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杏子「綺羅星十字団…?」
1 : ◆.2t9RlrHa22011/06/06(月) 23:59:06.12 ID:DV88R+210
やぁ、僕はQB。

このSSではなかなか登場が難しそうだから、ここでの解説役を任されたんだ。

このSSは作者が以前ニュー速VIPへ投稿した、『まどか☆マギカ』と『STAR DRIVER 輝きのタクト』のクロスSS

≪  さやか「銀河美少年…?」タクト「魔法少女…?」  ≫の続編になる。 


作者が無知故に不備が多く、おまけに途中で落ちてしまって終盤は後編に別れてしまったgdgdっぷりだったけどね。

もっとも今作は確かにそれの続編だけど、諸々の事情から当面は前作ほぼ未登場の杏子を中心に話が進む。

さらに状況に合わせて、所々で前作で起きた事を挟んだりするそうだから、前作のSSを知らずとも一応心配はいらないそうだよ。


まどかは8話、スタドラは16話終了時点と言う事だけは知っておいてね。

あと、作者の無能や暴走故にキャラの口調や思想、設定がズレたり間違ってたりする時があるから、広い心を持ってくれると嬉しい。

作者の文才の無さを罵りたい時は静かに去ってくれると助かる。


それじゃあ、始めようか。

僕と契約しなくていいから、SSを読んでよ!
2 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 00:02:19.39 ID:fAZZxolc0
美樹さやか。

甘ったれで弱っちい新米魔法少女だ。


なったばかりの新米で、どうみても大したことない魔女一匹倒すのに苦労する癖に、どこぞの正義の味方みたいな真似をする。

どこか鼻に着く喋り方で、綺麗ごとばっか抜かす上に、相性悪い遠距離型で、何回やっても引き分ける正義の味方気どりの大馬鹿野郎。

あいつと同じような瞳をして、アタシの前に立ちふさがる。


その大馬鹿野郎でさえ割り切る所は割り切ってたのに、あいつはもっと真っ直ぐな瞳をして戯言を抜かす。

それがアタシは最高に気に入らなかった。
3 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 00:06:28.11 ID:fAZZxolc0
魔法は人を救わない。


それはアタシの信条だ。

凄い力や凄い奴は、いつだって世界を救ってきたのか?

違うだろ?


魔法だって同じだ。

それ持って何やるのも自由。

力を持ってる奴が、誰かを救わなきゃいけないなんて誰が決めたんだ?
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)[sage]:2011/06/07(火) 00:07:25.24 ID:zLVqsoSIo
綺羅星☆

ヒャッハー! 前の奴も面白かったぞー
5 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 00:09:34.87 ID:fAZZxolc0
そう。

『誰かの為』なんて言って力を使ったって、それが本当にそいつの為になるとは限らないんだ。

逆に相手を傷つけて破滅させる事だって…。



だから、こんな力自分の為に振りまわして、使いたいように使うしかないのさ。


実際に見てみろ。

綺麗事を並べた大馬鹿野郎の巴マミは倒れて、美樹さやかだってもう限界ってツラしてる。
6 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 00:12:51.37 ID:fAZZxolc0
ほらな、それ見た事か…!

それ見た事か…!

見た事か…。


『誰かの為』なんて言った奴は残らず破滅する。

そればかりを見て、自分の事すら見えなくなっていくから…。



結局自分の為に生きる奴が一番正しいんだ…。


正しい、筈なのに…。

なのになんで、こんなに胸に突っかかるんだよ…。
7 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 00:15:47.05 ID:fAZZxolc0
さやか「誰かの幸せを祈った分、誰かを呪わずにはいられない…。

    あたしたち魔法少女ってそういう仕組みだったんだ…」



なんで、お前がそんな…。

立ちふさがるんじゃないのかよ…。

あんたのやり方で戦うんじゃなかったのかよ…。



そんなつまんねー仕組みなんてどうだっていいよ…。
8 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 00:18:34.69 ID:fAZZxolc0
さやか「あたしってほんとバカ」



違う…。

違うよ、さやか…。

アタシがあんたに求めた答えはそんなんじゃない…。


なんでこうなるんだよ…。

さやかはこうなっちゃいけないんだ…。

こいつは、真っ直ぐで、真っ直ぐすぎるくらい真っ直ぐで…。



アタシはあの日以来、久々に願った。

叶いやしないって知ってる筈の『奇跡』ってヤツを。
9 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 00:20:17.40 ID:fAZZxolc0
さやか「………………………」



さやかが何かを呟いた時、あいつの胸の中央に何か光が輝いた気がした。

アタシは『奇跡』が起きたのかと思ったけど、すぐに目の錯覚だとわかった。



さやかを中心にエネルギーの奔流みたいなのが発生し、周囲を駆け巡った。

それが何かはわからないが、すぐにヤバイモノだってのはわかった。

魔女やその結界内の不快感。アレに似たモノを感じたから。





『奇跡』なんてやっぱりないらしい…。
10 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 00:25:36.07 ID:fAZZxolc0
杏子「くそっ、さやかっ…!」


駅のホームにあった柱に捕まり、暫くは耐えて見せた。

だけど、その不快なエネルギーは徐々に意識を遠のかせる。

耐えようと思ったけど、ダメだった…。




畜生…。

何でこうなるんだよ…。

さや、か…。
11 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 00:31:18.40 ID:fAZZxolc0
────────

────

──


シモーヌ「しかし、急に取引がしたい等と言ってくるとは意外でしたね、奥様」


カナコ「シモーヌ、あなたが私が不在の間に話を取りまとめていてくれて助かったわ…」


シモーヌ「代わりに息つく間もないスケジュールが完成しそうですが…、その割には嬉しそうですね」


カナコ「こちらの手を取るつもりのなかった相手が、渋々ながらも向こうから歩み寄ってくる。これは素晴らしい事よ。

    人間同士が互いに譲歩し合うことができれば、最終的にこの世から争いは無くなる…、そうは思わない?」


シモーヌ「現実はそう甘くないですよ、奥様。

     事実、我々はクラスメートとすら解り合えていません」
12 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 00:34:34.78 ID:fAZZxolc0
カナコ「そうね…。実際h」

シモーヌ「待って!」


シモーヌ「あそこに人が倒れています」


カナコ「わかったわ。車を止めて」


運転手「はぁ…。

    しかし、ここで車を止めると商談に間に合わなくなりますが?」


カナコ「それは人命よりも優先すべき事? 止めなさい!」
13 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 00:37:59.16 ID:fAZZxolc0
片田舎の海沿いの車道を窮屈そうに走る高級車が急停車する。

その車から、いかにもと言った令嬢とその侍女が現れる。

侍女が発見した倒れている人影を発見する為に、行きすぎた道を駆け戻っていく…。



シモーヌ「いました、あそこです」






??「うぅ…、さや…、か…」


赤い髪をポニーテールにして、さらに赤い衣装を纏った少女が倒れていた。
14 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 00:48:09.79 ID:fAZZxolc0
ちょいと小休止。
一言書いたらすぐ再開します

>>4
綺羅星☆
応援してくれるものがいるのはやっぱり最大の励みになるZE


さやかと銀河美少年絡めたいだけのSSの反対に、杏子と綺羅星絡めようとしただけだから無茶苦茶苦労しました…。

キャラ多いわ、杏子にも色々思想が必要だわで、今現在も結構迷走中。
大筋は決めてるんだけどね…。

キャラ多い作品は絡めるキャラ絞らないと地獄見る事を学びました。
おかげで長いです。
おまけに仕事の都合で来れたり来れなかったりします。

うまく完走できるように、綺羅星に願いを…。
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)[sage]:2011/06/07(火) 00:51:36.69 ID:zLVqsoSIo
いったん乙乙

VIPと違ってここは落ちないからゆっくりでも大丈夫よ。
いや、早く続きが見れるのは嬉しいですけどね
16 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 00:53:36.71 ID:fAZZxolc0
アタシの頭をなでる優しい神父…。

この夢はよく知ってる。

ちょっと温かくて柔らかい布団で寝るとすぐ出てくるウザったいヤツだ。

アタシはコレを見るのが嫌で、宿を借りてもわざわざ床で寝るってのに…。


神父とその家族の優しい日々。

そのまま終わるなら良いんだ…。

でも、この夢の結末は決まってる。


最期は必ず最後に神父がトチ狂って、小さな女の子とその母親に迫るんだ。

そして…。
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県)[sage]:2011/06/07(火) 00:56:43.73 ID:1DNn9mT/o
16話ってどこまでだったか誰か教えてくれ
もう覚えてないよ
18 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 00:58:11.01 ID:fAZZxolc0
杏子「あああああああぁぁぁぁぁ……」


二人の断末魔で終わる。

もう毎度お決まりだが、何べん見ても慣れてはくれねぇ…。







杏子「はぁ…、はぁ…、はぁ…」


息を荒げながら、自分の上体を起こしてみる。

やはりと言うかなんと言うか、布団を伴ったベッドらしき所にいるらしい。
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/06/07(火) 00:58:31.77 ID:qkSTKtFHo
>>17
レシュバルぶっ潰してミズノとマリノが出てったとこらへんじゃない?
20 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:00:14.24 ID:fAZZxolc0
>>15
頑張るね
現在も迷走中なのが困りもの

>>17
ヘッド(笑)を居合した所
21 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:02:29.92 ID:fAZZxolc0
杏子「チッ。どこの馬鹿だ…。余計なことしやがって…!」


????「当家の奥様ですよ」



すぐ後ろにそこに誰かいる。

気配がない…訳じゃない。

悪夢にやられて警戒を怠っていた。


アタシは反射的に、毛布をそいつに飛ばして視界を奪う。

そして、一気に襲い掛かる。
22 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:06:04.75 ID:fAZZxolc0
????「きゃッ…!」


侵入者は倒れ込み、アタシは毛布の下にいるそいつにマウントを取る形となる。

これでとりあえずの危機は脱した。

と思ったが、甘かった。





杏子「ッ…!」

???「動くな…!」


今アタシの下にいる奴とは違う。

今度の奴は本当に気配がなかった。

いつのまにか背後に立たれ、首筋に木刀を突きつけられている。
23 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:08:29.11 ID:fAZZxolc0
???「両手を上げて、そこから離れろ…」


こちとら油断してないかって言えばしてない事もないが、それにしたってどこの暗殺者だよ…。


渋々あたしは両手を上げた状態で立ち上がり、毛布に包まれた最初の侵入者から離れる。

勿論背後にはさっきの暗殺者みたいな奴が立ったままだ。


横目でしか見れないが、毛布の中から出てくる奴の姿を見てみる。
24 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:12:49.95 ID:fAZZxolc0
????「いてて…」


何の事は無い。

顔立ちがやけに綺麗なだけの侍女だ。


金色の髪と青い目が特徴的だが、殺気はおろかそっち方面の特徴は何も無いただの一般人。

攻撃する必要のない奴を攻撃して状況を最悪にしちまった。

危機なんて何も起きておらず、自ら寝ぼけて危機を作り出したんだ。



こりゃしくじった…。

あの夢を見るとほんとロクな事がねぇ…。
25 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:14:45.28 ID:fAZZxolc0
力尽くで行くか…?


こちとら魔法少女だ。

暗殺者の一人や二人、魔法少女になっちまえば造作もねぇ。

おまけに相手の獲物はたかが木刀だ。


だが、こう言ういかにも『名家』みたいな所で派手に騒ぐと後が怖い。

手を出したのは侍女一人だし、今ならまだ捕まった後にこっそり抜けても追手がかからない可能性が高い。


普通だったら切羽詰まってるんであろう状況でごちゃごちゃ考えてた所、後ろの奴から指示がようやく来る。
26 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:16:55.61 ID:fAZZxolc0
???「来い、奥様がお呼びだ」


とりあえず、言われるがままアタシは従って歩く。

途中でちらっと顔が見えたが…。


悪くもないが、どこにも特徴もない、ありきたりなラブコメの主人公みたいな顔してやがる。

顔だけ見りゃ暗殺者どころか、さっきの侍女さえ比較にならない凡人の面構えだ。


人はみかけによらないのか、それともアタシの嗅覚もいよいよアテにならなくなってきたか…?

そんなこんなを考えている内にその奥様とやらの居る所に着き、アタシはそれは素晴らしい歓迎を受けた。
27 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:19:33.39 ID:fAZZxolc0
杏子「……で、なんでこうなるんだよ」


カナコ「あら、食事はみんなで取った方が楽しいとは思わない?」


シモーヌ「奥様は皆で取る食事を大変気に入っておられます」


杏子「アタシが言いたいのは……、なんで得体のしれない奴をそこに……、招いているかなんだがなぁ……」


左手で頭を掻きながら、それでも右手と口の動きは止めない。

ごちゃごちゃ言いながらも、並べられた料理には食らいつく。

目の前に並んだのは、アタシみたいな奴には一生縁が無いような、名前もわからん高級料理ばかりだ。
28 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:24:43.97 ID:fAZZxolc0
ワタナベ・カナコ。

見た目は若いが、気品と大人の色気みたいなモノを放つ例の『奥様』。

柔らかい薄緑の髪と、笑顔を絶やさない様子ながらもどこかタダモノならぬ気配を感じさせる。

そのまんまコイツは既婚者らしく、「ミセスワタナベと呼んで」とかほざきやがる。

しかも相手は良い歳した爺さんらしい。金持ちの考える事はわからん…。



侍女の方はシモーヌ・アラゴン。

落ち着いてるのか冷静なのかわからんが、あんまり表情を変えない。

先も言った通り結構な美人で、カナコの話じゃかなり多芸でなかなかに優秀らしい。



ラブコメ坊やはダイ・タカシって言うそうだ。

コイツも正直よくわからんが、凡人染みた顔ながらも仕事の手際と手広さはシモーヌに劣らないっぽい。

シモーヌと決定的に違うのは、こいつは戦いとかそっちの心得があるのが間違いない事だろう。
29 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:27:21.61 ID:fAZZxolc0
しっかし、わかんねーのはそのシモーヌを攻撃したアタシがなんで昼食に招かれてるかってことだったんだが…。





カナコ「シモーヌから事情は聞いたわ。

    いきなり見知らぬ人間が枕元に立ってて驚いたんでしょう?

    見つけた時凄く衰弱していたから、相当酷い状況から流れついたんでしょうし…」


シモーヌ「あの事については気にしなくて良いです。こちらも不注意でした」


カナコ「それより、あなたのお名前を聞かせて貰ってもいいかしら?」


杏子「あぁ? …佐倉杏子だよ」
30 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:29:56.53 ID:fAZZxolc0
シモーヌ「ちなみに、杏子の杏はあんずと書きますので、あんこさんって呼ぶのがよろしいかと」


杏子「てめっ…/// 何言って…///

   つーか、何で知ってんだよ!」


シモーヌ「あんこさんの介抱を行ったのは私ですから。

     汚れた洋服から所持品をお預かりした際にたまたま…」


カナコ「ちゃんとシモーヌにお礼言うのよ、あんこちゃん…。

    あなたを発見してくれたのもシモーヌなのだから」
31 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:31:54.14 ID:fAZZxolc0
杏子「それはわかったが、あんこじゃねぇ!///」


タカシ「………さくらあん?」


杏子「しれっと何言ってんだ! 潰すぞ///」




ウザったいからかいだが、監禁されたり追手から逃げ回るよりはマシ。

何と言っても、美味い飯に無料でありつける。

この状況で裏が無いって考える方が不自然だろうが、考えても始まらない。

お人よしって奴は世にいない事もないしな。


せっかくだからと欲張って、現状でもっとも確認しなきゃいけない事をそれとなく聞いてみる。
32 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:33:30.69 ID:fAZZxolc0
杏子「ところで、アタシの他に倒れてる奴はいなかったかい…?」

杏子「青い髪をショートにしててさ、こんくらいの背丈で…」



カナコ「いいえ。一応後々近くを調べるようには言ったけど…」


タカシ「………………」



どうにもカナコ達の話じゃ、アタシは浜辺に打ち上げられてたらしい。

で、他の遭難者がいないかを一応調べさせたそうだが、周囲には誰一人いないとの話だそうだ。

カナコはこの島の内外で顔が利くそうだから、調べてくれるとは言うが…。




カナコ「でも、真っ先にその子の行方を聞くなんて…。よっぽど大事な子なのね」
33 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:35:45.11 ID:fAZZxolc0
言われて初めて気が付いた。



大事…?

アタシがあいつを…?

あり得ねぇ…。



でも、カナコの言う通り、こんな状況で真っ先に考えた事は何だった?

今にも死んじまいそうなあいつの様子を見て、なぜあんな気持ちになった…?



今にも死んじまいそう…。

そういや、最後に会った時のあいつはそんな状態だった…。

そう考えると、今どうなっちまってるかわからない…。
34 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:37:10.10 ID:fAZZxolc0
だが、問題はさやかばかりで無く、アタシ自身にも訪れていた。






杏子「南十字島だって…?

   どこだよ、そこ…?」


この島の名前らしい。

しかし、アタシの知る限り日本にそんな島は無い。

アタシの無知なら良い。

だが、イヤな予感がしたアタシは、シモーヌからノート型PCを借りると色々と検索してみた。
35 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:38:16.15 ID:fAZZxolc0
だが、問題はさやかばかりで無く、アタシ自身にも訪れていた。






杏子「南十字島だって…?

   どこだよ、そこ…?」


この島の名前らしい。

しかし、アタシの知る限り日本にそんな島は無い。

アタシの無知なら良い。

だが、イヤな予感がしたアタシは、シモーヌからノート型PCを借りると色々と検索してみた。
36 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:39:01.31 ID:fAZZxolc0
だが、問題はさやかばかりで無く、アタシ自身にも訪れていた。






杏子「南十字島だって…?

   どこだよ、そこ…?」


この島の名前らしい。

しかし、アタシの知る限り日本にそんな島は無い。

アタシの無知なら良い。

だが、イヤな予感がしたアタシは、シモーヌからノート型PCを借りると色々と検索してみた。
37 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:40:30.84 ID:fAZZxolc0
だが、問題はさやかばかりで無く、アタシ自身にも訪れていた。






杏子「南十字島だって…?

   どこだよ、そこ…?」


この島の名前らしい。

しかし、アタシの知る限り日本にそんな島は無い。

アタシの無知なら良い。

だが、イヤな予感がしたアタシは、シモーヌからノート型PCを借りると色々と検索してみた。
38 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:41:56.50 ID:fAZZxolc0
だが、問題はさやかばかりで無く、アタシ自身にも訪れていた。






杏子「南十字島だって…?

   どこだよ、そこ…?」


この島の名前らしい。

しかし、アタシの知る限り日本にそんな島は無い。

アタシの無知なら良い。

だが、イヤな予感がしたアタシは、シモーヌからノート型PCを借りると色々と検索してみた。
39 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:46:28.59 ID:fAZZxolc0
だが、問題はさやかばかりで無く、アタシ自身にも訪れていた。






杏子「南十字島だって…?

   どこだよ、そこ…?」


この島の名前らしい。

しかし、アタシの知る限り日本にそんな島は無い。

アタシの無知なら良い。

だが、イヤな予感がしたアタシは、シモーヌからノート型PCを借りると色々と検索してみた。
40 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:48:14.41 ID:fAZZxolc0
いや〜、なんか重いと思ったら連続投稿しちょる…。
いや、まあlすぐ再開します、ハイ。
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)[sage]:2011/06/07(火) 01:49:07.24 ID:wVqP3nYAO
続き来たか、回線不調子なんかね今
42 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:50:02.85 ID:fAZZxolc0
杏子「………やっぱり、見滝原が別の名前になってやがる」


シモーヌ「みたきはら…? 現在の日本にそんな所は無いと思いますが」



アタシらが居た筈の見滝原市が別の名前に置き換わってた。

カレンダー上じゃ、僅か三日と半日にしか経ってねーにも関わらず、だ。

おまけに調べりゃ、歴代の首相に知らない名前の人物がいたり、誰でも知ってるような便利な道具が存在してなかったりする。
43 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:52:35.12 ID:fAZZxolc0
パラレルワールド。

馬鹿げてるとも思ったが、よく考えりゃその馬鹿げてるモノの中心にいるのがアタシら魔法少女だ。

今更その馬鹿げた世界が広がっても驚く気も起きやしない。


しかし、そうなってくるとこの世界に魔女が居ない危険性が出てくる。

魔女ってのは魔法少女の敵たる化け物だが、倒すと魔法少女が生きていくのに必須な『グリーフシード』ってのを落とす。

アタシは溜めこんでるから暫くは持つが、全く手に入らなくなるってのは相当ヤバイ問題だ。
44 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:54:51.29 ID:fAZZxolc0
おまけにさやかは、ここに来る前から深刻なグリーフシード不足にある。

そうと解ればのんびりはしていられなかった。




杏子「色々ありがとな…。こんだけ聞ければとりあえずは十分だ」


カナコ「…すぐに向かうのかしら?」


杏子「できたらそうしたいけどさ…。ちょっと待った」


カナコ「…?」
45 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:57:01.94 ID:fAZZxolc0
杏子「アタシがこの飯残したら、それはどうなるんだ?」


シモーヌ「後片付けなら私が後で行いますが…」



あ〜あ〜。

やっぱりそう来たか。

これだから金持ちは…。






杏子「………」ムシャコラムシャコラ



シモーヌ「…?」

カナコ「急ぐんじゃないのかしら?」
46 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:58:11.88 ID:fAZZxolc0
杏子「あんたらにも言っておく……」

杏子「食い物を粗末にするなら、恩人だろうとぶっ[ピーーー]」



これもアタシの信条の一つだ。

これをする奴は、誰であろうと絶対に容赦はしねぇ。


理由?

勿体無いからだ。

そもそも理由なんて、いらねぇだろ………。
47 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:01:21.68 ID:fAZZxolc0
────────

────

──

杏子「あんたには色々迷惑かけちまったな」


シモーヌ「事故のようなものです。お気になさらずに」


杏子「………」


シモーヌ「私の顔に何か付いてますか?」



杏子「あんた落ちついてるよなぁ…」


シモーヌ「そうでもないですよ、あんこさん」


杏子「あんこさん言うな!///」





杏子「カナコも色々世話になったな」


カナコ「また遊びにいらっしゃい」
48 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:03:25.24 ID:fAZZxolc0
シモーヌとカナコに挨拶を済ませ、あいつらの住むデカイ船の外に出る。

そこでようやく、カナコに言われて島の地図を持ってきたタカシが追い付く。

アタシにとって最も重要な情報を持って。



杏子「さやかかもしれない奴に心当たりがあるだと…?」

杏子「本当かよ!? どこにいるんだ!?」


タカシ「落ち着いてください。

    今持ってきた地図に出入りしてそうな場所もマーキングしておきます」


タカシ「ただ…」


歯切れ悪く切るタカシに苛立つも、黙って話を聞き続ける。
49 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:04:37.66 ID:fAZZxolc0
タカシ「彼女、何か危険な事をしているみたいでして…。

    できればあなたの方からそれをやめるよう、説得してあげてくれませんか…?」




危険な事?

全く、あの馬鹿は人をどれだけ心配させりゃ気が済むんだよ…!


しかし、よくよく考えりゃ無理もない話で、最後に会った時のあいつは今にも死にそうな面をしてた。

あんな状態のあいつなら、危険な事の一つや二つしててもおかしくはない。


タカシから地図を受け取ると、アタシは駆け出していた。
50 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:06:56.44 ID:fAZZxolc0
────────

────

──


アタシはあいつを探す為に、地図にある箇所を訪ねた。

一つ目の道場?は人が誰もいなくて空振りだったが、

二つ目の神社へ向かう途中で、あいつを見つけた。


青い髪のショートヘア。

あのムカつくツラ。

忘れもしないアイツ…。



美樹さやかがいた。
51 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:08:55.08 ID:fAZZxolc0
さやか「杏子…?」


さやか「よかった! アンタも無事だったんだ…!」


それを見たアタシは目を疑った。

あいつはすっかり元気を取り戻していた。


最後に見た時は死にそうな顔をしてたのに…。

あっちの世界とこっちの世界で時間軸にズレがないなら、まだ四日も経っていない筈なのに…。




それとタカシから聞いた『危険な事』。

合わせると、どうしても良い予感はしなかった。
52 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:10:38.58 ID:fAZZxolc0
さやか「良かった。心配してたんだよ…。

    アンタあの時やけに近くにいたから、巻き込まれたんじゃないかって…」


杏子「………」


さやか「………ちょっと。なんか言ってよ」


杏子「さやか、お前何があった?」


さやか「何って…?

    あぁ、アンタには情けないモノ見せちゃったもんね…」


杏子「それはいい、答えろ」


アタシには見せた事のなかった笑顔を一瞬だけ見せ、さやかはどこか悟りきった表情をした。
53 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:11:51.52 ID:fAZZxolc0
さやか「……会えたんだ」


杏子「あぁ…?」


さやか「あたしのしてきた事…。

    受け止めて、その上で称えてくれる人に…、会えたんだ」



普通なら、よかったじゃんって返せば良いんだろう。

だが、こんな状況とこんな短い期間で、さやかの言う人物と『危ない事』とやらが無関係ってのは考えづらい。


まして、こいつは…。
54 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:13:01.74 ID:fAZZxolc0
杏子「………気にいらねぇな」


さやか「…………」


杏子「お前、なんか今危ない事やってんだって?

   そいつも『それ』に絡んでるのか…?」


さやか「どうして、それを…?」


杏子「答えろ!」
55 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:14:29.98 ID:fAZZxolc0
さやかはホレた男の為に魔法少女になり、結局その男に捨てられ、それを大きな一因にして病んでいった。

そんなさやかが何か支えを欲しがるのは無理はないだろうさ…。


気にいらねぇのはそいつだ…。

心が弱り切ったさやかを甘い言葉で惑わせて、『危ない事』だか何だかやらせてるってのか…?



そいつへの嫉妬…?

そいつが気に入らない…?

それはある。


だけど…。
56 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:15:48.37 ID:fAZZxolc0
さやか「その人は、その状況に巻き込まれたあたしを助けてくれただけ。

    もっとも、その後はあたしが自分の意志で『それ』をやってるけど」


杏子「『それ』が何なのか、アタシには言えないのか?」


さやか「………言えない。言えばなんだかんだでアンタを巻き込むだろうし。

    アンタには借りを作りたくないし、アンタはアンタらしく自分の事だけ考えてて欲しいから…」



少しだけ迷った様子をみせて、さやかは切り出す。

さやかもアタシに気を使ったんだろうその言葉は、今のアタシには完全に逆効果だった。

そいつへの庇い立てと取ったアタシはとうとうブチ切れる。



それだけじゃないな…。

たぶんだけど、あいつの瞳が妙に決意に満ちてる事から、嫌な予感がしたんだと思う。
57 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:17:50.19 ID:fAZZxolc0
杏子「もういい。そいつはどこだ!」


さやか「仮に言ったとして、会ってどうする気?」


杏子「化けの皮を剥がすのさ。

   アタシがそいつをボコボコにして、それでもあんたに対して戯言を抜かせるか確かめる…!」


さやか「相変わらず…、そう言う馬鹿なモノ言いは直らないんだね」



杏子「馬鹿はお前だ! さやか!

   何べん同じ事繰り返せば気が済むんだよ!」



さやか「…言ったでしょ」


さやかの表情が変わる。

その瞳は、アタシが一瞬怯むほどの強い意思を感じる。
58 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:19:57.10 ID:fAZZxolc0
さやか「あたしはあたしのやり方で戦うって。

    あの時は迷って堕ちたけど、今度はもう迷わない」


さやか「そんな生き方が、あの人が称えてくれて、あたし自身が望んだ魔法少女の形だから」



杏子「理想論だけじゃ生きていけないって、まだわからないのか!

   現にこっちの世界に魔女は居ないかもしれないんだぞ?

   グリーフシードがなきゃ、どうなるかは身に染みてわかったはずだ!

   なのに、なんで…」





杏子「お前はまた『誰かの為』なんだよ!!!!」






さやか「……………ごめん」
59 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:21:12.37 ID:fAZZxolc0
アタシは全力で嘆いた。

でも、さやかはそれに謝った。

二人の間に決定的な亀裂が入った瞬間だった。




杏子「……構えろ」


さやか「………杏子?」


杏子「力尽くでも『それ』をやめさせる!」
60 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:22:44.93 ID:fAZZxolc0
結局アタシ達二人は互いに魔法少女になり、ぶつかりあった。


あいつを心配してきた筈なのに…。

弱ってる筈のあいつに無理させたくないのに…。

魔翌力やグリーフシードの無駄遣いはまずいってのに…。

「一緒に帰る方法を探そう」って言おうと思ってたのに…。



結局、最後はこうなっちまう…。

馬鹿はアタシだ…。
61 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:24:23.86 ID:fAZZxolc0
前の戦いでアタシの技を多少は覚えたんだろうか、それともこいつにも譲れない何かがあったのか…。

さやかは善戦した。

それでもアタシとの力の差は歴然だった。



杏子「……『それ』、やめる気になったか?」


さやか「……絶対やめない」


杏子「今度こそ死ぬぞ!」


さやか「構わない。……別に死んでやる気もないけどね」
62 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:25:48.58 ID:fAZZxolc0
杏子「……………馬鹿野郎がッ!」




あちこちボロボロなのに、あいつの目は輝きを増していた。

あいつを圧倒した筈のアタシが逆に気押されるほどに。


こいつは、また『誰かの為』に戦う事を選んじまったんだ…。

自分自身がどうなるとしても…。


さやかをそんなにした例の奴を心の中で罵倒しながら、これ以上続けてもどうにもならないであろう事を悟り、

さやかに背を向けると同時に黒い宝石を数個落とした。
63 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:27:24.53 ID:fAZZxolc0
杏子「………使え」


さやか「グリーフシード?

    でも、あたしは…」


杏子「いらねーから捨てただけさ。

   それなら、拾って使っても借りにはなんないだろ…」


さやか「杏子……」
64 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:30:54.26 ID:fAZZxolc0
魔法少女の命たるソウルジェム。それが壊れない限りアタシらは不死身だ。

だが体を回復したり、魔法を使って戦った際にソウルジェムは穢れを溜める。

他にも精神に過度のストレスを溜めた際にも溜まり、

濁りきればよくは知らないが、死に近い状態になったり、呪いを生み出したりと良くない事になると言う噂を聞いた。

実際、あのさやかの様子を見ればそれがどれだけまずいかは想像に難くない。



その穢れを浄化する為の黒い宝石。それこそがグリーフシード。

あいつはそれの手持ちがなくて、ソウルジェムが濁りきってた筈なのに無理させちまったから…。


歩き始めたアタシは、あいつが後ろで何か言っていたが聞こえなかった。



そして、考え事をしていたアタシはこのやり取りを見ていた何者かの存在にも気付かなかった…。
65 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:36:09.36 ID:fAZZxolc0
────────

────

──


黄昏ながら海岸を歩くあたしに、絵描きらしき青年が話しかける。

夕陽を描こうと今やってきたのか、スケッチはほぼ真っ白だ。


???「情熱的な瞳、髪、立ち振る舞い…。全身から情熱が溢れ出るようだよ…。

    君の絵を描かせてくれないかい?」


杏子「興味ないね」





???「美樹さやかと一緒に元の世界へ帰りたくは無いかい…?」


通り過ぎようとした時、絵描きはその尻尾を見せ始めた。

どこか胡散臭い奴だとは思ってたが、アタシ達の昼間のやり取りを見てやがったのか…?
66 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:38:13.06 ID:fAZZxolc0
杏子「あんた、何者…?

   なんでアタシ達の事情を知ってんのさ…?」


アタシはソウルジェムから魔翌力でできた手槍を出して、相手の喉元に向ける。

だが、その男は意にも介さずにそのまま口を動かす。





???「そう身構えないでくれ。

    今の君や美樹さやかに対して直接事を起こすつもりなら、こうして話し合いに来たりはしない…」


杏子「聞きたい答えと違うんですけど〜?」


回りくどい絵描きに苛立ったアタシは、槍をほんの僅かに伸ばし、絵描きの首元にかすらせる。

しかし、こいつは臆するどころか溜息を吐くだけで平然と話を続ける。
67 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:39:55.95 ID:fAZZxolc0
???「ハァ…、やれやれ。好戦的だなぁ…」


???「話すよ…。

    率直に言えば我々と美樹さやかは敵対関係にあり、手に余る彼女の内情を探っていた」


杏子「………」



やっぱりな。

キナ臭いとは思ったが、さやかの敵さんが自ら出向いてきたってわけか。

本当ならこいつを脅すなり泳がせるなりして、敵陣に乗り込んで一網打尽にしてやるのが、さやかの負担が一番減るんだろうが…。



『元の世界へ帰りたくは無いかい…?』

こいつはそう言った。

その条件はアタシに取っても、さやかに取っても最優先すべきであろうことだ。
68 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:41:41.65 ID:fAZZxolc0
杏子「方法があるのか…?」


???「サイバディ」



杏子「………?」


???「彼女や我々が用いている古代の異文明の遺産の事さ。

    どうも君や美樹さやかをこの世界に飛ばした原因でもあるようだ。

    我々の目的は『それ』を封印から解放し、活用したり、より深く研究したりする事にある」


杏子「そのとんでもないモノなら、アタシらを元の世界に戻せるってのかい…?」


???「君が手探りで探せば一生かかってもできないであろう事を、圧倒的に短縮できるのは間違いない。

    我々はアレにそんな機能があるとは知らなかったが、来れた以上戻ることは可能な筈だ。

    問題は…」


杏子「……さやかの、存在か」
69 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:43:03.92 ID:fAZZxolc0
???「正しくは、彼女ともう一人…だけどね」


???「サイバディの研究をより深く行う為にも早い所その封印を解きたいんだが、彼女達はそれを許してくれなくてね…。

    なにせそれのような強大な力を手にするという事は、世界を支配するのと同じ事でもあるからね…」


な〜るほどね。

さやかの置かれている現状と敵対勢力の目的がだいぶ見えてきた。

こんな話になってるなら、あいつはこの状況を放っておいたりはしないだろう。

色々と頷ける状況だ。
70 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:44:34.79 ID:fAZZxolc0
???「ともかくだ。

    彼女のしている事は、元の世界へ帰る可能性を摘む行為に等しい…」


杏子「だから、アタシがあんたらの仲間になってさやかを止めろ…と?」


???「そうだ。元の世界に戻れなければ君達も色々と困るんだろう…?」


本来なら、アタシはこんな胡散臭い奴の面倒な取引には応じない。

言ってる事も嘘くさいし、そもそもリスクが大きい。

まして自分らが世界を手にする為に、小娘一人つけ狙おうなんて言う腐った考えの連中なら尚更ね。


さらにアタシは慣れ合うのは嫌いで、集団ってのは従うにも抜けるにも色々面倒事が付きまとうモンだ。


ただ…。
71 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:46:36.26 ID:fAZZxolc0
杏子「あんたらの条件は、アタシらが元の世界に戻る為の技術提供。

   そしてアタシはあいつを止めて、サイバディとやらが世界に出る事で、より研究をしやすいようにする。

   それで良いんだな?」


???「あぁ」




杏子「その話………乗った」


アタシ自身の為にも、さやかの為にも、元の世界へ帰る必要はある。

そして、あいつを狙う胡散臭い連中の中に潜り込んだ上で、その『危険な事』自体はアタシ自ら行えるかもしれない。

色んな危険や注意すべき事は多くとも、とりあえず乗っておかない手は無い悪くない条件だ。
72 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:48:04.92 ID:fAZZxolc0
???「そうか……。それは助かる」


そして、絵描きはどこか棘と怪しさを含む笑みを浮かべて立ち上がり、そう言った。



???「歓迎するよ。

    ようこそ、綺羅星十字団へ」


杏子「綺羅星十字団…?」




綺羅星十字団。

胡散臭さが爆発したその秘密結社の一員として、アタシはさやかの『敵』になることを決めた。
73 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:51:28.03 ID:fAZZxolc0
────────

────

──


議長「これより綺羅星十字団、総会を始めます!」



一同「「「オォーーーーー!!!」」」



先ほどの話に乗った事をさっそく後悔している。

いや、諸々の条件とかさやかの敵になる事とかそう言うんじゃないけどさ…。

ただ…。



なんなんだ、このエキセントリックな連中は…?
74 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:53:29.64 ID:fAZZxolc0
綺羅星十字団。

胡散臭いのは名前だけじゃなかったらしい。


どいつもこいつも魔法少女や、それを通り越して魔女にでもなってそうな服装に、怪しげな仮面を付けた仮面舞踏会みたいなノリ。

アタシもそれに合わせ、魔法少女姿にその妙ちきりんな仮面を付けている。

いや、それはもう良い…。


それよりも…。



ヘッド「さっそくだが、今日は新しい我々の同士を紹介しよう…」


ヘッド「来たまえ、『デス・クリムゾン』」
75 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:55:28.76 ID:fAZZxolc0
『デス・クリムゾン』

アタシに付けられたコードネームだ。

これはアタシだけでなく、他の連中も全員似たようなコードネームを持っている。

仮面同様、どうにも私生活でその辺がバレ無いようにする為の措置らしい。

これで呼ばれると背中が痒くなるが、それすらもまだいい…。



呼ばれたアタシは、仮面を付けた大衆の見守る中、中央に円形の穴が開いたデコボコ卓にいる絵描き、もといヘッドの横に立った…。

問題はここからだ…。
76 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:57:12.88 ID:fAZZxolc0
ヘッド『会場が暗転し、スポットライトが君に当たったら大きな声でそう言いつつ、そのポーズを取れ』


杏子『おい、なんだそりゃ! そんなの聞いてねーぞ!?///』


ヘッド『なんだ? そんな事わざわざ事前説明はいらないだろう…?』


杏子『大勢の前で、ノリノリでそんな事やるのかよ…///』


ヘッド『それこそが我々の同士の証たる作法だ。

    何、すぐに慣れるさ』



慣れてたまるか…///

そんなどっかのアイドルの決めポーズみたいなの大勢の前でやるような組織に慣れてたまるか…///


つーかなんだそれ?///

キラ…!?///
77 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:59:41.16 ID:fAZZxolc0
考えている内に会場が暗転する。


何か対策は…?

今の内にダッシュで逃げるか…?

でも、そしたら元の世界に帰る為の手段はどうなる…?


とか考えてる内にカチっと音がしてアタシにスポットライトが当てられる…。



これでアタシはもう逃げられない…///

畜生…///

やるしか…、ないのかよ…///


えぇい!

こんちくしょーーーーーーーーー!!!!!!
78 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 03:02:37.37 ID:fAZZxolc0
きく息を吸い込み、覚悟を決める。

心臓の鼓動は止まらなかったが、もう無視してアタシは動き始める。



右手でVサインを描き親指も開く。

それを横にして、左耳の辺りにそれを持っていき、右側へ流す。

そして、人差し指と中指の先が右目を中央に捕らえたら、そこで止める…!



そして、叫ぶ。

高らかに…!




杏子「き、綺羅ぼちッ!」
79 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 03:03:39.35 ID:fAZZxolc0
一同「……………」



……やっちまった。

………一番大事な所で噛んじまった。

…………せっかくノリノリでやったのに、最後の最後に。




この場合どうなるのかな…?

テイク2やらせてもらえるのかな…?

それとも同士としては認められず、追い出されるのかな…?



つーか、なんか言えよ…。

沈黙でソウルジェムが濁りそうなんだけど…。

あぁ、アタシってほんとバ…
80 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 03:05:57.52 ID:fAZZxolc0
一同「「「綺羅星ッ!!!!」」」


噛んだ分対処に困ったのか、アタシの体感時間が遅く感じられたのかはわからないが、連中もようやくノリノリで返してきた…。



確かに相手のノリは想像以上によかった。

この訳のわからない挨拶がこいつらの作法ってのは間違いでもないらしい。


しかし、この挨拶はアタシは一生好きになれそうにないな…。

ただ、羞恥で潤んだ目と頬を隠してくれるこの仮面の方はまぁ…、少しありがたく思ったけど。




何にしてもこれでもう、アタシは後戻りはできなくなった訳だ。
81 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 03:08:10.02 ID:fAZZxolc0
落ち着いた所で辺りを見回してみる。

会場のど真ん中にある、中央に円形の穴が開いたでこぼこした卓。

その傍らの椅子に着いてるのは、分隊かなんかのリーダーのようだが、どうも女が多い。

欠席者が一人いるのか六席中五人が、ヘッドを除くと女、女、女、女…。


そんな中、どこかで見た事のあるヤツを発見した。





杏子(あいつ…、カナコじゃねーのか?)


先に会った気品を感じる私服と打って変わり、色気と攻撃性を伴った服装に警帽みたいなのを被り、手に鞭を伴っている。

だが、明るい緑の髪とその体の放つ色気、金持ち故の上品さみたいなモノは消し切れていない。
82 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 03:11:37.19 ID:fAZZxolc0

どうせなら、カナコの下で行動したいよなぁ…。

ふと、そんな事がよぎる。


アタシは状況的にはあの油断ならないヘッドとか言う奴を見張るべきなんだが、

聞いた話じゃ奴は立場が強く独自行動も思うままらしく、ちょっと張り付いたくらいじゃ尻尾を出すとは思えない。

そもそも腹の探り合いみたいなのはあまり得意じゃないから、先にアタシの方にボロが出るかもわからない。

あいつの後ろにいるなんたらエージとか言う分隊の連中もどこか一癖ありそうな連中ばかり。


正直あの男に近づきすぎるのは、リスクの方が大きいと断言できる。




ヘッド「彼女は、我々『バニシングエージ』のメンバーとし…」


杏子「ちょっと待った」


得意げに語ろうとするヘッドの口を遮るように、アタシは割って入った。
83 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 03:13:11.36 ID:fAZZxolc0
杏子「アタシは確かに綺羅星十字団への参加は決めたが、

   あんたの傘下になるとは一言も言ってないんだけど…?」


ヘッド「何…?」


ヘッドの不服そうな声を聞きつつ、視線をカナコらしき奴へ送る。




頭取(……あの子、こっちを見ている?)

頭取(まさか、あんこちゃん…!?)



こっちの視線に気づいたカナコらしき女が口を開く。

その口調は服装同様、やや攻撃的であるように思える。



頭取「あまり好かれていないようだな、ヘッド?

   そちらさえ良ければ、我々『おとな銀行』で彼女を引き取ろうか…?」
84 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 03:15:16.15 ID:fAZZxolc0
ヘッド「いや、彼女はこちらで責任を持っ…」

スカーレットキス「待ちな…!」




スカーレットキス「なかなか面白そうな事になってきたじゃん。私も混ぜろよ。

         あんたら二人が取り合うほどの新人なら、是非とも私達『フィラメント』も希望させてもらいたいね」



ピンクの髪をツインテールにし、カナコとは反対に色気を感じない平べったい胸の女が立ちあがる。



しかし、なんかややこしい事になってきちまったなぁ…。

あのヘッドが見るからに面白くなさそうな雰囲気を出してるのは、なかなかにオツだけどな。
85 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 03:16:41.71 ID:fAZZxolc0
ヘッド「チッ…」

ヘッド「では、公平にクジでも引くか…?」


頭取「異論ない」


スカーレットキス「お前らはどうする…?」




イヴローニュ「そんな得体の知れない奴は『ブーゲンビリア』には必要ない」


プロフェッサー・グリーン「こちらは言うまでもないだろう。

             『科学ギルド』にサイバディの専門知識の無い者が来てもどうにもならない」


白黒しましまレオタードの女と、黒いサラシみたいなのの上に上着を来た茶髪の女が興味なさげに言う。

卓の周辺にいるリーダー格は今上げた五人だけなんで、ヘッドとカナコらしき奴とピンク髪の三人でアタシを取り合うらしい。
86 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 03:18:02.88 ID:fAZZxolc0
ヘッド「…………」

頭取「…………」

スカーレットキス「……………」




イヴローニュ「決まりだな」


長い沈黙の中、引いた当り紙を高らかに振り上げて、ピンク髪の口元は満面の笑みを浮かべる。








スカーレットキス「では、約束通り『デス・クリムゾン』は、我々『フィラメント』の所属とさせて貰う!」


一同「「「オォーーーーーー!!!!」」」


アタシの上司はこのピンク髪のねーちゃんに決まったらしい。

カナコじゃないのは残念だが、まぁヘッドの下じゃないだけ幾らかマシだろう。
87 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 03:21:09.75 ID:fAZZxolc0
っし。
今日はここまで。
誰も居ないかもしれないけど、乙星!

明日はどうにか来れそうだから、適当な時間(夕方?)に再開予定。


あと作者は言うまでもなく、ティロフィナSSのファンです
アレ読まなかったら、きっとSSなんか書かなかった。
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/06/07(火) 04:13:57.90 ID:CDfBP22Yo
綺羅星っ!
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)[sage]:2011/06/07(火) 04:46:42.15 ID:wVqP3nYAO
乙星、さてはて搭乗サイバディ含めどうなることやら

タカシはやっぱりラブコメやエロゲとかの無個性主人公だよね姿形
まさか最終的にマドカの危険性やシモーヌとダレトスの繋がりを分かり易くする物差し君になるとは
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/06/07(火) 12:46:18.25 ID:ydjQnp2IO
乙乙
綺羅星もノリノリにこなせるようになるアンコちゃんwktk

91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/06/07(火) 15:31:27.41 ID:CXLKhljV0

綺羅星で噛んだのはベタなのにキュンと来た
92 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 21:19:23.40 ID:fAZZxolc0
乙星☆
遅れてスマソ
ぼちぼち投下します

最終章の構想が浮かんだから、来るのそっちのけで書いてた。
こう言う時どっち優先すべきかは迷う…。
熱い展開はビビっと来るとまとめて書ける反面、間繋ぐのがきつい。


>>89
タカシはちゃんと活躍するから、タカシ好きはじっくり待って欲しい
ポジがポジなんで終盤まで動かせなんだ

>>90
>>91
あんこちゃんマジあんこ



>>1の補足。
QBさんが得意の「聞かれなかったからね」してくれたんで、一応。

前作SS見た人はわかってるかもですが…。
スタドラは16話終了時とあるけど、ウインドウスターとニードルスターは既に南十字島へ来てる設定になってる。

名前遊び、強さレベルが程良い、二人組、戦闘狂、等丁度いい位置だったんで…。
93 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 21:25:33.11 ID:fAZZxolc0
イヴローニュ「それにしても、ドライバーを連れてきた所で機体はどうするつもりだったんだ?」


ヘッド「彼女は『アインゴット』のドライバーとして登録する予定だった。

    前ドライバーの所属の都合でアレは我々の預かりとなっているが、ドライバーごと『フィラメント』の登録にすると良い」


頭取「アインゴットだと…?

   あんな物にまた人を乗せるつもりだったのか…!?」


ヘッド「これから話すが、状況は君達が思うよりずっと切迫している。

    藁にもすがりたいほどにな」



アインゴット。

それを聞いたカナコらしき女がやけに苛立っている。

あの口ぶりからすると、どうもアタシはとんでもないモンに乗らされる所だったってとこかな…?


あいつの下へいかなかったのは、まずは正解だな…。
94 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 21:30:56.65 ID:fAZZxolc0
処遇の決まったアタシは、その『フィラメント』とやらの先輩らしき男二人に連れられ、周囲の仮面の中に混じった。

怪しげな連中に混じり、怪しげな五人の会議を見守る…。






ヘッド「では、『デス・クリムゾン』の所属もはっきりした所で本日の本題に移ろうか…。

    我々、綺羅星十字団は未曽有の危機を迎えている」



スカーレットキス「さっきも言ってたが…、なんで私達が知らない所で未曽有の危機が始まるんだよ?」



ヘッド「予期せぬ事態が発生した…」
95 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 21:34:36.77 ID:fAZZxolc0
頭取「…?」


ヘッド「サイバディ『レシュバル』が敵に奪取された」


スカーレットキス「…なんだそりゃ?」


ヘッド「語るよりも見て貰った方が早い。

    プロフェッサー・シルバー、映像を頼む」



ヘッドの指示で灰髪の仮面が何か装置を動かし、卓の上に立体映像が映る。
96 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 21:44:15.27 ID:fAZZxolc0
杏子(さやか…!?)



映像に映ったのは、青いショートヘアに青いコスチューム、白いマント、そして剣を持った魔法少女のさやか。

そこらの魔女じゃ比較にならない程デカくて、いかつい巨人の顔に向かって斬りかかっている。

だが、さやかの攻撃は虚しく弾かれ、いかつい巨人が地上へ放ったレーザーの爆風で吹き飛ばされてしまった。







ヘッド「彼女は『美樹さやか』。新たに敵となったもう一人の『銀河美少年』だ。

    そして、どうやったかはわからないが、俺からレシュバルのシルシを奪取した…」


議長(奪取…? 違うな…)
97 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 21:48:12.53 ID:fAZZxolc0
議長(あの日、俺はヘッド…、いやトキオに以前与えたレシュのシルシを返してもらう筈だった)



人型ロボット『サイバディ』。

それを呼び出し、乗り込む為の資格である『シルシ』は持ち主の意思で他者へ譲渡できる…。


だが、レシュのシルシはトキオの意志に反して俺の元へは現れなかった。

そして、数分後に黒いオーラを纏ったレシュバルがゼロ時間に現れ、トキオを襲った…

暴走したレシュバルは、我々の敵であるツナシ・タクトが撃破した。

そこまでは良い…。
98 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 21:52:55.03 ID:fAZZxolc0
その中にいた少女。

美樹さやかは何故かレシュのシルシを持っていた…。


理屈としては説明できないが、心情としては安易に想像が付く。



恐らくはレシュバル自身が不甲斐ない俺を…、拒んだんだ…。

そして美樹さやか、彼女に救いを求めた…。



そして、その結果は…。
99 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 21:58:27.90 ID:fAZZxolc0
スカーレットキス「この女、ツナシ・タクトを助けようとしてるのか…?」


ヘッド「映像が無くて申し訳ないが、この娘はこの前に暴走したレシュバルに取りこまれ、ツナシ・タクトに救出されている…」


頭取「この娘の相手はウインドウスターか…。

   やはり彼女は危険すぎる…」





アタシは映像に見入っていた。

映像のさやかは地上へ倒れ、いかつい巨人に見下ろされる。

そして、中にいるウインドウスターとか言う奴が挑発を仕掛ける。
100 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 22:02:57.52 ID:fAZZxolc0
ウインドウスター『逃げてるだけじゃない分マシだけど…。結局は腰ぬけなのね』


さやか『何…?』


ウインドウスター『だってそうでしょ…? 

         復活時にリビドーを吸い取られるリスクが怖いか、暴走して見境なく暴れるのを恐れてるのか知らないけど、

         自分のサイバディを使わずに人任せにしてる…』


ウインドウスター『結局は怖いんでしょう…? アプリボワゼするのが』


ウインドウスター『この、腰ぬけ銀河美少年…!』



さやか『え…!?』


タクト『よせっ! その子は…』



さやかを助けようとする白と赤の貴公子のような巨人が向かおうとするも阻まれる。

これに乗ってるのが例のさやかに戯言吐いてるって言う馬鹿か…?
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県)[saga]:2011/06/07(火) 22:05:26.95 ID:wj7eK7Vd0
メル欄にsagaって打てば殺すとか魔力とか表示されるはず
102 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 22:08:12.07 ID:fAZZxolc0
ウインドウスター『煩いわね…。あと少しなのに…!

         とりあえずあっちのサイバディ、一度壊して黙らせておこうかしらッ!』


さやか『やめてッ!』


ウインドウスター『そこで黙って見てなさい!』


いかつい巨人が白と赤の巨人の方向を向き、さやかを攻撃したレーザーを放とうとした瞬間だった。







さやか『アプリボワゼェェェェェェ!!!!!!」』
103 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 22:14:25.23 ID:fAZZxolc0
>>101
サンクス
気になってたから助かる

コロスとかもできるのかね?
杏子の台詞的に必要なんだよなぁ…
104 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 22:16:00.94 ID:fAZZxolc0
叫んださやかを中心にエネルギーの奔流が発生する。

それは、あの日駅のホームでさやかが発したエネルギーと全く同じモノだった。



発生したあのエネルギーはさやかを取り囲むようにして巨大化していき、

最終的にその黒いオーラを纏った巨人が出来上がった。


その姿は、いかつい巨人の狙う白と赤の貴公子によく似ているが、それとは比べモノにならない禍々しさを放つ。

その性質は、あの不快感で出来上がったような魔女どもによく似ていた…。


だが、出来上がった巨人は見た目の禍々しさとは裏腹に一切の行動をしない。
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)[sage]:2011/06/07(火) 22:16:33.21 ID:zLVqsoSIo
大丈夫大丈夫、表示出来るはず。

スタドラといったら日常パートも期待

106 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 22:21:13.78 ID:fAZZxolc0
>>105
サンクス

日常、銀河美少年、綺羅星の三拍子だもんね…
めっちゃ苦労させてくれたよ…

綺羅星さん達は結構動くんだけど、さやか側のタクトさん達がマジで難しい…
107 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 22:24:02.33 ID:fAZZxolc0
頭取「動かない? 壊れているのか…?」


プロフェッサー・グリーン「いや、見る限り復元は完全に成功している。

              我々のような復元用の設備抜きで、ここまでの復元をやってのけるとは…」


イヴローニュ「そんなことができる物なのか…?」


プロフェッサー・グリーン「整備用の設備を持たない筈のタウバーンが、常にベストコンディションで現れる事からもわかると思うが、

              シルシ持ちのサイバディはドライバーのリビドーを元にある程度の自己修復が行えるようだ」


プロフェッサー・グリーン「もっとも、これはあくまでもダメージ修復や破損パーツの補完程度の話であって、
 
              壊れたサイバディの復元なんて大事を設備抜きで行うなど、かかる負担を考えれば非現実的すぎるがな…」
108 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 22:28:43.83 ID:fAZZxolc0
やがて、さやかの乗る黒の巨人はいかつい巨人に吹き飛ばされて地面を転がる。

そして、天から降って来た謎の光の柱を浴びて、その逆光で黒の巨人は見えなくなる。



スカーレットキス「王の、柱か…」


プロフェッサー・グリーン「ツナシ・タクトの親友であるシンドウ・スガタが持つ、強力な威力を誇る第一フェーズの特殊能力だが…。

             先日二人目の巫女を破り、第三フェーズに突入したサイバディには通用しない筈では…?」


ヘッド「その通り。その行動の意図は俺にもわからん。

    だが、実際にこれが最悪の結果を招いた」
109 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 22:32:51.28 ID:fAZZxolc0
光の柱が晴れる。

その中からは、その光の柱が浄化したのか禍々しい黒いオーラが消えた、白と赤の貴公子そっくりな白と青の巨人が現れる。

そしてその胸の中央にある球体の中に、さやかはいた…。




さやか『颯爽登場! 銀河美少年!! レシュバル!!!』


さやかが乗ったレシュバルと言うらしい白と青の巨人は、いかつい巨人と戦っている。

確かに初めてにしては善戦しているが、手に余るほどの強さとは思えない。
110 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 22:49:51.34 ID:fAZZxolc0
スカーレットキス「これが何だってのよ? そもそもレシュバル一機奪られたから何…?」


頭取「確かに敵勢サイバディが増えたのは問題だが、ツナシ・タクト程の圧倒的強さとも思えないが…」


ヘッド「怖いのはここからだ…」




さやか『スターソード! スィトリンヌ!!!』


映像の中のさやかの乗る『レシュバル』は、胸から強い黄色を帯びた金色の光の剣を引き抜く。


その色は、何の因果か偶然か…。

たびたびアタシに突っかかって来た大馬鹿野郎にして、さやかの尊敬する先輩『巴マミ』の髪の色そっくりだった…。
111 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 22:54:31.47 ID:fAZZxolc0
イヴローニュ「スィトリンヌ…。行方不明になっていた10本目のスターソード…?」


スカーレットキス「だから何…? こいつ剣技だって力任せで出鱈目じゃない!」


頭取「いや、これは…!?」



アタシには何が起きてるかわからなかったが、それはここにいる全員が同じだったらしい。

レシュバルが剣を振るう度に、それをいかつい巨人は防御したり、回避したりしていた。

だが、防御や回避に成功した筈のいかつい巨人の動きは見る見る悪くなっていく…。

そして…。
112 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 22:57:44.18 ID:fAZZxolc0
さやか『動きが遅い! 貰ったッ!』


まるでスロー再生か何かのように動きが悪くなった、いかつい巨人の両手をレシュバルの剣は切り落とす。

そして、なぜかいかつい巨人は両目から輝きを失い、そのまま機能停止してしまった。




プロフェッサー・グリーン「スターソードの輝きによるサイバディの強制停止だと…。

             話には聞いていたが、実際にそんな事をやってのける者がいるとは…」


スカーレットキス「ど、ドライバーが弱すぎたんじゃないのか…?」


頭取「いや、ウインドウスターは実力も、サイバディを動かすリビドーの強さも、危険なほど高いレベルで纏っているドライバーだ。

   敵のリビドーが強すぎる、あるいはあのスターソードが何かおかしいのか…」
113 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 23:01:53.81 ID:fAZZxolc0
ヘッド「これでわかっていただけただろう。

    我々はあのツナシ・タクトだけでなく、剣を振るうだけでこちらのサイバディを強制停止しかねない相手も敵になった」


スカーレットキス「人事のように言うな。

         レシュバルを奪られるヘマをやらかしたのはお前だろう」


ヘッド「それをわかっているから、それに対抗できる可能性のある優秀な人材をスカウトしてきたんだが…。

    もっともその人材は君に取りあげられてしまったが…」


頭取「責任の一端を持つ『バニシングエージ』にも一層活動してもらうのは勿論だが、

   これは我々全体の問題として大きく取り上げるべきだろうな…」


プロフェッサー・グリーン「『科学ギルド』でも調査や対抗策の開発は進めておく。

             だが、他の隊でもあの銀河美少年への対策は各自進めておいてくれ」
114 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 23:13:28.45 ID:fAZZxolc0
ヘッド「とりあえずは閉会と言う事で良いかな…?

    それでは…、我らに栄光を、そして銀河美少年に破滅を…」


ヘッド「綺羅星!」



一同「「「綺羅星!!!!」」」


杏子「え……?」



杏子(考え事してたから出遅れた…)







セクレタリー「よろしかったのですか、奥様…」


頭取「えぇ…。『フィラメント』ならそう問題もないでしょう。

   案外こちらに来るよりも良かったかもしれない…」
115 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 23:16:23.85 ID:fAZZxolc0
胡散臭い集会が終わり、人が散り始める。

カナコらしき奴の所にでも行くかと考えた矢先、横にいた自分の先輩らしき二人の男に自己紹介を受ける。



レイジングブル「どうせ同じ隊だ。本名も一緒に紹介してやるよ。

         俺は『レイジングブル』。本名はホンダ・ジョージって言うんだ」


スピードキッド「俺は『スピードキッド』。本名はゴウダ・テツヤ。

         我儘なリーダーの下に来ちまって苦労するとは思うが…、仲良くやろうぜ」
 


どっちもなんとなく粗暴なイメージだったが、実際はなかなか気さくなあんちゃん達みたいだ。
116 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 23:21:37.67 ID:fAZZxolc0
杏子「アタシは佐倉杏子。 コードネームは『デス・クリムゾン』…って付けられた」


スピードキッド「付けられたぁ…? 誰に?」


杏子「………ヘッド」


レイジングブル「なかなかイカスじゃねぇか、『デス・クリムゾン』とは! さすがだなぁ、あの人のセンスは…」





そうかなぁ?と思いつつも一応その場に合わせて首を縦に振る。


同時にカナコらしき奴の姿を追ってみると、アタシの上司になるピンク髪と何やら話している。

ガヤが多く、残念ながら会話は聞き取れない。
117 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 23:25:09.88 ID:fAZZxolc0
そうこうしてる内に二人の会話が終わり、ピンク髪はこっちへ、カナコらしき奴は反対側へ去っていく。

横にシモーヌっぽい奴もいるし、挨拶くらいはしておきたかったんだが…。






スカーレットキス「よぉ、新入り。私は『スカーレットキス』。

          綺羅星十字団第五隊『フィラメント』の代表をやってる」


スカーレットキス「これからお前も『フィラメント』の一員として活躍できるよう、

          ビシビシ鍛えてやるから、覚悟するようにな?」



ピンク髪の自己紹介を受けている間に、カナコとシモーヌらしき奴の姿は雑踏に消えた。

まぁあいつらの居場所はわかってるし、後々お礼も兼ねて会いに行くか…。

そう考えつつ、アタシはピンクの上司や先輩に連れられ、会場を出た…。
118 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 23:27:40.35 ID:fAZZxolc0
綺羅星十字団アジトの外にある森の中、ヘッドと呼ばれた仮面の青年が一人空を眺める。

その近くの闇の中に、音もたてる事無く一人の仮面の少年が立った。





ヘッド「よりにもよって『フィラメント』とはな…。

    『バニシングエージ』なら俺が直接、『おとな銀行』なら君に監視を頼めたんだが…」



バンカー「……よかったんですか?」



ヘッド「まぁ、最悪の場合に備えて準備はしてあるよ。

     いざという時は『バニシングエージ』だけで独立できるように準備は進めている」
119 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 23:33:52.70 ID:fAZZxolc0
バンカー「そうではなく、彼女の方はシルシもありませんし、無理に戦力に加えるほどでは…。

     美樹さやかへ執着している以上、いつ裏切ってもおかしくない相手です。リスクが大きすぎる」




ヘッド「君の報告通りの圧倒的な身体能力と妙な力を持つのなら、十分戦力に加えるに値する。

    そして彼女同様イレギュラーな存在なのは間違いないのだから、その相手はやはりイレギュラーにやらせるのが良い」


ヘッド「どちらにしても生半可な者では、あの剣の輝きの前に沈むしかない。

    賭けてみる価値くらいはあるだろう…」








ヘッド(俺個人としてはアレが手に入っている以上、無理して倒す事を考える必要はないがな…)


ヘッド(だが、できるだけ不確定な因子は取り除くに限る…。ツナシ・タクトも含めて、な…)


ヘッド(どうせもうすぐ終わる世界だ。もう暫くは好きにさせてやるさ…)
120 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 23:37:45.27 ID:fAZZxolc0
────────

────

──



翌日。

アタシは南十字学園って所のボクシング部のリング上にいる。






ベニオ「まずは、お前の実力を見せて貰おうか?」


この人は『スカーレットキス』ことシナダ・ベニオ。

アタシの直属の上司様にあたり、さっそくお手並み拝見といきたいらしい。

住む所がないアタシを結局部屋に泊めてくれるあたり、悪い奴じゃないみたいだが、

焦ってるのか、苛立ってるのか、妙に気が荒い。


だが、そのギラギラした闘志を持つ目はどうも嫌いになれない。
121 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 23:41:38.58 ID:fAZZxolc0
ジョージ「悪いな…。あいつは昔から言いだすと聞かねーんだ。

     手加減はするからよ…」


こっちのホンダ・ジョージはボクシング部で、そのベニオとしては戦わせてアタシの力を見たいらしい。

で、現ボクシング部員のジョージは中学生の女子相手に本気で殴るのは気が引けてるって訳だ。


まぁ年頃の女の子として扱ってくれるのはありがたいが、今回はベニオの判断が正解って事になるな。





杏子「手加減はいらないさ。こっちもあんまりうまくないしな…」


ジョージ「言ってくれるじゃねぇかよ…! んな口が叩けりゃ大丈夫だな…」
122 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 23:44:31.67 ID:fAZZxolc0
30秒後。


その場にいる誰もが予想しなかったろう。

アタシ以外が目を疑うような結果がリング上にはあった。




ジョージ「あへ…へ…」


ベニオ「馬鹿な…」


テツヤ「あ〜あ…、こりゃまたまた自室引きこもり特訓コースだな…」


決着は僅か二発で着いた。

こっちはリミッター付とは言え身体能力を引き上げた魔法少女だ。

悪いけど、負けようがないのさ。
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/06/07(火) 23:52:03.43 ID:t2gapp/no
サンドバック先輩は健在かwww
124 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 23:54:15.19 ID:fAZZxolc0
ベニオ「化け物…か…?」


杏子「その通り、化け物みたいなモンさ。

   その化け物相手に、よく一発耐えたって先輩に伝えてやってくれるかい?」



もっとも、んな事言っても伝わる訳もないだろうが。


ノびたジョージをおぶったテツヤもやっぱり横に首を振っている。

それとなく「そんな事言っても気休めにもならねーよ」と言っているような顔だ…。





ベニオ「…次行くぞ」


テツヤ「先行ってろ、ジョージ運び終えたら俺もすぐ行く」


杏子「?」
125 : ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 23:57:57.98 ID:fAZZxolc0
杏子「今度は何をさせたいんだ?」


ベニオ「来ればわかる」


ベニオに連れられ、鍵付きの扉を潜り、ひたすら地下に降りていく…。

やがて辿り着いた小部屋には、人が入れる程度の大きさ黒く大きな箱のような物体があるのみ。

それが向かい合う形で二つ並んでいる。


中を覗きこめば、モニターと操作盤、椅子がある。

見覚えのあるそれを見て、アタシのテンションは一気に向上した。





杏子「格ゲーか? いいねぇ! こう言うのは大好きだ♪」


ベニオ「シュミレーターだ! 試しにサイバディに乗ってみてもらう。

    実はサイバディの操作にそこまでの専門知識はいらないからな」


ベニオ(適正さえあれば、な…)
126 : ◆.2t9RlrHa22011/06/08(水) 00:01:57.77 ID:PtlJHBud0
どうもこの格ゲーは、昨日からさんざん見て聞いたサイバディとやらの戦闘を再現してるらしい。


アタシはさやかの乗ったレシュバルとか言うのを宛がわれる。

どうにも奪取されたその機体が高スペックかつ、もっともバランスの良い機体だったって言う皮肉な話だ。

相手はジョージを運んでからやってきたテツヤの乗る、テトリオートとか言う紺色にピンクのラインの入った機体。

ベニオの意向で、ざっと操作方法だけ聞き、そのまま模擬戦をさせられる。



テツヤ「ベニオのヤツが煩いんでな…。

    さっそくだが本気で…?」


丸わかりなモーションで繰り出したパンチを平然と受け、それを取ってそのまま投げ飛ばす。





テツヤ「へ…?」


杏子「………手加減なしだぜ、先輩?」


ベニオ(へぇ…、適正は十分なようだ)
127 : ◆.2t9RlrHa22011/06/08(水) 00:04:40.74 ID:PtlJHBud0
テトリオートが立ちあがるのを待ち、仕切りなおす。

実戦なら、迷わず顔を潰して終わらしてるけどな。





テツヤ「なら、もっと本気を出させてもらうぜ…!」


杏子「なんじゃそりゃ…」


テトリオートがバイクのような形態に変形し、空を駆け始める。

いろんな魔女や魔法少女を相手にしてきたアタシだが、さすがにバイクに変形するのは見た事がない。

物珍しさに暫くぼんやりと見とれる。





テツヤ「おらおらっ!」


やがてテトリオートは変形を解いて、光輪型の飛び道具を放ってくる。

なるほど、高機動で距離置いて射撃で潰すタイプね。
128 : ◆.2t9RlrHa22011/06/08(水) 00:07:55.17 ID:PtlJHBud0
テツヤ「当たらねぇ…?」


バイク状態の動きは大したものだが、光輪自体はありきたりな飛び道具だ。

どこぞの大馬鹿野郎の嫌らしい射撃を散々避けたアタシには屁でもない。


ただ、避け続けるのは問題ないが、こっちも決め手がなくお互いに詰んでしまった。

何か無いと埒が明かない。





杏子「……あいつの使ってた光の剣とかは出せねぇのか?」


ベニオ「出せないならその適正はないんだろう。 アレはドライバーの固有技能だ」
129 : ◆.2t9RlrHa22011/06/08(水) 00:11:50.35 ID:PtlJHBud0
杏子(それじゃこっちはどうすりゃ良いんだよ…。詰みゲーか、これ…?)



そう言えば…。

このサイバディってのは、ほとんど自分の体のように動かせる物らしく、操作に苦労は無い。

ただ、機械越しであるからか多少のラグはあるが…。


じゃあ『魔法少女の動き』をしたら一体どうなんのかな…?

ちゃんと反映されるのか…?





杏子「…………先輩」


ベニオ「なんだ?」


杏子「無茶な動きやって、この格ゲー壊したら怒られるのか…?」
130 : ◆.2t9RlrHa22011/06/08(水) 00:16:22.48 ID:PtlJHBud0
ベニオ「だから…、これはゲームじゃなくてシミュレーターだ。

    実際の電気棺を使ったサイバディの戦闘を完全に再現している。

    お前がやった行動くらいで、破損するような玩具ではないから安心しろ」


杏子「それ聞いて安心した」



確認が済んだアタシは、腰の後ろに浮いた四つの使い道のわからないパーツを一つだけ掴む。

そして、相手の変形に合わせて、投げつける。





テツヤ「飛び道具か…?」


予想通り、反応したテツヤがそれに光輪をぶつけ、爆散させる。

どんなパーツか知らんが、ちゃんと目論見通り煙捲いて爆発してくれた。

後は簡単…。
131 : ◆.2t9RlrHa22011/06/08(水) 00:18:14.13 ID:PtlJHBud0
テツヤ「な…!?」


杏子「悪いな、先輩…!」


あちらから見れば驚きだろう。

爆風と煙で曇った視界を裂き、来る筈のない距離にいた敵が迫ってるのだから。



手近な物を目暗ましにして、相手を襲う単純な戦法。

シモーヌの時と違うのは、相手との距離だけだ。


状況が飲み込めてない様子のテツヤのテトリオートの顔面を思い切り殴りつける。

テトリオートは空中から地面に叩き付けられ、受け身も取れずに大きくバウンドした後、爆発した。
132 : ◆.2t9RlrHa22011/06/08(水) 00:23:15.77 ID:PtlJHBud0
ベニオ「何をやった…?」


杏子「何って…? 爆発の目暗ましの間に『ちょいと本気』で走ったり飛んだりしただけさ」



試しと言わんばかりに魔法少女時の身体能力リミッターを外してみたんだが、どうも反映しきれていないみたいだな。

それが反映できてたら、テツヤはアタシを捕捉する事無く勝負はつく筈だったから…。


やっぱり常人が到達できるレベルの身体能力が反映の限界…か?

リビドーがどうたらって言ってたから、そのリビドーとやらがリミッターになってるのかもしれないが…。




しかし、この格ゲーが実戦のそれと同じとなると、この機械越しで動かしてるが故に感じるタイムラグが問題だな…。

肝心な時にこの差が響かなきゃ良いけど…。
133 : ◆.2t9RlrHa22011/06/08(水) 00:25:43.98 ID:PtlJHBud0
箱が開き、上司様がそのギラギラした目をさらに輝かせながら、アタシを見ている。

その目はさっき嫌いではないと言ったが、こうもなるとさすがにちょっと引く…。


ベニオ(当りクジどころか即戦力…)

ベニオ(いや、それどころかコイツがいれば『フィラメント』が綺羅星十字団を手にする事だって可能だ…!)

ベニオ(ついに私達の時代がやってきたんだ…!)




ベニオ「佐倉杏子…!」

杏子(顔ちけーよ…)



ベニオ「お前ならやれる…!」

杏子(何をだよ…? つーか鼻息荒いし…)
134 : ◆.2t9RlrHa22011/06/08(水) 00:27:05.45 ID:PtlJHBud0
ベニオ「テツヤ!」


テツヤ「ったく人使い荒いぜ…。今度は何だ!」


ベニオ「予定は大幅に繰り上げだ! イヴローニュに連絡を取っておけ…!」


テツヤ「また人任せにするのか…? まぁ俺やお前の教え方はわかりづらいって評判だが…」




さらに目を輝かせてやがる…。

何にしても歓迎はしてくれたって捉えていいのかな…?
135 : ◆.2t9RlrHa22011/06/08(水) 00:33:52.67 ID:PtlJHBud0
っし。
今日はここまで。

明日は仕事。
宿直ある職種だから、まるっきり来れない。
落ちない…っぽいから大丈夫かな、ここなら。

明後日は来れるけど、シナリオ追加や最終章の案が出まくりだから、書き溜め作るの優先しちゃうかも…。
日常パートのアンコールあったし…。


それでは本日は一応閉会とする。

佐倉杏子に栄光を…!
美樹さやかに祝福を…!

