>>1 ◆weh0ormOQI<>saga<>2011/09/23(金) 20:51:14.46 ID:dKFA4VgA0<>
当スレは

ステイル「最大主教ゥゥーーーッ!!!」
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1305/13053/1305391028.html

インデックス「――――あなたのために、生きて死ぬ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1309622517/

からの続きものです
前スレを読んでいないとわりとイミフです
お読みになる際は以下の点にご注意ください

※ステイルが主役、相方はインデックス 
※十年後未来設定
※全体的に誰得
※つまんないギャグとなんちゃってシリアスが交差しきれてない
※勝手なカップリング多数
※稀にキャラ崩壊
※俺得ゥ

それでもいいなら↓へどうぞ
<>ステイル「まずはその、ふざけた幻想を――――――」 天使編E<>saga<>2011/09/23(金) 20:53:56.49 ID:dKFA4VgA0<>

炎が閃いた。

一瞬だけ走った凄まじい高熱に歯を食いしばり、

慌てて一方通行は演算補助デバイスに手を伸ばそうとする。


「――――――――!」


だが腕が、肩が、首が、重力に負けてカクンと落ちる。

それはすなわち、一方通行の生命線が完全に断ち切られた事を意味していた。

更に言いかえてしまえば。


「これで、形の上では君を戦闘不能に追い込んだ事になる。つまり」


筋肉を動作させる為の電気信号が回線不良を起こし、眼球すら満足に動かせない。

そんな一方通行の視界に、コンクリートをカツンと突く音。

投げ捨てられた前時代的なデザインの杖を支えに、ステイル=マグヌスが凝然と立っていた。

手品というものが得てしてそうであるように、種がわかってみれば何という事は無い。

先刻蜃気楼で消えたと思われたその位置から、ステイルは一歩たりとも動いていないだけであった。






「一応は、僕の勝ちだね。一方通行」






<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/23(金) 20:53:59.07 ID:vBGAxEmFo<> 乙! <> 天使編E<>saga<>2011/09/23(金) 20:55:29.50 ID:dKFA4VgA0<>

「いやいやいや格好つけてんじゃねえよ! 
 お前だな、フィアンマに俺を投げ飛ばせって言ったの!!」


ステイルが高らかに、少々収まりの悪い勝利宣言をすると、抗議の声が割り込んだ。

貧相な第一位のボディを安々と払いのけてズンズンと迫る、上条当麻その人である。


「ああうんごめん申し訳ありませんでした許して下さい」

「臆せず謝れるなんて大人になりましたねー、先生はうれし、じゃねーーーっ!!!
 誠意が籠ってねーんだよ誠意が! 焼き土下座でもやれやってくれやりやがれ三段活用!!」

「大丈夫かい一方通行?」

「俺の心配が先だろ! 高さ15メートルから投げ出されたんぞ!?」

「すまないね、君のライフラインを遮断してしまって。
 こうでもしないとまるで勝ち目がなさそうだったからね…………これを」


猛烈に地団太を踏む上条をきっぱり無視して、

ステイルはポケットから“ある物”を取り出した。

膝を抱えて拗ねようとしていた上条が立ち上がって覗き込むと、

直径10センチ強の円環に超小型の精密機械が取り付けられている。


「俺今日こんな扱いばっかかよ………………ん? これって一方通行の首輪じゃんか」

「普通はチョーカー、と呼称するんだよバカ。
 僕の勝利パターンはこれ以外考えようがなかったから、
 予め『冥土返し』に頼んで予備をもらっておいたんだバカ」


さる七月十一日の診察時、インデックスを部屋から追い出した直後。

散々お小言をもらった挙句高額の請求書まで叩きつけられて泣きを見たが、

無駄にならなかったことだけが救いだな、とステイルは胸を撫で下ろした。

<> 天使編E<>saga<>2011/09/23(金) 20:56:19.67 ID:dKFA4VgA0<>

バカバカうるせえ、という上条の嘆きを右から左にスルーして、

ステイルはゆっくりと、ナメクジが這うような速度で一方通行に歩み寄っていく。

勝利者の余裕を演出したい訳ではない。

いよいよ二肢から全身に伝播し始めた激痛が、意識を朦朧とさせているだけの話だ。


「はぁ、はぁ……………………さあ、これで矛先を収めてくれると嬉しいんだが」


一方通行にも会話の内容自体は聞こえているだろうが、

ステイルは念のため、実物を彼の眼前のアスファルト上に据えて反応を窺う。

しかし不幸な事に、ステイルはまるで気が付いていなかった。











「………………k…………」




<> 天使編E<>saga<>2011/09/23(金) 20:57:29.44 ID:dKFA4VgA0<>

余裕たっぷりと言わんばかりに倒れ伏す敗北者に歩み寄る様、

指一本動かせない相手の命綱を眼前に垂らして反応を窺うというその態度。

顔を上げられない一方通行からは二メートル越えの長身である

ステイルの表情など見える筈がない、という点も災いした。


「? 悪い、よく聞こえなかった。何か言ったかい?」


そして極めつけが“勝ち方”だった。

ステイルは、倒れ伏す敗者が上条当麻に対して崇拝にも似た英雄視を向けているという秘密を、

これまた不幸な事に、この世で唯一その事実を知るだろう打ち止めから教授されていなかった。

その結果――――











「nuiehwo殺stasqobxuewkiiiiiiiiiiiiiiiiiiaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!」











背に一対の翼(あくむ)を負った一方通行の脳内で、ステイル=マグヌスは

ヒーローを体よく利用して勝ちを拾い、己を愚弄する、許されざる生ゴミだと認定されてしまった。

<> 天使編E<>saga<>2011/09/23(金) 20:59:04.47 ID:dKFA4VgA0<>

「これ………………!? おいステイル、ヤバいぞ!!」


あんぐりと口を開けて束の間呆けた上条を尻目に、

ステイルは再びルーンを爆発させて、反動で一気に十メートル以上距離を開けていた。

こっそり自分と白い悪魔の直線状に『幻想殺し』を挟み込む事も忘れない。


「噂には聞いていたが、これが黒い翼………………」


イギリス清教所属となったアステカの魔術師が十年前、

半死半生へと追い詰められた一方通行が黒翼を示現させた現場を密かに観察していた事は聞き及んでいた。

エツァリの目撃情報には半信半疑だったがなるほど確かに、

これは強いて言えば“こちら側”に属する力だ、とステイルは直感した。









「へ?」


が、事態はステイルの分析など遥かな彼方に置き去りにして、更なる急展開を見せた。


「おいおい、この状況をどうか簡潔に説明してくれませんかねステイルくぅぅん!?」


学園都市最強、『一方通行』は未だ胎動を止めない。

禍々しい漆黒の翼が、ピシと音を立てて罅割れる。

脱皮――――蛹が成虫へと変容する過程を見せつけられているようだった。

<> 天使編E<>saga<>2011/09/23(金) 21:00:18.57 ID:dKFA4VgA0<>

「は、はは…………今までが『蛹』だってなら、これから君は何になるんだい?」


――――――ああン? 知らねェよ――――――


鼓膜を通り越して直接脳が声を受け取った。

口調はお馴染みのチンピラ風味だが、受ける印象がまったくの別物だった。

これではまるで。


「――――――使?」


上条当麻が呟くと同時に、黒翼が弾け飛んで世界を黒く染めた。

ステイルは襲い来る一色の黒に思わず目を瞑る。

豪風が満身創痍の身体を軋ませるが、苦痛に耐えかねて洩らした悲鳴は轟音に掻き消された。


「―――――――――――――!」


再び目を開いたとき、そこには。

純白の閃光を全身から迸らせる、超越者の姿。

この世のものならざる力による、絶対的な存在の証明。







背に一対の翼(ひかり)を負う天使が、現世に降臨していた。







<> 天使編E<>saga<>2011/09/23(金) 21:02:45.87 ID:dKFA4VgA0<>

「…………め、め、メルヘンティックな翼だね。垣根に対抗したのかい?
 そそそそこのプレゼントは、もしかして必要なかったのかな」


常人なら抗うという発想がまず湧かないだろう絶大なエネルギー塊を前に、

生還へ一縷の望みを託してステイルは対話を選択した。

黒翼を出現させた正にその瞬間よりは、自我を取り戻しているようにも見受けられる。


――――さあな、だが一つだけハッキリしてる事があるぜ?――――


問答無用で爆散させられることだけはどうにか避けられたらしい。

これなら、対話を引きのばしさえすれば生きる希望は皆無ではない。


「そ、それは?」


一秒、一瞬でも長く。

そうすればなんとか




――――テメエら二人とも、今からあのお星サマどもの

仲間入り記念パーティーに出席するンだよォォォォォォォ!!!!!!――――――




ならなかった。


「どうして俺までえええええ!?」

「いや、待って、落ち着いて話を聞いてくれ!
 そうだ、十秒、あと十秒だけでいいから手を止めろ! 大変な事になる!!」

<> 天使編E<>saga<>2011/09/23(金) 21:03:44.47 ID:dKFA4VgA0<>

天蓋に直径など計れる筈もない大円陣が現出した。


ステイルと上条が観測できる世界の一切を、光の翼が白く染める。








――――――『一掃』――――――








天の光は全て星。


疎らに広がっていた雲海は一片残らず消し飛んでいる。


そして夜空を埋め尽くす瞬き一つ一つが、破滅の力となって二人に降りそそいだ。


<> 天使編E<>saga !桜_res<>2011/09/23(金) 21:05:31.06 ID:dKFA4VgA0<>











「   ア   ナ   タ   ♪   」












<> 天使編E<>saga<>2011/09/23(金) 21:06:48.82 ID:dKFA4VgA0<>

目には目を、歯には歯を。

人の身では立ち向かい得ない極大のエネルギーを押し留めるなら。




「――――『神戮』pv vewy」



天使には、天使を。



「――――はああああああっっ!!!!」




水の象徴にして青を司り、月の守護者にして後方を加護する者。

『虚数学区・五行機関』の核を成し、友のために力を振るう優しき者。



「ガブリエル! 風斬!」



上条が歓喜の声を上げるのとほぼ同時に、天からの裁きは同質の力によって相殺された。

その余波だけで大地が抉れ、周辺の建築物の窓ガラスが残らず吹き飛ぶ。

衝撃のみならず、大量の礫から身を守ろうと構える上条とステイル。




「私の仕事、冗談抜きでゴミ掃除しか残ってないワケ?」




その頭上をマッハ4で、フルパワーの『超電磁砲』が駆け抜けた。

<> 天使編E<>saga<>2011/09/23(金) 21:07:20.99 ID:dKFA4VgA0<>
























<> 天使編E<>saga<>2011/09/23(金) 21:08:13.66 ID:dKFA4VgA0<>

一分後。

紙一重のところではあったが、危機は去った。


「美琴…………」

「なんで氷華さんたちは歓迎するのに私の顔見てテンション下げてんのよアンタ!!」

「…………いや、その。惚れた女に助けられるってのは、
 男として堪えるものがあるんだよ。でもありがとな、助かったよ美琴」

「え、あ、うん。け、怪我がないならそれでいいのよ!」

「け、けががにゃいにゃらそれでいいのよ!」

「真理いたのかよ!?」


夫の、父親のもとに娘を抱いた妻が駆け寄って、あっという間に一家団欒の空気が形成される。

気まずげに三人を一瞥してから、座り込んだステイルは二人(?)の天使に声を掛けた。


「ありがとう、二人(?)とも。大天使、君のその力は…………」

「一方通行さんが天使の力を使い始めたのを感じて、慌てて飛んで来たんです!
 そしたらミーシャさん……あ、ガブリエルさんを私はこう呼んでるんですけど、
 ミーシャさんもお店から出てきて、力を分けて欲しいっていうから。こう、パーっと」

「newgo力paw漲るyie!」

「そんな適当な…………! ガブリエルが完全な形で復活したらとんでもないことになるぞ!?」

「継続的な力の供給が行えないので、その点は心配ありません。
 私程度の疑似テレズマじゃあ、ミーシャさんの容れ物はとてもじゃないけど満たせないんですよ」

「…………次元が違い過ぎる話だね、まったく。あれでマックスでもなんでもないのか」


抑えがたい畏怖の念を呆れ口調で隠して、

ステイルは『虚数学区』を越える強烈な『界』の圧迫が発生している方向へ、荒い息を逃がした。


「だから言っただろう、『大変な事になる』って」


<> 天使編E<>saga<>2011/09/23(金) 21:10:03.93 ID:dKFA4VgA0<>
「ねーえアナタ? いったい何やってるの? どうしてステイルさんは大怪我してるの?
 なんでお義兄様に『一掃』なんて使ってるの? ねえアナタ、教えて?」



絶体絶命だった男たちが平和な会話を楽しめているのは、

絶体絶命に追い詰めていた張本人が、いまや崖っぷちに立たされているからだった。


「くっ、クソガ…………ら、打ち止めさン? どうしてここに」


神々しい白翼もこうなっては芝居の小道具としか見えない。

濃口の陰影が落ちた打ち止めの表情は例えるなら、

猫を噛むどころか追い詰めてしまった鼠のそれだった。

一見弱弱しい女性に大天使級の怪物が詰め寄られてしどろもどろになる光景は、

滑稽を通り越してどこか感動的ですらある。


「なぁに、さっき君の視界を霧で奪った時に最大主教に通信しておいただけさ。
 『旦那が厨二病をこじらせたようだから、奥方を連れて来てくれ』ってね」

「マグヌス、テメ」

「私を無視してンじゃねェよ」

「すいませンンンンンッッ!!!」

(結婚って怖いなぁ………………)


ああはなりたくない、ステイルはぼんやりと思った。

いや、別にちょっといいなぁとか考えたりはしていない、断じて。


(世にも恐ろしい…………そう例えば、去年のクリスマスミサの時のように
 ドス黒く笑う彼女に罵られて詰め寄られて…………ってちがぁぁぁぁう!!!)


ステイルはどちらかといえば、日本の『亭主関白』なる文化に憧れを抱いている方だ。

日本人の知り合いに『亭主関白』を体現する男など皆無なのが不安要素だが。

<> 天使編E<>saga<>2011/09/23(金) 21:11:20.22 ID:dKFA4VgA0<>

ステイルがとらぬ狸の皮算用に唸っている間に、一方通行と打ち止めの諍いに変化が。

防戦一方だった亭主が逆ギレを契機に反撃を始めていた。


「…………あーくそ、ったく! キレすぎだろテメエ!!
 ンだよ、向こうのどンちゃン騒ぎで弄くられでもしたンですかァ!?」


打ち止めも負けじと応戦しようと語気を強めるが、

鮮烈に輝く翼を目にした瞬間、唇を噛んで俯いた。


「それはインデックスさんの方だって、ミサカは………………。
 …………ミサカはアナタのその姿を見ると、やなこと思い出しちゃうのに……」


音量ツマミを最低限にまで絞られた小さな小さな涙声は、

胸倉を掴まれた一方通行の耳にさえ完璧には届かなかった。


「は? おい、なンか言ったか」

「あァ? いいから帰ンぞ、ってミサカはミサカは明日の支度について
 すっかり失念してるアナタに蔑みの目を向けてみたり」

「クッソガキが調子に乗ってンじゃ………………
 ゴメンナサイ調子に乗ったのは俺ですだから輪っか引っ張ンなァァァァァ!!!!」


天使が頭上にふわふわ浮かべた輪っかを鷲掴みにされて退場していく。

戦闘活劇の幕引きとしてはシュールに過ぎる光景である。

そうして月に照らされた恋人たちは家族や友人への挨拶もなしに、急ぎ足で家路についてしまった。

<> 天使編E<>saga<>2011/09/23(金) 21:13:04.83 ID:dKFA4VgA0<>

(今夜中に誤解を解いておかないとな…………)


散々痛めつけられたのは事実だが、非は八割方ステイルの側にある。

あれではいくらなんでも一方通行が不憫であった。

もう少しこう、愛の力で正気を取り戻すみたいな展開を期待していたのだが。


(…………結果オーライ、か)


冷や汗を垂らして明日の主役たちを見送りながら、ステイルは首を回そうとする。

この場にはミサカDNA集団や天使たち以外に、先刻のゴタゴタに紛れるようにもう一人到着していた。


「最大主教、なにも君まで来なくとも良かったのに」


掌が震え出すのを感じながら、シャボン玉を吹くように優しくその名を呼ぶ。

後方二〇メートルほどのビル角に、ステイルの“夢”の篝火は佇んでいた筈だ。

今は亡き第一位からの手荒な激励を無駄にしないためにも、良い機会であった。

そう思ってステイルは、一つの決意を胸にインデックスと向き合おうとして――――




「………………すて…………る」




――――脳みそを混ぜ返されたような激震を感じた。

<> 天使編E<>saga<>2011/09/23(金) 21:14:06.94 ID:dKFA4VgA0<>

「最大主教……?」


膝立ちで振り返るとすぐそこに、ステイルの愛しい人がへたり込んでいた。

問題は、その表情だった。

普段は輝かんばかりのかんばせが病的なまでに蒼白に染まっている。

不規則に乱れた呼吸から命が漏れ出してるとさえ錯覚してしまいそうだ。

小刻みに振動する体を己が腕で強く締めて俯く様は、明確な心身の異常を表している。


「っ!!」

「…………あ」


抱きしめた。

躊躇いが無かったと言えば嘘になる。

しかし四日前とは違い、意識的に、小さな四肢を震える腕の内側に閉じ込めた。

その乱れる呼吸を、怯える心を、吐き出す命を、一片も逃がさぬよう強く抱く。


「す、すている…………なにか怖い事があったの?」


それはこちらの台詞だ。

勢い込んで反論しようとして、ステイルは失敗した。

夜だというのに瞳孔が極限まで絞られた彼女の瞳に、言い知れぬ威圧感を感じたからだ。

<> 天使編E<>saga<>2011/09/23(金) 21:15:39.71 ID:dKFA4VgA0<>

「私のせいで、震えてるの?」


僅かに冷静さを取り戻すと、上条一家と天使二人まで忽然と消えている。

空気を読んで退散したのだろうか――――いや、三本向こうの電柱の陰で此方を窺っている。

出歯亀どもめ、いや、今はあんなのに構っている場合ではない。


「私の、私の、私のせいで!」

「違うッ!! …………違うんだ。これは…………僕が悪いんだ」

「すているは、何も悪い事なんてしてないよ……!」

「いいや。僕は、罪人だ。『失敗』のツケなんだよ、これは」


今のインデックスは、どう見ても精神的に重篤だった。

狂乱して銀糸を振り乱す彼女を抱く腕に、より一層の力と想いを籠める。

やがて、カチカチと歯を鳴らすインデックスの呼吸が徐々に落ち着いていくのを、

痛いほどに密着した心臓を通して感じたステイルは腕を剥がそうとする。

その時、力なく垂れさがっていたインデックスの腕が驚くほど素早く、男の背中に回された。


「あ…………………ああっ…………!」


しかしそれも束の間、インデックスは我に帰ったように腕をほどくと、

顔を両手で覆って悔恨の念を絞り出すようにすすり泣きはじめてしまった。

<> 天使編E<>saga<>2011/09/23(金) 21:16:26.51 ID:dKFA4VgA0<>

(なんなんだ…………?)


もう一度彼女の背中に腕を回しながら、ステイルもまた混乱し始めていた。

著しい内出血の痛みがぶり返し、休息をしきりに促してくる脳を回転させるが。


(どうして、彼女が震えてるんだ? 何が、彼女を怯えさせているんだ?)


わからない。

そう思った瞬間、ステイルの中で二つの怒りが気炎を上げた。


「ごめん」

「謝らないで………すているは、何も悪くないんだってば!」

「それでも、ごめん。君の痛みを解ってあげられなくて」


彼女の心に深く刻まれた未だ見ぬ傷の、その大きさすら把握できていない自分への怒り。

そしてもう一つは――――――――今は、やめておこう。


「君には泣いて欲しくない。君の泣き顔を見るのが僕には辛い。
 だから、君にはどうか笑っていて欲しい。いや、僕が君の笑顔をつくって、守り抜きたい」


『失敗者』が失った少女は、消え去って永遠になった。

もう、どこにもいない。

だがステイルの腕の中の女性は、そうではないのだ。

生きている。

生きているから、喜んで、苦しんで、愛を知る事ができる。

ステイルは、いま生きている彼女と共に生きたい。

<> 天使編E<>saga<>2011/09/23(金) 21:17:29.45 ID:dKFA4VgA0<>

蒼褪めたインデックスを至近距離で見つめる。

あっという間に二つの顔が去来して重なった。

死に際になお自分と神裂を励まそうとした心優しい顔。

初恋の人の顔。

守ると誓った人の顔。

守れなかった人の顔。

消えない、消えてくれない。

しかし。



(これで、いいんだ)



ステイルは少女たちの魂魄を、この身を焼く悔恨を死ぬまで引き摺って生きていくしかない。

それは疑いようもなく、苦悶にのたうち回りたくなる様な地獄の茨道だ。

だがその地獄に飛び込んででも、ステイルは彼女を愛したい。

愛に翳りなどあったからいったいなんだというのだ。

震えるほどの苦悶なら、抑え込んでしまえ。

愛している事は、真実なのだから。

ステイルは無意識に呟く。

<> 天使編E<>saga<>2011/09/23(金) 21:17:55.95 ID:dKFA4VgA0<>




「――――――ス」





「え…………?」





掻き抱いた心臓の温かな鼓動を感じながら、男はゆっくりと眠りに落ちていった。






<> 天使編E<>saga<>2011/09/23(金) 21:18:53.08 ID:dKFA4VgA0<>
---------------------------------------------------------------------


「おい、打ち止め」


一方、真っ先に殺人(未遂)現場を去った二人連れ。

天使化を解除した一方通行はなおも打ち止めの為すがままに腕を引かれている。

その首にはステイルが放りだした演算補助装置がちゃっかり装着されていた。


「聞いてンのかクソガキ」


普段小幅な打ち止めの歩調は、その不安定な心情を表出化したように荒くなっていた。

栗色のロングヘアーを夜風に靡かせ、決して振り返らずに女は歩を進める。


「姉貴たちに一声かけなくて良かったのか?」

「……ッ!!」


淡々と、悪びれずに言葉を紡ぐ一方通行の態度に腹を据えかねたのか、

やっと打ち止めが足を止めて回れ右すると、


「誰のせいだとっ、ん」





距離がゼロになった。

<> 天使編E<>saga<>2011/09/23(金) 21:19:40.41 ID:dKFA4VgA0<>

「〜〜〜〜〜〜!? ひゃっ、ふぁ、ふぁな、た」

「………………やっとこっち向きやがったな」

「んっ、はぁ…………こん、こんな道端でぇ」


淫猥な水音を口内でたっぷり三十秒は奏でてから、

男は女を解放してその顔を覗き込み、偽悪的に表情を歪めた。

杖は投げ出したのちステイルが持ったままなので、

直立するためには恋人の肢体に身体を預けなければならない。

その状況すらも楽しむように一通り打ち止めに“おいた”してから、静かに口を開く。


「悪かった。“嫌な事を思い出させ”ちまったって訳だ」

「ひぃ…………んっ、ずるいよぉ。お、怒れなくなっちゃった、ってミサカは……」


十年前の極北の地での、彼との“別れ”。

打ち止めは天を舞う男の冗談の様な勇姿を目にして、

またあの喪失感を味わうのだろうか、と頭に血が上ってしまったのだった。


「落ち着いたか」

「だから誰のせいだと……んもぉ! あの辺の建物だってボロボロにしちゃって!
 昔と違って誰かが後始末してくれるわけじゃないんだからね、
 ってミサカはミサカは“できる”女房らしくダメ夫を叱ってみたり!」

「あの一帯の権利書はもともと、まるごと全部俺のもンだ」

「自分のものだからって好き勝手していい訳じゃ、ってええええええええ!?」

<> 天使編E<>saga<>2011/09/23(金) 21:21:22.43 ID:dKFA4VgA0<>

「大天使が万が一暴れて裁判沙汰にでもなったら面倒だろ。
 だから先回りして片っ端から買収しといた」

「『ミサカの旦那がトンデモない成金だったんだけど、何か質問ある?』……っと。
 へ? 『惚気乙』? ふーんだ、『僻み乙ww』ww」

(まーたネットワークに繋いで碌でもねェ遊びしてンな)


歩みを再開した二人は、必然性がなかったとしても寄り添い合う事を選ぶ。

一方通行は、デバイスを能力使用モードに切り替えようとはしなかった。


「ねえ…………結局、あそこで何をしてたの?」


いつも通りのリスのような雰囲気を取り戻した打ち止めが、声を顰めて恋人の耳元に囁く。

男はまばたきを二度してから、脳裏に赤毛の神父の顔を蘇らせた。


「鏡像みてェな男と衝突して、互いの本当の姿を見つめ直した。
 罵声を浴びせて、古傷を抉りあって、一戦交えた。
 …………少なくとも、無駄な時間じゃあなかったな」

「そっか………………インデックスさんとステイルさん、幸せになってほしいね」


自分達の明日の事が先決だろうが。

そう言いかけて、去り際に一瞬だけ見たシスターの打ち震える様を思い出した。


「そォだな」


驚いて目を丸くした打ち止めの額を軽く小突く。

一方通行は柄にもなく、天の上にいるかもしれない、いないかもしれない誰かに、

あの優しいシスターが幸福であればいいのに、と祈った。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/09/23(金) 21:24:31.14 ID:dKFA4VgA0<>

解答一、続く


>>3
お気になさらずー

今度こそ最後のスレになると思います
最後までお気楽にお付き合いくださいませ
前スレがあとちょっとで埋まるので適当に荒らしといてくださいな
では日曜夜にお会いしましょー <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(愛知県)<>sage<>2011/09/23(金) 21:33:35.14 ID:werReOZlo<> >>1乙

相変わらず素晴らしいクオリティ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りしま<>sage<>2011/09/23(金) 21:46:32.04 ID:cprQQY4f0<> すげえ乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2011/09/23(金) 23:50:48.62 ID:d7h59cQAO<> 乙!
こういう神スレはもっと続いてもいいと思うの <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/24(土) 03:47:41.38 ID:rByNFoMso<> 乙 <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/09/25(日) 20:22:55.45 ID:G2pdYI4Z0<>
最近罵ってもらえなくて寂しいなんて思ってませんよどうも>>1です
皆さんレスありがとうございました

今日は人物紹介+久々の小ネタ×2でお送りします
本編もそうですが、人物紹介はいつにもましてひどい
俺設定の掃き溜めとなっておりますので閲覧には十分ご注意ください↓ <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/09/25(日) 20:24:45.39 ID:G2pdYI4Z0<>
第二部人物紹介@


ステイル=マグヌス(24歳)

なんか気が付いたらチートっぽくなってた人。
惚れた女にカッコイイとこ見せたい補正もある程度はかかったんでしょうが。
一方さんの記念すべき初説教を受けて、遂に全てふっ切ってインデックスに向き合うと決意。
ここからはひたすらステイルが攻めるターンですよ奥さん!


上条美琴(24歳)

とある電子工学研究所の特別研究員。言わずと知れた学園都市第三位、『超電磁砲』。
当初は所長待遇で迎えられる予定だったが、育児とのバランスを取った結果今の形に落ち着いた。
夫がドン引きするほど強烈に愛娘を溺愛しており、キャラ崩壊が激しい。

戦闘能力には十年前と比べて劇的な変化はないが、
これは本人に(戦闘狂の割には)強くなる気がなかったから。
超人的なスタミナは健在で夜の営みでは夫の精魂が文字通り尽き果てるまでゲフンゲフン。

行動理念が旦那そっくりでしばしば周囲に苦笑されるが本人には自覚が無い。
一言で表すなら愚直。頭の良いバカ。親バカ。一言じゃすまなかった。


上条真理(2歳)

当初予定ではあーうー言ってるだけだったはずのガチ幼児。
気が付けば異端の二歳児になってました。
果たして愛しのりとくんとの将来やいかに!?


一方通行(26歳)

統括理事長である親船最中の警備部隊隊長を務める。言わずと知れた学園都市第一位、『一方通行』。
長点上機をはじめ各方面から待遇の良い誘いはあったが、全て蹴って親船の直衛として志願した。

MNWに頼らず生活するだけの技術発展を遂げた学園都市で、
それでも『妹達』の補助演算を受け続ける道を選んだ。
時間限定の『最強』として君臨する学園都市第一位の実力は
『右方のフィアンマ』にガチで勝てるかもしれないレベルにまで到達している。
……故にバトル展開から外されたわけですが。

十年の時を掛けて光源氏計k…………愛を育んできた打ち止めとめでたく婚約。
お互い二十歳すぎたんだからセロリ呼ばわりはされてませんよ、多分。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/09/25(日) 20:25:54.57 ID:G2pdYI4Z0<>

婚后光子(25歳)

株式会社「婚后航空」の常務取締役。
漫画版光子ちゃん可愛いよ漫画版光子ちゃん


月詠小萌(??歳)

高校教師。普通に転任とかもあるので現在は「とある高校」の教師ではない。
が、生涯教師。外見は十年前と一切変わらず。
ステイルには諦めずにアプローチもかけるなどそれなりに本気だったらしい。


姫神秋沙(26歳)

霧が丘大学の研究協力者。医学生でもある。
研究チームに『吸血殺し』が医学の発展に貢献する可能性を見出され、
遅まきながら医者を志す。■■って言ったやつ久キレ屋上。


麦野沈利(20代後半?)

株式会社「アイテム」代表取締役。そして学園都市第四位、『原子崩し』。
フレメアとフレンダの件がわだかまってはいたが、基本は図太く自己中心的。
守るべきものとして、『己のプライド』以外に『仲間』が加わった点で成長が見られる。
絹旗の負傷を聞いて狂乱し、視野狭窄に陥る点は成長がないが、人間としては正しい。
魔法淑女『パーフェクトむぎのん』目指して頑張れ! ちなみに独身。


垣根帝督(20代後半)

「DMホールディングス」会長。そして学園都市第二位、『未元物質』。
鉄のボディーに熱いハート、純白の翼と漆黒の頭脳を併せ持つ、
現代に舞い降りたダテ悪ダンディー(初春の考えたキャッチコピー)。
第二位の頭脳は伊達ではなかったらしく、僅か三年で自社を世界的大企業に育て上げた。
死亡、恋愛問わずフラグ塗れだが一向に回収する気配なし。刺されればいいのに。刺さんないけど。


心理定規(20代前半)

株式会社「Delight Measure」の代表取締役。
底知れぬ微笑を常に湛える妖艶な女社長として見合い話が絶えないが、
「心に決めた相手がいる」らしく一切を断っている。
実は健気な女性なのかもしれない。本心は不明だが。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/09/25(日) 20:26:45.48 ID:G2pdYI4Z0<>

吹寄制理(26歳)

社会人野球の強豪、DM社野球部のエースピッチャー。普段は秘書課所属。
ちょww140キロのフォークとかねえよwwHPB(はやくプロ入りしろヴォケ)ww


佐天涙子(23歳)

第七三活動支部に所属する警備員。普段は中学校教師で担当教科は社会。
フラグが! フラグが立った! 
と言う訳でシリアス展開に絡んだ関係上、ヤニ神父にフラグを立てられてしまった人。
気が付いた瞬間には終わってたって言う感じの切ないアレ。深く描写する気はないんですが。
佐天さんファンの皆さんごめんなしあ;;


白井黒子(23歳)

第七三活動支部に所属する警備員。普段は大学準教授で専門は都市工学。
黒子が男に目覚めたら破滅的に可愛いだろうというのは衆目の一致するところだが、
今のところそういうフラグはないらしい。お姉様一筋。かと思いきやインデックスにも……
特に意識せずともシリアスもギャグも普通にこなしてくれる、なんつーか凄い便利な人でした。


削板軍覇(20代後半)

警備員第七三活動支部隊長。普段は高校教師で担当教科は勿論体育。そして学園都市第七位でもある。
ドラゴンボール世界で生きているような戦闘力の持ち主。多分ナッパぐらいになら勝てる。
一介の警備員であるが統括理事会の密命を受けて動く事もある。結構ダーティな過去がある、のかも。
内縁の妻のおなかが膨らみ始める前にはど派手な式を挙げてやろうと画策中。


鉄装綴里(30代前半)

警備員第二二活動支部隊長。普段は高校教師で担当教科は数学。
なぜ結婚できていないのか>>1にもまったく分からない。並以上のスペックはあるのに。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/09/25(日) 20:28:26.97 ID:G2pdYI4Z0<>

フィアンマ(30代)

株式会社『ベツレヘム』CEO。公式にはローマ正教を追放された身である。だがメイド萌えだ。
『第三の腕』を失っても超一級品の魔術を使いこなす天才。だがメイド萌えだ。
死んだふり作戦で最後の最後に美味しい所を持っていった憎いヤツ。だがメイド萌えだ。
おちゃらけて飄々とした態度の裏に真意を隠し続けるペテン師(ステイル談)。だがメイド萌えだ。
土御門と意気投合した理由が窺えるというものである。だからこそ――――メイド萌えだ。


ヴェント(30代)

メイド喫茶『お客様は神様〜(以下略)』の全メイドを束ねるチーフメイド。
意外に尽くすタイプの女だったらしく、前教皇マタイの策略でフィアンマの片腕にされてしまった。
科学への憎しみは完全には消えていないが、少なくとも『0930事件』への罪悪感はある。
フィアンマとはおそらく一生このまま、付かず離れずの距離を保つのであろう。


フレメア=セイヴェルン(20歳)

フィンランドの国立大に通う大学生。
こっそりむぎのんが学資を援助していたが、本人にはバレバレだったらしい。
記憶にあまり残っていない姉への思い入れがそれほど強い訳でもなく、
さりとて肉親を殺した相手を簡単に許すのもおかしいような気がする。
彼女も彼女で複雑な心境にあった事が、姉の墓参りになかなか訪れなかった理由だった。
麦野とは和解したわけではないが、ある程度は割り切ったらしい。


風斬氷華(??歳)

レストラン『虚数学区』オーナー兼シェフ兼ウエイトレス。つまり一人で切り盛りしている。
作中での描写を省いたが、ステイルとインデックスは度々彼女のレストランに訪れている。
親友(笑)じゃないよ! 親友(天使)だよ!


ガブリエル(?????歳)

居酒屋『神の力』店主兼料理長。大好物はチューインガム。
禁書界の戦力ピラミッドで最上位に位置してた御方。でもお茶目。
天上に戻ろうとする意思がなぜか皆無で、この十年学園都市で楽しく暮らしている。

<> 小ネタ「意匠権なら取れるかも」<>saga<>2011/09/25(日) 20:29:27.08 ID:G2pdYI4Z0<>

とある日 上条家


イン「ステイルってさ」


ステ「うん?」


イン「あの新しいルーン文字、論文にまとめて公表とかしないの?」


ステ「…………僕に何の得があるんだい、それ。
   自分の手の内を全世界に向けて御開帳とかどんな衆人環視プレイだ」


イン「魔術史に名を残すチャンスなのにー」


ステ「そういう名誉だとか名声やらには興味が無いんでね」ハン


イン「特許なり著作権なりを取れればその後の人生ウハウハ!」


ステ「取れる訳あるか!! どこの企業が欲しがるんだいったい!!
   ……大体、そんな馬鹿な知的財産がまかり通ったら僕は『必要悪の教会』を追放されてしまう」


イン「え!?」


ステ「驚くほどの事でも……そもそも第零聖堂区『必要悪の教会』は、
   日本で言うところの『毒をもって毒を制す』を体現したような集団だ。
   “基本的”に魔術の存在をタブー視している十字教勢力の一員が
   万が一にも魔術史を塗り替えなどしてしまったら、最悪異端審問にかけられてTHE ENDだね」


イン「そ、そっか…………そういえば『必要悪の教会』って、
   限りなく濃いグレーゾーンだったね………………残念なんだよ」


ステ「かつてその一員だった君が何故忘れているのか不思議でならないよ、僕には。
   そもそも、僕を有名人に仕立て上げて君は何がしたいんだい」

<> 小ネタ「意匠権なら取れるかも」<>saga<>2011/09/25(日) 20:30:07.71 ID:G2pdYI4Z0<>

イン「………………だって」


ステ「?」


イン「……そ、そうなったら…………もうステイル、危ないお仕事しなくて済むかな、って」カァ


ステ「………………へ」


イン「特許とか著作権とか印税の収入で暮らせるようになったら、
   魔術師として危険な橋を渡らなくても済むでしょ? だから……」


ステ「………………」


イン「………………」ソワソワ


ステ「…………一つ、はっきりさせておこうか」


イン「は、はひ」


ステ「仮に、仮にだよ。僕の編み出したルーン文字が一般大衆の
   生活を一変させるような利便性に満ちた発明で、
   それによって僕が一生遊んで暮らせるだけの収入を得られるとしよう」


イン「……うん」


ステ「それでも僕は、君の望みを叶えてやるつもりはない」


イン「な、なんで」

<> 小ネタ「意匠権なら取れるかも」<>saga<>2011/09/25(日) 20:30:37.31 ID:G2pdYI4Z0<>








「それじゃあ、君の側にいられなくなる」









<> 小ネタ「意匠権なら取れるかも」<>saga<>2011/09/25(日) 20:31:17.26 ID:G2pdYI4Z0<>

イン「」パクパク


ステ「異端審問を潜りぬけようと、追放は免れ得ない。それじゃあ意味がない」


イン「」パクパク


ステ「君が隣にいない人生なんて…………無意味だ」


イン「」パクパク


ステ「…………こ、この話は終わりということでいいかな」←ちょっと恥ずかしくなってきた


イン「…………は、はい、終わりでいいでふ」カァァァ





真理「リア充爆発しろ」ケッ


ステイン「「お前が言う………………」」




「「!?」」




オワリ

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/09/25(日) 20:32:10.30 ID:G2pdYI4Z0<>
天丼ってレベルじゃねーぞ!
本気を出したステイルならこれくらいはやってくれるはずです
では続けてもう一本↓ <> 小ネタ「くそっ、イライラして壁殴っちまった」<>saga<>2011/09/25(日) 20:33:14.12 ID:G2pdYI4Z0<>

とある日 ロンドンのとあるカラオケBOX


〜〜〜〜〜♪


火織「しょーおーねーんよ神話になーれ!」ドヤッ


ダラダラダラダラダラ(ドラムロール音)


「 9 7 点 ! ! ! 」


〜〜〜〜〜♪


ステ「I wanna get back where you were
   誰もひとりではぁぁぁ生きられなぁぁぁぁい!!」ドヤッ


「 9 7 点 ! ! ! 」


火織「ぐぬぅ」チッ


ステ「むむ」ケッ


五和(五和ですがBOX内の空気が険悪です)タラタラ


建宮(アンタら魔術師辞めてデビューしろよ、なのよな)


オルソラ「お二人ともとてもお上手でいらっしゃいますね。次はどなたでございますか?」

<> 小ネタ「くそっ、イライラして壁殴っちまった」<>saga<>2011/09/25(日) 20:34:24.84 ID:G2pdYI4Z0<>

イン「は、はいはい! 次は私の番なんだよ」チラッ


ステ「どうかしたのかい、露骨にチラ見してきて……いやらしい」ハン


イン「べ、別になんでもないんだよ!」


元春「どれ、曲目はなにかにゃー?」



『天使のミラクル』



ステ(? 聞いた事がないな)


元春(古っ!!)


火織(…………この子、イギリス人ですよね?)



〜〜〜〜〜♪



イン「魔法の杖 ひと振り 赤いバラも 咲いたわ
   でもあなたに 恋して もう 魔法がきかない♪」チラッ

<> 小ネタ「くそっ、イライラして壁殴っちまった」<>saga<>2011/09/25(日) 20:35:05.66 ID:G2pdYI4Z0<>




ステ「ブッ!!!」ゲホッゲホッ





元春「二十六歳が唄うには辛いものがあるぜい」


火織「それだけインデックスも本気と言う事でしょう」


ステ(外野だからって気楽に構えやがって……!)



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



イン「恋に落ちた ミラクル天使 まるで迷い子 ミラクル天使
   あなた I Love You あなた あなた I Love You〜♪」


ステ「」


イン「…………お、お粗末さまでした」チラッ


ステ「」


火織(この空気をどうしろと)


元春(おいステイル何とかしろよ、ステイルの嫁だろ!)

<> 小ネタ「くそっ、イライラして壁殴っちまった」<>saga<>2011/09/25(日) 20:38:42.73 ID:G2pdYI4Z0<>

イン「…………」モジモジ


ステ「くっ………………割り込ませてもらいたいんだが、いいかな?」


ルチア「え、あ、どうぞ……(私のプリキ○ア……)」


ステ「Thanks」ピピピ


イン「…………」ゴクリ


イギリス清教一同「…………」ゴクリ





『Infinite Love(GRANRODEO)』





イン「!!!!!!」ガタッ


イギリス清教一同(((なん…………だと…………?)))



〜〜〜〜〜♪



この広く深い宇宙を さまよい歩く迷子達

誰もがたった一人を探している そんな無垢な心のdesign

<> 小ネタ「くそっ、イライラして壁殴っちまった」<>saga<>2011/09/25(日) 20:39:32.67 ID:G2pdYI4Z0<>

アンジェレネ「」ガタッ


シェリー「お前じゃねえよ座ってろ」


アン「´・ω・`」


アニェーゼ「もういい……! もう……休めっ……!
       休めっ……! シスターアンジェレネっ……!」ブワッ



運命という無くせぬ距離は二人繋がる為の絆

きっといつか見つけ出すだろう この想いが



ガタタタタタタッ!!!



元春(いま地面が揺れたぜよ)


火織(ロンドンで地震とは珍しい。あの二人は…………まったく気が付いてませんね)


元春(……処置なしだな、こりゃ)



Shinin' 貴女に逢う為にChasin' 幾千の星達を越えて

今 貴女を呼ぶ声がCallin' たどり着けたら 永遠を誓おう

<> 小ネタ「くそっ、イライラして壁殴っちまった」<>saga<>2011/09/25(日) 20:40:21.92 ID:G2pdYI4Z0<>


イン「」ポー



Shinin' 貴女に逢う為にChasin' 奪い取るように抱き締めろ

ずっと 貴女を呼ぶ声がCallin' めぐり逢えたら 未来さえあげよう



イン「」ポー



Shinin' 貴女に逢う為にChasin' 巡り逢う奇跡は消えない

いつも 貴女を呼ぶ声がCallin' 二人の世界は砕けない



イン「」ポー



Shinin' 貴女に逢う為にChasin' 幾千の星達を越えて

今 貴女を呼ぶ声がCallin' たどり着けたら 永遠を誓おう



ステ「…………」ポリポリ


イン「…………」ボーゼン



イギリス清教一同((((((………………)))))))



<> 小ネタ「くそっ、イライラして壁殴っちまった」<>saga<>2011/09/25(日) 20:41:20.67 ID:G2pdYI4Z0<>





((((((  爆  発  し  ろ  ))))))







ガタガタガタガタッ!!!








地球「くそっ、ついプレート殴っちまった」








オワリ

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/09/25(日) 20:42:17.57 ID:G2pdYI4Z0<>
シュタゲ22話が神回すぎて生きるのが辛い

イギリス人って震度3でガクブルらしいですね
インさんよく学園都市で生きていけたなぁ
では次回は木曜か金曜の夜にお会いしましょう
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/25(日) 21:30:16.39 ID:oXR3GSKDP<> 乙
でもナッパには勝てねーよクンッすんぞクンッ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)<>sage<>2011/09/25(日) 21:34:15.96 ID:TXU4pDlyo<> イン「」ポーがインポに見えた <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/25(日) 23:04:19.23 ID:8bUjbOcDO<> 乙なんだよ!

まあ、ナッパは天地がひっくり返っても無理やで
正直ブルー将軍でも怪しい… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/09/26(月) 10:21:39.80 ID:caxSUM6N0<> 爆発しろ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/27(火) 14:00:57.61 ID:Zi1BERcIO<> 中学生みたいな二人可愛いよでも爆発しろ
何気にプリキュア選曲してるルチア吹いたw 5だなw <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/27(火) 22:03:46.43 ID:lWUhNO030<> >>1 乙! >>47 地球wwwwwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<>sage<>2011/09/28(水) 04:03:48.27 ID:poWadnMxo<> 主、ニコ動のカバー曲まとめた動画にインスパイアされてるだろwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/09/28(水) 13:07:07.14 ID:OUs1zSbUo<> ニコ厨[ピーーー] <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県)<>sage<>2011/09/28(水) 18:03:14.33 ID:wlsBc9Jy0<> 第2部キャラ紹介にメインキャラ数名いないのはわざとですか?
<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/09/29(木) 20:50:25.66 ID:XrKTSRGI0<>
どうも御無沙汰しとります、>>1でございます

>>57
第二部はキャラ多杉なので二回に分けまーす

皆さん毎度のことながらレスありがとうございましたー
ではいよいよ第二部のエピローグに突入です↓ <> 第二部 『学園都市編』 エピローグ<>saga<>2011/09/29(木) 20:51:27.38 ID:XrKTSRGI0<>


七月二十日。



その日付に特別な意味を見出す者は、果たしてこの地球上に何人居るのだろう。

百人? 千人? 一万人? 一億人?

どんな高名な統計学者だろうと知り尽くす事は不可能だろう。

ただ一つ、確かな事がある。

七月二十日、とある少年と少女がこの地球上で果たした奇跡的な邂逅。



――おなかいっぱいご飯を食べさせてくれると私は嬉しいな――


――でさー、何だってお前はベランダに干してあった訳?――



それを痛みを伴った経験として想起できる人間は。



――私と一緒に地獄の底までついてきてくれる?――


――地獄の底から引き摺り上げてやるしかねえよな――



もうこの世に“二人”しかいない、という事だ。



<> 第二部 エピローグ<>saga<>2011/09/29(木) 20:52:51.90 ID:XrKTSRGI0<>

七月二十日 午前八時 第一二学区 とある教会


当麻「はあ!? 夕方の便で発つ!?」

ステ「声を張り上げるな、やかましい」

美琴「ちょ、ちょっと。明日ゆっくりお別れ会やって、明後日出発、の予定だったでしょ?」

イン「うん…………でも、ロンドンから帰還要請が来ちゃったから」

ステ「終戦記念日も近い事だしね」

美琴「あ、なるほど…………」

真理「いんでっくしゅ、ばいばいなの?」ウルウル

イン「ごめんねー、まこと!」ダキッ 

当麻「最大主教に命令できる奴なんているのかよ?」

ステ「君の仕事相手である世界各国の首脳を見渡してみろ。
   自分の都合で好きな時に好きなように動けるトップなんているか?」

当麻「お前らは現に来たじゃんかよ」

ステ「『外交』の一環としてだ。私情を挟んだのは否めないがね」

イン「だからこそ、もう限界なんだよ。沢山の人に迷惑をかけちゃったから、
   少しでも早く帰ってこいって言われたら、拒む事なんてできないの」

美琴「…………ゴメン。私の思いつき、迷惑だったみたいね」

イン「そ、そんなこと!」

ステ「最終的には僕らが『問題なし』と判断したから予定を入れたんだ。
   本国も出席をキャンセルしろとまでは言ってきていない、
   というかむしろ配慮してくれている節まである。だから君が気にする事はないよ」

<> 第二部 エピローグ<>saga<>2011/09/29(木) 20:53:32.90 ID:XrKTSRGI0<>

当麻「なんつーか…………お前が紳士ぶってると違和感あるっつーか、
   理不尽をかんじるっつーか。ちなみに仮に提案したのが俺だったらどうしてた?」

ステ「とりあえず、イノケンティウスの熱いハグを贈らせてもらうよ」ハン

当麻「それが理不尽だっつってんだよ! 美琴と真理には妙に優しい癖に!!」

ステ「自然の摂理だ、受け入れろ。ちなみに仮に僕が、二人に君と同じように当たってたら?」

当麻「ぶん殴って空中で五回転ぐらいさせる」キリッ

ステ「世界はそれをこそ理不尽と呼ぶんだよ! 軽くトラウマだからやめろォ!!」



ギャーギャー ドッカーン! ソゲブ!



美琴「このやりとりも今日で最後かと思うと寂しいわねぇ。ねえインデックス?」

イン「………………」

美琴「…………インデックス!」

イン「へっ!? な、なーにみこと?」

美琴「朝早くから準備してたから疲れてるでしょ? ちょっとその辺ブラブラしてきたら?」

ステ「それはいい。街で知り合った顔もチラホラ見たし挨拶まわりでも兼ねようか」

<> 第二部 エピローグ<>saga<>2011/09/29(木) 20:54:50.30 ID:XrKTSRGI0<>



イン「あ、うん。じゃあ…………また後でね、とうま。みこと」

当麻「…………おう、また後で」




美琴「………………」

ステ「………………」

真理「ままー、しゅているー、どうしたの?」キョトン

ステ「ん、ああ。それでは後ほど」

美琴「十時には正式に受付始めるから、それまでには戻って来なさいねー」



ピョコピョコ スタスタ



ステ「大丈夫かい、最大主教?」

イン「ステイルこそ脚の怪我があるんだから無茶しないでね」アハハ

ステ「…………君がどんな結論を出そうと、僕のなすべき事は、そしてなしたい事は変わらない」

イン「!」

ステ「それだけは、忘れないでくれ」

イン「………………」

<> 第二部 エピローグ<>saga<>2011/09/29(木) 20:56:08.48 ID:XrKTSRGI0<>

移動中…………


絹旗「インデックスさんに超(スーパー)ステイルさんじゃないですか、お久しぶりです」

ステ「かませ犬臭がプンプンするからその呼び方は止めてくれ! ルビを振るな!」

イン「退院おめでとう、さいあい!」

絹旗「ふふふ、私の『窒素装甲』に超常識は通用しませんので。
   大したことはありませんでしたよ、あんな魔術師!」

ステ(超常識……常識なのかそうでないのか……?)

黒夜「へっ、目ぇ覚ました直後はブルってた癖によ」

絹旗「ブルってませんー! リベンジに燃えて武者震いしてたんで…………いっ」

布束「Good Heavens,大丈夫かしら?」

理后「くろよる…………?」ゴゴゴゴ

黒夜「ひっ!? ご、ゴメンよ最愛…………」

絹旗「まあまあ理后さん、いつもの事ですから私は気にしてません。
   なんだかんだで海鳥に超一番心配してもらいましたしね」フフ

黒夜「………………」プイ



ステ「そちらのレディーは? 新郎と新婦、どちらかの御友人なのでしょうが」

イン「あ、ていとくの会社で見かけた人なんだよ」

布束「え? However,私はあなた達と初対面だと思うのだけれど。
   …………いえ、つい最近どこかで、そうお茶の間辺りで見たような」

ステイン「!」ギク

理后「この人たちは新郎新婦に共通の友人なの。
   ぬのたばの会社を観光がてら見学してたんだって」

布束「……………………そう。In that case,そういう事にしておきましょうか」

ステイン(ほっ)

<> 第二部 エピローグ<>saga<>2011/09/29(木) 20:57:31.24 ID:XrKTSRGI0<>

布束「あらためましてはじめまして。
   私はDM社企画開発部の布束砥信と言うわ。新郎とは昔ちょっと、ね」

イン(前々スレ>>774にこっそり出演してたんだよ!)

絹旗「どういう風な“ちょっと”なのか、布束さん超ちっとも教えてくれないんですよね」ジトー

布束「そうね………………but,あなた達とも“ちょっと”色々あったし……」

絹旗「う」グサ

理后「ぐ」グサ

布束「ふふふ。あまり触れない方がお互いの為でしょう?」

「「「?」」」



ステ「そっちの窒素姉妹は一方通行とはどういう関係だい?」

絹旗「コレと超一括りにしないでください!」

黒夜「ひでぇ」

イン「みことは家族だって言ってたけど?」

絹旗「はっきり口にされるとなんか恥ずかしいですね…………」

黒夜「アイツ自身は兄貴面してくるわけじゃないけどなぁ。そういうのはキモ面の担当だし」

布束「この二人の能力は『一方通行』に由来するものでね。To sum up,妹みたいなものよ」

理后「それで昔ね、むぎのとあくせられーた、
   どっちが二人の法定代理人になるかで揉めた事があるの」

ステ「………………それはどっちかというと親の行いで」

イン「………………夫婦が離婚する時に起こる問題じゃないかな」

<> 第二部 エピローグ<>saga<>2011/09/29(木) 20:58:40.83 ID:XrKTSRGI0<>

黒夜「そう、まさにそれ! バカの浜面がその場にたまたま居合わせてさ。
   喧嘩する二人を見て考えなしにそんな感じの事を言っちまったんだよ!」ギャハハハ!

絹旗「懐かしいですねー。二人とも五分ぐらい口をパクパクしてたかと思ったら、
   鬼の形相で浜面に襲いかかって。なんか合体技とか出してましたし!
   あれは私のB級視聴歴を手繰っても他に類を見ない超傑作シーンでした!!」キャハハハ!

布束「Really? それは私もぜひ見たかったわね」

理后「笑い事じゃないよ。それを聞いたらすとーおーだーが
   ツンデレを通り越して一気にヤンデレにワープ進化しちゃって大変だったんだから」

イン(わりと本気で見たいワンシーンなんだよ)

ステ(合体技を炸裂させられた夫のその後については触れないんだな)ホロリ



イン「あれ、そういえばりとくは?」

理后「むぎのとふれめあと一緒に、家でお留守番してるよ」

黒夜「私が言うのもなんだけど、本当にあの二人だけで大丈夫かよ」

ステ「……麦野とミスセイヴェルンには、過去に何かあったのかい?」

絹旗「それは…………私の口からは、どうにも。
   個人的にはフレメアがやけに裏篤を気に掛けるのが不思議なんですよね。
   理后さん、どうしてか知ってますか?」

理后「さあ。しあげは何か知ってるみたいだけど」

黒夜「……………………」

ステ(……どこにでも、一筋縄でいかない問題はある。そういう事なのかな)

<> 第二部 エピローグ<>saga<>2011/09/29(木) 20:59:49.77 ID:XrKTSRGI0<>

移動中…………


ステ「ん? あれは……………………………………」スッ

イン「もとはるだ、日本に来てたんだ」


「世界を構築する五大元素の一つ、偉大なる始まりの炎よ」


イン「!?」


「それは生命を育む恵みの光にして、邪悪を罰する裁きの光なり

 それは穏やかな幸福を満たすと同時、冷たき闇を滅する凍える不幸なり

 その名は炎、その役は剣」


イン「え、ちょ、あ、そうだ」ピコーン


「顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せ! イノケンティウ――――」



    Y  Y   W   W
イン「はいはいワロスワロス」

イノケン「ンゴーッ! ンゴ!? ンゴ…………」ズーン




ステ「えええええええええええええええええええ!?
   イノケンティウスがショック受けて帰ったぁぁぁーーーーっ!?」ガビーン!

イン「ふぅ……『強制詠唱』が無かったら即死だったんだよ(もとはるが)」

ステ「そんなスラングですらないノタリコン成立するかぁぁぁぁ!!!」

<> 第二部 エピローグ<>saga<>2011/09/29(木) 21:01:05.49 ID:XrKTSRGI0<>

当麻「なにやってんだよ、教会でボヤ出す気か!?」

青ピ「今の巨人さんが暴れてたらボヤじゃ収まらんけどねー。
   インデックスちゃんお久しぶりでんなぁ! 今日は青の修道服なん?」キャッホーイ

イン「全身白尽くめじゃあ花嫁さんに対して失礼だもん。
   でも、『歩く教会』じゃない修道服なんて生まれて初めてで落ち着かないんだよ」ムズムズ

青ピ「似合うてる似合うてる! 真っ白の清楚な感じもエエけど、
   クールビューティーって感じの青も相当にそそるわー!」イヤッフー!

ステ「………………」チッチッチッ

浜面「ハハッ、騒がしい奴らだなー」

元春「いやいや全くだにゃー」

ステ「元を糾せば君のせいだろうが!」

元春「………………?」クルッ

ステ「貴様だシスコン軍曹ぉぉぉぉぉ!!!」



イン「もとはる、久しぶり。まいかは元気?」

元春「おう、大食い最大主教から解放されて日々をゆったりと…………
   過ごしてくれないんだよなぁ。もっといちゃつきたいぜい舞夏ぁぁ……」

ステ「彼女は生粋の仕事人間だからね」ハハッ

イン「………………」シラー

元春「お前が言うな」

当麻「お前が言うな」

浜面「お前が言うな」

青ピ「あんさんが言うてもあきまへーん」

ステ「後ろの三人乗っかっただけだろうが!!」

<> 第二部 エピローグ<>saga<>2011/09/29(木) 21:02:38.46 ID:XrKTSRGI0<>

ステ「それにつけても土御門、昨日はよくもやってくれたな」

イン「? 昨日どうかしたんだっけ?」

元春「へ? …………おいステイル、ちょっとツラ貸せ」クイクイ






ステ「なんだい」イライラ

元春「インデックスの様子が、俺の想定とはだいぶ違うんだが」ボソボソ

ステ「何を想定してたんだい君は。本人曰く、昨晩の記憶が飛んでるらしくてね」

元春「…………ふーん、そりゃ残念だぜい。予定通りにいってりゃ今ごろ……」ブツブツ

ステ「だ・か・ら・この上どんなトラップを仕掛けて僕らを弄ぶつもりだったんだ!
   余計なお節介ってレベルを気軽に逸脱しすぎだろうが!!」

元春「そんな事言って、実際良い機会になっただろ?
   わだかまってたもん、残らず燃やし尽くしたか?」



ステ「…………ちっ。ああそうだよ、僕の心は決まった。もう立ち止まりはしない」



元春「そうか、良い面構えになったな。頑張れよ」

ステ「ぐ…………あ、ありがとう」

元春(何とか丸めこめたぜい)フゥ

<> 第二部 エピローグ<>saga<>2011/09/29(木) 21:04:17.64 ID:XrKTSRGI0<>

当麻「へー。あいつらってただの仕事仲間だと思ってたら、意外と仲良いんだな」

イン「………………」

青ピ「インデックスちゃーん、あかんわ男にまで嫉妬丸出しでガン見してぇー」

イン「…………え? さ、流石に男の人にはJealousyしたりしないんだよ!」アタフタ

浜面「女には剥き出しだって認めたな」

イン「はううっ!!」

青ピ「スーさんとはその後どうなん? ちゃんとやる事やっとりますか自分らぁ?」

イン「ややややや、やる事っていったい何なのかな!?」

浜面「またまた奥さん惚けちゃってー! 決まってんだろ、一緒のベッドに飛び込んでセ」

当麻「言わせねーよ!? オイお前ら、ステイルが死ぬほど睨んでるからその辺にしとけ」

ステ「………………………」ボボボボボボボッ

青ピ&浜面「」



ンギャアアアアアアアアアアッ!! ×2



イン「そっか、青ピがなんでいるのかと思ったららすとおーだーのお姉さんの旦那さんなんだよね。
   デルタフォースなんて呼ばれてた三馬鹿もみんなそれぞれ
   立派に所帯を持つようになって、おねーさんは嬉しいんだよ」ホロリ

当麻「だからお前同い年だろーが!」

元春(ここでの『お前が言うな』は地雷のかほりがするにゃー)

<> 第二部 エピローグ<>saga<>2011/09/29(木) 21:06:08.66 ID:XrKTSRGI0<>

移動中…………


食蜂「ねぇねぇ雲川さぁん、勿体ぶってないでその超小型キャパシティダウン外してよぉ。
   どうせ私の絶対運命決定力にかかればお見通しになっちゃうんだからぁ」ユサユサ

雲川「そのコイントスの裏表を自由自在に操れそうなパワー、
   どう考えても人の“そういう”秘密を見破れる類の代物とは思えないんだけど」

食蜂「またまたそうやって話を逸らそうとするぅ。
   ねえ親船さん、上司として一言注意してあげてくださいよぉ」

雲川「統括理事長! 御承知の事と思いますがこの女に対外秘の
   トップシークレットを盗まれたら取り返しがつかないんだけど。どうかご熟慮を」

親船「………………芹亜さん、私を誰だと思ってるのかしら? 
   あなたの負担を悪戯に増やすような真似はしないわ」

雲川「…………これは失礼しました。差し出がましい口を聞いたようで」




親船「操祈さん、実を言うと芹亜さんは今……………妊娠二カ月なの」




雲川「統括理事長ぉぉぉぉぉ!!!!!???」

親船「母親になるという実感が湧いたばかりでとても不安定な時期だから、
   あまり心身を揺さぶらないよう、でも友人として側に付いて居てくれないかしら?」

食蜂「んまぁ。あらあら、あらあらあらぁ、おめでとぉ!! 
   く、雲川さん! 困った事があったら何でも言ってねぇ?
   そうだ私、長点上機医大にちょっとしたコネがあるのぉ!
   例の病院にいる世界一のお医者様はいつでも忙しい身だしぃ、
   学園都市で二番目の産婦人科医に雲川さんの専属になってもらうわ!!」ウキウキ

雲川「余計な事をしないで欲しいんだけどっ!!
   く、くうっ、もしこんな事が土御門の、いや魔術サイドの誰かの耳にでも入ったら……」

<> 第二部 エピローグ<>saga<>2011/09/29(木) 21:08:03.68 ID:XrKTSRGI0<>

ステ「………………」

イン「………………」

雲川「」



イン「…………えっと、おめでとう? せりあならきっと良いお母さんになれるよ。
   私の友達にも今度新しくお母さんになる人がいるんだけど、よかったら紹介しようか?」

親船「まあインデックスさん、お気遣いありがとうございます! 
   やはり持つべきものはいいお友だちよねえ、芹亜さん?」

雲川「  」

ステ(………………可哀想に。ん、待てよ? 
   妊娠……『せりあ』……つい最近どこかで聞いたようなワードの羅列だな……)ウーン

雲川「    」



食蜂「雲川芹亜は生まれて初めて心の底から震えあがった……
   真実の暴露と決定的な情報流出に……。出産への不安と絶望に涙すら流した。
   これも初めてのことだった……雲川はすでに羞恥心を失っていた」

雲川「オイ! 勝手にナレーションを付けないで欲しいんだけど!!
   それからとりあえず羞恥心は失いたくないんだけどーーーーーーっっ!!!」

食蜂「私の改竄力にかかればナニだろうと、どうとでもなっちゃうわぁ」

雲川「何を改竄するつもりだぁぁぁ!!!」

<> 第二部 エピローグ<>saga<>2011/09/29(木) 21:10:18.90 ID:XrKTSRGI0<>

ギャーギャー!


ステ「統括理事長、いらしていたのですね」

親船「ええ。この度はお二人にもご助力いただきありがとうございました。
   学園都市二三〇万の学生を預かる身として、改めて深く感謝申し上げますわ」ペコリ

イン「お力になれて光栄です、統括理事長。
   しかしやはり全ては、かつて『学生』だった彼らの尽力あっての事と思います」ペコリ

親船「ええ、ええ。頼もしい子供たち……いえ、もう立派な大人なのだと、つくづく実感しました」



ステ「…………今日はあちらの二人と、職場の関係で?」

親船「それはもう、一方通行くんは私の警備主任ですから。
   常日頃お世話になっている身として当然の事ですよ。
   これで披露宴形式だったなら上司として一席、職場での彼の心温まる
   エピソードをお集まりの皆さんのお耳に入れようかと思ってましたのに」

イン「あたためられーたの心アクセル話…………? それは興味津津にならざるを得ないかも」

ステ「なんだい一方加熱(アタタメラレータ)って。コンビニ弁当か」

親船「そう、あれは彼が初めて職場に手製のお弁当を持参してきた日の事です。
   私や他の警備チームの面々がその包みはどうしたんだと声を掛けると、
   彼は努めて不機嫌そうな顔で『クソガキに無理矢理持たされたンだよォ』、と」

ステ(今のはまさか、一方通行のモノマネか…………?)

イン(結構似てたんだよ)

親船「私たちが生あたた…………温かい視線を向けると彼は益々不機嫌になって背を向け、
   可愛らしいクマさんのプリントされた包みを解きました。
   しかし、その次の瞬間! ……一方通行くんはスケルトンの蓋越しに
   垣間見たお弁当の中身に、全身を凍りつかせてしまったの」

イン「い、いったいなにが!?」

<> 第二部 エピローグ<>saga<>2011/09/29(木) 21:12:05.46 ID:XrKTSRGI0<>

親船「……………………………………おでん」

ステ「……………………は?」

親船「何の変哲もない白いプラスチックの直方体を彩る、
   こんにゃく、がんもどき、はんぺん、ちくわぶ、ゆでたまご。
   それは一切の妥協も容赦も差し挟む余地のない、完全なるおでんでした」

イン「……………………う、うーん…………」

ステ「あー…………それは…………あれじゃないですか。
   昨晩の残りものを弁当に詰めこむ主婦の知恵を早くも体得していたとか」

イン「こ、コンビニおでんも捨てがたいんだよ! 一品70円であの味わいは
   ジャパニーズ・ジャンクフードの究極形態だと私は思ってるかも!」

ステ「経済観念が身に着いたのは実に結構だが、
   ロンドンに帰ってから信徒の前でそんな事を熱く語らないでくれよ」

親船「ところがどっこい、そのおでんは…………」

イン「そのおでんは…………?」ゴクリ



親船「打ち止めさんがお弁当のためだけに原料からこつこつ仕込んだ、
   一分の隙もないハンドメイドだったのよ!」

ステイン「な、なんだってーーーー!!??」ΩΩ

親船「一方通行くんが打ち止めさんのそんな健気な努力を無碍にできる筈もありません。
   結局彼は周囲の好奇の眼差しを真っ赤になって堪えながら、愛妻弁当を完食したのでした」

イン「うう…………泣けるお話なんだよ」ウルウル

ステ(………………確かに、泣ける。………………別の意味で)ホロリ



親船「こういう挿話をざっと二〇ほど用意していたのだけど……
   教会で式を行うと聞いた時はとーっても残念でしたわ」

ステ(一方通行が人前式を選ばなかったのはこれが原因だな、間違いなく)

イン(まあ、二次会に戦場を移されたらチェックメイトなんだけど)

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/09/29(木) 21:14:24.10 ID:XrKTSRGI0<>
続きますね

ビミョーなところですが今回はここまで
次は週末にお会いしましょー <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(京都府)<>sage<>2011/09/29(木) 21:59:17.25 ID:N1y4kl7a0<> 親船さんwwwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2011/09/29(木) 22:15:50.03 ID:XBIXDECpo<> >>1乙

親船さんいいキャラしてんなwwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(静岡県)<>sage<>2011/09/30(金) 20:12:38.42 ID:u1mGZHjH0<> 親船さん……フリーダムしすぎだろォ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/02(日) 15:58:02.34 ID:/OoeX7o40<> 乙wwwwww
打ち止めさんマジ女子大生妻
大学は農業か家庭領域専攻ですか?
<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/02(日) 18:35:00.29 ID:Ky/G7vJy0<>
どうもどうも>>1です
全体的に年寄りがいいキャラしてるのは単純に>>1の好みです
人生経験豊富なんだから若者を振り回してくれるはずですよね

>>77
一方さんチーッスww

>>78
能力を生かして電子工学とか、きっとそんなところじゃないでしょうか(適当)


それでは九時頃になったら投下に来まーす
<> 第二部 エピローグA<>saga<>2011/10/02(日) 21:03:01.19 ID:Ky/G7vJy0<>

移動中…………


美琴「あ、二人とも。どう、知った顔には会えた?」

ステ「会えたというか、この教会知った顔で埋め尽されてるんだが」

イン「今のところ一人を除いて全員だもんね……あと、そっちの二人も」



初春「どうもー、おはようございます」

結標「あら、五日ぶりねインデックス」

イン「そっか、あわきはもとはるの昔の同僚なんだもんね。一方通行とも……」

結標「そ、奇妙な縁で結ばれてるってわけよ。いま新郎控室に顔出して来たんだけど、
   ぷぷっ! 永久保存したくなる阿呆面だったわー。
   私たち『グループ』に宛てた招待状は奥さんに無断で出されたみたいね」

ステ「よく考えれば当然の事だね。君ならまだしも、
   一方通行が土御門を呼ぶなんておかしいとは思ってたんだ」

イン「かざりも、あくせられーたの友達なの?」

初春「私は昔、花嫁さんの方とちょっとした事で知り合いまして。
   美琴さんの妹さんと知ってからはちょくちょく一緒に遊んだ仲なんです」



美琴「初春さんはともかく、結標さんとまで顔馴染みだったなんてね……。
   インデックスって意外と顔広いわよね。例の事件でも一緒だったんでしょ?」

ステ「戦場は街のあちこちにばらけていたから、合流したのは最後の一幕だけだがね」

初春「ウチのビルでやった最大主教さんの大食いワンマンショーですねー」ニコニコ

イン「!? ちょ、かざり、それは秘密にって」

美琴「ほーう? それは楽しそうじゃない、是非私も呼んで欲しかったわねー?」

イン「」タラタラタラ

<> 第二部 エピローグA<>saga<>2011/10/02(日) 21:04:24.31 ID:Ky/G7vJy0<>

美琴「私ってばステイルくんからもなーんにも教えてもらってないわー」

ステ「…………ほ、報告の義務など負った覚えはないね。
   だいたいあの日は戦闘に次ぐ戦闘で半日以上も腹を満たす暇がなかったんだし」タラタラタラ

結標「そっちの神父さん、『今日ばかりは我慢しなくても構わない』
   とか言ってむしろ煽ってたわね」

ステ「んがっ!!」

初春「本社の備蓄食料全部使い切っちゃって、
   地下シェルターから非常食まで持ち出しましたもんねー」アハハ

美琴「………………」バチバチバチバチ



イン「みみみみみこと、冷静になって欲しいんだよ! 
   いくら私がイギリス清教の宇宙胃袋(ブラックホール)と呼ばれてたところで
   数百人分の食料なんてとてもじゃないけど食べきれないかも!
   あの日あのビルには百人ぐらい避難してた人が残ってたから、
   私はあくまでその余り物を頂いたのであって」

美琴「(X−1)百人分を全て吸い込んだって事でしょーが
   余り物ってレベルじゃねーぞゴルァァァァァァ!!!!!
   そんなド派手なスーパーイリュージョンを人様んちで披露してんじゃないわよ!!」

イン「うう……だってだって、ていとくがいくらでも食べていいって言うから!」

美琴「人のせいにしないの!」プンスカ

イン「人じゃないもん冷蔵庫だもん!」プンスカ

美琴「冷蔵庫がひとりでに開いて食事を振る舞うわけないでしょうが!」


「「「「プッ!!!」」」」


<> 第二部 エピローグA<>saga<>2011/10/02(日) 21:08:06.17 ID:Ky/G7vJy0<>

美琴「へ?」

ステ「み、美琴…………! すまないが、今のはツボだ…………! プッ!!」ブルブル

イン「の、脳内ていとくが、お腹の中からご飯、出してきたんだよ! 
   あっ、あははははは! ひーっ、ひーっ!! おなか痛い!!!」バンバンバン!

結標「あの、羽で、くくっ、ど、どうやって料理すんのよぉ! 
   エプロン付けてるとこ、想像しちゃっ、くっ、くくくくく!!!!」ププププ

初春「メルヘンクッキング(笑)…………!
   俺の未元料理(ダーククッキング)にじょ、常識は………………!!」プルプル

美琴(こ、この疎外感はなに…………?)



十分後



イン「あー、落ち着いた。たくさん笑ったらおなか空いたんだよ」フウ

美琴「なにをそんな馬鹿ウケしてんのよアンタら……? とにかく今晩は食事抜きだかんね!」

イン「へっへーんだ、残念でしたー! 
   私たちの今日のディナーは優雅に機内食と決まっ……て…………」ハッ



初春「この間のお話では美琴さんが妹的ポジションで、
   インデックスさんマジ聖母! って感じだった筈なんですけど、おかしいですね」ハテ

結標「挙動不審っぷりの方がもっとおかしい事になってきてるけどね。
   あの子の身体チャンスで稲葉に回った時の札幌ドームぐらい揺れてるわよ」

<> 第二部 エピローグA<>saga<>2011/10/02(日) 21:09:11.61 ID:Ky/G7vJy0<>

イン「」ガクガクピクピクブルブル

美琴「ちょ、インデックス!? お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんかー!」

冥土返し「僕を誰だと思ってる?」ジャーンジャーンジャーン

美琴「げえっ、リアルゲ…………ああ先生! どうか、どうかインデックスを!」



ステ「ちょっとしたトラウマが呼び起こされただけだよ…………。
   あればかりは、彼女が自分の力で乗り越えるしかないんだ」トオイメ

結標「もう少しシチュエーションが良ければ共感できなくもないんだけどね、その台詞」

初春「『実の親の仇は育ての親だった! この葛藤を如何にして乗り越える!?』みたいな。
   それにしてもステイルさん、愛しのシスターさんがあの様子なのに意外に冷淡な反応ですね」

結標(DM社の厨二ネーミングはこの子が汚染源なんじゃ……)

ステ「訪日以来、飛行機と耳にするだけで拒絶反応を起こしてるからもう慣れっこで……。
   なにせ『ウルリッ“ヒ! 攻強(こうき”ょう)皇國機甲を呼べ!』ってセリフに
   反応して稲葉ジャンプを始めるぐらいだからね、もう僕も諦めてるんだよ」

結標「その謎のシチュエーションについての説明が何より欲しいわよ!!」

初春「む、次回作のインスピレーションがむくむく湧いてきました!
   『時は地球(グランドコア)暦300X年、外惑星(サテライト)の住人である
   凶星主(ヒドラ)の同化(グランドフォール)で両親を失った主人公ウルリッヒは、
   志(クリード)を共にする仲間(バーディ)と「攻強皇国機甲」のパイロットとして』……」メモメモ

結標「長い長い長い!! 無駄なルビ振り過ぎ! あなたいったいどこの世界の住人なの!?」

初春「実を申しますと私、『スク○ニ』への転職を視野に入れていまして」

結標「プリント裏の妄想で大作RPGが作れるなら誰も苦労しないわよっ!!」

<> 第二部 エピローグA<>saga<>2011/10/02(日) 21:11:28.08 ID:Ky/G7vJy0<>


治療中…………(美琴たちはどっか行った)



イン「…………はぁ、はぁ…………!」

冥土「気分はどうかな?」

イン「な、なんとか食欲が戻ってきたかも」ゼェゼェ

冥土「君の気分は食欲にしか左右されないのかな?」ヤレヤレ

10032「朝早くから司祭役として詰めておいでですのでお疲れなのではないでしょうか、
    とミサカはベテラン看護士としての経験から忠言させていただきます」

ステ「どうもありがとうございました、先生。ミス御坂もありがとう」

冥土「君の方も、昨夜は応急処置で済ませてしまったが具合はどうかね?」

ステ「おかげさまで、すっかり痛みはありませんよ。
   一方通行が手加減してくれたというのもあるのでしょうが」

10032「あれがそんな可愛い性格をしているとは思えませんが、とミサカは懐疑の眼差しを向けます」

ステ「…………そちらは?」





エツァリ「ご両人、二か月ぶりですね。とんだ再会になりましたが、任務お疲れさまでした」

ステ「…………誰だい、君は」ジロ

エツ「酷いですねぇ。あなた方が不在の間、誰が代役をこなしたと思ってるんですか」

ステ「……代役、という事は」

<> 第二部 エピローグA<>saga<>2011/10/02(日) 21:13:01.37 ID:Ky/G7vJy0<>

イン「声も顔も記憶に無いけど、その抑揚の付け方はエツァリのものだね」

エツ「ああ、そうでした。ステイルさんに扮して以降『海原光貴』に
   接触する機会など当然ありませんでしたから、
   これが自分の素顔という事になります。お見せするのは初めてでしたかね」

ステ「やはり君も招待されていたのか…………新郎本人は寝耳に水のようだったがね」

エツ「ええ、先ほど土御門さんと一緒に彼を訪ねたんですが、
   問答無用でエンジェルフェザー(笑)をお見舞いされて追い出されまして。
   せっかくですからショチトルたちの恩人にご挨拶に参ったという訳です」

ステ(よく生きていたな……さすが、腐っても魔導師)

イン「ショチトル、私の代役で大変じゃなかった? 病み上がりなのに…………」

エツ「神裂さんからもお墨付きをいただきましたし、自分の見る限りは立派にこなしていましたよ。
   多少の気疲れはあるでしょうが、体調は自分が四六時中傍について管理しましたので」

イン「ほっ…………」

ステ(四六時中…………ねぇ)



冥土「それでは、彼女の身体にその後異常はないんだね?」

エツ「ええ。全てはあなたと最大主教が御力添えくださったおかげです」

冥土「僕は仕事をしただけさ。心のケアは大丈夫なのかな?」

エツ「焦らずにゆっくりやっていきますよ。完全に落ち着いたら、あなたをイギリスに御招待したいのですが。
   ショチトルとトチトリがのびのび生きる様を、是非あなたにも見て頂きたい」

冥土「ふむ、楽しみにさせてもらうよ?」

ステ「それはもしかして、特別な催しに招くという意味かな」ニヤニヤ

イン「例えば、今日みたいな?」ニヤニヤ

エツ「………………自分たちの“それ”よりも先に、他の催事が執り行われる可能性大、ですがね」ニヤリ

ステイン「え?」

エツ「ふふふ、ロンドンに帰ってからのお楽しみですよ」

<> 第二部 エピローグA<>saga<>2011/10/02(日) 21:14:03.79 ID:Ky/G7vJy0<>

ステ(…………おおよその見当が付いてしまった自分が、幾分悲しい……)

イン「ねえ、くーるびゅーてぃー。他の『妹達』は来てないの?」

10032「誠に遺憾ながら、ミサカたち全員はとてもこの教会に入りきりませんので。
    その代わりと言ってはなんなのですが、お姉様の時にやった“アレ”を趣向を変えて再現してみようかと、
    とミサカは悪代官面をして極秘事項を打ち明けます」フッフッフ

ステ「ああ、“アレ”か。確か美琴は号泣してたね」

イン「そっか…………あの、それから」

10032「番外個体の事でしょうか」

イン「! う、うん」コクリ

10032「彼女なら、いま………………」




-------------------------------------------------------------------




番外個体「んっ、ひっく…………ひっ、く、う」ギュッ

美鈴「んー、よしよし。我慢しないでいいのよ」ナデナデ

旅掛「……………………ん? 君たちは」

イン「…………ど、どうも」

番外「!!」


ガバッ タッタッタッ

<> 第二部 エピローグA<>saga<>2011/10/02(日) 21:15:31.80 ID:Ky/G7vJy0<>

イン「わーすと…………」

美鈴「追い掛けなくても大丈夫。…………と言うより、今は放っておいてあげて」

ステ「申し訳ありません。邪魔をするつもりではなかったのですが」

旅掛「気にする事はない。あの子も心の中ではしっかり区切りを付けているんだよ。
   いまの涙は、最後に残ってしまった想いの一欠けらなんだ。…………罪な男だな」

美鈴「……ああそうそう、今日は二人ともありがとう。
   あなたたちにリードしてもらえば最高の門出になると思うわ」

イン「ここは結婚式専用の教会だから、あまり形式ばった事はしないつもりだけど。
   ………………せいいっぱい、二人が幸せになれるよう、頑張ります」ガチガチ

美鈴「ふふ、テレビで親船さんに挨拶してた時はあんなに凛々しかったのに。カワイー!」ダキッ

イン「あ、あわわ!」ワタワタ

旅掛「…………ステイル君、ちょっと二人でいいかな」

ステ「? 構いませんが」



旅掛「一方通行から聞いたよ。拳を交えて語り合ったって?」

ステ「厳密には違いますが、主旨はそうなりますね。しかし貴方はよほど彼に信頼されていると見える。
    あの一方通行が昨夜の対話を誰かに打ち明けるとは思ってもみませんでした」

旅掛「信頼、か。それは彼だけが知る事だな。ただ君も知っての通り、
    俺は一方通行に一〇〇三一回拳を叩きこんでる。もちろんその度に言葉も交わした。
    そういう中で、少しずつあの青年の心を覗いて来たんだ。
    …………そしてその俺の目から見て、君と彼は心の在り様がそっくりだ」

ステ「………………慧眼、ですね」

旅掛「なあステイル君。つまらない男の人生訓など、聴いていく気はあるかな」
   
ステ「是非、拝聴させていただきます」

<> 第二部 エピローグA<>saga<>2011/10/02(日) 21:17:04.51 ID:Ky/G7vJy0<>

旅掛「辛い今に堪えられなくなって膝が折れてもいい。ただ、その先に夢を抱え込んでくれ。
    一方通行が真の意味で俺の息子になったのは、彼が打ち止めと歩む未来を見据えながら、
    俺に殴られ、そして前に向かって倒れ込む事を選択したからだ」

ステ「…………僕は今まで、過去の“誓い”と“罪”に囚われて生きてきました。
    いけない事だとはわかっていても、どうしても振り払えなかった。
    昔の思い出に振り回されて、未来はおろか現在(いま)にさえ背を向けて」

旅掛「…………一方通行も言っていたんだがね。鏡のようだよ、君たち二人は。
    まるで他人だと思えない。だから俺は彼の眼に映った君の像を見て、
    今こうして君との対話に臨んだんだ…………もう、君は大丈夫なのかい?」

ステ「はっきりと悟りました。自分はもう、この過去を打ち捨てることはできない。
    できるものなら、十二年前のあの日にやっていた。だから僕は、この重荷を引き摺ります。
    いつの日か雁字搦めにされて身動きがとれなくなっても、目指したい“夢”があるから」

旅掛「………………そうか、心配する必要はなかったようだな。
    君との対話の中で一方通行も、また少し変わったような気がするよ。
    では最後に、人生の先輩として少しだけ良い顔をさせてもらおうかな」

ステ「?」

旅掛「君の人生はまだまだこれからだ。もしにっちもさっちもいかない事があったら、
    いつでも俺を…………俺達『ミサカ』を頼ってくれ。
    地球上のどこだろうと駆け付けて、こう聞かせてもらうからな」





「君たち二人の世界に足りないものは、なーんだ?」





<> 第二部 エピローグA<>saga<>2011/10/02(日) 21:18:35.76 ID:Ky/G7vJy0<>

美鈴「男同士の秘密のお話は終わったー?」

イン「………………ふーんだ」

ステ「何を拗ねているんだい、君は」

イン「拗ねてないもん」プイ



スタスタ スタスタ



黄泉川「おや、最大主教とその腰巾着じゃんよ」

イン「…………るいこの上司の、ヨミカワ、さん?」

ステ「い、いきなり辛辣ですね……確かにあの時は茶を濁して悪かったとは思いますが」

黄泉「はっはは、冗談じゃんよ! まあ、警備員本部ぐらいには
   情報開示して欲しかったけど、お前達に言ってもしょうのないことじゃん」

ステ「そう言って頂けるとありがたいのですがね」フゥ

芳川「あら愛穂、この子たちと知り合いなの?」

イン「子供扱いはしないで欲しいんだよ…………っていうか、
   あくせられーたと理事会ビルで漫才してた人に言われたくないかも」

ステ「あの後結局、上条当麻と雲川女史に飯をたかったらしいですね」

黄泉「桔梗…………どういう事だか後で説明するじゃん」

芳川「私に檻の中なんて厳しい環境は堪えられないわ」

黄泉「あんたの現生活環境は既にブタ箱同然じゃん! っていうか本当に何をやった!?」

<> 第二部 エピローグA<>saga<>2011/10/02(日) 21:20:07.99 ID:Ky/G7vJy0<>

旅掛「黄泉川先生、芳川さん。お久しぶりですね」

黄泉「こちらこそ、御無沙汰しております。誠にめでたい日を無事迎えられましたね」

美鈴「お二人はアーくん……一方通行くんの御家族として?」

芳川「ええ。私たちは今日、彼の妹さんたちと一緒に新郎親族席ですわ。
   普段は口が裂けてもそんな事認めないんですけど、あの子」フフフ!



美鈴「…………芳川さん」

芳川「はい?」

美鈴「ご無理はなさらないで下さいね」

芳川「!!」

旅掛「俺のもので良ければ、このハンカチを。雫が溢れそうですよ」

芳川「…………申し訳ありません、あなた達の前で、こんな。
   ご迷惑なのはわかってます。でも、嬉しいんです。
   きょ、今日という日に、こんな女を、あの席に、呼んでくれて」

黄泉「桔梗……」

旅掛「芳川さん。子供たちもそれぞれに、重荷と不安を背負って未来に歩き出すんです。
   せめて私たち親は、笑顔で送り出して、見守ってやろうじゃありませんか。
   ………………『実験』が、本当に決着を迎えるその日まで」

芳川「御坂さん…………ありがとう、ございます」



ステ(……最大主教)

イン(……うん。これ以上ここにいても、お邪魔になっちゃうだけかも)

<> 第二部 エピローグA<>saga<>2011/10/02(日) 21:21:34.13 ID:Ky/G7vJy0<>
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外の空気を吸いたいと言って、インデックスは教会の裏庭に出た。

傍らには勿論、この五年間を最も多く共に過ごした大切な男性(ひと)。


「九時三十分。そろそろ戻った方がいいね」


取り留めのない雑談に終始して、ステイルが掲げた懐中時計を合図に屋内に引き返そうとする。

花嫁がくぐり、花婿と共に出ていくだろう教会正面の大扉へと回って――――




「あ………………」




そこに、上条美琴と彼女に抱かれた愛娘――――そして、上条当麻がいた。

四人の男女の時が一斉に止まったように、インデックスには感じられた。









「行っておいで」


呼吸さえ止むような重苦しさの中で、最初に動いたのはステイルだった。

肩をそっと押されて、ようやくインデックスは“ある事実”を悟った。

<> 第二部 エピローグA<>saga<>2011/10/02(日) 21:23:42.25 ID:Ky/G7vJy0<>

(あの時……)


三ヶ月ほど前の、ロンドンでの事だった。

土御門がインデックスの提案を組み込んだ作戦を清教派の主だった面々に明かすと、

火織をはじめとして天草式やアニェーゼ部隊までもがリスクが高すぎると反対してきた。

苦笑いした土御門に彼らを説得する妙手があったのか、今となっては解らない。



『僕は賛成だ。要は、僕が彼女を護ればいいんだろう』



最も声高にインデックスの安全を主張する筈の男が、静かに賛同の意を示したからだった。

彼がどうして、庇護すべき対象を危険に晒す可能性のある日本行きに賛成したのか。


(ステイル、あなたは、私の為に)


ステイルは、自分と上条当麻を引き会わせる為にあらゆる苦難を被る事を。


(私が、とうまと向き合うチャンスを作る為だけに)


――――既にあの時、決意していたのだ。


それを悟った時、インデックスは踵を返して彼の無上の愛に甘えたくなってしまった。

この終わりの見えない懊悩が終わる瞬間から逃げ出して、彼の胸に飛び込んでしまいたかった。

<> 第二部 エピローグA<>saga<>2011/10/02(日) 21:25:44.84 ID:Ky/G7vJy0<>

「………………うん、行ってくるね」


しかし、逃げる訳にはいかない。

このままではインデックスは彼に、偽りの、贋物の愛しか傾けられない。

それはステイルの誠心を著しく乏しめる行為だ。

だからこそ、どんなに苦しくとも前に進まなければならない。

一歩踏み出す。



  T P I M I T S P F T
「これよりこの場は彼らの隠所と化す」




そう唱える声を最後に、ステイルは蝋燭を吹き消すように気配を絶った。



「…………じゃ、あんたも行ってらっしゃい」



インデックスが一人で歩み出すのを見て、美琴が上条の肩をポン、と叩いた。

美琴はくるりと二人に背を向けて、真理に何事か語りかけながら青空を眺める。

インデックスと美琴の視線は、一瞬たりとも交わらなかった。

<> 第二部 エピローグA<>saga<>2011/10/02(日) 21:27:10.58 ID:Ky/G7vJy0<>

「とうま」


そしてまた上条当麻も、一歩ずつ、足の裏で大地を噛みしめるように進む。


「インデックス」


己の呼びかけに答えて、羽のように軽やかに名前を呼んでくれた。


一歩。

一歩。

一歩。


やがて二人は、大扉の真正面で出会う。

今にも密着しそうなその距離、十五センチ。

インデックスはかつてよりだいぶ背の伸びた青年を見上げた。


「とうま、聞いてくれる?」


誰かを守るために闘って闘って、その度に傷を刻まれ続けた逞しい肉体。

どんな権力や暴力にも屈さない生き様を体現したかのようなツンツン頭。

時に敵を慈しみ、時に味方さえ喝破して、感情のままにくるくる回る表情。

<> 第二部 エピローグA<>saga<>2011/10/02(日) 21:28:16.15 ID:Ky/G7vJy0<>

「なんだ、インデックス」


胸の奥から湧き上がる信念を、何よりも強く、如実に映し出す瞳。

そしてインデックスを、御坂美琴を、星の数ほどいる何処かの誰かを、

ひたすらに苦境から、不幸から、地獄から、引きずり上げてきた右腕。





その全てが、インデックスには無性に愛しかった。





わだかまり続けていた上条当麻への想いを晴らすために来たこの街で、

しかしインデックスはステイル=マグヌスといくつもの昼と夜を越えた。

ぶつける感情を避わさず受け止めてくれるようになった彼に対して、

何度言っても己を守るために無茶を重ねてしまうステイルに対して、日増しに想いは募っていった。

上条への思慕を、このまま行けばすんなり諦められるのではないか。

ステイルの手を初めて握って、握り返してもらったあの日、確かにインデックスはそう思った。

<> 第二部 エピローグA<>saga<>2011/10/02(日) 21:30:26.25 ID:Ky/G7vJy0<>










しかし、それは叶わぬ夢(げんそう)だった。






「インデックス=ライブロラム=プロヒビットラムは、上条当麻を愛しています」







<> 第二部 エピローグA<>saga<>2011/10/02(日) 21:31:55.09 ID:Ky/G7vJy0<>

ステイルへの恋慕が募れば募るほど、上条当麻への想いも何故か同時に膨らんでいった。

二つの風船は熱情を吹き込まれて際限なく膨れ続ける。

彼女の身体は二人の男性へと勝手に注がれる愛と、罪の意識で、破裂する寸前だった。



「十一年前のこの日、『あなた』に初めて逢ったあの日から、
 学園都市で過ごした五年の間も、ロンドンへ“渡って”からの六年も」



インデックスは、あまりに『愛』の広すぎる女だった。

善にも悪にも富める者にも貧しい者にも分け隔てなく愛を与える事のできる、

聖書に説かれるような『無限の愛』の持ち主だった。

だから上条当麻という少年が目の前に現れた時、

その広大な愛をたった一人の男性に向ける事に戸惑い、持て余した。

かくしてインデックスは、御坂美琴との恋の鞘当てに敗れた。

本人も理解していない彼女の本質を、十二年間彼女の為に生き続けてきた男は知っていた。

そして、もう一人。



「ずっとずっと、あなたが好きでした」



今こうしてインデックスが、砕けるさだめの愛を消え入るような声で告げているのは、

皮肉にも彼女の愛の正体を見抜いてしまった恋敵に、背中を押されたからだった。

<> 第二部 エピローグA<>saga<>2011/10/02(日) 21:34:09.48 ID:Ky/G7vJy0<>

(みこと)


気を抜けば鎌首をもたげそうになる『ある感情』を必死に殺しながら、

決して長くはない、しかし凝縮された思いの丈を絞り出し終えて、インデックスは呼吸を大きく乱していた。

懺悔にも似た告白の間、上条は瞬きせずにじっと彼女の翠玉と射線を重ねていた。

だが数多の対峙者にその信念をぶつけてきた弾丸は、何時まで経っても銃口から放たれなかった。



「とうま」



最後に、あと一度だけ。

それでこの想いを捨て去ろう。

身震いしながら決意したインデックスは深呼吸を繰り返す。

息を整える間も、上条は一言も発さず、ただ彼女を見つめていた。



「インデックスは、あなたを一人の男性として、あいしています」



全てを告白したインデックスは瞼を下ろす。

そうして、十年越しの愛が真に破れる瞬間を待った。

<> 第二部 エピローグA<>saga<>2011/10/02(日) 21:35:01.11 ID:Ky/G7vJy0<>



待って、




待って、












待ち続けて。


















<> 第二部 エピローグA<>saga<>2011/10/02(日) 21:36:37.42 ID:Ky/G7vJy0<>


「ああ、俺もだ」



目を見開く。

耳がおかしくなったのかと思った。











「お前を一人の女として愛してる、インデックス」












全身に走った、締め付けられるような痛み。

それでインデックスはようやく、自分が上条当麻に抱き締められている事に気が付いた。


<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/02(日) 21:37:40.72 ID:Ky/G7vJy0<>
続く

では一週間以内にまたお会いしましょう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(京都府)<>sage<>2011/10/02(日) 22:19:58.38 ID:yXXP6VRc0<> えええええええ

とりあえず来週が待ちきれない・・・!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/10/02(日) 23:48:51.12 ID:T9zPROcTo<> どどどどどういうここここあらばぼ(^-^)/ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/03(月) 23:41:05.45 ID:qt2Ld+pIO<> おおおお落ちちちつけけけかきくけけけけけ((((;゚Д゚))))))) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/10/05(水) 23:48:09.62 ID:p7mWgzUKo<> オーケー、落ち着こう
俺は酒やクスリやオカルトには手を出してないし、たっぷり八時間睡眠取って起床してから三時間は経過してる
良い具合に眠気も取れてるし、確かにスレタイだって確認してる
その割にあれだあれ、なんかおかしいな
何かがおかしい

えっ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(滋賀県)<>sage<>2011/10/07(金) 16:00:46.12 ID:V1zsWiUg0<> どういう事だってばよ



どういう事だってばよ <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/07(金) 21:34:43.77 ID:8dWE3JNo0<>
どうも>>1です

皆さんの肝を「えっ」と冷やせたなら大成功だったんですが
そこから更に突き抜けるだけのパワーある展開を持ってくるのは自分にはなかなか難しそうです
つまり何が言いたいかというとここから先は上条さんのターン! ってことですねー↓ <> 第二部 エピローグB<>saga<>2011/10/07(金) 21:36:49.14 ID:8dWE3JNo0<>

日本に渡って、最初の夜だった。


『私はね、みこと。まだ、とうまを――――――未練がましく、愛、してるの』


インデックスが醜い『熱』を告白したその瞬間、美琴は。


『――――――――』

『え…………?』


倒れ込むように、純白の法衣にすらりとした身体を密着させてきた。

第三者がいれば、美琴がインデックスを抱きしめているようにも、その逆にも見えただろう。

インデックスは言葉を失い、そろそろと真横にある美琴の耳元に視線を移す。


『………………あとちょっとで、謝っちゃうところだったわ』


心臓が、大きく跳ねた。

上条当麻を射止めた“女”に同情丸出しの謝罪をぶつけられたら、

インデックスはより一層醜い激情を暴露して、更なる自責の念にかられていたかもしれない。

その事を上条美琴は、あるいはインデックスよりも正確に理解していたのだ。


『そうよね、忘れられる訳なんて無いわよね、あんな無茶苦茶な男。
 私だって、当麻以外の男に焦がれてる自分なんて想像できないもん』


それは、同じ男を愛したが故の極めて精緻な共鳴だった。

インデックスは美琴が彼から貰う幸せを自分の喜びとして捉えられたし、

美琴はインデックスが彼に抱くどうしようもない愛惜を自分の悲哀として受け止められた。

<> 第二部 エピローグB<>saga<>2011/10/07(金) 21:37:53.48 ID:8dWE3JNo0<>

『ねえ。あなたは六年前、イギリスに帰る前にちゃんと当麻に告白した?』

『そ、そんな事できるわけないんだよ! だって……』


過去を問うてきた美琴に息せき切って言い返そうとして、

インデックスはその先の言葉を六年間飲み込み続けてきた自分を発見した。


『だって?』

『だっ、て………………』




――だってとうまには、私の事を忘れて幸せになって欲しかったから――




たったこれだけの胸中を、今までインデックスは一人を除いて誰にも晒した事がない。



忘れて欲しいのに、忘れて欲しくなかったから。

忘れたいのに、忘れたくなかったから。



二律背反する命題に苛まれて複雑にねじ曲がった懊悩が心にもない、

否、心の底からの咆哮を導いてしまわないか、恐れていたからだった。

黙りこくったインデックスに、美琴が眦を下げた。


『…………インデックス、提案があるわ。
 私には、これ以外にはない、と思える「あなたのやるべき事」が見えた』

<> 第二部 エピローグB<>saga<>2011/10/07(金) 21:39:16.82 ID:8dWE3JNo0<>

『それ、それって、私がとうまを諦める方法、って事?』


美琴は正しい。

それはインデックスにも理解できていた。

この想いは六年前に決着がついていてしかるべきだったものであり、

先延ばしにすればするほど身動きがとれなくなってしまうだろう。

冷徹で残酷な、しかしインデックスの事を心から慮っている提言だ。

それでも『ある感情』が内側で胎動を始めるのを、彼女にはとても止められなかった。

美琴がそっと触れ合っていた体温を押し離す。



『当麻に、告白しなさい』



そして正面から向き合ったインデックスに、心の臓を貫くような雷光を解き放った。

インデックスは再び言葉を失って、だらしなく口を開け閉めするので精一杯だった。


『私の存在も、ステイルの存在も関係なしに。
 当麻に、いまあなたが抱えてるこんがらがった心情の“全て”をぶっつけるべきよ』

『玉砕、しろって、こと?』

『………………………………そう、なるのかしらね』

『…………ぁ、っ!!』


そこから先は、よく覚えていない。

酷い暴言を吐き出してしまう前にソファを立って、バスルームに向かったような気がする。

結局その後インデックスと美琴がこの話題を蒸し返す事は、七月十九日まで一度たりともなかった。

<> 第二部 エピローグB<>saga<>2011/10/07(金) 21:40:36.32 ID:8dWE3JNo0<>
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あの時の美琴の、どこか遣る瀬無いような表情を今更ながらに思い出して、

インデックスは自分がどこまでも救いようのない女なのだと悟った。

共鳴の中でも、響いてこない音がある事に気が付かなかった。

己の懊悩にのたうつばかりのインデックスはステイルの決意に続いて、

美琴の、大好きな妹分の厚意を、好意を、見過ごしていた。


「愛してる、インデックス」


インデックスの邪恋も甚だしい告解に、愛する夫がどう応えるのか。




(みことは、最初から、知ってたんだ)




五年間、最も多くを共に過ごした彼女が気付いていない筈がなかったのだ。


「あ、あ………………と、とう、ま」


ずっとずっと魂の根源から求めていた男性(ひと)に、自分はいま抱かれている。


(そっか。今日は、『歩く教会』じゃ、ないんだ)


良く考えれば再び日本の地を踏んでから、当麻に初めて触れてもらった。

二人を隔て続けていた純白の衣を、花嫁の為に今日だけは脱ぎ捨ててきたからだ。

もう、何一つ障害などありはしない。

このまま彼の温かな心の海で溺れてしまいたくなって、インデックスはゆっくりと瞼を下ろした。

<> 第二部 エピローグB<>saga<>2011/10/07(金) 21:41:26.37 ID:8dWE3JNo0<>


















『行っておいで』





「――――――――――――――――――――ッッ!!!」




<> 第二部 エピローグB<>saga<>2011/10/07(金) 21:42:57.60 ID:8dWE3JNo0<>

これだ。

これだから、インデックスという女は救われないのだ。

つい先ほど鼓膜の奥に刻み込まれた声を聴いて、

身を委ねていた大海は瞬刻すら待たず、底なし沼へとその姿を変えていた。

肌を火照らせ、同時に湿らせる、恥知らずの微熱だけは変わらぬままに。

しかし、このまま浸っていれば――――


(これ以上、この熱に身を委ねてたら)


美琴は、真理は、彼は、どうなってしまう?

