無料アクセスカウンターofuda.cc「全世界カウント計画」
■掲示板に戻る■ ■過去ログ倉庫メニュー■ ■VIPService (VIPサービス)■
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。もう書き込みはできません。。。
HTML化した人:lain.
ほむら「ガングリフォン?」
1 :[sage]:2011/06/15(水) 22:19:46.11 ID:DsyMhTCS0
●セガサターンにて発売された名作「ガングリフォン」の舞台に
魔法少女が降り立ったら?そんなSSです。
ガングリフォンはシリーズ化されていますが、
このSSは初代ガングリフォンを舞台としています。

●ガングリフォンって?それは1を始めとして、リアルな世界設定と
兵器の登場に、数多の軍オタを喜ばせた(と思う)至高のロボゲーです。
良かったらググって見て下さい。ネタバレになるかもですが。

●なるべく知らない方でも理解できるよう、作中にまどかの設定・
ガングリフォンの設定を描写するよう心がけております。
分からないところがありましたら、どうぞご指摘ください。

●このゲームの性質上、ひたすら戦闘描写が続くものとなりそうです。
出来の悪い戦争小説のようなものだとは思いますが、
そんなジャンルに興味のある方は是非ご覧下さいまし。
2 :[sage]:2011/06/15(水) 22:20:19.47 ID:DsyMhTCS0
 体に揺れを感じた私は、目を覚ました。

 私は揺れ動く軍用の格納庫のような場所で、壁に備え付けられた椅子に
腰をかけたまま眠っていたようだ。

 その不思議な格納庫には、戦車でも戦闘機でもなく、3体の大きな
ロボットがハンガーに固定されているのが見える。
大きな戦車砲のようなものをその手に持ったロボットは、
私にはとても物騒なものだと思えた。

「やあ、暁美ほむら。目を覚ましたかい?」

「インキュベーター・・・これは一体どういう事なの」

「僕に聞かれても困るな。僕にもよく分かっていないんだ。ただ・・・」

「ただ?」

「この世界は、君達が元々いた世界とは違うようだ。
パラレルワールドのようなものと考えてもいいだろう」

「・・・・・・?」

「事態が飲み込めないようだね。無理もない、さっきまでの僕も
同じだったのだから。でも、この世界にも”僕”は存在していたようだ。
ついさっき、もう一人の”僕”が持っていた記憶が、
僕の中に浮かび上がってきたんだよ」

「どういう事・・・?」

「今にきっと分かるさ」



 突然の頭痛。

 私の頭の中に沢山の情報が流し込まれる。

 それは、それまで私の持っていた記憶を上書きするように、
頭の中に注がれ続けていた。

 そうだ、私は・・・
3 :[sage]:2011/06/15(水) 22:20:51.75 ID:DsyMhTCS0

4 :[sage]:2011/06/15(水) 22:21:17.97 ID:DsyMhTCS0
 − 異常気象 −

 ー 食料危機 −

 ー エネルギー危機 −

 21世紀初頭。

 世界は、凡ヨーロッパ連合(PEU) アメリカ自由貿易地域(AFTA)

 アジア太平洋共同体(APC) アフリカ統一機構(OAU)の四極に分裂していた。
 
 政治経済の対立。
 そして、世界各地に頻発する局地紛争。

 豊かな緑の大地は、今はもうない。
5 :[sage]:2011/06/15(水) 22:21:51.14 ID:DsyMhTCS0

6 :[sage]:2011/06/15(水) 22:22:17.58 ID:DsyMhTCS0
−−− 暁美ほむらの手記より −−−

 2015年2月。

 PEUからの援助を受けて増強されたPEU・リビア連合軍。
彼らの存在に危機感を覚えたAPCとエジプトはAPC・エジプト連合軍を結成、
彼らに対し宣戦布告なしの奇襲攻撃を仕掛けた。

 これが、後に第三次世界大戦と呼ばれる戦争の発端である。

 そうして北アフリカで始まったAPCとPEUの戦いは、
この3月になって新たな戦局を迎えていた。

 食料危機解決のため、ロシアが穀倉地帯であるウクライナの
再併合に踏み切ったのである。

 ウクライナからの援助要求もあり。APCは
中国・日本の緊急展開部隊をハリコフに送る事を決定。

 それまで北アフリカ戦線に投入されていた私達、
第501機動対戦車中隊も、兵力を補充した後に
第1空中機動師団に編入され、
新設された第102機甲師団と共にハリコフに投入された。


※ PEU=凡ヨーロッパ連合 APC=アジア太平洋共同体
7 :[sage]:2011/06/15(水) 22:22:43.39 ID:DsyMhTCS0
ーーー ハリコフ 2015 3/26 11:30 −−−

 荒野に上がる8つの土煙。

 APC・日本外人部隊の90式戦車・改で編成されたその機甲部隊は、
敵を求めてハリコフの地上を走っていた。

 彼らのキャタピラが、干ばつのために白骨化した牛を踏み潰す。
その情景が、今のこの世界が置かれた状況を端的に物語っていた。

 土の丘に彼らが辿りついた時に、彼らの足元の土が砲撃によって
掘り起こされる。

 その砲撃を行ったのは、反対側に見えていたPEU・ドイツ軍機甲部隊の
レオパルド3戦車であった。

 隊列を組み、前進しながら反撃を行う90式戦車。

 彼らの攻撃は相対している敵に当たってはいたものの、
レオパルド3の複合装甲を貫通するほどの攻撃翌力を持ち合わせていなかった。

 余裕の表情を見せるかのように、砲撃を受けてなお無傷に見える
レオパルド3が、ゆっくりとその標的に砲塔を向ける。

 そして始まる砲撃。



 90式戦車は、相対している敵とは真逆に彼らからの攻撃に耐える事が出来なかった。

 一両、また一両と砲塔を吹き飛ばしながら爆発を起こす90式戦車。

 哀れに逃げ惑う彼らに、慈悲は与えられなかった。
8 :[sage]:2011/06/15(水) 22:23:10.58 ID:DsyMhTCS0
 敵を全て排除し終えたドイツ軍機甲部隊。

 そのうち2両の戦車だけがこの場に残され、搭乗員達は
煙草をふかしながら周囲をその手に持った双眼鏡で警戒していた。

「90式はブリキ缶だぜ」

「だが、シベリアじゃ新型が投入されたらしい」

「新型?」

「どうせ、大した代物じゃないさ」

 敵の機甲戦力に対して自分達の方が戦闘力が高い。
これまでの戦闘の経験から、彼らはそう慢心していたのであろう。

 そんな彼らは、自分達の上方から迫り来る存在に気づいていなかった。
9 :[sage]:2011/06/15(水) 22:23:39.00 ID:DsyMhTCS0
ーーー ハリコフ 2015 3/26 12:00 −−−

 上空にいるC-130輸送機から飛び降りた俺の愛機は、
物凄い加速をつけながら地上へと迫っていた。

 ヘルメットに内臓されているHMDには、敵の存在を知らせる
マーカーが二つ眼前に並んでいる。

 その戦車の装甲が非常に硬い事を俺は知っていたが、ほとんどの
地上兵器は上面の装甲だけは薄い。それは目の前に迫るレオパルド3も
例外ではないという事も、俺は知っていた。

 右手に握る射撃翌用のスティックを動かし、照準を目標に捉える。

 そして、俺はトリガースイッチを押し込んだ。

 俺の愛機に搭載されている120mm滑空砲が発射された事を、
目視でも確認出来る砲弾と、機体に伝わる振動が教えてくれる。

 その砲弾が突き刺さった戦車は、瞬く間に爆発を起こす。
共に上空から飛び降りていた俺の寮機が、もう片方の戦車に対し
同じ事をしていたため、俺達の降下予定地点からは脅威が取り除かれた。

 地面が迫るにつれ、俺の乗る12式装甲戦闘歩行車のコンピュータが
高度警告を発し、自動的に自身の姿勢を、搭載しているガスタービンエンジン
によって制御してゆく。

 敵に滑空砲を向けるために頭から降下していた俺の愛機は、
ゆっくりと足を地上に向け、そしてこの荒れた荒野に着地する事が出来た。

「こちらトパーズリーダー。各機状況を知らせろ」

「トパーズ2、クリアー」

「トパーズ3、クリアー」

「トパーズ4、クリアー」

 俺を含めて3機の機甲兵器と、1人の魔法少女が
地上に無事降り立っていた事を、この返信から俺は確認する。

「トパーズ2、3は俺に付いてこい。行動計画通り、敵機甲部隊を叩く。
トパーズ4は自由行動。敵歩兵と歩兵戦闘車を狙って欲しい。
ただし、なるべく離れないようにしてくれ」

「「了解」」

 そして、俺達は作戦行動を始めた。
10 :[sage]:2011/06/15(水) 22:24:09.57 ID:DsyMhTCS0
ーーー ハリコフ 2015 3/26 12:05 −−−

 その命令を無線から知らされた私は、荒野を駆け出す。

 常人のそれより魔法で強化されている私の肉体は、
平坦な荒野をローラーダッシュにより時速60km前後で疾走する
トパーズ隊の12式装甲戦闘歩行車、
”HIGH-MACS”にも追従する事が出来ていた。

 やがて、前方に土煙が見え出す。

 近づいていくうちにその土煙を生む姿は大きくなり、
敵戦車4両と歩行戦車2両が接近している事を私は
理解する事が出来た。

 敵もこちらへ近づいてきてはいるが、トパーズ隊は
彼らとの戦闘で負ける事はないだろう、と安心していた。

 戦車は平地ではトパーズ隊にとって厄介な存在ではあるが、
トパーズ隊の”HIGH-MACS”は”第二世代”の歩行戦車であるため、
三次元機動が行える事を私は知っていたからだ。

 また、戦車と共にいる歩行戦車も、今となっては型落ちとなっている
”第一世代”のもの。元々は不整地に機甲戦力を持ち込むために
生み出されたそれは、平坦な土地ではアドバンテージを生かせず、
鈍重な大きい砲台でしかない事も私は知っていた。

 ”HIGH-MACS”はバーナーに火を付け、空へと浮かび上がる。
そして、先ほど彼らが空中からの攻撃を敵にお見舞いしたように、
眼前に迫る敵を再び空中から狙い撃ちにしていた。

 私もそれに合わせて、右腕に持っている盾の中に魔法で収納
しておいた対戦車ロケットを取り出し、彼らが撃ち漏らした戦車に
照準を合わせる。

 ロケットは炎の弧を描きながら、レオパルド3のキャタピラへ向けて
突進して行った。その爆発を受けて、戦車は動きを止める。

 眼前に居た敵達は、もはや鉄くずとなって黒煙をあげていた。

 そして私達はそのまま、次の獲物を求めて前進を続けた。
11 :[sage]:2011/06/15(水) 22:24:37.44 ID:DsyMhTCS0
「トパーズ4より各機、戦闘ヘリが来ているわ」

「見えている、大丈夫だ」

 そう警告したのは、自分自身のためでもあった。

 一応は、盾の中に携帯型地対空ミサイルも持っていた。
しかしそれを使うには、敵機のロックオンのために足を止める
必要がある。

 いくら魔法で強化された肉体とはいえ、戦車の砲撃などを
食らってしまえば、私の体など吹き飛んでしまうだろう。

 だから、なるべく空の敵の処理は彼らに頼りたかった。

 もう地面に着地してしまっていた彼らではあったが、
”HIGH-MACS”の右手に持つ120mm滑空砲に取り付けられた
30mmガトリング砲が、地上から空に向けて放たれていた。

 ある程度のコンピュータ補正があるとはいえ、ほとんど
目視照準に近い状態で撃たれる機銃は、敵の戦闘ヘリに
なかなか命中しない。敵味方ともに電子妨害をかけあっている
戦場では、射撃コンピュータの補正など役には立たなかったのだ。

 逆にヘリから放たれるロケット弾。これもまた、”HIGH-MACS”達に
命中する事はなかった。高速移動する兵器同士、お互いに
有効打を得る事が出来ずに、耳障りな射撃音と爆発音を発しながら
時間だけが経過してゆく。

 長い撃ち合いの末、ついに”HIGH-MACS”の機銃弾が
ヘリを捉える。ヘリはローターではなく、機体自体をくるくると
回転させながら、地上に落ちて火の玉を作り出した。

 続けて向かってくる歩兵戦闘車、マルダー2を私は発見する。

「こちらトパーズ4、西から歩兵戦闘車。
迎撃に向かう」

「トパーズリーダー、了解。なるべく、こまめな連絡を」

「分かっているわ」

 そうして私達は散開した。
12 :[sage]:2011/06/15(水) 22:25:07.41 ID:DsyMhTCS0
ーーー ハリコフ 2015 3/26 12:20 −−−

 三機一組になった俺達は、レーダーの反応を見ながら
前進を続ける。前方の丘の向こう側に小規模な敵部隊が
居る反応を得られていたため、そこへ向けて進んでいた。

 丘の手前で一旦停止し、俺達は打ち合わせをする。

「向こう側だ。レーダー反応は4機。空中から一気に叩くぞ」

「「了解」」

「トパーズリーダーより各機、攻撃翌用意!」

 スロットルをバーナー位置まで押し込む。

 そして空に上がった俺達が見たものは、
合計で15両ほどの歩兵戦闘車と対空機関銃だった。

 してやられた。

 ECMによって、俺達のレーダーは偽情報を掴まされていたのだ。

 そして俺達に浴びせられる弾丸の嵐。

 コクピットには射撃を知らせる警告音が鳴り響いていた。

 待ち伏せをされてはいたが、俺はこのまま攻撃を続行すると決意する。

 多少の被弾を耐える事の出来る装甲を、この”HIGH-MACS”が
持っている事を俺は知っていた。また、視界の歩兵戦闘車も
丘を超えつつあり、このまま着地をしても俺達にとっていい結果を生まない。

 そう考えていた時に、寮機からの悲鳴が無線に乗って届く。

「狙われています!身動きが取れません!」

「敵の防衛隊の守備が厚くて突破できまs・・・うああアァー!」

 


「柏木ィーーー!!!」

 俺の右側に居た”HIGH-MACS”から爆発が生じると共に、 
無線からは空電の音しか聞こえなくなっていた。
13 :[sage]:2011/06/15(水) 22:25:35.80 ID:DsyMhTCS0
ーーー ハリコフ 2015 3/26 12:20 −−−

 その声は、私の耳元にも届いた。

 敵の歩兵戦闘車の群れから射撃を受けていた私は、
岩影に隠れながら無線のスイッチを入れる。

「トパーズ2?トパーズ2、返事をしなさい」

 返答は沈黙。柏木と呼ばれたトパーズ2からは
もう二度とその声を聞く事が出来なくなっていた。

「トパーズ4よりリーダー、救援は必要かしら?」

「そちらで相手をしている敵と挟撃されるほうがまずい。
こちらはこちらで何とかする」

「トパーズ4、了解」

 そうは言っているものの、無線から聞こえる彼の声には、
射撃を受けた時に鳴る警告のアラートが頻繁に混じっていた。

 急がなくてはならない。

 多くの魔翌力を消耗するため、あまり使いたくはなかったのだが。

 右腕の盾を、カチリと時計を動かすように回し、
私の持つ魔法の能力を発揮させる。

 時を止める能力。

 私は岩陰から飛び出し、素早く盾の中から対戦車ロケットを
取り出す。まだ残っているマルダー2は5両。

 それぞれに1発ずつロケットを発射し、止まった時の中で
発射されたロケットは、空中でぴたっと停止していた。

 私はこれまでの戦闘の経験から、それが目標に
絶対に当たると確信を持っていた。

 そして盾が再び回りだす。

 眼前の爆発に自分の仕事を終えたと納得できた私は、
トパーズ隊の向かって行った丘へ向けて駆け出した。
14 :[sage]:2011/06/15(水) 22:26:10.62 ID:DsyMhTCS0
 丘に辿りつく前から、銃撃戦が行われている事は
私の耳に聞こえる音からも理解出来ていた。

 辺りには焦げ臭い香りがたちこめ、煙と土埃のために
視界が少し悪い。

 急いで丘の頂上まで登り、体を伏せて反対側の様子を探る。

 そこには黒煙をあげている大量の敵車両の残骸と、
まだ戦い続けている2機の”HIGH-MACS”が居た。

 残る敵車両はもうわずかに3両、戦闘はほぼ終わりつつある。

 そう考えた私の耳に、戦闘ヘリのローター音が聞こえだす。
音の方向に首を向けると、ロシア軍のホーカム戦闘ヘリが
こちらへ向かってくるのが私の目に飛び込んだ。

「トパーズ4より各機、戦闘ヘリが接近中!」

「くそ、それどころじゃねえのに!」

「地上車両は私に任せて!」

「了解、頼む!」
15 :[sage]:2011/06/15(水) 22:26:37.01 ID:DsyMhTCS0
 歩兵戦闘車が2両、対空機関銃が1両。

 対空車両が残っているのが厄介だ。あれが残っている限りは、
”HIGH-MACS”の持ち味である三次元機動が制限される。

 そう判断した私は、盾の中から有線誘導式の対戦車ミサイルを取り出す。
数が少ない貴重品ではあったが、今使わずにしていつ使うのか。

 私がそのミサイルのロックを行っている間に、”HIGH-MACS”は
2機とも空に浮かび上がっていた。彼らも私と同様に、彼らの持つ
弾数の少ない貴重なミサイルを使う決断を下したようだ。

 地上に残された対空機関銃が、その砲塔を彼らに向ける。

 やらせはしない。

 私が引き金を引くと、ミサイルは発射筒から勢いよく飛び出し、
対空機関銃へ向けて吸い込まれていく。

 そして目標は炎の柱をあげながら砕け散り、その場に残された
大量の残骸の仲間入りを果たした。

 残された歩兵戦闘車は、空中に居る彼らを攻撃するための
有効な手段が残されていない。私は身を伏せたまま、
対戦車ロケットを取り出し、走り回る彼らにゆっくりと照準を
合わせていた。

 空中で起きる爆発が二つ。

 彼らもまた、それぞれの攻撃目標を撃破したようだ。

 煙を引きながら地面に落ちていくヘリを見届けた後、私も
地上に残る歩兵戦闘車に、改めて照準を合わせる。
 
 だが、私は無駄弾を撃たずに済んだ。

 空中に飛んだ彼らは、降下しながら砲弾の雨を
歩兵戦闘車に浴びせていたからであった。

 炎の塊となった2両の歩兵戦闘車を見ながら、
私は取り出していた対戦車ロケットを盾のなかに収納した。
16 :[saga]:2011/06/15(水) 22:27:18.00 ID:DsyMhTCS0
「トパーズリーダーより4、助かったよ。ありがとう」

「いいえ。間に合わなくて残念だわ」

「レーダー反応から、周辺にはもう敵車両は残されていないようだ。
だが、レーダーに映らないよう小細工をしているかもしれない。
トパーズ隊はこのままここで警戒待機するぞ」

「「了解」」

 

 丘の上から周囲を見渡す。

 黒煙だらけの戦場。

煙で視界は悪かったが、こちらに向けて迫ってくるものは何も見えなかった。

 こんな戦争はいつ終わるのだろう。

 そう考えているうちに、司令部から私達への命令が届く。

「司令部よりトパーズ隊。敵の第一波は退けられたようだ。
今のうちに帰還し、補給を済ませておけ。
交代の部隊を派遣する」

「トパーズリーダーより司令部、了解」

「聞いての通りだ。帰るぞ」

 そうして、私達は来た道を戻り出した。



 まだ炎と煙を上げ続けている残骸が、ちらりと目に入る。

 トパーズ2の”HIGH-MACS”。

 北アフリカから一緒に戦い続けてきた戦友が1人失われた。

 そして、この高性能かつ高価な”HIGH-MACS”が
決して無敵の兵器ではなかったという事も、私はそこで理解する事が出来た。
17 :[saga]:2011/06/15(水) 22:27:46.97 ID:DsyMhTCS0

18 :[sage]:2011/06/15(水) 22:28:40.03 ID:DsyMhTCS0
ミッソン1ここまで。
続きは書け次第、投下して行きます。
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)2011/06/16(木) 12:55:31.02 ID:fmqmejWAO
シン中尉は出るのかい?
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)[sage]:2011/06/16(木) 15:26:45.34 ID:IhrgGk6xo
ガングリフォンwwww懐かしいwwwwwwww
21 :[saga sage]:2011/06/16(木) 19:20:42.52 ID:Wc7Yf/rR0
ガングリ2の舞台まで取り込もうとすると、どうしても冗長になりそうで
2の人物を出すつもりはありません。一人出したい人は居ますけれど・・・
ガングリフォン楽しかったよな!な!
というわけで続き、投下します。
22 :1 第二話は>>23から[saga]:2011/06/16(木) 19:22:34.33 ID:Wc7Yf/rR0

23 :1 第二話は>>23から[saga]:2011/06/16(木) 19:23:08.27 ID:Wc7Yf/rR0
−−− 暁美ほむらの手記より −−−

 開戦から2ヶ月。

 ウクライナ北部戦線での膠着を打開するため、ポーランドから侵攻を
始めたPEUは、電撃的進撃を続けウクライナの首都・キエフに迫った。

 また、北からは白ロシアの第5親衛戦車軍がキエフに迫っていた。

 キエフ陥落はウクライナ崩壊である事を理解するAPCは、
ハリコフ戦線から戦力を割き、キエフ防衛に投入する事を決定した。


※ PEU=凡ヨーロッパ連合 APC=アジア太平洋共同体
24 :1 第二話は>>23から[saga]:2011/06/16(木) 19:23:34.90 ID:Wc7Yf/rR0
−−− キエフ 2015 4/10 22:00 −−−

 元々わずかな守備部隊しか残されていなかったキエフは、
敵の先鋒部隊からの攻撃に耐えられず、現在はPEUの
勢力下にあった。

 だが電撃的に侵攻した敵部隊は、その兵力の大半を
後方に置き去りにしたままキエフに駐留しており、
戦力の突起部を作り出していた。

 陸路でのキエフへの侵入と、展開する敵部隊の撃破。

 それが、今回の俺達に与えられた任務だった。

 時間が時間だけに、周囲は一面の闇。基地を出撃した時から
俺は赤外線ゴーグルを動作させ、このキエフ市外の外周にまで
接近していた。

 幸いな事に、俺達トパーズ隊の姿は敵にバレていなかった。

 味方の電子線機が活躍してくれているのだろう。彼らの期待を
裏切らないようにするため、またAPC全体の利益のためにも、
俺達はこのキエフ市外に展開する敵部隊を全て掃除する必要がある。

 せっかくAPCに出来た東ヨーロッパにおける同盟国、ウクライナ。
その存在意義は重要であり、また失う事によって予想される
被害も重大なものであった。

 ここでPEUを食い止めなければならない。

「トパーズリーダーより各員。状況を知らせろ」

「トパーズ3、クリアー」

「トパーズ4、クリアー」

「各員、散開して自由行動。敵に気づかれる前に、
一気に仕留めろ」

「「了解」」

 補充が受けられなかったために、欠員が出たままのトパーズ隊。
だが俺達は、ハリコフで戦果を上げていたため、このキエフ奪還作戦の
先鋒を任される事になってしまっていた。

 俺達が場をかきみだし、続いて後続部隊が乗り込む。

 APC軍の計画は、そのようになっていた。
25 :1 第二話は>>23から[saga]:2011/06/16(木) 19:24:08.68 ID:Wc7Yf/rR0
 灯火管制下に置かれた市街地は、暗闇の中にあった。

 なるべく音を出さないようにするためと考え、ゆっくりと
”HIGH-MACS”を歩かせる。がしゃがしゃとうるさい音を
立てている事は分かってはいたが、それでも高音を鳴らす
ローラーダッシュや、光を発するバーナーを使って移動するよりは
マシだと考えての事だった。

 レーダーと睨めっこをしながら、市街地の通りを歩いて行く。

 見えた。

 レーダーに現われた光点を赤外線ゴーグルで調べるために、
建物の陰に身を隠しながら、周囲を警戒する。

 歩兵戦闘車が2両と、歩行兵器1両が居る事が分かった。

 どのように不意打ちを仕掛けるか考えているうちに、
俺のコクピットに無線機からの声。

「トパーズ4よりリーダー、敵を見つけたわ。
攻撃を始めてもいいかしら」

「了解。派手にやってくれ」
26 :1 第二話は>>23から[saga]:2011/06/16(木) 19:24:40.43 ID:Wc7Yf/rR0
 そして 遠くに聞こえた爆音と、暗闇を照らす炎の柱。

 残念な事にその爆発は、敵から見て俺のいる方向から
見えていたようだ。エンジンを始動させ、こちらに向けて
動き出す2両の歩兵戦闘車。

 仕方がない。そう考えながら俺はスロットルを押し込む。

 機外カメラとHMDが迫り来る2両の歩兵戦闘車を捉え、
HMDにマーカーを作り出す。そこに右手にあるスティックを操作し、
照準を合わせてトリガーを押した。

 至近距離からの砲撃を受け、その歩兵戦闘車は
引っくり返って吹き飛び、そして赤外線センサーには
真っ赤な塊の映像となって動かなくなる。

 残りの1両の歩兵戦闘車と、まだ遠くにいた歩行兵器が
こちらに砲塔を向けるのが見える。

 姿がばれた以上、隠す必要もない。

 スロットルをバーナー位置まで押し込み、
”HIGH-MACS”は空へと踊り出した。

 近くにいた歩兵戦闘車には、俺の姿は消えて見えた事だろう。
そう思ったため、先に遠くにいる歩行兵器に照準を合わせる。

 見るからに頑丈そうな、PEU軍の”第一世代”であるティーガー歩行戦車。
空中からの照準合わせにも自信がなかったため、
俺は4回トリガーを引く。
 
 敵に向けて飛んでいく高熱源体。2発目のそれが、ティーガーに
とっての致命傷になったようで、爆発こそ起こさなかったものの
歩行兵器は横倒しに倒れ、動かなくなった。

 続けて、120mm滑空砲を真下に向ける。歩兵戦闘車は
俺を見失ったためか、ギアをバックに入れて後退していた。

 照準合わせの手間が少しだけ省ける。そのまま”HIGH-MACS”は
降下しながら、120mm砲弾によって敵の歩兵戦闘車の装甲を貫いていた。
27 :1 第二話は>>23から[saga]:2011/06/16(木) 19:25:08.32 ID:Wc7Yf/rR0
−−− キエフ 2015 4/10 22:10 −−−

 目の前に集まっていた歩兵戦闘車は3両だった。

 私はそれぞれに一発ずつロケット弾を撃ちこみ、
そして建物から建物へと飛び回って身を隠していた。

 常に高い所を移動しているため、見つかる恐れは
ほとんどないと考えていた。

 そんな私の考えは、ある建物の屋上に着いた時に
打ち壊される。

 おそらく、敵襲に備えて配置されていたPEUの狙撃兵。

 彼は私の姿を見て、その銃をこちらに向ける。

 まずい。

 時を止める。

 そして盾の中から拳銃を取り出し、彼に近づく。
絶対に外さないと自信が持てる距離まで歩き、
そして彼の両手に向けて発砲した。

「うおおおッ!」

 時が動き出してから最初に聞こえた、彼の悲鳴。

 そして彼は、涙を流して私に懇願する。

「う、撃たないで・・・」

「命まで取るつもりはないわ。静かにしていなさい」

 きっと私がこれまで破壊してきた車両には、何人もの
犠牲者が乗っていた事であろう。しかし、どうしても生身の
人間を殺す度胸が、私にはなかった。

 超えてはいけない一線がそこにあるかのように思えて。

 とにかく、安易に行動していてはまずい。
今回は運良くこちらが狙撃兵を発見できたものの、
先に発砲されてしまっては、時を止める暇すらない。

 用心深く赤外線ゴーグルを覗き、隣の建物に私は飛び移った。
28 :1 第二話は>>23から[saga]:2011/06/16(木) 19:25:45.90 ID:Wc7Yf/rR0
−−− キエフ 2015 4/10 22:15 −−−

「トパーズリーダーより各員。状況を知らせろ」

「トパーズ3、順調に敵を撃破中。損害は軽微」

「トパーズ4、同じく」

「トパーズリーダー、了解。行動を継続しろ」

 敵は少ない兵力を市外に分散配置していた。
おかげで、俺達の仕事は捗っていた。市街地を
数ブロック進むごとに、僅かに配置された敵車両。

 敵には集結命令が与えられなかったのであろうか。
こんな僅かな数で死守命令でも出ていたのだろうか。

 どちらにせよ、助かる。次に見えたブロックには、
ティーガー歩行戦車2両と、パンター歩行戦車2両が
守備についていた。

 装甲を持ったティーガー、機動力に優れるパンター。

 だが、このように一箇所の防衛についている限り、
どちらも頑丈なだけの砲台である。

 いかんせん数が多いため、俺は武装スイッチを
多連想ロケットポッドに切り替える。
広範囲を爆風で攻撃するこの武器は、目前に居る
歩行兵器の群れには有効な武器であるからだ。

 よし、行くか。

 自分に気合を入れ、いつものようにスロットルを押し込む。
宙に舞い上がった”HIGH-MACS”は、群れの中心に向け
ロケットポッドをばら撒く。

 その炎の海に飲まれた群れは、続けて弾庫に誘爆したためか、
何度も何度も花火を咲かせていた。

 射撃警告アラート。

 その花火は、空を浮かぶ俺の姿も照らし出していたようであった。
どこから狙われているのか、俺は調べる余裕もなく、
急いでスロットルを戻し、”HIGH-MACS”を着地させる。

 敵さんも必死にこちらを探している。ここからが本番だな。
俺はそう考えていた。
29 :1 第二話は>>23から[saga]:2011/06/16(木) 19:26:20.44 ID:Wc7Yf/rR0
「司令部よりトパーズリーダー。状況を知らせろ」

「トパーズリーダーより司令部。作戦は順調に遂行されている」

「了解。貴官が制圧したエリアに、歩兵をヘリで空輸する。
彼らの援護も期待する」

「トパーズリーダー、ネガティブ。
まだ敵の脅威が排除しきれていない。危険だ」

「司令部よりトパーズリーダー、制空権を握られていない
今のうちに市街地の奪還を行いたい。空輸は実行される。
オーバー」

 あわてんぼうめ、そう心の中で毒を吐く。

 こうなってしまっては仕方もない。急いで敵を片付ける必要がある。

「トパーズリーダーより各員、聞いての通りだ。
なるべく迅速に、敵部隊を撃破せよ」

「トパーズ3、了解」

「トパーズ4、了解」

 そう返信を得られた直後に爆音が聞こえ、東の空が赤く燃え上がった。
相棒達が仕事をしている事に満足し、俺も作戦を続行する。

 もう、敵にも俺達の存在はバレていることだろう。

 そう考えたため、俺は封印していたローラーダッシュを
解禁する。甲高い音を上げながら、”HIGH-MACS”は
スピードを上げ、市街地の道路を疾走していた。
30 :1 第二話は>>23から[saga]:2011/06/16(木) 19:26:55.07 ID:Wc7Yf/rR0
 その通りの先にあった噴水広場に見えた光景に、
俺は冷汗を流す事になる。

 ホーカム戦闘ヘリ。おそらくついさっきまで着陸していたであろう
それは、ローターを回転させてすでに地上から離れていた。

 まずい。

 慌てて右手に握るスティックを操作し照準を合わせ、トリガーを押す。

 続けて発生した爆音。120mm砲弾は命中し、ヘリは横倒しに地面に
落下し、アスファルトの地面をローターが折れるまで叩き続けた。

 噴水の前で”HIGH-MACS”を急停止させ、周囲の警戒を行う。
地上には敵は残されていなかったが、すでに何機かのヘリが
空に浮かんでいるのを俺は見る事が出来た。

 ローラーダッシュを解禁したのは失敗だった。
その音のせいで、ヘリのローター音が聞こえなかったのだ。

 急いで無線のスイッチを入れる。

「トパーズリーダーより司令部、ホーカムがウロウロしている!
輸送ヘリを戻させろ!」

「司令部よりトパーズリーダー、提案は却下する。
貴隊の援護に期待する」

 畜生が!どうして中国人は、人海戦術しか考えないんだ!

