◆cSsNy1w6Kk<>sage<>2012/04/13(金) 20:38:54.37 ID:FbZ1SBdA0<>・妖狐×僕SSです。

・青鬼院蜻蛉×白鬼院凜々蝶

・亀更新

・もし蜻蛉が文通をしていたらというif話

・突っ込みどころ満載ですがよろしくお願いします。

蜻蛉「最後まで読んだお前はドM!」

凜々蝶「やめんか!」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1334317134(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)
<>カルタ「ちよちゃんは蜻さまのことが好きなんだね」
◆cSsNy1w6Kk<>sage saga<>2012/04/13(金) 20:42:12.85 ID:FbZ1SBdA0<> 僕に許婚がいると知ったのは、小学校中学年の頃だった。
あの頃にはもう、学校では孤立していて悪態をついていた。
学校の中でも家の中でもなじめずにいた頃だ。
そんなある日、突然に僕に知らせられた許婚の話。
最初はうんざりした。
僕の人生はそこまで家に縛られるのかと。
だが、次第に気になっていった。
許婚の青鬼院蜻蛉という人物に。

だから僕は――

彼に手紙を書いたんだ―― <>
◆cSsNy1w6Kk<>sage saga<>2012/04/13(金) 20:46:03.07 ID:FbZ1SBdA0<> 凜々蝶「こ、これでいいかな」

僕は淡い水色の便箋に綴った文を読み直していた。
書き間違えや、間違った漢字がないかなと、入念に読み直す。

凜々蝶「うん。大丈夫だな」

最後にもう一度目を通して、僕は便箋を折りたたんで封筒に入れた。
猫のイラストがワンポイントの封筒にはもうあて先が書かれている。

青鬼院蜻蛉様へ――

封をして、そのあて先の名前をじっと見た。
会ったことも、どんな人なのかも分からない。
けれど、知りたいと思ったんだ。
どんな人なのか。

凜々蝶「早速出しに行くことにしよう」

家を出て近くにあるポストに向かう。
空は明るく、真っ青だった。
外はだんだん暖かかくなって、過ごしやすくなってきた。
桜の樹もほとんどがつぼみを開き始めている。
春はもう始まっていた。
僕はその景色を眺めながら歩いていると、もうポストのところまで来ていた。

凜々蝶「……無事に届きますように」

そう願って、手紙を投函した。 <>
◆cSsNy1w6Kk<>sage saga<>2012/04/13(金) 20:53:35.98 ID:FbZ1SBdA0<> 数日後――

御狐神「蜻蛉様。お手紙が届いています」サッ

蜻蛉「ほう。許嫁殿からか」

御狐神「たしか蜻蛉様と同じ、鬼の先祖返りの女性でしたね」

蜻蛉「そうだ。といっても家同士の口約束で、拘束力はない。それに会ったこともないしな。……下がって良いぞ」

御狐神「では失礼します」バタン

双熾が部屋から退室するのを確認して、私はすぐに封を切った。

蜻蛉「わざわざ手紙を寄越すとは、許嫁殿はなかなかのMとみた!」

封筒から出てきたのは二枚の便箋。
どちらにも綺麗な字が並んでいる。
自分の字とは全然違う。

蜻蛉「……綺麗な字だな」

そしてそこに書かれていた文章にも驚いた。
たしか許嫁殿は私よりも7つも年下だったはず。
まだ小学生の子供が、このような文を書くのか。
とても綺麗で丁寧で、美しかった。 <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/04/13(金) 21:32:48.05 ID:FbZ1SBdA0<> 一通り読み終わり、返事はどうするか考えた。
私の字は汚い。
未だに子供みたいな字はよくからかわれ、あまり人に見せたくはない。
けれどきっと返事を出さないと許嫁殿は悲しむだろう。
手紙から感じた許嫁殿の印象は、丁寧で繊細な印象だったから。

蜻蛉「私をここまで悩ますとはなかなかのS!」

ためしに机の引き出しにしまってあるレターセットをとりだす。
特に模様もない、ただの白い無地のレターセット。
万年筆も取り出して、便箋に文字を書いてみる。
……やはり汚い。
こんな字で、文通など出来るはずがない。
いっそのこと、双熾にでも代筆を頼んでしまおうか。
だが、すぐにその考えは消えた。
そんなことをしてもし自分が書いたものではないと許嫁殿が気づいたら。
許嫁殿は酷く傷つくだろう。

蜻蛉「あえて自分で返事をだす私! まさしくドS!」

暗号のような字だろうと、結局私は自分で書きだすことにした。 <>
◆cSsNy1w6Kk<>sage<>2012/04/13(金) 21:39:45.08 ID:FbZ1SBdA0<> 続きはまた後で書きます <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/13(金) 23:28:05.45 ID:64tmiJ6DO<> いぬぼくですと…
期待! <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/04/14(土) 23:59:09.44 ID:rFjG3xNz0<> 数日後――

僕が学校から帰ると、いつも出迎える使用人が何かを持って待っていた。

「お帰りなさいませ、凜々蝶様。お手紙が届いております」

凜々蝶「ほ、本当か!?」

「ええ。ご婚約者の青鬼院蜻蛉様からです」

凜々蝶「そ、そうか! ……ふん、ご苦労だったな」

手紙が来て嬉しいのに、すぐに悪態をついてしまう。
そんな自分に嫌気がさしながらも、僕は手紙を受け取った。
封筒に書かれているあて先には、僕の名前が。
裏に書かれた差出人の名前には、青鬼院蜻蛉と書かれている。
……正直に言うと、ぱっと見て字の認識が出来なかった。

凜々蝶「これは……、子供の字?」

その字を見て、ほとんどの人物が思うべき感想が口からこぼれていた。
たしか青鬼院蜻蛉は、僕よりも七つも上だと聞く。

凜々蝶「これが彼の字なのか……」

考えていた印象とは違う。
けれど字が上手だろうが下手だろうが、僕は気にしない。
僕に差し出された手紙、というだけで嬉しかったから。 <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/04/15(日) 00:16:35.82 ID:ZNbIsn6k0<> 部屋に戻ると僕は、机の引き出しからペーパーナイフをとりだす。
封筒を下手に破かないように、慎重に封を切る。
どんな内容が書かれているのか、胸が高鳴りどきどきしていた。

凜々蝶「できた!」

ようやく封を切り終わる。
封筒の中から出てきたのは、一枚の便箋だった。
封筒と同じ、無地の便箋。
そこには先ほどみた字が何行も書かれている。

初めましてだな、我が肉便器よ!――

凜々蝶「に、にくべんき?」

僕のポキャブラリーにはない言葉だ。
文字を追っていくうちに、ほかにも知らない言葉が次々に出てきた。
色々と書かれていたが、最後の文章のほうには、僕が送った手紙のことや、体調を気遣う文が綴られていた。
変な人だが悪い人ではないんだな。
そう感じ取りながら、僕は返事を書くためにレターセットを机に広げた。

その前に先ほどの語句を調べ、顔を真っ赤にしたことは言うまでもない―― <>
◆cSsNy1w6Kk<>sage<>2012/04/15(日) 00:20:13.17 ID:ZNbIsn6k0<> 少しだけですが、眠いのでここまで。
スレを立てた日は蜻蛉の誕生日なんですね。知りませんでした。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海)<>sage<>2012/04/15(日) 00:49:15.87 ID:PnYnYAIAO<> 乙だぞ我が肉便器よ!
俺得にも程がある <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/15(日) 09:07:31.46 ID:XKhESqxNo<> 原作で自分で文通してたけど私得なので期待 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/04/15(日) 12:54:23.18 ID:jMab5ndAO<> 推奨BGM:SM判定フォーラム <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/15(日) 13:29:37.38 ID:381hmijf0<> ふははは、見に来てやったぞ性奴隷ども! <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/04/15(日) 19:15:57.59 ID:ZNbIsn6k0<> あれから、何年がたっただろうか。
気づけば僕と蜻蛉との文通は2、3年続いていた。
春が、夏が、秋が、冬が、何度も繰り返し、今は夏がやってこようとしている。
外にでているのも、暑く感じてきた。
内容は他愛もない世間話から、近況報告など。
毎回毎回、蜻蛉の話はとてもおもしろい。
外で同じ先祖返りと遊んだことや、家で悪戯をしかけたことが、とても楽しそうに書かれている。
その話を読むたび、こちらまで楽しくなってくるのだ。
……さすがに幼馴染を、変化後の姿(小さな動物の姿らしい)で、蛇と戦わせたりするのはやりすぎだと思ったが。
そのことを指摘すると、なるべく控えるという趣旨の手紙を受け取った。
僕はというと、趣味のことや見た景色のことを書いている。
蜻蛉と比べれば、とてもつまらない手紙だろう。
けれど蜻蛉は僕の薦めた本や曲を見て聞いて、感想を返してくれる。
自分がみた景色を教えてくれる。
僕の綴った文をちゃんと見てくれている、それがとても嬉しかった。

凜々蝶「まだかな……」

今日も僕は、手紙を待っている。
手紙を出してから一週間もたつが、返事はこない。
返事がくるのはだいたい一週間ぐらいたつのだが、いつ返事がくるか気になって仕方がない。
なので毎日、郵便が来る時間帯にはポストの前で待つ。
こないときが多いのに、来るのを待っている。
僕に宛てられた、僕に伝えたい言葉が詰まった手紙を。 <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/04/15(日) 19:34:55.58 ID:ZNbIsn6k0<> いつもより郵便が来る時間は遅かった。
今日は平日で、家には毎日郵便が届く。
ほとんど、家のものへの郵便だが。
なので郵便が来ない日はあまりないのだ。