解りきっている事だ。



破滅。



こんなつまらない女が一時の快楽に身を任せようとしたために、

大好きな『家族』を破滅に追いやりかねない。

美琴と真理の輝かしい未来に、永久に拭えない泥を被せてしまう。

当麻が家族を捨てる可能性など億が一にも産むわけにはいかない。



そして、“彼”はおそらく一生――――――



<> 第二部 エピローグB<>saga<>2011/10/07(金) 21:43:57.22 ID:8dWE3JNo0<>




「とうま! 離してッ!!!」





懇願は、絶叫となって広々と晴れ渡る蒼空に抜けていった。

身を捩って、愛する人の拘束を振り払おうとする。


「離して、離してっ、離してえ!!!!」


求めていたものを自ら遠ざける行為が、

抱かれる身体の更に内側の、心臓まで締め付けているようだった。

しかし、今すぐにでもこの爛れた熱を手離さなければ、待っているのは――


「なんでぇ…………?」


それでも。

愛を告げた女性の嘆願が空気を鋭く裂こうとも。




「どうして、離してくれないの、とうまッ!!!」




上条当麻はインデックスを狭い檻に閉じ込めて、放とうとはしなかった。

<> 第二部 エピローグB<>saga<>2011/10/07(金) 21:45:00.53 ID:8dWE3JNo0<>

「『どうして』、か」

「………………え?」


膂力で女が男に敵う筈もない。

インデックスが体力尽きて抵抗を中断した時、上条が頭上で囁いた。


「そりゃ俺の台詞だ、インデックス」


女は腕の中に閉じ込められているため、男の表情を窺い知る事はできない。


「どうしてお前は、俺に離して欲しいんだ?
 どうしてお前は六年前、何も言わずに行っちまったんだ?」


「とうま、なにを」







「どうしてお前はいつも、大事な気持ちを胸に溜めこんだまま――――逃げようと、するんだ?」







<> 第二部 エピローグB<>saga<>2011/10/07(金) 21:47:09.18 ID:8dWE3JNo0<>

浸かっていた沼が零下まで冷え込んだ。

肺の奥底から絞り出されたような声が、明らかに糾弾の色を帯びていた。


「――――逃げた? わ、私が?」

「ああそうだ。六年前、突然お前はロンドンへ“行く”なんて言い出した。
 俺と美琴は必死で説得したけど、お前は他には何も言わずにただ笑うだけで。
 そうやって、学園都市を去っていった。逃げたんだ、お前は」


一度も己に向けられた事のなかった、上条当麻の心底からの憤怒。

インデックスは言い知れぬ恐怖感に身を縮こませる。

すると彼女の反応を感じ取ったのか上条は、遂に両腕の力を抜いてインデックスを解放した。


「俺には、お前を追いかけるって選択肢もあった。でも俺は、美琴を選んだ後だった。
 その上ロンドンにはお前の事を一番に考えてくれる奴が二人もいる」

「――――――俺も、逃げたんだ」

「世界で一番守りたい女の子への気持ちに、立ち向かう事を止めて逃げたッ!!」


語気は少しずつ弱まっていき、しかし最後に後悔の念を孕んで爆ぜる。

それでもインデックスは動けなかった。

恐ろしくて彼の顔を見上げられなかった。


「俺はずっと、お前の事で悩んでた。今でさえ、一人の男としてお前を守ってやりたい。
 お前は俺を愛してくれてて、俺はお前を愛している」


愛している。

たとえ嘘でも、そう言ってくれて嬉しかった。

たとえ嘘でも、告げさせてはいけない言葉だった。

インデックスが蒼白になりながら面を上げると、彼は自嘲するように微笑んでいた。


「それでも」
<> 第二部 エピローグB<>saga<>2011/10/07(金) 21:47:55.90 ID:8dWE3JNo0<>




「俺は、お前の気持ちにはどうしても応えられない。
 家族を、美琴と真理を愛する気持ちは、幻想なんかじゃ決してあり得ない真実だから」





それこそ、インデックスが一番欲しくない言葉だった。

















そして、上条当麻に一番告げさせたかった言葉だった。



<> 第二部 エピローグB<>saga<>2011/10/07(金) 21:50:04.81 ID:8dWE3JNo0<>

終わった。

インデックスの初恋は、完膚なきまでに破れた。

これで、良かったのだ。

――――――なのに。


「これが俺が六年前、お前から逃げ出した挙句に、伝えられなかった言葉さ。
 なあインデックス。お前の澱は、あれで本当に全てなのか?」

「やめ、て」




それでも上条当麻は内側で鼓動する信念のままに、前進を止めようとはしない。


「もう、終ったの。とうまにはみこととまことがいるから、
 もし本当に私を愛してくれているんだとしても、どうにもならないんだよ。
 そんな事は、最初から、ずっと昔から解りきってた!! 
 なのに、とうまもみことも―――――――っ、もう、もういいでしょ!?」


インデックスは、それを死に物狂いで押し留めようとする。

そして――――


「今、口ごもったよな。何を言おうとしたか、教えてくれないか」

「放っておいてよ!! 私は今日ロンドンに帰って、もう二度とこの街には来ない!
 もう二度と、あなた達家族の邪魔はしない!! それで、それで良いじゃない!!」

「俺が、俺たちがいつ、お前が邪魔だなんて言った?
 俺たちはお前が望むなら、いつだって傍に居てやる」

「――――――――――――ぁ、わ、」

<> 第二部 エピローグB<>saga<>2011/10/07(金) 21:51:52.23 ID:8dWE3JNo0<>


痛切な叫びを包み込むように男が放った一言が、とうとう女の触れてはならない琴線を断ち切った。



「私は、もう………………あなた達の傍になんか居たくないのッ!!!」


やめろ。

 
「とうまと、みことと、まことが、家族そろって幸せそうに生きてる光景が」


言うな。








「妬ましくて妬ましくて、仕方がないのッッ!!!!!」








それこそインデックスがこの二ヶ月間、闇の中深く深く深く深くに埋めて、

一度たりとも、億尾にも出そうとしなかった、偽らざる本心だった。

<> 第二部 エピローグB<>saga<>2011/10/07(金) 21:54:03.44 ID:8dWE3JNo0<>


「どうしてとうまは、みことを選んだの?」



御坂美琴が、綺麗で、真っ直ぐな、上条当麻に良く似た瞳をしていたからだ。

時に同じ方向を向いて、時に背を預け合って闘える、そんな二人だったからだ。



「どうしてみことは、私からとうまを奪ったの?」



笑わせるな。

上条当麻は、誰のものでもなかっただろう。



「どうしてとうまは、私の気持ちに気が付いてくれなかったの!?」



インデックスには、この『愛』をどう扱っていいか解らなかったからだ。

ライバルを慮るなどという名目で、あらゆる意志表示の手段を自ら放棄したからだ。



<> 第二部 エピローグB<>saga<>2011/10/07(金) 21:55:15.61 ID:8dWE3JNo0<>


「もっと、美琴が嫌な子だったら良かったのに!
 思う存分嫉妬して、憎めて、とうまを躊躇いなく奪いにいけるような、
 どうしようもない娘だったら良かったのに!!」



どうしようもない女は、どっちだ。



「もっと、あ、あの人が、卑怯な人間だったら良かったのに!
 私の隙間に付け込むような、意地悪で、穢くて、卑劣な人だったら!!
 強引に、私をめちゃくちゃに壊してくれれば、こんな思いせずに済んだのにいっ!!」



挙句の果てに、世界中のどんな宝石よりも己を大事にしてくれる男性(ひと)まで乏しめる。



「とうまが、みことが、私が、私は…………私はぁっ!!!」



インデックスは心の底に沈めた澱を掬いあげた。




そして心の底の底から、自分という女の救いようのなさに絶望した。




<> 第二部 エピローグB<>saga<>2011/10/07(金) 21:56:42.70 ID:8dWE3JNo0<>
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上条当麻は、妻から何一つ教えられてはいない。

『女同士の秘密』とやらも、先刻美琴が自分の肩を叩いた事も、

全ては上条のあずかり知らぬ流れの中で起こっていた事だった。

それでも、最後の最後にステイルが背中を押しただけでは、

インデックスが一人で歩き出せなかっただろう事は想像がついた。


(お前ってつくづく自分を追い込みたがる女だよな、美琴)


それほどに美琴も、このシスターが大好きだったのだろうと上条は思う。

愛すべき家族。

護りたい、泣かせたくない特別な女の子。

そのインデックスは、いま。




「ごめんなさい、ごめんなさい。こんな事、言うつもりじゃなかったの。本心じゃないのぉっ!」




泣いていた。

絶望に打ち震え、膝をつき、さめざめと昏く冷たい涙を地面にこぼし続けていた。

口内に鉄の味が広がる。

いつの間にか上条は、千切らんばかりに唇を、舌を噛みしめていた。

<> 第二部 エピローグB<>saga<>2011/10/07(金) 21:59:07.18 ID:8dWE3JNo0<>

「違うよ、インデックス。それが、それこそがお前の本音なんだ」

「違う違う違う!! こんなキタナイ、腐った事、私は考えてなんかない!
 私はとうまもみこともまことも大好きで……だ、大好きだもん!!」

「お前が俺達家族を大事に思ってくれてる事を、疑ったりなんてしないさ」

「だったら、だったら解ってくれるよね? さっきのは真っ赤なウソなの。
 お、思わず、心にもない事言って、私、ごめ、ごめんなさい」


どもりながら、首を横に何度も何度も振り続けるインデックス。

正視を避けたくなるほどに、彼女は憔悴しきっていた。

ベールはとうに脱げ落ち、心なしか色褪せて見える銀髪は乱れている。

見る者が見れば、緊張型の統合失調を発症していると判断するだろう。

前髪が幽鬼の様な表情を浮かべる顔にかかるが、それすらも息を飲むような美貌を演出していた。


(インデックス…………)


一刻も早く、そのかんばせに光輝く笑みを取り戻してやりたい。

逸る気持ちを抑え込みながら上条は、なにが彼女の為になるのかを第一に考える。

どんな相手にも自分勝手な『独善』を叩きつけてきた『上条当麻』らしくないな、と頭の片隅で呟きながら。


「好きな相手だからこそ、妬むんだろ。
 誰かを大切に思う事と、嫉妬心を抱く事は、何も矛盾なんかしてない」


それはきっと、相手がインデックスだからなのだろう。

他の誰が、たとえ美琴が相手だろうと、説諭にこれ程慎重になる事はない筈だ。

<> 第二部 エピローグB<>saga<>2011/10/07(金) 22:01:27.53 ID:8dWE3JNo0<>

「お前は………………妬む心がありふれたものだっていう
 『当たり前』から目を逸らして、堕落したものだと思いこもうとしてるんだ」

「あ、はは。とうまがそんな難しい言葉を使うなんて、びっくりしたんだよ。
 でもね、我らの主は既婚者に対して、恋焦がれることさえ不貞の罪として断じてるの。だから」

「――――だから、自分は罪人だって言いたいのか?」

「…………っ」


インデックスはゴクリと喉を鳴らす事で、たった今吐いた自嘲が自白だと認めてしまった。

頑として自身の奥底に向き合おうとしないインデックスに、認めさせる事に成功した。

理性的な思考力を取り戻したようでいて、彼女は上条の簡単な誘導尋問すら見抜けていなかった。


「その様子だと、自覚が無かったんだな」

「そん、な。私…………?」


上条は涙さえ涸れ果てた女の前に片膝を折って、一つ一つ言葉を選んでは柔らかく放つ。


「もう一回、よーく観察してみろよ。世界で一番鮮明な、お前のアルバムのページを捲ってみろよ。
 どんな時に、誰が、どんな顔をして、どんな声で、どんな風にお前のレンズに収まったのか。
 その時に、お前は、どんな目をして、何を言って、何を感じたのか。
 全部全部思い出して、もう一回、お前が存在を認められなかった感情を見極めろ」


肩にそっと左手を置く。

今度は、背中に腕を回す必要はなかった。


「それでもまだ、お前が自分の心を許せないって言うのなら」


インデックスの虚ろな瞳の前に、上条は右の掌を翳す。

かつて『上条当麻』が、少女を地獄から引きずり上げた右腕。

くすんだエメラルドに、微かに生気の光が帰ってくる。

<> 第二部 エピローグB<>saga<>2011/10/07(金) 22:03:05.65 ID:8dWE3JNo0<>










「そんな幻想は、俺が壊してやるからさ」













<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/07(金) 22:05:32.15 ID:8dWE3JNo0<>
続きませう

NTR展開希望の方には申し訳ありませんがやっぱり上条さんはこうじゃないと、
という個人的なアレの発露でした
では次回も一週間以内にお会いしませう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2011/10/07(金) 23:56:37.84 ID:8LWKghZAO<> >>1乙!>>1乙!いい足りないけど>>1乙ぅぅぅ!!!
これは過去最高に綺麗なそげぶだぜ……! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/08(土) 01:12:18.81 ID:XfDPA0Zeo<> なんていうか、俺の中の一つの理想的未来像を、しかしそのレベルを遥か上の方で表現しきってるっつーか
もう本当に凄く俺得過ぎてたまんない
>>1に一生ついていくわ・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(静岡県)<>sage<>2011/10/09(日) 18:46:10.47 ID:3ZCsmuUw0<> 最高すぎるだろ>>1

やっぱ上条さんはこうだろ。
<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/10(月) 22:36:42.30 ID:r1vkQCkc0<> ちょww持ち上げすぎwwww
あ、どうも>>1です(キリッ

こんな謎需要の俺得スレがここまで続いてるのもひとえに皆様の「乙」のおかげでございます
ホントもうね、キーボードの滑りが別物になるわけですよ
では本日も頑張って参りましょう↓ <> 第二部 エピローグC<>saga<>2011/10/10(月) 22:38:10.99 ID:r1vkQCkc0<>

一昨年の誕生日に贈られた懐中時計の蓋を開けて、インデックスは驚愕した。

十年間溜めに溜めた想いを目の前の男にぶつけてから、まだ十分しか経っていない。

教会脇の、純白に塗装された木製のベンチに腰を下ろして、

インデックスは学園都市を訪ってからの諸々を滔々と物語り続けていた。


「イギリス清教からのお礼金の話、覚えてる?」

「ああ…………本来受け取っていいようなものじゃなかったんだけどな」

「とうまにとって、私は家族だから。五年前と何も変わらない顔で、そう言ってくれたよね?
 それを聞いて私、泣きそうだったんだよ? 気付いてた?」

「………………悪い」

「期待なんてしてないよーだ」

「だから、悪かったって」

「…………今思えば、あの時目の奥からせり上がってきたのは喜びだけじゃなかったんだ。
 どう足掻いても、頑張っても、私はとうまの『家族』以上にはなれないんだっていう、悔しさ」


その時は結局、気が付かないふりをしてただ涙粒を殺し、微笑むだけだった。

防衛本能、だったのかもしれない。


「とうまとみことが、玄関先でキスしてるのを見た時、嬉しかった。
 二人が幸せそうで、私も幸せだった。これは、嘘なんかじゃないんだよ」

「疑ったりなんかしねえって言ったろ? ……見られてたのかと思うと、恥ずかしいけどな」

<> 第二部 エピローグC<>saga<>2011/10/10(月) 22:39:07.07 ID:r1vkQCkc0<>

「ふふ…………でもね。その時同時に、胸じゃなくて、喉がちょっとだけ痛んだの。
 朝ご飯は焼き魚だったから、小骨が刺さったんだろうな、なんて割と本気で思ってた」


泣きたかった、悔しかった、痛かった。


「二人一緒にお仕事に出かけて、まことを私に託してくれた時。
 腕に抱いたあの子の重さが、そのまま二人の信頼の大きさみたいに思えて。
 まことが無邪気に笑ってくれると、何故だか鼻がツン、ってしたの」


嬉しかった、くすぐったかった、むず痒かった。


「ああそうそう、私があくせられーたの家に泊まった日だけど、
 あの露骨すぎる気遣いは流石のとうまでも分かったよね?
 …………あの日の夜、とうまとみことは今ごろ何してるんだろうってモヤモヤしてたの。
 自分でお膳立てしておいて、勝手に嫉妬なんて変…………そっか、私、あの時にはもう……」


苦しかった、切なかった、妬ましかった。


「一回だけ私の方が遅く帰って、三人におかえりって言ってもらった日があったよね。
 るいこやくろこを困らせた私にみことがカンカンになって、ホント大変だったんだよ。
 …………ああ、みことは良いお母さんなんだなぁって、ちょっと感動しちゃった」


温かかった、誇らしかった、羨ましかった。


「みこと達と三年前の結婚式の話題で盛り上がった事もあったなぁ。
 式より『後』に色々大変な事が起こり過ぎて色褪せちゃってたけど、
 あの時の私は、今よりずっと素直に泣けてたのかもしれないね」


楽しかった、懐かしかった、悲しかった。


「とうまの歌を聞いてみことが泣きだしちゃった時なんて…………。
 大好きな人の胸で泣けるみことが、羨ましくて、破裂しそうだったの」


微笑ましかった、狂おしかった、張り裂けそうだった。

<> 第二部 エピローグC<>saga<>2011/10/10(月) 22:41:07.12 ID:r1vkQCkc0<>

相反どころではなく、何重にも入り組んだ感情の迷路を解きながら、

インデックスは記憶に伴う情動の全体像を、ゆっくりゆっくり掴んでいく。

上条はその間、何も言わずにただ見守ってくれた。

許された時間が十分を切った頃、ついにインデックスは彼の顔を真正面から見据えた。


「………………わかったよ、とうま。認めるんだよ。
 私は上条当麻が、上条美琴が、上条真理が、三人揃った上条家が好き。大好き。
 これだけは絶対不変の真実だって、信じて欲しい。
 ……………………でも、でも、辛いのも一緒なの。
 心臓が、いっそ止まっちゃえばいいのにって思えるぐらい、苦しいの、痛いの」


俯瞰し直した自身の醜い熱は、羨望と悋気を足して二で割ったようだった。

上条の言うとおり、己の想像ほど醜く見苦しいものではなかったかもしれない。

慙愧の念が、ほんの少しだけ安らいだのを感じた。


「…………よく、今まで堪えたな」


かぶせ直してもらったベールの上から頭をポン、と優しく叩かれた。

しかしインデックスの心臓を尚も焼けつかせる熱は、

彼女自身の依怙が纏わせたグロテスクな鎧を脱ぎ捨てて、一層燃え上がっていた。

<> 第二部 エピローグC<>saga<>2011/10/10(月) 22:42:08.56 ID:r1vkQCkc0<>

「ううん……気付かないふりをしてただけなんだよ。じっくり向き合って、
 “それ”が何なのかに気付いちゃったらどうなるか分からなくて、怖かったの。
 大きすぎる感情に振り回されて、私が私じゃなくなっちゃいそうで、だから、私!」

「そんなでっかい気持ちを、見過ごしたりできるもんなのか」

「…………きっと、大きいからこそ、直視するべきじゃなかったの。
 人は大事な気持ちほど、心のより内側に閉じ込めるものでしょ?
 私にとっては、この思いを誰かに知られちゃう事が、どんな問題より重要で」











「待てよ、インデックス」

「え?」


強い制止の声。

怒りではないが、慈しむものでもない。

上条当麻という男にはまるで似合っていない、冷たく真実を突きつける声。


「…………だったらさ、お前が“我慢しなかった”気持ちってのは、
 俺達に向ける嫉妬に較べりゃ、小さいものだって言うのか?」

<> 第二部 エピローグC<>saga<>2011/10/10(月) 22:43:20.50 ID:r1vkQCkc0<>
------------------------------------------------------------------


「我慢、しなかった気持ち…………? 
 い、言いにくいけど、日本に来てから私はたくさんの隠し事をしたんだよ。
 大変な事ほどひた隠しにして、とうまの言うとおり、目を背けたの」


インデックスは冷静だった。

冷静に、沈着に自分の内面と向き合って、感情を整理して。

その上で――――本気で気が付いていないのだな、と上条は思った。


「わからないか? ヒントはお前自身の言葉の中にある」

「え? え?」

「“ある”っていうか、“ない”んだな。
 お前の物語には、不自然に欠落した登場人物が、本来なら出てくる筈なんだ」



『まことを“私”に託して』

『“私”があくせられーたの家に泊まった日だけど』

『“私”の方が遅く帰って』



「“お前達”は、いつだって寄り添って日々を越えてきたじゃないか。
 どうしてその名前をさっきから呼ぼうとしないんだ?」


本棚に綺麗に収められた無数の感情の中で、ただ一つ行き場を失った熱。

たった今彼女の心で、隠れて燻っている炎の名を、上条当麻は万感の思いを籠めて呟いた。

<> 第二部 エピローグC<>saga<>2011/10/10(月) 22:44:20.14 ID:r1vkQCkc0<>




バトンを、今こそ渡す時だ。








「その懐中時計、ステイルが持ってるのとそっくりだよな」








「………………………すて、いる?」







<> 第二部 エピローグC<>saga<>2011/10/10(月) 22:45:24.54 ID:r1vkQCkc0<>

未知の単語に触れたようにたどたどしく発音した女の頬に、はっきりとした赤みが差す。

この道は間違っていなかったのだと、上条は確信した。


「土御門から聞いたよ。誕生日のお返しに、お前がお揃いのヤツをステイルに贈ったって。
 さっきあいつが土御門と兄弟みたいに接してた時のお前の顔、写真に撮っとけばよかったぜ。
 ステイルの隣に自分以外の誰かが居るなんて認められない。
 ――――――そういうおっかない顔してたんだぞ、お前」


それだけでは勿論ない。

理事会ビルで彼女は、ステイルが食蜂に恭しく名を尋ねただけで眉尻を上げてみせた。

青髪や、一方通行、打ち止めたちも嘆息するほどに、

この科学の街のいたる所でインデックスは、ステイルを懸想しては突拍子もない行動に出ている。

そこまで強く狂おしい想いから目を背けてまで、幸せから遠ざかろうとする彼女が上条には許せなかった。


「神様が許してないからって理由で秘めた気持ち。それもでっかいもんだろうさ。
 でも、ひとりでに滲み出してくる気持ちの方も、もう一度だけ見つめ直してみろよ」


忍んだ想いと、忍びきれずに発露し続ける想い。

足し引きできるような単純なものでない事はわかる。


「較べてみろよ。重さがなくても、手に持ってみろ。形がなくても、測ってみろよ。
 自分の心から目を逸らさずに、その上でお前が出した答えになら、もう俺は何も言わない」


だが、隠しきれずに滲みだすインデックスのステイルに向ける愛が、

そうでないものに劣っているなどとは、上条にはどうしても思えなかった。


「インデックス。お前は自分自身の、ステイルへの愛の大きさを、過小評価してないか?」


<> 第二部 エピローグC<>saga<>2011/10/10(月) 22:46:25.49 ID:r1vkQCkc0<>

そこまで一息に吐き出すと、上条は立ち上がって蒼穹に浮かぶ陽に向かって目を細めた。

これ以上は、いけない。

これ以上の誘導は彼女の意思そのものまで捻じ曲げかねない。

上条はインデックスの、『聖女』という名の衣を剥いで心の深奥を曝け出させた。

しかし『聖女』が『ただの女』として振る舞うのは、自分の前であってはならない。

できるだけの事はやった。

後はインデックスが出す答えを、満身で受け止めてやるだけだ。


(インデックス)


十一年前の七月二十日、自分ではない『偽善使い』が

彼女と出会ったのだと言う事はだいぶ前に知らされていた。

上条自身、あの二人に負けず劣らずの壮絶な葛藤に苦しんだ時期があった。

そしてそれを自分の脚で踏破したからこそ、今があるのだ。


(俺の、大切な)

                             いま
二度とは戻れない過去の上に積み上げられた、現在が。




「ありがとう、とうま。私の本当の心を、見つけてくれて」




過日の懊悩に思いを馳せていたのは、刹那の間だけだった。

そのあまりにも短すぎる時間で、インデックスは一つの解を見つけたようだった。

<> 第二部 エピローグC<>saga<>2011/10/10(月) 22:47:17.39 ID:r1vkQCkc0<>




「あなたが好き」


























「でも今は、すているがもっと好きなの。愛してるの」




<> 第二部 エピローグC<>saga<>2011/10/10(月) 22:51:57.06 ID:r1vkQCkc0<>

「二つの気持ちを、どっちが上で、どっちが下かなんて、較べた事なかった。
 『愛』は、天秤にかけちゃいけないものだと思ってた。
 …………でも、いつかはそうしなくちゃいけなかったんだね。
 それがどんなにすているを、とうまを侮辱するような行為でも、選ばなきゃいけなかったんだね」


「なんにも、急ぐ必要なんてないぜ。ゆっくり、確かめよう。
 ステイルのどんなところが好きなんだ? 俺の知らない面もいっぱいあるんだろうな」


「……好きな食べ物を前にしてそわそわしてる顔も、私の膝の上ですやすやお昼寝してる顔も。
 それから、子供っぽい負けず嫌いの顔も、大人っぽい頼れる顔も、努力してる顔も、怒った顔も。
 私にしか見せてくれない優しくはにかんだ顔も、ぜんぶぜんぶぜんぶ、大好きなの。
 あの人の事を、もっと知って、もっと沢山の顔を『記憶』したいの」


「俺よりも?」


「うん、とうまより」


「やっべえ、悔しいな」


「ふっ、ふふ」


「………………やっと、笑ってくれたな」


世界を照らさんばかりの眩い笑みに、そっと上条は手を伸ばした。

太陽とは違って、触れる事ができるあたたかさだった。

その輝きの裏側で何を思い、何を考えたのか、本当のところは上条にはわからない。

ただ一つ、確かな事は――――――

<> 第二部 エピローグC<>saga<>2011/10/10(月) 22:53:24.20 ID:r1vkQCkc0<>


「俺の人生の始まりに在った、俺の好きなインデックスの笑顔だ」



「……………………とうま」



少女の人生という歯車が少年に掬い上げられて初めて廻りはじめたように、

少年の人生は、少女に笑っていてほしい、その一念から始まったのだ。

少年と少女は、互いが互いにとっての永遠の“特別”――――――だった。



「お別れだね。私の人生が始まったこの季節、この街で、終わるんだね」


                    ものがたり
「ああ。俺たちが二人で描いてきた 幻 想 は、もう終わりだ 」



成長した少年と少女は、望む望まざるに関わらず、大人になった。

男と女になって、互いに相手ではない誰かを“特別”に選んだ。

ならば、次にやるべき事も決まっている。



「インデックス」



「とうま」



<> 第二部 エピローグC<>saga<>2011/10/10(月) 22:54:13.85 ID:r1vkQCkc0<>




   「俺の傍にいてくれて、ありがとう」            「私と一緒にいてくれて、ありがとう」





  「俺を好きになってくれて、ありがとう」            「私を愛してくれて、ありがとう」









                      はつこい                  はつこい
        「さようなら、俺の大事な女の子」   「さようなら、私の大切な男の子」










<> 第二部 エピローグC<>saga<>2011/10/10(月) 22:55:53.80 ID:r1vkQCkc0<>
---------------------------------------------------------------------


『人払い』された空間から男が現れるのを視認して、ステイルは術式を解除した。

此方に向かってくる男とは真逆の方向へ、女が駆け出して行く。


(………………あの二人の人生が、心が)


長い交差を遂に終えたのだな、とステイルはぼんやりと思った。






「インデックス……」

「もう、みことってば。なんで…………そんな顔してるかなぁ」


二〇メートルほど先の会話が耳に入る。

インデックスの行く先で、上条美琴が目元を掌で抑えて断続的に嗚咽を漏らしていた。

聖女は腕を伸ばして美琴の頭を下げさせると胸に抱いてあやし始める。


「なんで、みことが泣いちゃってるのかなぁ。普通それって、失恋した私の役目なんだよ」

「だって、だって! あんたが…………インデックスがぁ…………!」

「うん、うん。私の事、心配、してくれてるんだよね?
 そんな優しいみことが、おねーちゃんは大好きだからね」

「ママ、なかないでー……?」


美琴の腕に抱かれたままで二人の女性に挟まれる形となった真理が、

母親の泣き声を聞いて不安に駆られたのか、こちらも涙声で母親を慰める。

その様を、母子の繋がりの強さを目の当たりにして、インデックスの瞳まで潤みはじめていた。

<> 第二部 エピローグC<>saga<>2011/10/10(月) 22:57:30.79 ID:r1vkQCkc0<>

「インデックス、真理…………んっ、う、えぐっ」

「ままぁ………………うっ、ええええええええええんん!!!!」

「ああ、もう、泣か、泣かないでよ、ふた…………二人ともぉ…………」


三人の女は身を寄せ合いながらすすり泣いて、青空の下に俄か雨を降らせる。

自分以外の誰かを思いやって流される、優しくあたたかい雨だった。






「レディーを三人も泣かせて。万死に値するね、上条当麻」


女三人寄り添い合っているのでは、抱き締めるために割り込むのも多少憚られる。

それ以前に、あの情景を邪魔するべきではないように思えてきて、

仕方なくステイルは、涙の素をつくった男に対して棘のある声を投げかけた。


「いいんだぜ、一発ぶちかましてくれて」

「…………この上、君への借りを増やしてたまるか」


返す刀に想像していた以上の鬱屈さを見てとって、ステイルは気勢を削がれた。

この男も今日、長年秘めてきた愛に別れを告げたのだと今更ながらに思い出す。


「おそらく彼女は…………そして君も、正しい『失恋』を迎えられたんだろうな」


ステイルは、悟り澄ました穏やかな表情でインデックスだけを見つめて独り言ちた。

友人と義妹の晴れの舞台であることを意にも介せず天を突く頭髪を掻きながら、

上条当麻はそれに対して不貞腐れたように口を尖らせる。

<> 第二部 エピローグC<>saga<>2011/10/10(月) 22:59:20.15 ID:r1vkQCkc0<>

「なんでわかるんだよ」

「忘れたのかい? これでも僕は、なかなかに救いのない失恋の経験者でね。
 君たちはあの頃の僕が鏡の向こうに見たような顔はしていない。
 なら、少なくとも最悪の形ではないと思うよ。
 …………もっとも、現在の僕は既に半ば以上は救われているんだが」

「惚気てんじゃねーよ」

「昨晩僕に何をやらせたのかよーくそのウニ頭を引っ掻き回して思い出してみろ」


果たしてステイルの言に従ったのか、上条がこめかみに指を当てて唸り出す。

しかし僅かの後にその口腔から飛び出たのは、嫌味に対する切り返しではなかった。


「お前、俺があいつに未練を残してたってのは…………知ってたのか?」


肺が石化でもしたのかと思わせる重く硬い声で、上条当麻は躊躇いがちに問うた。

妻子ある身で、遠くに在りてインデックスを想う。

それは彼にとってもまた、息が詰まるような懸想であったのだろう。


「一月前、僕が心情を晒してもお得意の説教を垂れてこなかった時点で、薄々とは。
 十年前の君の、彼女に対する執着は相当なものだった。それこそ病的なまでにね。
 負けるつもりはないが、それだけは認めてやってもいい。そう思っていた時期もあったからね」

<> 第二部 エピローグC<>saga<>2011/10/10(月) 23:00:44.15 ID:r1vkQCkc0<>

だからこそステイルは、上条当麻と御坂美琴から結婚式の招待状を受け取った三年前のあの日、

日本まで飛んで上条に詰め寄ったのだ。




『どうしてだ。どうしてあの子を選ばなかった?』




実に無意味な問いかけを、必死で、無様に、何度も繰り返しながら。





「…………やっぱりかよ、お前よく我慢できたな。
 仮にインデックスが俺に靡いて、俺がそれを受け入れちまったらどうするつもりだったんだよ?」

「起こらなかった『仮に』の話をしてどうなる?」

「二時間前はそれでギャーギャー殴りあったじゃねえか」

「…………推測の域は出ないが、僕には確信がある。美琴もおそらく、同じ事を考えていた筈だ、とね」

<> 第二部 エピローグC<>saga<>2011/10/10(月) 23:02:06.05 ID:r1vkQCkc0<>

上条美琴は、夫の心が十全に自分に向いている訳ではないと知っていたのだろう。

七月二十八日、病院のベッドの上で“生まれて”から五年を、すぐ傍で過ごした少女の存在。

彼女へと上条の心が馳せるのを、時折敏感に感じとっていたのだろう。

その上で美琴は、インデックスの背中も、上条当麻の背中も平等に押した。

出会ってから二月と経っていないというのに、ステイルはそこに上条美琴の“らしさ”を感じて苦笑した。


「………………だから、どうするんだよ」


核心をなかなか切り出さずに一人頷くステイルに、上条が苛立たしげに先を促す。

美琴の性質を考慮に入れればそれほどの難問でもないだろうが、

基本的に絶望的な朴念仁であるこの男に百点満点の解答を求めるのは酷というものだろう。


「決まってるだろ。“奪う”んだよ。君を愛する彼女を、君に愛される彼女を、ね。
 必ず僕の方に振り向かせるべく、破滅的な泥沼に嵌まろうと僕は闘いを挑む」
 

獅子の如く飢えた目つきで、ステイルは上条を睨みつけた。

感情は付随しない。

いざ闘いになれば奪って奪って奪い尽してやるという、剥き出しの野性だけがそこにあった。


「………………美琴も、か」


勿論、実際には闘いになどならなかった。

ステイルの眼光を柳のように受け流した上条の家族への愛は、

この五年でインデックスへのそれを明確に上回っていたのだから。


「美琴も、土俵に乗るか乗らないかはあくまで君たちの心に委ねた上で、
 “その時”がくれば彼女から君を奪い返すための、正々堂々の勝負を望んだだろうね」

<> 第二部 エピローグC<>saga<>2011/10/10(月) 23:03:08.20 ID:r1vkQCkc0<>

「………………はぁ。美琴のフェアプレー精神にも困ったもんだ」


呆れて特大の溜め息をつきながら、上条は妻をみやった。

流石に落ち着いたのか、美琴とインデックスは和やかに談笑している。

それはとてもとても美しい情景で、聴衆がいたなら百人中百人が大団円だと拍手するだろう。




「俺は間違いなく、俺に伝えられる全てをあいつに伝えられたって確信してる。
 …………だけどな、まだ。インデックスにはまだ何か、“ある”気がするんだ。
 心当たりはないか、ステイル?」




――――しかし、どこか飲み込みきれない。

心の奥底まであと一歩、ストンと落ちてこなかった何かがあると、上条当麻はそう言った。

そして、ステイル=マグヌスも。


「……………………おそらく、君の感性は正鵠を射ている。少なくとも僕はそう思う。
 そしてそれが正しいとすれば、君の出る幕はもう無い、というわけだね」

「そうだな…………そう、なんだよな」


どうあれ、上条はバトンを“次”に送り終えていた。

ここから先は、受けとった者の――――ステイルの役目だった。

<> 第二部 エピローグC<>saga<>2011/10/10(月) 23:04:50.18 ID:r1vkQCkc0<>

「さて、俺は一方通行のところに行くかな」


何の気なしに言って一つ大きく伸びをし、上条は脇の小口から教会内へと歩き出す。

神父の長身とすれ違おうとしたところで、小さく小さく、しかし力強く、一言。





          ヒーロー
「後は頼んだぜ、主人公」






――――な? 脇役なんかより、主人公の方がいいに決まってるだろ――――






世界で二番目に気に食わない男の背中を、ステイルは思わずまじまじと見つめた。

もう地球上のどこにもいない、インデックスを助け、ステイルを殴り、

そして消えていった男の声が聞こえた気がして。

たった十日足らずでその存在を自分達に刻み込んでいった、

世界で一番気に食わない男の幻影(かげ)を見た気がして。

<> 第二部 エピローグC<>saga<>2011/10/10(月) 23:07:02.65 ID:r1vkQCkc0<>

届けるなら、今しかないと思った。

インデックスが、そして神裂と自分が、終ぞ伝えられずにいた言葉。









「ありがとう、『上条当麻』」









――――どーいたしまして。誰もが望む最高なハッピーエンド、期待してるぜ――――










「……………………やれやれ」


随分と都合のいい幻聴を聴いてしまったな、と天を仰ぐ。

十一年前の七月二十日はどんな空模様だったか思い出そうとして、

ステイルはしばらくの間、空を泳ぐ雲の行き先に思いを巡らせた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/10(月) 23:13:10.28 ID:r1vkQCkc0<>
いい最終回だった
そこそこ自画自賛できるぐらいには綺麗にまとまったと思います













でももうちょっとだけ続くんじゃよ

これで第二部(笑)でやりたかった事の99%は消化しました
大本としてあったプロットは
『激情に任せてステイルを説教する一方さん』と
『静かにインデックスを諭す上条さん』の
普通なら逆だろオイ、という二本立てでした
そこに至るまでのあれこれは全部おまけです

あとは蛇足を残すのみ、もうちょっとだけお付き合いくださいな
では次回投下は土曜夜の予定となります
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(三重県)<>sage<>2011/10/10(月) 23:15:24.46 ID:Ekqm1w8H0<> 乙!乙!乙!

うん、パパ○ラシリーズのトラウマが癒されたよ!
俺もこういうのが書きたかったなあ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2011/10/10(月) 23:20:19.52 ID:xUW6YTVAO<> 泣けるね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/10(月) 23:28:04.42 ID:A/AW4rUL0<> 乙! まさに天晴れな幕引きでございました!  残すエピソードも愉しみにお待ちします <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/11(火) 00:32:24.72 ID:VHHcRbpno<> そうだよなぁ
この物語の主人公はステイルで、ヒロインはインデックスなんだよな
それなのに、それ以外のキャラは脇役の筈なのに、なんでここまで丁寧に描写しきれるんだろうね
おかげで毎回とても幸せですありがとう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2011/10/11(火) 05:18:17.35 ID:HdaRTOoAO<> >>1乙!
俺も最高のハッピーエンド期待してる。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/10/11(火) 13:33:09.42 ID:7NysNoh0o<> 上インのやりとりよりも一番最後の上ステのやりとりがやばいな…
上条病の最初の被害者はインデックスだけじゃなくステイルもだったんだよなぁ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(京都府)<>sage<>2011/10/11(火) 23:01:49.39 ID:30im3XQ40<> 自画自賛じゃなく最高の最終回だった件について。

さて、第2部が終わっても第3部の準備はもうできているんだろうな? <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/15(土) 22:44:42.82 ID:pgorGjlM0<>
どうも>>1です

皆さんどうもありがとうございました
いやあ、ハッピーエンドっていいものですね
まあこれから蛇足に入っちゃうわけなんですが↓ <> 第二部 エピローグD<>saga<>2011/10/15(土) 22:46:36.77 ID:pgorGjlM0<>

教会の一室を新郎控室として宛がわれた一方通行は、

次々に訪れる来客――呼んだ覚えのない元同僚まで何故かいた――に辟易して、

柔らかいソファに腰まで沈めて一息ついていた。

学園都市に申し訳程度に置かれたレベルの教会にこれ程上質な家具がセットされているのは、

元からこの一室が、というより建屋全体が『挙式』のみを使命とした造りだからだ。


「………………なンだ、ピンピンしてンじゃねェかテメエ」


ギ、と蝶番が微かな悲鳴を上げて最後の来訪者を伝えた。

振り返りもせずに、一方通行は開口一番悪態を浴びせる。


「おかげさまでね。朝から大量の鎮痛剤を飲まされて思わず眠りたくなるぐらいハイな気分だよ。
 医者は二、三日で完治するとは言ってくれたがね」


悪態には嫌味を。

ステイル=マグヌスの見事なカウンターに満足げに口角を吊り上げて、一方通行は腰を上げた。


「ほォ。さすがは『冥土返し』ってところか」

「僕は人体にそれほど詳しくはないが、『治しやすい壊し方』だったらしくてね。
 骨折でもあるまいに、なんと治った後の方が強靭になるというから驚きだ」

「器用なイジメ方だよなぁ、まったく」


癪に障る二ヤケ面を割り込ませてきたのは、本日付で義理の兄になってしまう男、上条当麻だった。


「よう、気分はどうだ、緊張してるか? 進行の手順は頭に入ってるか?」

<> 第二部 エピローグD<>saga<>2011/10/15(土) 22:47:30.58 ID:pgorGjlM0<>

「君じゃあるまいし」

「三下じゃあるめェし」

「ひどいよお二人さん!? もしかして俺の事嫌い!?」

「ヘラヘラ笑うなぶっ殺すぞ」

「死ね」

「やだ怖いぃぃ! こんなのを義理とはいえ弟にすんの俺!?」


上条のオーバーリアクションを目の当たりにしながら、一方通行は内心で舌を打った。

この男に緊張を解そうなどという気を遣わせる程度には、自分は平常の顔色ではないらしい。


「万が一そこの花婿の頭脳が花嫁の美しさにフリーズを起こしたところで、
 進行は僕ら二人に従ってくれれば何の滞りもなく進むんだ。安心したまえ」

「チッ。本職の癖にリハーサルに散々時間かけた奴がよく言うぜ」


ステイルまでもが茶番を引き伸ばそうと口を開いたのを見て、今度は声に出して舌打ち。


「自慢じゃないが司式二人の挙式なんて、寡聞にして存じ上げないものでね。
 僕らに言わせれば結婚とは厳粛なる『秘跡』なんだが……まあ、無粋なことかな」

「日本人の信心なンざそンなもンだ。一宗教のトップに形だけの十字教式を
 執り行わせるっつうのも、洒落が効いてて俺は嫌いじゃねェがな」

「そう考えると俺ら、もしかしなくても結構とんでもない事してんだよなぁ。
 …………あ、髪型崩れてら。ちょっと鏡貸してくれ」

「スカスカの頭蓋を考えもなしにシェイクするからそうなるんだよ」

「うるせえ」

<> 第二部 エピローグD<>saga<>2011/10/15(土) 22:48:51.29 ID:pgorGjlM0<>

部屋の隅の鏡台に向かう上条と呼吸するように嫌味を放つステイルの間に、

一方通行は比較するように視線を滑らせる。

顔さえ合わせればどつき漫才を繰り広げている二人の男の幼稚な行動は、

昨晩酒を飲み交わした際とまるで変わらない。


「…………やっべ、なかなか決まらねーな」

「いっそ剃髪すればスッキリするんじゃないかい。
 風通しがよくなれば頭への血の廻りの悪さも多少なりとも改善する可能性が無きにしも非ず」

「仏門に入ってその煩悩をぶち殺す! ってやかましいわ!!」


言動は変わっていない。

しかし、何かが上条とステイルの間で変化している。

それは二人の関係性が主体となって変化したものではなく、

各々に“何か”を乗り越えた結果の副産物だと一方通行には思えた。

上条とステイルが共通して抱える“何か”があるとすれば、この世に唯一つだけだろう。


(………………インデックス=ライブロラム=プロヒビットラム)


あの男たちはそれぞれに違う形で彼女の幸せを願っている。

上条当麻は願いを託した。

ステイル=マグヌスはそれを願いから望みへと昇華させた。

そしてまた一方通行も、かの純白の聖女が幸福であれば、と祈った。

『家族』以外の者へと斯様な心願を自分に抱かせたインデックスという女性の性質に、

一方通行は途方もない儚さと逞しさを見出し――――同時に、畏怖した。

<> 第二部 エピローグD<>saga<>2011/10/15(土) 22:50:21.98 ID:pgorGjlM0<>

「昨日は色々とすまなかったね、一方通行」


声を掛けられる。

見れば、珍しく群青色の神父服に身を包んだ長躯がすぐそこにあった。

上条は鏡の前で呻きながら、ツンツンヘアーとの長期戦の様相を呈している。


「まったくだ。今日を最後にその面、俺の前に出すンじゃねェぞ」

「司祭役を降りろとは言わない癖に……それより昨晩は花嫁殿と仲直りできたかい?
 何度コールしても出ないから、もしかして何かお取り込み中だったのかな」

「余計な世話焼くな、鬱陶しい。テメエはテメエの女だけ気にしてろ」


辛辣な糾弾に、ステイルは表情を引き締める。

妥協することを知らない信念を、夢を秘めた男の顔だった。


「……………………一方通行。僕は、“引き摺る”と決めたよ」

「そうかい。狡い生き方のできねェ、不器用な神父さンらしい阿呆な答えだ」


期せずして、ステイル=マグヌスは一方通行と同じ道を選んだ。

一方通行も、全身にこびり付いて消えない血の臭いを一生背負っていくと、

地の下で眠る一〇〇三一の躯の前で決意していた。

それは時に目を逸らして逃げ出したくなるような重荷だろう。

だが、それでも歩を止めないと誓った。

一方通行は一人でその荷を背負うわけではないのだから。

<> 第二部 エピローグD<>saga<>2011/10/15(土) 22:52:22.42 ID:pgorGjlM0<>

「もう一度だけ言わせてくれ。ありがとう、一方通行」


一方通行は今日、更に先へと進むために人生に一つの区切りを引いて、栞を挟む。


「手前勝手にスッキリした面になりやがって。もう一度だけいうぞ、礼を言われる筋合いはねェ」


ステイル=マグヌスがその線を引く日はまだ先の筈だ。

何もかも終わらせた気になど、間違ってもなるな。

言外に、そして研ぎ澄ませた眼光に意図を籠めて、ステイルを見据える。

伝わったのだろうか、ステイルはゆっくりと小さく頷いてから頬を緩めた。






「そうだね。礼を言うなら君がらしくもなく、
 君にできる最大限の恩義を感じているらしい最大主教に言うべきか」

「おい! 余計な事言いやがったら今度こそ全身の体液っつう体液逆流させンぞォォ!!」


緩めた結果、口から嫌味が飛び出すのはこの神父のライフワークか何かなのだろうか。

ようやく常より鋭く尖らせたウニ頭のセットを済ませた上条も戻ってくる。


「…………意外と、ステイルって友達作るの上手いよな。インデックスが面白くない顔するわけだよ」

「人を没コミュニケーション呼ばわりするな。絶対に許さない。訴訟も辞さない」

「そこまで!?」

「さあて、そろそろ時間だ」

「裁判の!?」

<> 第二部 エピローグD<>saga<>2011/10/15(土) 22:54:00.96 ID:pgorGjlM0<>

壁掛け時計に目をやると、時刻は十時半をそろそろ回ろうとしていた。


「漫才はその辺でいいだろォがイノケンブレイカー」

「おい、何だその地方局で燻ってる売れない芸人みたいなコンビ名」

「こいつとバリューセット扱いなんて、僕は死んでも御免被るよ」


心底嫌そうに溜め息を吐いて、ステイルがドアノブに手を掛ける。


「心の準備は万端かい?」

「べ、別にビビってなンかねェンだからな!」

「余裕があんのか本当にテンパってんのか分かりづらいな」

「冷静に分析しないで下さいますかお義兄サマァ」

「…………大丈夫そうだね。そうだ、その白タキシードだけど」

「あァン?」

「絶望的なまでに似合ってないよ」

「うっせええええ!!! 自覚はあるンだよ黙ってろォォォォ!!!!!」


男たちは軽口を叩き合いながら、次々に扉を潜っていく。

先導しながら、ステイルは不良神父らしからぬ慈悲を伴う、よく響く声を発した。

一方通行はこれから昨夜とは真逆に、この男に導かれて一つの『線』を引く。


「さあて、祭壇の前で花嫁を待とうじゃないか――――花婿殿?」

<> 第二部 エピローグD<>saga<>2011/10/15(土) 22:54:40.02 ID:pgorGjlM0<>
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「打ち止めー? 居ないのー?」


眼に痛くない程度の彩り鮮やかな装飾に溢れた室内。

ノックの音が響いている事に打ち止めは三度目で漸く気が付き、慌てて声を上げた。


「ど、どうぞ!」

「おじゃましまーす、なんだよ」

「おねーちゃん、きれい!」

「アンタはそんなに緊張しいじゃないと思ってたけど、やっぱ今日は格別、って事なのかしらね」


勢いよくドアが開け放たれて、姉と姪、そして姉の親友が晴れやかな顔で現れた。

三人して、泣きはらしたように白目が赤くなっている。

それらには気が付かないふりをしながら、一方で打ち止めは姉の洞察力に目を瞠った。

あるいは、ノックの回数はもっともっと多かったのかもしれなかった。


「流石のミサカも今日ばっかりはちょっと、ね。
 ………………まあ、一番浮かない顔してるのはお姉様だけど」

「…………っ」

「みこと?」

「ままー?」


口を噤んで唾を飲んだ美琴を、彼女の娘と本日の儀を司る聖職者が揃って覗きこんだ。

真理は今は、インデックスの腕の中で心地よさげにしている。

<> 第二部 エピローグD<>saga<>2011/10/15(土) 22:55:15.12 ID:pgorGjlM0<>

「みこと、やっぱりさっきの事で何かあるの? 私のせいで」

「それは違う。断言するわ」


インデックスが然程に察しの悪い女性だとは打ち止めも勿論思っていないが、

自分の懊悩に精一杯で、美琴が抱える別ベクトルの煩悶を見逃していたのかもしれない。

その過剰に自己を卑下する態度に違和感を感じた打ち止めが口を開く前に、

美琴はインデックスの偽悪じみた自責を切って捨てていた。

しかし歯切れが良いのはそこまでで、美琴は目を伏せて次なる言葉を丹念に探り始める。

姉の苦しむ姿を見ていられなくなった打ち止めは、彼女の胸中を遠慮なく暴露する道を選んだ。




「お姉様は、苦しいんだよね。あの人を絶対に許しちゃいけないって枷を自分に課してる。
 でも、私の幸せの為にあの人を許してあげたいっていう気持ちにも挟まれてる」




この十年、彼女と一方通行が一対一で正対する機会が、まるでなかった訳ではない。

ただその中身を一方通行が打ち止めに語った事は、それこそ一度たりともなかった。


「…………わかっちゃうもんなのね、やっぱ」

「みこと……」

「お姉様。私はもちろん、お姉様にもあの人との結婚を祝福してもらいたいの」

<> 第二部 エピローグD<>saga<>2011/10/15(土) 22:55:51.38 ID:pgorGjlM0<>

美琴は両目を一度ギュッと、強く瞑ってから瞼を上げた。

やはり姉は、彼を心の奥底から受け入れられてはいなかったのだと、打ち止めは確信を強める。


「許してあげて、お姉様」

「でも、私の心は、アイツの心は、それを望んでなんかいないわ」


美琴の言う通りであった。

一方通行は『赦し』など望んではいない。

美琴が下せるであろう『赦し』は、誰も幸せになどできはしない。

それは打ち止めとて、十二分に承知していた。


「その代わり」


打ち止めは語気を強めて、美琴に反駁すべく一呼吸。






「その代わり、私が一生、許さないから」






美琴のみならず、インデックスまで目を見開いて、驚愕を露わにした。

<> 第二部 エピローグD<>saga<>2011/10/15(土) 22:56:44.47 ID:pgorGjlM0<>

「らすとおーだー、今のはどういう」

「私が許さない。世界中の全ての人があの人を許してあげたとしても、
 私はあの人を、一方通行を“許してあげない”って決めたの」


インデックスは困惑して美琴に顔を向ける。

その美琴はと言えば、鬼気せまる覚悟を示した妹の表情を、悲しげに見つめていた。


「あの人は、お姉様と死んだ『妹達』に許される事を、何より怖がってたから」


一方通行が弱音や弱みを曝け出す事は、打ち止め相手ですら滅多にない。

しかし打ち止めには理解できる。

この世の他の誰にも理解されなかったとしても、打ち止めにだけは理解できる。

彼女の人生は、『彼を知りたい』という些細な関心から、好奇心から始まったのだから。


「…………辛い生き方になるわよ、その道は」

「わかってる。でも、それを上回るぐらいの喜びがこの道の先にあるって信じてるから。
 そういう事を望める世界を、お義兄様たちが創ってくれたって知ってるから」


あの人と一緒に笑って生きたい。

死んだ『妹達』に裏切りを罵られようと、

生きている姉妹に恥知らずと謗られようと、その気持ちに蓋などできなかった。

悲しみも喜びも一つのリュックに詰めて、不格好でも二人で背負って、この世界を歩んでいく。

そのための誓いを立てるべく、今日この日、打ち止めはブルーカーペットを進むのだから。

<> 第二部 エピローグD<>saga<>2011/10/15(土) 22:57:30.11 ID:pgorGjlM0<>

美琴はまたも瞑目し、形の良い口唇から細く長い吐息を洩らした。

再び目を開いたとき、彼女は軽やかに、そして優しく微笑んでいた。


「私が言う事なんて、もうないわね。我が妹ながら良い女だわ。
 ………………でも、最後に一つだけ、言わせてね」

「なあに、お姉様?」




「すごく綺麗よ、打ち止め。一方通行と、幸せになりなさい」




「――――――っ、うん!」


やっと、本当の意味で認めてもらえた。

一方通行と『妹達』は、御坂美琴の純粋な善意を踏み躙った、あの『実験』の“加害者”だ。

誰が被害者で、誰が加害者なのか。

何が善で、何が悪なのか。

答えは二万通りではきかず、各々の立ち位置次第で目まぐるしく入れ替わるだろう。

だが少なくとも一方通行と打ち止めの認識の中では、自分達が加害者で、美琴が被害者なのだ。


「ありがとう…………お姉様ぁ」


誰よりもあの実験で深く深く傷付いた美琴が、今こうして自分達を祝福してくれた。

待ち望んだ情景に感極まり、瞳に湛えた涙を拭おうとすると、清潔な白布がそっと差し出される。


「お化粧が崩れちゃったら晴れ姿が台無しなんだよ? 気を付けて拭いてね」

<> 第二部 エピローグD<>saga<>2011/10/15(土) 22:58:15.47 ID:pgorGjlM0<>

インデックスのふわりとした慈しみを皮切りに、張り詰めた空気が抜けた。


「さっきから微妙に空気だったわねアンタ。さすがメインヒロイン(笑)」

「みことたちが割って入る隙間ないくらいギッチギッチに
 Sisterってるからタイミング逃しただけかも! さすが隙間潰しの得意な行間ヒロイン(笑)」

「ぎょぎょぎょぎょぎょ魚魚魚、行間ちゃうわ!!!
 いとも容易くえげつなく人のトラウマ穿り返すんじゃないわよ!
 新必殺技『十倍超電磁砲』の実験台にされたいみたいねえぇぇぇ!!」

(バトル展開の時に使っとけよ、ってミサカはミサカは内心ツッコミ)

「ふふーんだ、私の『歩く教会』に常識は通用しな………………あ、ああ!?
 し、しまったんだよ! 今日はギャグ補正以外の装備を忘れてきたかも!」

「っていうかシスタるって何用語? ってミサカはミサカは時間差ツッコミ」

「みさかはみさかはー」


女三人なんとやら、とは言うが四者四様に騒ぎ立つと姦しいどころの話ではない。

新たな形容表現が必要になるのではないか、と打ち止めは朗らかに破顔しながらそう思った。





「じゃあ、そろそろ時間なんだよ。私は先に行ってるね」


壁掛け時計があるにもかかわらず懇ろに、そして愛おしげに、

インデックスが懐中時計をさすりながら言った。


「パ……お父さんももうすぐ来る筈よ。他のみんなは挨拶に来てくれたわよね?」

「………………それが、その。あと一人……」


口籠って目を逸らす。

そんな打ち止めの奇妙な態度に、美琴とインデックスは揃って首を傾げた。

<> 第二部 エピローグD<>saga<>2011/10/15(土) 22:59:42.21 ID:pgorGjlM0<>





「…………番外個体が、まだ来てないの」






<> 第二部 エピローグD<>saga<>2011/10/15(土) 23:01:02.91 ID:pgorGjlM0<>
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祭壇に向かって右側に、黄泉川愛穂や芳川桔梗をはじめとした新郎側列席者がずらりと坐している。

同様に左側では、女性比率のやや高い新婦の関係者たちが、興奮気味に何事か捲し立てている。

最前列の御坂美鈴と目が合って、ステイルは軽く会釈をした。


「………………き、緊張してきたかも」

「いつもはもっと広い聖堂で、もっと沢山の会衆を前にしているだろう」

「むう。その落ち着きはらった態度はちょっとイラッとくるなぁ。
 二人の大事な門出に責任を持つんだから、もっとこう、気合い入れないと駄目なんだよ!」

「気合いが空回りしても仕方がないだろう。直前の当事者というのはだね、
 そこの男の頭髪の色のように頭が真っ白になるものなんだ。
 故に司式者には粛々とした態度が求められるものなんだよ、初心者さん?」


花嫁入場まではあと十分ほど猶予がある。

ステイルはポケットからあるものを口許へ運んだ。


「こ、この男……ガチガチの新郎の為に気の利いたセリフの一つも言えねえのか……。
 …………と、以前のインデックスなら容赦なく噛みついただろうが…………」

「おい、誰がガチガチだ」


フッ、とインデックスが背を向けてシニカルに笑った。


「ステステ先生。電子タバコ、逆さかも」

「誰がステステだステテコみたいに聞こえるから止めてくれ! 
 この向きであってるから! 緊張も動揺もしてないから!!」

「テメエら、人の話を」

<> 第二部 エピローグD<>saga<>2011/10/15(土) 23:03:44.96 ID:pgorGjlM0<>

「YYWW」

「気に入ったのかその『強制詠唱』……」

「対イノケンティウスの他にもメンタルの弱い相手に試す価値ありなんだよ」

「イノケンェ……」



「聞けやァァ!! 誰が愛が哀しくて壊れかけたRadioだゴラァァッ!!!」



  Y  Y  T  F   T  F 
「はいはい徳永ファン徳永ファン」

「うるせえェェェェェェ!!!!!」

「効き目が薄いじゃないか、話が違うよ」

「どういう意味だァ!?」


似合わない事この上ない白のタキシードに身を包んで息を荒げる、

件のガチガチ花婿――――一方通行がいつもの調子を取り戻したのを見届けて、

ステイルはインデックスと達成感に満ちたハイタッチを交わした。

全ての準備を整え、父親に手を引かれる花嫁の入場を待つだけとなったこの時間、

一方通行は列席者にニヤニヤ顔でチラ見されるほどに緊張しきりであった。


「クッソ野郎が……テメエの問題を一つ片したからって余裕ぶってンじゃねェぞ……」

「だが、いい余興だっただろう?」

「あくせられーたが肩の力抜いてくれないと、上手くいくものもいかなくなっちゃうもん。
 …………でもでも、あなたがそんなに緊張してるなんて思わなかったかも。
 こんな時だからこそKoolに格好つけるのがあくせられーたかな、って」

(KじゃなくてCだろ)

「………………悪ィかよ」


ギリリと音がしそうなほどに前時代的なデザインの杖

――今朝ステイルが返却した――を握り締めて、一方通行は吐き捨てた。

よくよく観察してはじめて分かる程度にだが、その耳朶が紅潮している。

<> 第二部 エピローグD<>saga<>2011/10/15(土) 23:05:16.84 ID:pgorGjlM0<>

ステイルがふと隣のインデックスを見やると、視線が合った。

彼女も一方通行の耳たぶ辺りを盗み見てからクスリと笑う。

それに気が付いた新郎が凶悪に表情を歪ませて口を開こうとする直前、



「ご静粛に」



ステイルが機先を制して声を張り上げた。

列席者が示し合わせたように静まり返る。

十一時ちょうど。



「ベストマン、メイドオブオナー、御二方とも前へどうぞ」



インデックスの、聖堂全体を鎮めるような、それでいて柔らかく反響する声。

同時に左右席の二列目から、上条当麻と上条美琴が歩み出てきた。

上条はステイルの真正面、一方通行の右隣りに陣取った。

大事に抱えこんだケースに、二人の愛の証であるリングが鎮座している。


「頑張れよ、一方通行」

「打ち止めに恥かかせんじゃないわよ」


夫婦がそっと、花婿の肩を叩いて交互に囁いた。

美琴は歯ぎしりする一方通行に上機嫌を隠さず、インデックスの正面まで来てから大扉へ向き直る。

<> 第二部 エピローグD<>saga<>2011/10/15(土) 23:06:31.93 ID:pgorGjlM0<>

教会備え付けのオルガンが、それなり以上の高級感を醸し出す音色で優美に唄う。

曲目はオーソドックスど真ん中、W.R.ワグナーの『婚礼の合唱』。

慣れた手並みで鍵盤を一音一音、滑らかに、時に跳ねるように弾くのは美琴や打ち止めと同じ顔の女性。

両親から平等に愛を注がれる御坂家の一員である事には間違いないのだろうが、

これまでに相見えた中の誰かであるかどうかは、ステイルには判別しようがなかった。



「新婦入場」



教会一番の大扉が耳障りな音を上げて、少しずつ陽光を聖堂内に招き入れる。

扉が最大限まで両開きになった時、そこには父親――――御坂旅掛に手を引かれた花嫁がいた。

普段は背にかかるほど長い栗色の頭髪を後頭部で結上げ、露わになる筈の項はベールで覆われている。

黄みの強い肌色にアイボリーカラーのドレスが実によく映えていた。

長トレースのマーメイドラインに隠された脚を、擦るようにそっと一歩踏み出す。

途端に、祝福の声と拍手が燦々と降り注いだ。


「おめでとぉ! 私の祝福力が火を噴いちゃうゾ★」

「物騒な真似は止してほしいんだけど」

「小さい御坂さん…………白髪頭には勿体ないですねぇ……!」

「相変わらず変態ねぇ海原は。素直に祝福してあげなさいよ」

「Absolutely,幸せになりなさい」

「あ、う、もう、打ち止め、一方通行ぁ…………」

「いつまで泣いて、んじゃん、桔梗……ああくそ、私まで……」

<> 第二部 エピローグD<>saga<>2011/10/15(土) 23:07:29.15 ID:pgorGjlM0<>

まったく気の早い連中ばかりだ。

できれば退場時にやってほしい、とステイルは苦笑したが無粋な口は挟まない。

一向に止まない善意の雨を全身に浴びながら、旅掛は打ち止めとブルーカーペットを進み、

やがて愛しい末娘の手を、一〇〇三一の対話を経てこの場に立った男に渡す。





 「――――――」  刹那、二人の男の視線が交差した。  「――――――」





かと思えば父親は僅かに目を細めて、一片の未練も露わにせず、自席へと戻っていった。

自然、全ての視線が新郎新婦に集中する事となる。

ステイルも束の間、生涯で一、二を争う輝きを放っているだろう花嫁の晴れ姿を眺めた。

こうして見れば見るほど、上条美琴と同位存在なのだと実感させられる。

しかし彼女は上条美琴ではない。

彼女は二〇〇〇三人の姉妹の誰とも異なる人生を歩んできた、“打ち止め”その人だ。

軽く目を瞑り、隣のシスターに睨まれる前にステイルは式次を進める。



「ここに、開式を宣言します。列席の皆さま、ご起立を」



<> 第二部 エピローグD<>saga<>2011/10/15(土) 23:08:28.19 ID:pgorGjlM0<>

オルガンの音色がフェードアウトし、インデックスが賛美歌斉唱についての簡単な説明を行う。

典礼聖歌391、「ごらんよ空の鳥」。

口語調の歌詞と十字教色の薄さから、日本の教会結婚式で広く唄われ継がれる一曲である。

新教の賛美歌としての側面がやや強いためステイルたちはいくらか言葉を飲んだが、

確かに特定宗教に染まらない学園都市の住人にも馴染みやすいセレクトではあった。



「…………では皆さま、声と心を合わせて」



インデックスが締めくくり、奏楽の開始に合わせてステイルが腕を振る。

おお、と抑えた歓声が上がったのは、中空に焔色の文字で歌詞が浮かび上がったからだった。



ご覧よ 空の鳥 野の白百合を

蒔きもせず 紡ぎのもせずに 安らかに 生きる

こんなに小さな いのちにでさえ 心を かける父がいる

友よ 友よ 今日も たたえて歌おう

すべての物に 染み通る 天の父の いつくしみを



科学の街の住人達のぎこちない歌声を、広がる波紋のような清廉な音色がまとめ上げる。

ステイルの肩先にすら及ばぬ高さから発せられる至上の聖歌に、誰もが徐々に酔いしれていく。

初めのうちはもごもごと表情筋の収縮運動を繰り返すのみだった一方通行さえ、

いつの間にか瞼を下ろして、囀るようなテナーで打ち止めのソプラノと唱和していた。

<> 第二部 エピローグD<>saga<>2011/10/15(土) 23:09:09.16 ID:pgorGjlM0<>

「皆さま、ありがとうございました。では御着席ください。
 生きとし生ける万物への感謝が、愛しあう二人の先行きを照らさんことを」


斉唱が終わりを告げ、ステイルは極めて略式の『愛の教え』を説く。

本来なら聖書から抜粋した有難い主の教えの朗読が必要だが、

学園都市ではどうやらマイノリティーらしいのでこの形式に落ち着いた。

そしていよいよ、式のメインイベントとして世に認知される『誓いの言葉』の時間が訪れる。

二人の式はどこまでも面白みのないポピュラーな形式に沿っているが、

世にも数奇な運命に絡め取られた男女の節目とは、案外こういうものなのかもしれない。

まずはステイルが新郎に、次にインデックスが新婦に、それぞれに言葉を掛ける手筈となっている。

一方通行の戸籍上の名前を脳裏で反芻しながら、ステイルが厳かに口を開いた、


「新郎――――」


その時。










バアンッ!!!!


「一方通行ぁっ!!!」


閉じられた大扉が勢いよく押し開かれ、呼吸を乱しに乱した番外個体が、前触れもなくその姿を現した。

<> 第二部 エピローグD<>saga<>2011/10/15(土) 23:10:37.10 ID:pgorGjlM0<>

「……番外個体」

「番外個体っ!?」


新郎と新婦が、ほぼ同時に、しかしトーンのまるで違う声を上げた。

番外個体はおかまいなしに、ずんずんと肩をいからせて祭壇へと歩み寄ってくる。

聖堂にはしばし、トスントスン、とカーペットが吸収しきれなかった足音だけが響いた。

誰も番外個体を止めようとはしない。

女の表情に、ただならぬ気迫と――――ヤケクソ気味の赤みが差していた。


「一方通行、最終信号」


遂に祭壇の前へと辿りついた女が、花婿に挑むような眼光を向けて対峙した。

ステイルもインデックスも、列席者に右ならえ状態で呆けることしかできない。

唖然として、番外個体の一挙一動を見守るだけの彫像と化した彼らの眼前で――――


「…………ん」

「っ、!? な、な、!?!?!?」







女が、男の、唇を、奪った。







<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/15(土) 23:13:21.93 ID:pgorGjlM0<>
続く、ってミサカはミサカは断言してみたり!

ここで一句
『一波乱 起こさにゃ済まぬ この>>1は』
次回は水曜の夜にでもお会いしましょう


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)<>sage<>2011/10/15(土) 23:26:02.82 ID:3Kmr5nRjo<> あらやだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/15(土) 23:41:38.83 ID:43uMUQs70<> この展開、元ネタの数段は上行っているな   どうなる次回! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/10/16(日) 01:14:04.72 ID:F80/M/pF0<> 神の前での誓約のキス(ウェディングキス)は絶対らしいぞ
ということはつまり <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/16(日) 07:21:47.89 ID:E2mBz7dDO<> 一方通行がハーレムを築くフラグか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/10/16(日) 13:33:11.82 ID:UMUGTyZlo<> イノケンに賛美歌歌わせたいな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/16(日) 23:51:04.13 ID:6s/XWhPIo<> 乙なんだよ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/17(月) 07:12:14.92 ID:0IGlXsMB0<> うわ、今まで可愛かったのに一瞬で最低なクズ女と化しやがった
それでも>>1なら…>>1ならただのクズにはしないと期待してる乙 <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/19(水) 22:51:17.05 ID:4+U5mH4x0<>
水曜の夜も残り僅かというところで>>1がやってまいりました
ぼちぼち投下といきましょう↓ <> 第二部 エピローグE<>saga<>2011/10/19(水) 22:51:54.21 ID:4+U5mH4x0<>

凍れる時の呪法やら、ヨーグルトの超能力やら、『THE・世界』やら、

以前インデックスから聞かされた、『こことは異なる世界』に存在するらしい

特殊能力の名前を次々に脳内モニターに投影しながら、ステイルはこめかみを抑えた。

突如として式に乱入し、新婦に捧げられるべき新郎の唇を奪った女――――番外個体の暴挙。

恋愛にありがちなドロドロの三角関係が生み出した悲劇にしてもショッキングに過ぎるが、

事態はこれだけには収まらなかった。


「…………んっ」

「………………て、めえ」

「あ、あばばばばば……番外個体、これってどういう…………!!」


新婦が色をなすのも当然の事である。

打ち止めの顔色は赤くなったり蒼褪めたりビリジアンになったりで実に忙しない。

そんな混乱の極致へ叩き落とされた彼女に、

叩き落とした張本人が男との口づけを終えて次にしたのは、ウエディングドレスの肩口を掴む事だった。


「最終信号」

「…………え? ちょ、ま、さか、そんな」

「ん」


ズギュウウウウウウン。


「「「えええええっええええぇぇぇぇぇぇぇっぇぇぇえ!?」」」


悪夢再び。

ステイルに認識できたのは自らを襲う強烈な目眩と、

会場のそこかしこから上がる黄色い悲鳴だけであった。

<> 第二部 エピローグE<>saga<>2011/10/19(水) 22:52:34.12 ID:4+U5mH4x0<>

インデックスに袖を引かれたステイルが我に帰った時、永遠よりも長い五分が既に経過していた。

遺伝発生上の姉、戸籍上の妹になにをトチ狂ったのか

啄ばむような接吻をし終えた番外個体はモジモジと身をくねらせている。

相変わらず、誰も、一言も発しようとしない。

恋人たちの一世一代の大イベントで大胆極まりないテロ行為をやらかした番外個体に、

憤りを見せる年配者はいないかとごった返す出席者にステイルは目を向けるが、

御坂夫妻も黄泉川愛穂も親船最中も、ちりほども動く気配がない。

当事者たちの真後ろに控える上条夫婦も目を白黒させていて当てにできそうもない。

ちなみに芳川桔梗には誠に遺憾ながらはじめから何も期待していない。



指一本分のアクションでさえ衆目を一斉に集めてしまいそうな空気だったが、

司式者としてこの気まずい沈黙を良しとするわけにもいかないだろう。

ステイルは大きくかぶりを振って、大きく溜め息をつき、これまた大きく息を吸い、


「――――――君ぃぃッッ!!! いったい何の真似なんだ、これは」

「マグヌス」

「ん、な?」


大音声を張り上げながら番外個体に詰め寄ろうとして、一方通行に制止された。

次の瞬間、フリーズ状態が続いていた打ち止めが涙ぐんで番外個体に抱きつく。


「ありが、と……ありが、とぉ……!!」

「やり方っつうもンがあンだろ淫乱娘が……クソッ」

「よ、喜んで、もらえた?」

<> 第二部 エピローグE<>saga<>2011/10/19(水) 22:53:13.64 ID:4+U5mH4x0<>

泣きじゃくる打ち止めと疲れ切った顔の一方通行、おずおずと妹の表情を覗きこむ番外個体。

そこだけ切り取れば美しい光景なのだろうが、

三人だけでほっこりされてもステイル達には何が何やら意味不明である。

空気を読むことにも限界が来たのか、たまらずインデックスが疑問を発した。


「…………そろそろ、説明が欲しいんだよ」


結婚指輪を抱えっぱなしで放置された上条当麻も追従する。


「そうだぞお前ら! 最悪のタイミングで修羅場に入ったのかと思ってワクワ……ビビっただろ!」


二人が声を上げた事で、ようやく場が時の流れに再び身を委ね始める。

良くも悪くも非常事態が日常茶飯事な学園都市クオリティー、

上へ下への大騒ぎとはならなかった事は不幸中の幸いだった。

とは言え、このままなあなあで済ませるつもりはステイルには毛頭なかったが。


「一方通行」

「…………わかってる、説明する。じゃなきゃ収拾がつかねェ」


会衆の耳目を一身に浴びながら白髪頭に手をやった一方通行はしぶしぶ、という態で語り始めた。

専門でない相手に専門知識を伝えられてこそ頭の良い人間だとはよく言ったもので、

一方通行の解説は科学知識に明るくないステイルたちにも明快であるよう、

十二分に噛み砕かれた、それでいて懇切丁寧なものであった。

この男、意外と教師に向いているんじゃないかと脳の一方で考えながら、ステイルは頷く。

<> 第二部 エピローグE<>saga<>2011/10/19(水) 22:53:54.39 ID:4+U5mH4x0<>

「つまりこれは、三年前に美琴を号泣させた『電報』のリメイク版というわけだ」

「だ、誰が号泣したって言うのよ!!」


すかさずメイドオブオナー、上条美琴が抗議するが、

今日この式場に居合わせた者の大半は三年前の挙式にも参列している。

彼らからこぞって微笑ましげな視線を向けられた美琴はたじろいでまごついた。




「だ、だって…………しょうがないじゃない!!
 妹達全員からネットワークを通して、『おめでとう』の嵐をもらって、泣かないワケないでしょ!?」




九九七一回の、愛に満ち満ちた『おめでとう』。

そしてインデックスのバースデーに上条夫婦から届けられた、二つの『おめでとう』。


「みこと、誰も悪いなんて言ってないんだよ。現にらすとおーだーだって……ね?」


それらと何ら遜色のない、『妹達』が末妹に浴びせた『おめでとう』。

涙の堤防を100%の確率で決壊させてきた実績を持つ、祝福という名の大雨。

それこそが番外個体から愛する男女への、渾身の結婚祝いだった。


「う、ん。いま、今なら、あのと、あの時のお姉様の、きもぢがわかるよぉ……!
 嬉しいよ、嬉じいよ、嬉じくて、死んじゃいそうだって、ミサカはミサカは、ひっく」

<> 第二部 エピローグE<>saga<>2011/10/19(水) 22:54:26.67 ID:4+U5mH4x0<>

花嫁は、妹であり姉である女の胸の中で目を赤くしていた。

声はひくつき、化粧は崩れ、それでも美しく、あたたかい雨に身を打たれて泣いていた。


「いつまでもみっともなくベソ掻いてンじゃねェよ」


手厳しく花嫁を窘める花婿だが、責める声は上がらない。

杖を突いていない左手が目頭を一瞬だけ押さえたのを、誰もが目撃していたからだ。

ご多分に漏れず目撃者の仲間入りを果たした番外個体も満足げに口許を緩めた。


「たださ、二番煎じじゃ感動も半減でしょ? だからこういう超絶サプライズ形式を取ったってワケ!
 今回は圧縮した映像データと音声データを一回バラして、
 生体電流に乗せて渡してから、後頭葉と側頭葉に直接送りこんでデコードしたの。
 おかげで伝達は一瞬で終了、余計なお時間は極力とらせない企業努力でーっす」


『生体電流に乗せた受け渡し』とは即ち、

微量の唾液を媒介とした粘膜接触――――有り体に言わなくとも、キスである。


「…………何をしたのかはわかった」


懐から今すぐにでも電子タバコ、ないしルーンカードを抜きたい欲求に必死で抗いながら、

ステイルは重低音を二メートル越えの長身をフル活用して響かせた。


「それにしたって他にいくらでもタイミングは、やり方はあっただろうッ……!」

<> 第二部 エピローグE<>saga<>2011/10/19(水) 22:55:25.91 ID:4+U5mH4x0<>

ステイルが堪えている、辛うじてやり場を失っていない憤りの根本はそこに尽きる。

ある事情からステイルはこの十年、脳と記憶についての知識はそれなり以上に修学している。

電波を飛ばす、と言えば言い方がアレだが、なにせここは全世界の科学を牛耳る先鋭、学園都市なのだ。

他にどうとでもやりようはあった筈だ。

ないわけがない。


(………………ないよな?)


ましてや打ち止めには脳波リンク技術の代名詞、ミサカネットワークがあるのだ。

直接接触に拘る必要などあるのか。

そしてなにゆえ、ステイルの胃潰瘍を最大速度で促進するであろう、このタイミングなのだ。


「あ、あはは、怖い顔しちゃやーよ神父さん!
 そんな熱い視線で睨まれたらミサカ思わず濡れちゃいそう☆」

「あ゛?」

「ゴメンナサイシスターサンナンデモアリマセンヨミサカハセイジュンハデスカラ」


ドスの聞いたドス黒い唸りが、ステイルに負けず劣らずの超低音で番外個体の心臓を鷲掴んだ。

一斉に発生源から半歩引き下がる関係者一同。

<> 第二部 エピローグE<>saga<>2011/10/19(水) 22:56:15.78 ID:4+U5mH4x0<>

神父がおっとり刀で、群青色のベールの上からポンポンとシスターの頭を軽く撫ぜる。

その間に正常な言語機能を取り戻した番外個体が、はにかみながら新郎新婦を振り返った。


「………………だってさ、伝えたかったんだもん。
 どんな言葉よりもこの気持ちを伝えられる手段はないのかって、ずっとずっと探してた」


その鮮烈なまでに真っ直ぐな視線は、果たして親譲りか、姉譲りか。


「それで辿りついたのが、コレ。大勢の人に“観測”してもらいたかったんだ。
 ミサカのこのふらふらした不確かな気持ちを、“事象”として確定させたかった。
 誰かに見られてなきゃ自信が持てないなんて、我ながら情けない話だけど」


番外個体の、ともすると弱気ともとれるらしくない態度。

しかし一方通行と打ち止めは、その裏に隠れている、“覚えのある”信念の正体を即座に悟った。






『言っただろ、見世物だと思ってのンびりしてろ』


『私たちはね、これからやることを誰にも、
 それこそ世界中のどんな人にも恥じることが無いって宣言したいの』






「百点満点の解答だなんて自分でも思ってないけどさ、これがミサカの――――私の、精一杯」

<> 第二部 エピローグE<>saga<>2011/10/19(水) 22:57:00.02 ID:4+U5mH4x0<>



「姉さん、義兄さん」




生まれて初めて、『妹』から親愛を籠めてそう呼ばれて、『姉』と『兄』は肩を震わせた。




「結局さ、私は“これ”を言う勇気が欲しくて、自分を追い込んだだけなのかもね」




血と憎悪に塗れた『存在理由』を与えられた筈の少女が、その手で掴み取った表情。

彼女と彼らの始まりの地に降っていた、雪のようにまっさらで、純粋な笑顔。






「二人とも、だいすき。幸せになってね」






気恥ずかしさからか林檎のように染まった頬は、まるでしもやけにでもなったようで。

これから夏を迎える学園都市の片隅で場違いに、しかし程よく、にっこりと融けて弾けた。

<> 第二部 エピローグE<>saga<>2011/10/19(水) 22:57:32.41 ID:4+U5mH4x0<>








――――それで丸く収まるのなら、(主にステイルにとって)どれほど楽であっただろう。


「いい話だ 感動的だね だがオトシマエはつけてくれよ」

「えっ」

「えっ、じゃないだろうが!! この状況と自分の行動をよーく顧みろ!!
 挙式真っただ中の新郎新婦の唇を奪ってイイハナシダナーで済むなら三三九度は要らないんだよ!!」

「ステイルステイル、それ十字教式ちゃう。それ神前式なんだよ」

「お、オトシマエってなにさ!? まさか私のカラダが目当てなんじゃ、この性職者!」

「やかましい! ……君、神の御前でもう少し本音をぶっちゃけるなら救いがないわけじゃあないよ。
 正直に言ってみたまえ、実はほんのちょっとだけ役得だと思っていただろう?」


番外個体が一方通行に想いを寄せていた事は、あの上条当麻にすら周知の、羞恥の事実である。

下心がなかった訳がないとステイルは踏んで、せめてもの復讐を謀る。

案の定、番外個体は紅潮させていた頬を更に一段と昂らせて、消え入るような声で、






「……………………ご、ゴメンナサイ。
 本当は姉さんのぷりぷりした唇の感触を貪りたいって私利私欲も働きました、ハイ」

<> 第二部 エピローグE<>saga<>2011/10/19(水) 22:58:25.26 ID:4+U5mH4x0<>

っておい。



「そっちかああああああああああああああああああああ!!!!!!」



そして始まる阿鼻叫喚地獄。


「あ、あわわわわ、番外個体!? 
 私にそういう趣味はないのよ、ってミサカはミサカはミサカがミサカでミサカ! ミサカ! 御坂!」

「うォォォい!! クソガキがシステムエラー起こしたぞォ!?」

「ままま、マリアさまが見てる前で /(^o^)\ナンテコッタイ なんだよ!」

「と、とにかく! ダメだ、ダメダメだ! 許されざるよこんなの!! 僕は認めない!」

「ええ!? 折角正直に懺悔したのにぃ!! だったらどうすればいいのさ!」


地団駄を分厚い絨毯に踏み付けながら、ステイルは深呼吸を繰り返す。

息を整えて番外個体を射殺すように睨むと、祭壇に向かって右側の席を顎で指す。


「……だったらそこにいる先生に頼んで、
 ロンドンに『冥土返し』特製の胃薬を郵送するよう手配してくれ。それでチャラだ」

「え、いや、そういうのって薬事法で規制されてるんじゃ」

「だーかーらー。そこを何とかなるように君が何本でも骨を折れ、と言ってるんだよ僕は」

「そんなぁ!?」

<> 第二部 エピローグE<>saga<>2011/10/19(水) 22:59:28.49 ID:4+U5mH4x0<>

そこに、列席していた件の名医が鷹揚に笑いながら番外個体に助け船を出す。


「僕は別に、処方することにやぶさかではないんだね?」

「さ、さっすが先生! そこに痺れるぅ、憧れ」

「統括理事会の承認がいるから、君の方で何十本でも骨を折ってくれたまえ。
 心配しなくとも、骨折ならいくらでも僕が治してみせるさ。
 ………………それ以外の面倒事は、僕の関知するところではないけどね?」


助け船は、泥舟以外の何物でもなかったが。


「うわああああああんんんん!!!! 労働基準法が息してないいいぃぃぃぃ!!!
 またミサカの残業時間倍プッシュですかそうですか本当にありがとうございました!!」

「いいからさっさと自分の席に戻れッッッ!!!!」

「皆さまご迷惑おかけしましたァァァァァーーーーッッ!!!!」



そのやけっぱちな叫びを切っ掛けに、そこかしこから笑いが噴き出す。



割と本気の涙声で嘆く番外個体と、憤懣やるかたなく吠えたステイル。

彼らとは対照的に、出席者は一様に暢気に腹を抱えて笑っていた。

ステイルがふとインデックスに横目を流すと、彼女はその光景を眩しげに見やっていた。

つられてステイルも、笑いの絶えない科学の街の片隅にもう一度視線を戻す。

<> 第二部 エピローグE<>saga<>2011/10/19(水) 23:00:17.99 ID:4+U5mH4x0<>


子供の未来を真摯に思う大人たちがいる。



「よぉくやった! それでこそ私の娘よ番外個体!」

「一方通行ぁぁぁ!! なんでお前ばっかウチの娘に愛されるんだよぉぉぉ!!!」

「まあまあ、幸せ者ねぇ一方通行くんは」

「心労でまたウチのベッドの世話にならないでくれよ?」



家族とのこれからの為に闘う男たちがいる。



「ハハッ!! 両手に花ってレベルじゃねーぞこの若白髪ァァァァ!!」

「落ち着けって浜面! 気持ちはわかるけど!!」

「カミやん……今日のお前らが言うなスレはここかにゃー」



『闇』の中からその犠牲者を掬い上げようとする者がいる。



「ていとくんにいい土産話ができたわなー。な、初春ちゃん?」

「…………百合も意外と悪くないかもしれませんね」

「初春さんんんん!!!!? あなたまで黒子と同じ修羅道を歩まないでお願いだから!」

<> 第二部 エピローグE<>saga<>2011/10/19(水) 23:01:21.26 ID:4+U5mH4x0<>


自らの過去と、恐れず向き合った者がいる。



「麦野が二次会で上映されるスペシャルビデオを超見たがってましたが……」

「なんつーか、この話を持って帰るだけで腹いっぱいって感じだな」

「ふれめあもきっと喜ぶね」



取り返しのつかない事を取り返そうとする人々がいる。



「さっきからギャーギャー好き勝手言ってるクソ野郎どもォ!!
 脳下垂体前葉グチャグチャにしてホルモン分泌停止させてやろうかァァ!!!」

「ぎゃははっ☆第一位サマの『俺って頭良いンだぜ』アピールいただきましたぁ!」

「もー! アナタも番外個体も大概にしなさい、ってミサカはミサカは」




――――今を、強く生きる人間の営みが、確かにそこにある。




ステイルとインデックスがほんの一週間前、

病院の待合室で思いを馳せた脚本と、キャストは何も変わっていない。

だというのにこの落差はなんだろう。

数多の悲劇に吹きさらされた人々の笑顔の、なんと美しいことだろう。


「やれやれ………………ご静粛に、ご静粛に! 式を再開します!」

<> 第二部 エピローグE<>saga<>2011/10/19(水) 23:02:15.94 ID:4+U5mH4x0<>

あの時は、自分達の物語が安っぽい悲劇に思えてならなかった。

この世に生きる誰もが、多かれ少なかれどこかに傷を抱えて生を送っている。

自分達だけが心の内側の問題に囚われてぐずぐずと苦悩し続けるのは、

単なる自己満足に過ぎないのではないか、と。


「…………ご静粛にお願いしますと言っているんだ貴様らーーーーーっ!!!!」


しかし今なら、ステイルは胸を張れる。

自分の懊悩がありふれていようといまいと関係がない。

他者との相対的な尺度に意味などない。

第一位(ぼうぎゃく)という名の目の粗い篩にかけられて、

なお心臓の底に残されたものさえ、見失わなければそれで良い。


「本当なら指輪交換が先だけど…………アクシデントを有効活用してこそプロなんだよ!
 番外個体のサプライズの余韻が冷めないうちに、誓いのキス、いってみよー!!」

「どんな理屈だ! それでいいのか最大主教!!」


それは無邪気に笑って無茶苦茶を言いだす彼女への、絶対的な愛おしさ。


(…………そうだ、どんな理屈も、意味を成さない。
 これまでもそうだったし、これからも、これだけは)



この心だけは、永遠に不変だ。



「さあさあお二人さん、パーっといってほしいんだよ!」

「おいィ? マグヌスくンよォ、これでいいのかイギリス清教」

「…………済まない、諦めてくれ。では、誓いのキスを」

<> 第二部 エピローグE<>saga<>2011/10/19(水) 23:04:04.85 ID:4+U5mH4x0<>



「あ、あはは、ってミサカはミサカは今さら緊張してきちゃって……」


「打ち止め」


「………………はい」


「俺は、ずっとお前と一緒にいたい」


「う…………うん!」


「お前はどうだ?」


「み、ミサカも、私も。ずっと、ずっと――――ずっと一緒にいてって、お願いしてみる」


「ああ、約束する――――――愛してる、打ち止め」


「――――――」


「――――――」






「ここに二人は、正式に夫婦となりました。どうか皆さま、盛大な拍手を――――」






<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/19(水) 23:11:03.66 ID:4+U5mH4x0<>
俺も、ずっと一緒に続けたかった


というわけで次回、エピローグのエピローグとなります

>>184
えっ




えっ
インデックスに散々形式にはこだわらないと言わせておいたのでセーフということでどうか一つ
張ってて良かった予防線!

>>188
>>1は心底胸糞の悪くなるクズ野郎を書けない病気を患ってます
そういう悪役がいるほうがメリハリがつくのはわかってるんですが、性分なのかどうにも
木原一族って偉大ですよね

他の皆様もありがとうございました
次回投下は週末までお待ちくださいませ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2011/10/19(水) 23:36:31.31 ID:4XY/WI7AO<> 乙!
番外個体が悪役にならなくてよかったほんとよかった番外個体可愛すぎてしねる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(三重県)<>sage<>2011/10/20(木) 00:57:23.68 ID:IskSlj1b0<> 乙! なんだよ。
番外個体にも愛の手を! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2011/10/20(木) 01:30:21.59 ID:SeaM2ljAO<> 乙
笑い泣きとはこの事か
結婚式の出てくるSSは数々見たけど、ここのが自分の中で一番になった <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/20(木) 07:07:10.66 ID:PMrGN7zi0<> 乙
「卒業」は花嫁が応えるから愛の奪還劇として成立するのであって
ただの横恋慕の乱入の場合トチ狂った邪魔者にしかならないんだよね
番外個体の「卒業」はいじらしく美しかった!

ひそかに会場で一番興奮してたのはエツァリだよね、共感します <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/20(木) 08:59:36.90 ID:ZGMWK9j00<> 乙!
打ち止めは抱き心地よさそうだもんなぷりぷりふにふにもふもふしてえ
美琴御坂妹番外個体は軽く筋肉質でハリがあってまさに「美」って感じ
舐め回すように見ていたい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<>sage<>2011/10/20(木) 12:15:47.04 ID:2O/zymKno<> 乙!!

さぁ番外さん?僕にその唇を貸しなさい
間接きっすハァハァ


一度で三度美味しいとかタマラン!! <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/22(土) 22:18:04.58 ID:jWsYjZqS0<>
ここまで長かったな……と感慨にふけっている>>1ですどうも

>>210 >>211
おまわりさんこっちです

他の皆さんもありがとうございました
みんなが泣いて笑ってる、いかにもな最終回は演出できたでしょうか?
ではそろそろ投下します↓ <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/22(土) 22:20:15.53 ID:jWsYjZqS0<>


十七時間後。



イギリス清教の手配したチャーター機で、ステイルとインデックスは雲上の人となっていた。

土御門とエツァリはいない。

彼らには、生き残った『神の右席』の護送という任務がある。

故に現在、この空間は。


「二人っきり…………だね」

「時折やってくる専属CAを除けばね」

「もう、ロマンティックが足りてないなぁステイルは!」

(ティックときたか……)


盗聴器やカメラが(土御門によって)仕掛けられていないかは念入りにチェック済みである。

つまるところ、換言するまでもなく、聖女と守護者の、正真正銘、混じりっ気なしの二人きり。

久方ぶりのムード溢れるシチュエーションに、二人の頤の動きは――――鈍かった。


「……よく、『ちゃーたー機』を用意する予算があったよね」

「……まあ、任務達成の御褒美と思えばいいんじゃないかな。
 そういえば君、何でもないようにひこ…………その、空を飛んでるけどだいじょ」

「…………なるべく考えないようにしてるの!」

「あ……すまない」

「うん……」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/22(土) 22:21:19.80 ID:jWsYjZqS0<>

会話が弾まない。

甘い沈黙、というわけでもない。

だいたいにして、この二人の無言が甘ったるい空気に満ちていた過去など片手の指で足りる程度だ。

背景事情を考慮に入れなければ中学生並みのロマンスしか経験していないステイルとインデックスに、

浜面夫婦のような熟年アベックの醸し出す手触りを再現するなど土台無理な話である。

やがて辛抱の利かなくなったステイルが、豪奢な個室のドアへ目線を走らせた。


「…………ドリンクでも、貰ってくるよ。君は何がいい?」

「え、っと…………それなら、私も一緒に」


二人してぎこちなく立ち上がる。

その時、乱気流にでも飲まれたのか機体が激しく揺れた。


「あ、わわ!」

「おっと」


白衣が平衡を失って、黒衣に抱きとめられる。

それはどこまでも自然な流れだった。


「大丈夫かい?」

「ありがとなんだよ…………あ」

「ん?」


――――ごくごく自然に、ステイルの右腕はインデックスの背に回されていた。


「ハグ…………してくれたね」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/22(土) 22:22:15.22 ID:jWsYjZqS0<>

「…………そう、だね」


ステイルは空いた左手を顎にやって、束の間瞑目する。

少し長い瞬き程度の時間で瞼が開いたとき、輝度の低い紅玉が一直線にインデックスを捉えた。


「僕が今まで、君をこの腕に抱けなかったのは――――『君』を殺した感触が、残っていたからだ」

「……っ」


ひゅっと息を短く飲む音が、静寂を保つ機内に一際大きく響いた。

インデックスの翠玉が、反射的に瞳孔を絞る。


「君ではない、『君』を、君に重ねていた」


一言一句を、鉈を振り下ろすかのように、ぶつ切りにして吐き出す。


「それは彼女たちを未だ恋い慕っている、なんて生易しい情動じゃあない」


十二年間、思いの丈を溜め込み続けた堤を、少しずつ切っては崩す。


「僕は、彼女らを、君ではない『君たち』の死霊を、背負っている」


一瞬たりとも、真摯な視線が外れる事はなく。


「そしてこれからも、この荷を下ろさずに永久に引き摺って生きていく」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/22(土) 22:23:39.57 ID:jWsYjZqS0<>

「…………もしも君が、君さえ、そんな僕でも良ければ」


そして遂に、ダムの底に最後に残った、限りなく大きな一滴を、愛する人の心へ注ごうとして――




「――――そう言えば!」




遮られた。


「……なんだい?」


ステイルは急かさない。

インデックスは満面の笑み。


「来月、ステイルの誕生日だね! 今日の式みたいに、いっぱい友達呼んで、パーっとやろ?」

「必要ない」

「………………え? そ、そんなこと言わないで、皆にお祝いしてもらって」

「君がいればいい」

「――――――――あ」

「百人の友人も、億千万の祝福もいらない」

「ん、えぁ? す、すている……?」

「僕の欲しいものは、たったひとつだ。ひとつだけなんだ」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/22(土) 22:24:13.89 ID:jWsYjZqS0<>








「君さえいれば、他に何もいらない」










<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/22(土) 22:25:17.51 ID:jWsYjZqS0<>

コンコン。

ノックの音。

少し遅れて女性の声。


「お客様、よろしいでしょうか?」

「…………ああ、入ってくれ」


言って、ステイルは即座に腕を解く。


「ひゃ、あ」


――――直前に、インデックスを強く掻き抱いてから。


「先ほどは気流の乱れにより大変ご迷惑をお掛けいたしました。お怪我などございませんか?」

「問題ないよ。それだけかい?」


洗練されたCAの所作に無感情に対応しながら、ステイルは窓際のシートに着いた。

インデックスも慌ててその隣――――ではなく、やや距離のある座席を選んで着座する。


「当機は間もなく着陸態勢に入ります。
 シートベルトをお締めの上、電子機器の電源をお切りくださいますよう」

「……ん、もう着いたのかい? 心なしか、予定より早い気がするが」

「現地時間で午後六時、フライトスケジュール通りに運航しております」

「…………確かに。失礼、妙な事を口走ったようだ。
 行きが“あんな”だったから感覚が麻痺してるのか……?」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/22(土) 22:26:13.70 ID:jWsYjZqS0<>

機内の時計は到着地の時刻に合わせられている。

間違いなく、予定通りの午後六時。

軽く手を振ってCAを退出させると、指示に従って着陸の準備を済ませる。


「到着のようだね」

「…………うん、そうだね」


沈黙が再び、上空一万メートルを滑空するスイートルームを支配した。

ステイルはこれからチャーター機が飛び込むであろう雲海をただただ観望している。

インデックスはといえば、面を上げて唇を震わせようとしては

力なく項垂れるだけの無為な反復運動を繰り返していた。


「す…………すている、さっきのって、わっ」


鼓膜の奥がキンと鳴った。

機内の気圧が段階的に調整されていく。

ガラスの外の世界が白一色に染まってのち、やがて逢魔が刻を迎えた街並みを映し出した。

落ち着かない浮遊感と、車輪と路面とが擦れる際の微振動。

それらもほどなくしてフェードアウトし、懐かしきロンドンの大地が直ぐ足下にあるのだと報せてくれた。

無事の着陸を告げる機内放送を聞いて、ステイルは荷物をまとめて立ち上がり――――


「行こう」


インデックスの眼前に毅然と佇んで、その大きな掌を差し出した。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/22(土) 22:26:47.62 ID:jWsYjZqS0<>


「今すぐ答えを出してくれなくてもいい」



「ただ、僕もそう長くは待てない。待ちたくない。我慢がきかなくなる」



「だから、そうだな。その懐中時計」



「その懐中時計を、僕から君に贈ったあの日。それがもうすぐだったね」



「君の『もう一つの誕生日』に、二人きりで話がしたい」



「僕たち二人にとって、とてもとても大事な話を」







「午前零時。聖ジョージの聖域に、来てくれるかな」








<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/22(土) 22:27:54.57 ID:jWsYjZqS0<>

黒衣の守護者が優しく笑う。


初恋を殺し、辛酸を舐め尽くし、絶望に心折られ、一度は逃げ出した。


それでも少女を想って闘い続け、女への変わらぬ愛をいま一度確かめた。


もう迷うものか。


差し伸べた手に無窮の決意を宿し、男は笑う。





「…………うん、わかった」





潤んだ鈴の音とともに、その手が握り返される。


羞恥に堪えかねてか、白銀の聖女のかんばせは上がらない。


それでも、重なる体温が途方もなく愛しくて。


恭しく、どんな水晶細工を扱うよりも丁寧に、女の前髪を払いのけて。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/22(土) 22:28:46.59 ID:jWsYjZqS0<>











――――その額に、口づけを贈った――――













<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga !美鳥_res<>2011/10/22(土) 22:29:41.48 ID:jWsYjZqS0<>

------------------------------------------------------


愛し合う男女は幾多の障害を乗り越えて結ばれ



世はなべて事もなく



めでたしめでたし














HAPPY END




<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga !美鳥_res<>2011/10/22(土) 22:33:21.27 ID:jWsYjZqS0<>








                              そ
                              れ
                              で
                              は
                              困
                              る
                              ん
                              だ
                              よ











<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga !美鳥_res<>2011/10/22(土) 22:38:12.37 ID:jWsYjZqS0<>

それでは私が困るんだ


とは言え、実際のところ憂慮などしてはいないがね


見たまえ、ステイル=マグヌスの悦びに満ちた顔を


自分だけ全てを吐露し終えて、一人身勝手に重荷を下ろしたあの表情を


滑稽なものだ


彼はまだ何も知らない


彼女の頑なに俯いて動かない美貌が、蒼白に染まっている事実も


彼女が己以外に打ち明けた事のない、底なしの絶望の正体も








己が手で『禁書目録』を深淵に突き落とす未来も








――――彼はまだ何も知らない

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/22(土) 22:42:52.80 ID:jWsYjZqS0<>


       -----------------第二部 『学園都市編』 完-------------------



                    ⇒ TO BE CONTINUED ……








                    …… ADVANCE BILLING⇒
<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/22(土) 22:45:35.95 ID:jWsYjZqS0<>

彼はまだ、何も知らない。


「僕には、知っておくべきなのに、知ろうとするべきだったのに、知らない事があまりに多すぎる」

「最近になって、とみに痛感するようになったんですよ――――僕はまだ、何も知らないんだ、とね」


故に、真実を欲する。


「答えろ」

「『禁書目録』とは何なんだ?」





愛する人の、涙の理由を変えるため。






「彼女はいったい、“誰”なんだ?」







<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/22(土) 22:47:05.07 ID:jWsYjZqS0<>

先を生きた者の声も。


「君の事はよくローラから聞いていたよ」

「………………成程。もう、あなたも子供ではないのね」


共に生きた友の声も。


「私では、あなたたちの力にはなれませんか?」

「いいか。絶対に、死ぬなよ」


どこにもいない筈の誰かの声も。


「私はただ、あの子の幸せそうな姿を、一目見られればそれで良い」




全ては届かず。




「ステイル………………その人、だぁれ?」


「ああそっか、その人もそうなんだ」


「その人も――――――――」


<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/22(土) 22:49:46.59 ID:jWsYjZqS0<>

「何故だ」


「どうしてだ?」


「なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでッッッ!!!!」





聖女は絶望に沈む。





――――よかったじゃあないか、ステイル=マグヌス――――



「どうして、こんな…………………っ!」



――――ヒーローになる、チャンスだよ?――――





『あああああぁぁぁぁぁああああぁぁあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!』





<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/22(土) 22:55:02.10 ID:jWsYjZqS0<>

「十年ぶりですね、ステイル=マグヌス」

「やはり、君だったのか」


ステイル=マグヌスが最後に越えなければならない壁。

最初に越えなければならなかった壁。


「貴方は、ただ見ているだけでいい」

「ふざけるな。繰り返す気なのか、あんな事を」


またも、立ち塞がった選択肢。


「お解りですか」

「………………そん、な」

「“これら”は全て、貴方が彼女に贈ったものです」


突き付けられる現実。







「貴方が彼女を殺すんですよ、ステイル=マグヌス」







<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/22(土) 22:58:44.70 ID:jWsYjZqS0<>

「私が、この子を護りたいと思ってはいけないのですか」

                                     「君が、彼女を護る、だと?」




                  同じ夢を抱き、同じ天を戴く、隣接面。




「知ったような口を利くなッ!!! 貴方がこの子の何を知っている!?」
 
                               「知っているとも。僕は、全てを知った」




               直ぐ隣に在る、しかし決して交差しない、平行線。




「いみじくも貴方が先ほど言ったとおりです。人間はいつか死ぬ」

                                     「ならば、人間など辞めるさ」



           
                 火花散り、情動がぶつかり合う、臨界点。




「――――貴方が、妬ましかった」

                                    「――――君が、憎かったよ」



                  ならばきっと、この激突は必然だった。




<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/22(土) 23:02:17.53 ID:jWsYjZqS0<>

                   「知らないのならば、教えてあげましょう」


                         少年は青年になった。 


                     「“貴方”では、“私”に勝てません」


                          誓いは夢になった。


                             「いいさ」


                         ならば、『失敗者』は。


                     「“僕”が“君”に勝てないと言うのなら」







                        『主人公』に、なれるのか。



                    「まずはその、ふざけた幻想を――――」




<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/22(土) 23:06:03.47 ID:jWsYjZqS0<>



                         Last Chapter







                     と  あ  る  神  父  の


                       ■  ■  ■  ■





<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/22(土) 23:08:37.52 ID:jWsYjZqS0<>

        「私は、私はあなたを、あなたの! あ、あなたのために、生きて――――――」


             女の想いの、最後のひとかけらは、言葉にはならなかった。

                 そして、男はゆっくりと、その耳元に――――




           ――――たとえ君はすべてを忘れてしまうとしても――――


                「                          」



                ――――僕はなにひとつ忘れずに――――


        「                                          」



                ――――君のために生きて死ぬ――――


                      「             」





                      最期の言葉を、囁いた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/22(土) 23:10:24.65 ID:jWsYjZqS0<>




                     「愛してる、『      』」






<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/22(土) 23:15:11.24 ID:jWsYjZqS0<>

※画面は開発中のものです。


やだ……サーバーの御機嫌悪すぎ……


というわけで一度はやってみたかった予告編でした
厨二魂ほとばしる最終章は終始このテンションで進行します
一応>>222で読了していただければ普通にハッピーエンドになってるとは思いますけどね
いくつか重要なフラグを立て忘れるとそのままスタッフロールに突入、みたいな

最終章はこれまで馬鹿のひとつ覚えでばら撒いてきた伏線の回収などに
じっくり取りかかりたいので、投下はしばらく先になるかと
それまでは最終決戦前のサブイベント的な小ネタでお茶を濁してまいります

次回は一週間以内になりますかねー
ではまたお会いしましょう
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2011/10/23(日) 00:13:49.53 ID:uXjSpqoAO<> おおう
2スレ目の最初の辺りで多分ラストだとかほざいてたのはどこへ

期待して待つけどね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(三重県)<>sage<>2011/10/23(日) 00:15:46.81 ID:a6c7il3y0<> 乙!

