?」
「うん、そうだよ。赤ちゃんが生まれるの待ってからね」


普段のほわほわした顔に、恥じらいを含んだ微笑を浮かべる。
柔らかい輪郭の頬を幸福で薔薇色に染める滝壺は同性から見てさえ可愛らしいと思えた。
同時に、自分の中の何かがじりじりとくすぶるのを感じる。
沸き上がった感情に蓋をして、美琴は祝福の笑みを作る。


「いいですね」
「うん。早く赤ちゃんに会いたい」


「会いたいか…」

きっと優しい母親になるのだろうな、とろけそうな滝壺の笑みに素直にそう思う。
心の奥が軋みをあげる。


「やっぱり浜面さんも赤ちゃん欲がってたんですか?」

「欲しがる?」



まるで言っていることの意味が分からないとでも言うように滝壺が目を丸くする。

その邪気のな表情に美琴は知らず知らず唇を噛む。


「だから作ったんじゃないんですか?」

語気が自然と荒くなった。


「みさかは赤ちゃん嬉しくないの?」


ミルクの入ったカップの表面を見つめながら、美琴は首を振る。


「嬉しいとか、そういう問題じゃなくて」
「私は嬉しいよ?好きな人の子供がお腹にいるって」
「貴女は浜面さんが欲しがってくれてるから」

蓋をした感情が漏れ出てくる。幸福いっぱいの滝壺の笑顔に抱いた感情。
子供を望んでくれる男がいる女の笑顔への嫉妬だ。
渦巻いた嫉妬の量に驚く。好きな男に捨てられて、その男の子を身ごもっている自分と、好きな男が側にいて、生まれてくる子供を素直に喜べる滝壺との差に屈辱を覚える。



「赤ちゃんって欲しいから“作る”の?欲しくなかったら“作らない”の?欲しくなくなったらどうするの?」


美琴の言葉の意味を吟味するような滝壺の言葉に美琴は言葉に詰まった。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/22(日) 13:44:25.78 ID:mbghDMSg0<>

「みさかは好きな人の為に赤ちゃんが必要なの?私ははまづらが好きで、はまづらも私のことが好き。
 
 それで赤ちゃんが私のお腹に来てくれた。はまづらが作ろうって言って言ったわけじゃないよ?」


不思議そうに首を傾げる。滝壺の澄んだ瞳が、まっすぐに美琴を見つめる。
責める訳でもなく、軽蔑する訳でもない。
ただただ、美琴の言葉の意味がわからないと滝壺の瞳が語っていた。


「好きな人の赤ちゃんを産むのって、好きな人がいないとそんなに後悔するようなことなの?」






「そうか…彼は怒ったかい」

冥土帰しは口元を綻ばせてつぶやく。まるで息子の成長を喜んでいるように美琴には見えた。

「先生は何も言わないんですね」

「君が決めることだからね。僕に出来ることは、患者の決めた選択が、うまく行くようにサポートすることだよ」


冥土帰しはホットのお茶の缶をベンチに腰掛けた美琴に手渡す。
それを黙って受け取ると、美琴は薄墨色の雲を眺める。
雨と不機嫌とを含んだじっとりと重たげな雲は見ているだけで憂鬱になる。


「先生は…怒らないんですか?」

温かいアルミ缶の持つやわらかい温もりが手に広がる。
お茶の缶は、握りしめると確かな熱さを主張する。


「育てないなら子供など生むべきではないし、何より望んでもいないのに生まれたら子供が可哀想だ。
 
 不幸になるとわかっていて、闇雲に生みなさいとは言えないよ僕たちは」


冥土帰しは大人とは言わずに、僕たちと言葉を濁した。
大人という立場の高圧さを持たぬ代わりに、その言葉が美琴に彼女自身の責任を迫る。少なくとも美琴は逃げられない圧迫感を抱いた。


「人を愛せない人間に母親になる資格は無い。そんな人間は子供を生むべきじゃない。けれど、僕が見た限り、君はそんな子には見えないよ」


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/22(日) 13:46:54.10 ID:mbghDMSg0<>
「一方通行は…どうして私に怒ったんでしょう」

「ふむ…怒ったのかい?」

「無神経なこと言ったのは自覚してるんです。でも…アイツが怒ることなのかって」

「んー…本当に君に対して怒ったのかな」

顎をこりこりとかきながら冥土帰しは困ったように眉を寄せる。情けなく見える筈の表情が、この医者の場合どこかとぼけたように見える。


「僕はその場にいたわけじゃないがね、彼が単純に中絶という行為を責めたとは思えないな」
「でも…」
「ただ…苛立ったのかもしれない」


美琴はあの夜の一方通行を思い出そうとする。
吐き捨てるように呟かれた言葉は、しかし、確かに美琴に落胆し、失望しきったものにしか思えなかった。


見捨てられた、率直にそう感じたのだ。


「僕は見てないから、断言できないよ。そんな顔で見られてもねー」

美琴のもの言いたげな表情に冥土帰しは苦笑する。

「それに、もし仮に怒っていたとしたらそれは君だったからかもしれないね…お茶いらなかったかな?」

「いえ、いただきます」

「そうかい」

美琴の手の中の缶は手つかずのまま握られている。

「彼は君に言って欲しくなかったんじゃないのかな。君の口から聞きたくなかった、だからそれに耐えられなかったのかもしれないね」

白衣のポケットから白い缶コーヒーを取り出すと、冥土帰しは軽く振る。

「少なくとも、君以外の人間が中絶をほのめかしても彼は何も言わなかったはずだよ。

 それが考え抜いた末の選択ならばそういうものかと、そう納得してね。
 
 彼は命の価値をよくわかっている。あの若さで悲しいことだが」


ミルクと砂糖が過剰に混ぜられたコーヒーの味に顔をしかめる。


「命の価値…?アイツが」

「彼だからだよ。いかに命というものが脆いのか。それをつなぎ止めることがどれほど至難であるか。

 必ずしも命が尊い訳ではないことも、平等に扱われないこともね。だから自分のしてしまった事の重さを日を追うごとに実感しているんだろう」

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/22(日) 13:48:47.44 ID:mbghDMSg0<>
美琴は何も言わなかった。
一方通行を哀れんだのではない。それは彼が当然負うべき咎だからだ。
ただ、気にかかった。彼はどんな気持ちで自分の言葉を聞いていたのだろうか。
冥土帰しの言わんとしている言葉の続きを待たずとも、彼が言わんとしていたことはわかる。
指を引っかけてプルタブを開けると、一口飲む。
温い烏龍茶がのどを滑り落ちていくと、気持ちが少し軽く、和らいだ。





「好きな人の赤ちゃんを産むのって、好きな人がいないとそんなに後悔するようなことなの?」

黒曜石のような静謐で澄んだ輝きがまっすぐに美琴を貫く。
滝壺の瞳。瞳を一度閉じてから、ゆっくりと開く。美琴は逸らしそうになる視線を滝壺の視線にぶつける。
滝壺と争っているわけではないのだから、視線を逸らした方が負けるというルールなどない。
それでも、ムキになって視線をぶつけたのは美琴のちっぽけなプライド以外の何ものでもなかった。

「もし、好きな人に捨てられたら…滝壺さんだったら…滝壺さんだったらどうしますか?浜面さんが離れてしまったら」

意地の悪い質問かと思ったが、嫌がらせのつもりで尋ねたわけではない。
静かに、ただ心から聞いてみたいという気持ちに後押しされるように静かな言葉が美琴から出た。
滝壺は唇に人差し指をあてて、んー、と可愛らしく唸る。

「そういうこと考えたくないよ。はまづらがいなくなったら凄く悲しいから。でも産むよ。
 
 その時の私がはまづらを嫌いじゃなかったら絶対。嫌いになってても…産みたいなら産むよ」


迷いなく言われた言葉に美琴は胸を突かれる。
嫌いじゃなかったら、側にいなくても、自分を捨てたとしても、自分がどう思っているのか。
滝壺にとっての問題はすべてがそこにあったのだ。


「父親がいないのに?」

「お父さんがいない分お母さんがいっぱい愛してあげても不幸になっちゃうの?」

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/22(日) 13:51:21.03 ID:mbghDMSg0<>
子供の理屈だ。
美琴でさえもそう思う程に、あっけらかんとした言葉だった。
そんな単純な問題じゃない。産む為の資格。育てる覚悟。
何から言ってやればいいのだろうかと途方に暮れる心地で美琴は言葉を探す。
滝壺よりも自分の方がずっと現実的に様々な事を考えているのはわかる。
それなのに、童女のように無垢な滝壺の瞳に言葉が尻込みしたように出てこない。

「でも…それでも…」
「みさかは産みたくないの?産みたいの?」

突き放すような言葉に美琴が慌てる。

「そんな簡単に言わないでください。産みたくないから産まないとか、産みたいから産むとか、そんな単純な話じゃないんです」

「そんなに複雑なお話なの?赤ちゃんに会いたいお母さんが赤ちゃんを産んで、いっぱい愛情をかけてあげればいいんだよ」





「一方通行超不景気な顔です」
「……気のせいだろ」
「ふぅ〜ん」

ソファーにちょこんと腰掛けながら、絹旗が不機嫌そうに顔をしかめる。
絹旗は今、一方通行の部屋にいた。つきあい始めた訳でも、食事に一方通行が誘ったわけでもない。
普段落ち合うカフェが間が悪いことに軒並み店を閉めていたのだ。
定休日、臨時休業、店舗移転、理由はそれぞれ異なるが結局は同じことだ。
昼食も済ませるつもりだった一方通行は今更研究室にとんぼ帰りする気も起こらず、
絹旗とて一方通行とわかれて、じゃあ図書館で勉強するか、などと切り替えることは出来なかった。


「一方通行のおうちで超勉強会しましょうよ」

家にでも帰るかという一方通行の呟きに食いついたのは、偏に絹旗の貪欲さだ。

「あァ?なンでテメェまで来るンだよ」

「いいじゃないですか。それとも変態器具満載のキモい部屋だから入れづらいとか、そんなこと思ってたりするんですか?

 うわぁキモい。超キモい」


色っぽい展開をほんのわずかに想像していた絹旗は、内心落ち着かない気持ちだったが、一方通行の様子を見てすぐにそんな気持ちは吹き飛んだ。
上の空なのだ。彼の手元の資料のページは先ほどから1ページか2ページ程度しかめくられていない。
超が付くほどの速読を誇る一方通行の手からは絶えずページをめくる音が止まないのが常であるというのにだ。
思っていた以上にメンタル面の不安定さが表れやすい男だと呆れ、そして少し微笑ましく思う。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/22(日) 13:52:48.68 ID:mbghDMSg0<>

「何そんなにへこんでるんですか?」
「別に大したことじゃねェよ」

一方通行が片眉をあげる。誤魔化すように気取った表情をするのが見え見え過ぎて笑ってしまいそうになる。

「そこまでわかりやす過ぎると、女心を引きつけようとわざとやってるのかって超勘ぐっちゃいます」

「女心?女心と来たか。女心ねェ」

「連呼しないで下さい。てか、何笑ってるんですか。超腹立つんですけど」

「俺もヤキが回ったもンだ。テメェみてェなガキに心配されるなンざ」

「人をガキ扱いする前に、もう少し大人の超落ち着きをもって下さいよだったら。イヤでも目に付くんですから」

「…そンなにわかりやすいのか?」

「ちょ、マジ顔で聞かないで下さいよ。ずっと見てればわかりますから」


言ってから自分の言葉の大胆さにびっくりした。まるで、片時も逸らさずに一方通行を見ていると言っているようなものではないか。
自分はそんな感情は持ってないはずだ。初恋だって、最近浜面がプロポーズをしたという話を聞いて、はっきりと自覚したのだ。
自覚と同時に失恋という冴えない初恋ではあったが。
それなのに、一ヶ月ちょっと親しくなったくらいで好意など抱くはずがない。

「いえ、ずっと見ていればというのはですね、特に超意味のあることでなくてですね」

「なァ…知り合いの話…この前しただろ?」

「え?あ、ああ。そうですね」

自分の言葉を殊更取り上げていないとわかると、絹旗の中から焦りが引くと共に、熱も冷めていった。
がっかりした。率直な表現を用いるならばそれであった。
一体何をがっかりしたというのだろう。
絹旗が自分の中に生じた落胆を取り上げて見つめ直す前に、一方通行の言葉が遮る。


「面倒見る自信もねェなら、ガキなンざ産むべきじゃねェ。俺にもそれくらいのことはわかってる」

淹れ終えた珈琲を組んだ膝の上に置くと、一方通行は絹旗の方を見ずに独り言のように呟く。


「だからどうすればいいか聞かれて、俺は好きにすればいい、そう言ってやった。俺には何か言えるような関係はねェし、決められる資格もねェ。
 
 アイツが勝手に決めればいいことだ。それだけの話だ」


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/22(日) 13:55:13.15 ID:mbghDMSg0<>

ここにはいない誰かに話しかけているような遠い視線に絹旗は舌打ちしたくなる。
奇妙な悔しさが苦みとなって腹の底から喉を通って舌の上に広がる。それを飲みかけの珈琲の苦みだと思おうとして言葉に耳を傾ける。


「けどよ、どうしても俺はそいつが、そンなこと抜かすのが許せなかったンだ。ただの他人の、そいつとも、そのガキとも何の関係もねェのにだ」


自嘲するように、短く息を吐く。

整った横顔に、自己嫌悪と諦観が色濃く影となって刻まれているように絹旗には見えた。


「じゃあ、一方通行はどうしたいんですか?」

「どうするも何も、俺が決めることじゃねェだろ」

「それです、その言い方超卑怯です。言いたいことや不満タラタラなのに、目で訴えるだけって超々卑怯だと思います」


舌の上に広がる苦みを吐き出すように、絹旗の口調から憤りが滲み出る。
絹旗にはずっと気になっていた疑問があった。

「不満があるって、それって一方通行が望んでることがあるから不満があるんじゃないですか?だったらそれを言えばいいのに」

「言えるかバカ」

「バカは超一方通行の方です!っていうかですね、一方通行さっきからわかりやす過ぎです。グチグチ悩んでるフリなんてして。

 ただ私に肯定して欲しいだけじゃないですか。自分一人じゃ口に出す度胸もない超ヘタレが」

「テメェが喧嘩売ってンのはよォくわかった」

「ふん、超ヘタレが一丁前に吠えないで下さい。言ってみればいいじゃないですか。産んで欲しいって」

「あァ?話聞いてたかテメェは?何でそンな結論になンだよ」

「どォ聞いてもそうとしかキコエねェって言ってンですよ、ヘタレ虫。

 おろすことにグチグチ言って、それって産んで欲しいってことじゃないですか。

 じゃあ、おろさないでくれ、産ンでくれって言えばいいでしょうが」


椅子から立ち上がった拍子にマグカップがフローリングに落ちて砕ける。
半分ほど残っていた珈琲が広がり、細い湯気を立てる。
絹旗の胸ぐらを掴んでやろうかと考えていた一方通行であったが、カップの砕ける音で我に返る。

「チッ…テメェこの前はおろせとか言っておいてそれかよ」

「全然状況が違うじゃないですか。その人がひとりぼっちで、産みたくないならおろせばいいですけど。

 でも、一方通行が超守ってあげるンだったら話が違うでしょ」

「俺が、守る?……バカが……関係も資格もねェって何度も言ってンだろォが。それが…」


なおも、苦々しく言葉を継げようとして、一方通行は押し黙る。
絹旗が唖然とした顔をしていたからだ。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/22(日) 13:57:32.58 ID:mbghDMSg0<>
「なンだよ」
「いえ、ちょっとびっくりしました。意外過ぎて……守られる人の都合とかそんなものイチイチ気遣って、

 クローン達を守ってきたんですか一方通行は?というか……守るのに資格っているんですか?」


絹旗の言葉が楔のように一方通行の心に突き刺さった。
それは、彼にとってあまりにも古い、原点に立ち返る程の一言だ。
自分はどうして妹達を守ってきたのだろうか。

資格?資格ならば無い。罪滅ぼしという義務として、使命としてならばあり得る。

しかし、それだけだろうか。罪滅ぼしや使命を提示されて自分は守ってきたのか。打ち止めを、番外個体を、妹達を。そして、御坂美琴を。


「………違うな…関係ねェなそンなこと」


違う。

使命や罪滅ぼしの術を学び、全部を肯定するわけではない。
もっと単純な理由がある。
その答えに気づくと同時に、一方通行は顔を覆って、肩を震わせる。
泣いているのかと絹旗が浮かべたが、すぐさまそんな心配を吹き飛ばすように笑い始めた。


「……つくづく…情けねェ…ガキに励まされるどころか、気づかされるなンてな」


自分の馬鹿さ加減にうんざりしているようなひきつった笑いだった。





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◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/22(日) 13:58:15.81 ID:mbghDMSg0<>

美琴は深く息を吸う。
吸って、吐く。
吸って、吐く。
吸って、吐く。
深呼吸を繰り返し、ノブに手を触れようとしては、引っ込める。
そして、再び深呼吸を始める。
一回、二回、三回と。
七回目になって、やはり決心が付かずに、美琴はその場にうずくまりたくなる。



どうして自分でもここまで緊張しているのかわからない。
緊張と無縁の日々をおくってきたわけではない。
むしろ、常に向上心をもって挑戦し続けてきた自分は、緊張に慣れている。こみ上げる吐き気を伴う緊張の飼い慣らし方を心得てすらいる。
レベル5になれるかどうかの判定を待っている時。
常盤台中学の合格発表を確認する時。
上条に告白した時。
今まで気を失いそうな緊張には何度か巡り会ってきた。
けれども、今、自分を包む緊張はそのどれとも質が異なる。
理由はわかっている。
結果を待つ為の緊張ならば、開き直ることもできる。
すでに自分の手を離れているからだ。
しかし、今自分が緊張をしているのは結果を待っているからではない。
その逆だからだ。結果への道のりはこれから始まるからだ。
そもそも、結果などという形が明確に出るものではない。

「…よしッ」

30分近く堂々巡りの後に、ようやく美琴は踏ん切りをつける。

息を一つ吸って、吐き出すと同時にドアをゆっくりと確かめるようにノックする。


「誰だ」


ドアの向こうから響く声に、帰りたいと、一瞬思った。
微かな落胆。留守だったらいいのに、そんな甘えがこの期に及んで自分の中にあることに呆れる。
何と名乗れば良いのだろうか、改めて考えてから、これといった答えが浮かばず愕然とする。
不機嫌に言うべきだろうか。横柄に名乗るのか。わざとらしいくらいにフレンドリーな口調で言っても良いのだろうか。
それとも、私だけど、などと気心の知れた相手にするように無遠慮に振る舞うのが良いのか。
自分達は、これほど様々な形で関わってきたというのに、こうして部屋を訪れる時にかける言葉すら見つからない。
それほど曖昧で不確かな関係なのだと今更気づいた。
<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/22(日) 13:59:19.55 ID:mbghDMSg0<>


「御坂美琴よ」


結局美琴が口にしたのは、ある意味で彼女らしい堂々として、不敵で、疚しさなど無いと主張するように簡潔な言葉だった。





研究室に入って来た瞬間から、一方通行は気持ちが重くなるのを覚えた。
美琴が研究室のドアの前でずっと迷っているのに気づいていた。
気づいていたならば、さっさと中に入れろと言われるかもしれない。
美琴の覚悟が決まるのを待っていてあげた、などという思いやりは持ち合わせていない。
ただ、一方通行自身彼女と顔を合わせようという腹が据わらなかっただけの話だ。
彼女の用件は何となく理解している。
世間話をしにやってくるような間柄ではない。
そんな気軽な気持ちで、自分の前に立つには、あまりにも
彼女にしてきた事ぶつけた言葉は重い。
美琴がゆっくりと近づくにつれて、耳を閉ざしてしまいたくなる。
意志を秘めた強い眼光が、それだけで一方通行の心を挫く。
まるでもぐらだ自分は。太陽を直視して目が潰れたという逸話を持った醜い動物を連想する。
強すぎる意志の籠もった瞳は、それだけで痛みを与える。

「なにか用か?」

とぼけたように、抜け抜けと言ってやる。
怖い。美琴の口にする言葉次第で、自分がどのような衝撃を受けるのか、彼女にどんな言葉を浴びせてしまうのか。
しかし、いつまでも逃げ続けるのは性に合わない。
怯えをおくびにも出さずに、足を組み、椅子に座ったまま、一方通行は美琴を真正面から見据えた。いずれにせよ、自分のとるべきスタンスは決まっているのだから。




女ならば嫉妬するような細く長い足を優雅に組んで、一方通行は椅子を回して真正面から美琴を見つめる。
静かな瞳が、小憎らしい。威厳も恰幅も足りない身体に白衣は野暮ったく映る。
どれほどの頭脳を持ち、どれほどの研究成果をあげていようとも、所詮は二十歳の青年。自分と二つしか違わないのだ。
そのことが、少しだけ美琴の心を楽にする。

「アンタに一言だけ言っておきたいことがあるの」

「はァ?」

煩わしげに顔を露骨に歪める。
一方通行の全身から立ち上る空気が、忙しいのにくだらないことにつきあわせるなと言っているように美琴は錯覚しそうになる。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/22(日) 14:00:32.83 ID:mbghDMSg0<>
「なによ、確かにアンタには関係ないことかもしれないけどさ、一応この前病院まで連れてってもらったから…報告だけしておこうと思ってね」

一方通行の細い眉が怪訝にカーブを描く。ふと、彼が忙しいのは妹達の為だと思い出す。
自分のクローン達を殺し続け、今度は守り、助けようと足掻くこの男は、二週間前の美琴の言葉をどんな気持ちで聞いていたのだろうか。
同時に、女としてのごく普通の幸せどころか、いくつまで生きられるのかすらわからぬ妹を思う。彼女は、美琴の呟きをどのような心境で受け止めたのだろう。
自分の言葉の無神経さ、不用意さに歯噛みしたくなる。しかし、後悔は後回しだ。
まず己がすべきことをする、美琴の強みとも言えるほど鮮やかに気持ちを切り替える。

小さく息を吸う。

早くなる鼓動に、静まるよう命ずる。

まっすぐに紅の瞳を見つめる。




「私決めたから。産むって」




強い語気か意思の秘められた瞳にか、或いは両方にあてえられたのか、一方通行は小さく息を呑む。
言うべきことを言い切った美琴は、一方通行の言葉をじっと待つ。
一方通行の薄い唇が開きかけては、閉じる。
居心地の悪い沈黙が、部屋の周囲に沈殿し、徐々に美琴たちを押し潰すように迫ってくる。重苦しい空気がどれ程の間続いたのか。
ごくり、と一方通行の喉が鳴る。白い細い首を這う喉仏がやけに艶かしく見えた。美琴は思わず目を逸らす。何故かそれを見て落ち着かない気持ちになった。
研究室に立てかけられた時計の秒針が時を刻む音が響く。


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/22(日) 14:01:43.72 ID:mbghDMSg0<>

「………上条はもういねェンだぞ?」

「わかってる」

「アイツにテメェは捨てられた。テメェの腹の中にいるのはテメェを捨てた野郎のガキだ」

「違うわよ。私の子よ」

「屁理屈捏ねてンじゃねェよ。それでテメェは平気なのか?一人で産んで、育てて、自分から離れてった野郎のガキをだ」

「平気じゃないけど……でも…でも、多分、この子を産まなかったら私後悔する」

「苦労背負い込むとわかってて、それでも産まねェと後悔するって言うのか]

「きっとね。この子を否定するのは、アイツの事好きになった今までの私の全てを否定することになるから」


美琴は、寂しげに笑うと、そっと下腹部を撫でた。
膨らむ気配すらない細い腰回り。そこに命があるとは一方通行には信じられない。
当の美琴すら信じられないのだ。言葉を失い、怪訝に眉を顰める一方通行に、美琴は笑う。
やせ我慢や強がりを秘めているくせに、やけに清々しくもある眩しい笑みを。



「この子の為に産むんじゃないの。私自身証が欲しくて産みたいの」


証、一方通行が想定すらしていなかった言葉だった。
その言葉を持て余すように、一方通行は小さく口の中で転がす。


「アイツに会って、好きになったこと、否定する気はないの。こんな結果になったけど…

 それでもアイツと出会って今日まで来たことは間違ってたって思いたくないの。

 好きになったことを、最後の最後で実らなかったからって、それで全部無意味だったわけじゃない。

 この子を授かる為に、絶対に無駄じゃなかったって、私は信じたいの」



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◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/22(日) 14:04:25.82 ID:mbghDMSg0<>
何と利己的な理由だろうか。一方通行は言葉が出なかった。
自分自身の恋心に決着を着ける為に、納得する為に子供を産むと言っているのだ。
愛する男の子を育てたい、などというロマンティックな理由でもなければ、己の血を分けた子供が愛しいからという母性に後押しされた理由でもない。
それは、美琴が、美琴自身の為に見つけ出した理由だった。
我が侭で自分勝手。それなのに、一方通行は美琴を見る。

寂しげで、それでも強い決意に満ちた、今までの美琴が浮かべたことの無い、覚悟を秘めた大人の笑みだ。


眩しいものを見るように、目を細める。奇妙な納得があった。
自分の為だからこそ、背負うのだ。この少女らしく、自分自身の目的と目標の為に自身に課す。
それらを今までこの少女は全てクリアしてきたのだ。


「く…はは」

「一方通行?」

「きひ、ひゃはははははははーー。くかかかかっ」


唇を歪めて、吹っ切れたように笑い出した一方通行を、美琴が不気味そうに見る。
何処かの螺子が吹っ飛んでしまったような、取り繕いの一切無い笑い声が研究室に響く。
暫く笑い続けていた一方通行は、目尻に浮かんだ涙を指で拭いながら、美琴にようやく視線を戻す。


「テメェ……ホンットに馬鹿だな」

「何よいきなり!」

「テメェみてェな馬鹿女を母親に持つなンざ……今から腹の中にいるガキが哀れになってきたぜ」


ふんぞり返るように背もたれに身体を預けながら、小馬鹿にするように言う。


「別に良いわよ好きに言ってくれれば。別にアンタに頼ろうっていう気は無いし。ただ、決意表明だけ聞かせてやろうって思ってきただけなんだから」




腕を組んで、美琴は不貞腐れたようにぷいっと顔を背ける。
先ほどまでの大人びた表情を浮かべていた女と同一人物とは思えぬ子供染みた仕草に、見えないように一方通行は笑みを浮かべた。
ふと気が楽になったのを覚える。


「馬鹿が。頼られようがなかろうが、テメェの思惑なンざ知った事か。こっちだって、勝手に決めた。俺の為に決めてンだ」

一方通行がゆっくりと立ち上がる。

「え…?」

杖を突く音が間近に迫ってくるのに気付き振り向くと、30センチも離れていない間近に白衣の青年が立っている。
あまりの不意討ちの接近に、美琴の鼓動が一拍、早く打つ。

「テメェのガキ、ついでにテメェも、勝手に守らせてもらう」

「は、はぁ?何いきなり」

「妹共を守る以上、テメェもその範疇にこっちは入れてンだ。そのガキだけ外すなンて半端な真似が出来るか。

 関係が無いだとかくだらねェ理屈はどォでもいい」


美琴の顔の近く、息も触れそうな程間近に端整な顔を近づけると、一方通行が露悪的な笑みを浮かべた。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/22(日) 14:06:42.49 ID:mbghDMSg0<>
「言っておくが、妙な勘違いすンなよ?テメェみたいな馬鹿女を母親に持つガキが憐れ過ぎるからそォするだけだ……

 奇妙な馴れ合いなンざする気はねェ」


「な、な、何様よこのクサレもやし!!アンタの手助けなんかいるか馬鹿!!」


「知らねェって言ってンだろ。テメェ等は黙って守られてりゃいいンだよ」



そう言って、一方通行は指で軽くぺしりと美琴の額を叩く。
美琴は叩かれた額を押さえながら、不意に優しく緩んだ一方通行の口元を目にする。


それが切欠だった。


「おい…お前…」


「うるさい…」


一方通行の瞳に動揺が走る。彼は気付くことが出来なかった。
18歳の少女が、子を産むということの大きさ。
拭っても拭ってもタールのようにへばりつく心細さ。必死に気付かぬフリをしてきた不安。
先の見えぬ未来への恐怖心を、それが零れ出さないようにと押さえつけてきた張り詰めた感情の糸が切れたのだ。
自分と産まれてくる子を守ると、言葉が乱暴であれ、言ってもらえた安堵。




<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/22(日) 14:09:01.78 ID:mbghDMSg0<>









「……テメェは…クソガキより泣き虫だな…」




「アンタのせいだもん……馬鹿…」











<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/22(日) 14:09:28.57 ID:mbghDMSg0<>

目元を手で強引に拭う。美琴の鳶色の瞳から、堰を切ったように涙が溢れていた。
小さな肩を震わせて、次から次へと溢れる涙を拭う美琴の頭を、恐る恐る一方通行は撫でる。
打ち止めを泣き止ます為に嘗てしていたように、ゆっくり、ゆっくり撫でてやる。


「………何似合わないことしてるのよアンタ。気持ち悪いわよ」

「ウルセェ。だったらさっさと泣き止め、馬鹿女」

「ホント……アンタムカつく……でも、ありがとう…」


声に、僅かに笑みを含んだまま、美琴は一方通行の白衣を握る。
白衣を引き寄せるように、一方通行の胸元に顔を埋める。
抱き寄せることも出来ず、途方に暮れた様に、美琴が泣き止むまで一方通行はただ、ただなすがままにしていた。



<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/22(日) 14:11:14.88 ID:mbghDMSg0<> 以上で本日の投下終了です。削るべき話を見極められない己のお粗末さが恨めしくなるスローペースです。
ようやく、二人が吹っ切れてくれたみたいなので、とりあえず一安心です。

それではまた。 ノシ


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/22(日) 14:13:05.70 ID:f5Uq3DwA0<> 乙!!

