◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/16(金) 20:39:01.97 ID:ha4LqwPlo<>
※ ご注意 ※
このスレは、『男子高校生の日常』に登場する男子高校生(主に生徒会役員)が、
『スマイルプリキュア』の戦いに巻き込まれるお話です。
決して、男子高校生たちがプリキュアになる話ではございません。
あと、原作が日常漫画なので、過度な期待はしないでください。
作者より
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1331897941(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)
<>男子高校生のスマイルプリキュア
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/16(金) 20:40:48.90 ID:ha4LqwPlo<>
プロローグ
真田北高校の生徒会役員の一人であるモトハルはこの日も悩んでいた。
原因は、同じ役員の唐沢という男子生徒にある。
元々、彼はお人好しで小学校のころから色々と人助けをしていた。
いくらモトハルが注意しても、唐沢は人を助けることを止めない。
おかげで彼の所属する生徒会執行部には、同じ学校だけでなく他校からも相談が舞い込む。
そして今日、唐沢は再び面倒事を生徒会室へと持ち込んでいたわけだ。
「なんだこのぬいぐるみは。狸か?」
「タヌキとは酷いクル! キャンディはキャンディクル!」
唐沢が拾ってきたぬいぐるみのような奇妙な生物は、人間の言葉を喋り、そして動く。
「昼休みにたまたま見かけたから」
「だからって拾ってここまで持ってくるなよ! 絶対ヤバいって」
唐沢の持ってきた謎の白っぽい生物は、ドラ〇もんのように頭部が大きく手足が生えている。
頭には大きな渦巻き型の耳(?)があり、尻尾と同じように黄色い。。
それから耳元にはピンクのリボンがついている。
「ええと、名前は」
「キャンディクル」
そしてこの生物はキャンディと名乗る。
「まあまあ落ち着けモトハル。唐沢が連れてきたということは、何かあるはずだ」
そう言ったのは、強面で有名な副会長だ。
彼も唐沢に負けず劣らずのお人好しである。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/16(金) 20:42:03.56 ID:ha4LqwPlo<>
「どうも困っているようなんでな」
キャンディに紅茶を出しながら唐沢は言った。
「お前はとうとう謎の生物の相談も聞くようになったのか」
モトハルは頭を抱えつつその場のパイプ椅子に腰かける。
「で、何なんだ」
それでもモトハルは聞く。
彼も彼で、ブツクサ文句を言いつつ、常に唐沢の人助けを手伝っているのだ。
「実はキャンディ、伝説の戦士プリキュアを探しているクル」
「は?」
あっけにとられるモトハル。
「おいキャンディ。モトハルに最初から簡潔に説明してやれ」と唐沢。
「わかったクル」
「できれば三行でたのんます」
そう言ったのは副会長だ。
「むむむ、難しいけど承知したクル」
キャンディは少し悩みつつも、話をはじめた。
「キャンディの住んでいるおとぎの国、メルヘンランドでキュアデコロという宝が奪われたクル。
キュアデコロを悪用されると大変なことになるクル。
そのキュアデコロを取り戻すためにも、伝説の戦士プリキュアを探しているクル」
「何を言っているのかさっぱりわからん」
「やっぱり三行では無理があったクル」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/16(金) 20:43:25.57 ID:ha4LqwPlo<>
「とにかく、悪い奴がお宝を盗んだから、それを取り返せばいいんだな」
と、唐沢。
「さすがクル。そういうことクル」
「で、そのキュアデコロってのは何だ」
モトハルは頭を抱えつつ聞いた。
「メルヘンランドの女王様が持っている『幸せの力の源』クル」
これを、バッドエンド王国の連中が盗んだクルよ」
「バッドエンド王国?」
「メルヘンランドの一部にいる悪い奴らクル。世界をバッドエンド(最悪の結末)に導くために
暗躍しているクル」
「テロ組織みたいなものか」
「そいつらがキュアデコロの力を利用して、かつて封印した皇帝ピエーロを復活させようとして
いるクル。ピエーロが復活したらもう世界が終わるクル。
そうなる前に『世界を救う宝』、キュアデコロを奪いかえさなければならないクル」
「そういうのは警察に頼んだほうがいいんじゃないか」
「待てモトハル」
と、唐沢。
「どうした唐沢」
「警察に今の話をして信じてもらえると思うのか」
「俺だって信じられねえよ」
「キュアデコロは使い方によっては“もろ刃の刃”クル。
これは人を幸福にするものだけど、同時に不幸にすることもできるクル。
バッドエンド王国の皇帝ピエールは、『呪いの赤い絵の具』でキュアデコルを改造して
悪の手段にしたクルよ」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/16(金) 20:45:02.51 ID:ha4LqwPlo<>
「それで、なんでそれを取り戻すのにプリキュアとかいうのが必要なんだ?」
「キュアデコロの力に対抗できて、なおかつその呪いを浄化できる力があるのは伝説の
戦士、プリキュアだけクル。早くそのプリキュアを見つけないと大変なことになるクル」
「まあいい。仮にこの生物の話が本当だったとしよう」
「本当クル! 信じて欲しいクル!!」
キャンディはプンスカと怒りながらテーブルの上を跳ね回った。
「それで、そのプリキュアとかいうのはどこにいるんだ?」
「そ、それがわからないクル」
「は?」
「それでお願いクル。プリキュアを探すのを手伝って欲しいクル。プリキュアはこの町のどこか
にいるクル」
「面白そうな話じゃないか!」
不意に別の人の声が部屋の中に鳴り響く。
「会長」
「いたんですか」
いつの間にか生徒会長が会長の椅子に座っていた。
「モトハル、唐沢。ちょっと二人でその“飴ちゃん”の手伝いをしたらどうだい?」
「会長、しかしですね」
「キャンディは飴ちゃんじゃないクル!」
「まあまあ飴ちゃん。この二人に任せておけば、プリキュアだろうが魔法少女だろうが、
すぐに探し出せますよ」
「会長……」
「……」
「地域に愛される学校としては、こういう事態は放ってはおけないからな。さあ、行け」
「えー」
こうして、モトハルと唐沢の二人はキャンディのプリキュア探しを手伝うことになったのであ
る。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/16(金) 20:45:42.48 ID:ha4LqwPlo<>
男子高校生のスマイルプリキュア
第一話 男子高校生と幸せな結末(ハッピーエンド) <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/16(金) 20:46:49.11 ID:ha4LqwPlo<>
生徒会長の指示により、プリキュア探すため、街に出たモトハルと唐沢。
しかし、当然ながらその捜索は難航した。
なぜなら、手がかりらしきものが一切わからないからだ。
「それで、そのプリキュアってのは何なんだ」
唐沢の肩に乗ったキャンディに話しかけるモトハル。
「メルヘンランドの伝説にある5人の戦士クル。メルヘンランドに異変が起こった時、
人間界にいるその5人が助けてくれると言い伝えにはあるクル」
「それが、この街にいると?」
「キャンディのプリキュアセンサーによれば、この街にいるはずクル」
そう言うとキャンディーは渦を巻いた耳らしきものをピクピクと動かす。
これがセンサーなのだろうか。
「何か手がかりはないのかよ」
「残念だけど、ここまでくるのに力を使い果たしてしまったクルよ。だからこれ以上の探知は
できないクル。でも、すぐ近くまで行けばわかると思うクル」
「本当だろうな」
唐沢とモトハルの二人が商店街を歩いていると、制服を着た中学生くらいの二人組とすれ違う。
「今日、CD屋さん寄っていい?」
「ウェヒヒヒ、さやかちゃんも好きだねえ」
「べ、別にあたしはアイツのことなんか!」
「いやあ、CD屋さんがってこと」
「だましたなああ!」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/16(金) 20:47:48.05 ID:ha4LqwPlo<>
「ん?」
「……」
すれ違う二人をじっと見つめるキャンディ。
「どうした」
「いや、ちょっと気になったクル」
「まさかさっきの二人がプリキュアなのか?」
「いや、違うクル。でもああいう感じクル」
「ああいう感じ?」
「そうクル。伝説ではプリキュアは第二次性徴期を迎えた少女のような外見とあったクル。
だから、さっきの子たちと同い年くらいかもしれないクル」
「おいおい、ガキを戦わせるのかよ」
「でも大人だとメルヘンパワーが上手く使えないクルよ」
「しかし」
「モトハル」
その時、今まで黙って肩にキャンディを乗せていた唐沢が口を開く。
「どうした、唐沢」
「お前の姉ちゃんが魔法少女みたいなのになって戦う姿を想像してみろ」
「……」
「……」
「オエエエエ」
まともに想像して思わず吐き気がこみ上げてしまった。
「確かに、中学生くらいが限界か」口元を拭きながらモトハルは言う。
「いや、待て」
「どうした」
「“りんごちゃん”ならいけるかもしれん」
「なるほど、りんごちゃんか」
「りんごちゃんって誰クル?」
りんごちゃんの存在をこの時のキャンディはまだ知らない。
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/16(金) 20:49:18.34 ID:ha4LqwPlo<>
真田東女子高校。
りんごちゃんというのはこの学校の生徒会長のあだ名である。
小柄でショートカットの髪、そしてりんごのような赤い頬が特徴の生徒だ。
今年で18歳らしいのだが、見た目は中学生くらいに見える。
「あれえ? 唐沢くんじゃない。何しに来たの?」
生徒会室に行くと、りんごちゃんがクッキーを食べていた。
真田東女子高の生徒会室は、真田北と違い書類や小道具、それに食べ物などで散らかっている。
(用もないのにいきなり訪ねてきたらおかしいよな。ってか、この部屋汚いな)
モトハルがそんな心配をしていると、
「実は今度の行事のことで少し相談がありまして」
と、唐沢は言った。
(ナイスだ唐沢!)
適当に用件をでっち上げた唐沢を心の中で褒めるモトハル。
しかし、
「あれ? その肩に乗ってるのなに?」
(しまった!)
唐沢はキャンディを肩に乗せたままりんごちゃんに会いに来てしまったのだ。
(くそっ、鞄の中に隠すのを忘れてた)
だが焦るモトハルに対して当のりんごちゃんは、
「かわいい! どこで買ったの?」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/16(金) 20:50:19.60 ID:ha4LqwPlo<>
どうやらキャンディは彼女の好みだったようだ。
「キャンディは売り物じゃないクル!」
「喋ったあ!」
りんごちゃんは唐沢の肩からキャンディを奪い取ると、さきほどクッキーをつまんでいた手で
彼女(?)の頭をグリグリとなでまわす。
「うわああ、何をするクル!」
「きゃわいいいい」
元々赤かった頬を更に紅潮させて喜ぶりんごちゃん。
「ああ、そういう風にやるんですね」
一方キャンディを奪い取られた唐沢は、他の女子生徒に紅茶の入れ方を教えていた。
(一体俺たちは何しにきたんだ)
モトハルがそう思っていると、
「すいませーん」
また別の生徒が生徒会室を訪ねてきた。
見ると、この学校の生徒で髪型がツインテールの少女だ。
「あれ? としゆき?」
「生島か」
どうやらこのツインテールで(りんごちゃんに比べて)胸が大きい女は唐沢の知り合いのようだ。
唐沢は男女問わず知り合いが多い。
「何でここにいんのよ」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/16(金) 20:51:10.75 ID:ha4LqwPlo<>
「生徒会の用事でな。お前こそどうした」
「調理実習でクッキー作ったから、会長にどうかと思って」
生島と呼ばれたツインテールの女子生徒は会長を横目で見た。
「まあでもいいか。としゆき、ちょっと食べて行ってよ」
「会長への差し入れじゃないのか」
「いいから。べ、別にアンタのために作ったわけじゃないんだからね!」
「わかっている、さっき『会長に』って言っただろうが」
「おかしいなあ、こういう風に言うと男はイチコロだって雑誌に書いてあったのに」
「その雑誌は破り捨てたほうがいいな」
「とにかく食べなよ」
そう言って生島はクッキーを差し出した。
「キャンディも食べたいクルー!」
「ああ、待ってよお!」
りんごちゃんの魔の手から逃れたキャンディは、元の唐沢の肩に戻る。
「あれ? 何これ。としゆきのペット?」
唐沢の肩に乗ったキャンディを見て生島は言った。
「まあそんなもんだ」
「キャンディはペットじゃないクル! プンプン」
「まあいいわ。ほれ、としゆき。アーンしなさい」
「何の真似だ、生島」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/16(金) 20:51:49.63 ID:ha4LqwPlo<>
「だってとしゆき、アンタ今両手ふさがってるじゃない」
唐沢は紅茶入れの指導をしていたので、手にはティーカップとポットが握られていた。
「ほれ、あたしが食べさせてあげるから。口開けな」
「面白い冗談だな」
「な、なに照れてんのよ。としゆきの癖に!」
そうは言うが、照れているのは明らかに生島のほうであった。
(くそっ! なんだこの圧倒的な敗北感は)
二人の様子を見ながらモトハルの心には怒りがこみ上げてきた。
今なら唐沢を〇せるかもしれない。
そんなことを思っていると、
「キャンディも欲しいクル」
唐沢の肩に乗ったキャンディが言った。
「まあいいわ。こっちの子にあげるから。はい、アーンして」
「アーン、クル〜」
そう言って生島はキャンディーにクッキーを食べさせる。
パクッ
「ウ……」
数秒後、キャンディーは動かなくなっていた。
「おおおい!!!」
「きゃああああ! キャンディーちゃあああああん」
りんごちゃんの叫び声が生徒会室中に響くのだった。
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/16(金) 20:52:56.69 ID:ha4LqwPlo<>
結局、モトハルたちは何の収穫もなく真田東女子高校を後にした。
「尊い犠牲であった」
相変わらずの無表情で唐沢は言う。
「キャンディはまだ生きてるクル〜」
唐沢の肩の上でキャンディは力なくつぶやいた。
「結局、りんごちゃんはプリキュアじゃなかったんだな」
と、モトハルは確認するように言う。
「当たり前クル。あんな危険人物がプリキュアだとキャンディの身が持たないクル」
りんごちゃんは隙あらばキャンディを抱き上げ、なでまわしていたのだ。
「ついでに毒物まで食べさせられて死ぬかと思ったクル。キャンディじゃなかったら危なかった
クルよ」
キャンディはとても怒っているようだ。
モトハルたちは気を取り直して再び商店街へと戻る。
やはりプリキュアなどそう簡単に見つかるはずもない、そう思ったとき。
「おわっ!」
唐沢が誰かとぶつかった。
「きゃあ!」
見ると、髪を二つにまとめてクロワッサンみたいな形をさせたをした制服姿の少女が尻餅を
ついていたのだ。
横には、桃色の鞄が落ちており、ファスナーを閉め忘れたのかその中身の教科書やノートが
散乱していた。
「あわわわ」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/16(金) 20:53:56.60 ID:ha4LqwPlo<>
少女は慌てて鞄の中身を拾い集める。
「大丈夫か」
その様子を見て、唐沢は素早く拾い集めるのを手伝った。
モトハルもすぐにそれを手伝う。
よく見ると絵本のようなものが何冊か入っている。
「ありがとうございます。ふう、私ってドジだなあ。今日はウルトラハッピーのはずだったのにい」
少女は制服の埃をはたきながらブツブツ言っていた。
「どうも、ご迷惑をおかけしました。し、失礼します」
クロワッサンみたいな髪の毛をピョコピョコ揺らしながら少女は一礼すると、また駆け出した。
「トシユキ! トシユキ!」
唐沢の肩に乗ったキャンディが騒ぎ出す。
「どうした」
「さっきの子、プリキュアセンサーに反応するクル」
小刻みに揺れるキャンディの耳。
「なに?」
「呼び止めて欲しいクル」
「どうやって」
「何でもいいクル!」
「モトハル」
そう言って唐沢はモトハルを見る。
仕方ない、と思いながらモトハルは息を吸った。
「おい! ちょっと待て!」
モトハルがそう呼びかけると、
「え?」
先ほどの少女が振り返る。
「ふぎゃっ!」
そしてこけた。
その時モトハルは思った。
もしかしてこの子はりんごちゃん並みにアホなんじゃないかと。
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/16(金) 20:54:43.51 ID:ha4LqwPlo<>
某ファーストフード店
「たびたびすいません」
モトハルは転んで膝をすりむいた少女に、クラスメイトのヒデノリからもらった絆創膏を
貼ってあげた。
そして、なんやかんやでファーストフード店に連れ込むことに成功したのである。
見る人が見たら完全にナンパである。
しかも相手は中学生だ。
「自己紹介が遅れまして、自分は真田北高校の唐沢と申します」
唐沢がいつも以上に丁寧に自己紹介をする。
それに続きモトハルも自己紹介をした。
「あ、どうも。私、七色ヶ丘中学の星空みゆきと言います」
そう言って星空みゆきはペコリと頭を下げる。
「それで、お話ってなんでしょう」
「……」
モトハルは焦る。
あえて呼び止めてみたものの、いきなり「プリキュアになりませんか」などと言うわけにも
いかない。
何か話のきっかけをつかめれば。
「実は失礼ですけど、先ほど鞄の中身を見てしまいましてね」
と、唐沢は言った。
(一体何を言うつもりだ?) <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/16(金) 20:56:44.16 ID:ha4LqwPlo<>
モトハルは唐沢の言葉に耳を傾ける。
「絵本が入ってましたね。弟さんか妹さんがいるのですか?」
(な、ナイスだ唐沢)
数少ない接点から話の糸口を見つける唐沢のコミュニケーション能力に、モトハルは改めて
感心する。
「え?」
絵本の話をすると星空みゆきの目の色が変わった。
どうやらこの話題は正解だったようだ。
「弟とかじゃなくて、私が読むんです」
みゆきは嬉しそうに言う。
別に恥ずかしがっている様子はない。心底絵本が好き、そんな顔だった。
「唐沢さんも絵本を読まれるんですか?」
「ああ、そうだな」
と、唐沢は答える。
それを聞いてモトハルは思った。
(ウソを付け、お前が絵本を読んでるところなんて見たことないぞ。どうやって話を合わせる気だ)
「どんな本がお好きなんですか?」
みゆきは身を乗り出して聞いてきた。
「モチモチの木だな」
(ええええ!? よりによってアレかよお!)
モチモチの木とは斉藤隆介・作、滝平二郎・絵という、絵も話も女の子向けのメルヘンとは
程遠い和風な絵本である。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/16(金) 20:57:49.87 ID:ha4LqwPlo<>
「本当ですか? 私、モチモチの木だあああい好きなんですよお!!」
(ええええええ!?)
どうやら唐沢とみゆきは、何か惹かれあうものがあったらしい。
しかし、
「早くプリキュアの話をして欲しいクル」
空気を読まない謎生物が唐沢の鞄から顔を出す。
「おい、バカ。まだ出るな!」
モトハルは慌てて隠そうとしたが、みゆきに見つかってしまった。
「かわいいー! なんですかその子?」
「キャンディはキャンディクル!」
「キャンディクル? それがあなたの名前なの?」
「そうクル。ってかクルはいらないクル」
「キャンディね。これ、唐沢さんの飼い犬ですか?」
「キャンディは犬じゃないクル」
「じゃあビリケン?」
(ビリケン!?)
「実は星空みゆきさん、キミに協力して欲しいクル」
「なあに?」
キャンディは一通りの事情を説明する。
「その、伝説の戦士というのが私なんですか?」
と、みゆきは戸惑いながら聞く。
「そうクル。間違いないクル」
「急にそう言われてもなあ」
と、その時。
大きな音とともに店全体が揺れた。
「何があった」
外を見るとなぜか薄暗い。
「どういうことだ!」
急いで店の外に出てみるモトハルと唐沢。
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/16(金) 20:59:19.74 ID:ha4LqwPlo<>
「ウルッフフフ……」
外に出てみるとオオカミのような顔をした人影が見えた。
「何者だ!」
モトハルは叫ぶ。
「俺様の名はウルフルン。人間共、貴様らのバッドエナジーをいただくぜ」
パンクロッカーのような恰好をしたその姿はまさに人狼。
ウルフルンと名乗る狼男は分厚い本を開く。
それと同時に、黒い靄のようなものが広がり、周囲を歩いていた人々がバタバタと倒れていった。
「あれはバッドエンド王国の幹部クル! ついにこっちの世界で行動を始めたクル!」
唐沢の肩に乗ったキャンディが叫ぶ。
「なんだと?」
「こうして人間のバッドエナジーを集めて皇帝ピエーロ様を復活させるのだ!