綺羅星☆
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/06/08(水) 00:38:06.37 ID:yHoqV7xlo
乙です。綺羅星☆‼
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県)[saga]:2011/06/08(水) 00:54:54.73 ID:fA5bgmSH0
乙っちまどまど
綺羅星☆
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)[sage]:2011/06/08(水) 04:04:47.32 ID:3aZQGv7AO
綺羅星☆!

杏子はアインゴッドをあてがわれたか、ファンブック結局完全体ダレトスやゾンビ化以前のアインゴッド載ってないんだよな
色々期待して買ったのに
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)[sage]:2011/06/08(水) 04:05:21.13 ID:3aZQGv7AO
綺羅星☆!

杏子はアインゴッドをあてがわれたか、ファンブック結局完全体ダレトスやゾンビ化以前のアインゴッド載ってないんだよな
色々期待して買ったのに
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)[sage]:2011/06/08(水) 06:35:25.74 ID:0JCNyxCvo
乙綺羅星☆

さすがサンドバッグ先輩とその友人、輝いてるな
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)2011/06/09(木) 09:54:36.22 ID:nxJY9zka0
>カナコ「それは人命よりも優先すべき事? 止めなさい!」

奥様らしすぎる台詞に濡れた
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/06/09(木) 19:08:44.40 ID:NAm1iNGSO
乙綺羅星☆!。最近俺得SSが多すぎて困る…。
143 : ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 21:13:33.78 ID:4Q03frKG0
綺羅星☆
ぼちぼち落とすよ〜
腹痛いから突然消えるかもしれないけど、落とすよ〜

>>136
>>137
綺羅星☆
応援ありがとう

>>138
一応、他のサイバディは全員原作通りのドライバーの物だから、実はヘッドさんの判断も仕方なかったり
マンティコールいなくなったアインしか今空いてない

>>141
奥さまはスタドラの影の主人公だからね…
キャラ付けはさやか、杏子の次に気を使ってる……つもり
ベニオやタクトが読み切れずに時折困ったり困らなかったり

>>142
ども〜。長いから覚悟しててね〜
杏子×綺羅星、さやか×タクト達三人を絡めたら無茶苦茶長くなりそうだから
一応全体の大筋は決まってるけど、書く時間がない。これがな
144 : ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 21:17:07.68 ID:4Q03frKG0
とと。
>>140
先輩はサンドバる前は、再戦で超強くなってタクト倒すんだぜ?って妄想してた俺がいる
このSSの役付けは、後輩思いのいいあんちゃん

と、次レスから落とします
145 : ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 21:19:49.89 ID:4Q03frKG0
────────

────

──


杏子「………」


イヴローニュ「…………」


杏子(きまずい…)



アタシは先ほどと打って変わって、今度は教室めいた所にいる。


と言っても綺羅星関係の施設のようで、あちこち仮面がうろうろしている。

バイクでアタシをここに連れてきたテツヤはそうそうに立ち去ってしまい、

他の仮面に連れられて来たのが、昨日の白黒しましまレオタード女のいるこの部屋って訳だ。
146 : ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 21:21:07.24 ID:4Q03frKG0
イヴローニュ「あなた、ここに何の為に連れて来られたかわかる…?」


杏子「いや…」


イヴローニュ「全く…、あいつらは…」


ハァと聞えよがしな溜息をして、しましま女はアタシが聞かされていない状況を語り始めた。





イヴローニュ「スカーレットキスに頼まれ、

       もとい押しつけられ、あなたに綺羅星関連の基礎知識を教える事になった」


どうにもあの二人、いやジョージも含めた『フィラメント』の三人は隊のトップであるにも関わらず、こう言った事を教えるのが異常に下手らしい。

そんなこんなを続け、いつしか『フィラメント』配属の新人達は基礎知識に疎いままで困り果ててしまい、

誠実かつ有能なイヴローニュに泣きつき、結局根負けしたイヴローニュが補講のような形を取って、ようやく知識不足が解消されたと言う。
147 : ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 21:22:24.85 ID:4Q03frKG0
で、その後にあの三人が反省すりゃよかったんだが、以後もそれは解消されず、

イヴローニュが『フィラメント』新人の基礎知識教練をやっている、もといやらされている…と言うことらしい。




イヴローニュ「お前に言っても仕方がないが、私も暇ではない。

       今後こう言った事は控えるように、スカーレットキスに伝えてくれ…」


イヴローニュ「穴の空いたバケツに水を汲もうとするのは、無意味な行為だとは思うが、な…」


げんなりしている様子だが、こうして仕事にはきちんと来る。

嫌がっている仕事でもきっちりこなす誠実さが他隊にも伝わり、結果ベニオ達に利用される羽目になってる訳か…。
148 : ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 21:24:19.42 ID:4Q03frKG0
イヴローニュによる講義が始まる。


イヴローニュ「まずは我々、綺羅星十字団についだ」


『サイバディ』を『ゼロ時間』から解放する≪旅立ちの日≫とやらを迎える事を目的とした集団で、

サイバディの運用や調査を前提としている為、将来有望な若者や最先端の科学技術を数多く保持しているとかなんとか。

『バニシングエージ』『ブーゲンビリア』『おとな銀行』『フィラメント』『科学ギルド』と事実上存在しない『エンペラー』の全六隊の構成。




杏子「隊同士の仲はあまりよくないんだよな…?」


イヴローニュ「際立って悪いと言う訳でもないが…。

       ツナシ・タクトを倒した者が、現在保留となっている綺羅星十字団全体の指揮権を得ると言う提案がなされているからな…」


杏子「なるほどね…。それで上司様が躍起になってる訳だ」


イヴローニュ「銀河美少年が二人になって状況が混乱する今、それもどうなるやら…」
149 : ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 21:29:52.13 ID:4Q03frKG0
お次は散々聞いたサイバディについてらしい。

これについては逆にこっちから聞きたいぐらいだ。



イヴローニュ「サイバディとは、南十字島に落ちた異文明の遺産に当たるらしいが、詳細はよくわかっていない。

       ロボットとしての性能も確かに脅威ではあるが、アプリボワゼして第一フェーズへ進んだ者に様々な特殊能力を授けるのも特徴だ」


綺羅星で確認してる数は22体。

シルシってのがあれば好きな時に呼び出して乗り込めるが、綺羅星十字団が持つ電気棺って装置に仮面を取り付けて起動する事もできる。

破壊されても修復が可能だが、その際にはドライバーのリビドー(欲望や野望みたいなモノ)を食い、耐えれない者は死に至る…と。




イヴローニュ「『シルシ』と言うのはサイバディとの契約の証で体に刻まれている。

       そして、それを持つ者の呼称を『銀河美少年』と言う。ただしくは…」


杏子「女でも美少女にはならないのか…。

   さやかも美少年とはこりゃ笑えるねww」


イヴローニュ「………? あぁ、あのもう一人の青髪の少女の事か…」
150 : ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 21:31:33.46 ID:4Q03frKG0
イヴローニュの講義は続いていく…。



イヴローニュ「そして、そのサイバディを封じているのが『ゼロ時間』。

       サイバディを起動すると自動的に発動し、封じ込める役割を持つ異文明人の作った閉じた世界の事だ。

       発動時に時間停止を伴うのが特徴で、その後『シルシ』持ちと綺羅星十字団特製の仮面を持った者は自動的にこの世界へ飛ばされる。

       この世界を巫女が守っており、それを倒すとフェーズが上がる。今は第三フェーズと言う事になるな」


杏子「……いい加減、疲れてきたんだが」


イヴローニュ「耐えろ。あと少しだ。

       我々の標的はサイバディを封じる『四方の巫女』であり、残りは後二人…」
151 : ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 21:33:05.53 ID:4Q03frKG0
イヴローニュの講義もようやく最後の項目らしい…。


そのお題は、最強のサイバディ『ザメク』。

他のサイバディは『戦士のサイバディ』ないし『巫女のサイバディ』と呼ばれるのに対し、こっちは『王のサイバディ』。

凄まじい力を持ってるって噂で、さらにツナシ・タクトの親友であるシンドウ・スガタがこいつのシルシを持ってるらしいが、

起動のリスクが大きいらしく、どうにも起動する気は無い…とか?



しかし、この『ザメク』ってのを話す時だけ、妙に声が暗いなコイツ…。
152 : ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 21:36:29.78 ID:4Q03frKG0
イヴローニュ「これで終わりだ」



さすがに疲れたが、このアタシもだいたいの知識がわかった。

そもそも『フィラメント』関係無いのに、こうして講義に来てくれたこの女にアタシは感謝すべきだろう。

堅苦しく近寄りがたい雰囲気が好きになれそうにない奴だが、これは前言撤回すべきかもしれない。


そう思ったアタシはズボンのポケットにあるガムの入った細長い箱を取り出すと、自分が食べる分を後回しにして差し出した。






杏子「食うかい…?」


イヴローニュ「ここは飲食禁止だ。それは没収させてもらう」


前言撤回を前言撤回…。
153 : ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 21:38:03.55 ID:4Q03frKG0
杏子「あ〜、頭使った後は甘い物に限るな〜」



手持ちの菓子類がイヴローニュに没収された為、やむなく安直な理由で買った木の枝状のチョコレート菓子を頬張る。

講義の後、テツヤの連絡先がわからない為、徒歩で来た道をちんたら戻っている。


アタシは諸事情から長い事学校と呼ばれる所へ行っていない。

故にそれが終わった後の独特の解放感を味わうのは久々で、ちょいと距離はあるがそれを含めれば悪い散歩でもない。






杏子「しっかし、あぁ言う授業みたいなのは久々だったな…」


???「いけないんだ。学校にはちゃんといかないと…」
154 : ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 21:41:27.94 ID:4Q03frKG0
後ろからやってきた高級車が止まる。

開いている窓の中に居るのは…。





杏子「カナコ…?」


昨日挨拶出来なかった恩人の令嬢の姿がある。

だが、彼女は恩人の令嬢としてアタシに会いに来た訳ではないようで、ポーズを伴う組織の作法で挨拶を行う。




カナコ「綺羅星!」

杏子「…………!

   …綺羅ぼひッ!?」


団員が外部で会った時に正体を確認する為にも使う…とは聞いていたのだが、菓子を咥えてたのもあってやはり噛んでしまった。
155 : ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 21:42:09.48 ID:4Q03frKG0
カナコ「可愛い」


杏子「うっぜぇ!///」


アタシをからかうようにくすくすと笑いながら、カナコはようやく要件を告げる。





カナコ「緊急の招集があったのよ。乗っていかない?」


断る理由も特にない。

と言うより緊急の招集があったなら、渡りに船と言える状況だ。

誘われるまま、カナコの高級車へ乗り込んだ。
156 : ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 21:45:20.63 ID:4Q03frKG0
杏子「食うかい…?」


お礼も兼ねて、持っていたチョコ菓子の箱を差し出す。

だが、どうもこのお嬢はこう言うのには疎いらしく、不思議そうに眺めている。





杏子「チョコレートだよ。食えるんだ」


カナコ「………面白いのね」


相変わらず不思議そうな顔のまま、一つ抓んで食べるカナコの様子がおかしくて、

今度はこっちがくすくすと笑いを殺せなくなる。

そのまま笑いが止まるまで、なんとなくガラス越しの外の風景を眺めた。
157 : ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 21:47:20.54 ID:4Q03frKG0
アタシの笑いが止まり、妙な沈黙が流れる。

そんな中、ガラス越しに映るカナコが重そうに口を開く。




カナコ「何故、綺羅星十字団に…?」


杏子「………」


アタシは話すべきか迷った。

綺羅星を騒がすさやかとの関係に、サイバディを有する綺羅星でさえ眉唾物であろう諸事情。

言って信じて貰えるか…?
158 : ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 21:50:39.39 ID:4Q03frKG0
そうこうしてる内に、何かに勘付いたカナコが口を開く…。





カナコ「例の探していた子の為…?」



杏子「………自分の為さ」


あいつの主張は、アタシの知らない『誰かの為』に死ぬまで戦う事。

アタシはあいつの主張を認めないから、力尽くでも連れ帰る道を選んだ。

ようするに自分の都合を優先したんだ。
159 : ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 21:54:26.04 ID:4Q03frKG0
『自分の為』

そう言うのがが正しいだろう。

そう言った筈なのに何故かカナコは微笑み…。






カナコ「妬けちゃうわね」


こう返した。

わかってるのか、わかってないのか…。

このお嬢と居ると、ほんと調子狂うよな…。
160 : ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 22:02:28.77 ID:4Q03frKG0
────────

────

──


ヘッド「急な招集で大変申し訳ない。早速だが、我々『バニシングエージ』は銀河美少年攻略作戦を開始しようと思う。

    ドライバー達のサイバディ復元の了承も得たので、ソードスターとスティックスターのエンブレムの再発行許可を貰いたい」


スカーレットキス「………チッ!」


プロフェッサー・グリーン「了承しよう」


イヴローニュ「それは構わないし、責任を考えれば当然の処置だが…、策はあるのか?」


ヘッド「緊急招集した事自体が策の内だ。敵の準備が整いきる前に叩く」


頭取「単純な発想だが、この場合は愚策と言う訳でもないか…。

   良いだろう。再発行を許可する」


ヘッド「それでは…、銀河美少年攻略作戦を開始する!」




ヘッドの指示の元、『バニシングエージ』所属の三人が動く。

同時にこの世界の時が停止した。
161 : ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 22:03:38.59 ID:4Q03frKG0
杏子「これがゼロ時間、ね…」


周囲に居たのも綺羅星メンバーだったので時が止まった感覚はあまりないが、この世界の異様さはよくわかる。

魔女の結界のようだと言えばそうである気もするし、あの独特の不快感が無い為かそうでも無い気もする。

ここで特徴的なのは、中に居る人間がそれぞれ泡のような物に浮かんで居る事だろうか…。







杏子「おっと…、このまま浮かびあがったらまずいよな…」


アタシは綺羅星用の衣装を手抜きで魔法少女姿にしてしまった為、このまま泡が浮かびあがってさやかの目に着くと立場がバレる危険性がある。

それを防ぐ為に魔法を使って全身を覆う黒マントを作り、魔法少女の衣装を隠す。
162 : ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 22:07:55.26 ID:4Q03frKG0
ソードスター「行くぞ! ザイナス!」

スティックスター「ラメドス……!」

キャメルスター「やらせてもらおうか。ギメロック!」


『バニシングエージ』所属の三体のサイバディが姿を現す。

そして、その三体の視線の先には美樹さやかと共闘関係にあるツナシ・タクトらしき姿がある。





さやか&タクト「アプリボワゼェェェェェェェ!!!!!」


二人の叫びに反応し、青い貴公子と赤い貴公子が次元の壁?を割って現れる。

二人はそれぞれの機体へ吸い込まれるように乗り込むと、戦闘態勢を整える。
163 : ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 22:14:07.21 ID:4Q03frKG0
さやか「颯爽登場! 銀河美少年!! レシュバル!!!」


タクト「颯爽登場! 銀河美少年ッ、タウッ!バーン!!!」



二人のサイバディの戦闘態勢が整うと、今かとばかりにザイナスが動き出し、目の前に赤い球体を浮かべる。






ソードスター「ようはあの剣を抜かせなきゃ良いんだろ!

       いけ! ザインスフィア!」


赤い球体がさやかの乗るレシュバルへ飛んでいき、途中で4つに分裂。

球体は生き物のように飛び交い、レシュバルを襲う。
164 : ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 22:17:33.31 ID:4Q03frKG0
タクト「手助け…いる?」


さやか「大丈夫。なんとかしますって!」





杏子「…………」


そうだよな…。

何とかして見せろ…。


本来ならさやかのピンチに苛立つべき立場なんだろうが、

レシュバルに乗り込む前のさやかの活き活きとした表情を見て、考えるのが馬鹿らしくなり、

アタシは他の仮面同様に傍観者に徹し、横で隠し持っていたポテトチップスの袋を開けた。


イヴローニュがなんか睨んでるような気がしたが、無視…。
165 : ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 22:20:28.74 ID:4Q03frKG0
呑気に菓子食ってる場合か?

と思うだろうが、アタシが長い間培った魔法少女としての勘みたいな物がさやかに敗北は無いと告げている。

そして、その勘は天気予報よりもよく当る。




ソードスター「剣を抜けなきゃ、お前なんか!」


さやか「剣なら抜かなくたって、使えるのがあるよ…!」


今日もやはり例外ではないらしい。

球体の離れた一瞬の隙をつき、レシュバルが両手を交差させ、何か行動を起こす。
166 : ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 22:21:21.35 ID:4Q03frKG0
さやか「パイル・ソード!」


叫ぶさやかに反応し、レシュバルの腰の後ろに浮かぶ4つのパーツが手に持って馴染むだろう程度に細くなり、

レシュバルを取り囲むように配置される。

さらに4つのパーツは先端から、それぞれ黄色いエネルギー刃を作り出した。





杏子「な〜るほどね」


無数の剣を作り出しての投擲。

魔法少女時のさやかの得意技だ。

それをどうにかしてサイバディに反映した、と言う事だろう。



適当にそれを投げつけたアタシと違って、ちゃんと研究してんのな…。
167 : ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 22:27:53.91 ID:4Q03frKG0
さやかは冷静で、その投擲は正確無比だった。

両手に握った剣をそれぞれ、ちょろちょろ動き回る球体に見事に命中させる。

剣自体にブースターがあって加速するってのもあるだろうが、魔女の使い魔一匹を仕留めるのに手こずってた腕の悪さが嘘のようだ。






ソードスター「まずい! 隙を許せば…!」


ソードスターとしては、焦って残りの球体を攻めに出したのが失敗だった。

ふらふら飛んで、うまくかわして、レシュバルに当てれたのは最初だけ。

数の減った球体は見切られ、レシュバルの残った二本の剣に切り払われた。
168 : ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 22:33:06.60 ID:4Q03frKG0
そして、レシュバルはそのまま二本の剣をザイナス目掛けて投擲する。

ザイナスの方も、急ぎ光の剣を作り出して切り払うも、さやかにはその隙があれば十分だった。




さやか「スターソード! スィトリンヌ!!!」


金色の剣を抜くなりそれを右手に持ちつつ、陸上競技のクラウチングスタートのような構えを取る。

ちなみに、この姿勢もさやかの魔法少女の時のそれである。


あいつはここで一気に勝負を決める気だろう。

と思いながらもポテチを口へ運ぶのはやめない。

パリっとポテチが口で弾けると同時にレシュバルが飛びだす。
169 : ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 22:35:27.28 ID:4Q03frKG0
ソードスター「速いッ!?」


魔法少女の時のそれと同じ。

クラチングスタートから恐るべき加速で敵に迫る技…。

そして、間合いを見計らい居合のような構えから斬撃を繰り出す。








さやか「豪快!銀河!一文字斬りィィィィィィ!!!!!」


低い体勢で繰り出された横一閃、それはザイナスの両足を切断する。

レシュバルは前のめりに倒れる敵の左側をするりと回りながら抜けると、頭の上で剣を横に構えてポーズを取る。

どっちにしても斬られたのが足では戦えるかはわからないが、その後ろでザイナスが完全に機能を止めた。
170 : ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 22:36:45.77 ID:4Q03frKG0
タクト「豪快!銀河!十文字斬りィィィィィィ!!!!!」


スティックスター「………!」


もう片方の銀河美少年はさやかが霞むほど戦い慣れしていた。

敵は二人がかりにも関わらず、早々に二刀剣による大技を繰り出し、獲物のリーチを武器とするラメドスの下半身を潰した。







杏子「あの機体…、面白そうだと思ったけど駄目か…」


獲物の槍はありがたいんだが、機体自体が重そうでアタシの戦闘スタイルとイマイチ合いそうにない。

もっとも、あのヘッドの仕切る『バニシングエージ』所属機を使う事は万に一つもないだろうが。
171 : ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 22:39:01.57 ID:4Q03frKG0
タクト「炸裂・タウ・銀河ビィィィィィム!!!」


ラメドスに対し、慎重な動きで時間を稼いだギメロックもタウバーンの技の餌食になる。

胸部から放つビームがギメロックの頭部に直撃…。

と思いきや、ギメロックの胸辺りが分離して飛行、ビームを回避する。


さらに、地上に残った体も独立行動が可能なのか動き始める。

この期に及んで数で圧倒するつもりだったんだろうが…。


突如、地上に残ったギメロックの体の上半身と下半身が真っ二つになり、爆散する。
172 : ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 22:41:04.79 ID:4Q03frKG0
さやか「さやかちゃん参上!」


キャメルスター「チッ! ソードスターもしくじったのか…!」



泣き面に蜂。

仲間と半身を失い、戦力半減以上のギメロックにさやかの乗るレシュバルも襲いかかる。





タクト「随分早いね」


さやか「タクトさんとスガタ師匠の特訓の賜物です♪」


タクト「それは何より」


綺羅星側で戦える敵は飛行したギメロックの半身のみ。

対して二人並んだ赤と青のサイバディ。

勝敗はほぼ決した、と言っていいだろう。
173 : ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 22:42:09.55 ID:4Q03frKG0
タクト「練習も兼ねて、アレやっておこうか!」


さやか「いぇ〜す! やっちゃいましょうか!」


レシュバルが右で、タウバーンを左にしたフォーメーションが組まれる。

二機はエネルギーを溜めるような動作を行い…。









タクト「銀河の光よ!この身に集え!」


さやか「猛る流星! ブルーティッシュ・タウ・ミサイルッッッッ!!!」
174 : ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 22:43:07.46 ID:4Q03frKG0
叫びと共に撃ちだされたのはレシュバル。

黄色い弾丸のようになったレシュバルは飛行するギメロックに突撃し、コクピットを抉りだす。


こう言う技なのかと思いきや、タウバーンが纏う青いエネルギーが溜まったまま引かない所を見るとどうも失敗のようだ。







さやか「あはは…。失敗しちゃいました…」


タクト「まぁ最初だしね。それに失敗しても攻撃ができない訳じゃないし」


足を失ったラメドスの眼前に金色の剣を刺して停止させ、『バニシングエージ』所属の三体のサイバディは全て戦闘不能となる。

勝利を分かち合う二人を前に、ゼロ時間はゆっくりと解けていく。

アタシは苦笑いしつつ、手に持っていた大きめのポテチを思わず握りつぶした…。
175 : ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 22:44:21.42 ID:4Q03frKG0
────────

────

──


大荒れの仮面の観衆をヘッドが宥め、綺羅星の総会がそのまま行われる…。



議長「これより綺羅星十字団、総会を始めます!」


一同「「「オォーーーーー!!!」」」





ヘッド「敵の力は想像以上だった。こちらとしても最大の戦力を投入したのだが…」


イヴローニュ「シルシ持ち三人が返り討ち、か…」


ヘッド「申し訳ないが、復元のリスクから当面はこちらの隊の人員は動かせそうもない…」
176 : ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 22:45:55.75 ID:4Q03frKG0
頭取「先日のウインドウスターとニードルスターも含めるとシルシ持ちは事実上、全滅か…」


スカーレットキス「こちらは『科学ギルド』に依頼し、三基の電気棺を同時に動かせる状態にしてはもらってはいるが…」


プロフェッサー・グリーン「『科学ギルド』では四基目も同時稼働できるよう調整は進めているが…。

              何時それが可能になるかは見目もつかないな…」


ヘッド「しかし、時間が経てば経つほど向こうの準備も整う危険性もある。

    ツナシ・タクト同様、あの少女の成長の早さは危険だ」


イヴローニュ「どちらにしてもシルシ持ちがやられた以上、普通の策では厳しいだろうな。

       もっとも『フィラメント』に限っては未知数の要素もあるが…」


スカーレットキス「………………」


ヘッド「どちらにしても今後は隊の所属を超えた連携が重要になるだろう…。

    それでは、本日の総会は終了とする。我らに栄光を、そして銀河美少年に破滅を…」

ヘッド「綺羅星!」
177 : ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 22:46:51.78 ID:4Q03frKG0
いったん休憩。
後でもうちょい落とすかも。
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)[sage]:2011/06/09(木) 23:51:36.78 ID:kDEmI+gOo
一旦乙? さやかちゃんもう特訓してたのね
179 : ◆.2t9RlrHa22011/06/10(金) 00:10:35.84 ID:D8xEXJp60
>>178
杏子行動までに四日ある。
対してさやかは来た翌日にはスガタ達に事情話してる(前作SS参照)から、
綺羅星の行動の早さやゼロ時間の有無を言わさない性質知ってるタクトやスガタは、
その時点で狙われる危険性あるさやかの為に即座に行動起こすだろう
おまけに後々わかるけど、休日も含んでる

ヘッドとしてはこの時点で後手に回ってるんだけど、三馬鹿特に復元いる剣と棒を丸めこむのに時間かかった

…と踏まえて妄想してくださると



ではでは、もうちょい落としまっす
180 : ◆.2t9RlrHa22011/06/10(金) 00:15:45.78 ID:D8xEXJp60
────────

────

──

綺羅星十字団を震撼させた先日の戦闘。

そして、それはアタシの上司様も例外じゃないらしい…。

敵が先抜けした『バニシングエージ』の連中を退けたまではいい。

しかし、さやかは想像以上に実戦慣れしていた…。


スカーレットキスことシナダ・ベニオは翌日の早朝からアタシを叩き起こすと、自分の所属する剣道部に連れ込み、

アタシをしごいて…。




ベニオ「まだ…だぁ…、もう…、一本行くぞぉ!」


杏子「だ〜からさ! これじゃあんたの稽古になっちまってるっての!」


もといアタシにしごかれていた…。
181 : ◆.2t9RlrHa22011/06/10(金) 00:17:40.35 ID:D8xEXJp60
あちらも学生、いや人間の範疇で考えれば十二分に規格外の実力なんだろう。

剣道でも相当な成績を収めてるらしく、実際にアタシも初見ではその剣を見切れず、一本取られちまった。



だが、こっちは人間じゃなくて魔法少女だ。

戦う為にあちこちの身体能力を魔翌力で強化してる。

普段はリミッターを付けてるとは言え、学生相手に負けるほど軟じゃない。


そして出鱈目な訓練を繰り返した為、案の定技のキレが悪くなった上司様は、

アタシをしごく筈が、しごかれる羽目になったわけだ…。
182 : ◆.2t9RlrHa22011/06/10(金) 00:19:34.83 ID:D8xEXJp60
いくら鍛えてようが、息の上がった人間なんか敵じゃない。

左手にポッキーの箱、口には煙草のようにポッキーを咥え、右手だけで相手する不真面目なアタシが気に入らないらしい上司様だが、

悲しいかな、その目だけをギラギラ輝かせて打ちこんでも、咥えたポッキーさえ折る事ができない状態だ。




杏子「あんたさ〜、最初から思ってたんだけど、なんでそんないっぱいっぱいなんだよ?」


ベニオ「ハァハァハァハァ…」


杏子「そんなに中坊に勝てないのが気に入らないわけ…?」




テツヤ「俺ら『フィラメント』の為さ」


横で成り行きを見ていたテツヤが、息が上がって喋れないベニオに代わって語りだした。
183 : ◆.2t9RlrHa22011/06/10(金) 00:23:21.79 ID:D8xEXJp60
テツヤ「俺達三人の家はな、本来シルシを受け継ぐ名家の家系だったんだ。

    ところがな、それを受け継げるような力の強い子供が生まれず、結果シルシは途中でなくなっちまったんだ」


杏子「没落名家って訳ね〜」


少し本気になったのか、例の技を使おうとするシナダ・ベニオを軽くいなしながらテツヤの話を聞く。




テツヤ「そ。そして、そんな没落名家の末裔が電気棺の発明と共に結成したのが俺達『フィラメント』。

    そんな落ちこぼれに求められてるのって何だと思う?」


杏子「結果…だな」
184 : ◆.2t9RlrHa22011/06/10(金) 00:24:25.23 ID:D8xEXJp60
テツヤ「そうだ。だが俺達は勿論、ベニオ自身もあの『銀河美少年』タウバーンに勝つ事はできなかった。

    そうこうしている内に『フィラメント』はどんどん立場が危うくなっていってる」


杏子「………」


テツヤ「『バニシングエージ』は実力の高いドライバーが揃う綺羅星十字団の主力部隊。あのヘッドがいるから発言力も強い。

    『おとな銀行』は資金、『科学ギルド』は技術面で必要不可欠。

     ドライバーの少ない『ブーゲンビリア』は元々他隊を支援する役割が強い」


杏子「今にも取り潰し寸前…そんなヤバイ時にやってきたのが、アタシって訳だ」


テツヤ「そうだ。他所者に結果を出してもらうってのもまた違う気はするが、猫の手も借りたいヤバイ状況ってわけさ」
185 : ◆.2t9RlrHa22011/06/10(金) 00:25:57.15 ID:D8xEXJp60
まだ煩く向かってくるベニオの竹刀を跳ね飛ばす。

そして、上司様のツラに向かって竹刀を突きつける。





杏子「あんたは『フィラメント』、没落していく仲間の為に戦ってる。

   それで間違いないか…?」


仲間の為?

恐らくは違う。

この女が見せるギラギラした目…。

アレはよく知ってる…。
186 : ◆.2t9RlrHa22011/06/10(金) 00:27:21.36 ID:D8xEXJp60
ベニオ「違うな…」


ベニオ「私は綺羅星十字団を手にする『自分の為』に戦う…!

    そして、それは『フィラメント』としてやり遂げるからこそ意味がある…、それだけだ」



やっぱりな…。

あの目は『自分の為』に戦う奴の目だ。


天涯孤独になって、一人生きたアタシ自身が持っていたあの目…。

だからこそ、アタシはこの女が嫌いになれなかった。


『誰かの為』なんて甘い戯言を捨て、かと言って誰かに頼るでもなく、自分の力で這いあがる。


『自分の為』に生きる。

そんな奴の目。
187 : ◆.2t9RlrHa22011/06/10(金) 00:28:48.56 ID:D8xEXJp60
杏子「ふ〜ん………」



ベニオ「負け犬の遠吠えと笑うか…?」



杏子「いいや。アタシはあんたが好きになれそうだよ」


ベニオ「…ふん」



恐らくはあちらも向こうを認めてくれたのだと思う。

だけど、決して口には出さない。


僅かに鼻で笑ってそれで終わり。

だが、アタシ達の関係はそれで十分だった。
188 : ◆.2t9RlrHa22011/06/10(金) 00:30:34.91 ID:D8xEXJp60
慣れ合いはしない。

だけど、同類故にその気持ちはよくわかった。


口にはしないが、左手を前に出してアタシなりの友好の証を差し出す。




杏子「先輩…、あんたも食うかい…?」


ベニオ「…………いただこうか」


箱からポッキーを引き抜いた上司様は、そこで朝のしごきをようやく終えた。
189 : ◆.2t9RlrHa22011/06/10(金) 00:35:43.52 ID:D8xEXJp60
っし。
今日はここまで。

問題はストックが切れそうなんだよ。だよ
書きたいのに当直あけは頭がボケてあんまり書けないんだよ。だよ
構想は決まってるのに…

小出しにすればもう少し持つかもだけど、区切り良い所までは常々落としたいからなぁ…
と、愚痴ってみたり



それでは本日は一応閉会とする。

佐倉杏子に栄光を…!
美樹さやかに祝福を…!

綺羅星☆
190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)[sage]:2011/06/10(金) 00:38:30.42 ID:RXXadW3Po
乙綺羅星☆

詰まったら本編とは関係のない日常パートを書いてみては? 展開とかオチを考えなくて済む分楽に筆休み出来るかと。
俺得でもありますし(ボソッ
191 : ◆.2t9RlrHa22011/06/10(金) 00:44:15.74 ID:D8xEXJp60
>>190
既に書いているんだけど…
当直あけの死んだ頭は文章自体が満足に書けなくなる罠が…

しかも日常も結構楽じゃないのよ〜
展開とオチ、そしてやるからには何かしらの意味は必要だし…

とどめに、どっちかと言うとテンション上げのまま書ける戦闘パートの方が筆の進み速かったり…
こっちは構図と展開が固まってるからもあるんだろうけど…
192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)[sage]:2011/06/10(金) 03:30:27.16 ID:UWlXt4eAO
193 : ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 11:30:15.58 ID:YMqNv3890
ストック切れが怖いけど、ぼちぼち落とします
今から少し落として、夜にまた落とします
毎日来れれば良いんだけど…


現在、日常パートに苦戦中
勢いで書けないからやっぱり難易度高いなぁ…

希望ある以上挑んでみるけどなっ
日常ないとスタドラの魅力の1/3は死んじゃうし


>>192
応援ありがと〜
194 : ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 11:32:09.88 ID:YMqNv3890
杏子「さ〜て、アタシは帰って寝るわ。朝から疲れたし」


ベニオ「何言ってんだ。今日から学校だろ?」


杏子「あ…? アタシはここに来たばっかで…。

   そもそも、その前から学校なんて行ってねーし…」


テツヤ「ベニオ、お前な〜。さては説明してないだろ…。

    杏子、お前は今日から南十字学園の中等部、二年二組に編入だとさ」


杏子「は? なんだそりゃ?

   金は…? 諸々の手続きは…? そもそもアタシ住所不定だぞ?」
195 : ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 11:34:45.05 ID:YMqNv3890
ベニオ「『おとな銀行』の頭取が全部やっといてくれたそうだ。

    金は余るほど持ってるだろうし、そんなこんなでコネもあるんだろ…?」


『おとな銀行』頭取…?

カナコだな…?

そういや…。





―いけないんだ。学校にはちゃんといかないと―



そんな事言ってたが、まさか本気でやって退けるとは…。

見ず知らずのアタシの為にそこまでするって、いったいあいつどうなってんだよ…。


せっかくの好意を無にもできないので、テツヤに手渡された荷物一式を持ち、とりあえずアタシは学校へ向かってみた…。
196 : ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 11:38:25.24 ID:YMqNv3890
────────

────

──

杏子「どうして、こうなった…」


さやか「それはあたしの台詞よ…」



南十字学園中等部二年二組。

知り合いなんざいる筈もない(綺羅星すれば、何人かはいぶりだせるのかな…?)教室にこいつはいた。

ただでさえ授業なんてかったるいモン勘弁なのに、今一番ぶちのめしたいツラがお隣にいる始末。


あ〜あ〜、うぜぇ。

超うぜぇー。
197 : ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 11:40:07.58 ID:YMqNv3890
とりあえず色々気に食わないもとい、解せないので隣にいる馬鹿から話を聞いてみる。



杏子(なんで、てめーがここにいるんだよ)


さやか(あたしのこっちでの知り合いが結構な名家で顔が利くんだって。断ったんだけど学生はちゃんと授業に出た方が良いって…)


杏子(どっかで聞いた話だな…)


さやか(その辺はアンタの方が色々と摩訶不思議だと思うんだけど…? どうみても非行少女そのものだし…)


杏子(こっちにも物好きがいたんだよ…。 つーか誰が非行少女だコラ!)


さやか(学力は大丈夫〜? 小学生レベルで止まってんじゃないの〜?)


杏子「うぜぇ、超うぜぇー! 上等だ! やんのかオイ!」
198 : ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 11:41:34.66 ID:YMqNv3890
教師「誰がウザくて、誰が上等で、誰と何をやるのかね…?」


杏子「あ………………」


さやか(くくくくくくく………wwwwww)





教師「佐倉! 美樹! 廊下に立っとれ」


杏子「ぐぬぬ…」


さやか(ざまーみろww ってあたしも?)


杏子(くくくくくくく………wwwwww)
199 : ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 11:43:40.45 ID:YMqNv3890
非行少女二人は教室から仲良く追い出され、今時の学校じゃしないような廊下で反省タイムを迎えていた。

まったく、カナコの奴も余計な事してくれやがって…。




杏子「ったく調子狂っちゃうよな、もう…」


さやか「こっちの台詞だっての…」


杏子「まぁ…」


さやか「うん…?」


杏子「元気そうで良かったよ…」
200 : ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 11:44:50.21 ID:YMqNv3890
さやか「杏子……」


杏子「お、お前が元気じゃないと、ぶちのめし甲斐がないからな〜///」


急に真顔になってこっちを見るさやかに何故か照れくさくなり、憎まれ口を叩く。





さやか「………言ってろ」


さやかは少しだけ笑いながら、そう言いつつ前を向いた。

友人とも敵とも何とも言えない二人の沈黙の時間。

アタシはそう悪くない気がしたけれど、あいつがどう思ってたかわからない…。


そんな時間は、教師が反省タイムの終了を申し渡すまで続いた…。
201 : ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 11:46:08.72 ID:YMqNv3890
────────

────

──

昼休み。




杏子「燃え、尽きた…」


さやか「だらしないなぁ…」


無茶言うなっての…。

こっちは毎日通い慣れたお前と違ってブランクがあるんだ…。

って威張る所ではないよな…。




クラスメートA「さやかはお昼どうする〜?」

クラスメートB「また例のカッコいい先輩達のとこぉ…?」
202 : ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 11:49:22.68 ID:YMqNv3890
さやか「ん〜、ごめんね。今度改めて紹介するからさ」


クラスメートA「良いけどさ〜。たまにはこっちにも付き合ってよ〜?」


こりゃ驚いた。

社交性はある方だろうとは思ったが、編入されてほとんど時間も経ってないだろう状況で、

もう下の名前で呼んでくれるお友達までできてんのかい…。




さやか「さて…、あんたも来る?」


杏子「あ…?」


さやか「暴れたりしないって約束するなら、『例の人』に合わせてあげる」
203 : ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 11:51:30.88 ID:YMqNv3890
とりあえず、ここまで。
夜にまた来ます

スタドラキャラがロクに出てきてないのが申し訳ないな…
204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県)2011/06/11(土) 17:26:14.68 ID:spFZcTZY0
乙綺羅星☆
さやかはムードメーカーっぽい雰囲気してるからなぁ
ドラマCDでもいいアホの子っぷり見せてたし
平和な本編だったら見られたかもしれない光景あってちょっと涙がでそう
205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/06/11(土) 18:02:02.85 ID:QlCEXtJIO
乙綺羅星☆

書くの苦労するかもしれませんが、その分ちゃんと楽しんで読ませてもらってますよー
206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/06/11(土) 22:25:03.84 ID:YMqNv3890
じゃあ、ぼちぼち落とします
今日はどこで切っても気になる所で終わりそうなのがちと申し訳ない

しかも状況的にスタドラキャラ登場が少なめ
世界観スタドラで、主人公がさや杏な時点で仕方ないんだけど…

日常はやっぱ綺羅星さん組むと早そうなんだけど、さやか関連で苦戦中
タクトスガタワコのあの感じを出すのは、よく動く綺羅星さんの何倍も難しい…
奥様、フィラメント、委員長辺りは出すだけである程度勝手に動くからなぁ…
保健医も結構その気があり


>>204
ありがと乙
ムードメーカーって大事だよね

>>205
ありがと〜
それを励みに頑張ります
207 : ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 22:30:04.27 ID:YMqNv3890
思いがけない例の奴との接触機会。

どっちにしてもそいつはアタシの敵になるのだから、見ておいても損は無いだろう。

アタシはさやかの誘いに乗り、一緒に中庭に出た。


そこには周囲にやけに注目されている気がする男二人と女一人がいた。





さやか「紹介するね。この人がアゲマキ・ワコさん。

    あたしは今ワコさんのお家の神社に泊めてもらってる。

    歌が上手で、凄くよく食べるんだよ」


ワコ「あはは…。さやかちゃん…。

   さらっと恥ずかしい事まで紹介しないで…///」


アゲマキ・ワコ。

例のゼロ時間を守る皆水の巫女。

四人の巫女の内の二人は倒し、一人は行方不明だがヘッドが所在を知ってるって言う噂を聞いた。

と、なると実質サイバディを表に出さない為の最終防衛ラインと言える存在とも言えるだろうか。



外見の割に、さやかの言う通りやけに食の進みが早い。
208 : ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 22:32:25.55 ID:YMqNv3890
さやか「で、この人はシンドウ・スガタ師匠。

    この島の名家シンドウ家の後継者で、文武両道で勉強も剣も教えてくれるから、師匠って呼ばせてもらってる。

    あたしが学校へ行けるよう手配してくれたのもこの人。見た目通り、凄いモテるんだよ〜」


スガタ「色々事情があるのは聞いているけど、中学生が学校をサボってるのを見過ごすわけにはいかないからね。

    代わりと言っては何だけど、それらの情報収集はこちらでやらせてもらってるよ」



シンドウ・スガタ。

イヴローニュの話に出てきた『ザメク』のシルシを持っている男で、

強力な第一フェーズ『王の柱』を持ち、それを使っての援護攻撃も行う、と。


さやかから諸事情を聞いて、元の世界への帰り方も探してくれてるみたいだが、まぁ徒労に終わるだろうな…。
209 : ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 22:34:03.77 ID:YMqNv3890
さやか「そして、この人があたしの恩人、ツナシ・タクトさん!

    妙な状況にあったあたしを助け出して、精神的に参ってたあたしの話を聞いてくれた人…。

    すっごく優しくて、すっごく強い人だから、スガタさん同様競争率も高いんだって!」


タクト「競争率…? とにかくよろしくっ!」



そして、こいつが『例の奴』ツナシ・タクトか…。

綺羅星十字団と敵対し、巫女のアゲマキ・ワコ。

ひいてはこの世界を守る存在、ね。



な〜るほどね。

良い目をしてるよ。

さやかと同じ目。


アタシが一番気に入らない目だ…。
210 : ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 22:36:44.70 ID:YMqNv3890
さやか「で、この人はえ〜と、誰でしょう?」


ルリ「私はマキナ・ルリ! タクト君達とはクラスメイトで〜っす。

   君が例のさやかちゃんだね〜? なかなか可愛い子だね…。だから余計に夜道には気をつけるんだよ〜?」


さやか「あはは…。気をつけま〜っす…」


タクト「夜道…?」


スガタ「夜道に出る変質者には気をつけろって意味さ。

    まぁ彼女に限って大丈夫だろう…」


いつの間にか湧いた小動物詐欺師を思い出す声のこのクラスメイトは置いとくとしても、

他三人の面見れたのは来たかいはあった、かな…?
211 : ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 22:38:55.58 ID:YMqNv3890
連中をアタシに紹介する時間は終わり、今度はアタシが紹介される番となる。

もっとも、こいつらに好かれたい訳でもないアタシは「佐倉杏子だ、よろしく」とだけ返して終える。




さやか「ちょ、真面目にやりなさいよ…!」


杏子「あ〜? これ以上何教える事あんだよ…?

   そっち(魔法少女)関連の話も、あのクラスメイトのねえちゃんにはしてないんだろ…?」


さやか「いや、だからってさ…!

    もうちょっとなんかあるでしょ? 趣味とか好物とかさ…?」


杏子「趣味なんてあるわけねーし、好物なんて贅沢できる御身分になって初めて得られる感覚だっての…」
212 : ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 22:39:59.61 ID:YMqNv3890
さやか「あ〜もう…。

    見ての通りの馬鹿丸出しで捻くれ者の非行少女ですけど、根は悪い奴じゃないんでどうか仲良くしてやってください」


杏子「誰が馬鹿だ!?

   周り見えてないで、暴走しまくるお前の方がよっぽど馬鹿じゃねーか! この馬鹿!」


さやか「うるっさいわね…。あんたが国語の時間に読んだ漢字の恥ずかしい読み方を語ってあげようか…?」


杏子「あ、あれは寝ぼけて…、う、うっせー馬鹿!」




ワコ「仲良いんだね」

スガタ「そうだな…」

タクト「………」
213 : ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 22:41:59.70 ID:YMqNv3890
タクト「杏子ちゃん」


杏子「あぁ?」


さやか「あぁ?じゃないっつーの!

    何ですか、タクト先輩様〜☆でしょ、この馬鹿!」


タクト「良いから良いから…。って先輩様☆って何…?」



調子に乗りすぎて顔を赤くするさやかを置いておき、こいつは改めてアタシに話をしようとする。

もっともロクに聞く気のないアタシはそっぽを向いたままだが。
214 : ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 22:43:05.75 ID:YMqNv3890
タクト「さやかから色々あったって聞いたけどさ…」



色々…?

まぁ色々あったわな…。

つーか、お前もさりげなくさやかって呼び捨てか…。




タクト「仲良くしてあげてね。

    さやかの事情を一番わかるのは君だろうから…」


杏子「ふん……」


さやか「タクトさん…///」



何でそこでお前が顔を赤らめるんだよ…。

気を使って貰って嬉しいってか…?

はいはい、御馳走様御馳走様…。
215 : ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 22:44:31.71 ID:YMqNv3890
しかし、まぁ…。


あ〜あ、嬉しそうな顔しちゃってさ…。

そういや、今日のさやかは活き活きしてたよな…。

特にこいつらといるさやかは楽しそうで何よりだ…。



あの死にそうな程辛そうな顔したさやかを、こいつらが救ってくれたんだよな…。

アタシにだって、わかってるさ…。

それでもさやかを捨てた男と重ねずにはいられなかったんだ…。



でも…。

こいつらの事を認めても…。

それでも、さやかのやり方を認める訳にはいかない…。
216 : ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 22:45:15.32 ID:YMqNv3890
以前の世界にだって、こいつには守りたい人がいて、大切なモノがあって…。

それを守る為に戦って…。

なのに…。






『あたしってほんとバカ』

あいつに待っていた結末は残酷なものだった。




『誰かの為』

それを理由に戦う奴の末路はいっつもそうだ…。

マミも、さやかも、そして…。
217 : ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 22:47:00.25 ID:YMqNv3890
こいつはまた繰り返そうとしてる。

綺麗な理想に酔って、手に入れた新しい居場所に目が眩んで…。

また、同じ道を進んでる…。




だから、アタシはあんたを止めるよ…。

今度はアタシがあんたの夢をぶっ潰す事になっても…。

力尽くで…。



それしかあんたを救う術を思いつかないから…。
218 : ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 22:49:42.52 ID:YMqNv3890
────────

────

──


杏子「開け、電気棺!!!」


金属性の大きな箱が、アタシの声に従って開く。



『電気棺』

シルシを持たない綺羅星十字団員が、サイバディを動かす為に開発した装置。



その中にアタシは入り込む。
219 : ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 22:50:51.80 ID:YMqNv3890
中にある椅子に座り込み、扉が閉じると、箱はサイバディとの接続の為の装置の下へと運ばれる。

箱が装置と接続されると同時に、箱の中の各所からサイバディと人間とをリンクさせる為の拘束具のようなパーツが現れ、アタシに装着される。

それの装着を確認したアタシは、一度だけ深呼吸をした。


サイバディ復元にはリスクを伴う。

滅多な物には負けないつもりのアタシだが、そのリビドーの徴収とやらは初体験となる。

多少なりとも心構えをした訳だ。



付けていた仮面を外すと、

目の前に降りてきた黒いマネキンの頭部のような装置に向かい、思い切り仮面を取りつけて、叫ぶ。
220 : ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 22:53:19.03 ID:YMqNv3890
杏子「アプリボワゼェェェェェェ!!!!」


その言葉はサイバディを召喚する際に使われるモノ。

仮面の装備がきっかけか、その言葉がきっかけかはわからないが、首元の拘束具が赤い電撃を放ち始める。







杏子「ぐぅ…ぅぅ…ぅ…」


シルシを持たないドライバーに強制的にシルシを発現させる措置なのだが、

対象となるサイバディが破損している場合は復元の為のリビドーの徴収が始まる為、その電撃はより強い物となるそうだ。


負けないように意識を保っている筈なのに、幻が見えてくる…。
221 : ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 22:56:09.20 ID:YMqNv3890
マミ『いい加減…、諦めたら…、どうかしら…?』


杏子『そりゃ…、こっちの…、台詞だ…!』




幻?

いいや、これは夢だ。

それも昔懐かしい、大馬鹿野郎と毎日縄張り争いをしていた頃の…。




『魔女も使い魔も関係ない』

『人に害をなす存在を倒す』

『それが私たち魔法少女の使命の筈よ?』


それがあいつの口癖だった。

いつの間にかアタシの縄張りである見滝原に現れた他所者の癖に、アタシが魔女になるまで放っておいた使い魔を勝手に狩り始める。
222 : ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 22:57:32.82 ID:YMqNv3890
使い魔ってのは魔女になる前の幼虫みたいな奴で、人を襲えばやがて魔女になるが、それまでは肝心なグリーフシードを落とさない。

グリーフシードが魔法少女にとってどれだけ大切かは先日言った通りだ。

なのに、あいつは率先して使い魔を狩る。


いい加減目障りになったアタシは、とうとうあいつと揉め始めた。




マミ『グリーフシード欲しさに、魔法を好き勝手使いたいが為に、魔法少女であり続けるの?

   あなたのような醜い人は、さっさと魔女に食われたらどうかしら?』


杏子『人様の縄張りに勝手に上がって好き勝手やってさ、言いたい放題よくも言ってくれるよねぇ?

   その首跳ね飛ばして、魔女にくれてやろうか!?』
223 : ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 23:00:39.66 ID:YMqNv3890
主義主張が合わないアタシ達は、使い魔が、魔女が現れるたびに争った。


アタシも魔法少女になって長い。それなりに腕には自信がある。

けど、あいつは強かった。



相性の悪い遠距離型である上に、鬱陶しい小細工を得意とする面倒な相手。

その上、アタシが大嫌いな絵空事を当然のように並べる。

アタシの天敵みたいな奴だった…。




最初は大嫌いだった。

いや、今でも大嫌いだ…。

だけど…。
224 : ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 23:03:08.86 ID:YMqNv3890
杏子『アタシはこの街を出ていくよ』


マミ『そう。せいせいするわね…』


杏子『一つだけ忠告してやる…』


マミ『何よ…』


杏子『お前、その戦い方やめろ…』


マミ『この期に及んで…』


杏子『使い魔は強さはともかく、その数は魔女の比じゃない…!

   いちいち相手してたらグリーフシードの数が持たないって言ってんだよ…!』
225 : ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 23:06:12.76 ID:YMqNv3890
また、どうせ突っぱねるのだろうと思った。

でも違った。

あいつはどこか寂しそうに笑うと、全く違う答えを返した…。




マミ『みんなの為に戦う正義の味方…。

   そんな生き様だけが私の全てなのよ…』


マミ『だから…』








――ごめん――
226 : ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 23:07:01.51 ID:YMqNv3890
あぁ…。

『誰かの為』に戦う大馬鹿野郎はいつもこうだ。


自分を省みないで…。

そんな奴を想う誰かの事なんて、気にもしないで…。





結局マミは死んじまった。

『悪い所だけを継いだ後継者』を残して。
227 : ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 23:07:57.18 ID:YMqNv3890
美樹さやか。

あいつはあのマミと同じ瞳をして…。

マミと同じようにやれ人助けだの、やれ正義だの、大層な事をやりたがっていた。


気に入らなかった。

あのマミにできないのに、お前みたいな雑魚に出来る訳ないだろ…って。



何もかもが気に入らなかった。

本気で潰してやろうと思った。

でも…。
228 : ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 23:11:25.38 ID:YMqNv3890
あいつの滑り落ちていく様は、マミよりもアタシによく似ていた。

いつしか、その酷い落ちざまを見て、放っておけなくなった。

マミにしなかった昔話までした。

けど、結果は言うまでもない。




『あたしは、あたしのやり方で…、戦い続けるよ』


そう言ったあいつに待っていた結果はマミよりも無残な物だった。

信じていたモノに裏切られ、守って来たモノに絶望した…。
229 : ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 23:14:20.67 ID:YMqNv3890
こいつはまた繰り返そうとしてる。

今度のこいつに待っているのは、戦いに疲れたマミの最期か、自分の理想や世界に疲れたあの時のさやかかは知らない。

だけど、その結果は同じ『破滅』だ。



そして、アタシは…。

それを認める訳にはいかない…!
230 : ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 23:19:18.18 ID:YMqNv3890
幻が消えていく。

眩んだ視界が元に戻る。

気付けば、アタシはサイバディに乗り込んでいた。








杏子「………力を借りるぜ。ページェント!」


先輩から貸し与えられた深紅の機体が、アタシに合わせてゼロ時間の地面を歩んだ…。
231 : ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 23:25:21.21 ID:YMqNv3890
っし。
さりげに明日も仕事な不規則さなので、今日はここまでです。
気になる所で止めちゃうのは申し訳ないけど、こっからまた長いので…。



それでは本日は一応閉会とする。

佐倉杏子に栄光を…!
美樹さやかに祝福を…!

綺羅星☆
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)[sage]:2011/06/11(土) 23:29:45.09 ID:/PaoAZMAO
超乙!
233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)[sage]:2011/06/11(土) 23:35:52.60 ID:/PaoAZMAO
超乙!
234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/06/11(土) 23:58:23.51 ID:ddTR+MXWo
君の銀河はきっと輝く!
235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)[sage]:2011/06/12(日) 00:04:28.55 ID:EMX6KLIAO
乙星☆
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)[sage]:2011/06/12(日) 01:27:44.23 ID:NYU5TK+Go
乙☆
もうあんこちゃんの出番か、思いのほか早く決着が付くのかな
237 : ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 21:12:20.09 ID:C7Uzbqac0
綺羅星☆
昼寝もして、ストックもバッチリだ
明日は休みだから多めに落とせるがどうしよう…?

ストックはきっと平気
明日の午前とかで溜めるさ


>>232
乙星☆
どうもありがとう

>>234
君の銀河はもう輝いている☆

>>235
乙星☆
応援ありがとう

>>236
応援ありがとう
まさか自分からバレする訳にも行くまいが…
ただ、まだまだ先は長いっす…
238 : ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 21:14:20.67 ID:C7Uzbqac0
現れたゼロ時間に、前と同じく見物人の仮面達を包んだ泡が浮かぶ。

その中には勿論、よく知った顔もいた…。




イヴローニュ「良かったのか…?」


スカーレットキス「アインゴットのような欠陥機を貴重な人材に与えて潰すなど、もっての外だ。

         それに…」

スカーレットキス「防御よりも機動力に重きを置いたページェントは、あいつの戦闘スタイルに合っている」




今アタシの乗っているページェントは、上司様『スカーレットキス』の機体だ。

それを『科学ギルド』に無茶を言って、アタシが乗れるように調整してくれたらしい。
239 : ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 21:17:29.12 ID:C7Uzbqac0
杏子「あんたらも復元に成功したんだな…」


レイジングブル「任せろ!」


スピードキッド「後輩に後れを取る訳にはいかねぇからな!」




作戦は簡単。

こないだの『バニシングエージ』の連中と同じ。

アタシが、さやかに光の剣を抜かせないように倒す。

その間あっちの二人が、タウバーン相手に持ちこたえる。


頭脳派のいない『フィラメント』にそう言うのは期待できないからな。

作戦も単純明快だ。
240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)[sage]:2011/06/13(月) 21:18:01.90 ID:MD69oUZ1o
おぉ、そう来たか
241 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/06/13(月) 21:19:00.18 ID:347kpL8IO
サンドバッ(ryボクシング先輩キターーー!
242 : ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 21:19:22.36 ID:C7Uzbqac0
さやか「颯爽登場! 銀河美少年!! レシュバル!!!」


タクト「颯爽登場! 銀河美少年ッ、タウッ!バーン!!!」



敵の二人のサイバディが現れ、その戦闘態勢が整う。

それを見るや否や、アタシはさやかの乗るレシュバルに向かった。


アタシの見る限りじゃ、あっちの二人は長くは持たない。

この勝負、アタシがどれだけ早く決着を付けるかが鍵を握る。


おまけにこっちは、相手を[ピーーー]訳にもいかない。

まぁ色々と厳しい条件だ事で…。
243 : ◆.2t9RlrHa2[sage]:2011/06/13(月) 21:20:33.78 ID:C7Uzbqac0
さやか「颯爽登場! 銀河美少年!! レシュバル!!!」


タクト「颯爽登場! 銀河美少年ッ、タウッ!バーン!!!」



敵の二人のサイバディが現れ、その戦闘態勢が整う。

それを見るや否や、アタシはさやかの乗るレシュバルに向かった。


アタシの見る限りじゃ、あっちの二人は長くは持たない。

この勝負、アタシがどれだけ早く決着を付けるかが鍵を握る。


おまけにこっちは、相手を[ピーーー]訳にもいかない。

まぁ色々と厳しい条件だ事で…。
244 : ◆.2t9RlrHa2[sage]:2011/06/13(月) 21:21:53.53 ID:C7Uzbqac0
ん…?
下げたけど駄目だな…?
ちょいと修正かけても一回落とします
245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)[sage]:2011/06/13(月) 21:22:00.34 ID:MD69oUZ1o
×sage
○saga

いや、二つとも書けば間違いは無いが
246 : ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 21:23:05.58 ID:C7Uzbqac0
>>245
なんと…
了解
修正落としつつ続行します

色々とサンクス
247 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 21:24:29.95 ID:C7Uzbqac0
さやか「颯爽登場! 銀河美少年!! レシュバル!!!」


タクト「颯爽登場! 銀河美少年ッ、タウッ!バーン!!!」



敵の二人のサイバディが現れ、その戦闘態勢が整う。

それを見るや否や、アタシはさやかの乗るレシュバルに向かった。


アタシの見る限りじゃ、あっちの二人は長くは持たない。

この勝負、アタシがどれだけ早く決着を付けるかが鍵を握る。


おまけにこっちは、相手を殺す訳にもいかない。

まぁ色々と厳しい条件だ事で…。
248 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 21:25:26.77 ID:C7Uzbqac0
スガタ「あれは彼女か…? いや、違う!」


タクト「来るよ、さやか!」


さやか「わかってますって!」



わかっていない。

アタシは途中でページェントを加速させ、その姿を追い切れないようにする。






さやか「え? え…!?」


杏子「甘いんだよッ!」
249 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 21:27:55.31 ID:C7Uzbqac0
途中で上げた加速を追い切れなかったレシュバルは、こちらの繰り出した掌底を顔面に受け、吹き飛ぶ。


シミュレーターで使ったあいつのレシュバルよりもさらに加速が乗りやすい。

相変わらずの操作のタイムラグが鬱陶しいが、それでも機体性能が合っていて戦いやすい。





タクト「このッ!」


杏子「……!」


奇襲して敵陣に入った為、真横にいたタウバーンに襲われる。

こいつの相手は予定にないが、連中を分断しきるまでは仕方がない。


こちらが奇襲をしかけた為か相手の攻撃は打撃がメイン。

しかし、やがてノーモーションで出せる腰の小型兵器のパイルが飛んでくる。




だけど、アタシだって一人で戦ってる訳じゃない。
250 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 21:29:25.44 ID:C7Uzbqac0
スピードキッド「やらせるかよッ」


バイクになって宙を走るテツヤのサイバディ、テトリオートが人型に戻り、光輪を空中から飛ばす。

それはパイルに当る事は無かったが、パイルが行おうとした射撃を行わせなかった。





レイジングブル「バッファロー・クラッシュ!!!」


タクト「ぐっ…」


牛のような角を持つジョージのアレフィストが、タウバーンに体当たりを仕掛ける。

これでようやく、アタシは本命と対峙できるって訳だ。
251 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 21:32:25.42 ID:C7Uzbqac0
飛ばされたレシュバルもさすがに持ち直しており、パイルで作った剣を手に取っている。




さやか「こんのッ…!」


持った剣を投げつけてくる。

顔元に来た一つ目の狙いは甘く、顔を左に傾けるだけで当らない。

続く二つ目は右肩の辺りに飛んでくる…。

右肩を後ろへ素早く下げ、体を反身にして刀身をかわす。

同時に左手をかわした剣へ差し向けておき、柄を握る。



後は簡単だった。

頂いた刀剣を使って続く三撃目を流しつつ前進。

そのまま相手に迫る…。
252 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 21:34:20.86 ID:C7Uzbqac0
さやか「ぐっ…!」


三本の投剣を見切られ、するりと眼前に入ったアタシのページェントの斬撃を受けるレシュバル。

恐らくは投げようとしていた四本目の剣を咄嗟に防御に使ったんだろう。







杏子「はッ!」


握りが浅い。

思い切り力を入れてやれば、受けていたレシュバルの刀剣は宙を舞っていた。
253 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 21:36:08.05 ID:C7Uzbqac0
さやかのその後の反応は悪くない。

こちらよりも早く動き、蹴りを入れようとする。


だが、そこにアタシはいない。

後方へ回ったページェントは、レシュバルのその首筋に向かって手刀を入れる。

相手が人間であればここで終わるかもしれないが、サイバディじゃそうはいかないらしい。

うつ伏せにみっともなく倒れるも、また立ち上がろうとする。





さやか「負け…ない…」


杏子「………」
254 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 21:42:29.42 ID:C7Uzbqac0
イヴローニュ「ほぅ…、大したものだな」


スカーレットキス「やれる! やれるぞっ…!」


頭取「あなたは…、それでいいの…?」




聞こえてるよ、カナコ…。

これで良いんだ。

これしか無いんだ…。


サイバディがこの世に出て、この世界を騒がしてもこいつの居場所が無くなる訳じゃない。

綺羅星の連中が必要以上にあいつらを狙う真似はアタシがさせない。

だから、その上で元の世界へ戻るまであそこで傷を癒せば良い。



いい加減わかれよ、さやか…。

夢物語はもう終わりにするんだ…。
255 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 21:47:40.52 ID:C7Uzbqac0
青白い閃光が遠目に輝く。

だが、お坊ちゃんの言葉を信じるにスカして終わったらしい…。




スガタ「王の柱をかわした…?」
    

ワコ「あの敵、第二フェーズなのに…。

   今までの奴とは何かが違う…!」


スガタ「妙に戦い慣れしている…!

    タクト、お前が行かなければまずいかもしれないぞ…!」


タクト「………わかった!」





レイジングブル「だぁから、いかせねぇっていってんだろうがッ!」



タウバーンの後ろでお坊ちゃんと皆水の巫女が好き勝手言ってやがる…。

ここで行かせたら、俺は…。

俺はな…。
256 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 21:49:45.11 ID:C7Uzbqac0
タクト「どけッ!」


パイルとか言ううっさいのは、テツヤが引き受けてくれている。

俺の役目はこのタウバーン一体なんだが…。




正直それでも荷が重い。


一撃、二撃と入れられる打撃が重い。

最初に戦った時に感じた通りだ…。


こいつは強い…。

俺たちみたいな三下とは違う『本物』なんだって…。
257 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 21:53:12.49 ID:C7Uzbqac0
スカーレットキス「ジョージ……」


プロフェッサー・グリーン「あの機体、もう持つ筈がないのに…」


頭取「これもリビドーの力…?」





また一撃、さらに一撃食らい、アレフィストが悲鳴を上げている。

あちこちから煙を上げて、火花出して、装甲が禿げて中身がむき出しになってる所もあちこちにある。



へへ…。

悪いなぁ、アレフィスト…。

俺みたいなドライバーが乗っちまったばっかりによ…。


だが…、付き合って貰うぜ…。
258 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 21:56:35.97 ID:C7Uzbqac0
コイツに負けてからの俺の毎日はよ…。

惨めなモンだったよ…。


挙句の果てには女にノされて…。

しかも二回もだ…。



それでもよ…。

そんな俺でもよ…。

今頑張らなきゃ本当の負け犬になっちまうだろうが…!




だから、やってやろうぜ! アレフィスト…!

杏子が…、後輩が立ってる内は絶対に倒れねぇ…!
259 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 21:58:30.39 ID:C7Uzbqac0
あいつの…。

あいつの足を引っ張る真似だけは…!

そんな真似だけは絶対にできねぇよなぁ…!






タクト「こいつ…! まだ立つのか…!?」


レイジングブル「当たり前だ…。こっちはな、もっと重いパンチを4発も貰ってんだよッ!

        お前の屁みたいなパンチが効くかッ!」



レイジングブル「それにな…、喧嘩とボクシングは違うんだぜ…?」



レイジングブル「喧嘩じゃなぁ…。何回倒されても負けを認めるまで、負けじゃねぇんだよォォォォォ!!!!」
260 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 22:00:53.34 ID:C7Uzbqac0
横目で確認する。

テツヤはともかく、ジョージの方は動いてるのが不思議なくらいだ。

状況は相当にまずい。


これ以上時間をかけると…。




さやか「スター…、ソー…」


少し離れた位置にいるさやかのレシュバルは、膝を着いたままの態勢で悪あがきを続ける。

胸に手を当て、例の光の剣を抜こうとする…。
261 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 22:02:13.03 ID:C7Uzbqac0
苦し紛れにも程がある悪あがきに苛立ち、アタシは舌を打つ。

これ以上はこっちもまずいってのに…。




さやか「スィトリ………ヌ…」


杏子「無駄だっつってんだよッ!」


勿論、そんな物を使わせはしない。

抜かれた光の剣に対し、持っていた刀剣を投げつける。

自分の武器に弾き飛ばされたさやかの切り札は、音を立てて遥か遠方へ転がった
262 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 22:04:54.52 ID:C7Uzbqac0
杏子「これで…、終わりだ」


さやか「終わ…り…?」


膝を着き、項垂れたままレシュバルは動かない。


このまま負けを認めろ…。

そうすればお前に来る負担はまだ…。







さやか「終わりじゃ…ないよ…!」


レシュバルの頭部がゆっくりと上を向き始める…。
263 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 22:06:12.83 ID:C7Uzbqac0
止せ、さやか…。

お前はもう万策尽きてる筈だ…。

これ以上お前を…。






さやか「あたしはまだ、諦めて………ない!」


レシュバルが鋭い眼光を再び放つ。

同時にページェントは後方へ殴り飛ばされていた。
264 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 22:08:05.19 ID:C7Uzbqac0
杏子「何…!?」


さやか「今度こそ後悔だけはしないって決めたんだ…!

    だから死ぬまで前に進む…!」



見切れないほどの正拳を顔面にくらい、思い切り後退している…。

あの、終わった筈の状況から…。

そもそも、あの距離をどうやって詰めた…?



持ち直した…?

それだけじゃない…。

動きがさっきよりも良い…。

なんなんだ、これは…?
265 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 22:09:13.59 ID:C7Uzbqac0
さっきまでのトロい動きが嘘のような一撃が来る。

腹に、次に顔面に正拳が入り、まだ追撃は続く…。


少なくないダメージが入る…。

持ち直した相手に驚きつつも、速度で勝るページェントの特性を活かし、一旦距離を取る。





相手は構えすら取れていない…。

やれる…!


相手に一気に近づき、さらに加速をかけ、すれ違いざまに攻撃を仕掛ける。
266 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 22:10:45.60 ID:C7Uzbqac0
杏子「な…?」


相手は繰り出したこちらの右の手刀をしっかりと受け止めており、そのままこちらの加速の勢いを利用して投げ飛ばす。






杏子「…ッ!」


地面に引きずられるページェントを持ち直すも、既に相手は眼前にいる…。

捌こうとするも捌ききれない打撃が繰り出される。

距離を取ろうにも、連撃が激しく、逃げられない…。


見切れる範囲だけでも捌き、反撃を入れる。

だけど、ここに来てサイバディの反応の鈍さが邪魔をする。

見えても避けれない攻撃の数が増え、こちらの反撃は減り、ダメージは確実に蓄積していく…。
267 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 22:12:16.78 ID:C7Uzbqac0
杏子「お前は何の為にここまでする…!?」


さやか「大切な人達の為…!」



形勢は逆転していた。

ページェントの拳は繰り出すも捌かれ、また反撃をもらう。





杏子「大切な人…? そう思ってるのはお前だけかもしれない…!

   万一そいつらに裏切られたらお前はどうする…? 耐えられるのか!?」


さやか「何を…」


僅かな隙を付いた膝蹴りがレシュバルに入る。

続けて、組んだ両手を相手の頭部に思い切り叩きつける。
268 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 22:13:59.45 ID:C7Uzbqac0
杏子「お前は理想に酔ってるだけだ! 優しく見えるそいつに寄りかかって…!

   だから、それが破れたらお前は…」


さやか「…その心配はいらないよ。

    あの人達はあたしを裏切らないし、例え裏切られてもあたしの戦う理由は変わらない」



怯んだレシュバルの腹に、思い切りもう一撃食らわせる。

仰け反りながらも繰り出してきた敵の左拳を避け、右側から横顔に向かって正拳を入れる。

レシュバルは僅かに後ずさるもその構えを崩さない…。
269 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 22:15:20.26 ID:C7Uzbqac0
さやか「前にね…」


杏子「…?」


さやか「あたしの先輩が言ったんだ…。

    あなたはその人に夢を叶えて欲しいの? それともその人の夢を叶えた恩人になりたいの…?って」


先輩…?

マミの事か…?

こんな時にあの大馬鹿野郎の事なんか、これ以上思い出させるな…!
270 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 22:17:52.90 ID:C7Uzbqac0
さやか「それがわからずに進めば後悔する…そう言われてたのに、あたしは状況に流されて突き進んだ。

    結果、マミさんの言う通りになったよ…」



そうさ…。

そして、お前はまた同じ事をやってる…。

だから、アタシは…。





さやか「でも、今度ははっきり言える!」
271 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 22:18:57.05 ID:C7Uzbqac0
さやか「あたしはタクトさんに夢を叶えて貰いたい。その為に戦う…!

    だから…!」




レシュバルのその目は輝きを増す。

同時にさやかの乗るコクピットの球体からも強い光が発せられる。

あのさやかがこんな輝きを放ってるのか…?



その輝きに魅せられたアタシを他所に、

レシュバルはその左手を前に、右の拳を大きく後ろへ引いて大技の構えをとる…。
272 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 22:21:28.71 ID:C7Uzbqac0
さやか「もう後悔だけはしないよ!!!!」


さやかの叫びに反応し、あちこちに転がっていたレシュバルのパイルが、元の形と大きさに戻り、引いた右手に集まっていく。

細めの先端を前へ向け、ロの字に右手を囲んだパイルはドリルのように高速回転を始める…。



これはまずい…。

そう思った…。

だけど…。
273 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 22:23:07.86 ID:C7Uzbqac0
杏子(ッ…! 動けよ…! なんで…)



わかっていても、ページェントの動きが…。

追い付かない…。



動いてはくれている…。

でも遅い…。

遅すぎるんだ…。



杏子(まだ、アタシだって…、さやかを…)
274 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 22:24:50.23 ID:C7Uzbqac0
さやか「パイル・クラッシャァァァァァァァッ!!!!!!」



高速回転するパイルを纏った右の拳が繰り出される。

アタシは言う事を聞いてくれないページェントを、それでも後方へ飛ばす。



…が、無駄だった。

ドリルのように回転するパイルの拳は、そのまま空を裂きながら前へと突き進み、

後方へ飛んだページェントへ迫る…。



前方へ迫ってくる…。

やがて眼前へ…。

そして…。




ページェントの腹から上は抉られて腕と首だけを残し、やがて爆散した…。
275 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 22:29:24.21 ID:C7Uzbqac0
っし。
キリが良いので小休憩します
11時頃に再開予定

>>240
そう来ちゃいました
設定殺しはなるだけやりたくはないけど、展開的に必要な時もあったり…

>>241
サンドバ先輩
ちょっと張りきってもらいました
276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)[sage]:2011/06/13(月) 22:38:35.56 ID:MD69oUZ1o
フィランメント組は本編でもっと活躍するべきだと思っていた、俺得展開だな。素晴らしい。
277 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 23:11:27.59 ID:C7Uzbqac0
では、再開します

>>276
フィラメントとおとな銀行活躍させるための杏子編だからね…
あの人達はキャラ濃いからスピンオフとかも行けると思うんだけどなぁ…
フィラメント組のはサイバディもお気にだし
278 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 23:14:05.77 ID:C7Uzbqac0
金属製の箱が開き、その中に光が差す。

そこまでの状態になって、アタシは初めて自分の状態を理解した。





杏子「アタシは…負けたのか?」


スカーレットキス「あぁ…」


電気棺からサイバディを遠隔起動した際の最大のメリットとして、

敗北しても搭乗者の身体や精神には一切の跡を残さない…と言うのがある。


実際、アタシにもダメージはない。

だけど…。
279 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 23:18:38.32 ID:C7Uzbqac0
レイジングブル「よっ」


疲れているもどこか満足そうなジョージがぽんとアタシの頭に手を置く。




レイジングブル「惜しかったじゃねぇかよ。あと少しの所だったのにな」


杏子「ごめん…。アタシは自分の役割を果たせなかった…」


レイジングブル「な〜に言ってんだ。

        俺達に実力があるなら、俺達のどっちかがお前と戦った奴を担当するのが定石だろうが」


スピードキッド「その通りだ。

        あっちの青いのだって『バニシングエージ』のドライバーを倒すほどの実力者だ。

        本来なら先輩の俺らが相手をしなければいけない相手なんだぜ…?」
280 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 23:21:01.53 ID:C7Uzbqac0
二人を横目に上司様がゆっくりと歩んで来る。

笑いながら声をかける二人と違い、こちらはいつもと変わらない様子で話しかけてくる。

だけど、その様子には棘は見えない。

正直、今きつい事言われないのはありがたかった…。




スカーレットキス「やはり、他人のサイバディを使うのは無理があったか?」


杏子「それも無い事もないが、それ以上にあいつの強さがアタシにはわからない…。

   たぶん今のままじゃ何回やっても…」


その先を言わせないように、だろう。

「とりあえず」と、上司様がアタシからエンブレムを回収する。

とりあえず帰って休む事を勧められたアタシは、そのままふらふらと外へ出ると、

仮面を外し、魔法少女の服装だけ解いて、ぼんやりと施設を離れた。
281 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 23:26:23.13 ID:C7Uzbqac0
アタシはさやかの強さを測り損ねていた。


あいつがまた同じ事を繰り返している。

マミのようにそんな自分に陶酔しているか、以前のさやかのように周囲が見えていないか、それとも単に意地と投げ槍か…。

いずれかだろうと思った。


いや、薄らとどこか違うとは思いながらもそれ以上追及しなかった。



違う…。

できなかったんだ。

『誰かの為』なんて戯言を、あそこまで本気で言ってる奴なんて初めて見たから…。
282 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 23:27:22.28 ID:C7Uzbqac0
あいつは本気だった。

サイバディを動かすのがリビドーだって言うのなら、それはそのままあいつの強さになっている筈だ。


そう…。

あいつは以前同じ事で苦しんだのに『今度こそ惚れた男の夢を叶えたい』と、そう言った。





アタシにはわからない…。


ツナシ・タクト。


あいつはさやかに何をした?