いやーこれからあの「お前らいい加減結婚しろ」に繋がっていくんだな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/05/22(日) 14:15:16.24 ID:90K7rxAE0<> 超乙!!
こっから一方さんの想ちゃん子育て日記が始まるんだな…多分 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/22(日) 14:15:55.80 ID:0N89SdPDO<> 心理描写がすごい。美琴と一方通行の立場になってよく考えられてるわ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/05/22(日) 14:15:57.51 ID:iO9Hswat0<> おつです
二次創作で初めて泣いたわ。美琴が美琴らしくて好き <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/22(日) 14:16:30.88 ID:H3F1mzLzo<> 乙

周囲の協力、戸惑い、反発、あるいは悪意。
身体を護ることは一方さんエキスパートだけど、心は……
美琴の周りの他の人たちの行動も気になる。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/22(日) 14:17:08.18 ID:guoKcWwFo<> 乙!!

悪阻を軽くする為の食事とか調べる一方さんを幻視した <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長崎県)<>sage<>2011/05/22(日) 14:56:04.24 ID:8ReVx5qa0<> 乙!!
毎回引き込まれてやばい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)<>sage<>2011/05/22(日) 14:59:22.13 ID:YfaKn/gwo<> 乙!

美琴も一方通行も色々悩んだのが伝わってくる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/22(日) 15:23:17.70 ID:gshQQEkmo<> 乙

想ちゃんは生まれる前から一方さんに守られることが決定してたんだな
こっからうちの白いのになるかと思うと・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/22(日) 16:30:25.96 ID:wqXOR+nDO<> 乙乙ー

>>657
> 「言っておくが、妙な勘違いすンなよ?テメェみたいな馬鹿女を母親に持つガキが憐れ過ぎるからそォするだけだ……

 奇妙な馴れ合いなンざする気はねェ」

どう見てもツンデレです。本当にありがとうございます <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/22(日) 17:38:26.64 ID:ypcb761Vo<> 乙

くっ・・・美琴も一方通行もいろいろ考えながら生きてるのに
俺はいつセクロス始まるの?とか考えちゃう><
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(三重県)<>sage<>2011/05/22(日) 19:16:35.62 ID:aX+nHcmw0<> >>671 テメェは、こんないい話の時に何考えてんだ。全裸で正座して反省してろ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/05/22(日) 20:24:26.41 ID:eOz7PcKx0<> >>670
「か、勘違いしないでよねっ!べ、別にアンタみたいなバカのためじゃなくて
 ……えっと、その……子供、そうよ、アンタの子供がかわいそうだからよ!」

性別を反転するとこうなるんですね分かりました <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2011/05/22(日) 20:52:24.26 ID:YAIsxovzo<> 削らなくていいよ、どんどん見せて!

ここでようやく自分のためってスタンスに辿りつくのか。
美琴のは気の迷いだけど一通さんのは性癖だから大きいな。
スイッチ入って過保護回路フルスロットルな姿が目に浮かぶぜーww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/22(日) 23:42:08.71 ID:2u7ZqB4To<> さて今更だが、想が運動音痴って部分から、実は父親一方さんなんじゃね?って思ったやつ。俺以外にもいるだろ? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/22(日) 23:46:12.64 ID:ypcb761Vo<> え?想ちゃん出たとき俺の子かよって思ったよ?
美琴のやつあれだけ相談しろっていったのに勝手に全部やりやがって・・・・って <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/23(月) 00:18:41.28 ID:1WJYX0oso<> >>676なぁ、カ行の狂笑振りまきながら白い人がベクトル操作しに行ったけど大丈夫か? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/05/23(月) 01:39:03.58 ID:7bVVE4eP0<> >>676
どこぞの親父さんが

「……世界に足りない物、見ぃつけた☆」

とか言いながらそっちに行ったけど生きてるか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(中部地方)<>sage<>2011/05/23(月) 02:21:54.39 ID:Ha++Q8T6o<> >>676
なんか黒光りする石でできたナイフみたいの持った爽やかイケメンが
クスクス笑いながらそっち行ったけど大丈夫か? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/23(月) 03:50:24.26 ID:42DAFhWDO<> >>676
アサルトライフル持った同じ顔の人間が5千人ほどそっちに行ったが大丈夫か? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/23(月) 03:53:57.25 ID:8T6fAQMVo<> >>676
いい年してツインテールの女が厳ついおっさん引き連れてそっち向かって行ったけど大丈夫か? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(三重県)<>sage<>2011/05/23(月) 05:05:20.76 ID:20fi8mye0<> キリが無いからこの流れやめいww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)<>sage<>2011/05/23(月) 05:20:16.47 ID:20fi8mye0<> 途中で書き込んでしまった…>>1乙です!!
このじりじりと心境が変化していく過程がたまらん。普通そうだよな。子供を産むってもの凄い決断だもんな。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東)<>sage<>2011/05/23(月) 05:20:56.54 ID:ROvj895AO<> ここのほくろはツインテやめちゃってるけどね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/05/23(月) 16:09:16.60 ID:s/MoVh4n0<> 美琴は一方通行に好意を寄せているのか?
そこが気になる。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海)<>sage<>2011/05/23(月) 17:43:27.13 ID:X+26OOoAO<> そんなことをわざわざ聞くのは野暮ってもんです
話を読んで、感じ取って下さい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)<>sage<>2011/05/24(火) 00:06:01.25 ID:yOdjXLhO0<> 10031人分の償いと、残りの守護と、さらに一人の面倒を見ること、ねぇ・・・・
天秤にかけるわけではないが、複雑。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/24(火) 07:51:06.10 ID:PDwgYClDO<> 出産のときに罵りあいながら互いの手を握ってる電磁通行を幻視したら赤面したw <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)<>sage<>2011/05/24(火) 09:59:09.42 ID:PHCaJpR8o<> どっちかってと妊婦以上に必死で焦る一方さんのが想像し易い <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/24(火) 12:15:54.03 ID:t8+tZ88Zo<> それは一般的な父親の反応だから一方さんじゃなくてもそうなる <> ◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/24(火) 23:15:49.96 ID:f/KHLYRu0<> 12時頃に投下します。相変わらず進展遅いです。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2011/05/24(火) 23:33:40.89 ID:vWU0T3fk0<> やったぁあああ!!!
超待ってる <>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/24(火) 23:53:19.07 ID:f/KHLYRu0<>
7月に入り、夏の匂いが色濃くなった街を眺めながら、佐天涙子は胸元をパタパタと仰ぐ。
設定温度28度は高すぎる。ちっとも涼しくならないではないか。
女三人以外誰もいないならばと、制服の裾を捲ると、本来パソコンを冷却する為の扇風機を抱え込む。
うっすらと汗が滲んだブラウスが扇風機の風を吸い込んで心地良い。



「ホラ、白井さんいつまでも不貞腐れてないで下さいよ」

風紀委員一七支部、本来ならば風紀委員としての自覚をもって窘めるはずの白井黒子は、髪が方々に乱れ広がるのにも関わらず不貞寝を決め込んでいた。
何とか白井を立ち直らせようと先ほどからあれこれと声をかける佐天は助けを求めるように親友を見る。
初春は頬杖を突いて、あらぬ方を見たまま、白井に一瞥も寄越さない。
薄情者め、と罵ってやろうかと思った矢先に、初春がぽつりと呟く。

「子供…ですか」

白井の肩がぴくりと震えたのを佐天は目の端で捉えてから後悔する。
うつぶせになったままだというのに、白井がどんな表情を浮かべているのかが手に取るようにわかるからだ。
初春は無邪気に頬を紅潮させて火に次々と油を注いでいく。


「御坂さんの子供だったら可愛いだろうな〜お母さんそっくりのミニ御坂さんも可愛いけど、異性の親に似るっていうし。
 
 そうなると御坂さんそっくりの男の子でしょうか。イケメンになること間違いなしですね」

「どうしてそんなに呑気なんですの初春は」


ようやく顔を上げた白井は恨めしげな目線を送る。
初春はそんなもの関係ねーとばかりに、美琴の子供予想に瞳を輝かせている。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/24(火) 23:55:39.39 ID:f/KHLYRu0<>
「お父さん似の女の子ってこともあるのかな〜だったら想像つかないですね」

「う〜い〜は〜るぅぅ〜」

「どうしましたか白井さん?」

「お姉さまに、あ、あ、赤ちゃんが出来たのですのよ?何そんなまったりしてますの」

「だって、私達が慌てても仕方が無いじゃないですか」

「それはそうですけれども。私、やっぱりお姉さまを説得してきますわ」

「白井さん。さすがにそれは…御坂さんだって色々考えて決めたはずだし」

白井の『説得』という言葉に厭なものを感じて佐天が非難を込めた眼差しを向ける。
唇をへの字に結んだ顔で、白井がウェーブがかった髪をかき上げる。彼女の苛立った時の仕草だ。

「私だってお姉さまのお決めになったことは、全力で援護して差し上げたいですわ。 ですが、私、お姉さまを崇拝はしても、盲信しているつもりではありませわ。

 わかりきっている苦難の道のりをお姉さまが歩むのをみすみす見過ごすわけには参りませんの。お姉さまの露払いは何も寄ってくる馬の骨共を蹴散らすことだけではありませんの。

 例えお姉さまに恨まれても、お姉さまのご負担を減らして差し上げることも、私、白井黒子の役割ですわ」

最後の辺りで、白井は握り拳を作る。佐天は呆れつつも、素直に畏敬の念を抱く。
己の言葉で自分自身を鼓舞できるのは、良くも悪くも彼女の心の自立心のような気がしたからだ。
しかし、佐天は昼間に会った美琴の表情を思い浮かべる。





『私ね、赤ちゃん出来たの。それで、産むことにしたから』


普段通りのノリで集まり、普段通りの口調で美琴が切り出したのは、その場にいた三人娘を一斉に立ち上がらせる程の爆弾発言だった。
白井は呂律も回らぬ程に動揺し、初春はそこに至る行為諸々を想像したのか、顔を真っ赤に染めて美琴を凝視していた。
かくいう佐天自身も、美琴の言葉に衝撃を受けたせいか、一向に味のしないココアを啜る羽目になった。
当事者なのだから当然なのだが、一番苦境に直面しているはずの美琴だけがやけに清々しい表情をしていた。

『みんなには知っておいて欲しくて』

『え、っと、えぇ…今何ヶ月なんですか?』

いち早く再起動した佐天が聞いたのは、どうしても産むつもりなのか、父親は一体誰なのか、ではなく何ヶ月なのかということだった。
聞いてどうするという質問なのは佐天自身自覚しているが、他に言葉が出なかったのだ。
美琴はにっこりと笑って言った。


『えっとね ――― 』







「でも、白井さんがどれだけ反対しても御坂さん…多分産むと思うな」

「断言するのは早過ぎますの。お姉さまだって今は大切な研究の真っ最中。説得すれば…」

「もうすぐ三ヶ月って言ってましたよね。中絶出来るかギリギリの時期に私達に話したっていうのが、もう御坂さんの決心だと思うんです」

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/24(火) 23:57:33.12 ID:f/KHLYRu0<>

白井は言葉に詰まる。
初春の言葉は白井自身も思っていることであったからだ。
物事の決断と行動の早い美琴がもし中絶を考えているのであればもっと早い時期に実行に移していただろう。
或いは、白井達に知らせることなく事を終えていたのかもしれない。
それをしないということは、即ち美琴の意思の表れであり、また同時に、仮に白井達の賛同を得られなくとも気持ちは変わらないことを意味していた。


「佐天さんはどう考えていますの?」


初春が美琴の意思に賛同的だと見て取るや、同意を求めるように白井が佐天に視線を向ける。
美琴の興味が移った対象に嫉妬していた中学生の頃とは違う、高校生という大人へとなりつつある少女の持つ真剣さが白井の瞳にあった。
嫉妬心ではなく、心から美琴を心配しているのだろうと、佐天にも、そして初春にもわかってた。
それでも、佐天は首を振る。


「私も無駄だと思うな。だって御坂さん頑固だもん。あれ、完全に覚悟完了しちゃった顔ですよ」

「佐天さんまで……」

「まぁまぁ、白井さん。白井さんが御坂さんのこと心配してるのはわかりますけど。決めるのは御坂さんなんですから。

 だったら私達がするのはいつでも御坂さんを助けられるように準備しておくことじゃないですか?」

「ですけれど…」

「それとも、御坂さんを孕ませた男が憎いから、御坂さんのお腹の子も憎いとか思ってたり………」

「そんなわけありませんの!!お姉さまがお産みになる子ですもの、きっと人類の宝の如き愛らしさに満ち満ちた御子ですの!!」

「でも父親に似たら」

「お姉さまのDNAが類人……どこの馬の骨ともしれぬ輩のDNAに負けるはずありませんの。産まれてくる御子はきっとお姉さま似ですの」

「じゃあ問題ないじゃないですか。もしかしたら御坂さん似の可愛い赤ちゃんを一緒にお世話できるかもしれませんよ?」

「お姉さま似の赤ちゃん………それは……アリですの」

「でしょ?」


すっかりやる気になりつつある白井に、初春は無邪気な笑顔で同意する。
しゃあしゃあと首をこてんと傾げる様は、邪気など一欠けらもございませんとばかりに愛らしい。
花冠に中学生の頃から伸ばし続けている黒髪が彼女の持つ清純さを際立たせている。
この外見の可憐さ、悪意の存在すら知りません、とでも言いかねないおっとりとした微笑みにどれ程の男が騙されていることだろうか。
佐天の脳裏に、一人の憐れなホスト崩れが過ぎる。第二位だというが、どう見てもガッカリイケメンだ。
佐天の好みでは全然無いにしろ、高校の並み居る同級生達より遥かに顔立ちの整った男が、この少女に何度も玉砕しているのだ。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/25(水) 00:01:03.34 ID:I3As8t2X0<>
(あれは口説き方の問題もあるんだろうけど…)

そうは思っても、忠告してはやらない。
親友の肩を外すなどという行いについて、やはり佐天としては許しがたいのだ。
もう少し痛い目に遭って然るべきだろうと、一人納得する。


「でも……佐天さん、結構嬉しそうですよね」

「そう?」


ポッキーの袋を開けると初春は佐天の方に差し出す。
一本受け取り、ながら佐天は言われて初めて自分が美琴の決断に肯定的であることに気付く。
驚きはしたが、終始自分は美琴に協力的な心境だった。
少なくとも、高校生で子供を身ごもったことへの偏見や美琴を哀れんだりする気持ちは無かった。
佐天とて、今後の美琴の背負い込む苦労を多少なりとも想像することは出来るのにだ。
ポッキーを口に咥えながら、佐天は可愛らしく唸る。
どうしてだろうか。美琴の言葉を思い浮かべているのだ。どうして自分はこうも悪い心地がしないのだろうか。


『色々あって、父親の事については触れないで。言いたい事とかあるのはわかってる。勝手なことかもしれないけど、これからいっぱい私、迷惑かけちゃうと思う。

 ――― だから、その時は助けて欲しいの、お願い』


佐天達に向かって美琴は躊躇無く頭を下げた。
美琴のつむじを見ながら、佐天は小さく驚いたのだ。
全てを一人で背負い込み、大概を自分一人で解決してしまう、出来てしまう少女が余りにも素直であったことに。




「多分嬉しかったんだ。御坂さんが、ちゃんと私達に頼ってくれたのが」



初春と白井が顔を見合わせて頷く。
その点は同じ気持ちなのだと、二人の嬉しそうな笑みが物語っていた。





<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/25(水) 00:03:55.31 ID:I3As8t2X0<>



「たまごくらぶ、ひよこくらぶ…こっこくらぶは置いてねェのか」

「っていうか、産まれてないのにこっこくらぶて超早過ぎませんか?」


絹旗最愛はきょろきょろしながら傍らの白いのにツッコミを入れる。
白い朴念仁こと一方通行は絹旗の言葉に半ば耳を傾けつつも、手にした本の山を更に高く積み重ねていく。
素手に片手には別の書店の紙袋。つわりに聞くと言うレシピが紹介されている。
眉間に皴を寄せて、出産、育児関連の雑誌を吟味していく一方通行と、恥ずかしげに一歩下がって同行している絹旗。
二人の姿を見て、女子中学生らしき少女達はあれこれと関係を憶測していることが予想されるヒソヒソ話をし、子連れの母親らしき女性は微笑ましそうに見つめる。
また、ある者は「死ねばいいのに」と呟き、ある者は「爆発すればええんや」と吐き捨て、ある者に至っては「セロリたん、ミサカにもセロリ遺伝子をラブ注(以下略)
そんな視線が恥ずかしいのか、絹旗は頬を赤くしたまま、一方通行の袖を引っ張る。
手に取った本の中に書かれた『胎教におススメの音楽』という項目を真剣に読み耽っている一方通行は中々気付かない。

「あ、一方通行ぁ…その、そろそろ…」

「モーツァルトは布束が持ってたからいいとして……やっぱり国際的ネズミ野郎の音楽ってのも必須みてェだな。だが、大の男が買うのか?

いや、クソガキが持ってたな。だけど最近口利いてくれねェから貸してくれるかどォか…しかし…」

「一方通行!!」

「ン?なンだよデケェ声出して。店内では静かにしてろチビガキ」

「誰のせいですか誰の!」


一方通行は一体何を怒っているのかがわからないと怪訝に眉を顰める。
何故困惑気味の表情を向けられなければならないのだ。困っているのは寧ろこちらだというのに。
絹旗はやり場の無い憤りを覚える。眩暈すらする。一瞬本当に眩暈がした。
周囲の視線にこの男は全く気付いていないのかと、胸倉を掴んでやりたい衝動を堪える。
しかし、自分はもう立派なレディへと羽化しつつあるの。
大人の余裕、大人の余裕、と絹旗は自身に言い聞かせる。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/25(水) 00:04:58.88 ID:I3As8t2X0<>

「そろそろ出ましょう。超変な誤解を受けそうです」

大人の女らしい落ち着きを持って、絹旗が甘えるように一方通行に語りかける。
一方通行といえば、





「グラゼニとオールラウンダー廻はヤベェな。俺の中で静かなブームになりつつあるぜ」
「聞け!!」

絹旗が自分を落ち着かせている間に、漫画の立ち読みにシフトしていた。






「でも、ちょっと入れ込み過ぎじゃないですか?」
「何がだよ…」
「超過保護過ぎますよ。だって、一方通行の子供じゃないんでしょ?」

結局その後更に二件の本屋をはしごして購入した本はかなりの重量を占めるようになった。
休憩がてらお茶をしようと絹旗が誘ったのは、ちゃっかり本屋でチェックを入れていた雑誌に載っているフルーツパーラー。
絹旗の頼んだ苺とさくらんぼのパフェを胸焼けを抑えた表情で見つめる一方通行に、口元に突いた苺のソースを舌で舐め取りながら絹旗は不満げに唇を尖らせる。


「そうしなきゃならねェことをやっちまった相手なンだよ」

「超電磁砲ですか?」

何気なく口にされた名に、一方通行は瞳を眇める。
知られたことへの動揺はあったものの、その事をどうやって知ったのかという警戒が彼の表面に現れる。
機先を制するように絹旗が手を振る。


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/25(水) 00:06:01.53 ID:I3As8t2X0<>

「言っておきますけど暗部経由じゃありませんから。っていうか、暗部に関わってませんから」

「いつから気付いた?」

「以前から言おうと思ってましたけど、一方通行超わかり易過ぎです」


尖らせた眼光は変わらず、普段よりも幾分か抑えた声が、嘘は許さぬと宣告するようだ。
冷え冷えとした瞳に、絹旗は動ずることもなく肩を竦める。最近覚えた仕草だが、子供っぽい容姿の絹旗には酷くそぐわない。


「貴方が、妹達の研究の手を止めてまで世話を焼く相手なんて考えるまでもありませんよ」


妹達本人か、その姉に当たる存在、一方通行が妹を除いて最も傷付けた相手。つまり、御坂美琴だ。
言葉にこそしなかったものの、絹旗の言葉の裏を読み取ったのか、一方通行は鋭く光らせていた眼光を収め、舌打ちした。
負けず嫌いの子供のような仕草に、絹旗は小さく笑う。

「半分正解ってところだなァ」

ティースプーンを意味も無くかき混ぜながら一方通行はぼそりと呟いた。
言葉の意味を図りかねたように、瞳に疑問を乗せて見つめてくる絹旗の視線から顔を逸らすように一方通行はガラス越しの人通りに目を遣る。


「確かに超電磁砲ってのは正解だ。けど研究を放り出してるわけじゃねェ ――― 研究そのものは終わってンだよ」


「え!?」



初めて聞く話に、絹旗は身を乗り出す。
何で早く言ってくれなかったのか、良かったじゃないですか、これで一安心ですね。
喉までそんな言葉が出かかるも、一方通行の表情が絹旗にそれらの言葉を吐くことを躊躇させた。


「一方通行…?」



本来ならば喜ぶべきニュースを口にする一方通行の表情は暗澹としていた。






<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/25(水) 00:10:23.21 ID:I3As8t2X0<> 以上で投下終了です。
人間関係考えてると、つい遠回りが増えて進展が遅くなってしまいます…申し訳ないです。
できるだけ早い展開にしようと努力します。

それではまた。 ノシ

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/25(水) 00:34:00.08 ID:ZafG15LU0<> 乙
相変わらずの丁寧な描写がスゲェェェ
俺達のことは気にせず、自分のやりたいようにやってくれ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/25(水) 00:55:28.75 ID:j5lMaEAQo<> 乙
最後の含みも気になるが
たまごくらぶ、ひよこくらぶ、こっこくらぶでニヤニヤしてしまった・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/05/25(水) 01:00:59.85 ID:qewt1Xte0<> >>1乙! 白井さんが格好いいと素直に思った。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県)<>sage<>2011/05/25(水) 01:05:11.46 ID:gOtD/rGHo<> ヤツはやはり生きていたのか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/25(水) 02:03:54.12 ID:BCn1NbmDO<> 乙
グラゼニ面白いよね、昨日単行本発売されてたから買ってみたら当たりだった <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/05/25(水) 11:11:31.06 ID:ShaFquMgo<> 乙乙
廻は盛り上がりに欠けるけどなんか引き込まれる
EDENは序盤で挫折したけどな! <>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/25(水) 20:14:10.79 ID:F2Pu5UKz0<> もう少ししたら投下します。よろしくです。 <> ◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/25(水) 20:22:49.53 ID:F2Pu5UKz0<>

アレイスター・クロウリー亡き後、統括理事を引き継いだのは、親船最中である。
アレイスターが在任中、彼に媚び諂い利権の温床にあやかってきた人間を除外した唯一まともな理事のメンバーが彼女であったからである。


というのは親船本人だけが思っていることである。


実際には、魔術サイドと呼ばれる英国を中心としたヨーロッパ諸国に対等に渡り合える人間が彼女を除いて存在しなかったからというのが理由であった。
学園都市最高権力者である老婦人は革張りの柔らかい椅子に腰掛け穏やかなまなざしで目の前の男を見つめる。
いかにも申し訳程度に着崩した黒いスーツに、緩めた赤いネクタイ。
薄暗い部屋で仄かに光る白い髪の男は憮然とした表情で手にしていたUSBメモリをマホガニーの大型デスクに置く。


「――― 臨床実験の必要はねェ」


貴重な宝物のように手にとってしげしげと眺めていた親船の深い皺が刻まれた唇が微かに開く。


「学園都市は正式にクローン、御坂10032号から20001号、及び番外個体の護衛を解除することに決めたわ」

「………理由は?」

「貴方の提出したデータから、軍事的利用価値が既に彼女たちには存在しないことから、外部による利用の危険性が薄いという判断を下したわ」

「ネットワークの切断が理由か」

「ネットワークが切断された彼女達は一個の群体としての軍事的利用価値としても、世界中の電波塔としての役目も果たせない、ただのレベル3相当の女の子に過ぎないわ」




「それだけじゃねェだろ?」


紅い瞳が剣呑な光を宿す。
普通の人間であれば、怯え、逸らす程の強烈な視線に、
しかし、男の数倍もの年月を生き、種類こそ異なれども、様々な修羅場をかいくぐって来た老女は些かも臆することはない。
ただ、聞かん坊の駄々に少し困ったように眉を寄せる。



「今彼女達が何人いるかわかる?おおよそでいいわ」


刃物のように薄い怒気を漂わせたのは、わずかな時。
それが男自身に向けられた苛立ちであることは親船にもわかる。

男は一瞬口篭る

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/25(水) 20:23:54.02 ID:F2Pu5UKz0<>
「……6019」

「今朝で5843になったわ」

「176人……」

呪いの言葉のように小さく呟く。
親船は手にしたUSBメモリを悲しげに見下ろす。


「既に消耗することの決まったクローンに利用価値は無い。それが学園都市の結論よ」

「クソッタレ…」

「自分を責めないで。貴方の研究成果は寧ろ驚異的といって良いわ。わずか3年で…」

「アイツ等助けられなきゃ意味ねェだろ!!ようやく完璧な治療法を見つけても、肝心のアイツ等が死ンじまってたらよォ!!」

怒気を吐き出すと共に握りしめた拳を振りおろす。
言葉を遮るように机を殴りつけた拳は、皮膚が裂け赤々とした血が流れる。
流れる己の血潮さえも忌々し気に見下ろし、男は背を向ける。

「貴方は誇れることをしたのよ。恥じる必要なんてどこにもない。それだけは忘れないで ――― 一方通行」


寂しげな背に親船は声をかける。
無駄だとわかっていても、そうせずにはいられなかった。


言葉は返ってこなかった。






<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/25(水) 20:27:16.31 ID:F2Pu5UKz0<>

「うん、お願いってパパにも言っておいて。パパも一緒に聞いてほしいの。うん、ちょっと話したいことがあってね。…え?そんなんじゃないって〜
 
 場所は…うん、前に一緒に行った場所。覚えてる?もしわかんなかったらアドレス送るけど。わかる?そそ、じゃあ来週ね」


電話を切ると、美琴はため息を吐く。
側にあった水をごくごくと勢い良く飲み干す。
気づかぬうちに緊張していたのか、喉がからからに乾いていた。


「お父様も来れそう?」

「打ち止めはパパに会うの久しぶりだった」

「ミサカの小学校の卒業式には来てくれたよ」


カエルのクッションを抱きしめながら打ち止めは嬉しそうに笑う。
妹達の中でも特に幼い少女を旅掛は溺愛している。
初めて会った時のオーバーすぎるリアクションには、さすがの美琴もたじろいだものだ。
幼い頃の美琴そのままの打ち止めに両親はだらしなく相好を崩していたものだ。
打ち止めはクッションを抱きながら美琴の隣に座ると、興味津々に美琴のお腹に目をやる。


