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HTML化した人:lain.
友人とDTBのリレー小説書いたったwwww
1 :WM2012/03/15(木) 20:06:57.54 ID:tm1H51fco
……『契約者』と呼ばれる超能力者が公に公表されてから数年の時が経った

それと同時に偽物の空が認知され、人々の生活が大きく変わり少年達は皆超能力というまるで漫画のような力に憧れ、大人達は、自らが合理的主義を掲げる感情を持たぬ人間……否、機械になることを恐れた

人外とも言える力を持つ能力者の種は三種類……契約者とドール、そしてモラトリアム
その三種類だった

そう、三種類――『だった』

偽物の空に一つの星が輝いたその日、薄橙色の月が浮かんだその日から――
感情を『持つ』契約者、『エモーション』と呼ばれる存在が、生まれたのだ

数年前に起きたゲート爆破事件、通称『トーキョーエクスプロージョン』を境に対契約者の兵器開発が進んだが、彼ら『エモーション』達にはその一切の努力が無駄となった

エモーション達に兵器が効かないと言う訳ではない――むしろ、『効き過ぎる』のだ

開発されたそれらを受け止めたエモーション達はたちまち――たとえその兵器の規模に関わらず――蒸発してしまう

ドロドロに溶け、肉という肉が沸騰したかの様に膨れ上がり、破裂し……最後には蒸気を吹きながら文字通りに蒸発する

当然、ありとあらゆる団体から非難が殺到し、その兵器の使用が制限されーー人類は、能力者と一般人とに見事に二分されたのだ

そして本州最西端のY県にーー『ありとあらゆる生物を拒絶する領域』が生まれ、それに伴うようにして、巨大な壁が建造された

そのY県の臨海部、人口30万人ほどの街、S市ーーの街道に建つ一つの雑居ビルの二階で……今日もまた、電話は鳴る

ルルルルルーー…

ガチャッ

「はいもしもしこちら『なんでも屋釘宮』ですけどーー」

そう、ぼさついた黒髪を掻きながら、一人の青年が電話――昔ながらの黒電話だが――を取る
「……ああ、ハヤトか」

「その名で呼ぶんじゃねぇ?はいはい分かったよ……それで、お前が掛けてくるってコトは」
「……あー、やっぱり」

はぁ、と男はため息を付き、イオ○で買った安物のチェアにもたれ掛かる
デスクの上に無造作に置かれた左手にはボールペンが握られており、くるくると回転を続けていた

「で、ターゲットは?……E(エモーション)が1人、路地裏で喧嘩中に発現、喧嘩相手をそのまま殺った後、興奮状態のまま近くを通った女子高生を人質に取り廃ビルに立てこもり中、と」

窓からは月明かりが差し込んでいて、綺麗な満月が顔をのぞかせている

「……らしいぞ、香月」

そう彼が声を掛けた先に、黒髪ショートヘアの端整な顔立ちの女が立っている

「今月に入ってこれで30件目……頭が痛くなる」

女の口から発せられたため息混じりの声は凛としていて、触れれば切れそうな鋭さを秘めていた

「先月に比べたら少ない方だ……もう一件の方は頼んだぞ」

「了解……お前、なんだその嬉しそうな顔は?」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1331809617(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)
2 :WM[sage]:2012/03/15(木) 20:07:29.24 ID:tm1H51fco

「……え?俺そんな顔してっか?」

「思いっきりにやけてるぞ……大方私に仕事を押し付けられて嬉しいんだろう?」

「まぁそんなところだな……じゃ、後は任せた」

「迷子犬探し……か、イマイチ気が進まん」

「その仕事をとったのはお前だろ?」

「……受けれる仕事は受けておかないと、こっちも暮らしが掛かってるからな」

「あのヤローもちったあ報酬くれりゃあいいのに」

「そう思うんだったらもう少し物を壊すのを控えるんだな……毎回毎回そのおかげで報酬が減っているんだ」

「あーはいはい、どうもすみませェん」

(本当に分かっているのかこいつは……)

男が面倒くさそうにーー非常に面倒臭そうに立ち上がった時、どこからか、かん、かん、かんと音が聞こえて来た

「ん、来たか」

「どうやら、お姫様のご到着の様だ」

数秒のち、ぎぎぎと蝶番の錆び付いた音を立てて扉が開かれる。

そこにはーー綺麗な黒色のショートヘアを夜風に靡かせる、まるで人形のような少女が立っていた
黒色の髪を月明かりが照らし、まるでそれは宝石のよう

「よう、遅かったな、ナガト」

少女の名は周防ナガト

「……それで、敵の位置は?」

そして

「……ここから西北西に4キロ」

観測霊を生み出す能力者……ドール、だった

「……いつもご苦労さん」

「別に……大丈夫……」

「ナガト、お前はいつも通りここで待機だ、わかったな?」

「……キョウ」

「ん?なんだ?」

「気を……つけて……」

「……わかってる」

男ーー釘宮キョウはそういうと彼女の頭を撫でて……それに合わせて彼女が気持ち良さそうに、ほんの少しだけ、目を細めた

「……よし!そんじゃ……行きますかね!」

今日もまた彼らは戦う
人ではない人……契約者達と!
3 :FY[sage]:2012/03/15(木) 20:09:21.86 ID:tm1H51fco
「だりぃ…」

俺は偽物の空を仰ぎ見ながら歩道を歩いていた。

「晩飯の食材がないなんて…」

頭を適当に掻きながら行きつけのスーパーへの道のりを進む。

(そういや…いつから偽物の夜空になったんだったけな…)

ふと思い記憶を辿ってみる。

(ダメだ…思い出せねえ…)

それほどまでに偽物の空は今、人間に受け入れられていた。

(契約者、か…)

俺は3年前に公となった能力者の事を考える。

そんな奴らがいたなんてその当時は信じられなかった。

だが、不可解な事件が数々起きるたびに信じるしかなくなった。

(感情を失うのは怖いよな…)

俺はスーパーの自動ドアをくぐり店内へ入る。

(っと、そんな事よりまずは晩飯の食材を買わないとな…)

野菜コーナー、精肉コーナーをまわり必要な食材を買い物カゴに入れる。

(まあ、こんなもんだろ…)

俺は財布の中身を確認しつつレジへ向かう。

「お会計2183円です。」

俺はちょうどの金額を払い、店内から外へ出る。

(残金は……まだ少し余裕はあるな。)

財布を閉じ、ズボンの後ろポケットにねじ込む。

そして、来た道を早足に帰って行く。

(眠い…)

目元を軽く擦りながら欠伸を噛み[ピーーー]。


「やっと着いた…」

アパートの階段を昇り、部屋の鍵を取り出す。

「ただいま…っても1人暮らしだから意味ないか…。」

俺はドアを閉め、鍵とチェーンをかける。

ドアには101号室と書かれており、部屋主の所には“水嶋尚斗”と書かれていた。
4 :FY[sage]:2012/03/15(木) 20:11:14.47 ID:tm1H51fco
「ひはっ……ひはっ……」

男は、焦っていた

額からは大粒の汗が流れ、呼吸がうまくいかない、手が震え、その腕で女を抱き寄せ、そのこめかみに重厚な鈍い輝きを放つーー

拳銃を、突きつけていた

女性のほうも今にも泣きだしそうな表情で、カタカタと歯を鳴らしている

なぜ自分がこんな目に合っているのだろうか、いつも通りの日だったのに、朝起きて、学校に行って、友達と話して、家に帰る

平凡な、けれど確かに毎日が楽しい日だったのに……どうして?

全ての原因は、あの銃声だった

聞きなれない乾ききったその音を不思議がって路地裏に入ってみたらーーそこに、血まみれで倒れる男の人がいた

そしてそのそばに……漫画や映画でしか見たことがないような、拳銃を持つ男が立っていた

その体を……青白い光で輝かせる男が、立っていた

光の正体はすぐに分かった、ほぼ毎日のように放送されるニュース

その中で論じられる『契約者』と呼ばれる超能力者が放つ――

「ランセルノプト……放射光……」

あるいは、彼女がすぐに踵を返してその場から逃げれば、このようなことにはならなかったのかもしれない

必死に逃げて、どこか近くの建物に逃げ込めば、こうしてこの男に捕まって今にも終わりを迎えそうな自分の命を心配する羽目にならなかったのかもしれない

だがその時の彼女の頭の中にはーー逃げるという選択肢がなかった

月光のように薄暗い路地と、赤黒い液体と、彼女の体を照らすそのまばゆい光を……『美しい』と思ってしまったからだ

そこからはあっという間、血走った目の男に無理矢理引っ張られ、近くの廃ビルに連れ込まれて……この状況だ

男の荒い息が彼女の髪に吹きかかる、窓からは時折赤色の光が入ってくる……警察がこのビルを包囲しているのだろう、と彼女は思う

そしていよいよ、自分は殺されるのだろうとーー諦めにも似た覚悟が生まれた

「きゃっ!?」

突然、なんの脈略も無く男が彼女の短髪を掴んだ

「っ痛い痛い痛い痛い!!!」

ブチ……ブチ……と、何かが千切れるような音が彼の頭を響かせて……しばらくした後に痛みは消えた

「……ひっ!?」

彼女の視線のその先には……男の手があった、彼女の髪を握る、その右手が。

「う……あ……あ……っ……!」

男は、喰らっていた。
むしゃむしゃと、喰らっていた。
むしり取った……彼女の髪を。

「そ……それが……あな、あなたの……たい、か……ですか?」
5 :FY[sage]:2012/03/15(木) 20:12:12.44 ID:tm1H51fco
『対価』……契約者達が能力を使う代償行う行動……

それは例えば自分の指を折ったり、誰か他人の顔を舐めたり、猫耳を付けなければならなかったり……若返ったりする……それが、対価

「だだだだまれっ!お、お前はただおとなしくしてればいいっ!」

銃口が彼女のこめかみにぶち当たる、痛みよりも、恐怖心がさらに強まった

「……っ!!」

……きっと、ドラマの中ではこんな時にカッコいいヒーローがーージャニーズだとかそこらへんの人がーーさっそうと現れて、あっと言う間に私を助けてくれるんだろう……でも、これはげんじーーー

ゴッ!!