ひいぃぃぃいいい!?

それなんて――悲喜劇…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2011/10/23(日) 01:06:35.99 ID:nr6sxkhAO<> この>>1は……この>>1って奴は……!どんだけ俺らを(良い意味で)裏切れば気が済むんだ!
乙!ほんと乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/10/23(日) 02:16:51.50 ID:4d4DpGNOo<> oh...
どおりで出てきていいはずの誰かさんがなかなか出てこないと思ったら… <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/28(金) 22:28:38.38 ID:nQZwt5Do0<>
どうも>>1ですよ

勢いだけで書いたこの予告ですが、いま見ると胸より顔が熱くなってきますね
絶賛黒歴史量産中の>>1が本日お送りするのは人物紹介+小ネタ一本です↓ <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/28(金) 22:29:30.13 ID:nQZwt5Do0<>

インデックス=ライブロラム=プロヒビットラム(26歳)

顔良し、スタイル良し、頭脳明晰、人気絶大、セレブと五拍子揃った正真正銘のチートスペック。
だってのに色々といらん悩みを抱え過ぎている不幸属性。ちょっとねらー入ってる。
とっくにデレてるのに不穏なフラグをオンパレードしすぎたような気がする。
誰も彼も、地の文でさえシスターシスターと呼ぶが、正確には司教(ビショップ)である。
最近妹萌えに目覚めたらしい。私の妹(スール)がこんなにビリデレなわけがない。


上条当麻(26歳)

学園都市統括理事会の一員で、外交担当。学園都市が世界に誇る英雄。
親船と雲川に三顧の礼で迎えられたものの、
人脈と広告塔としての役割しか期待されていない事は承知の上である。
名前に実力が追いつくように精進中。

後ろから刺される事もなく才色兼備の妻と可愛い娘に恵まれた幸せ者。どこが不幸だ。
インデックスを除くフラグについては本当に気が付いていないのでオール放置である。
…………そのせいで四次大戦まで起こってるのに。

バトルからハブられたのは勿論パワーバランスが崩壊するから。
ぶっちゃけ『神の右席』とかいまなら楽勝、かも知れない。
その一方でちょっと屈強な一般人数人に囲まれたら大苦戦なわけですが。


打ち止め(10歳 外見20歳)

MNWの管理人にして、御坂家の末娘。普通の大学に通うごく普通の大学生として日々を平和に過ごす。
婚約者とすることはとっくに済ませている。つまり非処わっふるわっふる
戸籍上の御坂○○という名前も持っているが学友以外には呼ばれない。

専業主婦に憧れる一方で姉の研究を手伝えないかと思案中。
どのみち未来はバラ色の人生が約束されているようなもの。
前半生で散々苦労したから仕方ないね、でも爆発しろ。

物理的にも心理的にも対一方通行最終兵器として君臨。ある意味学園都市最強。
『妹達』からMNWで日々やっかみを向けられてはm9(^Д^)で返す勝ち組。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/28(金) 22:30:23.26 ID:nQZwt5Do0<>

結標淡希(20代後半)

霧が丘大学に所属する研究員……という事に表向きはなっている。
その正体は(別に隠してないけど)学園都市第八位の超能力者、『座標移動』。
暗部解体後の能力測定でレベル5認定を受けた。
ショタコンじゃないよ! 仮にショタコンだとしても淑女と言う名の(ry


浜面仕上(20代後半)

『アイテム』総務課長。要するに雑用。一応重役なのに。
みんな大好き世紀末帝王HAMADURA。永遠にもげててくれ浜面。
ハーレム形成せずに奥さん一筋で通した事は評価されるべきだと思う。
職場には生意気な妹分二人、顔だけは良い上司、家に帰れば天然系巨乳嫁が待っている。
…………やっぱりもげるべきかもしれない。


浜面理后(20代後半)

兼業主婦。そして学園都市第九位の超能力者、『能力剥奪』。
体晶の副作用なしで能力を封じるも強化するも他者に付与するも思いのまま。
普通に一方通行にも垣根にも勝てちゃったりするが、
市場利益を生むタイプの能力ではないのでこの順位に留まっているのだが本人は別にどうでもよさそう。


浜面裏篤(5歳)

浜面家の長男。幼稚園の年中さん。
既に幼なじみとの「大きくなったらお嫁さんにしてね」イベントを通過済みというリア充。もげろ。
『アイテム』の面々(プラスフレメアお姉さん)からもなんだかんだで愛されている。もげろ。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/28(金) 22:31:10.16 ID:nQZwt5Do0<>

絹旗最愛(23歳)

一方通行の戸籍上の妹で託児所職員兼、『アイテム』非正規社員。
子供は好きだが長年親しんだコミュニティも捨てがたく、現在の生活スタイルを選んだ。
『アイテム』は裏で人に言えない仕事も請け負っているが、彼女と黒夜には知らされていなかった。


黒夜海鳥(22歳)

絹旗最愛の戸籍上の妹で『アイテム』副社長。
繰り上がり的に今の地位に就いたが、先輩のはずなのに部下にされた浜面は不満タラタラである。
なにげに絹旗より料理が上手く普通に家庭的な女性。彼氏持ちで面食い。


青髪ピアス(26歳)

DM社営業部主任。ちょっと偉くしすぎたかも。
学園都市が世界に誇る、あらゆる属性を受け入れるHENTAI紳士。
心理定規とは別ベクトルで底が知れない。全く見えない。


布束砥信(28歳)

DM社企画開発部所属。会社ではゴスロリの上から白衣。
一方さんと過去に云々はおそらくお得意のハッタリ。多分ハッタリ。


初春飾理(23歳)

DM社システム開発部主任。生ける伝説を創ったコンピュータ技術を見込まれ現在の地位に。
発言の60%が黒い。どす黒い。これが対ていとくんとなると99%黒。
バリバリのキャリアウーマン人生を歩みすぎて結婚できるかどうか今から不安になっているらしい。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/28(金) 22:32:15.04 ID:nQZwt5Do0<>

親船最中(60代中盤)

三年前、アレイスター=クロウリーの失踪を受けて学園都市統括理事長に就任。
柔和な笑みと温和な言動は絶やさぬままに交渉の主導権を握る辣腕政治家。
最近の趣味は雲川弄りと一方通行弄り。大変な上司を持ってしまったものである。


雲川芹亜(28歳)

学園都市統括理事会の一員で、行政全般担当。
裏で相当に汚い仕事にも手を染めている。時の為政者の側に必ず一人はいるタイプの策謀家。
…………の筈なのに気が付けば>>1によって弄られキャラにされていた。
孔明ポジションも親船さんに奪られて踏んだり蹴ったり。内縁の夫にベタ惚れ。


食蜂操祈(25歳)

長点上機大学で心理学教授を務める才女。そして学園都市第五位、『心理掌握』。
ドラマとかでありがちなドロドロの派閥抗争を心の底から楽しんでいる人格破綻者。
でもごくごく普通のガール(?)ズトークにも憧れているそうな。
結標、理后、雲川あたりとは茶飲み友達。美琴や白井も誘いたいが避けられている。


芳川桔梗(30代)

ニィィィィィィトッ説明不要!!! 無職歴11年! 月収ゼロ!!
厳密には就活してるのでニートではない。通行止めの結婚を陰で一番喜んでた人。


黄泉川愛穂(30代)

警備員本部所属の結構偉い警備員。普段は高校教師で担当教科は体育。
結婚できていない方がおかしいスペック。だから既婚。
それでも常に一方通行たちを気に掛ける面倒見の良さ。結婚してくれ。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/28(金) 22:33:31.42 ID:nQZwt5Do0<>

御坂旅掛(40代後半)

自称『統合コンサルタント』で御坂家の大黒柱。
『実験』について全てを知ったのち、9971人全員を娘として正式に迎え入れる。
彼女らの生活費については、親として責任を持ちたい旅掛に対して、
『加害者』である一方通行が賠償責任を果たしたいと真っ向から対立。
激論を交わした結果、しぶしぶ折半する事とした。


御坂美鈴(40代)

専業主婦。十年前通っていた大学は卒業済み。
どう色眼鏡をかけても20代にしか見えない外見で、娘たちと並んでも完全に姉妹。
しかしご近所に上条詩菜という規格外がいるのでイマイチ自信が持てない。


ミサカ10032号(10歳 外見24歳)

第七学区のとある病院に勤める看護師。あだ名はくーるびゅーてぃー(インデックス専用)。
十年前時点で学園都市在住だった『妹達』は全員が看護士となっている。
その中では比較的表情の変化に乏しい方である。くーるびゅーてぃーにキャラが引きずられたのかも。


番外個体(10歳 外見20代後半)

第七学区のとある病院に勤める看護師。対一方通行専用ツンデレ兼ヤンデレ。
一歩描写を間違えればビッチルートまっしぐらだったお人。
ヤンデレを悪化させずにすくすく育った結果、あっけらかんとした人好きのする性格に。
そのため番外個体を愛でるのが最近のMNWの流行となっている。
もしかしたら一生独身かもなー、と実年齢10歳にして軽く悟りを開きかけてるらしい。
誰か貰ってやれよ! お前らの嫁だろ!!


カエル顔の医者(年齢不詳)

第七学区のとある病院の医者で通称『冥土返し』。
禁書界における元凶のそのまた元凶であると同時に、>>1的に禁書一カッコイイ大人。
後進への指導は行っていないが、彼のオペをすぐ近くで見たいという若者を拒む事もしない。
医師としてのスタンスは「そこに患者がいるなら救う」。

<> 小ネタ「りとく」<>saga<>2011/10/28(金) 22:34:57.67 ID:nQZwt5Do0<>


七月十六日 午後五時 浜面家 



フレメア「おじゃましまーす…………」キョロキョロ


理后「いらっしゃい」ニコニコ


仕上「何してんだ? さっさと上がれよ」


フレ「いやぁ。浜面の癖にセレブな暮らしぶりだなー、って」


仕上「お前はアレか、俺が甲斐性なしだって言いたいのか?」


フレ「え? まさか浜面の稼ぎだけでこんな高級マンションに入居できてるの?」


仕上「………………」


理后「大丈夫、兼業主婦の月収に敵わないしあげの年収でも私は応援してる」つ通帳


フレ「oh……」


仕上「丸が綺麗に並んでるだろ? それ、月収なんだぜ?」

<> 小ネタ「りとく」<>saga<>2011/10/28(金) 22:35:29.16 ID:nQZwt5Do0<>

フレ「oh……oh…………強く生きてね、浜面」ポンポン


仕上「レベル5に腕っ節で勝ててもなぁ、関係ないんだよ!
   カァンケイねえんだよぉぉぉぉ!!!!」ウワアアアアアン


フレ(女の子に慰められてガチ泣きしちゃう男の人って…………)





理后「そう、関係ないよ?」


フレ「え?」


仕上「り、理后?」


理后「いくらしあげの稼ぎが私の研究協力費と較べて
   おトイレの鼠の糞程度の価値しかなかったとしても、関係ないの。
   だってしあげは私とりとくに、お金で買えないプライスレスをくれるから……」ポッ


仕上「り、理后……」


理后「しあげ…………」


仕上「理后!」


理后「しあげぇ」

<> 小ネタ「りとく」<>saga<>2011/10/28(金) 22:36:17.23 ID:nQZwt5Do0<>

イチャイチャ イチャイチャ


フレ(どうみてもヒモです、本当にありがとうございました………………あ)





裏篤「………………おかえり、父さん」ボー


フレ「あ…………も、もしかして、君」


理后「りとく。この人はお父さんの友達のフレメアお姉さん、って言うの。挨拶して?」


裏篤「……浜面裏篤です、はじめまして」ペコリ


フレ「ん、んっ! 私は、フレメア=セイヴェルン。よろしくね、裏篤?」ニッコリ


仕上「…………理后」


理后「?」


仕上「夕飯の用意、はじめてくれ」


理后「え、まだちょっと早いよ?」


仕上「いいから。フレメアの為に、ちょっと手間かけてやってくれよ」


理后「…………ん」コクリ パタパタ

<> 小ネタ「りとく」<>saga<>2011/10/28(金) 22:37:01.90 ID:nQZwt5Do0<>

裏篤「……フィンランドって、どんな国?」


フレ「そうだねー。大体フィンランド人は他の国の軟弱な連中と違って寒さに強いのよ。
   −273℃で『くそっ、今日はずいぶん寒いじゃないか!』とか文句言いはじめる感じね」


仕上「それ絶対零度じゃね!? …………おい、フレメア」


フレ「なによ浜面、いま裏篤と楽しくお喋りしてるんだから」


仕上「会社に大事な書類忘れてきたの思い出してさ。理后は飯作ってるから、裏篤の相手頼むわ」


フレ「…………!」


仕上「七時ぐらいには帰るから、よろしくな」



ガチャ イッテキマース



フレ「………………あ。さ、さあ裏篤! なにして遊ぶ?
   こう見えてもおねーさんは日本文化に精通してるから、かくれんぼでもなんでも」


裏篤「……フレメアさん、ききたいことがあるんだ」


フレ「なになに? スリーサイズ? ちなみに彼氏イナイ歴はにじゅ」


<> 小ネタ「りとく」<>saga<>2011/10/28(金) 22:37:28.40 ID:nQZwt5Do0<>



裏篤「………………『こまばりとく』って人、しってる?」




フレ「!!!」


裏篤「……しってるんだ、やっぱり」


フレ「誰から聞いて…………って、一人しかいないか」


裏篤「……父さんが、ねものがたりに一回だけはなしてたことがあるんだ」


フレ(難しい言葉知ってるなぁ、じゃなくて! 浜面、バカじゃないの!?)


裏篤「……父さんのそんけいしてる人で、おれのなまえもその人からもらったって」


フレ「な、なんで、私がその人の事を知ってるって思ったのかにゃあ?」


裏篤「……………………なんでだろ、わかんない」ボー


フレ(お母さんに似て電p…………感受性が強いのかな? 顔はお父さん似なのにね)クス


裏篤「……なあ」


フレ「……なに?」

<> 小ネタ「りとく」<>saga<>2011/10/28(金) 22:38:10.77 ID:nQZwt5Do0<>

裏篤「……こまばさんは、フレメアさんのたいせつなひとなのか?」


フレ「そうだよ。そう“だった”」


裏篤「イケメン?」


フレ「どう“だった”かなぁ。大体、その頃私まだ十歳だったし。
   ああでも、顔は厳つかったけど、優しくて強い人“だった”事だけははっきり覚えてるよ」


裏篤「…………じゃあ、おれににてる?」





フレ「…………裏篤はお利口さんだね。こんな小さいのに、お姉さんを心配してくれて」


裏篤「!!」


フレ「裏篤。自分のお名前、言ってみて?」


裏篤「…………“浜面裏篤”」


フレ「そう。私みたいな未練タラタラの大人がどんな目で君を見たとしても、
   裏篤は“駒場利徳”じゃなくて“浜面裏篤”なの。
   お父さんとお母さんに愛されて生まれてきた、この世にたった一人しかいない人間なの。
   だからね、胸を張ってごらん? 誰かのまねっこじゃなくて、裏篤らしくすればいいんだよ?」

<> 小ネタ「りとく」<>saga<>2011/10/28(金) 22:39:07.21 ID:nQZwt5Do0<>

裏篤「…………」


フレ「あはは、子供相手になに言ってんだろ私! そういうわけだから、ね?
   裏篤には、駒場さんの事とは関係なしで、お姉さんとお友だちになってほしいにゃあ!」


裏篤「……うん、わかった。でも、こまばさんのことは聞かせてほしいな」


フレ「どうしてかな?」


裏篤「……………………だれにも言わないでくれるか?」


フレ「大体、友達は約束を守るものだにゃあ」


裏篤「……父さんのそんけいしてる人だから」


フレ「…………?? どういう意味?」


裏篤「……だ、だから。父さんのそんけいしてる人がどんな人なのかわかったら、
   お、おれも、父さんみたいに好きな子をまもれる、つよい男になれるかな、って」マッカ


フレ「……ほうほう。好きな子がいるんだ? 最近のお子ちゃまはませてるなぁ!」ニヤニヤ


裏篤「……むっ」イラッ

<> 小ネタ「りとく」<>saga<>2011/10/28(金) 22:39:50.93 ID:nQZwt5Do0<>

フレ「お母さんが大好きで、そのお母さんを守れるぐらい強いお父さんを尊敬してて。
   結局は一周してその女の子が大好きだ、ってところに戻ってくるんでしょ?
   照れない照れない! お子ちゃまの癖に生意気だなもー!!」ニヨニヨ




裏篤「……かれしイナイれき二十年のフレメアさんとはちげーし」


フレ「え」


裏篤「……きすだってしたことあるし」


フレ「え、え」


裏篤「……おれとまことはけっこんのやくそくだってしてるし」


フレ「え、え、え」


裏篤「……図に乗んなよヴァージン」プークスクス


フレ「なんですってえええええええええええええええ!!!!?
   そっちこそ調子に乗ってんじゃにゃいわよクソガキいいい!!
   ブービートラップでバラバラに引き裂いてやろうか!?」


〜〜〜〜〜〜一時間後〜〜〜〜〜〜


仕上「ただいまー…………何やってんだアイツら」


理后「ふふふ」ニコニコ

<> 小ネタ「りとく」<>saga<>2011/10/28(金) 22:40:35.84 ID:nQZwt5Do0<>

裏篤「……はくらいさんまじぱねぇっす……二十歳にもなって『にゃあ』とか……ちょ……ww」


フレ「おい、やめろ馬鹿。私の『にゃあ』はフィンランドのとある大学で
   ミスコンを獲る切り札になった神聖なるジャパニーズMOEの結晶体であって」


裏篤「……かれしイナイれき二十年のミスコンとか聞いたことないんで^^」


フレ「だってだってーーーーっ!!! 折角優勝したのに集まってくるのが
   ジャパニーズコスプレ目当てのオタクばっかりなんだもん!! 私悪くないもん!!」


裏篤「……だったらアンタはオタク票を狙ってなかったっていうのかよ」


フレ「ぐ、ぐはあああああっ!!!」グサグサッ!


裏篤「……見ろ、みごとなカウンターで返した。ちょうしに乗ってるからこうやっていたい目にあう」


フレ「う、うええええええええんんんん!!!!!
   ちょっとした出来心だったんだもん! 普段は猫かぶってるもん!!」




理后「あんなにイキイキしてるりとく、まことで……まことと遊んでる時ぐらいだよね」ニコニコ


浜面「いま“で”っつった!? ねえいま真理“で”って言ったよね!?」


理后「お友だちが増えたよ。やったねりとくん」ニコニコ


浜面(…………イイハナシナノカナー)



オワリ

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/28(金) 22:42:35.16 ID:nQZwt5Do0<>
無駄にイイハナシ()にしようとするからキレがいまいちなのかもしれませんね
それではまた来週お会いしましょう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(京都府)<>sage<>2011/10/28(金) 22:57:37.38 ID:mQPB7T5o0<> 真理“で”wwww
1乙です!人物紹介で紹介できなかったキャラも次回ほしいです。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/29(土) 00:08:36.19 ID:qNcdyn7X0<> こんな裏篤のデレが見たいっ!!
>>1乙! でも冥土返しでなく冥土帰しだからね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2011/10/29(土) 00:58:39.36 ID:3PO9lZcAO<> 乙
"遊ばれてる"真理ちゃんの人物紹介も見たかった <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/29(土) 16:07:35.38 ID:EL/ArbTIO<> 乙

あわきんが最終的にショタコンwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(静岡県)<>sage<>2011/10/29(土) 17:59:16.24 ID:q10+1TXR0<> 性格は完全に滝壺に似ちゃったんだろうなぁ……
しかもドSになってる。

色々な意味で親を超越した人間になりそうで怖いな。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/30(日) 23:04:57.72 ID:gpbVqgKs0<>
どうもここ最近ゆるゆる台本形式を書くのが楽しくて仕方ない>>1です
暇な休日は筆が進むこと進むこと


>>257>>259
人物紹介を二回に分けたのでわかりづらかったですね、すいません
一応誰得ショートカットを置いておきますの↓

>>32
>>33
>>34
>>35
>>242
>>243
>>244
>>245
>>246

もしこの中にないキャラだと>>1にはちょっと思いつかないので
名指していただけるとそのキャラも>>1も顔を真っ赤にして喜びます
(意訳:>>1さんww顔ww真っ赤っすねwwww)

>>258
※>>1がただいま顔を真っ赤にしております
実は前スレでも投下途中で気が付いて、あわてて修正する醜態をさらしました


本日はみんな大好き番外個体さんの番外編ですゥ↓ <> 小ネタ「おまえちょっとそこ代われ」<>saga<>2011/10/30(日) 23:06:42.24 ID:gpbVqgKs0<>

とある日 第七学区のとある病院



お爺ちゃん「ミサカちゃんや、ご飯はまだかの?」


番外個体「はいはい、さっき食べたでしょおじいちゃん」


少年「ミサカねえちゃん、お、おれ、注射こわい…………」


番外「もう、男なんだからシャキっとしなよ! 
    そりゃあミサカだってはじめての静脈注射は怖かったけどさ……」


男「ナースさんナースさん、『はじめては怖かった』ってとこ、おどおどした感じでリピートプリーズ」


番外「死ねば?」ギロ


男「ありがとうございます、ありがとうございます!」ゾクゾク


お爺ちゃん「ご飯はまだかの?」


番外「さっき食べたでしょおじいちゃん」


医者「おーい御坂くん、302号室の患者さんだけど」


番外「あ、はい! いま行きまーす」


お爺ちゃん「ご飯マダー?」(・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン


番外「さっき食べたでしょ」

<> 小ネタ「おまえちょっとそこ代われ」<>saga<>2011/10/30(日) 23:07:54.57 ID:gpbVqgKs0<>

ナースステーション



番外「ふぅ………………」クター


ベテラン看護師「御坂さん、最近ちょっと根詰め過ぎじゃないの?」


番外「あっはは! 私が新米だった頃は散々働け働けってお尻叩かれましたよ。
    看護師の仕事なんてこんなもんでしょ?」


ベテラン「…………それにしても、ちょっとねぇ」





10032「番外個体の言うとおりです、とミサカは書類の山を積み上げます」ヌッ


ベテラン「ちょ、あなたたち!?」


19090「統括理事会から『輸出用医薬品製造届』が来ていますが」


番外「ああ、神父さんに送るヤツか。そのへん置いといて」


10039「私たちはこれでシフト終了ですので、とミサカはパパッと帰り支度を済ませます」ノシ


番外「さよーならー」ノシ

<> 小ネタ「おまえちょっとそこ代われ」<>saga<>2011/10/30(日) 23:08:37.42 ID:gpbVqgKs0<>

チョットキイテヨムギノンッタラマタゴウコンドタキャンシタノヨ トミサカハ

エーマジーチョーアリエナーイ トミサカハ

カエリニマックヨッテカナイー? トミサカハ




ベテラン「…………この頃、妹さんたち冷たくない?」


番外「いやぁ、ウチのは常日頃からあんなもんですよー」グデー



ビーッ! ビーッ!



番外「あ、ナースコール鳴ってる」ガタ


ベテラン「……私が行くからちょっと休んでなさい!」


番外「むぅ……はーい」



スタスタ



番外「………………」

<> 小ネタ「おまえちょっとそこ代われ」<>saga<>2011/10/30(日) 23:09:09.45 ID:gpbVqgKs0<>

(休めって言われてもなぁ…………)ハァ


(正直、仕事で頭埋め尽くさないと身動き取れなくなりそうなんだよね)


(油断すると、あの二人の事考えちゃいそうで)





「………………一方通行」





(カッコ悪ゥ。満面の笑顔で送り出したってのに、ミサカってばこんなにも未練タラタラじゃん)


(っつーかさ、私、あんなもやし野郎のどこが良かったんだろ?)


(外見は…………悪くはないけど、良くもないよね、アレ。
  整ってて、女が嫉妬するぐらい綺麗な白い肌してるけどさ。
  学園都市よりエルム街が似合いそうな、悪夢に出演してそうな凶悪なツラで全部台無しだし)ププ


(性格………………なんてもっとアレじゃん。
  人肉抉ってほぼイキかけちゃうような異常快楽者。
  そーいえば、最終信号(ねえさん)とくんずほぐれつする時とかどうして)





「ってもおおおおお!! 結局アイツの事考えてるじゃんミサカのバカバカバカァ!!!」

<> 小ネタ「おまえちょっとそこ代われ」<>saga<>2011/10/30(日) 23:09:41.70 ID:gpbVqgKs0<>



「うわあああっ!?」スッテンコロリン




番外「へ?」キョトン


青年「あ…………ど、どうもお久しぶりです」ペコ


番外「えっと、アナタどこかで…………ああ! 513号室にこないだまで骨折で入院してた!」


青年「覚えててくれたんですか!」パアッ


番外「患者さんの顔と名前を一致させるのは看護師としての嗜みだからねー」ケラケラ


青年「………………そ、そうですか」ガックシ


番外「ん? それで、今日はどうされたんですか? 外来なら一階ですよ」


青年「きょ、今日はそういうのじゃないんです。
    入院中お世話になった御坂さんに、せめてもの気持ちというか」つ花束


番外「んえ? こ、これはご丁寧にどうも」ペコリ


青年「……………………」ガチガチ


番外「どうかした? 震えてるけど、やっぱどこか具合が」

<> 小ネタ「おまえちょっとそこ代われ」<>saga<>2011/10/30(日) 23:10:45.87 ID:gpbVqgKs0<>

青年「み、御坂さん!」ガバッ


番外「は、はい? そんな身を乗り出さなくても」


青年「今日は僕の、心からの気持ちを御坂さんに伝えたくて……」


ガラガラガラガラガラガラ・・・・・・


番外(? 何か音が……)


青年「僕は、御坂さんの事が」




10032「はいはいちょっと通りますよー」


 三           三三
      /;:"ゝ  三三  f;:二iュ  三三三
三   _ゞ::.ニ!    ,..'´ ̄`ヽノン
    /.;: .:}^(     <;:::::i:::::::.::: :}:}  三三
  〈::::.´ .:;.へに)二/.::i :::::::,.イ ト ヽ__
  ,へ;:ヾ-、ll__/.:::::、:::::f=ー'==、`ー-="⌒ヽ
. 〈::ミ/;;;iー゙ii====|:::::::.` Y ̄ ̄ ̄,.シ'=llー一'";;;ド'
  };;;};;;;;! ̄ll ̄ ̄|:::::::::.ヽ\-‐'"´ ̄ ̄ll


青年「ウボァーーーーーッ!!!!」ドグシャァッ!!


番外「轢いたぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」ガビーン!

<> 小ネタ「おまえちょっとそこ代われ」<>saga<>2011/10/30(日) 23:11:45.55 ID:gpbVqgKs0<>

青年「」ピクピク


10039「19090号、脚を持ってください。私は上半身を」


19090「いっ、せー、のー、せ!」ヨイショ


番外「あの、アンタら何やってんの?」


10032「川´_ゝ`)  なに、気にすることはない。少しこの青年をお借りしますよ番外個体」


番外「……その人、私に言うことあったみたいなんだけど」


19090「事が済めばお返ししますよ」


10039「まあ、“済んだ”後で同じ台詞を吐く気概があれば、の話ですが」クフフ


番外(意味分からん)(´・ω・`)



ガラガラガラガラガラ



番外「…………行っちゃったよ」ポカーン


番外「…………あ、この花良い匂いする」ポワーン

<> 小ネタ「おまえちょっとそこ代われ」<>saga<>2011/10/30(日) 23:12:18.37 ID:gpbVqgKs0<>
--------------------------------------------------------------------


とある病院 霊安室



青年「………………ん? ここは……?」




10032「お目覚めですか」


青年「御坂さん! …………じゃないや、妹さん?」


10039「その覚え方は没個性的で少々気に食わないですね」


19090「一応、ミサカたちも『御坂』なんですけどね」ションボリ


青年「あ、すいません…………それで、僕はどうしてこんな場所に、ってええ!?
    ちょっと、どうして手足縛られてるんですか僕!?」


10032「地下の霊安室ですよ、とミサカは親切ににこやかに情報提供を行います」


青年「このシチュエーションで微笑みながらそんな事教えられても!
    なんなんですかいったい!? 僕ナニカサレちゃうんですかぁ!?」


10039「どうどう、どうか落ち着いてください」


青年「だったらこの手枷足枷外してください!!」


19090「……10032号、10039号。私にもこの方を拘束する意味がイマイチわかりかねるのですが」

<> 小ネタ「おまえちょっとそこ代われ」<>saga<>2011/10/30(日) 23:13:06.21 ID:gpbVqgKs0<>

10032「相変わらず悪だくみとなるとノリが悪いですねぇ19090号は」カチャカチャ


青年(この一番スレンダーな人は、まだ話が通じそうだ)ホッ


ガチャン


青年「は、外れた……」


19090「さて、貴方」ズイッ


青年「うわぁっ! か、顔が近いですよ!///」


10039「ふむ。惚れた女と同じ顔に迫られて、やはり悪い気はしませんか?」


青年「なっ! どどどどど、どうしてそれを!?」カァァ


19090「私は番外個体の行動範囲には全て盗さ……監視カメラとマイクを仕掛けていますので。
    先ほどの告白未遂もばっちり記録に収めました。ああ番外個体可愛いよ番外個体」ハァハァ


青年(へ、変態だぁぁぁぁぁぁ!!!!!!! 比較的まともだと思ったのにぃ!!)


10039「今は自重しなさい19090号。
    私たちがあなたをこの場にお呼びしたのは、その告白未遂の件なのです」


青年「…………それって、いわゆるアレですか。『可愛い妹をどこの馬の骨〜』的な」


10032「察しが良くて助かります」


青年「助けが欲しいのは僕です! ぷりーずへるぷみー!」

<> 小ネタ「おまえちょっとそこ代われ」<>saga<>2011/10/30(日) 23:13:43.16 ID:gpbVqgKs0<>

19090「お黙りなさい!! 現在の可愛いくぁいい
    デレ番外個体を獲得するまでに私がどれだけ苦労したのかも知らずにぃっ!!」


青年「なに言ってんのこの人!?」


10039(おい、こいつさも自分一人の手柄のように騙る気じゃねーか、とミサカは(ry)


10032(…………ま、別にいいんじゃね? マンドクセ、とミサカは(ry)





19090「果てはビッチかヤンデレか、と将来の危ぶまれた時期もあったのです!
    それをミサカネットワークの総力を挙げて時に猫可愛がりし、
    時に突き離して、時にこちらから甘え、だからこそ今の番外個体があるのです!」


青年「はぁ」


19090「それをどこの馬の骨とも知れぬ男に、そう安々と渡せますかってんだ、とミサカは(ry」


青年「そ、そんなの、御坂さんの自由意思を無視してるじゃないか!」


10032「心外ですね。私たちは友人レベルのお付き合いにまで口出しする気はありません。
    しかしその先にある幾つかの線を踏み越えようというなら、
    ちょっとした関門を潜っていただきたい、というだけの話です」


青年「…………関門?」

<> 小ネタ「おまえちょっとそこ代われ」<>saga<>2011/10/30(日) 23:15:17.06 ID:gpbVqgKs0<>

19090「なにもミサカは、問答無用で番外個体に近づくなと言っているのではありません。
    半端な覚悟であの子を弄ぶことは許さない、と忠告しているのです。
    …………お気付きですか? あの子はつい最近、決定的に失恋したばかりなんですよ」


青年「!!」


19090「番外個体はああ見えてなかなか初心です。十年越しの初恋が破れたあの子の心はズタズタ。
    そこを吐き気を催すようなチャラ男につけ込まれて、傷口に広げられたらたまりません」


青年「僕はそんなことしません! 心の底から、そう、け、けけ、結婚を前提に御坂さんと」カァ


10039「お付き合いしたい、と。ハイ、では恋人になるにあたっての第一関門を発表します」パチン


青年「へ?」



ダラダラダラダラダラ(ドラムロール音)



10032「…………ジャーン。



    『チキチキ! 九九七一人のミサカ大集合! 番外個体の恋人候補に集団面接!!』



     …………です」トミサカハ

<> 小ネタ「おまえちょっとそこ代われ」<>saga<>2011/10/30(日) 23:16:15.63 ID:gpbVqgKs0<>

青年「……………………あの、すみません。よく意味がわかりません」


10039「我々が番外個体から見て戸籍上の妹である事実はご存知ですね?」


青年「二〇〇〇三人姉妹、なんですよね。にわかには信じ難かったですけど」


19090「そのうちの九九七一人で一斉に、あなたが番外個体に相応しい男かどうかを審査します」


青年「何その物理的圧迫面接!?」


10032「ああいえ、説明すると長いのですが……平たく言うとネット上での面談です、ご安心を」


青年「ほっ…………」


19090「某大型掲示板形式で>>1になってもらって、
    それに九九七一人がやんわりと誹謗中傷を投げかけますので。
    見事千スレ目まで心折れず全レス返しを成し遂げれば合格となります」


青年「それタダの集団イジメじゃないですかァァァァァーーーーーッッッ!!!!」


10039「こんなのは序の口ですよ? 第二関門では接吻許可を得るため、お父様とお母様に……」


青年「第二関門でもうご両親お出でになっちゃうんですか!?
   そういうのって普通は『娘さんを僕にください』的な場面じゃあ」


10032「どうしても最終関門だけは、と言って譲らない頑固な方々がいまして」ヤレヤレ


青年「そ、それはいったいどこのどちら様ですか………………?」オソルオソル

<> 小ネタ「おまえちょっとそこ代われ」<>saga<>2011/10/30(日) 23:17:06.81 ID:gpbVqgKs0<>

19090「『超電磁砲』って言葉、知ってますか?」


青年「知ってるもなにも、学園都市屈指の有名人で、
   御坂さんの実のお姉さん……………………あの、まさか」


10039「そのまさかです」














10032「第三位、『超電磁砲』上条美琴とガチでタイマンを張っていただきます」


青年「」( ゚д゚)


10032「善戦して男意気を見せる、とかじゃ駄目ですよ。
    バルバ○ス(1)みたいなイベント戦でももちろんありません。
    ラスボス戦ですから普通に勝ってください」


青年「」( ゚д゚)

<> 小ネタ「おまえちょっとそこ代われ」<>saga<>2011/10/30(日) 23:18:18.05 ID:gpbVqgKs0<>

10032「ちなみにお姉様を倒せたら、次は第一位『一方通行』がEXボスとして控えていますので」


「」( ゚д゚)


「」( ゚д゚ )


「」(゜д゜)













「」( ゚д゚ )

<> 小ネタ「おまえちょっとそこ代われ」<>saga<>2011/10/30(日) 23:19:28.88 ID:gpbVqgKs0<>

青年「あの」


10039「諦めますか?」


青年「すいません、少し考えさせて下さい」


19090「ほう…………別に構いませんよ」


青年「…………迷うぐらいなら止めろ、とは言わないんですね」


10032「言いませんよ。ごくごく一部の例外を除けば、
    こういう場面で即決するような男ほどいざという時頼りにならない、
    とこの十年でミサカたちも学習しましたので」


(……まあ、その『例外』に命を救われたミサカの台詞ではありませんが)





青年「わかりました……今日のところは帰るので、
    御坂さんによろしく言っておいてください……」


10039「それは自分で言いなさいこのチキン野郎、とミサカは養豚場のブタを見る目で蔑みます」


青年「うう…………」スゴスゴ

<> 小ネタ「おまえちょっとそこ代われ」<>saga<>2011/10/30(日) 23:20:25.96 ID:gpbVqgKs0<>

ガチャ



10039「…………どうなりますかね、あれは」


10032「私は見込みがあると思うのですが」


19090「いいえ、裏にどんな本性を隠しているか知れたものではありません」フン


10032「相変わらず19090号は番外個体絡みとなると豹変しますね。……おや、誰か来たようだ」


10039「死亡フラグおt」



ガチャ



番外「やっほう。半殺しに来たよ馬鹿姉ども」




妹達「「「!?!?!?!?」」」




<> 小ネタ「おまえちょっとそこ代われ」<>saga<>2011/10/30(日) 23:21:54.39 ID:gpbVqgKs0<>

十分後 ナースステーション



番外「まったく、何してるのかと思ったら……」ブツブツ


19090「ごごご、ごめんなさい番外個体! お願いだから嫌いにならないで!」(´;ω;`)ブワッ


番外「いや、別にそういうんじゃないけどさぁ」


10032「……おや、怒らないのですか」


番外「怒られるような事してるって自覚はあったんだ?」


10039「ぐぬぅ」グサ


番外「………………まあ、ねぇ?
   世間一般的に見れば、時代錯誤もいいところの余計なお世話なんだろうけどさ。
   生憎ミサカってば世間知らずの箱入り娘だしー?」キャハハ


19090「番外個体…………」


番外「それにさ、こんな事言ったらあの患者さんには失礼だけど」


妹達「「「?」」」


番外「こんな女を好きになってくれる男の人がいて、
    こんなにも大事に想ってくれる家族がいて」

<> 小ネタ「おまえちょっとそこ代われ」<>saga<>2011/10/30(日) 23:22:36.59 ID:gpbVqgKs0<>






「わたしいま、すっごくしあわせだよ」







オワリ
<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/10/30(日) 23:34:49.23 ID:gpbVqgKs0<>
Q1:オチが弱いですよ?
A1:仕様です

Q2:バル○トス(1)は普通に勝てますよ?
A2:えっ

Q3:おい『青年』って誰だよ住所氏名電話番号晒せやコラ
A3:画面の前の君たち一人一人が『青年』だ!



小ネタのストックが尽きたので久々に皆さんのご意見を伺ってみようかと思います
以下の面々がグダグダおしゃべりする程度のアレなアレですが
ちょっと気になる、みたいなのがあったらお一人様三票までご投じになってください
どうしても見たい、なんてのが万が一あったら数票まとめて入れるのもありですの
以下選択肢↓


1:原作の超能力者勢 六名
2:元『グループ』 四名
3:三バカことデルタフォース
4:上条夫婦とエツァリ
5:超電磁砲組 四名
6:真理ちゃんとおじいちゃんおばあちゃん×2
7:元黄泉川家 五名
8:風斬さんとガブリエルさんの日常
9:ていとくん率いる『DM』社の日常
10:むぎのん率いる『アイテム』社の日常
11:とある病院の日常
12:とある警備員支部の日常


〆切りも上位いくつまで採用するのかも未定
そんな見切り発車アンケートですが興味があったらご協力ください
もちろん選択肢にないリクエストも受け付けてございます
ではまた

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<>sage<>2011/10/30(日) 23:37:17.99 ID:D1qfTH/6o<> >>1乙でふ

4,6,9でお願いします <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/30(日) 23:38:57.31 ID:PDKfbmTyo<> 乙なんだよ!
3
4
11
が見てみたいかも <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2011/10/30(日) 23:39:24.07 ID:6VgKIH2Qo<> 乙
1 2 5 希望です <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2011/10/30(日) 23:39:59.01 ID:lme6zbYAO<> 乙

6、9、10でよろしく <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海)<>sage<>2011/10/30(日) 23:41:24.12 ID:B+qYILWAO<> 乙でした!
1 2 8 が見たいです <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<>sage<>2011/10/30(日) 23:49:12.94 ID:y0gHaIlA0<> 乙っす!
1、4、5希望です。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/30(日) 23:59:14.73 ID:6lyn5sM40<> 乙
3(+小萌先生希望)、4、6、8が見たいです!
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/31(月) 00:03:30.07 ID:0G+CxgYd0<> 乙
可愛いなぁ番外個体超可愛い

1 2 7 希望 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/31(月) 00:13:41.34 ID:F+4Bjd2E0<> 乙です
3、8、9だ!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/10/31(月) 00:18:07.49 ID:0XE1PQlV0<> おつー

青年のその後を早くプリーズ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)<>sage<>2011/10/31(月) 00:48:57.65 ID:A15m9El2o<> 乙!

アンケは1,4,5,6,8で <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<>sage<>2011/10/31(月) 04:50:04.35 ID:llEyMN3No<> 3・6・7だな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>sage<>2011/10/31(月) 07:53:52.89 ID:jxcsSo1AO<> 全部見たいけど絞るなら2・5・11で <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/10/31(月) 09:53:01.10 ID:g6L1Ks+H0<> どれも捨てがたい・・・があえて選ぶなら4.5.6で <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/31(月) 10:15:54.80 ID:t5kqiNIIo<> 246で <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/10/31(月) 10:34:25.68 ID:hL1NiITc0<> 2(+舞夏),4,6で <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/31(月) 17:34:38.70 ID:jOrkc2AyP<> 777の三倍プッシュだ…! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2011/10/31(月) 17:38:03.92 ID:hujmyuLyo<> 6
美鈴ばあばと詩菜ばあば見たい! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/10/31(月) 18:59:23.28 ID:kBf8l/rZ0<> 999で <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/10/31(月) 20:01:25.28 ID:CnVJKXGh0<> 1が見たい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府)<>sage<>2011/10/31(月) 22:02:35.52 ID:vUcR0isr0<> 1,6,12 でお願いします! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)<>sage<>2011/11/01(火) 12:11:01.10 ID:fugUwoELo<> 1、3、4、8、10を希望!

サーバを移転しました@荒巻 旧サーバ:http://vs302.vip2ch.com/
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)<>sage<>2011/11/01(火) 13:11:19.54 ID:J9NWBvjDO<> 乙ー
2、3、7で

サーバを移転しました@荒巻 旧サーバ:http://vs302.vip2ch.com/
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)
(東京都)<>sage<>2011/11/01(火) 15:46:47.17 ID:yh3t5/uco<> 777だ!
鯖移転乙

サーバを移転しました@荒巻 旧サーバ:http://vs302.vip2ch.com/
<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/01(火) 23:41:07.39 ID:HtFTR3Ud0<> >>1が夜更けにやってくるー

皆さんご協力ありがとうございました
>>305までで投票を締め切らせていただきます
なんか三票以上入れてる方もちらほら見受けられますが
うるさいことは言わずにそのままカウントさせてもらいました
以下結果ですゥ↓


一位:Eまことちゃんとじーじとじーじとばーばとばーば
同率二位:@旧レベル5だよ! 全員集合!
同率二位:C上条夫婦と元ストーカー
同率二位:Fヨミカワさんち


上から順にサクサク書いてサクサク投下してまいります
終わり次第本編復帰、惜しくも漏れたネタは再利用のときを待ってもらいますの

これだけの為にageるのもなんなんで
もいっちょアンケートというか軽くご意見を伺っておきたいことができました
ちょっと文体というか、文章の形式を小説式に変えてみようかと試行錯誤中です
これから実際にいままでのやり方と比較する形で投下してみるので
『読みやすいか』という点について忌憚なきご意見をいただけるとありがたいです

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<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/01(火) 23:42:09.52 ID:HtFTR3Ud0<> 【いままで通り】



「…………ん?」


半日ぶりの大地を踏みしめたステイルが最初に感じたのは、珍妙な違和感であった。


「どうかしたの、ステイル?」

「ここは…………ガトウィックじゃない」

「え、そうなの? 私はロンドンに降りるとき、いつもヒースローだから……」


ヒースロー空港とは二人がロンドンを発つ際にも利用した、

イギリス最大の、そして国際線利用者数世界一の大空港である。

しかしながらチャーター便の離着陸を行えないという数少ないデメリットがあるゆえに、

今回ステイルたちは国内第二のエアポートであるガトウィック空港に降り立った――――はずであった。


「違う…………ここはヒースロー空港でもない」


ステイルは職業柄、国内外を行き来した経験も豊富である。

そして彼が仕事を終えてイギリスに帰還する際は、

必ずと言っていいほどどちらかの空港を利用するのだ。

完全記憶能力者でなくとも、この滑走路に見覚えがないことだけは間違いなかった。

機内のCAに向かって叫ぶ。


「君!! この機はガトウィックに着陸するはずじゃなかったのか?」

「え? 失礼ですがお客様、何をおっしゃって……?」

「……君に言っても仕方がない。飛行計画書(フライトプラン)を見せてくれないかな」

「しょ、少々お待ち下さい」



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<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/01(火) 23:42:38.88 ID:HtFTR3Ud0<>

機長室へと足を運ぶCAを見送って、インデックスがボソと呟いた。


「どういうことなのかな、ステイル……?」

「わからない。最も濃い線としては毎度おなじみ
 土御門マヌーバーなんだが……それも少し、違う気がしてならない。
 しかし最大主教、心配はいらない。何が起ころうと君は僕が守る」

「あ……………うん……」


小さな手をしっかりと握って、安心させるように凛と言いはなつ。

CAが戻ってきてもステイルはインデックスの手を離さなかった。


「お客様、お待たせしました。こちらがFSSに提出した飛行計画書の写しとなります」

「手間を取らせて済まないね、もう行ってくれて構わない。
 さて…………Departure Pointは学園都市第二三学区空港で、合っている。
 問題はDestinationだが…………………………は?」

「ど、どうかした?」


素早く書類の上を滑っていた眼球がある一点で止まる。



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<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/01(火) 23:43:38.79 ID:HtFTR3Ud0<> 【変更後】



「…………ん?」


 半日ぶりの大地を踏みしめたステイルが最初に感じたのは、珍妙な違和感であった。


「どうかしたの、ステイル?」

「ここは…………ガトウィックじゃない」

「え、そうなの? 私はロンドンに降りるとき、いつもヒースローだから……」


 ヒースロー空港とは二人がロンドンを発つ際にも利用したイギリス最大の、そして国際線利用者数世界一の大空港である。
 しかしながらチャーター便の離着陸を行えないという数少ないデメリットがあるゆえに、今回ステイルたちは国内第二のエアポートであるガトウィック空港に降り立った――――はずであった。


「違う…………ここはヒースロー空港でもない」


 ステイルは職業柄、国内外を行き来した経験も豊富である。そして彼が仕事を終えてイギリスに帰還する際は、必ずと言っていいほどどちらかの空港を利用するのだ。
 完全記憶能力者でなくとも、この滑走路に見覚えがないことだけは間違いなかった。
 機内のCAに向かって叫ぶ。


「君!! この機はガトウィックに着陸するはずじゃなかったのか?」

「え? 失礼ですがお客様、何をおっしゃって……?」

「……君に言っても仕方がない。飛行計画書(フライトプラン)を見せてくれないかな」

「しょ、少々お待ち下さい」



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<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/01(火) 23:44:26.02 ID:HtFTR3Ud0<>

 機長室へと足を運ぶCAを見送って、インデックスがボソと呟いた。


「どういうことなのかな、ステイル……?」

「わからない。最も濃い線としては毎度おなじみ土御門マヌーバーなんだが……それも少し、違う気がしてならない。しかし最大主教、心配はいらない。何が起ころうと君は僕が守る」

「あ……………うん……」


 小さな手をしっかりと握って、安心させるように凛と言いはなつ。
 CAが戻ってきても、ステイルはインデックスの手を離さなかった。


「お客様、お待たせしました。こちらがFSSに提出した飛行計画書の写しとなります」

「手間を取らせて済まないね、もう行ってくれて構わない。さて…………Departure Pointは学園都市第二三学区空港で、合っている。問題はDestinationだが…………………………は?」

「ど、どうかした?」


 素早く書類の上を滑っていた眼球がある一点で止まる。



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<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/01(火) 23:47:47.45 ID:HtFTR3Ud0<>
某所でも色々と尋ねたんですが実際に試してみるとかなーり違いますね
そんな感じで内容に直接関係ない部分でもあーだこーだ悩んでるので
本編再開はもうちょっと先になりそうです

では次回は金曜にお会いしましょう


サーバを移転しました@荒巻 旧サーバ:http://vs302.vip2ch.com/
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)<>sage<>2011/11/02(水) 00:29:23.02 ID:zfeJrpODO<> どこに連れてかれたのか気になるぜ

もしもしから読んでるから違いはあんまり感じなかったな
PCだと横に長いのだろうか

サーバを移転しました@荒巻 旧サーバ:http://vs302.vip2ch.com/
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/11/02(水) 00:48:08.77 ID:Q4wXYkhj0<> (あれは>>1だったのか……)

【変更前】を読んでから【変更後】を読むと幅一杯使って書かれた文章は読み辛く感じますが、
【変更前】を知らなければさほど気にはならないと思います。
それよりは文始めの一字下げによる一行目と二行目の文字位置ずれの方が気になりました。
行間も字間も詰まっているのにその上文字までずれると、ぱっと見で文章を把握しにくい。
この形式で続けて書かれる時の地の文は、五〜六行程度に抑えてもらえたら有り難いかな。

一意見でした。
それでは小ネタ楽しみにお待ちします!

サーバを移転しました@荒巻 旧サーバ:http://vs302.vip2ch.com/
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)
(東京都)<>sage<>2011/11/02(水) 14:37:24.69 ID:kYRJKhqoo<> 単に変更前と変更後だけを見てくらべると前のが読みやすいかな
読者の環境にもよるとは思う <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)
(関西・北陸)<>sage<>2011/11/02(水) 20:36:05.57 ID:uT6XPiRAO<> 小説慣れしてればどっちも丁寧に描いてるから読みやすいし、情景さえ把握できれば>>1が書きやすい方でいいと思うよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(京都府)<>sage<>2011/11/03(木) 00:56:53.65 ID:SSbbI37C0<> なれればどちらでもいいのかもしれないけど、慣れてる分変更前の方が読みやすいかな・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(チベット自治区)<>sage saga<>2011/11/03(木) 11:15:10.64 ID:etjiszN90<> どっちも読みやすいと思うけどな…
どちらかというと変更後の文体の方が好き <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/04(金) 22:23:07.83 ID:GesQCTog0<>
皆さんご協力ありがとうございました、どうも>>1です

自分で読んでても【変更前】の方が慣れもあってよかったので
ほぼ今までどおりに落ち着きそうです

では本日はどういうわけか投票トップを獲得してしまった祖父母と孫のあれこれです
みんな本当に真理ちゃん好きですね
もはや誰得ではないということなのか↓ <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/04(金) 22:23:52.88 ID:GesQCTog0<>


八月某日 学園都市 上条家


ピンポーン


美琴「はいはーい、いま開けまーす」

当麻「真理、じいちゃんとばあちゃんが来たぞ」

真理「じーじとばーば?」

美琴「え、えっと、寝ぐせとかついてないわよね……」ソワソワ

当麻「あのなぁ、ウチの親はそんなこと気にしないって」

美琴「上条家の嫁としてはそうかもしんないけど、
    御坂家の娘としてはお義父さまとお義母さまに失礼なことはできないの!」


ピンポーン ピンポーン


当麻「言ってる暇あったら開けてやれよ……もういい、俺が」

美琴「お出迎えは嫁である私がするのー!」タッタッ

当麻「よくわかんねえこだわりだなー。な、真理?」

真理「?」

<> 「まことちゃんとじーじとじーじとばーばと???」<>saga<>2011/11/04(金) 22:24:41.77 ID:GesQCTog0<>

ガチャ


美琴「お、お待たせしましたお義父さまお義母さま! 
    遠いところをはるばるよくいらっしゃいました!」

刀夜「やあ美琴ちゃん、元気そうでなにより。
    遠いと言っても東京と神奈川だからね、大したことはないよ」

美琴「お義父さま、お疲れでしょうからお荷物お持ちしますね。
    お茶の用意ができてますから、どうぞ居間でくつろいでください」イソイソ

刀夜「…………つくづく、当麻は良い嫁を貰ったなぁ」シミジミ



詩菜「まあまあ、実は刀夜さん的には
    美琴さんみたいな甲斐甲斐しい子が奥さんに欲しかったのかしら?」ウフフ

刀夜「…………か、母さん? まさか息子の嫁をちょっと褒めたぐらいで」

詩菜「美琴さんは一段と綺麗になったわねぇ。
    お母さんになった強さ、みたいなものがひしひしと伝わってくるわ」

美琴「お、お義母さまこそ相変わらず、とてもお若くて羨ましいです」テレテレ

詩菜「あらあら、美琴さんこそとってもとっても可愛いらしくて、羨ましいわ私」

美琴「そんな、お義母さまだって」

詩菜「もう、美琴さんこそ」

<> 「まことちゃんとじーじとじーじとばーばと???」<>saga<>2011/11/04(金) 22:25:29.64 ID:GesQCTog0<>

キャピキャピ



刀夜(…………さ、さっきのあれは不問とされたようだ……)ホッ

詩菜「刀夜さん」

刀夜「はいぃぃぃぃ!? ななな、なんでございましょう?」

詩菜「今晩、二人きりでゆっくりお話ししましょうね。主に人生の儚さについて」

刀夜「それならたったいま感じてる真っ最中です…………」ブルブル

詩菜「あらあらまあまあ」ウフフ



美琴「上条家の嫁として、いつか私もあれくらいできるようにならないと……!」グッ

当麻「いや『グッ』じゃねえよ頼むから勘弁してくれしてくださいお願いします」

美琴「あ、当麻」

当麻「三人ともいつまで玄関先で立ち話してるんだよ」

詩菜「当麻さん、お久しぶり。当麻さんも元気そうでなによりね」

当麻「母さんもいつも通り妙に若々しい…………っつうか俺が歳とった分、
    相対的に若返って見えるんですが。今年でいくつだった、うおおおおお!!??」


ズッドーン!! キュピーン


<> 「まことちゃんとじーじとじーじとばーばと???」<>saga<>2011/11/04(金) 22:26:26.76 ID:GesQCTog0<>

美琴「デリカシーが足りてないところはほんっと成長しないわねアンタは!
    女性に年齢を尋ねるとかどういう神経してんの!?」プンプン

当麻「だからって家の中で『超電磁砲』ぶっぱなすんじゃねえ!!
    だいたい実の親に対してデリカシーもクソもある、あひいいいい!!!!??」


バチバチバチッ!! キュピーン


美琴「………………」

当麻「………………すんませんでした」

美琴「よろしい」ニッコリ

詩菜「あらあら」ウフフ



刀夜「当麻、お互い強く生きていこうな」ポンポン

当麻「ああ父さん……これも上条家の男に課せられた天命だと思うさ、
    思わなきゃやってられないさ」

刀夜「…………」

当麻「…………」



上条親子「「不幸だ…………」」

<> 「まことちゃんとじーじとじーじとばーばと???」<>saga<>2011/11/04(金) 22:27:10.94 ID:GesQCTog0<>

美琴「じゃあお二人とも、上がってください」

当麻「真理が待ちくたびれて、おもちゃ片手に突撃してくる前にな」

刀夜「では、お邪魔するよ」

詩菜「うふふ、おじゃまします」

美鈴「おっじゃまっしまーす!」

旅掛「お邪魔しますよ美琴ちゅわああああん!!」

美琴「ふふ、どうぞどうぞー………………」






美琴「ってちょっと待たんか後ろ二人ぃぃぃぃ!!」

美鈴「? どうかした?」キョロキョロ

旅掛「不審者でも見たのか!?」キョロキョロ

美琴「実の娘に不審者呼ばわりされたいんかいアホ親ども!」

<> 「まことちゃんとじーじとじーじとばーばと???」<>saga<>2011/11/04(金) 22:27:46.78 ID:GesQCTog0<>

当麻「み、美鈴さん、旅掛さん!? どうして!?」

美鈴「やだわ当麻君、美鈴さんなんてた・に・ん・ぎょ・う・ぎ♪
    遠慮なくお義母さんって呼んでちょうだい?」

美琴「娘の旦那に色目使ってんじゃないわよ馬鹿母ァ!」

旅掛「いやー、上条さんが真理ちゃんを
    愛でに学園都市行くっていうから。つい、着いてきちゃった☆」テヘペロ

美琴「我が親ながらキモいから止めてくんない?」

旅掛「!?」

当麻「…………二人とも、先月も先々月も来ましたよね?」

美鈴「六月は恒例のアーくんしばきだったし、七月は二人の結婚式だったし、
    真理ちゃんを主役に据えてたわけじゃないじゃない」

旅掛「今回は一日中、心行くまでマイラブリーセラフィム真理ちゃんを堪能したくてな!」

当麻「いやいや、毎回毎回真理と半日ぐらい子供部屋にこもってる気がするんですが」

美琴「爺バカ婆バカもいい加減にして欲しいわよね」ハァ



当麻「………………」

美琴「当麻?」

当麻(ああなるほど…………遺伝だったんだな、美琴の親バカ)ナットク

<> 「まことちゃんとじーじとじーじとばーばと???」<>saga<>2011/11/04(金) 22:28:39.18 ID:GesQCTog0<>

刀夜「ふふふ、御坂さん。いくら御坂さんといえどもこれは譲れませんね」

詩菜「お二人とも、二か月連続で真理ちゃん分は補充なさってるんでしょう?
    だったら今回は私たちこそが優先権を行使するべきだと思いますの」ウフフ

当麻「いや、別に四人でかまってやればいいじゃん」



美鈴「もう、詩菜さんってば冗談がお上手なんだからぁ!
    奇々怪々なのは妖怪じみたお肌の張りだけにしてくださいな!」

旅掛「これは異なことをおっしゃる。真理たんの殺人的愛らしさの前では
    ターンチェンジもフェイズ進行もちっぽけな問題ですよ上条さん。真理ちゃんペロペロ」

美琴「あんまり不穏当な発言が目立つようだとジャッジキルするわよボケ父」



四人「むむむ……………………」



当麻「…………ジャンケンしてください」ハァ

美琴「普段は仲良いのに、どうして真理を挟むとこうなっちゃうのかしら」ハァ

<> 「まことちゃんとじーじとじーじとばーばと???」<>saga<>2011/11/04(金) 22:29:59.36 ID:GesQCTog0<>

五分後


旅掛「っしゃあああああああ!!!! やった、やったぞ美鈴!!
    ねんがん の はつまご(と先に遊ぶ権利)を てにいれたぞ!!」

刀夜「たのむ ゆずってくれ!」

当麻「二年前から持ってましたよねそれ」

美琴「ころしてでもうばいとられないように精々気を付けてね」

美鈴「あなた……私いま、心の底からあなたに着いてきたよかったって、そう思えるわ」ホロリ

美琴「こんなシーンで夫婦の絆再確認されても娘として情けないだけなんだけど」



詩菜「………………」ニコニコ

刀夜「か、母さんスマン!! どうか、どうかSEKKANだけはご勘弁をぉぉ!!!」ガクブル

詩菜「…………しょうがないわ刀夜さん、勝負は時の運だもの。
    順番は御坂さんたちの次でも、真理ちゃんへの愛情に貴賎なんてないでしょう?」ウフフ

刀夜「あ、ああ…………ああぁぁあああ!! 
    ありがとうございます! ありがとうございます!」ペコペコ

当麻(…………これ、俺の未来の縮図とかじゃねえよな)チラ

美琴「?」キョトン

<> 「まことちゃんとじーじとじーじとばーばと???」<>saga<>2011/11/04(金) 22:31:19.27 ID:GesQCTog0<>

旅掛「では行くぞ美鈴っ!」

美鈴「真理ちゃあーん、美鈴ばーばですよー♪」


ドタドタドタ


美琴「頼むからハメ外しすぎないでよ孫狂いども! ……はぁ」


クルッ


美琴「それじゃあお義父さまお義母さま、テーブルにどうぞ。
    すぐにお茶とお菓子を用意しますから、少々お待ちくださいね」ニッコリ


スタスタ


当麻(あの変わり身の速さはさすが、本家本元ツンデレベル5だよな)

詩菜「本当、美琴さんは気配りの行き届いた良い娘ねえ」フフ

刀夜「ご両親には少しつっけんどんだが、やはり親御さんの教育が良いんだろうなぁ」ハハ

当麻「当のご両親に対して教育の成果が発揮されないのはどうなんでせうか……」

<> 「まことちゃんとじーじとじーじとばーばと???」<>saga<>2011/11/04(金) 22:32:22.58 ID:GesQCTog0<>

上条家 子供部屋


ガチャ ソー


美鈴「……真理ちゃーん、いまちゅかー?」^^

旅掛「じーじとばーばでちゅよー」^^




デデンデンデデン デデンデンデデン




ターミネーター「I've been backed.」



----------------------------------------------


「そのネタまだ引っ張るんかいッ!!」

「す、ステイル? 急にどうしたの?」

「…………いや、なんか義務感にかられたというか」

<> 「まことちゃんとじーじとじーじとばーばと???」<>saga<>2011/11/04(金) 22:33:07.57 ID:GesQCTog0<>
----------------------------------------------


旅掛「ぬおおおおおおおおおおっっっ!?」ドキッ!

美鈴「…………三回目だってのに慣れそうにないわねこのオモチャ。心臓に悪いわ」ドキドキ

真理「あ、みすずばーば!!」

美鈴「真理ちゃん久しぶりー! 元気でちたかー?」ダキッ

真理「ばーば、ばーば!」キャッキャッ

旅掛「ま、真理真理! おじいちゃんの名前も呼んでごらん?」ワクワク

真理「たび、たびが、たびぎゃけじーじ!」キャッキャッ

旅掛「」

美鈴「プッwww」

旅掛「笑うな! も、もう一回言ってみようね? おじいちゃんのお名前は、せーの」


「たびがけ!」

「たびぎゃけ!」


旅掛「…………『みさかじーじ』でいいです」(´;ω;`)

美鈴「wwwwwww」

<> 「まことちゃんとじーじとじーじとばーばと???」<>saga<>2011/11/04(金) 22:34:23.89 ID:GesQCTog0<>

真理「ごめんね、じーじ」ショボン

旅掛「いいんだよ真理ちゃあああんん!!! そんな細かいこと俺は気にしてないからね!」

美鈴「(ウソつけ)……ささ、じじばばと遊びましょ真理ちゃん。
    なにしたい? かくれんぼ? 鬼ごっこ? おままごと?」

真理「おままごと! まことがママで、みすずばーばがまこと!」

美鈴「あらー、真理ちゃんがばーばのお母さん役?
    私の肌年齢もまだまだ捨てたもんじゃないわね」フフン

旅掛「ファンデーションで隠しきれてないシミは正直だぞ、五十路間近の婆さん」クク

美鈴「んですって」ギロ

旅掛「〜〜〜♪ じゃあ俺は、余った真理たんの旦那ポジションってわけだな!!」

美鈴「はあ!? そっちこそ歳考えなさいよアナタで真理ちゃんに釣りあう訳ないでしょうが!!
    アナタに渡すくらいだったら私が真理ちゃんを嫁にもらうわ!」

旅掛「なにを!?」

美鈴「なによ!?」

<> 「まことちゃんとじーじとじーじとばーばと???」<>saga<>2011/11/04(金) 22:35:14.72 ID:GesQCTog0<>

真理「じーじ、ばーば、どっかしたの?」キョトン

旅掛「真理たん! 真理タンはみさかじーじと結婚したいよな!」クワッ

真理「え?」

美鈴「はっ、誰が! 真理ちゃんを真に愛し愛されるのは、
    『名前を間違えずに呼んでもらった』このみすずばーばこそが相応しいのよ!」フンス

真理「え、ええ?」

旅掛「ガハッ!! こ、細かい点をいつまでもぐちぐちと! 器が知れるぞ美鈴ぅ!」

美鈴「メンタル弱すぎで吐血しちゃう男の人って(笑)」





ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド





真理「だ、ダメェっ!! ダメダメダメなの!
    まことは、じーじともばーばともけっこんできないの!!」

御坂夫婦「「へ?」」

<> 「まことちゃんとじーじとじーじとばーばと???」<>saga<>2011/11/04(金) 22:36:10.40 ID:GesQCTog0<>

旅掛「ど、どういうことだ真理?」

美鈴「お、おままごとの話だからね? 本当のお話じゃあないのよ?」

真理「でも……でもぉ…………」

御坂夫婦「「でも?」」



真理「まことは、まことは、もうおよめさんになる『ゆびきり』しちゃったの」



旅掛「…………ゆび?」

美鈴「…………きり?」

真理「うん、そうだよ。

    ゆびきりげーんまん、ウソついたら『ぼんばーらんす』せんぼんのーます♪ ゆびきった! 

    …………って。もあいせんせーからおしえてもらったの!」

御坂夫婦「「…………」」




「「  !  ?  」」

<> 「まことちゃんとじーじとじーじとばーばと???」<>saga<>2011/11/04(金) 22:36:58.16 ID:GesQCTog0<>

二時間後


ガチャ


刀夜「…………御坂さーん、そろそろ交代してもらえませんかね?」ソーット

詩菜「美琴さんの淹れてくれた玉露、とっても美味しかったですよー。お二人もぜひ……」ソーット





真理「それでねそれでねー、りとくんったらそのふれめあおねーちゃんに、『まことはおれのよめ』せんげんしちゃったんだって! きゃー、きゃー! ………………あ、かかか、かんちがいしにゃいでよね!! これはわたしのびぼーがつみぶかすぎるってだけのはにゃしで、べつにキモづらに『かんぱくせんげん』されたのがうれしいってわけじゃにゃいんだからね!!! ……あとね、あとねー」

旅掛「…………あー」ゲッソリ

美鈴「うん…………」ゲンナリ



刀夜「み、御坂さん!? いったいなにがあったんですか!」

旅掛「き、気を付けろ上条さん……あの五歳児め…………
    おそろしいほど順調にデレ調教を進めてやがるっ……!!」ワナワナ

美鈴「待望の初孫が齢二にして男を知ってるだなんて…………胸にくるものがあるわ」ヨヨヨ

詩菜「まあまあ、大丈夫ですか美鈴さん?」
<> 「まことちゃんとじーじとじーじとばーばと???」<>saga<>2011/11/04(金) 22:38:42.41 ID:GesQCTog0<>

真理「あ! とーやじーじだ!」キャッキャッ

刀夜「そうですよー、とーやじーじですよー」デレッ

真理「とーやじーじがいるってことはぁ……」

旅掛「くっそいいなぁ、俺ももっと呼びやすい名前に戸籍いじくろうかなぁ……」イジイジ

美鈴「バカなこと言ってんじゃないの。それじゃあ交代しましょ上条さん。
    …………詩菜さん、くれぐれもお隣のお子さんの話題は口にしないように」

詩菜「あらあら、真理ちゃんがどんな男の子とラブラブなのか、私も知りたか」





真理「………………やっぱりー! しーなおねーちゃんだー!!」キャッキャッ





美鈴「」ピシッ

刀夜「へ」

詩菜「あらあら」

旅掛「………………wwwwwwwwwwwww」

<> 「まことちゃんとじーじとじーじとばーばと???」<>saga<>2011/11/04(金) 22:39:26.83 ID:GesQCTog0<>

十分後 居間


美鈴「」

美琴「ママ、ねえママ? ちょっと、お茶冷めちゃうわよ?」

美鈴「」



美琴「…………ダメだこりゃ」

当麻「…………あの、お義父さん。お義母さんはどうしたんですか?」

旅掛「くっ、くっくっく…………くくくくくくく! 
    なに、肌年齢の神秘と、世の無情と、子供の純粋さに打ちのめされているだけさ」

上琴「は?」




美鈴「」




オワリ
<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/04(金) 22:41:52.01 ID:GesQCTog0<>
オチだけ最初に決めて経過を適当に打ち込んだら両家のバランスがイマイチでした
ご期待に沿えなかったらゴメンナサイ罵ってください

では次回は火曜あたりにでも <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/11/05(土) 02:13:00.44 ID:NEUKPrWk0<> 罵るなんてそんな>>1を悦ばせるような事……

どうして真理の語彙に関白宣なんてものまであるのかますますもって不思議だけれど、
おおいに笑わせていただきました、じーじとじーじとばーばとおねーちゃん!wwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)
(愛知県)<>sage<>2011/11/05(土) 02:29:51.43 ID:Rz4Kw82To<> 老いって切ないね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(静岡県)<>sage<>2011/11/05(土) 11:07:48.76 ID:hrCSqNUZ0<> やはり詩菜は化け物か……(ガン○ム風に)

あの人に老いなんてあるんだろうか……

真理、サラブレッドだなぁ……っていうか、裏篤は突然変異かなんか?
明らかに親を超えた才能の持ち主だろ……あらゆる意味で。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)<>sage<>2011/11/05(土) 23:32:43.87 ID:cB4OvN18o<> 乙〜 <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/08(火) 22:49:57.31 ID:Z0ia8pMJ0<>
どうも>>1ですよん
皆さんいつもありがとうございます
本日はみんな大好きレベル5が大集合ですよ
では参りましょう↓ <> 「(旧)超能力者だよ! 全員集合!」<>saga<>2011/11/08(火) 22:50:49.94 ID:Z0ia8pMJ0<>

一方「………………」

垣根「………………」

美琴「………………」

麦野「………………」

食蜂「………………」

削板「………………」



美琴「え、なにこの空気」

一方「つうかココどこだ」

麦野「だいたいなによ↑の(旧)って。まるで私たちが使い古しの劣化能力者みたいじゃない」

垣根「テメエに関しちゃ大正解じゃねえか第四位」

麦野「ああん!? 粗大ゴミが図に乗ってんじゃねえぞ!!」

削板「両者落ち着け!! いきなり喧嘩腰とは感心しないぞ!!!」

<> 「(旧)超能力者だよ! 全員集合!」<>saga<>2011/11/08(火) 22:51:28.59 ID:Z0ia8pMJ0<>

食蜂「まあまあ皆さん落ち着いてくださるぅ?」

一方「なンでオマエが仕切ってンだよ」

食蜂「それはもちろぉん、私がレベル5の中でも飛びきり社交性に長けた人格力の持ち主だからよぉ」

美琴「はぁ? どの口が人格者とかほざいてんのよ、唯我独尊の女王様?」

食蜂「美琴さぁん、今回私はこの場の取り仕切りを上から委託されてるのぉ。
   逆らったらどうなるかわかってるぅ?」

垣根「おもしれえ、第五位ごときが俺の『未元物質』に“どうする”のか見せてもらおうじゃ」

食蜂「…………ごめんなさぁい、あなた誰? 私の手元の資料だと、第二位の顔写真には
   ○芝のV○GETAがアへ顔ダブルピースしてる奇跡的な一枚が採用されてるんだけどぉ」

垣根「!?」



一方「ちょwwwこれwwマジぱねェwwww」

削板「やや、なかなか根性溢れるショットだな!!」

麦野「ぷ…………っ…………っ………………!!!」←呼吸困難に陥るほど爆笑中

美琴「これ、かなりよくできた合成写真ね。
   よほど技術力がないとこうも自然にはならないわよ」カンシン

垣根「花頭ぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 帰ったら頭上のお花畑に
   枯葉剤まいてやるから覚悟しとけよおおおおおお!!!!!!!」

<> 「(旧)超能力者だよ! 全員集合!」<>saga<>2011/11/08(火) 22:52:18.60 ID:Z0ia8pMJ0<>

食蜂「それではオチがついたところで仕切り直しといきましょうかぁ」

垣根「ふざけんなクソアマ!」

麦野「結局あんた、どうしてまた人間ボディに脳味噌移したのよ」

垣根「超能力者が集まる円卓に一機だけ冷蔵庫が鎮座ましましてたら
    シュールってレベルじゃねえだろうが!! 俺なりの気遣いだよ!」

一方「余計な心配すンな、羽が生えてなくてもオマエ現時点でプカプカ浮きまくってるから」

垣根「誰が上手いことを言えと!」



美琴「話がぜんぜん前進しないわ……もう食蜂さんが司会でいいから、さっさと進めてくれる?」

食蜂「今回は学園都市から外部に向けた広報の一環として、
    レベル5座談会と題した会合を開かせていただきましたぁ…………っていう、建前よぉ」

削板「建前?」

食蜂「ぶっちゃけ私たちって横の繋がりが割と希薄でしょお?
    全員を一か所に集めるシチュエーション設定を>>1が面倒くさがったのよぉ。
    ついでにこれだけいると自然に会話をつなぐのも大変だから、
    適当なお題を設定して、それに対するテキトーなトークに興じてもらいまぁす」

美琴「メッタメタね……」ハァ

一方「適当の上にテキトーを重ねるとかイヤな予感しかしねぇ…………」ハァ

<> 「(旧)超能力者だよ! 全員集合!」<>saga<>2011/11/08(火) 22:52:54.19 ID:Z0ia8pMJ0<>

食蜂「時間も押してるしぃ、>>1のやる気の問題もあるからお題一個で終わっちゃいそうねぇ。
    じゃあ『各々の面識と関係性を整理』してみましょうかぁ。はい一方通行さんから」

一方「俺ェ? めんどくせェな……」ポリポリ

食蜂「今後も秩序だった会話を継続するため、基本的に発言は序列順になりまぁす」

削板「なにっ、じゃあ俺は毎回最後なのか!!」ガーン!

麦野「この面子で『秩序だった会話』とか成立すんのかしらね」

垣根「無理だろうな、特に第七位の根性バカ」

美琴「…………なにを言ってもブーメランになりそうな気がするからノーコメントで」

食蜂「ほらもうそうやって脱線するぅ! ほら一方通行さん、早く早く」



一方「ちっ……第二位と第三位とは昔ドンパチ殺し合いました、
    第四位と第七位とはちっとばかし顔合わせたことあります、
    第五位とは一応職場の同僚ですゥ…………これで満足か」

垣根「早っ!」

削板「なにやら一行目に不穏当な文字が踊ってるが、きっと気のせいだな!!」

麦野「やる気ないわねー」

美琴(ま、新婚だもんね…………早く帰りたいかそりゃ)ニヨニヨ

一方「ンだオリジナル、その顔はよ」ギロ

美琴「べっつにー?」

<> 「(旧)超能力者だよ! 全員集合!」<>saga<>2011/11/08(火) 22:53:58.63 ID:Z0ia8pMJ0<>

食蜂「はい、それじゃあ次は第二位さん」

削板「進行のほうにも淀みがないな!! 素晴らしい根性だ!!!」

垣根「それが良いか悪いかは分かんねえがな。
    ……第一位にはその昔ぶっ殺された恨みがあるからな、いずれは同じ目に遭わせてやるよ」

一方「はン。やれるもンならやってみろや」

麦野「その理屈でいくと、私もアンタには隻眼隻腕になってもらわないといけないんだけどね」

垣根「…………」

食蜂「みんな殺伐としてるわねぇ」

美琴「…………この話題、止めにしない? 私もあっちこっちで複雑な事情抱えてるし、
    ここを掘り下げるといくら時間があっても足りないわよ」

削板「せっかく平和な時代を生きてるんだから、今を楽しもうじゃねえか!!!」



一方「……それが建設的だな」

麦野「……大人になるって嫌よね。処世術なんてものを自分が身に付ける日が来るなんて、
    これっぽっちも思ってなかったし」

垣根「……水には流さねえぞ」

食蜂「はいはぁい、それじゃあほのぼのトークさいかぁい☆」

<> 「(旧)超能力者だよ! 全員集合!」<>saga<>2011/11/08(火) 22:55:21.50 ID:Z0ia8pMJ0<>

垣根「第三位とは……………………特になにも接点がねえな」

美琴「あれ? でもあのDMの会長さんってことは、初春さんの上司なんでしょ?」

垣根「ああ、そんなプログラマー雇ってたかもな」シレッ

美琴(会長直々にヘッドハンティングされたって聞いたんだけどな……)



垣根「第四位とは、あー……」

麦野「はいはい、そこもカットカット。また空気悪くなるわよ」

垣根「お前、意外と割り切ってんのな」

麦野「最近、思うところが色々あってね」



垣根「第五位ねぇ。こいつとも当然何もなしだ」

食蜂「…………あなた、もしかして友達少ない?」

垣根「ああん!?」


プッww


垣根「クソセラレータと麦野だってのは分かってんぞ後で覚えとけやコラァ!!」

削板「その二人とは仲が良さそうだな!!!」

垣根「誰がじゃ!」

食蜂(結構的を射てると思うけどぉ)

<> 「(旧)超能力者だよ! 全員集合!」<>saga<>2011/11/08(火) 22:56:03.76 ID:Z0ia8pMJ0<>

垣根「第七位。こないだ飲み屋で一緒になった。以上」

削板「おいおい水臭ぇな、酔い潰れるまで飲み比べた仲じゃn」

食蜂「言いたいことがあるならご自分の番にお願いしまぁす。じゃあ次美琴さぁん」



美琴「一方通行は…………ま、義理の弟ね。それ以上のコメントは差し控えるわ」

一方「…………」

美琴「やだもーそんな暗い顔しないの! お義姉さんって呼びたいならいつでも……
    あ、どっちかって言うと当麻をお義兄さんって呼びたい?」

一方「誰が呼ぶか!! オマエ最近母親に似てきたンじゃないですかァ!?」

美琴「とまあ、私たちはこんな感じよ」アハハ

一方「……年下の女に振り回され(ry」



美琴「垣根さんは右に同じで面識なし。初春さんの上司だっていうのも最近知ったわ。
    初春さんも何も言ってくれなかったし、彼女も知らなかったのかしら」

垣根「…………当然だろ。まともな奴なら俺の事情には首突っ込んじゃこねえし、
    そもそも俺のほうから関わり合いにはなんねえよ」

美琴「そ。こんなこと言ったら垣根さんには失礼だけど、ちょっと安心したわ」

垣根(ぐ…………なけなしの良心が痛むぜ)チクチク

<> 「(旧)超能力者だよ! 全員集合!」<>saga<>2011/11/08(火) 22:56:50.68 ID:Z0ia8pMJ0<>

美琴「麦野さんとも、出会いはあれだったけど今ではいいお友だちね。
    お隣の浜面さんの友人だった、っていうのにはちょっと縁を感じるかも」

麦野「私はあくまで滝壺……じゃなかった、理后とお茶しに行ってるんであって、
    第三位と仲良し小良しになった覚えはないっての」

美琴「そのわりにはウチによって真理の相手してくれるじゃない。
    こないだ『カナミンR4なりきり変身セット』贈ってくれたけど、あれ麦野さんの趣味?」

麦野「実は喧嘩売ってるでしょアンタ」



美琴「…………」

食蜂「やだもー美琴さんったらぁ、人の顔ジロジロ見てぇ」ポッ

美琴「パスで」

食蜂「んもぉ、しょうがないなぁ。こうなったら
    私の番で美琴さんに対する熱いパトスを思う存分ぶちまけて」

美琴「お断りします」( ゚ω゚ )

一方(あの第三位に毛嫌いされるって、結構な偉業じゃねェか)

垣根(お前が言うな)



美琴「削板さんとはこのあいだの事件で共闘した仲ね」

削板「……ん、そうだな…………稀に見る強敵だったな」

美琴「うん……」

<> 「(旧)超能力者だよ! 全員集合!」<>saga<>2011/11/08(火) 22:57:50.27 ID:Z0ia8pMJ0<>

麦野「らしくもなくテンション低いわね」

食蜂「ローテンションの第七位とか絶滅危惧種だと思ってたわぁ」

垣根「その方がこっちとしちゃやりやすいがな」

美琴「よく考えなくても黒子の現上司だし。
    さらに言うと十年ぐらい前に二人で一戦交えてるのよね」

削板「…………む、むむむ! 確かにあれもまた、血沸き肉躍る好勝負だった!!!
    どうだ第三位、また機会があったらあの公園で一汗流さねえか!!!!」

美琴「お断り(ry」

一方「あーうるせェうるせェ、音量下げてェから誰かリモコン貸してくれよ」

食蜂「ドゾー」つリモコン

美琴「それ食蜂さんの自己暗示用でしょ」



食蜂「さくさく行きましょお、続いて第四位さぁん」

麦野「これって後半行くにつれて喋ること減ってかない?」

削板「なにいっ!? じゃあ俺は一言も喋らせてもらえないのか!!!???
    ちっくしょおおおおおお!!!! 夕陽が今だけは目に染みるぜぇえええええ!!!!」

食蜂「…………つまり、そういうことだから。お察し下さぁい」

四人((((ああ、そういう…………))))

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/08(火) 23:00:46.28 ID:Z0ia8pMJ0<>
小ネタのくせに長すぎるのでここで区切りますの
続きはまた明日
しっかしこいつらホントに喋らせてて飽きません
別スレでもさンざン絡ませた後なのにネタが尽きる気がしませンよォ <> さ、寂しくなんか(ry<>saga<>2011/11/09(水) 08:58:05.70 ID:7JEA+nY/0<>

麦野「じゃ、やかましい第七位は放置プレイの方向で。
    まずは第一位ね。こないだの結婚式でハブられました」

一方「仕方ねェだろォが終わったことをグチグチ蒸し返してンじゃねェぞ年増ァ!」

麦野「…………あんたとはいずれ決着つけなきゃならないとは思ってたけど。
    今がその時ってことでいいんだな貧弱殺すもやし野郎ぉぉぉぉぉ!!!!」


ワーワーギャーギャー


削板「この二人も『意外に仲良い』枠なんだな!!」

食蜂「統括理事会の調査によると数年前、絹旗最愛さんと黒夜海鳥さんの
    法定代理人の座を賭けて、裁判沙汰になる寸前までいってるわぁ」

垣根「…………そりゃ、刑事裁判か?」
   ・・
食蜂「一応、民事止まりよぉ」

美琴「二人とも、『出るとこ出』たら後ろ暗すぎる身の上だもんね……」



一方「きょ、今日のところはこの辺にしといてやらァ」ゼェゼェ

美琴「素が虚弱体質の癖に無理してんじゃないわよ」

削板「お前には根性根性根性根性根性根性根性根性、そしてなにより根性が足りねえ!!!!」

一方「根性根性うっせええええ!!!! ちょっとコイツ誰か黙らせろ!!」

<> 「(旧)超能力者だよ! 全員集合!」<>saga<>2011/11/09(水) 08:59:19.70 ID:7JEA+nY/0<>

麦野「ぜぇはぁ、つ、次は第二位のクソ野郎ね……」ゲホゲホ

垣根「そのコンディションでどうして俺に喧嘩売るの!? バカなの死ぬの!?」

麦野「にっくきライバル会社のトップ。以上」

垣根「喧嘩売った上にガンスルーとかマジ勘弁しろ名誉棄損で賠償請求すっぞコラ」

食蜂「はい次いってみましょー」

垣根「どいつもこいつもおおおお!!!」



麦野「第三位か……いつかの研究所の借りを返したいって気持ちも、ないでもないんだけどね」

美琴「あの頃は私も色々と立てこんでて必死だったから……
    その、今にして考えれば失礼だったと思うわ、ごめんなさい」ペコリ

麦野「こいつがこの調子だから、そういう感情も薄れちゃったのよね」

美琴「そんなこんなで今ではいいお友だちです」ニッコリ

麦野「いや、そこは認めてないから。……ほんと、調子狂うわね」ハァ



削板「……あれが巷で言う、ツンデレってやつか?」

食蜂「ちょっと素直力足りてない人を指してなんでもかんでもツンデレって呼ぶ風潮、
    わたしはいかがなものかと思うのよねぇ」

垣根「禿同。やっぱりツンデレは黄金比率9:1を守ってこそ至高だな」

一方「超電磁砲で言うとどの時期になンのかねェ。
    俺と三下がやりあった後だと8:2から7:3ぐらいに見えンだよな」

美琴「……あの、全部聞こえてるんだけど。っていうかその事件以降原作で一度も
    私と邂逅してないアンタがどうしてその時期の私のツンデレ比知ってんのよ」

<> 「(旧)超能力者だよ! 全員集合!」<>saga<>2011/11/09(水) 08:59:48.61 ID:7JEA+nY/0<>

麦野「第五位、食蜂操祈だっけ?」

食蜂「はじめまして、麦野沈利さぁん。今後ともよろしくぅ」

麦野「ハジメマシテショクホウサン。じゃあ次いきましょ」

食蜂「ひっどおい。独り身同士もうちょっと腹の内を見せあいっこしましょうよぉ」

麦野「互いの傷口に塩塗りこむ未来しか視えないわよ!」

食蜂「ちぇー。お茶友だち一人確保かと思ったのにぃ」ブーブー

麦野(暗部時代から『心理掌握』の悪評はそれとなく
    伝わってきてたからね…………関わり合いにならないに越したことないわ)

食蜂「んもう、ますます失礼力全開なこと考えてるしぃ」

麦野「…………だから嫌なんだよ。んで、第七位か」



削板「…………」ワクワク

麦野「ハジメマシテサヨウナラ」

削板「おい!! そりゃねえだろ!!!」

麦野「いやだって。アンタとは本気でなんの接点もなきゃ共通の話題もないし」

削板「そんなものは根性で補えばいいだろう!!!!」

麦野「司会、さっさと進行お願い」

削板「くっ、これも俺の根性が不足していたが故の結末かっ……!!!
    まだまだ精進が必要だ、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!」

麦野(マジうっせえ)

<> 「(旧)超能力者だよ! 全員集合!」<>saga<>2011/11/09(水) 09:01:21.79 ID:7JEA+nY/0<>

食蜂「はぁい、ではいよいよお待ちかね!学園都市二三〇万人が待ち望んだスーパーアイドル!
    『心理掌握』こと食蜂操祈が、あなたのハートも操っちゃうゾ☆」キラッ☆



一方「うわァ」

垣根「カメラも入ってないのにこのカメラ目線である」

削板「素晴らしいプロ意識じゃねえか!!」

一方「いや何のプロだよ」

美琴「…………オフレコにしとくからさ、この際ここでぶっちゃけちゃわない?
    正直、二十代半ばにもなってそのキャラ辛いでしょ。ゆうこ○んじゃあるまいし」

食蜂「………………」

麦野「そのゆ○こりんもとっくにカミングアウトしちゃったしね」

食蜂「……………………」





「…………ペルソナ被ってないとね、やってらんないこともあるのよ」ハン





四人「「「「…………」」」」

削板(ぺるそなってなんだ? 根性の亜種か?)
<> 「(旧)超能力者だよ! 全員集合!」<>saga<>2011/11/09(水) 09:02:22.48 ID:7JEA+nY/0<>

食蜂「それじゃあみさきちのフリートーク開始でぇす☆ 皆楽しんでいってねぇ♪」キラッ☆



一方「……あれが、アイツの生き方なのかもな」

麦野「よく考えれば若くして名門大学の教授なんてやってんのよね。
    風当たりは私たちの中でも一番の所にいるかもしれないわ」ウンウン

美琴(ちょっとほだされてしまった自分を殴りたい…………
    でも、これからはもうちょっと仲良くしようかな……)ウーム

垣根「プロ意識ってのもあながち間違ってなかったのかもな。
    根性バカの直感も侮れねえもんだ」

削板「???」



食蜂「第一位、一方通行さんとは出向先の理事会ビルでときどきお会いするわぁ」

美琴「一方通行は親船理事長のSPで、食蜂さんは諮問機関の一員だっけ」

一方「会議室でよく顔会わせるけどよ、その物理的眩しさどうにかなンねェのか。
    おかげで最近サングラスが手放せないンですけどォ」

食蜂「? なんのお話かしらぁ?」キラキラ

一方「……なンでもねェ、もういいわ」

<> 「(旧)超能力者だよ! 全員集合!」<>saga<>2011/11/09(水) 09:02:59.02 ID:7JEA+nY/0<>

食蜂「第二位、垣根帝督さんとは今日初めてお会いしたわぁ。
    学園都市の中枢に曲がりなりにも携わる者として、前々からお写真だけは拝見してたけど」

垣根「…………その写真ってのは、さっきのアレみたいなアレじゃあねえだろうな」オソルオソル

食蜂「うふふ、まっさかぁ。十年前のものとはいえ、れっきとした人間ボディだったわぁ」

垣根「ほっ」



食蜂「某C県東京ディ○ニ○○ン○上空を六枚羽で滑空してる合成写真だったけどぉ」

垣根「メルヘェェェェェンンン!? 自覚はあるんだからそろそろ誰か許してくれよおお!!」

一方「イヤでェす」

麦野「イヤよ」

食蜂「イヤねぇ」

削板「イヤだ!!!」

垣根「ちっくしょおおおおおおおおおおおおお!!!!!!
    救いは第三位だけか! オイこの薄情者どもになんか言ってやってくれ!!」



美琴「出遅れた………………」(´・ω・`)ショボーン

垣根「おいぃぃいぃぃぃぃぃいいい!?」ガビーン!

<> 「(旧)超能力者だよ! 全員集合!」<>saga<>2011/11/09(水) 09:03:49.14 ID:7JEA+nY/0<>

食蜂「美琴さんとは常盤台中学の先輩後輩の仲よぉ。
    もうちょっと仲良し力アップできると私としては嬉しいんだけど、
    残念ながら美琴さんには嫌われちゃってるみたいでぇ……」

美琴「……あの、食蜂先輩」

食蜂「…………へ?」

美琴「今度、よかったらお食事でも一緒にどうですか?」ヒキツリワライ

食蜂「 ! ? 」コウチョク



五分後



食蜂「…………はっ!! い、いま確かに五分ほど時が飛んだわぁっ!!」

一方「キングクリムゾン凄いですねェ」

削板「だ、第三位のお誘いにはそんな能力が!?」

美琴「そんなにショック受けるほど私の態度ってアレだったのね……」ズーン

食蜂「つつつ、次行きましょうか次ぃ!!」アセアセ

麦野(面白いぐらい動揺してるわねこの性悪女)ニヤニヤ

垣根(弱み一つ握ったぜ)ニヤニヤ

<> 「(旧)超能力者だよ! 全員集合!」<>saga<>2011/11/09(水) 09:04:22.35 ID:7JEA+nY/0<>

食蜂「お、お次は第四位、麦野沈利さんねぇ。えっとお……」

麦野「特に話すことないわね」

垣根「テメエこそダチ少ないんじゃねえか」

食蜂「ぼっちじゃありませぇん!
    第八位さんと第九位さんとは週一でスイーツ食べに行ってますぅ!
    たまたまこのメンバーだったから少なく見えるだけですぅ!!」

一方「スイーツ(笑)」



食蜂「第七位、削板軍覇さん…………この度は結婚おめでとうございまぁす」ペコリ

削板「……あれ? 第五位には教えたんだっけ?」キョトン

麦野「!?」

御坂「え、マジマジ!? 削板さん彼女いたの!?」

垣根「そういやこないだ飲み屋でんなこと言ってたな」

一方「酒席の戯言じゃなかったのか……今年一番のサプライズだわ」

麦野(……え、ウソ? ウソでしょ? あんなのですら結婚すんのに私って私って)ブツブツ

美琴「麦野さん? 顔色悪いわよ?」

麦野「」ブツブツブツ

一方「ほっといてやれよ。オマエに同情されたら余計にミジメだろ」

美琴「はぁ」

<> 「(旧)超能力者だよ! 全員集合!」<>saga<>2011/11/09(水) 09:05:43.72 ID:7JEA+nY/0<>

食蜂「それでは私の手番も終了ということで、そろそろ」

削板「よおおおおおおおおおおおし!!! とうとう俺の出番というわけだな!!!!
    男削板軍覇がレベル5の面々を熱く語る『熱血!! 軍覇塾!!!』を」

食蜂「の、はずでしたがぁ」

削板「へ?」

食蜂「脱線や与太話で予定された誌面を使い切ってしまったので、座談会を打ち切りまぁす」

削板「」



美琴「ちょっと待ってよ、これ雑誌に載るの!?」アセ

食蜂「最初っから広報活動の一環だって言ってるじゃない」

垣根「建前じゃなかったのかよ」

食蜂「予想外に面白いことになったから、
    最後に私が軽ぅく検閲を加えて出版する運びになると思いまぁす」

麦野「で、出たー! 自分に都合の悪い所だけカットしようとする職権濫用!!」

一方「だいたい検閲とか憲法違反だと思いまァす」

食蜂「嫌だわぁ。ここは事実上の独立国、学園都市なのよぉ。
    日本国憲法の括りなんてこの塀の中では些細なことだわぁ」

一方「日本中の憲法学者に録音して聞かせてやりてェわ、今の台詞」

<> 「(旧)超能力者だよ! 全員集合!」<>saga<>2011/11/09(水) 09:06:36.96 ID:7JEA+nY/0<>

削板「おいおいおいおいおいおい!!!! ちょっと待ってくれ!!!」

美琴「どうかした、削板さん? 血相変え……いや、いつも通りか」

削板「俺のターンだけカットなんてそんな不公平なことが許されるのか!?」

麦野「いいんじゃない別に?」

垣根「俺ら五人で一回ずつお前に言及してるしよ、問題ねえだろ」

削板「ぬ、ぬぬぅ…………そ、そうなのか……」

食蜂「大丈夫よ削板さぁん、カットした分は根性で補うから」

削板「おお!! 根性だったら仕方がねえな!!!」

一方(嫁さンともども削板くンの将来が心配でならねェわ)


ガチャ


削板「ははは、なんだかスッキリしたぞ!! そんじゃ帰るか!!!」

垣根「最初っから最後まで字面のうぜえ奴だな。じゃあ俺も」

一方「こンな茶番これっきりにして欲しいぜマジで」

美琴「あ、時間あったら皆でハンバーガーでも食べに行かない?」

麦野「高級マンションの入居者にあるまじき発言ね」

食蜂「それじゃあ皆さん、さようなら〜」


パタン




オワリ
<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/09(水) 09:08:13.02 ID:7JEA+nY/0<>
以上、>>1史上屈指のg☆d☆g☆dでした
次回は週末にでもお会いしませう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)<>sage<>2011/11/09(水) 11:18:14.14 ID:sIRsvZtPo<> なんだかんだで仲いいなこいつらww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)
(チベット自治区)<>sage<>2011/11/09(水) 22:55:23.42 ID:Q5ZwggeL0<> 乙

ほっこりした <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)<>sage<>2011/11/11(金) 15:01:56.07 ID:dhC8d9CIO<> 乙

第六位はよ <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/12(土) 01:09:46.23 ID:nlntP7Sh0<>
天使同盟にリアルタイム遭遇してたらこんな時間になっちゃった☆
どうも>>1です

>>365
第六位さんはなんか原作でも永遠にはぶられたまま終わる予感しません?
あ、>>1だけですかそんなの


<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/12(土) 01:10:20.64 ID:nlntP7Sh0<>

――約束の名前――


<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/12(土) 01:11:43.13 ID:nlntP7Sh0<>

妹同然の少女が住まいとするリノリウム造りの館を、勝手知ったる顔で闊歩している時だった。


『……なんですか、これ』

『おやぁ? アステカの魔術師さんは俺が思っているほど日本語には明るくなかったのかにゃー』

『そういうことではなくてですね』


人様の家に図太い顔で転がり込む野良猫のような気軽さで、
突如としてかつての同僚が姿を現し、一通の封書を押し付けてきたのは。


『連中の「御用件」なら、ちゃぁんと一番上等な一枚に書いてあるぜよ』


「謹啓」。


差出人の片割れが醸す印象とはまるで不釣り合いな、堅苦しく丹念な書き出し。
眼球を左から右へ、右端へ辿りついたら下段へ、丁寧に丁寧に動かしていく。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/12(土) 01:12:28.84 ID:nlntP7Sh0<>

------------------------------------------------------

謹啓
紫陽花が雨に映えるこの季節
皆様には益々ご健勝のことと心よりお慶び申し上げます
このたび私たちは結婚式をあげることになりました
つきましては日頃のご厚情に改めてお礼を申し上げますとともに
あらためて末永いご厚誼をお願いしたく
心ばかりの披露宴をご用意いたしました
ご多忙中誠に恐縮でございますが
ぜひご出席賜りますよう お願い申し上げます      敬具







                               上条当麻
                               御坂美琴


------------------------------------------------------

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/12(土) 01:13:40.93 ID:nlntP7Sh0<>

『………………表の名前は、自分のものではありませんよ』


深々と溜め息をつきたい気持ちをこらえて、そうひねり出すのが精いっぱいだった。


『んー、おっかしいなぁ? 俺の目の前にいる男の顔は、確かに「海原光貴」のなんだが。
 「書庫」にクラッキングかけて確かめてもいいぜい』


頬に手を触れる。
黄色人種の肌の色も、ここ七、八年で随分と慣れたものだと思う。
しかしどれだけ身体に、心に馴染もうともこれは、仮初の借り物だ。



かぶりを振って苦笑した男――――エツァリのものではなかった。



『で、受けとる気はあるのか?』

『どうして、貴方がこれを自分に?』

『質問を質問で返すとキラさんに怒られるぜよ……ま、いい。親友に頼まれたんでな。
 「住所も本当の名前も知らないが、招待したい奴がいる」ってな』

『…………貴方は、それにどう返事したんです』


わずかに、エツァリは声を強張らせる。

それに対する元同僚は、チェシャ猫のような笑みをさらににんまりと深めた。


『心配しなくても、余計なことは言ってない。
 「難しいかもしれないが、一応やってみよう」……そんな感じだったかにゃー』

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/12(土) 01:14:10.84 ID:nlntP7Sh0<>

安堵の息を隠し通せるだけの気力はなかった。


『……お気遣い、感謝します』

『お気になさらず、だぜい。それで結局どうするんだ? 出席する気があるんなら、
 昔の仕事仲間の誼で返事の仕方から当日のマナーまでレクチャーしてやりますたい』


歩み寄ってきた男が、封筒から返信用の葉書を抜きだして裏面を見せてきた。
右上に記された文字を、土御門が諳んじる。


『「御出席、または御欠席。どちらか一方に丸をおつけください」。
 …………俺が引き受けた仕事は宛先に封筒を渡して、この葉書を持ちかえることのみ』


親の仇を見たような目で、その一文を睨みつける。
押し黙ったエツァリに、土御門元春は最後通牒を叩きつけてきた。


『決めるのはお前だ、アステカの魔術師エツァリ』


手を伸ばす。


『…………自分、は……』


声と身体を震わせながら、エツァリは“選択肢”を指差した。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/12(土) 01:14:55.29 ID:nlntP7Sh0<>


それが、いまから三年前の六月の事だった。



<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/12(土) 01:15:27.41 ID:nlntP7Sh0<>
-----------------------------------------------------------------


土御門元春とはまた別の元同僚――より正確にはその奥方――に招待されて、
エツァリはここ、学園都市は第一二学区の小さな教会を訪れていた。
早朝から二人の司式者が予行演習を行っていた中央聖堂には、いまは誰もいない。
長椅子に腰かけてなんとなしに祭壇を眺めていると、背後から声。


「海原、か?」






【すいません、日本語わからないんです】


褐色の肌の男は母国語でそう返すと、そそくさと席を立った。
大扉の前で声をかけてきたツンツン頭の男性とすれ違おうとして、


「――――――」


目を見開き、足を止めた。
立ち塞がった男性が、見覚えのある葉書を一葉、掲げていたからだった。


「やっぱり海原だよな、偽海原。他にどう呼んでいいかわからないけどさ」

「…………よくもまあ、“そんなもの”を後生大事に保管していましたね」


わずかにでも反応を示してしまった以上、もはや取り繕うことはできなかった。
エツァリの心臓を強く打った紙切れを、男性は懐かしそうに人指し指の腹で撫ぜる。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/12(土) 01:16:24.70 ID:nlntP7Sh0<>
                              ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「そりゃあそうだろ。“こっち”に丸付けときながら顔を見せなかった
 失礼な奴のこと、忘れるわけにはいかなかったからな」


『御出席』の『御』と『御欠席』に引かれた二重線は、
三年前に『海原光貴』が返した答えを如実に示している。


「そのことについては…………申し訳ありませんでした、としか」


『出席』を丸で囲んだはずの男は、しかし披露宴会場に顔を見せなかった男は、
深々と頭を下げる。
詰ったはずの相手のほうが、焦って手を振る始末である。


「お、おいおい。本気で怒ったわけじゃあ」

「…………ふふふ」

「え?」

「いや、失礼しました。話には聞いていましたが、貴方は本当にお変わりないようで」

「…………謝罪したいのか怒らせたいのか、どっちなんだよお前」


白眼視されたが、エツァリのくつくつという低い笑いは止まらなかった。




「さあ、どうなんでしょうね――――――上条当麻さん」




たった一度邂逅しただけの魔術師からの、無責任な『約束』を見事果たした主人公。


上条当麻に対して、エツァリは十一年ぶりに向き合った。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/12(土) 01:17:25.75 ID:nlntP7Sh0<>

男が二人、一つの長椅子の端と端に腰を下ろす。


「三年前、どうして来てくれなかったんだ?」

「…………実を言うとですね、あの会場に居たことは居たんですよ、自分」

「マジか? 俺はあの日、お前の姿が見当たらないかって結構必死で探して……あ、そうか」

「ええ、御推察の通りでしょう。式場のスタッフに紛れこんで、お二人の晴れ姿をこっそり、
 眺めさせていただきました」

「……俺らの挙式は見たかった。でも、顔は合わせたくなかった。そういうことか?」

「歯に衣着せず、はっきり言ってくれますね」

「悪い、性分なんだ」

「存じ上げております」

「正解、ってことで良いんだな」

「…………ええ。きっとそうなのでしょう。とっくの昔に割り切ったつもりだったのに、
 あの招待状を見た瞬間、情けないことに身体が竦み上がってしまいまして。気が付けば、
 貴方たちに顔を合わせずに済む方法を模索していました」

「それで、後悔しなかったのかよ」


軽く、目をつむった。


「大なり小なり、人間は後悔して生きる生き物です」

「したんだな」

「……ええ」

「今でも、か?」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/12(土) 01:18:27.67 ID:nlntP7Sh0<>

「………………己が心だというのに、計りかねています」

「だったら俺が代わりに言ってやる。お前は少なくとも今日、
 俺たちに会いたかったんだ。俺は、そう思うぞ」

「自分はつい先ほど、逃げ出そうとした男ですよ?」

「だったらその“顔”はなんだよ」

「十一年前に一度出くわしたきりの魔術師のことなど、とうに記憶の彼方だろうと、
 そう思ったんですよ。貴方の人生はその後も波瀾万丈であったようですし」


エツァリは褐色の素顔に笑顔の仮面を付けて、上条に見せつける。


「嘘だな」

「…………ほう、その心は?」

「本気で俺から隠れたいならそれこそ三年前みたいに、まったくの別人の仮面を付けてくれば
 よかったんだ。見つけてほしくはないけど、見つけてくれたら嬉しいな、みたいな……
 そんな心境だったんじゃないのか、お前」

「複雑なオトコゴコロ、というやつですか……ふぅむ」


まるで他人事のように、エツァリは呟いた。


「ふふふ。貴方にそんな心の機敏を見抜く観察眼があったとは、上条勢力の監視者だった
 自分もついぞ知りませんでしたよ」

「十年の研鑽の賜物、ってやつさ」

「奥様相手にしっかりそれを発揮しているようなら、自分としても言うことはないのですが」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/12(土) 01:19:21.83 ID:nlntP7Sh0<>

「ちぇっ。どいつもこいつも俺に対する評価が、十年前から更新されてないんだよなぁ」

「ご自分の日頃の生活態度を顧みてはいかがでしょう」

「…………いーさいーさ、だったらこれから」


ふて腐れていた上条が突然にやりと口角を吊り上げた。
同時に立ち上がるとエツァリに背を見せ、大扉に向かって歩き出す。
エツァリはそれを、目を丸くして見送った。


「上条さん流の空気の読み方ってやつを、アステカの魔術師殿にご覧にいれてやりませう」


言うが早いか、上条は取っ手を握ってぐいと引っ張った。
ゆっくりと大扉が開くと、ほどよくまぶしい斜光が聖堂に差し込みそこかしこを跳ねる。
幻想的な光景だったが、エツァリが目を奪われたのはそんな光の精のいたずらではなかった。




「海原さん……じゃあ、おかしいわよね。とにかく、お久しぶりです」




女神が、薄汚い魔術師に向かって、どういうわけだか頭を下げた。
少なくともエツァリは、二流脚本家でも書かないであろう馬鹿げたワンシーンが、
なんの手違いか実際に現世で起きてしまったのだと、束の間本気でそう信じた。






「みさか、さん?」






<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/12(土) 01:20:23.86 ID:nlntP7Sh0<>

妻と入れ替わりに扉をくぐろうとする男に向かって、エツァリは声を張り上げていた。


「いつ、奥様に連絡を?」


いまとなっては無意味な質問だったが、聞いておかずにはいられなかった。
この実直で、お人好しの代名詞のような青年にまんまと嵌められたのかと思うと、
怒りなどより先に一スパイとしての矜持が揺らいで仕方がない。


一番には、眼前の女性との会話を少しでも先送りにしたいという、打算だったのだが。


「教会に入ってったお前の後ろ姿を見たそのときに、さ。背中見ただけで確信持てる程度には、
 お前は俺の中で大きな存在だったってこと、これで証明できたんじゃないか?」


人懐っこい表情で、男はしてやったりとばかりに笑う。


「…………それはさておき、お前の目の前でケータイ取り出したら、断固阻止されそうな
 予感がしたんだよ。だから前もって美琴に連絡したら、十分ぐらい足止めしてほしい
 って言うからさ」


エツァリは、美琴に視線を移した。
この女性(ひと)が、自分と話をしたがっていた?


