◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/11(日) 00:59:17.58 ID:yFVrGVCUo<>・このSSについて
アニメ「ゼーガペイン」及びゲーム「エルミナージュ2」のクロスオーバーです
小説「ゼーガペイン忘却の女王」「ゼーガペイン喪失の扉」のネタを含みます
アニメ「ゼーガペイン」本編の重大なネタバレを含むため、視聴されていない方はレンタルすることを推奨します
ゲームと同時進行なため、不定期更新となります
マイナージャンルの自覚はあるので、
読んでいただける優しいセレブラントの皆様は書き込みをしていただけると筆者のモチベーションが上がります
設定等に作者の勘違いが含まれる場合がありますが、
指摘していただければ本編を見直した上でできる分は修正します
初SSのため、至らぬ点は多々あると思いますが、ご容赦ください
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1331395146(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)
<>キョウ「エルミナージュ?」カミナギ「そうだよ、キョウちゃん!」
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/11(日) 01:01:11.88 ID:yFVrGVCUo<> ENTANGLEMENT 22.3
予期せぬ邂逅
「目標地点に到達。あとは信号を逆探知して、正確な位置を割り出すだけね」
その言葉とともに、ショートカットの少女は手元に浮かぶ光のパネルを操作し始めた。
彼女の前方のシートには銀髪の青年が静かに座っている。
青年の見た目からして、高校生くらいだろうか。
しかしその落ち着いた雰囲気は、彼をその外見以上に大人びて見せていた。
彼らがいるのは巨大なロボット、ゼーガペイン・ガルダの内部。
太平洋上の孤島、その森林地帯に佇む機体の、
突出した胸部コクピットに彼らは座っていた。
程なくしてもう一機、別の機体がその隣に着陸する。
その機体の各部は緑色の光に包まれていた。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/11(日) 01:03:55.23 ID:yFVrGVCUo<> 「ルーシェン、一回りしたけど、周辺に敵機なしだ」
銀髪の少年の目の前に現れたウインドウから、茶髪の少年が呼びかける。
「了解した、キョウ。いずれにしても気を引き締めなければな」
「ちょっとあんた、ちゃんと偵察したんでしょうね?」
ルーシェンの返答に背後の少女、メイウーが横やりを入れる。
ウインドウの向こうでは、キョウが不機嫌そうな顔をしていた。
「そういうお前こそ、まだ目標を見つけらんねぇのかよ」
「うるさいわねぇ。信号が暗号化されてるのに、そんな簡単に見つかると思ってんの?
そのまんま位置情報を垂れ流してたら今頃、敵で溢れかえっているわよ」
その言い合いを止めるためか、今度は黒髪の少女の顔が
新しいウインドウの向こうに現れた。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/11(日) 01:05:49.37 ID:yFVrGVCUo<> 「まぁまぁ、キョウちゃんもメイイェンちゃんも、ケンカしないの」
「私はメイウーよ!リョーコあんた、わざとやってんでしょ?」
メイウーと彼女の妹の名前を取り違えるリョーコ。
彼女達が初めて対面した時もこんなやり取りをしていた。
それを思い出して、ルーシェンの口元も思わずほころぶ。
「もう、ルーシェンまで……」
そう言いかけたメイウーが息を飲む。
ルーシェンがモニターに目を走らせると、そこには
先程まで存在しなかった光点が明滅していた。
「見つけたわ。今からそちらにデータを転送する」
「よし、行くぞ」
ルーシェンはメイウーがキョウ達にデータ転送を終えたのを確認すると、
機体のコントロールグリップに力を込める。
するとルーシェンとメイウーが乗る機体は紫色の光に包まれた。
こうして二つの機体は光の翼を広げ、その場を後にした。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/11(日) 01:06:56.44 ID:yFVrGVCUo<> 「こんなところに、ホントにあんのかよ?」
そう言いながらソゴル・キョウはゼーガペイン・アルティールの
カメラ越しに周囲を見渡した。
彼らが捜しているのは量子サーバーと呼ばれるものだ。
その中には、人々の量子データ――絶滅した人類の記憶が入っている。
かつて、オルムウイルスと呼ばれる病原体の蔓延により、人類は滅びた。
もはやこの世界には、生きている人間は存在しない。
しかし、人類は自らを量子データに変換することによって、
量子サーバーの中で細々と生き続けているのだった。
無論キョウやルーシェンもデータだけの存在であり、
彼らは自らのデータをその機体、
ゼーガペインにダウンロードすることにより、操縦している。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/11(日) 01:10:25.35 ID:yFVrGVCUo<> しかし、キョウの目の前に広がるのは一面の荒野と、
今はもう遠くに見える、先程までいた森林地帯だけであり、
量子サーバーが設置できるような建造物は存在しない。
「位置情報では間違いなくこのあたりなんだけど……」
そう答えながらも、ウィンドウの向こうの
メイウーの指は忙しくコントロールパネルを叩いている。
「確かに、建造物が存在した痕跡すらないのは妙だな」
画面の向こうにいるマオ・ルーシェンの声からは
張りつめたような緊張感が伝わってくる。
司令が倒れ、最終作戦を間近に控えたこのタイミングで、
針路上に正体不明のサーバーからの救難信号。
色々とできすぎている。
しかしこれが本物なら、見捨てるわけにはいかない。
なにより、敵も北極に戦力を集中している今、
この場に戦力を集中させる余裕があるとは思えない。
それがたとえ、罠であるとしても、だ。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/11(日) 01:11:54.24 ID:yFVrGVCUo<> その結果、戦闘になることも考慮して、オケアノスの保有する三機のゼーガの内
二機を割いての救援活動となったのだ。
しかし最終決戦直前の今、この作戦に許された時間は二時間が限度だった。
それを過ぎれば、サーバーを放置したままこの地を後にせざるを得ない。
「ねえ、これ何かな?」
「これは……ちょっと待って」
ウインドウの向こうでは、リョーコからデータを受け取ったメイウーが
相変わらず操作を続けていた
しかし、その操作に先程までの慌ただしさはない。
数秒後、地響きとともに大地が割れ、エレベーターとみられる床がせり上がってきた。
「すげぇ……」
その様子に、キョウは呆気にとられた声を上げる。
「ほんと……」
後ろからもリョーコの同じような声が聞こえた。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/11(日) 01:13:02.95 ID:yFVrGVCUo<> 「キョウ、気を抜くな。これからが本番だぞ」
「そーよ。不意打ちで撃墜されたって知らないんだから」
ガルダに乗る二人からの突っ込みに、キョウは苦笑いを浮かべた。
「へへ、わかってるって。カミナギ、オケアノスへデータは送ったか?」
「いま終わったとこ。いつでもどーぞ、キョウちゃん」
「よし、じゃあ行くか!」
そう言ってキョウはアルティールをエレベーターへと向けた。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/11(日) 01:15:02.49 ID:yFVrGVCUo<> オケアノスのブリッジにミサキ・シズノは佇んでいた。
背後ではオペレーターAI達が忙しそうにデータをまとめている。
ウインドウには件の孤島の全景が写っているが、地下へと向かった
キョウ達を視認することはできない。
もっともこの距離から捉えられるのは、せいぜいゼーガの持つ光装甲の
輝きくらいではあるのだが。
「落ち着かないの?」
振り向くと、副司令のミナトが司令席に座っていた。
彼女がブリッジに入ってきたことに気付かなかった事実に、シズノは苦笑する。
アルティールからの連絡が来てから、まだ数分しか経っていないというのに。
「ええ、やっぱり妙な感じだわ。何も起こらないといいのだけれど。
ところで、司令の様子は?」
「とりあえずは安定してるみたい。今は、メイイェンとピエタが付いているわ」
「そう……」
ミナトの声には相変わらず元気がない。
慰める言葉を見つけられなかったシズノは、沈痛な面持ちで
返事をすることしかできなかった。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/11(日) 01:17:08.44 ID:yFVrGVCUo<> オケアノスの司令、シマの様態は依然思わしくない。
ガルズオルムへの対抗組織、『セレブラム』を立ち上げた
彼の正体は幻体クローン――文字通り、幻体のクローンである。
それは普通の幻体とは異なり、
壊れた幻体データの寄せ集めでしかない不安定なものだ。
これまでも調整を繰り返して幻体データを維持していたのだが、
その調整手段も無くなってしまった彼には、
もうほとんど時間が残されていなかった。
現在はミナトが司令代行を務めているが、
シマに思いを寄せている彼女のことである。
今も彼のそばに居たいだろうに、艦長代行として
このミッションを発令している。
司令ならこうするはずだ、と。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/11(日) 01:20:27.15 ID:yFVrGVCUo<> さっきまで彼女が席をも外していたのも、
ミッション直前でシマの様態が急変したのを聞いたキョウが、
頑ななミナトを無理矢理シマの病室へ押し込んだからだった。
「じゃあ私は、フリスベルクのところへ行くわ。
クリスも待ちくたびれているでしょうから」
「ええ、頼んだわシズノ」
その言葉を聞いて扉へと向かおうとしたシズノだったが、
司令席の横を通り過ぎようとしたところで、再びミナトが口を開いた。
「……強いわね」
「何のこと?」
思わず足を止める。
「キョウのことよ。愛する人が幸せならいい、なんて考え方、私にはできない。
一緒にいて、一緒の時間を過ごしたいって思うもの……」
絞り出すような声で呟きながらシズノの手首を握るミナト。
皆の前では強がっていても、
衰弱しきったシマの様子が彼女をナーバスにさせている。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/11(日) 01:22:38.49 ID:yFVrGVCUo<> 「強くなんてないわ。ただ、私にとってキョウは
好きな人である前に恩人だから」
そう、強くなんてない。
今だって、いつか昔のことを思い出してくれるんじゃないかと
期待している自分がいる。
しかし、その一方でキョウとリョーコの幸せを願う自分もいるのだ。
「ミナト、あなたもそうでしょう?
シマにできなかった、やり残したことを
受け継ぐために、ここにいるのでしょう?」
ミナトの返答はない。
ただ黙って、シズノの腕から手を離した。
「行くわ。後はよろしくね」
そう言ってシズノはブリッジの扉をくぐる。
しかし、格納庫へは向かわず、そのまま目の前の壁に背中を預けた。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/11(日) 01:24:22.16 ID:yFVrGVCUo<> シマはもう長くない。
正直なところ、最終作戦の決着までもつかどうかも怪しいところだ。
その時に、果たしてミナトは大丈夫だろうか。
言うまでもなく、オケアノスには彼女以外、指揮に適した人物はいない。
しかし、作戦の最終フェイズ、敵地の真っただ中で指揮に迷いが生じてしまえば、
それがそのままシズノ達の全滅につながる。
ミナトはそれほど弱くはないと思いたいが――
(……して)
突然、シズノの思考に割り込む声が頭に響いた。
気付けば、額のセレブアイコンが勝手に起動している。
先程はうまく聞き取れなかった声も、より鮮明に聞こえるようになっていた。
(聞こえる? 力を貸して。あなた達の力が必要なの)
女性の声。
この声には聴き覚えがある。
しかし、彼女は今――
ここで、シズノの意識は途切れた。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/11(日) 01:26:45.00 ID:yFVrGVCUo<> 今回の分はこれで終了です。
プロローグだけで本編にまだ全然触れてないんだぜorz
しかし、見てくれるひとはいるのだろうか・・・ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/11(日) 09:28:24.62 ID:4myzQZAP0<> 懐かしす、どっちも好きな物語なので期待。 <>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/11(日) 11:28:37.27 ID:DwaaqRpBo<> >>15
うぉぉぉ!
読んでいただいてありがとうございます!
うれしくてちょっと泣きそうなんだぜ・・・
次回更新は来週を予定しております
遅筆でもうしわけないorz <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/11(日) 16:54:31.91 ID:pTuwGsa70<> 乙ですたー!
ゼーガがネタとはまた珍しい。
期待してるます。 <>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/11(日) 21:22:36.95 ID:SgmXbTjPo<> 「……ちゃん」
聴き慣れた声。
それに応えるように、ソゴル・キョウは重い瞼を開いた。
目の前にはカミナギ・リョーコの顔。
キョウの覚醒にリョーコは頭を引っ込めた。
彼女の頭に遮られていた陽光の眩しさに、
キョウは目をしばたかせる。
「やっと気が付いた」
リョーコの声を聴きながらキョウは身体を起こす。
身体を支える掌に草の柔らかい感触が伝わる。
起き上がったキョウの目の前には一面の草原が広がっていた。
「カミナギ、ここは……」
一体どこなのかを訪ねようとリョーコの方に向き直るキョウ。
しかし、目に映ったリョーコの姿が、その言葉を飲み込ませる。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/11(日) 21:24:02.67 ID:SgmXbTjPo<> 「カミナギ、なんだその恰好? コスプレか?」
目の前にいるリョーコは布製のゆったりとした
白衣に身を包んでいた。
座っているその傍らには木製の杖。
まるで、ロールプレイング・ゲームに出てくる僧侶のような恰好だった。
その僧侶が少し不機嫌そうに口を開く。
「キョウちゃんも自分の姿見てみたら?
そうすれば、人のこと言えないと思うけどな」
言われてキョウは自分の身体を見下ろす。
「なんだこりゃぁ!」
驚きに思わず立ち上がったキョウの身体は、日本鎧のような装束に包まれていた。
更に腰には一振りの剣。
手に取って鞘から抜いてみると、一般的なイメージ通りの日本刀が出てきた。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/11(日) 21:25:21.38 ID:SgmXbTjPo<> 「これは一体……っていうか俺ら、確か……」
「うん。量子サーバーからデータを回収しようとしたら声が聞こえて……」
そう。
ゼーガでサーバールームに到着した俺達は、サーバーのホロメモリを
回収しようとしていた。
コードの入力を完了し、あとはメモリを回収するだけというところで、
頭の中に聞き覚えのない声が聞こえたのだった。
力を貸せ、と言っていたように思う。
気付けば勝手にセレブアイコンが起動していた。
そこから先は覚えていない。
リョーコにも聞いてみたが、やはり何も覚えていなかった。
「にしても全く、意味わかんねぇよ……ありえねぇ」
「とにかく、みんなを探そうよ。この分だと、ルーシェンさん達もどこかに
いるかもしれないし。ね、キョウちゃん?」
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/11(日) 21:26:24.24 ID:SgmXbTjPo<> 「そうだな! にしても、カミナギ、お前いつもの調子に戻ってるのな」
リョーコは戦闘中に一度、データ転送に失敗している。
シズノの尽力とイレギュラーによって、以前のように
舞浜サーバーでの生活は送れるようにはなった。
しかし、感情を司る部分がアルティールの内部に
残されたままになっているがために、舞浜での彼女は
無感情な、あたかも人形のような振る舞いしかできなくなっていた。
それが今、アルティールの外にも関わらずリョーコがリョーコとして
振る舞っている。
そのことがキョウにはとても嬉しかった。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/11(日) 21:27:38.51 ID:SgmXbTjPo<> 「そういえばそうだね。……えへへぇ」
先を行こうとしたキョウの背中にリョーコが飛びつく。
「な……カミナギ、離れろって!」
「なにぃ、照れてんの? キョウちゃんのくせに」
キョウの肩に乗せられたリョーコの顔はニヤニヤと笑っていた。
「ば、お前何言って……」
「おーい!」
遠くからメイウーの声が聞こえる。
リョーコを抱えたまま振り向くと、大小二つの人影が見えた。
小さい方の銀髪が陽光にきらめいている。
どうやらルーシェンはメイウーの後方を歩いているらしい。
さっきまで抱きついていたリョーコも、今は離れている。
見られているとは思わなかったのか、少し顔を赤らめていた。
「ほら、行こうぜ」
そう言ってキョウはリョーコの手を引いて歩き出した。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/11(日) 21:28:53.00 ID:SgmXbTjPo<> 段々と近づいてくるメイウー達の姿に、キョウは違和感を覚えた。
最初、メイウーの後方につく形でルーシェンが歩いていると
思っていたのだが、どうやら二人は横並びに歩いているらしい。
となると、メイウーの横を歩く銀髪の少年は誰なのだろう。
キョウとリョーコは近づいていく。
果たしてそれは、ルーシェン本人であった。
ただし、身長はキョウが知っているルーシェンよりもずっと低い。
いうなれば、キョウの知るルーシェンを見た目はそのまま、小学生サイズに
縮小したかのようだった。
一方のメイウーにも変化が見えた。
遠目には分からなかったのだが、彼女の頭をよく見ると小さい猫耳が生えていた。
さらに彼女の衣装(メイド服に見える)の向こうには尻尾が跳ねている。
そのことに触れようとしたらメイウーに思いきり引っかかれた
(爪も鋭くなっていた)ので、キョウはもうその話題を振らないことに決めた。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/11(日) 21:30:49.99 ID:SgmXbTjPo<> 「にしてもさぁ、ここがどこかもわかんないっていうのに
イチャついてんじゃないわよ、このバカップル」
バカップルというのはともかく、全くもって言い訳はできない。
リョーコはリョーコでバツが悪そうにしていて、なんだか
こっちが恥ずかしくなってくる。
「やっぱり、そっちもここがどこかわかんないのか?」
「わかんないわよ。さっきまでサーバールームにいたはずなのに、
気付いたら変な恰好になってるわ、ルーシェンが縮んでるわで、
もうなにがなんだか……」
当のルーシェンはというと、沈黙を保ったまま何かを考えているようだった。
「とりあえず、私達がいた方角に街道らしきものがあったわ。
一旦そちらに行きましょう?」
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/11(日) 21:31:55.80 ID:SgmXbTjPo<> 「そうだな。もしかしたら誰かいるかもしれねーし」
四人は街道へと向かう。
街道が目前に迫ったところで、キョウは誰かが路上に立っていることに気付いた。
その人影には見覚えがある。
しかし、そんなはずはない。
リョーコも、ルーシェンも、メイウーも、目を見開いて
その人影を凝視していた。
「やあ、待っていたよ」
こちらに気付いた人影が呼びかける。
その顔、その声。
間違いなく舞浜南高校の生徒会長にしてオケアノスの司令。
シマその人であった。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/11(日) 21:36:54.43 ID:SgmXbTjPo<> ちょっと書いたので投稿しました
単にキョウとカミナギのイチャイチャが書きたかっただけかもしれない
>>17
そう言って頂けるとうれしいです!
マイナー+若干古い作品同士の組み合わせで
不安だっただけにモチベーションが上がりまする <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/11(日) 22:34:53.59 ID:4myzQZAP0<> 乙です、カミナギかわゆす
全員の参考画像がほしいところだ <>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/12(月) 22:09:41.05 ID:C6P2wBCpo<> >>27
参考画像・・・だと・・・!
残念ながら、俺にはそんなスキルはそんざいしないorz
誰か絵心のある人はいないものか・・・
書き足したので今から投下します <>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/12(月) 22:11:43.71 ID:C6P2wBCpo<> 「なんで生徒会長がここに……」
キョウはミナトを病室に押し込んだ時に見たシマの姿を思い出す。
彼が今、ここにいるはずがない。
だとすれば、こいつは一体何者だろう。
シマの姿をした男が口を開く。
「どうやら君は人違いをしているようだね。僕は……」
「AI、だろう?」
男の言葉を遮ったのはルーシェンだった。
「以前に見たことがある。お前が、このサーバーの管理AIか?」
「ふむ、君は僕の同型に会ったことがあるのか。
その通り、僕はAIだ。ただし、このサーバーとは直接関係がない」
「どういうことだ?」
「僕も君たちと同じで、外部から来たのさ。ある人物によってね」
「ある人物?」
「そう。すまないが名前は教えられない。
その人物についての発言にはプロテクトがかけられているのでね。
僕はその人物から、君たちの手助けをするよう命令されている」
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/12(月) 22:14:38.58 ID:C6P2wBCpo<> 「信用できないな」
ルーシェンが一歩進み出る。
「こんなところで、謎の人物が見知った顔のAIを助けに寄越す。
話としては、できすぎているだろう?」
「そうだね。ただ、この件について、僕にはどうすることもできないな。
さっきも言ったように、僕の任務は君たちの手助けだ。
少なくとも、僕は君たちよりもこのサーバーについて詳しい。
とりあえずは、話を聞いてくれないか?
判断はそれからでも遅くはないだろう?」
その言葉を聞いて、キョウが身を乗り出した。
「じゃあ生徒会長……じゃなかった、アンタはここがどういう所か知ってんのか?」
「ある程度はね。
もっとも、さっきも言った通り僕が管理しているサーバーというわけではないから、
僕に与えられている情報の範囲でしか答えられないけど」
「それなら、俺たちはどうやったら現実世界に戻れる?」
キョウに続いてルーシェンが問いかける。
キョウ達に残された時間は少ない。
表情にはださないが、ルーシェンも焦っているようだ。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/12(月) 22:15:58.24 ID:C6P2wBCpo<> 「このサーバーから脱出するには、専用のポートを使うほかない。
このサーバーの管理者権限を持つ者の許可を得られれば
すぐにでもポートにアクセスできるが、それは難しいだろうね」
「なぜ?」
「ここがIAL社の実験サーバーだからさ」
IAL社。
人類の敵、ガルズオルムの盟主であるナーガがCEOを務めていた企業。
そして、ガルズオルムの前身。
その実験サーバーの中にいるという事実に、キョウ達は驚愕した。
「てことはこれは、ガルズオルムの罠だったってことか!」
「キョウちゃん、落ち着いて」
激昂したキョウの腕をとり、なだめるリョーコ。
それでも、動揺を隠せないリョーコの声は震えていた。
それを耳にして、キョウは落ち着きを取り戻す。
「悪かった。続きを頼む」
「いいとも。改めて言うが、ここはIAL社のサーバーだ。
ただし、この件にガルズオルムは噛んでいないらしい」
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/12(月) 22:19:47.26 ID:C6P2wBCpo<> 「どういうことだ?」
「詳しくは分からない。それ以上の情報を与えられていないからね。
考えられるのは、ガルズオルムとは関係ない第三者、あるいは
セレブラムの誰かがこの仕掛けを施した可能性だ。
もっともセレブラムの技術水準では、特定の人物を無理矢理サーバーに
引きずり込む、などという芸当ができるとは考えにくいが」
ここで、沈黙を守っていたルーシェンが口を開く。
「確かに、そんな芸当ができるのはガルズオルムくらいだろうな。
お前に情報を与えた何者かが、ダミーの情報を流している可能性はないのか?」
「もちろん、それを否定することはできない。
ただ、君たちをどうにかしたいなら、僕を使ってわざわざこんなことを
させる必要はないだろう。
ただ、相手が何者にせよ、こんな手段をとった以上、そうすんなりと
脱出させてくれるとは考えにくいだろうね」
「いいだろう。なら先程言っていた、
それ以外のアクセス方法について聞かせてくれ?」
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/12(月) 22:22:27.14 ID:C6P2wBCpo<> 「このサーバー内である条件を満たせばポートへのアクセス権を
得られるようになっている。
それ以外の不正アクセスを封じるために、このサーバー内に存在する幻体には
セレブアイコンの使用制限がかけられているようだ」
その言葉を聞いて、試しにキョウは額に意識を集中する。
しかし、額にいつものような光が現れることはなかった。
ルーシェンは質問を続ける。
「その『ある条件』とは?」
「すまないがそこまでのデータはない。現状僕が得ているデータでは、
この近くにある『城塞都市ビステール』の女王が何かしらのお触れを出しているらしい」
ルーシェンは怪訝な顔をする。
「まるでテレビゲームのような話だな」
「そうだね。実際、君たちには通常の幻体データとは別に
パラメータが設定されている。
セレブアイコンが使えない代わりに、条件が揃えば
限定的とはいえ、似たようなこともできるはずだ」
どうやら、リョーコの姿を目にした時に抱いたキョウの考えは当たっていたらしい。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/12(月) 22:28:41.32 ID:C6P2wBCpo<> 「要するに、ここはロープレのような世界で、
実際の脱出手順については何にもわからないってことか」
「もうキョウちゃん、失礼でしょ?」
キョウの不用意な発言をリョーコが諌める。
もっとも、AIである彼はそのことを全く気にしてはいないようだった。
ルーシェンが口を開く。
「なにはともあれ、まずはその街を目指す以外ない、か。
このサーバーの稼働速度はわかるか?」
「現実世界と比較して300倍速といったところだね」
「300倍……そんなにか?」
通常、限界近くまでサーバーの稼働速度を上げると、
それだけデータの欠損が大きくなる。
300倍の速度で稼働できるサーバーなど、そうそうない。
「ここは元々、サーバーの加速実験に使われていたらしい。
通常のサーバーよりも加速限界には大分余裕があるね」
「現実世界での残り時間を考えるとあと一時間……こちらでいうと、
あと300時間の内に脱出しなければならないか」
「悩んでても始まらねぇ!そうと決まればさっさとそのビステールとやらに急ごうぜ!」
「なんであんたが仕切ってんのよ」
メイウーの突っ込みを受けながらも、キョウ達は城塞都市ビステールを目指して歩き出した。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/12(月) 22:31:24.19 ID:C6P2wBCpo<> 城塞都市ビステール。
この地を治めるビステール王家はこのヘストリオ大陸で唯一、
大地の女神の言葉を聴けるらしい。
その力でもって、この都市は繁栄を約束されているのだとか。
もっとも、広大な平野と山脈、おまけに海にも面しているという好条件が
この都市の発展を支えているのだろう。
「女神ってつまり、このサーバーの管理AIってことか?」
AI、タオユウの説明を受け、キョウが聞き返す。
名付け親は、ルーシェンだ。
幻体になって目覚めたばかりのルーシェンに対して、
かつてのシマはそう名乗っていたらしい。
「いや、サーバー管理AIとは別の存在だ。
このサーバーでは複数の世界が並列処理されているんだ。
そしてそれぞれの世界に存在する人間タイプのAIとは別に、
各世界を統括するAIが複数いて、それを神と呼んでいるらしい。
上から順にサーバー管理者、サーバー管理AI、神々、通常AIといった形だね。
極端なことを言えば、この世界の神と呼ばれているAIを壊したとしても
影響がでるのはこの世界がせいぜいで、
サーバーの活動どころか他の世界の活動も阻害することはできないだろうね」
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/12(月) 22:33:09.19 ID:C6P2wBCpo<> 「つまり神様ってのはこのサーバーの中間管理職ってことか」
「もう、夢がないなぁ」
リョーコが呆れ顔で突っ込む。
「せっかく剣と魔法の世界にきたんだから、もっとこう、雰囲気を大事にしなきゃ」
「その割にはさっき『カメラがあればよかったのに』とかいってなかったか?」
「だってこんな体験なかなかできないよ?次に撮る映画の参考にしたいじゃん」
そう言って先頭を歩くキョウの前に回り込みカメラを構える真似をする。
そんなリョーコを見て、キョウは懐かしい気分になった。
ガルズオルムとの戦闘で幻体データに大きな損傷を受けて以来、
リョーコとのこういったやりとりはアルティールのコクピットでしかできなくなっていた。
舞浜サーバーでは感情を失いながらも自分らしくあろうと映画に関わりつづけ、
アルティールの中でもその辛さを見せようとしないリョーコの姿は
とても痛々しく、いつの日か以前のように戻れることをキョウも切望していた。
もっとも、それがまさかこのような形で実現するとは思っていなかったが。
「そうだな。よっ、さすが未来の大映画監督!」
「もう、キョウちゃんはそうやってすぐ茶化すんだから。ぶぅ〜」
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/12(月) 22:34:22.82 ID:C6P2wBCpo<> そう言いながらもリョーコがいつも以上に楽しそうなのは、
キョウの気のせいではないだろう。
「その時はまたキョウちゃんに主役をお願いするからね」
「おう。そんかわりロケ地はどっか泳げるところな」
「いいよ。ヒロインはまたトミガイ君にお願いしようかな」
「うへぇ、勘弁してくれよカミナギぃ」
「あ、やっぱりキョウちゃんのことだからお相手はシズノ先輩がいいんだぁ?」
「いや、俺は別にそういうわけじゃ……」
「おしゃべりはその辺にしておけ。そろそろ目的地に着くぞ」
ルーシェンの言葉でキョウとリョーコは前方に目を向けた。
小高い丘の上からは古くもきれいな街並みと、それを取り囲む立派な城壁が見て取れた。
城塞都市ビステール。
果たしてそこには何が待っているのだろうか?
