◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/12(水) 00:43:07.04 ID:S5Vn/aUAO<>
◆H0UG3c6kjA改め◆2/3UkhVg4u1Dです。


・フィアンマさんと上条さんが幼馴染(?)

・旧約1巻内容からのアバウトな原作再構成

・>>1は執筆ペースが遅い(=のんびり更新)

・話の都合上一部キャラ崩壊注意





※注意※
真面目にホモスレです。
再構成ですが描写を省いている部分があります。
過去捏造多々あり。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1347378187
<>上条「迎えに、来たよ」フィアンマ「…うん」 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/12(水) 00:43:54.22 ID:CQP/txISO<> えー!? <> てまわしおるごーる 
◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/12(水) 00:44:56.19 ID:zLGd1hxm0<>

きぃ。
ブランコの軋む音。
一般的に嫌な音と分類されるはずのその音は、俺様のたった一人の友人を思い出させてくれる。

『きみ、なまえは?』
『…みはいる』
『そっか。おれはとうま』
『とうま? にほんじん?』
『うん』

黒い髪はツンツンとしていて、硬そうで。
目は丸く、顔立ちは男らしいもので。
少し日に焼けた肌は、いたく健康そうだった。
拙いイタリア語だけれど、会話するには充分。
おずおずと、といった様子で差し伸べられた小さな手。
彼がどのような少年か、一部のマスコミはどう知らせたか。

『不幸の根源』。

でも。
その時の俺様には、まるで救世主のように思えた。

『…なんでこんなところにいるんだ? もうくらいぞ』
『……おうち、かえっても…おかあさん、いないもん』
『…じゃあ、おれといっしょにごはんたべる?』
『え…いい、の?』

ブランコの両脇の鎖から手を離し。
差し伸べられているままだった右手を握ると、顔を真っ赤にしつつ、少年は頷いた。
女の子を放っておけるかよ、だか何だか呟いていたような気もする。
娼館で働いている俺様の母親は、家に居ないか、居ても、ストレス発散に俺様を殴るだけで。
あまりよくないことだとは何となしに察しつつも、そのまま手を引かれて歩いた。
到着した先はホテルで、そこには彼の父親が居た。
息子に友人が出来たということをいたく喜び、好きなものを食べさせてくれた。
優しい人だ、と思った。
日本で彼のことが取り沙汰され、一時避難としてイタリアにやってきた、と彼らは言う。
事実、そうだったのだろう、と今思い返しても、納得出来る。
どうか仲良くしてやってくれ、と彼の父親は遠慮がちに微笑んだ。
うん、と笑顔で頷いた。俺様にとっても、彼が最初の友達で…最後の友達だったから。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/12(水) 00:45:05.90 ID:S5Vn/aUAO<> + <> 『暑い夏の幕開け』  ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/12(水) 00:45:38.19 ID:zLGd1hxm0<>

楽しい楽しい夏休み。
一般学生にとってはそうだろう。
しかし、そう、実に残念な事に、私こと上条当麻は今日も今日とて補習であり。
補習に埋められた夏休みなど、もはや休みではない。

「夏期休暇は何処に行ったんですかもう…」

はー、とため息をつくと、更に暑さが増したような気がして憂鬱になる。

「不幸だー…ただいま…」

唯一マシなのは、今日ポストに手紙(エアメール)が入っていたことくらい。
イタリア語で綴られたそれは、『疫病神』と呼ばれた幼少期、たった一人友達で居てくれたヤツからのもの。
今はどちらかというと、友達以上恋人未満の文通友達。
どうしてイタリア語は出来るのに英語は出来るようにならないんだろ、と思いつつ、冷房スイッチオン。
相変わらず綺麗な封筒だ。年々綺麗になっていく字は、もう安定したようで。丁寧な字。少し、神経質っぽさが出てる。
冷房が効いてきて涼しくなってきた室内で、何となく神妙な気分になりながら、封筒を開ける。
…今頃どんな美人に育ってるんだろう、なんて思いながら。