「トパーズリーダーより各員。ホーカムが上空に何機か
上がっている。最優先で撃ち落せ」

「トパーズ3、了解」

「トパーズ4、了解」

 この市街地でヘリを追うのは、かなりきつい行動だ。
入り組んだ市街地を移動しては最短距離を追えず、
バーナーを使うにせよ燃料に限度がある。
そう何度も空を飛ぶわけにはいかない。

「トパーズ4、君が頼りだ」

「分かっているわ」
31 :1 第二話は>>23から[saga]:2011/06/16(木) 19:27:28.05 ID:Wc7Yf/rR0
−−− キエフ 2015 4/10 22:20 −−−

「ホーカムは合計で何機いるの?」

「レーダー反応から3機と思われる。データリンクを送る」

「了解。こちらの空輸ヘリの着陸地点は?」

「それもリンクで送った。確認してくれ」

「すぐに確認する。ありがとう」

 そう返事をして、私はゴーグルの横についたボタンを何度か押し、
送られた情報を確認する。

 敵のヘリはもうこちらの輸送ヘリを見つけているようで、
輸送ヘリへ向けての最短距離を進んでいた。

 幸い、私のいる位置は味方の着陸地点からすぐ近くであった。
目に付いた建物の屋上に飛び乗り、周囲を見渡す。
また敵兵が居たら厄介なところであったが、ここには居なかった。

 そして、盾の中から携帯地対空ミサイルを取り出し、
肩に乗せる。ずっしりとした重量が私の体に感じられるが、
魔力で強化された体に持てない重さではない。

 ゴーグルを外し、ミサイル発射機に付いているスコープを
覗き込む。先ほどまでゴーグルから見ていた赤外線映像よりは
いくらか不鮮明であったが、このミサイルに付いているスコープも
暗視機能を持っており、暗闇の中の敵を探し出す事が出来た。

 やがて聞こえてくるローター音。

 背後から聞こえるそれに目を向けると、
先に到着したのは味方のヘリだという事に私は気づいた。

 彼らはひどくのんびりと行動している。
現在の状況を理解している私には、そう思えた。
彼らは自分達が狙われている事を知らないのだろうか。

 降りるのなら早く降りなさい。

 そう考えているうちに、また別のローター音が近づいてくるのを
耳にする。今度こそ、敵のホーカムであった。
32 :1 第二話は>>23から[saga]:2011/06/16(木) 19:28:03.90 ID:Wc7Yf/rR0
 思い通りにはさせない。

 スコープのレティクルを迫り来るホーカムに合わせ続ける。
そうする事によって、ミサイルのシーカーが敵をロックオンするだ。

 スコープの中に、ロック完了を知らせる文字が表示される。

 そしてトリガーを引く。ミサイルは炎の筋を引きながら、
空の闇へと吸い込まれて行った。

 私は急いで盾の中から、ミサイル弾頭と電源バッテリーを
取り出す。この携帯地対空ミサイルは、バッテリーを取り替えて
ミサイルを再装填する事により、再利用出来るからだ。

 バッテリーを取替え、ミサイルを発射筒に収めている間に、
空に花火が上がる。これで残りは2機。

 次の敵をロックするため、スコープを覗こうと思った
その時、上空のホーカムから炎の筋が伸びた。

 こちらを狙っている。

 そう理解できた瞬間に私は再び時を止め、
ミサイルを持って隣の建物へと飛び移った。

 こう何度も時を止めてはいられない。
魔力の消耗が大きすぎて、ソウルジェムが濁りきってしまう。
そういえば、こちらの世界でも私は魔女化するのであろうか?
疑問はあったが、そのようなリスクを実験してみようとは思わない。
 
 能力が解除されると、私が先ほどまで居た建物にロケット弾が到着し
轟音と爆炎を上げながら建物は崩れていった。

 危ないところだった。

 そう考えたのも束の間、もう一機のホーカムから
炎の筋が発射される。それの目指す場所は、
今まさに着陸をしようとしている味方の輸送ヘリであった。

 まだそれなりに高い位置にいた輸送ヘリから、
展開する予定であっただろう歩兵達が、ばらばらと
地面にこぼれ落ちていく。

 そして、炎の筋は輸送ヘリに突き刺さり、
地面でもがいている生き残りの歩兵達に向けて、
とどめを刺すかのように落下して行った。
33 :1 第二話は>>23から[saga]:2011/06/16(木) 19:28:37.23 ID:Wc7Yf/rR0
−−− キエフ 2015 4/10 22:30 −−−

「そんな・・・」

「トパーズ4、何があった?」



「味方ヘリの撃墜を・・・確認・・・」

「了解」

 ひどく声が落ち込んでいる。ショックを受けているのかもしれないし、
味方が落ちたのが自分のせいだと思っているのかもしれない。

 仕方もない。彼女は魔法少女とはいえ、まだ14歳なのだ。
こんな戦いに付き合わせる方が馬鹿げている。

 残りのホーカムは、次の標的を見つけたようだ。さらに南下を続ける
ホーカムの光点。だが、動きを止めていた奴らは、すでにこちらからの
ミサイルの射程内に入っていた。

 レーダーを急いで確認し、トパーズ3が近くにいる事を知った俺は
無線を繋いでマイクに言葉を吹き込む。

「トパーズリーダーよりトパーズ3、データリンクを送る。
俺が狙うホーカムと別の方を任せたい。出来るか?」

「トパーズ3、了解。こちらからも射程内です」

 レーダー画面に浮かぶ光点を指で触れる。その光点は
赤い輪で囲まれ、俺が狙う敵だという事を画面に表示させた。
この情報は、トパーズ3のデータリンク受信機が壊れていない
限りは、向こうのレーダーにも同じように表示される。

 すぐに、赤い輪の隣にいた別の光点に、青い輪が付いた。
トパーズ3が自身の標的を定め、それを俺に知らせているのだ。

 それを確認できた俺は”HIGH-MACS”をホーカムへ向かせ、
ミサイルのロック準備に入る。この愛機に搭載されたミサイルは、
古臭い光学照準式の有線誘導ミサイルではあったが、
敵のECMに抵抗をされずに攻撃できるという利点があった。

 ミサイルを発射し、レティクルをホーカムに合わせ続ける。
当然の事ながら、遠くへ逃げようとする戦闘ヘリより、
ロケット推進剤を使って飛翔するミサイルの方が圧倒的に速い。

残った2機のホーカムは、順番に夜空の花火となる。
34 :1 第二話は>>23から[saga]:2011/06/16(木) 19:29:13.05 ID:Wc7Yf/rR0
「トパーズリーダーより司令部、敵戦闘ヘリを全機排除した。
味方が1機、犠牲になってしまったが」

「司令部よりトパーズリーダー、状況は把握している。
引き続き、歩兵部隊を空輸する。支援に期待する」

 嫌味のつもりで言ったのだが、彼らには俺の気持ちは伝わらないのだろう。

「トパーズ4、じきに後続の味方輸送ヘリが到着する。
彼らの支援に向かえ」

「でも・・・」

「残りの敵は俺達で片付ける。行け」

「了解」

 今の彼女を戦闘に出すつもりは、俺にはなかった。

 暁美ほむらという少女が、そんな感情を殺してでも
戦えるという事は知っていた。だが、現在の彼女の状態は
万全とは言いがたい。万一、彼女を失うような事態になっては
この第501対戦車機動中隊にとって、大きな痛手となる。

 それに、この戦闘もじきに終わるだろう。

街のいたるところから、移動するレーダー光点を俺は見つけていた。
敵も余裕がなくなり、今更になってキエフからの後退を始めていたのだ。

「トパーズ3、逃げられる前に出来るだけ数を減らしておくぞ」

「トパーズ3、了解」

 そうして、俺達は残った敵の追撃戦に移った。
35 :1 第二話は>>23から[saga]:2011/06/16(木) 19:29:43.24 ID:Wc7Yf/rR0
−−− キエフ 2015 4/11 1:00 −−−

 このキエフの主を気取っていたPEU軍部隊は後退し、
キエフは再びAPC軍の勢力化に置かれた。

 続々と歩兵部隊が到着しては展開し、第501対戦車機動中隊の
司令部も、補給部隊を連れてこのキエフに到着。

 私達は、”HIGH-MACS”に搭載される弾薬・燃料と、私の盾に
収納される対戦車兵器・魔力回復のためのグリーフシードを
補給品として受け取っていた。

 一時的に敵を後退させたものの、ポーランドから侵攻する
PEU軍主力はまだここには到着しておらず、さらに彼らの増援として
派遣されているロシア戦車軍団は、じっくりと腰をすえて
キエフ外郭に陣地を作って待機していた。

 明日になれば、今日以上に激しい戦闘が行われる事になるのだろう。

 そんな事を考えている私は、仮設テントの中で寝転がっていた。
36 :1 第二話は>>23から[saga]:2011/06/16(木) 19:30:15.18 ID:Wc7Yf/rR0
 テントの外に人の影が見える。

「あの、良かったら食べ物をいかがですか?」

 テントの入り口には、私と同じくらいの年齢の少女。
彼女は手に鍋を持ち、彼女の母親と共にテントからテントへと
作ったスープを配っているようであった。

「ありがとう。でも今は食欲がないの」

「そうですか。無理をなさらないで下さいね」

 鍋を持ったまま、残念そうな表情で行こうとする彼女。
そんな彼女に、どうしても伝えたかった。
だから、私は声をかける。

「待って」

「はい?」

「その・・・この街はきっとこれから、もっと大きな戦闘に巻き込まれるわ。
今のうちに、逃げた方がいいわよ」

「この街は、私達の街なんです」

 じっと私の目を見据える少女。その目から、
彼女の意思は痛いほど私に伝わってきた。

「時間を無駄にさせたわね。ごめんなさい」

「いいえ。気遣ってくれて、ありがとう」



 こんな戦争はいつ終わるのだろう。

 私は誰にも気づかれないよう声を殺し、
自分の意思では抑えきれない涙をこぼしていた。
37 :1 第二話は>>23から[sage]:2011/06/16(木) 19:30:48.71 ID:Wc7Yf/rR0

38 :1 第二話は>>23から[sage]:2011/06/16(木) 19:31:47.68 ID:Wc7Yf/rR0
ミッソン2、ここまで。
また明日にも投下出来ると思います。
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[sage]:2011/06/17(金) 10:46:40.00 ID:nIJTSznRo
ガングリフォンとかなんという俺得
そろそろなんでほむらが彼らと戦ってるのか説明がほしいぜ
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)[sage]:2011/06/17(金) 12:41:54.23 ID:r7Vee2AAO
ベルリンリリー思い出して色々切なくなった
41 :[sage]:2011/06/17(金) 19:11:18.31 ID:D3gV3+u70
ほむほむが戦う理由、みたいな設定は
次の第三話で投下するつもりでした。
というわけで、続き行きます。
42 :1 第三話は>>43から[saga]:2011/06/17(金) 19:12:17.59 ID:D3gV3+u70

43 :1 第三話は>>43から[saga]:2011/06/17(金) 19:12:51.25 ID:D3gV3+u70
−−− 暁美ほむらの手記より −−−

 私は生まれ変わりたかった。

 生まれつき病弱な私は、14年の人生の大半を病院のベッドの上で
過ごしてきていた。病状が和らいでいる期間だけは学校に行けたものの
私は勉強も出来なければ運動も出来ず、友人を作る事さえ私には出来なかった。

 私の知っている世界は、そのほとんどが病室の世界だったからだ。

 だから、私は憧れていた。

 テレビや新聞でよく取り上げられている、奇跡を生み出す”魔法少女”に。

 私の前に現われたその白い姿を見た時、私は嬉しさと感動に泣いていた。

 愚かな私は、その契約がどのような物なのかを聞く事すらせず、
二つ返事で契約を交わしてしまっていたのだ。

 ほどなくして、私は魔法少女の運命を知る事になる。

 私達は魔女と戦う存在だという事を知りながらも、国家によって周知されている
その魔女退治の仕事は、ほとんどが各国の軍隊によって行われていたのだ。

 それはすなわち、失われた魔力の回復のために使われるグリーフシードが、
国家の管理化に置かれている事を意味する。

 日が経つにつれ、衰えていく私の魔力。それに伴い、衰弱していく私の体。

 魔法少女になりながらも、再び病院のベッドの上に戻ってしまった私の元に、
一人の軍人が現われ、そして教えてくれたのだ。

 魔力が全て失われれば、魔法少女は死んでしまう事を。

 彼は私をスカウトするために、この病室に来ていた。
この日本に生まれ育った私が、日本の自衛隊にスカウトされる事は
私にとっても幸運な事だ、とその軍人が言っていたのを覚えている。

 自衛隊の定員は、偶然にも私がこのような状況に置かれていた時に
1名の欠員を出していたのだ。 

 そんな事情も、私には関係がない事と思っていた。

 その当時の私には、選択の余地などはなかったのだ。

 

 私達、魔法少女の存在すらも、それぞれの国家の管理化に置かれていたのだ。
44 :1 第三話は>>43から[saga]:2011/06/17(金) 19:13:27.94 ID:D3gV3+u70

45 :1 第三話は>>43から[saga]:2011/06/17(金) 19:14:01.91 ID:D3gV3+u70
−−− 暁美ほむらの手記より −−−

 我々の抵抗もむなしく、キエフは陥落した。

 だがその直後、ロシアに衝撃が走る。

 搾取され続けていた、ウラル以東の自治共和国が一致団結し、
ロシアからの独立を宣言したのであった。

 PEU・ロシア軍は、ウクライナ戦線へ送る予定の兵力を、
討伐軍としてノヴォシビルスクに向かわせた。

 シベリアの資源を欲していたAPCは、これを好機と見てとり
彼らに対し援軍を送る。

 キエフを撤退した我々第501機動対戦車中隊も、シベリア鉄道で
輸送されてくるPEUに対して襲撃を繰り返し、進撃をストップさせていた。


※ PEU=凡ヨーロッパ連合 APC=アジア太平洋共同体
46 :1 第三話は>>43から[saga]:2011/06/17(金) 19:14:29.41 ID:D3gV3+u70
−−− ノヴォシビルスク 2015 4/22 6:00 −−−

 辺りは一面の雪景色であった。

 以前はもうこの時期になれば、いくらシベリアとはいえ
この地域の雪も溶け、春の訪れを感じさせていたらしい、
と私は聞いている。

 しかし、世界を覆う異常気象は、ここノヴォシビルスクの気候にも
大きな影響を及ぼしていた。

 もうすぐ5月だというのに、私が出撃前に見た気温計は-15℃を
記録していたのだ。

 そんな白銀の世界の中で、私達はシベリア鉄道への襲撃を
2日前から繰り返していた。

 鉄道網を破壊するより、輸送されてくる列車を破壊したほうが
敵の戦力を効果的にすり潰せる。司令部はそう判断していたのである。

 しかし、そんなものは理想論に過ぎない。

 日に日にシベリア鉄道の線路を守るPEU部隊は増強され、
もう今では線路の破壊すら容易には行えないほどに
守備隊の数は増えていたのだ。

 先日には、ついにPEU軍によるECMが本格的なものとなり、
私達はレーダーすら使えなくなっていた。

 そのため、今日も私の主な任務は、この白い霧の中での
偵察任務となっていた。
47 :1 第三話は>>43から[saga]:2011/06/17(金) 19:15:01.75 ID:D3gV3+u70
「トパーズリーダーよりトパーズ4。行動計画は昨日と同じ。
敵との戦闘は極力避けて、俺達に情報を送ってくれ」

「トパーズ4、了解」

 そう返事をし、北へ向けて白銀の世界を駆け出す。

 ところどころに木々が生い茂り、機甲部隊にとっては
行動しにくそうな地形ではあったが、生身である私にとっては
それが逆にありがたい。

 木々を掻き分けながら進んでいくうちに、
ゴーグルの赤外線センサーが熱源を捉える。

 まだまだ線路から離れたその開けた場所には、
PEU軍PzH2000自走砲が6両、ティーガー歩行戦車が
2両の布陣で構えていた。

「トパーズ4よりリーダー、自走砲6両とティーガー2両が
貴機の前方約3000mに布陣している。迂回を進言するわ」

「トパーズリーダー、ネガティブ。
列車の通過予定時刻まで時間の余裕がない。それに
列車を叩いている間に、そいつらに砲撃をかまされるとまずい。
気づかれていない今のうちに叩く必要があるだろう」

「トパーズ4、了解。それなら、少し待って欲しい。
この敵の他にも居ないか、周囲をもう少し調べたい」

「トパーズリーダー、了解」

 その返事を聞き、私は更なる敵がいないか確かめるため
雪の地面を蹴った。
48 :1 第三話は>>43から[saga]:2011/06/17(金) 19:15:37.40 ID:D3gV3+u70
−−− ノヴォシビルスク 2015 4/22 6:15 −−−

「トパーズ4よりリーダー。周囲には敵の部隊は居ない模様」

「リーダー、了解。これより前進する」

 左手のスティックを操作し、雪の中をしゃがみこませていた
”HIGH-MACS”を立ち上がらせる。

 トパーズ3も同様に立ち上がったところで、
俺は彼に命令を伝えた。

「トパーズ3、俺は東から行く。お前は西からだ」

「トパーズ3、了解」

 そうして俺達は散開し、白銀の世界を前進した。

 防寒装備は整えてあるものの、ローラーに雪が詰まって
氷となって固まると、ローラーダッシュが行えなくなる事を
俺は先日までの戦闘で学んでいた。

 整備班がローラー部品に急設のヒーターを取り付けてはくれたが、
その効果を確かめている暇はなかった。そのため、念のために
”HIGH-MACS”をじわじわと歩かせる。

 木々をかきわけ、ゆっくり前進していくうちに
トパーズ4、暁美ほむらの姿が赤外線センサーに写り出す。

「トパーズリーダー、所定の位置に着いた」

「こちらトパーズ3、もう少し待って下さい」

「リーダー、了解。トパーズ4は、さらに北の偵察を頼む。
この戦闘を嗅ぎつけられたら、敵の増援がこちらに向かってくるはずだ」

「トパーズ4、了解」

「トパーズ3、お待たせしました。準備完了」

「リーダー、了解。ティーガーから集中攻撃。
懐に潜れば自走砲は怖くない」

「トパーズ3、了解」
49 :1 第三話は>>43から[saga]:2011/06/17(金) 19:16:04.72 ID:D3gV3+u70
 そしていつも通り、俺はスロットルをバーナー位置まで押し込む。
”HIGH-MACS”は浮かび上がり、もう敵からも見えているであろう。
すぐに目的の位置へ向け、目を凝らす。

 見つけた。

 俺がそう思った瞬間には、すでにトパーズ3からの砲撃が
開始されていた。もんどりうって倒れる、1両のティーガー。

 すぐにもう片方を見つけ出す。敵は砲塔を旋回させつつあったが、
俺の照準がティーガーに合う方が早かった。

 トパーズ3に続けて、砲撃を行う俺の”HIGH-MACS”。

 ドン、ドンと砲撃音と振動が機体に伝わる。
そして、眼下に見えていたティーガーは火を噴いて倒れた。

 あとは雑魚掃除だけだ。そう考えていた俺は、眼下の自走砲から
砲撃が行われるのを目にする。空にいる間に俺達を狙おうというのか。

 その砲弾は全て俺の機体を外れたが、俺の寮機は不運だった。

「トパーズ3、被弾!」

「損害知らせろ!」

「肩部のロケットポッドをやられました。行動に支障はありません」

 弾庫に誘爆しなかったのが幸いだった。もしそうなっていれば、
今頃トパーズ3との会話など行えていない。

 トパーズ3と俺は、降下をしながら地上に残る自走砲に砲弾を降らせる。

 次々に起きる爆発と轟音。

 ”HIGH-MACS”が再び地面に戻った頃には、残る自走砲は1両
のみとなってしまっていた。

 哀れなその乗員達が車両を捨てて逃げていくのを
確認してから、俺は残る自走砲を撃ち抜いた。
50 :1 第三話は>>43から[saga]:2011/06/17(金) 19:16:43.38 ID:D3gV3+u70
「トパーズ4より、リーダー。レオパルド3戦車4両と
パンター歩行戦車4両がそちらに向かっている。
たぶん、そこに居た敵が無線で知らせたのでしょうね。
そこから北は平坦な地形になっているわ」

「リーダー、了解」

 平面での機動戦。それだけで見れば、この”HIGH-MACS”は
戦車に対して大きな有利があるわけではない。パンター歩行戦車も、
機動力不足の”第一世代”の弱点を埋めるためにローラーダッシュ機能が
取り付けられ、平地での機動力を持った脅威となる存在であった。

 そんな敵が、こちらの4倍の数で接近している。

 どう戦うべきか。

「リーダーよりトパーズ3。木々に隠れて待ち伏せだ。
敵の数が多いから、俺は上空からロケットポッドをばら撒く。
お前は隠れたまま、撃ち漏らした敵を撃破してくれ」

「トパーズ3、了解」

「トパーズ4、俺達と敵との距離は?」

「およそ5000m。時速40km前後で南に真っ直ぐ
向かっている」

「リーダー、了解」

 ぐずぐずしてはいられない。

俺はスロットルを押し込み、ローラーダッシュを機動させる。
うまく”HIGH-MACS”が隠れられそうな木を探すために。
51 :1 第三話は>>43から[saga]:2011/06/17(金) 19:17:17.14 ID:D3gV3+u70
 息を潜めて、敵機甲部隊の接近を待つ。

 やがて、赤外線センサーに浮かび上がる沢山の姿。
トパーズ4の情報通り、合計8両の機甲部隊の姿が見え出した。
ある程度引き付けて、ロケットポッドで一網打尽にしてやろう。

 その考えは甘かった。

 敵が近づくにつれて鮮明になる映像からは、戦車がすでに
砲塔をこちらに向けているのが見えたからだ。

 ドスン、と衝撃が伝わる。

 ”HIGH-MACS”の左側にあった木が、めきめきと音を立てて
折れて行く。もう敵からは見つかっていたのだ。

 スロットルをバーナー位置まで押し込み、”HIGH-MACS”は
空へ踊り出す。すでに敵は散開を始めつつあった。

 弾薬をケチっている場合ではない。
一網打尽にするのは困難に思えるほど、敵車両は間隔を広げていたが、
それでもお構いなしに彼らへ向けて照準を合わせる。

 ガン、ガンと機体を叩く音と衝撃。パンターの持つガトリング砲が、
俺の愛機を叩いているのだ。

 響き続けるアラート。ここで慌ててはいけない。

 パンターを優先的に狙うようにして、辺り一面にロケットポッドをばら撒く。
それぞれの位置が離れているため、勿体ぶらずに全弾を
たっぷりと彼らの頭上にプレゼントする。

 起きる爆風に彼らは飲み込まれているように見えたものの、
半分以上の敵はまだ行動を止めてはいなかった。

 仕方がないな。そう思ったところに、地上を疾走するパンターへ
炎の矢が突き刺さる。そのパンターが火柱を上げると、続けて
もう1両のパンターに同じく矢が突き刺さった。

 頼りになる相棒だ。

 そう考えながら、まだ地上に残る3両の戦車に俺は照準を合わせた。
52 :1 第三話は>>43から[saga]:2011/06/17(金) 19:17:45.30 ID:D3gV3+u70
−−− ノヴォシビルスク 2015 4/22 6:45 −−−

「トパーズリーダーより各員。脅威は全て排除された」

「トパーズ4、了解。そちらへ向かう敵は今のところ
発見できていない。あ・・・列車が見えた!」

「トパーズリーダー、了解。引き続き周辺の警戒に当たってくれ」

 その列車は、ひどくゆっくりとこちらに向けて走ってきていた。

 何か理由があるのだろうか?

 私は列車を見つめているうちに、すぐにその理由に気が付く。

 彼らは襲撃の報告を受け、列車を停止させて引き返そうと
していたのだ。

「トパーズ4よりリーダー!列車が引き返そうとしている!」

「俺達からの距離は?」

「おそらく10000m以上はありそうだわ!」

「くそ。トパーズ3、全速前進だ!逃がすな!」

「トパーズ3、了解」

 その無線のやりとりを終える頃にはもう列車は完全に止まり、
反対側へ向けて走り出そうとしていた。

 今、私が止めるしかない。

 雪の大地を駆け出し、列車の先頭車両へ向けて急ぐ。
長い、とても長い車列であったが、まだ発進をしたばかりの
列車はひどくゆっくりで、なんとか私は列車の先頭車両に
追いつく事が出来た。

 急いで対戦車ロケットを取り出し、それに向けて放つ。

 先頭車両は爆発によって浮かび上がり、そして線路から外れて
地面に横倒しになる。

 破片を散らしながら耳障りな音を立て、
しばらく進んでいた列車は完全にその動きを止めていた。
53 :1 第三話は>>43から[saga]:2011/06/17(金) 19:18:31.20 ID:D3gV3+u70
 列車からは少ない兵員が散り散りになって逃げ出していた。

 貨物車の中からは何機かの歩行戦車が出撃しようとしていたが、
到着したトパーズ隊の”HIGH-MACS”の砲撃を受けて、
それが動き出す事はなかった。

 残されたものは私達と、至る所から黒煙を上げている列車のみ。



 ”HIGH-MACS”の2機が、使えそうな物資はないかと
貨物車を手当たり次第に壊し、中の荷物を雪の地面に並べているのを
私はぼんやりと見ていた。

「これも命令なの?」

「貰える物は貰っておかないとな。ここのところ、俺達の部隊にすら
補給が滞りがちになってきている」

「ここで時間を取るのは危険だわ」

「5分後には撤退する。降ろした積荷を見てくれないか?」

 生身の私に無茶を言う。だが、あんなに乱暴に動かしている
コンテナの中に、まさか敵兵が潜んでいたりはしないだろう。

 念のために、いつでも時を止められるようにして
コンテナの中身を物色する。

 PEU製の様々な携行型ロケット砲、ミサイル。確かにリーダーの
言う通り、これらの物資は私達にとって貴重な品であった。

 そう考えながら、次のコンテナの蓋を開けた時。

 私は信じられないような光景を目にするのだ。
54 :1 第三話は>>43から[saga]:2011/06/17(金) 19:18:59.38 ID:D3gV3+u70
 コンテナの闇から、鋭い剣の切っ先が私へ向けて突き出される。
警戒しながら蓋を開けていたため、私は反射的に身を逸らし、
ギリギリでその攻撃から回避する事が出来た。

「泥棒さん、使えそうな物資だと思った?」

 何故、貴方がここにいる。
 
 何故、私に剣を向ける。

「残念!さやかちゃんでした〜!」

「美樹さやか・・・!」

「私の名前、知ってるんだ?」

 何故、その名前が私の脳裏に浮かんだのかは、
私にも分からなかった。だが、私は目の前の魔法少女を確かに知っていた。
衝突をした事もあったが、ぼんやりとした記憶の中の私達は
確かに仲間であったはずなのだ。

「ま、いいや。あんたがAPCの魔法少女だよね。
悪いけど、やっつけちゃうよ。これも正義の味方の勤めだからね!」

 私は反射的にライフルを取り出す。



 取り出してどうするというのだ?美樹さやかを殺すつもりか?




 そう考えた一瞬の間に、ライフルの銃身は彼女の持つ剣によって
すっぱり切られてしまう。

 このままではまずい。まずは距離を取らないと・・・
55 :1 第三話は>>43から[saga]:2011/06/17(金) 19:19:32.62 ID:D3gV3+u70
 雪の地面を蹴り、私は後ろへ飛びのく。 

 しかし、目の前にいる魔法少女は近接攻撃が得意なタイプ。
こちらが下がって作り出す距離を、彼女は剣を構えながら
難なく飛び込んで来ていた。

 このままでは追いつかれる。

 咄嗟に盾から、スタングレネードを取り出す。

 そして、一面は眩い光の中に包まれる。



「く〜、何すんのさ!」

 一旦は距離を作る事に成功したが、彼女は頭を振って
そのような軽口を叩いていた。

 私になど負けるはずがない。そんな余裕すら見える。

 彼女の装着しているゴーグルは閃光に若干の耐性を持っていたらしく、
すぐにこちらを見つけた彼女は、私に向けて突撃を再開している。

 距離が空かない限り、近接攻撃の手段を持たない私は
まともにやり合っても勝ち目がない。
 


 気休めにしかならないであろう、軍用拳銃を
盾から取り出し、迫り来る彼女から距離を取る。

 考えろ。

 考えるのよ、私・・・
56 :1 第三話は>>43から[saga]:2011/06/17(金) 19:20:05.68 ID:D3gV3+u70
−−− ノヴォシビルスク 2015 4/22 7:05 −−−

「トパーズ4、何があった!」

 スタングレネードの閃光を目にして、俺は叫ぶ。
無線機の沈黙から、トパーズ4は何らかの理由で
返事が出来ない事態に陥っている事を理解した。

「トパーズ3よりリーダー、赤外線センサーに反応!
敵車両4、北から迫っています!」

「畜生、こんな時に!」

 欲張らずに撤退していれば良かった。そんな後悔が
俺に押し寄せる。もうこうなってしまった以上、
迫る敵を撃破する事に集中しなくてはならない。

 そう考えながら、スロットルを押し込む。しかし、
”HIGH-MACS”の反応は鈍い。

 ローラーが凍り付いていたのだ。

 畜生が!怒りに任せて眼前のディスプレイを叩く。

「リーダーよりトパーズ3、ローラーが凍りついた!
列車を盾にしてミサイルで迎撃する!」

「トパーズ3、了解!こちらはローラーが生きてます。
前方に出て囮になります!」

「頼む!無茶はするなよ!」

 そしてトパーズ3はバーナーを吹かし、列車を飛び越えて
前方の雪原を走り出す。

 俺はゆっくり歩く愛機を貨物車に載せて、兵装をミサイルに
切り替える。

 じっとHMDから得られる映像を見つめ、敵の接近を待った。
57 :1 第三話は>>43から[saga]:2011/06/17(金) 19:20:50.07 ID:D3gV3+u70
−−− ノヴォシビルスク 2015 4/22 7:05 −−−

 私は美樹さやかに向けて射撃を行っていた。

 彼女が自身の傷を回復させる能力に特化している事を
思い出したからである。

 1発や2発なら、当たってしまっても彼女は平気だろう。
そう考えていたのだ。

 ドン、ドンと激しく体に響く反動。
それに伴い、煙を吐いて跳ね上がる拳銃。

 しかし私からの攻撃は、ジグザクにこちらへ向かって走り寄る
美樹さやかに全く当たる事がなかった。
雪の地面を、弾丸の威力で吹き上げるのが精一杯だったのだ。

 私は大地を蹴り、貨物車の頂上を越えて反対側へ姿を隠す。
とにかく距離と、考える時間が欲しかった。

 雪の上に着地し、後方を確認しながら私は足を止めない。

 そんな私の目に入ったものは、今しがた飛び越えた貨物車を
嫌な金属音と共にバラバラに切り裂き、突進してくる彼女の姿。

「ちょこまかと・・・これでも食らえっ!」

 そう言って彼女は私に向けて走りながら、
彼女の周囲の空中に何本もの剣を生み出す。

 私が彼女の意図に気づいた時には、もうその剣は
こちらへ向けて風を切りながら飛んで来ていた。



「ぐッ・・・!」

 剣の嵐が私に向けて吹き荒れる。その中で、一本の剣が私の足をかすめる。

 その傷は決して致命傷ではなかったが、私はバランスを崩し、
雪の地面に身を投げ出してしまっていた。

 常人にとっては深い傷であるが、この程度の傷であれば
魔力を使って治す事は出来る。だが、このタイムロスが私にとっての命取り。
美樹さやかは剣を向けながら、私にトドメを刺すべく突き進んで来ているのだ。

 もう選択の余地はない。
58 :1 第三話は>>43から[saga]:2011/06/17(金) 19:21:45.87 ID:D3gV3+u70
 私は盾を回し、時を止める。

 そして、止まった時の中で
盾の中からサバイバルナイフを取り出す。

 足の痛みを抑えて立ち上がり、勝利を確信した笑顔を浮かべる
美樹さやかの元へ近づく。そして・・・

「ごめんなさい」

 彼女の足へ、サバイバルナイフを突き立てる。
ナイフを抜き、もう一度、彼女の足へ突き立てる。

「ごめんなさい」

 自分の足に刻まれた深い傷ですら、私は治す事が出来る。
目の前にいる回復能力の高い魔法少女の行動を止めるには、
こうする他に考えられなかったのだ。

「ごめんなさい」

 涙が頬を伝う。それでも、ナイフを突き立てるのを私は止めない。
彼女がもう動けなくなるだろうと、私が確信を得られるまで。

「ごめんなさい」

 何度も、何度も、何度も。



 見ているだけで痛々しいほどにズタズタにされた彼女の両足を見て、
私はナイフを雪の上に放り投げた。

 そして盾が再び回る。

「うあああアアアァァァー!!!」

 悲鳴の絶叫。

 時の流れと共に、彼女の足からは血が噴き出される。

 彼女は自身の付けていた加速をそのままに、
雪の上にその身を放り出していた。

 彼女の倒れた真っ白な雪の地面は鮮血に染まり、私はその様子を見続ける事が出来ない。

 目の前の光景から逃げるために、私は美樹さやかに背を向けて歩き出していた。
59 :1 第三話は>>43から[saga]:2011/06/17(金) 19:22:25.11 ID:D3gV3+u70
 背後から私への罵声が浴びせられる。

「待てよ!ナメるんじゃないわよ!」

 ごめんなさい。

「戻れよ!戻れって言ってるだろ!」

 ごめんなさい。

「絶対に・・・お前だけは絶対に許さない!今度こそ必ず・・・!」

 ごめんなさい。



「トパーズリーダーよりトパーズ4!返事をしろ!」

「トパーズ4。障害は切り抜けた」

「無事だったか、良かった」

 その声からは本当に安心しているリーダーの様子が伺える。



 ちっとも良くない。

「トパーズ隊各員、作戦終了だ。撤収するぞ」

「「了解」」

 自分の足の治療を終えて、車両の近くに戻って来ていた
2機の”HIGH-MACS”と合流する。

 

 
 こんな戦争はいつ終わるのだろう。

 そう考えながら、私は粉のように柔らかい雪で敷き詰められた
白銀の世界を踏みしめていた。
60 :1 第三話は>>43から[sage]:2011/06/17(金) 19:23:04.11 ID:D3gV3+u70

61 :1 第三話は>>43から[sage]:2011/06/17(金) 19:24:03.12 ID:D3gV3+u70
ミッソン3、コンプリーツ。さやか好きゴメンネ。
続きはまた明日には投下できるはずです。
62 :[saga]:2011/06/18(土) 18:36:52.25 ID:THfWNdP30
オウフ、レスが何もついていない。でも怖くない。
みんな大好きミッソン4、投下します。
63 :1 第四話は>>64から[saga]:2011/06/18(土) 18:37:29.64 ID:THfWNdP30

64 :1 第四話は>>64から[saga]:2011/06/18(土) 18:38:10.43 ID:THfWNdP30
−−− 暁美ほむらの手記より −−−

 PEUの輸送を繰り返し襲撃していた我々であったが、
PEUの物量を抑えきる事が出来ず、ついにノヴォシビルスクは陥落する。

 攻略作戦の成功により、円滑な兵力輸送を可能にした
PEUの攻撃は凄まじく、APCはモンゴルまで撤退していた。

 開戦から三ヶ月、進撃を続け北京を目指す
PEU・ロシアの機甲部隊と、祖国を戦場にしたくない
中国の機甲部隊とが、モンゴルの大草原であいまみえる。

 シベリアでの戦いで甚大な被害を被った、
我々第501機動対戦車中隊も、ここモンゴルに展開していた。


※ PEU=凡ヨーロッパ連合 APC=アジア太平洋共同体
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/06/18(土) 18:38:24.31 ID:v/h7ndSCo
失礼、原作ゲー知らないと合いの手の入れようが……ごめんよね
あ、普通の戦記物として見れば良いのか……
66 :1 第四話は>>64から[saga]:2011/06/18(土) 18:38:45.52 ID:THfWNdP30
−−− ウランバートル近隣 2015 5/15 10:00 −−−

 俺達が戦場に着いてまず目撃したものは、中国軍の
13式歩行戦闘車が火花を上げて倒れるところであった。

 地上はすでに敵味方入り乱れての戦車戦に突入しており、
その上空では激しい制空権争いをしている事を感じさせる
いくつもの黒煙の帯が地上へ向けて伸びていた。

 頭上をかすめるかと思うくらいに、低高度を飛ぶEF2000戦闘機が
上空を通過する。それが俺達を狙っていなかった事にほっとしながら、
隊員にそれぞれ指示を伝える。

「トパーズ3、敵の新型が投入されているという話だ。ロケットポッドと
有線誘導ミサイルは、なるべく温存しておけ」

「トパーズ3、了解」

「トパーズ4、見ての通り遮蔽物もない草原だ。無理をせず、
俺達の後ろから付いて来い。無茶だけはするな」

「トパーズ4、了解」

 敵の新型。それは、カタログスペック上は俺達の乗る”HIGH-MACS”と
ほとんど変わらない戦闘力を持つ、PEUドイツ軍の”第二世代”であった。
ヤークトパンターと名づけられたその新型機が量産されている事を
知ってはいたが、それがついに実戦で俺達の前に姿を現すのだ。

 幸いな事に、レーダーにはそのような三次元機動を行う機影は
今のところ見えてはいない。新型が俺達の前に姿を現す前に、
出来るだけ他の敵を排除しておく必要があるだろう。

「優先順位はヘリ、戦車、歩行戦車だ。とにかく敵の数を減らせ。
トパーズ隊、行動開始!全員離れるな!」

 そして俺はスロットルを押し込み、ローラーダッシュを機動させて
緑の草原を駆け出した。
67 :1 第四話は>>64から[saga]:2011/06/18(土) 18:39:19.33 ID:THfWNdP30
 すぐ近くにレオパルド3戦車が4両、並んで走っていた。
彼らは砲塔をこちらに旋回させながら、前進を行っている。

 この”HIGH-MACS”も、彼らと同じような行動を取る事が出来た。
操作を一人で行うために、その操縦をマスターするには
慣れが必要であったが、”HIGH-MACS”は下半身を固定させて
前進を継続したまま、上半身を旋回させて目標に砲を向ける事が
出来たのだ。

 戦闘は長く続くだろう。ここで燃料を食い散らかしては後々が大変になる。
そう判断したため、俺は平面機動で戦車を撃破する事を決めた。

 互いに前進をしながら砲を向け合うようにするため、俺達と
敵の戦車とで円を描くような軌道を取る。

 敵からの砲撃が先にこちらへ届く。

 だが彼らの照準は甘く。俺達に命中する弾を発射する事が出来なかった。

 まだ実戦慣れをしていない新兵か?射撃ってのはこうやるんだ・・・

「よッ!」

 掛け声のように、俺は最後の言葉を口に出し、トリガーを押す。
先頭を走っていた戦車が砲等を吹き飛ばし、動きを停止させた。

 それに伴い、後続の戦車が隊形を乱す。そこに続けて浴びせられる
トパーズ3からの砲撃によって、さらに最後尾にいた戦車が
同じような末路を辿った。

 こちらへ砲塔を向けたまま後退する残りの2両に、それぞれ
俺達は1発ずつ撃ち込む。こうして、4つの黒煙を上げる
残骸が生み出された。
68 :1 第四話は>>64から[saga]:2011/06/18(土) 18:39:55.05 ID:THfWNdP30
「トパーズ各員、損害状況は?」

