その1<><>2012/05/24(木) 19:32:05.76 ID:KdslAUbA0<>  俺は、常々省エネを心がけており、無駄なことをせずに静かに過ごして、地球に優しい
人生をしていこうと思っている。そんな俺に、海外に出張している姉から手紙が届いて、
廃部になりそうな、古典部に入部して欲しいというのだ。

 部員が一人も居ないので好きにやってもいいというので、職員室から部室の鍵を借りて、
夕方の旧校舎にやってきた。鍵を開けて入ろうと思ったら、開かない。

 もう一度鍵を回してみると開いた。ということは施錠してなかったのかもしれない。

 まあ、廃部寸前の部室だから、そういうこともあるのだろうと思って入ってみると、
窓際に一人の女生徒が居た。まさか、部員が居たのか?

「あの…、古典部の人ですか?」
 夕焼けの逆光の中、さらさらのロングヘアの美少女がこっちを振り向いた。

「…いえ、この場所が気に入っているので。あなたが古典部の人ですか?」
「ええ、自分一人だけだと思いますが」

 すぅっと彼女は俺に近づいてきた。瞳のきらきらした好奇心に満ちた目、淡い色の唇。

「わたしは、千反田えると言います。あなたは?」
「俺は、折木奉太郎です」

 彼女は俺の抱きついてきて、匂いをかいでいる。

「いい匂いがします。えるって呼んでください、奉太郎さん。わたしも古典部に入って、いいですか?」
「いいけどさ、急に抱きつくなんて……悪い気はしないけど」

 正直、俺は、この子に魅了されてきて、親密になりたくなってきた。

「そうだな…、えるは彼氏とか居るのかな? 俺も彼女が居ないしさ、良かったらつきあわないか?」
「はい、いいですよ。奉太郎さんとはこれから、長いつきあいになりそうな予感がしますし」

 えるは、胸に溜めていたものをはき出すように、
「実は、古典部の文集に絡むことでわたしの伯父から何を聞いたか思い出したくて、でも、そのつてが
無かったんです。奉太郎さんなら、どうしても気になってることを解決してくれる気がするんですが」

 彼女になってくれるという事で、俺の心はすっかり浮かれて、えるの言う事なら、何でも叶える気分
だった。

「ああ、俺の姉が古典部のOGだし、力になってやれると思うよ。友達の里志の奴も協力させれば、
たぶん、何とかなると思う」
「ほんとうですか!!」
 えるの瞳は宝石のように輝き、その微笑みは俺を魅了するのだった。


 翌日、謎解きには文集が必要なのでそこにあるんじゃないか?とえると一緒に図書室に来た。
「あら、折木じゃない。相変わらず陰気な顔してるわねって…、その子は、誰なの?」

 今日のカウンター当番は、幼なじみの伊原摩耶花だった。小学校以来の付き合いなんだけど、ちょっと
大人びた整った容姿なので普通なら引く手あまたな筈なんだけど、毒舌で近づく奴は撃退される。

 それを知っているだけに俺は敬遠気味だけど、何のつもりか、俺には相変わらず突っかかってくるが、
今日の摩耶花は様子が違うな。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1337855525(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)
<>氷菓に不満があったのでSSを作ってみた。 その2<><>2012/05/24(木) 19:32:42.81 ID:KdslAUbA0<> 「ああ、同じ古典部部員なんだ」
「はい、初めまして。千反田えるです」
「そうじゃないの!何か、雰囲気というか、あんた、その、まさか…。」

 妙に摩耶花が動揺して、あの強気な態度がすっかり崩れてる。

「ああ、恥ずかしながら、俺とえるは付き合ってるんだよ」
「はい。まだ、日が浅いですが、そういう関係です…。」

 恥じらっている、えると目線が合って、つられて俺まで赤くなってしまう。

「じ、冗談よね?千反田さん、こんな男に何か弱みでも握られているの?それなら…」
「いいえ、奉太郎さんは頼りになる素敵な男性ですよ」

 えるは、俺に寄り添い、腕を組んでくる。

「おいおい、ホータローじゃないか。何騒いでるんだよ?って女子と腕を組んでる?!」
「千反田さんだ。俺の彼女だよ。あいつは、友人の福部里志だ」
「初めまして、福部さん」
「あ、ああ…、初めまして、千反田さん」