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/12(月) 22:36:50.59 ID:C6P2wBCpo<> ビステールの巨大な城門を越え、キョウ達は都市中心部に位置する広場にいた。
その中央に立つ巨大な立札には、いかにも荒くれといった風貌の者から
白銀の甲冑を纏った騎士まで、様々な人々が集まっていた。
その隙間を縫ってキョウ達は立札に書かれたお触れを読む。
そこには、大地の女神フィオナが、
目覚めた太古の邪霊によって主権を失いその立場を追われつつあること、
フィオナの主権を取戻し太古の邪霊を大地から追放したものに
望むだけの褒美を約束する旨が告知されていた。
「生徒会長、もしこのフィオナって神様になにかが起こってこの世界が滅びた場合、
俺達はどうなるんだ?」
結局キョウの中でタオユウの呼び方はいつも通り、生徒会長で落ち着いたのだった。
「おそらく無事ではすまないね。
最悪この世界のAI達と一緒に幻体をデリートされかねない」
「マジかよ……ありえねぇ」
広場の一角でそんな話をしている彼らに近づく人影があった。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/12(月) 22:45:22.62 ID:C6P2wBCpo<> 「あなたたち、ラグナスティア様のお触れに興味があるの?」
キョウ達が目を向けると、そこには丸眼鏡をかけた知的な女性が立っていた。
地味目な服装や髪形、そして手に持った書類が彼女の
いかにも真面目そうな雰囲気を引き立てている。
「あ、いきなりごめん。私はミリア。
この街の訓練所で冒険者名簿を管理する仕事をしているの。
だから、見慣れない冒険者がいるとついつい声かけちゃって。
職業病ってやつ?
気を悪くしないでね」
「いや、別に気にしてないよ」
彼女の一番近くにいたルーシェンが答える。
「そう言ってもらえると助かるわ。そうだ!もしよかったら街を案内してあげようか?
ちょうど用事で、冒険者向けのお店を周らなきゃいけないのよ。
一緒に来れば、お店を探す手間が省けるわ。
それにしても……」
ミリアは言葉を止め、ルーシェンの顔を覗き込む。
「あなたってすごくかっこいいわね」
ルーシェンは現在、小学生くらいのサイズなのだが、
ここに来るまでに同程度の身長しかないおじさんとすれ違った
ことを考えると、この世界では特段奇妙なことでもないらしい。
「お世辞が上手いな」
「お世辞なんかじゃないわよ。
私にもちょっとでいいから分けて欲しいくらい」
ふと、キョウがメイウーに目を向けると、
彼女はルーシェンとにこやかに言葉を交わすミリアを鋭い目つきで睨んでいた。
その感情が表に出ているのか、尻尾が逆立っているのが面白い。
そんなメイウーに気付かず、ルーシェン達は会話を続けていた。
「それじゃあ行こうか!まずは訓練所からね」
そう言って歩き出したミリアに、キョウ達はついて行った。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/12(月) 22:47:28.19 ID:C6P2wBCpo<> 今日の分おわりんぐ!
もうちょっとで長すぎるプロローグが終わる・・・ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/12(月) 23:20:01.92 ID:7wFqdLbr0<> 乙っす。
自然な感じに設定クロスさせてますな。
あと投下するときは一旦ageても良いんじゃないかな、と思ったり。 <>
◆3/d9CFUdyw<><>2012/03/13(火) 21:36:41.46 ID:bf1M0gxZo<> 投下
これでプロローグは終了です
Fate/Zero見てるけど、ウェイバー君がヒロインすぎる
>>41
このレスだけageてみるテスト <>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/13(火) 21:41:02.90 ID:bf1M0gxZo<> しばらくして、キョウ達は再び訓練所を訪れた。
ミリアに様々な施設を紹介してもらったが、
なにをするにもまずは冒険者としての登録が必要らしい。
訓練所の受付で渡された書類に各自の情報を記入していく。
どうやら仲間のステータスや道具の効果、
自身が使える魔法についてはセレブアイコンを扱う要領で
自由に閲覧できるようだ。
ちなみに、猫娘になっていたメイウーはワービースト、
縮んでいたルーシェンはホビットという種族らしい。
リョーコはエルフという種族だったらしいが、
一見すると普通の人間と遜色がない。
髪をかき上げると気持ち大きくなった耳が現れたが、
周囲にいる他のエルフと比べてもやはり人間に近かった。
タオユウはノームとされていたが、リョーコ程の変化すらも見つけられない。
理由は分からないが、見た目は完全に人間だった。
なお、キョウ自身についてはそのまま人間とされていた。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/13(火) 21:42:18.15 ID:bf1M0gxZo<> 「キョウ?」
聞きなれた声に書類を書く手を止めて振り向くと、そこにはミサキ・シズノがいた。
「なぜ先輩がここに? オケアノスにいるはずじゃあ?」
「誰かに呼ばれて、気付いたらこの街にいたわ。あなた達こそどうしてここに?」
キョウはこれまでの経緯を説明しながらシズノを観察する。
見た目には何の変化も見つけられないが、
ステータスを確認すると魔傀儡という種族であるらしかった。
「……という訳で、このゲームをクリアしないとここからは出られないらしい」
「そう。それにしても、あなた達が無事でよかったわ」
「まあ、ここから脱出するのが……」
「ソゴル・キョウ!あんたいつまで……シズノ?」
振り返るとメイウーが立っていた。
その向こうからリョーコ達もやってくる。
「え、シズノ先輩? 先輩もこっちに来たんですか?」
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/13(火) 21:43:20.78 ID:bf1M0gxZo<> 「ええ、こちらでもよろしくね」
「はい! ところで、先輩はどんな職業なんですか?」
「私? 私は……」
そこでシズノは言葉を途切れさせた。
「どうしたんですか、先輩?」
「いいえ、なんでもないわ。私は神女よ。リョーコは……僧侶ね。
あなたらしいわ」
「そうですか? 先輩にそう言ってもらえるとうれしいです」
二人の会話を聞きながらキョウは考えていた。
シズノが言葉を途切れさせた一瞬、彼女が浮かべた表情の意味を。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/13(火) 21:44:24.63 ID:bf1M0gxZo<> シズノとキョウが書類を書き終えしばらくすると、ミリアがやってきた。
「おまたせ。あら、あなたが新顔さん?」
「ええ、シズノよ。よろしくね」
「よろしく。さて、これであなた達も、晴れて冒険者の仲間入りね。
確か、ラグナスティア様のお触れに興味があったみたいだけど」
「ああ、これから王宮へ向かおうと思っている」
「詳しくは知らないんだけど、どうやら王宮でなんらかの試験があるらしいわ。
そんな危険なものではないと思うけど、ちょっとした油断が命取りになるから、
注意してね」
「ああ、気を付けるよ」
「ほらルーシェン、時間がないんだから早く行きましょう!」
ルーシェンとミリアの会話が終わった途端、メイウーがルーシェンの腕を引っ張る。
それにつられるようにキョウとリョーコも訓練所の扉をくぐって行った。
その後ろ姿を見て、シズノの胸がちくりと痛む。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/13(火) 21:47:09.06 ID:bf1M0gxZo<> リョーコに言われて自身のステータスを確認した時に目に入った言葉。
魔傀儡。
どうやら、こんな作り物の世界でも、運命からは逃れられないらしい。
ささいなことかもしれない。
それなのに、これが自身の行く末を暗示しているような、そんな感覚。
「どうしたんだよ、先輩? 早く行こうぜ!」
半開きになった扉の向こうから、キョウが顔をのぞかせる。
「ええ、今行くわ」
シズノは微笑みを返して訓練所を後にした。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/13(火) 21:48:40.45 ID:bf1M0gxZo<> おまけ1
キョウ 人間/侍・中立
Lv1 AC5
メイン:刀
サブ:刀
頭:レザーヘルム
体:鎖帷子
手:革の小手
リョーコ エルフ/僧侶・善
Lv1 AC3
メイン:メイス
サブ:バックラー
頭:レザーヘルム
体:鎖帷子
手:革の小手
足:バスキン
シズノ 魔傀儡/神女・中立
Lv1 AC8
メイン:ランス
頭:レザーヘルム
体:胸当て
手:革の小手
足:バスキン
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/13(火) 21:49:33.90 ID:bf1M0gxZo<> おまけ2
ルーシェン ホビット/盗賊・中立
Lv1 AC5
メイン:ショートソード
サブ:ショートソード
体:革鎧
手:革の小手
足:バスキン
メイウー ワービースト/使用人・中立
Lv1 AC6
メイン:モップ
頭:毛皮の帽子
体:ローブ
手:革の小手
足:バスキン
タオユウ ノーム/錬金術師・中立
Lv259 AC4
体:紋章のローブ
装飾品1:イノセントマント
装飾品2:コウモリのベルト
(武器装備不可、攻撃呪文・攻撃アイテムの使用不可、
装備変更不可、練度20を超える鉱石を用いた錬金不可)
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/13(火) 21:53:57.91 ID:bf1M0gxZo<> 次回よりようやくエルミナージュ2本編の開幕です
ゲームとの同時進行のため、更新頻度は格段に
落ちると思われますがご容赦ください
タオユウが現時点ではかなりのぶっ壊れスペックだったりしますが、
そこは気にしないで頂けると助かります <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/13(火) 22:35:41.46 ID:FEGyUd1m0<> 乙っす。自分がプレイしたときは魔傀儡使わなかったなー
なんか死にやすそうで。 <>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/13(火) 22:42:55.85 ID:R2UU+EZBo<> >>51
ACがやたら高いせいで微妙ですよね
呪文抵抗もイノセントマントがあるおかげで霞むってのがまた… <>
◆3/d9CFUdyw<><>2012/03/20(火) 19:03:22.04 ID:pAKrhl7yo<> 過疎スレってレベルじゃねーぞ!
さて、春休みで帰省してる妹に3DSを
没収されてたので全くゲームを進められていませんが、
とりあえず投下 <>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/20(火) 19:04:59.88 ID:pAKrhl7yo<> この城塞都市のシンボルであるビステール城の一室に、キョウ達はいた。
衛兵の話によると、キョウ達よりも先に女王への謁見を申し出た冒険者がいるらしい。
「なあ、生徒会長。このサーバーには俺達以外にもセレブラントがいるのか?」
物珍しそうに室内の調度品を眺めていたキョウが、唐突に口を開いた。
「僕の知る限りでは、君達以外のセレブラントはいないはずだ。
最も、僕がここに送り込まれた後で侵入したセレブラントがいたとしたら、
分からないけどね」
ソファーに座ったままタオユウが答える。
「なら、今女王に謁見してる冒険者ってのは」
「AI、だろうね。この世界を維持するための行動の一つとしてプログラム
されているんだろう。セレブラントがいないこのサーバー世界を
維持する必要があったのかは疑問だけど」
タオユウの言葉が終わった瞬間、扉の向こうから衛兵が顔を覗かせた。
「お待たせしました。どうぞこちらへ」
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/20(火) 19:05:27.82 ID:pAKrhl7yo<> 衛兵の後について深紅の絨毯を進んでいくと、開け放たれた大扉が見えた。
その向こうには、玉座に座った女性の姿が見える。
年齢はキョウ達とそう変わらないだろう。
「ラグナスティア様に粗相のないようにな」
扉の脇に控える近衛兵の言葉と案内してくれた衛兵を背に、玉座の前へと進む。
ルーシェンとシズノが跪くのを見て、キョウ達もそれにならった。
「頭を上げてください」
言葉に従い、キョウ達は顔を上げる。
見た目通りの可愛らしい声だった。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/20(火) 19:07:22.20 ID:pAKrhl7yo<> 「初めまして。私はこのビステールを治めております、
女王ラグナスティアと申します。本当でしたらこの世界を救うため、
直ぐにでも8つの神具を探して頂きたいのですが、
探すための道具が限られた数しかありません。
そのため、失礼な話なのですが、こちらで試験を用意し、
それに合格した方々のみに道具を配っています」
そう言ってラグナスティアは玉座を立つ。
そばに控える従者の方へと歩を進めながら言葉を続けた。
「試練の場所はロイペス洞窟。
この洞窟にはジュエルリングという物が隠されています」
ラグナスティアは従者から何かを受け取る。
すると彼女は、こちらに向かい歩き出した。
「洞窟からジュエルリングを持ち帰ることができたら、
試験合格です。このコンパスをどうぞ」
キョウはラグナスティアから渡されたコンパスを見る。
装飾が施してあるものの、形状はキョウが知るものと大差ない。
真新しい物に見えるが、その針はどこを指してもいなかった。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/20(火) 19:08:15.43 ID:pAKrhl7yo<> 「これは8神具を探すためのコンパスのレプリカで、
ジュエルリングに反応するようになっています。
言うなれば、神具探しの予行演習のようなものですね」
ラグナスティアは玉座へと戻る。
「さて、コンパスはそのままでは使えません。
動かすためには『フェイム』と呼ばれるものが必要です。
フェイムとは神々に認められた者のみが手にすることのできるもの」
そう言ってラグナスティアはキョウ達へ向けて手をかざす。
すると、その掌から淡い光が溢れだした。
その光の粒が四つ、キョウへと吸い込まれる。
「今回は私のフェイムを四つほどお貸しします。
ロイペス洞窟に入ったら、今渡したコンパスにフェイムを
捧げてください。ジュエルリングの側に来たとき、コンパスは
光で場所を示してくれるでしょう。
それでは、良い結果を期待しています」
そう言ってラグナスティアは一息ついた。
それを見てキョウ達は女王に背を向け、歩き出した。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/20(火) 19:09:16.35 ID:pAKrhl7yo<> 「すみません」
背後に再びラグナスティアの声を受け、キョウ達は振り向く。
「みなさん、つかぬことをお伺いしますが、『天使の小窓』を
お持ちですか?」
そう言ってラグナスティアは首に下げたペンダントを外す。
「この宝石がそうなんですけど、これを覗き込むと自身と周囲の風景が
.まるで空から見下ろしたように映るんです。
これがあると道に迷わず便利なんですが……」
キョウ達は顔を見合わせる。
当然ながら誰も持ってはいなかった。
「はぁ、そうですか。お持ちでない……」
キョウ達の様子を見て悟ったのか、ラグナスティアが口を開く。
「うーん、どうしましょう。誰か。誰かいませんか」
ラグナスティアが扉の外へ呼びかけると先程の衛兵がやってきた。
「天使の小窓って、確か倉庫に一杯ありましたよね」
「はい、ありましたが……、軍事費の穴埋めのために全て売却しております」
「む……そうでした。ありがとうございます。
下がって良いですよ」
「はっ」
一礼をして衛兵は扉へと向かった。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/20(火) 19:11:38.59 ID:pAKrhl7yo<> ラグナスティアは眉間にしわを寄せながらその場を行ったり来たりしている。
最初の女王然とした印象が一転、先程からの彼女はひどく子供っぽい。
年齢を考えるとこちらの方が素なのだろうと考えた後、
キョウは、彼女もまたAIにすぎないということを思い出した。
「ちなみに、残念ながら私のこの小窓は差し上げられないのです。
無いと私がその……困るというか」
そう言ってラグナスティアは少しバツが悪そうな顔をする。
「場内はそこそこ広いので」
と、ここでラグナスティアはタオユウに目を止める。
「あなたは錬金術師ですね。それなら」
そう言ってラグナスティアは扉の向こうへと駆け出した。
しばらくして戻ってきた彼女の背後には小さな袋を持った衛兵の姿が見える。
「この材料を使えば『天使の小窓』を作ることができます。
ロゼッタさんの宿屋にある錬金倉庫を使うといいでしょう。
どうぞお持ちください」
キョウが衛兵から袋を受け取ると、中には拳大の鉱石が二つ入っていた。
「では、そろそろ謁見を終了します。頑張ってくださいね」
そう言ってラグナスティアは微笑んだ。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/20(火) 19:12:52.42 ID:pAKrhl7yo<> 今回分しゅーりょー
次回からようやくダンジョン攻略が始まります(予定) <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/20(火) 23:45:22.77 ID:CmHo9TMi0<> おっつ
説明回だから仕方ないとはいえキョウ達があまりしゃべらんかったなー
さすがにキョウちゃんも女王の前では空気読んでしまったか… <>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/23(金) 21:27:24.43 ID:ppH/0JGYo<> あんま書き溜めてないけど、
とりあえず投下でございます
あー、アルター能力が欲しい
俺のピンチをクラッシュして欲しい
>>61
ラグナ様はいいキャラなのでぜひ絡ませたいんですけどねぇ
次回以降にご期待ください <>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/23(金) 21:28:51.20 ID:ppH/0JGYo<> キョウ達は城門の前に佇んでいた。
タオユウの首には『天使の小窓』がかかっている。
宿泊ではなかったためロゼッタにはがっかりされたものの、
ラグナスティアにもらった材料で錬金自体は無事に完了したのだった。
しかし、キョウ達には別の問題が浮上している。
この街を訪れた時には開いていた城門が閉じているのだ。
「で、これからどうすりゃいいんだ?」
キョウはタオユウに呼びかける。
タオユウはというと、城門の周囲をうろうろしていた。
「よし。みんな、こっちに集まってくれ」
歩みを止めたタオユウがキョウ達を集める。
「これを見てくれ」
そう言ってタオユウが示した先には、古びた石碑があった。
それはとても小さく、一見するとその辺にある石ころにしか見えない。
「ここから、他の街やダンジョンに転送できる。
最も、現時点では例のロイペス洞窟にしか移動はできないみたいだけど」
「そういうところもゲーム的なのな」
「だが、これなら無駄な時間を省ける」
そう言ってルーシェンが石碑へと手を伸ばす。
すると、光のパネルが現れた。
パネルには、ビステールとロイペス洞窟の名前が表示されている。
「なるほど。これで行先をえらべるのか」
「よし、早速行こうぜ!」
キョウの言葉を受け、ルーシェンがパネルを操作する。
次の瞬間、キョウ達は洞窟の入り口へと転送されていた。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/23(金) 21:30:04.06 ID:ppH/0JGYo<> 「ここがロイペス洞窟か。みんな気を抜くなよ!」
「だから、なんであんたが仕切ってんのよ」
再びメイウーの突っ込みを受けながら、キョウ達は洞窟内部へ足を踏み入れる。
洞窟の内部はひんやりとしていた。
外がまるで春のような心地よさだったこともあり、少し肌寒い。
入り口から少し進むと、木製の看板が立っていた。
そこには様々な注意書きの他に、アビ、体力回復の泉のことについて記されている。
「体力回復の泉っていうのはいいとして、アビってなんだ?」
「うーん、キョウちゃん。さっきもらったコンパス、試してみたら?
