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HTML化した人:lain.
少女「そんな所で寝ていると、風邪を引きますよ?」
1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[sage saga]:2011/08/03(水) 23:08:57.95 ID:9GgnwBpx0
グロ中尉?かも
2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[sage]:2011/08/03(水) 23:10:32.06 ID:9GgnwBpxo

兵士「っ……ぁあ、ぐっ」

少女「どうかしたのですか?」

兵士「……ぅ、あ」

少女「貴方、言葉を話せないのですか?」

兵士「たす、け」

少女「辛いのですか?」

兵士「しにたく……ねぇよぉ……」

少女「死ぬのですか?」

兵士「……かぁ、ちゃん……ねえ……ちゃん」

少女「わたしは貴方の母親でも姉でもありませんが?」

兵士「…………げほっ! ごほっ、がはっ!!」

ビチャッ

少女「わたし、知っています。このような場合、止血をするのです」

ガシ

兵士「ぐが!? ごふっ、う、がぁ…………」
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[sage]:2011/08/03(水) 23:11:17.10 ID:9GgnwBpxo

少女「血が止まりません、どうしましょう」

兵士「…………」

少女「治療は根気が大事だと聞きます、暫く続けましょうか?」

兵士「…………」

少女「……止まったようです」

兵士「…………」

少女「よかったですね。血が止まって」

兵士「…………」

少女「にこ」

兵士「…………」

少女「笑顔には笑顔で答えるべきです、……兜が邪魔ですね」

少女「ほら、これで顔がよく見えます。だらしないですねお兄さん、涎なんか垂れ流して」

少女「どこを見ているのですか? ちゃんとわたしの目を見てください」

少女「そっちではありません、仕方ないですね、お兄さんは」

グチュ

少女「ほら、わたしの顔は、こっちですよ?」
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[sage]:2011/08/03(水) 23:12:19.08 ID:9GgnwBpxo

グチャッ

少女「やっと目を合わせてくれましたね、わたし、嬉しいです。にこ」

兵士「…………」

少女「どうして何も言ってくれないのですか? 笑ってくれないのですか?」

少女「……疲れているのですか?」

兵士「…………」

少女「そうですか……それなら仕方ありませんね、大きな戦争だったでしょうから」

少女「……あ、わたし、もう行かなくてはなりません」

兵士「…………」

少女「あの、お別れの挨拶くらい、してくれると嬉しいです」

兵士「…………」

少女「ではまた、どこかでお会いしましょう?」

兵士「…………」

少女「にこ……」




名も無き、兵士。
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/03(水) 23:21:10.89 ID:9GgnwBpxo


騎士「はぁ……はぁ……ケッ、もう、体が動かねぇ……」

騎士「だが、国を守って死ぬのなら、本望……だ」

『敵の増援だ!!』

『クソッ! ハメられたか!?』

騎士「ハハハ、ざまぁみろってんだ。味方の援軍だ」

騎士「お前等に、逃げ場はねえよ……ククッ、ハハ……ゲホッ!」

騎士「俺も、ざまぁねえな……家を捨てて、騎士になったってのに」

騎士「こんなとこでくたばっちまう、なんて、よ……」

スッ……ト……

少女「貴方、くたばってしまうのですか?」

騎士「……? なんだ、嬢ちゃん。ここはあんたみたいなのが、来ちゃあいけないとこだぜ」

少女「嬢ちゃん、とはわたしのことですか?」

騎士「ハハ、おもしれぇこと言うなぁ。あんた以外に、誰がいるんだよ」

少女「そうですか、あの、一つ聞いてもいいですか?」

騎士「おう、何でも聞いてくれ」

少女「お国を守って死ぬのなら、満足なのですか?」
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/03(水) 23:21:45.15 ID:9GgnwBpxo

騎士「いきなりだな……まあ、そうだな。守るってことが、騎士の誇りだからな」

少女「誇りですか?」

騎士「そうだ、俺がここで、奴等を食い止めた。時間を稼いだおかげで、仲間が助けにきた」

騎士「それで、俺のおかげで、皆を守れたんだ」

騎士「これ以上にない、名誉、じゃないか」

少女「でも、貴方の仲間は貴方を助けに来ませんよ?」

騎士「ああ、いいんだ。皆悪い奴等を、退治してる、からな」

少女「誰も貴方を守ってはくれないのに、貴方は誰かを守るのですか?」

騎士「……そう、だな」

騎士「俺は、誰かを守りたかった、んだよ」

少女「守りたかったのですか」

騎士「ああ。昔なぁ、ちょうどあんたくらいの、女の子がいたんだ」

少女「わたしくらいですか?」

騎士「そう、俺もそんくらいの歳だったなぁ」
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/03(水) 23:22:20.37 ID:9GgnwBpxo

騎士「村が野盗に襲われてさ、そのとき、ちょうど親父たちが出かけてて」

騎士「今、思えば狙われて、たんだろうがな」

騎士「ま、それで、たくさん殺された」

少女「でも、貴方は生きてます」

騎士「守られたんだ、その女の子に」

少女「女の子にですか?」

騎士「ああ、俺を庇ってくれたんだ」

少女「庇ったあと、その子はどうなったのですか?」

騎士「死んだよ、殺された」

少女「その女の子が殺されたあとに、何故貴方は殺されなかったのですか?

騎士「異変に、気づいた親父たちが、村に戻ってきたんだ」

騎士「ハハ、笑えちまうよな。俺さ、あいつが殺されてる前で」

騎士「『お願いします、殺さないでください』って言ってたんだぜ?」

ギリッ

少女「それで貴方は生き残ったのですね?」
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/03(水) 23:22:50.87 ID:9GgnwBpxo

騎士「ああ、ほんと、笑えるぜ……」

少女「もしかして、泣いているのですか?」

騎士「……かもな」

少女「悲しいのですか?」

騎士「……あぁ」

少女「悲しいときは、誰かが手を差し伸べるのだそうです」

スッ

騎士「……あったけえなぁ……あんたの手」

少女「そうですか? 貴方も温かいですよ」

騎士「ハハ、あんたのおかげだ」

少女「わたしのおかげ……?」

『おい!! こっちだ、急げェ!」

『早くしろ! 攻め込まれるぞ!! 門を閉めるんだ!」

騎士「……ッ!」

少女「誰か来ますよ、貴方の仲間でしょうか?」

騎士「いや、違うな」
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/03(水) 23:23:24.23 ID:9GgnwBpxo

ガシャッ

少女「急に立ち上がって、どうかしましたか?」

騎士「……つッ、そこの、箱の陰」

少女「はい?」

騎士「抜け道がある、そこから、逃げろ」

少女「どうしてでしょうか?」

騎士「いいから早く!!」

少女「……はい、分かりました」

『チィッ! 鍵がかかってやがる!』

『どけ! 蹴破るぞ!!』

ガンッ! ガンッ!

少女「あの」

騎士「何だ? そう長くはもたねぇぞ」

少女「また、お会いしましょう? にこ」

騎士「……ぷっ」

騎士「アハハハハハ!! いいねェ! いいぜ嬢ちゃん!」

少女「何かおかしかったでしょうか?」

騎士「いや、何もおかしくないな」
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/03(水) 23:24:09.53 ID:9GgnwBpxo

騎士「ハハハ、また、な、嬢ちゃん。今度はもっと、ゆっくり話そうぜ」

少女「はい、楽しみにしています。にこ」

スッ……

騎士「ハハ、ハハハ、行ったか」

『あと、ちょっとだ!!』

ガンッ、ガンッ!

騎士「…………」

騎士「なぁ親父、俺が親父より先に逝ったって知ったら、後悔するかよ?」

騎士「なぁ……―――、俺を守ったこと、後悔してるかよ?」

騎士「俺は、しねぇよ」

騎士「なぁ、嬢ちゃん……俺、あんたを守れたかな? ……いや」

バァンッ!!

「あ、開いたぞ!!」




騎士「守り抜いて、みせるんだ!!」

ザスッ

「がァ!?」

「!? まだ生き残りがいたのか!!」
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/03(水) 23:25:13.84 ID:9GgnwBpxo

「一人やられたぞ!! 殺せ!」

ズンッ

騎士「あがッ……!?」

ザシュッ

騎士「ぎァ……!」

「何だこいつ……! まだ倒れねぇ……!!」

騎士「オ、オォォォォオオオオオオオ!!!!」

「首を刎ねろ!!!」

騎士「ォオオオオオァアアアア――――!!!」

スパンッ

騎士「―――――。」








ゴトッ

12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/03(水) 23:26:47.54 ID:9GgnwBpxo



少女「……外にでたようです」

「将軍ッ! 予想以上に敵の反撃が!」

「砦内に突入できません!!」

「我が軍の被害甚大!! 指示を!」

「……やむをえん……総員撤退!」


「「「「「ハッ!」」」」」


少女「あれが、あの人の仲間なのでしょうか?」

少女「皆さん帰って行きます」

少女「何故でしょうか、あの人はまだ残っているというのに」

少女「……誰もあの人を守ってはくれないのでしょうか?」

少女「何故でしょうか?」

少女「あの」

「撤退だ! 早くしろ!」

少女「…………」

少女「騎士の、誇り……守る」

少女「わたしでも、あの人を守れたのでしょうか?」

少女「誰か……教えてください」

少女「だれか」

少女「わたしは」





首無し守護騎士。

13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga ]:2011/08/03(水) 23:27:35.71 ID:9GgnwBpxo
こんな感じで、続きます
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[sage]:2011/08/03(水) 23:32:16.53 ID:9DKlmjtx0

この雰囲気は好きだな
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/03(水) 23:52:36.67 ID:HctXkrxIO
なんかおもろいな
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/03(水) 23:57:41.59 ID:F78y79YIO
奇襲掛けて負けるとかゴ味方すぎるだろ
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/04(木) 00:03:53.53 ID:P837PkiIO
一人やったんだからマシだろ
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[sage]:2011/08/04(木) 01:14:27.13 ID:VKzx26Tuo
期待
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga ]:2011/08/04(木) 19:24:07.70 ID:ExJIAqaAo


盗賊「う、うぁあああああ!!」

盗賊「いてぇ! いてぇよ!」

盗賊「ついてねぇ! 崖から落ちちまうなんてよ……」

少女「どうかしましたか?」

盗賊「ちょ、ちょうどいいところに! おいお前! 周りに人はいねぇのか!?」

少女「この辺りにはわたしだけですが?」

盗賊「クソッタレ! 使えねぇガキだな!!」

少女「ところで、貴方は一体何をしているのですか?」

盗賊「あ!? 見てわかんねぇのかよ!! 怪我してんだよ、怪・我!」

盗賊「あんの糞野朗の矢が足に当たっちまって……! ああ糞腹立つ!!」

盗賊「今度会ったらただじゃおかねぇ! ぶっ殺してやる!」

少女「また会えるのに、殺してしまうのですか?」

盗賊「あぁ? ったりめぇだろうが!」

少女「それは、とても残念なことです」

スッ

盗賊「お、おい!? お前どこ行くんだよ!」
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga ]:2011/08/04(木) 19:24:40.48 ID:ExJIAqaAo

少女「わたしですか?」

盗賊「お前以外に誰がいんだよ!! オレが怪我してんだぞ!?」

少女「怪我……していますね」

盗賊「分かってんなら助けろよ糞ガキ!」

少女「矢が刺さっています」

盗賊「言わなくても分かるだろうが!!」

少女「誰にやられたのですか?」

盗賊「チッ……狩人だよ」

少女「どうしてですか?」

盗賊「あぁ!? んでお前にんなこと言わなきゃなんねぇんだ!?」

少女「どうしてですか?」

盗賊「……チッ、薄気味悪ィガキだな」

少女「どうしてですか?」

盗賊「襲ったんだよ」

少女「誰をですか?」
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga ]:2011/08/04(木) 19:25:58.08 ID:ExJIAqaAo

盗賊「旅人だよ! 分かるだろ? あんな底辺ども、ロクに訓練もされてねぇゴミクズだ!」

盗賊「襲ってくださいって言ってるようなもんだろ!」

少女「その人が、実際にそういったのですか?」

盗賊「ひゃははは! んなわきゃねぇだろアホ!」

少女「では、その人は怒っているのではありませんか?」

盗賊「怒る? むしろ感謝してもらいてぇぐらいだね! オレのおかげで旅をやめる理由が出来たんだからよ!」

盗賊「下手に命を落とさず、ちょっと荷物取られた程度で済むんだ! 安いもんだろうが!!」

少女「そうなのですか?」

盗賊「おうよ! オレが襲ってなきゃ、どこで野垂れ死んでるか分かったもんじゃねぇんだぜ!?」

少女「そうですか、ならば貴方はその人を守ったのですね」

盗賊「あァそうよ! だからよぉ、このオレがこんな目にあうのはおかしいとおもわねぇか?」

少女「おかしいと思います」

盗賊「じゃあ助けてくれるよな?」

少女「はい、喜んで。にこ」

盗賊「ひゃはは、そう言ってくれると思ったぜ?」

盗賊「オレぁ手も捻っちまったようでよ、ロクに動かせねぇんだ」

少女「大丈夫ですか?」

盗賊「大丈夫なわきゃねぇだろ! まずは矢を――い、が!?」
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga ]:2011/08/04(木) 19:26:26.35 ID:ExJIAqaAo

少女「矢、ですか」

ガシ

少女「矢は突き刺すものだと聞きました」

グチャッ

盗賊「――――ッ!? ぐぉぁああああああ!?」

少女「どうでしょうか?」

グリッ

盗賊「がぁあああああっ!! テ、テメェェエエ!!!!」

バシンッ

少女「……っ」

盗賊「ふっ、ふっざっけんなよ糞ガキ!!! ぶっ殺すぞ!?」

少女「わたし、何か間違えましたか?」

盗賊「間違えましたか? じゃねぇよ!」

バキッ

少女「……」

ドサッ

盗賊「傷口広げてどうすんだオラ!! 殺されてぇのか!?」
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga ]:2011/08/04(木) 19:27:11.12 ID:ExJIAqaAo

少女「ごめんなさい?」

盗賊「……ムカつくガキだなぁおい!!」

少女「……鼻血が出てしまいました」

盗賊「知るか!! いいからさっさとしろ!!」

少女「どうすればよいのでしょうか?」

盗賊「チッ……矢を抜くんだよ」

少女「はい」

盗賊「ゆっくり、ゆっくりだぞ……ぐ、ぉ……!」

少女「……抜けました」

盗賊「へっ、やりゃあ出来るじゃねぇか」

少女「次はどうすれば?」

盗賊「お前の……ってダメだな、んなきたねぇ服、使い物にならねぇ」

少女「わたし、汚いでしょうか?」

盗賊「泥まみれの服をきたねぇと言わずに、何をきたねぇって言うんだよ!」

少女「そうですか、わたし、汚いのですか」

盗賊「チッ……仕方ねぇ、こいつを使うか」

少女「それは?」
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga ]:2011/08/04(木) 19:28:54.44 ID:ExJIAqaAo

盗賊「みりゃあわかるだろうが! 服だよ、服」

盗賊「さっきぶんどった荷物の中に入ってたんだよ! へへっ! あんな役立たずでも、このオレの役に立てるんだぜ?」

盗賊「さいっこうに名誉なことじゃねぇか!」

少女「役に立つのが、名誉なことなのですか」

少女「それで、これをどうするのですか?」

盗賊「破って包帯にすんだよ、ちったぁ頭使えアホ」

少女「はい」

ビリッ

盗賊「それをしっかり傷口にまいて、止めろ」

少女「これでいいでしょうか?」

盗賊「包帯もロクに巻けねぇのか? 使えねえ愚図だなぁおい!」

盗賊「ケッ! もういいぜ、鬱陶しいんだよ糞ガキ! もう用はねえからさっさと消えろ!」

少女「あの」

盗賊「あんだ? まだいたのか!」

少女「お礼、まだ言ってもらっていませんが?」

盗賊「ハァ? 何ふざけたこと言ってんだお前」

少女「手当てをしてもらったら、お礼を言うべきなのでは?」
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga ]:2011/08/04(木) 19:29:30.46 ID:ExJIAqaAo

盗賊「チッ……ガキが、調子に乗んじゃねえぞ!」

少女「貴方は、お礼の言葉が言えないのですか?」

盗賊「あぁ!? うっぜぇんだよ!! 消えろっつってんだろうが!!」

バシンッ

少女「…………」

盗賊「どいつもこいつも!! オレのこと馬鹿にしやがって!!」

盗賊「何でこのオレが! ちまちまセコイ盗みをやらなきゃいけねえんだ!!!!」

盗賊「こんなはずじゃなかったんだよ!! オレの人生は、もっと輝いてたはずなんだ!!」

少女「………………」

盗賊「あの糞ったれがヘマしなきゃ、いい仕事について、いい嫁貰って!!」

盗賊「人並み以上の幸せにありつけたはずなんだよ!!!」

盗賊「それがなんだ!? 底辺のゴミクズ共にまで馬鹿にされて!」

盗賊「もううんざりなんだよ!!」

少女「言いたいことは、それだけですか?」

盗賊「あぁ!? もっとあるに決まって―――!」

少女「そうですか?」

ザシュッ

盗賊「――――ぁ、がぁぁああっ!? あ、足がァ!!」
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga ]:2011/08/04(木) 19:30:03.58 ID:ExJIAqaAo

少女「一回……二回、三回……何回でした?」

ズッ、グチャッ、ガリッ

盗賊「ぐ、ぉあ!? て、めぇぇええええ!!!」

ブンッ

少女「お兄さんが、いじわるするからですよ?」

少女「親しき仲にも礼儀あり、です。お兄さん、知っていましたか?」

盗賊「はぁっ……! はぁっ……糞、い、いってぇ……!」

少女「痛いのですか?」

盗賊「糞……ガキィ……てっめぇ……!!」

少女「それはわたしのことですか?」

少女「ちなみに、ある人はわたしのことを『嬢ちゃん』と呼んでくれました」

盗賊「知るか……ッ!!」

少女「貴方はわたしを、『糞ガキ』と呼ぶのですか?」

盗賊「糞ガキは糞ガキだろうがッ!!!」

少女「そうですか? わたしの新しい呼び名が増えました。にこ」

盗賊「……チィッ!」

少女「にこ?」
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga ]:2011/08/04(木) 19:30:32.95 ID:ExJIAqaAo



盗賊「…………糞、腹減った」

少女「おなかが空いたのですか?」

盗賊「……荷物のなか、何もねぇ……よなぁ」

少女「何もないのですか?」

盗賊「畜生……畜生ぉ……」


28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga ]:2011/08/04(木) 19:31:03.98 ID:ExJIAqaAo



盗賊「…………」

少女「眠ってしまったのですか?」

盗賊「うるせぇ……黙れ」

少女「それはお願いですか?」

盗賊「命令に、決まってんだろ……」

少女「なら、嫌です。にこ」

盗賊「…………」


29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga ]:2011/08/04(木) 19:31:51.95 ID:ExJIAqaAo



盗賊「うあ、あぁああああ!! 足が、オレの足が……!」

盗賊「腐って……あ、ぁぁああ」

盗賊「もう、何も感じねぇ……ちっく、しょお……!」

少女「痛くないのですか?」

盗賊「クソ、来るな糞虫共……オレを、誰だと思ってやがるんだ……」

少女「虫さん、そっちにいっちゃ駄目だそうですよ?」

少女「しっしっ」

盗賊「…………」

少女「どうかしましたか? もっとお喋りしましょう?」

盗賊「………………」

少女「そういえば、お兄さん」

少女「人から物を奪うのは、悪いことだと聞いたことがあります」

少女「本当にそうなのでしょうか?」

盗賊「……んなわけ、ねぇだろ」

盗賊「生き物ってなぁな、自分より劣っている奴からは何を奪ってもいいんだよ」

少女「そうなのですか?」
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga ]:2011/08/04(木) 19:32:26.86 ID:ExJIAqaAo

盗賊「だってそうだろうが、高等なオレが生きるのと下等のゴミが生きるの、どっちがいいと思う?」

少女「わたしには、わかりません」

盗賊「だからお前はアホなんだよ。あんな底辺ども、生きる価値なんてねぇんだからよ」

少女「生きる価値の無いものからは、何を奪っても構わないのですか?」

盗賊「ひゃはは、ったりめぇだろ、オレのほうがもっと有意義に使えるからなぁ」

少女「わたしは、どうなのでしょうか?」

少女「わたしは、奪われるべき存在なのでしょうか?」

盗賊「お前は」







盗賊「人間じゃねぇよ」

少女「人間ではないのですか?」

盗賊「純粋すぎて、残酷すぎる化物だ」

少女「化物なのですか?」

盗賊「ああ……」

少女「そう……ですか」

盗賊「もう、化物の顔なんて見たくねぇ」

少女「ですが、わたしはお兄さんと、もっとお喋りが」

盗賊「オレはしたくねぇ」
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga ]:2011/08/04(木) 19:33:41.47 ID:ExJIAqaAo

少女「…………」

盗賊「……疲れちまったんだよ」

少女「眠ってしまうのですか?」

盗賊「…………あぁ」

少女「今度は、いつ起きますか?」

盗賊「さぁな」

少女「また、お喋りできますか?」

盗賊「どうだろうな」

少女「じゃあ、約束しましょう?」

盗賊「…………」

少女「今度は、もっとたくさんお喋りしましょう?」

少女「わたしの知らないこと、もっとたくさん教えてください」

盗賊「あ……ぁ」

少女「約束、ですよ? にこ」

盗賊「かっ……て……に、し」

少女「おやすみなさい」

32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga ]:2011/08/04(木) 19:35:02.32 ID:ExJIAqaAo



少女「…………」

盗賊「…………」

少女「まだ寝ているのですか?」

盗賊「…………」

カァ、カァ

少女「あ、駄目ですよカラスさん。寝ているのにおこしちゃ、可哀想です」

33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga ]:2011/08/04(木) 19:35:38.12 ID:ExJIAqaAo



少女「お兄さん、今日も眠ったままです」

盗賊「…………」

少女「じゃあ少しだけ、お話しましょう?」

少女「少し前、わたし、赤ちゃんを見たのです」

盗賊「…………」

少女「皆、昔はあんなに小さかったのだそうですよ?」

少女「それに、とっても赤くて、そうですね、白かったです」

少女「お兄さん、知っていましたか? にこー」

盗賊「…………」

少女「にこー…………」

少女「……また、来ますね」


34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga ]:2011/08/04(木) 19:37:35.54 ID:ExJIAqaAo



少女「…………」

骨「…………」

少女「お兄さん、約束破っちゃいましたね」

少女「知っていますか? 巷では約束を破ると針千本飲ますのが流行だそうです」

少女「それほど悪いことだって、知っていましたか?」

少女「わたしは知っていますよ」

少女「ということは」



少女「お兄さんって」





少女「悪い人だったのですね?」




腐った盗賊。
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga sage]:2011/08/04(木) 19:40:12.23 ID:ExJIAqaAo
続く
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/04(木) 19:57:34.27 ID:CzJzebmIO
え、おわり?
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2011/08/04(木) 20:13:24.19 ID:SqTha7mMo
すげえどこに帰結すんのかまったく読めねぇ
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)[sage]:2011/08/04(木) 20:15:14.04 ID:DhOWPcZAO
期待乙
39 :百発百中2011/08/04(木) 20:18:03.66 ID:rTWC955K0
おもしろふ
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[sage]:2011/08/05(金) 11:20:41.81 ID:4hT+dpHco
乙した
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/06(土) 00:11:50.15 ID:yJTxPJQlo


女「あら?」

少女「こんにちわ、にこ」

女「こんにちわ」

にっこり

少女「貴方、いい人ですね?」

女「そ、そうかしら? あなたもいい子ね、挨拶がしっかりできるなんて」

少女「挨拶ができると、いい子なのですか?」

女「そうよ、最近の子供たちって、みんな元気がないもの」

少女「そうですか、わたし、いい子ですか」

女「ええ、それじゃああなた」

少女「なんでしょうか?」

女「こんなところで、何をしているの? あなた一人? お父さんかお母さんは?」

少女「……えと、なにもしていません。わたし一人です」
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/06(土) 00:12:48.66 ID:yJTxPJQlo

女「そうなの? ふぅん……」

少女「あの、わたし、何かついてますか?」

女「そうねぇ、色々ついてるわよ」

少女「そ、そうですか……やっぱり、わたし、汚いですか……すみません……」

女「あ、ご、ごめんなさい? そういうつもりで言ったんじゃないのよ」

少女「いえ、いいんです。ほんとうのことですから」

女「あー……そ、そうだ!」

少女「……?」

女「今から私のうちに来ない?」

少女「うち、ですか? 貴方のおうちに行ってもよいのですか?」

少女「この汚いわたしが? 汚れてしまわないでしょうか?」

女「え、えぇ、勿論よ。さぁついてらっしゃい」

43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/06(土) 00:13:36.00 ID:yJTxPJQlo



少女「ここが……」

女「さぁ、あがってあがって」

少女「はい、お邪魔します」

女「そうねぇ……あ、そうだわ」

くるり

女「ご飯とお風呂、どっちにする?」

女「そ・れ・と・も、わ・た・し?」

少女「……???」

女「あ、あはは……そこまで困惑されると、逆に困っちゃうかも」

少女「そういうものなのですか」

女「そういうものなのよ」

女「ま、まぁいいわ。まずはお風呂に入りましょ?」

少女「お風呂、ですか?」

少女「なんですか? そのお風呂というものは」

女「あら、そこからなのね……よっし」

女「じゃあ一緒に、お風呂入りましょうか!」

少女「ええと、はい?」

44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/06(土) 00:14:14.40 ID:yJTxPJQlo



少女「これが……お風呂……」

キラキラ

女(あんなに目を輝かせちゃって……どんな育て方されたのかしら?)

少女「お姉さん、お風呂とは何をするところなのですか?」

女「体を綺麗にするところよ」

少女「綺麗に……、それでは、わたし、汚くなくなりますか?」

女「ええ、もっと綺麗になるわ!」

少女「わぁ……そうですか、わたし、汚くなくなるのですね……」

女「ほら、そこに座って?」

少女「座る……こうでいいのですか?」

女「ええ、いいわ。ちょっと目を瞑っててねー」

少女「はい」

ザパァ

少女「わぷ」

パタパタパタ

女「あら? うふふ、びっくりさせちゃったかしら?」

少女「さきほどのは、一体なんだったのですか?」
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/06(土) 00:14:48.78 ID:yJTxPJQlo

女「お湯をかけたのよ、こうやっておっきな汚れを流すの」

少女「そうなのですか? お湯とはお水を温めたものだと聞きました」

女「そうよ、気持ちいいでしょ?」

少女「はい、とっても。それで、このあとはどうするのですか?」

女「まずは髪を洗わなきゃね〜」

ワシャワシャ

少女「…………」

女「せっかく長くて綺麗な色の髪してるんだから、ちゃんとお手入れしなきゃ駄目よ?」

少女「綺麗、ですか?」

女「そうよー、お姉さん嫉妬しちゃうくらいだわ!」

少女「そ、そうですか、わたし、綺麗ですか、そうですか」

女「うふふふふ……痒いところはありませんか?」

少女「いえ、とても気持ちいいです」

女「こうしてると、もうお母さんになった気分だわ」

少女「もう? とは」

女「あら、気づいてなかったの? 私のおなかの中、赤ちゃんがいるのよ」

少女「おなかの中に、ですか?」
46 :モナーくん[sage]:2011/08/06(土) 00:16:15.37 ID:gheTZPHIO
きたーw
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/06(土) 00:17:44.42 ID:yJTxPJQlo

女「そうよ、もうちょっとしたら赤ちゃんが生まれて、私はお母さんになるの」

少女「そうなのですか、赤ちゃんが生まれるとお母さんになるのですね?」

女「えぇ」

少女「それにしても、おなかの中に赤ちゃん……とは、わたし、驚きました」

女「知らなかったの?」

少女「はい、てっきり。お姉さんは俗に言う、メタボと呼ばれるものかと」

女「私、そんなに太ってないわよ!? そりゃ、赤ちゃんが出来る前もちょっと……」

女「少しは太ってたかなぁ、って思ってはいたけど。それは健康な証であって……」

少女「……? よくわかりませんが、もうすぐ、お姉さんはお母さんになるのですね?」

女「そ、そうよ〜。だから今、もうお母さんになっちゃってる気分なのよ」

少女「何故、ですか?」

女「あ、流すわよ?」

少女「はい」

ザパァ

少女「わぷ」

パタパタパタ

女「どうかした?」

少女「目にお湯が入りました」

女「ちゃんと閉じてなきゃ」

少女「はい、すみません」
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/06(土) 00:18:53.44 ID:yJTxPJQlo

女「次は体を洗うわよー」

少女「はい」

少女「それで、さきほどの続きですが」

女「どうしてお母さんの気分になってるかって?」

少女「はい、お姉さんが言うには、赤ちゃんが生まれないとお母さんにはなれないと」

少女「まだ赤ちゃんが生まれていないのに、お母さん気分を味わえるものなのですか?」

女「うふふ、実は、別に赤ちゃんを生まなくても、お母さんにはなれるのよ」

少女「そうなのですか?」

女「ええ、たとえばあなた」

少女「わたし、ですか?」

女「みんな生まれたときは赤ちゃんなのよ、それで段々成長して……そうねぇ」

女「十数年もたてばあなたくらいに成長するわ」

少女「わたしも、赤ちゃんだったのですか? 驚きです」

女「そしてあなたの歳を追い越して、もっとずっと大きく成長するわ」

少女「お兄さんたちや、お姉さんみたいに、ですか?」

女「ええ、どんどん成長していくの、その手助けをしてあげるのが」

女「お母さんやお父さんなのよ」
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/06(土) 00:20:17.39 ID:yJTxPJQlo

少女「ということは、わたしでもお母さんになれるのですか?」

ワシャワシャ

少女「そ、そこはくすぐったいです」

女「駄目よ、ちゃんと洗わないと」

少女「……っ、……っ」

女「そうねぇ、あなたにちゃんと育てる力があれば、だけど」

少女「そ、そうですか……っ」

女「でも、こうしてると」

女「私があなたのお母さんになったみたいで、ちょっと嬉しいの」

少女「お姉さんが、わたしの……お母さん? ですか」

女「えぇ、いつか私の赤ちゃんがあなたくらいになったら」

女「今みたいに髪を洗ってあげたり、体を磨いてあげるのよ」

少女「なるほど、お母さんの気分、というのはそういうことなのですか」

女「わかってくれた? うふふ、じゃあこっち向いて。前を洗うわよ」

少女「はい」

くるり
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/06(土) 00:21:18.00 ID:yJTxPJQlo

女「はい、顔を上にあげてー」

少女「…………」

女「ばんざーい」

ばっ

少女「…………」

女「いい子ねー、じゃあ足伸ばしてー」

少女「…………」

女「足の裏も洗うわよー?」

少女「く、くしゅぐったい、です」

女「はい、終わりー、よくできましたー」

少女「お風呂というのは、割と疲れるものなのですね」

女「あ、もう元に戻していいわよ」

少女「はい」

女「じゃあ最後に顔ね、口閉じて目瞑って?」

少女「…………」

コシコシ

女「はい、お湯かけるわよ?」
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/06(土) 00:22:11.99 ID:yJTxPJQlo

ザパァ

少女「わぷ」

パタパタパタ

女「あら、どうかしたかしら?」

少女「耳にみみずが、噛みました。水が」

女「軽く頭振ってみて?」

ぶんぶん

少女「……大丈夫です、多分」

女「うふふ、じゃあ先にお湯浸かってて?」

少女「ようやく、お湯に浸かるときが……」

チョンッ

女「そんなに怖がらなくても……」

ザプッ

バシャッ

少女「深い、深いですよお姉さん」

女「大丈夫だから、はやく入りなさい」

少女「はい」

チャプンッ
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/06(土) 00:22:47.45 ID:QtSfNjKho
嫌な予感しかしないのはなぜだろう
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/06(土) 00:23:44.47 ID:yJTxPJQlo

少女「…………」

女「ん? どうしたの、じーっと見つめて」

少女「お姉さんって、胸大きいですよね」

女「そ、そうかしら? あまり気にしたことないけど」

少女「それにくらべ、わたしは」

ふにふに

女「大丈夫よ、あなたはまだ子供なんだから。すぐ大きくなるわ」

少女「すぐ、大きく……そうですか、そうですか」

少女「厳密に言うと、どれくらいでしょうか」

女「それはまた、困る質問ね」

女「そうねぇ……、早くて一年くらいかしら? 個人差があるわよ、個人差が」

少女「そういう、ものなのですか……一年は長いですね」

女「ええ、けど、きっとすぐよ。気づいたら大人になっているもの」

少女「大人……ですか」

少女「大人になると、そんなところからも毛が生えてくるのですか?」

女「えっ」

少女「わたしには、生えていません。大人になれば生えるのでしょうか」

女「え、えぇ、きっと生えてくるわ」

少女「そうですか、ちょっと嫌ですね」
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/06(土) 00:24:14.48 ID:yJTxPJQlo

女「…………」

少女「どうかしましたか?」

女「い、いえ? その、やっぱり男の人……って、あ、や、なんでも、ないわ」

少女「そうですか?」

ザパァッ

女「あ、ちょっと詰めてもらえる?」

少女「はい」

チャプン

女「ふぅー」

少女「狭い、ですね」

女「そうねぇ、でもとっても気持ちいいでしょ?」

少女「はい、お姉さんも柔らかくて、すべすべで気持ちいです」

女「そ、そう? 嬉しいこと言ってくれるわね、この子は〜」

なでなで

少女「ん……嬉しい、のですか?」

女「ええ、一緒にいて気持ちいい、なんていわれたら嬉しいでしょ?」

少女「そう、なのですか、確かに悪い気はしないと思いますが」

女「あなたも、小さくて、可愛くて、つるつるで、気持ちいいわよ」

少女「そ、そうですか? わたし、可愛いですか、そうですか」

女「ほらね?」

少女「なんだか違う気もしますが、なるほどわかった気もします」
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/06(土) 00:24:50.48 ID:yJTxPJQlo

女「じゃあ……もっとこっちによって?」

少女「なんでしょうか?」

ギュッ

少女「…………」

女「どう?」

少女「よく、わかりませんが。嬉しいかも、しれない、です」

女「うふふ、こうやって、全部受け入れてもらえるのって、嬉しいわよね」

少女「お姉さんも、してもらったことがあるのですか?」

女「え、えぇっ!? そりゃ、ね? ほら、い、色々と」

少女「わたしは、ありませんでした」

女「…………」

少女「ですから、もうちょっと。もう少しだけ、お願いします」

女「ええ、いいわ……いつでも、いつまでも、ずっとこうしててあげるから……」






少女「………これ、が………おか、あ……さん?」
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/06(土) 00:25:01.28 ID:gheTZPHIO
女も死ぬのか?
もしや少女は死神…?
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/06(土) 00:25:27.87 ID:yJTxPJQlo
続きはwebで
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/06(土) 00:28:43.94 ID:gheTZPHIO
>>57
URL貼れwwwww
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)[sage]:2011/08/06(土) 03:14:23.86 ID:WJG2itePo
あれ?ここうぇぶ?
60 :モナーくん[sage]:2011/08/06(土) 03:23:08.46 ID:gheTZPHIO
>>59
違うに決まってんだろw
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/06(土) 09:03:43.84 ID:MwuKawMIO
節子、wwebはここや
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/06(土) 23:09:56.44 ID:yJTxPJQlo

女「さっぱりさっぱり!」

少女「さっぱりしました」

女「うんうん、それにしても似合ってるわね」

少女「この服、ですか?」

女「ええ、私の子供の頃の服なんだけど。捨てずにとっておいてよかったわ」

少女「少し、フリルが多いような気がします」

女「いいのよいいのよ、そのくらいが。可愛いでしょう?」

少女「……はい、あの、その」

女「ん?」

少女「ありがとうございます。にこ」

女「〜〜〜〜っ! いやん、やっぱり可愛いわねあなた」

ギュゥ

少女「むぎゅ、く、くるしいです」
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/06(土) 23:10:22.02 ID:yJTxPJQlo

女「ん〜、すりすり」

少女「む〜」

女「あ、そうだわ」

ぱっ

少女「あ……」

女「ご飯の準備しないとね? おなかすいたでしょう?」

少女「おなか……どうでしょうか?」

女「私に聞かれてもわからないわよ」

女「まあ、そろそろあの人も帰ってくるころだし」

女「あなたも食べるでしょ?」

少女「ご飯ですか? 是非」

女「うふふ、素直な子は好きよ」

少女「はい、にこ」


64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/06(土) 23:11:03.07 ID:yJTxPJQlo



トントントントン

少女「あの」

女「あら、どうかしたの? もうちょっとかかるわよ」

少女「そうではなくてですね、わたしに、手伝えることはありませんか?」

女「うふふ、じゃあ食器を洗って、布巾で拭いてもらえるかしら?」

少女「食器、とはここに出されているものですね。任せてください」

女「任せるわ、ふふ」

ぴょん、ぴょん

少女「…………」

少女「お姉さん、高い、高いですよ」

女「あら、それは大変ね」

少女「これでは食器を洗うことさえままなりません」

女「台を用意しましょう」

少女「ご迷惑をおかけします」

トッ

少女「これで勝ったも同然ですね」

女「何に勝つつもりなのかしら?」
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/06(土) 23:11:38.49 ID:yJTxPJQlo

カチャカチャ

少女「…………」

女「割れたら危ないから、慎重にね?」

少女「わかって、います……」

女「こういうのって初めて?」

少女「はい……」

女「初めてにしては上手ね」

少女「そうですか?」

女「ええ、いいお母さんになれるわ」

少女「そうですか、わたし、お母さんになれますか、そうですか」

トントントン

女「〜〜♪〜〜〜♪」

少女「その、歌は? なんなのですか」

女「この歌? うふふ、この歌はね、私のお母さんがよく歌っていたのよ」

少女「お姉さんのお母さんが?」
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/06(土) 23:12:17.67 ID:yJTxPJQlo

女「えぇ、お料理の仕方も、私のお母さんから教わったのよ」

女「この包丁だって、私が嫁ぐときにお母さんが買ってくれたの、よく切れるのよー?」

少女「……お母さんというものは、色々なことを出来ないといけないのですね」

女「そうねぇ、とっても大変よ?」

少女「お姉さんのお母さんは、どのような方なのですか?」

女「ん〜? うーん、どんな方って聞かれるとなぁ」

少女「困りますか?」

女「そういうわけじゃないんだけどね、いっぱい知りすぎててどう言えばいいかわからないっていうか」

少女「知りすぎているのに、説明ができないのですか?」

少女「その感覚はわたしには理解できません」

女「そうかしら、いつかあなたにも分かるときが来るわ」

女「敢えて説明すると……優しくて、厳しくて、困ってる人を放っておけないような人よ」

少女「なるほど、意外と簡潔ですね」

女「そんなものよ、実際に会って、話して、一緒にいないと、その人がどんな人かなんて分からないもの」

少女「そうですか、そうですね、わたしも、お姉さんのお母さんに会ってみたいです」

女「ふふ、機会があればね。でもきっと、すぐ仲良くなると思うわ」

少女「どうしてですか?」
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/06(土) 23:12:54.64 ID:yJTxPJQlo

女「私のお母さんも、可愛いの大好きだから。うふふ」

少女「そうなのですか、気に入ってもらえると、いいですね? にこ」

女「そうね、ふふ」

ガチャ

「ただいまー」

女「あら」

少女「誰か帰ってきましたよ?」

女「私の旦那様よ、おかえりなさーい」

男「いやぁ、今日も大変だったよ」

女「お疲れ様ー、荷物持つわ」

男「あぁ、ありがとう。……おや、その子は?」

少女「おかえりなさい、ご飯とお風呂どっちにします?」

少女「そ・れ・と・も、わ・た・し? ですか?」

女「」

男「ははは、それじゃあ風呂にしようかな」

少女「はい、お風呂は沸いていますよ」
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/06(土) 23:13:37.76 ID:yJTxPJQlo

女「え、あれ? 普通にスルーしちゃうの」

男「お前が毎日やってくるからな」

少女「毎日やっていたのですか」

女「あう……べ、別にいいじゃない……いつまでも新婚さん気分でいたいもの……」

男「ははは、ごめんごめん。拗ねなくてもいいじゃないか」

女「むー」

男「ところでこの子は?」

女「今日、町の広場で出会ったのよ」

少女「はじめまして、にこ」

男「へぇ〜、はじめまして」

にっこり

少女「貴方もいい人ですね?」

がし

男「え、えぇ?」
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/06(土) 23:16:10.03 ID:yJTxPJQlo

女「うふふ、可愛い子でしょ?」

男「まあ、否定はしないが」

少女「可愛いですか? ありがとうございます」

ちら

女「あら、ワンピースの裾をつまんでお辞儀だなんて、どこで覚えたの?」

少女「どこかで見た覚えがあるだけです」

男「…………ッ!」

ぐっ!

少女「このお兄さんは何故ガッツポーズをしているのでしょうか?」

女「さぁ? あ、私ご飯作ってくるから。変なまねしちゃだめよ」

男「あ、ああ! 任せろ!」

少女「あ……わたしも、お手伝い」

女「いいのよいいのよ、十分に手伝ってくれたもの。ゆっくりしてて」

男「そうだ、相手の言葉に甘えるのも礼儀の一つだぞ」

少女「そう……ですか、では、お言葉に甘えて」

男「そこの椅子を使うといいよ」

少女「はい」

ちょこん

男「さて、お兄さんとちょっとお話しようか」
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/06(土) 23:16:43.45 ID:yJTxPJQlo

少女「お話ですか? わたし、大好きです」

男「そっかそっか、じゃあまずはきみの名前を教えてもらえる?」

少女「名前、ですか……名前」

男「こういう風に呼ばれてたーとか、そういうの無い?」

少女「呼び名、ですか……それならば『それ』『これ』『お前』『嬢ちゃん』『糞ガキ』など」

少女「あとはほかにもあった気もしますが、あまり覚えていません」

男「ふむ……」

男(悪い子じゃなさそうなんだけど、ちょっと気にかかるな)

男「それじゃ、お父さんかお母さんは?」

少女「いません……ですが」

少女「お姉さんが、わたしのお母さんみたいでした」

男「へぇ、女がねぇ」

男「じゃあ次、どこから来たんだ?」

少女「どこ、といわれましても。色んなところからとしか」

男「生まれ育った場所……なんかもわからないか?」

少女「はい……あの」

少女「わたしのことは、もういいですか?」
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/06(土) 23:16:55.91 ID:gheTZPHIO
嫌な気しかしない……
はたして女は生き残るのか……
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/06(土) 23:17:23.64 ID:yJTxPJQlo

男「ん、あぁ……ごめん。あまり話したいことじゃなかったか」

少女「いえ、ただ。昔のことを思い出すと、胸の奥がもやもやするといいますか」

少女「あまり優れた気分にはならないので……すみません」

男「うん、そうだな。じゃあほかのお話をしよう」

少女「はい。にこ」

男「ん……?」

少女「どうかしましたか?」

男「もう一回笑ってみて」

少女「笑う……はい、わかりました」

少女「にこ」

男「はいストップ」

少女「にこ」

男「ううん……それで笑ってるつもりなのか?」

少女「にこ?」

男「そんな無表情じゃあ笑ってるってことにはならないんだぞ」

少女「にこ……」

男「ほら、こうだ……にこー」

少女「……にこー」
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/06(土) 23:18:16.12 ID:yJTxPJQlo

男「そうそう、もっと口角をあげて、目を少しだけ細めて」

男「ちょっとだけ唇を開こうか」

少女「にこー」

男「うん、いいぞ。よく出来ました」

なでなで

少女「にこー」

男(可愛いなぁ……)

女「出来たわよー、運ぶの手伝ってもらえる?」

少女「はい」

男「ああ」

カチャッ……トン

少女「わぁ」

男「お、カレーか。美味そうだな」

女「うふふ、お母さんが野菜いっぱい送ってくれたのよ」

男「へえ、お義母さんが……こりゃ絶対美味いな」

少女「カレー……カレーですか」

女「そうよ、初めてみる?」

少女「はい……まるで」

男「おっとそれ以上は言うなよ」
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/06(土) 23:18:47.17 ID:yJTxPJQlo

少女「……?」

女「あ、あはは……まあいただきましょうか」

男「いただきます」

少女「いただきます。にこー」

女「!!!」

少女「ど、どうかしましたか」

ギュッ

少女「むぎゅ」

女「ああもう可愛いわねこの子は!」

女「無表情なところも可愛いけど笑うと百倍可愛いわ!!」

男「もぐもぐ……うん、美味い」

少女「あ、あの……カレーが」

女「やーん! もううちの子にならないかしら!!」

男「無茶言うなよ」



少女「カレー……」
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/06(土) 23:19:12.86 ID:yJTxPJQlo




男「どうだった?」

女「いまはぐっすり寝てるわ」

男「そうか、それはよかった」

女「不思議な子よね」

男「あぁ、でも、素直でいい子だ」

女「えぇ……ねぇあなた」

男「あの子を養子にしたい、って?」

女「何で分かるのよ」

男「おもちゃ買って欲しそうな顔してたからな」

女「えっ!? やっ……」

男「冗談だ」

女「もうっ……!」

男「俺はできればそうしたい」

女「……え?」

男「あの子は何もかも知らなさ過ぎる。スプーンの持ち方も知らなかったんだぞ」

男「奴隷商から逃げ出してきたのか……それとも親と死に別れたか」

女「…………」
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/06(土) 23:20:21.69 ID:yJTxPJQlo

男「どちらにせよ、今の物騒な世の中にあの子を放り出すわけには行かない」

女「そうね……」

男「それに」

女「……?」

男「あの子といると、お前は凄く嬉しそうだ」

男「お前の笑顔を見れるだけで、俺も嬉しくなる」

女「っ!? な、ななな、何言ってんのよ!?」///

男「おー可愛いやつめ、ちこうよれ」

女「もうっ! ふざけないで!」

男「ははは、案外、いい家族になれるかもな」

女「そう、ね……いえ、きっとそうよ」









少女「……すぅ……すぅ」
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/06(土) 23:21:37.49 ID:yJTxPJQlo
続きはまた明日、次できっとこの話は終わる
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage]:2011/08/06(土) 23:26:52.72 ID:l8KWo0E70
>>77
な…ん…だと
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[sage]:2011/08/06(土) 23:27:48.06 ID:LhXE8T+AO

うどんは出てくるのでしょうか
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/06(土) 23:33:29.72 ID:gheTZPHIO
馬鹿か?さ・ぬ・きうどんだろ?
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/07(日) 03:25:27.51 ID:QpJxDo92o



ガタッ

ゴト

『あ、ぁああああああ!!! 魔物だ! 魔物がせめて来たぞぉぉおおお!!』

『きゃあああああっ!!』

『く、来るなッ!!! 来るなァアアア!! ギャアアアアアァアア!?!?』

少女「…………」

ぱちっ

少女「外が、騒がしいです。何かあったのでしょうか?」

少女「……? お姉さん? お兄さん?」

少女「皆、どこへ行ったのでしょうか?」

キィ……

少女「これは……誰がお姉さんのおうちを汚したのでしょうか」

少女「わたしではありませんよ?」

少女「…………」

スッ

少女「……っ」

少女「これは、お姉さんが使っていた包丁」

少女「足から血が出てしまいました……止血をしましょう」

少女「……服、は駄目です。せっかくお姉さんがくれたものですから」

ビリッ

少女「ごめんなさいお姉さん。この布を使わせてもらいますね」

少女「お姉さんたちはどこへ行ってしまったのでしょう……」

少女「この包丁は大切なものですから、持って行きましょう」
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/07(日) 03:25:59.66 ID:QpJxDo92o



男「……ぐっ……はぁ、はぁ」

魔物「ぐへ、ぐへへへへ……ニンゲン、しぶといな?」

男「オークごときが、図に乗るなよォ!!!」

ザシュ

魔物「ぐ、ぐぐぐっぐうがぁああぁ!!」

男「が……っ! はぁっ! ち……ちゃんと剣の手入れくらいしとくんだったな」

少女「お兄さん」

男「!? ど、どうしてここに」

少女「何か、あったのですか? おうちの中が荒らされてしまいました」

男「大丈夫だ、何も無い。だから家に戻るんだ」

少女「お姉さんはどうしたのですか? そこに倒れている人なんなのですか?」

男「なんでもない、なにも起こってない、だいじょうぶだ、大丈夫だから」

男「さぁいい子だ、おうちへおかえり、いい子だから、いいこだから、なぁ」

少女「そう、ですか」

男「ああそうだ。俺は少し用事ができた。すぐに戻るきっとすぐに」

少女「わたしも行きます」
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/07(日) 03:27:25.40 ID:QpJxDo92o

男「…………」

少女「そこの倒れている人、オークというのですよね。わたし聞いたことがあります」

少女「そして魔物がせめて来たとも聞きました」

男「…………いや、違う。このひとはきんじょのおじさんで」

男「いまはおまつりをやってるんだ。みんなでかそうして」

少女「嘘ですよね。どうして嘘をつくのですか? お姉さんは? 本当はどこへ行ったのですか?」

男「うそじゃない。どこにもいってない、おんなは……あぁぁあああああああ!!!!」

男「頼む、頼むから。逃げてくれ、お願いだ。お願いだから……」

男「俺に任せてくれ。きっと明日には元通りだから」

少女「そう、ですか」

少女「……わかりました、ご無事で。にこー」

トットット……

男「…………」

男「女……女ァ……! 待ってろ、いま、行くからな」


84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/07(日) 03:28:03.08 ID:QpJxDo92o



「ヒ、ヒィ!! お、男君! ちょうどいいところに! こいつを、こいつを何とかしてくれ!」

男「…………」

「おい!! どこへ行くんだッ!! あ、あぁああああ!!! やめろ、やめろっ! やめてくれええええ!!」

「ぐへ、ぐへへへへへへへえへへえあへへへぁへへえへへ」

男「…………」

グチャッ

ベキャ

「ぎゃあああぁあああぁああああぁァアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」

男「どこだ」

「ォ、ォォオオオオォォン!!」

グァッ!

ズッ!

「ァ……ァアアァ」

ズシャァッ!

男「ぐっ……!」

男「肩を痛めたか」

男「どこだ」

男「どこにいる」




男「答えてくれ……ッ!」


85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/07(日) 03:29:01.51 ID:QpJxDo92o



魔物「ぐへ、ぐへへへへへ」

パンッパンッ

女「んぐぁ……おぇ、げほっ!」

魔物「うへへへ……」

女「んっ!? おぶぁっ! ごぶっ」

魔物「う、ぉ、お、おおおおおお!!」

ドクッ

女「んんっ!?!? げほっ!! げほぉっ!!」

魔物「うぇひひ……」

パンッパンッ!

女「ひっ!? やぁ、っあ!? いだい……いだいっ!!」

女「いだいよっ!! だずげてぇ……! あぁぁあああああああ!!」

女「あがちゃん、しんじゃ……あ、いやぁあああああ!!!!!」

魔物「ふーっ! ふーっ!!」

ズシュッ

男「……ッ!!!」

魔物「あぁ、おぁあぁああ……」

男「あと一体……」
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/07(日) 03:29:27.96 ID:QpJxDo92o

女「いぁああっ!! あなたぁっ!!」

パン、パン

魔物「はぁっ……はぁっ……ぐひひひっ」

男「離せよ……離せよォォォオオオオオ!!!」

バッ

男「ッ!?」

狼「グルルルッ!!!」

男「がはぁっ……!」

ドサッ

女「あ……あぁ……に、げて……おねがい……も、う、いいから……」

魔物「ぐふふ……よく、やった。そいつ、喰って、いい」

男「ふざ、けるなよ……!」

男「ふざけるなよォォオオオオ!!」

男「あぁああああああああああああああ!!!」

狼「ガゥッ!!」

男「ぐぼぉっ!?」
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/07(日) 03:30:06.75 ID:QpJxDo92o

魔物「ひ、ひひひ……そこで、みて、ロ……うぇへ、うぃひっ、ひひひ」

狼「グルルルル……グァッ!!」

男「がぁっ!? う、ぐぁ……!」

グチャッ……ブヂィ……

男「ぁが、ァアアアアア!?」

女「おねがい……! や、めてぇ、ひぃんっ!? ひゃあ、もう、やめてよぉ……!」

魔物「んふ、ぬふふふ……はぁっ、はぁっ……」

狼「ハグッアグ……グァウ!」

ビチャッ

男「あ……ぁ……」

少女「ごめんなさい」

スゥ

狼「――――。」

ゴトリ

男「あ……あ……?」

少女「お兄さん、血がでています」

男「それ……女の、包丁」

少女「ごめんなさい、お姉さん。勝手に持ち出してしまって」
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/07(日) 03:30:55.56 ID:QpJxDo92o

女「だ、め……にげてぇ……もう、いいから……」

魔物「ハッ、ハッ、ハッ」

パンッパンッパンッ

女「ひぎっ、ぁあ!?」

男「やめろ……やめてくれ……!!」

魔物「ォ、ォオオオッ!!!」

ビュッドプッドクンッ

女「いや、ぁあああああああああっ!?」

少女「…………」

スッ

プシャ

魔物「ォォオオ――――」

魔物「――――。」

ゴトッ

少女「お姉さん……大丈夫ですか?」

少女「この人に、悪いことされたのですか?」
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/07(日) 03:31:48.18 ID:QpJxDo92o

女「あ、あな、た……」

少女「あ、ごめんなさい、勝手に包丁を持ち出してしまって」

少女「お姉さんのお母さんからの、プレゼントだと言っていましたから」

少女「大切な、ものですから」

女「ありがと……う」

なで

少女「さっきみたいに、もっと撫でてください」

女「ごめん……ね」

少女「辛いのですか?」

少女「何か欲しいものはありますか? して欲しいことはありますか?」

少女「看病するときはそうするのだと聞いたことがあります」

女「じゃあ、ね?」

少女「はい」










女「あかちゃんを、たすけて?」
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/07(日) 03:32:32.42 ID:QpJxDo92o

少女「赤ちゃん、ですか」

女「いまね、くるしい、くるしいよって、さけんでるの」

少女「わたしには何も聞こえません」

女「わたし、には、わかるの……あかちゃん、しんじゃいそうなの」

少女「死ぬ……のですか?」

女「だから……ね」










女「わたしの、おなかをきりさいて、あかちゃんを、たすけてあげて」

男「―――ッ!?」

男「やめ、ろ……! そんなことしたら、お前まで!!」

女「えへ、いいの。わたし、しあわせ、だったから」

男「よくなんか、あるかっ!! 痛っ……!」

女「ね、お願い。できるかしら?」

少女「はい、お姉さんのお願いですから」

男「やめろ――やめてくれッ……!!!」

女「ありが、とう」
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/07(日) 03:32:59.10 ID:QpJxDo92o












女「さようなら」

男「う、あ、ァア、ァアアアアアアアァアアアぁアアアアアアアアアアァァァアァァアア―――――ッ!!!」












おぎゃあ……おぎゃあ……
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/07(日) 03:34:17.66 ID:QpJxDo92o




目が覚めたら、誰もいなかった。

いや、人と呼べるものがいなかった。

そんな中、なぜか俺だけが息をしていた。

人間のままだった。

全身を布でぐるぐる巻きにされ、満足に身動きもできない状態だった、が。

辛うじて動く首を回し、辺りを見回す。

どこだろう、あの人は。

生涯に一人だけ愛したあの女性は。

誰だろう、そこに横たわる人は。

虚ろな目を宙に彷徨わせ、口をだらしなく開け。

腹を裂かれたあの女性は。

誰だったか。

しばらく考えて

考えるのをやめた。

そしてどこかで、産声が聞こえた気がして。

俺は再び瞼を閉じた。

93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/07(日) 03:34:55.95 ID:QpJxDo92o



少女「よしよし」

赤子「おぎゃあ! おぎゃあ!」

少女「どうかしたのですか? 辛いのですか?」

赤子「おぎゃあ! おぎゃあ!」

少女「泣いているだけではわかりませんよ?」

赤子「おぎゃあ! おぎゃあ!」

少女「困ったことがあれば、何だって言ってください」

少女「だってわたしは……」









少女「貴方のお母さん、なのですから」




穢れた母子。



94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/07(日) 03:35:53.05 ID:QpJxDo92o
また続く
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)[sage]:2011/08/07(日) 08:22:32.51 ID:rrIVmK3AO

心苦しい…
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/07(日) 12:29:36.07 ID:6TnyZbZIO
盗賊の回で言ってた白いって精子のことかよふぁっく
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)[sage]:2011/08/07(日) 21:18:37.42 ID:oTVIWNlAO
おつおつ
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/09(火) 22:45:50.76 ID:h+7koE2To
暑くて書けない(言い訳)
そういえば最近うどん食ってない(3日間くらい)
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[sage]:2011/08/09(火) 23:07:27.31 ID:aoNNo6gb0
うどん食ってないのか…じゃあしょうがないな
つ カップヌードル
100 :がらむど ◆d5N8G/mctw[sage]:2011/08/09(火) 23:11:56.76 ID:UPFWqHhz0

おいおいうどん食べろよ つカップ焼きそば
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage]:2011/08/09(火) 23:12:35.42 ID:UPFWqHhz0
うわコテつけてた恥ずかしい
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/09(火) 23:29:05.03 ID:sGR+HXySO
仕方ねぇな…
つ緑のたぬき
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)[sage]:2011/08/10(水) 00:02:51.40 ID:f6pJng0go
お前らせめてもう少しうどんらしいものやれよ

つ釜あげ
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[sage]:2011/08/11(木) 01:59:10.62 ID:DupFRXlC0
今日も来ないか…
つ増えるわかめ
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)[sage]:2011/08/11(木) 02:53:30.67 ID:+zKmW/Vdo
つカレーうどんに卵と牛乳と納豆とケチャップとマヨネーズととんかつソースをかけて混ぜ合わせたもの
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/11(木) 04:19:12.92 ID:dVFuZsISO
お前らもうちょっとうどんに近いものをやれよ
つアドン<ジャガトゥース!
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/11(木) 11:38:22.93 ID:PXxCyX17o






司祭「……ふぅ」

修道女「お疲れ様です、司祭様。お飲み物をお持ちしました」

司祭「シスター君……ありがとう」

修道女「ご一緒しても、よろしいですか?」

司祭「ああ、構わないよ」

修道女「それでは、失礼して」

トスッ

司祭「ようやく、静かになったね」

修道女「それでも怪我人は残ったままです」

司祭「……そうだね、教会に助けを乞う人があとを絶たない」

修道女「それもこれも……戦争が始まったせいですね」

司祭「ああ……戦争に巻き込まれる人たち」

司祭「それに国が戦争で手一杯になるからね、魔物による被害も拡大しているよ」

修道女「国からの補助が受けられない民が挙って教会に……」

司祭「朝も昼も夜も、教会の全員で治療にあたり食べ物を分け、寝床を提供する」

修道女「教団の在るべき理由なのですが……もう、皆も疲労しきっています」
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/11(木) 11:38:48.73 ID:PXxCyX17o

司祭「……はぁ」

修道女「大丈夫ですか? どこかお体の調子が悪いのでは」

司祭「いや、肉体的な疲労というより、精神的な疲労……かな」

修道女「精神的な、ですか」

司祭「あぁ……。皮肉なものだね、人の救いを願って神職に就いたというのに」

司祭「僕はもう、うんざりし始めているんだ」

修道女「司祭様……」

司祭「すまない。こんな司祭で……」

修道女「そんなことはありません。いつも休む暇もなく治療を続けているのは司祭様ではありませんか」

司祭「……臆病なんだ。いつまでも懇願されたら、僕の気がおかしくなってしまう」

修道女「…………そう卑屈にならないでください」

修道女「皆、司祭様がおられるからこそ、希望を見出せているのです」

司祭「…………」

修道女「ですから、どうぞ……道を見失わないでください」

司祭「あぁ……ありがとう」

司祭「それじゃあ、僕はもう休ませて貰うよ」

修道女「お休みなさいませ」

司祭「おやすみ」

カッ、カッ、カッ……

修道女「……我等に神のご加護を……」

109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/11(木) 11:39:16.18 ID:PXxCyX17o



司祭「…………」

修道女「司祭様、おはようございます」

司祭「ああ、シスター君。おはよう」

修道女「やはり疲れがとれていないようですが……」

司祭「大丈夫だよ、心配かけてすまない」

修道女「それならばよいのですが……」

「ぐぉぉぉ! いてぇ、いてぇよ!!」

「じっとしててください! いま治療しますから!」

「ねぇ! 私の子は!? いつになったら診てくれるの!?」

「しょ、少々お待ちください! 今立て込んでいますので!」

「さっきからそればっかじゃねぇか!! はやくしてくれ!」

「いたいよぉ、いたいよぉ……」

「大丈夫よ、すぐに治るからね……」

司祭「……礼拝堂も怪我人で埋め尽くされる始末」

司祭「教団はまだ救援に来ないのか……」

修道女「辺境の教会に支援をするほど、余裕はないということでしょう……」

司祭「…………期待はできない、ね」

司祭「僕らも行こう、怪我人を放ってはおけない」

修道女「……はい」
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/11(木) 11:39:50.67 ID:PXxCyX17o



「あああ……痛い、痛いよぉ」

司祭「どこが痛いのかな」

「おなか、おなかが痛いの……」

司祭「……骨が折れてるみたいだね、それに全身に擦り傷も」

「ひっく……ぐすっ、ねぇ、司祭様……私、死んじゃうのかなぁ……」

司祭「大丈夫、大丈夫だよ。僕がすぐに治してあげるからね」

「ほんとう……?」

司祭「あぁ、ちょっとした奇跡だよ」

「なにそれ……? 綺麗な宝石がついた杖……」

司祭「珍しいかな、……ちょっと大人しくしててね」

司祭「……癒しよ」

「……ぁ、温かい……光」

パァァ……

「……すごい! 痛くなくなったよ!」

司祭「よかった」

「ありがとうっ! 司祭様!」

司祭「あぁ、どういたしまして。じゃあ僕はこれで……っ」

ふらっ

「……? どうしたの、司祭様」

司祭「い、いや、なんでもないよ。ほら、お母さんのところへ行って、安心させてあげなきゃ」

「う、うん。頑張ってね! 司祭様!」

司祭「あぁ、ありがとう」



修道女「…………」

111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/11(木) 11:40:19.03 ID:PXxCyX17o



司祭「これでもう大丈夫です」

「ありがとうございますっ……ほんとうに、なんとお礼を言えばよいか……」

司祭「頭をあげてください、僕らは当然のことをしているにすぎないのですから」

「……っ、ありがと、う……ございます……あぁ、神よ……感謝いたします……」

司祭「それでは、僕はこれで」


司祭「ふぅ……」

修道女「お疲れ様です、司祭様」

司祭「シスター君」

修道女「そろそろご休憩なされたほうがよいのでは」

司祭「そうは言ってられないよ」

修道女「これ以上はお体に触ります。治療の奇跡もいくらでも使えるわけではありません」

司祭「……それを言ったら、君たちも」

修道女「私たちには外傷を治す程度の奇跡しか使えません……」

修道女「司祭様の奇跡は力を使いすぎます」

司祭「そんな大したものじゃないよ」

修道女「こんな状況で謙遜しないでください」
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/11(木) 11:40:50.47 ID:PXxCyX17o

修道女「いまのところは私たちで何とかなりますから、司祭様は暫く休んでください」

司祭「……はは、これじゃあどっちが上司だか分からないね」

修道女「もう、そういうのはいいですから」

司祭「すまない……それ、じゃあ。ちょっとだけ……」

ふらっ

ぎゅぅ

修道女「……っ!? な、な、し、司祭様? 私たちは聖職者であってこのようなふしだらな真似は……」

司祭「………くぅ」

修道女「…………」

修道女「期待なんてしていませんでした、神に誓って言え……ないですね」

修道女「おやすみなさい。気が済むまで休んでいてくださいね」


113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/11(木) 11:41:21.62 ID:PXxCyX17o



司祭「……ん」

司祭「……っつぅ、頭が痛むな」

司祭「ここは……こんなところで寝ていたのか」

司祭「ん、毛布か。シスター君かな? あとで礼をしておかないと」

少女「…………」

司祭「…………ん?」

ゾクッ

司祭「っ!?」

少女「あの」

司祭(な、なんだ。この嫌な感じ……)

少女「聞いていますか?」

司祭「君は……?」

少女「ここに来れば、病気を治してもらえると聞いたのですが?」

司祭「……あぁ、ここでは無償で治療を行っているよ」

少女「そうですか、それはよかったです。わたし、お金、もっていなくて」

司祭「どこか悪いのかな?」

司祭(……妙な気配のする子だけど、悪い子じゃないみたいだ)
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/11(木) 11:41:47.67 ID:PXxCyX17o

少女「いえ、わたしは特に」

司祭「それじゃあ、お友達か誰か?」

少女「いえ、診て貰いたいのは……」

司祭「……うッ!?」

少女「わたしの赤ちゃんなのですが、最近、喋ってくれなくなってしまって」

少女「いつまでも寝ているようなのです。ご飯も食べてくれないので困っていたのです」

少女「そうしたら、誰かさんが病気じゃないのかって……」

少女「ですからわたし、ここの話を聞いてやってきたのですが」

司祭(腐ってる……嫌な気配の正体はこの赤ん坊の死体か……)

少女「どうかしましたか? 気分でも悪いのでしょうか」

少女「それならば仕方ありません、ほかの人を当たります」

司祭「ちょ、ちょっと待って!」

司祭(こんなものを人目のつくところへ連れて行かれたらまずい)

少女「どうかしましたか?」

司祭「僕が診てあげるよ」

少女「ほんとうですか? ありがとうございます。にこー」
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/11(木) 11:42:19.42 ID:PXxCyX17o

司祭「貸してごらん」

少女「優しく診てくださいね」

司祭「あ、あぁ……」

司祭(……眼球は垂れ落ち、手は腐り落ちている。所々に蛆が沸いて喰い散らかされているな)

少女「どうでしょうか? やはり病気なのでしょうか?」

司祭(赤ん坊が死んでいることにも気づいていない。この子自身、そうとう辛い目にあったようだ)

司祭(戦争は、誰彼構わず壊していくのか……)

司祭(……酷な話だけど、理解できるように教えてあげなくては)

司祭「いいかい? ちゃんと、聞いて欲しいんだけど」

少女「はい」

司祭「この子は、もう死んでいるよ」

少女「…………?」

少女「死……んで?」

司祭「あぁ、もうこの世にはいないんだ」

少女「死……士……氏……師、なんですかそれは? な……んで?」

司祭「君の赤ちゃんじゃないんだろう? お母さんからお乳をもらえなかったんだ」

司祭「目だった外傷もないようだから、死因は餓死だろうね」

司祭「君が気に病むことはないよ、君も被害者なんだから……」
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/11(木) 11:43:34.87 ID:PXxCyX17o

少女「お母さん? わたしが、お母さんですよ?」

少女「どうしてお母さんがいるのに……死、あ、あぁああああっ!?」

司祭「だ、大丈夫!?」

少女「痛い、です……頭、が……」

司祭「っ……! 癒しよ!」

パァァ……

司祭「き、効かない?」

少女「そうでしょう? 赤ちゃん、わたしがお母さんなんでしょう?」

少女「ほら、返事してください。あんなに元気だったじゃないですか」

ガシッ

ぼろっ……

赤子「…………」

司祭(体が崩れてる)

司祭「もう、やめるんだ」

少女「離してください。わたしが赤ちゃんを育てるのですよ。なんたって」

少女「この子の、お母さんなんですから」

司祭「もういい。もう……静かに眠らせてあげよう」

少女「また、眠るのですか? せっかく会えたのに」

司祭「この子は疲れているんだ。これ以上騒がしくしたら可哀想だろう?」

少女「……そう、ですね。起しちゃ、可哀想です」

司祭(よかった、なんとか納得してくれたみたいだ)

司祭「僕はよく眠れる場所を知っているんだ、どうだい? そこで眠らせてあげるっていうのは」



少女「…………はい、お願いします」


117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/11(木) 11:44:01.48 ID:PXxCyX17o



少女「ここ、ですか?」

司祭「ああ……静かだろう?」

少女「はい、不快感はありません」

司祭(ここには助からなかった人が何人も眠っている)

司祭(全部、僕の力不足が招いた結果だ)