 里志は、摩耶花を凝視している。その視線に気づいたのか摩耶花も見つめている。摩耶花は恋愛
ごとに疎い俺から見ても明らかに里志に求愛しているように思えるが、里志はどういうつもりか、
はぐらかし続けている。

「ここじゃ、何だし、書庫に来て」
 図書室は静粛にしないといけないので、ややこしいことになりそうな俺たちを摩耶花は書庫へと
誘った。

「あんたたち、いつ付き合ったのよ。あたしの知らないうちに」
「幼なじみだからといって、そんな言い方しなくてもいいだろ。姉からの手紙で古典部に入るよう
に言われてさ、部室に行ったら、千反田さんが居たんだ。それでいろいろあってな?」
「はい。奉太郎さんとは意気投合しまして」

「はー、ばっかじゃないの。これで清々したわ。肩の荷が下りる気分よ。お幸せにーだ!」

 ほんっと、摩耶花の毒舌は相変わらず、突き刺さるな。

 そんな中、里志は重大な何かを決意したような気合いで、
「あのさ、摩耶花。僕、正直、摩耶花は奉太郎とは何か、入り込めないような感じで、僕には気持
ちを伝えて来るけど、それは、鈍い奉太郎への当てつけなんじゃ無いかと思ってたんだ」

 摩耶花は、唇を噛んでうつむいてる。

「それで迷ってたんだよ。単なるポーズじゃ無いか?とか。でももう、そんなややこしいことは
必要ない。
僕は、いつの間にかお前のことが好きになっていた。今、はっきりした。僕と付き合ってくれ!」

 摩耶花は涙を流し、くしゃくしゃの顔だった。

「何よ、馬鹿じゃないの。さんざんアプローチしたのにそんなこと思ってたの?奉太郎とは偶然、
幼なじみみたいになってるけど、恋愛感情なんて無いわ。改めて言うわ。あたしも里志が好き!
大好きよ!」

 二人は抱き合ってキスしていた。収まるところに収まった様な、平和な光景だ。

「あの…奉太郎さん?ほんとは、摩耶花さんのこと、好きだったんじゃないですか?」
 えるがなんかふくれてるよ。
「マジでそんなことないって。あの二人が勘違いしてただけだよ、アハハ」

「「笑うな!」」
 摩耶花と里志に怒られてしまった。

 その後、えるが古典部の文集で知りたがっている事を説明したら、二人とも妙に興味を示して、
謎解きに参加してくれる事となった。

<> その3<><>2012/05/24(木) 19:34:31.43 ID:KdslAUbA0<> 「カウンターに誰もないの?」
「あ、ヤバイ。司書の糸魚川先生が戻ってきた」
「司書?それなら、古典部の文集の在処を知っていそうだな」
「それを探していたの?じゃあ、聞いてみましょうよ」

 書庫を出て、みんなでカウンターに戻り、先生に聞いた。
「ああ、文集の"氷菓"ね。たぶん、理科準備室の薬品金庫にしまってあるんじゃないかしら」
「なんでそんなところにあるんですか?」

 司書の先生が何でそこまで知ってるんだ?文集に関わりがあるのかな。

「部室を移動するときにそのままになってる気がするのよ。無かったら、また聞きに来てちょうだい」
「はい、どうもありがとうございます」

 俺たちは、あっさり在処が判ったので、理科準備室に向かった。なぜか理科準備室を私物化している
先輩の妙な抵抗にあったが、無事、氷菓のバックナンバーを手に入れたので古典部の部室に戻った。

「というわけで、えるの気になっているモノをゲットできたんだが、どうする?」
「まず、わたしがどれを読んでショックを受けたか判らないとだめですよね…あ、2号からしかない」
「1号がないのはナゼなのかしら。普通、第1号って大事にされるわよね」
「だよなあ。ホータローは、どう考える?」

