VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/20(土) 01:54:31.67 ID:r709VZGDO<>落ちたので<>勇者「幼女魔王?」 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/20(土) 02:14:44.06 ID:r709VZGDO<> 勇者「勇者を世襲制にしたバカは誰だ!」

勇者「こちとら一般市民に毛が生えたぐらいの戦闘力だっつーの!」

段ボール箱に隠れたまま廊下を移動する勇者。

未だレベル1だが、ステルスト勲章をコンプリート出来る位に隠密能力が上がっていた。

魔物「ガシャガシャ」

勇者「うおっ、と……」

勇者は段ボール箱姿のまま、手近な部屋へと滑り込む。

勇者「さすが魔物城、魔物の数が多い」

勇者「何か考えないと、……おや?」

勇者の目に妙な鎧が映り込む。
どうやら勇者が入り込んだ部屋は祭壇として使われているようで、妙にトゲトゲしい鎧を祭っていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/20(土) 02:15:21.68 ID:r709VZGDO<> 勇者「勇者を世襲制にしたバカは誰だ!」

勇者「こちとら一般市民に毛が生えたぐらいの戦闘力だっつーの!」

段ボール箱に隠れたまま廊下を移動する勇者。

未だレベル1だが、ステルスト勲章をコンプリート出来る位に隠密能力が上がっていた。

魔物「ガシャガシャ」

勇者「うおっ、と……」

勇者は段ボール箱姿のまま、手近な部屋へと滑り込む。

勇者「さすが魔物城、魔物の数が多い」

勇者「何か考えないと、……おや?」

勇者の目に妙な鎧が映り込む。
どうやら勇者が入り込んだ部屋は祭壇として使われているようで、妙にトゲトゲしい鎧を祭っていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/20(土) 02:22:00.60 ID:r709VZGDO<> 勇者「……」

考える勇者。

勇者「なるほど、重要アイテムか」

勇者脳で結論づける勇者。

勇者「この城なら、こんな禍々しい鎧もステルス率MAXとして機能するな」

装備する勇者。

デンデロリーン!

呪われる勇者。

勇者「はい来た! クソゲー来たよ!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/20(土) 02:41:45.47 ID:r709VZGDO<> 声を上げた勇者の背後で扉の軋む音が聞こえた。

勇者「なにやつっ!?」

勇者の背後。
部屋の扉に手をかけて、1人の幼女が立っていた。

勇者(幼女? いや、角生えているし、服も豪華……高位の魔族か、ヤバイな)

生存に特化された勇者の勘が、幼女がヤバイ存在だと警鐘を鳴らす。
勇者が緊張に身を固くするが、幼女はそんな勇者の事なんかお構い無しにトテトテと勇者へと近付いて来た。

幼女「……まさか」

勇者「……?」

幼女「そんな……う、うぅ……」

勇者「……っ!?」

幼女の瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちていく。
勇者が呆気に取られて、気を抜いた瞬間。

幼女「お父たまーっ!!」

勇者「へぶぁっ!?」

幼女が体当たりするように、勢い良く勇者に抱き付いてきた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/08/20(土) 02:47:30.32 ID:GRK7visMo<> きたーこれ見てたわ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/20(土) 03:12:03.55 ID:r709VZGDO<> 勇者「ふげっ!?」

幼女に押し倒された勇者の後頭部が床の石畳に激突する。
全身鎧のおかげである程度は威力が軽減されたが、勇者の視界は急速に暗く狭いモノになっていった。

幼女「? ……お父たま?」

勇者の異変に気付いた幼女が顔を歪め、火のついたように泣き始めた。

幼女「お父たま! お父たまっ!!」

勇者「……うぅ」

幼女「ごめんなさい! ごめんなさいっ! お父たまっ!」

勇者の目に幼女の姿が映る。
黒く艶やかな長髪、白くキメ細やかな肌、黒地に金の刺繍が施された衣服は着る者に威厳を持たせる一級品である。

だが、泣きじゃくる幼女の様子に威厳など欠片も無い。

細く整った柳眉は悲しみに歪み、赤い瞳からはとめどなく涙が溢れ続けていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/20(土) 03:30:28.21 ID:r709VZGDO<> 勇者「う、うぅ……」

幼女「……お父たま?」

悲痛な幼女の様子に耐えられず、勇者が震える手を上げる。

勇者「大丈夫、大丈夫だから泣くんじゃない」

幼女「……! ……うんっ!!」

勇者の言葉に幼女が頷き、涙を拭った。

幼女「私はお父様の娘だもん!」

幼女は力強く勇者の手を握る。
明るさの戻った幼女の顔に安心して、勇者が静かに瞳を閉じた。

幼女「……お父たま? ……お……たま!」

幼女の声が聞こえた気がするが、再び目を開ける事は出来ず、勇者の意識は急速に深い闇の中へと沈んでいった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/20(土) 03:43:14.57 ID:r709VZGDO<> 〜医療室〜

医療魔物「肉体の損傷は皆無」

医療魔物「ですが、鎧が脱げず、また肉体能力も人間並に低下しているようです」

幼女「……どういう事だ?」

医療魔物「不確定ですが……復活が不完全、肉体の維持のために鎧から離れられない、といった所でしょうか」

幼女「そうか……わかった、下がれ」

医療魔物「ははっ!」

幼女「……」

幼女「……お父様」

勇者「う、う〜ん」

幼女「お父様! お気付きになられたのですか!?」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/08/20(土) 03:48:27.51 ID:9WNbk5dDo<> こっちにきたのね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/20(土) 06:16:47.64 ID:r709VZGDO<> 幼女の声に、勇者が鎧を着たままベッドの上で身体を起こした。

勇者「お父様?」

そして勇者は首をかしげる。

幼女「?」

勇者「ここはどこだ? 俺は……誰なんだ?」

幼女「っ!? ま、まさか!」

勇者「何も思い出せない」

幼女「そ、そんな……」

幼女はベッドの脇に手をつくと、力なく崩れ落ちた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/20(土) 06:38:08.04 ID:r709VZGDO<> 勇者「一緒に城内を見回り、か」

幼女「はい。この城は一部改修をしておりますが、昔の面影は色濃く残っております」

幼女「何かしら記憶を揺り動かす物があるやもしれません」

幼女「……ですが、お父様のお体に差し支えがあれば……」

勇者「いや、行こう」

幼女「いいのですか?」

勇者「どうやら、気絶していただけで体に不調は無いし、それに……」

幼女「それに?」

溢れてくる喜びを隠せないように、どこか楽しげに幼女が聞き返す。

勇者「レディーのお誘いを断る事は出来ないからね」

ちまたじゃ絶対に言えない精一杯のダンディズムを搾りだす勇者。

果たして、幼女は顔を赤らめながらも満面の笑みを浮かべた。

幼女「もう、お父様ったら!」

こうかはばつぐんだった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/20(土) 07:27:54.67 ID:r709VZGDO<> 幼女「こちらは修練場になっております」

勇者「おお、魔物たちが剣を片手に戦いあってる」

幼女「お父様も毎日修練を欠かした事はありませんでした」

勇者「さすがだな、オレは」

?「お〜い! 魔王女様〜!」

勇者「誰かこっちに来るぞ?」

幼女「はい、彼女は私の部下です。戦闘能力は期待が持てます、戦闘能力は」

勇者「なぜ二回言う?」

そうこうしている内に、女性は2人へと走ってくる。

勇者「ん?」

勇者が異変に気付いた。

走って来る相手は鎧を着ているが、腕や太ももなど露出した部位や体のラインから女性だと分かる。
それはいい。

問題は……

勇者「く、首が無いっ!?」

女性「やだな〜! しっかり持ってるでござるよ」

そう言って女性は小脇に抱えた、笑みを浮かべる自分の頭を勇者に見せたのだった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/20(土) 07:45:17.53 ID:r709VZGDO<> 幼女「彼女はデュラハンです」

勇者「そ、そうか、デュラハンか」

デュラ「むう? 新入り?」

勇者「ども」

デュラ「困ったでござる。一人称を我輩にして威厳を出すか、ボクにして愛嬌を出すか……」

幼女「そういう事を本人の前でつぶやいてしまうような娘です」

勇者「はあ、個性的で」

幼女「素直にウザイと言ってあげて下さい、彼女のためにもなります」

デュラ「やや、魔王女様が敬語とは、こちらの方は何者でござるか?」

勇者と幼女のやり取りが聞こえているはずなのに、デュラハンは何事も無かったように話をそらした。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/20(土) 08:02:11.54 ID:r709VZGDO<> 幼女「ふふ、この鎧を見てわからないかしら?」

幼女が勇者の鎧を、指を曲げてコツコツと軽く叩く。

デュラ「トゲトゲしてるでござるな」

幼女「キサマの感想はそれだけか?」

デュラ「な、何を怒ってるでござるか!? じ、冗談、冗談でござるよ、わっはっはー!」

デュラハンは高笑いすると、右手に自分の頭を持ってジロジロと勇者の鎧を凝視する。
そして、デュラハンは何かに気付いた。

デュラ「う〜ん、……はっ! この鎧は祭壇にある魔王様の鎧にそっくりでござる」

幼女「そうそう、つまり?」

デュラ「魔王様の鎧は量産品の安物だったのでござるな!」

デュラハンの浮かべる邪気のない笑顔を見て、幼女のこめかみに青筋が走った。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/20(土) 08:46:55.21 ID:r709VZGDO<> 幼女「よりによって! お父様の鎧を量産品の安物呼ばわりとは……まったく、いい度胸だわ!」

デュラ「え? お父様? えっ?」

幼女「お父様の鎧が量産品の安物だとしたら、あなたが後生大事そうに腰に引っ提げてるクソ宝剣は何? ゴミ溜めの肥やしかしら?」

デュラ「な! よりによって我が宝剣をクソ呼ばわりとは!」

デュラハンは腰鞘から剣を抜き放つ。
深紅の刀身がきらめき、紅い軌跡を宙に描いた。

勇者「おお!」

デュラ「どうでござるか!? 一目見て分かる、この剣閃の凄まじさ! それでもこの剣を……」

幼女「クソね」

デュラ「はうっ!?」

幼女「お父様の鎧に比べたら月とスッポン! ……いや、一山二束三文で叩き売りされてるようなゴミとは比べるべくもないわ!」

デュラ「あ、あうあう」

幼女「そんなにその剣が大事なら、思いっきり抱き締めてあげたらどう? そしてそのまま斬死しなさい! 自分の無知を悔いながら!」

幼女は一息に言い捨てると、ふんっと鼻を小さく鳴らした。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/20(土) 09:06:24.53 ID:r709VZGDO<> 勇者「す、少し言い過ぎじゃないかな?」

幼女「はっ!? す、すみません! わたしったら」

勇者「まあ、それはいいとして……どうする、アレ?」

デュラハン「る〜る〜ら〜」

うちひしがれたデュラハンは地面で赤子のように丸まり、自分の頭を胸に抱えて悲しみの歌を口ずさんでいる。

幼女「放置してください。優しい声をかけたら2秒で復活します」

幼女「どうせ『ありがとう! わたし頑張る!』とか、頭の中ではセリフを考えてる最中です」

幼女の言葉に図星を突かれたかの如く、デュラハンの悲しみの歌が止む。

しかし、すぐにまた悲しみの歌を口ずさみ始めるのが実に白々しい。

幼女「それでは、次に行きましょう」

勇者「……うん」

2人がその場を去る。
デュラハンは1人で悲しみの歌を口ずさみ続けていたが、しばらく経って体を起こす。

そして体育座り。

デュラ「……ゴミじゃないもん」

デュラハンは宝剣を鞘から出して、1人さびしく地面に落書きを始めた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/20(土) 10:07:01.19 ID:r709VZGDO<> 〜正面玄関・庭先〜

幼女「ここが正面玄関です」

幼女がぴょんぴょん飛び跳ねる。
それでもやっと勇者の腰辺りに届く程度であった。

勇者「ほう、庭に立派な竜の石像があるじゃないか」

幼女「ふふっ、立派ですってよ、喜びなさい」

石像「オオォォッッ!」

勇者「せ、石像がしゃべった!?」

幼女「ゴーレムです。正門からの来訪者に睨みを飛ばす番人の重役を賜っています」

勇者「す、すごいじゃないか! 3階建ての家屋くらいの大きさはある、まさに百人力だ」

幼女「そう、だったらよかったんですが」

勇者「?」

幼女「動けないんです、この子」

勇者「動けない?」

幼女「はい」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/20(土) 13:48:31.86 ID:r709VZGDO<> 幼女「高名な彫刻師の方に、御覧の通りの立派な竜を彫ってもらったまでは良かったんです」