「トパーズ3、無傷です」

「トパーズ4、同じく」

 完璧な勝利。

 頼もしい奴らだ。そう考えていた俺達の足元に、
自走砲からのものと思われる砲撃が浴びせられる。

 抉り取られる地面の土。機体にガンガンと響く音から、
砲弾の破片が飛び散っている事が分かる。

「トパーズ4、俺達の肩に乗れ!安全は保障しかねるが、
地上にいるよりは・・・」

「もう乗っているわ、リーダー」

「それを聞いて安心した。降りる時は知らせてくれよ。
ロケットポッドが発射できない」

「分かっている」

 そして俺達は、砲撃を行っている敵を探し求め、
爆発を続ける地上をローラーダッシュで突破するよう、前進を始めた。
69 :1 第四話は>>64から[saga]:2011/06/18(土) 18:40:20.29 ID:THfWNdP30
−−− ウランバートル近隣 2015 5/15 10:10 −−−

 ローター音。ホーカムがこちらへ1機、近づいているのを
私は見つけた。明らかにこちらを狙っている。

「トパーズ4より、西からホーカム1」

「トパーズ4、迎撃出来るか?砲撃を受け続けながら
ヘリと戦闘を行う余裕がない」

「トパーズ4、了解」

 すかさず盾から携帯式地対空ミサイルを取り出す。
足場がふらつき安定せず、また時速60km前後で
動いている”HIGH-MACS”に乗っているため、
なかなかレティクルの中にヘリを捉えられなかった。

 やがてロックオンを知らせる表示がスコープ内に
浮かび上がり、私はトリガーを引く。

 ホーカムからフレアーが撒き散らされるものの、
発射されたミサイルのシーカーはその欺瞞に騙される事なく、
ホーカムのローター部分に突き刺さった。

 ローターがミサイルの爆発により跳ね上がる。
揚力を失ったその戦闘ヘリは地面にどすんと落ちるように落下し、
そして地上で火の玉へと生まれ変わった。

「撃墜」

「了解。こちらも敵砲兵が見えてきた」

 前方には、猛烈に砲身から火を噴き続けるPzH2000自走砲8両と、
四足の歩行自走砲、エレファント2両が見えた。

 その全てがこちらを狙っているわけではなかった。この砲兵陣地を
叩けば、俺達だけでなく味方も随分と楽が出来るだろう。

「そろそろ飛ぶぞ。今のうちに降りろ」

「私も一緒に飛ぶわ」

「振り落とされるなよ!」

 そうして、私を乗せたまま”HIGH-MACS”は
バーナーを吹かせ、天へと上った。
70 :1 第四話は>>64から[saga]:2011/06/18(土) 18:40:58.63 ID:THfWNdP30
−−− ウランバートル近隣 2015 5/15 10:15 −−−

「ここで降りるわ。大きい敵をお願い」

「了解」

 そう返事をし、トパーズ4が地上へ飛び降りるのを確認して
エレファントに照準を合わせる。

 全く動かないこの砲台に照準を合わせるのは容易な事であった。
見るからに頑丈そうなこの敵に、120mm砲を4発撃ち込む。

 全て命中したにも関わらず、エレファントはその4本の足で
地上に立ち続けていた。

 タフな野郎だ。

 しかし、次の一撃を加えようかと考えていた時に、敵は崩れ落ちる。
そして黒煙を上げ、中に居た搭乗員が逃げて行くのが見えた。

 トパーズ3からの砲撃は当たり所が良かったらしく、もう1両の
エレファントは派手に火柱を上げて吹き飛んでいた。

 トパーズ4は地上に降下しながら射撃を行っていたようで、
すでに自走砲2両が鉄くずになっている。

 生身の体で俺達の真似をするなんてな。魔法少女ってのは大したものだ。

「トパーズ4、離脱しろ。自走砲に砲撃を行う」

「トパーズ4、了解」

 地上に降りていた彼女はそう返事をしながら、もう1両の
自走砲に対して炎の筋を伸ばしていた。残る敵は5両。

 それぞれに手当たり次第に砲撃を加えながら、
俺とトパーズ3は再び地上に舞い戻った。

 もはやそこには、燃え盛る敵の残骸しか残されていなかった。
71 :1 第四話は>>64から[saga]:2011/06/18(土) 18:41:26.32 ID:THfWNdP30
「トパーズ4より、パンター2両が北から接近中」

「リーダー、了解」

 今は残骸となってしまったこの陣地の救援に来たのであろう。
だが、敵もそこまで余裕を持っているわけではないという事が、
その増援の少なさから俺は理解する事が出来た。

 こちらも必死だが、PEUも必死なのだ。

 燃料を節約するか、被弾の可能性を抑えるか。

 少し悩んだが、被弾を抑える選択を取る事にする。
命あってこそ、だ。

「トパーズ3、上から叩くぞ」

「了解」

 再び俺達の”HIGH-MACS”は空へ浮かび上がり、
遠くからこちらへ向けて接近するパンターへ向けて
照準を合わせる。

 平地で高速移動をするそれに照準を合わせるのは
少し骨が折れる作業であるが、空中に居る俺が納得できる位置まで
敵が近づいてきてくれたため、俺は砲撃を開始した。

 3回に分けて響く機体への振動。運良く一撃で仕留められたため、
念のために撃った残りの2発は、無駄弾に終わっていた。
迫り来るパンターは火を噴きながら進み、ゆっくりと停止した。

 相棒の戦果はどうだろう。

 そう思って向きを変えようとした時に、無線に悲鳴のような
声が混じる。

「トパーズリーダー、背後から新型機!」

 その警告を受けた時には、俺達は銃弾の雨に晒されていた。
72 :1 第四話は>>64から[saga]:2011/06/18(土) 18:42:01.20 ID:THfWNdP30
−−− ウランバートル近隣 2015 5/15 10:20 −−−

 迂闊だった。トパーズ隊の”HIGH-MACS”が、迫り来る
パンター2両を撃破するところを、私はじっと眺めてしまっていた。

 ふっと、自分の足元に影がかかる。

 上を見ると、まるで”HIGH-MACS”と良く似た機体が3機、
同じようにバーナーを吹かせて空を進んでいたのだ。

 ただしその肩に見えたものは、黒い鉄十時のドイツ軍国籍マーク。

 あれこそが例の新型機、ヤークトパンターであったのだ。

「トパーズリーダー、背後から新型機!」

 そう警告した時には、もう新型機は射撃を開始していた。
両翼の2機はガトリング砲を、中央の1機は滑空砲を。

 なんとかしなければ。盾から地対空ミサイルを取り出すが、
先ほどのヘリへの攻撃を終えた後に、ミサイルの再装填と
電源の交換を行っていなかった。

 急いでその作業を行っている間に、破片を散らしながら
落下してゆく2機の”HIGH-MACS”が目に入る。



 私の顔色は、さぞかし青くなっていた事であろう。

 だが、地上に降りる前に彼らは姿勢を制御し、地面に着くと同時に
ローラーダッシュで走り抜ける。それを見て、私はほっと息を付く事が出来た。

 ぐずぐずしてはいられない。私が何とかしなければ。

 ヤークトパンターの戦闘力は、パイロットの腕を考慮した上でも、
トパーズ隊の二人が操縦する”HIGH-MACS”と同等であるように思えたからだ。

 私は携帯式地対空ミサイルのスコープから、地上に降りる
ヤークトパンターの編隊を見つめていた。

 次に彼らが空に上がった時には、撃ち落すつもりでいたのだ。
73 :1 第四話は>>64から[saga]:2011/06/18(土) 18:42:27.51 ID:THfWNdP30
−−− ウランバートル近隣 2015 5/15 10:25 −−−

 地上に降りた3機のヤークトパンター。
2機はこちらに向けて旋回している様子が見えたが、
1機はそのまま直進を続け、レーダーの索敵範囲から消えて行った。

「トパーズ3、被害状況は?」

「まだまだ行けます」

「レーダーを見ると、1機どっか行ったように見える」

「こちらトパーズ3、こちらからもそう見えます
よその戦域に行ったのではないでしょうか?」

「ナメやがって」

 しかし、先ほどの不意打ちでこちらの装甲はかなり削られていた。
敵の数が減ったのは、素直にありがたかった。

 消えて行った機が、またこちらに不意打ちを仕掛ける
というわけではなければ、の話だが。

 見れば見るほど、敵のヤークトパンターはこちらの”HIGH-MACS”と
似ている事が分かった。外見はそうでもないが、平面戦闘において
下半身を固定させローラーダッシュをしながら、上半身だけをこちらに向けて
その両腕に搭載されているガトリング弾をばら撒いて来ている。

 彼らはまず俺から落とす事に決めたようだ。望むところだ。

 こちらもローラーダッシュをかけながら、砲塔を敵へ向け旋回させる。

 俺達と敵達とで交差する軌道を描き、その場に居た全員が
敵を自分の射線に捉えようとし、同時に敵の射線から逃れようともしていた。

「トパーズ3、上から援護します!」

「了解」



 確認をしている余裕はなかったが、背後のトパーズ3は
今ごろ、バーナーを吹かせて地上を走るヤークトパンターを
狙っている事だろう。
74 :1 第四話は>>64から[saga]:2011/06/18(土) 18:43:08.09 ID:THfWNdP30
 その考えは間違っていた。

 上から狙われる不利というものを、敵もよく知っていたのだ。

 俺の右側に居た敵機がバーナーに火を付け、空へと踊り出す。
続いて左側に居た敵機も、同じようにならった。

「くそったれ!」

 俺も続いてスロットルを押し込み、バーナーを吹かせる。
奴らのペースで戦闘をさせられている事に、俺は焦りを感じていた。

 地上で行われていたS字の交差する機動戦が、空中に舞台を変えて
繰り広げられる。俺の背後から、ミサイルが前方に向けて飛んでいった。

 このような機動を行う敵に対し、トパーズ3はミサイルロックのレティクルを
合わせ続けられなかったのであろう。

 俺の砲撃だって、この新型機にまともに命中していないのだ。
反対に奴らからの攻撃は、弾丸をばらまくガトリング砲のために、
少しずつ少しずつ俺の愛機の装甲を削っていた。
75 :1 第四話は>>64から[saga]:2011/06/18(土) 18:43:43.67 ID:THfWNdP30
「トパーズ4よりリーダー、右側の新型に攻撃する!」

 そう聞こえた時には彼女からの言葉通りに、右側に居た
ヤークトパンターの背後から迫るミサイルが見えていた。

 それは上手い具合に命中し、ヤークトパンターはバランスを崩して
高度を下げていく。

 続いて響く金属音。

 弱った敵に対し、後ろから付いていたトパーズ3が
ついに命中弾を放つ事に成功したのだ。

 そして、バーナーの継続限界近くになったため、空中に残されていた
俺達は順番に地上に降りる。

 最初に地上に叩き落されたヤークトパンターは、
何かしらの重大なダメージを負ったのであろうか。
 
 俺がその敵機の姿を確認する頃には、ヤークトパンターは
ローラーダッシュを機動させ一目散に戦闘から抜けていった。

 残された敵のヤークトパンターは1両のみ。
こちらは傷を負っているとはいえ、まだまだ動ける
"HIGH-MACS”が2両と、魔法少女が1人居る。

 この手強い敵との機動戦において、勝利を収めたのはこちらだと
俺はこの時点で確信していた。
76 :1 第四話は>>64から[saga]:2011/06/18(土) 18:44:20.94 ID:THfWNdP30
−−− ウランバートル近隣 2015 5/15 10:30 −−−

 目の前で繰り広げられていた機動戦がこちらに有利な展開となり、
私はふうと一息を付く。

 ふと気づくと、低空でこちらへ向かって接近するEF2000戦闘機の姿が見えた。

「警告!西から戦闘機!」

 そう警告をした私は、その戦闘機の異様さに気づく。

 何かがおかしい。

 それに気づいた時、私は自分の目を疑った。



 その戦闘機は、翼に人間を乗せていたのだ。

 ひらりと、その戦闘機から身を投げる人の姿。



 やがてその人影は、落下しながらその両手に大きな大砲を生み出し、
それを”HIGH-MACS”のいる方向へ向ける。

 よく、とてもよく見覚えがあった、その大砲。

 私が警告を発する暇もなく、それは光の弾丸を撃ちだしていたのだ。
77 :1 第四話は>>64から[saga]:2011/06/18(土) 18:44:47.59 ID:THfWNdP30
−−− ウランバートル近隣 2015 5/15 10:30 −−−

 光の帯が、戦闘機の姿を見ていた俺の目の前を通り過ぎる。

 続けて発生した、野戦砲の弾着時のような轟音と激しい揺れ。

 何があった。

 まだ続いている敵との機動戦を維持しながら、俺は無線を繋げる。

「トパーズ3、何が起きたか見えたか?」



 返事がない。

「トパーズ3、応答しろ」

 空電の音だけが応答を返す。

 やられちまったのか?冗談だろう。

「トパーズ3!応答しろ!」

 無意識に目を逸らしていたレーダー画面に目を向ける。

 そのディスプレイには、俺を示す光点と、正面右側に捉えている
ヤークトパンターの光点しか存在していなかったのだ。

「畜生が!!」

 こちらに何かを考える暇すら与えないかのように、砲塔を向けて
ガトリング弾をばら撒くヤークトパンター。
俺はS字の軌道を取りながら、敵に照準を合わせようとしていた。

 相手もまた変則的に軌道を変えるため、なかなか照準を
合わせる事が出来ない。こちらからの砲撃は、敵の近くの
地面を掘り起こすのみであった。
78 :1 第四話は>>64から[saga]:2011/06/18(土) 18:45:22.65 ID:THfWNdP30
−−− ウランバートル近隣 2015 5/15 10:30 −−−

 その少女は地面に近づくにつれて落下速度を落とし、
ふわりと地上に舞い降りた。その足元には、6本のマスケット銃が
いつの間にか地面に刺さっている。

「巴マミ・・・!」

 300mほどは離れていただろうか。私の声は、彼女には
恐らく届いてはいない。

 どうするべきか。話し合いをまず試みるか。

 そう考えた私の思考は、こちらに向けて発砲された
1発の弾丸によって吹き飛ばされる。

 何故、私の知る魔法少女が敵として立ちはだかるのか。

 私はライフルを盾から取り出し、安全装置を切り替える。
話し合いでなんとかなる相手ではない。

 私の記憶にある世界でも、今いるこの世界でも。



 射撃戦が始まった。

 彼女は大地を蹴り、ひらりひらりと空中を舞いながら
こちらに向けて銃を撃っては使い捨て、撃っては使い捨てを
繰り返す。そんな彼女が地上に降りる時には、必ず彼女の
足元にマスケット銃が生み出されていた。それを素早く拾い上げ
再び大地を蹴って宙を舞う彼女。

 ドン。ドン。その音が響く度に、私の足元の土が銃弾によって抉られる。

 そんな彼女を、私は走りながらライフルの連射で狙い撃つが、
およそ物理法則を無視したその空中の舞踏のおかげで、
まるで射撃が当たる気がしなかった。

 時を止めて一気に決着を付けるか。

 そうとも考えたが、私と巴マミとの間に距離がありすぎる。
今いる場所から時を止めて射撃を行っても、彼女に当たる気配がない。
接近して距離を詰めてから射撃を行えば命中する希望があるが、
距離を詰め終える前に時間停止のリミットが解除されれば
私の敗北は決定的となる。

 彼女が近接戦闘のプロでもある事を、私は知っているのだ。
79 :1 第四話は>>64から[saga]:2011/06/18(土) 18:45:59.62 ID:THfWNdP30
 互いに命中弾を得られない銃撃戦。私はなんとか距離を詰めようと
していたが、彼女の持つ本来は単発である銃からは、
およそ予想もつかないような弾幕に阻まれ、私と彼女との間にある
300mという距離を強制的に維持させられていた。

 このままでは埒があかない。

 いっそ、時を止めて勝負を賭けるか。

 そう考えていた私の足が、縛り付けられたかのように動きを止める。
いや、実際に縛り付けられていた。

 彼女の放った弾丸が地面に突き刺さり。
そこから黄色いリボンが生まれ、私の両足首に巻かれていたのだ。

 まずい。

 巴マミにはこれがあった。

 自らの記憶力のなさに不甲斐なく思う間もなく、
遠くに見える彼女が、その手に持つマスケット銃を大型の大砲へと姿を変える。

 その声は、私にもよく聞こえた。



「ティロ・フィナーレ!」

 急げ!盾を回し、時を止める。

 そうして、盾の中からナイフを取り出し、足に巻きつかれたリボンを
取り除こうとする。焦りのせいで、うまくリボンを切る事が出来ない。

 なんとか、自分の足にも切り傷を作りながら、リボンを取り払う。

 走れ、走れ、走れ。

 あと何秒の時が止めていられるかを数えるのも忘れて、
私はその空中に静止している光の弾の着弾地点から逃げていた。
80 :1 第四話は>>64から[saga]:2011/06/18(土) 18:46:25.55 ID:THfWNdP30
−−− ウランバートル近隣 2015 5/15 10:35 −−−
 
 何発かの命中弾は得られていたものの、目の前のヤークトパンターは
いまだ動きを止めず、こちらへ向けての射撃を続けていた。

 もうこちらの装甲にも限界が来ている。

 すでにガスタービンエンジンが被弾し、俺は飛び上がれなくなっていた。

 気づいてくれるな。

 敵と併走しながら、撃ち合いを続けて祈る。
そしてついに、俺の120mm滑空砲の残弾が無くなってしまった。

 俺からの射撃が途絶えたのを好機と見て、ヤークトパンターは
空へと浮かび上がる。

 まずい。

 急いでスロットルを引き戻し、バックのローラーダッシュをかける。
敵はこちらが後退するとは予想していなかった様子で、ゆっくりと
空中をこちらに向けて旋回していた。

 高速で後退をしながら、俺は最後のチャンスに賭ける。

 偶然にも距離が空けられたおかげで、あの機動性の高い機体を
ミサイルロックのレティクルに捉え続ける事が出来たのだ。

 当たれ。

 そう祈りながら、トリガーを押す。



 ミサイルは炎の筋を引きながら、ヤークトパンターへ向かって行く。
敵もそれに気づいたらしく、バーナーを急いで切り、高度を急速に
下げていた。

 だがおかげで、後退を続けていた俺は、敵機から更に距離を
取る事が出来た。そのため、ヤークトパンターを囲むターゲットマーカーを
余計にレティクルに収めやすくなったのだ。

 そのまま炎の筋は敵の頭部パーツ付近に命中し、
ヤークトパンターは地上に叩きつけられるかのようにして降り立つ。
81 :1 第四話は>>64から[saga]:2011/06/18(土) 18:47:09.09 ID:THfWNdP30
 地上に降りたヤークトパンターは、しばらく動きを停止させていた。

 やったのだろうか?

 しかし、それはすぐにローラーダッシュを機動させ、
こちらに向かってくる。



「ここまでか」

 独り言が漏れる。

 だが、ヤークトパンターはこちらに砲塔を向けながらも、
下半身を旋回させてゆっくりとUターンをしていた。

 やがて砲塔の向きをその下半身と一致させ、反対側の方向へ
音を立てて退却して行く。


 
 その姿を見て、俺は自分が生き残れた事を理解した。

 俺達は、奴らを撃退したのだ。



「司令部よりトパーズ隊。緊急事態だ。
モンゴルがAPCから離反した。このまま戦闘を継続すれば、
我々はモンゴル軍とPEU軍に挟撃される恐れがある。
大至急、撤退しろ」

「了解。トパーズ4、聞こえていたか?」
82 :1 第四話は>>64から[saga]:2011/06/18(土) 18:47:42.30 ID:THfWNdP30
−−− ウランバートル近隣 2015 5/15 10:35 −−−

 草の香りがする。

 ティロ・フィナーレによる爆風に吹き飛ばされ、
私は頭から血を流しながら地面に横たわっていた。

 近づく足音が私の耳に聞こえる。

「ここまでやるなんてね。予想外だったわ」

 その言葉に続き、私のこめかみに当てられる冷たい感触から、
倒れている私の頭にマスケット銃を突きつけられている事を理解する。

「命まで取るつもりはないけど、あんまり暴れたら保障しかねるわ。
おとなしくしていなさい」

 おそらく、彼女の言葉は嘘ではないのだろう。
私の記憶の中にいる彼女は、このような性格をしていたのだ。

 このまま捕虜となってしまえば、もう戦争など続けずに済む。

 一瞬だけ、そんな考えが脳裏をよぎる。

 しかし、この世界規模の総力戦の間にあって、
捕虜となった魔法少女が敵国からどのような扱いを受けるのか。

 新型兵器の情報などとは比べ物にならないほど、
私は自身の持つ能力と肉体が、機密の塊である事を理解していたのだ。

 だから・・・

「いいえ。そのつもりはないわ」



「そう。それがあなたの答えね」
83 :1 第四話は>>64から[saga]:2011/06/18(土) 18:48:18.84 ID:THfWNdP30
 盾を回す。

 盾から拳銃を取り出し、止まった時の中を立ち上がり、巴マミの背後を取る。

 そして彼女の後頭部に銃口を突きつけ、盾が再び回りだす。



 彼女は、目の前から私が消えた事に驚いていたのであろう。

 しばしの沈黙の後、彼女は言葉を出す。

「・・・どうやって・・・」

「形勢逆転ね」

「私をどうするつもり?」

「あなたが抵抗しないのであれば、何もしない」



 やがて目の前の巴マミは、観念したかのように首を振り、
魔法少女の変身を解いて迷彩服の姿に変わる。

 その様子を確認した私は、彼女の後頭部に
突きつけた拳銃を下ろした。

 完全に彼女を信用したわけではなかったが、
変身を行っていない魔法少女が使える魔力は、
限られた物になる事を知っていたからだ。
84 :1 第四話は>>64から[saga]:2011/06/18(土) 18:48:57.13 ID:THfWNdP30
 背をこちらに向けたまま、巴マミは言葉を続ける。

「騎士道精神に溢れる、あなたの名前を聞かせて欲しいわ」

「暁美ほむらよ」

 彼女は振り返り、しばらく私の目を見つめていた。



「私は巴マミ」

 そしてゆっくりと右手を、私の前に差し出す。

 握手を拒む理由もない。私はその手を握り返す。

「お互いに二度と会う事のないよう、努力したいものね。
話し合いで事が済むのは、きっとこれが最初で最後だろうから」

「そうかもね。否定はしない」

 そして彼女は私から手を離し、背を向けて駆けて行った。



 こんな戦争はいつ終わるのだろう。



 彼女の背中を見つめているうちに、無線機が言葉を流し出す。

「司令部よりトパーズ隊。緊急事態だ。
モンゴルがAPCから離反した。このまま戦闘を継続すれば、
我々はモンゴル軍とPEU軍に挟撃される恐れがある。
大至急、撤退しろ」

「了解。トパーズ4、聞こえていたか?」

「ええ、聞こえているわ。そちらに合流する」

 そして私はゴーグルの横についたボタンを何回か押し、
トパーズ1の居る位置を調べ、そこへ向けて駆け出した。
85 :1 第四話は>>64から[sage]:2011/06/18(土) 18:49:29.57 ID:THfWNdP30

86 :1 第四話は>>64から[sage]:2011/06/18(土) 18:51:52.72 ID:THfWNdP30
ミッソン4、コンプリーツ。
>>65 原作知らないのにこんな駄文見てくれて感謝ですよ〜。

明日はニコ生の予約取ってたまどかをねっとり見るつもりなので、
次回は明後日になるかもです。
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/06/18(土) 18:54:32.77 ID:v/h7ndSCo
多人数視点の参考にするつもりで読んでます。
乙彼さまでした



……この世界にもまどかはいるのかしら?
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[sage]:2011/06/18(土) 21:56:26.04 ID:jIyfijYmo
一週目のまどかなのかラストのまどかなのかで話が半端無く変わりそうだな
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[sage]:2011/06/19(日) 14:12:23.62 ID:Ro+xjAvXo
戦場に魔法少女が投入される時代か・・・
日本人の彼女達がなぜヨーロッパ側についてるんだろう
90 :1[sage]:2011/06/19(日) 15:30:50.64 ID:RC4Z1IPi0
>>89
やっぱり>>43の描写だけじゃ投げっぱなしすぎましたね。スマミセン。

もう最終話近くまで書き溜めはあるのですが、
ステージクリア型のゲームであるガングリフォンで
最後まで設定の描写を盛り込めるような場所が見つかりませんでした。

ので、ずるいとは思いますがここで説明させて下さい。



魔女退治が各国の軍隊の手で行われているこの世界では、
グリーフシードの管理もやはり各国の手で行われています。

魔法少女は強力な戦力となる事は間違いないのですが、
魔翌力の回復のために必要なグリーフシードの供給は、無限ではありません。
グリーフシードがなくなり、魔翌力を失った魔法少女がどうなるか。

まどか原作を知らない方のためにぼかして言いますが、
魔翌力を枯渇させた魔法少女という"制御不能な兵器"など
軍隊には必要ありません。それどころか危険です。

そのような理由から、この世界の各国では、魔法少女を片っ端から
入隊させてはおりません。魔法少女の定数というものが存在するはずだと、
筆者は考えているのです。

ほむほむは>>43の通り、偶然にも日本自衛隊にスカウトされます。
そして中国の圧力によりAPCに日本の兵力を送り出す日本外人部隊が創設され、
その一員として配備されました。

けれど、マミさんとさやかは違いました。
日本自衛隊の魔法少女の定数が満たされていたため、彼女達の前には日本自衛隊の
スカウトが出現せず、別の国家からのスカウトを受けざるを得なかった。



筆者の中ではそのような脳内設定となっております。
ついでに、マミさんはPEUイギリス軍所属。さやかはPEUドイツ軍所属としております。
91 :1[sage]:2011/06/19(日) 15:35:52.55 ID:RC4Z1IPi0
>>88->>89
もちろん、原作の5人の魔法少女は全員出します。
まどかは先に言ってしまうと、ファイナルまどかではありません。
ファイナルまどかのチート能力を考えると、彼女一人さえいれば、
そもそもこんな戦争もきっと起きっこないように思えますから・・・

思ってたよりまどか早く見終わったので、第五話の見直しをしてから、
今晩中には投下いたします。日曜に家に篭るのは最高の贅沢。
92 :[sage]:2011/06/19(日) 19:46:30.57 ID:RC4Z1IPi0
>>90でsaga忘れるわ>>91でレス番間違えるわ。でも何も怖くない。
続き投下します
93 :1 第五話は>>94から[saga]:2011/06/19(日) 19:47:50.61 ID:RC4Z1IPi0

94 :1 第五話は>>94から[saga]:2011/06/19(日) 19:48:24.18 ID:RC4Z1IPi0
−−− 暁美ほむらの手記より −−−

 モンゴルの離反によりAPCは決戦に敗北し、
シベリア共同体のロシアからの独立も失敗に終わった。

 戦いに勝利したPEUは南下を続け、北京に向けて進撃を開始。

 万里の長城の京包線に北京防衛の最終ラインを引いた中国は、
APC各国政府に圧力を加えて兵力を送らせ、防衛に当たった。

 大同(タートン)正面の防衛は、中国軍の人海戦術と熱狂的犠牲攻撃により
守られていた。

 戦争の長期化と劣勢のためにAPCは物資不足に悩み、
第501機動対戦車中隊も燃料不足で飛べないでいた。


※ PEU=凡ヨーロッパ連合 APC=アジア太平洋共同体
95 :1 第五話は>>94から[saga]:2011/06/19(日) 19:48:52.20 ID:RC4Z1IPi0
−−− 大同 2015 5/24 14:00 −−−

 爆発音。万里の長城は世界遺産に認定されてはいたが、
国家間の総力戦の前に、そんな肩書きは何の役にも立たない。

 俺達の防衛しているエリアに、長城への砲撃から空いた穴から
敵機甲部隊が侵入して来るのを俺はレーダーから確認していた。

「トパーズリーダーより、敵が侵入したようだ。迎撃に向かうぞ」

「こちらトパーズ4、了解」

 もう2人だけとなってしまったトパーズ分隊。

 それでも俺達の持つ戦闘能力は、貧弱な中国軍の寄せ集めの
部隊よりは遥かに強力なものであると認識されていたらしく、
この重要エリアの守備は俺達を除いては僅かな味方戦車しか居ない。

 従って、このエリアに侵入した敵の排除は、俺達が行うしかないのだ。

 スロットルを押し込み、ローラーダッシュを機動させる。

 長城に空けられた穴は、俺達の現在地からすぐ近くであるため、
移動を兼ねてそのまま戦闘速度まで加速をかける。

 なにしろ燃料の補給が得られず、俺の”HIGH-MACS”は
バーナーを吹かす事が出来ない。

 俺は今や翼をもがれた鳥となってしまっていたのだ。

 平面機動戦を行う他に手がないため、スピードだけが
身を守る盾となる。

「リーダーより、殲滅より回避行動を優先。
こんな所で死ぬなよ」

「トパーズ4、承知している。死ぬつもりなんてないわ」
96 :1 第五話は>>94から[saga]:2011/06/19(日) 19:49:26.93 ID:RC4Z1IPi0
 世界遺産に空けられた穴からは8両のレオパルド3戦車が侵入していた。

 彼らは侵入をしてそのまま散開を始め、2両ずつの編隊を組み
南下を続ける。

 俺は最初に目にした編隊へ向けて加速を続け、すれ違いざまに
砲撃をそれぞれの戦車に1発ずつお見舞いする。

 強固な装甲を誇るレオパルド3ではあったが、こちらの”HIGH-MACS”
の持つ車高のおかげで砲撃は自然とトップアタック気味となっており、
発射した120mm砲弾は戦車を易々と貫通した。

「こちらトパーズ4。背が高いのはうらやましいわね。
私もリーダーの肩に乗っていいかしら?」

「トパーズリーダー、ネガティブ。散開した戦車が俺達を囲もうと
動いている。俺と一緒に狙われる必要はない。
俺を囮だと思って行動してくれ」

「トパーズ4、了解」

「時計回りに敵編隊を撃破する」

 そのまま次の標的へ向け、ローラーダッシュを継続する。
速度を殺してしまっては、各個撃破のチャンスを逃すのみならず
こちらが包囲されるリスクが高まってしまう。

 次の編隊が見えた時には、もう敵戦車はこちらへ砲塔を
向け終えていた。

 撃たれる。

 だがその戦車のキャタピラへ向けて、トパーズ4から
発射されたロケットが炎の筋を引いて伸びてゆく。

 攻撃を受けてなおレオパルド3は砲撃を行うが、
ロケット弾の爆発による反動のためか、
戦車からの砲撃は明後日の方向へ向かっていった。

 もう片方の戦車は、砲塔を旋回させてロケット弾の
出所を探しているように見える。
 
 それを見た俺は一気に彼我の距離を詰め、
先ほど撃破した編隊と同じようにすれ違いざまに
砲撃を加えた。
97 :1 第五話は>>94から[saga]:2011/06/19(日) 19:50:05.65 ID:RC4Z1IPi0
 2連続の爆発。敵戦車の編隊は黒煙を上げ、
その活動を停止させていた。

「トパーズ4より、敵戦車4両接近中」

 レーダーを確認すると、残っていた戦車は再び密集隊形を取り
丘の向こう側からこちらに向かって来ていた。

 厄介だな。空を飛べれば何て事はないのだが・・・

 そう考えていた俺の頭上に、味方のAH-64Dロングボウアパッチ
攻撃ヘリがその影を落とす。

 ヘリから爆炎が上がり、4発のミサイルが丘の向こう側へと
飛んで行く。続けて4つの火柱が見えると同時に、
レーダーに映っていた光点は姿を消した。

 ありがたい。

 戦闘ヘリはそのまま、ミサイルを放った方向へ向けて飛び続け
やがて視界から消えていく。

「リーダーよりトパーズ4、今のうちに穴を塞ぎに行くぞ」

「トパーズ4、了解」

 そうして俺は再びスロットルを押し込み、
長城に空けられた穴を目指して前進を続けた。
98 :1 第五話は>>94から[saga]:2011/06/19(日) 19:50:30.11 ID:RC4Z1IPi0
−−− 大同 2015 5/24 14:15 −−−

 立派な長城の壁は、その部分だけ崩されて
敵の機甲戦力が通行出来るほどの大きさの通路を作り出していた。

 私はそのくずれた瓦礫に飛び乗り、長城の上まで飛び上がった。
そして壁面に身を伏せて、長城の向こう側を見渡す。

 まだ距離はあったが、敵の歩行戦車が向かってくるのを
私は視界に捉える。

「ティーガー4両が接近中。距離1000mほど」

「100mごとにカウントしてくれ」

「了解」

 ゆっくり歩いて近づくそれは、なかなかここまで到着しなかった。
左右を警戒しながら、じわじわと迫る敵編隊。

「200m・・・・100m・・・」

 そして先頭を歩くティーガーが穴の中に侵入する。

 穴を越えて私達の防衛エリアに侵入したティーガーに向け、
”HIGH-MACS”の砲撃が開始された。

 激しい爆音と共に、ガン、ガンとティーガーの装甲が奏でる
金属音が私の耳に響き渡る。

 それを確認すると同時に、私は穴の中に対戦車地雷をばら撒く。
それを終えてから、長城の向こう側で待機している
ティーガーの1両に狙いを定め、対戦車ロケットを発射させた。

 長城の上から狙っているとはいえ、頑丈なティーガーを
1発で仕留められるとは思っていなかったため、続けてすぐに
2発目を撃ち込む。

 戦果を確認したかったが、残り2両のティーガーは
攻撃を長城の上から受けていると気づき、砲塔をこちらに向け
旋回させつつあった。

 私が急いで長城から味方側へ飛び降りると同時に、
私の居た場所から発生した爆風が私の体へ届く。

「穴はこれでしばらく塞がったわね」

 長城に作られた穴は、ティーガーの残骸で埋まっていた。
99 :1 第五話は>>94から[saga]:2011/06/19(日) 19:51:01.21 ID:RC4Z1IPi0
「司令部よりトパーズ隊。燃料を積んだ補給車がそちらに到着した」

「トパーズリーダー、了解」



「今のうちに行って来たら?しばらく敵はここを通れないわ」

「そうだな。こちらが飛べないまま、敵の新型がまた来たら
今度こそやられちまう。長城の見張りを任せても大丈夫か?」

「問題ないわ」

「頼む。敵に動きが見えたら、すぐに知らせてくれ。
一人で戦おうとするなよ」

「トパーズ4、了解」

 そうして、”HIGH-MACS”は来た道を引き返し、
補給を受けるために後方へ下がっていった。

 長城の向こう側にいるティーガーは、1両が味方の残骸を
乗り越えるようにして穴を通ろうとしたが、私の撒いた地雷を踏みつけ
激しい爆発を起こし、黒煙を上げてさらに高くなった残骸を生み出していた。

 残された敵機は、長城に第二の穴を作るべく砲撃を加えていたが、
中途半端な砲撃によって長城の壁は崩れ落ち、
先ほど空いていたような通行可能な穴を作り出せないでいた。