「誰かが大事に持ってるんだろうな。とりあえず、えるが最初に読んでもらって、順次、俺たちが読
めば効率が良さそうだな」

「あっ!この兎と犬の表紙、これです!2号だったんですね」

 ズッコケる思いだ。それにしても兎と犬がお互いの身体を咬み合うという絵柄は穏やかだが、何かの
争いごとがあったのを表してるんだろう。

「あ、そうそう、これに関連するかもしれないけど、学校史が毎週借り出されてるのよ。1回2週間
借りられるのに」

 図書委員の摩耶花が疑問を挟む。貸し出しカードの履歴を見ていると特に意図があるように思えない。

「要するに1号を持っている先生が、この学校に何があったかを生徒に教える授業でもしてるんじゃな
いか?」
「そういう風に考えると辻褄が合うな。ホータローの発想だけはいいと思う。司書の先生って糸魚川
養子ってフルネームじゃなかったっけ?」
「確かそうだけど、それがどうしたのよ、里志」

「ああ、そうか。この2号の執筆者の郡山養子って名前と糸魚川養子って近いよな?そして、さっき、
あっさりこの文集の場所を教えてくれたんだから、間違いなく関係があると思う」

 俺は、里志のアシストで腑に落ちる説明を思いついた。

「すごいです!、奉太郎さん、里志さん。早速、糸魚川先生に聞きに行きましょう」

 というわけで、俺たちは、また図書室に引き返した。
<> その4<><>2012/05/24(木) 19:35:01.43 ID:KdslAUbA0<>
「糸魚川先生、ちょっとお話を聞きたいんですがよろしいですか?」
 氷菓の2号を持って話しかけると、やっぱりねという顔で頷いた。準備室に招かれて、説明を受けた。

「当時、学園紛争とか起きていて、この学園も荒れていたのよ。先生方は文化祭を平日5日間も必要ない
から2日にしよう、生徒は、俺たちの自由を奪うのかが、一番の揉め事だったかな。その生徒側で、リー
ダーとされていたのがこの文集を作った、関谷純という人で」

「あ、その人がわたしの伯父なんです。わたしが氷菓を読んだとき、衝撃的なことを教えてくれたはず…」
 えるが思わず立ち上がって、声を上げた。

「そうなの?それで、生徒の授業ボイコットやキャンプファイヤーとかしているときに偶然だと思うんだ
けど、火の粉が格技場に燃え移って、消防車が消火したんだけど焼け落ちてしまったの」
 糸魚川先生は、淡々と語っていく。
「生徒は先生側が放火したと言い、先生側は生徒がわざと火の粉を飛ばしたと大騒動になったとき、関谷
さんが、先生側に話を付けに行って、リーダーである自分が不注意で格技場を燃やした事にして退学します、
しかし、文化祭5日間の要求を飲んでもらえば、この騒動に終止符をつけると。」

 そんな経緯があったんだと俺らは感心して聞いていた。

「というわけで、先生方は警察沙汰になるのを嫌い、要求通り文化祭の期間は今まで通りとなったわけ。
実際は、関谷さんは表のリーダーであって、裏で動いていた、真のリーダーが居るんだけど、それは不明
のまま、彼は全ての負い目を負って去ったわけ」
「その心中をこの"氷菓”に記したのよ。その後、彼は英雄扱いされ、文化祭がカンヤ祭と呼ばれるのは、
関谷を音読みして当時を忍んでいるからよ」

「ヒドイ話ですね。それで、える、何か思い出したか?」

「…伯父さんは、わたしが小さいからもっと簡単に説明したと思うんですけど、当時の苦悩が彼を怖い顔
にして、"強くなれ、弱かったら悲鳴も上げられぬ日が来る。そうしたら生きたまま死ぬことになる"と聞
いて、"生きたまま死ぬ"なんて理解できなくて凄く怖かったんです。思い出しました」