「本当に赤ちゃんがいるの?」

「そうよ」

「ヒーローさんの子?」

「…そうよ」


死んだ上条の子供であると、打ち止め達には知らせている。
両親には父親の名前そのものを言うつもりもない。
打ち止めにも番外個体にも、美琴は口止めをしている。


本当の真実を知るのは10032号ただ一人だ。

ネットワークが無い今、彼女たちが口を閉ざせばほかの妹達に伝播することはない。


「どうして言わないの?」

「レベル5の子供の事はできるだけ秘密にしておかないといけないの。実の両親相手でも、外部の人間には出きるだけ情報は限定しないと」


もっともらしい嘘だ。


「そんなの悲しいよ」

「うん、ごめんね。打ち止め達にまで口止め頼んで」

「そんなことで謝らないでよ。お姉さまの力にミサカだってなりたいもん」

「ごめんね」


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/25(水) 20:28:45.44 ID:F2Pu5UKz0<>
美琴はもう一度謝る。


口裏合わせに付き合わせてごめんね。

それすらも騙していてごめんね。


真実を交えて教えた方が秘密は守られやすい。
土御門の言葉を思い出す。美琴はすべて話してあげたいと思ったが、打ち止めや番外個体達を万が一にも巻きみたくない一方通行がこれに反対した。


「番外個体はずっと怒ってる。あの人に」

「どうして?」


抱きしめたカエルのクッションがぐんにゃりと圧力に負けて無惨な形に変わるのを横目に見ながら幼い妹の言葉の続きを待つ。

「どうして、お姉様の為にそこまでするのかわからないって。関係のないくせに、首を突っ込みすぎだって、

 ミサカはミサカはあの子の八つ当たりでダメになったクッションの数を数えてみる」



なるほど、ヤキモチか。

それならそうと、素直に言ってしまえばいいものを。
一番身体の発育が良く、一番幼い精神を持った末に奇妙なシンパシーを覚える。


「馬鹿ね〜自分達だけ見てって、そう言ってあげればいいのに。一方通行にとってアンタ達は特別なんだから」


娘か妹のように大切な家族として、一方通行がこの少女達を思っているのは周知の事実だ。
打ち止めは、一方通行の名を聞いて顔を曇らせる。


「ねぇ…お姉さま」

「なぁに?」

「男の人って…その…やっぱりエッチなこととかしたいの?」

「は?」



13歳の少女の口から飛び出た過激な言葉に、美琴は絶句する。
打ち止めも自分が一体何を口走っているのか、十分把握しているのか、頬を朱色に染める。
しかし、瞳はやけに寂しく、悲しげに震えていた。
単なる興味本位の質問ではない。美琴は瞬時に悟る。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/25(水) 20:30:28.12 ID:F2Pu5UKz0<>
「この前ね…一歩通行のおうちに行ったの。ミサカの学校お昼で終わって、それで、びっくりさせちゃおうって…

 ミサカは合い鍵を貰ってたからそれを使ってこっそり入ったの」


じわり、薄い涙の膜がつぶらな瞳に浮かぶ。




「あの人、ミサカ達の知らない女の人とエッチしてた」

「うわ」


悲惨だ。

美琴の率直な感想がそのまま声に出た。
昔であれば、エッチという言葉だけで色々な事柄を想像し顔が真っ赤に茹で上がっていただろう。しかし、美琴の口から零れたのは率直な言葉だ。
一人の異性としてずっと恋心を抱き続けてきた相手が他の女を抱いているところを見てしまった打ち止めが。


そして娘のように思っている少女に見られた一方通行も、である。


打ち止めは視線を落としたまま、指で泪を拭う。
その光景を思い出したのだろう。


「ショックだったの?」

「だって…まるで別人みたいだったもん。ミサカ達の知ってる一方通行と」


同じであったらそれこそ大問題だ。
幼い少女をそんな目で見ている男の側に可愛い妹を置いておけない。
美琴は打ち止めには悪いと思いながらも胸を撫で下ろす。

「それから、一方通行の顔見れなくて……手が触れたりすると、それだけでびっくりして、ミサカはミサカはどうしていいのかわからないって素直な心境を吐露してみる」

「打ち止めはどうしたいの?もう一方通行の顔は見たくないとか?」

「そんなことあるはずないもん!!でも…」

「でも?」



「でも、もう…昔みたいにあの人に抱きついたり出来る気がしないよ…」


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/25(水) 20:33:00.62 ID:F2Pu5UKz0<>
「気持ち悪いから?自分もそういう目で見られるかもしれないって」

「そんなわけじゃないけど。それに…あの人ミサカの事『家族』って思ってるもん」

「いいじゃない、家族。素敵な響きだと思うわよ」


ぷぅと打ち止めは膨れ面のまま黙り込む。彼女自身自分の感情を測りかねている。
打ち止めが抱いている感情は、異性の家族に対しても嫌悪感を抱く思春期特有の潔癖さからくる拒絶だけではない。
自分達には見せてこなかった男としての一方通行の顔に、彼女は戸惑っているのだろう。
そして、おそらくこれほどに彼女を落ち込ませているのは、自分がその対象に(当然であるが)なっていなかったことだ。
一方通行の見ている打ち止めや番外個体と、彼女達が見ている一方通行の立ち位置が異なることは容易に見て取れる。
しかし、それを美琴が言うのは筋違いの話である。


「あの子も大概だけど…ホント、そういうところ不器用よね。アンタはもう少し上手く立ち回ると思ってたけど」

「お姉さまのせいだもん…」

「何よぅ。私の何が悪いのかしら」

「お姉さまのツンデレ遺伝子がミサカに悪影響を及ぼしてるってミサカはミサカは最近思ってることと言葉が一致しなくなっていることに危機感を覚えてみたり」


じとっと恨めしげに見つめてくる打ち止めに苦笑で返す。
言葉にしなければ、何一つ伝わらないよ、そう言ってあげようかと思い美琴は胸の内に留める。
意味の無い事だ。自分もそうだったが、結局自分自身で踏み切るしか方法は無いのだ。結果がどうであれ。
きっと「好き」という事を自覚してはいるのだ。
けれども、「好き」という言葉を遣いたくない。
意地っ張りというのもある。けれども、自分の感情にはっきりと名をつけるのが恐いのだ。
「好き」などと、陳腐な言葉に表わした瞬間、自分の抱く感情が一気に安っぽくなる気がして。
自分の感情は、他の誰とも違う特別美しいものだと、思うから。

天鵞絨のような滑らかなのかもしれない。

パールピンクのような輝きを放っているのかもしれない。


故に、曖昧な形の内は誰とも違うと思っていた自分の感情がはっきりと形を持つことを無意識が拒むのだ。
特別が特別じゃなくなるような気がして。安っぽい「好き」という言葉にすることによって。

そして同時に、恐いのだ。

好きだと、はっきりと認めてしまえば、最早逃げることが出来なくなってしまうから。
自分によく似ているのであれば、恐らくそうなのだろうと美琴は思う。


美琴がそうであったから。


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/25(水) 20:33:46.91 ID:F2Pu5UKz0<>
それでも、言葉にしなければ伝わらない。

言葉にしなくても気付いてくれるというのは、子供の我が侭か、都合の良い期待だ。
自分の中にある自分だけの感情を守り続けるか、それを秘めることに耐えられなくなるのか。
最後は、どちらかに傾くことになるのだから、美琴がとやかく言うべきことではない。



「あ、夕食食べていく?」

「大丈夫なの?つわり酷くないのってミサカはミサカは10032号から聞いているお姉さまの現状を思い出してみる」

「大丈夫。アイツがさ、レシピ色々書いてくれたのよ。ピーナッツとセロリの炒め物とか、野菜春雨スープとか」

「………やっぱりお姉さまズルイよ」


打ち止めは自分の耳にも聞き取りにくいほど小さく零す。
『特別な家族』では、これから先も自分も番外通行も娘、妹のままだ。
『他人の女』として、あの女のように抱かれたいという無意識の願望が、ネットワークを離れ、大人へと成長を始めた少女達の意識の奥底に芽吹き始めている。
そんな少女達にとって、『他人の女』であると同時に『守るべき特別』となりつつある姉は、酷く妬ましく映る。例え、美琴が背負っているものが重いとわかっていても。



「あの日」以来、自分の中の一方通行へのわだかまりが、日差しに曝された氷のように見る見る間に溶けていっているのを感じる。
勿論、未だに自分の中には、妹たちを殺したことが許せないという気持ちが確かにあるはずなのに。
それが形骸化しているとでも言おうか、美琴には遠いことのように思えてくる。

絶対に色褪せない物という定義は何にも当てはまりはしない。

一生忘れない感情というものは無いのだろう。

グラスに注いだレモンを絞ったジュースをくぴりと飲みながら美琴は静かに確信する。
あれほど狂おしく感じていた上条への愛情すら、一つの峠を超えてしまえば、静かに見つめることが出きるのだ。
思い出す度に、切なくて涙を流すこともあるが、まだ上条の事が好きだから泣いてるのだな、と冷静に涙を流す自分を観察する己に気づくことが増えた。


打ち止めの言葉に気付かぬまま、美琴は一方通行の書き記してくれたレシピに目を通す。
まるで、兄貴気取りだと笑いたくなる。







その夜、打ち止めが帰った後、珍しいことに父、旅掛から直接美琴に電話が入った。
彼の言葉に美琴は驚き、そして戸惑った。

話の場に一方通行も一緒に連れて来い。


それが彼が出した条件だったからだ。








<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/25(水) 20:37:29.70 ID:F2Pu5UKz0<> 以上で投下終了。
前回の含みの理由&次回への繋ぎ&以前何気に書いた打ち止め目撃話です。
打ち止め目撃話は、ノリで書いたのですが、どうせなら少し大人になった美琴の恋愛観を絡めてしまおうと思い書きました。
18歳になっても中学生の頃みたいにふにゃーとか言ってる場合じゃないですしね。

それではまた。 ノシ

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/25(水) 20:39:18.58 ID:w1SLEje0o<> 乙!初リアルタイム遭遇だァ

打ち止めかわいいな、板挟みで迷ってる感じが <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/25(水) 20:48:00.97 ID:IUXGDsJ70<> パパさん、まさか何か勘違いを……? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/25(水) 20:58:33.41 ID:VOvgIgLSO<> 一部、番外個体を番外通行って書き間違いしてて吹いてしまった

おつ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/25(水) 21:06:21.59 ID:HZgtevqNo<> 切ないなぁ、打ち止め。
番外さん落ち着け。

乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2011/05/25(水) 21:11:28.26 ID:qNMZSo/mo<> 昨日見てなかったから二話連続で読んじった。
なんか誰とも最初の出会いの立ち位置で固まってしまうんだな。
絹旗の固定された位置がひどすぎるww
んで唯一の例外を目の当たりにする打ち止めや番外個体は穏やかでいられるはずないわなー。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)<>sage<>2011/05/25(水) 22:57:53.13 ID:vLhnnbPto<> おつおつ

今がほのぼの過ぎるからこそ過去編が切な過ぎるな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/26(木) 00:51:32.13 ID:t0AzgNb2o<> 相変わらずキュンキュンくるなあ

ところで、10032号しか知らない真実ってどこまでの話なんだろ
ちょっと分からなくなったから読み返してくるか… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福井県)<>sage<>2011/05/26(木) 01:43:54.14 ID:zArTslkC0<> 乙です

御坂パパみたいに原作で出番が少ないキャラが出てくると、凄いワクワクする
次回もマジで楽しみだ

>>722
10032号しか知らないのは、上条が本当は死んでないってことじゃないかな? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/05/26(木) 13:57:15.85 ID:vmGb6ibP0<> 打ち止めも番外も可哀想になってくる。
一人の「女」として見られたい筈なのに…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2011/05/26(木) 14:12:38.68 ID:tihLCDGAO<> >>724
キモ過ぎワロタ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/05/26(木) 14:24:25.54 ID:7WpH/Uoq0<> >>722

追加の補足だが723のいってる事+シスターズの中でってことでは?? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<><>2011/05/26(木) 19:37:29.58 ID:mNDh2qU70<> パパの活躍に期待 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/05/26(木) 20:58:08.20 ID:IWmUYhwz0<> くそが ageんなks <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/05/26(木) 21:29:21.86 ID:8xpYQlb30<> >>728
それはネタでやってるのか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(三重県)<>sage<>2011/05/26(木) 21:52:46.25 ID:zZBF2GbY0<> パパが間違って、熱く語ったら面白いんだが、、。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府)<>sage<>2011/05/26(木) 22:27:07.49 ID:qIIgK3Ba0<> ここの作者はツンデレの内面をこう表現したかあ。
現実にはほとんどありえない属性だから描写難しいよね。
巧いと思います。 <>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/27(金) 20:53:28.68 ID:4NVXaby00<> 本日投下を予定しております。
しばらくしてからになりますが、日付は跨ぎません。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/05/27(金) 20:56:59.64 ID:RemUWu6r0<> へっへーい
待ってるぜ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(広島県)<>sage<>2011/05/27(金) 23:59:34.97 ID:xVTQulMeo<> 日付がががっggg <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<>sage<>2011/05/28(土) 00:06:59.29 ID:OJ1gMu9C0<> 寝落ち? <> ◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/28(土) 00:08:19.75 ID:JL7TpoOM0<> 遅くなりました今から投下致します。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/28(土) 00:17:07.95 ID:TOHhwiQDO<> 明らかにgdgdんなってきたな


飽きたわ <>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/28(土) 00:18:48.30 ID:JL7TpoOM0<>
芳川桔梗は鈍い痛みをあげるこめかみを人差し指で軽く押さえる。
口にしたコーヒーの味に顔をしかめる。
安く不味いインスタントコーヒーの味に舌がうんざりしているのだ。
一方通行が「苦いだけの泥水」と評した備え付けの自販機のコーヒーを飲み干すと、紙コップを捨てる。
屑籠に積み上げられた紙コップの山を見れば、きっと打ち止めや黄泉川は怒るだろう。
「ちゃんとご飯も食べなさい」
そう言って叱る家族の顔を思い浮かべてから、かれこれ四日家族のもとに帰っていなかったと気づく。

椅子にもたれ掛かると、古びた椅子のパイプが軋む音がひとりぼっちの研究室に響く。
点けっぱなしのパソコンのモニタへと目を向ける。
簡潔な文章で記された報告。無機質なデジタル数字のせいで現実味が沸かない。
布束砥信が訪れていたのは、ほんの30分前のこと。

一方通行の研究の終了と、同時に妹たちの現存数。



「あの子どうだった?」

「表面上は普段通り無愛想で無口でした。but相当落ち込んでいたはずです」

手にした紙コップのコーヒーには一切口を付けない。
普段一方通行の珈琲を飲んでいるから口に合わないのかもしれない。芳川は憂鬱な気持ちを抑えながら報告に目を遠くしていく。
ぎょろりとした瞳は、なにを考えているのか判別しにくい。
それでも、彼女の表情が暗いことは芳川にはわかる。
元来、人の本質的な部分を見抜くことには長けた女だ。
妹たちを救おうと奔走した彼女は理性的で優しい。
身体を重ねた男に対して、心を痛めないはずがなかった。

「慰めてあげたら?あの子の恋人なんでしょ?」
「indeed共犯者のようなものです」

そっけなく言い放つ布束の横顔に、一抹の寂しさがよぎる。

「芳川さんは…」
「うん」
「どうして…彼と」
「何となくかしら」

一口、コーヒーを啜る。
気遣ったわけでも、誤魔化したわけでもなかった。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/28(土) 00:20:17.69 ID:JL7TpoOM0<>
「何となく…」
信じられないと言いたげな、若い女特有の潔癖さの滲む声など気にもせずに芳川は飄々とした仕草でうなずく。

「傷の舐め合いって結構好きなの」


くすりと笑う。

「妹達の寿命を延ばす研究を始めて間もない頃だったかしら。あの子達の寿命がどれだけ見積もっても五年に満たないと知って荒れてた頃にね」

特に感慨もなく、芳川は寿命と口にする。
彼女は一方通行や布束程妹たちに思い入れは無い。
そこまで人道的で、ナイーブな女であればそもそもあの実験に耐えることが出来ない。
彼女が思い入れがあるのはあくまでも打ち止めと番外個体。
そのほかの妹達は数字の上でしかない。

故に、今、一方通行の研究によって二人の少女達が「間に合った」時点で、彼女の中の重圧のほとんどが消え失せていた。

「可愛かったわよ?第一位って言っても16歳の男の子なんだもの。ああいうだらしない温もりって溺れてしまいたくなるわね…久しぶりだったし」

汗だくで抱き合った時に張り付く白くて柔らかい髪のくすぐったい感触が好きだった。
照れた顔を隠そうと背中を向けた時の、真っ赤に染まった一方通行の形の良い耳が好きだった。
細く骨ばった長い指が「中」を抉るのに至っては、病みつきになりそうだった。

「結局あの子がで行っちゃったからすぐに終わったけどね」

だらだらずるずると引っ張るだけ引っ張る関係を、芳川は嫌いではないかった。
怖がったのは一方通行の方だ。
温かい湯に浸かると疲労が一気に噴き出して身体が動かなくなるのを恐れるように、一方通行は芳川に溺れることに怯えるように離れていった。

「愛穂じゃなかっただけまだマシだったわね。あの子情が深いから」

あんな風にさっくりと終われなかっただろう。

「貴方はあの子と似たところがあるから案外上手くいくんやないかしら」

「……maybe…そろそろ終わりだと思います…」



<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/28(土) 00:21:43.48 ID:JL7TpoOM0<>
スタンドライトの光を調節して、光量を抑える。
薄暗い方が考え事をするのには適している。
布束の言葉を芳川は反芻する。
予感というよりも、決意を口にするような口調だった。
コーヒーを一口飲むと自然こぼれてしまう。
コーヒーの香りの、熱い息が。
布束の言葉に込められた幾通りもの意味を一つ一つ解きほぐしていく。

バカな子だ。

布束ではない。一方通行の事だ。
自分を愛してくれそうな、癒してくれそうな女の子をまた自分から手放そうとしている。
情の濃い女を引き寄せてしまうのは一つの才能だろうか。

「泣ける内に泣いておかないと後々辛くなるのに」

布束の前で泣かなかったら、一体誰の前でなら泣けるのだろうか。
一方通行は絶対に妹達の前では涙を流さないと、芳川にはわかっていた。





ホテルの最上階、美琴は菫色の闇に視線を移す。
丸窓の外には光の洪水が遙か下に広がり、打ち止めと番外個体が顔を寄せ合って見下ろしている。
セーラー服姿の少女と、背中の開いたドレスに身を包んだ女が窓に張り付いてる様は妙なおかしさがある。


「指紋付いちゃうから窓にさわってはいけませんよとミサカは姉貴風を吹かせつづ窘めます」

「わかってるっての」

「子供扱いしないでよ〜ってミサカはミサカはちょっぴり憤慨してみる」


亜麻色の髪をばっさりとベリーショートにした少女が溜息を吐く。
高校生にも関わらず華奢な身体をパンツスーツが違和感無く包む。

「お姉さま、大丈夫ですか?」

妹二人に注意を促したばかりの少女、ミサカ10032号ー御坂妹と呼ばれる少女が美琴の顔をのぞき込む。

「大丈夫よ。ちょっと、そんなに心配そうな顔しないでって」

自分自身納得させるように、頷く。
とろけるような質感のドレスに身を包んだ美琴は姿見鏡に映る自分をまっすぐに見つめる。
着慣れていないのが自分の目から見ても明らかだ。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/28(土) 00:22:54.63 ID:JL7TpoOM0<>
長点上機の制服を着てくるべきかと一瞬後悔がよぎる。
大人っぽく見せようとして、寧ろまだ子供であることを強調しているような気がしたからだ。

「よく似合ってます」

10032号が美琴の心を読み取るように後ろから鏡越しに美琴に笑いかける。
よく笑うようになったな、と感慨深く思う。


「ありがとう」

若干堅さが残る笑みを返す。

「ねーねー、お姉さま。アイツ何処行ったの?もしかして逃げ出したとか」

外を見ることに飽いた番外個体が底意地の悪い笑みで周囲を見回す。
美琴は携帯を取り出す。両親が来る時間までは後30分も無い。

「煙草吸いに行ってると思うけど」
「ふ〜ん。でもどうしてアイツまで同席させてるんだろ」
「もしかして、変な誤解をしてるのでしょうかとミサカはあのもやしがお姉さまに変なことをしていないか疑ってみます」
「誤解って…そういう意味?」

番外個体の声が尖る。
拗ねたように美琴をちろっと見つめた。
幼い子がそうするように物言いたげな目線を送るだけで、何も言わない末妹に、美琴は苦笑した。





ホテルのロビー。柔らかすぎるソファーは座り心地が悪い。
へばりつくような柔らかさが煩わしい。
口にくわえた煙草には火がついてない。
ロビーには従業員以外に客らしい姿はあまり見られない。
このホテルが特別閑古鳥が鳴いているわけではない。
学園都市において、高級ホテルに分類される場所は対外用である。
外部から招いた人間の宿泊施設、或いは常盤台のような上流階級の家柄の人間が親を招いて食事に利用することが多い。
ディナーを気軽に楽しむには値段が高く、それらの空気を楽しむことの出来る年齢にはまだ達することのない世代が多い学園都市において、限られた用途を持つこれらのホテルは総じて人の数が少ない。

自分が何故今日という日に呼ばれたのか、一方通行には御坂の父親の考えはわからない。
しかし、ちょうどいい機会だと一方通行は考えている。
スーツの内側を探る。
硬い感触を確認する。
先延ばしにしていた決着だ。
研究は完全には終了に至っていない。
妹たちに施した処置の経過を見て、随時データをとり続ける必要がある。
しかし、それらの作業に至っては殊更自分の頭脳が必要とされるわけではない。
如何に肉付けしていくかという段階にすぎないのだ。
だから、今日はちょうどいい機会なのだ。
確かめた硬質な感触に、納得すると、気持ちを切り替えるように煙草の先に火を点けた。




<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/28(土) 00:23:39.09 ID:JL7TpoOM0<>



御坂旅掛、美鈴夫妻は約束の時間の15分前に着いた。
驚いた事に、一方通行と美鈴は顔見知りだった。
打ち止め達が美鈴と交流を持ったのは一方通行が黄泉川の家を出て以降なのだ。
美鈴は一方通行の姿を見るなり、「シロく〜ん」と飛びついた。

「やぱり君は思った通り美琴ちゃんのこと守ってくれてるんだね」
「オイ、ちょ、離れろ!」

美鈴の抱擁に珍しく取り乱しながら引き剥がそうと慌てる一方通行に、打ち止めと番外個体の眉が釣りあがる。
どれだけ彼女達がスキンシップと称して抱きついても鬱陶しがる以外のリアクションを微塵もしなかった過去が彼女達の脳裏に過ぎった。

「ちょ、どうして貴方がお母様と…ハッ!もしかして貴方はロリコンじゃなくてオバ…むぐッ」
「おっと、それ以上はいけない、とミサカは妹の死亡フラグを鮮やかに叩き折ります」


そんなやり取りを経て、御坂家+1がテーブルに着いたのは予定の時間を5分程オーバーしてからのことであった。


「いやぁ〜女の子ばかりの食卓ってのは華やかだね」

顎を撫でながら旅掛は緩んだ頬を隠そうともせずにテーブルに座る愛娘達の姿を順繰りに見ていく。
打ち止め、10032、美琴、番外個体と、小、中、大と同じ顔が並ぶ様子はさながら四姉妹のようだ。
ドレスアップされた美少女達、そして、胸元の開いたシャツにジャケットをさらりと着こなした美鈴を加えたその一室は圧倒的華やかさを誇る。

「うんうん。打ち止めちゃんってばその制服やっぱり凄く似合ってるわよ」
「ありがとう、お母様ってミサカはミサカはちょっぴりはにかんでみる」

「〜〜〜〜〜〜!!」

舌をぺろりと出して恥ずかしそうに首をすくめる計算されつくした仕草に、旅掛は言葉にならぬ程に悶える。

「何つー凶悪な愛らしさだこいつぁ!!父さんもう一人娘欲しくなっちゃったぞ」
「もう、イヤだわ、こんなところで家族計画とか恥ずかしいんだからぁ〜」

年甲斐もなくはしゃぐ両親のテンションに付いていけず、美琴に救いを求めるような視線を送ったのは10032号と番外個体だ。
美琴は苦笑しながら、隣りの男へとさり気無く視線を送る。
一方通行は父親と母親という存在そのものが珍しいのか、時折二人の様子を見ながらも、淡々と食事を運んでいく。
時折、旅掛を探るような目で見つめるのが、少し気にかかった。
打ち止めにあれこれと話かけるのを旅掛に任せ、美鈴は円卓テーブルに乗せられた料理をそれぞれに取り分けてやりながらちらりと一方通行と美琴に意味ありげな視線を送る。
テーブルの料理の幾つかが空き、場の空気が適度に弛緩し、ようやく揃った人間同士の間に生まれる『間』と空気が程よく馴染み始める。
その頃合をずっと見計らっていた美琴が箸を置く。


「あのさ」

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/28(土) 00:24:43.40 ID:JL7TpoOM0<>
居住まいを直した美琴に、場の空気が一瞬にして引き締まる。
一方通行は美琴を一瞥する。美琴と視線が交差したのは単なる偶然であった。
それでも、二人は互いに納得し合う様に、確かに視線で言葉を交わした。


「まず最初に、パパ忙しいのに時間作ってくれてありがとう。それから、ママも来てくれてありがとう」

「何言ってるんだ、美琴ちゃんの為だったら世界中の何処からでも飛んでくるよ」
「そうそう。可愛い美琴ちゃんのお願いだもん。寧ろもっとお願いして欲しいくらい」

両親からの慈愛に満ちた瞳を気恥ずかしく、けれども心地良く受け止めると、美琴は僅かに表情を曇らせる。
唾を飲み込もうとして、いつの間にか緊張で喉がからからに渇いている。
10032号がそっと滑らせるように美琴の手元に冷たい烏龍茶の湯のみを寄越す。
一息に飲み干すと、ようやく落ち着く。
緊張に強張る娘の様子に、徐々にただ事で無いと悟った戸惑い混じりの両親の視線に真っ向から自分の意思をぶつけるように視線を合わせる。

小さく深呼吸。

一つ。二つ。


「あのね、私子供が出来たの。父親は言えない。行きずりの男だとか、そういうのじゃないから安心して。もう居ないけど」


美鈴と旅掛の瞳が見開かれる。
美琴は言葉を一度区切ると、一つ深呼吸を小さくする。


「けどね、産もうと思ってる。この子を産んで、育てようって決めたの」


決然と言い放った美琴を前に、美鈴と旅掛は言葉を失う。
告げられた言葉の内容が余りにも衝撃的であったこと、そして、娘の強い意志を目の当たりにして咄嗟に向ける言葉が無かった。


先に言葉を見つけたのは、同じ女であり、母親である美鈴だった。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/28(土) 00:25:40.32 ID:JL7TpoOM0<>

「美琴ちゃん、今何ヶ月なの?」
「三ヶ月」
「予定日は…2月ってところかしら」

こくんと美琴が頷く。
三ヶ月という言葉を何処か現実味の無い言葉のように受け止めている旅掛よりも美鈴はずっと重く受け止めていた。

「それでお料理にまったく手を付けてなかったわけだ」

料理に添えられている生野菜やスープ等を食べてそれらしく振舞えていたと思っていた美琴は息を呑んだ。
母がしっかりとそこまで見ていたことに、そして、普段大らかな母とは思えぬ視線の険しさに。

「気付いてたんだ」

「当たり前でしょ!母親なんだもの」

右手で顔を覆いながら認めたくないと頭から追い出そうとするように首を振る。

「……三ヶ月か…何で相談してくれなかったの?」
「ゴメン…私自身、ずっと迷ってて。話そうかどうしようか」
「美琴ちゃん……貴女本気なの?」

美琴の知る限り、珍しい程怒気を秘めた美鈴の言葉に一瞬怯みそうになる。
美鈴の瞳は、美琴の真意の更に奥の奥まで見透かそうとするように鋭い。

「好きな人の子を産みたいっていうのを否定するつもりはないの。だけどね、貴女まだ高校生よ?母親、それもシングルマザーになるって簡単に考えてるんじゃないの?」
「そんなことない!」
「それでも『何とかなる、どうにかなる』そんな風に考えてるんじゃないの?」