 敵砲兵からの砲撃があるまでは安全だろう。
 
 私はそう考えながら、丘の頂上付近に身を伏せ、
じっと長城の様子を監視していた。
100 :1 第五話は>>94から[saga]:2011/06/19(日) 19:51:34.94 ID:RC4Z1IPi0
 やがて、長城の向こう側にいたティーガーは諦めたらしく、
辺りは静寂に包まれていた。

 正確には、遥か遠方からドン、ドンと激しい戦闘が行われている
砲撃音が聞こえてはいたのだが。

 

 じっと長城を監視したまま、15分は経過したであろうか。
そう考えた私が時計を確認しようとしたところ、
ヒュルルルルという落下音が私の耳元に届いた。

 反射的に地面を蹴り、その場所から身を離す。

 その砲撃は私を狙っているわけではなかった。

 しかし敵は、長城に第二の穴を穿つべく、長城へ向けて
激しい砲撃を行っていたのだ。

 その証拠が、今、私の目の前で行われている
大規模な爆発と、耳に届く轟音である。

「トパーズ4よりリーダー、長城に砲撃が行われている!」

 私は砲撃の音に負けないよう、力の限り無線機に叫ぶ。

「・・・す・・・ち・・向・・」

 砲撃音に掻き消され、返信が聞き取れなかった私は
ゴーグルの横のボタンを押し、"HIGH-MACS”が見ているものと
同じ景色を眺めようとした。

 そこにデータリンクされたレーダー画像から、トパーズリーダーが
こちらへ向かって高速移動を始めた事を私は理解する。
101 :1 第五話は>>94から[saga]:2011/06/19(日) 19:52:03.10 ID:RC4Z1IPi0
 しかし、今はもう砲撃の音もしなくなり、辺りは土煙に覆われていた。

 ゴーグルを赤外線モードに切り替え、じっとその土煙の中心を
私は見つめ続ける。

 やがて見え出す、熱源の反応。

 ゆっくりと大きくなるその姿から、彼らは第二の穴を開く事に成功し、
こちらの防衛エリアに再び侵入してきている事を私は理解した。

 敵の総数は不明だが、あれだけの時間を待っていたのだ。
今、食い止めなくてはまずい。

 私はそう考え、盾の中から携帯式対戦車ミサイルを取り出し、
その熱源をレティクルに合わせ続けた。

 先鋒にティーガー1両。

 ミサイルはすでにロックオンを果たしていたため、私はトリガーを引き
その歩行戦車へ弾頭を送り込む。

 弾頭はティーガーの脚部に命中し、続けて起きた爆発に敵は
バランスを崩して、穴の出口で倒れこんでいた。

 だが、敵は戦闘力を失ったわけではなかった。

 ゆっくりと起き上がりながら、その砲塔をこちらに向けて
旋回するティーガー。

 次弾を撃ち込もうとミサイル発射機のスコープを覗いていた私は
それを目にして、即座に大地を蹴ってその場から離れようとした。
102 :1 第五話は>>94から[saga]:2011/06/19(日) 19:52:30.89 ID:RC4Z1IPi0
−−− 大同 2015 5/24 14:35 −−−

「一人で戦うなつっただろうが!」

 俺はそう叫びながら、よろよろと起き上がるティーガーに向けて
ローラーダッシュをしながら、照準にその姿を捉えていた。

 考える間もなく、右手のトリガーを2回押す。これまでの戦闘の中で
何度も何度も行ってきたその行為は、ほとんど無意識のものであった。

 再び地面に押し倒されるティーガーの姿。続けてそこから炎の玉が
生まれ、その穴の周辺の土煙を一時的に爆風で吹き飛ばしていた。

 穴の向こう側に、大勢の歩行戦車がひしめいているのが見える。

 先ほど補給を受けた燃料を、早速使う時が来た。

 俺がスロットルを押し込むと、”HIGH-MACS”はバーナーを吹かせて
空へと飛び上がる。

 空中から見た敵は、ある程度の間隔を空けていたとはいえ、
順番待ちのために密集している様子であった。

 その数はゆうに10を超えている。

 俺は迷わず武装スイッチをロケットポッドに切り替え、
ろくに狙いもせずにその辺りに向けてばら撒く。

 ばららっ、と機体からポッドが投擲される音が聞こえる。
そしてほどなくして、地上に集まっていた哀れな敵達は
次々と生まれる炎の海に飲み込まれていた。

 そのまま長城の向こう側へ着地をし、まだ行動を続ける
パンターに照準を合わせる。

 そのパンターは、不意をつかれたためかパニックに陥っている様子で、
空に向けた砲塔を旋回させ続けていた。

 落ち着いて俺は照準の中にパンターを捉え、滑空砲弾を撃ち込む。

 機体を停止させて周囲を見渡すと、一面の炎の海と
動かなくなり黒煙を上げる無数の鉄くずだけがそこにはあった。
103 :1 第五話は>>94から[saga]:2011/06/19(日) 19:53:06.63 ID:RC4Z1IPi0
 さらに向こう側から、ヘリが近づいてくるのが見える。

 とっさに武装をミサイルに切り替えるが、その姿が
先ほど俺達を救ってくれたロングボウアパッチの物である事に気づき、
俺はほっと一息ついた。

「トパーズリーダーよりトパーズ4、今なら安全だ。
まだ地雷が残っていれば、また散布しておいて欲しい」

「トパーズ4、了解」

「結果的には助かった。その事には礼を言う。
しかし、一人で戦おうなんてしないでくれ。
俺はもう、仲間を失いたくない」

「ごめんなさい」

 言い争うつもりはない。そのため、俺は無線のスイッチを切る。
そして、こちらに向かうロングボウアパッチを見つめる。

 さっき俺達を助けてくれた機体だろうか。それとも、別の機体だろうか。
104 :1 第五話は>>94から[saga]:2011/06/19(日) 19:53:32.34 ID:RC4Z1IPi0
 そんな事を考えているうちに、その戦闘ヘリの後方上空から
EF2000戦闘機が降下しながら突っ込んでくるのが見える。

「おい!!」

 その声が彼らに聞こえるはずもない。
聞こえたところで無駄ではある事も理解していた。

 降下している戦闘機と、水平飛行しているヘリコプター。
どちらが速いのかなど、子供でも分かりそうなものであったからだ。

 そのEF2000はミサイルを発射し、ロングボウアパッチを
1つの大きな火球へと変化させた。

 そのまま戦闘機は俺の頭上を過ぎ去って行く。

 それを見つめる俺の視線から遥か上空に、多くの歩行戦車が
降下して来ているのが見えた。

「司令部よりトパーズリーダー。敵の空挺部隊が降下してきている。
防衛エリアから排除せよ」

「トパーズリーダー、了解。トパーズ4、行くぞ」

「了解」

 情報が遅えんだよ。そう俺は心の中で毒づいていた。
105 :1 第五話は>>94から[saga]:2011/06/19(日) 19:54:05.03 ID:RC4Z1IPi0
−−− 大同 2015 5/24 14:40 −−−

 地雷を穴へ向けて放り投げていた私はそう返信を返し、
後方へ向けて駆け出していた。

 6の落下する影が、私の視界には入ってきていた。

 幸いな事に、彼らはかなりの高度から降下を開始したようで、
彼らが着地を行う前に、私達は彼らをそれぞれの武装の射程内に
捉える事が出来た。

 盾から携帯式対空ミサイルを取り出し、いつものように
空中の敵にレティクルを合わせ続ける。

 私がロックオンをする前に、”HIGH-MACS”が先に
ミサイルを発射していた。

 空中で爆発した敵機を見て、別に競争しているわけでも
ないのだが、私も急いでトリガーを引く。

 私が発射したミサイルも、狙いを付けていた敵機に命中し
再び空に花火を作り出す。

 私がミサイルの再装填作業を行っている間にも
”HIGH-MACS”はミサイルの発射を続け、私の装填作業が
完了した頃には、空中には合計で4つの黒煙の塊が残されていた。

 残るは2両。

 残された敵機にロックオンを完了させ、私はミサイルを発射する。
その炎の筋は、敵機へ向かっていつものように吸い取られて行く。

 だが、その敵は空中を動いた。

 私から見て右側に、その敵は空中を泳いだのだ。

 目標を通り過ぎてしまったミサイルは、その敵がばら撒いていたフレアーに
騙されてしまったため、明後日の方向へ飛んでいってしまう。

「トパーズリーダーよりトパーズ4、新型だ。
可能な限り援護してくれ」

「トパーズ4、了解」

 返事を待たずに、”HIGH-MACS”はバーナーを吹かせて
空中に居る敵に向けて飛び上がっていた。
106 :1 第五話は>>94から[saga]:2011/06/19(日) 19:54:40.65 ID:RC4Z1IPi0
−−− 大同 2015 5/24 14:45 −−−

 ヤークトパンターとの機動戦に付き合わされると厄介だ。

 俺は前回の戦闘からそれを学んでいた。
 
 だから、敵機が着地を行う前にケリをつけようと、スロットルを押し込み
バーナーを吹かせ、俺は空に上がったのだ。

 まだ十分に距離はある。先ほど撃ち落した他の敵機と同じように、
ヤークトパンターをレティクルに捉えて、俺はトリガーを押し込んだ。

 ”HIGH-MACS”からミサイルが放たれるのを確認する。
そしてロックオンを切らさないように、ヤークトパンターを
レティクルの中に捉え続ける。

 だが、奴らもこちらの攻撃を読んでいるようであった。
こちらのミサイルが、光学誘導式だと知っていたためか、
着弾間際になってそのヤークトパンターは空中を動く。

 咄嗟のその移動に俺はレティクルから敵を逃してしまい、
ミサイルは遠くへ向けて飛んでいってしまう。

 やっちまったか。

 もう片方のヤークトパンターに向け、ミサイルを発射する。

 こちらの敵機は回避機動を行う事なく、その両腕に搭載されている
ガトリング砲を使用し、ミサイルの弾頭を粉々にしていた。

「クソが!」

 毒づく俺が乗る”HIGH-MACS”は、もうバーナーの継続時間の限界に来ていた。
先に地上に着地した俺に、頭上から文字通りの弾丸の雨が降り注ぐ。

 機体に響く金属音を聞きながら、俺はローラーラッシュを使い
敵の射線から逃れようと前進を始めた。

 やがて地上に降り立つ2機のヤークトパンター。
彼らも俺を追いかけるように、甲高いローラーダッシュの音を鳴らし
俺の背後から迫ってきていた。
107 :1 第五話は>>94から[saga]:2011/06/19(日) 19:55:13.10 ID:RC4Z1IPi0
 S字の軌道を取りながら、俺はローラーダッシュを継続する。

 時折、愛機に衝撃と金属音が伝わって来るものの
敵からの連射を受け続ける事はなく、彼らの弾丸のほとんどは
俺の足元の地上をほじくり返していた。

 逃げているだけでは勝てない。

 二つの射線から逃れながら、こちらの滑空砲を敵に向けるために
”HIGH-MACS”のローラーダッシュにより下半身を旋回させ、
上半身はより深い角度に旋回させる。

 2機のヤークトパンターは散開し、俺を中心とした時計回りに
機体を旋回させながら、こちらを狙い続けていた。

 片方に狙いを定め、ジグザクに前進をしながら砲撃を加える。

 目標に起きる爆発。砲弾が当たった。

 命中弾は得られたものの、1発や2発で撃破されるほど
ヤークトパンターの装甲はやわではない事も、俺は前回の戦いから学んでいた。

 そのまま前進を続け、敵からの弾幕を切り抜ける。

 ある程度の距離を取れたところで、再び愛機を旋回させて
敵の方向を向き、ジグザグに前進をする。

 そこで俺は、ある事に気づいたのだ。
108 :1 第五話は>>94から[saga]:2011/06/19(日) 19:55:38.32 ID:RC4Z1IPi0
 前回の戦闘であれほど得られなかった命中弾を、
なぜ今回はいきなり得られたのか。

 前回の戦闘からの経験から、といえばそれまでなのかもしれないが
今回の敵は、前回のように不規則な軌道を取っていない。

 2機で俺を囲むように、俺を挟んで周囲を旋回しながらこちらを
狙ってきていたのだ。

 必ず、時計まわりで。

 その推測は、俺が弾丸の雨に晒されながらも、
注意深く彼らを観察していく内に、確信へと変わっていく。

 見えた。これが俺の勝利への道だ。

 片方のヤークトパンターに狙いを定め、ジグザグに
前進を始める。

 こちらがジグザグに前に進んでいるため、狙われているヤークトパンターは
若干は軌道を修正しながらも、相変わらず時計まわりで俺に向けて
弾丸を浴びせていた。

 俺は武装スイッチを、ロケットポッドに切り替える。

 広範囲を攻撃する武装であるため、空中から使用しないと
ロケットポッドは有効な打撃が与えられない。それはよく理解していた。

 それでも、俺は躊躇なく、前方のヤークトパンターが
移動するであろう予測地点へ向けて、照準を合わせた。

 そしてトリガーを押す。

 時計まわりを続けていたヤークトパンターは、突然生み出された
炎の海の中に突っ込んで行く。

 そして炎の海から抜け出した時には、敵機はそのスピードを大きく落としていた。
おそらく、ローラー部分に大きなダメージを与えられたのであろう。

 そうして動きが鈍くなった敵機へ向けて、炎の筋が伸びていく。

 頼りになる相棒から放たれたそのミサイルは、
ヤークトパンターの行動を完全に停止させる事に成功する。

 その敵機は足を止めて、砲塔を地面に向けて下ろしていった。
109 :1 第五話は>>94から[saga]:2011/06/19(日) 19:56:14.60 ID:RC4Z1IPi0
 トドメを刺すべく、俺は動きの止まったヤークトパンターへ向けて
右手のスティックを操作し、照準を合わせる。

 そしてトリガーを押す。心地よく伝わる、愛機への反動。

 だが、砲弾は目標へ届く事はなかった。

 もう片方のヤークトパンターが、射線に割り込んできたのだ。

 仲間をかばうように、その場に足を止めながらこちらへ射撃を続ける
ヤークトパンター。

 動きを止めた歩行戦車など、もはや俺の敵ではなかった。

 先ほど彼らが俺に対して行っていたように、今度は俺が時計回りの
軌道を描いて、そのヤークトパンターへ射撃を続ける。

 停止したヤークトパンターと、俺との射線に割り込もうとする動きと、
こちらへの射撃しか行わないその敵機は、4発目の120mm弾を撃ち込まれた時に、
機体の上部から爆発を起こした。

 

 そして脱出してくる、ドイツ軍のパイロット。

 最初に撃破されたヤークトパンターからも、すでにパイロットが
脱出しており、二人は並んでこちらを見つめていた。



 彼らが優れたパイロットだとは知っていた。

 ここで逃がしてしまえば、彼らが俺達に更なる被害を
もたらすであろう事も理解はしていた。

 それでも、彼らを殺そうとする気持ちは、俺にはなかった。

 俺の心の中には、彼らに対する敬意のようなものが生まれていたのだ。



 俺は彼らに向けていた120mm砲を旋回させる。

 彼らに背を向け、次の敵を求めてローラーダッシュを機動させる。

「トパーズリーダーより、敵機2両撃破。
トパーズ4、支援に感謝する」
110 :1 第五話は>>94から[saga]:2011/06/19(日) 19:56:40.76 ID:RC4Z1IPi0
−−− 大同 2015 5/24 14:55 −−−

「トパーズ4よりリーダー、お互い様よ」

 そう返答した私は、その場に残って黒煙を上げ続ける
ヤークトパンターの残骸から目を離せなかった。

 残されたパイロットが、遠ざかる”HIGH-MACS”を見つめている。

 そして二人は互いを抱き合い、その場に立ち尽くしたままであった。

 何を喋っているのかは聞き取れないが、彼らの会話の内容に想像は付く。



 私は、モンゴルの草原で出会った巴マミの事を思い出していた。
互いが殺しあう戦場の中でも、人間は友情を作る事が出来るのだ。

 私と巴マミだけが特別だったわけではない。

 私のトパーズ隊のリーダーが、私にこうして目の前の光景から
それを教えてくれたのだ。

 私達は、いつまで殺し合いを続けなければならないのか。



 こんな戦争はいつ終わるのだろう。



 溢れてきた涙を腕で拭う。

 私は”HIGH-MACS”が消えていった方向へ向けて駆け出していた。
111 :1 第五話は>>94から[sage]:2011/06/19(日) 19:57:13.01 ID:RC4Z1IPi0

112 :1 第五話は>>94から[sage]:2011/06/19(日) 19:58:18.20 ID:RC4Z1IPi0
ミッソン5、コンプリーツ。
さあ明日はみんなのトラウマ、6面デスゾー
113 :[saga sage]:2011/06/20(月) 19:47:38.30 ID:NmipF2d/0
ただいマミマミ。
ガングリ原作でも超展開のミッソン6、投下します。
114 :1 第六話は>>115から[saga]:2011/06/20(月) 19:48:36.79 ID:NmipF2d/0

115 :1 第六話は>>115から[saga]:2011/06/20(月) 19:49:18.19 ID:NmipF2d/0
−−− 暁美ほむらの手記より −−−

 開戦から半年、世界は新たな局面を迎えた。

 自由の擁護と独立支援を名目に、再び世界の憲兵を宣言したアメリカは、
APC・PEUの両陣営に対し宣戦を布告。それと同時にAPCの海・空兵力を
壊滅させた。

 黄砂が舞う8月中旬の早朝、米海兵隊は連雲港(リエンユンカン)に上陸。

 タイ・シンガポール軍のAPC離脱と同時にオーストラリアから中国本土へ
移動し、米軍の中国本土侵攻の防衛に当たる第1空中機動師団の
第504対戦車機動中隊。

 先の戦いで壊滅した我々第501機動対戦車中隊の残存戦力は、
中国本土防衛に当たる第504機動対戦車中隊に統合され、
迫り来るAFTA連合軍を迎え撃つ。


※ PEU=凡ヨーロッパ連合 APC=アジア太平洋共同体
※ AFTA=アメリカ自由貿易地域
116 :1 第六話は>>115から[saga]:2011/06/20(月) 19:49:51.14 ID:NmipF2d/0
−−− 連雲港 2015 8/13 5:05 −−−

「後方からミサイル!」

「落とせ!絶対に撃ち落せ!!」



 それは、空挺作戦を行うために輸送機に乗っていた俺達の会話だった。

 度重なるPEUとの戦闘で、戦力のほとんどを失ってしまった
第501機動対戦車中隊。

その僅かな生き残りである俺達は第504機動対戦車中隊に配属され、
新たに編成されたガーネット分隊の一員となっていた。

 相変わらず俺はガーネットリーダー、彼女はガーネット4。

 そんな俺達に与えられた任務は、連雲港にある空軍基地からの
要人脱出の護衛。すでに包囲されたその空軍基地は、
もはや輸送機を使っての空路しか脱出口がなかったのだ。

 包囲された空軍基地に陸路から侵入する事も出来ず、
俺達ガーネット隊もまた改造されたC-130輸送機に
”HIGH-MACS”ごと乗りこみ、米軍の手に制空権を握られた中国の空を
自殺行為同然の空挺作戦のために飛んでいる時の事であった。

 後部ハッチを開け放した輸送機の後部から、
迫りくるミサイルへ向けて30mmガトリング砲弾をばら撒く。

 俺達に向けて発射された2発目のそれは、先にここに飛来していた
1発目のミサイル同様に空中で分解し、俺達の乗る輸送機に当たる事はなかった。

「レーダーにはまだ反応が残っている。
まだ基地からは遠いが、先に降りさせてもらってもいいか?」

「了解。こちらもさっさと引き返したい」

「引き返すのと、連雲港に降りるのとどっちが安全なんだろうな」

「もう中国に安全な場所なんてないさ」

 俺達とは違い、輸送機は自分の身を守る手段を持たない。
俺達よりよっぽど、このC-130のパイロットは勇気を振り絞っているのだろう。

 そう考えた俺は、すぐに降下しようと思っていたのを考え直す。

 出来る限りは、この輸送機を守りたかったのだ。
117 :1 第六話は>>115から[saga]:2011/06/20(月) 19:50:26.64 ID:NmipF2d/0
 そんな願いも、俺の視界に入ってきたものに容赦なく打ち砕かれる。

「敵機!太陽からホーネット!」

 言葉通りに太陽を背にして接近する、米軍のF/A18戦闘機。

 それは俺が警告を発すると同時に、機関銃を発射しながら
こちらに向けて降下して来ていたのだ。

「ガーネット隊!限界だ、降りるぞ!」

 俺の”HIGH-MACS”は、後部ハッチから空へと躍り出る。
俺の指示に彼女が従っていれば、ガーネット4は
俺の機体にしがみついているはずであった。



 そして、俺の機体に響く爆音と衝撃。
”HIGH-MACS”の背後から押される爆風を感じながら、
俺は無線を繋ぐ。

「ガーネット隊、全員応答しろ!」

「ガーネット4、なんとか無事だわ」

 風を切る音が無線に混じりながら、彼女からの応答が得られる。



 聞こえたものは、それだけであった。

 俺達を撃ってきた戦闘機は、弾薬が尽きたのか燃料が尽きたのか、
自由落下をしている俺に攻撃を加える事なく、旋回して引き返して行く。

 それを確認できた俺は、眼前に広がる空軍基地を見やる。

 まだ高度があったため、全体を見渡す事が出来たその基地は、
四方八方を大量の歩行戦車、車両などに囲まれていた。

 まだ彼らは包囲網を引いたまま、基地への突入を図っていない。

 それならば、今のうちに各個撃破をするしか道はない。

 そう考えたため、俺はバーナーを吹かし、
一番手前の敵陣へ向けて”HIGH-MACS”の降下を制御していた。
118 :1 第六話は>>115から[saga]:2011/06/20(月) 19:51:02.44 ID:NmipF2d/0
 俺が目を付けた陣地には、幸いな事に対空兵器が
配備されていない様子であった。ゆうに20を超える車両が、
俺の”HIGH-MACS”のレーダーに光点を作り出す。

 このような陣地が、少なくても見えているだけで7つ。
それだけの敵に、この空軍基地は包囲されていたのだ。

 これからそこへ飛び込む俺を見る人間が居れば、
気が狂ってるとでも思われるのであろう。

 だが、もはやこの東アジアの海と空はAFTAの物と
なっており、今更になって戦場となっている日本本土に
俺は戻る事も出来ない。

 牙が折れるまでは戦い続けてやる。

 俺はそう考えていたのだ。

「ガーネットリーダーより、敵の数が多すぎて
全滅させる余裕はない。ロケットポッドをばら撒いて、
このままこいつらの上空を通過する」

「ガーネット4、了解」

 肩から降りろという意味と、ロケットポッドを散布するから
敵陣に飛び降りるなという二つの意味を込めて指示を伝える。

 まだ高度があり、ロケットポッドの集弾効果が得られそうになかったが、
何もせずに見ているよりはマシだと考え、俺は武装スイッチを切り替える。

 俺の姿に気づいた戦車は行動を開始していたが、
やがて俺の作り出した灼熱の大地に飲み込まれた彼らは
その陣地の中で黒煙を上げ、動きを止めていた。

 脱出路はここからにするか、と考えていた俺であったが
今、俺が破壊した陣地へ向けて、隣の陣地からの増援の車両が
向かってくるのがレーダーから理解できた。

 穴をいくら作ろうと、米軍はすぐにそれを塞ぐ。

 これまでにない程の厳しい戦いになると考えながら、
俺は空軍基地の滑走路を目指して降下制御を続けていた。
119 :1 第六話は>>115から[saga]:2011/06/20(月) 19:51:36.36 ID:NmipF2d/0
−−− 連雲港 2015 8/13 5:20 −−−

 その基地に到着した頃には、もう敵の進撃は開始されていた。
度重なる砲撃のために、地面のいたるところに穴が開き、
大量の車両の残骸と、発進できないまま破壊された
航空機の残骸がこの基地には溢れていた。

 敵が進撃を始め、砲撃が終わっている今のうちに
発進するつもりなのか。頑丈そうな格納庫から、
大型の輸送機がゆっくりと滑走路へ向けてタキシングを始めていた。

「ガーネットリーダーより、命令では輸送機を守る事に
なっているが、何より自分の命を優先しろ」

「ガーネット4、了解」

 このような開けた場所では、生身の体で走り回っていては、
砲撃が当たっただけで終わりである。

 ボロボロにされた基地施設の建物も、私の身を守ってくれるとは
考えにくい。

ガーネット4、基地周辺の森に隠れながら行動する」

「リーダー、了解」

 そう考えた理由は他にもあった。

 基地に進撃を始めている機甲部隊は、じきにガーネットリーダーに
よって排除されるだろう。そうなると、味方を巻き込む心配のなくなった
砲兵が砲撃を再開するはずだ。

 その前に、私が砲兵を片付ける必要がある。

 私達は散開し、それぞれの仕事に取り掛かった。
120 :1 第六話は>>115から[saga]:2011/06/20(月) 19:52:06.05 ID:NmipF2d/0
−−− 連雲港 2015 8/13 5:25 −−−

 一番近くに居た敵の編隊に目を付け、俺はローラーダッシュを
機動させる。それは、M1A3戦車4両からなる編隊であった。

 いつものように、ダッシュを継続しながら砲塔をそれに向ける。

 戦車もこちらに砲塔を向けつつあったものの、その動きは
とても鈍いものだと俺には感じられた。

 これまで戦闘を続けてきた歴戦のPEU軍機甲部隊と、
ポっと出のひよっこAFTA軍機甲部隊。
おそらくは、そういう差もあったのだろう。

 落ち着いて戦車を1両ずつ、照準に合わせる。
そして、愛機の移動に次の敵の照準を任せて、
走りながら120mm砲の4連射を見舞う。

 順番に砲塔を吹き飛ばす戦車を見ながら、
我ながら鮮やかな手並みだと自己満足を得る。

 だが、俺は機体に伝わる爆音と大きな衝撃に、
その慢心を打ち消される事となった。

 すでに俺の側方に、別の戦車隊と米軍の”第一世代”歩行戦車、
M16が展開していたのだ。

 レーダーから目を離したら囲まれてしまう。

 すぐにスロットルを押し込み、空へと逃げる。

 そして、彼らがこちらに向けて砲塔を向けるのを
眺めながら、その順番が早い敵から照準を合わせ、
120mm砲弾を送りつける。

 敵から攻撃をされる前に3両のM16を撃破したものの、
残る1両のM16と2両の戦車から俺に向けた砲撃が開始された。

 これまで戦って来たヤークトパンターの動きを真似て、
空中でこまめにバーナーを制御し、”HIGH-MACS”に
不規則な軌道を描かせる。

 それはこれまでの戦闘でも、また今の戦闘でも非常に効果的な
回避方法であり、俺は砲弾の雨に晒されてはいたものの、
落ち着いて残りの敵車両に照準を合わせ、順番に炎の玉へと
生まれ変わらせていた。
121 :1 第六話は>>115から[saga]:2011/06/20(月) 19:52:44.13 ID:NmipF2d/0
 迫り来る敵を各個撃破できている、と言えば聞こえはいいのだが、
このやり方が米軍の得意な戦術である事を、俺は知っていた。

 小編隊を敵にぶつけて、さらに後方から小編隊を送る。
後方から到着した小編隊は、それまで戦闘をしてきた小編隊と
交代して戦闘を継続し、また後続の小編隊を待つ。

 所謂、波状攻撃という戦術だ。

 敵を休ませない事を目的とするこの戦術は、
特に今の俺のように数の少ない相手には効果があるはずだった。

 ある程度の味方車両が残っていたとはいえ、ほとんどの敵を
俺は一人で片付ける必要がある。

 残弾はどうするか。燃料も心配だった。

 そんな俺の思考も、レーダーに映る光点によって停止させられる。
また側方から敵が迫っているのが分かったのだ。

 今の編隊と同じく、M16が4両と、戦車が2両。

 出来る事なら上から叩きたかったが、もうバーナーの
継続限界に来ていた俺は地上に降りる。

 そして燃料が心配だったため、再び空へ上がる事をせずに
ローラーダッシュを機動させて旋回戦に持ち込もうとする。

 まだ戦闘は始まったばかりなのだ。
122 :1 第六話は>>115から[saga]:2011/06/20(月) 19:53:09.47 ID:NmipF2d/0
−−− 連雲港 2015 8/13 5:30 −−−

 森の中を掻き分けて進む私は、車両の走行音が聞こえたため
さっと地面に伏せる。

 米軍の戦車分隊が、その森の木々の間を縫うように
前進をしていたのだ。

 狭い森の中で先頭車両の行動を停止させれば、後続の動きも
止める事が出来るだろう。

 そう考えた私は、迷わずロケット砲を取り出し、そして戦車の
キャタピラを狙ってトリガーを引いた。

 爆音と共に、行動を停止させるM1A3。

 それは動きを止めただけであって、戦闘力を失ったわけではない。
ゆっくりと砲塔がこちらへ向かって旋回する。

 全ての敵を倒す必要もないため、私は土の地面を蹴って移動する。

 そして私の居た地点に届く砲撃。

 砲撃の轟音を森の中に響かせながら、
木が何本か、めきめきと音を立てて倒れていった。

 私の予想通り、敵戦車の編隊は足を止め、森の中で
立ち往生していた。

 すぐに行動を再開するのであろうが、しばらくは時間を
稼げるはずだ。

 そう考えながら、私は自分の本来の目標を求めて
森の中を再び駆け出した。
123 :1 第六話は>>115から[saga]:2011/06/20(月) 19:53:45.17 ID:NmipF2d/0
 やがて見えてきたその陣地には、MLRS多連装ロケットシステムを
搭載した大量のM270車両と、M15ランドクラブ歩行戦車が
ひしめいていた。
 
 車両はただのトラックにロケット砲を積んだだけのような代物であるが、
巨大な砲台を搭載したM15は、私の携帯式の火器では撃破は
困難であるように思えた。

 そのため、M270だけに狙いを集中することにする。

 これだけの数の敵を攻撃するために、私の盾に収納されていた
迫撃砲を森の木々の間に設置していく。一つ残らず。

 そして、私は発射のためのリモコンを押した。

 次々と迫撃砲は砲弾を発射し、敵陣に向けて落下して行く。

 着弾した迫撃砲弾は、やがて敵のロケット弾に次々と誘爆し
”HIGH-MACS”のロケットポッドが生むような火の海が、
その陣地には出来上がっていた。

 やりすぎたかと最初は思ったが、それでもまだ見えていた敵の
半分ほどしか撃破出来ていない。

 米兵がこちらへ向けて走ってくるのが見える。

 ほとぼりを冷ましてから、またこの砲兵陣地に襲撃をしに戻ろう。

 そう考えて、森の中を引き返している時であった。



(ほむらちゃん!)



 私の心の中に、突然聞こえた声。

 私を呼びかけるそのテレパシーが、魔法少女特有の能力で
あるという事を私は理解している。

 そして、私はその声の主を知っている。

 知らないはずがないのだ。

 何よりも守りたかった、彼女の事を。
124 :1 第六話は>>115から[saga]:2011/06/20(月) 19:54:27.44 ID:NmipF2d/0
(まど・・・か・・・?)



(ほむらちゃんも私の事、知ってたんだ)

 知らないはずがない。この声の持ち主のために、
今までの私は存在してきたと言っても過言ではない。

 私は全てを思い出していた。
彼女の声が、私の記憶を全て甦らせたのだ。

 私の思いをどう伝えるか悩んでいる間にも、
まどかは私の心の中へ言葉を続ける。

(どうやって私の事、調べたの?)

 どうやって調べたですって?調べるまでもないじゃない。
私は、あの見滝原であなたの事を・・・
125 :1 第六話は>>115から[saga]:2011/06/20(月) 19:54:55.29 ID:NmipF2d/0
 そこまで考えて、私に一つの疑問が浮かぶ。
こちらの世界での私は、見滝原でまどかと会っていない。

 まどかだけではない。これまでに戦場で出会って来た、
こちらの世界での美樹さやか、巴マミも同様であり、
彼女達もまた私の事を知らない様子であった。

 何故、まどかだけが私の事を知っている?

