無料アクセスカウンターofuda.cc「全世界カウント計画」
■掲示板に戻る■ ■過去ログ倉庫メニュー■ ■VIPService (VIPサービス)■
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。もう書き込みはできません。。。
HTML化した人:横▲
中二病SF『ようこそカスミへ!』2号機
1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/11(日) 23:40:21.39 ID:QShfgetAO
※注意※
1.SF・ロボットものです
2.既存のロボットものの影響を酷く受けています
3.登場人物に名前がついています
4.地の文と台本形式が混ざっています
5.現在第七話途中まで進行しています

第七話は前スレ946からスタートしています。

前スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1307432429/

あらすじ、登場人物まとめは以下

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1331476821(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)
2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/11(日) 23:55:17.00 ID:QShfgetAO
【あらすじ】
今から少し先の未来。日本防衛軍士官学校に通う神前新兎は、実技はピカ一だが、ペーパーはダメダメだったせいか、配属先も見つからず、魚屋を継ぐことになる。
だが、ひょんなことから『島流しの果て』と呼ばれる『戦艦カスミ』に配属されることになった。
待ち受けていたのは、かわいいロリロリ娘に無愛想なエリート美少女に熱血バカに暴力娘に三十路ギリギリのお姉さんに陽気な技術者。そして怪しい中年男。
彼らとなんやかんやありながら、謎の生物やらハイジャック犯やら下着ドロやらを退治する。
ロボットの出番が異様に少ない中途半端なSFです。
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:01:47.74 ID:Yz0L+Z5AO
【登場人物】

神前新兎
自称主人公で童貞。階級は准尉。親の七光り。陸空宙用ロボット「ファルコート」の適性者。1号機パイロット。

敷島
階級は准尉。ハーフで容姿端麗。
橘花に頭があがらない。ファルコートの適性者で3号機パイロット。

霧島
戦艦カスミの艦長。階級は大佐。
女好きでギャンブル好きで酒好き。
長髪で髭を生やしている。奥さんがいたらしいが逃げられたと噂される。

橘花珠里
階級は大尉。ポニーテール美女。上級士官学校を主席で卒業した完璧主義者だった。ファルコートの適性者。2号機パイロット。
苦手なことは射撃。過去になにかあった様子。

紫雲アリナ
現在17歳。階級は少尉。見た目は小中学生だが軍の育成プログラム被験者でありオペレーター兼ナビゲータ。
基本的に戦艦からは出ることは出来ない。

白鷹
階級は准尉。ツインテール。
暴力オペレーター兼ナビゲータ。男言葉を使う。

秋津洲ふぶき
カスミの副艦長で階級は中佐。三十路がけっぷち。常に後始末に追われるかわいそうな人。

榛名
年齢不詳。カスミの乗船医。霧島と同級生だったらしい。

駿河
無名から、AV戦争を経て技術部No.2にのし上がった。


技術部長。 影が薄い。妻子に逃げられている。

赤井
技術部顧問。カスミの地下在住。物凄い腕を持っているらしいが性格に難あり。

神前大観
新兎の父親でフタツキ基地の司令。息子を溺愛してやまない。 霧島の同級生だったらしい。
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:06:17.90 ID:Yz0L+Z5AO
【第七話あらすじ】
総司令部の特命を受けて、ユーロの戦艦『デュッセルドルフ』に向かう新兎、敷島、駿河、霧島、秋津洲、白鷹、頭。
そこで、一人の少女に助けられたのだが、ケイティと名乗るその少女は戦艦の艦長であり、ユーロのお姫様だった。
お姫様から、一同は『お願い』を受けることになったのだが……
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:19:49.11 ID:Yz0L+Z5AO
前スレの続き

――――――

アイスクリームはほぼ、新兎と駿河、霧島の腹に収まり
逆に敷島は一口たべるにも手が震えてままならなかった。

ケイティ「どうしました、敷島准尉、お口に合いません?」

敷島「いいええ!不祥、私、敷島・ドレッドノート・市之助は幸せでありますゆえ!死にます!」

ケイティ「あらあら、死んではいけませんよ准尉。貴方みたいな方、私好きですもの」

敷島「死んだ、俺は今死んだ。」

敷島は倒れ込んだ。

ケイティ「これが噂のジャパニーズジョークですか?」

駿河「いや……まあ…………」

頭「……敷島くん、どうします」

霧島「ほっときゃ治ります」

6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:21:09.26 ID:Yz0L+Z5AO
ケイティ「さて、本題です」


ケイティはナプキンで軽やかに口周りを拭った後、あらたまってそう言った。

ケイティ「日本では、同じ釜のご飯を食べれば、心の距離が縮まると聞きました」

ケイティ「我が国でも、同じものを同時に食べることで親愛の証とする慣習がありますの」

霧島「まあ、食べ物ってのは人間関係に置いては目覚ましい躍進を与えますからね。恨みも怖いですが」

ケイティ「この国は未だいくつかの策謀や思想が混在しております。軍人達も…彼らはヨーロッパ大陸こそが世界の中心だと思っています。」

7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:21:39.29 ID:Yz0L+Z5AO
ケイティ「もちろん、今の政府も…私は日本が支援を減らした事に対して当然だと思っています。」

霧島「国内の反発は相当なのに、殿下がそのような事をおっしゃってよろしいんですか」

秋津洲「艦長っ」

ケイティ「私にも一応の立場はありますから、こうしてここにお呼びしているわけですの」

霧島「あくまで非公式見解だと」

ケイティ「残念ながら。しかし、この戦艦は間違いなく金食い虫です。出動は小さな戦艦ブルーバードに任せ、ここは訓練だけの、まるでお飾りです。私と一緒でね」

霧島「我々も他人のことは言えませんけどね」

8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:22:05.59 ID:Yz0L+Z5AO
ケイティ「規模が大きすぎます。自国の力をそんなにアピールして何になるんでしょう。飾りの存在でしかないなら…失業政策や移民政策、民族統一に心血を注ぐべきです。」

新兎「………何の話だ」

敷島「馬鹿者!高度な政治的会話にきまっとろーが」

新兎「それは知っとるわ!内容聞いてるんだよこっちは」

敷島「上司の会話に聞き耳を立てろと!」
秋津洲「………」

白鷹「バカだこいつら」

ケイティ「……つまりは、少なからず私はあなた方に親愛の証を示しました。」

ケイティ「霧島大佐、あなた方の真意を伺いたい」



9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:22:31.70 ID:Yz0L+Z5AO
ケイティは殿下としての顔付きに戻っていた。

霧島「意外ですね、殿下はその…戦艦のマスコットというかぁ…象徴といいますかぁ………」

ケイティ「『平和主義の理想屋』、『世間知らず』、『お飾り艦長』、そうおっしゃりたいんでしょう」

霧島「いや……まさかぁ」

ケイティ「軍人達にはそういわれています。」

ケイティ「確かに、就任してから私はこれといって何もしては来ませんでした」

ケイティ「だから、私があなたの真意を解いていることがおかしくて仕方がない事は十分理解しておりますわ。その上でのお話しです」

10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:22:57.60 ID:Yz0L+Z5AO
霧島「しかし、んな真意っていわれましてもぉ、ねぇ秋津洲さん」

秋津洲「我々は、上層部からの命令でここに。理由は『兵器の視察』としか…」

ケイティ「………なるほど。」

霧島「ただ、まあ…私の憶測でよろしければ。」

ケイティ「お聞かせ願いたいです」

霧島「うちのトップは、一筋縄では行きませんでね、面倒な男なんです」


一同(………よく言うよ)


カスミクルー全員が内々に突っ込んだ

11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:23:28.47 ID:Yz0L+Z5AO
霧島「また、元技術者という異端でして、余程のことがなければ食いつきませんし、食いついたとすれば、我々をここへ寄越す訳もないでしょう」

ケイティ「………」

霧島「彼が単純に、お宅の新型兵器とやらに興味を持ったとは思えません。あくまで私見ですが………」

霧島「何か、あるのではありませんか。でなければ、ファルコート二台を移動艇に吊り下げてやっては来ませんよ」

ケイティ「今回のステルス性の向上とマップの記録機能を追加させたミサイル兵器は、デコイなのだとおっしゃりたいんです?」

霧島「さあ」


12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:23:55.45 ID:Yz0L+Z5AO
霧島の口調に態度を見れば適当にいっている様にも思えるが、この男は重要なことですら適当なことのように言うのだ。


ケイティ「……確かに最近、良くない噂を耳にいたします。」

霧島「と、言いますと」

ケイティ「政府、王室には無断で『何か』企んでいると。ありがちなものですけれど」

霧島「ありがちですねぇ」

ケイティ「しかし『強欲のグライガー』ならやりかねませんわ……」

霧島「グライガー閣下と言えば、最後まで統一に反対していたスイス政府を潰した豪腕でしたっけ」

秋津洲「でもまさか、クーデターを起こそうってつもりでも……」

ケイティ「かも知れませんわ。この国の歴史はご存知でしょう」

新兎「ああ、それなら覚えてますよ。確か『仮初めの国家』って習った記憶が……」
一同「………」

新兎「な、なに」

駿河「いやさ、余計な事ばっかりおぼえてんなと」

13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:24:21.36 ID:Yz0L+Z5AO
ケイティ「この国に不満を抱きつつ皆暮らしているのです。いつかは、約束の地を手にする為、息を殺している。それが現状ですのよ」

霧島「まあ……民族意識は様々ですからね」

ケイティ「統一か、分裂か。どちらの側も今の状態をよしとはしませんの。焦りも加われば、先手を打とうとするのは理。ではありません?」

頭「まあ、経済も政治も停滞してるし、どっちが先に手を出すかわかったもんじゃないですよ。うちのケンカですらそうですもんね」

駿河「まあ、一緒にするのはどうかと思いますけど」

14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:29:21.98 ID:Yz0L+Z5AO
ケイティ「出来れば、どちらも手だししないうちに上手く納められれば良いのです。ですから」

霧島「神器でも用意しますか?」

ケイティ「ええ、用意したいのです。グラムを。」

霧島「と言っても……探す手掛かりがないんじゃ」

ケイティ「きっとありますわ。この、地下に『グラム』が」

霧島「………地下?」

ケイティ「根拠はありますの。」

ケイティ「『彼』に協力を仰げば…いえ、しかし」

霧島「何をするつもりです?」

ケイティ「アヤメ!」

白鷹「あん?」


端でアイスクリームをほじくり返していた白鷹は振り向いた。

ケイティ「お願いがあるのです!」



ケイティは白鷹の手をむぎゅりと握った。
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:30:08.10 ID:Yz0L+Z5AO

―30分後―

新兎達の目の前には異様な光景が広がっていた。

白鷹「………」

ケイティ「………」


新兎「ぶっ………」

敷島「ふぐっ………」

一同「ぬははははははははは!!」

ケイティ「な、何か私に?」

新兎「い、いや!殿下は、殿下は全く!」
白鷹「………あたしに文句あんのかよ!」
駿河「だって性別、性別だけが一緒で!
白鷹「黙れ!黙れ!黙れ!」

ケイティの格好をした白鷹に
白鷹の軍服を着たケイティ。

笑いがこらえきれなかった。

16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:32:33.40 ID:Yz0L+Z5AO
ケイティ「素敵ですわ。一度はこの格好、してみたかったの。カスミの制服ってかわいいでしょう?」

ツインテール姿も不自然なくらい美しかった。

白鷹「…………」

ケイティ「ごめんなさいね、私がここにいないと騒ぎになりますから………」

敷島「しかし、お顔でバレてしまうのでは?」

ケイティ「マスクとサングラスでなんとか凌いでくださいまし」

一同(怪しすぎるだろう)

ケイティ「しかしよろしいんですか?危ない橋を渡らせてしまい……」

霧島「興味深いお話でしたからな。それに、色々手っ取り早いですよ、色々」

新兎「しかし、流石に俺達含めて、うちの制服はまずいんじゃないですか」

霧島「そう思って、さっき拝借してきました」

秋津洲「何を」

霧島「佐官の軍服。ただし4人分しかないですけども」

17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:33:01.54 ID:Yz0L+Z5AO
秋津洲「どこから!」

霧島「えへへ」

秋津洲「えへへじゃなくって!」


何をしたのか、簡単に想像はついた。

霧島「まあ、ふぶきちゃんは女の子だから待機、駿河くんも僕と仲悪いから待機。頭さんは妻子がいるから待機。となると…………」

新兎「えっ」

霧島「がんばろうね」



18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:33:35.28 ID:Yz0L+Z5AO
整然とした室内

だが、一カ所だけ、ゴミ屋敷のような、カオスな空間が出来上がっていた。

脱ぎ散らかされたワイシャツ、ズボン、ベルト。そして独特の汗臭さ。

どんな美しい部屋も汚い部室に仕立ててしまうのだから恐ろしい。


事は早い程よいと、早速着替えを始めたのだが、そのがさつさに、右から左から皮肉が飛び交っていた。


一方彼女は白鷹と秋津洲が覆っているタオルの中で着替えていたのだが、育ちの良さか、綺麗に服は畳まれ、仕草のどれを取っても美しく天と地の差ほどであった。

19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:34:40.34 ID:Yz0L+Z5AO
ケイティ「……しかし、艦長さん。」

霧島「はいはいなんでしょう」

ケイティ「この部屋の前には護衛がいましてよ」

霧島「僕がお金で解決しました」

ケイティ「あらまぁ………」

新兎・敷島・駿河(『俺達の金』なんだがな)


彼女と同じ空間に存在することに躊躇を持たざるを得ないほど霧島は黒い笑みを浮かべていた。

ケイティ「彼らの『忠誠心の無さ』に救われるなんて皮肉なものですね」

霧島「最近はどこもそんなもんです。良くも悪くも公務員風情ですよ」

ケイティ「……そうですね。お金がなければ生きてはいけませんもの」

20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:35:06.59 ID:Yz0L+Z5AO
ケイティ「しかし、私の帽子が一番大きいのは何故?」

霧島「殿下のお顔は美しくていらっしゃいます。美しい佐官ならもう話題になっているでしょう。つまり、潜入には向きません」

ケイティ「なるほどね、しかし不自然ではなくて?」

霧島「頭に詰め物をすればよろしいかと」

ケイティ「あら、お胸以外に詰め物なんて初めてですのよ」


空気が凍った。







21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:37:38.84 ID:Yz0L+Z5AO
アップル・クロス・ロード。

デュッセルドルフ1の大通りで、幾つもの店舗が軒を連ねている。

交通量も多く、いわゆるイギリス風の二階建て路面電車や、自動販売式の売店、パフォーマンスラット(地上用のロボット)を乗り回す大道芸人、 昔ながらの引き売り
様々なものがまさにクロスしている。

新兎「………あの」

ケイティ「おどおどなさらないで。軍人は堂々と歩くものですのよ」

敷島「ビシッとせい!なんなら、本官が貴様の背中にリボルバー当ててやろうか」

新兎「……結構」

22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:38:07.03 ID:Yz0L+Z5AO
霧島「しかし意外でしたね、予定より遥かに早くアップル・クロスに到着できましたよ」

ケイティ「今は私が簡単にアイスクリームショップへ行けるほど警備は手薄です」

霧島「なるほど、その分、どこかへ警備が回されていると」

ケイティ「しかしよろしいので」

霧島「何がです」

ケイティ「あなた方の仕業と分かれば視察どころではありませんのよ」

霧島「そうならないよう上手くやったつもりですがね、万一の場合でも、これ以上最高の『視察』はありませんよ。これがダメなら何も出てきませんよ」

ケイティ「最初から『そうする』おつもりでしたの」

霧島「お互いでしょう」

ケイティ「ふふふっ」


横断歩道を進んでゆく彼らは、まるでロックバンドのジャケットのようであった。


23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:38:35.43 ID:Yz0L+Z5AO
新兎「みんな見てますけど……」

彼が渡りきった途端にサインが変わる
デコレーションをほどこされた、俗に言う不良使用のラットが横切った。
いつの時代になろうとも、排ガスは心地の良いものではない。

ケイティ「佐官は憧れの職業ですの。堂々としてらっしゃったら良いわ」

新兎「はあ……」


ケイティはふと立ち止まった。

新兎・敷島「ぬわっ!」

敷島と新兎は勢いあまって、足を滑らせケイティの背中にぶつかる。

敷島「し、し、し、し、失礼を!!!」
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:39:06.81 ID:Yz0L+Z5AO
敷島は青ざめたあと、リボルバーを取り出し、自分と新兎の頭の周りをふらふらさせた。

霧島「目立ってるよ、敷島くん」

敷島「ああ!ああ!」

新兎「……大丈夫かよ、お前」

ケイティ「さて。お話しをしているうちにつきましたわよ。お入りになって」

一同「っ!」


彼女はカランコロンと心地よい音を鳴らし、ドアを開く。


別に、彼女が手慣れた様子で店のドアを開いたことに今更驚いた訳ではない。

25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:39:37.68 ID:Yz0L+Z5AO
ケイティ「こんにちは、マスター」

店主「おや、もう喰っちまったのかい、殿下」

『アイスクリームショップ・ノーザン』

その看板に、である。

新兎「まさか、景気付けにアイスクリームでも?」

ケイティ「そうね、だけどそれは『ついで』です。」

新兎・敷島「?」

ケイティ「マスター、私にはマウンテンショコラを……いえ、やっぱりラムレーズンね。ラムレーズンにするわ。」


店主「あいよ。あんたらは?」

新兎「あ、じゃあチョコミントで」

店主「ありゃあだめだ。歯磨きしたすぐ後に喰うチョコレートみたいな味がしやがる」

新兎「それって意味ないじゃないですか」

店主「ああ、うちにチョコレートミントを置くぐらいにね」

霧島「新兎君の負けだ。僕らもまとめてラムレーズンを」

店主「あいよ。」



26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:40:13.19 ID:Yz0L+Z5AO
店主はそう言いながらケースを開け、アイスクリームを掘り出し、コーンにのせた。
新兎は何が気にくわないのか、顔を微妙に歪めている。
受け取った後、小声で何やらぶつくさと言い始めた。