美琴は言葉に詰まる。図星だった。
自分に自信がある故に、何とかなる。何とでも出来ると常に物事に当たる際に美琴は考えがちだ。
それを美鈴は的確に見抜く。

「試験だったらそれでいいわ。何とかなるって思った方が実力が発揮できるっていうのは私だって経験してるもの。仮に何とかならなくても次に頑張ればいいわ。
 
 でも子供はそうは行かない。何ともならなかったらどうするの?やり直し?次にまた頑張る?」

厳しい表情を崩さずに美鈴は美琴を射抜くように見る。

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◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/28(土) 00:27:06.94 ID:JL7TpoOM0<>
「美琴ちゃんくらいの年齢でお腹が大きい女の子をね、世間の人は何て思って見るかわかる?ふしだらな子だなって、そういう目で見るのよ。

 どんな事情があるのか、どんなに悩んだのかなんて知ったことじゃないわ。ただ、外から見て、勝手に想像を膨らませて。憶測で答えを出して、それを本当のことみたいに口にするの。

 古臭い考え?そうかもね。でもね、そんな陳腐でつまらないことを考える人ばかりなのよ?そんな人達の目に耐えられる?」

美琴は俯き、唇を噛み締める。用意していた言葉は山ほどあった。
覚悟なら決めている。
自分の子どもだ。
お金のことで迷惑なんてかけない。
しかし、それらの言葉は全てが無意味となった。当たり前だ。子供を産んだことのある美鈴に、産んだことの無い美琴。
様々な経験を積んできた美鈴に、美琴が経験もしていない苦労について覚悟を決めていると言って一体どれ程の説得力があるのだろうか。

美鈴はわかっている。美琴は責任感が強い子だと。頭も良い子だ。
視野狭窄になりがちで不器用だが心が優しい自慢の娘だ。
育児放棄をする心配などしていない。
しかし、同時に酷く繊細であることもわかっていた。脆いと言い換えても良い。
快活で凛々しい顔の下には、他人からの評価、視線に臆病で敏感な素顔があることも知っている。
美鈴が懸念しているのは育児ノイローゼの方だ。


「それでも…それでも産むって決めたの!」

膝の上の手をぎゅっと握り締めながら美琴は顔を上げた。

「だから……」

「散々迷惑かけるかもしれない。でも、どうしても産みたいの。我が侭だってわかってるよ?でもお願い。

 私の我が侭、これで最後の我が侭で良いから」

「――― ッ」



美鈴が息を呑んだ。
美琴の気迫に気圧されたからではない。
最後の我が侭という言葉に言葉を失ったのだ。
我が侭の少ない子。優秀で手の掛からない自慢の娘。


美鈴の言葉を妨げたのは、美琴への“負い目”だ。


自分の預かり知らぬところで危険な目、辛い目に合い、そして守れなかった娘。
ちらりと、美鈴は一方通行を見る。
打ち止め、番外個体、そして10032号へと視線を移す。
美鈴が『全て』を知ったのは、全てが終わった時だった。
全てを子供達が彼等自身の力で乗り越えた後であった。


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◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/28(土) 00:29:02.25 ID:JL7TpoOM0<>

(今更母親面なんて…都合が良過ぎるか……)


何で相談してくれなかったのか、そうさっき自分は呟いた。
しかし、それは何もおかしなことではないのだ。何故ならば、彼等はいつだってそうしてきたから。
無力で頼りなく、ズルイばかりの大人を当てにせず、自分の判断に従って行動を決めてきた。自分自身の力を頼みにして。
だから、美琴は“今まで通り”自分で決めたのだ。先ほどから一言も発していない旅掛を見る。
旅掛は口を真一文字に結び、じっと美琴の言葉に耳を傾けるように瞳を閉じている。

「お母様…そんな悲しい顔をしないで下さい」

不意に生まれた気まずい沈黙を10032号の凛とした声が鈴の音のように軽やかに通り抜けた。

「ミサカ達がいますから」

「え?」

「お姉様だけの赤ちゃんじゃありません。―――…… ミサカ達全員の赤ちゃんです」


僅かな躊躇いを飲み込むと、10032号はハッキリと言い切った。


「お姉様からミサカ達は生まれました。お姉さまの遺伝子を使って。だからお姉様はミサカ達の姉であり母であり、ミサカ達自身でもあります。
 
 だから、そんなお姉様が産むことになる子供を、お姉様一人に任せたりしません。ミサカ達全員で守って育てます。

 だって…… ミサカと同じ遺伝子を持ったお姉様のお腹の中に命が宿ってるなんて…ミサカにとっても、凄く憧れなんです。

 そんな普通で、素晴らしい命が身体に宿るなんて、……――― ミサカには夢のようなんです ―――」


誰もが言葉を失った。
美琴も、美鈴も、そして一方通行すら。
それほど、10032号の口にした言葉は胸が痛くなる程切実で、むき出しの彼女の叫びなのだから。



「それに……」


10032号が一方通行へと視線を向けた。


「それなりに使えるもやしがいますから、多分大丈夫です。お姉様にふざけたことをぬかしやがる輩は片っ端から、
 
 この白アスパラが叩きのめしてくれますからとミサカはこの白すけの喧嘩っ早さの定評っぷりをバラしてみます」

「オイ」

「そうだよ。お姉様のバックアップはミサカ達のお仕事なんだからってミサカはミサカは産まれてくる赤ちゃんに早く会いたいっていう本音を言ってみる」

「美鈴さんさ、どうせお姉様は言っても聞かないんだから、開き直ってこの馬鹿ロリコンを扱き使ってやるくらいのつもりでいいじゃん。

 ミサカとしてもひいひい下僕扱いされるこの人見てみたいしさ。ぎゃはは」




何か文句を付けようとした一方通行の言葉を遮るように、今まで様子を伺っていた打ち止め、番外個体が10032号の加勢に加わる。
四対の娘達の瞳に晒された美鈴は、呆気に取られたようにぽかんとするが、やがて諦めたように笑う。

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◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/28(土) 00:31:02.07 ID:JL7TpoOM0<>

「可愛い娘達の我が侭とか……ずるいわよ。流石にそこまで言われちゃったら産んじゃ駄目なんて言えないじゃない」

負い目を傘に来て認めざるを無い、というよりも、はるかにそれは美鈴の心を軽くした。
それがこの少女達の優しさなのだということは十分にわかる。
気まずい沈黙のまま、負い目によって強く反対することも出来ずに有耶無耶に認めてしまうよりも、可愛い娘達の必死のお願いに折れた方がずっと気持ちが楽になる。
美鈴は笑いながら、さり気なく指の腹で目尻を拭った。

「ゴメンね、ママ」
「もう、いいわよ。でもね、美琴ちゃん。さっき私が言ったことは本当に美琴ちゃんに起こりえることよ?産んだらお終いじゃないの。産んでからがようやくスタートなんだから覚悟を決めること」

「うん」

不安を掻き消すように、力強く頷く姿に、美鈴は不意に懐かしい気持ちが込み上げる。
目の前に漠然と横たわる不安を押し殺そうという葛藤が宿る不安定な瞳が、能力開発を決意した幼き日の美琴とダブる。
変わらぬ娘の意固地さと、真っ直ぐさ、そして危なっかしさに瞳の奥が熱くなる。

「だけどどうしても辛くなったらママを呼んでもいいからね」
「ママ……」
「初孫なんだもん。美琴ちゃん一人にお任せっていうのもちょっとね〜」
「うん…」

ようやく浮かんだ美鈴の笑顔に、美琴が涙ぐむ。
隣りに座る10032号がそっと背中をさすってやるのを眺めながら、美鈴は苦笑する。
これでは先が思いやられると。しかし、不安は然程ない。こんなにもしっかりとしたいい子達に囲まれているのだから。




「一方通行君」

今まで沈黙を保っていた旅掛がようやく口を開いた。
険しく、低い凄みのある声に和やかになっていた空気が緊張状態に引き戻される。
一方通行は、黙って旅掛の方へと向き直る。

「君の事は知っている。犯してしまった過ちも、成し遂げてきたことも、すべて」

一斉に強張る少女達の表情に気付かぬフリをしながら、一方通行は瞳を眇める。

「それで?」

不遜とも取れる態度に気を悪くするわけでもなく、ただ旅掛は静かに問う。

「君は彼女達を今まで守ってきてくれた。これからも守ってくれると…そう勝手に期待してもいいのかい?」
「知るか。俺は俺のやりたいようにするだけだ。テメェ等が期待しようが迷惑がろォが知ったことか。勝手に守る」
「その為に死んでも構わないくらいにか?」


死んでも守れと、言外に匂わせる。
打ち止め達は知らず知らず一方通行の答えを待ち望むかのように固唾を飲んで二人の男のやり取りに見入っていた。
一方通行は、注がれていたグラスの酒を一息に飲み干す。


「コイツラを守って死ぬつもりは…無ェ。死ンだら守れなくなるからなァ」

「そうか…ふむ」


旅掛は顎を撫でながら、得心が行ったように笑う。


「とりあえず及第点というところか」


その言葉に、当の一方通行よりも少女達が安堵の息を吐いたのを、美鈴はこっそりと笑って見ていた。


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◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/28(土) 00:32:27.50 ID:JL7TpoOM0<>

食事が終わり、両親の同意を得られた美琴は肩の荷が下りたのか上機嫌であった。
つわりのせいで食べられないことも気にならなかったようだ。
そして、一度認めてしまえば、それを最大限に楽しみに昇華する性質である美鈴はほろ酔い気分になりながら打ち止め達に絡む。
少女達は困りつつも、触れたことの余り無い『母』というものに浮かれていた。


故に、談笑というよりもじゃれ合いに耽るなか、二人の男が席を外したことにすぐには気付かなかった。


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◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/28(土) 00:35:00.85 ID:JL7TpoOM0<>


「どうしたんだい?こんな場所にまで連れてきて。男同士の内緒話にしては随分と怖い顔をしてるじゃないか」


旅掛は飄々とした笑みを浮かべながらも、学園都市を一望できる屋上に自分を連れてきた一方通行の意図を測りかねていた。
生ぬるい夏の夜風が吹く。
墨色の夜闇の中、二人を塗れた月明かりが照らす。
近すぎる位置に、絵本で見るようなまん丸い満月が浮かぶ。
スポットライトのように白々しい明るさを放つ月を見上げていた一方通行が、透き通るような眼差し向けた。
硝子のように硬く、冷たい目。
様々な人間を見てきた旅掛はその瞳だけで、彼がこれから切り出すことの重さを直感的に感じ取る。


「いつか、アンタに ――― アイツの父親に会ったら一つ決めてたことがあった」

「決めてたこと?」

「出来れば、すぐにでもしたかったが、こっちにも色々やらなきゃいけねェことがあったからな。ずるずる4年も経っちまった」

旅掛はじっと目の前の白い青年の言葉を待つ。

「アンタ…前に会った時には知ってたンだろ?テメェのガキのクローンを俺が殺しまくってたってことをよォ」

「どうしてそう思う?」

「簡単な理屈だ。俺の名前と面を知ってて、なおかつアイツ等と関わりをあることを知ってる。
 
 そこまで調べた奴があの実験の事を知らねェはずがねェ。あの実験の内容を避けて情報を得る方が寧ろ難しいだろォが」


ましてや、旅掛は妹たちの存在も知っていたのだ。
妹たちの存在理由と、一方通行との接点を調べれば、自ずと実験概要は伝わる。

「さしずめ、前回は様子見ってところか。学園都市第一位のクソ野郎がどんな奴か確認するための」

こつんと杖を突く音が夜の静寂に響いた。

「俺はアンタの娘を10000人以上殺した。わかるか?10000人だぜ」
「しかし、本来悪いのは学園都市上層部の連中だ。君たち子供が責任を感じる必要は」
「わかってねェな」


嘲笑う。唇を端から糸で引っ張りあげたように、不自然に。


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◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/28(土) 00:38:07.37 ID:JL7TpoOM0<>










「俺には選択の自由はあったンだよ。俺の都合で、俺の意志に基づいてアイツ等を殺したンだ。

 実験の被害者なンてのは全部アイツ等の甘ったるくて都合の良い解釈でしかねェンだよ」










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◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/28(土) 00:40:42.24 ID:JL7TpoOM0<>
旅掛の頬が、微かに強ばるのを一方通行は見逃さなかった。
目線一つ高い男の瞳に、強い光が宿るのを確認すると、右腕で杖を突いたまま、一方通行は左手でスーツの懐を探る。

「使えよ」

差し出されたのは、黒光りする拳銃。
使い込まれた銃身が、月明かりの中鈍い輝きを放つ。
旅掛は差し出された拳銃と、一方通行を見比べる。
動揺など浮かべず、静かな、透徹した瞳が不気味な沈黙のなかで光る。

「どうして俺に?」

出来ないとも、バカな事をするなとも言わず、旅掛は理由を聞いた。

「さっきも言ったはずだ。アイツ等を守る為に命を捨てるつもりは更々ねェ。だが、アイツ等に殺されるなら話は別だ。

 アイツ等にはそうする権利がある。だが、アイツ等には寿命の問題があった。

 そこらのカス共のノミみてェなおつむをいくらかき集めても解決策が見つかるかわからねェふざけた厄介事だ」

28階建てのホテルの屋上。夏を彩る虫の声すら届かない。
重たい泥のような沈黙の中、一方通行の独白が続く。

「だから俺は自分自身に一つのルールを決めた。アイツ等が俺の助けもいらねェ、アイツ等を救う為の術を確立するまでは殺されるのは先送りにしよォってな」
「君の命に、君自身利用価値を見出せる間は猶予を与えたと」

自嘲気味に薄い笑みを浮かべる。

「もっともらしいが、要は自己満足の為だ。テメェ自身が納得出来ねェ内は死にたくねェってだけの」

旅掛の手に、半ば強引に拳銃を握らせる。

「時期は来た。完全じゃねェが、少なくとも俺じゃなきゃいけねェ時期は終わってる。しかし、アイツ等は見ての通り甘いガキ共だ。

 何より、俺自身アイツ等の手を血で汚したくねェとも思ってる。

 俺を殺す権利があるのは殺されたアイツ等自身だ。それが出来ねェとすりゃ…」

「父親である俺ということになるな」

「撃ったことが無ェとは言わせねェよ。そンな『匂い』させておいて」



慣れた手付きで弾倉を確認する。
弾丸が花びらのように綺麗に万遍無く装填されていた。
くるくると弾倉を弄ぶように回す。



「しかし、君は美琴ちゃん達を守る、そう言ってなかったか?」

「……俺のわがままに過ぎねェ。命乞いしてまで通すモンでもねェだろ」


一方通行はぼそっと吐き捨てる。喉の奥に詰まった痰を吐き出すように、忌々しげに。
旅掛はにっと笑うと、銃を一方通行に突き返す。

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◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/28(土) 00:41:45.88 ID:JL7TpoOM0<>

「止めておく。ナイト様を殺して可愛い娘達に恨まれるのは流石のパパにも耐えられないからな」

怪訝な目をする一方通行に背を向けると、旅掛はひらひらと手を振る。

「さ、早く戻ろうぜ。お姫様達が待ちくたびれてるだろうしな」

スーツの上からでもわかる大柄で筋肉質な背に舌打ちする。

「………何カッコ付けてンだよオッサンよォ…」



旅掛の足が止まる。



「娘ブチ殺されて頭に来てるンだろ?我慢してるのがバレバレなンだよ。同情してンのか?理解あるオヤジぶりてェのか?くははははは、おめでてェなァオイ。

そォやってカッコ付けてる間にも、テメェのガキがどンだけくたばってるのか知ってンだろ?それでも余裕のある大人ってのを取り繕うってのか。

大したモンだなァ……ああァ…テメェにとっては娘は一人か。あとは出来損ないの人形共が勝手にスクラップになっただけだから、キレるまでもねェ ―――」


顎を打ち抜く衝撃と同時に華奢な一方通行の身体が床に叩き付けられた。
勢い良く倒れこんだ一方通行は、顎の痛み、手足の先まで広がる痺れにうろたえることなく視線を動かす。
視界の正面に飛び込んだ満月から視線を巡らせると、眦を釣り上げた旅掛の顔が月明かりを背に見下ろしていた。
色黒の肌は、怒りのせいで赤黒く、青白い月の下では不気味に震えている。
込み上げる笑みを抑えることが出来ず、一方通行は旅掛を嘲笑うように見上げる。


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◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/28(土) 00:43:04.39 ID:JL7TpoOM0<>


「クソガキが……安い挑発くれやがって。ああ、そうだよ。頭に来てるよ。本当はな、てめぇを一万回は八つ裂きにしねぇと腹の虫が収まらねぇ。

何が守るだ。笑わせるなよ人殺しのクソガキが。勝手にテメェに酔って、被害者面なんて虫が良すぎるだろうが。

被験者だか知らないが、お前のやったことはテメェよりはるかに非力な女の子を殺しまくった、ただの虐殺なんだよ。悲劇の主人公だとか勘違いしてるのか?」


革靴がコンクリートを打つ音がゆっくりと近付く。
脳を揺さ振られた痺れが、未だに一方通行から立ち上る力を奪い取っている中、旅掛は投げ出された拳銃に手を伸ばす。
一方通行の髪を掴み上げると、強引に引き寄せる。


「様子見?自惚れるなクソガキ。いつでも殺ろうと思えば出来たんだよ……

「ひ…ひひゃはははは……きひひ―――……やれよ」

「あ?」

「だったらやれってンだよ。御託はいいだろォがよォ…今更……」



額に当たる冷たく硬い鉄の感触を一方通行は静かに受け止める。
カチリと撃鉄を起こす音がやけにゆっくりと震動となって伝わる。


「じゃあ、お望み通り殺してやるよ……人殺しのガキ ―――」


太く無骨な指が引鉄に掛かるのを確認しながら、一方通行は短く息を吐いた。
旅掛は僅かに目を見張る。


引鉄を引いた瞬間、
紅い瞳が安堵の色浮かべた。












「――― なんて言えば満足して死ねたか?」
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◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/28(土) 00:44:40.70 ID:JL7TpoOM0<>

「……何で…」


掠れた声で、戸惑いを露わにした一方通行が旅掛の手の中の銃を見つめる。
掴んでいた髪を離すと、力なく一方通行は崩れ落ちる。
見上げる一方通行の前で、種明かしをするように旅掛が拳銃の弾倉を見せる。


弾丸が一発たりとも入っていない、空の弾倉を。


旅掛が歯を見せて笑う。
シュミの悪い、派手なスーツの袖口から、月光を浴びて金色に輝きを放ちながら六つの弾丸が零れ落ちる。
一方通行は瞬間的に理解した。
先ほど目の前で弾丸を確認していた時に抜き取ったのだ。
唖然とする一方通行の前にしゃがみこむと、旅掛は低い声で唸る。



「甘ったれてるんじゃねぇぞ、一方通行」

「――― ッ」



それは、木原数多のように恫喝するのではなく、叱りつける厳格な声だった。



「償いたいと思うなら、勝手に自分の幕引きを決めようとするな。綺麗な死に様なんてお前に決める資格なんて無いだろうが。あの子達を守ると決めたなら、どんなことをしても生き抜け。

 自分が満足の行く終わりなんて考え捨てちまえ。それが出来ないなら、あの子達に選択を委ねろ。勝手にか弱いだけのお姫様認定するなよ、俺の娘達だ。舐めるな」

 
旅掛は立ち上がると、手にしたままの空の拳銃を一方通行の前に投げ捨てる。


「それすらも出来ないってなら………その時は自分で惨めに幕を引け。おあつらえ向きだろう――― こめかみを撃ち抜くのに」


旅掛は、言葉を一度区切ると、表情を僅かに和らげる。



「けどな、これだけは忘れないでくれ。それでも君がいなければ、あの子達は誰一人助からなかったんだ」


旅掛は今度こそ背を向けて、立ち去っていく。
一方通行は一言も発することも出来ずに、立ち去る旅掛の背中を見ていた。





「あれ、もう終わったの?」

ホテルのロビーで旅掛を待っていたのは美鈴だった。


「美琴ちゃん達は?」
「先に帰らせた。どうせ込み入った男同士の話でもしてたんでしょ?」


敵わないなと旅掛は両手を上げる。
降参だと冗談めかして言う。
美鈴は、旅掛の後ろから一方通行の姿が一向に現れないことが気になるのか、しきりに視線を向ける。




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◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/28(土) 00:51:38.84 ID:JL7TpoOM0<>

「シロくんは?まさか…」

「んなわけないだろ。あの子は仇でもあるが……恩人でもあるんだ」

「うん……」

旅掛はスーツから煙草を出すと咥える。
普段は咎めるはずの美鈴も何も言わない。
深く吸い込んだ紫煙を吐き出す夫の横顔を眺めながら、美鈴はからかうように笑う。

「今からシロくん慰めに行ってこようかしら。ハグしてチュッチュしてナデナデして」

旅掛は眉を顰め、子供のような言葉を用いる妻に窘めるような視線を向ける。


「止めとけ。今は誰にも会いたくないはずだ――― 一人じゃないと泣けないんだよ。特にああいう奴は」


難儀ね、男って。
美鈴が寂しげに笑った。









大きな背中が視界から消えると同時に、完全に力尽きたように、ごろりと寝そべった。


「チクショウ……」


絶好の機会だと思った。それは発作的に湧き上がった衝動であったが、心の何処かで待ち望んでいた瞬間でもあった。


楽になりたい。


心に課した使命。誓い。信念。
そんなものがどうでもよくなる時が、刹那の合間に忍び寄ることが増えた。
噛み締めた歯が軋みを上げる。誰も彼もが生きろと自分にがなりたてる。

潰えていく命。重さに身体よりも心が悲鳴を上げる。
あと一体自分はどれだけ『あの子達が終わるところ』を見続けなければならないのだ。


「チクショウ……チクショウ……」


後悔が重い。

罪悪が重い。

信頼が重い。

月の光すら重い。


「クソッタレが…どいつもこいつも―――……」



衝動的に死なせてもくれない。



見上げた月が目に痛い。
余りにも眩しいせいか、月が滲んで仕方が無い。


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/05/28(土) 00:55:29.48 ID:nk3VELo+o<> 何でこんなにオッサンが偉そうなんだようぜえな <> ◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/28(土) 00:55:40.49 ID:JL7TpoOM0<> 以上で投下終了です。遅くなってすみません。
消えてた部分を書き直したり、書き足したりしていたら遅くなりました。
当初からgdgdするとは思ってたので、すみませんが諦めて下さい。
でも、御坂家の両親って、一方通行の贖罪を扱うなら避けて通れないな…と。

自殺する人の心理は「死にたい」という前向きな衝動じゃなくて、「何かもういいや。生きててもしょうもないし」という後ろ向きな衝動が多いそうです。
あれだけ気張ってる一方さんもそういう時ってあるだろうなと。

それではまた。 ノシ


そろそろ産まないといけませんね……
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/28(土) 00:55:51.20 ID:okA62K6yo<> オッサンだから偉いんだよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(宮城県)<>sage<>2011/05/28(土) 01:01:23.44 ID:bvhsAoqj0<> おっさん最高! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/28(土) 01:01:29.58 ID:okA62K6yo<> 連投スマン。
そして乙。


「一方通行に父親(的役割)がいない」
という事実を再認識させられた。
母親代理、愛人代理、姉代理、妹代理、娘代理はいるのにね。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/28(土) 01:01:56.21 ID:VmQJM2jqo<> 一乙!

>>737お言葉ですが、そう思うなら読まなければよろしいのでは? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/28(土) 01:05:14.22 ID:GnTdoDLVo<> 旅掛さん言いたいこと言ってくれた感じだな
拒否することも逆らう力もありながら自分の意思で実験に参加してノリノリで殺しまくってたくせに
何悲劇の主人公ぶってんだよって感じ
このSSのこの頃の一方さんは自分に酔ってる感があったからこういうこと言う人間は必要だよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長崎県)<>sage<>2011/05/28(土) 01:06:32.93 ID:RerkAnRs0<> 批判とかじゃないけど一方さんがあの時の実験に関してすべて悪いみたいな感じなんでだろうな
美琴とか周りの人の気持ちもわからんでもないけど一方さん責めるなら妹、研究者も責められて当然じゃないのか?って思うんだが妹たちも積極的に実験に参加してたわけだし被害者みたいな感じもおかしくね?って毎回思うんだけどどうなんだろ
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/28(土) 01:06:50.89 ID:Uete4/Pdo<> 乙

親とかおっさんとかよりまず芳川との関係の方が気になってしまった <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<>sage<>2011/05/28(土) 01:08:00.03 ID:X4M1tt9P0<> こっちのSSでも芳川と関係を持った設定なのか… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2011/05/28(土) 01:08:43.82 ID:yGhLS8+oo<> 乙!