貴様ら人間はその生贄となれ!」
「オオカミさんやめてー!」
いつの間にか唐沢の近くに来ていた星空みゆきが叫ぶ。
「星空、ここは危険だ。下がっていろ」
唐沢は言った。
「でも……」
戸惑うみゆき。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/16(金) 21:00:09.80 ID:ha4LqwPlo<>
「ウルッフフフ、手始めにこの商店街一帯を滅ぼしてやるか。出でよ、アカンベェ!!」
ウルフルンが光を発すると、商店街の中心に巨大な家の形をした化け物が現れた。
家に手足がついており、不気味なピエロのような顔もある。
「なにい!?」
「あれはキュアデコロの力を悪用した化け物クル! 放っておいたら、周囲の人たちが
巻き込まれて大変なことになるクル!」
「どうすりゃいんだ!」
「メルヘンランドの力に対抗できるのはプリキュアしかいないクル! 早くその子をプリキュア
に変身させるクル!」
そう言ってキャンディはみゆきを見る。
「あたし? ムリムリ! あんな怖いのとは戦えないよ!」
彼女は涙目でクビを振った。当然の反応と言える。
その時、
「待てい!!」
聞き覚えのある声がした。
「誰だ!」
モトハルたちとは別方向に、見覚えのある二つの人影。
「随分俺たちの街で好き勝手やってくれてるじゃないか」
メガネをかけた制服姿の少年が言う。
「へっ、許せねえな」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/16(金) 21:00:51.73 ID:ha4LqwPlo<>
同じ制服で、金髪の少年もそれに続いた。
「ヒデノリ! ヨシタケ!」
二人はモトハルたちのクラスメイト、ヒデノリ(メガネ)とヨシタケ(金髪)であった。
「街のヒーローとしては、こんな化け物の跋扈はゆるされんな」
と、ヨシタケは輪ゴムを指にはめながら言った。
「ふっ、俺の隠された実力を発揮する場所がついに現れたか」
どこから持ってきたのか知らないけれど、変な木の棒を持ってヒデノリも言う。
「何者だ貴様ら!」
ウルフルンは二人に向かって叫ぶ。
「通りすがりの正義のヒーローさ」
「いっちょやっちゃいますか」
そう言って二人は構えた。
「モトハル! あの二人は何者クルか?」
キャンディはモトハルに聞く。
「いや、ただのクラスメイトだけど」
「止めたほうがいいクル。一般人があいつらには勝てないクル」
「止めても無駄だろうな」
と、唐沢は言った。
「どうしてクル?」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/16(金) 21:01:49.47 ID:ha4LqwPlo<>
「あいつら、バカだから」
「へ……」
一分後
「ぐおお……」
「……」
「……弱すぎるぞお前ら」あきれ顔でウルフルンはつぶやく。
アカンベェの一撃に、二人は速攻でノックアウトされてしまったのだ。
「だ、大丈夫クルか?」
「問題ない」と唐沢。
「ああ、死んでなければ大丈夫だろう」
モトハルも言った。
「しかしマズイな」
「ああ、不味い」
先ほどの(一瞬で終った)ヒデノリたちの戦いを見ても、相手の化け物は一般人で叶うような
相手ではないことは明白だ。
アークデーモンでもない限り、まともに対抗はできないだろう。
そんな時、唐沢は言った。
「モトハル」
「どうした」
「星空とキャンディを頼む」
そう言うと、唐沢は肩に乗せていたキャンディをモトハルに渡す。
「おい、何をする気だ」
「どうするクル!?」
「俺が時間を稼ぐ。その間に星空やほかの人たちを避難させていてくれ」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/16(金) 21:02:46.70 ID:ha4LqwPlo<>
「おいバカ! さっきのヒデノリたちの様子を見ただろう。俺たち一般人の敵う相手じゃねえ」
「わかっている。だがこのままだとお前たちまでやられてしまうだろうが」
「唐沢!」
「しっかりするクル! あいつらと戦うにはプリキュアしかないクルよ!」
「プリキュアプリキュアって言っても、今は」
「キャンディ」
その時、今まで黙っていた星空みゆきが声を出した。
「どうしたクル?」
「わたし、やる」
「へ?」
「プリキュアになれば皆が助かるんでしょう?」
「おい、星空」
モトハルはみゆきの顔を覗き込む。恐怖のためか、目にたくさんの涙をためているのが
わかった。
「プリキュアって変身ヒーローみたいな感じでしょう? どうやったらなれるの?」
「これを使うクル!」
「へ?」
気が付くと、みゆきの手にコンパクトのようなものがあった。
「これは」
「スマイルパクトクル! これを開いて『プリキュア、スマイルチャージ』と叫ぶクル」
「おい、本当に戦わせる気か?」
モトハルは聞く。
「今はこれしか方法がないクル」
「わかったよ」
周囲のピンチによって覚醒したみゆきは、戦いへの決意を固めるのだった!
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/16(金) 21:03:27.05 ID:ha4LqwPlo<>
「ウルッフフフ、お前らまだ逃げていなかったのか。まあ、いずれにせよこの世界は滅ぼすから、
どこへ逃げても同じだがな」
商店街でバッドエナジーを集めていたウルフルンがこちらの様子に気づいて近づいてくる。
もちろん、アカンベェと呼ばれる化け物も一緒だ。
「これ以上好き勝手はさせない!」
そう言ってみゆきは一歩前に出た。
「プリキュア、スマイルチャージ!!!」
コンパクトを開いてみゆきが叫ぶ。
すると、まばゆいピンク色の光が彼女の周りを包む。
「なんだアレは!」
「あれこそ伝説の戦士、プリキュアクル!」
「プリキュア!?」
まばゆい光の中から、やや濃いピンク色の衣装に身を包んだ星空みゆきが姿を現した。
衣装だけでなく、髪型まで変わっている。
「キラキラ輝く未来の光! キュアハッピー!!」
そして決めポーズまでやってのけるのだった。
キュアハッピーというのはなんだろうか。
彼女の名前だろうか。
「うお、なんかよくわからんがすげえ」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/16(金) 21:03:54.66 ID:ha4LqwPlo<>
驚きの声を上げるモトハル。
「あれ? 私どうしちゃったの?」
みゆき自身、自分の変化に驚いているようだ。
「キミは伝説の戦士プリキュアに見事変身したクルよ! それで相手を倒すクル!」
「倒すってどうやって」
「くっ、何がプリキュアだ小賢しい。やれ! アカンベェ!」
「アカンベエエエエエエエ!!」
大きな家に手足の生えた化け物、アカンベェがみゆきを襲う。
「跳べ!」
唐沢がそう叫ぶと、みゆきは跳んだ。いや、飛んだという方が正しいか。
かなり高く。
「高あ……」
数百メートルはあろうかという大ジャンプをかましたみゆきは、アカンベェの真上に落ちる。
その衝撃たるや、並大抵のものではないだろう。
物凄い音とともに、アカンベェの身体が文字通り“へしゃげた”
「ぐおおおおお!」
「ああ、ごめんなさい」
慌てて化け物から飛び退くみゆき。
「くそ、ふざけやがって。やれ! アカンベェ」
ウルフルンは叫ぶ。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/16(金) 21:05:00.38 ID:ha4LqwPlo<>
「アカンベエエエエエエ!!」
頭が若干凹んだ状態でアカンベェは再び動き出した。
「どどど、どうすればいいの!?」
戸惑うみゆき。
普通の中学生がいきなり戦えと言われても戸惑うのも無理はない。
「このまま敵を倒しても不味いクル! プリキュアの力で悪の力を浄化する必要があるクル!」
「浄化ってどうすれば」
そう言っているうちに、再び敵が襲い掛かってくる。
「アカンベエエエエエエ!!」
「星空! 横に回り込め!」
再び唐沢が叫ぶ。
「ほえ?」
みゆきは言われた通り素早くアカンベェの側面に回り込む。
「行け! 殴れ!」
「よおし、ハッピーパーンチ!!!」
そう言ってみゆきは正拳突きをくらわす。
すると、アカンベェの側面が大きく凹んで吹き飛んだ。
「うぎゃあああああ」
吹き飛ばされた化け物は、八百屋に突っ込む。
「凄いパワー……」自分で自分に驚くみゆき。
それを見たウルフルンは、
「くそ、プリキュアの力を甘く見ていたようだ。こうなったら」
「気を付けろ星空! 敵は何かをたくらんでいるぞ!」
「え?」
唐沢がそう言った時はもう遅かった。
ウルフルンの攻撃はすでに始まっていたのだ。
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/16(金) 21:05:28.38 ID:ha4LqwPlo<>
「おい小娘!」
ウルフルンが叫ぶ。
「小娘じゃないよ、キュアハッピーだよ!」
「世界はバッドエンドを迎えるのだ! 邪魔をするな」
「バッドエンドなんて迎えさせないよ! ハッピーエンドにするんだもん!」
「ハッピーエンドだと?」
「そうだよ。物語はいつもハッピーエンドなんだ」
「何をバカなことを」
「へ?」
「いいか小娘、物語がいつもハッピーエンドとは限らない。それは絵本でも同じだ」
「何を……」
「ウルフルンの精神攻撃クル! 耳を傾けてはいけないクル!」
キャンディが叫ぶが、その言葉はみゆきには届かない。
「……どういうこと」
「ウルッフフフ。『マッチ売り』の少女を知っているだろう」
「へ」
「『幸せな王子』『鶴の恩返し』『かわいそうなぞう』『わすれな草』……」
「やめて!」
「『フランダースの犬』」
「いやああああああ!!」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/16(金) 21:06:02.71 ID:ha4LqwPlo<>
悲しみに包まれたみゆきはその場を動けなくなってしまった。
「今だ! アカンベェ、やってしまえ」
「アカンベエエエエエエ」
二度の攻撃によってぼこぼこにされたアカンベェが再び起き上がり拳を振り上げる。
「死ねええええ!!!」
「ひい……」
思わず目をつぶるみゆき。
攻撃体勢に入っている敵を目の前にしているのだ。
これから物凄い衝撃がくることを覚悟した。
しかし、不思議と痛みは感じない。
それどころか、自分の空だがふわりと浮かんでいるようにすら覚えた。
「私……、死んじゃったのかな」
「面白い冗談だな、星空」
「え?」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/16(金) 21:06:50.72 ID:ha4LqwPlo<>
目の前には、白い帽子を被った少年がいた。
「うっ!」
唐沢である。彼はみゆきを抱いて横に跳んでいたのだ。
直後、足元から物凄い音と衝撃はを感じた。
見ると、アカンベェが拳でアスファルトを破壊している。
プリキュアとして物凄い力を手に入れたみゆきとて、あの衝撃をくらったらタダではすまない
だろう。
「ぐふっ!」
唐沢はみゆきを抱いたまま地面に叩き付けられる。
「唐沢さん! 私なんかを助けて」
「気にするな星空。それより今は敵だ」
「でも……」
二人はアカンベェを見る。
「アカ、アカン……」
「何やってるんだアカンベェ!」ウルフルンが叫ぶ。
どうやらアカンベェは地面に拳をめり込ませたようで、抜こうとしてもがいている。
「そうか、私。悲しいお話を思い出して……」
みゆきの心が沈む。しかし、そんな彼女に唐沢は言った。
「星空、世の中は幸せなことばかりじゃない」
「え?」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/16(金) 21:07:51.88 ID:ha4LqwPlo<>
「悲しいこともある。腹の立つこともある」
「……」
「だからこそ、幸せは尊いものだ。違うか」
「唐沢さん」
その時、彼女の腰にあったスマイルパクトが光る。
「これは?」
「スマイルパクトに気合がたまったクル! これで必殺技を出せるクルよ!」
「キャンディ!」
いつの間にか唐沢の傍にきていたキャンディはみゆきに言った。
「プリキュアはただ敵を倒すだけの存在ではないクル。悪い力を良い力に浄化する能力のある
戦士クル!」
「星空」
「わかったよキャンディ。それに唐沢さん!」
そう言ってみゆきは頷いた。
「よおし、やっちゃうぞ。気合だあ! 気合だ気合だ気合だああ!!」
再び気合を込めるみゆき。
「アカンベエエエエ!」
やっと地面から手を抜いたアカンベェ。どうやら水道管を突き破ったようで水が噴き出した。
どこまで深く腕を突き刺したのか。
「グダグダするな。さっさとやってしまえアカンベェ! ヘックシュン! 水に濡れた、
早く帰らないと風邪引いちまう」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/16(金) 21:08:30.79 ID:ha4LqwPlo<>
水道水でずぶ濡れになったウルフルンが叫ぶ。
「アカンベエエエエエ!!!」
「確かにこの世はハッピーばかりじゃないかもしれない」
「アカンベエエエエ!!」
「でも――」
「ウガアアアア」
「だからこそ、私たちがハッピーを作るんだ」
ドスンというアカンベェの攻撃を跳躍でかわすみゆき。
しかし今度はそれほど高くない。
「覚悟してね、お化けさん」
そう言うと彼女は両手で大きくハート型を作る。
「プリキュア・ハッピーシャワアアア!!!」
彼女の気合とともに、まばゆい光が発せられた。
「グオオオオオオオオ!!!!」
明らかに今までの攻撃とは違う。
「ギャアアアアアアア!!!!」
敵の叫び声が消えた頃、いつの間にかウルフルンの姿も無くなっていた。
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/16(金) 21:10:06.65 ID:ha4LqwPlo<>
「――ぞら」
「――しぞら」
「星空」
「へ?」
みゆきが目を開けると、そこには見覚えのある帽子の少年の顔があった。
「唐沢さん?」
「気が付いたか」
「あれ? 私」
周囲を見ると、いつもの商店街に戻っていた。
「立てるか」
「あやや」
どうやらみゆきは、唐沢によって“お姫様抱っこ”をされていらしい。
「あれれ!」
自力で立ち上がると、彼女の周りには唐沢とモトハル、そして唐沢の肩にキャンディがいた。
「これでプリキュアが見つかったわけだな」
と、ヒゲのモトハルはキャンディに聞く。
「そうクル」
「じゃあ俺たちの役目は終わったわけか」
と唐沢。
「ええ? どういうことですか?」
みゆきは悲しげな声で聞いた。
終わりという言葉が彼女にとってやけに悲しく響いたからだ。
「俺たちの役目は、プリキュアを探すのを手伝うことだ。今こうしてプリキュアが見つかった
わけだから、もうおしまいだ」
モトハルは言う。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/16(金) 21:10:53.42 ID:ha4LqwPlo<>
「そんな」
「キャンディのこと、よろしく頼む」
唐沢は肩に乗せていたキャンディを両手で掴むと、それをみゆきに差し出す。
「ちょっと待つクル」
「ん?」
「プリキュアはまだ見つかってないクルよ」
「いや、ちょっと待て。ここにいる星空がプリキュアじゃないのか」
「確かに彼女はプリキュアクル。でも、ほかにもいるクルよ」
「は?」
「プリキュアは全部で五人いるクル。あと四人、見つけて欲しいクル」
「ちょっと待て」
「プリキュアは全員で五人クル!」
「いや、でもまあ一人は見つかったわけだし」
恐る恐るモトハルは言った。
「こんな小さな女の子を一人で戦わせる気クルか?」
「お前が言うな」
「とにかく」
そう言うとキャンディは、再び唐沢の肩の上に乗る。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/16(金) 21:11:28.62 ID:ha4LqwPlo<>
「物語は始まったばかりクル」
「は?」
「そうです、一緒の残りのプリキュアも見つけましょう」
みゆきは唐沢の左腕に抱き着いて言った。
「やれやれ」
「おい、やるのか唐沢」
モトハルは心配そうに聞く。
「乗りかかった船だ。最後までやってやるさ」
「ちょっ……!」
「やっほおう! 新しい出会いでウルトラハッピー!」
みゆきは嬉しそうに言った。
「……」
こうして、とある男子高校生と女子中学生たちによる戦いの物語が幕を開けるのだった。
つづく
<>
イチジク ◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/16(金) 21:20:23.84 ID:ha4LqwPlo<> はじめてのかたは、はじめまして。
前スレ、『魔法少女とハリマ☆ハリオ』から応援してくださったかた、お久しぶりです。
私です。
何を思ったか、スマイルプリキュアですよ。
プリキュアとか、ほとんど見たことがなかったんですけど、今回は福圓さんが主役ということで、
見てしまいました。
あと、男子高校生の日常は生徒会執行部の面々がすごく好きなので、今回は彼らを主役にして
活躍させようと思った次第です。
それでは、今回も短いですがよろしくお願いします。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/16(金) 21:41:29.29 ID:jskfM/GIO<> 男子高校生しか知らないけど期待してる
唐沢がイケメン過ぎてヤバい <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/16(金) 21:50:26.68 ID:xC3JydwDO<> 生徒会の何でも屋設定はクロスに使いやすいよね
「とある」とかの事件系でも何だか行けそうだし、「生徒会役員共」とかの同じ日常系でもありだろうし
ちょっとでも学校絡んでたらけっこう行けちゃうね <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2012/03/17(土) 07:40:27.30 ID:+EdVjULho<> よく出来てるな
マジで期待してるぞ <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/17(土) 20:28:16.58 ID:ITLhnw4lo<> さて、第二話行きましょうか。今日はですね、燃えるようなあの人が出ます。
あと、中央高校のあの人もゲスト出演。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/17(土) 20:28:52.71 ID:ITLhnw4lo<>
第二話プロローグ
土曜日の真田北高校生徒会室。
この日の放課後、モトハルと唐沢の二人は生徒会室で今後の方針を話し合っていた。
方針というのは、唐沢がキャンディと名乗る謎の生物を拾ってきたことによって
巻き込まれた「プリキュア探し」についてである。
「プリキュアはこの街にいるクル。それは間違いないクル」
生徒会室のテーブルの上でそう熱弁するのは、当のキャンディである。
「そうか」
教科書を眺めながら唐沢は答えた。
「で、これからどうするんだ」
そう聞いたのはモトハルだ。
「とにかく早くプリキュアを見つけるクル。そうしないと、また変な怪物が出現してしまうクル」
「確かに、あんな怪物を星空一人で相手にするのはキツイかもな」
「そうなんです。私も大変でした」
「だからタカユキやモトハルには、今日も探しに出て欲しいクル」
「はあ……」
モトハルは大きくため息をつく。
「どうしたクル?」
「それより腹減ったな」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/17(土) 20:29:39.40 ID:ITLhnw4lo<>
「わたしもおなかすいた」
「キャンディもおなか減ったクル」
「どこか食べに行くか」
と、唐沢。
「いいな。何が食べたい」
モトハルは聞いた。
「ナポリタン」
「俺はかつ丼がいいな」
「キャンディはうなぎクル」
「そんな高いものはダメだ」
冷たく言い放つ唐沢。
ちなみにキャンディの食費は彼が負担している。
「はいはーい。私いい店知ってますよ」
「ん?」
二人は声のした方に目を向ける。
「なんでナチュラルにここにいるんだ、星空」
「え? 今日学校は午前中で終わりですし」
制服姿の星空みゆきがそこにいた。
「ここ男子校だし」とモトハル。
「それ以前にここは高校だろう」
冷静にツッコミを入れる唐沢。
「それより、お昼ご飯早く行きましょうよ」
「……」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/17(土) 20:30:24.91 ID:ITLhnw4lo<>
男子高校生のスマイルプリキュア
第二話 男子高校生と熱い心(サンシャインハート) <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/17(土) 20:30:55.20 ID:ITLhnw4lo<>
モトハルとキャンディを肩に乗せた唐沢、それに星空みゆきの三人と一匹は街中にある
お好み焼き屋に来ていた。
「ここか……」
「ささ、入って入って」
みゆきに引っ張られるように店に入る唐沢。そしてモトハルはその後をついて行った。
「いらっしゃい」
「あれ? あかねちゃん?」
「やあ、みゆきやないの」
中ではエプロンをつけた中学生くらいの少女が働いていた。前髪にヘアピンを付け、
少し長めの髪の毛は後ろで束ねている。
身長は、みゆきよりも高い。
「知り合いなのか」
と、唐沢は聞く。
「うん。同じクラスの日野あかねちゃん。ここは、あかねちゃんの家の店なの」
「そうか」
「なんやお二人、みゆきのお兄ちゃんか?」
「ううん、違うよ。二人はええと……」
「遠い親戚だ」
すかさず唐沢は言う。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/17(土) 20:31:51.45 ID:ITLhnw4lo<>
こういう状況での彼の機転には毎回感心するモトハルであった。
「え? そうなの?」
と、みゆき。
「お前は少し空気を読め」
モトハルはそう言って彼女の頭を押さえつけた。
「まあええわ。ほな、三人とも空いてる席へどうぞ。今お水出すから」
「でもあかねちゃん。今日部活があるんじゃないの?」
と、みゆきは聞く。
土曜日なら普通、部活動があるはずだ。
「え? 部活? ん、まあ今日は休みやから」
「そうなの」
「そうやで。ささ、そないなところに立ってないで、早う座ってえな」
「あ、うん。唐沢さん。こっちに行きましょう」
「……」
「唐沢さん?」
「ああ」
唐沢は、何か思うことがあったようであかねの姿をじっと見つめていた。
「あいつなのか」
「うん、間違いないクル」
そして肩に乗せているキャンディと小声で何かを話している。
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/17(土) 20:32:28.18 ID:ITLhnw4lo<>
昼食の時間を少し過ぎていたので、店の中の客はまばらだった。
髪の長いセーラー服を着た女子生徒が一人でお好み焼きを焼いているのを見て、
モトハルは一瞬自分の姉ではないかと少しビビッてしまう。
幸いにもその子は姉ではなかった。