あいつの何がさやかにあそこまでの決意を抱かせる…?


嫉妬や憎しみじゃない。

知らなければならないと言う感情が、奴の元へアタシを運んでいく…。
283 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 23:29:21.92 ID:C7Uzbqac0
────────

────

──


タクト「やぁ…、こんばんは」


杏子「先輩…、あんたに話があるんだけど」


タクト「さやかの事だね…?」



薄暗い林の中に月明かりが射す。

それは、待ち伏せしたアタシに動じないこの男の口元を静かに照らす。

穏やかな笑顔で、こいつはさやかとの出会いを語り始めた…。
284 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 23:30:44.25 ID:C7Uzbqac0
タクト「彼女はね…、暴走した…。

    そうだな、魔女みたいだけど、もっと違う別のモノの中にいたんだ」



最初はその中に人がいるかもわからなかった。

完全に取りこまれてて、怒りや悲しみや憎しみみたいな物だけを撒き散らすあの中から人らしきモノは感じられなかったから…。

今にして思えば、アレがさやか自身の穢れ…、

いや、さやかが本当の魔女になった時に放つモノだったんだと思う。



やがて、状況が切迫したスガタが手助けしてくれて、ようやくその存在を感じ取った。


強い感情に包まれたそれとは違って、

中にいる人は弱弱しくて、そんな自分を悔いているのか、助けすら呼ばなかった。


勿論放っておけなくて助け出した。
285 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 23:32:14.68 ID:C7Uzbqac0
対面した僕らは特殊な状況にあって少し驚いたけど、すぐに打ち解けた。

彼女は良い子だったからね。

でも、それ以上にどこか親近感が湧いた。


その理由はすぐにわかった。

彼女から魔法少女の話を聞いたからじゃない。

彼女の生き方を聞いたから…。




タクト「僕と彼女は似ていると思った」


杏子「似ている…? 何が…?」


タクト「似てると言うと少し違うな…。

    正確に言えば、彼女の『選択は僕と同じ物』だった」
286 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 23:33:30.01 ID:C7Uzbqac0
彼女も僕も一人の人を想って…。

その人の為に、何かと戦う道を選んで…。

そこまでは同じだった。


だけど、そこからは違った。

僕はその人とも、その人を想う他の人間とも解り合えた。

後はただ前に進むだけで良かった。


でも、彼女は違った。

色んな事情でその人への想いを伏せなければならなくなって…。

その人を想う他の人間を責める事もできなくて…。

間違った選択はしていない筈なのに、悪い結果だけが重なって追い詰められていって…。
287 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 23:35:20.08 ID:C7Uzbqac0
同じ選択をした。

なのにここまで違う…。


悲しいもう一人の自分に、同情よりも哀れみよりもある感情が先に湧いてきたんだ…。

そして、その言葉は自然と口から漏れていた。




―よく、頑張ったね―


その言葉を聞いた後の彼女は、色々と吹っ切れたんだと思う。

それまでの自分を取り戻すかのように、それを遥かに越えるように…。





タクト「絶望の淵を知って、そこから帰って来た彼女はたぶん誰よりも強い」


杏子「あんたよりもか…?」


タクト「僕よりも…ずっと」
288 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 23:36:54.15 ID:C7Uzbqac0
杏子「…よく、わかった。ありがとう、先輩」




タクト「…………待って」


引きとめられ、振りかえったアタシに真剣な表情を向けるツナシ・タクトの顔が見える。

月明かりは、いつしか奴の全身を映していた…。






タクト「君は、どうするの…?」



アタシは…?

言葉に詰まったアタシは、長い沈黙の後、奴に背を向けて逃げるようにその場を去った…。
289 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 23:38:59.36 ID:C7Uzbqac0
────────

────

──


さやか「おい、杏子〜〜!」


杏子「…………」


さやか「杏子ってば!」


杏子「…………」


さやか「この馬鹿、うすらトンカチ、へちゃむくれ!」


杏子「…………」
290 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 23:40:14.55 ID:C7Uzbqac0
アタシはどうする…?



昨日からそれが引っ掛かっている。



どうする…?

さやかの為に戦う…?



それは『自分の為』だ。

事実、あいつの感情は無視してでも連れていくつもりだった。


だが、今のさやかから『それ』を取りあげれば、今度こそさやかは間違いなく堕ちる。

それ以前に、あいつの『本気』にアタシはとても太刀打ちできない…。
291 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 23:41:35.04 ID:C7Uzbqac0
さやか「杏子、杏子ってば!!」


杏子「うっさいな、何だよ!」


さやか「呼んでるよ…?」


廊下には金髪碧眼の美少女が立っている。

アタシの恩人が一人、シモーヌ・アラゴンだ。

さんざん待っていたらしく、痺れを切らしたのか一礼した後、教室へ入って来る。




シモーヌ「こんにちは。あんこさん」


さやか「あん…www」


杏子「………なんか用か?」
292 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 23:42:54.83 ID:C7Uzbqac0
横で笑う馬鹿を捨て置き、シモーヌへの応対を優先する。




シモーヌ「奥様がお呼びです」


杏子「もうすぐ授業なんだけど?」


シモーヌ「次の講義の内容は私が後で責任を持って教えますので、黙って付いて来てください」


杏子「ちょ、おい…!」




さやか「……愛の告白?」


アタシの手を取ると、無理やり引っ張って外へ連れ出そうとする。

シモーヌらしからぬ強引な手段だ。


つーか告白じゃねぇよ。

聞こえたクラスの連中がちょっと引いてんじぇねぇか…!

あの馬鹿、後で潰す。
293 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 23:45:22.68 ID:C7Uzbqac0
恩人なのに一度散々な目に合わせてる手前もあって、アタシはシモーヌには強引に出れない。

結局、引きずられるままにカナコのいる屋上へ連れられてしまった。





杏子「…………」


カナコ「たまには、こうやって屋上で授業をサボるのも青春よね?」


シモーヌ「優雅にお茶会をしながらサボると言うのは聞いた事がありません。奥様」



日焼け防止の為のパラソルの下にどこから持ってきたのか、白いテーブルと白い椅子。

テーブルの上に置いたお茶とお茶菓子のクッキーを嗜みながら、青春を楽しんでいるつもりのお嬢は言う。


無理やり着席させられたアタシに、シモーヌがお茶を淹れる…。
294 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 23:46:51.16 ID:C7Uzbqac0
杏子「何の用だよ…」


カナコ「その前に…、綺羅星ッ!」

杏子「き、綺羅星!?」



シモーヌ「語尾が怪しいですが、言えていますね…。面白くありません…」


カナコ「今度はちゃんと言えたのね…w」


杏子「……からかう為に連れてきたなら帰るぞ!///」



和やかな表情をしていたカナコが一辺に真面目な表情に変わる。

綺羅星十字団第四隊『おとな銀行』頭取…の目とでも言えば良いのか?
295 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 23:48:19.50 ID:C7Uzbqac0
カナコ「もう一度聞くわね…」


杏子「………」


カナコ「あなたは何故、綺羅星十字団に…?

    そして、何のために戦うの…?」


アタシは溜息を吐きながら、カナコに語った。

真剣に話を聞いてはいたが、その大半を既に知っているようにも見える。

そして…。




杏子「アタシは『自分の為に』戦う。

   さやかも『自分の為に』連れて帰る……つもりだった」
296 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 23:50:32.80 ID:C7Uzbqac0
杏子「できなかったよ。あいつ、この上ないほど真剣で…。そうするだけの理由があって…」


カナコ「…………」


そこから先も全部カナコに話した。

アタシはあいつに勝てないし、万一勝てばあいつは終わってしまう。

そう考えたらもうどうしようもなかったから。

こう言うのには慣れているつもりだったが、少しでも楽になりたくてブチ捲けた…。




カナコ「あなたは…強い子なのね。そして、それ以上に優しい子」


杏子「そうかな…?」
297 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 23:51:35.64 ID:C7Uzbqac0
カナコ「自分を否定する現実が訪れても、涙一つ流そうとしていない…」


いつも笑顔を絶やさないワタナベ・カナコでも、大胆不敵で強気な『おとな銀行』頭取でもない、

どこか悲しそうな表情で、カナコは言う。



だけど、それは買い被りだよカナコ…。


アタシの涙はとうに枯れているだけなんだ…。

泣きたくてももう出ないだけなんだよ…。
298 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 23:53:24.27 ID:C7Uzbqac0
カナコやシモーヌの表情を見るのが居た堪れなくなったアタシは、話題を変える。

それは、ずっと気になっていて聞けなかった事でもあり、話題反らしの割にはすんなり出てきてくれた。




杏子「なぁカナコ…?」


カナコ「…?」


杏子「あんたは何の為に綺羅星十字団に入って、何の為に戦うんだよ?」


カナコ「恐怖の大魔王になりたいの」


杏子「……は?」


重い空気が軽くなり、カナコからも笑顔が戻る。

後ろで呆れ顔をしたシモーヌが一礼してから、カナコの代わりに語り始める。
299 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 23:55:36.91 ID:C7Uzbqac0
シモーヌ「奥様はサイバディの所有権が『おとな銀行』にある事を主張する為に戦っています」


杏子「…?」


シモーヌ「全てのサイバディは『おとな銀行』の資金の元で発掘、調査、調整、運用されているのですから本来は当然の権利なのですが…」


杏子「いや、それは良い。そうじゃなくて、それを主張してどうしたいんだよ? 世界を乗っ取りたいのか?」



ふぅと一息いれてから、またシモーヌが切り出す。

その表情はどこかいつもより柔らかく見える。





シモーヌ「逆です。奥様はサイバディの所有権を全て手に入れる事で、それを平和的に運用していきたい。

     そうお考えなのですよ」


カナコ「凄い力を一人占めする大魔王…と言うのは違いないけれどね」


横でカナコが悪戯っぽく笑う。

その表情は大魔王のそれと言うよりは、まったく真逆の存在に見える…。
300 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 23:57:57.12 ID:C7Uzbqac0
だけど、それは理想論だ。

そんな事は出来はしない。

実際、『おとな銀行』は連中にとってはただのパトロンでしかない。

カナコの実力や手腕は認めても、夢物語にしか見えない…。





杏子「理想論だな…。実際はそううまくはいかない。

   綺羅星内でもあんたらの計画はうまく行ってないし、万一綺羅星をどうにかしてもその後に必ず馬鹿が出てくる…」



カナコ「そうね…」

カナコ「でも、だからと言って諦める訳にはいかない。それがどんなに無謀でも…、私は諦めはしない…」


大嫌いな筈の理想論もこいつが語ると嘘に聞こえない。



それはそうだ。

こいつはそれを『建前』や『理想』でなく、『本気』で成し遂げるべく行動しているんだ…
301 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/13(月) 23:59:07.32 ID:C7Uzbqac0
こいつもさやかと同じだった。

話のスケールだけで言えば、さやかのそれを遥かに上回るスケールの大きさだ。

そんな事を『叶えたい』でなく、『叶える』前提のもとで話し、努力し、戦っている…。



覚悟。

それが違うんだ。

さやかやカナコと今のアタシでは…。



いつかのアタシにもあった『誰かの為』の覚悟。

やがてそれは粉々に砕けて、『自分の為』に生きる事にすり替わった…。


そんなアタシが今更『誰かの為』を謳っても、それは『建前』や『理想』にしかならなくて…。

でも、それを『自分の為』と言い聞かせてみても結局は変わらなかった…。



アタシに出来たのは『自分の為』に生きる事だけだった…。

そんなアタシは『誰かの為』に戦いたくても、戦えない…。

まして、それを本気で叶えようとしてる奴らには…。
302 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 00:00:29.40 ID:m2YsxvEH0
────────

────

──



シモーヌ「奥様のお話を聞いて萎縮されてしまいましたか?」


杏子「…いや」


シモーヌ「無理もないです…。あの人はとんでもない人ですから…。

     ただ…」


杏子「…?」


シモーヌ「だからと言って、あなた自身を否定しないでください」


杏子「え…?」
303 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 00:02:47.50 ID:m2YsxvEH0
シモーヌ「私も…、最初は『自分の為』だけに生きていました」


シモーヌ「最初は私はあの奥様が嫌いでした。

     いや、嫌いと言うだけなら今でも同じですね…」



杏子「………」


この一言でわかった。

こいつは落ち着いてるんでも、冷静なんでもない。

不器用なんだ、と思った。

カナコを嫌いと言いつつも顔が緩んでちゃ、逆ですって言ってるようなモンだろ…。





シモーヌ「私はあの人を憎んでいました。

     私の母を捨てさせ、父に当たる男を奪ったあの女を…」


シモーヌの母親はカナコの夫、レオン・ワタナベの愛人だったそうだ。

自分を、母を捨てたその男と、その男が選んだ女への復讐の為にカナコに近づいた…。
304 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 00:05:04.76 ID:m2YsxvEH0
シモーヌ「でも、全ては誤解でした。

     実際は私の母が優秀なあの人をレオン・ワタナベに紹介し、身を引いた…」


シモーヌ「そして、あの人はそんな私の事情を知りながら引きいれた。

     ロマンチックだからと言う理由だけで私には何も語らずそのまま接して…」


シモーヌ「それだけじゃない…。

     あの人は交通事故にあった私を助ける為にサイバディを密かに私的利用までしていた。

     それが公になれば自分が不利になるにも関わらず…」



杏子「………」


シモーヌ「一人で生きてきた、と思った私は結局あの人に生かされてきた。お笑い草でしょう…?」
305 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 00:07:27.81 ID:m2YsxvEH0
笑うでもなく、嘆くでもなく、どこか穏やかな顔で語るシモーヌ。

その青い目は閉じてしまっているけど、だからと言って自分自身を哀れんでいるようにも見えない…。




シモーヌ「それでも、私は今までの自分を否定はしない…。

     あの人を憎んだ私も、それを経て未だあの人の元にいる私も…」


杏子「………何が言いたいんだよ?」


シモーヌ「簡単です。なるようにしかならないんです」


シモーヌ「足掻こうか喚こうが、駄目な時は駄目で…。

     逆に頑張れば頑張っただけ突き進む時もあれば、全く違う何かに足を取られる事もある…。

     よくも悪くも…」
306 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 00:09:23.03 ID:m2YsxvEH0
杏子「………」


シモーヌ「だけど、一つだけ言えます」


シモーヌ「正しい事も間違えた事も、善行も悪行も積み重なって自分がいるんです。

     一つ一つの行為を悔いる事があっても、『あなた自身』と、そのあなたの作り出す『これから』を否定しないで…」



シモーヌ「大丈夫です…。私達はまだなれます…。

     ワタナベ・カナコや美樹さやかに負けない何かにも、もっと違う何かにも…」


杏子「傲慢だな…」


シモーヌ「そこは仕えている方に似てきたのでしょう」


その口調は熱が入っているが、それでもどこかしれっと言うのでアタシは知らずに吹き出していた。

さんざん迷惑をかけたのに、未だに手を焼いてくれる…。

こいつもカナコも本当に物好きだ…。
307 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 00:13:49.05 ID:m2YsxvEH0
何もかも失ったあの日…。

アタシは一人になった。

今思えば何故あのまま壊れなかったのか不思議なくらいだ。


善行を重ねたつもりでも救われなかった。



そこからはそれまでの自分を笑うように悪い事をたくさんやった。

食う為、グリーフシードの為なら何でも。

人から金品や食い物を騙し取り、奪い取るのは日常茶飯事。

グリーフシード欲しさに魔法少女を半殺しにした事も幾度もある。


特に全部失くした日から暫くの荒れっぷりは酷かった。

すぐ黒くなるソウルジェムを見ているのが気持ち悪くて、

魔女を所構わず潰して回って、奴らが絶滅するんじゃないかと心配した事さえあった。
308 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 00:16:23.53 ID:m2YsxvEH0
『自分の為』に生きる事に手を染めたあの時に諦めたのさ…。

『誰かの為』に戦う事を…。



だから、それを望む奴が鬱陶しかった。

だけど、そんな奴が堕ちていく様を見るのは何故か心が痛んだ。

そして、さやかに至ってはもう見ていられなかった。


自分が成せなかった道を行く奴を否定したり憎んだりしがらも、そいつらが行き着く結末の悲惨さに同情する…。



アタシ自身すら今日まで気付けなかった。

いや、戸惑い、認める事の出来なかった歪な心はこうして出来上がった…。
309 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 00:23:28.47 ID:m2YsxvEH0
気付いた所で変わりはしない。

アタシが今更『誰かの為』だの『世界の為』だの謡ってもそれは、薄っぺらな建前にしかならないから…。


かと言ってシモーヌの言うように自分を否定する気もない。

全部自分が生きる為にした事だ。

後悔なんてない。


だけど、そんな『自分自身』の『これから』を信じれる程おめでたくも出来てない…。



でも、もし…。

もしもさ…。

シモーヌの言う通り、『アタシ自身』が何か価値ある『これから』を作り出せるのなら…。





その『これから』は…。
310 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 00:33:40.15 ID:m2YsxvEH0
っし。

杏子編1はこれで完結。
ただし、話は続いていく…。
スレの変更はしませんので、飽くまで一区切りとお考えください

キリは良いんだけど、もっと投下すべきか…?
調子に乗るとストックに完全に追い付きそうだけど…
311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)[sage]:2011/06/14(火) 00:37:21.08 ID:c+q4BoL1o
乙乙
区切りが良いのなら今回はここまでで良いのでは? 書き溜めはある方が精神衛生的に良いですし。

戦闘パートの先輩方カッコ良かったなー
312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/14(火) 00:44:45.12 ID:uAUpguwX0
なにが綺羅星だよばかばかしいwwwwwwwwwwwwwwww
313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/06/14(火) 00:49:42.26 ID:cMyK2gfIO
綺羅星☆
次回はさやかのターンかなwktk


           _>三>、_
      >>312<:.ー:.〈:.:.:.∧_r―――┐
             ヽ:.r:∧:.{ y   |__/  l
           ノ:.:.〉_ Vし__/   |  l ヘッドさんチィーース!
          r厂Τ\∧_>V  .ィ , ィレ7   |
        /    ヽ   |/]i.vィ/ ′ _≦_  ̄\   _,, -―-- .._
    /yへ  /     | | ′       >\  `ー''"   __   /ー‐-、
    (_// /―――f 三ミ| / /    7 /     /    ̄ ヽ r_ノ
     `┴ー――‐^ー-^| フ´ ̄  _≦/__∧__   \
          V  \_| 、`ー-≦、ノ  `ーキ-≠、   />x
            |      |、_\             ヽ//イ ∧
            |    _」ヽヽ_>           )>′⊥_}、
             └r''"´ ヽ }ノ  \          / /   / \
               ヽ   ヽ |'´    \     / /  .、へ   \
            |    | \     \  / /  /   \\   \
            |   |  \    / /  /       \\   \
314 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 00:56:28.02 ID:m2YsxvEH0
>>311
了解っす
今日はここまでにしまっす

>>313
その通りっす
ただ、勢いに乗って書けた杏子編に比べるとなかなか難しい感じ
でも、さやか側も掘り下げないと最終章の時に描写不足が目立っちゃうから…




本日は閉会とする。

佐倉杏子に栄光を…!
美樹さやかに祝福を…!

綺羅星☆
315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/06/14(火) 01:04:44.66 ID:zEzzpOuRo
綺羅星っ!

と虚淵っ!って語感似てるよね
316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)[sage]:2011/06/14(火) 01:38:12.15 ID:59J9GWXAO
乙星☆
シモーヌ輝いてるね
317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県)[sage]:2011/06/14(火) 02:00:55.28 ID:+f8qFnNBo
あいかわらずの高クオリティ

おおつ
318 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 22:53:52.64 ID:m2YsxvEH0
綺羅星☆
遅くなりましたが、ぼちぼち落とします。
続編作るとなると、さやか編はなかなか難しい事に気付く…



>>315
虚淵脚本で鬱展開になったら「何が虚淵だよ(ry)」って言うんですね? わかります

>>316
乙星☆
シモーヌさんは戦闘での活躍が難しいので、サポート的な役割に徹して貰ってます

>>317
応援ありがとう
そのクオリティを保てるよう頑張ります…
319 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 22:56:37.95 ID:m2YsxvEH0
ゼロ時間。

青と白のサイバディ、その両脇に黒い三機のサイバディが尽き従っている。

それを見下げる形で浮かぶ銀色のサイバディ。

両者は睨み合う。

いや、浮かんでいるそれは敵意の類を持たない。

ただ浮かび、見上げるそれらを眺めるだけである。




????『お前のサイバディは危険だ。

     俺達の計画を根本から破壊する可能性を秘めている…!』


???『だから、壊す…?』


????『そうだ。抵抗は無駄だ!』


???『…………いつもこうだ』


????『…?』
320 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 22:58:31.98 ID:m2YsxvEH0
銀色のサイバディのドライバーは嘆くように言う。



???『いつもそう。僕は世界の邪魔者。誰も僕を受け入れてはくれないんだ…。

    あの人も…。トキオって人もそうなのかな?』


????『何をぶつぶつ言っている!』


黒いサイバディのドライバー『もういい! やるぞ! 行くぞ、ラメドス、ザイナス!』


????『待て…! 俺がやる!』


青と白のサイバディは宙に浮かぶそれに飛びかかろうと大地を蹴る。

だが…。



???『………アプリボワゼ』
321 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 23:00:10.74 ID:m2YsxvEH0
銀色のサイバディが放った何かは青と白のサイバディ、そして下に居た黒いサイバディ達をも包みこむ。

それはすぐに消えたが、サイバディの胸のコクピットの球体だけはそのサイバディと同じ銀色に染まっていた。





???『僕は争いはしたくないんだ…』


????『く、これは…、まさか…!』


黒いサイバディ達は同士討ちを始める。

青と白のサイバディも勿論、例外ではない…。


だが、それは壊しあうと言うよりは踊りを踊るようなそれに近い。

争いをしたくない、と言う銀色のサイバディのドライバーが敵同士のそれすら拒んだのか…。


ゼロ時間に怪しげな時間が流れる…。
322 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 23:02:13.41 ID:m2YsxvEH0
???『嫌いなサイバディも踊っていれば、綺麗に見えるかと思ったんだけど…。

    思ったよりもつまらない…。もう帰ってくれ』


やがて、サイバディは一機、また一機とゼロ時間から消えていく。

何をしているのか…。

それは銀色のサイバディのドライバーにしかわからない…。


そこには青と白のサイバディだけが残った。




???『……帰ってくれと言ったのに』


????『こんな馬鹿な…』


???『君だけは……、消すしかないのかな?

    嫌だな。そう言うの………』


????『くっ…』
323 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 23:04:09.91 ID:m2YsxvEH0
だが、銀色のサイバディは動こうとしない。

代わりに何かを見つけたようだ。


???『君は…面白いモノを貰ったんだね?』


????『何…?』


???『その左目の見せる日々、それを一緒に見ようか…』


????『やめろ…、それだけは…』


???『可愛そうな人…。僕と一緒…。何にもないんだ…』


????『やめろ、それを俺に見せるな…!』


???『凄いなぁ…、トキオは…。こんな強い人すら出し抜いて…』


????『やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!』



青と白のサイバディが左目を抑えて苦しむ中、銀色のサイバディが両手を大きく広げ、怪しく輝いて浮かぶ…。

そして、ゼロ時間は晴れていく…。
324 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 23:05:45.84 ID:m2YsxvEH0
カタシロ「夢、か…」


左目が見せた光景。

それは愛した人が他の誰かと愛し合う日々。

彼の見たくない、苦しい未来。

その終着駅を見たく無くて、目を背ける為に左目を潰した…。


だが、『結末』を見る事は無くとも、見なかったからと言ってそれが起こらなかった訳ではない…。





カタシロ「あの時、アレには戦意はなかった…。

     だから、あの程度で済んだ…」


カタシロ「だが、今アレを持っているのは…。恐らく…」
325 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 23:08:18.00 ID:m2YsxvEH0
やめよう。

そんなあいつに賭けて、シルシを渡したのは他でもない自分自身だ…。

それに、仮にあいつが何か企んでいようと俺にはどうする事もできない…。




レシュのシルシは…。

あの少女が受け継いだのだから…。


全てを諦めた俺は、ただ見ている事しかできない…。

今も昔も…。



『これから』も…。
326 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 23:10:08.00 ID:m2YsxvEH0
とあるホテルの一室。


全裸のままの椅子に座った金髪ロールの美少女が上機嫌そうに外を眺めている。

その傍らには薄い緑色の髪をショートカットにしたボーイッシュな美少女が、やはり全裸でワインにしか見えない飲料を飲んでいる。





???「ウフフ…、やっぱりあの子面白い」


??「あっちの男の子が目的で私達は来た訳だけど…。

   君が気に入ったのはそっちかい?」


???「だって…、サイバディが止まるのよ!?

    そんな真似、今まで誰にもできなかったのに…!!!」


??「前例は無い訳ではないらしいけど…、極めて稀なケースみたいだね」


???「美樹さやか…。あの子良いわぁ…。ここまで興奮するのは初めてよぉ!!!」


??「何にしても君が楽しそうで何よりだよ…。『マドカ』」



マドカ。

そう呼ばれた金髪ロールの美少女は、棘のある笑みを満面に浮かべた…。
327 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 23:12:18.24 ID:m2YsxvEH0
タクト「パイルの遠隔操作のコツ…?」


さやか「はいっ」



今日は食堂に集まり、みんなで取る昼食の最中にタクトさんに聞いてみる。



あたし、美樹さやかは『魔法少女』にして、『銀河美少年』…らしい。

そこ、女なのに『美少年』とか言って笑うな。

あたしだって気にしてるし…。



さておき、大層な肩書なのにどっちも未熟者…ってのがちょっと情けない。

『魔法少女』として本格的に生きる事はもう無いだろうから、こっちはもう意識しなくていいんだけど、

現在進行形の『銀河美少年』として未熟者なのは結構深刻。
328 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 23:13:54.30 ID:m2YsxvEH0
あたしがしたいのは、命の恩人であり、『よく、頑張ったね』って称えてくれたタクトさんの夢を叶える事にある。


タクトさんは目の前にいるワコさんを守る為に戦っていて、最終的には敵の全サイバディを破壊する事を考えてる。

物騒に聞こえるかもしれないけど、あのサイバディが世間に出たらどんな悪用をされるかわからない。

それをさせない為にワコさんは封印を守っており、それが原因でワコさんはこの島の外に出れない。


そう。タクトさんの夢はそのワコさんにある。

全てのサイバディを倒してしまって、『ワコさんを自由にする事』。


そして、あたしは何の間違いかタクトさんと同じ銀河美少年になった。

それなら、あたしだってその夢を手伝える。

だから、頑張ってはいるんだけど…
329 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 23:15:57.27 ID:m2YsxvEH0
スガタ「もしかして、この間の敵との戦闘、気にしてる?」



この間の敵。

赤いサイバディ。

あたしはそれに撃墜されかけた。

それまでの戦闘と違って無我夢中だったから、どうやって勝ったかもイマイチわからない。


未熟者なりに頑張る。ではもう済まされない強敵が現れた。

おまけに敵もこっちを意識してか、連携を前提に複数体現れてる。

あたしが倒されれば、タクトさんまで一緒に倒されかねない。

夢を叶えるどころか、足引っ張りだなんて…イヤだ。
330 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 23:17:44.02 ID:m2YsxvEH0
ワコ「勝てたんだし、あんまり根詰めない方が良いよ?

   スガタ君の所で稽古はきちんとしてるんだし…」


さやか「でも、その稽古だって、やっぱり二人には付いていけないし…」


タクト「スガタは女の子には優しいからね」


スガタ「女性に優しくするのは当然の事だ」



そんなこんなで何時ものやり取りをしている最中、突然遠い目をしたタクトさんが言い放つ。

それは話の流れを変えるには十分な一言…。
331 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 23:19:10.01 ID:m2YsxvEH0
タクト「……ともかく、敵は敵で必死だったんだよ」




さやか「え…?」


スガタ「タクト…?」

ワコ「タクト君…?」


綺羅星十字団には基本的に良感情を持っていない筈のタクトさんが、敵を立てるような事を言う。

こう言うものなのかな、と思ったけどスガタ師匠もワコさんも意外な顔をしてる。


驚きはしたけど、なんとなくわかる。

あの敵は何か様子が違った…。

あれはまるで…。
332 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 23:19:46.98 ID:m2YsxvEH0
タクト「……敵だって人間が乗ってるんだ。

    色々譲れない事情を持ってる奴だっている。でしょ?」




ワコ「だから、相手は殺さない…?」


タクト「その為のタウ・ミサイルであり、さやかのスターソードだからね」


さやか「タウ・ミサイルは失敗するとお持ち帰りになりますけどね?」


タクト「さやか…。それは言わないお約束///」



タウ・ミサイルは相手のコクピットのみ抉りだして、人的被害を出さずに勝利する技。

最初にあたしを助けた時に失敗して、あたしはタクトさんの部屋へ行く事になった。

それをからかって、困った顔をするタクトさんをみんなで笑う。


和やかな時間が…。

じゃない、本題から反れてる、反れてる。
333 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 23:22:22.34 ID:m2YsxvEH0
さやか「じゃなくって、パイルの扱い方を教えて欲しいんです!」


タクト「パイルねぇ…」


ワコ「ソードじゃダメなの?

   あれならパイルも無駄にならないし、魔法少女の時に得意としてた技なんでしょ?」


スガタ「あれはタクトの発案だったな」


タクト「さやかは魔法少女の時の経験があった筈だからね。

    それを活かすなら、イッツアイージー!…だと思ったんだけど」


さやか「まぁイメージはしやすかったですけど…。

    あの赤い奴には、見切られちゃったしなぁ…」
334 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 23:25:27.68 ID:m2YsxvEH0
ワコ「教えてあげたら、タクトさん?」


タクト「と、言われてもなぁ…」

タクト「あれは、完全にイメージで使ってる感じが強いんだよなぁ…」


さやか「結局はイメージ…か」



サイバディ戦闘の訓練は難しい。

実際にサイバディを動かすと敵の綺羅星も呼んじゃうから、結構苦戦してたりする。

タクトさんも普段から鍛えているのが半分、あと半分は「負けない」「できる」って思いこみやイメージだって言う。

そんなタクトさんがもっともイメージしやすいであろう戦い方として、魔法少女の時のそれを意識するのはどうか…?って言ってくれて、

その提案で生まれたのが『パイル・ソード』。


だけど、あの技は先日の赤い敵に見切られてしまった。

それだけならまだしも遠隔操作が未熟だから、そのまま敵の武器として猛威を振るった始末…。
335 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 23:27:30.45 ID:m2YsxvEH0
さやか「タクトさんのパイルまで…とは行かなくても、せめて手元に戻してもう一回使う…とかはしたいんですよ…。

    そうすればあの赤い奴みたいに手に取って、そのまま使ってくる真似をする奴にも対抗できるし…」


タクト「それなら先日はできてたけど…、無我夢中でやり方はわからなかったんだよね…?」


さやか「はい…」



そうなんだよなぁ…。

できたんだよなぁ…。

その上なんか凄い技まで出たのにさぁ…。


その時の感覚がわからないから、イメージのしようがないんだよなぁ…。
336 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 23:29:13.33 ID:m2YsxvEH0
スガタ「まぁタクトだって実戦の行き当たりばったりで技を編み出してる訳だし…、考えても始まらないさ」


タクト「なんか軽く馬鹿にされた気がするのは気のせいかな? スガタ君?」


美少年二人のやり取りはどこか面白いけれど、結局問題は解決しない。

タクトさんやスガタ師匠の言う事もわかるけど、やっぱり焦るのが人間ってものな訳でして…。

焦りに焦ったあたしは、いよいよ勢い任せに出る。




さやか「イメージってどんな感じなんですか?

    グァァァァァァァッって行って、ドカァァァァァァンとかそんな感じですか?」


タクト「どちらかと言うと、ピキーン!って感じから、ヒュンヒュンヒュンって感じかな〜?」


大げさに立ち上がり、身振り手振りするあたしは周りから注目された事にまだ気づかない。

背後から響いた上品そうな声を聞いて、ようやく自分の状況に気づく。
337 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 23:32:02.01 ID:m2YsxvEH0
???「人目を気にしない大胆な子…。可愛いわね」

??「そうだね」



さやか「あ……///」


背後を通り過ぎ、横に立った女性の一言で、あたしはようやく我に帰る。

注目されていた事実に気付き、羞恥で顔が赤くなってるのがわかる。

今さら遅いけど、あたしはそそくさと席に座り、目立たないように縮こまる…。





???「ご一緒してもよろしいかしら?」


薄い緑色の髪をショートにしたボーイッシュな美少女を御供に連れた、いかにもお嬢様と言った金髪ロールの美少女が言う。

よく見れば周囲は大分混んできている。

あたしたちが座ってるのは六人席だから、相席を頼まれてもおかしくない状況だったり…。
338 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 23:34:57.92 ID:m2YsxvEH0
スガタ「見ない顔ですね…?」


コウ「転入生なんです。私はアタリ・コウ」


マドカ「私はケイ・マドカ」



さやか「ま…どか…?」




まどか。

その名前を忘れた事は無い。

あたしの大事な親友。

可愛くて、優しい大事な大事な親友の名前…。
339 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 23:36:24.41 ID:m2YsxvEH0
マドカ「どうしたの…? ひょっとして、マドカに夢中になっちゃったのかしら!?」


さやか「夢中…? いえ、違うんです。

    親友と同じ名前だったのでちょっとびっくりしちゃって…」


何故か嬉しそうにする金髪ロールの美少女に、急いで返す。

つーか、夢中って何?

確かにスタイル良いし、美人だし、見惚れちゃうけどさ…。




マドカ「な〜んだ。残念。てっきりマドカに一目惚れしてくれたかと思ったのに!」


さやか「一目惚れ!? 女の子同士で!? 違います違います…!」



女の子同士、か。

そういや、あたしもまどかにそんな事やってたなぁ……。
340 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 23:37:50.99 ID:m2YsxvEH0
さやか『まどか〜。愛してるぞ〜♪』


まどか『ちょ、さやかちゃん/// 私達女の子同士だよ…?///』




さやか『可愛い奴め! でも、男子にモテようなんて許さんぞー!

    まどかは私の嫁になるのだー!』


まどか『え、ちょっと…/// やめて…や…め…///』



ちっちゃくて可愛い子で…。

凄い優しい子だった…。

女の子でもそれこそ夢中になっちゃうような子で…。


あの子が赤くなるのが面白くて…。

あの子と触れあうのが楽しくて…。

あの子と過ごす日々は…。
341 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 23:40:05.71 ID:m2YsxvEH0
マドカ「またボーっとしてる。良いわよ? マドカのお嫁さんにしてあげる♪」


さやか「ふえぇ!?/// 違います、違いますって///」


コウ「マドカ…。この子本気で困ってる。

   またさっきのオーバーリアクションしてるし…w」


マドカ「可愛い」


さやか「うぅ…///」



またも立ち上がり、思いっきりリアクションを取ったあたしは周囲の注目を浴び、そそくさと席に戻る。

まさか、ここに来てからかわれるまどかの気持ちがわかるとは…。



マドカさん…?

名前は同じだけど、あのまどかとは正反対の人みたい…。
342 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 23:41:33.74 ID:m2YsxvEH0
マドカ「ねぇねぇ、この子持ち帰っちゃダメかしら?」



赤面して目を伏せたこっちを気にすることなく、今度はタクトさん達に妙な提案をしてる…。



ちょっと! 本気でそっち系の人!?

つーか、仮にそうとしてもそっちのボーイッシュな人いるじゃん…!

そもそも、なんでそっちの人も面白そうに眺めてるの…!?

二股だよ、二股…!?
343 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 23:43:44.83 ID:m2YsxvEH0
タクト「大事な子なんで、お持ち帰りは勘弁してもらえます…?」


マドカ「あら…?」


大事…?

大事な子…って言ってくれたの?///

たたたたたタタタ…タクトさん!?///




スガタ「そうだな」


ワコ「そうだね」


スガタ師匠とワコさんまで…。

ま、参っちゃうな〜///

さやかちゃんモテモテ…?
344 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 23:44:31.29 ID:m2YsxvEH0
スガタ「僕の弟子で…」


ワコ「私の妹分で…」


タクト「僕達のマスコットガールなんだ。だから、悪いけど…」




マ、マスコット…。


まぁいっか…。

マスコットだろうと、タクトさん達が気にかけてくれてるのは間違いないしねっ。


プラス思考はサイバディ戦闘にも重要!

…と、タクトさん言ってたし。
345 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 23:45:40.07 ID:m2YsxvEH0
マドカ「そう。ざ〜んねん。マドカもマスコットガールちゃんが欲しかったのに…!」

コウ「とりあえず諦めよう。もうじき時間だしね」



時間…。

昼休み終わりそう…。

そう言えば、パイルの扱い方…。



マドカ「ねぇ、コウちゃん?」

コウ「なんだい、マドカ?」


マドカ「マドカってとっても我儘なの…」

コウ「知ってる。だけど、今はダメだよ…。

   チャンスを見計らって…」


食事を終え、去っていく二人。

どうも、あの様子じゃ諦めた訳じゃなさそう…。

悪い人って訳じゃないと思うけど、変わりモノ過ぎてちょっと今後付き合ってくとなると苦労しそうだなぁ…。
346 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 23:48:07.55 ID:m2YsxvEH0
タクト「じゃあ、僕らも行きますかっ」


さやか「タクトさん…」


このままじゃまずい…。

そう思ったあたしは思わずタクトさんの袖を掴んで引き止めていた。




ワコ「ほ〜ら、真面目に答えなかったから困った顔してるぞ?」


スガタ「重罪だな、タクトさん…?」


困った顔をしながら頭を掻くタクトさん。

ワコさんとスガタ師匠からの援護攻撃も入って、いよいよ逃げ場を失う。



ごめん、タクトさんっ。

でも、このままじゃ…。


タクトさんが急に落ち着いた表情に戻る。

元気印のタクトさんから、真面目モードのタクトさんに変わった瞬間…。
347 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 23:49:27.29 ID:m2YsxvEH0
タクト「じゃあ、一つ良い事を教えてあげる」


さやか「はい…」


そう言うと、タクトさんはあたしに近寄って…。





さやか「タクトさん…?///」

タクト「耳貸して」


そして、タクトさんは耳元で囁く。


し、心臓が…、し、静まれッ…!

あ、あたたたあたしのししし心臓…っ。




タクト「……………………………」ボソッ


さやか「…?」
348 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 23:51:01.47 ID:m2YsxvEH0
さやか「え…と?」


タクト「困ったら、そう思いっきり叫んでごらん。

    絶対にうまく行くから…!」


親指を立てて、眩しい笑顔でタクトさんがそう言うと嘘じゃない気がしてくる。

なんか不安も吹っ飛んだあたしは、時間なのもあってそのままタクトさん達と別れた。




ワコ「じゃあね、さやかちゃん!

   授業終わったら今日は部室で待ってるから!」


さやか「はいっ!」





スガタ「何を教えたんだ?」

タクト「魔法の言葉、かな?」

スガタ「…?」
349 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 23:52:41.00 ID:m2YsxvEH0
さやか達のクラスの教室。


杏子「また、あいつらの所か…?」



コイツの顔を見ると先日の戦闘を思い出す。



―お前は何の為にここまでする?―

―万一そいつらに裏切られたらお前はどうする?―

―お前は理想に酔ってるだけだ。優しく見えるそいつに寄りかかって―



敵の赤い奴の言葉。

それは、いつも突っかかって来るコイツの主張によく似ていた。


乱暴者だから先に手が出るけど、結局は遠まわしにあたしに『それ』をやめさせたい…。

不器用なコイツの言葉や声にそっくりで…。
350 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 23:53:53.67 ID:m2YsxvEH0
さやか「杏子。そういや、アンタはどこで昼ごはん食べたの? 誘ったのに来ないし…」


杏子「先約があったんだよ…」


さやか「マジ…? 杏子さんって結構おモテになります?」


杏子「なんで、突然敬語になってるんだよ。この馬鹿…。

   あいつらだ、あいつら」



クラスメートA「いぇ〜いっ」

クラスメートB「やっほぉ」
351 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 23:55:17.85 ID:m2YsxvEH0
さやか「どう言う事…?」


クラスメートA「べっつに〜。さやかがツナシ先輩に夢中で相手してくれないから寂しいわけじゃないっすよ〜」

クラスメートB「っすよぉ」



さやか「いや、そりゃ悪い気もしてるけどさ…」


クラスメートA「冗談はさておき、佐倉さんはさやかとしか話すの見てないから気になってた訳よっ」

クラスメートB「で、お誘いついでにお弁当作ってあげるって言ったら喜んでくれたわけよぉ」




さやか「………弁当に釣られた?」


杏子「うっせぇ!!!」
352 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 23:57:16.14 ID:m2YsxvEH0
いつもみたいに返す杏子。

どこか元気が無いようにも見えるけど、あたしが何か言うといつも通りに返してくる。


あの赤い奴の正体はコイツなんじゃないかとも思った事もあるけど、いつもの漫才をやってると馬鹿馬鹿しくなってきて、やめた。



それにしても、杏子がねぇ…。

悪い奴じゃないけど、どっかに壁作ってるし、さっきも言った乱暴者の気があるから心配だったんだけど…。

それなりにうまくはやってるのか…。

本当なら、あたしが構ったり間繋いだりするべきなんだけど、すぐ噛みついてくるから喧嘩か漫才になっちゃうんだよなぁ…。


まぁうまく行ってるなら、よきかなよきかな。

面倒見の良いコイツらには、その内なんか奢ってやるかな…?



さやか「さ〜んきゅ」


クラスメートA「な〜にがっ?」

クラスメートB「それよりさ、さやちんにはぁ…」
353 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/14(火) 23:59:31.32 ID:m2YsxvEH0
屋上。

金髪ロールの美少女と、薄い緑色の髪のボーイッシュな美少女の二人…。

ボーイッシュな美少女は下を向き、金髪の美少女は退屈そうに空を眺める。





マドカ「ねぇねぇ、コウちゃん。もう放課後になっちゃったわよ?」


コウ「慌てない。慌てない。そろそろ来るよ…」


針を持ち、その針の穴越しに下を眺めるボーイッシュな美少女。

屋上の床しか見えない筈のその先には何が見えるのか…。




コウ「来た…。チャンス到来だ。マドカも一緒にできるから…」


マドカ「この針の穴越しに相手を見つめれば良いの?」


コウ「ほら、私と手を繋がないと…」
354 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/15(水) 00:01:26.23 ID:Clj/Jse70
マドカ「へぇ、透視能力って面白い!」


コウ「で、どっちにする? って聞くまでもないかな?」


コウ「じゃあ、行くよ! 『コフライト』第一フェーズ! 『針の穴』!!!」




二人は針から出た眩い光に包まれた後、まるで糸の切れた人形のように動きを失う。


『針の穴』

それが意味するのは…。
355 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/15(水) 00:03:18.34 ID:Clj/Jse70
演劇部部室。



タクト「こんちは〜。スガタは委員長に呼ばれたから、もう暫くかかると…」



さやか「………」

ワコ「………」


いつも元気な二人が、特に何も喋らずにこっちを見ている。

この二人は仲が良くて、副部長の話やらケーキ屋の話やらしているのが通例なんだけど…。





ワコ「ねぇ、タクト君…?」


その表情はいつもの明るいワコのものじゃない。

どこか違和感を感じる…。
356 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/15(水) 00:05:26.26 ID:Clj/Jse70
ワコ「タクト君にとっての一番は、スガタ君じゃないんだよね…?」


タクト「なんの話…?」


ワコ「うぅん。良いの…。それが確認できれば…」



違和感を感じながらも会話はやめない。

外見はさやかとワコには違いないから…。

だが、相手はまだ違和感だらけの会話を続けようとする。





さやか「じゃあ、わたしが立候補しちゃっても良いんですよね…?」


タクト「なんの…?」



さやか「勿論、タクトさんの一番になることで〜〜す♪」
357 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/15(水) 00:06:53.88 ID:Clj/Jse70
動かない僕に対して駆け寄り、やがて抱きついてくるさやか。

いや…。



さやか「ね? タクトさん…?」


ワコ「それとも、やっぱり私が『一番』なのかな…?」


タクト「…………」




それを聞いたさやかは僕から離れ、演劇用の小道具のナイフを両手で持って自分の首に当てる。

所詮はお芝居用…。

その行動には意味がない…。

だけど…。
358 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/15(水) 00:08:04.02 ID:Clj/Jse70
さやか「わたしは…タクトさんの為に頑張ってるのに…。

    それでもワコさんなんですか…?」


さやか「こんなにタクトさんを想って…」


タクト「やめろ…!」


感じていた違和感は不快感に変わった…。

度が過ぎた言葉。度が過ぎた演技。

彼女を演じる『誰か』はとうとう彼女の心を遊び始めた…。


相手のしてきた事がわからない以上、聞き流すつもりだった。

だけど…。




タクト「アンタは誰だ…?」
359 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/15(水) 00:09:29.43 ID:Clj/Jse70
さやか「誰って…、わたしは…」


タクト「本当に『彼女』なら、そんな事は言わない。

    自分の気持ちだけを優先して、人の気持ちを無視する真似なんかできない…。

    そんな子だから僕は…!」


さやか「…………」


さやかを演じる『誰か』は舌を打つ。

そして、同時にナイフを投げ捨てつつ、再度近寄って来て僕の顎を右手に取り、

『彼女』なら絶対に見せない冷めきった目つきで、冷たく言う…。



さやか「思ってたよりも見てるのね…。この子の事…」

タクト「……………」
360 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/15(水) 00:12:02.49 ID:Clj/Jse70
さやか「他人になり済ますのって案外難しい…」


その言葉を最後にして、さやかもワコも意識を失う。

相手のした事がわからない以上、まずい事をしたか?とも思ったけど、それでも許せなかった…。


そして、もっと許せないのは…。






タクト「この子に甘える僕自身、か…」


さやか「ん…?」


僕の嘆くような一言に反応するように、彼女が目を覚ます。

この時に迂闊な態勢に気付けばよかったんだけど…。
361 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/15(水) 00:13:34.71 ID:Clj/Jse70
さやか「タたたたたた、た、タクトさん…?///」

タクト「へ…? ご、ごめん///」



ワコ「………ほ〜う。隅に置けませんな。タクト君」




『誰か』が消えた際に僕に倒れかかったさやかを抱くような形になっている…。

さやかが照れて、ワコが膨れ面をした演劇部室はまた違う修羅場に変わってしまいました…。


せめて、ここに部長やスガタが居なかったのが救いでしょうか…。
362 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/15(水) 00:15:02.23 ID:Clj/Jse70
屋上。


コウ「失敗したね」


マドカ「コウちゃん…」


コウ「私達は巫女のシルシも、レシュのシルシも好きに出来た訳だけど…」


マドカ「良いのよ…。こう言う風なやり方で欲しい物を手に入れるのって、むしろつまらない…!」



コウ「そうだね…」

コウ「サイバディのゲームは正攻法じゃないと楽しめないよ」



屋上で抱き合う形になっていた金髪ロールの美少女とボーイッシュな美少女は針をしまいながら、不敵に笑う。



『人形遊び』よりも『殺し合い』。

彼女達の狂ったリビドーが次に向かうのは…。
363 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/15(水) 00:21:00.56 ID:Clj/Jse70
っし。
今日はここまで。

いよいよ始まったさやか編だけど、いざやってみると杏子や綺羅星さん達に比べると動かす難度が高め…
アニメ本編でも賛否両論あった所みたいだし…
ただクロスる以上、正反対キャラのまどかとマドカの対比はやってみたかったネタだったり



それでは、本日は閉会とする。

佐倉杏子に栄光を…!
美樹さやかに祝福を…!

綺羅星☆
364 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/06/15(水) 00:28:39.49 ID:qCBb5pmLo
乙!
綺羅星☆!

そういや、毎回ゆかな呼びだったからあの2人の名前とかすっかり忘れてたw
365 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)[sage]:2011/06/15(水) 00:32:40.67 ID:NXklgr5qo
乙羅星☆

やはりタクトでこの三人は外せないなぁ、TVと同じ雰囲気出ててニマニマさせてもらいました。
366 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/06/15(水) 00:50:09.42 ID:Q9l/RuLCo
乙星☆
いやあ、頭で脳内再生されてくるわ…
とりあえずお疲れ様です。
367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)[sage]:2011/06/15(水) 02:00:18.30 ID:jx/rSUKAO
乙星☆
368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/06/15(水) 02:00:22.48 ID:Jkd9IAVqo
綺羅星っ!
サイバティ戦BGMはMagiaでいいの?
369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[sage]:2011/06/16(木) 00:07:08.48 ID:OQg32fsho
乙!
綺羅星☆

まさかこんな俺得スレがあるとはwww
370 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/16(木) 23:36:55.09 ID:IEdTRlEV0
綺羅星☆
ぼちぼち始めます。
今日たくさん落としてキリ良い所まで進めるけど、そうすると今書いてる所に完全に追い付いてしまう…
今が一番難しい所だから、そこさえ終わればその先はちょっぴりストックもあるし、勢い任せでも書けるんだけど…


>>364
乙星☆
俺はコウの声聞く度にリバイバル大尉が出てくる…

>>365
楽しんでもらえて何よりです
あの三人は本編描写多いが故に、逆に慎重になっちゃって…
かえって難しかったりするけど、その一言に救われます…

>>366
そう言ってもらえると何よりです
頑張ります

>>367
どうもありがとう

>>368
乙星☆
BGMの指定はしてないので、各々のイメージ沸いた曲流してくれると
ちなみに自分はShining Star聞きながら書いてる事が多い

>>369
乙星☆
期待に添えるよう、頑張ります
371 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/16(木) 23:39:05.36 ID:IEdTRlEV0
皆水の神社。



さやか「はぁ…」


あたしは迷っている。

進むべきか退くべきか。

それが問題だ…。


手に握っているのは南十字島に新しくオープンしたらしい『らいおんランド』とやらのチケットが二枚…。

実はこれ、友人からある事をする為に貰ったモノだったりする…。





クラスメートB『はい。これ。さやちんにあげるよぉ』


さやか『遊園地のチケット…?』
372 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/16(木) 23:41:52.99 ID:IEdTRlEV0
クラスメートA『噂のツナシ先輩と楽しんできなよっ?』


さやか『ふぇ!?』

さやか『いやね、確かにタクトさんはカッコいいけど、そう言うのではなく、ね…?』


クラスメートB『いいから、いいからぁ』


クラスメートA『ライバルは手強いぞ〜』


さやか『だから、違うんだって…』




ライバル…になるんだろうか?


今下宿させてもらってる神社に住んでるアゲマキ・ワコさん。

タクトさんの想い人で、ワコさん自身も満更でもないみたい。

ただ、ワコさんは許嫁のスガタ師匠とも仲が良い。

なかなか複雑な恋愛模様だ。
373 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/16(木) 23:43:30.50 ID:IEdTRlEV0
ここで凄いと思うのが、そのワコさんを取り合う関係の筈のタクトさんとスガタ師匠が親友同士って事。

あたしも似たような状況になったけど、あのまま親友と解り合うなんて出来なかったろう。

いや、そもそもそれが出来なかったから、あたしは今ここに居る。


それは良い。

もう過ぎた事だから…。




それよりも、あたしはそんなタクトさん達の間に入って、邪魔するような真似だけはしたくなかったりする。

あたしが万一タクトさんを盗っても、ワコさんにはスガタ師匠って素敵な人がいるから良いでしょ?

とか言う状況なのかもしれないけど、それは絶対に違う。


タクトさんの気持ちも、ワコさんの気持ちも無視する行為だ。

当然スガタ師匠を侮辱する行為にもなる。
374 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/16(木) 23:45:39.45 ID:IEdTRlEV0
そんな真似は絶対にしたくない。

あたしはあの三人が大好きだから…。


だから、あたしはその辺の事情の分を考えて一歩だけ引いてあの三人と付き合ってる…つもり。

それでもお邪魔虫なのでは?と思う事も無くは無いけど、あの三人の恋愛模様を一番近くで見ているだけ…と思う事にして割り切ってる。




しかし、周りはそうは見てくれない。

まして、あたしがタクトさんに好意を持って、慕ってる事自体は事実だから性質が悪い。

別に一番になりたい訳じゃないけど、好かれたいし、褒められたいし、傍にいたいし、優しくされたい。

この感情自体は嘘じゃないから…。



それ以上踏み込んで恋愛をしたい…と言うつもりはないんだけど、

その辺りの一線はやっぱり他人には見えづらいし、口で言ってわかるモノでもない。
375 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/16(木) 23:48:45.07 ID:IEdTRlEV0
ようするにチケットをくれた事自体は好意なんだ。

あいつらには感謝してる。

だけど、それを以てアクションを起こすのは、やっぱりまずい訳で…。

好意で貰っただけにそれを踏みにじる行為はしたくないけど、やっぱりこれを使うのは…。


考えても考えても答えは出ない…。

とりあえず一枚だけでも使う為にあたし一人で行くべきか…?

でも、このチケットは二枚あるんだよなぁ…。

一枚は捨てるしかないのかなぁ…。
376 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/16(木) 23:50:56.84 ID:IEdTRlEV0
さやか「む〜〜〜〜」


ワコ「あ、それ新しくオープンしたばかりの『らいおんランド』のチケット? いいなぁ〜」


チケットを持ったまま唸るあたしの後ろにワコさんが現れる。

良いなぁ、と言うのはタクトさんかスガタ師匠と行きたいって意味かな?



なら、これあげます。

って言いたい所なんだけど、チケットは二枚。

本当は三人で仲良く行って欲しいけど、チケットは二枚。

これを渡したとしたら選ぶのはワコさんだけど、間接的に三人の恋愛のお邪魔をする形になっちゃうわけで…。
377 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/16(木) 23:53:11.73 ID:IEdTRlEV0
ワコ「ここの売店で売ってるジェラートがおいしそうなんだよ〜。

   さっきもCMでやっててさ〜」


さやか「じぇら〜と?」


まったく、この人らしいなと思った。

どっちがどうとか、小難しい事考えたあたしが馬鹿みたいだ…。



頭の中でジェラートがトロけているんだろう。

幸せそうな表情をするワコさんに思わず吹き出してしまう。



………決めた!
378 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/16(木) 23:53:45.03 ID:IEdTRlEV0
さやか「これ二枚ありますし、一緒に行きます?」


ワコ「いいの?」



嬉しそうにするワコさん。



ワコさんとデート。

恋愛模様には変化なしっ!

これならなんの問題もないでしょ?


さやかちゃん、冴えてるっ!
379 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/16(木) 23:55:17.78 ID:IEdTRlEV0
ワコ「これが…、遊園地…」


さやか「…………」



混まないようにと、早朝から寝ぼけるワコさんを起こして出かけていく。

眠そうにしてたワコさんだけど、徐々にそのテンションは上がっていく。


そして…。

辿り着いた遊園地の入り口に立ち、喜び…とも少し違う表情をするワコさんを見てようやく気付く。



よく考えてみれば、ワコさんはゼロ時間を守る『四方の巫女』である為、この島を出る事を禁じられている。

そして、離れ小島とはいえ大概のモノの揃うこの南十字島にもさすがに遊園地は存在しなかった…。


だから、『遊園地』へ行く事自体がワコさんに取っては初めての体験なんだ…。



思ってたよりも責任重大。

………頑張ってエスコートしないとねっ
380 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/16(木) 23:58:05.02 ID:IEdTRlEV0
あたしが知ってるモノよりは規模は小さいけれど、そこは紛れもなく夢の世界。

ゲートを潜って、その光景を見たワコさんの表情が眩しいほどの笑顔に変わる。




ワコ「さやかちゃん! アレがジェットコースターだよね…?

   あっちは、観覧車…? どれから乗ればいいんだろう…!?」



さやか「ワコさん…、ここはこの『遊園地のプロ』であるさやかちゃんにお任せ願えないかな…?」


わざとらしく、いかにもジェントルマーンな口調と仕草をしてみる。
381 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/17(金) 00:00:07.55 ID:dXUpGEId0
ワコ「ぷっ…何それ?w」


吹き出したワコさんが、その笑いを堪えながら言う。

その様子に調子に乗ったあたしが返す。




さやか「ワコさんの三人目の王子様。な〜んちゃって」


ワコ「よろしくね、王子様!」


さやか「了解でっす! さて…、こう言う時は、まず大概の遊園地で目玉になってるであろうジェットコースターに行きますっ」


ワコ「なんで…?」


さやか「単純に混むんですよ〜。ここはどうかわからないけど、午後になったら二時間待ち…なんて遊園地もあります。

    だから人気のアトラクションは早め、早めに回って一度は楽しんでおくんですよ〜」


ワコ「さすが、『遊園地のプロ』だねっ」
382 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/17(金) 00:02:17.76 ID:dXUpGEId0
今日のあたしは一味違うぜっ。

開園からそう時間の立ってないこの時間だから、目論見通り目玉のジェットコースターはまだ人が疎ら。

十五分も待ったら、すぐにあたし達の番がやってくる。




ワコ「うわぁぁぁぁぁ」


さやか「ひゃっほぉぉぉぉぉ」


高速で動きまわるそれは、サイバディに乗った時とは大きく違う爽快感みたいなモノがある。

やっぱり良いな、ジェットコースター。

とか、考えてたら横でワコさんが目を回している。



ワコ「これ…、凄いね…? 私、くらくらだよ…」


思い切り絶叫して、アトラクションが終わった後にくらくらしながら近くの椅子に座る。

そんな飾らない所がこの人の魅力。


だけど、その姿は何か懐かしい事を思い出させた…。
383 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/17(金) 00:03:54.85 ID:dXUpGEId0
『あ、あれぇ…? くらくらして真っすぐ歩けないよぉ…?』


懐かしくて優しい声。

子供っぽくて可愛らしい声。


そう。

大好きな親友『まどか』との思い出…。





ワコ「っと。もう大丈夫だよ、さやかちゃん。次はどこ行くの…?」


さやか「え? あ、はい。次はですね…」


ワコさんの声で、現実に引き戻される。

いけない、いけない。

今日のあたしはワコさんの王子様なんだから、しっかりしなくちゃ…。
384 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/17(金) 00:06:49.05 ID:dXUpGEId0
ワコ「おぉ…///」


さやか「本当は昼食の前にアイスとかは、あんまり気が進まない性分なんですけどね…。

    でも、CMしてるくらいならここも順当に混みそうだから…」


ワコ「美味しい…///」


さやか「幸せそうだから、いっか…」


幸せそうにアイスを食べる顔…。

あの子もそうだったなぁ…。





『えへへっ。これ美味しいね、さやかちゃん♪』


笑い方がちょっと独特で…。

でもその笑顔は、やっぱり格別に可愛くて…。

飾り気のないその笑顔は…。
385 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/17(金) 00:08:33.36 ID:dXUpGEId0
ワコ「さやかちゃん…。アイス溶けてるよ…?」


さやか「ん…? あわわ…ほんとだ」




駄目駄目。

言ってる傍からこれだ。

あの子の事は後。

今はワコさんとのデートを楽しむ…じゃなくて、エスコートしよう。



溶けて落ちてしまい、その半分以上が無駄になったジェラートを眺めながら、改めて気を入れ直す。
386 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/17(金) 00:10:39.21 ID:dXUpGEId0
そこから先のデートは呆ける事無く、しっかりとエスコートした…つもり。

ワコさんも嬉しそうにしてくれたから、たぶん大丈夫だと思う。


平和な時間を楽しむ。

それを壊す事を望む者が迫っている事をしらずに…。





ワコ「最後はアレに乗ろっか」


さやか「観覧車…ですか? 良いですけど…」


どっちかと言うと観覧車は、カップル向きのそれだと思ってた。

だから、敢えて選ばなかったんだけど…。

ワコ姫のご要望とあっちゃ答えない訳にはいかないでしょっ。
387 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/17(金) 00:13:18.23 ID:dXUpGEId0
そろそろ暗くなって雰囲気の出る時間になってたから、観覧車の待ち時間はそれなりに長かった。

だけど、その間もあたしとワコさんはお喋りをしていたから、あまり長くは感じなかった。




ワコ「へ〜。高いね〜」


さやか「…………」


観覧車へ乗り、外を眺めていたワコさんがこっちを向く。

その表情は、とても優しくて、とても嬉しそうで、だけど…。



ワコ「今日はありがと。誘って貰ったばかりか、一生懸命エスコートまでしてくれて…」


さやか「そ、そんな…、気にしないでください。

    あたしとワコさんの仲じゃないですか〜」


ワコ「そうだよね〜。私達の仲だもんね〜」


目を瞑ったワコさんは、いつもの明るいそれと少し様子が違う…。
388 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/17(金) 00:15:22.23 ID:dXUpGEId0
あたし達を乗せた観覧車のゴンドラが少しづつ高い位置へ上がっていく…。

ワコさんの顔はいつのまにか真剣な表情に変わっていた…。




ワコ「じゃあさ、今度はワコさんの番」


さやか「え…?」


ワコ「寂しい時、苦しい時、辛い時…。もっと頼ってくれないかな…?」


さやか「ワコ…さん…?」


ワコ「今日寂しそうな顔、してた…」


参ったなぁ…。

あれからは出さないようにしてたつもりなんだけど、一度意識しちゃうと出続けるものなのかなぁ…。

バツが悪くなったあたしは頭を掻いて、ワコさんの視線を反らす…。
389 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/17(金) 00:18:51.44 ID:dXUpGEId0
観覧車のゴンドラは、だいたい半分くらいの高さの位置まで上がって来ている…。

ワコさんの表情は真剣だけど、どこか優しさと寂しさが見え隠れしているようにも思う…。



さやか「でも、あたしは…」


ワコ「迷わないって決めた?

   でも、そうやって溜めこんで、最後にはどうなった…?」


さやか「………」


ワコ「さやかはさ、我慢しすぎなんだよ…。

   今日のチケットだってタクト君を誘う為の物だったんでしょ?

   でも、私に気を遣った…」


さやか「………」


ワコ「……それに関してはさやかにも考えがあるみたいだから、これ以上は言わない。

   でも、それも含めて遠慮はしないで…?」
390 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/17(金) 00:20:59.34 ID:dXUpGEId0
観覧車のゴンドラはかなり高い位置へ来ていた…。



ワコ「一人で全部決めて、突き進もうとする強いあなたを私は尊敬してる…。

   だけど、やっぱり見てる側としては辛そうだな、と感じる時もあるから…」


さやか「でも…」


ワコ「うん。わかってる…。私はその子にはなれない。

   けど、その子の代わりに悩みを聞いてあげる事くらいはできるからさ…」


さやか「ワコさん…」


ワコ「だから…」


真剣だけど、優しい表情をしたワコさん…。

そして、そんなワコさんに心を許そうとした思った…。

あたし達の乗った観覧車のゴンドラが他のゴンドラと比べ、最も高い位置へ来たその時だった…。
391 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/17(金) 00:24:12.48 ID:dXUpGEId0
周囲の景色の動きが止まる。

それが意味するのは…。





さやか「ゼロ時間…!」


ワコ「…………綺羅星十字団」


やがて、あたしとワコさんはその独特な雰囲気を持つ閉じた世界、ゼロ時間へ飛ばされる…。

そして、そこに居るのはタクトさんと、スガタ師匠…。

そして、綺羅星十字団とそのサイバディ…。




ウインドウスター「絢爛登場! 銀河美少年、ヘーゲント!!」


ニードルスター「貴介公子、一刀両断! 銀河美少年、コフライト!!」
392 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/17(金) 00:26:05.54 ID:dXUpGEId0
さやか「アイツら…!」


ゼロ時間に現れたのはいつか倒した二機…。

ゴーレムのような外見をし、全身から出るレーザーを武器とする『へーゲント』と、

飛行形態へ変形する事で、空中から一方的に攻撃を仕掛ける事が出来る『コフライト』。


倒してからさほど間も無い筈の両機が再度此処に現れる…。

それは、タクトさんの戦いの終わりが遠く見えない事を意味していた…。

それでも、あたしは…。




さやか「アプリボワゼェェェェェェ!!!!!!」


次元の壁を割り、現れたレシュバル。

あたしはその中に乗り込み、戦闘準備を整える。
393 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/17(金) 00:28:40.72 ID:dXUpGEId0
さやか「颯爽登場! 銀河美少年!! レシュバル!!!」



青と白を基調としたあたしのサイバディ『レシュバル』の戦闘準備が整う。

そして、少し離れた所でタクトさんのサイバディ『タウバーン』も準備を整えたみたいだ。






ワコ「さやかちゃん…」


わかってるよ、ワコさん…。

でも、話はこの空気の読めない連中をぶっ飛ばしてからだ。
394 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/17(金) 00:32:18.42 ID:dXUpGEId0
タクト「さやか! あっちの飛行できる奴は僕が相手を…!」


ウインドウスター「ざ〜んねんッ! あなたの相手はこの私よッ!!!」



タクトさんのタウバーンがヘーゲントに襲われる。

最初から打ち合わせしてあったんだろう。

ヘーゲントがタウバーンを抑えている間に、コフライトの方がこちらに向かって突進してくる。





ニードルスター「スターソード! オパール!!」

突進しながら朱色の光の剣を引き抜く…。

だが、向こうが剣を抜けると言う事はこちらにも十分な時間があったと言う事になる。
395 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/17(金) 00:34:03.10 ID:dXUpGEId0
さやか「スターソード! スィトリンヌ!!!」


相手の剣がこちらに届く前にこちらも剣を引き抜き、鍔迫り合いを始める。

距離が十分にあったのが幸いし、前回や前々回のようにスターソードを抜く前に奇襲される事態だけは避けれた。




ニードルスター「先日は失礼した…!」


さやか「何…?」


タクト「…!」


先日、と言えば演劇部室の事しか思いつかない。

タクトさんの話だと、あたしとワコさんが敵に操られる事件が起きたって聞いた。

最もあたし自身にその時の記憶は無いんだけど…。
396 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/17(金) 00:36:12.81 ID:dXUpGEId0
ニードルスター「体を勝手に使われて頭に来たかな…?」


さやか「そうだね。頭には来てる…!」


ニードルスター「ほぅ…!」


さやか「体を使われた事もそうだけど、それ以上にあたしが頭に来てるのはッ…!」


ニードルスター「なっ!!!」


先日の赤い敵。

あいつがやった時のそれを思い出すような…。

鍔迫り合いの果てに力を入れ、相手の剣を弾き、その剣が宙を舞う。


ただ、今度その剣を失ったのはあたしじゃない。

朱色の剣が宙を高く舞い、やがて地面に落ちて転がる。
397 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/17(金) 00:38:26.08 ID:dXUpGEId0
さやか「ワコさんの初めての遊園地を邪魔した事だ!!!」


朱色の剣が飛んだのを確認し、あたしは一気に敵に切り込む。

だが…。



ニードルスター「甘いな!」


さやか「しまった!」


一瞬の隙を突いて変形したコフライトは、あたしの繰り出した縦斬りの横を素早く抜ける。

そのまま暫く進んでから大きく旋回し、こちらへ向かいつつ機体下部にある大型の針状の武装からマシンガンを連射する。
398 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/17(金) 00:41:38.63 ID:dXUpGEId0
さやか「くっ…!」


ニードルスター「今の私は蜂だ…! 私の針をかわせるかな…?」


最も気を付けなければならない、相手の飛行形態への変形を許してしまった。

パイル・ソードを使おうかとも思ったけど、相手の速度と牽制の巧さで当てられる気がしない…。




スガタ「戦いでは上を取った方が圧倒的に有利になる…」


ワコ「さやか…」




ニードルスター「どうした? 頼みの綱の剣技が届かねば君は狩られる一方か…?」


こっちのスターソードを警戒してか、相手の動きも慎重だ。

空中からの射撃をメインにし、地上付近にはほとんど近寄って来ない。

タクトさんと違い、パイルを使ってのバリアや飛行も行えないあたしは一方的に追い詰められていく…。
399 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/17(金) 00:44:44.56 ID:dXUpGEId0
ウインドウスター「今度は助けに行ってあげないのぉ…?」


タクト「必要無いさ…! 彼女は強い…。それより…!」


ウインドウスター「!?」




タクトの剣技は華麗で、それでいて圧倒的だった。


まず、右手に持ったスターソード・エムロードによる華麗な剣撃で、ヘーゲントの左腕を切り落とす。

切れたヘーゲントの左手はスターソードを握ったままだが、もうそれは意味を成していない。

続けて、左手に持ったスターソード・サフィールでの一撃で、剣での防御を行ったヘーゲントごと弾き飛ばす…。

さらに、回転しつつ再度エムロードによる連撃を行う。

それも咄嗟に防御したヘーゲントだが、その一撃は重く、切り落とされた左腕の分のダメージが右腕に重く圧し掛かる…。
400 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/17(金) 00:47:39.57 ID:dXUpGEId0
タクト「人を弄ぶ昨日の奴が許せないのは僕の方だ…!」


ウインドウスター「コイツ…!?」


サフィールによる重い連撃の止め。

それは、二度の防御により痺れ切ったヘーゲントの右腕をさらに刺激し、スターソードを弾き飛ばす。


だが、ヘーゲントはこのまま終わる機体ではない。

各部にあるレンズカバーが開く。





ウインドウスター「御立腹のようね、タウバーン? あんなのただのお遊びじゃないッ!!!」


不敵に笑うウインドウスターに反応し、レンズからレーザーを一斉に放つヘーゲント。

しかし、その攻撃すらタクトは見切っていた。
401 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/17(金) 00:48:24.00 ID:dXUpGEId0
ウインドウスター「何っ!?」


タウバーンは後方へ大きく飛びつつ両手の剣を構えると、足、そして眼前及び胸元に来たレーザーをまとめて切り払う。

スターソードに弾かれた三発のレーザーは、一つは地面に落ち、もう二つはヘーゲントの左肩と脇腹に命中。

ヘーゲントの威圧感あるボディを焼き払った。

さらに…。






タクト「なら…、その遊びは終わりだ!」


ウインドウスター「この武装は…!? レーザーの間を掻い潜って…!?」


各部から放たれるレーザーの間を縫うように飛ぶ四基のパイルが、ヘーゲントのレンズやボディに光線を撃ちこみ、追い打ちをかける。

コクピットだけを避け、次々に光線を撃ちこむパイル。

やがて、ヘーゲントは体の部分と右腕のみを残した無残な姿になって転がる。
402 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/17(金) 00:50:50.74 ID:dXUpGEId0
ウインドウスター「やって…くれる!!!」



タウ・ミサイルもスターソードも使わない。

ダメージ過多によるサイバディの損傷による敗北。

人を弄ぶ敵に対するタクトの怒りの形がそこにあった。


それでも、彼は戦い方を曲げない。

コクピットだけは無傷で、相手のドライバーに対する殺傷は避けたまま…。




ウインドウスター「あくまで、相手への気遣いは忘れないつもりかしらッ…!?」


タクト「それだけは曲げない…。例え何を目指そうと…、例え相手が誰であっても…。

    僕も、彼女も…」




ウインドウスター「チッ…!」


ウインドウスターの舌打ちの音だけが、その場には虚しく響いた…。
403 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/17(金) 00:54:20.37 ID:dXUpGEId0
コフライトの射撃に耐え続けるレシュバル。

反撃の意図を掴めないあたしは、当然相手の攻撃を避け続ける事も出来ずに、どんどん追い込まれていく…。




スガタ「さやかとは相性が悪すぎるな…」


ワコ「…………」



参ったなぁ…。

また、ワコさんが心配そうな顔してる…。

今日のあたしはワコさんの王子様〜とか言った筈なのになぁ…。



ついに避けきれなかった弾丸がレシュバルの足に直撃する…。

当り所が悪かったのか、右足の調子がおかしい…。

万事、休すかな…?