凜々蝶「まだこないのか?」

気になって玄関の門から出てみた。
左右の道を交互に見るが、それらしき人は見えない。
だが別の、僕のよく知っている人物が右の道から歩いていた。

「おー、凜々蝶。今日も手紙待ってんのか。けーなげー」

僕の家の近くに住む、同じ先祖返り。
反ノ塚連勝は今日もだるそうな表情で、棒アイスを手に持っていた。

凜々蝶「違う! ただ散歩をしようと思っただけだ!」

反ノ塚「とか言いながら、ずっとポストの前で待ってたんだろー?」

凜々蝶「た、たまたま郵便が来てなかったから気になって、外に出たまでだ!」

反ノ塚「気になってはいるんだな」

凜々蝶「うっ……。僕はただ字の練習がしたいと思っていただけだ」

反ノ塚「素直じゃねーなー」 <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/04/15(日) 19:38:55.16 ID:ZNbIsn6k0<> 凜々蝶「そんなことより、君はなにをしているんだ?」

反ノ塚「暑かったからアイス買ってきた。今はその帰り」

凜々蝶「そうか。……ふん、気をつけて帰ることだな!」

反ノ塚「ご心配あんがとー。ってあれ、郵便きたんじゃね?」

そういえば遠くからバイクのエンジン音が聞こえる。
やがて郵便配達のバイクは反ノ塚が来た反対側の左の道からやってきて、僕の家の前で止まった。
郵便配達員は郵便物をバイクから取り出して、ポストへと投函すると、すぐさま反ノ塚が来た右の道へと走り去っていく。

あの中に僕宛の手紙はあるだろうか――

僕は急いでポストを確認しに、門を閉めるのも忘れて、ポストを確認した。
中には10枚ほどの郵便物が入っている。
緊張しながら、郵便物を一つ一つ確認し始める。
反ノ塚も緊張な面持ちであろう僕を、見つめていた。

凜々蝶(これも違う、これも……)

凜々蝶「あっ!」

あった。
白鬼院凜々蝶殿、と不器用に書かれた封筒が。
字が個性的なので、すぐに判別できた。

反ノ塚「よかったじゃん、手紙がきて」

門の外から反ノ塚が声をかけてきた。

凜々蝶「あ、ああ! これでまた字の練習ができる!」 <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/04/15(日) 19:48:08.47 ID:ZNbIsn6k0<> 今回の手紙には今度の夏休みに、青鬼院家の近くで夏祭りがあると書かれていた。
青鬼院家の近くで行われる夏祭りは、とても大きく、市でも有名な祭りだ。
僕は行ったことはないけれど、たくさんの屋台や何千発もの花火が打ち上がるという。
この前この話が書かれていたときは、幼馴染の先祖返りと屋台を回って、はしゃぎすぎてその屋台から出禁になったと聞いた。
その前には、よくからかうという先祖返りを射的の景品にしたてあげた、と書かれていた。
その後お客がぬいぐるみと間違えて、撃ち狙ってきたらしい。
さすがにそれはひどいと思う。
そして夏祭りの話が出てきた今回は、僕をその夏祭りに誘う手紙だった。

凜々蝶「い、一緒に……!?」

最初その文を見たとき、胸が一瞬どきっと高鳴った。
これまであったこともない、文通だけの関係で、それだけで満足だった。
けれど会うとなると話は別になる。
無駄に虚勢をはって悪態をついてしまう、僕の悪癖。
実際に会ったとしたら、必ずついてしまうだろう。
そして悪態をつくと、話していた人たちは不快な顔をして、僕から離れていくのだ。
人が離れていくのは仕方がないと思う。
けれど、人が離れていくのはとても辛い。
そして悪態をつく僕自身、嫌気がさして自己嫌悪する。
その繰り返しで、一向に治る気配がない。

凜々蝶「どう、しよう……」

会ってみたい、とは思う。
けれど蜻蛉を不快にさせて、もう文通が出来なくなるのは、寂しい。 <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/04/15(日) 20:01:29.90 ID:ZNbIsn6k0<> その夜、僕は父親に呼び出された。
空いている和室の一部屋で、父は座って待っていた。
久しぶりに見る父の姿。
僕と父は、……母と妹もだが、一緒には暮らしていない。
僕が先祖返りだから、別々に暮らしているのだ。
そして会うこともあまりなく、呼び出されるときは大事な話があるときだけ。
今日も何か大事な話があるのだろう。

凜々蝶父「……そこにすわりなさい」

僕は父の向かいにある座布団へと座った。
近くに居た使用人がテーブルにお茶を出してくるが、飲みたい気分ではないので手はつけない。

凜々蝶父「もうすぐ夏休みだと聞いた」

凜々蝶「……」

凜々蝶父「夏休み、お前の婚約者である青鬼院様のご自宅で数日過ごすことが決まった」

凜々蝶「……え?」

凜々蝶父「婚約者同士、交流もあったほうがいいと向こうの両親から連絡がきた」

凜々蝶「か、勝手なことを!」

凜々蝶父「これはもう決まったことだ。夏休み、通日間だ。向こうの家に滞在しなさい」

話は以上だと告げると、父はお茶を一口飲んで部屋から出て行った。 <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/04/15(日) 20:09:10.56 ID:ZNbIsn6k0<> どうしてそう簡単に僕の人生を決めるのだろう。
僕にだって決まる前に話してくれればいいじゃないか。

凜々蝶「……どうしよう」

決まってしまったことは、覆らない。
何度反対したって、結局僕は家の決定に従うしかなかった。
だから今回の、青鬼院家の滞在も覆らないだろう。
しかも青鬼院家から持ちかけた話ならなおさら。
白鬼院家も青鬼院家も、先祖返りの家では特に繁栄している。
だが青鬼院家は、権力も財力も、白鬼院家より勝るのだ。
僕はもう一度、今日届いた手紙を読み直す。
僕を夏祭りに誘ってきたってことは、彼もこのことを知っていたのだろうか。
……きっと知っている。
今まで一度も会おうという手紙は貰ったことはない。
けど今回この手紙を書いたということは……。

凜々蝶「会いたがってる、のか? ……いや、ないな」

すぐにその考えは否定した。
そんなことあるわけがない。
僕なんかに、会いたいと思うわけが……。

凜々蝶「そうだ、僕は何を考えているんだ」

きっと考えすぎて疲れているのだろう、そう頭の中で処理した。
疲れを取るためにお風呂に入って早く寝よう。

そして明日から……悪態をつかないようがんばろう。 <>
◆cSsNy1w6Kk<>sage<>2012/04/15(日) 20:12:30.15 ID:ZNbIsn6k0<> えっと凜々蝶9歳、蜻蛉15歳で手紙を始めて年齢差は7歳で。
今は3年たって、凜々蝶11歳、蜻蛉18歳で。
……なんかわけわかんなくなってきた。
ともあれ、需要があるみたいなので何よりです。
誤字・脱字があったら脳内変換でお願いします。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/16(月) 11:02:13.88 ID:nQTIRGEIO<> りりちよちゃんかわゆす支援 <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/04/16(月) 18:24:26.26 ID:kmu7yOKf0<> 双熾「蜻蛉様、白鬼院様からお手紙が届いてます」

蜻蛉「そうか。相変わらず許嫁殿はすぐ返事を寄越すな。返事を欲しがるドM、悦いぞよいぞー!」

双熾「数日後に青鬼院家にいらっしゃると聞きました」

蜻蛉「そういえば、そんなことを菖蒲が言っていたな。私自ら調教してやるときが来たようだ!」

双熾「何かご用意するものはございませんか?」

蜻蛉「特にはないな、下がっていいぞ肉便器よ!」

双熾「かしこまりました。失礼します」

数週間前に決まった許嫁殿の滞在。
知らされたのは両家で決められた後だったか。

菖蒲「仲がいいみたいだし、婚約者なんだから一度ぐらい会っておきなさい」

と、いつものおせっかいで決められたことだ。
ちょうど滞在中に夏祭りがあることを知り、誘ってみたのだが……。
返事はどうかかれているのだろうか。
許嫁殿から届けられた、淡い緑の封筒を切る。 <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/04/16(月) 18:27:44.09 ID:kmu7yOKf0<>
夏休み中に、そちらに滞在することを知らされました――

緊張しますが、とても楽しみにしています――

夏祭りも、一緒に行けると幸いです――

淡い緑に若葉の絵が書かれた便箋に、凜々蝶の言葉が綴られている。
どうやら、断られずに済んだようだ。
だが、こちらにしばらく(一週間だったか)滞在するとなると、許嫁殿の負担も大きいだろう。
何年も文通をしてきて、許嫁殿の内面は分かるようになってきた。
繊細で、きめ細かい、丁寧で、美しい。
故に不器用で、人との関わり方を知らない。
そんな許嫁殿を、私はよく思っている。
だからこそ、一週間も知人の居ない(私はさておき)青鬼院家の滞在は苦労するだろう。
気候も環境も違うこの家で、体調を崩してしまうかもしれない。
彼女に負担がかからないように、サポートしなくては。

蜻蛉「ふっ、ここまで私に気をつかわせるとは、許嫁殿はSだな!」 <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/04/16(月) 19:17:55.64 ID:kmu7yOKf0<> 凜々蝶「明日、か……」

僕の部屋にはキャリーケースと、手提げバックが置かれている。
寝る前に、中身の確認をしていた所だ。
明日は朝早く家を出ることになっている。
家の車で青鬼院家まで向かうのだが、白鬼院の使用人は一人も滞在しない。
一週間の滞在で、僕は顔見知り誰一人いない家で過ごさなければならないのだ。
蜻蛉もいるだろうが、彼も忙しいだろうし、ほとんど一人でいることになるだろう。
うまく乗り切ることが、出来るだろうか。
悪態をつくことなく、生活できるだろうか。
青鬼院家の人たちに、不快な思いをさせずに済むだろうか。
いろんなことが気になって、眠れずに居た。
なので、荷物を確認をしていたのだ。