鉄板のある座敷のテーブルに座る三人(と一匹)。
「さっきからキャンディと何を話していたんだ? 唐沢」
座ってからモトハルは先ほどから気になっていることを聞いてみた。
「少し気になることがあってな」
「ん?」
「ちょっと待て」
唐沢がそう言うと、その直後あかねがお冷やを持ってくる。
「お待たせしました」
お冷やとおしぼりをモトハルたちの前に置くあかね。
「ご注文お決まりになりましたでしょうか」
「チーズがいいな」
真っ先に決めたのはみゆきだった。
「じゃあ俺は豚玉」
と、モトハル。
「ミックス……、いやネギ豚を」
最後に唐沢が決める。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/17(土) 20:33:14.50 ID:ITLhnw4lo<>
「かしこまりました」
伝票に書き込むあかね。
「……」
そんなあかねの様子を、唐沢はじっと見ていた。
「あの、お客さん」
「どうした」
唐沢の視線に気が付いたあかねが声をかける。
「ウチの顔に、なんか付いてます?」
「……いや」
そう言うと唐沢はあかねから目を逸らした。
「あと、肩に乗っている“それ”は、はずいといたほうがいいですよ。鉄板の上に落ちたら
大変ですし」
「そうだな」
「ほな、失礼します」
そう言って一礼したあかねは、店の奥に戻って行った。
「おい唐沢。さっきから何じっと見てたんだ? もしかしてああいうのが唐沢のタイプか?」
「面白い冗談だな、モトハル」
「じゃあどうして見てたんですか?」
そう聞いたのはみゆきだった。
「少しキャンディがな」
そう言って肩のキャンディを見る唐沢。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/17(土) 20:33:40.79 ID:ITLhnw4lo<>
「うん、あの子にキャンディのプリキュアセンサーが反応したクル」
キャンディはそう言った。
「え? ってことは」
「もしかしてあの子が」
「二人目のプリキュアクル」
キャンディは嬉しそうだ。
「まさかこう簡単に見つかってしまうとは……」
「じゃあ早速話をしに行こう」
みゆきは立ち上がった。
「まて星空」
そんなみゆきのスカートを掴んで止める唐沢。
「ふわあ」
みゆきはバランスを崩してその場に尻餅をついてしまった。
「はっぷっぷー。何するんですか唐沢さん」
「いきなりそんな話をして、はいそうですかと付いてくるやつがいるか」
「……そうですけど」
「ここは時間をかけて近づいたほうがいいかもしれないな」
と、モトハル。
「そんな悠長なことをやっている時間は無いはずクル。こうしているうちにも、
バッドエンド王国の連中は色々と悪いことを企んでいるはずクル!」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/17(土) 20:34:27.56 ID:ITLhnw4lo<>
「そうですよ。またあんな化け物が出てくる事態になったら大変なんですから」
みゆきもキャンディに同意しているようだ。
確かに当事者としては、一人でも仲間がいたほうが心強いかもしれない。
「お待たせしましたあ」
そう言ってあかねはお好み焼きのタネを差し出す。
「……」
「ど、どうぞ」
相変わらず、唐沢はあかねの表情をじっと見ていた。
何か気になることがあったのだろうか。
そんなことを考えながら、モトハルはお好み焼きを焼き始めた。
「そういえば最近……」
不意にみゆきが声を出す。
「ん?」
「あかねちゃん、元気ないみたいなんです」
「どういうことだ」と、唐沢が聞く。
「どうも、部活のバレー部で上手くいってないみたいで」
「上手くいってない?」
「はい。あかねちゃん、最近ちょっと調子がよくないみたいで、レギュラーも外されて
ショックを受けているって、話を聞いたことがありまして」
「そうなのか」
「……」
モトハルは唐沢の様子を見て思った。
(唐沢のやつ、何か考えてやがるな)
付き合いは長いので、そういうことはわかるのである。
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/17(土) 20:35:30.24 ID:ITLhnw4lo<>
数日後、部活動を終えた日野あかねは一人河川敷の広場でボールを打っていた。
「……」
ここ最近、彼女はバレー部の練習や試合で不振が続いていた。
(おかしいなあ。少し前やったら簡単にアタックとか打てとったのに、今は全然打てへん)
いわゆるスランプである。
入部当初からその運動神経の高さから、メキメキと上達していったあかねだが、
ここ数か月は頭打ちになってしまっていた。
それどころか今まで簡単にできていたプレーすらできなくなってしまっていたのだ。
(体調も悪くない。怪我もしていない。なのに何で)
今まで勝っていると思われていた同級生にもレギュラーを取られてしまう現実。
(どないすればええんやろ……)
途方に暮れた彼女はひたすらボールを打つ。
その時、不意にボールがそれて別の場所に転がってしまった。
「おっと」
ボールを追いかけるあかね。
しかしその先には、
「あ……、あなたは」
「……」
真田北高校の制服を着た男子生徒。真っ白な帽子と肩に乗せた変なぬいぐるみ
みたいな動物が特徴的な相手だった。
「確かあなたは唐沢さん、でしたよね」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/17(土) 20:37:08.95 ID:ITLhnw4lo<>
「そうだ」
唐沢は先ほど転がったボールを拾い上げて答える。
「何か、ご用ですか」
「バレーの練習をしているのか」
「ええ、まあ……」
誰にも見られないようにこっそり練習していたのに、見つかってしまい気恥ずかしいと
あかねは思った。
「最近伸び悩んでいるから、こっそり一人で練習をしている、といったところか」
「べ、別に関係ないでしょう!」
図星をつかれてあかねは少しムキになってしまうあかね。
「確かに、俺には関係ないかもしれない。だが、お前を心配しているやつもいるんだぞ」
「それって、みゆきのことですか」
「少し話を聞かせてもらった」
「ったく、アイツは」
授業中など、普段の生活では極力悩んでいる姿を見せないようにしていたあかねであった
けれど、やはり隠しきれるものではないと思い少し後悔した。
しかし、それと同時に自分の不調を見ぬいてくれた友人のことを考えて少し嬉しくなる。
「へえ。そういえば、ウチも唐沢さんのこと、少しだけ知ってますよ」
「……」
「小学校のころから、色々な人を助けているんですよね。噂は聞きました」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/17(土) 20:38:00.91 ID:ITLhnw4lo<>
「……」
「今度はウチの相談に乗ってくれるんですか?」
「……」
唐沢は答えない。
「でも無理ですよ。ウチは今、バレーのことで悩んでます。唐沢さん、バレーの経験は
ないですよね。それじゃあ、多分意味ないと思います」
「確かに、俺にバレーの経験はない」
そう言うと唐沢は肩に乗せた変な動物を地面に置く。
そして少しステップを踏むと、ゆっくりと持っていたボールを真上にあげた。
「え?」
一瞬の跳躍。
唐沢は、あかねがバレー部で見たほかの誰よりも高く飛び上がり、身体を弓のように
“しならせて”ボールを打った。
「……!」
そしてボールは彼女の足元に叩き込まれる。
「だ、弾道が……」
ボールの軌道が見えない。
スタッと軽く着地をした唐沢は何事もなかったように変なぬいぐるみみたいな生物を
拾い上げると、再び肩に乗せた。
「凄いアタック……。唐沢さん! 今の誰に習ったんですか」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/17(土) 20:38:35.39 ID:ITLhnw4lo<>
「お前は誰かに歩き方を習ったか?」
「へ?」
「日野。本当に大事なものっていうのは、誰かから教えてもらうものじゃない。
自分で見つけるものだ」
「せ、せやけど……」
「じゃあな」
そう言うと唐沢は背中を向け歩きだす。
「ま、待ってください」
あかねは駆け寄り、唐沢の上着を掴む。
「……」
唐沢は立ち止まり、あかねの顔を覗き込む。
「唐沢さん。ウチ、自分でもどないしたらいいのかわからないんです。がむしゃらに練習をしても、
全然上手くいかへんし、試合にも出られへんようになったから、どうしたらいいかと」
あかねは言っているうちに涙が出そうになった。
今まで誰にも言えなかった切実な悩みだ。
「日野……」
唐沢は言った。
「は、はい」
「俺にはバレーはわからない。だが、お前が何かを見つける、その手伝いはできるかもしれない」
「何をするんですか?」
「それは……」
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/17(土) 20:39:17.01 ID:ITLhnw4lo<>
その後、唐沢に連れられたあかねは、近所の道場に来ていた。
その場所には、唐沢が呼んだという一人の女子高校生が待っていた。
「そんで、何の用なんだとしゆき。もしかして愛の告白かい?」
「面白い冗談だな、柳」
「用件あんならさっさとしてくんないかな。あたしは色々と忙しいんだよ」
柳と呼ばれた短めの髪のメガネをかけた女子高校生はそう言って腕を組む。
「そこにいる“かわいこちゃん”は誰だ? もしかしてとしゆきのコレか?」
柳はあかねを見て小指を立てた。
それを見て中学生のあかねはドキリとする。
「相変わらずお前は下品だな。だから他の男子生徒からドン引きされるんだろうが」
しかし唐沢のほうは、慣れているようで動揺している様子はない。
「引かれてねえよ! ってか、普通に仲良しだい!」
「わかった。用件に入ろう。まずはコイツの紹介だ」
そう言って唐沢はあかねを柳の前に出す。
「あ、はじめまして。七色ヶ丘中学二年二組の日野あかねといいます」
「おう。あたしは中央高校の“やなぎ”だ。よろしくな」
「はい」
「それでとしゆき。あたしとこの子を会わせて、何をするつもりなんだい?」
柳は唐沢の方を見て聞いた。
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/17(土) 20:39:59.94 ID:ITLhnw4lo<>
「こいつに空手の“型”を教えてやってくれ」
「空手? 喧嘩でもさせるのかい? だったら羽原にでも頼んだ方が」
「柳」
「わかったよ。冗談冗談。でもあたし、空手は中学の時にやめちゃったからな」
「簡単な型でいい。ごく基本的なものだ。まだ覚えているだろう」
「まあ、別に覚えてはいるけど。でもめんどくさいなあ」
「タダでとは言わん」
そう言うと、唐沢はポケットから数枚の紙を取り出す。
「なんだそれ」
「日野の家はお好み焼き屋なんだ。お前に、この店のタダ券をやる。それが報酬だ」
「マジで? お好み焼き?」
柳の目の色が変わる。
「もー! しょーがないわねー! 教えてあげる!」
「あの、唐沢さん」
ノリノリの柳に対して、不安そうなあかねは唐沢に聞く。
「どうした」
「空手の型って、どういうことですか?」
「言った通りだ。今日、お前は柳(コイツ)から空手を習う」
「でも、それってバレーと関係ないんじゃ」
「日野」
「はい」
「今にわかる」
「はい?」
「わからないならわかるまで考えろ。とりあえず着替えて、もう一度ここに集合だ」
「は、はい!」
唐沢から練習用の道着を受け取ったあかねは、更衣室に着替えに行くことにした。
「さあ、張り切っていくわよお!」
道場では制服姿の柳が元気よく準備体操をしていた。
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/17(土) 20:40:47.80 ID:ITLhnw4lo<>
そして一週間後の週末。
唐沢とモトハルは七色ヶ丘中学に来ていた。
この日、他校と練習試合を行うことになっていので、その様子を見に来たのだ。
「あかねちゃん、大丈夫なのかなあ」
同じく応援に来たみゆきも心配そうにしている。
彼女の話だと、日野あかねはここ最近ずっと調子が悪かったというから、この試合でも
出場できるのかわからなかった。
「あ、あかねちゃんだ」
体育館のギャラリーから、あかねの姿を見つけるみゆき。
どうやら今日は試合に出られるらしい。
体育館のギャラリーから試合を見ていると、この日あかねはスターティングメンバ―に選ばれていた。
(調子が悪くてもスタメンに入れるのか)
この時、モトハルはそんな風に思っていた。
しかし、実際に試合がはじまってみると違った。
「どりゃあ!」
いきなりあかねのスパイクが決まる。
「なに!?」
更にブロック、そして難しい球のレシーブなど、この日のあかねは縦横無尽の活躍をしていた。
「凄いよあかねちゃん! 大活躍だよ!」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/17(土) 20:41:27.09 ID:ITLhnw4lo<>
あかねの活躍に、みゆきは興奮していた。
「おい唐沢、あの子は調子が悪かったんじゃなかったのかよ」
モトハルは、隣の唐沢に向けてそう聞いた。
今、目の前で活躍している少女はどう見ても調子が悪いようには見えなかったからだ。
むしろ絶好調と言ってもいい。
「なるほど。思った通りだ」
しかし唐沢は、モトハルの質問には直接答えず、一人で何かを納得したようにうなずいていた。
「おい唐沢」
モトハルが問い詰めようとしたその時、
「な!?」
一瞬空が暗くなり、不穏な空気を感じた。
「はっ! この気配はまずいクル!」
「起きたか」
バレーには全く興味がなかったためか、唐沢の鞄の中で眠っていたキャンディが急に起きて
鞄から飛び出す。
「近くにバッドエンド王国の連中が来ているかもしれないクル」
「なに? こんな時に……」
モトハルは歯がゆい思いを感じたが仕方のないことである。
「ええ? 出動ですか?」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/17(土) 20:42:02.79 ID:ITLhnw4lo<>
と、みゆきも聞く。
「ああ、どうやら敵が出てきたらしい」
唐沢は冷静に言った。
「じゃあ、行きましょう」
モトハルたちはギャラリーから下に降りて体育館の扉を開ける。
すると、
「ぐっ!」
目が痛くなるような“瘴気”が彼らを襲う。
よく見ると、外で部活動などをしていた学校の生徒たちが軒並み倒れている。
「あそこに誰かいるクル!」
キャンディが指さす方向、そこには見覚えのある人狼のシルエットがあった。
「オオカミさん!?」
と、みゆきは叫ぶ。
オオカミさんというのはバッドエンド王国のウルフルンのことだ。
「ウルッフフフ。お前ら、ここにいたのか。まあいい、ついでに始末してやる」
そう言うとウルフルンは赤い球を取り出す。
「出でよ! アカンベェーー!!」
掛け声とともに、巨大な化け物が姿を現した。
今度の化け物は巨大なボールに手足が生えたような形をしている。
「アカンベエエエエエエエ!!!」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/17(土) 20:42:32.38 ID:ITLhnw4lo<>
相変わらず不気味な顔と不気味な声である。
「みゆき!」
キャンディが叫ぶ。
「うん、わかった」
そう言ってみゆきはスマイルパクトを取り出す。
「プリキュア・スマイルチャージ!」
みゆきが叫ぶと全身が光に包まれる。
そして、ピンク色の衣装にやたらボリュームの多い髪の毛のプリキュアが登場した。
「キラキラ輝く未来の光! キュアハッピー!」
そして両手を大きく広げたポーズをしてみせるキュアハッピーこと星空みゆき。
「それは毎回やらないとダメか?」
と、モトハルは聞いてみる。
「その、アレですよ! 気持ち!?」
みゆきは恥ずかしそうに答えた。
「やってしまえアカンベェ!」
そんな様子を見ていたウルフルンが叫ぶ。
「させないわ! 今日こそオオカミさんごと捕まえてあげるんだから!」
みゆきは気合を込めて敵に立ち向かった。
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/17(土) 20:43:12.34 ID:ITLhnw4lo<>
気が付くと目の前が暗い。
(あれ? おかしいな。ウチは確か、練習試合に出とったはずなんやけど)
ほんの少し前までバレーの試合に出ていたと思っていたあかねは、夢でも見ていたのかと
思い重たい身体を起き上がらせる。
(いや、ちゃう。夢やあらへん!)
周囲を見回すと、そこは間違いなく学校の体育館であった。
更によく見ると、チームメイトや他校の生徒が倒れているのだ。
「どないしたん! 大丈夫?」
すぐ近くで倒れている生徒に声をかけるあかね。
しかし反応がない。
「一体どないなっとんねん」
再び周囲を見回すと、体育館の扉が開いており外で微かに声が聞こえていた。
体育館の中は薄暗く、微妙に靄がかかっているようにも思える。
(なんやわからんけど、とりあえず外に出てみるか)
そう思ったあかねは、そのまま体育館の外に出て校庭を見る。
すると、
「どりゃあああああ!!!」
「アカン、そこはアカンベエエ!!!」
グラウンドの真ん中で、巨大な丸い化け物と小さな少女が戦っていた。
「へ? なんや。映画の撮影か」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/17(土) 20:43:49.74 ID:ITLhnw4lo<>
一瞬そう思ったあかねだが、外でも数人の生徒たちが倒れているのを見て、考えを改める。
(どうもちゃうみたいやな……)
あかねは上履きのまま体育館の外に出ると、頭がクラクラしてきた。
(なんやこの空気)
目に見える、黒い靄みたいなものが身体から力を奪い取っているような感じだ。
校庭に近づくと、見覚えのある人影が倒れている人を抱えて校庭の隅に寄せていた。
白い帽子の高校生。
「唐沢さん!」
あかねは叫ぶ。
その声を聞いて唐沢は顔を上げる。
「日野、無事だったか」
「唐沢さん、一体どないなってるんですか」
「それが……」
「悪い奴らがバッドエナジーを集めているクル!」
「は?」
唐沢が喋ろうとすると、肩に乗っていた白いぬいぐるみがいきなり声を出した。
「唐沢さん、この人形はなんですか」
「キャンディは人形じゃないクル。キャンディクル」
白い謎の生物はそう言って怒る。
「それで、この状況は」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/17(土) 20:44:48.23 ID:ITLhnw4lo<>
「バッドエンド王国の奴らが人間の希望エネルギーを奪っているクル。だからみんな、
倒れてしまったクルよ」
と、キャンディは説明した。
「唐沢さん?」
どうも信用できないので、あかねは唐沢のほうを見る。
「どうやら本当のようだ。今、星空が戦っている」
「戦ってるって。あれは」
唐沢たちの視線の先には、変身ヒーロー(ヒロイン)のような服装をして戦う少女の姿があった。
「アカンベエエエエエエ!!!」
「きゃあああ!」
「あれがみゆき? 確かに声は同じや」
「あれは伝説の戦士プリキュアクル! 宇宙の平和を守るために、戦っているクルよ」
キャンディは言った。
「伝説の戦士? プリキュア?」
「……」
唐沢は黙ってうなずく。
「なんや変わった子やとは思ったけど、まさか正義のヒロインやったとはな。いやでも、
メルヘン大好きなみゆきならお似合いかもしれへんな……」
戦いはみゆきが優勢に進めていると思われた。
しかし、
「何をやってるアカンベェ! 遊んでいる場合ではないぞ!」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/17(土) 20:45:50.80 ID:ITLhnw4lo<>
狼男が叫ぶと、
「アカンベエエエエエエエ!!!」
化け物はそれに呼応するように、光の球を出してみゆきに投げ始めた。
「きゃああああ! 飛び道具なんて卑怯だよ! ハップップー!!」
基本素手で戦っていたみゆきは、丸い化け物の遠距離攻撃に近づけないでいる。
それどころか、何度かそれが当たってしまった。
「いぎゃああああ!!」
物凄い爆発とともに、吹き飛ぶみゆき。
「みゆきいいい!」
あかねは叫んだ。
そしてこのまま地面に叩き付けられるかと思ったその時、
「はれ?」
いつの間にか、落下地点に唐沢がいた。
彼は落ちてくるみゆきをがっちりと受け止めていたのだ。
「ありがとうございます」
「気にするな、それより敵だ」
「はい!」
「小癪な白帽子め! タ〇シード仮面にでもなったつもりか!」
狼男は叫んだ。
ずいぶんと古いアニメを知っているようだ。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/17(土) 20:46:21.35 ID:ITLhnw4lo<>
「トシユキたちは普通の人間だから、アカンベェとは戦えないクル」
「へ?」
いつの間にか、唐沢の肩からおりていたキャンディがそう言う。
「でもプリキュアなら戦えるクル」
「プリキュア」
「そして、キミにはプリキュアになれる才能があるクル」
「ウチに、そんな力が……」
気が付くと、彼女の右手にはコンパクトのようなものが握られていた。
「これは?」
「スマイルパクトクル。それを開いて『プリキュア・スマイルチャージ』と叫ぶクル」
「恥ずかしいな……」
「恥ずかしがっちゃダメクル! プンプン!」
「でも……」
あかねの視線の先には飛び道具に苦戦するみゆきの姿が見える。
「ウチは友達を、そしてこの学校を守りたい」
そう口にすると、身体の奥から力が湧いて出るようだ。
「いくで」
あかねはスマイルパクトを開く。
「プリキュア・スマイルチャージ!」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/17(土) 20:46:49.55 ID:ITLhnw4lo<>
そう言うやいなや、全身に橙色の光が包んだ。
まるで、真っ赤に燃える炎のような光だ。
身体が熱い。
実際に熱い、というわけではなく心の底から熱くなっていく感じ。
「うおおおおおおおお!!!!」
気合と情熱を込めたあかねの身体は宙に浮き、そして衣装が変わる。
「太陽サンサン熱血パワー! キュアサニー!!」
無意識のうちにそんな科白を口にしてしまった。
「これが、プリキュア……。なんや全身から力があふれ出てくるようや」
「大変クル! みゆきが!」
「はっ!」
気が付くと、再びみゆきが攻撃を受けている。
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/17(土) 20:47:32.35 ID:ITLhnw4lo<>
「だ、ダメだ。攻撃が当たらない」
みゆきはかなりまいっていた。
回り込もうとするけれど、敵の遠距離攻撃で接近を阻止されてしまう。
敵を浄化するためのプリキュアハッピーシャワーをやろうにも、満身創痍の状態で
どれほどの効果があるのかわからない。
下手をしたら自滅ということにもなりかねない。
(どうすれば)
背後には唐沢やモトハルがいる。
(ごめんなさい唐沢さん。私……)
「そろそろ小娘と遊ぶのも飽きたな。やれ、アカンベェ!」
と、ウルフルンが叫ぶ。
「アカンベエエエエエ!!!!」
丸いアカンベェが再び光の球をこちらに打ってきた。
(ダメだ!)