幼女「そして魂となる中央核に主従の契約として魔翌力を注ぎ込むぞ、という段階で……お父様が戦場で……」

そこで幼女が顔を伏せる。
それだけで勇者は幼女の言わんとしている事を理解した。

勇者「そうか、そうだったのか」

幼女「……はい」

幼女「あっ、でも今はまだこの子に魔翌力を注ぎ込むのは止めた方がいいです」

勇者「そうなのか?」

幼女「はい、まだお父様の体も本調子ではない様子ですし、この子もまだまだ待ってくれますよ、ね?」

石像「オオォォッッ!」

幼女「ふふっ、ありがとう」

幼女「でもお父様? 忘れないでください」

幼女「この子は動かない体を泰然と構え、お城を守り続けてきたのです」

勇者「わかってるよ、力が戻ったら真っ先に魔翌力を注ぎ込むさ」

幼女「ありがとう、お父様」

幼女「それじゃ、あなたももう少しの間だけ門番をよろしくね?」

石像「オオォォッッ!」

大気を鳴動させる雄叫びを肌に感じながら、2人はその場を後にした。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/21(日) 03:10:56.67 ID:XIV3AwvDO<> 〜廊下〜

幼女「まだ何も思い出せませんか?」

勇者「ああ。でも、この廊下は最近通った気がする」

幼女「それはきっと思い出す兆候です! 頑張りましょう!」

勇者「おう! ところで、他に見る所はどれぐらいあるんだ?」

幼女「中庭に、北の尖塔、そして書物庫と……地下施設ですかね」

勇者「地下施設?」

幼女「武器などの角張る物を始め、様々な物品を保管しています」

勇者「物置みたいなところか」

幼女「ですが、それだけではありません」

幼女が得意気に腕を組み、人差し指を立てる。

幼女「地下施設は物品を製作する工房としての役割も持ってるんですよ」

幼女「そこでは、良い腕をしたサキュバスさんが工房を一手に引き受けていまして……」

勇者「地下に行こう」

幼女「はい?」

勇者「地下に行こう!」

幼女「ふふふ、ではそうしましょう」

勇者が工房に興味を持ったものだと思って、幼女は勇者を先導する。
もちろん、勇者が引っ掛かったキーワードはサキュバスの方だった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/21(日) 03:35:12.45 ID:XIV3AwvDO<> 〜地下施設〜

勇者「…………」

?「シュコー……シュコー……」

地下には2つの鎧が向かいあっていた。
片方は勇者のトゲトゲ鎧。
もう片方は白銀で出来た流線形の鎧。
お互いに全身鎧で、指先1つまともに見えなかった。

幼女「こちら、地下施設を監督するサキュバスさんです」

サキュ「よろしく」

勇者「ふざけんなーッ!!」

幼女「きゃっ!?」

勇者「オレの純情をもてあそびやがって! サキュバスといったら、ボン、キュッ、パッ、のナイススタイルで、それを引き立てる際どい衣服がデフォだろうが!」

サキュ「コレも個性だと思ってください」

勇者「ええい黙れ! 魔王特権で鎧を脱がしてやる!」

サキュ「やめてください! パワハラです!」

幼女「待ってください、お父様。サキュバスさんが鎧を着るのには理由があるんです」

勇者「理由?」

幼女「はい」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/21(日) 07:01:01.23 ID:XIV3AwvDO<> 幼女「サキュバスさんは『初めての戦い』でトラウマを抱えて対人・対魔恐怖症になってしまったんです」

サキュ「ま、魔王女様っ!」

幼女「誤解は早くに解いておいた方がいいでしょう?」

サキュ「い、いや、誤解というか何というか……」

勇者「何でそんなに恥ずかしがる?」

サキュ「男は黙ってろ!」

勇者「?」

幼女「サキュバスさんは『初めての戦い』を用意周到に迎えました」

サキュ「続けないで魔王女様!」

幼女「密室で相手と2人きり、お互いに丸腰だったのですが……なんと!」

幼女が細い両手を高く上げて、精一杯に驚きを表現した。

幼女「相手はズボンの下に大剣を隠し持っていたのです!」

勇者「サキュバス……初めての戦い……ズボンから大剣……まさか!?」

サキュバス「もうやめて魔王女様! お願いっ!!」

しかし幼女は止まらない。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/21(日) 07:15:16.03 ID:XIV3AwvDO<> 幼女「ふふふ、小柄なあなたには私の大剣は少し痛いかもしれませんね」

幼女「サキュバスさんは頭が真っ白になりましたが、すぐに我に戻りました」

幼女「だが、そこに迫る大剣!」

幼女「サキュバスさんは咄嗟に、部屋の隅にあったバットをつかみます」

幼女「そして相手の大剣に振り下ろし、相手が痺れている間に部屋を飛び出して難を逃れたのです!」

勇者「…………」

サキュ「…………」

幼女「……? ああっ! 説明が足りませんでした!」

幼女「実は『初めての戦い』の相手はサキュバスさんの初恋の相手でして、それで人間不信にいっそう拍車……」

勇者「もうやめてあげてっ!!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2011/08/21(日) 08:17:33.48 ID:eF0L3kPho<> 勇者www <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/21(日) 15:41:26.96 ID:XIV3AwvDO<> 幼女「……確かに、愛する人から裏切られ、命を狙われたという話は隠しておきたい物かもしれません」

幼女「ですが! だからこそ、大逆転から勝利をつかんだ武勇伝として多くの人に知ってもらいたいんです!!」

幼女「そうすればサキュバスさんに自信がついて、対人・対魔恐怖症も治るはずです!」

勇者「そ、そうか……でも……」

幼女「サキュバスさんに過去を乗り切ってもらうためにも……」

幼女「あえて私は城内全員にサキュバスさんの過去を包み隠さず話したんです!!」

勇者「ひでえっ!?」

サキュ「…………」

幼女「過去を乗り切ってください! サキュバスさん!!」

サキュ「う……くぅ……」

サキュバスはその場に崩れ落ちる。
そしてサキュバスの鎧の中から、勇者が今まで聞いた事の無いような慟哭が響いてきた。

サキュ「……おーん、怨怨怨……おーん、怨怨怨……」

幼女「武勇伝! 武勇伝!」

勇者「もうダメだ! ここにいたらいけない!!」

勇者は幼女を抱き上げ、地下の階段を駆け昇る。

しかし、勇者たちが地上階の扉を締め切った後も、サキュバスの慟哭は鳴り止む事無く響いていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/21(日) 15:57:01.29 ID:XIV3AwvDO<> 勇者「はぁ……はぁ……」

幼女「いきなりどうしたんですか? お父様?」

勇者「いや、何でもない」

幼女「?」

勇者「次に行こう! 次に!」

幼女「そうですか、なら中庭に行きましょう」

勇者「ふぅ……」

先導するように前を歩く幼女。

その背中に勇者はふと湧いた疑問を投げ掛けた。

勇者「……サキュバスは初めからあんな調子だったのか?」

幼女「いえ、初めは厚着の服を着る程度で、工房も地上階にあったんですが……」

幼女「私がみんなに話を広めた日から鎧を着るようになって、地下施設へと工房を移したんです」

勇者「…………」

幼女「きっと、内なる自分との対話を始めたのでしょう、応援してあげたいです」

勇者「……サキュバス」ブワッ

あまりに不憫なサキュバスを思い、涙があふれてくる勇者だった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/21(日) 17:03:17.15 ID:XIV3AwvDO<> 幼女「ここが中庭です」

勇者「辺り一面、イバラに覆われているな、密林みたいだ」

幼女「はい、このイバラはただのイバラではなく、魔術を軽減する結界としても作用しているんです」

勇者「へえ、……ん? あのイバラに囲まれた中央の花は?」

ちょっとした小屋くらいはある巨大な花を、勇者が指差す。

幼女「彼女がこの結界の主です。それと中庭を始め、魔王城を監視する重要な役目を与えております」

勇者「監視?」

幼女「はい、魔王城各地に植えてある花々が侵入者を見つけると、彼女に報告するんです」

勇者「花が……すごい力だな」

幼女「彼女が仕事熱心なら良かったんですが、ほぼ一日中寝ているから花の報告をスルーしちゃって無意味ですけど……」

そう言って幼女は頬をふくらませる。

勇者「ははは、でも植物にも性別ってあるんだな」

幼女「あっ、あの姿じゃ分かりにくいですね。ちょうどいい機会ですし、叩き起こして来ます」

幼女はそう言って、イバラの結界に足を踏み入れた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/22(月) 00:00:49.21 ID:j4pK/QADO<> 幼女「アルラウネさーん! 起きてくださーい!」

幼女が巨大な花をつかみ、体全体で揺さ振りながら声を上げる。
すると、花の中から間延びした声が返ってきた。

?「あと5分〜」

幼女「ダメです」

?「じゃあ、あと10分〜」

幼女「増えてます! 花びらを破りますよ!」

?「い〜や〜、魔王女様は本当に破くからキライ〜」
間延びした声の後に、ゆっくりと花びらが開いていく。

そして現れる女性。
緑色のドレスに身を包み、釣り鐘のようにスカートを膨らませていた。

?「あら? あらあらあら〜? ……魔王様〜?」

女性は目尻の下がった瞳を眠たげに開き、勇者をじっくりと見回す。
その様子を見た幼女が女性に声をかけた。

幼女「魔王様は復活なされたのですが、記憶を一時的に喪失しているのです。どうぞ名乗りを」

?「どうりで〜様子がおかしいと〜」

?「こほんっ! わたしはアルラウネと申します〜以降お見知りおきくださ〜い」

勇者「お、おう」

アルラ「それでは、おやすみなさ〜い」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/22(月) 00:22:15.98 ID:j4pK/QADO<> 幼女「寝ちゃダメです! 破きますよ!」

アルラ「ダメなの〜、お日さまが出てるうちにポカポカしないと〜、お姉さん枯れちゃう〜」

アルラウネはイヤイヤと首を振るが、幼女には聞かない。

幼女「ウソつかない! 魔王城を囲むようにびっしりと根を張って、あまつさえこんなに実を紡いでいるじゃないですか! 枯れる要素ゼロです!」

幼女たちの頭上には、ピンクのまだら模様が毒々しい、人の頭骨大の果実がたわわに実っていた。

アルラ「ばれた〜? 1つ食べる〜?」

幼女「いりません!」

見た目、十代後半のアルラウネをしかる幼女という不思議な図だが、その内実、しっかりとアルラウネが幼女を手玉に取っていた。

アルラ「おやすみなさ〜い」

幼女「う、うぅ……!」

勇者「……」

幼女「もういいです! お父様行きましょう!」

勇者「あ、ああ」

アルラウネ「行ってらっしゃ〜い」

幼女「うるさーいっ!」

幼女は怒鳴り声を捨て台詞に、勇者の手を引いてその場を離れた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/22(月) 00:44:23.81 ID:j4pK/QADO<> 〜廊下〜

幼女「ぷんっ!」

勇者「……さっきの人は」


幼女「彼女は植物を支配下に置く魔族で、自身も植物の一種です」

幼女「この城で一番の古株ですが、ぐーたらで悪知恵ばかり働くダメ野郎です!」

勇者「そ、そうか、ところで今はどこに向かっているんだ?」

幼女「残るは北の尖塔と、書物庫ですが……まだ太陽が昇っているから北の尖塔が先ですね」

勇者「?」

幼女「北の尖塔には剣聖様と剣精様が客人としていらっしゃいます」

勇者「客人?」

幼女「はい、ですがお父様が招いたのですよ?」

勇者「すまん」

幼女「責めているわけではありません、じっくりと思い出して行きましょう」

幼女「おや、見えてきました。あの階段を登るのです」

勇者「……何百段あるんだ、あの階段?」

幼女「ざっと二百段くらいですね」

勇者「…………」

幼女「ふぁいと!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/22(月) 06:22:38.14 ID:j4pK/QADO<> 〜北の尖塔・最上階〜

勇者「はぁ……はぁ……」

幼女「とーちゃーくっ!」

勇者「鎧が……重たすぎ……」

幼女「お父様! がっつ! 根性!」

勇者「お、おーっ」

?「……やかましい」

勇者「うん? 誰だ、……って予想はつくが」

幼女「はい、こちらの方が剣精の九十九神さまで、向こうのおじいさんがその主となる剣聖様です」

ジジイ「あ〜? う〜」

勇者「……ボケてるだろ、アレ」ヒソヒソ

幼女「……はい」ヒソヒソ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/22(月) 06:31:23.26 ID:j4pK/QADO<> 幼女「しかし、彼女は主従の絆を忘れずに剣聖様に尽くしているんです」