凜々蝶「早く、寝なければいけないのに……」

ふと時計を見ると二時をすぎていた、僕がいつも寝る時間よりも遅い時刻になっている。
このままでは明日に支障がでるだろう。
朝の七時過ぎには家をでる予定なのに。
荷物をしまって、電気を消し、僕はまた布団の中にもぐりこんだ。 <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/04/16(月) 19:34:27.18 ID:kmu7yOKf0<> あれからあまり睡眠をとることができなかった。
実際に寝たのは二、三時間といったところか。
気がついたらもう朝で、僕は急いで支度を始めた。
髪を整えて、顔を洗って、服も着替えて、歯を磨いて。
朝食も喉を通らず、味噌汁を一口飲んだ程度だった。
睡眠をあまり取っていないので、気分は最悪だった。
車酔いを心配して、念のために酔い止め薬を飲んだ。
気分は相変わらず悪いが、そろそろ時間だ。

「いってらっしゃいませ、凜々蝶様」

凜々蝶「……いってくる」

たくさんの使用人が玄関から見送っているが、僕は一言しか答えることしかできなかった。
玄関先に止められていた車の前にくると、二人の使用人が挨拶をして、一人がキャリーケースを持ち、一人が車のドアを開ける。
僕は何も言わずに車に乗り込むと、ドアを開けた使用人が優しくドアを閉めた。
もう一人はキャリーケースをトランクに詰め込んだ。
二人は前の席に座り、車は出発した。 <>
◆cSsNy1w6Kk<>sage<>2012/04/16(月) 19:36:29.77 ID:kmu7yOKf0<> カルタちゃんが出てこないっ

凜々蝶と蜻蛉と場面がころころ変わりますが、見にくいですかね?
変わるときにどちら目線か書いたほうがいいでしょうか。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海・関東)<>sage<>2012/04/16(月) 23:01:33.78 ID:iuxyOSsAO<> 今のままでok <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/18(水) 16:20:45.07 ID:5n59JHvIO<> どちらサイドかわかるからこのままで大丈夫
C <>
◆cSsNy1w6Kk<>sage<>2012/04/19(木) 19:19:31.28 ID:1LFfrjVh0<> ご意見ありがとうございます。
このまま続けていこうと思います。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海・関東)<>sage<>2012/04/24(火) 21:35:23.36 ID:7XfHNNbAO<> はやく書いてくれ <> ◆cSsNy1w6Kk<>sage<>2012/04/27(金) 17:40:01.72 ID:Ru7z4fZ10<> 小学校の女子トイレで、僕の周りに三人の女の子が囲んでいる。
僕を逃がさないようにか、入り口のほうにも二人女の子がいた。
五人とも僕をみて笑っている。

「凜々蝶ちゃんって、なんであんなにつまんないんだろうねー」

「お家が金持ちだからって、先生にひいきされてさ」

「私もテストで100点とったのに、白鬼院さんの方ばっかり褒めるんだよ? ひどいよね」

「話してても、遊んでても楽しくないんだけど」

凜々蝶「……」

「ねえ、何かいったら? またつまんないことをさ」

「はははっ! なにそれ笑えるー!」

凜々蝶「……ぼ、僕は」

「”僕”だって、変なのー」

「「「「「あはははははははっ!!」」」」」

「もういいや、飽きちゃったし。遊びにいこうよ」

「うん、その前に……」

一人の女の子がホースを持ち、一人の女の子が蛇口をあける。
水は勢いよく飛びだして、ホースを持った女の子が僕に水をかけはじめた。

凜々蝶「つめたっ……」

「あははっ! おっもしろーい!」

「次あたしがやりたーい!」

「いけいけ! もっとやっちゃえー!」

頭にも、顔にも、身体にも、水を浴びせられた。
冷たい水をこらえながら、聞こえるのは笑い声。

「凜々蝶ちゃんは汚い子なんだから、汚れ落としてあげなくちゃね!」

そう笑う女の子たちを、僕は直視することができなかった。 <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/04/27(金) 17:51:46.49 ID:Ru7z4fZ10<> 「……蝶様、凜々蝶様。まもなく青鬼院家に到着します」

凜々蝶「……そうか」

どうやら僕は、車の中で眠っていたらしい。
さっきのは夢か……。
情緒不安定なときには、よく見る悪夢。
学校の皆は、僕のことを古くから栄える名家”白鬼院家の人間”としてみていた。
クラスメイトも、友達も、先生まで。
成績がいいときも、当てられて答えるときも、賞をもらったときも、先生たちは自分のことのように喜び、生徒はそれを妬んだ。
だからか、僕は小さい頃、いじめられていた。
お金持ちであることを妬まれ、つまらない人間であることを嘲笑った。
つまらない、白鬼院家のお嬢様。
それが僕に貼られたレッテル。

「到着しました」

凜々蝶「ふん、ご苦労だったな」

皆が僕を見る目はこれからも、変わらないだろう。
これから青鬼院家に滞在する一週間も。 <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/04/27(金) 18:24:04.91 ID:Ru7z4fZ10<> 僕は、青鬼院家の使用人に案内された部屋のテラスに出ていた。
青鬼院家の家は、洋風の造りをしている豪邸だった。
僕の家の屋敷とはまったく違って、少したじろいた。
この案内された部屋も、高級家具やベッドと、ホテルの部屋のようだ。
そして、テラスからは青鬼院家の庭園が見えた。
いろんな花が咲いていて、噴水もあり、水を噴いていた。

凜々蝶「……そうだ、僕としたことが忘れていた。客人なのだから、挨拶にいかなくては」

客人として、当然のことを忘れていた。
青鬼院家に滞在するのだ。
今ついたことも、お世話になることも伝えなければならないだろう。
悪態をつかずに、言わなければ……。
……練習してみよう。

凜々蝶「はっ、一週間お世話になります、とでも言っておこうか!」

早速悪態をついてしまった!!
何故僕は、練習でも悪態を……っ。
こ、こんなことでは青鬼院家の方々にご迷惑をかけることになる。

凜々蝶「わっ!」

唐突に、強い風が吹いた。
ちなみに僕の今の格好は、学校の制服に学校指定の帽子をかぶってるのだが。

凜々蝶「ぼ、帽子が!」

その帽子が風に飛ばれて行ってしまった。 <>
◆cSsNy1w6Kk<>sage<>2012/04/27(金) 18:49:39.40 ID:Ru7z4fZ10<> 少しですが、ここまでで。
早く二人を合わせなければ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/27(金) 19:51:10.19 ID:RgbXB7bSO<> 乙っす
珍しいSSだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海)<><>2012/04/27(金) 20:07:48.89 ID:dFQUJS/AO<> 乙
蜻さまスキーにはたまらん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海・関東)<>sage<>2012/04/27(金) 20:23:21.40 ID:bW4kWIAAO<> 乙 <> ◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/04/28(土) 20:41:25.92 ID:rapEtOBX0<> 青鬼院家の庭園に出る。
僕は先ほど、風で飛ばされた帽子を探していた。
風が帽子をさらった方向へと向かっているのだが、周りは薔薇園が広がっているだけで、帽子はどこにも見当たらない。

凜々蝶「にしても、この薔薇園は綺麗だな……」

蜻蛉の手紙で、この薔薇園について書かれていたことがある。
青鬼院家には薔薇園以外にも、いろんな植物が咲いているそうだ。
家の者に、ガーデニングが趣味の者がいるらしく、いろんなところに花が咲いている、と。

凜々蝶「にしても、帽子はどこにいったんだ」

走りながら探しているので、少し疲れてきた。
たしか今日は真夏日になると、新聞に書かれていたか。
どうりでこんなに暑いわけだ。
もう汗だくで、気分が悪くなってくる。

凜々蝶「早く見つけて、戻らなければ……」

走るのをやめて、ゆっくり歩き始めた。
睡眠不足のせいか、すこしふらついたが、まあ大丈夫だろう、これくらい。
薔薇園を抜けると、きちんと整えられた芝生に、大きな木が一本ある場所にでた。
青葉が生い茂り、日陰が涼しく、居心地がいい。
その木々の中の一本に、僕の帽子が枝に引っかかっていた。

凜々蝶「あんなところにあったのか」

どうやってとるか、作戦会議を頭の中で始める。
変化して、薙刀でとってみようか。
木に登って、取ろうか。
いや、でも僕は木登りなんてしたことがないから、それは無理だろう。

凜々蝶「なら、決まりだな」 <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/04/28(土) 21:06:56.56 ID:rapEtOBX0<> 先祖返り。
先祖が過去に妖怪と交わり、その妖怪の血を強く受け継いだ者。
僕もその一人、鬼の先祖返りだ。
変化をすると、僕は別の姿へと変わる。
衣装が巫女装束へと変わり、角が生える。
それが僕の変化後の姿だ。

凜々蝶「よし、……っと」

薙刀を出し、先で切らないよう気をつけながら、帽子に引っ掛ける。
だが帽子がかかっている枝はとても高く、上手く引っ掛けることができない。

凜々蝶「あっ、また……!」

また強い風が吹いた。
その風で、帽子はふわりと浮き上がると、また別の場所に飛ばされていく。
僕はその帽子を見逃さないよう、走った。

凜々蝶「ま、まて……!」

今日は災難だな。
あまり眠れず、朝食も取れず、客人というのに挨拶もまだで、僕はこうして帽子を追いかけている。
そして今、とても気持ちが悪い。
頭ががんがんして、ふらふらするのだ。
だ、駄目だ……もう。
そんな考えは言葉に出ず、僕は変化をして、元の姿へと戻ると同時に、僕は気を失った。 <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/04/28(土) 21:17:56.81 ID:rapEtOBX0<> 私が書斎に居ると、双熾がやって報告を始めた。