「結局、スケープゴート(生贄)にされただけで、関谷さんは何の得にもならない英雄扱いされただけ、か。
先生、この表紙なんですがどういう意味なんでしょうか?」
 摩耶花がさっそく毒舌を吐いたよ。

「権力の犬の先生側と、か弱い存在の兎の生徒に例え、その争いを描いたのでしょう」
「言葉が過ぎるぞ、摩耶花。それにしても文化祭にそんなエピソードがあったとは思いませんでした」
 一応、里志がたしなめた。

「わたしは、伯父の話を聞いて怖くなり、よく判らない仕組みに巻き込まれて酷い目に遭わないように、
物事の仕組みやシステムに興味が行くようになったんです。モヤモヤしていた事が、ほんとすっきりし
ました。皆さん、有り難うございます」
 えるは、深々と頭を下げている。

「える、その、関谷さんは、その後、どうなったんだ?」
「はい。マレーシアに渡航して、インドのベンガル地方で消息を絶ってそのままです」
「壮絶な人生だな。良かれと思ってしたことで人生を誤ったのか」

「私から話せる事は、これくらいよ。他に質問がなければ、これでおしまいにします」
「糸魚川先生、どうも有り難うございました。一生の悩みと思っていたのが解決しました」
「では、あなたたちもがんばってね」
 先生は、仕事に戻ったので、俺たちは、すっきりした気持ちで部室に戻ることにした。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
おわり

色々変えちゃいましたが、この方が俺にとって楽しいので(^^; <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/24(木) 22:35:52.51 ID:3KEAaQd0o<> 終わったのならHTML依頼はここでな

■ HTML化依頼スレッド Part4
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1335365683/


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/05/24(木) 23:03:17.54 ID:KdslAUbA0<> あまり短いのも何なので、「愚者のエンドロールを弄ってみた」を追加します。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 インターネットの何処かで、こんな会話があった。
"ちゃんと入れたようね。こんなことを頼むのは心苦しいけど、表に出られないから"
"鍵付きなんて、ドキドキします。事情はだいたい伺ってます。わたし、知りたいんです、その結末を"
"あいつらが暴走しなければ、すんなり解決したのに。大事なポイントは覚えてるよね?"
"はい。あの人なら、きっと何とかしてくれるはずです"
"じゃあ、よろしくね。期待してるから。後でバレないよう、発言を削除しておいて"
"フォロワーから漏れたら台無しですものね。がんばります"

 えるの悩みを解決した後、部室で古典部の文集にはちょうどいい題材だったのでそれを元に編集して
いたところに遅れてきたえるが、
「あ、みなさん居ますね。ちょっと大事なことがあるので来てください」
「何だ、える。また、何かあったのか?」
「ええ、そうなんです。みなさんの力が必要です」
 こういう時のえるに逆らえないのでそれぞれ、ため息をつきつつ、全員でえるの後に付いていった。

「ここです、視聴覚室。失礼します」
 コンコンとノックをして、えるが視聴覚室のドアを開いた。
「2年F組の入須 冬実だ。済まない、呼び出したりして。とりあえず、そこのイスに座ってくれ」
 少し吊り気味な涼しげな目元の冷厳そうな雰囲気の人だ。訳がわからないまま、俺たちはイスに座った。
「実は、文化祭の出し物として、ミステリー風の映画を撮っていたんだが、不測の事態が生じて、肝心の
ところで頓挫してしまったんだ。まずは、このビデオを見て欲しい」
 HDDレコーダーにセットされたディスクを再生し始めた。

 劇中の生徒たちは、文化祭の出し物のために鉱山の廃村に向かい、そこを題材に映画を撮るらしい。
 いい具合に枯れている廃村は、魅力的な風景だが、廃墟マニアでない限り、地味すぎた。
 そこにくたびれた劇場を発見する、が、もう夕方となり、帰りのバスもないということで、この中で
夜露をしのごうということになる。ホール内はあちこちに資材が積みっぱなしになっていたりして、落ち
着けるようなとこがないから、探索するうちに事務室からキーボックスを発見したので、手分けして部屋
を探すことにしたようだ。薄暗い劇場内は、不気味で誰かがドアを開ける音にも怖気が走る。