(でも、しょうがないか。お互いに敵同士なんだし。
相手の事を調べるのは、当たり前だよね)



 そう心の中に声が届いた時には、彼女は空から舞い降り
私の目の前に立っていた。

 ピンクを基調にした色の衣装、髪に付けられた赤いリボン。

 私の記憶の中の鹿目まどか。その姿のままであった。


 戦場の歩兵の必需品である、無線マイク付きの多機能ゴーグルを
装着していること。



 そして、私に対してその手に持つ魔法の弓を構えている事以外は。

「まどか・・・どうして・・・」

 目の前の彼女の姿も私には衝撃であったが、
その前に私に向けられた彼女からの心の言葉の方が、
より私にとっての大きな衝撃であった。

 確かに、まどかは私達を指してこう言った。

 ”敵同士”だと。
126 :1 第六話は>>115から[saga]:2011/06/20(月) 19:55:31.62 ID:NmipF2d/0
−−− 連雲港 2015 8/13 5:40 −−−

 最後のロケットポッドを使い切ってしまった。

 空挺作戦のために弾薬を”HIGH-MACS”に満載できなかったとはいえ、
戦闘開始からこのような短時間で弾切れを起こすなど。

 地上で激しい爆発を起こしているM-19A1を眺めながら、
俺に対してガトリング弾を発射し続けていた、
残る2両の同型機とどう戦うものか。俺は悩んでいた。

 M-19A1ブルータルクラブ歩行戦車。

 アメリカ製の最後の”第一世代”となったその歩行戦車は、
4本の足、それを繋ぐ胴体、胴体に搭載された火器。
それだけのシンプルな構造の機体であった。

 名前通り、カニのような外観を持つその機体は、4本の足に
それぞれ搭載されているローラーのおかげで、三次元機動は
行えないものの、平地での機動性は”HIGH-MACS”を
軽々と超えているものであった。

 それだけでも厄介であるのに加え、地面に這うように機動するそれは、
小型の戦車のように前方投影面積が小さい。

 こちらから攻撃を加えるには、高速移動するその機体に照準を合わせるために
照準を左右に忙しく動かさなければならないのに加え、こちらの砲を地表近くに
向けなければならなかった。上下の照準操作も必要であったのだ。

 結果として、こちらからの滑空砲弾が彼らに当たる事はなかった。

 だから俺は仕方なく、ロケットポッドを空中からばら撒き、
ゴリ押しで1両を撃破していた。

 地上戦では、間違いなくPEUのヤークトパンターより厄介な相手である。

 俺は祈るように、空中から降下をかけながら、地面を這い進みながら
こちらに射撃を続けるM19に砲撃を浴びせようとする。

 だが俺の祈りもむなしく、砲弾は地表のコンクリートに穴を空けていく
だけであった。俺の”HIGH-MACS”には、敵からの攻撃が当たる音が
ガン、ガンと散発的に響く。

 残弾の心配もあるが、何より当たらなければ話にならない。

 敵の装甲が貧弱なものである事を願い、俺は武装スイッチを切り替え、
30mmガトリング砲を発射できるよう準備をしていた。
127 :1 第六話は>>115から[saga]:2011/06/20(月) 19:56:05.82 ID:NmipF2d/0
 地上に降りた俺は即座にローラーダッシュを機動させ、
M19との旋回戦に持ち込もうとする。

 だが、こちらからしてみれば幸運でもあり、少し拍子抜けを
する事態ともなった。M19はこちらへの射撃を止めて、
一目散にローラーダッシュで戦闘から退避していったのだ。

 また次の”波”か。

 ちらりと護衛目標の輸送機を見やる。

 滑走路にすでに着いていたそれは、発進準備にもたついていたのか、
ようやくエンジンを始動させたところであったようだ。

 幸か不幸か分からないが、敵は脅威となる俺に対して戦力を向け続けていた。
そのおかげで、友軍部隊と輸送機は、いまだ無事であったのだ。

 人気者になったものだ。

 レーダーには、次の”波”が押し寄せて来ているのが分かる。

 非常に困った事に、その敵達は俺より高い高度から。
つまり空を飛んでこちらに向かって来ていた。

 三次元機動を行う敵の姿。

 それは、かなりの高速で移動していたため、すぐに俺の視界に
入って来ていた。

 俺の乗っている”HIGH-MACS”と全く同じ外観の機体が3両。
それがバーナーを吹かして、空からこちらに突進してくる。

 俺が驚いた理由は、その機体が迫ってきていたからではない。

 俺の乗る12式装甲歩行戦闘車”HIGH-MACS”は、
日本企業である三菱と、米国企業であるマグダネル・ダグラス社の
合同プロジェクトによって製作された歩行戦車であったからだ。

 その歩行戦車が、AFTA軍においてVW-1 ”HIGH-MACS”として
正式採用されているのは当然の事である。

 問題なのは、俺の愛機と全く同じ性能を持つ敵と、
1対3で戦わなければならないという事実。

 俺は即座に、武装スイッチを有線誘導ミサイルに切り替えた。
128 :1 第六話は>>115から[saga]:2011/06/20(月) 19:56:38.88 ID:NmipF2d/0
−−− 連雲港 2015 8/13 5:35 −−−

「ほむらちゃんが、とっても悪い魔法少女だって
こっちの兵隊さんは私に教えてくれた。それでも、
私は同じ魔法少女同士で殺し合いなんてしたくない」

「だから、ほむらちゃん。武器を捨てて投降してくれないかな」

 弓を構えてこちらに向けたまま、じっと私を見据える彼女の眼差し。

 こちらの世界でも、まどかの性格は私の記憶のまま。
その事だけが、今の私にとっての救いであった。

 このまま投降してしまおうか。

 そうすれば、こんな戦いを続けずに済む。



 そう考えていたはずなのに、私は彼女の意志に従うのを拒んでいる。
私が投降すれば、捕虜という立場もそうであるが、私自身という機密のために
私は”それなり”の待遇を受ける事になるであろう。

 対して、今のまどかはAFTA軍の重要機密ともいえる存在。
私が投降した後に彼女と会話を行う機会は、おそらく用意などされない。

 それでは、意味がない。

 もうこの時点には全てを思い出していた。

 まどかだけではない。

 5人の魔法少女が手を取り合い、全員が幸せになれるように。

 そう願いながら、私が戦ってきた事を。

「私達には、戦わずに仲良くする選択肢はないの?」

「私だってほむらちゃんの事を信用したい。
けれど、AFTAの兵隊さんが言ってる事も、嘘だと思えないの」

 きっとまどかはアメリカで良くされてきたのであろう。
それは、私とて同じ事だった。私達の部隊の皆だって、
私を何度も助け、守ってくれてきたのだ。

「だから、お願い。変身を解いて、武器を捨てて」
129 :1 第六話は>>115から[saga]:2011/06/20(月) 19:57:13.23 ID:NmipF2d/0
 沈黙。



 お互いの目を見つめあいながら、私達はこの森に立っている。



「・・・ごめんね」



 光の矢が放たれる。
 
 それと同時に、私達の頭上に3両の機影が見えたが、
今の私にはそれをリーダーに警告する暇などない。

 盾を回す。

 まどかには、どうしても危害を加えたくない。

 だから、私は祈るように後方へ駆ける。とにかく遠くへ。



 再び盾が回る。

 まどかの能力は、よく知っているつもりだった。

 その光の矢は、目標へ向けて自ら食らい付く魔法の矢。
だから私は距離を取り、木の陰に隠れたのだ。



 彼女が、その能力を人間に向けた事など一度としてなかった。

 だから、私はその威力を知らなかったのだ。

 

 光の矢が太い木の幹を容易く貫通し、そのまま私の足を貫くまでは。
130 :1 第六話は>>115から[saga]:2011/06/20(月) 19:57:42.18 ID:NmipF2d/0
−−− 連雲港 2015 8/13 5:40 −−−

 まだ距離があるうちに、撃ち落す。

 俺はそう考え、”HIGH-MACS”の1機に狙いを定め、ミサイルロックの
レティクルに敵を捉え続けていた。

 そして、トリガーを押す。愛機から発射されるミサイル。

 それと同時に、彼らが俺に向けてロケットポッドの投擲を
行っているのが、俺の視界に入る。

 3機の”HIGH-MACS”から放たれるロケットポッド。
その破壊力をよく知っている俺は、ミサイルの誘導を諦めて
スロットルをバーナー位置まで押し込み、愛機を空に舞わせた。

 機体に伝わる激しい爆風の衝撃。

 ここからは見えないが、今頃、地上ではさぞかし
大きなクレーターが出来上がっている事であろう。

 飛び上がりながら、迫る敵に向けてもう1発、ミサイルを放つ。

 運が良かったのか、それとも狙っていたのか。彼らはそれと同時に
地上へ向けて降下し、ローラーダッシュを機動させてこちらに砲塔を
向けながら走り回る。

 おかげで、俺のロックオンは空中の敵を狙っていたため、
レティクルが敵の”HIGH-MACS”から外れてゆく。

 望みは絶たれた。

 高速機動をする敵に対し、接近戦をしながら
ミサイルロックを手動で行う事など出来はしない。

 俺はどうにかして、この3両の同型機と砲撃戦で
勝利を収めなければならない。

 空にいる間にも彼らに向けて照準を向けるが、
さすがに新鋭機に搭乗するパイロットは優秀だった模様で、
彼らは見とれるような回避運動を取りながらこちらを狙い続けていた。

 やがて俺にもバーナーの継続限界が迫り、地上へ向けて降り立つ。

 即座にローラーダッシュを機動させ、俺は走り出した。
131 :1 第六話は>>115から[saga]:2011/06/20(月) 19:58:19.97 ID:NmipF2d/0
 これまでの戦闘の経験から、射撃の腕には自信があった。

 高速の旋回戦の中、回避運動を取り続ける敵に対し、
俺は数発の120mm滑空砲を当てる事が出来ていた。

 しかし、それは敵の動きを沈黙させるには至らない。
その事は、被弾を重ねる俺の愛機が証明していた。

 コクピットに鳴り続ける射撃警告アラート。

 それに時折混じる、激しい爆音と衝撃。
その衝撃は、ローラーダッシュの加速を一時的に止めるほどの強さである。

 俺は回避運動を取りながらも、敵からの射撃を全てかわす事が出来なかった。
何しろ、3両の”HIGH-MACS”から狙われているのだから。

 まだ機能の大半は無事であるが、もはや装甲の限界も近いのであろう。

 それでも、俺は反撃を続ける。



 そして120mm砲は、その残弾をなくしてしまう。

 もはや、勝利は不可能だ。30mmガトリングの残弾こそあるものの、
120mm砲弾に耐える”HIGH-MACS”の装甲の前には、効果は薄い。
俺が敵を倒す前に、確実にこちらが倒れるであろう。

「ガーネット4!撤退!撤退するぞ!」

 どこに逃げるのかなど、見当もつかなかった。
だが、もうそれしか俺の取れる行動はなかったのだ。

 回避行動を続けながら、俺は必死に考える。

 どうする。

 どうする。

 俺の視界に入った輸送機。それは、離陸のために
滑走路でスピードを上げている最中であった。

 これしかない。

「ガーネット4、聞こえているか!
輸送機に飛び乗れ!ガーネット4!」
132 :1 第六話は>>115から[saga]:2011/06/20(月) 19:58:47.77 ID:NmipF2d/0
−−− 連雲港 2015 8/13 5:40 −−−

 傷を手でおさえ、治療をさせる。
そうしないと、私は立ち上がる事さえ出来なかったのだ。

 ようやく痛みが和らいできたところに、
私の目の前に再びまどかが空から降り立つ。

「お願い。変身を解いて、武器を捨てて。
ほむらちゃんをこれ以上、傷つけたくない」

 そう言いながら、彼女は私に弓を向け続けている。

 あの魔法の矢からは逃げられない。

 

 私は盾を回す。

 魔力の連続使用に眩暈がするが、なんとか立ち上がり
彼女のそばへ歩く。

 そして、彼女の持つソウルジェムを私は奪い取る。

 離れすぎてはまどかの肉体は死んでしまう。だから、
私は少しだけ彼女から距離を取り、再び盾が回るのを待った。



「・・・・・・?」

 驚いた様子で私を見つめる彼女は、すぐに事態を理解する。

「ほむらちゃん・・・それ、私の・・・」

「私からも言わせて貰うわ。あなたと戦いたくはない。
だから、変身を解いて、武器を捨てて」

「・・・お願い、まどか」



 まどかは弓を下ろさない。

 変わらず、私に向けてその弓を構えていた。
133 :1 第六話は>>115から[saga]:2011/06/20(月) 19:59:25.00 ID:NmipF2d/0
 まどかの意思を挫くのは、容易い事ではない。

 私は、それを良く、とても良く知っていた。

 彼女は自分の信じるもののためなら、このような状況になっても
私を攻撃する可能性がある。決して低くはない、その可能性。

 だから、私は賭けに出る。

「お願い、私を信じて」

 そう言って、私はまどかにソウルジェムを投げる。
せっかく奪い取った、いわば”人質”。

 慌てた様子で、放り投げられた自分のソウルジェムを掴むまどか。
その目からは、明らかに困惑している様子が伺える。

「どうして・・・?」

「私を信じて」



 長い沈黙。

 まどかはソウルジェムを両手に抱いたまま、私に弓を構えてはいない。

「ガーネット4!撤退!撤退するぞ!」

 そんな!

 せっかくまどかと話し合えると思ったのに!

 だが私がここに残り、力尽きてしまえば、何の意味もない。

 まどかはAFTA軍に所属している。
この先もきっと、AFTAは勝ち戦を続けていく。
彼女はそこまで大きな危険と向き合う事もないだろう。

 そう願いながら、私はまどかに背を向ける。

 リーダーと合流するために、森の地面を駆け出した。



 こんな戦争はいつ終わるのだろう。

 私の背後から、光の矢が飛んでくる事はなかった。
134 :1 第六話は>>115から[saga]:2011/06/20(月) 19:59:50.87 ID:NmipF2d/0
 滑走路が見えた時には、もう輸送機は発進準備を整え、
滑走路の上で加速をかけていた。

 すぐ側には、砲撃の雨を縫うようにローラーダッシュをかけ、
機体の至る所から白い煙を上げる”HIGH-MACS”。

「ガーネット4、聞こえているか!
輸送機に飛び乗れ!ガーネット4!」

 私のいる位置と輸送機とでは、まだかなりの距離がある。

 無茶を言う。

 敵に追われていたガーネットリーダーの”HIGH-MACS”が、
バーナーを吹かして滑走路を走る輸送機の上に飛び乗るのが見えた。

 間に合わない。

 そう判断した私は、盾を回す。

 意識が朦朧とし、倒れそうになるが、なんとか持ちこたえる。
そして輸送機へ向け、コンクリートの上を駆ける。

 輸送機の近くまで駆けつけたところで、盾が再び回ってしまった。

 しかし、時が止まっている間に詰めた距離のおかげで、
私はギリギリで輸送機の背に飛び乗る事が出来た。

 輸送機の背後からは、迫る3機の米軍”HIGH-MACS”の姿。
明らかに彼らが輸送機を狙っている事を理解したため、
私は煙幕弾を盾から取り出し、周囲に手当たり次第放り投げる。

 煙幕に向けて砲弾が突き刺さってくるのが見える。
しかし幸運な事に、この巨大な輸送機は被弾する事なく、
離陸速度まで加速をかけていた。

 煙が薄れてきた頃には、こちらを追ってきていた”HIGH-MACS”は
はるか後方におり、こちらへの追撃を諦めていたようであった。

 彼らの持つミサイルが光学照準である事を思い出し、
念のために煙幕弾をもう一度ばらまく。

 やがて輸送機は地面を離れ、私達は空へと上がって行った。
135 :1 第六話は>>115から[sage]:2011/06/20(月) 20:00:26.75 ID:NmipF2d/0

136 :1 第六話は>>115から[sage]:2011/06/20(月) 20:01:26.01 ID:NmipF2d/0
ミッソン6、コンプリーツ。
ガングリ原作を遊んだ方にとっては、魔改造なM6となりました。
続きの投下も、また明日。
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/06/20(月) 20:04:32.52 ID:eetyOPAJo
乙でした。



……今更ながら、戦争根絶を願う魔法少女っていないのかしら?
って言うか契約時に願いが叶うなんて甘っちょろいシステム無さそうでもあるけど
138 :1 第六話は>>115から[sage]:2011/06/20(月) 20:12:54.67 ID:NmipF2d/0
・・・普通にそれ考えていませんでした・・・

国家規模の戦争を止める事が出来るほどの因果を背負った少女が居なかった、とか

少女「戦争を止めて!」
QB「そんなの無理に決まってるよ」
と嘘をついたとか・・・そんな感じで脳内保管を・・・

戦争という絶望を撒き散らす絶好の機会を、QBは止めたいとか思わないでしょうし・・・
あ、あと原作12話に戦場の中で祈り続ける少女とかいたし・・・

どんどん膨らむ言い訳ワールド。ゴメンナサイ。
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)[sage]:2011/06/21(火) 01:46:58.55 ID:guQHkFkro
最高に俺得なスレを見つけてしまった
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[sage]:2011/06/21(火) 18:16:52.89 ID:2O0KPa8so

それにしても優秀な魔法少女放置して全部外国にとられるとか
なんとも日本らしいというか微妙にリアルで嫌だなww
141 :[sage]:2011/06/21(火) 19:50:20.17 ID:IVdD6O4b0
>>139
ガングリ+まどか=最高に俺得なのは筆者も同じでございます。
誰か書いてくれないかなー誰も書かないだろうなー。そう考えたら
勢いで文章を打ち込み出し、勢いでスレ立てをしていた。もう何も怖くない。
>>140
詳しい事は筆者も知りませんが、日本政府に諜報って概念あんのかな・・・
そんなイメージは付きまといますよね。

それではミッソン7、投下します。
142 :1 第七話は>>143から[saga]:2011/06/21(火) 19:51:52.02 ID:IVdD6O4b0

143 :1 第七話は>>143から[saga]:2011/06/21(火) 19:52:24.56 ID:IVdD6O4b0
−−− 暁美ほむらの手記より −−−

 米海兵隊侵攻旅団を中心とした、カナダ・メキシコ・キューバ・ニカラグアの
連合軍であるAFTAは、タイ・シンガポール等のAPC加盟各国にも侵攻し、
次々に占領した。

 米海兵隊は新たに上陸した米陸軍と共に中国内陸部へ向け進撃し、
圧倒的兵力で中国軍・日本外人部隊を包囲。

 砲兵・MLRSによる猛砲撃と地雷散布を加え壊滅を図った。

 同行する第103機甲師団が全滅すると判断した日本外人部隊司令部は、
我々第504機動対戦車中隊に対して敵砲兵の撃破を命じた。


※ APC=アジア太平洋共同体 AFTA=アメリカ自由貿易地域 
144 :1 第七話は>>143から[saga]:2011/06/21(火) 19:52:50.93 ID:IVdD6O4b0
−−− 維坊近隣 2015 9/12 13:00 −−−

 機甲部隊の形だけは取っていたため、それぞれの車両に乗る
搭乗員達の様子は今の俺には見えない。

 だが、俺達は疲れきった様子で陣地に構えていた。

 撤退に続く撤退と、それにより包囲されてしまった
俺達へ連日のように浴びせられる砲撃。

 さらに重なる、俺達には補給も途絶えていたという現実。

 今の俺達が持て余しているものは、ただ絶望のみだった。

「ガーネットリーダーよりガーネット4」

「ガーネット4よりリーダー。何かしら」

「その・・・なんだ・・・露助やジャガイモ野郎の居るPEUと違って
アメリカ軍なら、そこまで捕虜をひどく扱わないと思う」

「それで?」

「もう俺達に勝ち目なんてない。命がある内に・・・な」

「私には生き延びて、やらなければならない事がある。
あなたはどうなの、リーダー」

「最後まで戦うつもりだ」

「ここまで来たんだもの。私も最後まで、この戦いを見届ける」

「後悔すんなよ」

「そちらこそ」

 強い少女だ。素直に俺は、そう思っていた。

 俺達ガーネット隊に与えられた指示は、敵砲兵部隊の撃破。

 俺の手元にある戦力は、俺の乗る”HIGH-MACS”と、
補充として分隊に入ってきた2両の90式戦車・改。

 そして、開戦からずっと共に戦って来た魔法少女。

 このような戦力で、敵の陣地へ殴りこみをかけるのだ。
こちらの何倍も戦力の充実した、AFTA軍の陣地へと。
145 :1 第七話は>>143から[saga]:2011/06/21(火) 19:53:23.20 ID:IVdD6O4b0
 もはやAFTA軍による完全なるECM環境の中、
俺達はレーダーすら使えなくなっていた。

 目を皿のようにして周囲を警戒していた俺の視界に、
こちらにちょっかいをかけに来た敵戦車部隊が見えてくる。

「ガーネットリーダーより各員へ、敵を発見した。
ガーネット2、出られるか?」

「ガーネット2、行けます」

「大至急、第3ポイント、敵の掃討を行って欲しい」

 その敵の撃破は、彼らに任せようと思っていた。
敵陣地への突入など、通常の戦車には荷が重過ぎる。

「頑張ってくれよ・・・ガーネット2、南東正面!敵だ!」

 そして砲撃戦が始まった。

 俺もそれを援護したかったのだが、何しろ弾がない。

 ここで僅かに残された弾を使ってしまっては、
本来の目的である敵砲兵の撃破が果たせなくなってしまう。

「ガーネット4、行くぞ。無茶だけはしないでくれ」

「ガーネット4、了解」

 そうして、俺達は前進を始めた。
146 :1 第七話は>>143から[saga]:2011/06/21(火) 19:53:58.64 ID:IVdD6O4b0
−−− 維坊近隣 2015 9/12 13:05 −−−

「ガーネット4よりリーダー。
レーダーが使えないために目視で砲兵を探さなくてはならない。
分散して行動する事を提案するわ」

「リーダーよりガーネット4、その提案を受ける事にする。
ただし、敵陣を見つけたら知らせる事。
あくまで偵察だけ、いいな?」

「ガーネット4、了解」

 陣地に砲兵車両だけしか居ないのであればともかく、
歩行戦車型の自走砲が居れば、私の携帯式の火器では
それを撃破する事が出来ない。

 そう考えていたため、私はリーダーに了解を返した。



 私達は散開し、この盆地をひたすら進む。

 でこぼことした地形は平面機動をする車両には苦手であろうが、
生身の私と、三次元機動を行う”HIGH-MACS”にとっては有利である。

 だが、作戦通りに私達が敵砲兵を撃破したところで、
それは私達の全滅を少しだけ先延ばしにする時間稼ぎにしかならない。

 すでに私達は、AFTA軍の物量に包囲されていたのだ。



 出来る事であれば、この戦争を上手く生き延びて、
あのような別れ方をした魔法少女達との再開を果たしたかった。
だが現実問題として、それは非常に困難な事である。

 もはや私の取るべき行動は、リーダーの言う通りに
敵に投降することなのかもしれない。
死んでしまうよりは、捕虜になる方がマシだと理解はしていた。

 けれど、諦めるにはまだ早い。出来る限りの事はしよう。

 私は、そう考えていた。
147 :1 第七話は>>143から[saga]:2011/06/21(火) 19:54:34.11 ID:IVdD6O4b0
−−− 維坊近隣 2015 9/12 13:10 −−−

 AFTAの砲兵陣地を、情報もなく手探りで探す今回の任務。

 俺はそれがどこにあるのかも分からず、
ただただローラーダッシュを機動させて前進していた。

 そんな俺の前方から、土煙を起こしながら迫る車両。

 俺達を散々苦しめてきた、3両のM-19A1ブルータルクラブの編隊であった。

 だが、今回はいつもと条件が違う。

 平面の機動性こそ”HIGH-MACS”に勝るM19であったが、
俺が今いるこの場所は、小高い丘が道路を挟んでいる地形であった。



 つまり、飛べない敵は道路を走り続ける他にない。

 俺は武装スイッチを有線誘導ミサイルに切り替え、
スロットルを引き戻し、バックのローラーダッシュをかける。

 敵は俺を射程に納めるために、道路を真っ直ぐ突き進んで来ていた。
M19の方がスピードがあるため、いずれは追いつかれるのであろう。
だが、そうさせないためにバックにローラーダッシュをかけているのだ。

 HMDに映るターゲットマーカーを1つ選び、レティクルに収める。
そしてトリガーを押す。

 ミサイルは真っ直ぐ進んでゆき、それに気づいたM19は
回避行動を取ろうとしたものの、彼から見て左側の丘に、
文字通り突っかかっていた。

 動きの取れぬ敵機はそのまま爆発し、黒煙を上げる残骸となる。
そのため、ただでさえ広いとは言えない道路の道幅はさらに狭められた。

 スロットルを押し込み、バーナーを吹かして空へと上がる。

 後続のM19は、その狭い通路を通らなければならない。
だからこそ、俺は武装を120mm滑空砲に切り替えて、
その狭い通路へ向けて照準を合わせていた。
148 :1 第七話は>>143から[saga]:2011/06/21(火) 19:55:07.72 ID:IVdD6O4b0
 残りの2両のM19は、次々とその罠の中に飛び込んで来た。

 俺は次のM19が通路に入ったところで、射撃を行う。
砲弾は容易く敵を打ち抜き、慣性で走っていくM19はやがて停止する。

 車体の表面積が小さなM19は、機動戦に持ち込まれてしまうと
厄介な相手であったが、やはりその小さな車体には、
あまり頑丈な装甲を積むことが出来なかったようであった。

 続けて通路に飛び込む敵にも同様の事をする。
炎の柱を上げる敵を見て、眼前に居た脅威が排除されたと確認する。

 せっかく燃料を消費して空に上がったのだ。

 俺は、そのまま周囲を見渡す。



 視界に入ったものは、丘の上を先ほどと同じように
土煙を上げながら迫ってくるブルータルクラブの3両編隊。

 道路が駄目なら丘の上から、そういうわけか。

 俺はそれらに背を向け、反対側の丘へと着地をする。
奴らはこの道路にはまるか、さもなければこちらに登ってくるために
M19は迂回行動を取らなければならない。

 案の定、M19の編隊は進路を変え、俺のいる丘へと
上れる坂道を探し出していた。

 その余裕を俺が与えるはずもない。
 
 敵との距離が離れているため、武装を有線誘導ミサイルへと切り替える。
そして俺は落ち着いて、敵機をレティクルに捕らえ続ける事が出来た。

 1発ずつミサイルを発射し、1両ずつ爆発するM19。

 それ以上の敵の機甲部隊が現われる事はなかったが、
敵砲兵陣地を見つける前に、俺にはミサイルという武装の
残弾がなくなってしまっていた。

 補給ヘリでも来てくれればいいのだが。

 だが、その願いは叶わないであろう事も俺は知っていた。

 もはや中国の空は、アメリカの物になっていたのだから。
149 :1 第七話は>>143から[saga]:2011/06/21(火) 19:55:37.06 ID:IVdD6O4b0
−−− 維坊近隣 2015 9/12 13:15 −−−

 その陣地は、偶然に発見できたものであった。

 大勢のM113-ADATS対地対空両用ミサイルシステム車両と、
それに囲まれるように護衛されている、
MLRS多連装ロケットシステムを搭載した大量のM270車両。

 このような陣地があといくつ存在しているのかは分からないが、
少なくても砲兵陣地を1つだけ見つける事が出来た。
 
 しかし、問題な事に彼らは移動を開始しつつあった。

「ガーネット4よりリーダー、砲兵陣地を発見」

「了解。座標を知らせろ」

「第12ポイント。敵は移動を始めている」

「ここから近いな。さっき戦った編隊が、俺を知らせたのかもしれない」

「リーダーの到着まで敵をかく乱させたい。攻撃の許可を」

 悩んでいるのであろう。なかなか返信が来なかった。

「リーダーよりガーネット4、攻撃を許可する。だがm・・・」

「無茶だけはするな、でしょ」

「頼むぜ」

「12両のADATSがここに居る。接近には注意を」

「リーダー、了解」

 盾の中に収納していた、4門の迫撃砲を地面に並べる。
攻撃力としては数が少なすぎるが、
それが私の持っている最後の迫撃砲だった。

 まだ砲撃は行わない。私は陣地を迂回しながら
移動を始めつつあるM270に携帯式対戦車ロケットを向ける。

 そろそろいいだろう。

 私はロケットを発射する。ロケット弾が敵へ向かっていくのを確認してから、
すぐにリモコンを取り出して迫撃砲を発射させる。
150 :1 第七話は>>143から[saga]:2011/06/21(火) 19:56:08.18 ID:IVdD6O4b0
 激しい爆発が陣地を埋める。
私は、かく乱以上の効果を上げられた事に満足していた。

 そして慌しく陣地の周囲を走る、米軍歩兵部隊。
私を探そうと躍起になっているのだろう。

 長居は無用。さっさと立ち去るべきだ。
そう考えた私は、地面を蹴ってその場を離れる。

「ガーネット4、陣地周辺に歩兵部隊が展開。
ここから離脱する」

「リーダー、了解。もう陣地が見えている」

 その無線が聞こえると同時に、私の頭上を跳び越す
”HIGH-MACS”の影。

 それは空中から陣地に向けてロケットポッドをばら撒き、
辺り一面を地獄絵図へと変えていた。

「ここは俺に任せておけ。
まだ他の砲兵陣地がないか、周辺の偵察を頼む」

「ガーネット4、了解」

 そうして、私は再び走り出す。



 眼前に、少し高い丘があった。

 向こう側が見渡せないため、私はそこでスピードを落とし、
手に持つライフルを構えながら、用心深く坂を上っていく。

 周囲には誰も居ない。敵車両の通行音も聞こえない。

 そうして丘の頂上に着き、周囲を見渡す。

 砲兵陣地こそ見えなかったが、その代わりに
予想もしていなかったものが私の視界に入る。

「まどか!」

 彼女は私とは真逆に、助走を付けてこの丘を飛び越えようとしていた。

 そんなまどかは、私の声を聞いて、私の事を空から見下ろす。

 そして、私の目の前に降り立った。
151 :1 第七話は>>143から[saga]:2011/06/21(火) 19:56:35.62 ID:IVdD6O4b0
−−− 維坊近隣 2015 9/12 13:25 −−−

 俺の”HIGH-MACS”に搭載されていた全てのロケットポッドを
使い切った攻撃のおかげで、その砲兵陣地には
黒煙を吐き続ける鉄の塊しか存在していなかった。

 ロケットポッドの弾が切れたのは痛いが、対地対空両用ミサイルを
搭載しているADATSは、まさに俺にとっての脅威であった。

 地上にいようが、空中にいようが攻撃されるプレッシャー。
三次元機動が封じられた”HIGH-MACS”など、少し装甲のある
タフな戦車でしかないのだ。

 だからこそ、この陣地に存在していた大量のADATSを
俺は素早く片付ける必要があった。

 仕方がなかったのだ。

 

 そして、この陣地の救援にやってきたのか、
残骸に囲まれた俺の前に現われた3両の米軍”HIGH-MACS”。

 彼らと滑空砲のみでやりあう羽目に陥ったのも、仕方がなかったのだ。

 土煙を上げながらローラーダッシュをかけていた敵編隊は、
一斉に空へと浮かび上がる。

 高速機動を行う相手との戦闘では、ロケットポッドの使用が
有効な戦術である事は、俺もよく理解していた。
もっとも、こちらはもう使えないのだが。

 俺は急いでスロットルを押し込み、バーナーを吹かす。

 そのために敵はロケットポッドの発射を諦め、
互いに同じ高度で正対しながら進んでいた。

 このまま進んで行っても、俺は3両からの集中砲火を受けてしまう。

 そう考えたため、俺は即座にスロットルを引き戻し、
バーナーを消して”HIGH-MACS”の高度を下げる。

 それを行う事により、敵に対して
左右に加えて上下の照準合わせを強要できると考えたからだ。
152 :1 第七話は>>143から[saga]:2011/06/21(火) 19:57:09.18 ID:IVdD6O4b0
 案の定、敵の120mm砲は俺の周囲の空を突き進むのみであった。

 逆に俺は、自分の起こした行動への対応ぐらいは取れる。

 下方から敵の”HIGH-MACS”の足を狙うように、
俺は照準を合わせて120mm砲弾をお見舞いする。

 空中で砲撃の衝撃を受けた敵機は、バランスを崩して高度を下げる。

 今だ。

 その敵機が動けない様子を見て、
俺は120mm砲弾のプレゼントを送り込み続けていた。

 空中からのハエ叩きだ。1発ごとに攻撃を受けた敵機は
高度を下げてゆき、気づけば俺より下方にいたその敵機は、
やがて文字通り地面に叩きつけられた。

 俺も敵編隊もバーナーの継続限界になったため、
俺達はすれ違いざまに敵味方とも地上に降りる。

 即座にローラーダッシュを機動させ、旋回戦に持ち込もうとする。
その時に、先ほど叩き落とした”HIGH-MACS”が、もう行動不能な
状態に陥っているのを俺は確認する事が出来た。

 ついている。機転を利かせて行った攻撃のおかげで、
俺はこの強敵達のうち1両を無傷で撃破できたのだ。

 3対1に比べれば、2対1はかわいいものだ。
俺はこの戦争の間ずっと、そう思えるような戦いに付き合わされてきたのだ。

 今回もきっと、上手く行くだろう。

 コクピットに鳴り響く射撃警告アラートも、
今の俺には焦りを生ませない。もう慣れっこなのだ。

 ジグザグにS字の軌道を取りながら、俺と敵編隊は距離を詰めていった。
153 :1 第七話は>>143から[saga]:2011/06/21(火) 19:57:45.38 ID:IVdD6O4b0
−−− 維坊近隣 2015 9/12 13:25 −−−

 まどかはじっと私を見据えていた。

 だが、以前の時のように、私に対して弓を構えてはいない。
文字通り、丸腰の状態で彼女は現われたのだ。



 

 彼女は表情を出さず、一切の言葉も出さない。

「まどか・・・?」



 やがて彼女は、自らの肩に装着していたバッテリーを取り外す。
そしてそれを電源として使用していたマイク付き多機能ゴーグルも外し、
それぞれの機械を一遍に、私へ向けて放り投げる。

 私の足元に落ちたそのヘッドセットからは、
英語での無線通信の会話が漏れ出していた。

「それ、ほむらちゃんにあげる。
ここから北側に行けば、AFTAの包囲網の穴があるよ」

「・・・どうしてこんな事を・・・?」

「私もほむらちゃんの事を信じる事にしたの」



 多機能ゴーグルを拾い上げる。ちらっと覗く限りでは、
それには沢山のレーダー反応の光点が映っているのが分かる。

 ECMに妨害されていないそれは、間違いなくAFTA軍の
レーダー情報であった。

 私はマイクを手で押さえ、やや声のトーンを下げて彼女に忠告をする。

「こんな事が知れたら、只じゃ済まないわ」

「うん、だから・・・」
154 :1 第七話は>>143から[saga]:2011/06/21(火) 19:58:11.29 ID:IVdD6O4b0
 そう言って、まどかは右手に握りこぶしを作り、
自らの頬にちょん、ちょんと当てている。

「こうしてくれると、疑われなくて済むから嬉しいんだけどな」

 私にそんな事をしろと言うの?
出来るわけがないじゃない。

「これは返すわ。まどかはこのまま引き返して」

「ううん、それはダメ。私はほむらちゃんを、死なせたくない」

 彼女を首を振りながら、そう告げる。

 そしてゆっくりと、私の元へ歩く。

「疑われないためにも、遠慮はしないでね」

 そう言いながら、私の手を握るまどか。

 私の手が、まどかによって持ち上げられる。
その手にこぼれ落ちる、私の涙。

「大丈夫だよ。私はほむらちゃんが、
ずっと病院で寝ていた事を知っているんだよ?
病人のほむらちゃんのへなちょこパンチなんか、なんともないよ」

「そんな・・・まどか・・・」

「私の事を思ってくれるのなら、ね」

「お願い。ほむらちゃん」









 右拳に痛みが伝わった。
155 :1 第七話は>>143から[saga]:2011/06/21(火) 19:58:37.79 ID:IVdD6O4b0
 口から血を流す、まどかの姿が見える。

 ずっとこの場に留まりたかった。

 もう、戦争なんてどうでも良くなっていた。



 それでも、私は自分の意思を思い出す。

 私はここで倒れるわけには行かない。

 私はこの戦争を生き延びる。

 戦争が終わり、世界に平和が戻ったその時こそ、
私は再び彼女達と会う事を心に決めていたのだ。

 お互いに銃口を突きつけず。お互いが敵同時と見なさず。

 お互いが笑いあう。

 そんな光景を見るために。



 まどかは自分の頬を押さえながら、私にこう告げる。



「またどこかで会えるといいね。
私の大切な、ともだち」



 まどかは私に微笑みを向ける。

 貴方は、どこまで優しいの。



「・・・ええ、必ず。また、どこかで」
156 :1 第七話は>>143から[saga]:2011/06/21(火) 19:59:09.09 ID:IVdD6O4b0
 私は駆けながら、まどかから貰ったゴーグルを覗く。
そこに表示されている、敵機として認識された
ガーネットリーダーと思われる光点へ向けて。

「ガーネット4よりリーダー、敵のレーダーを鹵獲した。
そちらに合流する」

「リーダーより、本当か?良くやってくれた」

「私達の北側に、AFTA包囲網の穴がある。
そこからなら、脱出の望みがあるわ」

「話はあとだ。敵に狙われているんだ」



 やがて見えてきた道路には、リーダーを囲む
”HIGH-MACS”が2両。

 これさえ撃破すれば、私達には脱出する望みがある。

 敵の情報を見逃さないように、自分がもともと持っていたゴーグルを
首にかけ、まどかから貰った多機能ゴーグルを顔にかける。

 幸い、周囲の地上には他の敵影はなかった。

 私は盾から携帯式地対空ミサイルを取り出し、
彼らが空に上がるのをじっと狙っていた。
157 :1 第七話は>>143から[saga]:2011/06/21(火) 19:59:38.46 ID:IVdD6O4b0
−−− 維坊近隣 2015 9/12 13:35 −−−

 奴らは、もう空に上がる事はなかった。

 仲間がやられていた時の状況を見ていたのであろう。

 そして、奴らは己の操縦技術が未熟であるとも認めているのであろう。

 2両の残された”HIGH-MACS”は、執拗に俺に接近しながら
近接戦闘を挑んで来ていた。

 俺が敵に砲を向けるとそいつは逃げて行き、
もう片方の敵機が俺に近づく。そして、30mmガトリングをばら撒き、
俺の装甲を削るのだ。

 頭に来る作戦ではあったが、俺にはそれだけ効果的な作戦であった。

 奴らは行動不能にならない限りは、多少被弾をしようが
後退して補給を受けに行く事が出来る。

 俺にはそれがない。

 装甲を削られれば削られるほど、俺が戦える時間はすり減らされる。

 どうしたものか悩む俺のもとへ、彼女の声が届く。

「ガーネット4よりリーダー、敵のレーダーを鹵獲した。
そちらに合流する」

「リーダーより、本当か?良くやってくれた」

「私達の北側に、AFTA包囲網の穴がある。
そこからなら、脱出の望みがあるわ」

「話はあとだ。敵に狙われているんだ」



 本当に嬉しい知らせだった。この2両の”HIGH-MACS”を
切り抜ければ、俺達には助かる見込みが出来たのだ。

 もう装甲などとケチケチした事を言ってはいられない。

 俺はどれだけの被害が出ようと、確実な勝利を得る事に決めた。
158 :1 第七話は>>143から[saga]:2011/06/21(火) 20:00:08.26 ID:IVdD6O4b0
 敵が未熟であるのなら、それに付き合ってやればいい。