もしかしたらジュエルリングに関係するものかもしれないし」
「そうだな、やってみるか」
リョーコの提案を受け、キョウはコンパスを取り出した。
キョウが念じると、光の粒がコンパスへと吸い込まれていく。
フェイムが吸収されるごとに、コンパスの中心部が光輝いた。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/23(金) 21:30:53.48 ID:ppH/0JGYo<> 「で、このあとどうすんだっけ?」
「女王の話では、ジュエルリングに近づくとコンパスの光が
その方向を差し示すみたいだけど。この辺りにジュエルリングは無いということかしら」
シズノの言葉にキョウは考え込む。
「うーん。それじゃあとりあえず、
看板にもあったアビってのがなんなのか、確認しようぜ」
「そうね」
「異論はない」
「ルーシェンがそう言うなら私もいいわ」
「行こう、キョウちゃん!」
キョウ達は看板に示された通りに洞窟を進む。
すると、小部屋の中に彫像を見つけた。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/23(金) 21:32:04.70 ID:ppH/0JGYo<> 両手に盾を持った青年の像。
シズノがその像に近づく。
「どうやらこれがアビみたいね」
キョウが近づいてみると、確かに像の台座には『アビ』と記されている。
「ちぇっ、これだけかよ」
そう言ってキョウがアビに触れると、突然彫像が動き出した。
「こんにちは!」
彫像がそう言った瞬間、あたりの空気が一変する。
アビはそれまで立っていた台座から飛び降り、キョウ達の前へと着地した。
「どうやら戦闘になったようだね」
タオユウの冷静な言葉。
「やるしかねぇってのかよ」
キョウ達は武器を構える。
先手必勝とばかりにキョウの白刃が煌めき、
続けてシズノのランスがアビの身体を捉える。
しかし、アビは微動だにしない。
「こいつ、効いてんのか?」
反撃すらしないアビにキョウは不安を覚える。
それでもなお攻撃を続けると、再びアビが動き出した。
攻撃に備えて身構えるキョウ。
しかしそんなことにはお構いなく、アビは台座へと飛び乗ると、
再び静かになった。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/23(金) 21:33:03.53 ID:ppH/0JGYo<> 先程までの張りつめた空気はもう存在しない。
この唐突な静寂を破ったのは、タオユウだった。
「どうやら、これはチュートリアルらしいね」
「チュートリアル?」
キョウが聞き返す。
「戦闘開始時から敵は状態異常に陥っていた。
無抵抗な相手を持ってきて、戦闘がどのようなものか体験させる
ことが目的らしい。実際、結構な経験値も手に入っているしね」
キョウがステータスを確認すると、確かに
1レベル相当の経験値を手に入れていた。
「ようし、それじゃあ……」
そう言ってキョウは再びアビへ触れる。
すると先程のようにアビが動き出した。
「こうすれば、安全にレベル上げができるってことだろ」
キョウはアビへと斬りかかる。
しかし、今回は先程のようにはいかなかった。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/23(金) 21:34:24.44 ID:ppH/0JGYo<> これまで無抵抗だったアビが突然、
キョウへ反撃をしかけてきたのだった。
キョウの攻撃をガードしたアビのシールドが、
そのままキョウの身体を弾き飛ばす。
「生徒会長、話が違うじゃねーか!」
「どうやら状態異常が解除されたようだね」
ルーシェンとシズノの同時攻撃を両手に持ったシールドでいなす。
これまで微動だにしなかったアビからは考えられない動きだった。
と、ここで、タオユウがアビへと手をかざす。
「ロイド!」
タオユウの手から放たれた光線が攻撃行動をとろうとしたアビを捉える。
すると、アビは不自然な態勢でその動きを止めた。
この隙にキョウ達は攻撃を加える。
キョウとルーシェンの刃がシールドを持つ両手を狙い、
シズノのランスとメイウーのモップがアビの身体を貫く。
そしてリョーコのメイスが頭を捉えた直後、
アビは何事も無かったかのように、再び元の台座へと戻っていった。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/23(金) 21:35:50.29 ID:ppH/0JGYo<> 「ふぅ、ひどい目にあったぜ」
「誰のせいよ、誰の!」
メイウーをなだめながら、キョウはタオユウへと向き直った。
「すげぇな、生徒会長。今の、どうやったんだ?」
「呪文で相手を麻痺させたのさ。僕を送り込んだ人間が仕組んだのだろうけど、
僕はレベルがかなり高めに設定されているからね。
錬金呪文も最大回数まで使える。
その代り、攻撃行動や攻撃呪文の使用に制限がかかっているけど」
「へぇ。さっきのやつ、俺にも使えるのか?」
「いや、君は侍だから無理だね。
その代りに魔術師呪文が使えるようになるから、
攻撃に関しては君の方が上だよ」
「じゃあ、私やシズノ先輩は?」
リョーコが話に割り込む。
「残念ながら、君達も錬金呪文は使えない。
代わりに君達は僧侶呪文が使えるようになるから、
僕よりも活躍の場は多いと思うよ」
その言葉にリョーコは満足したようだった。
「ところで、これっていつになったらレベルアップするんだ?
なんかゲージが赤くなってるんだけど」
「ああ、レベルを上げるにはビステールに戻って宿屋に泊る必要があるんだ」
「なら、一回戻ろうぜ。俺の体力もやばいし」
キョウの体力は、アビの攻撃で瀕死寸前になっている。
「キョウちゃん、大丈夫なの?」
キョウの言葉を聞いて、リョーコが不安そうに尋ねた。
「おお、それがもう全然平気なんだよな。
出血もないし、痛みとかも感じねーし」
キョウの言葉にルーシェンが顔をしかめる。
しかし、そのことにキョウは気付かなかった。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/23(金) 21:36:38.13 ID:ppH/0JGYo<> こうしてキョウ達は来た道を引き返す。
元々、ダンジョンの深くに潜っていたわけではない。
程なくして外の光が見えてきた。
「よし、もうすぐ出口だ」
「あ、キョウちゃん」
出口へと駆け出すキョウと追いかけるリョーコ。
しかし、出口が近づいたことに気を抜いていたキョウ達に、
物陰からモンスターの群れが襲い掛かった。
「気を抜かないで!」
二人に追いついたシズノがリョーコへと襲い掛かろうとしていた
コウモリを串刺しにする。
残った敵の数は二体。
体力の少ないキョウは防御行動をとり、ルーシェンとメイウーが
ゼリー状のモンスターへと個別に攻撃を仕掛ける。
しかし、メイウーの攻撃を凌いだ一体は彼女を無視して
キョウへと一直線に襲いかかった。
モンスターの体当たりに防御を崩される。
次の瞬間、キョウの意識は途切れた。
<>
◆3/d9CFUdyw<><>2012/03/23(金) 21:38:19.34 ID:ppH/0JGYo<> 本日の分終了
文章を書く練習がしたくて始めたけど、
地の文むじい……orz <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/24(土) 09:26:53.16 ID:/gM8VfDQ0<> 乙。
地の文、状況は分かりやすく書けてるけど
やや坦々とした感じになってるかも。 <>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/25(日) 01:00:39.63 ID:+ppjxAwZo<> 時間があるうちに投下!
でないとゲームが進められない
>>72
自分でも気になってたので少しずつ改善したいですね
ちなみに初期段階ではもっとひどいっす…… <>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/25(日) 01:01:44.69 ID:+ppjxAwZo<> 誰かが自分を呼んでいる。
最初は注意しなければ聞こえないくらいだったが、
その声は少しずつ大きくなっているようだ。
目を覚まさないと。
重い瞼を持ち上げたキョウの目に最初に飛び込んだのは、
リョーコの泣き顔だった。
他のみんなも心配そうな表情で覗き込んでいる。
「あれ……みんな、どうしたんだ?」
「キョウちゃん!」
リョーコが勢いよく、ベッドに横たわるキョウの首元へ抱き着いてきた。
「カミナギ、苦しいから離れ……」
「バカバカ、キョウちゃんのバカ! キョウちゃんが突然倒れて、
私もシズノ先輩も、みんな心配したんだから!」
リョーコはまだ泣いている。
しかし、キョウには状況が理解できなかった。
さっきまで自分は洞窟にいたはずだ。
キョウが再びシズノ達に目を向けると、
皆一様に安堵した表情を浮かべている。
まだ頭がはっきりしないが、試しに腕に力を入れてみる。
どうやら体は問題なく動かせそうだ。
キョウは未だに涙声のリョーコをゆっくりと引きはがしながら、
上体を起こした。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/25(日) 01:02:48.17 ID:+ppjxAwZo<> 「悪いけど、とりあえず状況を説明してくんね?
俺達はさっきまで洞窟にいたんじゃなかったっけ?」
「そう。そして君は敵の攻撃を受けて倒れた。
何の前触れもなく、な」
「で、油断してやられたどっかの誰かさんを寺院まで運んできたってわけ」
ポーカーフェイスに戻ったルーシェン。
少しトゲのある言い方のメイウー。
いつも通りの二人に、キョウは少し安堵する。
「そっか。みんな、ありがとな。
でも、ここまで運ぶのは大変だったんじゃないか?」
「そうでもなかったわ。
というより、運ぶこと自体の手間は全くと言っていいほどなかったの」
シズノの言葉をルーシェンが引き継ぐ。
「戦闘が終わると、君の肉体は実体を失ってデータ体となった。
タオユウによるとそういう仕様らしい。
あとは、ここに運び入れて治療すれば全て元通り、というわけだ」
「へぇ、それはまあ便利なことで」
「その代り、君たちのデータを運べる者が必要だけどね」
「生徒会長、どこに行ってたんだ?」
「お金を払ってきたのさ。治療にもお金がかかるからね」
そう言って、扉から現れたタオユウは手近な椅子へ腰を下ろした。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/25(日) 01:03:54.94 ID:+ppjxAwZo<> 「話を戻そう。現時点ではダンジョン内で全滅した時に
どうなるかはわからない。
だが、倒れた者が肉体と意識を失うというのであれば、
全滅のリスクが非常に高いということは容易に想像がつく。
最悪、全員意識を失ってこのサーバーが崩壊するまでそのまま、
ということも十分ありえるのだから」
淡々と紡がれるタオユウの言葉にみんなが押し黙る。
当然だ。
そんなことになってしまったら、死んでいるのとなんら変わりない。
傍らではリョーコが身体を震わせている。
ベッドの縁に置かれたその手に、キョウは掌を重ねた。
「すまない、脅かしてしまったようだね。
気休めかもしれないけれど、少なくとも当分の間は大丈夫だよ。
僕のレベルなら、現時点ではよほどのことが無い限り負けることはない。
そう簡単には全滅という事態には陥らないはずだ」
「期待してるぜ、生徒会長!」
務めて明るい声を出すキョウ。
今は『よほどのこと』については考えない方がいい。
少し安心したのか、リョーコの震えも止まったようだ。
キョウはリョーコの手を離すと、勢いをつけてベッドを降りた。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/25(日) 01:04:25.14 ID:+ppjxAwZo<> 「それじゃあ行こうぜ。ゆっくりもしてられないんだろ?」
「そうだな。ひとまずここを出て、宿に行こう。
レベルアップを済ませる必要があるからな」
「じゃあ行こうぜ」
ルーシェンの答えを聞くと、キョウは扉へと向かう。
前へと進まないと、不安に潰されてしまいそうだった。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/25(日) 01:05:50.24 ID:+ppjxAwZo<> キョウが病室を出ていくのを確認して、シズノはルーシェンの腕を掴んだ。
リョーコ、タオユウに続いて扉をくぐろうとしたメイウーが
こちらを見たが、何も言わずに部屋を出ていく。
「大丈夫だ。キョウ達にはまだ言わない」
こちらを振り向いたルーシェンが小さな声で答える。
相変わらずの無表情。
「お願いするわ。今の彼らに、さっきの話は酷だと思うから」
「今のキョウに、だろう? 少し、過保護過ぎはしないか?
今は俺の想像に過ぎないとしても、いずれ真実が明かされるというのに」
「そうね。でも、想像に過ぎないのなら、
今無理に伝える必要も無いのではなくて?
どちらにしても、このことについては知らない方が
みんな幸せだと思うけど」
「確かに。だが俺には、キョウ達がそこまで弱いとは思えないがな」
そう言ってルーシェンは踵を返す。
そんな彼にかける言葉は、もう見つからなかった。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/25(日) 01:06:26.41 ID:+ppjxAwZo<> 彼の言葉を否定するつもりはない。
残酷な真実なら、みんないくつも乗り越えてきた。
ただそれでも、シズノの不安を消すことはできなかった。
『さよならだ――』
そう言ってかつてのキョウはゼーガを自爆させた。
恋人であるシズノを残して。
シズノから昔の話を聞くたびに
現在のキョウは過去の自分のあり方を否定していたが、
その本質は変わっていないように思える。
ガルズオルムのこと。
友人のこと。
そして、リョーコのこと。
キョウは事あるごとに一人で抱え込み、悩んでいたように思う。
以前の彼が死を選んだのも、そういったことの積み重ねだったのだろう。
キョウには二度と、そんな選択はして欲しくない。
幸せになって欲しい。
それがたとえ、シズノ自身には許されないとしても。
<>
◆3/d9CFUdyw<><>2012/03/25(日) 01:08:50.18 ID:+ppjxAwZo<> おわりんぐ。
次からまたダンジョン編の予定です。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/25(日) 09:00:32.27 ID:qMMXcyaS0<> おっつ。
ロストしたらどうなるんだろう…
カミナギリョーコ、ロストしました…とかなったら恐ろしいぜ
喪失の扉、出てんの知らなかったので注文してみた楽しみ <>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/27(火) 23:14:31.35 ID:evJ+yy6go<> 投下。
>>81
その辺はまあ、おいおい。
喪失の扉を読むと続編を期待してしまう…… <>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/27(火) 23:18:13.51 ID:evJ+yy6go<> リョーコの提案による、回復の泉を起点とした探索は順調に進んでいた。
途中、ワープの仕掛けにより位置座標が分からなくなることはあったものの、
小まめなレベルアップを重ねていたキョウ達にとっては
元の場所へ戻ることもそう難しいものではなかった。
敵の落とすアイテムからも、少しずつではあるが良い装備品を入手できている。
偶然酒場で出会った飲んだくれ司教のおかげで、
アイテムの鑑定にお金が掛からなくなったのも大きい。
なお、数度の戦闘を経て、ダメージを受けても痛みや出血はないが、
切り傷や火傷などは外面に表れるということが判明した。
最もこれも、呪文や薬品による回復で跡形も無く消えてしまうのだが。
「さて、これで行けるところは大体回ったか?」
「そうね。残っているのは、さっきのワープ地点だけみたい」
キョウの広げた地図を覗き込むシズノ。
その背中には今、ランスではなく大剣が背負われている。
カーネル商店に飾られていた逸品だったが、
資金に余裕のあったキョウ達にはもはや、
手の届かない物では無くなっていた。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/27(火) 23:18:54.35 ID:evJ+yy6go<> 事実、この『フランベルジュ』のおかげでこのダンジョンに
現れる敵のほとんどを一掃できるようになっている。
その反面、種族補正のせいで撃たれ弱いシズノを
前衛に立たせることには不安が残っていた。
「よし、それじゃあ行ってみようぜ。
さっき街に戻ったばっかだし、まだ誰も消耗してないだろ?」
「そうね。さっきの感じだと敵もそんなに強くないだろうし」
「みんなもそれでいいか?」
みんなの同意が得られたのを確認して、キョウ達はその場を後にした。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/27(火) 23:20:05.70 ID:evJ+yy6go<> ワープ地点の先を進んでいくと、人の声が聞こえてきた。
近づいてみると、男女の三人組が目に入る。
どうやら言い争いをしているらしい。
女性の怒鳴り声が耳に突き刺さる。
「だから、どうして開かないのよ!
なんのために貴方を雇ったと思ってるの!」
「だから何度も言ってるだろ?
この扉は特別な施錠がされてて、俺には開けられないの!」
「気合が足りないんじゃなくて!?」
「気合でどうにかなるかよ!
これを開けるには、仕掛けをどうにかする必要があって……」
「だから! その仕掛けをさっさと解除しなさいって言ってるの!」
「だぁかぁらぁ!まずはどっかにあるその仕掛けを見つけなきゃなんねぇんだって!」
見かねたもう一人の男性が仲裁に入る。
「まあまあ、仲間割れは止め……」
「そもそも! 盗賊を誘おうと言い出したのはあなたよね!?
責任とりなさい。扉を開けるまで街に帰ってこなくていいから」
反論する暇も与えず言い放つと、女性は杖をかざす。
次の瞬間、女性の姿は影も形も無くなった。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/27(火) 23:21:41.34 ID:evJ+yy6go<> 「あぁぁぁ! なんなんだよあのアマァ!?
頭湧いてんじゃねえのか!?」
「仕方ないなぁ。じきに戻ってくるよ。
それまでに、仕掛けを探しておこうぜ?」
「……お前、それでいいの?」
「もう慣れちゃったよ。諦めの境地、ってやつ?」
そう言った男は肩を落として周囲を見回す。
どうやらこちらに気付いたらしく、
盗賊の肩を叩くとその場を小走りに後にした。
「とりあえず、あそこを調べてみるか」
何とも言えない気分になりながらも、
キョウ達は誰もいなくなった扉の前に立つ。
扉は固く閉ざされており、鍵穴も見当たらない。
「どこかに仕掛けがあるって言ってたよね」
扉を触っていたリョーコが口を開く。
彼らの言葉を信じるなら、この扉は盗賊である
ルーシェンにも開けられないはずだ。
「そだな。まずはそれを探すか」
キョウ達は探索を再開した。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/27(火) 23:22:51.74 ID:evJ+yy6go<> 途中、いつものように小部屋へ入ると、コンパスが突然輝きだす。
コンパスから放たれる光は、方角からすると先程の扉の先へと伸びているようだ。
ゴールは近い。
テンションを上げるキョウ達だったが、問題はそこからだった。
仕掛けが見つからない。
いくら扉をくぐっても、それらしいものは何一つ見当たらない。
「だーっ! 仕掛けなんてどこにあんだよ!」
「キョウちゃん落ち着いて。叫んだって見つかんないよ。
ちゃんと探さなきゃ」
そう口にするリョーコにも疲れの色が見える。
ここに来てから肉体的な疲労を感じることはなくなっていたが、
どうやら精神的なものは別らしい。
落ち着いて仲間を見渡す。
さっきはイライラから思わず叫んでしまったが、
他のメンバーもやはり焦燥にかられているようだ。
実際、さっきから何度も同じ場所を行ったり来たりしている。
ましてや、ゴールが近いことを知らされた後だけにこれはキツイ。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/27(火) 23:23:51.70 ID:evJ+yy6go<> 「地図を見せてくれないか?」
立ち止まったキョウは地図を取り出すとルーシェンに放り投げる。
ルーシェンはそれをキャッチすると、手近な岩に腰を下ろした。
他のメンバーも思い思いに休息を取る。
ずっとうろついていたせいか、周囲に敵の姿は見えない。
キョウもその場に腰を下ろすと、ルーシェンの方に視線を向けた。
彼は自身のステータスを確認しているようだった。
さっき渡した地図は、丸めて膝の上に置いている。
何のためだろう?
もしかしたら、みんなには休息が必要だという判断だったのかもしれない。
そんなことを考えていると、ルーシェンがみんなを呼び寄せた。
地図を再び広げると、ある一点を指さす。
「この辺りだけ、不自然に空白ができている。
目的のものはここにあると考えるのが妥当だろう」
「けどよ、この周辺に道なんてあったか?」
「そのことなんだが、盗賊のスキルを調べてみると隠されたドアを
見つける、というのがあった。
この地点を集中的に調べれば、何かが見つかるかもしれない」
「さっすがルーシェンね」
メイウーは今にも飛び上がりそうなくらいに喜んでいる。
ルーシェンのおかげで、他のみんなもモチベーションを取り戻したようだ。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/27(火) 23:24:51.76 ID:evJ+yy6go<> キョウ達は問題の地点へと足を運ぶ。
ルーシェンがくまなく調べると、
拍子抜けするくらいにあっさりと隠し扉が現れた。
「こんなに簡単なことだったとはな」
そう言って先を進むルーシェンについて行く。
幾度か敵の襲撃があったものの、シズノの持つフランベルジュのおかげで
ほとんど消耗すること無く退けることができた。
先へと進むと、鍵のかかった扉を見つける。
ルーシェンはそれを何事も無かったかのように開けると、中へと侵入した。
つづいてキョウが中へ入ると、ルーシェンが壁の一点を指差す。
近づいてみると、岩壁の中に他とは違う突起を発見した。
一見しただけでは決して気付けなかったであろう仕掛けを
直ぐに見破ったルーシェンに、キョウは舌を巻く。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/27(火) 23:26:13.66 ID:evJ+yy6go<> 「すげぇな、ルーシェン」
「それほどでもないさ。
それより、このボタンを押したら直ぐに扉へと向かうのか?」
「何か問題でもあるのか?」
「女王はこれを試練だと言っていた。
それならば、ただスイッチを押して終わり、
という訳にはいかないだろう」
「そっか。確かにこれで終わりなら、どっかの誰かが棚ボタ的に
ジュエルリングを手に入れることがありえるもんな。
本番はここからって訳か」
「そうだ。最後まで気を抜かない方がいい」
「よし、それなら一度回復の泉まで戻って、
それから扉へ向かうってことでいいな?」
「異存はない。そうと決まれば急ごう」
「おう!」
他の誰かに先を越されてはたまらない。
キョウ達は泉へと急いだ。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/27(火) 23:28:00.62 ID:evJ+yy6go<> 泉にて回復を済ませたキョウ達は、再び仕掛け扉の前に立っていた。
キョウが扉へ手を伸ばすと、扉は音を立ててゆっくりと動き出す。
その扉を抜けたキョウ達の視線の先に、人影が浮かんだ。
近づいて目を凝らすと、そこには魔術師風の老人が立っている。
「むっ……何奴?」
老人が口を開く。
「ほう、そのコンパスは……なるほど。
無事ここまで辿りつく者がいるとはな」
老人は口元を歪める。
そこには、嫌な笑顔が浮かんでいた。
「どうだ、冒険気分は味わえたか?
……さぞ楽しかったであろう。
だが、世界に一歩足を踏み出せば、
そこには辛く苦しいだけの旅が待っている。
楽しい冒険など、どこにも……」
「それでも、俺達は先へと進む」
老人の言葉を制し、進み出るルーシェン。
言われるまでも無い。
俺達はこんなところで立ち止まってはいられないんだ。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/27(火) 23:29:21.00 ID:evJ+yy6go<> 「説教はいいからさっさと決着をつけようぜ、じいさん!」
キョウが剣を抜いたのを合図に、皆も戦闘態勢に入る。
「まったく。やはり冒険者は馬鹿揃いか。ならば……」
そう言って老人が腕を振り上げると、土煙が巻き起こった。
それは老人とキョウ達の間に留まり、巨大な人型を形作る。
「ビステール魔術局長アルケロンと、自慢のゴーレムがお相手しよう。
なあに、馬鹿の扱いには慣れている」
「馬鹿馬鹿うっせぇよ、バーカ!」
キョウがアルケロンへと斬りかかる。
しかし、その攻撃はゴーレムに阻まれた。
キョウの攻撃を受けてもゴーレムはひるむことなく、拳を振り上げる。
「これなら!」
シズノがフランベルジュを使用したのだろう。
キョウがゴーレムの反撃を回避した瞬間、敵が炎に包まれる。
しかし、その炎の中から新たに一筋の炎が生まれ、シズノを襲った。
「先輩!」
「心配ないわ」
駆け寄るリョーコをシズノが制す。
炎に包まれたというのに、シズノには火傷ひとつない。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/27(火) 23:30:30.68 ID:evJ+yy6go<> 「ほう。貴様、魔傀儡だったのか。精巧すぎて気づかなんだわ」
そう言い放つアルケロンにもダメージを受けた様子はない。
広範囲への火炎攻撃であっても、
ゴーレムの壁を突破することはできなかったようだ。
「続けろ、シズノ! 先にこいつを片付ける!」
ルーシェンがゴーレムへと突撃する。
注意を自身へと引きつけるためだろう。
付かず離れず、一撃を入れ続ける。
ルーシェンの戦法に倣い加勢すると、
ゴーレムはその挙動を乱し始めた。
どうやら、見た目通りに頭は良くないらしい。
キョウとルーシェンのどちらを狙えば良いか
分からなくなっているようだ。
二人による波状攻撃の合間を縫い、
シズノの火炎がゴーレムを襲う。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/27(火) 23:31:55.75 ID:evJ+yy6go<> これなら、と考えた瞬間、
横合いから放たれた火炎がキョウを襲った。
「ワシを忘れてもらっては困るな」
二度、三度と放たれる火炎。
直撃を受けたキョウは壁際まで吹き飛ばされる。
「まずは貴様からだ」
アルケロンの炎がキョウを襲う。
これは防ぎきれない。
思わず目を閉じる。
しかし、高熱がキョウを襲うことはなかった。
キョウが目を開けると、柔らかな光が身体を包んでいるのが分かる。
「僕を忘れてもらっても困るね」
声の主はタオユウ。
彼の呪文が、アルケロンの呪文攻撃を無効化しているようだ。
「キョウちゃん!」
「受け取りなさい!」
リョーコの呪文とメイウーの投げた薬により、
キョウの体力は最大まで回復する。
キョウへの攻撃に集中し過ぎたためか、
アルケロンを守護するはずのゴーレムは遠い。
今が好機とばかりにキョウは襲いくる火球を潜り抜け、
アルケロンへと接近する。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/27(火) 23:33:08.81 ID:evJ+yy6go<> タオユウの呪文でも無効化できなかった炎がキョウの鎧を焦がす。
それでもキョウは止まらない。
肉薄されたことにより火炎攻撃を封じられたアルケロンが、
杖を振り下ろす。
キョウはそれを左の得物で受け流すと、渾身の一太刀を浴びせた。
「うぐっ。おのれぇ……」
斬られた傷を押さえ、よろめくアルケロン。
その先に、炎に包まれたゴーレムの身体が崩れ落ちていくのが見えた。
どうやら向こうでも決着がついたらしい。
アルケロンへと刃を突きつける。
「じいさん、まだやるか?」
「くっ、ワシの負けか……!」
膝をつくアルケロン。
「……務めて明るく振る舞っておいでだが、
冒険者の訃報を聞くたびに女王がどのような表情を
なさっているか、貴様らは知っているか?」
絞り出すようなアルケロンの声。
鬼気迫るその様子に、誰も声を発することができなかった。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/27(火) 23:34:02.19 ID:evJ+yy6go<> 「金が欲しいのか名誉が欲しいのか知らんが、
そのような愚か者のために女王が悲しむ姿は
見たくなかったというのに……ワシも衰えたものだ」
自嘲的な笑みを浮かべるアルケロン。
そのまなざしがキョウの視線と交わる。
「ジュエルリングはこの先にある。
欲しければ持って行け。
これからの健闘を祈るくらいはしてやろう」
「ありがとな、じいさん」
ふん、とそっぽを向くアルケロンを置いて、キョウ達は先へと進む。
扉を抜けた先の部屋に足を踏み入れると、
コンパスの光がその部屋の中心点へと走った。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/27(火) 23:35:01.76 ID:evJ+yy6go<> 光が示す場所へと近づくと、突然の震動が足元を襲う。
直後。
地面が割れ、小さな台座がキョウ達の目の前に現れた。
その中心部には小さな指輪が鎮座している。
コンパスの光は、その指輪に付いた宝石に吸い込まれていた。
「これが……」
キョウが指輪を手に取った瞬間、コンパスは光を失う。
照らす光を失ってもなお、
ジュエルリングが輝きを失うことはなかった。
「ミッションクリア、だね」
ジュエルリングの光が、覗き込むリョーコの笑顔を照らしていた。
<>
◆3/d9CFUdyw<><>2012/03/27(火) 23:40:07.07 ID:evJ+yy6go<> 今日の分しゅーりょー。
次回でジュエルリング編は完結する予定です。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2012/03/27(火) 23:51:51.89 ID:y1algPlBo<> PTの現状(Lvとか所持アイテムとか)が知りたいなー(チラッ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州)<>sage<>2012/03/29(木) 15:23:27.69 ID:sy4Vl9BAO<> セレブラント得、略してセレ得すぎるSSだ
続き期待してます <>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/29(木) 22:45:29.51 ID:PpjRFb0Go<> 残業で疲れた身体にミキオの歌が心地よい……
年度末で忙しくて更新できるか微妙なので、
代わりに>>99さんの要望に応えようかと思います。
>>100
ありがとうございます!