少女「どうかしましたか?」

司祭「ん、いや。なんでもないよ」

少女「辛いときは笑うといいそうです。昔、誰かが言っていました。にこー」

司祭「はは、そうだね。にこ」

少女「もっと口角をあげて、目を細めて。唇を少しあけるといいそうです。にこー」

司祭「こ、こうかな。にこー」

少女「はい、よく出来ました」

ぱたぱた

司祭「……? どうかした? 手を伸ばして」

少女「……届きません。あの、少ししゃがんでください」

司祭「??? どうして、まぁいいか……こう、かな?」
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/11(木) 11:45:21.28 ID:PXxCyX17o

少女「はい」

なでなで

司祭「…………」

少女「にこー」

司祭「……にこー」

司祭「それじゃ、この子が眠る場所を決めなくちゃね」

少女「そういえばこの石たちは何なのですか? 字が彫っていますが」

司祭「それはね、お墓って言うんだ。そのしたにいっぱい人が眠っているんだよ」

少女「石の下に……ですか」

司祭「あぁ、この子みたいな人が静かに眠れるように、ってね」

少女「そうなのですか」

司祭「……ここがいいかな」

ザクッザクッ

少女「わたしも手伝います」

ザクッ……

司祭「ふぅ、こんなものかな……あとは草を敷いて」

少女「こんなものでいいのですか?」

司祭「あぁ、十分だ」
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/11(木) 11:45:59.22 ID:PXxCyX17o

司祭「さぁ……赤ちゃんを」

少女「はい」

そっ……

少女「このあとは、どうするのですか?」

司祭「お花をかぶせてあげるんだ」

少女「はい」


司祭「これだけあれば十分かな」

少女「とても、綺麗です」

司祭「あぁ、赤ちゃんもきっと喜ぶだろうね」

少女「喜ぶ……喜びますか、そうですか」

司祭「じゃあ、土を優しくかぶせてあげよう」

少女「……はい」

ぱっ、ぱっ

少女「赤ちゃん、見えなくなりました」

司祭「これでよく眠れるだろうね」

司祭「……あとは、この石でいいかな」

少女「それを、赤ちゃんの上に置くのですか? 苦しくはありませんか?」

司祭「お花がクッションになってくれるよ」

少女「そういうものなのですか……それなら安心です」

司祭「さて、何て彫ろうか……この子の名前、なんていうんだい?」

少女「名前……ですか」
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/11(木) 11:47:15.49 ID:PXxCyX17o

司祭「わからないかな」

少女「はい……」

司祭「そうだね……それじゃあ」

司祭「フィン……っていう名前はどうかな?」

少女「フィン……フィンちゃん」

少女「いいと、思います」

司祭「よし、じゃあ……"fin"」

ガリッガリガリ

司祭「これでよし」

司祭「…………」

少女「何をしているのですか?」

司祭「こうやって、祈っているんだよ」

少女「どうしてですか?」

司祭「また生まれ変われるように、ね」

少女「生まれ……変わる、ですか?」

司祭「あぁ、ここで深い眠りについた人たちは、いつか古い体を捨てて」

司祭「新しい体に生まれ変わるんだ」

少女「そうなのですか?」

司祭「だから、ちゃんとした体に生まれ変われるように、祈ってあげなくちゃいけないんだよ」

少女「なるほど」

司祭「君も、祈ってあげて」

少女「はい……」



少女「おやすみなさい、わたしの、あかちゃん」

少女「また……いつか、お会いしましょう……?」



121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/11(木) 11:49:39.00 ID:PXxCyX17o
何か想像しただけで胸焼けしそうなものがあったけど
お前らの優しさに不覚にもワロータス

そしてまた続く(未定)
あとうどん食ってくる(釜玉が好きです)
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/11(木) 11:53:15.33 ID:dVFuZsISO

赤ちゃん死んじゃったのか…
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage]:2011/08/11(木) 21:42:52.11 ID:lJ5JyF3z0

finなんて言われたから焦ったぜ
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)[sage]:2011/08/11(木) 22:34:07.89 ID:+zKmW/Vdo
おかしいな
少女が抱いてるのがおっさんの白骨でしか再生されない
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/12(金) 00:35:29.47 ID:jrIMwysIO
白骨……?
まぁ乙
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[sage]:2011/08/12(金) 00:42:04.63 ID:HlJmlapAO
乙 よかった
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)[sage]:2011/08/12(金) 05:06:09.40 ID:juB9DXjIo
頭では理解してるんだ、眼球とか蛆とかいう記述があるから
でも再生しようとするとなぜかおっさんの白骨になるんだ
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/14(日) 01:45:29.85 ID:SJL5pMEmo


司祭「そうか、君は一人で旅をしているんだね」

少女「さっきまでは一人ではありませんでした」

司祭「……寂しいかい?」

少女「寂しい、ですか。どうでしょう……わかりません」

司祭(感情の希薄さ、死への理解力のなさ、まるで……)

司祭「人形のようだ」

少女「……? 何か言いましたか、お兄さん」

司祭「ああいや、何でもないよ……あーっと」

少女「?」

司祭「そういえば君の名前、まだ聞いてなかったね」

少女「名前、ですか?」

タッタッタッ

修道女「司祭様!!」

司祭「シスター君」

修道女「……? そこの女の子は」

修道女「い、いえ。今は気にしている場合ではありません! はやく来てください!」

司祭(怪我人か……)

司祭「……分かった!」



少女「あ……行ってしまいました」

少女「……ついていってみましょう」


129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/14(日) 01:46:35.53 ID:SJL5pMEmo



男性「ごふぉっ! ごほっ! げほっ!!」

女性「あなた! あなた! しっかりしてっ!!」

「血、血が止まりません!」

「私たちの力では……!」

「どうしようも……」

スゥッ――

司祭「もう、大丈夫だよ。あとは僕に任せて」

にこっ

「ぁ……司祭……様……?」

修道女「容体は!?」

「は、はい! ま、魔物に付けられた傷が塞がりません!」

司祭「瘴気によって傷の治りが妨げられているんだ」

司祭「……この爪痕、グールか。毒にもやられているみたいだ」

修道女「そんな魔物が……この近くに」

修道女「グールの毒に効く解毒薬があったはずです!」

司祭「駄目だ、間に合わない」
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/14(日) 01:47:40.06 ID:SJL5pMEmo

女性「そんな……司祭様! どうにかなりませんか!?」

司祭「分かりません、ですが全力を尽くします。シスター君! ありったけの聖水を持ってきて!」

修道女「は、はいっ!」

女性「あぁ……神よ……」

「奥さん、気をしっかりと持ってください」

修道女「今あるのはこれだけです、ほかのものにも探させています」

司祭「ありがとう……悪いけど、手伝ってもらえるかな」

修道女「はい!」

司祭「…………」

修道女「……? 司祭様、儀式用の短剣なんて一体……」

司祭「シスター君、傷口に聖水を」

修道女「は、はい……」

トクトクトク……

司祭「短剣にもお願いね」

司祭「行くよ」

修道女「ま、まさか」

スッ

男性「うっ……! ぁ……」

プシャッ

司祭「……っ!」

「ひっ!?」
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/14(日) 01:48:24.74 ID:SJL5pMEmo

修道女「し、司祭様!? 何故傷口を広げるのですか!?」

司祭「瘴気に侵されている箇所を切り取る」

修道女「そ、そんな……! しかし!」

司祭「大丈夫、もう終わった」

カランッ

修道女「はやい……」

司祭「次は毒を抜く、シスター君。毒を抜き終わったら傷を塞いでくれ」

修道女「は、はい!」

司祭「其は穢れを清める浄化の光…………!」

「な、なにあれ……毒が宙に吸い出されていく……」

司祭「……ッ、シスター君!」

修道女「い、癒しよ!」

「わ、私たちも!」

「はいっ!」

パァッ……

修道女「傷は治りました……が」

「脈が……脈が止まっています!」

司祭「……毒が思っていたより、全身へ回っていたんだ」
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/14(日) 01:49:22.50 ID:SJL5pMEmo

女性「あぁぁ……あなたっ!」

司祭「ッ……、どいてください!」

「な、なにを……」

司祭「心臓マッサージを行います……まだ、まだ諦めちゃいけないんです!」

修道女「司祭様……」

司祭「可能性はまだ残っているんだ……なら、諦めない」

司祭「これ以上……死なせない、死なせて……!」



司祭「堪るものかッ!!!」







少女「…………死なせない……死なせない……死」


133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/14(日) 01:49:54.43 ID:SJL5pMEmo



女性「あぁ……あなた……よかった、本当に……」

修道女「まだ安静にしていないといけませんよ」

女性「分かっております……本当に、ありがとうございました……!」

修道女「いえ……私たちは、何も……ほとんど司祭様が……」

女性「あぁそうです、司祭様! まだお礼を言っていません、どこにいらっしゃるのですか?」

修道女「それが、休むと言って部屋に……」

女性「そう、ですか……」

修道女「…………司祭様、大丈夫でしょうか」


134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/14(日) 01:50:26.79 ID:SJL5pMEmo



司祭「…………」

司祭「まだ、震えが治まらない」

司祭「情け……ないな」

コンコン

司祭「……? どうぞ」

少女「失礼します」

司祭「君は……」

少女「数分振りですね? お元気でしたか? にこー」

司祭「あ、あぁ……ところで、どうしてここに?」

少女「少し、気になりまして」

司祭「心配して来てくれたのかな?」

少女「そんなところです」

司祭「ふふ、ありがとう」

少女「どういたまし……どういたしまして」

司祭「……ふぅ」

少女「どうかしましたか? 疲れているように見えますが」

司祭「あぁ、ちょっとね」

少女「疲れたときはぐっすり眠るといいそうですが」

少女「わたし、お邪魔でしたでしょうか?」
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/14(日) 01:50:53.63 ID:SJL5pMEmo

司祭「いいや、別に邪魔じゃないよ」

司祭「体が震えて、寝付けそうに無いんだ」

少女「そうですか、眠れないのですか?」

司祭「あぁ、簡単に眠れる方法でもあればいいんだけどね」

司祭「こればっかりは奇跡でもどうにもならないんだ」

少女「眠れる方法……」

スッ

司祭「えっ、っと、そ、その包丁は何かな」

少女「誰かさんが言っていました、強引に眠って貰うには首を落とせばいいのだそうです」

少女「わたしも、最初は半信半疑だったのですが、割りと効果はあるようですよ?」

司祭「駄目だから。永遠の眠りについちゃうから」

司祭「そ、それ以外の方法はないかな?」

少女「そうですか……駄目ですか、そうですか」

少女「ほかの方法……思いつきません」

司祭「安心できたら、眠れるかもしれないなぁ」
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/14(日) 01:51:45.81 ID:SJL5pMEmo

少女「安心、ですか?」

少女「…………安心、そうです」

司祭「何か思いついた?」

少女「はい、横になってください」

司祭「あ、あぁ。暴力的なことはやめてよ?」

少女「暴力的……とはよくわかりませんが。わたしが今までで一番、その……」

少女「安心、できたこと、です」

なで

司祭「……っ!」

びくんっ

少女「どうかしましたか?」

司祭「い、いや。案外、普通なことだったんでね、ちょっと驚いた」

少女「……? よくわかりませんが」

なでなで

司祭「…………くぁ」

司祭(震えがとまってる、どうしてだろうか)

司祭(この子は普通じゃないのに、異常なのに)

少女「どうでしょうか?」

なでなで

司祭(どうしてこうも…………)

司祭「…………」

少女「…………おやすみなさい」

137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/14(日) 01:52:24.86 ID:SJL5pMEmo
つづーく
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[sage]:2011/08/14(日) 02:03:22.40 ID:ywzW/Kii0
乙!
少女さん包丁常備すか…
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[sage]:2011/08/14(日) 03:40:15.72 ID:zeE+XYkAO
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/14(日) 23:48:45.66 ID:u9O1n7/IO
どうも、>>1です。あいふぉんから失礼します。
現在、雷による影響で投下できない状態になってしまいました。
いつ直るかはわからないのです。すいません。
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/15(月) 00:24:43.67 ID:rOn0JG2SO
雷か…気の毒に
さて、>>1が一日でも早く復帰できるよう皆でうどんを供えようか
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[sage]:2011/08/15(月) 02:41:05.66 ID:mmX5lFpN0
つうどん
143 :つうどん[sage]:2011/08/16(火) 00:23:37.03 ID:aHDvClS10
仕方ない、俺の秘蔵の焼きうどんをプレゼントしよう。
何か麺細いけどキニスンナ つ焼きそば
144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/16(火) 12:26:14.23 ID:HOQb+bCIO
お疲れ様です
結構効果あるって……実践したのかな

つペペロンチーノ
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/19(金) 23:56:59.55 ID:zszh99uRo



少女「〜〜♪〜〜〜♪」

少女「…………」

少女「〜〜♪〜〜〜♪」

少女「…………」

少女「続きが……分かりません」

ちら

司祭「……すぅ」

少女「〜〜♪〜〜〜♪」

146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/19(金) 23:57:40.06 ID:zszh99uRo


修道女「……もう、夜ですか」

修道女「はやいものですね」

修道女「皆が寝静まり、教会は数刻の安らぎを得る」

修道女「神に祈ることのできる時間も今だけ……」

修道女「…………神よ」

修道女「祈るだけでは、駄目なのですか……?」

修道女「願うだけでは、足りないのですか……?」

修道女「それでも私は、司祭様のために」



修道女「この愚かな私を……どうか、どうか、お許しください」


147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/19(金) 23:58:08.29 ID:zszh99uRo



少女「……もう朝になってしまいました」

少女「朝は気持ちがいいので好きです」

少女「……おはようございます、フィンちゃん」

墓「…………」

少女「ほかのお墓にはお花が飾られていますね」

少女「そういう、ものなのですか」

ザッザッ

青年「……ここは、空気が澄んでいて……とてもいい場所だね」

青年「森に囲まれた教会というのは珍しくはないけれど、特別な感じがするよ」

スッ

青年「おや? 君は?」

少女「おはようございます、にこー」

青年「うん、おはよう」

にこり

少女「貴方はいい人ですね」

青年「それはどうかな?」
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/19(金) 23:58:50.92 ID:zszh99uRo

少女「では、悪い人なのですか?」

青年「そうかも知れない、君を食べちゃうかもね」

少女「わたしを食べるのですか? あまりおいしくないかもしれませんよ」

青年「ふふ、可愛くて小さくて、とても柔らかそうじゃないか。きっとおいしいよ」

少女「か、可愛いとおいしいのですか、そうですか……」


青年「さて……冗談はここまでにしておこうか」

少女「冗談だったのですか? では認識を改める必要が……」


青年「君はどうしてこんなところにいるんだい?」

少女「……えと、わたしの赤ちゃんが……ここで眠っているのです」

青年「ほう……その歳で。偉いんだね」

少女「偉くなんか、ありません……わたし、お母さんなのに」

少女「きちんと面倒を見てあげれたのか、どうか、わからないのです」

青年「それで、ここに」
149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/19(金) 23:59:24.50 ID:zszh99uRo

少女「そのことを聞こうにも、フィンちゃんは眠ってしまって……」

青年「その子、フィンちゃんって言うのかい?」

青年「そうだ、ではぼくがフィンちゃんに聞いてみるとしよう」

少女「でも、眠っているのですよ? 起しちゃ、駄目ですよ?」

青年「大丈夫、ぼくは寝ている人の言葉がわかるんだよ」

少女「そうなのですか? 凄いのですね」

じーっ

青年「…………」

少女「どうですか? なにか言っていましたか?」

青年「……むむ」

青年「ほう……」

少女「…………どきどき」

青年「赤ちゃんだから、言葉は喋ってくれなかったけれど。気持ちは伝わったよ」

少女「…………」

青年「ふふ、そう緊張しなくていい」

青年「フィンちゃんは、とても君に感謝しているよ」

少女「そう、なのですか?」
150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/20(土) 00:00:00.01 ID:zszh99uRo

青年「うん、『育ててくれて、ありがとう』と言っていたよ」

少女「……フィンちゃん」

少女「ごめんなさい……貴方を大きく育ててあげることが、できなくて」

少女「わたし、お母さんなのに……お母さん失格ですね」

青年「そんなことはない、君はこの子のお母さんだ」

青年「お母さんが、そんなことでどうするんだい? 赤ちゃんが困るだろう?」

少女「困る……そうですか、そうですね」

少女「…………」

青年「どうしたんだい? いきなり黙り込んで」

少女「いえ……なんだか、ひどく頭痛がして、胸の奥が痛むのです」

少女「どうしてでしょうか? 最近はなかったのですが」

青年「……悲しい、のかな?」

少女「分かりません、何も……」


151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/20(土) 00:00:49.13 ID:CbD8jrJmo



青年「なるほど」

青年「君は感情を出すのが苦手なようだね」

少女「そう、なのですか? なら、感情を出せば痛くなくなるのですか?」

青年「どうだろう。もっと辛くなるだけかもしれない」

少女「それなら……わたしはこのままで」

青年「でも」

青年「何か理由が分かるかもしれないよ」

少女「理由……ですか?」

青年「そう、胸が痛むかい? 頭が痛むかい? それにはきっと理由がある」

青年「知りたいだろう?」

少女「は……い、知りたい、です」

青年「でもそれは、いつまでも感情を押し殺していては分からない」

青年「君は、そうは思わないかい?」
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/20(土) 00:01:16.25 ID:CbD8jrJmo



少女「わかりません」



少女「わかり……ま……あ、あぁぁぁっ」

青年「……っ、大丈夫かい?」

少女「わかりません、わからないのです、どうしてでしょうか」

少女「なにも……」

ふらっ

少女「あっ…………」

青年「っ!」

ぎゅっ

青年「大丈夫かい?」

少女「…………」

青年「…………」

少女「…………さい」

青年「うん?」
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/20(土) 00:02:16.20 ID:CbD8jrJmo

少女「もっと、ぎゅって、してください」

青年「やぶさかではないけれど……そんなことでいいのかい?」

少女「…………」

こくり

青年「そうかい? じゃあ、失礼して」

ぎゅうっ

少女「…………」

少女「貴方は、柔らかくはないのですね?」

青年「ご期待には添えられなかったかな?」

少女「いえ、そういうわけではないのですが」

少女「何でしょうか、少し、変な感じがします」

青年「ふむ? どんな感じかな」



少女「…………まだ……まだ、わかりません」



154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/20(土) 00:03:27.49 ID:CbD8jrJmo
私は、帰ってきた
そして、まだ終わらんよ
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/20(土) 00:14:51.89 ID:0zVxYOmKo
乙、待ってた
はいつうどん
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/20(土) 02:05:50.86 ID:4KJn1v3IO
出会ってすぐの男に抱きつく少女さんまじビッチ
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)[sage]:2011/08/20(土) 09:03:08.38 ID:NqwEC+lPo
これは可愛い子を食べるフラグ・・・!
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)[sage]:2011/08/20(土) 09:31:56.05 ID:wd06H2pBo
>>156
ビッチってさ、貞操観念が「薄い」JK~JD(主にガングロギャル)の事を言うわけだ
つまり貞操概念が「無い」この子はビッチとは少し違うんだと思う
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/21(日) 02:06:32.25 ID:5JemGtw/o



司祭「……すぅ」

司祭「んっ……ふぁ」

ぼーっ

司祭「あれ、僕は一体……あぁ、眠っていたんだった」

司祭「あの少女は……?」

司祭「……とりあえず顔を洗おう」

コンコン

司祭「誰だろう……ちょっと待っ」

「も、もう! 一体何なんですか貴方!」

ガチャッ

賢者「邪魔するぞ」

司祭「っ!? き、君は!」

「す、すみません司祭様! この人がいきなり……!」

賢者「久しぶりだな、体調はどうだ?」

賢者「……ふむ、その様子を見るに十全というわけではなさそうだな」
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/21(日) 02:07:05.77 ID:5JemGtw/o

司祭「マグナ! マグナじゃないか!」

「お、お知り合いなのですか?」

司祭「あぁ、紹介しておくよ。僕の友達、マグナ・シュラインだ」

「そ、そうでしたか……そうとは露知らず、とんだご無礼を」

賢者「いい、碌な説明をしなかった俺に非がある」

賢者「少し急いでいたものでな……すまない」

「いえっ! こちらこそ……」

司祭「……すまない、ちょっと外してもらえるかな」

「はい、それでは失礼します」

司祭「それにしても、無事だったんだね、マグナ! 久しぶりに会えて嬉しいよ」

賢者「あぁ、俺は簡単には死なんさ……そういえば、いつ振りだ?」

司祭「あぁ! 最後にあったのは僕が帰省したときだったから……1年振りということになるね」

賢者「そんなに前だったか……しかし、お前も変わらないな。アド……おっと」

賢者「名前で呼んではならないのだったか」
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/21(日) 02:08:02.77 ID:5JemGtw/o

司祭「……気をつけてよ?」

賢者「すまんな、しかし教団とはおかしなところだ」

司祭「そういうしきたりだからね、神に身を捧げることは名も捧げるということだから」

司祭「僕はいまや、辺境の教会に住むただの司祭だよ」

賢者「わかってはいるのだがな……司祭殿」

司祭「君が言うとあまりいい響きはしないな」

賢者「……言うな、しかし旧友を名で呼べないとはなかなか辛いものだな」

司祭「すまないと思うけど、僕が選んだ道だからね」

賢者「お前があのまま、軍に残ってくれればな……」

司祭「…………」

賢者「いや、もう何も言うまい。いまはただ、お前が無事であったことがわかっただけでいい」

司祭「そういってくれて、嬉しいよ」

司祭「ところで、何でまたここに?」

賢者「俺は今……訳あって旅を続けている」

司祭「そのわけを……教えてはくれないのかな?」
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/21(日) 02:09:59.62 ID:5JemGtw/o

賢者「……ふっ」

賢者「教えないと言えば?」

司祭「縄で縛って森の中に放りだすだろうね」

賢者「それは勘弁願いたいところだ」

賢者「……詳しくはいえないが、追われているのだ」

司祭「誰に?」

賢者「…………むう」

賢者「……帝国軍に、だ」

司祭「なんだって!? どうして自国の軍に追われ……」

賢者「詳しくは話せない、と言っただろう? だが、どうか俺のことを信じて欲しい」

賢者「暫く、匿ってもらいたいのだ」

司祭「……わかった、わかったよ。僕が君を見捨てられるはずがないじゃないか」



賢者「感謝……する」

163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/21(日) 02:10:38.88 ID:5JemGtw/o



青年「…………」

少女「…………」

青年「そろそろいいかな?」

少女「……はい」

青年「どう? 何かわかったかい」

少女「いえ、何も」

青年「そうか、残念だ」

少女「はい、ですが……痛みはもうありません」

青年「それはよかった」

少女「…………」

少女「そういえば、貴方は何故ここにいるのですか?」

青年「ぼく? ぼくかい?」

少女「…………」

こくり

青年「そうだね、ぼくばかりが質問するのも卑怯かな」

164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/21(日) 02:12:06.42 ID:5JemGtw/o


青年「ぼくは旅の途中でこの教会を訪れていてね」

青年「辺りを探索していたらここに着いたんだ」

少女「旅、ですか?」

青年「うん、様々な土地を巡って色々なものを見たり聞いたりしているんだ」

少女「旅は、楽しいですか?」

青年「そうだね……楽しいこともあるけれど、やはり辛いことのほうが多いかな」

少女「それでも旅を続けるのですか? 辛いのに」

青年「うん、癖になっちゃった……からかな」

青年「世界を見て回るっていうの憧れだったからね」


少女「憧れ……ですか」

165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/21(日) 02:12:58.41 ID:5JemGtw/o


賢者「陛下!」

青年「マグナ?」

少女「……?」

賢者「ほう……」

賢者「俺が交渉をしている間に……小さな子をたぶらかすなど……」

賢者「成長しましたな」

青年「感慨に耽っているところ悪いけど、陛下と呼ぶのはやめろと言ったはずだけど?」

賢者「そうでしたな、フューリ坊ちゃん」

青年「何だい? 爺や」

賢者「ふ、ふふふふ」

青年「ふふ」

少女「あの……貴方は?」

賢者「む、紹介がまだだったな」

賢者「俺はマグナ、職業賢者だ」

賢者「お前は? 名をなんと言う」
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/21(日) 02:13:40.54 ID:5JemGtw/o

少女「わたしですか?」

賢者「うむ、人に名を尋ねるときはまず自分から名乗るものだ」

賢者「だが今回は特別だ、さぁ! 心置きなく存分に名乗るといい!」

少女「え、ええと……名前……名前……どうしましょう」



少女「き、貴様に名乗る名など、持ち合わせてはいない! ……です」


賢者「……なるほど、ただの小娘かと思っていたが……なかなかのメンタルだ」

賢者「見所がありそうだ……」

ゴスッ

賢者「ぬぅ!?」

青年「巫山戯るのもいい加減にしてくれないかな?」

賢者「何をするのです、陛下」

青年「マグナが喋ると話が進まない、あと陛下はやめろと言っただろう?」

賢者「致し方ありませんな……ここは陛下にお任せしましょう」
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/21(日) 02:14:50.83 ID:5JemGtw/o

少女「あの……」

青年「ごめんね、混乱させてしまっただろう? あのおじさんは気にしなくていい」

少女「はい」

青年「それじゃあ改めて」

青年「ぼくの名前はフューリ、君の名前を教えてもらえるかい?」

少女「その…………」


少女「呼び名はありますが、名乗る名はないのです」

青年「自分の名前がわからない、と」

少女「はい」

賢者「流石ですな、陛下。俺に出来なかったことを平然とやってのける」

賢者「年端もいかない少女を懐柔することなど、陛下にとっては造作も無いことであると」

青年「少し黙ってもらえるかな」

青年「名乗る名がない……それならば仕方ないね」

少女「すみません……」

青年「いや、謝ることではないよ。気にしないで」

168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/21(日) 02:16:27.42 ID:5JemGtw/o


賢者「…………」

青年「……やけに静かだね、マグナ」

賢者「黙れといったのは陛下ではありませんか」

青年「そうは言ったが……」

賢者「……ま、そのせいではないのですが」

青年「……? どういう……」

賢者「先ほどから、妙な胸騒ぎがしてならんのです」

青年「もう追手が……? 完全に撒いたはずだけど?」

賢者「いえ、そうではありません。もっと違う……何か」

賢者「とてつもなく希薄であるが、忌むべきもの。そのような気配が」

青年「マグナにしては随分曖昧だね」

ザッザッ!

司祭「マグナ!? こんなところに!」

賢者「アド……司祭殿。そんなに慌てて、どうかしたか」

少女「あ、お兄さん」

司祭「君もここにいたのか……」

青年「どうかしたましたか?」

司祭「それが……いや、詳しくは後で話すよ」



司祭「どうか、君たちの力を貸して欲しい!」


169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/21(日) 02:18:04.49 ID:5JemGtw/o
うどんは……暫くはいいや
やっとあからさまに主人公っぽいのが出たところで続く。次で終わると思う
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/21(日) 02:34:33.20 ID:CUHVxWBbo
おつおつ
171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage]:2011/08/21(日) 02:41:08.63 ID:lrvMNQF80

次で最後か…
つうどん
172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/21(日) 02:56:08.38 ID:97SAZLySO
アド…?アドンだろうそうだろう!そうに違い(ry
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[sage]:2011/08/21(日) 03:56:10.20 ID:PSQYTHCAO

アドドンパさんに期待
174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)[sage]:2011/08/21(日) 19:28:46.29 ID:DMATg5+7o
アドリアさんか
175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/22(月) 06:20:26.82 ID:9bFRQrxW0
んー、面白かった 期待だぜっ
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[sage]:2011/08/22(月) 13:48:54.42 ID:2EYuBDvTo
香川の人たちは蕎麦は食わんのかな?


乙んこー
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/22(月) 23:44:27.73 ID:7iUtRWMAo



修道女「夜分に教会を抜け出すのは掟に反しますが……」

修道女「自由に動ける時間は今だけ」

修道女「…………有事の際にのみ使われる通路」

ギィ……

修道女「これもまた掟に反しますが」

修道女「…………」

修道女「もうそんなことを言っている場合ではないのですが」

修道女「まったく重罪ですね、重なると重いと言う意味で……はっ」

きょろきょろ

シーン……

修道女「……ほっ」


修道女「……行きましょう」

178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/22(月) 23:46:06.25 ID:7iUtRWMAo




修道女「ひとまずは明かりを」

ボゥ

修道女「松明の光は目立つので控えたかったのですが……」

修道女「トーチの魔法が使えないのでは仕方がありませんから」

ザッザッ

修道女「目指すは、教会の裏手の……山の頂上」

修道女「木々が生い茂り、参拝のために石造りの階段があるだけの道」

修道女「その奥にある祠、古くから奉られている湧き水」

修道女「それは神の加護が与えられた聖なる水」

修道女「……それさえあれば」

ガサガサッ

修道女「っ!?」

修道女「はぅ……お、驚いてなんていませんから……」

バサバサバサッ!

修道女「きゃあぁああっ!?」

修道女「…………」

修道女「ええと……これは、その……」

修道女「……はぁ、これ以上言い訳するとむなしくなりますから」

修道女「ともかく、先へ進みましょう」

179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/22(月) 23:46:50.88 ID:7iUtRWMAo


修道女「はぁ……はぁ……やっと……着き、ました……」

修道女「…………すーはー……よし」

ギィイィィィ……

修道女「うっ……」

修道女「べ、別に怖いというわけではなくてですね」

修道女「特別な儀式も行事もないというのに」

修道女「こういった神聖な祠に入るという行為が憚られるといいますか」

ヒュォォォオ……

修道女「…………」

修道女「う、うぅ……やはり、やめておいたほうが……」

修道女「帰りたいよぅ……司祭様ぁ……」

修道女「司祭様……」

修道女「いいえ……駄目です、ここまで着たのです。もう、後戻りは出来ません」

修道女「こんなことしているのがばれたら、怒るでしょうね」

修道女「もしかしたら、嫌われてしまうかもしれません」

修道女「それでも……私は……」

修道女「司祭様に、犠牲になって欲しくはないのです……」

修道女「申し訳……ありません」

ギィッ

バタン


180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/22(月) 23:47:23.96 ID:7iUtRWMAo



数日前

「ねえねえ、聞いた? シスターさん」

修道女「貴方は、噂好きということで噂のシスターさんではありませんか」

「な、何よその言い方は……」

修道女「いえ、特に深い理由はありませんが」

「何か引っかかるわねぇ……まぁいいわ」

「あの伝説の話、知ってる?」

修道女「……はぁ、今は仕事中でしょう? 助けを求めている民が大勢いるのですが」

「もーっ、お堅いこといわないの!」

修道女「…………知りませんが」

「あらあら? ツンケンしてる割に興味津々なのかしら?」

修道女「では、私は包帯の予備を」

「ああんもう! わかったわ! 教える、教えるから!」

修道女「…………」

「そんな顔しないでよぉ……お願いだから聞いてよぉ……」

修道女「はぁ……仕方ありませんね」
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/22(月) 23:48:02.27 ID:7iUtRWMAo

「やったっ! じゃーどこから話そうかなー」

修道女「手短にお願いしますね」

「そうねぇ、この教会の裏山にある祠は知ってるでしょ?」

修道女「えぇ、勿論知っていますが。もしかして聖水が延々と沸き続ける杯の話ですか?」

「そーよ、物知りねぇあなた」

修道女「この教会でもは定期的に参拝と清掃を行っているので、当たり前といえば当たり前ですが」

「それでね、その聖水にまつわる伝説っていうのがあるのよ」

修道女「はぁ、根も葉もない噂でしょう?」

「いーから最後まで聞きなさいって」

「蒸留してろ過して清められた水に、治療の奇跡を含めただけの聖水とは違って」

「その聖水にはとんでもない力が備わっているのよ」

修道女「とんでもない力、ですか?」

「そっ! それはねぇ……」

182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/22(月) 23:48:34.22 ID:7iUtRWMAo



修道女「全治の特効薬、精神強化の秘薬、疲れ知らずの栄養ドリンク剤」

修道女「どれが正しくて、どれが間違いだなんて……私にはわかりません」

修道女「ですがこの数日、寝る間も惜しんで教会の資料を調べ、確信を得ました」

修道女「効能は結局わかりませんでしたが、効果はあるのは間違いないようです」

修道女「とある書物の一説には」

修道女「その水はまさに奇跡の水であった。我等に光と希望を与え、そして絶え間なく溢れ続けた」

修道女「それは神の力、神の加護、神より与えられしものだったのだ」

ピチャッ

修道女「そう……これが……」

183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/22(月) 23:49:01.70 ID:7iUtRWMAo



司祭「はぁっ……はぁっ……」

賢者「大丈夫か? 司祭殿」

司祭「僕ならば大丈夫だ、少し疲れが残っているだけだよ」

青年「それで、どこへ向かっているんだい?」

司祭「……あぁ、すまない。移動しながらの説明でいいかな」

司祭「君たちは今朝到着したそうだね」

賢者「うむ、そうなるな」

司祭「そのとき、何か異変を感じなかった?」

青年「そういえば……森の動物がざわついていたね。それと何か関係があるのかな?」

司祭「……あぁ、最初はその程度の異変だったんだ」

賢者「今は何が起こっている? 俺にもまだ森がざわついているだけにしか思えんのだが」

賢者「勘のいいお前ならわかっているんだろう」

司祭「……恐らく、だけど」

司祭「何者かがこの森を護る祠に入ったのだろうね」

青年「祠?」
184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/22(月) 23:49:40.56 ID:7iUtRWMAo

司祭「ここは本来、荒れた山だったんだ」

司祭「木々は枯れ果て、魔物が蔓延り、動物どころか虫一匹見当たらない、そんなところだった」

司祭「それに困り果てた近隣の村人たちはどうにかならないかと頭を悩ませた」

賢者「ふむ……聞いたことがあるな」

賢者「確か、ある日のこと、その村にある人物が訪れた」

賢者「そいつは自分のことを神の使いと名乗った」

賢者「勿論、村人は訝しんだ。だがその者が杖を掲げ、呪文を唱えると」

賢者「ただの杯から、滾々と水が沸き始めた」

司祭「そう、その杯は聖者の杯と呼ばれている」

司祭「そしてその杯を祭ってあるのが、この山の山頂にある祠なんだ」

青年「うん……? 水が湧き出るだけなのかい?」

賢者「いえ、その水は大変特殊なもので、木々を蘇らせ、生物を育み、邪悪な魔物を封じたとされています」

青年「なるほど、ということは、その水に異変が起き……この森にも異変が起きているというわけだ」

司祭「その通り……できれば僕一人で片付けたかったんだけどね……おっと」

青年「ん……大丈夫かい? ぼくでよければ、肩を貸すよ。アドフィルド」

司祭「あぁ、ありが……えっ!?」

青年「……? どうかしたかい」

司祭「な、何故、僕の名前を……」
185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/22(月) 23:50:25.07 ID:7iUtRWMAo

賢者「……おいおい、その歳で老眼か? 司祭殿、くたばるにはまだ早いぞ」

司祭「……君、は……いや、貴方は」

青年「なんだい? ぼくの顔に何かついているのかな」

賢者「陛下、何も隠すことはないではありませんか」

司祭「へい……か……ま、さか……!」

司祭「王子!? フューリ王子で!?」

青年「ふふ、如何にも、ぼくはフューリ・イル・ラ・リル・ド・アルバス」

青年「アルバス帝国の元、王子さ」

司祭「そんなまさか……いやしかし……面影が……」

青年「ひどいな、アドフィルド。ぼくはすぐ君のことに気がついたというのに」

賢者「俺が言わなければ気づかなかったでしょうに」

司祭「これは、とんだ失礼を……王子、いえ、陛下。よくぞご立派に成長なされて……」

青年「いや、構わない。それに……ぼくはもう陛下じゃない」

司祭「それは一体……? そういえば帝国が戦争を始めているというのに、何故陛下がここに……」

賢者「ま、それは後で追々と……な。まずは目先のことを片付けるのが得策だ」

青年「そうだね、たまには良いこというじゃないか、マグナも」

賢者「たまには、は余計ですな。陛下」

青年「さぁ、肩を貸すよ」

司祭「あ、ありがとうございます」

青年「行こうか」


186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/22(月) 23:51:22.55 ID:7iUtRWMAo



青年「……ふぅ、ここが例の祠かい?」

司祭「えぇ、杞憂であればよいのですが……」

賢者「そういうわけには、いかないようだがな」

一向の目に映るは古びた祠。

感じるは邪悪な気配。

それでも彼等は止まることを知らない。

カタカタ……

司祭「やはり……」



魔物「カラカラカラ」



187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/22(月) 23:52:20.38 ID:7iUtRWMAo

青年「スケルトン、アンデットの一種だね」

青年「人の亡骸に巣くう残留思念が、自らの意志を持って動き始めると言われる魔物だ」

賢者「脆いが素早い、お気をつけください。陛下」

青年「ふっ……侮るなよマグナ。骨ごときに遅れを取るはずがないだろう?」

司祭「陛下は、我が命に代えてもお守りいたします」


ある青年は小剣を

ある賢者は魔道書を

ある司祭は装飾が施された杖を取り出した。


魔物「カカカカカッ」


骨の剣士は体中の骨を軋ませ、手にした骨刀を構え飛び掛る。


青年「遅い――」


魔物の一閃、青年はその軌道を小剣に乗せ、軽く往なす。

そして……そのまま流れるような剣捌きで魔物の喉元に小剣を差し込み

魔物の頭骨を貫いた。

188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/22(月) 23:53:00.66 ID:7iUtRWMAo


賢者「なかなかやりますな」

青年「見ていないで、手伝ってくれないかな?」


青年は小剣に突き刺さったままの頭骨を、掃い捨てる。

数は減ったが、魔物はあと二体ほど残っていた。


賢者「……魔道書、第一項」


厳かな口調と共に紡がれる言の葉。


賢者「まずは初歩の初歩だ! 熱いの一発喰らわせてやる、焼き尽くせ爆炎! "ファイアー"!!」


描かれた文字が意味を成す、秘められし言葉が力を放つ。

咆哮と共に生み出された火炎は、眩い光を発し軌道を描く。

それは瞬く間に二体の魔物を包み、爆発的に燃え広がったかと思えば

次の瞬間には消し炭となった灰が残るだけであった。

189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/22(月) 23:53:27.77 ID:7iUtRWMAo


司祭「ここは山中だということを忘れないで欲しいな、山火事なんて勘弁だよ」

青年「……っ! アドフィルド! 後ろ!」

司祭「っ!?」


青年の言葉と同時に、影に潜んでいたもう一体が姿を現す。

既に振りかぶった状態で、あとはその手に持った骨刀を振りおろすのみ。


司祭「障壁……ッ! ぐっ……うぁ!」

魔物「ケタケタケタ」


突如、立ちくらみのような衝動に襲われる司祭。

それも、杖を構えるどころか、立つこともままならないような。


賢者「アドフィルド!!」

青年「くっ……間に合わな――」



少女「あいた」

190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/22(月) 23:53:59.55 ID:7iUtRWMAo


魔物「ケタケ……」

ガシャンッ

今まさに飛びかかろうとした骸骨は

足を引きずられるかのように体勢を崩し、砕け散った。


少女「…………ごけてじまいましだ」


砕けた骨の影から見える人影は、鼻を押さえその場にうずくまっていた。


賢者「お前は……」

青年「どうしてここに? ……っと、立てるかい?」

少女「ありがとうございます……」

青年「駄目じゃないか、教会に残っておくようにと言っただろう?」

少女「すみません、どうしても気になって」


賢者「……立てるか?」

司祭「あ、あぁ……すまない」

少女「大丈夫ですか?」

司祭「……大丈夫だよ、ありがとう……といいたいけど」


191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/22(月) 23:55:07.36 ID:7iUtRWMAo



司祭「危ないじゃないか! もし、僕じゃなくて君が襲われていたら!」

司祭「どうなっていたことか……」

少女「……すみません」

賢者「もうその辺にしておけ、司祭殿」

司祭「だけど……!」

賢者「くどい!!」

司祭「……っ」


賢者「目先のことに囚われて、大事なことを見失う。昔から変わらない、お前の悪いところだ」

賢者「結果、何事もなかったのだ。それでよしとしようではないか」

青年「マグナの言うとおりだ。起きてしまったことは仕方ない」

司祭「…………わかり、ました」

青年「歩けるかい?」

司祭「ありがとうございます」


192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/22(月) 23:55:33.11 ID:7iUtRWMAo



少女「…………わたし、嫌われてしまったのでしょうか?」

賢者「あいつも、悪気があって怒鳴ったわけじゃない」

少女「そう、なのですか?」

賢者「うむ、全てお前のことを思ってだ」

少女「わたしの……?」

賢者「そうだ。お前のことを思っているからこそ、悪いことをしたら怒るのだ」

少女「思っているから、こそ……よく、わかりません」

賢者「急く必要はない、いずれわかるだろう」


賢者「陛下、この子を残していくのは危険です。俺たちと同行させるのがよろしいのでは?」

青年「そうだね。引けど進めど危険なのは同じ、仕方ないけど……」

司祭「…………」

賢者「よし、ならば行くとするか」

少女「はい」


193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/22(月) 23:58:12.51 ID:7iUtRWMAo
終わらなかった、続く
あとうどん県では蕎麦食うと終身刑、一生蕎麦食わされる。逃げても隠れても周り全てが敵となる
命が惜しければ食わないことをお勧めする。俺はあまり蕎麦好きじゃない
194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/23(火) 00:34:02.32 ID:zOEMfYDDo
おつおつ
195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage]:2011/08/23(火) 00:38:26.73 ID:8Xqi2Ucco

先生きしめんはうどんに入りますか!?
196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)[sage]:2011/08/23(火) 00:41:53.06 ID:zWpjCNvmo
路頭に迷ったらうどん県で蕎麦を食らえばいいのか
197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/23(火) 03:04:02.85 ID:t7+UXtCSO
アドンじゃなかった…だと…
乙。うどん県怖いです
198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/23(火) 09:03:47.59 ID:LJ7jJ1eIO
乙←これは乙じゃなくてうどん云々
199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]:2011/08/23(火) 14:25:48.87 ID:buVpLqNho
香川さん>>198の野郎うどんで遊んでやがりますぜ
これはもう一生蕎麦の刑ですね
200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/24(水) 00:18:40.08 ID:YPBSO5Gbo


祠の扉を開けた先は洞穴であった。

天井から水滴が滴り落ち、狭い空洞に絶えず水音が反響する。

それらは一定のリズムを保ち、音楽を奏でる……。



悲鳴という歌声と共に。


修道女「痛い……痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い!!」

修道女「いやぁあああああああああああああああ!!!」


処女の柔肌に猛毒が滴る爪が食い込む。

服を裂く、皮膚を裂く、猛毒が肉を溶かす。

それは想像を絶する痛み。


修道女「離して……離してぇあぁああああっ!! もういやぁああああぁ!!!」


空間に漂う悪臭、腐臭、そして血の臭い。

彼女を捕らえるのは"屍人"グール。
201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/24(水) 00:20:28.53 ID:YPBSO5Gbo

力に溺れ、肉体を強化しすぎた結果、体が耐え切れずに腐り始めた者の成れの果て。

そして特徴はそれだけではない。

もとより人であった類の魔物には全てにおいて共通点がある。


人に対し、限りない憎悪を持っていることだ。


一体の屍人が修道女の体を押さえ。

もう一体が彼女を痛めつける。


修道女「いだっ、いっ!? ぎゃ、ああああああああああぁぁっ!?」


その悲鳴に、以前のクールな彼女の面影はない。

ただただ涙を流し、獣のように吼える口から唾液を振りまき

苦痛に耐える。ひたすら耐える。

例え、抜け落ち、不揃いになった歯で腕を噛み千切られようとも。

傷一つ無かった皮膚を無理やり剥がされようとも。

だが耐え抜いたところで

既に、彼女には人としての尊厳は残されていなかった。


暫くして、彼女は、屍となった。


202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/24(水) 00:21:07.15 ID:YPBSO5Gbo



祠の扉を開けた先は洞穴であった。

天井から水滴が滴り落ち、狭い空洞に絶えず水音が反響する。

それらは一定のリズムを保ち、音楽を奏でる……。

四人の足音と共に。


司祭「この先、暫く歩いたところに聖者の杯が置かれています」

青年「暗くて、湿っていて……とても神器が置かれている場所には見えないけれど」

賢者「そえになによいもくさい。くさすぎますぞ」

少女「臭い、ですか? すみません……」

青年「何も君のことを言っているわけではないよ……」


賢者「……、止まれ」

青年「何か見つかったのかい?」

賢者「何かも何も……」

ビチャッ

少女「これは、何でしょう?」
203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/24(水) 00:23:03.45 ID:YPBSO5Gbo

司祭「……血のようだ」


薄暗闇の中で、足元に流れる何かを見つけた。

触れてみると少し粘っこくて、温かい。

どうやら、奥から流れているらしかった。


そして見つけてしまう。


青年「あれは……!」

賢者「……この祠では生贄でも捧げているのか?」

少女「…………」

司祭「シ、シスター君……?」


修道女「ごめん……なさい」


壁に千切れた両手が張り付けられ

両足は不気味なほど捻じ曲がり

腹部からは黒く変色し、所々食い破られている内臓がはみ出している。


筆舌に尽くし難い惨状に、その場の全員が言葉を失う。


ただ、自分の血で赤黒く汚れた金髪の女性が

司祭を見つめて何かを呟いているだけであった。

しかし、それも首の半分が抉り取られ、辛うじて胴体と繋がっているだけの頭が。

濁った瞳で一人だけを見つめ続けた。


司祭「どうして……どうしてこんなことにっ!」

204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/24(水) 00:23:55.23 ID:YPBSO5Gbo


意識が朦朧としている。

何時間ここでこうしていただろう。

全身が痛む。

既に繋がっていないはずの、腕があった場所も痛い。

だがそれも、感じなくなり始めていた。

あぁ……冷たい。

杯から溢れだす水が、血に汚れた体を洗い流していく。

同時に、薄れていくはずの痛みが激しさを増す。


修道女「うっ……あっ」


意識が覚醒していく。

私のするべきことは、何だったのか。

205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/24(水) 00:24:36.39 ID:YPBSO5Gbo



修道女「しさい、さ、ま……」

お役に立てなくて

修道女「ごめ、ん……なさ……い」

私には耐えられなかった

他人のために命をすり減らして行く司祭様を見るのが

修道女「ごめん……な、さい……」

だけど、そんな貴方が

人のために一生懸命になれる貴方が


「シ、シスター君……?」


大好きでした。

ごめんなさい。



206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/24(水) 00:25:04.96 ID:YPBSO5Gbo











修道女「げほっ! ごほっ、ごほっ!!」


……?


修道女「…………」


あれ


司祭「…………」


あれ?


青年「目が覚めたようだね」

賢者「そのようですな」

少女「おはようございます、にこー」


修道女「私は、どうして」

207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/24(水) 00:25:34.17 ID:YPBSO5Gbo


青年「知りたいかい」

修道女「は、はい」

青年「……っ……ほんとう、に……知りたいかい?」

修道女「どうして、貴方はそんなに悲しい顔をなされているのですか」

青年「くっ……」

賢者「陛下」


少女「何も、悲しむことはありませんよ?」

修道女「……?」

少女「お兄さんは、少し疲れただけなのですから」

なで、なで

司祭「…………」

修道女「どうして、司祭様が倒れているのですか」

修道女「どうしてっ……!」

208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/24(水) 00:26:12.61 ID:YPBSO5Gbo


賢者「俺の口から説明させてもらおう」

修道女「…………どう、して」

賢者「お前は死んだ、そう、一度はな」

賢者「聖者の杯を汚し、魔物の封印効果が一時的に薄れてしまったのだろう」

修道女「私はただ……聖水を汲もうと」

賢者「それがいけなかったのだ。お前はもっとも純度の高く効能のある」

賢者「杯の中から取り出そうとしたな?」

修道女「…………」

賢者「神器に、そうやすやすと人が触れて良い訳がないだろう」

修道女「私の……せいで」

賢者「うむ、お前のせいだ」

修道女「でも、どうして、それで……司祭様が……」

賢者「わからないのか?」

209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/24(水) 00:27:33.35 ID:YPBSO5Gbo




賢者「あいつは、自分の命を懸けてお前を救い、そして死んだのだ」








修道女「……っ」

修道女「どうして! どうして止めなかったのです!?」

修道女「死ぬのは私でよかったではありませんか!!」

修道女「貴方たちだってそのくらいわかっていたでしょう!?」

賢者「黙れ!!!」

修道女「っ!」


賢者「俺たちが止めなかったとでも思っているのか?」

賢者「それ以上、俺の友を侮辱するな」


修道女「…………」

ぺたん


賢者「……行きましょう、陛下」

青年「……うん、そっちを持ってくれ」

少女「わたしも、手伝います」




修道女「あ、あああああ」

修道女「うあ……あぁ、あ……あああああああああああっ!!!」


210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/24(水) 00:28:19.79 ID:YPBSO5Gbo


少女「……これで、よし、です」

青年「随分と大きな穴を掘ったね」

賢者「これだけあれば、不自由はしないでしょう」

少女「次は草を敷き詰めるのですよ」

青年「なるほど、では早速集めてこよう」


賢者「ふむ、こんなものか」

少女「次にお兄さんを寝かせてあげてください」

青年「わかった」

ふさっ

司祭「…………」

賢者「棺桶くらい、作ってやれればよかったのだがな」

青年「そんな余裕はないよ、贅沢は言っていられない」

少女「次はお花をかぶせてあげるのだそうです」

青年「その花を?」

少女「はい、向こうの丘にたくさん生えていました」
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/24(水) 00:28:53.96 ID:YPBSO5Gbo

少女「わたしの赤ちゃんにも、このお花をかぶせてあげたのですよ」

青年「淡い青色、五枚の花びら……これはティセノアの花だね」

少女「ティセノア……と言うのですか。……わたし、このお花、好きです」

賢者「ほう、陛下は花にも詳しいので? 案外メルヘンなところがあるのですね?」

青年「昔、書物庫で見たことがあるだけだよ」

青年「マグナ、君も一緒に埋まっておくかい?」

賢者「ふっ……友とはいえ、男と二人で寝るのは勘弁願いたいですな」

青年「アドフィルドが聞いたら悲しむな」

賢者「あいつなら、苦笑いでもするだけでしょう」

ザクッザクッ

少女「……貴方たちは、悲しく、ないのですか?」

賢者「……さあな」

青年「ぼくは、悲しいかな」

青年「実を言うと、この墓地に来たときからずっと、だけどね」

少女「……? どうしてですか?」

青年「それはきっと」



青年「ぼくが、皆を殺してしまったのかも、しれないから」


212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/24(水) 00:29:38.02 ID:YPBSO5Gbo



「はやくっ! 治療してちょうだいよ!」

「司祭様は!? 司祭様をはやく呼んでくれ!」

「すみません……司祭様は……」

「ここでうだうだ言ってたってしょうがないだろ!? 頼む! 早く治療してくれ!」


青年「…………」

賢者「神の奇跡とは魅力的な力だとは思いませんか」

青年「うん、傷ついた人々を癒せる、すばらしい力だね」

賢者「そして人は狂ったように助けを求める」

賢者「自ら足掻くことさえ忘れて」

賢者「……皮肉なものですな」


少女「あの」

少女「どうしてでしょうか?」

213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/24(水) 00:30:10.97 ID:YPBSO5Gbo


少女「お兄さんは疲れて、眠ってしまったのに」

少女「あの人たちは、またお兄さんを起そうとしているのですか?」

青年「それだけアドフィルドは、皆にとって大切な人物だったんだ」

少女「……皆さんがお兄さんを好いてくれるのは、悪い気はしないのですが」

少女「どうしてでしょう? 少しだけ、胸が痛むのです」

少女「わかりません」

賢者「その痛みを忘れるな」

賢者「いつか必ず、わかるときが来る」

少女「……はい」

214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/24(水) 00:32:09.32 ID:YPBSO5Gbo


賢者「さて、いつまでもここに止まるわけには行きませんな」

青年「そうだね、そろそろ出発しようか」


少女「………………」


青年「どうしたんだい? 行くよ」

少女「……? わたし、ですか?」

賢者「当たり前だろう? 置いていくぞ」

少女「いいの、ですか?」

青年「何がだい? あぁそうだ、一緒に旅をするからには名前が必要だね」

賢者「……そうだな。ふむ……ならばマジェスティック☆マジョカというのはどうだ?」

青年「センスの欠片もないね」

少女「それは……嫌です」

賢者「む…………」

青年「うーん……そうだ」

青年「ティセノアの花から取って、"ティノア"、というのはどうだろう?」

賢者「はっはっは、またまた安直な。それならばナショナル☆ナジョミのほうが」

少女「ティノア……わたしの、名前」

賢者「むむ…………」

青年「気に入ってくれたかな?」

少女「はい、気に入りました。ティノア……ティノア……にこー」


青年「これからよろしく、ティノア」

賢者「ふっ、よろしく、だな。ティノア」

少女「はい、にこー」


215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/24(水) 00:32:37.82 ID:YPBSO5Gbo



修道女「…………」

修道女「ほら、見えますか? 司祭様」

修道女「たくさん、たくさあん怪我人が来ていますね」

修道女「……はい? えぇ、そうですね」

修道女「ふふ……やはり優しいのですね、司祭様は」

修道女「わかっていますよ、人の救いこそが神の思し召し」

修道女「ですが……暫く、こうさせていてください」

修道女「……はい? これからはずっと一緒だから?」

修道女「は、はいっ……ですが、今は……二人きりで」



修道女「……大好きです、司祭様」







罪深き、聖職者。
216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/24(水) 00:35:35.19 ID:YPBSO5Gbo
終わり
きしめんはうどん、だがうどん県以外のうどんはうどんではない、つまりきしめんはうどんではないわけだがやっぱりうどんなのだ

うどんを遊びで使う奴には蕎麦では物足りぬ、生涯うどん県に閉じ込めて死ぬまで美味いうどんを探求させる罰を与える
217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage]:2011/08/24(水) 01:33:44.43 ID:AnRWYDRV0

うどん県…
なんて…恐ろしい…ガクガクブルブル
218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/24(水) 01:40:57.59 ID:3bxuTPDSO
乙!
これで終わりかあ…残念だ
旅の続きを書いてもかまわないんだよ?(チラッ
219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/24(水) 01:53:40.21 ID:5i5nXMrIO
えっ?終わり?
220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)[sage]:2011/08/24(水) 11:29:55.80 ID:GwQ1yNsto


え?寧ろこれからだろ?
221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/27(土) 23:35:51.93 ID:9AO+38qGo
つーか、これからっしょ
そしてまだ書けてない、しばらくそのままでお待ちください
222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/28(日) 18:08:08.11 ID:kFIyanu7o



パチッ……パチチッ


ぺらっ……

賢者「ふむ……ほう……」

青年「……すぅ」


もぞもぞ

少女「…………ん」

賢者「……どうした、眠れないのか」

少女「……いえ、何故か目が覚めてしまって」

賢者「野宿はあまりしたことがないのか? 仕方ない、少し話でもするか」

少女「はい、お話、大好きです。にこー」

賢者「そうだな……何を話すか」

少女「昨日の続きが、聞きたいです」

賢者「ふむ、神話の話だったか。俺はどこまで話した?」

少女「神様が世界を作ったあと、人間を作って女の人と遊んでくらしたところまで、です」
223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/28(日) 18:08:45.77 ID:kFIyanu7o

賢者「そうだったか」

賢者「その後、神は人々が自分たちだけで生きられるようになると、こっそり天界へと戻ったのだ」

少女「どうしてですか? 神様は楽しくなかったのでしょうか?」

賢者「どうだろうな、自分が作ったものでは色々と満足できないこともあったのだろう」

少女「色々、ですか……」

賢者「うむ……男には色々とあるのだ」


少女「師匠は、こんな夜遅くに何をしていたのですか?」

賢者「俺か? 見張りのついでに……な」

少女「それは?」

賢者「昔、アドフィルドに貸していた本だ」

少女「どういう本なのですか?」

賢者「ふっ……お前にはまだ早い」

少女「どうしてですか? わたしは師匠の教え通りに勉強しています」

少女「それでもまだ足りないのですか」
224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/28(日) 18:09:38.92 ID:kFIyanu7o

賢者「馬鹿を言うな、お前はまだまだ未熟だ。ティノア」

賢者「心も、体もな」

少女「そうですか……まだ、未熟ですかそうですか」

賢者「うむ。さぁ、そろそろ寝ろ。体に障る」

少女「もう少しだけ……お話したいです」

賢者「師匠の言うことが聞けないのか?」

少女「……む」


少女「師匠は意地悪ですね」

賢者「ふっ、そういうな」


少女「…………おやすみなさい」

賢者「うむ、おやすみ」

パチパチッパチチッ……


ぺらっ……

賢者「……まったく」

賢者「歳を取ると、昔を思い出して仕方がない」

賢者「懐かしいな。なぁ、アドフィルド」

225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/28(日) 18:10:30.91 ID:kFIyanu7o


もぞっ

少女「…………ん」


青年「……すぅ」

ぱさっ

少女「…………」

賢者「……ぐぅ」

とてとて

少女「…………」


青年「……起きているんだろう? マグナ」

賢者「寝たフリとは卑怯な真似をしますな、陛下」

青年「お互い様と言っておこうか」

賢者「今はティノアをつけるのが先決でしょう」


とてて

少女「〜〜♪〜〜〜♪」

226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/28(日) 18:10:57.39 ID:kFIyanu7o


ガサガサ

賢者「目標、林を抜けました。どうぞ」

青年「あー、そのまま監視を続けろ。どうぞ」

賢者「あ、あれはっ……!」

青年「ん……」

賢者「目標、崖に近づいております!」

青年「マグナ」

賢者「どうしました、陛下? ……ぷっ」

青年「……笑わないでくれるかな? 第一、マグナが準備したんだろう?」

賢者「ぷっ……くくく、いや、失礼しました。似合っておりますぞ、陛下」

青年「何も嬉しくないのだけど……。木の枝をハチマキに刺して両手に持っただけでカモフラージュになると思わないでくれよ?」

賢者「いえ、とても似合っておいでです」

青年「論点をずらすな」

227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/28(日) 18:11:34.30 ID:kFIyanu7o


賢者「陛下、一つ物申したいのですが」

青年「聞くだけ聞いてあげよう」

賢者「戦場ではいかに敵の目を欺くことができるかが問題です」

賢者「特に奇襲を仕掛ける際、周囲に溶け込む隠密性が何よりも大事であると教えましたな」

青年「まあそれはわかるけれど」

賢者「ですから我々軍人は……ぷふっ、そのよう、に……木に偽装し……」

賢者「相手に『なんだただの木か、脅かしやがって』という風にですな……」


青年「っ! ティノアがいない!?」

賢者「何ですと!? ……なんだただの木か」

青年「まさか……」

賢者「陛下、無視というのはあまり褒められたものではありませんぞ」

青年「言ってる場合じゃない、はやく探そう」

228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/28(日) 18:12:21.18 ID:kFIyanu7o


少女「…………」


青年「これは驚いた、こんなところに崖下へ行く坂があるなんて」

賢者「ふむ……上手い具合に木の陰に隠れていたようですな」

青年「しかし、ここからでは何をしているかはっきりとはわからないね」

賢者「もう一つ何かがあるのはわかるのですが……あれは」

青年「人、だろうか」

賢者「そのようですな」


すくっ

少女「…………? 何か、いたような気がします」


青年「戻ってくるようだ!」

賢者「我々も急いで戻りましょう」





少女「…………」

青年「ああティノア、どこに行っていたんだい? 探したよ」

賢者「そうだぞ、あまり一人でうろつくんじゃない」

少女「はい、すみません」

青年「さて……そろそろ出発しようか」

賢者「今日中には港へ着きたい所ですな」

青年「そうだね、―――で……」

賢者「ここから――、およそ―――」


少女「…………」




229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/28(日) 18:13:14.69 ID:kFIyanu7o


青年「……ふぅ」

賢者「やっとつきましたな」

少女「……人、たくさんです」

青年「はぐれないよう、手を繋いでおこうか。離しては駄目だよ」

少女「はい……」

賢者「役得ですな……陛下」

青年「うるさい」


青年「あと人通りの多いところで陛下と呼ばないように」

賢者「失礼、そういえばそうでしたな。では我々の身分を隠すために」

賢者「旅の親子を演じることに致しましょう」

青年「……親子?」

賢者「はい、我々の歳からすれば家族くらいには見えましょう」

青年「マグナと家族と思われるのは嫌だけど……仕方ない」

少女「それでは、わたしは?」

賢者「俺が父親で陛下とお前が兄妹ということでいいだろう」

少女「兄妹、ですか」

青年「ふふ、ぼくと兄妹は嫌かい?」

少女「いえ……それは納得できますが……」

青年「うん? ほかに納得できないことでも?」

賢者「言わなければ伝わらないこともあるのだぞ、言ってみろ」

少女「……師匠は、お父さんというよりお爺ちゃんという感じがします」

賢者「…………」
230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/28(日) 18:13:54.23 ID:kFIyanu7o


青年「だ、そうだよ。"おじいちゃん"?」

賢者「それも悪くはないでしょう? 我が"孫"よ」

青年「ふ、ふふふ。では肩でも揉んであげようかな? おじいちゃん」

賢者「ふっ……ではお言葉に甘えようか、孫」

がしっ

青年「あぁおじいちゃん、結構肩凝ってるね」

賢者「うむ……孫がとにかく迷惑をかけるものでな……」

青年「それは大変だ、ちゃんとほぐさないとね」

めきめき

賢者「ぐぉ……ど、どうした孫よ、まったく応えんぞ。もう少し強く頼む」

青年「わかったよ、おじいちゃん」

ごきっ

賢者「ふ、ふふふふふ」

青年「ふふふ」

231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/28(日) 18:14:30.19 ID:kFIyanu7o


じーっ……

少女「手、離れてしまいました」

少女「………………」



賢者「ぬ、おおおおっ!! ギブ! ギブです!」

青年「何を言っているんだい、これからだろう? ふふ、ふふふ」


232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/28(日) 18:16:39.25 ID:kFIyanu7o



隊長「それは本当か?」

「……はっ、確かに」

「白髪の男と黒髪の青年を見かけたとの情報が」

隊長「それだけか」

「男は青年に対し、"陛下"と呼んでいたの情報も」

隊長「…………間違いはないな」

「はい」

「更に十二歳ほどの少女を共に見かけたとのことです」

隊長「…………」

隊長「……暫くは監視を続けろ」

「はっ!」


隊長「ついに、この時が……」
233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga sage]:2011/08/28(日) 18:17:30.63 ID:kFIyanu7o
おそくなりもうして、たいへんもうしわけのうございます
それではまた……
234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga sage]:2011/08/28(日) 19:30:39.44 ID:kFIyanu7o
何か反映されてない気がした、大丈夫なのだろうか
235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/29(月) 00:09:54.33 ID:TY0qdcLIO
明るい話になりだしたな
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[sage]:2011/08/29(月) 01:56:33.30 ID:3w29s5uAO
むしろ不安だ
237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)[sage]:2011/08/29(月) 04:08:57.49 ID:nd7Z4iC1o
明るい話?冗談じゃない、持ち上げて突き落とすとびきり暗い話さ
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/29(月) 23:46:33.32 ID:0gM+VuVJo



青年「さて、宿も取ったし」

青年「これからどうするんだい?」

賢者「ご心配なく、ちゃんと当てはあります」

青年「どういった?」

賢者「ちょっとした漁師に縁がありましてな、その漁船に乗せてもらおうかと」

青年「漁船……? そんなもので国の監視から抜け出せると?」

賢者「漁船だからこそです、既に他国への定期船は出ておりません」

賢者「それに国が認めた漁業組合の船となれば、そう易々と停止命令を下すわけにはいきますまい」


少女「船、ですか?」


賢者「うむ、船は初めてか?」

少女「はい、一体、どのようなものなのでしょうか」
239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/29(月) 23:47:46.53 ID:0gM+VuVJo

青年「船と言う物はだね」

賢者「海を裂き、乗せたものを栄光の大陸へと誘う、天より贈られし道具だ」

賢者「一説には空高くを羽ばたき進むものもあったと言われている」

青年「…………」

少女「船……海を裂く……それはとても、とても凄いものなのですね?」

賢者「うむ、乗るときを楽しみにしているといい」

少女「はい、師匠」


青年「…………先を見越してかつ、今も楽しんでいるわけだ」

賢者「……陛下にはまだ早いですぞ?」


少女「……?」


240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/29(月) 23:49:04.85 ID:0gM+VuVJo


ガチャッ

青年「あぁ、ティノア。湯加減はどうだった?」

少女「いいお湯でした」

青年「それはよかった」

少女「……フューリさんは入らないのですか?」

青年「ぼくかい? ぼくは、逆上せやすいからあまり風呂は好きじゃなくてね」

青年「あとで軽く入っておくよ」

少女「そうなのですか……」

きょろきょろ

少女「そういえば、師匠はどこへ行ったのですか? 姿が見当たりませんが」

青年「うん? マグナなら船の手配をしに行ったよ」

少女「ということは、わたしとフューリさんだけなのですか、そうですか」

青年「そうなるね」

少女「…………くす」
241 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/29(月) 23:50:36.28 ID:0gM+VuVJo

ふらっ

青年「……?」

ぽすん

ぎゅっ

青年「おっ……とと。ど、どうしたんだい? 大丈夫?」

少女「少し、のぼせてしまったようです」

青年「長い間浸かっていたのかい? 少し横になるといいよ」

少女「いえ……すぐによくなります、しばらくこのままで」

青年「そうかい? ぼくは別に構わないけれど……」


少女「…………」

青年「…………」

少女「あの」

青年「うん?」

少女「どうして、わたしを一緒に連れていってくれたのですか?」

青年「どうして……か」
242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/29(月) 23:51:06.31 ID:0gM+VuVJo

青年「色々理由はあるけれど、一つだけ確かなことがあるね」

少女「確かなこと、ですか」

青年「うん、ある人にね、頼まれたんだ」

少女「どなたに、ですか?」

青年「ふふ、そこまでは教えられないな」


少女「いじわる、するのですね」


青年「内緒にしておいてといわれたんだよ、ごめんね」

少女「いえ、別に気にしていません」

青年「そうかい? ならよかった」

少女「はい、にこー」


少女「…………様子見、ですか。そうですか」

青年「……? 何か言ったかい?」

243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/29(月) 23:52:37.04 ID:0gM+VuVJo


少女「いえ……。えと、もう大丈夫です、すみません」

青年「うん? もう少し休んでいてもよかったんだよ?」

少女「本当に、平気ですから」

青年「そう?」

青年「……よし、それじゃあ」

少女「どうしました?」

青年「せっかく港町に来たんだ。マグナは外出しているのに、ぼくらだけ部屋に篭っているのも癪に障るだろう?」



少女「わたしは、特に」


青年「それじゃあ駄目だよ、ほら、まだ日が暮れるには随分と時間が残っている」

青年「少しだけ、ぼくに付き合ってくれないかな?」
244 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/08/29(月) 23:53:34.37 ID:0gM+VuVJo
続く
しばらくはほのぼのがつづくからあんしんしてほしい
245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[sage]:2011/08/30(火) 00:48:31.17 ID:Kp20dObAO
いかん>>1が台風のおかげでうどんを茹で始めて焦らし始めた
246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[sage]:2011/08/30(火) 01:08:30.45 ID:7TTYSuOv0
くそ、うどんめ…奴さえなければこんなことには…
ちょっとうどん県のうどんといううどんを蕎麦にすり替えてくる
247 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/30(火) 01:18:52.33 ID:htwsvlhIO
やめるんだ>>246っちゃん!!
命が幾つあっても足りないぞ!!
248 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)[sage]:2011/08/30(火) 08:29:13.49 ID:oKEjJ9ico
よかった───喪服着てきて
自称“冒険家”>>246さんがお亡くなりになってるじゃない
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/30(火) 23:24:38.76 ID:v7MZY3RLo
――と思っていたが 違った

自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[sage]:2011/08/31(水) 17:01:13.83 ID:x2eFvG+Vo
話し合いはまだ続いているのか……落ち着くまでできるだけ書き溜めしておこう
あと今日うどん食ってきたから>>246は失敗したようだね、惜しい人物を亡くした
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/04(日) 22:21:38.35 ID:ph1hm7NUo



ガヤガヤ

少女「わぁ」

青年「流石の人口密度だね」

少女「この人たちは、一体何をしているのでしょうか?」

青年「港っていうのは一番物流が盛んなところだからね」

青年「他国との繋がりが無くなって、これでも人は減ったそうなのだけれど」

少女「人が減ってこの量なのですか? 凄いですね」

青年「……帝国は多くの島を所有しているからね」

青年「そこからやってくる物資も、人も、尋常じゃない量なんだ」

少女「なるほど、フューリさんは物知りですね」

青年「……ふふ、そうかな」


青年(仮にも、この国で生まれたからね……)