新兎「悠長すぎますよ、ちょっと」

霧島「何怒ってんです」

新兎「べつに怒ってなんていませんけど」

霧島「ああ、わかってますよ。必死なだけですよね」

新兎「必死でもありません!」

新兎は顔をひしゃげた。
自分でも正直なところ、何に怒りを感じているのか、それ自体も曖昧なのだが
ケイティや霧島の行動を見ていると何故だかイライラしてしまう。

新兎「だけど薄々思ってたんですよ。僕達は、こんなちゃらんぽらんでいいのかって」

敷島「何を急に」

霧島「あ、もしかして学校時代のお友達が本部の技術部に中途採用されたって話気にしてるんです?」

新兎「……別に」

27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:40:41.95 ID:Yz0L+Z5AO
霧島「で、この戦艦に来て更に焦っちゃったーみたいな?あーあるあるぅ。」

新兎「…そう言うんじゃないですけど」

霧島「で、魚屋が潰れちゃったもんだから逃げ帰る場所もなくなったと」

新兎「………そこまで言うもんじゃないですよ」

霧島「はぁー。チョコレートミントを頼むからして、君はまだ子供なんですねー、目に見えないと満足しないんですからぁー」

新兎「目的を定めといて、目的が見えないんだから理不尽ったらありゃしませんけどね」

霧島「いちいち理由つけるなんてどうかと思いますよ。疲れちゃいますしぃー」

新兎「艦長の方がどうかと思いますよ、単に秋津洲さんにいいとこ見せたいんだか、何だか知りませんけど、艦長は複雑すぎるんですよ。どうしたら緊張感がなくなるんですか。こんなとこでアイスクリームを……」

大の男が両方アイスクリームを必死に舐め回しながらするべき会話ではないのだが。
霧島「そうかなぁ、人間って君が思うほど複雑じゃないよ」

新兎「……思い込みです。ほら、こうやってすぐ話の流れを変にするんですから」

霧島「『思い込みだ』って部分をそっくりそのまま返しちゃうくらい僕は単純ですよ」

28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:41:11.56 ID:Yz0L+Z5AO
新兎「そういう言葉の使い方すること自体、分かりにくいんですよ。いや、そんな話をしたいんじゃないんです」

新兎「あのですね、僕はただもっとこう……真剣になるべきだと思うんですよ」

霧島「いつだって真剣ですが」

新兎「嘘だ!今まで関わってきた事件のほぼ全部がアホみたいな筋書きじゃないですか!」

霧島「客観的に見ればでしょう。僕らは主観側なんだから気にすることはありませんよ」

新兎「艦長のそう言う所が……」

店主「それは良いとして、うちのアイスクリームの旨さの秘密は何だと思うかね」

新兎「……話の腰を折らないでください!」

敷島「折る腰もない話をか?」

霧島「新兎くんかわいそー」

店主「………話の腰を折らないでもらえるかね」

29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:41:51.56 ID:Yz0L+Z5AO
店主「ともかくだ、うちのアイスクリームの秘密はいくつかある。まずは食材だ。最高級のものを使っている。」

店主は何やらフリップなんかを持ち出して自慢気に説明し始めた。
アルファベットやら写真やらが並ぶ、客に安全性やこだわりをアピールするアレだ。

店主「で、このチョコレートはフェアトレードの……」


生産者の親父が満面の笑みを浮かべていた。
確かにこれを見る限りいかにも美味そうなのだが。


新兎「話、ながくね?」

店主「…………」


霧島「あーあ」

ケイティ「かわいそうに」

新兎「え、何?俺なんかいった?」

霧島「あーあ」

敷島「もしかして病気なんじゃないのか、お前」

新兎「なんだよ!なんだよ!」

30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:42:21.39 ID:Yz0L+Z5AO
店主「そして秘密二つ目、それは愛情!」

店主「俺のラ・ヴ、だ」

一同「………」

店主「何故、黙る」

店主「まあいい。その二つはちょっと凝ったアイスクリーム屋ならどこでもやってることだ。それじゃあ殿下御用達にはなれねぇよってんだ」

新兎「じゃあ何ですか」

店主「風情もクソもない子供だなぁ、チョコミントボーイ、略してCボーイだよお前は」

新兎「……意味分かんねぇよ」

31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:42:48.11 ID:Yz0L+Z5AO
店主「『温度』だよ」

一同「温度?」

店主「ああ、いっちゃった、いっちゃった。企業秘密を知ったからには退役後はうちでこき使ってやる」

店主「とりあえず、絶妙な温度がうちの旨さの秘密なんだが、本国では、特注の冷凍庫を使ってた。だがな、デカすぎて戦艦にゃ運べなかった」


店主はしゃべくりながらもアイスクリームのかくはんを続けた。



店主「最初は全くダメだったね。だから売れずに客は殿下だけ。しかし、ある日だ。やけ酒してたら下から変な音が聞こえてきた。ブオオって音がさ」

32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:44:02.12 ID:Yz0L+Z5AO
店主「まるで空気が溜まってるかのような音だ。イライラしたさ。カンに触ってね。」

店主「だから酔ってたからか、自暴自棄になってたからか、昔、現場からパクって搬入用とか作業用とかに使ってたパワードスーツをフルパワーにしてだな、床をぶち抜いた。」

店主「バカな事をしたよ。床に穴は開くわ、防護せずに古い奴をフルパワーにしちまったもんだから骨折るわ大変だった訳さ!」

店主「でさ、その穴の中、空気がひんやりしてたからびっくりしたわけだ。」

新兎「ひんやり、ですか」

霧島「広くてひんやりかぁ。酒のむには持ってこいですね」

店主「アイスクリーム作りにもな。まあ、ちょっと機械で冷やしてやらにゃいかんが、広さと湿度と気温はまさにミラクル、アイスクリームにはピッタリってわけだ。だが、いくつか問題があるんだ。」

一同「問題?」

店主「いまいち環境が安定しないってこと。まあ、そっちは調整してやりゃあいいんだけどよ」

店主「足音がすんのさ。そっちはどうにもならん。だから、作業は息を殺さなきゃならん。勿論、靴の音もさせられん。見つかったらどうなるかわからんからね」


33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:44:29.67 ID:Yz0L+Z5AO
霧島・敷島「!」

店主「だから、これを履いて行きな」


店主はなにやら引き出しから持ち出した。
店主「こっちに靴を変えてくれ」

新兎「なんじゃこりゃ」

店主「おまえ等の国のもんさ」

霧島「地下足袋ですな。まさかこんなところでお目にかかるとは」

地下足袋とは作業用のそれで、底にゴムがつき、先が二股になっている。
結構ダサいのだが、それ以上に足音が消せるものだから猟師なんかに重宝されていた。


店主「じゃ、いこうかね」

新兎「ちょ、どっ!どこに?」

店主「……どんだけ察しが悪いのか君は」

34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:44:58.04 ID:Yz0L+Z5AO
新兎「えっ、えっ」


一同は、足袋に履き替え、靴を持ったまま店主に導かれた。

棚の引き戸を開ければ、ほの暗い穴が、まるで重力を一カ所へ集めたような姿で存在していた。

店主「見た目ほど深くはないさ」

とは言うが見た目が壮絶なので、なんの気休めにもならないのだが。

数メートルか、数十メートルか、はたまさ数百メートルかは知らないが、そこそこ下ったところで先頭である新兎の足が地面を捉えた。


店主「10メートルそこそこってとこか。ここの先の扉の向こうに行ったらしゃべらん方がいい。」

35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:45:47.61 ID:Yz0L+Z5AO
確かに、見た目程ではなかったようだった。

新兎「寒っ」

店主が懐中電灯の明かりをつけると、白い息がまず目に映る。

そして辺りを見回せば大量の銀の入れ物が並べられていた。

新兎「アイスクリーム、ですか」

店主「触るんじゃないよ。いいかね」

横の方に、配管口だろうか。人一人が余裕で入れるほどに巨大なそれがあった。
店主はそれを器用に外しだした。

敷島「………配管?」

店主「な、変だろ。地図にない変な空間にこんなもんがついてるんだよ。おかしいだろ?」

霧島「要するに、大規模な空間が地下に広がっているって訳ですか」

店主「ああ。俺達の足元にこんなもんがあるなんて、最初は思わなかったけどな、灯台もと暗しって言うし、寧ろ気がつく方がどうかしてるのかも知れないね」

彼が最後のボルトを外した。ハシゴを掛ける。



店主「早く入ってくれ。アイスクリームには悪いんだ。」

ケイティ・敷島「わかりました!」

ケイティ・敷島「!」

ケイティ、それから敷島はお互いを見合った。

36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:46:14.92 ID:Yz0L+Z5AO
ケイティ「私が先に行きます」

敷島「いいや、私が参ります。殿下はお下がりくださいませ」

ケイティ「いいえ、私は以前にも向こうには行きましたの。皆様をご案内するのは私であるべきです」

敷島「いいえ殿下!あなたはご自分のお立場がおわかりになっていらっしゃるのですか」


新兎「うわ、めんどくせぇ」

霧島「ねー」

ケイティ「これは私の義務です。皆様を巻き込んでしまった……いいえ、巻き込んだ私の義務です。」

敷島「ならば、私も義務です。ユーロの血を継ぐ者の義務であります。」

ケイティ「頑固な方!」

37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:46:40.50 ID:Yz0L+Z5AO
敷島「お願いいたします、殿下」

ケイティ「むっ……!」

ケイティはその綺麗な顔面を歪ませた。
いつもにこやかで荒々しい表情を見せることのない彼女が額にしわを寄せる姿は、小さな少女がだだをこねるようで、非常に、可愛らしかった。

ケイティ「……不敬にあたりますわよ」

敷島「それでも構いません。法律や取り決めでの正しさだけが忠誠心の証とは限りません」

ケイティ「………私の気が済まないのです」

敷島「私の気もすみません」

ケイティ「では、お願いです、私からの個人的な『お願い』なら聞いていただけます」
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:47:06.30 ID:Yz0L+Z5AO
敷島「えっ」

ケイティ「お願い、敷島さん」

敷島「…………」


ケイティの戦略変更に、敷島は困り果てていた。

敷島「き、聞けませんよ。ええ、ダメでありますよ」

ケイティ「どうしても」

敷島「どうしてもです」

ケイティ「ダメ?」

敷島「ダメ!」

敷島「申し訳ありません。戻った暁には確実に自害いたしますのでお許しください!」

ケイティ「あのですね!私は……」

霧島「すいませんねー殿下。こいつは頑固でして、ダメならこの場で自害する程なんですよぉ?」

39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:47:32.94 ID:Yz0L+Z5AO
霧島「貴重な部下に死なれちゃこまりますしね、後ろがこの私目にお任せになって、敷島を前にしておやりになって下さい。すいませんねー」

ケイティ「…………ッ」

ケイティは俯いた。

敷島「では私が……」

新兎「いいのか」

敷島「何が、だ」

新兎「殿下の後ろは艦長な訳だ」

敷島「……それがどうした」

新兎「いや、殿下が四つん這いだなーって」

敷島「!」

新兎「お尻の形もくっきりだなーって」

敷島「き、き、きしゃ、き!!」

40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:48:25.19 ID:Yz0L+Z5AO
敷島「貴様!艦長だって一応佐官でらっしゃるのだぞ!ひ、ひとをだな、そんなだな!」

新兎「まさか、艦長だろうと何もしないだろうよ。だけどさ、『しないならしないなりのこと』をするだろうよ」

敷島「し………しないならしないなりのこと?」




以下、妄想


ケイティ「艦長さん、早くあなたの47口径を私の排他的経済水域にロックオンして……っ」

霧島「殿下、状況開始いたします!」

ケイティ「そんな…いきなり状況開始だなんて……えっ、ちょっとデコイ!?」

霧島「ぐふふ!状況開始などではなく、スクランブル発進しますよ。折角ですから」

ケイティ「47口径じゃなくて…54口径127mm速射砲!すごい……!」


霧島「単射、使命ぃぃぃぃぃ! 」

ケイティ「うっ、撃てぇぇぇぇ!!」


以上、敷島による霧島の妄想の妄想である。



敷島「………」

新兎「んじゃ行ってらっしゃい敷島くーん」

敷島「…………」


敷島は静かにふるふると首を横に振った。


41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:49:07.04 ID:Yz0L+Z5AO
ケイティ「まあ、お譲りになってくださる?」

敷島「殿下の後ろは私がお守りいたします!」

ケイティ「ありがとう敷島さん!」

ケイティは敷島の手を握った。

敷島「な、な、な、何も考えてはおりません!おりません!」

ケイティ「?」



霧島「相変わらず空気が読めないんだからぁー。」


霧島は新兎を小突いた。

42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:49:43.10 ID:Yz0L+Z5AO

冷たく、暗く、狭い管の中をひたすら這っていく。
距離にしたら、大したものではないが、新兎や敷島が心配する必要もないほどに、余裕を全て奪うような道のりで、
どうにかこうにか向こう側へつく頃には日頃の体力不足も祟っているせいか、霧島と新兎は揃って座り込んでしまうほどであった。

敷島「殿下、よくぞご無事で」

敷島は少し息を切らせているケイティに跪いた。

新兎(よ…よくやるよ…)

敷島「ああ、神よ。殿下のご無事に祝福を!」

ケイティ「もう、オーバーですのよ。」

敷島「いいえ、ああ殿下の臣足が冷えてらっしゃる…温めて差し上げたいのですが生憎なにも持ち合わせてはおりません」

敷島「ああ、そうだ。血って温かいものな!自害いたしますので、何かにお役立てください!!」

新兎「『何か』ってお前さぁ……」

ケイティ「アナタのそういう所、好きですわ。」


好きですわ
好きですわ
好きですわ
好きですわ


敷島「ぬふぅ!」


当然、『ライク』の意味合いだったのだが、敷島の鼻腔を通して血液を噴き出させるには十分過ぎる程だった。

霧島「死ぬ必要、なかった見たいですね敷島くん」


43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:50:09.50 ID:Yz0L+Z5AO
ケイティ「さて、ここから先のお話ですが、私は警備の者たちがいたせいか、ここどまりでしたの。いかがします?」

新兎「そこら辺に配管があるんですからまたそこから移動するしかないんじゃないんすかね」

霧島「えーなんかそれじゃ僕が制服調達して来た意味ないじゃないですかー」

新兎「じゃあどうしろって言うんですか」

ケイティ「私にいいアイデアがあります」

新兎「殿下に?」

敷島「ッッッッッッッッッッッッッッッ!!」

敷島は大きく振りかぶり、全身の力を新兎の頭蓋骨辺りに惜しみなく注ぎ込んだ。
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)[saga]:2012/03/12(月) 00:50:57.48 ID:Yz0L+Z5AO
新兎「〜〜ッッッッッ!?」

敷島「この……この……ああ!お前のような奴を表現する程の語彙は俺にはない!でも死ね!死んでしまえ!」

新兎「なんで?なんでぇ?」

霧島「いまのは新兎くんが悪いよ、絶対」
張本人であるケイティは腹を抱えていた。
霧島「まあ、とりあえず、なんにせよ、一応」

霧島「これだけは履いといてよ」


霧島は懐から革靴を4足、取り出した。

一同「おお!」

霧島「それからこれも」

腕から拳銃のようなものを4丁。

一同「おお!」

霧島「それからこれも」

一同「おお!」

足からライトを4つ。

霧島「ああ、それから………」

霧島「ビスケットぉー(ダミ声)」

下半身から小袋に入ったビスケットを4つ。

霧島「おひとつどーぞ」

ケイティ「oh………」

45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)[saga]:2012/03/12(月) 00:51:23.08 ID:Yz0L+Z5AO
ビスケットは各自ポケットにしまい廃棄のタイミングを伺う事にした。


霧島「あ、そうそうこのライトですがね、すごいんですよ」

新兎「び、ビームサーベルとかになったりするんですか!」

霧島「こ・ど・も」

霧島は新兎をぷふふと笑い飛ばした。

霧島「ねぇ敷島くん、二つ目のボタンを押してみて」

敷島「二つ目、でありますか」

敷島はケイティからなるべくライトを遠ざけた後、慎重にスイッチを入れた。

霧島「紳士ですねー」

敷島は驚いた。
そして銃を腰から抜いた。

敷島「………貴様あああ!」


46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)[saga]:2012/03/12(月) 00:51:49.28 ID:Yz0L+Z5AO
敷島は引き金に指をかけた。


瞬間。


霧島「――だめですよ、敷島くん」

敷島「!」

いつの間にか、目の前には銃口に指を突っ込んだ霧島の姿があった。

霧島「二人とも死んじゃうよ。もう、やめてよね。」

敷島「艦長!」

霧島「従順さは冷静さを失わせる、縦社会の重大な欠点です。」

敷島「どいてください!背中を!」

霧島「君が撃たなきゃ僕は撃たれないよ」

敷島「……?」

霧島「僕が避けるからよーく見てご覧なさい」

霧島はひょいと、横へ移動した。



敷島は絶句した。


相手の姿に。
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:52:53.55 ID:Yz0L+Z5AO
敷島「……ほ、ほ」

霧島「そう。“本官”ですよ」

霧島「これね、ミラーにもなるんです。アメリカで1700万本の大ヒット(当社調べ)!電車での化粧直し、戦場でのトレーニングに大活躍!ニューヨークじゃ松井より有名な松井さんより有名なんだよ!わお!」

新兎「……何の役に立つんです」

霧島「……身だしなみだとか……ほら、佐官ともなれば」

新兎「他には」

霧島「太陽光を反射して武器に…とか」

新兎「地下ですけど」

霧島「………便利ですねぇ」


最年長がこんな様子である。

48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:53:30.60 ID:Yz0L+Z5AO
非常に先行き不安であり若干心挫けるが、尚使命感に満ちているケイティを見ればおずおず逃げ出すわけにもいかない

ケイティ「とりあえず、装備は完了したことですし、先を急ぎましょう。」

新兎「質問なんですけど」

ケイティ「人生は疑問を持って生きてゆくべき、質問は素晴らしい事だと思いますのよ。どうぞ。」

新兎「いま、まさにここに配管口があるんですけど使わないんですか」

ケイティ「配管口から出てくる佐官など居はしませんし、行動の妨げになりかねませんわ。折角のアドバンテージなのですから。」

新兎「じゃあ」

ケイティ「アイデアがあるっていいましたでしょ?私についていらして」

新兎「………」

小心者をよそにケイティはどんどん先に進んでいった。

敷島に前をいかれぬようにと、異常なスピードで、である。

彼女の張り切りようは痛いほどわかる三人だったのだが、もう警備兵が目の前なのだからもう少し慎重にしてほしいとも願う…が、やはりここまでくれば何も口出しは出来ない。


仕方なく袖に隠してある銃の安全装置に手を掛けるしかなかった。


49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:53:59.67 ID:Yz0L+Z5AO
警備兵A「ご苦労様です」
警備兵B「ご苦労様であります」