突風が、巻き起こった。
窓が締め切られている、風なんて吹き用も無いこの部屋で、突風が巻き起こった

風は男の手から拳銃を奪い取り、吹き飛ばされたそれは床へと転がってゆく

「っ!!!」

「……ご名答」

男が、立っていた
ぼさぼさの髪に薄赤色の瞳、その手に拳銃を握る、男が、立っていた

「お、お前は一体何者だ!!」

「俺?俺か……」

「契約者を倒す契約者。釘宮キョウ」

「名前は覚えなくてーーー」

「結構だ」
6 :FY[sage]:2012/03/15(木) 20:13:43.28 ID:tm1H51fco
>>4-5名前訂正 FY→WM

「ふぅ…食った食った。」

俺は晩飯を平らげ一息つく。

「さてと…片付けして風呂入って寝よう。」

俺は食器を手早く洗い食器棚にしまう。
それが終わると出る前に沸かしていた風呂へと入る。

「ごくらく、ごくらく〜っと。」

俺は適度な温度の風呂で身体を温めながら契約者の事を考える。

(契約者って、突然何の前触れもなくなるんだったよな…)

湯船に顔半分を浸しブクブクと泡を出す。

(感情がないから合理的にしか物事を考えない、か…。それに対価っていうのも払わないといけないんだから嫌な事ばかりだろうな…)

ゆっくり身体を休めると風呂から出る。
そして、鏡に写る自分を見る。

(それにしても…俺って何でこんなに男らしくないんだろうか…)

髪は普通の男子より長く身体付きは細い。
多分、女装させたら普通に女子にしか見えない感じがした。

「はぁ……」

俺はそんな自分を見るのが嫌になり、鏡から目を逸らす。

なぜこんな身体付きなのかは分からなかった。

物心ついた時には両親はもうこの世にはいなかった。

代わりにその親族の人が俺の面倒を見てくれていた。

俺は高校に入ると1人暮らしを始めた。

いつまでもお世話になっているのもどうかと思ったからだ。

1ヶ月くらい1人暮らしをしていると簡単な事なら楽々とこなせた。

(まあ、多分手先が器用なおかげだろうけどな…)

俺は髪を乾かし、服を着る。

1人暮らしを始めてから3年は経った。

こんな俺も今は大学に通っている。

勉強はそこそこできるし、部活も適当にやっている。

両親の顔は知らないけれども、不思議と寂しくはなかった。

「さて、寝るか…。」

俺はベッドへ向かおうとする。

その時にすぐ側の路地から物音が聞こえた気がした。

「ん?」

俺はその時、なぜかそんな些細な事が気になってしまった。

俺は上に防寒着を着て、アパートを出た。

そのちょっとばかりの好奇心が、これからの俺の人生を狂わしていく事になるなんて想像できなかった。
7 :wm[sage]:2012/03/15(木) 20:17:12.55 ID:tm1H51fco
「釘宮キョウ、名前は覚えなくてーー結構だ」

物音もなく開かれた扉の奥にはぼさぼさの髪の男が立っていた

「っ……ひっ……!」

「あうっ!」

男が女を突き飛ばし、ポケットに手を突っ込む

「う……う……!」

やがてポケットから長方形の物体を取り出しーー要するに携帯だがーーその体に、青白い光を灯す

携帯はぐにゃりぐにゃりとまるで粘土の様に形を変えーーやがて拳銃を形作った

「へぇ……金属を拳銃に変える、それがあんたの能力って訳?でもーー」

「手が、震えてるぜ?」

「だ、黙れ!!!」

パァン!と銃口から鉛玉が飛び出し、彼を襲うーーが

「〜♪」

ぼさぼさ頭の男、釘宮は、鼻歌交じりでひょいとそれを避ける

「そんなんじゃあ……あくびが出るね!」

タタタッ!

「!!」

素早いステップで一気に男との距離を詰めーー回し蹴りを叩き込む

「ぐうっ!」

だが、男はそれをなんとかローリングで避け、直ぐに釘宮に向けて銃を構える

「おっと!」

だが、男が引き金を引くより早く、釘宮の放った蹴り上げが手に握られていた拳銃を捉えた

「……どうした?かかってこいよ」

「ぐ……う……ぉああああああっ!!!」

男は右ストレートを釘宮に向かって繰り出す、だが、当然当たらない

釘宮がひょいと首を捻っただけで、その攻撃は空を切る

続けて左右左右とラッシュを打つーーだが、ことごとくが外れていく

まるで、見えない何かが彼の攻撃を受け流しているかの様

「……ハァ……ハァ……ハァ……」

「あれ?もう終わり?なら……こっちから行かせてもらう!」

「っ!!!」

8 :WM !ninja[sage]:2012/03/15(木) 20:18:08.05 ID:tm1H51fco
ドシュッ!!

釘宮の右ストレートが、顔面を粉砕せんと男に迫る
有無を言わせぬスピードで、何の躊躇いもなく放たれたそれが、近づく

(早い!……だが……避けれる!)

男は体をひねることによってその攻撃をーー避ける

(やった!避けれた!……なら!)

男の左手には、何時の間にか時計が握られていた

それはぐにゃりと形を変えーー小さな果物ナイフを作り出す

(今奴は右腕を振り切って隙が出来た!あとはこのナイフを奴の首筋にぶっさせばーー)

「俺のーーー勝ちだaぐるべぶばぁっ!!!!!」

勝利を確信した男だったが、その勝利は訪れなかった

ナイフを突き出した男の腹が、不自然にへこみ、そしてそのままーーー吹っ飛んだからだ

ガシャアン!

吹っ飛んだ男はそのまま古びた窓ガラスをぶち破り、隣のビルの壁に叩きつけられーー地面へと落ちていった

「……これで、仕事完了、と」

釘宮はおもむろにズボンのポケットからライターと箱ーー赤色が特徴的なマルボロ……要するに煙草の箱ーーを取り出し、タバコに火を付ける

「……ふぅ」

ライターの炎での顔が照らされ、吐き出した白煙が薄暗い部屋に漂う

「……あ、生きてるかどうか確かめないといけないか」

煙草を吹かせながら釘宮は砕け散った窓から顔を覗かせる

「……おー、なんとか生きてたか」

<ぐ……う……う……!

どうやら男の落下した場所にはゴミ袋が大量に落ちていたらしく、ちょうど良くクッションになったようだ

「おーい、もう大人しく警察にー……」

<っ!!!

ダダダダッ!と男は急に走り出した、その体を、青白く輝かせて

「?」

「……え?……むぐっ!!」

走ったその先には……もこもこしたフード付きの防寒着を着ている人間が立っていた

もちろん男はこれ幸いとばかりにそいつに銃をーーおそらく落下先に落ちてた金属を使って作ったーー突きつける……ついでに片手で口元を塞ぐ
9 :WM[sage]:2012/03/15(木) 20:19:03.55 ID:tm1H51fco

「ううう動くなっ!この女がどうなってもいいのか!?」


あ、ありのまま今起こったことを話すぜ!

ちょっと物音がしたから路地裏に行ってみたら何時の間にか人質にされていた……!

何を言っているかわからないと思うが俺も何を言ってるかわからない……

……ボケるのはともかく

今のあの青い光、俺に銃を突きつけているこの男から発せられたあの光……それは、ランセルノプト放射光

そしてそれが意味するのはーーこいつが契約者だということ

……まったく、コレはよく映画で物音がして様子を見に行った人間死ぬって奴か?

こんなことなら物音なんて気にせずさっさと寝ておくべきだった!

夢の中へレッツゴーしておくべきだった!俺のバカ!

そしてこの変な男に今すぐ言いたいーー俺は男だ!!

…………ん?そういやこの男は一体何を見ているんだ?

……あ、あの上にいるぼさぼさ髪の男か

「いいか、もしお前が動いたらこいつをぶち[ピーーー]!」

「………………」

「……別に、どうでもいいわ」

「え?」 「むぐっ!?」

おいおいおいおい!あの兄ちゃん今なんて言った!?

どうでもいい!?普通ここは、くそう!なら人質だけは無事にしろよ!って言う場面だろう!

「あー嬢ちゃん!……じゃなくて小僧か?」

「そういうわけだから、恨むんなら自分の悪運をうらむんだなーー」

そう言うとあのぼさぼさ男はどこからか拳銃を取り出し、こちらに銃口を向ける……っておいおい!だから俺人質!!

「おおおおおまえっ!ふざ、ふざけてーー!!」

ぼさぼさ頭の男の行動にブチ切れた男はーーブチ切れたいのは俺の方だがーー負けじと俺のこめかみに突きつけられていた拳銃を奴に向け、その引き金を引くーーー
10 :WM[sage]:2012/03/15(木) 20:19:28.09 ID:tm1H51fco

ガオン!!

ーーーことは出来なかった

男が引き金を引くよりも早く、ぼさぼさ頭の男が撃った弾が、男の持つ拳銃を貫いたからだ

弾丸はどうやら寸分違わず銃口にぶち込まれたらしく、内側から砕け散っている

「あ……あ……あ……!」

「よっ!」

ぼさぼさ頭の男がいきなり窓から飛び降りて来る、おいおい、このままじゃ地面にブチ当ーー

ふわっ

「……え?」

ーーることは無かった

地面に当たる直前に男の体がふわりと浮いて、舞い降りるかの様に地面に着地したのだ

……その体を光らせて

……つ、つまりこのぼさぼさ頭の男も契約者って訳か!?

「ぐげっ!」

ぼさぼさ頭の男はとどめとばかりに容赦なく男のどてっぱらに蹴りを入れる……モロに入ったらしく、動かなくなった。

どうやら気絶したらしい

「さて坊主、こんな時間に何してんだ?」

「うっ!……そ、その、物音がしたから気になって……」

「……そうかい、なら、早く帰って布団に入るんだな……子供は寝る時間だ」

子供!?確かに俺は背が小さい方(165センチぐらい)だけど19だぞ!?……いやいやそれよりも!

「オ、オッサンも契約者なのか?」

「ん?……ああ、まあな……ってオッサン!?俺はまだ27だ!」

「そ、そうか……あ、なら、名前は?」

27って十分オッさんだろ……という言葉を俺は何とか飲み込んだ

「名前?」

「そう、あんたの名前だ」

「……釘宮キョウだ」

……それが、俺とぼさぼさ頭の男、釘宮キョウのファーストコンタクトであった
11 :FY[sage]:2012/03/15(木) 20:21:20.84 ID:tm1H51fco
「釘宮キョウ、ねぇ…」

俺は(一応)恩人であるオッサンに頭を下げる。

「えっと…その…助けてくれて…サンキュー。」

俺は感謝の気持ちを込めて言う。

(でも、このオッサン…契約者で薄情者だからイマイチお礼が言いづらいな…)

俺は先ほどの事を思い返す。

(まさか…こんな事になるなんて…)

想像できるはずがなかった。

運が悪かったら、俺はもうこの世にいなかったのだから…

(そこだけ見ると…本当に命の恩人だよな…)

俺はチラッと釘宮さんの顔を見る。

(なんか面倒臭そうな顔してる…)

何だか少しムッとしてしまった。

そんな俺の気持ちも知らずオッサンは適当な感じで言う。

「ん…どういたしまして、かな?」

そして、背中を向け暗闇の中へと去って行く。

「あっ、そうそう。」

オッサンは急に俺の方に振り返る。

「?」

俺は何だか分からずに首を傾げる。

「君の名前聞いてなかったな」

オッサンはぼさぼさの頭を掻きながら言う。

「あっ…えっと…水嶋尚斗です。」

俺は慌てて答える。

「水嶋ね…。子供はさっさと帰って寝ろよ。」

オッサンはそう言って暗闇の中へ消えていった。

何を言われたか理解した瞬間、俺はつい叫んでしまった。

「俺は子供じゃねえ!!」


しばらくするとパトカーのサイレンがアパートに近付いてきた。

(ああ。さっきの犯人を逮捕するためか?)

俺はアパートに戻って寝ようとしたが、寝付けなかった。

(そりゃあんな事の後だもんな…)

「釘宮キョウ……」

仰向けになりながらそう呟く。

契約者なのに契約者といった感じが全くしなかった。

普通の人間と何ら変わりない気がした。

(あれが、エモーションっていう契約者なのか……)

俺はいろいろ考えてみたが、結局答えは出なかった。

(まあ、いいか…もう会うこともないだろうし…)
俺はそう結論づけると目を閉じた。

最初は外の野次馬がうるさく感じたが、いつの間にか眠りについていた。
12 :FY[sage]:2012/03/15(木) 20:22:01.21 ID:tm1H51fco
(アラーム音)

アラームが鳴って、俺は目覚めた。

(何か寝足りない…)

いつもよりもダルい身体を引きずって、顔を洗いに行く。

「ん〜〜」

冷たい水で顔を洗うと目が結構覚めた。

顔をタオルで拭き、背伸びをする。

「さて朝飯作ろうか。」

俺はゆっくりと台所へ向かう。

幸いにも今日は休日なのでゆっくり過ごす事ができる。


朝飯を簡単に作り、食べているとニュースで昨日の事件が取り上げられていた。

(昨日の事…夢じゃなかったんだな、やっぱり)

俺はそれを適当に見ると朝飯の片付けをする。

「今日は何するかな〜。」

これからの事を考えようとした瞬間、携帯が鳴りだす。

(…朝から誰だよ?)