あまりにも人がいな過ぎて、
『更新直後に自演してる痛い子』
にしか見えないよねーって自虐ネタをいつ切ろうかとか
考えていたところだったのです。
いや、マジで。
画面の向こうでROMってるみんなはこの寂しがり屋の>>1に
いっぱいレスをするといいよ!
……えっ?
そんな奴はいない?
ですよねー……
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/29(木) 22:49:27.49 ID:PpjRFb0Go<> キョウ 人間/侍・中立
Lv6 HP39 AC4
メイン:刀
サブ:刀
頭:レザーヘルム
体:鎖帷子
手:革の小手
足:わらじ
リョーコ エルフ/僧侶・善
Lv6 HP33 AC3
メイン:メイス
サブ:バックラー
頭:レザーヘルム
体:鎖帷子
手:革の小手
足:ブーツ
シズノ 魔傀儡/神女・中立
Lv6 HP35 AC7
メイン:フランベルジュ
頭:レザーヘルム
体:胸当て
手:革の小手
足:ブーツ
装1:旅のマント <>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/29(木) 22:55:22.39 ID:PpjRFb0Go<> ルーシェン ホビット/盗賊・中立
Lv6 HP29 AC5
メイン:ショートソード
サブ:ショートソード
頭:レザーヘルム
体:革鎧
手:革の小手
足:バスキン
メイウー ワービースト/使用人・中立
Lv6 HP34 AC5
メイン:モップ
頭:毛皮の帽子
体:グリーンローブ
手:革の小手
足:バスキン
使用人鞄
傷薬×31
毒消し薬×5
麻痺消し薬×5
タオユウ ノーム/錬金術師・中立
Lv259 HP932 AC4
体:紋章のローブ
装飾品1:イノセントマント
装飾品2:コウモリのベルト
(武器装備不可、攻撃呪文・攻撃アイテムの使用不可、
装備変更不可、練度20を超える鉱石を用いた錬金不可) <>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/03/29(木) 22:59:35.16 ID:PpjRFb0Go<> 追加。
タオユウは『天使の小窓』
を所持してます。
今週末には更新できるといいなぁ…… <>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/04/01(日) 16:21:34.50 ID:Iil4CvY5o<> 投下。
今回でジュエルリング編が終わると言ったな?
あれはウソだ。 <>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/04/01(日) 16:22:51.44 ID:Iil4CvY5o<> 「なんかさ、このサーバーのAIって凄く人間っぽいのな」
ジュエルリングを手にしての帰り道。
出口を目前にして、キョウは誰に言うともなしに話を振った。
「それを言うなら、オケアノスのみんなもじゃない?
ミーちゃんもフォセッタさんも、
パネルに表示されてなかったとしたら
人間と見分けがつかないと思うけど」
「いや、普通の人間はあいさつ代わりに
各地の天気予報をしないだろ。
ていうかカミナギ、前から気になってたんだけど、
なんでリチェルカのこと、ミーちゃんって呼ぶんだ?」
「あれ、言わなかったっけ?
私が初めてオケアノスに来たとき、
機密に触れるからってみんなの名前を
教えてもらえなかったんだ。
それで、不便だったから昔飼ってたカメの名前を――」
リョーコの言葉に小さな笑いが巻き起こる。
「もう、ルーシェンさんまで」
「いや、すまない。
しかしそうだな……
俺も昔、とあるサーバーで人間にしか見えない
AI達に出会ったことがある。
後でわかったことだが、そのAI達はサーバーに
入ることのできなかった人間や、
入ることを拒んだ人間の人格をできるかぎり
再現するように構築されていた。
もしかすると、ここのAI達にも基になった人間が
いるのかもしれないな」
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/04/01(日) 16:23:47.71 ID:Iil4CvY5o<> そう話すルーシェンはどこか遠くを見つめていた。
穏やかな表情を浮かべ、何かを懐かしむように。
「さて、ジュエルリングを城に届けたら
酒場に行って一息つこう。
俺も茶が恋しくなったしな」
「ここに烏龍茶なんてあるのか?」
「あるさ。さっき行った時に確認済みだ」
楽しそうに語るルーシェン。
その腕が突然、キョウ達を制するかのように動いた。
先程までの笑顔は最早存在しない。
ルーシェンの視線の先。
そこにはこちらへと一心不乱に駆けてくる
金髪の少年の姿があった。
少年の背後には漆黒の鎧を身に纏った男。
どうやら少年は追われているらしい。
即座に態勢を整えるキョウ達。
しかし、少年はこちらに気付かない。
ぶつかりそうになったルーシェンがとっさに少年を
受け止めようとするが、勢いよく突っ込んでくる彼を支えきれずに
二人とも倒れてしまった。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/04/01(日) 16:25:15.74 ID:Iil4CvY5o<> 「いたた……あっ、ごごご……ごめんなさい!!」
追いかけられていることも忘れたのか、
ルーシェンへと懸命に謝る少年。
そこへ、黒づくめの男が近づいてくる。
「はっはっはっ!
甘いですよミルコ様!!
このゼファルから逃げられると思うのですか!?」
男が少年の首筋を掴んでぶら下げる。
「……ん?
なんです、そこの者達は?」
ここでようやくこちらに気付いたらしい。
ゼファルはジタバタと暴れるミルコを地面に
下ろして問いかける。
「ちょっとぶつかっちゃって……
お怪我はありませんか?」
「どうやら、この大地の者みたいですわね」
少年達が来た方角から新たに三つの影が現れる。
そのうちの一人、エプロンドレスに身を包んだ女性が、
翼を持つ巨大な獣の首筋を撫でながら語りかけてきた。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/04/01(日) 16:26:16.10 ID:Iil4CvY5o<> 「ってことは、敵かな〜?」
続いて口を開いたのは白い翼を背に持つ少女。
間延びしたしゃべり方からおっとりとした印象を受けるが、
その手には鈍い輝きを放つ槍が握られている。
「久しぶりの得物じゃねーかエルピーナ。
さっさとぶっ殺して喰っちまおうぜ!!」
「ほらほら、落ち着いてザッパー。
ヘス様が追いつくまで待ちましょうね〜」
少女の名はエルピーナというらしい。
先程の女性と共にザッパーの艶やかな毛並みへと
手をくぐらせる。
「グルティア、ザッパー!
なんじゃこれは!
まったく、騒がしい」
老人がこちらへと走ってくる。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/04/01(日) 16:27:05.26 ID:Iil4CvY5o<> 「ほら、ヘス様!
ミルコ様の初陣ですのよ!
応援しましょう!」
「で、でも勝てるかな……」
エプロンドレスの女性、グルティアが嬉しそうに
ヘスへと話しかけるのとは対照的にミルコは不安そうだ。
「いいからいいから、行ってらっしゃいませ。
私たちはここで見守っていますよ!」
ミルコの言葉には聞く耳持たず、
グルティアがミルコの背中をこちらへと勢いよく
押し出した。
「え、ボクひとり?
みんなは一緒に戦ってくれないの?」
「もう、坊ちゃまったら!
お手伝いなどしたら、せっかくの初陣に
泥を塗ってしまいます。
ささ、お・ひ・と・り・で!」
「ええ、でも……」
「ほらほら、坊ちゃまの雄姿を、
このグルティアに見せてくださいな!」
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/04/01(日) 16:27:41.73 ID:Iil4CvY5o<> 彼女の言葉で、ミルコもその気になったようだ。
体格に似合わない大剣を構える。
しかし、キョウはそれよりもグルティアの方が気になっていた。
彼女の瞳には、なにかドス黒い思いが
渦巻いているように思えるのだが……。
「じゃあ、やっつけてくるね!
グルティア、見ててねー!」
そんなことには全く気付かないミルコは
グルティアに向けて無邪気に手を振ると、
一直線にこちらへと突っ込んできた。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/04/01(日) 16:28:25.72 ID:Iil4CvY5o<> 最短距離にいるルーシェンが迎撃する。
さっきぶつかった負い目からか、一瞬ミルコの動きがにぶる。
しかし気を取り直したのか、
手にした大剣を勢いよく振り下ろした。
ルーシェンはその一撃を回避せず、より一層距離を詰める。
両手のナイフでその攻撃を受け止めると、
大剣を握りしめるミルコの両手を思いきり蹴り上げた。
その衝撃に耐えきれず、大剣が宙を舞う。
呆気にとられるミルコの鳩尾を、ルーシェンの掌底が捉えた。
ミルコの身体が地面を転がる。
しばらくして立ち上がったものの、
身体は擦り傷だらけで足元もおぼつかない。
目には涙を浮かべており、今にも泣きだしそうだ。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/04/01(日) 16:29:25.29 ID:Iil4CvY5o<> 「おい、ルーシェン。やりすぎじゃないか?」
「すまない。本気で攻撃を繰り出してきたのでつい、な」
「あらあら坊ちゃま〜。痛々しいですわね〜」
グルティアがニコニコしながらミルコへと近づく。
その笑顔がミルコを送り出す時よりもずっと嬉しそうなのは、
キョウの気のせいではないだろう。
続いてやってきたゼファルはミルコへ向けて怒鳴り散らしている。
どうやら先程の戦い方へのダメ出しをしているようだ。
「ど、怒鳴らないでよ!
そんなにガミガミ言われたら頭に入らないよ!」
「ミルコ君、馬鹿だもんねー」
「馬鹿じゃないよ!」
気の抜けたエルピーナの言葉へ即座に反論するミルコ。
悪意がなさそうな彼女だが、意外に口は悪いようだ。
「皆様、お言葉がすぎますよ」
グルティアが真面目な顔でゼファルとエルピーナをたしなめる。
口をつぐんだ二人を見て、再び口を開いた。
「坊ちゃまは少々オツムが可哀想なんです。
もっと哀れみをもって接して頂けます?」
しかつめらしい顔をして、一番酷いことを
平然と言ってのける。
よく見ると、その目元は非常に楽しそうだった。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/04/01(日) 16:30:23.33 ID:Iil4CvY5o<> 「そうだった!
ごめんねー、半熟未熟なミルコ君」
「申し訳ありません、ミルコ様。
戦に負けた敗者をさらに追い詰めるとは、
騎士道に反する行いでした」
言いたい放題のみんなに、ミルコは落ち込んでいる。
傍から聞いていても、彼らの言葉からは
悪意しか感じられない。
「ヘス……ボク、そんなにダメな子?」
「えっ!?それは……
そ、そうじゃ、坊ちゃまはアレじゃ、大器晩成型なんじゃろ!?」
誰に同意を求めているのだろう。
ヘスは続ける。
「今はこんなでも、いつか立派にレンザー家を
しょって立つ君主に……」
「こんな、って……」
いよいよミルコはいじけてしまった。
メンバーの中で唯一まともそうな人物がフォロー下手とは。
襲い掛かってきた相手とはいえ、ミルコが可哀想になってきた。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/04/01(日) 16:31:09.55 ID:Iil4CvY5o<> 「では坊ちゃま、手当てをしましょう。
じっとしててくださいね〜」
何事もなかったかのようにミルコの傷口へ薬を塗るグルティア。
傷薬とは思えない毒々しい色をしているのが気になるが――。
「痛いっ! 痛い、しみる、グルティア!」
「お薬ですもの、仕方ありませんわ。
ほら痛い。ほらっ! ほらぁ〜!」
痛みに悶えるミルコを押さえつけて、
手にした薬を塗りたくるグルティア。
とてもいい笑顔を浮かべている。
「あの人ってサディスト?」
「俺に聞くなよ」
「それにしても――」
唐突にこちらを見るグルティア。
ヤバっ、と言って、話しかけてきたリョーコが身体を硬くする。
しかし、グルティアの視線はルーシェンを向いていた。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/04/01(日) 16:32:12.39 ID:Iil4CvY5o<> 「ミルコ様に比べて、あの方のなんと凛々しいこと。
体格もほとんど変わらないというのに、
動きのキレから立ち居振る舞いまで何もかもが
素晴らしいですわ」
「うむ、確かに。
斬りかかる相手の懐に飛び込むなど、中々できることではない。
それもただ無謀なわけではなく、自らの得物のリーチや
相手との力量差まで見切っての行動だった。
あのような者がレンザー家の当主であれば良かったのだが」
そう言ってミルコに目をやるゼファル。
その怜悧な眼は、人を殺せそうなほどに鋭い。
「坊ちゃま、あなたはスピードと力と知恵と技術と根性が
ありません。
次の時までに、そこをフォローできる戦術を組み立てるのです」
「フォロー……?
えと……じゃあ、ぼくの撮り得って?」
「そんなもの、あるならこっちが聞きたい!」
ミルコの言葉を切って捨てるゼファル。
グルティアもためらいながら口を開く。
「坊ちゃますみません。
正直なところ、先程の少年に対して坊ちゃま
が勝っているところなど、ワタクシには思いつきません
見た目でも負ける坊ちゃまなど、存在意義があるのでしょうか?」
全く謝っていない。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/04/01(日) 16:32:57.51 ID:Iil4CvY5o<> 一方のミルコは立ち直るのにまだ時間がかかりそうだ。
「と、とりあえず今日はこれで許してやる!
次は、絶対にやっつけるからね!」
涙目になりながらもそう言い放つと、ミルコは駆け出した。
その後にゼファル達が続く。
出口で最後尾のグルティアがこちらに向き直ると、
ごきげんよう、と一礼して姿を消した。
「なんだったんだ、アレ」
「さぁ……」
思わずリョーコと顔を見合わせる。
とりあえず分かったことは、
彼らとはいつか再び出会うだろうということ。
そして、あのグルティアという人物が色々な意味で
最も恐ろしい相手だということだった。
<>
◆3/d9CFUdyw<><>2012/04/01(日) 16:35:53.33 ID:Iil4CvY5o<> おわりんぐ。
ライバルパーティーのセリフをカットするのが
もったいなくて予定の倍くらいの文章量に……
次こそジュエルリング編完結です <>
名無しNIPPER<>sage<>2012/04/02(月) 00:52:36.35 ID:zMkPbXcAO<> 乙です
ドラマCDや小説のネタも入ってて嬉しい
やはりカミナギの存在は癒しだ <>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/04/02(月) 23:27:44.62 ID:RZgM2YiSo<> ロイペス洞窟を後にしたキョウ達は再びビステール城を訪れていた。
衛兵に案内されて謁見の間に入った途端、
ラグナスティアが駆け寄ってくる。
「皆さん! ジュエルリングは見つかったのですか!?」
「おう。こいつだろ?」
キョウの差し出した指輪を目にして、ラグナスティアの
口元がほころぶ。
「あらためてもよろしいでしょうか」
指輪へと伸ばされたラグナスティアの指が一瞬、
キョウの掌へと触れる。
ひんやりとしていて、柔らかな感触。
その手入れの行き届いた美しい指が、
ジュエルリングを陽光にかざす。
「はい、確かにジュエルリングです。
……皆様になら、お願いできるかもしれません」
先程までの笑顔を一変させ、
真剣なまなざしで見つめるラグナスティア。
それは最早年相応の少女ではなく、
一国を預かる責任を負う女王の姿であった。
「事態は深刻です。
この大地を創られた女神、フィオナ様は『聖礎コントラキオ』に
その名を刻むことでこの大地の主権を維持しておられます。
しかし、深い眠りについていた太古の邪霊が甦り、
コントラキオからフィオナ様の名前を消し去ってしまったのです」
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/04/02(月) 23:28:38.15 ID:RZgM2YiSo<> 言葉を切り、玉座へと戻るラグナスティア。
その足取りは彼女の言葉を反映しているかのように、重い。
「邪霊は闇の眷属と手を組み、コントラキオに自らの名を刻むことで
この大地を乗っ取ろうとしています」
「闇の眷属?」
「はい。彼らについては、ほとんどが謎に包まれています。
分かっているのは、彼らがこの世界とは違う、どこか別の場所
より現れるということ。
そして、その多くがこの大地の廃滅を望んでいるということです」
その言葉に、キョウは先程の少年達を思い出す。
彼らは最初、キョウ達のことを『この大地の者』と呼んでいた。
そのことを聞いたラグナスティアは、眉をひそめる。
「おそらくはその者達もまた、闇の眷属なのでしょう。
お話によると大した力を持たぬ者もいたようですが、
そのような者までこの大地に侵入できるほどに
フィオナ様のお力が弱まっているということなのかも
しれません」
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/04/02(月) 23:29:20.94 ID:RZgM2YiSo<> 「もし、その太古の邪霊に大地が乗っ取られたらどうなる?」
ルーシェンの言葉に、ラグナスティアは目を伏せる。
「大地の主権が変わるということはフィオナ様の庇護を
失うということ。
そうなればこの大地は闇の眷属に攻め滅ぼされ、
我々は全てを失うことになるでしょう」
「俺達はどうすればいい?」
「フィオナ様の庇護を再び得るには、
聖礎コントラキオにフィオナ様の名前を
刻みなおさなければなりません。
それには以前お話しした、8つの神具による承認が必要です。
大地の守護者が持つべきとされる8つの美徳を象徴した神具。
すなわち、怒りの剣、慈愛の盾、希望のティアラ、
知性の胸当て、調和のブレスレット、勇気の靴、
喜びのアンクレット、悲しみのピアスの8つです」
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/04/02(月) 23:30:06.83 ID:RZgM2YiSo<> 「それがあれば、問題は解決するんだな?」
「はい。ですがこのうち、怒りの剣と悲しみのピアスは
既に邪霊の手に渡っていると聞いています。
皆さんには、何としても残りの6つを手に入れて
頂きたいのです」
そう言ってラグナスティアは玉座から立ち上がると、
傍らに置いてあった小箱を手に取った。
そこから何かを取り出すと、再びキョウ達の方へ
歩みを進める。
「これが神具を探すためのコンパスです。
受け取ってください」
差し出されたコンパスを手に取る。
ジュエルリングのものより古びており、
中心部を取り囲むように8つの水晶が埋め込まれていた。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/04/02(月) 23:31:27.14 ID:RZgM2YiSo<> 「使い方はジュエルリングのコンパスと同じです。
人々の想いや願いを聞き入れ、相応のことを
成し遂げた時、フェイムがもたらされることでしょう」
ここでラグナスティアは言葉を切る。
気付けば彼女の表情には不安が浮かんでいた。
「危険なお触れを出しておいて、おかしなことを
言うようですが、必ず生きて帰ってくると
約束してください。
任務も大事ですが、皆さんの命が何よりも大切なのです」
か弱い少女に戻った彼女は、今にも泣きだしそうな
顔をしていた。
アルケロンの言葉が思い出される。
AIの決まりきった反応であると言ってしまえば
それまでだが、それだけではない何かをキョウは感じていた。
「あったりまえだろ! ちゃんと生きて戻ってくるって!」
大げさに振る舞うキョウに、ラグナスティアは
笑みをこぼす。
「はい。またお会いできる時を楽しみにしていますね」
手を振るリョーコ。
微笑みを返すシズノ。
思い思いにラグナスティアへ別れを告げると、
キョウ達は謁見の間を後にした。
<>
◆3/d9CFUdyw<><>2012/04/02(月) 23:35:12.86 ID:RZgM2YiSo<> ジュエルリング編、完。
これからはクエストを軸に
話を進めていく予定です
>>119
ドラマCDを買ったはいいんですけど、
まだ『our last days』
だけ聴けてなかったりします
いろいろと時間が足りない……orz <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2012/04/08(日) 21:16:53.87 ID:BdKhGuQRo<> ミテイル スレ ヲ シンジルナ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州)<>sage<>2012/04/08(日) 21:59:19.97 ID:iD6k2YdAO<> 参ったな>>126…
俺もお前も幻だってさ…
今週は投下くるかな <>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/04/09(月) 00:05:29.51 ID:O/Se2HwCo<> >>126
>>127
あと一週、待ってくれ。
スレ更新は必ずするぜ!
更新サボってて申し訳ないです……orz
とりあえず歓送迎会の幹事が終わったので今週はある程度時間が取れるはず
それにしても、新しく来た新人さんがまさかのセレブラントで俺歓喜
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/04/10(火) 22:23:58.57 ID:S4BudWWeo<> ちょっとだけ投下
ダンジョン攻略を前にしてのインターバルってことで <>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/04/10(火) 22:26:24.07 ID:S4BudWWeo<> 「で、これからどうする?」
ラグナスティアとの謁見からしばらくの後、
キョウ達はビステールにあるベルテの酒場を訪れていた。
キョウとシズノの前には酒ではなく
あたたかい食後のコーヒーが湯気を立てている。
このような世界でも料理は現実に即したものであるらしい。
メイウーとタオユウはルーシェンの淹れた烏龍茶を堪能しているし、
リョーコはこの店の女主人お手製のショートケーキを幸せそうに
口に運んでいた。
「そうだな。これまでの情報を考慮すると、
まずはネリド湿地帯へ行ってみるのがいいんじゃないか」
茶杯を傾けながらルーシェンが答える。
ビステール城を後にしたキョウ達は、
情報収集のために様々な都市を巡っていた。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/04/10(火) 22:27:51.64 ID:S4BudWWeo<> ラグナスティアの言った通り人々の依頼自体は山のように
耳にしたものの、そのほとんどが何らかのアイテムを求めるものであり、
その所在を知らないキョウ達にはすぐ達成できるものではなかった。
「場所が特定されている依頼で難易度の低いダンジョンは
ここぐらいのものだ。
このダンジョンだけで三つも依頼があることだしな」
そう言ってルーシェンは茶杯をテーブルに置くと、次の茶葉を用意し始めた。
「確かモンスター退治と人探し、それに例のお姫様の依頼だったわね」
「げ、あのおっかないお姫様かよ」
シズノの言葉にキョウは苦い顔をする。
イスファルドの街の王城、オールドエイムを訪れた時のこと。
足を踏み入れたキョウ達が衛兵に詰問されているところを
助けてくれたのが王女リーファだった。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/04/10(火) 22:30:37.02 ID:S4BudWWeo<> しかしその後がいけない。
湿地帯に生える『スウィートジンジャー』を取ってくることを
半ば無理やり引き受けさせられたのだった。
駆け引きも何もなく、単純な力関係の差だけで圧倒してくる相手
というのは正直苦手だ。
「まあまあ、キョウちゃん。お菓子の材料を取ってきて欲しいだなんて、
かわいい依頼じゃん」
「いや、あれはどっちかって言うと
マリー・アントワネットって感じだったぜ」
「食べ物が無ければケーキを食べればいいじゃないって?」
冗談めかしてそう言うと、リョーコは最後の一口を頬張った。
「私もケーキにしておけばよかったわ」
そう言ってシズノもカップを空ける。
ルーシェン達も茶器を片付けているのを見て、
キョウはコーヒーを飲み干した。
「よし、それじゃあ行くか」
心地よい喧騒を背に、キョウ達は店を後にした。
<>
◆3/d9CFUdyw<><>2012/04/10(火) 22:32:54.10 ID:S4BudWWeo<> おわりんぐ!