そう思った瞬間、彼女の目の前に赤い炎の壁が――
「へ?」
しかしよく見るとそれは壁なのではなかった。
一人の少女の背中。
ドンという強烈な音とともに、オレンジ色の衣装に身を包んだ少女は、アカンベェの攻撃を
受け止める。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/17(土) 20:48:38.77 ID:ITLhnw4lo<>
それどころか、敵のエネルギー弾を上に跳ね上げてしまった。
いわゆるバレーボールのレシーブだ。
「あかねちゃん!?」
思わず叫ぶみゆき。
「諦めるのはまだ早いで! みゆき!!」
そう言うと、オレンジ色の少女は先ほど跳ね上げた敵の放った球に向けて大きく跳躍した。
そして今度は体を大きく弓のようにしならせる。
「くらえええええ!」
物凄い衝撃波とともに、炎を帯びた球がアカンベェに直撃する。
「ギャアアアアアアア!!!!」
アカンベェが叫ぶ。
「何者だ貴様!」
新たな敵の出現にウルフルンも驚いているようだ。
「通りすがりのプリキュア、キュアサニーや! アンタら、ウチらの学校で好き勝手させへんで!!」
そう言うとあかねはグッと拳を握る。するとそこから炎があふれ出た。
「あかねちゃん!」
みゆきは後ろ姿のキュアサニーにそう呼びかける。
「まだやれるか、みゆき!」
と、あかねは呼びかける。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/17(土) 20:49:15.49 ID:ITLhnw4lo<>
「うん。やれるよ」
「上等や。二人であの化け物を倒すで。飛び道具は任せとき」
「うん」
「二人になっても同じだ。やれ! アカンベェ!」
「アカンベエエエエエエ!!!!」
アカンベェは再び光の球を打ち出す。
しかし、キュアサニーのブロックやレシーブによってことごとく跳ね返されてしまう。
「こないなもん、唐沢さんのアタックのほうがよっぽど強力やで」
「ぐぬぬ」
イライラを募らせるウルフルンとアカンベェ。
そして、
「――ハッピー」
アカンベェの脇腹に、
「 パ ー ン チ !!!!」
みゆきが拳を叩き込んだ。
「ゴボオオオ!!」
アカンベェの横腹が凹み、体勢が崩れる。
同じ時、
「ウチが防御だけの人と思うなよ」
その反対側に、キュアサニーがいた。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/17(土) 20:49:50.75 ID:ITLhnw4lo<>
「正拳突き!!」
「ギャアアアアアア!!!!」
「前蹴り!!!」
「ギョエエエエエ!!!」
「 回 し 蹴 り !!!!」
「ぎゅわあああああああああああああ」
「まだまだ!」
そう言ってサニーは跳躍する。
「そしてこれが――」
落下しながら、
「踵落としやあああ!!!」
ドスンという鈍い音とともにアカンベェは校庭にめり込んだ。
「正義のヒロインがここまでやるか」
若干引き気味にウルフルンは言った。
「トドメだよ! あかねちゃん!」
と、みゆきが叫ぶ。
「とどめ?」
「必殺技だよ!」
「はっ」
気が付くと腰につけてあるスマイルパクトが熱を帯びている。
「ウチらの平和な学校生活を脅かすやつは許さへん」
サニーの気合とともに、空中に巨大な炎の球が出現した。
「やるでえええ!」
そして再び跳躍するキュアサニー。
「覚悟しいや!」
大きく体をしならせて、
「プリキュア・サニーファイヤー!!!!」
巨大な火の玉をアカンベェに叩き付けた。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
アカンベェの断末魔の叫びとともに、学校に平和が戻ったのだった。
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/17(土) 20:50:39.90 ID:ITLhnw4lo<>
その一週間後、あかねの所属する女子バレーボール部は地区大会で準優勝という
成績を残した。
もちろん、あかねもレギュラーで出場して大活躍したという。
「かんぱーい」
「たくさん食べや。今日はウチのおごりやで」
笑顔満開のみゆきがそう言ってジュースを飲む。
大会の翌日の夜、あかねの家のお好み焼き屋でみゆきたちを招いて小さな慰労会が開かれた。
「新しいプリキュアも見つかり、あかねちゃんの調子も戻って言うことなしだね。ハグハグ」
お好み焼きを食べながらみゆきは言った。
「それもこれも、唐沢さんのおかげやで」
ちゃっかり唐沢の隣りにすわったあかねはそう言った。
「俺?」
「うん。唐沢さんはウチの恩人や」
「そうか……」
唐沢は豚玉を口にする。
「おいしいクル」
唐沢のすぐ横で、キャンディも彼が焼いた豚玉を食べていた。
「でも唐沢」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/17(土) 20:51:58.15 ID:ITLhnw4lo<>
そんな唐沢に半ば空気化していたモトハルが話しかける。
「どうした」
「日野はここ最近ずっと調子が悪かったんだろう? どうして戻ったんだ?
お前、何か特別な練習でもさせたのか?」
「そうでもない」
「唐沢さん、ウチに空手の型を習わせたんですよ」
唐沢の代わりに、あかねが答えた。
「空手?」
「最初はなんやようわからんかったんやけど、それからめっちゃ調子ようなって」
「どういうことだ。バレー部に空手?」
モトハルはわけがわからない、という顔をしている。
そんな彼に、唐沢は説明した。
「日野や星空は十四歳くらい、つまり今が成長期だ」
「それが?」
「身体が成長する、というのは身体能力が上がることだからいいことだと思うかもしれないが、
そうでもない」
「どういうことだ」
「スポーツというのは、特に球技は体と頭のバランスが重要だ。つまり、自分の身体の成長に
自分の心というか感覚がついて行かなければバランスを崩してしまう」
「つまり、あれか? 日野の調子が悪かったのは、身体と心のバランスが取れていなかったからと」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/17(土) 20:53:37.10 ID:ITLhnw4lo<>
「そういうこと。天才と呼ばれた少女が成長期に調子を崩すことはよくある。
今まで意識しないで、できていたことができなくなるんだ」
「なるほど。で、それがなんで空手なんだ?」
「別に何でもよかった」
「は?」
「球技以外なら何でもよかった。とにかく、成長した人間には、自分の身体の変化を
いち早く認識させる必要があると思った」
「認識ね……」
「バレーばかりやってきた日野は、身体の使い方が固定してきていた、と俺は思った。
だから、それ以外のスポーツや武道をやらせて、別の身体感覚を掴ませた」
「……」
「つまり、慣れないスポーツをやらせることによって、自分の身体のことをよく認識させようと、
思ったわけだ」
「なるほどな。アメリカなんかでは、若いうちに色々な種類のスポーツを経験させるっていうし、
そういうことなのか」
「大人なら、筋力トレーニングで調整することもできるが、まだ若い日野たちにはそういうことは
やらせられんからな」
「さすが唐沢だな」
「別に大したことじゃない」
「謙遜すんな」
「本当に凄いのは、コイツ自身だ」
「へ?」
そう言うと、唐沢は隣にいたあかねの頭を軽くなでる。
「あ、ありがとうございます……」
今まで元気にはしゃいでいたあかねは、急に大人しくなり、礼を言うのだった。
つづく <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/17(土) 20:58:02.59 ID:ITLhnw4lo<> 努力、友情、勝利。今回はこの要素が一番詰まった回だったりします。
関西弁は難しいな。
次回はその、アレです。じゃんけんの準備をしといてね。
追伸
今回ヤナギンが出ましたが、筆者は生島のほうが好きです。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2012/03/17(土) 21:18:57.50 ID:451vWw89o<> やよいちゃん期待!! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2012/03/17(土) 21:41:39.15 ID:MhfcoX1W0<> これはいいSS
次も楽しみにしてる <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2012/03/18(日) 03:01:31.52 ID:tzZrxnSco<> 唐沢イケメンすぎる
次も期待 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2012/03/18(日) 03:08:38.18 ID:RXdmVbgwo<> 面白いなー
あかねちゃんをかわいいと初めて思った <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県)<>sage<>2012/03/18(日) 15:48:06.99 ID:LHwWrOdZ0<> 唐沢マジハイスペック
乙 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/18(日) 21:01:37.38 ID:8VKkmjGKo<> そういえば羽原(の中の人)もプリキュアでしたね。
どうりで強いはずだ。
どうも、私です。はじめます。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/18(日) 21:02:06.99 ID:8VKkmjGKo<>
第3話 プロローグ
その日、生徒会メンバーは生徒会室に集められた。
「学校説明会ですか?」
「ああ、中学生を対象とした学校説明会に行くよう上が言ってきやがった」
生徒会の会長席で生徒会長は言った。
「だから、これから地元の中学校にお前たちを派遣する。そこで、この学校の
素晴らしさを説明してきてくれ」
「それは構いませんが」
強面で有名な生徒会副会長には懸念事項があった。
「どうした、副会長」
と、会長は聞く。
「会長たちはいいかもしれませんが、自分が行ったら中学生たちがビビるんじゃ
ないでしょうか」
自分でも怖い顔、という自覚は少なからずある副会長であった。
「そんなに心配なら――」
そう言って会長は視線を移動させた。
「唐沢」
「はい」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/18(日) 21:02:34.73 ID:8VKkmjGKo<>
白の帽子を被った唐沢を指名する会長。
「副会長と一緒に行ってくれないか」
「わかりました」
「他の学校は一人ずつで行く」
「俺も一人ですか?」とモトハルは聞いた。
「ああそうだ」
「わかりました」
「生徒会の役員だけでは頭数が足らんからな、学園都市には誰を派遣しようか」
「それならミツオくんがいいと思います」
ヒゲのモトハルはそう推薦した。
「ミツオくん? 誰だそれ」
「俺のクラスメイトです」
「なるほど、まあ任せる」
「ありがとうございます」
「……」
こうして、真田北高校の面々はそれぞれの中学へ派遣されることなったのだった。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/18(日) 21:03:19.97 ID:8VKkmjGKo<>
男子高校生のスマイルプリキュア
第三話 男子高校生と明るい涙(ブライトティアーズ) <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/18(日) 21:03:54.99 ID:8VKkmjGKo<>
七色ヶ丘中学校。
そこに副会長たちは派遣された。
「はあ……」
説明会を終えた真田北高校の副会長(強面)は大きくため息をつく。
「どうしました」
白い帽子がトレードマークの唐沢が聞く。
「いや、なんでもない」
副会長は、自分が登壇して話をしていると教室内の空気が一瞬で重くなるのを感じた。
私語が出ないのはいいことだが、その一方で質問なども一切でなかったことに彼は
ショックを受けていた。
(わかってはいたけれど、ここまで重い空気になられると正直へこむな)
彼は見た目のわりにチキンハートである。
「とりあえずジュースでも飲んだら帰るか」
「そうっすね」
そう言って副会長は廊下を早足で歩く。
このまま校舎内に留まったら、また別の生徒を怖がらせてしまいそうだと思ったからだ。
その時である。
「きゃあ!」
廊下の角で、副会長が誰かにぶつかった。
「ふにゃ」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/18(日) 21:04:48.85 ID:8VKkmjGKo<>
髪にカチューシャを付けた小柄な少女が勢いよくぶつかり、後ろに倒れて尻餅を
ついたようだ。
「だ、大丈夫か」
副会長はそう言って手を差し伸べる。
普通の人ならば、何事もない行動のはずだ。
しかし、
「い……」
「い?」
「いやあああああああああああああああ!!!!」
小柄な女子生徒はその場で泣き出してしまった。
「いや、別に何も……」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。これで勘弁してください!」
そう言って泣きじゃくる少女は震えた手で五千円札を取り出す。
中学生にとっては大金だ。
「おい、何をやってるんだ」
副会長があたふたと戸惑っていると、
「あれ? 唐沢さん?」
「あ、ホンマや。唐沢さーん」
ツインテールっぽい髪型をした女子生徒と、やや大柄で前髪にヘアピンをつけた
女子生徒が唐沢に声をかける。
どやら知り合いらしい。
「あれ? やよいちゃん?」
唐沢に声をかけた二人は、小柄な少女とも知り合いだったようだ。
助かった。副会長は素直にそう思った。
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/18(日) 21:05:22.26 ID:8VKkmjGKo<>
学校の中庭。
ベンチや東屋があり、生徒たち憩の場所となっているようだ。
その場所で唐沢の知り合いの二人は副会長に自己紹介した。
「私、二年二組の星空みゆきです」
みゆきは元気がよさそうな女の子だ。
「ウチも同じクラスの日野あかねです。家はお好み焼き屋をやってます。副会長さんも
今度来てください」
と、こちらもみゆきに負けず元気が良さそうだ。
そして、
「あ、あの……、私」
「ほらやよい。ちゃんと挨拶せな」
あかねに促されてやよいが副会長の前に出る。
「あん?」
副会長はやよいの表情を(つい昔の癖で)ガン見してしまう。
「ううう……」
「……」
「き、黄瀬やよいです。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
「ほら、泣くなやよい。副会長さんに失礼やろうが」
そう言ってあかねはやよいの頭をなでる。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/18(日) 21:06:36.01 ID:8VKkmjGKo<>
「ごめんなさい」
「別に気にしてない」
人に怖がられることに慣れている副会長だったが、ここまで涙目になられたのは生まれて
初めてである。
そして隣の唐沢は何も言わない。
「副会長さんは、学校の説明に来たんですよね」
そんな副会長に対し、恐れもせずに話しかけるのはみゆきであった。、
「ああ、そうだが」
「ああ、私たちも行けばよかったなあ」
「アホか。学校説明会は三年生が対象やろ。それに、唐沢さんのいる真田北高校は男子校やで」
「ええ? そうなの? はっぷっぷー」
「仮に共学になったとしても、ウチらが入学するころには唐沢さんは卒業やし」
「そうだったあ」
なぜか知らないが唐沢はこの二人に好かれているようだ。
少しだけ羨ましいと思ったけれど、今の自分にそんな状態が来ることは決してないだろうという
ことを副会長自身、よく自覚していた。
そんな状況で雑談していると、
「ちょっとあんたたち」
不意に声が聞こえた。
「先輩?」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/18(日) 21:07:11.24 ID:8VKkmjGKo<>
どうやら二人組の先輩がみゆきたちに話しかけてきたようだ。
「アンタたちが座っている場所、いつもあたしらが使ってるんだけど」
髪の長い女が言う。
「どいてくれない?」
と、髪の短い方の女も言った。
「アアン?」
そんな二人に副会長が視線を向ける。
「ひっ」
効果は抜群だった。
「ご、ごめんなさい」
「ウチら、調子に乗ってました」
震え始めた二人は、すぐどこかへ行ってしまった。
「凄いです副会長さん」
みゆきは興奮気味に言う。
「めっちゃすごっすね」
と、あかねも続いた。
「いや、別に」
こういうことで褒められても嬉しくない、と思う副会長であった。
「あの、私ちょっと用がありますので」
そう言って立ち上がるやよい。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/18(日) 21:08:01.93 ID:8VKkmjGKo<>
「あ、ああ」
彼女は副会長たちの前から、足早に去って行った。
「ごめんなさいね、副会長さん」
やよいがいなくなってからあかねが謝る。
「どうして謝るんですか」
と、副会長。
「だってあんなふうに泣かれたら、誰だって困るでしょう。ウチも前、やよいにガーッてキツク
言ったら泣き出したことあって」
「そうだったのか」
「あの子、泣き虫やから……」
「クンクン、匂うクル」
「へ?」
不意に、唐沢の持っていたカバンから黄色く長い耳を持つ白い生物が飛び出してきた。
「どうしたキャンディ」
と、唐沢は聞く。
「今の女の子、名前は何と言ったクル?」
唐沢の肩に上った彼女はそう聞いた。
「女の子?」
「泣き虫の女の子クル」
「確か……」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/18(日) 21:10:55.52 ID:8VKkmjGKo<>
「黄瀬やよいちゃんのこと?」
そう言ったのはみゆきだ。
「そうクル。キャンディのプリキュアセンサーが反応したクル」
「プリキュアって、まだお前らプリキュア探しをやっていたのか」
副会長はそう唐沢に聞いた。
「そうです。ちなみにこの二人もプリキュア」
唐沢がそう言うと、二人は照れた表情を見せた。
「えへへ、どうも」
「実は……」
「なるほど、そういうことだったのか。で、あの女の子もプリキュアになれるってことか」
「そうクル」
副会長の質問に、キャンディは答える。
「でもアカンでしょう」
そう言ったのは、あかねだ。
「どうしてクル?」
「“あの”やよいやで。泣き虫の」
「それがなにクル?」
「正直、ウチも一度しか戦ったことないけど、プリキュアの戦いってかなりハードやろ?」
「う……」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/18(日) 21:12:01.49 ID:8VKkmjGKo<>
「う……」
それを聞いて押し黙るみゆきとキャンディ。
「確かに変身で身体は強うなるかもしれんけど、心も強くないとやっていけへんと思うんやけど」
「確かにそうだな」
と、唐沢は同意した。
「何を言ってるクル。早くプリキュアを五人集めないと、敵はどんどん強くなってくるクル」
「せやけど、誰彼となくスカウトするわけにもアカンやろ」
「クル〜」
一気に暗くなる三人(と一匹)を前に副会長は立ち上がって言った。
「そろそろ、学校に帰らないといかんな」
「ええ? もう帰っちゃうんですかあ?」
みゆきは不満そうに言った。
「お昼、一緒に食べましょうよ」
と、あかね。
「悪いが、生徒会の仕事も残っているんでな。行くぞ、唐沢」
「了解」
そう言って唐沢も立ち上がる。
「あかね、みゆき、バイバイクル〜」
唐沢の肩に乗ったままのキャンディは、そう言って手を振った。
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/18(日) 21:12:59.85 ID:8VKkmjGKo<>
その日の午後、学校説明会に行った生徒たちがどんどんと帰ってきた。
「お疲れ諸君、ウチの魅力は十二分に伝えられただろうか」
生徒たちを出迎えた会長が言う。
「問題ないと思います」
メガネの少年、ヒデノリが自信満々に答える。
「確かヒデノリは見滝原中学だったね」
「いやあ、川に突き落とされたりもしたけど、概ね成功しました」
「お疲れ」
次々に完了の報告にくる生徒たちの最後に、副会長と唐沢がいた。
「おや副会長。随分浮かない顔をしているね」
と、会長は声をかける。
「いえ、別に」
「説明会は上手く行ったんだろう?」
「まあ、それは」
「その顔は、女子生徒にでも怖がられて泣かれたのかな」
「何でわかるんですか」
(いや、まあ大体想像はつく)
会長はそう思ったけれど、副会長のためにあえて何も言わないことにする。
「はあ……」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/18(日) 21:13:51.44 ID:8VKkmjGKo<> どうやら相当ショックを受けているようだ。
「会長」
「どうした」
「子供に怖がられないようにするには、どうしたらいいんですかね」
「どうしたのいきなり」
「だって会長は子供たちに人気があるじゃないですか」
「そうかな」
「会長の場合は、人気があるというより舐められていると言ったほうが正しいんじゃないですか」
横からモトハルが口を挟む。
「な、舐められてるって。酷いねモトハル」
そんな話をしていると、
バンッと乱暴にドアが開けられる。
全員が驚いて入口のほうを見ると、
「こんちは! ってどうしたのよ、浮かない顔して」
「りんごちゃん……さん」
真田東女子高校の生徒会長、通称“りんごちゃん”であった。
「どうしたどうしたさ」
そう言ってズンズンと生徒会室に入ってくる。
初めて生徒会室(ここ)に来たときはビビりまくっていた彼女も、今はまるで自分の部屋のように
ここへ来てくつろいでいる。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/18(日) 21:14:41.81 ID:8VKkmjGKo<>
「どうぞ」
と、唐沢は紅茶を出した。
「うん、ありがとう。それで、何の話をしていたの?」
紅茶を飲みながらりんごちゃんが聞く。
「いや、実は副会長のことで」と会長が答えると、
「また女子中学生に泣かれたりでもしたんでしょう?」
と、りんごちゃんが言った。
「なんでわかるんですか」
副会長が身を乗り出して聞く。
「別に見りゃわかるわよ」
「……」
「んもう、そんなに落ち込まないでよ。あたしだって、最初に会ったときは怖いと思ったんだから」
「そうですか」
「でもしばらくしたら相手のこともわかってくるから、大丈夫よ」
「あの、りんごちゃんさん」
恐る恐る副会長は聞いた。
「なに?」
「ウチの会長みたいに、人を怖がらせないようにするには、どうしたらいいですかねえ」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/18(日) 21:15:10.37 ID:8VKkmjGKo<>
「うーん」
りんごちゃんはしばらく首をひねって考える。
この子はバカなので、そういうことを聞くだけ無駄なんじゃないかと会長は思った。
「笑顔?」
りんごちゃんは答える。
「ほら、そこにいるアホの会長はいつもへらへらしてるでしょう?」
「アホの会長って……」
中央高校の生徒会長(♀)もそうだが、他校の生徒会長は容赦がない。
「笑顔か」
そう言うと副会長は気合を込める。
ニタァァァ……
「ヒイイイイ!!!」
副会長の本気の笑顔にりんごちゃんは震えあがってしまった。
「ちょ、調子こいてました。スンマセンでしたああ!!!」
そう言って床に土下座して謝るりんごちゃん。
「はあ……」
副会長の悩みは深まるばかりであった。
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/18(日) 21:15:57.98 ID:8VKkmjGKo<>
それから週末、副会長は物凄く居心地の悪さを感じていた。
「……落ち着かないな」
「そりゃまあ」
この日、副会長と唐沢の二人は街にあるオシャレなカフェにいた。
客も店員も女ばかりの空間だ。
そこでパフェを頼む二人。
「……」
「……」
視線が痛い。
「パフェ美味しいクル♪」
キャンディが喜んでいたのがせめてもの救いだろうか。
「何でこんなところに」
小声で唐沢は言う。
「だって女の子の気持ちを知ることも重要だって、りんごちゃんが」
額に汗をにじませながら副会長は答えた。
「あの人の言うこと信じちゃダメでしょうに」
「ふむ……」
かつて不良十人に囲まれたときも、それほどビビらなかった副会長だが、
この日の居心地の悪さだけはどうにも耐えられるものではなかった。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/18(日) 21:18:08.50 ID:8VKkmjGKo<>
(さっさと食って帰ろう)
そう思った時、
「あれは」
見覚えのある人物を見つけた。
「あれは確か、星空みゆきと同じ中学の……」
「黄瀬やよい」
副会長が言う。
「よく覚えてたな」
「まあ」
目の前で泣かれた女子生徒の名前なのでよく覚えている。
お店の外、つまりオープンカフェになっているテーブルに、黄瀬やよいは一人で座って、
何やらスケッチブックに絵のようなものを描いていた。
「声でもかけるか」
と、唐沢が言ってみる。
「やめとこう。また泣かれるのがオチだ」
「わかった……」
そう言って唐沢はコーヒーに口を付ける。
「ねえトシユキ」
「どうした」
不意にキャンディが唐沢に声をかける。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/18(日) 21:18:49.93 ID:8VKkmjGKo<>
「このアイスも食べたいクル」
「ダメだ」
「ええ?」
「もう、パフェ食っただろう」
「甘い物がもっと欲しいクル」
「ダメだ。晩御飯が食べられなくなる」
「ちゃんと食べるクル」
「太るぞ」
「クル〜」
唐沢とキャンディの不思議な会話を眺めながら、副会長は早くこの店を出ようと思った。
仮に女の子のことをよくわかったとしても、自分のこの顔では怖がられるから仕方がないと
思ったからだ。
「おい唐沢。行くぞ……」
「もっと食べたいクル〜」
「キャンディ、口の周りはちゃんと拭けよ」
三人が立ち上がったその時、
「むっ!」
嫌な空気を感じた。
「こ、これは」
「副会長、こいつはヤバいな」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/18(日) 21:19:28.39 ID:8VKkmjGKo<>
唐沢も立ち上がる。
「この空気、バッドエンド王国クル!」
キャンディも叫ぶ。
急いで店の外に出た二人は、そこで奇妙な赤鬼を発見した。
「いい子はいねえがあああああ!!」
「きゃあああああ!」
棍棒を振り回す巨大な赤鬼の姿に、周辺の女たちは逃げ惑っていた。
「クックック。ここには人間がたくさんいるオニ。ここでバッドエナジーを集めるオニ」
そう言うと本を開く赤鬼。
それと同時に、通行人や周辺にある店の客などがどんどんと倒れて行った。
「やめろ!!」
そんな赤鬼に立ち向かう一人の男子高校生。
「ぬお! なんという悪人面オニ。ワシの部下に欲しいオニ」
真田北高校、生徒会副会長である。
「悪いが、俺は貴様の部下などにはならん。さっさと街を元に戻せ。赤鬼」
「ぐも、ワシは赤鬼ではないオニ。アカオーニだオニ」
「どっちも同じだろうが!」
「うるさい、人間のくせにこのアカオーニ様の邪魔をするとは許せんオニ」
「なにい」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/18(日) 21:20:12.31 ID:8VKkmjGKo<>
「ダメだ副会長!」
背後から唐沢の声がした。
「一般人がバッドエンド王国の連中には勝てないクル!」
キャンディも叫ぶ。
「むむ、あそこにいる白い帽子の男は」
どうやら、赤鬼は唐沢の存在に気付いたらしい。
「あいつがウルフルンを二度も倒したという人間オニね」
どうやら唐沢は、地元だけでなく異世界でも有名になりはじめているようだ。
「ちょうどいい、ここで始末してやるオニ」
そう言うとアカオーニは赤い球を取り出す。
「出でよ! アカンベエエエエエ!!!!」
「ぐわあ!」
まぶしい光と共に現れたのは、
「ウオオオオオ!!! 泣く子はイネエガアアアアア」
巨大な“ナマハゲ”であった。
顔はアカオーニよりもはるかに怖い鬼。
そして全身を覆う蓑。
更に右手に持った巨大な出刃包丁が恐怖を加速させる。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/18(日) 21:20:42.81 ID:8VKkmjGKo<>
「行け! 怪人ナマハーゲ!! 八つ裂きにしてしまえ!!!」
そう言われると、ナマハーゲは出刃包丁を振り下ろした。
物凄い音とともにアスファルトが割れる。
「なんだコイツは」
一瞬見ただけでもこれがヤバいとわかる。
「逃げても無駄だオニ」
「クソッ」
戦いをあきらめた副会長は周囲を探す。
逃げ遅れた人間がいないか探すためだ。
その時、彼の目に一人の少女が。
「あれは!」
黄瀬やよいであった。
さっきまでオープンカフェにいたはずなのに、ナマハーゲのすぐ近くで気を失っている。
「くそっ」
考える前に、副会長は走り出していた。
「副会長さん! 何をやってるクル!」
キャンディも叫ぶが、今の彼には耳に入らない。
副会長は滑り込むようにナマハーゲの足元へ行くと、すぐさま倒れたやよいを抱え上げた。
「ナマハーゲ!!!」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/18(日) 21:21:11.18 ID:8VKkmjGKo<>
副会長の姿を見たナマハーゲは大きく出刃包丁を振りかぶる。
そこに、
「待ちな!」
言葉と同時に、大きな石がナマハーゲの後頭部に当たる。
「お前らの目的は俺じゃないのか?」
えぐれたコンクリート片を持った唐沢がいた。
そして彼は、ほんのわずかな時間、副会長を見る。
白い帽子から垣間見える目が、「早く逃げろ」と副会長に訴えかけているようだ。
(わかった)
副会長は頷き、やよいを抱えたまま走り出した。
周囲を見ると、ほとんど人がいなくなっている。
(さすが唐沢)
どうやら唐沢が倒れた人たちを移動させていたようだ。
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/18(日) 21:21:45.38 ID:8VKkmjGKo<>
体がゆさゆさと揺れる。
その揺れで彼女は意識を取り戻した。
「え?」
そして彼女の目の前には、色黒で目つきの悪い男の顔が。
「きゃあ!」
「気が付いたか」
「え? 私」
やよいは自分がどういう状況なのか、一瞬わからなかった。
「気を失ってたんだよ。道路で」
「あ、そうか」
やよいは思い出す。
急な赤鬼の出現に驚いてパニックになった挙句、気を失ってしまったのだ。
「副会長さん、私を助けてくれたんですか?」
「礼なら唐沢に言えよ。あいつがほとんどやってたんだ」
そう言いながら副会長はやよいを下ろす。
近くで感じる副会長は、ほんのり香水の香りがした。
「じゃあ、早く避難しろよ」
そう言うと副会長は踵を返し、元の場所に向かおうとする。
「あの! どこへ」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/18(日) 21:23:16.47 ID:8VKkmjGKo<>
「仲間が戦っている。助けにいかなければ」
「でも……」
相手は化け物だ。
気を失ったので、じっくり見たわけではないけれど、人一倍警戒心が強いやよいには、
物凄くヤバい相手であることはすぐにわかった
「仲間を見捨てることはできない。なに、俺も唐沢も弱くねえから大丈夫だ」
「ま――」
「待つクル!」
やよいの代わりに呼びかけたのは、小さな生物だった。
「あなたは?」
「キャンディはキャンディクル!」
ぬいぐるみのような形をしたその生物は、人間の言葉を喋っていた。
「副会長さん、このまま行っても殺されるだけクル。トシユキを連れて早く逃げて欲しいクル」
「俺たちが逃げたらその間に被害が広がっちまう。悪いが、星空たちにはお前が伝えてくれ」
(星空さん?)