その様子を見ていた遠目に見えたワコさんの表情が変わる。

そして、あたしに向かって…。
404 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/17(金) 00:57:27.48 ID:dXUpGEId0
ワコ「さやかーーーーーッ!!! 頑張れ〜〜〜ッ!!!!!」






さやか「ワコ………さん」


そうだよね…。

あたしは一人で戦ってる訳じゃないんだ…。

昔も、今も…。


辛い時は、支えてくれる人を頼っても良いんだ…。

ワコさんに、スガタ師匠に、タクトさんに…。
405 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/17(金) 01:01:30.73 ID:dXUpGEId0
ニードルスター「足を痛めれば動けまい…! そろそろ終幕と行こうかッ!」


さやか「………………ンセ」


ニードルスター「何…?」


さやか「カタミ・ワカチタ・ヤガダンセ…」


ニードルスター「自分の念仏でも唱えているつもりか…?」




スガタ「いや、あれは…」

ワコ「うん…!」



さやか「カタミ・ワカチタ・ヤガダンセぇぇぇぇぇッ!!!!!」
406 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/17(金) 01:03:06.10 ID:dXUpGEId0
タクトさんが教えてくれた『大丈夫の呪文』。

信じて使わなきゃ効果が無いって言ってた…。

だから、さっきまではわかってても使えなかった…。


でも、今なら…。

タクトさんがいて、スガタ師匠がいて、ワコさんがいて…。

それが見える、それを感じられる今なら、『信じる』事が出来る…!





ニードルスター「止めの一刺しだッ!!!」


コフライトが急速接近し、その大型の針状の武装を以て、文字通りレシュバルに止めを刺そうとする…。

だけど、そこにレシュバルの姿は無い…。
407 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/17(金) 01:06:16.92 ID:dXUpGEId0
ニードルスター「馬鹿な…!? 奴の足は確かに潰した筈だ…!」

ニードルスター「そもそも奴はどこへ…?」




さやか「上だよッ!」


完全に状況が見えていないコフライトの背部を、思い切り左足で蹴り飛ばす。

地面に叩きつけられてバウンドしたコフライトは、変形して着地し、強引に勢いを殺す…。




ニードルスター「何故、お前が上にいる…?」


ニードルスター「まさか…?」


コフライトは地面に、レシュバルは空へ…。

そう。

レシュバルは大型化したパイルを伴い、飛行していた。
408 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/17(金) 01:07:08.19 ID:dXUpGEId0
ニードルスター「パイル・ジェット…。タウバーンの技を君も使えた…。

        いや、会得したと言う事か…!?」


さやか「そ。最もイメージの対象は、好き勝手飛びまわるアンタ自身とジェットコースターの掛け合わせだけどね…?」



ワコさんと…。

まどかと、乗ったジェットコースター。

アレで飛んでいる時のイメージを、後は飛んでいる姿を煩く飛び回る敵のコフライトからイメージする。

ドライバーにイメージさえできるなら、タウバーンと同型のレシュバルだって飛べる筈…。

タクトさん流のイメージパワーアップ手法、見事に成功っ!




ワコ「そんなモノをヒントにしちゃうなんて…。あの子、本当に凄いなぁ…」


スガタ「タクトと言い、本番に強くて頼もしい限りだな」
409 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/17(金) 01:10:49.03 ID:dXUpGEId0
ニードルスター「さすがだよ、君はッ…!」


さやか「お褒めに預かり、ど〜もッ!」


再び変形し、空を飛びまわるコフライト。

その速度は相変わらず速い…。




ニードルスター「だが、忘れてもらっては困るな…!

        空での狩りは私の方が手慣れていると言う事を…!」


相手の言う通り、空中戦に持ち込んでも相手の優位は変わらない。

速度は負けていないが、魔法少女の時も含めて、初めての空中戦となるあたしの動きはどこかぎごちない。

さらに相手には距離を問わずに使える射撃武装が付いている。


対してこちらは、今度こそパイル・ソードを使う事も出来ない。

相変わらず、相手に対する牽制の手段がない…。
410 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/17(金) 01:13:24.76 ID:dXUpGEId0
牽制の手段がない…?

本当に…?

さっきのようにやろうとしなかっただけなんじゃないの…?


そう思ったあたしは、相手の射撃を避けつつ、左の掌を前方へ構える。

そして、「やれる」「できる」とイメージする…。




さやか「いっけぇぇぇぇぇッ!」


ニードルスター「なんだ、それは…!?」


あたしが念じた瞬間、レシュバルは左の掌から星型のエネルギー弾を放つ。

一つ、二つと放たれたそれは、射撃武装を意識していなかったコフライトの背部に直撃する。


ダメージはそう大きくないようだが、相手の速度を殺すには十分だった。
411 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/17(金) 01:14:36.88 ID:dXUpGEId0
さやか「これで、とどめだぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」


右腕に持ったスターソードで繰り出した大振りの斬り降ろし。

それは、コフライトの後部のブースターから左のウイングの辺りを切断。

態勢の崩れたコフライトは強引に変形。

地上へ叩きつけられるように両手両足を突いて着陸するも、そのまま動きを止める。





ニードルスター「予想以上にやるな……。彼女が気にかけるだけはある…」


強引な着陸で傷みきったコフライトの中で、ニードルスターが呟く。


タクトさんも敵を撃破していたんだろう…。

ゼロ時間が解除され、あたし達は元の観覧車のゴンドラへ戻されていく…。
412 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/17(金) 01:15:53.16 ID:dXUpGEId0
止まっていた筈の時間。

だけど、あたしたちはその間も別の空間に居て…。

止まる前から再開したこの時間と違い、停止していなかったあたし達の時間は気まずさを以て始まる。



ワコ「…………」


さやか「…………」


直前に凄い良い話をしていたのに、ぶち壊しにされたこの感覚をどこに向ければ良いんだろう。

毎度毎度思うけれど、このゼロ時間ってのもいい加減勘弁してほしいよなぁ…。

そんな事を考えながら、あたしはゆっくりと口を開く。



さやか「応援してくれてありがとう、ワコ姉。

    これからはきつい時は頼りにするから、その時はよろしくね…?」


ワコ「うん。ワコ姉にど〜んと任せなさい! さやか!」


今はまだ慣れない互いの新しい呼び名。

だけど、それは互いの信頼が大きく進んだ何よりの証…。
413 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/17(金) 01:19:24.23 ID:dXUpGEId0
っし。
今日はここまで。
現在苦戦中なので、次来るのは早ければ明日、遅ければ日曜になると思う

日常ってか非戦闘パートの方がやっぱり難しいね
よりキャラクターの人間性を把握できてなきゃいけないから…



それでは、本日は閉会とする。

佐倉杏子に栄光を…!
美樹さやかに祝福を…!

綺羅星☆
414 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[sage]:2011/06/17(金) 01:21:44.45 ID:rghSXTfio
綺羅星☆

まさかのOP限定レシュバルビームwww

読みながらスタドラって『不確かなものでも信じる』ことが力を持つアニメだったなあ、と本編を思い出した
大丈夫の呪文とか、見えているとか、やれそうな時はやれる!もか
希望を信じて裏切られ絶望する構造のまどマギ世界とは対照的な世界なのか
415 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/17(金) 01:27:21.36 ID:dXUpGEId0
>>414
乙ありがとう
レシュビームを使わずにレシュバルを捨てたヘッドを私は絶対に許さない、絶対にだ!

その辺はこのSSのテーマにもなってる
ネガになって落ちてくのがまどかで、プラスになって上がってくのがスタドラ
クロスとしての相性はこの上なく良い
416 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)[sage]:2011/06/17(金) 01:51:17.44 ID:+4tGCElao
綺羅乙星☆

遊園地のくだりでワコを選んだ時はおっ? と思ったけど、終わりまで見ると胸にストンと落ちる感じでこれで良かったと納得。

これでスガタ×タクト、ワコ×さやか、頭取×あんこちゃんが(ボソッ
417 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)[sage]:2011/06/17(金) 02:28:44.72 ID:kTPMDPsAO
乙星☆
暗黒リビドー流星弾(笑)来たか
あのビームOP作画担当の人がレシュの戦闘シーン見ず書いた創作なんだよね、スパロボ辺りで採用してほしいわ
418 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/06/17(金) 09:26:50.55 ID:pHNPCbtIo
綺羅星☆!
まさかのビームwww
日常描写がホントに見ててニヤニヤする

OPのコンテはエヴァの鶴巻さんだっけ?
419 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/19(日) 23:10:21.96 ID:f3V9Sjjz0
綺羅星☆
遅くなったけど投下するよ〜。
もうちょいで苦戦してる所が終わりそう…。

やっぱり間繋ぐのが一番難しいな…。


>>416
乙星☆
待て、頭取はセクレタリーともありだ

>>417
乙星☆
アレは再戦で使ってくれると信じてただけに…
シンパ超格好良かったからあれはあれでよかったんだけどさ。だけどさ…

>>418
乙星☆
日常描写は結構難産だけど、楽しんでくれてるようで何よりです
今戦闘描写書いてるけど、難産気味だけどね…
ようするにスラn(ry
420 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/19(日) 23:12:25.55 ID:f3V9Sjjz0
現在の時刻は夜7時。

そして、遊園地の閉園時間は夜9時。


それなのに、「最後に〜」と言ったのは勿論訳がある。




さやか「海上パーティ?」


ワコ「うん…。ウチのクラスに変わり者が一人いてね…」



そう。その人はある意味でクラス一の問題児。

勉強ができないとか不良だとかそういうのでは無いらしいんだけど…。

タクトさんの後ろの席に座っているその人は、爆弾発言を繰り出し続けているらしい…。


ワタナベ・カナコ。

人妻女子高生とか言う怪しげな響きを持つ、その人が起こした最新型の爆弾発言。


これはワコ姉に聞いたその時の一部始終…。
421 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/19(日) 23:14:13.71 ID:f3V9Sjjz0
授業中。

勿論、彼女はそんなものお構いなしに自分の世界を展開し始める。



カナコ『ねぇ、タクト君?』

タクト『……………』



イシノ先生(キターーーーーーーーー)


ワコ(また始まったよ、あの人は…)





カナコ『少し相談に乗ってくださらないかしら…?』

タクト『……………』





カナコ『私ね…、今好きな子がいるの。でも、あの子最近元気がないみたいで…』

タクト『ひ、人妻なのに好きな子って…(小声)』


ワコ(まさかまさか…)
422 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/19(日) 23:15:45.65 ID:f3V9Sjjz0
カナコ『タクト君は私の好きな子が気になる…?』

タクト『そりゃ…、聞かないと相談にも乗れませんし(小声)』





カナコ『そうね…。タクト君が退屈な授業の時間を紛らわしてくれるお星様なら、

    その子は仕事の時間の私を照らしてくれる太陽なの…』

タクト『』


ワコ(抽象的すぎてワカリマセン…)



バキッ!ボリボリボリッ!

イシノ先生『退屈で悪かったな…。毎度毎度…』イライライライライライラ


ワコ(先生、またチョーク折ってる…。気持ちはわかるけどさ…)





カナコ『ねぇタクト君? 私の太陽が光を取り戻すお手伝いをしてくださらない…?』

タクト『……………』
423 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/19(日) 23:17:12.15 ID:f3V9Sjjz0
ケイト『ワタナベさん、静かにしてください。授業中です』


カナコ『いつもお堅いわね、委員長? 好きな人の一大事は授業よりも大切なの…。

    あなたにはわからないかしら…?』


ケイト『…………』イラッ




カナコ『と、言う訳で明日の晩、サンダーガール号でパーティを主催します。

    皆さん、振るって参加してね?』


ワコ(どう言う訳だ…?)





タクト『それで、僕は何を手伝えば良いの…?』


カナコ『それはね…』
424 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/19(日) 23:24:03.56 ID:f3V9Sjjz0
さやか「その人のタクトさんへのお願いが、あたしをそのパーティーへ出席させる事?」


ワコ「うん…。それならタクト君に頼むまでもないって私が引き受けたんだけど…」



あたしはそのワタナベって人に面識はない。

じゃあ、なんでパーティーにわざわざ呼ばれるんだろう?

タクトさん達絡み…なんだろうか?


まぁわざわざそんな高級パーティーへご招待願えるなら喜んで行くんだけど…。

普通、見ず知らずの人間をわざわざ招いたりするんだろうか…?

お金持ちの感覚ってわからない…。



さておき、せっかくのご招待を受ける為に、あたしとワコさんはその人の待つ船へと向かった…。
425 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/19(日) 23:30:08.45 ID:f3V9Sjjz0
途中の道。

なんて事の無い田舎道を歩く明らかに浮ききった外見。

一度しか出会っていないのに鮮明に残るあの金髪ロールの少女を見かける…。




さやか「ねぇ、あの人…」


ワコ「間違いない…」



???「あら、マスコットガールちゃんじゃない?

    こんな所で会えるなんてっ!」


さやか「やっぱり、マドカさん…」




マドカ「ちょっと、そんなに身構えなくても大丈夫よ…」
426 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/19(日) 23:32:50.74 ID:f3V9Sjjz0
ワコ「先日も言いましたよね…?」


マドカ「何を?」


ワコ「大事な子だから、持ち帰り禁止って…」




さやか「あの…、マドカさん…」

マドカ「えぇ〜、つまんないの」


さりげな〜く腕を組み、人を持ち帰ろうとするマドカさんをワコ姉が制止する。

何が身構えなくても、ですか…。




さやか「何が大丈夫なんですか…?」

マドカ「え? マドカが持ち帰ってあげるから大丈夫よって…」


ワコ「もう! 油断も隙もないな〜。この人…!」


ワコ姉が頭を抱えつつ、近寄ってマドカさんをあたしから引き剥がす…。
427 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/19(日) 23:39:57.11 ID:f3V9Sjjz0
マドカ「お姉さん気どりなのね」

ワコ「気どりじゃなくて、お姉さん代わりなんですっ」





マドカ「……可愛いお姉さんねw」


最初は一生懸命なワコ姉が可愛いのかと思ったけど、目線がおかしい。

マドカさんの目線の先は…。




ワコ「きーーーーーーー! 今どこ見て言いましたっ!?」



???「イッツアストーップ!」

???「落ち着いて、ワコ…」
428 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/19(日) 23:44:02.09 ID:f3V9Sjjz0
聞き覚えのある声が後ろから響く。

怒り爆発寸前のワコ姉を止めたのは…。



ワコ「タクト君、スガタ君…」


タクト「元気なのも良いけど、張り切りすぎじゃない?」

スガタ「冷静に、冷静に…」


頭を掻いて「困ったな」って表情のタクトさんと、少しだけ呆れ気味だけど優しく微笑むスガタ師匠の二人…。

困った時はやっぱりこの二人…、頼りになるよね。






マドカ「多勢に無勢ね。つまらないけど、今日は諦めてあげる」


タクト「いやいや、多勢に無勢って…。

    僕ら喧嘩しに来た訳でもないんですケド…」


いかにもつまらなさそうな顔をして、マドカさんが去っていく…。

何しに出てきたんだ、あの人…。
429 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/19(日) 23:47:48.67 ID:f3V9Sjjz0
スガタ「しかし、彼女も諦めが悪いね…」


ワコ「わざわざ、さやかを襲いにやってきたのかなぁ?」


さやか「ワコ姉、その冗談笑えない…」



げんなりしながらも、少し状況がおかしい事に気づく。

そう。マドカさんは先日と違って一人だった。

あんなに仲良さそうにしていたボーイッシュな人がいない…。


まさか、あたしを巡って揉め事になって、結果マドカさんはあたしを…?

いやいや、笑えない笑えない…。




タクト「それじゃ、いこっか」


スガタ「ワコも機嫌直して」


ワコ「む。別に私は最初から怒ってないしっ」


…ま、いっか。

今日は、たまたま一緒じゃなかっただけかもしれないしね。
430 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/19(日) 23:51:14.87 ID:f3V9Sjjz0
そこからさして距離のない所に目的地はあった。

『サンダーガール号』。

噂のワタナベさんが、夫からプレゼントされたって言う豪華客船。


少し時間が過ぎていたからか、既に人が賑わってる様子が伝わってくる…。




シモーヌ「いらっしゃいませ」


タクト「こんばんは。シモーヌちゃん」


シモーヌ「は、はい…/// こんばんは」



この船のメイドさんであろう金髪碧眼の美少女…。

どうも、この人もタクトさんのクラスメイトらしい。
431 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/19(日) 23:55:35.26 ID:f3V9Sjjz0
ワコ「やっぱりモテるんだなぁ、タクト君…」


さやか「そう…ですよね?」


ワコ「うん。さすがに彼女も好意寄せてるとは知らなかったよ…」


さやか「そうなんだ…」


ワコ姉と話している最中、タクトさんと話してた金髪青髪のシモーヌさん?がこちらに気付く…。

タクトさんへの話もそこそこに、こちらへやってきて丁寧にお辞儀をし、話を始める。





シモーヌ「あなたが美樹さやかさんですね…?」


さやか「はい。なんで知って…って、あなたは…」


シモーヌ「はい。以前、教室からあんこさんをお連れした者です」


思いだした。

どこかで見た事のある人だと思ったら、教室にやってきて授業前に杏子を連れてった人だ。

ワコ姉の話じゃタクトさんに好意もってるみたいだから、愛の告白…じゃなかったんだよね、やっぱ。



じゃあ、あたしを知ってるのも杏子絡み?

だけど、だからと言ってあたしが今日ここに呼ばれた理由はイマイチ見えてこない…。
432 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/19(日) 23:57:12.76 ID:f3V9Sjjz0
ワコ「やっぱりモテるんだなぁ、タクト君…」


さやか「そう…ですよね?」


ワコ「うん。さすがに彼女も好意寄せてるとは知らなかったよ…」


さやか「そうなんだ…」


ワコ姉と話している最中、タクトさんと話してた金髪青髪のシモーヌさん?がこちらに気付く…。

タクトさんへの話もそこそこに、こちらへやってきて丁寧にお辞儀をし、話を始める。





シモーヌ「あなたが美樹さやかさんですね…?」


さやか「はい。なんで知って…って、あなたは…」


シモーヌ「はい。以前、教室からあんこさんをお連れした者です」


思いだした。

どこかで見た事のある人だと思ったら、教室にやってきて授業前に杏子を連れてった人だ。

ワコ姉の話じゃタクトさんに好意もってるみたいだから、愛の告白…じゃなかったんだよね、やっぱ。



じゃあ、あたしを知ってるのも杏子絡み?

だけど、だからと言ってあたしが今日ここに呼ばれた理由はイマイチ見えてこない…。
433 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/20(月) 00:00:30.29 ID:4mN8rUtH0
さやか「今日はなんで、あたしを招待してくれたんでしょうか…?」


シモーヌ「それは後々奥様からご説明があります。その際はお呼びしますので、まずは楽しんでください」


さやか「はぁ……」


奥様。

やっぱりここにあたしを呼んだのはこの人じゃなくて、その奥様らしい。

その奥様とは今度こそ面識がないんだけど…。





ワコ「なんか難しい事考えてるでしょ?」


スガタ「楽しめる時は楽しんだ方が良い。

    僕達も一緒だし、クラスメートが主催のパーティだ。そう警戒する事は無いよ」


そう…だよね。

ごちゃごちゃ考えても始まらない…か。

今は招かれたこのパーティを楽しもう。
434 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/20(月) 00:02:53.79 ID:4mN8rUtH0
会場は立食パーティのような形をとっており、テーブルにさまざまな料理が並べられている。


どこもかしも見知らぬ料理ばかりだけど、そんな中見知った料理を見つける…。

それは明らかにその場に浮くも確かにそこに存在していた…。





さやか「ホットドッグ…?」


なぜ、ここに…と言うのはさておき、手を出さずにはいられない…。

さりげな〜く、さやかちゃんの好物の一つだったりするのだ。


一つ頂こうと思った瞬間、大量のホットドッグを乗せていた大皿が消える…。

…?



辺りを見回せば、ようやくその理由がわかる…。

赤い髪をポニーテールにし、八重歯が飛び出た小憎らしい顔がそこにあった…
435 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/20(月) 00:04:37.88 ID:4mN8rUtH0
杏子「これで良いのか、先輩?」


テツヤ「お前、なんで大皿ごと…。まぁ、いいや…。

    訳わからない高級料理ばっかで困ってたところだが、ようやく見慣れた物があって助かったぜ…」


杏子「食わず嫌いは良くないぜ…?」


テツヤ「良いんだよ。俺は庶民を貫くんだ…。

    つーか、お前も食うのかよ?」


杏子「ど〜せ、これ全部は食わないだろ? 手伝ってやるよ」


テツヤ「いや、手伝っても全部は無理だろ…。

    大食い選手権じゃねぇんだから…」



杏子「ほら、先輩も食いな?」


ジョージ「あ、あぁ…………」




さやか「杏子!!!!」


大皿ごとホットドッグを持ち逃げしたあんの野郎と、その連れっぽいどこか不良なお兄さんが二人…。

不良なお兄さんに絡まれるのはちと怖いけど、どうせ杏子の連れだろうし、そもそもホットドッグ持ち逃げ犯を許す訳にはいかない!

対決覚悟で突っ込んでいく…。
436 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/20(月) 00:06:28.88 ID:4mN8rUtH0
杏子「なんだ、さやかか」


さやか「なんだ、じゃない。なんで大皿ごと持ってくのよ…!」


杏子「なんでだ、先輩?」


テツヤ「俺は大皿ごと持ってこいとは言ってねぇよ…」


杏子「でも、できるだけ持ってこいって言ったじゃん…?」


テツヤ「そう言われて、料理山積みの大皿を持ってくるのはお前だけだよ…」




さやか「どっちでもいいけど、勘弁してくださいよ…!」


テツヤ「怒られたじゃねぇか…」


杏子「こいつはいつもこんなもんだから、気にしなくていいよ」


さやか「なにぃ!」
437 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/20(月) 00:09:13.60 ID:4mN8rUtH0
良く見ると顔は結構いいけど、何故か杏子と妙なやり取りをする不良お兄さんごと杏子に苛立つ。

すると、あたしのやり取りを見ていたのだろうか、タクトさんが後ろから仲裁に入る。



タクト「はいはい。落ち着いて、二人とも…って先輩? 何故ここに…?」


テツヤ「おぉ。タクトか」


さやか「知り合いですか…?」


タクト「うん。学生寮の先輩だよ」



ゴウダ・テツヤ先輩。

と、何故か壁に寄りかかって俯いてるホンダ・ジョージ先輩。

タクトさんの住む学生寮の先輩で、なんだかんだで面倒見の良い兄貴分みたいな人達らしい。

杏子は最近学生寮にお邪魔になってるみたいだから、たぶんコイツの面倒も見てくれているんだろう…。
438 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/20(月) 00:11:50.21 ID:4mN8rUtH0
テツヤ「悪かったな…。見慣れた料理があったんで、ついな…」


さやか「気にしないでください。それに関してはこの世間知らずが全面的に悪いので…!」


杏子「うっせぇな…」




タクト「それで、なんでここに…?」


テツヤ「あぁ…、こいつの御守りだ。中学生をこんな時間にウロウロさせるには引率がいるかと思ってな」


杏子「それ言ったのカナコだから。先輩じゃねーし」


テツヤ「うっせぇな…」


杏子「鼻の下伸びてたぜ? 先輩…?」


テツヤ「言わせておけば、テメェは…」



なんだかんだで良いコンビみたい。

コイツはコイツで、こっちでの良い人間関係に恵まれた…のかな?

あたしが気にするまでもなかったみたい。
439 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/20(月) 00:13:50.94 ID:4mN8rUtH0
タクト「寮長も来てるんですか…?」


テツヤ「い〜や。あいつはそんな堅苦しいモノ死んでも御免だって来なかったよ。

    来りゃ良かったのにな…。後々話したらさぞ面白い反応をしてくれるだろうよ」


スガタ「…?」



少し離れたスガタ師匠を見て、ゴウダさんは言う。

その寮長って人と何か関係があるのかな…?


と、話してたら気になる事が一つ…。

さっきから、この輪の中に居て一言も話していない人がいる…。




さやか「大丈夫ですか…?」

ジョージ「あ、あぁ……」


さっきから壁際に居て何も話さないと思ったら、なんか顔色が良くない…。

このホンダさんって人は、体調がよくないのかな…?
440 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/20(月) 00:16:28.67 ID:4mN8rUtH0
テツヤ「あぁ〜、そいつは放っておいてやってくれ」


さやか「…?」


テツヤ「バイトで受けた傷がまだ癒えていない…」


さやか「…???」


タクト「………まさか、ワニにでも会ったの?」

さやか「ワニ…?」




テツヤ「覚えとけよ!中学生! アルバイトとは言え、実社会では想像を超えた驚きが待っている!」


さやか「そうですよね。善人面して近寄って来て、良さげな事言って人を騙す詐欺師とかもいますし…」

杏子「あぁ、知ってる。いきなり言いがかりつけて喧嘩売って来る奴もいるからな…。いつも用心してるよ」



タクト「二人とも……」

テツヤ「お前ら……。なんか苦労してそうだなぁ…」
441 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/20(月) 00:18:41.02 ID:4mN8rUtH0
タカシ「楽しそうですね。皆さん」


タクト「…………」


杏子「タカシか…」



黒髪のウェイターの格好をした男の人が音も無く突然現れる。

見た所、これと言って悪い人には見えない。

でも、杏子とタクトさんがやや妙な面持ちになってる…。

その人はこれと言って嫌な気配もないし、気のせいだとは思うんだけど…。




タカシ「奥様がお呼びです。少し来てもらえますか…?」


さやか「はい…」
442 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/20(月) 00:20:07.93 ID:4mN8rUtH0
その人が案内しようとした所、何故か杏子が割って入る。

タクトさんも何か動こうとしてたように見えるけど…気のせいかな?




杏子「それ、アタシも行って良いかな?」


タカシ「…………では、あんこさんに案内をお任せしましょう。

    奥様は最初に食事した時の部屋にいらっしゃいますので」


杏子「悪いな、仕事取っちまって…。

   じゃなくて、アタシはあんこじゃねぇ!!!」




テツヤ「行って来いよ、あ〜んこ♪」

杏子「………この野郎、覚えてろよ」



ジョージ「……気を付けろよ? 奴は手強いぜ?」

杏子「いや、別に戦いに行く訳じゃねぇし…」
443 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/20(月) 00:20:44.17 ID:4mN8rUtH0
杏子に連れられて、その奥様の居る所を目指す。

そう言えば、なんでコイツがここの事知ってるんだろう…?



さやか「ねぇ杏子…。アンタここの事詳しいの…?

    なんか顔見知りもいるみたいだけど…」


杏子「あぁ…? 言ってなかったっけ?

   こっちに流れ着いた時にアタシは、ここの奥様のカナコやシモーヌに助けられたんだ」



さやか「そうだったんだ…」


こちら側の世界に飛ばされた杏子は、この船に住むワタナベさんやシモーヌさんに発見され、介抱されたらしい。

彼女達はその後も何かとコイツの世話を焼いてくれてるようで…。
444 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/20(月) 00:21:37.69 ID:4mN8rUtH0
杏子「ここの奴らは良い奴ばっかりだ…。

   倒れてたアタシを救ったばかりか世話まで焼くお嬢と付き人、なんだかんだで面倒見の良い先輩方、気さくなクラスメイト…」


さやか「………」


杏子「ずっと一人で生きてきた事さえ忘れちまいそうだよ…」


さやか「杏子…」



見滝原で初めて見た時のコイツからは考えられない穏やかな表情をする杏子。

だけど、コイツの生き方からだろう。

そんな自分に戸惑っているような表情が見て取れる…。
445 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/20(月) 00:22:14.16 ID:4mN8rUtH0
佐倉杏子。

馬鹿やってふざけ合う今のあたし達からは想像もできない筈だけど…。

出会った時のあたしとコイツは殺し合いをするほどの『敵』同士だった。


みんなを守る為にと、人知れず戦って、死んだあたしの魔法少女としての先輩『巴マミ』さん。


その人の意志を継いだあたしが、人を襲う魔女の使い魔を追っている最中、コイツと出会った。

グリーフシード欲しさに使い魔を逃がそうとする杏子とそんな事を認める訳にはいかないあたし。

主義主張の合わないあたしたちは殺し合いをした…。


その後もコイツはあたしを煽った。

『誰かの為』に生きるあたしを嘲笑うように…。
446 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/20(月) 00:23:03.60 ID:4mN8rUtH0
そんな関係が変わったのは、『ソウルジェムこそが魔法少女の本体』と言う真実を知った時だった。

絶望するあたしを哀れんだのか、同情したのかは知らない。

だけど、その時からコイツは打って変わってあたしに友好的に接し始めた。


そして、その時に語ってくれた。

『誰かの為』に願い、戦ったが為に全てを失った悲しい過去を…。



それからだ。

コイツの見方が変わったのは。

杏子の生き方や理屈は『共感』はできないけど『理解』はできた。

こっちに来て、心に余裕ができてからは尚の事そう思った。
447 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/20(月) 00:24:45.78 ID:4mN8rUtH0
だからこそ言えなかった。


『自分の為』に強く生きているコイツの邪魔をしたくないから。

あたしはここで『生きる』と決めたけど、魔法少女である以上コイツはそうはいかない。

だから、コイツが本気で心配して怒ってくれた時も意地でも口を割らなかった。


なんだかんだでお節介な奴だから…。

そう多くないだろう時間をあたしに感けて、無駄にしてほしくないから…。

コイツを道連れにするような事にしたくなかったから…。
448 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/20(月) 00:27:07.20 ID:4mN8rUtH0
でも、そんなコイツも学校で会ってからはさらに丸くなったように思えた。

友達が、仲間が、知らずに杏子を優しい頃に戻している…ってあたしは思ってる。

そして、コイツはそんな自分に戸惑ってるんじゃないかな…?




さやか「良いんじゃない?」


杏子「あぁ…?」


さやか「アンタももっと誰かを頼ってみても」


杏子「………………」
449 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/20(月) 00:27:46.98 ID:4mN8rUtH0
足を止め、不思議そうにあたしを見る杏子に笑いかけながら、あたしは続ける。



さやか「自分に構ってくれる人がいる時はさ、その人に寄りかかってもいいと思うんだ。

    あたしもそう教わった」


さやか「その代わり、その寄りかかった誰かが倒れそうな時はアンタが踏ん張って支えてあげなよ」


さやか「そう言うのがさ、アンタの忘れた『誰かの為』の根っこになってるんじゃないかな…?」





杏子「よく、わかんねぇよ…」


照れたような、拗ねたような、何とも言いにくい表情をした杏子はそっぽを向く。

よくわからない、か。

でもさ…。


きっとわかるよ。

今の優しいアンタになら…。
450 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/20(月) 00:32:27.66 ID:4mN8rUtH0
その後は杏子がだんまりしてしまった為、ただひたすら歩いた。

やがて、開いてる大きな扉の向こうにある広間のような部屋へ辿り着く。




杏子「よぅ…」


カナコ「ありがとう…。あなたが連れて来てくれたのね…?」


そこに居た女の人は少しだけ驚いてから杏子にお礼を言った。

間違いない、この人が…。




カナコ「ようこそ。私はこの船の持ち主で、今回のパーティーの主催者のワタナベ・カナコと言う者です。今後ともよろしくね…?」


さやか「は、はい。あたしは美樹さやかですっ。本日はお招きいただきどうもありがとうございますっ」


カナコ「元気の良い子ね」
451 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/20(月) 00:33:51.25 ID:4mN8rUtH0
その人の放つ優しい笑顔に、何故か緊張感だけが増してかちこちになる。

そんなあたしを横目に、ぶっきらぼうに出口を目指しながら杏子は言う。




杏子「じゃあ、アタシは行くよ」


カナコ「えぇ、楽しんでいってね」





杏子「………………………いつも色々ありがとな、カナコ」


後ろ姿だから顔は見えないけど、安易に想像がついた。

あいつの顔、今照れて真っ赤だろう。


うん。

やっぱりアイツ、変わり始めてる…。
452 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/20(月) 00:34:22.51 ID:4mN8rUtH0
―ずっとここに居られれば、あたしも、アイツも―



そう頭に浮かんで、すぐにやめた。

考えたって仕方ない事は考えない。

あたしはどっちに転んでも前に進むだけ。

終わる瞬間の事なんて、終わった時に考える。


未来が見えないからって、絶望するのはもうやめたんだ…。

終わった筈のあたしにこんな素晴らしい日々が待っていたように、明日はどうなるかなんてわかりはしないんだから…。





カナコ「良い目をしてるわね…」


さやか「え…?」
453 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/20(月) 00:35:49.79 ID:4mN8rUtH0
少しぼんやりとしていたあたしを現実に引き戻した優しい顔をしたお嬢様は、何を思いついたのか少しだけ表情が悪戯っぽく変わる。

座っていた椅子から立ち上がるとベランダの方へ向かい、ガラス戸を開き、再び微笑む。

ただ、風に煽られたその微笑みは、先ほどまでと違ってどことなく挑発的な匂いがする…。




カナコ「あなたはガラス越しありな人?」


さやか「ガラス越し…?」


カナコ「ガラス越しにキスをするの…。

    今あの学校で流行っているんだけど…知らない?」
454 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/20(月) 00:36:31.11 ID:4mN8rUtH0
さやか「キ………ス? キスですか!?///」


カナコ「イケナイ遊びだと…、あなたも思うかしら?」


さやか「そりゃ…、思いますよ…///」


照れるあたしを面白がるように続ける。

ガラス戸が開き、外から流れる風があたしと彼女の髪を揺らす…。

どこか優雅に歩いて元の席に戻りつつ、イケナイお嬢の会話は続いていく…。




カナコ「なんでイケナイと思うの…? 

    所詮はガラス越し。直接する訳じゃないわ」


さやか「…………だって、ガラス越しでも相手の顔は見えてるじゃないですか」



カナコ「純情ね。あなたも……」
455 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/20(月) 00:39:27.98 ID:4mN8rUtH0
揺れる髪を抑えながら、悪戯っぽく笑って言う。

やっぱり、授業中に平然とパ−ティ開催を宣言するようなお嬢は変わりモノでした…。

組んだ足を逆に変えながら続ける…。



カナコ「たまには女の子とするのも良いと思ったんだけどな…」


さやか「たまにはって…。

    杏子ともするんですか? その、ガラス越しの…」


カナコ「気になる…?」


さやか「…………少し」
456 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/20(月) 00:40:29.53 ID:4mN8rUtH0
奥様である証の結婚指輪らしきものを眺めるのをやめて、再びこちらに顔を向ける。

その顔を隠すように吹いた風に、髪が揺らされる。

髪を直した彼女の表情は優しかったけれど、どこか寂しげで…。




カナコ「してないわ。

    あの子は私のもう一つの宝物だから……、そう言う悪戯はしないの」


カナコ「でも、あなたがするなら良いんじゃないかしら…?」



さやか「え……!?」


カナコ「私がそんな事をしたら、あの子は混乱してしまうだろうけど、

    あなたとふざけ合うあの子は本当に楽しそうだから…」


ガラス越しがどうたらって言う冗談はともかく、この人はやっぱり凄くいい人で…。

そして、凄くアイツの事気にかけてくれてるんだ…。


そして、同時に何となくだけどわかった。

今日のパーティーにあたしが呼ばれた理由。

ううん、ひょっとしたらこのパーティーの理由自体が…。
457 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/20(月) 00:41:14.91 ID:4mN8rUtH0
カナコ「悪ふざけはおしまいにして…。

    今日のパーティなのだけれど…」


さやか「杏子の為、ですよね…?」



言おうとした事を遮って、あたしが答えを言う。

少しの沈黙の後、互いにくすっと小さく笑う。





カナコ「……………敵わないわね、あなたには」


さやか「パーティ開いちゃう人には負けますって」


不器用なアイツを思うあたし達もやっぱり同じ…。

あいつとふざけ合う事しかできないあたしと、パーティなんて開いちゃうこの人は、同じ事を考えて微笑んだ…。
458 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/20(月) 00:41:56.35 ID:4mN8rUtH0
話も終わり、大きな扉を抜けて、さっき来た長い廊下を戻っていく。

その廊下の向こうに見えるのは、遠目からでもわかる我儘ボディと派手な金髪ロール…。

この豪華客船に誰よりも似合う筈のその人だった。




さやか「げ、マドカさん…?」


マドカ「マスコットガールちゃん…」


見えたからと引き返す訳にも行かず、結局バッタリ。

だけど、マドカさんの様子はどこかおかしい。

いつも通りと言えばいつも通りなんだけど、少しだけ苛立っているように見える。




さやか「マスコット…、その呼び方やめてもらえません…?」


マドカ「残念ね…。あの女に呼ばれてなければ…」


実際、あたしの言葉には反応せず、そうとだけ言い放つと横を抜けてそのまま歩いていく。

その先にあるのは勿論…。
459 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/20(月) 00:42:50.91 ID:4mN8rUtH0
いけない事とわかっていても、こう言う事は気になったら最後。

頭を抱えて右往左往する…。




さやか「あ〜〜〜〜!もう! 気になる〜〜〜!!!」


悪戯好きのワタナベさんと、破天荒なマドカさん。

どっちも相当なお嬢様ってのはわかる。

その二人が知り合いだった。


気にするなと言うのが無理でしょう…!
460 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/20(月) 00:43:44.25 ID:4mN8rUtH0
結局、密かに覗いてる。

あぁ、あたし悪い子だ…。

でも、毒を食らわば皿までッ…!


あの大きくて重そうな扉はほとんど閉まっている。

僅かに開いた隙間から覗きこむ…。




マドカ「何様のつもりですか〜? こんな所まで人を呼び付けて…!」


カナコ「言われなければ、わからない…?」


マドカ「転属願いの事ですか〜? 無駄ですよ。あなたが受理しようがしまいが…。

    ご存じのように私達はもう、あちらで楽しくやらせていただいてますので…!」


この上なく挑発的な態度を取るマドカさん。

対するワタナベさんもさっきとは打って変わって、険しい表情で相手を見ている。

それは宝物について語ったさっきとは真逆。

まるで敵でも見るような、睨みつけるような目つき…。
461 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/20(月) 00:45:26.60 ID:4mN8rUtH0
ワタナベさんが溜息を吐いて、その目つきが少し和らぐ。

だけど、そのピリピリとした雰囲気は変わらない。



カナコ「あなたにはずっと私の傍に居て欲しかったのだけれど…」


マドカ「あら〜? 未練ですか〜? 終わりにしたのはあなたの方なのに……!」


カナコ「………………そうね」



ずっと傍…?

未練…?

終わり…?


この二人って、やっぱり何かあったの…?

ううん…。

それより、終わりって…。
462 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/20(月) 00:46:00.62 ID:4mN8rUtH0
カナコ「待ちなさい! 話はまだ…!」


マドカ「御機嫌よう…! 元上司様…?」



ま、まずいまずい…!

こっちに来ちゃう…!


出来るだけ音を立てないようにせかせかとその場を去って物陰に隠れる。

が、勿論気配や足音はあった筈なのでそれはすぐにバレる…。




マドカ「イケナイ子ね…。覗き見なんて…」


さやか「……………すいません」


イケナイ子認定されたあたしはマドカさんに捕まり、一緒に会場に向かって戻っていく…。
463 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/20(月) 00:46:55.37 ID:4mN8rUtH0
マドカさんはあたしの前を歩く。

だけど、いつものマドカさんの調子ではない。

ただ、背中だけみても、彼女が怒ってるのか、寂しがってるのか、はたまたいつも通りなのかはわからない…。




さやか「マドカさん…。ワタナベさんと何か…」


マドカ「昔の話よ…」


さやか「仲直り、とかは………」


マドカ「仲直りと言うのは、仲がまだ良い人間が部分的に壊れた関係を修復する事。

    聞いたでしょ? 私達は『終わった』のよ」


二人とも変わってるけど、悪い人じゃない。

だから、出来る事ならと思ったんだけど…。


空気はさらに重くなる。

あたしが勝手に重く感じているだけなのかもしれないけど……。
464 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/20(月) 00:49:56.16 ID:4mN8rUtH0
長い長い沈黙。

その空気を破るように、静かにだけど聞き逃す事の出来ない言葉を彼女は言う。




マドカ「あなたは、その親友を大切になさい…」


さやか「え…?」


マドカ「人は自分が思っている程強くは無い。

    一人で良いと言い聞かせて突き進んでも、結局は理解してくれる誰かといなければ折れてしまう弱い生き物なのよ…」


マドカ「だから…、自分を理解してくれる人間は大切になさい。

    人間、何時どこでどうなるかもわからない事だし…ね」


さやか「マドカさん…」


マドカさんの言う事はよくわかる…。

さっき杏子に言った事のそれと根本的には同じ事だから…。

それは誰よりも理解してるつもり…。



だけど…。

あたしは…。
465 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/20(月) 00:52:52.79 ID:4mN8rUtH0
マドカ「それに、私と同じ名前の子なんて、良い子に決まってるのだから…!」



深刻な表情から一転して、いつものマドカさん節に戻る。


無茶苦茶な論理だ…。

自分と同じな名前だから『良い子』っておいおい…。

だけど、それはこの人なりの気遣いなんだろうか…。





さやか「ありがとうございます。マドカさん」


マドカ「それを私に言ってどうするの…。その子に言ってあげなさいって言ってるのよ」


わかってる。

でも…。


まどか。

あの子とはもう会えないかもしれないから…。

だから、せめて…。




代わりに言った、その『言葉』に力を込めた…。
466 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/20(月) 00:53:34.14 ID:4mN8rUtH0
さやか「ない………」



呼ばれてしまったので、なんだかんだで食べられなかったホットドッグ。

あたしはそれを食べるつもりで戻ってきたんだけど…。




テツヤ「……………ほら、俺の事情は知ってるだろ?」


ワコ「………………ごめんなさい。私も結構食べちゃいました」


タクト「『食うかい?』って勧められて美味しかったんでつい…」


スガタ「……………僕も、二つほど頂いた」


ジョージ「俺も…………」



みんな視線を反らしてバツが悪そうにしてる…。

だけど、こんな事をする奴は一人しかいない…。
467 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/20(月) 00:54:45.74 ID:4mN8rUtH0
さやか「あんたはッ…!」



杏子「あぁ? さやかの好物だったのかぁ?

   知らずにみんなに勧めちまったよ」


ニヤけた口元から八重歯が見える。

さっきの問答をしながら、コイツがあたしの事情を知らない訳もない…。

その小憎らしいニヤケ面は明らかにあたしに対する当てつけだ…。





前・言・撤・回!!!!


コ・イ・ツは〜〜〜!!!

コイツだけはぁ〜〜〜〜〜〜!!!!!!
468 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/20(月) 00:55:38.64 ID:4mN8rUtH0
さやか「お前だけは絶対に許さないッ!!!!」


杏子「アハハハハハハ…って痛ッ! てめぇ本気で殴ったな!!」


スガタ「お、おい! さやかっ!」

ワコ「さやかッ! ダメッ!!!」



テツヤ「俺知〜らね…」

タクト「いや、先輩の責任は結構重いでしょ…」


ジョージ「あの女に会う前に早く帰りたい…」ガクガクブルブル



賑やかな喧騒に包まれて…。

平和な夜は更けていく…。
469 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/20(月) 00:58:52.44 ID:4mN8rUtH0
っし。
今日はここまで。
次書いてる所が終わるとその先のストックはちょっぴりあったりするけど
基本追い付いちゃってるので、投下ペースは下がるかも…。
とりあえず、次回は明後日(正しくは明日だけど)の夜を予定


それでは、本日は閉会とする。

佐倉杏子に栄光を…!
美樹さやかに祝福を…!

綺羅星☆
470 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/06/20(月) 01:56:33.02 ID:J5gLLEe8o
乙星☆
471 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[sage]:2011/06/20(月) 07:58:13.37 ID:cN91negXo
綺羅星☆

杏子もだいぶ馴染んでるなw
ところでタカシってこのころ、まだおとな銀行に所属してたっけ?
まだ17話じゃないからいるのか
472 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)[sage]:2011/06/20(月) 10:00:34.46 ID:MCBkSBBAO
乙星☆
ヘッドがおとな銀行に行っても監視できるて言ってたからタカシまだ銀行に居んだろうね
473 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/06/20(月) 20:23:15.77 ID:TAviAu/SO
乙。日常パートはいいな。何となく杏子にはゲームオリジナルサイバディを使って欲しい。
474 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 21:33:39.78 ID:zZAfz8MU0
綺羅星☆
ぼちぼち投下します
久々に調子よく書けてますので、今しばらくの更新は大丈夫そう
ちょうど今日落とす辺りがもっとも苦労した…


>>470
ありがと〜

471
説明不足だから次に少し台詞足しておいたけど…
基本的に16話以後の事件で書いてない事は、起きてないと見てくれていいっす
ただ、正しくは16話終了後と言うよりは17話直前だからマドカやタカシもあっちよりと見てくれれば

>>472
乙星
その通りです。タカシは銀行にいます
ぼちぼち動き始めます

>>473
難産してるだけあって、褒められると励みになります

オリって青いタウだっけ?
知らない事には使いようがないが…
今からゲーム買ってきてやると更新がガタ落ちになりそうだし
スティックスターさせようにも、黄星剣もさやかにあげちゃったしなぁ…
475 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 21:35:44.55 ID:zZAfz8MU0
朝の陽ざしの指すどこかの部屋。

様々な装置に繋がれて眠る男が一人…。


そして、その男に処置をしている白衣を着た灰髪の医者らしき男が一人。

近くにある椅子に無気力に腰掛けてる青年が一人…。




???「やはり、こうなってしまいましたか…」


???「それは仕方がない。シルシを失えばこうなる事はわかっていたさ…」


???「しかし、よろしいのですか…?」


???「いいさ。シンゴもそれを望んだ…。

    だから、その装置は絶対に切るなよ」


???「確かに装置を切らなければ、以前のように眠り続けるだけですが…」


???「アイツは夢を見続ける事を望んでいた。

    だから、そのまま寝かせ続けてやってくれ…」
476 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 21:37:20.53 ID:zZAfz8MU0
忙しく処置を続けながら喋る医者と、無気力に椅子に座り動きもしない青年。

その会話の内容はそこで眠り続けている男の事だが、話はそこで終わってしまった。


会話を続けたい…と言う雰囲気には間違っても見えない青年の方が再度話を切り出す。




???「君が長年育てたシステムが完成したそうだね…」


???「未だ実証実験の段階ですが…。ヘーゲントを使わせていただきます」


???「……システムが完成しても第四フェーズになると言う訳ではないんだろう?」


???「勿論フェーズそのものが上がる訳ではありません。巫女の封印を破る訳ではないのですから…。

     ただ、理論上はサイバディを第三フェーズ以上のコンディションに引き上げる事は出来る筈です。

     言わば3.5フェーズと言った所でしょうか…?」


処置を終え、機器を眺めつつようやく椅子に座った医者が続ける。
477 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 21:42:36.03 ID:zZAfz8MU0
???「最も、ドライバーにはかなりの危険が伴いますが…」


???「ウインドウスターは自分から志願したんだろう? なら好きにすればいいさ」


???「私が言うのも何ですが…。何故そのようなリスクを侵すか不思議です。

    スタードライバーのメンタリティは時として理解できない事がある…」



今まで寄りかかるように無気力に座っていた男が、起き上り、その椅子にかけ直す。

さっきまでの死んだ目とは打って変わり、その目には決意か何かが灯っている…。



???「より強い力に惹かれる。強くなりたいと思う。それは不思議でもなんでもない事だ…。

    俺だってそうだ…。ただ、強い力を手にする為だけに色んなモノを失ってきた…」
478 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 21:43:19.21 ID:zZAfz8MU0
思いだされるあの光景…。



かつて愛した人と過ごすあの満たされた日々…。

夕陽に映しだされる彼女は眩しくて…。

そんな彼女を描く、最も満たされていた時間…。



??『ねぇ、トキオ…? 今度はどんな私を描いてくれるの…?』


???『勿論今までで一番綺麗な君を描く…。

    だから、今までで一番綺麗な君を見たいな…?』


??『ふふ…。ちゃんと、鍵は閉めたんでしょうね…?』
479 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 21:44:17.99 ID:zZAfz8MU0
知らずに自分の心を癒す、無垢な少女との思い出…。

襲撃者である筈の俺に懐き、傍で笑ってくれた儚い少女…。

そんな彼女と見たこの島の景色…。




???『うわ〜、雪だ〜♪』


???『これは火山灰だよ。この島に雪は降らない…』


???『良いの。これは雪なの!』


???『そう。君がそう言うならそれで良い。

    俺達二人の世界を包んでくれる…。これは雪なのだと…』



幸せだったと思う。満たされていたと思う…。








だが、捨てた。
480 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 21:45:05.36 ID:zZAfz8MU0
『サヨナラ』




愛した人と過ごす素晴らしい日々を…。

優しい少女がくれた温もりを…。

居心地の良い日々を…。



何もかも捨ててきた…。

たった一つの事に固執して…。



それが正しかったかは今でもわからない…。

だけど、もう戻れはしない…。

だから、進み続ける…。
481 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 21:46:01.99 ID:zZAfz8MU0
???『だが、本当に強い力を手に入れれば失った全てを手にする事が出来る!

    いや、取り戻してみせる…!』


もう少し…。

もう少しなんだ…。

後はあの邪魔な奴らが消えれば…。

俺はあの日々に…。



決意はある。

力も手に入れた。

足りないのは、それを実行に移す『機会』。


だから、待ち続ける…。

望む『これから』を手にする日を夢見て…。
482 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 21:48:00.38 ID:zZAfz8MU0
綺羅星十字団『科学ギルド』某施設。


仮面の女が二人。そして、その後ろに仮面の少年が一人…。

女達は機器と映像を見るでもなく、それがある辺りの宙を眺める。

そして、少年は二人の女を鋭く見つめる…。




ウインドウスター「……………」


ニードルスター「………………」


バンカー(サイバディ復元にはドライバーに死のリスクが伴うのに…。彼女達は全く恐れていないように見える…)




プロフェッサー・シルバー「お待たせしました…」


ニードルスター「で、うまく行ったのか…?」


バンカー(まぁ成功したんだろう。しかし、彼女達はともかく『バニシングエージ』や『フィラメント』の連中まで復元を行い、成功させてる)
483 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 21:48:53.37 ID:zZAfz8MU0
ここの責任者であろう。

他の作業員達とは格好の違う灰髪の仮面が仲に入って来て説明を始める。


プロフェッサー・シルバー「はい。サイバディ『コフライト』の復元は完璧です。

             生命の危険があるのに躊躇うことなく復元シーケンスに身を投じるあなた達には感服致します…」


バンカー(確かにデータも集まって幾らか成功率は上がっているんだろう。だが、それでも命を使った賭けなんて危険で愚かな行為だ…)




ニードルスター「ウインドウスターのサイバディは何に手間取ってるの?」


プロフェッサー・シルバー「ヘーゲントには…、私の作ったシステムの性能実験に協力していただいておりまして…」


ウインドウスター「奴らに勝つ為の新しい玩具よ。それで何時遊べるのかしら?」


プロフェッサー・シルバー「システム自体は完成しておりますので…。後は最終調整に四日ほど頂きます」
484 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 21:50:01.72 ID:zZAfz8MU0
ニードルスター「そのシステム、危険は無いんだろうな…?」


プロフェッサー・シルバー「それは…」



ウインドウスター「良いのよ」


ニードルスター「………しかし!」


ウインドウスター「良いの。…………ありがとう」


仮面の女の一人に凄まれ、居づらくなったのだろう。

作業に戻りたいとの名目で灰髪の仮面は作業者の中に混じる。




ニードルスター「時々君が遠くなる」


ウインドウスター「…?」


ニードルスター「カナコの事も夕べ始めて聞かされた」


ウインドウスター「あら、妬いてるの…?」


バンカー(こいつらは確かに狂人だ。だが、狂ってるとしか思えない行動をした人間がもう一人…)
485 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 21:51:21.88 ID:zZAfz8MU0
仮面の女同士の話はそれまでの重苦しい雰囲気を少しだけ変える。


だが、少しだけ和やかになった雰囲気もすぐに崩れる。

もう一人の仮面の女は、その狂気を抑えきれていない…。



ウインドウスター「連中はいつも相手のドライバーの安全に配慮しているわ」


ニードルスター「屈辱だ…」


ウインドウスター「そうね。でも、そうできる強さが奴らにはある。

         ただ、サイバディを直すだけじゃダメ! だからこそ…!」



バンカー(成功すれば綺羅星の実権を握れる筈だったクーデター…)


バンカー(しかし美樹さやかの出現により、実行後の戦力低下が致命的になりかねない事から計画は頓挫)


バンカー(僕との接触、彼女達の引き抜きはできたから無意味とも言えないが、結局所属機は悉く撃破され、ますます立場を失っている…。だが…)




バンカー(そもそも彼は何故価値あるモノをむざむざ捨てた? 狂ったか自棄になった? いや、違う。彼からは未だに余裕さえ感じる…)


バンカー(安全、か…。あの人を深く調べるには、それを少し捨てなければならないか…?)


各々の思惑は交錯する。

狂気の宴はすぐそこに迫っていた…。
486 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 21:52:31.08 ID:zZAfz8MU0
────────

────

──


さやか「珍しいなぁ、今日はあたしの方が早いのか…」


アレから、綺羅星十字団は攻めてきていない。

そして、綺羅星以外にもこれと言った事件は起きなかった。

なんで、ここ数日のあたしは普通に学校に通い、四人で過ごしたり、特訓したり、遊んだり、とこれと言って変化のない日々を過ごした。


そして、今日は部活がないから校門前で集合。


だった筈なんだけど、今日は何時も先に来てる筈の三人の姿が見えない。

あたしのクラスの担任は話がやたらと長いので、あたしの方が待ち合わせに早く来ると言う事態はまずないんだけど…。





???「おっ。居た居た」


さやか「あっ。こんにちは。部長さん」


三人の代わりにやって来たのはエンドウ・サリナさん。

タクトさん達の所属する演劇部の部長さん。

サイバディ関係の事情も知ってて、そっちの相談役もやってる明るくて気さくな人。

勿論、あたしも面識がある。
487 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 21:53:33.17 ID:zZAfz8MU0
副部長「きゅきゅきゅ〜、きゅ♪」


さやか「おっ、副部長。今日はさやかちゃんに甘えちゃいますか〜?」



サリナ部長の頭に居た狐っぽい生物があたしの胸元に飛んできたので、受け止める。

この生き物は副部長。

謎の生物って言う点は変わらないけど、どこかに居たしれっと喋る白いのと違って、人畜無害で人懐っこい可愛い子。



部長の話だと見込みのある子にしか懐かないって話なんだけど…。

何の見込みかわからないから、結局喜べなかったり。

副部長に好かれるのは悪い気はしないから良いけどね。


こうして副部長は時折甘えてやって来るので、そんな時は抱えてやったり、頭に乗せたりする。
488 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 21:54:44.66 ID:zZAfz8MU0
サリナ「あぁ、そうそう。今日はこっちの都合で部活いれちゃったんだ〜。ごめんね」


さやか「そう言う事ですか。誰も来ないと思った…。

    じゃあ、あたしもいつも通り見学に…」


サリナ「ん〜。雑用を命じただけだから、来ても大して面白くないと思うよ。

    時間もそうかからないと思うし、副部長と『EATER』でお茶でも飲んでて。

    私も後で一緒に行くし、奢りって事にして良いからさ」


サリナ(最も、奢るのは私じゃないだろうけど…)



『EATER』

タクトさん達演劇部のみんながよく利用する喫茶店。

部長が居る時の集まりが部室で成されない場合、そこに行くのが通例になってたりする。


雑用ならあたしも手伝えそうに見えるけど、残念ながら手先の器用さはあんまり自身がなかったり…。

部長さんもこう言ってるし、足引っ張るのもなんなので先にそこへ向かうことにした。
489 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 21:56:49.33 ID:zZAfz8MU0
さやか「こんにちは。マスター」


マスター「おっ、さやかちゃ〜ん♪」


副部長を抱えたまま、お店の中に入る。

もう数回行ったお店だから、あたしにとっても馴染みのお店。

マスターも良い人だし、ペット?同伴も可能と、つくづく至れり尽くせりなお店だと思う。


とりあえず座って、メニューを眺める。

何か頼んでそれを飲みつつ、後は窓から見える景色でも見てるか、副部長と遊んで時間を潰そうと思ったんだけど…。
490 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 21:58:02.94 ID:zZAfz8MU0
マスター「お待たせしました…」


さやか「え…? まだ何も頼んでないですよ…?」


まだ何も注文していないのに、何故か目の前にアイスココアが置かれる。

勿論、注文を指さしてマスターに質問する。




マスター「当店からのサービスで御座います」


さやか「でも…」


マスター「良いって、良いって。遠慮しないで〜。

     その代わり、今後ともよろしくね? さやかちゃん♪」


悪いような気もしたけど、こう言う時に必要以上に断るのはもっと悪い気がして、素直に受け取る。

その代わり、と言ってはなんだけど可能な限りの笑顔でお礼をした。



さやか「ありがとう。マスター」


マスターは何故か嬉しそうな顔をして、盆を持っていない右手で小さくガッツポーズすると、そのまま厨房の方へ戻っていった。
491 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 21:58:38.85 ID:zZAfz8MU0
さやか「ココア…か」


ここ最近色々あって思いだす親友。

テーブルの上で不思議そうな顔をした副部長を軽く撫でる。

物憂げな表情が出てしまったんだろう、カウンター越しに心配そうにするマスターに空元気の笑顔を送りつつ手を振ると、

あたしはあの子の事を思い出していた。



今度こそ…。

ゆっくりと…。
492 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 21:59:36.82 ID:zZAfz8MU0
鹿目まどか。

ココアは彼女の好物で、実際にあの子のお父さんが淹れてくれるココアは凄く美味しかった…。




そんなあの子と初めて会ったのはクラス替えの時。

親しかった友人と一緒のクラスになれず、一人不安そうにするあの子に声をかけたのがきっかけだった。



さやか『鹿目さん、だよね?』


まどか『え、え…と』


さやか『そんなに怯えないでよ。とって食ったりはしないから』


まどか『あ、はい…』


さやか『………嘘』


まどか『え…?』
493 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 22:00:25.67 ID:zZAfz8MU0
さやか『さやかちゃんはとっても悪い子だから、お前なんか食べちゃうのだ〜!』


まどか『ひ、ひぃぃ!!!』


所詮冗談に、思いっきり怯えきった表情をするまどか。

可愛くて、可笑しくて、そのまま腹を抱えて笑った。




さやか『あはははははははははははは!!!

    たかが、冗談で、そんなに…、怯えなくても…!!!』


まどか『ひ、酷いよ。そんなに笑わなくたって…』


さやか『だ、だってさ…! あははははははは…!!!』


まどか『………む〜』


さやか『はははは、はっ〜…………………ふぅ。

    やっと緊張が解けてきたんじゃない?』


まどか『え…? あ…』
494 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 22:02:38.64 ID:zZAfz8MU0
目の前で人目を気にせず爆笑するあたしの横で剥れ面をしたまどかは、緊張が抜けてすっかり自然体になった。

半分は結果オーライだけど、それでもようやく警戒を解いてもらえた。




まどか『………ありがとう。え〜と…』


さやか『さやかだよ。美樹さやか』


まどか『うん。ありがとう。美樹さん』


さやか『………なんか嫌だな。それ。しっくり来ない』


まどか『え…?』


さやか『あたしもアンタの事はまどかって呼ぶからさ。まどかもあたしの事はさやかって呼んでよ?』


まどか『………うんっ。よろしくね。さやかちゃん…!』
495 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 22:04:11.35 ID:zZAfz8MU0
これがあの子との始まり。

それからはずっと一緒だった。



まどか『ありがとう。さやかちゃん…』

すごく可愛い子で…。



まどか『えへへっ…。 そんな事言われても困るよぉ…///』

笑い方が少し独特で…。



まどか『う〜ん…。クリームシチューとぉ…。そうだっ、お父さんの淹れてくれるココアが好きだよっ』

好物はクリームシチューとお父さんが淹れてくれるココア…。



まどか『ひゃあぁっ! さ、さやかちゃん…。脅かさないでよ〜〜』

ちょっぴり臆病で…。

だけど…。
496 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 22:05:16.73 ID:zZAfz8MU0
あれは何時だっただろう…。

酷い雨の日で…。

荒れた川で、箱ごと猫が流されていて…。




さやか『だから、仁美が誰か連れてくるまで待ちなって…』


まどか『でも…。あ、箱が潰れちゃった…!?』


さやか『くっ…』


まどか『死んじゃう…』


さやか『まどか…?』


まどか『猫さん…、死んじゃうよぉ…』
497 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 22:07:21.82 ID:zZAfz8MU0
あの子、見ず知らずの猫の為に本気で泣いてて…。

その時に思った。

この子は誰よりも優しい子なんだって…。



さやか『わかった…。なら、あたしに任せてっ』


まどか『さやかちゃん…? 駄目だよっ!』




さやか『行く…! まどかの泣き顔見たくないしっ…!』


まどか『さやかちゃんッ…!!!!』



結局、あたしはあの子の涙に流されて、増水した川に飛び込んだ。

結果は、酷い『若気の至り』って奴になっちゃったけど。


増水した川を自慢の泳ぎで掻き進み、猫をどうにか抱えたまではよかったんだけど…。

そこから戻る前にあっぷあっぷになっちゃって…。

そこへ仁美…、もう一人の友達が連れてきた大人の人達がやってきて、あたしごと猫は救出された。
498 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 22:08:10.96 ID:zZAfz8MU0
まどか『ぐすっ…、ぐす…』


まどか『ごめんね…、さやかちゃん…』


まどか『私の…せいで…』


わかってる…。

この泣き顔はあの時のあの子の泣き顔だ…。

あの時の謝罪の様子…。



だけど、所詮思い出の筈のそれはやけに鮮明で…。

あたしの心を絞めつけてきて…。
499 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 22:08:50.41 ID:zZAfz8MU0
『ごめん…』

『ごめんね…』

『ごめんなさい…』



なんで、まどかが謝るの…。

謝りたいのは…。


あたしの、方なのに…。




『さやかちゃん、ごめんね…』

『さやかちゃん…』

「さやか…!」



「さやか!!!!!」
500 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 22:11:20.47 ID:zZAfz8MU0
あたしを呼ぶ誰かの声。

それと同時に覚えた妙な気配に目を覚ます。


あたしは知らずに眠り、あの子の夢を見ていた…。

そして、それを起こしたのは…。


ゼロ時間に入った時に感じる妙な気配と、あたしを呼ぶタクトさん達の声だった…。





さやか「あ……?」


タクト「さやか………。大丈夫?」


棒立ちするあたしを庇うようにタクトさんが立つ…。

いつもならしない行動、そして大丈夫?の意味…。

あたしが寝ぼけていたから…?
501 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 22:11:54.54 ID:zZAfz8MU0
さやか「これ…、あたし泣いてるの?」


ようやく、その意味がわかる。

自分の頬を何かが伝うのがわかり、あたしは知らずに涙していたのがわかる。

タクトさん達は、泣き面をしたあたしを気にかけてきてくれた…。



本当はこんな気持ちのまま戦闘ってのはまずいんだろうけど…。


ワコ姉の優しさに触れて大丈夫と言い聞かせ…。

結局そのワコ姉にも頼らず、打ち明けずにおいた気持ちが最悪の状況で溢れてしまった…。


そして、さすがにこんな状況でタクトさんやワコ姉に打ち明ける訳にもいかない…。




さやか「アプリボワゼェェェェェェ!!!!!!」


気を引き締めないと…。

泣いたって、寝てたって敵は待ってはくれないんだから…!

涙を拭いながら、レシュバルを呼び出し、乗り込む。
502 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 22:13:30.06 ID:zZAfz8MU0
ゼロ時間にはレシュバルとタウバーンが立つ。


泣き面に蜂とはよく言ったものだと思う。

現れた敵のサイバディはコフライト…。

そして…。




ワコ「何、あれ…」


スガタ「………敵の新たなサイバディか?」


サイバディよりも巨大な、棺のような形をした何かがそこにはある…。

薄気味悪さを感じるそれは、やがて動きだし、パズルか何かのようにバラけて、消えていく…。


そして、パズルのように消えていく棺の破片の中から出てきたのは…。
503 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 22:14:26.19 ID:zZAfz8MU0
さやか「なんで……!?」


マドカ「絢爛登場! オーバーフェーズ!!! ヘーゲント!!!!!」



へーゲント。

確かに纏った衣装のそれはへーゲントのそれに酷似している。

だけど、その姿は間違いなく…。



あのマドカさん…。

ケイ・マドカだった…。
504 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 22:16:52.26 ID:zZAfz8MU0
マドカ「悪くないわねぇ…!

    あぁ…! リビドーが溢れてくる! 凄い良い気分…!!!」


さやか「マドカさん…、なんで…?」


マドカ「簡単よ…。ヘーゲントに乗っていたのは最初から私だった…。それだけの事よ…!」




サイバディの大きさに巨大化した人間…。

いや、人がサイバディになったのか…。

美しさと威圧感を併せ持つその存在は、紛れもなくあのケイ・マドカさんで…。




でも、この人は…。

やり方は少しおかしいけれど、あたしを慕ってくれて…。

そして、言ってくれた。

友人を…、まどかを…、大切にしろって…。
505 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 22:19:35.61 ID:zZAfz8MU0
さやか「なんで…? 今までのはずっと…」


マドカ「私はあなたに興味があるの…! そう! 強くて美しいあなたに…!!!」


さやか「じゃあ、この間の…! この間の言葉も嘘だったんですか!?」


マドカ「あれも本当よ。……………だから、時間は十分に与えた!」


さやか「時間って…」


マドカ「お遊びの時間はもうおしまいなのよ、美樹さやか…!

    どうしても死にたく無ければ、このヘーゲントをどうにかするしかないッ!」



マドカさんの表情は活き活きしていた。

ただ、その表情には怖気を誘う狂気が現れている…。


あたしをからかい、そして忠告をしてくれた…。

傲慢で強引だけど、どこか憎めないあの人の本性…。



それは戦いを追い求める狂人だった。
506 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 22:20:40.54 ID:zZAfz8MU0
マドカ「スターソード!!! ペルル!!!!」


さやか「相手するしかないの…?

    スターソード、スィトリンヌ…」


互いにスターソードを抜く。

戸惑うあたしとは裏腹に、意気揚々と剣を抜き、襲いかかる彼女…。





マドカ「どうしたの!? 最初の時のあの威勢の良さは! あの美しさと強さはどこへ行ったの!?」


さやか「ぐっ…!?」


混乱と弱気…。

対して、この戦いを待っていたかのように狂気に酔った敵…。



サイバディの戦闘ではリビドーの強さが物を言う…。

最低な状態のあたしと、最高の状態の敵…。


その差は歴然。

何時かとは逆に、あたしは一方的に繰り出される剣をただ受け続ける…。
507 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 22:21:36.33 ID:zZAfz8MU0
今まで綺羅星十字団を圧倒していたレシュバルを逆に圧倒する『オーバーフェーズシステム』。

ゼロ時間に浮かび、それを眺める者達…。

狂気の宴の観戦者達は何を思うのか…。



プロフェッサー・シルバー「素晴らしい! これが第三フェーズ以上のサイバディだ!!!」


バンカー「人がサイバディになるんですか…」


プロフェッサー・シルバー「そうです。第三フェーズはサイバディが人に乗り込む。

              対し、このシステムは人とサイバディが完全に一体化する事が特徴と言えますね」


バンカー「より操作感やサイバディのコンディションを向上させ、ドライバー当人の能力もより発揮される…ですか」


プロフェッサー・シルバー「自分が『サイバディになる』に等しいですからね。

              サイバディの性能をより深く引き出せるのは勿論、搭乗者自身の身体能力もより発揮されますよ。

              もっとも、サイバディで再現できないような身体能力の持ち主などいないでしょうから、そこに意味はありませんが…。

              結局サイバディでの戦闘と言うのは、搭乗者の身体能力よりリビドーの強さに左右されている傾向が強いですし…」


バンカー「これを第二フェーズに組み込めばどうなるんですか?」


プロフェッサー・シルバー「勿論システムは適用され、3.5フェーズと言えるこの状態に出来ます。

              それに対する弊害は無いのですが…」
508 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 22:22:53.93 ID:zZAfz8MU0
スカーレットキス「チッ…。成金野郎と電波野郎が作ったよくわからん物に押されやがって…」


杏子「あの馬鹿。滅茶苦茶動きが悪い…。なんか迷ってやがるのか…?」




スピードキッド「おいおい…。あの頭のイカレたウインドウスターに任せておいたら、あのお嬢ちゃん本当に死んじまうぞ…」


レイジングブル「敵同士だ…。仕方ねぇよ…。だが…」




杏子「あんの馬鹿野郎が…。なんで、アタシが出てない時にそんなトーシロみたいな動きしてんだよッ…!」


スピードキッド「心配なのはアイツだな…」

レイジングブル「あぁ…」


スカーレットキス「………フン」
509 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 22:24:59.27 ID:zZAfz8MU0
頭取「高く付いただけあって、大したモノじゃない…」


セクレタリー「心にもない事を…」


頭取「………それ自体は本心よ。私も綺羅星十字団のメンバーとして、銀河美少年を倒す必要は感じている。

   だからこそ、このシステムにも出資した…」

頭取「ただ、タイミングが悪すぎた…。いえ、良過ぎたとでも言えば良いのかしら…」


セクレタリー「あの女の手あれが渡ってしまった…。しかもシステムの問題点を改善する間もない、事実上の実証実験の今戦闘で…」


頭取「渡したくなかった…。あの子にだけは…。

   そして、彼女のあの様子…。『最高』の戦果を覚悟しなければならないわね…」



頭取(あの子の貪欲さには理由がない。純粋に刺激的な何かを求め続けてる…、破壊に繋がる危険なリビドーだわ…)


頭取(リビドーがサイバディを動かすのなら、あの子は後に世界を揺るがす存在になる…)
   

頭取(だから野放しにはできない…。そう思っていたけれど、あの子は『バニシングエージ』と繋がって私を出し抜いた…)


頭取(私の手を離れたあの子はあのシステムに手を出した…。そして、その姿はやはり…)




バンカー「モンスターだ…」
510 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 22:27:05.98 ID:zZAfz8MU0
マドカ「どうしたのかしらッ! いつかの威勢はッ…!」


さやか「っ…!」


重い…。痛い…。苦しい…。

あたし、今日まで戦ってきたのにこんなことすら満足に感じてなかったのかな…。





マドカ「よろしくないッ! よろしくないわねぇッ! 美樹さやかッ!!!」


さやか「う…ぐ…」


辛い…。目眩がする…。息ができない…。

あはは…。なんで今までこんな事やってこれたんだろ…。




マドカ「この私を失望させるなッ!!!!!!」


失望…か。

失望したよね…。

こんな、あたし…。
511 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 22:29:44.28 ID:zZAfz8MU0
あたし達の目の前でマミさんは死んだ。

その場にはあたしだけでなくて、まどかも居た。


魔法少女になって、魔女と戦う事…。

それがどれだけ恐ろしいか…、あの子もわかってた筈だった…。

なのに…。




まどか『あのね、私、何もできないし、足手まといにしかならないってわかってるんだけど…』


まどか『でも、邪魔にならないところまででいいの。

    行けるところまで一緒に連れてってもらえたらって…』


あの子はこう言ってくれた。

一人で戦うあたしを気遣って…。

怖い筈なのに、一緒に居るって言ってくれた…。



なのに、あたしは…。
512 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 22:30:23.42 ID:zZAfz8MU0
今でも鮮明に思い出せる…。

後悔しないと言ったあたしが、『すでにした後悔』。

今の行いを後悔しないと誓っても、過去にしてしまったこの事だけはずっと今でも心に引きずり続けてる…。




まどか『さやかちゃん…あんな戦い方、ないよ』


まどか『痛くないなんて嘘だよ。見てるだけで痛かったもん。感じないから傷ついてもいいなんて、そんなのダメだよ』


さやか『…ああでもしなきゃ勝てないんだよ…。あたし才能ないからさ…』


まどか『あんなやり方で戦ってたら、勝てたとしても、さやかちゃんのためにならないよ』



魔法少女の肉体はただの入れ物に過ぎない。

だから、やろうと思えば痛覚を完全にOFFにして、痛みを遮断する事が出来る。

この時のあたしは…、自棄になってて、魔女と戦った際にわざと自分を傷つけて戦った…。

あの子はそんなあたしを心配してくれたのに…。
513 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 22:31:41.89 ID:zZAfz8MU0
さやか『あたしの為にって何よ』


まどか『えっ?』


さやか『こんな姿にされた後で、何があたしの為になるって言うの?』


まどか『さやかちゃん…』


さやか『今のあたしはね、魔女を殺す…! ただそれだけしか意味がない石ころなのよ。

    死んだ身体を動かして生きてるフリをしてるだけ。

    そんな私の為に、誰が何をしてくれるって言うの? 考えるだけ無意味じゃん』


まどか『でも私は…、どうすればさやかちゃんが幸せになれるかって…』



文字通り自暴自棄。

心配してくれる親友の前で、その優しさを踏みにじる…。

この時のあたしが目の前にいるんなら、ぶっ飛ばしてやりたいくらい最低な行為…。
514 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 22:32:16.94 ID:zZAfz8MU0
さやか『だったらアンタが戦ってよ…!』


まどか『え…?』


さやか『キュウべえから聞いたわよ。アンタ誰よりも才能あるんでしょ?