青年(最も、その国に追われることになるなんて、思いもしていなかったけれど)

252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/04(日) 22:22:04.30 ID:ph1hm7NUo


少女「……?」

青年「…………」

少女「フューリさん?」

青年「…………ん」

ぎゅっ

青年「ティノア?」

少女「離れると、大変ですから」

少女「手、繋ぎましょう?」

青年「……ふふ」

青年「そうだね」

少女「絶対に、離してはいけませんよ?」

青年「うん、わかったよ」

少女「では行きましょう? にこー」

253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/04(日) 22:23:09.43 ID:ph1hm7NUo


少女「フューリさん、あれは一体なんでしょうか?」

青年「あれはタコスと言ってね、トウモロコシで作った生地を薄く焼いたものに」

青年「様々な具材を挟んだものだよ」

少女「なるほど……」

青年「欲しいのかい?」

少女「欲しい……とまでは行きませんが、少し、ほんの少し、気になります」

青年「それじゃあいくつか買っていこうか?」

少女「……いいのですか?」

少女「ですがフューリさん、お買い物をする際にはお金というものが必要なのですよ?」

青年「う、うん、知っているけれど」

少女「そうですか……知っていましたか、そうですか」

青年「お金のことなら気にしないでいいよ」

少女「はい……」

青年「ほう……こんなにも種類があるのか……」

254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/04(日) 22:24:02.53 ID:ph1hm7NUo



もそもそ

少女「…………」

青年「おいひいかい?」

少女「はい、とっても」

青年「ふふ、それはよかった」

少女「……ですが、フューリさん?」

青年「……んぐ?」

少女「少し、買いすぎではありませんか?」

青年「…………もぐ、そうかな?」

少女「そうです、籠いっぱいですよ」

青年「やはり全てのメニューは抑えておきたいだろう?」

少女「……わたしには、わかりません」

青年「それに、暫くは満足に食事することも儘ならなかったからね」

少女「だからと言って……」

青年「……? あぁ」

青年「ティノアも、もっと食べたいんだね?」

少女「そういうわけではありませんが」
255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/04(日) 22:26:22.61 ID:ph1hm7NUo

青年「遠慮しなくてもいいんだよ、ほら……」

少女「……?」

青年「あーん、だよ。口を開けてごらん」

少女「あー……ん」

もぐ

青年「どうだい? これもおいしいだろう?」


少女「むぐ……えほっ」

わたわた

少女「か、かひゃい、かひゃいでひゅよ、ひゅーいひゃん」

青年「あ、あれっ? そんなに辛かったかな? はい、水」

少女「んく……ごくっ」


少女「…………」

青年「どうだい? 落ち着いた?」

じっ

少女「…………」

青年(涙目でじっとこちらを見つめている)

青年「ティノア……?」

少女「…………何か、言うことが、あるのでは、ないでひょうか」


青年「……すみません」


256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/04(日) 22:27:05.04 ID:ph1hm7NUo



少女「…………」

青年「そろそろ機嫌を直して欲しいな、なんて」

少女「………………」

青年(相変わらず手を繋いだままなのだけれど、如何せん、こうも無表情で無言だと……)


少女「あ……」

青年「ん? どうかしたかい?」

少女「……いえ、何でもありません」

青年「そうかい?」

少女「…………」

ちら

青年「……なるほど、アクセサリーショップか」

少女「…………む」

青年「気になるのかい?」

少女「いえ、別に」

青年「ふうん?」
257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/04(日) 22:27:50.07 ID:ph1hm7NUo

青年「なかなか小洒落た店じゃないか、それに品揃えもよさそうだ」

青年「きっと可愛らしいアクセサリがたくさんおいてあるだろうね」


ぴくっ

少女「……可愛い」

青年「こんなにも可愛いティノアに、可愛いアクセサリをつけたらもっと可愛くなるだろうね?」

少女「……わたし、可愛い、ですか? そうですか、そうですか」

青年「これは悪魔でぼくの希望なのだけれど、ほかに行きたいところが無ければ」

青年「少しだけ寄っても構わないだろうか?」

少女「………………わたしは、別に構いませんが」

青年「よし決まりだ、行こうか」

258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/04(日) 22:28:26.35 ID:ph1hm7NUo



青年「ううん」

ぽーっ

少女「…………」

青年「どうだい、気に入ったものはあったかい?」

少女「……どれも、これも、全部可愛いものばかりです」

青年「もっと探せば気に入るものが見つかるかもね」

少女「はい……」

きょろきょろ

青年(ぼくも、こういったところに来たことはあまり無かったからね)

少女「わぁ……」

青年(あるにはあったけれど、楽しめるような雰囲気ではなかったし)

少女「凄いですよフューリさん、ぴかぴかです」

青年(まあ今も楽しんでいるような場合ではないのだけれど)

青年(それでも、一番この状況を楽しんでいるのはこのぼく、なのだろうね)
259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/04(日) 22:29:00.10 ID:ph1hm7NUo

少女「……? フューリさん? ぼーっとしてどうかしましたか?」

青年「うん? あぁ、すまない。少し考え事をね」

少女「そうなのですか?」

青年「うん、そういえば」


少女「……?」

青年「ティノアはどうしてアクセサリに興味が沸いたのかな?」

青年(この俗世からかけ離れた少女が)

青年(何故……気になる)

少女「それは…………」


少女「可愛いから、です」


青年「……ふふ」
260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/04(日) 22:29:28.70 ID:ph1hm7NUo

少女「何か、おかしいのですか?」

青年「いや、すまない。何もおかしくはないよ」

青年「当たり前だね、女の子が可愛いものが嫌いなはずがない、ふふっ」

少女「……??? フューリさん、おかしいです」

青年「そうかな? そうかもね?」


少女「それに」

青年「うん?」

少女「可愛いと、皆さん喜んでくれます」

青年「皆が?」

少女「はい、皆さん、わたしのことを可愛いと言ってくれます」

少女「とても嬉しそうに、笑顔で、フューリさんもそうでした」

青年「そ、そうだったかな……?」

少女「はい」

青年「無意識だったのだろうけれど、少し小恥ずかしいね」
261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/04(日) 22:30:29.27 ID:ph1hm7NUo

少女「ですが」


少女「わたしはどうしても、わたしが可愛いとは思えないのです」


青年「…………」

少女「フィンちゃんはとても可愛らしかったのです、ティセノアのお花も」

少女「可愛いというものがどういったものなのかはわかっています、わかっているつもりです」

少女「ですが、それらに当て嵌まるものが、わたしには無いのです」

青年「そんなことはないと思うな」

少女「そんなことあるのです」

少女「ですからわたしは、可愛くありたいと思います」


少女「そうなれば、皆さんはもっと笑顔になってくれるのではないでしょうか?」


青年「ぼくらが……?」

少女「はい」

青年「ぼくらはそんなに、いつも辛気臭い顔をしているかな?」

少女「辛気臭い……、よく、わかりませんが」

少女「笑顔でないことは確かです」
262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/04(日) 22:31:09.78 ID:ph1hm7NUo


青年「…………」

青年(出合って数週間の少女に、そんな風に思わせていたなんてね)

青年(人一人の気持ちも汲み取ってあげられないなんて、何が国王か)

青年(情け無い……皆に顔向けできない……な)


少女「……えと、フューリさん」

少女「機嫌を悪くさせてしまったでしょうか……?」

青年「うん? いや、そんなことはないよ」

少女「手、痛いです」

青年「えっ!? あ、す、すまない」

少女「構いません、フューリさんはちゃんと謝ってくれますから」

青年「……むう、しかし、このままではぼくの面子が丸つぶれだね」

少女「……?」

青年「少しくらい、いいところを見せないとね?」

少女「あの、それは一体どういう」

263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/04(日) 22:33:13.01 ID:ph1hm7NUo


青年「ティノアはブロンドの長髪だから……ううむ」

さわさわ

少女「……んっ」

青年「イメージは清純だね、決して派手すぎず地味すぎず……」

少女「…………」

青年「と、なると」

少女「…………?」

ツカツカ

青年「これがいい」

少女「青い、リボン……ですか?」

青年「ううん……どうかな? こういったものを選ぶの、あまり慣れていないのだけれど」

少女「いえ……とっても、気に入りました」

青年「そうかい? そういってもらえると嬉しい」

少女「はい、わたしも、嬉しいです?」

青年「ふふ、おかしなことを言うね。ぼくに聞いてどうするんだい?」

少女「……???」

264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/04(日) 22:34:10.19 ID:ph1hm7NUo


青年「すまない、これを売って貰えるだろうか」

店主「はいどうも、えーっと……リボンが二つね」

店主「合計で百ゴールドになるよ、それでもいいかい」

ジャラッ

青年「……足りるかい?」

店主「ああちょうどだね……それにしても」

店主「兄さん、いい彼女連れてるじゃないか」


少女「……? わたし、ですか?」

青年「いや、この子はぼくの妹で」

店主「ふぅん……? そうなのかい、それにしても随分と仲がいいなぁ」

少女「…………兄妹というものは、普通仲がいいものではないのですか?」

店主「ま、それはそうなんだが……なんというか、お前さんたちを見てると」

店主「おじさん、初恋の頃を思い出すわぁ……」

青年「……は、はぁ」
265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/04(日) 22:35:02.46 ID:ph1hm7NUo

店主「いやーあの頃は若かったねぇ……商人目指してたおじさんはこの港で、運命の人に出会ってねぇ」

青年「い、いや、その話はいい」

店主「……そうかい残念だ」

店主「にしてもお嬢ちゃんいいねぇ」

少女「何が、ですか?」

店主「格好いい兄ちゃん持って」

店主「俺ぁ男色じゃあないが、なるほどこの兄ちゃんはなかなかの男前だ」

青年「…………何故だか、素直に喜べないな」

店主「なんというか、気品も備わっていて、それに頼りがいもありそうだ」

店主「どこぞの兄妹の悪ガキとは大違いだね!」

少女「悪ガキですか……?」

青年「……?」
266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/04(日) 22:36:00.04 ID:ph1hm7NUo

店主「あぁ、お前さんたちここに来てまだ日が浅いのかい。それなら言っておくが」

店主「十歳程度の小汚いガキには気をつけな」


少女「……こ、小汚い……いえ、わたしではないはずです……」


青年「随分とその子のことを毛嫌いしているみたいだけれど、どうかしたのかい?」

店主「毛嫌いってレベルじゃないな、まあ兎にも角にも……」

店主「そいつは手癖が途轍もなく悪い、うっかり有り金全部奪われたなんてことならないようにな」

青年「ほう……わかった、ご忠告、どうもありがとう」

少女「ありがとうございました」

青年「それでは、失礼するよ」

店主「ああ、また来てくれよー」


青年「行こう、ティノア。向こうで髪を結ってあげるよ」

少女「はい、にこー」

267 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/04(日) 22:36:28.14 ID:ph1hm7NUo
つ づ け 
268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[sage]:2011/09/04(日) 23:03:14.52 ID:4pnQo0kX0

あれから命からがら帰ってきたが、既に体の半分以上がうどんに浸食されてやがる

ちょっと腹いせにうどんとパスタを入れ替えてくる
269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/09/04(日) 23:05:12.94 ID:MWIdnhuO0
青年と賢者には生きていてもらわんと
270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[sage]:2011/09/05(月) 00:59:24.58 ID:bdYnk8KAO

なんか馬鹿王子な匂いがしたが気のせいだった
271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/09/05(月) 02:38:35.77 ID:TowM5XbIO
うどん


うま
272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/09/05(月) 02:46:21.40 ID:hoy0xuV8o
な・・・! >>268が・・・俺の家のパスタをうどんに入れ替えやがった!!
こいつはもう既にうどんに侵食されてる!?
273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/09/05(月) 05:14:45.71 ID:2tIYabb20
乙乙

冷凍庫に入ってた冷凍讃岐うどんがトマトソースの冷凍スパゲティに変わってた…俺の夜食が…
274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage]:2011/09/05(月) 13:49:23.31 ID:izt5LhRo0
う、うどんが迫って…ギャー

275 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)[sage]:2011/09/06(火) 00:09:52.95 ID:Et1HCSwso
うどんとはいったい……うごごご
276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[sage]:2011/09/06(火) 21:10:16.19 ID:B7ymFB6AO
今回の台風で何かないか心配
277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/07(水) 21:47:23.97 ID:DJ9oUINgo
台風はなんともなかったが、リア充すぎて書く間がない
暫くうどん捏ねながら待っていて欲しい
278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/09/08(木) 23:44:07.99 ID:DfuFgh2Co
GGのブリジットだと思ってスレを開いたら違った件
279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[sage]:2011/09/09(金) 23:35:49.61 ID:L5hadp0m0
いいや、俺はパンをこねるね!
280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)[sage]:2011/09/10(土) 00:14:45.28 ID:PB3wWFUuo
ナゼ、ワレワレガコンナウドンニヤブレタノダ
281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/09/10(土) 12:47:58.07 ID:YHcaxRoIO
>>279
アッ!お前、こんなところに!
さあはやくうどんを作る作業に戻るんだ!
282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/09/11(日) 20:54:55.30 ID:ZU4ydT2v0
うどんと聞いて
283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/12(月) 00:07:39.00 ID:nyBCWiD5o



ぷらんぷらん


少女「…………」

青年「どうだい、なかなか上手く結べたと思うのだけれど」

少女「なんだか、変な感じがします」

青年「そうかい? 似合っているよ?」

少女「似合っているのですか、そうですかそうですか」


ぷらんぷらん


青年「ツインテールというんだよ」

少女「二つの尾ですか、一つの尾と比べれば、単純計算で二倍の強さを誇りますね」

青年「尾の数は戦闘能力に比例しないと思うけれど……」

少女「そうなのですか? では何のためにツインテールとやらにする必要があるのでしょうか?」

青年「それは……お洒落、かな」

少女「なるほど、ツインテールなわたしはどうでしょうか?」
284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/12(月) 00:08:36.22 ID:nyBCWiD5o

青年「え、あー……うん、可愛いよ」

少女「そうですか、可愛いですか、そうですかそうですか」


ぷらんぷらん


青年「気に入ってくれたようで、嬉しいよ」

少女「はい。……ところでフューリさんはお洒落に詳しいのですね?」

少女「ツインテールなど、わたしは知りませんでした」

青年「うん? ま、まあ妹みたいなのがいたからね」

少女「妹、みたいなのですか」

青年「うん、父の親友の娘だったのだけれど」

少女「それで、妹のようなのですか?」

青年「血は繋がっていなかったれど、とてもいい子で可愛い子だったよ」

285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/12(月) 00:09:38.00 ID:nyBCWiD5o


ぴたっ


青年「髪を振り回して遊ぶのはもうやめるのかい?」

少女「…………そうなのですか、可愛い子でしたか」

少女「その人のお話をしてください」

青年「う、うん……? どうしたんだい」

少女「わたし、気になります」

青年「といっても……あまり話すことはないのだけれど」

少女「…………む」

少女「そうですか」

青年「す、すまない」

少女「いいえ、別に構いません」

286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/12(月) 00:11:08.21 ID:nyBCWiD5o


タッタッタッ


青年「うん……?」

青年(あの少年……)

ドスッ

「な、なんだなんだ!?」

「きゃぁっ!!」

青年「う、わっ」


少年「ちっ……」

少年「おおっと! 悪いね兄ちゃんたち! ちょっと急いでるもんで!」


タッタッタッ……


少女「大丈夫ですか?」

青年「大丈夫だよ。それにしてもあのベレー帽の少年、何を急いでいたのだろうね?」

少女「わかりません、が」

少女「あの子は悪い子ですね」

青年「ま、まぁ、一応謝ってくれたのだから、許してあげようよ」

287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/12(月) 00:11:46.94 ID:nyBCWiD5o


「……っ!! くっそ、またやられたあのガキィ!!」

「あああっ!!! 俺んとこもだ……!」


青年「……ふむ」

少女「皆さん、どうかしたのでしょうか?」

青年「おおよその予想はつくけれど。まずはそこの人に聞いてみよう」


青年「すまない、一体どうしたのか教えてもらえるかい?」

「ん……あぁ、例のあいつだよ」

少女「例の?」

「なんだ嬢ちゃん、知らないのか」

青年「スリの少年かい?」

「あ、あぁ、そうだ」

「どこに隠れ住んでんのかわからねぇが……たまに町にやってきては」

「食料やら衣服やら……通行人の財布を盗み取っていきやがる……」

青年「相手は年端もいかない少年だろう?」

「ただのガキと思ってると痛い目みるぜ」

青年「ふむ……」

288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/12(月) 00:12:17.38 ID:nyBCWiD5o


少女「盗み、盗みですか」

青年「ぼくらに被害はなかった訳だけれど、盗みはいけないことだね」

少女「……? あ、そうですか、そうですね」

青年「うん?」

少女「他人から物を奪うという行為において」

少女「奪う側と奪われる側の位が、奪う側のほうが高い場合」

少女「悪いことにはならないのだそうです」

少女「ですから、あの子は位が低いのに盗みを働いている」

少女「それはいけないこと、悪いことになるのですね、納得しました」


青年「それは違う」


少女「……?」

青年「身分がどうあろうとも、理由がなんであろうとも」

青年「略奪行為は許されない、絶対にだ」

少女「そう、なのですか。すみません」

青年「……ふふ、少し言い過ぎたかな? あまり気にしなくていいよ」

少女「はい」

289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/12(月) 00:13:29.48 ID:nyBCWiD5o


青年「それにしても、スリか……まさかマグナが盗られるはずはないと思うけれど」

青年「忠告はしておいたほうがいいかもしれないね」

少女「ですが、師匠はどこにいるのでしょうか?」


ドドドドドドドド!!!!!


賢者「おい、この辺りでベレー帽を被った子供を見なかったか!?」

「あ、あぁ……そいつなら、広場のほうへ向かったが……」

賢者「!! そうか! 感謝する!」

「だけど結構前の話だぞ、もういないんじゃ……ってもういない」


少女「あ、師匠」


青年「…………いたたた」

少女「フューリさん? 大丈夫ですか? 頭が痛むのですか?」

青年「……うん、少しね」

少女「そうなのですか? それは大変です。では、なでなでしますね」

青年「な、なでなで……?」

少女「はい、目だった外傷が無い場合、包帯による手当てよりも、患部をさするほうがよいのだと誰かさんから聞きました」

青年「別に、大丈夫なのだけれど……」

青年(悪い気はしない、構わないか)

少女「なでー、なでー、なでー」


青年「さて……」

青年(……放っておいても構わない、というわけにもいかないか)


少女「どうですか? もう痛くないですか? にこー」

290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[sage]:2011/09/12(月) 00:14:35.79 ID:nyBCWiD5o
うわ みじか でなおしてきます
291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[sage]:2011/09/12(月) 00:14:59.93 ID:BJP2gioto
おつおつ
292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[sage]:2011/09/12(月) 00:22:36.50 ID:V6DeNUb90

なぁ…どうしてパンをこねていたはずなのに家がうどんでいっぱいになってるんだ?前うどん県から生還した時以来何かおかしい気がするうどん
293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage]:2011/09/12(月) 01:21:10.14 ID:7NTSw7KOo


>>292
自分に頭からうどんかければそうなるよ…
294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)[sage]:2011/09/12(月) 12:31:28.98 ID:KYb5C4mgo
>>292
やぁ、うどん君
もうそろそろ匂いはとれたかね?
295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/09/14(水) 20:26:49.07 ID:V7xPTXMIO
やだ
このスレうどん臭い
296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[sage]:2011/09/14(水) 23:24:54.75 ID:nG3gUE3AO
乙 相変わらずブラックな幼女だな
297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[sage]:2011/09/19(月) 01:51:41.25 ID:HnPBDyEno



賢者「……ふっ、俺としたことが」

賢者「小僧一人捕まえられぬとは」


賢者「しかし、あれが若さというものか……、うらやましい限りだ」

賢者「俺にも、昔はあのような時代があったというのに」

賢者「歳はとりたくないものだな……」



賢者「………………さて」




賢者「どうしたものか……陛下に叱られる……」



298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[sage]:2011/09/19(月) 01:52:11.61 ID:HnPBDyEno


少女「……あの、フューリさん?」

青年「なんだい? ティノア」

少女「師匠、さきほどからその場に蹲ったまま動かないのですが」

青年「あれが駄目な大人の例さ、決してああなってしまってはいけないよ」

少女「はい」

299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[sage]:2011/09/19(月) 01:52:40.09 ID:HnPBDyEno


賢者「…………犯行時刻はおよそ五分前」

賢者「体勢を崩した俺に対して死角からの犯行」

賢者「犯人は十歳程度の男児、特徴は頭に被ったベレー帽」

賢者「恐らくは孤児、住民の様子を見るにこの港町では常習犯のようであった」

賢者「しかし誰もその行く末を知らず、一度ロストしてしまったため追跡の続行はほぼ不可能である」


少女「今度は、何かを早口で呟き始めました」

青年「そっとしておいてあげよう」


少年「へへっ、今日もたーんと集まったな」


青年「うん? あの少年」

少女「さきほどの少年のようですね」

300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[sage]:2011/09/19(月) 01:53:13.41 ID:HnPBDyEno


少年「まっ、こんだけありゃあ当分は困らないなー」

賢者「……我が軍の被害甚大、今をもってプランAからプランBへ移行する」


少年「……なにやってんだおっさん?」


賢者「陛下に土下座する! それしか道は残されていないっ!!!」

少年「言ってることすげえだせえ!」

賢者「む?」

少年「あ、お前、さっきの」

賢者「継ぎはぎの服、小汚いベレー帽」

少年「おっといけねえや、おれちょっと用事あったんだよねー」


にやぁ


賢者「どこへ行こうというのだ」

少年「っ!」

ダッ

賢者「待て!」

少年「だっ、誰が待つかってんだ!」

301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/19(月) 01:54:27.22 ID:HnPBDyEno


青年「逃げるのかい? まぁ、させてあげないけれどね」

少年「うぇっ!?」

賢者「陛下! どうしてここに」


青年「事情は分かっているよ。情け無いね、マグナ」

賢者「面目ありません……」

青年「そう思うのなら、この子の腕を押さえてくれないか」

賢者「承知しました」


少年「だーっ! はーなーせぇー!!」


青年「……さて」

少年「ふんっ!」

賢者「どうして盗みを働いたのか、理由を聞かせてもらおうか」

少年「やだね!」


つーん


賢者「困りましたな……」

青年「マグナの財布を取り戻せばそれでいいのだろうけど」

青年「このままにしておけば、港の人に迷惑がかかる」

賢者「なるほど、俺が財布を盗られなければ捕まえることも出来なかったわけですな! はっはっは!」

青年「…………」

賢者「すみません」
302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/19(月) 01:55:42.31 ID:HnPBDyEno


青年「君」

少年「あんだよ、って……兄ちゃんは……」

少年「そうだ思い出した! 一人だけ避けやがった奴だな!!」

青年「大事な食費だからね、そう易々と盗られては困る」

青年「それはさておき」

青年「君は自分の犯した罪を分かっているのかな?」

青年「分かっているのなら、こんなことは止めるんだ」


少年「……ちっ、うるせーな」


賢者「おい、小僧」

ぎちっ

賢者「口の利き方には、気をつけたほうが身のためだぞ」

少年「っ……!」

青年「構わないよマグナ、だけれど答えて欲しい」

賢者「…………」

少年「……い、いてえよっ!」

303 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/19(月) 01:56:11.96 ID:HnPBDyEno

ぱっ


少年「……盗みの、何がわりーんだよ」

青年「…………」

少年「自分の懐を肥やすことしか頭に無い奴等から、ちょっとくすねるだけだろ?」

少年「大の大人がこまけーことぐちぐち言ってんじゃねー」

青年「だけれど、それは罪だ」

青年「ぼくは……国民に害為すものを放っておくわけにはいかない」

少年「だったら」

少年「おれもこの国の住人だ!」

少年「その国民に乱暴していいのかよっ!」

賢者「減らず口を……!」

304 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/19(月) 01:56:45.96 ID:HnPBDyEno


とことこ


少女「フューリさん、走るのはやいです」

少年「っ!」

青年「ああティノア」

賢者「お前もいたのか」

少女「はい、師匠」

少女「ところで、この子が悪い子なのですね?」

青年「ん……」


ぽーっ


少年「………………」

少女「……? どうかしましたか? わたしの顔になにかついているのでしょうか?」


賢者「どうした、小僧」

少年「あっ、な、なんでもねーよ!」


305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/19(月) 01:57:13.84 ID:HnPBDyEno


少女「おかしな子ですね」

少年「ふ、ふんっ」

賢者「しかし……どうしたものか」

少女「何を困っているのですか?」

青年「盗みをやめるよう言ったのだけれどね、どうやら聞いてもらえないようだ」

少年「…………」

少女「そう、なのですか?」

少年「お、お前らにゃかんけーねーよ」

少女「そうは行きません、貴方は師匠やほかの人たちに迷惑をかけました」

少年「お前も、こいつらと同じようなこと言うのかよ」

少女「フューリさんたちが何を言ったかはわかりませんが」

少女「悪いことをしたら謝るのですよ」


ぐい


少年「なっ、なんだよ、顔近づけんな!」

少女「ほら、ちゃんとわたしの目を見てください」

少年「うっ……」

306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/19(月) 01:58:05.61 ID:HnPBDyEno

ちら


少女「いい子ですね」

少年「こ、これで気が済んだかよ、済んだんならさっさと離せよ」

少女「駄目です」

少年「しつけーな! おれはぜってー謝らねーからな!」

少女「悪いことをしたのですよ? 謝るべきです」

少年「だあああああっ!! う、うるせーなぁっ!!」

賢者「むっ」


見つめられることに耐えかねた少年は、強引に賢者の手を振りほどく。

少年はそのまま体を滑らせるようにしゃがみこみ

少女のワンピースを捲し上げた。


少女「あ」

青年「い」

賢者「ほう……」

少年「」


ワンピースの裾がばさりと音を立てて浮かび上がる。

何者にも動きを抑制されることも無いまま、風になびく。
307 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/19(月) 01:59:43.58 ID:HnPBDyEno

そして

時が止まった。


窪んだ臍、冒険者とは思えないほど白く傷一つない滑らかな柔肌。

何一つ少女の身を隠すものはなく

薄っすらと骨の形が浮かび上がっている様子も垣間見えた。

ここまできっかり五秒間。

その後ゆったりと重力に押され、ワンピースの裾がふわりと揺れ戻った。


青年「穿いていない……だと……?」


少年「」


賢者「これは由々しき事態ですな」


青年は目を逸らし

少年は食い入るように見つめ

賢者は腕組みをして思案した

それぞれが三者三様に驚く。

308 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/19(月) 02:00:10.21 ID:HnPBDyEno


少年「え、あ、ご、ごめっ、そんなつもり」

少女「……?」


少年は逃げるために、注意を逸らさせるだけのつもりだったのだろう。

が、予想外の出来事に困惑し、戸惑う。


青年「ティノアさん?」


戸惑っているのは少年だけではなかったが。


少年「っ!」

賢者「おいっ!」


その一瞬の隙をつき、何とかまともな思考ができるようになると

少年は身を翻して何処かへ走り去ってしまった。


賢者「……ふー、逃げられたか」


少女「はい、何ですか? フューリさん」

青年「下着は、どうしたのかな?」

少女「下着、ですか? あまり心地のよいものではなかったので」

賢者「穿かなかったと?」
309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/19(月) 02:02:55.90 ID:HnPBDyEno

少女「はい、何か駄目だったでしょうか?」

賢者「いや、何もおかしくはない」

賢者「なるべく生まれたままの姿であろうと努める姿勢やよし、これからもその心意気を忘れるなよ」

少女「はい師匠」


青年「何を馬鹿なことを……ティノア、あとで君の下着も買いに行くよ」

少女「ですが」

青年「絶対だ」

少女「……はい」

賢者「まあそう怒らずともよいではないですか、正直に言って眼福もので……」

青年「何か、文句があるのかな? マグナ」

賢者「はっはっは、ありませんとも陛下。このマグナ・シュライン、陛下に逆らったことなどこれまで一度たりともございません」

賢者「ですから何卒剣をお納めください」


少女「…………フューリさん、こわいです」


青年「さあこの話はもういい、はやくあの少年を追おう」

賢者「はっ! 御意のままに!」


少女「……? これはあの子の帽子でしたね」

少女「薄汚れてはいますが、大切なものでしょう。ついでに届けてあげましょうそうしましょう」


青年「ティノア?」


少女「あ、はい。いま行きます」
310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/19(月) 02:03:45.00 ID:HnPBDyEno
つ づ く
けど話進まん詰まらん
311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[sage]:2011/09/19(月) 02:05:57.05 ID:N+TxdGcAO
いや充分面白いよ
少年時代の体験はそのままフェチに繋がるし少年はいい経験をしたな
312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[sage]:2011/09/19(月) 02:59:14.59 ID:BWxW/Qkj0

少女かわいいようどん食わせたい
313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/09/19(月) 11:52:10.56 ID:V0ISuwqSO
あれだけうどんに抗い続けた関西も、やはりうどん県には打ち勝てなんだか
乙。話面白いよー
314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage]:2011/09/19(月) 12:52:36.30 ID:AbXi/Ciq0
お…オレのお好み焼きにうどんがッ…!

穿いてないとか俺得すぎる
315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/09/20(火) 14:28:48.29 ID:ZqnXZRhIO
>>311
少年はロリコンになったのか・・・
次盗まれるのは少女だな
316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/09/21(水) 17:57:27.75 ID:5W+dQKqIO
それは無理な話だな
何故なら俺が貰って行くからな
317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/23(金) 01:51:45.50 ID:HZ+4Xqjko



少年「はーっ……はーっ……ったく」

少年「何だったんだよあいつ等」


きょろきょろ


少年「っし、いねーみてーだな」

少年「随分と遅くなっちまった……また怒られちまうかな」


少年は一人呟く、そして再度あたりを確認すると

港にある倉庫の物陰に隠れ、腐りかけた木箱をどかす。

すると現れたのは子供一人が辛うじて通れそうな穴。

そこに素早く身を潜り込ませると、あっという間に少年の姿は暗い穴へと吸い込まれていった。


青年「ほう……港の使われなくなった倉庫のようだね」

賢者「なるほど、大方、使われなくなったものの所有者が管理を怠っている場所を探し当てたのでしょうな」

青年「……あんな子供が、こんなところでしか住めないなんて」

賢者「どの国にも孤児はいるものです、それに今の陛下が気に病むことではありません」

青年「そう、かな……そう、かもね」

318 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/23(金) 01:52:40.65 ID:HZ+4Xqjko


少女「わぁ」

賢者「む、お前は先ほどから何を見ているんだ?」

少女「お船、たくさんですよ、師匠」

賢者「うむ、そうだな。ここは港だからな」

少女「港だと、お船がたくさんあるのですね?」

賢者「その通りだ」

少女「ですが……」

青年「うん……? 何か問題でもあるのかな?」

少女「あんなにたくさんのお船があるとなると、海が裂けて大変なことになってしまうのでは」

青年「あ、あぁー……」

青年(完全に信じきってしまっている……ここは夢が壊れるのを承知で事実を伝えるべきか……)


ぽんっ


賢者「…………陛下」

青年「マ、マグナ……」
319 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/23(金) 01:53:43.46 ID:HZ+4Xqjko


ぐっ!


青年(何かいい案があるのかな、すごく自信に満ち溢れた顔をしている……!)

青年(この純粋な少女の夢を壊すなんてこと、ぼくには出来ない……マグナ、君に任せたよ)

賢者「その心配はないぞ」

少女「師匠……」

賢者「湖に石を投げ込んだところを想像してみろ」

少女「はい……? はい」

賢者「どうなった」

少女「石がちゃぽんとなって、水がほわんほわんしています」

賢者「うむ、いいだろう。では次にその隣へと、もう一つ石を放り投げてみろ」

少女「はい……」

賢者「どうだ」

少女「二つのほわんほわんが……ぶつかっています」

賢者「そうだ、それだ」

少女「……?」

賢者「二つの波動は互いに打ち消しあう」

少女「……なるほど」
320 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/23(金) 01:55:05.74 ID:HZ+4Xqjko

賢者「つまりだ! 一つの船が海を裂いたとしても、ほかの船が海を裂き、結果としてそれらは打ち消しあう!」

青年(訳のわからない理屈を持ち出した!?)

青年(というか、その嘘は貫き通すのだね……)

少女「凄い……ですね」

賢者「うむ、だから何も気にすることは無い」

少女「そうですか、そうですね、師匠が言うなら違いないです」


青年「後からどうなっても知らないよ」

賢者「正直に言って、俺も言い過ぎたかと思い始めました」


少女「やはり師匠は凄いですね、何でも知っています」

少女「ですが……わたしはまだまだなのですね、もっと知りたいことがたくさんあります」

少女「知らないことを、全て知ることができたのなら」

少女「………………わたしのことも、いつか分かるでしょうか?」

321 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/23(金) 01:57:07.19 ID:HZ+4Xqjko



女の子「……ぅ、けほっ、こほっ」


薄暗く、埃っぽい倉庫の中。

様々なものが散乱し、その片隅にだけ気休め程度に片付けられたスペースがあった。

そこには毛布に包まった、具合の悪そうな女の子が一人。


ごとごとっ


女の子「……ん」

少年「よ……っと」

女の子「おにい、ちゃん?」


女の子はどうにか首を傾げ、少年を視界の片隅に捕らえると

少しだけ目を見開いた。


少年「お、起きてて大丈夫なのか? どこか具合悪いところはないか?」

女の子「え、へへ……しんぱいしすぎだよ、おにいちゃん」

322 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/23(金) 01:59:09.42 ID:HZ+4Xqjko


そういってはにかんだ後、女の子は大きく咳き込んだ。


少年「っ、ほ、ほら。まだ寝てろって!」

女の子「だ、だいじょーぶだよ、今日はいつもより調子いいんだから」

少年「いいから少し横になってろって」

女の子「もう……わかったよー……」


少年は無理やり女の子の肩を押し、幾重にも毛布を敷いて作った簡易ベッドに寝かせる。

この病弱な妹と共に隠れ住んでから、何年が経っただろうか。

少年は、熱で顔を赤く染めながら息を荒げている女の子を見て思い出す。

初めて……親に捨てられたときのことを。

六年前だったか、と少年は指折り数える。


『お兄ちゃんなんだから、この子の面倒みれるわよね?』

『すぐに戻ってくるから、いい子にして待ってるんだぞー』


そういって、二人は帰ってこなかった。

暫くしてから少年は、自分たちが捨てられたのだと気づいた、気づいてしまった。

だから泥水を啜ろうとも、盗みをしようとも見っとも無く生きてきた。

いつか自分たちを捨てた親に報いるために。

323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/23(金) 02:00:19.11 ID:HZ+4Xqjko


女の子「そういえば、今日はおそかったんだね、おにいちゃん」

少年「ん、んあー」

少年「ほらよ、最近、帝国の兵士が港に来てるみたいで……」

女の子「へいたいさんが着てるの? それでどーしておそくなるのよ」

少年「おれみたいな子供がうろついてたら、不審に思われるだろ?」

女の子「へんなの、おにいちゃん毎日お仕事がんばってるだけなのにね」

少年「あいつ等にゆうづーはきかねーんだよなー」

少年「そだ、んなことより、ほら」

女の子「? あ、りんごー」

少年「今日はいっぱいお給金もらえたからな、こんなにたくさん買ってきたんだぞ」

女の子「すごーい、ありがとー、おにいちゃん」

少年「あ、こら。がっつくなって、今剥いてやるから」

324 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/23(金) 02:02:14.05 ID:HZ+4Xqjko


少年はそう窘めると、ポケットからさび付いたナイフを取り出した。

折りたたまれた刃を出し、根元を使って器用に林檎の皮を剥いていく。

そして、数分も経たぬうちに食べやすいサイズへと切られた林檎を、女の子の口元に運んだ。


少年「ほれ」

女の子「あーん」


しゃりっ! と咀嚼音

じゃりっ! と靴が擦れる音


賢者「美しきかな兄妹愛っ!!」

少女「素晴らしきかな人の情」


冷たい空気が立ち込める倉庫内に、突如声が木霊する。


少年「な、なんだ!?」


青年「話は大体聞かせてもらったよ!」

325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/23(金) 02:02:46.02 ID:HZ+4Xqjko


女の子「??? おにいさんたち、だあれ?」

賢者「よくぞ聞いてくれた!」

少女「あ、わたし、ティノアと申します。それでこちらが師匠とフューリさんです」

女の子「ど、どうも……」

青年「ちょ、ティノア……段取りと違う……」


少年「ってお前ら……! さっきの!!」


賢者「ちっ、ばれてしまっては仕方ない!」

青年「そう、その通り! ぼくらは君たちに用があって来たのさ!」

少年「な、なんだよ」

少女「あの、この帽子」

青年「テ、ティノア……」


少女は自分の頭に乗せてあるベレー帽を指差す。

それに対し、少年は気まずく視線を逸らすだけであった。

326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/23(金) 02:03:17.87 ID:HZ+4Xqjko


少年「え、あ……う……」

少女「貴方のですよね? きっと大切なものでしょうからと、持ってきたのです」

少年「お、おう……」

少女「……? どうしたのですか? 顔色があまりよくないようですが」

少女「視線も定まらず、さきほどから落ち着かないようです」

少女「なるほど、これが挙動不審というものですか、ということは、貴方はへんたいさんなのですね?」


少年「だっ」

少年「誰が変態だーっ!!! さっさとおれの帽子返しやがれっ!!!!」


ばしっ!


少女「あぅ」

少年「ふ、ふんっ」

女の子「……おにいちゃん、このひとたち、おともだち?」

少年「と、友達なんかじゃ……」

賢者「うむ、友達だぞ。よく気づいたな娘っ子」

少年「なっ! だ、誰が!」
327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/23(金) 02:04:12.66 ID:HZ+4Xqjko

女の子「え、と、ししょーさん?」

賢者「何だ?」

女の子「みなさん、は、おにいちゃんをいじめるの? だったら、わたし……」

賢者「その心配はないぞ娘っ子!!」

賢者(さぁ陛下! ここで流れを戻しましょう!)

青年「……こ、こほん、そうだよ」

青年「何も、ぼくらは君たちを取って食おうだなんて思っていない」

少年「じゃ、じゃあなんなんだよ……」


賢者(さぁここで決めですぞ!)

青年(う、うるさいな)


青年「率直に言う」


男はビシッと指を指し、とある兄妹へと宣言する。




青年「ぼくは、君たちを救いに来た!」



      少年「は、はぁ!?」






少女「わー、ぱちぱちぱち」

賢者「お見事です、陛下……」

328 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/23(金) 02:05:48.42 ID:HZ+4Xqjko
つ づ く
いつも見てくれてるそこの君! ありがとう! 来週もまた見てくれよなっ!
329 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage]:2011/09/23(金) 02:25:28.30 ID:vl0SFdf7o

さっきテレビつけたら蕎麦が出ててうどん食いたくなった

…あれ?
330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/09/23(金) 02:41:56.94 ID:OC7RqoyTo
乙!
俺……実は蕎麦アレルギーだから結婚するんだ……
331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage]:2011/09/23(金) 10:11:22.92 ID:QJQmLMuO0
乙ー
332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/09/24(土) 01:32:35.53 ID:LeHYpdpko
焼きそば>焼うどん
333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)2011/09/24(土) 03:14:16.97 ID:S5KmoOVAO
乙 やだ、陛下格好良い
334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/09/24(土) 18:26:48.33 ID:S6FRL1GIO


挙動不審=変態か…
誰に教わったのやら
335 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/09/27(火) 22:02:49.56 ID:75Sy9RYA0
なるほどつまり俺は年中変態なわけだな
336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/09/30(金) 02:07:41.42 ID:ZXuK/1Y+o



むすっ

少年「…………」

青年「…………」

賢者「やれやれ……」


少女「ここをこうして……」

女の子「こうよ」

少女「……わぁ、凄いですね。紐でちょうちょが出来ました」

女の子「おねえちゃん、はじめてなのに上手ね」

女の子「わたしなんか、おぼえるのとっても時間かかっちゃったのに」

少女「そうなのですか? でも、たくさん知っている貴方のほうが凄いですよ」

女の子「えへへ、むかしね、おかあさんにおそわったのよ」

少女「羨ましい限りです。あ、フューリさん」

青年「…………」

少女「見てください、ちょうちょですよちょうちょ」

337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2011/09/30(金) 02:08:08.58 ID:ZXuK/1Y+o


少年「だからっ!! おれはぜってー行かねーかんな!!」

青年「……お願いだ、分かって欲しい」

青年「この町に君たちの居場所は……ない」

青年「どうか、ぼくたちと一緒に来てくれないかい?」

少年「やだねっ!」

青年「何故だ! 隣国へ行けばどこへでも……!」

少年「やだったらやだって言ってんだろ!」


青年「ならば、君の妹はどうなる!」

少年「っ……」

青年「今ならまだ助かるものを、君の意地だけで悪化させるつもりかい!?」

少年「おまえにゃ……かんけーねー」

青年「関係ない……だと?」

青年「……確かに、関係ないかもしれない、だけれど」

青年「ぼくには、苦しんでいる国民を見放すことなど出来ない」

338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga sage]:2011/09/30(金) 02:08:40.67 ID:ZXuK/1Y+o


少年「またそう言う! 結局はただの自己満足なんだろ!?」

少年「おまえの都合なんか、おれが知るか!」

少年「それに、助けて欲しいなんて一言も言ってねぇ!!」

青年「……っ!」


少女「あの」


少女「……喧嘩は、よくないと思います」

少女「それにちょうちょですよちょうちょ」

賢者「その通りだ。二人とも、少し頭を冷やせ」

少年「何でおれが……」

青年「…………」

賢者「いいか、二度は言わん」

少年「ちっ……」

青年「わかったよ」

少女「むむ」

339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga sage]:2011/09/30(金) 02:09:08.12 ID:ZXuK/1Y+o


女の子「おにいちゃん」

少年「ん、どうした」

とっとっとっ


賢者「どうしたのですか、陛下。らしくありませんぞ」

青年「……すまない」

少女「フューリさん……大丈夫ですか? 辛くありませんか?」

青年「う、うん、大丈夫だよ。心配ない」

少女「それなら、よかったです。にこー」

340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga sage]:2011/09/30(金) 02:09:53.69 ID:ZXuK/1Y+o



少年は苛立っていた。

むかむかして仕方が無い様子だ。


……何なんだよ、あいつ。わけわっかんねー


先ほどまで目の敵にしていたというのに

少年に病弱な妹がいると知った瞬間、一緒に来い、だ。

ふざけるな。

そんな安っぽい同情なんて、いらない。


そんな安っぽい同情になんて、乗らない。


誰の助けもいらない

おれ一人でこの女の子を護っていくと約束したんだから。

341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga sage]:2011/09/30(金) 02:10:31.68 ID:ZXuK/1Y+o



女の子「おにいちゃん?」

少年「ん、あ、あぁ」


少年の様子を心配してか、傍らで毛布に包まる女の子がふと口開く。


女の子「げんきじゃないおにいちゃんって、なんだかへんな感じ」

少年「……あぁ」

少年「なあ」

女の子「うん? なぁに、おにいちゃん?」

少年「お前は、どうしたい? この町から出て行きたいか?」

女の子「ん〜……」


少年の問いに、少しばかり考えるような仕草をすると

女の子は自分に出来る最大限の笑みを浮かべた。


女の子「わたしはね、おにいちゃんといっしょなら、どこでもいいよ?」

女の子「お父さんも、お母さんも、もう……いいの」

女の子「おにいちゃんだけがいてくれたらいいもん」


少年「……っ、そっ、か」

女の子「うん」



342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga sage]:2011/09/30(金) 02:10:58.25 ID:ZXuK/1Y+o


女の子「っ! けほっ! こほっ、ごほっ!」

少年「! だ、大丈夫か!?」

女の子「だ、だいじょうぶ、だいじょうぶだよ。っけほ!」


安堵したのも束の間、暫く収まっていたはずの咳が止まらなくなる。

少年は急いで水筒を鷲づかみ、栓を引き抜くと、少しずつ女の子の口へと流し込む。


女の子「……ん、く、こほっ!」

女の子「はぁ、はぁ、えへ、ご、ごめんね。もうだいじょうぶ」

少年「…………」


口ではそういっているが、女の子の顔から衰弱の色は拭いきれない。



お父さんも、お母さんも、もう……いいの。



訪れた沈黙の中で、その言葉を反芻する。

少年の思いが、記憶が、罪が脳裏に浮かび上がり


そして、少年は、ある一つの決意をした。


343 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga sage]:2011/09/30(金) 02:11:34.22 ID:ZXuK/1Y+o



港にある桟橋、船が停泊していないそのうちの一つ

そこに二つの人影が。


青年「…………」


青年はただただ沈黙を決め込んでいた。

隣にちょこんと座るのは、青年以上に無表情な少女。

その傍らで、青年と同じく無言のままさきほど教えてもらった綾取りを繰り返している。


少女「…………」


せっせと指を近づけては離し、徐々に求める形へと近づけていく。


その様子を見て青年は思う。

自分ならば、そう簡単に糸を交差させることはできないだろう、と。

やりたいことが多すぎる、やらねばならぬことが多すぎる。

様々な糸は綺麗な形を成さない。

色々な糸は互いに色を汚しあう。

そう、青年の糸はただ絡み付いて行くだけだった。

344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga sage]:2011/09/30(金) 02:12:04.18 ID:ZXuK/1Y+o


ぼくは一体、どうしたかったのだろう。


進展が見込めない思考を打ち切り、自分が固執した理由について考える。


差し伸べた手を振り払われることが、こんなにも辛かっただろうか。


偽善と言われようと、憤慨することなどなかったというのに。


身寄りもなく、盗みを働いて食い扶持を繋ぐ少年たちがあまりにも哀れだったからか。

その哀れさに彼等は気づいていなかったからか。

いや、そんなふざけた理由などではない。


どうするべきなのかが、分からない。

そんな単純明快なことだった。


青年「ぼくは…………」


少女「答えが、でませんか?」


ふと漏れた、嗚咽のような言葉に、少女ははたと手を止めた。

345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga sage]:2011/09/30(金) 02:13:09.45 ID:ZXuK/1Y+o


青年「え……?」

少女「フューリさんは何でも知っています」

少女「それに、とてもいい人です。それはわたしでも知っています」

少女「ですから、今回のこと、フューリさんは間違っていないと思います」


青年「そうかな……? ならば、間違っていないのなら、どうして分かってはくれないのだろうね」


少女「わたしにもよくわかりません、ですが……」

少女「相手に気持ちを伝えたいときは、自分と相手の気持ちを理解するところから始める」

少女「それが上手な世渡り術だと、誰かさんが言っていました」


青年「その誰かさんはいいことを言うね」

少女「はい、そうですね。わたしもそう思います」

少女「ですから、それさえ分かるならば」

少女「フューリさんにも答えが見つかるはずです」


青年「そうかな……? ……そうかもね」

少女「はい」


そうして再び手元へと視線を戻す少女。

青年はにこりと微笑んで、少女の頭を優しく撫でる。


青年「……ありがとう」


その言葉が聞こえたのか聞こえなかったのか、青年には分からなかったが

少女は気のせいか、ほんの少しだけ嬉しそうに身をよじった。

346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga sage]:2011/09/30(金) 02:14:32.22 ID:ZXuK/1Y+o
つ づ く
やっと次から進展しやがるぞ、多分。あとぐだぐだな地の文書いてすまない
こういう書き方しかできんのだわ……
347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)[sage]:2011/09/30(金) 18:25:18.00 ID:f0/mA0kAO
一気に読んだわ
wwktkして待ってる
348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/10/01(土) 18:43:15.49 ID:Da1vMRyIO
青年イケメンモードかと思ったら
少女さんがイケメンだったでござる
349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[sage]:2011/10/04(火) 09:13:24.76 ID:u3QxLvwAO

前半とは比べものに為らない白さ
350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/10/06(木) 17:38:54.32 ID:cMiBB4W10
全員、蕎麦を持て!

突入するぞ!
351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/10/06(木) 17:39:54.24 ID:cMiBB4W10
全員、蕎麦を持て!

突入するぞ!
352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県)[sage]:2011/10/07(金) 22:17:11.12 ID:PASgM5oFo
わたしはうどん一筋
353 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/08(土) 01:10:20.42 ID:HNRPGmJJo



女の子「すぅ……すぅ」

少年「……寝たか」

少年「今日は長いこと起きてたみたいだったからな……」

女の子「すぅ……ぅ、こほっ」

少年「…………」


ガンガンッ!

  ドンッ



少年「な、なんだ!?」


「おいっ!! 出て来い!」

「ここにいるのはわかってんだ!」

354 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/08(土) 01:11:20.39 ID:HNRPGmJJo




少年「ちっ……! 何でバレたんだっ!」

少年「……いや、あいつ等か。この場所を言いふらしやがったんだな……!」


「おらっ! 出て来い!」

ガンッガンッ


少年「そんなことより、逃げねーと……」

女の子「ん……あ、どーしたの? おにいちゃん」

少年「大丈夫、何でもねーから寝てろって」

女の子「うー……そう? じゃあ、おやすみ……」

少年「あぁ、おやすみ」


少年「さぁて……急がねーとな……」

355 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/08(土) 01:13:00.32 ID:HNRPGmJJo


大男「どこへ行くつもりだ? 坊主ゥ」

少年「なっ!? ど、ドコから!」

大男「どこ行こうとしてんだっつってんだよォ!!」


少年(隠し通路も、バレて……)


グッ


少年「う……ぐ、は、離せ!!」

大男「あァン? 何寝ぼけたこと言ってんだァ?」

大男「今まで散々好き放題やりやがって、今更見逃してくださいなんていわねえよなァ!?」

少年「だれっ、が、んなことッ!!」

大男「おォ! いい度胸だ!」


ガスッ


少年「う、がぁっ!?」

大男「一発頭突きくらったくれえで、伸びてんじゃねえぞォ!」

356 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/08(土) 01:13:40.92 ID:HNRPGmJJo


ドスッ


少年「がっ……は……」

大男「もう終わりかァ? オレはまだ物足りねえんだがなァ」

少年「………う」


ガンッ! バギンッ!!


「ふぃー、やっと開いた」

「どうです兄貴? 上手く行きましたか?」

大男「うぉう、お前ら。見ての通りだァ」

少年「うぐっ……」

少年(どうするどうするどうするッ!?)

少年(おれ一人なら逃げれないこともないけど、あいつを置いて逃げるなんて……)

女の子「はぁっ……はぁっ……」

少年(とりあえず、注意をおれにひきつけておかねーと……)

少年「……げほっ、おい、てめーら」


357 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/08(土) 01:14:21.48 ID:HNRPGmJJo


大男「あァ?」

少年「こんないたいけな子供を、大の大人が寄ってたかって苛めて、恥ずかしくねーのかよ」


大男「はァ?」


「ぷっ……はははははっ!! だーれがいたいけな子供だゴラァ!!」

「てめぇ、あんま大人舐めてっと、怪我じゃすまねえからな?」


大男「ふ、ははは、言うじゃねェか糞ガキィ」

大男「いいだろう、その威勢に免じて一つ言いこと教えてやるよ」

少年「何を教えてくれるんだよ、この場から逃げられる方法とかなら嬉しいんだけどな」


大男「罪人になァ、人である資格はねェんだよ」


メギッ


少年「おぶっ!?」

358 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/08(土) 01:15:24.41 ID:HNRPGmJJo


「ひゃあはははははっ!! おいおい、何本骨いっちまったよ!?」

「言わんこっちゃねえ、なあ坊主、悪いこたぁ言わねぇ。その辺にしとけ」

少年「なぁにが、ごほっ! その辺に、しとけ、だ。何もしなくても、殴られるだけだろ?」

大男「よォくわかってんじゃねェか」


ドスッ、ガスッ!


少年「うっ……ぁ……がはっ」

「ざまぁねぇなぁ!!」

少年「……ちっ」

「何だその目は、まだ懲りてねぇみたいだなぁ」

大男「ここいらでもっとキツイお仕置きが必要みてェだ」


女の子「けほ、ごほっ! ごほっ! お、おにいちゃん……?」

少年「ばっ……!」

359 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/08(土) 01:15:53.41 ID:HNRPGmJJo


大男「あん?」

「何だ、もう一人餓鬼がいたのか」

「おにいちゃん、だってよ! 何だ何だ? お前妹なんていたのか!」


少年「ぐ……黙れ……」

大男「こいつァいいおもちゃになりそうだァ」

大男「今までの借りに、貰っていくぜェ? 勿論文句はねェよな?」

少年「ふざ、けるなぁ!」

大男「おおっとォ」


グイッ


少年「うっ……」

女の子「おにいちゃん! けほっ! けほっ!!」

「おら、こっちに来るんだよ」

「ほぅらお兄さんたちと遊ぼうか〜、ひゃははっ!」


少年「やめろっ……やめろォオ!!!」

360 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/08(土) 01:17:29.50 ID:HNRPGmJJo





「悪いが、貴様等はこのおじさんと遊んで貰う」


突如、成人男性二人の頭を何かが鷲掴んだと思うと

それらは互いに叩き合わされ、鈍い音を響かせてその場に崩れ落ちた。


賢者「ふむ、楽器遊びをするにはまだ早かったか」

女の子「あぅ……」

賢者「大丈夫か、娘っ子」

少年「なっ……」

大男「あんだァ? てめェ」


青年「この場合はてめぇら、が正しいね」

大男「っ!?」

少女「あ、お二方。数分振りですね、お元気でしたか? にこー」

少年「な、で、お、ま」

少女「??? 何を言っているのかわかりませんが?」

361 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/08(土) 01:18:26.06 ID:HNRPGmJJo


驚きと痛みのあまり、少年はぱくぱくと口を開閉するだけであった。


青年「言っただろう? ぼくは君たちを救いに来たと」

青年「様子がおかしいと気になって来て見れば、この様だ」

少女「とてもとても心配したそうですよ?」


少年「だれも、頼んでなんか」

賢者「うむ、頼まれた覚えなどない」

少年「だったら……」

大男「おい、てめェら」


少女「…………」

大男「いきなり出てきて何やってんだァ? 偽善振りかざして正義の味方ごっこか」

青年「残念だけれど、ごっこ遊びは当の昔に卒業しているよ」

大男「……はん、訳分からんな。この餓鬼が何やったか知らねェのか」

賢者「愚問だな、知っている」

362 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/08(土) 01:19:21.62 ID:HNRPGmJJo


少年「っ……」


大男「なら尚更、訳が分からねェ」

大男「オレたちゃ商会に雇われた傭兵でなァ、小生意気な餓鬼がいるってんで処分するよう言われてんだわ」

大男「わかんだろォ? この餓鬼は犯罪者なんだよ、裁かれて当然なんだよ」


青年「犯罪者にならば、何をしてもいいとは限らない!」

青年「人には罪を償う権利と義務がある」

青年「それを無視して、勝手に人が人を裁いていい道理なんてない!」


少年「お前……」

大男「権利だ義務だ償うだァ? おめでたい奴だなおい」

青年「なんと言ってくれようが構わない、だけれど」

青年「彼からは手を引いて貰う」

大男「糞が……舐め腐ってんじゃねェぞ餓鬼……」

少女「…………」


じぃー

363 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/08(土) 01:24:19.31 ID:HNRPGmJJo


大男「あァ?」

少女「………………」

大男「さっきから何やってんだテメェ」

少女「いえ、興味深いなと思いまして」

大男「はァ? おい、いい加減にしろよ」

少女「いい加減、とは何のことでしょう。わたしは何も貴方に実害を及ぼしていませんが」

大男「そういう態度のこと言ってんだよ、馬鹿かお前?」

少女「馬鹿、わたしは馬鹿なのですか、そうですか。その通りなのかも知れませんね」

少女「ところで貴方は傭兵といいましたね」

少女「一体どういった職業なのでしょうか? わたし気になります」

少女「雇われの身だとも言っていましたね、ということはお金を貰っているのですね? その通りでしょう?」

少女「ということは子供に暴力を振るうだけでお金が貰える職業なのですか?」

少女「やはり、世の中にはわたしの知らないことがたくさんありますね」


大男「…………」


364 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/08(土) 01:25:09.17 ID:HNRPGmJJo


ぶんっ


少年「うぐっ……」


どすっ


大男に投げ飛ばされた少年は、背中を倉庫の柱に強く打ち付ける。

短くうめき声をあげたが、まだ意識はあるようだ。


少女「あ……」


ぐらっ……

ぱらぱら……


大男「あん?」

青年「危ないっ!!」


大男は自分の身に降りかかる木屑と塵に気づく

しかし、床に伸びた男二人を担ごうと屈んだ状態では、反応できるはずもなかった。


だがそれに反応できた人物は、一人いた。

365 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/08(土) 01:25:51.79 ID:HNRPGmJJo


ドガァッ!!!


すでに建築物としての限界を迎えかけていた倉庫。

柱が受けた衝撃は倉庫全体へと響き渡り、その老朽化した屋根を瓦礫と化して降り注がせる。

一歩間違えば助からないほどの量、それにも関わらず、青年は躊躇いもせずに飛び出した。


賢者「陛下っ!!!!」

少年「馬鹿……やろっ!!」

少女「…………」


青年「うっ……」

大男「テメェ……何のつもりだァ?」

青年「ふふ、間一髪だったね」

賢者「無事ですか、陛下!」

青年「う、うん。問題はないよ」

少女「本当にですか? 痛むところはありませんか?」

青年「うん、心配をかけたね。すまない」

少年「ばっかじゃ、ねーの」

青年「そうかな? そうかもね」
366 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/08(土) 01:26:49.27 ID:HNRPGmJJo


大男「オレも餓鬼と同意見だ」

大男「わざわざオレらを助けてどうするつもりだァ?」

青年「どうするも何も……困ったな、そんなつもりはないのだけれど」

大男「あァ? まァた偽善振りかざしてるわけか、理由もなく敵を助ける馬鹿がどこいるってんだァ?」

青年「敵、敵か。ふむ、何か勘違いしているようだね」

青年「ぼくは君と敵対するつもりはない、さきほどのは牽制であり忠告だ」

青年「それに……命を救うには理由が必要かい?」

大男「……はん」

大男「理由が無いなら見返りも必要ねェよなァ?」

青年「うん、勿論だとも」

大男「ならいい……オレはもう行くぜ」

青年「気をつけて」


大男「…………シュノービルだァ、覚えておけ」


そういい残すと、男は床に伸びた二人を担いで去っていった。


賢者「シュノービル……、ふむ……聞き覚えがあるような」

367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/08(土) 01:27:17.88 ID:HNRPGmJJo


少年「…………」

青年「大丈夫かい? 立てそうかな」

少年「おれのことより、自分のこと心配しろよ」

青年「ぼくは怪我をするようなヘマはしないよ」

少年「はぁん……」


つんっ


青年「いっ!?」

少年「足挫いてんのばればれなんだよ」

青年「め、面目ない」

少年「ほんっと、ばっかじゃねーの……おれなんかほっときゃいーのによ」

青年「そんな訳には行かない」

少年「……ふん」

女の子「おにいちゃん……だいじょうぶ?」

少年「ん、まぁな……お前こそ平気か?」
368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/08(土) 01:27:45.54 ID:HNRPGmJJo

女の子「うん、わたしは平気。おにいちゃんが守ってくれたもん」

少年「……おれ一人じゃ、無理だったけどな」

女の子「んー?」

少年「いや……」

青年「そうだ」


青年「君たちに話があるんだ」

少年「……話、か。おれもあるんだ」

青年「聞いてほしい」

少年「耳かっぽじってよく聞けよ」




青年「ぼくの答えを」

少年「おれの決意を」


369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/08(土) 01:28:42.48 ID:HNRPGmJJo



少女「…………」

少女は一人、瓦礫を無言で眺める。

その目は虚空を見つめているようにも見て取れたが。


そうして暫くの時が流れた後


ぱちり、ぱちぱち


と少女が瞬きをし


少女「…………くすっ」


嬉しそうに笑った。


370 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/08(土) 01:29:26.94 ID:HNRPGmJJo
つ づ く
休みが欲しい
371 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/10/08(土) 01:35:05.65 ID:K1OXMaLSO

休みの代わりにざるそばをやろう
372 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[sage]:2011/10/08(土) 15:26:11.24 ID:b8Ww7BaAO

代わりに休んでおくよ
373 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/10/10(月) 18:30:49.78 ID:pLDCtwrIO

少女さんがまた黒く…
374 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/11(火) 00:10:22.18 ID:IiqjBkxLo



少年「……すんませんでした!」

青年「この通りです、彼にも事情がありやむを得ずこのような行為に」

「あんたが誰か知らんが…………帰ってくれ」


バタンッ



少年「……っち」

青年「ふむ……やはり厳しいものがあるね」

少年「あーうっぜぇな、せっかく人が謝ってやってるってのに!」


ゴスッ


少年「いってぇ!?」

青年「君……自分の立場を理解しているのかい?」

少年「……お前もうるっせーよなー」

青年「…………君の決意はその程度か」

少年「……それがるっせぇって言ってんだよ」

少年「言い出したからにゃ、ちゃんとやるよ」

青年「そうしてもらわなければ、ぼくも困る」

少年「はー……」

375 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/11(火) 00:11:08.55 ID:IiqjBkxLo


少年「皆に許して貰おうなんてな……こんな調子で大丈夫なのかよ」

青年「仕方ない、罪は償わねばならないからね」

少年「さっきからそればっかだな……ま、他人事だしそんなもんだけど」

青年「他人事ではないよ、ぼくは君の行く末を見守ると」

少年「あーもー、それはいいって言ってんだろ!」

青年「…………むむ」


しゅん……


少年「………あー、ったく」


少年「ほんと、こんな調子で許してもらえるのかね」

少年「それでも、おれはここで……この場所で……」


青年「……そこまでここに固執する理由が、あるのかい?」

少年「あん? んだよ……独り言を盗み聞くなんて趣味わりーな」

青年「すまないとは思う、だけれど……よければ教えて欲しい」

少年「……なんてことねーよ、待ってる人がいるんだ」

青年「それは、君たちのご両親かな」
376 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/11(火) 00:11:35.91 ID:IiqjBkxLo

少年「……おう」

青年「そのご両親は君たちを捨てて消えたそうじゃないか、なのに何故」

少年「んで、お前がそんなこと知ってんだよ」

青年「君の妹から聞いた」

少年「……はーっ」


少年「馬鹿みたいかもしれねーけど……おれはまだ信じてるんだよな」

青年「…………その理由は?」

少年「……ん」


ぽんっ


青年「この本は?」

少年「あんま見られたくねーけどさ……開けてみろよ」


ぴらっ


青年「これは……成長記録かい?」

少年「見てのとーり」
377 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/11(火) 00:12:06.35 ID:IiqjBkxLo

青年「…………母親が身ごもった頃から事細かに」

青年「この字は父親のものかな、字が擦れて紙が黒くなるほどびっしりと……」

少年「それみて、どう思った?」

青年「ご両親は随分と君たちを溺愛していたようだね、全て読まずともわかるよ」

少年「……おう、父さんも母さんも、おれたちのこと凄く大切にしてくれてた」

少年「あいつにはおれたちを捨てたって言ってるけど……」

青年「それは一体、どうして」

少年「下手な希望は……持たないほうがいいんだよ」

青年「…………ふむ」


少年「だけど、おれは……いつか絶対……戻ってきてくれるって」

青年「……そうか」


ぽんぽん


少年「うっ……さ、さわんな!」

青年「ふふ、すまない」


なでなで


少年「やーめーろー!!! 子供扱いすんじゃねー!!」

青年「そんなつもりはないのだけど……ふふふ」

少年「わーらーうーなー!!!」

青年「ふふふっ」


378 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/11(火) 00:12:48.88 ID:IiqjBkxLo


ひそひそ……


賢者「どうだ、決まったか」

少女「……いえ」

賢者「俺は黒がいいと先ほどから言っているのだが……」

少女「でも、フューリさんは師匠の好みは無視しろと」

賢者「むう……しかしこのままではいつまで経っても……」

少女「やはり、買わずともよいのではないでしょうか?」

賢者「それは却下だ」

少女「何故ですか、わたしはこんな窮屈なものを身につけたくありません」

賢者「陛下に叱られるのだぞ」

少女「…………む」

少女「それならば仕方ありません……」

賢者「うむ……」


「あのぉ……」

賢者「何だ?」

「ひっ」
379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/11(火) 00:13:47.04 ID:IiqjBkxLo

賢者「…………」

「す、すみません」

賢者「いや、すまん。他意はないのだ、普通に話してくれて構わん」

「は、はいっ」

「えと……大変申し上げにくいのですが……」

賢者「うむ」

「ランジェリーショップのど真ん中で仁王立ちされると困るといいますか……」

賢者「…………」

「あ、す、すみませんっ! そ、その、邪魔だとかそういう意味ではなくてですね!」

「その……女性のお客様が多いので……買い物しづらいといいますかー……」

賢者「……それもそうだな」

「すみませんっすみませんっ」

賢者「いや、構わん。俺が常識を持ち合わせていなかっただけのこと」

賢者「俺はこのような体躯だからな、声を掛けるにもさぞかし勇気がいったろう……忠告、痛み入る」
380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/11(火) 00:15:05.82 ID:IiqjBkxLo

「え……あ、その……」

賢者「何も言わずともいい、そうだな……俺は外にて待つとしよう」

賢者「と言っては何だが……この子のことを任せても構わんか?」

「へ……?」


少女「…………」


賢者「お前はなかなかに人間が出来ていると見える、信頼に値する人物だろう」

賢者「頼む」

「え、っと……は、はいっ!!」

賢者「では失礼する、ティノア、迷惑だけはかけるんじゃないぞ」

少女「はい」


「……怖そうな人だけど、いい人っぽいなぁ……かっこよかったかも」

少女「……流石です師匠」

381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/11(火) 00:17:03.31 ID:IiqjBkxLo


がやがや


賢者「………………」

賢者「そろそろ、出てきてはどうだ」


スッ……


隊長「流石、と言ったところですか」

賢者「何のようだ、港へつくなり監視を付けるなど……」

賢者「随分と苦労したぞ」

隊長「何が苦労ですか」

隊長「こうも易々と特務隊の監視を振り切って、逆に捕まえるなんてことをやっておきながら」

隊長「一人の目標に三人もの隊員を行動不能にされたのは始めてです」

賢者「特務も堕ちたものだな」

隊長「全て貴方が育て上げた人材でしょう」

賢者「そうだったな……だが、それはお前も同じだろう」

隊長「はい、お世話になりました」

賢者「……しかし、教え子に命を狙われるとはな、俺は悲しいぞ」
382 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/11(火) 00:17:50.86 ID:IiqjBkxLo

隊長「私とて貴方と敵対したいわけではありません」

隊長「ですが、貴方方の罪は重い。S級国家反逆罪です」


賢者「それは重々理解している」


隊長「……何故、何故、皇帝陛下を手にかけようとなされたのですか!!」


賢者「…………」

隊長「何故黙っておられるのです、何か弁明してはどうですか」

賢者「それは揺るぎ無い事実だ。弁明の余地もない」

隊長「そう、ですか……ならば私は貴方を捉えねばなりません」

隊長「どうせ今日はもう動けないでしょう、船も出せませんしね」

隊長「明日には特務の増援が参ります。それまでの間、精々足掻いてください」


賢者「………………」

383 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/11(火) 00:18:40.30 ID:IiqjBkxLo




少年「これからは心を入れ替えて……」

「今更どの面ぶら下げて謝りに来てんだ!? あぁ!?」

青年「待ってください、話を……」

「うるせぇ! どっか行け!」

「……今日はもう店じまいだ」

青年「話だけでも!」


ガラガラッ


青年「…………」

少年「ま、こんなもんだろ」

少年「しゃーねーって」

少年「にしてもあれだなー、もうお前らと一緒に行ったほうがいいかもしれねーな」

少年「向こうに行きゃ、おれらは自由なんだろ? だったら」

青年「駄目だ」

少年「……あんでだよ、最初はお前らから言ってきたことだろ?」

青年「君たちのご両親は絶対に戻って来る、だから……ここで待っていなくては駄目だ」

少年「お、おう……」

384 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/11(火) 00:19:13.67 ID:IiqjBkxLo


少女「フューリさん」

賢者「陛下」

青年「ティノア、マグナ」

少年「よ、ようっ!」

少女「どうもです、にこー」

少年「〜〜っ」


ぷいっ


少女「……?……?」

賢者「どうでしたか、陛下」

青年「……あまり芳しくないね」

青年「そちらはどうだい? きちんと買ってきたのだろうね?」

賢者「それはもう、勿論です」

少女「はい」


ばさっ


青年「」

少年「」

賢者「どうです、いい縞パンでしょう」

385 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/11(火) 00:20:15.88 ID:IiqjBkxLo


少女「どうですか、似合うでしょうか?」

青年「い、いいから隠すんだ!」

少女「はい……」

賢者「はっは、初ですなぁ」


青年「……マグナ……これが君の差し金であったならば、容赦はしない」

賢者「そ、そんなはずありません。全てティノアの意思のまま」

少女「師匠が、陛下に見てもらえと。きっと喜ぶはずだからと」

賢者「なっ、裏切るかティノア!」

少女「嘘はつくなと師匠が教えてくれたのですが」

賢者「時と場合を考えろとも教えたはずだ!」


ガシッ


賢者「へ、陛下……」

青年「……今までは見逃してあげていたけれど、今回の一件は目に余る」

少年「…………なあおっさん、覚悟したほうがいいぜ」

賢者「くっ……! お慈悲を……!」


シスター「あのう……」

386 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/11(火) 00:20:42.67 ID:IiqjBkxLo


賢者「む、へ、陛下! なにやらご入用のご婦人が!」

青年「…………」

賢者「ですから、何卒! 何卒! 剣を収めください!」


チャキンッ


少年「……ちっ」

青年「………………」

賢者「うむうむ、よい目つきになりましたな。二人とも」

シスター「あのう……」

青年「何か、御用ですか」

シスター「あなたは、さっき私を助けてくれた人ですよね!」

シスター「お礼も言えず、どうしたものかと辺りをうろついておりました!」

シスター「どうもありがとうございました」

賢者「……おお、さきほどの」


少年「おいおっさん、誰だよこの人」

賢者「覚えていないか、お前に財布を盗られた時だ」

少年「……? あ、あぁっ! あんときの!」

青年「……詳しく説明してもらえるかな」

賢者「はい、あれは知人と相談した後のことです」

387 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/11(火) 00:21:29.76 ID:IiqjBkxLo


賢者「……流石に、夜出航するのは厳しい、か」

賢者「トーチ程度であらば、出来んことはないが……見つかるのは確実」

賢者「帝国にはすでにこちらの動きはばれていると来た……まったく困ったものだな……ん?」


シスター「よいしょ……よいしょ……ふぅ」


がしっ


賢者「手伝いましょう、貴方の細腕では些かこの荷物は重すぎる」

シスター「あ、いえ、大丈夫ですよ」

賢者「そう言わず、私にお任せください」

シスター「そ、そうですか……? では、お願いしますね」

賢者「はっは、私の面子を気にしてくれたのですか? お優しいのですね」

シスター「そんなことないですよ……あなたのほうがお優しいです」

シスター「見ず知らずの私を助けてくれるのですから……」

賢者「何、困っている人を助けるのは当たり前です」

シスター「ありがとうございます」
388 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/11(火) 00:22:03.52 ID:IiqjBkxLo

賢者「いえ……、それでどこへ運べばよろしいのですか?」

シスター「あ、そうですね……っ、きゃあっ!?」

賢者「っ!!」


ぎゅっ

ばらぱらばら……


賢者「ご無事ですか……?」

シスター「は、はいっ……」

賢者「それはよかった………しかし、荷物が散らばってしまいましたね」

シスター「い、いえ……あの、その」

シスター「そろそろ、離してくれると……」

賢者「これは失礼を」


少年「いいカモはっけーん! いただきィ!」


スッ


賢者「ぬっ!?」

シスター「あ」

389 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/11(火) 00:23:03.95 ID:IiqjBkxLo


賢者「し、しまった……! 俺としたことが」

シスター「あ、あの……」

賢者「さぁ、ご自分の足で立てますかな? 怪我は、どこか痛むところはありませんか?」

シスター「はい……だ、大丈夫ですけど……」

賢者「それはよかった……不幸中の幸いという奴です」

シスター「追いかけなくていいのですか?」

賢者「何、心配することはありません。それでは、私はこれで」


にこっ


シスター「は、はい」



賢者「ぬ、おおおおおおおおおおおっ!!」


ダダダダダッ!!