勇者「それは偉いな」

ジジイ「ご、ご飯は……」

九十九「もう食べましたが?」

ジジイ「そうかぁ……」

ジジイ「ご飯は……まだかのう?」

九十九「自分のクソでも食ってろ」

勇者「主従の絆?」

幼女「介護が長いですから……心もやさぐれているんですよ」

勇者「ああ、なるほど確かに。良く見れば黒髪のポニーテールも、所々白髪が混じってる」

幼女「心労の表れです、温かい目で見守りましょう」

九十九「斬られたいか? きさまら?」

勇者「め、滅相も無い!」

幼女「次! 次に行きましょう!」

勇者と幼女の2人はそそくさとその場を退散した。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/22(月) 20:47:58.97 ID:j4pK/QADO<> 〜尖塔の階段〜

勇者「ふう……ふう……」

幼女「御足元にお気をつけください」

勇者「分かってるけど……この鎧、下を見ようとしたら前のめりで倒れそうで……」

そう言った瞬間、お約束どおりに勇者が階段につまずいた。

勇者「ぬわ〜〜〜〜っ!!」

幼女「お父様ーっ!?」

勇者はゴロゴロと階段を転がり落ちていく。

勇者「ぐえっ!」

そして、勇者は1階の柱に当たってやっとその勢いを止めた。

幼女「だ、大丈夫ですか、お父様!?」

勇者「う、ああ……大丈夫、だ」

幼女「む、無理はなさらないで結構ですよ?」

勇者「い、いや、本当に大丈夫だ。体が少し痛むが、鎧のおかげで特に問題はない」

幼女「そ、そうですか……よかった〜」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/22(月) 21:06:15.05 ID:j4pK/QADO<> 勇者「…………」

勇者(記憶が、戻った)

階段から転げ落ちた衝撃で、勇者の記憶が奇跡的に戻っていた。

勇者(やべぇ……オレ、勇者だわ、どうしよう)

?(むう、記憶が戻りおったか)

勇者「……誰だっ!?」

幼女「……? どうかしましたか?」

勇者「い、今さっき変な声が聞こえなかったか?」

幼女「いえ、特に何も聞こえませんでしたが……」

勇者「気のせい、か」

?「そうでもないぞ」

勇者「っ!?」

?「まあ、落ち着け。ワシの声は貴様にしか届いておらん。会話するなら小声がいいだろう」

勇者「お、お前は誰なんだ?」

?「わからないか? この鎧の真の持ち主だ」

勇者「ま、まさか!」

魔王「ようこそ勇者よ、我が城へ。体が無いから、もてなす事はできんがな」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/22(月) 21:23:29.04 ID:j4pK/QADO<> 魔王「貴様がこの鎧を着てくれたおかげで、そして一時的とはいえ記憶喪失になってくれた事も幸運だった」

魔王「残留し、形を成さぬ我が思念は貴様という器を得て復活した」

勇者「つまり、お前はオレの中にいるって事か?」

魔王「理解が早くて助かる」

魔王「記憶喪失のままならば容易く精神を乗っ取れたはずだが、まあ、それは高望みしすぎだな」

勇者「お前、オレの体を乗っ取るつもりか!」

魔王「安心しろ、肉体の主導権は貴様にある。ワシは手出し出来んよ、……今はまだ、な」

勇者「最悪だ……」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/22(月) 21:39:18.07 ID:j4pK/QADO<> 幼女「……」

幼女(お父様の様子がおかしい)

幼女「やっぱり、階段を転げ落ちた時に頭を打って……」

ブツブツと独り言を続ける勇者から少し離れ、幼女は顔をくもらせる。

幼女「ここは早めに病室へと連れて行くのが吉でしょうか?」

幼女が首を傾げて考えているとその背後から、鎧を着た兵士姿の魔物が近づいてきた。

魔物「ギョイギョイ」

幼女「あら、どうしたの?」

魔物「ギョイギョギョーイ」

幼女「ふむふむ、それで?」

魔物「ギョギョーイ、ギョイイギョイ」

幼女「……なんですって!!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<>sage<>2011/08/22(月) 21:46:27.98 ID:x9MAJxmvo<> さかなクンさん「ギョギョー!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/23(火) 02:01:00.88 ID:yqCZPqsDO<> 勇者「どうした? いきなり大声を出して」

幼女「す、すいません! 少し用事が出来ましたのでここで待っていてください!」

幼女は勇者にそう言い残すと、兵士姿の魔物を従えて正面玄関のある方向へと走って行った。

勇者「お、おい。おーいっ」

魔王「行ってしまったな」

勇者「まったく、何があったかくらいは説明しろっての」

魔王「追うのか?」

勇者「少し気になるからな」

魔王「……ふむ」

魔王はしばらく考えるような間を置いた後、ぽつりとつぶやいた。

魔王「娘はやらんぞ」

勇者「ぶっ!?」

魔王「どうした? ほれ、愛する我が娘を早く追わぬか」

勇者「げほ、げほっ、……おちょくるんじゃねえよ! このバカ!」

咳き込み、突っ込み、よろめきながら、勇者は幼女の後を追って走りだした。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/23(火) 10:48:35.33 ID:yqCZPqsDO<> 〜正面玄関前〜

男「……ふぅ」

石像「オオォォッッ!」

ゴーレムがまるで地鳴りのような雄叫びを上げ続けている。
その原因は招かれざる客人、ゴーレムの前に立つ男であった。

男は上品に整ったスーツ姿で、さながら夜会に出席するような出で立ちである。
しかし、その瞳は鋭く細められ、周囲を静かに見回す素振りには隙が無い。
男がただの温室育ちの坊っちゃんでないことは明白だった。

男「そう邪険にするなよ」

石像「オオォォッッ!」

男「……飼い犬は飼い主に似る、か」

幼女「おや? その子は犬ではなく竜ですが?」

正門玄関の大扉が開き、唐突に幼女が現れた。

幼女「まったく、精神の臓腑だけではなく、目玉まで腐り落ちてしまったのですか? クソ野郎」

男「レディはそのような下品な言葉使いをするものではないぞ」

男は軽く首を振ると、目を細めて幼女を見据えた。

男「そうだろう? 妹よ」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/23(火) 11:28:07.90 ID:yqCZPqsDO<> 幼女「馴れ馴れしく私を妹と呼ぶな! 卑怯者めが!」

男「卑怯者?」

幼女「お父様の遺産を食い散らかし、そのうえ戦況が不利になると素早く金目の物を持って逃げおおせた輩を卑怯者以外に何と呼ぶ!」

男「前線で剣を振るだけが戦いじゃない、それに今の時代は金が無いと満足に指揮も取れないだろ?」

幼女「その考え方がすでに間違っている! 前線に立ち、兵を率いてこその指揮官ではないか!」

幼女「金で帳尻を合わせ、後ろでコソコソ逃げ回る者たちに指揮官の資格は無い!」

男「……そして思わぬ一手を食らい、いきなり王手、か」

幼女「……何が言いたい?」

幼女の声が震える。
その眼光は今にも射殺さんばかりの鋭さだったが、男は気圧される事無く静かに続けた。

男「父上の二の舞は御免だと言っているんだ」

瞬間、幼女の怒りが我慢の限界を超えた。

幼女「貴様ッ!!」

怒りの咆哮と共に、魔翌力が暴風となって玄関前の庭を吹き荒れる。

男「おいおい、私は戦いに来たんじゃない、話し合いをしに来たんだ」

幼女「黙れ! 今すぐ失せろ!」

男「やれやれ、少し頭を冷やしてみるか?」

幼女だけではなく、男からも殺意が上がり始める。

正面玄関は一触即発の危うい状況となってしまっていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/24(水) 07:05:44.50 ID:p011s5RDO<> 〜 玄関ロビー 〜

勇者「やばいな」

魔王「うむ」

勇者「しかし、あの男はいったい誰なんだ? 幼女と知り合いのようだが」

魔王「ああ、あいつは」

デュラ「ばあっ!!」

突然、後ろから勇者の前に生首が差し出された。

勇者・魔王「うおわっ!?」

デュラ「ぐぶべっ!」

とっさに放った勇者の右ストレートが生首に炸裂する。
ゴロゴロと床を転がる頭をデュラハンの体が追いかけ、やっと頭に追い付いたデュラハンは両手で頭を抱え上げながら勇者に不満をブーたれた。

デュラ「な、殴るのはひどいでござるよ〜!」

勇者「はぁ……はぁ……、驚かせんな! ガチで心臓に悪いんだよ、それ!」

デュラ「むふふ、生首驚かしはデュラハンの特技でござるよ」

勇者「いらねーゴミスキルだな、おい!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/24(水) 13:14:30.47 ID:p011s5RDO<> デュラ「まあ、冗談はさて置き」

コホン、と咳払い。

デュラ「魔王女様が危ないでござるな」

勇者「それはわかるんだが、状況の方が良くわからん。……分かるか? 魔王」

魔王「ワシが先ほどまで眠りに就いていた事を忘れていないか? まあ、ある程度は予測がつくが」

デュラ「……やれやれ、仕方ありません、拙者が説明しましょう」

勇者「ん? ああ、助かる」

勇者が意識を魔王からデュラハンに移すと、デュラハンは静かに語り始めた。

デュラ「あれは魔王様が討ち死になされてすぐの事でした」

デュラ「葬儀は滞りなく済み、魔王様の御子息のいずれかが魔王になる、……はずでした」

勇者「はずだった?」

デュラ「はい、ですが」

デュラハンは少し言い淀むが、すぐに再度、言葉をつむぎ始める。

デュラ「次期魔王の最有力候補であった御長兄様が暗殺されまして」

魔王「何だとっ!?」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/24(水) 13:37:45.41 ID:p011s5RDO<> 勇者(お、落ち着け魔王、お前の声は俺にしか聞こえないんだろう?)

魔王(む、むうぅ……)

デュラ「やはり、この話はまだ」

勇者「い、いや、続けてくれ」

デュラ「……わかりました」

デュラ「御子息様たちには後ろ盾として、各地の領主や大臣、将軍など力ある者たちがついております」

デュラ「つまり、御子息様という旗の下に民たちが集っているという事です」

勇者「ふむ、それが暗殺とどんな関わりが?」

デュラ「旗が無くなれば求心力と正当性を失い、旗の下に出来た派閥は崩れ落ちます」

デュラ「最大勢力の派閥が崩れた結果、陽の目を見る事が無かった弱小勢力にもチャンスが訪れたという事です」

魔王(バカな真似を!)

勇者「しかし、それで皆が納得するとは思えない」

デュラ「はい、その通りです」

勇者「なら、今現在の魔族の状況は……」

デュラ「一言で言い表わすなら……泥沼、であります。それも、財や民を果てしなく飲み込んでいく底無し沼の様相」

デュラハンは怒りを噛みしめるように、両手で持ち上げた顔を険しく歪めた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/24(水) 14:07:10.12 ID:p011s5RDO<> デュラ「最初は最有力候補の御長兄様が倒れた事で生まれた、御子息間の跡目争いでした」

デュラ「しかし、御長兄様に肩入れしていた有力魔族たちは置いてきぼり、立場を失う」

デュラ「そこで彼らは秘策を思いつきます」

勇者「それはいったい?」

デュラ「魔王様の別名『好色一代男』を利用したのです!」

勇者「はあ?」

デュラ「魔王様と言えば、気丈な女騎士、寡黙な魔法使い、シスター、果ては敵国の王女まで食べてしまうケダモノ……ゴホッ、ゴホッ、失礼」

デュラハンはわざとらしく咳き込んで、お茶をにごす。

デュラ「つ、つまり、行為があるなら結果もある……と」

デュラハンが顔を赤らめて顔を背けた。

勇者「他に子供がいた?」

デュラ「さ、さあ? ですが、『自称』魔王の子供たちが表舞台に上がる契機が生まれてしまったのは確かです」

デュラハンは少しずつ調子を取り戻してくる。

デュラ「これは、もしかしたら大きな権力を手に入れるチャンスかもしれない」

デュラ「元最大勢力もやってるんだから、いいんじゃね?」

デュラ「そんな『自称』魔王の子供を擁立する流れが魔界全土に広がり、今の魔界は群雄割拠。内乱状態なんです」

勇者「……」

魔王「……」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/24(水) 17:49:40.09 ID:p011s5RDO<> 勇者(なんつーか、そのー)

魔王(すまん)

デュラ「わかりましたか?」

勇者「ああ、わかったよ。……ところでお前、しゃべり方が変わってないか?」

気まずい雰囲気を払拭するように話を逸らす勇者。
するとデュラハンは、言われて初めて思い出したように口を押さえた。

デュラ「わ、忘れていたでござる!」

勇者「キャラ付けか?」

デュラ「あ、あうあう……剣聖様に憧れているのでござるよ」

勇者「あのジジイに?」

魔王(ジジイと舐めない方がいいぞ勇者よ、その気になれば一国の軍隊を壊滅させ得る程の腕前だ)

勇者(マジかよ、おい!?)