俺は携帯を取る。

「もしもし尚斗だけど」

「あっ、長谷川だけど今日暇?」

「長谷川かよ…朝から電話してくんなよな…」

「すまんすまん!で、暇?」

「まあ…暇だけど。」

「良かった!なら、今から学校に来てくれ。」

「はぁ?何でだよ?」

「ちょっと問題があってさ!とりあえず来てくれ。」

「はぁ…分かった。切るぞ。」

俺は通話を切る。

「面倒だな…」

俺はげんなりしつつも学校へ行く準備をする。

(まあ、大していらないだろ…)

俺はそう思い、必要最低限の物を持ってアパートを出た。

(問題って何だろうな…)

そんな事を疑問に思いながら、学校への道のりを進んで行った。
13 :WM2012/03/15(木) 20:22:47.78 ID:tm1H51fco
「俺は子供(ガキ)じゃねえ!」

防寒着を着る少年、水嶋尚斗がぼさぼさ頭の男、釘宮キョウに向かって叫ぶ

「……はいはいわかったからさっさと帰んな」

「警察に捕まると結構面倒な目に遭うぞ?」

「っ……!わ、わかったよ!……そんじゃな!」

水嶋はそう吐き捨てると何処かへ走り去っていった

その背中を釘宮は見つめていたがーーすぐにその視線はその手に握る煙草へと移された

フィルターまで燃えたらしく、灰色の吸殻がポトリと地面へと落ちた

「てめーのことを子供じゃないって言う奴か1番ーーー子供なんだ」


ポケットを探って黒いケースーー要するに携帯灰皿ーーを取り出して、煙草を押し消す

そしてまた懐から箱を取り出して一本の煙草に火を付ける

「…………フゥ」

……『煙草を吸う』、それが彼の対価だった

「……どうやら、ちゃんと仕留めてくれたみてェだな」

「……ハヤトか」

「だから俺をその名前で呼ぶなと何回言えば……」

そう、煙草をふかす釘宮に声をかけたのはーー筋骨隆々の、その顔に顎鬚を蓄える警察官らしき男

「……で、黒井、今回の報酬は?」

男の名は黒井ハヤト
S市の対契約者課ーー通称九課ーーに所属する警察官だ

「ほらよ」

黒井は手に持っている茶色い封筒を釘宮に渡す

「どーも……ってえらい少なくないか?」

「ああ、それはーー前にお前が壊した物の修理費とお前が怪我させたうちの警官の医療費……それと俺がお前に貸しといたツケを引いたからだ」

「おいおいこんなんじゃどう頑張っても一週間も持たないぜ?」

「そう思うんだったらちったあ物壊すのをヤメロ……お前は考えなしに動き過ぎなんだ馬鹿野郎が」

「…………ふぅ」

釘宮の口から白い煙が排出される

「聞いちゃいねぇ……全く香月ちゃんもそーとー手ぇ焼いてんだろうな、こりゃ」

「余計なお世話だ」

「……ま、次も何かあったらまた頼むぜ」

「了解」
14 :WM[sage]:2012/03/15(木) 20:23:16.07 ID:tm1H51fco

そう言うと、黒井は踵を返す。しばらくした後に車のエンジンの様な音が聞こえ、赤いライトと共に遠くへ過ぎ去って行った

「さて、と、帰りますーー」

ピリリリリ

路地に響いたのは、釘宮のポケットに突っ込まれた携帯の着信音

無機質な音が暗い路地にしばらく響き渡った後、プツリと途切れる

「はいはいどちらさんですか……って、なんだ、香月か」

「……心配すんな、ちゃんと終わってる」

「報酬?……あいにくこの前とほとんど変わってないね」

「……お前はあいつと同じことを言うな……」

「……わかったわかった……そんじゃ切るぞ、また、事務所で」

……ブツン

「はぁ……全くいちいち一々五月蝿い奴らだよほんーー」

「あ、あのっ!」

「……ん?」

ぶつくさと愚痴を言っていた釘宮の背後から、一人の女性が声をかけてきた

その女性ーーと言うよりも少女ーーは、この街S市有数の進学高校の制服を着ている

「さ、さっきは本当に有難うございました!」

「あー……あの男に捕まってた人質の子?」

「はいっ!……本当に、もうダメかと思いました……」

「災難だったな……っと、早く帰った方がいいぜ?親御さんが心配してる」

「……あっ!ほ、本当だ……じゃ、じゃあ私はこれで……」

「気をつけて帰るんだぞー」

「はいっ!」

そう言うと彼女は街道の方へと走り出しーー

「あっ!そうだ!」

突然何かを思い出したかのように振り返った

「あのっ!……あなたの名前を教えていただきませんか?」

「……釘宮キョウだ」

「キョウさん……ですね!」

「私は『藤宮かおり』です!」

「かおりちゃん……ね。ん、覚えた」

「ふふっ……なら、またいつか、会いましょう!それでは!」

今度こそ彼女は、街灯が照らす夜道へと消えていったーー

「…………さて、と」

「我が家に帰るとするか……」

……ぐうぅ

とんでもなく間抜けな音が釘宮の腹部から発せられた……要するに腹の虫である

「……あ〜〜〜っ」

「腹減った」
15 :FY[sage]:2012/03/15(木) 20:42:19.83 ID:tm1H51fco
休日の朝早くから大学へ出るのは複雑な気分だった。

「着いた…」

俺はいつもよりダルい道のりをやっとのことで乗り越え大学に着く。

「やっと着たか…遅かったな。」

そう言ったのは俺の親友である長谷川昴という男だった。

容姿は男らしく、性格は軽い奴だが馬が合う。

「休日に急に呼び出されて、来たんだから遅くなるに決まってるだろ…」

俺は少しウンザリしつつ長谷川と教室へと向かう。

「んで、何で急に呼ばれたんだよ?」

俺はずっと気になっていた事を聞く。

「いやさ、文化祭がそろそろあるじゃねえか…」

長谷川は苦笑いを浮かべながら続ける。

「んで、ウチのクラスっていい加減な奴が多いだろ?」

(オマエも結構いい加減だろ…)

俺は心の中でツッコミを入れる。

「だから、俺と何人かが文化祭について考えたんだ。」

(意外だな…長谷川ってそんな事するのか�)

「へえ…で、何で俺が呼ばれるんだ?」

俺は長谷川の方を見る。

「まあ、それについてはアイツらに聞いてくれ。」

いつの間にか教室に着いており、長谷川と共に中へ入ると2人の女子がいた。


「やっと来たのね…」

黒板の方にいた2人のうち右側の女子が気付く。

「遅いって!」

その女子が俺達を手招きする。

「別にいいだろ?ちゃんと来たんだからさ」

俺は軽く溜め息をつきながらその女子を見る。

「でも、早く来てよね。」
()
16 :FY[sage]:2012/03/15(木) 20:42:51.08 ID:tm1H51fco

俺の目を真っ直ぐ見ながら言う。

「はぁ…分かったよ…」

こいつは栗田恭子っていう活発な感じの女子だ。

正直、朝からテンションが高いので着いていけない。

「ま、まあ来てくれたんだからいいんじゃないかな?」

そして、控え気味に栗田をなだめるもう1人の女子は丸山春香っていう栗田とは対照的に大人しい女子だ。

「そう思うよな丸山…」

俺は丸山のフォローに感謝しつつ本題に入る。

「んで、何で俺は呼ばれたんだ栗田?」

大抵の事は栗田から始まるので、改めて聞いてみる。

「何でって文化祭であんたが必要だからよ水嶋」

「は?」

俺はクエスチョンマークを浮かべる。

そして、栗田は最悪な指示を俺に出すのだった。

「あんた、女装しなさい」

「は?はぁぁぁぁ!?」

俺は有り得ないと首を振る。

「何で俺が女装しなくちゃならないんだよ!?」

俺は大声で拒否する。

「だって、あんた女装しても男子って分からないじゃない。」

「それだけでか!?丸山、何とか言ってくれ!!」

俺は丸山に振る。

「えっ、あ…水嶋君ならきっと似合うよ」

丸山は微笑みながら言った。

「そういう事じゃねえ!?」

俺は思ってもみなかった丸山の発言に頭を抱える。

「つまりそういう事だよ尚斗…。」

長谷川が俺の肩に手を置きながら囁く。

(こいつ…絶対面白がってやがる!)

俺は何もかも投げ出したくなった。

(女装させられるなんて冗談じゃねえ!)

俺は必死に反論したが、結局女装するように強引に協力させられるのであった…

17 :FY[sage]:2012/03/15(木) 20:43:27.74 ID:tm1H51fco


時間は経ち、文化祭の用意が始まり出した頃

俺はなぜかメイド服を着ていた。

「理不尽だ……」

俺はがっくり肩を落とす。

「いいじゃねえか。似合ってるぜ。」

長谷川が笑いながら感想を言う。

「似合ってるのが、そもそもおかしいんだ…」

俺はそんな長谷川を軽く睨みながら呟く。

「これなら、大丈夫ね!」

栗田が満足げに頷く。

「大丈夫じゃねえよ!?」

俺は叫ぶ。

「水嶋君、可愛いよ。」

丸山も軽く頬を赤らめながら言った。

「あ、ありがじゃなくて丸山もおかしいって!」

不意を突かれたので一瞬、お礼を言いそうになる。

「アッハッハッハッハ」

長谷川が豪快に笑う。

「笑うな!」

俺は顔が熱くなるのを感じながら、長谷川を怒鳴りつけた。



そんな彼らの様子を1人の男子生徒が睨んでいた。

(楽しそうに笑いやがってよ…バカ共が。)

その男子生徒はクラスの中でも暗く、イジメなどは受けてはいなかったがクラスメートとあまり親しくなかった。

(くそう…壊してぇなぁ幸せそうな日常を…アイツらの絶望に歪んだ顔を見てみたいなぁ…)

その男子生徒はドス黒い感情を心に抱えながら、日常を送る。

(契約者になれれば、みんな壊せるのになぁ…)

男子生徒は顔を伏せる。

そんな彼の様子を見ていた者は誰もいなかった…
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2012/03/16(金) 05:52:15.11 ID:SHZQ+gHfo
DTBとはさすがだな!!