副会長が呼んだその名前にやよいは反応する。
「みゆきちゃんが、どうかしたんですか?」
やよいはキャンディに聞いた。
「それは……」
キャンディは一瞬口ごもったけれど、すぐに意を決したように言う。
「みゆきたちは、伝説の戦士プリキュアクル。今、トシユキたちが戦っている化け物を倒す力を
持つ、唯一の存在クル」
「そ、そうなの」
「そしてキミも、そのプリキュアになれる素養を持っているクル!」
「え? 私??」
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/18(日) 21:24:28.54 ID:8VKkmjGKo<>
現場に戻ってきたものの、何か決定的な手段があるわけでもない。
副会長は近くにあった鉄パイプを持って構える。
「クックックック。先ほどの悪人面オニね。また戻ってきたオニか。まあ、逃げても
無駄だけどな、オニ」
服をボロボロにした唐沢が、肩で息をしている。
あんな巨大な敵を相手にしていたのだから無理もない。
「人間、お前たちお得意の携帯電話も、ここでは通じないオニ。つまり助けは来ないオニ。
大人しくここで俺たちにバッドエナジーを進呈するオニ!!」
「ナマハゲエエエエエエ!!!」
ナマハーゲが吠える。
「くそっ」
副会長は拳を握る。
確かに赤鬼の言うとおり、携帯電話が通じない。
相手は化け物。
もはや万事休すだ。
その時、
「さあ! やってしまえオニ! ナマハーゲ!!!」
「ナマハゲエエエ!!!」
ナマハーゲは大きう振りかぶる。
そして、 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/18(日) 21:25:16.23 ID:8VKkmjGKo<>
「え、ちょっと」
いきなりアカオーニに襲いかかった。
「こっちじゃないオニ!」
「ナマハゲエエエエ!!!」
「クソ、バッドエナジーが多すぎたオニか」
一瞬仲間割れか、と思ったがそうではない。
店を破壊するナマハーゲ。
どうやら、暴走してしまったらしい。
ゆえに、敵も味方も構わず破壊しているのだ。
「こっちじゃない、アッチオニ!!」
金棒で、無理やり方向修正させるアカオーニ。
そして、ナマハーゲが向いた方向。そこには副会長がいた。
「副会長!」
遠くから唐沢の声が聞こえる。
「くそが!」
副会長は鉄パイプを構える。
ナマハーゲから見たら割り箸か爪楊枝くらいの驚異しかないであろう鉄パイプ。
「まずい――」
その時、一瞬の光。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/18(日) 21:26:05.81 ID:8VKkmjGKo<>
「なに!?」
すさまじい音とともに強い光が副会長の目をくらませる。
「なんだ!?」
どうやら、目の前に雷が落ちたらしい。
比喩とかではなく、本物の雷だ。
「な、なんで」
「よかった、間に合って」
聞き覚えのある声が、背後から聞こえてきた。
「お前……」
「ピカピカピカリン、じゃんけんポン! キュアピース!!」
登場とともにポーズを決める黄色い衣装の少女。
それはまさしく、
「黄瀬……、黄瀬やよいなのか」
「はい、副会長さん」
「どうして」
「副会長さん。私も戦うことにしました」
「でも、相手は……」
「グオオオオ……」
二人の視線の先にある敵。それは、副会長よりもはるかに怖いナマハゲである。
「た、確かに怖いです。でも――」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/18(日) 21:26:42.57 ID:8VKkmjGKo<>
「ん?」
「戦わないと、もっと怖い思いをすると思って」
「黄瀬」
「はい」
「俺も怖い」
「そ、そうですか」
「だが俺は仲間がいるから、こうして戻ってきた」
そう言って、彼は唐沢のほうを見た。
白い帽子を土で汚した彼は、何かを悟ったように親指を立てる。
「一人では怖くても、仲間がいれば怖くないことだってある」
「そうですね」
「俺たちじゃあ、頼りないかもしれねえが」
「そんなこと……、ありません」
黄瀬やよいことキュアピースは目に涙をたくさん溜めながらも胸を張る。
「悪いオニさんは、わ、私が退治します」
「グオオオオオオオ」
電撃を食らって、身体の所々が焦げているナマハゲは更に不気味であった。
それでもピースは怯まない。
「黄瀬!」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/18(日) 21:27:45.71 ID:8VKkmjGKo<>
副会長が叫ぶ。
「……」
キュアピースは一瞬だけ副会長の顔を見ると、コクリと頷いた。
「グオオワアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
「じょ、浄化します」
そう言うと、ピースは右手の人差し指と中指の二本を立てて天に掲げた。
「あらゆるものを清める聖なるイカズチ」
ピースの周辺にある小石が数センチほど浮かび上がる。
「グワオオオオオ!!」
ナマハーゲはその変化に気づくことなく、ゆっくりとキュアピースに迫った。
「皆を、副会長さんを守ります!」
「なんだオニ!?」
そして、
「――プリキュア」
黄色く輝いたピースが回転する。
「ピース、サンダアアアア!!!」
集めた電撃を一つにまとめ、それを発射させた。
「グオオオオオオオオオ!!!!!」
巨大な叫び声とともに、光に包まれたナマハーゲが消えていく。
そしてボロボロの出刃包丁だけが現場に残った。
「くっ、今回はちょっと助かったオニ。でも次は容赦しないオニ」
そう言うと、アカオーニもどこかへと消えて行ったのだった。
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/18(日) 21:29:24.08 ID:8VKkmjGKo<>
数日後の昼休み――
この日も黄瀬やよいは中庭で絵を描いていた。
「やよい、また何か描いとんのか?」
「え?」
クラスメイトのあかねが話しかけてきた。
「やよいちゃん。また変身ヒーローの絵を描いてるの?」
と、みゆきも聞いてきた。
星空みゆきは、やよいが変身ヒーローが好きなことを知っているのだ。
「ああ、今日はもっとカッコイイ人を描いてるの」
そう言うと、やよいは恥ずかしそうにスケッチブックを隠した。
「カッコイイ? 誰や? 唐沢さん?」
あかねは首をひねる。
「ああ、いや。内緒」
「ねえ、見せてよ」
そう言ってみゆきは、素早くやよいからスケッチブックを抜き取る。
「やめてよ!」
やよいが止めるのも聞かず、みゆきはスケッチブックを開いた。
「どれどれ……、ん」
「どないしたん? あ……」
「ひいいん」
「カッコ……イイ?」
やよいのスケッチブックには、真田北高校生徒会の副会長の絵が何枚も描かれていた。
つづく <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/18(日) 21:31:48.31 ID:8VKkmjGKo<> あまりやよいの活躍や可愛さが表現できずに申し訳ない。
なぜなら、今回のヒロインは副会長だから。
ちなみに今日のピカリンじゃんけんは「チョキ」だそうです。
またサザエさんに勝ちましたよ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県)<>sage<>2012/03/18(日) 22:00:17.90 ID:LHwWrOdZ0<> 乙ー
生徒会役員全員、主人公適正高すぎるw <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2012/03/18(日) 22:02:34.68 ID:K4RgMVsco<> いやー面白いね <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/18(日) 22:25:45.18 ID:gOyTU51DO<> 本編でいろいろ危なっかしいメンバーをサポートしまくってる唐沢マジパネェ
男子高校生の日常って生徒会以外でもスペック高いキャラ多いんだよな
ところでミツオ君を学園都市へってオイww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2012/03/19(月) 00:17:54.38 ID:L5RXNZEv0<> 唐沢だけでなく副会長にもスポットを当てる辺り流石と言わざるを得ない <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2012/03/19(月) 03:30:58.44 ID:l1pMDAhno<> 唐沢にフラグを集中させる訳でもなく副会長にも分散させるとは出来るな
乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/19(月) 11:38:05.35 ID:quAlEkhpo<> 既に名前で呼び合ってるけど、ここではみゆきとやよいはプリキュア以前から仲良くなる出来事があったのかな?
いや、しかし面白い。原作とは別の切り口なところも良いね。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/19(月) 20:22:07.20 ID:qXboas7Oo<> 何か書こうかと思ったけど、特にネタがないんでこのまま始めます。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/19(月) 20:22:58.39 ID:qXboas7Oo<>
第四話プロローグ
生徒会の仕事の絡みで少し遅くなった唐沢とモトハルは、暗くなった街を二人で帰っていた。
その時、声が聞こえた。
「いい加減にしなさいよね、アンタたち」
「んだよ、ガキは引っ込んでろ」
「そんなことをして恥ずかしいと思わないの?」
「なんだこのアマ!」
街の路地から聞こえる言い争う声。
決して穏やかとは言えないそのやり取りに、唐沢が動く。
「ったく」
またか、と思いながらモトハルもその後について行った。
途中、念のために彼は唐沢からキャンディの入っている鞄を預かる。
暗い路地に入ると、いかにも不良っぽい四人組と一人の女子中学生が向かい合っていた。
女子中学生は、長い髪を後ろで束ねている。
暗くて見えにくいけれど、意志の強そうな声と目をしていると、モトハルは思った。
「あなたたち、よってたかって一人を囲むなんて」
「クソが! 女だと思って調乗んなよ」
「俺たちゃカミジョウさんと同じで男女平等なんだあ」
そう言うと、不良の一人が拳を握る。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/19(月) 20:23:46.17 ID:qXboas7Oo<>
「暴力で何でも思い通りにしようだなんて、最低ね」
「ああん!? 舐めてんじゃねえぞ!」
激昂し、今にも襲い掛からんとする不良ども。
「――おい」
そこに唐沢が割って入る。
「んだテメーはよお! こっちは取り込んでるんだ」
いかにもチンピラっぽい言葉で凄む不良。
「お、おい……」
しかし別の不良がそいつを止める。
「んだよ」
「こいつ、唐沢じゃね?」
「は?」
「白の帽子、そして鋭い目つき。間違いねえ、こいつ真田北高の唐沢だ」
「な、なんだって?」
「おいやべえよ、唐沢っつったらバース高校とデストラーデ工業の抗争を
止めたっていう話じゃねえか」
「声優のストーカーを退治したって話もあるぜ」
「マジかよ。俺の聞いた話だと、ワルプルギスの夜を退治したのもコイツだって」
「とにかく、コイツと敵対するとやべえ」
「引くぞ」
そう言うと不良たちは去って行った。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/19(月) 20:24:34.99 ID:qXboas7Oo<>
残ったのは唐沢とモトハル、そしてポニーテールに大きなリボンを付けた女子中学生だけ
である。
「大丈夫か」
「べ、別に大したことありません」
「そうか」
「いえ、すいません。助けていただいたのに」
「助けたつもりはないが」
確かに、唐沢からしてみれば声をかけたら勝手に向こうがいなくなっただけである。
「それでも一応は……」
「随分もめてたみたいだな」
「あの四人組が、別の学校の生徒を取り囲んでいたものだからつい」
「助けに入った、というわけか」
「はい」
「危ないとは思わなかったのか」
唐沢はその女子中学生をキッと見据えて言う。
「確かに、ちょっと危ないかなとは思いました。でも――」
「ん?」
「それを見て見ぬふりをするのは、私にはできません」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/19(月) 20:25:28.69 ID:qXboas7Oo<>
「……そうか。確かに勇気をもって自分のやりたいことをやる態度は立派だ」
「……」
「だが、考えなしに突っ込むのは感心できないな」
「……はい」
「わかればいい。これから気を付けろ」
そう言うと、唐沢は踵を返した。
「あの」
「なんだ」
「私、七色ヶ丘中学の緑川なおっていいます。名前、教えてもらえますか」
「真田北高の唐沢だ」
「あ、ありがとうございます」
なおはそう言って深々と頭を下げた。
路地から出るとき、モトハルとも目がある。
「失礼します」
彼女は軽く会釈をして、その場を駆け抜けて行った。
「むむ、今のは」
唐沢の鞄の中から声がするので、モトハルはファスナーを開けた。
「モトハル。今の子!」
「どうした」
「キャンディのプリキュアセンサーが反応したクル」
「なに?」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/19(月) 20:26:10.13 ID:qXboas7Oo<>
男子高校生のスマイルプリキュア
第四話 男子高校生と正義の風(センスオブジャスティス) <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/19(月) 20:27:01.28 ID:qXboas7Oo<>
「緑川なお。所属する女子サッカー部では1年からレギュラーを取れるほど運動神経が良い。
後輩の面倒見がよく、多くの生徒に慕われている。
正義感がとても強く、曲がったことを許さない。
自分が正しいと感じたらたとえ相手が先輩や先生であろうとも、自分の意見を述べる」
メモ帳に書かれたデータを読み上げる唐沢。
それにしても短時間でよくここまで調べられるものだ。
「まさに、ヒーローって感じだな」
それを聞いて、モトハルは簡単に感想を言う。
唐沢のチート能力は今に始まったものではないので、特に驚きもしない。
放課後の七色ヶ丘中学。
グラウンドで練習している女子サッカー部の様子を、モトハルと唐沢は学校の敷地外から眺めていた。
「キャンディ、間違いないか」
「間違いないクル。あの子クルよ」
キャンディを含めた三人の視線の先には、サッカー部の練習用ユニフォームに身を包んだ緑川なおが
シュートを放っていた。
「入ったか」
「入ったな」
なおの放ったシュートは、見事にゴールマウスへと吸い込まれていく。
「どう思う? 唐沢」
「どうって?」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/19(月) 20:28:23.71 ID:qXboas7Oo<>
「勧誘できると思うか?」
「わからん」
「そうか」
「何を言ってるクルか。勧誘してもらわないと困るクル」
唐沢の肩に乗ったキャンディはそう言って怒る。
「……」
しかし唐沢は無言で双眼鏡を覗いた。
「なあ、唐沢」
「どうした」
「彼女の勧誘、俺にやらせてくれないか」
「なぜ」
「いや、日野あかねの時は唐沢が色々とやったじゃないか。それに黄瀬やよいの時は副会長がいた。
でもその間、俺はほとんど何もしてない」
「そんなことはないだろう」
「いや、してねえよ。だから、彼女のことは俺に任せてくれないか」
「何を言ってるクル。モトハルは女の子に慣れてないから無謀クル」
二人の会話に割って入るキャンディ。
「ああん!?」
「ひい!」
そして痛いところを突かれて思わず怒ってしまったモトハル。
しかし唐沢は、
「わかった」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/19(月) 20:29:16.82 ID:qXboas7Oo<> 「唐沢」
「プリキュアはまだ二人いる。お前が緑川をマークしている間、俺たちは別のメンバーを探そう」
「ありがとう、唐沢」
「手分けしたほうが早いと思っただけだ」
「そうか」
「じゃあ、任せる」
「おう、任せろ」
「あ、それと」
「なんだ?」
「もし危なくなったら、すぐに俺たちを呼べよ」
「わかってる」
モトハルは力強く頷く。
「本当にモトハル一人で大丈夫クルかあ?」
それに対してキャンディは懐疑的だ。
「うるせえぞ珍獣!」
「キャンディは珍獣じゃないクル!」
「そんな耳の長い動物がいてたまるか」
「うるさいクル! そんなこと言うからトシユキみたいに女の子にモテないクル!」
「モテるモテないは関係ねえだろうが!」
こうして、モトハルは緑川なおのプリキュア勧誘を担当することになったのだった。
(どいつもこいつも唐沢唐沢と。俺は唐沢のおまけじゃねえ。一人でもやっていけるってことを、
証明してやる)
モトハルは、やや危なげな思いを胸に、緑川なおへの接近を試みようとしていた。
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/19(月) 20:30:08.22 ID:qXboas7Oo<>
だが、そんな二人と一匹のやりとりを見ていた者がいる。
人ではない。
小さなハエだ。
しかしそのハエは、ただのハエではなかった。
バッドエンド王国のとあるスパイが放ったものだったのだ。
「クックック。いい情報を手に入れたオニ」
バッドエンド王国のアジトで、アカオーニは一人ほくそ笑んでいた。
「何を笑っているんだアカオーニ。気色悪い」
「その声は、ウルフルンオニか」
バッドエンド王国三幹部の一人、人狼のウルフルンである。
「聞いたぞアカオーニ、アカンベェを暴走させたらしいな。いくら強力でも制御できない力は
有害でしかないと、福〇原発の教訓から学ばなかったのか?」
「同じ相手に二度も負けたお前に言われたくないオニ」
「なんだと?」
「あの白帽子に、二回もしてやられたじゃないかオニ」
「この野郎。白帽子の前にお前を殺ってやろうか」
「ふん、負け犬の遠吠えは聞き飽きたオニ。いや、負け狼の遠吠えオニか」
「このクソ鬼が。そこまで言うんだったらお前に勝てる策があるとでもいうのか」
「当然オニ。今回いい情報を手に入れたオニよ」
「ああ?」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/19(月) 20:31:31.44 ID:qXboas7Oo<>
「一つ聞いてもいいか、ウルフルン」
「なんだ」
「お前、敵がいたら“強くなるまで待ってから倒す”オニか?