過去編だからシリアスな雰囲気が漂ってるな
美鈴さんお母さんだし旅掛さんかっけえよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/05/28(土) 01:13:55.86 ID:nk3VELo+o<> はっきり言って蚊帳の外でしかないオッサンが偉そうにくっちゃべる事自体がありえねえんだよ

過去編とか言い出した辺りで大分嫌な予感はしてたがもう駄目だ
楽しみだったが、残念だ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/28(土) 01:16:24.88 ID:4C09u/WDO<> >>763
研究者たちは論外として、妹たちは感情も未発達で自分の意志も持ってなかったのに実験拒否できるわけないじゃん
自分の意志をしめせない物心もつかない子供を一方的に虐待するのと一緒だよ
まだ泣いたりできる子供のほうがマシ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/28(土) 01:27:31.56 ID:GnTdoDLVo<> >>767
勝手に自分に酔って周りを蚊帳の外に置こうとしてたのは悲劇の主人公ぶってる一方さんじゃん
自分の都合や自己満足で蚊帳の外に置いてたおっさんに説教されちゃって目も当てられないね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/28(土) 01:27:52.06 ID:5GKEC7/IO<> 感情の発達具合に関しては一方通行もある種の未発達な状況だったんだから、一方通行が一方的な加害者ってのは暴論だと思う。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<>sage<>2011/05/28(土) 01:28:33.98 ID:bFEEkG9Zo<> はいはい、キリがないからこの辺にしとこうね、答えなんてないんだから <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/28(土) 01:31:18.87 ID:YwgROuWLo<> >>763
殺人の実行犯と計画した人どっちが主に批判受けるかって言ったら、やっぱり実行犯のが批判は受けるでしょ
要は分かりやすい悪ってのは非難の対象になりやすいんだよ
てか、一方さんだけが加害者なんて思ってるのは本人だけじゃねぇの <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/28(土) 01:31:28.09 ID:r2b3yoPpo<> なんつーか……何回同じやりとり繰り返すの?
喋ってるキャラが違うだけで内容同じだよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/28(土) 01:36:16.05 ID:BZJTRJuRo<> ちょっとでも批判的な書き込みを見るとすぐに擁護がわらわら湧いてgdgdな流れになるな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/28(土) 01:37:32.50 ID:ycfYnzESO<> 納得できない話があったら意見出さずに乙とだけ言うのが上策 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/05/28(土) 01:37:48.16 ID:nk3VELo+o<> >>769
客観的に見ても第三者だろうが
全てが終ってから偉そうに物言うなんざガキとかわらねーよ馬鹿

一方通行もあんまり好きじゃねーけどよ、あんまりにもくだらねー
もう俺は消える、精々独り善がりに頑張っとけ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/05/28(土) 01:38:32.37 ID:nk3VELo+o<> >>769
客観的に見ても第三者だろうが
全てが終ってから偉そうに物言うなんざガキとかわらねーよ馬鹿

一方通行もあんまり好きじゃねーけどよ、あんまりにもくだらねー
もう俺は消える、精々独り善がりに頑張っとけ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/28(土) 01:41:12.45 ID:GnTdoDLVo<> じゃあ俺も消える(キリッ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/28(土) 01:50:41.81 ID:GL6kNoROo<> 何でそんなに偉そうに誰も得しない講釈垂れ流すことが出来るんだお前らはwwwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/28(土) 01:51:45.09 ID:wShn+wJDO<> じゃあ俺も(キリッ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/28(土) 01:56:00.16 ID:hJBiWCDDO<> 自分も芳川との関係が気になるwwww
そこらへんのストーリーも番外編とかで読みたいww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/05/28(土) 01:56:59.79 ID:6yxO7XXHo<> 乙乙

御坂妹で切なく盛り上がったのに、オッサンがちょっとぶち壊しすぎた
> 無力で頼りなく、ズルイばかりの大人
を否定するべき所だろうに
ガキを追い詰めて良い説教したったみたいな大物ぶったドヤ顔を見せて、ダメな大人観を補強するだけの結果に
タバコのエピソードもブチ壊しだにゃー <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/28(土) 01:59:36.69 ID:4C09u/WDO<> >>777
関西流の捨て台詞はレベルたけーな
キリッなんて真似できませんよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)<>sage<>2011/05/28(土) 02:00:23.03 ID:V1stWX+Ko<> 乙でしたー。過去編終わったらまた戻るのかね

>>780
俺も俺も(キリッ

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/28(土) 02:05:05.52 ID:+lqLdcaDO<> これ……フィクションだよ?
まぁこれだけ感情移入させられるのは>>1の文章力か <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海)<>sage<>2011/05/28(土) 02:15:01.00 ID:OEjXHkHAO<> 一方通行は自分が悲劇の主人公だと考えてないし、
御坂父は自分に本当にその罪を責める資格があるとは思ってないんじゃないかと思う
子供がもう無理だと泣いて、親父がお前なら出来るはずだと、背中を押しただけの話なんだよ

しかし一方通行はとかく殴られることが多いな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2011/05/28(土) 02:21:37.03 ID:AZ9jK3tBo<> これは誰かが一方通行殴らないと駄目だろ……
いつもなら上条さんが自分の暴論振りかざしてはい終わりなところをおっさんが汚れ役やってくれたように見える

まあ何が言いたいって>>1乙なんだけどな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/28(土) 02:38:29.39 ID:Kz40RCbDO<> 一方通行が悪とか被害者とかそんなんどうでもいいが、二次で作中キャラに説教なんてさせたらどんなSSでも荒れるよね
原作キャラへの説教なんてどう書いても作者の代弁になっちゃうから仕方ないんだけどさ <>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/28(土) 03:04:58.32 ID:JL7TpoOM0<> 目が冴えてしまったので、少しだけ続き投下。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/05/28(土) 03:09:16.94 ID:LXf4n9fBo<> 辞めろよな、関西を貶めるの <> ◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/28(土) 03:10:49.30 ID:JL7TpoOM0<>


居心地の悪い空間は何処かと問われれば、今までの一方通行であれば迷わずこの二つを上げていた。


一位、ブティック。二位にファンシーショップ。

しかし、この度めでたく一位は更新されることとなった。


それは、産婦人科の待合室。


自分でも悪人面という自覚はある。あるが故に、自分にお似合いの場所と、場違いな場所もわかる。
例えば、スキルアウトが血反吐を吐いてのた打ち回るような路地裏。
娼婦がM字開脚で手招きしていそうな、爛れた歓楽街。
血と硝煙が鼻先にこびりつく様な瓦礫だらけの戦場。
そこであれば、この悪人面はさっくりと当てはまるだろう。成金マダムに金糸刺繍入りの真っ赤なスカーフ並みにお似合いだ。
しかし、此処はそれらの血なまぐささとは対極だ。
産まれて来るだろう子供を心待ちにする女性達は誰しもが聖母かくもや、といった穏やかな表情を浮かべ診察を待つ。
はっきり言って、相当居心地が悪い。

それでもまだ、自分を恐れるような空気が辺りに漂っていれば話は別だろう。
所詮は俺は闇の世界の人間、光の世界の連中とは相容れない存在だ、などと悪党流自己陶酔に浸ることも出来る。
しかし、この病院に訪れる妊婦の方々はそんな学園都市第一位の予想を軽やかに奪ってくれる。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/28(土) 03:15:28.04 ID:JL7TpoOM0<>

「なァ…一つ聞いてもいいか?」
「何よ?」
「なァンで俺が付き添わないといけねェンだ?」
「アンタ研究終わって暇なんでしょ?ゴロゴロするだけなんでしょ?」
「人をニートみてェに言うンじゃ…」
「うう〜腰痛い〜〜さすって〜」
「テメェ、聞け」
「守ってくれるんじゃなかったの?子供ごと」
「…………」



顰め面をますます険しくして、一方通行は黙々と美琴の腰の辺りに手を触れてさすってやる。



『あらあら、素敵な旦那さんね』

『セロリたん。ミサカにはバストアップマッサージでお願いします』

『ウチの人なんて、全然付き添いに来てくれないのよ』

『いいわね〜あんなに大事にされて幸せな奥さんだわ』




聞こえてンだよクソッタレ共がァ!!

そういっそ叫びたかった。
聖母の如き眼差しに包まれながら、甲斐甲斐しく腰をさすってやっている自分をいっそいじらしいと思ってもバチは当たらないはずだ。
前言撤回。守るとは言っても、ここまで面倒を見るなど、そもそも自分のガラではない。
クールで尖がっていた頃の自分を思い出せ。
そう、あくまでも自分は影ながら守るとか、そういうキャラクターなのだから。今度から付き添いは御坂妹でいいじゃないか ―――



                  ――― という葛藤を繰り返すのは果たして何度目だろうか。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/28(土) 03:16:30.30 ID:JL7TpoOM0<>


「ああ〜気持ちいい〜〜って、アレやってよ、ベクトルマッサージ」

「テメェ、図々しくなり過ぎだろォが……」


文句を言いつつも一方通行がチョーカーに指を掛けるのを視界の隅で捉える。
美琴の身体に、暖かな『流れ』とでも呼べるものが循環していくのがハッキリと感じ取れる。
体内電流も操作して、血行を良くしてくれているのだ。何だかんだとしっかりと腰をさすってくれる一方通行に、美琴はこっそりと笑う。
基本的に生真面目なのだ。素直じゃない上に言葉遣いが壊滅的に悪いからわかりにくいだけで。
すっかりと目立つようになってきたお腹を美琴は撫でる。
特に意味があるわけではないのだが、外見上はっきりと変化が生じるようになってから気がつけばこれが癖になっていた。
それもそのはず、暦は夏を終え、九月に切り替わった。

九月現在、美琴は長点上機を“卒業”している。
従来の高校と異なり、長点は優秀な成果を上げさえすれば、卒業に出席日数は絡まない。
籍だけを置いた某もやしと某メルヘンが留年することなく卒業しているというのが良い例である。
それでも、すぐに卒業を選ばないのには幾つか理由がある。
出席日数を大幅に免除される者は、長点上機においても殆どが例外中の例外であるということ。
そして、長点上機の実験設備に比べれば、一流とされている企業の研究室の機器でさえも時代遅れと言われているからである。
より深く、納得の行く研究を行う為に、出席日数を免除されている生徒であっても、卒業時期ギリギリまで在学し続ける。
そのような生徒は授業には出ずに、大概研究室に直行なのであるが。



「子供出来ちゃったんで、産んで来まーす!!」


というあっけらかんとした一言と共に件の研究室入りを早々に辞退した美琴。
馴れ馴れしく近付いてきたボンクラOBを軽くビリビリとやり、教授に改めて自分の実力で大学には入りますと宣誓してきた美琴。
自分を信頼し、支えてくれる人間がいるという安心感を得ると、この少女は基本的に開き直り、図太く、そしてしなやかな強さを発揮する。
教授は呆気に取られたものの、高校生で妊娠したという事実に少しも疚しさを見せない美琴に幻滅するどころか、好感を抱いたのは白井黒子の言うところの『カリスマ』というものであろう。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/28(土) 03:18:01.82 ID:JL7TpoOM0<>

今年は例年に比べて残暑が厳しいという。体調には気をつけねばならないなと、美琴は手にした雑誌をぺらぺらと捲り始める。

妊娠六ヶ月目。

比較的重いつわりを乗り越え、御坂美琴はすっかり妊婦として落ち着きを持ち始めていた。

初春と佐天が選んでくれた蕩けるような淡いピンクのマタニティーワンピースが清潔な美琴の空気にやわらかさを加味している。


ちなみに余談であるが、白井が選んだマタニティーワンピースは背中が大きく開いた大胆なセクシー系であった。
美琴としては、中々可愛らしいデザインであったのだが、そこで自称保護者の待ったが掛かる。
『学園都市の白い悪魔』こと、一方通行だ。
身体を冷やすという判断の下結局セクシーマタニティーはベクトルパンチと共に白井に突き返された。合掌。
一方通行にマッサージをさせながら、雑誌を捲る美琴の手が止まる。
一方通行に見えるように膝の上にページを開いたまま乗せる。



「コレ美味しそう〜今度作ってよ」

「……言っておくがな、六ヶ月目は別段二人分のカロリーを摂る必要はねェンだからな?」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………あ、茄子いいわね〜この前タジン鍋買ったじゃない?この蒸し鶏のやつ食べたい」

「オイ、コラ」



さも当然のように人に手料理をねだるとは、どういう了見だ。
大体、最近少し食べ過ぎだろ。
というか、妹達に作らせろ、俺ばかり家事スキルが高くなるとかどういうことだ。
等々の文句を舌の上に乗せ終えたところで、美琴にとっての救いの手、一方通行にとっての邪魔者の横槍が入る。



「御坂さん。御坂美琴さん」

「あ、ハイ」



わざとらしい軽やか且、取り澄ました声。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/28(土) 03:19:29.90 ID:JL7TpoOM0<> この野郎と睨みつけるものの、最早一方通行の眼力など慣れきった美琴は余裕で澄ました顔をする。


既に立派な妊婦となった美琴は立ち上がるだけでも一苦労だ。
重たいお腹を刺激しないようにゆっくりと腰を上げる美琴の手を一方通行は握ってやると、優しい力加減で引っ張り上げる。
僅かに頬を上気させた美琴が、「ありがと」と照れ臭そうに笑う。
笑いこそしないが、一方通行は妹を叱るように棘の無い声で「さっさと行け」とぶっきらぼうに言い放つ。


「可愛いらしい奥さんですね」

「あァ?」


美琴が診察室に入るのを見届けていた一方通行に、妊婦の一人が声を掛ける。
柄の悪い返答に怯むこともなく、にこにことした笑みを浮かべているのは、特段妊婦が豪胆だったからではない。
その証拠に、待合の椅子に腰掛ける妊婦は誰もが微笑ましそうに瞳を細めて一方通行を見ている。
名状しがたい居心地の悪さは、アドリブに弱い一方通行をただ困惑させる。
返答に困っているところに追い討ちのように言葉をかぶせる。

「何ヶ月なんですか?」

「六ヶ月……」

嘘を言う必要も、無視をする意味もなく、一方通行はグループの人間が見れば戦慄する程に素直に答える。
『六ヶ月』という言葉に、何か意味でもあるかのように口々に言い合う妊婦。
バケツリレーのように、或いは伝言ゲームのように端から端へと伝えられていく『六ヶ月』。
不愉快でも苛立たしくも無い、この独特の空気。
黄泉川家に行って、家族と認める者達と過ごす団欒とも違う空気に、一方通行は未だに慣れることがない。


その空気に相応しい名――― 『祝福』と呼ばれるもの ―――を彼は知らないからだ。

知らないもの、解析出来ないモノには対応出来るはずがない。




<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/28(土) 03:20:24.57 ID:JL7TpoOM0<>


「そうなると二月ですね」

「二月 ――― ああ……」


子供の予定日だ。


「男の子ですか?」

「女だとか」

「あら、きっとご主人に似ても、奥さんに似ても可愛らしいですよ」


それは本音だろう。
美琴の容姿は、待合室にいるどの妊婦よりも勝っている。それも圧倒的に。
自分の子供でもないというのに、どうしてこんなにも彼女達はにこにこと笑っているのだろうか。
余りにも不思議な為、夫婦であることをきっちりと否定するタイミングを逸した。
話題が次第に自分達の体験談へと移って行くことに安堵しつつ、美琴が読んでいた雑誌をぺらぺらと膝の上で捲る。

袖口の銀色のカフスを指で弄びながら、気付けば一方通行は美琴が食べたいと言っていたレシピを頭に入れていた。

これもまた、この数ヶ月の間に自ずと身に着いた習性であったりする。






<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/28(土) 03:22:55.25 ID:JL7TpoOM0<> 以上で投下終了。
旅掛さんあたりで重苦しいゾーンを抜けて一安心してます。
グルグル鬱々を抜けたので、あとは駆け足で行こうと思っています。

それでは。 ノシ
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/28(土) 03:24:44.98 ID:wShn+wJDO<> 乙乙ー

何故20000号が産婦人科にいるwwwwwwww

そして着々と家庭的に調教される一方通行ェ・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(中部地方)<>sage<>2011/05/28(土) 03:26:29.82 ID:8FsakbJ6o<> 乙です
流されてるなーwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/05/28(土) 03:37:02.73 ID:LXf4n9fBo<> 今まででトップクラスのニヤニヤポイントだった <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山陽)<>sage<>2011/05/28(土) 03:45:13.96 ID:NLvWDcxAO<> おい変態が紛れ込んでるぞwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/28(土) 05:42:57.98 ID:eHVVZ27No<> 20000号wwwwww

あとは産む前のマタニティブルーぐらいか、鬱っぽくなりそうなの
でもこの美琴はブルーになりそうにないし、なっても立ち直れるだろうから大丈夫か
産んだ後に世間の目がどうこう、ってのもありそうだけど <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2011/05/28(土) 06:14:56.28 ID:yIhLFOEeo<> 男二人のガチ喧嘩だねえ。
落とし所は一通さんにとっては生き地獄だけどそれは彼の脳内シリアス回路部限定だっつう。
ってかヘタレすぎんだろ御坂一族がふてぶてしいのはわかるけどそれ守るじゃなくて乳母だから!NOといえない一方通行!
あと黒子ェ… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/28(土) 07:41:08.86 ID:6PRnFq0DO<> どこにでも生えてきやがる20000号のブレない変態っぷりに俺の腹筋がヤバいw

これだけ葛藤を繰り返しながらも、未来でも想ちゃんの父親相手に一悶着起こして
しまうあたりが一方さんクオリティ。だがそれでこその一方さんでもあるんだよな。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東)<>sage<>2011/05/28(土) 08:16:16.34 ID:S5kfWpjAO<> 変態って素晴らしいね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県)<>sage<>2011/05/28(土) 09:31:23.03 ID:RaKopO000<> 20000号はスネークに弟子入りしたかと思うくらい潜んでるなww
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/28(土) 12:07:22.98 ID:32DnFa7ho<> 20000号に全部持って行かれるww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<>sage<>2011/05/28(土) 14:50:22.68 ID:X4M1tt9P0<> やっぱりこうゆうほのぼのが一番良い <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/05/28(土) 17:02:11.03 ID:rq/Yr4Duo<> オッサンにとってはきっと一方通行を糾弾したいわけでも救いを与えたいわけでもないよね
娘たちにとっての一方さんの存在を考えたうえで必要だから利用しようとしてるんだよね
だから楽になるための自殺衝動を窘めて娘の為にその命を使うことを強要してる
そのうえで一方通行の行く末を一方さんや娘たち子供に委ねているしその結果を受け入れると思うんだ
説教が偉そうに見えるのも結局お前次第だよって難しい立場からの精一杯のヒントだよね

という自己解釈妄想をしている
ていうか大人が物知り顔でウザイのは創作物全般における常みたいなものだと思う <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(三重県)<>sage<>2011/05/28(土) 17:06:46.46 ID:MCn/K2tj0<> 2行にまとめて <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2011/05/28(土) 17:12:40.74 ID:vZlGbaE10<> 原作でも打ち止めがそうだけど、このSSにおける一方通行は妹達から相当の信頼を勝ち得てる。
原作後の世界っていうのもあるし、美琴が妊娠した時に真っ先に10032号が頼ったところからも伺える。
何より殺されかけてた10032号自身が一方通行を許してもいいんじゃない?みたいなこと美琴に言ってる。
これでもかってくらい内罰的な一方通行には、優しく受け入れられる方が寧ろ辛かったんじゃないだろうか。
どいつもこいつも甘ちゃんが、みたいな苛立ちを匂わせてたし、誰かにはっきり「人殺し」と言われることを望んでた所があったように思えた。
旅掛はそれをくみ取った上で、尚且生きろと叱咤してやったんじゃないだろうか。

とりあえず、ちょっと吹っ切れた感じがしたので、一安心だ。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(沖縄県)<>sage<>2011/05/28(土) 17:15:17.48 ID:EOD+UjdBo<> まあ、男親ってのは損な役回りってことさ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/28(土) 17:53:31.33 ID:7Y7XflMIO<> まぁ結局>>1乙って事だろ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北陸地方)<>sage<>2011/05/28(土) 21:59:02.64 ID:FEHRf32AO<> 要は20000号マジぶれねえってことだろ?
わけのわからないレスばかりでイライラしてしまったからほのぼの話に癒やされた <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/28(土) 22:03:36.15 ID:xGckwVuH0<> 乙

くそwwいい感じにしんみりしてたのに二〇〇〇〇号wwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(三重県)<>sage<>2011/05/29(日) 17:05:58.23 ID:L+cGo+RF0<> 乙
レス長いよ 感想文じゃ無いんだから <> sage<><>2011/05/30(月) 07:45:14.05 ID:690vbD2I0<> ベクトルマッサージwwwwww
某ssへのオマージュかしら?

この頃、一方さんはどんな気持ちで赤ちゃんの事を待ってたんだろう…?

って考えてたら、エルレのGood Morning Kidsに辿り着いた。
自分の中ではもはや 一方通行「いい子にしてたかァ?」 のテーマ曲 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2011/05/30(月) 08:00:16.47 ID:FI8VZbgAO<> >>817
チラシの裏にでも書いてろカス <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/05/30(月) 08:48:11.40 ID:BP6qMMs+0<> >>817
勘弁願いたいなこういうやつ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/05/30(月) 19:01:23.94 ID:AKsT+1Nt0<> セロリたんがペロペロ出来ればもう何もいらないです、とミサ(ry <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/05/30(月) 19:38:26.44 ID:KhyTSMKJ0<> sageて下さい、とミサ(ry <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)<>sage<>2011/05/30(月) 21:55:32.26 ID:r/CiydD00<> 一位二位三位が長点か…
圧倒的じゃないか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/30(月) 23:01:00.32 ID:plQS9C2wo<> >>822
軽くロシアに勝てるレベル <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東)<>sage<>2011/05/31(火) 06:28:53.53 ID:nrvSWsAAO<> ロシアには世界最強の変態がいるからどうだろう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/31(火) 08:53:34.83 ID:AklBIeU30<> その変態は一方さんに調教されきってるけどなw <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/31(火) 13:03:12.01 ID:1DfWZYiDO<> ワシリーサのことじゃね?
20000号可愛い雑談 <>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/31(火) 22:15:30.06 ID:0lmuhAkw0<> 今から投下します。よろしくです。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2011/05/31(火) 22:17:29.15 ID:7WJrQfap0<> フウウウウウウ!!! <> ◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/31(火) 22:17:43.11 ID:0lmuhAkw0<>

「もうお腹蹴ったりするんですか?」

「うん、もう蹴る蹴る。元気過ぎてびっくりしちゃう」

「女の子なんですよね」

「相当お転婆になるかもね」

視線で伺いをたてると、御坂美琴は笑顔で頷く。
初春飾利がそっと美琴のお腹を撫でると、お腹の中の命が手のひら越しにはっきりと己の存在をアピールする。
ドッヂボールが入っているのかと尋ねたくなる程、美琴のお腹は膨らみ、彼女が妊婦であることを疑う者はいない。


「お姉様。こちらのシャツはもう捨ててしまってよろしいのですの?」

「お願い。ちょっと伸びちゃったからね」

「…もったいないですわね」


白井黒子は洗濯物の中から必要とする物を畳み終え、不要として捨てる物により分けた服をじっと手に取ってながめる。

「白井さん。勝手に持ち帰っちゃったらダメですよ?」

「な、なな、何を仰いますの初春。なんのことやら私にはさっぱりですの」

「そんなこと言って、物欲しそうに見てましたよ?」

「酷いですの!言いがかりですの。ちょっとクンカクンカしようかなぁと思ってたりしただけですの」


((持ち帰るきだったんだやっぱり…))


向けられる視線の冷たさに気づき、白井は更なる墓穴を掘る。

「淑女たる私が、そんなお姉様の香しいスメルが染み着いてるとはいえ、タッパに詰めて持って帰るとか考えてもいませんの」

賢く、気高く、そして残念な後輩に美琴はにこやかに言い放つ。


「黒子〜アンタ今までみたいな行動をいい加減自重しなかったら赤ちゃん抱っこさせてあげないから。つーか近づかせないから」

「ひぃぃー!!殺生ですのお姉様。乳母るき満々ですのに!!」

「じゃあ自重しなさい。。それともアイツからまたベクトルパンチ食らう?」

「ーーー!!!」

鶏を絞め殺したような悲鳴を上げる白井。
両手の頬に手をあてて絶叫する様子はムンク作「叫び」のごとくである。



<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/31(火) 22:20:27.87 ID:0lmuhAkw0<>


リビングの姦しさに顔をしかめつつ、一方通行は小皿にとったスープを佐天に差し出す。

「ん…」

健康的な薄桃色の唇をほんの僅かに尖らせてスープをちゅっと啜る。
佐天の横顔を見つめる一方通行の瞳には緊張感漲っている。

「んーーちょっとしょっぱいですね。塩多かったんじゃないですか?」

はい、残念でしたと言うように眉を寄せる佐天の手から小皿を受け取ると、一方通行も倣うように口を付ける。
自分の口を付けたところに一方通行の唇が触れたような気がして、佐天は少し落ち着かない心地になる。


「ちょうどいいじゃねェか」

「一方通行さん濃い味好きでしょ。一方通行さん的に若干物足りないくらいが丁度いいんです。

 特にスープとか煮物は時間が経つにつれて味が深まっていくんですから。

 作りたてで丁度いい塩加減だと思ってると、次の日しょっぱくてびっくりすることもあるんですよ」


佐天の言葉に、思い当たるところがあったのか、一方通行は顔をしかめつつも、憎まれ口一つ返さない。


「そういえば冷蔵庫のレバーのディップって一方通行さんが作ったんですか?」

「まァな」

「どういう感じに食べるんですか?」

「焦げ目が付く程度に火で炙ってパンに塗って食うのが妥当だな」


簡単にパンと口にしたが、この男が何気に食べているパンが一斤800円もする物だと言うことを佐天は知っている。
無能力者の一人暮らしの高校生には、超高級品なのだ。

「ああいうのは上手いですよね。単純な煮物が苦手なのに」

「レシピが詳細なやつは何とかなるンだよ」


再度自分の作った煮物の味を舌の上で転がし、納得がいかないのか首を傾げた。
佐天は不思議な気持ちになる。
学園都市第一位に自分が物を教えることになることが信じられなかった。


「それにしても、気になるなぁ」

レタスをちぎりながら佐天はぽつりと呟く。

「あれだけ想い上げてた人がいなくなったのに、案外切り替え早いですよね」

「ズルズル引っ張って欲しかったのか?」

「そうじゃないですけど…ただ、何かきっかけでも無いとあんな風にさばさば切り替えられるとは思えなくて。何か知ってます?」

「……さァな…」

「怪しい〜」

「うぜェ。顔近づけンな」


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/31(火) 22:24:42.32 ID:0lmuhAkw0<>
一方通行としては誤魔化してるつもりはない。
一方通行とて戸惑っているのだ。
自分自身が何度も何度も同じ悩みにぶつかり、ぐるぐると葛藤を繰り返す一方通行にとって美琴の気持ちの切り替えの早さは理解不能に近い。
美琴にとって上条がかけがえのない程大切な存在なのは確かだ。
実験の時といい、真っ直ぐで情の濃い女だと、美琴を捉えていた。
だからこそあそこまできっぱりと、過去は過去だと、区切りを付けられるものなのだろうかと不思議に思う。

「しかし、きっかけ一つでああも切り替えられるもンかよ」

「御坂さん結構ドライなとこあるから」

「はァ?正反対だろアイツは」

佐天はわかってないなぁ、この人と言いたげな半目を向ける。
美琴は確かに情に厚い。ウェットな性格と取られがちであるが、佐天の見るところその逆だ。
というよりも、一度自分の中できっちりと割り切ってしまうと、ドライに徹することができるのだ。

濡れたグラスを綺麗に拭った後には冷たい硝子の感触だけが残るように。

それは孤独に慣れた人間共通の性質である。

そして、それは目の前の男にも似ているのだ。


「まだまだですよね、一方通行さんも」

「何この感じの悪さ。スゲェムカつくンですけどォ」






「あの二人ちょっといい感じじゃありません?」

初春が声を潜めて美琴に耳打ちする。
過多を並べて台所に立つ姿は、確かにお似合いと見えないこともない。

「まぁ…そう見えなくもないわね」

三つ編みにした背中まで伸びた鳶色の髪の先を指でいじりながら美琴の返事は彼女たしくなく歯切れが悪い。
落ちかけてきた前髪を薄緑色のクローバーのヘアピンで留める。ずいぶん伸びてしまった。
出産したらまず髪を切ろうと美琴は思う。
きっと、出産を終えた後は、髪はバサバサになるだろうし、ちょうど良い。
美琴はハチミツときなこを溶かしたホットミルクを啜った。


「ですよね。白井さんも思いません?」


美琴の肩を揉んであげていた白井は、台所に立つ華奢な背中を見る。


「未だに信じられませんわ。あのお手伝いさんにしか見えない方が第一位様だなんて」

「白いブラウニーみたいですよね」

「……白い時点でブラウニー違いますの……」


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◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/31(火) 22:26:29.55 ID:0lmuhAkw0<>
「悪人面だけど、結構面倒見良い奴よ?」

「そうですよ。レベル5だからって普通の人と変わりませんよ」

「さっすが、レベル5の彼氏がいるだけに説得力満点ね」

「ですわね〜」

チェシャ猫のように三日月のように口をつり上げた美琴と白井の笑顔に、初春ははっとする。
しまったと顔色をさっと変えたが、既に遅い。

「散々嫌がってたのに、遂に押し切られちゃったか」

「元々満更でもなさそうでしたの」

「ああ、気になるからあえて素っ気ない素振りを見せると」

「相手の気持ちを試すように、ホント、あの時期の垣根さんは気の毒なくらいでしたの」

「ああ、もうアイツ尻に敷かれるの決定じゃない。初っ端からそんな下手に出てるんじゃ」

「いえいえ、それがお姉様。初春が素っ気なくする程燃えられる達のようで」

しみじみと言う友人の言葉に初春は林檎のように顔を赤くする。

「もう、私のことは良いじゃないですか〜!!」

初春の叫びとは裏腹に、この後、二時間かけて根ほり葉ほり聞き出されることになった。







ベリーショートに切っていた髪は、夏を過ぎ、秋を経て、嘗ての長さにまで戻っていた。
今では、ずいぶんと伸びた前髪を、気に食わないが、信頼してやっているもやし野郎を財布代わりに買わせた四つ葉のクローバーを象ったヘアピンでサイドに留めている。
想い人が死んだと聞かされた時に(後に偽装だと聞かされたが)ばっさりと切ったのは、心境の変化というよりも、恋する乙女は失恋すると髪を切るという古い習わしを耳にした為による好奇心故であった。
いざばっさりと切ってみると、「あれ?ミサカいけてね?」と予想外のハマりっぷりに気を良くした。
それが、今では伸びるがままにしているのは、再び伸ばそうとしているのではなく、切る暇が無いからだ。

10032号が美琴の研究を少しでも進めるべく、彼女の研究資料を端末に移し、絶えず目を通すようになったのは美琴が卒業を確定させてからのことだ。
8月からこの4ヶ月、少しでも美琴の役に立てるように、10032号は彼女の研究、実験経緯、論文、果ては日誌にまで詳細に目を通していた。
そうしなければ、美琴の頭脳に追いつけないからだ。
美琴が復帰するまでの間に、彼女の助手になれるようにする。
今まで特別な夢や目標を持たなかった彼女に初めて生まれた明確な目標は、彼女を彼女自身が思うよりも奮起させた。


「テメェ!!何で塩ひとつまみをひとつかみにしてるんだよ」
「ちょ、ちょっとしたミスだもん!!番外個体こそチョコをひとかけらってあったのに、さっき何か不吉なもの入れてたよってミサカはミサカはカレーらしからぬ甘い香りのする鍋に不安を抱いてみる」
「ち、違うし。アンタが変なことやってるからミサカうっかり入れちゃっただけだもん。ミロを一瓶程」
「それうっかりじゃない!!ただのバカだよってミサカはミサカは愚妹の愚妹っぷりに目眩を覚えたり」


仲良く喧嘩するという言葉があれほどぴったりな関係があるのだろうか。
10032号は今更キッチンを貸してしまった事を後悔する。
料理を教えて欲しいと突撃をかましてきたのは、10032号がようやく睡眠に就いてから2時間後。
中途半端な睡眠による苛立ちと、煩わしさから10032号は親指でキッチンを指さすと、一言こう言った。

「まずは、どれだけできるのかをミサカに見せて下さい。料理は何でも構いません。まぁ、カレーなんて無難じゃないかと、ミサカはさりげなくローリスクの道を提示します」

誰が作ってもまず、失敗はしない。
おいしくなくとも、特別不味くならない料理の筆頭を彼女たちに提示したのだが、
父親が本格的に姉にかかりきりになったことで、いよいよ自立を迫られているという風にも見えるが、
実際のところは、一方通行の為に料理を上手くなりたいというなかなか健気な動機だ。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/31(火) 22:28:16.23 ID:0lmuhAkw0<>
結論から言えば、一方通行が研究の末にたどり着いた治療法は正解であった。


疲弊した細胞を活性化させ、アレイスターによって狂わされていた妹たちの細胞を正常に、安定化することが出来た。
冥土帰しや芳川と協力し、ランダムに見える罠に存在する法則を見つけ出したからである。


しかし、一つだけ問題があった。


それは決して死滅した細胞を復活させるものではないという点。
つまり、処置が手遅れであった場合は効力を持たない。


「でもさ…」
「何?番外個体改まって」
「よくチョコレートとかハチミツ入れるっていうじゃんか」
「確かに…林檎とハチミツ恋をしたって歌ってるねってミサカは昔懐かしのCMを口ずさんでみる」
「だったら、甘いカレーって結構うまいんじゃない?」
「ミサカ甘口大好き!」
「ミサカも」
「じゃあ、行けるかな」
「行ける…かも」



「行けねぇよ、とミサカは小さくツッコミを入れます」


端末を切る。

良かった、10032号は心から安堵する。

妹達の現状を知り、塞ぎ込んでいた打ち止めが元気になってくれていることが、彼女を深く安心させる要因であった。
打ち止め、番外個体、そして10032号。
間に合った妹たちは5000人。正確には4971人。
彼女達に知らせることを渋っていた一方通行を説き伏せたのは、冥土帰しであり、芳川であった。


「よぉーし、何かカラーリングがデンジャーな感じだけど完成ってミサカはミサカは破れかぶれに言ってみる」

「行ける行ける。いつまでもメシマズとかあのクソ馬鹿に言われてる場合じゃないしね」

「10032号、食べよ〜」



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◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/31(火) 22:30:41.21 ID:0lmuhAkw0<>

やれやれと、10032号は胃薬の場所を確認する。
せっかく可愛い妹達が作ったのだから、食べないわけにはいかない。

「とりあえず、このチョコレートの甘い香りについて聞きたいのですが?」

「隠し味ってやつ?」

「隠し味とは、普通に完成品を作る技術を持って初めて進むことの出来るステップのはずですが?
 