 そして、ホールの方で絶叫が上がり、大きな物音がしたのでびっくりして、ホールの扉を開けると、
腕がもげて無残な姿になったガタイの良い海藤君を発見する。
 ふと見ると右手の奥が光っていて、誰か扉を開けて、出て行ったようだ。

 といったような、大変、中途半端なところでビデオは終わっていた。
「こんな具合で、ここから解決編になるらしいのだが、脚本担当は、体調不良となって現在、音信不通なんだ。
千反田さんによると君らは、何ともよくわからない彼女の悩みを見事、解決したというではないか。誠に申し
訳ないが、責任者として、この状態で展示するわけに行かないので、助けて欲しい」

 まるで女王様のような人が真摯に頼んでくると頼みを受けざるを得ないような気にさせられるが、
「千反田の悩みは、偶然解けた物で正直、このビデオを見る限り、その…、」
「待ってください!奉太郎さん。わたし、気になるんです。ここまで脚本を書いた人が、何故、止めてしまった
のか。だから、相談を受けてしまったのです」
 また、えるの悪い病気のせいだったんだな。

「一応、参考になる資料も用意した。現場までの地図も作成しておいたから、見に行くことも出来るだろう。
どうだろうか?」

 俺を見つめる、えるの瞳の輝きがまばゆいばかりだ。そして、里志も摩耶花もなんで俺を見るんだ?これは、
はめられたと言うこと、何だろうな。はぁ。

「何の役にも立たないかもしれませんが、ここまでしてもらったので、努力してみますよ」
「そうか!もし、成功したなら、映画のエンドロールに君らの名前を入れることを約束しよう!」

 文化祭の映画のエンドロールなんて、誰も注視しないと思うが、名前が残るのはいいじゃないか。えるも喜
ぶだろうしさ。俺たちは、資料とディスクを持って部室に戻った。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/05/24(木) 23:03:47.59 ID:KdslAUbA0<> 「さて、提案なんだが、資料も多いし、もう、下校時刻だ。いったん帰宅して夕飯後、この案件を持ち込んだ、
えるの屋敷で検討会をしないか?」
「わたしの家なら、大丈夫です。親は旅行中なので気兼ねなくできますよ?」
「さっきのビデオのことですっかり気になってることだし、僕は付き合うよ。摩耶花は?」
「えっ?!あたしは、興味ないけど、里志が行くなら」
「では、みなさんをお待ちしております」

 そんなわけで、えるの屋敷にぼちぼちと集まってきた。ビデオを50インチはあろうかという液晶テレビに
映し、資料を検討しつつ、あーでもない、こーでもないと議論し、あとは翌朝、現場の廃村に向かおうという
ことになったが、日付が変わるような時刻になってしまったので、それぞれ、部屋に別れて寝た。

 翌朝、目覚めると。何かいい匂いがするのでそっちに歩いて行くと、台所にたどり着き、
「おはようございます、奉太郎さん」
「ああ、おはよう。おにぎり作ってるのか?」
「ええ。今日は撮影現場に行くんですよね」
「そういえば、そうだな…。」
「あ、おにぎりだ!おはよう」
「ふわー、えるちゃんは、朝早いわね」

 みんな起きてきたので、朝食となった。味海苔で巻かれたおにぎりは、見た目が変だが大変うまい。

「おにぎりがヤケにうまいな」
「うちで収穫された新米を使ってますから。お口に合ったようで良かった」
「そうか、米の味が違うんだね」
 里志も納得だ。それぞれ、朝食を食べ終えて、支度をしてから出かけた。