双熾「蜻蛉様。白鬼院様が先ほど到着なさったそうです。ただいまお部屋で休まれている、という事です」

蜻蛉「そうか、悦いぞ悦いぞ! この一週間、私が許嫁殿を蹂躙しまくってやろう!」

双熾「向かわれますか?」

蜻蛉「そうだな、この家の主にわざわざ伺わせるとは、許嫁殿はドSだな!」

現在、この家には青鬼院家の者は私しかいなかった。
皆普段から忙しく、この許嫁殿の滞在のときも、帰れる日がいつか分からない状態だった。
もしくは一度も顔を覘かせず、滞在期間がすぎる可能性もあると言っていたか。
だから今、この青鬼院家の主は私ということになっていた。

蜻蛉「ふはははは! この私が自ら調教しにいってやるぞ!」

双熾「ご案内します」 <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/04/28(土) 21:26:25.14 ID:rapEtOBX0<> 許嫁殿の部屋は、我が青鬼院家でも一番広い部屋だったか。
双熾と共に、客室へとやってきたのだが……。

双熾「白鬼院様、白鬼院様? いらっしゃいませんか?」

双熾が何度もノックしながら呼びかけるが、返事がない。
寝ていたとしても、何度も扉をノックされれば起きるはず。

双熾「どうかなさったのでしょうか」

蜻蛉「私自ら調教しにきてやったというのに、おののき逃げたか!」

双熾「それはないと思いますが」

「すみません、よろしいですか?」

許嫁殿の部屋の前で喋っているうちに、使用人が一人やってきていた。
たしかこの使用人は、よく薔薇園の手入れをしている使用人だったか。

双熾「どうかしましたか?」

「実は……、白鬼院様を薔薇園でお見かけして」

蜻蛉「ほう」

「話しかける前に走っていかれましたけど、何か探している様子でした」

双熾「何かを? 先ほどお越しになった白鬼院様が何を探していたんでしょうか」

「そして少し顔色が優れない様子でしたので、ご報告をと」

蜻蛉「そうか。下がってよいぞ」

「はい、失礼します」

蜻蛉「とりあえず、許嫁殿を探すとしよう。体調が悪いなら、早く見つけたほうがいいな。来たばかりで早速心配をかけるとは、許嫁殿はなかなかのSだな」

双熾「僕もお手伝いします、蜻蛉様」 <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/04/28(土) 21:34:40.75 ID:rapEtOBX0<> 許嫁殿は、薔薇園を通っていったらしい。
ということはその近くを探していけば、きっと出会えるだろう。
先ほど使用人が言っていた、許嫁殿の体調も気になる。
許嫁殿の性格だ、きっと無理をしているのだろう。
それにこの強い日差しに、気温も高いのだ。
熱中症にかかる可能性もあるのだ。

蜻蛉「にしてもこの日差し……ドS!!」

凄く眩しい。凄く暑い。
こんな中、長時間出歩くとなると体調を崩すのも仕方がないだろう。
許嫁殿は一体何をしているのだ。

蜻蛉「ん……これは」

視界に何か布のようなものが入ってきた。
よく見るとそれは帽子だったが、その帽子は私の目の前に飛ばされてきた。
手にとって見てみると、その帽子の隅には”R.S”と刺繍がしてあった。

蜻蛉「もしかして、許嫁殿の帽子か?」

とすると、許嫁殿は近くにいると言う事か。
辺りを見渡すと……、いた。 <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/04/28(土) 21:44:20.47 ID:rapEtOBX0<> 凜々蝶「ま、まって……っ」

小学生ぐらいの小さな女の子が、こちらに向かって走ってくる。
あれが、白鬼院凜々蝶か。
にしても……、考えてたよりずっと顔色が優れなかった。
こちらを認識しているのかすら、わからない。

蜻蛉「許嫁ど……」

呼びかけようとした瞬間、許嫁殿は足を踏み外した。

蜻蛉「許嫁殿!」

私は急いで許嫁殿の元へと駆けた。

蜻蛉「許嫁殿、大丈夫か」

何故か変化しているが、その変化を戻すと同時に許嫁殿は倒れた、私の腕の中に。
何とか地面に倒れることを防いだが、許嫁殿の顔は真っ青だった。
汗をにじませ、とても辛そうな表情を浮かべて。
呼吸も荒れている。

蜻蛉「急いで手当てをしなければな」

私は許嫁殿を抱き、(いわゆるお姫様だっこというヤツだな!)急いで家に戻った。
許嫁殿が辛くないように走らず、様子を見ながら小走りで。 <>
◆cSsNy1w6Kk<>sage<>2012/04/28(土) 21:52:16.90 ID:rapEtOBX0<> ここまで。
ようやく出会いましたが、凜々蝶さんの体調が優れない……。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海・関東)<>sage<>2012/04/28(土) 23:12:01.90 ID:jto8tMRAO<> 乙とでも言っておこう <> ◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/05/06(日) 17:27:03.62 ID:IkMWJ3TZ0<> ここは、どこだろう。
目を覚まし、起き上がると、そこは見知らぬ部屋だった。
そうだ、僕は青鬼院家に来て、……それから。
ああ、風に持っていかれた帽子を追っているうちに……、倒れたんだっけ。

蜻蛉「気づいたか、我が肉便器よ!」

見知らぬ顔が、僕の視界に入った。
黒い短髪に、仮面舞踏会につけていくような、黒い仮面を目元につけていた。
この態度、手紙でも変わらない、堂々と下品な言葉をかけるやつなど、ほかにはいまい。

凜々蝶「君が――」

蜻蛉「そう、この私が青鬼院蜻蛉だ! よくきたな、許嫁殿」

凜々蝶「白鬼院凜々蝶だ。ふん、一週間よろしく頼む、とでも言っておこうか」

まただっ……。
なんで僕はすぐに悪態を……。

蜻蛉「もう大丈夫そうだな。初日にいきなり倒れるとはなかなかのMだ!」

凜々蝶「ち、違う!」

蜻蛉「ふはははは! 許嫁殿は実にからかいがいがあるな」

凜々蝶「からかうな!」

蜻蛉「先ほどまで気を失っていたというのに、実に元気だな」

凜々蝶「君が変なことを言うからだろ。怒りたくもなる」

そういえば、気を失って、あれからどうなっていたのだろう。

蜻蛉「許嫁殿が探していたのは、これか?」

凜々蝶「あっ……」

蜻蛉が差し出したのは、間違いなく僕の帽子だった。

蜻蛉「もう無くさないよう、気をつけることだな!」

凜々蝶「ふ、ふん。礼でも言っておこうか。……ありがとう」

帽子を受け取って、帽子をぎゅっと抱きしめた。

蜻蛉「許嫁殿、昼食がまだだろう。一緒にとろうではないか!」

凜々蝶「はん、君がそこまでいうなら一緒に食べてやらんこともない」 <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/05/06(日) 17:39:31.03 ID:IkMWJ3TZ0<> ―一日目―
今日は一日疲れた。
朝早かったり、朝食もちゃんと取らず、睡眠不足で、体調が優れなかった。
青鬼院家に来ても、帽子を追って日中走って倒れてしまった。
我ながら、情けない。

目を覚ますと、青鬼院蜻蛉がそばにいて、僕の帽子を渡してくれた。
初めて会ったが、手紙とあまり印象が変わらない。
変なヤツだけど……、悪い人ではない、と思う。
一緒に昼食をとり、いろんな話を聞いた。
僕はなれない場所で、あの悪癖もあって、あまり喋ることはなかったが、今思えば気をつかわれてたのかもしれない。
そのあと「許嫁殿は本が好きだろう?」と蜻蛉の提案で、青鬼院家の書斎に案内された。
一面本棚が広がっており、僕が読んだことがない本や、もう絶版になった本まであった。
書斎にはレコードも置いてあり、クラシックの音盤がたくさん置かれていた。
音楽を聴きながら、本を一緒に読んだ。
ここでもあまり喋らなかったけれど、とても心地よく読書することができた。

青鬼院家の人間は、いつもあまり家に帰らないらしい。
僕の滞在する一週間、帰れるかどうか分からないと聞いた。
だから夕食も、蜻蛉と二人でとった。
夕食は高級レストランランクのシェフが作るという。
どれも絶品で、美味だった。

一週間、なれないことも多いかもしれないが、せめて悪態はつかないよう頑張ろう。 <>
◆cSsNy1w6Kk<>sage<>2012/05/06(日) 18:17:20.80 ID:IkMWJ3TZ0<> ここまで。
ネタがでてこない……。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(沖縄県)<>sage<>2012/05/06(日) 21:48:43.95 ID:i0T39Dxco<> 乙
うーん、起伏ほしいけど双熾の扱いが怖いなあ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/05/09(水) 23:02:17.28 ID:qgmjYlW50<> 乙。いつも楽しみにしてる! <> ◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/05/10(木) 19:26:47.30 ID:2XoUN2+00<> ―二日目―
今日は睡眠もきちんととり、決めた時間に起きることができた。
朝食も蜻蛉と一緒にとった。
蜻蛉はいつも少ししか寝ないと言っていたけど、どうしてあんなにテンションが高いのだろう……。

蜻蛉「ふはははは! なんだ、許嫁殿。私の顔になんかついているか?」

凜々蝶「……いや、なんでもない」

この男のテンションが低かったら、病気にでもかかったときだろうな、と少し思った。
……病気でもテンション高そうだが。
朝食をとった後、何をしようか考えていると、蜻蛉が話しかけてきた。

蜻蛉「今日は我が青鬼院家を案内しようではないか!」

凜々蝶「ふん、必要ないと思うが」

蜻蛉「まだ五日も滞在するのだぞ? 知っていたほうが得ではないか」

凜々蝶「得……かどうかは分からんが。案内してくれるというなら、ついてってもいいぞ」

蜻蛉「相変わらず許嫁殿は素直じゃないな! Sと見せかけてのM、悦いぞ悦いぞ!」

凜々蝶「だから違うといっているだろう!」

相変わらず自分の世界で例えるのが好きなやつだ……、少し疲れる。
蜻蛉の案内で僕は、青鬼院家を周っていた。
青鬼院家は広く、いろんな部屋があった。
ある一室にはビリヤードが置いてあり、初めて遊んでみた。