乙!!
19 :WM2012/03/16(金) 09:59:11.56 ID:xT2ztyWIo
「はぁ……」

男、釘宮キョウはとても憂鬱だった

ため息を付く彼の出で立ちは薄いライトブルーの作業着と帽子というもので、手には黄色の木製モップが握られていた

「ったく香月はどうしてこんなに面倒臭い仕事を拾ってくるかねぇ……」


ーー
ーーー

何でも屋『釘宮』事務所内ーー

「清掃員のヘルプぅ〜?」

何を言っているんだこいつはと言いたそうな様子で、ソファーに足を組んで寝そべっている釘宮が素っ頓狂な声を上げる

「そうだ、お前も今度大学で文化祭が行われることぐらい知っているだろ?そのヘルプだ」

腕を組む香月が彼に自分が取り付けてきた仕事の内容を伝える

「そりゃ街を歩いてりゃあ知ってるさ……うっとーしーぐらいにチラシだのなんだのが貼られてるからな」

「……私はいつぞやのように別件の仕事がある、だから頼んだぞ」

「だが、ことわ」

「……ほう、お前は飢え死にしたいと言うのか?」

「折角なかなかの報酬だと言うのに……久しぶりに肉にありつけると思ったのになぁ……」

非常に、ひじょーーーに残念そうに香月が肩を竦める

「……わかったわかった。やるよ、やりゃあいいんだろ?」

「最近はカップ麺だのなんだのでぜんっぜん美味いモン喰えなかったんだ……やっぱり人間、炭水化物だけじゃなくタンパク質も取らなくちゃな」

「ふっ……決まりだな」

フフン、と香月が誇らしげに胸を張る

「おみやげ……よろしく……」

何時の間にか周防が釘宮のそばに立っていた

「はいはいちゃんとなんか買ってーーいや、貰って来てやるよ、ナガト」

「…………楽しみ」

「相変わらずお前は周防に甘いな……」

「……余計なお世話だ」

ーーー
ーー

20 :WM[sage]:2012/03/16(金) 09:59:39.77 ID:xT2ztyWIo

「しっかし……」

モップとバケツを抱えながら歩く彼は、大学内に溢れる人々を不思議そうに見ていた

「よくもまぁこんなに人がいるもんだ」

見渡す限り、ひと、人、ひと。

「案外皆も暇なんだろうなぁ……ん?あれは」

その彼の視線の先にはーー一ひとつの女子高生のグループが談笑をしながら歩いていた

彼女達の手にはクレープが握られていて、時折食べさせ合いっこをしている

「おーい、かおりちゃーん!」

釘宮はその中の一人の少女ーー三人並んだ女達の真ん中で、左右の少女から自分のパフェを食べられているーー藤宮かおりに声をかける

「あっ!釘宮さん!!」

彼女の方も釘宮に気づいたらしく、ぶんぶんと手を降りながら彼の方に駆け寄って行く

藤宮の行動にびっくりしたのか、彼女のクレープを横から食らっていた少女二人が呆然と藤宮を見つめている

だがすぐに状況を理解し、二人は釘宮の元へ行く

「その服装……ここの清掃員さんだったんですか?」

「いや、違う」

「へっ?ならなんで清掃員の服を?」

「俺は何でも屋みたいなことやってる、今回はその仕事って訳だ」

「そ、そうなんですか!?それはすごいですねーーふえっ!?」

藤宮の背後から、後ろから近づいて来た少女がいきなり彼女を抱きしめた

「な〜に楽しそうに話してるんだ?」

ぐりぐりとその少女は人差し指を藤宮のほっぺたに突き刺す

「おやおやぁ?ついに藤宮にも春が来たってカンジ?」

にししと笑いながらもう一人の少女が藤宮をからかう

「っち、違うよ!エリカちゃん!」

「あー……なんだ、友達か?」

少々手持ち無沙汰になった釘宮が藤宮に尋ねる
21 :WM[sage]:2012/03/16(金) 10:00:40.84 ID:xT2ztyWIo

「うん!私は春風エリカ!よろしくね!オジサン!」

「はいよろしく……あと俺はまだ27だ、おじさんはやめてくれ」


「そうなの?ならごめんね!」

はにかみながら彼女、春風エリカが答える

エリカの身長は藤宮と同じぐらいで、鮮やかな金色に輝くショートヘアーが彼女の個性を引き立てていた。

彼女の黄金のそれは、市販の染髪剤や美容室等では到底不可能な可憐さを醸し出していて

おそらく彼女はれっきとしたハーフだろう……釘宮はそう思った

「成る程……この男がかおりが言っていた契約者か……あっ、私の名前は『丸山春菜』だ」

彼女、丸山春菜が答える

彼女の髪もまた、金色だった……だが、エリカのものとは違い、彼女の髪は薄みがかった金で、エリカには無い美しさーー神聖さとも言うべきかーーを表していた

「春菜さんは私たちの学校の生徒会長さんなんです!」

藤宮が自分のことのように自慢げに話す

「へぇ……」

「ま、いっつも風紀委員と喧嘩してるけどね〜」

「風紀委員の奴らは皆頭が硬いんだ……特にあの口煩い委員長!……今度あいつはシスコンですと全校放送で叫んでみようか……」

と、なにやら恐ろしげなことを春菜がつぶやいている

「……で?どうしてかおりちゃん達がここに?」

「あっ、はい!ここが私の志望校だと言うのもあるんですけど……」

「ここには私の姉さんが通ってるんだ……冷やかしってやつさ」

「春菜のお姉さん春菜と全然似てないよね〜」

「私もたまにあの人が何考えてるかわからなくなる……ところであんた」

「ん?」

春菜が釘宮の顔をじぃぃーーっと覗き込む

「……強いんだってな、かなり」

「……さぁ?どうだろうな?」

「そうか……なら私とーーー」

「勝負しろ!!」

「……は?」
22 :WM[sage]:2012/03/16(金) 10:02:32.59 ID:xT2ztyWIo
……………………

「あら……あれは、なっちゃん?」

「?どうした丸山?」

丸山が不思議そうに遠くを見つめている

「あ、ホントだ。なっちゃんじゃん、学校の友達と来てるのかな?」

「栗田、あの女が誰だかわかるのか?」

誰かと話してるみたいだけどここからじゃ人影に隠れてよく見えない

「私の妹よ、水嶋くん」

妹!?マジでか!

「あれが丸山の妹か……ぜんっぜん妹って感じがしないな」

「……う、美しい……ね、ねえ、俺狙っていい?あの娘狙っていい!?」

長谷川が鼻息を荒げながらなんか言っている。正直キモイ

「別にいいけれど……どうなるか、わかっていますか? 長 谷 川 く ん ♪ 」

「ひっ!」

うおおおお!なんだ!?今丸山から発せられた黒いオーラは!?

「やややややだなぁ、べ、別にそんなこと考えたりしないよぉ、あはは、あはははは」

哀れ、長谷川

そして今もまだ丸山の妹は誰かと話をしているみたいだけど、相変わらずこちらからは人混みに塞がれて誰と話しているかわからない

それもそのはずーー何故なら、俺たちを中心に人混みの輪が形成されているからだ!

「……ところでマルヤマサン。いつまで俺はこの格好でいればいいんでせうか?」

「えーっと……文化祭が終わるまで、かな」

哀れ、俺

さっきから俺を囲う人混みからパシャ!だのピローン♪だのフラッシュだのが俺に降り注いでいる

……気がするが、気のせいだな、うん

そうだ、これは悪い夢なんだ。

夢から覚めたら俺は長谷川と一緒にモテない男達が過ごす二人きりの文化祭を過ごしているんだ。

だから絶対にメイド服などと言うわけのわからぬ服を着せられてなどいないんだ!

宣伝のため☆とか言われて強制的に衆人環視の元にさらされてなどいないんだ!

羞恥プレイと言う名の公開処刑なんて受けてないんだーー!!!!

「あは、あはははははは、あははははははははははははははははは」

「あっ、『また』水嶋が壊れたー」

「あらあら水嶋君ったら……」

「尚斗……無茶しやがって……」
23 :WM[sage]:2012/03/16(金) 10:06:00.34 ID:xT2ztyWIo

「そういうあんたも結構ノリノリだったでしょうが!」

ーーーー勝負しろ!!!

「「「!!!」」」

凛とした声が、響き渡った。

人混みの喧騒の中を、そのひと声が人々を射るかの様に響き渡った。

「今の声……なっちゃん?」

「そうみたいだね……勝負しろって……あちゃー、またあの子の悪い癖が出たって訳ね」

「ん、俺たちを囲んでた人混みがばらける……これで誰と話してるか分かるな……おい、起きろ!」

バシィン!と長谷川が勢いよく水嶋の身体をぶっ叩く

「……ハッ!?…………い、今何かとんでもなく悪い夢をみていた気がする……」

「安心しな、尚斗、こっちが現実だ……それよりあれ見てみろ」

「アレ?……ッ!!!!!!」

「?なに?水嶋どうかした?」

「あれ、は……あの……男は……!!」

「「「???」」」
24 :WM[sage]:2012/03/16(金) 10:07:22.85 ID:xT2ztyWIo

「私と勝負しろ!!!」

ズビシィ!と少女、丸山春菜が釘宮に向かって人差し指を突きつける

「……はい?」

そのいきなりの提案に訳がわからない様子で釘宮は間抜けな声をあげる

「まーた始まった……」

春菜の行動にやれやれと首を振るエリカ

「あわわわ……」

藤宮は注目の的となった自分達にかなり困惑している

「……かおりちゃん。この女は一体なに言ってるんだ?」

「えと、その……春菜さんはよくこうやって目を付けた人に……」

「勝負を挑むんだよ……それでたいていは勝っちゃうんだ」

「なーるほど」

「ふふふふ、久しぶりになかなかの相手と会えた!藤宮!感謝する!……あっ、エリカ!お前との勝負も忘れてないぞ!」

「うげぇ……」

「今私達の戦績は123勝122敗72引き分け……!勝ち越しにはさせない!」

「……それよりハルナ、今はその人のことを考えた方がいいんじゃない?」

「む、そうだった!……おいアンタ!準備はいいか!?」

「……もう俺とお前が戦うことは決まってるわけか?」

「なんだ、もしかして……逃げるのか?」

「別にそんなことはしないさ……それで?肝心の勝負の内容は何なんだ?」

「決まっている!格闘戦だ!」

(おいおい、とても生徒会長の嬢ちゃんがいう言葉じゃないな……でも)
25 :WM[sage]:2012/03/16(金) 10:07:52.53 ID:xT2ztyWIo

「はぁ……まあいい……ならとっとと始めるとしますか」

ひらひらと釘宮が両手を挙げて春菜を誘う
その手から離れたモップが地面に倒れる

「いざ……勝負!」

ダンッ!

春菜がしなやかなその足で地面を蹴り、跳ねるようにして数メートルの間を詰める
まるで弾丸のようで、常人の目では到底捉えきれることは出来ない速度だ

「よっ」

右手を振りかぶりながら接近する彼女に対して釘宮は……足元に倒れるモップの先端ーー毛の方の部分ーーを踏んだ

「ッ!!!」

彼に踏まれたモップは勢いよく跳ね上がり、柄の部分が彼女へと襲いかかった!

ガガガッ!!

だがそれを彼女は腕を組むことでなんとか防ぐ!

すぐさま釘宮はモップを掴み、彼女へと攻撃を加えようとするーーが、彼はひょいと頭を下げた

直後、体制を立て直した春菜の回し蹴りが数舜前の釘宮の頭が存在したポイントを刈る

彼の頭の代わりにぼさぼさ頭にかぶっていた帽子が弾き飛んだ!

「っ!」

追撃とばかりに彼女は右ストレート、左ストレートとのジャブを彼の顔面に繰り出すが、全てが見切られ、空を切った

「ほっ」

その間に釘宮はその手に握るモップを背中と両肘を使った持ち方に変える

耐えきれなくなった彼女は釘宮の胸ぐらを掴み、ぐいと引き寄せた!

そして再び顔面に向けてストレートを撃つーーがそれすらも外れた

釘宮はあえて引き寄せられた勢いを利用し、彼女の背後へと回り込んだのだ

その隙を逃さず、腰を回転させて柄での打撃を彼女の腹にぶち当てる!
26 :WM[sage]:2012/03/16(金) 10:08:23.55 ID:xT2ztyWIo

「ぐっ!!」

ほんの少しひるんだ彼女だが、すぐさま後ろを振り向き、蹴りを放った

釘宮は鋭いその蹴りを上体をわずかに揺らすことで難なく避け、流れるような動きで腰を回し、再び柄を使った攻撃を繰り出す

ガッ!

春菜は瞬時に反応し、左腕で彼の攻撃を防ぐ

「……やるな!」

彼女は笑っていた、本当に楽しそうに笑っていた

「……あんたもな」

そして再び、攻撃が始まる

彼女の右ストレートが釘宮を襲う!

その一撃を彼はモップを両手で縦に持ち変えて防いだ!