それとも、“強くなる前に倒す”オニ?」
「バカか。敵が強くなるまで待ってから倒すお人好しなんているかよ。強くなる前に倒すに
決まってるじゃねえか」
「そういうことオニ」
「あ?」
「実は今回、あの憎きプリキュアになる“前”の少女を見つけたオニ」
「それがどうした」
「わからないオニか? そいつがプリキュアに覚醒する前に、倒してしまうオニよ。
そうしたら、簡単に勝てるオニ」
「ウルッフフ。なるほど、そういうことか」
「力だけではダメオニ」
「ウルッフフフフ」
「クーックックック」
バッドエンド王国のアジトの中で、二人の不気味な笑い声が響いたのだった。
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/19(月) 20:32:44.86 ID:qXboas7Oo<>
七色ヶ丘中学に「偵察」に行った翌日、モトハルは姉と一緒に帰っていた。
「なんかアンタと一緒に帰るのって、久しぶりだねえ」
「そうだな」
土手の上の道を、モトハルとその姉は並んで歩いていた。
モトハルの家は両親が不在がちのため、家事は姉と二人で分担してやっている。
姉がウソばかりついたり、月に一度しか妹と話をしない、という家庭に比べれば、
姉弟の仲は決して悪くない。
実際、モトハルは中学一年生まで姉と一緒に風呂に入っていた。
「モトハル、あんた今日何食べたい?」
「……カレーがいいな」
「そうか。カレーか。でもカレーっつっても色々あるよね。チキンカレーとかビーフカレーとか」
「……」
「あたしはそうだね、チーズカレーとか好きかな。あんたはどう?」
「……」
モトハルは答えない。
どうやって緑川なおと接触するか。それで頭がいっぱいだったからだ。
(緑川は星空たちと同じ学校。だったらあいつらに頼んだほうが色々と接触は簡単そうだ。
いやしかし、それでは俺一人でやったことにはならないんじゃあ。
というか何で唐沢のやつはあんな女の知り合いが多いんだ?) <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/19(月) 20:34:05.71 ID:qXboas7Oo<>
「モトハルー!!」
姉の平手がモトハルの背中を襲う。
「いてえええええ!」
「人の話を聞け!」
「いってえ、何すんだよ」
「今、あたしは大事な話をしてたんだよ。ちゃんと聞きなさい」
「大事な話ってなんだよ」
「チーズカレーとチキンカレーはどっちがいいかって話よ」
「どっちでもいいよ」
「モトハルー!!」
「ああわかった、チキンカレー」
「ええー? 今日はチーズカレーが食べたかった」
「じゃあチーズカレーでいいよ!」
「何その態度おー、お姉ちゃんは悲しいぞ!」
「……早く帰ろうよ」
「何言ってんのモトハル。これから買い物行くよ。付き合いなさいよ」
「え? まあいいけど」
「よおし、出発! ついて来いモトハル」
そう言ってモトハルの姉は、元気よく駆け出していくのだった。
*
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/19(月) 20:35:09.27 ID:qXboas7Oo<>
近所のスーパーマーケットで、モトハルは夕食の買い出しを行う。
普段夕食は姉が作るのだが、こうして材料を彼が買うこともあるのだ。
「野菜高いなあ……」
そんなことをつぶやきながら生鮮食品コーナーを回っていると、不意に見覚えのある
リボンを見つけた。
「え?」
「あ……」
長い髪をポニーテルにした制服姿の少女。
「ええと、緑川……さん?」
緑川なお、本人だ。
(しまった!)
偶然を装って会うことは想像したけれど、本当に偶然会ってしまうことは考えていなかった
モトハルである。
「あ、確か唐沢さんと一緒にいた……」
(どうせ俺は唐沢のオマケだよな)
モトハルはそんな風に思いつつ自己紹介する。
「どうも」
裏路地で会ったときと違い、今のなおは“ばつが悪そう”だった。
「買い物?」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/19(月) 20:36:20.83 ID:qXboas7Oo<>
「ええ、はい」
「両親の手伝いとか」
「ああいえ、ウチ、両親が不在がちなんで私が料理作ってるんです。弟や妹たちの分を」
「兄弟いるんだ」
「はい。私が一番上で」
「なるほど」
同い年のはずの星空みゆきや黄瀬やよいと比べて大人っぽく見えるのはそれが
原因なのかな、とモトハルは思った。
「しかし大変だな。部活もやって、下の弟や妹たちの世話おしなきゃならないなんて」
「弟たちも手伝ってくれるから大丈夫ですよ。それに、私はお姉ちゃんだからしっかりしないと」
「お姉ちゃんか……」
モトハルは自分の姉との違いに、軽くショックを受ける。
(隣の芝生は青く見えるってやつか?)
ふとそう思ったが、
「モトハルー、試食のウインナーがあるよ。アンタも食べなよ」
後ろから声をかけてくる姉。
「あ、あれは俺の姉です」
「そうなんですか。じゃあ、家族が待ってるんで私はこれで」
「ああ」
そう言ってモトハルは、なおと別れた。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/19(月) 20:36:59.16 ID:qXboas7Oo<>
「あれ? 今の子だれ?」
爪楊枝の刺さったウインナーを持ったまま姉は聞いてくる。
「ああ、知り合いの知り合い」
その問いにモトハルは曖昧に答えた。
「そうなんだ。アンタ、女の子の知り合いいたんだね」
「悪いかよ」
「別に悪くないよ。お姉ちゃんは嬉しいぞ」
「ああそう」
「それより、ウインナー」
「いらねえよ」
「食べなさいよ。せっかくアンタの分ももらってきてあげたんだから」
「わかったよ」
「はい、アーン」
「ふがっ! 鼻の穴に入れるな!」
「あ、ゴメンゴメン」
「ったく」
ウインナーの油で汚れた鼻を拭きながら、モトハルはなおのことを考えた。
部活に所属しているのに弟や妹たちの世話をする少女。
(大変だろうな)
そして姉を見るモトハル。
(こっちは姉一人ですら持て余しているというのに……)
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/19(月) 20:37:53.05 ID:qXboas7Oo<>
どうやってなと接触すればいいのか。
はっきり言って男子高校生と女子中学生との自然な接触などありえないのだ。
自分の叔母とその中学生の両親が友人同士だったとか、そういう偶然でもない限り会話すら
ありえない。
学校の先生でもない限り同じ場所に立つことすらないのだから。
モトハルは生徒会室で一人、途方に暮れていた。
「休みの日に、どこかへ行くということないのだろうか……」
「なおちゃんなら中央公園によく行ってますよ」
「え?」
「はい?」
「……ほしぞら」
制服姿の星空みゆきが笑顔でそこにいた。
「なんでこんなところにいるんだ。ええと、からさ……、じゃなくて生徒会の人たちに会いにきまして」
「そうなのか」
「それより、緑川なおちゃんに会いたいんですか?」
「いや、まあ……」
「もしかして新しいプリキュアの候補?」
「そうだな」
「やっぱりそうなんだ」
「あのさ、星空」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/19(月) 20:38:16.06 ID:qXboas7Oo<>
「なんですか?」
「お前、緑川と知り合いなのか?」
「はい。同じクラスなんです」
「なに!?」
「なおちゃんって人気者で忙しいから、なかなか会える機会ないんですよね」
「それはわかってるけど」
「でもですね、あの子弟や妹たちのことをすっごく大事にしてますから」
「そうか」
「行ってみます?」
チラッとこちらを見るみゆき。
「行きたいのか」
「モトハルさんが行きたいと言うのなら」
「わかった」
モトハルは腹をくくる。
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/19(月) 20:40:54.64 ID:qXboas7Oo<>
日曜日の中央公園。
緑の多いこの公園は、モトハルも好きな場所だ。
そこにモトハルとみゆき。そして緑川なおを含めた六人の姉弟たちが勢ぞろいした。
「みゆき、モトハルさん。今日はありがとう。私一人でこの子たちの相手をするのは大変だから」
そう言ってなおは笑顔を見せる。
六人そろった姿は壮観だった。
緑川家の子供は、なお、けいた、はる、ひな、ゆうた、こうたという女三人、男三人の構成だ。
小さな子供が集まると、そのエネルギーは莫大なものになる。
「大丈夫、私子供大好きだから」
こうたを抱っこしたみゆきが言った。
「おりゃあ」
「きゃあ! ほっぺ引っ張らないでえええ」
こうたは面白がってみゆきの頬を引っ張る。
「ヒゲの兄ちゃん! 野球しようぜ野球!」
バットを持ったけいたが言った。
「おう、いいぞ。だが『ヒゲの兄ちゃん』はよせ」
「俺イチロー役をやるから、兄ちゃんはランディ・ジョンソンやって」
「悪い、俺は右利きだ」
「ヒゲ兄ちゃん、遊ぼう」ゆうたもそう言って構える。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/19(月) 20:41:40.62 ID:qXboas7Oo<>
「おい、ちょっと待て」
「イナゴキーック!」
「いてええ!!」
子供は大人相手に本気でやるので、地味に痛い。
「ティロ・フィナーレ!」
つられて大きい方の妹も蹴ってきおった。
「ぐほっ!」
姉の友人(全員年上の女子)にいじられた時もキツイと思ったけれど、子供たちの相手も
これはこれで大変だと思うモトハルであった。
(こいつらをいつも相手にしているのか。そりゃ体力もつくわな)
公園のベンチに座り、小さい方の妹に絵本を読んであげているなおを見ながら、モトハルは
思った。
子供たちが元気に遊ぶ日曜日の公園。
しかし、そんな幸せな光景は長くは続かなかった。
「!?」
不意に暗くなる公園内。
「う、なんか気持ち悪い……」
先ほどまで元気にピョンピョン跳ね回っていたゆうたやけいたの顔色がおかしい。
それどころか、ほかの子供たちや親たちの様子も変だ。
「モトハルさん!」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/19(月) 20:42:48.25 ID:qXboas7Oo<>
異常を察知した星空みゆきが駆け寄ってくる。
「星空! 大丈夫か」
「私は大丈夫だけど、なおちゃんたちが」
一瞬の衝撃――
「ぬわ!」
「ぐおらあああ! 良い子はいねえがあああ!!」
公園の広場に、虎柄の衣装に身を包んだ赤鬼が現れた。
「ウワッハッハッハ!」
「赤鬼さん!?」
みゆきが叫ぶ。
「貴様、まさかバッドエンド王国の!」
「いかにも! 皇帝ピエーロ様に忠誠を誓う三幹部の一人、アカオーニ様だオニ!」
悪者のわりに、赤鬼は丁寧に自己紹介をする。
そして、
「ほう、プリキュア。やはりいたか」
アカオーニはみゆきを見て言った。
「くっ! 赤鬼さん! あなたの好きにはさせないんだから!」
みゆきはそう言うとポケットからスマイルパクトを取り出す。
「させないオニ!」
「へ!?」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/19(月) 20:43:43.21 ID:qXboas7Oo<>
しかし、変身する前にアカオーニは縄を投げつける。
すると、その縄は特殊なモノのようで、自動でみゆきの身体に巻き付いてしまった。
「ふぎゃああ!」
いきなり手足の自由を奪われて、その場に倒れこんでしまうみゆき。
「星空!」
それを見たモトハルは、縄を解こうとする。
しかし、
「固い……」
「クックック、その縄には魔力を込めているオニ。一般人の力では到底解けないオニ」
「ぐっ、てめえ……」
モトハルはアカオーニを睨み付ける。
「安心するオニ、今日の獲物はお前らではないオニ」
「何?」
「プリキュアとヒゲ。お前らは後でゆっくり料理してやるオニ。まずは――」
そう言うとアカオーニは赤い球を取り出す。
「出でよ! アカンベェ!!!!」
その掛け声とともに、巨大な化け物が出現した。
巨大なコウモリのような形をした化け物だ。
ただし、翼の部分がなぜか網になっているので空は飛べそうにない。
「アカンベエエエエエエ!!!」
「さあ行け! アカンベェ! 緑川なおを殺せ!」
「アカンベエエエエ!!!」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/19(月) 20:44:23.14 ID:qXboas7Oo<>
そう叫ぶと、アカンベェとアカオーニは別の方向へと移動して行った。
「へ? 今、あの赤鬼さんは何て言ったの?」
アカオーニの言葉に驚くみゆき。
「ミドリカワナオと言った」
縄を引っ張りながらモトハルは答える。
「どうしてなおちゃんを」
「……まさか」
モトハルは最悪のケースを考える。
「俺が接触したことで、彼女がプリキュア候補であることがバレたんじゃ」
「そんな……」
「くそっ! なんてこった!」
モトハルは頭を抱えた。
(俺のミスだ。プリキュアの覚醒前に襲われたら戦えないというのに。もっと慎重に動いていれば)
「モトハルさん! 私のことはいいですから、早くなおちゃんを」
「しかし」
今、この時点でここで戦えるのはみゆきしかいない。
「早く! あの子にもしものことがあったら」
「……わかった!」
緑川なおの命が最優先だ。
そう思いモトハルは走り出す。
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/19(月) 20:44:49.41 ID:qXboas7Oo<>
一方その頃、なおは五人の妹弟たちと一緒にいた。
眩暈を我慢しながら、弟や妹たちを守ろうと必死だったのだ。
「この子たちには指一本触れさせない!」
なおは、巨大な化け物の前に立ちふさがる。
まともにやっても勝てる相手ではないことは明白だ。
更に後ろには金棒を持った赤鬼もいる。
「グワッハッハ。お前は緑川なおだなオニ」
「それがなんだ?」
「俺様の目的はお前一人だ。そこのガキどもには用はない」
「なに?」
「ガキどもは見逃してやってもいいオニ。お前一人が残れば、そいつらには手を出さないオニ」
「私に何の用だ」
「質問は受け付けないオニ! さっさとしないとガキごとぶっ潰すオニよ」
「……仕方ない」
なおは奥歯を噛みしめる。
そして、年の近い弟を呼ぶ。
「けいた」
「ね、ねえちゃん」
「ほかの子たちを連れて遠くに逃げな」
「でも……」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/19(月) 20:45:26.37 ID:qXboas7Oo<>
見るからに調子の悪そうなけいたは嫌そうな顔をする。
「大丈夫、姉ちゃんはすぐに行くから。だから少しの間、この子たちを頼む」
「……わかったよ。ほら、行くぞ」
けいたは下の弟を抱き上げ、名残惜しそうにその場を移動する。
「クックック。美しき家族愛とでも言うのか。くだらないオニ」
「お前らには関係ない。それで、何の用だ」
「緑川なお。早速だがお前には死んでもらうオニ」
「な……」
「やれ! アカンベェ!!」
「アカンベエエエエエ」
どこから取り出したのか、長い剣のようなものを持った化け物が大きく振りかぶる。
「く……!」
身体も重い。
恐怖で足がすくむ。
どうやら、上手くよけられそうになかった。
(ごめん、みんな。お姉ちゃんはこれまでみたいだ)
なおは目をつぶって、覚悟を決める。
――しかし
「何やってんだ!!」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/19(月) 20:46:03.07 ID:qXboas7Oo<>
不意に体が横に跳ぶ。
それと同時に公園のベンチが真っ二つに斬れてしまった。
「へ!?」
目を開けると、そこには見覚えのある髭面があった。
「モトハルさん!?」
「何棒立ちになってんだ! 死ぬぞ!」
「でも」
「立て!」
モトハルはなおを無理やり立たせると走り出した。
「行けるか!」
「はい」
先ほどまでのダルさが嘘のように身体がよく動くようになっていた。
「待てオニ! アカンベェ! 追うオニ!」
「アカンベェ!!!」
モトハルたちは公園の森の中に逃げ込む。
「アカ、アカンベェ?」
どうやら化け物はこちらを見失ったようだ。
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/19(月) 20:46:52.02 ID:qXboas7Oo<>
「モトハルさん、あいつらは……」
「悪い奴らだよ。今まで商店街で水道管が爆発したり、学校のグラウンドに大穴が開いたりする
事件があったろ?」
「確か」
「それは奴らの仕業だ」
「そんな。じゃあなんで私を狙うんですか」
「それは……、キミにあいつらを倒す潜在能力があるからだ」
「え?」
「すまない。本当はもっと早う言うべきだったのだが」
「何を」
「奴らを倒すには、プリキュアと呼ばれる戦士になる必要がある」
「プリキュア?」
「詳しい説明は省くが、キミにはそれになる才能があるんだ」
「そんな」
「だから奴らは、キミがプリキュアになる前に倒そうと考えたんだと思う」
「それで、あいつらは」
「急にこんなことを言っても信じられないかもしれないが」
「はあ……」
「出てこい緑川なお!!!」
アカオーニが叫ぶ。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/19(月) 20:47:37.07 ID:qXboas7Oo<>
「……!」
その声になおの身体は揺れる。
「出てこないなら、この近くにいるお前の家族を殺すオニ」
「そんな……!」
なおの身体が震えた。
「モトハルさん」
「どうした」
「私、行かなきゃ」
「待て緑川」
「でも……」
「緑川、俺にも姉がいる」
「へ?」
「一つ上の姉だ。いつもいじめられてばっかで、いい思い出はあんまりない」
「……」
「だが、そんな姉ちゃんでもいないと寂しいもんだ。だから、お前は弟や妹たちの元に行ってくれ」
「でも、そしたら」
「俺があの化け物どもを引き付ける」
「へ?」
「だから、俺があいつらを引き付けるから、その間に家族をもっと安全な場所へ避難させろ!」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/19(月) 20:48:20.77 ID:qXboas7Oo<>
「そんなことをしたモトハルさんが」
「男子高校生を舐めるなよ」
「……」
「俺は死なん。姉ちゃんに鍛えられてるから、逃げ足には自信があるんだ」
「モトハルさん」
「早く行け、本当に家族が危なくなるぞ」
「わかりました」
そう言ってなおは駆け出す。
「さて、俺も行くか」
モトハルは林から広場へと姿を見せる。
「オラ! こっちだ化け物ども!!」
「アカンベェ?」
「ぬ? 緑川なおはどこへ行ったオニ!!」
二体の化け物がこちらを見る。
(ヤバい、怖くなってきた)
しかし怯むわけにはいかない。
覚悟を決めたモトハルは大きく腹で息を吸う。
「この木偶の棒どもが! 緑川の居場所が知りたければ俺を倒してからにしろ!!」
彼の声が公園内によく響く。
「ぬわああにいい?」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/19(月) 20:48:57.64 ID:qXboas7Oo<>
挑発は効いているようだ。
「アカンベエエエエ!!」
先頭を切ってコウモリの化け物がこちらに向かってくる。
手には物騒な剣が一本。
「こい!」
モトハルは走り出す。
あの剣に、少しでも触れたら死ぬだろう。
そういった確信はあったけれど、大声を出したためか少しだけ精神は落ち着いていた。
「アカンベエエエエエエ」
大きく振りかぶるアカンベェ。
そして芝生に大きな切れ目が入る。
嫌な切れ味だと思った。
「それで終わりか糞野郎!!」
精いっぱいの虚勢を張って敵を威嚇する。
今の時間になおが逃げたらそれでいい。
(自分は死んでもいい。だがなおが死んだら、だれがコイツらと戦うんだ)
そう思ったら少し悲しくなってきた。
(くそが! こうなったら限界まで生きてやる! たとえ一分一秒でも長く!)
モトハルは走って逃げる。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/19(月) 20:49:36.03 ID:qXboas7Oo<>
「グロワアアアアア!」
アカンベェだけでなくアカオーニも金棒をふるって襲ってきた。
「ダサい服きてんじゃねえぞクソ鬼が!」
「バカにするなオニィ!」
アカオーニは赤い顔を更に赤くして襲い掛かってくる。
いつまで逃げればいいのかわからない。
(そろそろ林に逃げ込むか)
モトハルがそう思ったその時、
「やれ! アカンベェ!!」
「アカンベエエエエエエエエエ!!」
地面を震わす声がしたと思ったら、アカンベェが口から光線を発射した。
「ぬわあああ!!!」
爆発、そしてふわりと浮かぶ身体。
(な……! 光線なんてありかよ!)