警備兵は四人の姿を見るや否や敬礼した。
ケイティ「ご苦労。」

警備兵A「通行書はお持ちでしょうか」

ケイティ「准将からまだいただいていない。四人も同様だ。」

警備兵B「了解しました。それでは、“東への風は”?」

ケイティ「へっ」

警備兵B「お答えください」

ケイティ「あ……ああ、アレね。ええ、准将からね、伺っているのよ。そう。東への風は……」

ケイティ「……いや、念のためちゃんと一人一人確認したほうがいい。スパイがいるって噂もある。ルパン三世みたいなスパイだったら大変だ」

警備兵A「ふふっ、それもそうですね。じゃあお耳をお貸しいたします」

ケイティ「じゃあ失礼……」


警備兵Aは息を呑んだ。
ケイティの88・57・80のナマイキボディ(パット含む)が目の前に迫っているのである。

任務中とはいえ見ないわけには行かなかった。

50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:54:33.67 ID:Yz0L+Z5AO
ケイティ「東への風は……」

警備兵A「………」


瞬間。

ケイティは警備兵の鳩尾を拳で突き上げ、ついでに弁慶の泣き所を、堅い堅い底の靴でジャストミートさせた。

警備兵A「ごまぇっ!」

警備兵Aは不意打ちになすすべもなく、その場に倒れ込んだ。

警備兵B「貴様ら!」

裏に控えていた警備兵も騒ぎを聞きつけ飛び出してきた。

警備兵C「どうした!」

警備兵D「何が………」


新兎と敷島は珍しく息を合わせ、彼らに足を引っ掛けた。
素直に転ぶ彼らの後ろを取り、新兎は腕を押さつつ、クビの後ろを突いた。
当然ガクリとする訳だが、何故だか新兎のほうが焦っていた。

新兎「し……死んでないよね、ないよねぇ?」

敷島「知るかぁ!」

敷島は起きあがる相手の腕をとり、一本ぜおいを決めた挙げ句、スープレックスをかけても気絶しないので、締め技を使う、がそれでもなお気絶しないので、仕方なく鳩尾に拳をめり込ませた。

新兎「……死んでないよね」

敷島「…………知るか」


51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:55:02.84 ID:Yz0L+Z5AO
一方の警備兵Bは素早くケイティにリボルバーを突きつけた。

ケイティ「!」

霧島「おっと」

それに負けず劣らずのスピードで霧島は彼の銃の奥を押さえた。

警備兵B「……どういうつもりだ」

霧島「知ってます?」

霧島「むかし漫画で見たんですけど、ここの回るとこ、撃鉄起きてても押さえると撃てないんですって」

警備兵B「えっ」

霧島「うっそぴょーん」




間髪入れずに、霧島は警備兵Bの手から拳銃を落とし、気絶させに掛かった。



霧島「頑張って行きますよ!」




が、年には勝てない。



霧島「痛い!痛いってぇ!誰か!死んじゃう!死んじゃう!」



新兎「……うわあ」




52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:55:34.88 ID:Yz0L+Z5AO
敷島の冴え渡るラリアットやらスープレックスのお陰で、何とか難を逃れた霧島だったが、酷く肩を落としていた。

ケイティ「さ。行きますわよ」

新兎「いくって、この人たち……」

ケイティ「放っておけばいいわ。薄暗いんですから顔も多分見られてはいませんし、第一そんなに出入りする場所でもないでしょう。」

新兎「………そうなんでしょうけど」

ケイティ「さっ、行きましょう」

新兎(じ、自分のとこの兵士……だよね)

ケイティの何というか、奔放というか、無謀というか、そんな行動に新兎は呆れ、霧島はにやつき、敷島は跪いた。

ケイティ「“赤信号、みんなで渡れば怖くない”って日本の古いことわざ、ありますでしょう?まさにそれね」


辺りはほの暗く、灯りも飛び飛びにしかない。
鉄の壁が冷たさを増幅させた。


新兎「……どっちかっていうと、悪いお手本って意味なんですけどね」

ケイティ「いいんじゃなくて。正当なことやってないんですから」

53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:56:01.42 ID:Yz0L+Z5AO
ケイティ「ふふっ、でもあなた方は噂通りね。お招きして良かった。信用できるもの」

ケイティはライトのスイッチを入れる。


新兎「まだ会ってから半日経ってませんけど」

ケイティ「フィーリングが第一。長く付き合ったって腹の底が見えない男だっているわよ。みんな、どうして私の感情を捨てきれない癖に隠すのかしら。みんな、よ」

敷島「……そんな、あなたをお慕いしている人間は沢山おります」

ケイティ「あなたの様な方は嬉しいけれど。私は結局、政治か、プライドか、正当化の道具でしかないんです。今の私は」

54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:56:27.14 ID:Yz0L+Z5AO
ケイティ「そう導いた私の責任でもあるから仕方がないけれど、疑わず接する事が出来るのは戦艦のメインコンピュータかあなた方くらいです」

霧島「メインコンピュータ?何してるんです」

ケイティ「私のコンピュータだと制限がすごいから、こっそり回線を…ね。機械には強いの。」

ケイティ「しかもね、人工知能がついてるからとってもチャーミングなんですよ、彼」

敷島「………」

新兎「…機械にまで嫉妬するなよなぁ、お前ぇ」

敷島「べ、べつに本官は!」

ケイティ「お静かに」


ケイティは敷島の口をふわりと塞いだ。
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:57:14.17 ID:Yz0L+Z5AO


否が応でも静けさが訪れる。


すれば、である。

微かな足音が、段々とこちらへ近付いて来た。

足音。

どうにも浮ついている足音。

霧島「足音から判断するに、佐官の癖してなんの警戒心もない、未だに馬鹿な大人の馬鹿なお世辞に馬鹿正直に喜んじゃって馬鹿みたいに調子にのっちゃう馬鹿な佐官さん、かな」

ケイティ「成る程、あなたの耳によれば、前から来る“彼”は馬鹿だと」


足音。足音。足音。

敷島「………」


敷島は銃を構えた。


56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:57:41.48 ID:Yz0L+Z5AO
ケイティ「いいえ、その必要はないです。」

敷島「……しかし」

ケイティ「少しは自分と世間のことは知ってるつもりですから」


足音。足音。足音。足音。足音。足音。



足音。



男は足を止めた。




57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:58:09.62 ID:Yz0L+Z5AO
男「見ない顔だ」

暗闇だ。ろくに顔など見えるはずもない。
「見ない身体だ」とか「かいだことない良い匂いだ」などに訂正すべきなのだが、そうなれば会話が崩壊してしまうことくらい馬鹿なりに理解しているようだった。

ケイティ「ああ。グライガー閣下からお許しをいただいた。」

男「後ろは?」

ケイティ「部下だ。彼らも一応佐官だからな。」

男「ほう。貴様らは幸せだな。上司に恵まれて。私もあなたのような上官に指導して頂きたかったな」

ケイティ「ありがとう」



新兎(……なんか殿下のキャラ、ちがくね?)

敷島(ああ、こんな強気でらっしゃる姫様もすんごい、すごいでらっしゃる!超素敵!超かわいい!超キュート!超チャーミング!ああん!あっ!あっ!あっ!)

霧島((自主規制))


とかなんとか、思いつつも、新兎に敷島、霧島は無言でそれを見つめていた。


58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:58:35.20 ID:Yz0L+Z5AO
男「くれぐれも頑張りたまえ。終わったらコーヒーの一杯でも奢るよ」

ケイティ「仕事が早めに終われば、考えておこうか」

男「へぇ、じゃあ手伝ってやろうか」

ケイティ「そうしてもらえると助かる。」
男「ただしタダじゃあ無理だなぁ、な?」
ケイティ「……ティータイムを共にするだけでは不満か」

男「勿論さ。分かってるだろ?」

さっさとコーヒーブレイクの約束をとりつければいいものの、バカには加減が分からないのか。
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:59:02.53 ID:Yz0L+Z5AO
弱みを一ミリでもみせるとコバンザメかハイエナか、いや、わらしべでもって、いきなり豪邸に交換しようと企む。
だから、お前はダメなんだと言ってやりたいのだが、このまま先に行かれても面倒だし、ついでに案内させたいところなのである。

ケイティ「……金か?」

男「プライスレス。第一俺が金に困っているとでも?」

ケイティ「じゃあ何か」

男「アレだよ、アレ」

ケイティ「………」

“アレ”の意味は五人中四人が知るところだが、なんせ高貴な姫君にはわかるわけもない。そんな下々の下衆で下品な表現など。

60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:59:29.77 ID:Yz0L+Z5AO
敷島は殺意を持った。勿論のことである。
しかし霧島は人体の仕組みを総動員させ、敷島の動きをこっそり封じた。

新兎はちょっと興奮していた。

そんなやりとりが水面下で行われているとはつゆ知らず、殿下は考えを巡らせていた。

男「純な振りしてごまかしたら困るな。喜ばせればいいんだ。安いもんだろう」

ケイティ「よっ、喜ばせるってあなたを?」

男「ああ、喜ばせるんだ。男を喜ばせる術を知らないとは言わせないぞ」


知らないのだ。

ケイティ(男の方が喜ぶといえば、きっと、きっと、卑猥なことよね。そうだわ、そうなんだわ。)

ケイティ(で、で、でも、でも、ひ、卑猥なことなんて、何をもって、卑猥と言うんだか、と言うよりどうすれば彼が満足するんだか、私にはさっぱり!)

ケイティ(まさか、霧島さん達に聞けば私が世間知らずに見えるし、卑猥の概念なんてあたしわかんないし……)

ケイティ(よく考えると卑猥って、恥ずかしいことよね、だから卑猥なのよね。ならば、私の精一杯の恥を彼に見せれば満足するのかしら!)


61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 00:59:55.66 ID:Yz0L+Z5AO
ケイティの頭はショートしていたどころか回線自体が燃えているような状況で、何がなんなんだか、まして状況を冷静に分析するなど出来なかったことを先に述べておこう。

ケイティ「わかりました。」

男「おっ、いいんだ。話が分かるねキミ」

敷島(▲&*@§☆○)

霧島(大丈夫ですよ敷島くん。言うだけならただですから)



――次の瞬間だった。




ケイティ「しかと見届けよ!」



62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 01:00:22.07 ID:Yz0L+Z5AO
ケイティは、勢いよく制服のスカートを託しあげた。


中から神々しいまでに白く輝く下着が姿を表した。

やはりいいものを履いている様子で、 絹がふんだんに使われ、ワンポイントとして赤い薔薇の刺繍が施されていた。



一同は口を開いた。


新兎・敷島・霧島「   」


ケイティ「これで、よろしい?」

男「え」

ケイティ「よろしい?」

男「う、あ」

男「う、うん」

ケイティ「では、行くぞ」

ケイティはスカートの裾を戻した。



63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 01:00:49.31 ID:Yz0L+Z5AO
無言のまま一同は歩みを進めた。

男はとりあえず関わっちゃいけないものに関わってしまった気はしていたのだが、
すれ違いとは言え、女性にスカートを人前で上げさせ、不可抗力とは言え、丸見えのパンツを見てしまったのだ。

丸見えの、純白の、絹製の、パンツを、である。

彼の想定の斜め下である。

男「ど、どこに行きたいんだい」

ケイティ「制御室、だったか」

霧島「制御室的なとこですよね、確か、ね?」

新兎「そ、そうです。制御室っぽいとこです、な?」

敷島「制御室のような場所だったな。名称は異なるだろうが、そんな感じだった。うん」

男「ああ、なら、ジュピターだ。」

ケイティ「じゅ、ジュピター、そう、なんか、ね、そうだ。そうだった。」

男「部屋に星の名前が付けられてるんだ。外で話しても不自然じゃないだろ」

ケイティ「でもちょっとこんがらがってしまうな」

男「始めは仕方あるまい。慣れれば反応出来るさ。そのうち、俺が持ってるような地図データも配布される。」

ケイティ「パス付き?」

男「もちろんさ。なんでそんなこと聞くんだい」

64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 01:01:15.07 ID:Yz0L+Z5AO
ケイティ「忘れがちになるから困る。まさか誕生日にするわけにも行かないだろう」

男「大丈夫さ、俺なんか誕生日だ。というか、誕生日を知ってる人間なんて親しい人間だけだろう?個人情報だなんだとうるさいご時世だからアリだと思うんだ」

ケイティ「そ……そうか」

男「ああ」


ありがたいことに何でもかんでも、聞いても居ないことまで、よくしゃべってくれる。

ケイティ「しかし、ここ、パイプやらたくさんあるし、やけにひんやりしているな……風も微妙に感じる」

男「でっかいファンもあるんだよここ」

男「さて、現在地は……」

男が手で四角を作れば反応し、目の前に地図が広がった。
指を乗せると丁寧な表示に切り替わった。

男「三番ケーブルの下。ジュピターは左行って右行って右で左だな。」

ケイティ「ふ、複雑だな」

男「私も未だに全く分からない。何分広いからな。その上地下もあるっていうんだから」

ケイティ「……地下?」

男「そこまでは聞いてないのか」

65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 01:01:41.21 ID:Yz0L+Z5AO
ケイティ「ああ、『見学してこい』の一言だったからな」

男「ふぅん……」


男はじっとりとした目でケイティを見つめた。


ケイティ「な、なんだ」


流石に知らなすぎて怪しいのか。
いや、それ以前にツッコミどころは山のようにある訳なのだが。

男「いや、その高圧的なカンジ、すごい好み」

ケイティ「そ、そうか」

66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 01:02:17.24 ID:Yz0L+Z5AO
男「ああ。で、何の話しだったか」

ケイティ「地下に何があるのかという話だ」

男「知らないよ。地下があるらしいってこと以外はね。俺たちはあくまで上の階で作業を任されているだけだ。全く、佐官に雑用なんてさせるなよな」

ケイティ「地下に行けるのは?」

男「噂じゃ技術者数人か将官以上らしい。ここは立地的な優位はあるものの、警備は手薄だが、角膜認証から指紋認証までついてやがるってんだから。」

ケイティ(成る程…、そこまでフィルターを使って隠し通したい何かがあるわけね………)

男「俺が睨むに、相当ヤバいものを作ってるのは確かだね。相当」


一同「!」

ケイティ「………というと」

男「さあ。俺にはわからないよ」

ケイティ「でも、他国の戦艦に目をつけられないという保証はなかろう」

男「さて。万が一の際は殿下に責任を押し付けるつもりかね」

ケイティ「……殿下に?」

67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 01:02:44.23 ID:Yz0L+Z5AO
男「『だれも心からあのお子様を慕っちゃいない。だが慕ってるふりはしておけ。』なんてね。」

その直後、シュッという小さな音がしたようなしなかったような。

男「………?」

男が後ろを振り返れば、三人の男が愉快に並んでいた。

霧島「な、なんでもございません」

新兎「ええ、もうなーんでも」

敷島「    」

一人、マリオネットのような動きの男がいたものの、男は特に気にしなかった。

68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 01:03:10.41 ID:Yz0L+Z5AO
男「ま、あくまで閣下のご意見さ。俺だって14の子供を戦犯にするのは如何かと思うよ。企むわけもないし、大人の都合ってわけさ。それに、俺はケイティ、結構好きだぜ」

男「まあ、王様もわざわざあの娘を差し出さなくったって、なぁ」

ケイティ「王室の内部事情とやらだよ。きっと」

男「お上の考えてる事はいつもわからんね」


どのくらい歩いただろうか。
地下はそれなりの広さを誇っているため、霧島と新兎は息を切らし始めている。
いくら空気が冷ややかといえども、いい加減暑苦しい。

霧島「こりゃあレンタル代かさみますなぁ」

新兎「……借りてたんですか」

霧島「女の子のは欲しかったんだけどさ、ふっかけるんだもん」

男「なんだ?なにかあったのか?」

新兎・霧島「いいええ!」

69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 01:03:48.59 ID:Yz0L+Z5AO
男「ついたよ。ここが『ジュピター』だ。」

男はケイティの腰に手を回した。

寄り添うケイティ。

耐える敷島。

男「無人なんだ。ここは上から電力を持ってきてるんだよ。」

制御室は広く。大きな装置が中央に一つデン、とあり後はあちこちに配線がつながって、まわりをさらに機械が囲んでいる。

ケイティ「上?」

男「メイン・コンピュータからさ。余剰電力ってのがあるだろう?それさ」

ケイティ「しかし、余剰電力は全体の電力の1割から2割はある。外の電力を切り詰めるまではしなくてよいのではないか?」
男「地下に使ってるんだろう。こっちの警備は手薄だが、下はものすごい。一見どうでもよさそうな雑用まで士官を使う。しかも人間を選んでだ。」

霧島「でも、今やちょっとした噂になってますよ。地下施設のこと」

男「さっきも言ったが、何かあったら殿下に押し付けるつもりだろうが、それだけで事がすむかどうか、私は疑問だ」

霧島「意外と考えてるんですね」

男「何か言ったか」

霧島「いいええ」

70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 01:04:15.06 ID:Yz0L+Z5AO
ケイティ「ありがとう。名前は?」

男「ギー・アゼマ少佐だ。ギーでいいよ」
ケイティ「そうか。出来れば今日のお礼に贈り物をしたい。何がほしい?」

ギー「サングラスかなぁ。クロムハーツの。いや、冗談だけどね」

ケイティ「分かった。クロムハーツとやらを貴殿に送ろう。しかしバレンタインもクリスマスもちょうど遠い、中途半端な時期だ。誕生日はいつか?」

ギー「えっ、9月3日だけど、本当にいいのかい」

ケイティ「約束は守る。だから」



ケイティは、ギーの急所を突いた。


ギーは無言のまま、その場に倒れた。



ケイティ「………ごめんなさい」




71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 01:05:24.51 ID:Yz0L+Z5AO
新兎「……意外と武闘派ですよね」