シスター「……はぅぅ」


390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/11(火) 00:23:43.23 ID:IiqjBkxLo



賢者「という訳でして」

青年「ほう……」

少女「流石です、師匠」

少年「おっさんの癖してお盛んなこって……」

賢者「何故、非難の視線が向けられているのかがわからない」


シスター「あぁ……思い出しただけでも素晴らしい走りっぷりでした……」

青年「そ、そうですか」

少年「……なんかトロそうな人だよな」

少女「そんなことを言ってはいけませんよ」

少年「うわっ! いきなり顔近づけんなって!」


シスター「ところで、あなたたちは一体何を?」

シスター「これでも私はシスターさんですから、相談にはいつでも乗りますよ」


賢者「……ふむ」

青年「言うだけ、言ってみるかい?」

少年「……そうだなー、あんま当てになりそうにねーけど」


シスター「どんとお任せください!」

391 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[sage]:2011/10/11(火) 00:25:15.40 ID:IiqjBkxLo
つ づ く
まだ終わらん、回を重ねるごとに長くなっていく……
392 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/10/11(火) 00:26:55.96 ID:qvOfVKByo
おつおつ
393 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/10/11(火) 03:11:03.65 ID:03PacxKSO

まぁ長い方が楽しめるしいいさ、うどんみたいに
394 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[sage]:2011/10/14(金) 00:14:29.69 ID:dB2OefQAO
乙 賢者さん弟子にお盛んな所全部見られてるんじゃ
395 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga sage]:2011/10/16(日) 02:51:44.86 ID:HfuuJrtjo




賢者「……という訳で」

シスター「……なるほど」



「わーい! 次お兄ちゃんが鬼ね!」

「あははっ、にげろー!」

少年「あ、てめっ! やったな、待てー!」


少年「って何でおれが子供の世話しなきゃなんないんだよっ!?」

青年「いいじゃないか、この子たちも君に懐いているようだし」

少年「よくねーよ! こちとら命かかってんだぞ!?」


「なー、にーちゃんってばー」

少年「あー、ちょっと待てって」

シスター「そうですよ、お兄さんに迷惑をかけてはいけません」

「……はぁい」


たったったっ

396 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga sage]:2011/10/16(日) 02:52:57.18 ID:HfuuJrtjo


少年「……ったく」

シスター「ごめんなさいね?」

少年「いや、別にいいけどさ……」


シスター「ありがとう……それで」

シスター「あなたのこと、賢者様から全て聞かせて貰いましたよ」


シスター「随分と苦労したようですね……」

少年「ん……無我夢中だったからなー」

少年「その日を生きるのに精一杯で、自分がやったことなんて気にもしてなかった」

少年「他人がどうなろうとしったこっちゃなかった」

少年「そんな状況で、苦労してるだなんて言えやしねーよ」

少年「だから……こんなことになってるのも、仕方ないっちゃ仕方ねーんだ」


シスター「……それでは、今は後悔していますか」

少年「…………」


こくり


シスター「ならば許しましょう」

397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga sage]:2011/10/16(日) 02:53:54.94 ID:HfuuJrtjo


少年「へ?」

シスター「今は誰も許してくれなくとも、神はあなたを許しています」

シスター「それに、私だって許します」

賢者「……俺も許そう、財布はこうして手に戻った訳だ、それにお前はきちんと謝った」

賢者「それで清算してやろう」


少年「い、いいのか……?」

少年「おれ、散々人に迷惑かけてさ、さっきみたいにいっぱい恨まれててさ」

シスター「そうかもしれません、でも……あなたは罪を償おうとしている」

シスター「その心だけで、二度と罪を犯さないと決意したそれだけで」

シスター「あなたは許されてもいいのです……」

少年「で、でも……おれ」

シスター「っ……辛かったでしょう、今までずっと一人で」

シスター「誰にも頼ることもできずに、悪いとわかっていることに手を染めたのでしょうっ……」

シスター「もういいんですよ? 自分の心に嘘をつくのはもうやめなさい」
398 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga sage]:2011/10/16(日) 02:54:22.64 ID:HfuuJrtjo

シスター「ほんとうに、辛かった、でしょ、う、ぇ……うぇぇぇえええん」


ぎゅっ


少年「ちょっ」

シスター「だいじょうぶです、もうだいじょうぶっ……ですから……ふぇ、うぁ、うぁぁああん」

少年「だ、抱きつくなっ! てか何でお前が泣くんだよ!?」

シスター「ひぐっ……だ、だってぇ……」

青年「あーあ……泣かせてしまったね」

賢者「罪深い男だ……長生きできんぞ」

少女「悪い子です、悪い子ですね」

少年「ま、待てっ! おれはこの件に関しては無実だ!」


「あー、おにいちゃん。おねえちゃん泣かしてるー」

「いーけないんだー、いけないんだー」
399 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga sage]:2011/10/16(日) 02:55:53.03 ID:HfuuJrtjo


少年「お、お前らまでっ!」

シスター「うぇぇ……でもですね、ちゃんと贖罪しなくては……ひくっ、なりませんから」

少年「うっ……んなこと、わかってるよ」

シスター「ですから、ですから」

シスター「あなたにはここで、神に仕えるものとして、働いてもらいますから」

シスター「いいですね……?」

少年「っ! は、はいっ!」


賢者「どうやら話はまとまったようだな」

賢者「では、俺は宿屋に寝かせてある娘っ子を連れてくるとしよう」


少年「えっ」


青年「頼むよ、マグナ」

賢者「お任せください」


タッ


少女「では、わたしたちは遊んでいましょうか」

青年「そうだね、お兄ちゃんはあんな状況な訳だから」

少年「ちょ」

400 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga sage]:2011/10/16(日) 02:57:10.86 ID:HfuuJrtjo


「あっ、にーちゃんたちが遊んでくれるのか!?」


青年「うん、それじゃあ何をして遊ぼうか」

「えとね! 鬼ごっこしよー」

少女「鬼ごっこ、わたし知っています」

少女「鬼に擬態した一人が最後の一人を喰らい尽くすまで行われるというデスゲームのことですね?」

青年「一応、"ごっこ"であって、遊びだからね?」

少女「わかります、わかりますよ」

少女「ではわたしが鬼です、がおおー」

「きゃー! にげろー!」

「わー!」


青年「ティ、ティノアさん? 包丁はしまおうか!」


ダッ


少年「お、お前らっ!?」

シスター「もう、一人じゃないですよ!」

シスター「わ、わだっ、わだじがいまずがらね!」



少年「くそっ……どうしてこんなことに……」


少年「…………」


少年「……はははっ」

401 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/16(日) 03:03:11.98 ID:HfuuJrtjo
つ づ く
そういえば知事がうどん県ってアピールしだした、日本地図にうどん県と書かれる日も遠くはない。
402 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[sage]:2011/10/16(日) 03:25:52.08 ID:v63MTrbAO
最近幸せ過ぎるSSを見ると後が怖くて困る
403 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/10/16(日) 11:34:04.65 ID:yzoU4FTIO
少女は包丁を肌身離さず持ち歩いていたんかwww
404 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/10/17(月) 00:02:05.10 ID:w4jHuCvIO
すでに嫌な気配しかしない

乙←これは乙じゃなくてうどんry
405 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage]:2011/10/17(月) 00:34:14.91 ID:5G74F3fQo
ここのSSは幸せな雰囲気になると逆に怖くなる
406 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[sage saga]:2011/10/19(水) 21:33:34.88 ID:kI3tgIteo
やべ、今気づいた
>>363>>364の間抜けてる





少女「どうかしましたか? 先ほどから一言も発していませんが、少しでもお話してくれると嬉しいのですが」

大男「舐めやがって……糞共がァ! ぶっ殺す!!」


額に青筋を浮かべた大男が、少年の胸倉を掴んでいる手と逆の手で

少女に殴りかかった。

しかし


ヒュッ……


青年「それ以上は許さない」

青年「寸分でも動いてみるといい、五体満足では帰れなくなる。かもしれないね」


その拳は、いつのまにか抜刀されていた青年の剣によって

少女を殴ることか、触れることさえ敵わなくなっていた。


大男「……っちィ、白けちまったなァおい」

大男「この餓鬼のことは勝手にしろ、オレは帰る」

少女「わたしは、もっと貴方のことを知りたいのですが」

大男「……けっ」

407 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[sage saga]:2011/10/19(水) 21:35:17.47 ID:kI3tgIteo
続きはもう暫くお待ちいただきたい。
あれ、ここおかしいな? と思ったら晒しあげてください……
408 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/10/22(土) 16:08:49.89 ID:a8KX+Riqo
おかしいところもたのしむ!
409 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[sage saga]:2011/10/23(日) 00:33:43.05 ID:oNCyDqy1o




隊長「…………夜が明ける」


ザッザッザッ


「隊長殿、第二特務隊が到着したとのことです」

隊長「そうか、ご苦労」

「しかし……あの程度の人数に特務を二つも招集するなど……」

隊長「そうか、お前はマグナ教官が離れた時期に来たんだったな」

「はっ、先輩たちから噂はかねがね聞いておりましたが……」

「我々の手にかかれば捕らえることも容易ではないかと」

隊長「……数で勝っているからといって侮るなよ、あの人は普通じゃない」

「…………りょ、了解しました」



カッカッカッ


貴族「ふぅん、しみったれた町だねぇ。それに潮臭い」
410 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/23(日) 00:34:35.58 ID:oNCyDqy1o

隊長「これはこれは……此度はご協力のほど、感謝致します」

貴族「堅苦しい挨拶はいい、それで標的はどこだ?」

隊長「はっ、数は三……現在、町の宿に身を潜めております」

貴族「たった三……私の手を煩わせるほどなんだね?」

隊長「うちの隊は熟練度も低く、とてもではありませんが敵う相手ではありません」

隊長「そこで第二特務隊の手を貸していただきたいと」

貴族「……つまらないねぇ、まあいい」

貴族「私はさっさと手柄を立てて昇進しなくちゃならない」

貴族「父上も何を考えているのか……時代遅れの特務などに私を配備させるなんて……」

隊長「……お言葉ですが」

貴族「黙れ」

隊長「…………」

貴族「それでいい……おい」


パチンッ


「はっ」
411 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/23(日) 00:35:25.97 ID:oNCyDqy1o

貴族「敵はこの古びたゴミ屋敷の中だ、引きずりだせ」

隊長「っ!? 無茶です、万全の準備を整えてから」

貴族「黙れと言った! いいか? 第三特務隊隊長、自分の立場を理解しての発言か?」

貴族「私が現地に到着した時点で、指揮権は私が握っているんだよ」

隊長「…………」

貴族「異存はないねぇ? なら早く君の部隊も向かわせるといい……いや」

貴族「捕らえるのは私の部隊だね、君は精々、無能な隊員と共にねずみが逃げ出さないかどうか見張っているがいいよ」

貴族「まさか、その程度も出来ないとは言わないよねぇ?」

隊長「……了解しました」


隊長「行くぞ、指令が下った」

「はっ!」


貴族「……ふん」

412 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/23(日) 00:35:58.03 ID:oNCyDqy1o



がきんっ!


老婆「ひぃっ!?」


古びた扉が勢いよく蹴り開かれる。


「どけ、国軍の者だ」


そこから押し寄せてくるのは甲冑を身にまとった騎士たち。

それぞれがフルフェイスの兜を装着しており、くぐもった怒声が年季の入った建物を揺さぶる。


「ここに男が二人と少女が一人いると聞いている、どの部屋だ」

老婆「か、階段あがって、すぐ右の部屋ですじゃ……」


背筋も曲がり、白髪だらけの髪を乱した老婆が答えるも

騎士たちは一瞥もせずに軋む階段を上がっていく。

そして戸惑うこともせずに扉を開け放った。


バァンッ!

413 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/23(日) 00:36:23.84 ID:oNCyDqy1o


「っ!?」


先頭の騎士が抜刀し、部屋内部へと踏み込む。

辺りを見回し標的がいないことを確認すると、その騎士は右手を挙げた。


「異常、無し」

「……どういうことだ?」


騎士たちは思い思いに口を開く。


「騙されたか!」


それに気づかなければ、一瞬のことであったろう。

何もわからぬままに意識を無くせただろう。

しかし気づいてしまったのなら受け入れねばならない、残された時間を。

抗うか、悔やむか、惜しむのか。


次の瞬間、辺りに轟音が響き渡り

第二特務隊の半数は壊滅した。




414 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/23(日) 00:37:48.61 ID:oNCyDqy1o




ぱたむ



重厚な本を、賢者は片手で閉じる。

そして暫くの間、いつものしかめっ面を更に険しくして瞳を閉じていた。


老婆「……よかったのかい? マグナ」


背筋も曲がり、白髪だらけの髪を乱した老婆が心配そうに語りかける。

ここは宿下の地下倉庫、戦時に隠れ家の役目を担っていた所だが

今ではその役割を終え、物置として使用されていたのだった。


賢者「……構いません、今は先を急ぎましょう……へ、陛下……ぷっ、くくくっ」

老婆「………………」

賢者「くく……お似合いですぞ……くっ」


陛下と呼ばれた老婆は、無言でゆっくりとその顔に触れる。

そして皮膚を異常なまでに伸ばしたかと思うと、一息でその皮を破りすてた。


青年「心配するだけ損なようだ」

賢者「ああ、勿体無い……」

少女「凄いです、おばあさんがフューリさんになりました」

少女「ということは他にもフューリさんはいっぱいいるのですね?」

青年「いや、これは……」

賢者「これは変装というものだ、正義の味方から悪の手先にまで幅広く使われる特殊偽装なのだ」

少女「正義の味方……、なるほど、かっこいいですねフューリさん」


青年「……もう何でもいいよ」

415 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/23(日) 00:38:55.50 ID:oNCyDqy1o



隊長「なんてことだ……宿ごと粉砕するとは」

貴族「……ぐ」


ギリッ


貴族「君、もしかして嘘の情報を伝えていたのでは?」

隊長「ありえません、気取られぬよう細心の警戒態勢を布いていました」

貴族「ならば……本当に無能だね、君の部隊は! 敵の動向も察せられないだと? 特務が聞いて呆れる!」

貴族「少しでも君を信用した私が馬鹿だった!」

隊長「…………」

「隊長っ! 次の指示を!」

貴族「君ね、現在の指揮権は全て私に」


すぅ


隊長「何が指揮だ、成り上がりの軍人紛いがッ!!」

貴族「っ!」

隊長「貴様の軽率な判断が隊員の死を招くのだ! 少しでも軍人を志していたのならば、恥を知れ!!」

貴族「君……! 誰に向かって」

隊長「……今から私が指揮を執る、異存は無いな? 第二特務隊」


ざわざわ……


「……はっ」


貴族「貴様……等ァ……!!」


隊長「作戦は四人一組で行う、第二は私についてこい。ほかは手はず通りに動け!」


「はっ!」


貴族「…………」

隊長「邪魔だ、どけ」


ザッザッザッ


貴族「………………」



416 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/23(日) 00:39:45.89 ID:oNCyDqy1o



槍兵「……何かご用で」

貴族「当たり前じゃないか、用がなければ君を呼ばない」

槍兵「……そうですか」

貴族「私は君に一目置いている、その従順な姿勢にねぇ?」

槍兵「……ありがとうございます」

貴族「例え女の身であったとしても、精神は優れたものであるよ」

貴族「だから、これから私が言うことも必ず遂行させるんだ。わかったね」

槍兵「…………」

貴族「君に断る権利はないんだよ」

槍兵「…………はっ、承知しております」


417 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2011/10/23(日) 00:40:14.56 ID:oNCyDqy1o



少年「〜〜♪」

「はぁっ……はぁっ……!」


停泊所へと向かう道の途中、白い壁の民家が立ち並ぶその只中。

軽装に身を包んだ兵士は重そうな荷物を抱えてひた走っていた。

その様子を見て、まだ早朝だというのにご苦労なことで……と少年は軽く欠伸をしながら漠然と考えた。


どんっ


少年「おおっとごめんよ〜」

「あ、危ないだろうが! 気をつけろ!?」

少年「悪かったって〜、今度から気をつけるよ!」


少年「ん〜……あれ?」

少年「まいったな、盗る気はなかったんだけど……」


その手に握られた妙に重たい麻の布袋。

どうやら、ついつい兵士の荷物の一部を盗み取ってしまっていたようだ。


少年「……まー、あとで返せばいっか。って何だこりゃ?」


興味本位から袋の中身を物色する。

中から出てきたものは、何やら黒ずんだ液体を内包した瓶。

更にはコルクで栓がしてあり、中心に開いた穴に細められた布が差し込まれてある。


少年「これって……まさか」


少年「爆燃性のある……魔物の体液か……?」


何故こんな危険なものを帝国兵士が?


少年「…………」


嫌な気配を感じ取って、兵士の消えた道を振り返る。

緩い坂道となった先に、朝日を受けて輝く青い海が広がっていた。


418 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga sage]:2011/10/23(日) 00:42:04.22 ID:oNCyDqy1o
つ づ く 
もうすぐ終わるでぇ
419 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[sage]:2011/10/23(日) 01:26:36.33 ID:usi9mjRAO

暗い匂いが
420 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage]:2011/10/23(日) 03:05:39.31 ID:Iq3IhzwMo

少年に嫌な予感しかしない
421 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)2011/11/01(火) 19:18:09.17 ID:LsHU14mIO
まだぁ?

サーバを移転しました@荒巻 旧サーバ:http://vs302.vip2ch.com/
422 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(関西地方)[sage]:2011/11/01(火) 20:36:23.04 ID:PFhBIaDI0
まだだね
うどんでも作って待ってましょ

サーバを移転しました@荒巻 旧サーバ:http://vs302.vip2ch.com/
423 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(東海)[sage]:2011/11/01(火) 23:40:01.02 ID:6r8FljAAO
外国に行ったからパスタを買ってきたよ

サーバを移転しました@荒巻 旧サーバ:http://vs302.vip2ch.com/
424 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/04(金) 01:10:36.40 ID:BY4NOCnGo


こほん、こほん

「ねえ、だいじょうぶ? さっきからせきばっかり」

女の子「えへへ、だ、だいじょうぶだよ」

「ほんとか? 辛かったらいうんだぞー!」

女の子「うん、ありがと。これでもずいぶんよくなったんだよ?」


ばぁんっ!


少年「おーい、起きてるかー?」

女の子「あ、おにいちゃん」

「にいちゃん! どこいってたんだよー」

少年「わり、ちょっとした散歩だって」

女の子「ちょっと散歩って……おにいちゃん、その荷物はなに?」

少年「へっ!? あ、や……これはな……」

女の子「…………じっ」

少年「わ、わざとじゃないんだ、それに今から返しに行こうと思ってさ!」

女の子「ほんと?」

少年「ほんとほんと! おれが嘘なんかつくかよ?」
425 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/04(金) 01:11:28.64 ID:BY4NOCnGo

女の子「…………」

少年「す、すんませんでした」

女の子「もう……」

女の子「……なにかあったら、わたしにも言ってよね? 家族なんだから」


少年「……あぁ、わかってる」


少年「そんじゃ、これからまた出かけるよ」

女の子「あ、おにいちゃん?」


少年「すぐ戻るから! ねーさんに言っといてくれ!」


ばたんっ!


女の子「あ……」

「男には、通さなきゃならない意地ってのがあるんだってさー」

「あたしよくわかんないー」


女の子「おにいちゃんってば……」


426 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/04(金) 01:12:16.43 ID:BY4NOCnGo



ぎぃっ……


青年「……っふぅ」

青年「誰もいないよ、さあ早く」

少女「はい、ありがとうございます」


サッ


賢者「ふむ、井戸と繋がっていたようだな」

賢者「この位置ならば目的地も近い、急ぎましょう」

青年「うん」


青年「それにしても、マグナはこの町の地理に詳しいね?」

賢者「む……軍人たるもの、まずは地図を頭に叩き込むものですからな」

青年「地図には町の風景は乗っていないだろう」

賢者「……実を言うと、昔、誰かさんが迷子になったおかげで……」

青年「うっ……」

427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/04(金) 01:12:45.16 ID:BY4NOCnGo


少女「誰が迷子になったのですか?」

賢者「お前の目の前におられるお方だ」

青年「うるさいな、当時は何も知らなかったのだから、仕方ないだろう?」

少女「迷子になることは恥ずかしいことではありませんよ」

少女「わたしも、長い間迷子になっていますから」

賢者「ぷふす、陛下。よかったですな、ティノアに慰めてもらって」

青年「あまり慰めにはならないというか……」


店主「こっちです!」


青年「っ!」

賢者「ちぃっ……」


井戸を抜け、民家の裏路地から抜け出ようとしたそのとき。

小太りの男性が数人の騎士を引き連れて、大声を上げた。


店主「あ、あんたらは……!」
428 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/04(金) 01:13:15.77 ID:BY4NOCnGo


青年「…………」

少女「あ、お久しぶりです。このリボン、気に入っていますよ」


「追え! 絶対に逃がすな!」


賢者「陛下、こっちです!」


賢者は民家の隙間を指差す。

甲冑を装備している騎士を撒くにはうってつけの場所だとの判断だ。


青年「……わかった、行くよ! ティノア!」

少女「はい」


「行くぞ!」

「はっ!」


店主「はー……あんな気のよさそうな兄妹が国家犯罪者ねぇ」

店主「人は見かけによらないモンだなぁ……ま、金さえ貰えりゃなんでもいいがね」


429 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/04(金) 01:13:49.28 ID:BY4NOCnGo



「こっちだ!」


青年「くぅっ……!」

賢者「くくくっ……いいぞ、面白くなってきた!」

少女「フューリさん、はやい、はやいですよ」

青年「すまないティノア、もう少し頑張ってくれ」

青年「しかしどうするマグナ? 待ち伏せは予想通りだったけれど……」

賢者「何、手はうっております」

賢者「港の停泊所に停めてある船はフェイク、知り合いに頼んで別の場所にて待機してもらっています」

賢者「場所は灯台の下、まさに灯台下暗しという奴ですな」


青年「……なるほど」

賢者「戦とはすなわち情報戦、常に二手三手先を考えて行うものですからな」

青年「ちなみに、三手目は?」

賢者「……ふっ」


賢者「敵の殲滅、これに限る!」


青年「大した軍人さんだね!」


「逃がさんッ!」

430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/04(金) 01:15:07.82 ID:BY4NOCnGo


辺りは海を一望できる広場、その一角に潜んでいた兵士が数人現れた。


賢者「お褒めに預かり、光栄ですぞ!」

賢者「魔道書、第五項! 全員まとめてくたばりやがれッ!! 灼熱! "エルファイアー"!!!」


襲い掛かる兵士たち。

逃げる青年たち。

賢者が本を抱え叫ぶと、双方の間に赤熱し発光する魔方陣が浮かび上がった。


「まずい……!」


咄嗟に回避行動を取ろうとするも、時すでに遅し。

次の瞬間には、陣の淵から全てを飲み込む灼熱が顕現する。

それらは兵士の標準装備であるチェインメイルを溶かし

皮を溶かし肉を溶かし骨を溶かす。

全てがない交ぜになった状態で更に蒸発する。

その炎は断末魔さえ逃さず飲み込んだ。


青年「うっ……」


凄まじい熱風と閃光。

同時に襲い来る、人が焼ける臭いに思わず青年は顔をしかめた。

431 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/04(金) 01:15:44.53 ID:BY4NOCnGo


青年「大丈夫かい? ティノア」


そういって手を差し伸ばす。


少女「ん……大丈夫です」


少女はワンピースの裾と青いリボンをたなびかせながら、青年の手をしっかりと握った。


賢者「…………」


一方、賢者は表情を険しくする。


賢者「この程度か……俺が積み重ねたものは」

賢者「そんなことはないはずだ! もっと抗って見せろ! 喰らいついて見せろ!」

賢者「俺はこのような無様な戦いをしろと教えたか!? 違うだろう!!」


ヒュッ


賢者「……ふっ」


何かが空を切る。

しかし、その物体が何なのかを見定めることはできなかった。
432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/04(金) 01:16:28.27 ID:BY4NOCnGo

なぜなら……その物体は一瞬にしてその身を消滅させ、代わりに赤々とした爆炎を生み出したからだ。


ドォォンッ


青年「マグナっ!?」

少女「師匠」


隊長「……あまり手間取らせないでください」


二対の刀剣を腰に携えた男が煙の中から現れる。


賢者「遅かったではないか」


爆炎と煙の中で、賢者は腕組み仁王立ち。

まったく堪えていない様子で姿を見せた。


隊長「ふ、遅刻は厳禁。違反者は即懲罰、ですか?」

賢者「何、一介の士官にとやかくいう筋合いはない。訓練兵ならまだしもな」

隊長「今の貴方には、訓練兵にさえとやかく言う筋合いはないんですよ」

隊長「マグナ・シュライン並びに王子……、いや」

隊長「フューリ・イル・ラ・リル・ド・アルバス」

隊長「貴方たちを国家反逆の罪で拘束、連行する。抵抗するなら命の補償はしない」

433 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/04(金) 01:16:56.00 ID:BY4NOCnGo


賢者「……陛下、ここはお任せください」

青年「マグナ……」

少女「ですが、師匠」

賢者「心配ならば無用だ、それとも……俺が信用ならないと?」

青年「そんなことは…………わかった」

少女「フューリさん」

青年「行こう」

少女「……はい」


たっ


隊長「逃がしたか、……ここは私が受け持つ、お前たちは先に」

「はっ!」

「私たちはお供します」

隊長「……第二か、勝手にしろ」


賢者「……さて」

賢者「今日は一体、何人死んだ?」

隊長「…………第二も含めて十二人」

賢者「十二か……残りを見るに、能力に大差はなさそうだな」

賢者「……弱い、弱すぎるな。これが特務か」

隊長「戦場で生死をわけるのは能力ではなく、運であると教わりましたが」

賢者「だが、力無きものが生き残ったところで何も変わらんとも教えたはずだが」
434 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/04(金) 01:17:34.32 ID:BY4NOCnGo

隊長「……変わりませんね」


賢者「ふっ……過去を懐かしむのもまた一興、しかし」

隊長「辺りは常に戦場であることを忘れるな。わかっています」

隊長「さあ、始めましょう。これで……最後の戦闘訓練です」

賢者「…………俺は既に教官であることを辞めたはずだが」

隊長「貴方が辞めようとも、私の師は生涯に貴方一人。その事実に変わりはありませんから」

賢者「いい弟子を持ったものだな、誇りに思う」


二人は、どちらからとも無く互いに一礼をし


隊長「手ほどき願います!」

賢者「俺の指導は厳しいぞ!」


ザッ


隊長が踏み出すのに一瞬、次の二瞬目には二人は鍔迫り合いをしていた。

一人は本の背で、もう一人は一本の刀剣で。

本と剣での攻防なのに、金属と金属が噛みあう音が響く。

恐らくは本の背に仕込んであるのだろう。

435 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/04(金) 01:18:01.58 ID:BY4NOCnGo


賢者「遅いな」

隊長「まだ様子見の段階でしょう」


ギギッ!


互いに互いの次手を読みあう。

その硬直を先に打ち破ったのは賢者であった。


隊長「っ!」

賢者「いい判断だ!」


賢者は爪先で腕を狙い蹴り上げる、敵の武器を奪おうとの魂胆だ。

しかし隊長は刀剣を滑らせ競り合いから逃れることでかわす。

空を切る賢者の右足、だがそのまま足を引き戻すと、回転しつつ後退した。

そして風にあおられるように、黄ばんだ羊皮紙で出来た魔道書が一枚一枚捲れていく。

それがとあるページでピタと止まると、呪文と共に賢者が腕を突き出す。


賢者「出でよ爆炎! "ファイアー"!」


すると五つもの火球が宙に浮かび上がり、隊長へと襲い掛かった。


隊長「ふっ――!」


一発目――難なく避ける

二発目――火球を切り捨てた

三発目は隊長の足元に着弾し、火の粉と共に粉塵を巻き上げる。

436 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/04(金) 01:18:28.20 ID:BY4NOCnGo


隊長「がぁ……っ?!」


不明瞭な視界の中、四発目が眼前に迫りくる。

だが、たったそれだけで済む話ではなかった。


隊長「!!」

賢者「ッ――」


ヒュッ……


賢者「……ほう」

隊長「はぁ……っ! はぁっ……!」


五発目はそう、賢者が手に宿らせたまま移動し

隊長の背後から撃ち出されていたのだ。

しかし、それだけでやられるはずはなかった。

前方からの火球を一本の刀剣で受け止め

後方からの火球を、左に差した鞘より半分だけ引き抜かれた白刃が受け止めていた。


賢者「上手く背後を取れたと思ったのだがな、勘付かれてしまっていたか」

隊長「……っく」


魔力によって生み出された火球は、受け止めただけでは霧散せず

前後からジリジリと隊長を追い詰める。


隊長「ぬああっ!!」

437 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/04(金) 01:18:55.31 ID:BY4NOCnGo


ヒュバッ……ドォン!


隊長は体を捻らせもう一方の刀剣を完全に抜刀。

その勢いで火球を等分する。


賢者「受け止めたことは褒めてやる。が、背後をとられたのは感心せんな」

隊長「やはり、厳しいか……」


そういいながら二刀を構える、それらの魔法を受け止めた部分は赤熱しており

さきほどの火球が凄まじい熱量であったことが伺える。


「隊長殿!」


付け入る隙もないような攻防を、ただ呆然と眺めていた兵士が叫び。

抜刀し賢者へ飛び掛る。


隊長「馬鹿! 来るなッ!」


賢者「魔道書、第三項! 穿て貫け骨まで痺れろッ! 雷槍! "サンダー"」


世界が暗転する、そんな錯覚。

それも一瞬のこと。

強烈な光が視界を塗りつぶしたかと思うと、激しい轟音と共に一本の雷が兵士に直撃した。


「があ、ぁああああああああああっ!?!?」

438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/04(金) 01:19:23.89 ID:BY4NOCnGo


それは人体を縦横無尽に駆け回り、全ての細胞を壊していく。

尋常ではない痛みと共に。

ましてや直撃、それに耐えうるはずもなく。

兵士はがくりと両膝をつくと、そのまま地に伏せた。


隊長「…………」

賢者「邪魔だ、死にたくなければ動くな」

「……あ……あぁぁあっ!」


隊長「貴方は……」

賢者「どうした、さぁ続けるぞ」

隊長「どうして、そこまで簡単に教え子を殺せるのですか」

隊長「確かに反抗的な者もいたでしょう、ですが……貴方を憧れ、特務に入隊した者も大勢……」

賢者「だから何だ」


隊長「ッ! だからっ!? だから何だと!?」

隊長「貴方は何とも思わないのですか!」

賢者「弱い者に興味などない、さぁ続けるぞ」


隊長「……そうでしたね、貴方は昔から……!」


チャキンッ


隊長は両の刀剣を鞘に収める。

そして右の刀剣の柄に手を置く。

439 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/04(金) 01:19:50.76 ID:BY4NOCnGo


賢者「抜刀か」

隊長「行きます……!」


ダッ


抜刀の体勢で一気に詰め寄る隊長。


隊長「はぁ――ッ!」

賢者「この距離でか……!?」


離れすぎている、と賢者は感じた。

刀剣の長さと腕の長さからするに、完全に賢者を攻撃範囲内に入れるには後一歩足りない。

疑問を抱えながら、とりあえずと重心を後ろへ移す。


隊長「ふんっ!!」


抜刀、鞘から刀剣が抜かれ――

それを躊躇うこともせず投げた。


賢者「……!」


相手が抜刀をする際に留意することはその剣速の速さ。

賢者はそこに囚われすぎていた。結果、反応が遅れる。


賢者「ぬぅッ!」

440 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/04(金) 01:20:17.31 ID:BY4NOCnGo


しかし驚くことに、賢者は飛来する刀剣を身を屈めることで避け。

通り過ぎようとした刀剣の柄を掴みとった。


――ガギィンッ!


二対の刀剣は互いに火花を散らしあう。


隊長「……っ!」

賢者「ふっ……くくくっ!!」

賢者「いいぞ! だが、まだ足りない! 俺には届かない!」


隊長「これで終わると思わないでいただきたいッ!」


隊長は剣を捨て、距離をとった賢者に向かって突進する。




賢者「勝負を捨てたかッ!」

隊長「捨てねば、勝てない!」


賢者は刀剣を構え、向かう隊長に剣先を向け――。

突きを繰り出した。

441 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/04(金) 01:21:45.28 ID:BY4NOCnGo


隊長「うお、オオオオオオォオ!!」

賢者「なっ!?」


しかし隊長はバランスを崩しながらそれを何とか避ける。

突きは隊長の左肩を掠めたが、そんなことは気にせず依然として賢者へ向かう。


その手に抱えたものは……爆燃性のある魔物の体液を内包した、ガラス瓶が三つ。

そして熱を持った刀剣に液体を浴びせ


賢者「まずい……!」


高熱に触れた瞬間、液体は燃え広がり――両者の間で爆発した。


ドゴォオオオオオオンッ!!!


「……!」

「隊長殿ッ!」


賢者「……ふーっ、ふーっ」


晴れた煙の中に立ち尽くす男。

賢者は無傷とまではいかなかったが、地に膝を付けさせるにはいたらなかった。
442 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/04(金) 01:22:24.11 ID:BY4NOCnGo

そしてその足元で転がっているのが……隊長であった。


隊長「う……ぐっ……」

賢者「……終わったようだな」

賢者「まさか自爆とはな、地に伏せやり過ごしたとは言え……そのダメージでは暫くは動けんだろう」

賢者「俺も……魔法で相殺しなければどうなっていたか」


賢者「ふふっ……く、くっくっくっ! 素晴らしかったぞ、ディアゴ」

賢者「お前を隊長に推して正解だったようだな、俺は嬉しいぞ」


「た、隊長から……離れろ! この犯罪者!」

賢者「……ふん、安心しろ。命まではとらん」

賢者「まだまだ伸びしろはあるようだ、精々死なんように手当てしてやれ」

賢者「ではな」


隊長「く……そ」

「! う、動かないでください……」

隊長「……追え、逃がすな」



隊長「まだ、まだ終わっていません……! 教官……ッ!」


443 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/04(金) 01:24:40.33 ID:BY4NOCnGo
つ づ く
戦闘描写が長引くんは仕方ないんや……ワイは悪うないんや……

>>423、外国でうどんを布教しつつパスタを没収してきたんだな、でかしたぞ。褒めてつかわす
444 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(神奈川県)[sage]:2011/11/04(金) 01:33:12.19 ID:zMPKgki00


ディアゴスティーニ
445 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(富山県)[sage]:2011/11/04(金) 01:39:31.96 ID:n1xKdOYso
おつおつ
446 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(東海)[sage]:2011/11/04(金) 02:45:41.11 ID:r59bkuAAO
戦闘シーンは最近見たものに影響されてしまうから自分では書けない
447 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)[sage]:2011/11/04(金) 07:22:21.09 ID:CN+K+wuio
とても熱い戦闘だった乙!
448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)[sage]:2011/11/05(土) 00:58:27.40 ID:rVO3xmHIO
おつ
魔法はFEからかな?
449 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/11(金) 23:50:26.74 ID:SiXIWJvKo



青年「はっ、はっ……!」

青年「灯台……見えた!」

少女「…………」


「来たぞ!」


青年「ッ! 挟まれた!」

少女「こっちです」


ぐいっ


青年「わ、わかった」


グギッ


少女に手を引かれ、横道に逸れるべく無理に方向転換を試みた結果。

青年の足首に嫌な感触が……。


青年「くぅ……!」

青年(昨日のが響いたかな……)

少女「フューリさん?」

青年「な、なんでもない。急ごう」


450 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/11(金) 23:51:09.74 ID:SiXIWJvKo



がやがや……


ここは停泊所、まだ朝早くなのに漁へ出航しようとする漁師たちで賑わっている。

その活気に紛れた不穏な雰囲気。

あちらこちらにと身を潜めた帝国兵士のせいである。


「……まだか」


ある倉庫の壁にもたれ、標的を待つ兵士は緊張した面持ちのままぽつりと呟いた。

標的の目標はこの停泊所にある漁船のうち、どれかであるとの情報があったのだ。

なので早朝から張り込みを続けている……のだが。

こんなまどろっこしいことをせず、漁禁止命令を出して畳み掛ければよかったのに……と兵士は思う。

しかし、帝国兵士である特務隊が民間の生活の営みを妨害することは憚られる。

ましてやこの一帯の海域を纏め上げる漁業組合が相手では、強気にでることもできず。


現在昔ながらの肉体労働。そういえば教官も言っていたな……。


軍人の基礎は一に体、二に体! 行くぞ野朗共! 今日のメニューは地獄のフルコースだ!


ぶるり。

451 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/11(金) 23:51:33.71 ID:SiXIWJvKo


「あの訓練だけは、もう勘弁だよな……」


何度死に掛けたか。

さらには日替わりランチと言って無理難題を押し付けられたりもした。

だが、楽しくもあった。

あれほどまでに充実した日々はなかっただろう。

それも全て教官のおかげだった……俺たちが尊敬した教官の……。


しかし現在、彼は俺たちの敵となった。


圧倒的な完全なる敵へ。

だからこう思うのも仕方がないだろう。

俺は、あの人にだけは殺されたくない、と。


「おォい!! 標的の進路が変わった! こっちには来ない!」

452 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/11(金) 23:52:00.32 ID:SiXIWJvKo


突如、同僚の一人が大声を張り上げた。

周囲が何事かとざわめきだす。

これはまずい傾向だ。


「騙されたって訳か…………すまん! 道を開けてくれ!」

「うぉっ! あぶねーな! って兵士さんけぇ……堪忍してくれぇ」


ざわざわ


「くっ……邪魔だ! どけって!」


雑踏の中から、周囲を眺め見ると……同じく同僚の兵士もまた苦戦しているようだった。


453 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/11(金) 23:52:52.21 ID:SiXIWJvKo



灯台への道を走る。

石を幾重にも重ね舗装された道を走る。

民家の合間を走りぬけ、やっとのことで開けた道へ――。


青年「……ぐぅ!」


ずきり


少女「フューリさん?」

青年「だい……じょうぶ、気にしなくていい」

少女「ですが」


「いたぞ!」


青年「……っ、先へ行くんだティノア」

少女「嫌です」

青年「いいから、はやく」


チャキン


青年は少女に先を促し、小剣を引き抜く。


青年(相手は二人、足を痛めてはいるが十分に相手にできるはず)

454 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/11(金) 23:53:16.66 ID:SiXIWJvKo


「……王子、我々は争うことを好みません」

「どうか剣をお納めください」


青年「残念だけれど、それに応えることは出来ない」


「どうしてもですか……」


チャキ


兵士二人も抜刀し、構える。

そして……攻防が始まった。


「はぁああ!」

青年「――速い!」


兵士の大きく踏み込んでの横なぎ。

それを青年はバックステップで何とか避ける。


青年「……はっ!」


次手が来る前にすぐさま体勢を変え、踏み込みつつ頭部を狙い突きを繰り出す。


「――ッ!」


が、紙一重でかわされた。

青年の突きは兵士の頭部擦れ擦れを過ぎ去っていく。

455 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/11(金) 23:54:51.49 ID:SiXIWJvKo

青年「くっ……!」


その隙をてだれの兵士が見逃すわけがなかった。

体と体が密着するほどの近距離、ここで兵士は青年の腹部に膝蹴りを叩き込んだ。


青年「がはッ! うぁ……!」


突然の圧迫、肺に残った空気全てが吐き出され、脳が危険信号を発する。


青年「お、ぁあああああっ!!」


しかし怯んだのも束の間、青年は小剣を握り締めた手を翻し、小剣の柄で兵士の即頭部を強打した。

強烈な衝撃によって、兵士の兜は吹き飛び、強制的に脳がシャッフルされる。


「ぐぁッ!?」

「おおおおおっ!」


一人の兵士がよろめき、もう一人の兵士が斬りかかる。


青年「!?」


大きく振り上げてからの袈裟斬り。

それは吸い込まれるように青年の体へ――。

456 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/11(金) 23:55:22.80 ID:SiXIWJvKo


ガギンッ!


「なっ……」

青年「はっ……はっ……」


だが、その刃は青年の皮膚に触れることはなかった。

青年の左手に握り締められたもの、それが兵士の剣を阻んでいたのだ。


「マインゴーシュ……!」

青年「そう珍しいものではないだろう?」


逆手に持った短剣を盾代わりに、小剣でカウンターを狙う。

守りを固め、敵の隙に付け入る。体格と力に恵まれなかった青年が得意とする戦法であった。


青年「はぁッ!」


短剣を滑らせ剣の根元へ移動、剣を上へと押し上げ――それと同時に、青年は兵士の懐へもぐりこむ。


「うがぁっ……!?」


そして兵士の腹部を小剣で貫いた。

457 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/11(金) 23:55:44.30 ID:SiXIWJvKo


青年「急所は……外した!」


痛みと驚きのあまりに目を見開き吐血する兵士の体に足をかけ

蹴り飛ばすと同時に突き刺さった小剣を引き抜く。

支えを失った兵士の体は背中からドサリと地面に倒れ落ちた。


「く……そ!」

青年「もうやめにしておいたほうがいい、子供だと舐めてかかっていたのなら尚更、ね」

「……命令は絶対です!」


二人は再び剣を交える。


青年「……流石はマグナの教え子か、諦めが悪い!」


458 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/11(金) 23:56:34.44 ID:SiXIWJvKo



目の前で青年が戦っている。

それは自分を逃がすためである。

それもそうだろう。

若干十二歳である少女は見た目も子供であり、身体能力も同年代の子らと何ら大差ない。

つまり戦うには足手まといとなる存在なのだ。


少女「…………」


逃げなければならない、そう思いつつも少女は自身の中にある何かに疑問を持たざるを得ない。

妙に釈然としないこのもやもや。普段より一層と霞かかったこの何か。

どうするべきなのかがわからない。

答えは出ず、少女を守るべく戦う青年の姿を眺めていても何もわからない。


少女「わたしは」

少女「……わたしは」


視線を下に落とす。

以前誰かからか貰った編み上げのブーツ。

その中にしまってあるキッチンナイフ。


少女「わたしも」


459 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/11(金) 23:57:42.43 ID:SiXIWJvKo



青年「はっ……はっ……!」

「ふぅ……ふぅ……!」

「あ、ぁあああああああッ!」


青年「……ッ!」


兵士は剣を構え、突きの姿勢で突進。

しかし、剣はそのまま突き伸ばされることはなく、軌道を変え斜めに斬りあげられる。

一瞬のフェイントに青年は戸惑うも、小剣で器用に受け流し。


「がぁ、ああああぐぁああああ!」


兵士の手の甲へ短剣を突き刺した。


カランッ


痛みのあまりに思わず剣を落とす兵士。

青年はそれだけに止まらず、小剣で兵士の右足を突き刺す。

460 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/11(金) 23:59:43.23 ID:SiXIWJvKo


「あっ、がっ!?」


もう抵抗できぬように、邪魔できぬように、筋肉を分断する。


青年「これで……!」


安堵、荒げた息を何とか静めるために深呼吸。


それが致命となった。


青年「伏兵ッ!?」

「うおおおおあああああ!」


青年の背後を取った三人目が剣を高々と振り上げて飛び掛る。

そして、それは脳髄目掛けて振り下ろされようと――


した、が

一瞬、兵士は宙に静止した。
461 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/12(土) 00:00:24.04 ID:JzEGfihJo

ように見えた。


「あぎ……ぎゃ」


ぷしゅっ


その光景に目を疑う前に

ぬらぬらと、赤々とした温かい液体が青年の頬を掠めて飛び散った。


ぐりっ


兵士の首に突き刺さった、鈍い光を放つ物体。それを持った誰かさんは物体をひねくりまわす。

砂を穿り遊ぶ子供のように。


ぐちゃり、ぐちっ、ぶちちっ


音を立てるたびに血が噴出す。

プチトマトを突き刺したかのように。


暫く、呆然としていた青年はやっとのことで口を開く。


青年「……ティノア?」


呼びかけられた人物は、もう飽きたといわんばかりに既に死体と化したそれを捨てた。

そしてゆっくりと振り返り。


少女「大丈夫ですかフューリさん? にこー?」


頬に一筋の赤が走った

いつもと変わらぬ笑顔がそこにはあった。


462 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/12(土) 00:02:13.01 ID:JzEGfihJo




「はっ、はっ、ほんとに、こっちなんだな!?」

「あぁ! 間違いない!」


標的が進路を変えた。

停泊所から少し離れた灯台へと向かったとのこと。

それだけでも苛立つというのに。と内心愚痴る。


現在、兵士は第二特務隊の騎士と並走している。


金属同士がこすれあう音が耳障りだ。

更に兵士が持っているもの、それは火炎瓶。

高熱に触れるか衝撃を与えるとたちまち爆発しながら燃え広がる優れもの。

気分が優れない理由はこれにもあった。


だがそんなことを言っている場合ではない。

標的を取り逃してしまえば特務の面子は丸つぶれである。

それだけは何とか阻止したいところだ。


暫く走り続けていると、ようやく灯台が見える場所に出た。

463 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/12(土) 00:02:39.51 ID:JzEGfihJo


賢者「追っ手が来ましたぞ! 急げ!」

少女「はい」

青年「すまない、ありがとう」

少女「いえ、にこー」


こともあろうか、標的はいざ出航せんとしていた。


「急げ! 今ならまだ当たる!」


手元にある火炎瓶、数は五個と少々物足りないが。

何故物足りないかというと、同僚が諸事情により紛失したとのこと……。

同僚のケツを拭くなど不本意ではあったが、今どうこう言っても仕方がない。


今すぐここで標的の船を沈めねばならないのだから。

464 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/12(土) 00:03:06.21 ID:JzEGfihJo



漁師「もういいのか?!」

青年「はい、これで全員です」

賢者「頼む」

漁師「おうよ、まかしとけぃ!」


漁師が帆を張り、船を繋ぎとめるロープを……切ろうとしたその時。


ヒュッ――。


物体が風を切る音、一秒遅れて撒き散らされる熱風。


漁師「うおっち」

青年「くっ……!」

少女「ゆれてます、ゆれてますよフューリさん」

賢者「この……まだ邪魔をするか!」


ぐらっ


賢者「ぬっ……!」

465 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/12(土) 00:03:35.12 ID:JzEGfihJo


爆風により大きく揺れる船体。

足場が悪くとても迎撃する態勢にははいれない。


少年「見てらんねーな、見てらんねーよ!」


灯台の影、ひょっこりと現れた小さな人物。


青年「君は……! ここは危ない! すぐに隠れるんだ!」

少年「驚いてんじゃねーよ、驚いたのはこっちだっての」

少年「……こんな大事になってるっつのに、お前は人のことばっか気にして」

少年「ばっかじゃねーのか?」

青年「何をいって……! いいから早く」

少年「うだうだ言ってんじゃねー!」


シュバッ


少年は懐から取り出した折りたたみナイフを広げ、ロープを切る。

そして再び折りたたむと、陸から離れだそうとしている船に放り投げた。


青年「何をして」
466 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/12(土) 00:04:17.91 ID:JzEGfihJo

少年「餞別だ、くれてやるよ! 大事にしろよなー高かったんだから」

青年「そうじゃない!」

少女「…………」

少年「そんじゃ、ちょっくらブチかましたるか」

青年「待て!」


「標的が海へ出た! 沈めろ!」


ヒュッ


「!?」


ドォッ!


徐々に陸から離れていく船を追いかけ、兵士たちは駆ける。

すると、突如足元が破片を撒き散らしながら爆発した。


「なん……だ? どこから!」


少年「あ、わりー手すべっちまった」

「誰だ!」

467 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/12(土) 00:04:50.10 ID:JzEGfihJo


呼びかけに応じて、一人の少年が灯台の影から現れる。

その小さな体躯は朝の光を浴びて、大きな影を生み出す。


少年「お国の兵士サマに名乗る名なんてねーですよっと」

「邪魔をするなよガキ!」

少年「邪魔だなんてそんな、人聞きの悪い」


ヒュッ……ドンッ!


「ぐっ……」

「お前……これをどこで!」

少年「やだなぁ、落し物っすよ。だからこうして返してあげてるんじゃないすか」


隊長「……お前たち、子供一人に何をてこずっている?」

「ッ隊長!」

468 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/12(土) 00:05:23.41 ID:JzEGfihJo


賢者「……ふ、もう出てきたか」

青年「くぅ……! 船を、船を早く戻してください!」

漁師「だがよぉ」

青年「彼が、ぼくの代わりに捕まる道理はない! 助けなくてはならないんだ!」

少女「…………」

賢者「落ち着いてください、陛下」

賢者「ここで俺たちが戻ったとして、小僧はどう思いますかな」


青年「どうって……そんなこと言っている場合ではないだろう?!」

賢者「あれもまた、小僧の答えなのです。陛下とも在ろうお方が、それを無碍にすると?」

青年「しかし……!」

少女「だめです、フューリさん。行ってしまっては」

青年「ティ、ノア?」

少女「今戻ったら、きっと……貴方はいなくなってしまいます」

少女「それは、それだけは……わたし、嫌です?」

青年「…………」

469 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/12(土) 00:05:56.28 ID:JzEGfihJo


少年「はっはー、お手上げお手上げ」

隊長「やけに諦めがはやいな」

少年「大人三人に囲まれて諦めない子供がいるかっての」

少年「でも残念だな? せっかくの任務が子供一人で失敗だ、ざまーみろ」


「このクソガキッ……! 殺す!」


ジャキィ!


激昂した一人の騎士が抜刀。

今にも少年を切り刻もうかという勢いだ。

だが、隊長は手を広げ騎士と少年の間に立ちふさがることで静止させる。


「隊長殿!」

隊長「やめておけ、相手は子供だろう」

「しかし……! ……わかりました」


ぱちぱちぱち

470 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/12(土) 00:06:27.73 ID:JzEGfihJo


貴族「やあやあ、大したお手前だったよ隊長殿」

槍兵「…………」ぺこっ

隊長「……何か御用ですか」

貴族「いやなに、どうやら私はお邪魔だったようなんでねぇ。遠くから見物させてもらっていたんだ」

貴族「その感想を述べに、ねぇ」

隊長「そうですか、ご存知の通り取り逃がしました」

貴族「ふん」

隊長「我々は撤退いたします、本部に戻り報告を……」

貴族「その前に」


貴族「やり残していることがあるじゃないか」

隊長「と、申しますと」


ギロッ


少年「……あ?」
471 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/12(土) 00:07:53.09 ID:JzEGfihJo

貴族「その生意気な小僧」

貴族「任務執行妨害の罪により、この場で処刑する」

少年「ッ……」

隊長「それはなりません! 帝国軍が市民に手をあげるのですか!」

貴族「私には任務の障害になるもの、障害となったものを駆逐しても構わないという特例が認められている」

隊長「だからと言って! こいつはまだ子供です、法の下で裁き更生させるべきです!」


シャキンッ


貴族「退くんだよ」

隊長「退きません」


少年「勝手に話進めんなっつの、おれはこんなとこで死ぬ気なんざさらさらねーぞ?」

隊長「……大丈夫だ。私の後ろにいろ」


貴族「やれやれ……これだから馬鹿は」

隊長「…………」

貴族「もういい、やれ」

472 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/12(土) 00:09:00.44 ID:JzEGfihJo
槍兵「…………はっ」


隊長「っ!?」




ズシュッ


隊長「な……に……?」


隊長は目を丸くする。

ほんの一瞬、視界の片隅で何かが動いたのは見えた。

それに反応することも辛うじてできた。

はずだったのに……。


少年「嘘だろ……?」


少年がぽつりと言葉を漏らす。

眼前にある、大人の大きな背中。逞しく力強い背中。

その背中から突き出た一本の槍。


隊長「ごぽっ」

少年「う……ぐぁ」


槍兵「…………」


ぶしゅっ

……ぽたぽたっ


二人の腹部を同時に貫いた槍が、引き抜かれる。

それに伴い、溢れ出る血が石畳に染みを生み出していった。



473 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/12(土) 00:11:03.57 ID:JzEGfihJo




青年「っ……!」


遠目でもその光景は視認できた。

そしてゆっくりと少年の体が崩れ落ちていくのも。


青年「あ、あぁああああああああああああああああっ!!!!」


船と陸はもう数十メートルほど離れている。

今更戻ったところで助けられるものか。

青年は為すすべもなく、まだ距離を離し続ける船の上で

頭を抱えて叫ぶことしかできなかった。


べきり


共に船縁に立ち、遠くを眺めていた少女のほうから、何かが砕ける音がした。

驚いてそちらに目を向けてみると、船縁が噛み砕かれたように抉り取られており

少女が手にした破片を……碌に助走も付けず放り投げたところだった。


青年「何して……?」

少女「…………」


唖然として少女の顔を見つめる青年。

手元に視線を落として黙りこくる少女。



その顔は、恐ろしいまでに無表情であった。


474 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/12(土) 00:11:39.62 ID:JzEGfihJo



隊長「貴様……ァ」

貴族「はははっ! はーははははあははははっ! どうしたのかなぁ? さっきまでの威勢はぁ!」

貴族「君が悪いんだ、反逆者を匿おう何てするから」

貴族「反逆者の味方をするやつもまた反逆者だ。悪の芽は摘んでおかなくてはいけないからねぇ!」


「無茶苦茶だ……!」

貴族「…………なぁにか、言ったかなぁ?」


ぞくっ


「い、いえっ……!」


貴族「く、くふふっ……ふくっ、くはははっ! あはあはははははッ!!」

貴族「あははははあはははははあはッ! ははははははははははッぐ、あが、ぁあああああああああ?!」


ぶしゅっ


破裂音。

475 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/12(土) 00:12:25.54 ID:JzEGfihJo


貴族「あああああ?! 痛い、痛いぃいいいいいいいいいい?!」


狂ったように笑い続ける貴族が苦悶の表情に変わった。

その顔に突き刺さった木片。

砕かれ、先端が鋭利になった木片が飛来し

貴族の右の眼球に深く、深く突き刺さったのだ。


貴族「あああああああああ!?!?? 目が、僕の目がァァアアアアアアア!?」


顔を抑え辺りをのた打ち回る貴族。


狂いに狂い、乱れに乱れる。

その光景を見ていた騎士と兵士は、ただただ恐怖し続けるしかなかった。


貴族「まだかァアアアア! まだ僕の邪魔をするのかァァァァァァアアアアア!!!!」


476 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/12(土) 00:12:52.17 ID:JzEGfihJo



少年「…………」


獣のような雄たけびが耳障りだ。

貫かれた腹がひどく痛む。

傷口は焼けどするかと思うほど熱いのに

それ真逆に、体はどんどん冷えていく。


貴族「許さない……絶対に、許さないぃぃぃ」


気づけば雄たけびはぴたりと止んでいて。


瞳を閉じる寸前に、悪魔を垣間見た。



477 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/12(土) 00:13:25.98 ID:JzEGfihJo



がちゃっ


女の子「あっ……」


シスター「あら? もう起きていて大丈夫?」

女の子「……は、はい」

シスター「うふふ、どうしたの? もしかしてお兄ちゃんを待っていたの?」

女の子「うぁ……え、えと、はい」

シスター「あの子、すぐふらふら出て行くのね」

女の子「むかしから、ですけど……でも、わたしが辛いときはいつもいっしょにいてくれました」

シスター「いい、お兄ちゃんね」

女の子「はい、口がわるくて、てくせがわるくて、素直じゃないけど」

女の子「わたしの……一番大好きなおにいちゃんです」

シスター「ふふ、あ、そうだわ」

女の子「?」


シスター「今日はちょっと豪華なご飯にしましょう?」

女の子「え、でも……」

シスター「いいの、新しい家族のお祝いに、ね?」

女の子「は……はいっ」


シスター「それじゃあ早速準備はじめちゃおっと」


ぱたぱたぱた

478 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/12(土) 00:14:30.41 ID:JzEGfihJo


女の子「……えへへ、楽しみだなぁ」

女の子「おにいちゃん、はやくかえってこないかなぁ」

女の子「でも……ひみつにしておいたほうがいいかも」

女の子「きっとおどろくだろうなぁ」


女の子「えへへっ」


女の子「今日だけじゃなくて、これからずっとこんな生活がつづくんだよね」

女の子「だったら、はやく病気なおしてー、まずはみんなといっしょにあそびたいなー」

女の子「いままでおいてけぼりにされてた分、おにいちゃんにはいっぱいあそんでもらうんだから」

女の子「えへへ……」


女の子「…………」




女の子「あれ……おかしーな」


女の子「げほっ、げほごほっ!」

女の子「へん、だなぁ」


ぽすん


女の子「はぁっ、はぁっ……ごほっごほっ!」


女の子「どうしちゃった、んだろ……」




女の子「おにい、ちゃん」







仲良し兄妹。
479 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[sage]:2011/11/12(土) 00:14:56.89 ID:JzEGfihJo
お わ り 。
480 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/11/12(土) 00:16:00.77 ID:CMK2ymTSo
おおう・・・
おつおつ
481 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[sage]:2011/11/12(土) 00:17:41.80 ID:JzEGfihJo
あ、あと魔法はファイアーエムブレムから取ってるよ
にしても剣どうしの戦闘は単調で面白くないかも試練……むつかしい
482 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方)[sage]:2011/11/12(土) 16:25:38.82 ID:TS9tKmUQ0
乙。作風が明るくなったかと思ったけどそんなことはなかった
このおわりはスレの終わりじゃないよね…?
483 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東海)[sage]:2011/11/13(日) 01:25:35.29 ID:IvJm2DdAO
油断してたよ、乙
484 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)[sage]:2011/11/25(金) 12:05:11.87 ID:pJW65e/IO
あああ…
485 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/26(土) 00:57:14.75 ID:hVcK93Cbo





男「……ック」

男「また逃したか……」


深い深い森の中、男は忌々しそうに呟いた。


男「まぁ、いい」


傍らに転がるは、無残にも中ほどから折れた長剣。

男が旅を始める前からずっと使い続けていたものだが

此度の戦闘でその役目を終えた。


男「……ここは、どこだろうな」


標的に意固地になっていたせいか、いつのまにか道に迷っていたようだ。


男「この際、どこでも構わない、か」


空を仰ぎ見、ここは木々の葉が天を覆い隠す森の中だと思い出しため息をつく。

ひとしきりつき終わったあと


男「……いこう」


折れた剣の柄だけを拾い立ち上がる。

そしてあてもなく歩みだす――


男「ッ!?」


が、突然バランスを崩す。

踏み出した足が穴を踏み抜いたのだ。

目の前の世界が揺らぐ、木と草だけの視界が傾く。

男が手を伸ばしたときには、すでにその全身は急な傾斜を転がり始めていた……。



486 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/26(土) 00:57:46.57 ID:hVcK93Cbo


外伝――取り残された男。の話

487 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/26(土) 00:58:19.24 ID:hVcK93Cbo




男「……ぐっ」


柔らかい朝の日差しと心地よいシーツの匂いに包まれて目が覚める。

意識を失う寸前の感覚とは大違いだ。

だが、そのときの記憶が夢でないと体の節々に残る痛みが告げる。


男「ここは」


娘「あ、目が覚めた?」


軋む体に鞭をうち、何とかベッドから起き上がろうとしたとき

部屋の扉が元気よく開かれ、少し癖のある栗毛をみつあみにした少女が入ってきた。

入ってくるなり、好奇心旺盛そうな瞳をくりくりと動かして男を見つめる。

そして慌てたように駆け寄ると


娘「ちょ、駄目だよ! まだ安静にしてないとー!」

男「つぅ!」

488 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/26(土) 00:58:58.99 ID:hVcK93Cbo


ぼすんっ!


栗毛の少女は無理やり男をベッドに押し込めた。


娘「ほらほら、怪我人はじっとしてるの!」

男「怪我人にする行為じゃない……」

娘「もう、文句言わないの」


男「……君が助けてくれたのか」

娘「うんっ! といっても、運んだのはお父さんだけどね」

男「そうか、ありがとう」

娘「そんなっ! お礼なんていいよ、あたしが勝手にやったことだし!」

男「……で」


男「ここはどこだ」

娘「うーん、どこって言われてもなぁ」

男「自分の住んでいる場所がわからないのか」

娘「国境沿いの山脈のふもとにある村ってだけしかわかんないや」

娘「あんまり遠くに行ったことないんだー」

男「…………」
489 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/26(土) 00:59:33.43 ID:hVcK93Cbo

娘「ところでお兄さんは? どっから来た人なの?」

男「俺、か……」

男「どこだろうな……」


娘「ん、んんー。もしかして訳あり?」

男「…………」

娘「あっ、言いたく無いならいいよ! ちょっと外から来る人が珍しかっただけだから!」

男「……ありがとう」

娘「と、ところでー。傷はどう? 痛いとこない?」

男「痛いとこしかない」

娘「あははっ、そんな冗談が言えるなら平気ね」

男「…………冗談ではないんだが」


娘「じゃっ! あともうちょっとでご飯できるからね、すこーしだけ待ってて!」


ばたんっ


男「……ふう」

490 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/26(土) 01:00:02.23 ID:hVcK93Cbo


慌しく部屋を飛び出していった少女を横目に

男はゆっくりと体を起し窓の外を見やる。

豊かな森、色とりどりの花。

春真っ盛りな景色とは裏腹に、男の心はひどく荒みきっていた。


男「また、死に損なったな」


491 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/26(土) 01:00:32.40 ID:hVcK93Cbo




カチャッ、カチャッ


男「…………」


静かに食器同士が擦れあう音が響く。


娘「むふー」

男「……なんだ」

娘「ん〜」

男「…………」


明らかに何かを期待しているような顔で少女は男を見つめる。


男(居心地が悪い)

娘「ちらっ」

男「これ、君が作ったのか」

娘「うんっ! そうだよ、おいしい?」

男「………………」

男「……あぁ、うまい」
492 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/26(土) 01:01:26.44 ID:hVcK93Cbo

娘「そっかぁ! おいしいかぁ! よかったー、お父さん以外に食べてくれる人っていないからさー」

男「お父さんと二人暮らしなのか」

娘「うん、それにお父さんって何作ってもおいしいおいしいしか言わないんだもん」

娘「だから、お兄さんがおいしいって言ってくれて、嬉しいな!」

男「………………そうか」

娘「?? どしたの、なんか元気なさそー」

男「別に、そんなことはない」

娘「そーお? ならいいんだけど……」


かちゃん


娘「ん? どしたの」

男「……悪い、あまり食欲がなくて」


男はそういって食器を机の上に置いた。

493 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/26(土) 01:01:57.33 ID:hVcK93Cbo


娘「えぇー、お残しは駄目だよ……もしかして、あんましおいしくなかった?」

男「うまかった、いいお嫁さんになれる」

娘「えへ、えへへ、そう?」

男「あぁ」


ギシッ……


娘「あれ? もう起き上がって大丈夫なの?」

男「あぁ」


短く曖昧に返事をすると、ベッドから降り軽く身なりを整えてから部屋を抜け出した。

一人ぽつりと取り残された少女は、暫く呆然としていたが。


娘「……あんなひどい怪我してたのに、男の人ってタフね」

娘「あっ! 早くお片づけ済ませて、わんちゃんのご飯を用意しないと!」


そんな疑問はどこへやら、いつものようにせっせと食器を片付け始めた。

494 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/11/26(土) 01:02:23.96 ID:hVcK93Cbo
つ づ く 。
495 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/11/26(土) 01:04:44.16 ID:t90vTz+Eo
おつおつ
496 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)[sage]:2011/11/28(月) 00:48:06.26 ID:WNRghc/IO

あれ、男生きてたっけ
497 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区)2011/11/28(月) 21:43:58.91 ID:Suh13ySu0
また別の世界(時間軸?)だって
498 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[sage]:2011/11/29(火) 17:58:52.44 ID:5f523dcHo
えっ?生きてるよな?
あれ?・・・・・あれ?
499 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方)[sage]:2011/11/30(水) 00:17:15.51 ID:LUfVLyyG0
妻と出会った時の話だと思ってた
500 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/12/03(土) 15:32:57.19 ID:5Zvwfuvxo




男「まいったな」

男「……また迷った」


軽く散歩するだけのつもりだったのだが、思ったよりも遠くへ来てしまったようだ。

あまり歩いたわけでは無いのに何故だろうか、と男は一人腕組み悩む。


男「にしても」


悩んでいても仕方がない、気分転換のために軽くストレッチ。

腕を伸ばし足を伸ばし軽く跳躍。


男「……まだ少し痛むが、支障はないな」


男「ん」

木々の隙間から微かに見える建造物。

いや、建造物と言っていいものか甚だ疑問ではあるが。

砕けた石柱、散乱した瓦礫、今にも倒れ落ちそうなそれは。


男「わからんな、何かの遺跡だろうか」

501 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/12/03(土) 15:34:00.99 ID:5Zvwfuvxo



ガササッ


男「…………」

背後から聞こえた物音、一瞬にして空気が張り詰め、ほぐした筋肉が強張るのを感じる。


鬼が出るか、蛇が出るか。


男はなるたけ気取られないように応戦体勢に入る。


ガサッ……ガササッ!