 俺が接近すると、狙われている敵は距離を空ける。
俺はその敵からの回避行動をやめ、真っ直ぐに突き進んだ。

 30mmガトリング弾の連射を浴び続け、
コクピットには鳴り響くアラート。
ガン、ガンと機体に響く金属音と衝撃。

 そんなものに構わず、俺は正面の敵機に照準を合わせる。

 ガトリング砲と滑空砲。我慢比べでどちらが立っていられるか。

 敵は慌てていたのだろう。バックのローラーダッシュをかけながら、
ずっと俺にガトリング弾を浴びせ続けていたのだ。

 そんな敵に対し、俺は120mm砲弾を送りつける。

 着弾箇所に火花を上げながらも、
なおも後退を続ける米軍の”HIGH-MACS”

 奴は真っ直ぐ後退するのを辞めて、
機体を旋回させながら後退する事にしたようだ。

 だが、俺もそれに食らいつく事くらいは出来る。
無駄なあがきをするな。



 そう考えた時には、俺の正面には土煙が生まれていたのだ。

 ただの土煙ではない。地面に穴を作り、土を巻き上げる土煙。

 その上空には、その自慢の機関砲を連射しながら
こちらへ向かって来るA-10攻撃機の姿。



 もはや手遅れだった。

 回避行動を取ろうとした時には、機体に激しい金属音が鳴り響いていた。

 それでも、俺は生きていた。それは幸運であった。

 機体へのダメージを確認する事で、それがぬか喜びであった事を知る。

 ”HIGH-MACS”の腕部パーツは、それの持っていた武装と共に
完全に破壊されてしまっていたのだ。
159 :1 第七話は>>143から[saga]:2011/06/21(火) 20:00:34.92 ID:IVdD6O4b0
−−− 維坊近隣 2015 9/12 13:40 −−−

「リーダー、敵機!」

 今、自分の装着しているヘッドセットがAPCの無線ネットに
繋がらないという事を、私は焦りのために忘れていた。

 まどかから貰ったゴーグルから、慌しい通信が聞こえてくる。
うっすらとその意味は理解できていたが、その内容を
直視したくなかったためか、私は聞こえないつもりでいた。

 それに、聞いている場合でもなかった。

 リーダーの乗る”HIGH-MACS”は、誰の目からも
完全に戦闘不能な状態とされてしまったのだ。

 私は、敵の”HIGH-MACS”を狙うために構えていたミサイルを
過ぎ去って行くA-10攻撃機に向ける。ミサイルのロックオンが終わり、
こちらから離れて行く敵機にミサイルを送り込む。

 A-10から花火のように綺麗なフレアーが撒き散らされるが、
ミサイルは欺瞞に騙される事なく、敵機のエンジン近くに飛び込んで行き、
そして爆発した。

 そのタフな航空機を一撃で仕留められたのは、幸運であった。

 A-10はきりもみをかけながら降下し、遠方の地面に吸い込まれる。
丘の向こう側であったその地点からは、黒煙が上がっていた。

 そして、破壊された”HIGH-MACS”から
リーダーが飛び降りてくるのが見える。

 彼はヘルメットを外しながら、ひどくゆっくりとこちらに向かっていたため、
私は自分からそちらに駆け出していた。

「リーダー、走って!援護する!」

「いや・・・もう終わった。全て、終わったんだ」

「諦めないで!」

「お前は聞こえていないのか?司令部からの通信が」

 まどかから貰ったゴーグルをかけていたおかげで、
実際に聞こえていなかった。

 急いでその多機能ゴーグルを外し、自分の持っていた
APC軍のゴーグルを耳に当てる。
160 :1 第七話は>>143から[saga]:2011/06/21(火) 20:01:04.73 ID:IVdD6O4b0
「・・・武装解除せよ。」

「繰り返す、103機甲師団は、現時点を持って敵に降伏した。
戦闘中の全部隊は戦闘行動を停止し、武装解除せよ。繰り返す・・・」

 そして、私達は2両のHIGH-MACSに囲まれて、
砲塔を向けられていた。

 リーダーは両手を頭の後ろに当てて、私に頷く。

 

 悔しかった。

 目的のために頑張ってきたのに、こんな形で戦いが終わる事が。

 安心もしていた。

 やっと、こんな戦争が終わったのだ。



 私も変身を解除し、両手を頭の後ろに上げる。

 色々な感情が込み上げて、頭の中が真っ白になっていた。



 やがて、その場に歩兵戦闘車が走ってきたかと思えば、
中から飛び出して来た歩兵が私達を取り囲む。

 

 まどかを殴ったのも、無駄になっちゃったな。

 まどかにまた会えるかな。会って謝りたいな。



 私達は手錠をかけられ、銃口を突きつけられながら
その歩兵戦闘車の椅子に揺られていた。
161 :1 第七話は>>143から[sage]:2011/06/21(火) 20:01:33.39 ID:IVdD6O4b0

162 :1 第七話は>>143から[sage]:2011/06/21(火) 20:02:56.37 ID:IVdD6O4b0
ミッソン7、コンプリーツ。
明日はいよいよ、ガングリフォンの最終話です。
思ってたより長くなったなぁ・・・このSS。
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/06/21(火) 21:30:12.06 ID:6FoSlY2IO
楽しみにしてる。
なんかガングリ久々にやりたくなってきたな。
164 :1[saga sage]:2011/06/22(水) 21:00:55.30 ID:IP8r7eGk0
筆者もサターン引っ張り出しましたが、余裕でM6で詰みました。
これを軽々クリアしていたリアル厨房時代が懐かしい・・・

それでは、筆者の厨二心を満載した最終話、投下します。
165 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:02:15.30 ID:IP8r7eGk0

166 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:02:57.66 ID:IP8r7eGk0
−−− 暁美ほむらの手記より −−−

 敵砲兵の撃破には成功したが、第103機甲師団は包囲網から
脱出できずにAFTAへ降伏。

 それに伴い第103機甲師団の援護をしていた
我々第504機動対戦車中隊も戦闘継続の意義を失い投降、
武装解除された。

 最終的に中国の2/3を制圧したAFTA軍は、同時期に
PEUからの離脱宣言を行ったイギリスを発進基地とし、
ヨーロッパにおけるPEU加盟国の大半を制圧する事に成功する。

 結局のところ、多大な出血を伴ったAPC・PEU間の戦争は、
両陣営の共倒れという結果になる。

 しかしながら、これで全てが終わった訳ではなかった。

 全面敗北を恐れたPEU軍過激派が、AFTA占領下のモスクワへ
1発の戦略核ミサイルを発射したからである。

 20世紀の遺物、核による恐怖の均衡を手段としたPEU軍過激派は、
AFTA全軍が世界の占領地から撤退しなければ、戦略核ミサイルの
全面使用を行うと宣言する。

 だが戦力誇示のためにモスクワへ行われた核ミサイル攻撃が呼び水となり、
各国の協調が促進される事になる。

 ウラル山脈に存在する旧戦略核ミサイル基地への攻撃のために、
各国からエースパイロットと魔法少女が緊急に集められた。

 米軍HIGH-MACSと独軍ヤークトパンターに搭乗するエース部隊は、
数機のC-17輸送機に乗り、北極回りでミサイル基地に侵入する事となる。
 

※ PEU=凡ヨーロッパ連合 APC=アジア太平洋共同体
※ AFTA=アメリカ自由貿易地域
167 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:03:25.93 ID:IP8r7eGk0
−−− アラスカ 2015 10/11 18:00 −−−

 捕虜収容所から移送させられかたと思えば、
世界の情勢はとんでもない事になってしまっていた。

 俺が移送される目的は、ざっとの内容は輸送機の中で
聞かされていた。戦勝国、敗戦国を問わずのエースパイロット召集。
捕虜となっていた俺にも、白羽の矢が立ったのだ。

 そんな俺が辿りついたのは、このアラスカの空軍基地。

 作戦説明を行っていた高級将校を除けば、
1人1室という豪華な空間で、俺はその作戦説明を受けていた。

 広々としたその場所で受けたブリーフィングの内容を、
俺が聞き違えるはずもない。

 俺は、ミサイル基地内部への突入班のリーダーとされた。

 戦果を上げた順という単純な理由で決まった、その突入班。

 俺の部下には、ドイツ軍のエースパイロット2名と2両のヤークトパンター。
加えてイギリス軍の魔法少女が1人。

 そして、ここまで共に戦い抜いて来た、日本外人部隊の魔法少女が1人。

 そのような、豪華な人員が俺には与えられた。



 早速、部下となる人間と顔を合わせなければならないな。
そう考えた俺は、基地を歩いている途中でその格納庫を見つける。

 ”HIGH-MACS”と、ヤークトパンターとが並ぶ格納庫。

 これまで俺達が戦ってきた記憶からすれば、
俺にとってのそれは、とても感慨深い光景であった。



 どれだけの時間、それに見とれていたのだろう。
俺は背後から声をかけられるまで、その光景を眺めていた。
168 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:03:52.21 ID:IP8r7eGk0
「お前が日本外人部隊のパイロットか?」

 発音の綺麗な英語のため、アメリカ人かと思い振り返る。
そこには、ドイツ国籍マークを付けたパイロットスーツを着た男が2人。

「俺に何か用か?」

「万里の長城で、俺達を見逃したのはお前か?」

「ああ、そんな事もあったな。忘れてたよ」

 軽口を叩く。忘れているわけもないのだが。

 やがて、2人は俺に右手を差し出す。

「あなたの部下になる、バルクホルンです」

「俺はクルピンスキー。あの時の事を、俺達は忘れていない。感謝している」

「ほ〜、頼りになりそうな部下だ。あの時に殺さなくて良かったぜ」

 そう返し、俺はそれぞれと握手を交わす。

 その様子を見ていたアメリカ軍のパイロットが、何を勘違いしたのか
こちらに歩いてきてニコニコと右手を差し出す。

 そのアメリカ軍パイロットを恨んでいたわけではない。
しかし、今回の戦争において泥棒猫としか言えないようなアメリカ野郎と
仲良くするつもりなど俺には全くなく、俺はその差し出された手を無視し続けた。

 アメリカ野郎は俺に無視された事に困惑しながらも、
続けてバルクホルンとクルピンスキーに順番に手を差し出す。

 だが、2人の反応も俺と同じだった。それどころか、
クルピンスキーに至っては、その差し出された手を払いのけてさえいた。

 やがて、アメリカ軍パイロットは、すごすごと引き返して行く。

 その背中を見て、俺達は顔を合わせる。

「・・・ブッ!!」

「クククク!」

「ハハハハハハ!!」
169 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:04:28.31 ID:IP8r7eGk0
−−− アラスカ 2015 10/11 18:20 −−−

 今回の作戦のために、私は捕虜収容所から抜ける事が出来た。

 作戦説明を聞き終えた私は、基地内を走っていた。
今回の作戦のために、世界各国の魔法少女がここに集結していると
聞いたためである。私の知った顔がいるに違いない、そう考えていたのだ。

 通りかかった格納庫の中で、リーダーが笑い声をあげている。
その横には、同じく笑っているドイツ軍パイロット。

 万里の長城で見ていた、あの時の二人だと私はすぐに気がついた。

 リーダーは仲直りが出来たんだ。

 私も負けてはいられない。



 私は走り続け、そしてその食堂に着いた。

 そこで捜し求めていた姿を、やっと目にする事が出来たのだ。

 もう打ち解けあったのか、笑いながら2人を見ている巴マミ。
その隣で、美樹さやかに冗談を言ったためか、ヘッドロックをかけられる
鹿目まどかの姿。

「あ、ほむらちゃ〜ん!こっち、こっち!」

 良かった。みんな無事で居てくれた。

「あら、暁美さん。こんな事を言うのも不謹慎かもしれないけれど、
こういう形で再開できて嬉しいわ」

 まどかは頭を抑えられながら私に手を振り、
巴マミは紅茶が入っていると思われるカップをテーブルに置く。

 だが、美樹さやかだけは、私をじっと睨んでいる。

 当然だろう。あんな別れ方をしたのだから。

 美樹さやかの手を首から離し、まどかがこちらに歩いてくる。

「良かった、ほむらちゃんも無事で。
あの後、すぐ戦争は終わっちゃったんだよね。
殴られ損だったかな、てへへ」
170 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:04:56.69 ID:IP8r7eGk0
「へ〜、アンタ、まどかを殴ったんだ。そりゃそうよね。
あたしにあんな仕打ちしたんだもんね」

 美樹さやかは冷たく私に言い放つ。

「仕方がなかったわ」



 何故、私は素直に謝れない。

 自分の性格が恨めしい。

「違うよ、さやかちゃん・・・
殴ってって言ったのは私だから・・・」



 気まずい空気を取り直そうと、巴マミが声を出す。

「まあまあ・・・暁美さん、あなたもサイロへの突入班よね。
私も一緒なの。よろしくね」

「私は外にいる敵をやっつけて、ほむらちゃんとマミさんの道を
切り開く役!さやかちゃんもだよ!」

 相変わらず、美樹さやかは私を睨んだままだ。

 まどかはその声の元気さとは逆にオロオロとしており、
巴マミは、ふぅ〜、と深いため息をついていた。

「作戦が始まる前に喧嘩なんて関心しないわ。
そうだ、この戦いが終わったら、みんなでパーティーを開きましょう」

「パーティーですか?」

「そう、みんなでパーティーするの。魔法少女の仲直り記念よ」



「それには及ばないわ」



 私の言葉を聞いて、巴マミは残念そうな表情を隠さない。
それはまどかも同じであった。だが、言わなければならない事だった。
171 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:05:31.57 ID:IP8r7eGk0
「パーティーを開くためには、あと1人が足りないわ。
みんな、その1人に心当たりがないかしら?」

 AFTAに所属しているまどかは、何のことかと首を傾げている。

 だが、PEUに所属していた2人は違った。

 私を睨んでいた美樹さやかは特に。

「ちょっと待って。なんでアンタが杏子の事を・・・」

「佐倉さんはヨーロッパ方面の戦線に居たはずだから、
暁美さんとは会う事もないと思っていたけど・・・」

 私に対して、美樹さやかと巴マミが不思議そうに声をかける。

 ああ、そうであって欲しくはなかったのだが。

 私の悪い予感は、的中してしまった。



「一応、佐倉杏子とは面識がある」

 嘘ではない。こちらの世界では、まだ会った事もなかったが。

 少なくても、私の所属していたAPC陣営には、佐倉杏子の姿はなかった。

 だが残念な事に、こちらの世界の佐倉杏子はPEUに所属していた事が、
美樹さやかと巴マミの反応から分かってしまったのだ。

 今このアラスカには、世界中から魔法少女が集まっている。
どこの国にも、いつ核弾頭が降ってくるか分からないこの情勢。

 各国は、それぞれ自国の戦力となっている魔法少女を、
出し惜しみせずにここへ派遣しているはずなのだ。

 PEUに所属しており、なおかつ佐倉杏子ほどの戦闘力を持つ
魔法少女が、ここに居ないという事実。

 それが意味するものは、私にも理解できる。

「私は、これから向かうミサイル基地に
佐倉杏子が居るのではないかと推測しているわ」

 PEU軍過激派の一員として。

 その言葉は、あえて出さなかった。
172 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:06:04.13 ID:IP8r7eGk0
 私達の顔をきょろきょろと見ているまどか。

 じっと黙って俯いている巴マミ。

 そして、急に向かってきて、私の胸倉を掴む美樹さやか。



 何かを言いたい様子であるのだが、彼女は何も声を出さない。

「やめてよ、さやかちゃん!」

 彼女が言葉を出さないのなら、私から。



「安心して。佐倉杏子を見つけたら、必ず連れ戻す」

 美樹さやかは泣いていた。

 彼女達がこの世界でどのような間柄だったのかは、私には知る由もない。
だが、泣いている彼女を見て、どのような仲だったのかは想像がついた。

 やがて、美樹さやかは声を出す。

「杏子は・・・あの子は、世の中を恨んで向こうへ行っちゃったんだ・・・」

 そして、顔を上げる。相変わらず私を睨んでいるが、
その涙ぐんだ目から伝わる意思は、先ほどまでとは異なるものだ。

「あたしが行ければ良かったんだけど・・・あたしには才能がないから、
基地への突入班には選ばれなかった・・・」

「マミさんと・・・アンタが頼りなんだ・・・」

「基地の内部にいるとは限らないわ。あなた達の前に現われるかもしれない。
美樹さやか、その時はあなたに説得を任せるわ」

「・・・当然よ」

「もしも佐倉杏子が基地の内部に居たのなら。
言葉を繰り返すようだけど、安心して。必ず、連れ戻すから」



 今だ。

 勇気を出せ、私。
173 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:06:30.58 ID:IP8r7eGk0
「そ・・・そうしたら、美樹さやか。私を・・・ゆ、許してくれるかしら?



 その場の全員が、目を丸くしていた。
私は耳まで赤くなるのに自分でも気づく。

 やってしまった。そんな事を言う空気ではなかったか。



 だが、私の想像とは逆に、美樹さやかには笑顔が戻っていた。
そして彼女は私の背中をバシンと叩く。本当は少し痛かった。

「わかった。これでチャラにしてあげる!
さあ、作戦が終わったら、皆でマミさん家でパーティーだ〜!」

「さやかちゃん・・・」

「あらあら、もう浮かれちゃって」



 これだ。

 これこそが、私の見たかった光景なのだ。

 だが、まだ完全ではない。私は絶対に、佐倉杏子を連れ戻さなければならない。

 そうすれば、私の願いはここに叶う。

 何度となく時間を撒き戻しても達成できなかった、5人揃っての笑顔。



 美樹さやかの希望、それどころか全人類の希望を背に、
私達はミサイル基地の内部へ突入をする。

 作戦を完遂するのは、容易な事ではないだろう。
それこそ、奇跡を起こすほどの活躍を見せねばならない。

 そういった思惑もあったのであろう。
もしくは、ただ単に士気を鼓舞する目的だったのかもしれない。

 

 司令部が私達の分隊に与えたコードネーム。

 それは、奇跡を起こす存在の象徴であった。
174 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:07:09.11 ID:IP8r7eGk0

175 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:07:35.10 ID:IP8r7eGk0
−−− ウラル山脈上空 2015 10/12 5:40 −−−

 俺達はこの輸送機の中でじっと黙り込んでいた。
分隊での打ち合わせや作戦説明は、基地を発進する前に終わらせていた。

 それが理由で、俺達はこの長い空の旅の間、
一切の会話をしてこなかった訳ではない。
きっとこの場にいる全員が、俺と同じ事を考えていたのだろう。



 俺は今更になって、自分に託された希望の重さを思い知っていたのだ。

 俺達が失敗すれば、どれだけの犠牲者が生まれてしまうのか。

 それを考えると、情けない事に震えが止まらなくなるのだ。



 畜生が。ここまで来てビビってるんじゃねえ。

 そう己に毒づいてみても、それは何の効果も生み出さない。



 みっともなく震えている俺の眼前で、輸送機の後部ハッチが開いてゆく。

 視界に入るもう1機の輸送機からは、俺達とは別働隊の
歩行戦車の群れと、魔法少女達が地上へ向けて降下していた。



 お前達は怖くはないのか。

 俺達が失敗すれば、どうなるのか理解しているのか?

 そんな八つ当たりをぶつけたくて、俺はコクピットの壁面を殴っていた。
176 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:08:08.34 ID:IP8r7eGk0
「リーダー、別働隊降下から15秒経過。
私達の降下開始まで、あと30秒」

 そう言えば、こうして無線越しに声を聞くのも
1ヶ月ぶりだったな。

 この戦争をずっと共にしてきた、ノイズ混じりの相棒の声。

 お前はこんな状況でも落ち着いているんだな。
みっともなく震えている俺なんかより、ずっと若いのに。

「お前は怖くはないのか?」

「怖いわ」

「何故、そんなに落ち着いていられる?」

「皆が私達の事を信じてくれているから」



「私も皆の事を、信じている」



 その言葉に、俺は救われていた。

 彼女と一緒に居たからこそ、俺はここまで戦い抜いて来れた。



 俺は今回の作戦においても、彼女と一緒に戦う事が出来る。

 これ以上、何を望むというのか。



「時間よ」



 もう震えは止まっていた。

「マギカリーダーより各員、状況開始」
177 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:08:38.93 ID:IP8r7eGk0
−−− ウラル山脈 戦略ミサイル基地 2015 10/12 5:55 −−−

 降下を続ける俺達に向けて、地上の対空機関銃から吹き荒れる
銃弾の嵐が襲い掛かっていた。

 だが、その嵐もすぐに吹き止む。

 地上では、もう戦闘が始まっていた。
味方部隊が、敵を素早く沈黙させていたのだ。

 地上を走り回る、”HIGH-MACS”とヤークトパンターの群れ。
ところどころに混じる、魔法少女達の攻撃と思われる光の帯。

 それを迎え撃つ、味方の倍ほどは見える
おびただしい数の敵の車両。

「トーネードが来ている!」

 その警告を受けた時には、攻撃機はミサイルを発射して
再び雲の中へと隠れて行った。

 過ぎ去っていくそのミサイルの目標は、地上を走る1両の”HIGH-MACS”。

 高速で飛翔する炎の筋を吸い込んだ歩行戦車は、
爆風によって宙を横向けに回転しながら吹き飛ばされていた。
そして、基地の地面をごろごろと転がってゆく。

 やがて起きる爆発。

 パイロットは脱出する暇もなかったであろう。



 それでも、彼らは戦い続けていた。

 眼前の敵に怯む事もなく、俺達の道を切り開くために。
178 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:09:13.85 ID:IP8r7eGk0
 地上に降り立てた事を、俺はコクピットに伝わる振動から理解する。

「マギカリーダーより各員、状況を知らせろ」

「マギカ2、クリアー」

「マギカ3、クリアー」

「マギカ4、クリアー」

「マギカ5、クリアー」



「全速前進。作戦通り、サイロへ突入する」

 俺はスロットルを押し込み、ローラーダッシュを機動させた。

 敵からの砲撃が、俺の”HIGH-MACS”の右側を通り過ぎる。
しかし、その砲撃は1度きりであり、それ以降の攻撃は続かなかった。

 ややS字の軌道を取りながらも、俺達は前進を続けていた。
 
「マギカって女性を指す言葉だよな。俺達には似合わねえな」
 
 そう話すマギカ3、クルピンスキーの声。こんな状況で図太いヤツだ。

「今回の主役は彼女達だ。構わないだろう」

 そう返すマギカ3、バルクホルン。

 実際にその通りである。

 ミサイル基地の構造図は、事前に得られていた。
この大きな歩行戦車に乗る俺達は、
ミサイル基地の内部まで侵入が出来ない。

 そのために、彼女達が基地へ侵入する必要がある。
俺達の役目は、彼女達の護衛であった。

 マギカ5の巴マミに対して、思うところがないわけではない。
彼女は、俺の相棒を殺したという経歴を持っていたからだ。

 だが、それを言葉に出すつもりもない。

 核ミサイルを物理的に破壊するためには、彼女が持つ能力である
大砲の威力がきっと必要になると思っていたからであった。
179 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:09:41.67 ID:IP8r7eGk0
 そう考えながら、ミサイル基地表面にある滑走路を
俺達は全速で進んでいた。



 サイロへ向かうため、通らなければならなかったその道を
走り抜けている俺の愛機に、無線通信の声が届く。



「日本外人部隊の”HIGH-MACS”。俺と勝負しろ」



「隊長?」

 唐突に聞こえたその無線の意図を俺が考える前に、
通信に割り込むマギカ3。

「・・・アドラー3か。お前がこんな所に居るとはな。
アドラー2も居るのか?」

「こんな所に居るだと?俺達の台詞だぜ。アドラーリーダー」

「隊長!貴方は自分が何をしているか・・・」

「そんな事、俺には知った事ではない。
今更、敵に回ったお前達にも用はない」

「なあ、こんなテロリスト紛いの片棒を担ごうってのか?」

「日本外人部隊の”HIGH-MACS”、聞こえているのだろう。
お前だけ、俺の所へ来い」

「ドイツ軍人の誇りをどこに捨てちまったんだ!ハルトマン!!」



 俺を置いてけぼりにして繰り広げられる無線通信。
だが俺の部下2名は、この無線の主の部下でもあったようだと理解する。

 そして俺も、その名前をよく知っていた。
180 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:10:16.81 ID:IP8r7eGk0
 ”ベルリン・リリー”と俺達に呼ばれたその可愛らしい声のDJは、
遥かドイツから日本外人部隊向けに、その厭戦放送を流して続けていた。

 そんな彼女が俺達の士気を挫くためのネタにし続けていた、
PEUドイツ軍所属のミヒャエル・ハルトマンというパイロットの存在。

 放送を聞くたびにそのエースの撃墜数は増え続け、
俺が中国でAFTAに投降する前に、最後の放送を聞いた時点で
奴は300機以上の撃墜数を誇る化け物となっていたのだ。

 それほどの人物が、アラスカに居なかったという事実。



 薄々、嫌な予感はしていたのだ。

 予感が現実のものとなってしまえば、その化け物が
俺達の任務遂行の大きな障害となるのであろうと考えていた。

 そして最悪の場合には・・・
世界のどこかで、キノコ雲が生まれる事になるのであろうとも。

 それを考えていたからこそ、俺は輸送機の中で震えていたのだ。



「聞いてんのか!ハルトマン!」

「誇りのためにこそ、俺は”HIGH-MACS”と勝負するのだ。
邪魔はさせない」

 レーダー反応。3機の編隊で迫るそれは、高度を持っていた。

 おそらくは、過激派のヤークトパンターであろう。

 迫り来るその編隊を攻撃するため、
俺は武装スイッチを有線誘導ミサイルに切り替える。
181 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:11:06.34 ID:IP8r7eGk0
 やがて視界に入ってきた敵編隊。

それに俺はレティクルを合わせ続け、ミサイルを発射する。

 だが、その場に居た歩行戦車のパイロットは、
全員が同じ事を考えていたようであった。

 寮機からも発射されたミサイルを俺が見た瞬間、
敵の3両のヤークトパンターも、同じようにミサイルを発射していたのだ。

 回避機動を強要された俺は、レティクルから仕方なく敵機を外す。
その行動もまた、その場に居た全員が行っていた。

 旋回戦に持ち込まれる。そう考えていた俺に、無線が届く。

「ここは俺達が食い止める。
リーダーはお譲ちゃん達を連れて進んでくれ」

「敵は3両だ。お前達だけで行けるのか?」

「行ける行けないじゃねぇんだ。もう俺達の存在は敵にバレている。
奴らは、今頃ミサイルの発射準備を行っているかもしれん。
俺達は何としても、ミサイル発射を阻止しなければならねぇんだ」

 眼前の敵機は着地し、そしてこちらに向けてジグザクに前進していた。

「この中にハルトマン隊長は居ません」

「隊長のヤークトパンターは、滑空砲を搭載した”カノンフォーゲル”です。
きっと、この先に・・・」

 マギカ3が言葉を言い切る時間も与えられず、
俺達は射撃戦を開始する。

 

 敵味方ともに、被弾なくすれ違う。

 マギカ2とマギカ3は旋回戦を開始し、俺は前進を続ける。

 自分のやらなければならない事は理解していたからだ。

「頑張ってくれよ」

 その声が届いたのか、それとも始まった戦闘に夢中になっていたのか。

 返信が俺に届く事はなかった。
182 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:11:38.95 ID:IP8r7eGk0
−−− ウラル山脈 戦略ミサイル基地 2015 10/12 6:05 −−−

 私達は、残った”HIGH-MACS”に連れそうように前進していた。

 自分達のやらなければならない事を理解していたからだ。
 
 多機能ゴーグルのスイッチを押し、地図情報を眼前に引き出す。
もうすぐ、基地内部へと続く建物が見えるはずだと考えていた。

 そんな私達の目の前の地面が、砲撃によって抉り取られる。
それによって、私達の前進は一時的に阻まれる事となった。

 まだ距離はあったものの、その砲撃を行ったヤークトパンターが
先ほどの無線の主だと言う事は、すぐに私にも理解が出来た。

 これまで見てきたヤークトパンターと違い、
その両腕パーツには大型の滑空砲が搭載されていたのだ。

 ”カノンフォーゲル”。

 三次元機動を行えるその歩行戦車の事を、大砲鳥とはよく言ったものだ。



「ハルトマン隊長。こんな馬鹿な事はやめて下さい」

 無線の声は、私の隣にいた巴マミのもの。
少なからず、目の前の敵との親交があったのであろう。

「巴マミか。お前とも肩を並べたあの頃が懐かしい。
だが、お前の言う事でも聞く訳には行かない」

「クルピンスキーさんもバルクホルンさんも、貴方を心配しています」

「先ほども言ったが、知った事ではない。
それにお前達、魔法少女とも戦うつもりはない」

「ハルトマン隊長・・・!」

「急いでいるのだろう。基地内部へのシェルターは俺が開けておいた」
183 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:12:06.01 ID:IP8r7eGk0
 その声を聞き、私は信じられない思いで遠くに見える建物を見つめる。

 言われた通り、確かにその建物は、内部へと続く暗闇を私達に見せていた。

「リーダーより、マギカ4、5。お言葉に甘えとこうじゃないか」

 私が考える暇もなく、リーダーは私に告げる。



 少しだけ躊躇したが、私はその言葉にこう返した。

「マギカ4よりリーダー、無茶だけはしないで」

「お前に言われるとは光栄だ。さあ、行け!」



 その言葉を聞き、巴マミと視線を合わせる。
彼女も、自分がしなければならない事を理解していた。

「行きましょう」

 そうして、私達はコンクリートの滑走路を駆け出す。



 背後から鳴り響く、ローラーダッシュの甲高い音。

 それが聞こえた頃には、私達はその建物に到着していた。

 そこには、地下へと続く階段だけが見える。

「私が先導するわ。私は時を止める事が出来るから」

「そうね、お願い」

 私はライフルを握り締め、その建物の闇の中へ向ける。

 そうして、私達はかすかにしか電灯がついていない薄暗い階段を、
建物の中に響く砲撃音を聞きながら、ゆっくり、ゆっくりと降りて行った。
184 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:12:34.51 ID:IP8r7eGk0
−−− ウラル山脈 戦略ミサイル基地 2015 10/12 6:10 −−−
 
 彼女達が駆け去ったのを見届けた俺は、スロットルを押し込んで
ローラーダッシュを機動させた。

 同時に敵もローラーダッシュをかけ、互いにS字の軌道を
描きながら接近する。

 先手必勝。

 距離があるうちに、ミサイルを叩き込もうと考えた俺は、
近づいてくる”カノンフォーゲル”にレティクルを合わせていた。

 

 そしてコクピットに響く衝撃と爆発音。

 それに伴い”HIGH-MACS”の体は、衝撃のために少しだけ泳ぐ。
俺はレティクルから敵機のターゲットマーカーを逃してしまっていた。

 信じられない思いであった。

 俺が敵をミサイルで狙い撃とうとしていた距離から、
奴は滑空砲による攻撃を俺の”HIGH-MACS”に当ててきたのだ。
ミサイルロックを行っていたとはいえ、回避行動を取っていたこの俺に。

 化け物め。

 300機以上撃墜のエースは伊達ではなかったのだ。

 俺は遠距離戦を行う事を諦め、30mmガトリング弾をばら撒きながら
彼我の距離を詰める。

 その行為によって、敵に回避行動を強要させるつもりであった。

 敵は照準を合わせる事に集中出来なくなっていたためか、
接近する俺の足元のコンクリートに砲弾を浴びせていた。

 それ以上の被弾を受ける事なく、俺達は旋回戦に入る。

 互いが互いの後ろを取るよう、それぞれの愛機を操縦していた。
185 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:13:06.67 ID:IP8r7eGk0
 お互いが敵からの射角を超える位置を取ろうとする。

 時折、俺のHMDの照準内に”カノンフォーゲル”が収まる。
だが、俺がトリガーを押す頃には、もうそれは照準の外へと移動していた。

 地面に穴を作っていたのは、俺だけではなく敵も同じである。

 さすがの名パイロットも、ヤークトパンターの稼動限界を超える事など
出来はしなかった。接近戦において、俺達は互角だったのだ。



「お前は何がしたいんだ?」

「どうせ死ぬ身だ。最後に1番を決めたかっただけだ」

「そんな理由で過激派と手を組むのか?ふざけんな!」

「もう俺には何も残ってはいないのだ!お前と決着を付ける事以外にはな!」



 敵機からの砲撃が途絶えた。
旋回戦の最中、砲撃が止まるという事の意味。

 いつか俺が敵に対して行ったように、奴は俺の前方へ向けて
ロケットポッドを発射していた。

 俺はもう手が伸びていたスロットルを押し込み、空中へと逃げる。
地面に炎の海を作り出した敵も、俺に続いて飛び上がっていた。

 考える事は同じなわけだ。

 お互いに空中では、地上ほど機敏な機動が取れない。
そう考えた俺は、敵へ向けて”HIGH-MACS”の
上半身を旋回させ、相手を狙い撃とうとしていた。

 その照準内には、やはりこちらに砲塔を向ける”カノンフォーゲル”。

 またかよ。

 そう考えた時には、お互いの放った砲弾が、
空中に破片を撒き散らし、2つの花火を作り出していた。
186 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:13:44.43 ID:IP8r7eGk0
−−− ウラル山脈 戦略ミサイル基地 2015 10/12 6:15 −−−
 
 ひたすら長い地下通路を歩き続ける間、私達の前には
ただの1人すら敵兵が現われなかった。

 私達のサイロ内への侵入が気づかれていないのであろうか。
それともハルトマンが、わざわざ敵の居ない道を開けてくれたのだろうか。

 だが、おかげで私達は何の障害を受ける事なく、
順調に通路を進んでいた。

 ゴーグルに表示されている構造図からは、ミサイル弾頭の
ある位置までは半分ほど進んでいる。

 このまま上手く行くかもしれない。

 そんな事を考える私達の目の前に、それは現われたのだ。



「久しぶりだね、マミ。それに暁美ほむら」

「インキュベーター・・・」

「キュゥべぇ!どうしてここに・・・?」

「君達にお礼が言いたかったからさ」

「どういう事?」

「君達が戦い続けてくれたおかげで、この世界は絶望に包まれた。
それだけでも感謝したいくらいなのに、挙句には核ミサイルの発射まで
しようとしている。人類は本当に愚かな生き物だね」

「絶望って・・・キュゥべぇ、貴方は一体、何を・・・?」

「絶望の生まれるところで、魔法少女に何が起きるのか。
暁美ほむら、君なら知っているんじゃないかな?」



 私はその言葉に返事を返すつもりはなかった。

 目の前のインキュベーターが憎かったのもあるが、
何よりこの話を巴マミに聞かせたくなかったのだ。
187 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:14:23.91 ID:IP8r7eGk0
「答えたくないようだね。なら、僕から話そう。
この先の部屋に、ある1人の魔法少女が居る」

「・・・彼女のソウルジェムは、もう絶望に包まれて真っ黒なんじゃないかな」

 

 それ以上、話をさせるつもりはなかった。

 私はライフルのトリガーを引き、目の前の物体を蜂の巣にする。

「暁美さん!」

 私のライフルを、巴マミが弾き飛ばす。

 薄暗い通路の中には、地面に落ちたライフルが
ガランガランと音を響かせていた。



「無駄な事だって知ってるくせに。懲りないんだな、君も」

 背後から聞こえた、その声。
私達が振り返ると、それは言葉を続ける。

「僕に言わせたくないのであれば、これ以上は話さないよ。
見届けるといい。この先で君達を待つ魔法少女が、教えてくれるだろう」

 そう告げたインキュベーターは、
通路の闇に同化するようにその姿を消していった。
188 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:15:04.00 ID:IP8r7eGk0
「暁美さん・・・貴方は何かを知っているの?」

「・・・今は話せない」

 いつなら話せるのか。そんな見当も付かずに、
私は言葉を返していた。

「けれど、私を信じて欲しい。いつか、必ず話す」



 巴マミは、私の目をじっと見つめていた。

 私の中に、幾度となく彼女と衝突してきた記憶が甦る。



「・・・暁美さんがそう言うなら、後でゆっくりと聞かせて貰うわ」

 私はほっと、胸をなでおろす。

 この世界で、巴マミと険悪な関係を築いていなかった事に
私は心の底から感謝していた。



「・・・ねぇ、キュゥべぇが言っていた魔法少女って・・・」

「多分、私達が探しているあの子だと思う」

「連れ戻さないとね」

「言われるまでもないわ」



 地面に落ちたライフルを、巴マミは拾い上げる。

 私はそれを受け取り、彼女に頷いて見せた。

 私達は再び、用心深くそれぞれの武器を構えて歩き出していた。
189 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:15:32.39 ID:IP8r7eGk0
−−− ウラル山脈 戦略ミサイル基地 2015 10/12 6:15 −−−

 ”HIGH-MACS”のダメージコントロールは、ロケットポッドが
使用出来なくなった事を俺に教えてくれていた。

 敵の砲弾で、肩部パーツから取れてしまったのであろう。
それが中に詰まっていたロケットに誘爆を引き起こさなかった事は、
俺にとっては幸運であったとしか言いようがない。

 こちらも只でやられた訳ではない。

 ”カノンフォーゲル”の右腕の砲塔は下を向いたまま、
2度とその方向を変える事がなかった。

 ロケットポッドの代わりに、敵のメイン火器を1門潰したのだ。
悪くはない。片腕しか滑空砲を撃てなくなった敵は、
その射角をかなり狭める事になるだろうと俺は考えていたのだ。

 再び地上に降りた俺達は、また相手の尻を追いかける
ドッグファイトを始める。

 本当は、敵の進行方向に向けてロケットポッドをばら撒き、
先ほどやられた事と同じ仕返しをするつもりでいた。

 だが、それが出来なくなったため、俺は30mmガトリング砲弾で
敵の進行方向を掃射する。

 砲弾が激しい音を立てながら、地面のコンクリートを撒き散らかす。

 それを回避するために敵が取った行動は、ローラーダッシュを止めずに
俺とは反対方向へと取った旋回であった。

 狙い通り、ケツを取れた。

 俺は”カノンフォーゲル”へ向けて、30mm弾をばら撒きながら
旋回してゆく。

 ガン、ガンと装甲の砕ける音が聞こえていた。

 小さなダメージではあったのであろうが、敵は耐えかねた様子で
俺に背を向けたまま、空へと逃げる。

 逃がしはしない。

 俺はスロットルをバーナー位置まで押し込み、空中に飛び上がった。
190 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:15:59.73 ID:IP8r7eGk0
 俺の”HIGH-MACS”が敵と同じ高度まで飛び上がった時に、
俺はその事実に気づいた。

 ガトリング弾の射線を気にしすぎていた俺は、
それが見えていなかったのだ。相手がこちらから逃げながら
上半身をこちらに向けて旋回させている事を。

 クソ!