デュラ「と、とにかく! 魔王女様がピンチでござる」

勇者「あ、無理やり話を戻した、……という訳でもないな」

魔王(うむ、我が娘の危機だ) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/24(水) 18:22:31.78 ID:p011s5RDO<> 勇者「幼女と対峙している男はいったい誰だ?」

魔王(知らぬ、ワシの息子を自称する奴らだろう)

デュラ「あのいけすかない男は、れっきとした魔王様の息子でござる」

勇者(おい、好色一代男)

魔王(はて、野郎の事なぞ記憶にないな)

デュラ「さて、そろそろ助太刀のタイミングでござるかな?」

デュラハンが勇者から離れて、玄関の扉に歩み始める。

勇者「ならオレも」

デュラ「いえ、魔王様はここにいて欲しいでござる」

勇者「何でだ? 人手は多い方が」

デュラ「……魔王様は我々の希望でござる」

勇者「希望だって?」

デュラ「大局の見えぬそれがしには良く分からないでござるが、魔王女様が魔王様の鎧を見ながら日々つぶやいてござれば疑う余地は有り申さぬ」

デュラ「体調が万全で無い魔王様を、今すぐ表舞台に上げるのはマズいでござる」

魔王(確かに、内乱を続けたい連中からすればワシの存在は邪魔だな)

魔王(それに今のお前ならば、あっさりと暗殺されて終わりだ)

勇者(うるさいやいっ!) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/24(水) 18:54:39.77 ID:p011s5RDO<> デュラ「城内に閉じ込めるようで悪いでござるが」

勇者「いや、かまわないさ」

デュラ「……」

デュラ「……その、勘違いはしないで欲しいでござる」

勇者「?」

デュラ「魔王女様は打算で魔王様の帰りを待ち続け、私欲で魔王様を隠すわけではないのです」

デュラ「ただ、もう一度お会いしたい、お話をしたい、親の帰りを待つ子供の純粋な気持ちに嘘や打算が入り込む余地は無いのです」

デュラ「ですが、今はそんな気持ちを押し殺し、魔界全土の事を考えて自分の務めを果たそうとしている」

デュラ「ですから、その……」

勇者「分かった、幼女が帰って来たら思いっきり甘やかしてやる!」

デュラ「……! あ、ありがとうございます!」

勇者「行ってこい! 武運を祈る!」

デュラ「そちらこそ無事で!」

デュラハンが笑みを浮かべながら扉に手を掛け、押し開く。

勇者「任せろ! 逃げるのと隠れるのは大得意だ!」

デュラハンに勇者が笑い返す。

そして勇者とデュラハン、お互いに背中を向けると、お互いに課された義務を遂行せんと走りだした。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/25(木) 03:20:52.64 ID:i6XEF3YDO<> 〜 正面玄関前 〜

殺気と殺気がぶつかり合う危うい均衡を破ったのは、デュラハンの名乗り上げだった。

デュラ「我が主の危機に不肖このデュラハン! いざ馳せ参じ申した!」

男「なにッ!?」

幼女「デュラハン!」

デュラハンは素早く正門前の庭を駆け抜けると、幼女を守るように男の前に立ちふさがった。

デュラ「我が至高の剣閃を恐れぬのなら掛かって来い!」

そして抜き放たれる紅い刀身。

男「デュラハンなんぞと、まともにやり合うバカがいるか!」

男は後ろに飛び退きながら答える。

デュラハンは無念を抱えた騎士が死後、その無念の深さゆえに蘇った存在。
しかし、騎士という看板を掲げただけの者にはデュラハンとなる資格は与えられない。
日々欠かさない鍛練や、己を律する心構えで魂を打ち鍛え続けなければ、復活しても意思の無いゾンビになるだけである。

だがその分、思いの強さが実力になるアンデットの中で、デュラハンは飛び抜けた戦闘能力を持っていた。

男「ち、ちょっと待て! 私は話し合いに来たんだ!」

デュラ「問答無用!」

男「妹よ! こいつを止めてくれ!」

幼女「殺っちゃえ! 殺っちゃえ!」

男「お、おまえらッ!?」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/27(土) 02:16:39.89 ID:NMebjF2DO<> デュラ「逃げるな!」

男「なら追うな!」

幼女「ぼこれ! 凹れ!」

男「く、くそっ! そっちがその気なら、こっちだって!」

男が指をくわえて口笛を鳴らした。

デュラ「む?」

幼女「……! 上! 上よデュラハン!」

幼女の声にデュラハンが顔を上げると、巨大な鳥が城のはるか上空を旋回していた。

デュラ「大鳥……ガルーラ?」

男「その通り! だが、それだけではない!」

男の言葉が終わる前に、上空のガルーラからいくつもの人影が飛び降りる。

デュラ「いけない! 魔王女様!」

幼女「きゃっ!?」

デュラハンが幼女を抱えて背後に跳躍。
それとほぼ同時に上空から落ちてきた人影が、デュラハンたちのいる正面玄関前の庭へと降り注いだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/27(土) 02:36:43.63 ID:NMebjF2DO<> デュラ「大丈夫でござるか? 魔王女様」

幼女「近い! 生首が近い!!」

デュラ「おっと、これは失礼でござる」

幼女を下ろし、デュラハンが玄関前の庭へと首を目を向ける。
もうもうと上がる土煙が庭一面を覆っていた。

デュラ「投石? 人影に見えたでござるが」

幼女「あの高さよ? ゴーレムでも粉々だわ」

しかし、2人の前に広がる土煙の中で何かがうごめいた。

デュラ「……人!?」

幼女「そんな!」

土煙の向こうに見える人影に、つい2人の声が漏れる。
やがて、2人の見ている前で土煙が完全に立ち消える頃。
そこにはメタリックなボディを輝かせる屈強な男たちが立っていた。

全裸で。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/27(土) 03:05:53.14 ID:NMebjF2DO<> 幼女「い、いやあァァッッ!!」

幼女「何なの! この変態たち! 妙にテカテカしてるし!」

男「ふははははッ!! どうだ妹よ! メタルゴーレムの素晴らしさは!」

幼女「メタルゴーレム?」

男「そうだ! 土や岩では無く、鋼で創られたゴーレムたちだ!」

テカテカと光る筋肉質のメタルゴーレムたちが、男の言葉に合わせてマッスルポーズを決める。

男「あの高さから落ちても傷1つ付かない! 素晴らしいぞ鋼のパワー!」

幼女「で、でも変態軍団にしか見えない……」

男「……」

幼女「あっ! 目をそらした!」

男「実用性を重視したらこうなったんだよ! 私だってイヤだよ! こんな暑苦しい奴たち!!」

幼女「……」

男「そんな目で見るな! 地元のカード大会にガチデッキ参戦するいい年した大人を見るような憐れんだ目で!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/27(土) 06:59:27.34 ID:NMebjF2DO<> 幼女「ふん、まあいいわ!」

幼女「全裸の変態たちなんか、すぐに鉄クズに変えてあげる! デュラハン!」

デュラ「…………」

幼女「……デュラハン?」

デュラ「うわぁ……うわ、男の人のって……うわぁ……」

幼女「デュラハン!?」

デュラ「はっ!? な、何でございますでありますか魔王女様!?」

幼女「……あなたって人は」

デュラ「ち、違うであります! その憐れむ視線を止めてくだされ!」

幼女「…………」

デュラ「魔王女様〜〜っ!」

男「おーい、もう襲い掛かっていいか?」

デュラ「はっ! そうでござった!」

デュラハンが深紅の刀身をメタルゴーレムたちに向ける。

デュラ「こやつらを倒して汚名返上! 魔王女様の好感度アップ! なんというグッドアイデア!」

男「そう上手くいくかね?」

デュラ「黙れい! 昼日中から婦女子にハレンチなブツを見せおってからに!」

デュラハンが剣を正眼に構えた。

デュラ「この魂を深紅の剣閃に乗せて……デュラハン! いざ参る!」

デュラハンが深紅の刀剣を片手に大地を蹴り、さながら砲弾のような勢いでメタルゴーレムたちへと突っ込んだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/28(日) 03:48:53.26 ID:LoKxzSDDO<> デュラ(数は……6!)

瞬時に確認したデュラハンは、まず正面の1人に剣を打ち下ろす。
腕に返ってくる確かな手応えを感じながらも結果は見ず、視線は次の目標へ。

左右に並んだ2人に剣を横薙ぎに払い、勢いそのまま一回転。
その回転が乗った重い一撃を違う2人に加えると、流れる動きで最後の1人の胴を斬り抜け、デュラハンはメタルゴーレムたちと一気に間合いを離した。

幼女・男「おぉ……」

まったく無駄の無い一連の動きは美しく、紅い尾を引く幻想的な剣閃も相まって、幼女と男は思わず口から声を漏らしてしまう。

デュラ「ふっ……やれば出来る子なんでござるよ」

メタルゴーレムに血は無いが、デュラハンが血を払うように剣を一振りする。
いわゆる勝利の決めポーズ、のはずだったが……

デュラハンの動きに合わせて、ポキーンッと、甲高いチープな音が辺りに響き渡った。

デュラ「おろっ?」

幼女「デュラハン! け、剣が!」

デュラ「剣?」

左手に抱えた首を、右手に向けるデュラハン。

デュラ「……無い」

紅い刀剣は根元から、見事にポッキリ折れていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/28(日) 06:20:52.71 ID:LoKxzSDDO<> デュラ「あ、あっれ〜? おかしいな〜? どこかに剣を落としたでござるか〜?」

幼女「……折れたのよ」

デュラ「あっはっは〜! まったく、拙者ってばドジでござる〜」

幼女「現実を認めなさい!」

デュラ「う……うぅ……」

幼女「?」

デュラ「う゛えぇぇ〜ん! 拙者の宝剣が〜! ご先祖様からの大事な家宝が〜!」

幼女「ちょっ!? なに泣き崩れてるの!?」

デュラ「だって〜! だってぇ〜!!」

幼女「……よく聞きなさいデュラハン!」

デュラ「ふえ?」

幼女「あなたの剣は確かに折れたわ! でも、あなたの心はまだ折れていない!」

男「いや、折れてるだろ」

幼女「心の力を剣に変えて立ち上がるのよ! デュラハン!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/28(日) 08:56:20.72 ID:LoKxzSDDO<> デュラ「心の力……魂の剣……」

幼女「そうよ! 立ち上がるのよ! デュラハン!」

デュラ「う、うおおっ!」

男「あ、立った」

デュラ「この拳に魂を込めて! 成敗!」

メタルゴーレムに華麗な右ストレートを放つデュラハン。
右手が折れた。

デュラ「みぎゃーっ!!」

幼女「やっぱり無理ね」

男「鬼だな妹よ」

そして、男が咳払いをする。

男「こほん、それではそろそろ……」

男が指を鳴らすと、メタルゴーレムたちが静かに動き出した。

男「その間抜けなデュラハンをぼこれ!」

デュラ「は、はい?」

メタル「ヌウウゥゥン!」×6

デュラ「ぬわーっ!?」

玄関前の庭にデュラハンの叫びが響き渡った。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/29(月) 04:01:29.17 ID:eEx4grlDO<> 〜 デュラハンがボコられる少し前 〜