    私みたいな苦労をしなくても簡単に魔女をやっつけられるんでしょ?』


まどか『私は…そんな…』


さやか『あたしの為に何かしようって言うんなら、まずあたしと同じ立場になってみなさいよ!

    無理でしょ? 当然だよね…。ただの同情で人間やめられるわけないもんね…?』


まどか『同情なんて…そんな…』


さやか『何でも出来るくせに何もしないアンタの代わりに、あたしがこんな目に遭ってるの!

    それを棚に上げて、知ったような事言わないで…!!!!』
515 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 22:33:16.03 ID:zZAfz8MU0
挙句の果てにあたしは、あの子の魔法少女の才能を妬んだ…。

上手に戦う努力も工夫もしない…。

人の言葉も忠告も聞かない…。

それだけでも最低なのに…。



この道を自分で選んだにも関わらず、選んでいないまどかに才能があるからって八つ当たりした。

棚に上げたのはあたしの方。

こんな目に合ったのは、安易に奇跡を叶える道を進んだ自分自身のせいなのに…。
516 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 22:34:00.06 ID:zZAfz8MU0
謝りたい…。

でも、もう会えない…。

あの子は向こう側の世界にいるから…。


いつか会える…?

でも、その時まで魔法少女であるあたしが保っている保証は…?



考えても、考えても、答えはでない…。

出る筈もない…。

最適解は見えているのに、それを叶える事は絶対に出来ないんだから…。




これに関しては『後悔しない』事を選んだんじゃない。

そう、『後悔している』のに蓋をしたんだ…。

それと向き合うのが怖かったから…。

あの子に許されない事、謝罪する事を諦めるのを認めたくないから…。


だから、ワコ姉に言われても、タクトさんに言われても、この蓋だけは開け切れなかった…。
517 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 22:35:09.98 ID:zZAfz8MU0
っし。
ちょいと小休憩。
15〜20分後に再開予定です

綺羅星☆
518 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 22:52:01.46 ID:zZAfz8MU0
倒れたレシュバル。

スターソードは明後日の方向に転がっている。

そのレシュバルに彼女が飛びかかる…。

馬乗りになったマドカは、人のモノとは思えない握力で首を絞め、右手でスターソードを構えている…。




タクト「そこを退け…!」


ニードルスター「断る…」


タクト「何故そうまでする…? あの女の為にお前がそこまでする理由はなんだ…?」


ニードルスター「ふふ…。言うまでもない…。私は騎士だ…。

        自らが守りたいと思う者の為に戦う…。そこに大層な理由などいらん…!」
519 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 22:53:37.28 ID:zZAfz8MU0
シルシを持つ騎士の家系に生まれ、私は何不自由なく育った。

生まれながらにして天才だった私は、早々に先代当主を倒してシルシを奪い、生きる目的すら見失った。


そんな退屈しきった私の前に現れたのが彼女だった…。





マドカ『若くして、アタリ家の当主を倒し、シルシを受け継いだその実力…。

    あなたなら、私を満たしてくれるのかしらッ…!!!!』


空っぽの私でさえ、一目でわかった。

彼女は歪みきっていた…。

見ているだけで苛立つそれを、排除しようと珍しく躍起になった…。

しかし…。
520 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 22:54:22.06 ID:zZAfz8MU0
マドカ『やるじゃない…! 良いわぁ…!!! 興奮するッ…!!!

    最高よ…! 命のやり取りは…!!!』


コウ『…………!』


私は彼女に勝てなかった。

本来なら誇りを失った私は落ち込むなり、悔しがるなり、あるいは自害したりすべきなのだろう…。



だが…。

私はようやく満たされた…。

戦いで得た高揚感とスリルに…。


そして、それ以上に魅せられた…。

強く、気高く、美しい『彼女の戦い』に…。

私の持っていなかった『感情』を与えてくれる『彼女自身』に…。
521 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 22:55:42.49 ID:zZAfz8MU0
私が戦う理由は一つ…。

ただ、ひたすらに戦いだけを求める強い『彼女自身』と『彼女の戦い』を守る…。

戦いの中でより深みを増していく彼女の強いリビドーを見続ける為に…。

そして、そんな彼女が時折見せる人間らしい一面を潰させない為に…。



私は彼女が望むなら、どんなことでもするし、どんな敵からも守ろう…。


彼女の狂気に満ちたリビドーだけが…。

彼女の中に垣間見える人間らしさだけが…。

彼女の存在だけが…。

私の退屈を紛らわしてくれる…。私に生きる理由をくれる…。



歪んでいて結構。

それならば、その歪みこそが今の私の生きる目的だ…。
522 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 22:57:58.15 ID:zZAfz8MU0
マドカ「よろしくないわねぇ…」


さやか「……………」



意識が遠のいていく…。

遠くで誰かが何か言っているけど、よく聞こえない…。

目の前にいる敵の声だけが強く響く…。



マドカ「もう良いわ…。あなたを殺して今度はタウバーンと遊ぶから!」


さやか「……………!」



タウバーン…。

タクトさん…。

どんなに弱ってもその言葉だけは響く…。



あはは…。

情けない…。

これじゃ、いつかと同じじゃん…。



あたし、何やってんだろ…。
523 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 22:59:23.39 ID:zZAfz8MU0
スガタ『剣技に関しては僕が責任を持って教える…』


普段は紳士で、稽古の時は厳しくて…。

頼りになるスガタ師匠…。



ワコ『うん。ワコ姉にど〜んと任せなさい! さやか!』


いつも自然体で、面倒見が良くて…。

だけど、巫女としての使命を忘れないワコ姉…。



タクト『よく、頑張ったね…』


優しくて、強くて…。

こんなあたしを救い、認めてくれたタクトさん…。



皆の為に頑張るって言ったのにさ…。

いつまで引きずってるんだろ…。
524 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 23:00:55.28 ID:zZAfz8MU0
まどか『ごめんね…』




あたしこそ『ごめんね』。


あたしさ…。

こっちの世界にも大事な人達が出来たからさ…。

だから…。



まどか…。

アンタへの想い…。

断ち切るね…。


酷い事言ったのにごめんね…。

身勝手でごめんね…。

本当にごめんね…。


だけど、もしももう一度会えるなら…。

その時は…。
525 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 23:03:13.67 ID:zZAfz8MU0
マドカ「…………ッ!」


相手が止めを刺そうと向けたスターソードを左手で受け止める。

そして、右手で力任せにその顔面を殴りつける…。

来ると思っていなかった反撃を受けた敵は思いっきり吹き飛び、何時かと同じように仰向けに倒れた…。




さやか「………毎度毎度、待たせて悪いね」


マドカ「そう。それよ…。それよッ!!!」


敵は何も無かったかのように颯爽と飛び起き、そして再度迫って来る。

相手のスターソードを受ける為に、手近なパイルをパイル・ソードに変えて敵の攻撃を受ける。

勿論スターソードには及ばない。

ただ、二刀であるメリットを活かして、手数で攻めて行く…。
526 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 23:05:07.48 ID:zZAfz8MU0
攻めている時は良い。

だけど、敵の反撃は避けるか二刀で行うのが前提になる。

多少なら良いけど、スターソードと鍔迫り合いをすれば、負ける…。



マドカ「ずっと…、ずっとこれを待っていたのよッ!」


さやか「………そう。だけど!」



さやか「あたしはそれに応える気はないッ!」


剣と剣を交差させる形で、敵のスターソードの袈裟切りを受ける。

鍔迫り合いになって、隙の生じた相手に向かい、腰に残った二つのパイルがソードとなって襲いかかる。


敵はとっさに剣に力を入れ、後退する。

けれど、間に合わない。

片方の剣は左肩に刺さり、もう片方の剣は右の脇腹を掠める…。
527 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 23:06:27.12 ID:zZAfz8MU0
マドカ「ぐぁぁぁぁッ!!!」


さやか「…何!?」


敵が、らしくない奇声を上げる…。

こちらが放った攻撃を痛がっている…。


確かにサイバディと一体化する今回の敵のやり方は攻撃力や操作性や機体スペックを向上させるのかもしれない。

だけど…。



さやか「自分を痛めつけるようなシステム使うなんて…。

    アンタ、何考えてんのよ…!」


かつて戦いで痛みを消したあたしとは真逆。

だけど、やっている事は全く同じ。

自分自身を省みない『自暴自棄』…。
528 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 23:07:15.31 ID:zZAfz8MU0
バンカー「このシステムの最大の欠陥…。受けたダメージは直接搭乗者に跳ね返る…か」


プロフェッサー・シルバー「良くも悪くもサイバディと一体化してしまう性質を持っているモノで…。

             第二フェーズへ適用できようと、その危険性もあってシステム搭載の志願をするのは彼女くらいでしょう…」


バンカー「そうそううまい話はない、と言う事ですか…」






マドカ「得られないのよ…!」


さやか「………」


マドカ「こうでもしなければ…!」


さやか「何を…!」


マドカ「私が生きている実感が、よッ!!!!」
529 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/06/21(火) 23:08:17.05 ID:zZAfz8MU0
私はずっと一人だった…。


名家の令嬢に生まれた私は、金も、権力も、力も、何でも持っていた…。

だけど…。

父も、母も、兄弟も、他の人間も、誰も私に見向きもしなかった…。



愛情。

それだけは与えられなかった…。

そんな環境がたぶん今の私を形作った…。
530 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 23:09:07.23 ID:zZAfz8MU0
与えられたモノだけでは満足できず…。

欲しいモノがあれば奪い取った…。

勝ちたいと思えば努力もして叩き潰した…。


だけど、満たされるのは一瞬…。

私はすぐに違うモノを求めた…。



奪って、戦って、勝ちとって…。

それを繰り返す内に、私はより危険な物を求め、それを手にする為により致命的な物を賭けるようになった…。


最初はお金や物とありがちで、次に人命、最後は自分…。

ギリギリの世界でのスリル…。

そして、それに負けないようにするあの手この手を尽くす…。

それだけが私の生きがいとなった…。
531 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 23:10:04.04 ID:zZAfz8MU0
そんな私に手を差し伸べる優しい人もいた…。

だけど、私は変わらなかった…。

いいえ、変わり方を知らなかった…。



マドカ『何故、何故よ! カナコ…!?』


カナコ『先ほども言った通りよ。マドカ…。

    私はもうあなたに付いていけない…』


マドカ『だから、何故…!?』


カナコ『もう疲れたのよ…。自分しか、いえ、自分すら見ていないあなたに応えるのに…』


マドカ『………』


カナコ『安心して。あなたの立場や功績まで奪うつもりはないわ。

    ただ、先ほども言った通り、関係はこれで終わりにしましょう…』


だから、優しさに溢れるその人も傷つけようとした。

強いその人は私に倒される事は無かったけれど、やがて私から離れて行った…。
532 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 23:11:15.52 ID:zZAfz8MU0
生まれて初めて感じた寂しさは、ますます私を狂わせた。


殺し合い…。

殺し合い、殺し合い…。

命を天秤に賭けなければ、もう生きた心地さえしない…。





コウ『………よろしければ、君に仕えさせてくれないか? 私は君に興味があるんだ…』


歯止めが効かなくなった私を止めたのは、やはり人の温もりだった…。


だけど、私に出来るのは殺し合う事だけだから…。

結局、今もこうしている…。




もう治らないんでしょう…。

これが私なのだから…。

それならば…。
533 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 23:12:44.18 ID:zZAfz8MU0
マドカ「どう? 興奮するでしょ!? 命のやり取りは…!!!」


さやか「わかんないよ…」


マドカ「これまであなたが行ってきたどんな男女関係よりもお互いを感じ合う事が出来る…!

    究極に刺激的なプレイなのよッ!!!!」


さやか「………その為なら命もいらないって言うの?」


マドカ「いらないわッ! 何も…! 何一つッ…!!!」



優しさに溢れて、人を癒そうとするまどか…。

狂気に溢れて、人も自分も傷つけるマドカ…。


正反対の二人だけど、一つだけ共通してる事がある…。

それは…。
534 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 23:13:59.04 ID:zZAfz8MU0
マドカ「私は今この瞬間が満たされていればそれで良い!!!

    その為に生きるのッ! 戦うのッ!!!!」


どちらも根っこには強い何かがあるって事…。

そして、どっちもあんまり器用じゃないって事…。




さやか「…………やっぱり、嫌だな」


マドカ「……………何?」


さやか「………互いを傷つけあうような事はしたくない。

    それはあたしの主義にも反するし、何よりあたしはあなたが嫌いになれない…」


マドカ「そんな事を言ってもッ…!」


さやか「だから……!」
535 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 23:15:30.88 ID:zZAfz8MU0
さやか「止まって!!!!」



マドカ「これは…!?」


自分の両手のパイルと、さっき飛ばして転がったパイル…。

刺さったままの一つを除き、三つのパイルは彼女の方に先端を向け、黄色い弾丸を放つ…。


着弾した弾丸は相手を傷つけない。

弾けて、黄色いリボン状のエネルギーを撒き散らす。

そして、リボンはケイ・マドカの姿をしたサイバディに巻きつき、その自由を奪う…。


イメージが武器だって言うなら、何もあたしの技じゃなくたって良い。

あたしよりも強くて優しいあの人…。

マミさんの技なら、自分の事以上に鮮明に思い出せるから…。




さやか「パイル・バインド…」


マドカ「こんな…、こんな物までッ…!」

マドカ「こうまでして…、この私との勝負を拒むのッ!!!」



さやか「そうだね…。あたしはアンタを殺したくないし、殺されたくもない。

    だから、こう言う形でしかアンタの期待には応えられないから…」
536 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 23:16:15.69 ID:zZAfz8MU0
勝負はついた。

少なくともあたしはそう思っていた。

だけど、相手は抵抗を諦めない…。



マドカ「まだだッ…!」


マドカ「まだッ…!」


マドカ「終わりになど…するものかッ!!!!!」




さやか「!?」


エネルギーのリボンを無理やりに引きちぎり、スターソードを拾ったばかりのあたしに再度襲い掛かる彼女…。

繰り出された力強いその一撃を咄嗟に受けるも、その衝撃で態勢を崩す…。
537 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 23:17:14.48 ID:zZAfz8MU0
さやか「いい加減、しつこいッ!」


マドカ「ウフフフフフフ!!!! 覚悟なさいッ! 美樹さやかッ!!」


スターソードを拾った以上、使い慣れていない一発勝負のバインドは必要ない。

多少手荒になるのはやむを得ない…とか、そんな事を考えていた。


だけど、相手は決死の覚悟で挑んでいる事を理解していなかった…。




相手の激しい打ちこみを一発、そして二発受けた時だった…。
538 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 23:18:48.96 ID:zZAfz8MU0
さやか「しまった…!?」


マドカ「貰ったッ…!!!!!」


重すぎる二撃を受けたあたしは完全に反応が遅れ、彼女の三撃目の剣撃はレシュバルの両手を切り落とした。

最初に戦った時とは全く逆。

切り落とされた両手はスターソードに繋がったまま、宙を舞い、そして地面に刺さった…。





マドカ「これで、終わりよッ!!!!!!!」


彼女が剣を振り上げる…。


敗北。

いや、死ぬ事すら覚悟した…。
539 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 23:19:59.30 ID:zZAfz8MU0
ワコ「大事な子だって言ったでしょ…………」


暴れ狂うモンスターに怒りを示したのは意外な人物…。

巫女のシルシを持つワコ姉だった…。




ワコ「あなたの勝手で、いつまでもさやかを振りまわさないで…!」


そのワコ姉のシルシが遠目から見てもわかるほど眩く輝く…。

おして、ゼロ時間の上空にある魔法陣もワコ姉と同じピンク色の光を放ち、それが地上へ雷のように落ちる。


ピンク色の雷は、彼女に直撃…。





ワコ「さやかはやらせない!!!」


さやか「ワコ姉………」


マドカ「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」


ピンク色の眩い光は、彼女の姿を視認できなくするほどの輝きを放つ。

そして、本当の電撃のように彼女自身も悶え苦しむ…。

やがて、その光も彼女を襲う痛みも消えていく…。
540 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 23:21:15.79 ID:zZAfz8MU0
マドカ「どう言う事だッ!?」


ピンクの光の中から現れたのはケイ・マドカその人ではなく、元のサイバディとしての『へーゲント』だった。

怒りと屈辱に震えるへーゲント。


そして、その矛先は当然、両手を失った死に体のレシュバル…。

僅かな距離を詰めようと、ヘーゲントが動き出した瞬間だった…。





マドカ「お前はッ…!?」


タクト「…………」


タクトさんの繰り出したタウ・ミサイルがヘーゲントを背面から貫き、コクピットを抉りだす…。

遠目に見えるコフライトが半壊している事から、ようやく事態を理解する…。
541 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 23:23:56.01 ID:zZAfz8MU0
マドカ「お前は…、私の勝負の邪魔をするのかッ!?」


タクト「…………勝負はアンタの勝ちだ。だけど、さやかは殺させない!」


マドカ「勝ち…。そうか。私は勝ったのか…」



勝ち、勝利。

狂気に狂っていたその人は、その二文字を聞き、ようやく理性を取り戻す…。

狂気は消えても、落ち着いているのともまた違う…。


戦いの疲弊や傷の痛みに顔を歪めるでも、勝利に密かに歓喜してるようにも、納得いかない決着に苛立っているようでもない…。

彼女の表情を読み取れないまま、狂気に荒れたゼロ時間が消えていく…。
542 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 23:24:42.16 ID:zZAfz8MU0
元の世界に戻って来たあたし…。

勿論『EATER』の席、苦い思い出を引きずり出したココアの前に居た。

いつの間にか副部長が頭に乗っており、僅かながらに頭が重い。

物憂げな表情をしたあたしをカウンター越しに見る、心配そうにしているマスターに空元気の笑顔を送りつつ、手を振る。


そして、ようやくココアを手に取って口にした…。




さやか「うん。甘い…」


知らずに言葉が漏れる。

それは、ココアの感想なのか、あたし自身に対してか…。
543 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 23:25:13.24 ID:zZAfz8MU0
タクト「よっ。遅くなってごめん」


さやか「タクトさん…」


一度テーブルに置いたココアをもう一度飲もうかと手に取った時、タクトさんに声をかけられる。

目線をタクトさんに向けるも、一緒に来る筈の他のみんなの姿が見えない…。





さやか「あれ? みんなで来るんじゃなかったんですか…?」


タクト「ちょっと部長に頼んで、先に上がらせてもらったんだ。

    …………心配だったしね」
544 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 23:26:25.62 ID:zZAfz8MU0
さやか「…………ごめんなさい」


タクト「良いよ。気にしないで。

    それより、大丈夫?」


さやか「はい。ご心配おかけしました。

    ………やっと、割り切れました」


あたしを心配して来てくれたタクトさんへ謝罪する。

そして、ようやく自分の気持ちと向き合えた事を伝えた。


タクトさんの優しい眼差しにむず痒くなったあたしは頭を掻こうとするも、

副部長が乗ってる事に気付き、代わりに頬を掻く…。


そんなあたしを見ながら、タクトさんはコーヒーを注文する…。
545 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 23:27:42.31 ID:zZAfz8MU0
タクト「やりたい事とやるべき事が一致した時、世界の声が聞こえる」


さやか「………?」


タクト「僕の親友の受け売り」


突然タクトさんが切り出す。

その眼は真剣だけど、いつも明るいタクトさんにしては珍しく寂しさのようなものが見て取れて…。

それがわかっているのか、タクトさんは視線をあたしではなく窓の外へ向けていた。


何かを感じ取ったのか、ひゅるりと音も立てずに副部長が頭から降りてテーブルに乗る。

そのまま体を丸めると、覗きこむようにタクトさんを眺めている…。
546 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 23:28:15.11 ID:zZAfz8MU0
タクト「さやかがやりたい事、そしてやるべきだと思ってる事は何…?」


さやか「あたしのやりたい事…。やるべき事…」



決まってる。

あたしが今やりたくて、やるべきだと思ってる事は『タクトさんの夢』を叶える手伝いをする事。


世界の声…と言うのはわからないけど、その言葉の意味はなんとなくわかる。

それが一致しているから、今まであたしは突き進めた…。

そんな気がする…。

………。
547 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 23:29:27.34 ID:zZAfz8MU0
さやか「あ………」


タクト「気が付いた?」



そうだ。

さっきの戦闘では、それが途中までズレていた。

やるべき事は『目の前の戦い』だってわかっていても、

あたし自身は『まどかへの謝罪』やそれを考えてグチャグチャになった頭の中を整理したかった…。
548 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 23:36:00.72 ID:zZAfz8MU0
さやか「そりゃ…、弱い訳だ…」


タクト「今回の敵は格別に強かったけどね…。

    何にしても、それが一致していたのは敵の方だった。良いか悪いかはさておきね…」



『やりたい事とやるべき事が一致した時、世界の声が聞こえる』

世界の声ってのが何なのかはわからないけど…。

それはたぶん…。



『迷うな』『一つの事に集中しろ』

そう言う意味だと思う…。


別な事をやりたいのに、やるべき事は他にある…。

そんな状態の人はやっぱり力を発揮できない…。



自分の気持ちを一つにして前に突き進む。

それがタクトさんの強さであり、タクトさんを見習ったあたし自身の強さでもあったんだ…。
549 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 23:37:16.75 ID:zZAfz8MU0
タクト「人間はさ、残念だけど、あれもこれもはできない…。

    だから、一つの事にだけ集中してまずはそれをやり遂げよう」


さやか「……………」


タクト「まどかちゃんに謝りたい。

    それを『一番にやるべき』だと思う時が来たら、きっと会えるよ…」


さやか「だから、今は『今やるべき』だと思った事をする…ですよね?」





サリナ「おっ、良い顔してるな? マスッコトガール!」


ワコ「こんばんは。マスター!」


スガタ「丁度、タクトのお説教タイムも終わったかな?」



話が終わったかな?ってタイミングで、部活を終えた三人もやってくる。

重苦しかった店の雰囲気は賑やかに変わる。
550 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 23:38:31.39 ID:zZAfz8MU0
スガタ「ようやく吹っ切れたみたいだね」

ワコ「もう。心配してたんだぞ〜?」


さやか「あはは…。ごめんなさい、二人とも…」



サリナ「こりゃ〜、あの子また伸びるよ?

    先輩として、うかうかしてられないんじゃない?」

タクト「そうですね。僕も頑張らないとっ」



副部長「きゅ〜〜っ」

さやか「おっ、今日はさやかちゃんにベタベタだな? 副部長っ」
551 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 23:39:55.29 ID:zZAfz8MU0
あたしのやりたい事。やるべき事。

タクトさんの夢を叶える…。

ううん、この人達を守りたい…。



だから、最後にもう一度だけ…。

ごめんね、まどか…。



もう二度と後悔しないって決めたから…。

まどかが『前に見える』その時まで…。

もう少しだけ待っててね…。
552 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 23:42:45.84 ID:zZAfz8MU0
とあるホテルの一室。


椅子に座った金髪ロールの美少女がいつかとは逆に物憂げに外を眺めている。

その傍らには薄い緑色の髪をショートカットにしたボーイッシュな美少女が、傷ついた彼女に包帯を巻いている…。



コウ「マドカ…。傷が癒えたら一度挑もう。今度は私も…」


マドカ「良いのよ」


コウ「しかし…」


マドカ「戦いは私の勝ち。あのゲームはもうクリアーしたの」


コウ「マドカ……」


マドカ「それにね…。いきり立って生きるのにも、少し疲れていたのよ…。

    だから少しだけ…。少しだけ休ませて…」
553 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 23:43:40.43 ID:zZAfz8MU0
戦いの為、自分を満たす為なら何時でも貪欲だった彼女…。

その強い彼女がようやく見せた弱さ…。


それもまた悪くない。

強い彼女に付き従う、成り損ないの騎士は彼女に微笑んだ…。



コウ「そうだね…。それもいいかもね…」



マドカ「ねぇ、コウちゃん…」


コウ「なんだい? マドカ」


マドカ「…………これからもよろしくね」


コウ「………それは私の台詞だよ。マドカ」


ゼロ時間を振るわせたモンスター。

だけど、信頼する者の腕の中で休むその姿は、年相応の少女のそれと変わらなかった…。

命知らずしか知らない二人は、僅かな安息の時を迎える…。
554 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/21(火) 23:49:17.88 ID:zZAfz8MU0
っし。
今日はここまで。

マドカさんはだいぶキャラ変わっちゃった気がするのが申し訳ないような…
マドカとまどかの対比も全然できなかったし…
ただ、自己犠牲なまどかさんは最後の最後まで行った事の賜物だしなぁ…


ちなみに、一応さやか編はここまで
あくまで一応



それでは、本日は閉会とする。

佐倉杏子に栄光を…!
美樹さやかに祝福を…!

綺羅星☆
555 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/06/21(火) 23:53:10.80 ID:S2pyWz69o
乙星☆
本編で最終章までのつなぎになってたこの二人はどうみても尺が足りなかったんだよ!といいたいww
556 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[sage]:2011/06/22(水) 00:14:10.53 ID:ISAxOg/Ro
綺羅星☆

さやかがマミさんのリボンを習得したw

サイバディの強さは迷いがないことか
確かにそうだなー
リビドーが何なのかは劇中で明確にならなかったけど、強い感情が関係してるのは間違いないし

そういう意味ではバンカーことタカシは自分の殻を破れてないんだよな
野心や望みはあっても自分の命をかけるほどではない、というか
下手すると劇中で一番、自信がないんじゃなかろうか
557 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/06/22(水) 00:16:11.90 ID:rjXeOqE4o
綺羅星☆
まあ、マドカはね
繋ぎ+その前の双子編の煽りも受けてる気がする
むしろ、なくても良かったとか言われちゃってるからねぇ

しかし、ここの解釈は中々面白くて楽しみだわ
558 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)[sage]:2011/06/22(水) 23:33:56.46 ID:WtREWjZAO
乙星☆
おとな銀行出向組は尺が足りなかったよ、後少し長ければ色々やれたろうに
タカシはpixiv辺りで「日5で命懸けとか有り得ないわww船に戻ってピアノ弾いてよ」みたいな絵を見たとき悲しさと同時に的確に書かれてると思たもんだ
559 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/23(木) 22:59:17.48 ID:wsAvZL/e0
綺羅星☆
QBさん、契約するんで僕に時間をください
SS書く時間ください

さて、こっから話を動かす為に拡大解釈や独自考察を含む設定や展開がやや強くなるかも…
もともとその気があるっちゃあるけど…




>>555
乙ありがとう
描写足りないから掘り下げようにも掘り下がらずに、キャラ創作と同じような結果に…

>>556
綺羅星☆
新技が次々に増えていくのもスタドラらしい気がして

心の強さは絶対絡んでると思う
それがよきにしろ、悪しきにしろ

>>557
乙ありがとう
双子と言えばノリノリマリノことマンティコールを使いたい…
完結したら番外編でも作るかなぁ…

>>558
乙星☆
タカシは本当に何もしなかったからなぁ…
むしろビビって醜態晒してた始末…
まぁSSはこっからタカシのターン
560 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/23(木) 23:02:30.69 ID:wsAvZL/e0
綺羅星十字団某施設内。

人目に付かぬよう、息を殺しつつ、仮面の少年が何かをしている。

少年が見るモニターに映っているのは一機のサイバディとそのデータ…。



バンカー(やはり、登録No.16のカタログスペックに改竄の跡がある…)


バンカー(そもそも、おかしいとは思ってたんだ)


バンカー(他の機体は何度も稼働実験や性能調査が成されているのに、この機体だけはそれがほとんど行われていない…)



??「そのくらいにしておけ。過ぎた好奇心は己の身を滅ぼすぞ…?」
561 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/23(木) 23:06:38.83 ID:wsAvZL/e0
少年の背後に仮面の男が立っている。

気配を殺すのは少年の特技のようだが、ここはお株を奪われる形となったようだ。



バンカー「…………」


議長「ここは許可なく立ち入る事を禁じられている筈だが…」


少年は慎重な性格だ。

このまま引き下がる事も考えた。


だが、ここで引き下がればこの不可解なサイバディや、不審な人物の行動の詳細は永久にわからなくなる。

まして、ここまで踏み込んでいるのに今更引き下がっても遅いだろう。



少年は珍しく賭けに出た。

そして、この賭けが少年を含むこの世界の流れを大きく変える事になる…。
562 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/23(木) 23:09:48.10 ID:wsAvZL/e0
バンカー「不審な者を調査していたら、不審なデータに行き着きましてね…」


議長「………何?」


バンカー「この機体…。データが改竄されてるんですよ…。おまけにそのスペックも調査不足の感が強い…」


議長「それに関しては書いている通りだ。

   シルシを持ったドライバーが現在重病にて昏睡状態にあり、満足な調査が…」


バンカー「おかしいですね。あの問題だらけのアインゴットでさえ人が割り当てられたこの状況で、機体を寝かせておくんですか…?

     万一、この機体にアインゴットを超える欠陥があると言うならそれを提示すべきでは…?」


議長「………」
563 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/23(木) 23:14:00.42 ID:wsAvZL/e0
バンカー「不審な人物についても話しましょうか。ヘッドは何故レシュのシルシを手放したんでしょう?

     復元のリスクはあれど、『旅立ちの日』を迎えれば圧倒的な価値を持つシルシを…」


議長「本人は奪取されたと言っていたが?」


バンカー「嘘ですね。シルシは手放すのは簡単だが奪う事は出来ない。

     美樹さやかの手にレシュのシルシが渡ったのは事故だとしても、それが彼の元を離れたのには彼の意志が絡んでいる筈…」


議長「……………」


バンカー「これだけの不可解な事実を見逃せと…?」
564 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/23(木) 23:14:54.46 ID:wsAvZL/e0
議長「それがお前の為になる」


バンカー「あなたは綺羅星十字団の古参メンバー。かつヘッドとも親交がありましたね?

      掴まれると困る事がある…。そう取ってよろしいですか?」


議長「そういう問題ではない」


バンカー「では、あなたについて報告しましょうか。

      あなたへの尋問や調査が行われれば、結局そこへ行きつき、僕の欲しい情報は手に入るでしょうし」


議長「チッ………」


仮面の男は本来、冷静な性格だ。

感情を表に出す事などまずない。

その彼が舌打ちをする…。

よほど、事態が深刻である事を告げている…。
565 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/23(木) 23:20:18.12 ID:wsAvZL/e0
少年に引き続き、男も選択を迫られていた。

それを野放しに危険性も理解している。

そして、それを手にしたであろう男の大き過ぎる野心も…。


だが、同時に男の理知的な面が邪魔をする。

まず、この少年に対する信用。

この事を少年に語って良い物なのか…。


次にこの少年も含む、事が明るみになった時の危険性。

今あれを手にしている者は、何をしでかすかわからない怖さがある…。


そして、さらに…。

自分が知っている事は『憶測』とそう変わりはしないのだ…。

もっとも、その『憶測』は非常に正しい可能性の高いものだが、それで仮にも仲間の告げ口をするのは芳しいものではない。
566 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/23(木) 23:21:35.98 ID:wsAvZL/e0
せめぎ合いの末、男は結論を出す。

どうせ、ここで自分が言わなくても少年が上に報告すればそれらには確実に調査が入り、事は飛び火するだろう。

それならば、いっそ…。





議長「他言無用を約束し、『憶測』混じりで構わないのなら教えてやる…」


バンカー「わかりました。お願いします…」



男は語り始める。

『No.16』

そう呼ばれたサイバディと『戦う筈だった』時の事を…。
567 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/23(木) 23:23:40.52 ID:wsAvZL/e0
そのサイバディは16番目に発見され、綺羅星のデータバンクに登録された。

しかし、その危険性が露呈し、綺羅星十字団は討伐隊を結成。


戦力比は4対1。

おまけに4人全員がシルシ持ち。

それだけの戦力差があれば、あのツナシ・タクトや美樹さやかでさえ倒せるであろう程の戦力差だ。



だが、『No.16』はそれを退けた。

いや、誰も触れることすらできなかった…。
568 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/23(木) 23:24:43.22 ID:wsAvZL/e0
バンカー「何故です…? それほどまでに圧倒的な強さを…?」


議長「強い弱い以前の問題だ。

   アレの前では誰もサイバディを操る事が出来ない」


バンカー「………まさか」


議長「そう。アレの特殊能力は『他のサイバディへのアプリボワゼ』。

   もっとわかりやすく言えば、他のサイバディの『強制制御』とでも言えば良いか…?」


バンカー「馬鹿な…」


議長「そう思うのは勝手だが、だとすれば辻褄もあうんじゃないか?」


バンカー「確かにヘッドがそんなモノを手にしたなら、他のシルシなど合っても無くても関係ない…。

     それが敵に渡っても、幾ら失墜しようと尚余裕を保てるのもわかる。それがあれば他を倒す事に全く労はないのだから…」
569 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[sage]:2011/06/23(木) 23:25:07.59 ID:FQeVphvuo
おっと、リアルタイム
570 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/23(木) 23:27:53.28 ID:wsAvZL/e0
バンカー「しかし、あなたは何故そんな事を…?」


議長「『夢』で見たのさ」


バンカー「………?」


議長「そう言う第一フェーズだったんだ…」



『夢』

正しくは現実で『起こる筈だった未来』。


男の本名はカタシロ・リョウスケ。

かつて『レシュバル』のシルシを持ち、それをヘッドに渡した経歴の持ち主。


そして、当然ながらシルシを持った彼にも『第一フェーズ』の特殊能力があった…。


『未来読みの左眼』。

これから起こるであろう『未来』を見せる能力…。
571 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/23(木) 23:28:41.62 ID:wsAvZL/e0
敷かれたレールを生きている男を、奔放な青年は羨んだ。

逆にその青年が羨ましかった男は、どうしても気になった。


だから、見たのだ。

親から受け継いだシルシを持つ自分の先には何があるのか…。




その未来の果てに『それ』は居た。


銀色に怪しく輝く『それ』の圧倒的な力…。

男は『それ』に敗北した。
572 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/23(木) 23:35:21.80 ID:wsAvZL/e0
それだけでは終わらなかった。

『それ』は、男がそれとなく感じていた、愛する人を失う『結末』を見せようとした。

その悪夢はそこで終わったが、以来左眼はその『結末』に至るであろう『経過』しか見せなくなった。

男はその『結末』から目を背ける為に左眼を潰した。


やがて、その結末を変えたくて、男は青年にシルシを譲り渡した。

敷かれたレールや宿命から逃れたつもりの男だったが、それは逃げだと言う事も自覚していた。



やがて、青年の求めていた物が『それ』である事に勘付くも時は既に遅い…。

勿論、一番大切な者を失う結末も変わらなかった。



結局、男は全てを失い、何も変える事は出来なかった…。


男はそこで全てを諦めた。

状況に流され、ただその流れを見続けるだけの日々が始まった…。
573 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/23(木) 23:37:00.81 ID:wsAvZL/e0
議長「これでわかっただろう?

   なら、もう嗅ぎまわるのは止せ…」


バンカー「…………」


彼の言う事が本当なら、誰もそれには対抗できない。

そこまで知りながら、放置していた理由も頷ける。


それの前では、サイバディのスペックも、身体能力の高さも、素晴らしき技も、リビドーの強さすら関係ない。

手足となるサイバディを抑えられてしまえば、ドライバーが足掻こうと意味を成さないのだから…。




バンカー「いや…、手はある」


議長「何…?」


不思議がる男を他所に少年は去っていく。

ある筈のないものを『ある』と言った少年。

男はその背中を不審そうに眺めていた…。
574 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/23(木) 23:41:53.65 ID:wsAvZL/e0
────────

────

──


綺羅星十字団アジトの外にある森の中。

仮面の青年は空を眺めている。

いつかと同じ光景だが、今夜は雲が多く、月が見えない…。


やがて、その影から声が響く…。




バンカー「わざわざお呼び立てしてすいません」


ヘッド「構わないが…、何か急を要する事かな?」


バンカー「はい。と言っても、報告…ではなく、許可をいただきたく…」


ヘッド「何の許可かな?」
575 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/23(木) 23:47:58.71 ID:wsAvZL/e0
バンカー「銀河美少年攻略の作戦を思いつきましたので、その為の指揮権と独自行動の許可を頂きたいのです…」


ヘッド「ほぅ……」


バンカー「……条件を揃えるのがなかなか難しいですが、成功すればほぼ確実に勝てるでしょう」


ヘッド「揃えられるのか…?」


バンカー「揃えましょう。その代わり…」



少年の言葉を聞き、青年は笑う。

森の暗がりの中、少年が青年に求めたモノ…。



南十字島の闇が、少しづつ動き始める…。
576 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/23(木) 23:48:35.05 ID:wsAvZL/e0
―君は、どうするの…?―


―あなたの作り出す『これから』―




ずっと引っ掛かるその言葉。

アタシはどうするのか…。

それを望まないのに『自分の為』と押し通し、さやかを連れ帰る為に戦うのか…。

それとも、大切な者の為に戦って短い生涯を終えるであろうそれを『さやかの為』と黙って見届ける事を選ぶのか…。


『これから』の見えないアタシの焦点はどうしても、それを見据えるあいつが基準になっている…。

いい加減、女々しいのはわかっちゃいるんだが…。
577 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/23(木) 23:54:00.24 ID:wsAvZL/e0
どっちにしろ、アタシとさやかがこっちで会ってかれこれ一ヶ月以上経つ。

魔法少女になるのはせいぜい使いすぎたグリーフシードから魔女が湧いた時ぐらいだが、

そろそろ、それの数も意識しなきゃいけない頃だろう……。



何かしないと…。

でも、何を…?


それを繰り返しては、またまどろみに落ちる。

そうして、時間がだけがただ過ぎていく……。


…………………。

……………。

………。




???「…………起きろ!」


杏子「ほぁ!?」
578 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/23(木) 23:55:06.07 ID:wsAvZL/e0
時刻は昼前。

一般人ならとうに起きて何かしてる時間だが、やる気の起きないアタシは思いっきりだらけていた。

アタシは今、上司様やカナコの尽力もあって、南十字学園学生寮の一室を借りている。

もっとも鍵はかけたんで、誰かが入ってくる筈は無いんだが…。

それでも、床で毛布に包まっていたアタシから毛布を剥がし、起こそうとする誰かがいる。





杏子「あんたねぇ…、人の眠りを…って先輩!?」


ベニオ「何時まで寝てるつもりだよ。

    なまくら気分に活を入れてやる。ちょっと付き合え」


杏子「また、合い鍵使いやがったな…」



だらけるアタシを見て、とうとう上司様の堪忍袋の緒が切れたらしい。

寮長である上司様は合い鍵を使えば、引きこもりなど平然と無視できる。

最もそれはそれで謁見行為なんだが、それが聞く相手なら誰も苦労はしない…。


アタシに無理やり支度をさせると、そのままどこかへと引きずっていく…。
579 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/23(木) 23:56:09.76 ID:wsAvZL/e0
杏子「なぁ、どこ行くんだよ?」


ベニオ「殴り込みだ」


よくわからないが、どこか嬉しそうな様子である。

だらけてるアタシをしごきまわす…と言うのとは違うのか…?




気付けば、いつか来た道場に辿り着いた。

よく見るとシンドウ…とか書いてある。
580 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/23(木) 23:56:53.94 ID:wsAvZL/e0
ジャガー「あら、いらっしゃいませ」


タイガー「坊ちゃまなら丁度道場にいますよ」



何故か入口にいた眼鏡のメイド二人が案内し、道場を進む。

そのメイド二人は、タイガーだのジャガーだの名乗ったが、まさか物々しいプロレスラーみたいなその名前が本名じゃないよな…?

とか考えている内に坊ちゃまとやらがいる広間に辿り着く。


広間に入ると、そこにはシンドウ・スガタと、何故かさやかがいた。
581 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/23(木) 23:59:27.53 ID:wsAvZL/e0
スガタ「狙いが浅い。攻めるならちゃんと踏み込んで…!」


さやか「はい…!」


稽古を付けて貰ってるらしい。

あぁ、そう言えばあいつ、シンドウ・スガタを師匠とか言ってたっけ。

こう言う事か…。


ぼんやり眺めてると、隣の上司様が前に出る。

その目はいつも以上にギラギラしている。
582 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:00:27.77 ID:N+HI9FGW0
ベニオ「シンドウ流道場に、他流試合を申し込みに来た!

    今日と言う今日は勝負を受けてもらおうか…!」


スガタ「やぁ、いらっしゃい」


シンドウ・スガタがさやかを制止しつつ言う。

相変わらず、パッと見は穏やかそうなあんちゃんだが、どこか冷めた雰囲気を持ってる。


しかし、いつも気合いっぱいの上司様だが、今日はその気合が一段と乗っている…。

しかも、その様子にどこか落ち着きが無い…。


これはアタシの直感だが…。

上司様はこのお坊ちゃんに惚れてんのかねぇ…?

相手の気を引く手段が殴りこみってのもまぁ、この人らしいっちゃこの人らしいし。
583 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:05:56.00 ID:N+HI9FGW0
ベニオ「今日は私も弟子を連れてきた!

     弟子は弟子、師匠は師匠同士でやり合う…と言うのはどうか?」


あぁ…。

やっぱそう言うことね。

「してやったり」と言う顔をして笑った上司様の顔を見て、アタシはだいたいの事情を察した。


上司様は、どうにもこのシンドウ・スガタと試合がしたいらしい。

よくわからんが、この人なりの好意の向け方なんだろう。


で、いるであろう弟子を利用に断られないよう、アタシをぶつけてその間に自分は…と言う魂胆なんだろう。

いじらしい…と言う言葉とは縁遠いが、この人の恋路ならこんなモンか。


なんかいつの間にか弟子にされちまってるけど、馬に蹴られるのも御免だし、そのまま聞き流してやろう…。
584 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:10:29.60 ID:N+HI9FGW0
このまま誰も何も言わなければ、上司様の思惑通りに進んだんだろうが…。

空気の読めない間抜けが一人いた。




さやか「あなたがシナダ・ベニオさんですか? 師匠からお話は聞いてます」


ベニオ「す、スガタ君から…?///」



年下に向かって頬を赤らめ、目を輝かせてスガタ君。

うん。今ので完全に確信した。

完璧に惚れてるな、あれは…。

そして、頬を赤らめてるそんな様を見りゃ状況がそれとなくわかると思うんだが…。





さやか「なんでも凄い剣の腕の持ち主だとかで…。

    よろしければ、一度手合わせをお願いできませんかっ!?」


あ〜あ…。

直前の様子をまるっきり見ていなかったかのように、あの馬鹿は状況をぶち壊した…。
585 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:11:09.06 ID:N+HI9FGW0
ベニオ「私はお前とやってる暇などない。弟子同士で遊んでろ…」


さやか「杏子なんかとやっても面白くも何でもないですし…。

     お願いしますよ〜」


空気読んでやれよ…。

まだ状況を飲み込めずに続けやがる…。

可愛そうな上司様のフォローでも入れてやろうかと思った時、穏やかな顔をしたお坊ちゃんがしれっと言い放った。




スガタ「彼女もあぁ言ってますし、実際に良い勉強になる。

    お相手してやってくれないかな?」


この男はわかってやってるのか、知らずにやってるのか、満面の笑顔で止めを刺した。


だが、ここで終わらないのが我らが『フィラメント』の代表様だ。
586 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:12:04.42 ID:N+HI9FGW0
ベニオ「彼女の後に、今度こそあなたにお相手願えるのなら喜んで…!」


怒りを堪えながら、それでも目的を果たす為の最善の策を提案する上司様。

やっぱり、いじらしいと言う言葉からは縁遠いが、その執念は相変わらず見上げたモンだ。





スガタ「…わかった。それで構わないよ」


ベニオ「………よし!」


よかったね〜。上司様。

願いも叶った事だし、アタシはもう帰って良いかな…?

だって、どう見ても用済みだよなぁ…。

こう言う堅苦しい雰囲気の場所は苦手なんだよ…。
587 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:13:49.33 ID:N+HI9FGW0
スガタ「はじめッ!」


結局雰囲気に流されて抜け出せず、二人の戦いを見守る。

まぁこっちの勝負はすぐ付くだろうが…。





ベニオ「ふんッ!」


さやか「あ、あれ…?」


お目当ての時間を後ろに控え、気合いっぱいの上司様は一瞬で勝負を付けにかかる。

さやかの剣を強引に横薙ぎで払うと、そのまま一回転。

さやかが剣を戻すよりも早く、その頭の横に剣を突きつけた。





スガタ「それまでッ」


殺意さえ見え隠れする剣先を、冷や汗を垂らしながら横目で見るさやか…。

馬、もとい上司様に斬られなくてよかったな…。
588 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:14:51.72 ID:N+HI9FGW0
ベニオ「これでお相手願えるのかな…?」


スガタ「約束だからね…。受けて立つよ。…その前に」


重い一撃で痺れきっているんだろうか?

木刀を左手で持ち、右手をグーパーしながら呆けるさやかにお師匠からありがたいお言葉が入る。





スガタ「前にも言ったけど、君は集中が少し足りない時がある…。

    あと剣の握り方。また注意する前の方に戻ってるよ」


さやか「はい……」


師匠に怒られ、しょぼくれるさやかは何を求めてかこっちにやってくる。

帰るチャンスをまたも損ねてしまったアタシは、仕方ないのでさやか弄りに精を出す。
589 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[sage]:2011/06/24(金) 00:15:03.56 ID:n048popFo
さやかちゃんは空気が読めない
だが、それがいい
590 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:16:13.98 ID:N+HI9FGW0
杏子「間抜け」


さやか「なにぃ!」


杏子「お前なぁ、空気読めよ…」


さやか「………なんの?」


やっぱりわかってなかったらしい。

不思議そうにする馬鹿に疲れたアタシは話題を変える。




杏子「言っとくが、先輩は実力の半分も出しちゃいねーぞ?」


さやか「…そうなの?」


杏子「あの人の剣は姿を見せない俊足の剣、だからな」
591 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:17:20.99 ID:N+HI9FGW0
さやか「…何それ?」


杏子「見りゃわかる」


シンドウ・スガタとアタシの上司様が向かい合う。

アタシとさやかが傍観者に徹してるので、メイドの一人が審判を務めている。





ジャガー「それでは、始めッ!」


審判の声を聞き、上司様が駆けだす。

そして…。
592 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:19:02.45 ID:N+HI9FGW0
さやか「え、何今の…!?」


杏子「これがあの人の本気だ…、ボンクラ」


シンドウ・スガタの剣の間合いに入るか入らないかの瞬間、上司様の姿が消える。


これがシナダ・ベニオの本気の剣術。

魔法少女として高い身体能力を常時保持してるアタシでさえ、初見では見切れなかった厄介なあの技…。


一直線に突進してきた相手が途中で幻のように消え、そして気付けば背後を取られている。

相手した身としちゃ、何が起こったかわからないまま勝負が決まる…。


あの厄介な剣術を敗れる奴がそうそういる筈もない。

まかり間違っても、学生風情が繰り出せる剣技のレベルは優に超えている。



アタシは上司様が勝つと思い込んでいた。

だが…。
593 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:20:28.47 ID:N+HI9FGW0
ベニオ「………ッ!」


スガタ「……………」


シンドウ・スガタは目を瞑り、背後に向かって木刀を振るう。

両手持ちから左手を離し、右手のみに持ち替えたその木刀は、背後から迫ろうとしていた上司様の首元に確かに向けられていた…。







ベニオ「やはり君には敵わない…か」


スガタ「いえ。技のキレはタクトと戦った時よりも上がっていた。大したものだと思いますよ」



杏子「へぇ…」


アタシは驚きを隠せなかった。

あの剣を見切れる奴が、こんな身近にいるとは…。



シンドウ・スガタ…。

最強のサイバディを継ぐドライバーもやっぱり只者じゃないって訳か…。
594 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:21:24.73 ID:N+HI9FGW0
杏子「おい…」


スガタ「何かな…?」





杏子「ちょいとアタシもやってみようかな…?」


さやか「杏子…?」



ベニオ「ほう…、ここであいつがやる気を出すとはな…。これはなかなか面白くなってきた」


タイガー「……? あの子そんなに強いんですか?」


ベニオ「化け物みたいなモン…だそうだ。実際、鬼のように強い」
595 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:22:22.16 ID:N+HI9FGW0
一礼して、互いに向かい合う。

その綺麗なツラのどこにそれがあるのか知らないが、見せてもらおうか…。

その『王様』の実力をさ…。




ジャガー「始めッ!」


杏子「…………」

スガタ「…………」





タイガー「二人とも構えて睨みあったまま…」

さやか「頑張れ、師匠〜!」

ベニオ「……………」
596 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:24:08.27 ID:N+HI9FGW0
杏子「……………」

スガタ「……………」



タイガー「動きませんね…」

さやか「師匠はともかく、杏子が動かないって珍しいなぁ…」

ベニオ「………直に動く」







杏子「……………」

スガタ「……………」



タイガー「未だに動きませんね…」

さやか「あ〜もう、焦れったいなぁ!」

ベニオ「………お前ら少し黙れ」
597 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:25:49.71 ID:N+HI9FGW0
杏子「……………やめた」


タイガー&さやか&ベニオ「は?」




さやか「やめたって何よ、勝負はどうすんの!?」


杏子「あぁ? アタシの負けで良いよ」


借りた木刀を放り投げながら、言う。




うん。勝てない。

これが率直な感想だ。


そりゃ相手は人間だ。

こっちもリミッターを外せば『勝つ事は出来る』。

だけど、付けたままの今のアタシじゃ『勝てない』。


何時ぞやに言ったが、アタシは長い間戦いで培った天気予報よりも当たる勘みたいな物がある。

それが『やめとけ』って言ってるのさ。
598 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:26:45.64 ID:N+HI9FGW0
魔女との戦いの日々は、人間界の負けたってやり直せる甘ったるい勝負のそれと違って、

ミスをすればそこで終わり、の弱肉強食の自然界と同じだ。


呑気に分析してから逃げられれば良いが、それを許さないほどの強敵にいきなり会う事だってある。

そして、そう言う時は一瞬の判断で生死が決まる。

だから、その勘が無い奴、それを鍛える前にそんな敵に会った奴、それに従えずに意地を張る奴から順に死んでいく。



今日は道場試合だから死にはしない? そうだな。

だから、戦ってみようかとも思ったけど、どう攻めれば良いかがまるでわかんなかった…。

やっぱり、アタシはこう言う訳がわからない『強敵』と我武者羅に戦うようには出来ていないみたいだ。


そう言うのは、さやかやマミみたいな連中がやることだからな。
599 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:28:09.06 ID:N+HI9FGW0
さやか「逃げるの?」


杏子「何とでも言えよ。やらないと言ったらアタシはやらない。じゃな」

ベニオ「ちょ、おい。ちょっと待て…」




臆病者で大いに結構。

臆病になんなきゃいけない時に臆病になれない奴は、アタシらの世界じゃ死んでいくんだから。


しかし、この男が怖いのはそれがやり合う直前までわからなかった事だ。

そう言うものを隠すのが上手な奴ってのは一層怖い…。


それとも、ぬるま湯に浸かりすぎて勘も鈍ったかな…?
600 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:30:01.62 ID:N+HI9FGW0
タイガー「…………行っちゃった」


ジャガー「あの子、良い線行くと思ったんだけどなぁ…」



さやか「さっすが師匠! あの杏子が尻尾を巻いて逃げるなんて…!

    悔しいけど、あいつ強さだけはとんでもないん…」


スガタ「手を見て御覧…」





さやか「手…? え、これ手汗…?」


タイガー「そう言えば、坊ちゃま汗だらけですね…?」

ジャガー「試合前はそうでも無かったような…?」


スガタ「勝った、なんてとんでもない…。

    動かないんじゃ無くて、動けなかったのさ…」
601 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:30:51.94 ID:N+HI9FGW0
ジャガー「坊ちゃまが動けないような相手…? やっぱりあの子…」


タイガー「只者じゃ無かったって事…?」


スガタ「これが歴戦の魔法少女、か…。

    しかも、それでも全て見せていないとは………、怖いな」




さやか「……じゃあ、引き分けですね」


目を瞑り、口元だけ笑ってさやかは言った。

二人の試合が見られなかったのを少しだけ残念に思いながら…。
602 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:32:39.59 ID:N+HI9FGW0
綺羅星十字団『科学ギルド』研究施設。


山のような書類を持った仮面の少年が、灰髪の仮面の前でそれをバラまきつつ、言う。

灰髪の仮面は書類を拾いつつ拝見し、仮面の上からでもわかるほど顔が青くなっていく…。



バンカー「改竄される前のNo.16のデータの保有、所属を超えたスタードライバーのデータの不正提供、それやサイバディのデータの不正利用…。

     一部の研究データの隠蔽、及び綺羅星関係のデータの無断利用。それだけに飽き足らず、虚偽の報告による不正な資金援助…。

     報告されれば困るモノばかりですね…?」


プロフェッサー・シルバー「わ、私を脅すのか…?」


バンカー「いいえ。とある事に協力し、その事を他言無用願えるのなら見逃しますよ」


プロフェッサー・シルバー「な、なんだ…? 私にできる範囲での協力であれば…」


バンカー「まずはこの仮想戦闘データの予測を聞きたい」


プロフェッサー・シルバー「これは…? 成程、その性質に目を付けたのか…」
603 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:33:54.34 ID:N+HI9FGW0
バンカー「やれそうですか…?」


プロフェッサー・シルバー「えぇ…。詳細なデータも改めて算出してみますが…。まず可能でしょう」


バンカー「なら、今すぐシステムの準備を行ってもらいましょう」


プロフェッサー・シルバー「………それは構わないですが、私の安全も保障してくれるんでしょうね?」


バンカー「…………無論です」


プロフェッサー・シルバー「なら、了承させていただきます。こちらとしてはありがたい限りですし。

              それで、どれを使えば…? 君の機体かな…?」


バンカー「…………」


プロフェッサー・シルバー「正気か…!?」


仮面の少年が指差した先にあるモノ。

それを見た灰髪の仮面の素っ頓狂な声が研究室に木霊する。


仮面の少年の口元からは笑みがこぼれていた…。
604 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:36:00.79 ID:N+HI9FGW0
今朝、魔女を倒してきた。

こっちに来てからはこれで三度目だ。


グリーフシードは穢れを溜めすぎると魔女として孵化する。

当然、生まれたてのその魔女はグリーフシードなんざ持っちゃいない。

損しかないから通常はそうなる前に適切な方法で処分するんだが、こっちじゃそれさえ出来ない。

最初のグリーフシードが魔女になってから、そうして収穫を生まない魔女を相手取ってるから幾分消耗も早い。


適当にやったさやかのグリーフシードもそろそろ切れる頃だろうか…?

あいつはただでさえ、サイバディ戦闘とかもやってるし…。




さやか「ねぇ杏子…」


杏子「あぁ…? なんだよ…?」


さやか「……………すき」


杏子「なななななな、なぬななぬを言ってるんだ、お前/////」
605 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:36:49.82 ID:N+HI9FGW0
さやか「焼き好き?」


杏子「は……? すき焼き?」


さやか「あはははははははははは!!!!!

    なんでそんな手に…、しかも女のあたしに言われて引っ掛かるのよ、アンタは…!!!」

杏子「」





さやか「あははははははは!!!!」


杏子「この馬鹿は…!

   もう殺しちゃうしかないよねぇぇぇぇ!!!!」


クラスメートB「おおおおお落ち着いてぇ?!!」

クラスメートA「落ち着くのは佐倉さんだけど、今のはさやかが悪いよっ!」
606 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:38:06.00 ID:N+HI9FGW0
貧弱な中学生にアタシを止められる筈もなく、その後は見るに耐えない構図だったのは言うまでもないだろう。

さやか相手に加減はいらない。

とりあえず、頭がヘコむくらい思いっきり拳骨を食らわせておいた。





さやか「いてて…」


杏子「…ッ!」


さやか「いやぁ…、だってさ。アンタ話しかけても何にも言わないんだもん。

    その割に人の顔ちらちら、ちらちら見てるし…」


クラスメートB「だからってこういう遊びは良くないよぉ…」


クラスメートA「少しは反省しろっ」


さやか「は〜い、反省しま〜す」


杏子「…………」ツーン
607 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:39:15.90 ID:N+HI9FGW0
さやか「お〜い、杏子〜」


杏子「…………」



さやか「杏子ちゃ〜ん?」


杏子「…………」




さやか「あんこちゃ〜ん?」


杏子「……あ!?」

クラスメートB「ひぃっ!?」

クラスメートA「こら、さやかっ!」
608 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:40:10.09 ID:N+HI9FGW0
さやか「ほんっとに悪かったって! そろそろ機嫌直してよ〜?」

杏子「…………」ツーン



さやか「参ったなぁ…」


クラスメートA「調子に乗りすぎるのはさやかの悪い癖だよっ」

クラスメートB「ちゃんと許してもらうまで謝るんだよぉ」




さやか「ねぇ、杏子ぉ…」


杏子「晩飯奢り、アタシの納得いくまで!」


さやか「おっけー!…いてて」
609 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:41:10.09 ID:N+HI9FGW0
頭を掻いたさやかが痛みを訴える。

どうにも瘤が出来ているらしい。

自業自得だ、馬鹿。




さやか「瘤できてるしぃ…」


クラスメートA「あ〜あ〜。保健委員の私に面倒かけさせんなっての〜」


あいつの友人の一人を連れて出ていく。

そして、二人が保健室から戻った時、異変は起きた。
610 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:42:21.54 ID:N+HI9FGW0
クラスメートB「あ、二人とも戻って来たんだねぇ…?」


さやか「…………」

クラスメートA「…………」


どこか顔が赤く、ぼやっとした雰囲気のさやかがアタシの前に立つ。





さやか「杏子…」


杏子「………なんだよ?」


さやか「………すき」
611 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:43:52.71 ID:N+HI9FGW0
アタシはさっきの悪ふざけが続いてるんだと思った。

苛立つのも馬鹿らしくなったアタシはこいつを睨むだけにしようと思ったんだが…。




杏子「お前なぁ…、いい加減にしろよ?」


さやか「好きなの………///」


杏子「お、お前。ちょ、ちょっと何…?///」


さやか「きょーこっ///」


何か妙に接近してくる。

足と足を絡めて…。

その両腕でアタシの肩を抱いて…。



顔を近づけて…!?


そのまま進んだらちょ…!///

キッきききききき…///
612 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:44:42.36 ID:N+HI9FGW0
クラスメートA「私前からあんたの事を〜…///」

クラスメートB「ひぃぃ、助けてぇ!」




杏子「え…?」


顔を近づけるさやかのデコを反射的に右手でどけながら、周囲を見回す。


よく見れば、さやかの付き添いの女も何かおかしい。

……と思ったら周辺が、だんだんおかしな事になっている。




男「やらないか…?」


女「お姉様…///」


クラスメートB「こんな所では駄目ですぅ…///」


少年「びっくりするほどフリーダム!!!」
613 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/06/24(金) 00:45:26.42 ID:N+HI9FGW0
同性同士があちこちで見つめあったり、抱き合ったり、キッきききき…………したりしている。

まさに地獄絵図と言って良い。

周囲に呆気を取られ、力の弱まったアタシをさやかが狙う…。





さやか「きょ〜こ〜///」

杏子「ちょ、待て、さや…///」


???「ウチの後輩から、離れんかぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
614 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:46:24.88 ID:N+HI9FGW0
さやか「え〜〜〜ん、きょ〜こ〜!」



ベニオ「全く…。無事か、杏子?」


杏子「………先輩?」


力技でさやかを引っ張り上げ、そのまま縛り付けたアタシの上司様がいた。

正直、少し惜し…いやいや、助かった助かった…。





杏子「何が起きてるんだよ…?」


ベニオ「わ、わから…///」
615 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:47:33.75 ID:N+HI9FGW0
見ると上司様の表情も赤い気がする。

この人に限って、まさかとは思うが…。


廊下を駆け、邪魔な連中を蹴散らしながら進む。





ベニオ「くっそ…。私はな〜、私は私は私は…! スガタ君となぁぁぁぁ!!!」


???「ざまぁ無いわね。スカーレットキス」



ベニオ「お前は! イヴローニュ!」


目の前に立った気真面目そうな眼鏡の女を上司様はイヴローニュと呼ぶ。

確かに特徴は一致してるが、同じ学校内に幹部が三人もいて良いのか?

綺羅星十字団よ…。
616 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:48:27.13 ID:N+HI9FGW0
ベニオ「お前〜、スガタ君のクラスメートだったよなぁ…?

    スガタ君は無事なんだろうなぁ…?」


ケイト「………」



ベニオ「あの人はなぁ…、男性人気も高いんだぞッ!?」


ケイト「安心しろッ…!

    ツナシ・タクトとシンドウ・スガタは別々の掃除用具入れに閉じ込めておいた!

    そして、そこの鍵はここにあるッ!」


ベニオ「でかしたッ!」


仲良いねあんたら…。

で、アタシらはどこへ向かってるのさ…。
617 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:49:25.09 ID:N+HI9FGW0
タクト達の教室。



タクト「スガタぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

スガタ「タクトぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


タクト「はぁはぁはぁはぁはぁ…」

スガタ「はぁはぁはぁはぁはぁ…」


タクト&スガタ「出れない…」




ワコ「さやかっ! 私のさやかはどこ? どこにいるの!?」

ルリ「待ってワコ! 私を捨てないで〜〜〜!!!」




シモーヌ「今日はその…///」

カナコ「何、シモーヌ?」


シモーヌ「奥様に甘えても…良いですか?///」


カナコ「いらっしゃい、シモーヌ」

シモーヌ「奥様っ///」
618 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:50:36.76 ID:N+HI9FGW0
中等部三階廊下。





ケイト「この騒動を引き起こした原因は奴しかいない…! 奴は高等部の保健室にいる…!」


杏子「高等部のほうの保健室だな、任せろ…!」


ケイト「お、おい…! そこは窓…!」


ベニオ「杏子も結構良……、いや、スガタ君スガタ君…」


どいつもこいつも正気じゃないし、ちょっとくらい魔法少女の力使ってもバレないだろ…?

アタシは3階の窓から飛び降りて、一気に高等部の保健室を目指した。
619 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[sage]:2011/06/24(金) 00:51:50.83 ID:n048popFo
なんだこのマジキチ状態www
とりあえずケイト、よくやった
620 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:51:52.46 ID:N+HI9FGW0
外から近づいた保健室の窓は完全に閉じられている。

アタシは、そのガラスごと蹴破って黒幕と対面する。

この学校の保健医らしいそいつは、パっと見おかしな点は見当たらないが、よく見れば壁にイケメン男子?の写真が無数に貼ってある。




???「ひっ…、な、何…?」


杏子「よぅ…、今すぐこんな馬鹿な真似やめてくれない…?」


???「馬鹿な、真似ですって…!」


アタシの言葉のに気が障ったらしい保健医の様子が変わる。


まさに半狂乱。黒幕がとうとう正体を現した。
621 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:52:39.36 ID:N+HI9FGW0
???「私の邪魔をする女なんかぁぁぁぁぁ!!!

     みんな百合になっちゃえば良いのよッ!!!!!」


半狂乱になっている保健医をとりあえず宥める。

ぶっ潰すのは簡単だが、それで事態が収束するとも思えない…。




杏子「はいはい…、何があったんだよ…?(棒)」


???「あの女が…、あの女が…、私のツバサ君盗ったの〜!」


杏子「あ〜、なになにツバサ君盗られちゃったんだ(棒)」


???「他の女に告白されてるの…見て…、私…、私ぃ…!」


杏子「……ひょっとして、ツバサ君ってアレか?」
622 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:54:26.93 ID:N+HI9FGW0
割れた窓の外に、筋肉質な男の群れに追いかけられる美少年がいる。

こっちに助けを求めている所から、どうにもあれがツバサ君らしい。





ツバサ「助けて〜、ミドリ先生〜〜〜〜!」


ミドリ「わわわわ…私のツバサ君が、ツバサ君がッ!?」


杏子「あ〜、はいはい。あいつ助けてくるから、この事態収束させような〜?(棒)」





ミドリ「わかったから、ツバサ君を助けて〜〜〜!!!!」



泣き叫ぶ保健医の懇願通り、アタシはツバサ君とやらが引き寄せた野獣共を殴り倒す。

まぁこいつらにたぶん罪は無いが、状況的に仕方ない。

合唱。
623 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:56:58.62 ID:N+HI9FGW0
────────

────

──



タクト「何が…起きたの?」

スガタ「………わからん」


タクト&スガタ「…………出れない」




ワコ「……何してるの? いい加減タカスギ先輩に言いつけるよ?」

ルリ「なんでワコに抱きついてるの…? わけがわからないよ…?」




シモーヌ「………」

カナコ「………」


シモーヌ(なぜ、私が奥様の膝で膝枕を…?)


カナコ「あら? もっと甘えてもいいのよ?」

シモーヌ「〜〜〜〜ッ///」
624 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:58:02.46 ID:N+HI9FGW0
保健医のバラ捲いた媚薬解除ガスで急に正気に戻り、事態に混乱する各教室。

そんな中、保健室では生徒が教師を叱咤する珍しい光景が繰り広げられていた。




ケイト「またあんたかッ!! 毎度毎度ふざけた事ばかりしてッ!!!!」


ミドリ「ひぃぃぃぃ、助けて杏子ちゃ〜〜〜ん」


杏子「頑張れ、ミドリちゃ〜ん(棒)」


ケイト「生徒に泣きつくな! そもそもお前のせいだろうがッ!」




ツバサ「あの、僕が誤解させたせいで先生はこんな事を……」


杏子「たぶん、今日は黙って帰った方がいいぞ?」


ツバサ「………はい。治療用のガスでも捲いてきます」
625 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 00:59:40.28 ID:N+HI9FGW0
言うまでもないが、騒動はこの保健医オカモト・ミドリが起こしたらしい。

何でも密かにお付き合いしている男子生徒ツバサ君(美少年)が、他の女子生徒に告白されているのを見て全狂乱。

マンなんたらって言う妙薬を用いて調合したガスを保健室中心にバラ捲き、自分以外の女子を百合化させようとしたらしい。



その効力は圧倒的。

一度嗅いだ者に近づいた者も即座に感染する、細菌兵器顔負けの感染力で学校中の人間を悉く巻き込み、地獄絵図を築いた。

しかし、誤算だったのは男は男でホモらせる効果があるらしく、肝心のツバサ君が野獣共に襲われそうになったのをアタシが救出。

イヴローニュことニチ・ケイトも駆けつけ、ようやく騒動を収めさせた。
626 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 01:01:16.46 ID:N+HI9FGW0
ミドリ「うぅ…、最近綺羅星の仕事が忙しくてツバサ君に構ってあげてないから、嫌われたと思ったんだもん…」

杏子「はいはい。よかったな〜、結局ツバサ君は先生一筋で(棒)」



杏子「ん? ……あんたも綺羅星か?」

ミドリ「………」



杏子「……綺羅星」

ミドリ「綺羅星!」


わざわざ綺羅星しないと反応しないのかよ…。


どうにも、こいつがあの『科学ギルド』代表のプロフェッサー・グリーンらしい。

総会出てる時は雰囲気出てたから、中身がこんなに阿呆だとは思わなかった…。


さんざん叱りつけた後に薬品を没収、マンなんたらの永久封印と事態の収束の為に去ったイヴローニュの話によると…。

その腕は確かなのだが頭の中が年中病気らしく、時折こう言うどうしようもない事をしでかす…とか。
627 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 01:02:30.78 ID:N+HI9FGW0
ミドリ「お前には借りができてしまったな…」


杏子「………気にしなくていいよ。いや、気にだけしてくれればいいよ」


ミドリ「本当は伏せろと言われてたんだがな…。ヘッドからの依頼内容の調査結果を伝えてやる。

    お前の指針に大きく関わるモノのようだからな」


杏子「…あ?」




たれ目気味の保健医の目が真剣なそれに変わる。

カナコと言い、こいつと言い、綺羅星の連中は決めるべき時はきちんと決める習性を持っているらしく、

こう言う時は纏う空気が変わる。
628 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 01:03:24.28 ID:N+HI9FGW0
ミドリ「結論から言うと、サイバディに次元転移機能なる物は搭載されていない。

    再調査の結果だ。断言しても良い」


杏子「な…に?」



急に気真面目になった騒動の発端を見る目を変える。

その情報は確かにアタシがヘッドに依頼していた、綺羅星参戦に関わる程大事な情報だ…。


アタシはその答えは当面聞く事は無いと思っていた。

だが、こんなに早く最悪の答えを貰うとは…。



いかにもそれらしい話を聞かされ、アタシはヘッドにまんまと一杯食わされた訳だ…。

あるいはヘッド自身も知らなくて、都合が悪くなって口止めしたか…。
629 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 01:05:40.73 ID:N+HI9FGW0
杏子「じゃあ、アタシらはどうしてこの世界に来たんだよ!?」


ミドリ「考えられる可能性は二つ。

    一つは今手元にないレシュバルの固有技能と言う線。

    ただ、これは前調査段階でそんな形跡や、ブラックボックスの類は見られていない事からまずない」


ミドリ「そして、もうひとつはお前が何らかの形でゼロ時間に巻き込まれたケースだ。

    お前は発動したゼロ時間に飲まれるも、ゼロ時間終了後の帰還機能はこの世界にしか働かなかった…。

    異世界人である為に戻る所のないお前は、この南十字島の何処かに緊急配置される形となった…と言う所か?」



そう言えば心当たりがある…。

最後に見滝原で見たさやかの発したエネルギーと、映像で見た時のさやかのレシュバルの纏ってたモノ…。

あれはどう見ても同じモノだった…。


あの時にさやかとレシュバルがアプリボワゼしたって言うなら…。

そこを中心にレシュバルを封じる為のゼロ時間が発動し、あいつを乗せたレシュバルがそのまま転送…。

そして、あいつに極めて近い位置にいて、あの妙なモノを浴びていたあたしも巻き込まれた…って線も考えられなくもない。
630 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 01:07:07.47 ID:N+HI9FGW0
いや、原因なんざ良い…。

それよりもアタシらはこれで元の世界に戻る手段がほぼ無くなったって訳だ…。


これで今度こそ、グリーフシードの手持ちの数=自分の寿命のカウントダウンになっちまった。

ソウルジェムが汚れきった時に起こる事…。

さやかのそれを見た限りじゃ、当初から懸念してる通りロクでもない事が起こるんだろう…。



アタシは良いさ…。

どうせ、すべき事も見えなくなってた所だ…。

だけど、さやかは…?