 とミサカは暗にレシピ通り作れよと馬鹿妹二人を侮蔑のまなざしで見ます」

「酷い!!」

「上等だよ、クソ姉。食べて吠え面かくなよ?」



彼女たちが間に合ったのは、一方通行にとってまだ救いであっただろう。


妹達の総意で、美琴にも事実を告げた。一方通行は最後まで強行に反対していた。
美琴が子供を産むまでは、と。


「まったく、ミサカも、お姉様もそんなに弱くありません」


いい加減あの過保護っぷりはどうにかならないだろうか。
少しは自分達の強さを信じて欲しい。現に、打ち止めは立ち直っている。
こうして一方通行を元気つけようと料理を必死に覚えている少女達を見ながら10032号はカレンダーに目を向けた。


「あと……二ヶ月ですか」







「はうぅぅぅ…超可愛いです〜〜」

絹旗最愛は頬を両手で押さえながら目の前の小さくて柔らかな生き物を見つめる。
両手で頬を押さえているのは、そうしていないととろけ落ちてしまいそうだからだ。

「かっわいい〜〜」

御坂美琴もまた、絹旗の隣で目を輝かせていた。
二人の少女が見つめるのは、小さな小さな無垢な存在。
生まれて間もない赤ん坊であった。
赤ん坊は、優しい腕に包まれて、熱い視線に曝されながらも寝息を立てている。
母親の腕の中が心地よいのだろう。
赤子の母親、滝壺理后ははにかむように微笑みを浮かべる。
薔薇色に鮮やかに染まった頬には、体中の栄養を奪われたかのような疲労が未だに色濃く浮かんでいるものの、
母親としての満足感と、出産を終えた達成感にあふれている。


絹旗はそれを憧憬の目で、美琴は敬意の籠もった瞳で見つめる。


11月の半ば、滝壺理后は無事に男児を出産した。
今は先月建ったばかりのマンションに三人で暮らしている。
新築の高層マンション。最新式セキュリティを誇るマンションの家賃は本来ならば浜面の薄給で賄えるものではない。
滝壺の出産を期に、親船の斡旋で入居したのだ。


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◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/31(火) 22:33:37.91 ID:0lmuhAkw0<>
「抱っこしてもいいですか?」

「うん、まだ首すわってないからこうやって首を支えてあげながら…」

滝壺の言葉に従って、絹旗はおそるおそる赤ん坊を受け取る。
こわれものを抱くように、細心の注意を払って受け取ると、絹旗の顔が見る見る輝く。

「あふぅ…超柔らかいです。超温かいです。超可愛いです」

「うう〜いいなぁ〜」

「わ、私にも抱っこさせてくれない?」


二人の少女少女し空気に気圧されるように、一歩後ろに下がっていた麦野沈利は、おそるおそる絹旗の腕の中の赤ん坊に近づく。

麦野一歩近づくと同時に絹旗が一歩下がる。


「………」

「………」


更にもう一歩近づく麦野。もう一歩下がる絹旗。

「…………」

「…………」

更にもう一歩近づく麦野。もう一歩下がる絹旗。


「おいいぃぃーー!!テメェ何してんだ絹旗ぁぁぁ!!」
「声でけぇです。超起きちゃいますよ」
「うぐッ…何で下がるのよ」

トーンを下げつつ、恨めしげに見つめる麦野。
なまじ大人びて整った顔は、下から見上げると気合いの入ったメンチを切っているように見える。

絹旗が更に下がる。麦野の眉がぴくりと動く。


「きぃぃぃぬぅぅぅはぁぁぁたぁぁ?」


「だ、だって…未来の超美人保母さんとしては赤ちゃんが赤/ちゃんになるのは見過ごせないというか」
「するか!!ただ抱きたいだけだって空気でわかるだろ」
「抱きしめる腕に力入れすぎて赤ちゃんが赤/ちゃんに…」
「しねぇよ!」

滝壺の赤ん坊を取り合って麦野と絹旗がにらみ合いを始める。


「もうみさかはつわり収まった?」

「え、ああ、はい。っていうか放っておいていいの?」

「いいのいいの」


器用に小声で罵り合う二人を気にもせずに、滝壺はのほほんと笑う。


「むぎのは優しいから。きぬはたもわかっててやってるだけ」


戦況は徐々に麦野に傾きつつある。
赤ん坊を起こさぬように抱っこする絹旗と、ナチュラルボーン・プレデターの麦野では獲物を賭けての勝負は、最初からわかりきっていた。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/31(火) 22:36:47.67 ID:0lmuhAkw0<>
「げっとーー!!」(※小声です)
「チィイイイ!!超shit!!」(※小声です)

奪い取ると同時に、麦野は絹旗よりも依然として一歩上を行く膨らみは、薄手のセーターを大きく盛り上げる。
隆起した弾力のある枕に包まれて、赤ん坊は相も変わらずくぅくぅとかわいらしい寝息を立てている。
嘗ての麦野を知るものならば己が目を疑い、次に脳が正常であるかを疑わずにはいられないであろう表情を浮かべる。

「うわぁ…ふわふわじゃん。ふふふ、アンタ良かったわね、ママに似て」

麦野は慈しみに満ちた笑みで腕の中の赤子を見下ろす。
母親の面影を既に漂わせる赤子に、将来女泣かせになるね、これは。
などと絹旗と楽しげに言い合っている麦野に、美琴は信じがたいものを見たように目を丸くする。
滝壺は驚愕することもなく、だから言ったでしょ。ね?と言いたげに笑っている。





「お風呂に入れてやるのは俺の仕事でさぁ」

女ばかりの空間が居心地が悪いからとベランダに出てきた浜面に子供と妻への惚気を聞かされること早一時間。
煙草を吸いながら一方通行は自分の忍耐強さに感心すら覚える。
12月も目前に迫り、吐く息には煙草の煙の乾いた白さに湿気を帯びた白さが混ざる。

「頬っぺたを撫でてやるとにぱぁって笑ってさ。それが何処か理后に似てて可愛いんだわ。もう食べちゃいたいくらい」

「ふゥ〜ン」

浜面の言葉を聞き流しながら、一方通行はここ数ヶ月の慌ただしさに思いを馳せる。

研究が終わり、小難しいデータの海を睨んでいた時間の幾らかが包丁を握る時間、買い物をする時間、スープをかき混ぜる時間に変わった。
美琴と自然と言葉を交わすことが増え、彼女のマンションに足を運ぶ機会が増えた。
打ち止めや番外個体、10032号、時には佐天や美琴の友人と共に訪れていた回数よりも、
一人で訪ねることが増えた。
布束砥信は一度も同行しなかった。誘っても彼女は決して美琴のマンションに足を踏み入れなかった。
それが布束の決めたルールならば、一方通行から言うべき言葉は何も無い。無理に誘うこともせず、
半ば訳のわからぬ使命感のようなものに突き動かされるように美琴を訪ねた。


美琴は妹とルームシェアをし始めた。お腹の膨らみがうっすらと目立ち始めた頃からだ。
一方通行と交代するように多忙になった10032号の留守中美琴をサポートするのが日々の大部分を占めるようになった。


妹達の死に堪え切れない苛立ちや衝動、吐きそうな悲しみから逃れるように布束を抱くことが減り、美琴や彼女の友人達の他愛も無い話や彼女達の笑い声を反芻することが増えた。


生き残れる妹は残らず助かり、生き残れない妹は死にきった。

まるで果物が形の悪い不良品が廃棄処分され、残りは一つも漏らさず出荷されたようだ。

日々の中に、穏やかで安定した喜びを見出すことと、深い罪悪感を覚えることが増えた。
一定周期を保つように交互にくることもあれば、ふとした瞬間、土砂降りの通り雨に見舞われるように襲われることもある。

パプリカに包丁を入れた瞬間や、ビーンズスープをかき混ぜている時に雪崩のように流れ込んでくる罪悪感に軽い混乱をいつも覚える。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/31(火) 22:42:25.44 ID:0lmuhAkw0<>

「お前のやったことは十分誇りに思っていいことだと思うぜ?」

唐突な浜面の言葉に、思考の海から引き戻された。
怪訝な顔をする一方通行の方は見ずに、浜面は手すりに肘を掛けると、階下を見下ろす。

「いい加減さ、救えなかった子がどうとか考えるんじゃなくて、救えた子達がいることを誇りに思えよ」

「知った風なことを言うな」

「別にお前に同情して言ってるんじゃねーっての。ただ、救ってくれた奴が今にも泣きそうな顔してたら救われた子達が素直に喜べないだろ?」

一方通行は、静かに煙草を吸い込む。
細い糸のような紫煙を溜息に乗せて吐き出す。


「…………そンなツラしてたつもりは無かったンだけどな」

「気付いてたのは絹旗と美琴ちゃんだ」

浜面は親指で、後ろを指す。
部屋の中では麦野が蕩けそうな顔で赤ん坊を抱き上げ、絹旗がそれに何かを言っている。
美琴と滝壺は少し離れて談笑に興じている。


「お前グルグルグルグル悩み過ぎじゃね?もっと、シンプルに行けよ」

「ハッ ――― 馬鹿はいいねェ」

「そうか?馬鹿なら迷わずに滝壺を守れるっていうなら、俺は全然馬鹿で構わないぜ?そういうカッコ付ける余裕って俺には無いからよ」


得意げな浜面の笑顔に、一方通行は無言で蹴りを叩き込む。


「痛い!!何で蹴るんだよ。今いいこと言っただろ?」
「ウルセェ。ドヤ顔で臭ェこと抜かしてやがるのが気に入らねェ。つーか、浜面のクセにカッコ良さ気なことほざいてやがンのがムカつく」
「ちょっと、何この子。すごく我が侭なこと仰ってる!?美琴ちゃ〜ん、ヘルプ!!」
「あと、どォでもいいことだが、何でアイツの事名前で呼ンでンだよ」
「あれ?何か怒ってらっしゃる!?痛いッ!骨ばった膝がツボに絶妙に……痛いッ!!」



浜面の尻に蹴りを入れながら、一方通行は気付かぬ内に子供のように無邪気な顔をしていた。





「あの子がお腹にいた頃は麦野の絹旗が家事とかしてくれたから。浜面はお仕事があるし」

「麦野さん結構料理上手だもんね」

殺されかけたこともある美琴としては少々複雑ではあるが、滝壺の友人である麦野ともはや敵対する理由はない。

「みさかは抱っこしないの?」

「私は…ほら、電磁波があるから…赤ちゃんびっくりしちゃうでしょ」

美琴は寂しげに笑う。
滝壺は首を傾げて美琴のお腹を見る。
滝壺の疑問に答えるように、お腹を撫でる。

「お腹の中には電磁波行ってないらしいけど、生まれたら赤ちゃんに耐性があるかわからないの…」
「それで大丈夫なの?」
「うん、お母さん呼ぶから。それにある程度大きくなれば気にならないレベルだし」
「そういうことじゃなくてね」


「だったら、アイツにベクトル操作してもらえばいいでしょ」

滝壺の言葉を遮るように、赤ん坊を胸に抱き抱えたまま、麦野がベランダに目を向ける。
一方通行は浜面と肩を並べて煙草を吸すっている。
何を話しているのかわからないが、他愛もない話で盛り上がっているのだろうか、一方通行がふざけるように浜面の尻に蹴りを入れていた。

少年のようなやりとりの二人を見ながら、滝壺も同意する。

「うん、そうしてもらえばいいよ。ウサギさん優しいし」

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◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/31(火) 22:45:38.09 ID:0lmuhAkw0<>

「ベクトル操作があれば、アンタの電磁波くらいどうにでもなるでしょ」

「でも…そこまで頼りきりになるのは」

「超不要な心配ですよ。どうせ、頼まれなくても世話を焼くんですから、せいぜい超こき使えばいいんです」


絹旗が唇を尖らせる。
どこか不機嫌そうに視線をベランダから背ける。
麦野がにやにやといやらしい笑みを浮かべながら絹旗をのぞき込む。


「あれあれ?絹旗ちゃ〜ん。もしかしてヤキモチかにゃ〜ん?」
「ち、違います!!誰が…」


じゃれ合う二人をよそに、美琴は硝子越しに一方通行の背中を見る。
自分の身を気遣って、妹の死を隠そうとし続けていた過保護な男。
両親に生むことを告げた日から、少し吹っ切れたようだが、本当はまだ苦しんでるのではないだろうか。



「少しくらい弱音見せろってのよ…馬鹿」


「どうしたの?みさか」
「何でもないです」


もし、お腹の子供を産んだら、彼にとっても何か変わるのだろうか。

変わるのだとすれば、プラスに変わって欲しい。


美琴はお腹の中の子供に語り掛ける。
うんと、元気で甘えん坊で優しい子であれば良いと思う。
産んだ事を恥じないくらいたっぷり愛情を与えてあげたい。
そして、出来ればあの白い青年の手を散々煩わせて欲しい。
あの白い馬鹿野郎お得意の罪悪感に浸る暇など無いくらい甘えてあげて欲しい。


静かに美琴は祈るように心の中で想った。


ぽこんとお腹を蹴る感覚がした。


わかってるよ、と言うように。




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◆d85emWeMgI<>saga<>2011/05/31(火) 22:47:29.68 ID:0lmuhAkw0<> 以上で投下終了。過去編今週中には終わらせたいです。あくまでも希望です。
3歩進んで(俺頑張ったンじゃね?)2.5歩下がる(何俺は思いあがってンだ…クソが…)のが一方クオリティ。

それでは。 ノシ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/05/31(火) 22:53:50.54 ID:rk4K0WGl0<> 乙!
確かに一方さんは近づいたと思ったら下がっちゃう気がするなぁ。
だがそこがいい。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/31(火) 22:56:27.96 ID:HGItsReOo<> 乙

一方さんは地獄兄弟になれそうだからな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/31(火) 22:58:15.64 ID:cDAqhWAco<> 想ちゃん、お腹の中にいるときから既にええ子やね

乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<><>2011/05/31(火) 23:00:47.83 ID:BuJo346K0<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/31(火) 23:10:18.72 ID:SXZnPo2DO<> 乙!!

え?ちょっと待って、一方さん嫉妬しませんでした? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<>sage<>2011/05/31(火) 23:10:36.82 ID:ZyKv/xir0<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/31(火) 23:12:44.28 ID:spth2UiDO<> 乙乙ー

貴重な一方さんのデレきましたわー <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2011/05/31(火) 23:15:08.28 ID:jN1/rwFH0<> 乙乙
このスレで終わってしなうのかな?
それはそれで寂しい…
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(宮城県)<>sage<>2011/05/31(火) 23:24:10.05 ID:mpws3I5z0<> 乙!
一方さん楽しそうだなぁ。
浜面もたまには役に立つ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)<>sage<>2011/06/01(水) 00:15:47.68 ID:AyLltm5Ko<> 乙!

一方さんクオリティが良い味出してる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<>sage<>2011/06/01(水) 00:30:35.45 ID:gj04GlGc0<> おつ!
>>844
名前呼びに嫉妬…現在でも素で美琴呼びは恥ずかしがってた描写あったし…ニヤニヤ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(京都府)<>sage<>2011/06/01(水) 02:16:07.41 ID:DBClZ3nb0<> 乙!

いつも通りの>>1の文章力で楽しく読めたんだけど、ごめん、一つだけ。

>まるで果物が形の悪い不良品が廃棄処分され、残りは一つも漏らさず出荷されたようだ。

この一文から、運が悪かった側の妹達がもともと劣っていたような印象と、妹達の生死をより分けた恣意が存在するみたいな印象を受けた。
まーたぶん俺が気にしすぎなんだろうが、引っかかったので。これ読んで逆に不快になった人がいたらスマン。
次の投下も期待してます。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/06/01(水) 03:56:30.93 ID:UNJidZwHo<> 滝壺ぉぉぉぉ産むの早いだろぉぉぉぉぉぉ
幸せそうなもっとおなかぽっこり滝壺の話が読みたかったよぉぉぉぉぉぉ

>>851
そういうふうに一方さんが罪悪感とか嫌悪感を覚えたってことだろ
いわせんなはずかしい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/06/01(水) 05:32:55.49 ID:QiWb8CM20<> 美琴さんが想ちゃんを抱っこする為に一方さんが美琴さんごと想ちゃんを抱きし
おや?こんな早朝に来客? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2011/06/01(水) 06:53:26.70 ID:5xtWmS50o<> ココロのスキマ、お埋めしますな状況だったとはいえ美琴の一方通行に対する態度の切り替わりがすごいよなあ。
尾を引くのは男だけど俺は男だからついていけんというかなんというか。
周りにいる男の反応を見てみたいけど土御門とエツァリと垣根ぐらいだしなあどれも変人だからなあ……。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]<>[sage]<>2011/06/01(水) 11:04:13.35 ID:Wjouf0Pj0<> >>1乙
電磁通行好きなオレとしては、たまらん作品だ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/01(水) 19:15:08.74 ID:3eZdZdPDO<> >>1乙!

決して単純な恋愛要素ではない、最高にあったかい電磁通行を読めるのはここだけだなw
しかしこの物語の終演はどこにあるのか、非常に気になって夜しか寝れねえ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/02(木) 02:07:01.78 ID:ahe3CesSO<> >>1乙

このSSのお陰で甘いタバコの代表格的なアークロイヤルさんに出会えたわ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/02(木) 11:32:49.09 ID:0fviGQMIO<> 不快に思ったらスマンって自分で言ってるのになんで書くんだろうね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]<>sage<>2011/06/02(木) 13:52:19.86 ID:wItmZD/h0<> 仲良く読もうじゃないか。折角の良スレなんだし

>>1乙!!
続き期待してるから頑張れ! <>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/06/03(金) 00:48:13.96 ID:+tnc2CcU0<> もう少ししたら投下します。置いてけぼりな急展開かもですがよろしくお願いします。 <> ◆d85emWeMgI<>saga<>2011/06/03(金) 00:53:05.50 ID:+tnc2CcU0<>


玄関先の壁にもたれかかりながら、一方通行はジッポを手の中で弄んでいた。
視線の先では、パタパタと豪奢な衣装に身を包んだ少女が部屋中を歩き回っていた。
洗面所、寝室、キッチン、食器棚、リビング、順々に忘れ物が無いか見て回ると布束砥信は革のトランクの鍵をしっかりとかける。


「well……そろそろ行くわね、芳川さん待たせてるから」

「おォ」


階下では今頃車を出してくれた芳川がぼんやりと待っているだろう。
二十歳の女が持つには年季の入った古びたトランクだが、素っ気無いくらいにシンプルで機能性に富んだデザインは布束に非常に似合う。
黒いティアードスカートに白いフリルのブラウス。黒いカーディガンを重ねた服装に革のトランクは、劇の登場人物のような白々しささえ漂わせている。
けれども、一方通行はその白々しさを違和感とは思わない。気付けばそう思わなくなっていた。

「コレ、返しておく」

ちゃら、と軽い金属音を立ててチェーン付きの鍵が差し出した一方通行の手の中に落ちる。
予想した冷たい金属の感触は無く、掌には温い感触が広がる。ずっと握り締めていたのかもしれない。
どのような気持ちでこれを握り締めていたのだろうか。
それを確認するには二人の関係は少し素っ気無いものだった。意識して、素っ気無くしてきた。
合鍵を握り締め、チェーンを軽く振り回しながら、一方通行は猫のような瞳をじっと見つめる。


「マジで出てくのか?」

「寂しい?」

「馬鹿かテメェ。ぶち殺すぞ」

「聞いてみただけよ。もっと引き留められるかと思ってたから」


残念がる風でもなく、布束は予想との誤差を報告するように、淡々とした声で言う。
気安さすら漂う中、一方通行がハッと笑う。



「元々寝心地が良いから寝床を共有してただけだろォが。どうこう言うような筋合いの話でもねェ」

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/06/03(金) 00:54:23.74 ID:+tnc2CcU0<>
野良猫同士の集落のようだ。
もしくは、雨宿り先が一緒だっただけの、そんな関係だろうか。
雨が止めば、一緒にいる理由はなくなる。

雲が過ぎ去った後の青空の空の下に駆け出すのもいい。

架かった虹を眺めているのもいい。

他人が、一時的に同じ軒下で雨梅雨を凌ぎ、そこで僅かに気が合っただけなのだ。


「……そうね」


布束が僅かに俯くと、唇を引き結ぶ。
寂しい顔など間違っても浮かべてはいけない、これは自分が選んだことなのだ。
彼女達への償いとして研究の道を選んだのは一方通行と同じであったが、決定的な違いがそこにある。
妹達と接することを決して布束はしない。触れ合うことが、これ以上情を移してしまうことが恐いから。
あくまでも、自分の研究によって妹達が救われてくれることが望みであり、彼女達と丈を交わすことは望まない。
一方通行のように『守り抜く』ことを布束は選ぶことが出来なかった。そして、彼女の力はそうすることに向いていない。

だから、耐えられなくなった。


「hey、一つ聞いてもいいかしら?」

パンプスに足を通した布束が、振り返る。
自然と一方通行を下から覗き込むように、ぎょろりとした瞳が見上げてくる。


「貴方……これからもあの子達の側にいるの?御坂さんの子供も守る範疇に入れてずっと」
「今更だな。こっちはそのつもりだ。まァ……」

一方通行はもたれ掛かるように、身体を傾けて壁にこつんと頭を付ける。
彼自身、自分の感情を上手く把握出来ていないかのように、自嘲気味に小さく、本当に小さく笑う。


「いつか、あいつ等に相応しい奴等が現れりゃあお役御免だろォがな。それまでは疎まれよォが嫌われよォが構わねェさ」

「………そう」


妹達の側で守ろうとする一方通行の姿そのものに、布束は耐えられなくなった。
同じ傷を持ち、舐め合いながら同じものを目指していた時間は終わりを向かえ、二人の間に明確なずれが生じ始めた。


決定的な契機は美琴の妊娠だろう。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/06/03(金) 00:55:42.89 ID:+tnc2CcU0<> 彼女と、その子を守るという一方通行の決意が布束には理解出来なかった。
一方通行も理解を求めなかった。

だから、布束は今日、この部屋を後にするのだ。

「きっと繰り返すわよ。あの子達の側にいる限り、何度も何度も。これからも繰り返し繰り返し、自分の罪とあの子達の笑顔の間で貴方は苦しむし、葛藤し続けるわよ」
「知ってる」
「本当に……本当に、馬鹿なのね」


わかりきった答えを口にするように、布束の億劫な声が玄関に広がる。
くくっと喉の奥で一方通行は笑う。


「それこそ今更だなァ」






芳川桔梗は5年のローンを組んで購入したマーチの運転席でぼんやりと空を見上げていた。
もしかしたら相当待たされるかもしれない。何せ、2年近く半同棲にあった男女なのだ、ひと悶着あるかもしれない。
もしかしたら、これが仕納めとばかりに流れでベッドにもつれ込んでしまっているかもしれない。
文庫本の一冊でも持ってくれば良かっただろうかと、芳川の想像が明後日の方向へ飛翔せんとしていた時、エントランスのドアが開いた。
古びたデザインのトランクを担いだゴスロリの女が小さく芳川に手を振っている。
手を振り返してやると、パンプスの音が近付いてくる。


「意外と早かったのね」

「荷物は少ないですから」

「そういう意味じゃないのだけれど」

「わかってます。言うべきことは何もありませんから」

「そう……」


布束がシートベルトを着けるのを確認すると、エンジンをかける。


「本当に馬鹿な男です。自分から自分を追い詰めて行ってる」

「随分吹っ切れたようにも見えるけれど――― 何処かでお昼食べて行きましょうか」

ハンドルを切ってマンションの駐車場を出る。
大通りを出て、信号を見た拍子に寒々しい雲ひとつ無い青空が広がっているのが目に入る。
視界の隅で、布束も同じように視線を上げているのがわかった。



「……あの子のことだから、きっとまたグルグル悩むでしょうね」

「ええ……これ以上関わっていても、こちらが疲れるだけです」

「言えてるわ。心配するだけ無駄かもしれないわね。見切りを付けたのは賢い選択よ。だから ―――」


青信号に変わる。
ゆっくりとアクセルを踏む。
<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/06/03(金) 00:57:13.66 ID:+tnc2CcU0<>


「 ――― 涙を拭きなさい」




布束は無言で頷く。
黒いスカートの上に点々と雫が落ちる。
とうとう布束は両手で顔を覆うと、小さな嗚咽が車内に沁み込んで行く。
芳川は空をもう一度見上げた。腹が立つくらい青い空だ。
少しは空気を読んで雨でも降らせばいいのに、そう思った。








年が明け、冬の寒さはいよいよ芯にまで沁みる鋭さを帯びていく。
美琴は今まで学校の近くに借りていたマンションを引き払い、浜面と滝壺の暮らすマンションへと引っ越した。
最新のセキュリティーに全窓防弾ガラス。
耐震性、耐火性に優れたそのマンションは、レベル5、それに準ずる能力者の保護を本来目的としていた。
浜面達の部屋の丁度真上の階に新居を決め、10032号も美琴のサポートの為に移り住んだ。
美鈴が頻繁に学園都市を訪れては、あれこれと美琴にアドバイスをしていった。
妊娠して不安定になっていた頃は、一時的に美琴のマンションには10032号、美鈴、打ち止め、番外個体が交代に、もしくは一緒に泊まって彼女を支えた。
佐天は一方通行に料理を教えながら美琴の食事の面倒を見、白井は事細かに世話を焼いた。
初春はといえば、他の二人の頻度には及ばなかった。
白井たちが美琴に割く時間の何割かは、他の事に割く必要があったからであるが、それは別のお話である。
妹たち、母親、友人、そして未だに美琴の中におけるカテゴリーが「分類不可」とされている青年の支えによって、美琴が不安に思っていたよりも、ずっと彼女は穏やかに来るべき日を迎えようとしていた。