「じゃ、今度こそ俺は行くぜ」


エツァリが呆然としていると、上条は気楽に言った。
止める暇もなく、上条当麻は――――上条美琴のただ一人の伴侶は、妻と男を同じ空間に
残して、あっさりと立ち去ってしまった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/12(土) 01:21:08.99 ID:nlntP7Sh0<>

重苦しい沈黙。


「…………ふっ」

「海原……さん?」


この期に及んでどう誤魔化そうかなどと考えている自分に気が付いて、
エツァリは自嘲気味に肩を震わせた。


「貴方に、この顔をご覧に入れた覚えはないのですが」


エツァリは、彼女の前ではいつでも『海原光貴』だった。
行く先々にしつこくつきまとうだけの、ストーカーじみた優男だった。
にもかかわらず自分を追い求めてこの場に来た、ということは。


「……ごめんなさい。これは、当麻にも恋人になった後で打ち明けたことなんだけど」

「八月三十一日、『約束』。…………聞いて、いらっしゃったんですね」




――いつでもどこでも駆けつけて、彼女を守ってくれると約束してくれますか?――




「ふっ、ふふ…………自分としたことが、これは痛恨のミスでしたね」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/12(土) 01:21:52.74 ID:nlntP7Sh0<>

美琴は、いまにも泣きそうな顔をしていた。


「自分などのために流しては勿体ないものですよ、それは」

「そんな、そんな…………っ!」


歯を食いしばって、何度も何度も首を振って、固く目をつぶって。
やがて落ち着いた女は、一度天井を見上げてから、眦をわずかに上げてこう言った。


「…………私、謝りません」

「ふむ?」

「インデックスに、あなたの今の上司にも言ったんです。私は謝らない、って。
 沢山の女の子の、純粋な行為を踏みにじって、私はあの人と結ばれた。
 だからせめて、いまこの場所にいる事実を誇るためにも、私は絶対に謝らないって、そう」


強い決意の言葉とは裏腹に、美琴の口調は途切れ途切れだった。


「…………それが良い事なのか悪い事なのか、自分の口からは言及しかねます」


美琴がそう出るなら、自分も下手な言葉は吐けない。
そう思ってエツァリも、丁寧に次の文句を探る。


「ただ……………………らしい、と思いますよ」

「…………え?」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/12(土) 01:22:32.21 ID:nlntP7Sh0<>

「辛くとも苦しくとも、自らの意志で選択した道だけは、決して否定しない。
 実に貴女らしい――――“貴方たち”らしい、信念だ」


美琴は、目をぱちくりとしてしばし呆然とした。
エツァリの言わんとするところを理解したのか、その表情が花開いたようにほころぶ。


「当然、ですよ。だって私――――――上条当麻そっくりの、独善者ですもん」


十一年前の、八月三十一日。
突拍子もない『約束』を強要した魔術師に、にかりと笑って頷いた少年。


(貴方たちは、まったくもって似た物夫婦だ)


記憶の中と眼前。
二つの笑顔を重ねながら、エツァリは心の底からそう思った。






「だから私が贈る言葉は、もっと別の…………ああ、そうだった」


ポン、と女が手を合わせる。


「名前。まだ、聞かせてもらってませんよね」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/12(土) 01:23:23.79 ID:nlntP7Sh0<>

「ここまできて、教えてくれない、なんて事はないですよね」

「…………エツァリと、そうお呼びください。メキシコの出身で、現在はイギリス清教に
 籍を置く身です」

「エツァリさん、エツァリさん……ちょっと言いにくい名前ね」

「歯に衣着せぬ物言いまで、夫婦で似なくとも良いと思うんですがねぇ」

「エツァリさんは、その…………いま、恋人とかは」

「常人では聞きにくいであろうこともズバリと尋ねる。いやはや清々しい」

「……ご、ごめんなさい」

「おや、謝らないのではなかったんですか?」

「…………エツァリさんって、Sだったんですね」

「貴女が十年前に会ったのは、あくまで『海原光貴』ですからね」

「はぁ。それで、質問の答えは」

「いますよ」

「本当ですか!?」

「みさ……美琴さんにウソなどつきません」

「じゃ、じゃあ。その人のこと、世界一好きですか?」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/12(土) 01:24:28.81 ID:nlntP7Sh0<>

エツァリは、ほんの刹那の間だけ口を閉じて思慮した。


「……ええ。自分の人生に、“二つ目”の、極めて大きな転機をもたらした、かけがえのない、
 妹のような――――――しかし、気が付けば」


心臓に手を当てて、『原典』の鼓動を確かめながら、素顔のまま微笑む。


「誰よりも愛しい女性になっていた………………………………貴女、よりも」

「…………わかりました」


最後の一言を絞り出すのに途轍もない時間と気力を消費した事実は、
ご愛敬で見逃してもらいたかったが。


「だったら。これを、受けとってほしいんです」


そう言って美琴は、手に持っていたセカンドバッグから二つ、取り出した。
なんの変哲もない郵便はがきと、先の細い筆ペン。
良く観察せずとも聖堂に入ってきた時から浮かんでいた玉のような汗を、女は誇らしげに拭う。


「夫から聞いて、ひとっ走り探してきました」


この炎天下を、自分のために。
目頭が熱くなって、視界が軽くぼやける。
その間にも美琴はすらすらと、なんとも流麗に葉書に文字を書きつけていく。
最後に裏返すと、それまでより大きく筆先を動かして、シュッと真下に滑らせた。


「どうぞ」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/12(土) 01:25:07.21 ID:nlntP7Sh0<>

------------------------------------------------------

謹啓
梅雨も明け夏の太陽がまぶしいこの季節
皆様には益々ご健勝のことと心よりお慶び申し上げます
このたび私たちは結婚式をあげることになりました
つきましては日頃のご厚情に改めてお礼を申し上げますとともに
あらためて末永いご厚誼をお願いしたく
心ばかりの披露宴をご用意いたしました
ご多忙中誠に恐縮でございますが
ぜひご出席賜りますよう お願い申し上げます      敬具


                               上条当麻
                               御坂美琴


------------------------------------------------------


「これ、は?」

「時候の挨拶以外は、三年前の文面を再現できたとは思うんですけど…………
 それよりも裏を見てくださいね。ちょっと結婚式のマナーからは外れるけど、
 正式なものじゃあないし、いいでしょ」


言われるがままに裏返して――――

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/12(土) 01:25:47.63 ID:nlntP7Sh0<>


「――――――ッ」



途端に瞼に降りる露が、土砂降りに変わった。











----------------------------------------




              エ
              ツ
              ァ
              リ
              様




----------------------------------------

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/12(土) 01:26:44.92 ID:nlntP7Sh0<>

駄目だ。


「やっと、渡せた」


止まらない。


「もしこれを受け取ってくれて、その上でもう一度、『出席』に丸をつけてもらえるなら」


次から次へと、眼球の奥からせりあがってくる大粒が、噴水のように。


「私はこの教会で、生涯でもう一度だけ、ウエディングドレスに袖を通そうと思います」


もしかしたら、我慢をしなくても、いいのだろうか。


「だから、そのときは」


心おきなく、泣いてもいいのか。


「あなたの大切な人と一緒に、私の花嫁姿を」


心ゆくまで、喜んでもいいのか。


「今度こそ、素顔で祝ってくれませんか?」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/12(土) 01:27:20.52 ID:nlntP7Sh0<>

「喜んで、ご招待をお受けします」


震える手で、エツァリはペンを受け取った。
三年前に土御門に教わった通りに、筆を走らせて。
二重線を二度引いて。
覚束ない指先で、小さくいびつな円弧を描いて。
三年前は、人に託してしまった『選択肢』の答えを。
今度こそ、素顔で、ありのままの自分で。


「ああ――――――」





直接、手渡した。






「貴女を好きになって、良かった」






約束の名前――――END
<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/12(土) 01:31:13.56 ID:nlntP7Sh0<>

この数時間後に御坂姉妹禁断のちゅっちゅを目撃したエツァリが
出血多量で例の病院に搬送されるのは、また別のお話――――


なんつーか、ちょっと修正して総合に投げてもいい話でしたね
こういう報われない男の話が、やっぱり>>1は大好物です
ちょっと本腰入れるといくらでも描写が濃くなってしまいそうだったので意識的に手を抜きました
投票してくださった方には申し訳ないです

では次回も一週間以内に
おやすみなさいませ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/11/12(土) 02:16:09.94 ID:hbKcS9VAo<> 乙なんだよ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(愛知県)<>sage<>2011/11/12(土) 02:20:52.30 ID:5Qe/ZTZT0<> 乙!
かっこいいぜエツァリ… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/11/12(土) 08:02:59.54 ID:sB7NQTTDO<> 鳥肌立ったわ
超乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(東京都)<>sage<>2011/11/12(土) 22:39:00.99 ID:iT4ifyeho<> 何つーか、今SS速報で最も"カップルが素敵"なスレですね!
上条夫妻
浜面夫妻
通行止め夫妻
ステインカップル
うん、凄くイイ……
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/11/12(土) 23:23:27.20 ID:UcbYMI4Ho<> 多くのカプを成立させつつも、オリカプには走らずに原作を踏襲してるからか… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/11/13(日) 02:57:58.30 ID:WltnJ3bBo<> それでいて一部カップルが成立することで、割を食う人物さえ丁寧に描写してるのが凄い好き <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(関西・北陸)<>sage<>2011/11/13(日) 11:20:59.06 ID:+4/OgOdAO<> 手を抜いてこれだと……?
手を抜いてない版はどうなるんだろう…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(愛知県)<>sage<>2011/11/13(日) 16:34:37.76 ID:8S6juPkXo<> >>1が何か書いたら買う自信あるわ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(静岡県)<>sage<>2011/11/14(月) 17:08:36.82 ID:/zwtUx6g0<> >>396に同感だ <> >>1 ◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/15(火) 22:51:00.67 ID:hZ1L3yqZ0<>
な ぜ 褒 め た し
定期的に罵らないと調子に乗りますよこの>>1は


>>395
必要最低限の地の文だけ残して、あとは皆さんの脳内補完にお任せした、という意味での手抜きです
ほんとすいませんでした叩いてください

>>394
まあメインであるステインからして割を食った人たちの救済話ですから、
このスレがそういう方向性になるのは仕方がなかったのかもしれません。
どう考えても上手くいきすぎ、綺麗な面だけ抜き出しすぎな感はありありですが、
汚い部分はイン←→上を描写するだけでおなかいっぱいになってしまいました。
みんなハッピーで良かったねー、な方向に向かうのは私の好み以外の何物でもありません。


たまーにこうやってキモイ腹の内をぶちまけたくなっちゃうわけですよ
とにかく大量のアメをプレゼントしてくだすってありがとうございました
次は是非ムチでお願いします
<> 「ヨミカワさンち(あたしンちのイントネーションで)」<>saga<>2011/11/15(火) 22:53:19.88 ID:hZ1L3yqZ0<>

七月二十一日 一方通行宅



黄泉川「さーて、全員グラスもったじゃん?」

打ち止め「準備完了! ってミサカはミサカはフライング気味に、むぎゅ」

一方通行「こらえ性のねェところはいつまで経ってもガキのまンまだな、オマエはよ。
      音頭のときくらい空気を読んでくださァい」

番外個体「へー、そういう第一位は随分と協調性あふれるイイコちゃんになったじゃん」

一方「うっせェ」

芳川「はいはいあなたたち、喧嘩しないの。それでは、一方通行と打ち止めの式が
    無事終わった事を祝って。乾杯」


女三人「「「カンパーイ!」」」

男一人「…………カンパァイ」ボソッ


一方「っつーかここ俺ンちなンですけどォ。どうしてクソニートが仕切ってンだおい」グビ

芳川「失礼ね。求職活動中の人間は定義上ニートからは外れるのよ」チビチビ

一方「どっちみち完全無欠の無職だろォがゴク潰し」

芳川「やだ、無職ってなんだかニートより言葉の響きが重いじゃない。呼称改正を要求するわ」

一方「だったら就職さっさと決めるか就活止めるかにしろ」ケッ

芳川「これからも末永くよろしくね、一方通行」ゴクゴク

一方「俺が養うのは打ち止めと妹達(のうちの半分)だけだクソアマァァァ!!!」

<> 「ヨミカワさンち(あたしンちのイントネーションで)」<>saga<>2011/11/15(火) 22:54:21.25 ID:hZ1L3yqZ0<>

番外「二人ってさ、よくも飽きずに毎度毎度同じ話題で喧嘩できるね」グイ

黄泉「十年経っても変わらぬ黄泉川家の日常風景じゃん」ゴキュッゴキュッ プハー

番外「いや、ここ一方通行の家だし」

打止「や、やだもうアナタったら…………
    一万人の連れ子ごとまとめてミサカを食べさせてくれるなんて……」テレテレ

番外「誰がコブじゃい元幼女。しっかし昔ならこれも妄想乙、で済ませられたのにねぇ。
    …………っていうか姉さん、酔っぱらうの早くない?」

黄泉「乾杯と同時に大ジョッキでビールイッキだったじゃん」

一方「見てたなら止めろやアホ警備員!!」



打止「続けて二杯目、いっきまーす!!」グビッグビッグビッ



一方「そしててめェは何をしでかしてンだクソガキィィ!!」

番外「おお、やれやれー」ヤンヤヤンヤ

芳川「あら、心なしか顔が青いわね打ち止め」

一方「打ち止めァァァァァァァーーーーーッッッッ!!!??」

<> 「ヨミカワさンち(あたしンちのイントネーションで)」<>saga<>2011/11/15(火) 22:55:11.78 ID:hZ1L3yqZ0<>

五分後


一方「…………アルコール分解完了ォ」

黄泉「ベクトル操作ってつくづく便利な能力じゃん」

芳川「私にもソレがあれば今頃は悠々自適のニート暮らしが送れたのかしら」

一方「仮に能力と序列を誰かに譲れたとしてもオマエだけには渡さねェよ自堕落の化身が」

番外「そりゃロクなことにならないねきっと。主に物凄くくだらないベクトルに」

芳川「失礼ね。せいぜいテレビのリモコンに手が届かないとき、気流操作で手元に持ってくるぐらいよ」

番外「想像以上にくだらなかった!?」

一方(俺らからすりゃあ)

黄泉(想定の範囲内じゃん)



打止「ちぇー。せっかく良い気分で酔っぱらってたのにー、ってミサカはミサカは猛抗議!」

一方「そのまま良い気分に浸ってたらあの世行きだったンだよクソガキ!!」

番外「……ねーねー、義兄さんってさ」

一方「…………その呼び方ヤメロ」

番外「姉さんのこと、この歳になってまで“クソガキ”って言ってるよねー」

<> 「ヨミカワさンち(あたしンちのイントネーションで)」<>saga<>2011/11/15(火) 22:55:47.66 ID:hZ1L3yqZ0<>

黄泉「そういやそうじゃんよ。十年前に較べりゃ頻度的にマシになったとはいえ、
    打ち止めもいまや立派なレディー。嫁にまでしといてクソガキ呼ばわり
    ってのはどうかと思うじゃん」

一方「実年齢は十歳だ。なンも間違ってねェだろ」

芳川「あらまあ。ここにきてロリコンのカミングアウトかしら」

番外「ぎゃっはは、そういう事になっちゃうね!」

一方「ふざけンなこンなン誘導尋問だろォが! ハメやがったな番外個体ォォォ!!!」



黄泉「打ち止めはこんな旦那に対して思うところはないのか?」

打止「照れ隠しだと思えばカワイイものなのよ、ってミサカはミサカは経験則から呟いてみる」

一方「捏造ォ! 捏造反対ィ!!」

芳川「お酒ぐらいもう少し静かに飲ませてくれないかしら」チビチビ

一方「てめェの酒代を十年間立て替え続けてる相手に向かってよくンな口が聞けるよなオマエ」

芳川「図太さには自信があるって、面接でも何回もアピールしたのだけど」フゥ

<> 「ヨミカワさンち(あたしンちのイントネーションで)」<>saga<>2011/11/15(火) 22:56:41.47 ID:hZ1L3yqZ0<>

番外「照れ隠しと言えばさー」

一方「なにその方向で話まとめようとしてンだオイ」

打止「MNW内ではその方角に向かってとっくに舵を切ってるのよ、ってミサ」

番外「姉さんのツンデレ時代、見てて飽きなかったよねー」グデー

打止「カはミサーカはぁぁっ!!?」ブホォ

一方(なンか一瞬聞き捨てならねェ単語が聞こえたような)



芳川「あったわね、そんな時代も……」シミジミ

黄泉「ま、スキルアウトどもに較べれば可愛い反抗期だったじゃん」シミジミ

一方「中学上がってしばらくした頃だったか……
    ちょうどオリジナルのツンデレ史と時期が重なンだよな」シミジミ

打止「っ、ちょ、ま」

番外「とある朝、自室から出てきた第一位に向かって姉さんが開口一番」



『い、今までのミサカのデレはあくまで命の恩人に対するものなんだからね!!
 ミサカはアナタに心と体を許しちゃったことあるけど、そ、そういう意図は
 ないんだから、かか、勘違いしないでよね!!』



番外「…………だもんねぇ」シミジミ

打止「」パクパク

<> 「ヨミカワさンち(あたしンちのイントネーションで)」<>saga<>2011/11/15(火) 22:57:44.57 ID:hZ1L3yqZ0<>

芳川「その後の一方通行の返しがまた傑作だったわね」

黄泉「冷静だったよなぁ、お前。真っ赤な顔の打ち止めをスルーして、
    トースト焼いてコーヒー淹れて、一口ずつ口に入れたところでボソッと」



『通行許可もらったのは脳内だけですゥ』



一方「ツンデレテンプレの中に『デレ』なんてワード混ぜてくるもンだからよ、
    あまりに斬新かつ革新的すぎて逆に頭が冷えたわァ」

番外「ぷっ、ぷぷ、確かに! 自分がデレてたこと自覚してるツンデレとかww」

打止「もうやめてェェェェーーーーッッッ!!!!
    ミサカ史上最大最強の黒歴史をそれ以上ほじくり返さないでーーーっ!!!」

一方「むしろそれまでの、『ミサカはミサカは〜』とか恥ずかしげもなくのたまってた
    あの時代のほうが黒歴史だと思ってたンだがな、俺は」

芳川「最終的には二年ぐらいで収まったんだったかしら」

黄泉「よくぞまあ、純真で天真爛漫なデレ期に回帰してくれたじゃん」ホロリ

打止「うわぁぁぁぁああああぁぁぁあああ」

番外「精神的負荷がかかりすぎて鯖が落ちかけてるねー、こりゃ大変大変」ケケケ

黄泉(鯖?)

<> 「ヨミカワさンち(あたしンちのイントネーションで)」<>saga<>2011/11/15(火) 22:58:21.58 ID:hZ1L3yqZ0<>

打止「」プスプス

番外「黒歴史と言えばさ」

一方「オマエの『言えばさ』、さっきからロクな結果生ンでないンですけどォ」

番外「昨日の二次会で上映されたスペシャルビデオ、姉さんたちは見てないよね」

一方「ビデオだァ?」

打止「ちょちょちょ、番外個体! アレのことはこの人には内緒だって言ったでしょ!
    そのためにも昨日はいち早く帰ったのに……」コソコソ

番外「(一番の理由は新婚初夜を楽しむためでしょ)……いやー、実はさ。
    姉さんに無断で、MNWの総力を挙げて再編集したんだよね、直前に」

打止「!? ………………ま……さか…………」ガクブル



黄泉「ああ、昨日のアレのことか? 懐かしき打ち止めの中学時代を心行くまで堪能できたじゃん」

芳川「会場中爆笑の嵐だったわね」

打止「やっぱりぃぃぃ!?」

番外「あ、そうそう。あんまり好評だったからブルーレイに焼いて皆に配っちゃった☆」テヘペロ

打止「色々終わったァァァーーーーーッッッッ!!! ってミサカはミサカはぁぁぁ!!!」

番外(もやもやしてたのがちょっとスッキリしたわー)フゥ

一方(結局なンの話してンだ…………べ、別に蚊帳の外で寂しいわけじゃ(ry)

<> 「ヨミカワさンち(あたしンちのイントネーションで)」<>saga<>2011/11/15(火) 22:58:54.23 ID:hZ1L3yqZ0<>



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




黄泉「そういや二人とも、ハネムーンに出発するのは明日の午後だったか?」

一方「ああ」

番外「ひゃっほーい! だったら今日は夜更けまで飲み明かせるんじゃん!」ウキウキ

芳川「でもいいのかしら、新婚ホヤホヤ夫婦の愛の巣にいつまでも居座るなんて」

打止「…………その台詞、間違ってもヨシカワだけは言っちゃいけないと思う」

芳川「あら?」キョトン

番外「いーじゃんいーじゃん、どうせ昨日の夜さんざん乳繰りあったんでしょお?
    今日ぐらいミサカたちに付き合いなよお!」キャハハ

黄泉&芳川(………………)

<> 「ヨミカワさンち(あたしンちのイントネーションで)」<>saga<>2011/11/15(火) 22:59:31.62 ID:hZ1L3yqZ0<>

一方「そうだな、今日ぐらいはいいか」

番外「え? ちょ、ちょっと、そんなマジにとられるとミサカ困っちゃうんだけど☆
    邪魔なら邪魔って言ってくれればいつでも出てくし」

打止「…………そうだ番外個体。昨日、返事し忘れてたよね」

番外「返事? なんの?」

打止「だから、昨日の“アレ”」

番外「…………あ」






――――二人とも、だいすき。幸せになってね――――






<> 「ヨミカワさンち(あたしンちのイントネーションで)」<>saga<>2011/11/15(火) 23:00:20.59 ID:hZ1L3yqZ0<>

番外「べべべ別にあんなの、ミサカが勝手にぶつけた言葉なんだから、気にしなくても」ワタワタ

一方「ああそォですか、だったらクソガキも手前勝手に喋くるだけだ。なァ?」ククク

打止「そうそう! 心して聞きなさい番外個体、ってミサカはミサカは演説ポーズ!」ガタッ

番外「いや、その」

黄泉「おっ! いいぞ打ち止め、なかなかサマになってるじゃん!」

芳川「理想的なアジテーターの姿勢ね、ヒトラーあたりでも参考に」

一方「やめろ馬鹿」

番外「やめてほしいのはコッチなんだけどー!?」



打止「私の大切な妹、番外個体」

番外「……な、なんだよ」カァ

打止「私もこの人……一方通行も、アナタのことが大好きよ。だからアナタも、
    いつの日かちゃあんと幸せを掴まないと承知しないんだからね!
    ってミサカはミサカはお姉さんぶってみたり」ウフフ

番外「…………」

<> 「ヨミカワさンち(あたしンちのイントネーションで)」<>saga<>2011/11/15(火) 23:01:18.46 ID:hZ1L3yqZ0<>

一方「だ、そうだぜ」グビ

打止「なに他人事みたいに言ってるのー!
    ミサカはあなたの内心も一緒に代弁してあげたのよ、って(ry」

一方「そりゃオマエの言い分だろ。俺はノーコメントですゥ」

黄泉「はっはは、相変わらず第一位サマは素直じゃないじゃん! 打ち止めたちに負けて
    ばかりいられないぞ、桔梗! 私たちも親として愛してるじゃん、番外個体ー!」

番外「…………んっ、く、ば、馬鹿じゃないの、どいつもこいつもぉっ……!」フルフル

打止「おめめが真っ赤だよ、番外個体」フフ

番外「違いますぅ! 慢性的寝不足だから充血してるだけですぅ!!」プイッ

一方「教科書に載ってそうな古典的言い訳だなオイ。…………ン?」



芳川「………………」ウーム

一方「どうした芳川、明日の面接の脳内シミュレートか?」

芳川「そんなの一度もしたことないわ」キリッ

黄泉「…………頼むから一回はやっといてほしかったところじゃん、そこは」

一方「確かに履歴書に書いていいレベルの図太さだわオマエ」

打止「それで、どうかしたのヨシカワ?」

<> 「ヨミカワさンち(あたしンちのイントネーションで)」<>saga<>2011/11/15(火) 23:02:34.46 ID:hZ1L3yqZ0<>

芳川「別に大したことじゃないのよ? ただ、さっき打ち止めが言った『返事』って……」






『本当は姉さんのぷりぷりした唇の感触を貪りたいって私利私欲も働きました、ハイ』






芳川「姉妹が開きかけた禁断の花園行きチケットに対する返事だとばっかり思ってたわ、私」

一方「」

黄泉「」



打止「ちょおおおおおおお!!! なんでその話蒸し返しちゃうのおおおお!?」

番外「ああそっか、それもあったっけ……」チラッ

打止「その流し目こころなしかマジに見えるからやめてぇぇぇ!!!」

<> 「ヨミカワさンち(あたしンちのイントネーションで)」<>saga<>2011/11/15(火) 23:03:39.74 ID:hZ1L3yqZ0<>


ネーサンネーサンマタイッキノミシテー?

ナンカメノイロガアヤシインダケド!?

キャピキャピ



一方「…………こンな『卒業』はイヤだなァ」

黄泉「ま、こういうオチが付くあたりが、ヨミカワさンちらしいんじゃん」つコップ

芳川「なにかあったら、たまには“こっちの”家族も頼ってちょうだいね、一方通行」つコップ

一方「……………………おう」つコップ





コツン♪





オワリ

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/15(火) 23:22:53.09 ID:hZ1L3yqZ0<>
それではラス前のサブイベントを一定数消化終えしましたので、
今週末より進路を本線に戻してお送りいたします。
皆さんのご期待に沿えるよう精進してまいりますので、
あと少しだけ、お付き合いくださいませ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/11/15(火) 23:29:28.58 ID:133L6p0Co<> 乙なんだよ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(福岡県)<>sage<>2011/11/16(水) 01:15:40.59 ID:YXAT6QoAo<> みんなイイ大人になってんな

乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(チベット自治区)<>sage<>2011/11/17(木) 22:49:08.06 ID:WN+eZz2P0<> そ、卒業って一体ナニを……//

って考えた自分が悲しくなってきた <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/18(金) 23:18:44.17 ID:A9imqgUj0<>
ねーちゃん! 週末っていまさッ!

気が付けばあの頭を掻き毟りたくなるような予告編から早一月が経ちました
ここから先は今までに輪をかけて

※原作に対する独自解釈
※厨二病

要素を含みますので一応、ご警告申し上げておきます
要するに予告のあのノリが延々続いちゃうわけです
それでも良いという方、くどくどと前口上を並べてすいませんでした
お待たせしたのかどうかはわかりませんが、やっとこさ最終章の投下です
ステイルとインデックスの行く末をどうか温かい目で見守ってあげてください↓ <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/18(金) 23:20:06.06 ID:A9imqgUj0<>


――――これは、ヒーローになりきれない男と、ヒロインになりそこねた女の物語。



<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/18(金) 23:21:01.49 ID:A9imqgUj0<>
-----------------------------------------------------------------------------


たとえ君はすべてを忘れてしまうとしても


「いやだ、いやだよすている」


僕はなにひとつ忘れずに


「おねがい、いっしょうのおねがいだから」


君のために生きて死ぬ――――か


「しなないでぇ、すているっ!!」


まったく本当に、最初から最後まで





「い、やっ、いやあああぁぁぁぁあああああぁぁあああああああああ!!!!!!」





僕らの物語は、くだらないことだらけだったな――――

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/18(金) 23:21:39.99 ID:A9imqgUj0<>




                         Last Chapter






                     と  あ  る  神  父  の


                       ■  ■  ■  ■





<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/18(金) 23:22:35.29 ID:A9imqgUj0<>

――Passage1――



「…………ん?」


半日ぶりの大地を両の脚で踏みしめたステイルが最初に感じたのは、珍妙な違和感であった。


「どうかしたの、ステイル?」

「ここは…………ガトウィックじゃない」

「え、そうなの? 私はロンドンに降りるとき、いつもヒースローだから……」


ヒースロー空港とは二人がロンドンを発つ際にも利用したイギリス最大の、そして
国際線利用者数世界一の大空港である。
しかしながらチャーター便の離着陸を行えないという数少ないデメリットがあるため、
今回ステイルたちは国内第二のエアポートであるガトウィック空港に降り立った
――――はずであった。


「違う…………ここはヒースロー空港でもない」


ステイルは職業柄、国内外を行き来した経験も豊富である。
そして彼が仕事を終えてイギリスに帰還する際は、必ずと言っていいほどどちらかの空港を利用する。
完全記憶能力者でなくとも、この滑走路に見覚えがない点だけは疑いようもなかった。

機内のCAに向かって叫ぶ。


「君!! この機はガトウィックに着陸するはずじゃなかったのか?」

「え? 失礼ですがお客様、何をおっしゃって……?」

「……君に言っても仕方がない。飛行計画書(フライトプラン)を見せてくれないかな」

「しょ、少々お待ち下さい」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/18(金) 23:24:33.93 ID:A9imqgUj0<>

機長室へと足を運ぶCAを見送って、インデックスがボソと呟いた。


「どういうことなのかな、ステイル……?」

「わからない。最も濃い線としては毎度おなじみ土御門マヌーバーなんだが……それも少し、
 違う気がしてならない。しかし最大主教、心配はいらない。何が起ころうと君は僕が守る」

「あ……………うん……」


小さな手をしっかりと握って、安心させるように凛と言いはなつ。
CAが戻ってきてもステイルはインデックスの手を離さなかった。


「お客様、お待たせしました。こちらがFSSに提出した飛行計画書の写しとなります」

「手間を取らせて済まないね、もう行ってくれて構わない。さて…………Departure
 Pointは学園都市第二三学区空港で、合っている。問題はDestinationだが…………
 ………………は?」

「ど、どうかした?」


素っ頓狂な声が滑走路上にまぬけに響く。
素早く書類の上を滑っていたステイルの眼球が、ある一点でピタリと止まっていた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/18(金) 23:25:39.66 ID:A9imqgUj0<>



「れ、れ、レオナルド・ダ・ヴィンチ国際空港………………だと……?」

「え……え、えええ!? じゃ、じゃあここって!」


紙切れをくしゃりと握り潰して、ステイルの音吐は呻きと雄叫びの狭間でさまよった。







「十字教最大勢力の本拠地――――イタリア首都、ローマだ………ッ!!」







<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/18(金) 23:26:47.14 ID:A9imqgUj0<>

一時間後、ステイルとインデックスはタクシーをつかまえて、車窓から覗くローマの
歴史ある街並みを横目で流していた。


「そろそろ見えて来るんだよ」

「……くそ、何故こんな事に……」



----------------------------------------------------



二人して語学に堪能であったのは不幸中の幸いだった。
ステイルは欧州圏の言語なら一通り日常生活レベルまで操れるし、インデックスは言わずもがな。
右も左も分からぬ異国に放り出されたわけではないのだから、冷静に戻るにそう時間はかからない。
いつもの癖で煙草をふかそうとして空振りしたステイルが次にしたのは携帯電話のアドレス帳を
呼びだして、『T』の欄まで十字キーを連打し続けることであった。


『土御門…………土御門……よし』


国際電話には馬鹿げた額の通話料金が付き物だが、背に腹は代えられない。
この一件に土御門元春が噛んでいるにせよそうでないにせよ、あのイギリス清教一の曲者に連絡を
付ければなにがしかの糸口にはなるはずだ。


そう考えたステイルが通話ボタンを押そうとした、その時だった。


『待って、ステイル』

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/18(金) 23:28:12.56 ID:A9imqgUj0<>

キーにかかった親指が止まる。
振り向くと、インデックスが難しい顔で首をひねっていた。


『なんだい、最大主教』

『さっきの飛行計画書の、Destination Contactのところなんだけど』


Destination Contact――――目標地点における連絡先。
その欄に何か彼女の目を引く記載があっただろうか。
ステイルは一度しわくちゃにしてしまった紙切れを丁寧に広げ直して――――目を剥いた。

一一桁の番号。


『………………なるほど、“彼女”の仕業か……!』


インデックスには当然及ばないながらも、ステイルも記憶力にはそれなりに自信がある。
優秀なメモリーが、記された番号の意味するところを即座に教示してくれた。



----------------------------------------------------



ローマ市内を縦横に走る市道はさながら山頂から湧き出る流水のごとく、中枢から郊外に
向けて放射状に延びている。
『Destination Contact』に連絡を取った二人の次なる目的地は、その中心点からやや西に
行った先にある世界最小国家であった。


「あれが…………」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/18(金) 23:29:22.62 ID:A9imqgUj0<>

行く手に現れた荘厳な建築物を視界に入れて、インデックスがうわ言のようにつぶやく。
“以前”の彼女がどうであったかはステイルにも知れないが、少なくとも“現在”の
彼女がこの国境線を越えるのは初めてであろう。


「すでに此処は“彼ら”の懐の中だ。一応、念のため、万が一に備えて、警戒は怠らないでくれ」


運転手に気持ち多めにチップを支払って、二人はタクシーを降りた。
国境線をまたぐとは言っても“この国”への入国に煩わしい検問や検疫は一切必要ない。
簡素なドレスコードと、一部施設への入場に荷物検査が設けられているだけの解放的空間である。


(その“一部施設”に、これから入ることになるわけだが)


しかしステイルもまた、この開かれた国家の大地を踏んだ経験はこれまでの人生で記憶にない。
なぜなら、この地の支配勢力が――――



「――――――――――――――――――ウゥーーッ!!」

「…………ちっ」

「あ」


甲高い叫び声がステイルの思索を遮った。
『Destination Contact』のお出ましらしい。
時刻は午後七時、観光客もまばらな時間帯ではあるが、これほどまでに他人の振りをしたい
衝動に駆られたのも初体験である。
だが災厄というものは、目のみならず全身をいっぱいに使ってそっぽを向いたところで、
あちらから降りかかってくるものと相場が決まっている。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/18(金) 23:31:02.47 ID:A9imqgUj0<>




「インデックスウウウウウウゥゥゥ、ごっ、がああああああああっ!!!!!??」





バッチカァァァァァン。





そんな愉快な擬音を幻視できた気がする。
キラリ、一条の流星が盛夏の夜空にまたたいた。


「ろっ、ローラぁぁぁぁあ!!!! す、すすすす、ステイル!? 
 なんでローラをイノケンティウスで場外ホームランしちゃったの!?」

「………………ふぅ、良い汗掻いた」


ステイルからすれば、降りかかる火の粉を避けずに払っただけのことである。

かつての上司にして前イギリス清教最大主教ローラ=スチュアートを、バチカンの夜空を飾る
流れ星にムーンプリズムパワーメイクアップさせたステイルの表情は至極爽やかなものであったと、
のちにインデックスは語った。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/18(金) 23:31:33.62 ID:A9imqgUj0<>


Passage1 ――ローマの休日――



<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/18(金) 23:34:41.56 ID:A9imqgUj0<>

ステイルを縦に三人、余裕を持って並べられそうな高大な天井。
獅子をあしらった緻密なエンブロイダリーがあちこちに散りばめられた豪華なクロス。
美しい直線形の木目と黄金色の光沢を併せ持つ全長5メートルほどのウッドテーブルは
もしやマホガニー製だろうか。

質素さの欠片も見受けられない、ホストの趣味を反映したような毒々しく煌めく空間で――――


「まったく、愛情表現にしてもステイルはやり過ぎだわ!!」

「そうだよステイル! 久しぶりにあった友達にあの態度は酷いんだよ!」

「誰と誰が友達だあああああああ!!!!」


ステイルは今日も絶叫調だった。

聖ピエトロ大聖堂のとある一室、というよりは広間。
当然のように無傷で帰還したローラに案内されて、二人は紅茶をもてなされていた。
無性に破壊したくなるほど見覚えのある銀のティーセットと豪華な茶菓子の数々に、
インデックスがつぶらな瞳をランランと輝かせて十人掛けはできそうなソファに着いている。


「ふむん、そろそろ頃合いなり。さあさ二人とも、ローラ様手ずから淹れたる
 レディグレイを召し上がれい!」

「いっただっきまーす!」

「え、ちょ、できれば紅茶を先に」

「申し訳ない、ローラ=スチュアート産の紅茶は口にしない主義でしてね。英国紳士として」

「そ、そう……英国紳士なら仕方なきにつき……」

(アルツハイマーにでも冒されたんだろうかこの女狐)


涙目の淑女に憐憫を微塵も抱けないのは紳士としてはいかがなものかと思うが、
ステイルにはこの女狐に対して、たとえ細切れ一片ほどの情けだろうとかけてやる
理由の持ち合わせがないのであった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/18(金) 23:35:47.23 ID:A9imqgUj0<>

「で? 貴女は一体全体、異宗派の総本山などで何をやっているんです? 最先端の脳治療を
 受けるなら学園都市へ向かわれた方がよろしいかと愚考する次第ですが」

「そういうのを慇懃無礼と言いしよステイル」

「なにをいまさら」


ステイルは肩をすくめて、キツネ色にこんがりと仕上がったクッキーを摘まんだ。
鎖型に成形されたこのプルパーテという名の焼菓子は“切れない絆”を象徴しているのだと、
横合いからインデックスが注釈を加えてくれた(うんちくのお披露目とも言う)。
この女が料理をするなどとは思えないので、ローラ手製でないことだけは間違いないだろう。
安心しきって、とまではいかないが、小腹が空いているのも事実なのでとりあえず口に運ぶ。
一口、素材を生かした素朴な味を堪能してから、眼光鋭くローラをねめつけた。


「挙句チャーター機にまで手を回して、僕らをたばかるとは。
 こんな回りくどい真似をせずとも、直接呼びつければ良いでしょう」


冷静になってみれば、土御門の仕業でなかったとすればこの女こそが最有力候補だった。
なんだかんだで清教派の利益――ひいては舞夏の身と心の平穏――を最優先に全戦略を
組み立てるあの男をまんまと出し抜いて、飛行計画書をすり替えるなど並大抵の策士の
所業ではない。


「呼んだら来てくれたのかしら?」

「まさか。世界胡散臭い女ランキング第一位の誘いなど金塊を積まれて乗るものか」

「うう…………いんでっくすぅ、すているがイジメるぅ……」

「よしよしー」


その神算鬼謀の策士はと言えば、実の姉妹以上に過剰なスキンシップをインデックスと図っている
真っ最中だった。
頭を撫でられてふんにゃりした顔を豊満な双球に埋めて、ぐりぐり押し付けては息を荒く、っておい。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/18(金) 23:37:11.16 ID:A9imqgUj0<>

「ひぃん!? ろ、ろーらぁ…………そ、んっ、なところ、うんっ! いきっ、息吹きかけ、んぁっ」

「むふふ、あなたまたもや育ちけりたのではなくて? けしからん、なんとけしからんおっぱい!」

「んんんんっっ!! く、悔しい! でも感じちゃ」

「セクハラで訴えられたいのかこの痴女がァーーーーッ!!!!
 君も実はけっこうノリノリでやってるな最大主教ゥゥーーーーーーーーッッッ!!!!」

「この子、大きさに比して感度が抜群なりしよステイル。今後の参考にするとヨロシ」

「参考ってなんの!? いまエセ中国人っぽくなったぞオイ!! この数カ月どこを
 ほっつき歩いてたんだ貴様ぁ!!! じゃなくていい加減に頭を引っこ抜け
 さもないと首を切り落とすぞ女狐ええええええ!!!」

(いつものステイルが帰ってきたんだよ…………!)


ローラが煽ってステイルがツッコミ、インデックスが被せる。
ローマ正教の総本山をつんざく乱痴気騒ぎが収まるのには、もうしばらく時間が必要だった。





「はぁぁ、やっぱりステイルで遊ぶと肌がつやつやになりけることよー。
 この玉のお肌を維持したるにはステイル健康法が欠かせなし」

(人の生気でも吸い取ってるんじゃないかこの妖怪ババア…………っ!)

「落ち着いた、ステイル?」

「…………ああ、もう大丈夫だよ」


インデックスに背中を擦られながらカエル印の胃薬を飲み下す。
大小様々なことを有耶無耶にされた気がして、ステイルとしては悔しくてならなかったが。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/18(金) 23:39:01.76 ID:A9imqgUj0<>

「…………ふふふ」

「なにがおかしいんです」

「しばし見ぬ間にあなたたち、また一段と距離が近くなりしよ。気が付きて?」

「…………僕らは左右も分からぬ子供ではないんです。貴女になにくれとなく
 世話を焼かれるいわれは……」


からかわれるのは御免とローラを睨みつけようとして、ステイルは毒気を抜かれた。
きな臭い笑みを引っ込めたその表情が貴い慈愛に満ちている。
見たこともないはずの柔らかな微笑に既視感を覚えて、ステイルは一瞬前後不覚に陥った。


「……っ?」

「ステイル、どうかした?」


肩越しにインデックスに顔を覗き込まれて、ステイルは我に返った。
エメラルド色の瞳の内側に己が映りこんでいるのを確認してから、ローラに目を向ける。
いつも通りの陰謀めいた悪役面がそこに在った。
かぶりを振って、白昼夢――午後八時を回っているが――でも見たのだろうとビジョンを払う。


「…………貴女へ仔細丁寧に語る義理などありません! それよりも、なぜこんなことをしたのか
 そろそろ説明をいただきたいのですが」

「どうして定職にもつかずにフラフラしてて、その上後ろ盾もないローラが聖ピエトロの一室を
 我が物顔で占拠してるの?」

「この悪趣味な家具の数々も、どうせ貴女の仕業でしょう、成金趣味」

「………………………………あの、私も一応人間であるからして、罵詈雑言に傷付く繊細な心が
 このかわゆいお胸の内側にちゃぁんとあるのよ?」

「いいからさっさと吐けよ」

「ハリハリハリアップ!! なんだよ」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/18(金) 23:41:03.26 ID:A9imqgUj0<>

フルボッコここに極まれり。
ゴン! と鈍い音。
ローラがテーブルクロスに突っ伏した際の顔ドラム音である。

好感度がマイナス方向に振り切っているステイルはまだしも、良好な関係を築いていると
自負しているらしいインデックスにノリ半分、勢い半分とはいえ言葉の暴力を浴びるのは
こたえたようだ。


「もうローラの事は許してやりけれよ…………」

「絶対に許さない。絶対にだ」

「…………まあ、ステイルがローラ相手にデレるなんてこと、観測問題に決定的な解決解釈が
 与えられるぐらいあり得ないんじゃないかな」

「うー! だったら噂の学園都市第一位にその観測問題とやらを解かせるまでよ!! 
 DOGEZAしてでも!!!」

「やめてください。そんな事をされたらイギリス清教の恥です。っていうか過去から現在に
 至るまでの貴女の連綿たる軌跡そのものがイギリス清教の恥です」

「うわああぁぁあああんんんん!!!!! 」


いかにわんわんと哀れっぽく喚かれようが、ステイルに手ごころを加えてやる慈悲心は一切ない。
この機に積年の溜飲を底打ちさせてやろうと身を乗り出す。
流石に見かねたインデックスが神父服の袖を引いた、その時。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/18(金) 23:42:58.31 ID:A9imqgUj0<>

二人の背後で、築数百年の重みがこもった軋みと共に扉が開いた。



「あまり後進には慕われていないようだな、ローラ」



ステイルとインデックスはそのしわがれた声を耳に入れた瞬間、われ知らずに立ち上がって
居住まいを正していた。
ふん、と不機嫌そうに鼻を鳴らしたローラだけが、いつの間にやら面を上げてそっぽを向いている。


「車椅子で失礼させてもらうよ。最大主教、マグヌス神父」


――――現世で聖人と呼ばれるに足る人間が、全世界で一人しかいなかったと仮定しよう。


他愛もない思考実験である。
だがその場合、選ばれるのは聖母の慈悲を受けた二重聖痕の傭兵ではなく、
救われぬ者に救いの手を差し伸べる女教皇でもない。


「こうして実際にお目にかかるのは初めてかな。昇叙の折にはフィアンマを遣わすに
 留めてすまなかった。なにせ、この身体なのでな」


目の前の車椅子の老人をして、真に聖人と呼ぶに相応しい。
少なくとも二十億人口のローマ正教徒は末端から現教皇ペテロに至るまで、彼を選ぶはずだ。


「ぜ、前聖下でいらっしゃいますか…………!」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/18(金) 23:45:05.17 ID:A9imqgUj0<>

他を圧倒するような存在感を放つでもなく、その四肢は枯れ木のようにか細い。
魔術の腕は超一級品と聞くが、それもこの様子では過去の栄光だろう。
インデックスやロシア成教総大主教、クランス=R=ツァールスキーのように、存在そのものが
神々しさを醸しているわけでもない。

しかし、それでも。
ステイルとインデックスは最大限の敬意を、至極自然なこととして彼に払う。


「おいおい、そう畏まらなくとも。私などなんの取り柄もない楽隠居なのだから」


確かにそうなのかもしれない。
彼は別段、これといったカリスマ性や才能に恵まれたわけではないのだろう。
先天的に与えられた何かで、“彼”と言う男を説明することなどできはしない。

なぜなら彼はただただひたすらにその善良なる人格と尊い行いで、『救済』の何たるかを
体現し続けてきた聖者だからだ。
二十億のローマ正教徒が一信徒にまで降りた彼を敬ってやまないのは、その“行動”と“言葉”の
正しさを、数十年に渡る“実績”が裏打ちしているからだ。

彼の信ずる主ではなく、人々に愛され、愛を返すことで、万人が認める廉潔の象徴となった男。

インデックスが、それが当たり前だと言わんばかりに彼に向かって頭を下げる。
 



「そういうわけには参りません、マタイ=リース様」


苦笑してその低頭を見送った老人――――ローマ正教前教皇、マタイ=リースとはそういう人物だった。





Passage1――――END

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/18(金) 23:47:54.60 ID:A9imqgUj0<>
⇒ TO BE CONTINUED ……


ちょっと気取った感じですが終始このノリでございます
とりあえず冒頭数レスを読んで姫神さんを連想した人は正直に名乗り出なさい

では次回は日曜の昼〜夕にお会いしましょう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(関西・北陸)<>sage<>2011/11/19(土) 00:29:33.91 ID:1ZxU2EMAO<> 乙
このSSの初期のギャグも大好きだから読んでて楽しかった

そして…自分は手を挙げねばならない……! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/11/19(土) 01:25:45.33 ID:jilCxLPDO<> >>1乙

とある神父の姫神秋沙ってそういえばフラグ立ってなァって思った <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/11/19(土) 03:18:36.39 ID:APD7leG3o<> 強烈な存在感を持つ脇役達で賑やかだった学園都市編も終わり、いよいよメインのステインにスポットが絞られそうな展開・・・

ていうか今さっきまでああそういやこのSSのメインてこの二人だったなーなんて思ってたりはしない。決してしない。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage saga<>2011/11/19(土) 12:23:07.75 ID:SXmNx5j40<> 挙手しなければならんようだぜ・・・!

乙です
大好き! <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/20(日) 16:18:07.80 ID:x3P/IsQm0<>
どうも>>1です
ステイル×姫神とかステイル×小萌先生とかステイル×パトリシアとか
新境地を開拓したい気持ちはありますが、とりあえず目の前のスレをしっかり終わらせることですよね

書き溜めを推敲してるとローラ無双な感じになっちゃってるわけなんですが <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/20(日) 16:19:13.26 ID:x3P/IsQm0<>

――Passage2――



最大主教と二人きりで話がしたい。
マタイの口から頼まれたステイルは、その馬鹿げた提案を即座に切り捨てることができなかった。
通常であれば論ずるに値しない議題である。


「コーヒーとジャパニーズソイソースをとり違えて飲んだような顔よ、ステイル」

「マタイ=リース様に限って、彼女に危害を加えるような暴挙に出るとは思えない。
 そう信じてしまっている自分が嫌でしてね……いや、信じさせられたと言うべきか」


しかし現実にはステイルは、マタイの車椅子を嬉しそうに押して別室に向かった
インデックスを無為に見送ってしまった。
一人の宗教人として、マタイに対する尊敬の念は無論ステイルとて抱いてはいる。
あの齢になるまで一途に主の教えを守り続け、純粋に信徒の幸福を願うその清廉。
はたして己に真似できるかとステイルが自問すれば、答えはノーだ。

ステイルには、それ以上に護りたいものがあるのだから。


「まったく、今日出会うたばかりの二人のハートをたやすく鷲掴みにしてしまうのだから。
 ……………………まこと、あやつは度し難い男だわ……ふん」

「日頃の行いの差でしょう。この言葉がこんなにも似合う組み合わせは貴女とマタイ様
 以外にはあり得ませんね。光栄に思うべきでは?」

「あ、あのような若造とセットメニュー扱いされても嬉しくなんてないわっ!」

「え?」

「……あ」

「…………貴女、まさか」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/20(日) 16:20:03.78 ID:x3P/IsQm0<>

胡乱な顔つきでおそるおそる舌を外気に晒そうと試みるステイル。
禁忌の果実に触れてしまったような名状しがたいためらいと、怖いもの見たさの好奇心。


「――――そう言えば!」


だからステイルは満面の笑みのローラ――冷や汗が丸見えだったが――が己の疑念を
必死でさえぎった時、心の底から安堵した。
藪をつついて蛇を出すマゾヒズム全開の趣味を、幸運なことにステイルは持ち合わせていなかった。


「なんです?」


歩調をローラに合わせることで、ステイルは進路を日常への帰り道に向かって定める。
この女狐が自分を(主にインデックス関連で)冷やかして、ステイルが顔を赤くして
噛みつくと最後には迂遠な言い回しで煙に巻かれる。
ステイル=マグヌスとローラ=スチュアートの関係とはそうあるべきだ。





「『電話相手』は、見つかったかしら?」

「…………!」


だがローラは、『こちらの世界』に戻ってくる気など毛頭なかった。
金髪青目の女が再び浮かべた、この世のものと思えぬ慈母のごとき微笑み。
ステイルは先ほど見たものが幻覚ではなかったのだという事実と同時に、ローラが
自分たちをこのバチカンに呼んだ意図をようやく悟った。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/20(日) 16:21:08.40 ID:x3P/IsQm0<>

「…………状況証拠のみですが、僕の中では決定解が組み上がりつつあります。
 しかし答え合わせのためだけにこんなまどろっこしい真似をしたわけではないでしょう」

「…………ええ。その通りよ」


迂遠な言い回しを駆使せず、ローラは明快に頷いた。
ロンドンで彼女が好んで使っていた真銀のティーカップの縁が、常なら妖艶なカーブを
描く口唇になめらかに触れる。
琥珀色の液体が空になって器が下ろされるまで、ステイルは腕組みをしてそれを見つめていた。



「私は今日、あなたがこの十年間溜めこんでいたであろうすべての疑問に答えるべく、
 この席を設けたのよ」



十年前なら倒錯的な空気を纏って放たれたであろう言の葉は、なおも人間的な温度に満ちていた。
妖しさとはまるで意を異にする、目の前の女に間違っても抱いてはいけない、母の腕に
抱かれたような心地に囚われてしまいそうでステイルはこめかみを押さえた。


「ローマの前教皇聖下を僕から彼女を引き離す為の出汁に使ったわけですか、
 無茶苦茶ですね。おおかたこの部屋の内装も、先方に駄々をこねたんでしょう。
 まったく、まこと清教派の汚点ですよ貴女は」


聞きたい事ならいくらでもあるのに、そんな悪態をつくので精一杯であった。


「マタイとは旧知の仲であるからして、多少の無茶ならまかり通るのよ。
 まあ、あやつがインデックスと話をしたがっていたのもまた、事実であるのだけれど」

「何が、目的だ? またいつもの後ろ暗い企てですか? どういう風の吹きまわしで、こんな」

「ステイル」


微笑は崩れず、現実を受け入れられない子供の駄々のような罵倒は正面から受け止められる。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/20(日) 16:22:24.79 ID:x3P/IsQm0<>


「これがきっと、最後になるから。我慢してちょうだい?」



<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/20(日) 16:23:31.99 ID:x3P/IsQm0<>
-------------------------------------------------------------------------


湯気が鼻孔をくすぐる香りを引き連れて部屋全体を仄かに包む。
美琴に習った手順を頭の引き出しから丁寧に一つ一つ拾って、インデックスは飾り気の
ないティーポットと格闘していた。


「マタイ様、その、私の淹れたお茶なんかでいいんですか? お口に合うか……」

「若く美しい女性が真心を尽くしてくれれば、それだけで男は満足するものだ」

「まあ、マタイ様ったらお口が上手でいらっしゃいますね!」


魔術師と魔女がいまにも破裂しそうな風船を間に挟んで向かい合うのとは対照的。
二人の聖者はマタイの私室で、和気あいあいと談笑に耽っていた。
後進に道を譲ったマタイが聖ピエトロ聖堂内に室を構えているのもおかしな話だが、
それも彼の人徳のなせる業と思えばインデックスには納得であった。


「最大主教、ここには君と私しかいない。そのように堅苦しい物言いをせずとも良い」

「い、いえ、そのような畏れ多いことは」

「ははは、畏れ多いとはどういうことかな。私は一介の十字教徒にすぎず、かたや君は
 イギリス清教最高指導者。不敬というなら私のほうではないかね、最大主教様?」

「おやめください! マタイ様のご功績は全世界に轟いておいでなのです!
 私ごとき若輩者が対等に口を利こうなどと…………おこがましい話です」


頑なに拒みながら、インデックスはマタイにほだされつつある自己を否定しきれなかった。
容姿に似合わず腰の強いこの老人に無数に刻まれた皺の、一つ一つが親愛をこめて
囁いてくるようで、それでいてまったく不快な気分にならない。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/20(日) 16:24:24.09 ID:x3P/IsQm0<>

「……この歳になると、青春を分かち合った旧友から音信よりも訃報が多く届くようになる。
 空疎な心を埋めてほしくて、ついつい若者の時間を奪おうとしてしまうのだ」


そして、その皺の奥の細められた眼にまぎれもない『善』を見て。


「だがこのようなジジイの戯言に付き合うのは、うら若き女性にはさぞ苦痛なのだろうな。
 …………すまない、君の望まぬ時間を強要するつもりはなかったのだ。もう戻ってくれても」

「わわわ、わかりまし………………わかったんだよー!! ローラに接するみたいに
 フランク全開でいくからそんな悲しそうな顔しないでほしいかも!! それと、
 どうせなら私のこともインデックスって呼んでくれると」


インデックスは、あっさり折れてしまった。





「おお、おお! それでは、遠慮なくインデックスと呼ばせてもらうよ。
 うむうむ、また一人孫のような友人を得られてますます長生きできそうだ!
 そうだインデックス! できれば『おじいちゃん』と呼んではくれまいか」


マタイ=リースという男が聖者の仮面の裏側に隠した、本性を見抜けぬままに。


「は、はい? あの、マタイさま?」

「おじいちゃん」

「いやその、だから」

「ゲホゴホガホッ!!! じ、持病のひざがしらむずむず病がっ……!」

(ひざがしらむずむず病でなんで咳が…………?)

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/20(日) 16:25:27.00 ID:x3P/IsQm0<>

しわがれた顔をもう一段くしゃりと歪ませた老人に、インデックスは思わずぐい、
と上半身をのけぞらせた。
ドSモードアニェーゼも顔負けの豹変ぶりである。
そういえば、ヴェントもこの狸爺にはめられたからこそ現在の境遇(メイド)にあるのだった。
もう少し早くに記憶から引き出しておくべき事実だったが、時すでに遅し。


「おじいちゃん、と呼んでくれれば、ガホッ!!
 気道の通りが良くなって咳が、ゲホヘフゥ! とま、止まるかも!!」


チラッ、チラッ。

咳き込んでうつむいた狸が時折、これ見よがしにチラ見しては期待の眼差しを向けてくる。
これが全ローマ教徒からの敬愛を一身に集める、『生ける列福(※)候補者』かと思うと頭が痛い。


(う、うーん…………)


痛い、のだが。





「………………お、おじいちゃん」





結局、インデックスは再び根負けした。
いつの間にやら咳を止めていたマタイが浮かべた、『期待を裏切るには忍びない』と
見る者すべてに思わせるであろう、せつなげな表情に負けた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/20(日) 16:26:20.04 ID:x3P/IsQm0<>

生涯に一片の悔いなし、とばかりに老人が莞爾たる相貌でつぶやく。



「……………………ああ、この為に生きてるなぁ」



インデックスやクランスが無意識に人を引き寄せるのは、ひとえに生まれ持った
『助けたいと他人に思わせる才能』の恩恵である。
それら生得的なカリスマとは次元の違う、修練の末に会得したであろう『民衆を導く力』を
思いもよらぬ形で見せつけられたような気がして、インデックスは情けない声を上げた。


「えぇぇぇぇ…………」


仮面を脱いだマタイの素顔に触れられたことを僥倖と取るか、知りたくもなかった聖者の
ちょっとアレな趣味を知ってしまったことを薄倖と受け止めるか。


「インデックス、手間をかけるがもう一度だけ頼む。
 英語では何と言うのだったかな……そうそう、プリーズワンスモアー!」

「…………おじいちゃん、なぁに?」

「Please twice more!」

「おじいちゃんおじいちゃん、さっき『もう一度だけ』って言ったはずなんだよ」



どう考えても後者です、本当にありがとうございました。



※徳と聖性が認められ、聖人に次ぐ福者の地位に上げられる事。
 通常列福審査は死後でなければ行われない。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/20(日) 16:27:34.07 ID:x3P/IsQm0<>







「はっはっは、役得、役得。まあ、冗談はこのあたりにしておこうか」

「本当に冗談だったのか、怪しいもんなんだよ…………」


ホクホク顔のマタイに対面する形で、嘆息しながらあらためて座り直すインデックス。
疲れきったゲンナリ顔が、質実剛健を地でいくホワイトオーク製のテーブルを挟んで
少々残念なコントラストを形成した。
二人してインデックスの淹れた紅茶に口を付け、具合のおかしくなった空気の調整を図る。
カップに添えられたレモンを絞って上質なダージリンを嗜むのが、イタリアでは一般的だ。


「インデックス、君のことはよくローラから聞いていたよ。天真爛漫で、清廉潔白な、
 実の娘のようにかわいがっている女性がいる、とね」


柑橘系の爽快な香気にインデックスが唾液腺を激しく刺激されていると、マタイがいかにも
好々爺という風情で目を細めた。
慌てて唾を飲み込む。


「私も、マタイ様のお話なら」

「おじいちゃん」

「……おじいちゃんのお話なら、何度もローラから聞かされたんだよ。その…………」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/20(日) 16:28:44.37 ID:x3P/IsQm0<>

が、その先が続かない。
社交辞令で口から出まかせをして困っているわけではない。
ローラからは何度も何度も、耳にタコができるほど(と、日本では言うらしい)彼の事を聞かされた。

…………だからこそ困っているのだが。


「遠慮なく言ってみたまえ。どうせローラのことだから、私の悪口ばかりだっただろう?」

「そそそそそ、そんなことないんだよ!!」


バレバレだった。
本当にローラときたら『マタイ』と『悪態』をセットで定型文登録しているのかと
疑いたくなるほど、彼については口を開けば罵詈雑言の嵐で、インデックスも
この話題だけは常々避けるようにしている。

やれ『死ねばいいのに』だの『理想を抱いて溺死すればいいのに』だの『超教皇級のお人好し死ね』だの
『死に際に看取ってくれる家族もいないのよアイツプギャーwwm9(^Д^)』だの
『…………ま、まあ、彼奴がどうしてもと頼むなら、わ、わ、私が家族の代わりとして……』だの。


                S  N  T  D
(………………あれ? それなんてツンデレ?)

「ふふ、彼女とも長い付き合いだからな。互いの腹の内が透けて見えてしまうのだよ」

「……そういえば、おじいちゃんとローラはどこで知り合ったのかな?
 やっぱり二人とも十字教の元最高権威者だし、その関係で?」


言ってから、我ながらこれはないな、とインデックスは心中でかぶりを振った。
マタイがローマ教皇位に就いてから退くまでの間に、ローマ正教が他宗派と積極的な
交流を図ったという公式記録は存在しない。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/20(日) 16:30:26.04 ID:x3P/IsQm0<>

「そういうわけではないのだが……」


案の定、マタイはきっぱりとそれを否定した。
かと思えば、顎に手を当てて何事か考えこみはじめる。
しばらくののちマタイは、インデックスの瞳を、顔を、姿を、順番に見据えてふっと息を吐いた。


「ふむ………………君になら話してもいいかな。私と彼女の出会いは、
 君の生まれるよりさらに昔に遡る」

「むかしむかし?」

「そうそう、その昔、お爺さんとお婆さんがまだ若かりし頃の…………。
 おっと、ローラがこんなことを聞いたらへそを曲げてむくれるな、ははは」

「オヘソ曲げられるだけで済んじゃうんだ…………」


『必要悪の教会』のメンバーがやったらもれなく全裸でビッグベン吊るし上げの刑だろう。
肉体的、精神的、社会的に人間一人をこの世から抹殺する奇跡の三重殺である。
などと思考の海で迷子になりかけているインデックスを、咳払いが陸地に押し戻した。


「オッホン…………いまより六十年以上……いや、そろそろ七十年ほどになるのか。
 私はローマの神学校を卒業したばかりでね。司祭となって本格的に神の教えを説く
 立場となる前に、世界を回って見聞を広げようと思ったのだ。異宗派を認めない
 傾向がいまより顕著だった当時のローマ正教では、懐疑的な目で見られたがな」


無理もない話であった。
七十年前といえば、東西冷戦による世界対立構造の黎明期である。


「イギリスの片田舎の小さな農村に立ち寄った日の事だ。巡礼の途中だと告げると
 村の人々はあたたかく私を迎えてくれた。払った代金より上等の宿を
 宛がわれそうになったので、そこだけは慎んで辞退させてもらったがね」

「マタ……おじいちゃんらしい話かも」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/20(日) 16:31:31.67 ID:x3P/IsQm0<>

老人の悪戯っぽいウインクには嫌味がまるでなかった。
つられてインデックスもクスリと笑みをこぼす。
二つの微笑が交差したその時、ふいにマタイは遠い目をした。


「就寝前の祈りを終え、床に就こうかという時だった。なんの気なしに窓に目をやって、
 私は腰を抜かした。すぐそこに、空から降りてきた“月”が輝いていたのだ」

「え?」

「ふふ、当時の私がそう錯覚したというだけの話だ。実際にそこにたたずんでいるのが
 みすぼらしいうすずみ色の布切れをまとう、くすんだ金髪の女性だと私が気が付くまでに
 たっぷり一分は要したように思う。しかし私は、その貧相な旅装の女性に目を奪われた。
 ………………いや、もう時効だろうから正直に言おう」


老人の貌が一瞬、遠い日の青年の昂りを憑依させたかのように生気に溢れ返る。
女は思いがけぬ光景を映した眼球を検めるように、目を二度三度と瞬かせた。


「――――心を、奪われた。手入れをしているようにも見えぬのに、透きとおるような
 ブロンドが月明りを反射して、彼女の全身を薄光で包みこんでいた。私の信ずる主だけを
 愛すべき私が、この女性にすべてを捧げたいと思えた、生涯でただ一度の経験だった」


老人が、否、“青年”が、恍惚とした表情で溜め息を吐いた。


「気が付けば、不用心に窓を開け放して名を尋ねていた。おかしな話だ。
 他に訊くべき事などいくらでもあったはずなのに、私はその女性の名を、
 なぜだか何よりもまっさきに知りたくなったのだ」


マタイの語り口調には、現世に滲み出してくるような確固たる記憶の手触りがあった。
六十年前マタイが目の当たりにした光景が網膜に投影されるかのように、
インデックスにも“彼女”の煌めきがはっきりと“見えた”。


「すると彼女は世界から裏切られたような、悲しみに沈みきった瞳で私を見据えて――――」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/20(日) 16:32:26.74 ID:x3P/IsQm0<>



「『ローラ=ザザ』と、そう名乗ったのだ」




<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/20(日) 16:33:17.33 ID:x3P/IsQm0<>
----------------------------------------------------------------------


「最、後?」


ステイルも本心ではわかっていた。
ローラが至誠から、己の積もりに積もった疑念を晴らそうとしてくれていることは、
わかっていた。

まずもって、自分を騙すことに合理的なメリットが存在しない。
三年ほど前――ちょうど四次大戦の終結期――から利権争いに執着を見せなくなった
この女が、いまさらかつての謀の真意を恣意的に歪めて語ったところで、得をするとも
思えなかった。


(ああそうか、僕は…………)


表層的な善悪論にさして魅力など感じはしないが、少なくともステイル=マグヌスにとって
ローラ=スチュアートは冷酷非情の“魔女”でなければならない。

自分を、インデックスを、神裂を、上条当麻を。
列挙しきれないどこかの誰かを弄び続けてきたこの女狐は、絶対的に、不変的に、
“悪”でなければならない。


――――否、そうであってほしかった。


そうであってほしいという懇願にも似た願いに視界を曇らされていた。
ステイルは業腹ではあったがそれを認める事にした。
溜め息を大きくついてから、ゆっくり口を開く。


「僕には知っておくべきなのに、知ろうとするべきだったのに、知らないことが
 あまりに多すぎる。最近になって、とみに痛感するようになったんですよ――――
 僕はまだ、何も知らないんだ、とね」

「素直が一番よ。ささ、何から聞きたいのかしら?」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/20(日) 16:33:58.66 ID:x3P/IsQm0<>

いまこの瞬間の心情に従えば、つい先刻の『最後』という言葉の真意を質したいところだ。
しかし、優先順位を違えてはならなかった。
眼前の魔女に問うべきことなら、それこそ山ほどあるのだ。
その中でも、ステイルが他を二の次にしてでも優先すべきは。





「『禁書目録』という、“システム”について」





どこぞの傭兵の言葉を借りるなら、その涙の理由を変えるため。
愛する人を、インデックスという女性を、知り尽くすことであった。


「……“システム”、といまあなたは言ったかしら」

「本当は、最初からわかってたんだ。わかっていた上で、目を逸らし続けてたんだ。
 彼女の完全記憶能力を利用して『魔道図書館』を創り上げるなどという野望は、
 どこもかしこも穴だらけで、その上不自然と不思議にあふれていた」


怖かったのかもしれない。
彼女の深淵を覗いてしまえば、取り返しのつかないことになるような気がして。
自分と彼女が、根本から別の存在なのだと思い知らされそうな、そんな不安に押し潰されるようで。



だが、得体の知れぬ恐怖に怯える時間はもう終わったのだ。



<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/20(日) 16:35:02.64 ID:x3P/IsQm0<>

「例えば、“一〇三〇〇〇”」


懐かしい、明彩色に満ちあふれていた最初の一年。


「僕と神裂があの子と一緒に過ごした二年間において、彼女ははたして何冊の『禁書』を
 蔵に収めた? 『原典』はそこかしこに転がっているような代物じゃあない。貴女に
 指定された書庫から書庫へと渡り歩くのに、一日できかなかったことなどザラだった」


力を得るべくあらゆる犠牲を払い、しかし最後に『失敗』を繰り返した次の一年。


「その上で見つけた原典はせいぜい、多いときで十冊といったところだ。つまり甘めに
 見積もってもあの子は、一年間で千冊程度しか記録できていないはずなんだ。
 だったら“一〇三〇〇〇”なんて数字は、いったいどこから出てきた?」


――ステイル。今日からこの子が、あなたの『仕事』よ――


「そうだ。貴女が、そう言ったからだ。僕らが彼女に初めて出会った、十四年前に」


――この子の脳には、十万を越える魔道書の『原典』が収められているの――


「これは推測だが、貴女はもしかすると歴代のパートナー全員にそう告げていたんじゃないのか?
 彼女の蔵書は十万冊を越えている、とだけね」


ステイルは、自分と神裂の一代前のパートナーと対峙した日を思い返していた。
そうだ、確かに“あの男”も言っていた。


――“一〇三〇〇〇冊”もの魔道書を一身に背負い、決してその呪縛から逃れることのできぬ少女――

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/20(日) 16:35:56.28 ID:x3P/IsQm0<>

おかしいではないか。

何故“あの男が”、彼が側に居なかった間にインデックスが記憶した『原典』の冊数を
あそこまで正確に把握していた?
ステイルと神裂と少女の二年間の結晶である“一〇三〇〇〇”を、当然のように口にした?
インデックスを救いたい一心で地下に潜った挙句、情報の遅さゆえに無様を晒した
“あの男”がそんな事を知り得るはずがないのだ。

ならば、可能性は一つ。



“あの男”とインデックスが共に過ごした一年間で辿りついた数もまた、
“一〇三〇〇〇”だったのだ。



「なぜ、『魔道図書館』の蔵書量を増やすためだけに生きていたあの子の『原典』が
 増えていない?少なくとも僕が初めて彼女に会った瞬間から、一冊たりとも増えて
 いないのは明らかだ」


ローラは口を閉ざしていた。
答える気がない――――訳ではないことを、遺憾ながらステイルは悟っていた。
ステイルの疑念にはまだまだ続きがある。
すべてを吐き出し終えるまで、まずは見に徹する腹づもりなのだろう。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/20(日) 16:37:43.22 ID:x3P/IsQm0<>

「まだある。そもそも『禁書目録』というシステムは、『人間』に搭載する意味が薄い。
 いかに完全記憶能力者といえども、その生涯で記録できる『禁書』の数には
 どうあがいても限界がある」

「容量の問題ではなく、時間の問題、ということかしらね」

「それに、仮に世界中の『禁書』を彼女の前に並べてかたっぱしから覚えさせたところで
 利用可能な年数は彼女の寿命に縛られ、百年を越えることはまずない。…………どう
 考えても、労力に対する代価が見合っていない」


目の前の女狐が幾年分の時の流れをその身に刻んだのか、正確なところはわからない。
しかし世界には確かに存在するのだ。
『枠』をはみ出してしまった、ローラ=スチュアートのような怪異が。
そして彼女らのような人種に、常識は通用しない。
ローラの計画はその規格外の生に見合った、百年単位のスパンを見込まれていて然るべきだ。


「だと言うのに貴女は、彼女に作業を続けさせた。彼女が死ねば、全ては無に帰す。
 それまでのたかだか数十年の栄光のために『禁書目録』を完成させようとした。
 それがどうにも、僕には腑に落ちない」


腑に落ちないということは、なにかしらの前提条件に誤謬があるのだ。
その“なにか”について、ステイルはすでに幾つかの仮説を立てていた。


「答えろ、ローラ=スチュアート。『禁書目録』とは何なんだ?」


そして今日、ついに『答え合わせ』の時が訪れた。
エリザードの別邸で語らったときには踏みとどまった、インデックスとローラの心の内側。
その一線を、とうとう越える日が来たのだ。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/20(日) 16:38:55.38 ID:x3P/IsQm0<>






「彼女はいったい、“誰”なんだ?」








ステイルの問いが終わったのを受けて、“魔女”は。


「話の出鼻に一つ、訂正しておきましょうか」


ローラ=スチュアートは笑っていた。
楽しげに、嬉しそうに、怒ったように、苦しそうに、悲しげに。
およそ人の手で感情と名を与えられたであろう全てを内包して、凄絶に笑っていた。


「システム名、『禁書目録』。これは二十六年前の四月に、私がうった銘なの。
 それ以前はかのシステム――――いえ、“プラン”は、こう呼ばれていたのよ」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/20(日) 16:39:34.74 ID:x3P/IsQm0<>


「『魔女白書』計画、とね」








Passage2 ――聖女と魔女――









END


<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/20(日) 16:42:59.68 ID:x3P/IsQm0<>
⇒ TO BE CONTINUED ……


ジジイ×ババアとかまた誰得だよ(笑)
おじいちゃんのお人好しっぷりにちょっと不機嫌なローラが原作のどっかに
いたような気がしたので、そこからの拡大解釈と相成りました
当然、捏造設定です

今後はしばらく金曜夜→日曜夕の流れで投下していきたいと思います
それではまた来週お会いしましょう
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(チベット自治区)<>sage<>2011/11/20(日) 17:34:11.03 ID:lY0UDvKso<> 乙です。禁書目録の謎。
SSだと、幻想殺しの謎の方が脚光を浴びがちなような気がするだけに
続きが気になります。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(神奈川県)<>sage<>2011/11/21(月) 00:54:31.17 ID:T5W1IwwWo<> 乙!
たしか件のシーンは16巻のおじいちゃん撃破後かな……?
ローラネタは俺得、よってローラ×ジジイも俺得なのでまったくもって問題ない

確かに考えてみればインデックスさんも相当だよな、謎の規模は
はいむらーが言うには、人間妖怪ローラを若くしたような容姿らしいし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(関西・北陸)<>sage<>2011/11/21(月) 07:50:29.64 ID:7K7KPvxAO<> 乙 <> >>1 ◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/23(水) 00:24:01.64 ID:qWiQAuqX0<>
週末に来ると言ったな あれはウソだ

個人的事情により新約3巻発売前に行ける所まで行きたくなったので
ペースアップを図ってまいります
グレムリンさんが原作で本格登場すると>>1のただでさえ(笑)な捏造設定が
輪をかけて失笑ものになっちゃいますの <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/23(水) 00:25:38.45 ID:qWiQAuqX0<>

――Passage3――



『魔女白書』にの全てを一刻を越える時をかけて聴き終えたステイルは、深く深く
深呼吸してテーブルの陶器に手を伸ばそうとする。

目の前には、魔女――――否、魔女“だった”女。

すべてを知った今、もはやステイルには彼女を魔女だとは断じられなかった。
それにしても、喉がカラカラだ。


「あら? 『ローラ=スチュアート産の紅茶』には口を付けない主義でしょう?」

「…………やはり貴女は、生粋の魔女ですよ」


黒い微笑と共に、数時間前にステイルがふっかけた嫌味が数倍になって返ってくる。
察するにこの女狐、もっとも効果的なタイミングで利用するためにカウンターを
温存していたらしい。
悔しさに唇を噛むと柑橘系の味を脳内にトレースし、唾液腺を活性化させる。
素直に頭を下げて茶に口をつけようとしないのはせめてもの『男の意地』である。
世間一般的に鑑みれば『子供の依怙地』にしか見えないだろうな、という自覚は一応あった。


「はぁぁ………………今までの話は、すべて真実なんですね? 正直、『うっそだよ〜ん』
 とでも言ってもらえればどれほど気が楽になることか」

「うっそじゃないわ〜ん♪ だいたいそれでも、あなたは信じてくれるのでしょう?
 ………………インデックスが、そうしてくれたようにね」

「……あいっっっっかわらず、狡い女狐だ、貴女は!」


鬱憤晴らしに拳骨を机に思いきり落とす。
インデックスを引きあいに出された際のステイルのくみし易さは、某大型動画共有サイトの
活躍もあっていまや万国共通の社会通念と呼んで差し支えない。

知らぬは本人ばかりなり、である。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/23(水) 00:26:41.48 ID:qWiQAuqX0<>

「はよう告白してくっついてしまえば良きことと思うのだけど」

「…………いや、その、ムード、というものがあるでしょう? 僕もせっかくだから、
 一世一代の挑戦ぐらいシチュエーションを整えて臨みたいんですよ」

「なにを思春期じみたことを言ひているのかしらこの子は」

「やかましい、余計なお世話だ…………じゃないだろうが! 話をそらすんじゃない!!」

「ふふふ……ぷっ、ふふふふふ」

「笑うなあ!!」

「あは、あははははは!!」


怒鳴ろうが蹴ろうが炎剣をぶちかまそうが、ローラの稚児のような朗らかな笑いは止まらなかった。
嬌声に我に返ったステイルは、その異様な反応に対して怪訝そうに顔をゆがめる。
するとローラはとても――――とても嬉しそうに言った。


「だってあなた、あんな話を聞いてもまだ、あの子を愛する気持ちに変わりはないのでしょう?」

「……当然でしょう。彼女がどこの何者であろうと、僕には関係ない」

「その“当然”という言葉の価値を、あなたはしかと理解しているのかしらね」


態度を180度、とまではいかないまでも120度ほど翻して、ローラは表情を引き締めていた。
ステイルは額に手を当てると、わずかののちに力強く啖呵を切る。


「それはほかの誰かの口から出る“当然”との間で計った、相対的な価値でしょう。
 僕の彼女への“当然”とは、イコール“絶対”にほかなりません」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/23(水) 00:27:16.38 ID:qWiQAuqX0<>

ローラが、目をパチパチと見開く。
宇宙人からロンドンの下町英語(コックニー)で話しかけられた宇宙飛行士のような間抜け面だった。


「………………なるほど。もう、あなたも子供ではないのね」

「さっきからくり返しそう言っているでしょう」


三度慈母のように微笑みかけられて、ステイルは途端に足場を失ったような居心地の悪さに襲われた。
上手く言葉を見つけられずに目を伏せていると、ローラがポン、と手を叩いた。


「私からも一つ、あなたに伝えておくことがあるわ、ステイル」

「なんですか」


先刻から度々ローラが向けてくる、裏のない笑みを正視できない。
“裏が見えない”のではなく、“裏が感じられない”、だ。
いまこの状況では無言こそが最も堪え難い拷問であり、嫌々という体を装って応えた
もののステイルはひそかに人心地ついていた。




「『右方のフィアンマ』。私はここ半年ほど、彼の動向を追っていたわ」




だがローラは、ステイルの胸中などお見通しとばかりににんまり顔で爆弾を放り込んできた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/23(水) 00:28:16.40 ID:qWiQAuqX0<>

気が付けばステイルは椅子を蹴飛ばすように立ち上がり、女の胸倉を掴んでいた。
含みをたっぷり持たせたその口調から、“どちら”の『フィアンマ』を指しているのかは明白だった。


「知っていたのか? 貴女は知っていたのか、『神の右席』が学園都市を襲撃する事を!
 知った上で、僕と最大主教が日本を訪れるのを静観していたのかッ!!」


唾を散らして喚く。
一方で冷静な客観視を続けるもう一人の自分が、お門違いもいいところだと窘めてきた。
学園都市への公式訪問において最終的な判断をくだしたのは、ステイルとインデックスである。
ローラにはなにひとつ責任などない。


「落ち着きなさい」

「………………失礼しました、レディー。まずは最後までお話を伺いましょう」


掌を開いて憎らしいほど平然とする女をゆっくり離し、努めて他人行儀を保つ。
元から掛けていたチェアーに乱暴に腰を下ろした。


「そうそう、それでよろしい。順序立てて話していきましょうか」


正確にはローラは、最初から『右方のフィアンマ』を追跡していたわけではない、らしい。
彼女の追跡対象は『ある期間』に『ある場所』を訪れた、不特定多数。


「もっとも、のちに『右方のフィアンマ』と名乗ることになるその青年には、最初から
 “例外”として目星を付けていたのだけれど」

「…………どうしてです」


他に質したい事はあったが、この女の性質上核心に触れるまでははぐらかされるのだろう。
経験則から察したステイルは、一先ずは優秀な聴講生に徹し、合いの手を入れるに留めた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/23(水) 00:29:07.69 ID:qWiQAuqX0<>

「“青年”は、本来専属の『案内人』なくしては入りこめない……つまるところ、
 先方の認可なくしては侵入不可能な『その場所』にまさかまさかの侵入を果たした、
 きわめて例外的な『招かれざる客』だったからよ」

「『案内人』……ですか」


聞き覚えのあるフレーズに、ステイルにもようやくローラの言わんとするところが見えてきた。


「私は青年が『その場所』に侵入した時点を軸に、彼の過去と未来を探りはじめた。
 未来方向へと追跡調査した結果、偶然『右方のフィアンマ』に辿りついた、という
 だけの話なのよ」

「偶然、ね。どうだか」


つまりローラは、『神の右席』を追ったフィアンマとも、『学園都市襲撃計画』を
探った土御門とも別のルートで、『右方のフィアンマ』に到達したことになる。
“偶然”の真偽はさておくとしても、三つの巨大な因果が『右方』に収束したのは
歴然たる事実であった。


「それで、あなたから見て『右方のフィアンマ』はどのように映ったかしら?」


釈然としない思いに眉をひそめていると、そう問い掛けられた。
ステイルは、傲岸不遜を絵に描いたような若き魔術師の一挙手一投足を思い返す。


「……………一言で表現するなら、『得体の知れない男』でしたよ。奴には不可解な点が
 あまりに多すぎた。知識といい、技術といい、出所がまったく不明、ではね」


結局「0715」終結から日本を発つまでのわずかな時間では、詳細の捜査までは行えなかった。
以降の調査は日本に残った土御門らの領分であり、ステイルにできるのはその結果を待つ
ことのみである。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/23(水) 00:30:28.83 ID:qWiQAuqX0<>

「……では、あなたがもっとも解しかねる最大の疑問点を一つ挙げるなら、
 どういう箇所かしら?」


ねっとり絡みつくような視線。
あれはステイルがどう答えるのか、最初から知っている顔だ。
癪ではあったが、同時に微かな期待もこめて予定調和の回答を行う。



「『科学と魔術の融合』」



そうだ。
最終的にこのストーリーの落下点はそこに収束する。
そしてそれは『禁書目録』の真実にも深く結び付く、重要なファクターだった。


「はい、よくできました♪」

「ちっ…………そろそろはっきりさせてくれませんかね。『青年』が『ある期間』に
 もぐりこんだ『ある場所』とは、いったいどこなんですか?」

「またまたステイルったらぁ、とっくにわかりているくせにぃ」

「気持ち悪いひっつくんじゃあない鬱陶しいんだよ! もったいぶってないでとっとと
 吐いてください、ほら早く!!」

「はいはい、せっかちな子ねぇ」


くねくねと縋りついてきた肉感的な女体をあっさり押し退けた。
女としてのプライドを傷つけられたとでも感じたのだろうか、ローラが仏頂面を覗かせる。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/23(水) 00:31:13.55 ID:qWiQAuqX0<>

しかしそれも刹那の出来事であった。


「不特定多数とは、『第四次世界大戦の開戦から、遡ること半年までの期間』に」


人差し指を唇に当てるあざとい仕草。
ステイルのよく知る、怪しく妖しいローラ=スチュアートがそこにいた。


「学園都市第七学区、通称『窓のないビル』を訪れ」


『窓のないビル』。
ステイルもかつて一度だけ訪れたその場所。
とくれば、次は。







「当時の学園都市統括理事長――――アレイスター=クロウリーに面会した人物、よ」







――――――――――――――。


<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/23(水) 00:32:19.62 ID:qWiQAuqX0<>


Passage3 ――アレイスター=クロウリー――



<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/23(水) 00:33:14.49 ID:qWiQAuqX0<>


『ふざけんな、魔術師野郎にあんな高度な化学処理ができるわけあるか』

『確かにな、それは俺も気になってた所だ。魔術師、てめえ…………いったい何者だ?』



垣根帝督や麦野沈利も訝しがっていた、『未元物質』の加工技術。



『こっちサイドの情報は蓮根みたいにきれいサッパリ筒抜けで、与えられたデータは
 まるで使いものになんなかったわよ!!』



結標淡希が憤慨した、情報の非対称。



『奴が何故、あれほどまでに豊富な科学知識を持っていたのかについては?』



AIM拡散力場の自動追跡という離れ業をやってのけた、科学に対する深い造詣。

そして――――



<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/23(水) 00:33:49.06 ID:qWiQAuqX0<>




『無駄だ、「禁書目録」。貴様らの行為などもはや何事でもない。貴様に科学と魔術を
 越えた、この「腕」の解析など不可能だと知れ』





『科学』と『魔術』の融合という、正気の沙汰とも思えぬその着想。





<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/23(水) 00:35:44.39 ID:qWiQAuqX0<>

「それらはすべて、他ならぬ科学の総帥…………アレイスター=クロウリーに
 与えられたものだった、ということですか?」

「少なくとも形の上では、“盗んだ”あるいは“奪った”というのが正確よ。先ほども
 言った通り、彼は『窓のないビル』への『招かれざる客』だったのだから」


ローラの言い草には引っかかりがいくらでもあったが、ステイルの疑問は一人の女性に
ついてだった。


「あのビルの『案内人』は、十年以上前に暗部から足を洗っているはずですが」


『窓のないビル』は完結した空間だ。
ありとあらゆる生活必需品を酸素に至るまで外部からの供給なしで揃えられるため窓もドアも
通気口も設けられておらず、出入りには 『空間移動』系能力者の助力が不可欠である。
十一年前にステイルが統括理事長と面会をはたした際は、結標淡希がその役目を担っていた。


(…………ん? それじゃあ僕と彼女は、あのレストランが初対面じゃあなかったのか……
 すっかり忘れていたな)


まあ、向こうも忘れていたようだしおあいこだろう。
あのビルは全体的に薄暗かったし、十一年前にたった一度きりでは長期記憶に結び付かなくとも
無理はない、多分。

閑話休題。


「閑話休題とはいっても、別にこっちも本筋ではないのだけれど…………あなたは
 『超能力の物質への付与』という研究の存在は知っているかしら」

「麦野が言っていた…………」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/23(水) 00:36:35.43 ID:qWiQAuqX0<>


『やはりあの鎧は「未元物質」なのか?』

『超能力の物質への付与ってやつよ。私が昔遭遇したのとは外見も性能もかなり違うけど、な!!』



取るに足らないはずの不死軍団の攻略難度を劇的に引き上げ、ステイルや能力者たちを
散々苦しめた『未元物質』の鎧。
三次大戦時にはすでに雛型が出来あがっていたというあの技術も、いまにして考えれば
召喚魔術との『融合』のもとで運用されていた。


「『座標移動』とは別のテレポーターの能力を模した、全身装着型のスーツを新しい
 『案内人』が身に付けていた、という話よ」

「『右方』はそれを奪って、『窓のないビル』への侵入を果たした、というわけですか」

「ほかの方法を取っていたとしたら、驚きね」


ローラがわざとらしく肩をすくめる。
ステイルがここ二週間ほど頭を悩ませていた、『右方のフィアンマ』への“HOWDUNIT”は
これで解決したことになる。


「…………なぜ、です?」


しかし、まだ。
一つほどけばまた一つ、延々と懐疑の連鎖は続く。
次なるクエスチョンは、“WHYDUNIT”。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/23(水) 00:39:44.04 ID:qWiQAuqX0<>

「“どちら”への、“なぜ”かしら?」

「アレイスターが新たな『案内人』を配置してまで、『ビル』に不特定多数を
 招き入れていたというのも気にはなりますが。…………右方のフィアンマは
 そこまでして、いったい何を渇望したのでしょう」


動機。
ついぞフィアンマからは聞き出すことの叶わなかった、あの青年の成したかった“夢”。


「そうねぇ……彼の過去について知れば、あるいは理解は可能かもしれないわね」

「…………! 彼の経歴を、全て洗ったのですか!?」


この短期間で?
そう続けようとして、ローラは自分達より遥かに手前から『右方』を追っていたのだと気が付く。
それでも流石であると感嘆したくなる手並みには違いないのだが。


「ローラちゃんの手腕を持ってしても、なかなか骨の折れる仕事だったわー。
 ベナン共和国の出身というところまではすぐに突きとめたのだけれど」

「ベナン共和国……アフリカの、少数民族が割拠する小国ですか。現地固有の宗教は
 祖霊信仰の典型…………ブードゥー、教」

「青年はどうやら、とある少数部族の長の息子だったらしいのだけど………………
 そこから先は、実に難航したわ」

「? 出身部族までわかったのなら、後はたやすい事でしょう」

「そうはいかないのよ」


むしろ、そこまでの過程をローラがどうなぞったのかの方がステイルには気にかかった。
相変わらず魑魅魍魎の主のごとき、面妖なる情報網を持っている。
そのローラをして調査困難と言わしめる『右方』の過去とはいったい――――?

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/23(水) 00:40:48.67 ID:qWiQAuqX0<>





「なにせその部族は――――五年前に、滅んでいるのだから」






息を呑んだ。
陳腐な表現だが、想像を絶していた。


「交流を持っていた他部族がある日、集落の存在した一帯が焦土と化していたのを発見したわ。
 生き残りは、のちに国内唯一の空港で目撃情報が出た青年を除けば、一人もいなかった」

「まさ、か?」


『右方のフィアンマ』は、己の故郷を滅ぼしていた、ということなのか。
大きく息を吐いて荒くなった呼吸を整えると、目線で先を促す。


「集落が壊滅する一週間ほど前に、青年の恋人が行方不明になっているわ。そして、
 これは噂の域を出ないのだけれど…………かの村落には、黒魔術じみた、本義を
 大きく外れた『死霊崇拝』が伝わっていたということよ」


『右方』の過去を垣間見たという、フィアンマの言葉が蘇る。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/23(水) 00:42:07.46 ID:qWiQAuqX0<>

『「右方のフィアンマ」が最後に振るった「腕」は、お前達全員の
 「生」と「死」の境界を破壊せんとするものだった、と俺様は見ている』

『……そ、それが成功してたら、どうなってたのかな?』

『生者が黄泉路を行くか…………“死者が帰ってくる”のか? あるいはさらに想像を
 絶する事態となるのか、それだけは全くもって計り知れんな』


――――まさか、“消えた”恋人を?


『世界がどう、などと自分をも誤魔化していたようだが、そんなたいそうな野望ではなかった』


――――もし自分が、彼の立場だったら?


『奴の目的は、夢は。もっと“ちっぽけ”なものだった』




――――もしも自分が、彼女を失ったら?




<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/23(水) 00:43:06.14 ID:qWiQAuqX0<>

「なにもかも、私たちの想像の域を出ないことよ、ステイル」


とめどない思考――妄想?――を、鋭い声が寸断した。
今日はまこと、前最大主教猊下の珍しい表情を次々と拝見できる厄日である。
悪戯した子を母が叱りつけるような、しかしどこか焦燥を孕んだローラの表情など、
この先一生お目にかかれないであろう。


「………………わかっています」


しかし一度捕捉してしまった観念は、鉄錆のごとく心にこびり付いて離れてはくれなかった。
自分がこの状況に陥ることが分かっていたから、フィアンマは口を噤んだのかもしれない。

ぼんやりと考えていると、本当にわかったのか、そう糾弾するローラの視線が突き刺さる。
ステイルは思わず、飲んでたまるかと定めていたはずのティーカップを口許まで運んでいた。
慌てて皿上に戻そうとすると冷めたレディグレイが数滴、鴉色の聖衣に跳ねた。


「そして青年は数年後、学園都市でアレイスターの『プラン』を奪って姿を消し……
 そこから先を説明する必要は、もうないかしらね」


そんなステイルの見苦しい姿態を笑うでもなく、ローラは強引に論を先に進める。
いつの間にやら急かす側と脱線する側が逆さまになっているな、とステイルは苦笑して、

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/23(水) 00:44:04.60 ID:qWiQAuqX0<>


「待ってください」



突然、一つの信じ難い事実に突き当たった。


「『右方のフィアンマ』は、アレイスターの『プラン』を模して動いていたんですね?」

「ええ。アレイスターの“失踪”後、私の手の者に『ビル』の内部を隅々まで捜索させたわ。
 その結果、外部に『計画書』が持ち出された痕跡を発見したのよ」

「では、では…………こういうことですか?」






“アレイスターの『プラン』は、『神の右席』の利用さえも視野に入れたものだった”






<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/23(水) 00:44:53.85 ID:qWiQAuqX0<>

「…………厳密に言えば。無数の選択肢の中の一つに、“それ”があったということよ」


だったとしても、ステイルは二の腕に粟が生じるのを抑えきれなかった。
『腕』の脅威がまざまざと脳裏に甦る。
学園都市やステイルらが万全の迎撃態勢を整えたにも関わらず、あざ笑うかのように
凡てを一蹴したあの絶対的な力。

仮にフィアンマが『神の右席』の追跡に手間取って、あの日学園都市に不在だったら?
きわめて高い確率で『右方のフィアンマ』の至上目的は達成され、科学の街は地図から
消滅していたであろう。


それほどの、魔術と科学の究極と呼びたくなるような極地が。


(…………あれが、代替の利く予防線の一つにすぎなかった、だと? いや、あるいは)


あれすらも、アレイスターにとっては価値無き『廃棄案』だったのではないか。
考えたくはないが、その可能性を導く状況証拠の存在をステイルは認めていた。


「ローラ=スチュアート」

「なにか?」


女狐は優雅に紅茶など淹れ直して啜っている最中だった。
罅割れの入りはじめている喉が先ほどから水分を欲してやまないと訴えかけてくるが、無視する。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/23(水) 00:47:29.39 ID:qWiQAuqX0<>

「貴女はこう言った。
 “アレイスターは四次大戦の直前期、『ビル』に不特定多数の人間を招いていた”」

「ええ、確かに言ったわね」

「ちなみに彼ら『不特定多数』は、その後どうなったんです?」

「私の調査した限りでは、全員が一年以内に不可解な死を遂げたわ」

「…………そうですか。話を戻しましょう」


その事実はステイルの推論の正しさを裏付けてくれるものだった。
心は、痛まない。
どこの誰とも知れぬ相手の死に哀悼を感じる人間など、そうそういるはずもない。
人間とは元来そういう生き物であり――――だからこそ、“彼女”は特別なのだ。


「こうも言った。                                   ・ ・ ・ ・ ・
 “『右方のフィアンマ』は、『ビル』に侵入して『プラン』を盗んだ――――形の上では”」


そこからして、真っ先に疑問を抱くべきだった。
アレイスターほどの男が自らの根拠地へと侵入した鼠を、はたして取り逃がすであろうか?
いかに『神の右席』になるほどの資質を備えていたとしても、当時の青年は『第三の腕』も
備えていない一介のはぐれ魔術師である。
『世界最悪の魔術師』アレイスターにとってすれば、討てない相手では決してないはずだ。

と、すれば――――


「……総合すると、二つの仮説が成り立ちます」


アレイスターは、『右方のフィアンマ』が『プラン』を持ち逃げするのを、故意に見逃したのだ。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/23(水) 00:48:14.13 ID:qWiQAuqX0<>

「アレイスターは迫る第四次世界大戦における自らの敗北を予期して、『プラン』を
 受け継がせる相手を捜していた」


“受け継がせる”、という言い方には語弊があるかもしれない。
これまた表現は悪いが、死期を目前にした身辺整理、という可能性も考えられなくはない。


「あるいは」


――――どのみち、それらは全て失敗に終わったわけであるが。


「第四次世界大戦での彼の敗北は、アレイスター=クロウリーの『プラン』の一環だった」


考えたくはない可能性。
しかし同時に、最も現実味を帯びている可能性。


「つまり」


『不特定多数』の不審死も。
『右方のフィアンマ』の学園都市襲撃も。
全てが彼にとっては予定調和の、デウス・エクス・マキナである可能性。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/23(水) 00:49:16.95 ID:qWiQAuqX0<>

「アレイスターはいまなお生きて、この世界のどこかで『プラン』を継続している」


それ自体は、ステイルにとっては取るに足らない瑣事だ。
ステイルの使命は、誓いは、望みは、夢は。
アレイスター=クロウリーの生死などに“基本的には”左右されない。


「そして」


だが。
仮に。
ローラから聞いた全てが、真実であるのならば。







「『魔女白書』計画を――――彼女を、利用しようとしている」







ステイル=マグヌスにとってアレイスター=クロウリーは、不倶戴天の大敵となる。


<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/23(水) 00:50:13.45 ID:qWiQAuqX0<>

コチ、コチ、と大きな柱時計が時を刻む音だけが暫時、静寂に読点を打っていた。


「…………全ては仮定の上に積み上がった推測であり」


ページ数にすれば見開き程度にはなるであろう白紙をめくり終えたのち。


「そして同時に、否定しきれない可能性よ」


ローラが厳粛に言葉を記しはじめた。




「しかし私は、どんな些細な可能性であろうと叩き潰す」




サファイアブルーの双眸に青白い炎が灯っているのを、ステイルは確かに見た。
信じ難い光景だったが、もはや幻覚とは思うまい。
愛情と、恩讐と、希望と、絶望とを、ない交ぜにして注がれた火。
ローラの眼差しは言外に、手出しは無用だと告げていた。


「それは僕とて同じことだ! 彼女に害なす存在など、可能性から焼き尽して」

「あなたはインデックスの側に居てあげなさい。あなたはあの子を知った。
 それならば、自分がなすべきこともわかるでしょう?」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/23(水) 00:51:32.42 ID:qWiQAuqX0<>

一度は語気を強めるも、漠然とだがそう諭される予感はしていた。
この数時間でステイルは、思いの外ローラ=スチュアートという女を理解してしまっていた。


「わかりました…………“最後”に、あと一つだけ」


インデックスは、自分が護る。
天地が開闢の時代の混沌を再現しようと、この命を懸けて護りとおす。
それは、ローラから何を聞かされようと聞かされまいと、確認するまでもないことであった。

確認しなければならないことは、他にある。


「『これで最後』とは、どういう意味ですか」


いつでも胡散臭く、回りくどく、己を惑わすこの女狐の語る“最後”。
想像がつかなかった。


「あら、そんなことだったの。あなたは賢い子なのだから、少し考えればこのくらい
 いと易くわかるでしょう?」


いや、違う。
想像できないのではない。


「いいから…………言ってください」


想像、したくなかったのだ。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/23(水) 00:52:09.75 ID:qWiQAuqX0<>

「ステイル」


まただ。
またあの顔で笑った。
ローラ=スチュアートという魔女には甚だ不釣り合いの、母の様な、娘の様な、姉の様な。


――――■を慮り、そして慕う■のような、痛々しいまでに朗らかな笑顔。


その顔のまま、ローラは数秒後の未来に、きっとこう唄うのだ。
それが、たまらなく悔しいことに、ステイルには理解できてしまっていた。
想像、できてしまった。










「私は、もうすぐ死ぬわ」











Passage3――――END
<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/23(水) 00:57:37.74 ID:qWiQAuqX0<>
⇒ TO BE CONTINUED ……


プロットの段階からローラの立ち位置は二転三転しました
最初はもっと適当に、胡散臭く黒幕っぽく微笑みながらステインを見守ってもらう
つもりだったんですが、真面目に考えれば考えるほどそういう訳にもいかないな、と

今後はほぼ二日にいっぺんのペースで投下となります
相当な量をそこそこの頻度でいくのでまとめ読みには向いてないかな、と自分では思ってます
厚かましいですがちょくちょく覗きに来て冷やかしていただければ幸いです

ではまた
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/11/23(水) 03:37:55.31 ID:tf/ptPIMo<> 読み応えあり過ぎてすげぇ
鳥肌立ちまくり <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(福岡県)<>sage<>2011/11/23(水) 03:52:49.20 ID:kfK4hTV0o<> ろぉぉぉるぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/11/23(水) 18:27:35.85 ID:z3RduFJNo<> 何げに俺がつっこんだ結標の話が拾われて嬉しいww
しかしあの頃はまだ平和だったな…… <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/24(木) 19:42:08.92 ID:fJgwpGdU0<>
二日後に来ると約束したな あれは(ry

>>493
前々スレからこんなgdgdについてきてくださるとは光栄の至りです
もうちびっとだけ続くんでお付き合いくださいませ <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/24(木) 19:46:50.22 ID:fJgwpGdU0<>

――Passage4――



死ぬ。


「私は、もうすぐ死ぬわ」


死ぬ。
誰が?