 急いで武装スイッチを120mm砲に切り替える。
もはやこの距離では、回避も行えないのだろう。
それならば、せめて相打ちにでも・・・

 照準の中に捉えていた”カノンフォーゲル”は、
バーナーを切って高度を下げる。

 それと同時に発射されていた俺の120mm砲弾は、
敵の頭上を抜けていく。

 やられた。

 降下して行く敵機に対し、俺が照準を合わせる前に、
敵に残された左腕の滑空砲が光を放つ。



 ”カノンフォーゲル”の砲弾は、俺のいるコクピットに
激しい爆音と衝撃をもたらす。

 そして、ベキベキと嫌な金属音を立てながら、
俺の愛機の左脚パーツを粉々に砕いていた。
191 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:16:25.86 ID:IP8r7eGk0
−−− ウラル山脈 戦略ミサイル基地 2015 10/12 6:20 −−−

 大きな通風孔と、そこに回る換気扇が見えた。

 その部屋は、そのような光景と共に、
変電設備と思われる機械に四方を囲まれていた。

 その中央には、背丈ほどもある大きな槍を手に、
私達を待ち構えていた、真っ赤な髪の少女。

「佐倉さん・・・」

 私はこちらの世界で、彼女と面識がない。
はじめの言葉を考えているうちに、巴マミが先に口を開く。

 薄暗いため、私は佐倉杏子の表情を確認する事が出来ない。

「佐倉さん。美樹さんも心配していたわ。
こんな事はやめて、一緒に帰りましょう」



「超うぜぇ」



 私がこちらの世界で聞いた、彼女の第一声はそれであった。

「マミには分かんねぇだろ。アタシがここに居る理由がさ」

 カツン、カツンと室内に響く足音。
佐倉杏子は、こちらに歩いて来ていた。

 そして彼女は、巴マミの目の前で足を止める。
巴マミの顔にくっつくくらい、自分の顔を近づけていた。

 彼女の性格を考えると、”ガンを飛ばしている”
という表現が適切なのであろう。

 だが、近くに来てくれたおかげで私は彼女の表情を
やっと確認する事が出来た。

 泣いていたのだ。



「アタシはな。人の心を惑わす魔女なんだ」
192 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:17:03.27 ID:IP8r7eGk0
「だったら・・・アタシは・・・」

「巴マミ!離れて!」

 佐倉杏子の目には、絶望というものしか浮かんでいない。
そんな彼女から感じ取れた殺気のせいで、私は叫んでいたのだ。

「・・・魔女らしく生きてやるよ!」

 その手に持つ槍が振り回される。ヒュン、と風を切る音が
聞こえた頃には、巴マミの腹部には槍の柄がめりこんでいた。

 部屋の壁とも言える機械に、叩き付けられる巴マミ。

 私は反射的に、盾を回そうとしていた。

 佐倉杏子はもう一度、槍を振っていた。
その攻撃目標は、明らかに私。

 彼女の持つ武器の特性は、よく知っていた。

 こちらに振られた槍の柄の部分がジャラリと音を立てて分離する。
私が盾を回す暇もなく、彼女の攻撃が私の頭部に届く。
その武器は槍でもあり、多節棍でもあったのだ。

 眼前の絶望に飲まれかけている魔法少女は、
そのような状況に置かれているとは思えないほどに強く、
そして速かった。

 巴マミと同じように吹き飛ばされる私。

 続けて、私が視線を戻す前に、カンカンと
小刻みに地面を蹴る音が近づく。

 こちらにトドメをさすつもりか。

 その足音は、私が何かを考える間もなく、銃撃音によって消される。

 床には硝煙が。

 巴マミは、すでに銃を構えていたのだ。
193 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:17:30.66 ID:IP8r7eGk0
「そうだ!殺せよ!」

 この狭い室内で、私達は佐倉杏子と戦うには不利な要素が多すぎた。
巴マミは壁から起き上がれないまま、佐倉杏子に強烈な蹴りを入れられる。
壁から壁へと、巴マミはピンボールのように弾き飛ばされる。

 まだ宙を飛んでいる巴マミを追うかのように、走り続ける佐倉杏子。

 私は自分が先ほど助けられたのと同じように、佐倉杏子の
前方に向けてライフルを連射していた。

 佐倉杏子は急ブレーキをかけ、
巴マミは再び鈍い音と共に壁にぶつけられる。

「うぜぇ。お前ら、超うぜぇ」

 私はライフルを発砲した時点で、私に出来る行動が
何一つない事に気づく。彼女は絶望に飲まれかけており、
もう彼女のソウルジェムは真っ黒のはずだ。

 もはや彼女には自らの傷の治療に使う魔力さえ、
残ってはいないのだろう。私はそう考えていた。

 そんな彼女に、当たり所の悪い弾が命中してしまえば。
私が彼女を殺す事になってしまう。

 時を止めようが、無駄なのだ。

「佐倉杏子、あなたがどれほど辛い思いをしてきたのか、
私は知らない。けれど、あなたの帰りを待つ人が居る事だけは、
思い出して欲しい」

「ごちゃごちゃとうるせえ。お前にアタシの何が分かる」

「あなたの事は何も分からない。
けれど、あなたの事はよく知っているつもり。
あなたはこんな事を出来る人ではないはずよ」

「イカれてんのか?何を言ってんのか、わかんねえよ!」

 説得に夢中になっていたため、彼女がこちらに歩いて
近づいている事に私は気付いていなかった。
気付いた頃には、佐倉杏子はその手に持つ槍をこちらに向けて、
すでに走り出していたのだ。

 間一髪で、その攻撃を避ける。

 逃げる事に必死な私は、手に持っていたライフルを取り落としていた。
194 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:18:05.90 ID:IP8r7eGk0
−−− ウラル山脈 戦略ミサイル基地 2015 10/12 6:20 −−−

 片足で地上に降りた”HIGH-MACS”のコクピット内に、
これまた嫌なガリガリという金属音が響き渡る。

 もはや”HIGH-MACS”は右脚でしか大地に立てなかったために、
そのコクピットは俺の体を乗せたまま、左に傾いていたのだ。

 ”カノンフォーゲル”はすでに、こちらに向けて旋回を
始めている。地上戦はもう出来ない。

 俺はもう1度、バーナーを吹かして空へと上がる。
その機能が壊されていない事は幸運であった。

 敵も同じく、俺に釣られて空中に躍り出る。



 だが、奴は俺に近づいては来なかった。

 畜生が。

 奴は、俺がバーナーの継続限界まで飛ぶのを待ってから、
地上に降りた所を狙うつもりなのだ。

 照準の中に居る敵機を、悪あがきのように撃ち続ける。

 その砲弾は、空中でこまめにバーナーを制御しているために
ふらふらと動く”カノンフォーゲル”にかすりもしない。

 それを見ながら、俺は思い出していた。

 奴が長距離射撃の名手だという事を。

 俺の愛機に、被弾による衝撃と振動が届く。

 俺はバーナーによる空中制御が出来なくなり、、地上へ向けて降下していた。

 

 そして、もう一度コクピットに響く、着地の衝撃。



 斜めに傾いたコクピットの中からは、勝利を確信した敵が
こちらに向けてジグザクに突っ込んでくるのが見えていた。
195 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:18:33.48 ID:IP8r7eGk0
 俺は傾いたコクピットの中で、スロットルを押し込む。

 頼む。動いてくれ。



 ”HIGH-MACS”は右脚だけに残されたローラーダッシュを機動させ
ガリガリと砕かれた左脚が地面に摩擦する音を立てながら前進する。

 敵も驚いていたのかもしれない。または、回避行動を
取るだけの距離が空いていなかったのかもしれない。

 コクピット内にガツンと響く金属音と衝撃。

 今度の衝撃音は、”HIGH-MACS”と”カノンフォーゲル”との
衝突によって生み出されていたものであった。

 HMDには、視界いっぱいに広がる”カノンフォーゲル”。
俺は即座に武装スイッチを有線誘導ミサイルに切り替えた。

 砲塔を向けている時間などない。ロックオンなども必要ない。



 ひたすら、トリガーを連打する。



 コクピットに伝わり続ける、爆音と衝撃。そして、熱。

 最後にトリガーを押したその時には、”HIGH-MACS”は
俺からの操縦を受け付けなくなっていた。

 ごめんな。こんな使い方をして。

 俺は急いで体を座席に固定していたハーネスを外し、
燃え上がるような暑さのコクピットから脱出していた。
196 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:18:59.68 ID:IP8r7eGk0
「ゴホッ!ゴホッ!」

 煙をいくらか吸い込みながらも、俺はその滑走路を走って距離を取る。

 抱き合いながら燃え上がる2両の歩行戦車を眺めながら、
俺は咳き込んでいた。

 体の異常を確認する。パイロットスーツは煤だらけになっていたが、
コクピットから飛び降りた時に足を少し痛めた以外には、
俺は体に異常を感じなかった。

 燃え上がる”カノンフォーゲル”の上に立つ姿。

 お前も戦えなくなったんだな。
それを理解して、俺はほっと息を付く。



 やがて、その姿は首元から何かを手に取り、
それをこちらに放り投げてきた。

 それが視界に飛び込んだ時には、俺は凍りつく思いであった。

 カチャン、と音を立てて地面に落ちたそれを見て、
手榴弾の類ではない事を理解し、俺は一息付く事が出来た。

「おい!」

 俺がそう叫ぶのと同時に、歩行戦車達は花火を打ち上げる。

 次々と続く爆発。それが生み出した強烈な爆風に、
俺は滑走路から吹き飛ばされていた。

 

 痛ってぇ・・・

 体の節々は痛むものの、俺はまず地面に手を突き、
そして立ち上がる事が出来た。

 俺と一緒に爆風に吹き飛ばされていた物が、目の前に落ちていた。

 先ほど、敵が俺に向けて投げてよこしたもの。

 黒い鉄十時の描かれた勲章。
197 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:19:37.13 ID:IP8r7eGk0
 俺はHMD内臓ヘルメットを外し、その勲章を首からかける。
そして、携行型無線機のスイッチを入れた。

「マギカリーダーより各員、状況を知らせろ」



 返信はなかった。

 マギカ2とマギカ3は、敵編隊を撃破する事が出来たのだろうか。

 マギカ4とマギカ5は、目的へ向けて進んでいるのだろうか。

 色々と心配するタネはあったが、俺は懐の拳銃を構え、
彼女達が侵入して行った建物へ向けて走り出す。

 俺のような初歩のサバイバル訓練を受けた程度のパイロットなど、
魔法少女にとっては居ても居なくても同じであろう。

 だが、じっとしてなどはいられなかった。

 俺達の目的は、この基地からのミサイル発射を阻止する事なのだ。



 実戦をくぐり抜けて来た歩兵が俺を見たら、
おそらく激怒して俺を殴り飛ばしていたに違いない。

 だが、彼女達が通った道なのだ。もう敵の姿はないだろう。

 そう考えた俺は、全力でその薄暗い通路を走っていた。
198 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:20:03.14 ID:IP8r7eGk0
−−− ウラル山脈 戦略ミサイル基地 2015 10/12 6:30 −−−

 盾から武器を取り出す暇もない。

 私はその狭い室内を飛び回り、迫る佐倉杏子から
逃げ回る事しか出来なかった。

 いや、逃げ回る事すら出来なかった。
 
 槍の射程からは逃れられるものの、
多節根の射程からは逃れる事が出来なかったのだ。

 壁に叩き付けられる私。これで何度目だろう。
さすがに魔力で痛覚をカットしているとはいえ、
このままでは体がついて行けなくなってしまう。

「なぁ・・・なんで向かって来ないんだ?
アンタ、このままじゃ死ぬぜ」

「あなたと戦うつもりはない」

「だから、そういうのがうぜぇって。
かかって来ないんなら、もう死ねよ」

 槍を振り上げる佐倉杏子。
盾を回そうと考えた瞬間、佐倉杏子の背後から
黄色いリボンが彼女へ向けて飛んで来る。

 これを待っていた。巴マミのこの能力なら、
佐倉杏子を傷つけずに済む。

 だが彼女は振り返り、そのリボンを容易く切り裂く。

「へぇ、マミはまだやる気あんじゃん」

 そう言って、佐倉杏子は私の事など居ないかのように、
背を向けて巴マミへ向けて駆けて行く。

 その大きな槍を、巴マミへ向けたままで。
199 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:20:30.46 ID:IP8r7eGk0
 嫌な音が聞こえた。

 その音がした場所には、鮮血が飛び散っていた。

 巴マミは、その大きな槍を腹部に受けてしまっていたのだ。

 槍の先からは、滴った血がぽたぽたと地面に垂れている。



 私は盾から拳銃を取り出す。せめて手足にだけ、ダメージを。
そう考えて、佐倉杏子を狙っていたのだ。



 巴マミは、腹を貫かれたまま。

 その両手で佐倉杏子の頭を抱いていた。

「やっと掴まえた」

「なっ・・・離せよ!」

「ううん、離さない」



「みんな、貴方の帰りを待っているの。
私も、そこにいる暁美さんも、ここに来れなかった美樹さんも。
ここには居ない魔法少女達も。みんな待っているの」

「うるせえ!戻るつもりなんてねえ!私は・・・!」

「貴方が魔女だなんて可笑しいわ。
貴方は誰よりも立派な、魔法少女ですもの」

 巴マミは口から血を流しながら、
それでも佐倉杏子に説得を続ける。

「おい・・・お前、このままだと死ぬぞ」

「心配してくれて嬉しいわ。
私を殺したくなければ、一緒に帰りましょう。ね」

「離せ・・・離せよ・・・・・・」

 涙声の佐倉杏子の声が、この部屋に響き渡っていた。
200 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:20:55.95 ID:IP8r7eGk0
 やがて、その魔力で作られた槍はふっと姿を消す。

 同時に、糸が切れるように崩れ落ちる2人。

 2人とも、意識がないように見えたため、私は急いで
彼女達の元へ駆け寄る。

 巴マミは、かろうじて意識があった。
魔力を集中させて、腹部に空けられた風穴を埋めようと
顔を歪めていた。

 佐倉杏子には意識がなかった。
私は彼女の胸元についているソウルジェムを取り上げる。

 それには赤い輝きがほとんど残っておらず、むしろ真っ黒と
表現した方が適切であるほど、穢れを溜め込んでいたのだ。

 そんな彼女のソウルジェムが、一瞬だけ赤色を取り戻す。

「ミサイル発射カウントダウン、あと180秒。
作業員は速やかにシェルターに避難して下さい」

 その警告を知らせるランプの輝きが、ソウルジェムを含めて
この室内に赤い光を照らしたのだ。



 佐倉杏子の魔力を、すぐに回復させる必要がある。

 私が佐倉杏子を背負って戻り、巴マミにミサイルの阻止を頼むか。

 あるいは、その逆か。

 そもそも、1人でミサイル発射を止められるのか。

 巴マミも、まだ傷の治療を終えていない。

 私はパニック状態に陥りかけていた。
201 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:21:26.77 ID:IP8r7eGk0
−−− ウラル山脈 戦略ミサイル基地 2015 10/12 6:35 −−−

 俺がその光景を目にした時に、そのアラートは聞こえていた。

 この狭い部屋には、倒れている少女が2人。
唯一立っていたのは、頼れる俺の相棒、暁美ほむら。

「おい!どうなってる!」

「リーダー!そこの魔法少女を連れて戻って!お願い!」

 いたる所に血が飛び散り、巴マミの倒れている場所には
大きな血の池が作られている。

 彼女達が戦闘をしていた事は、俺から見ても明らかであった。

「そいつは・・・?」

「過激派に閉じ込められていた魔法少女よ!
私達が今、助け出したの!」

 そんな言い訳が通るか。

 それならば、お前の顔についた痣はなんだ。
何故、その魔法少女は意識を失って倒れている。
血の海に倒れている巴マミをどう説明するんだ。

 俺はじっと暁美ほむらの目を見据える。



 彼女は俺から目を逸らす。

「お願い。信じて・・・」
202 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:22:03.05 ID:IP8r7eGk0
 何か事情があるのだろう。

 これまで、散々世話になってきたんだ。
たまには、我侭を聞いてもいいか。

「分かった。彼女はPEU過激派に閉じ込められていた。
俺は彼女を連れ帰り、そう報告すればいいんだな?」

 暁美ほむらは、黙ったまま頷く。

 俺はその倒れたままの、赤い髪の少女を背負った。

 暁美ほむらは俺の元へ駆け寄り、俺のポケットの中に
おそらくこの少女のものであろうソウルジェムを入れる。

「マギカ4、ミサイルを止められるか?」

「絶対に止めて見せる」

「分かった。無茶だけはするなよ」

 そう告げて、俺は来た道を走って引き返していた。
203 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:22:43.35 ID:IP8r7eGk0
−−− ウラル山脈 戦略ミサイル基地 2015 10/12 6:37 −−−

 巴マミはやっと傷の治療を終えた様子であった。
あれだけの傷を治療させていたのだ。
時間がかかるのは、仕方ない事であった。

「カウントダウン、あと60秒。59、58・・・」

 その女性の声のカウントダウンが始まると、
立ち上がりかけていた巴マミは再び座り込んでしまう。

「もう・・・間に合わないのね」

「諦めないで。絶対に間に合わせる」

 私は生気を失いつつある彼女の目を見て、
彼女の手を取り、そう告げた。

「51、50・・・・・・・・・・」



 盾を回す。

「絶対に手を離さないで。
これであなたも、止まった時の中を動けるから」



 返事を聞くまでもなかった。

 彼女の目に、希望が甦っていたのだ。

 そうして、私達は赤い光に照らされる通路を走り出す。
204 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:23:09.36 ID:IP8r7eGk0
「45、44・・・・・・・・・・」

 盾を回す。

 少しだけ気分が悪くなるが、それでも私達は走り続ける。

 薄暗い通路を、右へ左へと曲がりながら。



「40、39・・・・・・・・・・」

 盾を回す。

 眩暈のために、体が少し泳いでしまった。
倒れそうになるのを、ぐっとこらえる。

「暁美さん?大丈夫なの?」

「喋っている暇があったら走って」

 彼女は頷き、私の後に続いて走り続ける。



「35、34・・・・・・・・・・」

 盾を回す。

 私はついに、倒れてしまった。

 目の前の世界がぐるぐると回る。

「暁美さん!」

「まだ・・・行け・・・る・・・」

 気分が悪くなり、胃の中にあったものを通路に撒き散らす。
口から糸を引いて、その内容物が私の肩に付いていた。

 それでも私は立ち上がる。走れそうにもなかったが、
それでも止まった時の中で、少しでも目標に近づける。

 私の後ろを走っていたはずの巴マミが、いつの間にか私の前に居た。

 私は彼女に引っ張られるように、よろよろと歩いていた。
205 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:23:48.89 ID:IP8r7eGk0
「35、34、33、32・・・」



 もう盾を回せなかった。

 魔力を使おうとした私の視界は真っ暗になり、何も見えなかった。

 体に伝わる痛みが、私が倒れたという事実を知らせてくれる。



「暁美さん、ありがとう。貴方のおかげよ」

 目には見えないが、何かが爆音を上げている。

 戦場に長く居た為、私にはそれが
エンジンを燃焼させているミサイルなのだと理解していた。



 私達は、やり遂げたのだ。

 私が意識を失う前に、彼女の声が届いた。



「ティロ・フィナーレ!」
206 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:24:24.46 ID:IP8r7eGk0

207 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:25:03.54 ID:IP8r7eGk0
−−− 暁美ほむらの手記より −−−

 投入されたエース部隊の活躍により、自らの持つ武力を
失ったPEU過激派は、武装を解除しAFTAに投降した。

 最後までAFTAへの抵抗を続けていたロシアも、
ミサイル基地の占領と同じこの日にAFTAに降伏。

 これを持って、アメリカは第三次世界大戦の終結を宣言した。

 まだ世界中に火薬の臭いが燻ってはいたが、
多大な犠牲を払い続けた人類は、ついに争いを止める事が出来たのだ。
 

※ PEU=凡ヨーロッパ連合 AFTA=アメリカ自由貿易地域
208 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:25:31.05 ID:IP8r7eGk0
−−− ???? −−−

「ほむらちゃん!」

 気が付いた時には、私はまどかに抱かれていた。

 清潔な白いシーツのかけられたベッド。
そこに、私は横たわっていたのだ。

 目に入るものは、私を抱きながら泣いているまどか。

 ベッドから少し離れた位置に、目に涙を浮かべた美樹さやか。

 椅子に座りながら、いつもの微笑みを浮かべる巴マミ。

 そして、テーブルに置かれた紫色のソウルジェム。



 それを見て、私はベッドから飛び起きる。
まだ頭が痛かったが、大事な事を思い出したのだ。

「佐倉杏子は・・・?」

 その声を聞いた美樹さやかは、鼻に指をあて、静かにしろと
言いたげな仕草を私に見せる。

 この病室を仕切っていた白いカーテンを彼女が開くと、
そこに見えたベッドには、真っ赤な髪の少女が眠っていた。

 その隣に置かれたテーブルには、輝きを取り戻した赤いソウルジェム。

 それを確認できた私は、ほっと胸をなでおろす。

「リーダーが、憲兵さんたちを必死に説得してくれたのよ。
彼女は過激派に囚われていた魔法少女だ、ってね。
けれど、やっぱり佐倉さんは”向こう”に居た人間として、
多少なりとも尋問を受けるみたい」

「3日後にはどっかに連れて行かれちゃうみたいなんだ・・・」

 そう言った美樹さやかは下を向き、口をつぐむ。

 まどかだけは、話をしていた2人とは対照的だった。
209 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:26:05.73 ID:IP8r7eGk0
「大丈夫だよ。杏子ちゃんが起きたら、皆で口裏合わせちゃおうよ」

 意外にも、私から言い出そうと思っていたその腹黒い発言は、
まどかの口から出されていた。

 まどかの性格と、この状況を考えたらそれも仕方がないか。

 そう考えている内に、まどかはトコトコと病室に設置されていた
ロッカーまで歩き、その扉を開く。

 ロッカーの中には、物が詰め込まれて大きく膨らんだ沢山のビニール袋。
うっすら透けるビニールから、その中身を知る事が出来る。

 お菓子、ジュース、ケーキ、クラッカーなどなど・・・

「鹿目さん・・・?あなた、病室でパーティーをするつもり?」

 巴マミから漏れた、呆れた様子の声を聞いた私はついに噴き出してしまう。
続けて美樹さやかは、私に静かにしろと示したのを忘れたかのように、
大声をあげて笑い出した。

「あっはははは!こりゃ参った、あんたには負けるわ」

「え?え?ふえぇ・・・」

 笑いを抑えられない私達をきょろきょろと見渡し、
顔を赤くして下を向くまどか。

 悪い事をしたような気がするので、私は彼女のフォローにまわる。

「けれど、佐倉杏子は大怪我をして寝ているというわけではないわ。
ソウルジェムの輝きは戻っているし、多少は騒いでもいいんじゃないかしら?」

「そうね。せっかくみんなが生き残れたんですもの。
やっちゃましょうか、パーティー!」

「さっすがマミさん!話が分かりますねぇ!」

 笑いあう私達。

 もうすぐ、最後の一人もこの笑顔の輪に加わるはずだ。
隣のベッドで寝息を立てる佐倉杏子を見て、私はそう考えていた。

 これまで戦ってきた間、本当に色んな事があった。

 それがこのような結果となって終わるとは、考えても居なかった。

 いくら時を繰り返しても得られなかった、ハッピーエンド。
210 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:26:52.27 ID:IP8r7eGk0
 リーダーにもお礼を言わなければならない。

 佐倉杏子の事だけではなく、これまでの戦いの間、
ずっと私と一緒に居てくれた戦友。

 そう考えた私はベッドから起き上がり、
床に置いてあるスリッパに足を入れる。



 そこで私はへたりこんでしまう。
魔力の消耗による代償が、まだ肉体に残っていたのだ。

「ほむらちゃん!」

「あら、やっぱり疲れているのね。無理しちゃ駄目よ」

 まどかと巴マミに肩を貸されて、私はベッドへ戻される。
立ちくらみのような感覚が、頭の中にぐるぐると残っていた。



「うーん、やっぱりパーティーは明日にしてはどう?
暁美さんも佐倉さんも、起きてすぐには体調も優れないと思うし」

「そうですよね・・・杏子が連れていかれるまで、まだ日はありますしね」

「そうしましょう。鹿目さんも、美樹さんも疲れているでしょう?
みんなゆっくり休んで、また明日ここに集まりましょう」

「浮かれてごめんね、ほむらちゃん。
私、ケーキとジュースを冷蔵庫に入れてくるね」

「あたしはここで杏子を見てるから、2人は戻って
ゆっくり休んできてよ」

「うん。さやかちゃん、ほむらちゃん、また明日ね」

 そう言ったまどかはロッカーを再び開けて、
中に入っていたケーキと飲み物の詰まった
ビニール袋を取り出す。
211 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:27:21.70 ID:IP8r7eGk0
「あっ・・・」

 なぜだろう。

 ロッカーに残されたお菓子とクラッカーを見ていた私は、
自分でも気付かずに声を出していた。

「どうしたの?ほむらちゃん」

「いいえ、なんでもないわ」

 不思議そうな表情を浮かべていたが、
すぐに笑顔を取り戻すまどか。

「大丈夫だよ、すっぽかしたりしないから。
絶対、パーティーしようね」

 そう言ったまどかはドアを開け、巴マミと病室を出て行った。

「アンタも疲れてるでしょ。杏子が起きたら、アンタも起こそうか?」

「ええ、そうしてくれると嬉しいわ」

「よし、病人は寝た寝た!どれだけ眠そうでも
絶対に起こすからね。覚悟してろよ〜!」

 そんな美樹さやかを見て、私は安心して目を瞑る。



 私の願いも、ついに叶うんだ・・・
212 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:28:00.82 ID:IP8r7eGk0

213 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:28:31.27 ID:IP8r7eGk0
−−− ???? −−−

 目を覚ました私は、その病室に誰も居ない事に気付く。

 相変わらず、口の中には血の味が残っている気がする。
鼻の奥には、硝煙の臭いが染み付いている気がする。



 気がするだけ。



 私はそれまで着ていた薄汚れた迷彩服ではなく、
清潔なパジャマに身を包まれていたのだ。



 病室の青いカーテンが、風にそよぐ。

 テーブルの上に置かれた、見滝原中学校の入学手続き書類。

 ここは間違いなく、見滝原の病院であったのだ。





 私はじっと、自分の手を見つめる。

 血で真っ赤に汚れたように思える私の両手が涙でぼやける。






 終わってしまう夢なんて、見たくもなかった。

 夢なら、覚めないで欲しかった。


 もう少し。

 もう少しだったのに。

 みんなで・・・笑いながら・・・
214 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:29:16.44 ID:IP8r7eGk0



 どれだけの時間、そうしていたのだろう。

 顔を押さえていたパジャマの袖は、もうびしょびしょに濡れていた。



 ケーキとジュースは持って行かれてしまったのだ。

 いつまでもくよくよしてはいられない。

 私は唇を噛んで、心に残る思いを振り切る。



 ベッドから飛び降り、冷たい病院の床に素足で立つ。

 そしてそのまま、洗面所へと歩いて行く。



 夢は覚めてしまったが、私の中に残されたものがある。

 私は確かにあそこで悲願を達成させたのだ。

 これまで何度となく時間を巻き戻しても、叶わなかった願いを。



 今度こそ、きっと上手くやれる。



 鏡に映る私は、三つ編みを作っていたリボンをほどく。

 心に秘めたものを形にするように、しっかりと刻みつける。

 私の戦場はあそこじゃない。






 だから、私は戦い続ける。
215 :1 第八話は>>166から[saga]:2011/06/22(水) 21:29:49.55 ID:IP8r7eGk0

216 :1 第八話は>>166から[saga sage]:2011/06/22(水) 21:30:31.21 ID:IP8r7eGk0
以上で、原型を留めない最終話は終了です。
読んでくれて、また応援してくれてありがとうございました。

ご意見、ご質問、辛口でもご指摘を頂けたら、
それはとっても嬉しいなって。
217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/06/22(水) 21:41:39.34 ID:F72+9Dq2o
完結お疲れさマミさんマミマミ!