飛び出す巨大な影、振り下ろされるはこれまた巨大な戦斧。

間一髪で避けるも戦斧はそのまま地面を砕き、礫を男へ弾き飛ばした。


男「ぐっ!」

「誰だてめぇ! 俺の森で何してやが――」


「ってお前さんか」

地面を砕いたままの戦斧から手を離し、巨漢は顔に合わない朗らかな笑みを浮かべた。

男は服に付いた砂埃を払い落としながら目の前の巨漢を見やる。

二本の角が着いた兜、数多の傷が刻まれたショルダーアーマー、皮製の腰巻に動きやすそうなブーツ。

一言で言おう、誰がどう見ても不審者だ。

502 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/12/03(土) 15:35:07.27 ID:5Zvwfuvxo


男(と言っても、このご時勢じゃ珍しくも……ないか?)


十分に珍しい。

男「悪いが、俺の知り合いにそんな奇抜な格好をしている奴はいない」

父「覚えてないのも無理ないな、俺の娘には会ったろう」

男「娘……? あぁ」


なるほど、合点がいった。

あの少女とどこか雰囲気が似ている。


男「あの子の父親か……」

父「おうよ」

男「ところで突然切りかかられた件について――」

父「何してたんだ? あんまふらついてると魔物に食われちまうぞ!」
503 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/12/03(土) 15:35:47.06 ID:5Zvwfuvxo

男「…………」


なかったことにされた。

男「少し散歩を」

父「そうか、散歩か。迷子だな」

男「迷子ではない」

父「散歩はいいが、もう起き上がって大丈夫なのか?」

男「…………あぁ」


父「見かけによらず頑丈だな、お前さん」

父「大丈夫とは言ってもここは危険だ、怪我人が来るようなところじゃないぞ」

父「ちょうどいい、俺は今から帰るところだ、ついて来い」

男「あぁ」


男(何はともあれ…………助かった)


504 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/12/03(土) 15:37:12.22 ID:5Zvwfuvxo




父「ところでお前さんは何だってこんなとこに? 旅人か?」

男「わからん」

父「わからんってこたぁないだろう。お国が必死こいて戦争やってるってのにわざわざ死地に近づくかね」

父「もうこの辺りの人間は全員避難してるぞ」

男「知らん、気づけばここにいたんだ」

父「はあん……迷子か」

男「迷子ではない」

父「なんだっていいがな……まだ若いんだ、あんま死に急ぐなよ」


男「…………」

男「あんた等こそ、何だってまだここに住んでいるんだ」

父「俺たち……いや、俺か」

父「ここの村にゃ世話になったんだ、最後まで世話してやりたいんだよ」

男「最後まで世話、ね」

男「あんたらが何をするかは自由だが、自分の子供まで巻き込んでいいのか」
505 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/12/03(土) 15:38:09.40 ID:5Zvwfuvxo

父「あの子には皆と出て行くように言ったさ」

父「だが……どうしても残りたいんだとよ、まったく誰に似たんだか」

男「俺に分かるか」

父「はっはっ! そりゃそうだ!」


父「っと、ここが終点だ。忘れ物はねーかー?」

男「生憎と、無くして困るものは持ってない」


娘「? あ、お父さん! お兄さん!」

父「おう! いま戻ったぞ! 愛しの我が娘よ!」


ぎゅっ!


娘「いた、いたたたたっ! ちょっ、やめてよお父さん! 髭じょりじょり痛いよ!」

506 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/12/03(土) 15:38:52.59 ID:5Zvwfuvxo


ぱっ

父「なんだよ寂しいこと言うなよ……」

男「子離れできない親父は嫌われるぞ」

父「おっ、そりゃ実体験か?」

男「どうだろうな」


娘「……あれれ? もう仲良しになっちゃったの? むーん……」

父「どうした」

娘「いやね、お兄さんってばあたしとは全然お喋りしてくれないのに……お父さんばっかずっこいなぁって」

男「……そんなに話してはないと思うが」


娘「はっ!」


娘「も、もしかしてお兄さんって……! こっちの気があったり?」


男「無い! 断じてだ!」

父「わ、悪いが……俺には心に決めた女性が……」

男「黙れ!」

娘「あははっ、冗談冗談〜怒っちゃやーよ」

男「…………」

507 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/12/03(土) 15:39:24.22 ID:5Zvwfuvxo


父「そういや、あの犬っころはどうした」

娘「うん? わんちゃん? 相当衰弱してたけど、何とかご飯は食べてくれたよ」

娘「でも全身傷だらけで……右耳が千切れてたりも」

男「……」

父「ひどい怪我だったが、命に別状はなくてよかったな」

娘「うん」


男「犬、犬か、その犬、今どこにいる?」

娘「え、えっ? えと、あたしの部屋で寝てるけど」

男「そうか」


ザッザッザッ


娘「えっ? えっ? ちょ、待ってよ!」


父「ふうむ……悪い奴じゃなさそうだが、一波乱ありそうだな」


508 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/12/03(土) 15:40:39.09 ID:5Zvwfuvxo



娘「ね、ねぇ! 一体どうしたの!?」

男「…………」

娘「あっ、こら! だ、駄目だって! あたしの部屋にだけは入らないで! お、お願いだから!」

男「ここか」

娘「うあああ! ち、違う違う! も、もーっ、ほんと駄目だって!」


ガチャッ


少女の制止などに聞く耳持たず、少女の部屋らしき場所へと躊躇いもせず踏み入った。


男「……やはりか」


部屋の中にはベッド、衣装タンス、本棚など手作り感が漂う丈夫な家具が置かれ。

それらの中心に敷かれたカーペット……その上に小汚い黒毛の犬がぐったりとした様子で丸まっていた。


娘「ああああもう……ど、どうしてこういうときに限って散らかってるかなぁ……」

娘「あはは……いつもはちゃんと片付いてるんだよ? ほんとにほんと」


扉の前で佇む男の脇をすり抜け、部屋内へと入った少女は

あちらこちらへと散乱した白い布やら衣装やらを片している真っ最中であった。

ゆえに男の行動に気づかない。

509 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/12/03(土) 15:42:03.06 ID:5Zvwfuvxo


犬「わ、わぅ」


男「…………」

一歩、また一歩と犬へと近寄る。ベルトにさしていた折れた直剣を取り出して。


犬「ぐ、ぐるる……」

娘「どーしたの? わんちゃ……」


男「死ね」





娘「だめッ!!」


がばっ!

折れて尚、その役目を果たそうとしていた直剣。

それをたった今振り下ろさんとしていた男の腕。

少女はそれにしがみ付き、強引に剣を奪い取った。


男「…………」

犬「わぅ……!」


娘「どうして、こんなことするの!?」

510 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/12/03(土) 15:42:56.98 ID:5Zvwfuvxo


男「君は騙されている」

娘「騙してるのはお兄さんよ! この子は何にもしてないわ!」

男「何故言い切れる、何も知らないだろう」

娘「知らないっ! でも、こんなに傷だらけで! 生きたくて、この子は必死に助けを求めてたのよ!」

娘「そんなぼろぼろの体で何も出来るわけ無いじゃない!」

男「助けを求めた……? いいご身分だな、あれだけの人を殺しておいて」

犬「がうぅぅ……!」

娘「ころし……た? わんちゃんが?」

男「あぁ」

娘「そんなこと、出来るわけないじゃない……お兄さん、どうかしてる……」

男「……どう思われようが構わないがな、そいつは危険だ、離れろ」


娘「やだ」

男「聞き分けの悪い子だ」


ふぅ、と嘆息。そして男は弱りきった犬と身構える少女にゆっくりと近づく。


娘「来ないでよ」
511 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/12/03(土) 15:43:37.78 ID:5Zvwfuvxo

男「悪いが、こっちにも事情っていうものがあるんだ」

じりじりと後ろへ擦り寄っていく少女たち。

勿論、森の中にある質素な家屋だ。その中にある部屋の広さなどたかが知れている。

数秒もたたぬうちにあっさりと片隅へと追いやられてしまった。


男「手遅れになる前に……」

娘「来ないでっ!!」


犬「ぐあぅっ!」


ばさっ!

少女が悲痛な叫びをあげたその次の瞬間、怯えていたばかりの犬が駆け出した。

男を避けるようにベッドのうえに飛び移り、その上に散らかされていた物を咥え投げる。

それらは全て狙い済まされたかのように男の顔へ飛び、ほんの僅かの間ではあるが怯ませることができた。


犬「がう!」

娘「う、うんっ!」


犬が扉の前で娘を先導する。

筆舌に尽くし難い強制力に惹かれ、少女は知らずのうちに犬を追いかけていた。


512 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/12/03(土) 15:44:07.46 ID:5Zvwfuvxo



男「…………どうしてこうなるかな」

また取り残される。

そんな焦燥感が沸くが、それ以上に


放っておけばいい。


ただそれだけの単純な言葉も頭の中を支配する。

払われた手を再び差し伸べる気はない。

それも人の自由だからだ、が。


男「ここで見過ごしたら、きっとあいつ……怒るだろうな」


二十数年という短い月日の中で培った大切な記憶。

それが男の、人としての良心を繋ぎとめていた。


男は顔の上に乗ったままの何かを人差し指と親指で掴みあげる。

顔から離してよく見てみると、それは白いショーツであった。


男「…………」


なんだかやるせない気分になる。無言のまま男はショーツを折りたたみ丸めると

ベッドの上に戻し、早足で少女たちの後を追いかけた。


513 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(香川県)[saga]:2011/12/03(土) 15:45:18.30 ID:5Zvwfuvxo
つ づ く 。
514 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(鹿児島県)[sage]:2011/12/03(土) 19:18:01.60 ID:XGtz77t20
おっつおつやぞ
515 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/08(木) 22:00:16.85 ID:xOF5D8Mpo



父「おう、お前さんか」


家を出た直後、顔をしかめた巨漢が慌てたように男へと近寄ってきた。

父「あいつ一体どうしたんだ? お前さんと家に入って行ったかと思うとすぐ飛び出しやがって」

父「忙しない奴だ、誰に似たんだか」

男「その点についてはお前に似たんだろうな」

父「そうかぁ? 俺的には母さん似だと思うんだがなぁ」

男「俺に分かるか」

父「それもそうだな」


父「ってんなこと言ってる場合じゃない!」

男「俺の台詞なんだがな」

男「あの子がどこへ行ったか分かるか?」

父「あ、あぁ、神殿……お前さんと俺が出会った場所の近くなんだが、そっちへ向かって……」

父「おおう、こいつは他人に教えちゃいけねんだっけ……あー、やっぱさっきの無しだ」

男「神殿だな。案内してくれ」

父「な、何のことだ? 俺は何も知らないぞー!」



516 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/08(木) 22:00:47.44 ID:xOF5D8Mpo




男「……娘が殺されてもいいのか」


父「…………そういうことか」

父「やっぱりお前さんは何か知ってるみたいだな」

男「……取引だ」

父「いいだろ、ならお前さんは知りうる限りの情報を」

男「お前は神殿までの道を」


父「これでいいのか? 俺のほうが条件有利みたいだが」

男「構わん、今は時間が惜しい」

男「急ごう」


517 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/08(木) 22:01:27.20 ID:xOF5D8Mpo



父「こっちだ」

男「…………」

父「さて、そろそろ教えてもらおうか」

男「……どこまで気づいている?」

父「あの犬とお前さんから、少し嫌な気配を感じたくらいだな」

男「…………」

父「どちらからも、血の臭いがした。それも一つじゃない」


男「そこまで気づいていれば十分、だが……それなら何故俺たちを助けた?」

父「ちょっとした運命のめぐり合わせって奴なんだろう」

父「助けたのも気まぐれ、あの場所にいたのも気まぐれだ」

男「……ふん、ならもういい」


男「では、奴の件だが」

男「率直に言う、敵の正体は俺にもわからん」

父「なんだと?」

男「初め奴を見たのは半月前だ、あのときは俺も死んだと思った」

男「いや、実際に言えば……あれを奴とは言い切れないな」

父「どういうことだ?」

男「これまでで奴は二回、その姿を変えている」



父「姿を、変えた」

男「そう、初めはオーク共の頭として。次に人として、そして今」

父「犬としてか」

男「…………」


父「自在に姿を変える者……魔物の中には不定形な者もいるが、あまり聞かない話だなぁ」

男「そうか……」

父「だがお前さんは何故気づけた? 姿を変えたそれがそいつだと」

男「……俺が死に掛けていたときだ、そのとき奴は何かと話しをしていた」

男「村人は全員皆殺しにしたと思っていたんだろうな、俺がそこにいるのに気がつかなかった」



518 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/08(木) 22:02:07.44 ID:xOF5D8Mpo




「ここにもありませんでしたよ、まぁ元から目ぼしいものなど無いと分かっていましたがね」

「…………」

「にしても、本当にあるんですかね?」

「……ある」

「結局、手がかりも何もつかめずという訳ですが」

「貴方は何もご存知ないのですか? 村長さん」

「わ、私は何も知らない!」

「おやおや、それは残念です。利用価値がなくなってしまいましたね」


ガシッ


「ぐ、お! な、何を……あがっ! あ、頭がっ!」

「いっ、ぎゃ、が! ぐぁあああああああっ!!!」


ブチッ


「……やれやれ」

「こんな調子で見つかるのですかね? その宝玉とやらは」




519 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/08(木) 22:02:35.11 ID:xOF5D8Mpo





父「なるほどな」

父「つまりお前さんは宝玉ってのを探しているそいつをまた見つけたって訳か」

男「そうなる」

父「ふうむ……」

男「……信じるのか」

父「ん?」

男「こんなこと、にわかには信じがたいだろう」

父「長年生きてりゃお前さんにもわかる」

父「お前さんは嘘つくような目ぇしてねえ」

男「よく、わからない判断基準だな」

父「言ったろ、いつかわかる」


父「にしても……そいつは復讐ってことだろ。俺はあまり好きじゃないな」

男「…………」

父「死んだ奴のことをどうこう言ったって仕方ない。そのことで若者の未来が食いつぶされるのは」

父「誰も願ってはないだろうよ」



男「食いつぶされるつもりはない。それに俺が奴を追っているのは」

男「これ以上死人を増やさないためだ」

520 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/08(木) 22:03:05.91 ID:xOF5D8Mpo


父「そうかい、それならいいんだが」

父「って人事みたいに言ってる場合じゃないな」

男「ちょうどついたみたいだが」

父「あぁ、ここだここ」


二人がたどり着いた場所。

砕けた瓦礫が散乱し、それらにびっしりと植物が根付いている。

さぞかし栄えた文明によって作られたのだろう

相当年季が行っているようだが、遠くで眺めみたより意外としっかりした造りになっている。


男「ここはお前たちにとって大切な場所なんだろう。部外者を招いてもいいのか」

父「今更だなぁ、もう気にしなくてもいい。どうせ大したもんねえから」

男「そうか、なら……っ!?」


立ち尽くす二本の石柱の間を通った瞬間、男は言い表し難い違和感に苛まれた。

この世のものとは思えないほどの違和感。

まさに、突然違う世界に放り込まれたような感触だ。

521 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/08(木) 22:03:35.97 ID:xOF5D8Mpo


男「こ、れは……?」

父「おおう、いい忘れてたな。ここは魔よけの結界が貼ってるそうなんだ」

父「初めての奴は妙になれねえよな。俺も最初は気持ち悪くてしょうがなかった」

男「っく、そ、そう、なのか……」

男(ならば、奴は一体どうやってこの中へ?)


吐き気を堪えながら男は神殿の中へと足を踏み入れた。


男「中は、割としっかりしているようだな」

父「そりゃあ、俺が掃除してるからなぁ!」

男「顔に似合わず……」

父「あぁ? 何か言った――」


かつっ


男「!」

娘「やばっ……」

犬「がうっ!」


父「おいこら! 待てっ!!」

男「追うぞ!」



522 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[sage]:2011/12/08(木) 22:05:00.05 ID:xOF5D8Mpo
つ づ く 。
土日で終わらせたいのう
あーガンダムEXVSたのし
523 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[sage]:2011/12/08(木) 22:08:43.65 ID:41eBQGbSO
乙どん
PS3欲しい…
524 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[sage]:2011/12/08(木) 23:21:08.66 ID:1b0+slZCo


EXVSマジ楽しい
ヅダ強いよヅダ
525 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/11(日) 02:31:08.41 ID:T80BJICno




娘「はっ……はっ……」

犬「わん!」

娘「そ、そっちね!」


少女は犬につられ、天井を支える巨大な柱の後ろに身を潜める。


父「おおい! とりあえず話をしよう! 出てくるんだ!」


娘「……」

犬「くぅん……」

娘「大丈夫よ、あたしがついてる……」

犬「っ!」

娘「どうしたの?」

犬「わ、わぅぅ……」


犬はか細く鳴きながら後ずさる。

まるで何かに怯えるかのように。


男「ここだったか」

娘「!」

娘「な、なに? お兄さん、もしかして」

娘「わんちゃん殺しにきたの?」

526 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/11(日) 02:31:43.13 ID:T80BJICno


男「あぁ」


娘「どうして……どうして。そうやって皆、弱い者いじめするの……?」

娘「何も悪いことする気なんてないのに! 何がいけないのよ!」

娘「ただ、生きていたいだけなのにっ……!」


男「…………」

犬「わう、わうぅ……」

娘「……わんちゃん? どうしたの、どこ行くの」

父「分が悪くなったと思えばさっさと逃げるつもりか」

父「俺の娘を人質に取ったつもりだったのかはしらんが……ここに来て何もされねえなんて思ってないよなぁ?」

犬「……ぐるる」


娘「待って! お父さん!」

男「行くな」

娘「っ! 触らないでよっ!!」


バチッ!


男「!」
527 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/11(日) 02:32:09.64 ID:T80BJICno

娘「あ……あ」

男「なんだ、今のは……」

娘「いや……っ、ご、ごめん、なさ……あっ」

男「おい、どうした」

父「だ、大丈夫か!」

娘「だい……じょうぶ、だ……いじょ」


犬「ぐるる、ぐるるるる!」

男「……!」

男「逃がさん!」

犬「わうっ」


警戒するように少しずつ後退していく犬を視界の隅に捕らえた男は

逃がすまいと退路に立ちふさがった。


男「あれもお前の仕業か……? ならばもう、これ以上生かしておくわけにはいかない」

犬「わ、わう! わぅうう!」


そして再び折れた直剣を取り出す。

それは今度こそ、狙った標的を死へ誘う。

はずだったのだが。

528 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/11(日) 02:33:20.85 ID:T80BJICno


父「おい! しっかりしろ! おい!!!」

娘「あ、や……うあ」


背後から響き渡る悲痛な叫び、少女の言葉が二度、男の手を止めたのだ。

何事かと振り向く、振り向いてしまう。いや、振り向いてしまった。


父「一体、どうし――ッ!?」


振り向いたとき、そこには蹲る少女とその傍らに膝を付き、心配そうに見守る巨漢がいた。

少女から伸びた手が何をしているか知らなければ……振り向いたことを後悔などしなかったろう。


父「――――お、うゲぇ!」


もはや言葉ですらない嗚咽が巨漢の口から吹き零れる。

決して発したわけでない、なぜなら……その入り口は少女の腕で塞がれていたからだった。


娘「…………」


少女は無言で巨漢の口内へ腕を進入させていく。

少女の腕を恐るべき力で掴み、進入を食い止めているであろう巨漢の手をもろともしない。

常人であらば到底不可能な所為であろう。

529 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/11(日) 02:34:20.20 ID:T80BJICno


その手は喉を通過し、食道を通り、既に胸部へ達していた。


巨漢は驚きと途方もない吐き気に薄ら涙を浮かべながらも、少女の腕を掴む力を緩めない。

気づけば男は走り出していた。ほんの数メートルだというのにも関わらず、双方の距離はまったく縮まらない。

犬のことなどもう眼中にはなかった。


そして、ほんの一瞬。巨漢の瞳が大きく揺れ。少女の腕が何かを探しているかのように振れ

止まった。



男「やめろォッ!!」


ブヂッ


ずるりと引き抜かれる、透明な唾液と赤黒と真っ赤な血とが混ざり合った液体が共に流れ出る。

完全に引き抜かれた少女の手に握られているものは、いまだびくびくと痙攣している赤の源。命の源。

掌におさまりきらない大きさのそれは、空気の抜ける風船のように徐々に萎んでいく。


核を抜かれてしまった巨漢は地に伏せ、最後の力を振り絞り口を開く。

父「……た、の……」

それだけの言葉を残すと、ゆっくりと瞳を閉じた。

その瞳には、顔に似合わない涙が滲んでいた。

530 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/11(日) 02:35:09.95 ID:T80BJICno


男「……そうか」

巨漢の言葉を聞き届けると、男は少女を鋭くねめつけた。


娘「…………」

男「とんだ思い違いをしていたみたいだな、俺は」


濡れた腕を振り払い、醜い笑みで表情を歪ませる少女。


娘「まったく……邪魔ばかり、いい加減にして欲しいものですね」


その声は少女のものであった。が、言葉は少女のものではなかった。


男「魔物が人に取り憑くなんてな、こちらこそ前代未聞だ……」

娘「おやおや、やはり気づかれてしまいましたか……騙し続けていられれば簡単に撒けたものを」

男「これで気づかないほど愚かではない」

娘「くくっ……まぁ、いいでしょう。これも運命のめぐり合わせ」

娘「思わぬところで思わぬ逸材が手に入りましたからね」

男「……何を」

531 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/11(日) 02:35:44.58 ID:T80BJICno


娘「気づきませんでしたか? さきほど覚醒したこの娘の力に」

娘「それならばなんとも愚かしい、愚かなことに気づけないのが愚かなのです」

男「お前にだけは言われたくないなッ!」


男は駆け出す、少女との距離は僅か三メートル。

一歩を踏み出し飛び掛る。


娘「それ以上、来るな」


男「――ッ」

一言、たった一言で男の体が宙で止まる。

見えない力に阻まれたあと、男は重力によって落とされる。


男「何……?」

娘「わかりませんか? 何、無理もありません。低俗な者には到底理解できないでしょうね」

娘「いやしかしこれは僥倖。それにこの神殿にこの娘……興味がそそられる!」


男「うるさい、奴だ!」

娘「動くな」

男「ぐぅっ……!?」


娘「くっくっ……はっはっは! 素晴らしい!」

娘「さて、ゆっくりと辺りを調査するとしましょうか……貴方はそこで、寝ていなさい」

男「…………」

532 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/11(日) 02:37:17.49 ID:T80BJICno


男(体が、動かない。指の先すら……)

男(また取り逃がすのか? 今度は、もう取り返しがつかない)

男(それは、それだけはッ!)


男「う、お、ォォォォオオオォォオオッ!!」


目に見えぬ力に抗い、重圧に耐え抜き、男は立ち上がる。


娘「なっ……?」

娘「人間風情に抗えるはずが……!」


犬「ぐるぉおおおおお!」


ドンッ


うろたえる少女、それに追い討ちをかけるかのように、怯えていた黒毛の犬が突進を繰り出す。

その攻撃に怯んだのか、男にかかる重圧が途切れる。


男「動ける……!」

ガシッ

娘「くっ、離せ!」

男「ッ! 離さんッ」


男は少女の肩を引っつかみ、そのまま地面へ押し倒した。

そして腕を足で押さえ口を鷲掴む。

533 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/11(日) 02:38:56.71 ID:T80BJICno


娘「むぐッ……!?」

男「ここで……貴様との因縁を断ち切るッ!!」


振り上げる折れた直剣。少女のか細い首筋を狙って振り下ろす。

その瞬間、少女の体から何かが沸き立つ。偶像のようなそれが溢れ出る。

滲み出る悪意に身を強張らせ、男は喉元に突き刺す寸でで手を止めた。


「やらせはしません……! 貴方ごときにこの私を!」


思念体のような霧のようなそれ。

少女の体を抜けてなお、その声は少女のものであった。

少女の言葉は抜き取られ、声も言葉も魔物のものになってしまったのだ。

黒い濃霧はしばし宙を彷徨い、新たな器を探す。


男「また逃げるか!」


男が叫び、剣を投げつけるのと濃霧が器を見つけたのはほぼ同時。


リス「チチチ」


剣は濃霧をすり抜け、濃霧は何事もなかったかのように器へともぐりこんだ。


リス「ちっ……この程度の器しかありませんが。やむをえません」

男「待てッ――つ、ぅ!」

リス「少々名残惜しいですが……これが手に入っただけでも上出来でしょう」

リス「では、また。ご縁があればお会いしましょう」

534 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/11(日) 02:40:06.39 ID:T80BJICno


男「待て! 待てッ!」


痛みを堪えて立ち上がるも、既にその姿はなかった。


男「……くそ」

犬「ぐるる」

男「………………」


男「おい、おい」

娘「……………………?」

男「起きたか、立てるか」

娘「っ!」


男「安心しろ、もうあの犬を殺す気はない。……その必要がなくなった」

娘「―――」

男「……? どうした」

娘「    」


――言葉が、出ない。

そう、少女の口が動いた気がした。



535 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/11(日) 02:40:43.69 ID:T80BJICno




男「これで、いいか」


巨漢の遺体を何とか運びだし、神殿の近くに墓を立てた。

名前は知らない。遺体を土に埋め、手ごろな瓦礫をせめてもの墓標として突き刺しただけの墓だ。

別になくても困らないだろう。


男「……さて」


どうしたものかとため息。碌な手がかりもなく完全なお手上げ状態になった。

すぐに追えばよかったのだろうが、そういう訳にも行かなかったからだ。

その原因となった人物はずっと泣き続けている。


男「…………」

娘「っ……」


悲しくても何が悲しいのか言葉に出来ず。口から漏れ出すのは呼吸音と嗚咽。

当たり前だ。実の父親を、自分の意思ではないとはいえ自らの手で殺めたのだ。

血が落ちてからも腕を洗い続けていたことから、操られていたにも関わらず感触は残っているようだった。


少々気の毒に感じるも、男には何もできない。

辛うじて何かできそうなのはずっと少女の隣に居座り続けている犬ぐらいだろうか。


男「これ以上ここにいても仕方ない、な」


あの子の父親には、頼むといわれたが。男にはそんな義理も義務もない。

巨漢が扱っていた戦斧を担ぎ、必要最低限の荷物を詰めたバッグを背負う。

536 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/11(日) 02:41:33.77 ID:T80BJICno


男「……ん」


ぎゅっ


いざ旅立たんといったところで、不意に男の裾が何かに引っ張られる。


娘「…………」

振り返ってみると、そこには目を赤く腫らし、唇と固く結んだ少女が立っていた。

何事かと思っていると、どうやら手を出せといっているようだった。

指示通りに手をだす、すると少女は男の手を大事そうに取り


――あなたの、名前を教えて


掌にゆっくりと丁寧に文字を描いていく。

それを読み解いていくと、少女はそう伝えたいらしい。


男「……ウォルタ」


――いい、名前

537 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/11(日) 02:42:41.32 ID:T80BJICno


男「そういえば、君の名前も聞いてなかった」


――リィナ


男「そうか、いい名だな」


男がそういうと、少女は強張った表情を幾分か柔らかくして

ぎこちない笑みを浮かべた。


――あたしも、連れてって


男「……賛同しかねる、が」

男「いいだろう、好きにしろ」


犬「わぅ!」

男「お前も来るのか?」

犬「わんッ!」

男「…………」

男「はぁ、勝手にしろ」


取り残されてなお、痛みを知ってなお、男は繋がりを許した。

これまでにない奇妙で奇抜な繋がりを許した。

そうして始まった新たな旅。


彼等の行く末を知る者は、彼等自身となるだろう。

そして、その最後を知る者は今はまだいない。





外伝――取り残された男。の話  完
538 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[sage]:2011/12/11(日) 02:43:28.70 ID:T80BJICno
お わ り 。
わかり辛かったら質問等おなしゃす
539 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[sage]:2011/12/11(日) 11:49:19.49 ID:aWT4V3C3o
乙乙!
これは何時ごろの話?
540 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[sage]:2011/12/11(日) 20:31:55.25 ID:T80BJICno
>>93から半月後くらいのお話。
時系列的に言うと
母子→外伝=聖職者→兄妹

のつもり
541 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[sage]:2011/12/11(日) 22:45:57.38 ID:7ClljihIO
乙カレーうどん
男も随分と性格変わったなぁ…
542 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[sage]:2011/12/12(月) 01:28:35.54 ID:yfUCM0mlo
>>540
説明ありあり
続き楽しみにしてまっす
543 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/19(月) 00:16:53.96 ID:9b+WbEGko




かちゃっ……しゃきんっ


かちゃっ……しゃきんっ



青年「……」



かちゃっ……しゃきんっ

……スッ


少女「なにを、しているのですか?」

青年「ん……」


かちゃっ……


青年「錆びているなと思ってね」

少女「そうですね」


刃渡り十センチほどの折りたたみナイフ。

船縁に背中を預け、心ここにあらずといった様子で青年はそれを玩ぶ。

そのたびに錆びた刀身が青い海に反射する光を受け、悲しげに輝くのだ。

544 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/19(月) 00:17:36.07 ID:9b+WbEGko


少女「大切なものですから、ちゃんと手入れしなくてはなりませんよ?」

青年「うん、わかっている。彼の……形見だから」

少女「……やっぱり、わかっていません」

青年「ティノア?」

少女「いえ、何でもありません」


ぷいと顔を背けると、少女は青年の蕎麦を離れていった。


青年「…………」

暫く独りになりたい気分であったが、青年はふと寂しさを覚えた。

春とはいえまだ少し冷える。朝の冷たい潮風が、青年の心の隙間を突き抜けていく。


賢者「らしくありませんな」

青年「マグナ」


少女と入れ替わりに賢者が近づいてくる。いつものしかめっ面のまま。

青年「らしくないって、どういうことかな」

賢者「らしくないものはらしくないのです」

賢者「そんなに小僧の死が堪えましたか」

545 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/19(月) 00:18:10.60 ID:9b+WbEGko


青年「人の死を悲しんではいけないかな」

賢者「今更だというのです、これまでも多くの民が犠牲になった」

賢者「乗り越えてきたものに再度躓くなど、愚の骨頂」

賢者「そうは思いませんかな」

青年「…………わかっている」

賢者「……ふーっ」

賢者「それに……陛下のご機嫌がよろしくないと、ティノアが悲しみます」

青年「ティノアが? そうは見えなかったけれど」

賢者「傍から見ればそうでしょうな」

賢者「あいつもあいつなりに思うところがあるのでしょう」

賢者「更に言えば、俺も困ります」

青年「マグナが? なんのジョークだい、それは」

賢者「失礼な。陛下の気分が沈んでおられると……」

546 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/19(月) 00:18:56.60 ID:9b+WbEGko


賢者「誂っていいのやら悪いのやら、いまいち踏ん切りが付かんのです」

青年「…………」

賢者「おっと、どこぞから冷たい視線が」

青年「もういいから、しばらく一人にさせてはくれないか」

賢者「これはこれは、失礼致しました」


わざとらしく、深々とお辞儀をしてその場を立ち去ろうとする賢者。

心底あきれ果てたような顔をしながらも、青年はつい口元がにやけてしまう。

それを悟られまいと水平線へ目を移した。

朝靄がかかったその先に、愛しの故郷がぼんやりと浮かんでいる。


青年「マグナ」

ふっ、と息を吐いてから賢者の名を呼ぶ。

賢者「まだ、何か?」

対し、振り向かずそのまま答える。


青年「ありがとう……でも、君の柄じゃない」

賢者「……俺もそう思います」


短く呟いてから船室へと戻っていく。

青年も見送ることもせず、ただただ水平線を眺めていた。


547 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/19(月) 00:19:41.54 ID:9b+WbEGko



賢者「ぬっ……う、ぐぉぉぉぉっ!」

少女「師匠、お気を確かに」

賢者「っく、よく聞け……」

少女「はい」

賢者「俺は、もう長くはない、だが悲しむことはない」

少女「はい」

賢者「俺が死んでも、第二、第三の俺が……! ぬぅぅぅっ!」

少女「師匠、師匠ー」

賢者「ぬぉぉおおおおおおおえええええぇぇっ!」

賢者「おろろろ」

少女「えんがちょです、師匠」

漁師「ったぁく、何やってんでぇシュラインのガキは」

少女「おじいさん」

漁師「おぅ、気分はどうでぇ、嬢ちゃんよ」

少女「悪くはありません」

漁師「お、いいねぇ、逞しいねぇ。それに比べて……」

漁師「シュラインのガキったら情けねぇったらありゃしねぇ」

賢者「……人には、向き不向きがある」

漁師「船なんて慣れで乗るもんだよ」
548 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/19(月) 00:20:09.19 ID:9b+WbEGko

賢者「ロン爺のようには、いかんのだ、俺はもっとずっと繊細なのだからな」

漁師「っへ、減らず口だけは変わんねぇな」


少女「そういえば、おじいさん」

漁師「なんだ?」

少女「この船は空を飛ぶことはできないのですか? 海も変わりありませんし……」

漁師「空を飛ぶぅ? 夢の見過ぎだぞ嬢ちゃん。まだ絵本を嗜む年頃けぇ?」

少女「…………いえ、絵本は読んだことありません」

漁師「そうか、ほんじゃ誰から聞いた?」

少女「師匠が、言っていました」

漁師「ほおお……」

賢者「な、何だその目は」

漁師「いんやあ、そんなとこも変わってねんだなぁと」

賢者「そ、そんなことより操艦はしなくていいのか」

漁師「っは、立つ瀬がなくなると話をそらすのも変わってねぇ」

賢者「うぐぐ」
549 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/19(月) 00:20:46.79 ID:9b+WbEGko

漁師「お前が吹かせた風のおかげさんでな、順風満帆だ」

賢者「そうか」

漁師「船酔いしながらよくやるよ、ホント」

賢者「もっと褒めてくれても構わんのだぞ?」

漁師「調子のるな。しかしその魔法は勿体ねぇな」

漁師「どうでぇ、ワシの跡継いで漁師になるってなぁ」


賢者「断る。為さねばならんことがあるのでな」

漁師「残念だ、ま、やることなくなったらこい。ワシが死ぬまでなら歓迎するぞい」

賢者「少し気が早いな、ロン爺。することがなくなっても漁師だけは御免だ」

少女「どうして、ですか? かっこいいですよ、漁師」

漁師「おっ、嬢ちゃん流石。わかってるねぇ」

賢者「そんな良い物ではないぞ、ティノアよ。近年では水揚げも減り」

賢者「更には増税のせいで売れるものも売れず、苦しみ喘ぐしかできないのだ」

550 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/19(月) 00:21:24.60 ID:9b+WbEGko


少女「よく、わかりませんが……大変だということはわかりました」

漁師「かーっ! 痛いとこ突くねぇ、それもこれもお国がなんとかしてくれりゃあの」

賢者「尽力はしているだろうがな」

漁師「だといんだがねぇ」


賢者「ぐぅっ……! 吐き気の波が!」

少女「師匠ー」

漁師「……シュラインのガキ、そんなに酔いがひでえなら外行ったらどうでぇ」

賢者「それは出来ん! いい感じに去ったところなのだ……」

漁師「はー、勝手にしろい」

少女「おじいさん、どこへ?」

漁師「この海のまっただ中で行くとこが他にあるかい。風向きを見てくらぁ」

少女「はい、ではいってらっしゃいです」

賢者「おろろろろ」

少女「えんがちょです、師匠」


551 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/19(月) 00:22:35.31 ID:9b+WbEGko



ザッ、ザザァ……


青年「あれは……」


遠目でもわかる。高く聳え立つ、天を貫かんとする雄々しい山。

その名はカンムリ山……そしてカンムリ山に抱かれるように築きあげられた不落の古城。

そこが騎士国家である隣国の首都となっている。


漁師「おっ、見えたねぇ」

青年「あとどれくらいで着くのかな」

漁師「んあー、そうだなぁ。いい風吹かせてもらってっから、昼前にゃ着くかの」

青年「そうか……」


ぐぅぅぅっ


青年が落胆したように俯くと、それに伴いなんとも情けない音が響く。

その音を聞いた漁師は豪快に笑った後、青年に向けて何かを放り投げた。

青年「っと!」

漁師「朝から何も食ってねぇのか? 大したもんじゃないがちったぁ足しにはなるだろうよ」


手につかんだ何かを見やる、見た感じスモークされた肉のようだ。
552 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/19(月) 00:23:13.89 ID:9b+WbEGko


青年「漁師なのに魚ではないのだね」

漁師「おう、魚よか肉のが好きでな」

青年「少し変わっているね……ありがとう」

漁師「はっは」


スモーク肉を口元に運びながら、これからを思う。

果たして騎士王はぼくたちの力になってくれるだろうか。

追われている身とはいえ皇族、そう無碍には出来ないはずだ、が。

その身分すら今は危うく、証明できるものなど何一つない。

着の身着のまま抜け出してきたのだから。


青年「……あ」

漁師「んだ? ってもう食っちまったのかい」

青年「…………」

漁師「そんな目で見たってやらねぇぞ」

青年「……っくぅ、足りない」


考え事で頭を満たすより、空腹を満たすほうが先決のようだった。



553 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/19(月) 00:25:45.37 ID:9b+WbEGko
つ づ く 。
554 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[sage]:2011/12/19(月) 00:47:25.89 ID:sQEQQvEvo
おっつおつ!
555 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[sage]:2011/12/19(月) 00:58:28.28 ID:p7NWz2K+0
世界観が好きなんだな
556 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[sage]:2011/12/19(月) 01:34:12.25 ID:Cnnmf0Mbo

それにしても>>544で「そば」が「蕎麦」になってるのはいったいどうしたんだろう
557 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[sage]:2011/12/19(月) 02:41:15.63 ID:csCTXtyr0
今、追いついた
俺はうどんよりそばの方が良いな、特にとろろそばが好きだ
558 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[sage]:2011/12/19(月) 18:17:39.50 ID:/ORAh+1qo
>>557
この>>1が香川県民と知っての狼藉かッ‼
559 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[sage]:2011/12/19(月) 19:23:51.56 ID:hzUHDbAIO
悪いことはいわん…謝っておけ…!
560 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[sage]:2011/12/19(月) 19:27:26.91 ID:hVZkUbyWo
>>557
さては>>554は貴様の仕業か!
561 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[sage]:2011/12/19(月) 20:32:10.95 ID:sQEQQvEvo
>>560
なぜばれた!?
蕎麦だって饂飩だってうまいじゃあないか!
それのなにがいけない!!
562 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[sage]:2011/12/19(月) 23:23:50.27 ID:Y4THJgTTo
「どんより」を使って 短文をつくりなさい
563 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[sage]:2011/12/20(火) 18:50:26.44 ID:PrddV5i60
うどんよりラーメンが好きだ
>>1
564 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/26(月) 00:42:36.23 ID:Ol+mBfyMo




漁師「うーし、着いたぞー」

賢者「やっと、か……」

少女「お気を確かに、師匠」


一行を乗せた船がたどり着いたのは人里から離れた位置にある砂浜。

理由はどうあれ密入国、堂々と港から入るわけにもいかない。

どうしたものかと悩んでいると、いい場所があると漁師が教えてくれた場所である。

なぜそんな場所を知っているかは彼らには知る由もないが。


青年「ありがとう、助かった」

漁師「おう、きぃつけろよ」

賢者「……本当に、世話になった」

漁師「シュラインのガキが頭下げるたぁ珍しい。こりゃ帰りは大時化だな」

賢者「気をつけて帰ってくれ」

漁師「はっは、心配すんな。何年海に出てると思ってんだ」

少女「おじいさん、もう行ってしまうのですか?」

漁師「おうとも、嬢ちゃん、いい子にするんだぞ」

少女「……はい」

漁師「んじゃあな」

565 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/26(月) 00:43:38.26 ID:Ol+mBfyMo


振り向き際に、手をヒラヒラと振りながら漁師は船に乗り込む。

賢者はそれを見届けると重厚な本を開き、瞳を閉じる。


賢者「勇気、それは風となって彼の者を導く」

賢者「我友に栄光あれ! 疾風、"ウィンド"」


唱え終わる。その直後、周囲に優しくも力強い一陣の風が吹き出した。

それは船の帆を目一杯に膨らまし、ゆっくりと確実に船を送り出していく。


青年「……犯罪者の逃亡を手助けしたんだ。彼もただでは済まないだろうに」

賢者「すべて話さずともロン爺は快く了承してくれました」

賢者「何、心配など無用です。ロン爺ならばうまくやるでしょう」

青年「そう、だといいけれど」

少女「フューリさん……」

青年「……ティノア」

青年「うん、このままここにいても仕方ない」

青年「マグナ、この辺りで一番近い村はどこかわかるかい?」

賢者「ロン爺からここへいけと言われている村があります。昼過ぎには辿りつけるでしょう」

青年「ならばまずはそこへ行こう、お腹が空いて仕方がない」

賢者「ふっ、陛下らしい。そうと決まれば早速出発しましょう」


少女「出発です、おー」


566 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/26(月) 00:44:52.42 ID:Ol+mBfyMo



歩き続けること数刻、人通りの少ない林道を抜け

右手にカンムリ山の先端を見届けながら草原を進んだ先。

草原の端、山脈の麓に作られた小規模の農村。

慣れない船旅でクタクタになりながらも、目的地にようやくたどり着いた。


賢者「おぇぇ……まだ地面が揺れている気が」

青年「だらしがないな、陸に着いたときは元気そうだったじゃないか」

賢者「あれは、別ですぞ。いい場面でしたからな……」

青年「いい格好しいもそこまで行けば呆れ果てる」

賢者「呆れを通り越して格好良く見えるまで行って、欲しかったですな……おろろろ」

少女「えんがちょです、師匠」

青年「あー、見えない。何も見えない聞こえない」

青年「食欲が失せるから吐くのだけはやめてくれないかな」

賢者「それは、無理な相談ですな……しかし」

賢者「陛下も船には乗り慣れていないでしょうに……なぜそうも平気なのですか……うぇっぷ」

少女「師匠の弱点は船なのですか、やはり恐ろしいものなのですね、船というものは」

青年「マグナが軟弱すぎるだけだ。そんなことよりも食事ができる場所を探そう」

賢者「冷たいですなぁ……」

567 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/26(月) 00:45:53.72 ID:Ol+mBfyMo


三人は村の中を進んでいく。

青年はふらつく賢者を支えながら、少女はその二人の側をゆっくりと。

しばらくすると宿屋らしき家屋を見つけた。


青年「ほら、着いたよ」

賢者「かたじけない……」

少女「お邪魔します」


「あ、あんな化物が相手だなんて聞いてねぇぞ! こ、この仕事は無しだ無し!」

「そんな! 契約金は……」

「んなもんいらねぇ! 俺はまだ死にたくねぇ!」


皮の鎧にところどころ金属を張合わせたような拙い防具を身にまとい

戦場から拾ってきたのであろう、騎士団で配給されている直剣をベルトに挿した男が怒鳴っている。

怒っているのではないのだろう、ともかく必死の形相で怒鳴っていた。


「とにかくだ! 俺は降りさせてもらうぜ!」

「お、俺も……」

「俺も御免だな」


宿内をよく見渡してみると、同じような格好をした人が数人いる。

568 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/26(月) 00:46:42.89 ID:Ol+mBfyMo


青年「ほう、仕事……どうやら彼らは傭兵のようだね」

賢者「そのようですな」

少女「傭兵ですか、例の子供を殴るだけでお金が貰えるという」

青年「そこまで酷くはないよ、多分」

少女「そうなのですか?」


「おい邪魔だどけ!」

青年「おっと、これは失礼」

少女「失礼しました」


傭兵たちは青年たちの横を通りすぎ、宿を出ていった。

中には心配そうに事の行く末を見守っていた村人や、怒鳴られていたてっぺん禿頭の男性だけが取り残されている。


「……はぁ、やっぱりダメか」


賢者「陛下、あいつからはかまってちゃんのオーラを感じます」

賢者「絶対に話しかけてはいけませんぞ、我々にはなすべきことが」

青年「うん、わかっている」


青年「失礼、どうかしたのかな?」

賢者「おい」

「おお……見かけない顔ですが、旅の方ですか?」

青年「まあ、そんなところかな」

「それはちょうど良かった! 戦時に旅をしていらっしゃるほどの旅人であれば、きっと……!」

青年「話があまり見えないのだけれど」
569 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/26(月) 00:47:28.05 ID:Ol+mBfyMo

「あ、失礼しました……私、この村の村長を努めさせてもらっています」

賢者「雰囲気がそれっぽい、そうは思わんか」

少女「わたしにはわかりかねます」


村長「実は……」


青年「麓の洞窟に魔物が?」

村長「えぇ、以前は森に住んでいたのですが……」

賢者「ヘタにちょっかいでも出したのだろう」

村長「仕方がなかったのです……森に行ったものが奴らに襲われて……」

村長「数人の傭兵と村の男たちを連れて討伐に出かけたのですが」

青年「返り討ちにあい、更には魔物を逃してしまったと」

村長「はい……お恥ずかしながら」

賢者「聞いたところ相当強力な魔物と見るが、ならなぜ傭兵などに頼る? 騎士団を呼べばいいだろう」

賢者「そのために騎士団は存在しているのだ」

村長「一度、地方の騎士団支部に一報入れたのですが……そんな余力はないとの一点張りで」

青年「ふむ」

少女「騎士団とは何かを守るために存在しているのですね?」

賢者「うむ」

少女「それなのに、ここの人たちを守ろうとはしないのですか? 不思議ですね」

賢者「創設された意義がなんであれ、掲げた理想がなんであれ」

賢者「組織とはいずれ、どこかにほころびが生じるものなのだ」

少女「……そういう、ものなのですか」

570 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/26(月) 00:48:39.65 ID:Ol+mBfyMo


青年「……話は大体理解した」

青年「ぼくらで力になれるかどうかは分らない、が」

青年「できうる限りの助力はしよう」

村長「本当……ですか!?」

賢者「……はぁ」

賢者「まったく、悪い癖ですぞ」

青年「すまない」

少女「……?」


村長「それでは」


ぐぅぅぅっ……


青年「……」

賢者「締まりませんなぁ」

少女「いい音です」

村長「はっはっはっ! これはこれは、まずは腹ごしらえが先でしたな!」

村長「どうぞ、お好きなだけお食べになってください。料金は私が持ちましょう!」

青年「本当かい!?」

村長「えぇ」

青年「それでは遠慮なく!」


青年「すみません、これと……あとこれを……あ、やはりこれも捨てがたい……」


賢者「まったく……これが目当てだったのかもしれんな……呆れる」

少女「……? でもやっぱり」

少女「師匠、少しだけ笑っています」

賢者「……気のせいだ、さぁ、お前も食っておくがいい」

賢者「一仕事始まるぞ」



571 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/26(月) 00:49:37.04 ID:Ol+mBfyMo



村長「は、ははは……それにしても」

村長「本当によく食べますなぁ……」


青年「もぐ……そうかな?」


青年は追加されたメニューもすべて残さずに平らげていく。

しかし、決してがっついているわけではない、飽くまで最上級の礼儀作法をわきまえ

平民にはその動作の意味もわからないほど優雅に平らげていくのだ。


青年「この料理、とても美味しいね」

女将「あはは、ありがと。こんなに気持ちよく綺麗に食ってくれる人なんて珍しいね」

女将「あんた気に入ったよ、最近できた新メニューも試してみるかい?」

青年「新メニュー……! ぜひとも頂こう!」

少女「フューリさん、目が輝いています」

賢者「……なるほど、これはなかなかいける」

賢者「お前は食わんのか?」

少女「わたしは、あまり」

女将「その歳でダイエットでもするつもりかい? あんたはもっと食べてもっとお肉つけなきゃいけないよ!」

女将「ただでさえ細いんだから」

少女「ダイエットだなんて……そんなつもりは」
572 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/26(月) 00:50:00.44 ID:Ol+mBfyMo

青年「そうだよ、食べられるときにしっかりと食べる。これが基本だ」

賢者「後で倒れられても困るのだぞ?」

少女「ですが……」


こそっ


賢者「……しっかりと食べねば、胸も膨らまないぞ」

少女「食べれば、膨らむのですか……?」

賢者「うむ」

少女「でしたら」

青年「待て」

青年「マグナ、また何かよからぬことを教えたのではないだろうね」

賢者「そんな、いくら何でもそれは濡れ衣ですぞ。俺はティノアがちゃんと……」

青年「ならばぼくにも言えるはずだ」


賢者「ま、待ってください。食事中に暴れるなど不作法なのではありませんか?!」

青年「…………」

青年「食事より、こちらのほうが重要だ」

賢者「迷いましたな」

青年「うるさい」

573 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/26(月) 00:50:28.92 ID:Ol+mBfyMo


少女「たくさんご飯を食べると、たくさん胸が膨らむのだそうですよ?」

少女「ということはフューリさんもぼいんぼいんのばいんばいんですね」

青年「やはり……」

賢者「なっ、何がいかんというのですか! しかし、ティノアよ! 膨らむのは女性だけであって……」

賢者「痛い! 痛いですぞ! つむじを押すのは卑怯ではありませんか!? 禿げたらどうしてくれるのです!」

女将「なんだい、あんた。年頃の女の子並には気にしてんだね」

少女「わたしも女将さんぐらいに膨らむでしょうか?」

女将「あっはっは、そうだね。あたしなんか追い越せちゃうんじゃないか?」


「膨らんでんのは胸だけじゃないがなぁー!」

女将「あんたらは黙ってな!」


近くのテーブルを囲んでいた村人が野次を飛ばすも、女将はそれを一言で一蹴する。


女将「そんじゃ、何か食べたいもんはあるかい?」

少女「食べたいもの……ですか?」

女将「なんだっていいんだよ? あたしに作れない料理はないからね」

少女「なんでも、ですか。では」

少女「カレーが食べたい、です」

女将「カレー? あんた随分と男の子っぽい好みしてるんだね」

女将「いいよ、待ってな。作りおきのがあったはずだから今あっためてくるよ」

少女「はい」


574 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/26(月) 00:54:22.35 ID:Ol+mBfyMo


青年「カレー、か。いいね、ぼくも食べたかった」


いつの間にか席に戻っていた青年が、食事を再開しながらそういう。

賢者はなぜか机に突っ伏したままピクリともしない。


少女「おいしい、ですよね。とっても」

青年「うん」

少女はにこーと笑うと、女将が料理を持ってくるまで青年が咀嚼と嚥下を繰り返すのを黙って見ていた。

女将「はいよー、御待ちどおさん」

少女「ありがとうございます」


半分ずつをルゥとライスで仕切られた皿が少女の目の前に置かれた。

立ち上る湯気に伴い、ほどよく効いたスパイスの香りが鼻孔をくすぐる。

食べやすいサイズに切られた野菜も丸みを帯び、少しルゥに溶けたような形になっている。

それをスプーンを使い、慣れない手つきで口元へと運ぶと大きく口を開け


少女「……あむ」


もぐもぐと口を動かす。

女将「どうだい?」

少女「とっても、おいしいです」

お世辞でもなんでもない、心からの感想。


女将「そうかい、それはよかった」

女将もそれを感じ取ったのか、顔の皺を増やして笑った。


575 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/26(月) 00:55:12.66 ID:Ol+mBfyMo




目が覚めた。

まだ少し頭がグラグラする。

ベッドから起き上がりながら、手で頭を鷲掴み調子を確かめる。

昨日も頭部を強くぶつけてしまったのだ。

だが不思議と悪い気分ではない、目覚めもいい。

昼すぎに起きていること以外は割りと健康的だろうと思う。


ふと、自分の手のひらを見てみる。

酷使しすぎた表面の皮は所どころ剥がれ、豆が潰れている部分もある。

だがそれも……自分が生きていることの証明に過ぎなかった。


「本当、不思議だな。まだ生きてるなんて」

「あん時の兵士たちも俺が生きてるって聞いたら驚くかもな」

「って、そりゃないか……俺の顔なんて見てないだろうし」


そう、一度俺は死にかけた。

いや……もう死んだと言ってもいい。

あの時、あの場所で己の使命を成し遂げられなかった時点で

騎士としての俺は死んでいるのだ。

だが生きている。敵の一人に一撃を浴びせた後、幾度の斬撃を喰らっても

なんとか致命傷を避けて今ここにいる。


「俺みたいなのを、死に損ないって言うんだろうなぁ」

576 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/26(月) 00:55:48.06 ID:Ol+mBfyMo


それでもまだ生にすがりついている。騎士としての己も捨てられずにいる。

現に未だ俺を守る防具は騎士の誇り、板金鎧だ。

俺が扱う剣は、盾は、騎士団の紋章が刻まれたモノだ。

何をするでもなくぼーっとそれらを見つめる。


『あんたらは黙ってな!』


ビクッと体が跳ね上がる。

ここに来てから毎日聞く声だ。

それでも突然の大声に体は竦んだまま。


「……っはぁ、女将さんはいつも元気だなぁ」


ため息と共に体の力を抜く。


「そだ、女将さんにもう大丈夫だって言っとかないと」


重い頭に比べ、体は羽のように軽い。

まだいける、俺はまだいける。

今日も一日、頑張って生きよう。



577 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[sage]:2011/12/26(月) 00:58:16.59 ID:Ol+mBfyMo
つ づ く 。
>>544は割とガチでミス。

みんな、メリークリスマス。


うふふ、言ってみただけ。
578 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[sage]:2011/12/26(月) 01:10:14.39 ID:eNKe5DBSO
乙。少女かわいいよ少女

う ど ん
うふふ、茹でてみただけ
579 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[sage]:2011/12/26(月) 09:29:04.47 ID:VWvp0OE4o

うどん県の人間は年越しそばってどうしてるの?年越しうどんなの?
580 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[sage]:2011/12/26(月) 13:33:30.91 ID:pGdnlVD+o
年越しそばは年越しそばだ、
その後にうどんを食べる
581 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[sage]:2011/12/26(月) 16:16:48.89 ID:L1Dpu1oa0
なるほど年越しそばは蕎麦じゃなかったのか
582 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[sage]:2011/12/26(月) 16:57:47.29 ID:E+yOLZiqo
ちげーよ蕎麦もうどんも食うんだよ
うどん県だからってうどん意外否定すると思うなハゲ
583 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[sage]:2011/12/26(月) 23:06:39.24 ID:Ol+mBfyMo
す、すみませんでした……
蕎麦苦手なんで年越しうどんなんです……すみませんすみません
584 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[sage]:2011/12/26(月) 23:39:54.67 ID:ftPwvHuDO
ハゲてねーしっ!
585 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[sage]:2011/12/27(火) 02:13:41.83 ID:qKbt93TSO
>>584
嘘をつけ、それ本当はうどんなんだろ
586 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/30(金) 23:17:44.83 ID:AlBaOCoyo



「って、張り切ったのはいいけどなぁ」


如何せん、鎧を着こむのには時間が掛かる。

起きてすぐのモチベーションなど保っていられるはずもない。

だが、それに反して宿屋一階……(ちなみに俺が貸してもらっている部屋は二階にある)

は賑わいを増しているように感じられる。


「昼間っから宴会、かぁ……?」


ヘルムをかぶっているせいか、音を拾いづらくはなっているが……。

それでも賑やかだと分かるレベルではある。

とりあえず、様子を見に行こう。

俺はフェイスガードを下ろし、部屋を出た。



587 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/30(金) 23:18:37.53 ID:AlBaOCoyo



賢者「はっはっはっはっ! なかなか良い飲みっぷりではないかぁ!」

村長「いやいやぁ、賢者様こそ! ささ、もう一杯!」


「す、すげぇ……あの男、ザルの村長について行ってるぞ……!」

「つか、二人共ペース早すぎんだろ……」


女将「ったく、昼間っから何やってんだかねぇ……」

青年「迷惑をかけるね……」

女将「いんや、まあうちとしちゃありがたい限りなんだけどね?」

青年「それならばよいのだけれど……あ、これおかわり願えるかな?」

女将「あんたもよく食べるねぇ、あいよ、待ってな」


賢者「うむうむ、やはり酒はこうでなくてはいかん! ハゲの癖にやるな!」

村長「何をおっしゃいますか! 若いもんにはまだ負けませんぞ!」


588 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/30(金) 23:19:17.78 ID:AlBaOCoyo


「ものの見事に酔ってるな」

「女将さぁーん! こっちも酒切れちゃったよー!」

女将「ああもう! あんたらまで張り合わなくていいんだよ!」


青年「酒場というのもなかなか大変そうだ」

少女「……うぁ」

青年「ティノア?」


カレーを綺麗に食べ終わり、大人しく席に着いたままだった少女が突如うめき声を上げた。


少女「いえ、何でもあいません」

名前を呼ばれて顔をあげるも、その表情はいつもとなんら変わりない。

青年「そ、そうかい?」

少女「あい」


だが、いつもより瞼が下がり、瞳が濁っている気がする。

それに頬も心なしか朱に染まっている。


青年「もしかして……」

鼻をひくつかせてみる。酒場内を漂う微かな酒の臭い。

青年「ティノアさん? 酔ってたりするのかな?」

少女「酔ってなどいません、わたしはいつもどおいでふよ」

青年「なんということだ……」


この少女は酒の臭いだけでよってしまったのか。


589 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/30(金) 23:19:50.80 ID:AlBaOCoyo


青年「そんな人、初めて見たな」

少女「……? なにを、いっていうでふか」

青年「いいや、気分が優れないのなら外の空気を吸ってくるといい」

少女「あい……」


青年「……?」

気の抜けた返事を返すも、少女が席を立つ気配はない。

青年「どうかしたかい」

少女「ひといじゃ、いやでふ」

青年「……それも、そうか。初めての村だものね」

青年「それではぼくも行くよ」

少女「あい」


女将「おや? どっか行くのかい」

青年「この子が酔ってしまってね。少し散歩に」

女将「そうかい、それじゃあこれどうすんだい?」

青年「う……」


590 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/30(金) 23:20:18.49 ID:AlBaOCoyo


青年「あ、後で食べることにするよ」

女将「はいはい、行ってらっしゃいな」


ガチャッ……バタン


女将「まったく変わった連中だねぇ」

『……そこには俺のことも含まれてますか?』


女将の後ろからガシャリと金属同士がこすれあう音と、若い男の声がした。

しかしその声は兜に阻まれ、くぐもって聞こえるが。


女将「おやまあ、騎士様。もうお怪我は平気なので?」

騎士『誂うのはやめてください、おかげ様でもう平気ですよ』

女将「あんだけの怪我しといて……やっぱ鍛え方が違うんだね」

騎士『体が資本ですから』

女将「ふふ、そうさね。さて、何か食べるかい?」

591 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/30(金) 23:21:15.76 ID:AlBaOCoyo

騎士『……あー、いつものでお願いします』

女将「サンドウィッチかい? 包んでおくよ」

騎士『ありがとうございます』


村長「おお! 騎士殿、お目覚めですか! ささ、騎士殿もいかがですかな?」

騎士『村長さん……昼間から酒ですか』

村長「たまにはよいではないですか! さぁ!」

騎士『すいませんけど、俺、酒は駄目なんで』

村長「まー固いこと言わず、一杯ぐらい」

騎士『騎士は飲酒厳禁なんです』

村長「ははぁ、それなら仕方ないですなぁ」


騎士『……ふぅ』

女将「あはは、上手いこと切り抜けたね」

騎士『大体本当のことです』

賢者「騎士が飲酒厳禁? それはいつの話だ」

騎士『う、お!』

592 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/30(金) 23:21:55.15 ID:AlBaOCoyo

賢者「飲んだら乗るな、乗るなら飲むな! だが、この辺りに馬小屋などないぞ!」

騎士『だ、誰ですかこの人』

女将「ああ、今日新しく来たお客さん。賢者様らしいよ」

賢者「もっとも、お前が聖騎士隊であるならば話は別だが。あの男は生真面目だからな」

賢者「なるほど、そういうことか。お前は聖騎士の端くれというわけか」

賢者「しかしそれならば何とも妙な話だ。なぜこのような場所にいるのか」

騎士『なんでもいいでしょう、貴方には関係ない』

賢者「うむ、そうだな。見ず知らずの俺には関係の無い話だ」

賢者「例えお前が騎士団に見捨てられ、宛もなくさまよい」

賢者「地方の村で以前の栄光を振りかざしているだけの落ちぶれ者であってもな」

騎士『テメッ……!』

賢者「激昂するということは大方当たりというわけだな」

騎士『いい加減に……!』

賢者「おぉ? やるか? ん? やるんだな?」

593 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/30(金) 23:22:52.11 ID:AlBaOCoyo

賢者「しかし俺は魔導を扱う賢者だ、拳は不得手でな」

賢者「その辺り、礼式を重んじる騎士様としては決闘として成り立たんのではないか?」

賢者「いやはやそれでもやるというのなら俺は一向に構わんのだがな」

賢者「さあ殴り合おう今から今すぐ今ここで!」

騎士『言いたいことはそれだけかよ……』

騎士『いいぜ……四の五の言わずにとっととかかってこいよォ!』

賢者「上等だ!」


パァンッ! ガスッ!


賢者「ぬぅ」

騎士『あ、あぶねっ!』

女将「バカやってんじゃないよあんたら」

騎士『いや、だってあっちが』

女将「酔っぱらいの絡みに本気になってんじゃないよまったく」

賢者「そうだぞ」

女将「あんたもだよ。仮にも子供たちを引率してる保護者だろうに」

594 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/30(金) 23:23:12.41 ID:AlBaOCoyo

女将「みっともない真似すんじゃないの」

賢者「ぐ……」

騎士『子供? ですか』

女将「あぁ、この人、十二くらいの女の子と十八の男の子と一緒に旅してるんだよ」

騎士『へぇ……』

賢者「なんだ、なにか言いたいのか」

騎士『いや、その子たちも随分苦労してるんだろうなってよ』

騎士『こんな奴が保護者だって? よく今まで旅を続けてこれたな』

賢者「ふん、言っておくがあいつらは俺以上にしっかりしているのでな。何も心配はいらん」

騎士『あんた……それ自分で言ってて虚しくならないか……?』

賢者「別に、なんとも思わんが」

騎士『そーかい……』


ガチャッ……


女将「おや、おかえり。気分はどうだい?」

少女「もう大丈夫です」

青年「少し散歩したらまたお腹が空いてきたよ」

女将「……そんな体にどうやって詰め込んでんだろうねぇ」

青年「食べられるときに食べておかないとね……ん」


595 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/30(金) 23:23:47.72 ID:AlBaOCoyo


賢者「ぬぅぅ……!」

騎士『ど、どうした!? お、女将さん! こいついきなりしゃがみ込んで……!』

賢者「久しぶりに興奮したせいか……吐きそうだ……」

騎士『おい! やめろッ、こっち来んなッ!』

賢者「ば、馬鹿者、そんな揺らしては……」

騎士『うぉおおおおッ! 近寄んなって!!』


青年「…………」

賢者「お、おぉ、お戻りになっておられましたか」

青年「人様に迷惑を掛けるなとあれほど言ったろう」

ガシッ!