ケイティ「軍人として当然の心得です。人の上に立つことにおいておや。」

新兎「ですって」


霧島「な…なんだよ」

新兎はいやらしく霧島を見つめた。
霧島はそんな新兎を小突いた。

そんな悠長なやりとりをしている場合でもないのだが

ケイティ「私はこの方の端末をコピーします。年齢、幾つくらいに見えます?」

霧島「そうですね、28ってとこですかなぁ。」

新兎「20代で佐官ですかぁ。この人が?」

72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 01:05:52.13 ID:Yz0L+Z5AO
霧島「佐官といえども、よっぽどの繋がりがなきゃここには来ないですよ。親の七光りだとか、親の七光りだとか、親の七光りだとか」

新兎「…こっちを見るんじゃないですよ」

ケイティ「28、ね」


ケイティは彼の首の裏からチップを見つけ出し、自らの懐にあったごく小さな端末に接触させる。
それをまた自らのクビのうしろのチップに触れさせる。

彼女が手で四角を作ればその大きさに画面は広がった。

ケイティ「大正解ですわ、艦長さん!」

敷島「……本当だ」

新兎「………すんごい」

73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 01:06:19.51 ID:Yz0L+Z5AO
霧島「でしょ?年齢当てとカップ当ては得意なんですよ。ちなみに珠理ちゃんはAよりのB、あやめちゃんは無理やりE、ふぶきちゃんはぴったりG!」

霧島「殿下は……」

ケイティ「うふふ」

―――構え。

霧島「わ、わかんないやー」

ケイティ「とにかく、コピーに時間がかかるので、データは後でお送りしますから艦長さんはコンピューターの方を、早く」

霧島「そうは言われても」

ケイティ「彼のIDをお使いになって」

霧島「そのつもりですがね」

霧島はヒゲをいじりながら、帽子を脱ぎ、自慢の束ねた長髪もいじっていた。

霧島「多分、これ以上は何も出てきませんよ。出て来たにせよ、ちょっとした不正の証拠くらいで到底グライガー氏にはたどり着けない。」

ケイティ「……ではどうしろと」

霧島「『ここ』を見つけられたこと、地図のデータを持ち出せたことだけで十分じゃありませんか。問題の地下へは私達はたどり着けない。」

ケイティ「どうしてです」

74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 01:06:45.01 ID:Yz0L+Z5AO
霧島「この施設自体がフェイントなんです。パイプと内部のデータをみるに、本丸に繋がっているでしょうが、それだけで、単に好奇心を満たす、それだけのものなんですよ。」

ケイティ「………噛まされたと?」

霧島「これ以上の危険を冒す必要はありません。グライガー氏は『あなた』がここまでたどり着くこと自体想定していたか怪しいもんです。」

ケイティ「………」


新兎「一体何の話をしてんだ?」

敷島「馬鹿だな、貴様は」

新兎「わかってんのかよお前は」

敷島「すごくむつかしい話だ」

75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 01:07:12.01 ID:Yz0L+Z5AO
霧島「引き上げましょう、殿下」


直後だった。

非常ベルが鳴り響く。

『総員に告ぐ!侵入者アリ!総員に告ぐ!侵入者アリ!全員その場を動かずIDチェックを……』

新兎「やっぱり置きっぱはまずかったんじゃあ……」

霧島「なにいってんの。持った方ですよ。」

敷島「殿下、参ります!」

ケイティ「えっ、ええ!」

4人は勢いよいよく、ライト片手にジュピターを飛び出した。

新兎「どうするんです!どうするんです!」

霧島「どうするったってー、ごめんなさいする訳にはいかないじゃないですかぁー?」

敷島「許して貰えるものかっ!」

新兎「んなこた知ってますよ!逃げきれるか聞いてるんです!!」


後ろを振り向けば筋肉質のガチムチな、見るからに粗暴そうな男どもが、拳銃を構えながら、「まてぃ」と口々に追ってくる。
何人もである。見るだけで気が滅入ってくる。

76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 01:09:39.11 ID:Yz0L+Z5AO
警備兵E「止まれ!でなければ処置する!」

霧島「止まる?」

新兎「止まったって処置されちゃいますよ馬鹿!」

霧島「あ、いま新兎くん僕に馬鹿って言った!馬鹿って!」

新兎「逃げきれるんですか!」

霧島「さあ!」

ケイティ「うふふ、仲良しさんね」

敷島「………」


一番不安で胃を痛めていたのは敷島だった。
彼は気がついた。

――ああ、自分の歴代の上司たちはこんな気持ちだったのだと




続く
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 01:10:06.94 ID:Yz0L+Z5AO
本日はここまでです
お付き合いありがとうございました
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)[sage]:2012/03/12(月) 12:03:16.81 ID:Yz0L+Z5AO
敷島「何か!なにか無いのか!」

ケイティ「ビ、ビスケットとか!」

敷島「ビスケット砕いて投げつけて火を付けたら粉塵爆発しませんかね!」

霧島「…んなわけないでしょう」

新兎「じゃあ靴下、艦長の靴下!4日洗ってないんでしょ!」

霧島「やだよ!脱いでる間に捕まっちゃいます!」

ケイティ「じゃあ火を付けたビスケットを相手に投げるとか!」

霧島「もぉーう、面倒ですね!」


霧島は懐からウイスキーのビンを取り出した。

79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 12:03:43.36 ID:Yz0L+Z5AO
霧島「50年ものかぁ……」

新兎「現実逃避ですか?」

霧島「敷島くん、薬莢バラして!」

敷島「薬莢、薬莢でありますか!」

霧島「早く!」

霧島はそのまま、酒瓶を開けそのまま一口飲んだあと、後ろへ投げつけた。


警備兵F「ぬわぁ!」

警備兵G「何を投げた!」

続いて、ライターに火をつけ、投げ込む。
火は瞬く間に広がるが、兵士たちは果敢にも飛び込んでくる。

霧島「敷島くん!」

それを合図に、敷島は薬莢を炎の中に投げ込んだ。


敷島「どぉおおりゃあ!!」



薬莢は炎の中に消えて行った。
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 12:04:15.91 ID:Yz0L+Z5AO

霧島「………」

何も起こらない。

霧島「あれっ」



…兵士たちは引き続き追いかけて来た。


新兎「何も起こらないじゃないですか!」


――直後だった




大きな爆発音が響いた。



警備兵一同「!?」



怯む兵士達。



新兎「なっ!」

ケイティ「今のは何です!」

霧島「タイミングがずれちゃったんですかね、怯んでる隙に、さあ!」



81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 12:04:41.39 ID:Yz0L+Z5AO
霧島を先頭に、右へ左へ向かう彼ら。
ライトを付けねばならぬ薄暗い地下。



佐官「まて、まて!」


いったん警備兵を巻いたと思いきや、また新たな追っ手がやってきた。

新兎「逃げきれるんですかぁ!」

ケイティ「我々は逃げきらなければなりません。お酒は?」

霧島「お酒は一日一本までだってふぶきちゃんがぁ!」

新兎「お前、何気に射撃うまいんだろ!俺のやるから撃てよ!」

敷島「逃げながらでは撃てるもんも撃てん!」

新兎「ヘタッぴ!」

82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 12:05:20.59 ID:Yz0L+Z5AO
新兎「ああ、もう艦長、今度は右左どっちです!っつうかさっきから従ってますけど根拠あるんですか!」

霧島「うるさいよ新兎くん!」

全体が霧島のペースに合わせているせいか兵との距離がだんだんと近づいて来ている。

このままでは時間の問題である。

ケイティ「そうですわ!これって、ライトとミラー、両方使えますの?」

霧島「使えますよ!」

ケイティは何を考えついたのか、突然ライトのモードを切り替え、敷島に手渡した。
ケイティ「曲がったら、反対側に出来るだけ遠くに投げてくださいな!ライトはこちら側を向くように!」

敷島「は、はいっ!」


一行は左へ曲がった。

直後、敷島はいったん止まり、ライトを反対側へと投げ入れた。


ケイティ「よし、ライトがこちらを向いたわ!こちらのライト、消して走ってください!」

霧島「了解」


後ろから兵士がやってきた。


左は暗闇、右には彼らの逃げまどう姿。

警備兵K「……確か左へ向かった気がしますが」

佐官「何を行ってるんだ!追うぞ!」

警備兵一同「了解!」


83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 12:05:46.40 ID:Yz0L+Z5AO
迷わず右へと兵たちは進んでいった。



新兎「……巻いた?」

霧島「みたいですな」

敷島「流石、流石であります!ああ、命を助けていただきました!本官、一生ついてまいります!ええ!」

ケイティ「オーバーですわ。あなたが上手くしてくださらなかったら…まさか一度で上手く行きますとは……」

敷島「あ………ああっ!ああっ!ああっ!あー、あーあんっ!ああ!」

霧島「榛名ちゃんも連れてくるんだったかな」

新兎「ですね」



84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 12:06:26.80 ID:Yz0L+Z5AO
地下、入り口から数キロメートル。


後ろからの足音もなくなり、中年であり霧島の体力的にも限界だったので警戒しつつも、徒歩に切り替えた。

霧島「疲れちゃいましたよぅ、僕」

霧島「ねぇねぇ、新兎くんおんぶしてくんない?」

新兎「正気ですかあんた」

霧島「抱っこでもいいよ?ねぇ……」

体力の限界がやってきたのか、霧島は新兎にもたれかかった。

新兎「やだ!キモイから!くるな!キモイ!どけっ!クソ艦長[ピーーー]!」

二人を尻目に、ケイティと敷島はそれはそれで良い空気であった。

ケイティ「賑やかですわね」

敷島「まあ、あの……まあ………」

ケイティ「それでです。巻いたのはいいんですけれど、果たしてこの先どうなるのか……」

敷島「確かに、時間の問題であります。艦長はその辺についていかほどのお考えで?」

霧島「いや、確かこの辺だったと思ってるんですけどね」

一同「?」

霧島はよろよろと立ち上がり何かを探している。

新兎「何探してるんです?」

霧島「あった、あった。ここだ。」

霧島が天井を指差す。
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 12:07:00.32 ID:Yz0L+Z5AO

新兎「何もないじゃないですか」

霧島「よく見てくださいよ、ほら」

ケイティ「………微かに、微かにですけど切れ目?」

霧島「敷島くん。あそこに向けて四発、撃ってください。危ないから下がって。」

敷島「りょ、了解」

新兎「殿下は僕の後ろに」

ケイティ「ありがとう。それからキティかケイティでいいわ」

霧島「居てくれると、いいんですけど」

敷島「それではいきますよ!」


敷島は天井の切れ目向けて四発、リズミカルに打ち込んだ。
実に正確で、彼の日頃の訓練の成果が伺える。


86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 12:08:47.13 ID:Yz0L+Z5AO
数秒経った。


何も起きない。


数十秒経った。


何も起きない。


数分経った。



新兎「………何も起きないじゃないですか」

霧島「あっれぇー」

敷島「………」

敷島は無言で銃を霧島に向けた

霧島「ちょ!敷島くん!敷島くんなにそれ敷島くん!」


そのときだった。


「あれ、霧島ちゃんじゃない!」


一同「!」


87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 12:09:36.81 ID:Yz0L+Z5AO
天井が一部開き、中から黒い髪を乱れさせたセミロングの女が出てきた。

新兎・敷島・ケイティ「なぁ…………!」

女「ん?」



驚くのは無理もない。
パンツ一つ、女は半裸だったのである。
女「あ、やだ着てなかった」

霧島「そのままでいいよ。なんですぐ来てくれなかったんです」

女「彼氏が居たからさ、仕方ないでしょ。」


新兎「………デュッセルドルフの女の人ってみんなこうなの?」

ケイティ「い、いいええ」

女「とにかくさ、はしご降ろすからあがってきな。早くね」



88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 12:10:11.21 ID:Yz0L+Z5AO
…………

天井の上は、非常に散らかっていた。
工具やパソコン部品やチップや酒や下着や終いにはコンドームまでそこら中に散らばっていた。

女「どう、霧島ちゃん『また』?」

新兎・敷島「うわぁ」

霧島「や、やめてよねぇ。部下の前でそんな、第一僕はまだ君と、変なことしてないでしょっ!」

女「そうだったっけぇ」

霧島「それに君の本業はそちらではないだろうに。」

女「意外と楽な仕事だからね、暇してるのよ。あたし、ルイ。ちなみに二人はダメね、子供は嫌いなの」

新兎「………艦長だって十分子供でしょうに」

ルイ「わかってないわね、霧島くんは腹の黒い大人よ。大人を自覚してないふりをしてる大人。ねぇ、なんだっけ、あの……セミロングの堅そうな子、お嬢様育ちのかわいい……なんだっけ、あの子、いないの?」

霧島「秋津洲中佐なら別行動してるよ」

ルイ「ヤッたの?」

一同「ぶうううっ!!!!」

89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/12(月) 12:10:39.88 ID:Yz0L+Z5AO
霧島「なっ、なにを…………っ!」

ルイ「やだー、その調子じゃまだヤッてないんだー!霧島くんが珍しい」

霧島「あんたね、人をそういう風に……」

ルイ「あの子、いけそうなのになんでいかないの?」

霧島「………そう言う問題じゃないでしょ」

ルイ「霧島ちゃんって昔からそうよねー、好きな子ほどヤれないっていうかー、あの子だって結局、ねぇ」

新兎「………昔?」


ルイ「同僚だったのよ。あたしは軍を辞めて訳ありでここにいるんだけど」

霧島「……もう、やめようよ」

ルイ「あら。お互い『告げ口』が仕事だったでしょ」

霧島「………」

90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/03/13(火) 01:55:22.95 ID:R5X7zlTLo
乙 
今回は展開が早いな
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/13(火) 23:58:05.78 ID:nzUyyOlAO
押されっぱなしの霧島は珍しく、ケラケラ笑いながら見ていたかったのだが、どうにもケイティにとってはよろしくない会話の内容であったので、新兎と敷島は早々に引き上げにかかった。

新兎「艦長、そろそろ戻らないとまずいんじゃないんですか?」

霧島「そ、そうですね」

ルイ「その格好はちょっと目立つから、こっちの下っ端の制服に着替えなさい。街に出ればもう見つからないわ」

ケイティ「ありがとう、ルイさん」

ルイ「………」

ケイティ「な、何か?」

ルイ「他人に翻弄される相が出てる。呉々も間違えるんじゃないわよ。」

ケイティ「え、ええ……」

ルイ「それから霧島ちゃん」

霧島「ま、まだ何か?」

ルイは霧島に手を出した。

霧島「………なにその手」

ルイ「5000ドルに負けとく」

霧島「ちょ、ちょっと、ええっ!!」

ルイ「片道、それも一人分の料金よ。良心的でしょ?」

霧島「ええ……ええ………」




92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/13(火) 23:58:37.06 ID:nzUyyOlAO
――――――


オレンジクロスロード二番地。

宮殿から近いアップロードと2つ道を離れたそこは、大きな公園が一つ、それから飲食店などが立ち並ぶ、若い兵士が集まる歓楽街だ。

その交差点で二人の男女が微妙な距離感のまま信号待ちをしていた。

ひとりはケイティ、もう一人は……
そう、敷島、この男である。

霧島の発案で二対二で行動することになったのだが、霧島はさっさと新兎とどこかへしけこんでしまい、結果、ケイティと敷島は二人きりになってしまっていた。

93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/13(火) 23:59:05.80 ID:nzUyyOlAO
いざ、二人になってみれば全く会話がなくなるもので、ぎくしゃくしてしまう。

ケイティ「ね、ねえ」

敷島「ひゃ、ひゃ!」

ケイティ「ちょっと、不自然じゃありませんか」

敷島「そ、そう、そうでありますね!」

ケイティ「男女で歩いているのですからもっと近くてもよろしいんじゃないのかと」

敷島「まゎわ、かは、は、はひ!」

そう言われ、ケイティの手を取る敷島だったが、やはり不自然であることには変わりなかった。

94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/14(水) 00:00:26.71 ID:pJHDuJ5AO
ケイティ「さ、青になりました。行きましょう」

敷島「はい………」



金色のツインテールを靡かせて歩く彼女は、顔が隠れているといえども、息を飲むほど可憐で、美しかった。



しかし、どこかでそれを受け入れきれない敷島がいた。


いやにちらつくのだ。橘花の顔が。




ぎゅるる。




敷島「えっ……」

ケイティ「………」

ケイティ「さ、先を急ぎましょう」

敷島「あの……」

ケイティ「急ぎましょ………」


ぎゅるる。
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/14(水) 00:13:15.46 ID:pJHDuJ5AO

ケイティは顔を真っ赤にさせた。


ケイティ「ご、ごめんなさい、あたしったら………」

ケイティ「昨日から何も食べてなくって、あの、潜入できるかな、とか、帰ってこれるかな、とか色々考えちゃって……あの…」

敷島「………」

ケイティ「………」


ケイティはうつむいた。
こうしてみると、やはり14歳、それ以上でもそれ以下でもないのだ。

普段は立場というものがある。気を非常に使い、張り詰めているのだろう。
それに一人の時ですら、気高くいることを要求されるような身分でもある。

だが、こうして彼女と共に過ごしてみると、負けず嫌いだったり、考えが回るかと思えば、短絡的だったり、
意地っ張りだったり、笑顔が純粋だったり、環境が彼女に子供でいることを否定させているだけで、本質的には14歳なのだ。
14年しか生きていないのである。時は誰にとっても平等なのだ。


――敷島は瞬間的にそう悟った
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/14(水) 00:14:35.91 ID:pJHDuJ5AO
敷島「お待ちください」


ケイティ「えっ?」


敷島は透明なガラス板のようなものを取り出した。

敷島「状況は深刻ではないはずであります。白鷹という女は案外、上手くやるほうなんです」

ケイティ「あの………」



――数分後。


ケイティの元へ敷島が戻ってきた。


ケイティ「あ、あの………」

敷島「艦長がなんとかあちらを上手く処理するそうであります。少しなら、なんとか」

ケイティ「………い、いいんです?」

敷島「ええ。行きましょう」

ケイティ「あ………」

ケイティ「ありがとう」


ケイティは敷島の腕を掴んだ。

97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/14(水) 00:15:11.80 ID:pJHDuJ5AO
ケイティ「私、アイスクリームショップから先はあまり来なくって、面白いんですね」