お洒落な便箋には、イタリア語で丁寧に文章が綴られている。
そういえばもう十年近く文通してるな、と思いながら、のんびりと内容を眺めた。
和訳すると、こんな感じか。

『親愛なる当麻へ

お元気ですか。入院などしていませんか。
当麻は不幸体質でやたらと怪我をするので、心配です。
こちらは日に日に暑くなってきたので憂鬱です。
でも、まぁ、日本よりはマシかな。蒸さないから。
学校にはきちんと行けていますか。
友達が出来ていればいいけど…でも、出来てなくても、それはそれで…何でもないです。
こちらは相変わらず友達が出来ません。でも、当麻がいれば別にいいかな、なんて。
最近はよく野良猫に囲まれます。ちょっと暑いので勘弁して欲しい。
猫といえば、この間真っ黒な猫を見ました。
当麻にそっくりで、撫でようとしたんだけど、逃げられちゃった。
次は煮干しで釣ってみようかと思うんだけど、日本の猫じゃないし、厳しいだろうか。
これからますます暑くなると思うので、どうか体調にお気をつけて。

               
                                      ミハイルより』

「…友達なら、心配要らないっての。ヤキモチか?」

思わず笑いそうになりながら、返事をどうするか考える。
毎日退屈してるみたいだけど、学校とかどうしてるんだろ。
何か面白い話題の方がいいかな。今は悩み事とか無いし。

「んー…」

ひとまず保留、とテーブルにそっと置いて、もう一つのメッセージに気がついた。
二度見たら気がつくように、仕込まれていた、可愛らしい告白。

『今年、逢いに来てくれたら嬉しいな。…まだ難しいかもしれないけど。でも、出来たら。…好きだよ、当麻。貴男に恋をしています』

自分も好きだと書く事を見越しての告白だろう、と思いつつ、上条は優しく笑む。

「…上条さんも好きですのことよ、ミハイル。……大好きだよ」

彼女が此処に居たならば、抱きしめていただろう。
そして、告白の返事を返したはずだ。
ベッドに横になる。
そして目を閉じながら、昔の事を思い返した。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/12(水) 00:45:39.56 ID:S5Vn/aUAO<> + <> ぎしぎしとおとをたてて  ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/12(水) 00:46:28.66 ID:zLGd1hxm0<>

今でこそ不幸の避雷針なんて言われてそれなりに友達の居る俺だけど、昔は嫌われてばかりだった。
どうしてだか俺は不運で、何かと怪我をしたり、悪い事ばかりが起きた。
要するに、今でもそうだが、不幸を呼び寄せやすい体質ということだ。
最初は『疫病神』なんて呼ばれて、周りの子や大人が離れていっただけだったのに。
マスコミの目にとまって、大々的に不幸体質を広められて。
全部俺が悪いみたいに思われて、借金を負って苦しんでいるという人に刺された事もある、らしい。
あんまり覚えてないのは、怖くて痛かったから、なんだろうか。
あまりに酷いので、国外逃亡することに決めた俺は、父親の仕事についていく形で、イタリアに行った。
その時、イタリア語の勉強をしたのはいいけど、学校はどうにも怖くて、行けなかった。
父さんは仕事も兼ねてたから、ホテルを空ける時があって。
学校は怖いといってもあまりにも退屈だった俺は、外に出た。

夕暮れ時の公園、一人の女の子が、静かにブランコを漕いでいた。
赤い髪はさらさらとしていて、肩につく程度のセミロング。
瞳の色はオレンジがかった金色、顔立ちは可愛らしく。
日に焼けていない肌は、白色人種ということを除いても、真っ白で透けるような。
流暢なイタリア語は、鈴を鳴らしたかの様に可愛い声音。

『きみ、なまえは?』

恐る恐る問いかけると、その子は不思議そうな顔をして俺を見た後、答えてくれた。

『…みはいる』
『そっか。おれはとうま』
『とうま? にほんじん?』
『うん』

握手は友達の証だっけ、なんて思いつつ、そっと手を差し出した。
不幸が移りませんように、そんなことを心の底からお祈りしつつ。
段々日が暮れてきたのを感じ取りながら、問いかけた。

『…なんでこんなところにいるんだ? もうくらいぞ』
『……おうち、かえっても…おかあさん、いないもん』
『…じゃあ、おれといっしょにごはんたべる?』
『え…いい、の?』