蜻蛉「キュースティックでボールを打つ、S! このキューボールはドM!」

凜々蝶「やめんか」

あまり上手くいかなかったが、蜻蛉も同じく上手くいってなかった。
というか下手だった。
そもそも、真面目にしていなかった。
君が最初にやろうといいだしたことだろう……、まったく。
ほかにも、ホッケーやらボーリングなども遊んだ。
青鬼院家にはいろんな遊具が置いてあって、住む人は飽きないのだろう。
白鬼院家は、部屋はたくさんあるが、遊具などは一つも置いていないので新鮮に映った。

明日は外を散歩しようと約束した。
蜻蛉はどうして僕に、そこまで優しくしてくれるのだろう。
僕は悪態しかつけなかったのに……。
でも、とても楽しかった……。
明後日の、夏祭りも楽しみだ。 <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/05/10(木) 19:27:48.28 ID:2XoUN2+00<> ―三日目―
今日は蜻蛉と、彼の使用人の御狐神さんと三人で、青鬼院家の庭園を散歩した。
御狐神さんも、僕たちと同じく先祖返りらしい。

凜々蝶「ふん、白鬼院凜々蝶だ。よろしくお願いします、とでも言っておこう」

双熾「御狐神双熾です。お会いできて光栄です」

蜻蛉「ふはははー! 早速出かけるぞ、肉便器ども!」

蜻蛉が手紙に書いていたとおり、庭園にはいろんな植物が植えてあった。
初日に、ちゃんと見る事もなかった薔薇園も巡った。
日差しが強いので、ちゃんと日傘を装備して。
ほかにも温室に入ったり、テラスで紅茶を飲んだり。
御狐神さんの入れてくれた紅茶は、とても美味しかった。
ティータイムを楽しんでいると、会話の内容は明日の夏祭りの話になっていた。

蜻蛉「許嫁殿! 明日は、昼から出かけるぞ!」

凜々蝶「昼からか?」

蜻蛉「ああ、昼から屋台がやっているからな! 夕方まで遊んで遊んで遊びまくってやろう!」

僕たち先祖返りに、夜はキケンだ。
だから逢う魔が時には、帰らなくてはならない。

凜々蝶「ふん、ぼくはただ祭りが気になるからついていくだけだ。君に付き合うわけではない」

蜻蛉「逃がさんぞ、許嫁殿! この私のプレイを、明日も楽しんでもらおうか!」

凜々蝶「はっ、君は相変わらず人の話を聞かないやつだな」

双熾「お二人は仲がよろしいですね」

凜々蝶「どこをどうみたらそんな言葉がでるんだ!」

双熾「誰がどうみても、仲がいいと思いますよ」

凜々蝶「見間違いだ!」

蜻蛉「ふはははー! 悦いぞ悦いぞー!」

そうやって蜻蛉も御狐神さんも笑うだけだった。
仲がいい……、か。
はたしてそうなんだろうか、少し気になった。
三日もたったが、僕の悪態は相変わらずで。
蜻蛉も御狐神さんも、あまり気にはしてないようだが、本当は嫌に思っているはずだ。

凜々蝶「はぁ……。どうして素直になれないんだ、僕は」

明日は夏祭り、なのに。
とても楽しみなのに、な。 <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/05/10(木) 19:29:19.35 ID:2XoUN2+00<> ―四日目―
昼前、僕は浴衣に着替えることにした。
夏祭りに着ていく用にと、持って来たのだ。
淡い青地に、紫の朝顔が描かれた浴衣。
着付けはなれているので、僕はスムーズに浴衣を着ることが出来た。
だて締めを締め、紺色の帯を巻く。
髪の毛も横で一つに揃えてみた。

凜々蝶「大丈夫、か。これで」

似合って、いるだろうか。

凜々蝶「……今日こそ、素直になって」

僕はある決意をしていた。
今日、絶対に一回は素直になる。
そして、蜻蛉に感謝の言葉を伝えたいと思っていた。
初日から、蜻蛉は嫌な顔せず、僕と遊んでくれた。
一人だったら、とても心細くて、上手くいってなかっただろう。
許嫁だから、優しくしてくれたのかもしれない。
……だけど蜻蛉のおかげで、安心できた。
気を張ることがなかったんだ。
だから。

凜々蝶「絶対に、言うんだ」

ありがとう、って。




蜻蛉「準備は出来たか、許嫁殿!」

時間通り、玄関ホールに向かうといつものラフな格好をした蜻蛉がいた。
今日も変わらず、黒い仮面をつけている。
何故つけているのか気になってはいるが、聞いたことはない。

凜々蝶「ふん、ばっちりに決まっているだろう」

双熾「よくお似合いですよ、白鬼院様」

凜々蝶「はっ、分かりやすいお世辞だな。……ありがとうございます」

蜻蛉「ではゆくぞ! 我が性奴隷よ!」

双熾「いってらっしゃいませ、蜻蛉様、白鬼院様」

凜々蝶「君は一緒に来ないのか?」

双熾「お仕事がありますので。楽しんできてください」

蜻蛉「後は任せたぞ、我が家畜よ! 行くぞ、許嫁殿!」

凜々蝶「……ああ」

双熾「行ってらっしゃいませ」 <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/05/10(木) 19:30:30.03 ID:2XoUN2+00<> 大きな入道雲が泳ぐ空の下、僕と蜻蛉は二人歩いた。
蜻蛉の後を、二、三歩後からついていく。
夏祭りは、河川敷で行われるそうだ。
歩けば10分程度でつくといわれた。
日差しは今日も暑いが、車で行くと混むので、歩いていくことになった。
実を言うと、初めての夏祭り。
僕の家の近くの祭りはというと、毎年夕方からだったから、先祖返りの僕は一度も行ったことがないのだ。
前に祭りから帰ってきた妹と両親を見たとき、三人の顔は笑顔だった。
金魚が入った袋を持ち、綿菓子といわれるお菓子を食べていた。
お土産に、と妹がくれたキャラクターの描かれた袋に入った綿菓子を、貰ったことがある。
美味しかったけれど、とても寂しい味がした。
でも今日は、一人じゃない。

蜻蛉「許嫁殿、まずは何をしたい? 食べるのも良いぞ!」

凜々蝶「……ふん、綿菓子でも、食べみるのもいいだろう」

蜻蛉「綿菓子か! ふわふわ加減、M! だが、あのべたつき感、まさにS! 悦いぞ悦いぞ!」

凜々蝶「りんごあめというのも、食してもいいかもしれん」

蜻蛉「悦いぞ悦いぞ! どんどん食べようではないか!」

わたがし、りんごあめ、焼きそば、たこ焼き。
妹に聞いた、夏祭りの屋台に並ぶ食べ物。
一人じゃ普通の食べ物も、一緒に食べる人がいれば美味しいと言っていたか。 <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/05/10(木) 19:31:31.96 ID:2XoUN2+00<> 蜻蛉「ついたぞ、我が肉便器よ!」

凜々蝶「大声で、ふしだらな言葉を使うな!」

ほら、周りにいた人たちが引いてるぞ!
僕まで変人扱いは、御免だ。

蜻蛉「見よ、許嫁殿! 綿菓子が売ってあるぞ!」

凜々蝶「ふん、綿菓子でそこまで喜ぶなど、君は幼稚だな」

蜻蛉「家畜よ! 綿菓子2つだ!」

「は、はい」

だから、その呼び名はやめんか。
定員も困っているぞ。

「おまちどう」

蜻蛉「代金だ、家畜よ!」

「あ、ありがとうございました」

蜻蛉「さあ、許嫁殿! 食べて食べて食べまくってやるぞ!」

蜻蛉は笑顔で、綿菓子を差し出した。
僕はそれを受け取ると、綿菓子に見入った。
棒に巻きついている綿菓子は、とてもふわふわとしている。
前に食べた綿菓子は、袋に入っていたが、棒に絡めるものもあるのか。

蜻蛉「うむ、べたつくぞ。やはりS!」

僕も一口、食べてみた。

蜻蛉「どうだ、許嫁殿」

凜々蝶「ま、まあまあの味だな。だが、悪くはない」

蜻蛉「そうか。悦いぞ悦いぞ!」

そういって蜻蛉は僕の頭を優しく撫でた。 <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/05/10(木) 19:33:14.59 ID:2XoUN2+00<> ここまで。
今度からかきためて投稿しますね。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(沖縄県)<>sage<>2012/05/10(木) 19:56:03.04 ID:bymaaJhHo<> 乙
盛り上げといて書き溜めでじらしプレイとは
いい感じにドS <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/05/11(金) 22:34:28.28 ID:yK0VtElU0<> 乙。相変わらず素晴らしい! <> ◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/05/30(水) 17:38:42.62 ID:s0gJOeHQ0<> それから僕たちは、いろんな屋台を回った。
金魚すくい、射的、輪投げに、くじ……。
どれもおもしろかった。
まだ灯りの灯らない提灯や、いろとりどりの屋台。
始めてみるものばかりだ。
祭りというものは、こんなにおもしろいところなんだな。
縁日は、昼からでも人が多くて気を抜くとはぐれてしまいそうだ。
僕が慌てながらついていくと、蜻蛉が笑みを浮かべながら手を差し出した。

蜻蛉「ほら、許嫁殿。迷子になったら困るからな!」

凜々蝶「ぼ、僕は迷子になったりなんかしない」

蜻蛉「といいながら、追いつくことに必死だったではないか」

凜々蝶「あれはただ、人ごみにもまれただけだ!」

蜻蛉「そうか、そうか。ならば必死についていくといい!」

凜々蝶「言われなくても、勝手についていく」

蜻蛉「私のこのドSプレイについてこられればだがな! 次は、あの屋台に行くぞ!」

凜々蝶「えっ、ちょ……!」

会話を終えると同時に、蜻蛉は小走りで人ごみを突っ切っていった。
ときどきぶつかった人々が、迷惑そうな顔をしている。
いつのまにか、蜻蛉は人ごみの中に消えていった。