勇者「ただ逃げるだけじゃダメだ、味方に知らせないと」

廊下を走りながら勇者がつぶやく。

勇者「ここからなら確か地下施設が一番近いはず……行きたくないけど」

怨念を込めて泣くサキュバスの様子を思い出し、気力が萎えていく勇者。
しかし、幼女の危機に好き嫌いを言っている場合ではない。

勇者「とにかく、1人でも多くの仲間を助けに向かわせて、……お、地下への階段が見えてきたぞ」

階段を視界に捉えた勇者が足に力を込めて一気に加速する。
そして勇者が階段の前にたどり着く直前。
隣の道からいきなり飛び出してきた黒い塊に勇者がはねられた。

勇者「ほげえっ!?」

?「む?」

勇者「な、何だよいったい……」

?「それはこちらのセリフじゃ、いきなり飛び出してきおってからに」

声のする方へ勇者が顔を向けると、1人の小柄な少女……というよりも園児並みのロリが、巨大なコウモリの上に腕を組んで立っていた。

勇者「キミはいったい?」

?「自分から名乗れ、と言いたい所じゃが、ワシはそこまでバカではないぞ」

少女はコホン、と咳払いをして続けた。

?「ワシはヴァンパイアじゃ、この城の書物庫を任されておる……それと、そんなに急いで何をお探しかの魔王様?」

ロリなババアのヴァンパイアは勇者を見ながら、にんまりとイタズラ心に溢れる笑みを浮かべた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/09/02(金) 14:55:12.01 ID:lo9hcaC5o<> ワクテカ
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/24(土) 01:20:19.60 ID:KwHj+78DO<> 〜 時は少し進んで正面玄関 〜

デュラハン「あべしっ……」ベシャッ

タコ殴りにしたデュラハンを、メタルゴーレムたちがポイッとほうり捨てた。

男「さて、と」

幼女「……う」

男「どうする? 手駒はもうないだろ?」

たじろぐ幼女。
しかし、有利な状況にある男は疲れたように顔を歪めた。

男「時代は変わったんだ、意地を張っても何にもならない。正統な血筋のお前が、激戦区の地上に追いやられたのが良い例だ」

幼女「…………」

男「まあ、悪いようにはしない。大人しく軍門に下れば……」

幼女「断る!」

幼女は腕を組み、その場にどっかりと腰を下ろした。

男「……仕方ない」

その様子を見た男はため息まじりに顔を上げ、号令を飛ばした。

男「ゴーレムたち! この聞き分けがないバカをいたぶってやれ! ……死なない程度にな」

メタル「うおおぉぉ!」

メタルゴーレムたちが雄叫びで男に答え、幼女へ向かって歩きだした。

幼女「くっ!」

迫り来る鋼の軍団を前に、幼女は目を閉じる。

幼女「……お父様」

まぶたの裏に浮かぶ姿を前に、幼女は小さくつぶやく。
城の仲間は少しクセのある連中だが、この上なく信頼出来る仲間たちである。
幼女が時間を稼げば、何とか父をかくまった上で反撃の手段を用意してくれるだろう。
……幼女が時間を稼げば。

メタル「うおおぉぉ!!」

そうこうしているうちに、メタルゴーレムたちは幼女との距離を詰めていた。
攻撃の間合いに入ったメタルゴーレムたちは、その筋肉質な造形に見合った太い腕を振り上げ、

幼女「……くっ!」

襲いかかってくるであろう衝撃を覚悟し、幼女はただ耐えるように目を力一杯に閉じた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/24(土) 02:23:16.71 ID:KwHj+78DO<> だが、メタルゴーレムたちの腕は振り下ろされることなく、またその力を奮うことも無かった。

メタル「ぐ、おおぉぉ!?」

雄叫びとも違う、メタルゴーレムたちの悲痛な絶叫が耳に届き、幼女は何事かと閉じていた目を開いた。

幼女「……これはっ?」

溶けていた。
メタルゴーレムたちの体からはジュウジュウという音と共に白煙が上がり、汗をかくように体が流れ落ちていく。
そして、その元凶。
メタルゴーレムたちの頑強な肉体を襲っている者の姿を見て、幼女は理解した。
メタルゴーレムたちにまとわりついているのは粘性の液体で、意思を持つその流動体の名はスライムである。
強酸の体を持つスライムは敵に触れるだけで致命傷を与えられる。
だが、スライムは魔界の限られた地区にしか存在せず、もっぱら人工的に創り出されたものが大半だった。
そして、スライムを創り出すような知識と技術を持つ者はこの城に1人しかいない。
幼女は思わず、頭の中に浮かんだその名を叫んでいた。

幼女「……っ! ヴァン!!」

ヴァン「うくくっ、遅れてスマンの?」

空から笑い声が聞こえ、巨大な影が庭に落ちる。
遅れて、巨大なコウモリに乗ったロリが空からゆっくりと降りてきた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/24(土) 06:07:54.20 ID:KwHj+78DO<> 幼女「来てくれたのね!」

ヴァン「かわいい姫様のピンチじゃからな?」

幼女「そうね……でも……」

ヴァン「何じゃ?」

幼女はおもむろに空を指差した。
ヴァンパイアは静かに、その指の先へと視線を動かす。
そこには、少し傾いたお日様がさんさんと輝いていた。

幼女「……まだ太陽が照りつけてるんだけど」

ヴァン「あぎゃああぁぁッッ!? わすれておったあァァァッッ!!」

巨大なコウモリの上で金色の髪を振り乱し、小さなヴァンパイアは絶叫をほとばしらせた。

メタルたち「ぐがあぁっ!」

ヴァン「目がッ! 目がああァァッ!!」

幼女「……相変わらずで頼もしいわ」

幼女はため息をつく。
しかし、戦いは終わっていない。
幼女は首を回し、男へと顔を向けた。

男「…………」

嘆きの二重奏が前庭を支配するなかで、男は呆然と立ち尽くしていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/25(日) 06:33:41.35 ID:g1ff3jkDO<> 幼女「コホンッ……さて、と」

男「ハッ!?」

幼女の咳払いで男が我に返った。

男「わ、私のメタルゴーレムが……たかがスライムごときに敗れるなんて!」

そう言って男はヴァンパイアを睨みながら悔しそうに歯噛みする。
幼女も胸を撫で下ろしながらヴァンパイアに顔を向けた。
いまだ悲鳴を上げ続けるヴァンパイアの足下、コウモリの背中に、煙を上げる大筒が転がっている。
おそらく、これでスライムを発射したのだろう。
いったいどうやったのか、助太刀の瞬間は目を閉じていてわからないが、齢数百年を生き抜いたヴァンパイアである。
その小さな体躯には、幼女の知らない知識や知恵が詰まっていてもおかしくない。
幼女は1人うなずいて納得すると男へと振り返り、形勢逆転の意を込めて威圧的な態度で言い放った。

幼女「どうする? 逃げるなら今のうちだぞ?」

男「……くっ!」

男はいまいましそうに幼女を見て、次に溶けたメタルゴーレムを見て、そして幼女に顔を戻し、

男「ガルーラッ!!」

空に叫んだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/26(月) 06:34:32.61 ID:kk9nO+MDO<> 男の声に応えるかのように、上空を旋回していた大鳥が急降下。
そして、地面にぶつかる寸前、翼を広げてホバリングを始めた。

幼女「きゃっ!」

吹きすさぶ風に幼女は腕で顔を覆いながら、指の隙間から様子を伺い続けた。
間近に迫り、片方だけでも30メートルはある大翼を堂々と広げたガルーラは、上空を旋回していた時とは比べものにならない威圧感を持っている。
それが地上わずか数メートルで激しく翼を動かしているのである。
それによって巻き起こった激しい風圧と土煙が、城の前庭を蹂躙していた。

幼女(くっ! 今、手を出されたら!)

しかし、幼女の懸念は杞憂に終わった。
男は吹きすさぶ風の中で数メートルの跳躍を行い、ガルーラの背中へと飛び乗る。
そして、幼女へ向けて叫んだ。

男「今回は貸しにしておく! 次に会ったときを覚えていろ!」

幼女「ちょっ! ちょっと待ちなさい! あの溶けかけた全裸メタルたちを持ち帰って!!」

男「……さらばだ!」

幼女「スルーしたッ!?」
男がガルーラと共に空へと舞い上がった。
幼女の突っ込みもむなしく響き、あっという間に男とガルーラの姿が豆粒ほどの大きさになる。

幼女「…………」

幼女は男が戻ってくる様子が無いのを確認すると、前庭へと目を戻した。
植え込み、石畳、城壁。
一面砂ぼこりにおおわれ、また、台風でも来たかのように荒れ果てていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/26(月) 06:56:42.45 ID:kk9nO+MDO<> 幼女「デュラハン! ヴァン! 大丈夫!?」

幼女は、姿の見えない仲間の名前を叫ぶ。
両手を拡声器のように口に当てて幼女が叫んでいると、しばらくして返事が返って来た。

デュラ「だ、大丈夫じゃないでござる〜」

しかし、姿は見えないまま。

幼女「デュラハン!? どこにいるの!?」

幼女がジャンプして前庭の隅まで視線を走らせようとしていると、足下の土がうごめいた。

幼女「わっ! わわっ!?」

デュラ「ふ、踏まないで〜、魔王女様の足下に埋まっているでござるよ〜」

幼女「あ、あら? ごめんなさい」

幼女はその場から飛び退き、しゃがみこんで土をどけてみると、確かにデュラハンの頭が出てきた。

幼女「……体は?」

デュラ「この下で土をかぶっているだけでござるが、痛くて動けないでござる〜」

幼女「そう、よく頑張ってくれたわね、ありがとう」

幼女は軽くデュラハンの額に口づけし、健闘を讃える。
そして、首を動かしてもう一人の仲間を探し始めた。

幼女「かたっぽが土に埋もれていた、ということは……」

やがて、前庭の片隅の地面から、コウモリの翼が出ているのを幼女が発見した。

幼女「ヴァン! 大丈夫!?」

ヴァン「む、むぅ?」

幼女「待っていなさい、すぐに掘り返してあげるから!」

ヴァン「あ、ちょっと待つがよい、ちょうど日が当たらぬ状況じゃ、しばらくはこのままで良い」

幼女「え? ……いいの?」

ヴァン「うむ」

幼女(……確か、ゾンビって普段は土中で)

ヴァン「今、何か失礼な事を考え無かったかの?」

幼女「いいえ、まったく」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(富山県)<>sage<>2011/09/28(水) 12:16:42.04 ID:CqWQAItS0<> 落ちたか・・・
舞ってる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/28(水) 18:21:26.84 ID:YaeL1yPDO<> 幼女「……それと」

幼女は表情を一転、険しいものに変えて玄関口を見た。
ガルーラの突風で押し開かれた重厚な樫の扉の向こうには、嵐でも通過したかのような惨状が広がる玄関ロビーの姿。
そして、幼女は部屋の隅に飾ってある、妙にトゲトゲした鎧に向けて言った。

幼女「何をなさっているんです? お父様?」

勇者(……呼んでるぞ?)

魔王(待っていろと言われたのに、ノコノコと様子を見に来た貴様をな)

勇者(お前だって、内心ホッとしているくせに)

魔王(……むぅ)

頭の中で問答している勇者に無視されたと感じたのか、幼女がふてくされたように口を尖らせた。

幼女「無視ですか? ばれてますよ? わたし、怒りますよ?」

勇者「わ、わかった。ごめんごめん」

勇者が両手を開いて降参する。

幼女「……ふんっ、だ」

だが、幼女は拗ねたようにそっぽを向いた。

勇者「悪かった、悪かったよ。機嫌を直してくれ」

幼女「ふーんだっ」

目の前に回って来た勇者から再び体ごと目を逸らす幼女。
勇者も再び幼女の前に移動しては、幼女が再三そっぽを向く。
しかし、それは険悪なものではなく、どこか楽しげであった。

幼女(……ふふ)

勇者がいた部屋の隅。
おそらくは幼女の危機にいつでも飛び出せるよう、勇者が用意した大剣が転がっていたから。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/28(水) 18:54:58.52 ID:YaeL1yPDO<> 男「……ふぅ」

ガルーラの背中の上で、男がため息をついた。
高速飛行中のガルーラの背中で風を感じながら、男は手綱を握りしめる。

男「あいつも、もう少し聞き分けがよければな」

ひとつの事をかたくなに貫く、その強い意志は男も認める所だった。
だが、世情の見えていない妹がこのままだと手痛い目に遭うのは火を見るより明らかだった。

男「ま、仕方ないことか」

父の遺産を掻き集めて逃げたのは事実。
情勢の変化はかつて無いほどに激動し、対応できる万全の備えとして財力を蓄えておく必要があった。
だが、第三者の目には男の姿がよほど醜悪に映るだろう。