「あなたとインデックスに見えるのは、今日が最後。だからこそ、私の知る限りをあなたに
 伝えておきたかったの」


死ぬ。
彼女を、自分を、果てのない懊悩の輪廻に叩きこんだ、根本の大本を産みだした魔女。
ローラ=スチュアートが、死ぬ。
疑いようもなく、慶ぶべき報せである。

だが、ステイルは。


「ふざけるな!! 貴様は、いつかこの僕の手で――――」

「無理よ、あなたには。だってあなたは、あなた自身が思っている以上に優しい子なのだから」

「黙れッ!!!」


納得できなかった。

こんな、こんな形で、この女に、永久に手の届かないところへと逃げられるのか。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/24(木) 19:47:55.88 ID:fJgwpGdU0<>


「今までありがとう、ステイル。あの子をよろしくね」







Passage4 ――もう一人の失敗者――



<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/24(木) 19:48:47.04 ID:fJgwpGdU0<>
--------------------------------------------------------------------


「…………ル、ステイル? 聞いているのですか?」


凛とした声に何度となく名前を連呼されて、ステイルは肩を震わせた。
見れば、すっきりした目鼻立ちの大和撫子――――旧姓、神裂火織がそこにいた。


「あなた、五分はそうやって呆けていましたよ? …………私の知らぬところで、
 また何事かあったのですか」


時は七月二十七日正午過ぎ、ここはロンドンのとあるオープンカフェ。
(予定外の寄り道はあったものの)日本での大仕事を無事終えて帰国してから
そろそろ一週間が経とうというこの日、ステイルは眼前の姉のような戦友に呼び出されていた。
その最中に、バチカンでの衝撃的な告白を回想してトリップしてしまったらしい。


「……そのあたりは、おいおい話すよ。とりあえずは君の用件から聞かせてもらいたいね」


ステイルにとってはもはや仕事や義務ですらない、生命維持活動に等しい重みを持つ
最大主教の周辺警護は、ロンドンに戻って以来休暇を貰っている。
年に一度あるかないかのステイルのホリデイには、代理としてこの聖人がインデックスの
護衛に就くのが暗黙の了解となっているのだが――――
<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/24(木) 19:50:03.80 ID:fJgwpGdU0<>

「だいたい君、身体の方は大丈夫なのかい? いくら安定期に入ったとは言ってもだな……」


火織には現在、どうしても愛刀を振るうことのできない理由がある。
それは一見しただけの通行人にだろうと、その特徴的な装いから明々白々だった。
下腹部の布地に大きな余裕を持たせた、浅葱色のワンピース。




「あなたが心配することなど何もありませんよ、ステイル。なにせ、私とあの人との
 ――――――赤ん坊、なのですから」




――――いわゆる一つの、マタニティドレスだった。



常の毅然たる佇まいとはまた違う、包容力あふれる『母』の破顔にステイルは目を瞠った。

そう、『母』。

ステイルとインデックスにとって姉のような存在であり続けたこの女性の腹部には現在、
受胎から五か月になる新たな命が宿っている。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/24(木) 19:50:39.23 ID:fJgwpGdU0<>

「君が母親だなんて…………今でも実感が湧かないね。加えて父親が騎士団長殿とくれば、
 来たる近未来の超人誕生に鳥肌を禁じえないよ」

「む……確かにこの子には武士道と騎士道を二人で叩きこむ心づもりではありますが。
 というか、前半部分はどういう意味ですか」

「君の挙式のときにも言ったと思うがね。ヘタをすれば上条当麻以上に色恋にうとかった
 壊滅的朴念仁がとうとうここまで漕ぎつけたのかと思うと……ふふ」

「わ、私より年下で恋愛経験もつたないくせにぃ! その幼子の成長を感慨深く見守る
 足長おじさんのような眼差しはやめてくれませんか!!」

「どちらかといえばこれは、失笑をこらえている顔なんだが…………くっ、くく」

「なお悪いですよ!!!」


ステイルは膝を打って呵々大笑した。
自分やインデックスの上に幾年の月日が降りそそいでも、かの聖人は変わらず実直で
素直で、そしてからかいがい抜群である。
彼女の夫も案外、このあたりの可愛らしさと、常の凛たる居住まいとのギャップに
やられたのではなかろうか。
騎士団長と久方ぶりに酒でも酌み交わそうか、とステイルが予定表を脳内でめくっていると、


「まったく、もう……………………それにしても、あなたたち」

「ん?」


火織が、少々複雑そうに、しかし喜ばしげに口角を緩めた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/24(木) 19:52:20.71 ID:fJgwpGdU0<>

「あなたたちは、『上条当麻』を自力で乗り越えてしまったのですね」


いかにも神裂火織らしい、直球ど真ん中の物言いだった。




「――――――乗り越えるもなにも、僕はあんな奴、歯牙にも掛けていなかったよ」


鼻で笑って彼方を向いた。
半分は強がりであるし、半分は事実である。

ステイルの懊悩に『上条当麻』は直接関与してはいなかった。
反面、インデックスの苦悩の核心にはたゆまずあの男がいたことを、ステイルは当然
承知していた。


「ふふ……どうあれあなたたち二人は、この六年抱え続けた煩悶を、己が力のみで
 踏破してしまった」

「………………それは、違うさ」


それは、間違っている。
あの人々の力強い営み絶えぬ街で、ステイルとインデックスは多くの希望と絶望に触れた。
重荷を引きずるだけの力を、あるいは想いを凝視するだけの覚悟を貰った。
決して、自分たちだけでどうこうできる問題ではなかった。


「そうですか……………どうあれ、寂しいですね。そして、途方もなく悔しい」

「なに?」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/24(木) 19:53:23.38 ID:fJgwpGdU0<>

「私はこの六年間、あなたたちのすぐ傍にいたというのに、なんの力にもなれなかった」

「その点に関しては多分に、君が致命的な石部金吉であるという事実が影響していると思うが」


なにせほんの一年前まで、ステイルとインデックスの間に横たわる、えも言われぬ
アンビバレンスの存在を完全にスルーしていた女である。


「茶化さないでください、ステイル」

「これは失礼」


男女の複雑怪奇な心の機敏を捉えてさえいなかったのに助力などできるはずもないだろう、
とステイルは思ったが口には出さなかった。
これも処世術である。


「コホン…………それを、ただの二ヶ月滞在しただけの学園都市で解消されたと聞けば、
 直截に言って私の心中はおだやかではありませんでした」

「…………君はそう言うが。しかし、それでも……」


それでも、ステイルとインデックスが越えてきた幾千の昼夜をもっとも長く傍で
見守ってきたのは、やはり彼女なのである。

どこまでいこうと所詮は秀才止まりの魔術師であるステイルや、基本的に戦闘要員に
数えるべきではないインデックスが火織の隔絶した戦闘能力に救われたことは、
両手両足の指をすべて使っても到底追いつくものではなかった。

しかし、ステイルとインデックスが互いを男と女であると意識してからはどうなのか。
少なくともステイルには己がうちの懊悩を解決するべく、能動的に彼女を頼った過去は
一度たりともない。


「だから、悔しくて、寂しい、か」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/24(木) 19:54:06.49 ID:fJgwpGdU0<>

「ステイル。“あの子たち”を死なせたのはあなた一人の罪過ではないのです。
 私もまた、インデックスを助けられず、あげくに彼女を傷つけた罪人です。
 それを身勝手にもあなた一人に抱えこまれては、“私が”堪ったものではありません」


清澄な声音の裏側に見え隠れする、苛烈で鋭い鞘音。
烈火のごとき怒りをすんでのところで留めている火織に、ステイルは腰を浮かしかけた。
彼女はまたもや心の澱を暗い灯影に隠そうとしていたステイルに、そしてなにより
愛する弟分、妹分から頼りにされなかった己の不甲斐なさに、癇を立てていた。


「神裂、それは違う。君に非などない。僕が――――僕たちが、弱かっただけなんだよ」


神裂火織はステイルやインデックスよりもはるかに早く、失われた二年間を克服していた。
それがイコール、彼女の薄情さに即するのかといえば答えは否だ。
インデックスがロンドンに居を移してから、すでに六年である。
その間に神裂はインデックスと新たな絆を充分に時間をかけて育み、過去の罪と向き合った。

一日二日ではなく、六年あったのだ。
それだけの月日を無意味に、苦悶の殻に閉じこもって過ごした二人こそが異常なのである。


「それでも、私は二人の助けになりたかった…………いえ。今からでもいい、なってあげたい」

「………………“今から”? なにを言っているんだい、君は」

「ステイル…………ッ!」


人でごった返す真昼のロンドンに、ギリ、と歯ぎしりする音だけが不穏に響いた。
雑踏を行く市民は二人の魔術師が醸成する対峙の緊張を気にも留めない。
ステイルも火織も互いの姿だけをじっと見据えて、次の言葉を絞る時機を計りあっていた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/24(木) 19:54:56.58 ID:fJgwpGdU0<>

先に形を歪めたのは、紅を差すでもないのに名刀の光沢を放っている、女の口唇の方だった。


「あなたはこの二カ月で、覚悟を定めた良い目つきになりましたね」

「…………それはどうも」


おざなりに目礼だけして、男は対照的に口を閉ざした。
だがしかし、ステイルは迷ってもいた。
彼女に、自分がローラから聞き出したすべてを晒してしまうべきだろうか、と。


「では、今あなたの奥で燻る炎とは、果たして“何”に対しての覚悟ですか?
 “何か”との、近い未来の避けられない闘いを予見しているのではないですか?
 ――――――――私の存在を、視界に入れようとしないままに」


そのようなことは断じてない。
ステイル=マグヌスは神裂火織を心の底から信頼している。
彼女が自分を、というよりもインデックスを裏切ることなど、あり得ないと信じきっている。




「ステイル。私では、あなたたちの力にはなれませんか?」




このどこまでも心優しい女性なら、命を賭してでも、自分たちのために至大なる『聖人』の
力を振るってくれると、そう信じている。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/24(木) 19:55:47.74 ID:fJgwpGdU0<>

だからこそ、それは叶わぬ願いなのだ。


「あなたたちが『神の右席』と交戦するとの報せを受けて、私がどれほどにもどかしかったか
 わかりますか? すべての柵を取り払ってすぐにでも、日本に飛んでいきたかった。
 誰も彼もがこぞって止めるので、断腸の思いで断念しましたが」

「…………当然の、ことだろうが!! 君の身体はいま、比喩でもなんでもなく君一人の
 ものではないんだぞッ!!!」


イギリス清教の核弾頭、神裂火織が最大主教護衛の任を外れた最大の理由。
あの土御門元春が、聖人の絶大な戦術的価値を議論の端にさえも上らせようとしなかった訳。

決まりきっているではないか。
彼女が、妊娠から三ヶ月を経た尊き母体であったからだ。


「無理に、決まってるだろう……! もし君と胎児の身に万が一があったら僕は、
 君の夫にも、天草式の連中にも申し訳が立たない…………っ!」


数カ月前、火織の妊娠が発覚した日が思い出される。

聖ジョージ大聖堂で執務中だったインデックスと自分のもとに、夫に付き添われた
彼女が飛びこんできたあの日。
聖人であるがゆえの業に苦しみ、一度は故郷を捨てた彼女が、第二の祖国でつかんだ幸せ。
日本人街の桜の木の下で、火織が求婚を受け入れた際にはやっかみ半分だった天草式の
男衆が、今度こそ純度100%の歓喜に満ち満ちた酒宴を張り。
父親になる男の親友が、王室オールスターという豪華絢爛きわまりないゲストを引き連れて現れ。


そして、新たに人の親となる夫婦が感涙にむせび泣いてやまなかった、あの日。


<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/24(木) 19:57:22.92 ID:fJgwpGdU0<>

「あの光景を、そして君たち家族の明日を邪魔する因子の存在など!
 ………………認めるわけには、いかないんだよ」


周囲の視線を多少なりとも集めてしまっていると悟って、最後は声をひそめる。
代わりに、譲るつもりはないという意思を、鋭く砥ぎ上げた眼光に込めた。
なおも議論が白熱するようなら『人払い』を施すべきだろうか、とステイルが逡巡していると。


「…………やっぱりあなたは優しい子ですね、ステイル」

「……………………は、はぁ!?」


うってかわって白い歯をこぼした火織が、素っ頓狂なことをのたまった。
彼女は知る由もないであろうが、奇しくもその主張は一週間前のローラと重なっている。
顔を赤らめたステイルは奇声をあげてのけぞり、ドン! とテーブルに手をついて立ち上がった。


「藪から棒になにを言い出すんだ、君は!?」

「脈絡ならありあまるほどにあるではないですか。あなたはやや、必要以上に悪ぶる
 ところはありますが、根は純心な正義漢であるというのが『必要悪の教会』の面々の
 一致した見解ですよ。ほら、なんと言いましたか。テオドシアがいつか語っていた、
 バードウェイの妹御を救った際の武勇伝などいい例じゃないですか」

「勝手に人のキャラを『雨に打たれる子猫を見すごせない不良』テイストに味付け
 するなあああああああああ!!!!!!」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/24(木) 19:58:23.20 ID:fJgwpGdU0<>

昼下がりのオープンカフェを包む空気の、穏やかな色相が絶叫に震えて揺らぐ。
そう的外れな見解ではないのだが、ステイル的にそれを認めるのは死ぬほど我慢がならない。
何事かと大衆が我先に首を伸ばすが、喧騒の中心にいるのが頭を抱えてのたうちまわる
黒衣赤毛の神父と知るや、肩をすくめてこう口を揃えた。


「「「「「「何だ、またヘタレ神父か」」」」」」

「やかましい燃やされたいのかおんどれらぁぁーーーーーーーっっ!!!!」






この程度の漫才と殺気を失笑で流せないならロンドン市民はやっていけない。

とばかりにステイルの怒気にも平然とした面で、思い思いの日常に戻っていく野次馬ども。
なおも幾人かが携帯を片手にシャッター音をパシャパシャさせているのを一瞥して、
ステイルはためらわずに『人払い』を行使した。
げっそりと頬のこけた、心なしか一時間前より痩せて見える風貌で火織に向きなおる。


「き……君は当然知らないだろうから、教えてやるよ。僕はかつて上条当麻に対して、
 こう宣言したことがある。『彼女を守るためならなんでもやる、誰でも殺す』とね。
 ………………君とて例外ではないんだぞ、神裂」


なるべく凶悪に見えそうなアングルを心がけて、犬歯を(そんな物はないが)剥き出しにする。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/24(木) 19:59:15.40 ID:fJgwpGdU0<>

だがいかに凄んだところで今の火織には火に油、飛んで火に入る夏の虫も同然であった。


「ええ、知っていますとも。あなたは口だけの男ではありません。私が彼女にとって
 害悪になりうると判断すれば、あなたは間違いなく私の敵に回るでしょう。
 ことこの点に関しては、インデックスよりも私の方が心得ているという自負がありますよ」

「だったらそのニコニコ顔を今すぐやめろ! っていうか撫でるなぁーーーっっ!!!」


いましがた危険な殺人鬼にもなり得ると認めた男の頭に向かって、身を乗り出して手を伸ばす聖人。
ステイルは飛びのいて、神経を疑う目つきで彼女をねめつける。

が、いまやその相貌は頭に乗せる灼髪に負けず劣らずの紅蓮色に塗りつぶされていた。
全身から火を噴きそうな様子で口を開閉しても、火織の微笑をより色濃くさせるのが関の山だった。



ステイルの呼吸が落ち着くのも待たず、女は畳みかける。
こういった間合いに対する駆け引きの上手さは、さすがに熟練の剣士らしかった。


「あなたとて、私のことは良くご存じでしょう? 私はもう決してあの子を悲しませは
 しません。つまりあなたと私は、未来永劫仲の良い姉貴分、弟分ということです」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/24(木) 20:00:05.75 ID:fJgwpGdU0<>

ここまで話術に習熟していたとは、ステイルはまるで存じ上げていなかったが。
ポンと手を合わせて浮かべた、絶妙に作り笑いっぽさあふれる表情が、再び清教派の誇る
キングオブ女狐に重なる。
土御門か建宮あたりの薫陶を受けたのかもしれない。


(クソッ、あの愉快犯どもめ! よくもロンドンでの数少ない心のオアシスを
 涸らしてくれたなぁっ……!)


激しく貧乏ゆすりしながら、元凶の現在の座標を確かめる術はないかとローブの内をまさぐる。
そういう思考が現実逃避でしかないと気が付いたのは、カードを求めてさまよっていた指先が
真鍮製の懐中時計のひんやりとした感触を脳に伝えた時だった。


「と……とにかくだ!」


口調とは裏腹に、やおら腰を下ろす。
言行の些細な不一致は、己の心を映し出す鏡なのかもしれない。
第三者の位置から自身を客観視して、ステイルはそう結論した。


「僕は君を、最低でも向こう一年は戦場に赴かせるわけにはいかない。これは決定事項だ」


口では神裂火織が相手であろうと死合ってみせる、と豪語することは可能だ。
万一そのような事態に陥ったとして、実践する覚悟もとうの昔に決めている。
しかし、しかしそれでも――――

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/24(木) 20:00:45.49 ID:fJgwpGdU0<>

「…………後生だ。理解してくれないかい、神裂」


それでもステイルは、神裂火織とは闘いたくなかった。

年端もいかぬ未熟な少年魔術師と、神に愛され人を愛した聖人。
邂逅を果たしてからもう何年になるのか。
いったい幾つの戦場を共に駆け抜けたのか。
ステイルが“少女”を救えず、絶望に心折れたあの日。
すぐ隣で同様に現実から目を逸らし、同じ罪を負った心弱き女は誰だったのか。


「………………ならば、せめて。一つだけお願いがあります」


すべて、目の前の心優しい女性ではないか。


「お願いです、ステイル。どうか、真実を隠さないで打ち明けてほしい」


“彼女”さえ護れるのならば、他の、世界の全てを焼き尽してもいい。
ほんの十日前までは、掛け値なしにそう腹を固めていた。


「あなたたちの手を煩わせるような真似は、決してしません」


だがステイルは、愛を知った。
少年の抱いた盲目の“恋”に別れを告げ、青年は真実からの“愛”の何たるかを知った。
いざとなれば、“彼女”のために“世界”をも天秤にかけてみせよう。
だがステイルは、そんな二者択一とは限界線の縁に至るまで向き合いたくはない、
そう考えている己を知った。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/24(木) 20:01:55.76 ID:fJgwpGdU0<>

誠実と切迫を体現したかのような表情で、姿勢で、火織が次第次第に語気を強めていく。


「だから、もしもあなたが、私のことをいまだ戦友と呼んでくれるのならば」

「――――――――――僕は、隠さない」


ステイルは、被せるようにその口上を断ち切った。
女がはじけるような笑みをこぼす前に、



「君に明かせない秘密があるのだという事実を、隠さない。それが、ステイル=マグヌス
 から戦友神裂火織への、精一杯の誠意だ」


返す刀で、さらに一閃。



「身勝手なことを言っているのはわかっている。それでも僕は、君と、君の子に
 “もしも”が起こったら。…………その可能性を、考慮しないわけにはいかない」


ステイルは、心中密かに自嘲した。
かつて至上の誓いを立てた唯一の少女さえも護れなかった男が、その腕をさらに遠くへ
伸ばそうなどとは。

しかし、しかしそれでも。
ステイルは神裂火織とその家族に、消えない痕など背負ってほしくはなかった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/24(木) 20:02:45.25 ID:fJgwpGdU0<>

「すまない、神裂。どうかすべてが決着を見るまで、僕を…………僕たちを信じて
 待っていてほしい」


彼女を信じているからこそ、打ち明けることはできなかった。

もしもここでわずかな取っ掛かりの一つでも火織に与えてしまえば、その魔法名が表す
信念のままに、彼女は走り出すであろう。
ステイルはそれを痛いほどに心得ていた。
『手は煩わせない』などという、彼女らしからぬまどろっこしい言い回しが良い証拠である。

故にステイルは、『秘密』があるのだという事実だけは隠さない、そういう道を
選ぶことでしか火織の誠実には応えられないと、思惟の果てに結論付けたのであった。


「そして叶うならば、どんな形であれ、闘いを終えた僕らを、一番に出迎えてくれないか」


頭を深く深く下げる。


「僕と、彼女の――――――――姉代わり、として」


そして、彼女の答えを待った。







「…………同じ事を繰り返すようですが」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/24(木) 20:03:52.24 ID:fJgwpGdU0<>

駄目か。

自分では、彼女の信念を曲げられないのか。
そう、ステイルが忸怩たる苦みに歪んだ面を上げようとした時。


「やっぱり、さびしいですねぇ」


頭髪に櫛を通されるような耽美な触覚が走った。
女の、刀を常日頃から振るっているにもかかわらず白く細い指先が、頭を滑るように
撫でる感触だった。
ゴルゴンに睨まれたかのように一瞬だけ硬直して、ステイルは弾かれたように頭を跳ね上げる。
名残惜しそうに、虚空に掲げられた右手を眺める長髪の佳人がそこにいた。


「もう、十五年近くになるのですか。私が初めて出会ったころは生意気盛りだった
 背の低い少年が……図体ばかり大きくなって、私同様に心は強くならなかった少年が。
 …………一人前に、私の身を案じてくれる日が来るなんて」


火織の右手がゆっくりと膝上で左手と重なるのを、ステイルは呆然と見送った。


「寂しくて、寂しくて、寂しくて…………そして何より嬉しくて、泣いてしまいそうですよ」


だから、その瞳が微かに潤いを帯びていると気が付くのがわずかばかり遅れた。
とっくに泣いているじゃないか、という言葉を飲み込むだけの思慮分別は、辛うじて残っていた。
目玉を飛び出さんばかりに丸めたステイルに誇らしげな視線を投げかけて、火織は涙を拭った。



「承知しました。お言葉に、甘えましょう」



<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/24(木) 20:05:14.13 ID:fJgwpGdU0<>

「申し訳ありません、若干誇張しました。“万人”は言いすぎでしたね。
 それでも私個人の意見としては決して虚言などではなく」

「持ち上げてから落とすな!! どこでそんな高等テクニックを習得した!?」

「つち」

「ゴメンぶっちゃけ聞く前からわかってたよ土御門のクソ野郎おお!!!」


翻弄されっぱなしだ、すこぶる悔しい。
反撃の糸口が転がっていないかと女の怜悧な美貌を睨みつけていると、突然その美貌が
ステイルに寄せられて、悪戯っぽくほころび――――







「今だから、そして『人払い』が効いているから言ってしまいますが。
 …………私はあなたの事を、一人の男性として見ていた時期もあったのですよ?」


トンデモナイ囁きで、男の鼓膜と心臓と肩とを、同時に大きく震わせた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/24(木) 20:05:52.32 ID:fJgwpGdU0<>




「んあっ!!? なっ、な、なななななな何を!!??」

「あ、言うまでもなく現在の私は夫一筋ですので。貞淑な女であるとの自侍にゆらぎは
 ありませんよ」

「そんなことは聞いてないわぁーーーっっ!!!!」


だったらなにが聞きたかったのか、ステイル自身にも杳として知れなかったが。
と言うよりは、聞くのが非常に恐ろしい。
こんな得体の知れない恐怖相手なら、世界が滅ぶその瞬間まででも部屋の隅で主に祈りを
捧げながらガタガタ震えていた方がマシというものであった。


「照れない照れない。しかし月詠小萌女史しかり、シスター・アンジェレネしかり、
 パトリシア=バードウェイしかり、国内に多数存在する私設ふあん倶楽部しかり。
 ………………あなたという人は意外や意外、なかなか隅に置けませんね」


触れてほしくなかった問題に言及されて、ステイルは舌打ちを返事に選ぶ。
だれだれに想いを寄せられている現実は十分承知しているが、その誠意に応える気など
ステイルにはまるでないのだから、彼女らに対面すると気まずさが先に立つのである。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/24(木) 20:06:35.69 ID:fJgwpGdU0<>

「どうなんです、実際? あなたに想いを寄せる女性はそれなりの数にのぼるはずですが、
 そのあたりはどう処理するつもりですか?」

「処理という言い方はやめてくれ。彼女らに失礼だ」

「その容姿に似合わぬフェミニストぶりも、現況を成している一因だと思うのですが」

「色々と余計なお世話だッ! …………だいたい君に心配されずとも、僕は僕で
 やるべきことはやっている」

「と、言いますと?」


嫌に食いついてくる、嫌な予感しかしない。
しかし隠し通せることでもなければ隠す意味も薄かった。


「数日前、パトリシアとシスター・アンジェレネには、明確に僕の意思を伝えた。
 日本を発つ直前には、小萌と二人きりになる機会もつくった」


ひっぱたかれるのも覚悟の上の行動であったが、結果はステイルの想像を大きく裏切った。

小萌は終始笑顔で、ステイルの頭を強引に下げさせると火織のようにナデナデしてきた。
恥ずかしかった。

アンジェレネの場合は号泣させたあげく何度も何度もお幸せに、と逆に激励されてしまった。
ちなみに、物陰で出歯亀していたアニェーゼ部隊に袋叩きにされたのは想定の範囲内である。

パトリシアからは涙声で祝福されたが、実姉にかつて『恐るべき泣き虫』と形容された女性は
決して泣き顔をステイルに見せることなく走り去っていった。
…………目下、姉による報復が最大の懸念事項だが、いまのところそういった兆候はない。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/24(木) 20:07:48.73 ID:fJgwpGdU0<>

「ふむ。それはそれはさぞかし面白、もとい大変だったでしょうね。あなたがめずらしく
 有給など取ったかと思えば、そのような事情があったのですか」

「労組の連中め、ためこんだ有給をさっさと消化しろと脅、もといせっついてくるものでね」

「日本人でもあるまいし、消化率100%を目指しましょうよ……」


ステイルの有給消化率は一月前を基準に算出すると0.5%。
三年前、上条当麻と殴り合い宇宙するために日本へすっ飛んだのが最初で最後の
ホリデイウィズペイであった。
ステイルが遠い日の青春群像劇に思いを馳せているかたわらで、火織がおもむろに首をかしげる。


「しかし…………それでもなお、まだ一つ謎は残っていますね……」

「君はいったいなにを言っているんだ」


話題の順序に脈絡も系統性もあったものではない。
オーバーアクション気味に肩をすくめて失笑するとあらかじめ頼んでおいたコーヒーの
存在をいまさらながらに思い出して、すっかり冷めたそれを一口、二口と啜る。


「とぼけなくても良いではないですか。帰国した翌日でしたか、あなたが
 オックスフォード通りのメイド喫茶から出てきた件についてですよ」

「ぐぶふおぉぉぉぉっっ!!! がっ、な、えぇ、がほごほおおっ!!」


哀れ、一杯八ポンド(約九六〇円)のぼったくりコーヒーは汚いアーチを描く噴水に化けた。
ステイルのただいまの財布事情からするとあまりに痛すぎる散財である。
液体を入れてはいけない器官に流し込んでしまった男はしばし激しく咳きこんでから、
おそるおそる女に向きなおった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/24(木) 20:08:53.30 ID:fJgwpGdU0<>

「ま、ま、まさか、よもやとは思うが、この事を最大主教に喋ってはいないだろうね……?」

「え、まずかったですか?」

「なんでそこだけ素でキョトンとしてるんだ君はッ!! パトリシアたちに関しては事前に
 それとなく告げておいたからいいが、その、そのようなソレだけは途轍もなくマズイんだよ!
 空気を読んでくれぇ!!」

「いえ、まあ、世間話の一環としてポロとこぼれてしまいまして。

 『ステイルはいつの間にか、インデックスの人称を“貴女”から“君”に改めていますね』

 みたいなやりとりからあなたの話題にシフトするうちについ。そういえばあのとき、
 心なしかインデックスの表情がカチコチに固まっていたような」

「…………きっと、周囲の空気も同時に固着したんだろうね」

「ななな、なぜわかるのですか!?」


わからいでか。
二人の人称問題は土御門やローラですら触れようとしなかった、デリケートきわまりない禁忌である。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/24(木) 20:10:31.41 ID:fJgwpGdU0<>

「神裂、君はアレだな、ピンポイントで地雷を踏む能力でも持っているんじゃないか?
 紛争地域の不発弾処理に重宝しそうなシックスセンスだね」

「あなたさっき私の身体を心配してくれましたよね!?」

「出産を無事終えたら中東あたりへの派遣を僕の方で検討しておくから頑張ってくれ」

「決定事項!? あなたもしかして本気で怒ってません!?」

「半分は僕の自業自得だ、堪忍袋の尾は半分しか切ってないよ」

「半分マジ切れじゃないですか! あ、ちょっと! 人と話している最中に携帯を
 いじくるなど」



「………………もしもし、最大主教? いや、大したことじゃあないんだが。神裂がね、
 ちょっと。ああそうなんだ。彼女少しおかしなことを言ってたかもしれないが、
 その辺のしっちゃかめっちゃかな戯言は妊婦特有の『虚言をたれ流すストレス発散法』
 なんだよ。うん、うん…………ああ。それじゃあ今晩、例の場所で」



「…………あの、私の人間としての尊厳がしっちゃかめっちゃかにされた気がして
 ならないのですが」

「100%純正で君の自業自得だ」

「うぅ」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/24(木) 20:11:52.12 ID:fJgwpGdU0<>

本質通りの天然ボケをかました聖人にひとしきり罵声を投げかけてから、ステイルは
カフェテーブルにぶちまけた闇色の液体を律儀に拭いはじめる。
すると火織が再び首をひねって、こう問いかけてきた。


「今晩、インデックスと逢引でもするのですか?」

「………………そうだな。これぐらいなら言ってもいいか」


返事になっているようなそうでないような、曖昧な独り言を呟いてから手を止める。
まっすぐ見つめた女の表情が凛と引き締まっていたのは、向かいあう己のそれもまた、
強張るほどに粛然としていたからだろうか。



「今夜、日付が変わるころ、つまり明日の零時…………彼女に僕の想いを、すべて告げる」



目を瞑って、まるでそれ自体が愛の告白であるかのように重々しく言い切る。
そっと瞼を開くと、『聖母の慈悲』など持たぬはずの聖人が慈悲深く微笑んでいた。


「肩の力を抜きなさい、ステイル。無責任な言葉を吐くのは好きではありませんが…………
 きっと、何もかもうまくいきますよ。あなたは、あなたたちは、これまでずっとがんばって、
 悩んで、苦しみ続けたのですから。その分しっかり報われなければ、嘘というものです」

「…………さすが、神に向かって啖呵を切った聖人サマは言うことが違うね」


カウンセラーの常套句のような文言も神の『とりこぼし』を余さず救うと公言して
はばからないこの聖人にかかれば、聖書の一節にすら等しく輝く。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/24(木) 20:12:42.58 ID:fJgwpGdU0<>

「ありがとう、神裂。明日は一番に、吉報を携えて君のもとへ行くよ」


笑って、泣いて、悩んで、苦しんで。
最後に『失敗』したあの二年を、共に過ごしたのが彼女で良かった。
ステイルは心の底から、そのささやかな偶然に感謝して微笑を返す。


「その際は、必ず二人で、ですよ? お姉さんとの約束です」


ぴんと人差し指を立てて秋波を送ってくる火織。
似合ってないぞという言葉を飲み込むだけの分別も、いまだけは投げ捨ててもいいだろう。


「似合ってないぞ。歳を考えろよ、にじゅうはっさい」

「インデックスには間違っても言ってはいけませんよ、その手の冷やかし」

「君じゃああるまいし、誰がやるか」

「はいはい。そう言えば、インデックスは今日はなにを?」

「明日の式典の準備に追われて…………とはいっても、今日の彼女に大した仕事は
 割り振られていないが。やはり僕が側に付いていないと、仕事がはかどらないからね」

「ノロケつつ自惚れるとか、器用なことですね」


先刻とは一転して、和やかな軽口の応酬。
インデックスとすごす愛しい一時ともまた違う、気心の知れる戦友とのかけがえない時間。


「しかし……そうですか、“明日”ですか。今の今になって何ですが、
 こんな偶然があるものなんですね」

「ん、どうかしたかい?」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/24(木) 20:13:29.70 ID:fJgwpGdU0<>

そんな中で、何の気なしに火織が放った瑣末な一言が。






「四次大戦の終戦記念日が、“あの”七月二十八日と重なるだなんて」






俄かに、急激に、ステイルの肺腑を冷やした。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/24(木) 20:17:42.06 ID:fJgwpGdU0<>
⇒ TO BE CONTINUED ……


というわけでかんざきさん回でした
いい加減この二人の絡みを原作でもう一度見たいものなのですが

投下ペースと文量で皆さまを置いてけぼりにしていないかだけが心配です
速さが足りてると思ったら遠慮なく罵ってください
足りないと感じた場合でも遠慮なく罵ってください

ではまた土曜に
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/11/24(木) 20:39:11.56 ID:ml8IDzjM0<> 乙

待ってるぜー <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(三重県)<>sage<>2011/11/24(木) 21:12:23.20 ID:oj9D9+ac0<> 乙

おそるべし>>1
この速さにしてこの内容……。
ここの>>1は化け物か!? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/11/25(金) 17:26:20.25 ID:S8a9Pbn30<> >>516
>三年前、上条当麻と殴り合い宇宙するために日本へすっ飛んだのが最初で最後の

殴り合い宇宙ってなんだよって思ったけど、確か第四次世界大戦の話がちらっと出てきた時に
宇宙人も参戦したようなことが書いてあったから伏線かと思(ry
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/11/25(金) 19:40:13.90 ID:bFOdLZhTo<> >>525
普通にめぐり逢い宇宙と掛けただけじゃねーの?ガンダムネタもわからん世代…これが若さか…

ギャグを解説されるのって地味にダメー(ry <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(関西地方)<>sage<>2011/11/25(金) 21:36:43.83 ID:TNZYtNvco<> めぐりあい宇宙も通じないか…
寒い時代になったと思わんかね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/11/25(金) 21:41:42.40 ID:93tDBgxpo<> νとサザビーの殴り合いだと思った <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 00:31:51.40 ID:7JZrLjMN0<>
ツッコもうと思ったら先にツッコまれてた……別れたい

とりあえず>>512と>>513の間に投下忘れがありましたので
↓を脳内補完しといてください <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 00:32:22.18 ID:7JZrLjMN0<>

ついに引き出した言質に、ステイルは半信半疑の態を隠さず反問した。


「……ほ、本当か?」

「あなたが切りだしてきたことだと言うのに、なにを怪訝な顔をしているのですか。
 ……その代わり。事後報告でかまいませんから、いつかすべてを話してくださいね」

「あ、ああ! それは神かけて言ってもいい、約束する!」


火織の言う通り、散々闘うなと迫っておきながら奇妙な態度だという自覚はある。
悪しざまに言えば、頑迷固陋。
そうとも取れるこの聖人を説得できたのだという現実に、脳の認識が追いついてこない。


「あなたは、もっと自分に自信を持ってもいいと思いますよ。インデックスが上条当麻
 よりもあなたに惹かれたという事実が、いまとなってはまったく不思議ではない。
 そう万人が納得する程度には、あなたは“いい男”に成長しました」

「………………そう、なんだろうか?」


こちらの内心を読んだかのような、全面的に自らの生き様を肯定する台詞を吐かれて、
ステイルは頬に血潮が集まるのを抑えられなかった。
なんとなくだが背筋に怖気を感じて、眼球をせわしなくキョロキョロさせる。
対する火織は、二呼吸ほど間を置いてからしれっと返した。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 00:34:51.71 ID:7JZrLjMN0<>
これが若さゆえの過ちってやつですかね
こういうミスがあると時々修正の効く外部サイトに行きたくなっちゃいますの
まあ台本形式たっぷりなので無理なんですけど

ちなみに>>1はファーストガンダム世代ではありません
<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 00:35:43.16 ID:7JZrLjMN0<>


人は、自分より不幸な誰かがどこかにはるはずだと思いこむことで心の均衡を保つ。



ステイル=マグヌスが己の人生を顧みた時、そこには夥しい数の焼死体が並ぶ。
欲深い者、残虐な者、卑劣な者、死にたがる者、生きたがっていた者、家族を待たせていた者。
一切の区別など差し挟まず、焼いて焼いて焼いて焼いて焼いて焼いて焼いて焼き尽してきた。
屍が織りなす道をさかのぼっていくと最後に待ち受けているもの。
即ち、ステイルが最初に殺した者。


“少女”。


大量の死体の山を築いてでも護りたかった少女の『死』がその道程のはじまりに在るとは、
乾き笑いさえ沸いてこない特級の皮肉である。


それでも、ステイルは己を取り巻く悲劇の渦に酔ったことはなかった。
ステイルが燃やした屍の中には、ステイルよりよほど無残な末路を辿った不幸者もいたであろう。
相変わらず口にするのも忌々しい名だが、『上条当麻』とてその一人だ。
出会って間もない少女のために苦しんで傷付いて、そして死んでいった少年。
見慣れた煉獄の中の彼らに較べればステイルはいま、果報にもほどがある幸せ者であった。


では、真に不幸な者とはいったい誰なのだろう。
あいつよりはマシだ、こいつに較べれば何てことはない。
そんな連鎖を辿った先にいる正真正銘の、世界一の悲運を背負った者とは、どこの誰なのだろう。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 00:36:14.55 ID:7JZrLjMN0<>

やはり上条当麻だろうか。
しかしあの男は、普段から『不幸だ』『不幸だ』と連呼する割には人生を悲観していない。
ステイルもここ一年で叫ぶ機会に恵まれた――見舞われた、と言うべきか――から分かるが、
人間本当に辛い時はなかなか言葉が出てこないものである。
加えてあの男は、己が身に降りかかる不幸を誇りに思っている節すらある。
真性の被虐嗜好なのかもしれない。


一方通行、打ち止め、御坂美琴、『妹達』、垣根帝督、浜面仕上、麦野沈利。
エツァリ、ショチトル、トチトリ、シェリー、ヴィリアン、アニェーゼ、サーシャ、神裂火織。
苛烈な境遇に身を置いた者の名が次々に浮かんでは消えるが、誰もが最後は一様に笑顔だった。


彼らは『生』きているからこそ幸福を掴めたのだろうか。
ならば真の不幸とは、『死』にほかならないのか。


だが、死人はなにも感じない。
泣かないし、笑わないし、怒らないし、悲しまないし、喜ばない。
十字教に属する身としては異端審問ものの思想だが、ステイルが思うに、死者はそれ以上
不幸になどなりようがない。


そこまで考えて、思い至った。
なぜだか、本当にどういう訳か忘却の彼方にあった女性の顔に、連なる鎖のように
引っ張られてきた“あの男”の顔。


ステイルは一つの結論を出す。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 00:37:11.23 ID:7JZrLjMN0<>

真の不幸者とは。


世界一報われぬ者とは。








『生』きながらにして『死』者になってしまった人間である。








<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 00:38:08.93 ID:7JZrLjMN0<>
---------------------------------------------------------------------------


七月二十七日、午後九時。


手近なレストランで夕食を済ませたステイルは、ロンドンで住居とするフラットに
帰宅すると外套も脱がずに安普請のベッドに寝転がった。
目線をなんとなしに、部屋のあちこちにせわしなく走らせる。

最低限の生活必需品だけ揃えられた質素なワンルームの内観はなにも、イギリス国民の
血税を糧にしているから、などという殊勝さに結びつくわけではない。
単純に『眠る』用途だけを満たせればそれで十分だったからだ。
ステイルはこの一年、朝日が昇る前には起きて日付が変わった時分に帰る、単調な
生活サイクルをほとんど乱していない。
それでも日々がまるで色褪せない理由は明々白々、論ずるに値しなかった。


彼女が、側に居てくれるから。


しかしこうして一週間をインデックスから、任務から遠のいて過ごしてみると、
不便に感じたことなどないねぐらが何やらみっともなく思えてきて仕方がない。

ベッドに対面するように木製のクローゼット(中身はほぼすべて普段着の黒い神父服)、
その隣に特大の姿見が掛けられベッド脇には大型のネストテーブル、上にはメモ帳と万年筆。

それと、それから――――

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 00:39:16.51 ID:7JZrLjMN0<>

それで、まるっきり全部である。

魔術師のアトリエ的体面を保つべく壁紙や家具のあちこちにルーンが散りばめられて、
涙ぐましい自己主張をしてはいる。

しかし、そういった“異常”を四捨五入するという条件式を加えてしまえばあら不思議、
ほかに描写するべき点などみじんも見当たらなかった。
当然、インデックスはおろか土御門や神裂ですら招いたことはない。

インデックスが住まいとする最大主教官邸とは比較するもおこがましい。
あれでも一応あっちは、前任者が残した装飾過多のインテリアをかたっぱしから売り払って
華美に過ぎる内装の改善を図ったのだが。


(最大主教は、いまごろ『ランベスの宮』だろうか)


この忙しい時期に護衛を離れたのは申し訳なかったとは思う。
だがステイルも、一世一代の大勝負に向けて一心精進するだけの暇が欲しかったのだ。


――――昨日までは。


いま現在ステイルの脳裏を占めているのは、
『インデックスはどんな答えを返してくれるのだろうか』だの、
『そもそも待ち合わせ場所に来てくれるのだろうか』だの、
『ランベスを一人で出奔させるのは、あまりに考えなしだったのではないか』だの、
そんな女女しく弱弱しい思考ではなかった。

……いや、確かに今日の午前中までは延々と胃をキリキリ言わせて思い悩んでいたのだが。



だがそれらを全て、ほんの九時間前に火織がもらした一言が吹き飛ばした。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 00:40:06.48 ID:7JZrLjMN0<>

(明日……か)


明日。
四次大戦の主要参戦国が、毎年持ち回りで行うと定められた慰霊祭の日。
今年は英国女王リメエアの主宰で、最大主教が鎮魂の儀を執ることが決定済みである。
ちなみに日本からの国賓は皇室のみで、学園都市勢は今回訪英していない。

終戦記念日。
すなわちアレイスター=クロウリーが、上条当麻に敗れ消失した日。
それが偶然――――



『四次大戦の終戦記念日が、“あの”七月二十八日と重なるだなんて』



ステイル=マグヌスと神裂火織にとって、途方もなく特別な意味を持つ一日。
七月二十八日に“偶然”重なった。


(偶然。偶然だと?)


そんな偶然などあるはずがない。
ローラから『禁書目録』の真実を知らされた今となっては、そうとしか思えない。


(…………なぜ、いままで気が付かなかったんだ)


四次大戦の終結したまさに三年前、その偶然の存在を見落としたわけではない。
しかし当時のステイルが有していた情報量では、その一致を偶然の産物と見なすほかに
解釈のしようがなかった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 00:41:11.46 ID:7JZrLjMN0<>

ふと思いついて時計を見る。
果てのない思索に耽るうちに、あっという間に三十分が経過していた。
少し早いが、ここで悩んでいるより『指定場所』へ向かおうかとステイルが考えたとき、


「…………ん? 土御門…………?」


味気ないベル音が、曲者からの着信を告げた。


「なんだい」

『今どこにいる?』


土御門は開口一番、常日頃の煩わしい前口上も挟まずそう問うてきた。


「ロンドンの自宅だ、いきなりどうした? 君はもうこっちに帰っているのか」

『俺はまだ日本だ。だが、“ある男”がロンドン入りしたとの情報を入手したんでな』

「…………なんで現地にいる僕より情報が早いんだ、君は」

『まあそれは土御門さんの人徳のなせる……悪い、いまはふざけてる場合ではなかった』


切実な態度に、ステイルも即座に頭を切り替える。
同時にロンドン中に張り巡らせた渾身の防衛探知網に魔力を流し、一瞬で起動を終えた。


「よほどの危険人物と見えるね。今のところ『守護神』には何も引っかかっていないが」

『危険、か。ある意味ではそうなのかもしれん』

「対象の特徴と現在地は?」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 00:42:24.43 ID:7JZrLjMN0<>

プロの魔術師として淡々と要点だけを抜き出そうとするステイル。
対する舌鋒鋭き稀代の説客、土御門元春の歯切れは奇妙に悪かった。


「どうした土御門、さっさと情報を寄こせ。手早く“済ませて”しまいたいんだよ、僕は」


苛立ちを舌の裏にひそませて、努めてそっけなく促す。
できれば『天罰』からの遠隔爆撃で片付けてしまいたいが、そのような驕りが時に死にすら
直結するとステイルは嫌になるほど知悉している。
焦燥からの拙速がインデックスの涙の呼び水となるようでは、それこそ本末転倒だ。

理性は言う。


(彼女に、断りの連絡を入れるべきかもしれないな)


しかし、本能と人が呼ぶであろう脳のどこか一部分が、その選択に激しい警鐘を鳴らし
続けている。
正体のまるで知れぬ途轍もない恐怖感を、根拠もなくステイルは抱いていた。
すると突如として土御門が沈黙を破る。


『いいか、落ち着いて聞けよステイル』


声を出していなければ顔も見せていない。
だと言うのにこちらの不可解な懸念を見通したかのように、土御門元春はそう言った。
ついつい語勢が不自然に強くなる。


「僕は、至って、冷静で――――」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 00:43:13.67 ID:7JZrLjMN0<>






『いま、「               」がロンドンにいる』


「―――――――――――――」








次の瞬間、ステイルはドアを蹴破るようにして夜の倫敦へと駆け出していた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 00:44:19.67 ID:7JZrLjMN0<>

「…………ハァ、ハァッ……………!」


走る、奔る、疾る。
『霧』の名を戴く魔都は、その実めったにお目にかかれない濃霧に濡れそぼっていた。


『奴の、この十一年間の足取りはいまだ掴めてはいない。確かなのは、つい先ほど
 ロンドンに出没した、というその事実だけだ』


薄気味悪い水気が鬱陶しく全身にまとわりついてくる。
しかしそれらを気にも留めずステイルは、人気もまばらなロンドンを一直線に駆け抜ける。


『すべてを“思い出した”のか? それとも断片的に? はたまた全くの偶然なのか。
 それもわからない』


到底信じられない名を、『この世のどこにもいない』はずの男の名を、土御門は告げた。
言葉を失う、などという生易しいものではなかった。


『だが、ハッキリと言葉では言い表せないんだが、異常なまでに嫌な予感がする。
 こんな事を言えばお前は嗤うかもしれんが…………強いて言えば、スパイとしての
 “勘”ってヤツがな、どうしようもなく囁いてくるんだ』


嗤うものか。
たとえ全力疾走していなかったところで、この胸を打つ早鐘は緩みはしないだろう。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 00:46:02.53 ID:7JZrLjMN0<>

『…………本来ならば、お前に報せるべきではなかったのかもな』


一理ある。
ステイルでは“あの男”に対して、良かれ悪かれ私情が入る可能性は十分にあった。
イギリス清教には他にも手練はいるのだから、とてもではないが合理的判断とは言い難い。

しかしステイルは土御門の“情”に感謝していた。
“あの男”が生きていたのならば、どんな形であれ決着をつけるのは自分でなければならない。
理由などなくとも、使命感にも似た情動にステイルは突き動かされていた。


「はっ、はぁ、彼女に、は…………言っ、て、いない、だろうな……」

『さすがに、こればかりはな。教えたところで、何がどうなるというものでもない』

「そこだけは、っはぁ、懸命な判断で、たす、かる、よ」

『俺にも、これから事態がどう推移するかさっぱり読めん。だからこれだけは言っておくぞ。
 ――――――いいか、絶対に、死ぬなよ」

「!」

『お前はもう、インデックスと生きることを迷わないんだろう? だったらわかるな』

「…………ああ」

『良い返事だ。なにかあったら必ず連絡しろ』


“仲間”の声に短く、しかし力強く応えて通話を切る。
心臓が胸を突き破らんばかりに、激しく脈打っていた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 00:47:20.79 ID:7JZrLjMN0<>

指定された通りに到着すると、ステイルは魔力探知を始め――――





「ロンドンの神父、か。…………いや、いまは私こそが異邦人なのだな」





――――ようとして、すぐに止めた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 00:48:40.77 ID:7JZrLjMN0<>

落ち着いて辺りを見渡せばそこは、閑散とした住宅街だった。
休日の昼間なら家族連れで賑わうであろう自然公園も、この時間帯では見る影もない。

コインの表と裏。
そんなイメージがとっさに浮かんだ。


「こうも素早く察知されるとは。イギリス清教の魔術師も、存外馬鹿にできんものだ」


声の主はメインストリートの中央に所在なさげに佇んで、夜空を仰いでいた。
霧に覆い隠されてしまった月を必死でさがそうと暗中模索している。
ステイルにはそう見えた。
挑発的な内容とは裏腹に『男』の声はただただ哀しげで、感情を持たぬ人形が台本を
読むように一本調子だった。


「生きて、いたんだな」


問い掛ける声が掠れた。
四肢には粘りのある湿気が絡みついているというのに、喉は乾ききっていた。

           いま
「“必然”。彼女の現在を見届けぬ限り、私は死んでも死にきれん……おそらく、な」

「…………それが、君の目的なのか」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 00:49:50.79 ID:7JZrLjMN0<>

そうしてステイルは、『生』きながら『死』んだ男の名を、確かめるように呼んだ。
















「アウレオルス=イザード」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 00:52:13.46 ID:7JZrLjMN0<>

ステイル=マグヌスは少々不幸な人生を歩んできた。
上条当麻もやや不運の多い道を辿ってきた。
客観から見ればそう評価が下るであろう。


ならばステイルの眼前に立つ、この男はどうなのだろう。


彼自身の主観からすれば、おそらくではあるが、不幸ではなかったのではないだろうか。
他人の主観を『だろう』で語るなど失笑ものだが、ステイルにはそう的外れな推測とも思えない。
なぜならこの男は、筆舌に尽くし難い“最悪”の記憶を綺麗に喪失してしまったのだから。
ゆえにこの男は、考え得る最悪の不幸には触れないままにこの十年を送ってきたのだろう。


不幸を知らず。
苦しみを忘れ。


しかし――――――救われなかった男。
客観的に見て、世界でも有数の、とびきりの不幸に見舞われた『生ける死者』。


ステイルの認識下におけるアウレオルス=イザードとは、そういう男だった。




Passage4 ――もう一人の失敗者―― END

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 00:55:54.38 ID:7JZrLjMN0<>
⇒ TO BE CONTINUED ……


短かった日常はこれにて終了
あとはクライマックス(笑)まで一直線です
この週末で区切りのいい話まで進めたいので、24時間おきにあと二回来ようと思います
それではまた今夜……今夜?
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(関東・甲信越)<>sage<>2011/11/26(土) 00:57:49.91 ID:4PaD95UN0<> 乙!

やはり来たよね。
誰か足らないと思ってたんだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(チベット自治区)<>sage<>2011/11/26(土) 01:00:21.14 ID:SU25qLmh0<> 乙!

アウレオルス好きの俺マジ歓喜
原作でもトップクラスに報われないんだよなぁ…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/11/26(土) 01:01:18.85 ID:nHR+KMxDO<> >>1乙
ヘタ錬さんがラスボス……だと……? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/11/26(土) 02:17:07.73 ID:6DzyXTCyo<> おちゅん <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 22:27:49.23 ID:7JZrLjMN0<>
どうも>>1です
こんなふざけたペースでも付いてきて下さる方がいるのが励みです
いつも本当にありがとうございます <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 22:28:58.30 ID:7JZrLjMN0<>

――Passage5――



虚空に視線を彷徨わせる男を、ステイルはじっくりと観察する。

一瞥して目に留まるのは服装だった。
ダークグレーのかっちりした高級スーツを見事に着こなす様からは男の品の良さが、
そしてこの十一年をどのように過ごしてきたかが窺える。
少なくとも金銭的、経済的な『不幸』からは縁遠い。

しかし視線を徐々に持ち上げていくにつれ、そんな『幸福』が彼にとっていかに
無味乾燥としたものだったのか、自然とステイルは悟った。


闇よりなお濃く、その表情に落ちる影。

諦観者に特有の絶望が染み込んだ、昏い瞳。

この世の底に繋がっていると錯誤させるほどに、深く深く窪んだ眼窩。


「………………なるほど」


つぶやきは、自身に宛てたものだった。
“十一年前の面影を残す”その風貌を視界に入れてようやく、ステイルは強烈な
視野狭窄に陥っていた自己を自覚した。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 22:29:46.02 ID:7JZrLjMN0<>

「二、三、質問がある。答えてもらおうか」


土御門はロンドンへの来訪者をアウレオルスであると断定してステイルに連絡を入れて
きたが、その事実からしてそもそも矛盾している。

なぜなら十一年前にステイルが敗北した錬金術師を野に放ったとき、彼は在りし日の
面影を完全に失い、別人の顔を手に入れていたからだ。
そして変わり果てた『アウレオルス=イザード』を本人と同定できるのは、この世で
ただ一人その『顔』を目撃したステイルだけであるはずなのだ。

しかし。


「“その顔”は、一体どうしたことだ?」


彼は、彼を知る者ならば誰もが一目見てそうだと断言できるほどに『アウレオルス』だった。
上条当麻や姫神秋沙なら、確実に遠目でも判別が付くであろう。
ならば、ステイルが最後に見た『別人の顔』はどこに消えたのか。
なかばまで真相を看取しながらも、ステイルは鋭く詰問した。



「……ルーンの魔術師よ。私の身に何が起きたのか、知っているのなら教えてはくれないか」



だが、返ってきたのは見当違いの懇願だった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 22:32:34.37 ID:7JZrLjMN0<>

「呆然。私自身、なぜこの場所に立っているのか、明瞭には説明ができないでいる」

「そんな義理、僕にはない。僕がすべきは」


そう言いかけてステイルは口を噤んだ。
ならばいったい、自分はこの男をどうすべきなのか?
その問いに明確な回答を為せない自分に気が付いたからだった。


「…………私を、殺すか?」

「っ!」


そうだ、殺すべきだ。
アウレオルス=イザードはローマ正教に追われる大罪人である。
今後の外交関係を考慮すれば百害あって一利なし、最低でもその身柄はバチカンに
引き渡されて然るべきである。


「毅然、それが運命ならば受け入れよう…………ただ、その前に一目」


ステイルがカードを構える姿に声を荒げるでもなく、アウレオルスは抜け殻そのものだった。
指先から炎の柱が生まれる。
腕を一振りすれば、無抵抗の錬金術師はあっけなく骸と化すだろう。



そしてステイルは何事もなかったかのように日常に戻り、“彼女”に愛を告げ――――



<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 22:33:11.26 ID:7JZrLjMN0<>




「私はただ、あの子の幸せそうな姿を、一目見られればそれで良い」





ステイルは束の間、呼吸すら忘れて立ち尽くした。
全力疾走に困憊した細胞の、酸素を求める悲鳴さえどこか遠い。



――――――ああいったい、この男はどこまで――――――



かつての敵対者の前であることも忘れて、ステイルは瞑目する。
そして、亀のような動作でのろのろとルーンを仕舞いこんだ。

よりにもよって、この日。
“明日”を目前にしてしまった今日という日にこの男を殺すことなど。



ステイルには、到底無理だった。



<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 22:34:04.24 ID:7JZrLjMN0<>


Passage5 ――Anniversary――



<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 22:35:01.84 ID:7JZrLjMN0<>

「……言ったはずだよ、質問がある、とね。その前に勝手に死なれては僕が困る」

「………………そうか」


殺すならば、十一年前にやっておくべきだったのだ。
しかしあの日ステイルは、『寝覚めが悪いから』などという愚にもつかない言い訳を
こねてこの男を見逃した。

可笑しな話だ。
炎の魔術師が造り上げてきた何百何千という屍がいまさら一つ余分に積み上がった
ところで、罪悪感が云々などとはちゃんちゃら可笑しい。
ましてやアウレオルス=イザードを生かす選択に現実的なメリットなど何一つない。

だったらなぜ、ステイルはこの惨めな男を生かしてしまったのだろう。
この男を見逃してしまったいつかの夜以来、時折自問しては振り払ってきた疑問。


それが十一年後の今にして、ようやくわかった気がした。


「会わせることは、できない。一目、遠くから。許可できるのはそこまでだ。
 気が済んだらどこへなりと消えろ」


きっと、ステイルはまぶしかったのだ。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 22:36:06.62 ID:7JZrLjMN0<>

ステイル=マグヌスとアウレオルス=イザードは等しく『失敗者』で。
しかしアウレオルスは同じ『失敗者』でも、諦めなかった『失敗者』で。

ステイルはそこに、天涯のさらに上と、海溝の底の底ほどの差を感じて、悔しくなった。
彼女がすでに『成功者』に救われていたとも知らずに、無関係の学生や姫神秋沙を
巻きこんでまでインデックスを助けようとした。
十一年前、ステイルはそんな彼の無様を存分に嘲笑ってやった。

だが心のどこかが、うらやましい、と耳元で囁きかけてきた。
ステイルがへし折れ、絶望のうちに諦めた『成功』をなりふりかまわず追い求める男の姿。
アウレオルスが晒した醜態と絶望は、そのままインデックスへの愛の裏返しだった。


自分もああするべきだったのではないか。


益体もない思考のループに嵌まる前に攻撃的な挑発を繰り返した。
己のインデックスに対する想いが、眼前の錬金術師に劣っていると見せつけられたようで
堪えられなくなったから。
決して認めたくはないが、ステイルは、きっとそんなアウレオルスに対して。




――――同情すら飛び越えて、憧れを抱いてしまったのだ。




<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 22:37:49.23 ID:7JZrLjMN0<>

「…………果然。それでも構わない」


だから、なのであろうか。
ステイルは現在のアウレオルスがぶら下げる、人間味のない微笑が腹立たしくてたまらなかった。

なんだ、その覇気の無い面は。
貴様は諦めなかった男じゃあないのか。
彼女を愛しているんじゃあないのか。


それではまるで一昔前の、物分かりの良い“ふり”をしていたステイル=マグヌスではないか。


時刻を確かめると十時をすでに回っていた。
間違っても、インデックスとの逢瀬までに時間的猶予があるなどとは嘯けない。
一刻も早くこの野暮用を片付けるなり後回しにするなりしなければ、彼女を待ちぼうけ
させてしまう。

しかしステイルは腹を固めていた。


「僕の推理でよければ、話そう」

「……感謝する」


わからせてやる。
彼がインデックスに全身全霊をつぎこんだ過去は、無価値などではなかった。
たったいまこの街にアウレオルスが在るという現在は、無意味などではない。
          アリバイ
錬金術師の現世不在証明を、完膚無きまでに崩してやる。

ステイルは現実的なメリットなどなに一つない選択肢を、不退転の決意とともに指差した。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 22:38:50.61 ID:7JZrLjMN0<>

まずは真実の追究だ。
アウレオルス=イザードの『十一年間の真実』を解き明かし、理解しないことには
この男の負った絶望の爪痕を、『塞ぐ』も『抉る』もできたものではない。


「『三沢塾』を覚えているか?」

「必然。私にとっては二つ目の、逃れ得ぬ悪夢の牢獄だ」

「先月、彼女と二人でそこを訪れたよ」

「……彼女とは、インデックスのことか?」


臆病者の自分がいまだに紡げていない『インデックス』をあっさりと口にされて、
ステイルは思い切り苦虫を噛みつぶした。
質問にはっきりとは答えぬまま先を急ぐ。


「十一年前、君はいつの間にやら『三沢塾』内に彼女の身柄を確保していたが……?」

「靄然、あれは確か………………彼女の方から、あのビルにやってきたのだ。
 おそらくは神父、貴様のルーンに込められた魔力残照をたどったのだろう。
 玄関ホールで三年ぶりに、と言っても私から見ればだが、とにもかくにも再会した」

「つまり彼女は、あのビルの外観を目撃していることになるね」

「至極、自然の成り行きだな」


ステイルは嘆息する。
おおかた上条当麻の身でも案じたのであろう。
だがその結果『悪い魔術師』に拐かされているのでは、角を矯めて牛を殺すどころか
牛に殺される牛飼いのごとき愚昧ではないか。
そういうところが自信過剰だというのだ。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 22:39:57.68 ID:7JZrLjMN0<>

無用の憤慨に没入しそうになってステイルは額を叩く。
本題を眺望するための高台は、当然まったく別の角度にあった。


「しかし、彼女は覚えていなかった。周りの景色を少し見渡せば違ったのかもしれないがね」

「…………なに?」

「学園都市第一七学区、『三沢塾』の存在していたビル。その跡地には現在まったく別の
 建築物がそびえているのさ。知らなかったのかい?」



極東の島国特有の梅雨が雨傘をしとしとと打つ、鬱然とした音色が思い起こされる。


『けっこう“新しく”て綺麗なビルなんだよ! ねえステイル?』


青髪キツネ目の変態に道端で出くわして、案内された先。


『……ああいや、確かに新しいビルだね。“最近建て直した”のかい?』


あの時の会話は、一言一句に至るまで精密に回想できる。


『なかなか勘がええなぁ。実はここ、“十年ぐらい前から”怪談スポットとして有名な
 廃ビルだったんや』


それほどに深く、印象に焼き付いていた。



「泣く子も黙るおもちゃシェアナンバーワン、って知ってるかい? 錬金術師のかつての
 アジトはいま現在、金ではなく夢を創る生業で賑わっているんだよ」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 22:41:17.17 ID:7JZrLjMN0<>

あの日、『Delight Measure』営業主任、青髪ピアスは言った。


――――もちろん目の前のコレは二年ぐらい前に建て直した新品――――


『三沢塾』が二年以上前に取り壊されていた。
それを聞いたステイルは、一つの可能性が現実となったのではないかと睨み、
密かに情報を集めはじめた。

なぜなら、思い出したからだ。
ローマ正教の裏切り者を排除するために送りこまれた十三騎士団の一部隊が、
高位魔術『グレゴリオの聖歌隊』の直撃をあのビルに浴びせたことを。


       アルス=マグナ
そしてそれが『黄金錬成』によってあっけなく『元に戻され』た、あの衝撃的な光景を。



「俄然、わからんな。それがいったい、私の身に起きた事象にどう繋がるのだ」

「上条当麻の『右手』。もちろん忘れていないだろうな」

「断然、できることなら忘れたいがな。しかしあの少年によってインデックスが救われた
 という事実もまた、無視するわけにはいかん」

「きっぱり無視して逆上丸出しで襲いかかってきただろうが…………まあいい、昔の話だ。
 重要なのは『幻想殺し』が『黄金錬成』を無効化したという、その点さ」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 22:42:28.06 ID:7JZrLjMN0<>

いくら『黄金錬成』が術者の思いのままに世界を歪める前代未聞の大魔術だとは言っても、
魔術であるという現実からは逃れられない。
『無効化』は有効であったし、術者の精神状態次第でなにかの拍子に解呪され得るのだ。
十一年前ステイルは、アウレオルスが上条に敗れて記憶と魔術を失った時点で効力は
失われたのだとばかり思いこんでいた。

しかし、それならば。


「上条当麻の『右』が炸裂した時点で、あのビルは崩壊を始めていなければおかしいんだ。
 なにせほんの一刻前に、『グレゴリオの聖歌隊』で真っ二つにされたばかりだったんだからね」


ステイルは一つの仮説を立てた。


“アウレオルスが意識を飛ばしたあの時点では、『黄金錬成』は解除されていなかった”


導ける結論は、やはりただ一つきりである。


“『黄金錬成』の効果は『三沢塾』という目に見える形で、学園都市に残存し続けていた”


少々常識の通用しない結論ではあるが、『黄金錬成』は『禁書目録』でさえ解析の
叶わなかった空前絶後。
『右方のフィアンマ』による『融合』を直視した現在のステイルからすれば、あり得ない
ことなどでは決してあり得なかった。

そして、結論の上に事実を積み重ねる。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 22:43:40.94 ID:7JZrLjMN0<>

“二年以上前に『三沢塾』は取り壊された”


壊された、と青髪はそう言った。
しかしステイルは別の可能性に思い当たり、数年前の情報にサーチをかけた。
はたして、『結論』を補強する根拠は意外なほどあっさりと見つかる。



『元進学塾の廃ビル、丑三つ時に謎の倒壊!! 受験戦争に散った敗残兵の怨念!?』 



三年前に刊行された、くだらない三流のゴシップ記事。
だが、それで十分であった。
モノクロ写真に描き出されていた『かつてビルだった物』は、ステイルの十一年前の
記憶そのままの崩落を、時を越えて遂げていた。

事実と結合した結論は、とうとう真実の姿を映し出す。


「…………廃ビルだったのが、不幸中の幸いだったね。人死にが出たという記録は無かったよ」



即ち、『黄金錬成』の八年越しの解呪。



<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 22:45:02.46 ID:7JZrLjMN0<>

かつて錬金術師の思いのままに歪められた『現実』は、引き絞られた弓矢が戻るように、
猛烈な反動をともなって『現在』を穿ち貫いていた。
かくして真実に到達したステイルは、その原因を――――


「――――術者の正真正銘の『死』に求めた、というわけさ。僕は君がどこかでついぞ
 のたれ死んだから『黄金錬成』が解けたのだと、そう推理した」


軽く息をつく。


「しかし君は五体満足でこのロンドンの地を踏んでいる。正直な話、幽霊を見たとでも
 思いこみたくなったよ」


アウレオルス=イザードは生きて、此処にいて、呼吸をして、心臓を拍動させている。
ご丁寧に、生来の顔かたちと記憶までしっかりと取り戻して。
つまるところ、『黄金錬成』の解除は彼の死がトリガーではなかったのだ。

では、一体?
ステイルは感情を押し殺した低い声で話題を転換する。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 22:46:09.88 ID:7JZrLjMN0<>

「アウレオルス。君はなぜ、今日。よりにもよって今日という日にロンドンに現れた?」

「“今日”…………? 憮然、なんの話をしているのだ」

「惚けるな。今日は……いや、あと二時間もしないうちに訪れる“明日”は」


一旦そこで区切った。
正体不明の恐怖と根拠のない自信が、同時に沸き上がる。


「七月二十八日、だ」


ステイルには、アウレオルスがこの日付の指し示す“一致”をどう捉えるのか、
聞かずとも分かった。


「………………ふ、はは、なんと。これも神の思し召しというものか」


錬金術師が力ない笑みをこぼす。
利き手で顔面を覆い隠し、天を振り仰いで、きっとこう言う。


「起こり得るのだな、こんな“偶然”が」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 22:47:17.53 ID:7JZrLjMN0<>

偶然。
偶然、偶然、偶然偶然偶然!
大声を上げて高笑いしたいのはこちらの方だ。
あり得るか、そんな偶然が!


(あり得ない)


なぜなら『三沢塾』の倒壊を報せた件の記事は、こう書き出されていたのだから。



『“七月二十八日”未明、学園都市第一七学区に轟音が響いた――――』



「もう一つ、質問に答えてもらうぞ」


殺気すらほとばしらせて、ステイルは男につかつかと詰め寄る。
対してアウレオルスは己が身に降りかかった運命の残酷さを嘆き、虚ろに笑うばかりだった。


「答えろッ!! アウレオルス=イザードッ!!」


その胸倉を思いきり掴んで引っ張り上げ、生気の削げ落ちた相貌を真正面から睨みつける。


「貴様はいったい、どうやって記憶を回帰した!! 『アウレオルス=イザード』に
 帰ったその瞬間、どんな状況だったッ!」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 22:48:19.44 ID:7JZrLjMN0<>

偶然などではない。
運命などという使い古された文句で済ませるつもりもない。
疑いを差しはさむ余地など微塵もなく、これは“作為”だった。

“誰か”が、目的をもって『死者』を生き返らせたのだ。


「誰か……誰かがッ! 近くにいたりはしなかっ」

「私は、突如として目覚めた」


頬骨が引きつるその動作が、発声のための筋肉収縮だと気が付くのにしばらくかかった。
本当にその男が発した声なのかと、半信半疑で表情を窺いたくなるほど薄弱な響きだった。

目が合った相手は、亡霊だった。

ステイルは一瞬本気でそう信じた。
それほどまでに、アウレオルスの双眸には一切の光も見受けられなかった。


「ある朝目覚めると、唐突に、なんの前触れもなく『アウレオルス=イザード』が、それまでの八年を駆逐するかのように、脳の内側に現れた。鏡の前に立つと、慣れ親しんだそれではないのに、懐かしいと思える顔がその向こう側に在った。私は、気が付いたら鏡を叩き割っていた。近隣の住民が物音を聞きつけて何事かと姿を見せた。すると彼らは、示し合わせたように私を指差してこう言った」


『あんたはいったい誰だ? この部屋の住人はどこにいった?』


「違う。私は、私だ。貴様らの隣人だ。しかし同時に……私は、アウレオルス=イザードだった。ならば、アウレオルスとは何者だ? 当然、その疑問に私は答えようとする。そこで私は」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 22:49:29.98 ID:7JZrLjMN0<>

「アウレオルスとは何者なのか、なんのために生きていた存在なのか、ただそれだけを思い出した」


焦点の合わない瞳は、虚空の一点に固定されてびくとも動かない。
淡々とした独白の中に底知れぬ狂気を垣間見た気がして、ステイルは身震いした。


「記憶の彼方のインデックスの笑顔は、色褪せてはいなかった。しかしそれ以外がすっぽりと抜け落ちて戻ってこない。矢も盾もたまらず私は、真っ先にインデックスの安否を探った。彼女はイギリス清教に戻っているらしい、それは存外あっさりと知れた。差し当たり、安堵した。良かった、生きている。生きている…………生きている? 何故だ? 彼女は救われたのか? あるいは、死の連環にいまだ囚われたままなのか? 私は、成功したのか? …………成功とは、なんだ? 私は、なにを為そうしていたのか?」


もはやその視線と意識は、胸ぐらを掴む神父など置き去りにしていた。
ひとつひとつ、魂を吐き出すような自問に、答えを返す者など当然いない。
この三年間、ずっとそうだったのだろう。
『自分だった』男の八年間を理不尽に、唐突に否定されて、アウレオルスはまたひとりになった。

それはなんという、果てなき無間の孤独なのだろう。


「そこから、だ。そこから先の記憶を回帰するのに、実に三年の時を費やした。脳裏にかすかに蘇る残像を手掛かりに、ひたすらに世界を彷徨った。一番はやはりローマ正教に戻ることであったのだろうが、すんでのところで己が背信者の咎を負っているのだという過去が帰ってきた。故に余計に時間をくった……否、もしかしたらなんの因果関係もないのかもしれん。私の脳のどこかで破壊された記憶の櫃を修復したのは、時間以外の何物でもなかったのだから。やがて……やがて、としか表現しようがないが、ただただ時間に後押しされて、私は思い出した。吸血鬼。永遠の生命。吸血殺し。三沢塾。侵入者。黄金錬成」


血走った眼が限界まで見開き、ようやく至近距離にいるステイルを捉えた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 22:54:01.41 ID:7JZrLjMN0<>

「そして、いま。貴様が語ってくれた真実が、閉ざされたままだった最後の扉を
 こじ開けてくれた」

「なにが言いたい」

「七月二十八日。私の人生があまりにも目まぐるしく、大きな転機をむかえた日だった」


ステイルは、辛いのは貴様だけではない、と声を大にしようとして思いとどまった。
誰がどう見ても、この男は自分よりはるかに暗く冷たい地獄をくぐっている。


「………………僕だってそうだ」


そう思うと、それ以上の言葉を継げなかった。


「人生最悪の一日、か?」

「間違いないね、忘れられないよ。終わりの見えない絶望に負けて、へし折れた
 あの日のことは」

「そうか、そうか………………必然、当然、自然。当たり前だな…………ふふ、ふは、
 ふははははっはははははははははっ!!!!!!!」


哄笑が狭霧の漂う空気に風穴をあけるように、高らかに吹き抜けた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 22:54:58.55 ID:7JZrLjMN0<>

「しかし私には、あるのだ! “七月二十八日”を越える、甘美なる絶望に浸った一瞬が!!」


狂気の先に隠れていた絶望。
絶望が呼ぶ狂気。


「私がどうしても思い出せなかったのは、記憶を失う、まさにその刹那の事だった。
 しかし、回帰できなくて当然だったのだ。私は、まさしくその記憶を封じ込めて
 しまいたくて」


無限の連鎖に絡め取られた錬金術師の満身を。




「自らに、『黄金錬成』を、能動的に、発動したのだから」




色の無い絶望が染め上げていった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/26(土) 23:01:14.45 ID:7JZrLjMN0<>
⇒ TO BE CONTINUED ……


読んでくだされば分かるとは思いますが、>>1考える禁書一不憫なキャラはアウレオルスです
ステイルや上条さんなんてまったく目じゃないほど不幸で、報われない人です
そういう人たちにスポットライトを当てるためにこのスレを立てたのだと言っても過言ではないでしょう
特に主役がステインである以上は絶対に話の本筋に絡んでもらおうと思ってたので、前々から伏線を張っておきました


明日は九時ごろに来れたらいいなー
ではまた明日
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(愛知県)<>sage<>2011/11/26(土) 23:09:27.71 ID:d8f0HEqQo<> 乙

確かに救いが何もないな…
おれ似のイケメンなのに <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(チベット自治区)<>sage<>2011/11/27(日) 01:48:06.37 ID:gp+X4daIo<> 乙です。
アフターものでは(原作はまだ終わってないけど)圧倒的に面白いと思います。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/11/27(日) 11:30:34.43 ID:be2Z6PUxo<> アウレオルスって大抵の二次創作でもスルーされるという
そういう意味でも不遇なキャラなのに描写と考察丁寧ですげぇ・・・
相変わらず引き込まれるわぁ <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/27(日) 21:16:01.41 ID:kmGBCeEf0<> >>574
そげぶ

>>575
そげぶ

>>576
そげ……スルーされるってそのキャラ好きな側からすると辛いですよね

では今日も今日とてさくさく行っちゃいますかね↓ <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/27(日) 21:17:07.61 ID:kmGBCeEf0<>

死にかけた心で錬金術師は笑う。
魔術師にできるのは、その肉体を乱暴に引きずり上げることのみだった。


「やはり意図的だったのか、あの時の、最後の黄金錬成は…………!」

「眼前に、得体の知れぬ異能の持ち主。背後では貴様があの子を抱き上げて、勝ち誇る
 ように笑っていた。もういやだ、なにも考えたくない、忘れてしまいたい!
 ……忘れる? そうか、忘れてしまえばいい」


アウレオルスの四肢から力が抜ける。
しかしステイルは、掴みかかった腕を離さずにその全体重を支えた。

折れるんじゃない。

言外にそう伝えようと、ステイルは渾身の力を掌にこめた。


「私は…………絶望に向き合えず、すべてを忘れてしまいたくなった。身も心も、
 インデックスとのかけがえのない過去すらも打ち捨てて、別人になりたくなった。
 あそこまで、落ちるところまで落ちながらなおも掬い上げたかったはずのインデックスを」


しかし、声なき声は届かない。
錬金術師の悲嘆の、その最果てにあったものは――――

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/27(日) 21:17:43.70 ID:kmGBCeEf0<>





「私はあの瞬間、絶望に負けて、己が身よりも下に置いたのだ」






――――望まざる真実だった。


「黙れ」

「もうあの子の事などどうでもいい。疲れた。楽になりたい。はは、ははははは…………
 笑え、ステイル=マグヌス。私はあの時、そんな事を考えていたのだ。あらゆる犠牲を
 厭わず、インデックスを救おうとした筈の私は、あろうことか己が身可愛さにあの子を
 投げ捨てたのだッ!!」

「黙れ……!」

「そんな私には、あの子を視界に入れる資格すらない」


握り拳が出かけたが、すんでのところで自制した。


「黙れと言っているッ!!! 資格だと? 戯言をぬかすな!」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/27(日) 21:18:28.14 ID:kmGBCeEf0<>

インデックスを諦めなかった男が、なにを無力に崩れ落ちようとなどしているのだ。
彼女に懸けた己の過去をも乏しめるその諦観は、なによりもインデックスに対する侮辱だ。
納得などできるはずがなかった。

そんなステイルに、薄気味悪く男は笑いかける。


「蓋然。理解できぬか、ステイル=マグヌス。貴様は言ったな。
 『黄金錬成は、なぜだかは知れぬがすべて解除された』と。
 ならば思い出してみろ。私が『黄金錬成』を行使した、すべての事跡を」


狂乱と憂愁を行き来するアウレオルスに気圧され、言われるままに回想する。

ステイルと上条の記憶を、一部分だが改竄した。
『グレゴリオの聖歌隊』を反射した。
姫神秋沙を――――殺した。
ステイルを宙に舞い上がらせ、世界一グロテスクなプラネタリウムに化けさせた。

…………上条の迫真の演技の副産物として事なきを得たとはいえ、記憶のアルバムから
絶対に引き出したくない一枚だったのだが。

次々に凶器を生み出して、上条当麻の右腕を切り飛ばすにいたった。
脳内に生まれた『勝てない』イメージに負け、自滅し“全て”を喪失した。


「現然、もう一つあるではないか」

「もう、一つ…………?」


眉をひそめても答えは出ない。
アウレオルスの自虐じみた笑みがいっそう深まるだけだった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/27(日) 21:19:37.40 ID:kmGBCeEf0<>

「『死者蘇生』だ」

「…………っ!!」


ついに、ステイルの手がスーツの襟口から離れた。
唇を強く噛む。
真実の裏側に隠れていた血腥い罪過の色は――――鮮やかな赤だった。


   グレゴリオ・レプリカ
「私が『偽・聖歌隊』で操作し、『黄金錬成』の多重同時詠唱を行わせた『三沢塾』の
 学生たち。その数およそ二千人、だった。能力者であるにも関わらず超高位魔術を
 行使し、一人残らず哀れな骸と変わり果てた彼らを、私は十一年前、『元に戻し』た」


ステイルは思わず後ろを、自身の過去を顧みた。


「さて、ロンドンの神父よ。私が『元に戻し』たビルには三年前、何が起こったのだったか?」


首を戻して、アウレオルスの後背を覗きこむ。
二人の男の歩んできた道は、等しくある“もの”に埋め尽くされていた。


「私はそこまで、徹頭徹尾猛悪兇徒になどなりきれん。彼らには何の罪もなかった。
 十三騎士団のように私の邪魔立てをするべくはだかったわけでもなければ、姫神秋沙
 のようにすべてを承知の上で協力したわけでもない。そんな彼らが、『黄金錬成』の
 解けたその瞬間どうなったのか、想像に難くないだろう」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/27(日) 21:21:05.59 ID:kmGBCeEf0<>

死。

死、死。
死、死、死。
屍の、死体の、骸の山。


「愁然。さらばだ、ルーンの魔術師よ。私は贖罪せねばならん……偽善者ぶりたいわけ
 ではない。だが自らの心が、錆付ききっても辛うじてまだ動く“信念”が、罪なき命
 を意味も価値もなく摘みとった、その事実を赦すわけにはいかないと叫ぶのだ」


錬金術師は神父に背を向けた。

  H o n o s 6 2 8
『我が名誉は世界のために』。

                                    しんねん
アウレオルスが、かつてたった一人の少女のために歪めた『魔法名』。
それに従って、男は踵を返す。

――――もと来た道を、地獄へと。


「待て…………待てッ!! まだ話は終わっては」


追いすがる黒衣の魔術師。
その背中に。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/27(日) 21:21:43.52 ID:kmGBCeEf0<>
















「すている………………そのひと、だぁれ?」

「…………………………え」


とうとう、時計の針が追いついた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/27(日) 21:22:31.38 ID:kmGBCeEf0<>

薄闇に泥む霧の都で、その一か所だけが月光に照らされているようだった。
月輪そのものが降りてきたようだった。



「イ…………イン、デック、ス?」



ただしそれは極限まで輪郭を失った、真っ暗な新月だった。
純白の聖衣をまとう聖女が放つのは、黒い月明りだった。
錬金術師が震えながら呻く。



「あなたは、わたしのことをしってるの?」



ビッグベンが鳴らす十二時の鐘は正午のみ。
宵闇には決して響かない。



「ああそっか、そのひと“も”そうなんだ」



だがステイルの鼓膜は、ありもしないウエストミンスターの鐘の音を確かに受け取った。
ステイルにはそれが、弔鐘にしか聴こえなかった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/27(日) 21:23:03.53 ID:kmGBCeEf0<>





「そのひとも――――――――わたしが『ふこう』にしたひとなんだ」







<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/27(日) 21:24:16.83 ID:kmGBCeEf0<>

ステイルは立ち尽くすことしかできなかった。
ほんの一時間後に愛を告げようと決めた女性は、たったいま何を言った?

不幸。
アウレオルス=イザードが、不幸。


「すべて、聞いていたのか?」


返事はなかった。
ステイル自身も混乱の極みの真っただ中だった。
そもそもどうしてインデックスが此処にいるのだ。
すっかり手慣れた『人払い』を、この期に及んで怠るような蹉跌を犯した覚えは――――


(っ! 馬鹿か、僕は……!)


アウレオルスの名を聞かされてからこっち、いかに自分の焦燥が深かったのかを
ステイルは思い知らされた。
確かに人避けのまじない自体は、錬金術師に対面した次の瞬間には発動させていた。
その点に関してミスはない。

しかし二人の『失敗者』の血腥い対話に、間違っても立ち入らせてはならなかった
人物とは誰なのか。


(そうだ…………ついさっきも、僕は確かめたばかりじゃないか)


十一年前、上条当麻を案じてステイルのルーンをたどってしまった少女の軽率な行い。
それを鑑みれば、現在のインデックスがロンドン市内で行使されているステイルの魔術を
感知してどのような行動に出るのかなど、火を見るより明らかだったではないか。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/27(日) 21:25:21.02 ID:kmGBCeEf0<>

激しい目まいに吐き気すら感じた。
兎にも角にも、今はインデックスになにかしら声をかけねば。
たとえあと一秒でも彼女にあんな、絶望に満ちた貌をさせていたくはない。

絶望。

背後の錬金術師がどっぷりと肩まで浸ってしまった闇と同種の銷魂。
しかし同時にまったく未知の――――――正体不明の絶望。
満月に照らされた学園都市の一角で、彼女の身体を抱きしめた時と同じ。
いまにも此処ではない何処かへ消えてしまいそうだった震える身体をこの世に繋ぎとめ
たくて掻き抱いたあの日と、インデックスは同じ表情をしていた。




「――――――――――――――――――い」




「最大主教、まずは僕の話を……………………、な?」


パタン。
軽やかな物音がした。

ステイルは聖女のいるべき方向に目を向ける。
しかし誰もいない。
消えた。
インデックスの姿が忽然と消え去っていた。
馬鹿な、どこへ。
ステイルは狂ったように三六〇度くまなく、長髪を振り乱して愛しい人の痕跡を求める。

そういえばさっきの物音はなんだろう。
ふと思いついて不審音の発生源に向き直ると。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/27(日) 21:26:23.61 ID:kmGBCeEf0<>

「何故だ」


地べたに屈むグレーの三つ揃いが認められた。
自らの長身が災いしたのか、あるいはアウレオルスのことなど頭から吹き飛んでいたからか。
ステイルはうずくまるる男の存在を、ぽっかりと空いたデッドゾーンに置いてすっかり
無視していた。


「どうしてだ?」


錬金術師の傍らに白い塊。
なんだろう、あれは。
人間ほどの大きさだ。
人間で言う四肢の部分に、丁度人間の手足ほどのパーツが伸びている。
人間で言う胸の部分が、深呼吸するかのように緩やかに上下している。
人間、まさしく精巧な仏蘭西人形のような端整でいて愛らしい顔だちが、瞑目し紅潮している。
人間?
ああ、人間だ。


インデックス=ライブロラム=プロヒビットラムは、疑いようもなく人間だ。


「最大主教?」


倒れ込んでいた。

ステイルの守るべき人が、今度こそ守り通さなければならない女性(ひと)が。
頬を赤らめて、胸部を上下させて、唇を濡らして、口から荒く呼気を吐き出して。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/27(日) 21:27:05.27 ID:kmGBCeEf0<>

「え?」


ステイルは知っていた。
眼前で繰り広げられる光景が、拭い難い悪夢のリバイバル上映だと、はっきりと。
これは、これは、これはこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれはこれは


「答えろ、ステイル=マグヌス。これは――――――『発作』ではないか」

「……………………あ…………え…………?」


足取りが覚束ない。
時の流れに対して、自身の置き場がいずこなのか把握できない。
右往左往し、前後不覚になり、上下に揺すぶられる。
そんな感覚を一分か、十分か、はたまた永遠に等しい時間、味わってから。
ステイルは胸ぐらを誰かに掴まれて、ふいに現世に帰還した。


「なぜだッ!!? 彼女は救われたと、貴様はそう言ったではないか!?
 私の行いなどなにもかも無意味だったと、私を嗤ったではないか!?
 なのに、なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでッ!!!」


無様に唾をまき散らし、涙や鼻汁にまみれた男を嘲笑う精魂など、今のステイルには
なかった。



「どうして、インデックスは死にかけているッッッ!!!!!??」



<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/27(日) 21:27:45.22 ID:kmGBCeEf0<>

彼女が死ぬ。



--------------------------------------------------------------------------



『君はたとえ全てを忘れてしまうとしても――――』


さようなら、と笑顔で死んでいった一人目の彼女。


『ごめん、ごめんごめんごめん』

『僕たちは、また君を助けられなかった』


忘れたくない、と泣きながら死んでいった二人目の彼女。


『僕が、わかるかい?』

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/27(日) 21:28:26.09 ID:kmGBCeEf0<>

『生』まれて最初に視界に入った少年の苦渋を見てとって、なぜと問うよりも先に
その瞳を濡らす雫を拭おうとした、三人目の彼女。
彼女は何度『死』んでも、変わらぬ“彼女”であり続けた。


『なかないで』


いつ何時も、誰かの涙を止めようとする優しい少女だった。


『あなたがなんで泣いてるのか、わたしにはわからないけれど』


そうか。
何度死んでも彼女は“彼女”なんだ。
次に失敗したって、きっとまた“彼女”に逢えるはずだ。
なら今回また、精一杯頑張ればいいじゃないか。
なあに、恐れることなどなにもない。
次に彼女が『死』んでも、そのまた次がある。
何度でも何度でもあがいてもがいて。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga !red_res<>2011/11/27(日) 21:28:56.52 ID:kmGBCeEf0<>






仕方がないから、失敗するたびに“彼女”には『死』んでもらおう。







<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/27(日) 21:29:40.49 ID:kmGBCeEf0<>

『っ、あ?』


そんなことを考えている“なにか”を、ステイルは見つけた。
見つけてしまった。


                 ――次は頑張るよ――


             ――方法なんていくらでもあるはずさ――










     ――――だから今度の一年も、辛いだろうけど我慢してくれ――――



                               ミュータント
護ると誓った少女の遺影に向かって、そう語りかける 怪 物 の存在に。


『ああ、う、っあああ゛あ!!』


少年は、気が付いてしまった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/27(日) 21:30:26.64 ID:kmGBCeEf0<>

『もしかしたら、あなたの力になれるかもしれないんだよ』


“彼女”と同じ姿、同じ声、同じ顔をした彼女が優しく声をかけてくれる。
二人の少女の死を、仕方のないことだった、と過去形で済ませようとした少年に。
この先も増え続ける少女たちの死体を、仕方のないことだな、と割り切ろうとした少年に。


どこまでも慈悲深く、どこまでも穏やかに、どこまでも――――――残酷に。







『――――――あなたが誰なのか、わたしにはわからないけれど』

『あああああぁぁぁぁぁああああぁぁああああああああああああああ!!!!!!!!』







<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/27(日) 21:31:23.88 ID:kmGBCeEf0<>

そうやって過去、たった二回の失敗で少年の心はへし折れた。


-------------------------------------------------------------


「なんだ、それ」


そして、現在。


「どうして、こんな…………………っ!」


打ち砕かれたはずの死の連環が――――『首輪』が蘇り、再び彼女を縊り殺そうとしている。



「なんだ、それはぁぁあああああぁぁぁぁああああぁああああっっっっ!!!!!!」



圧しかかる絶望が青年の膝を折る。
カラン。
無機質な音を立てて懐中時計が懐から滑り落ち、衝撃で蓋が開いた。
二つの針に導かれる“今”が、刻一刻と“今日”と“明日”の境界線へ迫っていく。


(ああ、そうだ)


もうすぐ明日が、七月二十八日がやってくる。
そういえば、明日は、“あの子たち”の

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/27(日) 21:32:30.56 ID:kmGBCeEf0<>

Passage5 ――Anniversary――




Passage5 ――     Anniversary――











<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga !red_res<>2011/11/27(日) 21:33:03.61 ID:kmGBCeEf0<>




            め い に ち
Passage5 ――Death Anniversary――






<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga !美鳥_res<>2011/11/27(日) 21:33:40.46 ID:kmGBCeEf0<>
----------------------------------------------------------------


よかったじゃあないか、ステイル=マグヌス

十一年ぶり、四度目の選択肢の到来だ

君は知っている

君が逃げ出した答えに、必死で向き合った主人公の存在を

彼の選択を

いまこそ、ヒーローになるチャンスだよ?

立ち上がれないのならば私がいくらでも手を貸そう

では思う存分、心ゆくまで





――――――絶望しようか





Passage5――――END

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/27(日) 21:34:58.30 ID:kmGBCeEf0<>
⇒ TO BE CONTINUED ……


七月二十八日は初代上条さんの命日で二代目上条さんの誕生日ですが、
ステイルたちからすればこういう日ですよね、というお話でした

読み返すと身体が痒くなるのでほとんど推敲してません
誤字脱字を見つけたら指摘くださると嬉しいです

ではまた明後日
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(京都府)<>sage<>2011/11/27(日) 21:40:08.54 ID:zQDE3EDZ0<> 話の展開が熱すぎる・・・乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/11/27(日) 23:14:40.01 ID:c0rWopAK0<> どっかの両方右手な人を彷彿とさせる凝った演出
乙です <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/11/27(日) 23:16:19.91 ID:nv3bgSeUo<> 乙なんだよ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/11/28(月) 01:09:57.97 ID:Nh4aDwpNo<> さぶいぼ出まくり・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/11/28(月) 18:45:53.99 ID:03s0maN50<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(チベット自治区)<>sage<>2011/11/28(月) 18:59:49.05 ID:fpInGEnDo<> 乙です <> >>1 ◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/30(水) 00:39:38.51 ID:hSErwGdl0<>
>>601
あの人ぐらいの地力がないと……って感じじゃありません?