次回からは再びダンジョン攻略です
まあ、プレイしたことのある方はなんとなく
次の展開が読めるんじゃないかな! <>
名無しNIPPER<>sage<>2012/04/24(火) 23:09:57.87 ID:2Q++TjDAO<> 消されるなこのスレ
忘れるなスレ更新
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/04/27(金) 00:05:44.58 ID:5uDeP5tWo<> >>134
更新が滞って申し訳ないです。
とりあえず更新予定分の50%くらいは書いているのですが、
金・土連続で飲み会だったりするので実際に更新できるのは日曜or月曜になりそうです。
ゴールデンウィーク中にできるだけ話を進めたい… <>
◆3/d9CFUdyw<><>2012/04/30(月) 20:44:45.69 ID:O/Ad0otto<> ネリド湿地帯はその名の通り、じめじめとした場所だった。
薄靄が視界を遮り足場も悪い。
入り口付近にあった看板も湿気のために腐り果てており、
何が書いてあったのかを読み取ることはできなかった。
しかし事前に手に入れた情報の通り、敵はそれほど強くはない。
地形の悪さに最初は手間取ったものの、
数度の戦闘でそれにも慣れた。
「よし、これなら楽勝だな」
「そうね。毒を持っている相手は厄介だけど、
思っていたほどではないわ」
戦闘が終わり、キョウとシズノは武器をしまった。
キョウの右手に握られていた刀は新たな物に変わっている。
街を巡った際に、鉱山の鍛冶職人からもらったものだ。
『カス』と名付けられたそれは彼らにしてみれば
その名の通りのなまくらに過ぎなかったようだが、
店に置いてある大量生産品に比べるとその切れ味は
段違いであった。
<>
◆3/d9CFUdyw<><>2012/04/30(月) 20:45:56.89 ID:O/Ad0otto<> 「私のおかげなんだから、感謝しなさいよ」
得意げな表情でメイウーがキョウに話しかける。
通常の攻撃だけでなく、毒などの搦め手に対しても
メイウーのスキル『メイドリカバー』は
瞬時にアイテムによる回復を行う。
回復する隙を無くすことができるこのスキルは
戦闘において非常に有効だった。
「へいへい。感謝してますよ、と」
「気持ちがこもってないわね。
考えなしに突っ込むどっかの誰かさんのサポートは
非常に骨が折れるんだけど」
ぐうの音も出ない。
前衛、それも敵陣へと斬り込むキョウとルーシェンは
必然的に攻撃を受けることが多くなる。
まして火力偏重の反面、防御への不安があるキョウには
リョーコやメイウーのサポートが必須だった。
「それを言うならルーシェンもだろ。
俺程じゃないにしても、あいつだって
結構ダメージくらってるぜ?」
「ルーシェンは軽装なんだから当たり前でしょう。
というか、重装備なのになんでルーシェンより
あんたの方がダメージを受けてるのよ」
責任回避のつもりがヤビヘビだったらしい。
とりあえず笑ってごまかそうとしたが、
メイウーからの視線は冷たかった。
<>
◆3/d9CFUdyw<><>2012/04/30(月) 20:47:02.86 ID:O/Ad0otto<> しかしそれでも、以前に比べれば
メイウーの態度はかなり丸くなっている。
初対面のメイウーは常に険悪な感じであったし、
キョウの無責任な発言で彼女を酷く
傷つけてしまったこともあった。
それが今では、なんだかんだでうまくやっている。
あとはもう少し、このキツい性格が柔らかくなれば
言うことはないのだが。
「まあいいわ、折角だしちょっと休憩にしましょ?
魔翌力回復のために紅茶葉も買ってあるし」
そう言ってメイウーは荷物を広げるために
手近な岩へと向かう。
その瞬間。
彼女の足元が崩れ去り、メイウーの姿は悲鳴と共に地下の
闇へと消え去った。
「メイウー! 無事か!?」
即座に駆け寄ったルーシェンが
ぽっかりと空いた大穴に呼びかける。
遅れてキョウ達もそれに続いた。
「こっちは大丈夫! 怪我もないわ!」
穴の向こうからメイウーの声が反響する。
しかしその暗闇は彼女の姿を覆い隠したままだ。
「今そっちに行く! 待ってろ!」
言うが早いかルーシェンが穴へと飛び込む。
キョウ達も顔を見合わせると、それに続いた。
<>
◆3/d9CFUdyw<><>2012/04/30(月) 20:47:45.89 ID:O/Ad0otto<> 地上からは底なしのように見えた大穴だったが、
実際にはそれほどの高さは無かった。
せいぜい3メートル弱といったところだろうか。
様子が確認できなかったのは単にマスクがかかっていただけのようだ。
しかし、落ちてきた穴からは出られそうにない。
シズノがキョウの肩を足場に脱出を試みたものの、
何やら見えない壁のようなものがあって穴をくぐれないとのことだった。
(最初はルーシェンがキョウの上に乗ったものの、身長が足りずに届かなかった)
「ズルはダメってことね」
汚してしまったキョウの肩を拭いながらシズノがこぼす。
「融通がきかねぇことで」。
手持ちぶさたなキョウは意味も無く天井の穴を見上げていた。
靄越しに弱々しい光が射しこむ。
手を伸ばせば届きそうな距離であることがひどくもどかしい。
<>
◆3/d9CFUdyw<><>2012/04/30(月) 20:48:43.68 ID:O/Ad0otto<> 「何にしても、地上に戻らないとね」
「そうだな。進むしかないって訳だ」
おそらくは崩れる足場も最初からマップに設定されていたのだろう。
となれば、どこかに地上への脱出口があるはずだ。
「よし、これで大丈夫」
「サンキューな、先輩」
二人は休息を取る仲間の下へ歩き出した。
<>
◆3/d9CFUdyw<><>2012/04/30(月) 20:49:46.69 ID:O/Ad0otto<> 休息を終えたキョウ達は探索を始めた。
目指すは入り口のあった南方面。
しかし、ここにきて問題が発生していた。
「なんかずるくね?
こんな状況で敵が強くなるなんてよ」
つい愚痴をこぼしてしまう。
幸いなことにまだ倒れた者はいないが、
シズノのフランベルジュを除いてまともなダメージ
を期待できないのが現状だった。
「文句言わない。そんな暇あったら、早くここから出よ?」
「でも、確かにこの敵の強さはキツイわね」
「ごめんなさい、先輩。足を引っ張ってしまって」
シズノの言葉に、リョーコが申し訳なさそうな顔をする。
「そんなことないわ。
たまたま私が強い武器を装備できるというだけよ。
あなた達のおかげで安全に探索ができているのだから、
もっと自信を持って、ね?」
そう言ってシズノはリョーコの肩に手を載せた。
「ありがとうございます。シズノ先輩は優しいですね」
「あら、私は思った通りのことを言っているだけよ」
<>
◆3/d9CFUdyw<><>2012/04/30(月) 20:51:00.22 ID:O/Ad0otto<> 二人の会話を背に、キョウ達は前へと進む。
攻撃面ではシズノ、防御面ではリョーコとメイウーが生命線
であることから、キョウ達はその三人を後衛に配置する
隊形をとっていた。
シズノの攻撃方法が限定されるという欠点はあるものの、
これならば敵の攻撃から三人を効率的に守ることができる。
無論、リョーコの魔翌力とメイウーの持つ薬が続く限りという条件はあるのだが。
しかし幸いなことに、程なくして地上へと続く梯子を見つけることができた。
あとは、その梯子の前に佇む敵を倒すだけだ。
遭遇したことのない相手であったが、これまでの敵を考えれば、
全力でかかって勝てない相手ではないはずだ。
「準備はいいな?」
キョウは周囲を見回す。
皆の力強い視線に、キョウはうなずいた。
<>
◆3/d9CFUdyw<><>2012/04/30(月) 20:52:14.74 ID:O/Ad0otto<> 「よし、いくぜ!」
先手必勝。
キョウは一息に距離を詰めると目前の敵に斬りかかった。
ダメージは期待していない。
相手が攻撃にひるんだ隙にシズノの炎が襲い掛かるという算段だ。
しかし、キョウの切っ先が敵に届くことはない。
キョウの二連撃は敵の手にした槍に阻まれてしまった。
だがこれで相手には隙ができる。
キョウが後ろへ下がった瞬間、シズノのフランベルジュから発した
火炎が敵を包んだ。
あとはこのパターンで数度火炎を浴びせることができれば倒せるはずだ。
そう考えたキョウの脇を、炎の塊がかすめる。
それは炎を振り払い、シズノへと一直線に疾走する敵の姿だった。
「危ない!」
隣にいたメイウーがシズノをかばおうとする。
しかし、モンスターの槍はそれよりも早くシズノの身体を貫いた。
<>
◆3/d9CFUdyw<><>2012/04/30(月) 20:53:05.22 ID:O/Ad0otto<> 「「先輩!」」
キョウとリョーコの叫びも虚しく、シズノの姿が消滅する。
モンスターは槍を一振りすると、
薄ら笑いを浮かべながら冷酷な眼をこちらへと向けた。
「この野郎!」
「落ち着け! キョウ!」
ルーシェンの方に目をやる。
その隣ではタオユウが呪文を唱える用意をしていた。
「撤退だ。この敵は格が違う」
そう言うとタオユウは右手を敵へとかざす。
次の瞬間、敵は光に包まれて姿を消していた。
「さあ、早く地上へ!」
タオユウの言葉に従い、キョウ達は梯子に手をかけた。
<>
◆3/d9CFUdyw<><>2012/04/30(月) 20:53:59.74 ID:O/Ad0otto<> キョウ達はシズノを蘇生するために寺院を訪れていた。
幸いなことに、地上に戻ってからは敵に苦戦することも無く
ダンジョンを脱出できた。
「心配をかけたわね」
振り向くと、シズノがこちらへと歩いてくる姿があった。
「先輩、もう大丈夫なのか?」
「ええ。あとは体力を回復させるだけね」
そう言ってシズノはメイウーの方へ向かうと、
彼女から自身の荷物を受け取った。
それを見てキョウは天井を仰ぐ。
キョウ自身が一度敵の攻撃に倒れているからというのもあるが、
どうしてか違和感がぬぐえない。
敵に刺されても斬られても痛みはなく、倒されても意識を失う
だけで即座に蘇生できる世界。
このことはサーバー脱出のための後押しになっているはずなのだが、
そこから生まれる違和感をどうにも言葉にできない。
<>
◆3/d9CFUdyw<><>2012/04/30(月) 20:55:19.42 ID:O/Ad0otto<> 「おーい!」
聞き覚えのある声がする。
そこには、訓練所のミリアが立っていた。
相変わらず、その手には分厚い書類の束が握られている。
「偶然ね。ダンジョン帰り?」
「おう。おかげでひどい目にあったけどな」
「どこに行ってたの?
ラグナスティア様の試練は無事終えたんでしょ?」
「ネリド湿地帯ってとこだけど――」
「え? 初っ端からあそこ行ったんだ……よく無事に帰って来れたね」
ミリアの反応にキョウ達は怪訝な顔をする。
「どういうこと?」
「いや、あそこってけっこうエグいっていうか、
一方通行ばかりだわ地下は強敵が多いわで遭難者が絶えないのよ。
一部の一は初心者冒険者があそこで遭難することを指して
『ネリネリする』って呼んでるわ」
<>
◆3/d9CFUdyw<><>2012/04/30(月) 20:56:32.17 ID:O/Ad0otto<> その言葉にキョウはげんなりした表情を浮かべた。
おそらくはみんなも同じような顔をしているだろう。
「それならば、先に言っておいてくれるとうれしかったんだが」
口を開いたのはルーシェンだった。
「あれ、一応入り口に注意書きの看板が立ってたはずなのだけど?」
そう言えば、入り口に朽ち果てて読めない看板が立っていた。
そのことをミリアに伝えると、彼女はバツの悪そうな顔になった。
「ごめんなさい。あそこは湿地だから金属の看板を
付けてくれるようにお城には頼んでいたのだけれど」
「じゃあなんであんなことになってたんだ?」
「いや、それがどうも予算が足りなかったみたい。
今は休職中らしいのだけれど、財務大臣がどうもその辺り
に疎かったみたいで」
その言葉にキョウはカーネル商店の店主を思い浮かべた。
ラグナスティアから修行ということで商店の主を任されている
財務大臣、コストー。
今度店に行ったら思いきり殴ろうと心に決めた。
「とりあえずこちらで仮の看板を付けておくわ。
教えてくれてありがとね」
そう言ってミリアは寺院を出て行った。
「……とりあえず、宿屋に向かおうか」
「そうね。なんか疲れたわ」
リョーコとメイウーの言葉をきっかけに、キョウ達も
その場を後にした。
<>
◆3/d9CFUdyw<><>2012/04/30(月) 20:57:17.26 ID:O/Ad0otto<> 「どうしよう……」
宿屋に入ると、宿屋の主ロゼッタが宿帳とにらめっこをしていた。
そこには宿泊客の名前がほとんどない。
キョウ達の視線を感じたのか、ロゼッタはこちらを振り向くと
急いで宿帳を隠した。
「すみません……ヘンなとこ見せちゃって」
必死に笑顔を作ろうとしてはいるものの、
少女の顔から悲しそうな表情は消えない。
「どうしたんだ、ロゼッタ?
俺達にできることなら相談に乗るぜ」
キョウの言葉にロゼッタは少し元気を取り戻したようだ。
「ありがとうございます。
私、幼い頃に両親をなくしていて……
この宿がお父さんとお母さんの形見なんです。
だから、なんとか続けていきたいんですが、
お客さんの入りが悪すぎて……」
<>
◆3/d9CFUdyw<><>2012/04/30(月) 20:58:02.85 ID:O/Ad0otto<> その言葉にキョウ達は焦る。
この宿屋では通常の宿泊とは別に馬小屋での休憩ができるのだが、
魔翌力の回復さえできれば十分ということでキョウ達は
これまでずっと無料の馬小屋を利用していたのだった。
「あ、皆さんのせいじゃありませんよ!?
そりゃあ、馬小屋じゃなくて普通の部屋に泊まって欲しい
とは思いますけど……」
そう言ってロゼッタは目をそらす。
気まずい。
今後はロイヤルスイートとはいかないまでも、普通の部屋
に泊まろうと心に決めた。
「以前は、旅商の方とかも普通に泊まってくれていたんです。
それが主な収入だったんですけど、最近はハイベリーの森が
だいぶ危険になっていて、人の往来が減ってしまったんです。
なんでも、タランティとかいうモンスターが旅人に絡んでいるとか」
<>
◆3/d9CFUdyw<><>2012/04/30(月) 20:58:51.57 ID:O/Ad0otto<> 「絡む?」
思わず聞き返す。
口にしたロゼッタもまた、苦笑していた。
「絡むって表現、ヘンだとは思うんですが、
遭遇した人がみんな『絡まれた』って。
なんなんでしょうね」
顔を見合わせるキョウとロゼッタ。
どうにも可笑しくなってしまい、
どちらからともなく笑い出してしまった
「よし、それじゃあ俺達がそのハイベリーの森に行って
そのタランティってやつを追い払えば、
なんとかなるかもしんねえんだな?」
ひとしきり笑ったキョウの提案に、ロゼッタは顔をほころばせた。
「ありがとうございます!
そうすれば、来なくなったお客さんもきっと戻ってきてくれます!」
「よし、それじゃあ出発前に一泊していくか」
「はい、いらっしゃいませ! コースはどうされますか?」
キョウは背後の仲間に目をやる。
みんなもまた、苦笑を浮かべていた。
「ここは景気よくロイヤルスイートだ! サービスしてくれよ?」
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/04/30(月) 21:01:54.29 ID:O/Ad0otto<> おわりんぐ。
残業も減ってきたのでもう少し更新ペースを上げたい。
そして久々過ぎてsage忘れた。
なんちゃない。 <>
名無しNIPPER<>sage<>2012/05/04(金) 23:50:05.41 ID:YqHEF/yAO<> おおー!投下されてた!
メイウー可愛いよメイウー <>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/06(日) 00:41:52.63 ID:5ensWfhSo<> ハイベリーの森はうららかな陽気に包まれていた。
初めてこのサーバーに訪れた時の草原に近いかもしれない。
先程までいた湿地帯とは対照的に、木々の間を爽やかな風が吹き抜ける。
「お弁当とか持って来ればよかったね」
辺りを見回しながらリョーコが口を開く。
確かに、ここならピクニックにはうってつけだ。
「酒場のベルテさんに頼めば、いい感じに用意してくれんじゃね?」
「うーん。それもいいけど、折角なら自分で作った方が楽しいじゃん。
新しいおにぎりの具材を考えたり」
リョーコが料理好きなことはキョウも当然知っている。
ロケハンや撮影で遠出する時はよく人数分のお弁当を用意してくれるし、
料理の腕もなかなかだ。
ただ――
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/06(日) 00:42:38.17 ID:5ensWfhSo<> 「カミナギ。お前よくおにぎりに色々入れてっけど、
あれってどうやって決めてんだ?」
「うーん、フィーリング?
その時々で思いついたものを入れてみる感じかな」
「あれ、時々ものすごいやつに当たるから正直すげぇ怖いんだけど。
副会長に聞いたけど、カスタードクリームはねぇよ」
「えー。自信あるんだけどなぁ。
じゃあその時一緒に作ってたお揚げさんはどう?」
「うーん、その辺はなんとなく味が想像できるけど、
甘味系は正直どうかと思うぜ」
「そっかなぁ」
「あら、こしあんは結構おいしかったわ」
いつの間にか、さっきまでルーシェンと話し込んでたシズノが背後にいた。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/06(日) 00:43:41.64 ID:5ensWfhSo<> 彼女の言うこしあん入りおにぎりは、
確かリョーコが初めてオケアノスに来た時に持ってきたのだったか。
「本当ですか? ありがとうございます」
「おはぎだって似たようなものじゃない。
お雑煮にあんころもちを入れるところもあるというし、
なにも甘い物だから全てがダメってことにはならないと思うわ」
言われてみれば確かにそうだ。
だからといってカスタードクリームを許容するのは大分ハードルが高いが。
そんなことを話しながら歩いていると、突然足元に違和感を覚えた。
前へ進もうとしたが、足が自由に動かずそのまま倒れ込んでしまう。
まるで誰かに足を掴まれたかのようだった。
「キョウちゃん!」
こちらに気付いたリョーコが駆け寄ろうとするが、
キョウと同じようにこけてしまった。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/06(日) 00:44:32.28 ID:5ensWfhSo<> 「どうなってるの?」
シズノは未だに立っているが、足が動かないのは同じらしい。
頭だけを持ち上げると、
ルーシェン達がこちらへと駆け寄ってくるのが見える。
しかし彼らもまた、こちらへたどり着くことなく
その場で動かなくなってしまった。
「うふふふっ! 引っかかった、引っかかったぁ!」
どこからか女性の声が聞こえる。
と思った瞬間、キョウ達の身体はゆっくりと引きずられていった。
抵抗しようにも身体の自由がきかない。
戦闘のダメージではないからか、身体をかすめる枝が痛い。
そのまま近くの茂みへと引っ張り込まれると、そこには美しい女性がいた。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/06(日) 00:45:24.82 ID:5ensWfhSo<> その女性は何も身に着けていない。
そして、下半身は蜘蛛だった。
「まぁた捕まえちゃったっ!」
そう言って彼女は糸の束を引く。
細すぎてよく見えないが、どうやらキョウ達の身体の自由を
奪っているのは彼女の糸らしい。
六人はそのまま一まとめに転がされる形となった。
「ねぇねぇ君たちー」
蜘蛛女がこちらへ語りかける。
「あのね、アンケートなんだけど、怒らないから正直に答えてね?」
この状態で彼女に逆らうのは得策ではないだろう。
キョウは黙ってうなずいた。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/06(日) 00:46:07.20 ID:5ensWfhSo<> 「えーっとねぇ……」
そう言って彼女は言い淀む。
彼女がロゼッタの言っていたタランティだろうか。
「えっと、私って綺麗?」
若干頬を染めながらタランティが問いかけてきた。
確か口裂け女もこんなことを聞いてくるんじゃなかったか。
ポマードと唱えればいなくなってくれるかもしれない。
「こういう時ってどう答えりゃいいんだ?」
とりあえず近くにいたリョーコに囁きかける。
「うーん。怒らせるのもなんだし、肯定でいいんじゃない?
実際すごい美人だし」
他のみんなもうなずいたので、キョウはタランティに向き直ると
彼女の問いかけに肯定の意を示した。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/06(日) 00:47:21.90 ID:5ensWfhSo<> 「本当!? うれしい!」
タランティは脚を忙しく動かしている。
言葉の通り、喜んでいるらしい。
彼女が再び前脚で糸を手繰りだすと、キョウ達の身体に少しずつ自由が戻った。
「実は、お願いがあるんだけど……」
糸を手繰り終えたタランティが再びキョウ達に向き直る。
シャカシャカと脚を動かしてキョウ達に近づいてきた。
「ロルファンっていう花があるの知ってる?
すごくいい香りがするんだけど、ちょっと身に着けてみたいなって
思って森の南東に探しに行ったの。
そしたら、生えてそうな場所を見つけたんだけど
そこが湖に浮いてる小島ってことでどうにも行く手段がなくってさ」
そう言ってタランティは両手をこすり合わせる。
よく見ると彼女の前脚も同じ動きをしているのが面白い。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/06(日) 00:48:19.22 ID:5ensWfhSo<> 「通りがかったよしみでさ、私の代わりに取ってきてくれない?」
正しくは連れ込まれたのだが、などと思いつつ、
キョウは皆の方へ向き直った。
「どうする?」
「ロルファンってのがあればここにいる理由も無くなるんじゃないかな?