青年は賢者の口を片手で鷲掴み。


賢者「むぐっ! ……ッ!」

バタッ

首筋を手刀で強打し、昏倒させた。


青年「……すまない、連れが迷惑をかけたようだね」

青年「いつもあんな感じなんだ。あとできつく言っておくよ」

騎士『お、おう……』

596 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/30(金) 23:24:38.58 ID:AlBaOCoyo

騎士(すげぇ、しっかりしてるな……俺より年下だってのに)

青年「女将さん、手を洗わせてもらえるかな?」

女将「ん? あぁ、いいよ。行っといで」

青年「ありがとう」


騎士『……で、こいつどうしますか』

女将「しょうがないねぇ……一部屋空いてたからそこへ連れてっておやり」

騎士『えっ……お、俺がですか?』

女将「あんた以外に誰がいんの。女の子に大人を運ばせる気かい」

騎士『……わ、わかりましたよ』


少女「ご迷惑をおかけします」

騎士『あぁ、いや、いいんだ。このくらい……?』

騎士(この……声。どこかで聞き覚えが……)

少女「どうか、しましたか?」

騎士『あんた……もしかして』

騎士『いや、間違いない』

騎士(髪を括り、服装もあの時とは違うが……あの少女だ)

597 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/30(金) 23:25:16.07 ID:AlBaOCoyo

騎士『俺だ、覚えてないか?』


そう言って、騎士はフェイスガードを上げた。

ヘルムの隙間から見ても分かる精悍な顔つき、赤茶色の髪に鳶色の瞳。


少女「あ……お兄、さん?」

騎士「久しぶりだな、元気してたか?」

少女「はい……はい……無事、だったのですね」

騎士「……よかった、嬢ちゃんこそ……よく無事で……」


騎士は少女の頭に手を乗せ、ワシワシと撫でた。

少女は目を細め、ただされるがままにしている。


女将「へぇ、あんたら知り合いだったのかい?」

騎士「まぁそんなところです」

少女「いいえ、お友達ですよ」

少女「ですよね? にこー」

騎士「っ……お、おぅ。そうだな!」

女将「んじゃ、お友達の保護者なんだ。とっとと運んでおくれ」

女将「邪魔で仕方がないよ」

騎士「わ、わかってますって」


青年「ん……どうかしたかい?」

女将「あぁ、あんたも。これ運ぶの手伝っておくれ」

青年「わかった」

598 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/30(金) 23:26:18.51 ID:AlBaOCoyo

青年「すまない、こんなことに付きあわせてしまって」

騎士「気にすんなよ。困ったときはお互い様だぜ」

青年「ふふ、ありがとう」

騎士「おう……じゃ、せーの」

青年「よいしょ」

騎士「うお……見かけどおり重いな」

少女「わたしも手伝います」

青年「ありがとう」

少女「いえ」


青年が両脇を、騎士が足を抱え、少女は腰を支えた。


青年「それで、どこへ運ぶのかな?」

騎士「二階の空き部屋だ」

青年「了解」


599 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]:2011/12/30(金) 23:27:28.08 ID:AlBaOCoyo


三人は段差に気をつけながら二階へ上がり、すぐ手前の部屋の扉を開けると

綺麗に整えられたベッドに賢者の巨体をほうり投げた。


青年「ふぅ」

騎士「お疲れさん」

青年「君もね」

賢者「ぐぉぉぉぉ……」

少女「師匠もお疲れのようです」

騎士「飲んで寝てただけじゃねぇか……」

青年「ふふ、流石のマグナも緊張続きだったからね」

青年「相当疲れが溜まっていたのだろう」

騎士「ふぅん……一緒に旅してたんならあんただって疲れてるだろ」

青年「ぼくはたくさん食べたからね、平気だよ」

少女「…………」

騎士「それならいいけど、じゃ、俺は戻るわ」

青年「うん、ありがとう」

少女「あ……」


騎士「嬢ちゃん、また後で、な?」


少女「はい」

青年「……? 知り合いなのかい?」

少女「はい、約束をした……大切なお友達……です」


600 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[sage]:2011/12/30(金) 23:28:20.25 ID:AlBaOCoyo
つ づ く 。 
あけましたらおめでとう。
601 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[sage]:2011/12/30(金) 23:39:22.45 ID:OHZQ7MsSO
あれ?首飛んでなかったっけ?
乙。あと一日、よいお年を
602 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[sage]:2011/12/31(土) 03:41:11.58 ID:6JGxLp/+o

騎士はまさかのあれか…
603 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/01/09(月) 01:05:01.12 ID:303xO3JEo




ガシャッ……ガシャッ……


女将「あぁ、ご苦労さん」

騎士『いえ』

女将「はいこれ、あとでちゃんと食べとくんだよ」

騎士『ありがとうございます、女将さん』


村長「おや……賢者様はどこへ行ったのかな?」

女将「もう、村長! しっかりしてくださいな」

騎士『村長』

村長「おお、騎士殿。どうかしましたかな」

騎士『アイツら……例の魔物を倒すために雇ったんですか』

村長「……まあ、そうなりますが」

騎士『どうしてですか! 俺が行くと言ったじゃないですか!』

村長「それはいけません! 傷だらけの騎士殿がこの村に来てから一ヶ月……』

村長「騎士殿は幾度も村を魔物共から救ってくれました……!」

村長「これ以上迷惑を掛けるわけにはいかんのです!」

村長「それに怪我だってまだ完全に癒えてはおらんでしょう!」

騎士『怪我なんて平気ですし、迷惑だなんて思ってません! 俺だって村長さんに拾ってもらえなかったらどうなってたか……』

騎士『だから、少しでもみんなの役に立ちたいんです!』


604 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/01/09(月) 01:05:38.97 ID:303xO3JEo


村長「……その程度の借りで命を掛けるなと言っとるのです」

騎士『その程度って!』

女将「もう、やめときな」

騎士『女将さんまで……』

女将「村長の気持ちだってわかるのさ」

女将「あまり無茶いって困らせちゃいけないよ」

騎士『何が無茶なんですか! あんな子供たちに任せるほうが無茶ってなもんです!』

村長「…………」

騎士『……そうですか。そんなに俺が信用なりませんか』

騎士『ならもういいです』


ガシャッ……


村長「ッ! 騎士殿!」

女将「……村長」

村長「私は……なんと……情けない……」



605 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/01/09(月) 01:06:16.36 ID:303xO3JEo



騎士『なにやってんだ……俺は』


騎士は宿の二階へと足を進める。

すると、とある部屋の扉の前で佇む人影に気づいた。


騎士『おう、嬢ちゃん』

少女「あ、お兄さん」

騎士『賢者様とやらの様子はどうだ?』

少女「師匠は寝ています。フューリさんが見ていますから大丈夫です」

騎士『そっか』

少女「はい……それとお兄さん」

騎士『ん?』

少女「人とお話するときは、相手の目を見て話さないといけないのですよ?」

少女「兜を被ったままだなんて、言語道断です。軍法会議モノです」

騎士『ハハハ……ンな言葉どこで覚えたんだよ』

騎士『って、それもそうだよな。このままじゃ嬢ちゃんに失礼だ』


606 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/01/09(月) 01:06:50.77 ID:303xO3JEo


カシャンッ

騎士「……これでどうだ?」

少女「はい、ばっちりです」

騎士「そいつはよかった」

騎士「…………」

少女「…………」

騎士「なぁ、嬢ちゃん」

少女「はい?」

騎士「一つ……相談したいことがあるんだけど」

少女「わたしに、ですか? いいですよ、お兄さんとはたくさんお話する約束でしたから」

騎士「あんがと」

騎士「……世の中にはさ、こんな俺にでも手を差し伸べてくれる人たちがいるんだよ」

騎士「でも、その人たちは困ってる。だけど俺じゃ力になれないって言われる」

騎士「俺、どうすりゃいいんだろうな。やっぱ……俺なんかじゃ駄目なんだろうか」

少女「よくわかりませんが……お兄さんはその人たちを守りたいのですね?」

騎士「あぁ」

少女「それならば簡単ですよ。誇りです」

騎士「誇り……か」

607 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/01/09(月) 01:07:58.26 ID:303xO3JEo

少女「お兄さんが教えてくれたのではありませんか」


少女「自己犠牲の果てに、誰かを守れるならば」

少女「わたしなりの解釈ですが、それが誇りなのでしょう?」


少女「なのでわたし、考えました。誰もお兄さんを助けてはくれなかった時」

少女「もし……わたしがお兄さんを守れていたならば、と」

少女「わたしに力はありません……ですがわたしは守りたかった」

少女「つまりはそういうことなのでしょう? できるできないではなく……」


少女「何がしたいか、何をするべきか、そしてそれを実行する。それこそが騎士の誇りなのではないでしょうか」

騎士「ぷっ……フフ」

少女「……わたし、何かおかしなことを言ったでしょうか?」

騎士「いいや、そんなことない。ありがとう」

騎士「捨てたくないと思いながら、どこかに置き忘れてたみたいだ」

少女「難しい比喩です」

騎士「なに、簡単なことだったんだよ」

少女「そう……ですか? よくわかりませんが、お兄さんが元気になったようでよかったです。にこー」

騎士「ああ!」


608 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/01/09(月) 01:08:57.63 ID:303xO3JEo


ガチャッ……


青年「ティノア、すまないけれど女将さんから水を……」

青年「っと……取り込み中だったかな?」

騎士「いや、ちょうど終わったところだ」

青年「そうかい? それじゃあ」

少女「はい、お水を貰ってくればよいのですね?」

青年「うん、頼むよ」

少女「おまかせください」


騎士「ティノア……って言ったか。それがあの子の名前なのか?」

青年「うん、と言っても……本当の名前ではないのだけれど」

騎士「と言うことは何か? あの子は自分の名前も知らなかったのか」

青年「そのようだ。ティノアという名前もぼくが付けた名前なんだ」

騎士「ふぅん……いい名前じゃないか」

青年「ふふ、ぼくが言うのもなんだけれど、ありがとう」

騎士「……まったく、子供の癖に妙に大人びてるよなあ、あんた」

青年「そ、そうかな? しかし……子供と言っても十八なのだけれど」

騎士「成人の儀も済ませてないだろ? だったら子供さ」

青年「まあ、そういうことにしておこうか……それより」

騎士「?」

青年「聞きたいことがある、彼女の事について」



609 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/01/09(月) 01:10:24.12 ID:303xO3JEo



青年「なるほど。大体の事情は把握した」

騎士「まぁ、俺もあんま話してないんだけどなぁ」

青年「しかし……その砦は国境近く。更には戦地のまっただ中だ」

青年「どうしてそんなところに……」

騎士「……前はさ、帝国とこの国は仲よかったろ? 民間人だって遊びに来たりしてたし、故郷が向こうの国だったりする人もいるわけだ」

騎士「無理に故郷に帰ろうとして戦争に巻き込まれて、そんで騎士に保護される人も珍しくないんだ」

騎士「俺はその類かと思ったんだけどな」

青年「その説はないだろうね……」

騎士「なんでだよ?」

青年「……彼女は、いや」

少女「フューリさん?」

青年「っ!」

少女「どうかしましたか、そんなに驚いて」

青年「い、いや、随分と遅かったね」

少女「はい、女将さんとお話していましたから」

少女「どうぞ、お水です」

青年「うん、ありがとう……」


610 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/01/09(月) 01:10:58.40 ID:303xO3JEo


少女「それでは、お兄さんもどうぞ?」

騎士「俺? いいのか?」

青年「ちょっと酒臭いのと五月蝿いいびきに耐えられるのなら、どうぞ」

少女「積もる話もありますから」

騎士「ハハ……なら、お言葉に甘えるよ」


ガチャッ


騎士「あー、お邪魔しまーす……で、いいかな」

少女「どうぞ、おくつろぎください」

青年「そう言えば君……」

騎士「ラングウェルだ」

青年「ん?」

騎士「俺の名前はラングウェル。ラルって呼んでくれ」

青年「う、うん、わかった。ぼくはフューリだ、改めてよろしく」

騎士「こっちこそ」

少女「わたしはティノアですよ」

騎士「ああ、嬢ちゃんもよろしくな」

少女「はい、ラルさん。にこー」

611 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/01/09(月) 01:11:54.21 ID:303xO3JEo

青年「そういえば、ラルはこの国の騎士、なのだろう?」

青年「城へは戻らないのかい?」

騎士「あー……まー」

青年「ん、すまない。答えづらいのならば無理をしなくても……」

騎士「いや、大丈夫だ」

騎士「……騎士ってーか、騎士だった……んだよな」

少女「だった?」

騎士「嬢ちゃんと会った日……俺たちは負けた」

騎士「味方の援軍は帝国軍の反撃に押され撤退、国境砦は完全に制圧された」

騎士「俺は致命傷を避けたが……動ける状態じゃなかった。だから隠し通路に隠れて様子を伺ってた」

騎士「そんでさ、惨めったらしく逃げ帰って来たんだよ」

騎士「……本当ならこの紋章を身につけることすら許されないんだ」

青年「ふむ……」

青年「ぼくには騎士のしきたりなんて知らないけれど」

青年「戦時には戦える者の重要性が高い。どれほどの策士がいようとも兵がいなければ勝つことなど不可能」

青年「すでに国境砦を落とされているこの国では鍛錬を積んだ兵士は貴重だろう」

青年「命令違反だったり戦犯でもない限り、ね?」

騎士「そりゃー、そうかもしれないが……」

612 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/01/09(月) 01:12:24.78 ID:303xO3JEo


賢者「何も誤魔化すことはない」

賢者「要するにビビっとるのだろう?」

騎士「なっ……!」

青年「やはり起きていたのだね、仕様の無い奴だ」

賢者「大事な砦を落とされて、一人でおめおめと帰るわけにも行かず」

賢者「ここで何日もうじうじしておったのだろう」

騎士「そんな……こと」

賢者「……ま、わからんでもないがな」

騎士「へっ?」

賢者「今更戻った所で……と言った具合か」

賢者「だが、いつまでも逃げていたのでは後で後悔するハメになるぞ?」

騎士「…………」

青年「どうするかは君が決めなければならない」

青年「よおく、考えることだ」


騎士「俺は……、俺だって……」


コンコンッ


少女「はい、どうぞ」

村長「失礼します」

村長「騎士殿……! ここにおられましたか」

騎士「村長さん」

青年「どうかしたかな? と言っても……魔物の事だと思うけれど」

613 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/01/09(月) 01:13:08.04 ID:303xO3JEo

村長「は、はい、その事についてですが……」

青年「詳しいことを聞かせてもらうよ」

村長「……はい、魔物というのは獅子に翼の生えたような奴で」

賢者「獅子に翼……ライガ、と呼ばれる種族がいましたな」

青年「目撃例も極端に低い上に、人を襲うことはないと聞いたことがある」

村長「流石、ご存知でしたか。そのライガが私たちを襲うようになったのは」

村長「騎士殿が村にやってくる半月ほど前でした」

村長「それまでも幾度か村はアンデッドの襲撃にあっており……その時にも騎士団に救援要請をしたのですが」

青年「突っぱねられたと」

村長「はい。それで仕方なく傭兵を雇い、村の男衆で村の防衛に当たっていました」

村長「その数週間後です、突然ライガの群れが森に出没するようになったのは……」

青年「ライガが群れで……あまり聞かない事例だね」

賢者「俺も聞いたことありませんな」


614 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/01/09(月) 01:13:58.49 ID:303xO3JEo


少女「あの、師匠」

賢者「なんだ?」

少女「獅子に翼……と言いますが、獅子とはどういったものなのでしょうか?」

賢者「うむ、獅子というのは百獣の王。といっても昔の話だがな」

賢者「遙か昔、魔物どもがそこまで活発ではなかった時は南の方で幅をきかせていたそうだ」

少女「なるほど……獣の王に翼が生えていると……ということは」

少女「最強ではありませんか……?」

賢者「うむ……一筋縄ではいかぬ相手であろうな」

少女「わたし気になります。ライガというものがどういったものなのか」

賢者「そうだな……気をつけをして両手を上に上げてみろ」

少女「……? こうですか?」

賢者「うむ、手首はこう、前に曲げるのだ」

少女「はい」

賢者「そして背伸びをしながら……"ガオー"と吠えろ!」

少女「がおー」

賢者「それだ! それこそが百獣の王! わかったか?」

少女「よ、よくわかりませんが……」

賢者「まあ百聞は一見に如かずと言う、すぐ分かるだろう」

少女「そういうものなのですか……?」


615 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/01/09(月) 01:14:34.86 ID:303xO3JEo


青年「なるほど……それでしばらくすると次は山の洞窟に……」

村長「はい、傷を癒せばまた出てくるだろうと……、なのでその前に仕留めたいのですが」

青年「しかし敵の根城にわざわざ赴くのは危険すぎる……」

騎士「……」

賢者「何が危険ですか、様子見を繰り返すなど何もしないのと一緒でありましょう」

賢者「先手必勝、我々は先を急ぐ身です。サクっと終わらせましょう」

青年「と言いつつ……ライガと戦うのが楽しみなのだろう?」

賢者「ふっ……それなりに、ですが」

青年「はぁ、なら決まりだね」

青年「明日討伐に向かうことにするよ」

村長「わ、わかりました、それではその旨を皆に伝えておきます」

青年「うん」


村長「それでは、今はゆっくりお休みになってください」

青年「ありがとう」

ガチャッ……バタン


騎士「明日、明日かぁ、随分と急いでるんだな」

青年「冒険者は長くその地に居座り続けないものさ」

騎士「ふぅん、そういうの、結構羨ましいな」

少女「はい、様々な人や景色に出会えます。旅とは素晴らしいものですよ?」

騎士「ハハ、嬢ちゃんがそう言うならそうなんだろうな」


616 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/01/09(月) 01:15:02.17 ID:303xO3JEo


賢者「で、だ」

賢者「ラルよ、お前はどうしたいのだ?」

騎士「えっ?」

賢者「今までこの場所で何もして来なかったという訳ではあるまい」

賢者「行くのか? 行かないのか?」

騎士「……俺は、あんたたちについていきたい」

騎士「いや、この村を守るため、同行させてください! お願いします!」

賢者「人に物を頼むときは頭くらい下げるものだぞ。まぁ、いい」

賢者「どうしますかな?」

青年「君が勝手に話を進めるな。……しかしラル」

青年「もし君が力になってくれるというのなら、とても心強い。是非ぼくたちに力を貸してくれ」

青年「……頼む」

騎士「ほっ、本当か!?」

青年「うん」

騎士「ありがとう……足手まといにだけは、ならない」

賢者「当たり前だ」

少女「では、改めて」

少女「よろしくおねがいします、ラルさん」


騎士「あぁ、よろしく頼む!」



617 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[sage]:2012/01/09(月) 01:15:32.06 ID:303xO3JEo
つ づ く 。
はー、地震こわわ
618 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[sage]:2012/01/09(月) 01:23:56.37 ID:DpTANRXH0
乙。ちょっと揺れたわ
結局首無しになったのは敵だったってことか?
619 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/01/09(月) 01:29:08.65 ID:LiJqqasco
饂飩なしになるよりましだろ
首なしの方が
620 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/01/16(月) 01:08:32.53 ID:oFlU8OLQo



夜もふけ、村人が寝静まった頃。

食事も終えて体も軽く洗い、後は寝るだけの青年は一人村を出歩いていた。

アンデッドが攻め入って来た、あの話が少し気になるのだ。


青年「ラルも怪我をしていたらしいし……」


おそらくは昨日も襲撃があったのだろう。

青年は村を囲う塀を目指して進む、遠目にでも松明の明かりは見て取れる。


青年「……あれは」


誰かいる、青年はそれに気づき暗闇に慣れ始めた目を凝らし、その人物を見つめる。

オレンジ色の明かりを受けて銀の甲冑が鈍い光を反射している。

この村でそんな物を着こむ人物は一人しかいない。


621 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/01/16(月) 01:09:10.55 ID:oFlU8OLQo


青年「お勤めご苦労様」

騎士『……ん、あんたか』

青年「まだ夜は冷えるだろう?」

騎士『慣れてるからさ、平気だ』

騎士『そんなことよりあんたは寝ないのか?』

青年「目が冴えてね」

騎士『あんだけ食えば自然と眠くなるもんじゃないか?』

青年「逆にエネルギーが有り余って寝付けなくなる」

騎士『ハハ、じゃあそのエネルギーを俺とのおしゃべりに消費して貰おうかな』

青年「ふふ、お安い御用だ」


青年は塀にもたれかかるように立ち、騎士は塀の上に腰掛ける。

伐り出した岩を重ね作られた塀は、少し砂埃に塗れていたが二人はそんなこと気にはしなかった。


622 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/01/16(月) 01:09:53.57 ID:oFlU8OLQo


青年「そういえば君は皆と共に食事をしないのだね?」

騎士『ん、ん? まぁーな』

青年「それも騎士のしきたりとやらかい?」

騎士『そんなとこ』

青年「ふむ……騎士というのは妙に堅苦しい」

騎士『そういうもんだよ、礼節を弁え、普段から己に磨きを掛けていくもんなんだ、騎士は』

騎士『俺もそーいうのに憧れた』

青年「ふむ、なるほど理解はできるね」

騎士『でもさ、あんたも妙に堅っ苦しい喋り方するよな』

青年「そ、そうかな……? あまり意識してはいないのだけれど……」

騎士『身の振る舞い方といい……どっかの貴族かなんかか?』

騎士『そういえばどうして旅をしてるのかも聞いてなかったな』

青年「……答えなくてはいけない、かな?」

騎士『あ、や、別に構わないけどさ』

青年「ありがとう」

623 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/01/16(月) 01:10:19.56 ID:oFlU8OLQo


ガサガサッ


青年「…………」

騎士『…………』

青年「何か見えるかい?」

騎士『なんにも、と言いたいけど』

青年「数は?」

騎士『目に見えるだけで四、五。本当はもっといるだろうぜ』

青年「自信のほどは」

騎士『ゾンビ共に引けを取ると思ってんの?』

青年「では行こうか」


その言葉を合図に騎士は塀から飛び降り、青年は飛び越える。

二人の腰から引きぬかれた白刃が月の光を受けて光る。


「ア……アァァァ……」

目的は身の毛もよだつ異臭を発し、腐った肉を骨に貼りつけたような

そんなおぞましい怪物。

人の形に異常発達した長い爪が特徴のグールである。


624 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/01/16(月) 01:10:50.21 ID:oFlU8OLQo


騎士『っらぁ!』


まずは騎士の一撃、渾身の剣撃を一番近くにいたグールへ叩き込む。

ばきりと骨の砕ける音と腐った血を吹き出しながらグールはその場に崩れ落ちた。

青年「やる!」

次に青年、騎士が切り捨てた屍を乗り越え颯爽と前に飛び出す。

凶悪な毒を持つ腕を短剣で切り捨て、小剣をグールのがらん堂になった眼孔へ突き刺した。

そして脳漿を撒き散らしながらよろけるグールの腹を蹴りつけ、勢いと共に小剣を引きぬく。

無駄の無い研ぎ澄まされた一撃であった。


騎士『やるじゃん』

青年「ふふ」

互いは顔を見合わせ笑う。

月明かりが照らすライトの下で、二人がかりの乱舞が始まった。



625 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/01/16(月) 01:11:29.97 ID:oFlU8OLQo



青年「これで!」


青年が振りかざされた腕に小剣を突き刺し、グールの攻撃を止める。

騎士『終わりだ!』

その隙に騎士が懐へ潜り込み、下から斬り上げる。

白刃は弧を描いてグールを捉えると、同時に腐った肉片が宙を舞う。

それらはスローモーションのように落下し、元の肉体と共に地に伏せた。


青年「一段落と言ったところか」

騎士『だな……?』

嫌な予感がした、ねっとりと絡みつくような感触。

騎士はその感触に覚えがあった。


青年「ラル! 後ろッ!」

カラカラカラ

騎士『なッ……!』

乾いた骨が鳴り響く、発生源は騎士の真後ろ。

戦いが終わったと安堵し一息付いた瞬間を狙われたのだ。


626 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/01/16(月) 01:12:39.08 ID:oFlU8OLQo


相手はスケルトン、青年からは騎士を挟んだ向こう側にいる。

魔物はカラカラと笑いながら騎士の剣を持った手に骨刀を振り下ろした。

騎士『ぐァ!?』

骨刀はガィンと小気味良い音を鳴らしてガントレットにヒビを入れる。

その途轍もない衝撃によって、騎士は思わず剣を地面に落とした。

青年「伏せろ!」


言うが早いか、騎士は返事をすることもなくその場に伏せようとし、

青年は伏せるのを待たず小剣を骸骨剣士に向かって投擲する。

投げ放たれた小剣は騎士の数センチ上を通って真っ直ぐに頭骨を貫き、骸骨剣士をのけぞらせた。


騎士『あああっぶねぇな!』

騎士も騎士とていつまでも伏せている訳ではない、屈んだ姿勢から右手を固く握りしめ

骸骨剣士のアバラへと正拳突きを叩きこむ。

渾身の一撃は難なく骨のバリケードを突破し背骨さえも粉砕した。


627 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/01/16(月) 01:13:08.74 ID:oFlU8OLQo


青年「危ないところだったね」

騎士『あんたも危ねぇよ』

言いながら拳を引きぬく、すると支えを失った骸骨はガラガラと崩壊していった。

小剣が突き刺さったままの頭骨だけがその形をなしている。


騎士『ゾッとしねぇな……』

青年「すまないね、それより腕は大丈夫かい?」

騎士『あ、あぁ、大丈夫。気にすんな』


「騎士さーん? 騎士さーん、どこだー」

塀の向こう側から声がする。どうやら見張りの交代みたいだ。


青年「呼んでいるよ」

騎士『お、おう』


二人はそれぞれに剣を拾い鞘に収める。


628 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/01/16(月) 01:14:04.49 ID:oFlU8OLQo


騎士『それじゃあ俺は報告だけして帰るわ』

青年「うん」

騎士『さっきはありがとな、おやすみ』

青年「うん、おやすみ」


門を開けて村へと戻る。

青年は、見張りの交代にきた男性と騎士が話しているのを背中で聞きながら思う。

青年(真面目で人当たりもよく腕も良い……言葉遣いは少々荒いが)

青年(それでも彼が討伐に同行してくれるのは本当に有難い。成功率もあがるだろう)


しかし


青年「もし彼が、ぼくが多くの同胞を葬った帝国の」

青年「ましてや現皇帝の一人息子だと知ったら……どう思うかな?」


消え入りそうな声は、薄い雲が掛かった夜空に吸い込まれていった。



629 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[sage]:2012/01/16(月) 01:15:22.50 ID:oFlU8OLQo
つ づ け 。
短い、進まない、うわああああああ
630 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[sage]:2012/01/16(月) 03:00:19.90 ID:HO/dRtLv0

私は待ってるから大丈夫よ
631 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/01/16(月) 18:53:52.69 ID:xH+2F/cIO
私も待ってるわ
632 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/01/19(木) 03:37:28.82 ID:9on5+vXIO
なにこの展開胸熱すぐる

騎士エピソードはもう最初に完結(?)
してるし、二度めのバッドエンドはないよね?ね?

633 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/01/19(木) 21:27:57.89 ID:c+Oc20ZSO
このSSならやりかねん…

さて、>>1が来るまでうどんでも作って待ってるか
634 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/01/20(金) 01:54:10.81 ID:I1T8zQsy0
この季節にそぐわない話だが
そうめんはうどんに含まれるのだろうか
教えてくれ同胞よ
635 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/01/24(火) 00:47:53.68 ID:k0Fl6hwBo




「まだ寝ているのか……仕方のない、起こしてやれ」

「どう、起こせば良いのでしょうか?」


青年「……くぅ」


「眠っている者を起こすのに最も適した方法を知らんか。それはだな……」

「……そんなことで良いのですか?」

「うむ」

「そうですか、やってみます」


ギシッとベッドが軋む音がする。その直後に青年の体に重しがのしかかる。

青年「うぅ……ん」

「まだ起きませんが?」

「構わん、続けろ」

声が次第に近くなっていく、頬にサラサラとした感触がする。

青年はくすぐったくて身動ぎした。


636 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/01/24(火) 00:48:26.34 ID:k0Fl6hwBo


青年「ん……」

気になって瞼を開いた所までは良かった。


少女「んー」

青年「うぇっ?!」

賢者「クッ! 目が覚めたか……! 構わん、行け! 潰せ! ぶちゅっと!」


次に大きく見開かれた瞳が最初に捉えたもの、長いまつげに伏せられた瞼。

真っ直ぐに近づいてくる少女の、少し尖らせた唇である。

青年「は、早まるな!」

少女「んー……?」


少女は両手を青年の顔の両脇に置いてあるために逃げようがない。

それに加え腹部に腰を下ろされていては身動きすら出来ない。


賢者「そうれ、一気、一気」

助けを求めようとも、遠くで手拍子までしているアレはどう見ても首謀者だ。

青年「やむを得ないっ」

637 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/01/24(火) 00:49:00.80 ID:k0Fl6hwBo

青年は少女の脇に手を当て上に持ち上げる。

そしてそのまま正面から抱き締めた。


少女「うぎゅ」

賢者「っちぃ!」

青年「すまない、苦しかったかい?」

青年は少女を開放しながら謝る。

少女「少しだけ……ですがフューリさんが起きてくれてよかったです」

青年「あれだけされて起きないはずがない……」

青年「しかしティノア、女の子が簡単にキスなんてするものではないよ」

少女「……? ですが師匠は基本の挨拶なのだと」

青年「挨拶で唇同士のキスをするものか、普通は頬にするものだよ」

少女「そう、なのですか……すみません」

青年「いや、君は悪くない。だよね? マグナ」


賢者「はっはっはっうぐぉっ!」


冷や汗をかきながら笑う賢者の鳩尾に、捻りの効いた拳がめり込む。

638 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/01/24(火) 00:49:38.04 ID:k0Fl6hwBo

賢者「おおおぅぇぇ……じ、持病の二日酔いが……」

青年「まったく君という奴は……」


少女「あの……やはり、怒っていますか……?」

青年「そんなことはないよ、気にしないで」

少女「そうですか……? では」


くいっ、と少女は青年の袖を引っ張り、何かを促している。

青年「……? 屈めと?」

少女「……」


こくり


青年「こう、かな?」


少女「…………ん」

青年「なっ!」


希望通りに少女の目線くらいの高さに身をかがめると

青年はそれぞれの頬に暖かな感触と、不快ではないほんのりと湿った感触に驚かされた。

少女は手を青年の左頬にそっと添え、右頬に優しく口付けをしたのだ。


少女「おはようございます、にこー」

青年「ふー……おはよう」


賢者「いやはや、そこまで健全であらせられると、こちらが恥ずかしくなりますなぁ!」


639 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/01/24(火) 00:49:59.50 ID:k0Fl6hwBo


ガチャっ

騎士『朝っぱらから喧しいと思ったら、もう全員起きてたか』

少女「あ、ラルさん。おはようございます」

青年「おはよう」

騎士『おう、みんなおはよう』

賢者「うむうむ、結構結構……おえぇ」

騎士『……その様子だと、また何かやらかしたみたいだな』

賢者「この短期間でそこに気づくか……! やはり天才……ッ!」

騎士『誰でもわかるっつの!』


賢者「こほん、冗談はさておき。今日のことについてだが」

騎士『お、おう。昼には出発することにしようぜ』

賢者「そうではない、周辺の地図などを持っていないか?」

騎士『あぁー村長さんなら持ってるんじゃないか?』

賢者「ふぅ、使えんやつだ……」


640 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/01/24(火) 00:50:30.31 ID:k0Fl6hwBo


騎士『なあ、あいつやけに口悪くないか?』

青年「そういう性格でね。すまないとは思うけれど、同行する以上はどうか堪えて欲しい」

騎士『まー……いいケドさ』

賢者「仕方がない、おいラル。案内するがいい」

騎士『村長さんのとこにか?』

賢者「当たり前だろう」

騎士『逐一癇に障る奴だなぁ、あんた』

賢者「そう思うこと自体が俺の思う壺なのだ」

騎士『……はいはい。そんじゃ俺らは行くけど』

青年「うん、行ってくるといい。僕らは食事の準備をお願いしてこよう」

騎士『おう。あ、俺はサンドウィッチで』

青年「了解した」


ガチャ……


少女「わたしたちはお留守番ですか?」

青年「直ぐに帰ってくるよ。さぁおいで、髪を結ってあげよう」

少女「あ、はい」


ぽすん


641 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/01/24(火) 00:51:01.85 ID:k0Fl6hwBo


青年「そうだね、今日はどんな髪型にしようか?」

少女「おまかせします。わたしはそういったものに疎いもので」

青年「ふふ、知ってる。ううん……」

しゅるっ……

少女「…………」

青年「うん、こんな感じかな?」

少女「これの髪型は一体どのような名前なのですか?」


ぷらんぷらん


青年「ポニーテールというものだよ。リボンがひとつ余ったから僕が預かっておこう」

少女「なるほど、馬の尾というわけですか……。ツインには手数が劣りますが一撃が重いということですね?」

青年「うん、何を言っているかよくわからないよ」

少女「そうですか……残念です」


青年「……さて、では食事を頼みに行こうか」

少女「はい、そうしましょう」



642 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/01/24(火) 00:51:27.32 ID:k0Fl6hwBo



騎士「ふー……」

賢者「只今戻りました」

青年「おかえり」

少女「おかえりなさい」

賢者「村長宅前にまで行って気づきましたが」

賢者「道案内はコヤツに任せればよかったのですな! はっはっはっ!」

ぐりぐり

騎士『…………』

青年「もぐ……、また迷惑をかけたようだね」

青年「すまない。もぐもぐ」

騎士『いや……いい』

少女「師匠がご迷惑をおかけしました」

騎士『あ、あぁ、嬢ちゃんが謝ることじゃねぇよ』

騎士『ていうか髪型変えたんだな?』

少女「はい、気づきましたか? フューリさんが結ってくれたのですよ?」

騎士『へぇ、よかったじゃないか。似合ってるぞ』

少女「ありがとうございます。にこー」


643 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/01/24(火) 00:51:54.10 ID:k0Fl6hwBo


青年「君はまた……何をしたというんだ」

賢者「なんのことやら」

青年「余計なちょっかいを出したのだろう……」

賢者「信用ありませんなぁ……俺がそのようなことをするとお思いで?」

青年「うん」

賢者「即答はやめて頂きたかったですなぁ……」


女将「はいよー、これ賢者様の分ね質素なもんで悪いけど」

賢者「有難い。頂戴する」


テーブルの上にパンと水、それに野菜のスープが並べられた。

青年たちがすでに食しているものと同様のものである。


女将「はい、これあんたにね。いつもどおりのサンドウィッチ」

騎士『ありがとうございます、女将さん』

騎士『それじゃ俺、支度してくるな』

青年「うん、分かった。また後で」

騎士『あぁ』


644 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/01/24(火) 00:52:20.31 ID:k0Fl6hwBo


青年「それで、出かけたはいいが地図は必要ないと考えなおし、そのまま戻ってきたと言うわけかな」

賢者「そういうことになりますな……ふむ、このスープはなかなかいける」

青年「違うだろう?」

賢者「違うも何も……標的の住処まで辿りつけないなど、笑い話にもなりません」

青年「焦れるな。彼に何か聞きたいことがあったのだろう? だからこそ僕は二人でいかせたのだけど」

賢者「はっはっは、お気遣い感謝しますぞ。それでは少し……」


賢者「あ奴の騎士道はちょいとばかり古臭い。この特徴を持つ部隊といえば……」

賢者「聖騎士隊ぐらいしか思い浮かびませんな」

賢者「まあ俺は否定はしませんが。だが奴の鎧、盾、剣には家紋が刻まれていない」

青年「家紋? それが無ければ何故不思議に思う」

賢者「そもそも聖騎士隊とはエリート集団。勿論、技量だけでなく家柄もある程度必要となります」

賢者「という訳で無紋の騎士など異例中の異例。その点を問い詰めてみたわけです」


645 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/01/24(火) 00:52:58.11 ID:k0Fl6hwBo


少女「なるほど、わかりません」

青年「それで? どうだったんだい?」

賢者「聖騎士隊には違いないようです。が……家のことに付いては聞き出せませんでしたな」

青年「ほう……だがマグナ。人の知られたくない過去を無理に掘り出すな」

賢者「承知しておりますとも」

青年「不安だな……」


女将「ほら、あんたら。いつまでもくっちゃべってないで早く食っとくれ」

女将「洗い物が終わらないでしょ」

青年「す、すまない」

賢者「うむ」

少女「は、はい」


646 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/01/24(火) 00:55:40.06 ID:k0Fl6hwBo
つ づ く 。
俺はカレーが好きだ、つまりカレーうどんが至高というわけになるが
他の麺類にカレーをかけようとは思わない。ゆえにうどんが最強
素麺などと一緒くたに考えるなど言語道断。まったくもって愚問である

遅れてすいませんした
647 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/01/24(火) 01:02:21.52 ID:QVsEzLpmo
おつおつ
648 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/01/24(火) 02:08:47.75 ID:VL2HUfWIO
カレーラーメンは割とマジで美味い
649 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[sage]:2012/01/24(火) 02:16:44.90 ID:2Jj+tH1u0


>>648
うどん県に生まれなくてよかったな
650 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/01/24(火) 23:49:59.70 ID:0jeFeazIo
俺は炒飯が好き
651 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]:2012/01/26(木) 22:46:27.93 ID:pZiIgxp9o
二週間後>>650は全身の穴という穴からうどんが出た状態で発見される
652 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[sage]:2012/01/28(土) 20:54:23.36 ID:itTkvgcUo
うはwwwwwwwwACV楽しすwwwwwwww

はい、全然書けてません
暫くしたら狂ったように書き出します
653 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2012/01/28(土) 21:45:35.91 ID:pr1YQ1bfo
待ってるぜ〜
654 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/01/29(日) 02:55:47.50 ID:5Gw3RZuIO
書いてるのはファンタジーなのに
やるゲームはロボットもんばっかだな
655 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/02/06(月) 20:04:05.28 ID:y1qHHhNIO
蠕縺、
656 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)[sage]:2012/02/06(月) 20:16:03.48 ID:UwbpM+PAO
うどんは苦手だがこのSSは好きだ
657 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/09(木) 01:29:31.96 ID:HHIoG0lOo



女将「それじゃ、気をつけて行ってきなよ」

青年「うん、ありがとう」


女将「それと……騎士さん」

騎士『…………はい』

女将「村長さんが騎士さんが討伐に参加することを渋ってた理由、わかるかい?」

騎士『わからないですよ』

女将「こんなこと言うのもなんだけどさ、村長さんの息子、騎士目指して旅立ったはいいけど」

女将「見習いのうちに魔物に……ね」

騎士『…………』

女将「要するに重ねちゃってんのさ、騎士さんと息子を」

騎士『そんなの……』

女将「そりゃそうさ、勝手だって思う」

女将「でも……あんたに無事でいて欲しいって気持ちは、忘れないで上げてほしいのさ」

女将「あたしも、少しの間だけでもあんたが自分の子みたいで嬉しかったよ」

騎士『女将さん……俺』

女将「さ、行っといで。……これが終わったらあんたも行っちまうんだろう?」

騎士『はい……ありがとうございました』


658 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/09(木) 01:30:42.36 ID:HHIoG0lOo


村長「ではお嬢さんはここでお預かりしましょう」

賢者「うむ、そうしてくれると助か」

少女「嫌です」

賢者「……どうした」

少女「わたしも皆さんと一緒に行きます」

村長「しかしね、お嬢さん。遊びじゃないんですよ」

少女「重々承知です。ですが」


青年「この子は連れていくよ」

村長「な、何を馬鹿な……」

青年「これは彼女の意志であり、僕の希望でもある」

少女「フューリさん……」

青年「構わないだろう? マグナ、ラル」

賢者「そう仰るのであれば止めはしません」

騎士『お、俺? まあ、反対したいけど……』

少女「…………」

騎士『嬢ちゃんが行きたいっていうんなら、いいんじゃないか?』

少女「ありがとうございます」

659 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/09(木) 01:31:25.87 ID:HHIoG0lOo

青年「と、言うわけだ。何、貴方が気にすることではないよ」

村長「そんな! 私とて子供をむざむざ危険に仕向けるつもりなどは……!」

騎士『心配しないでください、しっかり俺が守りますよ』

騎士『なぁに、それくらい朝飯前です。俺の実力は村長さんも知ってるでしょう』

村長「それは……そうですが」

賢者「ならばもういいな?」

賢者「ただでさえ俺たちは先を急ぐ身なのだ。これ以上外野からとやかく言われると癪に触る」

村長「…………」

青年「それは言い過ぎだ、マグナ」

青年「しかし村長さん。どうか僕達を信じて欲しい。無理にとは言わないが」

青年「この村は僕が救って見せる。そして僕たちの帰還を信じてくれればいい」

女将「村長さん、みんな村長さんを気遣ってくれてるんだよ」

村長「…………一人は絶対に違うと思いますが」


660 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/09(木) 01:31:59.47 ID:HHIoG0lOo


「なーに、村長さん! その賢者様に任せれば大丈夫ですって!」

「そっちの兄ちゃんも相当やる口だぜ?」

「若い衆に任せるのもなんじゃが……わしらには信じることしかできんじゃろうて」


村長「わかり、ました」

青年「…………」

村長「ですが……全てが終わったら」

村長「必ずこの村に戻ってきてください。最高のおもてなしをします」

青年「本当かい!?……こほん」

青年「それでは、行ってくるよ」

村長「はい……」

少女「いってきます」

女将「あいよ、いってらっしゃいな」


村に来るときに比べ、一人増えた一行は山の麓にあるという魔物が巣食う洞窟へと向かう。

それぞれの思いを胸に秘め……。



661 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/09(木) 01:32:42.69 ID:HHIoG0lOo



騎士『よ……っと、あ、そこぬかるんでるから気を付けろよ』

少女「はい」

少女は騎士に手を引かれながら、湿地帯を歩く。

青年「ふぅ、ほかに道はなかったのかい?」

騎士『悪いな、ここ以外を通るとなると森を迂回しなくちゃいけないからさ』

青年「ふふ、構わないよ。聞いてみただけだ」

賢者「森ぐらい突っ切ればいいだろう」

騎士『どっちみち辛い道だしさ、短時間で着くほうがいいだろ。な? 嬢ちゃん』

少女「はい、わたしは平気です。先を急ぎましょう」

青年「しかし君はその完全装備で疲れないのかい」

青年「だとしたら、なかなかおかしな奴だ」

騎士『ハハ、慣れてるからな』

青年「慣れでどうこうなるレベルではないよ……」

賢者「坊ちゃんももう少し体力を付けねばなりませんなぁ」

青年「うるさいな」


662 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/09(木) 01:33:10.60 ID:HHIoG0lOo


騎士『おっ……もう少しで抜けるぞ』

青年「……ようやくか」

賢者「では、まずは作戦会議と行くか」

騎士『何か考えてるのか?』

賢者「どうなのです」

青年「ぼ、ぼくかい?」

賢者「……はぁ、何も考えていないわけですな」

青年「うるさいな! 君こそ何か策はあるのかい?」

賢者「勿論でございますとも」

少女「流石師匠です」

騎士『で?』

賢者「殴って黙らせる」

青年「……よし! みんな、後少しだ。気合を入れていこう」

騎士『あぁ!』

少女「はい」


賢者「ま、待ってください! まだあります、ありますとも!」

青年「…………」

賢者「最終兵器、所謂この俺! これで完璧でしょう!」


少女「流石です、師匠」

青年「ところで君はライガを見たことがあるのかい?」

騎士『あー、ちらっとだけどなぁ』


賢者「な、何が不服だと言うのです! おい、ティノアまで! 待てと!」

賢者「やばい! 泥濘に足を取られた! おいあの! 助け……!」


663 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/09(木) 01:33:40.92 ID:HHIoG0lOo


青年「ようやく抜けたね」

騎士『おう……あれだ』

少女「思ったより、大きな洞窟ですね」

騎士『そりゃあ、魔物が群れで住み込んでるからな」

賢者「ふぅ、ここか」

騎士『うおっ!? あ、あんたいつの間に……』

青年「気にすると負ける、とりあえず中に入ろうじゃないか」


そこは洞窟といった暗くてジメジメとしたイメージとは少し違った。

暗いには暗いが、洞窟と言うより巨大な巣と言った方がいいだろう。横幅も縦幅も随分と広い。

そして地層のせいか赤褐色の岩が多く目立つ。


騎士『道案内は引き受けたけどさぁ……』

騎士『どうして俺が先頭なわけ?』

賢者「お前は聖騎士の端くれだろう、俺たちを守ってみせろ」

青年「狭い洞窟には少し嫌な思い出があってね」

少女「わたしが変わりましょうか……?」

騎士『いやまあ……あんたたちはいいんだけどさ』


664 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/09(木) 01:34:08.40 ID:HHIoG0lOo


騎士『あのオッサンがすげー腹立つ』

賢者「はっはっは、さあ気合を入れていかんか!」

騎士『兜の性で視界が悪いってのに……』

賢者「なあにすぐ慣れる! 根性が足りんのだ!」

騎士『あーもううるせっての!!』


少女「……何か、来ますよ?」

ザリッ……

騎士『なにがだ』

青年「しぃっ……!」

賢者「ライガか」

青年「こっちだ、早く」


青年が手招く方へと移動する。

土砂や岩が転がっており、四人分の体を隠すには十分過ぎるほどのスペースがそこにはあった。


665 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/09(木) 01:34:42.46 ID:HHIoG0lOo


騎士『…………うぉ』

騎士は岩陰からチラリと見えた獰猛な姿に思わず驚きの声をあげた。

一度見たことがあるからと言って、至近距離でしかも見つかる寸前だったのだ。

馬ほどの体躯に鷹のような翼の生えた獅子、その迫力に驚いてしまうのも無理はない。


青年「ニ体か……しかしあれほどとは」

賢者「……ふむ、だがあれはまだ子供、群れの長たる個体が奥にいるはず」

賢者「なるほどこれは戦いがいがある……!」

青年「待たないか、勘付かれると囲まれる」

賢者「何を細かいことを……」


少女「外に出るようですよ?」

騎士『……助かったな、見つかったわけじゃなかったのか』

青年「今のうちだ、無闇な戦闘は避けてリーダーを潰そう。そうすれば少しは落ち着くだろう」

騎士『それがいいな』

ライガが走り去った後、辺りを警戒しながら再び奥へと進む。


賢者「やれやれ……若いうちは保身に走らず、もっとこう……ん」

少女「どうかしましたか?」

666 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/09(木) 01:35:03.17 ID:HHIoG0lOo

軽い上り坂を進んだ先は、これまでよりも更に大きく広がった空洞に繋がっていた。

先頭の騎士は慎重に辺りを見渡しながら空洞へと足を進める。


騎士『はー、こんな空洞あるなんて聞いてねえけどなー』

青年「あの魔物が掘ったと? 器用なことをする……」


パラッ……

青年「これだけ巨大な穴だと、どこかが崩れてきてもおかしくはないのだけれど……」

騎士『不吉なこというなって……』


賢者「馬鹿……者!」

騎士『へっ?』

賢者「ッ!」


騎士が危険がないと判断した途端、後ろから声を張り上げながら賢者が飛びかかってくる。

どうしたのかと問う間も無く騎士は前へ蹴り飛ばされた。

騎士『ってーな! なんだよまた……』

青年「マグナッ!」


地面にぶつけたのか、頭を抑えながら半身を起こす騎士。

文句の一つでも言ってやろうかと正面を見据え、そして絶句した。


667 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/09(木) 01:35:33.51 ID:HHIoG0lOo


「グルォォォォオ……」

さきほどのよりも一回り大きなライガが、獰猛な牙を覗かせ賢者に襲いかかっているのだ。

鋭利な爪が、防御のために振り上げた賢者の右腕に深々と突き刺さっている。

賢者「ぐぅ……!」

青年「天井に張り付いていたか!」


すらっ、と青年は小剣と短剣を引きぬき、ライガを退けようと駆けだす。

が、しかし。

少年「フューリさん、右から来ます」

青年「なっ!」

「ガァァォオ!」

賢者と青年の間に割って入るはもう一体のライガ。

猛スピードで突進を仕掛けている最中であった。

それを青年はどうにか横っ飛びで回避する。

青年「クッ……」

賢者「陛、下……! う、ぉおおおおおッ!」

「グァァアッ」

賢者「魔導書、第四項! 遊びはもう終わりだ、良い子はそこでおねんねしていろ!」

賢者「凍えて眠れ、"ブリザ―"!」


668 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/09(木) 01:36:01.79 ID:HHIoG0lOo


ライガの腕を無理やり押し上げ、その鼻っ柱に拳を叩きこむ。

そして怯んだ隙に呪文を唱える。

すると賢者を中心に凄まじい冷気が発生し、またたく間にライガの足を凍結させた。


青年「出来した!」

よく見ると地をはうように伸びた氷は、青年と対面したライガの足をもその場に縛り付けている。

青年はその隙に、短剣を使ってライガの右目を切り裂いた。


「ガウァッ!?」


賢者「これでしばらくは……動けまい……ッ!?」

青年「まだいたか!」

「グルォ!」


ガギンッ!


確かに賢者へと向かって跳びかかったはずのライガ。

しかしその巨体は鋼鉄の盾を構えた騎士によって、行く手を阻まれていた。


賢者「ラル……貴様」

騎士『畜生! 畜生ッ! 舐めんなよ畜生がァ!!』


騎士の何倍もの質量を持ったライガが押し潰そうと全力をかけるが

盾を構えた騎士はビクともしない、しかしギシギシと鎧が軋む音からして相当の力が加わっていることが分かる。

ヒビの入ったガントレットは今にも砕け散りそうだ。

669 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/09(木) 01:36:49.97 ID:HHIoG0lOo


「グゴォオオオ……!」

力で押し勝てないと察したのか、ライガは前足を振り上げ騎士の体を吹き飛ばそうと構える。

青年「不味いぞラル!」

咄嗟に青年が駆け出すも、それには間に合わなかった。

騎士が助からなかったのではない。青年が間に合わなかっただけだ。


騎士『クソッ……!』


少女「不注意とは危ないですね、危険ですよ」

青年よりも速く、宙に飛んだ少女は

身を翻しながら一閃する。

手に持ったものが何かなど捉えることも出来ない。


少女が軽やかに着地し、ふわりと舞い上がった裾と一房の髪が揺れ戻るのを待って


凶悪な爪を携えた前足は、その肉を分厚い毛皮ごと切り裂かれた。

鮮血が飛び散る。


「グギャォォオオオオオッ!?」


騎士『嬢ちゃん……?』

少女「大丈夫ですか? 立てますか? 立てますね?」

騎士『あ、あぁ……ありがとう』


670 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/09(木) 01:37:20.35 ID:HHIoG0lOo


「ガウッ!」

前足から血を流したライガが短く吠えると

ほかのライガたちは氷を割り、一目散に逃げ出した。


賢者「なんだ? 逃げ出したぞ」

青年「敵わぬと知って逃げたか、増援を呼びに行ったのだろうね」

青年「なんにせよ今は助かった……」

賢者「やれやれですなぁ」


騎士『……なぁ、オッサン』

賢者「うむ?」

騎士『その……悪かったな……』

賢者「なぁに、構わん。それに貸しは返してもらった、気にするな」

賢者「それでも負い目を感じると言うのであれば俺以上に働くのだな」

騎士『お、おう……さんきゅな』

青年「それより腕は大丈夫かい」

賢者「この程度、怪我のうちにも入りませんとも」

少女「血が出ていますよ、止血しなければなりません」

青年「そうだね……っと、ここに包帯が」

青年「あったあった、さぁ腕を出してごらん」

賢者「ふむぅ……心配性ですなぁ」


671 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/09(木) 01:37:49.40 ID:HHIoG0lOo


少女「……」

青年「よし、これでいいだろう」

賢者「感謝します」

少女「フューリさんも怪我、していますよ」

青年「ん、ん? 手の甲を少し擦りむいたかな? だけれどこの程度ならば大丈夫だよ」

少女「そういうわけにはいきません。貸してください」

青年「あ、ちょ」


騎士『嬢ちゃんも意外と強引だな』

賢者「坊ちゃんに似たのだろう」

少女「……これ、で」

青年「最後は解けてしまわぬように、少しきつめに縛るんだ」

少女「はい……できました」

青年「うん、しっかりしている。ありがとう、ティノア」

少女「わたしは今感動しています」

少女「包帯とはこう使うものだったのですね……知りませんでしたから」

賢者「初めてだったか、それにしてはよく出来た」

騎士『物覚えがいいなぁ』

少女「そう、ですか……? では」

少女「今度から怪我をしたらわたしに言ってくださいね?」

騎士『あぁ、頼りにしてるぞ』

青年「ふふ……これで安心して怪我ができるね、マグナ」

賢者「流石にこれ以上は勘弁ですが……」


672 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/09(木) 01:39:12.03 ID:HHIoG0lOo


『…………ォォォオオオ』


騎士『うおっ……!』

突然の雄叫びと共に洞窟内へ風が吹き荒む。

そのあまりの風圧に、青年たちは思わず顔を覆う。


青年「……奥からか」


悲痛な叫びにも似た雄叫び、だがそれには同胞を傷めつけられたことに対する怒りも

確実に、含まれていた。


賢者「これで完全に敵対したことになるな。それでいい」

賢者「実にシンプルな生存競争だ……!」

騎士『やる気だなー、オッサン』

少女「行きましょう。わたしも頑張ります」

騎士『……俺も、張り切っていかねえとな』

青年「うん、ここまで来たら後戻りなど出来ない。さあ……行こう!」



673 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/09(木) 01:40:01.58 ID:HHIoG0lOo



「……ォォォォオオン」

「ガウゥ……」


――何故、歯向かう。

――何故、剣をとる。

"人間風情が……"


ザッザッ……


『こ、こいつか!』

「……驚いた。これほどまでか」

「なるほど昂るなぁ、強大な敵に相見えると!」

「これも……ライガ、がおー……ちょっと違う気がします」


どれもこれもが矮小な存在。

男女子供老人であろうとすべからく同じ存在。

その程度の価値しか無い。

そう、この獅子にとっては……。

"去ね、人間"


青年「喋っ……た?」

騎士『なんだよこいつ……どうなってやがる』

少女「ライオンさんお話できるのですか? 凄いですね」

賢者「貴様、言葉が分かるか」

"去ねと言った。三度は言わぬ"


674 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/09(木) 01:42:02.64 ID:HHIoG0lOo


洞窟の最奥、先程の空洞とはケタ違いだだっ広い空間。

天を遮るものはなく、遙か上空から燦々と陽光が降り注いでいる。

その光を一身に浴びる一つの山と見紛うかのような存在。

それが大きく翼を広げて立ち上がった。


賢者「そういうわけにもいかんのだが?」

"……ならば、貴様らの死をもって……ここから消そう"


青年「待って欲しい」

"聞く耳持たぬ"

青年「話しあう余地はあるはずだ! 君も言葉が分かるのだろう……?」

青年「……話の通じぬ魔物風情であったのならば、剣を向けた。が……」


青年は剣を捨て、両手を広げながら獅子に歩み寄る。

騎士『おいっ! 何やってんだよあんた!』


近づいてくる青年に反応し、獅子の周りを囲うライガたちが唸り声を上げ身構える。

しかし獅子はそれらを制すと


"……我と和解しようというか"

青年を訝しげな瞳でじろりと睨みつけた。


青年「戦わずに済むならば」

"笑止! 人の子ら、我に挑み勝ち残るつもりだったか"

賢者「……その通り!」

"面白い……ならばもう話すことはあるまい?"


675 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/09(木) 01:42:54.56 ID:HHIoG0lOo


少女「待ってください」

"……!"

少女「お話だけでもしていただけませんか?」

少女「戦うのは、それが終わってからでもいいのではないでしょうか?」

騎士『嬢ちゃん! 危険だ! それ以上近づくな』

少女「すみません、ですが……」


"……ふん、良いだろう"

青年「!……感謝する」

"礼などいらぬ、我が子らを傷つけた以上……貴様らを決して許しはしない"

青年「それについては謝り尽くせないだろう。だが……すまない」

青年「謝罪くらいはどうか受け取って欲しい」

"…………"

青年「それで……今回の件についてだけれど」

青年「何故、人を襲ったのか。それを教えて欲しい」

青年「君たちは比較的温厚な種族と聞く、現にライガによる襲撃など滅多に聞くことはない」


青年「……何があった? もしかすれば、僕ら人間が君たちに危害を与えた恐れがある」

676 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/09(木) 01:43:32.93 ID:HHIoG0lOo

"そこまでわかっているならば、我が答えることは少なかろう"

"その通り、我らがもとより住んでいた森は人間によって荒らされた"


騎士『なっ!? デタラメ言うなよ! むしろ俺達は森を守るために……ッ!』


"たわけが、全てのものが同じ志を持つと思うな"

賢者「……ふむ、傭兵共か」

青年「そう、か……ラル? 心当たりは」

騎士『…………』


"あるようだな"

騎士『で、でもよ! 傭兵が自分の欲のためにやったことなら! 村のみんなは関係ねえだろ!』

"所詮人、我らにとって違いなどない"

青年「……村の人々は何も悪くはない」

騎士『そうだよ! だから……』

青年「だが、村人が傭兵を雇ったことで結果的に彼らが傷つけられたのならば」

青年「報復されても仕方がないのかもしれない」

騎士『あんた……』


"うむ、そしてその中に貴様らも仲間入りしたというわけだ"


騎士『……やっぱりさ、こんな風になっちまうんだよ』

青年「ラル……?」

騎士『止められっこないんだ! ここでこいつらを殺さないと!』

騎士『殺されるのは俺たちなんだ!』


青年「ッ! 早まるな!」


677 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/09(木) 01:44:16.62 ID:HHIoG0lOo


突然、何かが弾けたように騎士が駆け出す。

左手に構えた盾を地面に投げ捨て、剣の柄を両手で強く握り締める。


騎士『最初っからこうしてりゃよかったんだ!』

騎士『そうすれば、負い目なんて感じることなかった!』


鎧を着込んでいる者の動きではない、壮絶な速さで駆ける騎士を

獅子の眼前へ剣を掲げ大きく跳躍する騎士を止める術など、青年たちは持ちあわせていなかった。


騎士『うおぉおおおおおおおッ!』


―――ォォォオオオオオッ!!!!


ビリッ!

騎士『なっ……!』

賢者「ラル!」

少女「ラルさん」


大気を揺るがす、人知を超えるほどの咆哮。

それと共に真空が発生し、轟雷が生み出される。


騎士『がぁッ!』

空中で弾き飛ばされた騎士は地面へ強く叩きつけられる。


青年「待て! 待ってくれ!」


678 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/09(木) 01:45:04.67 ID:HHIoG0lOo


"待たぬ!"

獅子が掲げた腕、その先端を飾る鉄をも容易く切り裂く剛爪。

騎士『ちっ……く、そォ!』

死が確実に近づいているというのに

騎士は剣を振りかざし抵抗しようとしている。


とっくに青年と賢者は走り出していた。だが、その行為も


獅子の一息で全て無に帰した。



ヒュッ……ガッ!



残像を描き振り下ろされた獅子の腕。

鉄をも切り裂く剛爪は、例外なく騎士の鎧を断ち切り。


その頭部と体を綺麗に分断した。



青年「あ……あぁ……っ」

賢者「…………」

少女「……」


"解せんな"


ゴトッ



679 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[sage]:2012/02/09(木) 01:47:04.74 ID:HHIoG0lOo
つ づ く (はあと
680 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/02/09(木) 04:34:14.32 ID:P+ELQoigo

だが、なんつーとこで止めたんだwwwwww
681 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[sage]:2012/02/09(木) 17:29:35.71 ID:49uBpjNR0
またデュラハンか
682 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/02/11(土) 06:51:32.92 ID:IGh3hF72o
準レギュラーがー
683 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/13(月) 02:12:00.93 ID:JM/VG5uVo



"解せぬ"


首がなくなったことさえも忘れたのか、騎士の体は剣を構えた姿勢のままである。


青年「……何も」

"…………"

青年「何も殺すことなど、なかったろう!?」

"話し合いがしたかったのであろう? しかしこの程度で我を忘れるなど、貴様も所詮人の器であったか"

青年「……」

"我は身を守っただけにすぎぬ。それは仕方の無いことだと貴様も言ったであろう?"

"だがやるというのなら相手になろう。仲間を殺された恨みを我にぶつけてみるといい"

青年「……くっ」

"ほう……仲間を失いながらも剣を取らぬか"


"優しいのだな。貴様は"

青年「…………」


684 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/13(月) 02:12:58.95 ID:JM/VG5uVo


"しかし、その優しさは貴様の弱さから来る優しさだ"

青年「……っ」

"弱い、弱いな人間は……やはり弱い"


"故に解せぬ。何故、貴様が人につくのかが"


"のう。そこな騎士よ"


賢者「…………」

青年「何、を?」


ガシャンッ


少女「ラルさんの体が、動いています」


ガシャッ

青年「な、あ……?」


音の聞こえた方へ

少女が指さす方へ

視線をやる。


青年の目が捉えたのは頭をなくした騎士の体。

それがごく自然に剣を鞘へと収めている光景であった。


"いや……ただの騎士ではないな。何と呼ぶべきか"

"……そうだな、我は知っている。貴様のような者たちを"


体だけのそれが一挙一動、いつもの騎士と何ら違わぬ仕草でゆっくりと歩き始める。

獅子の足元に転がる自らの首を求めて。


"首無しであり、不死であり、騎士である存在。奴らの名は確かこういったな"





685 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/13(月) 02:13:37.78 ID:JM/VG5uVo



"デュラハンと"

"まぁ……首を完全に無くしたわけではないがな……くっくっ"


青年「ラル……?」


騎士『…………』


大事そうに首を抱え上げ、そのまま……まるで兜をかぶるだけかのように

欠けた部分へすっぽりとはめ込んだ。

そしてゆっくりと青年たちの方へ体を向ける。

その表情を窺い知ることはできない。


賢者「何か言ったら、どうだ」

少女「……? どうかしたのですか、ラルさん?」


騎士『……悪い』


青年「君は、一体?」

賢者「聞いた通りでしょう。首無し騎士、デュラハン……魔物です」

少女「かっこいい名前ですね」


騎士『騙す、つもりはなかった』

賢者「嘘を言うな、騙さなければバレていただろう」

騎士『そう……だな』

686 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/13(月) 02:14:30.35 ID:JM/VG5uVo

青年「どういうことなんだ。訳が……わからない」


騎士『俺は、元からこうだったわけじゃない』

騎士『……あの戦争で……俺は一度死んだ』

少女「ラルさんは、死んではいませんよ? 今ここに、この場所に、いるではないですか」

騎士『……だから、一度死んだんだ、ってあれ……やっぱ騙してんな、俺……ハハ』


青年「何を言っている? 死んだ人間が生き返るはずがない」

騎士『だよな、信じて貰えるわけないよな』


そういうと、騎士は主室に首を持ち上げた。


騎士『な? 首が取れるんだ、生きてるはずないよな』

騎士『それでも分かってくれないかもしれないが……そうだな』

騎士『騎士ラングウェルは……俺は死んだ。今ここにいるのは違う何かなんだ』


頭部は体から離れ、右脇に抱えられながらも言葉を発する。

どういった原理で話しているのかも、どうやって首をとっているのかも

青年には理解できなかった。

更に騎士は、腰を少し曲げて首の断面が見えるようにする。


青年「ぁ……」


言葉にならない。

687 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/13(月) 02:15:30.49 ID:JM/VG5uVo

それもそのはず、体の首の断面には食道があったであろう位置に

悍ましい歯を持った人間の……いや、人間のものではない口がついていたのだ。

それらが何かを訴えかけるかのように、開閉を繰り返している。

声にならない言葉を理解出来ない青年には、その口は恐怖の対象にしかならなかった。


"さぁ、どうする? 貴様のまやかしはその者たちにはもう効かぬ"

"貴様ら魔物と同列に扱われるのは少々癪だが、貴様も人を呪った身であろう"

"我らの仲間となるか、それとも人間どもに迫害されるか。選ぶがよい"


騎士『…………』


賢者「はやくしろ、これ以上お預けされて我慢できるほど……気は長くない」

騎士『あぁ……そうだな、悪いがあんたたちには帰って貰う』


青年「何を言っている!?」


"ようやく理解したか、貴様に人の世は冷たすぎる"


騎士『かもしれねえな』


再び騎士は首を元の位置へと戻し

剣を引きぬく。

その刃先は青年たちの前にすぅと向けられ


688 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/13(月) 02:15:56.32 ID:JM/VG5uVo


通り過ぎ、獅子へと向かう。


"……愚かな"

騎士『俺はこいつらを殺して、死ぬ』

騎士『最後に我儘言っちゃうけど、俺は名誉の戦死を遂げたって皆に言って欲しい』


青年「……っ!」

騎士『ハハ、情けねえよな。こんな姿になっても……皆には嫌われたくないんだ』

青年「何が、何が……最後だ!」


騎士『待たせたな』

「グルルル……」

"……お前たちは下がっていなさい"

「グゥ……」

"大丈夫……負けはしない"


騎士『…………』

"こちらも待たせたな。どうしてもやるというのならば……全力でかかって来るといい"


バッ!


獅子と騎士は同時に動きだす。

689 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/13(月) 02:16:26.02 ID:JM/VG5uVo

騎士『う……オォォォォオオ!!』

小細工無しの正面衝突、両手に持った剣と獅子の爪とがかち合う。


"力までも人とは桁が違うか……厄介な"


騎士『何暢気に喋ってんだァ!』

かち合いから逃げ、騎士は獅子の懐へ潜り込む。

"猪口才な"


騎士が下から切り上げるときには、すでに獅子は上空へ。

大質量のものが宙に浮く、その無理矢理な運動は過度の羽ばたきによって強引に行われていた。

騎士『ぐっ……逃げ、んなぁ!』

必死に敵を見据えようとするが、強烈な風圧に身動きを封じられてしまう。

更には唯一の光源である吹き抜けが獅子の翼によって遮られ、視界をも遮る。


青年「くっ……これでは近づくことさえも」


そして一瞬、眩い日の光が騎士の目を焼いた。


ゴォォォォッ!


凄まじい轟音と鳴り響き、空洞内の空気がやたらめったにかき回される。

騎士『何、だ……?』


690 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/13(月) 02:17:23.30 ID:JM/VG5uVo


グォォォォッ!

突如、一際大きく空間が揺れる。

騎士『ッ!』


気づいたとしても間に合わない。


"ォォォォォォオオッ!"


晴れた視界に飛び込んできたのは、騎士を食らおうと開かれた大口。

人一人など容易く飲み込んでしまいそうな口にびっしりと生えた、大剣の如く巨大な牙。

それら全てが騎士一人に向けられている。


騎士『こな……クソッ!』


ガッ……ギィン!


咄嗟に剣で防ぐも、膨大な力を持つ無数の牙によって難なく砕かれた。

これで騎士の身を守るものは何一つなくなった。

この時点で勝敗は決したのだ。


691 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/13(月) 02:17:54.64 ID:JM/VG5uVo


そして獅子の猛攻はこれだけでは済まなかった。

巨大な肢体は物理法則をも捻じ曲げるような勢いで旋回、一回転。

更に勢いを増した獅子は、再び騎士に牙を剥く。


賢者「無様だな!」


"なんだと?"


勝利を確信した獅子が驚きの声をあげる。

不可避であり光速であるニ撃目が目に見えて減速したのだ。


賢者「第六項、貴様が光ならば俺は神! 唸れ神風! "エルウィンド"!」


獅子を拒絶するように真っ向から無数の真空の刃が斬りかかる。

毛をたち皮をたち、強靭な筋肉をも断ち切る刃は、決定打にはならぬものの獅子をひるませるには十分すぎる働きをした。

だが不安定になろうとも、大質量の力を乗せた牙は強引に騎士の体へと向かう。


692 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/13(月) 02:19:51.77 ID:JM/VG5uVo


青年「人だろうが、魔物だろうが! これ以上、僕の前で勝手に死なれては困る!」


騎士の盾を構え、青年は騎士と獅子の間に割って入る。

騎士を押しのけ精一杯に力を込める姿は、頼りなく薄っぺらいものではあった

だが、青年は弾き飛ばされながらも獅子の一撃を受け止める。


騎士『おいっ! 大丈夫か!』

青年「っ……構うな!」


衝撃を一身に受けた体が悲鳴を上げ、喉奥から血がこみ上げてくる。

それでも青年は震える喉を振り絞り、精一杯の大声で返事をした。


そして攻撃が空振った隙を狙って、賢者の追撃がはいる。


賢者「これで終わりと思うなよ! 第四項! 氷塊、"ブリザ―"!」


突き出された手から握り拳大の氷塊が発せられる。

低級の魔法であるが、本来の形状とは全くもって異なっていた。

ブリザ―とは冷気を発生させ地を這うように氷が進み、標的を捉える魔法なのだ。

その異常さが獅子に危険であると判断させるのに役立った。

咄嗟に体勢を立て直し、再び上空へ舞い上がる。

693 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/13(月) 02:21:04.92 ID:JM/VG5uVo


が、しかし、高速で射出された氷塊を避けきることは出来ず、獅子の後ろ足に被弾した。

着弾と同時に氷塊は砕け散り、付着した氷片が獅子を徐々に蝕んで行く。


"敗れる……? 我が人間如きに?"


騎士『逃げる気か!』

"黙れ!"


バヂバヂィッ!


獅子の一喝と共に放電が起こり、獅子を蝕む氷は砕かれ

電光は羽ばたきを続ける翼に纏い周囲にまき散らされる。

だが結局は逃げるための行為に過ぎないのだろう、騎士は怯むことなく上昇を続ける獅子に飛び掛る。

その他のライガたちには目もくれない。


騎士『ま……てッ!』


全力で地を蹴り手を伸ばす。

しかし届かない、あと少しが届かない。


騎士『このまま……見過ごせるかよ!』


694 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/13(月) 02:22:08.20 ID:JM/VG5uVo


上空を見上げる、ちょうど吹き抜けの中心にある太陽が眩しい。

が、それは直ぐに獅子と重なり、一つの大きな影を生み出した。

その影に騎士は覆い隠され潰される。そんな錯覚が騎士を支配する。

そして騎士の体はピークを超える、自由落下だ。重力に押され大地へと引き戻されるのだ。

去りゆく姿に歯を噛み締め、悔やむように握り締める





その手を誰かさんの小さい手がつかみとった。


騎士『……っ!?』


ハッとなって再び空を見上げる。

獅子の背中に腰掛け、騎士の手をしっかりと掴んだその人物もまた、太陽に隠されていた。


少女「お礼は後で構いません」

少女「頑張ってきてください。にこー」


言うだけ言うと、少女は返事を待たずに騎士を獅子の更に上空へと放り投げた。


695 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/13(月) 02:22:38.78 ID:JM/VG5uVo


騎士『んなぁ!?』


宙に放り出される騎士、だが。


"な、にぃ……!?"

騎士『帰ってもらうぜ! あんたらの巣にさ!』


体勢と整え、二つの手で一つの拳を作り出す。

騎士はそれを、上半身を反らして大きく振りかぶる。

そして……そのまま獅子の後頭部へ


鉄塊を叩きつけた―――




696 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/13(月) 02:23:17.80 ID:JM/VG5uVo
あともうちょっとだけ続くんじゃ
今週中にこれるといいな
697 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/02/13(月) 04:50:11.20 ID:cPnPvvzn0
おい・・・・どうしてくれんだよ・・・・・
もう早朝じゃねえかよ・・・・・面白すぎんだよ・・・・
くそっ!うどんめ・・・!
698 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/02/13(月) 06:03:25.11 ID:H/pByZL9o
なんだこれなんだこれ
乙!
699 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/02/13(月) 18:00:43.48 ID:KCBQw+EIO
やべぇ面白過ぎて生きるのが辛い

こんなに誰かキャラクターにワクワクするのなんて小学生の時の純真な頃以来だぜ
700 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage]:2012/02/13(月) 21:53:24.96 ID:JwTatIcgo

ティノアの謎が深まる一方だ
701 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[sage]:2012/02/15(水) 22:56:27.59 ID:S6rJAnTK0
今にして思えば622も伏線だったんだな…すげぇ
702 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/17(金) 02:23:57.38 ID:PdqFyW+fo



ヒュッ……ガァン!


途轍もない衝撃が獅子を地上に引きずり落とす。

降下中も加速度は増して行き

最大にまでたどり着いた後、強烈な地響きを鳴らして獅子の体は半ば埋没しつつ静止した。


騎士『うおっ! おぉぉぉ! 落ちるぅぅううう!!』

少女「わたし、飛んでます……」


ズドンッ!


騎士『あいっ……ちぃ……!』


高所から二本足で着地、騎士は足元から頭の先まで伝わる痺れに何とも情けない声をあげる。

更にがに股で痛みに打ち震える騎士の背中に、少女が尻から衝突した。


703 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/17(金) 02:24:40.29 ID:PdqFyW+fo


騎士『ぐはぁ!』

少女「着地成功ですね」

その衝撃で騎士は地面に這いつくばる。

少女は騎士を下敷きにし、何食わぬ顔で座っている。


騎士『じょ、嬢ちゃん……重い……どいてくれ……』

少女「失礼しました、ですが失礼です、失礼ですよラルさん」

騎士『わ、悪い』

少女は騎士の上から降りたち、騎士は痛む体を抑えながらゆっくりと立ち上がる。


青年「ラル! ティノア! 大丈夫かい!?」

賢者「まったく無茶をする……」

騎士『あぁ、大丈夫だ。嬢ちゃんのおかげだよ。ありがとな』

少女「いえ、それほどでもありません」
704 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/17(金) 02:25:19.46 ID:PdqFyW+fo


騎士『……さて、それより先にすることがあるよな』

"う……ぐっ……"

青年「ラル……」

賢者「おい、これを」

パシッ

賢者「剣は折れてしまっただろう。俺が色々な用途に使うナイフだ、そいつを使え」

騎士『……おう、できればどんな用途か聞きたくない代物だな……』



"はっ……はっ……"

騎士『…………』

"くっ、くくっ……さぁ、どうした。はやく止めを刺さぬか"

騎士『あぁ、言われなくたって』


ナイフシースから軽く湾曲したナイフを取り出し、逆手に持つと

何に使われたかもわからないナイフは、輝きだけは一丁前の刀身をギラリと光らせた。

そして騎士は獅子の喉元に鋒をつきたてようと静かに前進を始める。


705 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/17(金) 02:27:13.80 ID:PdqFyW+fo


「ガウッ!」

しかし、獅子それを阻むように三頭のライガが騎士の前に立ちふさがった。

予想していたであろう出来事に何ら驚くこともせず、騎士はその場に一時立ち止まる。

騎士『…………』

"お前、たち……! 来るな、来てはいかん!"