他の皆様もありがとうございました
気が付けばこんな時間、さくっと行ってさくっと寝ますの↓ <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/30(水) 00:40:16.29 ID:hSErwGdl0<>

――Passage6――



どこの国のいずことも知れぬ場所。
星屑が瞬き、日輪が輝き、大海がさざめき、大地が蠢く。
この世のものとも思えぬ景観。
宙空に、一人の“人間”が漂っていた。


「さあ見せてくれ、ステイル=マグヌス。君の選択を」


男はこの世の存在ではなかった。
さらに言えば、男がたゆたうこの空間こそが『この世ならぬ世界』そのものだった。
男は三年の間、ただただ下位世界たる『現象』を眺めていた。
日々移ろい、しかし何者にもまつろわざる世界の在り様を観察し続けていた。

だから、男はひとりだった。
いや。
ややもすると、男がひとりでなかった瞬間など彼の人生にはなかったのかもしれない。
たとえ――――


「随分と楽しそうね。まさか“ここ”が、貴様の楽園(イデア)というわけでもない
 でしょうに」


その背を、ひしひしと殺気をまとった来訪者の視線が貫いていようとも。

男は闖入者を振り返らない。
空を切り取って描き出された真四角のスクリーンに、男の視線は釘づけだった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/30(水) 00:41:40.94 ID:hSErwGdl0<>

「モニタ越しでない邂逅は何時以来だったか……どうだ、君も観ていくかい」


歪な劇場、歪んだ脚本。
紗幕に投影された悲劇は絶望の度合いを加速度的に深め、中心でうずくまる赤髪の神父の
悲嘆をあますことなく伝えてくれた。
男の望んだ結果が、いま正に訪れようとしている。


「あの子になにをした」


闖入者の声色は不自然に、ローラーでもかけたように平坦に均されていた。


「私が返せる答えは一つだけだ、『ローラ=スチュアート』」


応じる男の声はといえば、愉悦を隠そうともしていない。
しかしそれは同時に無機質な響きを伴って、どこか空疎にも聞こえた。
視線の交わらぬままに、言葉だけが交わされる。



「なにも」



男――――アレイスター=クロウリーは、ただそうとだけ言って、かすかに笑った。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/30(水) 00:42:43.27 ID:hSErwGdl0<>
-------------------------------------------------------------------------

ローラはずっとずっと、アレイスター=クロウリーの背中を追い求めて生きてきた。
英国清教の利権だの、勢力伸張の先にある世界の覇権だのは、“そこ”に至るまでの
過程で必要だったから手中に収めた、というだけのものだった。
いまこの場所に己が居る事実さえあれば、もはや路傍に打ち捨てても構わない過去。

彼女の人生は、この瞬間のためだけにあったと言って過言ではなかった。


「惨めな姿に成り下がったものね。かつて0と1では描写しきれぬ異界の住人であった
 貴様が、いまではあろうことか、その『0と1の世界』でしか生きられないなんて」


この七十年というもの、寝ても覚めてもローラの頭を占めるのは彼への、
アレイスターへの――――――焦げ付くような憎悪だった。


「よく、この場所がわかったものだ」

「あの錬金術師がロンドンに現れたと聞いたわ。貴様が一枚噛んでいるのなら、
 必ずやその『目』で見るためにここに“いる”と」

「そちらではない」


だから、なのだろう。
かつて『フィアンマ』の口を封じるべく、自ら出陣した彼をいち早く探知できたのも。
『右方』に、青年自身にすらそれと悟らせず『プラン』を受け渡した、彼の計画を察知
できたのも。


       このばしょ
「よく、私が『滞空回線』にいるとわかったな」



現在のアレイスター=クロウリーの玉座が、この電脳空間であると突きとめられたことも。
きっとすべてローラの執念が、怨念が辿りつかせた境地なのだ。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/30(水) 00:44:09.34 ID:hSErwGdl0<>

三年前、四次大戦終結の日。
アレイスターの失踪とほぼ時を同じくして、計ったかのように流出した技術があった。

                                  アンダーライン
最悪の大魔術師にして科学へ傾倒した背徳者の魔眼、『 滞 空 回 線 』。


それは現在の学園都市統括理事長たる親船最中の手をすり抜けて、東京の大コンツェルン
にいとも容易く渡る。
現在は『アイテム』という若者たちの活躍もあって健常な管理下に置かれているが、そこ
には埋めがたい『数年の空白期間』が厳然と存在していた。

ローラは事のはじめから、そのあまりに鮮やかすぎる手際に疑念を抱いていた。
戦争という異常事態に長年君臨したワントップの蒸発も重なり、確かに当時の科学サイドは
揺れに揺れていた。
流出の危機にあった非人道的応用性の高い技術は、他にもごまんとあっただろう。

しかし、ことが『滞空回線』となれば話は別だ。

あの忌むべき悪魔の目は、ほかでもないアレイスター自身が運用していた肝入りの『科学』である。
おいそれと外部の人間が、内部の人間を出し抜いて集中管理システムを掠めとれる代物ではない。



『第四次世界大戦での彼の敗北は、アレイスター=クロウリーの「プラン」の一環だった』



――――内部の者の手引きでもない限りは。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/30(水) 00:45:12.77 ID:hSErwGdl0<>

ローラ自身が導いたステイルの仮説――ローラは真実だと確信しているが――に従うならば
『滞空回線』の流出もまた、アレイスターの『プラン』の一翼を担っていたと見て間違いない。

財閥との間に密約を結んでいたか。
あるいは“誰か”にそうしたように、必然的に『目』が外へと移動する状況を作り上げたか。
ローラは後者だと踏んでいる。
知らず知らずのうちに他者を利用して、己の画餅を現実のものとするその手腕。
誰かさんにそっくりだ、とローラは毛の先ほどの自己嫌悪に似たものを感じて苦笑した。


いま現在、『滞空回線』のホストコンピュータは学園都市の『アイテム』社内に在った。
真に子供たちの行く末を案じる為政者のもとにある限り、その科学力が妄用の憂き目に
遭うことは二度とないだろう。

だが彼らがすべての『目』の所在を把握しているのかと問われれば、ローラは疑問符を
浮かべざるを得ない。
なにせ『滞空回線』を構成する一つ一つのユニットは、わずか70ナノメートルのシリコン塊。
数年間、外部の研究機関の支配下に置かれていたという未知の領域(ブラックボックス)も
見逃せなかった。
もちろんコントロール中枢が学園都市きっての武闘派、『アイテム』の監視に二十四時間
さらされている事実を照らし合わせれば、物理的なコンタクトはおろかネットワーク上でも
侵入は困難を極めるだろう。


しかし『アイテム』が『滞空回線』を奪取した時点で、すでに“中”に何者かが侵入して
いたとしたら?
桁外れの情報集積力と機密保持性は、そのまま“中”に隠れ棲む者の安全を保障する巨大
なセーフティネットへと早変わりである。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/30(水) 00:45:59.70 ID:hSErwGdl0<>

斯くしてアレイスター=クロウリーは。


『存在』を規定する肉体と引き換えに、『意識』を規定する知識へと永遠の恒常性を与えた。





それが、ローラの出した結論だった。





<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/30(水) 00:47:08.64 ID:hSErwGdl0<>

「そういえば君は、どうやってここに来たんだ。『原子崩し』以下、『目』を守る幾多の
 能力者を屠ってこの電子の海に飛び込んできたと、そういう解釈で構わないかい」


相変わらず目線はスクリーンに落としたまま、アレイスターはそう問うてきた。


「そのような些事、捨て置きなさい。これから消える者には関係のないことよ」


アレイスターが依然観賞を止めない大スクリーンにはくず折れるステイルと、狂気に
駆られて泣き喚くアウレオルス。
そして、死に魅入られたインデックスの姿が映っていた。
すなわち二人が“いる”このちっぽけなシリコン塊はいま現在、ロンドンの空を漂流
していることになる。


「“ここ”、ロンドンに繋がる回線はすべて遮断したわ。あとは街中に散らばるユニットを、
 余さず物理的に破壊してしまえば」


アレイスターは、今度こそ世界から消滅する。
三年前に、そして七十年前に死してしかるべきだった亡霊を、今度こそ。


「しかしそれでは、君も同じ憂き目を見ることになる。電気信号に変換(コンバート)
 された君の意識と人格は学園都市の肉体には戻れず、霊魂さえ残さず削除(デリート)
 されることになるが?」


宙を舞う男の声色には危機感の欠片もなかった。
できるはずがないと、高を括っているふうでもない。
ローラは冷え切った腹の底の塊をうかつに溶かさぬよう、一度深呼吸をした。


「もとより覚悟の上よ」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/30(水) 00:47:55.90 ID:hSErwGdl0<>

ローラが脱出のための回線を復活させた瞬間。
そこを突かれて、この男を電子の海に逃す可能性はなんとしても潰しておかねばならなかった。
ゆえにローラは。


「私と、共に消えてくれるのか?」


確実に、堅実に、絶対に。
この男を滅ぼすための道を選ぶ。


「反吐の出る思いではあるけれど、これしか手段がないのなら。いずれにせよ、
 私はもう長くない」


一つには、学園都市に残した肉体の安否だった。

アレイスターの言うように屍の山を築いたわけではないにしろ、ローラがこの場所に到達する
ために通過した道は、とてもではないが穏便なルートではなかった。
ローラは『神の右席』がそうしたようにもっとも警備の手薄となる時間帯、つまり日の昇る
直前を狙って、強行的に『アイテム』ビルへと突入したのである。
主力である『原子崩し』や『窒素爆槍』を欠いた警備チームをちぎっては投げちぎっては投げ、
安々とホストコンピュータへの侵入を果たす。
ハッキングには三月のインデックスの誕生日、『妹達』が贈った特別製のチョーカーにヒント
を得た、特注品のデバイスを用い。


そして肉体は――――――置き去りにしてきた。


今頃は報せを受けて到着した『アイテム』の中心メンバーが、抜け殻と化した
『ローラ=スチュアート』を取り囲んでいることだろう。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/30(水) 00:48:37.10 ID:hSErwGdl0<>

だが肉体を襲っているであろう絶体絶命の危機も、もはや些細な忘れ物だった。
『ローラ=スチュアート』という女は死んだのだ。


「ほう? ローラ=スチュアートともあろうものが、悲観的観測だ」


私をその名で呼ぶな。

そう吼えてしまいそうになって、ローラは唇を真一文字に固く固く結んだ。
アレイスターの茫洋とした眼差しが、かすかに細められる。


「………………やはり、覚えてはいないか」


わかっていない。
わかっていたことではあったがやはり、この男はわかっていなかった。
ローラが百年以上慣れ親しんだ肉体を投げ捨てた、もう一つの理由。
肉体。
実の親から貰った、かけがえのないからだ。




「もうすぐ、実の娘の天命が尽きるというのに。それすらも覚えていないのね、貴様は」




<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/30(水) 00:49:39.57 ID:hSErwGdl0<>

初めて、アレイスターが口を噤む。
やかましい鼓笛音のような不自然な静寂が、対峙する男女の狭間を通り抜けた。


「いいのかローラ=スチュアート、いつまでもこんな場所に居て?」


しかしそれも束の間のことで、男は何事もなかったようにまるで別な話題を振ってくる。
ローラには、動揺は見てとれなかった。


「見るといい、君の大事な大事な『禁書目録』が死に瀕している。君にとっては実の娘
 のような存在だろう」


ローラは思わず笑い出したくなった。
なにを言っているのだ、この男は。
インデックスは、ローラにとって“娘”などでは断じてない。
それを、ほかの誰でもないこの男が、知っていないはずなどないのに。


「“娘”、ですって? 笑わせるわね」

「しかし、彼女に死なれては困るだろう」

「だからこそ、私は此処にいる」

                                 さくじょ
この隔絶された逃げ場のない空間で、アレイスターを 『殺』 してしまえば――――


「『遠隔制御霊装』を破壊して、彼女を救える――――かな?」


ローラの肩が、よく観察してはじめてそれとわかる程度にだが、弾んだ。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/30(水) 00:51:34.80 ID:hSErwGdl0<>

『遠隔制御霊装』。

イギリスという国家が『禁書目録』に最低限の人権を保障するべく設けた、この世にたった
二つの『安全装置』。
一つは三次大戦の折に上条当麻の右手によって塵と消え、もう一つは長年ローラが自身の手
で保管してきた。

三つめなどまかり間違っても存在し得ない、インデックスの生死をも左右する禁忌のトリガー。
ローラはこれまでごく一部の権力者や魔術師にだけ、まことしやかなトップシークレットと
してそう告げ知らせてきた。

しかしそれこそが。
“どこにもない”はずの三つ目の『遠隔制御霊装』こそが。

ローラがアレイスター=クロウリーを追い求めた、“現在における”最大の理由だった。


「重ねて言うが」


ついに男が、女を振り返って向き合った。
ごくごく自然な角度に口の端が吊り上がる。
ローラにはそれがかえって、下手な憫笑よりよほど隠微に思えた。


「私は、なにもしていない」


ギリ、と自らの奥歯があげる軋み声を、ローラははっきりと聴いた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/30(水) 00:52:39.90 ID:hSErwGdl0<>

「ぬかせ。ならばあの子の、インデックスの現状を、いったい誰が招くことができる」

「さてね。少なくとも私ではない」

「いけしゃあしゃあと、貴様」

「ローラ=スチュアート。君はこの場所で、彼らの結末を坐して見届けるほかない。
 『滞空回線』の動作には外部からの電脳干渉か――――」


景色が急転した。
星々のきらめきが弾けるように四散し、天蓋に現れた黒渦に吸いこまれていく。
やがて光源は悲劇を映し出す銀幕のみとなり、空間に仮初の闇夜が訪れた。
なにもかもが男の意のままに姿を変える矮小な世界に、ローラは小さく舌を打った。


「この、『ロンドンの滞空回線』を掌握する私の許可が不可欠だ。さて、君の肉体の
 傍らにその干渉を施してくれる“誰か”はいるのか?」


そんな人間はいない。
事ここに及んで、ローラは他者の助力など借りてはいない。
この男だけは、ローラが自らの手で殺さなければ意味がないのだから。


「君と私は、等しく舞台を降りた『観客』だ」


アレイスターが特等席を分かち合おうと手を差し伸べてくる。
ローラは忌々しげに苦汁を飲みながら、男を睨みつけることしかできなかった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/30(水) 00:54:03.61 ID:hSErwGdl0<>



「――――――さあ。ともに、観劇に興じようじゃあないか」




<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/30(水) 00:57:51.40 ID:hSErwGdl0<>
⇒ TO BE CONTINUED ……


やだ……☆がまるでラスボスみたい……
最近は原作でも「っべープラン狂ってるマジっべー」状態らしい☆さんを
当スレでは全力で黒幕として推進していきます

ではまた木曜あたりに
おやすみなさいませ
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(関西・北陸)<>sage<>2011/11/30(水) 07:36:57.89 ID:mSg8BA6AO<> 乙
☆は本来ならこれくらいラスボスしててもおかしくないんだけどな…
新訳はどうしてこうなった <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/30(水) 18:43:21.43 ID:hSErwGdl0<>

インデックスが死ぬ。


このまま跪いていては、それが現実になるのは時間の問題だった。
発作的に、突如として襲いかかってくる、意識を保っていられないほどの高熱。
間違いなく十一年前、ステイルや神裂が『脳容量のパンク』だと思い込んでいた
現象そのものだった。

しかし、ステイルはすでに知っている。
“これ”は完全記憶能力者がみな一様に背負った悲しき宿命、などでは決してない。
“これ”は『魔術師』が少女を縛るために、恣意的に嵌めた『首輪』だ。
そして十一年前、『主人公』によって粉々にされた『幻想』でもある。

『幻想』で、あるはずなのだ。

だが現実は。

現実にインデックスは苦しんでいる。
呻いている。
喘いでいる。
死にかけている。

死。


死?



――――――死だと?

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/30(水) 18:43:52.70 ID:hSErwGdl0<>

(なにをやっているんだ、僕は)


彼女が、インデックスの命が危うい。
ならばステイル=マグヌスがなすべきことなど決まりきっているではないか。
なにを一人身勝手にへし折れようとなどしているのだ。
絶望などしている暇があるのか。

土御門に言われたではないか。


『お前はもう、インデックスと生きることを迷わないんだろう?』


神裂と約束したではないか。


『その際は、必ず二人で、ですよ?』


ローラに啖呵を切ったではないか。


『………………なるほど。もう、あなたも子供ではないのね』


一方通行に諭されたではないか。


『じゃあ、それが答えだろ』

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/30(水) 18:44:32.64 ID:hSErwGdl0<>


上条当麻に、そして『上条当麻』に、託されたではないか。



          ヒーロー
『後は頼んだぜ、主人公』


――――誰もが望む最高なハッピーエンド、期待してるぜ――――




湿ったアスファルトに着いた膝に、全身に、滾るような活力が帰ってくる。
すくと立ち上がった。
両の手の五指を見据え、強く握ってからほどく。




「ああ。やってやるさ、ヒーロー…………ッ!」




<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/30(水) 18:45:08.77 ID:hSErwGdl0<>

ああ、大丈夫だ。
これなら闘える。
自分はまだ、折れていない。
いや。

もう、二度と折れはしない。


「そこを退け、アウレオルス」

「な…………?」


狂気に満ちた喚声やまぬ錬金術師の肩を乱暴につかんで押し退け、インデックスの表情が
よく見える位置に屈みこんだ。
いま一度だけ、彼女に顕れた症状が己の海馬に刻まれた悪夢と同一のものなのか検める。
十二年前も十三年前も、飽きるほどに眺めては己が無力を味わったそれ。


「…………見間違えるはずもない、か。やはり『首輪』だ」


結論はすぐに出た。
奥歯を割れんばかりに食いしばる。


「どういうことだ、魔術師」

「時間がない。この進行状態だともってあと二時間弱だ。説明を聞く気があるなら黙れ」

「質問をしているのは、私の方だ」


アウレオルスのうなり声をみなまで聞くことなく、ステイルは端末を左手に握った。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/30(水) 18:45:48.99 ID:hSErwGdl0<>

やってやる。
どんな手だろうと使う。
利用できるものなら、なんだろうと利用する。


「はっ。わからないのか、天才錬金術師?」


たとえ、かつて死を賭して対峙した敵手が相手であろうと、だ。

表情筋は十八番の皮肉気な笑みを完璧に再現できているだろうか。
鏡が欲しいが、贅沢を言ってばかりもいられない。


「彼女の再びの『死』に抗う気力があるならば協力しろと、そう言っているんだよ」


使用可能な『手』を休むことなく矢継ぎ早に探りながら、ステイルは右腕一本で聖女の
華奢な身体を抱き上げる。
十一年前もこうしてこの男の目の前で、意識のない彼女を腕の中に閉じこめたことを思い出す。
錬金術師の眼が一瞬、瞳孔までも大きく開かれた。
アウレオルスもまた、ステイルが回顧したそれと同じ光景を瞼裏に蘇らせたらしかった。


「私は………………わ、たしは」


返答を悠長に待っている暇などありはしなかった。
アウレオルスがうな垂れる間にも、ステイルは携帯電話のキーに指をかけては耳に当てる。
その動作を三度繰り返してのち、黒衣の神父は先刻とは正反対に、掠れ声で呻く男に自ら
背を向けた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/30(水) 18:46:24.50 ID:hSErwGdl0<>

「過去の失敗にすくみ上がっていたければ永遠にそうしていろ。僕は闘う。彼女を救う。
 今度こそ――――――『成功』してみせる」


底なし沼の奥底でもがく男を置き去りにして、ステイルは一歩足を踏み出した。
膂力に自身があるとはお世辞にも言えないが、いまは喉の、肺の、血管の、心臓の、
脳の、命の内側から全身へなみなみと注がれたように力が漲っていた。
“科学的に言えば”ノルアドレナリンとやらの異常分泌でも起こしているのだろう。


(絶対に、助ける)


それにつけても軽い身体だった。
日頃の大食で蓄えたエネルギーの行き先と結び付けて考えると、暗澹たる心地がする。
四肢から伝わるまるで重みのない感触が、女の生命を見舞った奇禍の深刻さを如実に
表しているようで。

自然とステイルの歩幅は広くなる。
一刻も早く、魔術的環境の整った聖堂なりに連れて行かなければ。
ここから一番近いのは聖ジョージ大聖堂だ。
速くなった足取りは、やがて弾むようなそれへと変わり――――





「――――――待て」


変わる寸前で、ぴたりとその動きを止めた。
無粋で不躾な制止を、ステイルは不思議な高揚感とともに背で受けた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/30(水) 18:46:53.65 ID:hSErwGdl0<>

その瞬間、ステイルはきっと歓喜していた。


「敢然…………断然、断々然ッ!! …………私に、見過ごせと言うか! ふざけるな!!」


そうだ、立ち上がれ。


「貴様にばかり任せられるか! 私は、インデックスを救うためだけに生きてきた男だぞッ!!」


それでこそ、愚かしいまでに一途に彼女を想って、幾千の人間を振り回した不世出のエゴイストだ。


「貴様が知る限りの情報を寄こせ。協力してやる……違うな。貴様が、私に協力しろ」




――――それでこそ、インデックスを諦めなかった男だ。




ステイルは一八〇度反転し、濃霧をものともせずにそびえ立つ錬金術師の姿を視界に、

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/30(水) 18:47:29.75 ID:hSErwGdl0<>









「っ、と……?」


入れようとして、突如として平衡覚を失いよろめいた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/30(水) 18:48:09.41 ID:hSErwGdl0<>

一歩二歩とたたらを踏んでから、体幹を駆使して体勢を立て直す。
状況が状況なだけに、かなりばつが悪かった。
案の定、錬金術師の尖った罵声が飛んでくる。


「なにをしているのだ、貴様は……! ただでさえ重篤のインデックスの身に、
 これ以上余計な」


しかしそれは唐突に途切れて、代わりに静寂が顔を出す。
不審に思ってアウレオルスの表情を見やると、男の眼球はステイルの両腕を凝視していた。
正確には、腕の中の救うべき人を――――人を――?


「馬鹿な…………馬鹿な馬鹿な馬鹿な、ステイル=マグヌス、貴様ッッ!!!」


そのとき初めてステイルは、身を翻した己がバランスを崩した原因を察した。
当然といえば当然のことであった。
つい先ほどまでステイルは、人一人分の体重を二本の腕に託していたのだ。
それがなんの前触れもなく、忽然と、一切の重みを残さず。




「あの子は――――――インデックスは、どこに行った!?」




腕の中から掻き消えてしまえば、当然のことだった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/30(水) 18:48:43.98 ID:hSErwGdl0<>

「っ………………な…………ぁっ!?」


ステイルがインデックスから意識を切ったのは、アウレオルスに背後から呼び止められて
振り向くまでのほんの五秒ほどのことだ。
いくらアウレオルスに注意を割いていたからといって、謎の第三者の接近を許し、彼女を
奪われるほどの隙を晒すはずがない。
ましてや彼女を抱く腕を緩めるなど言語道断、そんな男はステイル=マグヌスではない。

ならば、ならば――――?


(立ち止まるな、思考を止めるな、お前は魔術師だろう、ステイル=マグヌスッ!! 
 ………………魔術師。このタイミングで? いや、考える前に動け!)


『禁書目録』を狙う魔術師が、彼女を攫った。
ステイルの意識は即座に、ロンドン全域を網羅する『守護神』のそれへと切り替わった。
現下この街で、ステイルの築いた陣地内で、魔力を精製している者。
その中でも、これ以上ない明確な『敵意』をもって魔術を行使している者――――!
必ずいるはずだ、いないはずがない。

探す、捜す、搜す、さがすさがすさがす!







――――――そして。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/30(水) 18:49:18.78 ID:hSErwGdl0<>


「そういう、ことか」



走査を終えたステイルは、星屑瞬かぬ夜空を呆然と振り仰いだ。


「なにを言っている、インデックスはどこだ、どうなったのだ」


苛烈な焦燥を隠そうともしない錬金術師が縋りついてくるが、すぐには返答できそうになかった。
脳を莫大な量の電子が駆け廻り、次々と記憶の端と端とを橋渡ししてゆく。

この十一年でステイルが経験し、目撃したすべて。
すべてが一本の線で繋がった。

理解した。


「これが、貴様の『プラン』だったのか」


結局は、踊らされていたにすぎなかった。
“奴”が欲しかったのは、きっとこの結末だったのだ。


「これで満足か、楽しいか、思い通りか…………っ!」


肺の底で、どうしようもなく煮え滾るマグマの胎動を感じた。
そう思った次の瞬間には、ステイルは咆哮していた。
溢れんばかりの激情に火を点け、魂を――――いや、己のすべてを噴き出すかのように。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/30(水) 18:50:02.33 ID:hSErwGdl0<>







「アレイスター=クロウリーィィィッ!!!!!」









夜天に響いた名の持ち主が、空の彼方でにんまりと笑ったことなど、知る由もなく。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/11/30(水) 18:53:28.79 ID:hSErwGdl0<>
⇒ TO BE CONTINUED ……


ここで一句
いつまでもヘタレ神父と思うなよ

もう一句
いつまでもヘタ錬ヘタ錬言わせるか(字余り)

ではまた金土日と大量投下しますのでお付き合いくださいませ
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(関西・北陸)<>sage<>2011/11/30(水) 19:07:35.25 ID:mSg8BA6AO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(愛知県)<>sage<>2011/11/30(水) 21:13:41.23 ID:expZ4NbMo<> >>1乙

やだ…この2人がかっこいい…// <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/11/30(水) 23:50:40.08 ID:hKRDyvREo<> 乙なんだよ! <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/02(金) 23:19:41.65 ID:7522mIOh0<>
どうも>>1です

この土壇場にきて色々と悩みが尽きません
とはいえ一人でも読んで下さる方がいる以上最後まで突っ走りたいと思います
レスしてくれる方には感謝の言葉もありません
本当にいつも勇気をもらっています

グチグチ言うのはこれぐらいにして、今日も行きましょうか↓ <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/02(金) 23:21:44.21 ID:7522mIOh0<>

ローラは内心の動揺を押し殺すことに全精力を傾けていた。

ローラはインデックスの『首輪』が再発動する、まさにその瞬間は目撃していない。
その時はまだ、ネットの大海でアレイスターの所在を突き止めようと漂流している最中だった。
だから“言い訳”が利いた。
アレイスターは自分の目の行き届かぬ時機に、インデックスになんらかの干渉をした。
そう解釈する余地が残されていた。


「………………なぜ」


しかし。
たったいま、インデックスがステイルの腕の中から朧のごとく消えた瞬間。


「なぜ…………貴様は、なにもしていない?」

「異なことを。私に、なにかしてほしかったのか」


アレイスター=クロウリーという男の一挙手一投足を、存在を、概念を、意識を。
全神経を注ぎこんで瞠っていたはずのローラは、アレイスターが“なにかした”
刹那を見極められなかった。

否。
認めざるを得なかった。
アレイスターはインデックスの身を突如として襲った『死』に、少なくとも直接的な
関与は行っていない。
していたならば、ローラが見逃したはずがない。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/02(金) 23:22:58.66 ID:7522mIOh0<>

ローラは数十年ぶりに腹の底から困惑しきっていた。
目の前――現在のローラに目はおろか肉体もありはしないが――の、黒幕の中の黒幕が
糸を引いているのでなければ、いったいあの現象は何を意味するというのか。


「おや、君はまだ要領を得ないか。ステイル=マグヌスは、すでに『誘拐犯』の正体を
 見破っているというのに」


ますますもって意味不明だった。
ステイルは確かに何事か察した風ではあったが、その口から飛び出たのはアリバイの
成立した、決して『犯人』ではあり得ない男の名である。


「十二時の鐘もそう遠くはない。灰かぶりの魔法が解けた瞬間、なにが起こるか
 楽しみじゃないか。君はどう思う、ローラ=スチュアート?」


その言葉に閃くものがあった。
十二時、すなわち、零時。
今日と明日の、今と未来の、そして過去と現在の、“境界線”。


「………………貴様が、なにもしていないはずがない」


そうだ、なんの関わりもないなどという詭弁が許されるはずがない。
なぜなら明日は――――七月二十八日ではないか。


「ほう?」

「七月二十八日は、貴様の作為だ。ロンドンで起こっているすべての現象も、元を糾せば
 貴様のせい。たとえ直接手を下していないにしても、貴様の……仕業でなければならない。
 そうでなければ辻褄が合わない」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/02(金) 23:23:45.25 ID:7522mIOh0<>

とんだ強弁だった。
根拠も証拠も示さぬままに、ただ『そうであってほしい』という願望の透けて見える糾弾。
ローラが自身で採点するなら、論ずるまでもなく落第点ものの弁論。
神経のまともな被告人なら、取り合おうともしないであろう見苦しいこじつけ。


「そういえば」


しかし、ローラの対敵はアレイスターだった。


「『七月二十八日』を最初に“観測”してくれたのは、他ならぬ君だったか。あの頃は
 まだ滞空回線も初期不良を頻発していた時期だったからな。君が観測してくれていな
 かったら現状はなかっただろう。礼を言うよ」


目的のためなら、『プラン』のためなら。
世界の理さえも大真面目に変革しにかかる、正真正銘の狂人だった。


「いったい………………いったいなんなの、貴様はっ……!」


遂にローラの声が、抑えきれぬ激情を滲ませて震えた。

理解できなかった。
数十年間、憎悪を焚きつけて夢想してきた男の表情。
夢の中で何度も何度も、八つ裂きにして切り刻んで叩き潰して首を刈って手足をもいで眼球をくり抜いて性器を削ぎ落して水責めにして串刺しにして磔にして逆さ吊りにして毒を呷らせて焼き尽して、何度も何度も何度も殺してきた。
そうまで焦がれた男の正体を、なにひとつ理解できていなかった。

その事実が、何故だかはわからないが、ローラには途轍もなく悲しかった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/02(金) 23:24:48.45 ID:7522mIOh0<>

「七月二十八日、か」


動揺を露わにして瞑目したローラに、アレイスターはなんら感慨を見せることもなく
独りごちた。


「たとえば、そうだな。こう仮定してみよう。もしも今年の慰霊祭が日本で行われて
 いたら、君はなにが起こったと思う?」


返答の有無を気にもかけず、男は続ける。


「イギリス清教と学園都市の友好条約が、式典に託けて締結されていた可能性は高い。
 『神の右席』とやらを名乗る四人の男女の襲撃はその建前上、この日にずれこむわけだ。
 …………すると、不思議なことに」



彼らの計画は、おそらくではあるが成功していた。

アレイスターは、囁くようにそう告げた。



「七月二十八日には、かくの如き意味がある。彼らはその特異点に選ばれなかった。
 …………否、掴みとれなかった、と言うべきだな」


流れるような演説を、ローラは半ば聞き流していた。
無気力に覆われかけた脳の片側半分が、取得した聴覚情報の受け取りを拒否する。
その一方でなお消えぬ復讐の鬼火が、大脳皮質を再活性させるべく燃えあがってもいた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/02(金) 23:25:33.56 ID:7522mIOh0<>

「……………………そうまでして、なぜ七月二十八日にこだわる? その日付に、
 いったい如何なる魔術的記号が存在し得る? あるいは、科学的見地から?」


なにより、知りたかったから、なのかもしれなかった。
ステイルにありったけの真実を受け継がせたローラにさえ窺えぬ、真実の奥の更なる真実。
闇の中深く埋められたそれに光を当てられるとすれば、もはやこの男しかいない。


「先ほども言わなかったかな。私の返せる答えは、常に一つだけだ」


だが、狂人はただひたすらにうっすらと笑うのみ。


「なにも」


諦めたように微笑し返したローラに向かって、アレイスターの紡いだ短い言の葉は。



「その日付に、特に意味はない。単なる偶然、だ」



端的にして、しかし究極の説示だった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/02(金) 23:26:11.34 ID:7522mIOh0<>
---------------------------------------------------------------------------


ギギ、と観音開きの大扉が蝶番を軋ませながらゆっくりと開いていく。

その雑音をどこか遠くに聞きながら、ステイルは空間に一歩脚を踏み入れた。
清浄感に満ちた荘厳な空気を靴音が裂く。
中央を貫通するように設けられた通路を迷わず進んだ。
左右には数人掛けの長椅子が整然と、十脚、二十脚と並んでいる。
普段なら祈りを捧げる会衆で立錐の余地もなく埋まるそこには人の子一人おらず、
荒涼とした寒々しささえ感じさせた。
長椅子の列が途切れた地点で、ステイルは立ち止まってわずかに顔を上へ傾げる。

ステンドグラスの聖母が見下ろす祭壇に、ぽつりと佇む人影。
ステイルは目を凝らした。

インデックス=ライブロラム=プロヒビットラムが。
命よりも大事だとつゆかけらも迷いなく断言できる愛しい人が、確かに“そこ”にいた。





「十年ぶりですね、ステイル=マグヌス」





――――――その“前”に立ち塞がっている、『犯人』と共に。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/02(金) 23:27:03.75 ID:7522mIOh0<>

「やはり、君だったのか」


あと三十分もしないうちに、喪われた記憶と過日の罪に苦しみ続けた男女が、
ある一つの決着を見るべく向かい合うはずだった場所。


「やはり、とは?」


ここ――――――聖ジョージ大聖堂で。





「君だと、思っていたよ。いや、君でなくてはならなかった、と言うべきなのかな」





男と『犯人』は実に十年ぶりに、女の生命を懸けて対峙した。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/02(金) 23:28:48.61 ID:7522mIOh0<>

犯人は、感情を一切まとわず淡々と言の葉を紡ぐ。


「“私”の魔力の精製痕を、記憶していたのですか」

「その前に」


片手を挙げて遮って、ステイルは最優先事項を確認する。


「『首輪』のタイムリミットをはっきりさせておきたい。君なら知っているんだろう。
 精緻な『死亡時刻』を、それこそ秒単位で」

「貴方の見立てどおりです。現時点から約一時間と三十七分後。
 午前一時丁度に――――――この子は死にます」

「僕の見立てを聞いていたのか」

「はい」


事務的な、と言うよりも機械的な返答に、ステイルは刹那視界が霞むほどの苛立ちを感じた。
何度聞いても慣れる気のしない、ステイルにとって世界で一、二を争うほどに、腸をグツグツ
煮え繰りかえしてくれる呪わしい声。
単調に事実を作文するためだけのその言語機能の存在を、ステイルはかねてから蛇蝎のごとく
嫌ってやまなかった。


「知っているかい? 以前本で読んだんだが、『強烈な印象や刺激を伴う記憶は忘却されにくい』
 らしい。だとしたら、“君”の魔力の波形を僕が忘れるはずがないだろう」


だが腹を据えてかからなければならないこの場面で、感情に身を委ねた暴走は許されない。
ステイルは先刻、脳を駆け廻ったシナプスの結合を言葉にすることで、自らに平静をもたらす
べく徐に口を開いた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/02(金) 23:30:56.91 ID:7522mIOh0<>

「もっとも、たとえ忘れていたところで。僕は必ずこの場所に…………君に辿りついていた
 だろうがね」

「……大層な自信ですね」

「自信なら当然あるとも」


抑揚のない『犯人』の声に、かすかに淀みが生じた。


「君が彼女の『電話相手』だったというところまで含めて、僕には揺るぎない確信がある」

「なぜです」


わずかに鋭さを増した、詰問とかろうじて呼べそうな疑問がすかさず返ってくる。
ステイルの知る『犯人』は、常に一定のペースを崩さず流暢に言葉を発していた。


「六月の頭だったか。学園都市へと渡って、上条家に宿泊した最初の夜のことだ。
 あの夜、君と彼女は“会話”をしているな? 君ともあろうものがまさか、
 『記憶に無い』なんて駄弁は吐かないだろうね」

「だとしたら、どうだと言うのです」

「僕がアホ夫婦の罠にはめられて彼女の部屋に踏み入ってしまったとき、彼女はすでに
 ぐっすりと眠っていた。たっぷり三分は硬直してから、僕は気が付いた。彼女は、
 携帯電話を握りながら眠りに落ちていたんだ」


これはまずい、とは思った。
いますぐに踵を返して、愉快犯夫婦の寝室に怒鳴りこむべきだと理性が訴えてきた。
だが、ステイルは知的好奇心に負け――――その判断が、思わぬ結果を生んだ。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/02(金) 23:32:02.98 ID:7522mIOh0<>

「もうしわけないとは思ったが、通話履歴を覗かせてもらったよ」


その日を境に、ステイルの心中に真実を求める欲求が明確に芽生えた。
ローラに『電話相手』の存在を示唆された時点ではまだ頭の片隅を間借りしているに
すぎなかったそれは、日増しに膨らんでいった。

『犯人』とインデックスが“会話”したとおぼしき日は、ステイルが推測可能な範囲内
では五回あった。
まずは「0715」当日の朝六時、上条美琴が目撃した一回。


『さっきに起こしに行ったら誰かと電話してたわよ』


その四日前、冥土返しの診察を受けた日に、病院のロビーで一回。


『ごめんなさい、ステイル。ちょっとお花摘みに行ってくるね』


先述した上条家寝室で一回。
ロシア成教総大主教が電撃訪問をかました日の夜半過ぎに、一回。


『うん……うん……じゃあ、またね』


さらに去年のクリスマスミサ、ステイルがインデックスに口を利いてもらえなかった時期。
彼女を説得に行った神裂が、それらしき場面を目撃している。


『失礼します。…………? 電話中でしたか?』


日付も時間帯もすべて判明している。
とくれば、次に為すべきは。


「電話会社に残された通話記録を、調べたのですか」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/02(金) 23:34:33.80 ID:7522mIOh0<>

直近の三回分のデータを入手することは、そう難しくはなかった。
しかしステイルは100%を保証してくれる、確固たる証拠を求めた。
電話会社のサーバーには過去数ヶ月分の通話記録が保管されているが、それ以前の、
半年以上前のデータは消去されている。
インターフェース上で一見消去されたかに見えるデータを復元することは理論上不可能
ではない、とステイルの拙いコンピュータ知識は教えてくれたが、それを実現してくれる
敏腕ハッカーがいなければ机上の空論――――


そこまで考えて初めてステイルは、初春飾利の顔を思い出したのであった。


「彼女にはいくら礼を言っても言い足りないよ。もちろん十分な謝礼は弾んだがね」


話を持ちかけた当初は浮気調査がどうのこうのとさんざん揶揄されたが、ステイルが本気
だとわかると初春は多くを聞かずに調査を引き受けてくれた。

懐に手を差し込む。


「ちょうどいま、ここにその『結果』がある。見るかい?」


偶然持ち歩いていたわけではもちろんない。
これは『証拠品』だった。
ステイルは今宵、この場所で、愛を告げたのち、その口で。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/02(金) 23:36:56.82 ID:7522mIOh0<>

インデックスを、糾弾するつもりだったのだ。


「十二月二十五日、午後九時前後。一月十八日、午後十時半すぎ。六月七日、午前零時前。
 七月十一日、午前十一時前後。七月十五日、午前六時ごろ」


味気ないコピー用紙の左端に順に記された数字は、すべてインデックスが『電話相手』と
連絡をとったと推測される時間だ。
視線を紙切れの右半分に移す。
そこには通話相手の名義と総通話時間がはっきりと、こう記録されていた。
















「通話相手、無し。通話時間、零分」



<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/02(金) 23:38:10.35 ID:7522mIOh0<>

「彼女は、電話なんてしていなかった」


余人が見れば不可解な『結果』であろうが、ステイルはその意味するところを即座に理解できた。
インデックスが用紙に綴られた時間帯に、電話口に何事か語りかけていたのは動かし難い事実だ。

ならば、真実は一つ。



「彼女はただ、携帯電話を耳に当てて、誰かと電話する“ふり”をしていただけだった」



すべてがインデックスのさもしい一人芝居だったのかといえば、それは違う。


「あれは、周囲へのカモフラージュだったんだ。君と彼女は、電話などなくとも
 いくらでも“会話”できたんだ」


逆に言えば、電話ではどうしても“会話”できない相手だったのだ。
そして会話の事実を身近な者にも――――ステイルにも、悟られたくない相手だったのだ。
これら諸条件を同時に満たす『適格者』を、ステイルは一人だけ、ただ一人だけ知っていた。

それこそが、眼前の『犯人』に他ならなかった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/02(金) 23:41:47.68 ID:7522mIOh0<>

「君は、彼女がほかの誰にも打ち明けようとしなかった悩みを、すべて彼女自身から
 聞いているな? ほかに誰も知り得ない彼女の絶望の正体を、一から十まで何もかも
 知っているな?」
 

愛する人にやんわりと叩きつけられるはずだった弾劾は標的を変え、本来よりもはるかに
増した苛烈さを伴って『犯人』を貫く。
この相手を尋問することでインデックスの懊悩を暴けるかもしれないのだ。
自然、ステイルの語調は次第次第に速まっていき、律動は最高潮に近づく。


「そしてその悩みこそが、彼女を死に至らしめようとして――――」



「否定します」


突如、だった。
押し黙るばかりだった『犯人』が、硬い声で反駁の口火を切った。


「なに?」

「貴方がたったいま示した記述は、何の証拠にもなっていません。
 貴方が空想で割り出した『会話時間』と、『記録の残っていない記録』。
 そのようなもので、貴方が私に辿りついたなどと……私は否認します」

「………………?」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/02(金) 23:44:08.01 ID:7522mIOh0<>

ステイルは眉をひそめた。

『犯人』の言い草は、自らが『電話相手』その人であること自体への否認よりも、
インデックスを攫った『犯人』の特定方法への非難に重きを置いているように
ステイルには思えてならなかった。

しかし『犯人』がこうしてステイルの前に身を晒してしまった今になって、そこを
否定することに何の意味があるというのか。
推理の道筋に無理があったとしても、『犯人』が現行犯である以上虚しい反論ではないか。
まるで、そう。


「貴方に――――――いえ、貴方の立証は不十分です」


ステイルの思考過程や人格、ひいては存在そのものを、否定したがっているようだった。


「…………なにを苛立っているのか知らないが。いいだろう、付き合ってやるよ。
 僕の“WHODUNIT”には別のルートもあるんでね」


ステイルは『犯人』を穴があくほどにねめつけながら、細く長く息を吐いた。
『犯人』は冷淡な眼差しで応じてくるが、口は開かない。
まだ対話を続ける意思はあると、そう見て良さそうだった。
それならそれで、ステイルには好都合である。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/02(金) 23:48:01.86 ID:7522mIOh0<>

「さて…………僕がロンドンに仕掛けた『守護神』、あれをどう思う?」

「つまらない二流魔術師の、鼻で笑いたくなるような二番煎じです」


あんまりな物言いである。
だがステイルはと言えば、怒りよりも驚愕が勝っていた。
字面だけ見れば敵愾心剥き出しだと言うのに恬淡とした口調はまるで変わらず健在で、
そこに醸し出された筆舌に尽しがたいアンバランスは、ある種滑稽ですらある。


「端的かつ辛辣な講評ありがとう。本家ヴェントの『天罰術式』ならまだしも、僕程度の
 術者が解釈を再定義した術式など、確かに“君”にすればお笑い草かもしれないね。
 …………しかし、これは誰にも言っていないことなんだが」


口の端を、意識的に持ち上げる。


「『天罰』には本来、崇敬対象となる上位存在が必要だ。術式の構造的には、顔を思い
 浮かべた状態で『敵意』を抱くとたったそれだけで昏睡状態に陥ってしまう相手だね。
 本家本元の『天罰術式』では、それが術者たる『前方のヴェント』本人だった」


ステイルの言わんとするところに気が付いたのか、ごくわずかだが『犯人』が目を瞠った。

三月のロンドン事変で『半端者』は、陣地に入った瞬間に次々と苦悶に膝をついた。
しかし『半端者』たちは全員が全員、術者本人に『敵意』を抱いていたのだろうか?
一応はイギリス清教の主力に数えられるステイル=マグヌス。
その顔を知っていた者は決して少なくはなかっただろうが、末端構成員にいたるまで
ことごとくが、というのはさすがに考えづらい。
と、いうことは。


「対象を、書き換えたのですか」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/02(金) 23:50:33.33 ID:7522mIOh0<>

「ご名答。もともと大幅にいじくって威力の下がった術式なんだから、どうせなら
 とことん都合のいいように歪めてやろうと思ってね」

「いったい、誰を」


ステイルの吊り上がった口許が、もう一段角度を増した。

ステイル=マグヌスの義務はロンドンの守護だ。
そしてもう一つ、ステイルの誓いは、“彼女”をなにがあろうと守り抜くことである。
守るべき義務と、果たすべき誓い――――いまでは、叶えるべき夢。
ならば『守護神』の中核に据えるべき『人間』など、最初から一人しかいない。


「決まっているだろう。最大主教、本人だよ」


インデックスは最大主教への昇叙以来、メディアへの露出がすこぶる激しかった。
ゆえに三月の時点で、『イギリス清教=インデックス』という図式はすっかり成立していた。
つまり『イギリス清教が庇護した原典』を狙う第三世界のテロリストたちは、必然的に
頭のどこかで清教派の象徴たる彼女の姿を思い浮かべ、少なからず『敵意』を抱く。

結果、ステイルの思惑通り『半端者』は、飛んで火に入るなんとやらと相成ったのであった。


「それにしても、だ。こんなこじつけくさい、遠回しな『敵意』だけでも七、八割は
 武装解除が可能なんだ。だったらもし、最大主教を“直接”手にかけんとする輩が
 この術式にかかったら、いったいなにが起こると思う?」


唇を引き結び、眼光を鋭く尖らせる。
いよいよ、ここからが論証の核心だった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/02(金) 23:51:38.19 ID:7522mIOh0<>

「オリジナルの『天罰術式』と同じように運用すれば、最低限“意識を奪い”ぐらいは
 してもおかしくはない。僕が何を言いたいか、もうわかっただろう?」


閉めきられた聖堂に、生温かい風が吹き抜けたような気がした。


「僕はさっきから君の話をしているんだよ、『誘拐犯』」


ステイルはインデックスを誘拐された直後、間髪いれずに『守護神』を起動させ
ロンドンの探知網に意識を向けた。
魔力反応がたったいま自分のいる場所から聖ジョージ大聖堂へと“事もなげに”
移動しているのを感知したとき、ステイルは『犯人』の正体を悟ったのだった。

魔力を精製する者が彼女をさらったのにも関わらず、『天罰』を安々とくぐり抜ける。
そんな異常事態を説明できる可能性はいくつか考えられるが、さっきの『通話記録』と
あわせて推理すれば答えは明々白々である。


「この『犯人』は、彼女に『敵意』などみじんも抱いていなかった」


つまり『犯人』は、いつかの上条刀夜と同質なのだ。
ステイルは指先にそっと炎を宿した。


「……というより、抱くことが“できなかった”。この方が的確だ。なぜなら、
 『犯人』の存在理由は」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/02(金) 23:54:47.69 ID:7522mIOh0<>

腕を軽く左右に振った。
聖堂中に設けられた燭台に次々に火が点り、聖堂に佇立する“ただ二人”を照らし出す。



「彼女を、『禁書目録』を、守ることだったんだから。そうだろう――――」



『犯人』は沈黙を返答に選んだ。
事実上の首肯と考えて間違いなかった。
ギラギラした蝋燭の熱気に、その涼やかな風貌が浮かび上がる。


ステンドグラスの聖母にも見劣りしない、宵に融けるような銀糸。

一億ドルの宝玉よりもなお現実感の薄い、不透明な瞳の色彩。

硬質な言の葉の数々を紡ぐ、形の良い唇。

そしてなにより、天使をも凍りつかせるその表情の冷たさ。

                                   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
神父の暗赤色の瞳から延びる視線が、『犯人』のくすんだエメラルドグリーンと交わった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/02(金) 23:55:25.77 ID:7522mIOh0<>








ヨハネのペン
「『自動書記』」










<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/02(金) 23:56:09.72 ID:7522mIOh0<>


「いや、違うか」





Passage6 ――十六番目の失敗者――





「『魔女』と、そう呼んだほうがいいのかな」



――――END
<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/02(金) 23:57:23.35 ID:7522mIOh0<>
⇒ TO BE CONTINUED ……


ステイルにとってのラスボスは>>1的に彼女以外考えられませんでした
アレイスターへのミスリードが露骨すぎてバレバレだったかな、
とこの一ヶ月ぐらい悶々としてました

次回は二日以内にお会いしましょう
ではおやすみなさいませ
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(関西・北陸)<>sage<>2011/12/03(土) 00:02:43.22 ID:glAqOulAO<> 乙!!!!
いやいや、がっつり騙されましたぜ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(チベット自治区)<>sage<>2011/12/03(土) 00:06:49.70 ID:XLcDHyIjo<> お疲れさまです。
とにかく面白いとしかいいようがないです。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(京都府)<>sage<>2011/12/03(土) 01:19:56.36 ID:5C3ZweU80<> 今回の途中くらいからようやく気付いた・・・すっかり騙されてたぜ。
乙!!次話も楽しみにしています。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(愛知県)<>sage<>2011/12/03(土) 09:11:57.87 ID:sUQ59EIFo<> 乙!!
鳥肌たった… <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/03(土) 23:09:13.91 ID:drgyhk2A0<>
またまたそんな、皆さんお優しいですね
たまには罵ってくれてもいいんですことよ?
では本日の投下です <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/03(土) 23:09:57.92 ID:drgyhk2A0<>

――Passage7――



ステイル=マグヌスは、彼女の瞳の色が昔から大嫌いだった。
愛する少女の色と酷似しているにもかかわらず、まるで温度を異にする暗い濃緑。
インデックスの翠が燦々と射す木漏れ日を透かした若葉色なら、彼女の緑は鬱蒼と茂る
樹海の闇そのものだった。


「十年……いや、十一年前もこの場所だったね。君と闘ったのは」

「私の行為に戦闘という意味が付与されることはありません。私は『禁書目録』を防衛
するため、障害となる万象を『排除』するのみです」

「…………その憎らしいまでの無感情。それでこそ『自動書記』だ」


『自動書記』。

それはイギリスという国家が『禁書目録』に仕掛けた魔術。
『首輪』が時に絞首台のロープと化す『時限爆弾』だとすれば、さながら防護服の役割
をも同時に果たす、きわめて強固な『拘束衣』。


そして絶望と無力に塗れたステイルと神裂の三年間を、象徴するような存在だった。


<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/03(土) 23:10:39.81 ID:drgyhk2A0<>

「“私”の健在程度なら知れているとは思っていたましたが。貴方への評価を少々
 改めなければならないようです」

「馬鹿にしているのかい。さすがにそれぐらいは、ね」


ステイルはこの六年で、何度もインデックスの中に“いる”『自動書記』の痕跡を
目の当たりにしてきた。

たとえば、『図書館』から情報を直接読み込む際の、特徴的な瞳の輝度の低下。
たとえば、魔力を持っていないはずなのにきっちり阻害されていた、『心理定規』や
『心理掌握』らの精神感応系能力。
そして極めつけは。


「だいたい、だ。七月十五日に『アドリア海の女王』を発動する時、僕は最大主教から
 魔力を借りている。あれは君のものだったんだろう?」

「……はい。あれは私を構成、維持している魔力を一時的にカットして確保したものです」

「その節は大変世話になったね、礼を言うよ」


ステイルの慇懃無礼への返答は、冷たく細められた瞳が代弁した。
神父も負けじと眼光を鋭くし、視線を真正面からかち合わせる。
ステイルのなにが気に入らないかは知らないが、そんなことは今は些事である。


「なぜ、彼女を僕から遠ざけた? このままでは彼女は死ぬんだぞ」

「死なせません」


『死』という単語に反応したかのように、『自動書記』が間髪入れずに返事を被せてきた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/03(土) 23:11:16.72 ID:drgyhk2A0<>

「死なせない、だと? 彼女を縛っている鎖の分際で、一丁前に内側の虜囚を救おうと
 言うのか。泣かせるね」


そんな彼女をステイルは嗤った。
『自動書記』がステイルを疎んじているのなら、逆もまた真。
この女が気に食わない――――などと、可愛いレベルで済まされるものではなかった。


「…………いけないのですか」


脳を焦がすような情動を抑えつけていると、静かな声がステイルの耳朶を打つ。


「私が、この子を守りたいと思ってはいけないのですか」


まもる?
守る、だと?


「君が、彼女を守るだと? それが君の、建前上の存在意義だということは認めよう。
 僕の感情面は間違っても納得などできはしないが、いまこの時だけは飲み込もう」


ふざけるな、心がそう哮った。
しかし、飲み込む。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/03(土) 23:12:45.41 ID:drgyhk2A0<>

「飲み込んでやるから、彼女をこちらに“渡せ”。『首輪』を解除しなければ、
 君の存在理由は露と消えるんだぞ」


はたしてステイルごとき凡百の魔術師に、『首輪』を外すことができるかは定かでない。
だが今は、できるできないの問題を議論している暇などなかった。
インデックスが死に瀕している現実がある以上、尽くせる手は尽くす、当然のことだ。

もちろんステイルはベストを尽すことが肝要である、などという堕落したスポーツマン
シップの成れの果てを標榜するつもりはない。
『成功』は100%の既定事項でなければならず、そのための手はすでに打っている。


――――しかし。


「拒否します」

「……現状を把握できないほど卑小な思考回路の持ち主だとは知らなかったよ。いいか、
 これは依頼でも嘆願でも陳情でもない、“命令”だ。今すぐ彼女の身体を明け渡せ」

「拒否、します」

「拒否して、どうする。その先になにがある。君が『首輪』を解除するのか?
 やれるものならやってみろ。十五年の間に幾度もあった『死』を乗り越える
 チャンスを、すべて坐して見すごした君に。できるものなら、な」


『首輪』と連動していた『術式』にかける言葉としてはあまりに不当な、
そして無意味に辛辣な罵声だった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/03(土) 23:13:58.03 ID:drgyhk2A0<>

『自動書記』に自我などない。

当然のことだ。
彼女は組み込まれた術式に従って『禁書目録』を生命の危機から遠ざけ、『首輪』への
干渉があれば世の魔術師をあざ笑うかのような圧倒的な力で侵入者を排除する、
ただそれだけの――――そうであれと定められただけの存在である。
そこに、存在必然性のない感情が介在する余地など、あるはずがない。

だが眼前の光景はどうだ。



「簡単なことです。『首輪』の解除方法は、“最初から設定されているもの”を用います」



彼女はステイルの目から見ても、『人間』だった。



「貴方は、ただ見ているだけでいい……いえ、貴方になど任せるつもりは毛頭ありません」



己の根源に設定された真の存在意義に逆らい、インデックスを救う方法を
“曲がりなりにも”提示する彼女は。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/03(土) 23:14:49.11 ID:drgyhk2A0<>



「“私”が、この子の記憶を、十一年間生きた“インデックス”を殺します」




ただその事実だけでも、『人間』と呼ぶに相応しいのではないか。




「私が、十六番目の『失敗者』になります」








「…………もしかしたら、と予測はしていたが。その上で、この言葉を贈らせてもらうよ」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/03(土) 23:15:51.25 ID:drgyhk2A0<>

人間である彼女は。


「ふざけるな」


人間だからこそ、ステイルとぶつかりあっているのではないか。


「繰り返す気なのか、あんな事を。それで彼女が救われるとでも思ってるのか」

「――――――っ」


人間が息をのむような音吐を、確かにステイルの耳は拾った。


「彼女はすでに、“知っている”んだぞ。“忘れられなかった”んだぞ」

「……を……な」


『上条当麻』の一度目の死。
無限にも思える死の連鎖を壊せなかった、ステイルと神裂と、アウレオルスの存在。
直面したインデックスは知識として、感情として、情報として蓄えてしまった。


「人一人の記憶を殺し尽くすことがいかに残酷で、その運命を歪めるのか」

「し………………くな……!」


記憶を失う前の愛した人を、記憶を失った別人に重ねてしまうことの痛みを。
記憶を失う前の自分を、記憶を失った自分に重ねられる苦痛を。


「それでどれほどに残された彼女が苦しんだのか、知らないなどとは言わせないッ!!」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/03(土) 23:16:32.13 ID:drgyhk2A0<>





「 知 っ た よ う な 口 を 利 く な ッ ! ! ! ! 」






<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/03(土) 23:18:13.55 ID:drgyhk2A0<>

起こりえるはずなどない、死火山の爆発を目の当たりにしたようだった。
おそらく一人目の『上条当麻』や神裂ならそう評するだろう。
『自動書記』の感情無き殺意にさらされた経験のある者なら、誰でも驚愕に顎を外すだろう。


「貴方がこの子の何を知っている!? たかだか十四年外側から見守っただけの男が、
 この子の“幸せだったほうの”半生しか知らない男が、この子の内側の果てなき懊悩の、
 私のどうしようもない歯痒さの、いったいなにを知っていると言うのですッ!!」


激情。

眦をつり上げ、白磁のような歯を軋ませ、月光を浴びた柔肌がなおも紅く照る。
怜悧で無感情だったはずの女の美貌が、これでもかと憤怒一色に染め上げられている。
それはこの上ない、感情の昂りの顕れ。
彼女がインデックスの『電話相手』であることの、なによりの証明。
同時にステイルはその爆発を冷静に、沈着に、『人間』の証明として捉えることができた。


「知っているとも」


なぜならば、知っていたからだ。


「少なくとも君の認識下における『ステイル=マグヌス』より、僕はよほど多くを知っている」


ステイルが渡された真実が、インデックスの闇のすべてを解き明かせるのかはわからない。
しかしステイルは知ってしまった。
知ることを欲したがゆえに。


「僕は、『魔女白書』を知った」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/03(土) 23:19:44.51 ID:drgyhk2A0<>



ここで時計の短針を、七周ほど巻き戻す。




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<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/03(土) 23:20:25.39 ID:drgyhk2A0<>

聖ピエトロ大聖堂のとある一室。


「それ以前はかのシステム、いえ、“プラン”は、こう呼ばれていたのよ」


金ピカの刺繍が所狭しとばら撒かれたクロスと、それに覆われた卓。
挟んでステイルの向かい側。
ローラ=スチュアートが勿体ぶって一呼吸差しこみ、笑みをいっそう不気味に深める。


「『魔女白書』計画、とね」


静寂――――






――を破ったのはカリッ、という顆粒を噛み砕いたような小気味いい破砕音だった。


「うん、美味だ」

「………………あのー?」


ステイルはテーブルに置かれたバスケットから固焼きのビスコッティを摘まんで、
『ローラ様スペシャルティー』にちょん、と浸してのち口に運んでいた。
こうでもしないと、コンクリートのような硬度を誇るこの菓子には歯が立たないのだ。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/03(土) 23:21:26.71 ID:drgyhk2A0<>

「…………す、ステイルくーん、どうしたりけるのかしらー?
 もっとこう、『なんだ、なんなんだ、それはッ…………!!』
 みたいなリアクションをいみじく期待しておったのだけれどー?」

「そう言われましても。ああ失礼、この一枚を食べ終えるまで待っててください」

「うう、あなたの中でのローラちゃんの優先順位がよく知れる発言なりしよ……」


よよよ、と白々しく指で“の”の字などなぞって嘆くローラをステイルはきっぱり無視した。
予告通り紅茶に浸けていた一枚を、たっぷりと時間を浪費し、咀嚼し終えてから顔を上げる。


「『魔女白書』なんて言葉を、いかにも仰々しそうに持ち出されましてもね。
 こちらとしても反応に困りますよ」


魔女とは読んで字のごとく『魔術を使う女』のことであって、それ以上のものではない。
異端狩りに特化した性質を持つ『必要悪の教会』所属魔術師として立脚すれば、確かに
そこそこ重要なワードだと解釈できなくもないだろう。

しかし実際問題、魔女の称号を自他の是非を問わず頂戴している女などイギリス国内だけ
でも数千人はくだらないはずだ。
インノケンティウス八世が権威を振るった暗黒の時代など、今は昔の御伽草子なのである。


「そんなありふれた存在に関する記述など、記録して何になると言うんです」


自分達は『禁書目録』の正体について語り合っているのではなかったのか。
この言葉が字面そのままに真実を表現しているとしたら、拍子抜けもいいところである。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/03(土) 23:22:27.42 ID:drgyhk2A0<>

「んもう、あまり失望させてほしくなきことよ、ステイル。『魔女狩り』などという
 高尚な趣味の持ち主たるあなたならいと易くわかりけるはずよ」

「誰が火あぶり刑を眺めて愉悦に浸る危険人物だ!」

「そこまで言ってなきにつき候」

「もう目茶苦茶じゃないっすか」


まあ当然、ステイルは“これ”が単なる入口だとは理解している。
少々腹立たしかったから、意趣返しに焦らしプレイを挟んだだけのことだ。
なにが腹立たしいのかと言えば、結局はいつもの迂遠でまやかしじみた、くどい説明
タイムに入ったローラ=スチュアートその人がである。


「ステイル。『魔女狩り』が中世ヨーロッパで繰り広げられた惨劇を指すだけの
 言葉でないことは、もちろんあなたも知っているわね?」


あっさり気を取り直したらしいローラが、紅茶を一口すすって微笑む。
ステイルも茶番はここまでとばかりに表情を引き締め、顎に手を当てて考え込む。

『魔女狩り』。

ステイルの切り札の由来でもある、焔の時代の謂れなき異端狩り。
偉そうな口を利けた身の上でもないが、それはステイルのちっぽけで、薄っぺらく、
青臭い――――しかし絶対に譲れない『正義』とは、相反するものである。
神裂やインデックスにさえ語ったことはないが、自らの『魔女狩り』は誰かを守るため
だけに執行されるものでなければならないのだと、ステイルはそういうルールを密かに
己に課している。

そこを曲げてしまえばステイルはきっと、永遠に立ち上がれなくなっていただろうから。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/03(土) 23:23:02.08 ID:drgyhk2A0<>

閑話休題。

とにもかくにも『魔女狩り』はそこから転じて、ある一定のコミュニティやソサエティ
内での謬見に基づく差別や排除行為を表す暗喩として――――


「…………ああ成程、そういう事ですか」


ステイルは頤から手を離して、理解した事実を飲み込むようにゆっくりと頷いた。
『魔女』は時代や国を問わず、『排除されるべき異端』を表す隠喩として扱われてきた。

つまるところ、これは単なる喩え。
もう少し魔術的な用語を用いて説明するなら『言霊』を見立ての対象に据え、なんらかの
異なる意味合いを付加する『偶像の理論』の特殊応用、といったところか。


「『魔女白書』と言うワードもなにかしらの『異端』の比喩にすぎない、ということか」

「奴に自らを異端と称してへりくだるような、殊勝な心があったとは思えないけれど」

「奴?」

「…………兎に角、『魔女』とはただのメタファーよ」

「何のメタファーなのかが、話の上でもっとも肝要なんですがね」

「せっかちも行きすぎると、馬鹿を見るのは他ならぬあなたよステイル。主に男女関係で。
 ここまではまだまだオープニングトークにすぎないわ♪」

「司会者が延々とくどい前口上に時間を費やすようなバラエティ番組なら、僕は五分で
 切る自信がありますよ」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/03(土) 23:24:36.50 ID:drgyhk2A0<>

ステイルは腰をソファから浮かしかけた。
ローラはさも慌てたかのように振る舞って、諸手のジェスチャーで座れ、座れと促してくる。
煙草が懐にないのが残念でならなかった。


「……コホン。では、さっきのあなたの疑問に、順に答えていきましょうか。最初は
 “一〇三〇〇〇冊”についてだったわね」

「…………ちっ」


隠そうともせず、盛大に舌を打った。
この絶妙なカードの切り方は、どこまでいってもステイルのよく知る女狐の手管である。
弾力性豊かな高級ソファに再び、身を投げるようにしぶしぶ腰を下ろす。


「僕が提示したのは、第一に『いかにして“一〇三〇〇〇冊”まで蔵書数を増やしたのか』
 という疑問。第二に『なぜある時点から“一〇三〇〇〇冊”が増えていないのか』です。
 完全な回答を、今度こそ期待してよろしいんですね」


魔道書の原典(オリジン)が世界中に散らばっている以上、一年間でインデックスが記録
可能なのはよくて千冊強、といったところだ。
そしてインデックスは、ステイルが初めて出会った十四年前、十二歳の時点ですでに
十万冊を有していた。


1000×12=103000?

いずれかの変数に錯誤がなければ成立し得ない数式である。
これが、第一の疑問。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/03(土) 23:25:42.74 ID:drgyhk2A0<>

そして第二に、十一年前のアウレオルス=イザードの発言だ。


『一〇三〇〇〇冊もの魔道書を一身に背負い、決してその呪縛から逃れることのできぬ少女』


アウレオルスがインデックスのパートナーであったのは、ステイルや神裂の一年前だ。
当然、彼が『禁書目録』に言及する際口にする冊数は、ステイルたちがインデックスと
初対面を果たした時点での数字と一致している――――はずなのだ。

ステイルたちの二年間を彼が逐一監視していた、という可能性は万に一つもあり得ない。
光の世界から身を隠し世情に疎くなったがゆえに、あの男は『すでに救われていた』
インデックスを救うべく、噴飯ものの悲喜劇の舞台にのぼってしまったのだから。

導出可能な結論は、至極単純なものだ。
要するに最低でも『禁書目録』は、アウレオルスの手を離れた時点から一冊たりとも
増加していないのである。

これらの疑問点を完璧に解消できる真実こそが、ステイルの要求だった。


「ステイル、あなたの言う通りよ。あの子は、インデックスは」


そう切り出したローラを見ると、はっとするほど真剣な顔つきをしていた。
われ知らずステイルが居住まいを正すと、女は『第一の虚構』を暴露した。




「二十六年前に生まれた時点で、既に“一〇三〇〇〇”冊を持っていた」




<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/03(土) 23:27:07.60 ID:drgyhk2A0<>

「………………彼女は、二十六年前に産まれた。それは間違いないのですね」

「ええ、安心なさい。正真正銘、彼女は二十六歳の乙女。あなたが危惧するように、
 ウン百歳のおばあちゃんなどではないわ」

「貴女とは違って、ね」

「一言多し!」


軽口で返したものの、内心ステイルは安堵していた。
インデックスが実は自分よりはるか昔から呼吸して、原典の蒐集を行っていたのではないか
という仮説は確かにステイルの中にあった。
『1000×12=103000』の内の、『12』こそが誤謬だったのではないか、と。

まあそれも大した問題ではないのかもしれない。
彼女が何歳であろうと、たとえば実年齢二百五十歳の媼であっても、ステイルの愛は永遠に、
絶対に、朽ちはしないのだから。


「しこうして、それでも歳が近きに越したことはないでしょう?」

「まあ、それはそうなんですが……って言ってる場合かっ! 話を進めますよ!!」


思わずポロリと本音が漏れて、ステイルはまたも顔を赤くした。
ローラは素敵に無敵にそんな神父を笑い飛ばす。




「ふふ…………でもね、ステイル。間違っている数字が『12』だというのは、
 大正解なのよ?」


――――不発に終わった爆弾の導火線に、楽しげに火を付けながら。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/03(土) 23:28:17.11 ID:drgyhk2A0<>

「………………なにを言っているんです?」

「この式はね、『12』の部分に本来はいかな数値が入るのか、という点こそが肝心なの。
 試しに『X』を置いて変形してみましょう。ミドルスクール時代を思い出して、さぁ♪」

「通ったことないんですけどね、僕」


1000×X=103000.
X=103000÷1000.


「先ほど言った通り、インデックスの生誕前に一〇三〇〇〇冊は出来あがっていたわ」


よって、右辺に26を加算する。

X=103000÷1000+26.
X=129.


「百二十九…………?」

「『X』の単位はなんだったかしら、ステイル?」

「百二十九、“年前”。十九世紀終わりから、二十世紀初頭……?」

「ピンポンピンポーン♪ より正確に言えば――――――“一九〇六年”」


ステイルはとっさに懐のカードに手を伸ばしていた
家庭教師然とした鬱陶しい注釈を加えてきた声音の温度が、“その”数字を境に
急激に零下まで落ちこんだからだった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/03(土) 23:29:23.72 ID:drgyhk2A0<>

「『魔女白書』計画のそもそものはじまりは、この年だった」

「し、しかし…………その時代にはまだ彼女は影も形もなかったと、貴女自身がたった
 いま断言したではないですか!」

「確かに、そうね。でも」


インデックスはまごうことなき二十六歳。
一九〇六年に彼女はまだ生まれてすらいないと、ステイルはそう声を荒げる。
対する、『第二の虚構』に手を掛けたローラ=スチュアートの表情は――――




「インデックスはね、“三人目”なの」




瞳を潤ませているでもないのに、涙を溢れさせてもまるで不思議でない、そんな表情。
後悔か、哀悼か、苦痛か、遠い過去のなにがしかの感情に裏打ちされた、壮絶な表情。
しばしの間、ステイルはローラの相貌にばかり視線を奪われ呆然とした。
だから、その言葉の意味するところへと、即座に意識を向けられなかった。

柱時計がごおん、と唸って十時を回ったと告げる。
同時に、今度こそステイルは、掛け値なく全身を大きく震わせた。


「さ…………ん……?」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/03(土) 23:30:22.07 ID:drgyhk2A0<>

「一九〇六年は、“一人目”が、“彼”の最初の娘が死んだ年よ」


一人目と彼。
彼とは誰だ。
一九〇六年に、一人目が死んだ。
彼と一人目は、親子で――――




気が付けば拳を、砕かんばかりにマホガニー製の頑丈なテーブルに叩きつけていた。




「ま、さか?」


縋るような目でステイルは、ローラに恐る恐る目線を移す。
わかってしまった。
点と点が思いもよらぬ結合をした結果、理解してしまった。
だがそれを、叶うことなら明確に否定してほしい。
言葉には出さずそう告げる。

するとローラは、微笑むでも身悶えるでもなく、無表情に首を縦に振った。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/03(土) 23:31:59.28 ID:drgyhk2A0<>

「娘の名はリリスと言ったわ。リリスは実の父親の手によって原典の毒を次々に脳内に
 注ぎ込まれて、狂乱の果てに、世にもおぞましい死を遂げた」


淀みのない口調と、正常そのものの顔色が、逆に異様だとステイルは感じた。


「第一次計画は見事に失敗。しかし“彼”は無論、そこで諦めるような男ではなかった」


完膚なきまでに、百人見れば百人が断言するであろう程に、ローラは正気だった。

                            ・ ・ ・
「リリスと同形質の遺伝子を持つ、彼女の妹、二番目の娘に、リリスの死後脳から
 抽出した、電気信号となった原典を移植した」


どこまでも正気のまま、ローラは刻薄なる狂気を口にしていた。


「それが――――――」


見るに堪えなかった、のかもしれなかった。
熱に浮かされたようにステイルは、囁き声でその先の言葉を引き取っていた。




「ローラ=ザザ」




<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/03(土) 23:33:27.14 ID:drgyhk2A0<>






「貴女が、『禁書目録』だった?」


男は、認めがたきを認めるかのように呻吟した。





Passage7 ――姉妹――






「あなたはやっぱり優しい子ね、ステイル」


女はまたしても、泣きそうな顔で微笑していた。


<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/03(土) 23:37:54.19 ID:drgyhk2A0<>
⇒ TO BE CONTINUED ……


今さらですが当スレは超展開、超理論、超捏造設定を超多用してまいります
なるべく原作との整合性は意識していますが、
説明過多になりがちなのが悩ましいところです

とりあえずインデックスはステイルの嫁です
あと婚后さんとローラは>>1の嫁です
その点さえしっかり押さえておいてもらえればよろしいかと
ではまた明日 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(愛知県)<>sage<>2011/12/04(日) 00:08:50.72 ID:2Zdmwetuo<> >>1乙

だが婚后さんは俺の嫁だ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(愛知県)<>sage<>2011/12/04(日) 01:23:14.77 ID:ktTPbvPao<> >>689 そげぶ!

>>1 乙なんだよ!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/12/04(日) 01:51:59.22 ID:krT7FQNbo<>          /|
       /  |   φ(・ω・´)
           |  /  oノ )
     |\   L/     〈〈
  __  \
__   |
   |  |
   | <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/12/04(日) 02:45:34.13 ID:+R82xNEOo<> 許可しよう
その代わりフレンダは俺の嫁だ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/12/04(日) 02:45:56.00 ID:NHqhaXtFo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(千葉県)<>sage<>2011/12/04(日) 10:01:00.37 ID:mXwu8qgB0<> 1スレ目から3日かけてやっと追い付いたぜ・・・
溢れんばかりの>>1乙を <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(チベット自治区)<>sage<>2011/12/04(日) 11:17:31.02 ID:uit+2hIro<> お疲れさまです。
独創的な着想と時折挟むユーモアが秀逸で、ただただ面白いです。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/04(日) 20:03:57.38 ID:alZg/OVZ0<>
どうも>>1です

>>689
そげぶ

>>694
三日ですか……お疲れ様です、そしてありがとうございます
一スレ目とか>>1は思い出すだけでのたうち回りたくなるんですけどね
割いた時間に見合うSSだと思っていただけたら嬉しい限りです

>>695
こないだから超ベタ褒めしてくれる方ですかね
肩の力を抜いて俺の嫁宣言とかしてくれても大丈夫ですよ?
もっと気軽に乙の一言だけでも>>1は飛び跳ねて喜びます

他の方もレスありがとうございました <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/04(日) 20:05:16.13 ID:alZg/OVZ0<>

ステイルは混乱を収めるべく瞑目し、必死で頭の中身を整理していた。

一世紀以上も遡った時の果てですでに胎動していた『プラン』。
“彼”の娘、リリス。
一人目の『魔女』。
リリスは原典の毒に絶えること叶わず、死んだ。
そして『図書館』は受け継がれた。

瞼を開く。
ステイルの差し向かいには遠い目で、格子窓の外側の闇を見るともなしに眺めている女。

ローラ=スチュアート――――いや、ローラ=ザザ。
彼の娘にしてリリスの妹。
そして、二人目の『魔女』。
より正確には、魔女だった女。


「一つずつ、疑問を潰させてもらいましょうか。リリスが原典の毒に侵された、とは?
 彼女の父親が原典の危険性を理解していなかった、などという阿呆なオチはまさか
 つかないでしょうね」

「無論、あり得ない話ね。彼は当時はおろか、人類史上でも随一の大魔術師なのだから」


ならば何かしらの対策をリリスの側になり、原典の側になり、施していたということだろうか。
そして、それが思いがけず不発に終わったからこそ――――


「いいえ。彼は、リリスになんの策も打たぬままに、数冊の原典を渡したらしいわ」

「な…………?」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/04(日) 20:06:48.37 ID:alZg/OVZ0<>

ぽかん、と口を開いて阿呆面をさらしてしまった。
それではリリスは、死ぬべくして死んだというだけではないか。


「これが彼の単なる知的好奇心の走りにすぎなかったことを、『ローラ=ザザ』は
 はるかのちに知った。娘が、リリスが、偶然『完全記憶能力』を持っていたから。
 ただ、ただそれだけの理由で……あの男は稚い実の娘を利用して、自らの知識欲を
 満足させようとしたのよ」


好奇心? 知識欲? 満足?
それでは、まるで。


「それではまるで――――実験ではないですかッ!」


ステイルは、飲み込みがたい憤りから吼声を上げた。
実の娘を、九割九分命を落とす狂気の沙汰のモルモットにしたというのか、“彼”は。
そんなものは狂気以外の何物でもない。
ローラは、力なく口の端を歪めた。


「『ローラ=ザザ』も、そう言った。そして彼は、こう返した」


――――失敗を積み重ねてこその、成功だ――――


「彼は『失敗』が何を意味するのか、理解しているのかも怪しい軽い語調でそう言った」


そうして“彼”は、『ローラ』を次なる被験体に選んだ。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/04(日) 20:08:24.22 ID:alZg/OVZ0<>

「……………………失礼、話を先に進めましょう」


ステイルがこの場で如何に義憤にかられようと、すべては歴史の彼方に遠ざかった、
決して手の届かない一ページだ。
第一、所詮は血塗れの大量虐殺者であるステイル=マグヌスが、ご立派な倫理観を
振りかざして正義をのたまったところで虚ろに響くだけである。


「リリスは、最大主教と同様『完全記憶能力者』だった。彼女の死後脳から原典が
 電気信号として取り出された。そして、ローラ=ザザに受け継がれた」


男は一息に、入手した情報を簡潔に羅列する。
質したい事柄のオンパレードであった。


「脳から情報を、電気信号として抽出…………こんなことが百年もの昔に可能だった
 などとは、にわかには信じがたいのですが」

「でもねぇ、ステイル。生体電気や神経系が人類の歴史上で発見されたのは十八世紀の
 出来事なのよ。意外に古いでしょう?」


脳科学、という言葉が一般人にも抵抗なく受け入れられるようになったのはここ三十年
ほどの話だが、脳に関する研究という観点で見ればそれ以前から大脳生理学という名で
日進月歩、進化は続いていた。
さらに十九世紀末には、言語処理の中枢を担うブローカ野や、知覚性言語中枢とも
称されるウェルニッケ野が次々に発見されている。

十九世紀末。
それは正に、“彼”が活動を開始した時期と重なるではないか。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/04(日) 20:09:19.56 ID:alZg/OVZ0<>

「ましてや。“彼”が不世出の大魔術師であると同時にどのような肩書を負っていたのか、
 まさか知らないわけではないでしょう」

「…………そう、でしたね」


電気信号がどうの、脳神経がどうのというテーマは明らかに魔術の領域ではない。
中枢に原典という“魔術”の神秘の結晶を据えておきながら、この計画は厳然と
――――“科学”にその屋台骨を支えられている。


「しかし、原典の継承につきまとう問題点は依然として多々残ります」


そもそもの始まりからして、リリスは『完全記憶』を有していたから被験者とされたのだ。
つまり、『魔女白書』計画はその能力なくして前進し得ない。
『ローラ=ザザ』にも、それが備わっていたとでもいうのか。


「そんな偶然はあり得ない……そうでしょう」

「もちろんないわ。『ローラ』の完全記憶は後天性よ」


ローラが何でもないように放った一言。
示されたのはすなわち、『完全記憶』の移植。


「それこそ、無茶苦茶な話だ! 記憶ならまだしも、『能力』を移植するなど……」


息せき切ってまくし立てようとして、ステイルは唐突に言い淀んだ。
浜面理后のぼんやりとした顔つきを、思い出してしまったからだった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/04(日) 20:10:27.19 ID:alZg/OVZ0<>

「サヴァン症候群のメカニズム自体は、すでに学園都市の研究機関によって解明が
 成し遂げられているのだけどね」


サヴァン症候群。
狭義には自閉性障害者に稀に見られる、限られた分野に対して異様な能力を発揮する症状。
たとえば、特定の年の特定の月日の曜日を瞬時に言い当てられる。
たとえば、航空写真を少し見ただけで、細部にわたるまで描き起すことができる。
たとえば、並外れた暗算をすることができる。


たとえば、読んだ書籍を一言一句に至るまで、精緻に脳味噌というハードディスクに
保存できる。


彼らの能力の根源は、そのことごとくが“脳”にある。
脳開発の最先端たる学園都市は数年前、長年原因物質と目されてきたテストステロンに
変わる新物質を発見したと発表した。
既成の脳を弄りまわす方法など、あの科学の街にはいくらでもある。
というよりも、学園都市とはそのための箱庭だった。

垣根帝督の『人助け』などは、まさしくそれを裏打ちするものと言えるであろう。


「意外と詳しいのね」

「誰かさんのおかげで、脳について詳しくならざるを得なかったんですよ。
 十一年前から、暇を見ては逐一知見を蓄えていたものでね」


ステイルはこれ見よがしに、憎々しげに吐き捨てた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/04(日) 20:11:33.22 ID:alZg/OVZ0<>

大脳生理学の初歩の初歩を些かばかり、公共のごく普通の図書館でかじった。
それだけで己の筆舌に尽くしがたい愚劣さを思い知らされた、うだるような十一年前の夏。
眼前の女狐に対する、凍るような、冷たい殺意の炎を胸に抱いたあの日。
その後十一年を経て、いまこの瞬間もなし崩しに熱を失っていく、仄暗い灯。

ステイルは顎に手を伸ばし、今朝の髭の剃り残しを探るように撫でた。


「…………あの街の研究チームが何年もかけて見つけた新物質と利用法は、その実一世紀
 前の“彼”の手柄だった、と?」


手柄とはこの場合、後天的な、強引な、非人道的な『完全記憶』の植え付けを指す。
そしてその対象は。


「まあ、彼らをこき下ろすのは酷というものよ。当時からかの魔術師が駆使する
 “科学”には、これでもかとふんだんに“魔術”が入り混じっていたのだから」


実の父親に実験動物同然の扱いを受けた、哀れむべき少女は。


「血縁者に効果を限定するような、一種の制約条件を課すことで性能を底上げするタイプの
 魔術があるでしょう。『ローラ=ザザ』にもそれが用いられたわ。血液中の魂の情報を
 共有して、脳内物質の作用が『リリス』同様の箇所を肥大化させるよう、方向性を与えた」


学生のレポートを採点するかのような平坦な口調を崩そうとしない、この女なのだ。

十年前から隙あらば、状況さえ許せば、焼き殺してやりたいと願ってやまなかった、
ローラ=スチュアートその人なのだ。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/04(日) 20:13:06.26 ID:alZg/OVZ0<>

「脳内物質の作用箇所を、魔術で操作……またしても、『融合』ですか」

「当時はまだ、科学と魔術の境界線が決定的なものではなかったの」


近現代の組織にはとある不文律が存在していた。
曰く、組織は魔術か科学、いずれかに勢力に傾倒していなければならない。
その法則を破るものに世界は容赦せず、“彼”もまた、狭間をたゆたったからこそ
世界を敵に回した――――


(…………本当に、そうなのか?)


突如としてステイルは、根拠もなくそんな思考に脳を支配された。

融合を推し進めた男。
世界などという得体の知れない力によって線引きされた地図。
そして、そこから弾きだされた男。

肺の裏側に張り付いてこそぎ取れないような微細な違和感が、ステイルの呼吸を
わずかに乱す。
なにか、この先になにかがあるのか――――?


「…………ステイル?」

「っ!?」


びくり、と全身を小さく跳ねさせた。

焦点を思索の果てから現実世界に合わせ直すと、ローラが身を乗り出してステイルの
顔を覗きこんでいた。
狐に化かされたのかと思うほどに、その表情が真摯にこちらを慮るものだったため、
ステイルは今度は呼吸の仕方を忘れてしまった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/04(日) 20:14:20.50 ID:alZg/OVZ0<>







「……………はぁ」


深呼吸を一度。
時計の針の現在地を確認する。
インデックスは今も、マタイと和気藹々とした談笑にふけっているのだろうか。


「マタイには、私たちが向こうに行くまでインデックスを引きとめておくよう
 強く“お願い”してあるわ」

「…………なにも言ってませんよ、僕は」


紫煙の滞留する閉鎖空間が恋しい。
こういう些細な、人の心理を見透かしたような心臓に悪い一言が日常茶飯事のように
飛び出てくるから、この女との会話は気が滅入るのである。
右手の人差し指と中指を二本、立てたまま口許に運ぶ。
鉤爪のように、そこにはないシガレットを求めて二指が空を虚しく切った。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/04(日) 20:15:14.26 ID:alZg/OVZ0<>

「それよりも、まだ『毒』の問題があります」

「それは別段、いまさら不思議がることでもないと思うのだけれど?
 インデックス本人に訊く方がよほど早いと思うわ」


ステイルは顔を露骨にしかめた。
ローラの言わんとするところは理解できる。
なぜかといえば単純明快、インデックスが生きている、その事実があるからだ。
その上残留思念レベルの些細なものとはいえ、インデックスはショチトルの『毒』を
取り除くことにも成功している。


――――だからと言って、それ以前の『手法』については話が別だが。


「原典の毒を遮断するために、彼女がどんな調整を施されたのか。神裂とも、あまり
 積極的には交わそうとはしてこなかった話題ですね」


それはまごうことなき逃避の一種だった。
自分も神裂も、インデックス本人さえも知らない彼女の過去がどれほどに壮絶なもの
だったのか。
ステイルはずっとずっと、その先を知ることを怖がって逃げ続けてきた。

しかし、いつまでも無知な少年のままでいいはずがない。
否、いつまでも“そう”であれたのなら如何ばかり幸せだったろう。


「私も“彼”がとった手法については、詳らかには聞かされていない。ただ、原典には
 ある特性が存在するでしょう? それを利用した、らしいわ」


魔道書の原典はすべからく、『自身の知識をより広める者に協力する』性質を有している。
いつだったか酒の肴に、アステカの皮被り魔導師が関連性のある武勇伝を披露してきた、
こともあったような気がしないでもないような。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/04(日) 20:16:10.87 ID:alZg/OVZ0<>

「エツァリの話では、原典を騙すことは不可能ではない、ということでしたが」

「記録する側の脳に細工をした、と私は考えているわ。なにせ『ローラ』は、
 父親の手を離れて以降も愚直に蔵書数を増やし続けたのだから」

「…………“離れた”、ですか」


おざなりながら、ステイルの三つの疑念は一応晴れた。
いよいよ、物語のゴール地点が水平線の彼方に霞んで見えてきた、ということらしかった。


「親子は、リリスの死を優秀な……とびきり秀逸な反面教師として、その後四十年間
 『魔女白書』計画を前進させ続けた。その間二人の外見は、正常な人間なら等しく
 訪れて然るべき“老い”を置き去りにした」


ステイルは、ローラの若々しい肢体を髪先からつま先まで眺めた。
およそ三メートルにはなるであろう、馬鹿馬鹿しいまでに長ったらしいブロンド。
いったい何年間伸ばし続けるとこうなるのだろう、と場違いにもそう思った。


「そして今からおよそ七十年前。イギリスの片田舎に居を構えて、終わりなき実験に
 明け暮れていた、そんないびつな日々の一ページ。ついに、決定的な事件が起きた」


そこから先は年表にも載っている、周知の『史実』だ。


「彼が科学に傾倒している事実が、明るみに出たというわけですね」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/04(日) 20:17:20.73 ID:alZg/OVZ0<>

『世界最高最強の魔術師』は一転、『世界で最も魔術を侮辱した魔術師』と誹りを受けて
世界中の魔術師という魔術師を敵に回し――――その数年後、公式にはイギリスの片田舎
ヘイスティングスで一人寂しい最期を迎えた。


「『ローラ』にとって何にも代えがたい屈辱だったのは、魔術世界に暴露された彼の
 『実験』が、彼女の知るよりはるかに多岐にわたっていた、ということだった」


ローラが目を束の間伏せ、わずかののちに虚空を見上げた。
ステイルは、われ知らず目を瞠った。


「人間としての尊厳を実の父親に傷付けられ、地獄の底を歩き続けてきた己の人生が、
 数ある『対照実験』の一つにすぎなかったと知り、娘はついに父親の許を出奔した。
 本当の“最悪”がその後に訪れるなどとも知らず、追われる恐怖からただ、ひた駆けた」


今日一日で、ステイルは“生まれて初めて”を何回体験すればいいのだろう。
手の甲で瞼を幾度も擦って、眼前の光景が現のものかどうかを、思わず確かめていた。


「父は、娘を追ってはこなかった」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/04(日) 20:17:58.32 ID:alZg/OVZ0<>

「一晩経って、二回目の夜が明けて、三度朝日が昇っても、父は娘の前には現れなかった。
 一週間後、ようやく『ローラ』は悟った。何ということはなかった」


ローラの瞳の奥に、火が在った。


「彼にとって『ローラ』は、『スペアプラン』ですらなかった。手掌からこぼれ落ちて
 しまったところで、拾う価値すら見出さぬ、その程度の代物だった」


ちりちりと、ゆらゆらと揺れる憤怒の情炎。
血液を燃料に、心臓での奥で滾る恩讐の怨火。
寝ても覚めても消えなかったであろう鬼火。


「だから『ローラ』は――――“私”は」




ローラが胸に抱えて離さなかった『生きる理由』を、ステイルはそこに見た気がした。




「残りの人生を、父親への復讐のためだけに費やすと、そう決めた」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/04(日) 20:19:05.97 ID:alZg/OVZ0<>

「それからおよそ四十年間を、私は世界に散らばる原典の蒐集に注いだ。そこに紛れも
 ない、絶対的な『力』が宿っていると信じていたから。…………滑稽な話ね。父への
 恨みを晴らすために、当の父親のプランに縋ったのだから」

「…………ローラの、いえ、“あなた”の復讐は、結果どうなったんです?」


言ってから、意味の無い問いかけだと気が付いた。
ローラの復讐の成否は、その後の歴史の流れから火を見るより明らかである。


「二十六年前、運命の日。世の原典のほぼ九十九%にあたる一〇三〇〇〇冊を揃えた
 私は、単身父親と思われる男の根拠地に乗り込んだ」

「“思われる”、とは?」


不可解な言い回しをステイルが聞き咎めると、ローラは軽く爪を噛むような仕草を
見せてから語りだすが、どこか理路整然としておらず、良く要領を得ない。
二度、三度と聞き直して整頓すると、次のようになる。

彼女は父親と四十年のあいだ一切の接触を断っていた。
その間に“彼”が己の父であるか証明はできなくなっていた。
なぜなら、科学へと身をやつした“彼”は著しく存在の根本が変わり果てていたから。
もはや娘である『ローラ』にも、“彼”が本当に自分の父親なのか自信が持てなかった。


「無理やり理屈付けすると、そんなところかしら」

「だから、イギリス清教には“彼”を――――『ローラの父親』をサーチする術式が
 あった? にしても、無茶苦茶だ。真に復讐の対象なのかどうか、確信もないままに
 殴り込みをかけたわけですか」

「私に文句を垂れないで頂戴。それは『ローラ=ザザ』に言ってあげて」

「都合の悪い時だけ『ローラ=スチュアート』に戻らないでください」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/04(日) 20:20:41.26 ID:alZg/OVZ0<>

兎にも角にもローラは、その身に蓄えこんだ魔術の極地ともいうべき力で、立ちふさがる
障害をことごとく薙ぎ払った。
ローラは“その日”を回想して恍惚としていた。


「楽しかったわ……たとえ父親が無価値だと切り捨てたとしても、原典が有する
 『力』の脅威は、間違いなく私の内側に、形として、暴力として、確かに在った」
 

ステイルの聞く限りでは『竜王の殺息』の、そのまた原点のような力、そんな風に思えた。
幾重にも折り重なった純魔力の束が数千の光子を内側から生み、一つ一つが異なる性質を
帯びて対敵の抵抗を無に帰す。
十一年前に“上条当麻抹殺”を目的として選択されたかの術式は、その圧倒的すぎる
性能から絶対的多数に対抗する鬼札としても十二分に機能したことであろう。


「科学がいかなるメカニズムで私の行く手を阻もうとも、すべて一蹴できた」


飛び散る脳漿、噴き出す鮮血、土くれに帰る死体の山。
上半身を吹き飛ばされた哀れな骸、消えた己の下半身を絶叫とともに探し求める贄の姿。
そしてその中央を、血と死に彩られた花道を、ステイルの向かいで今まさに披露している
魔女のごとき嬌声を響かせて、優雅に横行濶歩するローラの血塗れの背中。

なにもかもすべて、ステイルには容易く想像できた。


「…………最終的には、どうなったんです」


ステイルはそんな彼女から目を背け、素っ気なく先を促した。
幼子のような無邪気な笑い声がどこか泣いているように聞こえて、見ていられなかった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/04(日) 20:21:51.48 ID:alZg/OVZ0<>

神父の態度に無言の戒めを感じとってか、魔女はほのかに頬を染めてうつむく。
その表情が論戦に負け、赤くなって黙りこくるインデックスにあまりにも瓜二つで、
ステイルは手の甲の柔肉を後先考えず力の限りつねった。


「……よく、覚えてはいないの」

「っつつ…………なんですって?」


理屈に合わないことを言うではないか、とステイルは訝しんだ。
当時のローラには『完全記憶』があったはずである。
しかし滔々と物語る声は止まず、事実が列挙されていく。


当時は未完成だった『ビル』に突入して、物資搬入用のエレベーターを使って上へ上へ。
最上階に辿りついて、一面を『力』で焼き払う。
内壁を片の端から吹き飛ばしていくと、どうしても破壊できない部屋が見つかる。
薄緑色に輝く壁に取り囲まれた空間。
扉があった。
前に立つと独りでに、音もなく開いた。
躊躇わずに飛び込む。
途端に、視界が歪んで上下左右がバラバラになった。
肩に鈍い痛み。
倒れこんでいることに気が付く。
懐かしい声が聴こえた、ような気がして顔を上げた。


記憶に残る最後の景色は――――逆さまの、笑い顔だった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/04(日) 20:23:11.07 ID:alZg/OVZ0<>

目が覚めると視界が黄ばんでいた。
全身に得も言われぬ浮遊感。
実際に身体が浮かんでいた。
ローラはビーカーの中の標本だった。

意識を取り戻した瞬間ローラは、あらゆる現実の認識を置き去りにして真っ先に、
モルモットに戻ってしまったのだと、どうしようもなく実感したと言う。
巨大な試験管の中で、裸に剥かれて薬液に浸されている無力な己。
世界を実験場に見立て、矮小な好奇心を満たす“彼”と大差などないと、自傷と中傷を
同時に、器用にこなしながら、彼女は意識を失う直前にそうしたように再び面を上げた。

対面に、もう一つ、同型の――――空っぽのビーカー。

タイミングを計ったかのように満たされはじめるオレンジ色の薬液。
無数に繋がれた太いパイプ。
それはやがて細いチューブに連結されて、試験管の内側のローラの“脳”まで届いた。



「そうして私は、ビーカー越しに目撃した」



ステイルは唾を飲み込むのも忘れて、物語のクライマックスに没入していた。
テーブルについた握りこぶしが小刻みに震えている。
誰かが鼓膜の内側から囁いてきた。

これ以上は聞くな。
取り返しのつかないことになるぞ。
引き返すなら今のうち――――

鈍い音。

三センチほど浮かせた拳が振り下ろされて、木製の卓の鈍重な悲鳴を呼んだ。
鼓膜の奥からの、煩わしい怯懦の声が消える。
その間にもローラは休まず、丁寧に己が体験した情景を描写していた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/04(日) 20:24:08.77 ID:alZg/OVZ0<>

泡立つ液体。
時を同じくしてローラの頭の中から、致命的な“何か”が抜け落ちていく
自分の傍にずっと一緒に居てくれた、“誰か”が去っていくような感覚。
悲しみの正体も杳として知れぬままに、現実は無慈悲に時計の針を進める。

試験管の中心に、微小な肉塊が生まれた。
やがてそれは、時間を掛けて、徐々に徐々に、悠長に、緩慢に、穏やかに次第次第にゆっくりとゆるゆるとのんびりとじわじわと、人の形を成すように生長していく。



そして、数百年の月日が流れた。

















少なくとも、当時のローラの主観ではそうなる。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/04(日) 20:25:52.80 ID:alZg/OVZ0<>

「私は、写真立ての向こう側にしか見たことのなかった“彼女”を、肉眼で見た」


後で計算したところによれば――そう、ローラの人生はこの後も続くのだ――およそ
一ヶ月、彼女はこの世のどんな『死』よりも無情な『誕生』を、是非もなく見届け
させられたらしい。

長いのか短いのか、ステイルには判断がつきかねた。
確かなことといえば、ローラは間違いなく狂いかけていた、ただそれだけだ。


「かつて喪った姉とまったく同じ姿形をした少女が、目の前でゼロから形成されていく
 様を、この眼で見た」


父親が娘を生き返らせた。
文章に起こすとそういうことになる。
道義性、倫理性を軽視すれば、美談と言えなくもない。


「二、三歳程度の、リリスが死んだ時分と寸分たがわぬ少女が、すやすやと私の目前で、
 幸せそうに眠っている。流れるような銀糸、無垢な幼い肢体」


最大の問題は、そこにどんな感情と目的が介在していたか、だ。
喪った娘をその手に取り戻すため、狂気の研究に没頭したマッドサイエンティスト。
そういう美談を好き勝手に脳内で仕立て上げられれば、ローラは如何ばかり幸せだったろう。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/04(日) 20:26:47.96 ID:alZg/OVZ0<>

だがしかし、ローラは悟ってしまった。
これは『実験』だ、と。
四十年前の、『魔女白書』の続きなのだ、と。



                ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「きっとその瞼の裏には、父親譲りの翠色が隠れているのだと、私は疑わなかった」




ステイルの顔面は、頭髪の色合いと鮮やかに対照が際立つような、蒼白に染まっていた。




「……………………三…………人目………………?」




<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/04(日) 20:27:56.04 ID:alZg/OVZ0<>

               『インデックスはこの通り、何も気にしてなきよ?』

                        『ふふふ。結局、ローラなら大丈夫な訳よ』

                                   『こうして見ると、“姉妹”のようだねぇ』



『……それは、安全なんだよね?』

  『あ、ご、ごめんなさいこもえ! その、“学園都市を信じられない”、ってわけじゃあ』



                                        『乱暴に言えば、クローン体ね』

                                           『“クローン”…………』



  『つ、ついにみことのデレ期がとうまとまこと以外にも解放されたかもぉ!』
 
  『そういうこと言うともう呼ばないわよ!』

 『やだやだ、もっと“お姉ちゃん”って甘えて欲しいですの!』




     『ただそうだな、彼女は時折、思い出したように年上のお“姉”さんぶってくるんだ』


<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/04(日) 20:29:50.36 ID:alZg/OVZ0<>

「そう。私が『禁書目録』と名付け、あなた達が『インデックス』と呼ぶ女性」

「彼女は、私の“姉”で」

「“彼”の最初の娘、リリス=クロウリーの遺髪から生まれたクローン人間で」





                                         ムーンチャイルド
「同時に“彼”――――アレイスター=クロウリーの魔力から産まれた、『人造人間』よ」







Passage7 ――姉妹―― END

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/04(日) 20:31:57.35 ID:alZg/OVZ0<>
⇒ TO BE CONTINUED ……


もはや何も言うまい
では火曜の夜にお会いしましょう
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) <>sage<>2011/12/04(日) 20:58:54.63 ID:EB08ssQn0<> 乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(三重県)<>sage<>2011/12/04(日) 21:01:41.30 ID:I4nuKOYB0<> お、おお、乙ゥゥゥウウウ!!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西・北陸)<>sage<>2011/12/04(日) 21:38:51.34 ID:ZycTUplAO<> もう、乙しか言えない <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区)<>sage<>2011/12/05(月) 19:31:38.43 ID:TInZC0suo<> お疲れさまです。
ここまで書かれたら、続きを待ってますしかいいようがないです。 <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/06(火) 22:43:28.32 ID:lZs3emjR0<>
説明回は続くよどこまでも
乙をくださる皆々さまに感謝しつつ、今夜も投下と参りましょう <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/06(火) 22:44:39.38 ID:lZs3emjR0<>

――Passage8――



科学と魔術は、相容れ得るのか。


それは三月の事件以来、ステイルの頭を悩ませてきた題目だ。
イギリス清教と学園都市は、手を結びあうことで一つの回答を世界に示した。
一方で第三世界の『半端者』は破滅を体現することで、やはり一つの答えを世界に
見せつけた。
そして、こんなにも身近にまた、一つの回答が。


ステイルの愛する女性は、『科学』と『魔術』の融合領域で“創られた”存在だった。


目を瞑る。
ステイルは反芻しながらこめかみを押さえた。
ローラの姉、アレイスターの娘、創られた人間。
脳の容量が圧迫されたでもないのに、頭が痛くなるような質量のある事実だった。

だが。
だが――――



(それが、なんだ。だったら、どうしたって言うんだ)

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/06(火) 22:45:31.98 ID:lZs3emjR0<>

人は誰もがみな、等しく造物主の創造物である。
ステイルも上条もローラもアレイスターも、誰もがそうである。
聖書の記述に従うならば、インデックスとて――――


(……違うだろう、ステイル=マグヌス)


それは言い訳だ。
インデックスの存在を十字教の教義に照らし合わせて正当化しようとする。
そんな思考に身を任せるということは、裏を返せば彼女を、本能のどこかで認めて
いないと認めるようなものではないか。

そうではないだろう。
頭でっかちの理屈をこねようがこねまいが、ステイル=マグヌスにとっての愛する
人は微塵も色褪せないはずだ。

深呼吸。
肺に燃料を供給し、全身の縮み上がった筋肉を燃やす。
瞼に隠れた紅玉を外気にさらし、酸素と結ばせ焚きつける。
口腔を開いて、凛と呼気を吐いた。


「十二時の鐘を聞く前に、寝床に就きたいものですね。続きを」

「…………本当に、あなたは強くなったわね」


対面の女の眼差しは、子を抱く母の腕(かいな)のように優しかった。


「だから……あなたに成長を見守られた覚えなど、前々世まで遡ろうと断じてありません!」


見守られたかつての少年は顔を背けて悪態をつき、しかし自分でも気づかぬ間に微笑んでいた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/06(火) 22:46:00.91 ID:lZs3emjR0<>


Passage8 ――魔女と神父――



<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/06(火) 22:47:34.08 ID:lZs3emjR0<>

咳払いを一つ。
熱を帯びる眼球とは裏腹に、ステイルの脳は努めて冷徹に検めるべき疑念を発させた。


「アレイスターのホムンクルス理論はパラケルススのそれを否定するものであると、
 『ムーンチャイルド』の偽書版でそう読んだ記憶がありますが」

「赤子の肉体を用意して魂を招き入れる、という手法ね。だからこその、クローン工学
 との『融合』だとは思わない?」


クローン。
その存在に関していまさらあれこれと述べる必要もない。
ステイルはほんの二十四時間前に、創られた女性が創りものではない幸福を掴みとるために
刻んだ、大事な大事な一歩を見届けたばかりだった。


「『魂』を招く、ね…………それが肝というわけですか。冒頭に僕が並べた疑問のうちの
 片割れについて、そろそろ答えをいただきたいのですが」

「『何故、「禁書目録」は人の身に記録されなければならなかったのか?』」


即座に返ったローラの山彦に、ステイルはこくりと小さく頷いた。

魔道書の原典を電気信号変換することが可能だというのならそのまま、比喩でもなんでもなく
ハードディスクに保存してしまえばよい。
人間に搭載するデメリットは先刻ステイルが言及したようにはっきりしている。
『首輪』と『自動書記』という二重の防衛ラインを張って守護を万全なものにしたところで、
所有者の寿命までは無視できない。
『リリス』から『ローラ』に、『ローラ』から『インデックス』に継承されたように半永久的
な保存は可能だとしても、反逆の意思なき鉄の塊に保管させる以上のメリットはごく限られる。

あるいはそれは――――アレイスターが彼女たちを、機械同然に見ていたことの証明、
なのかもしれなかった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/06(火) 22:48:48.12 ID:lZs3emjR0<>

ステイルの腹の底に、容認しがたい黒い怒りが滞留をはじめる。
ローラは神父の裏側の激情を胡乱な眼で見透かしていた。


「奴は魔道書の中身そのものよりも、魔道書に触れる『魂』にもたらされる変化にこそ
 着目したに違いないわ。…………推測を超えるものだと断言ができないのは、私が
 アレイスターから『魔女白書』の真に到達すべき終点を教えられていないから、よ」


奸智に長けた女狐らしからぬ、無知の露呈だった。
『実験材料』が『実験』の行き着く臨界点を知る必要などない、ということだ。
この世で一、二を争うほど気にくわない女が哀れな使い捨ての駒にすぎなかった証拠に
あやかったというのに、ステイルの頭上にかかる暗澹とした黒雲は晴れてはくれない。

鮮烈な事実を突きつけられてなお、『禁書目録』の真実はいまだ遠かった。


「脳から何かが抜け落ちる感覚。これが『禁書目録』の継承の瞬間だったと考えても?」

「よろしいわ。その日を境に“一〇三〇〇〇冊”は私の手を離れた」

「アレイスターは最初から、あなたから最大主教への譲渡を意図していたのでしょうか」


憎悪と怨念にとりつかれた『二人目』に見切りをつけ、『三人目』へとリセットすること
でより御しやすい『禁書目録』――彼にとっては『魔女白書』――を手中に収めようとした。

アレイスターならばやりかねない、ステイルは苦い思いで結論付けた。


「……真実がどうであれ奴は、『禁書目録』を再び放棄したのだけれどね」

「……そういえばそうでしたね」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/06(火) 22:49:39.66 ID:lZs3emjR0<>

アルバムのページをめくるまでもない。
『ローラ=ザザ』はこの数年後には『ローラ=スチュアート』として、そしてステイルも
よく知る怪女としてイギリス清教に君臨し、『三人目』は『インデックス』として歴代の
パートナーと終わらない死に絡め取られる。

歴史がそれを証明している、と言えばやや大げさだが、すなわちローラとインデックスは
こののち、アレイスターの掌中を脱するという偉業を成し遂げていることになる。


「リリスの姿をした少女の誕生に呆けていた私に、背後から声がかかった」


意気消沈した、あまりにも人間じみた落胆の声だったという。
お気に入りのおもちゃを壊して途方に暮れる、少年のような声だったという。


――やはり、『魔女白書』は失敗だったか――


ローラは声の主を顧みようと、全身に力を込めた。
しかし、チューブの檻に縛られた身体は脳の指令を聞きいれてくれなかった。
いますぐにでもその喉を掻き切ってやりたかった。
衝動的な願いと、束縛される現実との狭間でもがき苦しむローラを、次に耳を打った
一小節が完全に狂わせた。


――――まあ、仕方のないことかな――――


それはローラの全人生を、完膚なきまでに否定する一言だった。
視界のみならず、全身に走る神経系の一本一本が弾けるように真っ白になった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/06(火) 22:51:00.25 ID:lZs3emjR0<>

「仕方のないこと…………か」


耳に痛い言葉だった。
それはステイルが十二年前、インデックスから逃げ出す切欠となった“諦観”の象徴である。


「つまりアレイスターは、そこまでしても彼の望む結果を拾えなかった、と」


話を聞く限りでは、何が失敗だったのかまるで理解できないが。
元より狂人の思考など辿るだけ無駄なのかもしれない。


「そして、『仕方ないこと』だと割り切って再び目を背けたのよ、あの男は」


失敗したプランに興味を失った――――のかまでは、窺い知れない。
その前に、怒り狂ったローラがすべてを破壊し尽くしたからだ。


「『禁書目録』を奪われた後で、よくもまあそこまでの『力』を振るえたものですね」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/06(火) 22:52:17.95 ID:lZs3emjR0<>

ローラは自慢げに、しかし自嘲気味に笑む。


「奪われたのは『知識』のみ。世界最悪の魔術師の直系たる『魔力』は健在だったのよ」




脳漿が沸騰したかのような怒りに身を任せたローラは一切の術式を通さず、純然たる
マナを放出して虎口を脱した。
立ち昇る蒸気と白煙を合図に、再び阿鼻叫喚に満ちた地獄へと変わる『窓のないビル』。
みしりと音を立てる肉体に鞭打ち、ローラはとっさにリリスの小さな体を抱えあげ――




「……まさかいまさら、“姉”に情が移ったなどとほざくんじゃないだろうな」


今度こそ水を差すまいと固く黙りこくっていたステイルだが、たまらず冷えた文句が
口をついた。


「当然、と言ったらあなたは怒るでしょうけど、私の胸先には打算が多分にあったわ。
 …………ただ、信じてほしいとは言わないけれど。損得勘定以外のなにかがあの日
 私を突き動かしたのも、また事実だった」

「当然、と言ってもあなたは怒らないでしょうが、信じませんよ」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/06(火) 22:53:46.44 ID:lZs3emjR0<>

不機嫌に顎を軽く振って、ステイルは先を促した。
ローラは苦笑するばかりで、やはりいささかの憤りも顔には表さなかった。


「あなたにとって、ここからはさらに興味深い話になるはずよ」


再び、舞台を『窓のないビル』に戻す。

脱出口を求めてさまよったローラの視線が、材質の計り知れぬ奇妙な床に転がる白衣を捉えた。
このとき初めて、ローラはその空間に数人の科学者が同席し、この一大『実験』の挙行に
携わっていたのだと気が付いた。
彼女はアレイスターが動きを見せる前に散らばる研究者の白衣を探り――――