実際、備えを用意しておきながら、内乱を止める事が出来なかったのだから。

男「……最近、悪い事ばかりが頭に浮かぶな」

気が滅入ってきた男は、気分を晴らすように周囲へと目を向けた。
高い山々が創る連峰を地平線代わりに、青く澄んだ空が周囲に広がっている。

人間界の高山地帯という不便な地にある魔王城も、こうして見れば悪くもない。
そんな風に男が考えたときだった。

男「……?」

男の目が、地上で動く何かを捉えた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/28(水) 19:31:47.55 ID:YaeL1yPDO<> 男「……商隊? 魔王城に向かっているのか」

商人に境界は無い。
金と良識があるなら、魔族にも物を売る。
おそらくは妹を相手にしている商人たちだと考えて、男は眼下に目を凝らした。
規模はホロ立ての大馬車が5輌、人は御者台に見えているだけでも10以上はいる。

男「……大変だな、妹も」

前線に飛ばされ、物資不足に悩む妹の姿。
それを想像して眉根を寄せる男だったが、不意にその眉間のシワが深くなった。

男「……」

男の眼下では、ガルーラの巨体に気付いた御者たちが空を見ながら慌てて馬車の中へと何事かを叫んでいる。
その危機感溢れる姿に、男は違和感を覚えた。
平時でガルーラに遭遇したのなら、その対応で間違いない。
しかし、まがりなりにもココは魔王城のお膝元となる場所で、幼女のための商隊ならば魔族も襲う事はない。
それは商隊もわかっているはずだった。
だというのに、商隊は警戒を解かず、馬車のホロの隙間から人々がぞろぞろと顔を出してくる。

男「ガルーラが珍しいのか? いや、地上からは豆粒くらいにしか見えないはずだ。……ということは」

相手もガルーラの脅威を知っている事になる。

男「ふむ、しばらく様子を見るか」

男がガルーラの手綱を握りしめ、商隊の遥か頭上を旋回するようにガルーラへと命令した。
ガルーラは甲高い鳴き声を1つ上げ、男に答えるとその場を旋回し始める。

男「さて、どうでる?」

ガルーラに攻撃の意思がないとなれば、商隊ならば多少は警戒を解くはず。
だがもし、商隊を偽装した『違う何か』であれば…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/28(水) 20:24:49.20 ID:YaeL1yPDO<> 瞬間、地上で閃光が瞬いた。

男「っ!? 避けろッ!!」

男が反射的に手綱をさばく。
高度を速度に変えるようにキリモミ回転しながら落下するガルーラの頭上。
先ほどまで男たちがいた場所を、まばゆく輝く光の槍が走り抜けた。

男「これは……神聖魔法!?」

男が驚きの声を上げて地上へ目を戻す。
光の槍を放った相手はただの服を着た商人だったが、それが逆に異様だった。
高位神官でやっと使えるかという呪文を一介の商人が使えるはずもなく、敵意を見せないガルーラへ商人が魔王城の領内で攻撃を加えるわけもない。

男「奴らは……魔王討伐の部隊か!」

男が言っている間にも次々と馬車から人間が飛び出し、呪文の詠唱を始める。

男「偵察兵を逃がす気はない、と? 私は関係ないのだかねッ!!」

あっという間に光で埋め尽くされた地上を見て、焦燥の色を深く顔に浮かべながら男がガルーラの手綱をさばき続ける。
強靱な肉体が鎧となるドラゴンならば神聖呪文の連発にも耐えられるかも知れないが、航続距離と速度が取り柄のガルーラに鎧はない。
一撃食らうだけで致命傷にもなりかねない状況で、狙ってくるのは地上を覆う数多の光。
それが一斉に天空めがけて放たれた。

男「ガルーラ! 稜線の影へ!」

ガルーラの巨体では避けきれないと判断し、ガルーラを小高い岩山の影へと移動させる。
しかし、後を追って岩山に殺到してきた光槍は紙細工のように岩肌をえぐり崩して行く。

男「やるな! だが甘い!」

岩山から飛び出ると同時に、ガルーラが力強く羽ばたいた。
崩れた岩肌の粉塵が辺りに吹き散らされる。
そして、羽ばたいた力を利用してガルーラは後方に移動。
偽装商隊に生まれた一瞬の隙をついて、ガルーラは山間の渓谷へと飛び込む。
そして曲がりくねった谷間を高速で移動し、流れる湧き水から昇る冷風を切り裂きながら飛び続ける。
やがて頃合いを見て谷から顔を上げると、そこに偽装商隊の姿は影も形も見え無くなっていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/30(金) 00:39:28.40 ID:iRKefnqDO<> 男「……ふう、なんとか撒いたようだな」

ガルーラの速力に追い付ける者はこの地上において、同じガルーラか召喚された精霊の類しかいない。
下位精霊の追撃が無いことを確認した男が胸を撫で下ろしていると、ガルーラが首を回して不安そうに男を見てきた。

男「ん? ……ああ、私は大丈夫だ」

目が合っただけでガルーラの言わんとしている事を理解し、軽くうなずいて無事を伝える。
そして、男は肌寒い風に1つ震えた後、青い空を見上げながら疲れたようにつぶやいた。

男「さて、どうしたものか……」

傾き始めた太陽を眺めながら男はそうやってしばらく思索にふけっていたが、やがて諦めたように頭を振った。

男「恩を売っておくのも悪くない……か」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/06(木) 02:09:03.94 ID:JCkohE2DO<> 〜 前庭 〜

幼女「さあ、さっさと後片付けよ!」

幼女が両手を頭の上で叩き、声を上げた。
その目の前には城の仲間一同が首を揃えている。

サキュ「了解」

アルラ「ふんふ〜んっ、と」

号令を受けて動きだした仲間たちをホウキ片手に見ながら、幼女は苛立たしげに頬をふくらませた。

幼女「まったく、お城の前庭がメチャクチャだわ」

勇者「しかし、大事にならなくて良かったよ、ホント」

幼女「……むーっ」

幼女の隣で勇者がホウキを両手ではわきながら口を開く。
心の底から安堵したような響きを持った勇者の声は、幼女を大事に思っている様子がありありとうかがえる。
幼女にとって、それは確かに嬉しい。
しかしだからといって、前庭を荒らしていった男への怒りが消える訳ではなかった。

幼女「……む〜っ、一発くらい殴っておけばよかったわ」

嬉しいやら腹立たしいやら、なんとも言えないむしゃくしゃした気持ちで幼女がふてくされる。
すると、前庭の片隅から賛同の声が上がった。

デュラ「まったく、その通りでござるよ!」

ちょこんと、土から顔を出した生首が大声で続ける。

デュラ「あの男のせいで宝剣が……、一発どころか、百発殴ってもお釣りがくるでござるよ!」

勇者「あ、ああ、それはわかるんだが、何でまだ埋まってるんだお前は?」

デュラ「土の中だと回復力が上がるでござるよ」

ヴァン「まっこと、ゾンビじゃな? くふふ」

デュラ「あんな亡者と一緒にされては困るでござる! なにより、ヴァン殿も頭まで土に埋まって、人の事をとやかく言えた義理じゃないでござろう!」

ヴァン「聞こえん聞こえん、土の中じゃからな〜」

ヴァン「むむむ……では、より大きな声で!」

幼女「ええい! うるさーいっ! 地面から引きずり出して、掃除の手伝いをさせるわよ!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/12(水) 03:14:12.87 ID:XElHeYoDO<> 勇者「……おや?」

最初に気付いたのは勇者。
続いて、みんなも異変に気付き始めた。

アルラ「あら? 大きな影」

幼女「……っ!? みんな避けて!!」

前庭に広がった影に、空を見上げた幼女が叫んだ。
すると同時、本日二度目の暴風が、前庭にいる面々に襲い掛かった。

勇者「お、おおぅ!?」

幼女「くっ! し、しょうこりもなく!」

身を屈め、風に目を細める幼女が、空から前庭へと降りてきた大鳥をにらみつける。

男「まてまて、戦うつもりは無い」

幼女「なら嫌がらせか!? たたくぞ!」

男「うん? ああ、掃除していたのか。ガルーラ! 羽ばたきを止めろ」

男の命令に応じて、ホバリングしていたガルーラが羽ばたきを止めて着陸。
ドシンッ、という重い響きと共にガルーラは大地へ降り立った。

デュラ・ヴァン「「ぐえぇっ!?」」

そして、ガルーラの足下。
地面に埋まっていた生首と吸血鬼が、揃って仲良く絶叫を上げた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/14(金) 01:21:24.60 ID:LoKFGyyDO<> 〜 前庭、その後 〜

デュラ「うう、ひどい目に遭ったでござる」

ヴァン「まったくじゃ」

男「許せ」

掘り起こされた2人を前に、男が言う。
すると、幼女がそわそわと落ち着かない様子で話に割り込んできた。

幼女「まあ、それはともかく……先程言ったことは」

男「すべて本当だ」

男が幼女の言葉の先を続けると、幼女は途端に厳しい顔になって「むう」とうなった。

二度目の来訪を行った男は、ちょうどよく掃除で前庭に集まった一同に対して、自分に襲い掛かってきた者たちの存在を話した。
戦いの興奮もすっかり冷めきった幼女たちは、男に敵意らしい敵意が無いのを見て取ると、デュラハンとヴァンパイアを掘り起こしながら男の言うことを話半分に聞いていた。
しかし、話がキナ臭くなるに連れて表情を硬くしていき、今現在の前庭にはなんとも重苦しい空気が漂っていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/14(金) 01:25:22.94 ID:LoKFGyyDO<> アルラ「えっと〜、戦争になるってこと〜?」

サキュ「そうですね、相手の目的は明らかです。戦いは避けられないでしょう。……その話が本当なら、ですが」

アルラウネに答えたサキュバスが鎧の下から鋭い視線を男に投げ掛ける。
だが、男はその反応も当然とばかりに、サキュバスの鋭い眼光にも動じることはない。

幼女「……そうね、まずは真偽を確かめるために見張りを出しましょう」

サキュ「はい、それでは地下施設に常備しているガーゴイル部隊を……」

幼女「いえ、ヴァンのコウモリを使いましょう。ヴァン、お願いしていいかしら?」

幼女がヴァンパイアに顔を向ける。
ヴァンパイアはひとつ頷き、コウモリを日傘代わりに太陽から体を隠しながら幼女に答えた。

ヴァン「お安い御用、と言いたいところじゃが」

ヴァン「相手に聖職者がいるならば、魔の眷属であるワシのコウモリが感知されるやもしれぬ、あまり近寄ることは出来ぬが」

幼女「構わないわ。人間ってのは切りの良い数で動くから、パッと見でおおよその戦力を特定出来るし」

ヴァン「ふむ、ならば今すぐにコウモリを飛ばしておこう」

幼女「ええ、お願い」

男「では、私はこれで」

幼女「おい、逃げるな」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(チベット自治区)<><>2011/12/01(木) 13:13:08.55 ID:TNVPbfHho<> 今ごろ一気に読んだが、ほとんどレスがついてないのが不思議なくらい面白いな
>>1はもう来ないんかなー・・・再開してくれる期待をこめて上げてく <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<><>2011/12/01(木) 16:39:55.87 ID:XicB44dDO<> 本当面白いわ!
完結させてくれ、まとめで読みたいわ!
完結させて、一つの話として残してくれ!ゴミになるのは勿体ないよ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<><>2011/12/01(木) 18:07:52.01 ID:3O7hlY2SO<> 俺も今読んだけど、まじで面白い!
>>1が見てるならぜひ完結させてほしい。このままではもったいないよ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/01/14(土) 23:30:25.10 ID:h9h9uQnDO<> すっかりスレの存在を忘れて、違うのを書いていた。
スマソ。

暇をみて、ぼちぼち書いていきます。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/01/15(日) 03:36:31.73 ID:q9+OMD60o<> よっしゃ待ったかいがあった <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/15(日) 08:22:19.73 ID:9j/y711DO<> 〜 時間を少し戻して、偽装商隊 〜