どうにか気持ちを抑えている様だったが、それでもはしゃいで居るように見えるということはとても楽しんでいるのであろう。

ケイティ「お食事、どこでいただきますか」

敷島「若者向けのお店ばかりですからね、お口にあうようなお店はあるか……」

ケイティ「私、ここがいいわ」


ケイティは指差した。


小さいが、おとぎの国の城のような外装、派手なネオン、そしてセンスのかけらもないとってつけたような看板。
入り口には何故かミスマッチなヤシの木が植えてある。何故か。

ケイティ「見たことないわ、小さいけどうちの宮殿より素敵な外装ね。小綺麗ですし、ここにしましょう。」


敷島は全力で、裾を掴んだ。

98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/14(水) 00:15:42.39 ID:pJHDuJ5AO
敷島「いけません」

ケイティ「ど、どうして?」

敷島「ど、どうして?って………」

ケイティ「どうしてかしら?」

敷島「せ、せっかく、下々の文化を知る機会なのですよ。こんな高級店に入ってしまっては、意味がないではありませんか!」
ケイティ「それも……そうね。これじゃいつもと変わりがないわ。庶民的なものを知りたい。世間知らずと呼ばれない為にも」
敷島「ええ、そうです」

ケイティ「では、どこに連れて行ってくださるの?」

敷島「ど……どこにって……」

ケイティ「どこに?」



敷島「どこに………」
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/14(水) 00:17:54.60 ID:pJHDuJ5AO
時間によって気温は調整されているのか、風が冷たくなってきた。


そんな街の中央で二人は立ちすくんでいた。



敷島「…………」

ケイティ「立ち食い、そば?」

敷島「…………」


敷島は自分が情けなかった。
考えに考えた挙げ句、フィッシュアンドチップスか、立ち食いそばか、ハンバーガー屋か、なぜかあるラーメンではないラーメンを出すラーメン屋かで迷った挙げ句
結局立ち食いそばにしてしまった自分に。

ケイティ「………」

ケイティはなんどもドアの前で前後に動いていた。

敷島「何をされてらっしゃるので?」

ケイティ「開かなくって」

敷島「………」

敷島は無言でドアをスライドさせた。



100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/14(水) 00:18:46.02 ID:pJHDuJ5AO
あいにく客は時間帯のせいか、ガラガラだった。

幸か、不幸か。

そう思いながら正面をみると

ケイティ「随分高い椅子ね」

とテーブルに座るケイティの姿があった。

とりあえず、かけそばを2つ頼んだ。
何か他に…とも考えたが、ケイティが当たり前のように目の前にある、いなり寿司や揚げ物を前菜代わりにそのままつまんでいたので、そういう結論に達した。

ケイティがいくつ食べたか、数える作業に没頭する間にそばは茹で上がり、2つテーブルに一本のフォークと共に置かれる。
店主もピークが過ぎて腹を空かせていたのか自分の分までご丁寧にも作っていた。

パチン、と箸をわり、店主と敷島はそばをすすった。

ケイティは、不思議そうに、かけそばを見つめながら言い放った。




ケイティ「………どぶ?」


101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/14(水) 00:19:55.90 ID:pJHDuJ5AO
店主・敷島「ぶうううっ!」


確かに、色的には見えなくもないのだが。

すると、ケイティは静かにそばをフォークで巻き、口に入れた。

店主「………どういう精神構造してんだい」

敷島「さ……さあ」

ケイティ「美味しい!」


ケイティはパクパクとそばを食べ進めた。

敷島「だ、大丈夫ですか?無理なさらないで……」

ケイティ「無理などしてないわ。この……どぶのようなもの、おかわりを!」

店主「どぶのようなもの、じゃなくて、そばなんだけどよぉ、お嬢さん」

ケイティ「そば、早くちょうだい!」

敷島「お気に……召しました?」

ケイティ「ええ……とっても。」


その笑顔は、実に無邪気なものだった。


102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/14(水) 00:20:43.50 ID:pJHDuJ5AO
結局、ケイティはかけそば四杯のいなり寿司5個、かきあげ2個の、えび三尾、それから、しゃけのおにぎり1つを平らげた。

敷島「お勘定、お願いする」

店主「はいよ、25ドル」

敷島「………ど、ドル?」

店主「わるいが、うちはドルだけなんだよ」

敷島「か……カードは……」

店主「使えると思うかい?」

敷島「………」

店主「って請求するとこだったんだけどさ、去年税金、ちょうど25ドル誤魔化してたんだ」

敷島「……へっ?」

店主「帳消し、だろ?」

敷島「…どういうことかさっぱりわからん」

店主「俺はデュッセルドルフの人間で、ユーロの国民さ。」

店主「そういうことだ。また、来てくださいね、殿下」

ケイティ「えっ………」

ケイティ「ええ!」


103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/14(水) 00:21:20.73 ID:pJHDuJ5AO
蕎麦屋を出て、宮殿への道中。

食べたばかりで歩いたせいか、敷島の右わき腹が痛んだので途中、公園のベンチで休むことにした。

ケイティ「大丈夫です?お薬なんて持ってなくて………」

敷島「ただの体質であります。」

ケイティ「あら、この『デリバリーヘルス』ってチラシ、ヘルスってことは薬でも届けてくださるのかしら。じゃあ電話を……」

敷島「だめですぅぅぅ!!!!治りました!治りました!」

ケイティ「………大丈夫です?」

敷島「だ、大丈夫です。」


104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/14(水) 00:22:14.48 ID:pJHDuJ5AO
子供達がはしゃいでいる。
鳥もいないし、本当に自然と呼べる自然はないが、それでも公園の景色は一緒だ。

ケイティ「何を、何をしたいのかしら」

敷島「……誰が、でありますか」

ケイティ「私を含めた全員。分裂を望む人も、統一を望む人もみんな。」

ケイティ「私は、どうしたいのかしら。どう、すべきなのかしら。」

敷島「……戦いは常に先を読めといいますが」

ケイティ「……そうね」

敷島「目の前に全力になれればいいんだとおもいます。『先を読む』というのは単なる結果、事象であります。」

敷島「うちの、カスミの場合、みんなそうです。艦長はどうだかわかりませんが」

ケイティ「……あの方も意外とがむしゃらでらっしゃるわ。ギャンブル好きで、運がお強いってだけで」

敷島「ですからあなたは…あなたが今したいことをしたいようにすれば…」

ケイティ「なら……あの……」

敷島「何でありますか」

ケイティ「お膝の上に、乗っけてください」

敷島「えっ!?」

ケイティ「失礼します」


ケイティはいそいそと、敷島の膝の上に乗っかった。

ケイティ「………」

また、真っ赤になってうつむいた。



105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/14(水) 00:23:45.57 ID:pJHDuJ5AO
子供達がはしゃいでいる。
鳥もいないし、本当に自然と呼べる自然はないが、それでも公園の景色は一緒だ。

ケイティ「何を、何をしたいのかしら」

敷島「……誰が、でありますか」

ケイティ「私を含めた全員。分裂を望む人も、統一を望む人もみんな。」

ケイティ「私は、どうしたいのかしら。どう、すべきなのかしら。」

敷島「……戦いは常に先を読めといいますが」

ケイティ「……そうね」

敷島「目の前に全力になれればいいんだとおもいます。『先を読む』というのは単なる結果、事象であります。」

敷島「うちの、カスミの場合、みんなそうです。艦長はどうだかわかりませんが」

ケイティ「……あの方も意外とがむしゃらでらっしゃるわ。ギャンブル好きで、運がお強いってだけで」

敷島「ですからあなたは…あなたが今したいことをしたいようにすれば…」

ケイティ「なら……あの……」

敷島「何でありますか」

ケイティ「お膝の上に、乗っけてください」

敷島「えっ!?」

ケイティ「失礼します」


ケイティはいそいそと、敷島の膝の上に乗っかった。

ケイティ「………」

また、真っ赤になってうつむいた。


106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/14(水) 00:25:50.31 ID:pJHDuJ5AO

一方、宮殿


白鷹「おっそおおおおおおおい!!」

秋津洲「わよねぇ」

白鷹はイライラしているのか、テーブルを強く叩いた。

霧島「あれ、焼き餅?」

白鷹「そんなわきゃ!ただ、もう勘弁なんだよ!」

霧島「『あらあら、私、いやですわ、おひさしゅう』」

霧島「傑作ですなぁ!!!」

白鷹「[ピーーー]!」

新兎「………あっちはあっちでなにやってんです」

白鷹「メンテだと」

新兎「メンテでなんでホログラムに向かって土下座してんですか?」


赤井『ああ、そこの配線は緑、白なわけだ。赤黄だから効率的じゃないんだよ。』

駿河・頭「へへーっ」

新兎「……新興宗教ですね」

白鷹「だよな」


そんな昼下がり。


――ガチャン



いきなりドアが乱暴に開かれた。

女中「殿下!」

白鷹「な、なんです!いきなり、お客様に失礼でしてよ」


一同(おおっ!)

女中「失礼いたしました。しかし、緊急なのです!」

白鷹「………なんです。」

女中「それが………!」



107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/14(水) 00:35:35.52 ID:pJHDuJ5AO
再び、公園。


そこでは既に

“事”

がはじまっていた。


静けさは消え去り、人々は不規則に逃げ惑う。

耳をつんざくような音、そして吹き荒れる砂嵐、甲高い声。


敷島「殿下!殿下は伏せて!」

ケイティ「な、なに!?」

公園の不審者対策用に置かれているセキュリティー・ラットが暴走を始めている。
それだけではない。外敵用に備えられたマシンガンも辺りへ乱射し続けていた。


なにが起きているのか?


問いかける暇すらなかった。

108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/14(水) 00:52:10.76 ID:pJHDuJ5AO
攻撃は一度止んだ。

敷島はケイティの手をとり、人々の隙間を縫いつつ先へひた走る。

運悪く弾が当たり負傷した人間、死んだ人間、逃げ遅れた子供、逃げる最中になぎ倒された人間。それこそキリがなかった。

ケイティはその一人一人に目を向け、駆け寄ろうとしたが、敷島はそれを制した。
敷島「……あなたのやるべきことではありません」

ケイティ「………」

敷島「連絡を取ります。しばしお待ちを…………」

懐から携帯を取り出そうとした、そのタイミングで、着信音が響いた。

敷島「……艦長」

109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/14(水) 00:59:46.75 ID:pJHDuJ5AO
霧島『あ、敷島くぅん?マジでゲロマズなんですよ!セキュリティーの威嚇射撃のは変になっちゃうわ、家事システムとかもおかしくなっちゃうわ!』

霧島『だからさ、何とかならないかって殿下に聞いてよ!』

敷島「分かるはずもありませんよ!こちらでもラットやら迎撃装置やらが……」

霧島『えっ、なに?じゃあそっちもそんな感じなの?』

一同は顔面蒼白した。

秋津州『全面ってことになると……』

駿河『まさか、メインごといかれてるんじゃあ………!』

ケイティ「そうね、確かに……そう言う話になるわよね」

新兎『でも、そんな簡単にいかれちまうもんなのかよ』

ケイティ「……おかしく使うからですよ」

敷島「……殿下」


110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/14(水) 01:13:30.27 ID:pJHDuJ5AO
霧島『なら、どうすりゃいいんです』

ケイティ「原因はなんであれ、メインを止めてしまえばすべて止まるはずです」



子供は泣き叫び、母親の下へ駆け寄る。
一体全体何が起きているのか、全くわからないまま大人は慌てふためくしかないのだ。


ケイティ「グライガーもバカなことを!全て繋がっているところから引っ張るなんて!」

秋津洲『だけれど、酸素なんかは……』

ケイティ「酸素の供給などのライフラインはサブに切り替えられますから。最低限は確保できます。」

ケイティ「ただし、問題が……きゃあ!」

戦艦に内蔵されている、侵入した敵の為に作られた設備が上がってきた。


敷島「殿下、とりあえずシェルターへ!」

ケイティ「いけません!私は宮殿に戻ります!」

敷島「どうして!」

ケイティ「このまま逃げるなんて出来ないでしょう!私は兵士ですから、ラットくらい、動かせます!!」

敷島「あなたは指示を下にだせば……」

ケイティ「彼らに任せられません!何をしているんだか分からない者たちに!」

敷島「しかし、戦艦になにかあればいけません、我々にお任せください!」

ケイティ「ダメです!なら、なおさら私が行かなくては!」

ケイティ「踏み台としか考えていないんですから!グライガーは……ッ」

敷島「しかし、こんなに激しいと……とても宮殿までは……」

ケイティ「いくのです!いかなければ、ならないのです!」

暴走は激しさを増していった。

戦闘要塞と瞬く間に化した公園周辺は、次々とラットが、小さなミサイルが、街を破壊していった。

人々は逃げ惑う。

111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/14(水) 01:15:51.85 ID:pJHDuJ5AO
シェルターに滑り込めた人間、そのまま身体を貫かれる人間、様々であった。

そのうち、戦闘機がやってきて、セキュリティー・システムを破壊するが、きりがないのだ。

次から次へと攻撃を仕掛けてくる。


パイロット達は舌打ちするしかなかった。

再び宮殿。

とりあえず、ファルコートに乗る必要が出てきた一同は、女中達の制止を振り切り、ドアの向こうに飛び出した。

白鷹は置物を、駿河は飾ってあった弓を、頭は槍を、秋津洲はライフルを持ち出し、新兎と霧島はテーブルの足を構えていた。

小さなラット共が先を塞ぐ。

彼らは死には絶対に至らないが、電撃や、とりもちなど、いやらしい攻撃をしてくる。
しかも何十もあるのだからいやになってしまう。

霧島「よかったね、新兎くん。この間演習しといて。」

新兎「………まさか、同じ状況に立たされるとはおもいませんでしたよね」

新兎「艦長は引っ込んでてください。ようやくお鉢が回ってきたんですから、俺に」

霧島「そう言われると、邪魔したくなっちゃいますよね、何か」

新兎「………」

霧島「………」

新兎・霧島「ぬあああああああああああ!!!!」



新兎と霧島は、同時にラットの中へと飛び込んだ。


白鷹「……仲良いな」

頭「似たもの同士だよね、結構。」

秋津洲「都合がいいわ。戦力は温存しておくに越したことないもの。このまま……」

112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/14(水) 01:20:03.25 ID:pJHDuJ5AO
数分後、同時に倒れ込む新兎と霧島の姿があった。

秋津洲「………やるわよ」

白鷹・駿河・頭「了解」


秋津洲の的確な射撃と、頭と駿河の絶妙なチームワークと、白鷹のバカ力の成果あって、何とか道が開けた。

格納庫までそう距離はないのだが、面に待ち受けているだろう兵器やらのことや、よたよた走りのことを思うと、秋津洲の胃はまたキリキリ痛むのだった。


ちょうど、アップルクロスの交差点まで来たあたり、威嚇射撃を何度か受けたくらいで、どうにかここまで走り抜けた。

空にはラットやら戦闘機やらが飛び交う。
ラットは、システム目掛けて射撃を行った。

火の手があがる。


白鷹「……これ、逆に被害広げてるじゃないか」

駿河「あれ、向こうに人が……」

そこには、ちょうど、二つの人影があった。

秋津洲「敷島准尉、殿下!」

敷島「合流できそうですよ、殿下!」

ケイティ「ええ………」

ケイティ「ここまで、よくきてくださいました、皆さん……」

秋津洲「こちらこそ……」

ケイティ「あの、神前准尉と霧島大佐は……?」

新兎「や……」

霧島「やあ………」

情けなくも、白鷹と駿河に背負われた姿がそこにあった。

ケイティ「ご機嫌よう………」
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)[sage]:2012/03/14(水) 18:29:32.48 ID:pJHDuJ5AO
ケイティ「あの、それで……被害状況は」

秋津洲「詳しいことは分からないのありますが、宮殿の方々はみなシェルターに避難していて、ケガ人はない様子です。」

ケイティ「よかったわ…」

秋津洲「とにかく、我々は格納庫に向かいます。殿下も、そちらに向かわれシェルターに避難してくださいませ。」

ケイティ「そうは参りませんわ!ここまで来たら、私も協力いたします。」

秋津洲「いけません。あなたに万が一があれば………」

ケイティ「もう万が一でしょう。ここで何も出来なければ、私の存在価値なんてありません!」

秋津洲「殿下!」

ケイティ「止めても無駄です!」

秋津洲「………」

霧島「追わなくって、いいの?」

秋津洲「……追いますよ!」

114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)[sage]:2012/03/14(水) 18:46:08.11 ID:pJHDuJ5AO
第2格納庫。

第2というネーミングの通り、戦艦のラットのほぼ全てを格納している第一格納庫のサブ的存在である。
アップルクロスに隣接していて、予備機体や、外からやってきた移動艇やウィッチなどを収容する。

ここに勿論ファルコート2機は収容されているのであるが、そう簡単に事はすまない。

その入り口から一枚扉を挟んだ先に、兵士たちが待ち受けていた。

兵士「なにか。退避なら、事態が収集してからにして頂きたい」

霧島「逃げやしませんよ。ただ、ファルコートを出しに来たんです。」

兵士「それは出来ない。他国の機体をこんな状況で動かせるか。ファルコートは出させんよ。これは上からの命令だ」

駿河「ちょっと、どういうことですか!」

兵士「必要なかろうに。もう我が軍が対処に向かっている!」

秋津洲「わからないんですか?さっきから軍の対処は被害を広げているだけだって。メインを止めるべきです」

兵士「そんなことくらい、上は考えたよ。その上での結論だろう!」

技術者A「お前たちは黙って待機していろ!第一ここはユーロだ、日本じゃないんだから口をだすな!」

新兎「まあ……言われりゃそうだよな」

駿河「ながされんなよバカ」

115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)[sage]:2012/03/14(水) 18:49:29.72 ID:pJHDuJ5AO
駿河「あんたらも俺らも危ないんだから、協力すべきなんじゃないのか?」