その顔に彼女と同じような笑みを浮かべて。

続けて春菜は前蹴りを放つが、やはり釘宮はほんの少し体をずらしただけで避ける

すぐさま釘宮はモップで上薙ぎを繰り出し、春菜はバックステップでそれをかわす

追撃とばかりに釘宮は柄による突きを繰り出すが、彼女の超反応により外された

さらに彼はモップの先端ーー毛の部分によるーーで横薙ぎ払いを繰り出す

その勢いを使って柄の方での横薙ぎ払いを撃ち込むがーー瞬時に腰を屈めることで見事にその連撃に対処した

薙ぎ払われたモップはそのまま彼の肩を軸にくるりと回転し、彼の右腕に収まる

「さすがは学園の生徒会長さん……ってとこか?」

「お前も、うちの藤宮を助けただけはあるな……」

「……強い女は好みだぜ?」

釘宮は再びモップを背中と両肘を使った持ち手に切り替える

「それじゃ……私のデートに付き合ってもらう!」
27 :WM[sage]:2012/03/16(金) 10:08:59.61 ID:xT2ztyWIo

飛び掛りながら迫りくる彼女の攻撃を、彼は後ろに回転しながら避ける

続けて放たれた右ストレートを、右肩のモップの先端で防ぎ、腰を動かし柄を彼女の脇に叩き込もうとする

ーーが、彼女の右腕のガードにより防がれた

彼の攻撃が止まった隙を突き、左足の蹴りを撃ち出す!

だが、彼も彼女と同じく右腕を使い、しなやかなその一撃を防ぐ

そこで春菜は左手を構え、先ほどからギリギリと自分の右腕に押し込まれているモップの中央に……掌底をぶちかました!

ベキィッ!!

モップは真ん中からへし折れ、柄の部分がカランと音を立てて地面へと落ちる

釘宮は半分になったモップを右手で構え直し、次の攻撃へ備えるーーが

「……ん?」

人混みの中に混じるーーと言っても1人は非常に目立つ格好なのだがーー1団に気づき、疑問の声を出す

「?……あっ」

彼のその視線に気づいたのか、春菜は後ろをちらっとみて、その一団の中の1人に気づく

「悪いが……デートの続きまた今度だ、ちょっと知り合いを見つけたからな」

「ああ、残念だがそうしよう……少々目立ち過ぎたな、私達」

まるで映画の様な戦いを繰り広げた彼らの周りを、多くの野次馬が囲んでいる

「すっげ……映画?」

「あの清掃員一体何者だよ?」

「それよりも金髪の女の子すっげー綺麗じゃない?」

などなど多くの声が聞こえてくる

「……あっ」

と、そこで釘宮が変な声をあげた

「?どうした?」

疑問に思ったのか、春菜が尋ねる

「………………」

「モップ……どうすっかな……」

彼の手には、半分にへし折れたモップが握られていた
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/03/16(金) 14:18:51.27 ID:6jL4Lcnw0
この中2っぷりがたまらん
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/03/16(金) 18:15:30.49 ID:fWkAc2ZIO
くっくっくっ....支援するぜぇ....
30 :FY[sage]:2012/03/16(金) 18:32:37.11 ID:xT2ztyWIo
「く、釘宮さん!?」

俺は釘宮さんが何故ここにいるのかと驚いたが、作業服を着てモップを持っていたので何となく理解した。

(掃除でもするんだろうな…)

なんて思ったが、すぐに目を丸くする。

(なんで戦ってるんだ!?)

まるで映画の撮影のような激しいバトルを繰り広げている。

(丸山の妹すごっ!)

俺は互角に戦っている丸山の妹を見る。

「はぁ……またやってるよ…」

丸山が溜め息をついていた。

「まあ…元気があっていいじゃないか…」

長谷川が珍しく丸山を励ます。

「そうなんだけど…目立つから恥ずかしいんだって…」

丸山は周りを見る。

「うわっ!本当だ……」

俺は丸山の視線を追って納得した。

31 :FY[sage]:2012/03/16(金) 18:35:51.26 ID:xT2ztyWIo
いつの間にか人だかりができていた。

「すっげ……映画?」

「あの清掃員一体何者だよ?」

「それよりも金髪の女の子すっげー綺麗じゃない?」

人だかりからそんな声が聞こえる。

そんな様子を見て、2人は戦うのを止めていた。

釘宮さんと丸山の妹は軽く言葉をかわし、折れたモップを見る。

(あれ…どうするんだ?)

俺はモップを見る。

清掃員がモップを折るなんてないだろ、とツッコミたかったが口を紡ぐ。

「はるな〜!」

丸山が妹の方へ駆け寄って行く。

そして、何か耳打ちし2人でどこかへ行ってしまった。

一瞬、丸山の顔が阿修羅の形相に見えたのは気のせいだと思う。

釘宮さんはそんな2人に背を向け、こちらへ向かってきた。

「釘み……」

俺は声をかけようと思ったが、今の自分の服装を見て

(終わった……)

俺はいろいろと自分の中の何かが崩れていくのを感じた。


「おまえ……」

釘宮さんが俺の格好を見て何か言いたそうな顔をする。
32 :FY[sage]:2012/03/16(金) 18:36:47.77 ID:xT2ztyWIo
「それ以上言わないでください…」

俺は顔を俯かせて言葉を遮る。

「…………」

「…………」

お互いに空気が悪くなる。

「おい、あのオッサン何だよ。」

「この娘の彼氏とか?」

「んな訳ねえじゃん。こんな可愛い娘が彼女とかまずない。」

(何だか泣きたくなってきた…)

俺は男と思われていないらしい。

「尚斗…………」

長谷川が同情の視線を向けてくる。

(ああ…なんで俺はメイド服なんか着てるんだろ…)

そんな想いで一杯になる。

「おまえはこの大学に通ってるのか?」

釘宮さんが周りの視線をどうでもよさそうに聞いてきた。

「はい……」

俺はこれ以上厄介な事になりたくないと願いながら短く答える。

「へぇ……」

釘宮さんは顎に手を当てて何かを考えている。

「?」

俺はそんな釘宮さんを見上げる。

「なあ…」

釘宮さんは俺の目を見ながら言った。

「モップってないか?」



「モップを折らなければ良かったじゃないですか…」

俺は釘宮さんを大学内に案内していた。

「まさか折れるなんて思わなくてな……」

釘宮さんがぼさぼさの髪を掻きながら言った。

「はぁ……もういいです。」

俺は深い溜め息をついた。
33 :FY[sage]:2012/03/16(金) 18:37:13.29 ID:xT2ztyWIo

「ありましたよ…。」

俺は掃除用具の中からモップを取り出して渡す。

「助かった…。」

釘宮さんはモップを受け取る。

「それにしても…」

釘宮さんは何故か俺をジロジロと見る。

「な、なんですか?」


俺はその視線から逃げるように身を引く。

「普通に似合ってるな…おまえ…。」

釘宮さんが突然変な事を言ってきたので俺は膝から崩れ落ちてしまった。

「……ううっ」

(俺は男なのに…)

何だかいろいろと理不尽過ぎて涙が出てくる。

「その……悪かった…。」

釘宮さんがバツが悪そうに謝る。

「もういいんです…俺はいろいろダメなんです…」

俺はフラフラと立ち上がる。

「戻りましょうか…。」

俺は釘宮さんが着いて来ているかどうかも確認せずに来た道をとぼとぼと歩き始めた。

「あ、ああ…」

釘宮さんはそんな俺の後に決まり悪そうに着いて来るのだった。
34 :FY[sage]:2012/03/16(金) 18:37:52.77 ID:xT2ztyWIo


「ねえ君、今暇?良かったら一緒に回らない?」

もう何人になるか分からなくなるくらい俺は男に誘われていた。

その度に俺は

「すみません。これからやる事があるので。」

と断らなければならない。

これで引き下がってくれるなら楽なのだが、ほとんどの男はしつこく誘ってくる。

「はぁ……」

俺は深い溜め息をついた。

「おまえもいろいろ大変だな…」

釘宮さんが一緒にいるのに男はお構いなしに誘ってくるのを気の毒そうに見る。

「なんで男って分かってくれないんだ…」

俺はまた溜め息をつく。

「戻ったみたいだな。」

長谷川が苦笑いを浮かべながら、出迎えてくれた。

「もう死にたい…」

俺は長谷川にそう愚痴る。

「まあ何も知らない奴から見れば、おまえは美少女だからな�仕方ないさ。」

長谷川はそう言って俺の肩を持つ。

「とりあえず店に戻れっていう命令だ。戻ろうぜ。」

「ああ…。」

「なら、俺はノルマを果たしに行くとするか。」

釘宮さんがモップを担ぎ、作業すべき場所へと向かう。

「良かったら、店に来てくださいよ。歓迎しますから。」

長谷川が釘宮さんへそんな事を言う。

「おまえっ何言ってるんだよ!?」

俺はこの服装をもう二度と見られたくなかった。

「…考えておこう。」

釘宮さんはそう言って、去って行った。

「長谷川…どういうつもりだよ…」

俺はげんなりしながら長谷川に聞く。

「まあ、いいじゃねえか!儲かった方がいいだろ?」

長谷川は笑いながら言った。
35 :FY[sage]:2012/03/16(金) 18:38:37.69 ID:xT2ztyWIo

「そうだけど…」

俺は長谷川と店へ戻る。

「儲かる方がいいからおまえが宣伝してるんだろ。」

「すごい複雑な気分だ…」

俺はすれ違う人の視線を感じながら呟いた。

「あの娘、すごく可愛い!!」

「俺、生きてて良かった!」

「写真撮らないと!」

携帯やカメラのフラッシュが俺を中心にたかれる。

(最悪な日だ……)

俺は眩しさに目を細めながら今日という日を呪った。


俺はそんな釘宮さんを見上げる。

「なあ…」

釘宮さんは俺の目を見ながら言った。

「モップってないか?」



「モップを折らなければ良かったじゃないですか…」

俺は釘宮さんを大学内に案内していた。

「まさか折れるなんて思わなくてな……」

釘宮さんがぼさぼさの髪を掻きながら言った。

「はぁ……もういいです。」

俺は深い溜め息をついた。

「ありましたよ…。」

俺は掃除用具の中からモップを取り出して渡す。

「助かった…。」

釘宮さんはモップを受け取る。

「それにしても…」

釘宮さんは何故か俺をジロジロと見る。

「な、なんですか?」


俺はその視線から逃げるように身を引く。

「普通に似合ってるな…おまえ…。」

釘宮さんが突然変な事を言ってきたので俺は膝から崩れ落ちてしまった。
36 :FY[sage]:2012/03/16(金) 18:39:05.73 ID:xT2ztyWIo

「……ううっ」

(俺は男なのに…)