老将「勘付かれたな」

すっかり色が抜け落ちた頭髪を苛立たしく掻きむしりながら、鎧を着込んだ老人がつぶやく。
老人のいる場所は偽装した商隊、最後尾の馬車の中で、今は足を止めている。

副官「将軍、どういたしますか?」

精悍な顔つきの、だが少し神経質そうに眉を下げた青年が、老人──部隊の指揮官である将軍へと声をかける。
すると、老将はつまらなそうに鼻をならした。

老将「ふん、我々に選択肢は無い。前の奴らについていくだけだ」

老商は馬車のホロ布の先、商人の服に身を包んだ聖職者たちがいる方向へと目を向けた。

副官「そう、ですね」

副官は少し歯切れが悪そうに答えるが、それも仕方がない事だった。
魔族が一枚岩でなければ、人間も同様。
老将たちの乗る馬車の部隊は一人残らず重厚な鎧を着込んでおり、顔つきも険しく、前を行く聖職者たちの雰囲気とは一線を画している。
その理由は、老将たちの部隊は王国軍に属し、聖職者たちは教会勢力に属しているからで、属する勢力や指揮系統が違えば雰囲気も変わるもの。
そして、この作戦は教会勢力主導の作戦で、老将の言うとおりに選択肢なんて用意されていなかった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/15(日) 08:26:50.95 ID:9j/y711DO<> 老将「しかし、もっと上手く動けんのか、教会の奴らは?」

副官「魔法が使える連中ですが、もっぱら後方支援担当ですからね」

老将「ふん」

老将はつまらなそうに再び鼻をならし、立ち上がる。そして、ホロ布を軽く持ち上げて、商人の服を着た聖職者たちを見ながら副官に言った。

老将「商人の格好、奴らにぴったりの服装だな」

副官「……」

老将の侮蔑の言葉に、副官は諫めることもせず、ただ無言だった。
副官も、教会の連中を内心苛立たしく思っていた。
今回、老将たちが教会の連中と行動を共にする理由。建前上は共同作戦だが、内実はまったく違っていた。

副官「勝っても戦果は教会の物、負けたら我々が責任を被る」

老将たちは捨て駒だった。
作戦失敗の際、教会の権威に泥を塗らないための配慮。
教会勢力との政略で王国が差し出した、死んでも『問題ない』連中。
でなければ老将と副官、部下も合わせて十人足らずの部隊編成なんぞあり得ない。
副官は自分たちの役割を思い出し、顔に影を落とした。

副官「……ふう」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/01/15(日) 08:36:36.82 ID:9j/y711DO<> だが、副官がため息をついた瞬間、老将が振り向きざまに副官の肩を強く叩いた。

老将「勝てばいいんだよ、勝てばな。魔族を相手にするのなんて簡単なものさ、人間を相手にするよりは遥かに、な」

深いシワが刻まれた顔に、豪快な笑みを浮かべて老将が言った。
将器を持つ者の力、自信に溢れ、人を惹き付ける魅力。
その笑みは沈んだ副官のみならず、馬車の中にいた部隊連中まで自然と笑みを浮かべさせる会心の笑顔だった。

副官「そう、ですね! 確かに!」

老将「おう、元気になったな! その息だ!」

部下「将軍! 出発するみたいです!」

馬車の外から話しかけてきた部下の声に、老将はホロ布越しに聞き返した。

老将「進むか! 退くか!」

部下「はっ! 予定どおりに進撃! ただし、行軍速度を全速へ変更とのこと!」

老将「よし、聞いたなおまえら! 坊主どもを盾にしつつ、手柄を横取りだ!」

部下たち「イエッサー!!」

部下たちが答える。
そして、外にいた部下が御者台に座ると、馬車は静かに動き始めた。

魔王城はまだ遠く、その姿も見えていない。

老将「ところで、この作戦が終わったら、酒場の若い娘にプロポーズしようと思ってな、花束も買ってあるんだが……」

副官「やめておいた方がいいです、いろんな意味で」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/04(水) 19:16:48.04 ID:JAxARNrIO<> うーん、このスレが落ちるのは嫌だな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/04/05(木) 09:51:08.55 ID:bmEcfEOxo<>      ...| ̄ ̄ | < 続きはまだかね?
   /:::|  ___|       ∧∧    ∧∧
  /::::_|___|_    ( 。_。).  ( 。_。)
  ||:::::::( ・∀・)     /<▽>  /<▽>
  ||::/ <ヽ∞/>\   |::::::;;;;::/  |::::::;;;;::/
  ||::|   <ヽ/>.- |  |:と),__」   |:と),__」
_..||::|   o  o ...|_ξ|:::::::::|    .|::::::::|
\  \__(久)__/_\::::::|    |:::::::|
.||.i\        、__ノフ \|    |:::::::|
.||ヽ .i\ _ __ ____ __ _.\   |::::::|
.|| ゙ヽ i    ハ i ハ i ハ i ハ |  し'_つ
.||   ゙|i〜^~^〜^~^〜^~^〜 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/04/07(土) 21:26:23.18 ID:L8o6STjDO<> 〜 夜、魔王城、中庭 〜

幼女「どう?」

アルラ「う〜、まとまって正面道から向かって来てるみたい〜」

幼女「むう……」

中庭の中央。
赤い花弁を広げる巨大な花の中に身を収めたアルラウネが幼女に答えると、幼女はうなるようにつぶやきながら、長テーブルの上に広げた地図に視線を向けた。
テーブルの周りには魔王城の各員が揃っている。
中庭に伸び立つツタやイバラにはカンテラやランタンが掛けられ、そこから放たれる魔力光のほのかな黄暖色が、強張った皆の顔に陰影を作り出していた。

さながら簡易指令部と化した中庭だが、なぜに皆がこの中庭に集まっているのか。

それは、ヴァンパイアがコウモリを放って偵察を始めた後、もう一つだけ敵の偵察手段がある事に幼女が気付いたから……というよりも、本来の役回りならこっちから先に頼るべきだったのかもしれない。

もう一つの偵察手段、それは何を隠そうアルラウネの植物間における意思伝達能力だった。

サキュ「普段から機能していませんでしたから、見落としてしまいましたね」

とはサキュバスの弁、その気持ちは幼女にもわかる。
正直、普段からゴロゴロしているアルラウネに魔王城内はともかく、城外の広域サーチは無理なんじゃないかと幼女も思っており、物は試しと聞いてみただけだった。
だが、この十代後半に見えるのんびり屋のアルラウネは、幼女の斜め上を行く食わせ者であった。

ヴァン「まさか魔王城だけに飽き足らず、周辺一帯にまで根を伸ばしていたとはのう」

デュラ「いつか足元から取り込まれそうでござる……」

アルラ「えへへ〜」

アルラウネは魔王城から半径数キロの自然植物を『死滅』させて根を伸ばし、自分の息が掛かった魔導植物を眷属として代わりに『勝手に』植えていた。植えていやがった。
というわけで、今現在アルラウネは配下の魔導植物たちの協力の元、驚きの索敵能力を手に入れていたのであった。

幼女「ま、なんにせよ、今はナイスとだけ言っておくわ」

アルラ「えへへへへ〜、魔王女様は話がわかる〜」

幼女「うふふ」

アルラ「うふふ〜」

アルラウネの満足そうな顔を前に、幼女も軽く口元を吊り上げる。
ニコニコ顔の二人。

幼女(……あなたの根っこ、後で絶対に除草剤をぶち撒けてあげるわ)

そうひっそりと心に誓う幼女のこめかみは、ランタンの灯りが作る影に隠れてピクピクと小刻みに震えていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/04/07(土) 22:29:09.84 ID:L8o6STjDO<> サキュ「しかし、本当に敵の大部隊が接近中とは」

男「だから、私は最初からそう言っているだろ?」

男がやれやれと首を振る。
そのいけすかない態度に、ふんっと向かいのサキュバスは軽く息をはいて顔を逸らした。
そんなやりとりを幼女が横目で見ていると、ふとヴァンパイアが幼女の方に視線だけを動かして話しかけてきた。

ヴァン「ふう、これではワシの立つ瀬が無いのう」

ヴァンパイアは男を真似るように、やれやれと首を振る。
すかさず幼女は口を開いて言葉を紡いだ。

幼女「そんな事は無いわヴァン、コウモリの鋭敏な感覚は貴重よ」

ヴァン「うくく、慰めんでもよいよい。さて、戻って来た愛しき眷属たちからの報告をするかの」

ヴァンパイアはニヤリと、まったく気落ちしていない不敵な笑みを顔に浮かべ、コウモリたちの得た情報を話し始めた。

ヴァン「ホロ付きの大馬車が五輌、これは男の情報と一致する。そして、神聖な力の波動も感知した」

勇者「男の情報どおりで間違いない、という事か……」

ヴァン「うむ、敵は百近くおるな」

ヴァンパイアがそう締めくくると、場の空気が急に重くなってくる。
魔族にとって、神聖魔法を修得した敵ほど厄介な相手はいない。
その威力たるや、ガーゴイルなどの無生物は問答無用で灰塵に戻され、亡霊鎧などの不死者は下手をしたら一撃で昇天してしまう。
ここに揃っている連中ならばなんとか抵抗出来るだろうが、城を守る大半の下級妖魔たちは相手にもならないだろう。
それが百人近くもいるとなれば、空気が重くなるのも仕方ない。
中庭の各々が口を塞ぎ、暗い顔を思案に歪めていた。

……一人を除いて、

アルラ「え〜? 五輌〜?」

間延びしたアルラウネの声が、重苦しい沈黙を破った。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/04/09(月) 03:25:47.41 ID:OGdEohqDO<> 幼女「どうしたの、アルラ?」

アルラ「え〜と、こっちに向かってる馬車は四輌しかないみたいだけど〜」

幼女「……ヴァン」

幼女がヴァンパイアに顔を向ける。
すると、長テーブルの隅でホバリングする巨大コウモリに腰掛けながら、ヴァンパイアがはっきりとした声で断言した。

ヴァン「ワシが見たときは五輌じゃった、間違いない」

サキュ「一輌だけ来ていない。……つまり、別行動をとっている?」

デュラ「魔王城の周囲にいないとなると、退路か後詰めの確保でござるか」

幼女「後詰めならもっと近くに部隊を展開するわ。退路の確保かしら?」

次々と意見が飛び、長テーブルの上に置かれた地図を皆の視線がせわしなく行き来する。
岩場、山脈、そして平原。
しかし、納得のいく答えは出なかった。

ヴァン「まあ、こっちは迎え討つ以外に手段が無い、関係ないじゃろう」

幼女「……そうね。それじゃ、次は部隊配置についての話だけど……」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/09(月) 09:04:57.85 ID:ivIL9G0IO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/04/13(金) 07:31:43.11 ID:Qb3Dox2DO<> 幼女「まずは正面玄関のゴーレムを壊されないように中庭まで退避させる。
次に部隊は正門に展開し、そこを前として右と左の城壁防衛にも配置するわ」

サキュ「計三部隊ですか、それと戦況に対応するために遊撃を兼ねた補充要員も必要ですね」

幼女「それはこの中庭に集めるわ。
情報を収集するアルラがいるし、城の中央だからどこにでも駆け付けられる」

デュラ「しかし、籠城戦でござるか……」

ううむ、とデュラハンがうなる。

ヴァン「仕方なかろう。城の魔術防壁を盾に利用せねば、下級兵士たちは文字どおりに一掃されてしまう。
それに、ワシのかわいい眷属が今頃は必死に増援を呼びに行っておる。
のんびりと時間を稼げばよいのじゃ」

ヴァンパイアはささやかにふくらんだ胸を張り、簡単な事をするかのような余裕顔で話を終えた。

魔王城は前線にあり、周囲には歴戦の頼もしい将軍が指揮する要塞が居並ぶ。
なので、援軍到着まで時間を稼げばよいというヴァンパイアの言は正しい。
だが、その状況は敵も理解しているはず。
それでも敵が逃げずに魔王城へと向かって来ているのは、援軍到着までに落城させる自信の現れでもあった。
敵は全力で来る。
苦戦は必至。
それをわからぬヴァンパイアじゃないだろうが、その大胆不敵な余裕顔は演技とも思えず、幼女もつられてついつい頬をゆるませてしまう。

幼女「では、各隊の指揮官を決めましょう」

だがすぐに、幼女はゆるんだ顔を引き締めて話を戻した。
頼もしい仲間たちを誇りに思いながら、それを胸の中へと大事に留めるように。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/04/13(金) 08:07:29.05 ID:G8pvEeN8o<> 乙? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/04/14(土) 19:51:04.26 ID:x+oEoFkDO<> 幼女「……という形で皆には配置に着いてもらいます」

サキュ「ところで、裏手の配置はどうしましょうか?」

幼女「敵は正面から来ているわ。裏手は崖になっているし、時間的に今から回り込んでくる事は考えにくいわね」

サキュ「では、少しばかりの見張りを置いて、何かしらの問題が起きた場合は中庭から迎撃部隊を出すという事で?」

幼女「ええ、それでいいわ」

幼女がそう答えると、サキュバスは「わかりました」とだけ告げて口を閉じた。

幼女「……他に意見は?」

幼女が皆を見渡す。
だが、皆一様に口をつぐみ、もう口を開いて何かを尋ねる者もいない。
長テーブルに並んだ面々は言葉も無く、幼女を瞳に映している。
その顔には、すでに一片の翳り(かげり)も無く、清々しい笑みが浮かんでいた。