「“これ”を二つ、掴みとった」


しばし懐を探ったローラの右手が、“ある物体”をステイルに向かって差し出した。
視界に入れた途端に汗が噴き出る。
奇怪な紋様がところどころに刻まれた、乳白色をした円筒状の霊装。
十一年前にもステイルは、“これ”がローラの手の内で弄ばれているのを目撃している。


――――早く動かないと、“こいつ”を使うぞ――――


「彼女の『遠隔制御霊装』……!?」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/06(火) 22:54:58.10 ID:lZs3emjR0<>

ステイルの脳裏に絶望と挫折の日々が蘇る。
苦みばしった酸味が舌を刺したように感じたのは、きっと気のせいではない。
近づいては遠ざかる過去を俯瞰で眺めるうちに、ステイルはローラがひた隠しにしてきた
『第三の虚構』の正体を悟った。


「…………『自動書記』は」


腰を椅子から浮かし、身を乗り出して女に詰め寄るステイル。
ローラの瞳に映る己の白目は血走っていた。



                     ・ ・ ・
「清教派と王室派の合意の下で、貴女が彼女に掛けた魔術ではなかったのか……っ!!」




彼女が生まれた段階でアレイスターの手元に『遠隔制御霊装』があった以上、そうなる。
インデックスの出自に直結する『虚構』を知らされたのとは、驚愕の質がまるで違った。
より肝を冷やされたのは前者だが、後者は自分や神裂の三年間の苦悶と密接に関わってくる。

はいそうですかと聞き逃すには、ステイルにとってあの三年間はあまりに苦すぎた。


「王室までも束になって、僕らを、彼女を、二重に欺いていたというのか!」

「結果としてはそうなるけれど……エリザード様の名誉のためにも言わせてもらえば、
 “現在の”王室派の面々は一切この件を関知していないわ」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/06(火) 22:56:26.72 ID:lZs3emjR0<>

『ビル』を逃れたローラは、今後の復讐を武力ではなく権力で果たすと決めた。
幸いにして彼女の手には、脳内の“一〇三〇〇〇冊”と引き換えに手に入れた素晴らしい
手駒が二つもあった。


「感嘆すべきバイタリティだ、あやかりたいですよ」


唾をかけたい苛立ちを抑えてそう吐き捨てた。
要するにその後三十年に渡って繰り広げられたローラとアレイスターの『高度な政治的
駆け引き』は、地球をチェス盤に見立てて繰り広げられた壮大な親子喧嘩だった、
ということではないか。


「祖国イギリスにどうにか帰り着いた私は当時の女王、つまりエリザード様の母上にとある
 取引を持ちかけた。悲しいかな、彼女の女王としての器は娘には遠く及ばなかったわ。
 なぜなら」


くるり、ローラの手の中で『霊装』が一回転する。

                こ れ
「世界に二つしかない『遠隔制御霊装』と引き換えに、私に『最大主教』の座と
 『ローラ=スチュアート』の名を、いともあっさり渡してくれたのだから」

「それはそれは、よほど真摯な“お願い”に聞こえたことでしょうね」


超能力者の脳さえ凌駕する資産価値が『禁書目録』にはある。
というより、それこそが『魔道図書館』の本来的な価値であるはずだ。


「畢竟貴女とて、彼女に道具以上の価値を見出していなかったんでしょう。十一年前、
 最大主教をやけに簡単に上条当麻に預けた理由も、ここまでくれば想像がつく」

「あら、そう?」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/06(火) 22:58:29.81 ID:lZs3emjR0<>

「アレイスターの鼻先に、かつて廃棄した『プラン』をぶら下げて出方を窺った。
 ……………そんなところでしょう」

「そして奴は五年間、『魔女白書』に見向きもしなかった。実りの少ない『実験』
 だったわね」


ローラの物言いは、いつの間にか『ローラ=スチュアート』のそれに染まっている。
いちいち怒り狂うのにも疲れて、ステイルは彼女の言う“五年間”を回想してみた。

インデックスが学園都市に在住していたあの時期。
確かにアレイスターはひたすら彼自身の『メインプラン』に邁進するばかりで、
『幻想殺し』の隣に常にあった彼女に対してはなんらアクションをかけていない。
ゆえにステイルも二人に血縁があったなどとは露知らず、上条当麻の家族であることこそ
彼女の幸福なのだと思い込んでいた。

アレイスターと『禁書目録』の間に、目に見えるような繋がりなど何一つない。
もしあったなら、世界中の魔術師がその関係性に疑惑の眼差しを向けていたはずだ。


「…………いや」


と、そこまで考えてステイルは気が付いた。
接点なら一つあるではないか。
アレイスターの『プラン』にどこまで関係してくるかは不明瞭だが、この際疑念は
すべてぶつけておくべきだ。


「十一年前の、『法の書』事件についてですが」

「あら、懐かしい」


それはある意味では、ステイルとインデックスのリスタートの端緒となった事件の名だった。
<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/06(火) 22:59:16.88 ID:lZs3emjR0<>

ローマ正教のシスター、オルソラ=アクィナスがエドワード=アレクサンダーの著書たる
第一級の原典、『法の書』の解読法を発見したことに端を発し、イギリス清教
(プラス一般人約一名)、天草式十字凄教、ローマ正教の三つ巴となったあの争奪戦。

最終的には、ことの初めから真実を知った上で事態を静観し、見事神裂火織(せいじん)
の枷となる天草式(くびわ)を手中に収めたローラの一人勝ちに終わる。


「……というのが、事件直後の貴女の説明でしたね」

「よく覚えているわね」

「しかし、それですべてだったのですか?」

「ほう?」


ローラ=スチュアートは清教派の、ひいては自己の利権を最優先に戦略行動を決定していた。
清廉であるべき聖座に身を置くこの女の行動原理は、むしろ魔術結社のそれに近いものがある。

だとするならば、真実に対してほぼ100%に近い確信がない限り、オルソラと『法の書』
という世界を揺るがすワンセットの総取りを狙わないのはやや不自然である。
変革を恐れたローマ正教とは違って、ローラが『十字教の時代』に固執していたとも思えない。


「起こらなかった『たとえば』の話は虫が好きませんが……もしも十一年前、オルソラの
 解読法が真実を的確に突いたもので、かつ『法の書』が天草式の手に渡っていたと
 したなら、貴方は」

「必要なかったわ」


ローラの回答は簡潔なものだった。
ステイルはやはり、と溜め息をついた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/06(火) 23:00:16.83 ID:lZs3emjR0<>

「それは、つまり。貴女が『法の書』を……」

「かつて“持っていた”から、に他ならない。さらに言えば、断片的な内容も知っていた」


『法の書』の著者、エドワード=アレクサンダー。
またの名をアレイスター=クロウリー。
彼が『魔女白書』に注入した原典の中には、当然のことながら自らの著作もあったはずだ。

そしてローラの目的はアレイスター勢力への妨害、牽制、究極的には復讐。
水と油とまではいかなくとも、親和性はさほど高くはなさそうだった。


「なるほど…………しかし、毒を持って毒を制す、という考え方もあったでしょう。
 最大主教をそう扱ったように、ね」

「“アレ”の中身を知らないからそんなことが言えるのよ。『法の書』の記述をもとに
 動いたところで、アレイスターを喜ばせるだけの結果に終わったでしょうね」


ローラはステイルの推測を、珍しく明快に否定した。

ローラが『禁書目録』という撒き餌を鼻先にぶら下げて相手の出方を伺ったことに対する、
アレイスターなりの意趣返しだった――――というのは、流石に穿った見方にもほどがあるか。
あの事件にアレイスターが関わっていたなど、証拠はおろか痕跡の欠片すらもないのだから。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/06(火) 23:01:23.53 ID:lZs3emjR0<>

「それにつけても、『ローラ=スチュアート』の滑り出しは笑いたくなるほどに順調
 だったわ。脆弱な借り物とはいえ権力基盤を手中に収め、なにより『ローラ=ザザ』
 以上に『禁書目録』を自在に制御する術がある」


込み上がる喜悦を抑えきることができずに、ローラはくつくつと哂った。
その表情が一瞬、偽悪ぶった舞台女優の仮面に見えてしまった事実を、ステイルは意図的
に無視した。
無視せずとも、寸刻も待たずに意識の彼方に吹き飛んでだろうが。


「順風満帆そのもの。そんなときだったわね、『七月二十八日』がやってきたのは」

「――――――っ!」


その日付の意味するところは極めて明白だった。
『首輪』。
『自動書記』と併せてインデックスを縛っていた鎖。
十一年前、イギリス清教が覆い隠してきた『虚構』に触れたステイルと神裂に対して、
ローラが行った説示とは完全に食い違う真実だった。


「『首輪』までもが、アレイスターの仕掛けだったと言うのか……!」

「最初の七月二十八日はまさに間一髪だったわ。記憶の消去がトリガーであると霊装で
 強引に『自動書記』から聞き出したときには、すでにリミット寸前だったもの」

「……っ、さも彼女を救ったかのような面でのたまうな!」


二つの鎖で四肢を縛り、『魔道図書館』としての人生を選択の余地のないものにした。
イギリスという国家全体でそう仕向けた。


「――――あれらがすべて、『よくできた作り話』だったとでもいう気かッ!!」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/06(火) 23:02:59.67 ID:lZs3emjR0<>

とうとう激昂をあらわにして食ってかかったステイルに、ローラは小さく、
しかし明確に頷いた。


「『よくできた作り話』だった。それ以上でも以下でもないわ」


荒い息を吐いて顔を振るほかに、ステイルにできることはなかった。


「貴様はどこまで僕らを、彼女を弄べば気が済むんだっ……!」

「…………ごめんなさい」

「謝るなッ!! どんな事情が、どんな真実が貴女の裏側にあったのだとしても、僕は
 貴女を赦す気など断じて、永遠にないッ! 謝罪するならなにより先に、最大主教に
 向き合うのが筋で」

「それは、もう済ませたわ」



ステイルの憤怒にさらされ加熱していく空間に、唐突に『第四の虚構』が降ってきた。



「………………え?」



それは、ローラがステイルを欺いて生まれたものではなかった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/06(火) 23:04:58.42 ID:lZs3emjR0<>

「私は歴代のインデックスに対して、あなたにしたのと同じ説明を十度以上繰り返して
 いる。だってそうでしょう? 一〇三〇〇〇冊の矛盾を私がどう取り繕ったところで、
 彼女はすぐに気が付いてしまうのだから」


一〇三〇〇〇冊の矛盾。
世界中を廻ったにも関わらず増えていない蔵書数。
言われてみればそうだった。
いくらステイルを、神裂を、アウレオルスを欺いたところで、当のインデックスの蔵書量
に対する認識までは誤魔化しようがない。

――――ならば、まさか。


「あの子たちは…………“覚えたふり”をしていた……? でも、なんで、そんな」


なぜそんな、無意味な真似をしたのだ。


「インデックスは、自分の運命を受け入れていた。私は、そんな彼女に――――」


ローラが顔を背けて押し黙った。
なにか言いかけたようだが、正直なところステイルにはどうでもいいことだった。
『第四の虚構』が覆い隠していたのは、これまでで最もささやかで、他愛もない真実。



“インデックスはステイルに嘘をついていた”



<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/06(火) 23:07:21.53 ID:lZs3emjR0<>

ただ、それだけのことだった。
ただそれだけのことが、ステイルには。


「……………………ない」

「どうしたの、ステイル」


アスファルトと擦れたような声とも呼べぬ掠れ声が、かすかに漏れた。


「……あの子たちは、なにも悪くなんかない」

「そう、かもしれないわね」

「あの子たちは、良かれと思ってやったんだ。僕らを騙すなんて、そんなつもりはきっと
 なかったんだ」

「きっとそうなのでしょうね」

「だいたい、そうしろと強要したのは貴女だ。僕らを、すべてのパートナーを欺けと、
 貴女が吹き込んだ、そうだろう。だからあの子は」

「ええ、そうよ」

「だから――――――」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/06(火) 23:09:49.76 ID:lZs3emjR0<>

大きく吸いこんだ酸素はきちんと肺に辿りついてくれたのだろうか。
そう疑いたくなるほどに、呼吸が苦しくて仕方なかった。
肺臓を裏側から引っ張られたような痛みが走る。



「だから、だからだからだからッ!!! あの子が僕らに、永遠に隠したままだった
 事実があったとしても、それは、あの子のせいなんかじゃない!!」



愛した少女が、信頼を寄せてもらっていたと少なからず自惚れていた相手が、
空の上まで――少女に墓標はない――持っていってしまった秘密が存在した。


「そう、悪いのは私。だからステイル、そんな顔はお止めなさい」


悲しかった。
そしてそれ以上に悔しくてたまらなくて、ステイルは目を片手で覆った。
少女の真の苦しみを結局自分は見過ごしていたのだと思うと、己が身が惨めでならなかった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/06(火) 23:10:58.01 ID:lZs3emjR0<>

十一時の鐘が鳴り響いた。
ステイルは目を伏せたまま言葉を発した。


「このことは、“最大主教”にも?」

「もちろんあの子にも、学園都市からロンドンに帰ってきたのちに、この事実を伝えたわ。
 本来なら十二年前にしておくべきだったのだけど、あなたたちが私の許可を得ずに『敵』
 になってしまったことで、その機会は長らく失われていたから」

「…………それはどうも、申し訳ありませんでした」


あれはいつの事だっただろうか。
インデックスとローラはステイルたちの反対を振り切って、余人を交えず一対一で対話している。
四次大戦が終結した後しばらくしてのことだったから、おそらく二年ほど前だったはずだ。

つまり“現在のインデックス”もまた、この秘め事を打ち明けてくれなかったことになる。
上条当麻にしこたま呑まされた酒席で、ステイルは彼女の『貯蓄癖』に言及したが――


『彼女は事が深刻であればあるほど、相手が親密であればあるほど、相手が彼女を
 心配すればするほど、自らの胸に悩みを仕舞いこんでしまう。彼女がようやく
 相談してくれるのは、ある程度自分の中でその問題を消化してからだ』


裏を返せばそれは、インデックスの中で消化しきれていない問題だった、という証にもなる。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/06(火) 23:12:19.98 ID:lZs3emjR0<>

「聞かされた彼女は、どんな反応を?」

「…………………………驚くほど、“いつもの”あの子と変わらなかったわね」


“いつもの”とは要するに、ローラの暴露した衝撃的な事実を、何度も何度も新鮮な思いで
受け入れたであろう歴代のインデックスのことであろう。
吹きつける豪雪のような厳しい現実にさらされ憔悴するステイルは、“インデックス”に
言及するローラが、寸刻言い淀んだことに気が付かなかった。


「彼女は、貴女を」

「インデックスは、内心の動揺を表に出さずに綺麗に微笑んで、私を赦した」

「…………くそっ」


何故だ、と叫びたかった。
同時に、やはり、とも思った。
やはり何度『死』んでも、彼女はしなやかで美しい聖女のままであり続けた。


「自分がクローン人間だと知らされようと、私の姉で、奴の娘だと聞かされようと、
 “いつものように”真実を、ありのままに受け入れた」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/06(火) 23:16:05.46 ID:lZs3emjR0<>

インデックスはローラを受け入れた。
愚直に受け入れたまま、整理しきれない現実に押し潰されようとしているのではないか。


「…………ステイル。いまからあなたに、『最後の虚構』を伝えるわ」

「まだ、あるんですか」


ステイルもまた、受け入れがたい現実を次々に肩に載せられて、膝を折りたかった。

だがステイルは、もう決めたのだ。


「嫌なら、耳を塞いでいても構わなくてよ?」

「聞きます」


インデックスと幸せになることを諦めない。
そのためならどんな地獄を潜ることも厭わない。
最後に彼女と笑っていられるならば、他になにもいらない。

だからこそ、どんな残酷な現実でも受け入れてみせる。
そしてインデックスを隣で支える。
そういう男になると、決めたのだ。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/06(火) 23:16:29.36 ID:lZs3emjR0<>

「―――――――――」


「―――――――――――――」




「―――――――――――――――――」






「―――――――――――――――――――――――――」





<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/06(火) 23:17:07.18 ID:lZs3emjR0<>

ステイルは深く深く深呼吸し、テーブルの陶器に手を伸ばそうとする。
喉がカラカラだった。


「あら? 『ローラ=スチュアート産の紅茶』には口を付けない主義でしょう?」


言葉に詰まって唇を噛む。
愛する人の妹なのだと知ったところで、最悪の魔術師に振り回された被害者なのだと
悟ったところで、長年培った憎悪は消えてくれはしない。
忌々しい底知れぬ微笑が、常通り女の頬に張り付いている。




「…………やはり貴女は、生粋の“魔女”ですよ」




そう、ステイルは思った。




Passage8――――END
<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/06(火) 23:22:36.69 ID:lZs3emjR0<>
⇒ TO BE CONTINUED ……


今回はひたすら、ばら撒いた超設定と原作設定のすり合わせ回でした
出来栄えとしてはまったく満足できていませんが、いくら推敲しても
これ以上のクオリティにはなりそうになかったので妥協しました

そういうわけですから原作との矛盾なんて気にしねーよ! 
って方は読み飛ばしても今後の展開にそれほど支障はない……はずです
では二日後の夜にまた来ますねん
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(京都府)<>sage<>2011/12/06(火) 23:37:12.78 ID:J/1o6dFo0<> いや案外原作もこんな感じでクライマックス迎えてもいいかも、って思えてきた。1乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/12/06(火) 23:49:08.44 ID:JXKWxPcY0<> ここ数回の投下に溜飲が下がりまくっている、というのはおそらく問題発言なんだろうな
乙!
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(千葉県)<>sage<>2011/12/06(火) 23:52:55.11 ID:Sm6X1BmJ0<> 一昨日まで3日かけて一から読んで、今日の更新を待った甲斐があったというもの・・・!
wwktkが止まらないぜよ。>>1乙なんだにゃー <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(関西・北陸)<>sage<>2011/12/07(水) 04:05:28.30 ID:0is+4qWAO<> 乙!
乙!!
乙!!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(チベット自治区)<>sage<>2011/12/07(水) 12:38:44.09 ID:TbgVOopZ0<> おおおおつ <> >>1 ◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/08(木) 22:37:39.11 ID:TOSg5uqg0<>
>>750
今日の投下でさらに溜飲が下がる、のかもしれませんねー

他の方もありがとうございました
wwktkするような展開だと思ってもらえるならありがたいですね
>>1的クライマックスはもうちょっと先になりますが <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/08(木) 22:38:15.44 ID:TOSg5uqg0<>

――Passage9――




そして時計の短針は七周進み。




---

-------

-----------

------------------

-----------------------------

-------------------------------------------

------------------------------------------------------



『十一』と『十二』の間へ戻ってくる。



<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/08(木) 22:39:01.47 ID:TOSg5uqg0<>


Passage9 ――魔女裁判――



<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/08(木) 22:39:52.22 ID:TOSg5uqg0<>

七月二十七日、午後十一時三十分、聖ジョージ中央大聖堂。


煌々と照りつける魔力の灯に、浮かびあがる二つの人影。
一人は金刺繍の入ったベールで銀髪を隠し、純白の聖衣を炎圧にたなびかせる女。
いま一人は燃え上がる炎以上に盛る灼髪の、漆黒の神衣をまとってそびえたつ男。

舞台装置は女の背後の窓から射す月明り。
霧の街の濃霧は止んでいた。

男の辺縁を取り囲む赤い揺らめきもステージを彩る。
男を包む湿気は弾けていた。

女には、守りたいものがあった。
男には、譲れないものがあった。

二人が同じ方向を見て、同じ人のために手を取り合えない理由は。
二人が互いに向き合って、迸るような敵意を衝突させる理由は。




突き詰めれば、ただそれだけのことだった。




<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/08(木) 22:40:42.63 ID:TOSg5uqg0<>

「…………君は」


口火を切ったのは焔の魔術師だった。
ステイル=マグヌスは一週間前ローラに暴露された真実を、インデックスに質す目的で
今日この場に立つはずだった。


「なんでしょうか」


ステイルの目前に立つ女は息を荒げていた。
それでいて、冷静さを保とうと必死で身を固くしていた。
仕草の一つ一つに至るまで人間を想起させる、『術式』にすぎぬはずの女。
ほんの一週間前までは、ステイルの認識下において『プログラム』でしかなかった存在。


「自分が術式などではなく、れっきとした一個の人間であるという自覚が、あるのか?」

                                 ウ ソ
彼女に向かってステイルは、ローラの言うところの『最後の虚構』を叩きつける。




「自分が『リリス』だったという記憶が、あるのか?」




硬い声で、虚構そのものである女に、虚構の中身をぶちまけた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/08(木) 22:41:34.88 ID:TOSg5uqg0<>

ローラ=ザザは言った。
アレイスターの目的は『魂』を原典に触れさせて、彼の望む形に精錬することだった。

ローラ=スチュアートは疑問を抱いた。
なぜローラの『魔女白書』は、父の望む形に『魂』を変じさせられなかったのか。

ローラは推測した。
必要なのはきっと『リリス』だったのだ。
だからインデックスはリリスの身体を与えられた。
そして、肉体と同時に『魂』を注ぎ込まれた。


「認めたくはないが、君と最大主教の関係は『羊』と『羊飼い』ではなかったのだと、
 ローラ=スチュアートの言い分を信じるならそういうことになる。君と彼女は」


それこそが『自動書記』――――




「解離性同一性障害で言うところの、『主人格』と『交代人格』だったんだな」




――――否、『リリスの魂』だった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/08(木) 22:42:16.55 ID:TOSg5uqg0<>

一方通行はいつだったかステイルに言った。
『魂などという得体の知れないモノの扱いは、魔術の領分だ』と。
まったくもってその通りだった。

一例を挙げるなら――――ブードゥーの死霊崇拝などが、まさにその最たるものである。

『自動書記』は鎖などではなくインデックス同様、魔術によって『外に出る条件』を
強制された虜囚(にんげん)だった。
それを知ってもなお、ステイルにとって彼女は本能的に受けつけがたい存在なのだが。



「…………この子は一度だって、私を『リリス』と呼んだことはありません」



激情を鞘に無事収め終えた、涼やかな音色が耳朶を打った。
束の間物思いにふけっていたステイルに語りかけたものかは定かでない。
独白、のようにも聞こえた。


「確かなことは、ただ一つ。この子が、インデックスが――――『ヨハネのペン』と、
 私にそう呼びかけてくれたから」


怜悧なエメラルドにかすかな温度が宿った。
ステイルは刹那そこに、母性の胎動を見たような気がした。


「私は、この子の命を守りたいと、そう“感じた”のです」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/08(木) 22:43:33.46 ID:TOSg5uqg0<>

それは何物にも代えがたい無垢だった。
自意識の存在しなかった希薄な人格が、十一年の時をかけて主人格と触れ合ったからこそ
真っ白なキャンバスに描き得た、尊く純粋な愛そのものだった。

だが。


「君は、踊らされているぞ」


それこそが“彼”の『予備プラン』が求める実りなのだと、ステイルはそう確信していた。


「アレイスター=クロウリー、ですか」

「そうだ。奴は必ずやどこかで、この状況を好奇の目で観察しているぞ」
 

七月二十八日を目前にして、何の前触れもなくロンドンに出没したアウレオルス。
裏側にアレイスターの作為が働いていると、ステイルは信じて疑わなかった。


「君が『最大主教を守る』という意思をもって力を振るったとき何が起こるのか。
 十一年かけて練磨された君の『魂』がもたらす実験結果を、腹立たしいほど
 楽しげに覗き見ているはずだ。わからないか? この状況をつくったのは、奴だ!」


アウレオルスが『禁書目録』に携わったことでいかに悲惨な運命を辿ってしまったか。
それをインデックスに目撃させ、生気を根こそぎ奪うことで『首輪』を発動する隙を生んだ。
聖女の絶望を喚起し、『誘拐犯』の焦燥を誘い、魔術師と対立させて『力』を解放させる。

ステイルの推測するアレイスターのシナリオはこんなところだ。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/08(木) 22:44:36.54 ID:TOSg5uqg0<>

このままではなにもかもがアレイスターの思う壺だと、ステイルは『自動書記』に呼びかける。


「………………たとえ彼女が、僕が最初に出会った少女ではなくても。創られた命でも。
 そのはじまりにあった存在理由が、アレイスターの欲求を満たすためだったとしても。
 いまの僕には、関係などない!」


なぜなら、ステイルはインデックスを愛している。
どれほど陳腐な文句だろうが他に言葉はない。


「僕は彼女に生きていてほしい。傍にいてほしい。君とてこの十一年で彼女を愛おしく
 想ったんだろう。ならば僕たちは同じ方向を向いて、手を取り合えるはずだ」


科学の巨人の野望になど負けはしない。
圧し掛かってくる絶望を跳ね退けるだけの力が、いまのステイルにはある。
浅薄な子供だましの啖呵だと笑わば笑え。
すべての原動力が愛する人への熱情から生じている限り、ステイルはどこまででも青臭く、
薄っぺらで、継ぎ接ぎの『正義』を掲げて闘える。


「手はすでに複数打ってある。僕一人を盲目に信じろとは言わない。だが僕が譲れない
 もののためにならどんな手でも使う男だということだけは、疑ってくれるな。僕は
 アレイスターに、彼女を絡め取った死の環に、今度こそ打ち克つ。今度こそ成功する」


ステイルはちっぽけなプライドを丸めてかなぐり捨て、頭を深々と下げた。
世界で一番気に食わない、インデックスを直接縛り続けた女に平身低頭する。
こんな屈辱は譲れない一線と天秤にかければ、犬はおろか鼠の餌にしようがなにほどの
こともなかった。


「だから………………頼む。彼女に身体を返してくれ。その後は、必ず僕が」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/08(木) 22:45:36.67 ID:TOSg5uqg0<>













「――――――――――――――――――あはっ」





<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/08(木) 22:46:18.64 ID:TOSg5uqg0<>

生きたまま全身の皮を剥ぎ取られたような、凄まじい悪寒が背筋を駆け抜けた。



「あは……ははっ!」



先刻の激昂にも、確かに驚愕はさせられた。
彼女が『人間』であるという予備知識を得ていたおかげで、幾ばくか冷静に対処できたと
ステイルは自負している。

だが“この光景”は決定的に、徹底的に予想外だった。
『自動書記』に“この”感情が存在するなどとは、完璧に慮外だった。
あたかもテレビの向こうで笑顔をふりまくハリウッドスターを眺めるかのように、ステイルは
眼前の情景を現実感のない異世界の出来事なのだと、一瞬自分を納得させようとしてしまった。



「あはは、あはははははははははっっ!!!!」



それは哄笑を飛び越えた狂笑だった。
まるでそうするのが当たり前だとばかりに、『自動書記』は心底から高笑いしていた。
歓楽、愉悦、欣喜。
ステイルが彼女に備わっているはずなどないと、そう高を括っていたものに突き動かされて、
『自動書記』は感情を爆発させていた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/08(木) 22:46:59.08 ID:TOSg5uqg0<>

やがて、狂笑がぴたりと止まる。




「やはり、なにも解っていないではないですか」




それでも女は『ステイルが無知である』という事実を受けて、なお美貌を喜悦に歪めていた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/08(木) 22:48:21.52 ID:TOSg5uqg0<>
--------------------------------------------------------------------------


「彼女のあの表情を眺めていると、いかにかつての自分が愚かだったか思い知らされるな」


確たる光源もないのに男女の姿だけがくっきりと、切り取られたかのように闇の中に
浮かびあがっていた。
映像を流しているにも関わらず光を発しているように見受けられない不可思議な
スクリーンを、ローラは唇を真一文字に結んで睨んでいた。


「『自動書記』……彼女が、誘拐犯?」

「その通りだ。これで、私が『遠隔制御霊装』を使用していないと立証できたのではないか」

「…………」


ローラがアレイスターを探し求めた短期的な要因はまさにそこにあった。
インデックスの真の生みの親であるアレイスターが、ローラが二十六年前に回収した以外の
『霊装』を保有している『1%』は否定しきれなかった。
ゆえに迫りくる肉体のリミットを前に拙速を心がけた彼女は、可能性を根本から叩き潰すべく
父親を捜しだすのだと決心した。

どうやら結果は、徒労に終わったようだった。


「しかし、リリスが『首輪』を仕掛けてあの子を殺す動機などない」

「まだご納得いただけないようだ」

「……そもそも、どうして『首輪』が必要だった?」


その疑問はローラが十年以上、ステイルや神裂から詰問されては胡散臭い笑顔で
受け流してきた苛烈な憎悪と、まったく同一のものだった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/08(木) 22:49:50.41 ID:TOSg5uqg0<>

「君のような輩に『図書館』を持ち逃げされる可能性を想定したリスクヘッジ、
 ではいけないかな」


機密情報が外部に漏れることを防ぐための時限爆弾だとアレイスターは言うが、


「機密情報もなにも、貴様は『ローラ=ザザ』を四十年以上野放しにしていたでしょう」

「……ああ、そういえばそうだった」


頭に上る血の巡りが激化するのをローラは感じた。
この父親は家出娘にも、彼女が持ち出した“一財産”にも目をくれず、ひたすら七十年間
科学に明け暮れたのだ。


「…………ではこういう観点から切りこもう。脳科学では一個の人間を構成する要素を
 『記憶』、『意識』、『人格』の三つに大別している。このうち電気信号の交換運動
 による“科学的な”存在証明と作用メカニズムの解析が『インデックス』誕生時点で
 完了していたのは記憶だけだ」


科学者アレイスターは、滔々と語り始めた。
ローラは、モニタの向こう側の男女から目を離さず返答した。


「『意識』や『人格』がどこに存在するのか、という議論はおよそ思想的、哲学的……
 そして“宗教的”問題に帰結せざるを得ないわ」

「いかにも。私は“魔術的”に言うところの『魂』こそが『意識』であると定義し、
 『魔女』の誕生にあたって『人格』は不要なものだと考えた。魂の精錬を感情が
 阻害するのではないかとね」

「だがあの子にはれっきとした人格が、感情がある。誰からも平等に愛される、才能と
 でも呼び換えるべき清い心が」

「……才能か、言いえて妙だ。しかしだな、ローラ=スチュアート」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/08(木) 22:50:41.11 ID:TOSg5uqg0<>
                げんてん     たましい
『魔女白書』に必要なのは、『記憶』に触れる『意識』だけで十分だった。
    かんじょう
だから、『人格』という異物が混じってバイアスがかかることは可能な限り避けたかった。

ゆえにアレイスターは――――




「『インデックス』の人格にも私の手が加わっていると言ったら、君は驚くか」




「…………!?」


極限まで、実子と同じ顔をした命のかたちを、『実験』のために弄んだ。




「――――ぬ、かせ。あの子の、インデックスの人格は誰かに方向性を与えられた
 ものではない。あの子自身が、必死で生きてきた十一年の中で育ててきたものが、
 貴様ごときに箍められていたなどと……っ、侮辱も、ほどほどにしておきなさい」


叫び声を上げなかったのはほとんど奇跡だと、ローラは思った。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/08(木) 22:51:48.30 ID:TOSg5uqg0<>
     ・ ・ ・ ・ ・
「だがその証拠に、君も彼女に随分と感情移入しているようだ。仕方がないことなのだが。
 さぞ辛かったろう……『自動書記』も『首輪』も自分の仕業ではないのだと、本意では
 ないのだと、ステイル=マグヌスにもっと早く打ち明けたかったのではないかい?」


そんな彼女に、“父”は優しく語りかける。


「私の敗北と失踪など待たずに、冷酷非道な魔女の仮面などかなぐり捨ててあの子を
 抱きしめたかったんじゃないのか。復讐などさっさと諦めて、愛する男のもとに
 走りたかったんじゃないのか」


父性を凝縮したような声に、ローラは耳を塞いだ。


「私の『ビル』から逃れて、最初の『七月二十八日』が訪れるまでの三ヶ月間。
 生まれて初めて家族と、“姉”とかけがえのない時間を過ごして、最後に己が
 手で彼女を“殺した”あの日」


電脳空間では無意味な行為だと知りながら、塞いだ。


「君は、たった一回で折れたのだろう。逃げたくなったんだろう。だからこそ
 勿体ぶった理由を捏造し、記憶の消去役を歴代のパートナーたちに押しつけ」




「――――――――黙れ、貴様ァァァッッ!!!!」




<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/08(木) 22:53:23.43 ID:TOSg5uqg0<>

絶叫に従って、アレイスターはあっさりと口を閉じた。
ローラはこみ上げる虚脱感に抗いながら呼吸を整えようと胸を押さえて、


「……………………“その証拠に”……?」


その手を、胸部から口許へと当てなおした。
黙する狂人は、出来の良い生徒を見る目で眦を下げた。


「君は、子猫を飼ったことはあるかな。彼ら愛玩動物は、どのような仕草で擦りよれば
 人がほだされるのか本能的に知悉している。それと同じことだ」

「貴様、そんなこと」


餌を必死でねだる小動物は愛らしく、それだけで普遍的に庇護の対象となり得る。
それと、同じこと。



――――おなかいっぱい、ご飯を食べさせてくれたら嬉しいな――――



インデックスもまた、誰彼かまわず可愛らしい“おねだり”をしては無条件に愛を
返してもらえる『小動物』なのだと、アレイスターは事もなげに言った。
ローラはその酷薄な事実を、頭の片隅で納得し消化しかけている己を見つけて
激しくかぶりを振った。


「万人を愛し、万人に愛される、天賦の才。それは私が彼女を産みだす際に先天的に
 付与した――――『才能』だ」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/08(木) 22:55:02.94 ID:TOSg5uqg0<>
⇒ TO BE CONTINUED ……


色々とキャラ崩壊がぱないことになってますの
ローラを精神的フルボッコにしてるとなんだかこみ上げてくるものがあります
メンタルの弱い☆も良いけどたまにはローラ虐めもイイものだな、と思いました

ではまた週末に <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/08(木) 23:04:38.35 ID:OdBMXol0o<> お疲れさまです。
ここを覗きに来てこのスレが上がっていると思わずうれしくなります。
<> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/08(木) 23:09:53.79 ID:S1wSdkldo<> 乙なんだよ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/12/08(木) 23:33:51.97 ID:EaUA3blv0<> 乙 また少し下げてもらったけどまだまだ酸いものが……藍本にwwww >>1には感謝! <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/10(土) 22:33:41.43 ID:RZTZJE4J0<>
こんなスレを覗いてる暇があったら新約三巻を読みなさい(挨拶)
>>1はまだ手に入れてませんよチクショウ <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/10(土) 22:35:22.13 ID:RZTZJE4J0<>

誰もがインデックスの“特別”になりたがった。
アウレオルス=イザードも、上条当麻も、その他大勢の『失敗者』も。
身の栄達をはるか彼方に捨て去ってまで、愛くるしい聖女の“何か”になりたがった。


「この上なく強力な『呪い』だっただろう? なにせかつての魔女、ローラ=スチュアート
 ですら無意識に懐柔し、籠絡したのだから」


ローラは男から思わず目線を逸らした。
アレイスターの指摘は的を射ていた。
“姉”の姿をした少女が毎年のように黄泉路をさまよう様を見ていられなかった、
というのも大きな要因ではある。

しかしそれ以上にあの無邪気で無垢な笑顔を傍に置いていると、彼女を利用してまで
果たそうとする復讐が途端に無味乾燥としたものに思えてきてしょうがなくて。
『ローラ』という人間の根本を成すアイデンティティを跡形もなく破壊されてしまいそうで。

そうしてローラは少女を遠ざけるべく、『失敗』をパートナーたちに押しつけた。

 
「恥じることはない。彼女の本質に触れてしまえば誰であろうと、嫌でも、例外なく
 “そうなることになっている”のだ」

「…………まさか貴様が、学園都市に半ば放置状態だったインデックスにあの五年間、
 見向きもしなかったのは?」

「ご名答。リリスの『才能』は産みの親である私ですら――――いや。父親である私
 だからこそ、この身と心を強く惹きつけるであろうとわかっていたんだよ。そうなれば
 『プラン』に修正誤差を上回るひずみが生じかねない」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/10(土) 22:36:18.26 ID:RZTZJE4J0<>

心にもないことを。

そう毒づく一方でローラは、アレイスターその人に内容物を弄ばれた脳を回転させた。
父親譲りの優秀な頭脳が導きたくもない真実を導くのに、画面の中の蝋燭が一滴、
融け落ちるほどの時間もかかりはしなかった。

アレイスターは『誕生』の段階からインデックスを手元に置くつもりなど毛頭なかった。
それは、つまり――――


「私が、あの子を連れて『ビル』を逃れたのは……!」

「……ああ。あれは、私の仮想したルートの中でもまさしくベストアンサーだったよ。
 さすがは我が娘、私の期待に違わぬ行動をとってくれた」

「――――ッ!!」


舌を噛み切りたい思いだったが、電子の身体に血液は流れていない。
そのくせ心の痛みだけはいやに忠実に再現してくれるのだな、とローラは呪わしい
電脳世界を恨んだ。


「もともと『魔女白書』計画の再出発(リエンター)は君の学園都市襲撃が発端だった」


つまりは計画外のイレギュラーだ。     ことり
しかし、わざわざ籠の中に飛び込んできた『原典』を無為に放してしまうのも惜しい。


「とうの昔に打ち捨てた、片手間の『予備プラン』再開のために『メインプラン』の
 進捗を疎かにしたくはなかった私は、どうすればこの閃きと資源を有効活用できる
 のだろうと考えて」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/10(土) 22:37:19.01 ID:RZTZJE4J0<>

嫌だ、聞きたくない。
聞いてしまったら、壊れてしまう。
ああしかし、ステイルはこんな苦痛にも耐えた。
あの子の前で微笑を崩さなかった自分が、ここで折れる訳には。
でも、でも、でもでもでも。


『やはり、『魔女白書』は失敗だったか』

『まあ、仕方のないことかな』


積み上げてきた憎悪の土台が、よりにもよって――――





「君を挑発(コントロール)して、リリスの親代わりになってもらおうと結論した」





憎悪の対象の作為によって築かれたものだった、などと。

全身から力が抜け落ちる。
身を焦がす復讐心を“有効活用”された哀れな女は、膝から崩れる四肢を支えられなかった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/10(土) 22:38:10.02 ID:RZTZJE4J0<>

「そう自分を責めることはない。仮に君がリリスを連れて再び家出していなければ、
 私はあの娘を処分するつもりだったのだから。誇りたまえ、君は今日(こんにち)
 世界から愛されるまでになったあの聖女を、間一髪のところで『悪の科学者』から
 救いだした『正義の魔女』というわけだ」


怠惰な無気力感に全身を支配されかけていたローラは、アレイスターの口上をほとんど
耳に入れていなかった。
与えられた人生の“理由”を七十年前に否定され、そして今また掴みとった“理由”を
利用されていたのだと思い知った。


燃え上がるような復讐心。

ひたひたと積もる怨念。

首まで浸かった絶望。

吹き荒れ狂う憎悪。


それらすべてが、無意味で無価値なものだったと思い知らされた。
ローラ=スチュアートの、ローラ=ザザの生きる理由が薄れていく、消えていく。
瞼を閉じて、プレスされたようなのっぺらぼうの呼気を吐いて。


なにもかもが嫌になって、ローラは考えることを止めた。


<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/10(土) 22:38:53.17 ID:RZTZJE4J0<>


























<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/10(土) 22:39:55.62 ID:RZTZJE4J0<>








――――そっか。じゃあ私は、ローラのお姉ちゃんなんだね!――――









その時、思い出した。


「…………ぁ」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/10(土) 22:40:59.10 ID:RZTZJE4J0<>

生と死の境界線をたゆたっているはずの“姉”の声を聴いたような気がして、ローラは
もはや永遠に持ち上げるまいと決断したばかりの瞼をこじ開けた。

それはローラがインデックスに二年前、秘したまま九年がすぎてしまった真実を、
ありのままに伝えた時の優しい、慈しみの声だった。


――――ふふーん、じゃあじゃあ、お姉ちゃんって呼んでくれると嬉しいな!――――


「…………ぁあ」


――――あ、あはは。正直に言えば、複雑な気分なんだよ。でも――――


「あぁ、ああ」


――――心が、あったかいの。私にも、血のつながった家族がいたんだって――――


「あぁあああっ……」


――――私は、ひとりぼっちなんかじゃなかったんだって――――


「…………インデックスっ、インデックス……!」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/10(土) 22:42:13.72 ID:RZTZJE4J0<>

うずくまり呻く女を、無感情に見下ろす男という構図。
しばらくの間女の嗚咽だけを拾っていた男の耳が。


「……………………まだ最初の質問に答えてもらっていないわ」


突如として。

                           くびわ
「今まさにインデックスをとり殺そうとしている『凶器』の正体を、仔細洩らさず吐け」



――――覇気に満ちた、『魔女』のソプラノトーンを捉えた。



「……それで、私になにかメリットが?」

「無い」

「では、交渉は始まりもしないな」

「ええ、始まらないわ。これは交渉ではなく」


女が指を鳴らす。
一条の斜光が男の瞳孔を刺激して狭めた。
色相なき暗闇が歪んで渦を巻き、渦の底から光が生まれ出ずる。


「略奪だもの」


アレイスターの世界に、彼自身の意思以外では昇らないはずの太陽が、昇っていた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/10(土) 22:43:39.86 ID:RZTZJE4J0<>

父は娘との対話を開始して以来、最高と言ってよいほど上機嫌に目を細めた。

    
「君がこの回線のマスターシステムをクラッキングできるほど、科学に関する知見を
 深めていたとはな」
                          ちから
「お忘れかしら。私にはあなたから貰った『完全記憶』がある」

「…………素晴らしい。では、もう一つ聞くが」


心底からの好奇に突き動かされてアレイスターは口を開く。


「君には、なんのメリットがある?」


そして、端を歪めて吊り上げる。


「これは芳情から言うのだが、『首輪』に秘められた真の意味を理解したところで
 『魔女白書』を救う手立てには繋がらないと、私はそう思う」


ローラはわずかに首を下に傾げる。
返答は静寂に塗り替えられた。


「よしんば足がかりをつかめたところで君の意識は電子の海(ここ)に在って、
 君の肉体は学園都市(むこう)に在る。これではロンドンで進行している彼女の
 『死』には間に合わない。干渉などできはしない」


アレイスターは無情に、しかし嘘偽りのない現実を押し並べる。
相対するローラは――――

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/10(土) 22:45:21.85 ID:RZTZJE4J0<>

「……それでも」



一度は見失った生きる理由を、どうしてこんなにも簡単に取り戻せたのか。
ローラ自身にもよくわかってはいなかった。

ただ、愛しい家族の声が聴こえたから。
ただそれだけで、ローラはこうして青臭い“理由”に弾き飛ばされ、再び立ち上がった。


「それが、何もせずに坐して、のうのうと傍観者を気取っていていい理由にはならない」


たとえローラ=ザザが復讐のために積み上げた一〇三〇〇〇冊が、彼女の人生を決定
づけてしまったとしても。

たとえローラ=スチュアートが、復讐のための道具として彼女を利用していたとしても。

無数の罪を、ローラが彼女に対して負っているのだとしても。





「それがあの子を諦めていい理由になど、なりはしないッ!!」





<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/10(土) 22:46:55.40 ID:RZTZJE4J0<>

「私は是が非でも、貴様が胸の内に秘めたありったけの真実を暴く」


“今日”が最期と定めていたはずのローラ=ザザの人生に。


「真実をインデックスとステイルに、必ずや伝えてみせる。あの二人がどうして
 苦しまねばならなかったのか、なぜ幸せになるべきなのか、私の口から」


父と刺し違えることも辞さないと、覚悟を決めていたローラ=スチュアートの人生に。



「それが私の“理由”よ」


新たに“明日”を生きる理由が、生まれた。



「…………理由が果たされる前に、彼女は死んでいるかもわからないが」

「インデックスは、ステイルが救う」

「他力本願か。なんとも君らしく、清々しい話だ」

「なんとでも言いなさい。私の役目は他にある」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/10(土) 22:48:31.21 ID:RZTZJE4J0<>

「アレイスター。私は貴様の雁首を、インデックスの目前に引きずりだす」


ローラ=ザザでもローラ=スチュアートでもなくなった女は、それでも彼女の父である
という因果を断ち切れぬ男に向かって、凛と声を張る。


「…………きっとあの子は貴様をも赦すでしょう」

「貴様が与えた『才能』が、きっと貴様を許してしまう」

「それでもインデックスには貴様を断罪する権利があって、その機会は公正に、誠実に
 設けられるべきだわ」

「貴様一人でとは言わない。私も、もう一度あの子の眼を見て」


息を大きく吸う。




「『魔女』として、あの子に裁かれる」




<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/10(土) 22:49:11.71 ID:RZTZJE4J0<>

「さあ」


女は、凄絶に笑っていた。


「互いの罪を、指折り数え合いましょう」


男は、もう笑ってはいなかった。











「…………ああ。いいだろう、“ローラ”」


しかし男は、なおも喜ばしげだった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/10(土) 22:53:09.91 ID:RZTZJE4J0<>
⇒ TO BE CONTINUED ……


ローラsageタイム終了のお知らせ
あんまり可哀想な人アピールしすぎてキャラがぶっ飛んでたので
ここらで覚醒してもらいました
そしたらまた原作のキャラがどっかに飛んでいきました

ではまた、二日以内にお会いしましょう
<> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/10(土) 22:57:11.30 ID:k2iiUzFV0<> ぬっふううううううううううううううん!!!!!!
>>1乙うううういいところで切ってくれてああああああああ!!!!
次回が楽しみでしかたないんだよ! <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/10(土) 23:22:17.05 ID:q0ZouJ5Bo<> お疲れさまです。
原作を読んで不思議で仕方がなかったのですが、
なぜインデックスはあれほど皆から愛されるのか。
それらしい彼女の魅力はときたま垣間見えはしますが。
その疑問に対する一つの解答がここにあると思いました。
<> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/11(日) 05:55:55.84 ID:wTH8pZh8o<> 乙 <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/12(月) 22:39:59.15 ID:j+pF/QzM0<>
どなたか新約でのステイルくんの行方を知りませんかー!?
かまちーの中では終わったキャラなんだろうかと心配になる今日この頃です
レスに感謝しつつ投下と参りましょう <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/12(月) 22:42:39.66 ID:j+pF/QzM0<>

「さて、どこまで話したのだったか…………私が『魔女白書』の人格に手を加えた、
 そこまでだったな」


魔女と怪物の対決は怪物の一言によって、対話という形で再開した。
武力の行使をも視野に入れていたローラは、正直に言えば拍子抜けだった。


「そこまで巻き戻すか…………まぁ、まどろっこしいのは嫌いではないわ。これも父親
 譲りの性分なのかもしれないわね」


しかし魔女は妖艶に唇を舐め、そう応じた。
寿命を目前とした残りわずかな生に新たな“理由”を見出した女は、ほんの十分前とは
別人かと疑うほどに血色が良くなっていた。


「貴様が言うところの『魔女』の誕生に、癖の強い人格は邪魔だった。『魔女』の
 正体がいまだ漠然としているのが歯痒いけれど、まあそこは置いておきましょうか」

「性急も行きすぎると、馬鹿を見るのは他ならぬ君だからな」

「まったく、その通りね」


軽いジャブのような皮肉に肩をすくめるローラ。
オーバーに頭を左右へと振りながら、スッと軽快になった脳を回転させる。


「ふむ…………バイアスによる結果の歪みを恐れるのなら、最初から外的要因たる『人格』
 を取り除いてしまえば良いだけの話ではなくて?」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/12(月) 22:44:18.36 ID:j+pF/QzM0<>

『意識』と『記憶』はあるが、『人格』の存在しない人間。
仮にインデックスがそんな少女だったらと思うと身の毛がよだつが、ローラはその寒気
すら表情をふてぶてしい冷笑へと固定するための力に変えた。


「言っただろう。脳“科学的”に人の構成要素は三位一体。人格だけをゼロとして、
 ないものとしては扱えない」

「人体における人格の存在箇所は、二十六年前の時点で“科学的”証明がなされて
 いなかった。これも貴様が言ったことよ、アレイスター」


互いの肉を刺し、骨を抉るような言葉の応酬。
ローラは得も言われぬ高揚感を覚えていた。


「起源説、というものが魔術世界にはある」


『起源』。
生命は生物学的発生段階よりもはるかに根本的な誕生の段階で、aという存在を
aたらしめる一定の方向性を与えられて生まれてくる、とする理説のことである。


「科学で為せない部分を魔術で補う。要するにまた『融合』ね。大科学者殿はよほど、
 世界地図に引かれた大小様々の境界線がお嫌いだったと見える」

「私が嫌いなのは、どちらかと言えば十字教そのものなのだが……旧約聖書における
 『不朽の愛』という一節が私の目的に合致していたので、忸怩たる思いで採用した」

「不朽の愛、アガペ…………それを、インデックスの『起源』として埋め込んだのね」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/12(月) 22:45:42.17 ID:j+pF/QzM0<>

インデックスは誰でも味方にしてしまう。
その心根に深く接触した上で、それでも敵対という茨道を選べる人間は極めて希有である。
世界のすべてを愛して、世界のあまねく人に愛されて。
そうしてこの世のことごとくを、『自分の味方』という円線で囲ってしまう。


「しかしそれは逆に言えば、世界をただ二つに分けている、とも解釈できる」

「…………『自分』と、『それ以外』…………」


聖女は愛に見返りを求めない。
なぜならアガペとは、神のみが持つ『無償の愛』でもあるからだ。
聖女は目に映るすべてを救おうと奔走して、しかし他者からの救いを是とはしない。
聖女は自らの心の内側に、本当の意味で他者を踏み入らせようとは、決してしない。


「ゆえに『魔女白書』は、真に他者と魂の交流を図ろうとはとしない。彼女が触れるのは
 決して消えずに己の隣に寄り添い続けてくれる『記憶』のみだ」


そしてそれでこそ、アレイスター=クロウリーの『サブプラン』は達成され得る。


「しかしこの広くて狭い地球という盤面には、少なからずその道理を破壊する例外と
 いうものが存在し得る」


ローラはまばたきを一つ終えるか終えないかという間に反論を練った。

例えばそれは、地獄の底でもがき苦しむ少女の心に、強引に割って入った主人公。


「『幻想殺し』か。『予備プラン』と『メインプラン』が交差したあの日のことは、
 流石に私といえども感嘆の吐息を禁じえなかったよ」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/12(月) 22:47:23.68 ID:j+pF/QzM0<>

少女は少年を愛してしまった。
その鮮やかで真っ直ぐな魂に触れてしまった。

上条当麻に出会ったインデックスがそうであったように、アウレオルスの隣にいた彼女が、
神裂やステイルと過ごした彼女が“そう”ではなかったのだと、いったい誰が断言できようか。


「ご心配には及ばない」


しかし断言できる“誰か”がこの世に存在するかと問われれば、ローラは眼前の男こそが
そうであると、一点の曇りもなく答えるだろう。


「そういう時のために、『首輪』があるのだから」


眼前の『怪物』アレイスターの一言で、『魔女』ローラはすべてを悟った。


「そうか………………そういうこと、か」




       かんじょう
「『首輪』は、『人格』のリセットボタンだったのね」




<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/12(月) 22:48:39.22 ID:j+pF/QzM0<>

リセットボタン。
まさしくそれは、リセットボタンだった。

テレビゲームで言うところの『システムデータ』を残し、『シナリオデータ』のみを
消去する行為に似ている。
この場合、消去される『シナリオデータ』とは人格にバイアスをかけてしまう
『エピソード記憶』であり、残る『システムデータ』は魂を磨く『意味記憶』となる。

あるいは『強くてニューゲーム』、そう例えてもいいかもしれない。
インデックスは毎年決まった日、強制的に『強くてニューゲーム』を選択させられては
記憶(ストーリー)を振り出しに戻して、記録(レベル)だけは継続する。


「ふふ、ふふ…………アレイスター、貴様はとことん狂人ね」


こんな気狂いじみたゲームの登場人物に、己が娘を据えられる人間がこの世にいるのか。
ローラはある種の感動すら覚えて戦慄し、虚ろに笑った。


「ほう。『0と1で描写しきれる』存在になった私にも狂気と呼べる感情が在るのだと、
 君が保証してくれるのか。ありがとう、観測者。君のおかげで、私はまだ『人間』と
 呼べる代物であるらしい」

「どういたしまして。御高説を垂れているところ申し訳ないのだけれど、ではいったい、
 “あれ”はどういうことなのかしら?」


淑女らしからぬ仕草で親指を立てて、くい、と世界の端にたたずむモニタを指す。
四角形に切り取られた近くて遠い別世界では、いまなお『自動書記』と神父がいつ終わる
とも知れぬ対峙を続けていた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/12(月) 22:51:58.44 ID:j+pF/QzM0<>

「リセットボタンを壊されたことで、白紙のページになに不自由なく記されてきたあの子の
 感情。それを貴様は満足げに観察していた…………あらあら、おかしいわね。感情(それ)
 は貴様にとって邪魔なモノだったはずでしょう?」


そしてなにより、インデックスは蘇った『首輪』に殺されようとしている。
あれはいったい誰の仕業なのか。
アレイスターでないとするなら、『殺人犯』は誰なのか。


「いまとなっては『首輪』に大した存在意義はない。と、言うより」


男は、珍しく消沈したような相貌を前面に押し出してきた。
その仮面の裏側に何がひそんでいるのかなど推して知るべし、だが。


「結論から言えば、最初から『首輪』に大した意味などなかった」

「…………言葉は、良く考えて選びなさい」


ローラのハイソプラノが、ぐっと低く重いものになる。


「だから私は先刻、かつての己を愚かだったと認めたのだ。『感情』が『魂』の精錬を
 阻害するというのは、私の魔術解釈上の誤謬だった。有り体に表現すれば」


アレイスターの声には、対照的重みがまるでない。
男は夕餉のメニューを問い質すような気楽さで――――

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/12(月) 22:53:20.80 ID:j+pF/QzM0<>


「判断ミス、だ」


ステイルとインデックスの苦悶に満ち溢れた十数年を、失敗した原稿のように丸めて
屑籠に投げ捨ててみせた。



<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/12(月) 22:54:44.51 ID:j+pF/QzM0<>

パァン。

乾いた音が閉じた世界に何重にも反響して、やがて消えた。


「…………あなたの辞世の句に、良い候補が見つかったわ。インデックスに、
 面と向かってこう懺悔なさい」


ローラは開いた右の手のひらを、身体の左側に寄せた状態でそう告げた。
アレイスターは、向かって左側から衝撃を浴びたような格好で、顔を逸らしていた。


「『私があなたに仕掛けた「首輪」は、私が無能な魔術師で、かつ低脳な科学者だった
 がゆえに起こった間違いでした。あなたの二十六年を、私のミスで目茶苦茶なものに
 してしまいました』」


冷え切ったブルーサファイアが、凍った炎を内に秘めて細められる。
魔女はその名に恥じぬ冷酷を体現し、無表情に男を蔑んだ。


「もしも仮にインデックスが、それに対して一片の怒りでも見せたら。私は貴様を、
 その電子の体にとって考え得る限り最も残忍な方法で苦しめて、悲鳴を上げさせ、
 然るのちにこの世から抹消してやる」


実の娘に頬をはたかれた父親もまた、別段感情を顕わにするでもなく呟く。


「………………検討しておこう」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/12(月) 22:56:33.79 ID:j+pF/QzM0<>

「そもそも私は、貴様が『殺人犯』でないという供述に納得したわけではない」

「ほう? それは何故だ」

「…………アウレオルス=イザードよ。決まっているでしょう」


アレイスターがリセットボタンの発動日と定めたのが、明日である。
ステイルとインデックスが過去に決着を付けようとしたのが、明日である。
アウレオルスがふらりとロンドンに迷い込んだのも、明日を目前にした今日である。


「これらがすべて偶然の一致を見た、ですって? 馬鹿馬鹿しい……さらに付け加える
 なら、四次大戦の終結日が七月二十八日だったことも、私は貴様の恣意だったと確信
 している」


三年前の七月二十八日、上条当麻とインデックスは『窓のないビル』でアレイスター=
クロウリーと直接対峙した。
そしてアレイスターは敗れ、世界から消えた。

もう一つおまけに、ステイルがインデックスへの告白に七月二十八日を選んだことも
『首輪』に密接な関わりがあるのだと、ローラは知っていた。

四分の三の“偶然”にアレイスターが少なからず関与している以上、残り四分の一の
偶然――――アウレオルスの彷徨にもこの怪物の作為が働いていると推測することは、
至極自然な推移であった。


「ああ…………懐かしいな。そうだな、そこは認めよう」


ローラは内心の緊張を億尾にも出さず、冷たく父親を睨みつける。
するとアレイスターはあっさりと、あまりにもあっさりと、白状した。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/12(月) 22:58:59.51 ID:j+pF/QzM0<>

アレイスターは語る。

『メインプラン』の破綻が避けられない情勢となっていた当時、彼は苦し紛れ――――
まさしく苦し紛れ以外の何物でもなく、『予備プラン』を生かせないかと思索を巡らせた。
その時アレイスターの視界に入ったのは、上条当麻の隣に立っていたインデックスだった。
そして彼はほんの、本当に些細な気まぐれの産物として。


「私に向かって振りかぶられた『幻想殺し』をわずかだが、世界のどこかで生きていた
 “かつてアウレオルスだった男”に横流ししたのだ」

「……なにゆえ、そんなことを」

「魔がさした、としか言いようがないな。すまないが、私が世界に働きかけた“作為”は
 正真正銘それが最後だよ」


要するにアレイスターの突飛な思い付きで、アウレオルスは三度までも人生を狂わされた、
ということらしい。
さしもの魔女も憐憫の情を禁じえなかったが、その双眸はさらに先を見据えていた。


「耄碌したか、アレイスター? それではアウレオルスが、見計らったような時機に
 ロンドンを訪れた理由にはなっていないわ」

「君こそ、私を失望させないでくれよ。すでに何度も繰り返したように、上条当麻に
 敗れて以降私は世界に対して『なにもしていない』」

「………………ちっ」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/12(月) 23:00:16.17 ID:j+pF/QzM0<>

魔女の辛辣な語勢が止まった。
『なにもできない』と言った方がより正確であることを、悔しいがローラは察していた。
 
『滞空回線』は確かに悪魔的な技術と思想のもとに設計されたシステムではあるが、
あくまで用途は情報の蓄積と収集にすぎない。
外側でその情報を受け取り活用する人間がいるからこそ意義のある発明であり、内側に
“棲む”電子データに神のごとき全知全能を約束するような代物では決してない。

つまりアレイスターはこの箱庭に居る限り、外の現実に干渉できない。
それはローラが現在、身をもって体感している真っ最中だった。


「本気で、『偶然だ』などと主張するつもり?」


問うと、アレイスターは顎に手をかけてしばし目を瞑る。


「観測結果から事実を推理するしかないのが辛いところだが」


そして目を見開くと話題を九十度直角に、急激に転換した。


「七月二十八日は『記憶』が『絶望』の呼び水となり、『絶望』が『禁書目録を殺す』
 日になった」

「はっ。貴様がそう仕向けたことでしょう」

「誰の意図だったか、というのはこの際重要ではない。問題は“これ”が十五度にも
 渡って繰り返されることで君や歴代のパートナーたちの絶望が積もりに積もって、
 『七月二十八日はそういう日なのだ』と世界に認識された点にこそある」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/12(月) 23:02:25.19 ID:j+pF/QzM0<>

ローラは乾いた笑いを科学者に贈った。
突拍子がないにもほどがある。


「根拠なき仮説だ。笑って聞き流してくれても、まあ構わないがね」

「もとよりそのつもりよ、この狂人が」

「とにかく。『禁書目録を殺す』という結果を実現するべく『アウレオルスが現れる』
 という原因が、帳尻を合わせるために差しこまれたのだと私は見ている」

「ナンセンス。穴だらけの論理ね」


毎年のようにインデックスが死に瀕する、そんな因果が発生するのならば、去年の七月
二十八日についてはどう説明する。
ステイルから懐中時計を贈られたのだと、インデックスが幸福感いっぱいの笑顔でローラ
に自慢してきたのが昨日のことのようだ。

第一、『アウレオルス』と『インデックスの死』に因果関係が成立しているとも思えない。
ローラはアレイスターのロジックに潜む欠陥を一つずつ拾い上げて、思うさまつついてやった。


「確かに、やはり仮説は仮説だ。真実には程遠いのかもしれない」


勢い込んだ女の反論を、男はしかしさしたる動揺も表に出さずに受け止める。


「だが感情ゆえに現状があるのもまた事実だ。かつて私は、君が私に抱く『憎悪』こそが
 『魔女白書』の完成を妨げているのだとばかり思い込んでいたが、それは間違いだった
 らしい」

                      リセットボタン  
感情が邪魔だったから、アレイスターは『首輪』を付けた。
その『首輪』が数多の人間の絶望を創ったからこそ、ステイルとインデックスはいまこの
瞬間も苦しんでるというのに、それでも。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/12(月) 23:07:20.02 ID:j+pF/QzM0<>

「『自動書記』のあの絶望に満ちた、素晴らしい魂のかたちが見えるかい? 必要なのは
 “あれ”だったのだと、恥ずかしながら今にして悟ったよ」


――――それでも怪物は、再び笑った。


「……そんなこと、証明は不可能だわ」


理解不能の怪物を前に、かろうじて人間である女は小さく洩らす。


「そう、まさにその点だけが未練と言えば未練だ。しかし私はもはや科学者でもなければ
 魔術師でもない、一介の聴衆だ。そんなことを大真面目に考察する必要はない」


人間をやめ、『0と1でしか描写できなくなった』怪物は、抑揚なき悦びに天を仰いだ。
誕生日を目前にした子供のような声だ、とローラは思った。
だが、ローラは知らない。
家族に生誕を祝われるという実体験の乏しさゆえに、知らない。


「さあ。因果の収束まで、あと半刻だ」


この世には『プレゼント』を前に単純な喜悦のみを覚える子供ばかりではないのだと、
まだ知らない。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/12(月) 23:08:44.01 ID:j+pF/QzM0<>
---------------------------------------------------------------------


「貴方にとって、この子は何者ですか」


ほとばしるような“感情あふれる”殺気に、ステイルは気圧されていた。
説得は失敗に終わったと、そう判断せざるを得なかった。


「何者、とはどういう意味だ」

「一〇三〇〇〇冊の魔道図書館。イギリス清教が誇る最大主教。
 アレイスター=クロウリーの娘。ローラ=ザザの姉。上条当麻の家族。
 あるいは、Index-Librorum-Prohibitorum。“どの”彼女ですか?」


ステイルは鼻を鳴らして強がった。
そんなことはハナから決まりきっている。


「どこの誰だろうと関係がない。いま目の前にいる彼女が、上条当麻を愛した彼女が、
 僕と共にこの六年間を生きた彼女が、僕にとっての彼女だ」


ローラに面と向かって切った啖呵を、ステイルはローラの“姉”に繰り返した。


「だから、立ち塞がる障害がいかに高く険しかろうと、それも僕には関係がない。
 たとえそれが『世界最悪の魔術師』の仕掛けた罠だろうと、僕は」

「――――ほら、また『アレイスター』が出てきた」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/12(月) 23:10:10.53 ID:j+pF/QzM0<>

無表情に回帰した『自動書記』は、鬼の首をとったような文句を侮蔑とともに放った。
不揃いなパーツが組み合わさって、ステイルへの嫌悪感をより顕著に表現する。


「どうしても貴方はアレイスター=クロウリーを、この舞台に黒幕として上げたいよう
 ですね」

「“上げたい”もなにも、それが事実で……」


唾を飲む音が、静寂の中でいやに大きく心臓を打った。


「…………違うの、か?」


ステイルの表情が見る間に一段険しくなる。
『自動書記』はそれを見やって満足げに頷き、同時に苛立ち混じりの嘲笑を浮かべた。
ステイルの『不正解』が嬉しくてたまらない様子だった。


「この子の苦しみは、外側から干渉した“誰か”が“何か”をしたから。結局は貴方も、
 そうやって大所高所からこの子を見下ろしているというわけですね」

「なんだと……!」

「事実以外の何物でもないでしょう。アレイスタ=クロウリーやローラ=スチュアート。
 巨悪の大それた陰謀に振り回される、哀れな子羊としか見ていないではないですか。
 そこで思考が停止しているではないですか」


カッとなって感情任せの罵詈を吐きそうになるも、続く『自動書記』の糾弾にせき止められた。
そうではないと断言することを、ほんの一瞬でもためらってしまった。
そんな自分を恥じて、反論が口をついてくれなかった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/12(月) 23:10:56.18 ID:j+pF/QzM0<>

ステイルが押し黙ったことを契機に、『自動書記』が語調を著しく速める。


「この子は、世界を揺るがすような巨大な企てのためにしか苦しんではいけないのですか?」


彼女ははたして『禁書目録』なのか、『魔女白書』なのか。


「人々の救済などという、高尚な大義名分のためにしか悩んではいけないのですか?」


最大主教なのか、尊き聖女なのか。


「好きな男性を想って、涙を流してはいけないのですか?」


上条当麻という男を、愛した女なのか。


「だから、貴方はなにも解っていないと言うんですよ」


ローラに意味深長で重苦しい真実の欠片を与えられて以降、“そういう”視点からしか
インデックスの内面を慮ろうとしなかった男だと責められて、またそれが事実であると
認めざるを得なくて、ステイルは口を噤むほかなかった。


「…………だったら」


だが、それでも。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/12(月) 23:13:11.04 ID:j+pF/QzM0<>

「だったらどうして、彼女が死ななきゃならないって言うんだ!! 君がその理由を
 しかと知り尽くしていると言うのなら、なぜ君は諦めて彼女の記憶を殺すなどという
 逃げに走る!?」


ステイルがいかに浅慮で考えなしの粗忽者だとしても、それとインデックスの死を
座視することは、まったく別の話だ。


「答えろ、『自動書記』ッ!! どうして彼女の心を、諦めようとする!?」


男の獅子吼を真正面で観察していた女は、長い溜め息を聖堂の冷たい床にこぼした。
その呼気が帯びる色が次第に『嘲り』から『妬み』へ、そして『憎しみ』へと染まっていく。
四方に配置された蝋燭を燃やす赤が、怖気ついたように一度大きく揺れて火勢を弱めた。

       まじょ
壇上に立つ聖女が、ステイルには瞬刻いやに背の高い巨人に見えた。


舞台が、姿を変える。
再び彼女がステイルと視線を交えた瞬間――――



「いいでしょう。貴方は、いい加減に自覚するべきです」



――――魔女が神父を裁くための裁きの庭が、重々しく開かれた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/12(月) 23:14:51.81 ID:j+pF/QzM0<>

「『誘拐犯』は私でした。それは認めましょう」

「しかし、この子を殺す『殺人者』は私ではない」

「アレイスター=クロウリーでも」

「ローラ=スチュアートでも」

「アウレオルス=イザードでも」

「『リリス』でもない」






「貴方です」






「この子を殺そうとしているのは、私ではなく貴方です」

「それを骨の髄まで思い知るべきだ、貴方は」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/12(月) 23:16:04.52 ID:j+pF/QzM0<>






「さぁ――――貴方の罪を数えてあげましょう」







Passage9 ――魔女裁判―― END

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/12(月) 23:18:31.83 ID:j+pF/QzM0<>
⇒ TO BE CONTINUED ……


ステイルsageタイム開始のお知らせ?
>>1はステイルに対する罵詈雑言ならわりとすんなり思いつきます
ステイルは愛すべきダメダメ野郎だと思ってます
それはさておきはいむら氏の描くちゅーにステイル微笑ましいですよね

ではまた二日以内に
<> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/12(月) 23:20:55.37 ID:qxXWwj3h0<> 乙!

ラスボスは自分自身てなぁ新鮮かも? <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/12(月) 23:21:23.24 ID:puH44gbLo<> 乙 <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/12(月) 23:31:08.39 ID:AUhP/o7Do<> 乙なんだよ! <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/13(火) 04:57:04.36 ID:BDMItiLIO<> 乙

なにやらラストが某風都のヒーローを彷彿とさせるなぁ <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/14(水) 21:18:39.99 ID:ky54UWEJ0<>
>>817
彼らはちゃんと自分の罪を数えてから啖呵を切りますから、
ペンデックスさんの使い方は実は間違ってます
ペンさんは「頭の良い子供」をイメージしてキャラ捏造しました

乙に感謝しつつ投下を開始しますねん <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/14(水) 21:19:55.18 ID:ky54UWEJ0<>

――Passage10――



福者マザー・テレサは言った。

『愛の反対は無関心である』と。

関心こそ、愛のはじまりであるのだと。





ならば、目に映る世界すべてを脳に刻んでしまうインデックスは――――





<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/14(水) 21:20:59.14 ID:ky54UWEJ0<>


Passage10 ――死に至る病――



<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/14(水) 21:22:02.83 ID:ky54UWEJ0<>

「この子の愛は膨大すぎると、そう思ったことはありませんか?」


裁く者の冒頭弁論は、裁かれる者に対してそう発話された。


                アガペ
「まるで、そう――――『無限の愛』のごとく」


  アガペ
『無限の愛』。
旧約聖書における『不朽の愛』。
かつて救世主が弟子たちに向けて、無限であり無償であると説いた『神の愛』。
『愛の六類型』研究を行った心理学者ジョン=アラン=リーが百を越える被験者の中に、
真の意味でそれを有する者を発見できなかったという『愛他的な愛』。

インデックスがそれを有する稀有な存在であるのかと問われれば、ステイルは迷わず
首を縦に振るだろう。


「しかしリーが定義するところの『愛他的な愛』と、この子がかつて上条当麻に対して
 見せた嫉妬や…………貴方への態度は、根本的に矛盾してはいないでしょうか」


要するにアガペとは、『相手が幸せなら自分も幸せだ』などという、舞台の上のヒロイン
のみが持つ浮世離れした愛である。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/14(水) 21:34:10.66 ID:ky54UWEJ0<>

しかしインデックスはれっきとした人間だ。
嫉妬もすれば、駄々をこねもする。


「そんなものはあくまで、学者が類型したタイプにすぎない。一個の人間の人格を
 学術的な型に当てはめて、そこからはみ出したら異常だなどと……思考が固着的に
 すぎるぞ」

「ですが現に、なぜだか彼女は有しているのですよ。無垢で、純粋で、誰をも平等に
 愛し、誰にも平等に愛される、ひのき舞台で煌めくヒロイン然とした『人格』を」


否定はできなかった。
ステイルが愛したのは紛れもなく、そんな彼女だったのだから。


「…………そんな彼女がある日、『上条当麻』に出会いました。『生』まれて初めて、
 この子はただ一人に向けるための狂愛(マニア)などというものがこの世に、自分の
 中に存在するのだと知ったのです」


それはステイルとて十分承知していることだった。
インデックスの愛は本来世界すべてに注がれる尊いものだ。
そんな巨大な愛をたった一人の男に集約する方法が、彼女にはわからなかった。
わからないから、持て余した。
そうしてぬるま湯のような家族としての生活が一年続き、二年を越え、五年が経って。

インデックスは、御坂美琴(こいがたき)に敗れた。

彼女は己が内の『無限の愛』ゆえに、愛する男を別の女に奪われてしまった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/14(水) 21:35:43.67 ID:ky54UWEJ0<>

「傷心を隠して学園都市を去った彼女の胸中には、その実ほんの小さな安堵が在った
 のだと、後日インデックスは私にそう語りました」


これで、愛に狂わずにすむ。
上条当麻と御坂美琴を祝福できる女になるための、時間を稼げる。
傷付いた誰かに手を差し伸べることを、迷わない自分でいられる。


「…………彼女が、そんなことを」

「ロンドンに渡ったインデックスは失恋の痛みを掻き消すように、『禁書目録』の
 編纂作業に生きがいを見出して没頭しました」


防衛機制でいうところの昇華にあたる行為、だった。


「やはり、君もあれに力を貸していたのか」


ステイルは嘆息した。
六年もの昔から、インデックスは自分ではなく『自動書記』にこそ信頼を寄せていた。
『電話相手』の正体を悟った日からわかってはいたことだが、歴然たる事実として付き
突けられると、やはり胸が締めつけられるように苦しかった。


「ええ。私は、それでこの子が救われるならと『偽書』編纂への協力を惜しみませんでした」


そうやって『無限の愛』を再び確立したインデックスは、やがて生来の才能をもって
『聖女』と内外から崇敬の念を集めるようになっていった。
のちにローラが最大主教位を退いてインデックスを独断で後継に指名した際、この
時期に築いた民衆からの圧倒的支持が反対勢力を封じ込めることになる。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/14(水) 21:37:22.64 ID:ky54UWEJ0<>

「……そこで終わっていれば、この子はこんなにも苦しまずに済んだというのに」


上条当麻への愛を無理矢理“忘れた”インデックスに、日常が戻りつつあった。
神裂火織をはじめとした友人たちと、笑顔で日々を送れるまでになった。
このままいけば、なんの問題もなくインデックスは平和に健やかに生涯を終えられた。


「なのに…………なのにインデックスは、貴方に気が付いてしまった!」


嫌味な台詞を吐くだけの一同僚にすぎない大男が、時折自分を悲しげな眼で追っていることに。
普段はぶっきらぼうな仕事仲間が、自分の身の安全をどんな時でも第一に考えていることに。
自分の恋の終わりを知った彼が、矢も盾もたまらず上条当麻を殴りに行ったことに。

自分とステイルの間に、永遠に取り戻せない過去が横たわっている事実に。


「この子は貴方に興味を抱いてしまった。同情してしまった!」



『同情は、慈悲っていう心の、いちばん初めの一歩なんだよ』



インデックスがいつか、垣根帝督に掛けた言葉だ。

インデックスはステイルに興味を抱いた。
関心を引かれると同時に、同情を覚えた。
それらはやがて渾然一体となって混じり合い、彼女の中に狂おしい愛が帰ってきた。
そして同時にインデックスは、上条当麻を思い出した。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/14(水) 21:39:36.81 ID:ky54UWEJ0<>

それは緩やかな清水の湧き続ける、巨大なホースの口を思いきり絞ることに似ていたの
かもしれない。
インデックスの愛はただ一人の男に向けるにはあまりに莫大で、甚大な激流だった。
彼女は無意識にもう一人の男に、上条当麻に愛を分散させた。

だから“口”は二つあったのだ。
ゆえにインデックスは煩悶し、懊悩し、やる方ない愛惜の果てに上条当麻と向き合った。

そして、“口”を閉じてしまった。
その先に、不義の愛に焦がれる以上の絶望が待ち受けていることなど、思いもよらずに。


「決定的な契機が訪れたのは、ほんの二週間前のことです」

「二週間前……『0715事件』か!」


思い当たる節はステイルにもあった。
あの日以降、インデックスの挙動は目に見えて奇矯なものとなった。
ステイルと滅多に目を合わせなくなったし、身体的な接触もぐんと減った。

そして何をおいても七月十九日。
一方通行との激闘で辛うじて命を拾った直後に彼女が見せた、落涙、自失、銷魂。
あの涙の理由がまるでわからなくて、ステイルは――――


「なにを他人事のようにのたまっているのですか」

「な…………?」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/14(水) 21:41:22.23 ID:ky54UWEJ0<>

考えにふけっていたところを邪魔されて、ステイルは間抜けな声を漏らしてしまった。
『自動書記』は魔術師に、射殺すような視線を浴びせていた。


「まさか、気付いていなかったのですか? あれは他の誰でもない、貴方のせいです」

「なにを言って……だったら僕に直接、不満なりなんなりぶつければいいだろう」

「言いました」

「は?」

「インデックスは間違いなく、しっかりと貴方に“お願い”しました。覚えてませんか、
 天才魔術師?」


お願い。
お願い?
七月十五日、インデックスがステイルにしたお願い――――


「……………………あ」

「ようやく、解ったようですね」

「ちょ、っと、待て。そんな……そんな、ことで?」

「信じられませんか? しかしこれが真実です。いかに他愛なく、くだらないことだと
 貴方が思ったとしても、これだけが真実なのですよ」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/14(水) 21:42:35.12 ID:ky54UWEJ0<>




『お願い、死なないで。私は、あなたが生きててくれればもう』





<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/14(水) 21:43:14.67 ID:ky54UWEJ0<>

『アドリア海の女王』発動を目の前にして、敵の奇襲を受けた時のことだ。
紆余曲折を経てステイルはインデックスを守るべく、文字通り盾になった。


「あの日この子は、考えてしまった」




『もうやめて、やめようよステイル』




「目の前の男性さえ生きていてくれれば、他の連中なんてどうでもいいから」




『やめよう、後はしずりやフィアンマたちに任せて、ロンドンに帰ろう?』




「なにもかも見捨てて逃げ出そう――――そう、思ってしまったんですよ」


それは、聖女が聖女でなくなった瞬間だった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/14(水) 21:44:21.50 ID:ky54UWEJ0<>

「じゃあ彼女は、そんな自分を恥じて……?」

「まだ言いますか、この愚か者が」


痛烈な糾弾にステイルは二の句を継げなかった。
『自動書記』はもはや、たぎる激情を制御しようともしていなかった。


「貴方のような臆病で愚かな男に、どうしてこの子は惹かれてしまったのか……私には、
 まったく納得できない。先刻とてそうです。貴方が『人払い』を行使した気配を敏感に
 察知して、この子は走り出した」


アウレオルスとの対話を“聞かせてしまった”時のことだと、ステイルはすぐに理解できた。
『自動書記』がどれほど押し留めても、インデックスはステイルの身になにか災いが
降りかかってはいないかと、それだけを考えていたという。


「なのに…………どうして、どうしてそこまでこの子に強く想われている貴方が、
 この子の真の懊悩を察してあげられないのですか」


ステイルは指の付け根が白くなるまで拳を握った。
そして、口を固く閉ざした。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/14(水) 21:45:41.77 ID:ky54UWEJ0<>

「アウレオルス=イザードを襲った悲劇を知って、この子が一番になにを考えたのか、
 貴方には解らないでしょうね…………解って、たまるものですか」


女の表情にかすかに昏い悦びが浮かんだ。
愛しい少女を追い詰めた魔術師を思うさま詰っていることに、彼女は愉悦という名の
新たな、革新的な情動を見出していた。


「この子は、目の前の破滅した錬金術師への同情よりも先に、貴方のことを考えて
 恐怖したのです」


ステイル=マグヌスを、いつかこんな風にしてしまうのではないか。
ただでさえ自分に関わることで“不幸”になった彼が、より大きな災禍に飲み込まれて
『上条当麻』のように死んでしまうのではないか。


「は、ははは…………いったいこれの、どこが『聖女』なのでしょうね。この子は、
 この子は世界中で起こっているどんな悲劇よりも、なによりも」


上条当麻を殺してしまった過去(きのう)よりも。
アウレオルス=イザードを苦しめている現在(きょう)よりも。
インデックスは――――



                あした
「貴方を失うかもしれない『未来』が、怖いんですよッ!!」




<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/14(水) 21:47:34.04 ID:ky54UWEJ0<>

ステイルは小さく、しかし震えを知らぬ声を絞り出した。


「…………そんなことを言ったって、どうしようもないだろう」


人間は、いつか必ず死ぬ。
魔術師同士の抗争に巻き込まれなくても、薄暗い闇の底に潜らなくても、愛する人の
ために命など投げ出さなくても、ほんの些細なことで、簡単に人は死ぬ。
それは天地開闢以来、絶対不変の真理だ。


「そんなことを恐れていたら、生きていくことなどできない。この世で生を営み続ける
 人々は、多かれ少なかれいつか訪れる死の恐怖を頭のどこか片隅で認識していて、
 それでも強く生きている!」


ステイルは傷を負っても病に冒されても、力強い営みを諦めない人々を目の当たりにした。
絶望に抗う力はそこから分けてもらったものだ。


「彼女がその恐怖を克服できないほど弱い人間だ、などと……僕は信じないッ!!」


それはインデックスにとっても同じだったと、ステイルはそう信じていた。
現に彼女は『上条当麻』を乗り越えたではないか。


「身勝手にこの子を、貴方の色眼鏡に当てはめないでください。お忘れですか、
 この子には『無限』の愛があるのですよ」


しかし『自動書記』は、インデックスの強さを否定する。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/14(水) 21:49:33.84 ID:ky54UWEJ0<>

インデックスには世界のすべてを包み込めるほどの巨大な、無窮の愛があった。
十一年前、上条当麻に対しては、それを一点に集約する方法がわからなかった。


「しかしこの子は、十一年を生きました。綺麗なものも汚いものもたくさん見ました。
 たくさん聞いて、たくさん感じました。そしてすべからく、記憶しました」


それはとりもなおさず、成長と呼ぶべきものだった。
制限時間を過ぎれば刈り取られていたはずの新芽は、終わらない猶予時間を与えられた。
若木へすくすくと生長するようにインデックスは、それまでの十五年では学べなかった
人の魂の在り様を知った。
誰も教えてくれなかった『愛』の御し方も、独力で組み立てていった。


「そしてあの日、七月十五日。貴方が自分を庇って死んでしまうのではないかと
 想像してしまったとき、ついに“やり方”の一端を掴んでしまったのです」


この世で唯一の男性へと、地球一個分よりもはるかに重い愛を傾ける、“やり方”を。
同時に、無意識のうちに悟ってしまった。
二つある愛の出口を一つに絞ってしまったとき、いったいなにが起こるのかを。


「だからインデックスは、生きとし生ける万人に等しく訪れる『死』の中でも、
 ステイル=マグヌスのそれだけが、とびきりに群を抜いて怖いのです。たとえ
 それがたった『1%』の可能性だろうと、怖く怖くて仕方がないのです」


なぜならインデックスがステイルへ注ごうとしている愛は、全人類に分散した慈愛を
かき集めて煮詰めた、世界と天秤にかけてもなお傾く『無上の愛』なのだから。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/14(水) 21:51:21.34 ID:ky54UWEJ0<>

「そして、ますます手に負えないことに…………貴方が死ぬ可能性は、常人のそれより
 はるかに高い。『1%』どころの話ではない」


「0715事件」で、果たしてステイルは何度死にかけたのだろう。

『右方』との初戦では、フィアンマの援護がなければ十回死んで尚釣りがきたであろう。
魔力を著しく消費した肉体で、形振りかまわず亡者の群れから彼女を守ろうともした。
『右方』が最後に振った『腕』に対しても、インデックスを腕の中に閉じこめて庇った。
その度にインデックスを怒らせて、心配させて、あげくに泣かせてしまった。

いみじくも『自動書記』が言及した通り、これらの行動はインデックスの主観に立てば
性質(タチ)が極めて悪い。
ステイルの自己犠牲はそのことごとくが、理性ではなく本能に従った結果であるからだ。
一度など、『歩く教会』で全身を完璧に防御したインデックスを守るべく、身の程知らず
にも全身をなげうった。

まったく不合理な、見下げ果てるほどに馬鹿げた自傷行為だろうが、ステイルは“次”が
訪れるのなら何度でも同じ愚行を重ねるであろう自己を容易く想像できた。


                               アイデンティティー
それこそまさに、ステイルがステイルであるための絶対に譲れない一線なのだから。



<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/14(水) 21:52:31.06 ID:ky54UWEJ0<>

「あのような無謀を至極当然のように犯しておきながら、ベッドの上で老衰死する
 未来設計図を描いているわけでもないでしょう。この子にとって貴方の死は、
 “明日”にでもすぐ起こり得ることなのですよ」


愛しい男性(ひと)のアイデンティティーを悟ってしまったがゆえに、インデックスの
絶望と悲哀はより救いようのないものとなった。
こんなことを続けていたらステイルは遠からず、自分の前からいなくなってしまう、と。


「極論この子は、窮地にある貴方を助けるための力なんて、欲しくはないのです」


誰かを救う尊い意志など、聖女(ヒロイン)の称号などいらない。


「自分を守るために命を投げ出してしまうような誓いなど、投げ捨ててほしいのです」


命懸けで守ってくれるナイトなど、主人公(ヒーロー)などいらない。


「ただこの子は、貴方がそばにいてくれればそれで、それだけで良かったのに!」


――――平凡で平穏な、脇役としての人生だけが、欲しかった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/14(水) 21:53:29.75 ID:ky54UWEJ0<>

「だというのに貴方は、いつまでたっても最大主教、最大主教、最大主教! 貴方に
 そう呼ばれるたび、どれほど彼女の心が千々に乱れていたか知っていますか!?」


ただでさえ、態度と行動だけでもその信念を、言外に体現し続ける男の背中。
そんな姿に胸を痛めていたところに、追い打ちをかけるような『言葉』の雨。



『最大主教ゥゥーーーッ!!!』



――――僕は君の部下で、護衛だ。



『しかし最大主教、心配はいらない。何が起ころうと君は僕が守る』



――――だから僕は、何度だって君のために命を投げ出すよ。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/14(水) 21:54:15.12 ID:ky54UWEJ0<>

インデックスには『最大主教』という二人称がそう聴こえていた。
自分と彼の立場をこの上なく的確に表現するその称号が、胸を掻き毟りたくなるほど
憎くてたまらなかったという。




『インデックスって呼んでくれたら…………嬉しいな』




一度だけ、名前で呼んで欲しいと迫ったが、実現はされなかった。




『…………すまない、“最大主教”』

『…………そっか。うん、無理しなくていいよ』




ステイルが、臆病者だったから。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/14(水) 21:56:03.96 ID:ky54UWEJ0<>

「貴方の臆病のツケを、この子は一年間払わされ続けたのですよ。貴方のような
 くだらない男の愛に応えようとして、この子は病んだのですよ」


ステイル=マグヌスを『不幸』にするのが怖い。
ステイル=マグヌスがいつか、自分より先に死んでしまう日が来るのが怖い。
ステイル=マグヌスの死に顔など想像したくもない。
ステイル=マグヌスがいなくなれば、きっと自分は壊れてしまう。


                      ぜつぼう
「これがこの子の、インデックスの『死に至る病』です」



ただ隣にいてほしい。
しかしステイルは自分の傍で自分を守る限りどんな理屈も超越して、死への恐怖
など忘れて命をなげうってしまう。

もうどこにもいない主人公を殺してしまったように。
顔(そと)と記憶(なか)を弄ばれて破滅した生ける死者のように。
『無限の愛』を、『無上の愛』に変える方法を教えてくれた世界より愛しい人を
いつの日か、愛ゆえに死なせてしまう。


なんと忌まわしい――――救いようのない女なのだろう。


ゆえにインデックスは、己が存在を呪った。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/14(水) 21:58:55.97 ID:ky54UWEJ0<>

「この子が死ぬ理由は、それ以上でも以下でもないのに。貴方ときたら余所から回り
 くどい理由を引っ張ってきて、彼女の『死』がさも、世界にとって途轍もなく崇高なもの
 であるかのように思いこもうとしている――――先ほどの言葉を、そっくりそのまま
 お返ししましょう」


女が大きく息を吸う。




「ふざけるなッ!!!」




昂騰する怒りに火照り、徐々に透き通っていくエメラルドがステンドグラスから差す
月の光を反射する。


「この子を一番人間として、一人の女性として見ていないのは、貴方ではないですか!」


まるで泣いているようだ。


「貴方が、この世でもっともこの子のことを正確に理解していなければならない貴方が
 こうも愚かだから、この子は、インデックスはッ!!」


啼いている女の瞳には涙粒など浮かんでいないのに、ステイルにはなぜかそう見えた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/14(水) 22:00:14.94 ID:ky54UWEJ0<>








  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「自ら死を選んでしまったんですよッッッ!!!!!」









       めいにち
――――七月二十八日まで、あと二十分。



Passage10――――END

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/14(水) 22:02:30.34 ID:ky54UWEJ0<>
⇒ TO BE CONTINUED ……


インさんマジ聖女、そんな既成概念を取っ払ってみました
これも一種のキャラ崩壊なのかもしれませんね
ではまた二日後にお会いしませう
<> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/14(水) 22:14:24.86 ID:jKmTpcY20<> 乙!!

聖女だからこそ、他者の、そして己の業の深さに絶望する、かあ。
aufhebenするの、難しいよね。 <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/14(水) 22:15:45.81 ID:t52WMaGAO<> 乙

マジで鳥肌物
そういや自動書記人格あるSSって珍しいな <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<><>2011/12/14(水) 22:27:34.95 ID:/TNn0/0I0<> 乙


何故かサウザーを思い出してしまった
<> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/14(水) 23:54:23.92 ID:vhXplFlI0<> 乙 偶像崇拝はいかんよね <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/15(木) 23:29:51.97 ID:IKPSeGAho<> 毎度読み終わった後の充足感というか生半可な感想を書けない気持ちになるというかでまごまごしている内に次の更新が来てしまう
中々乙カキコ出来ないが読んでるぜぇ
クライマックス来て設定とメイン二人の掘り下げっぷりとその説得力たるやホントに面白い <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/16(金) 22:07:41.26 ID:rHzvExoD0<> >>841
あなたがエスパーか

>>843
こんなに苦しいのなら愛など(ry

>>845
一人でもそう言って下さる方がいるとホント励みになります
ぶっちゃけ掘り下げすぎて冗長になってないかが心配でした
これからも気軽に乙の一言だけで構いませんので>>1にアメを提供してくだされば幸いです
ムチも忘れずにね!