一瞬、公園の地面の大きな穴が開いているのが見えた。
そして、次の瞬間視界に空が広がる。
「ぐほっ!」
そしてモトハルの身体は地面に叩き付けられてしまう。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/19(月) 20:50:33.85 ID:qXboas7Oo<>
受け身を取ったため、何とか致命傷は避けられたものの、恐怖と音のショックで身体が言うことを
聞かない。
「手間をかけさせやがってオニ」
遠くからそんな声が聞こえた。
モトハルは両手で目を覆う。
悔しかった。
身体が動かない。
頭の中に白い帽子を被った少年がちらつく。
(唐沢だったら、もっと上手くやっていたかもしれない)
そう思うと余計に悔しくて涙が出てきた。
「くそう、俺は結局唐沢がいないと何もできないのかよ……」
「面白い冗談だな、モトハル」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/19(月) 20:51:32.10 ID:qXboas7Oo<>
「へ?」
目を開けるとそこには、白い帽子を被った男子高校生がいた。
「唐沢、どうしてここに」
「話は後だ。立てるか」
そう言って唐沢はモトハルの手を引っ張って立たせる。
「おのれ白帽子! またしても邪魔をするオニか!!」
「お前が覚醒前の戦士を狙うことくらいお見通しだ」
唐沢の目が怪しく光る。
これはキレている時の目だ。
「とりゃ!」
「えい!」
唐沢の背後から二つの人影が飛び出す。
一つはオレンジ、もう一つはイエローだ。
「太陽サンサン熱血パワー! キュアサニーやで!!」
「ピカピカピカリン、じゃんけんぽん♪ キュアピース」
「な……」
「ちなみに今回のピカリンじゃんけんは、パーでした。みなさん。どうでしたか?」
「畜生、負けたオニ!」
アカオーニはグーを出していたようだ。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/19(月) 20:52:13.97 ID:qXboas7Oo<>
「茶番は終わりやで! サニーファイヤアアア」
「ギョワアアアアア!!」
アカオーニが炎に包まれる。
「ピ、ピースサンダアアアア!!」
「ぎぃやあああああああ!!!!!」
今度は電撃だ。
「ぐっ、ヤバイ。思わずイッてしまいそうになったオニ。しかしまだアカンベェは無傷オニ」
「……」
何も言わず、唐沢はサニーやピースの一歩前に出る。
「くそ腹の立つ白帽子。この場で始末してくれる。やれ! アカン――」
その時、どこからともなく声が聞こえてきた。
「――プリキュア」
「……?」
「ハッピー」
「オニ?」
「チョオオオオップ!!!!」
「ギョワアアアアアアアアアアアア!!!」
突然空から濃いピンク色の光が落下してきたのだ。
それ同時に押しつぶされるアカンベェ。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/19(月) 20:52:41.89 ID:qXboas7Oo<>
「アカンベェ!?」
土煙が晴れると、そこには大きなクレーターがでいていた。
「よっと」
そんなクレーターの中心からピンク色の衣装を着たキュアハッピーが現れる。
「ふう、遅くなりました」
右手の手刀から立ち上る湯気に軽く息を吹きかけてから、みゆきは言った。
「みゆき!」
「みゆきちゃん!」
サニーとピースが呼ぶ。
「へへ、どんなもんですか」
得意げに胸を張るみゆきことキュアハッピー。
しかし、アカンベェはすぐに復活した。
さすがに一撃では倒れないようだ。
「グオオオオオ!!」
「そうだアカンベェ、まとめてやっつけてしまうオニ!」
「――そこまでよ」
だが、プリキュアは三人だけではなかった。
「お前は」
「随分好き勝手やってくれたじゃないの」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/19(月) 20:53:16.20 ID:qXboas7Oo<>
やたらボリュームのある緑色の髪の毛と衣装。
「……緑川?」
「遅くなりました、モトハルさん」
緑の少女はそう言って少しだけ微笑んだ。
「勇気リンリン直球勝負! キュアマーチ!」
そしてお決まりのポーズ。
「くそっ、既にプリキュアに覚醒してしまったオニか。仕方ない。ぶっ潰すオニ」
「アカンベエエエエ」
「暴力沙汰は好きじゃあないが、目の前の無法は許せない」
「アカアアアアアアアア」
キュアマーチがグッと拳を握ると、物凄い強風が怒る。
「キャアアア!」
「うおわ!」
「大丈夫かお前ら!」
モトハルが他の三人に声をかける。
「大丈夫やで!」サニーは親指を立てた。
「下にスパッツはいてますから」そう言ってピースもスカートをちょっとだけ上げる。
「そういう問題じゃねえよ!」
そうこう言ってるうちに風はどんどんと強くなっていく。
「くっ、目にゴミが入ったオニ……!」
「アカ?」
アカンベェがバランスを崩したところで、マーチの足元に緑色に輝く風の球ができる。
「な!?」
「くらえ!!! キュアマーチ シュート!!!」
マーチの蹴った球がアカンベェに直撃した。
「ギョアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
大爆発とともに、アカンベェの姿は消滅したのであった。
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/19(月) 20:53:58.33 ID:qXboas7Oo<>
夕日に染まる道を、モトハルとなおの二人が並んで歩いている。
なおの弟と妹は、みゆきたちが先に家に連れて帰ってくれたので、こうして二人で話を
する時間ができたのである。
「今日は色々とありがとうございます」
と、なおは言った。
「本当にすまない。キミを戦いに巻き込んでしまって」
「最初からそうするつもりだったんじゃないですか?」
「いや、まあ確かにそうだが、家族まで巻き込むとは思わなくて」
「もういいです。これからは、私が守ります。そのための力も手に入れました」
そう言ってなおは、スマイルパクトを出して見せた。
「あの、モトハルさん」
「なに」
「私、少し憧れているものがあるんです」
「憧れ?」
「その、お兄ちゃんっていうのかな。自分、一番上だから年上の兄妹とかいなくて」
「そうか。俺も二人姉弟だから妹とか弟はいないぞ」
「そういえばそうですよね」
(ん? なんだこの雰囲気は……)
モトハルは少し焦る。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/19(月) 20:54:57.97 ID:qXboas7Oo<>
(もしやこれが、世に言うフラグというものなのか)
「その、モトハルさんってお兄ちゃんみたいだなあって」
なおは照れながら言った。
(これはもしかしてもしかするのか? しかし相手は中学生だ。場合によっては犯罪だぞ)
心臓が高鳴る。
「その、ちょっと恥ずかしいんですけど、知りたいことがあるんで聞いてもいいですか?」
「な、なに?」
「その……」
なおは恥ずかしそうに眼を伏せる。
(落ち着け俺。相手を傷つけないように、その……)
「ええと……」
(平常心平常心)
そして吹き抜ける風。
「唐沢さんって、付き合ってるカノジョとかいるんですか?」
「………………え?」
つづく <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/19(月) 20:58:04.50 ID:qXboas7Oo<>
Q.なぜモトハルに恋愛フラグが立たなかったのですか?
A.モトハルだから
身近に優秀な人間がいると、少なからず劣等感を感じてしまうものですよね。
今回は、そんなお話でした。
次回は、あの人が主役。プリキュアもあと一人。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2012/03/19(月) 22:43:20.45 ID:L5RXNZEv0<> 乙
目の付け所がいいな
モトハル、お前はよく頑張った・・・ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/19(月) 23:03:59.96 ID:quAlEkhpo<> モトハル…………
まぁ、そんな気はしてたよww
このペースだと放送追い越しちゃうけど、ペース落ちるのかな?
それとも揃ったら終わり? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2012/03/20(火) 03:57:12.60 ID:KxrXoblwo<> たまにはモトハルにもスポット当てろよ...
まーモトハルだからしゃーないか <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県)<>sage<>2012/03/20(火) 05:11:21.86 ID:GMsnoFVto<> 覚醒前につぶすとか理にかなってるんだけどなぁ
絶対おそったタイミングで覚醒するフラグになっちまう <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/20(火) 20:23:54.10 ID:9ToLbnflo<> アナザーというアニメを見てたんですけどね、福圓さんが酷いことになっておった。
そういやプリキュアでも似たようなシーンがあったな。
では始めます。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/20(火) 20:25:01.88 ID:9ToLbnflo<>
第五話プロローグ
とある平日。
この日は部活動もないので、彼は早めに帰宅しようとしていた。
すると昇降口で自分のクラスの連中と会う。
「よおミツオくん」
メガネをかけたヒデノリが声をかけてきた。
「お、今日は早いんだな」
その横には金髪のヨシタケもいる。
もう一人、黒髪の同級生もいたけれど彼は名前が思い出せなかった。
「あ、部活ないの? じゃあたまには一緒に帰ろうぜ」
と、ヒデノリは言う。
「別にいいけど」
「おっしゃ。だったらさあ、お好み焼き食いにいかね?」
そう言ったのはヨシタケだった。
「お好み焼き?」
ちょうどこの日はラーメンでも食って帰ろうかと思ったところだからちょうどいい。
「ああ、前にモトハルたちと一緒に行ったところなんだけど、安くてうまいから」
「そうなのか」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/20(火) 20:25:27.38 ID:9ToLbnflo<>
「行こうぜミツオくん」
名前が思い出せない黒髪の少年も言った。
「あ、うん」
彼はそう言って黒髪の少年から目を逸らす。
相手は自分の名前を知っているけれど、こっちは知らない状況ほど気まずいものはない。
(何だったっけなあ。同じクラスなのに思い出せない)
「それじゃ行くか」
ヒデノリがそう言ったところで、後ろから声をかけられた。
「おい、戻れ。帰るなお前ら」
振り向くと高校球児みたいな白い帽子を被った男子生徒がいた。
「どうした唐沢」
「なにかあったか?」
同じクラスの唐沢としゆきだ。
「今日はクリーンキャンペーンの日だ。五時まで旭町でゴミ拾いをやる」
眼光が鋭く一見すると不良のようだが、これでも生徒会執行部の役員として活躍しており、
生徒たちからの信頼も厚い。
「ええ? ゴミ拾い〜?」ヨシタケは嫌そうな顔をしながら言った。
「文句を言うな」
(唐沢か……) <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/20(火) 20:25:54.55 ID:9ToLbnflo<>
しかし、彼にはゴミ拾いよりも、唐沢についてもっと気になるところがあるのだ。
(あの肩に乗っているのは何だろう)
ここ数週間、唐沢の肩にはいつもぬいぐるみのような動物が乗っている。
時々動いたりしているから、単なるぬいぐるみというわけでもなさそうだ。
しかし正体がわからない。
「仕方ねえなあ、行くぞ」
「ったくもう」
唐沢に説得され、クラスメイトたちは渋々ついていくことに。
当然、彼もそれに続いた。
「男だけで延々とゴミ拾うってどうよ」
「安心しろ、今日は別の学校との合同でのゴミ拾いだ」
「え? マジで。女子とかいるの」
「ああ、いるだろうな」
「やっべ、テンションあがってきた」
喜ぶヨシタケを無視して、彼はずっと唐沢の肩の上にいる謎生物を見ていた。
(尻尾が生えてる)
謎生物は、不意に足を滑らせる。
(あ、落ちそう)
そう思ったら、今度は右肩から左肩に移動した。
(一体何なんだありゃ……)
ミツオくんの疑問をよそに、彼らはジャージに着替えて町内のゴミ拾いに向かうのであった。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/20(火) 20:26:33.59 ID:9ToLbnflo<>
男子高校生のスマイルプリキュア
第五話 男子高校生と氷の頭脳(カームジャッジメント) <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/20(火) 20:27:05.75 ID:9ToLbnflo<>
バッドエンド王国秘密アジト――
いつものようにアカオーニとウルフルンが言い争いをしている。
「正直、その尻尾どうかと思うオニ」
最初に仕掛けてきたのはアカオーニだ。
「んだとコラ。キャラ付けのために生やしてんじゃねえんだよ。オオカミだから生えてるんだ!」
ウルフルンも言い返す
「だいたい狼のくせに全然狼らしくないオニ」
「テメーなんざ、語尾に『オニ』つけてるじゃねえか! 語尾でキャラ付とかあざといんだよ!」
「別にキャラ付けとかそんなつもりはないオニ! 鬼だから語尾にオニが付くだけオニ!」
「だったら悪魔は語尾に『デーモン』とか付くのかバカ!」
「バカとはなんだオニ! また金棒でフ〇ックさせるオニ!!」
「ウガアアア」
「オニイイイイ」
「何を騒いでいるだわさ」
そんな喧騒をかき消すように、小柄な老婆が現れた。
全身を地味な色のローブで覆っている。
「マジョリーンじゃないかオニ」
「マジョリーナだわさ。人の名前間違えるんじゃないだわさ!」
老婆の名前はマジョリーナ。バッドエンド王国三幹部の一人だ。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/20(火) 20:28:17.92 ID:9ToLbnflo<>
「色々と準備があってね。それよりアンタたち」
「なんだ」
「なんだオニ」
「伝説の戦士、プリキュアが復活したようだね」
「そうだな……」
「……」
押し黙るアカオーニ。
ウルフルンも、その話をすると機嫌が悪くなるようだ。
「言い伝えによればプリキュアは全部で五人。今は確か――」
「四人目オニ」と、アカオーニは答えた。
「そうだったね、アカオーニ。報告書は私も読んだよ。アンタ誤字脱字が多すぎるだわさ」
「ワシは指が太いからタイピングは苦手オニ」
「だったら他の連中に代筆させりゃいいだろうが。まあそんなことより、覚醒前のプリキュア
予備軍を狙うってのは、まあいいアイデアだと思うだわさ」
「そう思うだろう、オニ。この狼とは頭のできが違うオニ」
アカオーニは得意げに言った。
「何言ってやがんだ。結局失敗しちまったじゃねえか」
それにウルフルンが反論する。
「ただ、プリキュアになる前の奴を狙っても、別の人間がプリキュアになる可能性があるだわさ」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/20(火) 20:28:45.74 ID:9ToLbnflo<>
「な……」
「だから、結局プリキュアと戦わざるをえないだわさ」
「そうかオニ」
項垂れるアカオーニ。
「だが奴らにも弱点はあるはずだわさ」
「本当オニか?」
「確信はあるだわさ」
「行くのか、人間界に」
ウルフルンは聞いた。
「ああ、すぐに戻ってくるだわさ」
「だったら『ジャン〇』買ってきてくれねえか?」
「は?」
「アカオーニはド〇ターペッパーが飲みたいオニ」
「……」
黙り込むマジョリーナ。
「どうした」
「自分で買いに行けえええええ!!!!」
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/20(火) 20:29:52.55 ID:9ToLbnflo<>
「唐沢さん、この問題なんですけど」
「ちょっとなお、くっつき過ぎやで」
「近づかないとわかんないだろう? あかねこそ、そっちの問題終わったの?」
「唐沢さん、この問題なんやけど……」
真田北高校生徒会室――
普段男ばかりのこの部屋に、なぜか女子中学生が集まっていた。
「こっちの問題はさっきやったろう」
二人の女子中学生に挟まれるような形で数学の問題を教える唐沢。
それをモトハルは向かい側の席でじっと見ていた。
隣を見ると、眠そうな顔をしている星空みゆき。
さらにその隣はノートにパラパラ漫画を描いている黄瀬やよいがいた。
「お前たちは勉強しなくていいのか?」
モトハルは隣のみゆきに聞いた。
「いやあ、勉強しなきゃならないってことはわかってるんだけどねえ」
「……」
「国語以外はちょっと苦手かなあ」
そう言ってみゆきは苦笑する。
「私は美術以外が苦手で」
と言ったのはやよいだ。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/20(火) 20:30:36.21 ID:9ToLbnflo<>
「それはいいが、何でここで勉強してるんだ?」
向かい側の席で妙に唐沢に接近しているあかねにも聞いてみた。
「え? なんていうか、家やと集中できひんやん? この時期は図書館も人が多いし」
あかねは照れながら答える。
「私の家も兄妹が多いから、なかなか集中できないんですよ」
なおもそう言った。
「いや、それはわかるけど……」
モトハルも家で勉強をしていると、後ろから姉にヘッドロックをかけられることがよくある。
「私も家にいると、つい絵本を読んじゃってえ」
みゆきは頭をかきながら笑う。
「お前はここでも勉強してねえじゃん」
「……」
黙り込むみゆき。
「黄瀬、お前はさっきからパラパラ漫画しか描いてねえじゃねえか!」
「ご、ごめんなさい!」
そしてやよいは泣き出した。
(もしかしてこいつら……)
モトハルはあることに気が付く。
「え?」
その場にいる唐沢以外の全員がモトハルの顔を見た。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/20(火) 20:31:23.89 ID:9ToLbnflo<>
(頭、悪いのか?)
「どうしました? モトハルさん」
みゆきが不思議そうな顔で聞く。
「いや、何でもない」
そう言ってモトハルは、別の話題を考えた。
「そういえば唐沢」
「どうした」
「会長、知らねえか。生徒会長」
「会長なら図書館へ行くとか言ってたな」
「勉強かな」
「ただの暇つぶしだろ」
「まあな」
「あの唐沢さん……」
唐沢の隣りに座っているあかねが聞く。
「どうした」
「失礼ですけど、会長さんって頭いいんですかね」
確かに失礼な質問だとモトハルは思う。
会長は他校の生徒会長から「アホ」とか「ボンクラ」とか言われている。
ただ、成績自体はそれなりにいいのだ。
「へえ、意外ですねえ。ウチはてっきり……」
「お前ら会長を何だと思ってんだ」
本気を出せば東大でも京大でも入れるだけのポテンシャルを持っていながら、
本人はあまり興味はないらしい。
日々を楽しく生きることを常に指向している。
あの手が付けられなかったくらい荒れていた副会長を心服させられるだけの
カリスマ性を持っている人物だ。
「まあ、只者ではないよな」
「あ、唐沢さん。この問題なんですけど」
「ってか聞けよ! お前から聞いてきたんだろうが」
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/20(火) 20:32:07.63 ID:9ToLbnflo<>
市内某所にある図書館――
七色ヶ丘中学の生徒会副会長である青木れいかは、この日図書館に本を返しに来ていた。
図書館には同じ学校の生徒たちが何人か勉強をしている。
文武両道で頭脳明晰な彼女は、毎日の予習復習をしっかりこなしており、テスト前に焦って
勉強する、ということはない。
とはいえ、まったく何もやる必要がないというわけでもないので、この日は早く家に帰って
勉強をしよう、と考えていた。
(でもちょっとだけ……)
そう思い彼女は小説コーナーへと立ち寄る。
市内の図書館は小説類が充実していて、彼女のお気に入りである。
(新刊、入っていますね)
そう思い、入ったばかりの本に手を伸ばそうとしたとき、
「あ」
誰かと手が当たってしまった。
「すいません」
「いえいえ」
よく見ると、男子高校生だ。
その制服と飄々とした雰囲気には見覚えがあった。
「あの、失礼ですけど」
「どうしたの?」
男子高校生は答える。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/20(火) 20:32:53.07 ID:9ToLbnflo<>
「もしかして、真田北高校の生徒会長さんではありませんか?」
「どうして俺のことを知っているのかな」
「あ、はい。私は七色ヶ丘中学二年の、青木れいかと申します。生徒会で副会長をやって
おります」
「へえ、そうなの」
「噂はかねがね聞いております。何でも、街の問題や人の悩み事を解決してくれる北高の
生徒会。そのトップなのですよね」
「ああ、そんな噂があるのか」
「一度お会いしてみたいと思っておりました」
「キミも何か悩みでもあるの?」
「いえ、私は別に。ただ」
「ただ?」
「地域の役に立つことをするのは、素晴らしいことだと思いまして……」
「ウチは地域に愛されるまともな校風でとおってるからね」
「はあ、そうなんですか」
本当はもっと色々聞きたかったれいかだが、図書館の中ということでそれは自重した。
「あの、会長さん――」
しかしその時、
巨大な音と振動。
「まいったね、図書館では静かにしないと」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/20(火) 20:33:31.80 ID:9ToLbnflo<>
「か、会長さん!」
停電なのか。
不意い周囲が暗くなっている。
窓の外を見ると、なにやら蜘蛛の巣のようなものが覆っていた。
あんなものは無かったはずなのに。
「イーッヒッヒッヒ。おや、何だかわからないところに出てしまっただわさ。
でもここにも子供たちがたくさんいるから、バッドエナジーを集めるだわさ」
一階から変な声が聞こえてきた。
慌てて声のした辺りに確認しに行く二人。
この図書館は二階建てで、一部が吹き抜けになっており、二階の一部から一階の
フロアーが見渡せるようになっているのだ。
下を見下ろすと、そこには薄汚いローブをまとった魔女のような老女が一人。
その周囲には多くの中高生が倒れていた。
「一体何が……」
れいかがあっけにとられていると、隣にいた生徒会長が言った。
「あの、“お雪ちゃん”」
「え? 私のことですか」
「これ、あずかっといてくれるかな」
そう言うと北高生徒会長は自分の首にあったネクタイを外す。
「とうっ」
そして、階段を使わずに二階から直接一階まで飛び下りた。
「会長さん!」
「何者だわさ!」
下を覗き込むと一階でうずくまる会長の姿があった。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/20(火) 20:34:31.94 ID:9ToLbnflo<>
「いってえええ、さすがに二階から飛び下りるのは痛かった。
素直に階段使っときゃよかったあ……」
「何してるだわさ……」
「おっとおばあちゃん。俺の地元でそんなおいたをしちゃあいけねえぜ」
会長は立ち上がりつつ言った。
「おばあちゃんじゃないだわさ! 私はマジョリーナだわさ!」
「ああわかった、魔女お婆ちゃん。さっさと元に戻してくれるかい」
「そういうわけにもいかないだわさ。というか、まぜお前は平気だわさ?」
「若いからねえ」
「よくわからんだわさ。とにかく、出力全開でバッドエナジーを集めるだわさ」
そう言うと、マジョリーナは本を開いた。
「その本で何をするの」
「聞いておどろけ。この本を黒く塗りつぶすことで世界をバッドエンドにするだわさ」
「へえ」
「こうすることによって人間どもからバッドエナジーを集め、世界を破滅させるだわさ」
「なるほど」
「さあ、大人しくお前もバッドエナジーを進呈し、皇帝ピエーロ様の復活に寄与するだわ……」
マジョリーナは周囲を見回す。
「あれ? 闇の絵本が」
「この本にそんな力があるのかな?」
いつの間にか、会長はマジョリーナの持っている絵本を手に持っていた。
「ちょっ、泥棒! 何をしてるだわさ」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/20(火) 20:35:01.35 ID:9ToLbnflo<>
「いやだってさ。この本が図書館の中の人たちをこんなにしちゃったんでしょう?