また、あいつは志半ばで倒れるのか…?



そんなの……。


絶対にさせねぇ。
631 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 01:08:05.91 ID:N+HI9FGW0
ミドリ「………行くのか?」


杏子「あぁ…」


ミドリ「顔色が悪いぞ? ここは丁度保健室だ。少し休んでいったらどうだ?」


杏子「いいや。良い。それよりもやる事が出来た…」




ミドリ「行ってしまったか…。やはりショックが大きかったか…?」




ミドリ「しかし、それはともかく没収されたあの同性媚薬ガス…。なかなか面白い効力だったな」


ミドリ「同性の中で最も満更でもない相手へ惹かれる習性を持ち、そんな友情が希薄な人間には効果がないのか…」


ミドリ「元から同性に惹かれている場合は…?」
    



ミドリ「それは、まぁいいか」
632 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 01:10:47.84 ID:N+HI9FGW0
さやか達の教室。



さやか「あ、杏子どこ行ってたの?」


杏子「…………」


さやか「なんかあちこち奇妙な事起きてるのよ〜。

    あたしは縛られてるし、あいつらは抱き合ってるし…」


クラスメートA&B「言うなぁぁぁぁぁぁ」




杏子「さやか…、ちょっとツラ貸しな?」


さやか「杏子?」



クラスメートA「愛の告白っ…?」

クラスメートB「果たし状ぉ…?」
633 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 01:11:36.45 ID:N+HI9FGW0
あたしは屋上にさやかを連れ出す。

こうなった以上、形振り構ってはいられない。

『誰かの為』なんてつもりはさらさらないが、これ以上『それ』を考える奴が堕ちて行くのを見るのは御免だ…。

だから…。


さやか「どうしたの? アンタなんか顔色悪いし…」


杏子「やる。使え…」


さやか「グリーフシード…? ちょっと、こんなにたくさん受け取れないって」


杏子「アタシの分は気にしなくていい。そろそろお前も必要な頃だろ?」
634 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 01:12:23.02 ID:N+HI9FGW0
勿論、気にしなくていい筈は無い。

今アタシがさやかに手渡そうとしているグリーフシードは自分の手持ちのストック全てだ。

ただ、『これから』を見つけられないアタシより、『これから』を見つけたこいつが持つ方が遥かに良い…。

だから、意地でも受け取らせる。

そう思っていた…。


だけど、あいつはアタシが考えた斜め上の断り方をした…。





さやか「遠慮しとく。と言うか、この間の分も返す」


杏子「な…、お前馬鹿か!? まったくグリーフシードを使ってなかったのか!!!

   また、やせ我慢してるのならぶっ飛ばしてでも…」


あの時と同じ。

グリーフシードを使わずに無理を通す行為…。

こいつはまた痩せ我慢してるんだと思った。


だけど、こいつは笑って返す。
635 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 01:13:07.99 ID:N+HI9FGW0
さやか「あはは…。違うんだって。最近なんか調子良くってさ…。

    ソウルジェムが全然濁らないんだよ」


杏子「何、馬鹿な事言って…」


さやか「本当だって」


杏子「お前は日々に僅かなストレスも感じないって言うのか? 聖者じゃあるまいし…。

   そもそもお前には戦闘の…」



アタシが言い終わらない内に、さやかは自分のソウルジェムを取り出して見せる。


こいつの言っている事は本当だった。

いや、それどころか…。
636 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 01:13:56.34 ID:N+HI9FGW0
杏子「なんだよ、これ…」


さやか「なにって…。あたしのソウルジェムだよ」



杏子「アハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」


さやか「なっ…! 何がおかしいのよ…!」




杏子「アハハハハハハハハハ!!!! なんだよ、これは!!!

   どこの電灯だよ、それは…ッハハハハハハ!!!!」


さやか「んなっ! 馬鹿にしてっ!

    あたしがやりたくて、こうなったんじゃないっての!!!」



杏子「アハハハハハハハハハハ!!!!!」


さやか「もう! 笑うな〜!!!!」
637 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/06/24(金) 01:14:29.50 ID:N+HI9FGW0
さやかのソウルジェムは言う通り一点の穢れもなかった。

それどころか、まるで星をここに持ってきたかのような輝きを放っていた…。


強い強いその輝きは、いつかこいつと戦った時に見たあの輝きと同じモノで…。



グリーフシードを使わなくても濁らない…。

どころか、眩いまでの光を放つソウルジェムなんて聞いた事がねぇ…。



確信した。

こいつは魔法少女になった絶望を、銀河美少年になってからの希望で覆したんだ…。

希望と絶望は差し引き0…。

そのルールを打ち破ったんだ…。



もう、こいつは大丈夫だ…。

グリーフシードなんかなくたって、きっとこの世界で生きていける…。



後は、アタシが………。
638 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 01:15:13.45 ID:N+HI9FGW0
────────

────

──

アタシは目指す。

たった一つの気がかりを消し去る為に…。


学校でちんたらやってる場合じゃねぇ…。

グリーフシードも使い惜しみしなくていいなら…!





杏子「コソコソ見張りやがって…。出てこいよ」


???「気付いていましたか」


闇の中から現れたのは、例のラブコメ坊や。

いや、この場合気配のない暗殺者とでも言った方が正確だろうか…。




タカシ「いつから気付かれてました…?」


杏子「途中からそれとなく。最初からお前の気配だけは感じ取れなかったからな…」


タカシ「本当に大したものですね…。あなたは…」
639 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/06/24(金) 01:15:49.48 ID:N+HI9FGW0
杏子「ヘッドにアタシとさやかの事を話したのもお前だな…?

   そもそも最初にさやかを引き合わせたのも、なんか裏あっての事か…?」


タカシ「最初にあなたにさやかさんの事を教えたのは、そのまま二人してこの島から出て行ってくれればそれに越した事は無い為。

    以後はその事を僕の独断で行った以上、その結果を報告するのが義務ですので…。おかげで色々と面白い事を知る事が出来ましたが」


杏子「お前は一応は恩人の一人だ。見逃してやるから消えろ。

   アタシは今忙しい…」


ラブコメ坊やを通り過ぎて進もうとする。

だが…。



タカシ「やめた方が良い。挑んでも返り討ちに合うだけですよ」
640 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 01:17:17.97 ID:N+HI9FGW0
杏子「…………」


タカシ「スターソードのサイバディ停止能力を美樹さやかだけが使えると思わない事です。

    さすがにあのツナシ・タクトには通用しなかったが、シルシも持たないあなた程度なら五秒と持たない」


杏子「誰がゼロ時間で殺るっつった…?」


タカシ「それも無駄ですね。あの人はゼロ時間に心を縛られ、不老不死と言って良い状態になっているそうです。

    現実世界でいくら痛めつけても何も起きませんよ?」


杏子「…………………」


タカシ「誰もあの人には勝てないんです…」


杏子「そんなモンやってみなきゃ…」


タカシ「…………ねぇ、佐倉杏子さん?」





タカシ「僕と、取引をしませんか?」
641 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 01:23:49.06 ID:N+HI9FGW0
っし。
今日はここまで。

宣言通り彼が動いた以上、話も大きく動きます
しかし、黒いけど根は臆病って結構動かし辛かったYO


>>589
さやかちゃんさやさや
ムードメーカーだからそう言うのには敏感だろうけど、恋愛レーダーの効きはイマイチでしょう

>>619
条件付きで、まぁ脱線し過ぎない程度にマジキチモノはやってみたかった
保険医が絡めばまぁこうなるだろう



それでは、本日は閉会とする。

佐倉杏子に栄光を…!
美樹さやかに祝福を…!

綺羅星☆
642 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[sage]:2011/06/24(金) 01:26:35.51 ID:n048popFo
綺羅星☆

しかしVSスガタの杏子ちゃん、言ってる理屈は分かるけどやってることは
バンカーの死ぬかもしれんからサイバディ復元しない、と変わらんよ……
シーンの順番からしてあのマジキチな騒動がバンカーの銀河美少年打倒作戦の一環だと思った俺がいました
マジすいません
643 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/24(金) 01:59:52.27 ID:N+HI9FGW0
>>642
綺羅星☆

このSSの杏子は純粋に『戦闘力』は高いから、戦える敵の範囲が異常に広いってだけ
明確な信念や勝ちに対する執着を持たないから、格上相手に我武者羅や捨て身できずに退いちゃう点ではタカシさんと同じ
ようするに『リビドー』的にはそう強くなく、それが響くサイバディ戦では目的を見つけているさやかに惨敗した

杏子が生きてきた環境的にはそれが正解だから止むを得ないんだけどね…

タカシってかプロフェッサー・シルバーならやるかもw
644 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/06/24(金) 02:11:58.19 ID:8+8Ra07fo
乙星!!
序盤の黒タカシからのラストのドタバタ面白かった!
さやかのSGは「もう輝いている!!」状態なのかww
645 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/06/24(金) 13:37:45.98 ID:6zSrQA/IO
乙綺羅星☆

タカシが動き始めるとは二次ssならではで楽しみー

>>617
>タクト「スガタぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
>スガタ「タクトぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

こんな奇声を上げながら揺れる掃除ロッカーとか なにそれこわい
646 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)[sage]:2011/06/24(金) 17:19:12.22 ID:R280n+1AO
綺羅星☆!!
タカシあれに乗るのか?
三話で密かに登場してたマドカやコウと違ってあれのドライバー中々出ないから一時期タカシが二つ持ちだと思ってたわ
必殺技の紙吹雪の時歯がアップで写ったし、あれに乗って紙吹雪の強化版噛み(神)砕きとか出すもんだとばかりに思っとったのにタカシェ…
647 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[sage]:2011/06/25(土) 01:46:57.35 ID:vP32MzKzo
綺羅星☆

星の輝きを持つソウルジェム……まさか、さやかの第一フェーズか!?www
いや、なんか「胃腸の調子がよくなる」とかそういう第一フェーズもあるらしいから、ねw

タカシの銀河美少年打倒作戦はうまくいくだろうか
ゲームまで全部見た感じ、タクトに曲がりなりにも勝つには単純に数の力か、
同じようなよりよい未来を迷いなく信じる銀河美少年しかないんだよな……
648 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 22:51:29.14 ID:A4ECYQ1B0
綺羅星☆
ここ数日スランプが続き、まったく書けませんでした。
さらに今書いてる所と今日投下する所が絡みあってるんで、迂闊に投下もできず…

結局ロボ魂のエムロードを黄色に塗ったり、スタドラ最終話録画見直したりしてどうにかテンション上げましたw
しかし、こうなるとページェントとかコフライトがほしくなる罠…

では、ぼちぼち投下します
649 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 22:53:20.48 ID:A4ECYQ1B0
タカシとの取引。

それは今後のアタシの『これから』を有無を言わさず決定づける物だった。



今のさやかは『希望』に満ちていた。

それは認める。

だけど、現実ってのはやっぱりそうは甘くない。



あいつが新たに抱いた『希望』の後に待つ、『絶望』をアタシは知ってしまったから…。

その『絶望』をアタシが潰す…。



決めたよ…。

アタシの『これから』はその為に使う…。
650 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 22:54:55.09 ID:A4ECYQ1B0
綺羅星十字団『科学ギルド』研究施設。



忙しそうにする灰髪の仮面の前に、淡々と歩く仮面の男が現れる。

灰髪の男はその姿を見ると、作業を他の者に任せて男の方向へ歩む。



議長「例の件の調整か…」


プロフェッサー・シルバー「現在、ドライバーのデータ込で調整中です。

              しかし、あなたもお耳にしておりましたか。まったく、彼の提案には驚かされました。

              こちらとしては面白いデータが集まりそうなので、それに越した事はないのですが…」


議長「ここはお前の人体実験場ではない。失敗しないように可能な限りの調整をしろ…!」


プロフェッサー・シルバー「言われるまでも無い…。ですが、あの組み合わせはそれ以前の問題でしょう…。

              最も、彼女なら…」


議長「それは他言無用だと聞いているが?」


プロフェッサー・シルバー「おっと失礼…」


議長「……………」
651 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 22:56:17.67 ID:A4ECYQ1B0
『バンカー』、『プロフェッサー・シルバー』、そして『ヘッド』。


それぞれがそれぞれの思惑をもって行動している…。

そして、その業を背負うのは…。



俺はこのままで良いのか…?

間違えた事に気付かない振りをして、何時まで傍観者でいるつもりだ…。

どこまで流されれば気が済むんだ…?


こんな腐った生き方をこの先も続けるのか…?

…………。
652 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 22:57:10.27 ID:A4ECYQ1B0
議長「それと、プロフェッサー」


プロフェッサー・シルバー「まだ、何か…?」


議長「奴の対策として一つ提案がある。可能かどうか応えて欲しい」


プロフェッサー・シルバー「はぁ…」


議長「俺がシルシ、第一フェーズを所持していた時のデータと、レシュバルの各種データを用いて、

   奪取されたあれのドライバーのシルシ、もしくはサイバディ自体に何か仕掛ける事は出来ないか…?

   勿論、その被検体には俺を使う前提で構わん」


プロフェッサー・シルバー「あなたは…、何を…」


議長「できるのか? できないのか?」


プロフェッサー・シルバー「そうですね。どうしてもやるのでしたら…」




これ以上無様なままで良い筈がない…。

俺にしかできない事があるのなら…。



その業は俺には背負えない…。

だが、その手助けくらいならば…。
653 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:00:40.47 ID:A4ECYQ1B0
朝の陽ざしの指すどこかの部屋。


眠り続ける男の傍らで、だらけたように椅子に座り、物思いに耽る青年が一人…。

その顔にはいつもの無気力でなく、どことなく狂気染みた喜びが見て取れる…。





???「ついに…、この時が来る…」


幸せな夢…。

それを見られる瞬間がついにやって来るのだ。


その夢の土台をくれた男の顔を見る…。

そして、ようやくそれを渡してくれたあの時を思い出す…。
654 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:01:42.01 ID:A4ECYQ1B0
???『この世界は僕のなりたい大人になれる世界じゃなかった…。

    だから、僕は成長を止めた。けど、そしたらもっと苦しくなった…』


???『………』


???『自分だけが取り残されていく…。

    トキオは平気なの…?』


???『とにかく君のが欲しいんだ…。

    そしたらもっと平気になれる…』


???『そう。なら良いよ。僕のはトキオにあげる…』





平気…?

平気さ…!


今度は俺が夢を見る…!

長く楽しい夢をね…!



今度は俺が捨てるんだ…!

俺が置き去りにするんだ…!
655 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:02:32.37 ID:A4ECYQ1B0
捨てる…か。

思えば俺はそこから始まったんだったな…。

長い長い時間がかかった…。


だけど、ようやく俺が捨てる番が来る…。




捨てる…?

そう言えば…。




捨てた…。

ツナシ…。

そして、シルシ…。
656 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:03:21.36 ID:A4ECYQ1B0
やはり、あいつは………。

いや、間違いなく………。





???「できれば、あいつが消えてくれると俺も気分良く捨てられるんだが……」


青年は憎しみと喜びが入り混じった狂気の笑みを浮かべる。


その憎しみは誰に向けられたモノなのか…。

その喜びは何を意味するのか…。

青年の捨て去りたいモノは何なのか…。



どちらにしても彼の夢は目前に迫っていた…。
657 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:04:26.49 ID:A4ECYQ1B0
────────

────

──


土手の上を静かに歩く…。

少し向こうに不思議な雰囲気の女が立っている。

雰囲気がどこか不透明で、なんとなくあの詐欺師宇宙人を思い出すその女が薄気味悪かったが、

それでも横を通り抜けようとした。


その女は突然、気真面目な顔をすると語りかけるように話しかけてきた。




???「君は良いの…?」


杏子「………」


???「違う道があるかもしれない。

    君の信じる救世主に賭けて、君も支えてみればいい。

    そう言う『誰かの為』を選ぶ事も出来るんだよ?」
658 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:05:29.40 ID:A4ECYQ1B0
杏子「………何者だ? あんた」



???「…………ただの演劇の練習だよ?」


杏子「そりゃ、邪魔したな」


???「………」





それは無理だよ。

演劇の世界よりもずっと絶望ってのは色濃いんだ。

だから、アタシはこの道を選んだんだ…。



それでも…。
659 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:06:13.97 ID:A4ECYQ1B0
綺羅星十字団管理区域『アインゴットの部屋』。


仮面の少年の元へ、部下に連れられた赤い衣装を着た仮面の少女が現れる。

そして、近寄るだけで気絶しそうな悪寒を放つその部屋へ近寄っていく…。




バンカー「来ましたか」


杏子「待たせたな」


バンカー「ここが『アインゴットの部屋』。

     あなたの第一関門となる場所です」


杏子「………ふん」


バンカー「明日のあなたが部屋から出れる時刻に合わせ、指名のあった人物をここへ招集します。よろしいですね…?」


杏子「あぁ……」
660 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:06:55.55 ID:A4ECYQ1B0
バンカー「………………」


杏子「まだ、何か用か………?」



バンカー「引き返すなら今の内ですよ…?」


杏子「…………気ぃつかってくれてんのか? ありがとな。

   だけど、これで良い」


杏子「お前は知ってるだろ? アタシはこのまま生きてたってこの先は長くない。

   それなら、やれることはやりたい」


バンカー「………そうですか」




杏子「心配すんな。アタシが全部終わらせてやるから」


バンカー「……………」


少女はその暗く重い扉を開け、部屋の中の暗い暗い闇に消えていく…。

自然と閉じた不気味な扉。

仮面を付けた少年は何も言わずにそれを見つめていた…。
661 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:07:46.41 ID:A4ECYQ1B0
────────

────

──


スカーレットキス「こんな所に人を呼び付けて…。あんたの部下は一体どうなってるんだろうな?

         躾がなってないんじゃないか?」


頭取「…………ここが何なのかわかっていないのか?」


スカーレットキス「あ……!?」


頭取「無関係ならそれで良い…」


スカーレットキス「何の事だ…!?」



プロフェッサー・グリーン「………ここは、あの『アインゴットの部屋』へと続いてる。

               そして、現在あれの管理はお前達『フィラメント』にある筈だが…?」


スカーレットキス「何…? 聞いてねぇぞッ!?」


スピードキッド「痛ッ! 俺はちゃんと報告したのに、お前が薄気味悪い欠陥機の事なんかどうでもいいって聞かなかったんじゃねぇか…」


イヴローニュ「相変わらずいい加減ね……」
662 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:08:55.12 ID:A4ECYQ1B0
セクレタリー(やはりスカーレットキスはこの件に噛んでいない…。そして、あの子と親しい者が大半を占めるこの面子…)


セクレタリー「嫌な予感がします…」



頭取(タカシ…。私達を嗅ぎまわるだけなら好きにすれば良いと放置していたけれど…。一体何を考えているの…?)


頭取「私はどうやら、部下に甘すぎたのかもしれないわね…」


セクレタリー「奥様…」




レイジングブル「アインゴットか…。話じゃとんでもない欠陥機だって話だろ?

         いくらアイツでもそんなモンに乗っちまったら…」


スピードキッド「『アインゴットの部屋』に入っただけなら平気だ。

         確かにあの部屋に入れば、サイバディからの精神干渉が来る。それを一晩耐えるのがアレのドライバーになる条件だからな」

スピードキッド「だが、部屋からは途中で出る事だってできるって聞いてる。

         そりゃ体調は崩すかもしれないが、死ぬようなことにはならない筈だ。怖いのは…」


レイジングブル「あのサイバディに乗り込んでから…か。こりゃパンチドランカーになる覚悟がいるかもな」


スピードキッド「だな。だけど意地でもアレに乗せる訳にはいかねぇぜ…」
663 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:10:45.55 ID:A4ECYQ1B0
一行は辿り着く。


話題の中心にある『アインゴットの部屋』に。

そして、そこには自分達を呼び付けた仮面の少年『バンカー』と、

一行の共通の仲間にあたる少女『デス・クリムゾン』の姿があった。



スカーレットキス「どう言う事か説明して貰おうか?」


杏子「先輩、その前にやる事があるだろ…?」


スカーレットキス「何…?」







杏子「綺羅星!!!!!」


その様子には、かつて羞恥で躊躇い、語尾を噛んだ情けない新人の姿は無い…。

まるで綺羅星十字団の幹部のそれを思わせるような…、力強いそれに一行は驚きつつも返す。



一行「「「綺羅星」」」
664 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:11:27.58 ID:A4ECYQ1B0
頭取「…………説明はしてもらえるのよね?」



杏子「………じゃあ、ぼちぼち始めますか。

   『銀河美少年攻略作戦』について…」




レイジングブル「攻略作戦って…。お前…」


頭取「それと『アインゴット』は関係があるの…?」


杏子「なきゃこんな所にアタシはいないよな…?」



勿論、彼女もわかって質問したのだ。

だが、『アインゴット』はかつてドライバーを取り込もうとする事故を起こした欠陥機…。

そんなモノを知人が使うかもしれないと思えば、心配になるのが普通だろう…。
665 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:12:39.15 ID:A4ECYQ1B0
杏子「回りくどい言い方は苦手なんで、はっきり言うとな…。

   あいつとアレを掛け合わせて使う…。それがこの『銀河美少年攻略作戦』の肝って訳だ」




スカーレットキス「な…!? お前馬鹿か!! どっちも相当無茶苦茶なモノだってわかってるだろうが!

         そんなモノ使ってお前は一体何がしたいんだよ!!」


杏子「美樹さやか。どうしても、あいつを倒さなきゃいけない用事が出来た………」




セクレタリー「何を言ってるの…?

        あの子はあなたの親友なのに…」


プロフェッサー・グリーン「親友だから倒せません、と言うのよりは潔いとは思うが…。

               ドライバーだからと強制出撃を命じれるのは所属の代表だけだ…。

               敵である以上そいつに対して我々は容赦しないが、何もお前がそうまでして…」


黒晒に茶髪の仮面の女が言いつつ、ピンク髪の少女の方を見る…。

彼女の言う『所属の代表』にあたるピンク髪は「私じゃねーぞ」と言わんばかりに横に首を振っている…。
666 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:14:17.30 ID:A4ECYQ1B0
誰もが思う疑問。

親友をそうまでして討つ必要性…。

まして、今の少女に施される機体や処置はまるで『死にに行く特攻兵』のそれだ…。


そして、そんな真似を命じている人間はいない。

それが意味する事は…。




杏子「これまた回りくどい言い方は嫌いなんでな…。はっきり言う。

   アタシは魔法少女って言う特殊な人間だ。それ故にたぶん老い先がそう長くない…」


セクレタリー「あんこちゃん…」


頭取「…………」



スピードキッド「魔法だ…? 子供向けアニメとかのか?」


スカーレットキス(ガキの頃は見てたなぁ…)
667 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:15:28.07 ID:A4ECYQ1B0
杏子「それともちょっと違う。

   まぁ簡単に言えば、色々と人害の力を手にした代わりに、これが無いと長生き出来ない仕様なんだ」


ポケットに手を突っ込み、黒い宝石のような物を取り出す。

『グリーフシード』

魔法少女が力を遣う為に必要なものであり、彼女達の延命装置にもあたる…。





杏子「だが、これのストックはそこまで多くない上に、こっちじゃ絶対に手に入らない…」


杏子「このままのんびり余生を送る…。

   それも悪くないが、その前に絶対にやっておきたい事があるんだ…」




スカーレットキス「………それが、『銀河美少年攻略作戦』か?」


杏子「そうだ…」
668 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:17:04.09 ID:A4ECYQ1B0
頭取「何故…?」


明るい緑色の髪をした大人の色気を放つ女性が言い放つ。


当たり前だろう。

先が長くないと言う話をする自分の体を痛めつけてまで、何故親友と戦う必要があるのか…。

誰もが疑問に思うだろう…。





杏子「あいつを救うためだ…」


頭取「救う…?」


バンカー「それについては僕がお話しましょう」


セクレタリー(何故、タカシが…)





少女の傍らに居た仮面の少年がゆっくりと動き出す。

そして、自らのみが知り得た事実を語る。
669 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:19:11.10 ID:A4ECYQ1B0
バンカー「僕は偶然ですが、彼女が魔法少女なるモノである事を早期から知っていました。

     だから、それとサイバディの相性や、彼女の力をより強く発揮する為に相談を受けていました…」


頭取(出まかせを…。いや、早期から知っていたと言うのは本当か…)



バンカー「そして、その過程の中でプロフェッサー・シルバーに依頼した時、知ってしまったんです」


バンカー「サイバディに乗り込む事は、魔法少女の寿命を大幅に縮める危険性がある…と」





レイジングブル「なんだって…?」


スピードキッド「じゃあ、尚更アインゴットなんかに乗ったら…」


スカーレットキス「お前、何考えてんだよ! そんな事情なら私だって無理に乗れとは言わない!

         だから…」
670 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:20:39.21 ID:A4ECYQ1B0
杏子「アタシ一人なら搭乗拒否もしてたろうさ。

   だが、魔法少女はもう一人いる…」


スカーレットキス「まさか…」





杏子「それが美樹さやか。あいつだ」


一同は沈黙する…。

だが、それにも納得のできない優しい少女が口を開く。

彼女の望みは理解できても、行動の理由は納得が出来ない…。
671 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:21:36.43 ID:A4ECYQ1B0
セクレタリー「だからって、こんな無茶…。

       ううん。だからこそ、こんな無茶をしないで話し合いをするべきです…」


杏子「お前には言ったろ…?」


杏子「あいつは戦って死ぬ事すら本望だと思ってる」



セクレタリー「…………」


杏子「最初から最悪の事態すら考えて突き進んでるあいつは、今更聞きやしないよ。

   ましてアタシらは綺羅星だ。一番信憑性のあるデータを見せるには、信用を失わなくちゃならない…」


セクレタリー「だからって……」
672 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:22:40.00 ID:A4ECYQ1B0
杏子「………アタシはあいつを止めたい。

   どうしても」



杏子「だから、アタシはやる。『銀河美少年攻略作戦』を…」


杏子「そして、これはアタシの事情だから無理強いはできない…。だけど、アタシ一人であの二人と戦うのは無理だ…。

   出来れば…、アタシに力を貸してほしい…」


杏子「どうしても助けたい…。だから力を貸してくれ…」




少女の瞳は決意に満ちていた。

だが、その決意はさやかのモノと違い、悲壮感を伴っていて…。


一行は少女の決意に言葉を失った…。

それが間違っていると感じても、それを否定する言葉が見つからなかった…。



悲壮な決意。

そして、それを成し遂げる為の懇願…。

薄暗い部屋の前で、その言葉は僅かに木霊して…。
673 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:24:11.32 ID:A4ECYQ1B0
彼女の上司にあたる不器用なピンク髪の女が、少女を睨みつける。

少女以上に不器用な彼女は、頭に血が上っている様子が見て取れる。





スカーレットキス「私は認めない…! 私が許可を出さなきゃこんな…」


杏子「無断出撃でもなんでも結構だ。

   その時はあんたには少し手荒な真似しちまうかもしれないけどな…」


スカーレットキス「糞ッ!!!!」



少女は代わりに壁を思い切り殴りつけた。

その手には血が滲み、横に居た男がそれ以上続けないように制止する。
674 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:25:17.30 ID:A4ECYQ1B0
それを痛々しそうに見ながら、明るい緑色の髪をした大人の雰囲気を持つ女が少女の元に歩み寄る。

仮面越しからでも、悲痛な思いが伝わってくる…。




頭取「…………それしか、道がないのね?」


杏子「あぁ」


頭取「あなた自身もそれを望んでるのね…?」


杏子「そうだ」





頭取「……………協力を約束します」


杏子「ありがとう」
675 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:25:51.61 ID:A4ECYQ1B0
頭取「馬鹿な子………」


杏子「悪い………」


明るい緑色の髪をした女は少女を抱きしめる。


女に抱きしめられた少女の前に、茶髪の仮面の女が立つ…。





プロフェッサー・グリーン「私はお前に借りがある」


杏子「…………」


プロフェッサー・グリーン「そのお前の頼みだ。全力でバックアップする事を約束する。

              技術方面の事は私に任せておけ」


杏子「………助かる」
676 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:27:07.91 ID:A4ECYQ1B0
茶髪の仮面の横に居た気真面目そうな仮面の女が話しかける。

何かしら感情的になっている他の者と違い、その女だけは淡々としている様子が見て取れる…。




イヴローニュ「正直、私はお前に呼ばれるほど親しいとも思っていないのだが…」


杏子「そう言ってくれるなよ。イヴローニュ先生」


イヴローニュ「………………」


杏子「冗談はさておき、あんたも隊の代表の一人だからな。

   聞く権利はあると思ったのさ」


イヴローニュ「へぇ………」


杏子「あんたに頼みたい協力はただ一つ。聞いてさえくれてればそれで良い」


イヴローニュ「…………承った」
677 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:28:22.62 ID:A4ECYQ1B0
気真面目そうな仮面の女性の後ろにいた二人の男の内、仮面の男が少女の前に立つ。

彼女を抱きしめた女はようやく、少女の元を離れる…。



レイジングブル「俺達に出来る事はなんかあるのか?」


杏子「先輩…」


スピードキッド「ジョ…、おい、お前!!!」


レイジングブル「てめぇが本気で決めた事なんだろ…?

        じゃあ、先輩の俺は手助けするしかねぇじゃねぇかよ」



スピードキッド「だけどよ…!」


レイジングブル「ただ、勘違いするなよ…?」
678 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:29:59.46 ID:A4ECYQ1B0
杏子「………?」


レイジングブル「俺が手助けするのはそのお友達やら、いっそ綺羅星の為でもねぇ…。

        てめぇ自身の為だ…」


杏子「………格好付けやがって」


レイジングブル「後輩の前でくらい格好つけさせろ。

        俺が格好付ける為にも、てめぇは戻って来るんだぜ…?」


杏子「…………努力するよ」


レイジングブル「ただの努力じゃ駄目だ。最大限の努力をしろ」


杏子「ハハ…。あんたらしいよ」



仮面の男と少女は和解する。

そして、もう一人…。
679 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:32:13.62 ID:A4ECYQ1B0
スピードキッド「俺は認めねぇ」


杏子「…………」


スピードキッド「だけど、お前は俺が何言おうと勝手に突っ走って行っちまうんだろ?」


杏子「…………あぁ」



スピードキッド「はぁ…。じゃじゃ馬を扱うのは疲れるぜ」


杏子「………言ってろ」


仕方ないな、と言った調子で頭を掻く男…。

それを眺める少女…。

二人の間にある人にはわかりづらい信頼関係…。
680 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:34:17.50 ID:A4ECYQ1B0
そして、沈黙を続ける金髪の少女の仮面…。

少女は彼女に向かって話しかける…。



杏子「シモ…、いや、セクレタリー…」


セクレタリー「私はスカーレットキスと同じ意見です…」


杏子「やっぱり認めちゃくれないか…?」


セクレタリー「『あなた自身』を否定しないでって言ったのに…」


杏子「否定はしてないさ。むしろ否定したままだったらこの答えは出せなかった…。

   あいつやお前らがアタシを変えてくれたんだ…」


セクレタリー「……………」




杏子「だから、アタシはこの『これから』に決めた。

   どうだ? これならあいつやカナコにも負けてないだろ…?」


セクレタリー「こんな…、こんなのって…!

        私はそんなつもりで言ったんじゃない…! そんな『これから』なんて…!」
681 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:35:19.99 ID:A4ECYQ1B0
金髪の少女は涙を流し、それを見せぬように俯く…。

少女は彼女に対する説得を諦めて、頭を掻く…。


そして、もう一人…。




スカーレットキス「私も認めるつもりはない…」


杏子「さっきも言ったが、あんたらが何言おうとやるぜ?」


スカーレットキス「そう言う奴だったな…。お前は…」




スカーレットキス「お前は『フィラメント』としてこの私の片腕になるんだ…。

         だから、絶対に生き残れ…。これは命令だ…」


杏子「無茶ばっか言いやがって…」


スカーレットキス「お互い様だ…」
682 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:36:10.88 ID:A4ECYQ1B0
少女が告げる悲壮な覚悟。

それを聞いた知人達は協力を約束する。


ただ、一人を除いて…。



セクレタリー「こんなの…、私は絶対に認めない!」



杏子「…………」


スピードキッド「追わなくていいのか?」


杏子「追ったって、かける言葉がねぇよ…」


頭取「…………」





杏子「じゃあ、作戦は四日後。

   改めて頼む。みんな、アタシに力を貸してくれ………!」


やがて、部屋を去っていく一行。

だが、少女の心の中には、彼女の言葉だけがずっと残り続けていた…。
683 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:37:19.26 ID:A4ECYQ1B0
杏子「……………認めない、か」


バンカー「でも、やるんでしょう?」


杏子「あぁ……」




杏子「しかし、サイバディに乗ると魔法少女の寿命をさらに縮める…。

   なんて嘘、よくしれっと言えたな…」


バンカー「少々脚色しただけで嘘ではないでしょう。

     ストレスが穢れに変わるなら、サイバディ戦闘だって多少なりとも魔法少女に負担をかけるのは確かだ。

     それに…」


バンカー「それを言うなら、あなたの『美樹さやかも魔法少女だから助けたい』の方がよほど嘘だ。

     今日までグリーフシードを必要としていない彼女は、助けずともサイバディ戦闘を負担にしてない可能性が高い…」




杏子「助けたい…って所は本当さ」


バンカー「……そうでしたね」
684 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:37:59.29 ID:A4ECYQ1B0
杏子「タカシ。念の為にシモーヌの動きに気を付けてくれ。

   さやか達に余計な事告げられると困る」


バンカー「それはそれでやりやすくなるのでは…?」


杏子「今回の戦闘は確かめておきたい事もある……」


バンカー「そうでしたね」


杏子「それに……」




杏子「あいつの輝きが本物か、見ておきたい。

   これは完全にアタシの我儘だけどな…」



綺羅星十字団。

そして、南十字島…。


杏子の目指す『これから』。

そして、さやかの目指す『これから』。



希望を抱き、絶望に踊らされる二人は、再びぶつかり合うのか…。
685 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:44:54.58 ID:A4ECYQ1B0
────────

────

──


さやか達の教室。



さやか「どうしたんだろ? ここ数日杏子が学校に来ないなぁ…」


クラスメートA「やっぱりさやかにフラれたショックでっ!!!」


クラスメートB「それとも果たし合いに負けたから修行の旅にでたのかなぁ…?」



さやか「フラれ? 果たし合い…?」


コイツらの言っている事は訳がわからないけど、正直さすがに心配だ。

単に面倒になってサボってるだけなら良いんだけど、あいつは魔法少女だ。

穢れを溜めたグリーフシードが魔女を生み出して…、その時に何かあったって考えられなくもない。


アイツの強さは尋常じゃないから、まず大丈夫だとは思うんだけど…。
686 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:45:40.25 ID:A4ECYQ1B0
昼休み。

中庭。



タクト「杏子ちゃんが休み…?」


さやか「それももう四日もなんです…」


いつものように四人で取る昼食。

さりげなく、杏子と同じ寮住まいのタクトさんに聞いてみる。



タクト「杏子ちゃん自身の事はわからないけど…。

    そう言えば、寮長や先輩達もなんかピリピリしてたような…」


スガタ「彼女達とは確かに親しげにしてたね…」


ワコ「親しいと言えば、ワタナベさんやシモーヌさんも今日は休みだったよ。

   最近あんまり元気ないみたいだし…」


スガタ「何か心当たりはない?」


さやか「最初はあの騒動の後だから、その関係だと思ってたんですけど…」
687 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:46:29.63 ID:A4ECYQ1B0
タクト「あぁ…」


スガタ「あれは凄まじかった…」


ワコ「思い出したくもないね…」


さやか「ですよね…」


みんなでげんなりするも、それに耽っていられる状況でも無い。

自分で反らしてしまった話をあたしは元に戻す。




さやか「グリーフシードを持ってきたり、青い顔してたりでおかしいと言えばおかしかったんです…。

    結局その後いつものアイツに戻ったんで、またサボリかと思ってたんですけど…」


スガタ「行動としては不可解で心配になるモノばかりだな…」


タクト「ともかく、帰りに様子を見に行こう」


さやか「はい……」
688 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:47:50.82 ID:A4ECYQ1B0
────────

────

──


綺羅星十字団施設内、電気棺前。



腕を組んだ仮面の青年が、並べられた4基の電気棺を眺めている。

その内1基は特殊な措置がされており、青年はそれを見つめている。

そして、その傍らには仮面の少年が、隠れる事すらなく堂々と立っている。



ヘッド「準備はどうだい? バンカー」


バンカー「はい。もう直です。あと数時間後には決行できるでしょう」


ヘッド「そうか。楽しみだな」


バンカー「そうですね。ようやく僕たちは『旅立ちの日』を迎える事が出来る」


ヘッド「そうだな。その為にも彼女達には頑張ってもらわなくては…」


バンカー「まだ色々と問題はありますが、うまく行く確率は高いかと。

      二度の復元シーケンスを成功させたのは、ウインドウスターとニードルスターを除けば彼女だけですし。

      そしてあの二人は性格に難はありましたが、その実力は確かでした。

      なら、彼女も同等以上である筈です」
689 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:49:02.07 ID:A4ECYQ1B0
ヘッド「そうだな。しかし、惜しい人材に離脱されてしまったものだ…。

    生え抜き組は復元のリスクを恐れて動こうとしないし…。いい加減困り果てていた所だったんだよ…」


バンカー「さておき、今の彼女は強い。リビドーもそれ以外の点も。

     そして、今回はアレの対策もできています。その為のあの機体ですから…」


ヘッド「そうだったな。今度こそ銀河美少年は敗れる…!」


バンカー「はい。その為の今作戦です」



仮面の青年はその感激を殺し切れていない。

散々自分に辛酸を嘗めさせた宿敵が消える。

その感激と恨みが仮面に収まりきらずに溢れ出ていた…。
690 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:50:03.01 ID:A4ECYQ1B0
バンカー「それと、この件が終わったら報告したい事があります。

     不穏分子を発見しましたので…」


ヘッド「わかったが、今聞く事ではないな」


バンカー「後々、改めて報告させていただきます」




ヘッド「そうか…。しかし、君は素晴らしいな。バンカー」


バンカー「お褒めに預かり、光栄です」


仮面の青年と仮面の少年は不敵に笑う。

二人が目指すのは、この戦いでなく、その果てにあるモノ。

この二人の野心はこの世界の『これから』に何をもたらすのか…。
691 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:50:57.81 ID:A4ECYQ1B0
南十字学園学生寮。

放課後になり、いつもの四人組は学生寮にいるであろう杏子の見舞に来たのだが…。

部屋のチャイムを鳴らしても返事がないばかりか、事情を知るであろう寮長や先輩達もいない。

さらに、合鍵をどうにか借りて入っても中は物家の空だった…。



さやか「………」


ワコ「自室にも帰ってないなんて…」




スガタ「なぁ…、タクト」


タクト「あぁ…。嫌な予感がする」
692 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:51:57.76 ID:A4ECYQ1B0
スガタ「一応、メイド二人にも連絡を取って捜させてはみるが…」


タクト「……何もしないよりはいいさ。僕たちも手分けして探してみよう」


さやか「タクトさん、スガタ師匠…。ありがとうございます…」





タクト(杏子ちゃん、君は………)


こうして、四人はそれぞれ手分けして行方の分からない杏子を探しに向かう。

さやかは、自分が居候する皆水の神社へ、タクトは海岸沿いへ、スガタは街の方へ、ワコは学校へ戻る…。

それぞれ駆け出していく…。


探し人はそこに迫ってるとも知らずに…。
693 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/06/29(水) 23:52:49.67 ID:A4ECYQ1B0
綺羅星十字団ドライバー待機室。


一人仮面を外した赤髪の少女と、それ取り囲むように仮面の面々が集まっている。

その光景はまるで…。




杏子「とうとう来ちまったな…」


スカーレットキス「………」


杏子「じゃあ、ちょっと行ってくるよ」


頭取「………」


少女が席を外し、部屋を出ようとする。

そこに居た金髪の仮面の少女が、彼女を引き止める…。
694 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:54:22.00 ID:A4ECYQ1B0
セクレタリー「行っちゃ…駄目です…」


杏子「…………悪い」


セクレタリー「………私は」


杏子「わかってる…」


セクレタリー「…………待って」


杏子「待たない……」


セクレタリー「待っ…」










―――ごめん――――
695 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:55:15.99 ID:A4ECYQ1B0
仮面を付けた赤髪の少女は、金髪の仮面の少女の制止も聞かずに去っていく。

一言、謝罪の言葉を残して…。




セクレタリー「こんな…。こんなのって…」


頭取「シモーヌ……」


セクレタリー「奥様は平気なんですか…?」


頭取「平気な訳がない…」


セクレタリー「だったら…!」


頭取「………それでも、あの子が決めた事よ。

   だから、私はそれに全力で応える事にした」


セクレタリー「………そんなの、わかりません」


頭取「それでいい。あなたは優しいあなたのままでいてあげて…」
696 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:56:12.97 ID:A4ECYQ1B0
プロフェッサー・グリーン「時間だぞ」


頭取「えぇ…。二人とも、シモーヌをお願いね」



レイジングブル「あんたらこそ、杏子を頼む」


スピードキッド「俺らも出たかったが、さすがに役不足だしな…」




セクレタリー「奥様…。あんこちゃん…」



さらに、一人また一人と部屋から去っていく…。

まだ涙の止まらぬ金髪の仮面の少女はただ、それを見送ることしかできなくて…。
697 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/06/29(水) 23:56:49.11 ID:A4ECYQ1B0
────────

────

──


綺羅星十字団施設内、電気棺前。

赤髪の少女の調整はいよいよ最終段階を迎えていた。





杏子「じゃあ、やってくれ」


プロフェッサー・シルバー「わかりました」


赤髪の少女に怪しげな注射器から、紫色の液体が注入される。

本来はそれが注入された際には激痛を伴う筈だが、少女は僅かに顔を歪めただけで身動き一つ取らなかった…。


そして、その『システム』の起動の為に、装置に乗せられた少女はその中へと消えていく…。
698 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:57:43.08 ID:A4ECYQ1B0
プロフェッサー・シルバー「このシステムに本来失敗は無い…」


バンカー「ただ、今回だけは話が別…ですよね」


プロフェッサー・シルバー「えぇ。機体が機体だけに…」


バンカー「本来サイバディを乗っ取るこのシステムだが、あの機体は逆にドライバーを乗っ取ろうとする性質を持つ…」


プロフェッサー・シルバー「はい。ですから、失敗すれば逆に彼女は永久にサイバディの一部となる危険性がある…」



バンカー(だが、それを超えられなければ…)



少年の表情からは余裕が消えていた。

僅かでも少女を思っての事か、それとも少女の失敗による責任追及を恐れてか…。


そして、少女を思う仲間達もまた、それを悲痛な面持ちで見ていた。

しかし、その面持ちは仮面に隠れて皆が淡々としているようにしか映らなかった…。
699 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:58:57.75 ID:A4ECYQ1B0
────────

────

──

気付けばアタシは薄暗い空間の中にいる。

言うまでも無くここがどこかはわかる…。




さぁて、またお得意の精神干渉って訳かい…?

あの薄気味悪い部屋での一夜耐久、続けて復元シーケンス…。

で、今回こそ三度目の正直ってか…。



いいぜ。

来いよ…。

お前なんて、何度でもねじ伏せてやる…。


二度ある事は三度あるってこのアタシが教えてやるよッ…!
700 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/29(水) 23:59:57.05 ID:A4ECYQ1B0
アタシの頭をなでる優しい神父…。

この夢はよく知ってる。

ちょっと温かくて柔らかい布団で寝るとすぐ出てくるウザったいヤツだ。



神父とその家族の優しい日々…。






なるほどね…。

最後はこれって訳ね…。



いいぜ。やってみろよ…!
701 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/30(木) 00:01:15.09 ID:d2w6m0Q80
神父『杏子』


神父の妻『杏子ちゃん』


神父の娘『お姉ちゃん』




さんざん見てきたよ…。

戻れるものなら戻りたい一番幸せだった時間…。


アタシがまだ普通の少女として、普通の幸せを噛みしめてる頃…。

もっとも、そう言う事って後にならないとわからないのな…。




だけど、これは夢だ。

この幸せは泡のようにすぐに消える…。
702 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/30(木) 00:02:14.53 ID:d2w6m0Q80
神父「祈るだけでは神に縋っているのと何も変わりはしないのです…」



神父『神に祈るだけでは駄目なのです。

   自ら掴み取る為の一歩を踏み出さなければ…』



この人の言葉は誰よりも正しいんだ。

だけど、正しい言葉を人が聞くとは限らない…。


教義から外れたこの人の説法は、やがて自分の首を絞める事になる。


よくよく考えれば、アタシの綺麗事嫌いの根っこはここにあったのかもしれない…。
703 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/06/30(木) 00:02:55.50 ID:d2w6m0Q80
神父『神は皆の心を支えてくれる存在…。それに縋るだけでは駄目なんだ…。

   何故それを誰もわからない…』


わかる、わからない以前の問題なんだ。

誰もあんたの話を聞いちゃいないんだから。



祈るだけでは救われない。

だから、自ら歩み出せ。

神はそれを支える存在であり、追い縋るだけの怠け者を救う存在ではない。


過ぎた自論は、元の説法から大きく外れてしまい、それを説いた神父はやがて破門される。

自ら踏み出した神父自体が神に見放される事になるとは、笑えるよな…。
704 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/30(木) 00:04:55.23 ID:d2w6m0Q80
踏み出した者すら救わない神に見放された、神父たちの貧しい日々が始まる。

収入が満足にないんだ。

食う物すら満足に得られない…。



神父の娘『お腹…空いたな』


神父の妻『今食べたばかりでしょ…』


神父の娘『だってあれだけじゃ足りな…』


神父の妻『コラッ…! 我儘言わないの…!』


神父『…………』
705 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/30(木) 00:07:00.46 ID:d2w6m0Q80
杏子『ほら、食うかい…? アタシは良いからさ…』


神父の娘『ほんと、ありがと。お姉ちゃん』


神父『杏子……』




神父の妻『よかったわね…、よかったわね…』


神父の娘『お母さん、泣いてるの…?』




「ぐぅ〜〜〜〜!」


杏子『あ…アハハ。アタシちょっと外行ってくるね』


神父『………すまない』



鳴った腹の音。

間の悪いそれを誤魔化す為にアタシは走り去る…。
706 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/30(木) 00:08:30.89 ID:d2w6m0Q80
神父は正しい事を説いて鼻つまみ者になった。

そして、教会を破門された変人の言葉なんて、怪しげなカルト宗教か狂人の寝言と変わりやしない。

結局、正しいとか正しくないとかに意味は無くて、『教会の説法』にこそ意味があったって訳だ。



わからないでもない。

だけど、それはそう簡単に割り切れる事じゃない。

ましてや、子供だったアタシは尚更そうだった。


どうしても割り切れなかった。

この現実が許せなかった…。
707 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/30(木) 00:09:31.20 ID:d2w6m0Q80
杏子『悔しいよ…』


杏子『何で誰も話を聞いてくれないんだよ…』


杏子『聞いてくれよ…。正しいってわかるから…。

   お願いだから聞いてくれよ…。少しで良いから…!』






?????『それが君の願いかい…?』


杏子『お前は…?』
708 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/30(木) 00:10:19.79 ID:d2w6m0Q80
キュウべぇ『僕はキュウべぇ。僕ならその願いを叶えてあげられるよ…。

      その代わり…』





甘い言葉に踊らされ…。

願った事を安易に奇跡で叶える…。


アタシはあの白い悪魔と契約して魔法少女になった…。

後にそれを死ぬほど後悔する事になるとも知らずに…。
709 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/30(木) 00:11:34.43 ID:d2w6m0Q80
あいつとの契約は単純明快。

あいつがアタシの願いを叶える代わりに、アタシは魔法少女となって魔女なる化け物を討つ。


最初はちょいと苦労したが、願いが叶ってあの人の言葉をみんなが聞いてくれるようになった。

それを思えば気合も乗るってモンだ。


順調だった。

途中までは…。




だけど、そううまい話は早々ないってやっぱりわかるモンらしい…。

終わりの始まりは突然訪れた…。
710 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/30(木) 00:12:53.86 ID:d2w6m0Q80
魔女『グァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!』


杏子『よし、これで終わりっと』


奇声をあげて消えていく魔女。

長い事戦ったんでもう手慣れたモンだ。

魔女自体は大した事無かった…。





??『な、なんだ、それは…?』


杏子『父…さん?』


ここはその魔女の結界の中だ。

人目に付く事はない。


そう高を括っていた…。
711 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/30(木) 00:13:56.28 ID:d2w6m0Q80
魔女の結界の中で、いつものように魔女を倒した。

だが、その日はそれで終っちゃくれなかった…。


そこに現れたのは、神父…。

いや、アタシの親父だった…。




神父『やはり、そう言う事か…。

   何かが…、何かがおかしいとは思っていたんだ…』


杏子『な、何の事だよ…』


神父『お前が…! お前が教会に人が来るよう何かしたんだな…?』


杏子『な、何言ってんだよ…。

   あの人達は父さんの言葉を聞きに…』
712 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/30(木) 00:14:48.60 ID:d2w6m0Q80
神父『最初は私もそう思っていたよ…。だけど気付いた』


杏子『…………』


神父『お前は教会に来ている信者の目を見た事があるか…?』


杏子『え…?』


神父『どいつもこいつもみんな…、まるで死人のような生気のない目をしているんだ…!』


杏子『き、気のせいじゃ…』




神父『それだけじゃない!

   昨日までは胡散臭い新興宗教と罵っていた教会の関係者が、翌日は私の説法を聞きに来て信者にしろと言って来たんだ…!』


杏子『よ…、よかったじゃないか。父さんの言葉が届いたん…』


神父『良い訳があるか!!! 人は滅多な事では自ら信じた神や宗派を変えるような真似はできないんだ…。

   それなのに、それが当然と言わんばかりに他の宗派の信者が次々とやってきている…。そんな事が起きているんだぞ…!』
713 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/30(木) 00:16:17.75 ID:d2w6m0Q80
杏子『あ…、あぁ…』


神父『もはや、これは洗脳と変わらないではないか!!!

   魔女に魅了された使い魔と何が違うのだ…!!!』


杏子『父…さん…?』





神父『魔女…? そうか、お前が魔女だったのか!!!!

   お前が私に取り憑いて…!!!!』


杏子『ち、違うよ…。父さん…。アタシはただ…』


神父『く、来るなッ…!!! この…』










――――『魔女』め!!!!!!!―――
714 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/30(木) 00:17:23.49 ID:d2w6m0Q80
当然、その日からアタシは家に帰る事は出来なくなった。

それでも、母さんと妹は…密かにだけど、アタシと今まで通りに接してくれた。

親父の言う事が信じられなかったのか、アタシの事を信じてくれたのか…。


代わりに親父は酒浸りになり、どんどん狂い、堕ちて行った…。




母さんはやがて病に倒れ、妹もどんどんやつれて行った…。

それでもアタシは何もできなくて…。


そして、あの日がやってくる…。

アタシが『全てを失った日』が…。
715 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/30(木) 00:18:59.78 ID:d2w6m0Q80
アタシは教会に立ち入る事は出来ない。

だけど、やっぱり家族への想いは断ち切れなくて…。


同情してくれた人の家に泊まったり、宿を借りたり、野宿したりした。


そして、その日も野宿から始まった。

目を覚ました時、教会の方から煙が上がってるのが見えた。




嫌な予感がしたアタシは、駆け出した…。

人間でない力を使って…。
716 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/30(木) 00:19:53.82 ID:d2w6m0Q80
アタシが過ごした教会は…。

あちこちに油が捲かれ、既に火が上がっていた…。




『嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!』


入口が見えた時に一つ目の叫び…。





『やめて!お父さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!』


そして、中を進んでいる最中にもう一つの叫び…。




アタシは間に合わなかった…。
717 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/30(木) 00:20:51.66 ID:d2w6m0Q80
杏子『母さん…、それに………』


腹を刺されて横たわる母さんと…。

足の力が抜け、その場で崩れ落ちる妹…。

そして、その妹を刺した返り血まみれの神父だった…。




杏子『父さんッ!!! あんたは何て事を…!!!!』


神父『また現れたのかッ! 魔女めッ!!!!!

   だが、もう遅い…! お前の仲間はもういない…!!!!』


杏子『何…?』


神父『こいつらはお前に取り入ろうとしたばかりか、何故かお前の許しを私に乞うたのだ…!

   こいつらも魔女の使い魔だったんだ!!!!!!!』


杏子『そ…そんな…、アタシの…せいで…?』
718 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/30(木) 00:22:04.43 ID:d2w6m0Q80
神父『そうだ…! 全てはお前がッ…! お前がッ! お前が!!!!』


杏子『…………』


神父『お前さえいなければ…! お前さえいなければ…!!!』


杏子『アタシがいなければ…』


神父『私は…、妻も…、この子も…、そしてあの子…。

   杏子も失わないで済んだんだ…!』





杏子『父…さん…』


神父『私はお前を許さないッ! 私にッ! 私の娘に取り憑いたお前をッ!!!!!』
719 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/30(木) 00:23:22.01 ID:d2w6m0Q80
杏子『父さん…? 馬鹿な真似は止せ…!!!!』


神父『フハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!

   ハーッハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!』






杏子『あああああああぁぁぁぁぁ……』




親父は油まみれの自分に火を付けた…。

幸せな日々を過ごした場所は、大切な人達と豪華に燃えて消えていく…。


すぐさま駆けつけた消防車がその火は鎮火した。

だけど、残った教会にはもう大切な人達はいない。




その日、その時…。

アタシは目の前で『全てを失った』…。
720 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/30(木) 00:24:24.56 ID:d2w6m0Q80
アタシの願いが父さんを…。

いや、家族を壊したんだ…。


軽はずみな奇跡に踊らされ、その代償も考えずに…。



魔法は人を救わない。

救って…、くれなかった………。


『正しい』って信じてた。

それが家族の為になるって…。




だから願った。

だから戦った。



だけど、『誰かの為』の願いも戦いも何の意味も無かった。

むしろ『それ』はアタシの大切なモノをぶち壊した…。
721 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/30(木) 00:25:21.48 ID:d2w6m0Q80
────────

────

──



神父の妻『あなたはそこまでわかっていながら、また『誰かの為』に戦うの?

     またあなたの主張を押し付けて、私達のような犠牲を増やすの…?』


神父の娘『大丈夫だよ。お姉ちゃんはそんなことしないよ。

     私達の事も助けてくれなかったもん。ねっ?』


神父『そもそも、そろそろ死んだらどうだ? この魔女め…!

   私達を破滅させ、そしてそれ以外の多くの者達を傷つけ、何故のうのうと生きていられる…?』


マミ『美樹さんの猿真似でもしているつもりかしら…? 傑作ね!

   あなたの手は血みどろ…。高潔な美樹さんのようには成れやしないのに…!!!』



アタシを取り囲んで…。

よくもまぁ…。

好き勝手言ってくれるよ…。
722 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/30(木) 00:26:10.72 ID:d2w6m0Q80
前にも言ったろ…。

今更『誰かの為』なんて思っちゃいないって。


ここから先にする事は全部『自分の為』だ。




アタシが惚れ込んだ『美樹さやか』。

アタシの大切な『綺羅星十字団』。

そして、こいつらの住む『この世界』。



それを全部アタシが気に入っているから、『自分の為』に戦うのさ。
723 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/30(木) 00:26:59.08 ID:d2w6m0Q80
神父の妻『屁理屈よ。それは『誰かの為』じゃない…。

     そうやって戦って、またあなたは誰かを不幸に…』


杏子『うっせぇ! そんな軟な連中なら気に入ったりするか! 馬鹿!!!!』


母さんの姿をした何かが消えていく…。





神父の娘『なんで? その人達だけは特別なの!? 私達の事は助けてくれなかったのに…!』


杏子『お前らはもう救えない。だけど、あいつらはまだ救える…。

   後ろを見ても始まらない…。だから、前を見るんだ…!』


妹の姿をした何かが消えていく…。
724 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/30(木) 00:27:41.38 ID:d2w6m0Q80
神父『私達を滅ぼし、さらにお前は多くの者を虐げてきた筈だ…!

   死ね! この魔女! お前が傷つけてきた者達の為にも…!』


杏子『そうかもな…。だが、もう少し待ってろ! 魔女は魔女らしい死に方をしてやるからさ…!』


親父の姿をした何かが消えていく…。





マミ『あなたのような醜い存在が、あの美樹さんに勝てるとでも…?

   思い上がりも甚だしいわね…!』


杏子『それはすぐに証明してやる…。今のアタシは誰にも負けない…!

   叩き潰す! 絶対に! 例え相手が誰でも…!!!!』


マミの姿をした何かが消えていく…。
725 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/06/30(木) 00:28:30.47 ID:d2w6m0Q80
杏子『さ〜て、トラウマ抉りも、へったくそな人真似ごっこも破られて、万策尽きたろ…?』


アタシの周りにいた何かは全員が消えさった…。

一人闇の中に立ちつくしたアタシは、高見の見物をしているつもりの糞野郎をこき下ろす為に上を向いて叫ぶ。





杏子『そろそろ終わりにしようぜ?』


杏子『今まで散々好き勝手やってきたんだろ…? この陰険野郎…!』


杏子『なら、少しくらい好き勝手されたって、文句言えねぇよなぁ?』





杏子『なぁ…、アインゴット!!!!!!!!!!!!』



アインゴット。

呼ばれたそれは今度は力尽くでアタシをねじ伏せようとする。

目の形をした陣のような何かを周囲に発生させ、真っ黒い闇のような物をアタシに纏わりつかせ縛り付ける…。
726 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/30(木) 00:29:21.83 ID:d2w6m0Q80
杏子『このアタシに力尽くは…!』


杏子『無駄だってわかってんだろうがッ!!!!!』


縛る何かを引きちぎるように強引に体を動かす…。

ビシっと何かがひび割れるような音がすると、目の形をした陣の瞳孔の部分が砕けていた…。





ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ…。

雄叫びの様な轟音が響く…。

気付けば周囲にある薄暗い空間が、熱を当てられたチョコレートのように溶けていく…。

ドロドロに溶けた空間の外には眩い異空間が見えている…。






『最悪のサイバディ』

それとの三度に渡る戦いに決着がついた…。

そして、本当の戦いが始まる…。
727 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/30(木) 00:30:17.23 ID:d2w6m0Q80
綺羅星十字団施設内、電気棺前。



プロフェッサー・シルバー「デス・クリムゾンがアインゴットとのオーバーフェーズに成功!

             素晴らしい! 成功させた…!!」


バンカー「他の三基の電気棺も起動! 彼女に合わせる形で復元シーケンスを完了させろ!」


プロフェッサー・シルバー「来るぞ!!! 最高の研究成果が!!!!」



少年の指示の声が施設内に響く…。

既に起動した特別製の電気棺の隣にある三基の電気棺の前に三人の影が並ぶ。
728 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/30(木) 00:31:01.78 ID:d2w6m0Q80
プロフェッサー・グリーン「しかし…、改めて大した人望だな。彼女は」


頭取「代表が三人…。異例中の異例だな」


スカーレットキス「考えもしなかったよ。まさかお前らと組んで戦う日が来るなんてな…」




頭取「それにしても意外だった。お前はこの作戦には反対ではなかったのか?」


スカーレットキス「あいつは私の部下だ…。お前らみたいなのに任せておけるか!」


頭取「ふ…。素直じゃないわね。あなたも」
729 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/30(木) 00:31:53.54 ID:d2w6m0Q80
スカーレットキス「お前ら…、足引っ張ったらぶっ殺すからな!」


プロフェッサー・グリーン「言われるまでも無い。この作戦だけは必ず…!」


頭取「………やりましょう。あの子の覚悟に応える為にも!」







頭取&スカーレットキス&プロフェッサー・グリーン「開け!!! 電気棺!!!!」


三人はそれぞれ開いた電気棺に入り込む…。

そして閉じた棺はシステム起動の為に運ばれていく…。
730 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/30(木) 00:32:36.49 ID:d2w6m0Q80
────────

────

──


世界が凍りつく。

そして、それを感じ取れる『一般人』はシルシを持つ四人だけ…。


さやか「ゼロ時間…!」


ワコ「こんな時に…!」


スガタ「やはり来るか…?」


タクト「杏子ちゃん………」



杏子を探す四人のシルシがそれぞれ輝く…。

やがて、四人は世界から消え去り、散々探した待ち人の下へと飛ばされる…。
731 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/30(木) 00:33:21.42 ID:d2w6m0Q80
いつもと変わらない筈のゼロ時間。

しかし、そこには異様な緊迫感があった…。

その空間に浮いているのは…。



ワコ「またあの棺…!」


スガタ「あの滅茶苦茶なモノを使いたがる奴がまだいるのか…!?」


さやか「またマドカさん!? あの人もわからない人だな…!」




タクト「君はそこまで…。何故だ…?」


さやか「タクトさん…?」



棺がパスルのように一つ、また一つで分解して消えていく…。

そして、その中から現れたのは…。
732 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/06/30(木) 00:34:03.06 ID:d2w6m0Q80
ついに…。

この時が来てしまった…。

あの子が望み、私が望まない『これから』。

その時が来てしまった…。



『オーバーフェーズシステム』

あのモンスターのようなケイ・マドカが使った『狂人の為のシステム』


『アインゴット』

人を取り込んで思うがままに暴れまわった『最悪のサイバディ』



私の大切な友人は、綺羅星を震撼させたそれら二つを合わせてゼロ時間に立っていた…。
733 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/30(木) 00:34:55.96 ID:d2w6m0Q80
その姿は以前見たアインゴットのそれによく似ている。

当然と言えば、当然だ。

あれはアインゴットには違いないんだから…。


だけど、オーバーフェーズシステムを導入したそれは搭乗者であるあの子の特徴も現れていて…。




骨を思わせるアインゴットの灰色のボディは、あの子の衣装と同じ暗めの紅に染まり…。

どこか女性的なフォルムへと変わっていて…。


アインゴットの固有技能である頭部と両肩にある三つの『眼』は赤から紫紺になり…。

ケイ・マドカの時と違い、頭部が仮面のようになっていて、その表情を見る事は出来ないけれど、

後頭部からは彼女のチャームポイントである赤髪のポニーテールが伸びていて…。


そして、その手には彼女が得意と言っていた獲物である身の丈を超えるほどの長槍が握られていた…。
734 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/30(木) 00:35:52.34 ID:d2w6m0Q80
その姿は見とれるほど美しい…。

だけど、私はこんなの認めない…。

あの子の『これから』を奪って行くこんなモノは認めたくない…。


何度も説得した。

何度もやめようって言った。

だけど、あの子は聞かなくて…。

段々と会えなくなって…。


最後の最後には…。










―――――ごめん―――――
735 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/30(木) 00:36:52.26 ID:d2w6m0Q80
杏子「疾風怒濤…。オーバーフェーズ…、アインゴット…!」





セクレタリー「馬鹿、馬鹿、馬鹿ッ…!」


その言葉は話を聞かないあの子に対してか…。

それとも、そんなあの子を止める事の出来ない無力な自分自身に対してか…。

あるいはその両方か…。





いくら私が泣こうと、嘆こうと、もう止まる事はない…。

あの子を終わらせる『これから』は…。
736 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/06/30(木) 00:42:56.14 ID:d2w6m0Q80
っし。
今日はここまで。

去る前にレス返を…。

わ、忘れてた訳じゃないんだからね…!
迂闊な事言うとバレになるのが怖かっただけなんだからね…!


>>644
ミドリ先生が絡むシナリオはトチ狂ったモノにしようと決めてましたw

>>645
ボッチを除けば他も残らずラリってる
大丈夫だ。問題ない

>>646
タカシさんの活躍は約束する

>>647
胃腸…w
ニードル、キャメル、スカキス辺りのは反則だよね

攻略作戦は次回更新から
金曜の夜投下になると思う




それでは、本日は閉会とする。

佐倉杏子に栄光を…!
美樹さやかに祝福を…!

綺羅星☆
737 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[sage]:2011/06/30(木) 02:03:17.72 ID:t/OvUdXBo
綺羅星☆

タカシちゃん、あんまりお痛するとおとな銀行のみなさんに嫌われるよ
悪い奴じゃないはずなんだがなあ……

しかし代表三人とオーバーフェーズ魔法少女か
確かにこれは銀河美少年二人相手でも勝ちを拾えそうな戦力だが、果たして……
アインゴッドと魔法少女っていやーな予感が

ところでサリナとQB……二人とも宇宙人でしたね、そーいえばw
実力行使はしないところとか妙に共通点があるけど、余り友好的な関係は築けそうにないな
738 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/06/30(木) 02:35:40.29 ID:XTKjUh7Oo
>>737
お互いエントロピーと関係があるしねえ…
しかしこんんば最強布陣でも「僕には!!視えているっ!!」で突破していきそうなタクトさんww

そして今回も乙星!! アインゴッドのかっこうしたあんこか…
739 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/06/30(木) 08:49:54.71 ID:hs0WKVPYo
綺羅星☆!

思った以上にタカシが活躍しとるwww
しかし、これだけやってもタクトさんが何とかしてくれるようにしか思えないのがスタドラだなw

てか、やっぱりさやかと杏子はすれ違っちゃってるのかなぁ
740 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/01(金) 23:44:16.29 ID:ZfOLC4Ra0
綺羅星☆

遅れました…
もののけ見てましたw
ぼちぼち投下します


>>737
乙星☆
良くも悪くも正反対だしねぇ…

>>738
乙星☆
アイン杏子…
苦し紛れだけど、杏子の力を最大限生かすには魔法少女しかないな〜と

>>739
綺羅星☆
あんまり言うとバレるけど、タカシさんはまだ序の口っす
741 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/01(金) 23:45:40.92 ID:ZfOLC4Ra0
殺したいほどに憎んだ時もあった。

絶対にわかり合う事なんて無いと思っていた。



でも、コイツの事が少しわかって…。

時間が経って、あたしもそれを理解できて…。



まがいなりにも友人になれて…。

毎日馬鹿やって…。


色々あったけど、これからはコイツともこうやって付き合っていける…。



そう思っていたのに…。
742 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/01(金) 23:46:45.72 ID:ZfOLC4Ra0
真紅の姿…。

その姿を目に焼き付けたあたしは叫ぶ…。




さやか「杏…子?」


杏子「…………」


さやか「なんで…?」


杏子「…………」


さやか「なんで、アンタが…!」


杏子「…………」


さやか「なんでアンタが綺羅星に…!

    なんでアンタがそんなモノを使ってるのよッ!!!!!!!」
743 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/01(金) 23:47:46.22 ID:ZfOLC4Ra0
杏子「……………御託は良い」


さやか「何言って…」


杏子「さっさとアプリボワゼしろ…」


さやか「そんなの…」


杏子「なら、巫女でもあっちの銀河美少年でも、お望みの方を潰すぜ…?」



杏子の姿をした紅の巨人はその槍をワコ姉に…。

そして、タクトさんに向ける…。


その槍は見間違える筈もない…。

あたしを苦しめた杏子の獲物の長槍だった…。
744 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/01(金) 23:48:33.97 ID:ZfOLC4Ra0
さやか「やるしかない…か」


タクト「さやか…?」


さやか「あたしは、アイツがみんなに手を出す姿を見たくない…」


タクト「…………」




さやか「だから、ぶっ飛ばしてでも目ぇ覚まさせます!!!」


杏子(そうだ、それで良いんだ。お前は…)




さやか&タクト「アプリボワゼェェェェェェェ!!!!!」


二人の叫びに反応し、青い貴公子と赤い貴公子が次元の壁を割って現れる。

二人はそれぞれの機体へ吸い込まれるように乗り込むと、戦闘態勢を整える。
745 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/01(金) 23:49:13.25 ID:ZfOLC4Ra0
さやか「答える気は無いの…?」


杏子「………くどい」


さやか「そう…。いつかと逆になっちゃったね」


杏子「何がだよ…」


さやか「話してくれなくていい。その代わり構えなよ…!」


杏子「…………」


さやか「力尽くでも『それ』をやめさせる!」





見滝原…、南十字島…、そしてゼロ時間…。

解り合えない私達は、またぶつかり合う…。
746 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/01(金) 23:50:35.85 ID:ZfOLC4Ra0
タクト「僕は……どうする?」


????????「考える必要は無いぜ! タウバーン!!!!!」


立ち尽くすタクトのタウバーンに飛び蹴りが繰り出される。


それを回避し、大きくバックステップしたタウバーンを囲むように、

さらに二機のサイバディが降り立つ。




スカーレットキス「行くぞ! ページェント!!!」


頭取「始めましょう…。ベトレーダ!」


プロフェッサー・グリーン「やるとしようか…。ヨドック!」


かつて杏子が駆った、細身で真紅のボディを持つページェント。

ライオンを摸した外見にボクサーのグローブのような大きな拳を持つベトレーダ。

黒く巨大な装甲を伴う両腕に、両足先が針の様なヨドック。



かつて第二フェーズでありながら、タクトを苦しめた三機のサイバディが彼を取り囲む。

かつてとは比較にならない強い意志と決意、『リビドー』を持って…。
747 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/01(金) 23:51:18.65 ID:ZfOLC4Ra0
タクト「3人がかりとは、よほど僕を向こうへ行かせたくないみたいだな…!」


頭取「それだけあなたを評価してるって事よ!」


スカーレットキス「光栄に思いな! タウバーン!!!」





スガタ「彼女も混ざってるのか…。

    こんな事をする人間だとは思っていなかったが…」


スガタ(いや、何か裏があるのか…?)




スカーレットキス「スターソード!! リュビ!!!」


スガタが考える間もなく、彼女ことシナダ・ベニオが乗っているらしきサイバディは行動を始める。

杏子が持ち得なかったスターソードを胸から引き抜き、得意のその剣技を放つ為、構えをとる…。
748 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/01(金) 23:52:25.83 ID:ZfOLC4Ra0
スガタ(幾らタクトでも、三人がかりの状態であの技まで出されては厳しいな…)


スガタ(相手はシルシを持たない第二フェーズのサイバディ。効果はある…)


スガタ(状況的に遠慮も必要は無いな…!)