技術者A「黙れ!おまえ等に何がわかるんだよ!上からの命令なんだよ!」

駿河「上上上上上上って、てめーらは自分達で考える頭がねーのか!どうみたって一体止めるなりした方がさ、被害が小さいにきまってんだろ」

技術者A「グライガー閣下ならなんとかするさ。豪腕なんだからさ。それに、航空隊が止めに行ってくれてる。メインなんて止める必要ないだろう」

駿河「あんただって理解してるだろ!一つ一つ破壊するよりか、メイン止めてみるべきだって!ライフラインはバックアップあるんだから理由はないはずだよ!」

兵士「命令は命令だ!」

霧島「じゃあ上を出してください。僕がお話するんで」

技術者A「………」

技術者A「待ってろ!」


技術者は乱暴に電話番号を備え付けのコンピューターに入力した。

駿河「霧島艦長、なんで彼ら、渋るんでしょう!」

霧島「そりゃ、やでしょ。他国の人間に口出しされんの」

駿河「だけど、明らかでしょ!こんなのってさぁ!」

霧島「まあ、ここのシステムから見て一見は問題ないだろうけどさ」

秋津洲「……一見って?」

116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/14(水) 18:52:43.31 ID:pJHDuJ5AO
霧島「ふと思ったんだけど」

霧島「地下の施設ってさ、単なる…他国のスパイを納得させるダミー施設ってだけじゃなくって冷却施設でもあるんじゃないかなって思うんです、あそこ」

秋津洲「………冷却施設?」

霧島「どうも、貰ってきたデータの中身みるとさ、地下式の冷却塔に思えて仕方ないんですよね」

秋津洲「ってことは……」

霧島「『核兵器』だとか」

秋津洲「だけど、そんなの中性子砲の下位互換ですよ?こそこそ作る意味なんてありませんわよ」

霧島「ですよね、そこなんです。問題は」
霧島「例えば、例えばです。核の膨大なエネルギーを利用しているとすれば……」

秋津洲「そんな危険なこと!」

霧島「……危険だから、隠してるんでしょう」

技術者A「閣下がお出になった!」

霧島「あら、どうも」


霧島は一歩、先にでた。

117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/14(水) 18:58:58.67 ID:pJHDuJ5AO
それを確認した技術者Aは彼の前にホログラムを投影した。

霧島「私、日本防衛軍所属戦艦、カスミ艦長霧島真之大佐であります」

霧島のだらしない敬礼。

グライガー「前置きはよろしい。」

グライガー閣下。
髭を蓄えた、恰幅のよい初老の男、まさにイメージ通りの男がそこにはいた。
いかにもな面構えをしていて、こうでもなければ軍のトップにはなれないとでも言うのだろうか。

霧島「では率直に、ファルコートの出撃拒否の理由はなんでありましょう」

画面の向こうにいる男は、椅子を引いた。

グライガー「他国の戦艦で出撃してよい理由はない」

霧島「あります。わが国とユーロは条約を結んでいます。互いの国の危機には互いで望む義務があると。」

グライガー「政治面の話をしているのではないよ」

霧島「政治ですよ。それはあなたが一番良くお知りになっているはずでしょう?」
グライガー「……噛み合わぬ会話なら時間の無駄だよ、霧島大佐」

霧島「あなたは、一体何を目指しているのか私には分かりかねます」

グライガー「内部不干渉だ。君に話す理由はない」

グライガー「第一、メインを止めれば……という根拠はなにかね」

ケイティ「少なくともこういうケースは想定されていたでしょう?機械は100パーセントじゃないのだから。」

グライガー「!」

ケイティ「私が伺います。あなたは何をなさっているので?」

グライガー「………殿下」

ケイティ「いいえ、私は艦長として聞いているのです。あなたは頭のよろしいかたですから、私がこれからいう意味はお分かりになるはず!」

ケイティ「一機一機壊しては、被害を広げるだけです。ファルコートを出せないなら、あなた方の手でメインを止めに向かってください!」

グライガー「それはできません。外敵用のシステムも停止いたします。本艦は丸腰になりかねません」
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/14(水) 18:59:41.57 ID:pJHDuJ5AO

ケイティ「それがなんだというのです!一時の話でしょう?これでは戦争をやっていることに、代わりありませんわ!」

グライガー「……そう簡単なものではありませんよ」

ケイティ「いいえ!簡単なことです。あなたはそこまでして………国民を危険に巻き込んでまで何を守りたいのです!」

グライガー「多少の犠牲はつきものです。力を示すことが、統一の唯一の手立てだと何故わかりません!」

ケイティ「違う!そんなの言い訳よ!力を示して人をまとめた結果どうなったか、歴史は教えてくれたでしょう!」

グライガー「………やはりあなたはお子様でらっしゃる。時代は急いでいるのです。」

ケイティ「グライガー!」

グライガー「………幻なんですよ。玉に乗る道化も同然だ。」

グライガー「あなたは、それを知らないんです」


通信が途切れた。


119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/14(水) 19:00:25.75 ID:pJHDuJ5AO
ケイティ「…………」


一同「…………」


兵士「という訳だ。シェルターで大人しくしていて貰おうか」


敷島「貴様は会話をきいとらんかったのか」

兵士「聞いていたさ。現実的な方に傾くことは同然だろう」

敷島「何が現実的だ!低俗な理屈で武装していただけだろう、それがなぜわからない!」

兵士「上に従うことのどこが非現実的なんだよ!」

敷島「だから貴様は!」

敷島は兵士に殴りかかった。

新兎「し、敷島!」

敷島「俺はちからづくでもファルコートに乗る!お前も付いて来るなら付いて来い!」

新兎「そ、そのつもりだが………」


当たりを見回せば、すっかり銃を構えた兵士達に囲まれてしまっていた。

新兎「……乗れんの?」

敷島「の、乗るさ……」

新兎「どうやって!」

敷島「どうやったってだよ!」

とは言いつつも、戦況は底がない程までに不利であった。

120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/14(水) 22:02:43.38 ID:pJHDuJ5AO
兵士A「大人しくシェルターに入って貰おうか!」

兵士B「こっちは無理くりだっていいんだぜ!理由つけて怪我させたって!」

新兎「おまえ等、俺だって状況はわかってんだぞ!このままだと戦艦はグチャグチャだよ!守らなくていいのかよ、自分の居場所を!」





『そうだ!』



一同「!」


大きな、強く、たくましい声が響いた。

兵士A「なっ…………」

兵士が振り向けば、銃やクワや鎌、パイプや置物を抱えた者たち、大勢の市民の姿がそこにはあった。


ケイティ「まさか……!」
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/14(水) 22:04:34.06 ID:pJHDuJ5AO

パワードスーツを着込んだ、中年男性が一歩前にでる。

アイスクリーム屋「よく聞け能なし!」

新兎「まさか、あのひとって」

ケイティ「マスター!」

アイスクリーム屋「自分で考えて、行動する…信念があったからこそ、お前たちは兵士になったんだろ!」

兵士A「何をやっているんだ!」

蕎麦屋「そりゃこっちのセリフだね、何をやってんだあんたら。自分の仕事を忘れたのか?」

男「戦艦を守るのがおまえ等の仕事だろう!上の言いなりになるのがおまえ等の仕事か?ええっ!?」

兵士A「黙れ!お前たちは俺たちのおかげで商売できてるんだろ!」

アイスクリーム屋「ちがうね、別に本国帰ったっていいんだよ。だけどさ、俺が店開いてんのはさ」

蕎麦屋「いつかさ、食べに来てくれるかもしれないっていう」



一同『殿下の為なんだよ!』



兵士A「!」

ケイティ「………みなさん」

ルイ「戦艦の人間を結びつけてんのはさ、宗教でも、思想でも、政治でも、ましてや武力なんかじゃない」

ルイ「彼女なんじゃない?」

122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/14(水) 22:05:00.70 ID:pJHDuJ5AO
兵士A「る、ルイ」

兵士B「んな、バカなことがあるか!」

ルイ「人を引きつけるのは人よ。彼女にはそれがある。美人だったり、頭がよかったりってのはオプションでさ、本質的にはそこでしょ?」

ルイ「じゃなかったら、統一してまで王室なんて残さないわよ。上手くいえないけど、そういうのってあるんだから。」

ケイティ「………」

兵士A「しかしだな!」

ルイ「別れる」

兵士A「えっ」

ルイ「彼らを乗せなかったら、別れるから。さよなら」

兵士A「ちょ、る、ルイ!ルイ!」

兵士B「お前………」

123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/14(水) 22:05:29.69 ID:pJHDuJ5AO
アイスクリーム屋「やだってんなら、俺たち全員掛かりで相手してやってもいいんだぜ?」

蕎麦屋「『戦いは数』っていうだろ?」


兵士一同「ぐっ………」


兵士A「……私は了承した。皆はどうだ」
兵士一同「………」


「なら、私が責任を取ろう」


兵士A「えっ……!」


男が、上からカツカツと足音を立ててやってきた。




「話は聞いた。グライガーのやり方はどうにも気にくわない。ましてや、美しい女性を……」


男はこけた。


「………」


124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/14(水) 22:06:06.51 ID:pJHDuJ5AO
兵士A「だ……大丈夫です?」


「美しい女性を、盾にするなど言語道断だ。麗しい殿下」


ケイティ「あ……あなたは……」


「私、ギー・アゼマ少佐であります。どこかでお会いいたしまして?」

ケイティ「い、いいええ!」

ギー「私の一存でファルコートの発進を許可いたします。」

兵士B「よ、よろしいので!閣下に知られればあなたどころか、お家は……」

ギー「いいんだ。愚かではありたくないが、私は……」

ギー「『馬鹿』だからな。」


ケイティ「ギー少佐……」



霧島「と言う訳だ!敷島、新兎はスーツ着用後ファルコートに搭乗。白鷹と駿河はカスミに回線、繋げ!」

一同「了解!」

頭「スーツはファルコートの中にあるから!」

敷島「いくぞ神前、遅れるな!」

新兎「……張り切り過ぎてんじゃないぞ」
敷島と新兎は勢いよく駆け出した。

白鷹「さて、忙しくなるぜ!」


125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/15(木) 00:44:21.09 ID:e2dhA2+AO
―――――

戦艦カスミ。

こちらはこちらで異様な空気が漂っていた。
なぜか散らばった服に、小麦粉、橘花にひれ伏す技術部員に、それを影からこっそり覗くアリナ。

何があったかはさて置いて、もちろんこちらにも警報が鳴り響いた。

白鷹『お前ら、聞いてんのかお前ら!』

アリナ「白鷹さん!」

白鷹『出撃だ。もしかしたら、ユーロ側と戦闘になるかも知れない。』

アリナ「な、なにがあったんです?」

白鷹『……いや、そっちこそ一体何が』

橘花「状況なら後で話すわ。こちらは何をすれば?」

白鷹『こっちは別に作戦があるから付いて行かなきゃならない。ナビゲータ、頼んだぞ。マップはそっちに送ったから。』

橘花・アリナ「了解!」


126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/15(木) 00:45:40.05 ID:e2dhA2+AO
――――――

デュッセルドルフ・中央司令室

機器がいくつも並び、カスミの比ではないほどの人とものが動く。

その中央、大きなデスクの裏。
グライガーは顔の前で、手を組んでいた。
佐官A「閣下、本当によろしいので。被害は甚大であります。このまま排除を続ければ内部は……」

グライガー「構わない。街ならまた作り直せばよかろう。だがな、こちらはそうは行かない。ようやく時計の針が動いたのだ。」


佐官A「……はい」

グライガー「こんなエラーなど起きるはずはなかった…と言いたげだな。だが現実を受け止める。そこから始めよう」

佐官A「と、おっしゃると」

グライガー「鎮圧したにせよ、本国から調査は入る。だから、だからだ、その前に完全させねばならない。9割方は出来ているのだろう」

佐官A「しかし、90対90という言葉がございます。ここから先はより慎重に……」

グライガー「我々に技術があることを示せれば良いのだ。」

佐官A「………了解」

グライガー「それから」

佐官A「はい」

グライガー「殿下にご意向を聞け。駒にはなろう。」

佐官A「了解いたしました」

グライガー「国を憂うお気持ちは我々と共にあらん。しかし、まだ子供だよ。子供は大人に従うしかない。」

グライガー「そうだろう?」


127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/15(木) 00:46:39.00 ID:e2dhA2+AO
――――――

格納庫。


着替えもおわり、元々の整備はされていたので手間取ることもなく、新兎はファルコートに搭乗していた。
スーツもすっかり匂いが取れて、心地が良いものになっている。

新兎「………今度、今度こそは」

新兎はレバーをギュッと握った。

アリナ『新兎くん!』

新兎「ぬわっ!」

いきなりアリナの顔のドアップ。

アリナ『あ、ごめん。間違えちゃった』

新兎「しょ、少尉………」

アリナ『寂しかったよ新兎くん!それはそれはもう!』

新兎「橘花がいませんでしたか?」

アリナ『いや、まあ、いたんですけど………』

新兎「……ケンカでもしたんですか?まさか」

アリナ『まさか!そんなことは全然無かったんだけどね、その……』

新兎「?」

アリナ『大尉と何を話したらいいかわかんなくって……』

新兎「ああ……まあ………」

新兎の脳裏には無言のまま向き合っているアリナと橘花の姿が容易に浮かんだ。

128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/15(木) 00:47:07.99 ID:e2dhA2+AO
アリナ『そんなことはどうでもいいの!こちらから、作戦を伝えますから、指示に従ってください!』

新兎「了解!」

アリナ『駿河さんと白鷹さんは殿下と一緒にメインを止めに、残る艦長たちはなるべく、兵がこちらに来ないように情報工作を行うそうです。』

新兎「つまり、俺たちは殿下の周りを守れば良いってわけですね。」

アリナ『そうです。殿下達の乗ってるラットの情報、送りますからそれは狙撃しないようにしてね!』

新兎「……あれ、殿下はともかく、駿河さんと白鷹さんってラット乗れたっけ」

アリナ『基本動作は大丈夫なはずだけど、戦闘までは一般人に毛が生えた程度でしょうから、しっかりフォローしてあげてください。』

新兎「任務了解。発進します!」

アリナ『了解!』


129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/15(木) 00:51:44.71 ID:e2dhA2+AO
ファルコートは、ぶちぶちと自らケーブルの拘束を解き始めた。
金属やプラスチックの破片があちこち飛び交った。

操縦席の匂いが、変わる。


アリナ『あっ、それから言い忘れてた!』

新兎「な、なんです」

アリナ『陸に関しては、あまり起動時間は気にしなくて大丈夫なんだけど、備え付けのユニシグについての諸注意があります。』

新兎「……え、はあ」

アリナ『陸と宇宙は違いますから。一発撃ったらお釈迦です。』

新兎「ええっ!」

アリナ『宇宙仕様ですからね。一発打っただけで抵抗で引き金の部分な金属が曲がっちゃうんです。出来れば使わない方が経費節約になるかな』

新兎「わ、わかりました」

アリナ『よろしい!じゃあいっくよー!』

アリナ『いっけーファルコート!銀河の力を見せてやれー!』

新兎「お……おー」
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/15(木) 00:52:26.12 ID:e2dhA2+AO
格納庫のハッチが開く。

横には敷島の乗るファルコート。裏にはラットが三台。

ギーは拡声器のスイッチを入れた。

ギー「頼むよ!失敗したら俺、銃殺刑だからさ!」

新兎・敷島『了解!』

ギー「………わかってんのかな、カスミの連中」

兵士A「カスミですからね」

ギー「………よしときゃよかったかなぁ」

ルイ「大丈夫よ、すごく今いい男よ、アナタ」

ギー「えっ……///」

兵士A「ちょ、ちょっとルイ!」


131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/15(木) 00:52:54.57 ID:e2dhA2+AO
ハッチが開ききり、ファルコートは白い体を輝かせた。
上にはユーロのラットが蠢いている。

新兎「……赤か、いいなぁ。帰ったらカラーリングしてもらうかな」

敷島『悠長なこと言っとると、先に中身が赤くカラーリングされちまうぞ』

白鷹『とりあえず、あたしらは先にいく。後はたのんだ!』

敷島『任せとけ!』

ハッチの先、早速銀色にカラーリングされたラット数台が待ち受けていた。
ファルコートの存在に気がついたのか、攻撃を仕掛けてくる。



橘花『来たわよ、二人とも!』

名前の通り、やけにすばしっこい。
が、ただそれだけで、型遅れには違いない。
腕を外し、中からはソード。
飛び出した腕は敷島の足を狙うが、避けられた。

132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/15(木) 00:53:39.62 ID:e2dhA2+AO
敷島『当たるか!』

ファルコートはすばやく特攻してくるラットの腕をねじ伏せた。

一体目、終了。

橘花『……戦力を見るにふたりがかりでいく必要はないわね』

敷島『二段階でいく!俺が先にこいつらを引きつけるから、お前は先に行っておけ!余裕が出来れば援護する!』

新兎「わかった!」

アリナ『味方ラットと50メートルまで近づいてください』


と、早速ユーロ側の数台のラットに出くわした。ファルコートは街灯を引き抜く。

新兎「……かかってくるか!退避するか、選べ!」

目のまえのラットが、構えたファルコートをみるや否や退避し始めた。
果敢にかかってくるものもあったが、機体差は歴然としていて、新兎が器用に爆発させぬよう、上手く狙う。

アリナ『すごいですね、新兎くん!』

新兎「まあ、こういう訓練の類は得意でしたから」

鼻高々。

新兎(何だかいま、すごく俺は主人公している!しているぞぉ!)