何だかいろいろと理不尽過ぎて涙が出てくる。

「その……悪かった…。」

釘宮さんがバツが悪そうに謝る。

「もういいんです…俺はいろいろダメなんです…」

俺はフラフラと立ち上がる。

「戻りましょうか…。」

俺は釘宮さんが着いて来ているかどうかも確認せずに来た道をとぼとぼと歩き始めた。

「あ、ああ…」

釘宮さんはそんな俺の後に決まり悪そうに着いて来るのだった。


「ねえ君、今暇?良かったら一緒に回らない?」

もう何人になるか分からなくなるくらい俺は男に誘われていた。

その度に俺は

「すみません。これからやる事があるので。」

と断らなければならない。

これで引き下がってくれるなら楽なのだが、ほとんどの男はしつこく誘ってくる。

「はぁ……」

俺は深い溜め息をついた。

「おまえもいろいろ大変だな…」

釘宮さんが一緒にいるのに男はお構いなしに誘ってくるのを気の毒そうに見る。

「なんで男って分かってくれないんだ…」

俺はまた溜め息をつく。
37 :FY[sage]:2012/03/16(金) 18:39:56.45 ID:xT2ztyWIo
「戻ったみたいだな。」

長谷川が苦笑いを浮かべながら、出迎えてくれた。

「もう死にたい…」

俺は長谷川にそう愚痴る。

「まあ何も知らない奴から見れば、おまえは美少女だからな�仕方ないさ。」

長谷川はそう言って俺の肩を持つ。

「とりあえず店に戻れっていう命令だ。戻ろうぜ。」

「ああ…。」

「なら、俺はノルマを果たしに行くとするか。」

釘宮さんがモップを担ぎ、作業すべき場所へと向かう。

「良かったら、店に来てくださいよ。歓迎しますから。」

長谷川が釘宮さんへそんな事を言う。

「おまえっ何言ってるんだよ!?」

俺はこの服装をもう二度と見られたくなかった。

「…考えておこう。」

釘宮さんはそう言って、去って行った。

「長谷川…どういうつもりだよ…」

俺はげんなりしながら長谷川に聞く。

「まあ、いいじゃねえか!儲かった方がいいだろ?」

長谷川は笑いながら言った。

「そうだけど…」

俺は長谷川と店へ戻る。

「儲かる方がいいからおまえが宣伝してるんだろ。」

「すごい複雑な気分だ…」

俺はすれ違う人の視線を感じながら呟いた。

「あの娘、すごく可愛い!!」

「俺、生きてて良かった!」

「写真撮らないと!」

携帯やカメラのフラッシュが俺を中心にたかれる。

(最悪な日だ……)

俺は眩しさに目を細めながら今日という日を呪った。
38 :WM2012/03/19(月) 20:26:13.06 ID:AIRoVZ/Yo
「へぇ〜ここがお兄ちゃんの通ってる大学かぁ〜」

少女は、藤宮達の着ているソレとは違う……様するに、また別の高校の制服を身につけていた

彼女が当たりを見回す度に、黒色のツインテールがぴょこぴょこと揺れている

「いいのですか?あなたは兄に来るなと言われたのでは?」

「いいのいいの!」

「お兄ちゃんいーっつも学校のことは話してくれなかったんだから気になっちゃって!」

「……あなたには言えない何かがあるのでは?」

呆れた様にツインテールの少女と会話を交わす少女もまた、同じ制服を着ていた

「うーん、私にはよくわからないけど……あっ、うずらちゃんのお姉ちゃんもここに来てるんじゃない?」

「ええ、春菜さんとかおりさんと一緒にここに来ると先日言ってました……それと先ほどこの様な動画が……」

そう言いながらツインテールの少女に自らの携帯を見せる彼女の名は、『春風うずら』

……春風エリカの双子の妹である

双子と聞くと、瓜二つな容姿を持つ2人を普通はイメージするが……実質のところ双子と言うのはそこまで似ていると言うわけではない

あっ、ちょっと顔付き似てるよね、やっはり双子だからかなぁ〜……とでも言われる程度だ

だが、しかし、彼女うずらはーー本当に、瓜二つと言っていいほどエリカとそっくりで、唯一違う点と言えば鼻に掛けられてある縁なしの眼鏡ぐらいだった

「ん?……あっ、この人春菜さん?……あと横にいる人は?……っ!!!」

39 :WM[sage]:2012/03/19(月) 20:26:42.89 ID:AIRoVZ/Yo
うずらが彼女に携帯で見せている動画には、先程も話題に挙がっていた少女、丸山春菜とーーぼさぼさ頭の清掃服を着た男が写っていた

そして、動画の中で数秒が経過した後、両者は……まるで映画や漫画の様な格闘戦を繰り広げ始める

携帯の横長画面とあいまってその戦いは格闘ゲームのプレイ動画のようだ

「うわ!うわわ!!すっごいね!誰なんだろこの男の人!?」

「……大方勝負を挑んだのは春菜さんの方かと思いますが……彼女とここまで互角に戦う人間を見るのは久しくありませんでした」

「……あ、動画が終わったみたい」

「どうやらここまでの様ですね……そういえば」

「?どうしたのうずらちゃん?」

「いえ、あなたから良く貴方の兄についての話をよく聞くのですが……写真の一枚も見せてもらえてないな、と」

「ああー……お兄ちゃんは写真に映るのが苦手だから、写真一枚も持ってないの」

「成る程……」

「あと最近は本当に元気がなくてさ、家に帰っても自分の部屋にこもっちゃってて……だからちょっと心配なんだよね」

「文化祭をチャンスに兄の様子を見に行こう、と?」

彼女の問いに、ツインテールの少女ーー『東条桜』はこくりと頷く

「……貴方は本当に兄思いなのですね……それで、彼が所属するクラスでは一体何をしているんですか?」

「パンフレットだと喫茶店みたいだけど……」

「喫茶店ですか……なかなか興味深いですね……では、行ってみましょう」

「……うん!」

こうして二人は歩き始める

ーー東条桜の兄……『東条タクミ』が今にも壊れそうになっているということを知らずに……
40 :FY[sage]:2012/03/19(月) 20:27:19.99 ID:AIRoVZ/Yo
「なんかやる事ある…か?」

長谷川は喫茶店に入るなり固まった。

「どうした?長谷…川……」

俺は喫茶店の中を覗くなり言葉を失う。

「は、長谷川君に水嶋君!ちょうど良かった…」

俺達に気付いた丸山が駆け寄ってくる。

「丸山、この人の量は何なんだ!?」

俺は想像以上の客の量に驚いた。

「私もびっくりしたよ…」

丸山は苦笑いを浮かべる。

「と、とりあえず水嶋君は接客で長谷川君は厨房を手伝って」

丸山はそう指示すると忙しそうに厨房へ走っていった。


「尚斗」

「何だよ長谷川…」

長谷川が遠い所を見るように俺を見つめる。

「おまえ…すごい好評だな……」

「俺は男なんだがな…」

何度目になるか分からない溜め息をつく。

「おい、あの娘だよ!」

「どこだよ?」

「ほら、入り口のとこにいる」

「マジだ!めちゃくちゃ可愛いじゃん」

「彼氏とかいんのかな?」

「いてもいなくても関係ないね俺は惚れちまったから」

「バカやろう!俺も彫れてるに決まってんだろ!」

「写真、写真!記念に撮らないと!」

俺の姿を見るなり男性陣から熱烈なラブコールや視線が注がれる。

「とりあえず…仕事しようぜ…」

長谷川はそう言って厨房の方へか
けていった。

41 :FY[sage]:2012/03/19(月) 20:32:10.34 ID:AIRoVZ/Yo
「ちょっと逃げるなよ!」

俺は突然置き去りにされ、立ち尽くす。

その瞬間、一斉に男性陣が俺に詰め寄ってきた。

「午後から暇ですか!?」

「俺と回りませんか!?」

「好きです!付き合ってください!」


四方から一斉に言葉をかけられる。

「いや、あの…えっと」

俺は何を言われてるのか分からずにしどろもどろする。

「可愛い!!」

「マジ嫁にしたい!ていうかなってください!」

「連絡先教えて!」

何だか男性陣の熱さは相当に高まっている。

(どうすればいいんだ!?)

まさかこんな風になるなんて夢にも思わなかった。

ましては男の俺が男にモテるとは…

(最悪だ…最悪過ぎる……)

一日目だけでこれほどの熱狂を生み出したのだから、二日目、最終日も女装したら…と思うと身震いがする。

(と、とりあえず…)

俺は声の調子を確かめて、言った。

「皆様、他のお客様の迷惑となりますので一度席へお戻りください」

普通の女子みたいな高い声で告げる。

「す、すいません」

「また後で聞きます」

「本当に可愛い…」

口々に男性陣は呟きながら元に戻っていく。

「ふぅ……」

俺は一息ついて、早速接客をしようとする。

42 :FY[sage]:2012/03/19(月) 20:32:46.85 ID:AIRoVZ/Yo
「すいません」

後ろから急に声をかけられ慌てて振り向く。

「はい?」

そこには2人の女子がいた。

「私、東条桜って言います」

(もしかして…)

俺は東条という名前を聞いて、1人の男子生徒を思い浮かべる。

「東条タクミの妹なんですが…お兄ちゃんいます?」

無邪気な笑みを浮かべながらその娘は尋ねてきた。

「多分、厨房にいると思います…」

俺は笑顔で答える。

「それで、お2人はここで食事していかれますか?」

俺は接客する。

「ん〜、なら2人で」
どうやらお客のようだ。

「かしこまりました。2名様ですね?こちらへどうぞ」

俺は東条の妹ともう1人の少女を空いてる席へ案内する。

席へ案内する間、たくさんの男性客から視線を感じたのは気のせいだと思いたい。

「こちらがメニューになります。ご注文がお決まりになりしだい、お呼びください」

俺はメニューをテーブルに開いて置き、会釈をして立ち去る。


(つ、疲れる…)

内心でげんなりする。

「すいませ〜ん。注文したいんですが」

近くのテーブルの男性客が手を挙げる。

「かしこまりました!今伺います」

俺は注文用紙を他の接客している生徒から貰い、注文を取りに行く。

(忙しくなるな〜)

俺は注文を取り厨房へと向かう。

その間も男性客からの視線は外れる事がなかった…
43 :WM[sage]:2012/03/19(月) 20:33:23.21 ID:AIRoVZ/Yo
「よし、こんなもんかな」

右手に持つモップをカン!と地面に立たせる

背伸びをすると、小気味よく背中の関節が鳴った

そしてふと、何かに気づいたようにお腹を押さえる

「……腹減ったな」

我らが主人公、釘宮キョウがため息を付く、その腕に付ける腕時計の針はちょうど12時を指していた

「おーい、釘宮君〜っ」

昼飯どうすっかな、と考えている彼に不意に遠くから声を掛ける中高年の男が現れる

「あ、どうも、これはこれは…」

釘宮は帽子を脱いでぺこりとその男にお辞儀をした

駆け寄ってきた中年男性の男は、大学の教師ーーつまり釘宮の雇い主である

「そろそろ昼時だからさ!休憩に入っていいよ!」

「はい、わかりました…って何故わざわざここまで?」

「ん?ああ、それはね、今君のことがすっごい噂になってるんだ」

「……あー」

44 :WM[sage]:2012/03/19(月) 20:36:15.55 ID:AIRoVZ/Yo
噂になっている、その話に思い当たることはーーありすぎた

先ほどから自分のことをちらちらと見る人間がかなりいたし、それにあれだけのことをやれば普通に噂にもなるだろうと言うことは分かり切っていた

「ちょっとあれはやりすぎましたかね…?」

ぼりぼりと頭を掻きながら気まずそうに釘宮が尋ねる

「いやいやそんなことないよ!」

「君と一緒にいたあの女の子はこの街の有名高校の生徒会長さんでね!いい宣伝になったよ」

「はぁ……」

「とにかく、今から休憩入っていいから、それじゃ!」

そう言うと、中年の男はどこかへと去っていった

「………………」

「昼飯喰いに行きますか……そうだ、冷やかしついでにあそこにすっか」


ーー
ーーー

「いらっしゃいませー!」

昼時と言うこともあり、我がクラスはかなりの反響を呼んでいた。

売り子も皆ーー俺も含めてーー精一杯に働いており、活気に満ちあふれている

少々満ちあふれな気がする奴らもいるがーーー

「うっは、かっわいーねーあの子!」

「こっち向いてくださーい!視線お願いしまーす!」

ーーーたぶん気のせいだろう
45 :WM[sage]:2012/03/19(月) 20:38:30.93 ID:AIRoVZ/Yo

「はいはいあんたらの言うことはわかったから!後で撮らせてあげる……ちょーっと料金取るけどね」

そして誰かが商売を始めている気がするけどーーー多分気のせいだろう

「いらっしゃいませーっ!」

現実逃避、それが俺が導き出した答えだった

ただただ働くことだけに専念し、営業スマイルを振りまく。

そう、今の俺はもはや働く機械ーーー

「よっ、どうやら繁盛してるみたいだな」

あばばばばばばばばばっ!!!!!