その子はきょとんとしつつ長い睫毛を瞬かせ、はにかみながら俺の手を握った。
女の子に手を握られた、という事実で顔を真っ赤にする俺を見つめて、その子はくすくすと笑い。
あまり充分にご飯を食べさせてもらっていなかったのか、はたまた肉がつかないタイプなのか、彼女はいたく細かった。
折れそうな指だな、なんて思いつつ手を引いててくてくと歩き。
ホテルに着いて、父さんにいっぱいご飯を用意したけど、遠慮しているとかじゃなく、彼女はあまり食べなかった。
俺の優しい友達。本当の意味での、心優しいたった一人の親友。

今でもあの時の初恋の想いを胸に留めているというのは…誰にも、内緒だ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/12(水) 00:46:30.19 ID:S5Vn/aUAO<> + <> 『寒い夏の幕開け』  ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/12(水) 00:47:07.09 ID:zLGd1hxm0<>

魚を干した物で釣り上げた黒猫が、俺様を見上げつつ鳴く。
次の魚を寄越せということか、と口元を歪ませつつ魚を放った。
ぴょん。
飛び跳ねた猫は見事魚をキャッチし、その場で食べ始める。
しゃがみこんで頭を撫でるも、以前のような抵抗は見られなかった。

「美味か?」

にゃあ。
ごろごろと喉を鳴らす猫は、尻尾を揺らして曖昧な鳴き声を漏らした。
適当な意味合いで処理をして、魚を食べ終わり満足気な猫を抱き上げると、やはり抵抗は無く。
じっとこちらを見上げてくる黒猫と視線の先を合わせると、黒猫がまた鳴いた。
不吉の象徴とされている、黒猫。

不幸。不吉。不運。

何とくだらない。
そのような曖昧な概念の為に、何故ヤツが虐げられなければならないのか。
言うまでもなく、この世界が歪みきっているから、ということに他ならない。
今年の冬頃にはもう、ヤツが苦しめられることはないだろう。
『準備』は着々と進んでいる。長い期間と沢山の人手を消費した。
今年こそ最終段階。

「…当麻」

黒猫を地面に降ろし、空を見上げる。
もうすぐ夜明けだ。

「…俺様が救ってやる。お前も、この世界も。全てを」

この右手は、幸運は、その為に存在するのだから。
しかし、少々気がかりな点は。

「……、…『幻想殺し』が、上条当麻に備わっている、ということか」


今年は、失血死しそうな程に寒い夏だ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/12(水) 00:47:08.21 ID:S5Vn/aUAO<> + <> 『暑苦しい夏』  ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/12(水) 00:48:46.82 ID:zLGd1hxm0<>
「…それで? 何だって?」
「だーかーらー!」

ミハイルへの返事の手紙を書き終わり、しっかりと封をしたところで布団を干そうとした上条は、謎の不運に遭遇していた。
布団を干すべき場所、つまりはベランダに白い修道服を着た少女が引っかかっており、上条に食事を要求したのだ。
何だかんだでお人好しである上条少年は諦め半分に食事を用意した。
足でうっかり踏んでしまった焼きそばパンから微妙にヤバいお野菜を使った野菜炒めまで。
別に嫌がらせという訳ではなく、本当に食材が無かったのだ。上条に罪は無い。

「一○万三○○○冊の魔道書、ねえ。…マジュツシ? って、あれか? 手品師の一種?」
「違うんだよ! 本当の本当に魔術はあるもん!」
「へー。そんなに言うなら見せてみろよ」

上条が不信感たっぷりに聞き返すのも無理は無い。
ここは学園都市、つまりは科学の街。そして上条は長らくここで過ごしてきている。
科学最高峰ど真ん中で魔術がどう、オカルトがどう、と言われても、上条としては鼻で笑う他無いのである。