凜々蝶「ど、どこにいったんだ!?」

そもそも蜻蛉の言う”あの屋台”とやらは、なんだ。
とりあえず、蜻蛉が向かった先へ行かなければ。

凜々蝶(ま、迷子になってたまるか!)
<>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/05/30(水) 17:40:00.57 ID:s0gJOeHQ0<> 「この焼きそば、美味しい……」

「ね、渡狸」

「あれ、渡狸?」

「どこにいったんだろう……」




通り過ぎる人にぶつからないように、僕はゆっくりあるいた。
屋台の前に並ぶ人を見渡すが、蜻蛉はどこにもいない。
一体どこにいったんだ……。

「渡狸……」

ふと、焼きそばの屋台の前に立つ女の子に目が行った。
僕と同じぐらいの年齢の女の子だ。
桃色の髪に、紫色の朝顔が描かれた白い浴衣を着ている。
焼きそばを片手に持ちながら、どこか悲しそうな瞳をしていた。
迷子、なんだろうか。

凜々蝶「どうか、したのか?」

いつの間にか、僕はその子に話しかけていた。

「渡狸が、いなくなっちゃって。……知らない?」

凜々蝶「いや、いきなり聞かれても知るわけないだろう」

どうやら渡狸という人と、一緒にいたみたいだ。
迷子になったのか、迷子になった人を探しているのか、分からない。
けれど、この様子を見るに、迷子になったのだろう。

「あなたも、誰か探してるの?」

凜々蝶「……ああ、連れの姿が見当たらなくてな」

「そうなんだ」

お互いに、誰かを探している。
……そうだ。
この子と一緒に探せば、見つかるかもしれない。
この子と一緒に来た人も、見つかるかも。

凜々蝶「よ、よかったらだが……一緒に探してやらんこともないぞ」

ああっ!
なんで、肝心なときに悪態をッ!!

「いいの?」

凜々蝶「あ、ああ……」

カルタ「ありがとう。私、髏々宮カルタ。よろしくね」

凜々蝶「白鬼院、凜々蝶だ」

互いに挨拶をすると、髏々宮さんは優しく微笑んだ。 <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/05/30(水) 17:40:33.58 ID:s0gJOeHQ0<> それから、僕と髏々宮さんは手をつなぎながら、歩いていた。
髏々宮さんが、先に手をつないてきてくれたのだが、人と手をつなぐというのはなれないな……。
嫌がられてないと思うが、……ちょっと嬉しかったりする。
あの時、蜻蛉とちゃんと手をつないでいれば、こんなことにはならなかったのかもしれない。
……だが、あのときの僕は恥ずかしくてつい、悪態をついて。
この悪態のせいで、きっと蜻蛉は嫌な思いをしてるだろうな……。

カルタ「ねえ、ちよちゃん」

凜々蝶「ち、ちよちゃん?」

カルタ「ニックネーム。だめだった?」

ニックネーム。
それって、仲のよい友人同士が互いを呼び合う物では?

凜々蝶「わ……悪くはない」

今まで僕は”白鬼院さん”や”凜々蝶ちゃん”としか言われてなかった。
ニックネームで呼ばれるなんて、一度もない。

カルタ「ちよちゃん」

凜々蝶「な、なに」

だから、なんだか照れる……。

カルタ「ちよちゃんと一緒に来た人は、どんな人?」

凜々蝶「僕と、一緒に来た人? えっと……」

変態。
……といったら、きっと変に思われるな。
けど、本当はいい人で、僕の悪態も平気のような顔をして。
(内心どう思われているかは分からないが、きっと嫌われてると思う)

カルタ「探してて思ったけど、その人がどんな姿をしてるか分からないから」

凜々蝶「そ、そうだったな!」

ぼ、僕としたことが……。 <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/05/30(水) 17:41:40.87 ID:s0gJOeHQ0<> 凜々蝶「僕の連れは分かりやすいと思う。長髪に、黒い仮面をつけた男だ」

カルタ「仮面?」

凜々蝶「ああ、何故つけているのかわからんが」

カルタ「その人は……、ちよちゃんの恋人?」

凜々蝶「そ、そんなわけないだろう! アイツはだだの……」

婚約者。
そ、そうだ。
家が勝手に決めた、婚約者。
その気がなければ、破綻になる話。

カルタ「でも、ちよちゃん。最初に聞いたとき、考えてるときとても嬉しそうだった」

凜々蝶「き、気のせいだ! ふん、君の連れはどんなヤツなんだ」

カルタ「えっとね。茶色い髪の色をしてて、私と同じぐらいの身長で、とても可愛いの」

凜々蝶「そうなのか、友達か?」

カルタ「うん、二人で遊びに来たんだ」

渡狸さん、か。
子供の姿も多いから、見逃さないようにしなくては。

凜々蝶「茶髪の女の子か、それ以外に分かりやすい特徴はあるか?」

カルタ「……ちよちゃん、渡狸は男の子だよ」

凜々蝶「ええっ!? でも君、さっき可愛いって言ってたじゃないか」

可愛いとは普通、女の子に使う言葉じゃ。

カルタ「そうだけど、可愛いの」

凜々蝶「そ、そうか……。じゃあ可愛いと思われる男の子を……」

カルタ「思われるんじゃなくて、可愛いの」

凜々蝶「そ、そう……」

こんな調子で、見つかるのだろうか。 <>
◆cSsNy1w6Kk<>sage<>2012/05/30(水) 17:42:25.29 ID:s0gJOeHQ0<> 溜めて書くといいながら、ちっとも進まなかった……! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2012/05/30(水) 18:35:48.54 ID:w4D/F+Fvo<> カルタはかわいいなぁ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2012/05/30(水) 19:27:18.69 ID:6npJ5mZYo<> 蜻様とは何という俺得!
更新を楽しみにしている! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/30(水) 21:17:05.64 ID:odLo48alo<> きてたー
待ってるよ乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/05/31(木) 23:44:47.58 ID:eOHspipGo<> カルタたんかわゆす(*゚∀゚)=3ハァハァ <> ◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/06/12(火) 17:53:12.54 ID:G5DpmuCO0<> 許嫁殿が、我が青鬼院家にやってきて、数日がすぎた。
最初、ぎこちなかった許嫁殿も、落ち着いてきたようだ。
今日のお祭りも、とても楽しそうだった。
許嫁殿は、初めて祭りにきたらしい。
どれも珍しいものばかりだろう。
いろんな屋台を見て、目を輝かせていたのだから。
連れてきた甲斐があるものだ。
……だから、もっと一緒に回りたかったのだが。

蜻蛉「一体許嫁殿は、どこにいったんだ」

私が目を離したときには、もう許嫁殿は近くにはいなかった。

蜻蛉「仕方がない、探すしかないな。この私に探させるとはなんというドS!」

私は目的の屋台から離れて、辺りを歩き始めた。
……人が多くて、歩きにくいな。
許嫁殿は、どこにいる。

「カルター! カルター! どこいっちまったんだよー!」

ん? なんか聞いたことある声だな!

「カルタちゃん、今頃一人で泣いてるかもよ〜? あーあ、渡狸、嫌われちゃうかもね〜」

「う、うるせー!」

茶髪の小さいのに、いつも笑顔のあの男は……。

蜻蛉「ここで会うとは奇遇だな! 我が肉便器たちよ!」

渡狸「うわっ! なんでお前がここにいんだよ!」

夏目「蜻たんだー♪」

渡狸卍里、夏目残夏。
我が幼馴染であり、同じ先祖返りであり、我が肉便器どもだ。 <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/06/12(火) 17:54:45.01 ID:G5DpmuCO0<> 蜻蛉「おまえたちも、遊びにきたのか」

夏目「そうだよー♪ 今日はおもしろそうなことがあるって”視えた”からねー」

渡狸「なにがおもしろそうなことだよ! カルタがいなくなったんだ、何か手がかりとか視えねえのかよ!」

夏目「そーかっかしないでよ〜♪」

どうやら卍里の幼馴染の少女も、迷子のようだな。

夏目「ん〜? 蜻たんも、人を探してるんだねー」

蜻蛉「また”視た”のか」

夏目「ごめんねー。勝手に視えちゃったから」

さっきから”視えた”というのは、残夏が百目の先祖返りというのが理由だ。
百目の先祖返りである残夏は、過去未来、前世来世など、あらゆるものを”視る”ことが出来る。
自分で”視よう”と思わずとも、勝手に見えることが出来るらしい。

夏目「この子が、蜻たんの許嫁ちゃんかー♪ かわいいねー」

蜻蛉「そこまで視えたか!」

夏目「うん♪ どうやらその子、カルタちゃんと一緒みたいだよ? 二人のこと、探してる」

渡狸「カルタが!? 待ってろよ、カルターっ!」

相変わらずだな、アイツは。
幼馴染のこととなると、すぐ突っ走っていった。

夏目「あらあら、あんなんで見つかるのかなー」

蜻蛉「……許嫁殿は、いま何処に居る?」

夏目「ちょっと視てみるね」

そう言うと、残夏は視るのに集中し始めた。
そんなときでも、笑顔は絶やさないのは、残夏らしい。

夏目「……どうやら、ヨーヨーすくいの屋台で二人一緒に遊んでいるみたい。とても楽しそうだよ」

私が探しているというのに、許嫁殿は楽しんでいるのか……。

蜻蛉「なんというドS!」

夏目「ははっ、早く行ってあげなよ。蜻たんのこと探してるのには変わりないからさ」

蜻蛉「分かっている。見つけ出して、調教だ!」 <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/06/12(火) 17:56:27.73 ID:G5DpmuCO0<> 髏々宮さんと出合って、一緒に連れを探して、しばらくがたったが、髏々宮さんのお友達も、蜻蛉も一向に見つからない。
探すのに飽きたのか、集中力が切れたのか、普通にお腹がすいたのか、髏々宮さんは食べ物屋の屋台を通るたびに、食べ物を購入していた。
お好み焼き、たこ焼き、チョコバナナを平らげ、現在はフランクフルトを頬張っている。
にしても、おいしそうに食べるなぁ。

カルタ「このフランクフルト、美味しいよ。ちよちゃんも一口食べてみて」

凜々蝶「そ、それは君が買ったものだろう? 欲しかったら自分で買う」

カルタ「美味しいのに……」

そ、そんなに悲しそうな表情をしないで欲しい。
それに、普通そういうことは、仲のいい女友達か、恋人とだけだろう?
僕は一度も、したことはないけれど。

カルタ「ちよちゃんは、友達だよ?」

凜々蝶「えっ?」

僕と、髏々宮さんが、友達?