133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/15(木) 00:54:16.70 ID:e2dhA2+AO
アリナ『敷島さんの方も順調みたいですし、合流を待ちながら裏に………』


新兎「!」


嫌な電気が、新兎に走った。


アリナ『敵!右に30度、よけて!』


新兎「なっ!」

新兎のファルコートを狙う。
なんとかよけたのだが、今度は左から敵がやってきた。

アリナ『新兎くん、敵のラット!』

新兎「わかってますよ!!」

金色にカラーリングされた敵はやけに速い。新型か。

新兎「こいつ……邪魔ぁ!!」

街灯を大きく振り回す。が、相手に当たらない。

アリナ『敵はユーロのサイロ74。最新の試験機が…なんで……』

新兎「なんだよ!この以上な速さ!」

アリナ『特殊合金のシャダイフレーム、うちのと同じ装甲……』

新兎「………図体でかいくせに!」

角が三本にがっしりした腕。いかにもいかつく、見ているだけで萎えてしまうデザインだ。

134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/15(木) 00:55:09.75 ID:e2dhA2+AO
新兎「つぁーー!」

再び、新兎は街灯で殴りに掛かるが、あっさりよけられてしまった。

アリナ『ダメだよ!わかったでしょ、地上でサーベル系は使いなれてないんだから、振り幅が大きくって隙が出来るの!それに街を壊してどうすんの!』

新兎「じゃあどうすれば!」

アリナ『格闘でいくしか!』

パイロット『聞いているか、カスミのヤツ!』

新兎「何だ!」


パイロット『いま、降りれば安全に帰してやる!降りろ!』

新兎「なに言ってんだよ、ファルコートをなめるんじゃないぞ!」

パイロット『バカめ!所詮宇宙だけの話だよ!陸じゃパイロットの経験がものを言うのだ!』

新兎「それはどうかな!」

と、言いながらも新兎は逃げ始めた。

パイロット『まて、こらぁ!』

アリナ『新兎くん、彼を殿下から離したのはナイスだけど、彼、限界がくれば引き返すよ!こっちだって時間が無限にあるわけじゃ……』

新兎「ぐぅ!」


下からは、どこからかバルカン砲。敵は一人ではないのだ。

パイロット『また!うざったい!』

サイロ74はトラップを撃ち抜いた。

新兎「……また、被害を広げてくれちゃって!」

正直、陸にも対応しているとはいいつつ、ファルコートの使用は宇宙を想定している。
どうにも、使い勝手が独特で上手く馴れない上、色々積んでいる分サイロ74より重い。

135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/15(木) 00:56:40.88 ID:e2dhA2+AO
しかもである。武器も地上に適応していないユニシグ(所謂宇宙用の銃)しか持っていない。

相手はライフルを所持している。

機体の性能は抜群でも、置かれている状況は最悪だった。

新兎(街も壊せない……武器は撃てても一発。でも当たって墜落させれば、被害は出るし………)

新兎(街を壊さず、こいつの機能を止めるって無理じゃないか?)

パイロット『こちらは本気だ。[ピーーー]ぞ!』

サイロ74は銃を構えだした。

新兎「ちょ、ちょっとぉ!?」
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)[saga]:2012/03/15(木) 00:59:42.21 ID:e2dhA2+AO
訂正


パイロット『こちらは本気だ。殺すぞ!』

サイロ74は銃を構えだした。

137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]:2012/03/15(木) 22:38:41.96 ID:e+r7O94oo
ラットとウィッチのビジュアル全然想像出来ない
どんな感じ?
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/16(金) 02:53:14.70 ID:80IDFVLAO
ラット、ウィッチ、ファルコートの設定載せとくの忘れてました

ラット
陸での戦闘を意識してるから腕二本(収納可)と四本足にタイヤがついている形。ファルコートに比べてずんぐりむっくりだが、陸ではすばやい。
基本的に飛行は不可とはなってる(出来てもちょっと浮かぶ程度だとかくらいで戦闘には適してない)
が、“一部”改良型は余計な部分を収納して、人型に変形することによって空での戦闘は可能。ちなみに人型のまま、陸に降りて戦闘は出来ない。
ただし、これらは全て重力下での話であって宇宙では飛行すら不可。

これが基本スペック。変形前のビジュアルはとてつもなくダサい。
サイロ74は改良型だと思ってください。
また、改良型は陸、空両方の操縦センスが必要とされるため搭乗出来るのはすこぶる腕のいいパイロットになる。
ユーロでのカラーリングは通常赤、サイロ74は金。
サイロ74の装備はライフルカノンなどの銃に、電磁ナイフ、捕獲用のケーブル。
一般のラットには電磁ナイフとマシンガンなんかが装備。

イメージとしては戦車をもっと小回りがきくようにして、軽くて丈夫にした感じ。
ちなみに民間にも技術は流れていてそこらの車なんかより機能性はいいので、高級車の替わりに所有したり、作業に使われたり、小型化してペット替わりにしたり、用途は様々。

139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/16(金) 03:09:02.83 ID:80IDFVLAO
ウィッチ

第2世代型ロボット。宇宙用に開発された人型。
あくまで宇宙での戦闘が目的であり、重力下(空中)では使えないことはないが、能力的に改良型のラットに劣る。陸の上での戦闘は想定されておらず、また使用するメリットもない。
大体の戦艦に積まれていて、カスミにも予備機としてつまれている。
ちなみにフタツキでは地球より宇宙へ容易にでられるせいかラットよりウィッチの方が一般的。
比較的金持ちがフタツキには多いので趣味として個人レベルで所有しているケースもあるが、宇宙での開発作業用が主。

ビジュアルはジムを更にシンプルにした感じで、体つきはガッチリタイプ。

カスミにあるものはカラーリングは薄いグリーン。顔は丸っこい。角はなし。
背中に何気なく日の丸が掛かれている。
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/16(金) 03:30:17.26 ID:80IDFVLAO
ファルコート

第三世代型ロボット
陸宙空全てに対応した人型。
ただし宇宙での戦闘を前提としているため陸での能力は改良型ラットとイコールか少し上程度。パワーは勝っているが、機動性は若干劣る。
チタンとネオジムの合金をベースに強化プラスチックとセラミックをプラスした機体に、“シャダイシステム”と言う時空間の保存技術を利用した技術によって出力を上げ、
また最新鋭のオートバランサー、パイロットに埋め込まれている管理認識チップを利用してファルコートと神経接続させ、
パイロットの操縦を最小限にしたスキッドシステムを搭載。
現在、カスミに三体配備されているのみの実験機。
機体のカラーは白。一般的な「正義のロボット」そのまんまのデザインだが、装甲はシンプルな感じ。
退避用としてエマージェンシーモードが搭載されており、強制的に装甲を必要最小限にする。
陸での活動時間は気にするほど短くないが、宇宙では改良した今でも、持って20分程度と長くはない。
また、コストや維持管理費もかなりかかるために、量産への道は険しい。
ちなみに無理やり部品をつなぎ合わせれば“合体”出来なくもないが、ビジュアル的には宜しくない上に後始末が大変なので実用的とは言えない。

装備はユニバーサルシグザウアー(宇宙用拳銃)のみ。大気圏は抜けられない。
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)[sage]:2012/03/16(金) 12:40:23.74 ID:80IDFVLAO
>>138
訂正
通常銀 改良型が金 予備機が赤
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/16(金) 12:52:04.13 ID:80IDFVLAO

新兎「また!こんなとこで………」

新兎「ああ!もう分からん、分からん!」

新兎は職務を放棄してしまいたい気持ちでいっぱいになった。

どう転んだって望む結果にならない。

最初からフェアーでもなんでもないのだ。
新兎(そうだ……敵はラットだ。一旦ここは空に退避して様子を見るしかない)

右足を踏み込み、モードを空中使用へと切り替える。

ペーペの新兎がここまで戦えたのも、この動作が難なくこなせるのも、己の神経と、ファルコートつなぐ『スキッドシステム』のおかげであるが、一々感謝している暇はない。

ファルコートは空へと上がっていった。

アリナ『ど、どうするつもり?』

新兎「どうするも、陸でしかろくに動けないラットが相手なんだから空まで上がればこっちのもんですよ。もう一回大勢を……そうだ、空から攻撃って手もあったんだよな」

アリナ『あれ、もしかしてまだ、あたし言ってなかったっ…かな』

新兎「えっ?」

アリナ『あの……』

アリナの発言には勿論のこと、新兎は目の前の光景に口を開けた。

143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/16(金) 12:53:00.40 ID:80IDFVLAO
先ほどまで下にいたラットが、あろうことか、空にあがってきているのである。

しかも、だ

ガシャンガシャンと、足を二本引っ込め
残りの足は伸ばし、すこしガッチリとしてはいるが、立派な人型になっていたのだ

アリナ『変形して……飛びます』

新兎「うえええっ!」

固まる新兎を尻目に、再びサイロ74はライフルを構えた。

パイロット『悪いな!残骸は研究にでも使うだろうから心配するな!』



新兎「 」


アリナ『に、新兎……くん!』



絶対、絶命である。


どう考えても、おかしいのである。状況が。

普通であればこんな状態にはならないのである。


普通であれば。


追い詰められた人間は頭の中は真っ白に、思考停止してしまうものだろう。

新兎も勿論例外ではなかった。


――観念するしかないのか?


しかし、彼は“生き汚な”かった。


144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/16(金) 12:57:01.22 ID:80IDFVLAO
新兎「少尉!」


新兎は通信機に向かって大きく叫んだ。



新兎「……公園、公園ってあったよな!」


アリナ『う、うん』

新兎「ここからの距離、調べて!早く!」
アリナ『うん……!』

パイロット『逃げ出したって無駄だよ!早くアンタ撃って終いにしたいんだからさぁ!』

新兎「そうかな!調子乗ってると、足元救われるぞ!」

アリナ『でた!座標送る!』

新兎「来たぞ!」

パイロット『どこに逃げたって一緒だよぉ!坊主!』

目をむき出しにし、モニターにもたれかかる。まるで悪役だ。

パイロットはライフルを構えた。


しかし悪あがき。


どうにか時間を稼ごうとジグザグに逃げるファルコート。

サイロ74は捕獲用ケーブルを腕から伸ばして飛ばした。

あっという間に新兎の身体を捉える。


新兎「……!」


パイロット『これで撃ちやすくなったってもんだ!』



新兎は逃げるのを止めた。


何とか動く腕で、ユニシグを抜き出す。

アリナ『ちょ、ちょっとユニシグを使うつもり!?』

新兎「あとで技術部のみんなには謝っとく!」

パイロット『あきらめたか!潔いなぁ!』

パイロット『その潔さに免じて、コックピットは狙わないでやるよ!!!!』

145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)[sage]:2012/03/16(金) 13:21:41.20 ID:80IDFVLAO
アリナ『新兎くん………!』



サイロ74の指が引き金を引こうとした瞬間だった。


先に銃弾が響いた。



パイロット『なっ!』



砂煙が辺りに舞い上がり、お互いのモニターが砂煙に埋まった

パイロット『ぐっ……!』

それでもなお、ライフルを構えるのを止めない。

パイロット『残念だったな!もう外してやれないぞ坊主!』

パイロット『自業自得ってヤツだよぉ!』



――ライフルの弾は、放たれた。




と、同時に叫び声がパイロットの耳をつんざく。


新兎「そこだああああああああ!!!」


パイロット『なっ!』


ファルコートは、サイロ74に飛び込んだ。

パイロット『なぁ!』

もつれたまま、機体を下へと突き落とすファルコート。


またもや大きな衝撃で、砂場は砂煙をあげた。


公園の砂場の上に飛び込んだ二機。

サイロ74がどうにか変形し、体制を立て直そうとした隙に、ファルコートは足下を折った。

アリナ『やった!』

パイロット『………これでは!』

とっさにライフルを掴もうとする敵機。

しかし銃を抜こうとする右手を、ファルコートはがっちりと抑えた。

新兎「動けないだろう。公園はグチャグチャになっちゃたけども、生憎、被害はそんな出てないし、止めにしましょうよ!ねぇ!」

パイロット『このクソガキ…』

パイロット『そう言う訳にはいかない!』

新兎「なんで、メインを止めればすむ話だってわかんないんだよ、あんた!」

パイロット『グライガー閣下の御命令だからだ!』

新兎「んなもん、理由になるかよ!」

パイロット『理由になるのが軍なんだよ!』
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)[sage]:2012/03/16(金) 13:23:44.24 ID:80IDFVLAO

パイロット『理由になる。彼は私と思いを同じにする同士だ。天上人の戯れ言なんかより余程説得力があるんだ。俺には!』

左手でサイロ74は銃を構えた。

新兎「……」

パイロット『お前のユニシグは一発撃ったらお釈迦ってのは知ってる!馬鹿め!』

ファルコートはそっと、ライフルのシリンダー部分を持った。

パイロット『……な、なんだ!』

新兎のニヤツいた声。

新兎「シリンダーのとこ、撃鉄起こってても手で掴んじゃえば撃てないって知ってました?」

パイロット『えっ……』

新兎「うっそぴょーん」

ファルコートは抜き手でサイロ74の中心部を破壊した。

パイロット『なぁっ!』


パイロットは反射的に脱出する。


ファルコートは離脱。



――その後、サイロ74は爆発した。


147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)[sage]:2012/03/16(金) 13:24:24.33 ID:80IDFVLAO
新兎「任務、完了」

一見クールな口調と独特のしてやったり顔でいかにも主人公チックなセリフを吐く新兎の内心は小物そのものだったのだが。

アリナ『新兎くん……』


新兎は心の内で酷く興奮していた。

新兎(ああ、今の俺って主人公だ!ヒーローだ!すごい輝いてるぞ!)

新兎「いや、ちがうな。まだ任務はおわってませんから少尉。賞賛なら………」

アリナ『ダメでしょ!爆発させちゃっ!!』

新兎「……ふぇ!」

アリナ『あれだけ、街を壊さないでって行ったのに、公園は仕方ないにせよ、街灯引っこ抜いちゃったり、爆発させちゃったり!なんかもっと……もうっ』

新兎「いや……でも。あのぅ」

アリナ『よくやってくれましたけど、格好つけなくっていいんだからね、新兎くん』

新兎「………」

新兎「………はい」


148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)[sage]:2012/03/16(金) 13:25:40.15 ID:80IDFVLAO
―――――

新型機をどうにかして撃破した新兎はその後も何体かのラットと交戦することになるのだが、
なんやかんやアリナの叱責をうけつつ、なんやかんや、ケイティ達のラットとの合流を果たしたのだった。

敷島『おそいぞ、貴様。まさか敵は引き連れているなんてことは無かろうな』

新兎「冗談!それにね、俺は新型機とやりあってたんだ。仕方ないだろ」

敷島『それなら俺のところにも数台来たぞ』
新兎「……えっ」

敷島『一機は先に行かせてしまったが、そうかお前がやったのか』

新兎「ちょ、ちょっと待て!お前あんなの何台もどうやって……」

敷島『いくら機動性が優れていてもパワーは勝っているわけだし、ひょこひょこ動いてる間は向こうはろくに撃てやしない。こっちが無駄な動きをしなければ、そのうち隙は出来るだろうよ。』

新兎「んな……アホな」

敷島『アホは貴様だ。あんなのに手間取っていたのか』

新兎「………」

すっかり意気消沈する新兎だったが、構っている暇はない。

149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)[sage]:2012/03/16(金) 13:26:26.15 ID:80IDFVLAO
ケイティ『ここがメインコンピューターの入っているタワーです。』

白鷹『ずいぶん広い造りだな』

作りはずいぶん縦横にゆとりがある鉄筋だった。
タワーというより、いかにも作業所と言った空気もあるのだが。


ケイティ『ラットでの作業もしますから。ファルコート……ですよね?それもメイン内部の前までなら入れるはずです。』

敷島『では我々は前で警備をしております』

ケイティ『ええ、後ろは頼みましたよ。』
新兎「でも不思議ですね」

駿河『なにが?』

新兎「さっきの通りまでシステムの暴走はすごかったのに、ここはさっぱり。しかもやけに静か過ぎますよ」

駿河『……ま、ムラってのがあるんだろ』
ケイティ『では、いきますよ。』

しかし、扉は硬く閉じられている。

敷島『おい、神前。ユニシグは』

新兎「えっ」

敷島『どうしたと聞いている。本官の方は温存しておきたい』

新兎「いやっ……まあ」

敷島『まさか』

駿河『つ、使っちゃったのぉ!?街中でぇ!?』

新兎『ん……いや、まぁ』

駿河『はぁ……』

敷島『………役立たずめ』

150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)[sage]:2012/03/16(金) 13:27:09.98 ID:80IDFVLAO
敷島は渋々己のユニシグを取り出した。
敷島『一同、離れろ』


迷いなく標準を定め、引き金をひく。

と、扉はいとも簡単に吹き飛んだ。


敷島『他愛もない』

新兎「………」

アリナ『なに、むくれてるの?』

新兎「……べつに。」

ケイティ『先頭で入ります。皆さん、ついて来て』

一同『了解!』

敷島『後ろは御守りいたします、殿下』

ケイティ『……任せました。ここは広いですから、飛行モードを使います』


ケイティのラットは少し浮かび上がり、勢い良く飛び出した。

続いて白鷹、駿河のラットも続いた。

敷島『先に行け』

新兎「あ……ああ」

新兎が中に進んだ事を確認した後、敷島は後ろを警戒しつつ後を追った。


タワーの内部は配線やら配管やらが敷き詰められている。
比較的空洞が多く、広々と作業ができるよう整備されていた。
だが基本的には無人であるらしく、この日もまた例外ではなかった。


タワーを少しずつ降下してゆく。

外と同様、ここにもセキュリティーの暴走は見られない。

151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)[sage]:2012/03/16(金) 13:28:09.86 ID:80IDFVLAO
白鷹『……不思議なくらい、静かだな』

敷島『油断するな。喚き立てながらやってくる敵がいるものかよ』

白鷹『わかってるよ、うっせーな』

敷島『なーにぃ?』

駿河『相変わらずだな。余計なコミュニケーションとるんじゃないよ』

敷島・白鷹『こいつが!』

ケイティ『もうすぐ最下層ですわ』


そうケイティが言うと、白鷹と駿河も拳銃を構える準備を始めた。

敷島『我々は、先に確認をしたのち、前で警備しております』

ケイティ『お願いいたします。』

敷島『いくぞ』

新兎「………わかってるよ。」

そうぶっきらぼうに言う新兎機を引き連れ、敷島機はメイン内部の向こうをチェックした。

カメラで見る限り見当たらない。

索敵もかけたが、これといった反応もなかった。

ケイティ『では、おります。』

白鷹・駿河『了解』

三人はハッチを開け、拳銃を構えた。

白鷹「よし、いない」

敷島『だからいったろうが』

白鷹「偉そうに言うことかよ。当たり前の確認だろ。駿河、キティ、いくぞ」


152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)[sage]:2012/03/16(金) 13:28:50.55 ID:80IDFVLAO
慎重でありながらも、急ぎ足でさらに奥に三人は進んでいく。