では行きますよん <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/16(金) 22:08:38.59 ID:rHzvExoD0<>

――Passage11――



神はどうして、こうも無情に彼女を見捨てるのだろう。
『首輪』の再来に直面してステイルはそう嘆いた。


「『首輪』が発動する直前、この子の魂の悲鳴が、貴方には聴こえましたか?」


しかし、それは間違いだった。




『――――――――――――――――――い』




「生まれてから十五年、乳兄弟のように寄り添ってきた“それ”」

「十一年ぶりに訪ねてきた、旧友のような“それ”」

「“それ”に初めて、生まれて初めて、この子は自分から話しかけてしまった」




『―――――――――――――――――たい』




<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/16(金) 22:09:09.39 ID:rHzvExoD0<>

「貴方と神裂火織に一年間追い回されようとも、そこから掬い上げてくれた上条当麻を
 自分のせいで“殺して”しまっても、『無限の愛』を持て余そうとも、恋の鞘当てに
 敗れようとも、一度たりとも向き合おうとはしなかった“それ”を、ついに真正面から
 覗きこんでしまった」




『――――――――――――――――にたい』




「……貴方のせいだ。貴方のせいで、インデックスは」







『―――――――――――――――死にたい』







「貴方がそう言わせたんだ、ステイル=マグヌスッ!!!」


ステイルはようやく真実を悟った。

彼女が、神を見捨てたのだった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/16(金) 22:09:38.06 ID:rHzvExoD0<>


Passage11 ――とある神父の『      』――



<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/16(金) 22:10:19.88 ID:rHzvExoD0<>

「彼女は、自分で自分に『首輪』を嵌めたのか」


ステイルの面持ちは、筆舌に尽くしがたい悲痛に悶え狂っていた。


「自ら、絞首台に上ったのか…………ッ!」


残酷な真実に、震える手のひらで目元を覆ってこめかみを砕かんばかりに締め付ける。
そうやって押さえつけていなければ溢れそうな何かが、脳のさらに内側で熱を帯びていた。


「……ローラ=スチュアートが『首輪』を仕掛けた黒幕でなかった以上、十一年前粉々に
 されたこの魔術(げんそう)を再構築できる者の候補は絞られます」


ローラの言い分を鵜呑みにするなら、そういうことになる。
そしてステイルはもはや、かの女狐を頭から疑ってかかることはできなかった。
考えてもみればこれは、最初から二択問題だったのだ。


「『禁書目録』の真の黒幕であったアレイスター=クロウリー。彼が現下いずこに存在
 しているのかは私もインデックスも知りません。しかしそんなことは関係がない」


なぜなら『犯人』は、二択のうちのもう片割れだから。
そしてステイルは『犯人』が有する才能をよく知っていた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/16(金) 22:11:24.50 ID:rHzvExoD0<>

「彼女は、その魔術分析力と応用力を活用して、『自分を殺す』魔術を…………
 よりにもよって『首輪』を、あの一瞬で、再現してしまったんだな」


インデックスの『魔道図書館』としての真価は莫大かつ迅速な記憶力などではなく、
柔軟で創造性に富む処理能力にこそあると、ステイルは常々そう考えていた。
忌まわしいまでに優秀そのものの才能はこんなところでも余すことなく発揮されていて、
圧倒的すぎる性能がゆえに所有者を蝕み殺そうとしている。
核兵器を抱えた人類のようなものだ。
ステイルは世の残酷さに唾したい気分だった。


「しかし君とて、一〇三〇〇〇の魔に身をひたした天才には違いないだろう。彼女に
 『構築』が可能だったというなら、君が『解除』できてもいいはずだ」


だがそれでも、ステイルはインデックスを諦めない。
『上条当麻』がそうであったように、どんなに無様で不格好だろうともがく。
『自動書記』は、弱弱しく破顔するも肯んじようとはしなかった。


「だから貴方は二流魔術師だと言うのです。そもそも「0715事件」で私が貴方に貸した
 魔力は、インデックスの意思で供給されているのですよ?」

「……まさか」
               わたし
「ええ。この子はすでに、『自動書記』の制御権を手中に収めているのです。
 いまや“インデックス”は私にとって、絶対的な上位存在なのです」


つまり『自動書記』は、インデックスの命令には決して逆らえない。


「そして『首輪』の解呪は、最優先コードによって禁止されました」

「っ!」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/16(金) 22:12:19.33 ID:rHzvExoD0<>

「この事実のみでも、十二分に彼女の絶望が伝わってくるでしょう? インデックスは
 本気です、本気で死のうとしています。…………私には」


よくよく見ればその唇が微細に、しかし内側に秘めた激情によって、確かに震えていた。


「私にはもう、記憶の消去以外になす術がないんですよ」


ステイルはこの瞬間、頭の中でおぼろ気に組み上がりつつあったイメージを確定させた。
『自動書記』が最初に感情を爆発させてからというもの、ステイルには彼女が“誰か”に
だぶって見えて仕方がなかった。

インデックスを死なせたくない。
だが記憶を、自分との思い出を消さないとインデックスは死ぬ。
だから、逃げ出したくなるほど嫌で嫌でたまらなくても、記憶を殺す。
それで彼女の命が助かるのならしょうがないことだ。

一つ一つのピースを丁寧に並べ直せば、何のことはなかった。


「君は、“僕”なんだな」


それは紛れもなく、『失敗者』ステイル=マグヌスの愚行そのものではないか。


「…………貴方と私を、一緒にしないでいただきたい」

「声に覇気がないね。どうやら自覚はあるらしい」


憎々しげに歯を剥き出しにしてくる失敗者を尻目に、ステイルは遠き日に思いを馳せた。
彼女が十一年前のステイル=マグヌスだというなら、彼女と対峙する己は何者なのだろう。
神の定めた奇跡(システム)に抗う者を、世界は何と呼ぶのだろう。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/16(金) 22:13:22.65 ID:rHzvExoD0<>


――――いい加減に始めようぜ、魔術師――――



ステイルは青物独特の臭みに満ちた叫びを追憶して、軽く鼻を鳴らした。
神父の敵は神などではない。
二つの眼球が捉える世界を現在の時間軸に戻す。


「だったら、僕らのこの会話は。ここでいま僕と君がぶつかっていることを、彼女は?」


少なくとも十一年前の段階では、『自動書記』の『迎撃』が発動している最中に起こった
事象をインデックスは観測できていなかった。
しかし今ならどうだ。
インデックスが『自動書記』を掌握したいまこの時なら、あるいはステイルの声は彼女に
届くのではないか。


「不可能、ではありません。そもそも『私が記録した事実』がすべからくこの子に伝播
 しなかったのは、シナプス経路の一部にインデックスがアクセスできない不可侵領域
 が設定されていたからです」


おそらくはアレイスターが、『自動書記』の存在をインデックスに自覚させないために
施した措置だろう。
そしてその不可侵領域も、彼女が『自動書記』の真の主となったことで解放されたという訳だ。

だが、『自動書記』は首を横に振る。


「この子にはもう、私の呼びかけは届いていません。さっきからずっとずっと名前を
 呼んでいるのに、死んでほしくないと幾度も頼んでいるのに、インデックスはもう、
 私の声に応えてくれない…………貴方の、貴方のせいで」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/16(金) 22:14:30.40 ID:rHzvExoD0<>

かつてリリスだった女の表情を、いよいよ絶望が占拠しつつあった。
内側で殻にこもったインデックスが背負ったそれの、何千分の一にも満たないであろう
絶望に支配されて、『自動書記』はいまにも月光に融けてしまいそうなほど脆弱な姿で
聖堂に佇んでいた。


「…………貴方はこの子を、清く正しく、強い心の持ち主だと、揺るぎない聖女だと
 信じていましたか? 貴方の“逃げ”の代償を被せられて、名前も知らない魔術師に
 さんざん追い回されて、それでも心折れずに誰かを心配できる清らかな少女だったから
 大丈夫だと思ってませんでしたか? 上条当麻に抱くどうしようもない哀惜も、きっと
 乗り越えてくれると楽観視していませんでしたか?」


女はハイライトの消えかかった瞳で、怜悧さなどかなぐり捨て感情のままに静かに叫んだ。
ステイルは目を逸らさず、しかし語る言葉を持たなかった。


「この子は貴方ではないのです。この子は貴方のようにはなれない」

「……僕は、強くなどない」

「しかし貴方は先刻、立ち上がったではないですか」


『首輪』の復活を目の当たりにして嘆き、膝を折って。
しかし五分もしないうちにあっさりと、ステイルは自分の脚で立った。


「弱さゆえに折れた貴方は、それでも再び立ち上がったではないですか。幾度となく
 折れてしまったがゆえのしなやかさで、希望をつかもうとしたではないですか」


ステイルが恐怖を克服できたのは、絶望など慣れっこだったから。
そう言われれば、確かにそうなのかもしれなかった。

二度も好きな女の子を殺した。
大事な少女が他の男の傍で幸せそうに笑っている姿に、身を焼かれる思いだった。
彼女の心が己に向いたら向いたで、過去の罪に苛まれてのたうちまわった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/16(金) 22:15:37.28 ID:rHzvExoD0<>

「でも、この子は違うんですよッ!! もうこの子は、一人では立てないんですよ!」


対してインデックスは、いつもいつも折れる一歩手前で踏みとどまってきた。

悪い魔術師に年中追いたてられても。
そんな地獄から掬い上げてくれたヒーローを殺してしまっても。
恋した少年を他の女に掻っ攫われても。
逃げ出した先で魔術師との苦い恋にもがいても。


「それでもずっとずっと、この子は堪えてきた!」


インデックスは堪えた。
苦痛を溜め込んだ。
堪えて溜めて堪えて溜めて堪えて溜めて堪えて溜めて堪えて溜めて。


「そしてとうとう、今日。生まれて初めてこの子は、芯の中心から、致命的なまでに
 “折れて”しまったんですよ。心臓の甲高い悲鳴を必死で無視してこらえ続けてきた
 からこそ、たった一度の決定的な絶望で」

「へし折れてしまった、か」


ステイルが十二年前挫折したときの絶望と、インデックスがたった今囚われているそれを
比較することに大した意味はない。
だが『自動書記』はその行為で己を慰めるほかに自己の心の安定を求められないのだと、
ステイルは“推し測った”。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/16(金) 22:16:40.61 ID:rHzvExoD0<>

「どうですか。このどうしようもない現実を前に、まだ打つ手はある、などとのたまう
 つもりですか」


無力な己を誤魔化すために、眼前の対峙者を責めることに精力を注いでいる。
場違いにもステイルは、やはり彼女も人間なのだと実感した。


「わかっているのですよ。貴方の頼りとは上条当麻――――『幻想殺し』でしょう?」

「……ああ、そうだよ」


『自動書記』の指摘はまさに正鵠を貫いていた。
上条当麻は日本時間でそろそろ午前九時になるいま現在、第二三学区の空港へと取るものも
取らずに急行している真っ最中である。

インデックスの死に直面したステイルが真っ先に頼ったのは、彼のプライドをこの上なく
傷付けた“実績”をもつ幻想殺し(ヒーロー)だった。
ステイルの判断は、彼自身の自尊心に入った罅を無視しさえすれば、極めて正しい。


「あは、あはは! 貴方のような凡愚が考え付く程度のことを、私が想定しなかったと
 お思いなのですか?」


――――こんな状況でさえなければ。


「たとえ彼でもこの子は救えません。なぜならこれはローラ=スチュアートでも
 アレイスター=クロウリーでもなく、この子が“私たちに”突きつけた選択肢
 だからです」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/16(金) 22:17:45.76 ID:rHzvExoD0<>

『幻想殺し』が『首輪』を破壊した瞬間に、彼女は『首輪』を自らの意志ではめ直すだろう。
それでは根本的な解決には程遠い。

本物のヒーローがご都合主義で颯爽と登場したところで、もはやどうにもならないのだと
女は嗤う。
これはインデックスの、心の内側の問題なのだから。
そしてその内側に踏み込むための切符を、上条当麻はすでに手離したのだから。
インデックスの幻想はとっくの昔に、ばらばらに砕け散ってしまったのだから。


「それとも天才錬金術師、アウレオルス=イザードと手を結びますか。ときに彼は、
 いま何をしているのです? この子と同じく絶望に打ちひしがれているのでしょうか」

「答える義理はないね」


着色されていない透明な声でステイルは短く応答する。


「もしくは科学の最高峰、一方通行に頭を下げますか。愛する女性とのハネムーンを、
 幸福を、満身で享受している最中の男にはたしてインデックスを救えるのですか?
 私には、甚だ疑問ですね」

「確かに検討はしたが……一方通行とは結局、連絡がつかなかったよ」


女の攻撃性はついに、矛先すら見失いつつある。
やり場のない鬱屈とした絶望は、時に世界への憎悪にすら変質し得ることをステイルは
知っていた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/16(金) 22:19:05.38 ID:rHzvExoD0<>

「成程。いかにも、無力でちっぽけでうすっぺらな貴方らしい、主体性に欠けた選択肢
 の数々です。そしてそれに相応しい答えが、出てしまいましたね」


――――貴方にインデックスは救えない。


心の奥底で愉悦に浸りながら、『自動書記』はそう告げた。
ステイルはもう一度、双眸を手のひらで覆い隠した。


「……もう一つ、決定的な事実をお教えしましょうか、『殺人者』」


魔術師の中で灯火が消えかかっているのだと察知して、断罪者は畳みかける。


「『首輪』は霊装魔術です。そのための儀式霊装はおそらく、もともとの術者が所有
 していたものが唯一です。この意味がお解りですか?」


『霊装魔術』。
読んで字のごとく、対応した霊装無しには発動することすらできない魔術。
つまり本来ならばアレイスター以外には――――そう、『禁書目録』でさえ再構築が
不可能なはずなのである。


「この子がどうやって、“霊装無しで霊装の必要な魔術を発動した”のか?」


微動だにしなかった神父の肩がわずかに、ほんのわずかにだが震えた。


「理解できたようですね」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/16(金) 22:20:26.76 ID:rHzvExoD0<>

またしても、七月十五日に向かってステイルの意識は飛ぶ。



『解釈の歪曲を完了』

『Laguを足元に置いて起点に。南に四センチ刻みでEolh、Is、Yr、Nyd、Cen』



カードから生まれた巨大な地上絵は、本来あの術式に必要な霊装(ふね)の代用品として
用意したものだった。



『僕は何も心配していない。君が一緒だからね』

『いま、あなたと一つになってるって感じる。不思議なぐらい、落ち着いてるんだよ』



――――それと同じこと。
インデックスの細首にかけられたロープの正体は。



「僕たちが、あの日築いた理論、なのか?」



ステイルはこらえがたい嘔吐感に必死で耐えながら、辛うじて呟いた。
あの日ステイルとインデックスが共に、科学の街を救うために作り上げた力が、
廻り廻って彼女を殺そうとしている。
こんな馬鹿な因果があってたまるか。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/16(金) 22:21:34.49 ID:rHzvExoD0<>

「だから貴方はなにも解っていないと言うのです。だから私は貴方を、『殺人犯』だと
 告発したのです。だから貴方は、むごたらしく裁かれるべきなのです」

              どうき
死を想像してしまった『絶望』も。

            きょうき
死を実現してしまう『術式』も。


「これらはすべて、貴方が彼女に贈ったものです」

「そん、な」


突きつけられる現実。






「貴方がこの子を殺すんですよ、ステイル=マグヌス」






裁判官の有罪判決を聞いて、ステイルの胸に去来した感情は、二つ。


「そんな……」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/16(金) 22:22:43.70 ID:rHzvExoD0<>

一つはインデックスの心に深く刻まれ、正視しがたいほどに化膿しきった傷痕に、
気が付いてやれなかった己への怒り。


「そんな、そんな」


そしていま一つは。








「そんな、くだらないことだったんだな」








インデックスその人への、荒れ狂うような激怒だった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/16(金) 22:23:57.53 ID:rHzvExoD0<>

その刹那、女の形相は羅刹のごとく歪み、


「っ、口を、慎みなさい!! 貴方のせいで死を選んでしまったこの子に対して、
 なんたる言い草――――」

「だってそうだろうがッ!!!」


それに劣らぬ獅子の咆哮が、男の全身から放たれた。
静謐な空気がビリ、と音を立てて軋む。


「大事な人に先に死なれるのが嫌だから、それより先に死んでやるだと!? どんな
 高尚な原因で口を噤んで、どんな理由から生まれた絶望が出てくるのか、身構えて
 いたらこれだ! 神がもし劇作家だというのなら、失笑しきりの観客席に向かって
 土下座しなきゃあ収まらないだろうよ!」

「ステイル=マグヌスッ!! この子の本当の懊悩を察してやれなかった分際で、
 よくもそんな野放図な口を」

「だったら言ってくれれば良かったんだよッ!!」


いまならステイルは土御門と神裂の苛立ちが理解できた。
五か月前、この聖堂で彼らはステイルに、こんなどうしようもない男に言ってくれた。


『だから、そういうのをぶちまけりゃあ良かった、って言ってんだよオレらは』

『辛い、悲しい、苦しい…………感情は、理屈とは別のところで動きます。
 そういった心の澱を、あなたに溜めこませてしまった自分が、私は許せない』

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/16(金) 22:25:21.88 ID:rHzvExoD0<>

そう言ってくれたのだ。
そう諭して、怒ってくれたのだ。


「この子は貴方に“言った”と、そう言ったでしょう!」

「何がだ? たった一度、死にかけた護衛に向かって『死なないで』と囁いたことか?
 確かにあの一回で彼女が発していたシグナルに気が付けなかった僕は、どうしようも
 ない愚か者なんだろう…………しかしだ!」


言ってくれなければなにも伝わらない。
なぜならステイルとインデックスは別の人間だからだ。
どれほど心の奥底で深く結び付いていたところで、言葉に出さねば伝わらないものの方が
はるかに多いに決まっているではないか。


「だったら何度でも言ってくれればよかった! 『死んでほしくない、死なれるぐらい
 なら先に死んでやる』…………そんな馬鹿なことを考えているんだと知ったならば!
 神に誓ってもいい、僕は何度でも、いつ何時でもこう答えた!!」


気高い獣の啼き声が、女の足を一歩退かせる。
それを見て男は一歩、床板を踏み抜いて雄々しく前進し。


「僕は君のために命を懸けることは止められない。何度でも死と隣り合わせで闘う。
 ああ、それは変わらない、それだけはどうしようもない。それでも」


――――吼えた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/16(金) 22:26:25.26 ID:rHzvExoD0<>








「 僕 は 死 な な い ッ ッ ! ! ! ! 」









<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/16(金) 22:27:51.63 ID:rHzvExoD0<>

「いまこの場で、君に対して誓ってもいい。僕は絶対に、幾度死にかけようとも、
 彼女を一人この世に残して死にはしない!」


女は気圧されて二歩目を後背に向かって踏み、しかしなおも反論を練った。


「……そんなこと、証明できるものですか! いみじくも貴方が先ほど言った通りです。
 人間はいつか死ぬ。デカルトの書を紐解くまでもない!」


人間はいつか死ぬ。
ステイルは人間である。
ゆえに、ステイルはいつか必ず死ぬ。


「ならば、人間など辞めるさ」

「な……っ!」

「たとえば、の話だよ、大袈裟にとるな。しかしそれ以外に証明手段がないのなら、
 僕は人間を超えることも辞さない――――本気だぞ、僕は」


言外に『証明手段』の存在を匂わせた魔術師の覇気によって、場は完全に支配されていた。
男はさらに一歩踏み出す。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/16(金) 22:29:05.40 ID:rHzvExoD0<>

「さて。そろそろ“そこ”をどけ。彼女と話をさせろ」

「なにを、する気ですか……」

「一発ひっぱたく」


『自動書記』が口を大開きにして唖然とした。
無理もない、とステイル自身も苦笑した。
自分の口からこんな言葉が出る日がくるとは、想像だにしたことがなかった。


「そして、こう言ってやる」


神裂を、土御門を、美琴を、上条当麻を、『必要悪の教会』を、多くの友人たちを、
そしてステイルを置きざりにして、一人身勝手に死に逃げようとした馬鹿な女に。
万感を込めて、ステイルは叩きつけてやる。




「君の臆病のツケを、僕たちに押しつけるなッ!!」




沈黙。
瞠られていた『自動書記』の瞳が、ゆっくりと瞼の裏側に隠れていく。
十秒、二十秒と時計の秒針が進む間、聖堂に束の間の静寂が訪れる。
機械で計ったようにきっかり一分後、突如見開かれた眼に。


「…………わかりました」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga !red_res<>2011/12/16(金) 22:30:02.17 ID:rHzvExoD0<>



「敵性を確認」




凝血のような、毒々しい赤が刻まれていた。




<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga !red_res<>2011/12/16(金) 22:32:04.52 ID:rHzvExoD0<>

四方八方に鎮座する蝋燭の明かりが一斉に消えた。
しかし聖堂は煌々と、神々しいまでの灼光に照らされ続けている。
光源は祭壇の上に存在していた。


「この子を傷つけると、貴方はそう言いました。ならばもはや、容赦はしません」


凶風がステイルの赤毛をなびかせ、長身を吹き飛ばさんばかりに猛威を振るう。
風上は祭壇の上だった。

     ころ
「貴方を破壊します。貴方を破壊して、私はこの子を守る。それが、私の使命だから」


流麗な銀に空の青を足したような薄光が、女の全身を膜のように包んでいる。
瞳の中の陣と同じ色の赤翼が、女の四肢に絡みついて二度三度と羽ばたいた。


「面白い、やってみろ」

「その強腰、三度目にも関わらずまだ解っていないのですか。知らないのならば教授して
 さしあげましょう。これは世の摂理です」


そこにいたのは人智を超えた魔術師たちの、さらに遥か天上に君臨する、正真正銘の怪物
だった。



 あなた    わたし
「魔術師では、魔神に勝てません」



<> ミス;<>saga<>2011/12/16(金) 22:32:52.38 ID:rHzvExoD0<>

四方八方に鎮座する蝋燭の明かりが一斉に消えた。
しかし聖堂は煌々と、神々しいまでの灼光に照らされ続けている。
光源は祭壇の上に存在していた。


「この子を傷つけると、貴方はそう言いました。ならばもはや、容赦はしません」


凶風がステイルの赤毛をなびかせ、長身を吹き飛ばさんばかりに猛威を振るう。
風上は祭壇の上だった。

     ころ
「貴方を破壊します。貴方を破壊して、私はこの子を守る。それが、私の使命だから」


流麗な銀に空の青を足したような薄光が、女の全身を膜のように包んでいる。
瞳の中の陣と同じ色の赤翼が、女の四肢に絡みついて二度三度と羽ばたいた。


「面白い、やってみろ」

「その強腰、三度目にも関わらずまだ解っていないのですか。知らないのならば教授して
 さしあげましょう。これは世の摂理です」


そこにいたのは人智を超えた魔術師たちの、さらに遥か天上に君臨する、正真正銘の怪物
だった。



 あなた    わたし
「魔術師では、魔神に勝てません」



<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/16(金) 22:34:24.84 ID:rHzvExoD0<>

                         「……ははっ」



                    しかしそれでも、ステイルは笑った。


              ヨハネのペン
        「いいさ、『自動書記』」                (いいさ、『        』)


    ぼ く   きみ
  「魔術師が魔神に勝てないって言うのなら」      (僕が君に不幸にされるって言うのなら)


                   ルール                          ぜつぼう
     「まずはその、ふざけた幻想を」           (まずはその、ふざけた幻想を)



         勝機など塵の一片も見出せぬはずの『魔女』に向かって、不敵に笑った。





                     「灰も残さず、焼き尽すッ!!」





<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/16(金) 22:36:10.03 ID:rHzvExoD0<>




                      さあ、魔女狩りの時間だ。





                      Last Chapter Passage11 


                                ビブリオクラズム
             ――――と あ る 神 父 の 魔 女 狩 り――――



                            END



<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/16(金) 22:39:16.20 ID:rHzvExoD0<>
⇒ TO BE CONTINUED ……


反省もするし後悔もする
でもいまは背中のむず痒さを無視して最後まで突っ走りたいと思います
このシーンを書きたくてスレを立ててはや半年、本当に長かったです
年内完結の目途は立ちましたのであと少しだけ、ほんの少しだけよろしくお願いします

では次は日曜あたりにでも
<> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/16(金) 22:42:30.69 ID:I1UxmCHR0<> 乙です!!
次回も超期待です。 <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/16(金) 22:46:26.48 ID:txiQJpMLo<> 乙です! <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/16(金) 22:53:37.32 ID:5OtiB0TDO<> 乙です!
ステイルさんいい男になったなぁ <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/16(金) 22:54:05.63 ID:ho2ELdm9o<> 乙です

最近更新が気になって仕事が手につかない… <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/17(土) 00:34:19.78 ID:fkWJg/1AO<> 乙
こんな素晴らしいシーンで武田鉄矢の「僕は死にましぇ〜〜〜ん!!」が出てきた自分って…… <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/17(土) 01:17:09.80 ID:EzYbJ92qo<> >さあ、魔女狩りの時間だ。

うひゃあ・・・何これさぶいぼ止まんねぇwwwwww <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/17(土) 01:30:44.83 ID:sITJ/foGo<> やっべぇwww
だれか背中こすってくれ!



ヘタレがカッコ良過ぎて鳥肌が止まらない乙 <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/18(日) 20:31:33.41 ID:gSgBQqZ70<>
皆さんに楽しんでいただけているようで嬉しい限りです
多くは語らず、さっくり投下といきましょう <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/18(日) 20:33:08.40 ID:gSgBQqZ70<>

――Passage12――



万物の根源は、永遠に生きる火である。


                         ――――哲学者 ヘラクレイトス


<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/18(日) 20:34:01.54 ID:gSgBQqZ70<>

地上で最も気に食わない翠玉に融けこんだ朱色を見据えて、ステイルは乾いた唇を舐めた。
『自動書記』の――――インデックスの肉体はわずかに宙に浮き、両腕は開いて軽く後ろ
に逸らされている。
ゴルゴタの丘の救世主よろしく、十字架に磔られたかのような神々しい姿。
微笑みながら見下ろしてくる、聖者が背負ったステンドグラスの聖母の存在はいったい
なんの皮肉なのだろう。

懐に忍ばせたルーンの貯蔵量を確かめながら、ステイルはそんな益体もない感慨にしばし
ふけっていた。


「本気で魔神(わたし)に勝てるなどと、そんな幻想を抱いているのですか」


言の葉一つとっても人一人を殺しかねない威圧感を纏って、魔神はそう唄う。
対する一介の魔術師にすぎない男は、不敵な笑みを引っ込めようとはしなかった。


「逆に聞くが。この僕が勝算無き闘いに身を投げ出すような愚者だと、本気でそう思って
 いるのか?」


獰猛な獅子と化したステイル=マグヌスは、牙を剥き出しにして哮る。



「図に乗るなよ、たかが魔神風情が」



<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/18(日) 20:35:37.77 ID:gSgBQqZ70<>
                              
「僕はほんの二週間前、学園都市で桁外れの『力』に遭遇したばかりだからね。あんな
 論外の化物と交えた一戦の熾烈さに較べれば、いわんや君程度、といったところかな」

「……二人の『フィアンマ』の間で逃げ惑っていた男が、なにを偉そうに」

「ほう、否定はしないんだな。奴の『腕』の方が君より上だった、という僕の見積もり
 も捨てたものではないらしい」

「貴方が私に勝てない、という現実には些かも影響しません」


『右方のフィアンマ』が見せた『融合』の脅威は、『禁書目録』にもしかと記録されて
いるようだ、とステイルは思った。
青春のすべてを魔術の闇に、そしてたった一人の少女に捧げたステイルが身をもって体験
してきた中でも、長年最高峰に位置していた『自動書記』から頂点を奪い去ったのがあの
『振らない腕』だった。


「あの日の貴方はいかにも二流魔術師らしく、援護に徹することで限界だったでしょう。
 それがこの二週間で何か変わったとでも?」


ステイルは女に向かって肩を竦める。
『自動書記』は男の相貌の裏に焦燥も自棄も発見できなかったらしく、眉をひそめた。


「……まあ、貴方がなにをしようと誤差の範疇です。神に祈る時間は差し上げましょう」


女の頭上に異界の力が収束を始める。
曲がりなりにもインデックスの愛した男である。
『自動書記』はせめて一撃で、痛みも感じぬ間に黄泉へ送ってやろうと決意した。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/18(日) 20:38:53.71 ID:gSgBQqZ70<>




「一千万」





その時男が、己を幾千回だろうと黄泉路へと送れる圧倒的な力を前に涼しげに呟いた。


「なんですか、それは」

「愚にもつかない凡人の、十年間の努力の結晶だよ、天才」


ステイル=マグヌスは凡才である。
ごく普通の、通り一遍の。
そんな枕詞のとてもよく似合う、平平凡凡な魔術師である。
魔術師の戦闘には事前準備が必須だ。
ゆえに準備は念入りに行わなければならない。



「僕がこの十年で、ロンドンに配置したルーンの枚数、さ」



<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/18(日) 20:41:10.26 ID:gSgBQqZ70<>

「……虚仮、脅しです」

「さて、それはどうかな。知っているだろう、この街全体が僕の陣地だとね」


ステイル=マグヌスはイギリス清教最大主教の護衛である。
インデックスを命を懸けて守るのが義務である。
ゆえに。


「『この街で、彼女を守るために闘うとき』。ステイル=マグヌスは、その条件下では
 この世の誰にも負けてはならない。それだけの話さ」


そしてステイルはインデックスを愛している。
ずっとずっと彼女の傍で、その愛おしいあたたかさをいつまでも守って生きていきたい。
ゆえにステイル=マグヌスの『仮想敵』は、第三世界でも神の右席でも超能力者でも、
上条当麻でもなく――――


                   きみ
「僕の本命は、ずっとずっと『自動書記』だった」



いつかは彼女を越えなければならないと思っていた。
ロンドンを守護する 防衛システムに『守護神』と名付けたのも、彼女への密かな対抗心
が胸の内にあったからだ。
あの術式の命名は、インデックスを守護する防衛システムたる『魔神』に見劣りしない
実力を必ずや掴んで見せるのだという、たった一人の仮想敵に向けた所信表明だった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/18(日) 20:42:26.73 ID:gSgBQqZ70<>

「分かるかい? 僕はこの十年間、ひたすら君に勝つ方法だけを考えて生きてきた男だ」


決まりきったことだ。
ステイル=マグヌスではインデックスには勝てない。


一度目は横槍。


『行けッ、能力者ぁ!!』


二度目は時間稼ぎ。


『その間にあの忌々しい男が片を付ければ、それで僕たちの勝ちだ』


しかし三度目の今回、横槍を入れている間に突撃してくれる主人公など、時間を稼いでいる
間に黒幕を殴り飛ばしてくれる主人公など、どこを探してもいない。
せいぜいが主人公が必殺技を放つまでの場繋ぎ、程度のキャラクターでしかないステイル
にヒーローの真似事などできはしない。

決まりきったことだ。
決まりきったこと、だが――――


「知ったことか、そんな摂理など」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/18(日) 20:43:36.70 ID:gSgBQqZ70<>

『魔女狩りの王』は十一年前、とっさに展開した一万枚程度のパワーソースで『竜王の殺息』
と拮抗した実績がある。
それが一千万。
単純計算で、千倍の出力をもって顕現する。


「君を相手に小細工が通用しないことは二度の対戦で学習した」


魔術戦闘の基本たる術式の背景伝承の読み合いやトリックの看破も、この魔神相手では
まるで意味を成さない。
さらに悪いことに、ステイルの『魔女狩りの王』は最適のカウンター術式を、初戦でとっく
に構築されているというオマケ付きだ。

しかしステイル=マグヌスは魔術師だ。
魔術とは本来力なき弱者のための知恵だ。
ピンチになったら眠っていた真の力が目覚めて形勢逆転、なんて奇跡はまかり間違っても
期待してはならない、凡人のための技術だ。
プロの魔術師たるもの、勝利のためのピースは常に確固たる根拠を伴って、自分の脳の中
から引っ張り出さねばならないものなのである。


「悪いが、ごり押すよ。対抗術式など練る暇も与えない。圧倒的な物量で一撃必殺、
 君の魔力を削り切る」


北欧神話の主神オーディンに土下座するべきなのかもしれない。
ルーンの使い手の風上にも置けぬ、無粋で不細工、失笑ものの運用方法である。

だがステイルは、インデックスを守るためなら手段を選ばない男だ。
だからこそ、この場にたった一人で立っているのだから。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/18(日) 20:44:30.91 ID:gSgBQqZ70<>

「正気の沙汰とは思えません」


学園都市で十万枚規模のイノケンティウスを発動しただけでも、ステイルは魔力を半分
以上持っていかれた。
それが一千万。
単純計算で百倍の消費量をもってステイルの魔力を、ひいてはその源である生命力を削る。


「貴方はそうやってまた、自分の命を蔑ろにする気ですか。貴方がこうも無謀で、己が
 力量を弁えない考えなしだからインデックスが苦しんでいるのだと、まだ理解でき」

「死なない、と言っているだろう。ぴーちくぱーちく、しつこい女だな君も」

「なっ」

「絶対に死なないよ、僕は。そもそもこの闘いは、僕にとってはまたとない“証明”の
 チャンスでもあるんだからな」

「…………証明?」

「『死なない』証明に決まっているだろう? デカルトへの挑戦さ」


歴然たる殺意とともに襲いかかってくる一〇三〇〇〇の力の奔流を前にしてなおも二本の
脚で立っていられるのなら、これ以上の『死なず』の証明はない。
その姿をインデックスに見せつける。

ステイル=マグヌスはどんな無鉄砲を犯そうが死なない人間なのだ、と。


「貴方は、狂っています。そのような、子供だましにすらなっていない理屈……」


女の唸り声は、冷笑で明後日の方向に受け流した。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/18(日) 20:45:11.74 ID:gSgBQqZ70<>

「…………私は貴方とは違う」


火照って温度の上昇しつつあった声が、ステイルの嘲笑に冷やされたのか平静を取り繕う。
同時に、目に見えるような殺気が赤々と膨れ上がる。


「貴方の向こう見ずには付き合いかねます。私は貴方を殺すことで、貴方が間違っている
 のだと証明する。記憶を消して、悲しみを忘れさせて、インデックスを救う」


どこ吹く風とばかりに、対峙者である黒衣の魔術師は腕を組んで深呼吸した。
もうしばらく、ステイルには時間が必要だった。


「……君は、どうして彼女が『首輪』を断頭台に選んだのか、よく考えたか?」


十一年の時を経て再び『魔神』の降臨する舞台と化した聖ジョージ大聖堂の、建材一つ
一つに至るまでが圧倒的な存在感に悲鳴を上げていた。
あちらこちらから走るみしりという軋みをすべて無視して、魔神は発話する。


「この期に及んで時間稼ぎとは感心しませんね。疾く、殺されなさい」

「これは重要なことだ。いいからご自慢の脳みそを回転させてみろ」


ステイルが提示した命題はこうだ。

“なぜ、インデックスは自殺の手段に『首輪』を選択したのか?”

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/18(日) 20:46:19.49 ID:gSgBQqZ70<>

「回りくどい、と思わないかい? 自殺する手立てなんて他にいくらでもある」


高所から飛び降りるなり、本当に首を括るなり、ナイフで胴を突き刺すなり。
人が自殺するのにいちいち大層な魔術を費やさなければ死ねないというのならば、今日日
先進国を悩ます自殺問題はぐっと緩和されるはずだ。


「それは……この子にとって最も手近な道具が、魔術だったからです」

「それにしたってわざわざ構築に手間のかかる霊装魔術を選ぶことはないだろう。
 しかも発動までは、二時間近い猶予があるんだぞ」

「何を言いたいのですか」

「本当は君もとっくにご存じなんだろう。優秀な頭脳をお持ちでいらっしゃるんだからな」


『首輪』の構築から発動までの二時間は、インデックスが黄泉路を踏み越えてしまうまで
のタイムリミットなどではない。


「この長いようで短い空白は、彼女が僕たちに与えた猶予時間なんだよ」


ステイルは外套の内ポケットからルーンを抜いて構えるついでに、もう片方の手で懐中時計
を開いて女に見せつけた。
『自動書記』が断言した発動時刻まで、残り一時間と十五分。


「彼女は」


“もう一時間しかない”のではない。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/18(日) 20:47:23.47 ID:gSgBQqZ70<>

「僕たちに、助けてもらいたがっている。救いを求めている」


インデックスが二人に与えたロスタイムは、“あと一時間もある”のだ。


「……貴方の独りよがりな解釈で、この子の真意を、苦痛を歪曲するな」


怒りを押し殺しながら唸る女は、果たして己が振り回す槍の切先が、何処を向いているのか
しかと把握しているのだろうか。
ステイルはここ数週間縁を断っている紫煙を吐くかのごとく、細く溜め息をついた。


「仮にこの子が救いを欲しがっているのだとしても、それは私が為そうとしている『失敗』
 ――――記憶の消去に違いありません! 忘れてしまえば辛い思いもせずに済む。貴方の
 ようなくだらない男のことなど忘れて優しく、穏やかで、平凡な日常に戻れる!」


確かに可能性は否定できない。
その行動原理は、この長い夜の序幕を務めたステイルと錬金術師の対話の中で、
アウレオルスが語った十一年前の『三沢塾』での真実を模倣したものである。
インデックスは自らが原因となって破滅した男と同じ末路を辿ることで、贖罪をも
こなした気にでもなっているのかもしれない。

可能性は、否定できない。
それは確かだ。


「だがそれだって、君の独りよがりな空想でないという証拠がどこかにあるのか?」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/18(日) 20:49:39.87 ID:gSgBQqZ70<>

「――――私は、貴方とは違うッ!!」


一分前と判で押したように同じ言葉が、まったく違う表情から吐き出された。

手応えあり。
ステイルは内心でにんまりと笑った。


「私は何年も何年もこの子の隣で、中で、この子の懊悩と向き合ってきた! 
 私がインデックスの真意を読み違えるなど」

「だが、君は失敗しただろう」

「……っ、ぅ」

「何年彼女のよき隣人であったかは知らないが、とどのつまり君は彼女が選択した『死』
 を翻意させられなかったんだろう。そんな女の言うことをどうして信用できるというんだ」


女は口を噤む。
赤い翼が、魔力の滞留以外の原因で細かく震え出した。


「これで僕の仮説を、頭ごなしに否定することはできなくなったな……そして君は、
 それでも彼女に身体を返して、僕と対話させる気はないと見なして構わないな?」


論戦に勝利した男は、紅潮した女の頬を微笑ましげに見つめながら勝利報酬の受け取り
を拒否した。
敗者は赤と緑の混じった瞳にさらに一色、疑念の色を差してこう投げかける。


「………………本当に、貴方は何が言いたいのです?」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/18(日) 20:50:41.61 ID:gSgBQqZ70<>

人並みの感情に覚醒した『自動書記』のメンタルを揺さぶるため――――かと思いきや、
男の表情はどこか女を諭すようでもあった。

それは純粋な疑問だった。
憎悪と嫉妬だけを神父に激突させてきた『自動書記』が、はじめてステイル=マグヌスという
一個の人間に抱いた興味だった、と換言してもいい。


「……哀しいな、と思ってね」


宣戦を告げたその口で、ステイルは短くひとりごちた。


「僕と君と。守りたいものは、同じなのに」


闘いは、避けられない。

『自動書記』は、ステイルから目線を逸らしたまま応じる。


「……それは、仕方がないのでしょう。私と貴方では」


欲しいものが、違うのだから。

『自動書記』はインデックスの命さえ守れればそれでよかった。
ステイルはインデックスの命を失う可能性を天秤にかけてでも、彼女の全てが欲しかった。
単純にして、決定的な差異だったが――――

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/18(日) 20:51:45.78 ID:gSgBQqZ70<>

「それだけじゃあないと、僕はそう思う。そもそも僕がこんな与太話を始めたのは、君と
 僕が殺し合う理由が、君の中で無駄に肥え太っていると感じたからさ」

「!」


インデックスは死を願った一方、心のどこかで生を渇望している。
ステイルは確信していたが、その主張は自分の中で揺るぎないものであれば良いので
あって、『自動書記』に押しつけることに本来さしたる意味はない。

ただ、ステイルは眼前の女に伝えたかっただけだった。



「僕たちが闘う理由は、世界にとって重要でも崇高でも高尚でもない、とても…………
 とてもくだらない理由なんだよ」



ステイルの闘う理由は単純だ。
“インデックスを救いたい”。

そしてもう一つ。


「僕が世界で一番気に食わない男は『上条当麻』で、二番目も上条当麻なんだが。女となると、
 君とローラ=スチュアートで甲乙つけ難い……という程度には僕は君が嫌いだ」


ステイルは軽薄な口調でもう一つの理由を告げた。
十八番の嫌味ったらしい薄ら笑いを浮かべて、なるたけ腹立たしく見えるように。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/18(日) 20:52:38.24 ID:gSgBQqZ70<>

「さあ、君はどうなんだ?」


『自動書記』の闘う理由は明白だ。
“インデックスを救いたい”。


「…………私は、私の……」


そして、もう一つ。



「……私の心はこんなにこの子の近くにあるのに、身体には指一本触れてあげられない」



ステイルは一層笑みを深めて、女の後に続く。



「僕の体はこんなに彼女の近くにあるのに、どう抱き締めてもその心まで届かない」



これから殺し合う二人の呼吸が共鳴する。
第三者が観戦していたなら驚愕に色をなしたであろう。
二人は同時に、息を吸い、吐いて、唇の形を整えて――――

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/18(日) 20:53:27.61 ID:gSgBQqZ70<>




           「貴方が、妬ましかった」         「君が、憎かったよ」





要するに、二人が闘う理由はそれだけのことだった。
だからきっと、この激突は必然だった。


「……感謝は、しません。貴方が一撃で勝利を奪うと言うのならば、私は一撃で、
 貴方の命を刈り取ります」


『自動書記』の勝利条件は、ステイルを殺すこと。


「感謝とか止めてくれ、首を吊りたくなる。何度でも、世界に向けて宣言したって
 いいが…………僕は死なない」


対してステイルの勝利条件は、死なないこと。
なんとも漠然とした勝ち負けの基準だが、ステイルにはそれで十分だった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/18(日) 20:55:28.81 ID:gSgBQqZ70<>


「宣戦、第一章第一節。敵対者ステイル=マグヌスの全術式パターンを予測、開始」



“そこ”に、確かに守るものがあるのだから。



「世界を構築する三大元素の一つ、偉大なる始まりの炎よ」



対峙する二つの赤い魔力が、聖ジョージの名を冠する聖域を真紅に染める。
聖堂を震わせていた微振は、いまやロンドン全域を飲み込んでいるのではないだろうか。
ステイルはズボンのポケットに仕舞いこんだ最後の『証拠』を、人指し指の腹で軽く撫ぜた。

七月二十八日まで残すところあと十分。
誰も教えてくれなかった夢をその手に掴むため。
大人になったかつての少年の。



(必ず、君に届けるよ)



――――最後の挑戦が、始まった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/18(日) 20:58:29.83 ID:gSgBQqZ70<>
⇒ TO BE CONTINUED ……


冒頭に偉人の格言という一度やってみたかった厨二要素を盛りこんでみました
でも解釈が微妙に間違ってます
哲学に詳しい人はどうか目をつぶってくださいな

次回も二日以内にお会いしましょう
<> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/18(日) 21:02:06.42 ID:c6FMPNXI0<> 自動書記が人間やってるのがまたいいな・・・
ステイル頑張れと言わざるを得ない <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/18(日) 23:25:45.17 ID:Hzvm3tNBo<> 乙にゃんだよ! <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/19(月) 15:05:22.50 ID:B5fECM7Mo<> やっぱヘタな感想書けないわ
続き待ってる <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/19(月) 18:37:30.15 ID:yB+Tmg6T0<> 乙!

内なる敵すらも、聖邪を超えて全てを我が物に、とな?

万物は流転するも、この想いだけは、火のように燃え続けると? <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/19(月) 22:45:10.89 ID:U2VRQ+/e0<>
連日反響いただきどうもありがとうございます、>>1です
ようやくラスボス戦開始なわけですが、最終部開始からここまで軽く十万字を突破していることに今気がつきました
だらだらと喋りすぎなんですよねどいつもこいつも <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/19(月) 22:46:13.30 ID:U2VRQ+/e0<>

「宣戦、第一章第一節。敵対者ステイル=マグヌスの全術式を予測開始」


霧の都を覆うルーンの砦の後押しを受け、爆発的な出力を得る『魔女狩りの王』。
その発動に対して、特定魔術(ローカルウェポン)による迎撃を間に合わせることが
できるか。
あるいは、撃たせる前に殺すことができるか。
死闘の争点はそこにあると、『自動書記』は早々と見当を付けた。


「――――――――――――――――――大なる始まりの炎よ」


聖堂のみならずロンドン全体に波及しつつある大地の震え。
雑音に混じってかすかに聴こえた詠唱は、敵手も同様の焦点に戦闘の帰結を委ねた
なによりの証拠だった。
ステイル=マグヌスは、初手から渾身の切り札を抜く気だ。


(一千万枚のルーン。真実ならば、流石に分が悪いと判断せざるを得ませんね。
 …………まあ、それも)


――――完全無欠の詠唱が伴えば、の話だが。


「シミュレート完了。逆算開始、残り二秒」


意識を魔道書の海へと投げ出す。
『禁書目録』内を検索、該当原典発見、記述抽出、形式変換、術式統合、最適魔術生成。
この間一秒。


「第二三章第三四節。攻撃術式、発動準備完了。命名――」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/19(月) 22:47:02.53 ID:U2VRQ+/e0<>

                       アフェス アイ ティース
                      父よ、彼らの罪を許したまえ



<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/19(月) 22:47:55.68 ID:U2VRQ+/e0<>

閃光。
光の洪水。

『自動書記』の全身から走った稲光が大質量を帯びたかのように、延びた先で次々と
大聖堂を破壊して跳ねる。
瓦礫がそこかしこから降りそそいだ。
光の氾濫はやがて、黒衣の魔術師を前後左右から取り囲むように円陣を形成。
そして、『対象』を抹殺するべく刹那で収束した。

しかし、空振り。

石くれを投じた水面のごとく、ゆらゆらと歪む長身。
蜃気楼。
ステイル=マグヌスが戦局をリセットする際に使用する常套手段である。


「無駄です。追加術式発動」



                    ラー ウィ ダシン ティ ポイーシン
                彼らは己が為すところを自覚していないのだから




白い煌めきが一点に集中して生じた光球に、『自動書記』が掌をかざし、握る。
力が弾け飛び――――――三六〇度、拡散した。


「が、ッ!?」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/19(月) 22:49:48.41 ID:U2VRQ+/e0<>

ステイルの“居た”座標の周囲に大量に並んでいた長椅子が、ことごとく木端と化す。
聖堂の中心でホワイトホールでも発生したように、すべてが外周に向かって吹っ飛ぶ。
大量の木片が飛散した方向からくぐもった呻きが聴こえてきた。
そして激突音、やや遅れて土煙が上がる。

『自動書記』は過去にステイルと交えた二戦において、逐一彼の魔術を視認してから
対抗策を練っていた。
だがあれは『術式』としての自意識しか有していなかった『自動書記』だ。
インデックスを守るという、確たる自我に目覚めた自分とは違う。
ステイルが何をするのかなど“後出し”せずとも読み切れる。


(直撃は避けましたか、抜け目のない)


初撃を蜃気楼で逸らし、第二波が来ても障害物との延長線上に陣取ることで直撃を免れる。
亜音速で飛来した木屑に相当なダメージを負っただろうが、光の直射を浴びていれば
その程度では決して済まなかったはずだ。

空間を束の間、ほとばしる力場が発する異音が支配した。
詠唱を中断させることには成功したらしい。
とは言え油断はできなかった。
ステイルは、悲鳴を上げなかったからだ。

術式を発動する際、最重要となるポイントを世の魔術師に尋ねたとする。
十中八九『コマンド』と回答が返ってくるであろう。
無論術式を動かす燃料である魔力とて大きな役割を果たすことには違いないのだが、
駆動系統に不備があっては車は走らない。
その点燃料はかつて一大ムーブメントを巻き起こしたエコカーよろしく、代替となる
エネルギーをよそから調達可能だ。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/19(月) 22:51:01.70 ID:U2VRQ+/e0<>

ステイル=マグヌスの“切り札”のコマンドは魔法陣の配置プラス詠唱、という
オーソドックスな二つのプロセスから成り立っている。
ルーンの配置は事前にほぼ完了されている以上、『自動書記』が妨害すべきは詠唱だ。


(異音をコマンドの間に割り込ませる試みは、失敗したようです)


扱いに細心の注意を要する魔力注入とは異なり、コマンドはただただ正確に再現さえ
されればそれで意味をなす。
逆に言えば、「ABCDEFG」という詠唱の内側のどこかで、「Z」という異分子を術者本人
に挟み込ませればたったそれだけで妨害は可能なのだ。
平たく言えば『豚のような悲鳴を上げろ』と、そういうことである。



「それは、生命を育む、恵みの光にして」



しかしステイルは土埃の晴れたその先で仁王立ちし、詠唱を再開した。
男のしぶとさを目の当たりにし、苛立ちに奥歯を擦り合わせる。
あわよくば初撃で勝負を決め、悪くとも詠唱を失敗に終わらせ、最悪でも中断に追い込む。
三段構えの仮想のもとに放たれた術式は、しかし最低限の目標しか果たせていない。

強敵との邂逅に際する爽快感など、『自動書記』には存在しない感情であった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/19(月) 22:51:57.13 ID:U2VRQ+/e0<>
----------------------------------------------------------------


「始まったな」


造り物の日輪に眩しげに目を細めてから、スクリーンの向こう側で繰り広げられる死闘を
指してアレイスターは言った。


「インデックス、ステイル……」


ローラはインデックスの動機(ぜつぼう)を知って、左胸を一度だけ強く握りしめた。
さりとて苦痛は面に出さず、二人の闘いを一秒たりとも見逃すまいと目を凝らす。

ステイルの勝機は薄い――――というのは、相当に婉曲した表現だ。
率直に言ってしまえば、ステイルごときがローラとアレイスターの叡智の結晶たる
『禁書目録』、あるいは『魔女白書』に勝てる道理などありはしない。


「ただ眺めるだけ、というのも慣れたものだが……どうだ。ここらで一つ、『自動書記』
 とステイル=マグヌス、どちらが勝者となるか賭けないか」

「一人でやって御破算なさい」

「これは手厳しい」


しかしローラは知っている。
陣地の内か外かなど本当は些細な問題だ。
ステイルの底力を左右するのは、いつだってインデックスの存在ただ一つである。
『インデックスを守る』、その条件下で闘うステイル=マグヌスは、卑に屈することも
卑に劣ることも辞さない。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/19(月) 22:52:36.42 ID:U2VRQ+/e0<>

「残念ながら、貴様の思い通りにはならないでしょうね。ステイルは確実な勝算のもとで
 闘っているはずよ」


その声がごく僅かに誇らしげな色を帯びていたことに、ローラは自認しない。
アレイスターは娘の表情を一瞥して、白々しく嘆息した。


「では君は、ステイル=マグヌスの大金星に賭けると。これは困ったな」

「チップ一枚たりとも賭けた覚えはないと言っているでしょう。景品にインデックスの
 眼前でドゲザとやらをするのなら考えなくもないけれど……ああ、支払いができない
 という意味かしら、一文無しの電来坊さん?」


思い切り鼻を鳴らして哂う魔女。
対する怪物は真面目くさって首を横に振ると、顎に手をやる。



「それでは、賭けが成立しない」



ローラの思考が一瞬停止する。
幾百の企てを生んだ頭脳が、次の六徳を刻む前にアレイスターの発言を吟味し終えた。


「…………貴様、それはつまり」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/19(月) 22:53:02.60 ID:U2VRQ+/e0<>


「私も、ステイル=マグヌスの勝利に張りたいのだが」



<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/19(月) 22:54:19.69 ID:U2VRQ+/e0<>
----------------------------------------------------------------


間接的な詠唱妨害は失敗に終わった。
状況はやや困難の度合いを深めるが、ならば直接的に詠唱に割り込ませてもらう。
そう決断した『自動書記』は唇を上下に開き、


「――――――!」


すぐさま口を噤んだ。
バケツを引っ繰り返したような灼熱の豪雨が落ちてくる。
高大な聖堂の天井壁画に届かんばかりの赤い壁が迫る。
微振動などではなく、地面がぐらりと揺れた。
床板が“下から”弾ける。
噴出するは摂氏二〇〇〇度を超える高温で融点を超えた母なる大地。


(まさか地中にまで予めルーンを……予測修正開始)


世界で最も簡素な魔術儀式とは“触る”ことだ。
触るだけで発動するルーンを、ステイルはロンドンの隅から隅まで至るところに
――――当然この聖ジョージ大聖堂にも配置している、ということらしい。

『自動書記』が手立てを講じるまでもなく損傷はゼロ。
それもそのはず、彼女には『歩く教会』という最強の鎧があるのだから。
ステイルの通常魔術程度で破れる代物なら、十二年前の追いかけっこは成立していない。
その時ふと、『自動書記』は思い及んだ。



“『歩く教会』を脱いでしまえば、ステイルは攻撃を中止するのではないか?”



<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/19(月) 22:55:06.01 ID:U2VRQ+/e0<>

ステイルの目的はインデックスを殺すことではない。
自分を倒すことだ。
ならばこの肉体を包む鎧を脱ぎ捨てて無防備な姿を晒すことこそが、神父に対する最善手
なのでは――――


(っ、却下です、そんなもの)


滾る溶岩から立ちのぼる蒸気にも涼しい顔を崩さず、しかし『自動書記』は激しくかぶり
を振った。
ステイルがよりにもよってインデックスを殺すような真似をするわけがない。
そんな先入観に凝り固まるということは、目の前の愚かな男に彼女を委ねるも同然である。
ことインデックスに関しては、『自動書記』がステイル=マグヌスという男に信頼を寄せ
てしまっている証左にすらなりかねない。


「――――――裁き――光――――」


見ろ、こんな無意味な思索に惑っているうちにも、敵は着々と詠唱を進めている。
意識を切り替えなければ。

『自動書記』にとって目下最大の懸念は、たぎる融解土が大気を著しく熱して、視界を
満足に確保できないことである。
これでは敵の動きを封じるための、とある最適手が打てない。


「第二三章第四三節。結界術式構築、即時発動。命名――」


であれば、パターンを変更するまで。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/19(月) 22:55:52.40 ID:U2VRQ+/e0<>

                       エシ エン トゥ パラディソ
                       汝は今日、私と共に楽園に



<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/19(月) 22:57:06.85 ID:U2VRQ+/e0<>
-----------------------------------------------------------------


「『守るために傷付ける覚悟』というのは、そこまで愚かしいものなのだろうか?」


唐突な議題の提示は、正位置で宙を漂う男の口から重々しくなされた。


「私はこの三年間、『インデックス』より寧ろステイル=マグヌスにこそ注視していた。
 そして発見したのだが…………彼は大多数の者に対して高圧的な態度を取るわりには、
 相当に自己評価が低い。この傾向は上条当麻や一方通行ら『成功した者』が相手だと、
 特に顕著だ」


ローラは返答をしない代わりに、否定もしなかった。

確かにステイルは己を、所詮は一度『失敗』した愚者だと卑下している節がある。
インデックスと長年相思相愛でありながらここまで話がこじれたのも、その性質と無関係
ではないかもしれない。
毎年のように襲い来る記憶消去の苦痛を少しでも和らげたくて、立ち位置を『パートナー』
から『追跡者』へと変えた。
そうやってインデックスの心に深い孤独を刻み込んだ男が、いまさらどの面下げて。

ステイルはこの六年間、延々と己を苛んでいた。


「そう、一度敵に回ってしまったという負い目は彼の中で決して低い比重の瑕疵ではない。
 しかし、考えてもみろ。彼女には――――『無限の愛』があったのだ」


ローラはアレイスターの鋭い指摘に、瞳孔を猛禽類のごとく細めた。
インデックスの尊い慈愛に直接触れてしまった者が、彼女の敵に回るなどあり得ない。
それはローラ自身、その魂で体験していることだった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/19(月) 22:58:18.98 ID:U2VRQ+/e0<>

「ステイル=マグヌスの、『守るために傷付ける覚悟』。衆愚はそれを偽善だとか逃避
 だとか蔑視するのかもしれないが、私にとっては垂涎の珠玉だった。既成のシステム
 を、絶望から生まれたエネルギーで打ち破った素晴らしき青年」

「“打ち破った”、ね」


『失敗者』に対してはあまりに皮肉な物言いだ。
ステイルが聞けば、それこそ天に唾するだろう。


「彼自身は自分を失敗者と蔑み、上条当麻やアウレオルス=イザードよりも下に置いて
 見ているようだが、とんでもない。ステイル=マグヌスこそ、私からすれば余程稀有な
 存在ではないか。『魔女白書』の無限の愛をしかと理解しておきながら、なおも彼女の
 ためを想って敵対の道を選ぶなど、上条当麻にすらなし得なかった偉業ではないか。
 全ての『プラン』が潰え、『幻想殺し』に打ち砕かれたあの七月二十八日。『幻想殺し』
 の隣に佇んでいた『魔女白書』の姿を、魂を目の当たりにして――――私はようやく、
 その異常性を悟った」


長々とした演説をうんざりとした思いで聞き流そうとして、しかしローラは失敗した。
看過するには重要すぎる因子が数多、いまの長ったらしい口上には散りばめられていた。

情報の総合にそう時間はかからなかった。
ローラはいよいよクライマックスを迎えようとしている銀幕を振り返る。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/19(月) 22:59:33.66 ID:U2VRQ+/e0<>


「いけない、ステイル」



だが映画のキャストに観客の声は届かない。
いやあるいは、ローラこそがフィルムの中の住人なのか。



「ややもすると彼こそが――――『ホルス』を完結させるための、最後のピースに
 なるかもしれない」



もう一人の観客は、手に汗握る“未知の結末”に心を躍らせて笑った。



<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/19(月) 23:00:30.91 ID:U2VRQ+/e0<>
-------------------------------------------------------------------


直径五メートルほどの光のヴェールが愛しい女性の全身を、『歩く教会』のさらに上
から包みこんでいた。
ステイルの炎はすべて、月光のごとく儚いカーテンに触れて消散していた。


「………………っ、ぅ」


戦闘開始から実質、まだ一分程度しか経過していない。
ステイルは額の汗をぬぐう暇も惜しく、設置型魔術の発動によって稼げる時間と詠唱を
続行するための間隙とを天秤にかけて、必死に計算を巡らせていた。

『魔女狩りの王』発動まで、最速で残り二十秒。
それ以上は『自動書記』の苛烈な妨害により望みようがなかった。


「それは……穏やかな、幸福を満たす…………と、同時……」


『自動書記』の戦闘スタイルは、究極のカウンターパンチャー“だった”。
対峙した敵の放つ魔術を確認し、その構造や元となった伝承を看破して対抗策を練るのは
頭脳労働たる魔術戦の基本にして醍醐味、とでも呼ぶべきものである。

そして『禁書目録』は、覆い隠された仕掛けを看破する天才だ。
唯一その対魔術能力に無理矢理ケチをつけるとすれば、『後出し』しかできないことだろうか。
相手の出した手を瞬時に見極め、間髪入れずに『図書館』から最適なカウンターを選択する。
さらに恐ろしいことには、最善手がなければ己が手で新たな魔術を創ってしまう。

しかしどこまでいこうと後出しは後出し。
所詮は予め定められたプログラムに従う術式にすぎない『自動書記』に、科学でいう
ところの人工知能のような『先読み』はできない――――はずだった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/19(月) 23:01:28.99 ID:U2VRQ+/e0<>

だがステイルはすでに知っている。
彼女が、『自動書記』がリリスという名のれっきとした人間であると。


轟!!


背を付いた壁に後ろ手で触れ、ステルス化していたルーンから無詠唱で炎剣を産む。
そして、吶喊。
光の膜が現れた途端に冷え固まったマグマの直上を駆け抜ける。


「――――――――――ァッ!」


声にならない声――正確には、声に出してはいけない喚声――を上げて、ステイルは
『自動書記』に向かって赤熱する大蛇を振りかぶった。
今まで頑なに中距離を保ってきたというのに、相手が防御を固めるのをわざわざ待って
から突然のクロスレンジ移行。
『自動書記』が単なる術式にすぎないのなら、こんな予想外の事態には対処不可能


「愚か者」


女は無表情にステイルを見下ろしていた。
と同時に、女の辺縁で渦巻く『楽園』が激しく輝く。
あっけなく弾かれた炎の巨柱が天蓋を抉る。
衝撃に体勢を崩した。
宙を仰いだステイルの視界に、一秒前まで天井だった大量の落下物。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/19(月) 23:02:23.91 ID:U2VRQ+/e0<>

「っ!!」


一切躊躇わずに手持ちのルーンを小爆破、反動で後方に跳ねる。
胸部に多少の火傷は負ったが、『腹に背は代えられない』とはまさにこのことだろう。


(…………読んでいたのか、この状況を?)


『自動書記』の完璧かつ精密な魔術殺し(アンチマジックプログラム)に加えて、
リリスの柔軟な思考能力、そしてインデックスを守るという確固たる意思の力。
過去の二戦も絶望的な戦況ではあったが、今回は輪を二つ三つかけて最悪の二乗だった。


(はは)


乾いた笑いを声にはならぬよう漏らす。
相変わらず『自動書記』は窮地にある敵手を、しつこい羽虫を見る目で見下していた。

その時、はらりと一枚のカードが後退するステイルの懐から落ちた。

女のとり澄ました瞳が軽く見開かれる。
次の瞬間がらがらと降りそそぐ瓦礫の山。
ステイルが去り際に残していった置き土産は、正確な内容を『自動書記』の網膜に、
そして脳裏に焼き付けることなく石くれの底に埋もれてしまった。


(流石だな。陣地を広げることで僕にが被るデメリットを、この上なく正確に把握
 していたらしい)

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/19(月) 23:03:30.69 ID:U2VRQ+/e0<>

そもそもステイルが空間限定の『強者』にしかなれないのは、ルーンから供給される魔力
の収束は、陣地が狭ければ狭いほど容易いものになるがゆえである。
一都市を覆うほどの砦に『魔女狩りの王』を出現させようとすれば必然、収束基点が必要
になり――――それこそがつい先刻の突撃の、真に意味するところだ。
これでイノケンティウスは自分と『自動書記』を結ぶ直線状、さらに言えば彼女の目前で
空前絶後の力を振るうべく示現する。
切り札を抜くための下準備はすべて整った。
人差し指を立て、『自動書記』に向けて軽く振る。

ステイルは諦めて笑ったのではなかった。

人格と自我を確立し、より完全な魔術師殺しへと進化した『禁書目録』。
だがステイルの勝機はまさしく“そこ”にこそあった。
男の表情を染めるのは、勝利を確信した者の笑みだった。


「……私も、小細工に堕するのは止めましょう。真正面から破壊してさしあげます」


『自動書記』の眼差しが、宿る冷酷な殺意を一段と強める。
女の表情を染めるのは、敗北してはならない者の悲壮だった。


「第一九章第二六節。連携強化魔術生成、構築、変換、発動。命名――」


連携強化魔術。
聞き慣れない単語に、しかしステイルは直感で判断を下す。

――――ここが勝負の分かれ目だ。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/19(月) 23:04:50.73 ID:U2VRQ+/e0<>

                     キナイ イデ オ イジョス ソイ
                    女性よ、そこにあなたの子がいます



<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/19(月) 23:05:48.06 ID:U2VRQ+/e0<>

女のエメラルドに刻まれた紋様に連動して、巨大な魔陣が展開された。
同時に比喩でもなんでもなく、空間に名刀の斬り口のような裂け目が入る。
裂け目の向こう側を覗きこんでしまった者は、おそらく永遠に“こちら”には帰って
これないのだろう、とステイルは理由もない寒気に襲われた。


「展開、完了」


それは紛れもなく、過去二度の対戦で彼女が披露した『聖ジョージの領域』だった。
加えて強化魔術の名に違わず、出力が十一年前とは段違いに上がっている。
ここから繰り出される魔術こそが、『自動書記』の切り札だ。


(上等だ、ここで決着をつけてやる)


こちらの仕込みも完成した。
この上は計算もクソもない。
役立たずの肺に絞られた途切れ途切れの呼吸で、いかに速く詠唱を完了させるか。


「続けて第二七章第二四節。最終術式、構成精査開始。完全発動まで」

(『魔女狩りの王』発動まで……!)


ただ、それだけの勝負だ。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/19(月) 23:06:24.80 ID:U2VRQ+/e0<>


「――――残り十秒」

(――――残り六秒!)



<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/19(月) 23:10:12.23 ID:U2VRQ+/e0<>
⇒ TO BE CONTINUED ……


魔術バトルは速さが足りなくなりがちですよね
>>1の理想は北方謙三の剣豪小説とか三国志の馬超VS張飛とか血涙の(ry
次回投下は水曜を予定しております
<> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/20(火) 00:23:49.61 ID:DRwP8x/AO<> 乙
果てしなく乙 <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/20(火) 21:41:18.83 ID:wwrKWzqV0<> 乙だ乙!

言いようの無い乙! <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/21(水) 22:28:41.32 ID:y/CthCAG0<>
いつもありがとうございます
小さな乙の積み重ねが>>1の動力源です
<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/21(水) 22:29:38.15 ID:y/CthCAG0<>

残り、十秒。


『竜王の殺息』に上乗せされる、『自動書記』のジョーカーが放たれるまでの時間。
それがまともに発動すればステイルの肉体は消し飛ぶ。
分子レベルまで分解され、文字通り塵一つ残らないだろう。

ステイルは後で知ったことだが、十一年前の『竜王の殺息』は神裂に逸らされた際、
軌道上の人工衛星を撃ち抜いていたという話だ。
つくづく馬鹿げた射程と破壊力である。
しかも今回はあの時と比較して、目算でも『聖ジョージの領域』が十倍近い規模に
達している。
威力の伸びが算術級数ではなく幾何級数だったら、などと考えたくもない。



だが同時に、残り六秒。


「冷たき闇を滅する」


ステイルの勝利を決定づける、『魔女狩りの王』顕現までの時間。
『自動書記』より四秒、先んじている。
そして四秒もあれば、十分すぎるほどに十分だった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/21(水) 22:30:09.61 ID:y/CthCAG0<>

残り、九秒。


地なりが収まらない。
数万の軍勢が行軍するような、大地の悲鳴が鳴り止まない。
どころか、ますますもって勢力を強めていく。
九秒後。
都市一つ、国一つを揺るがすほどのエネルギーがことごとく一人の男に叩きつけられる
未来を、恐怖に震える大多数の民草はいまだ知らない。



残り、五秒。


「凍える不幸なり」


ステイルの視線は、真正面の魔神に固定されていた。
大事だった少女。
裏切ってしまった女の子。
愛している人。
もうすぐだ。
もうすぐ、そこに行く。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/21(水) 22:31:04.15 ID:y/CthCAG0<>

残り、八秒。


男女の中心点から遠くない座標で音が鳴った。
パチリ。
パチ、パチ。
バチッ!

一点に収束しつつある、異なる二つの力場のせめぎ合いの帰趨。
しかし殺し合う二人は気にも留めない。
喧しい耳鳴りではある。
が、科学の街の雷神様の怒りに較べればこの程度のねずみ花火、なにほどのこともない。



残り、四秒。


「その名は炎」


上条美琴にも夫を通じて話は伝わっているのだろう。
下手をすると、あの騒がしい二ヶ月間で新たに友誼を結んだその他大勢にまで事の経緯は
波及しているかもしれない。

そう言えばロンドンの同僚は、今ごろどんな心持ちでいるだろう。
特に神裂にはまたも歯痒い思いをさせてしまったに違いない。
一番に、彼女と共に頭を下げなければ。
だから、だから――――勝たなくてはならない。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/21(水) 22:32:50.75 ID:y/CthCAG0<>

七秒。


七月も終わりだというのに、異様な冷気が崩落した天蓋から吹きつける。
先刻はステンドグラス越しに存在を主張していた月輪が、またも濃霧に隠れていた。
後光を失ったガラス造りの聖母が泣いていることに、殺し合う二人は気が付かない。



三秒。


「その役はつる、ぎ」


噛んだ。
新人アナウンサーでもあるまいし。
しっかりしないか、ステイル=マグヌス。

喉の中ほどの位置に異物感。
無視して歩を先に進める。
さらに先に。
コンマ一秒でも、先に!

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/21(水) 22:33:46.60 ID:y/CthCAG0<>

六秒。


天空から物理法則に従って降る、重苦しく凍える冷気。
地表を焦がし、融かし、大気を天高く跳ねあげる熱気。
衝突する二つの視線の谷間に、ぶつかりあって流れ込む。

爆風。
二人の衣服がたなびいて長髪が流れる。
だが面貌だけは微動だにしない。
最高潮を超えた対峙者たちの眼には、冷気も熱気も最早ない。

目の前の相手に勝てるか。
間に挟まれた女性を守れるか。
二人が見据えているのは、ただそれだけだった。



二。


「けん、っ、――――!!」


まずい。
こんな時に、相も変わらずポンコツ丸出しの肉体が牙を剥いた。
咳き込む。
手で押さえる。
しかし止まらない。
まずい、まずい、まずい――――!

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/21(水) 22:34:36.80 ID:y/CthCAG0<>

五。


ついに戦局に異変が発生した。
男が、ぎらつくような眼差しだけをそのままに勝利から遠ざかる。
女は何らアクションを起こさない。
無様に諸手など伸ばさずとも、自ずから勝利は我が手にやってくる、とばかりに。



二。


「〜〜〜〜〜〜〜っ、っ!!」


手のひらに鮮やかな赤。
木片のシャワーを浴びた時に内臓を痛めたことは分かっていた。
急げ、馬鹿野郎。
クソッたれの喉が破れようとも構わないのだ。
声帯を震わせて、声を張り上げろ。
ここで追いつかれたら、亀に抜かれた兎どころの話ではない。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/21(水) 22:35:31.78 ID:y/CthCAG0<>

四。


次元の裂け目から、どこか別世界の音が漏れ出す。
此処とは異なる場所の光が溢れ出す。



二。


「――――顕現、せよォッ!!!」


ステイルの時計が再び針を刻みはじめる。
その内部で、致命的な歯車(いのち)のズレを代償にしながら。

心臓が、ドクンと一声啼いた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/21(水) 22:36:05.23 ID:y/CthCAG0<>

三。


――――人の身では辿りつけぬ領域の、『力』が姿を現す。



一。


「我が身を喰らいて力と為せッ!!」


――――人の身で辿りつける世界の、『限界』が産声を上げる。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/21(水) 22:37:00.33 ID:y/CthCAG0<>

零。


先ほどカードを配置した瓦礫の底の底を基点に、莫大な熱量が渦巻く。
炎が形を成す。
人の形を、魔人の形を成して、黒衣の神父に勝利を捧ぐ。


  イノケン
「『魔女狩りの――――」



勝った。
間に合った。
『自動書記』のカウントは、まだ秒針二つ分残って――――

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/21(水) 22:37:45.27 ID:y/CthCAG0<>










                              零。



                       エリ エリ レマ サバクタニ
                     神よ、何故私を見捨てたのですか



                     夜の闇が、朱色に塗り替えられた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/21(水) 22:38:58.33 ID:y/CthCAG0<>
     ティウス
「――――王』」


ブラフ。
ステイルの脳裏をその三文字が埋め尽くす。
『完全発動まで残り十秒』。
なるほど確かに、敵手に向かって馬鹿正直に情報を開示することはないだろう。

――――感情の無い機械でもあるまいし。


「――――――――――――ァァァッッ!!!!」


炎の魔人が喊声とともに突撃する。
この一戦が主にとって、如何ほどの重要性を持つのかはっきりと知っているような。
鬼気溢れる気迫を満身に漲らせて、雄々しく、猛々しく。
かつてない、天文学的な量のルーンから後押しを受けて、主に勝利をもたらすべく。


駆け抜け、霧散。


竜王の顎に噛みちぎられ。
無限に等しい再生力を、解析され、逆算され、破壊され、蹂躙され。
無残にも、霧散した。



「さよなら、ステイル」



<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/21(水) 22:40:04.81 ID:y/CthCAG0<>

女の瞳から一粒、零れ落ちた。
女は消えゆく炎の向こう側にいる男に別れを告げた。

世界を嗤う光が、赤々とそびえ立つ柱となって男を無に帰す。
敗北した男の顔を一目見ようと女は目を凝らす。
魔人が消散し、世界のどこかへと帰っていく。
あと数秒で空を染めた赤に飲み込まれる男。

見えた。
その表情は――――






  H    Panta Rhei
「しかし、万物は流転する」

「……え?」







――――まだ笑っていた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/21(水) 22:42:03.31 ID:y/CthCAG0<>

虚空に帰るはずだった火花が突如躍動を再開し、赤き竜の咆哮に絡みつく。
無論、光の柱はステイルの焔などものともせず飲み込む――――


   I I T N S A I I T M P
「その真の名は魂、その真の役は理」



飲み込んだ先で回転した。
いや、“流転”という言い方が正しい。
逆巻く力の奔流が、焔を喰らった端から内側の火に再び吸い込まれる。
喰らう、吸う、喰らう、吸う、喰らう、吸う。
その繰り返しで焔が徐々に徐々に力を、生命の輝きを増していく。


  I  C  R  M  E  M  C  G  P  M
「示現せよ、魔都の悉くを飲み込み力と為せ」



追加詠唱はなおも続いている。
無限大の射程を持つ竜王の渾身の吐息が、ちっぽけな魔術師一人に届かない。
そんな悪夢のような光景に目を奪われていた女の、膝から力が抜ける。
強烈な虚脱感。
伏した女の前に、またも顕現する炎の魔人――――人――――?

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/21(水) 22:43:21.36 ID:y/CthCAG0<>

それは、人のかたちではなかった。
鳥のかたちでもなかった。
獣のかたちでもなかった。
魚のかたちでもなかった。

術者と然程変わらぬ二メートルほどの長躯が、内に秘めた凄まじい魔力を熱に変えて
物言わずに佇んでいた。

生命の行き着く先。
死とは新たなはじまり。
幸福を照らし出す光。
不幸を掻き消す温度。

包みこむような心地よい熱に、次々と言葉が浮かんでは消える。
しかし『禁書目録』をいくら漁っても、女はそのかたちを形容するに相応しい語彙を
見つけられなかった。
それでも、あえて何か一つ、言葉を絞り出すとするなら。




                         ヘラクレイトス
                         『世界の根源』





それは、いのちのかたちをしていた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/21(水) 22:44:12.67 ID:y/CthCAG0<>

炎の腕が赤い紋様の表面をそっと撫ぜる。

『聖ジョージの聖域』、消滅。







そしてこの瞬間、『自動書記』の敗北が――――ステイル=マグヌスの勝利が確定した。







<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/21(水) 22:46:05.41 ID:y/CthCAG0<>





   T  O  A  B  T  T
「反転し、対象を焼きはらえッ!!」


それでも、不屈の『強制詠唱』が空気を揺らす。
『自動書記』は勝利を諦めない。
彼女のインデックスに傾ける愛は本物だとステイルは思った。

しかし、無意味だ。


「君に勝つ、ただそれだけのために研鑽したと言ったろう。『強制詠唱』だろうが
 『魔滅の声』だろうが手は講じてある……ちなみにこれは、“自動制御”だよ」


ヘラクレイトスは対『自動書記』を想定して、ステイルが『魔女狩りの王』を叩き台に
編み出した本当の切り札だった。
ステイルにとって『自動書記』から挙げる白星とはすなわち、インデックスの肉体を
傷付けずに彼女の戦闘能力を奪い取ることに他ならない。


「あまり力むな。こいつは一定以上の規模で現界した魔力をどこまでも追いかけて、
 器が限界に達するまで吸収し尽くす術式だ。消えたくなければ大人しくしていろ」


『首輪』に回された魔力まで吸い取れれば最高だったのだが。
顕在化していないエネルギーにまでいちいち反応していてはただの殺戮兵器になって
しまうので、構成の段階でその点は諦めていた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/21(水) 22:47:03.90 ID:y/CthCAG0<>

「…………なぜ、貴方は…………いき、て」

「『一千万』のルーンのリバウンドかい?」


憔悴しきった瞳を一瞥しただけで言わんとするところは理解できた。
死闘を通して、それほどまでに深く心のどこかで結びついてしまったらしい。
臍を噛みたい気持ちをぐっと堪えて――――同時に、全身から体液という体液が失われた
かのような、千言万語を費やしても表現し得ない渇きを堪えて、


「あー、スマナイ。ありゃウソだ」


しれっと、言ってやった。


「この術式には、『魔女狩りの王』とは別に専用のルーンを用いてるんだが。せいぜい、
 使用枚数は十万がいいところだよ」

「そ、んな……そんなものに、私は、負け…………?」


聳立する魔人と、倒れ伏す魔神の視線が交差した。
ただそれだけで、女は己を打倒した奇術のすべてを悟っていた。


「――――――あ、天草式の、多重構成魔法陣?」

「『五重』だ」

「…………!」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/21(水) 22:48:16.89 ID:y/CthCAG0<>

新術の前段階である『イノケンティウス』発動地点に置いたルーンは、その一枚だけで
すでに逆五芒星の二重構造を成している。
このカードの配置をもう一工夫して再び平面陣を描き、三層目。
さらにステイルの自宅がルーンの坩堝であるように、平面図を効果的に建築物の要所に
張り付けて四重構造の完成。
そして仕上げは。

                                まち
「僕が空間限定の『最強』でいられる、この美しく醜い世界そのものだ。当然ながらね」


ロンドン全体を一つの世界に区切る、直径五〇キロオーバーの大円陣。


「…………机上で理論を構築するのに五年。実際の配置にもう五年かかった。つくづく、
 こういう繊細な作業には向いてないと痛感したよ」


天草式の多重構成陣は陣の内側に存在するあらゆる物質、霊質に働きかけて効力を増す。
“中”に霊的、魔的要素が多ければ多いほど構築の難度は跳ね上がり――――それ以上に
術式の威力に指数関数的な爆発をもたらす。


「『必要悪の教会』のトップなんて腐った肩書に感謝するのは、後にも先にもこの一度
 きりにしたいものだね。ロンドンのあちらこちらに点在するギミック満載の伏魔殿に
 自由に立ち入ることができるんだから、まこと権力とは恐ろしいよ」


ロンドンには聖ジョージ大聖堂をはじめ、イギリス清教の本拠地に相応しく数々の魔術
要塞がひしめいている。
バッキンガム宮殿、ウィンザー城、サザーク大聖堂、ウェストミンスター寺院、そして
ランベスの宮。

霧の都の全てをパーツに組み込んだ凡人の努力の集大成。
威力は概算で、『法の書』事件時のイノケンティウスの――――

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/21(水) 22:51:14.82 ID:y/CthCAG0<>

「二三四〇〇倍。加えて君の魔力を吸収し、さらに手がつけられなくなってるぞ」

「あ………………私、は、わたしは…………」


苦い思いで半笑いしながら、口腔の反対側のもう半分で密かに唸る。
ステイルが思うに、この一戦の勝敗を分けたのはそれだけが要因ではなかった。


(君が、人間だったから)


ステイルは考える。
規定されたプログラムに従って『自動書記』がお得意の“後出し”に徹していたら、
勝者と敗者は逆だったはずだ。

無論ステイルとて勝利のためのフラグ構築は怠っていない。
『ルーン一千万枚』のブラフで『自動書記』を揺さぶり、先読みでカウンターを合わせざるを
得ない、そう思わせることに成功した。
基礎となる『魔女狩りの王』が彼女の通常魔術に防がれる程度の威力にとどまっていた
ならば、『自動書記』は従来通りの後出しで『ヘラクレイトス』だろうが何だろうが、慌てず
騒がず後出しで特定魔術(ローカルウェポン)を組み上げていたはずだ。

要するに『自動書記』は人間らしさゆえに敗北したと、そういうことなのかもしれない。


「どうだい。天才が刹那で切り拓く境地に、後追いとはいえ凡人が十年程度で到達できる
 のなら、悪くないとそう思わないか?」


しかしステイルは不確定で不明瞭な勝因ではなく、己が鍛練と精進を居丈高に誇った。
酷な敗因を敗者へ突きつけることを良しとしなかった、などという温情からではけしてない。


(……ないったらない)

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/21(水) 22:52:40.58 ID:y/CthCAG0<>

「………………この術式への命名を、もう一度聞かせていただけますか」


雫一滴分の魔力で現世に存在を維持する女が、項垂れたまま呟いた。
ステイルは朦朧とした視界と世界を必死で、地面に対し垂直に保ちながら応じた。


 ヘラクレイトス
「『世界の根源』」



実のところステイルのダメージは、『自動書記』から受けたそれよりも、自らの術式で
削られた生命力の枯渇の方がはるかに深刻である。
波乱万丈きわまりなかったここ数か月でも一番、という程度には瀕死である。
黒衣の裏で壊死した無数の細胞が、今この瞬間も命を司る赤を垂れ流し続けているのだ。



「意味は――――『永遠に生きる』」



それでもやはり神父は、世界の理を傍らに従え、口の端をにやりと吊り上げて笑った。
男の仁王立ちを支えているのは、つまらない男の意地と、くだらない女への愛だった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/21(水) 22:53:29.68 ID:y/CthCAG0<>

「命題、『ステイル=マグヌスは魔神と死合おうが死なない』」




                            ヘラクレイトス
Passage12 ――――と あ る 神 父 の 不 滅 証 明――――





        Q.E.D.
「これにて、証明完了だ」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/21(水) 22:54:23.30 ID:y/CthCAG0<>












その瞬間。





「bwr理解rnしましyたerk」





時計の短針と長針と秒針が、一点で重なった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/21(水) 22:55:44.71 ID:y/CthCAG0<>

目まぐるしく世界が回転した。
ステイルはそこから先、世界に訪れた異常と正常とを正確に記憶していない。
時系列に沿って並べることなど、とてもではないが不可能だ。
が、無理矢理感じたままに揃え直すと以下のようになる。

地なりが止んだ。
音が消えた。
雲が弾けた。
空が割れた。
夜が帰った。
太陽が昇った。

ステイルの眼前で、別の世界の“なにか”が木霊していた。
輪郭線が何重にもぶれているのに名状しがたい存在感を放つそれ。
十二時の鐘が鳴った。
誕生の鐘だった。

ああ、これは天使だ。
そう思った。


(やはり君は、世界の誰より美しいな)


無色透明の翼を聖堂いっぱいに広げる姿を目の当たりにして、見上げるばかりの信徒は
暢気につぶやいた。

現実感のない『女神』の降誕に、そんな感慨を抱いた。




Passage12――――END

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/21(水) 22:58:03.08 ID:y/CthCAG0<>
⇒ TO BE CONTINUED ……


ラスボスに付き物の第二形態突入
「たかが魔神」に勝った程度でドヤ顔はちょっとばかし気が早いですよステイルくん
ではまた二日以内にお会いしましょう
<> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/21(水) 22:58:30.79 ID:CyeSlFnEo<> おお…乙 <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/21(水) 23:05:47.44 ID:5kyXEnbIO<> 燃える展開パネェですの。
とにかく乙です!! <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/21(水) 23:06:32.62 ID:zrSVE/RNo<> お約束、じゃなくて絶望を持ってくるタイプの第二形態じゃないですか! やだー!

乙! <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/21(水) 23:30:44.56 ID:g4C8keUoo<> お疲れさまです。
本当に盛り上げ上手ですね。
続きが楽しみです。 <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/21(水) 23:33:04.38 ID:phggzGkS0<> あかんステイルしんでまう
乙なんだよ! <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/22(木) 00:37:28.02 ID:rutVObKAO<> 乙
ただひたすらに乙 <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<><>2011/12/22(木) 04:55:02.71 ID:eCE/r10q0<> 乙

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/23(金) 22:32:32.29 ID:k80yyd4c0<>
レスありがとうございました
今回投下分はPCからの閲覧を強く推奨します <> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/23(金) 22:33:40.66 ID:k80yyd4c0<>


Passage13 ――dedicatus545――



<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/23(金) 22:34:16.21 ID:k80yyd4c0<>

彼女が生まれて初めて抱いた感情は、『呆れ』だった。


『はじめ……まして、でいいのかな? とにかくはじめまして、“もう一人の私”』


彼女が彼女にそう語りかけてきたのはいまより遡ること十一年前、十月三十一日のこと
だった。
彼女は覚えてはいなかったが、それは彼女が黒衣の魔術師に向けて国家戦争に匹敵する
規模の暴力を浴びせた、翌日のことだった。


『えっと、聞こえてるなら返事してほしいんだよ』

『…………』

『あなたのお名前はなんて言うの?』

『………………』

『あ、そうだった! 人に名前を尋ねる時は自分から名乗るのがれでぃーの嗜みだって、
 こもえが言ってたんだよ! ……Well,good morning! I'm Index!』

『……………………』

『あれ? もしかして、英語通じない人? あるいはとうまに代表される日本の一般
 学生にありがちな、生の英語に触れたことない系の人? はじめてのネイティブとの
 接触に緊張しちゃってるのかな? もしもーし、私は日本語もペラペラだから安心
 してほしいんだよー』

『…………………………はぁ』


一人で姦しい子だな。
そんな溜め息が彼女と彼女の――――『自動書記』とインデックスのはじまりだった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/23(金) 22:35:25.39 ID:k80yyd4c0<>
---------------------------------------------------------------------------


時計の長針を五周ほど巻き戻す。


紗幕に映し出された世紀の下剋上を眺めながら、しかしローラの表情は強張っていた。
彼女の望み通りに、ステイルはインデックスを救うだけの力と意志を見せつけた。
しかしそれは、同時に。


「これも貴様の工程表通りというわけかしら、アレイスター?」

「………………ああ。ああ、そうだ……そうだ。長かったよ」


ローラの敵である男の、百年越しの望みでもあったのだ。
アレイスターの相貌は、実の娘であるローラがその生涯で目撃した中でも比肩する
もののない、人間味あふれる歓喜に震えていた。


「誰かが『自動書記』を極限まで追い詰める。このステップが必要だったのね」


『無限の愛』を持つ女に触れて、なおそれを打倒する気概のある者。
地球上に他の資格者がまったく存在しないとまでは断言しきれないが、この条件ならば
ステイルは間違いなく有資格者名簿のトップに名を連ねるだろう。


「しかもそれは、『自動書記』がきわめて私的な感情から“負けたくない”と思える
 相手が望ましい。その意味でもステイル=マグヌスはこの上ない適格者だ」


百二十年前リリスだった女の絶望は、半ば八つ当たりのようにインデックスの愛する
男へと牙を剥いた。
その結果として二人は死闘を繰り広げ、その帰結としてリリスはステイルに負けた。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/23(金) 22:36:10.70 ID:k80yyd4c0<>

しかし、これですべてが終わった訳ではない。


「…………これから、なにが始まるのかしら?」


これが、これこそがはじまりなのだ。
“何”が始まるのか、ローラの中で一定の結論は導出されていた。
しかし“どうやって”始まるのか。
それだけは、いくら父譲りの頭脳を巡らせても理解できそうになかった。
頭を抱えたい欲求に抗っていると、当の父親が上機嫌を隠さずに声をかけてきた。


「事ここに至ってそれはないだろう。『融合』だよ、無論」

「またそれか。七十年前自らを世界の鼻つまみ者へと転落させた境界線に、貴様は
 よほどのコンプレックスを持っているようね」


聞き飽きた論旨をまたも持ちだされて、ローラもまた不機嫌を隠さなかった。
融合、融合、融合。
ご立派な題目を立てるのも構わないがインデックスに、『禁書目録』にどう繋がる
のかがまるで理解できない。


「……ん? なにか、勘違いをしていないか」


その時父が、目を丸くして娘に逆質問を投げかけてきた。
怪物のくせに人間らしい表情をするな、と怒鳴りつけてやりたかった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/23(金) 22:36:55.26 ID:k80yyd4c0<>

「具体的な言及をお願いしたいわね。私がなにを思い違いしていると?」


アレイスターはかつて、魔術師でありながら科学に手を染めた。
当時の世界はどっちつかずの蝙蝠の存在を許しはしなかった。
ゆえに、アレイスターは破滅した。

デカルト相手であろうと胸を張って提出できる、見事な三段論法である。
いったいどこに瑕疵が存在するなどと――


「それでは順番が逆だ」

「はぁ?」

「私が“線”に弾き出されたのではない。当時のことは君にもショックが強すぎて
 よく思い出せないか?」


七十年前の事件。
世界に向けて暴露されたアレイスター=クロウリーの研究内容。
ローラの存在価値を『スペアプラン』以下にまで貶めた真実。
なにが『ショックが強すぎて』だ。
往時のローラの絶望を、いったい誰のせいだと思って――――“誰”?



「私が弾き出されたから、“線”ができたのだ」



息を呑んだ。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/23(金) 22:37:47.96 ID:k80yyd4c0<>

再びこの父親に対して驚愕もあらわな表情を披露するのは鼻もちがならなかったが、
それでも抑えきれなかった。
なぜなら、理解したからだ。


「アレイスター、貴様」


『世界最高の魔術師、科学に走る』。
当時の魔術世界を根本から揺るがすような大事件だった。
あらゆる魔術師がアレイスターを非難し、蔑み、その背景世界たる科学をも敵視した。
魔術は科学から距離を置いた。
混沌たる魔術と科学の勢力図に、歴史上初めて明確な境界線が生まれた。

そして世界は、『科学』と『魔術』に分断された。
――――アレイスター=クロウリーの、思惑通りに。

こうなると、そもそもの『事の起こり』からして疑ってかかるべきだ。
彼の科学に対する妄執が日の当たる場所に晒されたのは、誰の仕業だったのか。


「…………あの『暴露』は、自分で仕組んだことだったのね」


アレイスター=クロウリーその人の自作自演だったと考えるのが、自然な筋だった。


「……第一に、だ。私の研究内容を細部まで把握しているのは君と私だけだったろう。
 しかも科学的実験に関しては君にすら報せていなかった……『犯人』が誰であるか、
 自明の理だと思うのだが」


もう一発ひっぱたいてやろうかと思った。
“それ”が原因で死の淵に足までかけておきながら、何を他人事のようにのたまって
いるのだ、この男は。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/23(金) 22:38:54.88 ID:k80yyd4c0<>

「……なんの説明にもなっていないわ。一方で『融合』を推し進めると言っておきながら、
 もう片手で『境界線』を引く。これでは二流政治家の方がいくらか、二枚舌の扱いには
 習熟しているわね」

「君は、テーゼとアンチテーゼという言葉を?」

「ヘーゲルの弁証法ね。それがなにか?」


『ヘーゲルの弁証法』。
ドイツ観念論の大成者ヘーゲルが提唱した、世界の理念が辿る自己発展過程である。
社会も歴史も国家もすべてのものは運動するが、あらゆるものは自らの中に自らを
否定する要素を内包している。
正(テーゼ)と反(アンチテーゼ)が互いに反発しあい、やがて両者を統合して
合(ジンテーゼ)となり、ある一点で止揚(アウフヘーベン)される。


「彼が導いた最終結論も私にとって興味深いものではあるが、今は置いておこう。
 テーゼとアンチテーゼは、距離をおいていればいるほど望ましい。互いが激しく
 対立すればするほど、止揚はさらなる高みへ登るエネルギーを得る」

「世の哲学者から袋叩きにあっても知らないわよ」

「私とて知ったことではないな。現界に身を置きながら空論を振りかざす者どもなど」


アレイスターもまた、弁証法を世界構造のレベルにまで適用して次なる世界を目指したと
いうことなのだろうか。

たとえばそれは、法治国家と礼治国家。
たとえばそれは、資本主義と共産主義。
たとえばそれは――――科学世界と、魔術世界。


「馬鹿馬鹿しい」

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/23(金) 22:39:34.81 ID:k80yyd4c0<>

ローラは吐き捨てた。

ゲオルク=ヴィルヘルム=フリードリヒ=ヘーゲルは、あくまで具体性を伴う理性的思考
の過程で、アウフヘーベンなる極地への道程が“そうである”と発見したにすぎない。
彼が正や反を抽象的事象に当てはめて一般化を図ったなどという事実は存在しない。
アウフヘーベンとは人類の歴史を俯瞰したときに“そこにあった”ものであって、人間が
創造したものでは断じてない。
対立構造を用意してやるだけで勝手に高みに昇りつめてくれるのならば、浮世はいまより
はるかに素晴らしい世界になっている。


「貴様のやっていることは捏造も甚だしい」


論破完了、鼻を鳴らす。


「『捏造』ではいけないのかな」


反論になっていない反論が戻ってくる。
男も肩をすくめていた。

能力者は望む結果を呼び出すために現実の法則を塗り替える。
多くの魔術師は神話や伝承を己の都合のいいように解釈して術式を組み上げる。
大本のところでは魔術師も能力者もやっていることに大差はない。


「あら、それではせっかく引いた境界線がまた曖昧になってしまうわね」


嗤う女。
だが。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/23(金) 22:40:26.40 ID:k80yyd4c0<>

「だから引いておいた。境界線をより太いものにするべく、ペンで上からなぞるように」


笑う男。
眉をひそめる女。
さらに笑う男。
稚児のような笑み。




「能力者の“ここ”にも、線を、な」


――――その顔のまま、とんとん、と人差し指でこめかみを差す男。




「能力者に魔術は使えない。これは私が科学を再編する過程で全ての『時間割』に
 仕込んでおいた、これ以上なく明白な境界線だ」


脳。
それは学園都市にあまねく存在するすべての能力者の根幹をなす演算装置だ。
そのプログラムの開発途中に、密かにコマンドを仕込んでおく。
すなわち『能力開発を受けた者が魔術を使用すると、死ぬ』。

たったこれだけで新たな“線”が誕生する。
そうしてアレイスターは、一つの世界を地図上に捏造した。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/23(金) 22:41:08.93 ID:k80yyd4c0<>

「……『禁書目録』に、能力開発に関する記述などない」


しかしローラの反駁は、アレイスターが数十年がかりで創り上げた根拠を示してもいまだ
留まることを知らなかった。
女の往生際が悪いというより、それだけ男の理論に穴が多すぎるのだ。


「君がそう思っているだけだろう。言っておくがこの三年間、私は君よりよほど多くの
 『インデックス』を目撃している。完全記憶能力を持つ彼女が、その叡智の蔵になにを
 蓄えたのか知っている――――さらに彼女は、この六年でより一層『魂』と『記憶』の
 融和を推し進めているではないか」

「…………っ、編纂作業!」


危険極まりない魔道書の『原典』を、利用しやすく比較的安全な『偽書』へと編纂する、
インデックスのライフワーク。
高度で難解な記述を噛み砕いて他者でも利用可能にするという作業は、その実原典への
深い造詣がなければこなせない。
つまりインデックスの処理能力は、十一年前と比較しても格段に上昇していることになる。

そしてそれは、アレイスターの理論からすれば『魂』の研鑽作業に他ならない。


「まあ、私も偉そうな口を利けた身の上ではないのだが。繰り返すが、私は彼女に干渉を
 試みたことがない。あれは彼女が自発的に始めたことであって、偶然の産物だからな」


ともあれ材料は揃っている。
ならばあとは“やり方”だけだ。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/23(金) 22:42:26.98 ID:k80yyd4c0<>

「……そうこうしているうちに、七月二十八日まであと一分か。参ったな、武者震いが
 止まりそうにないよ」

「心臓ごと止めてあげましょか」

「そんな器官は三年前に捨てたがね」


男は女の罵声にも昂りのままに薄笑いで返答した。
調子づいて、求められてもいない演説が始まる。


「聞こう。七月二十八日とは、世界の大多数の人々にとって“どういう”日だ?」


『首輪』がインデックスを殺す日か。
ローラが姉の死から目を背けた日か。
アウレオルス=イザードが破滅へと歩み始めた日か。
神裂火織が泣いた日か。
ステイル=マグヌスが心折れた日か。
上条当麻が死んだ日か。
人工衛星が落ちた日か。
上条当麻が生まれた日か。


「……知ったことではないわ、そんなこと」


インデックスの人生が、本当の意味で始まった日か。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/23(金) 22:42:58.43 ID:k80yyd4c0<>


「違うな。七月二十八日とは、『科学を牛耳っていた悪の総帥が敗れ」



因果は逆転する。
そして、収束する。



「科学と魔術が融和へ――――“融合”へと歩み出した』、記念すべき日だ」



歪められた結果に向けて、廻り出した歯車はもう止まらない。



<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/23(金) 22:44:39.58 ID:k80yyd4c0<>
----------------------------------------------------------------------


彼女の懊悩を聞いた。


『とうまのことが好きなの。多分これって、愛してるってことだと思うの。
 でも、どうやって好きだって伝えればいいか、わからないの』


彼女の慟哭を聞いた。


『とうま、みことのことが好きだって。しょうがないよね、みことはいい子だもん。
 しょうがないよね…………私は、何もしなかったんだもん』


彼女の諦観を聞いた。


『これで、良かったんだよね。イギリスに帰れば、二人に酷いこと言わなくて済むかも。
 ………………ああでも、“あの人”に会うのは、ちょっと嫌だなぁ』


彼女の可愛らしい憤怒を聞いた。


『ちょっと聞いてほしいんだよ“ヨハネ”! あの図体ばっかりおっきくてタバコ臭い
 嫌味な神父、私に向かってなんて言ったと思う!?』

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/23(金) 22:45:34.97 ID:k80yyd4c0<>

彼女の陰口も、時には聞いた。


『ロンドンに来てしばらくは心細かったけど、友達もたくさんできたんだよ。かおりに
 ヴィリアン、アンジェレネに……そう言えば、アンジェレネって“あの人”のことが
 好きなんだって。あんなののどこが良いんだろうね』


彼女の混迷を聞いた。


『あの人……あ、私がいつも言ってる、仕事仲間ののっぽの神父さんの事なんだけど。
 私、もしかしたら、あの人の…………ゴメン、忘れて』


彼女の悔恨を聞いた。


『どうしよう、どうしよう。私、知らなかった。知らないまま、あの人にずっとヒドイ
 ことばっかり言ってた…………ずっとあの人を、ステイルを傷付けてた』


傷付けたことで傷付いた彼女の苦悶を、彼女はただ聞くことしかできなかった。

そして彼女は、彼女の真実を聞いた。


『私、「リリス」なんだって。ヨハネのペンはこの事知ってた? ……そっか、そうだよね。
 でも不思議だね、ローラが私の家族なんだって聞くとヨハネのことも家族みたいに
 思えてくるかも。そうだなぁ、ローラが妹なら』

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/23(金) 22:46:50.75 ID:k80yyd4c0<>


『あなたは、私のお母さんだね』



愛しいと、心の底からそう思った。
こんな無垢な少女を雁字搦めに縛りつけていた己の存在が、十字架に磔にしたくなる
ほど呪わしかった。
自分さえいなければこの子の人生はもっと綺麗で、善意に満ちていたはずなのに。

妬ましいと、そう思った。
こんな純粋な好意をいっぱいに浴びながらその気持ちに応えなかった上条当麻が。
おそらく気が付いているにも関わらず応えようとしないステイル=マグヌスが。
特に後者への敵意は、『自動書記』の内側で日増しに膨張していった。

どうしてそこで一歩引くのだ。
どうしてそこで目を逸らすのだ。
どうして名前で呼んでやれないのだ。
自分に肉体があれば思うさま抱きしめてやるのに。
ああもう、見ていられない。
こんな男に、インデックスを任せることなどできはしない。


『どうしよう。私、ステイルのこと、裏切ってるのかな』

『ステイルが死ぬのが、死ぬより怖い、なんて…………ステイルだって困るよね、
 こんなこといきなり言われたら。どうすればいいんだろう』

『ああ、お願いだから教えて、ヨハネのペン』


だから守りたいと、そう思った。
自分が守ってやらなくてはと、そう思った。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/23(金) 22:48:16.40 ID:k80yyd4c0<>

「……えて君の魔力を吸収し……」


任せられないと確信した男が、何事か語りかけてくる。
口が勝手に呻きを洩らしたが、自らの耳にさえ届かない。
脳を埋め尽くす思考はただ一つ。



インデックスを守ることのできる力が、欲しい。



だがもう、そんなものはどこにもない。
彼女の脳内には依然一〇三〇〇〇の魔道書が健在だが、起動のためには魔力が必要だ。
ガソリンのない車は走らない。
唯一ガソリン抜きで走る強制詠唱(くるま)も、自動制御術式が相手では意味がない。
もう、打つ手がなかった。

  d e d i c a t u s 5 4 5
『献身的な子羊は強者の知識を守る』。


役立たずの魔法名がとっさに浮かんだ。
弱りきった子羊に、羊飼いはなにもしてやれない。
ただ安楽死を選ばせてやることさえできない。

やはり自分は、知識を守るだけのシステムにすぎないのか。
インデックスを守ることはできないのか。
いかに編纂作業を経て知識を深めたところで、一〇三〇〇〇冊の中にこの状況を打開
できる可能性など――――

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/23(金) 22:50:59.98 ID:k80yyd4c0<>

(あ)


――――あった。


一冊だけ、あった。
編纂作業の中で幾度となくオルソラやシェリーらと議題の端に上らせたが、結局手つかず
のままの一冊が。
ローラにもそれとなく尋ねてみたがさらりとはぐらかされた、解読法不明の一冊が。
歴史上誰も解読に成功していないとされる禁断の、最後の一冊が。


(……読めるのでしょうか、この私に)


図書館から該当する一冊を引っぱり出す。
表紙にかけた手が震える。
この六年、何十何百の魔道書を読みこんできた経験が今の自分にはある。
しかしもしも、それでも読むことが叶わなかったら。
自分は負ける。
世界で一番負けたくない男に、インデックスを委ねざるを得ない。


(それだけは……それだけは、嫌だッ!!)


目を瞑って、開いた。
おそるおそる瞼を持ち上げる。
視界に入った、最初の一節。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/23(金) 22:52:05.48 ID:k80yyd4c0<>





【汝の欲する所を為せ、それが汝の法とならん】





            d  e  d  i  c  a  t  u  s  5  4  5
Passage13 ――追い詰められた羊飼いは弱者に智慧を捧ぐ――







同時に、時計の短針と長針と秒針が、一点で重なった。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/23(金) 22:53:16.24 ID:k80yyd4c0<>
                          ハディート        ホール・パール・クラアト

             ババロン                  ヌイト
      
     ラー・ホール・クイト     ホルス      エイワス        




理解できる。
理解できているということが理解できない。
理解できているという事実が恐ろしい!
これはなんだ。
いや、わかっている。
しかしわからない。
何が起こる。
どうすればいい?
そうすればいい。
重ねる?
動かす?
再現。
そう、再現すればいい。
それでいい。

いや、しかし、材料が

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga !蒼_res<>2011/12/23(金) 22:55:22.21 ID:k80yyd4c0<>

             お
             や


<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/23(金) 22:55:53.39 ID:k80yyd4c0<>


――――――――――――!!!



<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga !蒼_res<>2011/12/23(金) 22:56:25.95 ID:k80yyd4c0<>

                  今回は君か、ア
                           レ
                           イ
                           ス
                           ターの娘


<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga !蒼_res<>2011/12/23(金) 22:57:27.64 ID:k80yyd4c0<>



                                          ?なかのるいでん悩

どうにもその世界では     が……ああ悪い、ヘッダが足りていない
              briqw


む             原料不足はかつて一方通行にも付きまとった問題であるしな  ま
                                                     あ

     私
     がヒントを上げても別
                 に構わないだろう         一方通行の本質を観察した
                                                    こ
                                                    と
   こ              ?ん                        ?なかるあは
   れ
   は…………君はまず、自分の本質を理解していないらしい


                            ば
                            え
                            言
                            に
                            逆


             ヒントは、一節で事足りるかもしれない、ということだな

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga !蒼_res<>2011/12/23(金) 22:58:04.79 ID:k80yyd4c0<>


                  【観察せよ。君の本質はそこにある】



                            で
                            は
                             、
                            ま
                            た
                            い
                            つ
                            か
                            会
                            お
                            う


<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga !蒼_res<>2011/12/23(金) 22:58:53.69 ID:k80yyd4c0<>

――――――。


原料不足、観察、一方通行?

                           アクセラレイター
あくせられーた、アクセラレータ――――――『粒子加速器』。


科学最高の頭脳。
観測事象からの逆算。
限りなく真実に近い魔術法則の推論。


『その根源が比較的一般にも知られるルーン文字に起因するっていうなら、普遍性を
 抽出して法則に結び付けることは、不可能じゃねえ』


七月十九日、一方通行とステイルの交戦を知って現場に急ぐ途中、通信用の護符から
そんな勝ち誇った声が聞こえてきた。
恐るべし、学園都市第一位。
これが進化の速度すら日々加速させる、科学の粋なのか。
そう畏怖した記憶がある。
あるいはそれは、一〇三〇〇〇冊の魔道書などよりよほど稀有な能力ではないか。

いや、待て。




だがしかし、この身とて魔術最高の頭脳ではないか。
<> ミス;<>saga<>2011/12/23(金) 23:00:20.68 ID:k80yyd4c0<>

――――――。


原料不足、観察、一方通行?

                           アクセラレイター
あくせられーた、アクセラレータ――――――『粒子加速器』。


科学最高の頭脳。
観測事象からの逆算。
限りなく真実に近い魔術法則の推論。


『その根源が比較的一般にも知られるルーン文字に起因するっていうなら、普遍性を
 抽出して法則に結び付けることは、不可能じゃねえ』


七月十九日、一方通行とステイルの交戦を知って現場に急ぐ途中、通信用の護符から
そんな勝ち誇った声が聞こえてきた。
恐るべし、学園都市第一位。
これが進化の速度すら日々加速させる、科学の粋なのか。
そう畏怖した記憶がある。
あるいはそれは、一〇三〇〇〇冊の魔道書などよりよほど稀有な能力ではないか。

いや、待て。




だがしかし、この身とて魔術最高の頭脳ではないか。

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/23(金) 23:00:57.97 ID:k80yyd4c0<>

『法の書』の記述を再現するには明らかに魔術の領域からはみ出した材料が必要だと、
女はそう判断した。
『魔道図書館』にすら存在しない未知の法則を解明しなければならない。
欲しいのは世の科学者が垂涎するような、自然科学を悉く統括するような統一原則。

人間はいつか死ぬ。
ステイルは人間である。
これら一般的な法則から、『ステイルはいつか死ぬ』という個別事象が導き出せる。
演繹。
しかし、これでは辿りつけない境地がある。

いま欲しいのは新たな法則だ。
ならば法則を事象から逆算すればいい。
帰納。
そうだ、できるはずだ。
この脳の裡には、一〇三〇〇〇冊とは別の箇所に蓄えられた、記録(おもいで)がある。



        のう                   のう
科学最高の演算機にできたことが、魔術最高の演算機にできないはずがない!




<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/23(金) 23:01:36.21 ID:k80yyd4c0<>

記録より該当事象抽出。


『大丈夫。私も、人間じゃないから』――正体不明
『ゴメンゴメーン……止める間もなく始めちゃうわよっ』――超電磁砲
『祈りは届く。それで人は救われる』――打ち止め
『ihbf殺wq』――一方通行


“観察”開始。


『とりあえずお二人さんの互いの距離を参考にはしてみたけど』――心理定規
『いま帰ったぞおおおおお!!!!』――念動砲弾
『私の掌握力がイマイチ届かないのよねぇ』――心理掌握
『私にこれからブチコロされるのはどこの腐れトマトかって聞いてんだよ』――原子崩し
『物思いに耽ってる暇なんてないわよ』――座標移動
『この状況でまだイキがってられるとは大した肝だぜ、魔術師野郎』――未元物質


見る。


『貴様に科学と魔術を越えた、この腕の解析など不可能だと知れ』――腕
『 神戮 pv vewy』――神の力
『だって私は、「天使」なんだよ?』――ヒューズ=カザキリ


観る。


『……今までが蛹だっていうなら、これから君は何になるんだい?』
『ああン? 知らねェよ』

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/23(金) 23:02:40.08 ID:k80yyd4c0<>

視る。


『神様』


診る。

   セカイ           システム
『この物語が、アンタのつくった奇跡の通りに動いてるってんなら』


み――


『まずは』


――――――





『その幻想をぶち殺す!!』





<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/23(金) 23:03:54.40 ID:k80yyd4c0<>


「bwr理解rnしましyたerk」



『法の書』解読完了
これより『こことは異なる世界の法則』を用いて、世界構成要素の再編を行います

第一段階:記述された全骨子を『神に等しい力』によって蒐集、再現、構築
完了まで一〇秒

第二段階:要素の配置角度を固定するため、仰角一八〇度で疑似太陽生成
完了まで二〇秒

宣誓、第一九章第二八節および第一九章第三〇節および第二三章第四六節

命名、『十字架上の主の最後の言葉』
完全発動まで





そして同時に、十字教の時代が終わるまで――――残り五〇〇秒





Passage13――――END

<> >>1
◆weh0ormOQI<>saga<>2011/12/23(金) 23:11:43.71 ID:k80yyd4c0<>
⇒ TO BE CONTINUED ……


では、次回は次スレでお会いしましょう↓
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1324649432/
<> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/23(金) 23:13:41.05 ID:t6f5Lshe0<> 1乙なんだよ
法の書まで持ち出しやがったか自動書記・・・
てわけで埋め <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/23(金) 23:18:40.97 ID:DCdSLhl40<> 今日こそは感想書こうと思ったのに
こんな熱いことされたらもう乙しか言えねぇよチクショウ <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/23(金) 23:41:20.59 ID:uDN9hxwxo<> 乙にゃんだよ! <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<><>2011/12/23(金) 23:47:13.71 ID:+YFyQ5jX0<> 追いついたあああああああああああああああああああああああああああああ
初めて読んだSSがこれだったことは私の幸運だあああああああああああ←以後発狂 <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/23(金) 23:57:25.59 ID:3K4B7//do<> やべぇ
マジ乙 <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/24(土) 00:02:10.35 ID:q6dDy2A/o<> まさかセレマまで持ち出すとは思わなかった、乙 <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/24(土) 00:04:10.83 ID:PiyE+8H9o<> お疲れさまです。
真のラスボスの登場ですね。 <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/24(土) 00:20:31.76 ID:28aQ6+hDO<> 乙! <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/24(土) 00:29:58.40 ID:dh7laIA6o<> 乙! <> 1001<><>Over 1000 Thread<>                  ヽ人人人人人人人人人人人人人人人ノ
         / ̄(S)~\  <                      >
       / / ∧ ∧\ \<  嫌なら見るな! 嫌なら見るな!  >
       \ \( ゚Д,゚ ) / /<                      >
         \⌒  ⌒ /  ノ Y´`Y´`Y´`Y´`Y´`Y´`Y´`Y´`Y´`Yヽ
          )_人_ ノ  
          /    /
      ∧_∧ ■□ (    ))
     (   ; )■□  ̄ ̄ヽ
   γ⌒   ⌒ヽ  ̄ ̄ノ  ノ       SS速報VIP(SS・ノベル・やる夫等々)
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<> 最近建ったスレッドのご案内★<><>Powered By VIP Service<>THE MANZAIの生放送で起きた感動ドラマ @ 2011/12/24(土) 00:20:25.90 ID:bBV8HvQAO
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「都市伝説と戦う為に都市伝説と契約した能力者達……」 Part5 @ 2011/12/23(金) 23:49:05.62 ID:ANtCQ1x20
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男「…へ?」 姉「だからね」 @ 2011/12/23(金) 23:38:22.55 ID:QO9jdRdfo
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VIPPERチャット 9本場(年越し便) @ 2011/12/23(金) 23:19:58.82 ID:Oz1usmdAo
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とある神父と禁書目録 @ 2011/12/23(金) 23:10:32.30 ID:k80yyd4c0
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キョン「俺のいない団活」 @ 2011/12/23(金) 22:32:14.38 ID:wrQ8wVVc0
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美琴「今日も平和ねぇ」一方「あァ」上条「だな」 @ 2011/12/23(金) 22:15:36.85 ID:4csoBtoQ0
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コンボイ「何、ラーメン二郎だと?」 @ 2011/12/23(金) 21:57:24.91 ID:8CqTSKD50
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