凜々蝶「で、でも僕は……友達になってなんて、言ってないぞ」

カルタ「友達って、いつの間にか出来てるんだよ。……それとも、私と友達になるの、いや?」

凜々蝶「そんなこと……ない……」

いつの間に、出来てるものなのか、友達って。
じゃあ僕と、髏々宮さんは、もう友達なのか?

カルタ「じゃあお友達だよ、ねっ」

凜々蝶「…………」

僕はただ頷いた。
恥ずかしくて、何もいえなかった。 <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/06/12(火) 17:57:20.54 ID:G5DpmuCO0<> カルタ「ちよちゃん、ヨーヨーすくい、したいな」

凜々蝶「ちょっと待て。君はさっきから遊んでばかりだぞ。僕たちは連れを探すために一緒にいるんだろう」

カルタ「そうだけど……、祭りも楽しみたいから」

凜々蝶「そうかもしれないが……、きっと君の友達は、君の事を必死に探してるはずだ」

カルタ「かもしれないけど……、大丈夫だよ。渡狸や、ちよちゃんの彼氏さんは、きっと見つけてくれるよ」

凜々蝶「どこからそんな自信が……って、彼氏じゃないって言っているだろう!」

カルタ「おじさーん、ヨーヨーすくい、やりまーす」

「はーい、お嬢ちゃん方。一人100円だよー」

カルタ「はい、200円」

って、もうお金払ってるし!

カルタ「ちよちゃん、一緒にやろうよ」

さっきの200円は、僕の分も入っていたのか!?

凜々蝶「も、もう……。君は……」

これじゃあ一向に、見つかるわけないじゃないか。 <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/06/12(火) 17:58:10.43 ID:G5DpmuCO0<> カルタ「やった、10個も取っちゃった」

「お嬢ちゃん、やるなー。おじさん、困っちゃうよー」

カルタ「渡狸の分も、もっととろうっと」

髏々宮さん、凄いな。
あんな細い糸を切らずに、先についている針金で器用にすくっていく。
一気に4つ取ったときは、少し驚いた。
……に比べて僕は。

凜々蝶「あっ……切れた」

「残念だったね、お嬢ちゃん。もう一回するかい?」

凜々蝶「ふん、一回で十分だ」

「そ、そうかい」

一個も取れず、しかも悪態までつく始末。

カルタ「待っててね、ちよちゃん。ちよちゃんの分もいっぱい取るから」

って、君は何個取るつもりだ!
もう20個超えてるじゃないか!
屋台のおじさんも、少しあせっているぞ。

「お、お嬢ちゃん、まだ取るのかい?」

カルタ「うん。渡狸の分、ちよちゃんの分、それにほかのお友達にも……」

「か、勘弁してくれー!」

もう、やめたげてよお。 <>
◆cSsNy1w6Kk<>sage<>2012/06/12(火) 17:59:11.20 ID:G5DpmuCO0<> 夏祭りで、ヨーヨーを14個取ったのは、いい思い出。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2012/06/12(火) 23:11:33.12 ID:+nGjok5io<> キテタ━━━━(゚∀゚)━━━━ !!!!
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/06/12(火) 23:16:09.92 ID:zMeif7ugo<> 待ってました! <> ◆cSsNy1w6Kk<>sage<>2012/06/13(水) 18:12:35.41 ID:hsS+4NiU0<>
カルタ「はい、これちよちゃんに」

そういって髏々宮さんが渡してくれたのは、4つのヨーヨー。
あれから髏々宮さんは、水槽の中のヨーヨーをすべてとってしまった。
さすがに店主がかわいそうだと思ったのか、10個だけ持ち帰ることにしたようだ。

凜々蝶「これは君が取ったものだろう?」

カルタ「おすそ分け。ちよちゃんは、お友達だから」

凜々蝶「ふ、ふん。貰っといてやる。……ありがとう」

髏々宮さんとお友達になり、同時に迷子になってから何時間もたった。
もうすぐ夕方が、逢う魔が時がやってくる。
その前に、早く蜻蛉に会わなければ……。
もちろん、連絡手段はない。
青鬼院家の電話番号も、蜻蛉の携帯番号も知らない。
帰り道も覚えていない。
そして、僕はお金すら持っていないのだ。
僕たち先祖返りに、夜は危険だ。
下手をすると、蜻蛉まで危ない目にあってしまうかもしれない。 <>
◆cSsNy1w6Kk<>sage<>2012/06/13(水) 18:13:59.00 ID:hsS+4NiU0<> カルタ「あっ、あそこにいるの。渡狸だ」

凜々蝶「えっ?」

髏々宮さんが指差した先、川辺には、茶色い髪をした男の子が息を切らして座っていた。

凜々蝶「あの人が、渡狸さん。……ふん、よかったじゃないか。とっとと行ったらどうだ」

カルタ「……ごめんね。一緒に探すって言ったのに」

凜々蝶「はん、そんなこと気にしてない」

カルタ「ありがとう、ちよちゃん。とても楽しかったよ」

凜々蝶「ぼ、僕は……。……僕も」

カルタ「きっとちよちゃんの彼氏さんも、見つかるよ」

凜々蝶「だから彼氏じゃないと、何度いったら!」

カルタ「また、遊ぼうね。……じゃあね」

凜々蝶「ふん、また会おうとでも言っておこう」

髏々宮さんは寂しそうに、僕から離れて、渡狸さんのところに走っていった。
渡狸さんに話しかける髏々宮さんも、見つかって嬉しそうな渡狸さんも、とても嬉しそうだ。

凜々蝶「……こちらこそ、ありがとう」

きっと一人だったら、心細かったと思う。
人に聞くことすら、出来なかっただろう。
だから彼女が居てくれて、少しは気持ちが楽になった。
そして、初めての友達が出来た。
それだけでも、感謝すべきことだ。

凜々蝶「僕も、早く蜻蛉と会わなきゃな」

感謝する人は、もう一人いるのだから。 <>
◆cSsNy1w6Kk<>sage<>2012/06/13(水) 18:15:11.42 ID:hsS+4NiU0<> 僕は屋台の通りのほうに戻り、再び蜻蛉の姿を探し始めた。
太陽がだんだんと傾き始めて、夕方へと時間がたっていく。
早く合流しなきゃ。
……ずっと迷惑をかけている。
僕は、先ほどの、蜻蛉との会話を振り返っていた。
たしか蜻蛉は、どこかの屋台に行くと言っていたな。
それはどこだろう?
僕たちが周ったのは、綿菓子、金魚すくい、射的、輪投げ、くじ……。
多分、それ以外の屋台のはず。
僕が今歩いている周りには、焼きそばやカキ氷の屋台、そして――
……あ。

凜々蝶「りんご、飴」

僕の目線の先には、りんご飴と描かれた屋台があった。
そうだ、思い出した。
最初に来て、僕が言ったんじゃないか。

凜々蝶『りんごあめというのも、食してもいいかもしれん』

だから後で一緒に食べようって、蜻蛉が言ってくれたんだ。 <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/06/13(水) 18:16:51.72 ID:hsS+4NiU0<> ヨーヨーすくいの屋台には、許嫁殿の姿はなかった。
どうやらもう、別の場所へと行ったようだな。
さて、どこを探すか。
もうすぐ夕方、逢う魔が時だ。
急いで帰らなければ、許嫁殿が危険だ。

蜻蛉「どこに行ったのだ、許嫁殿」

もうドSプレイも飽きてきたぞ。
私もドSだからな。

蜻蛉「また、あの屋台に行ってみるか」

いい加減、許嫁殿も思い出しているかもしれん。
許嫁殿が言い出したんだぞ。
『りんごあめというのも、食してもいいかもしれん』とな。
それを自ら忘れるとは、なんという放置プレイだ。
プレイもいいが、早くりんご飴を食って、帰るぞ。許嫁殿。 <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/06/13(水) 18:18:39.96 ID:hsS+4NiU0<> 屋台に並ぶりんご飴は、とても真っ赤で硝子玉のように綺麗だった。
実物は、初めてみる。