「くくくく釘宮さん!お願いだから来ないでって言ったじゃないですか!」

他の客もいるので、限りなく小声で叫ぶ

「いや、フリじゃなかったのか?アレ」

「なわけないですよっ!」

「……まぁいいや、オムライスひとつ」

「か、かしこまりました!では、こ、こちらの席へどうぞ!」

「どうも」

なんとか動揺を抑え、営業モードに入る

ちらと釘宮さんの方を見ると、くつくつと笑っていた

そしてなおも俺を数々の視線がおそ……あれ?

……心なしか、視線の数が、減っている気がしたーーーいや
46 :WM[sage]:2012/03/19(月) 20:39:09.88 ID:AIRoVZ/Yo

「お、おい…あれ…」

「あ、ああ…さっき高校生のねーちゃんとドンパチしてた……」

視線は、釘宮さんへと集まっていた

やはりというかなんというか、あの人有名になってるな……

とりあえずは助かった……のか?

ーーー
ーー


メイド服の可愛らしい姿をした水嶋ーーだが男だーーに案内され、釘宮は白いテーブルに座る

店内は喧騒で満ち溢れ、とても賑わっていた

そして多くの視線は水嶋ーーではなく、今は彼、釘宮に集まっている

(やっぱりちょっとやりすぎたか……)

さっきも清掃場所からここに移動するまでかなりの人々が自分のことを見ていた、どうやら想像以上にあの舞踏の様な戦いは人々の間に広まっているらしい

(……ま、どうでもいいか)

群衆に注目され続けることはいささか……いや、かなりのストレスになるのだが、彼は至って平然としている。

そしてそれは、彼女も同じことだったーーー

「……へぇ、ここが姉さんのクラスがやってる喫茶店か、結構人入ってるなぁ」

「本当だねー…あ、うずらだ」

「ううっ……さっきからいろんな人が私たちを見てます……」

「んー?だらしないな藤宮、この程度で弱音を吐くとはな」

「もともとは春菜のせいでしょ?」

「い、いらっしゃいませ!……ご注文をどうぞ!」

釘宮が来て動揺していた水嶋に、追撃とばかりに三人の女子高生が来店した

「私はオムレツと牛乳ーーーむっ」

1人の少女が、つかつかと席に座っている釘宮ーーちびちびと店員に渡された冷水を飲んでいるーーの元へと歩く

「お、お客様!?まだ席が空いてーーっ!」

水嶋が彼女にそう言うが、歩みは止まることなく、ついに彼の目の前に立った

「……よう。また、会ったな」

「ああ……また、だな」

釘宮キョウと丸山春奈、二度目の邂逅である
47 :FY[sage]:2012/03/19(月) 20:39:50.77 ID:AIRoVZ/Yo

(どうすればいいんだ!?)

俺は笑顔のまま固まっていた。

まさか釘宮さんが来るとは思わなかったので、少し冷静さを欠いてしまった。

さらにそこへ丸山の妹までやってきて、あの2人の周りは一触即発の空気を醸し出している。

とりあえず丸山妹の連れ2人を案内し、メニューを開いて置く。

そして、釘宮さんのメニューを厨房へ持って行く。

「すいませ〜ん。水ください!」

「少々お待ちください。今持って行きます」

俺は水を持って行く。

そして、水をつぎ会釈をして次のお客へと移る。

(頼むからここで戦わないでくれよ…)

俺は切実に祈った。

「さっきの決着をつけよう!」

丸山はファイティングポーズを取りながら言う。

「確かにいつかはつけなければならないかもしれないが…周りを見ろ」

釘宮は軽く流しながら周りを見るように促す。

「?」

丸山は周りを見る。

「あっ…」

そして気付いた。

「だから、今は座って飯でも食え」

48 :FY[sage]:2012/03/19(月) 20:40:39.26 ID:AIRoVZ/Yo
釘宮はそう言って水を飲む。

「////」

丸山は少し赤くなりながら座る。

「……おい」

釘宮が目を押さえながら言う。

「なぜ俺の所へ座る?」

少し不機嫌そうな口調の釘宮。

「バトルがダメなら早食い対決だ!」

丸山はいきなり顔を上げたかと思うと開口一番にそう言う。

「はぁ?」

釘宮は頭が痛くなった。

(どれだけ勝ち負けにこだわるんだ…)

とにかく売られた勝負は買わなければならない。

「いいだろう…」

釘宮と丸山は早食い対決をする事になった。


俺は厨房からオムライスとオムレツと牛乳を受け取り釘宮さんの所へ持っていく。

「お待たせしました。オムライスとオムレツ、牛乳になります」

俺は2人の前へ丁寧に置き、会釈する。

「ごゆっくりどうぞ」

心の中では平和な事に安堵したのだが、早食い対決というので少し興味もあった。

(どちらが早いんだ?)

俺は客の注目がほとんど集まったテーブルを後にした。

49 :FY[sage]:2012/03/19(月) 20:41:12.27 ID:AIRoVZ/Yo




早食い対決の結果はすぐに出た。
普通に釘宮さんの方が早かった。

「ぐぬぬ…」

丸山の妹が悔しそうな表情を浮かべる。

「………」

対して釘宮さんはいつも通りだった。

「お皿を下げてもよろしいでしょうか?」

俺はその2人を横目に見ながら、仕事を果たす。

「頼む」

釘宮さんは俺の姿を見て笑う。

「………笑わないでください……」

俺は小声で言ってお皿を厨房へ持って行く。

その間に釘宮さんはレジへ行き、会計を済ませるとどこかへ行ってしまった。

「今のはあんまし盛り上がらなかったな」

「まあ、どうでもよくね?」

「それよりあの娘はどこだ!?」

お客の間からちらほらとそんな声があがりだす。

(はぁ…。釘宮さんがどこかへ行ったらまた視線が戻りだした…)

俺は小さく溜め息をつく。
丸山の妹はいつの間にか連れの2人の所へ戻り、励まされていた。

「カレーできたぞ!」

厨房の長谷川がカレーを俺に渡す。

「ああ」

俺はそれを受け取り、丸山の妹のいるテーブルへと向かった。
50 :WM[sage]:2012/03/19(月) 20:44:00.55 ID:AIRoVZ/Yo
「お待たせしました…」

水嶋がテーブルに座る少女達の一人にカレーを渡す

「ありがとうございます…」

ぺこりとおとなしめの少女、藤宮がお辞儀をする

…いつのまにか机には新たに二人の少女ーー東条桜と春風うずらが座っていた

「本当に動画のあの男…いったい何者なのでしょうか……」

「もぐもく…私を助けてくれたんです、だから怪しい人じゃないです」

どうやら先ほどハルナと早食い対決?を繰り広げた釘宮について話しているようだ

「いやいやただの清掃員がハルナと互角に戦う方がおかしーーあ、そっか。あの人はけいやくーーむぐっ!?」

「駄目ですよ、姉様。公衆の面前であまりそう言うことを口にするのはいかがなものかと」

「むぅ…それもそうだね…」

契約者という言葉をそう軽々と口にするわけにはいかないし、

もし釘宮が契約者だと言うことが広まれば多大な迷惑を彼にかけると言うことは自明の理だった

51 :WM[sage]:2012/03/19(月) 20:46:53.01 ID:AIRoVZ/Yo
(釘宮さんの話か…)

不可抗力ながら彼女たちの話を聞いた水嶋は自分の知り合いが既にかなりの有名人になっていることを実感する

もっとも、有名になっているのは彼とて同じことなのだが…

室内にあふれる視線、先ほどは釘宮と彼と春菜達に三分されていたがーー釘宮が外へ出たので今は視線の約半分が彼の元へ注がれている

「ふぅ……今まであのメイド服の子が可愛いと言っていたが…スマン、ありゃ嘘だった。あの美しい金色の長髪をお持ちのあのお方、まさに女神と呼ぶに相応しいね」

「いや、あの金髪ショートの女の子もかなりのハイレベル…天使や…天使の光臨や…」

「おいおいおまえら…さっきまではメイド服の子が一番って言ってたじゃないか……よろしいならば戦争だ」

あちらこちらで論争が勃発し、白熱した争いを繰り広げている

もっとも、彼女たちはその視線をーー二人を除いてーーあまり気にしていないようだが……

(あ、あはは……もうどうにでもなーれ)

喫茶店の中は、混沌とした空間が生まれていたーー

「それで、もう少し詳しく助けられたときの状況を教えてくれないか?」

ずずいと春菜が身を乗り出してぐいとかおりに顔を近づける

52 :WM[sage]:2012/03/19(月) 20:47:49.32 ID:AIRoVZ/Yo
しばらく逡巡した後、彼女はぼそぼそと小声でそのときの状況について話し始めた

「え、えっと……私が人質にされてるときに急に風が吹いて、釘宮さんが凄い勢いで部屋の中に入ってきたんです」

「風…ですか?」

「うん、窓が閉まってたのにいきなりすっごい風が吹いて…」

「……成る程、つまり風を操るのが奴の能力なのか…ハッ!まさかあの時もそれを使って私の攻撃を!?」

「そ、それはないんじゃないんですか?私がうずらちゃんに見せてもらった動画では…」

「あのお兄さん、放射光出してなかったからね」

「だよなぁ…」

ぐぬぬ、と、春菜が悔しがっている。
なら私は奴に手加減されていたってことか…?と呟きながら

「……話がそれましたね、それで、その後は?」

「えっと…釘宮さんが男の人に殴りかかったら避けられた……んですけど」

「???」

53 :WM[sage]:2012/03/19(月) 20:48:21.79 ID:AIRoVZ/Yo
「釘宮さんの拳が当たってないのにその男の人が吹っ飛んだんです…そしてそのまま窓から……」

「成る程……差し詰め風圧のパンチ……とでも言いましょうか」

「落っこちた男の人を釘宮さんが窓から覗こうとしたら……急にこいつを撃ってもいいのかー!って声がして……」

「つまりその男はまた人質を取ったってわけだ……落下した先に人がいるとは……運がいいんだか悪いんだか」

「それで、釘宮さんが銃を取り出して ……撃ったんです 」

「えっ!?人質がいるんだよね!?」

エリカが吃驚した様子でかおりに尋ねる

「とんでもないことをする人ですね……」

うずらが額に手を当てて、やれやれとため息を付く

「すぐに男の人の悲鳴が聞こえたので、その、当ててはいなかったみたいです……その後釘宮さんは窓から飛び降りて、人質にされてたフードの人と話してました……他にも誰かと話してたみたいですけど、ちょっと、その、腰が抜けちゃって……」

「なるほど、ね」

「あっ、でもフードを着ていた人は少し覚えてます……体つきとか……」

「!!どんな奴だったんだ!?」

ハルナが食いつく

「えーっと……あっ、ちょうどあの人みたいな感じでした」

そうかおりが指さした先にはーー接客に励む、メイドがいた
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県)[sagesaga]:2012/03/20(火) 00:46:17.40 ID:+CdLEVKCo
テスト
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県)[sage saga]:2012/03/20(火) 01:09:13.82 ID:+CdLEVKCo
――

tes
56 :FY[sage saga]:2012/03/20(火) 10:51:52.58 ID:+CdLEVKCo
「えーっと……あっ、ちょうどあの人みたいな感じでした」


丸山妹のいるテーブルの辺りからそんな声が聞こえた。


(誰の事だ?)