"やめろ……! 頼む……その子たちには手を出さないでくれ……!"


「ガゥゥ」

獅子の言葉も聞かず、低く唸り声を上げて騎士を威嚇するライガたち

凍傷を負ったもの、目を切り裂かれたもの、足から血を流しているもの

しかし三匹とも瞳の輝きを失ってはいない、依然として騎士を強く雄々しく睨みつけている。

その姿からは子供ながらも気高き獅子の片鱗が見て取れた。


騎士『……あんたらの親玉を倒した相手だぞ? 倒せると思ってるのか』

「グルルルル……!」

706 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/17(金) 02:28:07.02 ID:PdqFyW+fo

騎士『威勢の良さだけは認めてやるよ、だけどな……世界はそう上手くは出来てないんだ』

「グォォッッ!」


騎士『いいぜ……だったらまずは……こいつから……ッ!』


騎士は立ちふさがるライガの一匹に刃を向ける。


騎士『ッ! クソッ!』


が……その刃はいつまでたってもライガを切り裂くことはなかった。


騎士『……やめろよ』

騎士『これじゃ……これじゃあ』


騎士『俺が悪者みたいじゃねえかッ!!』


カランッ

悲痛な叫びをあげ、手に持ったナイフを地面に叩きつける。

賢者「…………」


騎士『どうして……俺が、こんな思いしなくちゃ……』

青年「……君は間違ってはいない」

騎士『…………』

707 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/17(金) 02:29:40.75 ID:PdqFyW+fo

青年「僕らの間には少しの誤解があった。だから憎しみあい戦ってしまった」

青年「お互いに傷ついたかもしれない、だけれど……ここで憎しみの連鎖は断つことができる」

青年「だから、剣を捨てた君の行動は正しい」


"まだ我らと解り合おうと?…………愚かな考えだ"

青年「かもしれない、だが本当は君も分かっていたろう? 憎むべき相手は彼らではないと」

青年「しかし子供を傷つけられた手前、黙ってはいられなかった。そしてそれは彼らもだ」


"それが……どうした、だとしても我らと人は決して解り合うことはない"

青年「そういうと思った、ならばこうしよう」


青年「この戦いの勝者として君たちに命を下す」


青年「今後一切、僕らに牙を向けるな。そして僕らは君らに刃を向けない」

青年「これでは解り合えたとはいえないね。だけれど……」

青年「意味のない争いで、これ以上の尊い命を失いたくはない」


708 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/17(金) 02:30:04.32 ID:PdqFyW+fo


"我らの命をかけて我らの命を守る……か"

騎士『……俺は、それでいい。あんたはどうする?』

"どうする……? くっくっ……これは既に無条件降伏だろう"


賢者「よくわかっている。勿論ここで拒否すれば貴様らの命は無い」

"よく言う……人間風情が……"


"……わかった、その条件を飲もう"

騎士『そっか……なら』


ヒュッ……


もう嫌な思いをせずに済む。

騎士はそう言おうとしたのだ。

だが、風を切る音がその邪魔をした。


709 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/17(金) 02:30:37.86 ID:PdqFyW+fo


ドスッ!


「ガゥァッ!?」

"……な"

ライガの短い悲鳴と、獅子の唖然とした声が騎士の耳朶を打つ。

そして後方から風に乗って流れてきたのは聞き覚えのある声。


「ひゅう! さっすが村一番の腕前!」

「すげぇ、あんなデカブツをもうのしちまってる! あとは俺達でやるぞ!」

「おう! 任せとけ!」


村長「皆さん! ご無事で!」


青年「何故……ここに?」

突然の招かれざる客の襲来に、唖然とする青年たち。

その横を十人ほどの武装した村民たちが駆け足で通りすぎていく。


村長「やはり旅の方に全てを任せるわけにはいかない……そう村の皆と話し合いをしまして」

村長「今からでも遅くはないと、急遽戦える者たちを引き連れて参りました!」


「ようし、怯んでるぞ! 八つ裂きにしてやれ!」

「おぉー!」


710 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/17(金) 02:31:14.75 ID:PdqFyW+fo


騎士『なっ、や、やめろ!』

「騎士さん、あんたにゃ世話になった。後は俺達に任せてくれい!」

賢者「貴様らっ! やめんか! 下がれ!」


"ぐぉ、あ……ぁぁああああッ!"

「グギャァ!」


数人の男たちが巨大な獅子に矢を射かけ

残った数人が疲労困憊の子獅子たちを手に持った刃で切り裂いていく。


騎士『待って! 待ってくださいよ! 話を、話を聞いてください!』

賢者「貴様ら、貴様らァ! 下がれと言っているのが聞こえんのかァ!」

少女「皆さんやめてください、本当に、本当に死んで……しまい……」

青年「こんな……こんなことが……」


四人は血気盛んな村民たちを押しどけ、やっとのことでその眼前に立ちふさがった。


「な、何するんだ! どけ!」


711 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/17(金) 02:31:51.75 ID:PdqFyW+fo


青年「皆、聞いて欲しい、彼らはもう敵ではない!」

青年「僕らが打ち倒し、和解の道を開いた。だから彼らを傷つけてはいけない!」

「馬鹿を言うな! 俺たちはこいつらにさんざんひどい目に合わされてきたんだぞ!」

騎士『その最初から間違いだったんだ! こいつらは傭兵に襲われて、人に襲われて!』

騎士『俺達を憎んでいたんだ! 勘違いだ、勘違いだったんだよ。何かの間違いなんだ!』


「……だとしても! 魔物は生かしちゃおけないだろ!」

「そうだそうだ! みすみす見逃しておいて、傷が癒えたらまた俺達を襲うに決まってる」


賢者「話し合いはもう終わったのだ、もう殺し合いをする必要はない」


「魔物と話し合い……? そんなの、信じられるか」

村長「み、皆さん、落ち着いて……」

「村長さんも何か言ってやれ! きっと魔物に何か吹きこまれたんだ」


712 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/17(金) 02:32:38.34 ID:PdqFyW+fo


騎士『……まだ、魔物魔物魔物って!』

騎士『俺だって何でもかんでも魔物のせいだって思っていたかったさ!』

騎士『だけど……これだって現実なんだ……! 紛れも無い……事実なんだよ!』


溢れ出る言葉を抑えきれない、とめどなく流れる感情を押し殺せない。

半ば自暴自棄となった騎士は己の兜に手を掛けた。


青年「ラル……! 君は……馬鹿なことはやめるんだ!」


咄嗟の静止も意味を為さない。

騎士は兜を脱ぎ捨て、露になった赤茶色の長髪を鷲掴み、勢い良く引き剥がす。

一瞬躊躇うかのように震えた手だが、騎士の頭部は何の抵抗もなくその胴体から分離した。


そして周囲が一斉に静まり、息を呑む音が嫌でも伝わる。


713 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/17(金) 02:33:41.87 ID:PdqFyW+fo


騎士「俺だって、俺だって魔物だ、怪物だ! だけど、今まで助けあってきた仲間だったじゃないか!」

騎士「だから! こいつらとだって仲良くなれるかも……しれないだろ……!」

騎士「分かって、分かってくれよ……!」

自らの手で宙に浮いた生首から、必死に懇願する声が響く。

しかし……


「化……物」

「そんな、騎士さんが……」

村長「え……あ……ひ、ひぃ……!」


そんな騎士に突き刺さったのは身を切り裂く刃などではなく、人々の怒りや恐怖の視線。

その分かりきった事実が悔しくて、騎士は人知れず拳を固く握った。


「や、やっぱり! おかしいと思ってたんだ、なんだかやたらに人並み外れた力があったし」

「皆と一緒に飯を食おうとしなかったし」

「騙してたんだな……! 魔物がしょっちゅう襲ってくるようになったのもあんたが村に来てからだ!」



714 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/17(金) 02:35:15.17 ID:PdqFyW+fo



「殺せ! アイツらは魔物の手先だ、俺達がやらなきゃ皆殺される!」


青年「ラルがここまでして……君等のためにここまでしたというのに!」


膨れ上がった怒りが、人の感情が爆発しかける。

だが……それら全てを鎮めたのは、あまりに無感情で抑揚の無い、しかしやけによく響く声だった。


少女「……皆さん、いい加減に……黙ってください」


たったそれだけで、その場にいた全ての生物が押し黙った。

腹の底が急激に冷えるような感覚、言葉のもつ強制力が怒りを鎮めた……否、別な感情に塗変えたのだ。


少女「ごめんなさい、痛かったですよね。そんなつもりはなかったのです」

何もかもが沈黙した世界で、少女はぐったりと倒れた一匹の子獅子の傍らに膝をついている。

その子獅子の傷をいたわりながら、包帯を巻いているようだった。

少女「まだ少し痛むでしょうが、いつかきっと治ります。ですから今は……」


少女「今はおやすみなさい。また……お会いしましょう」


既に生き絶えた山の如く巨体を持つ獅子、とその子供たち。

子守唄のつもりだろうか、同じフレーズを延々と続ける鼻歌と

まるで救われたかのように安らかに眠る子獅子たちの姿に

誰もが言葉を失った。



715 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/17(金) 02:35:43.06 ID:PdqFyW+fo



青年「マグナがこんなことをするなんて……彼らとは戦いたかっただけだったのだろう?」

賢者「奴と戦いたかったのは否定しませんがね」

青年「もとより殺すつもりはなかったと?」

賢者「それはどうだか……ただ、奴は万全の調子ではなかった」

賢者「真に強者であったがゆえに情が湧いたのでしょうな」

騎士『入り口を結界で防いでるのもその情が故か』

賢者「そうなるな、奴らの遺体を漁られるのは気分がよくない」

騎士『ハッ、結局自分本位なわけだ』

青年「ふふ……今更だね」

少女「師匠らしいです」

賢者「それは褒めているのか……素直に喜べんなぁ」


716 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/17(金) 02:36:27.35 ID:PdqFyW+fo

村長「…………あの、皆さん」


青年「どうかしたかい? まだ僕らとやり合うつもりかな?」

村長「いえ、せっかく魔物を退治してもらったというのに……ご無礼をお許し下さい」

村長「皆も今は落ち着いております」

騎士『…………』

村長「ですが……その」

賢者「見逃してやる、だから面倒が増える前に出ていけと」

村長「そっ! そういうわけでは……その」

青年「構わないよ。もとよりここに長居するつもりはない」

村長「そう、ですか……」

少女「安心しましたか? よかったですね」

村長「…………」

騎士『村長、さん』


村長「ひっ……」

騎士『…………』

717 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/17(金) 02:37:43.62 ID:PdqFyW+fo

村長「い、いえ……何でもありません。どうかしましたか」

騎士『今まで……ありがとうございました』

村長「っ……!」


騎士『俺、死にそうな時に村長さんに拾って貰って……ってもう死んでるんだけど……ハハ』

騎士『それで、まだ人間捨てたもんじゃないなって、俺にも居場所はあるんだなって』

騎士『凄い……救われたんです。だけど、村長さんたちの記憶にある俺はやっぱり偽物だったのかもしれない』


騎士『でも、それは俺です。本物と偽物にはなんにも違いはないんです』

村長「…………」

騎士『それだけは……覚えててください』

騎士『あと、俺。村長さんを……実の父親くらい』

村長「もうやめてください」

騎士『…………』


村長「これ以上、苦しませないでください……私も、私だって……!」

村長「……いえ、何でも……ありません」



青年「では……僕らはもう旅立つことにするよ」

賢者「世話になったな」

少女「女将さんにも、よろしくお伝えください」


村長「はい、それと……これ、少ないですが」


ジャラッ

青年「……いいのかい?」

村長「当然の報酬です。こちらは、騎士さんに」


718 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/17(金) 02:38:16.68 ID:PdqFyW+fo


騎士『は、はい……』


騎士『それじゃあ……俺もこれで』

村長「…………」

青年「それでは、もう会うことも無いだろう」

賢者「達者でな。酒は美味かった、感謝するぞ」

少女「お元気で」


ザッザッザッ……


村に戻ることもせず、今は亡き獅子たちが住まう洞窟の前を後にする。

村民たちは誰一人手を振ることもせず、ただじっとこちらを見ていた。

手切れ金のような報酬を受取り、騎士は事前にまとめておいた荷物をかけ直す。

ふと気になって、あの場にいた全員が木々に隠れる寸前にちらと後ろを見やると

ただ一人、村長だけが小さく手を振っていた。


719 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/17(金) 02:38:50.87 ID:PdqFyW+fo



青年「さあて、ここから一番近い村はどこだい?」

賢者「山脈を沿って北西にいったところが近そうですなぁ」


騎士『んじゃ、俺はここらで……』

青年「ん?」

賢者「なんだ、トイレか?」

少女「そうなのですか?」

騎士『い、いや……俺は一人で……』

青年「一人ではトイレにも行けないのか。しょうのないやつだな君は」

賢者「だ、そうだ。ついていってやれ。ティノア」

少女「はい、しょうのないラルさんです。行きましょう?」


騎士『わかってて言ってるだろ、あんたら』

賢者「何を今更……」

青年「そうだ、ここまで巻き込んでおいて一人だけ逃げるつもりかい?」

騎士『に、逃げるって……別にそんなつもりじゃあ』

少女「でしたら、一緒に行きませんか?」

騎士『…………』

720 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/17(金) 02:39:17.59 ID:PdqFyW+fo

賢者「どうせお前のことだ、後先考えておらんのだろう」

青年「僕らは王都へ向かう。どうだい? 君も一緒に……」


騎士『……いいのかよ』

騎士『俺、何かもう魔物だし、一回死んでるんだぜ?』

青年「……何度も死にかけたという点では同じだ」

賢者「うむ」

騎士『後悔しても、知らねえぞ』

賢者「とんだ脅し文句だな」

青年「それらを含めて一緒にこないか? と言っている」

少女「いえすかのーで答えるべきです」


騎士『…………あぁ、んじゃ。イエスで』

青年「いい返事だ!」

賢者「うむ、ではよろしく頼む」

少女「よろしく、お願いします。にこー」

騎士『よ、よろしく……な』


失っては得、また失った騎士が再び得たもの

それらは騎士のハリボテの体を、少しは人間らしくしたのかもしれない。


721 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/02/17(金) 02:40:53.51 ID:PdqFyW+fo



無音の世界で地が揺れる。

熱っぽい吐息に混じり、冷たい感情が吐き出される。


眼前に横たわる死骸をしばし見つめ、再び瞳を閉じる。

そうして今一度開かれた瞳は赤く、紅く

視界に入った世界の一部を焼ききらんとするほど怒気に満ちていた。

軋む体を無理に奮い立たせようとするが、どうあがいても生まれたての小鹿のように無様になる。

その無様さは生きるために必要な失態である。

何ら恥じることはない。


"ニンゲン……どもめ"


呪詛のように呟かれた言の葉を、忌々しげに噛み砕く。

そうして収まりきらぬ怒りを和らげようとしているのかもしれない。


"せめて、人思いに"








人思いの獅子。


722 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[sage]:2012/02/17(金) 02:42:47.50 ID:PdqFyW+fo
お わ り 。
バレンタインもので何か書こうとしたけど完全にタイミングを失ったんだぜ
皆さん今年はおいくつでした?俺は友達がもらったチョコをもらいました
723 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/02/17(金) 03:46:25.39 ID:ws1UE7YFo

俺は身内以外から2個
724 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/02/17(金) 06:26:36.10 ID:u1PAWNzIO
わーい!騎士加入わーい!
いやホント、首無し守護騎士のエピソード見てこのss読み始めた様なもんだからすげぇ嬉しい。わーい!わーい!

チョコはそろそろ売れ残り買いに行く所だわ。バレンタインってチョコの特売セールだろ?
725 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)[sage]:2012/02/17(金) 17:19:31.14 ID:NGo6rE40o
うおお・・・! 騎士が仲間になってくれるだなんて嬉しすぎる・・・!
ティノアも、最初の頃とは随分と違ってきてるな。主に仲間とか

バレンタインはホワイトとビターの板チョコを2枚買ったよ。買ったよ。ホワイトって結構甘いのね
726 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/02/18(土) 11:13:40.27 ID:KCp3NhMDo
チョコレートフォンデュ…いん…うどん
727 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2012/02/18(土) 19:35:40.05 ID:LtqRyHJj0
つまり、つゆがチョコなうどんか
728 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/02/21(火) 01:45:38.37 ID:/7XY/2uIO
もう完全に完結したの?
729 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[sage]:2012/02/21(火) 10:38:41.45 ID:pn/G/WSEo
>>728
残念だけどまだ終わらないよ

>>726
なるほど、吐いた

あと>>723は爆発していい

ちなみにまだ次のお話を練ってる途中です
730 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/03/01(木) 19:40:42.93 ID:vvf01xGIO
まーーーだーーー?
731 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/02(金) 17:49:00.14 ID:+GGcBkCwo




人一人が暮らすには勿体無いほど広い部屋。

広い空間を装飾するものは全て豪勢な調度品ばかり。

ひと目みただけでも良質な木が使われているであろう家具に

床一面を覆う金糸が織り交ぜられた絨毯。

拝むことすら並大抵の人間には不可能に近いものばかりだ。

その部屋の主たる中老の男性は、これまた立派な執務椅子に腰掛け執務机に向かっていた。

もう夜遅いのだろう、薄暗い部屋と男性をランプの光だけが橙色の明かりで照らしている。

しかしそれとは逆に男性の顔色は優れない。


コンコンッ

突然、重圧な木の扉が何者かによって叩かれる。


「……入れ」

それに対して押し殺したような返事をする男性。

「……失礼します」


おそらく使用人であろう男はガチャリと扉を開け、極力音を出さずに室内へ入る。

薄暗闇のせいかその全貌をしっかりと認知することはできない。


「先ほど、通達が参りました……『次は本部から騎士団を向かわせる』とのことです……」

「馬鹿な! ただの脅しに決まっている! こんな時にそんな余力があるはずがない!」

「お、落ち着いてください」

「……ック」

「もういい、下がれ」

「……はい」


扉が閉まる音、次いで小さな足音が消えて行くのを待ってから

男性は白髪交じりの頭を掻きむしった。


「あの男は……ッ! 私から全てを奪おうというのか……!」




732 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/02(金) 17:49:53.86 ID:+GGcBkCwo





ガサガサッ


騎士『おっ、こんなとこにも生えてたか』


木の根本に群生していたキノコを見つけ、騎士は思わず弾んだ声音になる。

少々食われているものもあるが、無事なものもある。

それを極力傷つけないように根本から優しくちぎり採り、腕に下げた籠に放り込む。


騎士『さってとー……これくらいでいいか』

騎士『おおい! 嬢ちゃん?』


少女「はい」

騎士『ここにいたのか、んでどんくらい……って、うぉ』

少女「どうでしょうか? たくさん採れましたよ」

733 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/02(金) 17:50:24.25 ID:+GGcBkCwo

騎士『そうだなぁ……たくさんある、あるにはあるが……』


騎士は少女の籠にところ狭しと詰め込まれたキノコや野草を見て、人知れず頬を引きつらせる。


騎士『これ、全部食えねえよ……』

少女「どうしてですか?」

騎士『全部毒入りじゃねえか!』

少女「そう……なのですか? 食べられないのですか……そうですか」

騎士『……はー』

騎士『しょうがねえな……、んじゃ次は一緒に探そうぜ』

少女「……はい?」

騎士『フューリのために、美味いもんたくさん持って帰ってやろう』

騎士『な?』

少女「……はい、お願いしますねラルさん」

騎士『おう、任せとけ』


734 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/02(金) 17:51:06.44 ID:+GGcBkCwo




一方……

木々に囲まれた中で、ちょうど野宿できるほどのスペースに

息も絶え絶えな青年が膝に手をついて屈み込んでいた。

その隣には鉄製の鍋が二つ、どちらも限界にまで水が入っている。


青年「ふぅ……ふぅ……」

賢者「陛下、さぁもう一往復です」

青年「高みの、見物とは……いいご身分だね」

賢者「何をいいますか。全ては陛下の御身のため」

青年「調子の、いいことを……」

賢者「俺は昔から体が資本だと言って来たではありませんか」

賢者「それを押し切って剣術だけをと言ったのは陛下ですが」

青年「か、過去を持ち出すな」

賢者「まったく……今になって得物を変えたいなど」


735 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/02(金) 17:51:53.12 ID:+GGcBkCwo


青年「仕方がないだろう……レイピアではできることが限られている」

青年「僕らの敵になるのは、人間だけではないのだから」

青年「そのたびに皆に迷惑を掛ける訳にはいかない」


賢者「その心意気は買いますがな……代わりに失ったものは大きいですぞ」

賢者「ラルの分も含めて剣を二本、これは大きな出費ですなぁ」

青年「む……」

賢者「当分は食費も抑えなくてはなりませんなぁ」

青年「むむ……」

賢者「ティノアやラルが食物を探している間、陛下ともあろうお方が」

賢者「不平不満に時間を費やしているとは……嘆かわしい」

青年「むむむ……」

青年「わかった、もう一度行ってくるとしよう」

青年「だが」


736 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/02(金) 17:52:19.56 ID:+GGcBkCwo


青年「僕が文句を言っているのは、君が何もしていないからなのだけれど?」

賢者「今、いいフレーズが浮かんでいるので後にしてもらえませんか」

冷ややかな視線を浴びせる青年を軽く流し、手元の魔導書に視線を移す。

開かれたページには黒インクで描かれた文字が長きにわたって綴られており

その末端に数行の空きがある程度であった。


青年「またか……まあ、いいけれど。それが終わったら薪木くらい拾って来て欲しいものだね」

賢者「お任せ下さい」


青年はそう言うと、水を大鍋に移し変え、再び水汲みにと歩み始めた。


賢者「ううむ……しかし、これはインパクトに欠ける……さてどうしたものか」




737 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/02(金) 17:53:33.20 ID:+GGcBkCwo



騎士『ふー、結構採れたなー』

少女「ですね」


賢者「おお、戻ってきたか。お前たち」

手頃な石に腰を下ろし、薪を組み上げている最中の賢者が騎士たちを一瞥する。

騎士『ん……あいつはまだ戻ってないのか』

賢者「まだ鍛錬中だ。さて……こんなものか」


組み上げた薪に納得が言ったのか、パチンと指を鳴らすと

それだけで赤い炎が燃え上がる。


騎士『毎度思うけどさぁ……あんたってホントに軽々しく魔術を使うよな』

騎士『明かりを灯すにしろ、詠唱は必須なんだろ?』

賢者「ふん、俺レベルになれば無詠唱などたやすいことよ」

騎士『でも戦闘中はしっかりと叫んでるよな、何か毎回呪文が違う気がするけど』

賢者「当たり前だ」

738 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/02(金) 17:53:59.34 ID:+GGcBkCwo

少女「やはり強力なものには必要なのですね?」

賢者「それもあるが、何より格好がつかんだろう」

騎士『は……?』

賢者「何も唱えずに魔術を使っても冴えないではないか……そのくらい分かれ」


青年「……ふぅ、つまりは見栄っ張りだということだ」

騎士『呆れた……』

少女「フューリさん、おかえりなさい」

賢者「遅かったですな」

青年「ただいま……途中で一度転んでしまってね、汲みに戻る羽目になった」

少女「大丈夫ですか? 包帯、巻いておきますか?」

青年「い、いや、そこまですることではないよ」

賢者「はっはっは、いやはや逞しくなりましたなぁ。昔は泣きべそでもかいていたでしょうに」

青年「う、うるさいな!」

739 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/02(金) 17:54:32.40 ID:+GGcBkCwo

騎士『へえ……あんたも昔っからしっかりしてたわけじゃないんだな。意外だわ』

青年「うっ……」

少女「ちっちゃいフューリさんですか、少し見てみたい気もします」

青年「かっ、誂わないでくれ……」

賢者「はあ、あんなに可愛かったというのに……今では見る影も……」

青年「…………」

賢者「申し訳ありません、睨まないでください」

青年「もうこの話はいいから。お腹が空いたよ」

騎士『ハハ、そうだな。じゃあ嬢ちゃん、手伝ってくれ』

少女「はい、お任せ下さい」



740 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/02(金) 17:55:05.15 ID:+GGcBkCwo



グツグツ


騎士「んー、こんなもんか。味見してみてくれ」

少女「……ん、美味しいです」

騎士「じゃあ完成だな。おおい出来たぞー」


大鍋の中で煮立っているのは野草とキノコのスープ。

以前寄った村で購入した調味料を使用し、素朴ながらも味わい深い仕上がりとなっている。

その出来に満足した騎士は、出来上がるまで鍛錬をすると言った青年と賢者を呼ぶ。


青年「はあ……はあ……」

賢者「ううむ……、重心のとり方がですなぁ」


騎士「しゃあねえ……呼んできてくれないか?」

少女「はい」


741 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/02(金) 17:56:17.16 ID:+GGcBkCwo


少女「ご飯ができましたよ?」

賢者「うむ、そうか。では一旦休憩としますか」

青年「む……わかった」


少女「……? あまり嬉しそうではありませんね?」

賢者「疲れているのだろう」

少女「そう……ですか」


騎士「はいよ。熱いから気をつけろ」

青年「うん、ありがとう」

騎士はカットしたパンにスライスしたチーズを乗せた皿、そしてスープの入った椀を手渡す。

しかし、食事となるといつも上機嫌になるはずの青年は、弱々しく微笑みそれらを受け取るだけだった。

少女「食べないの……ですか?」

青年「熱いようだから、少し冷ましてから食べるよ」

742 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/02(金) 17:57:16.89 ID:+GGcBkCwo

騎士「なんだよ。気をつけろとは言ったけど、熱いうちに食わなきゃ美味くねえぞ?」

賢者「うむ……なかなかに美味い」

少女「はい、ラルさんはお料理が上手です」

騎士「ハハ、そうでもねえよ。けど、ありがとう」

賢者「もっと誇ってもよいのだぞ、しかし最近はこんなことまで教わるのか? 騎士団では」

騎士「いや、まぁ……これは俺の趣味っつーか」

賢者「男らしからぬ奴だな」

騎士「……そりゃ、ずっと一人だったからな」

少女「? 何か言いましたか?」

騎士「何でもないぜ」

少女「はい」

にこりと騎士が笑うと、少女は再び自分のスープへと視線を落とす。

それを横目に、騎士は主室に兜を両手でつかむ。


743 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/02(金) 17:58:04.11 ID:+GGcBkCwo


騎士「よっこいしょ」

特に何の擬音が出ることもなく、その頭部は兜ごと胴体とお別れした。

そしてそのまま膝の上に首を置くと、自分の皿に手を伸ばした。


賢者「しかしいつ見ても不気味だな」

騎士「あ、あんまジロジロみんなよ……恥ずかしい」

青年「照れるところなのかい……? そこは」

少女「頭が取れるのって、何だか楽しそうですね」

騎士「結構不便なんだぜ? 俺は食わなくてもいいけどこっちは腹がへるんだ」

賢者「それは頭と体が魔力の回路で繋がっているからだろう」

賢者「体で生成された魔力が頭部に送られ、それによって動いていると」

賢者「古い文献で読んだことがある。……といってもデュラハンは首をなくしても動くらしいが」
744 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/02(金) 17:58:44.03 ID:+GGcBkCwo

騎士「はあん……魔力ねえ。俺には魔法の才はなかったんだけどな」

賢者「うむ、いかにも馬鹿っぽいからな」

騎士「なんだとッ!?」

少女「お食事中に暴れてはいけませんよ?」

騎士「うっ……わ、悪い」

賢者「ぷーくすくす。怒られてやんの」

騎士「テメッ! ……はー、んで首がなくても動くって言うんだから」

騎士「やっぱこいつにはこいつなりの意志があるんだな」

青年「……? というと」

ようやく食事に手を付けた青年が、疑問符を浮かべて手を止める。

視線を向けると、騎士の体が首の先端にある口に食物を通している様子が伺えた。


745 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/02(金) 17:59:29.26 ID:+GGcBkCwo


騎士「前々から変だと思ってたんだよなー。旅の最中にうっかり寝ちまったと思ったら」

騎士「起きたら目の前でスケルトンが粉々になってたり」

騎士「いつの間にか知らない所歩いてたりさ」

賢者「それはつまり」

騎士「現に、俺今何もしてないんだけどこいつ勝手に飯食ってるんだよな」

青年「君の体には君とは異なった自我があると?」

賢者「そういうことに、なりますなぁ」

騎士「そう考えると結構便利だな、これ」

少女「なるほど、ラルさんが二人いるのですね」

青年「驚いた……、いつの間にか仲間が二人増えていたということか」

食事を続ける騎士の体に目を見張ると、それに気づいたのか不意にスプーンを持った手を前につきだし

グッと親指を立てた。


746 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/02(金) 18:00:00.90 ID:+GGcBkCwo


賢者「興味深い……どうだラル? 一度俺にバラされてみんか?」

騎士「なんでそうなる。てか既にバラバラだよ」

少女「でも、それなら体のほうのラルさんにも名前が必要ですね?」

騎士「そう……か? 適当でいいんじゃないか」

賢者「ふむ! 確かに名前が必要だな! ここは俺が」

騎士「何かわからんが、あんたはやめてくれ」

賢者「な、何故だ!」

少女「フューリさんは何か思いつきませんか?」

青年「僕かい? んー……というか僕でいいのかな」

騎士「俺は別にどっちでもいいけど……オッサンよかあんたのがマシだな」

青年「そうかい? ……じゃあ安直に行くとしようか」


青年「…………では、ランディ、というのはどうかな?」


747 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/02(金) 18:00:28.17 ID:+GGcBkCwo


賢者「はっはっは、またまたセンスの欠片もありませんなぁ! やはりここは俺が」

少女「いいんじゃないでしょうか? 素敵だと思います」

騎士「悪くはないな、ランディだってよ。どうだ?」


食事を止めたまま、姿勢正しく座っていた騎士の体は

暫く硬直していたかと思うと再び腕を突き出し、力強く親指を立てた。

騎士「気に入った、だとよ」

賢者「なん……だと……?」

青年「ふふ、それはよかった」

少女「はい、よろしくおねがいします。ランディさん」

騎士の隣に座った少女がそういうと、騎士の体はスプーンを置いて少女の頭を優しく撫でた。

どうやら、こちらこそよろしくと伝えたいようだった。


748 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/02(金) 18:01:06.65 ID:+GGcBkCwo


賢者「解せんなぁ……俺ならばもっと……」

青年「ふふふ、残念だったね。マグナ」

賢者「ぐぬぬ……」

悔しそうに賢者は唸るが、青年の表情がいつも程度には明るくなったのを見て

賢者「……ふっ」

口角を少しだけ上げて笑った。

青年「どうかしたのか、気持ち悪い」

賢者「いえ、別に」


ガラガラ……


一同が和やかな食事に戻り、青年がいつも通りにおかわりを要求し始めたころ

少し離れた所から車輪が地を掻く音が聞こえ出した。


749 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/02(金) 18:01:32.72 ID:+GGcBkCwo


青年「近づいて来ているようだ」

賢者「不味いな……」

賢者「とりあえずランディ! 頭を装備しろ!」

騎士「装備言うな!」


「どーどー」


全員が息を飲んで見守る中、突然現れた馬車から人声が発せられる。

嘶きの合間に聞こえた声と、手綱を引き馬を宥める人物の容貌はたしかに女性のものであった。


「あ、やっぱり。先着がいたかー」

すたっ、と地に足付け青年たちを見るや否や、額に手を当て苦笑気味にそういった。

「まーいいよね、お邪魔しますねはい」

しかし困惑したのもつかの間、その女性は気づけば焚き火を囲う者たちの一人となった。


750 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/02(金) 18:02:14.24 ID:+GGcBkCwo


青年「あの……貴方は?」

「わっ! なにこれ美味しそ! 食べていい?」

騎士「は、はぁ……ど、どうぞ」

「ありがとー、朝からなんにも食べてないんだー」


騎士が手渡すお玉と椀、スプーンを受け取り、鍋の中をかき混ぜながらごく自然な笑みを浮かべる。

青年は無視されたことに怒りもせず、そんな女性の容姿にと目を向けた。

肩まで伸びたボサボサの、くすんだ色の銀髪。

特徴としては括られた一房の髪が頭の横から飛び出し、風に揺られひょこひょこと動いていることぐらいだろうか。

そして肌の色は青白く、薄い青みがかった大きな瞳はスープへと向けられていた。


「んむ、むぐむぐ。おいし」

751 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/02(金) 18:03:02.51 ID:+GGcBkCwo

少女「ところで、お姉さんは?」


いつもの表情でぼーっと眺めていた少女が問うと

女性はしっぽ髪をぴょこんと跳ねさせて顔を上げた。


「んふふ、そういえばまだ名乗ってすらなかったねー」

「ミーコ、しがない商人だよ。よっろしくぅ」

賢者「商人? 女一人でか」

商人「そうだけど?」

賢者「ふむ……? なかなかに腕が立つと見た」

商人「やだな、あたしはか弱い女の子だよ」

青年「は、はぁ……」

騎士「それでどこに向かってるんですか?」

商人「君たちと一緒じゃないかなぁ。君たちはどこへ?」

青年「僕たちは前王が治める街へ向かっています」

商人「それじゃあ一緒だね」

752 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/02(金) 18:03:47.59 ID:+GGcBkCwo

賢者「お前も検問で弾かれた口か?」

商人「あたしは違うよ、もともとあの街に用があったわけだし」

商人「君たちは通して貰えなかったんだ、ま、王都へは一部の人間しか入れないらしいしね」

商人「ところでそっちの騎士さんは無理だったの?」

騎士「あー、俺は……何だか戦死扱いみたいで。門前払いでした」

商人「なるほどねぇ、ま、色々ごちゃごちゃしてるみたいだし?」


そう言うと、商人はスープを一気に飲み干した。

商人「ぷあー、ごちそうさま」

騎士「お粗末さまでした」

商人「君が作ったんだ? ありがと……ね、ふぁぁ……」

少女「眠いのですか?」

商人「……ん、ちょいとね。悪いけど、少し寝させて……」

言い終わるや否や、ぷつんと糸が切れたように倒れる商人。

青年が心配そうに様子を見るが、どうやら本当に寝ただけのようだ。


753 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/02(金) 18:04:50.11 ID:+GGcBkCwo


青年「ティノア、毛布を二枚取ってくれないかい」

少女「はい」

賢者「素性も知れぬ奴を受け入れるというのですか」

騎士「まあ大丈夫だろ」

青年「どうやらとても疲れているようだし、出来ればそっとしてあげたい」

賢者「……まったく甘いと言ったら」

青年「すまない、代わりに見張りは僕が引き受けよう」


苦笑気味にそういった青年は、横目でちらと商人を見やる。

丸めた毛布を枕にし、首元まで毛布を被った商人は

大人の女性にしては幼すぎる、無防備な寝顔を覗かせていた。


754 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[sage]:2012/03/02(金) 18:05:30.81 ID:+GGcBkCwo
つ づ く 。
755 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/03/02(金) 18:33:53.00 ID:TaXIKxsIO
おつ
756 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage]:2012/03/03(土) 00:29:32.08 ID:xjVWnyg1o

新たな犠牲者か新たな仲間か…
757 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/03/03(土) 01:49:36.34 ID:+Ea0S55IO
頭を装備しろワロタw
ランディ良いキャラしてんなぁ
758 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2012/03/03(土) 16:23:32.62 ID:d1lzlPuD0
乙です
不思議な魅力のある話です
759 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/03/09(金) 13:47:48.83 ID:7thx+4AIO
読み返したけどやっぱおもすれー

続きまってるよ
760 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/13(火) 00:15:32.62 ID:9JE/8ek8o



パチッ……パチチッ

炭化した薪がひび割れ、弾ける音を出しながら燃える。

魔法で生まれた炎はちょっとやそっとの風では消えないが、燃料である魔力か薪木がなくてはどうしようもない。

なので青年は定期的に薪を追加しつつ、その合間に辺りをぼーっと眺め見る。

すでに夜もふけ、青年以外は寝息を立てていた。

誰も起きていないのを確認して、少し心細さを覚える。

幾度も超えた夜ではあったが一人で過ごす夜は苦手なのだ。

ふと気分転換に素振りでもしようと考え、やめた。

己のために皆を起こしてしまうのは不本意だ。

しょうが無いので両膝を抱え揺らめく炎を見つめる、しかし目が痛くなったのですぐにやめた。

761 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/13(火) 00:16:15.92 ID:9JE/8ek8o

どうしたものかと体を左右に振りながら暫く思案していると


賢者「ぐぉぉぉぉ……」

と暢気ないびきが冷たい夜空に吸い込まれていった。

青年「まったく……」

別に意味などないが、耳障りないびきが癪に触ったので丁度いい太さの薪を賢者の鼻の穴に押しこむ。

すると「ふごっ……ふごっ」と賢者は吸気のタイミングで何度も詰まっていた。

その様を見て満足したのか、青年はほくそ笑んだ後再び石の上に腰を下ろし

火守の任に務めるのであった。


762 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/13(火) 00:17:24.34 ID:9JE/8ek8o



青年「……ん」

青年「しまった、寝ていたか」

辺りはまだ暗い、それに焚き火もまだ付いている。

青年「それほど時間は経っていなかったのか……」

未だ不明瞭な目を擦り、何とか周囲の状況が確認できるようにすると

隣に誰かが座っているのに気づく。


青年「ラル……? 起きていたのかい」

騎士「…………」

気になって声をかけるも、返事はない。

青年「寝ている、のかな?」


騎士「……ぐぅ」

青年「ふふ、何をやっているんだい。君は」

騎士は眠ったまま、だが騎士の体はまだ起きていたようだ。

青年が笑うと、照れたように後頭部を抑える。

763 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/13(火) 00:18:28.57 ID:9JE/8ek8o

その様子を見てもう一度笑うと

それっきり何も言葉を発さずただ二人で焚き火の明かりに照らされていた。

暫くして、再び船を漕ぎ始めた青年の肩を騎士は人差し指でとんとん、と叩く。


青年「んあ……」

騎士「…………」

ビクリと反応し、驚いて騎士を見ると

騎士は自分の胸を叩いてみせた。

青年「任せろ、と?」

そう聞くと、親指を立てる。

青年「だが……」


どうしたものかと悩んでいると

騎士は親指を立てたまま、胸を張って自分を指した。

心配するなということだろう。


青年「……わかった。そこまで言うのなら任せよう」

青年「すまない……ありがとう」


火守を騎士に任せ、青年は毛布に包まる。

そして信頼する仲間の存在を感じながら、そっと深い眠りに落ちていった。



764 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/13(火) 00:19:02.00 ID:9JE/8ek8o



チュンッ……


青年「……んん」

少女「おはようございます」


小鳥が囀る中、ようやく目を覚ました青年。

薄目を開けるとすぐ眼の前に少女の顔があった。

青年「おは、よう……ふぁぁ」

体を起こし、まだ覚醒しない頭をふらつかせながら暫くぼーっとしていると

その様子を眺めていた少女が突然青年の頬に口付けをする。

少女「んっ……ご飯、出来ていますよ」

青年「わ、わかったよ」

あの時以来、少女は決まってこの挨拶をする。

女の子が軽々しくするのはいけないと思うが、別にやめろという理由もないので甘んじて受け入れていた。


765 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/13(火) 00:21:28.34 ID:9JE/8ek8o


青年「皆、おはよう」

賢者「ようやくお目覚めですか」

騎士「おう、おはよう」


青年「さっきはありがとう」

騎士「は? 俺何かしたっけ」

青年「ふふ……いいや、何でもないよ」

騎士「? 変な奴だな」

青年「ところで、ミーコさんは?」

少女「お姉さんなら、朝一番に出かけて行きました」

少女「お礼も出来ずにごめんと言っていましたが、街で見かけたら一声かけて欲しいとのことです」

賢者「馬車に乗せてもらおうとも思いましたが、生憎定員オーバーでしてな」

青年「そうか……」

騎士「ま、急いでたようだし、仕方ねえよ。俺達もさっさと飯食って出発しようぜ」

青年「うん、そうするとしようか」


賢者「にしても不思議なものです、朝目が覚めると鼻に薪が刺さっていたのですが……」

青年「滅多にないことだ、縁起がいいじゃないか。よかったね」

賢者「むむむ……謎だ」

766 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/13(火) 00:22:23.11 ID:9JE/8ek8o





娘「…………」


旅を始めてからそれなりの時間が経った。

だがその程度の時間で戦時中に国境を超え、難なく国の心臓部付近までやって来れたのは

偏に男のおかげであると言えよう。

いつもは無愛想極まりない男であるが、いざという時の社交は並外れたものがある。

今現在もどこからか職を見つけて来ては娘ともども働き、食い扶持を稼いでいるのだ。

働くに言葉を発せない娘は辛かろうと周りの大人は言うが

言葉を失ったとはいえ赤子ではない、感情表現は出来るし必要なコミュニケーションは取れる。

それに何もしないよりかは随分と気が楽だ。

普段何も考えを言わない男ではあるが、自分にも何か仕事を与えてくれるのは男なりの気遣いなのかもしれない。

そんなことを漠然と考えながら、年季の入ったテーブルを拭く。


――お兄さん、いま何してるんだろう


767 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/13(火) 00:23:07.81 ID:9JE/8ek8o


職を見つけ、娘のことを他の者に任せると言ったあと、男はさっさとどこかへ行ってしまった。

娘が寝起きをしている場所に訪ねてくる気配もない、女中たちの噂はちらほらと聞くが……。


「リィナちゃん? 次洗濯物お願いね」


いきなり、後ろから呼びかけられる。

少し驚いたが、娘は振り向くと笑みを浮かべて頷いた。

それに対して女中も笑顔で返すと忙しなく去っていく。

我ながら随分と馴染めたと思う、出来ればこのまま時が過ぎ去って欲しいと願うほど

平穏な日々に。

768 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/13(火) 00:23:34.16 ID:9JE/8ek8o



籠に詰め込まれた洗濯物を両手で精一杯に抱え込みながら庭を進む。

娘「んっ……ふぅっ……」

山育ちな娘は、同年代の子供より逞しく育ったと思う。

それでもまだ子供、そして少女だ。三つ編みを揺らしながら苦しみ喘ぎ道を行く。


娘「……っふー」

どしりと音をたて、ようやくたどりついた井戸の側に荷物を下ろす。

そして水を組み上げ洗濯槽に流しこみ衣類を一着浸すと、火照った体に冷たい水が心地よく感じる。

娘はぱしゃぱしゃと水を跳ねさせて遊んだ後に洗濯を始めた。


犬「わう」

暫くすると、庭に放し飼いにされていた犬が尻尾を振りながら近づいてくるのが見えた。

娘にとって唯一と言っていい友達である。

以前、一度犬は連れ込めないと言われたとき、娘は犬と離れるのだけは嫌と我儘を言い男を困らせたものだ。

769 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/13(火) 00:24:05.96 ID:9JE/8ek8o

しかし結局は不機嫌になりながらも男は許可を引っさげて戻ってきた。

その事を知ってか知らずか、犬は男以外には懐っこく今では使用人全員に愛さる存在となった。

そんな犬の手入れされた黒毛を優しく撫でると、犬は一層尻尾の振りを激しくする。

自分が撫でただけでここまで喜んで貰えると、娘まで自然と笑みが溢れ出す。

可愛い奴め〜と思いながらわしゃわしゃと撫で続けていると


「この子、貴方の犬なの?」


視界の隅から突然人影が現れ、そう言った。


娘「…………」こくり

「そう……可愛い子」

犬「わふ」

娘が頷いてみせると、娘とはさして変わらぬ歳であろう幼い顔つきで微笑んだ。

それは年頃の少女には似つかぬ笑みではあったが。

770 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/13(火) 00:28:33.44 ID:9JE/8ek8o

「貴方、……声がでないのですってね」

犬を撫でながら少女は娘に聞く、少し遠慮がちに。

その気持ちを読み取ってか、娘は笑みを浮かべて再び首を立てに振る。

「……そう、なの」

哀れんでいるのだろうか、同情しているのだろうか、しかし娘に失礼が無いよう精一杯に気を使っているように見える。

とにかく、心優しい人なのだろうと娘は感じた。


「わたしとあまり変わらないのに……大変なのね……」

「……だからって、わたしには何も……」

娘「??」

「あ、いいえ。何でもないの、気にしないで」

娘「…………」


ぐいっ


「え、何? 手を貸せって?」

娘「……」こくり

「えぇ……はい」


娘は少女の手を取る、触れた瞬間熱が伝わる。

すると同時にある思いが生まれた。


――あたしは、リィナ。あなたは?

「わたしは……」


この子とは、友達になれる。と
771 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[sage]:2012/03/13(火) 00:30:10.11 ID:9JE/8ek8o
つ づ ク 。

胴体と娘が出てくると地の文が増える不思議
772 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/03/13(火) 00:38:50.41 ID:yRD4OJum0

最近グンマーに行く機会があったんだが、あんなとこにもうどんはあるんだな
773 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/03/14(水) 09:45:59.59 ID:1c48C+2IO
相変わらず面白い 乙

男と娘がどう絡んで来るのか気になる
男はまだ少女を覚えているのか
774 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage]:2012/03/14(水) 13:44:24.16 ID:UrHuCapro
>>772
うどんはうどんでもそれはうどんではないうどんなのではないだろうか
775 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/03/15(木) 18:07:49.87 ID:wVxaVeKxo
それはうどんじゃなくて>>1じゃないかな
776 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[sage]:2012/03/16(金) 17:31:25.73 ID:uvJ53+Lxo
それも私だ
短すぎるけどキリがよかったからDON
777 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/16(金) 17:32:05.71 ID:uvJ53+Lxo




「それで諸注意に移りますが……街の中での抜刀は禁止されております、いかなる理由があろうとも」

青年「了解した」

「何かあった場合は付近の警備兵に連絡してください」

「それと……」


騎士『物騒だよなぁ』

賢者「戦線は遙か遠くなのだがな、それでも警戒するべきなのだろう」

騎士『んで……なんで手続きをフューリがしてるんだ? 普通あんただろ』

賢者「前にも言ったろう……何度も言わせるな」

騎士『あに偉そうにしてんだ』


778 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/16(金) 17:32:47.51 ID:uvJ53+Lxo


少女「……大きな街ですね」

賢者「それはそうだろう。王都に次ぐ規模だからな」

少女「王都……というものを見たことがありません」

騎士『そりゃもう、でかいとこだぜ。ここも凄いらしいけどな』

賢者「なんだ、来たことはなかったのか?」

騎士『あんたも知ってるだろ? ここは前王が治めてる土地だ、必要以上の騎士の介入を拒むのさ』

賢者「……ふむ、そうだったか」

騎士『代わりに自警団が騎士の代わりなんだそうだ』

少女「今フューリさんがお話している人たちのことですか? その通りですね?」

騎士『そうだろうな』

賢者「戦時と言うに……己の身しか守れんとはな。情けない」

騎士『ほとんどが民間人で構成されてるし、国としても無駄に戦力を割かなくていいから助かってるってさ』

賢者「馬鹿者! 民間人と言えどお国の危機にはその身ひとつで駆けつけるもの……」

騎士『あーあーあー……耳が痛い話だな……』

779 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/16(金) 17:33:35.90 ID:uvJ53+Lxo

騎士『大体、それを言ったらあんたはどうなんだ……』

賢者「まったく最近の若いもんは……」

騎士『って聞いてねえし……っと、おう、おつかれ』


青年「何、軽く話をしただけだよ」

青年「もういいようだから早速行くとしようか」

少女「もう入っていいのですか?」

青年「うん、いいよ」

少女「そうなのですか、わたし、こんな大きな街に来るのは初めてです」

青年「うん、僕もこの街に来るのは初めてだな」

少女「楽しみですね? にこー」

青年「うん、楽しみだね」


騎士『ほらほら、いつまでもここで話してるわけにはいかないだろ?』

賢者「うむ、さっさとしないと置いていくぞ」

騎士『こういう時だけ早いんだなぁ……』


780 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/16(金) 17:33:53.29 ID:uvJ53+Lxo




領主「それは本当なんだな」

使用人「はい……先ほど連絡がありました、四人組のうち一人が騎士だったと」

領主「……他の三人は付き人か」

使用人「そのようです」

領主「ふ、ふふはは、たった四人で何ができる」

領主「いや、そもそも私は何も間違ってはいない……何も……」

使用人「…………」

領主「我が民を守るためだというのに! それの何がいけない!」

使用人「お、落ち着いてください」

領主「まったく……あの男はおかしい……私の言うことを聞こうともしない……」

領主「……私ならばもっと上手くやれるというのに……クソクソクソ……」

領主「第一戦争になったのはあいつのせいなんだ。それで我々が咎を受ける理由などない……!」


781 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/16(金) 17:34:30.20 ID:uvJ53+Lxo


コンコンッ


男「あのぉ、よろしいですか?」

領主「……お前か、入れ」

男「何かぼくに御用が?」

領主「ああ……お前に監視を頼みたい」

男「ええ!? ぼくは護衛として雇われたんですが……」

領主「できないとは言わせない」

男「それは、まあ……」

男「仕事ならやりますけど……対象は一体誰なんです?」

領主「物分りが良くて助かる。男三人に少女が一人、男のうち一人は騎士だ」

男「騎士……?」

782 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/16(金) 17:35:06.39 ID:uvJ53+Lxo

領主「どうやら騎士団の連中が差し向けて来たようだ、だが痛くもない腹を探られるのは気分がよくない」

領主「怪しい動きをしていないか監視して欲しい」

男「はい、わかりました。では」


ガチャッ……パタン


男「……チッ、不味いことになった。まさか本当に来るとはな」

男「これで動きは制限されたが、何、まだやりようはある」


男「しかし……先程から感じる違和感……何故だ。古傷が痛む……」



783 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[sage]:2012/03/16(金) 17:37:23.08 ID:uvJ53+Lxo
つ づ く
784 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2012/03/16(金) 18:14:26.71 ID:UB4tj3x/0


勘違いからトラブル発生か?
785 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/03/16(金) 19:53:24.29 ID:jskfM/GIO
これで少女と再会するのか…

男は少女に感謝してるのか恨んでるのかで展開が変わりそうね

786 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)[sage]:2012/03/16(金) 20:22:13.73 ID:orfStOS8o
こんなとんでもない馬鹿野郎の質問をちょっとだけ聞いてくれないか?
リィナと少女が付いている男って、本編の誰と同一人物? それともまったくの無関係? スレ汚しすまん
787 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]:2012/03/16(金) 21:43:07.80 ID:S/RLovNzo
>>786
男=穢れた母子編の男=取り残された男
788 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)[sage]:2012/03/16(金) 21:58:21.25 ID:orfStOS8o
>>787
そうか、今まで 騎士=母子編の男 だと思っていたが 騎士=>>5〜の騎士 というわけだったのか。で、男はまんま男だったわけで・・・。
一番最初から読み直さなかった俺が馬鹿でした。ありがとう
789 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]:2012/03/22(木) 02:13:14.37 ID:/6FHgzyWo
やっと追いついたあああ
790 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/03/27(火) 00:35:56.36 ID:BDR41w2go
読み返してて思ったが、盗賊の回はいつのことなんだろう
赤ちゃん回→教団の間か?
791 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/03/27(火) 00:36:39.78 ID:BDR41w2go
読み返してて思ったが、盗賊の回はいつのことなんだろう
赤ちゃん回→教団の間か?
792 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]:2012/03/27(火) 12:06:43.32 ID:OwU0Q2WKo
盗賊回の始めから終りの間に赤ちゃん回があったんじゃね
793 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/27(火) 23:52:01.02 ID:+xL4xgrGo




少女「すごく……大きいですね」

少女「道も広くて、人もたくさんです」

青年「あまり離れてはいけないよ」

少女「はい」


騎士『うーん……』

賢者「何を見ている?」

「お、騎士さんかい。珍しいね、何かお探しかい?」

騎士『ちょっと果物をと思ったけど……高いな』

「これでも安くしてるんですよぉ」

794 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/27(火) 23:52:43.08 ID:+xL4xgrGo

「最近は物価もあがってねぇ、魔物も出るってもんで四苦八苦してるんですわ」

「お国のほうでなんとかしてくれないもんですかね……」

騎士『……悪いな、善処はしてると思うんだが』

賢者「民を守るのが国の責ならば、国のため耐え忍ぶのが国民の責だろうが」

賢者「この程度で文句を言っていては持たんぞ」

「まあそりゃあそうなんですがねー……」

騎士『…………』

賢者「お前が気にすることはない、行くぞ」

騎士『お、おう』


795 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/27(火) 23:53:09.46 ID:+xL4xgrGo


青年「さて、どうするか」

騎士『はやいとこ休みたいけど』

賢者「いや……まずはお前の格好をどうにかすべきだったな」

賢者「目立ちすぎる上にむさ苦しい」

騎士『そうかあ? 俺は別になんともないけどな』

賢者「ふー……周りへの気配りが足りん奴だ、お前がこれではランディも苦労するだろう」

騎士『ランディは関係ないだろ! もともと俺の一部なんだから』

青年「うん? 着替えが必要かい? ならば僕の……」

騎士『ん?』


796 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/27(火) 23:53:52.64 ID:+xL4xgrGo


青年「……ちびで悪かったね」

騎士『待て、俺はまだ何も言ってない!』

賢者「お前……言っていいことと悪いことがあるぞ……」

騎士『おい! 聞けって!』

少女「大丈夫ですフューリさん、わたしよりは大きいですから」

青年「ありがとう……ティノアは優しいね」

少女「いえ、それほどでは」

賢者「見ろ、これがお前に足りない心遣いというものだ」

騎士『もう誰に文句いえばいいかわかんねえよ……』


797 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/27(火) 23:54:47.56 ID:+xL4xgrGo


青年「冗談はさておき」

騎士『…………』

青年「まずはミーコさんを探したいところだね」

騎士『ああ、あの人か。あの人もここに来ると言ってたけど……』

青年「うん、無事にたどり着けたかも気になるところだし」

青年「しかしさきの通りでは姿を見かけなかったけれど。どこで商売しているのだろうね」

少女「わかりません。こう広いと、人一人を探すのも一苦労です」

賢者「ならば手分けしたほうがよさそうだ」

賢者「俺とティノアであの商人を探そう」

青年「なら僕はラルの服を見に行こうか?」

798 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/27(火) 23:55:26.31 ID:+xL4xgrGo

青年「必要だと言っている。それとも何かな? 僕の丈の足りない小さな服で我慢するかい?」

騎士『うっ……そりゃ、嫌だけど』

青年「…………ちびで悪かったね」

騎士『だ、だから! 俺が言いたいのはそういうことじゃなくて……このままでも別にいいだろってことだよ!』

賢者「言わねばわからんか? お前の騎士という立場が動きづらくすることもあるのだと」

騎士『うぐぐ……だけどよ……』

少女「どうしても鎧を脱ぐのが嫌なのでしたら、言えばいいのですよ」

少女「ちゃんと理由を説明すればみなさん分かってくれますから」

799 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/27(火) 23:56:22.11 ID:+xL4xgrGo

騎士『そうだけど……そのー、ほら』

騎士『あれじゃん? やっぱさー……』


賢者「なんだ、煮え切らん奴だな」

騎士『……つなぎ目、見えるだろ?』

賢者「なんのだ」

青年「あー」

騎士『ランディとはさ、ランディが俺の首の皮噛んで引っ付けてるんだよな』

騎士『だからさ……完全にはくっついてなくて、やっぱ隙間が見えるんだよ』


青年「包帯でも巻いておけば?」

騎士『あぁー』

騎士『その手があったな』



800 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/27(火) 23:57:16.70 ID:+xL4xgrGo




青年「……それで、サイズが分からなければ服の選びようがないのだけれど」

騎士『だなあ』

青年「だなあ、ではなくてだね」

青年「サイズをはかりたいから鎧を脱いでくれないか」

騎士『無茶言うなよぉ……』

青年「それもそうだね」

青年「では身長だけあわせて少し大きめのものを買うとするか」

騎士『そうすっか』

青年「ではこの外套などどうだろうか? これならば下になにも着ずともばれることはないだろう」

騎士『下に何も着ないことに何の意味があるかわからん』

801 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/27(火) 23:58:50.10 ID:+xL4xgrGo

青年「お気に召さなかったようだね……ううむ」

騎士『それ服自体に不満があるわけじゃないんだけどな?』

青年「ならばローブなんてどうだろう?」

騎士『俺にあうのか? そんなの……ってこれはロープだろ!』

青年「……ラル、それはジョークのつもりかい? 流石にそれはどうかと思うよ」

騎士『あんたが言わせたんだろうが!』

騎士『大体なんで服屋に紐があるんだ? どうやってきるんだよ』

青年「意外と丈夫なようだけど」

騎士『強度は関係ないだろ! 俺達は服を探しに来てるんだってば!』

802 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/28(水) 00:00:07.03 ID:3Y7YXslAo

青年「ふう、不満ばかり言っていてはいつまでたっても決まらないよ?」

騎士『……あんたさ、楽しんでるだろ』


青年「ふふ……すまないね、歳の近い人とこういったことをした経験がなくて」

青年「少しなんというか、はしゃいでしまっているのかもしれない」

騎士『…………』

青年「気を悪くしたのなら謝るよ」

騎士『……いや、別にいい』

青年「そうかい? ありがとう……」

騎士『ん? どうした』

青年「見てごらん、ビキニアーマーが売ってあるよ」

騎士『ああ、そうだな。なんで服屋においてあるのかわかんねえが……それがどうかしたか』

803 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/28(水) 00:01:25.22 ID:3Y7YXslAo

青年「…………」

騎士『な、なんだよその目』

青年「着てみないかい?」

騎士『死んでも断る!』

青年「少しくらいいいじゃないか、大きさならベルトで調節できるようだし」

青年「それに……きっととても面白い」

騎士『俺はおもしろくねえ、絶対』

青年「世の中に絶対などというものはないよ」

騎士『や、やめろこっちくんな!』

青年「傷つくな、僕がなにをしたという? なにも悪いことはしないよ?」


じり


804 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/28(水) 00:02:06.29 ID:3Y7YXslAo


騎士『嘘だ! 嘘をついてる目をしてる!』

青年「心外だな……あ、ラル、後ろ」

騎士『へ?』


ドンッ


「うわあ!」

騎士『うぉぉッ!』

ドスンッ


青年「ああラル、だから言ったのに」

騎士『って……てて、つうか大体はあんたが!』

805 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/28(水) 00:02:56.27 ID:3Y7YXslAo

青年「僕に文句を言っている場合ではないだろう? 大丈夫ですか、怪我は……?」

「いてて……あ、ぼ、ぼくは大丈夫です」

「それよりそちらの騎士様はお怪我ありませんか?」

騎士『え? 俺か? 別になんともないぜ』

「すみません、すこしぼーっとしてて……」

騎士『いやいやいや! 謝るなよ! 店んなかで暴れてた俺たちのが悪いし……』

青年「そのとおりだ、気にする必要はないよ」

騎士『あんたなぁ……人事みたいに言うが……』

青年「うん、僕も悪かった、すまない」

「ああ! 頭なんて下げないでください!」


806 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/28(水) 00:03:30.22 ID:3Y7YXslAo


「ところで、お二人は王都からやってきたんですか?」

「……その、騎士様がここに一体何のようで」

「あ、いえ、何か言えないことならいいんですけど!」

騎士『あー、俺達はそう言うんじゃないんだ』

「え?」

騎士『なんつーかな……はぐれ者って言うか……』

「と、ということは……ならず者かなにかで」

騎士『違う!』

「ひっ……す、すみません」

青年「ふふ、傍から見るとそう見えなくもないかな」

騎士『冷やかすなよフューリ』

807 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/28(水) 00:04:21.51 ID:3Y7YXslAo

「違う、ということは旅人か何かですか?」

青年「そういったところかな? 実はこの街には今日到着したところでね」

青年「今は服を探していた」

「そう、なんですか……ではぼくはお邪魔を……」

騎士『だから気にすんなって』

「いえ……そうだ!」

「お買い物が済んだあと、ぼくが街を案内しますよ。どうですか?」


青年「別に構わないよ、君に悪い」

「いいんですよ、ぼくも暇ですし」

騎士『そっか? じゃあお願いしようかな』

808 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/28(水) 00:05:22.74 ID:3Y7YXslAo

青年「ラル」

騎士『いいじゃねえか、この人もこう言ってくれてることだし』

青年「しかしだね」

「遠慮しないでください、こんな無駄に広い街ですから、道案内の一人でもいると楽ですよ」

青年「…………そうだね」

青年「では、頼もうか」

「はい、任せてください」

「あ、まだぼくの名前言ってませんでしたね」


男「ぼく、ウォンっていいます。よろしくお願いします」



809 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/28(水) 00:06:01.21 ID:3Y7YXslAo



賢者「探すとはいったが、さてどこから探したものか」

少女「考えなしでしたか、師匠」

賢者「露天はあらかた回った、大通りから離れた場所で店など開かんはずだが」

賢者「如何せん情報が少なすぎる」

賢者「さてこういった場合、どうするか分かるか」

少女「はい師匠、まずは聞き込みから行うべきだとわたしは思います」

賢者「ふむ……それが妥当だろうな」

賢者「では次に聞き込みの方法を教えよう」

少女「はい師匠」

810 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/28(水) 00:06:31.38 ID:3Y7YXslAo

賢者「まずはシンプルな方法からだ」

賢者「相手の首元に刃物を押し付けて質問する」

賢者「この際に注意することは相手から反抗の意志を削ぐことだ」

賢者「これが出来んと無駄に抵抗されることになる」

少女「なるほど」

賢者「そしてもう一つは相手を昏倒させ然るべき場所で全てを吐かせるなどだな」

賢者「これは得られる情報は多くなるが手間がかかるのが問題だ」

少女「相手を昏倒させるにはどうすれば?」

賢者「そうだな、簡単な方法としては頭部を強打するか」

賢者「相手の首に腕をまわし、腕を絡ませ、絡ませたほうの手を後頭部に添える」

賢者「そして思い切り引き絞る、これが有効だ」

811 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/28(水) 00:07:19.97 ID:3Y7YXslAo

賢者「暫くすれば相手は意識を失う」

少女「なるほど」

賢者「これらは質問ではなく尋問ともいう、他にも様々な方法があるが状況によっての使い分けが必要だぞ」

少女「わかりました……では尋問はどのような相手に行えばよいのですか?」

賢者「そうだな……、とりあえずこいつはムカつく、という奴にすればいい」

少女「むかつく……ですか? 良く分かりませんが……」

賢者「お前にもいつかは分かる」

少女「はい、師匠」

賢者「ではさっそく聞き込みを開始するとしよう」


812 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/28(水) 00:08:05.62 ID:3Y7YXslAo




賢者「あまり有用な情報はないな」

少女「そうですね、そして師匠はあまり尋問を行わないのですね」

少女「しかも尋ねる相手は異性ばかりです」

賢者「さっき教えたのは最終手段だ、そして異性が多いのは気のせいだ」


賢者「む、あの女性などがいい。何か知っていそうだ」

少女「そう、なのですか?」

賢者「失礼、そこのお嬢さん」

賢者「人を探していましてな……少しお時間いただけないかな」

賢者「小汚い銀の髪の女で、商人をやっているのですが……」

賢者「このあたりでは見なかった? そうですか」

賢者「それではこの後、わたくしめと一緒にお茶などいかが――ぐふぉ!」


ぎりぎり


813 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/28(水) 00:09:09.09 ID:3Y7YXslAo


賢者「お、おい、ティノア。何故俺の首を絞める……」

少女「何故だかわかりませんが、そろそろこうしなくてはいけない気がして」

賢者「ぬぉぉ……ギ、ギブ! ギブだと言っている!」

少女「ギブとは一体なんのことでしょうか? わたし、知りません」

賢者「し、しぬ……ああ、お嬢さん! 去ってしまうとはそんなごむたいな!」

賢者「くっ……ティノア、ギブとは降参という意味だ、負けを認めた者を手にかけるつもりか」

賢者「俺はそんなことを教えたつもりはない、ぞ……!」

少女「そういえば、そうでしたね」


ぱっ


814 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/28(水) 00:09:37.66 ID:3Y7YXslAo


賢者「げほっごほっ! 一瞬お花畑が見えたぞ……」

少女「大丈夫ですか? 師匠」

賢者「俺は無事だが、な……」


「…………」

「………………」

こそっ


賢者「さてティノア、ここで新しい問題だ」

賢者「先程から不穏な連中が数人、こちらを監視している」

賢者「この場合の適切な行動をいってみろ」

815 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[saga]:2012/03/28(水) 00:10:06.75 ID:3Y7YXslAo

少女「そう、ですね……まずは様子を見るべきではないでしょうか?」

賢者「十分に様子は見た、次だ」

少女「…………逃げる、ですか?」

賢者「馬鹿者、とびきりの情報が向こうからやってきてくれたのだぞ?」

賢者「見過ごすなど相手に失礼と思え」

少女「はい」


賢者「では吐いて貰わんとな……昨日の朝食から今日の夕食まで!」

少女「何か、というか根本的に全て違う気がします」



816 : ◆P8M03XVJno[sage]:2012/03/28(水) 00:13:16.61 ID:3Y7YXslAo
つ づ く 。
凄い遅れた申し訳ない
あとそろそろうどん県が追放されるんで酉付けとく
向こう行っても続けるつもりだけど更新が更に遅くなったらゴメンね☆
817 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]:2012/03/28(水) 00:45:13.86 ID:Qx9Ma32+o

ウォンの表示男だとかぶるけどいいの?同一人物?
818 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[sage]:2012/03/28(水) 22:55:43.71 ID:3Y7YXslAo
はひ、ウォン=ウォルタ=母子の男=取り残された男でひゅ
あと>>792の解釈であってまひゅ
それと表示名は被らないようにします
819 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]:2012/03/28(水) 23:36:05.63 ID:Qx9Ma32+o
解説サンクス
楽しみに待ってる
820 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県)[sage]:2012/03/29(木) 02:43:22.98 ID:MoCpv/vxo
>>817
そんな事より蕎麦くおうぜ
821 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/03/29(木) 03:40:46.99 ID:+Wau1WhIO
ティノアはかわいいなぁ!
ティノアはかわいいなぁ!!
ティノアはかわいいなぁ!!!

でもラル&ランディが一番かわいいと思います



822 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/03/29(木) 16:07:52.33 ID:OWRIMuCPo
ざる蕎麦1つ!
823 : ◆P8M03XVJno[sage saga]:2012/04/07(土) 00:06:17.07 ID:PhJiuh7IO

「……!」

賢者「視界の隅をうろちょろと、何か言いたいなら面と向かっていうがいい」

賢者が大股で踏みよると、二人組みの男は急いで逃げようとする。


少女「少し……お話がしたいだけなのですが?」

しかしその行く手を少女が遮る。

「くっ……!」

「よせっ……!」


ぱしっ!

賢者「……子供に手を上げるか」

824 : ◆P8M03XVJno[sage]:2012/04/07(土) 00:08:08.83 ID:PhJiuh7IO


「は、離せ! この犬が!」

賢者「犬……?俺が犬だと言ったか」

賢者「何を思ってのことかしらんが……思い上がるなよ、家畜風情が」


めきっ!