スガタ「食らえッ!」


シンドウ・スガタはその右手を大きく振りあげ、天に向ける。



『王の柱』

天から降る圧倒的な光を落として敵を攻撃する強力な第一フェーズの予備動作。


三人が使っているサイバディは電気棺から起動している『第二フェーズ』のサイバディ。

それを食らえば只では済まない。


そして、勿論その対策は取られていた…。
749 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/01(金) 23:53:14.77 ID:ZfOLC4Ra0
プロフェッサー・グリーン「さっそく来たか…」


プロフェッサー・グリーン「『オールレンジ・プレコグ』起動…!」


プロフェッサー・グリーン「座標割り出し…、ポイント239! スカーレットキス!!!」




スカーレットキス「了解!」


スカーレットキス(スガタ君らしいと言えばらしいが、相変わらず容赦がないな…)



スガタが繰り出した王の柱。

光り輝く圧倒的な量の光の束…。


だが、それを敵は回避する…。
750 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/01(金) 23:54:21.50 ID:ZfOLC4Ra0
スガタ「避けた…?」


かつて、スガタは彼女の乗っていないページェントに王の柱を避けられた事がある。

だが、あの時の敵は人間の反応や身体能力のそれとは思えない強さだった…。

そして後にだが、その正体を彼は勘付いた…。




スガタ(あの時のあれに乗っていたのは、恐らく佐倉杏子…)


だが、その佐倉杏子はオーバーフェーズしてサイバディと一体化し、さやかと戦っている。

そして、人並み外れた彼女張りの反応や身体能力をベニオが手にしたとも考えにくい。

シナダ・ベニオの剣の腕は確かだが、彼女はやはり人間だ…。



今回の『王の柱』の回避…。

魔法少女でも無い人間が『王の柱』を避けた。

こう言う事になる。


単なる偶然なのか…?
751 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/01(金) 23:55:11.85 ID:ZfOLC4Ra0
タクト「今日はリングは出さないの…?」


頭取「ふ…。今日の私はルール無用だ…。 君も好きな戦い方をすると良い…」




頭取「ただし…!」


ベトレーダは、ドライバーである頭取が得意とするボクシングのスタイルで戦う機体だ。

そして、この機体にはそのバトルスタイルを100%活かせるよう、ボクシングのリング状の結界を発生できるカスタマイズがされているのだが…。


彼女は今回はそれを使わない。

起動すれば足止めくらいには使えるかもしれないが、用途と違う使い方をするのは彼女の意地が許さなかったのだろうか…。
752 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/01(金) 23:56:28.10 ID:ZfOLC4Ra0
頭取「できるものならなッ!!!」


タクト「ぐぅッ!!!」




打撃。

それに関しては他とは一線を成す、凶悪な一撃を持っているベトレーダ。


それに対抗する為にスターソードを抜きたいタクト。

スガタの援護が来てようやくそれが叶うかと思ったが、敵の激しい攻撃はそれを許さない。
753 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/01(金) 23:57:05.03 ID:ZfOLC4Ra0
タクト(相変わらず重い…。これを受け続けたら致命傷になる…!)


スガタの援護も失敗に終わり、その僅かな時間に彼は状況を好転させる事も出来なかった。

『王の柱』を回避したページェントが遠距離から迫って来る…。

派手な動きをしないヨドックも気になる…。




敵の連携と気迫の前に、さすがのタクトも苦戦を強いられていた…。
754 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/01(金) 23:57:57.08 ID:ZfOLC4Ra0
さやか「食らえッ!」


杏子「そんなウスノロ弾、当る訳が…」



レシュバルの周囲に浮いた四基のパイルが黄色い弾丸を放つ。

弾丸の弾速はやけに遅いけど、勿論それには理由がある。


弾丸は途中で弾けて無数のリボンに変わる。

勿論、そのリボンの先端は杏子を摸した紅の巨人目掛けて飛んでいく…。
755 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/01(金) 23:58:41.79 ID:ZfOLC4Ra0
杏子「マミのバインド弾か…?」


杏子「舐めやがって…! アタシにそんなモン…」




杏子「効く訳無いだろうがッ!」


迫り来るリボンの群れを、目にも止まらぬ槍捌きで斬り払う紅の巨人。

力を失ったリボンはやがて地に落ちて、消滅する。

そして、切り払った視界で杏子はようやくあたしの目的に気付く…。
756 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/01(金) 23:59:47.66 ID:ZfOLC4Ra0
さやか「スターソード! スィトリンヌ!!!」


杏子「目暗ましって訳かい…。やるようになったじゃんかよッ」


杏子がリボンを払う一瞬を利用し、あたしは自身の最大の武器であるスターソードを引き抜く。



あたしの目的は、杏子を殺す事無く戦闘不能にする事。

相手が生身同然のオーバーフェーズじゃその条件は果てしなく厳しいけど、あたしにはそれなりに勝算がある。
757 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:01:29.52 ID:jMAJNMWw0
さやか「行くよッ!!!」


クラウチングの構えを取り、加速を行って一気に近寄ろうとする。




まず、あたしのスターソードには、敵のシルシに干渉して敵のサイバディを停止させる能力がある。

さらに相手はオーバーフェーズを利用しているとはいえ、魔法少女。

多少手荒な真似をしても、ソウルジェムさえ無事であれば回復が可能だ。



そして、あたしはタクトさんに習って相手のドライバーを殺傷しない戦いを常に行ってきた。


ようするに、いつもとやる事はそう変わらない。

それがあたしを強気にさせていた。




だけど、それだけで勝てるほど相手も甘い筈は無くて…。
758 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:02:13.23 ID:jMAJNMWw0
杏子「加速を使えば、このアタシの懐に入れる…」


杏子「そう思ったのか? ウスノロ!!!!」



紅の巨人は遥か遠方にいるレシュバルに向かって槍を突きだす…。


槍使いの杏子はインファイトを確かに得意としている…。

しかし、アイツの武器の最大の特徴は…。






さやか「くッ!?」


紅の巨人の槍は一瞬でレシュバルまで伸びていた…。

咄嗟の反応でその槍を受け、後方へ飛ばされる…。
759 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:03:07.60 ID:jMAJNMWw0
さやか(さすがにそう甘くないか…)


思い切り弾かれる事で逆に槍から距離を取り、そのまま横に飛ぶ。

加速した分、手や機体にかかった衝撃も大きかったが、背に腹は変えられない…。




杏子の攻撃の最大の特徴は、異常なまでのリーチの長さ、攻撃範囲の広さにある。

アイツの長槍は、普段は普通の人間が使う長槍と変わらない。

だが、魔法少女の武器であるその槍は当然普通の長槍ではなく、魔法の長槍と言える物に当る。



アイツの意志で自在に伸縮するそれは、中距離以上にいる敵に対しての攻撃も可能な強力な武器…。

さらに…。
760 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:04:02.31 ID:jMAJNMWw0
杏子「逃がしはしねぇよ…! 続けてくらいなッ!」


紅の巨人の槍の柄が分かれ、その柄の内側から鎖が現れた…。

杏子が得意とするもう一つの獲物、多節槍が姿を見せる…。




わかっていても避け切れない…。

鎖で繋がり、鞭のように撓るそれは、横へ飛んで避けたつもりだったレシュバルの腹部に直撃した…。



無限に伸び続ける槍は当然、無限に伸びる多節槍を形作る。

杏子の魔力によって制御されたそれは、まるで生き物のように暴れて空間を制圧する。
761 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:05:39.90 ID:jMAJNMWw0
さやか「ぐはッ…」


蠢く鎖に繋がった柄に背後から襲われ、よろめく…。

その隙をアイツは逃さない。

手元の槍を連結させ、大振りの横薙ぎを振るう…。





杏子「おらッ! お望みの接近戦だぜ!?」


さやか「うぁッ!」


長槍によるリーチと破壊力のある連撃。

多節槍による対処の難しい広範囲攻撃。


この二つを自在に組み合わせ、相手を圧倒する。

これこそが歴戦の魔法少女であるアイツが誇る、完成された戦闘スタイルだった…。
762 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:06:12.50 ID:jMAJNMWw0
杏子「おらおら!」


杏子「その程度かよッ!」




さやか(悔しいけど、やっぱり強い…!)


生きている蛇のように、暴れまわる多節槍…。

そして、それに振り回されていれば、杏子当人が飛んできて強烈な連撃が来る…。

数々の魔女を仕留めてきた魔法少女の技に、あたしは三度振りまわされていた…。
763 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:07:37.57 ID:jMAJNMWw0
さやか「くッ…」


突撃してくる槍先…。

半身になりつつ、それを避ける…。

槍先自体は通り過ぎていく…。




さやか「このッ…!」


だが、攻撃は続く。

分かれた柄が鎖を伴い、鞭のように襲い来る。

大きく跳躍し、二撃目をも避ける…。

だけど…。
764 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:08:41.24 ID:jMAJNMWw0
さやか「ぐうッ…」


鎖分銅となった石突がレシュバルの背中に直撃する…。

二度目の攻撃で無茶な跳躍をしたあたしには避けられない…。


重い一撃が直撃したレシュバルは突っ伏すように倒れ込む…。






何度戦っても…。

サイバディに乗った今でも…。

その勝機が見えてこない…。


佐倉杏子…。

悔しいけど、やっぱりコイツは強い…。
765 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)[sage]:2011/07/02(土) 00:08:44.79 ID:oNjRxCu60
くやしいでも(ry
766 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:09:34.46 ID:jMAJNMWw0
ゼロ時間の戦局を支配する紅の巨人の強さ…。

いや、魔法少女としての佐倉杏子の強さに綺羅星十字団の一行は驚愕していた…。


この二人を除いて…。




ヘッド「しかし、考えたな…。

    彼女の身体能力や特異な能力を最大限活かす為、オーバーフェーズを使うとは…」


バンカー「あのシステムはまさに彼女の為にある…と言っても過言ではないでしょう」


ヘッド「だが、どうかな…? 肝心のリビドーの方は…」


バンカー「それも問題ないでしょう…」





ヘッド「ほう…。その根拠は…?」


バンカー「やがて、わかりますよ…」



バンカー(その為のアインゴットだからね…)
767 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:10:51.41 ID:jMAJNMWw0

レイジングブル「強ぇ…」


スピードキッド「これが本気のアイツか…」




イヴローニュ「だが、安心するにはまだ早いな…」


レイジングブル「あ…?」


イヴローニュ「忘れたか…? 先日の戦闘でも彼女は美樹さやかを圧倒していた。

       だが、途中から動きの良くなった相手にひっくり返された…」


スピードキッド「そうだったな…」
768 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:11:46.39 ID:jMAJNMWw0
イヴローニュ「いや、そもそもタウバーンとの戦闘の時から我々は終始圧倒しても、最後に敗北するケースが多い。

        サイバディの戦闘に精神面がいかに大きく作用するか…、忘れない方が良い」



セクレタリー(精神面。それは魔法少女にとって重要な因子でもある……)


セクレタリー(でも、仮にあの子がそれを強く保っても、魔法少女は戦うだけでソウルジェムが濁る…)


セクレタリー(長引けば長引くほど、あの子の負担だけが増えるんだ…)




セクレタリー(お願い…。お願いだから…。早く倒れて…!)


それはそう簡単には終わらない相手…。

そうわかっていても彼女には祈る事しかできない…。


だが、祈るだけの者に神が手を差し伸べないのは杏子自身が一番わかっている…。

無力な少女の願いは心の中だけで虚しく響く…。
769 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:13:56.37 ID:jMAJNMWw0
スガタ「…………!」


ワコ「スガタ君…!?」




先ほど繰り出したばかりの『王の柱』を再度繰り出すべく、スガタはその右手を振りあげる。

しかし、『王の柱』を使い過ぎれば、彼は二度と目覚めない眠りに付く可能性がある。

目の前で捨て身の攻撃を行おうとするスガタを当然、ワコは制止する…。





ワコ「一度ならともかく…。二度目だよ?

   そんな無茶な使い方をしてたら…」


スガタ「避ける筈のないモノを避けられた…。

    その理由を突き止めなければ、戦いに大きな問題が出るかもしれない…。

    それに…」
770 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:15:10.64 ID:jMAJNMWw0

スガタの視線の先にあるタウバーン。

ベトレーダの打撃、そして遂に距離を詰めたページェントの斬撃をどうにかやり過ごしている。

だが、敵は手練が二人。

剣を抜く事すらままならないタウバーンが捕まるのも時間の問題だろう。


さらに動きを見せない不気味な機体も一機ある。





スガタ「せめて、タクトにスターソードを抜かせる隙を作る…!」



ワコ「スガタ君…」


ワコ(あなたも…本気なんだね…)



スガタに気押されて、制止するのをやめるワコ。

代わりに自分はもう一つの戦闘を見つめる。



暴れまわる紅の巨人。

さやかの望まない戦い、望まない存在を…。
771 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:16:16.79 ID:jMAJNMWw0
スガタ(仕掛けるタイミングはまだだ…)


『王の柱』のリスクはスガタ自体も理解している。

無理をする前提だとしても、撃ててこれともう一発…と言ったところだろう。

無駄弾は撃てない。



スガタが『王の柱』を使ってしなければならない事は二つ。

本当に敵がこちらの攻撃を回避したのか?と言う事実の確認、及び可能ならばそれを行える原因の特定。

そして、もう一つはどうにか敵に隙を作り、タクトにスターソードを抜かせる事。



相手はあのシナダ・ベニオだ。

スターソード抜きの丸腰で戦うのは無謀すぎる…。


戦局に冷や汗を垂らしがらも、今は親友を信じて機会を待つ…。
772 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:17:22.17 ID:jMAJNMWw0
頭取「はぁぁぁぁぁぁッ!!!!」


タクト「パイルッ!!!!!」


正四角形を描くように、宙に緊急配置された四基のパイルがバリアを作り出す。

発生した光の壁に阻まれ、ベトレーダの右拳が大きく弾かれる。





頭取「くッ…!」


ベトレーダの攻撃は重いと言っても所詮は打撃攻撃…。

バリアを使えば防げない事は無い。

問題は…。
773 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:18:55.38 ID:jMAJNMWw0
スカーレットキス「任せてもらおうか!」


タクト「来たか…!」


スターソードを持つページェントの方である。

スターソード自体も厄介だが、その機動力故にバリアの発生前に掻い潜ってくる可能性もある。





タクト「やっぱりそう来る…!?」


スカーレットキス「これが連携と言うモノだ!」


その機動性を活かし、バリアを回り込んでいたページェントはさらに駆けまわり、タウバーンの背面から迫る。

こうする事で、ベトレーダがバリアを破れれば挟撃の形に…。

破れずとも、自分のバリアに敵を追い詰めてやれる…。
774 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:20:03.94 ID:jMAJNMWw0
タクト「炸裂・タウ・銀河ビィィィィィム!!!」


近寄られれば、獲物を持たない自分が不利。

タクトは、少ないモーションで繰り出せる射撃技のビームを胸から放つ。

だが、それは相手も解り切っている。




スカーレットキス「甘いッ!」


目を見開き、眩い光を放つビームをその目に捉えるベニオ。

そして、眼前に迫ったビームを赤く輝くスターソードで大きく切り払う。

いや、打ち返したと言っても良いだろう。

剣撃に飛ばされたビームは飛んできた方面へ返っていく…。


弾き返されたビームはさすがにタウバーンには当らないが、後方にあるバリアへ向かって行く。

そして、そこには勿論…。
775 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:21:31.75 ID:jMAJNMWw0
ベトレーダが赤く鋭い眼光を放つ。

迫りくるビームに合わせ、ベトレーダの右拳から切り札が現れる。

その巨大な拳に仕込まれた、三本の鋭い鉤爪…。





頭取「使わせていただくわッ!」


飛んでくるビームに合わせ、その右拳を繰り出し、鉤爪をバリアに突き立てる…。


当ったビームに歪む光の壁、そしてその背面からは鉤爪がその耐久を削る…。

両面から一点集中で耐久を削られ、光の壁が悲鳴を上げ始める…。


弱り切った光の壁を貫き、鉤爪が僅かに突き出ていた…。
776 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:23:22.14 ID:jMAJNMWw0
左拳でバリアを押さえつけ、ねじ込んだ鉤爪で光の壁を抉り、押し込む…。

そして、鉤爪が深くねじ込まれた所で、その剛腕を用いて思い切りその鉤爪を振るう。


穴の開いた光の壁にヒビが入り、その量が増え…。

ガシャン!とガラスが割れるような音がして、ベトレーダを阻んでいたバリアに大きな穴が開いた。


その衝撃でバリアを展開していたパイルが一時的に力を失い、フラつくように宙を舞う…。





タクト「イッツアピーンチ……」


バリアを破って背後から迫るベトレーダと、ビームを弾いた衝撃から態勢を立て直して飛んでくるページェント…。

迫る両機を見て不敵に笑うタクトだが、状況は言葉通りピンチそのもの…。

しかし、これは彼にとっての好機であった。
777 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:25:01.39 ID:jMAJNMWw0
スガタ(今だ…!)


タウバーンに両側から迫るベトレーダとページェント…。

それは当然、両機が一つの目標に向かい、近接しようとしている事を意味している。

二機をまとめてタウバーンから一旦引き剥がしたいスガタにとって、これ以上の好機は無い。





スガタ「タクト、右に飛べ!!!!! 思いっきりだ!!!!!」


タクト「…………!」



プロフェッサー・グリーン「ポイント399! 二人とも退け!!!!!」


スカーレットキス「チッ…!」

頭取「絶妙なタイミングね…!」


拳を振りあげたスガタに反応し、天から光の柱が落とされる…。

しかし、敵の二機のサイバディはそれをわかっていたかのように動きを止め、やはり光の柱を回避した…。
778 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:27:36.57 ID:jMAJNMWw0
スガタ(やはり避けた…。だが…!)


『王の柱』は再び回避された。

だが、スガタはその目的を完全に果たした…。





タクト「スターソード! エムロード!!」


タクト「スターソード! サフィール!!!」


二機を完全に引き離す事に成功し、タウバーンが胸から二本のスターソードを抜く。

右手に輝く緑色のスターソード『エムロード』。

左手で煌めく青色のスターソード『サフィール』。


担ぐようにエムロードを肩へ、そして左手のサフィールを自然に前に出す…。

タウバーンはここぞとばかりに、得意とする二刀流の構えを取った。
779 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:30:43.23 ID:jMAJNMWw0
スカーレットキス「とうとう抜かれたか…」


頭取「ここからが本番だな」


プロフェッサー・グリーン「まだ不安要素は残るが…、ここからは私も動かざるを得ないだろうな…」



プロフェッサー・グリーンは頭部に特殊な装置を装備している。

本来の電気棺にはない『科学ギルド』製の特殊装備…。



『オールレンジ・プレコグ』。

かつてヨドックに搭載され、タウバーンを圧倒した『プレコグ・モード』を広範囲化した装備…。

プロフェッサー・グリーンが今作戦の為に用意した秘密兵器である。
780 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:32:17.16 ID:jMAJNMWw0
時は作戦の数日前に遡る。

杏子の援護を行う事を決めたスカーレットキスと頭取だったが、

そこには無視できない大きな弊害が存在していた…。




スカーレットキス『二人か三人がかりでいけば、あのタウバーンを抑える事くらいはできるだろうが…』


頭取『最大の問題はシンドウ・スガタだな…。

   第二フェーズのサイバディは第一フェーズの干渉を受ける…』





プロフェッサー・グリーン『それに関しては任せてもらおうか…』



スカーレットキス『あ? お前には四基目の電気棺の調整って大仕事が残ってるだろうが。早く持ち場に戻れ』


プロフェッサー・グリーン『間抜け。そんなモノ昨日の内に終わらせたさ…』


スカーレットキス『何…?』
781 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:35:55.43 ID:jMAJNMWw0
プロフェッサー・グリーン『続きを話すぞ…? あれの対策はこちらで用意している。

             正しく言えば、杏子の為に用意したシステムのお零れに過ぎないが…』


頭取『ほう…。それは…?』


プロフェッサー・グリーン『ヨドックにかつて搭載したシステムを広範囲化した物を用意している。

             このシステムを用いれば、ゼロ時間内で起こる事象を10秒以上早く予見できる』


スカーレットキス『予見…? 相手がしてくる事を先読みできるってのか…?』


プロフェッサー・グリーン『そうだ』


頭取『そんなモノを以てして、何故タウバーンに敗北した…?』




プロフェッサー・グリーン『そ、それは…』


プロフェッサー・グリーン(ドライバーの肉体美を観賞するお楽しみモードに切り替えて、敵に見惚れて負けたなんて言えない…)
782 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:38:05.91 ID:jMAJNMWw0
プロフェッサー・グリーン『と、ともかく…、それを用いればシンドウ・スガタの行う援護攻撃は回避できる筈だ』


頭取『それは頼もしいけど…』


プロフェッサー・グリーン『オホン! ただし、問題が一つある』


頭取『…………』


スカーレットキス『それは…?』




プロフェッサー・グリーン『元々は敵一体に絞って使うシステムを広範囲化している為、予見できる事象は7.4秒前が限度。

               そこから私が攻撃位置の座標を割り出し、お前らに伝えるまでに約3秒かかる』


スカーレットキス『4秒もあれば、十分に回避はできるじゃないか』


プロフェッサー・グリーン『ただ、これは私が予見のみに専念した場合だ。

               私が攻撃に参加する場合、この対応はさらに数秒遅れる…』



頭取『成程。お前を動かさず、敵に何回援護攻撃をさせるかが鍵を握る訳か…』
783 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:40:04.48 ID:jMAJNMWw0
敵に撃たせた攻撃は『王の柱』が二回。

それ自体は悪くない。


『王の柱』は撃ててせいぜい一、二発だろう。

だが…。





プロフェッサー・グリーン(肝心な皆水の巫女が動いていない…)



『オールレンジ・プレコグ』は本来、杏子の支援の為に用意したものなのだ。

今現在の彼女の強さはオーバーフェーズに頼る所が非常に大きい。

まして、オーバーフェーズで蓋をしたアインゴットが目覚めるような事があれば、何が起こるかはわかったものではない。

しかし…。



二本の剣を構えたタウバーン。

獲物を握った敵の強さは計り知れない。

ここまでのように傍観者ではいられないだろう…。


彼女の懸念を他所に事態は動き続ける…。
784 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:40:57.39 ID:jMAJNMWw0
杏子「ちゃらちゃら踊ってんじゃねーぞ! ウスノロ!!!」




さやか(………考えろ)


さやか(どうすれば、あれを破れる…?)


さやか(どうすれば…)


蛇のように襲う杏子の多節槍。

あたしは未だ、その攻撃に振り回され続けていた…。


あるいはただの鞭であれば、どうにか出来たと思う…。

しかし、杏子の多節槍はただ振るわれるだけでなく、アイツの意志一つで無茶苦茶な軌道を描いて二撃目、三撃目が来る。

鎖分銅と槍先に注意して致命傷は避けているものの、反応だけで誤魔化すのは限度がある…。
785 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:41:52.76 ID:jMAJNMWw0
さやか(考えろ…、考えろ…)


レシュバルを襲いつつ、やがて竜巻のように駆け、レシュバルの周囲を取り囲む多節槍。

逃げ場を奪われ、その中央で立ち尽くすレシュバルにやがて追撃が来る。


槍先が…。

分銅が…。

罠に掛かった獲物を狙い続ける…。




さやか(アイツを出し抜いて、スターソードだって抜けたんだ…)


さやか(反撃の糸口はどこかに…)


さやか(糸…? 出し抜く…?)




さやか「それだ!!!」
786 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:43:23.87 ID:jMAJNMWw0
あたしの閃き。

それに合わせて、腰のパイルがレシュバルを取り囲んで先端を地面へ向ける…。

そして…。





さやか「パイル・バインド!!!」


パイルから黄色い弾丸が地上に向けて、放たれる。

地上へ着弾した弾丸は弾けて、無数の黄色いリボンに変わる…。



遅めの弾速の弾丸と違い、駆け巡るような早さで走るリボン…。

そのリボンはレシュバルを囲むように走る無数の多節槍の柄に向かって行き…。




絡みついた…。
787 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:44:19.41 ID:jMAJNMWw0
杏子「な…!?」


さやか「ざまーみろっ!」



先ほどまで空間を制圧した多節槍に、無数のリボンが絡まってその動きを封じる。

杏子の意識で動こうとするも、地上から伸びたリボンはその動きの邪魔をする。

アイツを出し抜いたバインド弾を糸のように絡ませて、文字通り反撃の糸口とする…。



サイバディに乗った今だからこそできる、多節槍対策がようやく形となる…。
788 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/07/02(土) 00:44:55.24 ID:jMAJNMWw0
杏子「…………思い出すね。嫌な奴を」


そう言いながらも口元は笑う。



嫌な奴。

だけど、きっとアタシはあいつの事が…。



その『大嫌いな大馬鹿野郎』と戦った思い出の日々…。

あちこちに伸びる多節槍に絡んでいるのはやはり、無数の黄色いリボンで…。


この光景は懐かしいあの時をどうしても連想させた。
789 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:45:50.03 ID:jMAJNMWw0
杏子『マミ! てめぇ、この野郎!』


マミ『絡まっちゃって大変ね。その槍を元に戻したらどうかしら…?』


杏子『わざと言ってんのか!? ガチガチに絡んできてそれすらできなくなってんじゃねーかッ!』



マミ『あら、そうなの…。大変ね!』


杏子『危ねッ! 今頭狙ったろ!』



マミ『ごめんなさいね…。

   こんな中から狙ってるから、イマイチ思い通りの所に行かなくて…』


杏子『嘘ばっか付いてんじゃねぇ! 今避けなきゃ頭吹っ飛んで…、って危ねッ!』
790 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:47:47.80 ID:jMAJNMWw0
杏子
(あの馬鹿と同じ攻略法たぁ、トコトン頭に来る奴だぜ…!)


杏子(そして、お前が次に目指すのは…)


幾ら多節槍を縛ろうが、それがあいつの周囲を取り囲んでる事実は変わらない…

マミは射撃を得意としていた為、そこから動かずに隙間からアタシを一方的に狙い撃った。

だが、さやかは…。

あいつの性格と手持ちの技を考えれば…。





さやか「パイルッ! ジェットッ!!!」


杏子「やっぱり上か…!」


さやかの声に合わせ、先ほどバインド弾を放ったパイルが大型化し、腰に装備される。

生じた隙を活かしてパイルを大型化させ、鎖の手薄な上を目指し、その包囲を完全に抜ける…。
791 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:49:35.15 ID:jMAJNMWw0
さやか「はァッ!!!」


杏子「チッ!」


レシュバルは、上空からジェットを伴って急降下。

アタシ目掛けて斬撃を繰り出す…。


加速も伴ったその一撃を前転しつつ回避するも、その斬撃はゼロ時間の大地を叩き割る…。

弾けた地面が周囲に飛び交い、地にはその斬撃の抉ったような跡が残る…。





さやか「逃がすか!!!」


さらにレシュバルは左の掌から、星型の光線を放って追撃…。

二発、三発、四発と続くそれを走って回避…。

同時にアタシもようやく槍を戻し、尚続く牽制弾を目の前で回転させた槍で弾き飛ばす…。
792 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:50:48.75 ID:jMAJNMWw0
杏子「やって…、くれるじゃんかよ…」


さやか「そっちこそね…」





杏子「けど…、勝つのはアタシだッ!!!」


獲物を戻したアタシは得意の多節槍での攻撃を始める…。

だが、パイルジェットを伴い、速度に置いて完全にこっちを上回ったレシュバルはもうそれに捕まらない…。


相手の攻撃を飛び回って掻い潜り、そして一気に距離を詰める…。

キィン!と鋭い音を立て、アタシ達二人の獲物がぶつかり合う…。
793 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:52:05.52 ID:jMAJNMWw0
さやか「はぁぁぁぁぁッ!」


杏子「ぐぅッ…」


魔法少女の時は圧倒出来た接近戦は、今やさやかに完全に分があった…。

繰り出される斬撃は速く、重く、鋭い…。



受け続ければ、やがてアタシが追い詰められる…。

だから相手の連撃の隙を見ては、槍をバラしてその距離を離す…。


しかし、先ほどまでと違ってそれ自体は決定打にはならず、やがて掻い潜られ、また捉まる…。




それでもアタシは、さやかの強力な武器の一つを完全に克服していた…。
794 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:52:54.00 ID:jMAJNMWw0
さやか(おかしい…)


さやか(コイツ、止まる気配がない…!)



さやかのレシュバルが恐れられた所以。

それはスターソードの輝きによるサイバディ停止能力にある…。



幾度も武器をぶつけ合い、鍔迫り合いを続ければ、必ず相手の方に隙が生じる恐るべき剣…。


だが、目の前に立つ杏子の姿をした紅の巨人は何時になってもその効果が現れない…。

幾度こちらの斬撃を受けても、その輝きを目の当たりにしても、その動きを止める事は無い…。



30を超える打ち合い、9度の鍔迫り合い…。

今まで戦った敵は、こうなる遥か前に機体の動きが鈍っていたのだが…。
795 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:54:39.16 ID:jMAJNMWw0
バンカー「タウバーンはあなたのスターソードの停止能力を撥ね退けた。

     どころか、それをスイッチにしてさらに機体を強化させた節さえある」


ヘッド「……………そうだったな」


自分の屈辱の話になり、口元から僅かに把握できるヘッドのその表情が歪む…。



さやかがこの世界に来るほんの数日前。

日死の巫女の封印を破った直後に発生した戦闘の時だった…。





ヘッド『この程度か? タウバーン!!!』


タクト『ぐ…!』


ヘッド『スターソードは、ドライバーのリビドーをエネルギーに変換したモノだ…!

    第三フェーズに進んで本来の輝きを放つこの俺の剣の前では、リビドーの弱い戦士のシルシは力を失う…!』


ヘッドの乗るレシュバルは、タクトのタウバーンを圧倒した。

倒れたタウバーンへ蹴りかかり、自らの野心が放つスターソードの本来の輝きを見せつけたまでは良かったのだが…。
796 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:55:41.90 ID:jMAJNMWw0
タクト『やりたい事とやるべきことが一致する時、世界の声が聞こえる…!』


ヘッド『コイツ…!? 何を言っている!?』



タクト『あなたにはわからないなッ!!!!』


ヘッド『馬鹿なッ!!!!』



一瞬だけその動きを停止させたタウバーンだが、そのまま倒れる事無く、逆に覚醒…。

リビドーを増したタクトとタウバーンは、逆に性能を強化する…。


投げつけられた青い剣はレシュバルの喉元を貫いて動きを封じ…。

そして、その後ろから来るタウバーンの追撃で横一文字に両断され、ヘッドはタクトに敗北した。
797 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:57:47.40 ID:jMAJNMWw0
バンカー「スターソードはリビドーをエネルギーに変換したモノ…。

      そして、あなたや美樹さやかの剣の能力は、

      近接した敵とリビドーの力関係に一定以上の差があった場合、その力を失わせる…、そうでしたね?」


ヘッド「そうだ」


バンカー「なら、話は簡単だ。あなたに匹敵する程の強いリビドーを持つあの美樹さやか…。

      あの女とやりあっても負けない程の強いリビドーを作り出せば良い…」


ヘッド「その為のアインゴット、か…」


バンカー「そうです。アインゴットは獰猛だ…。

      しかし、アレと対峙するには幾つか手順を踏む必要もありました…」


ヘッド「『アインゴットの部屋』、そして『復元シーケンス』か…」


バンカー「段階を踏んでドライバーのリビドーを強め、オーバーフェーズに持っていく…。

      そのオーバーフェーズにすら危険性はあるモノの、たび重なる精神干渉やリビドーの徴収はドライバーに取って最高の精神修行になる。

      そして…」
798 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:58:46.40 ID:jMAJNMWw0
ヘッド「美樹さやかに執着するあの女なら乗り越える…、そう仮定した訳か」


バンカー「危険な賭けではありましたが…、彼女の美樹さやかへの執着の強さ…。

      そして、その能力とオーバーフェーズとの相性も考えればこの上ない人材だと判断しました」




ヘッド「しかし、失敗したらどうするつもりだったんだ…?」


バンカー「その時はその時で手はあったのですよ。成功した以上割愛させていただきますが」


ヘッド「…………?」


バンカー(そう言う取引をしたのさ…。そして、それをあなたに話す必要は無い…)



少年の目論見通り、少女の思いはより強く彼女を追いたてる。

そして、その思いの強さこそ、サイバディ戦闘における最も重要な因子だった…。
799 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 00:59:56.01 ID:jMAJNMWw0
タクト「はぁッ!」


スカーレットキス「甘いな…!」


右手はそのままに、左手のサフィールで敵を切り払う…。

だが、それを見切っている敵はタウバーンを蹴り飛ばしつつ、サフィールと逆方向へ飛ぶ…。



そして、さらに背後から強烈な一撃が入り、タクトの意識を一瞬だけ飛ばす…。






頭取「背後から…と言うのは趣味ではないけど…、言っている場合ではないのよ…」



地面に倒れ込むタウバーン…。

そこに追撃を入れる為、三機がそれぞれの方向からタウバーンに駆け寄っていく…。
800 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 01:01:49.93 ID:jMAJNMWw0
そのまま追撃が決まればタウバーンは終わりだったろう。

だが、それが決まる相手ならば誰も彼一人を倒す為に躍起になったりはしない…。




プロフェッサー・グリーン「やってくれるな、タウバーン!!!」


ダウンして尚、攻撃を行うタウバーンを予見したプロフェッサー・グリーンは、その動きを止めていち早く行動を遅らせる…。

そして、予見した攻撃は指示の間に合わない二人に降り注ぐ…。




頭取「パイルか…」


スカーレットキス「そうそう攻め入る隙は作らないってか…!」


いつの間にか空中に配置された四基のパイルが、ビームの雨を降らせる。

その向こうで、タウバーン本体も華麗に立ち上がり、構える…。
801 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 01:03:32.93 ID:jMAJNMWw0
三人の連携は完璧だった。

相手の行動を先読みできるヨドックが掻き乱し、高機動のページェントが仕掛け、破壊力に優れるベトレーダが仕留める…。


数の有利も手伝って、戦況は確かに綺羅星十字団の三人の側に有利だった。

それでも…。



スカーレットキス(やはり倒せない…!)


頭取(やはり倒れない…!)


プロフェッサー・グリーン(厄介な奴め………)
802 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 01:04:40.63 ID:jMAJNMWw0
スカーレットキス「先が見えてるのに、何で倒せないんだよ!」


プロフェッサー・グリーン「無茶を言うな…! 倒す結果が見えてないんだよ!

             倒せる訳がないだろう!」



頭取「揉めている場合か! 来るぞ!」



苛立つスカーレットキスと、そのスカーレットキスの発言に苛立つプロフェッサー・グリーンの二人。

どうにか連携をしていはいるものの、本来彼女達の仲はあまり良いとは言えない…。

一度隙を見せて崩されれば、一気に全滅する危険性もある…。


三人の中で一番冷静な頭取は考えていた。

長引けば、長引くほどこちらが不利になる…と。
803 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 01:05:36.26 ID:jMAJNMWw0
頭取「あの銀河美少年の強さはデータでは測れない…。

   悠長に戦っていては、最後に痛い目を見る危険性が非常に高い…」


スカーレットキス「………同感だな」


プロフェッサー・グリーン「同じく。こちらはしたい事もあるしな」



言ったプロフェッサー・グリーンはちらりと杏子達の方、そして皆水の巫女の姿を見る…。

彼女としては早く目の前の敵を潰して、彼女のサポートに戻りたいのだ…。



三人の意見は完全に一致していた。
804 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 01:07:05.78 ID:jMAJNMWw0
さやか「えぇいッ!」


杏子「………くっ!」


来る一撃が重い…。


今のあいつは強い…。

それはわかってるけど、やっぱり頭のどこかに甘ちゃんのさやかの姿があって…。



攻撃を貰う度に心のどこかが諦めそうになるのを気合で持ち直す…。

今この状態じゃソウルジェムを見る事は出来ないが、こりゃあ後で相当酷い事になってるだろうな…。



さらに一撃、二撃と攻撃が来る…。

槍で受け止めて、時折反撃するも、後ろ後ろに下がっているのはアタシの方で…。
805 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 01:08:09.25 ID:jMAJNMWw0
杏子(なんで…)


なんで、こいつに押されてるんだよ…。

こんなんじゃダメじゃんか…。



話し合いはできない…。

こいつは馬鹿だから…。

こいつは頑固だから…。



そう言って無茶苦茶やるって言ったのはアタシじゃないか…。

そんなん負けられねぇよ…。



アタシがやらなきゃ…。

アタシが勝てなきゃ…、全部終わっちまうんだ…!


相手がさやかだからって…、躓いていられないんだよ…!!!
806 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 01:09:15.49 ID:jMAJNMWw0
杏子「負けねぇ…」


さやか「杏子…?」


振り降ろされたさやかの剣を槍で受ける…。

それを力で押し返すのが一瞬…。


次の瞬間にはアタシは槍を横に大振りし、レシュバルの腹部を捉えていた…。





杏子「負けられねぇ…!」


さやか「こ…のッ…!」



それでも堪えて剣を振るうレシュバル…。

だが、それを石突で受け止めるとそのまま槍を二つに分割させ、槍先の付いた部分の柄を振るって敵の顔面を殴りつける…。
807 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 01:10:13.75 ID:jMAJNMWw0
杏子「絶対に負ける訳にはいかないんだッ!!!!」


さやか「くッ!!!!」



よろめくレシュバルにさらにもう一撃…。

渾身の一撃をくらったレシュバルは地上へ叩きつけられ、砂煙をあげた…。



息は上がっている…。
だけど、全身に満ちる何かの力を感じる…。



勝てる…。

いや、勝たなきゃならないんだ…。
808 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 01:10:55.34 ID:jMAJNMWw0
魔法少女として戦っていた筈の少女の決意…。

それはリビドーと言う形を取って、彼女にさらなる力を与える…。


思いに駆り立てられ、振るい立つ自分を見て、思う少女は僅かに笑った…。

いつかのこいつみたいだ…と。




少女の抱く決意は何なのか…。

思われる少女は、それを感じ、考えながらも立ち上がる…。

友と信じた少女の無茶を止める為に…。





激しさを増す友人同士の殺し合い…。

それを見つめるのは…。
809 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 01:11:59.58 ID:jMAJNMWw0
ワコ「さやか…。杏子ちゃん…」


仲の良い二人が殺し合いをしている…。

目を背けたくなる光景…。

だが、それは私の目の前に確かにある…。




最初は迷った。

純粋に殺し合いを目的とするあのケイ・マドカと違い、

さやかの友人のあの子がこんな真似をするのなら訳があるんだ、そう思った。


でも、追い詰められていくレシュバルを見る度に心が揺らぐ…。





こんなやり方をする必要は本当にあるの…?

それを止める手段を持つ自分が止めなくて誰が止めるの…?

覚悟も思いも話し合いでは語れないの…?
810 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 01:12:54.51 ID:jMAJNMWw0
ワコ(無粋だって構わない…。やっぱりこんなの間違ってる…!)


ワコのシルシが輝きを放つ…。

そして、その様子を『起きる前』に見ていた者がいた…。




プロフェッサー・グリーン「チッ! ここで来たか! 皆水の巫女!」


プロフェッサー・グリーン「座標の割り出し…」


自らが敵に突貫している事を気にも止めず、プロフェッサー・グリーンは座標の割り出しを始める…。

だが…。
811 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 01:13:54.72 ID:jMAJNMWw0
プロフェッサー・グリーン「効果範囲発生なし…? こ、故障したのか…?」


慣れ切った手つきで再度装置のデータ入力をし直す。

だが、その間に皆水の巫女のシルシは既にその輝きを増し、天にも同様の輝きが満ちていた…。





杏子(畜生…! ここで来るのか…!?)


さやか「ワコ姉…」


機械を使い、強引に跳ね上げた3.5フェーズ。

それが『オーバーフェーズシステム』。

不当な存在を拒否する為に、天の巫女の封印が輝きを放ち…。



やがて、それが地に落ちる…。

誰もがそう思った…。
812 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 01:14:55.15 ID:jMAJNMWw0
ワコ「何…? 何が起きてるの…?」


イヴローニュ(…………)


杏子(来ないのか…? 何にしてもありがてぇ…!)



天にある魔法陣を満たしたピンクの輝きは、力を失って消える…。

それを行ったワコにも、それをどうにか出来ないかと考えていた杏子にも、

それを伝えるつもりだったプロフェッサー・グリーンにも何が起きたかはわからない…。



一つだけわかる事は、空を満たした光は消え、何かが起きる事は無かったという事実だけだった。
813 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 01:16:25.01 ID:jMAJNMWw0
ワコ「なんで…? なんで今回は解除が出来ないの…!?」



イヴローニュ(ワコ…。お前にはわからないだろうな…)





私はあいつとそう仲が良い訳ではないからな…。

熱くなったり泣き喚いたりして、どうこうする連中の気持ちはわからない…。



ただ…。

あいつは私と同類だ…。

あいつは色んなモノを見てはいるが、結局はたった一人を中心に世界を考えている…。
814 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 01:17:25.31 ID:jMAJNMWw0
だから、わかるのさ…。

なんとなくだが、その気持ちが…。


そして、不快なんだ…。

二人の間に入って、どちらにも良い顔をするお前のような奴が、私と似た思いを持つ者の決意に水を差すのを見るのは…。




黙って見ていろ、ワコ…。

お前に邪魔はさせない…。

野暮な事をしなくても、その女が死ぬような事をあいつは絶対に望んでいない…。



そして、その目に焼き付けろ…。

一人を思い続ける者の決意を…。

あいつの覚悟を…。
815 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 01:20:16.27 ID:jMAJNMWw0
っし。
キリはあんまり良くないけど、今日はここまで。
本当は今まで通り、一区切り一区切りで投下したいけど、終盤戦入ったから戦闘が長くて…。


明日も投下予定なんで、ぼちぼちお待ち頂けると幸いです…。



それでは、本日は閉会とする。

佐倉杏子に栄光を…!
美樹さやかに祝福を…!

綺羅星☆
816 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)[sage]:2011/07/02(土) 01:20:58.38 ID:oNjRxCu60

817 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)[sage]:2011/07/02(土) 01:34:05.32 ID:B3aPGu4AO

スタドラ見てみようかな
最初から綺羅星ひいき目で見てしまいそうだがww
818 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[sage]:2011/07/02(土) 01:58:11.28 ID:/isV5PQFo
綺羅星☆

さりげなくケイトさんも杏子の支援に回ってるのか
バニシングエージを除く綺羅星十字団のほぼ総力戦だな
しかし追い詰めてるらしい杏子に勝ちがみえないのは心の持ちようの違いか
819 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/02(土) 02:03:20.83 ID:oXS3lzFUo
>>815
乙星☆
いやーロボ魂タウバーンをブンドドさせたくなる戦闘だ…
回想マミさんのセリフに吹いたw
820 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/02(土) 17:00:49.23 ID:DnEvmG3SO
乙。超いいとこで終わりやがって…。
821 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:15:36.16 ID:jMAJNMWw0
綺羅星☆
今日も遅れました
ぼちぼち投下します

>>816
乙感謝
でも、感じちゃうびくんびくん

>>817
乙感謝
色んな意味でまどかとは正反対のアニメよ〜
勢いで見れてスカっとできる
綺羅星さん達目当ても良いと思う

>>818
綺羅星☆
この総力戦はやりたかった山場の一つ
ケイトさんをハブらないのがポイント

>>819
乙星☆
ところがぎっちょん。
ページェントやベトレーダは愚かレシュバルや強化タウすら音沙汰ないんだぜ…

>>820
乙感謝
堪忍して〜
こっからそう言うのが増えそうなのがちょっと辛い所…
822 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:17:26.53 ID:jMAJNMWw0
スカーレットキス「うぉぉぉッ!」


タクト「はぁッ!」



赤い奴の繰り出した剣を右手のエムロードで受け止める。

その剣撃は今までで戦ったどんな敵のそれよりも重い…。



敵の気迫が違う…。

こっちの赤い奴も、ライオンみたいな奴も前に戦った時も十分に強かった。

だけど、今回は何かが違う…。
823 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:19:43.50 ID:jMAJNMWw0
スカーレットキス「うぉぉぉッ!」


タクト「はぁッ!」



赤い奴の繰り出した剣を右手のエムロードで受け止める。

その剣撃は今までで戦ったどんな敵のそれよりも重い…。



敵の気迫が違う…。

こっちの赤い奴も、ライオンみたいな奴も前に戦った時も十分に強かった。

だけど、今回は何かが違う…。
824 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:20:19.40 ID:jMAJNMWw0
頭取「落ちなさい!」


さらに左側から来たライオンのような敵の鉤爪をサフィールで受け、両側から敵に挟まれた形になる。




第二フェーズ…。

サイバディに乗りこむことすらできていない連中の筈なのに…。

その動きや力は第三フェーズのそれにさえ引けを取らない。



恐らくは覚悟が違うんだろう…。

意地も、恥も、たぶん野心すら捨てて挑んできている…。
825 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:21:11.40 ID:jMAJNMWw0
そして、杏子ちゃん…。

たぶん、戦うさやかを止めたくて…。

でも、本気のさやかに敵わなくて…。

そのさやかに何が起きたのか、切なそうに尋ねたあの子…。




きっと、さやかと解り合える…。

そんな答えを見つけられるって…。

そう、思ってたのに…。
826 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:22:18.89 ID:jMAJNMWw0
杏子「うぉぉぉぉぁッ!」


さやか「はぁぁぁぁぁぁッ!」


さやかの乗るレシュバルと、杏子ちゃんの姿をしたサイバディは戦っている…。




今までも何度も戦った…。

そう聞いてはいるけど…。


だけど、これまでの戦いと今回の戦いは状況が違いすぎる…。



さやかはともかく、杏子ちゃんがやっている事は無茶苦茶だ…。

このまま続ければ彼女は…。
827 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:23:14.54 ID:jMAJNMWw0
タクト「そんな事………」


頭取「……?」


スカーレットキス「なんだ…!?」


赤い奴はエムロードを掻い潜って剣を食らわせようと、鍔迫り合いしている剣の刃先を滑らせ…。

ライオンのような奴は左手からも鉤爪を引き出して繰り出そうとする…。




だけど、それを食らってやるつもりは無い…!
828 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:24:14.09 ID:jMAJNMWw0
タクト「させる訳にはいかないよなッ!!!」


力を振り絞る。


できる。

やれる。

そう信じる…。



タウバーンは胸から強い輝きを放ち、シルシを通じてそれを僕自身も感じ取る…。

後はその力を両腕に込めて思い切り振るう…。
829 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:25:00.19 ID:jMAJNMWw0
頭取「なんて…、力だ!」


スカーレットキス「この野郎! 二人掛かりなのにッ!」



両側にいる敵機は弾き飛ばされて思い切り後退する…。

敵から抜け出した僕は、前方へ…。



何故か途中で失速して、攻撃には参加しなかった動きの良い丸い奴…。

前方で孤立したそれに向かって突き進む…。
830 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:25:52.42 ID:jMAJNMWw0
タクト(まずはあいつを…!)


この球体型の敵は、今まで戦った中でもトップクラスに手強い…。

動きが一度良くなると、こっちの攻撃が当る気配も無くなる。


今日もあの手この手を尽くしたけれど、やっぱり当らない。

正直、何故勝てたのかわからない強敵だ…。




だけど、僕は一度コイツに勝っている…。

勝った事がある相手になら…。

何度だって勝てる筈だ…。




そうだろ? 爺ちゃん!!!
831 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:26:34.89 ID:jMAJNMWw0
皆水の巫女による『オーバーフェーズ』の解除。

それ自体は回避された。

だが、それに追われて動きを鈍くしたヨドックは孤立し、完全にタウバーンの標的となる…。



プロフェッサー・グリーン「座標割り出しで出遅れた私を狙いに来たか…」


タクト「視える…!」




スカーレットキス「………!」

頭取「…………!」


何を叫んでいる…?
832 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:27:22.40 ID:jMAJNMWw0
プロフェッサー・グリーン「無駄だ…。お前の攻撃は見えているんだ」


タクト「視えているッ…!」



スカーレットキス「………離を置け!」

頭取「………ッサー!」



煩いな…、さっきからなんだ…?


あまり私を舐めるなよ…。

あいつは私の恩人だ…。

その恩人の願いくらい、この手で叶えてやるさ…!
833 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:28:31.54 ID:jMAJNMWw0
また、ふざけたミスでもすると思っているのか…?

あれは男日照りが招いた惨事だ。

ツバサ君がいる私はもうあんな失敗はしない…。



ちょっぴり勿体無い気もするが…。

いやいや!

もう、お前なんかもうどうでもいいのさ!

ツナシ・タクト!!!
834 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:29:25.34 ID:jMAJNMWw0
スカーレットキス「何をやってんだッ!」

頭取「状況が見えていないのか!?」




何をごちゃごちゃと…!


敵の次の攻撃が来るのは約4秒後。

そこからあの強烈で素敵な必殺技が来る…。


今から回避を開始すれば間に合…。
835 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:30:34.25 ID:jMAJNMWw0
タクト「豪快!銀河!十文字斬りィィィィィィ!!!!!」


な…?

その攻撃が来るのはまだあと…!




斜め十字の傷がヨドックに刻まれる…。

『オールレンジ・プレコグ』の予測によれば、それが来るにはまだ後5秒近くの時間差があった筈だった…。

だが、それはそこに現実として起きている…。
836 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:31:31.86 ID:jMAJNMWw0
プロフェッサー・グリーン「シ…、システムの予測を上回ったと言うのか…? そんなの…」


強固な装甲状の球体の上から受けた斜め十字の剣撃は、中にある本体を抉っている…。

そして、深刻なダメージを受けたヨドックが爆散した。





スカーレットキス「あの馬鹿! あいつが連携の要なのに真っ先に倒されやがって!」


頭取「彼女の本命はあの子よ。そちらに気を取られていた。

   その彼女を当てにし過ぎて、前線にも出てもらった私達のミスもある…。

   それに…」



頭取「彼女の言い分を信じるなら、システムが破損した…。

   あるいはシステムの予測を敵が上回ったと言う事になる…」


スカーレットキス「前の方はともかく、後で言った方は笑えないな…」


頭取(だが、恐らくはそっちだろう…)
837 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:32:27.64 ID:jMAJNMWw0
頭取(しかし、こうなった以上、覚悟を決めなければならないな…)




頭取「スカーレットキス。お前はパイルを潰せ。

   私はあれがある限り満足に行動が出来ない…」


スカーレットキス「確かにちょろちょろ飛び交う上に障壁を張れるパイルと、

          防御も機動も平凡なあんたの機体は相性がよくはないが…」


頭取「あれを潰す事は、タウバーンの戦力や戦術を大きく減らす事にも繋がる…」




スカーレットキス「構わないが、保つのか…?」


頭取「お前がパイルを全て潰し終わるくらいまでは、保たせて見せるさ…」



会話が続けられるのはそこまでと判断した頭取は、ベトレーダを構えさせる。

両手の拳から再び飛び出す鉤爪…。

鈍く輝くその爪は、敵対する貴公子の様な巨人の姿を映していた。
838 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:33:31.97 ID:jMAJNMWw0
タクト「邪魔をするな!」


頭取「何度も言わせるな…、そうはいかない!」


タクト「このまま続ければお前の仲間はどうなるかわからない…。

    それなのに、こんな事を続けるのか!」


頭取「あの子はそれすらも承知で挑んでいる…!」






この期に及んで最初にするのは敵の心配…。

あなたは何時もそうね…。タクト君…。
839 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:34:40.12 ID:jMAJNMWw0
いつもは無邪気な笑顔が眩しくて…。

私が何か言えばいつも困った顔をして…。

だけど、とっても優しい…。


それだけの普通の男の子…。



最初はそんなつまらない子かと思っていた…。
840 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:35:52.73 ID:jMAJNMWw0
タクト「はぁぁぁぁッ!」


頭取(あなたに興味を持ったのは、この二刀流を見てからだったわね…)





タカシに圧倒されていた中途半端な動きが嘘のように変わった…。

本気のあなたを見た瞬間。

舞うような剣技は、あのタカシさえ寄せ付けなかった…。


厄介な子。

そう思う反面で、面白い子だと感じた。



本当は計画を遅らせるあなたは私にとって邪魔者なんでしょう。

だけど、そうとは思えなかった…。


私はあなたに強い興味を持った…。
841 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:36:35.97 ID:jMAJNMWw0
頭取『お前は何がしたい…? 何故戦う…?』


タクト『何故…?』


頭取『古代銀河文明の遺産がこの島で発見されてから数十年。これ以上野放しにしておく事は出来ない。

   ならば、安全に管理していくしかないんだ』


タクト『…………』


頭取『お前のやっている事は事態を悪化させている』


タクト『女の子を拉致するような連中の言う事、信用できない!』



彼の前では理屈や情勢なんて関係ないんでしょう。

自分が正しくない、間違っていると思っている事は絶対にせず…。

自分が正しい、そしてやり遂げたいと感じた事の為だけに突き進む…。



単純。

呆れてしまうほどに…。

でも、それは…。
842 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:37:33.83 ID:jMAJNMWw0
頭取『終わった…』


タクト『まだ…、負ける訳にはいかない!』


頭取『………!?』



タクト『この島のサイバディは全て僕が破壊するッ!!!!』



その単純さは彼の強さの一因だった。

単純、いいえ…。

一途とでも言えば良いのかしら…。



そして、その一途さは彼に他とは『何か違う』強さを与え続けていた。

それは敵である私でさえ、彼の目指す未来なら…。

そう信じてしまう程の…。


だけど…。
843 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:38:57.23 ID:jMAJNMWw0
杏子『………アタシはあいつを止めたい。

   どうしても』




少し不器用だけど、無邪気な笑顔が眩しくて…。

私が何か言えばいつも困った顔をして…。

だけど、本当はとっても優しい…。


それだけの普通の女の子が…。
844 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:39:37.19 ID:jMAJNMWw0
杏子『どうしても助けたい…。だから力を貸してくれ…』



たった一人の友人の為に…。

あの子はそう言った…。


自分の身を削ってでも救いたい…。

だから力を貸してほしいと…。




彼女もまた『単純』だった。

それも、たった一人の為に自分の命すら捨てられる程強い…。



それとなく最初から感じてはいた。

彼女もまた『何かが違う』って。

だからこそ、きっと私も彼女に惹かれた…。
845 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:40:41.73 ID:jMAJNMWw0
本当は止めたかった。

だけど、私の言葉は彼女を説得するには薄っぺらで価値を持たない。

大切な人の為に力を尽くそうとする彼女を止める言葉なんて、どこにも見当たらなかった…。


学問でも、武術でも、ビジネスでも…。

何に置いても成功してきた肩書。

だけど、そんなモノは人の思いの前じゃ何の役にも立たない。

大事な時に、友人を止める言葉一つ思いつかないのだから…。




『何かが違う』

それはわかっても、その『何か』を満足に理解できていない…。

頭でっかちの私は、彼や彼女の『単純』さが理解できない…。



だから…。

止める言葉が、出てこなくて…。
846 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:41:59.51 ID:jMAJNMWw0
それでも、私に出来る事はある…。

だから、こうして戦っている…。

あの子が友人を思うように、私もあの子を大切に思っているから…。





タクト「貰った!」


頭取「くッ…!」


まるで魅せるようなその剣技は、軽々とベトレーダの右腕を斬り飛ばす…。

左腕も既に飛ばされている…。

不甲斐ないけれど、もう戦う武器はない…。


それでも、今回だけは負ける訳には…。
847 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:42:55.06 ID:jMAJNMWw0
頭取「パイルは……、後いくつかしら…?」


スカーレットキス「……………あと一つ。いや…!」


言っている間にもページェントは背後から来たビームを撃ち返し、それがパイルに命中。

エンジン部の潰れたパイルは地面へ転がった…。





スカーレットキス「全部潰した!」


頭取「そう。なら…………」





頭取「不本意だけど、後は任せるわ………」


スカーレットキス「え…?」


両腕を失い、戦闘力は無いと判断したんでしょう…。

ページェントへ向かおうとするタウバーンへ回り込む為に機体を動かす…。
848 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:43:35.42 ID:jMAJNMWw0
頭取「御退場願おうか! タウバーン!!!」


タクト「両腕を失って、お前に何ができる…!?」


頭取「捨て身…かしらね?」


タクト「!?」



体当たりをしようとした瞬間だった…。

何かがベトレーダの足を取る…。

いや、気付けばベトレーダの下半身は消滅していた…。


振り返れば、目が潰れそうな程の眩い光の柱があった…。
849 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:45:05.07 ID:jMAJNMWw0
頭取「王の…柱か…!?」




スガタ「くっ…。タクトを…、やらせる訳には…」


スガタ「妙な動き…、していた奴は…、いないし、な…」



武器も動く手段も失い、地面へ転がる…。

私に出来たのは僅かな足止めだけ…。


対してシンドウ・スガタはどうだ…?

二度と目覚めぬ覚悟で『王の柱』まで放って…。

タクト君を…、仲間を…、守り抜いて…。




捨て身、か…。

軽々しく言葉にしたけれど、理解も出来ずに言うものではないわね…。


だけど…。
850 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:46:04.14 ID:jMAJNMWw0
両手を失い、王の柱で下半身も潰され、達磨の状態になったベトレーダ。

だが、カナコの強いリビドーはその機体を『動かした』。


失った両手と失った下半身から何かのエネルギーを撒き散らし、ページェントへ向かったタウバーンの背中に迫る…。





頭取「これでもまだ甘いんでしょうね…!

   こちらはどうやっても捨て身にはならないんだから…!」


タクト「動いた…!?」


頭取「意外ね…。いつも人を驚かせてきたあなたも…、そうして驚くのね?」
851 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:47:24.25 ID:jMAJNMWw0
面白いわね…。

あなたが私に教えてくれたモノを、今度はあなたがわからずに困惑している…。


『誰かの為』だけに戦う一途な心…。

その為なら危険すら恐れず、命すら賭けられる決意…。

ようやく、私はあなたの違う『何か』がわかった気がする…。






タクト「何故、そんな状態で…!?」


頭取「何故…? 今の私はあなたと同じ。守るべき者がある…。

   その為だけに戦っている……」


頭取「それだけの……………」






―――――――『単純』な理由よ――――――
852 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:48:59.32 ID:jMAJNMWw0
ベトレーダは、気配を察したタウバーンに両断された。

だが、そこでは爆発せず、そのままタウバーンへ…。

そして…。


敵の眼前まで迫り、そこでようやく爆散した。






タクト「ま……だだ…」


タクト「僕には僕で…、譲れないモノがある…。

    悪いけど、アンタらがどれだけ必死でも倒れてはやれない…!」


至近距離で爆発を食らったタウバーン…。

しかし、それでも彼は立ちあがった…。
853 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:50:10.34 ID:jMAJNMWw0
全身に只では済まないダメージを受けてボロボロになりながら、それでも尚立ち上がる。


何にしても、絶好の機会には違いない。

私は止めを刺すつもりで深い一撃を入れる…。

だが、二本の剣を交差させてそれを止めたタウバーンの姿は、一層その輝きを増しているようにさえ見える…。






スカーレットキス(お前は何時もそうだったな…。タクト…!)


最初に会ったのは学生寮だったか…?

あの時は少し顔が良いだけのガキ…。

気が向いたら、下僕にしてやろうくらいにしか見てなかったよ…。


だけど、お前はすぐに私の前に立ちはだかった。
854 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:51:01.32 ID:jMAJNMWw0
まず、ジョージを…。

次にテツヤを…。

そして、やがては私そのものにも食らいついてきた…。



お前は私と『フィラメント』にとって、目の上のたんこぶだった…。

邪魔で、邪魔で、邪魔でしょうがなかった…。

だけど、越えねばならない壁でもあった…。

超えた先には綺羅星全体の指揮権があったから…。


嫌いだけど、ありがたい存在…。

それがお前だった…。
855 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:51:51.00 ID:jMAJNMWw0
私は私なりに頭を使ってお前を倒しにかかったが、結果は酷い目にあった…。


第一フェーズを無効化したスガタ君に引っ張り回されて…。

まぁアレは私の私欲が勝ってしまった結果でもあるのだが…。



ページェントを失った私は、お前を第一フェーズで操ると言う最終手段が使えなくなった…。

だから、久々に本気にさせてもらったよ…。

自主トレなんてしてさ…。

ついにはページェントを復元する為に、当初はより危険だった復元シーケンスの実験動物扱いにまでなった…。
856 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:52:40.16 ID:jMAJNMWw0
お前に勝てば…。

お前を倒せば…。


綺羅星十字団は私のモノになる…。

シルシのない没落名家の栄誉の回復もなる…。

あのスガタ君に認めてもらえるかもしれない…。



そして私は勝てる筈だった…。

直前の道場試合で決まったあの剣技が通用すると思っていたから…。

だが…。
857 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:53:44.29 ID:jMAJNMWw0
タクト『……………!』


ベニオ『そんな!? 偶然か…!?』


私は敗れた…。

過信に慢心、それはあった…。

だが、それが無くてもあれ以上の技は私は持ち得なかった…。

だから、お前に勝つ事はなかったろう…。



気に入らない…。

気に入らないけど、お前は強い…。

だから、私は密かにお前の強さに関心すらしたよ…。


だけどな…。
858 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:54:33.11 ID:jMAJNMWw0
杏子『シナダ・ベニオね…。気が向いたら覚えとくよ』


ベニオ『気が向いたら、じゃない! 私がお前の直属の上司になるんだよ!

    今すぐ名前を覚えろ!』


杏子『わーったよ。ベニオ』


ベニオ『呼び捨てにするな! 様付けしろとは言わないが、せめてさん付けだろうが!』


杏子『うるせぇ上司様だな…』


年上に対する礼儀もしらない大馬鹿で…。
859 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:55:32.77 ID:jMAJNMWw0
ベニオ「何をやった…?」


杏子「何って…? 爆発の目暗ましの間に『ちょいと本気』で走ったり飛んだりしただけさ」


私らが度肝を抜かれるほど強くて…。





杏子『いいや。アタシはあんたが好きになれそうだよ』


ベニオ『…ふん』


杏子『先輩…、あんたも食うかい…?』


ベニオ『…………いただこうか』


私と同じくらい不器用で…。
860 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:56:23.94 ID:jMAJNMWw0
スカーレットキス『やはり、他人のサイバディを使うのは無理があったか?』


杏子『それも無い事もないが、それ以上にあいつの強さがアタシにはわからない…。

   たぶん今のままじゃ何回やっても…』


一人の為に凄い本気になってる奴で…。




本来なら、私達の助けなんかいらないくらい凄い奴で…。

コイツなら、ひょっとしたら私の世界も変えてくれるかもしれない…。

そんな甘ったれた考えさえ抱いたよ…。



あの時のあいつの言葉を聞くまでは…!
861 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:57:15.85 ID:jMAJNMWw0
杏子『だから、アタシはやる。『銀河美少年攻略作戦』を…』



そのアイツが…。

私達を頼って来たんだ…。

力を貸してくれって…。


そのアイツが…。

救いたいって言ったんだ…。

自分を捨ててでもって…。




だから、アイツを邪魔する奴がいるなら私が叩き斬る…!


それがお前でもだ!

ツナシ・タクト…!!!!
862 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:58:16.14 ID:jMAJNMWw0
ページェントが直進する…。

高速で迫りくるそれを迎え撃とうとするタウバーン…。


だが、その間合いに入る直前にページェントの姿が消える…。




タクト「この技は…!?」


間合いに入る直前で姿を消すベニオ得意の『俊足の剣』。

幻のように消え、背後から襲い来る…。


常人には見る事すら叶わぬ妙技…。

だが…。
863 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/02(土) 23:59:14.50 ID:jMAJNMWw0
ページェントの姿は完全に消えている…。

しかし、後ろから現れた僅かな気配を察知しするタクト…。

タクトの読み通り、タウバーンの背後にその姿が現れる…。




タクトはベニオと都合、三度戦闘している。

もっとも、タクト当人ははっきりとベニオだと解り切っている訳ではないが…。



一度目はスガタの道場で戦い、この時はタクトはその技を見切れずに敗れた。

二度目はサイバディでの戦闘、繰り出した技を破られた形でベニオが敗れた。

そして、三度目はベニオが二度目の戦闘が本当に自分の技を見切ったのかを確認する為に挑み、敗れている…。



そう…。
864 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/03(日) 00:00:03.26 ID:71qTBxUS0
タクト「その技は既に見切っているッ!」


二度目の戦闘で、彼はベニオの技を完全に見切っていた。

背後から現れるページェントの気配を察知したタクトは、左手のサフィールを自分の背後へと振るう…。



低い体勢を保ち、タウバーンが背後へ振るった青い剣…。

それは現れたページェントの胸元を確かに捉えていた…。
865 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/03(日) 00:01:08.14 ID:71qTBxUS0
青く輝く剣は確かに赤い機体を捉えている。

だが、剣はその赤い機体を完全に素通りした…。






タクト「馬鹿な…!?」


手応えがない…。

完全に見切った筈の攻撃に合わせ、左手で斬撃を繰り出し、敵を撃破した。

その筈だったのに…。



捉えた筈の赤い機体はまるで影のように姿がない…。

そして…。
866 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/03(日) 00:02:38.17 ID:71qTBxUS0
スカーレットキス「何時までも昔の私と思うなッ!!!!!」


タクト「な…!?」


その赤い機体がタクトの眼前に現れる。

そして、繰り出された鋭い赤い斬撃は、かつてその機体を貫いた青い剣ごと、その左手首を斬り飛ばした…。




残像。

高速で動く物体を捉えきれない場合、その物体がまだそこに残っているかの錯覚に見舞われる現象。

タクトが捉えたページェントは、その目の錯覚が見せた幻…。



見えない筈の技に発生する、攻撃に移る瞬間の僅かな隙。

その一瞬さえ、敵が捉える事を許さない…。

ベニオが自らの技を昇華させた末に発生させた『俊足の剣の極み』だった…。
867 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/03(日) 00:05:16.36 ID:71qTBxUS0
スカーレットキス「終わりだッ! ツナシ・タクト!!!」


タクト「終わる訳にはいかないんだ!

    僕が…、あの二人を止めないと…!」



止めと繰り出した赤い連撃を、常人離れした反射神経で受けるタクト…。

サフィールごと左手を失い、エムロードだけで受けるタウバーン…。


パイルを破壊し、十分なダメージを与え、さらには手ごと片方の剣を失い、満身創痍の状態なのに…。

それでも気迫だけで迫るその強さはやはり本物で…。

むしろ、胸の球体から放たれる輝きと共にその力は一層増しているように感じる…。






タクト「僕は…、負ける訳にはいかないんだ!!!」


スカーレットキス(それでこそお前だよ…)


迫るタウバーンに押し返されるのを耐えながら、ベニオはそう言い漏らした…。
868 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/03(日) 00:06:12.55 ID:71qTBxUS0
杏子「ちょろちょろするしか、能がねぇのかッ!」


さやか「うっさい……」


見えかけていた勝機は一瞬に消えた。

圧倒してた筈の近接戦闘は、斬り合う度にパワー負けするから満足に近寄れなくない…。

かと言って離れれば、さらにキレを増した多節槍での追い打ちが来る。



近寄っても駄目。

離れても駄目。

まるでアイツとあたしの関係そのものだ…。
869 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/03(日) 00:07:00.58 ID:71qTBxUS0
見えてこない。

そう。見えないんだ。

勝機だけじゃなくて、アイツの気持ちが…。



最初に戦った時でさえ、『身勝手』や『傲慢』って背景が見えてきた…。

後にそれは、アイツなりの必死さだってわかったけど…。



でも、今のコイツからは何も見えない。

色々あったけど、あたしはコイツの事がようやくわかった。

そう思ったのに…。
870 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/03(日) 00:07:45.34 ID:71qTBxUS0
コイツが何かに必死なのはわかるんだ。

こんな無茶苦茶な事をしてまで、何かを成し遂げようとしてるのはわかるんだ…。



だけど、『それ』が見えてこない…。

コイツが何を目指し、何の為にこんな事をやってるのかがわからない…。


迷っちゃいけないのはわかってる。

立ち止まるつもりもない。

だけど、コイツとは本当にわかり合う事はできないの…?



ううん…。わかり合うなんて所まで行け無くてもいい…。

だからって、何もわからないまま終わるなんて…。
871 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/03(日) 00:08:45.13 ID:71qTBxUS0
さやか「ねぇ…、杏子?」


杏子「…………」


さやか「アンタ、何考えてるの…?」


杏子「…………」


さやか「答えられない事なの? あたしじゃ力にはなれないの…?」


杏子「…………」



鎖分銅をフェイントにして、本命の槍攻撃が来る。

上部のみを連結させたその槍を受けつつ、あたしは杏子に問いかける…。
872 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/03(日) 00:09:28.90 ID:71qTBxUS0
さやか「黙ってちゃわかんないよ…。

    あの時みたいに話してよ…」




杏子「お前だって、アタシに大事な事話してなかったろ…?」


さやか「あ………」


杏子「それと同じさ…」



あたしには言えない。

コイツはそう答えた。




やっぱり不器用な奴だなぁ…。

あたしと一緒…。

だけど…。
873 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/03(日) 00:10:50.21 ID:71qTBxUS0
さやか「そっか…。よく『わかった』よ」


杏子「…………」


さやか「だけど、あたしはそんなの認めない!

    やっぱり力尽くでアンタを止める!!!」




杏子「『わかった』癖に、自分を押し通すってか…?

    鬼か、お前は…?」


さやか「お互いさまでしょ…?」


杏子の声に明るさが戻った。

そんな気がする…。


答えられない。

それなら、それでも良い…。


あいつの答えが『わかった』。

とりあえずはそれで………、十分!
874 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/03(日) 00:11:56.15 ID:71qTBxUS0
わかり合えない時は殴り合う…。

元々、あたし達はそんな関係だから…。




さやか「パイルッ!!!」


杏子「ハッ! 馬鹿かお前は…!

   高速飛行に使ってるパイルを攻撃に回すなんて…!」


腰にあるパイル・ジェットはそこを離れ、周囲を舞い始める。

ブースターの役割を果たしていたそれを失ったレシュバルは、自然と落下を始める…。



そして、そのあたしに止めを刺すべく、離れた位置にいた杏子が大きく跳躍する…。
875 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/03(日) 00:12:47.14 ID:71qTBxUS0
杏子「終わりだよッ!」


さやか「アンタがね…!」



落下しつつあるレシュバルよりも高く跳んだ杏子は、決着の一撃を放つべく槍を構える。

斜め下にいるあたしに向けられたその槍を構えつつ、突撃してくる…。


あたしは、それに合わせてパイルを自分の前面へ呼び寄せる…。

四基のパイルは先端を向けてロの字を描き、さらに一回り巨大化する…。
876 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/03(日) 00:14:07.29 ID:71qTBxUS0
杏子「その陣形は、パイルクラッシャー…?