俺は水をニヤニヤした男性客のコップへと注ぐ。


「ごゆっくりどうぞ」


俺は会釈をし、笑顔を作る。


「可愛いな〜」


テーブルから離れる時にそんな呟きが聞こえる。


(俺……男なのにな…)


俺は心の中で深い深い溜め息をつく。


「ちょっとそこのメイドさん!」


突然、丸山の妹が大声を出す。


(一体誰だよ…)


俺は辺りを見回す。


(メイド、メイドっと…あれ?いないじゃん)


全く人騒がせだな、と思い厨房へ向かおうとした時に丸山の妹が駆け寄ってくる。

その時になってやっと俺は理解する。


(ああ…メイドって俺か…)


せっかく忘れていた事を思い出してしまう。

俺は少し絶望感に浸りたくなったが、慌てて元に戻る。
57 :FY[sage]:2012/03/20(火) 10:52:33.50 ID:+CdLEVKCo

「なんでしょうか?」

(危ない危ない…まだ仕事中じゃん)

俺は少し反省しつつ次の言葉を待つ。

「お前、さっきの清掃員の人と知り合いなのか?」

丸山の妹が突然、そんな事を聞いてくる。

(清掃員って…釘宮さんの事か)

俺は一応きちんと答える。

「はい、たぶん…」

自分で答えときながらすごく曖昧だな、と思った。
58 :FY[sagesaga]:2012/03/20(火) 10:53:01.23 ID:+CdLEVKCo

「もしかして、あの清掃員に命を救われたりした?」

(なんで知ってるんだ!?おまえは人の心でも読めるのか!?)

俺は驚いていた。

その様子を感じながら丸山の妹は満足そうに頷いた。

「ビンゴ!おーいみんな!この人っぽいぞ!」

丸山の妹はいつの間にか5人組になっていたテーブルの面子を手招きと共に呼ぶ。

(うわ〜面倒だな…)

俺は今さらながら簡単に答えるんじゃなかったと後悔し始める。

「ちょっとハルナ…恥ずかしいって」

4人は少し顔を赤らめながら近付いてきた。

59 :FY[sage]:2012/03/20(火) 10:53:38.22 ID:+CdLEVKCo
「気にしない気にしない」

ハルナという丸山の妹はたくさんの視線を集めても平気だった。

(俺も勘弁して欲しいんだが…)

俺は苦笑いを浮かべる。

「おまえ、人質にとられたんじゃないのか?」

ハルナが唐突に切り出す。

(単刀直入だな…オイ)

俺は頭の中ではそう考えていた。

「ええと………はい…」

俺は他の客に聞こえないように声のボリュームを落とす。

60 :FY[sage]:2012/03/20(火) 10:54:58.91 ID:+CdLEVKCo
「そこをさっきの清掃員に救われたのか…へえ」

ハルナは勝手に推理を進めていく。

「た、大変でしたね…」

ハルナとは別の子がおとなしめに言った。

「女の子を人質にとるなんて…最低な輩ですね」

また別の子が反応を見せる。

(ちょっと待て…)

俺は女の子という単語がくっきりと耳に残っていた。

「えっと……」
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県)[sagesaga]:2012/03/20(火) 10:57:58.16 ID:+CdLEVKCo

俺はそれだけは否定しなければと思い、遠慮がちに声を出す。

「ん…何?」

ハルナがそんな俺に気付き先を勧める。

「私…じゃなくて俺は男なんですけど…」

俺は恐る恐るといった感じで真実を伝える。
が、

「あはははは。冗談上手いね」

「あなたが男の子な訳ないじゃないですか」

口々に否定され、俺は黙ってしまう。

(死にたい……)
62 :FY[sagesaga]:2012/03/20(火) 11:00:07.79 ID:+CdLEVKCo

見知らぬ女の子達に男であると信じられないのはすごいショックだった。

(俺…そんなに男らしくないのかよ…)

物凄く沈んだ俺の様子を見て、本当らしいという事が5人の間で認識される。

「ほ、本当なのか…」

ハルナが恐る恐るといった感じで聞いてくる。

「だから、言ったでしょう…」

俺は軽く泣きながら呟いた。

「「「「「えーーーーーー!?」」」」」

5人全員に有り得ないとばかりの驚きの表情を見せられ俺は何かを考える間もなく、涙を流しながら逃げ出すのであった。
63 :WM[sagesaga]:2012/03/20(火) 11:01:35.51 ID:+CdLEVKCo







「ふぁ……」

ひとつ、大きな欠伸をする

先ほど水嶋がメイドを勤めていた喫茶店で食したオムレツと、

他の店で食べたその他諸々が消化されたのか、眠気が男、釘宮キョウを襲っていた

澄み切った秋空からは暖かい日差しが彼を照らし、いっそうその睡魔を強めていた

「ったくいい天気だなぁおい……こんな日は昼 寝でもしたいもんだ」

はぁ、とため息を付いてごしごしとその手に握るモップを動かす

「よう、ちゃんと仕事してんじゃねーか、清掃員さん?」

64 :WM[sage]:2012/03/20(火) 11:02:24.06 ID:+CdLEVKCo
そんな彼に、声を掛ける人物がいた


「……なんだ、黒井か」


筋骨隆々の警察官、黒井ハヤトである

「どうしてお前がここに?」
「娘に来てくれって言われたんだよ」
「娘ぇ?お前、娘さんなんていたのか?」


数年来の付き合いだが、聞いたことがなかった


「言ってなかったなかったか?美人だぞぉ?うちの娘は」
「そうかい……」


にやりと笑みを浮かべる黒井に彼は呆れる

65 :WM[sage]:2012/03/20(火) 11:03:06.41 ID:+CdLEVKCo
「それよりお前、ずいぶんと有名になってんじゃねーか」

「ん?…ああ、まあな」

「あんなきれーなねーちゃんとドンパチすりゃ そりゃあ有名にもなるが…」

「なんだ、お前もあの時あそこにいたのか?」


疑問に思った彼が黒いに尋ねる


「いや、娘がそこにいて動画を撮ってたらしくてな、見せてもらったんだ」

「なーるほど」
66 :WM[sage]:2012/03/20(火) 11:03:45.71 ID:+CdLEVKCo

「……で?何でお前は戦ったりしたんだ?」

「知るか、あいつがふっかけてきたからそれに答えてやったまでだ」

「……何故あの女がお前に勝負を?」

「先日の事件で人質にされてた子が友人らしくてな、そこから聞いたらしい」

「へぇ……ずいぶんと物好きだねぇ……だが、 かなり美人ときたからひょっとすると役得かもしれねぇぞ?」

「……んな訳あるか」


釘宮はそうため息を付き、秋空を仰ぎ見た
67 :FY[sagesaga]:2012/03/20(火) 11:09:06.68 ID:+CdLEVKCo






俺は尚斗が喫茶店から出て行ったのを厨房から見てしまった。

原因は何だか分からない

が、5人の美少女が後を追い掛け始めた。
そのうち1人は見覚えがあった。


(丸山の妹じゃねえか)


俺はとにかく5人の後を追い掛けるべく厨房の連中に一言言って、喫茶店を飛び出した。

68 :FY[sage]:2012/03/20(火) 11:10:32.92 ID:+CdLEVKCo

「おい!丸山の妹!」


俺はすぐに5人に追いつく。


「お前、誰だ、?」


丸山の妹が話しかけてきた俺の姿を見て威圧的に立ち止まる。

俺は少したじろぐが、言葉を続ける。


「俺は長谷川昴。少し聞きたい事があるんだが…」


俺は軽く自己紹介して、本題に入る。


「何だ?」

「尚斗…って言っても分からないか。さっきのメイド服着た奴はなんで逃げ出したんだ?」


俺は尚斗が逃げ出した理由を聞く。

69 :FY[sage]:2012/03/20(火) 11:13:47.81 ID:+CdLEVKCo

「……多分……」


丸山の妹と一緒にいた少女が控え目に訳を話してくれた。



俺はそれを聞いて額に手を当てる。


「あちゃー、それは尚斗は逃げるよな…」


俺の様子を見て、5人は気まずそうな顔をする。


「……すいません」


さっき俺に説明してくれた少女が頭を下げて謝る。


「いや、知らなかったんだし仕方ないって。それに確かに男に見えないだろうし」


俺は頭を上げるように促す。

70 :FY[sage]:2012/03/20(火) 11:15:01.49 ID:+CdLEVKCo

「……でも」


少女は何か言いたそうだったが、口を閉じた。


「とりあえずあいつの事は心配するな。それじゃ」


俺は5人に背を向け喫茶店へ戻る。
5人はその後ろ姿を見送るしかなかった。

…………………………


文化祭1日目が終了した。

俺は落ち込んでいる尚斗に屋上へ来るように伝えた。

そして、屋上へやって来た。

ドアを開けようとした時に先客がいるのが分かった。

少し覗いて見ると先客は俺が用のある尚斗だった。

今はもうメイド服は着ておらず、自分の制服を着ている。
71 :FY[sage]:2012/03/20(火) 11:15:56.28 ID:+CdLEVKCo

尚斗は転落防止用の柵にすがっていた。

俺のところへ風に流されて、嗚咽が聞こえてきた。

俺はそれを聞きながらドアをゆっくりと開けた。

ドアの開く音を聞いて尚斗が顔を上げる。


「長谷川………」

「よっ、待たせたな」


俺は軽く片手を上げる。そして、ゆっくりと尚斗の傍へと近付いていく。

尚斗は目元を擦る。


「なんだよ尚斗。泣いてんのか?」


72 :FY[sage]:2012/03/20(火) 11:16:23.79 ID:+CdLEVKCo
俺はいつもの調子で尚斗を軽くからかう。


「泣いてねえよ…」


尚斗はムスッとした感じで否定する。

俺は尚斗の顔を真正面から見据える。

尚斗は背が低いので必然的に俺は見下ろす形になる。


「な、なんだよ…」


尚斗は赤く充血した目を逸らしながら不機嫌そうに呟く。


「泣いてんじゃねえか。」


俺は軽く笑う。

73 :FY[sage]:2012/03/20(火) 11:16:51.43 ID:+CdLEVKCo

「だから、泣いてねえって!」


尚斗はムキになりながら否定する。

俺はそんな尚斗の横に並び柵にすがる。


「なあ尚斗…」

「なんだよ、長谷川」

「泣いてもいいんじゃねえかな」

「は?だから泣いてな」

「無理するなって」


俺は尚斗の言葉を途中で遮る。

そして、空を見上げながら諭すように言う。
74 :FY[sage]:2012/03/20(火) 11:18:43.71 ID:+CdLEVKCo


「人間、誰しも辛いことや悲しい事にぶつかる。その時に別に泣いたって不思議はないだろ?」


尚斗は黙って俺の言葉を聞いている。
俺はその様子をチラリと確認しつつ続ける。


「男だからって、泣いちゃいけないなんて事はないんだよ尚斗。だからさ…泣きたいなら泣けばいい。そして、思う存分泣いたら笑おうぜ。辛い事や悲しい事なんて忘れてさ」


俺は一通り言いたい事を言い終わる。


「は…せがわ…」


尚斗は俺を見上げる。


「泣き終わるまで傍にいるさ。どうせ暇だし」


俺はそう言ってにっと笑う。


「あり…がとう……な」


尚斗はそう呟くと再び瞳に涙が溜まり流れ出す。

俺は尚斗の肩に手を回して柵に背中を預け共に座った。


(それにしても…)


俺は涙を流し続ける尚斗から視線を逸らして思う。


75 :FY[sage]:2012/03/20(火) 11:19:17.41 ID:+CdLEVKCo
(本当に女みたいな奴だな…。でも、俺はそんなおまえの親友でいれて良かったよ)


太陽がだんだんと沈み、まるで1日の終了を俺達に告げているようだった。
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/04/01(日) 06:57:35.87 ID:KHF0jUiY0
童貞ボーイ(DTB)
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2012/04/03(火) 04:06:43.23 ID:Jlmw7Uubo
オレは奴を…>>76を[ピー]す



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