「ぐああっ!」

少女「師匠、そのくらいで」

賢者「ふん……」

少女「先ほども言った通り、わたしたちはただお話がしたいだけなのですよ」

「信用できるか!」

「オイ……あまり騒ぐな」

825 : ◆P8M03XVJno[sage]:2012/04/07(土) 00:17:30.71 ID:PhJiuh7IO

賢者「お前らもあまりことを荒げたくはないだろう? 知っていることを全て吐いてくれればそれでいい」

「調子にーー」


「失礼しました、旅のお方」


路地裏から影のような男が現れ、事務的な口調で場の注目を集める。

服装からして自警団の一員だと見て取れた。


「ド、ドグマさん……」

警備兵「ここは、もういい」

「わかりました……ほらいくぞ」

「あ、あぁ」


賢者「……お前は何だ?」
826 : ◆P8M03XVJno[sage]:2012/04/07(土) 00:20:04.30 ID:PhJiuh7IO


警備兵「……貴方たちが探している人の元へ案内しましょう」

賢者「おい……」

少女「師匠、行きましょう。嘘はついていないと思います」

賢者「ティノア……お前、陛下に似てきたな……」


賢者「ふん……まあいいだろう、あても無くなった所だ。いくしかない、か」


警備兵「…………」

少女「では行きましょう?」


賢者「おいまて、置いていくなというに」
827 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/04/07(土) 00:21:20.36 ID:PhJiuh7IO


少女「……さきの通りに比べて、何だか寂しいところに来ましたね」

賢者「うむ、おいドグマとやら。いつまで歩けばよいのだ」

警備兵「もう少しです」

賢者「……ゴミも多く不衛生
、人々にも活気が無い」

賢者「これが第二の都市なのか?」

警備兵「この街の現状です」

少女「……? あ、お姉さん」

828 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/04/07(土) 00:22:29.03 ID:PhJiuh7IO


商人「ほらほら、押さないのって」

商人「ハイこれ、仲良く分けるんだよ〜」

「こんなに? でも……ぼくたちあんまりお金もってないよ……」

商人「お金? いいよいいよ、これはあたしからのプレゼント」

「ほ、ほんとにいいの? ありがとう!」

「ありがとう! おばちゃん!」

商人「どういたしまして、お姉ちゃんだぞ? このヤロー」

「あ、ありがとうお姉ちゃん!」

商人「うんうん、やっぱ子供は素直で可愛いよね〜」


829 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/04/07(土) 00:24:05.80 ID:PhJiuh7IO

賢者「何が素直か、お前が言わせているのだろうが」

商人「おっ! まーぐにゃーん! おひさー」

賢者「誰がマグにゃんか」

少女「…………っ」

賢者「……ティノア、お前いま笑ったか?」

少女「いえ」

商人「てぃっちーもいたの!? 元気だった?」

少女「てぃっちー……? 元気、でしたが。お姉さんにわたしの名前教えていましたか?」

商人「みんなの名前はラルにゃんから聞いたよ」

830 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/04/07(土) 00:25:00.44 ID:PhJiuh7IO


商人「そういやラルにゃんとフューにゃんは?」

賢者「絶賛別行動中だ」

商人「ふうん……で、この人誰?」

賢者「妙な事をいう、ここまで俺たちを連れてきた男だぞ? お前の知り合いではないのか」

商人「そんなのあたしに聞かれたって……知んないよお」

警備兵「彼女は自分のことを知りません」

警備兵「自分たちは勝手に彼女の身を案じていただけですから」

商人「えっ! あたしって命狙われてたり!?」

警備兵「あながち間違いではありませんが、それについてはおいおい」


賢者「ふむ……なんだかきな臭くなってきたな」

831 : ◆P8M03XVJno[sage]:2012/04/07(土) 00:25:48.26 ID:PhJiuh7IO
つ づ く 。

あいぽんつらあ
832 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/07(土) 00:35:56.03 ID:cSlPUOtDO
833 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/07(土) 00:41:12.13 ID:FGXvlTJEo
乙どん
834 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県)[sage]:2012/04/07(土) 01:07:02.44 ID:AfGdV/+jo
835 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)[sage]:2012/04/08(日) 00:16:22.12 ID:mauB1Vvdo
おどん
836 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県)[sage]:2012/04/08(日) 04:17:22.78 ID:4d6ILjO+o
乙い
837 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/04/08(日) 23:48:58.86 ID:xvUNYZOIO




青年「驚いた……これがこの街の正体か」

騎士『あんま噂じゃ聞かなかったけどなぁ』

男「この辺りは人が寄り付かないよう見張られてますから」

男「それでも街の半分はこんな感じです」

青年「……よく知っているね」

青年「ここに住み始めて長いのかい?」

男「えっ? えぇ、まあ」

青年「……しかし本当に酷い有様だ」

838 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/04/08(日) 23:50:26.36 ID:xvUNYZOIO

青年「……本当に酷い有様だ」

青年「狂った怒りと、暗い悲しみが入り混じっているようだよ」

青年「こちらまでおかしくなりそうだ」

騎士『変なこというなあ、ま、ここまで陰気だと俺も気が狂っちまうかもな』

青年「ラルなら大丈夫だよきっと」

騎士『……それはどういう意味だ?』

青年「ふふ、どういう意味だろうね」

男「それで、これからどうします? 粗方案内し終わりましたけど」

839 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/04/08(日) 23:52:00.52 ID:xvUNYZOIO

騎士『おう、ありがとう』

青年「そうだね、ここまでしてくれたお礼だ」

青年「食事くらい、一緒にどうかな?」

男「ええっ! いいですよそんな」

青年「せっかくの誘いを蹴るつもりかい」

男「うっ……」

騎士『そーそー、フューリは言い出したらとめらんないぜ』

青年「妙な言い方をするね?」

騎士『おおう……も、勿論いい意味でだな!』

840 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/04/08(日) 23:53:02.20 ID:xvUNYZOIO

男「ははは……そう、ですね」

男「ではご馳走になります」

青年「うん、素直が一番だ。では戻るとしよう」


男「はは……すっかり流されちゃいましたね。ぼくのほうが年上なのに」

騎士『そこがあいつらしいんだよな』

男「仲がいいんですね」

騎士『会ってまだ間もないんだけどな』


青年「ほら、何をしている? 早くしてくれないか。ただでさえお腹が空いて……」

騎士『あー、わかったわかったから』

男「すみません、いま行きます!」

841 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/04/08(日) 23:54:04.60 ID:xvUNYZOIO




商人「おっ! ヤッホー、フューにゃんラルにゃん!」


青年「あれは……ミーコさんか」

賢者「少し遅かったですな。で、その男は?」

青年「彼はウォン、色々あって街を案内して貰った」

賢者「ふむ、俺はマグナだ」

男「よ、よろしくお願いします」

商人「よっろしくぅー」

842 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/04/08(日) 23:54:48.15 ID:xvUNYZOIO

騎士『ミーコさん無事だったんだな』

商人「うんっ! おかげさまでねー。あのときキミたちに会ってなかったら野垂れ死んでたよー」

青年「僕たちは大したことしていないよ」

商人「それでもキミたちのおかげだよ。言い忘れちゃってたけど、ありがと」

騎士『礼なんていいよ、困った時はお互い様だからな! ……そういえばティノアは?』

賢者「ふむ? 言われてみればおらんな」

男「ティノア?」

青年「僕たちの仲間の一人さ、小さな女の子だけどね」
843 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/04/08(日) 23:56:12.18 ID:xvUNYZOIO


少女「あ、皆さん。戻っていたのですね」


男「……なっ!?」

青年「どこへ行っていたんだい?」

少女「あちらのほうに興味深いお店があったもので」

賢者「勝手に離れるなと言っただろう」

少女「すみません、師匠」


男「き、きみは…………!」

騎士『どうしたんだ? ウォン』

商人「あはは、何をそんなに驚いてんの?」
844 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/04/08(日) 23:56:59.64 ID:xvUNYZOIO


少女「……? お兄さんは、もしかして」

男「……久しぶりだね」

少女「お久しぶりです、お元気でしたか?」

男「あ、ああ」


青年「二人は知り合いなのかい?」

少女「はい、お兄さんとお姉さんには一宿一飯のご恩があります」

男「……」

青年「ほう……」

845 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/04/08(日) 23:59:02.31 ID:xvUNYZOIO


騎士『へえ、妙な縁もあるもんだなあ』

男「…………」


男「はい、そうですね」

商人「んー、積もる話もあるようだし! まずはご飯にしよっか!」

賢者「そうだな」

青年「それはとても素敵な提案だ、そうしよう」

846 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/04/09(月) 00:00:23.82 ID:c4Qfo/XIO



青年「……もぐ」

青年「いや、すまないね。宿までとってもらうとは」

商人「いーの、ここの亭主には顔が効くからさ。気にしないで」

青年「では遠慮なく……うん、これ美味しいね」


食事の手を早める青年を横目に、同じテーブルを囲んだ賢者と騎士はお互い顔をしかめて話をしている。

騎士はさっそく、買ってきた服に身を包み、首に包帯を巻いているのでその表情がよく見えた。

847 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/04/09(月) 00:01:16.61 ID:c4Qfo/XIO


賢者「そうか、お前たちも下町へ行ったのか」

騎士『あぁ、ひどい有様だった。王都じゃ考えられない』

賢者「あの様子だと戦前もあのような調子だったのかも知れんな」

騎士「んで、どうして下町何かにミーコさんがいたんだ?」

賢者「恵まれん子供たちに慈悲の手を、とな。下町で食料を配っていた」

騎士「……そっか、だから急いでたんだな」

商人「ま、まあね〜。どう? 見直しちゃった?」

騎士「あぁ、正直凄いって思う。……俺じゃそんなこと出来ない」

商人「あ、あはは、て、照れるぜー」

848 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/04/09(月) 00:02:08.08 ID:c4Qfo/XIO


男「…………」

少女「…………」

男「……今までなにしてた?」

少女「いろんな所を旅していました」

男「そっか……それで、その……きみは」

男「…………」

少女「どうかしましたか?」

男「いいや、何でも無いよ。旅は楽しかった?」

少女「はい、それはとっても。にこー」

男「……そっ、か」

849 : ◆P8M03XVJno[sage]:2012/04/09(月) 00:03:21.96 ID:c4Qfo/XIO


賢者「しかし、食料を配布するだけの資金、どこから調達しているのだ?」

商人「大きいのは配送かな? たまに珍しいものとか見つけて売りさばいてるよん」

商人「割とお金貰えるけど、それでもケッコー切り詰めてるね」

青年「……もぐ」

騎士「苦労してるんだな、でもそれじゃ奢ってもらうのは忍びねえな」

男「そ、そうですね……やっぱりぼく、自分の分は自分で払いますよ」

商人「いいんだって! 今日は臨時収入入ったしね!」

賢者「それも食料に変えるのだろう?」

850 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/04/09(月) 00:04:14.66 ID:c4Qfo/XIO


青年「……もぐもぐ」

商人「まあ、できる限りは、ね」

商人「あたしに出来るのは、こんなもんだし」

賢者「ふむ、ではよく味わって食わねばならんなぁ?」

青年「…………」


青年「……ご、ご馳走様」

騎士「あれ、どうしたんだよフューリ。もう食べないのか」

青年「う、うん」

851 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/04/09(月) 00:05:20.49 ID:c4Qfo/XIO


騎士「珍しいなぁ、どっか体の調子でも悪いのか?」

賢者「くくっ……」

少女「どこか痛いのですか?」

青年「いや……大丈夫だよ」

賢者「なら何故食わぬのですか? 据え膳食わぬは男の恥といいますぞ」

青年「き、君ね、こんな話を聞かされてお腹一杯食べられると思うかい?」

賢者「此奴が食えと言うのですから、何を遠慮することがありますか」

青年「そういう問題ではなくてだね……」

852 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/04/09(月) 00:06:11.26 ID:c4Qfo/XIO

騎士「ハハ、今回ばかりは気持ちよく無銭飲食できねえな!」

青年「ラル! 変なことを言わないでくれ!」

青年「と、とにかく、僕はもう十分だ。もう食べるものか、ふん」

商人「あっはは〜……こりゃ余計なこと言っちゃったかな?」


少女「…………ふふ」


男「……いま、笑っ」

853 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/04/09(月) 00:06:41.66 ID:c4Qfo/XIO


商人「てぃっちー! 今笑った!?」

青年「……ティノアが?」

騎士「へえ」

少女「いえ? 笑っていませんが」

商人「笑ったよね! ね、もっかい笑ってみてよ?」

少女「笑う、ですか? にこー」

商人「違うよぉ、ああでもさっきの可愛かったな〜!」


ぎゅーっ


少女「むぎゅ」

854 : ◆P8M03XVJno[sage]:2012/04/09(月) 00:07:45.24 ID:c4Qfo/XIO


賢者「やはりこいつ、子供好きか」

騎士「おいおい、あんま暴れるなよ」

少女「あの……お姉さん?」

商人「んー? 何かなー?」

少女「その……大変言いづらいのですが」


少女「臭い、です」


ぴきっ


商人「が、がーん!」

855 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/04/09(月) 00:08:45.70 ID:c4Qfo/XIO


賢者「どれ……うむ、そういわれてみれば臭いな」

騎士「そうなのか? ……お、おおう、臭いな」

青年「君たち、女性に対してそれは失れ……臭いね」

男「……はい、臭いですね」

商人「うぐっ! がはっ! げふぉ! ぐほあっ!?」

賢者「お前、いつから風呂に入っていない?」

商人「え、えーっと……わかんないや。えへ」

青年「はあ、やれやれ。風呂嫌いの僕でもそこまで酷くはないよ」

男「不衛生にもほどがありますよ」

騎士「俺もどうかと思うなぁ」

856 : ◆P8M03XVJno[sage]:2012/04/09(月) 00:09:55.71 ID:c4Qfo/XIO


少女「あの、離してくれませんか?」

商人「しょ、しょんな〜……うぅ」

騎士「これは辛いな」

賢者「ふむぅ……仕方ない」

賢者「おいティノア、そいつを風呂にぶち込んでやれ」

商人「えぇっ!? いいよ別に! まだ大丈夫だって」

少女「分かりました、師匠」


がしっ!

ずるずる……


商人「あっ、あっ! やだー! お風呂やだぁー! わぁぁぁ……」


青年「行ったか」

騎士「ま、嬢ちゃんに任せときゃ大丈夫だろー」

賢者「俺は今のうちに酒を頼むとするか」

青年「君って奴は……」

857 : ◆P8M03XVJno[sage]:2012/04/09(月) 00:11:22.72 ID:c4Qfo/XIO
つ づ く 。
うどん食べたいよぉ
858 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県)[sage]:2012/04/09(月) 00:12:25.67 ID:wpNxDVKSo
乙、ペヤング赤をやろう
859 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]:2012/04/09(月) 00:23:16.37 ID:nR3B7zgno
う乙"ん
860 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage]:2012/04/09(月) 00:27:20.50 ID:F//fQPH4o


>>858
数時間舌の感覚が無くなったぞどうしてくれる
861 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県)[sage]:2012/04/09(月) 00:50:42.37 ID:lZer6aapo

どん兵衛をやろう
862 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)2012/04/09(月) 01:37:23.29 ID:hhGUuwAMo

話が繋がってるの面白いが俺の記憶力ではなかなか思い出せないな、読み返すとしよう
863 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/09(月) 01:52:13.13 ID:NGOBJuXUo
男の話を見返してみたら悲しくなった
864 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/13(金) 18:12:35.16 ID:dtEaaK1SO
面白すぎる
支援
865 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/04/21(土) 20:49:14.49 ID:XKLiHyTIO


男「ところで皆さんはいつまで滞在するんですか?」

賢者「まだわからんな」

青年「そうだね、どうにかして王都へ行く手段を見つけないと」

男「王都……ですか?」

騎士「おう、俺たちは王都へ行きたいんだ」

男「へえ……そうだったんですか」

賢者「何か良い方法はないか?」

男「ぼ、ぼく、ですか……? すいません、ちょっと……」

青年「謝らずともいい、しかし困ったな。検問を強行突破などして指名手配されては元も子もないし」

賢者「うむ、騒ぎを起こすのは得策ではありませんな……」
866 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/04/21(土) 20:50:39.19 ID:XKLiHyTIO

青年「だとすれば、正規のものを貰うしかないね」

賢者「この地の有力者であれば通行許可証を発行できるでしょうが」

騎士「じゃあ、ここの領主さんに許可証くれって頼みに行こうぜ!!」

賢者「無理な話だ、木っ端旅人風情にオッケー! いいよ! などと印を押せる訳がなかろう」

青年「当たり前のことを言っているのにムカつくね」

騎士「じゃあどうしろってんだよー!」

賢者「だからそれを考えているのだろう」

青年「許可証を持っている商人の馬車に乗り込む……は少々リスキーか」

867 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/04/21(土) 20:51:41.93 ID:XKLiHyTIO

騎士「一人ならまだしも、数が多すぎるな」

賢者「ふむ……そうだな」

騎士「何か思いついたのか?」


「ご注文の品でございます、ごゆっくりどうぞ」


賢者「とりあえず、考えるのは明日にするべきだ。せっかくの酒が不味くなる」

青年「……はあ」

騎士「あんたちょっと自由すぎんだろーよー……」

賢者「今出来んことを、今悩んでいてもしかたあるまい」

賢者「ラルもどうだ?」

騎士「だーかーらー酒は飲んじゃいけないんだって」

賢者「つまらんことを言うな、お前はどうだ?」

男「あはは……ぼくは遠慮しておきます」

賢者「まったく本当につまらん奴らだな」

青年「……ほどほどにしておいてくれよ?」

868 : ◆P8M03XVJno[sage]:2012/04/21(土) 20:52:56.80 ID:XKLiHyTIO




賢者「……そこで俺はそう言ってやったわけだ」

男「は、はぁ」


騎士「すっかり出来上がってんじゃないか……」

青年「わかりきっていたこと、だろう?」

騎士「……さっきからあんた、やけに辛そうだな」

青年「そ、んな……ことはある……かな」

青年「っくぅ! お預けをされた犬のような気分だよ! こんな死、以上の苦しみは味わったことがない!」

騎士「そ、そんな辛いなら我慢しなくてもさ……」

869 : ◆P8M03XVJno[sage]:2012/04/21(土) 20:54:28.83 ID:XKLiHyTIO



……ばたばた


青年「……うん?」

商人「う、うわあああん! てぃっちーが虐める!!」


騎士「ばっ……! 何タオル一枚で出てきてんだ!」

商人「だってー!」


ぎゅうっ!


騎士「うおあっ!? やめろくっつくな!」

商人「てぃっちーったら乱暴するんだよ!」

騎士「はあ? じょ、嬢ちゃんがか……?」

870 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/04/21(土) 20:55:42.84 ID:XKLiHyTIO


少女「お姉さん、しっかり拭かないと風邪を引きますよ?」

青年「いきなり泣きついてきているわけだけど、ティノア……何をしたんだい?」

少女「いえ、お姉さんがあまりに暴れるので、少々強引に」

青年「なるほど」


騎士「ってそれじゃあ、あんたが悪いんじゃないか」

商人「ちがーもん!!」

賢者「久々の風呂で頭が狂ったか? 幼児退行しているぞ」

騎士「つうかはやく離れて服着ろって」

商人「いーーやーーあーー」

871 : ◆P8M03XVJno[sage]:2012/04/21(土) 20:58:47.99 ID:XKLiHyTIO


騎士が無理やり引き剥がそうとすると、商人は駄々をこねる子供のように暴れだす。


騎士「あっ! やめろ! 暴れるな、いたっ! まじやめおい、頭取れる!」


ばしっ


青年「あ」


そして運悪く、暴れ商人の腕が騎士の頭を捉え


賢者「そぉい!」


そこに賢者が空になった皿を滑りこませた。

騎士「う、うわああ! く、首が取れた!」

そして皿に乗った生首が絶叫すると

当然の如く今まで賑やかだった食堂が一瞬で静まり返った。

872 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/04/21(土) 20:59:34.74 ID:XKLiHyTIO


皆が唖然として、見守る中。

賢者「イッツ、ミラクゥ……」

皿を掲げた賢者が、巻きに巻いた巻き舌で静かに宣言し

騎士の胴体がどうだと言わんばかりに両手を広げた。


パチ……パチパチパチ

一拍置いて、拍手が湧き上がる。

商人「おおお〜!! 凄い! どうなってんの!? これ」

騎士「え、あ、き、企業秘密」

商人「ええ〜! ケチケチしないで教えてよ〜!」

873 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/04/21(土) 21:00:35.73 ID:XKLiHyTIO


青年「とりあえず、服を着て来ようね」

商人「だ、だってぇ……てぃっちーが……」

少女「?」

青年「わかった、僕がついていこう。だから、ほら」

商人「わかったよぅ……ラルにゃん! あとで絶対種を明かしたげるからね!」

騎士「か、勘弁してくれ……」


「おおう兄ちゃん! 他になんかできねえのか!」

「もっと楽しませてくれよ!」


騎士「い、いや、無茶言うなよ」

賢者「いいだろう! さあいくぞラル!」

騎士「はあああ!? 勝手に決めんな! お、おいランディ! 助けろぉぉ!」

874 : ◆P8M03XVJno[sage]:2012/04/21(土) 21:01:47.13 ID:XKLiHyTIO


男「あ、あはは……」

少女「……」

男「楽しい人たちだね?」

少女「はい」

男「一緒に旅をしていて、本当に、とても楽しかっただろうね」

少女「はい、一人でいる時よりも……楽しい? です、ね」

男「そっか……ぼくは」

男「ぼくは……ずっと一人だったから……きみが羨ましいよ」

少女「お兄さん?」
875 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/04/21(土) 21:02:36.64 ID:XKLiHyTIO

男「……今も一人なんだよ、何でだろうね」

少女「お兄さん? どうかしたのですか? どこか辛いのですか?」

男「どうかした? どうして?」

少女「いま、とても辛そうな顔をしています」

男「…………」

少女「お兄さん?」

男「そうだね、ちょっと食べ過ぎて気分が悪くなったみたいだ」

少女「大丈夫なのですか?」

男「あまりよくないようだから、少し散歩にいって来るよ。きみもどう?」

少女「わたしですか? はい、いいですよ」

男「……じゃあ、行こうか」

876 : ◆P8M03XVJno[sage]:2012/04/21(土) 21:03:52.98 ID:XKLiHyTIO
つ づ く 。

昔の話が思い出せないのは投下がクソトロい性
877 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]:2012/04/21(土) 21:09:34.57 ID:4As/EcHgo
話が面白いからいくらトロくても待ってるよ
878 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県)[sage]:2012/04/21(土) 21:12:45.49 ID:e+8sE3OZo
なあに某ラノベなんかは十年以上またされたんだ
面白いし待ってるよ
879 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[sage]:2012/04/21(土) 21:18:57.74 ID:7WB3yUxU0
何回読み返しても面白いし、苦にならないのでおk
880 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/22(日) 11:54:13.19 ID:FPMa3EwAo
キタ━(゚∀゚)━!
乙どん
881 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)[sage]:2012/04/23(月) 19:01:23.68 ID:30+KsUXmo
一気に読み進めてきた
最近のはグロくなくなって来たねww

乙乙!
882 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/24(火) 01:10:03.80 ID:4wbJxUjIO
賢者のとランディのスマートなフォローに痺れるぜ…


883 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/04/25(水) 23:56:29.27 ID:lOfqnK5IO


青年「まだかい?」

商人「ちょっと待ってー」


ガチャッ

商人「はいはいおまたー」

商人「似合う?」

青年「うん、とても似合っているよ。ミーコさんらしい」

商人「むー……」

青年「うん? 不服そうだね。どうかしたかい」

商人「なんかさ、ふゅーにゃんはお世辞慣れしてる感じ。褒められてる感じしなーい」
884 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/04/25(水) 23:57:11.43 ID:lOfqnK5IO

青年「そう……かな? 思ったことを口にしているつもりだけれど」

商人「取り繕う言葉と本音が一体化しちゃってるんだね」

青年「そんなことは……」

商人「あたしは文句付けれる立場じゃないんだけどさぁ」

商人「人付き合いに慣れてないっていうか……経験が少ないのかな? でもふゅーにゃんは頭がいいからこんなものだって決めつけちゃってる」

商人「それじゃあよくないと思うんだなぁ」

商人「ま、それはいいか。せいぜい一人で抱え込みすぎたり、しないことだよ若人! お姉さんとの約束!」

青年「突然何を」

商人「何だと思う? 正解はただの先輩からの忠告っ」

青年「……」

商人「じゃ、戻ろっか」

青年「うん……あと、ミーコさん」

商人「ん?」

青年「服、裏表逆だよ」

885 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/04/25(水) 23:57:52.90 ID:lOfqnK5IO



賢者「さあ続いては剣舞をお見せしよう!」


騎士「剣舞たって……俺は魅せる剣なんてやったこと」

賢者「構わん、俺に合わせて剣を振れ」

騎士「はぁー……ったく、ブーイング食らったって知らねえぞ」


二人が立つは普段楽器の演奏などで使用されるお立ち台。

そこそこに広いが剣を振り回して暴れるには少々物足りない。

だが賢者は気にすらしていない様子で、青年の剣を鞘から滑らせた。

それにつられ、騎士も剣を抜く。

既に周囲の観客は先ほどの騎士の体を張った余興で盛り上がり切っている。

ここで引くわけにはいかなかった、というより引くに引けなかった。

886 : ◆P8M03XVJno[sage]:2012/04/25(水) 23:58:41.44 ID:lOfqnK5IO


賢者「俺に合わせろと言ったが、一応、全力で来んと怪我をするぞ?」

騎士「ハッ! 元聖騎士隊舐めんなよ?」

賢者「ふっ……」


観客の間をウェイターが忙しなく酒を運び歩き、客は客で賭けをしている。

剣舞を知らぬか、それとも決闘を望んでいるのか。

それらに半ば呆れている騎士は、乗り気ではないながらも形だけと剣を構え

賢者の初撃を待った

のも束の間。


騎士「――ッ!」

ギィンッ!

次の瞬間には鍔迫り合いをしていた。
887 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/04/25(水) 23:59:16.03 ID:lOfqnK5IO


凄まじい剣速……まさに研ぎ澄まされた一撃であった。それも必殺と称されるほどの。

受け止めた騎士でさえも、如何様にして受け止めたのかわからない。

そんな剣匠の如き太刀筋を見た外野は、一撃で魅了されてしまっている。

誰もが動きを止め、息を呑んだ。


騎士「当てに来るなよ……!」


賢者「少し、遅れたな」

にやりと笑って剣を引き、直様二撃目を放つ。

騎士「なっ、なぁ! こっれ、剣舞、でもなんでもないっ!」

賢者「ふはは! 舌ぁ噛むぞ!」

騎士「無茶苦茶だッ!」
888 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/04/26(木) 00:00:15.59 ID:FP1qzSxIO


それ以上は騎士が口を挟む余裕もないほどに、次々と剣撃を浴びせてくる。

無骨で荒々しい賢者。

基本に忠実で整った騎士。

相反しながらも、極めるものは同じである二つの剣は

時に流し合い、時に受け止め合い、火花を散らし合いながらその身を削ってゆく。


騎士(ッ……! こいつ!)

騎士(自分に合わせろっていいながら、俺のギリギリに合わせてやがるッ!)

賢者「ふっ」

騎士「こんにゃろ!」


怒りにまかせ一際強く剣を振るも、いとも容易く受け流されてしまう。

889 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/04/26(木) 00:01:18.30 ID:FP1qzSxIO

そして二度三度打ち合い切り結んだ後

交差した刃と刃が悲鳴をあげ、二つの白刃は上方へと弾かれる。

その反動で二人が同時に一転しつつ後退したのが一瞬。

二瞬目には、振り向きざまに薙いだ剣の先と先が交じり合っていた。


そこで二人の動きはぱったりと止まり、呼吸をするのも忘れていた観客から堰を切ったように歓声が湧き上がった。


騎士「……はっ、はっ」

賢者「うぇっぷ……しまった、はしゃぎすぎたか」

騎士「むかつく……あんた、どこで剣を」

賢者「秘密と言うのは、大人の隠し味というものだ ……おえぇ」
890 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/04/26(木) 00:01:57.46 ID:FP1qzSxIO


パチ、パチ……

青年「出来れば、全て秘密にしておいてくれればよかったのだが」

商人「二人とも凄かったよ〜!」

騎士「!? い、何時の間に……」

賢者「は、ははは、それでは芸がないではないですか」

青年「ふぅん?」

青年「言い訳はそれだけだね? わかった」

賢者「あっ、いえ、そ、その……はい」

騎士(何かすげえ怖い)

青年「ラル? 次は君だ。何か言ってみてはどうかな?」

891 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/04/26(木) 00:03:09.21 ID:FP1qzSxIO


騎士「は、はい!」

青年「何故止めなかった?」

騎士「あ、いや……嫌だとは言ったんだけどさ」

賢者「こいつが手合わせしたいって言いました!」

騎士「はああ!?」

騎士「言ってねえよ! 大体あんたが……!」

賢者「ふむ? 俺に責任転嫁するつもりか? 元はと言えばお前が……」

商人「あちゃあ、マグにゃん必死だね」
892 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/04/26(木) 00:03:48.37 ID:FP1qzSxIO


青年「……少し、羽目を外しすぎたようだね。二人とも」

騎士「ま、待ってくれフューリ! 俺は何も!」

青年「言い訳はもういい!」

騎士「ひい」

賢者「こ、こうなったら諦めるんだな、ラル。死なば諸共だ」

騎士「嫌だー! こんな中年と一緒に死ぬのは嫌だー!」


青年「いいからそこに正座しろ」

賢者「はい」

騎士「はい」
893 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/04/26(木) 00:04:53.67 ID:FP1qzSxIO


青年「ふー……マグナを放っておいた僕にも責任はあるけれど、君たちもいい加減大人なのだから節度を持てと」

青年「大体、狭い所で剣を振り回す奴がいるか。もし誰か怪我をしたらどう責任を取るか考えなかったのか?」

青年「それに抜刀は禁止されているとあれほど言われたろう……見つかっていたら今頃どうなっていたことか」

商人「まーまー、ふゅーにゃんそれくらいで……ねえてぃっちー?」

商人「ってあれっ? そういえばてぃっちーは?」

青年「……そういえば見かけないね。ウォンもか」

賢者「そ、そういえば! 奴らならちょっと前に」

青年「誰が足を崩していいと言った?」

賢者「すみません……」

騎士「あいつらなら散歩に行くって話してたそうです!」

青年「本当かい?」

騎士「ランディがそう言ってます!」

商人「ランディってだれ?」

賢者「お前! 何媚を売っている!」

青年「ランディがか、なら確かだ」
894 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/04/26(木) 00:05:22.36 ID:FP1qzSxIO

商人「だれなの〜って」

賢者「お、俺が探してきましょう!」

騎士「汚ねえぞ!」

青年「いい、僕が行く」

賢者「そんな!」

騎士「ハハッ! ざまあみろ!」


青年「……僕が戻ってくるまで、ずっと正座して反省することだ。いいね、わかったね?」

騎士「は……はい」

賢者「はい……」

青年「ミーコさん、悪いけど少し頼むよ」

商人「はいは〜い、承り〜」

賢者「くっ……お前」

騎士「残念だったな!」


カランコロン……


青年「…………さて、どこへ行ったのかな」

895 : ◆P8M03XVJno[sage]:2012/04/26(木) 00:06:47.20 ID:FP1qzSxIO
つ づ く 。
そっかあそうだなグロ少ないなぁ…
896 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/04/26(木) 00:12:29.08 ID:2HLiZo4do
それ以上いけない
乙乙
897 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage]:2012/04/26(木) 00:49:01.23 ID:uDMCXCNjo


油断してると誰かしら死ぬからなこの作品…
898 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県)[sage]:2012/04/26(木) 01:31:32.70 ID:IT/oLH5ko
899 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]:2012/04/26(木) 22:24:50.79 ID:vRBekzilo

グロはたまにガツンと来るほうがいいな
仲良し兄妹編みたいにラストに落とす感じ
900 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/27(金) 09:26:38.05 ID:LlofLuEIO
生存フラグが無いからな
901 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]:2012/04/27(金) 10:46:14.54 ID:9pr97zXpo
男が少女にどんな気持ちで居るのか分からん…
902 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)[sage]:2012/04/28(土) 09:11:31.66 ID:QTPP9cXbo
乙乙!
903 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/29(日) 22:43:26.91 ID:wZ++pj2IO
ラルカワイソス

つーか賢者人間かこれ
ライガの長と力で押し合う程のラルと鍔迫り合い出来るとか人間離れしてるとかいうレベルじゃねーぞ
904 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/30(月) 18:32:09.94 ID:LZ5VMK6zo
>騎士(自分に合わせろっていいながら、俺のギリギリに合わせてやがるッ!)
っていってるしな
人間じゃないし頑張ってるのランディだもんな
ラル…
905 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/05/08(火) 21:44:47.94 ID:jhTZ2LkIO



少女「お兄さん?」

男「……」

少女「あの」

男「…………」


宿を出て暫く歩いたものの、男は足を宿へ向けようとはしない。

むしろその逆、二人はどんどん人通りの無い方へと向かっていた。


少女「やはり、様子がおかしいですよお兄さん? そろそろ戻ったほうが」

少女が引きとめようとするも男はまったく聞こうともせず

更には距離を広げるかのように突然、早足で次の曲がり角へと消えた。

906 : ◆P8M03XVJno[sage]:2012/05/08(火) 21:45:47.99 ID:jhTZ2LkIO


少女「お兄さん」


見失わないようにと駆ける少女に


少女「んっ……」

次の瞬間、冷徹なる暴力が襲いかかった。


日はとうに暮れ落ち、月光さえも建築物に阻まれた路地裏。

人気など期待できぬ孤立した空間で

少女は化けの皮を自ら剥いだ獣に首根っこを掴まれ、壁にその身を押し付けられていた。

907 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/05/08(火) 21:46:32.29 ID:jhTZ2LkIO


少女「……っお、にいさん?」

男「…………」

少女「……苦しい、です」

男「黙れ」

少女「一体、どうしたと……いうのですか?」

男「黙ってくれ」



男「俺は……きみを殺したいんだ」

少女「……どうして、ですか?……わたしが、何か悪いことをした、のなら、謝ります」

908 : ◆P8M03XVJno[sage]:2012/05/08(火) 21:47:17.25 ID:jhTZ2LkIO


ぎりぎり

男「……それじゃあまるで」

男「自分は何もしていないといいたいようだな」

少女「……ごめん、なさい」

男「もういい」


虚ろげな少女の謝罪を聞くと、男はぱっと手を放し


少女「けほっ」

落下しかけた少女の喉元を、両の手で再度締め上げた。

少女「かっ、あっ……」

909 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/05/08(火) 21:48:17.28 ID:jhTZ2LkIO


男「……最後だ」

男「最後に一つだけ教えてくれ」

少女「ん……ぐ」

ぎり

両手の親指に力がこもり、少女の細い喉に突き立てられる。


男「きみは否定したが、さっき、確実に、笑っていたな」

少女「何の、こと……」

めきっ

憎しみが更なる力へと変わる。

910 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/05/08(火) 21:49:00.28 ID:jhTZ2LkIO


男「どうして、きみが笑える?」

どすっ

少女「……っ」

激情は衝動に

男の膝は少女の腹部を据えた。

衝撃は小さな体躯を通り抜けて壁に吸い込まれて行き

少女は思わず吐血した。

911 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/05/08(火) 21:50:32.13 ID:jhTZ2LkIO



男「俺から、あいつから、笑顔を奪ったお前が……」

めぎっ

再びの膝蹴り。

骨の砕ける嫌な音が響き渡り

少女が吐いた血は、男の無表情を凶悪に染めた。

少女「…………」



男「どうして、今になって笑っていられるッ!!」

男「答えろ……よォオ!!」

912 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/05/08(火) 21:52:01.01 ID:jhTZ2LkIO


宿を出て以来、終始何の感情を見せなかった男が

一人の少女を前に黒いそれを吐き出した。


少女「…………」

だが答えは帰ってはこない。

彼女はただ無情に


少女「……くす」

くすりと笑うだけだった。

913 : ◆P8M03XVJno[sage]:2012/05/08(火) 21:53:08.89 ID:jhTZ2LkIO
つ づ く 。
914 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/08(火) 22:07:06.96 ID:3bG1Rexro
あら、一風換わった鬱なことで
915 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/09(水) 01:20:13.47 ID:6rT8cdQPo

盛り上がって参りましたな
916 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/09(水) 20:10:39.73 ID:J9I7aHnUo
少女に笑い方を教えてたのが男だったとか
読み返すと尚更つらいな
917 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/10(木) 19:34:04.27 ID:dTsEv/Wto
少女って途端に豹変するよね
918 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/05/13(日) 10:52:17.29 ID:Gnkt/tHIO



「ああ、その二人組ならあっちに……」

青年「そうですか、ありがとうございます」


青年(しかし参ったな……僕が思ったよりも、彼は冷静ではなかったらしい)

青年「見誤ったという訳か、だが彼女ならば大丈夫……だという問題ではないな」

青年「……急げよフューリ」

919 : ◆P8M03XVJno[sage]:2012/05/13(日) 10:54:09.92 ID:Gnkt/tHIO


たったったっ

青年「はぁっ……はぁ」

青年(いない……? それほど遠くへ行くとは思えないが)

青年(一目に付かない場所、下町の路地裏だろうが……)

青年(だが建物の中だとしたらどうしようも……)

青年「……まったく僕は馬鹿か、自分で連れ回しておいてこの始末」

青年「アドフィルドの頼みだというのに、これでは叱られてしま……うっ?!」

920 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/05/13(日) 10:55:08.19 ID:Gnkt/tHIO


突然の、頭が割れるような痛みに青年は顔を歪める。

何の予兆もなく、収まる気配もない。


青年「くっう……! 何だ、これは……?」

青年「声、が……? しかし、このようなこと、今まで……」


痛みの中で聴こえた叫び。

何を言っているかはわからない、そもそも言葉であるかどうかも。

青年「こっち、からか」

921 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/05/13(日) 10:56:06.11 ID:Gnkt/tHIO



少女「くすくすっ……」

首を締め上げられつつも、少女は笑う。

乱れた長い髪に表情を隠され、それを伺うことはできない。

男「……何が、おかしい!」


顔をあげ、男を一瞥。

嘲笑うように短く息を吐くと

少女「ばっかみたい」

これまた短く吐き捨てた。

922 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/05/13(日) 10:57:43.57 ID:Gnkt/tHIO


少女のいきなりの豹変に驚くも、それはすぐ怒りへと変わる。

男「何……?」

少女「あなたが弱かっただけでしょ? わたしを恨むなんておかしいんじゃない?」

男「……っ」

少女「そうでしょ? それにわたしはお姉さんの願いを聞いただけ。感謝されこそすれ、文句を言われる筋合いはないの」

少女「本当、馬鹿みたいよあなた」

少女「そして何よりもみっともないの」

男「お前ッ……」

923 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/05/13(日) 10:58:38.70 ID:Gnkt/tHIO


ぎりっ

男はこれでもかと言わんばかりに腕に力をこめる。

常人ならば、既に千切れ飛んでいるであろうほどの怪力でも

目の前の少女一人に敵うことはなかった。


少女「でもこれじゃあ、わたしも馬鹿みたい」

男「クソッ……どうして」


諦めたように手を離す男。

少女の首筋は細く、雪のように白い。

924 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/05/13(日) 10:59:53.74 ID:Gnkt/tHIO


少女「もう、いいかな。あなたに付き合うのも飽きちゃったの」


少女「だから……死んでよ」

少女「理由はわかるでしょ? わたしを殺そうとしたから」


男「……ああ、そうか」

男「お前が、殺してくれるんだな……」

急に眩暈がしてふらつく。

頭を抱え、倒れ込まないよう壁に背中を預けた。

925 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/05/13(日) 11:00:51.59 ID:Gnkt/tHIO


少女「はい」

そんな男を見て、少女は優しく微笑む。


男「……一つ、いいか」

少女「手短にどうぞ?」

男「あの子は、どうなった?」

男「あいつの……子供は……」


少女「…………」

少女は男から顔を逸らして軽く思案する。そして
926 : ◆P8M03XVJno[sage]:2012/05/13(日) 11:02:23.22 ID:Gnkt/tHIO


少女「ああ、あの子?」



少女「すぐ死んじゃった」

とても詰まらなさそうに呟いた。

927 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/05/13(日) 11:03:39.87 ID:Gnkt/tHIO


男「……そうか」

少女「もういいでしょ? それじゃあ」

男「やっと、あいつらの顔が見れるのか……」


風が吹き、狭い路地に一筋の月光が走る。


少女「では、またお会いしましょう? にこー」

少女は包丁を引き抜き

月光を受けて鈍く輝くそれを

928 : ◆P8M03XVJno[sage]:2012/05/13(日) 11:05:18.20 ID:Gnkt/tHIO

ドスッ



男「…………」

少女「あ……い、や」

それは


青年「はっ……はっ……!」

それは青年の右腕に深々と突き刺さった。

少女「フューリ、さん?」

青年「ティノア! 探した、よ」

929 : ◆P8M03XVJno[sage]:2012/05/13(日) 11:06:23.87 ID:Gnkt/tHIO


少女「どうしてですか?」

青年「どうしたもこうしたもない、勝手に出て行ってはいけないだろう?」

青年「心配、したよ」

少女「…………」


ぽたっ……ぽたっ

少女「あ……フューリさん、血、血、血が」

青年「うん? 平気だよこのくらい。それより戻ろう、皆も心配している」

930 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/05/13(日) 11:07:08.40 ID:Gnkt/tHIO


少女「ごめ……なさ……ごめん……なさい」

少女「ごめんなさい……わたし、ちが、くて、ごめんなさいごめんなさい」

狂ったように頭を掻き毟る少女。

青年「どうかしたかい?」

少女「……っ」

ぱしっ

それに手を差し伸べた青年を払いのけ

少女は脇目も振らずに駆け出し、暗闇の中へと消えて行った。

931 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/05/13(日) 11:07:55.61 ID:Gnkt/tHIO


青年「ティノア?!」

慌てて追いかけようと飛び出すも

既に少女の姿はどこにもありはしなかった。


青年「……ティノア、君は」


青年「ぐっ……う」

青年「まずは血を止めなければ」

追いかけるのを諦めた青年が、腕に刺さった包丁を引き抜いて包帯を巻き始めていると


男「何故……助けた」

壁に寄りかかり、力無く座り込んでいる男がぽつりと呟いた。

932 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/05/13(日) 11:09:23.08 ID:Gnkt/tHIO


青年「勘違いしないで欲しいな」

青年「僕は彼女を探しにきただけだ」

男「……余計な事をしてくれた」

青年「余計な事をしてくれたのは君のほうだ」

青年「君は彼女を怒らせた、違うかい? とても辛そうだったよ」

男「…………」

青年「だんまりか、それでもいい」

933 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/05/13(日) 11:10:12.71 ID:Gnkt/tHIO


青年「さて、僕はもう行こう。だが……死のうだなどと考えるなよ」

青年「残された者には、残された者の使命がある。僕も同じだ」

青年「……さようなら、ウォン。今日は楽しかったよ」

青年は一方的に、言うだけ言うとすぐにその場を去って行った。


月は再びその身を隠し、完全な闇に包まれた世界で男は


男「……俺は、お前とは違うさ」


足を抱きかかえ、いつまでも、一人で蹲っていた。

934 : ◆P8M03XVJno[sage]:2012/05/13(日) 11:11:46.78 ID:Gnkt/tHIO
つ つ く 。
935 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/13(日) 11:29:41.26 ID:22Ph+RNuo
乙、豹変怖えぇよ
936 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県)[sage]:2012/05/14(月) 00:37:51.43 ID:u8eoJVjeo
937 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)[sage]:2012/05/14(月) 21:46:37.49 ID:DkpTWdVko
待ちきれない
938 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/14(月) 23:57:13.42 ID:G0Ta1z6DO


首絞められてる最中に
声が出せるとか…

少女コワスグル
939 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/28(月) 20:10:41.73 ID:8K0SJGLoo
これからどうなるのかな
940 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[sage]:2012/05/28(月) 20:22:59.30 ID:3Rq0RbGYo
第三次うどん大戦だ!
941 : ◆P8M03XVJno[sage]:2012/05/30(水) 00:34:49.42 ID:5ie3EwMIO



青年(あの時に聞こえた声は……一つではなかった)

青年(そして声が聞こえたということは)

青年「いや、よそう。考えすぎだ」


青年(今はそれより……ティノア)

青年「どこへ行った? 面倒に巻き込まれてくれるな」

942 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/05/30(水) 00:35:38.63 ID:5ie3EwMIO



賢者「お……遅い」

賢者「遅すぎはしないか!」

商人「まぐにゃんうっさーい」


つんっ

賢者「ぐぅ! ふぅおおああああ!!」

賢者「馬鹿者! 脚を突つく奴があるか!」

騎士「あーうるせ……少しは大人しくしろよな」

賢者「くう……お前は何故そうも平気なのだ!」

騎士「へっ! 鍛え方が違うんだよ」

943 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/05/30(水) 00:36:28.62 ID:5ie3EwMIO


賢者「……負けた癖によくいう」

騎士「な! 負けてないだろ!」

賢者「あれを負けと言わずに何を負けというのだ、ぷすぷす」

騎士「何を!」

賢者「やるか!?」

商人「まま、落ち着きなさいな」

商人「これ以上ふゅーにゃんを怒らせないほうがいいんじゃないの」

騎士「……う、確かに」

賢者「む……仕方無し。ここは素直に待つとするか」
944 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/05/30(水) 00:37:22.47 ID:5ie3EwMIO

騎士「まあ巻き込まれたとはいえ、俺にとっちゃあこの程度、苦でもなんでもないがな」

騎士「どこかのご老人には応えるようだが?」

賢者「ふむ? その喧嘩、買ってやらんこともないぞ」

騎士「いつでも掛かってこいよ、できるもんならな」

賢者「ふっ……面白い……」


商人「…………」

賢者「む、どうした? いきなり黙りこむな、気持ち悪い」

騎士「あんたな、言い方ってもんが……」

商人「えっあっ、何か言った?」
945 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/05/30(水) 00:38:21.27 ID:5ie3EwMIO


賢者「どうしたのかと聞いている」

商人「ん、ん〜、ちょっとね」

商人「君たちの喧嘩見てたら弟たちのこと思い出しちゃって」

商人「あの子たちも、叱ってもすぐ言い合い始めちゃってたからさ……あはは、懐かしくって」

賢者「その言い様からするに、死にでもしたか」

騎士「おい」

商人「ま、まぁそんなとこ。古い話だよ」

賢者「なるほどわかったぞ、異常なまでの献身的な援助はそれがゆえか」

騎士「やめろって!」

賢者「……ふん」

946 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/05/30(水) 00:40:02.13 ID:5ie3EwMIO


商人「いいんだよラルにゃん。でもそれはきっかけにすぎないよ」

商人「あたしが馬鹿みたいにあんなことしてる理由はね……ん?」


ふと商人は何か異変に気付いたのか、背伸びをして周囲を見渡し始めた。

そしてその異変はすぐに、その場の全員が気づくことになる。


ドンッ!

「ぐあっ!」

「お前ら、誰のおかげ生きていられると思ってんだ? あぁ?」


どうやら入口付近で揉めているらしい。

みすぼらしい格好の男性が横たわり、自警団の者であろう男たちがそれを見下ろしている。

947 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/05/30(水) 00:41:01.57 ID:5ie3EwMIO


賢者「一体どうした、喧嘩か?」

騎士「いや、自警団の連中みたいだ、多対一かよみっともねえ……」

商人「いるんだよね〜、ああいうゴロツキみたいなの」


「男と女のガキに鎧着た男、それと白髪の爺が一人だ。知らねえとは言わせねえ」


騎士「……おおう」

賢者「なるほど、しかし何故今になって……」

騎士「てか白髪の爺って……ぷふす」

賢者「……死にたいらしいな?」

商人「……うん?」

948 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/05/30(水) 00:42:37.63 ID:5ie3EwMIO


「し、知りませんよ!」

「知らない、じゃねえんだよ! 探せ!」

ドスッ!

「あがっ……!」

バキッ!


「チッ……もう伸びやがった、どうする」

「どうするも……俺たちで探すしかないだろ。早いとこ見つけて始末しないと」

「だな、折角の居心地のいい街だってのに……犬共に潰されてたまるかってんだ」

949 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/05/30(水) 00:43:47.15 ID:5ie3EwMIO


「おいこの飲んだくれ共! 話は聞いてたよなぁ? 見つけた奴らには報奨金を出す!」

「それにお前らだって騎士団にデカイ顔されたくないだろ? ん?」

「ひっ……」

「なにビビってんだよ。俺たちは皆を守る自警団だぜ? 善良な民ならビビる必要ないだろ?」


赤ら顔の老人を捕まえて、男たちの一人が腰に携えた剣をちらつかせて言う。

すると男たちは下品な笑い声をあげた。


「なぁ?」

「ひぃっ! ひぃぃ!」

「はははっ! 慌てて逃げやがった!」

「元気な爺だ。おい酒だ! 酒を持ってこい!」

950 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/05/30(水) 00:44:29.11 ID:5ie3EwMIO


騎士「…………」

商人「半端な権力手に入れて調子乗ってるんだよ。放っておくのが賢明だね」

賢者「うむ。こういう場合、どうすればいいかくらい……分かっているな? ラル」


騎士「……あぁ、任せとけ」
951 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/05/30(水) 00:45:25.60 ID:5ie3EwMIO


娘は夜道を駆けていた。

何度も躓きそうになりながらも、人を求め駆けた。

その少し先を行く黒い獣に導かれながら。


娘「はっ……はっ……」

犬「がぅっ!」

娘「っ!」

犬が吠え、道を示す。

娘は頷き、更に足を早めた。

何故一人と一匹で暗い夜道を走り続けているのか。

事の発端は昼間の出来事であった。

952 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/05/30(水) 00:46:16.54 ID:5ie3EwMIO


──どうしてここに?

洗濯が一息ついた頃に娘は聞いて見た。

「わたし、することが無くって」

することが無い、仕事がまだ残っている娘とは正反対だ。

その少女の服装……白をベースとしたドレスをみるに育ちの良い子なのだろう。

娘と同じ使用人であるとは考え難い。

──あなたって、お姫様?

「ふふっ……違うわ。……でも、そうね……紛い物みたいなものよ」

「ずっとお姫様の真似事をさせられてきたから」
953 : ◆P8M03XVJno[sage]:2012/05/30(水) 00:47:40.06 ID:5ie3EwMIO


やはり、どこぞの貴族なのか。

どちらにしても娘とは住む世界が違う。

だからといって羨むことはない。

むしろ窮屈な生活など絶対に耐えられないだろうとさえ思う。


「わたし、この街の領主の娘なの……」

領主の娘、つまりお嬢様だ。

そして現在の、娘の雇い主でもある。

令嬢「でも、一応よ、一応……」

一応? その意味を計り兼ねて首を傾げる。
954 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/05/30(水) 00:49:11.07 ID:5ie3EwMIO


令嬢「もう随分とお父様には会っていないわ……いまではわたしを愛してくれているのかどうかさえ……」

父、その単語が娘の胸に突き刺さり、表情を曇らせた。

令嬢「あ……ごめんなさい。わたし嫌な子ね、我儘だわ」

娘はううん、と首を振る。

この子も父親が好きなのだろう、好きな人からの愛を感じられないのは辛い。

そのくらい娘にだって分かる。

理屈じゃないのだ。


──ね、暇なんでしょ?

それがわかるからこそ

令嬢「えっ? うん……でもそれが」

──街に出てみようよ、きっと楽しいから

元気付けたいと思った。

955 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/05/30(水) 00:50:20.88 ID:5ie3EwMIO



今思えば間違いだったのかもしれない。

勿論、安全性を高めるためのことはした。

なるべく人通りの多い道を通ったし、火の明かりも彼女たちを照らしていた。

だが現に彼女らは暴漢に襲われ、娘はなす術なく助けを求めている。

娘は勇敢だった、しかしそれでも助けが必要だと真っ先に感じとったのだ。


その予感を例えるならば

何かが狂い始めている、だ。

何か、ではない。人と街がだ。

今この瞬間にも狂気が広がりつつある。

娘はそれがなによりも恐ろしかった。

956 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/05/30(水) 00:51:26.20 ID:5ie3EwMIO



娘「はっ……はっ……!」

犬「わんっ!」

犬が目当てのものを見つけたのか、尻尾を振って角を曲がる。

娘もそれを追いかけ……


ガッ!

娘「?!」

ドサッ!

何かに躓き、盛大に顔面から倒れた。
957 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/05/30(水) 00:52:57.04 ID:5ie3EwMIO

男「…………」

その何かとは壁に背を預け、蹲っている男だった。

娘に思い切り蹴られても、うんともすんとも言わない。


犬「くぅん……」

娘「…………」

犬は心配そうに娘を伺い、娘は痛む鼻を抑えて男に向き直った。

そして男の肩を掴み揺さぶる。

だが今の彼に思いは通じない、死んでしまっているようだった。
958 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/05/30(水) 00:53:58.06 ID:5ie3EwMIO

娘「……」

何かがあった、その結果男は心が折れてしまったのだ。

娘は男のことを何も知らない。

だから男を救うことはできない。

だが……ここで彼に死んで貰いたくはなかった。


うな垂れる男の頭を胸に抱き寄せる。

娘の鼓動で男の心臓が再び鳴り出すようにと、強く抱きしめる。
959 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/05/30(水) 00:55:00.16 ID:5ie3EwMIO


そして体を離すと


──お願い、あたしと一緒に……きて!


聞こえるはずのない

伝わるはずのない

思いを受けて

男の体がピクリと震えた。

960 : ◆P8M03XVJno[sage]:2012/05/30(水) 00:56:51.33 ID:5ie3EwMIO
つづく
961 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/30(水) 00:57:25.20 ID:rfzxztnho
乙、幼女つよい
962 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[sage]:2012/05/30(水) 01:36:51.41 ID:7Plnr97lo
乙うどん!
次々投下ぐらいで次スレいきそうだな
963 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/06/07(木) 22:39:00.99 ID:NTef1ITIO


──時は数刻遡り。


使用人「民の間で何やら不穏な動きが……」

領主「……ま、前々からあったことだ」

領主「それより……今は、奴らにどう対処するか……だ」

使用人「それが……一部の自警団の者が先導しているようで」

使用人「続いて不満の声も次々と」

領主「……何?」

領主「騎士団だけでなく我が領民までもが……!」

領主「私を蹴落とそうとするのか!」

領主「ふざけるなッ!!」


バンッ!!


使用人「っ!?」

領主「……もういい」

使用人「は、はい?」

領主「団長を呼んで来い」


領主「この街は……この街だけは、私でなければならないのだ」

964 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/06/07(木) 22:39:57.60 ID:NTef1ITIO


──して、現在。



青年「ここにも、いないか」

青年(無意識のうちに見覚えのある通りに来るだろうという予測はハズレか)


「ぐすっ……ひっ……うぅ」


青年(泣き声? 辺りに人はいないが)

青年「待て、何故誰もいない……?」

青年「皆と通った時には人通りはあったはず、日が暮れたとは言えここはまだ大通り近く」

そう、人っ子一人いないのだ。

無人の屋台は放置され、ぶら下がったランプの明かりが虚しく辺りを照らすだけの空間である。

965 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/06/07(木) 22:40:57.50 ID:NTef1ITIO


青年「何があった……? とりあえず声の主を……」


再度辺りを見回す、するとそれはあっさりと見つかった。


地に流れる酸化した血流。

何故今までそれに気づかなかったのか、しかし一度意識した途端にむせかえるような鉄の臭いが鼻を突く。

恐る恐る、青年はその先を見る。


令嬢「ひくっ……ぅ、あ……」

そこには……流れる液体と同一色の服を着た令嬢が。

966 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/06/07(木) 22:41:31.74 ID:NTef1ITIO


青年「君、大丈夫?」

令嬢「あ……あ……」

血溜まり──よくみれば吐瀉物も含まれている──の中で令嬢は顔を上げた。

青年「心配しなくていい、僕は何もしない。落ち着いて何があったか話してごらん?」

令嬢「わ、わた……し、怖い人に、お、襲われ、て……」

青年「うん、それで?」

令嬢「そっ、それで、一緒にいた子が助けを、呼びにいって、くれたの……」

令嬢「で、でも、わたし……凄く怖くて、泣いてたら……女の子が来て……」

令嬢「怖い人たち、殺しちゃって……わたし、もうどうしていいかわからなくて……」

青年「女の子……? まさか」

967 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/06/07(木) 22:42:50.65 ID:NTef1ITIO


令嬢の傍、二つの折り重なった肉塊の向こう。

そこに血塗られた鉄材と、青い布切れが落ちていた。

少女が身につけていたものだ。


令嬢「怖い……怖いよお父様……」

令嬢「どうして……? わたし、いつもいい子にしてたのに……」

青年「怖かったね、辛かったね。だけどもう平気だ」

青年「僕がいる。怖くない、ね?」

ギュッ

令嬢「う、あ……ふぇぇっ……」

968 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/06/07(木) 22:43:27.40 ID:NTef1ITIO



令嬢「……くすん」

青年「いや、よく泣いたね」

令嬢「す、すみませんでした……」

青年「ふふっ、いいよ。貧弱な胸板でよければいくらでも貸そう」

令嬢「そ、そんなことっ! な、ないですよ……」

令嬢「……とても逞し……」

青年「うん? どうかしたかい、どこか痛む?」

令嬢「いえっ! 大丈夫です!」

青年「そうか、それならよかった」

令嬢「…………」

969 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/06/07(木) 22:44:32.06 ID:NTef1ITIO


青年「ところで、君を助けた女の子について少し聞きたい」

令嬢「あ……ぅう」

青年「嫌なことを聞いたね、すまない。だが教えて欲しい」

令嬢「……助けてくれた、というよりは……邪魔だったから、という感じでした」

令嬢「その後は、わかりません……どこかへふらりと去っていきました」

青年「……やはりか」

令嬢「すみません、わたしではお役にたてず……」

青年「君が気にすることはないよ」

青年「あの子が危険な目に会っていなくてよかった、元気そうだ」

970 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/06/07(木) 22:45:24.41 ID:NTef1ITIO


令嬢「あの……ええと」

青年「フューリだ」

令嬢「あ、わたしはメリエ、です……」

青年「素敵な名前だね」

令嬢「あっ、ありがとうございます……」

令嬢「それで、あの……フューリさんはどうしてその子を」

青年「……! 誰か倒れている」

令嬢「え……ほ、本当ですね」

971 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/06/07(木) 22:47:29.23 ID:NTef1ITIO


青年「もし、聞こえますか?」

「う、あ……頭が、痛くて」

青年「頭? 外傷は無いようだが……一体何が?」

「わから……ない、いきなり……」

「声が響くんだ、殺せ、許すなって……」

青年「っ!?」


がしっ!

令嬢「ひっ……!」

「わかったよ! 殺すから、殺すからもう叫ばないでくれぇぇッ!!」

972 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/06/07(木) 22:48:18.06 ID:NTef1ITIO


令嬢に掴みかかり首を折ろうとする男性。

だが青年が黙って見ているはずもない、青年は男性を引き剥がし突き飛ばすと

令嬢の盾となるべく立ちふさがった。

令嬢「ど、どうして……」


青年「正気を失っている、僕の傍を離れるな」


突き飛ばされ、地面に倒れこんだ男性が体を震わせる。

そしてのそのそと起き上がり、焦点の合っていない目を二人へ彷徨わせ

だらしなく口を開け広げ、濁った唾液を垂れ流す様は

アンデッドのそれによく似ていた。


青年「くっ……!」

「ぐぉ……」
973 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/06/07(木) 22:49:26.90 ID:NTef1ITIO


男性が襲いかかり

青年が身構え、反撃のチャンスを待つ──

──間もなく、男性の胸部を何かが貫いた。


「が、ぁ」

短い悲鳴と共に割かれた皮膚から血液が飛び散る。

警備兵「ご無事でしたか」

剣を引き抜き、何食わぬ顔で血を払う。

支えを失い地に伏せる男性に見向きもせず、警備兵は開口一番そう言った。
974 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/06/07(木) 22:50:31.18 ID:NTef1ITIO



令嬢「ドグマ……?」

警備兵「姿を消されたと聞き、探しておりました。お嬢様」

青年「貴方は……?」

警備兵「自警団の一員です。お嬢様の身辺警護を一時期担当していました」

令嬢「ドグマ……一体、この街に何が起こっているのですか」

警備兵「自分にもわかりかねます」

警備兵「以前より計画しておりました、反乱の計画が一部の強行派によって推し進められている模様です」

青年「反乱……? 何を言っているのか」

警備兵「我らの街を我らの手に取り戻すのです」

975 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/06/07(木) 22:52:12.86 ID:NTef1ITIO


令嬢「……冗談ですよね?」

警備兵「期は熟してはおりませんが、街での混乱は言い変えれば好機となります」

警備兵「……故、これよりこの街は小さな戦場になるでしょう」

警備兵「ですから」



ヒュッ……

ガッ!


青年「うっ!?」

令嬢「フューリさん?! ドグマ! 貴方は──むぐ!」


潜伏していた警備兵の仲間に

青年は後頭部を殴打され昏倒、令嬢は口を塞がれ拘束された。


警備兵「全てが終わるまで大人しくして貰いたいのです……連れていけ」

976 : ◆P8M03XVJno[sage]:2012/06/07(木) 22:53:42.97 ID:NTef1ITIO
つづく

ふぇぇ……気づけばスレ埋まりそうだよぉ
当初はこんなに長く書くつもり無かったんだよぉ
977 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]:2012/06/07(木) 22:58:00.60 ID:eWLlg5EEo
次スレも
次次スレも
その次も
978 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/06/07(木) 22:59:10.82 ID:lcemXteIO
ついて行きます
書いて下さい
979 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]:2012/06/07(木) 23:49:15.58 ID:2rb44WTh0
乙乙
終わるまでいくらでも待ってますよ
980 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[sage]:2012/06/07(木) 23:50:36.76 ID:we9sjHCho
乙!
まだまだついていくよ
981 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/06/08(金) 07:39:25.60 ID:7N2gKinTo
乙乙
982 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/06/16(土) 10:13:44.17 ID:f7lz20CIO



騎士「はっ、ざまあないぜ!」


山積みになった自警団。

その様を見て、騎士は手をはたいた。


商人「ああもう、どうすんのこれ」

賢者「任せろといいながら、ただ喧嘩をふっかけて叩きのめしただけではないか」

騎士「軽くちょっかいかけて痛い目みせてやろうと思ったんだが」

騎士「どうにも喧嘩っ早いなこいつら、おかげですぐ片付いたが」

賢者「第一、争いごとは控えろと言われたろう」

983 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/06/16(土) 10:14:20.95 ID:f7lz20CIO

騎士「あんたが言うか……? なんだかんだ言ってあんたも参戦してたが」

賢者「ふん、こいつ等が悪いのだ、それに急ぎの用が出来た」

騎士「だな」

商人「そだね、君たち狙われてるみたいだし、捜索隊が出てるならふゅーにゃんたちも危ないかも」

商人「しょーがない。ここはあたしが何とかしておくよ、行ってきたら?」

賢者「共にはいかんのか? お前とて狙われていたのだろう」

商人「だいじょ〜ぶ、だから……ね?」


賢者「……わかった、いくぞラル」

騎士「は? ちょ、待てったら!」

984 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/06/16(土) 10:15:04.46 ID:f7lz20CIO



騎士「おい! 待てって!」

賢者「何だ、うるさい奴だな」

騎士「ミーコさんも狙われてる? どういうことだよ」

賢者「言ってなかったか? 奴は貴重な食物やら衣類を無償で配布しているのだぞ」

賢者「一部の商人にとっては目障りな存在だろうが。雇われが奴の命を狙うこともあるそうだ」

騎士「なっ……! 聞いてねえぞ!」

賢者「そうだったか? まあ今気にしても仕方ないだろう」

賢者「どういう風の吹きまわしかしらんが、今は俺たちも追われる身だ」

騎士「だけど……それでも一緒にいたほうが」

985 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/06/16(土) 10:16:01.45 ID:f7lz20CIO

賢者「あいつがいて欲しいと言ったか? 余計なことは考えなくていい」

騎士「……言ってねえよ、けど!」


賢者「しっ……少し黙れ。なんだ? 騒がしい……」

騎士「話を……」

賢者「黙れといった。何か聞こえんか?」

騎士「……な、何も聞こえないけど」

賢者「いいや、聞こえる。あっちだ」

騎士「あ、おい!」

986 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/06/16(土) 10:16:43.63 ID:f7lz20CIO


賢者「……これは」

騎士「ど、どんだけ走るんだ、よ……?!」


街の中心部へ進んだ先には人、人、人。

騎士「なっ……」

人による長蛇の列、その圧倒的な異常に騎士は絶句した。

まるで地獄に落ちた亡者の行進だ。

恨み憎しみに揺れる松明の明かりが、更に不気味さを増す。


騎士「な、なんだよこれ……」

987 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/06/16(土) 10:17:39.50 ID:f7lz20CIO

騎士「どうなってんだ! フューリは! 嬢ちゃんは!?」


賢者「……わからん」

騎士「わからんって、あんたなぁ!」

賢者「ええい黙っていろ! 喚いたところでどうにもならん!」

騎士「ぐ……」


賢者「まったく、だから俺が行くと……!」

賢者「……行くぞ、ラル。ここは後だ、ほかを探す」

騎士「お、おう」

988 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/06/16(土) 10:18:34.72 ID:f7lz20CIO



娘「────!!」

男「……待て、お前が行ったところで無意味だ」

娘「──!! あ──!」

娘「っげほ! えほっ!」


無理に声を出そうとし、むせる娘。

それを奴らに気取られぬようにと、男は娘の顔を己の腹部に押し付けた。

何故娘は焦っているのか。

奴らとは誰か。

それは、積まれた木箱越しに覗ける風景が物語っていた。

989 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/06/16(土) 10:19:12.97 ID:f7lz20CIO



男が数人、それらが囲んでいる人物が二人。

どちらも男の見知った人物であった。


男(騎士団のフューリ、だったか。もう一人は……領主の娘か)

男(……それに自警団のあの男、奴にも見覚えがある、ということは)


娘「むー!!」


ガバッ


男「……静かにしていろ」

娘「っ! っ!」

男「……痛い、叩くな」

男「奴らは自警団だ、この街のトップの娘は殺さん。大方抜け出したのに気付き、連れ戻しにきたんだろう」

娘「…………」

男「信じておけ」

990 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/06/16(土) 10:19:50.83 ID:f7lz20CIO


警備兵「行くぞ」


娘「っ……」

犬「くぅん……」


男「行ったな」

娘「…………」

犬「ぐるる」

男「……これでいいだろう、何が不満だ」

男「そもそも、お前が連れ出さなければ危険な目に会うこともなかった」

男「無事保護されただけマシと思え」

娘「……」

991 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/06/16(土) 10:20:37.93 ID:f7lz20CIO


男「第一、何故街に出た。俺は出るなと言ったはずだ。それに仕事はどうした、まさか放り出してきたのか」

男「……俺の言うことさえ守っていればよかったものを……お前は」

犬「ぐぅぅ……がう!」

男「……吠えるなよ」


「人の声がする」

「どっちだ!?」

「こっちだ」


992 : ◆P8M03XVJno[saga]:2012/06/16(土) 10:21:16.10 ID:f7lz20CIO


男「っ!」

娘「……?」

騎士「おいあんた達! この辺りで……って、ウォン? と……誰だ」

賢者「……お前、何故ここに」


男「…………」

男「あ、あぁ、皆さん! 丁度いいところに!」

男「……お話したいことがあるんです」

993 : ◆P8M03XVJno[sage]:2012/06/16(土) 10:22:07.86 ID:f7lz20CIO
つづく
994 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/06/16(土) 10:32:02.75 ID:qyf0b6ixo
乙乙
次スレでも楽しみにしてる
995 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[sage]:2012/06/16(土) 11:10:25.40 ID:TNHbXBARo
新スレはいつ立てるん?
996 : ◆P8M03XVJno2012/06/16(土) 11:32:13.92 ID:f7lz20CIO
少女「そんな所で寝ていると、風邪を引きますよ?」続
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1339813872/

忘れてた、次スレ
997 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]:2012/06/16(土) 14:10:11.71 ID:W+/y0L5r0
うめうめ
998 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]:2012/06/16(土) 19:48:14.32 ID:/KWmcHds0
999 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]:2012/06/16(土) 19:48:41.44 ID:/KWmcHds0
1000 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]:2012/06/16(土) 19:49:58.37 ID:/KWmcHds0
>>1000ならあと99スレ続く
1001 :1001Over 1000 Thread
       / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
       | アパム!アパム!次スレ建てて来い!アパーーム!
       \_____  ________________
                ∨
                      / ̄ ̄ \
      /\     _. /  ̄ ̄\  |_____.|     / ̄\
     /| ̄ ̄|\/_ ヽ |____ |∩(・∀・;||┘  | ̄ ̄| ̄ ̄|
   / ̄ ̄| ̄ ̄| ̄|  (´д`; ||┘ _ユ_II___ | ̄| ̄ ̄| ̄ ̄|
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