そうすれば、ロゼッタちゃんの依頼も解決できるんじゃない?」
「リョーコの言うとおりだな。
ここは彼女の依頼を受けるってことでいいんじゃないか?」
リョーコとルーシェンの意見に反対する者もいなかったので、
キョウはタランティに向き直る。
「分かった。俺達がそのロルファンってのを取ってくるぜ」
「やったぁ! ありがとう!」
そう言ってタランティが抱き着いてくる。
彼女の腕の感触はともかく、前脚に生えてる棘と
女性陣の視線が痛かった。
<>
◆3/d9CFUdyw<><>2012/05/06(日) 00:56:25.25 ID:5ensWfhSo<> おわりんぐ。
ということでこれからダンジョン攻略です。
更新まではちょっと時間がかかるかと思いますがご容赦ください。
>>152
ありがとうございます。
メイウーはキョウ達に比べてエピソードが少な目なので
動かし方に結構悩んでいるんですけど、
喜んでいただけたようでうれしいです。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/06(日) 15:19:28.97 ID:vikrFlyHo<> キョウ達はガンドラ鉱山を訪れていた。
未だにロルファンは手に入っていない。
ネリド湿地帯ほどではないとはいえ、ハイベリーの森もまた
道中の敵が強く、その対応策を探すために再び各街を周っているのだった。
「確かこの前来た時に開いてなかったお店があったよね。
そこ行ってみよ?」
リョーコの提案により雑貨屋を目指す。
前回この街を訪れた時には閉まっていたが、今回は無事開店しているようだ。
しかし、この店は異質だ。
この鉱山の街並みが西洋風であるのに対して、
この店だけはなぜか東洋風の装飾に包まれていた。
和風のデザインを目指しているのだと思われるが、
ところどころ中華風の様式も見て取れる。
よくアメリカ映画などに見られる日本像、と表現するのが正しいだろう。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/06(日) 15:20:34.11 ID:vikrFlyHo<> しかしそれでも、人の出入りは多いようだ。
窓からも客と思われる人影がちらほらと見えるし、
談笑する声も漏れ聞こえてくる。
扉を開けると、着物風の衣装に刀を下げた女性がカウンターに立っていた。
「あら、いらっしゃい」
女性はこちらに気付くとカウンター前に陣取っていた
女性客との会話を切り上げ、こちらの方へとやってきた。
「初めてのお客さんよね? 私はジェラ。よろしくね」
キョウも自己紹介を済ませると、
世間話に花を咲かせるリョーコ達を尻目に装備品を物色することにした。
店の雰囲気から目新しい刀や鎧を期待したのだが、
残念ながらどこにでもあるような品しか見つけることができなかった。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/06(日) 15:21:25.89 ID:vikrFlyHo<> 「う〜。じぇらたんを無視しないでほしいでしゅ〜!」
どこからか声が聞こえる。
しかし、キョウ達以外の客はもう帰ってしまったはずだ。
振り向くと、カウンターへと戻るジェラの姿があった。
柱にかかっていた人形を手に取ると、再び戻ってくる。
「紹介するわ。魔傀儡のじぇらたん」
「よろしくでしゅ〜」
ジェラの手の中で人形が右手を振る。
ジェラはそのままじぇらたんをカウンターに座らせた。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/06(日) 15:22:16.10 ID:vikrFlyHo<> 「ジェラさんそっくりですね」
リョーコが差し出した右手にじぇらたんがハイタッチする。
その隣ではメイウーが何かを探して自身の鞄の中を漁っていた。
「タルミートさんがプレゼントしてくれたの。
私がモデルってのがちょっと恥ずかしいんだけどね」
タルミートとは以前この街を訪れたときに会話した覚えがある。
魔傀儡製作の第一人者だったはずだ。
それにしてもじぇらたんのへ力の入れ具合には驚かされる。
同じく彼が製作した料理人魔傀儡『トリス』が
眼のパーツすら統一されていなかったのに対して、
じぇらたんは眼の色から髪の色、衣装や装飾品に至るまで
全てがジェラ本人を意識して作られていた。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/06(日) 15:23:00.90 ID:vikrFlyHo<> 「ねぇねぇ、キョウちゃん」
先程までじぇらたんと遊んでいたリョーコが戻ってきた。
手にはカードのようなものを持っている。
「これ、じぇらたんがくれたんだけど」
そう言って差し出されたのは花札だった。
「おい、これって――」
「うん。持って来いって言われてたやつだよね、これ」
以前『カス』をもらった時に、鍛冶職人の長から頼まれていたものだ。
刀を強化するにはこれを持っていけばいいらしい。
ただ、この札は頼まれていた『みよしの』の札ではなく
鹿が描かれた札だった。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/06(日) 15:23:45.85 ID:vikrFlyHo<> 「じぇらたんとじゃんけんをして勝ったら貰ったの」
「じぇらたん、他の札はないのか?」
「じぇらたんとじゃんけんをして勝てたら他の札がもらえるかもでしゅ〜」
じぇらたんが振り上げた右手をグー、チョキ、パーと変えていく。
「よっし、じゃあさっそくやろうぜ」
「それならまず、じぇらたんにお菓子をくだしゃい。
おいしいお菓子をくれればいいタロットがでる確率も上がるでしゅ〜」
タロットというのは花札のことだろう。
しかし、お菓子の持ち合わせなどあるはずがない。
「カミナギ、さっきは何をあげたんだ?」
「メイイェ……メイウーちゃんが持ってたアメをあげたの」
ついに名前を間違えることが無くなったらしい。
それはそれでちょっと寂しい気もするが。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/06(日) 15:24:37.83 ID:vikrFlyHo<> 「メイウー。何をあげたんだ?」
「これよこれ。あんたは食べたことないんだっけ?」
そう言ってメイウーが差し出したのは『夜露のノド飴』だった。
本来は沈黙を回復するアイテムなので、肉弾戦主体のキョウは
食べたことがない。
「ていうかメイウーだってこれを食べる機会はないはずなのに、
なんで食べたことあるんだ?」
魔法を使えないメイウーもまた、これを食べる必要はないはずだ。
「う、うるさいわね! いいからさっさとじゃんけんでも
なんでもしなさいよ! 私達には時間が無いのよ!?」
顔を真っ赤にしてまくしたてるメイウー。
どうやら時折つまみ食いをしていたらしい。
「まぁいいや。よし、勝負だじぇらたん!」
「かかってこいでしゅ!」
こうして、キョウとじぇらたんのじゃんけん勝負が始まった。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/06(日) 15:25:20.46 ID:vikrFlyHo<> 「ありえねぇ……」
キョウとじぇらたんの勝負が始まってからしばらくたった。
しかし、キョウが手に入れられた札は僅かに二枚。
勝率は一割ちょっとだろうか。
手に入ったタロットはカス札ではないものの、
ダブっている上に目的の『みよしの』は手に入っていない。
「おにいしゃん、じゃんけん弱いでしゅねぇ〜」
一方のじぇらたんはお菓子をたっぷりと食べたせいかホクホク顔だ。
「キョウ、俺がやろう」
振り向くとルーシェンが飴玉を手にしていた。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/06(日) 15:26:17.13 ID:vikrFlyHo<> 「おう、頼むわ」
ルーシェンとじぇらたんの勝負が始まる。
驚くべきことにルーシェンの戦績は十戦九勝。
イケメンはじゃんけんも強いらしい。
ただ、運はないようだ。
九勝して手に入った札は全てがカス札だった。
「もー、キョウちゃんとルーシェンさんばかりずるい!」
業を煮やしたのか、リョーコも両手に飴玉を持っていた。
「こんどはまたおねえしゃんでしゅか。楽しみでしゅ〜」
正直なところ、ここで時間を使うよりもいっそ真面目に
探索を進めた方がよいのではないかと思えてきた。
リョーコが満足したらハイベリーの森に戻ろう。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/06(日) 15:26:51.49 ID:vikrFlyHo<> 「はい、私の勝ち〜」
「うむむ、くやしいでしゅ〜」
いつの間にかリョーコの前には数枚の花札が並んでいた。
そのどれもがまだ手に入れてない札だ。
まだ『みよしの』は出ていないが、
もしかしたらもしかするかもしれない。
「いくよー。じゃ〜んけ〜ん……」
「ぽんでしゅ!」
リョーコはパー。
対するじぇらたんはグーだった。
「また負けたでしゅ。おねえしゃんも強いでしゅねぇ」
そう言ってじぇらたんが花札を取り出す。
描かれた短冊には『みよしの』と書かれていた。
<>
◆3/d9CFUdyw<><>2012/05/06(日) 15:29:22.17 ID:vikrFlyHo<> おわりんぐ。
ゴールデンウィークばんざい!
明日から仕事かぁ……orz <>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/06(日) 21:01:43.52 ID:1TS5/DMvo<> キョウ達は目的の小島へと到着した。
道中の敵には相変わらず苦戦したものの、
リョーコのおかげで一足飛びに強化された刀『猪鹿蝶』の力もあって
なんとか互角に渡り合えている。
後は、この島のどこかにあるロルファンを手に入れるだけだが、
それもそう難しいことではないだろう。
「あっちの方から匂いがするわ」
メイウーが指し示す方向へと向かう。
猫の嗅覚は人間の数万倍とも言われるが、
ワービーストもまた例外ではないようだった。
先導するメイウーについて行く。
しばらくすると、唐突にメイウーは足を止めた。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/06(日) 21:03:57.77 ID:1TS5/DMvo<> 「あったのか?」
「ええ……多分、あれだと思う」
メイウーが示した先。
そこには、巨大な花があった。
グロテスクな見た目をしたそれはラフレシアに酷似している。
悪臭ではないのが不幸中の幸いか。
しかし、これを持ち帰るのには少し抵抗がある。
「それじゃあキョウ、あとはよろしく!」
「待てよメイウー。こういうのは普通みんなで協力して
持ち帰るものじゃないのか」
「あんな巨大な物を女の子に持たせる気?
この中ではあんたが一番力があるんだから、役割としては妥当でしょ?」
メイウーの言うことにも一理ある。
ただ、正直なところあれを触りたくはない。
「いや、けどよぉ」
「ほら、さっさと行くわよ!」
リョーコとシズノもメイウーについて行く。
どうやら、タランティの件は未だに解決してはいないようだった。
一つため息をついて、キョウはロルファンを背負った。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/06(日) 21:05:21.65 ID:1TS5/DMvo<> 「ありがとうございます!」
宿に到着すると開口一番、ロゼッタが駆け寄ってきた。
「ハイベリーのタランティがおとなしくなったって
噂が広まって、またお客さんが増えました
皆さんが解決してくれたんですよね!?」
「おう、まあな」
ロルファンを手に入れたタランティは足取りも軽く
森の奥へと去って行った。
目的が達成された今、むやみに旅人を襲うことも無くなったようだ。
「ありがとうございます! 皆さんは、この宿の恩人です!
お礼と言ってはなんですが、これからは錬金倉庫をご自由に
お使いください。料金は頂きませんので」
「そいつはありがたいけど、いいのか?
お客が増えたとは言っても、まだ完全に元通りってわけじゃないんだろ?」
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/06(日) 21:05:59.09 ID:1TS5/DMvo<> 「大丈夫です! これからはきっと皆さんも馬小屋以外に
泊まってくださるでしょうし」
「それは一本とられたな」
「これからもよろしくおねがいしますね?」
そう言ってロゼッタはカウンターに戻っていく。
お客が増えたせいか、忙しそうだ。
「よかったわね、キョウ……あら?」
「どうしたんだ、先輩?」
「光が……」
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/06(日) 21:06:29.18 ID:1TS5/DMvo<> キョウが天を仰ぐと、小さな煌めきが降り注いでいた。
光の粒はそのままキョウの身体へと吸い込まれていく。
「これでフェイムゲット、ってわけか」
状態を確認すると、フェイムを四つ獲得していた。
「これからどうするの?」
「そうだな。装備も整ったし、もう一回ネリド湿地帯へ挑戦ってのはどうだ?」
「いいと思うわ。それでは先を急ぎましょう」
「おう。その前にしっかり準備しないとな」
こうしてキョウ達は宿を後にする。
背後ではロゼッタの明るい声が響いていた。
<>
◆3/d9CFUdyw<><>2012/05/06(日) 21:09:17.11 ID:1TS5/DMvo<> おわりんぐ。
今回はボス船もないのであっさり目エンドです。
次回からは再びネリド湿地帯攻略予定です。 <>
◆3/d9CFUdyw<><>2012/05/06(日) 21:16:44.38 ID:1TS5/DMvo<> おまけ
ハイベリーの森クリア時点のパーティー
キョウ 人間/侍・中立
Lv12 AC-1
メイン:イノセントソード
サブ:猪鹿蝶
頭:鋼のヘアバンド
体:足軽の鎧
手:手甲
足:わらじ
装1:神木の指輪
装2:翡翠の指輪
リョーコ エルフ/僧侶・善
Lv13 AC1
メイン:メイス
サブ:獣骨の盾
頭:レザーヘルム
体:鎖帷子
手:革の小手
足:ブーツ
装1:光の魔印+1
シズノ 魔傀儡/神女・中立
Lv12 AC4
メイン:フランベルジュ
頭:フラワーヘルム
体:胸当て
手:鉄の小手
足:ブーツ
装1:翡翠の指輪
装2:炎の魔印+1 <>
◆3/d9CFUdyw<><>2012/05/06(日) 21:19:43.96 ID:1TS5/DMvo<> ルーシェン ホビット/盗賊・中立
Lv13 AC3
メイン:鉄のブーメラン
サブ:ククリ
頭:バンダナ
体:革鎧
手:革の小手
足:フォレストウォーカー
装1:真珠の指輪
メイウー ワービースト/使用人・中立
Lv12 AC4
メイン:モップ
頭:毛皮の帽子
体:グリーンローブ
手:革の小手
足:バスキン
装1:真珠の指輪
タオユウ ノーム/錬金術師・中立
Lv262 AC4
体:紋章のローブ
装飾品1:イノセントマント
装飾品2:コウモリのベルト
(武器装備不可、攻撃呪文・攻撃アイテムの使用不可、
装備変更不可、練度20を超える鉱石を用いた錬金不可)
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/13(日) 01:26:15.44 ID:m5UrPC2So<> 再びネリド湿地帯に足を踏み入れたキョウ達の耳に、
聞き覚えのある声が届いた。
「何度同じことを言わせるんだ!
敵の攻撃を受けるときに目を閉じるな!!」
「わーわー喚いているだけでは敵を倒すことはできませんよ!!」
見ると、ロイペス洞窟で出会ったミルコがザッパーと戦っていた。
近くにはゼファルが仁王立ちしており、更に少し離れたところには
グルティア達もいる。
どうやらミルコに稽古をつけているようだが、
ミルコはザッパーの苛烈な攻撃から逃げるだけで精いっぱいに見える。
その姿を見てグルティアが怪しい笑みを浮かべていた。
心底嬉しそうだ。
逃げ回るミルコに業を煮やしたのか、ゼファルがミルコに襲い掛かる。
両手に握った剣を振り下ろそうとした瞬間、キョウ達に気付いた
ゼファルは動きを止めてこちらへと振り返った。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/13(日) 01:27:12.61 ID:m5UrPC2So<> 「あ! 君たちは!?」
少し遅れてこちらに気付いたミルコが、大剣を構えなおす。
「ゼファルどうする、今回もミルコをいかせるか?」
「そうしたいのですが、これ以上の醜態はレンザー家の名も
汚してしまうでしょう。ここは我ら二人も加勢した方がいいかと」
「そうだな! 俺も暴れたくてウズウズしてたんだ」
「さっきまで散々暴れてたじゃない」
「おめぇじゃ準備運動にもなんねぇんだよ、カスがあああぁぁぁ!!」
茶化したミルコに対してザッパーが激昂する。
ザッパーの言葉にミルコは傷ついた表情を浮かべていた。
「よっしゃあ! いくぜぇ!」
ザッパーは勢いよく舞い上がるとシズノを上空から急襲する。
シズノはフランベルジュを盾にその攻撃を受けるが、
勢いを殺し切れずに大木へと叩きつけられた。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/13(日) 01:28:08.89 ID:m5UrPC2So<> 「先輩!」
「こちらのことは気にしないで!
こいつは私が相手をするから、キョウとルーシェンは残りの二人を!」
「わかった! カミナギ、サポートは任せた!」
キョウは駆け出す。
ルーシェンの火力を考えると、
甲冑に身を包んだゼファルを相手にするのは荷が重いはず。
ならば、相手をするのは自分の役目だ。
「ルーシェンは坊ちゃんを頼む! 俺の相手はあの黒鎧だ!」
「了解だ!」
キョウの双刀がゼファルへと襲い掛かる。
ゼファルはそれを左手の剣で受けると、もう一方の手でキョウへと斬りつけた。
ゼファルの剣閃は想像以上に鋭い。
回避しきれなかったキョウの脇腹を、ゼファルの刃がかすめる。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/13(日) 01:28:53.97 ID:m5UrPC2So<> 「ぐっ!」
やはり、この男は強敵だ。
力量ではキョウを遥かに凌いでいる。
通常の方法では勝てないだろう。
ルーシェンは心配ないだろうが、ザッパーを相手にするシズノのこともある。
容易には有利な状況を形成できないだろう。
キョウは右手をゼファルへと向ける。
意識を右手へ集中させると、火球をゼファルへと放った。
「こんなもの!!」
ゼファルは軽々と火球をかわす。
二度、三度と続けて放つものの、ゼファルに対しては牽制にもならないようだ。
すぐさま距離を詰めると、キョウへ向かって右手の剣を振り下ろした。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/13(日) 01:29:37.81 ID:m5UrPC2So<> 無機質な音が響く。
キョウの身体を的確に捉えた刃は半ばから真っ二つに折れていた。
「くっ!」
とっさに退き態勢を立て直そうとするゼファル。
その隙を逃してはならない。
キョウはゼファルの足元を狙い火球を放つ。
爆発に足を取られたゼファルへと再び斬りつけた。
それでも左手の得物でキョウの攻撃を受けるゼファル。
しかし無理な態勢で攻撃を受けたせいか、
残された武器もまた防ぎきれずに折れてしまった。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/13(日) 01:30:16.68 ID:m5UrPC2So<> 「……やられました。わざと攻撃を受けることによって
無理矢理私に隙を作るとは」
「サンキューな、カミナギ」
ゼファルの攻撃をかわし切れないと悟ったキョウは、
リョーコの呪文で防御を固めることによって反撃の機会を得る
作戦を取ったのだった。
無論、ゼファルの攻撃より先に呪文を唱えれば別の戦法をとられてしまう。
ベストタイミングでの呪文発動は、リョーコのウィッチとしての能力が
健在であることを前提にした一種の賭けだった。
「キョウ! 大丈夫!?」
シズノの声が聞こえる。
どうやら向こうでも決着がついたようだ。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/13(日) 01:31:07.01 ID:m5UrPC2So<> 「キョウちゃん! 上!」
カミナギの声が突き刺さる。
上空から襲いくる影。
とっさに後ろへと下がった直後、先程キョウがいた地点へと槍が突き刺さった。
「この大地で拾える剣ってろくなのないよねぇ。
また取ってきてあげようか?」
槍の持ち主、エルピーナがキョウとゼファルの間に立ちふさがる。
その背後には、ミルコを抱きかかえたグルティアの姿があった。
「いえ、結構です。こうなったらベルナフに戻って
いつもの剣を取ってきましょう。これではらちがあきません」
「えっ!? ゼファル帰っちゃうの?」
満身創痍のミルコはグルティアの腕の中から飛び降りると
ゼファルの下へ駆け寄る。
そんなミルコの頭を、ゼファルはぽんぽんと叩いた。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/13(日) 01:32:00.15 ID:m5UrPC2So<> 「大丈夫、すぐに戻ってきます。
今、この大地は不安定ですから出入りもたやすい」
ゼファルの声は優しかった。
「もし、ゼファルがいない時に強い敵が出てきたらどうするのさ!?」
「ザッパーがいるでしょう。
それに、いよいよとなればミルコ様がお倒しになればよいのでは?」
「えっ」
ゼファルは再び厳しい顔に戻る。
「ミルコ様、いつまでも私に甘えていてはいけません。
そのバルタギアスは何のためにあるのですか?」
「それは……でもっ」
「ミルコ様。そのバルタギアスに誓ってください。
次は、絶対に勝つと。私がいなくても、必ず勝利すると!
いつまでも、レンザー家の名を、ダリシアマルテ様の名を……
汚すわけにはいかないでしょう?」
「ボクが……おじさんの名を、汚す?」
自身の剣を抱きかかえたミルコは、その力を強くしたようだ。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/13(日) 01:33:11.15 ID:m5UrPC2So<> 「ええ、今のままでは」
「待ってよ! ボクそんなつもりはないよ!
ボクだって、おじさんの役に立ちたいと思っているよ!」
「思ってるだけで、何かが変わるのでしょうか?」
ゼファルはミルコの方へと向き直りしゃがみ込む。
ゼファルの眼が、ミルコの瞳を真っ直ぐに射た。
「強くなりたい。知恵をつけたい。精神力も養いたい。
みんな、思っていることです。
でも、多くの者はその願望を目標に変えられない!
理想を語るだけで達成したような気になり、
誰かが何とかしてくれるのを待つだけなのです……今のあなたのように!」
ミルコが身体をこわばらせる。
ゼファルはミルコの肩に乗せた両手に力を込めた。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/13(日) 01:34:08.70 ID:m5UrPC2So<> 「今のあなたには何もない。
弱いし、馬鹿だし、どんくさいし、チビで泣き虫のおもらし野郎。
でも、あなたには未来がある。まだまだ成長できるはずです」
「ほんと?」
「己の力で自分と、世界を変えていくのです。
願望を目標に変えて踏み出せるものこそ、真の君主足り得るのです。
……あなたの叔父上は、そういう方ですよ」
ゼファルの口調が、再び柔らかくなる。
ミルコの瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「自分の足で立って下さい、ミルコ様。
いえ、次期当主、ミルコ=レンザー様」
「けど、そんなこと言われたって! ボク、何も出来ない……」
「……そろそろ行かせてもらいます」
ゼファルは静かにミルコの肩から手を離す。
立ち上がるとこちらへと向き直った。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/13(日) 01:34:42.79 ID:m5UrPC2So<> 「あなた方、見事な攻撃でしたが、次に会うときは
本気でやらせて頂きます。覚悟しておいて下さい」
そう言い残してゼファルは立ち去る。
涙をこぼすミルコの肩を抱くヘスが後に続くと、
前回と同様にグルティアが一礼をして姿を消した。
「ルーシェン、あのお坊ちゃんの相手、どうだった?」
「以前よりは確実に強くなっていた。
次会ったときにはどれだけ強くなっているか分からないな」
「そっか」
彼らは間違いなく強くなっている。
強大な壁として立ちはだかることは疑いないが、
キョウはミルコの成長が楽しみだとも感じていた。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/13(日) 01:36:00.13 ID:m5UrPC2So<> 「いやいや、大変な目に会いました!」
イスファルドの入口。
ネリド湿地帯から戻ったキョウ達の周囲を小さな影が飛び回る。
「でも、そのお蔭で皆さんと仲良くなれたし、
世の中、悪いことばかりじゃありません!」
かしましく騒ぐフェアリーの少女。
彼女はこの街にある商店の主、ルネアだ。
ネリド湿地帯で迷子になっていたルネアを救助したキョウ達は、
彼女を送り届けるために探索を一時中断したのだった。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/13(日) 01:36:33.04 ID:m5UrPC2So<> 「それでは私はここで。ルネア商店をよろしくですー!」
元気よく扉の中へと姿を消したルネアを見送ると、
キョウは一息つく。
これからもう一つ用事を済ませなければならないことを
考えると、少し憂鬱だ。
「ほら、行くよキョウちゃん。スウィートジンジャーを届けないと」
エルフのわがまま王女、リーファ。
彼女の依頼を達成したというのに、キョウには悪い予感しかしなかった。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/13(日) 01:37:16.05 ID:m5UrPC2So<> 「なるほど、確かにスウィートジンジャーですわね」
目的の物を手に入れることができて、リーファはご満悦のようだ。
彼女は衛兵にスウィートジンジャーを預けると、何かを耳打ちする。
それを受けた衛兵は静かに部屋を出て行った。
「さて」
リーファがこちらへ向き直る。
その顔には満面の笑みを浮かべていた。
「よくできましたわ。
あなた達をわたくしの専属冒険者にして差し上げましょう」
冗談だと思いたい。
こんな調子で無理難題を吹っかけられるのは勘弁して欲しい。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/13(日) 01:38:01.92 ID:m5UrPC2So<> 「いや、わりぃんだけど俺達は他にやることが……」
「いやだわ。遠慮なんてなさらず」
リーファがキョウの手を取る。
キョウを見つめる瞳は笑っていない。
イエスと言うまでは離さないぞ、
とでもいうようにその手はしっかりとキョウの掌を掴んでいた。
「……わかった、やればいいんだろ?」
「言葉づかいがなっていませんわ」
「つつしんでおうけいたします……」
リーファの横にはいつの間にか戻ってきた衛兵が控えている。
彼女は衛兵から荷物を受け取るとキョウに手渡した。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/13(日) 01:38:43.61 ID:m5UrPC2So<> 「これは、王宮騎士団に支給される武具。
本来なら、貴方達冒険者には一生縁のない品ですわ」
リーファに促され、キョウは包みを開く。
中からは一着の鎖帷子が出てきた。
それは店で見かけるものに比べて非常にきめ細かに編まれている。
それでいて羽のように軽く、時折、不思議な輝きを放っていた。
「あなた達がわたくしの騎士になった証ですの。
大切になさってね」
そう言ってリーファは微笑む。
これまでとは違う、優しい笑みだ。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/13(日) 01:39:19.41 ID:m5UrPC2So<> 「さて」
先程の表情は一瞬で消え去った。
相手に有無を言わせない、恐ろしい笑顔。
「そうしましたら、次のお願いをしようかしら。
スウィートジンジャー騎士団に命じます。
『月光の滝』にいる月の翁から『月光石』を取り返してきなさい」
「スウィートジンジャー騎士団?」
「ええ、素敵な名前でしょう?」
こう言っては悪いが、センスの欠片もない。
リョーコのネーミングセンスほどはっちゃけているわけでもなく、
反応に困る。
「気に入りませんの?」
気付けばリーファの顔が目前にあった。
いつもの表情。
勝てる見込みはゼロだった。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/13(日) 01:40:21.55 ID:m5UrPC2So<> ビステールの街。
習得できる呪文を覚えきってしまったリョーコの
転職手続きをするために、キョウ達は訓練所を訪れていた。
結構な時間が経つが、ミリアに連れられたリョーコはまだ戻ってこない。
そろそろ話題も尽きてきたところだった。
「お待たせ!」
リョーコが勢いよく部屋へと飛び込んでくる。
それに続いて、いつものように書類を抱えたミリアが入ってきた。
「おせーぞ、カミナギ」
「ごめんごめん。いざ転職しようとすると、目移りしちゃって」
そう言って頭を掻くリョーコ。
「で、何にしたんだ?」
「へっへー、今度は召喚師だよ」
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/13(日) 01:41:08.66 ID:m5UrPC2So<> リョーコの転職はこれで二度目になる。
一度目はリーファにスウィートジンジャーを届けた直後。
その時に錬金術師へと転職したリョーコのレベル上げを兼ね、
キョウ達はネリド湿地帯の攻略を中断してロイペス洞窟の
コウモリ退治をしていた。
しかしそこで散々道に迷った結果リョーコのレベルは十分に上がってしまい、
どうせならということで二度目の転職となったのだった。
「お前さっき、魔術師になるって言ってなかったか?」
「うん。ちょっと考えたんだけど、呪文攻撃専門の人っていないし、
魔法の使用回数を考えると最後に魔術師を目指そうかなって」
「司教なら魔術師呪文も僧侶呪文も使えるんじゃなかったか?」
「それはまあ、そうなんだけど、なんか中途半端っぽくて。
回復ならシズノ先輩もいるし、より専門的な職業の方がいいのかなって」
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/13(日) 01:41:48.23 ID:m5UrPC2So<> 「それなら、いいところがあるわ」
ミリアが話に割り込んでくる。
手に持った書類をぱらぱらとめくると、一枚の羊皮紙を取り出した。
「ルーベンブルグという魔法学校があるんだけど、
そこに行けば魔法について、より詳しく教えてくれるはずよ」
ミリアが差し出したのはルーベンブルグの学校案内だった。
その内容に、リョーコは目を輝かせる。
「誰でも入学できるんだって! 今度行ってみよ?」
「機会があったらな」
「ぶー。キョウちゃんのケチ。
学校っていうくらいなんだから、プールとかもあるんじゃない?