「お嬢さん、一個200円だよ」

凜々蝶「はん、僕はただ……」

蜻蛉「ならば2個頂くぞ、家畜よ!」

凜々蝶「えっ!?」

「ま、まいどー」

後ろを振り返ると、笑みを浮かべ、400円を店主に差し出している青鬼院蜻蛉の姿があった。

蜻蛉「ほら許嫁殿、りんご飴だぞ! 欲しいだろう? 食べたいだろう?」

店主から400円を引き換えに貰った、二つのりんご飴を両手で持ち、こちらに見せてくる。
とてもいい笑顔で。
こいつ……、楽しんでいるな。

凜々蝶「ふ、ふん。僕はそんなもの、いらな……」

つい悪態をついてしまった。

蜻蛉「そうか。つい二つも買ってしまったが、一個はどうするか……」

凜々蝶「う……」

蜻蛉「まず一口。……うむ、硬い! S! だが甘い! ドM!」

凜々蝶「む……」

蜻蛉「とても美味いな。許嫁殿にも食べさせてやりたい味だ」

凜々蝶「な……」

蜻蛉「だが、いらないなら私が両方食べてやるぞ!」

凜々蝶「あっ……」

蜻蛉「なんだ許嫁殿。言いたいことがあるなら言ったほうが良いぞ」

蜻蛉が言うとおり、とても美味しそうだ。
それに僕にはお金を持っていないから、自分で買うことも出来ない。

凜々蝶「……てやる」

蜻蛉「なんだなんだー?」

凜々蝶「も、貰ってやってもいいといっているんだ!」

蜻蛉「そうかそうか! だが許嫁殿、もう一つ言うことがあるだろう? 私のドSプレイも、そう簡単には終わらせぬぞ」 <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/06/13(水) 18:19:48.33 ID:hsS+4NiU0<> やっぱり、怒っている、よな。
それもそうだ、僕が迷子になって、ずっと探させていただろう。
なのに僕は、友人と遊ぶのが楽しくて、……そのときは、あんまり探せていなかったのだから。

凜々蝶「……迷惑かけて、……すまなかった」

蜻蛉「おお、許嫁殿も謝るときはちゃんと謝るのだな」

凜々蝶「わ、悪かったな」

蜻蛉「だが、私も勝手に行ってしまったこと、すまないと思っている。そのせいで、はぐれたようなものだからな。……これでおあいこだな」

ほら、と蜻蛉が差し出したのは、食べていないほうのりんご飴。

蜻蛉「もう少し時間があるな! もっと遊びつくして帰るぞ、許嫁殿!」

凜々蝶「…………うん!」




蜻蛉「どうだ、許嫁殿。美味いか!」

凜々蝶「はん、悪くはないぞ」

僕と蜻蛉は、あれから手をつないで歩いていた。
はぐれないようにと、蜻蛉は言っていたが、……やっぱり恥ずかしい。
髏々宮さんの手とはやっぱり違うものだ。
とても大きくて、暖かい手、どこか少し安心してしまう。
そして、僕はずっと気になっていたことも聞いていた。

凜々蝶「なんで君は……仮面をつけているんだ?」

蜻蛉「ん、これか?」

って、普通に取った!?
は、初めてみたな、蜻蛉の素顔……。
そんな顔をしていたのか……。
詳しくは、言ってはいけないような気がする。

凜々蝶「き、君のそれは、必要だからつけているんじゃないのか!?」

蜻蛉「ただのファッションだッ!」

凜々蝶「ええっ!?」

蜻蛉「というのは嘘だ」

凜々蝶「だ、だろうな」 <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/06/13(水) 18:21:01.17 ID:hsS+4NiU0<> 蜻蛉「まあ、いろいろあってな。気にするな!」

凜々蝶「そ、そうか」

蜻蛉「だが、付けている必要性もあまりないな」

凜々蝶「ないんかい」

もっとなんか理由があってのことだと思っていたぞ、僕は。

蜻蛉「どうだ、許嫁殿。私の素顔は!」

凜々蝶「え、えと……」

正直に思うと、整った顔立ちだと思うが。
俗にいうイケメンの部類に入るんじゃないか?
と、僕が普通に言える訳がない。

凜々蝶「ふん、……まあまあいいんじゃないか」

蜻蛉「そうかそうか。……怖くはないか?」

凜々蝶「それはないと思うが……、どうして?」

蜻蛉「……いや、なんでもない。ならばこれからは仮面を外していこうではないか!」

という発言で、蜻蛉は現在仮面を外していた。
外したことにより、不審な目をするものは居なくなった、が。
女性が何人も振り返っているような気が……。
「あの人かっこよくない?」「あの兄妹、美男美女ねー」
と、声が聞こえてくる。
というか、僕たちは兄妹じゃないぞ。 <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/06/13(水) 18:24:13.57 ID:hsS+4NiU0<> 蜻蛉「さて、そろそろ帰るとするか」

凜々蝶「そう、だな」

もう夕暮れか。
日が落ち始め、空がオレンジ色に染まっていた。
合流したあとも、結構楽しむことが出来た。
御狐神さんにも、お土産として綿菓子を買った(言い出したのは僕だが、買ったのは蜻蛉だ)
そして髏々宮さんから貰ったヨーヨーも一つ。
蜻蛉にも、髏々宮さんから貰ったヨーヨーを一つあげた。ドMドMと連呼しながら遊んでたな……。

蜻蛉「行くぞ、凜々蝶」

凜々蝶「ああ。……って今、名前で!」

言われなれない呼び名に、少しドキッとした。

蜻蛉「なんだ、どした」

蜻蛉は、よく分からないと言いたげな表情だ。

凜々蝶「君はいつも僕の事を”許嫁殿”と呼ぶだろう」

蜻蛉「手紙では”凜々蝶”とも書いていたが?」

凜々蝶「でも、極稀にだった」

蜻蛉「ふむふむ、許嫁殿はそこまで手紙を読んでいたのか! なんというドM!」

凜々蝶「ち、違う! ただ、暇だから読んでいただけだっ!」

蜻蛉「凜々蝶、と呼ばれるのは嫌だったか?」

凜々蝶「……っ」

は、恥ずかしい。
というか、照れる。
反ノ塚なんかには、普通に呼ばれているのに。
今まで許嫁殿と呼ばれていたからか? <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/06/13(水) 18:25:53.50 ID:hsS+4NiU0<> 蜻蛉「……」

そのニヤニヤするの、やめないか!

凜々蝶「ふんっ! まあ、そう呼んでくれてもいいだろう……! か、仮にも……婚約者、なんだしなっ!」

蜻蛉「ふはははー! 悦いぞ悦いぞ!! ではこれから連呼するとしよう!」

凜々蝶「えっ!?」

な、何を言うんだ君は!

蜻蛉「凜々蝶!」

凜々蝶「っ!」

蜻蛉「凜々蝶ー♪」

凜々蝶「ちょっ……!」

蜻蛉「凜々蝶ッ!」

凜々蝶「もういいっ!」

蜻蛉「凜々蝶☆」

凜々蝶「もうやめんかっ!!」

蜻蛉「ふははははは! 顔が真っ赤だぞ、許嫁殿! やはりドMだな!」

凜々蝶「違うと言っているだろう! こ、これは暑さのせいだ!」

なんでだろう。
凄くドキドキしてしまう。
そして、嬉しいとも思ってしまう……。
それにしてもこの男は、本当に人をいじるのが好きなやつだな……。

蜻蛉「ふむ、許嫁殿を言葉攻めでいじったのは良いが……」

凜々蝶「からかうな!」

蜻蛉「私は一度も名前を呼ばれてないぞ?」 <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/06/13(水) 18:27:10.90 ID:hsS+4NiU0<> 凜々蝶「なっ……!」

蜻蛉「手紙では素直に”蜻蛉さん”と書いてくれるのに……」

は、恥ずかしくていえるわけないだろう……!
それにシュンって落ち込むな!

蜻蛉「よし、次は許嫁殿の番だ。先ほどの仕返しと思っても良いぞ! 私の名前を呼べ! 呼び捨てで!」

凜々蝶「なにを言っているんだ、君はっ!」

蜻蛉「また”君は”と言われたぞ、家に着てからずっとだ! どうして私の名は呼べぬのだ?」

凜々蝶「それとこれとは話が違うだろう!」

蜻蛉「違わんな。婚約者同士、仲を深めるのが今回の滞在の理由のはず。さあ呼ぶのだ! 呼ばぬまで離さんぞ! 私はドSだからなっ!」

そう言って、蜻蛉は僕の顔を両手で挟んだまま見つめてきた。
明らかにからかっている顔だ。
口元が緩み、八重歯が覗かせている。
だが少しだけ、目が真剣なようにも見えた。
……にしても、この距離は近いじゃないか!
青い瞳がこちらをまじまじと見るので、僕はつい目をそらす。
それさえも愉快、というように蜻蛉は笑っていた。

凜々蝶「〜〜っ!」

”蜻蛉”という言葉がでない。
というか、言えるわけがない。
でも言わなければ、この状態から抜け出せないのだろう……。 <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/06/13(水) 18:29:07.98 ID:hsS+4NiU0<> 蜻蛉「どした、どした」

凜々蝶「っか……」

蜻蛉「うむ、うむ」

凜々蝶「かげ……っ」

蜻蛉「なんだ、なんだ」

僕は勇気を振り絞って、声をだした。

凜々蝶「か……、かげりょっ!」

噛んだ。

蜻蛉「ふっ……、ふははははっ、ふははははははははははっ!!」

凜々蝶「〜〜〜っ!!」

大爆笑された。
すごく恥ずかしい。

蜻蛉「ふはっ……! 流石だ、我が家畜よ! このような場面でっ! 噛むなどと……! このドMめ!」

反論したいが、恥ずかしさでそれどころではない。
頬がどんどん熱くなっていくのがわかる。

蜻蛉「まあよい! 調教はまた今度にしてやろう!」

凜々蝶「〜〜っ! か、帰るぞ!」

蜻蛉「『か……、かげりょっ!』」

凜々蝶「そ、それはもう忘れろぉぉ!!!」 <>
◆cSsNy1w6Kk<>saga<>2012/06/13(水) 18:30:00.20 ID:hsS+4NiU0<> 多分次で小学生編が終わります。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/13(水) 20:25:21.10 ID:PyKB9fDr0<> 面白いわ
乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(沖縄県)<>sage<>2012/06/16(土) 22:10:06.09 ID:uO7WB/mgo<> 乙
なにこのかわいいカップルww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/08/03(金) 12:57:08.38 ID:SzVXRcSoo<> おつ <>