やっぱり戦闘描写上手いなぁ……羨ましい…
218 :1 第八話は>>166から[saga sage]:2011/06/22(水) 22:10:15.06 ID:IP8r7eGk0
お付き合い頂いてありがとうですよ。

ひたすら細かく描写した長い文章の戦闘にするか、
言葉を削って簡潔に戦闘を描写するか、悩んでいマミさんマミマミので
その反応を頂けて嬉しいです。
219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)[sage]:2011/06/23(木) 06:45:12.04 ID:RoeZPF77o
パッドをフルに使って走りまわってたのを思い出したわ。
無機質な駒の世界がそのまま再現されてて良かった。
面白かったぜー。
220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)[sage]:2011/06/23(木) 20:24:59.79 ID:EiXk1N7yo
おつです!
面白かった
221 :[saga sage]:2011/06/23(木) 20:39:21.64 ID:MDMzsrWe0
ありがとうありがとう。
こんな地の分だらけの長さを読んでくれて、感想までくれてありがとう。
兵庫県には第501機動対戦車中隊のパイロットが多いのかしら。
222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/06/23(木) 21:03:40.32 ID:71PwMWSIO
乙。
なれるまでボコボコにされた記憶が蘇った。
223 :[saga sage]:2011/06/24(金) 19:45:54.44 ID:shZBMXNU0
”俺”がじわじわと操作上手くなってる描写できていたか
心配だったので、その記憶が甦ってくれて嬉しいです。

ピピピッ ピピピッ ピピピッ
ドゴーン ガンガンガン ドゴーン オールシステムブロークン
224 :[saga sage]:2011/06/28(火) 19:06:56.70 ID:bRtImMG10
コッソリと第八話で投げっぱなしだった設定を回収する意味での番外編を作成中です。
もはやガングリでも何でもないモノになりつつありますが
それが終わったら筆者の中で区切りが出来るので、html化依頼を出しに行きます。
まだしばらくかかりそうなので、お待ち頂ける方はお待ち下さい・・・
225 :1 番外編は>>226から[saga]:2011/07/01(金) 20:07:42.57 ID:APfO/ntI0

226 :1 番外編は>>226から[saga]:2011/07/01(金) 20:08:22.52 ID:APfO/ntI0
−−− 美樹さやかの手記より −−−

 私達は、ずっと一緒に居た。

 日本で魔女退治を続け、疲れ果てて倒れていた私達。
私達は、そこに現われた男達の言う事を聞くしかなかった。

 けれども、杏子とならどこへ行っても怖くない。
お互いがそう思っていたから、私達は一緒にドイツまで来たのだ。

 戦争の道具にされるのが嫌だったわけじゃない。
それでも、私は杏子が居れば、ずっと一緒にやっていけると思っていた。

 私が足に大怪我をして戻った時には、ひどく怒られた。
でも、それも嬉しかった。私には、こんなに心配してくれる家族が
居るんだなって、心から実感できたから。

 ヨーロッパ戦線で戦ってきた私達は、AFTAがPEUへ
宣戦布告をすると同時に、ドイツ本土へと召集されていた。

 貧弱なAPCと違って、そう簡単に私達が負けるはずがない。
当時の私は楽観的に考えていた。

 その1ヶ月後にAFTAはノルマンディーに上陸し、それだけの期間を
防衛準備に当てていたPEUは、10日後にはパリを占領されていた。

 PEU加盟各国は次々とPEU離脱を宣言し、
AFTAに抵抗を続けるのは私達ドイツ軍と、ロシア軍だけとなってしまう。

 そのような状況下、”ラインの守り”作戦が発動される。

 私と杏子は第44機動装甲中隊に編入され、
破竹の進撃を続けるAFTA連合軍を迎え撃つ。


※ PEU=凡ヨーロッパ連合 APC=アジア太平洋共同体
※ AFTA=アメリカ自由貿易地域
227 :1 番外編は>>226から[saga]:2011/07/01(金) 20:08:57.93 ID:APfO/ntI0
−−− ケルン 2015 9:22 10:30 −−−

 俺の愛する祖国は、もう敗北の秒読みを迎えていた。

 連日のように行われるAFTAの空爆。遥か遠い昔の戦争で
行われた、街ごと焼き払う無差別爆撃こそなかったものの、
俺達の産業基盤はズタズタにされていた。

 ドイツの空を守っていた誇り高きルフトバッフェも、
AFTAの空軍力の持つ物量に押しつぶされてしまっていた。

 今や俺達は、空から狙われるのを承知の上で
このケルンに迫り来る敵を追い返そうとしていたのだ。

 住民達は、避難を終えているはずであった。
だが、いくらかの人間はこの地に留まり続けている。

 軍人としての訓練を受けていない彼らも、
このドイツを守りたいという一心でここに留まっているのだろう。

 ライン川を超えて、ケルンの西に広がる住宅地域に
俺達は陣を構えていた。

 俺は愛機の改造型ヤークトパンター、”カノンフォーゲル”の
コクピットの中から、周囲を警戒していた。

 近い将来、必ずやってくる敵を迎え撃つために。
228 :1 番外編は>>226から[saga]:2011/07/01(金) 20:09:23.29 ID:APfO/ntI0
「アドラー4よりリーダー、メシ食いにいってもいいか?」

「ちょっと!今はそんな事、言ってる場合か!」

 臨時に俺達アドラー分隊に配属されていた、
アドラー4の佐倉杏子とアドラー5の美樹さやか。

 彼女達の漫才のような会話は、たびたび俺達の心を
和ませていた。

「リーダーよりアドラー4、15分で済ませろ。
アドラー5、お前にはアドラー4の見張りを命じる」

「さっすがリーダー、話わかるねぇ。じゃ、またな!」

「ちょ・・・アドラー5よりリーダー、命令を実行します!」



「リーダー、優しいですねえ」

「お前は女子供にいつも甘いからな」

 この場に残った部下の言う通りだった。
俺はたびたび、彼女達を見張りから外していた。

 もはや我々の敗北は決定的であろう。
そんな戦いに、まだ若い彼女達を戦闘に巻き込みたくなかったのだ。

 いくら彼女達が、俺達に大きな戦闘力をもたらす
”魔法少女”だったとしてもだ。

 俺は何度となく、彼女達に話してきた。家に帰れ、と。
だが、彼女達はこう返してくるのだ。このケルンが家だと。

 彼女達にも守る物があるのだ。
俺には彼女達の決意を止める権利などない。

「それにしても、こっちの戦線に回されて残念だったな?」



「ああ、そうだな」
229 :1 番外編は>>226から[saga]:2011/07/01(金) 20:10:01.26 ID:APfO/ntI0
 俺ほどではないが、多大な戦果を上げていた部下達を撃破した
日本外人部隊の”HIGH-MACS”。

 部下達が捕虜にもならず、2日歩き続けて陣地に戻った時には、
俺は本当に嬉しかった。

 彼らをそんな目に合わせた敵の事を、この2人の部下は目を輝かせて
話していたのだ。それを聞いた時から、俺は”HIGH-MACS”と
勝負をしたいと思っていた。

 だが、AFTAの宣戦布告からしばらくして、
俺は対APCの前線から外され、本国に召集される事になる。

 電撃的な侵攻を見せるAFTAに抵抗するため、我がドイツの誇る
エースパイロットを掻き集めた、この第44機動装甲中隊に
俺は配属されてしまっていたのだ。

 奴と戦えなかった事は残念だったが、そんなものよりは
祖国の事の方が大事だ。実際に、アドラー2から話を振られるまで、
俺はその”HIGH-MACS”の事など頭から忘れていたのだ。

「ヤツと戦わずとも、俺達はこれから嫌というほど
”HIGH-MACS”と戦えるさ」

「AFTAの”HIGH-MACS”は手ごたえのない奴ばかりで・・・
アドラーリーダーも、そう思いませんか?」

「単機での戦いであればな。今に奴らは、俺達を取り囲むように
やってくるはずだ。油断はしないでおけ、アドラー3」

「アドラー3、失礼しました」

 その警告は無駄にならずに済んだ。

 AFTAの攻勢開始を知らせる砲撃が、
俺達の陣地に降り注ぎ出したからだ。

 耳をつんざく爆音に混じり、コクピットに通信が入る。

「司令部よりアドラーリーダー。敵の攻勢が始まった。
敵砲兵を沈黙させろ」

「アドラーリーダー、了解。行くぞ!」

 都合が良いので彼女達を置いてけぼりにしようと考えた。

 牙が折れるまでは戦い続けてやる。
230 :1 番外編は>>226から[saga]:2011/07/01(金) 20:10:30.22 ID:APfO/ntI0
−−− ケルン 2015 9:22 10:40 −−−

 アドラーリーダーの言葉に甘えて、
私達はテントの中でホットドッグをつまんでいた。

 ぱくついている癖に、杏子はウィンナーが不味いと
ぶつぶつ不満を漏らしている。あんまり言うものだから、
そろそろ注意してやろうかと思っていた時だった。

 風を切るロケットの音と、それに伴う爆発音。
ぐらぐらゆれる地面と、ぱらぱらとテントに降る土。

 テントの中からは外の様子が見えなかったが、
私達は砲撃を受けているのだとすぐに気が付いた。

「おいおい、もう来たのかよ!」

「すぐ皆の所に戻らないと!」

 言われるまでもなく、杏子は立ち上がり
テーブルに置いていた多機能ゴーグルを顔にかけていた。

 私もそれに続くと、すぐに無線通信が耳に入る。

「司令部よりアドラーリーダー。敵の攻勢が始まった。
敵砲兵を沈黙させろ」

「アドラーリーダー、了解。行くぞ!」

「おい!置いてくつもりか!」

 テントから飛び出した杏子に続いて、私も外に出る。

 もうかなり遠くへ、アドラー隊のヤークトパンターは
土煙を上げて行ってしまっていた。

「あーあ、行っちゃった・・・」

「っざけやがって!」

 砲撃は止み、辺りは再び静けさを取り戻していた。
231 :1 番外編は>>226から[saga]:2011/07/01(金) 20:10:57.16 ID:APfO/ntI0
「司令部より、アドラー4、アドラー5。
何故、前進しない?」

「置いていかれたんだよ!」

「ハルトマンらしいな。ならば、お前達には陣地周辺の防衛を命じる。
ケルンに1人も敵を通すな。任せたぞ」

「・・・りょーかい!」

 不機嫌な声で応答を返す杏子。

 それでも、私は司令部が与えてくれた命令に内心は感謝していた。

 私達がドイツに来て、何の身寄りもなかった時。
狭苦しい基地の雰囲気が苦手で、たびたび私達は兵舎から
抜け出していた。

 そんなある日、杏子はある教会の前で足を止める。
杏子の家がクリスチャンだったため、
私はぐいぐいとその教会に引っ張られたのだ。
232 :1 番外編は>>226から[saga]:2011/07/01(金) 20:11:25.46 ID:APfO/ntI0
 そこに居た、もうすぐ60歳になると聞いていたシスター。

 魔法少女であるという機密を話さない私達の事を、彼女は
家出少女か何かと思っていたらしい。今でもそうなのだろう。

 彼女は私達にご飯を作ってくれ、そして泊まるように言ってくれた。
夕食の会話で味わった、久しぶりの温かさ。

 初対面なのに、お母さんのような、お婆ちゃんのような。

 私はスープの皿の中に、ぽたぽたと涙をこぼしていたのだ。

 今でもその時の事を時々思い出しては、杏子は私をからかってくる。

 だが、私も知っていたのだ。ベッドで寝息を立てる杏子が、
寝言だったのか「お母さん」と呟いていた事を。
もっとも、杏子のプライドのために、それは今でも心の中にしまってあるが。



 それからの2年間、たびたび私達は、その教会に足を運んでいた。

 その度に受けられる、温もりを求めて。

 その教会、このケルンの街こそ、今では私達の故郷なのだ。



「さー、頑張らないとね!」

「何やる気出してんだ。超ウゼェ」

 そんな憎まれ口を叩く杏子だって、私と同じ事を考えていたはずだ。

 その証拠に、私達はそれから口を聞かず、
レーダーと周囲の警戒に全神経を集中させていた。
233 :1 番外編は>>226から[saga]:2011/07/01(金) 20:11:53.18 ID:APfO/ntI0
−−− ケルン 2015 9:22 10:45 −−−

 最初に見え出したのは、M19-A1ブルータルクラブ3両の
編隊であった。平地を高速機動するその歩行戦車は、
さぞヨーロッパの地形に馴染んでいたのであろう。

 M19が射程に入る前に、その背後に続く戦闘ヘリが2機。
対戦車ミサイルを持つ、俺達には厄介な存在であるロングボウアパッチ。

「リーダーより各員、ヘリは任せろ」

「アドラー2、了解」

「3、カニは俺達で料理しておく」

 わざわざ無線で伝えるまでもないと思ってはいたが、
念のために俺達はそれぞれの役割の確認をする。

 寮機のヤークトパンター2両はS字の軌道を描いて
敵に向かって行く。

 それを確認した俺は、スロットルを押し込みバーナーを吹かした。

 照準の先は、まだ米のように小さな戦闘ヘリ。

 俺がトリガースイッチを押して、2秒後にそれは爆発を起こし、
空から落ちていた。

 今は残骸となっているそのヘリの寮機は、危険を察知したためか
真っ直ぐこちらに向かうのを辞め、俺にその右腹を見せていた。

 なめるな。偏差射撃などお手の物だ。

 ”カノンフォーゲル”のコクピットに、砲撃が行われた事を示す
衝撃と反動が伝わる。横向きになっていたため、先ほどより
照準に大きく浮かび上がっていた敵は、仲間の後を追うように
地面へと吸い込まれていった。

 ただで降下するのも勿体ないため、
まだ地上で機動戦を行っているM19を上から狙いながら
”カノンフォーゲル”を地上に降ろす。

 105mm滑空砲弾に貫かれたM19は、衝撃のために
バランスを崩し、前方にでんぐり返って動きを止める。

 火こそ噴いていないが、空けられた風穴から黒煙を
吐いていたため、俺はそれを撃破と認識した。
234 :1 番外編は>>226から[saga]:2011/07/01(金) 20:12:23.80 ID:APfO/ntI0
 俺が空中にいる間に、地上で戦っていた寮機は
すでにM19を1両撃破していた。

 俺が地上に降りてローラーダッシュを機動させた頃には、
最後の1両のM19はガトリング砲弾を浴びて蜂の巣にされていた。

「おいおい、俺達のリーダー様はいつもオイシイ所を持っていくな」

「アドラー3、そう言うならお前もカノンフォーゲルに乗ればいい」

「聞いたか、アドラー2。今度は嫌味まで言いやがった」

「隊長の言う通りだ。俺達には、あんな射撃は出来ない」

 それを人前に出した事はないつもりだったが、
俺は自分の射撃の腕が心の中での自慢であった。
何故なら、そのおかげで俺はドイツ1のエースパイロットとなり、
この祖国を一番よく守っているという自覚が出来たからである。

「次の敵さんだ」

 土煙を上げながら、こちらへ近づいてくるM19の編隊が見える。
先ほどと違うのは、正面から1編隊、そこから左側にもう1編隊。
6両のM19が俺達に向けて突進して来ていたのだ。

「カニばっかりだな。まだまだ俺達の事をナメている」

「頼もしい台詞だが、油断をするな。
このような攻撃が、いつまでも続くのがAFTAだ」

「弾が切れるまでは俺は死なねぇよ!」

 そう言ったアドラー3のヤークトパンターは、正面の編隊へ向けて
ローラーダッシュを機動させる。それに続くアドラー2。

 自然と、俺の相手は左側の編隊となった。

 この敵のおかげで、俺の戦闘時における平均命中率は
下げられてはいたのであるが、俺は奴らに敗北を喫した事はなかった。

 敵はこちらの倍の数だが、そんな物は俺達のハンデにもならない。

 俺も相棒達も、我がドイツ機甲軍団の最高のパイロット達なのだ。
235 :1 番外編は>>226から[saga]:2011/07/01(金) 20:12:58.96 ID:APfO/ntI0
−−− ケルン 2015 9:22 10:50 −−−

(さやか。あそこに敵が見える)

 その杏子からのテレパシーを聞いた私は、
彼女の見ている方向へと首を回す。

 AFTAのM1A3戦車の4両編隊。
それは、じりじりと音を立てながらケルンの街を目指していた。

(M1A3が4両ね。いつも通りに?)

(ああ。さやかは最後尾から狙ってくれ)

(オッケー)

 心の会話を終えて、私達は陣地から飛び出る。
危険がなかったわけではないが、前進をしている戦車に
追いつくためには、それなりのスピードを出す必要があった。

 杏子が先頭を、私が最後尾を。

 それぞれの持つ武器が理由で、私達は接近戦が得意であった。
しかし、敵車両に対してそれを行うのは、大きな危険を伴う。
戦車には、機関銃も搭載されているからだ。

 私達の武器は、戦車の装甲など軽々と貫いてみせる。
問題は、敵に攻撃される前にこちらからの攻撃を終えねば
ならない事。だから、私達はこのように奇襲を行い、
敵が混乱している間に敵編隊を全滅させる事を好んだ。

 街路樹に隠れながら、敵編隊に迫る。

 私達の満足できる距離にまで、それは近づいていた。

(始めるぞ)

 そうテレパシーで告げて、杏子はスピードを上げて
先頭を走る戦車へと向かっていく。



 だいだいこのくらいかな。

 少しだけ待ってから、私も最後尾の戦車へ向けて
全速力で走る。
236 :1 番外編は>>226から[saga]:2011/07/01(金) 20:13:43.93 ID:APfO/ntI0
 そうして目標に近づいた私達は、まず車両の移動手段を奪う。
今回はM1A3のキャタピラだ。

 私の手に持つ剣は、それを容易く切り裂く事が出来る。
損傷を与えた事を、この走行中の戦車が鳴らす不愉快な金属音から
理解する事が出来た。

 続けて、車両の攻撃手段をなくす。
車体の側面に搭載されている機関銃を切り取り、そのまま
私はジャンプして戦車の砲塔をすっぱりと切り裂く。

 これで一丁あがり。人を殺さずに無力化させる事が出来る。

 切羽つまった時にはこうしてもいられないが、
これまでの戦闘のほとんどを、このやり方で私達は戦ってきた。

 続いて、最後尾から前を走っていた戦車に狙いを定める。
やる事は今、行った行動と同じである。

 私が攻撃を終えるのと大体は同じタイミングで、
杏子も同様の攻撃を終えていた。

 そうして攻撃を終えたら、私達は一目散に逃げ出す。

 その頃には、最初に攻撃した車両から搭乗員が出てくるのも
いつもと同じように見えた。

(この調子でガンガンやっちゃいましょうか!)

(まだまだ敵は来るだろうしな)

 そんなテレパシーを行う私達の前方から、
AFTAのヘリの編隊が見える。

 攻撃ヘリも見えたが、何より重要なのは輸送ヘリ。

 敵は歩兵部隊を、私達の後方に展開させるつもりなのだ。

「司令部よりアドラー4、5。現在の拠点を放棄、
ケルン市街の防衛に向かえ」

「了解」

 杏子は返事すらしていなかった。

 彼女の後を追うように、私も続けて走り出す。
237 :1 番外編は>>226から[saga]:2011/07/01(金) 20:14:10.38 ID:APfO/ntI0
−−− ケルン 2015 9:22 11:10 −−−

 絶え間なく押し寄せるAFTAの戦闘車両。
その頃には俺達には、軽口を叩く暇すら与えられる事がなかった。

 視界に入っていた最後の敵戦車を撃破したところで、
俺の居るコクピット内に無線通信が届く。

「アドラー3よりリーダー、もう弾が持たない」

「リーダー、了解。アドラー2、3と後方に下がれ」

「アドラー2、まだこちらは余裕があります」

「お前達が補給を受けに行く最中にも、襲われるかもしれん。
アドラー2は3の後退を援護しろ」

「アドラー2、了解しました。隊長は?」

「俺はガトリング弾をバラ撒いているわけじゃないからな。
まだまだ残弾には余裕がある」

「へっ、せいぜい撃墜数を稼いで帰ってこいよ!」

「リーダー、ご武運を」

 寮機達はローラーダッシュを起動させて、後方へ下がって行く。

 まだ司令部から撤退命令が与えられたわけではない。

 俺は変わらず、この場に留まり続けていた。

 

 そしてすぐに、敵の後続はやってきた。

 この道路を突破できない事に苛立ちを感じたのであろう。
俺の視界には、3両の”HIGH-MACS”からなる編隊が
こちらに砲塔を向けながら、迫ってくるのが見えた。

 俺はスロットルを押し込み、敵に向けてローラーダッシュを起動させる。

 まだまだ距離があるため、真っ直ぐに迫ってくる”HIGH-MACS”。
俺はこれまでの戦闘の経験から、彼らが搭載しているミサイルの照準を
俺に合わせているであろう事を悟っていた。

238 :1 番外編は>>226から[saga]:2011/07/01(金) 20:14:39.79 ID:APfO/ntI0
 その時こそがチャンスだという事も、俺は理解していた。
俺は”カノンフォーゲル”の砲塔の照準を、
3両編隊の真ん中の”HIGH-MACS”に合わせていた。

 そしてトリガーを2度押し込む。

 コクピットに伝わる爆音と衝撃。

 ”カノンフォーゲル”から発射された砲弾は、”HIGH-MACS”の
脚部に上手く命中していた。時速60km前後でダッシュをしていた
”HIGH-MACS”は、その衝撃によって頭から倒れ、慣性を止められずに
そのままゴロゴロと前転を繰り返していた。

 あの様子では機体が生きていてもパイロットは無事では済むまい。

 仲間の仇討ちとでもいうように、残された2両の”HIGH-MACS”から
ミサイルの発射炎が見える。

 それが手動照準式のミサイルである事は知っていた。
そのため、俺はスロットルを押し込み、”カノンフォーゲル”を
空へと舞い上がらせる。

 炎の筋は、こちらのHMD越しの視界からでも、
明らかに俺のいる位置より下方を目掛けて飛んでいた。

 回避に成功した俺は安心して、今まさにバーナーを吹かした
”HIGH-MACS”に滑空砲弾を送り込む。

 その敵機は浮かび上がる瞬間に衝撃を受けてバランスを崩し
そのまま頭から地面に滑り落ちる。

 それが起き上がる様子を見せないのを確認している間に、
残された最後の1両の”HIGH-MACS”がこちらへ砲撃を開始していた。

 いつの間にか距離が詰まっていたため、俺はその敵機に
砲撃を浴びせる事が出来ず、お互いに通り過ぎる。

 ここからが本番だ。

 この先の戦闘の展開を考えながら、俺の”カノンフォーゲル”は
ゆっくりと高度を落としつつ旋回をしていた。
239 :1 番外編は>>226から[saga]:2011/07/01(金) 20:15:16.03 ID:APfO/ntI0
−−− ケルン 2015 9:22 11:15 −−−

 空挺降下を開始した敵兵達はすでに街中に展開を終え、
そこらの建物に潜んでいるものかと思えていた。

 連日の空爆により、ドイツ軍の地対空兵器はほとんどが破壊されていたのだ。

 あちこちから爆破音と射撃音が響く。

 軍人以外はほぼ無人となっていたこの街が、ついに戦場になったのだ。

「クソッ!」

 杏子は毒付きながら、走り続けていた。

 目指す場所は言うまでもない。
私達の第二の故郷である、あの教会。

 そんな私達は、いかに無防備に走っていたことか。
普通の人間より身体能力を強化されており、
かなりの速度を出していたとはいえ、
見通しのいい道路を一直線に走っていたのだ。

 その発砲音は聞こえなかった。

 気付いたら、杏子は吹き飛んでいたのだ。
吹き飛ぶという表現は正確ではないのかもしれない。

 射撃を受けた事による衝撃で、自身のバランスを崩し
建物の壁に自分から突っ込んでしまったのだ。

「杏子!」

 杏子は肩口から血を流していた。しかし意識はハッキリしており
急いで私を手で引くと、建物の中へと引っ張り込んだ。

 そうしてすぐに届く射撃音。 その狙いは、明らかに私達であった。
杏子に引っ張られなければ私達は今頃、蜂の巣にされていたのかもしれない。
 
「油断しちまったな・・・イテテテ」

「大丈夫?すぐ治してあげる」

「・・・そうも言ってられねえかもな」
240 :1 番外編は>>226から[saga]:2011/07/01(金) 20:15:45.02 ID:APfO/ntI0
 敵も私達がこの建物に隠れたのを見ていたのであろう。
彼らがこちらに駆けつけて来るのが、沢山の足音からも
理解することが出来る。

 やるしかない。

 白兵戦の経験がなかったわけではない。
だが、自らの手で人間を殺す事への罪悪感を
感じなくなったわけでもない。

 私の持つ剣を操る能力は、生身の人間を相手にすると
ほとんどの場合は相手を殺してしまう。それは杏子とて同じだ。
しかし、戦う事を拒否すれば、私達は生きてはいけない。

 あの詐欺師は、契約をする際に私達にそれを教えてくれなかった。

 生きるために人殺しをする。

 だが、やらなければならない。

 

 近づく足音が、すぐ側で止まる。
私達が息を潜めているこの壁の向こう側で、
今頃は突入の機会を伺っている事であろう。 

 杏子が黙ったまま、指でカウントダウンを始める。

 3、2、1・・・

 私達は、それぞれの武器を用いて
身を隠していた壁を切り裂く。

 その向こう側に待機していた敵兵ごとまとめて。

 驚いている彼らは、小銃をあらぬ方向へ乱射させていた。

 銃だけを狙えれば。

 そんな私の願いもむなしく、私の持つ剣は銃を持つ敵兵の
腕ごと切り落としていた。

 もう彼が助かる事はないであろう。

 涙を流して絶叫をあげる彼を見て、私は次の敵に切りかかる。
241 :1 番外編は>>226から[saga]:2011/07/01(金) 20:16:17.16 ID:APfO/ntI0
 事が終わってしまえば、そこには7人の敵兵が転がっていた。

 まだ息のある者もいたわけだが、その場に留まり続ければ
先ほどと同じように、また狙撃されかねない。

 私達は建物の中へ戻り、壁を切り裂いて教会を目指す事にした。

 危険な事に変わりはないが、少なくても大通りを走るよりは
ずっとマシなはず、と考えての事だった。

 その考えは正解だったようで、通りを挟んで教会の向かいにある
ビルまで、私達は辿りつく事が出来ていた。

 砲撃のためなのか、はたまた空爆のためなのか。
教会の入り口の前に、屋根についていたハズの十字架が
黒く焼け焦げて落とされていた。

 その十字架を踏みつける沢山の軍靴。

 今まさに、そこに集まる敵歩兵の分隊が
教会への突入準備をしているように見えた。
それぞれの武器を教会のドアへ向けて。

「そこに入るなあぁァァ!」

 私から理性というものは無くなっていた。
真正面から突撃する私の背後から杏子の声がしていたが
何を言っていたのかは全く思い出せない。

 腕に、肩に銃弾が食い込まれる。

 私は興奮していたためか、それを痛いとも思っていなかった。
ただ熱かった。

 

 はっと我に返った頃には、私と杏子の足元には
血の海の中に沈む6人分の死体があった。

 しかし、今回だけはそれに対して罪悪感を感じない。

「シスター!」

 杏子は教会のドアを開け、叫びながら中へと入る。

 シスターは避難しているに決まっている。

 そうあって欲しかった。
242 :1 番外編は>>226から[saga]:2011/07/01(金) 20:16:43.22 ID:APfO/ntI0
−−− ケルン 2015 9:22 11:15 −−−

 最後に残った”HIGH-MACS”との旋回戦は、
終始こちらが圧倒していた。

 敵はやはり実戦慣れをしていない、良く言えば教科書通りの
パイロットであった。そのような敵は、俺の敵ではない。

 旋回戦の不利を思い知った敵は、空へと逃げる。
そこからロケットポッドをばら撒くつもりなのであろう。

 相手の行動パターンはとても分かりやすいものであった。

 だから、俺もスロットルを押し込み、”カノンフォーゲル”は
”HIGH-MACS”の後を追うように宙へ舞い上がる。

 混乱しているのか、”HIGH-MACS”はガトリング砲で
俺を頭上から攻撃してきていた。

 ヤークトパンターのように2門のガトリング砲を
搭載しているのであればともかく、1門しかないそれで
この”カノンフォーゲル”に致命傷を与える事は出来ない。

 俺はこの敵を倒したら補給に戻るつもりであったため、
ガンガンと被弾を受けながらも落ち着いて敵に照準を合わせる。

 いつものようにトリガーを押し、いつものように敵を倒す。

 いつもと違っていたのは、空から叩き落された敵車両が
地上の民家に激突し、炎上を始めた事であった。

 どうせ住人は避難を終えているに決まっている。

 そうであってくれ、という願いでもあった。

 

 炎を上げる民家から、男の子が出てくるのが見えた。



 それを見た俺は、コクピット内のディスプレイを力任せに叩く。

「畜生!!」
243 :1 番外編は>>226から[saga]:2011/07/01(金) 20:17:38.98 ID:APfO/ntI0
 ”カノンフォーゲル”を民家の庭に着地させ、
俺は愛機のコクピットから飛び降りる。

 その少年は5〜6歳といったところであったろうか。
明らかに俺に対して、敵意をむき出しの視線を投げつけていた。
その事が、俺がやってしまった事の重さを俺に理解させていた。

 だが、詰め込めばこの少年くらいであれば、コクピットの中に
入れる事が出来るであろう。力ずくでも、彼を連れ帰るつもりであった。

 頭部に痛みが走る。

 彼は泣きながら、俺に向けて石を投げつける。

 そしてこう言うのだ。

「お前達が・・・」

 今度の投石は、俺の腹部に当たる。

「お前達が戦い続けるから、こんな事になったんだ!」

 頭から流れ出る血が、右目に入る。

「いつまで戦争を続けるつもりなんだよ!もうやめてよ!」



「もう・・・戦いなんてやめてよ・・・」

 

「俺達はこの国に住む、お前達のために・・・」

 そこまで言いかけて、俺は言葉を止める。



 俺は祖国のために、ドイツの誇りのために戦って来た。

 少なくとも、彼の言葉を聞くまではそのつもりであった。

 何の事はない。

 その誇りとやらは、軍人としての俺個人のプライドに過ぎなかったのだ。

 

 その事実を、目の前で涙を流し続ける同胞が教えてくれた。
244 :1 番外編は>>226から[saga]:2011/07/01(金) 20:18:04.68 ID:APfO/ntI0
 今やるべき事は一つ。

 彼は泣き喚くであろう。しかし、絶対に連れ帰らねばならない。
彼の腕を掴んで引きずってでも。

 俺はそうするために足を動かそうとする。

 次の瞬間には、俺は爆風のために吹き飛ばされていた。

 

 民家に叩き付けられた”HIGH-MACS”に残されていた弾に
誘爆を引き起こされたのであろう。



 俺が再びそこを目にした時には、もはや少年は物言わぬ亡骸となっていた。



「ウオオオオオオ!!」



 感情を抑えきれず、俺は叫び出す。

 俺は何のために戦って来ていたのか。

 俺は何のために部下達を戦いに送り出して来ていたのか。



 気を落ち着かせて、俺は”カノンフォーゲル”のコクピットへよじ登る。

 先の事はどうなるかも分からないが、ここで死ぬわけには行かない。



 ローラーダッシュを起動させて、後退を始める。

「・・・より、誰か応答を!」

「アドラー5より、誰か!聞こえてないの!」

「アドラーリーダーよりアドラー5、何があった」

「リーダー!すぐに教会まで来てよ!」

 俺はこんな少女達をも戦わせて来ていたのだ。
245 :1 番外編は>>226から[saga]:2011/07/01(金) 20:18:36.92 ID:APfO/ntI0
−−− ケルン 2015 9:22 11:20 −−−

 避難命令が出されていたにも関わらず、
シスターはこの教会に残ったままであった。

 私と杏子はそれを見て、驚いたものの、
心の片隅で安心もしていた。

 あと5秒でも遅かったら、このシスターは殺されていたのかも
しれないのだ。

「あなた達が戦いを続ける限り、戦争は止まらないでしょう。
もうおよしなさい。武器を捨てて、こんな事はやめてちょうだい」

 そう言われて気付いたのだ。

 私達は、魔法少女の変身をしたままであった事を。

 そして、私達の装束は、敵兵の返り血を浴びて真っ赤になっていた事を。

「シスター、言いたい事は分かるけどよ。このままココに居たら
殺されちまう。さあ、アタシ達と・・・」

 手を伸ばしながら1歩を踏み出す杏子。

 それに呼応して1歩下がるシスター。

「あなた達が武器を持って戦うから、彼らもまた武器を持って戦います。
それがあなた達の望みなのですか?」

「シスター!もう街中に敵がいるんだよ!
あなたを死なせたくないから、私も杏子もここまで来たんだよ!」

「・・・あなた達が、頑なに素性を明かさない理由が分かりました。
それに、この神聖な場所へ繰り返し足を運ぶ理由も」

「シスター・・・?」

「その年齢で、全身に返り血を浴びてもなお戦いをやめない。
そのような事は、神の子である私達には考えられない事です」



「・・・あなた達は、魔女だったのですね」
246 :1 番外編は>>226から[saga]:2011/07/01(金) 20:19:11.35 ID:APfO/ntI0
 礼拝堂にカランと響く音。

 私は手に持っていた剣を、床に落としてしまっていた。

 返り血を浴びて、真っ赤に染まった剣を。



 それでも、杏子は説得を諦めていなかった。

「・・・魔女でもなんでもいいよ。
アタシ達はアンタを助けたくてここまで来たんだ。
頼む、一緒に来てくれよ・・・」

「お断りします。地上に災厄をもたらす者と
私は行動を共にする事は出来ません」



 シスターの目には、明らかに怯えの色が見えていた。

 彼女はその言葉を残し、裏口へ向けて駆け出していたのだ。

「さやか!無理やりにでも引っ張っていくぞ!」

「・・・分かってる!」

 私は立ち上がり、よく知ったこの教会の中を走り出す。



 耳に届く射撃音。

 裏口に着いた私達が目にしたもの。

 

 裏口の外側で、銃口をそれに向けていた敵兵達。

 そして、血の池の中に横たわる、第二の母親の姿であった。
247 :1 番外編は>>226から[saga]:2011/07/01(金) 20:19:38.25 ID:APfO/ntI0
 私はそれを眺めている事しか出来なかった。

 呆然としていた私の目前で、杏子はその手に持つ槍を振り回し
敵兵を一人残らず殺していた。

 やがて、杏子もその血の海の中に座り込んでしまう。

 そこで私は我に返り、急いで杏子の元に駆け寄る。

「どこか撃たれたの?」



「聞いたか?魔女だってさ。笑っちまうよな・・・」

 笑っていないじゃないか。

 その涙は、私の流している涙と同じものじゃないか。

「アタシは何のために生きて来たんだ・・・」



「アタシには生きている価値なんてないのか・・・」

「杏子、やめて!そんな悲しい事言わないで!」

 座り込む彼女を、力ずくで立ち上がらせようとする。

 だが杏子は私の腕を振り払い、無言で私に対し
近づくなと背中から警告を発している。

「もう面倒になっちまったよ・・・
幸せな夢、見てみたかったな・・・」

「杏子!」

 私は無線機のスイッチを入れる。

 誰の手でもいい。彼女を救うために、
何かにすがりたかった。



「アドラー5より、誰か応答を!」

「アドラー5より、誰か!聞こえてないの!」
248 :1 番外編は>>226から[saga]:2011/07/01(金) 20:20:10.44 ID:APfO/ntI0
−−− ケルン 2015 9:22 11:25 −−−

 1人の女性の亡骸。その側で泣いている、2人の少女。

 親しい人間であったのであろう。その様子を見れば明らかだ。

 そして、立ちながら佐倉杏子に声を上げ続ける美樹さやか。
その様子からも、この状況がどういう事なのかは見当が付いた。

 俺はコクピットを開き、声を出す。

「アドラー4。ここで死ぬつもりか?」

「・・・・・・」

「お前が死んだら悲しむ人間が居る。それでも、
お前はここで朽ち果てるつもりか?」

「・・・放っておいてくれよ。面倒になっちまったんだ」

 言葉が浮かばなかった。

 彼女はここで死ぬ事を望んでいるようにすら思える。

 親友の言葉にすら耳を貸さずに。



 考えろ。

 俺達が、彼女達をこのような目に遭わせたのだ。

 絶対にここで死なせるわけには行かない。

 考えろ。



「・・・命を粗末にするな。お前にはやる事があるはずだ」

「・・・・・・」

「このような事が起きた発端はどこにある。それを考えろ。
戦争を始めたAPCか?それとも、この街に攻めてきたAFTAか?」

「・・・・・・」

「まだお前は命を捨てるには早い。よく考えろ。
お前が為さねばならない事があるはずだ!」
249 :1 番外編は>>226から[saga]:2011/07/01(金) 20:21:00.40 ID:APfO/ntI0
 ゆらりとアドラー4が立ち上がる。

「そうだ。その気があるのなら、俺に付いてこい。
俺にも、まだやるべき事が残されている」

「ちょ、ちょっと待ってよ!それは違うハズだよ!」

 アドラー5の言葉も、もっともだ。

 だが、その時点では俺には他に考えが浮かばなかったのだ。

 佐倉杏子が”カノンフォーゲル”の肩に飛び乗るのを確認して、
俺はコクピットを閉める。



「杏子!違う!それは絶対に違うよ!」



 許してくれ。

 俺はコクピットを閉め、スロットルを押し込む。

 ”カノンフォーゲル”は加速を付けて、その場から離れて行く。



「キョーコ!!」

 

 コクピット越しにも聞こえた、美樹さやかの叫び。

 お前にも、この声は聞こえているのか。

 戻るのならば今しかないんだぞ。



 自分の犯した罪を贖罪したい一心で、そう心の中で語りかける。

 HMDに映る後部カメラには、力尽きるまで俺を追い続ける
アドラー5の姿が映されていた。

 いつまでも、いつまでも追いかけて来るその姿。



 それが見えなくなってから、俺達は東へと向けて進路を変えた。
250 :1 番外編は>>226から[saga sage]:2011/07/01(金) 20:21:33.33 ID:APfO/ntI0

251 :1 番外編は>>226から[saga sage]:2011/07/01(金) 20:23:36.74 ID:APfO/ntI0
これにてこのスレへの投下は終了となります。
近いうちにhtml化の依頼を出しに行きます。
付き合って頂いた読者様、どうもありがとうございました。
またどこかのスレで>>1を見かけたら、宜しくお願いします!
252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[sage]:2011/07/03(日) 01:17:49.12 ID:Oo0drVFoo
乙〜
やっぱ相手の顔の見えない機甲部隊相手にするのと
生身の人間を直接ぶった切るのでは意味が全然違ってくるよな〜
253 :[saga sage]:2011/07/03(日) 17:56:57.57 ID:f78h354d0
ゲームにはない描写の部分ですからねえ。
最後まで読んでいただいて感謝ですよ〜



Pastlog.cgi Ver2.0
Powered By VIP Service
Script Base by toshinari