   いや、まさか………!?」


さやか「デカイの行くから、ちゃんと防御しなさいよ!!!」


杏子「てめっ………!」







さやか「ティロ・フィナーレ!!!!!!!!」



パイルで作った大型の砲台はそれぞれの砲門から一斉にビームを放つ。

それは収束され、巨大な弾丸のようになったビームの塊は空を裂きながら進み…。

空中に跳んだ事で逃げ場を失った杏子の姿をした巨人に直撃した…。



マミさんの必殺技だった超特大口径の銃を使った砲撃。

それを応用したあたしの最後の一撃…。
877 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/03(日) 00:15:59.50 ID:71qTBxUS0
上がった爆風を見つめる…。



えげつないけど、アイツ相手に加減していたらこっちが返り討ちにあう…。

あの槍の強度とアイツが魔法少女である事まで計算して撃ったから、致命傷にはならない…。

滅茶苦茶痛いとは思うけどね…。





あたしは、まだ砲口から煙を吹いているパイルをバラして、準備をする…。

杏子が受け身を取れない状態だった場合、バインドを使って杏子を受け止めるためだ…。



だけど、実際に受け身を取る事ができなかったのはあたしの方だった。
878 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/03(日) 00:17:43.45 ID:71qTBxUS0
杏子「うぉぉぉぉぁぁッ!!!!」


さやか「!?」



爆風の中から杏子が飛び出してくる。


槍も失い、満身創痍には違いない…。

だけど、アイツ自体はあたしの攻撃を受けたのが嘘だったのかのような勢いで迫って来る。





さやか「直撃させたのに…!?」


あたしはパイルを使って迎撃しようとするも、元々あたしはそれの扱いがうまくない。

さらに高速で接近する杏子が相手。

おまけに癖の強いバインド弾の準備をしていた為、攻撃が全く当らない…。
879 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/03(日) 00:19:47.41 ID:71qTBxUS0
杏子「さっきのは効いたよ…。

   けどな…!」


杏子「今日のアタシは、負ける訳にはいかないんだよッ!」




仮面のような頭部が割れ、アイツ自身の右目が覗く…。

その眼は見ているだけで気押されそうな程の強い『決意』に満ちていて…。


さらに、そんなアイツに合わせるように、両肩にあるサイバディの眼も強い輝きを放つ…。

あたしはそれに圧倒されながらも、再度パイルを動かして迎撃を試みる…。
880 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/03(日) 00:24:45.98 ID:71qTBxUS0
さやか「パイ…」


杏子「遅ぇッ!!!」


パイルの動きはまるで間に合わない。

圧倒的な早さと威圧感を持って迫った杏子は、両腕でそれぞれレシュバルの右腕と首元を掴むと、そのまま地上へ一直線に落下…。

体重を乗せられ、受け身などとれる筈もないレシュバルは、背中を始めとする全身に落下の衝撃を諸に受ける…。





さやか「うぐッ…!!!!」


受け身を取れずに地面に叩きつけられた衝撃がコクピットにも大きく伝わる。

体と頭を強く打ったあたしは、その影響もあって意識が朦朧としてくる…。


やがて、左の視界が鮮やかな赤に染まった…。
881 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/03(日) 00:27:27.64 ID:71qTBxUS0
さやか「ちょ……と、コレは…、ヤバ……」


見渡せば頭から出たんだろう、おびただしい量の血が流れ、さらに背中が熱い…。

打ち所が悪いと言う奴だ…。


意識がボヤけ始める…。





杏子「うらぁぁぁぁぁッ!」


さやか「………!」


その僅かな隙も杏子は逃しはしない。

レシュバルの両腕を掴むとそれを力任せに引っ張り始める…。
882 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/03(日) 00:28:34.50 ID:71qTBxUS0
まずは右腕、次に左腕…。

軋みながらレシュバルの腕は一つ、また一つもがれて、無造作に投げ捨てられる…。

同時にあたしは、速攻で行える抵抗の手段を失う。



それでも、諦める訳にはいかない…。

あたしは落下速度に付いてこれなかったパイルをどうにか杏子の方へ向け、攻撃させる。

だけど、それに勘付いた杏子は指を慣らし、網目状の結界を発生させる。

それはあたしと杏子を包み、パイルの放った攻撃を完全に防いだ…。
883 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/03(日) 00:29:51.10 ID:71qTBxUS0
杏子「これで……、終わりだよ!」


さやか「まだ………終わりじゃ……、ない」


諦めない。

守りたいモノがあるから…。

聞きたい事があるから…。

やらなきゃいけない事があるから…。


だから、本当に『終わる』まで、進み続けるんだ…。





気付けばパイルはソードの形となり、ジェットを伴って結界に突撃する。

火花を散らして結界の表面を削りつつ、拮抗を続ける…。
884 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/03(日) 00:30:56.78 ID:71qTBxUS0
杏子「そうだ。お前はそれで良いんだ…………」


さやか「きょ……こ……?」


結界の外のパイルを横目で見つつ、アイツの口元が僅かに笑う。

そう見えた瞬間、あいつはその右手を伸ばすと…。







杏子「………悪いな!」


さやか「ぐうッ!!!」


レシュバルの左眼に掴みかかり、そのまま抉りだした。


その際の強い衝撃に飛ばされ、あたしは再度コクピット内に叩きつけられる。

またも頭を強く打ち、今度こそ視界が霞み始めた…。
885 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/03(日) 00:31:56.56 ID:71qTBxUS0
失いかけた意識をそれでも保つ…。。

だけど、今のあたしはそれだけだった…。


何か考えて、どうにか意識を保つ事。

潰れて見えない左眼の代わりに、右眼を見開く事。

それが今のあたしにできる全て…。




もはや抵抗に使ったパイルさえ、どうなっているかわからない…。

勿論、体だって動いてくれない…。


再度意識が飛びかける。

さすがに止めを刺される事すら覚悟した…。



だけど、右眼が再び見せた光景に杏子の姿は無い…。
886 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/03(日) 00:33:01.30 ID:71qTBxUS0
杏子「レシュバルは大破。

   …………これで十分だよな? ヘッド」


ヘッド「…………」


杏子「そう言う約束だった筈だ」


ヘッド「あぁ。上出来だ」



杏子「なら、アタシらは一度撤退する。先輩のページェントもそろそろ限界だろ…。

   正直こっちももう、あっちを助けに行けるだけの余力はない…」




その声ははっきり聞こえてくる訳ではないけど、杏子が撤退しようとしているのはわかる。

同時に、アイツの目的はあたしを殺す事には無い…と言う事になる。


でも、アイツが何を求めてこんな事をしたのかは、ますますわからなくなった…。
887 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/03(日) 00:34:08.32 ID:71qTBxUS0
わからない…。

わからないことだらけ…。




アイツの気持ちも…。

タクトさんの無事も…。



スガタ師匠は…?

ワコ姉は…?


そもそも、あたしは今どうなってるの…?




意識が混濁する…。

ぐちゃぐちゃになった思考に、激痛が混じり合う…。

それはあたしの気持ちを無視して全てを塗りつぶし、その意識を遥か遠くへと追いやっていく…。
888 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/03(日) 00:39:19.59 ID:71qTBxUS0
っし。
今日はここまで。

またも良い所で切れる訳だけど、終盤はこんなもんだよね…
区切りがいいには良いんだけど…



それでは、本日は閉会とする。

佐倉杏子に栄光を…!
美樹さやかに祝福を…!

綺羅星☆





――ちょいとしたお遊びの類――

颯爽登場? ☆ビーム?    http://mu.skr.jp/index.php?mode=image&file=36444.jpg
パイル・ソードの構図     http://mu.skr.jp/index.php?mode=image&file=36445.jpg
強化型でないけどタクトさんと http://mu.skr.jp/index.php?mode=image&file=36446.jpg

(おまけ)あなたにはわからないなアタック http://mu.skr.jp/index.php?mode=image&file=36447.jpg
889 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)[sage]:2011/07/03(日) 06:34:12.32 ID:GFZzIieAO
綺羅星☆!!
少し見ぬ間にずい分進んだな
奥様や他の代表の心情も書かれてていい感じ
890 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)[sage]:2011/07/03(日) 07:47:48.77 ID:VzyfHNmAO
乙!
今回も面白かったぜ
891 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/03(日) 10:23:04.81 ID:zQkUTBKSO
乙。ホントいいとこで終わりますね…。
892 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[sage]:2011/07/03(日) 15:49:36.07 ID:WCJJL4cvo
綺羅星☆

タクトさんマジパネェ……
プレコグモードも一度経験すれば攻略可能ということか
代表たちも食らいついたけど、通常の戦いなら多分負けてるからなあ

銀河美少年レシュバルを撃破してまだ戦闘続行可能なのに綺羅星側は退却か
まだ何かするんだろうがこれはもうタクトにどうにかしてもらうしかねーか?
893 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/04(月) 01:32:57.93 ID:LRQk4wy8o
綺羅星☆

流石タクトさんと言いたいが、綺羅星側の心情描写がスゲェ・・・

てか、いいところで切りすぎだwww
続きが気になるだろ!
894 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 22:37:34.48 ID:5hm0061t0
綺羅星☆
投下の時間がやってきました
ストックも切れてまいりました

>>889
綺羅星☆
進んでいます。終盤戦です。

>>890>>891
乙感謝

>>892
綺羅星☆
だってタクトさんだぜ…?

>>893
綺羅星☆
自分、綺羅星とさやかさん愛してますから
もともとその為のSSだし
895 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 22:38:43.92 ID:5hm0061t0
綺羅星十字団施設内、電気棺前。


ゼロ時間から戻った満身創痍の少女の前に、仮面の少年が立つ。

そして、少年は『グリーフシード』と呼ばれた黒い宝石を少女に手渡す。




杏子「悪いな…」


バンカー「いえ…。一つで足りますか?」


杏子「わかんねぇ。だが、どっちにしろ一つを使い過ぎると面倒くさい事になるからな…。

   もう一つ貰っとく…」


バンカー「万一の時はどうにかこちらで掃除しますが…、念を押すに越した事は無いですね」





バンカー「………やりましたね」


杏子「まぁ、な」
896 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 22:39:50.07 ID:5hm0061t0
バンカー「では、僕はこれで。次の準備がありますので…」


杏子「次、か…」


バンカー「あなたも体を休めてください。

     ダメージも披露もそれで回復できるとは言え、多少なりとも休息はあった方が良い…」


杏子「……そうさせてもらうよ」



少年は影に消えていく…。

そして、少女は二個目のグリーフシードを使った穢れの浄化を終えると、そのまま事切れたように眠りに付いた。




彼女の望むモノ…。

それが得られたかは語らぬまま…。
897 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 22:41:16.39 ID:5hm0061t0
綺羅星十字団アジトの外にある森。



闇の中に静かに現れる一つの影。

それは森を歩く一人の青年の影を踏む…。



ヘッド「バンカーか…? 例の報告は後回しにしてくれ」


バンカー「どこへ行かれるのですか…?」


ヘッド「人間と言う生き物は欲張りなものだな。バンカー」


バンカー「…………?」


ヘッド「一つ目的を達したのに、それに満足できず、さらに上を目指してしまう…」


バンカー(何を言っているんだ。この人は…?)
898 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 22:43:10.33 ID:5hm0061t0
ヘッド「人が何かを成し遂げると自分でも何か出来るような気分になる…」


バンカー「まさか…」


ヘッド「あぁ…。消しに行くよ。俺の汚点をね…!」


バンカー「…………」



いつもとは逆に青年が森の闇へ…。

そして、少年が月夜に取り残される…。


少年は青年の背中をしばらく見つめると、自らも闇の中へと消えていく…。
899 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 22:44:09.22 ID:5hm0061t0
綺羅星十字団施設内、電気棺前。

忙しそうに作業を行う灰髪の男の手を、携帯電話からの着信音が止める。

そして、電話の相手が放った一言に呆れ果てた声を出す…。




プロフェッサー・シルバー「何を勝手な…」


????「あちらの準備は済んでいるので、どっちにしろ後はあなたの仕事の筈ですが…?」


プロフェッサー・シルバー「それはそうですが…」


????「それより彼は…?」


プロフェッサー・シルバー「そちらの調整は終わって先ほどここを出ました。

              調整自体も完璧です」
900 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 22:44:59.52 ID:5hm0061t0
????「そうですか。では後は頼みます。

      あなたもアレのデータはできるだけ欲しいんでしょう…?」


プロフェッサー・シルバー「むぅ…」


????「急いでくださいね。予定より早まる可能性が高いので…」




プロフェッサー・シルバー「……切れたか。全く無茶を言う」


プロフェッサー・シルバー「これだけの作業量を一人で…、しかもたったそれだけの時間でこなせなどと…。

               いくらデータが集まったからと言って調整は一朝一夕に行えるものではないのに…!」


プロフェッサー・シルバー「まぁいい…。それだけの苦労に見合う素晴らしいデータが取れる…!」



切れた携帯電話をしまい、男は再度作業に戻る。

文句を言いながらも、その手の動きは速い…。

一つ、二つとすべき作業の工程が片付いていく…。
901 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 22:45:51.86 ID:5hm0061t0
南十字島市街地。


青い髪をした少年がバス停のベンチで項垂れている。

酔っ払いのそれではない。


座っている少年はまだ若く、品性のある顔立ちをしている…。

だが、その顔は本当の人形のように生気がない。


そして、そこへ現れた気真面目そうな眼鏡の少女が一人…。






ケイト「スガタ君……。今、助けます………」


少年の痛々しい様子を見た気真面目そうな女は少年に抱きつく…。

愛情表現の類ではない。

女の顔は真剣そのものだ。
902 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 22:46:48.82 ID:5hm0061t0
女の胸の辺りからピンク色の、そして少年の胸からは青い輝きが発せられる…。

暫くの間それは続いたが、その輝きは止まり、息を荒げた女は少年から離れる。


そして、何事もなかったかのようにその場を立ち去ろうとしたのだが…。





スガタ「君が助けてくれたのかい…?」


ケイト「!?」


スガタ「そうか…。君が『ひが日死の巫女』だったのか…」


ケイト「スガタ君…。意識が、あったの…?」



見られない筈のものを見られたからだろうか…?

振り返った女は、怯えたような表情をしている。


だが、それに反して少年の表情は穏やかその物だった…。
903 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 22:47:51.03 ID:5hm0061t0
スガタ「すまない。苦労をかけさせて…」


ケイト「いいえ…。まだ立っては駄目!」


自分を救った者へ謝罪をしながらも、少年は立ちあがろうとする。

ふらつく少年を見かねた気真面目そうな女はそれを制止し、再び席へ座らせる。






スガタ「ワコ以外と…、連絡が取れない…。

    安否を…、確認しないと…」


ケイト「無茶です。そんな体じゃ…。

    それにあの二人なら、無事の筈です…」


まだ青い顔をした少年の目つきが鋭いモノに変わる。

当然、その視線はさっきまで穏やかな目で見つめていた気真面目そうな女に向けられている…。
904 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 22:49:19.54 ID:5hm0061t0
スガタ「何…?」


ケイト「ツナシ・タクトも美樹さやかも、そして佐倉杏子も…。

    誰一人として死んではいません…」


スガタ「何故それを君が知っている…?」




ケイト「……………」


ケイト「……………私が綺羅星十字団のイヴローニュだから」




スガタ「………話を、聞かせてもらおうか」


長い沈黙の末、その正体を明かした気真面目そうな女を少年は問い詰める。

バス停には未だ、誰も通る気配は無い…。
905 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 22:50:38.67 ID:5hm0061t0
南十字島、とある砂浜。


あちこちに生傷が見える赤髪の少年が一人そこを歩く。

探し人を見つけ、代わりにそれを探した知人の安否がわからなくなる…。

結局、彼らはボロボロになりながらも人探しを続行せざるを得なかった…。




タクト「はは…、携帯…。

    こんな時に電池切れってそりゃないでしょ…」


タクト「さやか…、無事だと良いけど…」


タクト「上がった息を整えるのに少し時間を食ったからね…。

    急がないと…」



小休憩をしたのもあってか、激戦の後の割に少年の足取りは軽い。

だが、そんな少年は急にその足を止める…。
906 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 22:51:56.26 ID:5hm0061t0
???「ねぇ、そこの彼。ちょっと道を聞いて良いかな?」


タクト「……………」


歩く先には、やけにヘラヘラした青年が立っていた。

青年の態度からわかるように、二人は初対面には初対面だ。

だが…。





――お前だけが銀河美少年だと思うなよ――



先日戦った強敵『レシュバル』。

今はさやかの愛機であるが、それはかつてタクトを追い詰めた強敵でもある…。

そして、それに乗っていた綺羅星十字団のスタードライバー…。


今目の前にいる男の、その声とその雰囲気は明らかに同一人物のモノ…。

さらに恐らくあの時の男は…。
907 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 22:52:45.22 ID:5hm0061t0
???「この辺に火山がよく見える海岸があるって聞いたんだけど…」



もう一つの事はまだ憶測にすぎない。

だが、この男が先日の敵だと言う事は確証に近いモノを持って言えた…。


それにも関わらず、しらばっくれて平然と話しかけてくる…。



この青年の態度はタクトの怒りを確実に刺激していた。

このふざけた男がもしかしたら…と思うとますます腹が立った。


こちらの表情や様子も気にせずに続ける青年に、タクトの怒りは頂点に達する…。
908 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 22:55:02.40 ID:5hm0061t0
???「どの辺りにあるんだろ…」


タクト「白々しい芝居して…!」



その怒りに任せ、ふざけきった青年を一発殴りかかろうと思った瞬間だった。

そのふざけた青年が強烈な殺気を発する。


悪寒を感じ取ったタクトは、殴るのをやめ、その身を引く…。

いや、それだけは足りないだろうと大きく後ろへ飛ぶ…。



タクトの感じた予感通り、彼の前を目の覚めるような鋭い剣先が走った。
909 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 22:56:10.02 ID:5hm0061t0
???「惜しいな…。もう一歩踏み込んでくれれば真っ二つにできたんだが…」


タクト「コイツ…!?」




タクトが感じた悪寒は本物だった。

青年はさっきまで持っていなかった輝く剣をその手に持ち、タクトへ斬りかかったのだ。


彼が殴りかかっていれば…、身を引くのが遅ければ…、その凶器の餌食になっていただろう…。


そして、その凶器は見慣れた輝く剣…。

ここにはある筈のないモノ…。
910 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 22:57:09.90 ID:5hm0061t0
タクト「それは…、スターソード…?」


???「その通りだ。スターソード『ディアマン』。

    俺の新たな時代を作り出してくれる愛刀だよ…」


???「そして、今日もその大事な役割を果たしてくれる…!」




タクト「アンタ…、正気か…?」


ヘッド「無論だ…。お前は俺の汚点だ…!

    だから、ここで消えろ…! ツナシ家のシルシ諸共な!!!!」


かつて戦ったレシュバルが握った、白く輝くスターソードを構える目の前の男…。



夢を目前にした男の欲望が狂気となる。

自らの出生の闇が、タクトに襲いかかる…。
911 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 22:59:48.77 ID:5hm0061t0
南十字島のとある山道。



気を失って倒れている少女が一人。

そして、その少女にはスーツの上着がかけられている…。




さやか「ここは…?」


さやか「そうだ! タクトさん達は…!?」



????「まだ無理をするな…」
912 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:00:37.73 ID:5hm0061t0
さやか「………アンタは?」


カタシロ「俺はカタシロ・リョウスケ。お前の通う南十字学園の理事長代行をしている。

      ウチの制服を着た君が道で倒れているのを見かけたから、とりあえずここまで運んだんだが…」


さやか「ご、ごめんなさい…。失礼な聞き方しちゃって…」


カタシロ「気にするな」



飛び起きたあたしを制止した男は、どうもウチの学校の理事長さんだったらしい。

あたしを助けてくれたらしいその人に礼を言いつつも、警戒自体は解かない。



左目に眼帯をしたこの人は、確かにどこか薄気味悪い雰囲気を持っている。

だけど、そう言う風貌の問題じゃない…。


なんて言えば良いんだろう…。

あたしはこの男から、奇妙な違和感のようなモノを感じていた…。
913 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:01:23.91 ID:5hm0061t0
最も、それどころじゃないあたしはそれ以上深くは考えない。


気付けば痛みも傷も消えていた…。


魔法少女ってのは便利には便利だ。

それを肯定する気は絶対ないけど。




さやか「すいません。あたし行かないと…!」


カタシロ「………やめておけ」


さやか「お気づかいどうも。でも体ならもう大丈夫なんで…!」


痛みも引いたあたしは、その人への応対もそこそこに先を急ごうとした。

だけど、その時奇妙な事が起こる。
914 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:03:27.92 ID:5hm0061t0
さやか「あれ…?」


カタシロ「やめておけ」


振り返って立ち去ろうとした時だった。

今は後方にいる筈のその人が何故かあたしの前に立ち塞がっていた。



何かの見間違いだろうと横を通り過ぎようとするも、その人は的確にこっちの動きを呼んで通せんぼをする。

悉く行き先に動いて、フェイントさえ受け付けない。

と、なんか妙に勘が良い…。

サッカーのディフェンダー経験者…?
915 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:04:23.16 ID:5hm0061t0
さやか「もう大丈夫ですから…。

    ちょっと立ちくらんだだけなんで…!」


カタシロ「ダメだ…」


しつこいこの人に少しだけ苛立つも、言い分は最もだ。

さっきまで倒れてた奴が「もう元気になりました」なんて言っても、それを信じれる訳もない。

まして、この人が学校関係者だって言うなら尚更だろう…。




そこを通るのを諦めて、あたしは携帯を取り出そうとする。

冷静に考えれば、それで連絡を取るのが一番有効だ…。

血迷ってどこへ行こうとしてたんだか…。



上着のポケットから、携帯を取り出す。

だけど、それは地上を転がって夜の闇に消えた。
916 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:05:11.30 ID:5hm0061t0
さやか「何の真似ですか…?」


カタシロ「言い方が悪かったな…。

      お前を行かせる訳にはいかない…」


さやか「悪い冗談ならやめてくださいよ。

    こっちは急いでて気が立ってるんで…!」


カタシロ「冗談ではない。こちらも本気だ…!」



人の携帯を手刀で弾いたこの男は、何か訳のわからない事を言い始める。

遠回しなこの男に対して、だんだんイライラが募っていく…。
917 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:06:14.42 ID:5hm0061t0
さやか「退いてください」


カタシロ「退くつもりはない」


さやか「退いて…!」


カタシロ「退かないと言った」



さやか「……ッ!

    申し訳ないけど、力尽くでいきますよ!!!」


とうとう怒りが頂点に登ったあたしは男に殴りかかる。

が、男は何事もなかったかのようにあたしの拳を受け止める…。


それなりに鍛えてる筈なんだけど、乙女の細腕じゃ効きませんって言いたい訳…?

頂点に登った怒りはその空まで突き抜けてしまった…。
918 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:07:06.75 ID:5hm0061t0
さやか「いい加減に……しろッ!!!!」


あたしは魔法少女の姿に変わり、今度は左手を構える。


確かに手荒だけど、いつまでもこんな所で足止めを食らい続ける訳にはいかない。

気絶して貰って、幻でも見たことにして貰おう…。


そんな事を考えつつ左手を繰り出した…。

だけど…。





並外れた腕力になった筈のあたしのパンチを、この男はまたも『受け止めた』。
919 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:07:58.28 ID:5hm0061t0
思い切り両手を引いて、掴んだ相手の両手を振り払いつつ、少し距離を置く。





さやか「アンタ…、何者?」


カタシロ「綺羅星十字団第二隊『バニシングエージ』預かり、綺羅星総会『議長』…!

      こう言えば満足か…?」



不気味な男がいよいよ正体を現す。


綺羅星十字団。

そう名乗った男の眼帯がはらりと外れ、痛々しい傷とそこに埋め込まれた気味の悪い義眼が現れる…。

その左の義眼は薄らと赤く輝いている…。
920 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:08:59.00 ID:5hm0061t0
さやか「綺羅星十字団…! 通りで胡散臭い訳だ!!!」


カタシロ「……………」


さやか「アンタ達が相手なら手加減入らないよね…!?

    聞きたい事もあるし…!」



カタシロ「佐倉杏子の事か…?」


さやか「知ってるの…?」


カタシロ「無論だ……」


この薄気味の悪い男は杏子の名前を出す。

あたしと杏子の関係を知ってわざわざ口にするという事は、アイツと無関係ってのはたぶん無い。


最優先すべきはタクトさん達の安否の確認。

だけど、目の前にいる男は次に優先すべき杏子の情報を持ったまま立ち塞がっている…。


それなら、コイツをぶっ飛ばして杏子の情報を吐かせた後、タクトさん達を探しに行くのが賢いやり方でしょう…!
921 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:10:03.56 ID:5hm0061t0
さやか「話してもらおうかな、杏子の事…!」


カタシロ「それを話せば、ここに留まるのか…?」


さやか「それとこれとは話が別…!」


カタシロ「なら、話す訳にはいかん」




さやか「そう…。交渉決裂だね…。

    こうなった以上……」


カタシロ「力尽く、か……。野蛮な事だ」



男は腰にあった入れ物から、赤い木刀を取り出してそれを構える。

そして、あたしも魔法で作った刀身の沿った剣を構え、相手に斬りかかった…。
922 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:11:12.33 ID:5hm0061t0
南十字島、とある砂浜。


夜闇を裂く、光り輝く剣を振るう青年と、それを舞うように避ける少年…。

一見すると幻想的な光景だが、実際は残忍で一方的な暴力だった…。





ヘッド「無駄だ! そんなモノではスターソードを防ぐ事は出来ない…!

     それはお前もよくわかっている筈だが…?」


タクト「くっ…」


逃げ回った先でようやく鉄パイプを見つける。

が、スターソードをそんなモノで受けられる筈も無く、両断されてまた丸腰に戻る。


後ろは高い岩場。

無造作に捨てられている塵の中に、パイプより使えそうなモノは見当たらない。

イッツアピーンチ…って奴かな?
923 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:12:22.12 ID:5hm0061t0
ヘッド「終わりだ! ツナシ・タクト!!!!」


タクト「………!」


追い込まれた僕を両断すべく、男は剣を振り上げる…。

だけど、それを遮るように僕の前に何かが飛んでくる。


くるくると回転しながら飛んできた二本のそれは、砂浜の柔らかい地面に突き刺さった。





タクト「これは…木刀?」


見た目はどう見ても木刀にしか見えない。

だけど、それは赤く塗りたくられており、妙な存在感を放っている…。
924 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:15:02.24 ID:5hm0061t0
タクト(よくわからないが使えって事か…?)


タクト(考えてる暇は無いか…!)




ヘッド「今度こそ消えろ!」


タクト「やられてたまるかッ!」


二本の木刀を素早く手に取る。

そして、振り降ろされる敵の剣に合わせて交差させる。



ただの木刀の筈のそれ…。

だけど、それは鉄パイプを両断するスターソードを受け止めていた。
925 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:15:53.47 ID:5hm0061t0
ヘッド「な、何…?」


タクト「イッツアキーーーック!!!」


ヘッド「ぐぁッ」




止められる筈のない攻撃を止められて動揺する敵の腹に蹴りを入れる。

怯んだ敵を掻い潜り、距離を置いて構えなおす。


そこまでやってようやく一騎打ちの決闘の形となる…。
926 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:16:49.53 ID:5hm0061t0
ヘッド「チッ…!」


タクト「正々堂々はお嫌いかな…!?」


ヘッド「良い気になるなよ…!?

    俺の優位は変わっていない!!!」



あの剣の切れ味は本物だ…。

後ろにあった岩が真っ二つになる。


さすがにちらりと冷や汗が垂れるのがわかる…。



だけど、僕は臆してなどいられない…。

無事を確かめなきゃいけない子がいる…。


そして、さらにコイツはたぶん…。
927 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:17:32.76 ID:5hm0061t0
タクト「アンタに聞きたい事がある…!」


ヘッド「何かな…?」


タクト「アンタの名前はツナシ・トキオ! 違うか…?」


ヘッド「俺の名前はミヤビ・レイジだ。残念だが人違いだな…!」




タクト「じゃあ、何故わざわざ僕の前に現れた!

    ツナシの名を憎々しそうに叫んだッ!?」


光り輝く剣を受ける度に、赤い木刀に火花が散る。

剣の輝きも弾ける火花も目の前にいるこの男の顔を鮮やかに映し出す…。




僕の『父親』かもしれないこの男の顔を…。
928 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:18:27.14 ID:5hm0061t0
僕には両親がいなかった。


親父に捨てられ、心が疲れ切った母さんは爺ちゃんに俺を預けて姿を消した。

そう聞かされた。



僕は親父が許せなかった。

ここにいると聞かされて、一発ぶん殴るつもりでこの島へやってきたんだ…。


だけど、それ以上に僕はコイツに聞きたい事がある…。





タクト「しらばっくれるのも大概にしろッ!」


ヘッド「そこまで気付かれていたのか…。

    なら尚更、始末するしかないな!」


タクト「くっ…、アンタは…」
929 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:19:26.35 ID:5hm0061t0
ヘッド「良いだろう。話してやるよ…!」


タクト「……ッ!」




ヘッド「夢を目前にして、消しておきたくなったのさ…」


タクト「何を…」



ヘッド「この俺の汚点を!!!!」


男の目付きが変わる。

まだ、どこか飄々としていたさっきまでの雰囲気が消え、憎しみと殺意が強くなり始める…。

同時に奴の欲望を形造ったその剣も輝きを増していく…。
930 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:20:29.71 ID:5hm0061t0
ヘッド「最初はちょろちょろを煩いガキくらいとしか見ていなかったよ…。

    お前に負けた事さえ当初はどうでもよかった…」


ヘッド「だが、お前の鬱陶しさは留まる事を知らなかった。

    お前は人様からシルシを奪った女を引き連れ、俺の夢の障害となり始めた…!」


タクト「夢…!?」


ヘッド「それを目前にお預けを食らう犬の気分で過ごす毎日は、大層苛立つ日々だったよ…!

    そんな中気付いたのさ。お前の名前とシルシ。それが実に不快なモノであったことに…!」




ヘッド「目障りなんだよ、お前は! そのシルシは! そのサイバディは!

    俺の汚点を振り回して人の前に立つな!!!!!!!」


男に気圧されたのか、それと男に呼応して切っ先が伸びたのかはわからない。

避けきれなかった剣が僕の右頬を斬り、血がだらだらと流れ始める。



怒り、憎しみ、妬み。

この男は、僕が抱いていた感情の何倍も大きい醜い感情を吐き出した。


それでも、その醜いモノで出来ている筈の剣は美しい輝きを放ち続ける…。
931 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:21:50.41 ID:5hm0061t0
南十字島のとある山道。


さやか「はぁぁぁぁぁッ!!!」


カタシロ「………」





さやか「ハァ…、ハァ…、ハァ…」


カタシロ「……その程度か?」



散々言っている通り、あたしは魔法少女だ。

魔女と戦う為もあって、身体能力は人間のそれとは比較にならない…。

筈なんだ。



だけど、この男はそのあたしの攻撃を平然と避け続けている…。
932 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:22:53.11 ID:5hm0061t0
さやか「悪いけど…、痛い目にあってもらうからね!」


カタシロ「…………見せてみろ」



最初は、ケガしないようにって手加減もたぶんに含めつつ、峰打ちを狙っていた。

だけど、相手の左眼が輝いたかと思うとそれは回避されていた。

勿論当らないなら次、その次と連撃を繰り出す。

でも、それも顔色一つ変えずに全て回避されていく…。


攻撃が当てられない焦りがあたしを支配していき…。

いつしか、あたしは本気で相手に斬りかかっていた…。
933 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:24:36.23 ID:5hm0061t0
さやか「はぁ! やぁ! えいッ!」


カタシロ「いい加減、やる気を出したらどうだ…?」


さやか「言われなくてもッ!」



相手の回避には一切の無駄がなかった。


右に切れば左、左なら右、上なら下、下なら上。

フェイントは見向きもせず、浅く斬れば浅く、深く斬り込めば大きく避ける…。

まるでロボットのように最適な回避方法を取り続けている…。


この男は、魔法少女のあたしを完全に手玉に取っていた…。
934 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:26:04.79 ID:5hm0061t0
さやか(これ見られたら、スガタ師匠に怒られちゃうだろうなぁ…)



連撃が駄目なら…と、あたしは別の手を打つ。

技が通用しないなら力で押すしかない。

実際、魔法少女のあたしの力を活かすには力押しと言うのは悪い選択じゃない筈…。



敵と距離を置き、クラウチングスタートの構えを取る。

それの速度に任せて勝負を決めるつもりだった…。
935 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:26:53.82 ID:5hm0061t0
さやか「ウソ…!?」


カタシロ「話にならんな…」


人の目には捉えられない程の加速で繰り出した斬撃。

だけど、相手はその場にはいない…。

あたしの剣は虚しく空を裂き、周囲に風が走る…。



外れたショックは大きいけど、そのまま棒立ちをしていれば敵の攻撃が来る…。

反撃を恐れたあたしは頭を切り替え、地面を蹴って間合いを取る…。



跳んだ先で剣を構えなおすあたしの背後で、赤い眼光が鋭く輝く…。
936 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:28:18.23 ID:5hm0061t0
さやか「え!?」


カタシロ「言ってもわからんようなんでな…。

     そろそろ反撃をさせてもらおうか…!」


敵は間合いを離した筈のあたしの後ろに立っていた。

そして、言い終わると同時に人間業とは思えない重い一撃をあたしの背中に放つ…。

大きく飛ばされたあたしは地面を転がり、満足な受け身すら取れていない…。




さやか「げほっ…げほっ…」


魔法少女としてのあたしは体の丈夫さだけが取り柄だ。

普通だったら背骨がへし折れるような攻撃を耐え、さらにこうしてる間に回復もしている。


だけど、この戦いは根競べじゃない。

あたしもどうにかこの男に当てないといけないんだけど…。
937 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:29:21.49 ID:5hm0061t0
さやか(質が駄目なら量しかないかな…?)


我ながら単純思考だとは思う。

でも、小細工は悉く無効化されたんだから仕方ない…。

それにさっきも言った通り、魔法少女の圧倒的な能力を活かすにも単純な戦法ってのは悪く無い。



あたしは纏っているマントに魔力を込めて、それを靡かせる。

すると、マントの中からどう見ても収まり切らない量の剣が現れ、次々に地面に刺さった。
938 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:30:26.06 ID:5hm0061t0
さやか「悪いけど、これは手加減とかできないから…!」




さやか「手荒でごめんね!!!」


パイル・ソードの原型にもなった、無数の剣を作り出しての投擲。

作った剣を力任せに投げまくるだけの技なんで、勿論手加減なんて効く訳もない。


だけど、この男はこちらの攻撃を悉く回避している…。

手心を込めていたら、いつまで経っても攻撃が当てられないかもしれない…。


そう考えつつ、あたしは最初の一本目を手に取り、投げつけた。
939 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:31:23.55 ID:5hm0061t0
二本、三本、四本…と次々と刀剣を投げつける。

手近にある剣を右で左で取っては投げ、取っては投げる…。

刀剣の雨霰。


しかも、魔法少女のあたしの腕力で繰り出されたそれは、弾丸の速度にも引けを取らない…。





だけど、当らない。

男の左眼が赤く光ると、まるで男は何も無かったかのように次々と攻撃を回避し続ける。


いや、回避しているだけじゃない。

迫る刀剣を物ともせず、投げられた刀剣と刀剣の間を縫うようにこちらへ近づいてきて…。
940 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:32:26.90 ID:5hm0061t0
カタシロ「労力の無駄だ…」


さやか「!?」


後はさっきと同じ。

こちらの刀剣を完全に掻い潜って、自らの間合いに入った男は木刀を大振り…。

それはあたしの攻撃後の隙を的確に突いており、大振りにも関わらずまたもクリーンヒット。



内臓に穴が開くかのような重い一撃を受けたあたしは地面を転がり、しばらくのたまわった…。


そのあたしを無関心そうな目で淡々と見続ける男を睨みつけながら、あたしは再度立ち上がる…。

そして、とりあえず剣を作って構えながら考える…。
941 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:33:19.93 ID:5hm0061t0
強い…。

と言うより奇妙その物。


さすがに魔法少女のあたし程ではないようだけど、化け物染みた身体能力…。

そして、あたしより下の筈の身体能力なのに、この男は本当の魔法のように攻撃を徹底的に避けてくる。


魔法のよう…?





さやか「ようやく、わかった…」


カタシロ「…………」


さやか「アンタのその異常な力…。

    魔法による強化でしょ…?」


カタシロ「半分は正解、だな…」
942 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:34:24.66 ID:5hm0061t0
あたしは以前、マミさんに手持ちのバットを魔法で強化して貰った事がある。

そして、そもそもあたし達魔法少女の常人を超えた能力は魔力による強化の賜物…。


この二つを合わせれば、身体能力を強化する魔法も他者へかけられる…。

そう言う事になる。


ただ、この答えには同時に大きな疑問も発生する。




さやか「って事はアンタを差し向けたのは杏子って事になるよね…?

    アイツ一体何考えてるの…?」


カタシロ「………答えるつもりはない。そもそも、もう半分を見破れぬ限り、お前…」




さやか「アンタの第一フェーズ。効果は左眼で予知か読心術でも行うってトコ…?」
943 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:35:30.73 ID:5hm0061t0
カタシロ「ふ…。御名答だ。勢い任せなのかと思っていたが、存外頭も切れる…」


さやか「あんまり舐めないでよ…。あんだけピカピカ光ってれば子供にもわかるっての…」




カタシロ「ふ……。最も、わかった所でどうしようもあるまい」



その通りだ。

だけど、あたしはこんな所で何時までも足止めを食らってる訳にはいかない。


タクトさん達の安否。

そして、とうとうこんな男まで寄こしてくる杏子の意図…。


確認しなくちゃいけない事が山ほどあるんだ…。



策は無い。

だけど、負けない…。

あたしはいつものように気合だけでも強く入れ直し、相手に再び斬りかかった…。
944 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:36:33.83 ID:5hm0061t0
南十字島、とある砂浜。



より輝きとその力を増すスターソード。

それを受ける赤い木刀は傷やヒビが増し、傷だらけで痛々しいものになる。

左右でうまく受ける事で長引かせてはいるつもりだけど、そんなモノは苦肉の策に過ぎないだろう…。



タクト「逆恨みも良い所だな…!」


ヘッド「それは得た人間の言い分だ…!

     もっとも、ここでお前ごとそのシルシが消えれば、そんな事はもうもうどうでもよくなるがな…!」


ヘッド「汚点が消える瞬間…。それを目に焼き付けるのさ…!

    そうしさえすれば、得られなかった事も、それで苦しんだ日々も報われる…!」
945 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:37:42.58 ID:5hm0061t0
自分の感情だけを振り回すこの男。

駄々を捏ねる子供のような奴だけど、それでも…。


僕はこの男にずっと聞きたかった事をようやく切り出した…。

最悪の答えも覚悟しながら…。





タクト「母さんもか…?」


ヘッド「何…?」


タクト「母さんの存在もアンタにとっては汚点に過ぎないのか…?」



ヘッド「母さん…? あぁ、ソラの事か…。

    あいつは良い女だった……」
946 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:39:09.64 ID:5hm0061t0
ヘッド「彼女との日々は毎日が楽しかった。

    充実していた。満たされていた………」


タクト「親父…」




ヘッド「親父…? 違うな! 俺はお前を認めない!」


タクト「………ッ!」



ヘッド「何度も言う! お前は俺の汚点なんだよ!

    消えろ、ツナシ・タクトッ!!!!」


タクト「くっ…」



母さんは親父に捨てられた…。

でも、親父は母さんとの日々を楽しかったと言う…。


そうだ…。

親父が捨てたのは母さんじゃない…。






………僕だ。
947 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:40:07.31 ID:5hm0061t0
親父は僕を身籠った母さんを捨てた。

そして、それに耐えられなかった母さんも僕を拒んだ…。



僕は両親に捨てられた。

親にいらないと言われたんだ…。

今改めてそれがわかった…。



ひょっとしたら、何か事情がある…。

そんな淡い期待を…。

してなかったって言えば嘘になる…。



だけど…。
948 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:41:13.71 ID:5hm0061t0
それがどうした…?


親に捨てられた…?

そんな事言われなくたって、最初からわかってた筈だ…!


それよりも、僕なんかよりもっと苦しい筈の子がいただろう…?

あの子はどうした…?





さやか『あはは…。なんで…?

    おかしいな…、こんなつもりじゃ…



一頻泣いて…。





さやか『あはは。タクトさんっ』


でも、その後はずっと笑って…!




さやか『颯爽登場! 銀河美少年!! レシュバル!!!』


誰よりも強くあろうとして…。
949 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:45:08.37 ID:5hm0061t0
さやか『あたしはタクトさんに夢を叶えて貰いたい。その為に戦う…!』



あの子に負けて良いのか…?

僕の夢を叶えたいと言ってくれた、強く優しいあの子の笑顔に応えなくていいのか…?



あの子の好意に甘えるだけで良いのか…?

その好意に応える事ができないなら、せめてあの子の望む強い僕であり続けなくていいのか…?




ここで負けたら、僕の夢は叶わない…!

あの子の夢も…!



なら、僕は…!
950 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:46:03.18 ID:5hm0061t0
スターソードを受け続けた二本の赤い木刀。

しかし、それにもさすがに限界があるようで、あちこちが傷とヒビだらけになっている…。

たぶん、後数回受けたら砕け散るだろう…。


このままじゃ負ける…!

なら、イチかバチかだ…!




タクト「負けられないのさ…! アンタにも、誰にも!」


ヘッド「木刀を…!?」


赤い木刀を投げつける。

そして、同時に俺は相手に向かって突進する。
951 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:47:09.64 ID:5hm0061t0
ヘッド「俺がレシュバルに乗っていた時に使ったあの技か…!

    バカめ! 同じ技が何度も通用すると…!」


あの男は当然のようにスターソードでそれを弾く…。

だが、それと同時に、もう一本の木刀も引き抜くように投げつける。

一本目を弾いたばかりのあの男は、近寄りつつ放った二本目への反応が遅れる。



無茶な動きで強引に二本目を弾く。

そしてその弾かれた二本目が、僕が思う以上の偶然を起こす…。





ヘッド「ぐッ! 何ッ!」


ヒビだらけだった赤い木刀が粉々に砕けて弾ける。

あの男の眼前で飛び散ったそれは、大きく隙を作る…。




今なら、やれる…!
952 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:48:12.37 ID:5hm0061t0
タクト「うぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!」


ヘッド「!?」





タクト「こんのッ! 糞親父ィィィッ!!!!!」


ヘッド「うぐぁぁぁぁぁぁッ」


隙だらけになった顔面に思い切りパンチをぶち込む。

僕を…、母さんを捨てた糞親父へ絶対にやってやりたかった事。



その一撃が…。

その一撃で…、勝負を決めた。
953 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:49:12.89 ID:5hm0061t0
タクト「はぁ…、はぁ…、はぁ…」



ノびている親父を捨て置き、急いでその場を離れる。

アイツが目覚めて再び襲ってきたら、今度こそ僕は一方的にやられるだけだ…。




息が上がり、身を隠した闇の中で聞き覚えのある声が響く…。





????「さすがですね。ツナシ・タクト君…」


タクト「お前は…!?」


闇の中から現れたのは、何時か戦った綺羅星十字団の一員の仮面の少年…。

そして、コイツの正体も僕はわかっている…。
954 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)[sage]:2011/07/04(月) 23:49:26.25 ID:mA5izB5bo
殴られaa貼ろうかと思ったが、シュールになりそうなので止めた
955 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/07/04(月) 23:50:01.54 ID:5hm0061t0
バンカー「はい。お久しぶりですね…」


タクト「お前も…白々しい芝居を続ける気か…?」




バンカー「…………そんな怖い顔をしないでください。

      手は貸して差し上げたでしょう」


タクト「手…? まさかあの木刀は…」




バンカー「まぁ用意してくれたのは彼女ですけどね…」


タクト「彼女? ひょっとして杏子ちゃんの事か…?

    アンタ達は一体…」
956 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/07/04(月) 23:50:40.77 ID:5hm0061t0
綺羅星十字団にいた杏子ちゃん。

彼女が作ったんであろう木刀を届けに来たこの男。

そして、同じ綺羅星十字団の筈のあの男…。


やはり杏子ちゃんを中心にして、綺羅星十字団で何かが起きている…。





タクト「アンタは…、彼女は何を考えている…?」


バンカー「後で話します。

      が、今はとりあえずお休みください…!」


言った瞬間、目の前にいた筈の仮面の姿が消える。

そして、気付いた時には首筋に強い打撃が入って…。
957 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:51:51.79 ID:5hm0061t0
タクト「ぐっ…」



バンカー「さすがのあなたも、それだけ息が上がっていてはどうする事も出来なかったようですね…」


バンカー「しばしお休みを。

      あなたや美樹さやかは、無事に事を終える為の邪魔になりますので」



仮面の少年は倒した赤髪の少年をその場に寝かせると、闇の中へと消えていく…。



彼と彼女の行った『取引』。

その最終幕の秒読みがいよいよ始まる…。
958 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:53:07.16 ID:5hm0061t0
綺羅星十字団施設内、電気棺前。


特別の措置を施してある一基の電気棺が起動を始める…。

その出撃の許可は確認されていない…。


そして、その特別製の電気棺に入る事に意味のある人物、佐倉杏子は現在検査中の名目で姿を見せていない…。

この場に駆けつけた誰もが、この事態に最悪の想定をしていた…。




プロフェッサー・グリーン「プロフェッサー・シルバー! これはどう言う事です!?」


プロフェッサー・シルバー「…………」


スカーレットキス「あいつは検査中で面会謝絶…。そう言っていたのに何で、あんなモン動かして…」


レイジングブル「てめぇはふざけてんのか!!」


スピードキッド「アイツにあれ以上無茶させてまで、研究がしてェのか!」




頭取「それは後にしろ! 私は彼女が孤立しないよう電気棺に入って復元シーケンスに入る!

   誰か、その手伝いを…」


プロフェッサー・シルバー「無駄です…」


頭取「!?」
959 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:53:53.23 ID:5hm0061t0
灰髪の仮面のその言葉と同時に、佐倉杏子を乗せているであろう電気棺を除く、他の三基の電気棺が爆散する。

本来は『バニシングエージ』がクーデターの際に使う筈だった仕掛けがこんな状況で使用される…。


危険な単独出撃を援護する為の装置は目の前で煙を上げている…。

それならばと、プロフェッサー・グリーンは動いた一基の電気棺を止めようと試みるも…。




プロフェッサー・シルバー「それもやめた方が良いでしょう。

               オーバーフェーズの起動中に無理に電源を切れば彼女は確実に死にますよ…」


スカーレットキス「お前は一体何を考えてやがるッ!」


プロフェッサー・シルバー「それは、ゼロ時間で彼と彼女が語ってくれるでしょう…」


プロフェッサー・グリーン「彼と彼女…?」


セクレタリー「まさか…」



頭取(タカシ…。そして、あんこちゃん…。あの子達は一体何をしようと言うの…?)
960 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:54:47.18 ID:5hm0061t0
南十字島、とある砂浜。





ヘッド「あのガキ! 絶対に殺して…!」


????「落ち着いてください。ヘッド…」


目覚め、怒りに狂う青年。

そして、その彼の影が濃さを増す…。




ヘッド「バンカーか? 良い所に来た! ツナシ・タクトを探せ! 今すぐだ!」


バンカー「お断りします」
961 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:55:43.90 ID:5hm0061t0
ヘッド「何…?」


バンカー「不穏分子の報告を行わないと…」


ヘッド「それは後回しだとさっきも言っただろう!

    良いから、急いで…」



バンカー「ところが、そうもいかないんですよ」


ヘッド「……?」


バンカー「その不穏分子は、今僕の目の前にいるのですから…!」





ヘッド「お前、何を言って…!」


バンカー「時間です…」
962 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:56:34.59 ID:5hm0061t0
世界が凍りつく。

そして、青年の前で笑う少年と、その少年を睨みつける青年…。

その二人も見慣れた異世界へと飛ばされる…。



ゼロ時間。

そこにあるのは金属製の巨大な棺…。

パズルのように少しづつ、その数を減らし、中から現れたのは勿論…。





杏子「疾風怒濤…。オーバーフェーズ…、アインゴット…!」


ヘッド「佐倉…、杏子…!」
963 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:57:33.28 ID:5hm0061t0
先刻、彼の夢の邪魔をするかつての乗機を破壊した紅の巨人がそこにいる…。

そして、その目線は確かに青年自体に向けられている…。




杏子「よう…。ヘッド…。直接話すのは久々だなぁ…。

   釣れないじゃんかよ。おい…」


ヘッド「…………何の真似だ」



杏子「何…、お前の楽しい一人祭りも終わりの時間が来たって告げに来たんだよ…」


ヘッド「お前…!」



杏子「よくもまぁ人の事騙くらかして、好き勝手つかってくれたよね〜?」

   
ヘッド「…………」




杏子「覚悟は良いかい!?」
964 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:58:26.29 ID:5hm0061t0
真紅の姿の頭部と両肩に刻まれた紫色の眼が怪しく輝く…。

そして、その槍先は青年へと向けられる…。




ヘッド「バンカー!!!! これはどう言う事だ!?

    あの女はレシュバルを始末した後にお前が始末する手筈…」


バンカー「…………」


ヘッド「その代わりにお前をバニシングエージの新代表として…」





バンカー「あぁ…。それ自体はどっちにしろ、程なく叶うでしょう…」


ヘッド「何…?」




バンカー「簡単な事です…」


杏子「てめぇがここで終わりだからだよ! ヘッド!!!!!」
965 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/04(月) 23:59:54.44 ID:5hm0061t0
凍りついた筈の世界。

止まった世界で動く者はゼロ時間に送られる。

だから、その世界で動く者は普通はいない…。


だが、何事にも例外はあるのだろう。



南十字島にある山道。

そこで戦う少女と男はこの止まった世界に取り残されていた…。




さやか「どうなってんの…?

    時間が停止してるのに、ゼロ時間へ飛ばされない…?」


カタシロ「始まったか…」




さやか「始まった…?」


カタシロ「佐倉杏子の最期の戦い…。

      それがゼロ時間で始まったのさ…」
966 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/05(火) 00:00:55.72 ID:odCMitvJ0
眼の前にいる奇妙な男は聞き捨てのならない言葉を吐く。


杏子の最期。

コイツはそう言った…。




さやか「最期…? どう言う事…!?」


カタシロ「文字通りの意味だ。

      あいつは死ぬつもりで最期の戦いに挑んだ…」


さやか「死ぬ…つもり?」


カタシロ「アイツはここまでに色々な無茶を繰り返してきている。

      それもあってグリーフシードのストックも後僅か…」


さやか「は!? なんで、そんな…!?

    大人しくしてれば、まだ大分保つだけのグリーフシードがあったのに…」


カタシロ「綺羅星にいる不穏分子『ヘッド』。あいつを叩く為だ。

      そして、ここまでの無茶はその戦いに、お前を含めた他の者を巻き込まないようにする為に…」
967 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/05(火) 00:01:49.59 ID:odCMitvJ0
あたしを含めた…?


じゃあ、何…?

その『ヘッド』とか言うのと戦う時に、あたしがレシュバルに乗れないように壊したって言うの…?


あたしがその戦いに巻き込まれないようにする為に、あんな無茶やったって言うの…?


そんなの…。

そんなの…!




さやか「ふざけんなよ…!」


カタシロ「…………」


さやか「頼んでもいない事勝手にやって、自分はその敵と心中しますって…?

    ふざけんな…!」


カタシロ「…………」


さやか「そんなの…、認めない!

    そんなの…、あたしが許さない…!」
968 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/07/05(火) 00:02:28.27 ID:odCMitvJ0
カタシロ「どうするつもりだ…?」


さやか「アンタに構ってる暇はない…。

    レシュバルを呼ぶ…」


カタシロ「ほぅ……」



タウバーンや今のレシュバルは、綺羅星の他のサイバディと違って素体が常時異次元にある。

そして、あたしがアプリボワゼで呼び出した際にのみ、その次元を破ってゼロ時間に現れる…。


なら、その性質を利用してやればひょっとしたらゼロ時間へ辿り着けるかもしれない…。

そう思った…。

だけど…。





さやか「アプリボワゼェェェェェェェ!!!!」


あたしのシルシはいつものように強く光るも、レシュバル自体は現れない…。

二度、三度叫んでもやはり、何も起きない…。
969 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/05(火) 00:03:55.55 ID:odCMitvJ0
さやか「くそッ! なんで…! なんでこんな時に…!」


カタシロ「簡単な事だ…!」


さやか「何…?」



カタシロ「俺が今アプリボワゼしているサイバディもまた『レシュバル』。それが理由さ。

     俺達は今同じサイバディのシルシを同時に二人で持っている事になる…」


さやか「そんな、どうやって…」


カタシロ「俺はかつてのレシュバルのドライバーだ。

     そして先の戦闘で、佐倉杏子はレシュバルの左眼を回収しただろう…?」


カタシロ「それらのデータと電気棺の技術を応用して、擬似的なシルシを作ったのさ」
970 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/05(火) 00:04:44.27 ID:odCMitvJ0
じゃあ…。

あの時…。

レシュバルの左眼を奪い取ったのは…。





杏子『………悪いな!』


さやか『ぐうッ!!!』


あれはあたしに対する追い打ちじゃなくて…。

あたしの為だったって言うの…?


あいつは最初から…。

あたしを守る為に…?
971 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/05(火) 00:05:41.65 ID:odCMitvJ0
カタシロ「そうして擬似的とは言え、レシュバルのドライバーが二人になった。

      そして、二人居るドライバーの一人がゼロ時間への招集を拒否。さらにレシュバルの召喚も拒絶した。

      だから、うまくいかない。お前が望んでいる事は…」


さやか「そんな馬鹿な話が…」




カタシロ「これが証拠だ…」


そんな馬鹿な事が…。

そう思った。


だけど、男の左眼がさっきまでとは違う、形を伴った青白い光を放つ…。

そして、その輝きの形状はあたしが胸に持つ『レシュのシルシ』の形状と全く同じモノだった…。
972 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/05(火) 00:06:59.66 ID:odCMitvJ0
ゼロ時間。


紅の巨人は、事態に驚く青年に向けて、獲物である槍を繰り出す。

だが、青年はそれを大きく跳躍してかわすと、その胸のシルシを輝かせる。




ヘッド「アプリボワゼ…!」


ヘッド「来い! シンパシー!!!!」


青年は持っている筈のないシルシを輝かせ、そして銀色に輝く怪しげなサイバディを呼び出し、それに乗り込む…。



綺羅星十字団登録No.16。

通称『シンパシー』。

誰も抵抗できない最凶の力を持つサイバディがそこに立っていた…。
973 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[sage]:2011/07/05(火) 00:07:12.81 ID:VAHAvY94o
何と、カタシロさんがシルシを取り戻したのはそういうことであったか
しかしバンカー、わっるい面してんだろうなw
974 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/05(火) 00:08:35.32 ID:odCMitvJ0
ヘッド「こんな真似をして、ただで済むとは思っていないだろうな!?

    バンカー! デス・クリムゾン!!」


データの上ではわかっていた。

だが、それに深く追求する事を巧妙に隠されてきた『No.16』。


シンパシーと呼ばれたその存在は、二人の少年少女に引きずり出され、ついに表舞台へと姿を現す…。

だが、その正体を知らぬ観戦者達は事態を飲み込めず、困惑を続ける…。





スガタ「あれは…?」


ケイト「………No16?」


スガタ「なんだ、それは…」


ケイト「長い間使用されずにいたサイバディと言う事しか…」





ワコ「タクト君!?」


タクト「…………」


ワコ(気絶してるだけ…。でも誰が…)


ワコ(それに何なの…? これは……)
975 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/05(火) 00:09:34.07 ID:odCMitvJ0
スピードキッド「サイバディの無断所持…。確かに綺羅星規約に触れる違反行為だけどよ…」


レイジングブル「なんで、俺達に相談しねぇんだよ…!」



セクレタリー「相談できなかったんでしょう…」


スピードキッド「え…?」



セクレタリー「アレが危険すぎるから…。

        だから、きっと一人でやり遂げなきゃって…」


レイジングブル「だったら、尚更…」





セクレタリー「あの子はそう言う子だから…」



セクレタリー(それでも…、こんなの…)
976 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/05(火) 00:11:31.62 ID:odCMitvJ0
プロフェッサー・グリーン「あれは…? 現在はドライバーのコンディション不良で調査も中断していた筈の機体だが…」


スカーレットキス「そんなモンを何故アイツが持ってるんだよ…!」


頭取「まさか、これがあなたたちの…」





杏子「そうだ。アレこそが綺羅星の…。

   そしてこの世界を滅ぼす危険性のある『絶望』…!」


バンカー「そして、佐倉杏子…。

      彼女だけが、アレに対抗できるただ一人の存在です…」



銀色に輝く最凶のサイバディ。

そして、それに一人対峙する紅の巨人…。


ゼロ時間に立つ絶望…。

そして、それを倒す為に命を捨てる覚悟をした希望…。



少女の望んだ戦いの火蓋は切って落とされる。

自分が勝っても、悲劇は避けられぬ定めと知っていながら…。
977 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/05(火) 00:17:58.33 ID:odCMitvJ0
っし。
今日はここまで。
正しくはこのスレはここまで


続きをこのスレに乗せると非常に中途半端な事になりそうだから、

こっちのスレは明日、埋め用に作った15レス程度の番外編で埋め立てします。



>>954
貼られる覚悟はあった
てかここにいるよね>>313

>>973
超展開だけど、さやかVSカタシロは絶対やりたかったんで、ちょっと無茶をしました
見せ場作る為に無茶するのはこのSSの作者の悪癖



それでは、本日は閉会とする。

佐倉杏子に栄光を…!
美樹さやかに祝福を…!

綺羅星☆




――最終章リンク先――

さやか「あたしたちのアプリボワゼ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1309792335/
978 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[sage]:2011/07/05(火) 00:21:01.80 ID:VAHAvY94o
綺羅星☆
ヘッドって欲しがりな子どもだよね
サカナちゃんやソラに愛されていたのにそれ以上何が欲しかったというのだ

杏子は引き続きアインゴッドでシンパシーと対決か
そしてバンカーェ……
ツァディクトという立派なサイバディがあるのに貴様と来たら……
979 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/05(火) 00:21:43.34 ID:inM0cPhxo
綺羅星☆

気がついたら片方未見なのにここまで追っかけてた。
980 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/05(火) 00:23:55.29 ID:rT8NhcYco
>>977
乙星☆!!
そのままリベンジまで小休止かと思ったらそのまま第2ラウンドだと!?
さやかに「そんなの〜」って言わせるとは素晴らしい!!
981 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/05(火) 01:17:29.24 ID:YqUAwhlBo
綺羅星☆
バンカーの活躍っぷりがヤバイw

そして、とりあえずヘッドざまぁwと言っておこう
982 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)[sage]:2011/07/05(火) 04:46:17.68 ID:I86txQmAO
綺羅星☆!!
一旦日常編をやってからと思いきや怒涛の展開ラッシュ
本編の最終回を思い起こす展開だわ
983 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/05(火) 22:37:08.64 ID:odCMitvJ0
こっちでも綺羅星☆


予告通り、こっちは短編の番外編入れて埋めます。

本編は、上にある最終章リンク先からどぞう。



地の文&心理描写が少ないのは、所詮は即興詩に過ぎないから。

本当はもっと細かく書きたかったし、削った部分もあったりはする。


考えてたよりもスレが埋まってるんでいらないかな〜とも思ったんだけど、作ったモノはやっぱり投下しておきたいし…。

>>978
綺羅星☆
ヘッドさんはね…
まぁシルシ継げなかったってのは根柢にあると思う

このSSのバンカーさんは調子乗ってカッコつけてるけど根っこは一緒です
チキン野郎だから、結局は人任せ

>>979
綺羅星☆
何にしても楽しんでくれるのは嬉しいです

>>980
乙星感謝
そろそろスパート駆けてみたくなりました
反省はしていない

>>981
綺羅星☆
今のバンカーさんの顔は間違いなくクーデター時のドヤ顔かと

>>982
綺羅星☆
杏子の事情が事情だから日常がもうできないってのもある
希望あれば番外編はまた書いてみようかと思ってます…


では、ぼちぼちこのスレ最後の投下を開始します。
984 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/05(火) 22:38:46.53 ID:odCMitvJ0
杏子「綺羅星十字団…?」番外編


――欠陥品の『これから』――







私は欠陥品だ。


自分を卑下して言ってるんじゃない。

だけど、事実なんだから仕方がない。





バンカー「秘剣!紙吹雪…!」


セクレタリー「くぅっ…」



プロフェッサー・シルバー「やはり見た目通りです。あの娘ではダレトスの力を活かしきれない…。

               正直な話、もう良いのでは…?」


頭取「何のことだ…?」


プロフェッサー・シルバー「私はサイバディおよびドライバーのデータ管理の一任者ですから、隠されてもわかります。

               あなたが他の候補を落として彼女を任命した時は驚きましたが…。

               直前に彼女に起きた事と、彼女の発現第一フェーズの内容を考えればすぐにわかりました…」


頭取「そのデータは他言無用の筈だ。伏せてもらおうか…」


プロフェッサー・シルバー「失礼。ですが、私は資金提供をしてくださる『おとな銀行』の為を思って提言した事を…」


頭取「わかっている。だが、これでいい…」
985 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/05(火) 22:40:47.60 ID:odCMitvJ0
シュミレータに入っていたから、二人の会話はよく聞こえない。

だけど、その内容はすぐに分かった。


簡単だ。

不適格者は貴重なサイバディから降りろ…と言う内容だろう。




私はサイバディ『ダレトス』のドライバーに選抜された。

自分の上にはあと三人ほど候補がいて、勿論その人達の方が適合率は高かった。



だけど、私が選ばれた。

周囲の人間はすぐに言った。


あの女は頭取の付き人だから、ゴマを擂ったのだ…と。

半分は事実だし、どうでも言い事だから気にも留めなかった。


私は力が欲しかった。

だから、都合が良いとさえ思った。


だけど、私はサイバディ『ダレトス』の力を引き出せなかった。
986 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/05(火) 22:42:31.56 ID:odCMitvJ0
正直私は力が弱い。

女なのだから仕方がないと思うかもしれないけど、奥様やスカーレットキスはそれぞれ得意の戦闘術があり、

それはサイバディの戦闘にも活かされている。


だけど、私にはそれがない。

だから、『ダレトス』も力を出せない。

どころか、反映すべき力を持たない『ダレトス』は不完全な外見になってしまっている…。



これが自分を欠陥品と言った所以だ。




使いこなすべきモノを使いこなせないから欠陥品。


指の動かないバイオリニストがいるだろうか?

刃の無い剣があるだろうか?

動かない車のエンジンに価値があるだろうか…?



それと同じだ。

サイバディを使いこなせないドライバーは欠陥品だ。
987 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/05(火) 22:43:49.18 ID:odCMitvJ0
当初は考えもしなかった。

サイバディなんてあの女に復讐する為の道具に過ぎない。

そう思っていたから…。

だけど、今は…。




タカシ『もう剣の稽古はやめよう。シモーヌ。

    君を怪我させたら、僕が奥様に叱られてしまう…』


シモーヌ『だけど、私も少しは力をつけないと…。

      ドライバーである以上、少しはサイバディの力を引き出さないと…』


タカシ『正直、君は運動音痴だ。向いていないよ』


シモーヌ『でも……』



タカシ『シモーヌ。この世界は0か1なんだ』


シモーヌ『…?』


タカシ『0.1、0.2、いっそ0.9なんて物にも価値はない』


シモーヌ『なんなのそれ…?』
988 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/05(火) 22:45:26.51 ID:odCMitvJ0
タカシ『「頑張る」や「頑張った」、ひいては「善戦した」、「惜しかった」に意味はないって事さ』


タカシ『勝ち残った者、勝者の側にいた者だけに意味があるんだ。

    だから何をしようが勝ちという1に到達できなければ0。

    1に辿り着く見込みがなければ、中途半端な努力や意気込なんて無意味なんだよ』


シモーヌ『私はドライバーとして向いていないから諦めろって事…?』


タカシ『向いていると思う…?』


シモーヌ『………』




タカシ『そういう事。だけど気にしなくていい。

    自分が1になれないなら、1になれる誰かの傍にいればいいんだ』


シモーヌ『それって奥様の事…?』


タカシ『そうだね。それに、綺羅星十字団自体もそれにあたる』


タカシ『結局、弱い人間はどこまで行っても弱い。

    だから、僕や君のような弱い人間は強者の側につくか、その強者を一工夫して出し抜くしかないんだよ…』



本当にそうなんだろうか…?

欠陥品が、その欠陥を除いて完成品になる事はできないんだろうか…?


そんな事を考えて道を歩いていた時だった。
989 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/05(火) 22:46:35.67 ID:odCMitvJ0
杏子「おっ、シモーヌじゃねぇか」


シモーヌ「あんこさん…」


杏子「あんこじゃねぇ! アタシは杏子だ! きょ・う・こ!」


シモーヌ「それは置いといて、こんな所で何を…?」


杏子「しれっと置きやがった…。

   まぁ、いいや。アレを見てたんだよ」



彼女の視線の先にあるのは、遊園地の観覧車、そしてジェットコースターのレール…。

オープンして間もない『らいおんランド』の方角だ。




シモーヌ「行きたいんですか…? やっぱり可愛い」


杏子「可愛くねーし!

   いや、違うんだよ…」


シモーヌ「……?」


杏子「ウチはあんまり裕福じゃなかったからさ…。

   一度親父にせがんだんだけど、結局行けず終いだったよ…。

   何時かみんなで行こうねって約束したんだけどな…」
990 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/05(火) 22:47:30.98 ID:odCMitvJ0
シモーヌ「………行ってみますか?」


杏子「あ? いいよ。金無いし、これ以上お前らに迷惑…」


シモーヌ「お金も迷惑も要りませんよ。アレはグラントメール関係の施設ですから。

     私が手配すればVIP待遇はちょっと難しいですが、フリーパスくらいならすぐに用意できます」



杏子「グラントメールってカナコの会社か…。あいつ本当に何者なんだよ…」


シモーヌ「グラントメール財閥総帥レオン・ワタナベの妻にして、齢16にして財政会の一端を担うその筋の超重要人物…。

     同時にその正体は綺羅星十字団第四隊『おとな銀行』頭取でもあり、ボクシングを始め様々な分野…」


杏子「だーーーー! 詳細なスペックを聞きたいんじゃねぇ!」




シモーヌ「行く気になりました?」


杏子「………お前には敵わねぇよ、ホント」
991 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/05(火) 22:48:34.88 ID:odCMitvJ0
『らいおんランド』入場ゲート。


手配したフリーパスを受け取りつつ、その中へ。

あんこさんの表情はいつもより柔らかい。

家族の時の話をした寂しそうな表情が薄れたなら、それだけでも連れて来た甲斐があると言うものだ。




杏子「まったく…。お前もカナコも強引だよな…」


シモーヌ「そう言う割に妙にお顔が緩んでますよ。あんこさん」


杏子「緩んでねーし、あんこでもねーし」



シモーヌ「奥様に頼めば、貸切とかもできたかもしれませんが…」


杏子「いいよ。人のいない遊園地なんて逆に不気味だし」



シモーヌ「私はオープン前も視察に付き合ったりしてたので何とも言えませんが…。

     まぁ普段の遊園地の印象とは変わってしまうでしょうね」


杏子「こう言うのは雰囲気も楽しんでこそ…だろ?」


シモーヌ「そうですね。行きましょう」
992 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/05(火) 22:49:29.98 ID:odCMitvJ0
『らいおんランド』お化け屋敷内。


「ワァァァァァァァァァ」

「ヒーヒッヒッヒッヒッ」

「ノロイコロシテヤル〜!」



杏子「こいつら殴っても良いのか?」


シモーヌ「駄目です。そう言うアトラクションではありません」


杏子「お化け屋敷ね…。魔女の中にはこいつらの万倍ヤバイのや気持ち悪いのが居たから、免疫できたら…」



シモーヌ「残念です。泣き叫びながら私に抱きついてくるあんこさんを楽しみにしていたのですが…」


杏子「お前の頭の中でアタシは、どう言うキャラ設定なんだ…?」
993 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/07/05(火) 22:51:02.53 ID:odCMitvJ0
『らいおんランド』ジェットコースター。


「ゴォォォォォォォ」



杏子「こりゃあ、楽しいな。すげー勢いでビュンビュン駆けまわってさ…」


シモーヌ「これも違う。泣き叫んで絶叫するあんこさんの…」




杏子「オイ!」


シモーヌ「はい?」



杏子「もう一度聞くが、お前の頭の中でアタシは、どう言うキャラ設定なんだ…?」


シモーヌ「ツンデレヘタレキャラ…?」


杏子「………」




シモーヌ「う〜ん。他に泣き顔あんこさんが見れそうなアトラクションは…」


杏子「それはもう良い…」
994 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/05(火) 22:51:55.46 ID:odCMitvJ0
『らいおんランド』内レストラン。


シモーヌ「どうしました?」


杏子「………」


シモーヌ「食べないんですか?」


杏子「………」




シモーヌ「食べ物は粗末にしないと言った割に、苦手なモノがあったんでしょうか…?」


杏子「いいや、無い…」


シモーヌ「では、何故…?」


杏子「箸無いか…?」




シモーヌ「これ、パスタですよ…?」


杏子「日本人は箸でパスタ食うんだよ」


シモーヌ「………初めて聞きましたが」
995 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/05(火) 22:52:54.05 ID:odCMitvJ0
昼食を終えた私達は、彼女のお目当てのゴーカートへ向かって歩く。


途中、人通りが少なめの道で見つけた青いシートを被ったままの
アトラクションに彼女は興味を示した。




杏子「アレはなんだ…?」


シモーヌ「欠陥品です」


杏子「壊れてるのか…? いつ直るんだ…?」


シモーヌ「欠陥が重大過ぎて取り壊しが決まってるんです…」


杏子「なんか寂しい話だな…」




シモーヌ「そうでしょうか…?」


杏子「何…?」


シモーヌ「機能しないモノが取り壊されたり、新しいモノに交換されたりするのは仕方のない事です…」



杏子「お前まさか、なんか妙な事考えて…」


シモーヌ「前にも言いました。私はそこまで悲観的じゃない。

     でも、宝の持ち腐れをして平然としていられる程楽観的でもない…」




シモーヌ「はっきり言います。ダレトスを使いませんか…?」
996 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/05(火) 22:53:48.77 ID:odCMitvJ0
杏子「ダレトスってお前のサイバディだろ…?」


シモーヌ「はい。壊れている状態なので復元シーケンスが必要ですし、私一人の一存じゃ決めれませんが…」


杏子「んな事は良い。それよりなんでだよ」


シモーヌ「私はスタードライバーとしては欠陥品なんです。

     あ、誤解しないでください。自分自身がどうこうという事で無く、あくまでドライバーとしての話です」


杏子「………」


シモーヌ「私はダレトスを使いこなせていない。

     どころか、弱い私がドライバーのせいでダレトスは形状や形態にまで悪影響が出てしまっている…」


シモーヌ「サイバディに心がある、とまでは思っていません。

     だけど、このままじゃダレトスはあのアトラクションと同じに…」


杏子「だから、部品交換か…?」


シモーヌ「はい」
997 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/05(火) 22:54:41.80 ID:odCMitvJ0
杏子「ふ………アハハハハハハハハハハハ!!!!」


シモーヌ「な、何がおかしいんですか…!?」


杏子「ハハハ………ふぅ。

   シモーヌ。ダレトスにはお前以外あり得ないよ」


シモーヌ「なんで…? 私がドライバーである限りダレトスは…」


杏子「じゃあ、何か?

   お前はカナコが完璧な奴だから仕えてるのか? アタシとつるむのは完璧な奴に見えたからか?

   病気や怪我でもして、アタシやカナコが弱ったらそこで見捨てるのか…?」


シモーヌ「それとこれとは…」


杏子「同じだよ」


シモーヌ「………」
998 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/05(火) 22:55:51.10 ID:odCMitvJ0
杏子「進んできゃ良いじゃんか。ダレトスと二人でさ。

   カナコに降りろって言われてる訳でもあるまいし…」


シモーヌ「けど…」


杏子「そんだけ相手の事考えられるなら、ダレトスにはもうお前しかいないよ」


シモーヌ「………」



杏子「お前は前を見て進んでる。進んでいける奴だ。

   サイバディにも、カナコにも、他の何かにも追い縋ってるだけじゃない…。

   だから、いつか…」


シモーヌ「いつか…?」






杏子「報われる日が来るよ…」



チャームポイントの八重歯を覗かせて、彼女は満面の笑みでそう言った。
999 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/05(火) 22:58:56.59 ID:odCMitvJ0
報われる…。

そう信じて私なりに努力してみよう。



また何かに足を取られるかもしれないけど…。

また何か間違えるかもしれないけど…。


そうやって、作り出していこう。

自分自身を…。

スタードライバーとしての私自身を…。




ダレトスと作り出せる『これから』を信じて…。
1000 : ◆.2t9RlrHa2[saga]:2011/07/05(火) 22:59:51.70 ID:odCMitvJ0
っし。
今日はここまで。


ここはもういっぱいなんで、万一番外編の感想等あったら次スレの方に落としてくれると嬉しいです。



今回みたいに時系列無視になるかもだけど…。

こう言うショートシナリオみたいなのは、またやってみたい気もする。


それでは、本日は閉会とする。

このスレを見てくれた者に栄光を…!
レスをくれた者達に祝福を…!

綺羅星☆
1001 :1001Over 1000 Thread
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石原「学園都市・・・? 都条例で規制だ」 @ 2011/07/05(火) 20:59:34.79
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名前欄のさ @ 2011/07/05(火) 20:08:48.74
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本当の私 @ 2011/07/05(火) 20:04:30.22 ID:b8UCiR6Bo
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現実で出来るポケモンの技って何かある? @ 2011/07/05(火) 19:13:34.52 ID:65CN1F1m0
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