 バス停までの間に飲み物を補充し、バスに乗った。うつらうつらしながら終点まで行き、そこから
1時間ほど歩くと廃村に着いた。すっかり日が高い、というかもうお昼だ。

「まだ、何にもしてないけど、昼飯にするか」
「そうですね。それにしても昼間なのに寒々しい風景です」
「鉱山としては、まだ細々とやってるらしいよ。今は夏休みだから誰も居ないだろうけど」
 早速、下調べしてきた里志が知識をひけらかす。

「その辺のベンチに座って、食べましょうよ」
 おにぎり、鶏の唐翌揚げ、たくあんというようなセットでえるから配られ、夏の日差しで唐翌揚げが
いい具合に温まって大変うまい。程なく食べ終えたので、撮影場所の劇場に向かう。

 10分ほど歩くとその劇場が見えてきた。外壁が相当痛んでいるようだが雨風が入り放題になる
ほどじゃないようだ。周囲は夏草がみっしり生えていて鎌を持ってこないと入れないと警告された
通りだ。俺と里志は劇場には入れるだけのスペースを空けるため、鎌を持って草刈りだ。

 いい汗をかいた頃、薄暗い劇場内に入ることが出来た。

「これは、倉庫として使われているのか?」
「ああ、本来ならホール周囲は、ぐるっと開いている筈なのに左側が資材等で入れなくなってるね」
「事務室に合い鍵があったわ」
「お、気が利くな、摩耶花は」
「えるが居ないぞ?あ、勝手にホールに向かってる」

 慌てて俺たちはライトを片手に、えるを追いかけた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/05/24(木) 23:04:21.07 ID:KdslAUbA0<> 「こら、単独行動は、危ないって」
「あ、奉太郎さん。ビデオの海藤さんが死んでいた場所を早く確かめたくて」
 ホール内も乱雑な物だった。アルミサッシが積んであって、一部は派手にガラスが割れてるし。

「とりあえず、俺とえるは、ホールをチェックしてみるよ。里志たちは通路とか外回りを見てきて
くれないか?」
「判った。何かあるといけないから、1時間後にこのホールに集合しよう」
「ああ、その方がいいな」里志たちは、ホールから出て行った。

 出入り口が左右に2つ、正面に1つあって、右奥のドアが開いてビデオのラストで光が見えたんだろうな。
「わたし、気になるんです。何故、海藤さんはホール中央で倒れていたんでしょう?」
「俺もそれは疑問に思った。誰かに殺害されたなら、殺害後、目撃されることを恐れて、壁沿いとか
逃走しやすい場所にするよな」

 えるは、ふらふらと歩き回り、天井から下がっているロープにつかまろうとぴょんぴょんしていた。
 その様子に俺も気になり、えるでは届かなかったロープは俺の身長だとラクに届く長さだ。

 ロープの上を見るとレールがあって、舞台上まで繋がっているようだった。俺はロープを引っ張って、
舞台上まで上がって考えた。いつのまにか、えるも隣に座っていて、

「やっぱり、このロープが怪しいですよね、奉太郎さん」
「ああ。今、考えているのは無邪気さと単純さの両方なんだが…」

 ホール入り口から里志と摩耶花が入ってきて、舞台上まで上がって来た。
「おーい、ホータロー、何やってるんだ?」
「あのさ、里志、このロープにつかまってターザンみたいに向こうへ跳んでみてくれないか?」
「えっ?面白そうだから、やってみるよ。いっくぞー!」

 里志は、ロープにつかまり、助走を付けてびゅんと宙を飛び、中央付近に積んである資材にかすって
レールが中央で止まっているのでロープがふり戻って、里志は、ずるずると落ちた。

「あっぶねー、なんだアレ、アルミサッシ?すれすれだったよ」
「ちょっと、奉太郎、里志になんてことさせるのよ!」

 摩耶花に睨まれてしまった。

「いや、俺の推理だと海藤先輩が里志がぶつかる予定の場所で派手にぶつかった筈だから、当たらない
だろうと思ってさ、済まんな、里志」
「どういうことなんだ?ホータロー」
 里志を少し怒らせてしまったようで険悪な表情だ。