そして、月は2月となった。

吐く息は白く、冬の寒さは文字通り凍り付く季節に入る。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/06/03(金) 00:59:10.63 ID:+tnc2CcU0<>

色鮮やかに彩られた店内には、流行のガールズバンドの曲が流れている。
有線で流れている10代の少女達を対象としたラブソングを朝から流し放しにしているのだ。
厳重に巻かれたミントグリーンのマフラーと、ニット帽を脱ぐ。
それでも着膨れした身体は美琴の意思に中々従順には動かない。
もっとも、それは今更の話である。不自由な身体にもすっかりと慣れた美琴はいちいち苛立ちを覚えることもない。
店内を飛び交う華やいだ少女達の声は、美琴の心を否応なしにも高揚させる。
チョコレートをかたどる多彩な器具を一つ一つ手に取り、頭に思い浮かべるのは出来上がりだ。
やはりスタンダードなハート型のチョコが陳列棚の大半を占めるが、美琴は首を傾げる。
ハートというのは何だかピンと来ない。
周囲の少女達はちらちらと美琴に視線を向ける。
10人中10人が美少女と答えるような美貌の少女が、スイカでも抱え込んでいるのではないかという程に大きなお腹を揺らし店内を歩くのは人目を引く。


「そのお腹じゃあんまり凝ったものも作れませんからね」

佐天が胸元を軽く扇いだ。暖房が利きすぎだ。
特に厚着をしていた美琴の方を見れば、白井が素早く美琴の額にうっすらと浮かぶ汗を拭ってやっていた。
美琴は周囲から向けられる好奇の視線を気に留めることもなく、高級チョコレートのコーナーで立ち止まる。


「いっそ出来合いにしよっかな」

「あの方は甘いものが苦手でしたわよね。これなんてよろしいのでは?」


白井の手にしたチョコレートの値札を見て、佐天は喉の奥でゲッと呻くが、美琴にとっては取るに足らない金額であったようだ。
黒い箱に、金字でシンプルにブランド名の打ってあるだけのシックなデザインが気に入ったのか、美琴は嬉しそうに唇を緩めた。
佐天がにやにやと意地の悪い笑みを浮かべて見てるのにも気づかずに。
手にしたチョコレートを買うことに決めた美琴はレジに向かおうとして、白井に制される。


「お姉様ここは私が」

「別に、良いわよこれくらい」

「お姉様はもうすぐ出産を迎えられている大事な身。あのような人混みの中に放り込むなど、

 黒子にはとても我慢できることではございませんわ」


頑ななまでに譲らない白井に根負けした美琴は、大人しく白井の手にチョコレートを預ける。
人混みに負けじと小さな身体をねじ込ませていく逞しい後輩を見る美琴の目は、同年代の少女達よりもずっと大人びている。




「本命ですか?」


そっと隣で佐天が唇に笑みを浮かべる。


「馬鹿ね。そんなんじゃないわよ」

「そうなんですか?てっきり…」

「義理よ。アイツには散々迷惑かけてるし。多分これからもかけちゃうと思うし」

「一方通行さんは迷惑だなんて思ってなさそうですよ」

「そう思わないようにしてるの。そうしないと際限なく甘えちゃいそうだから」


そういうものかと思いながらも、佐天は何も言わなかった。



<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/06/03(金) 01:00:33.72 ID:+tnc2CcU0<>



「今日は早めに帰った方が良いよ」

冥土帰しは、濡れた窓の外を指す。
灰色と白の景色。
夜中から降り続けていた雪は、もはや学園都市中を白く染めあげていた。
灰色の空は、尚飽きもせずに綿のような塊をしんしんとこぼし続ける。

「俺の能力には関係ねェよ」
「そうだったねぇ。どちらにせよ、昼過ぎからはもっと人でごった返しそうだ」

暇つぶしがてら、目を通していたのは妹達の調整のデータ。
膨大な量をそれを、一方通行は昼過ぎから夕暮れ時も近い今までの、ほんの数時間でほとんど読み終えていた。

「もったいないね」
「アンタもくどいな」
「君の頭脳と能力があればきっと良い医者になれるよ」
「散々命を奪ってきた奴に言う台詞じゃねェな」
偽悪的に、唇をひきつらせたような一方通行独特の笑みを浮かべた。
「まだそんなことを言ってるのかね」

叱るように、呆れるように冥土帰しがため息を吐き出す。

「人を殺したからといって人を救ってはいけないわけじゃないよ」
「わかってる。けどな…俺は人助けをしたかったンじゃねェ。あくまでもアイツ等を助けたかったンだ。だから、そいつが終わっちまった今はちょっと先のことは考えらンねェ」
「……そうかい。それならば、無理にとは言えないねぇ。気が変わったら言ってくれ。君ならいつでも僕の片腕に迎え入れるよ」

窓の外の灰色の景色に視線を移し、一方通行は鼻を鳴らす。

「重すぎるだろ、それ」


冥土帰しがレントゲン写真を見終え、ライトを消すと同時に看護師が飛び込んできた。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/06/03(金) 01:01:54.10 ID:+tnc2CcU0<>

「先生、急患です。すぐそこの交差点で事故が…あ、一方通行さん!!い、いらしてたんですか!?
 とミサカはノーメイクの顔を隠します」

「お前は…確か14510号だったか」
「は、ハイ!覚えていて下さったんですねと、ミサカは喜びを押さえきれずに ―――」


自分の知る少女達によく似た看護師が生き生きとしている姿に、一方通行はそっと胸をなで下ろす。
助かった一人である。
妹達は、その後は変調など特に見られていないとは聞いているが実際に自分の目で確認できるのとでは話が違う。


「忙しそうだな。帰るわ」

「そうかい。彼女によろしく言っておいてくれるかい?」

「あァ?何で俺が?」

「今日は食事に呼ばれてるんじゃないのかい?」

「何で知ってるんだよ」

「そんな気がしてね」


冥土帰しはカレンダーを横目に見ながらはぐらかすように笑った。


「そろそろ予定日だからしっかり意識を持っておくようにと」

「20日なんて、来週の話だろ?今から気ィ張ってたらバテちまうだろ」

「油断は禁物だよ。あくまでも予定だからね」


真っ赤なトマトのように染まった顔の看護師、14510号の隣をすり抜け、一方通行は生返事をしながら病室を出た。
雪は予想以上に積もり、一方通行は首のチョーカーに手を伸ばす。
バスを使うよりも直接飛んで行く方が確実だろう。時計を見れば、既に4時を回り、日は傾きかけていた。
雪の勢いは治まる気配を見せない。


一方通行は携帯を取り出し、受信ボックスから、直近のメールを開く。


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/06/03(金) 01:06:18.00 ID:+tnc2CcU0<>




Date:2/13  13:41

From:御坂

Sub:指令

―――――――――――――――――――――

7時までにウチに来ること!!
佐天さんも黒子も来てるから。
寂しい独りモンのアンタに可愛い女の子の手作り料理を
食べさせてあげようという粋な計らいなんだからね。




<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/06/03(金) 01:08:16.36 ID:+tnc2CcU0<>


絵文字の一つも使わぬ簡潔かつ要点だけの文章。
こういう時の美琴は大抵何かサプライズを用意している反動で迂闊なことを喋るまいとしている。
一方通行は僅かに瞳を細く、目元を和らげる。


「馬鹿が」

口ではそう言いながらも、一方通行は手土産に彼女達の好きなケーキ屋に立ち寄ることを計算に入れ、美琴の家に着く時間を計っていた。







「うわぁ……」

クリームシチューをグルグルとかき回していた佐天は、リビングからの声に火を止めた。
リビングではクッションを腰の下に敷き、やや斜めに寝るように姿勢を保った美琴が俯いていた。
テレビでは速報が流れている。


「どうしたんですか?」

「――― ヤバいかも……」

「ヤバい?ああ……玉突き衝突って……これ近いですよ。今日雪凄いですもんね。十年ぶりの大雪だとか……一方通行さんは大丈夫なんですか?」


ハチミツ入りのミルクを美琴に淹れてやるものの、美琴は俯いたまま手を付けようともしない。


「あの方の心配なんてするだけ無駄ですわよ、佐天さん」


風紀委員の支部の方へと連絡を終えて白井が戻って来る。
休みを取ったとはいえ、元来正義感が強く生真面目な白井は定期的に状況を確認しないと落ち着かないようだ。
『ワーカーホリックよアンタ』美琴にそう言われたのは一度や二度の話ではない。
使いづらく、壊れやすいことに定評のある携帯を畳みながら白井はテレビを睨む。
降りしきる雪のせいで事故の映像は日が傾き始めている時間帯と豪雪のせいで、状況がまったくと言っても良いほど伝わってこない。
このような大雪、それも事故の速報が次々と流れてくるような日に美琴が出かけなくて済んだことに白井は安心していた。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/06/03(金) 01:09:05.99 ID:+tnc2CcU0<>

「白井さんいつもいじられてますもんね〜黒コングさん?」

「淑女に付ける愛称じゃありませんわ!!」

「親しみがあっていいじゃないですか」

「とうとうこの前はコングでしたの……“こ”しかありませんの」

「まま、抑えて下さいよ」


他人事故に、まったく白井への同情など無く、佐天は軽い口調で白井の肩を叩く。


「お料理もバッチリ準備完了。あとは一方通行さんを待つだけですね」


エプロンを脱ぎながら佐天は時計を見る。
もうすぐ時間は7時を指すところだ。美琴は何も言わない。



「初春は垣根さんとお出かけですの?」

「そりゃあ、彼氏に旅行に誘われたらね〜明日はバレンタインだし」

「不潔ですの。高校生で、しかも風紀委員ですのよ?あのお花はもう少し自分の立場というものを」

「まぁまぁ、白井さん。そんなお母さんみたいなこと言ってないで」

「わかってますの!でも、女同士の友情だってもう少し大事にしてくれてもいいと思いますの。そうは思いませんお姉様?」


美琴は俯いたまま、一言も話さない。
ぷつりと、スイッチを切ったように黙りこくった美琴の様子にふと、白井と佐天は違和感を覚える。


「お姉様?」
「御坂さん?」


「黒子……佐天さん……ヤバい」


佐天と黒子は顔を見合わせる。
俯いた美琴の表情は汗でびっしょりと濡れていた。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/06/03(金) 01:10:43.44 ID:+tnc2CcU0<>

「ちょ、御坂さん、汗―――」
「お姉様!?どこかお体の具合が……」



「ヤバいの。多分、コレ、アレだわ。アレ。ヤバい」



要領を得ない美琴の言葉に、しかし、同じ女であり察しの良い二人は同時に顔色を変えた。

「ま……」
「まさか……お姉様……」



「うん……これ多分 ―――」






時刻は7時までまだ余裕があった。
まるで待ちきれなくて来てしまったように思われはしないだろうか。
ケーキの箱を片手に、下らない心配をしている自分に一方通行は自嘲気味に笑う。
そんな事を気にする事自体が無意味だ。
一方通行は、小さく息を吐くとインターホンのボタンに指を掛けた。

『もしもし!』

佐天の声だ。それも余裕の無い。
不思議に思いながら、一方通行はぶっきらぼうに、いつもの彼のように名乗る。
しかし、返ってきた反応は予想を遥かに上回っていた。


『一方通行さん!?う、ううう、産まれます!御坂さんが、産まれて、赤ちゃんが陣痛なんです!!!』

「――― !!」

佐天の言葉を聞き終えるや否や、首のチョーカーを再び入れる。
ロックが解錠されるのも待たずに一つ、強くアスファルトを蹴ると同時に一気に飛び上がった。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/06/03(金) 01:12:41.64 ID:+tnc2CcU0<>
美琴の部屋の前に降り立つと、乱暴にドアを叩く。

「オイ、開けろ!!」

ドアはすぐさま開かれた。佐天を押しのけるように身体を滑り込ませる。
もどかしく靴を脱ぎ捨て、リビングに縺れ込むように飛び込むと、白井に膝枕され呻いている美琴の苦しげな表情が真っ先に飛び込んだ。

美琴の下に近付くと、一方通行に気付いたのか、美琴が薄っすらと笑う。


「あ…あはは、、、ゴメン ――― いきなり来ちゃって……」

「喋ンな馬鹿。ったく」


明らかに強がりだとわかる弱々しい笑みに、一方通行はやるせなさを覚える。
美琴の身に付けているマタニティーワンピースのスカートの部分が大きくシミを作っていた。
まるで漏らしたように濡れている部分を一方通行が凝視しているのに気付き、美琴は微かに身じろぐ。
一方通行に見られることが恥ずかしいが故に何とか隠そうとしているのだと、佐天と白井はすぐに気付く。
大人びたくせに、根本の部分は中学生だった頃の照れ屋でいじらしい美琴のままだと改めて気付き、白井の瞳は薄く潤む。
既に破水が始まっていることに、一方通行はじりじりと焦る。
強がらせないといけない程に、気を遣わせてしまう自分の不甲斐無さに舌打ちをしたくなる。
素直に泣き言を言われるくらい自分が強ければ。後悔に嵌りそうになるのを寸でのところで堪える。
携帯を取り出すと、冥土帰しへとかける。彼の携帯への直通だ。
呼び出しの機械的な音色が、こんな時はやたらと癇に障る。
ちらりと時計を見れば、時間はようやく七時を回ろうとしていた。
気が遠くなる程待たされたと思える程の時間のはずだが、一分と経っていない。



「オイ、御坂がヤベェ!」

『一方通行さんですか?』

「お前……14510号か。冥土帰しはどォした」

『先生でしたら急患を診てます』

「どォにしろ!!今からコイツ連れてそっちに向かう」


受話器越しに、けたたましい喧騒が一方通行の耳にハッキリと伝わる。
ただ忙しいのではなく、一つ一つの声や物音そして一瞬生じる沈黙さえも殺気立っている。
ただ事で無いとすぐさま気付く。点けっ放しのテレビでは、大雪によって引き起こされた事故の模様が慌ただしい速報によって垂れ流しにされている。


一方通行は厭な予感を覚える。


『事故がこの付近で起きてしまって、今病院がパンクしそうなんですとミサカはお姉様の身を案じつつも非常な現状をお伝えします』

「じゃあ……コイツを連れてっても……」

『無理だね。ベッドも足りなければ、人でも足りない。交通網が完全にストップしてしまってね。他所の患者まで来ているんだよ』

「ざけンな!!破水が始まってンだよ!!」


膝から崩れ落ちそうになる。
思わず「そンな奴等どォでもいいから、コイツを助けろ!」という言葉が一方通行の喉下まで出かかる。
しかし、冥土帰しが決して患者を差別しない男だという事を一方通行は良く知っている。
だからこそ彼は一方通行が数少ない敬意を払う人間なのだ。


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/03(金) 01:14:37.95 ID:qjSmvPkXo<> まさか一方さんが取り出すのか? <>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/06/03(金) 01:14:42.83 ID:+tnc2CcU0<>


「クソッタレ……」


握り締めた携帯が軋みを立てる。しかし、未だに通話の続く受話器からは冷静な、そして厳粛な声が流れてきた。


『フム。何故君はもう諦めたような声を出しているんだい?』
「俺に何が出来る……」
『君に何が出来ると来たか。逆だよ』
「逆?」
『君にしか出来ないことがあるじゃないか。たった一つ』


続いて、冥土帰しはさらりととんでもないことを口にする。


『君が赤ちゃんを取り上げてあげればいいじゃないか』


佐天と白井が息を呑むのがわかる。一方通行も一瞬上手く息を吸えなかった。
一方通行の携帯から洩れる声は傍らの佐天にも、美琴の側に付き添っている白井にも不気味な程の無機質さを伴って届いた。
耳に痛い程の静寂が広がる部屋では、その声はあまりにも透徹に真実を突きつけるかのようだ。


「何を馬鹿なことを」

『君には必要な知識を提供したはずだが?後は実践できるかどうかだ』

「ッザケンな!!にわかの知識でどォにかしていいモンじゃねェだろォが!!」


苦しげに喘いでいる美琴から視線を逸らすように、一方通行は受話器に向けて怒声を浴びせる。

『だったらどうするんだい。何もせずに指を咥えてみているのかい?君がやるしかないだろう。幸い君には能力がある』


わかってる、苛立ちごと吐き捨てる。

一方通行は決してその可能性を考えなかったわけではない。
知識としては確かにある。脳外科手術などよりもそれらは遥かに単純だった。
ありありと手順暗唱することも出来る。それでも、尚一方通行は踏み切れない。


美琴だけではなく、そのお腹の中の赤ん坊の命。

二つの命を自分は預かるのだ。


たった二つ。打ち止めを助けた時はもっと多くの命が助かった。
それでも、一方通行は震えを押し殺すことが出来ない。
命を生み出すという行為そのものに対する怯えがある。自分の能力があれば、不可能ではないだろう。
それでも怯えるのは“もし”であり、“万が一”である。
白井を見る、不安と混乱でただ、辛うじて泪を堪えている白井。
そして佐天。じっと自分がどうするのかを見極めようとしている。




握り拳を作ったはずの手が、みっともなく半開きとなり ――― 震えていた。




<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/06/03(金) 01:15:50.60 ID:+tnc2CcU0<>



「俺には…… 」

「――― がい ―……」


無理だと、口にする前にか細い声がそっと退路を奪った。
汗を額に滲ませ、前髪が解れたまま、佐天や白井を、そして一方通行を不安にさせまいと笑顔を浮かべている。
胸が痛くなるような笑顔に、奥歯を噛み締める。
美琴はふらふらとする腕に必死で力を込めながら一方通行へと伸ばす。


「おね……がい、おねが、い……」

「お姉様!」


白井が美琴の手を取る。


「助けて。この、子を。私も頑張るから…………私達親子の命、アンタに預けるから」


ゆっくりと差し出された汗まみれの手が一方通行の手の上にそっと重ねられた。
痛みを堪えるように、押し殺した声が途切れ途切れ、美琴は搾り出す。


魂を削り取った懇願のような声に、一方通行は返すべき言葉を見失う。




「お願いします。一方通行さん。私も精一杯手伝います。だから私の友達を助けてください」

震えていた一方通行の手に、佐天が自分の手を乗せる。

「私も……私も手伝いますの。お姉様の一大事に何も出来なかったら、きっと私一生自分を許せませんの」

そして、白井がその上に更に重ねる。



「チッ……どいつもこいつもくだらねェ心配しやがって……俺を誰だと思ってやがる?テメェらみてェな小物とは格が違うンだよ」



震えはいつの間にか止まっていた。


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/06/03(金) 01:17:15.43 ID:+tnc2CcU0<>

携帯をスピーカーに繋げる。



『どうやら腹は据わったみたいだね』


「出来る限りでいい。指示をくれ。それから佐天。ありったけの清潔なタオルもってこい」
「ハイ!」
「それとコング、テメェは随時足りねェものがあったら取って来い。買おうが奪おうがパクろうが好きにしろ」
「ハイですの!!」


一方通行は、そっと美琴の髪に触れる。


「借りるぞ」
「ん……」


優しく、ふわりと触れる感触、一方通行が初めて彼から見せる優しい仕草に美琴は目を見開いた。
美琴の髪を留めているヘアピンをそっと外す。
四葉のクローバーを模ったヘアピン。
パールグリーンのヘアピン。10032号とお揃いで一方通行が買わされたものだ。
美琴を一度だけ見下ろす。


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/06/03(金) 01:18:02.07 ID:+tnc2CcU0<>







「ったくよォ……世話の焼ける親子だなテメェ等は」



白く長い前髪を、美琴のヘアピンでサイドに纏める。

チョーカーのスイッチをゆっくりと切り換える。

不敵な笑みを浮かべるその瞳には、一切の迷いも不安も無かった。



<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/06/03(金) 01:19:50.05 ID:+tnc2CcU0<> 以上で本日の投下終了です。このスレの内に過去編終わらせたくて詰め詰めになってしまい読みづらいかもです。
一方さんが取り上げる設定は最初から決めてました。シチュエーションは考えていませんでしたが……

それではまた。 ノシ
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/03(金) 01:22:53.04 ID:caWKMycyo<> コング… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大分県)<>sage<>2011/06/03(金) 01:26:46.02 ID:lMiA6n2z0<> 14510号生き残ってくれてたか……
良かった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[<>sage<>2011/06/03(金) 01:29:07.55 ID:amXsg9Eso<> どんな距離もひとっ飛び。ピンチの時には即参上
ヒーローしてんじゃん。カッコイィー惚れちゃいそうだぜ一方通行!
乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/03(金) 01:33:25.82 ID:Y2e6OqoDO<> 分娩補助とか……
男にとって最大級のトラウマだろ……
一方さんマジ乙です…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/06/03(金) 01:37:19.87 ID:loKoSKp/o<> 乙乙
指突っ込んで産道のベクトルをアレしてロケットのように突き抜ける赤さんが見えた <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/03(金) 01:44:25.80 ID:AYWO4iPZ0<> 研修で見たことあるけど、それから暫くは彼女のすら見るのも嫌になったな。悪い意味で生命の神秘だった。
妊婦さんの唸り声と合わせて軽くトラウマものになったわ。
一方さんのベクトルチートだと簡単そうだが。頑張ってくれ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(広島県)<>sage<>2011/06/03(金) 01:48:47.59 ID:yr/WebXjo<> 俺、最初の嫁さんの出産の時キャバクラをハシゴしてたわ。
次の嫁さんの時は病院に送った後、家に帰ってツレとMW2のcoopしてたわ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/06/03(金) 02:32:54.32 ID:499ARneCo<> なんかちょっと泣けてきた
一方さん頑張れマジ頑張れ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/03(金) 02:52:35.74 ID:TQT6KUHIO<> 乙
ヒーローに変われるチャンスだ!
白い悪党頑張れ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(鳥取県)<>sage<>2011/06/03(金) 03:01:23.06 ID:5UgaAf3wo<> こんな時でもコングと呼ぶとは流石第一位は格が違った! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/03(金) 03:34:35.42 ID:qwnVM8NDO<> 相変わらず14510号は可愛いなぁ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/06/03(金) 03:50:40.73 ID:EkcPtwv9o<> いちおつ

>>883
お前の所為で全部台無しだよww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(京都府)<>sage<>2011/06/03(金) 05:06:23.92 ID:IpRm4JMl0<> おつ。14510号の登場には何か意図があるのか、ただの作者の気まぐれか。

>>852
その解釈は分かるが、視点が一通さんと第三者で曖昧に書かれてるのがな。それにこの>>1は、そういう意図があれば丁寧に表現しそうだし。

>>858
内容と本質的に関係ない表現上の指摘だから、>>1の真意は知りたかったけど、キミみたいに普通に楽しめてる読者には悪いなと。
空気を悪くする意図がなかったことだけ伝わってほしかった。

うん。この手の話題はあまり適切じゃなさそうだ。自重する。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/03(金) 06:32:44.27 ID:pSUoyXVIO<> 自分語りやら、自慰分析やらほんと楽しそうですね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/03(金) 07:06:45.32 ID:cY0xZtyDO<> >>891
読み物なんて読者ごとの解釈があっていいんだ。
わざわざ書き手に確認する事自体他の読者の解釈を潰すんだ
分かったら二度とレスすんな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2011/06/03(金) 07:29:51.04 ID:5tqaZeiSo<> 布束の涙の理由が切ないなあ。
人としてより研究者としてより女として、だもんなあ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/03(金) 09:16:06.29 ID:PCCiAtLW0<> いい女だなぁ、布束さん。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/03(金) 09:22:09.51 ID:0JMfkgNmo<> いくらなんでもイベント置き過ぎだろ。さすがにやり過ぎだわ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]<>sage<>2011/06/03(金) 16:30:46.07 ID:XQjHTPWg0<> >>883
お前20000号だろ <>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/06/04(土) 06:03:58.98 ID:o1YNICk80<> 過去編最後、投下します。 <> ◆d85emWeMgI<>saga<>2011/06/04(土) 06:36:38.47 ID:o1YNICk80<>

瞼の上を微かな痛みが走る。

光が瞼越しにも感じ取れる。光の強さで、それが朝日なのだとわかる。

こめかみが引っ張られるような窮屈な煩わしさを振り切るように瞳を開けた。
カーテンの隙間から漏れ出ていた光が、スポットライトのように狙いすましたかの如く自分の瞼に当たっていたようだ。
低血圧の脳は状況を把握するのに時間がかかる。
それでも自分が眠っていたのが自分の部屋ではないということだけはわかる。
お腹に小さな重みを感じて視線を下に向けると、ぴょこんと伸びたアホ毛がふらふらと揺れる。


「……あ゛ァ?」


自分のお腹に頭を乗せて小さな寝息を立てる打ち止めの頭を軽くひと撫ですると部屋を見回す。
ガシガシと髪を掻きながら一方通行は記憶の跡を辿ろうと自分の行動を振り返る。
自分が何をしていたのか。何をしようとしていたのか。
千切れた破片を一つ一つ拾い集めていくことにも似た気の遠くなる作業をカーテンの閉め切られた部屋で一人ぼんやりと開始する。


苦痛に必死に歯を食い縛る美琴。

顔を真っ青にしながらも美琴の身を案じる佐天。

冷静であれと自分に言い聞かせながらも涙を瞳に滲ませた白井。



思い出せるのは断片ばかりで全て繋ぎ合せても完成形には程遠い。
額に手をあてながらも、辛うじて自分のいるこの場所が美琴の部屋だということに気付く。
気付いた途端に、甘い香りが自分を包み込むようにふんわりと微かに漂っている。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/06/04(土) 07:05:24.68 ID:o1YNICk80<>

「あ、起きました?」


ドアを開けて顔を覗かせたのは佐天だった。


「此処は……俺はどうした?」

「覚えてないんですか?」

「いや、アイツのガキを取り上げようとしたのは覚えてるンだが……詳細が完全にすっぽ抜けてやがる」

「アレだけ悪戦苦闘してたのに、忘れちゃったんですか?」


佐天が信じられないと目を瞬かせる。


「赤ちゃん取り上げて、白井さんが綺麗にしてあげて、救急車が来たところでパタンって。電池が切れたみたいに」


思わずチョーカーに触れた。


「俺はどれくらい眠ってた?」

「今日は16日ですから丸二日眠ってたんですよ。カエル顔のお医者さんが言ってましたけど、徹夜してたんですか?」

「……まァな」


死んだ妹達の埋葬場所について奔走していたとは言わなかった。
妹達のみならず、学園都市のせいで死んでいった墓も無き犠牲者達を弔う集団墓地。
しかし、そんな話題を口にすべきではないと、目の前の少女の笑みを見ながら一方通行は即座に判断した。
一方通行の素っ気無い物言いを気にすることなく佐天は楽しそうな、今にも鼻歌を歌いかねない笑顔でカーテンを思い切り開けた。



「可愛くて元気な女の子でしたよ」

「……そォか」

「驚かないんですか?」

「別に」


わざわざ聞くまでも無い。
佐天の笑顔がとっくに真実を物語っていた。
一方通行の側に近付くと、佐天はそっと打ち止めの足元にずり落ちていた毛布をかけてやる。
座り込み、ベッドの上の一方通行に突っ伏すように眠っている打ち止めは、ぴくりとも反応しない。
規則正しく、可愛い寝息が一方通行と佐天の間に横たわる沈黙に静かに被さる。
黙っていることが馬鹿馬鹿しくなったのか、佐天は長い息を吐くと、直角になるくらい深く頭を下げた。


「ありがとうございます……御坂さんも、赤ちゃんも無事です。一方通行さんがいてくれなかったら ――」

「礼を言われるよォなことはしてねェ、第一、覚えてもいねェことで礼を言われるなンざ気持ち悪ィよ」

「そんなの関係ありません。ホントに……ホントに私達感謝してるんですから……そんな事言わないで下さいよ」


気が緩んだのだろう、佐天の紅潮した頬を涙が伝う。
吐き捨てるように呟いた一方通行の方が戸惑うように目を瞬かせる。
涙が止まらなくなった佐天を前に、一方通行は気不味そうに眉を顰める。
ぐすぐすと泣きじゃくる少女を前にすると、相も変わらずどうして良いのかわからなかった。



<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/06/04(土) 07:06:39.88 ID:o1YNICk80<>