こっちの世界のプールで泳いだりできるかもよ?」
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/13(日) 01:42:30.86 ID:m5UrPC2So<> それは、かなり心惹かれる。
嗅ぎ慣れた塩素臭などこちらでは全くしないだろうし、
他にも色々と異なるに違いない。
そんなことを考えているのを見抜いたのか、
リョーコがにやにやと笑っていた。
「あの……」
ミリアが再び口を開く。
先程までとは違い、何か悩んでいるようだ。
「どうしたんですか、ミリアさん?」
「うん……実は、私の幼馴染みのソアラって子が
そこに通ってるんだけど、ちょっと様子を見てきて欲しいと思って。
もちろん、何かのついでで構わないから」
「それはいいけど、なんかあったのか?
直接会いに行けない場所ってわけでもないんだろ?」
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/13(日) 01:43:24.14 ID:m5UrPC2So<> 「実は、ちょっとしたことで大ゲンカしちゃって、
もうずいぶんと会ってないの。
仲直りしたいとは思ってるんだけど、どうにも踏ん切りがつかなくって……」
「そっか。でも、最後は自分で話さないと仲直りなんてできないと思うぜ?」
キョウは舞浜を思い出していた。
水泳部の仲間たち。
和解までの時間は果てしなく長かったのに、全てが崩れ去るのは一瞬だった。
もっと言葉を交わしていれば、もう少し長く共にいられたのかもしれない。
「うん、そうだよね……もう少ししたらまとまった休みがとれるから、
その時には直接会いに行くつもり。
それまでにルーベンブルクへ行くことがあれば、ちょっとでいいから
彼女のこと、気にかけてくれるとうれしいな」
「わかった、まかせろ」
「お願いね」
訓練所を後にするキョウ達。
その姿を、ミリアはいつまでも見つめていた。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/13(日) 01:44:02.96 ID:m5UrPC2So<> キョウ達は再びネリド湿地帯を訪れていた。
残された依頼、殺人ケルベロス退治を解決するためだ。
散々苦しめられたこのダンジョンも、そのほとんどをマップに記すことができた。
まだ埋まっていない南東部に、ケルベロスがいるのだろう。
「変な臭いがする……」
「どうした、メイウー?」
突然立ち止まったメイウーにルーシェンが問いかける。
「なんか、獣のような臭いがするわ。
それと、鉄っぽい臭いも……」
鉄の臭い。
血の臭いだろうか?
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/13(日) 01:44:47.75 ID:m5UrPC2So<> 「どうやら敵は近いようだな」
「ええ。みんな、注意して」
警戒しながら周囲を探索する。
しばらくすると、何かに気付いたルーシェンが
集合するように手振りで示した。
「あれを見てくれ」
ルーシェンの言葉に従って様子を伺うと、そこには三つの頭部を
持つ巨大な犬がいた。
目は爛々と輝き、口元は血で赤黒く変色している。
おそらく、あれがケルベロスだろう。
そして、袋小路となっているその背後には
冒険者と思われる人影が一つ、倒れていた。
「よし、行くぜ」
「待て、うかつに近づくな」
飛び出そうとするキョウの肩をルーシェンが掴む。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/13(日) 01:45:44.08 ID:m5UrPC2So<> 「離せよ。あそこに倒れてる奴を助けなきゃいけねぇだろ」
「おそらく、彼はもう死んでいる。
幸い向こうはこちらに気付いていないのだから、ここは慎重に――」
「そんなの、確かめてみなきゃわからないだろうが」
ルーシェンと視線が交錯する。
「分かった。君に従おう」
ルーシェンが眼を閉じる。
その顔には微笑が浮かんでいた。
「悪いな、ルーシェン」
「もう慣れたよ。いつものことだからな」
「よし、行くぜ!」
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/13(日) 01:46:26.80 ID:m5UrPC2So<> 気合いを入れるために出した声に、ケルベロスが反応する。
キョウ達の姿を確認したケルベロスは、威嚇するように牙を剥いた。
空気が張りつめる。
キョウは、ケルベロスとにらみ合ったまま動けない。
ケルベロスに隙はなく、キョウは攻撃のタイミングを掴めないでいた。
最も、それは向こうも同じらしい。
狭い場所であるが故に、ケルベロスはその巨体を
自由に操ることはできないようだった。
おそらく、先に動いた方が負けるだろう。
しかし、背後の冒険者を救出することを考えれば、
時間をかけるわけにはいかなかった。
覚悟を決める。
せめて頭の一つでも落とせれば、大分有利になるはずだ。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/13(日) 01:47:22.91 ID:m5UrPC2So<> 「――待って、キョウちゃん!」
キョウとケルベロスの間に割って入ったのは、リョーコだった。
「カミナギ!」
「大丈夫、大丈夫だから」
この言葉はキョウに向けられたものではない。
リョーコは、眼前の化物に語りかけているのだった。
「私たちは敵じゃない。
お願いだから、そこを通してくれないかな?」
ケルベロスがリョーコへ真ん中の顔を近づける。
最初は警戒していたが、最後には鋭い牙を納め、リョーコへ顔を摺り寄せた。
「ありがと。信じてくれるんだね」
リョーコの手が頭を撫でると、ケルベロスはごろごろと喉を鳴らした。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/13(日) 01:48:11.66 ID:m5UrPC2So<> 「カミナギ、どうなってるんだ一体?」
「話は後。まずはあの人を助けるのが先でしょ?」
その言葉にキョウは当初の目的を思い出す。
急いで冒険者に駆け寄ったが、その身体は既に冷たくなっていた。
「くそっ」
「ごめんね、キミのご主人を救ってあげられなくって」
リョーコの言葉を理解しているのか、ケルベロスは悲しげに鳴いた。
「カミナギ、どういうことだ?」
「その人の背中、ナイフが刺さってる。
この子が殺したんなら、そんなもの必要ないでしょう?」
息絶えた冒険者の身体を確かめると、ナイフ以外に大きな傷は
見当たらない。
殺人ケルベロスという言葉に惑わされ、
この化物が彼を襲ったと錯覚していた。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/13(日) 01:48:56.15 ID:m5UrPC2So<> 「多分、この子はその人と一緒に旅をしてたんじゃないかな。
倒れたその人を守るためにここにいたんだよ、きっと」
「そっか、攻撃しようとして悪かったな」
キョウが手を差し出すと、ケルベロスはその手を舐めはじめた。
舌のザラザラとした感触が掌に残る。
他の頭はルーシェン達と戯れていた。
本来はかなり人懐っこい性格らしい。
「それで、こいつをどうする?」
「うん。とりあえず街に戻ってワルミットさんに報告すれば
なんとかならないかな?」
「そうだな――」
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/13(日) 01:50:02.28 ID:m5UrPC2So<> 「おい、ちょっと遅かったみたいだぜ」
キョウ達が背後を振り向くと、冒険者の一団がいた。
結構な手練れらしく、隙が無い。
「あんたらもワルミットの依頼を見てきたのか?」
キョウの問いかけに、リーダーらしき魔術師が進み出る。
「ええ。どうやらコイツがその殺人ケルベロスと
お見受けしますが」
背後を見ると、ケルベロスは様子を一変させていた。
先程までの人懐っこさはなりを潜め、敵意を剥き出しにしている。
今にも、眼前の冒険者たちに飛び掛かりそうだった。
「待ってくれ。どうもこいつが冒険者を殺したんじゃないらしいぜ。
そこの冒険者はナイフで殺されていたんだ」
「なるほど、そうですか……」
そう言って魔術師は笑い出す。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/13(日) 01:51:48.85 ID:m5UrPC2So<> 楽しそうな、それでいてとても不快な笑い方。
「そう簡単に騙されてはくれませんか。
確かに、彼を殺したのはその犬っころではありません」
そう言って魔術師は袖をまくる。
そこからのぞいた腕には包帯が巻かれていた。
「いまいましいことに死ぬ間際にそんなものを召喚していったせいで、
こちらは大怪我ですよ。
もっと簡単に事が済むはずだったのに、上手くいかないものです」
「ッ!……あんたらがこの人を殺したのか?」
「はい。彼は元々私たちの仲間だったのですが、
どうにも方針が違いましてね。
何の得にもならない人助けをするだの、
他の冒険者を襲うなだの、不愉快極まりない。
あげく、別れた後も我々の邪魔をするのだから
そんな奴、始末されて当然でしょう?」
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/13(日) 01:52:28.75 ID:m5UrPC2So<> 冒険者達が出口を塞ぐように展開する。
すんなりと帰してはもらえないようだ。
「さて、それではあなた達にも死んで頂きましょう。
報酬は私たちが頂いておきますのでご心配なく」
冒険者が襲い掛かってくる。
騎士の攻撃を受け止めるキョウの脇を、女闘士が駆け抜けていった。
「カミナギ!」
背後のリョーコに敵が襲い掛かる。
その刹那。
ケルベロスが女闘士へと襲いかかった。
虚を突かれた彼女だったが、その勢いを止めることはない。
標的をリョーコからケルベロスにシフトすると、
その巨体へと拳を放った。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/13(日) 01:53:06.96 ID:m5UrPC2So<> 強烈な攻撃にさらされるケルベロスが膝をつく。
それを見て取った女闘士が再びリョーコに襲い掛かった。
「ロイド!」
飛び掛かる女闘士の横合いから呪文の光が襲い掛かる。
直撃を受けた彼女は昏倒し、地面へ落ちた。
「タオユウさん!」
「早く彼の下へ!」
リョーコはケルベロスへと駆け寄る。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/13(日) 01:53:50.36 ID:m5UrPC2So<> 「よそ見とは、余裕だな?」
背後を気にするキョウに、再び騎士が襲い掛かった。
両手の得物で攻撃を捌き、返す刀でのカウンターを狙う。
その瞬間、魔術師の呪文が騎士をも巻き込んでキョウに襲い掛かった。
吹き飛ばされ、木々に叩きつけられる。
直撃を受けたのか、騎士の姿は最早どこにもなかった。
「しぶといですね」
「てめぇ、仲間ごと……!」
「それが我々のやり方です。
使えない者は切り捨てるだけのこと」
司教が呪文を唱えると、先程まで昏倒していた女闘士が目覚めた。
これで動ける敵の数は四人。
数の上ではこちらが勝っているものの、形勢は圧倒的に不利だ。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/13(日) 01:54:42.98 ID:m5UrPC2So<> 「さて、そろそろおしまいにしましょう」
魔術師の合図で女闘士が近づいてくる。
絶体絶命。
「キョウちゃん!」
闘士の頭上から呪文の光が襲う。
女闘士は再びその場で倒れ込んだ。
次の瞬間、震動とともにキョウの目の前に巨大な影が立ちふさがる。
それは、ケルベロスに跨ったリョーコの姿だった。
「カミナギ!? お前それ……」
「この子と契約したの。いくよ、ベルちゃん!」
キョウへと回復呪文を放つと、リョーコはケルベロスと共に
敵の集団を急襲する。
ケルベロスの吐く炎に、固まった敵が散り散りになった。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/13(日) 01:55:20.43 ID:m5UrPC2So<> 「今だよ、みんな!」
リョーコの声に、キョウ達が流れを取り戻す。
キョウ、シズノ、ルーシェンの連携攻撃に侍が倒れ、
回復呪文を唱えようとした司教がタオユウの呪文で麻痺する。
「くっ。ここは撤退を……」
「逃がさないよ!」
呪文を唱える魔術師をケルベロスの巨体が押さえつけた。
最初は抵抗していた魔術師だったが、すぐに動きを止める。
目前で牙を剥くケルベロスに恐怖したためか、
魔術師は気絶してしまったようだった。
<>
◆3/d9CFUdyw<><>2012/05/13(日) 01:57:27.04 ID:m5UrPC2So<> おわりんぐ。
久々にがっつり書き溜めたはいいけど、
キャラクターがゲシュタルト崩壊しつつある今日この頃。
本編を見直したいけど人に貸しているというジレンマ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2012/05/13(日) 03:14:25.72 ID:hM2Pl8Q1o<> 乙 <>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/20(日) 23:13:39.62 ID:Vt1jVE2so<> 「サンキューな、カミナギ」
冒険者達を縛り上げ一息ついたキョウは、
ケルベロスの毛づくろいをするリョーコに話しかけた。
「この子のおかげだよ。
私を新しい主人と認めてくれたみたい」
そう言ってリョーコはケルベロスの頭を撫でる。
ケルベロスは疲れたのか、うとうとしているようだ。
「名前、付けたんだな」
「うん。この子と契約した時、頭に浮かんだの。
多分、この子の前の主人が付けた名前なんじゃないかな」
「そっか」
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/20(日) 23:14:23.33 ID:Vt1jVE2so<> そう言ってキョウもリョーコとは別の頭へと手を伸ばした。
「よかったな、『シメサバ三号』とか付けられないで」
「えー、可愛い名前じゃん『シメサバ三号』」
少しむっとした表情でリョーコが抗議する。
「いやいや、ありえねぇって」
「そうかなぁ……」
そんなことを話していると、突然ケルベロスが起き上がった。
警戒するように、先程の冒険者へとうなり声を上げる。
「どうしたのベルちゃん?」
リョーコを残して冒険者達に駆け寄るキョウ。
ルーシェン達も集まってきた。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/20(日) 23:15:23.73 ID:Vt1jVE2so<> 「どうしたの、キョウ?」
「先輩。なんかケルベロスの様子が――」
話すキョウの目の前で、縛られた冒険者達が突然消え去った。
いや、消え去ったという表現は正しくない。
彼らの身体は無数の、小さな黒蛇に変わっていったのだった。
「キョウ、早くそこから離れて!」
「先輩、なんなんだよこれは!?」
「こいつらは、ガルズオルムのプローブ・プログラムだ!
やつらに襲われるとデータを壊されるぞ!」
シズノの代わりにキョウの問いに答えるルーシェンの目には怒りが浮かんでいた。
キョウは刃を抜く。
蛇の群れへと振り下ろすが不思議な力で弾かれてしまった。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/20(日) 23:16:20.31 ID:Vt1jVE2so<> 「無駄だ! そいつらに普通の攻撃は通用しない!」
「ならどうすりゃいいんだよ!?」
「セレブアイコンさえ使えれば……!」
歯噛みするルーシェン。
今のキョウ達に彼らへの対抗手段は残されていなかった。
「……ッ!」
いつの間にか、周囲は蛇に囲まれていた。
地面をうごめくおぞましい影が、塊となって一斉に襲い掛かる。
とっさに近くにいたシズノをかばうが、
黒い一団がキョウを襲うことはなかった。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/20(日) 23:17:08.08 ID:Vt1jVE2so<> 振り返るキョウの目に映るもの。
それは、全身をうごめく黒い塊に包まれたタオユウの姿だった。
「生徒会長!」
とっさに手を伸ばすが、タオユウを襲う蛇に触ることすらできずに
弾かれてしまう。
何もできないまま時間だけが経過し、蛇の群れが忽然と姿を消す。
そこには、地面へ倒れるタオユウだけが残された。
「生徒会長! おい!」
肩をゆすると、タオユウの目がゆっくりと開かれる。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/20(日) 23:17:52.16 ID:Vt1jVE2so<> 「疑似人格プログラム、および記憶領域に重大な損傷を受けています。
急ぎ構成データを確認して下さい。
なお、本機は十分後に再起動します。
繰り返します……」
機械的な音声を繰り返すタオユウ。
開かれた目も焦点が定まってはいなかった。
「どういうことだよ、これ……」
「奴らの攻撃のせいで、データを壊されたのか……
ひとまず街へ戻ろう。また奴らが襲ってくるかもしれない」
ルーシェンの案に従って、キョウ達はビステールへと急いだ。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/20(日) 23:18:46.45 ID:Vt1jVE2so<> ロゼッタの宿。
その一室にキョウ達は集まっていた。
ベッドにはタオユウが眠っている。
再起動のメッセージを口にすることは無くなったが、
意識を取り戻してはいない。
データ上は一緒にいるためか、彼が眠ったままでも
錬金倉庫の利用はできるようだったが、
ダンジョンに連れて行くことは不可能だろう。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/20(日) 23:20:00.44 ID:Vt1jVE2so<> 「……生徒会長の話では、敵はガルズオルムじゃないって話だったよな?」
ルーシェンとシズノの話によると、あの蛇はサーバー内に侵入した
ウイルス・プログラムが視覚化したものらしい。
他のデータ構造体に侵入し、プログラムの書き換えや破壊、
乗っ取りを行うという。
「ああ。しかしタオユウを襲ったのは十中八九、ガルズオルムのものだ。
以前に戦ったことがある」
ルーシェンが静かに答える。
だが冷静な彼には珍しく苛立ちが見て取れた。
「なんであいつらは、俺達を襲わなかったんだ?
対抗手段がない俺達を始末することくらい、簡単だろ?」
「わからない。それに、タオユウを乗っ取るのではなく
データを壊しただけというのも気になる。
その気になれば、タオユウを消滅させるどころか
このサーバーを崩壊させることだってできたはずだ」
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/20(日) 23:20:58.90 ID:Vt1jVE2so<> 自身の無力さが悔しい。
セレブラムとしての能力が無ければ、何もできない。
最も、それはここにいる誰もが感じていることだろう。
「ともかく、こうしていても仕方がない。
敵の姿も見えない以上、俺達にできることは
これまで通りこのサーバーからの脱出を目指すことだけだ。
幸い、やつらは今のところこちらに直接手出しする
つもりはないらしいからな」
「わかった。……そういえば」
「どうしたの、キョウちゃん?」
リョーコがキョウの顔を覗き込む。
「カミナギ、このサーバーに来た時に声が聞こえたよな?」
「うん。女の人の声だった」
「私とルーシェンも聞いたわ」
リョーコ、メイウー、ルーシェンと、
このサーバーに取り込まれたメンバーは全員女性の声を聞いている。
その女性が、この事態のカギを握っているに違いない。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/20(日) 23:21:38.69 ID:Vt1jVE2so<> 「タオユウを送り込んだのは、おそらくその女性よ」
今まで沈黙を保っていたシズノが口を開いた。
皆の視線がシズノへと向けられる。
「先輩、何か知ってるのか?」
「ごめんなさい。今はまだ話せないわ」
「シズノ!」
うつむくシズノを問い詰めようとするルーシェン。
「まあ落ち着けって。らしくねーぞ」
キョウはルーシェンをなだめるとシズノへと向き直った。
「先輩、何か理由があるのか?」
「ええ。ただ、少なくとも彼女は敵ではない。
上手くいけばこちらの味方になってくれるはず」
「生徒会長を元に戻すこともできるのか?」
「おそらくは」
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/20(日) 23:22:11.21 ID:Vt1jVE2so<> シズノのまっすぐな瞳。
いつもキョウを導いてくれたものと、何も変わりない。
「わかった」
これまでと何も変わらない彼女なら、信じられる。
「俺は先輩を信じる。
前にも言ったろ?
先輩が俺らを騙すはずがない。
これまでだって、ずっと一緒にやってきたじゃないか」
「私も先輩を信じるよ」
「ありがとうキョウ、リョーコ」
シズノの顔には安堵、そして感謝の微笑が浮かんでいた。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/20(日) 23:22:45.13 ID:Vt1jVE2so<> 「ま、シズノの秘密主義はいつものことだしね。
ここまできたんだもの、付き合ってあげるわ」
「ふっ、そうだな」
呆れ顔のメイウーと笑みをこぼすルーシェン。
「ありがとう、みんな」
シズノは深々と頭を下げた。
「そういうのは無しだ。そうと決まれば早く次へ行こうぜ」
キョウは廊下へのドアを開け放った。
<>
◆3/d9CFUdyw<><>2012/05/20(日) 23:24:23.72 ID:Vt1jVE2so<> おわりんぐ。
これからは5人パーティーでの探索です。
アイテムを持てる数が少なくなったってのがちょっとしんどい…… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>sage<>2012/05/27(日) 04:51:43.55 ID:68tV/4pj0<> ゼーガペインのSS・・・だと・・・?