目視と索敵では見あたらなかったが、それは入り口の話で、メインコンピュータールームに何か無いとは限らない。

駿河「異常は」

白鷹「ないよ」

駿河「それでは殿下、先へ」

ケイティ「もう面倒です。早くいきましょう」

駿河「しかし」

ケイティ「私にだってわかります。だから、いきましょう!」

ケイティは二人の制止も振り切って、まっすぐ走り出した。

駿河「どうする」

白鷹「たって、こっちにゃ責任、ないんだから。走るぜ!」

駿河「おっ、おう」




153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)[sage]:2012/03/16(金) 13:29:40.13 ID:80IDFVLAO
三人が走る先、果て。

そこには巨大なコンピューターが一機、置かれていた。


ガーガーやらピーピーやら、騒ぎ立てるでもなく、静かにそこにあった。

ケイティ「これです。これが我が艦が誇るメインコンピューター、ファインド。その中心です。」

白鷹「なるほど、これをとめる………ってか」

駿河「コンセントでも、抜くか」

白鷹「馬鹿言え。NCの準備!それから場合によってはアリナさんの力も借りたいからカスミに回線繋いどけ」

駿河「了解した。殿下、認証のパスコードは」

ケイティ「登録されてます。本国の許可なしに勝手に取り消しはできませんから。多分使えます」

白鷹「NC、機動スタート。データ開放。解析、スタンバイ。」

白鷹の周りにいつものごとく色鮮やかに画面達が花開く。
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)[sage]:2012/03/16(金) 13:30:44.22 ID:80IDFVLAO
ケイティ「すごいわ……あなたもできて?」

駿河「まさか!あんなキチガイ沙汰、やれって言ったって出来るもんじゃありません」

ケイティ「そうなの……」

駿河「うちのクルーは基本的に優秀です。ちょっと頭おかしいだけで」


白鷹の右ストレートが炸裂した

白鷹「喰っちゃべって無いで、さっさとやれ、駿河」

駿河「ほ、ほれでひゃっひゃろなんれ……ひゅひだお……(こ、これでさっさとなんて無理だよ……)」

白鷹「とにかく、防壁が厚いのはなんとかしなきゃならない。だから旧式のデカいのってのは………」


白鷹の指とツインテールは激しく動き、瞬く間に画面は膨らむ。
たしかに、キチガイじみた光景なのかもしれない。

白鷹「ったく!ダミーがうざったいんだよ!」

駿河「左の回線、切っちゃえば?」

白鷹「だったらやれよ!早く!」

駿河「おお……恐っ」

ケイティ「………」

ケイティは何も出来ずにそれを眺めていた。

彼らは袖振り合う程度の縁だがよくやってくれている。

だけど

一体私に何が出来るのだろう

一体何が戦艦を守るのだろう

一体私は何をすべきなのだろう

一体

一体

一体

一体
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)[sage]:2012/03/16(金) 19:39:16.93 ID:80IDFVLAO
白鷹「キティ!パスコードだ!」


ケイティ「え、ええ!」

ケイティは震える手でキーをタッチしてゆく。

一文字一文字、慎重に


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

ソロモン・グランディ


月曜に生まれて

火曜に戦争

水曜に人を殺して

木曜に人を殺して

金曜に人を殺して

土曜に死んで

日曜に土の上


それでおしまい ソロモン・グランディ


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)[sage]:2012/03/16(金) 19:51:44.61 ID:80IDFVLAO
ケイティ「………」

駿河「…随分物騒な暗号だな、こりゃ」

白鷹「マザーグースか。ちょっと違うけど」

ケイティ「戒めです。私たちが多くの屍の上に立っていると言う、戒め。」


ケイティ「止まって!」



汗だくのケイティ指が最後のキーを押した。




メインコンピューターは息を潜めた。



あたりを静けさが支配した



彼女の喉がなる。それだけが響く。



ケイティには未だにわからなかった。
自分がなぜ、こんなことをしているのか、心から。

理屈や目の前の現象としてならば、嫌だという程に理解している。

しているのにだ、それでも疑問の体をなした反発だけが身体を駆け巡った。

なぜだかは自分でも理由付けられない。ただ、どこかでこの感触を拒絶していた。

彼女が大人になりきれていない故なのか


ただ、独占した感覚だけが鈍く空気に溶け込むだけだった。
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/21(水) 04:48:30.17 ID:CMk6bS0AO

――その途端、辺りに赤い画面が広がった。



『警告:特定の端末をセットしてください!』


ケイティ「えっ……」

白鷹「特定の端末?なんじゃそりゃ」

『特定の端末』『特定の端末』『特定の端末』

ケイティ「……」

駿河「もしかしたら、バックアップシステムの警告かも知れん。終了できないぞ!」
白鷹「バックアップったって……こっちで最大限配慮してんだよ!サブだって構わない訳だしさ!」

『特定の端末』『特定の端末』『特定の端末』

白鷹「第一、特定のって………」

駿河「心当たりは?」

ケイティ「わからないわ……」

駿河「どぉーするんだよ白鷹准尉!お前自信満々だったけどさぁ!」

白鷹「………」

駿河「カスミに通信とるか?」

白鷹「……取ったってどうなるもんでもないだろ」

駿河「じゃあ、どうすんの!」

白鷹「………」

駿河「黙ってないで、何か言えよ、白鷹!」

158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/21(水) 04:48:56.06 ID:CMk6bS0AO
白鷹「お前だって、技術屋だろ!だったらなんか思いつかないのかよ!」

駿河「つかないよ!」

白鷹「ならだまってろ!あとちょっとでなんか、なんか出てきそうなんだよ!」

駿河「……」


しばらく沈黙が続いたあと、ようやく白鷹は口を開いた。

白鷹「……あのさ」

駿河「なんか、なんか思いついたのか!」

白鷹「………お前ってさ、『無形生命説』って信じるか?」

駿河「はぁ?」

159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/21(水) 04:49:42.50 ID:CMk6bS0AO
白鷹「いや、今ふと思い出したんだけどさ、この世には『有形生命』と『無形生命』に分かれてて、幽霊だとか神様だとか、そう言う訳わかんないのは無形生命に当たるってやつ。それを証明されちゃうと宗教的にも科学的にもまずいから、大々的に証明はされてないんだけど」

駿河「似非理論だって、結論ついたんだろ。それが、何の役にたつってんだい!」

白鷹「よく聞けよ。無形生命の概念だ。文字通り『目に見えない生物』で、形をもたないのに、どうして生物として成立しうるんだって疑問があるけど、『情報』の形で存在してるんだってわけ。近年われわれが目視できたってだけで太古からある」

白鷹「ただ、有形生物にもレベルがあるように無形生命にもレベルがある。低級な情報は転がってるだけ。高級なものは……それこそ『神様』なのかもしれない。わかんないけど。」

白鷹「つまりだ、情報を有するものには場合によっては……主に特定の外的要因によって、生命レベルが上がって……簡単に言えば魂が宿るも同然ってこと。」


駿河「…艦長の悪い癖、移っとるぞ」

白鷹「言ってる意味、分かるか?」

160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/21(水) 04:50:16.72 ID:CMk6bS0AO
ケイティ「ええ…まあなんとなく」

ケイティ「まさか…それを信じるとすれば……」

白鷹「だってさ、色々知れるんだぜ、私たちより。なら嫌になっちゃうだろう。 こんなのって」

白鷹「私たち人間と概念は違うかもしれないけどさ、そりゃあ」

駿河「まさか、いくら手立てがないからってそんな発想するかよ……お前」

ケイティ「………」

白鷹「私だったら、バックアップの器くらいは選びたいって思うよ、ケイティ」

白鷹なりの言葉で、ケイティは深くは物事を理解することは出来なかったが、大事な部分は理解できた。

そして、空気を感じとることが出来た。



一体彼は何をしたいのか

一体彼に何ができるのか



アラームは未だに鳴り止まない。



161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/21(水) 04:50:43.15 ID:CMk6bS0AO
ケイティは懐から小さなメモリを取り出し、ケーブルを引き出した。


ケイティ「……ありがとう、あなたも私を好きでいてくれたのね」


ケーブルは繋がれた。


赤い画面は閉じていき、彼女の端末にデータが移される。





完了を告げる合図と共に、そっと目を閉じた。




コンピューターは、止まった。



162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/21(水) 04:51:09.44 ID:CMk6bS0AO
駿河「……マジかよ」

頭を抱える駿河を尻目に、白鷹はそっとケイティの肩を抱いた。

ケイティ「あなた方になんてお礼を申し上げたら……」

白鷹「お礼なら、こいつと、こいつの外的要因にすべきだよ。あたしにはそこまでお膳立てできない」

ケイティ「『要因』……」

白鷹「さてね、何かの偶然の反応か、それとも必然的要素か、知らないけど、こいつの意志の介在がなきゃどうにもならない」

白鷹「みんなさ、お前のこと、好きなんだよケイティ」

ケイティ「………ええ」

白鷹はポンと肩を叩いた。彼女は力強く、大きく頷いた。

駿河「説明がつかない」

白鷹「愛の力ってことでいいんじゃないの?」

163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/21(水) 04:51:36.07 ID:CMk6bS0AO
白鷹「それよりさ、そのデータの中身、なんなんだ?」

ケイティ「ええ…閲覧しているのですが、如何せん膨大な量と、書いてある事がいまいち……」

白鷹「見せて貰っていいか?」

ケイティ「コピーいたします。」

白鷹「……いいのか」

ケイティ「貴女たちにはその権利がありますわ。さ、お早く」

白鷹「そうしてもらえるとこっちの要約ソフトに掛けられる。貰うよ」

白鷹の端末とケイティの端末は優しく触れ合った。

ケイティ「……要約ソフト?」

白鷹「まあ、同じ意味をカットしたりだとか俗的なワードに用語を訳したりするんだ。」


駿河「インテリってのはさ、言葉遊びが好きだったり、難しい言葉を使いたがったり、要点を得ない説明したり、文章を大掛かりにしがちだからな」

ケイティ「そうね、そうよね。了見が狭いのよ、彼ら」

白鷹「時間が掛かる。駿河、艦長達に連絡入れとけよ」

駿河「了解」

コードを差し替え、己の端末に戻した後、通信先を設定。
それから作業を向こうがしていれば割り込みの為の設定が必要になる。
案外面倒なのだ。

164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/21(水) 04:52:06.26 ID:CMk6bS0AO
駿河「一発で出てくれよ……」


――――

格納庫。

押し掛けてきた住民の非難は完了した。
秋津洲「終わりましたわよ、艦長」

霧島「ご苦労サンフランシスコ鉄道」

頭「ありが東武日光線」

秋津洲「……終わりましたか」

霧島「ふぶきちゃん、そこは『終わりまし高崎線』でしょ」

秋津洲「四人は頑張ってるんですから、つまらない冗談はよしてください」

霧島「あの四人なら大丈夫ですよー。なんかそんな感じするもん」

秋津洲「脳天気なんですから、艦長」

頭はボチボチ旧式のPCのキーをいじりながら苦笑いしていた。

頭「こっちはサブの無線にも割り込んどきましたよ。っと……」

頭「駿河くんから連絡です、艦長」

霧島「あら本当?」

霧島は頭からマイクを受け取った。
持った瞬間にコードが絡まるのをみて頭の顔は固まったがお構いなしにしゃべり始めた。

霧島「あ、僕のことが嫌いな駿河くん?」

駿河『そうです。いつかは艦長を貶めてやりたい、駿河です。』

165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/21(水) 04:52:36.13 ID:CMk6bS0AO
駿河『こっちは止めましたよ。しかもお土産付きです』

霧島「お疲れ様。で、お土産ってなに?」

駿河『白鷹が今やってます。』

霧島「そう。聞かせてくれると有り難いんだけども」


白鷹『今やってるよ。ったく、どんだけ多いんだっつーの』

白鷹はイライラしながら右に左に画面を動かす。

白鷹『きたっ!』

きたきたと、手をこねながらカーソルを動かす。
どんなもんが入っているのかと興味津々で目を通していたのだが

ページをめくるにつれて

段々彼女の顔色が悪くなっていった。

霧島「どうしました?」

白鷹『おっさんの………おっさんの読みはさ、当たってるよ。』

霧島「えー、やっぱ?何の読みかしらないけど」

白鷹『やっぱさ。やっぱコッソリ作ってたみたいなんだよね、色々』

霧島「やっぱ?」

白鷹『シュヴァルツシルト』

駿河『……いきなりなんだよ』

166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/21(水) 04:53:08.80 ID:CMk6bS0AO
白鷹『ボルツマン定数』

白鷹『絶対温度』

白鷹『トルマン・オッペンハイマー・ヴォルコフ限界』

駿河『……えっ』

白鷹『ホーキング放射』

白鷹『さて、これらのキーワードから連想されるもんはなーんだ』

霧島「……」




霧島「…………ブラックホール」

167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/21(水) 04:53:35.64 ID:CMk6bS0AO
白鷹『せいかい』

秋津洲「ぶっ!」

駿河『まさか、ブラックホール爆弾でも作ろうってんじゃあ……、まさか!』

頭「でも、核を使った痕跡があるなら否定は仕切れないよ。小さなブラックホールホールをつくる………いわゆる縮退のきっかけにできる。」

駿河『つまり、それを育てて、でっかいブラックホールを作ろうってワケですか』

頭「だけど、コントロール仕切れないからさ、みんな使わないんで来たんだよ!まさか、それが出来るってんじゃあ……」

霧島「出来るか出来ないかは別として、彼の最後の隠し玉なんじゃありませんか」

頭「……ヤケクソってことです?」

霧島「ヤケクソってことです」

ケイティ「……そんなもの、できたって、力で民衆を抑え[ピーーー]だけだって、何故わからないの!」

秋津洲「……ん、ちょっと待って」

霧島「なんです」

秋津洲「彼らは…メインから色々引っ張って来たのよね」

霧島「そうです」

秋津洲「でも、メインが止まっちゃったんでしょう?その状態で不安定なものの管理って出来るの?」

霧島「……バックアップくらいはあるんじゃないんですか」

168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/21(水) 04:54:02.61 ID:CMk6bS0AO
秋津洲「そしたら、あんなに必死に止める?」

霧島「何かの拍子に情報が漏れるかも知れないし……」

秋津洲「でも、そういう考えで言っても、メインが止められて情報は漏れた可能性はあちらは考慮してる」

秋津洲「万が一漏れて、本国に情報が行けば…間違いなく好き勝手は出来なくなる。そしてそれを確認する手段がなければ」

霧島「焦る……よねぇ。色々」

秋津洲「焦って今から完成できるものなの、頭部長」

頭「準備期間からみたって、スタッフの面子を考えてみたって、無理ですよ。絶対に。第一優秀な人間ほど関わらんでしょうに」

秋津洲「よねぇ。可能性は色々考えられるけど」

秋津洲「まずいんじゃない?」

一同「………」

ギー「まずいな」

白鷹『聞いてたんかい』

ギー「まずい。俺にもわかる。非常にまずい。」

ギー「逃げよう」

彼の非常に短絡的な思考がこんなにも役に立つのかと、一同は思わず感心してしまった。


169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/21(水) 04:54:48.08 ID:CMk6bS0AO
ケイティ「………」


話をすべて聞き終えたケイティは走り出した。

白鷹「ちょ、ちょっとどこ行くんだお前!」

アルミの板の上をカンカンと飛び、降りてゆく彼女。
普通ではとても危なくて出来やしないのだが、彼女はそれを忘れるほど必死に走り出した。

駿河「何しにいくんだか……」

白鷹「何も出来やしねーよ!」

白鷹「おい、敷島!新兎!聞いてるか!」

敷島『どうした!』

白鷹「そっちにキティが行った!なんかしようとしてる!」

新兎『なんかってなんですよ!』


白鷹「わかんないけど、よくないことだ!とにかく、頼んだ!」




入り口。

ファルコート二台が構えるその裏にケイティのラットは置かれていた。
身軽に中へ乗り込む。ベルトをつけた後にレバーを握った。
ものすごい速さで、敷島も新兎も制することが出来ないままだった。

ラットは駆け出した。

敷島「殿下!」

振り返ることもなく、彼女とラットは先へ先へと吸い込まれて行くかのように走っていく。

敷島「殿下!殿下!応答してください、殿下!」

ケイティ『私はやらなきゃならないの!あなた方は逃げて!』

170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/21(水) 04:55:15.71 ID:CMk6bS0AO
敷島「どうするつもりです!」

ケイティ『まだブラックホールが小さいのなら、これを爆発させればなんとかなるわ!』

白鷹『なんとかならないよ!んなもん、雀の涙にもなりゃしないよ!』

ケイティ『だけど、可能性があるなら、やらなきゃならないの!みんなを………ここを無くしたくないの!義務なのよ!』

敷島「子供の考えですよ殿下!賢い殿下はお戻りください!」

ケイティ『できない……何もせずに逃げられない!あたしがコンピューター止めたからなの!行かなきゃならないの!』


通信は途切れた。




敷島「………」
171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/03/21(水) 04:55:50.04 ID:CMk6bS0AO
白鷹『………頭おかしいんじゃねーのか』

白鷹『おい、呼び出せよ!』

駿河『コールガール呼ぶんじゃないんだからさ!』

敷島「……騒がしい」


敷島はレバーに思い切り力を込めた。
白いボディにルビー色のライトが輝いた。手当たり次第にスイッチを上げていく。
そして、ファルコートは白い息を吐いたのだ。

ここまでの行動は全て、反射的なものだった。

敷島「……」

無言のまま、右足を踏み込ませた。


新兎「敷島……?」

敷島「お前は二人をつれて帰れ。ファルコートに乗せて帰りゃ、確実に帰れるだろう?」

新兎「お前はどうすんだよ!」

敷島「殿下を連れ戻す。いいな、きっとだぞ!」

新兎「……心中する気かよ」

敷島「閣下は頼んだ」

新兎「ちょっと!ちょっと………」


敷島は乱暴に通信スイッチを切った。

新兎は狂ったような手付きで敷島を呼び出したが、拒絶のチャイムだけが答えるのみである。


新兎「………」




何度もレバーの前で手をふらふらとさせていると遅れて、裏から白鷹と駿河がやってきた。




新兎は無言でレバーを握りしめるしかなかった。


172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)[sage]:2012/03/21(水) 04:56:21.40 ID:CMk6bS0AO
とりまここまで
ありがとうございました



Pastlog.cgi Ver2.0
Powered By VIP Service
Script Base by toshinari