危険物なんだから没収ですよ」
「やめるだわさ!」
とびかかるマジョリーナ。
「おっと」
それをヒラリとかわす会長。
「ぐぬぬ。おのれ、人間のくせにこのわたしをバカにするとは許せないだわさ」
そう言うと、マジョリーナはローブの中から赤い球を取り出す。
「何やら不味いな。よし、こっちだ」
そう言うと会長は絵本を持ったまま入口のほうまで走った。
「逃がさないだわさ!」
それを追いかけるマジョリーナ。
「会長さん!」
二階から見ていたれいかも、二人の後を追った。
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/20(火) 20:35:43.89 ID:9ToLbnflo<>
駐車場の周辺にもクモの糸のようなものが張り巡らされている。
まるで脱走防止のための鉄条網だ。
れいかが会長の後を追って外に出てみると、魔女と対峙する北高生徒会長の姿があった。
「イーヒッヒッヒ。もう逃げ場はないだわさ」
「どうやらそのようだね」
「さっさと闇の絵本を返すだわさ」
「この状況を元に戻すっていうなら、考えてもいいけど」
「お前は自分の立場をわかっていないようだね」
「と、いいますと?」
「この場所ではあたしが圧倒的に有利ってことだよ!」
そう言うとマジョリーナはローブの下から赤い球体を取り出す。
「出でよ! アカンベェ!!!」
魔女が叫ぶと、空中に光が発せられる。
「うわ!」
「きゃっ」
そして図書館の駐車場には、巨大な本が現れる。
「あれれ」
茶色の背表紙の重厚な本。
それが開くと、巨大なピエロみたいな顔が出てきて、その上手足のようなものが生えてきた。
「へえ、本に手足が生えてきたよ。凄いなあ」
生徒会長は感心したようにつぶやく。
「さあアカンベェ、やっておしまいなさい!」
「アカンベエエエエエエ!!!」
マジョリーナの命令がかかるやいなや、本の化け物は会長に向かって襲い掛かる。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/20(火) 20:36:22.40 ID:9ToLbnflo<>
「うわっと!」
アカンベェの攻撃を素早くかわす会長。
しかし、怪物の拳から発せられる打撃は協力で、駐車場のアスファルトに穴が開いてしまった。
「おやおや、こんなのくらったらひとたまりもないね」
それでも会長は余裕の笑みを止めない。
「小賢しい奴だね、何をやってる。いけ」
「アカンベェ!!!」
化け物は自分の身体のページとページの間から、長方形の固そうな紙を取り出す。
「な?」
よく見ると、それは本に挟む“しおり”だ。
「会長さん!」
思わず叫ぶれいか。
「アカンベエエエエエ!!」
化け物はそのしおりを、手裏剣のように投げる。
「おわああ!」
シュルシュルと回転しながら投げられたそのしおりが、駐車場に止めてあったトヨタ・クレスタに
突き刺さった。
「ありゃあ……」
敵の直接攻撃もまずいが、あのしおりの攻撃もかなり不味い。
人間が当たればまず間違いなく真っ二つになるだろう。
「会長さん! 逃げて!!」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/20(火) 20:37:07.79 ID:9ToLbnflo<>
思わずれいかは叫んでしまう。
このまま会長が真っ二つになる場面を見たくはなかったからだ。
「おや、ネズミがまだ一匹いたようだね」
「え」
「アカンベェエエエエ!!」
マジョリーナはすばしっこく逃げ回る会長から、図書館の入り口付近で様子を見ていた
れいかに狙いを変えたようだ。
「まずいですね」
危険を感じたれいかはその場から逃げようとする。
しかし、
「あっ!」
足に何かが引っかかり、その場に倒れてしまった。
「え?」
足元を見ると、クモの糸のようなものが巻き付いている。
「イーッヒヒヒ。あたしがアンタの存在に気づいていないとでも思ったかい?」
「アカンベエエエ!」
化け物の巨大な手がれいかを掴む!
「いやああ!」
身体が強く締め付けられた、と同時にふわりと宙に浮かぶ。
「お雪ちゃん!!!」
会長が叫んだ。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/20(火) 20:37:51.87 ID:9ToLbnflo<>
「この小娘を助けて欲しければ、さっさとその闇の絵本を返すだわさ」
「卑怯者!」
れいかが叫ぶ。
「イーッヒヒヒ。なんとでも言いな。さあ、早くするだわさ」
「会長さん」
「……」
会長はれいかの方をチラリとみると、不意に笑った。
(何なんですの?)
「わかったよ、お婆ちゃん。この本は返そう」
そう言うと会長はゆっくりと前に出る。
「そこに置きな。ちょっとでも変な真似をすると、この娘の命はないよ」
「ああ、はいはい。わかったよ」
会長は言われた通り、持っていた闇の絵本を駐車場のアスファルトの上に置く。
「さっさと下がりな」
「はいはい」
言われた通り、会長は後ろ向きに下がる。
「よおし。上出来だわさ。それじゃあ――」
「危ない!」
嫌な予感がしたれいかは思わず叫んでしまう。
「一瞬で殺してやるだわさあああ!!! やれ! アカンベェ!」
「アカンベエエエエエエ!!!」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/20(火) 20:38:42.20 ID:9ToLbnflo<>
素早く先ほどのしおりを取り出した化け物は、ふたたびそれを投げる。
「会長さん!!!」
しおりは、まるで吸い込まれるように別の自動車に直撃すると、爆発した。
「いやあああああ!!」
目の前での爆発。
衝撃波も激しかったけれど、それ以上に一人の人間が死んでしまったことの
ショックのほうが大きかった。
「会長さん……」
目の前がゆがむ。
「まったく、バカな男だわさ」
マジョリーナはそう言いつつ、駐車場の上に置かれた本を取りに行く。
「素直に渡していればもっと楽に死なせてやったのに」
そして本を手に取った。
「なんだお前、泣いてるだわさ?」
れいかのほうを見ながらマジョリーナは言う。
「うう……」
「安心するだわさ。お前もすぐにあいつのところに連れて行ってやるだわさ。ふっふっふ。
さっさとバッドエナジーを回収し……」
ここでマジョリーナの動きが止まる。
「ど、どういうことだわさ」
「へ?」
マジョリーナの顔色がみるみる変わっていく。
「『お持ち帰り! そういうのもあるのか』 って、これ漫画だわさ!!!」
手に持った本を地面に叩き付けるマジョリーナ。
「ど、どういうこと?」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/20(火) 20:40:16.45 ID:9ToLbnflo<> 「ど、どういうこと?」
「おやおや、本を粗末にしちゃあいけませんよ。『愛蔵版孤独のグルメ』、面白いでしょう?」
「え?」
気が付くと、れいかのすぐ隣りに会長がいた。
爆発に巻き込まれたのか、制服はボロボロだ。
しかし彼は間違いなくそこにいた。
「お、お前生きてたのかだわさ!」
「変わり身の術はウチの生徒会なら誰でも使えますよお婆ちゃん」
「本物の闇の絵本はどこだわさ!」
「ここだわさ!」
そう言うと、先ほどと同じ表紙の本を取り出す会長。
「騙したね! 許さないだわさ!!」
「はあ、そうですか。じゃあお返ししますよ」
そう言うと、本物の闇の絵本を投げる。
「ぎゃああ、大切に扱うだわさ!」
「そんじゃあ、こっちも返してもらいましょうか。それっ!」
そう言うと、会長はどこから持ってきたのか、“千枚通し”を化け物の腕に突き刺した。
「アギャアアアア」
叫ぶ化け物。
「きゃあ!」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/20(火) 20:40:53.75 ID:9ToLbnflo<>
一瞬の揺れの後、れいかは化け物の手からするりと抜けおちた。
(まずい)
顎を引いて地面との衝突に備えるれいか。
しかし、
「よっと」
「え?」
彼女の落下を予想した会長が、先に下に降りてれいかの身体を受け止めた。
「会長さん」
「怪我はないかい、お雪ちゃん」
「ありません。あと、私はれいかです」
「んまあ、いいじゃない。それより走れる?」
「あ、はい」
会長はれいかを立たせると、全力で走り出す。
「逃がさないだわさ!」
闇の絵本を拾ったマジョリーナがこちらの動きに気づいて叫ぶ。
「やってしまうだわさ、アカンベェ!」
「アカンベエエエエエエ!!!」
「ほらこっち」
会長に手を引かれ逃げるれいか。
そこで彼女は思った。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/20(火) 20:41:38.22 ID:9ToLbnflo<>
この状況は、まるで悪い魔女から追われて、それを騎士(ナイト)に助けてもらっている
ようだと。
「もう逃げられないだわさ」
れいかのロマンティック乙女ゲージが満タンになったころ、会長たちは敷地の隅に追いやられていた。
「どうやら絶体絶命、と言ったところかな」
「会長さん……」
れいかは会長の腕をつかむ。
「案ずるなお雪ちゃん。キミにはもう指一本触れさせないよ」
「でも」
「出会ったばかりの女の子を守って死ぬってのも、悪くないかな。はは」
「会長さん!」
「面白い冗談ですね、会長」
空が、割れる―― <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/20(火) 20:42:14.75 ID:9ToLbnflo<>
「なんだわさ!?」
図書館の敷地外から強烈な光が差し込んできた。
それと同時に風が吹き込み雷が落ちる。
「ぎゃあああああああ!!!」
いきなりの攻撃でアカンベェはもだえる。
「随分と好き勝手やっているようだな。今日は新顔か」
「おのれ出てきたか、白帽子」
「唐沢!」
「この人が……」
会長とれいかの前に立つ白い帽子の高校生。
その直後、光につつまれた少女たちが現れた。
「キラキラ輝く未来の光! キュアハッピー!」
「太陽サンサン熱血パワー! キュアサニー!」
「ピカピカピカリンじゃんけんぽん♪ キュアピース」
「勇気リンリン直球勝負! キュアマーチ!」
それぞれが、それぞれのポーズをとりながら名乗る。
「ちなみに今日のピカリンじゃんけんは、グーでしたあ」
「どうでもええがな」
ピースの報告にツッコミを入れるサニー。
「ほ、星空さん? 一体なにをやってるんですか?」
れいかは聞いた。
「い、いや、別に私は星空みゆきなんていう中学生ではありませんよ」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/20(火) 20:43:30.82 ID:9ToLbnflo<>
「バレバレやな」
「どういうことですか?」
「彼女たちは、伝説の戦士プリキュアクル!」
唐沢の肩に乗っているぬいぐるみのような形をした動物が、れいかに言った。
「あなたは?」
「キャンディはキャンディというクル」
「伝説の戦士というのは、あの化け物と戦う力ですか?」
「そうクル!」
先ほど名乗りをあげた四人が、本の怪物を相手に戦っている。
「よおし、トドメはウチや!」
そう言って気合を込めるキュアサニー。
しかし、
「やめろ!!」
唐沢が止めた。
「え?」
しかし一度発動した必殺技は止まらないようだ。
「プ、プリキュア・サニーファイヤー!!!」
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
炎に包まれる怪物。
しかし同時に駐車場も炎に包まれてしまった。
「なんだこりゃ!」
「さっき破壊した車からガソリンが漏れていたのです!」
れいかが言った。
唐沢はそれに気づいて止めたのだ。
「ちょうどいいだわさ! ここら一帯を燃やし尽くすだわさ! アカンベェ!」
「アカンベエエエエエエ!!!」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/20(火) 20:44:12.92 ID:9ToLbnflo<>
炎に包まれたアカンベェが暴れ回る。
「髪に火がああああ!!」
髪の毛に火がついて慌てまくるキュアハッピー。
「みゆきちゃん!」
そして、それを見ていたピースはどうしていいのかわからずオロオロしていた。
混乱するプリキュアたちの中で、キュアマーチが前に出る。
「わたしが何とかするよ」
「だからやめろ緑川!」
唐沢の制止も聞かず、マーチは技を繰り出す。
「マーチ・トルネード!!!」
「グオオワアアアアア!!」
風にあおられた炎は更に強くなってしまう。
状況は更に悪化した。
「あの、キャンディさん」
そんな中、れいかはキャンディに問いかける。
「なにクル?」
「私、プリキュアをやります」
「やってくれるクル?」
「一体どうすれば」
「これを使うクル」
気が付くと彼女の手には、コンパクトのようなものがあった。
「これは」
「スマイルパクトクル。これを使ってプリキュアに変身するクル」
「わかりました」
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/20(火) 20:44:36.78 ID:9ToLbnflo<>
「ああ、どうしよう……」
何とか、髪についた火を消したキュアハッピーこと星空みゆきは焦っていた。
「ボーっとしてないで火を消すのを手伝え」
そう言ったのは唐沢だ。
いつの間にか図書館から消火器を持ってきて、消化していた。
しかし、数個の消火器程度で何とかなる火ではない。
何より炎の大本が酷過ぎる。
「グオワアアアアアアアアアアアアアア」
あれを何とかしない限り図書館と、中の人間は守れないだろう。
「うぐぐ、こうなったら体当たりで」
「――皆さん、下がってください」
ふと、声が聞こえた。
「え?」
図書館の屋根の上。
そこには青い光が見える。
「プリキュア? その声は、れいかちゃん?」
その姿はまさしくプリキュアであった。
「しんしんと降り積もる清き心! キュアビューティ!」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/20(火) 20:45:07.96 ID:9ToLbnflo<>
「キュアビューティー? またプリキュアの新手かい? やってしまうだわさ!」
「グワオオオオオオオオ!!!」
炎を帯びた化け物が襲う。
「この図書館も、仲間も私が守ります」
そう言うと、キュアビューティは片手をあげる。
「少し、頭を冷やしましょうか」
そう言うやいなや、激しい吹雪が化け物を襲った。
「グワオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
苦しむ化け物。
それと同時に、雪と雨で周囲に広がっていた炎が消えてきた。
「おお、凄いよ!」
「うわあ、なんや寒うなってきた」
「これが、れいかの能力(チカラ)?」
「何をやってるんだアカンベェ! さっさと倒しな」
魔女が叫ぶ。
しかし、
「これ以上の勝手は許しません」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/20(火) 20:45:34.53 ID:9ToLbnflo<>
そう言って彼女は静かに気合を込める。
「熱く煮えたぎる憎悪をわたくしが冷たく癒してさしあげましょう――」
そして再び青と白の光に包まれるビューティ。
「あれは」
彼女の手には、長い剣のようなものが握られていた。
「お逝きなさい――」
「プリキュア・ビューティーブリザード!!」
美しさと鋭さを兼ね備えたその氷の剣が、化け物と周囲の空間を切り裂いく。
「グヲワアアアアアアアアア!!!」
そして、化け物は浄化されていくのだった。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/20(火) 20:47:01.93 ID:9ToLbnflo<>
エピローグ
こうして、五人のプリキュアが見つかった。
特に青木れいかことキュアビューティーは今回の戦いで露呈した脳筋(脳みそ筋肉の略)
プリキュア軍団の中でも、貴重な頭脳派である。
「ありがとうクル。これもトシユキのおかげクル」
そう言うとキャンディは自分の肩に乗った唐沢にスリスリと頬ずりをする。
生徒会メンバー四人に加えて、プリキュア五人(と、マスコット一匹)が入った生徒会室は
やや狭苦しいな、とモトハルは思った。
「ってか、今度こそ俺たちの役目は終わりなんだろう」
モトハルはキャンディに聞く。
「それは……」
「プリキュアも五人集まっちゃったしね」
と、会長も言った。
「どういうことですか?」
悲しそうな顔をしたれいかが聞く。
「俺たちは、五人のプリキュアを集めるために協力していたんだ」
副会長が会長の代わりに答える。
「そんな」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/20(火) 20:47:41.09 ID:9ToLbnflo<>
「うう……」
室内の空気が重く沈んだ。
「仕方ないだろう、一般人の俺たちには限界があるし」
「それは、そうですけど」
「これからは、街を頼むぞみんな」
「あ……」
「……」
「……」
そして続く沈黙。
次にその静寂を破ったのは、唐沢だった。
「面白い冗談だな、モトハル」
「唐沢?」
全員の視線が一斉に唐沢に集まる。
「どういうことだよ」
「今みたいな戦いかたで、街がタダで済むと思っているのか」
「それは……」
「まだ敵は生きているんだ。これからどんなことをしてくるかわからん」
「でも俺たちは戦えないんだぞ」
「直接戦闘はできなくても、サポートするくらいならできるんじゃないか」
「唐沢さん」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/20(火) 20:48:31.00 ID:9ToLbnflo<>
星空みゆきの顔がパッと明るくなる。
「会長」
モトハルは生徒会長を見た。
「まあ、いいんじゃないかな。街を守ることも生徒会の仕事ということで」
生徒会長はいつもの笑顔で答える。
「会長さん……」
やや頬を赤らめたれいかも嬉しそうだ。
「会長がそう言うなら」
副会長も異存はないようだ。
「やったあ」
やよいも嬉しそうだ。
「うう、トシユキ。ありがとうクル〜」
涙目のキャンディはそう言ってまた唐沢に抱き着いた。
「礼を言うなら、敵を倒してからにするんだな」
そう言いつつ、キャンディの頭を優しくなでる唐沢。
「か、唐沢さん。おおきに。頼りにしてます」
そう言って唐沢の右手を握る日野あかね。
そのあかねを緑川なおは、ヒップアタックでどかせた。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/20(火) 20:49:28.77 ID:9ToLbnflo<>
「か、唐沢さん。これからも色々教えてくれたら嬉しいです」
「ちょ、なお。何しとんねん」突き飛ばされたあかねが文句を言う。
「うるさいなあ。あ、よろしくお願いします唐沢さん」
「突き飛ばすんは反則やで!」
「な、あの二人は何で喧嘩してるんでしょう?」
黄瀬やよいは涙目でオロオロしながら副会長に聞いた。
「俺にはわからん世界だ」
副会長はそう言って顔を伏せる。
「よおし、プリキュアも五人そろったし、これからガンガン街の平和を守るぞお」
そんな喧騒の中、みゆきは拳を上げる。
「街だけじゃないクル。宇宙の平和もかかっているクル」
キャンディは言った。
「そうだね。ウルトラハッピーのために頑張ろう!」
こうして、モトハルたちは五人のプリキュアたちと一緒に、バッドエンド王国との戦いに
身を投じるのであった。
彼ら・彼女らの戦いは今はじまったばかりである。
おわり <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/20(火) 20:52:05.23 ID:9ToLbnflo<> これでおしまいです。
いつもヘラヘラしている会長が、ピンチの時もあのマイペースを守っていたら素敵だろうなと
思って書きました。
深刻な状況で真剣になるのは当たり前なんですよ。
あのノリで敵に立ち向かうからカッコイイ。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/20(火) 20:59:01.50 ID:9ToLbnflo<> 【反省会】
ちょっと物足りないと思うかたもいるかもしれませんけど、今回の「男子高校生のスマイルプリキュア」(以下男スマ)
はこれでおしまいです。
今回はかなり辛かった。
特に五話目はこんなんでも三回くらい書き直したんですよ。
面白いと書いてくださるかたがいてとても嬉しかった。苦労して書いた甲斐があったってもんだ。
小説書きに行き詰ってこんなの書いてたんですけど、SSでも苦しんでるんだからどうしようもない。
男子高校生とプリキュアたちの物語は、これで終わりますが、彼らの戦いはまだまだ続きます。
ドキドキ夏合宿、文化祭、修学旅行、クリスマス、お正月、そしてバレンタイン、
気になるイヴェントもあったりして、どうなることやら。
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/20(火) 21:01:23.54 ID:9ToLbnflo<> 今のところ第二部の予定はありませんが、熱い要望があれば考えるかもしれません。
ただ、ミツオ君が学園都市に行ったお話は絶対に書きません。
以上でございます。
どうも、短い間でしたがお付き合いありがとうございました。
作者 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2012/03/20(火) 21:06:43.26 ID:FLvWlWPwo<> 乙ー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/20(火) 23:44:50.64 ID:SrgzMRmeo<> 男子高校生の日常が混ぜやすいのな思ってたよりも面白かった <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2012/03/21(水) 01:00:46.43 ID:C4yXWv+vo<> モトハル可哀想だけどモトハルだし
スマプリがまた作りやすい話やったら書いてくれ
乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2012/03/21(水) 01:03:46.23 ID:UymQthGg0<> いつでもいい
またこの題材で書いてくれるのを楽しみにしてるぜ! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空)<><>2012/03/21(水) 18:04:05.16 ID:DwBrLBAO0<> 面白かったぜ! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/21(水) 23:10:49.95 ID:uFzGEHzwo<> 久々に面白いSS読んだぜ
乙 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/03/22(木) 22:18:57.16 ID:1uc1Sduko<> 唐沢と羽原、愛のワンツーフィニッシュだと……? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2012/03/23(金) 11:42:43.39 ID:Gos91NSy0<> 面白かった、面白かったが唐沢がハイスペック過ぎて萎えた <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/23(金) 13:39:57.36 ID:1iH6jA5SO<> 乙!
生徒会メンバー好きだから、全員活躍してくれて嬉しかった <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県)<>sage<>2012/03/29(木) 20:37:46.75 ID:ordXA34to<> キャラが掴めてるからか脳内再生率がハンパなかった
あえて欠点をあげるなら唐沢無双すぎるのイマイチだった
面白かったです、乙!! <>