学校にはゼーガについて語れる奴がいないから寂しいぜ
年齢的に知ってておかしくないはずなんだけどなぁ <>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/27(日) 21:52:12.04 ID:PHksoGUto<> 「うわぁ、ホントに浮いてるよ!」
「はしゃぎ過ぎて落っこちるなよ」
走り回るリョーコをたしなめる。
キョウ達は依頼をこなすため、アンヒモナ高山へとやってきていた。
目的は精霊が持つという楽譜。
彼らに会うため、キョウの浮翌遊呪文で雲上を渡り歩いているところだ。
タオユウが離脱したことについて、心の整理が完全にできたとは言い難い。
それでも、雲の上から見る雄大な眺めはそのことを
少しだけ忘れさせてくれる。
他の皆にとっても、いい気分転換になっているようだ。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/27(日) 21:52:47.91 ID:PHksoGUto<> 「キョウ、あっちに楽譜を持っている人がいるらしいわ」
精霊に話を聞いていたシズノがこちらへとやってくる。
心なしか、彼女の足取りは軽い。
リョーコやメイウーもだが、雲の上を歩くという
非日常的な行為が彼女達のテンションを上げているのだろうか。
「わかった、それじゃそっちに……」
言いかけたところで、キョウは異変に気付いた。
手首に下げたコンパスが眩い光を放っている。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/27(日) 21:53:34.55 ID:PHksoGUto<> 「先輩悪い、そっちは一時中断だ」
「ええ。ルーシェン達を呼んでくるわ」
「ああ、頼む」
皆のことはシズノに任せ、キョウはコンパスを確認する。
元よりフェイムが足りないため、全ての神具は探せないし
コンパスの有効距離も非常に短い。
適当にいくつか選んだ神具の一つがこんなに早く見つかるとは
幸運としか言いようがなかった。
「キョウちゃん!」
振り向くとシズノとリョーコが立っていた。
すこし遅れてルーシェンとメイウーの姿も見える。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/27(日) 21:54:14.73 ID:PHksoGUto<> 「よっし、そんじゃあ行くか!」
楽しい雲歩きは一時中断。
キョウ達は再び山腹へと戻った。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/27(日) 21:54:48.37 ID:PHksoGUto<> 「よし、ここだな」
コンパスの光が足元に伸びる。
キョウが地面を調べようと手を伸ばすと、
手にしたコンパスがそれに呼応するように輝きを増した。
かすかな振動。
地面からあふれ出た激しい光に思わず目を閉じる。
キョウが目を開くとそこには、古びた台座と美しい靴があった。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/27(日) 21:55:32.86 ID:PHksoGUto<> 「これが『勇気の靴』ってわけか」
その靴は傷ひとつなく、とても太古よりあるものとは思えない。
それでいて手に取っただけで力が湧いてくるように感じるのは、
正に神の力というやつのためなのだろう。
そんなことを考えていると靴が再び光を放つ。
その光はキョウのコンパスへと吸い込まれていき、
次の瞬間には手にしていたはずの靴は姿を消していた。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/27(日) 21:56:11.94 ID:PHksoGUto<> あわててコンパスを確認すると、
これまで光を放っていた水晶の中に小さな靴が見える。
他の神具もまた、対応した場所に納められるに違いない。
「よし、これで残りはあと五つだな」
「いいや、そいつは違うな」
聴き慣れない声。
背筋が凍るような冷たい声に振り返ると、
そこには大柄な騎士の姿があった。
使い古されてボロボロになった鎧に一振りの大斧。
極めて不吉なその姿に、キョウは死神を連想した。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/27(日) 21:58:20.39 ID:PHksoGUto<> 「俺達よりも先に神具にたどり着くとは、
なかなかやるじゃねぇか」
騎士はキョウを舐めまわすように見る。
腕のコンパスに目を留めると、納得したかのようにうなずいた。
「ほう……そのアイテムのお蔭か。
せっかく見つけたところを可哀想だが、そいつをこちらに渡してもらおうか」
「わりいな。誰だか知らねぇが生憎とそういう訳にはいかねぇんだ」
「へっ、そりゃそうか。俺の名はノンハレド。
残念ながらそういう訳にはいかないのはこちらも一緒だ。
力づくでも頂いていく」
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/27(日) 22:00:33.86 ID:PHksoGUto<> 言うが早いかノンハレドがこちらへと向かってきた。
巨体に似合わないスピードに、キョウは一旦距離を取ると
雷撃を放った。
威力は期待しない牽制程度のものだったが、ノンハレドの
勢いは全く衰えることは無い。
「どきなさい、キョウ!」
背後のメイウーがフランベルジュを構える。
シズノが新たな武器を手に入れたために、
現在は火力に乏しいメイウーが持っているのだった。
メイウーが手にした大剣から炎が迸る。
次の瞬間、火炎の奔流がノンハレドの巨体を包み込んだ。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/27(日) 22:01:38.49 ID:PHksoGUto<> しかしそれでも敵が足を止めることはない。
気を取り直したキョウは両手に武器を構えると
突進するノンハレドを真っ向から受け止めた。
敵の攻撃に身体と武器が悲鳴を上げる。
ギリギリで攻撃を受け切った隙をついて
シズノとルーシェンが襲い掛かった。
「ふんっ!」
力任せに振られた腕にキョウの身体が吹き飛ばされる。
ノンハレドはその勢いでルーシェンのブーメランを叩き落とすと、
シズノへと斬りかかった。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/27(日) 22:02:47.94 ID:PHksoGUto<> とっさにシールドを構えるシズノ。
攻撃を受け切ると、手にした斧をノンハレドに叩きつけた。
「ほう、やるじゃねぇか」
斬りつけられた左手の傷を見てノンハレドはニヤリと笑う。
しかし、敵に与えることのできたダメージに対して
こちらの被害は大きい。
キョウの手にした刀のうち一本は半ばから折れてしまっているし、
シズノの盾には大きなヒビが入っている。
次の攻撃を受け止めることはできないだろう。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/27(日) 22:04:37.10 ID:PHksoGUto<> その時。
キョウの頭上を巨大な影がかすめる。
力強い雄叫びと共にケルベロスがノンハレドへと襲い掛かった。
「みんな、大丈夫?」
リョーコの呪文によりノンハレドに破壊された武具が修理される。
しかし、リョーコが使える補修呪文はあと二回。
長期戦になっては勝ち目がない。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/27(日) 22:05:33.15 ID:PHksoGUto<> 敵は炎を避けようともせずケルベロスに攻撃を加え続ける。
「カミナギ、先輩。作戦があるんだが、聞いてくれるか?」
キョウが指示を出すその間も、ノンハレドの斧はケルベロスを苛む。
向こうではルーシェンとメイウーがケルベロスを守るべく奮戦していた。
「よし、それじゃあ後は頼んだぜ」
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/27(日) 22:06:13.69 ID:PHksoGUto<> 駆け出すキョウとシズノ。
その背後でリョーコがケルベロスにブレスの指示を出す。
「メイウー! ケルベロスのブレスに合わせてフランベルジュを頼む!」
「わかったわ!」
キョウの指示に従いメイウーがフランベルジュを振りかざす。
ケルベロスとメイウーが放つ二重の炎が渦となりノンハレドを襲った。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/27(日) 22:07:02.05 ID:PHksoGUto<> 「はっ! こんな炎、無駄だってわかんねぇのかよ!」
ノンハレドがケルベロスへとどめを刺すべく、炎の渦へと突進する。
その中からキョウはノンハレドを急襲した。
「なにぃ!?」
周囲の火炎が目くらましとなり、ノンハレドの反応が一瞬遅れる。
その隙をついてキョウは渾身の一撃を叩きこんだ。
キョウの刃がノンハレドの右肩と胴体を捉える。
しかしノンハレドの斧もまた、キョウの腹部を鎧ごと切り裂いていた。
鮮血が溢れだすということもなく、ただ傷口だけが開いていく。
その光景を最後に、キョウの意識は途切れた。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/27(日) 22:08:04.23 ID:PHksoGUto<> キョウが目を覚ましたのはさっきと同じ場所だった。
真横にはリョーコが座っている。
蘇生呪文を使えるリョーコが復活させてくれたらしい。
すでにノンハレドの姿はそこになかった。
「サンキュ、カミナギ。あれからどうなったんだ?」
「うん。あの後、シズノ先輩の攻撃を受けたノンハレドは
捨て台詞を残して帰って行ったよ。
『次に会う時まで神具はお前たちに預ける』だってさ」
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/27(日) 22:09:23.32 ID:PHksoGUto<> 似てない声真似をするリョーコの姿に、自然と笑みがこぼれる。
「そっか。上手く行ったんだな」
「うん。シズノ先輩たちは楽譜を探しに行ってるよ」
真っ向からやりあっても勝ち目がないと踏んだキョウは
奇襲を選択したのだった。
リョーコの呪文でブレスと魔法への耐性を付け、
火力に秀でるキョウとシズノが連続攻撃をしかける。
フランベルジュやケルベロスの火炎をかわそうともしない
相手だからこそ、取れた戦法だった。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/27(日) 22:10:15.62 ID:PHksoGUto<> 「でも、キョウちゃん。
正直に言って、ああいう手は好きじゃないでしょ?」
「まあな。ああいう手で勝つってのはどうもすっきりしねぇ。
でも、そうしなきゃ勝てない奴ばかりが相手で、
勝てなきゃ全てが終わるってんだから仕方ねぇよ」
「ガルズオルム相手でもそういうスタンスでいてくれればいいのに」
いじわるな顔でリョーコが告げる。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/27(日) 22:12:01.50 ID:PHksoGUto<> 「な、なんだよ?」
「だってキョウちゃん、なんだかんだで最後は
真っ向勝負に持って行っちゃうことが多いから
QLの管理が大変なんだもん。
よく使うパンチだって、そんなにQL効率よくないしさ」
「バカ、あれはな……」
「男の武器?」
「そうそう! 武器を壊されてもなお敵を打ち倒すための
最後の一撃! 男のロマン!」
熱く語るがリョーコの視線は冷たい。
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/27(日) 22:13:01.97 ID:PHksoGUto<> 「言っとくけど、アレって機体そのものにも結構な負荷がかかるから
あんまりよくないんだよ。
ミナト先輩やディータさん達からも釘を刺されてるし」
「まあまあ、細かいことは気にすんなって」
「そう言ってキョウちゃんが話を聞かないから、私が言われるの!」
結構本気で怒っている。
「そ、そういえば他のみんなの帰りが遅いな。探しに行こうぜ!」
そう言ってキョウは飛び起きると一目散に駆け出した。
「こら、逃げるな! ソゴル・キョウ!」
いつものように追いかけてくるリョーコ。
その表情はいつの間にか笑顔に変わっていた。
<>
◆3/d9CFUdyw<><>2012/05/27(日) 22:20:51.08 ID:PHksoGUto<> おわりんぐ。
残る神具はあと5つです。
>>232
リアルタイムで観てたとしたら大学生くらいですか?
自分の周囲でもわかる人は少ないので寂しいです。
キャラ崩壊してる感が強いですが、
楽しんでいただけたらうれしいです! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>sage<>2012/05/28(月) 21:28:00.89 ID:Nx3C/h2W0<> >>253
高校生です。深夜にやってた方が分かる人も多かったのかなぁ?
キョウちゃんは何て言うか、ブレが無くてイイ
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/05/28(月) 23:30:51.22 ID:BUt4AmFfo<> >>254
高校生…だと…!
若い……
というか、小中学生時点でゼーガはなかなか渋いですね(笑)
次回更新はまだ未定ですが、気長に待って頂けると助かります
<>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/06/18(月) 00:54:21.56 ID:rZgnauVco<> 諸事情により更新が遅れるので保守 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州)<>sage<>2012/07/01(日) 14:54:05.28 ID:BULQ0FIAO<> 待ってる
保守 <>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/07/16(月) 23:36:04.22 ID:p6Wusb51o<> 予告:月末に更新 <>
◆3/d9CFUdyw<><>2012/07/31(火) 19:04:30.08 ID:h8lSfwr+o<> 「……すげぇ」
それ以上言葉が出ない。
アンヒモナ高山の山頂。
そこから見える景色にキョウ達はただ圧倒される。
広大な雲海は無限の広がりを持ち、
そこに陽光が反射する様は大海を彷彿とさせた。
楽譜集めが終わった今、ここにもう用はないはずだったのだが、
この寄り道は大正解だったらしい。
「ねえ、キョウちゃん。あれはなにかな?」
唐突にリョーコが指をさす。
その先にはただ雲海がひろがっているだけだ。
……いや。
よく見るとその先に小さな影があった。
遠目な上に逆光で、それがなんであるかの判別はつかない。
こちらに近づいているらしいその影は、少しずつ大きくなる。
しかし――
<>
◆3/d9CFUdyw<><>2012/07/31(火) 19:05:44.40 ID:h8lSfwr+o<> 「なんだありゃ!?」
鳥のように見える。
ただ、サイズがおかしい。
まだずいぶんと距離があるはずなのに、
その大きさはすでに普通の鳥くらいのサイズになっていた。
みるみる内に大きくなるそれが猛スピードで
キョウ達の遥か頭上を飛び越えた次の瞬間、
大きな地響きと震動が彼らを襲った。
急いで振り向くキョウ。
そこには、巨大なフクロウがいた。
サイズで言えば、時折出会う巨人ともいい勝負ができるだろう。
このフクロウの前ではケルベロスだって普通の犬にしか見えない。
あっけにとられるキョウ達を、フクロウはゆっくりと見回した。
<>
◆3/d9CFUdyw<><>2012/07/31(火) 19:10:12.05 ID:h8lSfwr+o<> 「おお、めずらしいこともあるもんじゃ。
下界からちっこい者が訪ねて来おった」
フクロウがしゃべりだす。
口調は穏やかで、優しかった。
「わしは大地の四賢者が一人、オムショコポ。
風の賢者じゃ。
聖域コントラキオの異変についてわしに尋ねにきたのかの?」
「じいさん、何か知ってんのか?」
何も判明していない今はどんな情報でもありがたい。
しかし、オムショコポは困ったように眉をひそめた。
「いいや、あいにくとわしにも解らぬ事だらけでな」
フクロウは右の翼で顎を撫でるような仕草をする。
まるで人間のようだ。
<>
◆3/d9CFUdyw<><>2012/07/31(火) 19:10:59.77 ID:h8lSfwr+o<> 「どんな小さなことでもかまわないのだけれど」
シズノの言葉に、オムショコポは考えを巡らす。
しばらくして、再び口を開いた。
「コントラキオに異変が起きたとき、
わしは……なんというか、少し奇妙な……
ふむ……おかしな感覚になってしまってな」
オムショコポの歯切れは悪い。
自身の身に起こったことについてどう表現すべきか、
悩んでいるように見える。
その様子を見かねたシズノが、話を続けるように促した。
<>
◆3/d9CFUdyw<><>2012/07/31(火) 19:11:44.93 ID:h8lSfwr+o<> 「ふむ……わしはその時、
『コントラキオに現れた闇の眷属に手を貸さねばならぬ』
といったおかしな考えに取り付かれてしまったのじゃ。
幸い、精霊たちが正気に戻してくれたからよいものの、
あのままだったらどうなっていたことか……」
「オムショコポ。その時に黒い蛇のようなものを見なかったか?」
ため息をつくオムショコポにルーシェンが問いを投げる。
異変の原因がガルズオルムではないかと疑っているのだろう。
「いや、そんなもんは見なかったのう。
……ところで、一つ頼みがあるのじゃが、聞いてはもらえんか?」
「どんなことだ?」
「ふむ。わしはこうして無事だったのじゃが、
他の四賢者までもがそうだとは限らん。
そこで、お前さん達には彼らの様子を見に行って欲しいのじゃ。
いかんせん、わしらのように存在の大きな者が動くのは
影響が大きすぎて、おいそれと大地を闊歩できんからのう」
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◆3/d9CFUdyw<><>2012/07/31(火) 19:12:41.32 ID:h8lSfwr+o<> 他の四賢者ならばなにか有用な情報を持っているかもしれない。
「いいぜ。そいつらはどこにいるんだ?」
「火の賢者ラドレヒトは灼熱の古城に、
水の賢者シリンモリンはナルマント海溝に、
土の賢者レイザームはブラン砂漠にそれぞれおる
最も、みなわしと同様賢者らしい所は何もないがの」
そういってオムショコポは一人笑い出した。
「わかった。ただ、俺達にもやることがあるからな。
そのついで、ってことになるけどいいか?」
「かまわんよ。報酬はなにか考えておこう」
「よし、それじゃあ終わったら報告にくるぜ」
「すまんのう。礼と言ってはなんじゃが、ふもとまで送ってやろう」
オムショコポが背中を向ける。
どうやら乗れ、ということらしい。
「サンキューな、じいさん」
キョウ達はオムショコポの背中に潜り込む。
そこは柔らかい羽毛のお蔭でとても心地よい空間だった。
……もっとも、その直後にジェットコースターなど目じゃない
ほどのスリルを味わうことになったのだが。
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◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/07/31(火) 19:14:09.69 ID:h8lSfwr+o<> おわりんぐ。
展開上、そろそろミルコと再戦したいのにエンカウントしない……orz <>
19870319<>sage<>2012/09/09(日) 21:24:20.30 ID:uGZq1Crbo<> 見てる人がいるかどうか怪しいけど来週中に更新予定です <>
◆3/d9CFUdyw<>sage<>2012/09/09(日) 21:26:13.05 ID:uGZq1Crbo<> 間違えた…orz
携帯変えたらこれだよちくしょう <>
◆3/d9CFUdyw<>saga<>2012/09/17(月) 00:03:47.55 ID:xtWA6Dcuo<> 「グアアアァァァ!」
熱砂に巨大な咆哮がこだまする。
ルーシェンのダガーが深紅の竜を捉えた瞬間だった。
「てめぇ……大人しく俺に喰われろよぉぉぉ……
俺様の神具になるはずだったのに……
むかつく奴らだぁぁぁ!!」
鼻息も荒く赤竜、ドネルクラルが叫ぶ。
「お前、ゼシュロームに報告してやるぜぇ!
ざまぁぁぁみろぉぉぉ!!」
捨て台詞というにはあまりにも情けない言葉を残し
ドネルクラルは空の彼方へと飛び去った。
「ふう、しんどかったぜ」
「でも、無事勝てたわ」
シズノがキョウの傷口に手をかざす。
一撫でするだけでそこには何の痕跡も無くなった。
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◆3/d9CFUdyw<>saga<>2012/09/17(月) 00:04:37.69 ID:xtWA6Dcuo<> 「へへ、私達もちゃんと強くなってるんだね」
ルーシェンを治療するリョーコの声は明るい。
ブラン砂漠を訪れたキョウ達を待っていたのは
二つ目の神具、希望のティアラだった。
一つ目の時と同様にキョウ達を敵、ドネルクラルが襲ったが、
ノンハレドの時よりは幾分楽に戦いを進めることができた。
どうやら大分、この世界にも慣れてきたらしい。
レベルだけでなく肉弾戦における体捌きも、
以前に比べれば格段に良くなっている自覚がある。
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◆3/d9CFUdyw<>saga<>2012/09/17(月) 00:05:16.67 ID:xtWA6Dcuo<> 「よし、それじゃあ探索を再開しようぜ。
レイザームってやつも探さないといけないしな」
「レイザームさんってどんな人なんだろうね?」
見ると、リョーコが顎に手を当てて悩んでいた。
「風の賢者のオムショコポさんがフクロウだよね?
じゃあ、土の賢者なレイザームさんもやっぱり
それっぽい動物なのかな?」
「じゃねーの? 土の賢者っていうんだから単純に行けば
モグラとかミミズみたいなやつだろ」
「う、やめてよキョウちゃん。
巨大モグラはともかく巨大ミミズはちょっと気持ち悪いって」
「いやぁ、わかんねぇぜ?
フクロウみたいなかわいい系ばかりだと油断させておいて……」
「やだなぁもう……」
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◆3/d9CFUdyw<>saga<>2012/09/17(月) 00:06:11.84 ID:xtWA6Dcuo<> その時、遠くから悲鳴のような声が聞こえた気がした。
それに気付いたリョーコも言葉を途切れさせる。
「あっちの方からだわ!」
メイウーが指し示す方角に向かうと、
そこには、金髪の女性が倒れていた。
「おい、しっかりしろ!」
抱え起こした彼女の顔には、
汗で砂と自身の髪がべったりと張り付いていた。
「くっ……なんなんだ……あの獣は……」
息も絶え絶えに女性は言葉を紡ぐ。
開かれた瞳は焦点が定まっていない。
「私の仲間たちは……どこへ……?」
「俺達が来た時にはもうあんたしかいなかった。
すぐに手当てを……」
治療のために彼女をうつ伏せにしようとして、キョウは言葉を失った。
そこには傷口がなかった。
傷口どころかそこにあるべき肉体がまるで、
えぐられたかのように消失していたのだった。
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◆3/d9CFUdyw<>saga<>2012/09/17(月) 00:06:54.44 ID:xtWA6Dcuo<> シズノが、リョーコが回復呪文を唱えてもそれが癒されることはない。
その間にも肉体の消失はじわじわと彼女を蝕んでいく。
呪文がダメなら、とメイウーが鞄の薬品を手当たり次第に
使うが、それでも侵食が止まることは無かった。
もたれかかった彼女の身体から力が抜けていくのが分かる。
「しっかりしろ! おい!!」
キョウの叫びも、もはや彼女には届かない。
皆の奮闘も虚しく、ものの数分で彼女の存在はキョウの手の内から
文字通り消滅してしまった。
「ひどい……」
リョーコは今にも泣きだしそうな顔をしている。
キョウもまた、立ち上がることができなかった。
彼女の重みが、まだキョウの上に残っている。
もし動いてしまえば彼女の存在は本当に消え去ってしまうような、
そんな気がする。
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◆3/d9CFUdyw<>saga<>2012/09/17(月) 00:07:37.61 ID:xtWA6Dcuo<> 「気を抜かないで! 敵がまだこの辺りにいるかもしれない」
シズノの言葉が、キョウを現実に引き戻した。
キョウを押さえつけていたものは失われ、
ここには最早何もない。
彼女が消えたのは変えようのない事実なのだ。
「そうだな。気を引き締めようぜ」
立ち上がりながらキョウは周囲を警戒する。
敵の気配は感じられない。
ルーシェンに目配せするが、彼もまた同様のようだ。
落ち着いて辺りを見回すと、そこここに戦闘の残滓が残っていた。
赤黒く変色した地面が、ここで起きた惨劇を物語っている。
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◆3/d9CFUdyw<>saga<>2012/09/17(月) 00:08:21.60 ID:xtWA6Dcuo<> ふと、足元に落ちた長槍に目が行った。
おそらく彼女が手にしていたものだろう。
白銀の穂先も、血で曇ってしまっている。
だが、敵に手傷を負わせているのであれば、追跡はできるかもしれない。
「カミナギ、ベルに頼んで敵を追えないか?」
「わかった、やってみる」
すぐにリョーコは召喚の準備を始める。
気丈に振る舞ってはいるが、その目元は赤い。
程なくして姿を現したケルベロスに槍の穂先を嗅がせると、
三頭犬はゆっくりと動きだした。
ケルベロスに続き歩を進める。
ベルの動きには迷いが無い。
これならばきっと敵を捕捉できるだろう。
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◆3/d9CFUdyw<>saga<>2012/09/17(月) 00:09:14.46 ID:xtWA6Dcuo<> 「先輩、さっきはありがとな」
道中、キョウはシズノに声をかける。
シズノはキョウの方に振り向くと、微笑んだ。
「気にしないで。当然の判断をしただけよ。
結果として敵はいなかったわけだし」
「でも、それはたまたまだろ。
先輩がいなかったら全滅してたかもしれないんだ。
感謝してるぜ」
「ふふっ、ありがとう。そう言ってもらえるなら、
私も憎まれ役を買って出た甲斐があったってものだわ」
そう言ってシズノは再び前方へ視線を戻す。
その表情には少し、安堵したような様子が見て取れた。
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◆3/d9CFUdyw<>saga<>2012/09/17(月) 00:10:04.51 ID:xtWA6Dcuo<> 「……キョウ」
再びシズノが口を開く。
その眼はさっきまでとは違い、真剣そのものだ。
「今度の相手はこれまでとは違うわ。
どんな手を使ってくるかは分からないけど、
ちょっとした油断が命取りになる」
キョウはさっきのことを思い返す。
自分だけじゃない。
ミスをすれば仲間の誰かもまた消滅してしまうかもしれないのだ。
「だから」
シズノは歩みを止めると、キョウの手を取る。
「どんなことがあっても冷静でいて。お願い……」
シズノの手は震えていた。
自分だけではない。
シズノもまた、誰かがいなくなることを恐れている。
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◆3/d9CFUdyw<>saga<>2012/09/17(月) 00:10:38.78 ID:xtWA6Dcuo<> 「心配すんなって。今回は無茶しないようにするからさ」
「約束よ、キョウ」
「ああ、約束だ。
それより先輩、早くいかないと置いてかれちまうぜ?」
ケルベロスの歩みが遅いとはいえ、気付けば結構な距離が開いていた。
「ふふっ、そうね。行きましょう、キョウ」
そう言ってシズノは駆け出す。
キョウもそれを追った。
誰も犠牲になどしない。
そんな決意を胸に秘めながら。
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◆3/d9CFUdyw<>saga<>2012/09/17(月) 00:12:36.39 ID:xtWA6Dcuo<> とりあえず今回はこれでおしまいです。
中途半端で申し訳ない。
来週中には続きを載せます。 <>