そして、今、一方通行は病室のドアの前に棒のように突っ立っている。
プレートには『御坂 美琴』の名が油性ペンで丁寧に書かれている。
奇妙な緊張感に見舞われ、一方通行は数分もの間、足を踏み入れる踏ん切りが付かなかった。
ドアノブに手を触れようとして、掌が汗でじっとりと濡れていることに気付き、引っ込める。
疚しいことなど何も無いはずだ。寧ろ自分は感謝されることをした。
それは、客観的に見て事実といえる。それでも尚、一方通行の中にはしこりのような躊躇いがあった。
ドアの前で散々逡巡している様がまるきり子を産む決意を一方通行に伝えに来た日の美琴と同じであることにも気付かず、杖を握る手にばかり力が籠もる。


「こぉら、髪の毛食べないの」

「あ〜うぅ」


不意に病室から漏れてきた美琴の声と、初めて聞く声にぴりっと背筋に得も言われぬ衝撃が走った。

赤ん坊の声だ。

美琴以外の存在を、改めて確認させられる。
子供が産まれたのだから、当たり前のはずなのに、あどけない声を実際に耳にすると一方通行は軽い動揺に襲われる。
同時に、今更何を、何から、何で逃げようとしていたのか、自分自身への不可解さへの軽蔑が生じる。
自分がすべきことなど決まっているのに。舌打ちを零すと、ドアノブに手を掛ける。


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/06/04(土) 07:18:51.61 ID:o1YNICk80<>

「あ、ようやく来たわねアンタ。遅いわよ?」

「……ウルセェよ。今日目ェ覚めたばかりなンだよ」

「ホント、貧弱よねアンタ。来るんだったらもっと早く来なさいよ。さっきまで滝壺さんとか絹旗さんが来てたのに」


知っている。それを外して来たのだ。
自分自身に逃げ場を作らないように、そして、一人で臨みたかったから ――― この“二人”と相対するのは。
思っていたよりも遥かに血色の良い顔をした美琴がからっとした笑みを浮かべる。
一方通行が尻込みしてしまう程、清々しい微笑みだ。
声が弾んでいるのは、大業を成し遂げたが故の達成感だろうか。
思わず分析してしまう一方通行の目は、美琴が抱いている赤ん坊へと向けられる。
視線に気付いたのか、美琴が少し照れ臭そうに、けれども喜びと誇らしさを隠そうともせずに赤ん坊の顔が一方通行にはっきりと見えるように微かに傾ける。


「ほぉら、貴女を助けてくれたお兄ちゃんですよ〜?ちゃんと見てね。この白いのがそうだからね。覚えやすいでしょう?」

「ガキにくだらねェ事吹き込ンでンじゃねェよ」

「目印は教えておいた方がいいでしょ?」

「動物の特徴教えるノリかよ。ウゼェテンションだなオイ」


言葉の半分は一方通行に向けた、からかうような口調だった。
それで、幾分か気が楽になる。
気安い空気に、ホッとしながら杖を突いて、ゆっくりとベッドにまで近付く。
美琴の腕の中の赤ん坊は、一方通行が今まで見た何者よりも柔らかく蕩けてしまいそうな輪郭を帯びていた。
これが赤ん坊というものか。極普通の驚きと、当たり前の感動が湧き上がる。
赤ん坊は、母親の言葉をようく噛み締め理解しているように、つぶらな瞳を丸く見開いてじっと一方通行を見つめる。
母親譲りの栗色の髪に、鳶色の大きな瞳。女の子だと聞かされているからだろうか、何処か甘い顔立ちに見えた。

<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/06/04(土) 07:19:48.86 ID:o1YNICk80<>

「ホラ、何やってるのよ。さっさと抱いてあげなさいって」

「……俺がか?」


美琴がとんでもないトンチンカンな回答を口にした生徒を見るような目で一方通行を見つめ返す。
どうしてそんな答えになったのか、その理由がわからないと、心の底から思うように、困ったような顔で。


「当たり前でしょ?まさか、今更『血で汚れちまった俺の手で抱き上げちまったら、この可愛らしいにも程がある赤ン坊まで汚れちまうぜ』とか思ってるわけ?」

「そこまで思ってねェよ。つーかさり気にガキ自慢してンじゃねェぞ。親馬鹿化早ェよ」

「っていうか、アンタが取り上げたんだから、とっくに触ってるでしょ。ていうか、散々血で汚れたんでしょ私の……」

「言うな馬鹿。もっと気にするだろ普通は」



しかし、本音を言えば、美琴の言葉はかなり図星を突いていた。
正確には、自分が触ってしまっても良いのだろうかという、純粋な怯えであったのだが。
いざ、目の前であどけない姿を見せられてしまうと、否応に一方通行の中に躊躇が生じてしまった。
しかし、美琴はそんな心境など知ってか知らずか、というよりも知ったことじゃないとばかりに怒ったように急かす。


「じゃあいいじゃない。ホレ」


そう言って無理矢理差し出された赤ん坊を、戸惑いながら受け止める。
チョーカーのスイッチを入れて、両の腕で抱き上げる。


「首の後ろ、ちゃんと支えてあげてね。そうそう……」


促されるままに危なげに抱き上げたそれは、静かに、けれども霹靂そのもののようであった。


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/06/04(土) 07:21:03.59 ID:o1YNICk80<>


嘘みたいに小さくて。

嘘みたいに柔らかくて。

嘘みたいに温かい。


自分の腕の中に、そんな存在が息づいていることが一方通行には信じられなかった。
けれども、腕越しにハッキリとした心音が伝わる。
懸命にトク、トク、トクと、命を主張しているのだ。こんな小さいというのに命であると、生きていると、そう腕の中の存在は主張しているのだ。
小さな霹靂そのもののような存在に、一方通行は圧倒され、暫し声を失う。


「温かいでしょ?アンタが助けてくれた命よ?」


慈しむように、美琴が瞳を微かに細める。
一方通行の腕の中の小さな存在を眩しそうに見つめる。


「……名前は?名前はもう決めたのか?」



声が震えそうになるのを抑えながら、一方通行は少女の名を聞く。
嘗て、打ち止め達があれこれと予想していた。


両親から一字ずつ取って麻琴だろうか。


それとも、美鈴、美琴と来るのだから美音だろうか。

案外単純に入れ替えて琴美だろうか、と。


何を外野が勝手に盛り上がっているのだろうかと、呆れたものだったが、この存在を示す名を、強烈に知りたいと一方通行は思っていた。
美琴は、にっこりと笑って頷く。


「うん。色々考えてたんだけどね……実は決めたのはつい最近。っていうかね、アンタが取り上げてくれた時に、頭の片隅にふって浮かんだの」


そう言って美琴は、小さく息を吸う。
大切な言葉だから、気持ちをしっかりと込めれるように。



<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/06/04(土) 07:24:42.70 ID:o1YNICk80<>









「想」










<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/06/04(土) 07:26:25.13 ID:o1YNICk80<>

「ソウ?」

「想うって言う字で『想』……」


想という言葉を、一方通行は口の中で何度も吟味するように転がす。


「あの子が前に言ったでしょ?私だけの子じゃないって。私達の子だって」

10032号の言葉だ。

「それはね、今を生きている妹達だけじゃない、死んでしまった妹達も全部含めて。あの子達は死んじゃったけど、この子がいる。人になれなかったあの子達が持つ筈だった想い。幸せになりたかった子の想い。精一杯生きてきた子達の想い。これから幸せになりたいっていう想い。私自身、もういなくなったけれど、アイツに出会えて変われた、想いの証として。それから……幸せになって欲しいっていう私とアンタの想い。色んな人たちの、色んな想いをこの子は背負ってるの」

「重たくねェか」

「かもね。押し潰されそうに思う日が来るかもね。でも、大丈夫。だって私達の子だもん。それに……アンタも守ってくれるんでしょ?」


悪戯っぽく美琴が笑う。
一方通行は静かに、自分を見上げる赤ん坊 ――― 想を見つめる。
その横顔を優しげに見つめていた美琴は、自然と口を開いていた。


「ありがとう……」



不意討ちに等しい言葉に、一方通行は目を見開いて美琴に視線を移す。





「止めろ……」

「ありがとう……一方通行。その子に会わせてくれて」

「言うな。俺には」

「止めない。止めてあげない。前にアンタ言ったわよね。感謝なンかするな、って。そうやっていつも逃げてきたけどさ、もういい加減観念なさいよ」


美琴は首を振る。

往生際の悪い男に、無理矢理にでも聞き入れてもらう。


「言っておくけどね、感謝は受け取らないっていうのは、許さないから。怒りも憎しみもぶつける。でも、感謝だってアンタは受け止める義務があるのよ?っていうか、受け止めるまで何度でも言ってやるわ」

それは、甘く、柔らかい無理強いだった。


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/06/04(土) 07:28:09.84 ID:o1YNICk80<>



「一方通行、私達の想いを……守ってくれて、本当に、本当に ――― ありがとう」



一方通行は、逃げ場も無く、退路も塞がれたまま真っ直ぐに向けられた言葉に激しく動揺する。

その時、小さな手がやわやわと蠢き、そっと一方通行の頬に触れた。


「あう〜」


にぱぁ、想が心底嬉しそうな、無垢な笑みを一方通行に向けた。




「あ……あァ……―――――あ」





張り詰めていたものがぷつりと切れたように、感情が大きく撓む。

長い長い月日、己で戒めるように何重にも課した枷が音を立てて砕ける。

許されてはいけない、感謝されてはいけない、報われてはいけない。

自分を傷つけ、自分を楽にするべく自分自身に与えて続けてきた刷り込み。

罪悪感と戯れる為の自らが生み出した『呪い』の一切合切を潜り抜けて、

美琴の言葉が、そして小さな存在の無垢な笑顔が剥き出しの心の中に優しい痛みを伴って深々と食い込む。


限界だった。



「―――ァァァあ゛ああ゛……」




グラスから零れたワインのように、紅の瞳から抑えつけられてきた感情が溢れる。

病室に子供のような嗚咽が広がる。

腕に抱かれた少女は、不思議そうにそれを見つめていた。頬に添えた手は決して離すことなく。

美琴は、驚くわけでもなく、薄陽のような温かく柔らかい瞳でそれを静かに見つめていた。


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/06/04(土) 07:30:08.37 ID:o1YNICk80<>




嘗て自分自身に課した使命。



贖罪という名で縛り付けたその誓いは、その日から、少しだけ変わった。



贖罪としてではなく、もっと純粋でひたむきな、『祈り』のような趣を持って、新たに一方通行の中に刻み込まれた。



深く、深く、深く ―――



<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/06/04(土) 07:33:11.38 ID:o1YNICk80<> 本日の投下終了。過去編はコレで終了です。
パソコンの調子がちょっと悪くて投下に間が開いてしまってすみません。
山場はこれで超えました。尺の都合で次スレに行くと思いますが、あくまでも書ききれなかった終盤を書くので相当短いと思います。

それではまた。 ノシ

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/06/04(土) 07:40:19.89 ID:tw9BXkBDO<> 乙!!

一方通行の涙が見れるのか……… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/04(土) 07:51:46.78 ID:ZcCXCGDIO<> 乙〜
一方さんそら過去にあった出来事考えりゃ涙腺崩壊して当たり前さな
こんなにも色々な人たちに想われて生まれてきた想ちゃんは本当に幸せ者だわ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/04(土) 08:25:33.55 ID:PRkVqzae0<> おやおや泣いちゃいましたか一方さん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/04(土) 08:50:00.38 ID:3sT9rI5No<> 乙
そりゃ涙も出るさな一方さん

俺もなんか泣いてるし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[<>sage<>2011/06/04(土) 10:25:25.28 ID:zueNmfyMo<> ありがとうって良い言葉だね。当たり前の事だけあらためて思ったわ
乙! <> 名無しNIPPER<>sage<>2011/06/04(土) 10:39:01.20 ID:s2qqe5BDO<> 乙です。
やっと想ちゃんと一方さんが出会いましたね。
次スレも楽しみにしてます。
しかし次スレで終わりだと思うと。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2011/06/04(土) 11:11:58.11 ID:bMD1LemFo<> 美琴サンがいきなり二児の母みたいな貫禄でありますなww
語られなかった行間、月日に見た姿がそうさせたんだろな。

トドメはアスファルトもコンクリートも突き破る新芽の力っつうことで綺麗だなー。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/04(土) 11:25:33.87 ID:s/7wyYRDO<> 涙を流す一方さんを見て20000号が一言↓ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(宮城県)<>sage<>2011/06/04(土) 11:26:28.70 ID:ZeeeN6E40<> 乙!
一方さんよかったなー
これがあって、あの子煩悩な一方さんが出来上がるのか
と思うと胸が熱くなるな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/06/04(土) 12:01:22.54 ID:UMDxwK1z0<> 乙です。

しかしここから五年も経過して、何故結婚していないのか、と言う最大の謎が残ってしまったな…。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/04(土) 12:46:29.01 ID:7ROGWhbvo<> 二日寝込んだというのがまたなんともリアルで上手いね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<>sage<>2011/06/04(土) 13:11:00.62 ID:4MDHla4n0<> >>919
それは次スレに期待しようぜ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東)<>sage<>2011/06/04(土) 14:54:12.65 ID:s9BAjoQAO<> ここまでされて、完全に観念するまで更にあと五年費やすとかセロリさんマジ頑固。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/04(土) 18:40:21.05 ID:ct1E6CDa0<> 乙乙〜!
最近まとめで一気読みしてきたよ。
何か過去編を読んでから本編を読むと感慨深いものがある。
というか、ぶっちゃけパパセラが幼女と適当にいちゃついてるだけのほのぼのスレだと思って読み始めてたからここまで徹底的に書くとは思わなかったよ… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/05(日) 07:25:05.74 ID:NbhojoOb0<> ここまで来るともう何が何でも最後まで見届けてやるぜ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/06/05(日) 17:43:09.16 ID:ygqldMu+0<> 部屋に入るとちょうど授乳中でした、な展開ではなかったか <> ◆d85emWeMgI<>saga<>2011/06/05(日) 22:36:45.52 ID:gv52cjXA0<> まだ少し余裕があるのですが今日の投下で次のスレに行こうと思います。キリが良いので。
次スレは短いです。かなり。それでは暫しお待ち下さい。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/05(日) 22:59:45.58 ID:l6f+eoHDO<> え?ちょっと待って、かなり少なめってことは終わるってこと?え、まじで?

嘘だろ?なんか最近ブクマしてるSSが終わるんだけど何でだ?終わってほしくないよ……… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/05(日) 23:00:48.80 ID:l6f+eoHDO<> え?ちょっと待って、かなり少なめってことは終わるってこと?え、まじで?

嘘だろ?なんか最近ブクマしてるSSが終わるんだけど何でだ?終わってほしくないよ……… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州・沖縄)<>sage<>2011/06/05(日) 23:12:32.34 ID:0X9+nmMAO<> >>926
待ってるぞ <>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/06/05(日) 23:21:44.91 ID:gv52cjXA0<>




それは、慌ただしい日々だった。




<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/06/05(日) 23:23:19.52 ID:gv52cjXA0<>


「ぷみ゛ぃぃぃぃーーーーー!!」

「な、何で泣き止まないのですのーーーー!!!想ちゃ〜〜ん。お願いですの!!」

「……本能で危険を察知しているんでしょうか……」

「それよ!!初春」

「『それよ!!』じゃありませんの!!」

「チッ……貸せコング」

「な、コングじゃありませんの!!」

「びええぇぇ………… う?」

「「あ、泣き止んだ」」

「納得行かねーですの!!」

「ったく……おい、想。コイツは白井コング。ベトナム帰りのツインテールだ。きちんとこのツラを覚えておけよ?」

「何ですの!?そのランボーみたいな設定!?」


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/06/05(日) 23:24:53.45 ID:gv52cjXA0<>




「俺は母親の愛情も知らない、家族の温もりも知らねェ、欠陥だらけの人間だ。お世辞にも人に胸張って語れるよォな人生も歩んできちゃいねェ……

 所詮真っ当に、光の世界に適応出来ないロクデナシだ。だから、当たり前の日常ってヤツもわからねェ……ああ、何もな」

「……それで言い訳のつもりかしら?人の胸を見たことの」

「病室が静かだとよ、何か襲撃があったと思うのが普通だろォが。授乳中だとは思わないだろ」

「襲撃の方があり得ないわよ!!何物騒なことサラッと想定してんのよ!!」

「不器用ですから」

「うっさい!!だ、大体、人のむ、胸見ておいて、ゴメンの一言もないってどうなのよ!!」

「今更胸如きで騒いでるンじゃねェよ。こちとらもっとスゲェもン見てンだよ(覚えてねェけど)」

「!?」

「だから今更ガタガタ抜かすンじゃねェ」

「わ、忘れろ!!今すぐ忘れろ。っていうか、寧ろ強制的に忘れさせて……」

「電気出すンじゃねェこの馬鹿!想が起きちまうだろォが!!」

「グッ……」

「まァ気にするな。どォせ大した胸じゃねェンだしよ」

「やっぱり忘れろゴラァ!!」




<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/06/05(日) 23:26:24.16 ID:gv52cjXA0<>




「一方通行〜〜!!超合格です!!美少女保母さん超爆誕です!!」

「ほォ、そいつは良かったなァモアイ」

「ふふふん!!今日はモアイ呼びはあえてスルーしてあげます。今日の最愛ちゃんは上機嫌なのですから」

「しかし子供が保育士とか、学園都市の人手不足も遂にそこまで深刻に……」

「やっぱりスルー不可です!!このバストが目に入らないのですか?超大人です!!」

「そのなかには窒素が……」

「入ってるわけねェでしょォが!!」

「けどよ、ボンバーの奴は相変わらず哀れ胸だぜ?」

「アイツはいいんです。所詮この下級戦士ですから」

「ヒデェなお前」





<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/06/05(日) 23:26:55.15 ID:gv52cjXA0<>




「オイ、風呂入れてくるわ」

「サンキュ」

「え?お、お姉様が入れてあげるんじゃないの?ってミサカはミサカはナチュラルに想ちゃん抱っこする貴方に戸惑ってみたり……」

「あァ?仕方がねェだろォが」

「うん。だって私の電磁波でビックリしちゃうんだもん。流石にコイツと一緒に入るわけには行かないし」

「あ、当たり前だよ!!ってミサカはミサカはさらっと爆弾発言するお姉様に大憤慨」

「ちょ、第一位がお風呂に入れてあげるとかマジキモ過ぎるんだけど?ミサカ流石にそれはドン引きだよ」

「ガキ風呂に入れるくれェでキャンキャンうるせェな……じゃあテメェも一緒に入るか?」

「は、ははは、はぁ!?な、何言ってるんだよマジセクハラとかありえねぇんだけど?」

「何勝手に勘違いしてンだよ。想もお前等も変わらねェよ」

「ううう……それはそれでショックかもってミサカはミサカは……」





<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<>sage<>2011/06/05(日) 23:30:10.25 ID:0kCsNB2p0<> 最高。泣いた。 <> ◆d85emWeMgI<>saga<>2011/06/05(日) 23:31:12.71 ID:gv52cjXA0<>


「想ちゃんってば、ホント可愛いんだからん」

「あう、あ、ううう」

「うふふふふ〜想〜ちゃん」

「きゃきゃっきゃ」

「笑ってるぅ〜もう、可愛いんだから〜」

「デロデロに緩ンだそのツラ……ハァ……ま、いいか」

「想ちゃん、ちゅー」

「うきゃ、うう、あう、きゃきゃ」

「〜〜〜〜!!」

「痛ェ!痛ェ!!叩くなイチイチ」

「ちょ、これ、ちょ、何この可愛さ!!やっぱり母親に似たのが良かったのかしら」

「ウゼェ……しかし、もう一歳になるンだからそろそろ喋ってもいいはずだろ」

「いいじゃない、成長速度は人それぞれだもん」

「甘やかし過ぎだろ幾らなんでも……」

「うるさいなぁ。ホント、口やかましい白すけでちゅね〜想ちゃんも怒っちゃえ」

「……チッ」

「アンタもすっかり抱き方が板に付いてきたわよね」

「ああ〜う、ああぁうぅ」

「馬鹿みてェに笑いやがってガキが」

「うん、顔がニヤケてなかったら決まってたのにね、そのセリフ」

「ウルセェ。てかニヤケてねェし」

「あ〜〜う、ん、あーく」

「…………何?」

「今……え ――― え?」

「あーく、あーく」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


「「喋った!?」」


「ちょ、今、喋って、『あーく』、あーく、ってってか何でアンタなのよ!?」

「知らねェよ。痛ェ、痛ェ!グーで殴るな。ま、まァ仕方がねェンじゃねェのか?ウン。仕方ねェよ。コレばっかりはガキに罪はねェしよ。なァ?想」

「あーく、あーく」

「ムカつく!!ムカつくんだけど!!そのドヤ顔!!想ちゃん、ママって言って。ホラ、ママって」

「あーく、あーく。うぶみぃ、あうう、きゃは」

「オイ、髪の毛咥えンな。ベトベトになンだろォが。………ったく」

「コンチクショー!!」


<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/06/05(日) 23:34:14.10 ID:gv52cjXA0<>





それは本当にあっという間の、慌ただしい日々だった。


あっという間で、慌ただし過ぎて。


己の傷を顧みて、自分を可哀想がる暇など少しもなかった。


放っておかれた傷痕は、自然乾き、かさぶたが覆い、そして前以上に強くなって癒された。


けれども、あっという間で、慌ただし過ぎて。


だから、何処かで逃げ続けていた答えも、其処には確かにあった。


そんな日々は、これからも続いていくけれども、


流れは少しだけ穏やかに、緩やかになり、


急だった流れを掻き分けて見た先は、答えを迫る日は、案外と近くに迫ってきていた。





<>
◆d85emWeMgI<>saga<>2011/06/05(日) 23:51:14.54 ID:gv52cjXA0<> 以上でこのスレでの投下を終えます。


次スレです ↓

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1307285420/

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/06/06(月) 00:07:14.53 ID:EYtaQ1Rz0<> 今シレお疲れ様です。すっごく良い!感動しました!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/06(月) 00:11:34.62 ID:6JMMwrbAo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/06/06(月) 00:12:59.83 ID:Jk3JcjLU0<> しかし、こっちのスレはどうするんだ?
埋めるにしても、残りが微妙な希ガス <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[<>sage<>2011/06/06(月) 00:20:05.55 ID:Dx3tPdvno<> 断片会話でも分かる幸せな日々…このホームコメディ見たいわぁ
お疲れ様でした!
次も楽しみにしています <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/06/06(月) 00:35:07.38 ID:KsIILxjL0<> 乙!

さてみんな、このスレは終わりみたいなんで、今まで自重してきた長感想を書きまくろう! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(中部地方)<>sage<>2011/06/06(月) 00:39:47.92 ID:RdxqJbgho<> おもしろいとおもいます
すごくおもしろいとおもいます
しっかりつぎもおもしろいとおもいます
はっきりいっておもしろいとおもいます
うそみたいにおもしろいとおもいます
まじめにおもしろいとおもいます
いちばんおもしろいとおもいます <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/06(月) 00:43:24.34 ID:lslDHIReo<> ふと思ったんだけど、これ、収まるところに収まった後は、20000号はどんな立場になるんだろ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/06/06(月) 00:51:15.73 ID:KsIILxjL0<> >>945セフレだろ言わせんな恥ずかしい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/06(月) 02:18:18.18 ID:TWyuQOJq0<> 乙! 感動したお <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)<>sage<>2011/06/06(月) 05:41:55.63 ID:3RugzHQQo<> 想ちゃんの初喋りするシーンすげえニヤケちまう。
安心する揺りカゴで風呂に入れてくれて最初の言葉になっちゃうような人。
家族どころか親そのものだ。
不器用ですから、じゃねえっつうのアスカロン投げつけんぞスカタンめ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海)<>sage<>2011/06/06(月) 07:02:00.91 ID:EzPhw9XAO<> >>941
埋められなければ、html依頼を出せばいい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/06(月) 08:34:22.68 ID:GlcK+Rz0o<> 既にHTML依頼は出てるみたいだね
後のレスは自由に使えばいいんじゃないかしら

美琴たちが幸せになりますように <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]<>sage<>2011/06/06(月) 16:45:43.92 ID:eoVTARJD0<> 電磁通行のssは少ないからなぁ…
このスレに影響を受けて、少しでも増えてくれたら嬉しい。

公式でもそろそろ一方通行と美琴の再開は来るか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/06(月) 16:49:07.23 ID:6OY0dJ+io<> とりあえず次の新約に期待……でもまた会わなそうだなぁ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/06/06(月) 18:40:30.99 ID:2YeLKEJb0<> 新約二巻じゃなくてステイルSSって聞いたのは気のせいだったか?
それはともかく展開予想みたいになっちゃってスマソ、過去編最後って言ってたから油断してしまった <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/06(月) 19:23:01.57 ID:CoSsksZIO<> 公務員で普段ケータイ使えない俺が、一方通行の涙を見て涙した。上司に心配されたが。

>>1乙!!!
毎日忙しく心休まる日がない俺にはうってつけのSSだ!!!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(中部地方)<>sage<>2011/06/06(月) 20:02:16.71 ID:eqL0CHMPo<> おとなしく仕事しろよ税金泥棒 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/06(月) 23:36:47.72 ID:da3RWfGI0<> 新スレあるし、こっちのスレは要らないな sage進行でいくか。

>1  3スレ目も超面白かったです。 毎日毎日数時間おきにスレチェックしたり、、超楽しみにしてました。超乙でした。
HTML化される前に、最後に一つだけ、、、、

絹旗は俺の嫁  えんだァァァァァァあああああああああああ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福井県)<>sage<>2011/06/07(火) 01:22:42.73 ID:D6qWNVUx0<> >>953
ステイルSSとか未収録の本を集めた奴と新訳2巻は同時発売だってよ。

ステイルSS読んだこと無いし、マジ楽しみ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(中部地方)<>sage<>2011/06/07(火) 01:22:48.89 ID:T0yAYGdto<> 絹旗「超嫌です」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]<>sage<>2011/06/07(火) 15:15:19.13 ID:rpFJSOiW0<> 新約二巻は8月10日発売らしい。
どうやら主人公三人の「アンタ等なにやってた訳」展開が起こるとの事

これは一方と美琴の再会が期待出来る……かもな。
かまちーはどうやら一方と美琴は永遠にスルーし続けるみたいだし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]<>sage<>2011/06/07(火) 15:15:55.48 ID:rpFJSOiW0<> 新約二巻は8月10日発売らしい。
どうやら主人公三人の「アンタ等なにやってた訳」展開が起こるとの事

これは一方と美琴の再会が期待出来る……かもな。
かまちーはどうやら一方と美琴は永遠にスルーし続けるみたいだし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]<>sage<>2011/06/07(火) 15:16:42.39 ID:rpFJSOiW0<> 新約二巻は8月10日発売らしい。
どうやら主人公三人の「アンタ等なにやってた訳」展開が起こるとの事

これは一方と美琴の再会が期待出来る……かもな。
かまちーはどうやら一方と美琴は永遠にスルーし続けるみたいだし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]<>sage<>2011/06/07(火) 15:17:36.75 ID:rpFJSOiW0<> 新約二巻は8月10日発売らしい。
どうやら主人公三人の「アンタ等なにやってた訳」展開が起こるとの事

これは一方と美琴の再会が期待出来る……かもな。
かまちーはどうやら一方と美琴は永遠にスルーし続けるみたいだし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2011/06/07(火) 16:29:48.71 ID:f8Mo/Bvr0<> へぇ、新約8月か
かまちーの執筆スピードぱねぇwwwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/07(火) 18:01:13.61 ID:KIHPBN5DO<> 最後の二行が矛盾している気がするが……まあいいや。

このスレも終わりが近そうだ。
次々良スレが終わって、おいちゃん泣きそうだよ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[<>sage<>2011/06/08(水) 01:46:57.97 ID:oneKh+Kwo<> 別れがあれば出会いもあるよきっと
次の話の構想もあってくれれば良いなぁ… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大分県)<>sage<>2011/06/08(水) 07:09:22.07 ID:0PHWhlsI0<> >>959-962
お前が何やってんだよww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/08(水) 14:07:12.23 ID:4KCCRLbAo<> >>959
一方と美琴のスルーは電磁通行的には美味しいネタでもあるしな
回収してほしいけどもうちょっと先延ばししてほしいジレンマががが <>