幼女「……それでは、説明を終わります」

そう言って、幼女は話を終える。
だが、この『作戦会議』それ自体はそれで終わりではなかった。
まだ一つ、やる事が残っている。
幼女は話の最後に皆へと軽く頷くと、ゆっくりと動き始めた。

幼女「よっ、と」

息をつき、小さく声を上げてジャンプ。
その瞬間、幼女の姿が長テーブルの下に消える。
だがそれは、身長の足りない幼女が木箱を踏み台にしていただけのこと。
短草の絨毯が広がる地面に問題なく着地した幼女は、ふわりと広がった長スカートの端を一度撫でると、長テーブルの前からトテトテと歩きだす。
向かう先は決まっていた。
十秒足らずの旅路の果てに行き着く先は、テーブルの隅の、トゲトゲした全身鎧。

幼女は勇者の前に立つと、胸の前に右手を置き、静かな動きで悠々と腰を曲げ、全身鎧を着た勇者へと可憐に会釈した。

幼女「それでは、号令をお願いします。魔王様」

さすがにここで「お父様」と呼ぶ愚はおかさない。

勇者「……え?」

だが、いきなり話を向けられた勇者の方は間抜けな顔で、惚けたように声を漏らした。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/04/15(日) 19:18:17.32 ID:Mp5fo4SDO<> だが、体を覆い隠す全身鎧のおかげで勇者の失態は周囲にばれなかった。

幼女「……魔王様?」

幼女が首をかしげる。
すると、勇者の脳内に魔王が呆れた声で語り掛けてきた。

魔王『貴様の事だ、勇者よ』

勇者「い、いや、それは分かっているが」

魔王『分かっているが、どうした?』

小声であたふたする勇者の言葉尻を捉えて魔王が問い返すと、勇者は長テーブルに集まった面々にカブトの下から視線を投げかけつつ答えた。

勇者「経験値が……こういった場面に対する経験値が、圧倒的に不足しているんだよ!」

魔王『やれやれだな』

勇者「……どうしよう?」

魔王『ふむ』

息をつき、思案するような魔王の気配。
そして数秒後、勇者の頭に直接答えが返ってきた。

魔王『仕方ない、手助けしてやろう』

勇者「え?」

魔王『イヤなのか?』

勇者「いや、むしろありがたすぎるけど、どうしたんだ?」

勇者が不審がって聞き返すと、魔王は『ふっ』とキザったらしく一息置いて、やけに清々しい声で答えた。

魔王『忠勇なる部下たちと、いまだに我を慕う娘が窮地に立たされているのだ。せめて士気くらいは上げてやらねば、魔王の名が腐るからな』 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/04/16(月) 08:16:27.65 ID:wcN66t+co<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/04/16(月) 19:23:05.73 ID:AZYYqpaDO<> 幼女「……」

記憶が戻っていない父に話のシメを御願いしたのは、魔王という父の面目を立てる事以外に、心の中で『何か』を期待していたからかもしれない。
その『何か』は一言一句で言い表せぬ難しいもので、ただ一つ言える事は、その『何か』が今日まで幼女の支えになっているという事。
しかし時期尚早だったのか、目の前の父はその『何か』に応えてくれそうもなかった。

幼女(……どうしよう)

無言の父、無言の仲間たち。
なんだか、やってしまった感が漂い始めている。

幼女(仕方ないわ、上手く話の流れを作って……)

石仏と化した父を前に、幼女が上手く話を誘導しようと口を開く。
だが、その柔らかな唇が言葉を発する前に、幼女の目の前に立つ鎧が動いた。

勇者「あー、……こほんっ」

幼女「……!」

思案にふけっていた幼女は反射的に、ぴんっと背筋を伸ばす。
目の前の鎧は、その幼女の様子に気付かないように話を始めた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/04/16(月) 21:17:03.05 ID:AZYYqpaDO<> 勇者「敵が目前に迫っている。
   数はおよそ百で、神聖魔法まで使うときたものだ」

落ち着いた、波紋を打たない静かな声。
しかしそれは、次の瞬間に一転した。

勇者「だが、『それがどうした』?」

それは次第に話が熱を帯びるのではなく、溶岩流が突如として噴出したような、激しく、荒々しい、魂の鼓動そのものを叩きつける声へと瞬時に変わった。

勇者「そう! それがどうしたのだ! 我が配下! 無双たる我が軍勢に! 敵なぞいない!」

そして、勢いよくテーブルの隅へと体ごと顔を向ける。
そこにいるのはデュラハン。
突如豹変した勇者の姿に腕に抱えた頭の目をパチクリさせていたデュラハンが、目と目が合ってビクッと一歩後退する。
そんなデュラハンに向けて、勇者は一気呵成に畳み掛けた。

勇者「我は知っている!
   勇敢なる騎士の剣閃を!
   比肩する者無き誉れの刃を!
   その一振りが窮地を切り開く事を!」

デュラ「!」

言葉が重なる度に、デュラハンの顔が歪んでいく。
驚き、震え、感極まったように瞳を震わせる顔に。

勇者「衛兵!」

続けて勇者が声を上げると、すぐにどこからともなく下級兵士が駆け付けてくる。
勇者は下級兵士に近づき、二、三ほど耳打ちすると下級兵士は来た時と同じようにどこかへと駆け出し、そして数十秒と待たずに再び戻って来た。
その両手に、1メートル強はある黒光りがまぶしい肉厚の刃を一振り抱えて。

勇者はその剣を下級兵士から奪い取るように両手でつかみ上げると、刃身を横にしてデュラハンへと突き出した。

勇者「受け取れ、我が剣だ」

デュラ「魔王様の、剣を?」

勇者 「折れた剣では十分な戦働きは出来まい」

デュラハン「……」

意味を理解したデュラハンは素早く片膝を突き、足元に頭を置いて、勇者からうやうやしく両手で剣を受け取る。

そして剣がデュラハンに下賜された。

ズシリと重い感触を腕に受け、まだ夢でも見ているのではないかというような顔で、まじまじと剣を眺めていたデュラハンだったが、そこに勇者が追加で一言加えた。

勇者「貴重な物だ、必ず持って帰ってこい」

デュラハン「……っ!」

静かな、温かみを含んだ言葉。
思わずデュラハンは目を見開く。
その脳裏を一瞬だけよぎったのは、生前の自分が迎えた最期の時か。
ともあれ、誇りある騎士の魂が不死者となってまで守り抜きたかったものが、心の深奥から渇望したものが、勇者の言葉にはあった。
デュラハンの瞳に、涙がとめどなく溢れてきた。
だが、ここで情けなく嗚咽を漏らすことは、騎士として許されない。
デュラハンは浮かぶ涙をまばたきで弾き跳ばしながら、頭を左手に、剣を右手に立ち上がると声を高らかに堂々と宣言した。

デュラ「我が胸中に溢れる言の葉を刃に乗せて!
    その『信頼』に戦果で答えん!
    魔王様に勝利をッ!!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/04/16(月) 23:31:08.50 ID:AZYYqpaDO<> 勇者「そして、サキュバス!」

サキュ「!」

漆黒の鎧に向き直られ、白銀の鎧が軽く身を揺らした。
勇者「ガーゴイル部隊を始めとする数々の製作手腕!
   三千世界にあまねく形無き者たちを捉えるその瞳、その技量は塵芥(ちりあくた)共の追随を許さん!」
勇者が熱弁を振るう。
だが、対するサキュバスはどこか気後れしたように顔を伏せ、今にも消え入りそうな声でつぶやくように小さく答えるだけだった。

サキュ「……違います、違いますよ。私は魔王様の言うほどに上等な存在ではないんです……」

勇者「上等な存在ではない、だと?」

サキュ「はい、本当の私は臆病で卑怯で高慢で無能で存在価値の無い淫魔なんです。鎧で身を覆って、怖くて隠れて、だからお願いします、褒めないでください……むなしくなりますから」

勇者「そんなことは無い!」

サキュ「っ!?」

勇者が突然声を荒げる。
サキュバスは白銀の鎧の下で驚きに目を剥くが、勇者は声を荒げたままサキュバスへと右の手の平を向けた。

勇者「魔王は偉大だ! ならば、その配下も偉大で無くてはならない! そして、お前は我が配下だ!」

サキュ「私も偉大であれ、と?」

白銀のカブトを揺らしながら気を取り直してサキュバスが尋ねる。
対する勇者は漆黒のカブトを横に振りながら答えた。

勇者「違う! お前は既に偉大なのだ!
   他の者の手に渡したくないほどに!
   共に歩む仲間として近くにありたいほどに!
   そしてそれは! 技能や経験があるからというわけではなく! お前自身が、サキュバスが、切磋琢磨して築いてきた絆によるものだ!
   長所も短所も含めてのサキュバスなのだ!
   皆がお前を望む以上、お前は存在しなければならないほどの価値がある! 無価値ではない!」

そして、勇者は一同に振り返った。

勇者「そうだろ、皆の者よ!」

全員「応ッ!!」

デュラハンをメインに、全員から勢いよく声が返ってきた。

サキュ「……みんな」

呆然と、その場に立ち尽くすサキュバス。
勇者は無言で歩き、サキュバスの脇に立つと、耳打ちするように漆黒のカブトを白銀のカブトに軽く押しあてた。

勇者「今のままでもサキュバスは素敵だと思う。でも、もし変わりたいと感じたなら言って欲しい。俺も手伝うよ」

秘密を共有するような、二人だけにしか聞こえない会話。
そしてわずかな逢瀬の後、二人のカブトが離れる。
そこでサキュバスは初めて、漆黒のカブトの向こうにいる勇者の瞳を見る事ができた。

──黒い、真っすぐな勇者の瞳が、サキュバスの青い瞳を真摯に見つめていた。

サキュ「……」

勇者「……ん? どうした?」

サキュ「あ、いえ! その……なんでも、ない……です」

サキュバスは頭を振って勇者から離れる。

勇者「そうか」

サキュ「……あっ」

だが一歩離れたせいで、角度的に勇者の瞳がカブト越しに見えなくなってしまった。
自分から離れてしまった事を後悔するサキュバスだったが、その直後にそうやって後悔している自分に気づいてしまったのだから、もうどうしようもない。

サキュ「あ、あう……うー」

ついつい意識してしまう。
鎧の下、耳まで真っ赤にしてサキュバスはうめいた。
そんな状態だから「だから今を生き延びて……」という勇者のシメの言葉がサキュバスに届くわけもなく……。
結局、会議が解散するまで、サキュバスは恥ずかしさに身をよじらせ続けることになった。

鎧を着ていて、本当に良かったとサキュバスが初めて思えた瞬間だった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/04/17(火) 08:28:38.56 ID:yWpIfOdfo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/06/05(火) 06:48:51.74 ID:mB5nxkrZo<> 続きよみたい
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/06/05(火) 07:35:58.03 ID:YRD+z0hco<> まったり待つぞ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/05(火) 14:47:08.18 ID:su5WkPzSO<> なんちゅうところで終わってるんだ……
続き待ってます <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/05(火) 18:55:56.98 ID:xrv9S13IO<>      ...| ̄ ̄ | < 続きはまだかね?
   /:::|  ___|       ∧∧    ∧∧
  /::::_|___|_    ( 。_。).  ( 。_。)
  ||:::::::( ・∀・)     /<▽>  /<▽>
  ||::/ <ヽ∞/>\   |::::::;;;;::/  |::::::;;;;::/
  ||::|   <ヽ/>.- |  |:と),__」   |:と),__」
_..||::|   o  o ...|_ξ|:::::::::|    .|::::::::|
\  \__(久)__/_\::::::|    |:::::::|
.||.i\        、__ノフ \|    |:::::::|
.||ヽ .i\ _ __ ____ __ _.\   |::::::|
.|| ゙ヽ i    ハ i ハ i ハ i ハ |  し'_つ
.||   ゙|i〜^~^〜^~^〜^~^〜 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(愛知県)<>sage<>2012/06/24(日) 07:06:11.43 ID:BscMO5W+o<> まーだかなー? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/05(木) 01:06:41.13 ID:nUJNSAVRo<> 待ってるよ <>