「通路や外回りは、特にめぼしいところ無かったろう?」
「ああ。僕の見た限りでは、資料通りに窓は雪害対策で打ち付けてあるし、使えない部屋が多かったよ」
「あたしが見たところ、何か仕掛けとか工作したような所も無かったわ」
「奉太郎さん、どんな推理が出来上がったんですか?」

「事故と殺害の両面がありそうだなってさ。単純に事故の場合、ガタイが良くて体育会系の海藤先輩なら、
さっきの里志みたいにターザンのまねごとがしたくなってもおかしくない」
「そういえば、資料のノートに丈夫なロープってありましたね。あ、ロープが途中でつないであるから
それに使ったのかしら」
 えるが補足してくれた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/05/24(木) 23:05:02.50 ID:KdslAUbA0<> 「それで、事故の場合、身体能力の高い先輩がスゴいスピードでロープにつかまりながら舞台から助走し、
積んであるサッシに激突、割れたガラスで腕が切り落とされ、衝撃で首でも折ったのか、それで死んだ
場合と殺害の場合、誰かが殺害を計画し、当たりやすいようにサッシ等を積み上げ、ロープの長さ等を
調整して、海藤先輩をそそのかし、右奥の扉から逃走した、とすると大ざっぱだけどつじつまが合う」

「でも、なんでそうなったのでしょうか?」
 えるがもっともな疑問を挟む。

「おおかた、撮影現場でロープ遊びが止まらなくなり、これで行こうぜ!とかなって別の目的でロープ
を使おうと思った脚本の本郷さんが呆れたとかじゃないか?」
 里志が撮影現場を見てきたように推測した。

「いかにもあり得そうねえ。どの時点でそうなったかは、判らないけど、腕がもげるトリックのために
ロープが使われる筈だったのかもしれないわ」
 摩耶花があきれ顔で意見を言った。

「入須先輩の依頼は、あの中途半端なところで頓挫したミステリー?を何とかして欲しいということだ
ったので、ロープの本来の使用目的は解決しなくていいんじゃないか?」
「うん、きっと脚本の本郷さんもこれでいいと言ってくれると思います。大丈夫…な、筈です」
 えるは、なんで脚本担当の名前をここで言うのだろうか。
「入須先輩じゃ無くて?まあ、いいや。えるがそう言うなら、これをまとめて提出しよう」

 そんな感じで、あとはこのいい具合に廃れた劇場の雰囲気で何とかなるだろうさ、と俺らは廃村を出
て、バスに揺られて今日は、解散となった。

 翌日、昨日のことをまとめたレポートを入須先輩に読んでもらったら、大変喜んでくれて、これなら
まだ間に合うと礼を述べて、クラスに戻っていった。

 俺としては、文集の編集に戻りつつ、省エネな生活に戻ってきたのでほっとした。

 入須先輩のクラスのビデオは、後日完成し、古典部にディスクが届けられたので再生してみた。
 あの中断した部分から解決編に入り、再現映像で海藤先輩が奇声を上げながら、豪快にロープに飛び
つき、見ている人が心配になるくらい激しくアルミサッシにアタックするところが爆笑だった。
 エンドロールに Thanks として古典部一同の名前が載っていたので、俺は満足した。


 そして、インターネットでは秘密裏に、
"ホント、感謝します。あなたたちのおかげで何食わぬ顔で学校に出られるようになったわ"
"いえいえ、楽しかったですよ。検索してたら、偶然、先輩のつぶやきを見て、興味が出ただけですし"
"あのロープ、結構予算を食っていたので、どうしても使わないと行けなかったから。それも生かして
くれたし"
"そこは、彼に気づいてくれるよう、あれこれしちゃいました"
"クラスの馬鹿共が暴走しなければ、あたしが引きこもりになることも無かったのに…あ、これはあなた
には関係ないわね"
"ともあれ、今度、あなたたちに何かあったら協力するから。今回は本当にありがとう。でわ"
"はい、先輩。では、ごきげんよう"
 えるの好奇心から始まった事件は、これで終了した。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
書きためた分は、以上で終了です。 <>