「ふふん、言ったね? 見せてみろって言ったね?」
「な、何だよ…」
「私が今着ているこの修道服はね、『歩く教会』っていって、トリノ聖骸布に沿って布を織り込んであるすごい霊装なんだよ。だから、物理魔術問わず全ての攻撃を受け流せるの」
「へー」
「信じてないね!?」
「だから言ってるだろ。俺はオカルトとかそういうの興味無いからわからないって」
「なら、論より証拠! お台所から包丁でも持ってきて、私を刺してみると良いんだよ。絶対に傷付かないんだから!」
「この歳で殺人犯とか嫌なんですけど!?」
「ならどうすれば信じてくれるの?」
「んー…あ。俺の右手は異能の力を消去出来るんだけど、…んー、神の奇跡も打ち消せるって話もあったからな。この右手が通じたら、魔術ってやつ、信じてやるよ」
「神の奇跡を打ち消せる? 夢見がちなんだね…」
「あ、笑いやがったな!! 上等じゃねえか、やってやるぞコラ!」

『幻想殺し』を構え、上条はその因縁少なからぬ右手を修道衣へと触れさせた。
途端。
ビリビリ、と残念な音がした。

「あ…」
「え…いや、あのー…その…」
「ひっ…」

上条当麻は産まれて初めて見る女の子の全裸に目を瞬かせ、顔を赤くしながら後ずさる。
対して、少女―――インデックスは、突如として裸にされた上、目の前の少年に自らの裸体を見られた事を確認し。
羞恥に泣きそうになりながら、叫ぶのだった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/12(水) 00:48:50.03 ID:S5Vn/aUAO<> + <> 『暑苦しい夏』  ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/12(水) 00:49:02.17 ID:zLGd1hxm0<>


一時間程後。
どうにか安全ピンで修道衣を(見た目だけでも)修復し、それを身に纏ったインデックスはどうにか自分を落ち着けながら、上条の右手を不思議そうに見つめていた。

「あの『歩く教会』を壊すなんて、君の右手は本当にすごいんだね。神様の奇跡を殺せるっていうのも、あながち間違ってないかも」
「そんなにすごいもの壊しちゃったのかよ…」
「でも、それは同時に負の面も抱える事になるね」
「負?」
「赤い糸も、幸運も、全部神様の奇跡なんだよ。その概念でいくと、君の右手が奇跡を消してしまっているのかもしれない」
「………」

上条当麻の中で、不運不幸のはっきりとした原因が確定された。
だからといってはい右手を切り落としましょうという訳にもいかない。
上条の暗く沈んだ表情にわたわたと焦りつつ、インデックスは付け加える。

「でっ、でも今のはあくまで私の推測だから、そんなことないかもしれないんだよ」
「思い当たる節が多すぎて何とも言えねえ…」

がっくり、と更に項垂れる上条。
インデックスが焦っていると、上条の携帯に電話がかかってきた。
上条はインデックスにごめん、というジェスチャーをした後、携帯を手にして通話する。
内容としては担任である小萌先生からの補習連絡(ラブコール)。
通話を終え、携帯をポケットにしまいながら、上条はインデックスを見つめて問いかけた。

「俺はこれから家出るけど、どうするんだ? 行く宛とかあるのかよ? 追われてるんだろ?」
「うん、まあね。でも、君に迷惑をかけるのも申し訳ないし、私もまた逃亡生活再開なんだよ」
「もう少し居ても良いんだぜ?」
「ううん、いいの。あ、美味しいご飯ありがとうね! ごちそうさまなんだよ!」

にこ、と笑顔を浮かべて。
慌ただしく家から出て行ったかと思えば掃除ロボットに追い立てられていく少女を見送り、上条は首を傾げた。
変な子だ。ちょっと面白かったけど。

「…っと、俺も補習行かないと…」

思い出したようにぼやき、上条は手紙を手にする。
封に不備がないか、字は汚くないか、よくよく確認してから鞄の中、ファイルの中へと丁寧にしまいこむ。
切手はもう貼ってあるので、補習に行く途中、出しに行くだけだ。

「……行ってきます」

誰も居ない室内に意味もなくそう声をかけて、上条は家を出た。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/12(水) 00:49:03.67 ID:S5Vn/aUAO<> + <> 『寒々しい夏』  ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/12(水) 00:49:35.02 ID:zLGd1hxm0<>

右方のフィアンマは一人、敬虔且つ狂信者の如く、何時間も無言で祈っていた。
自分についてのことではない。
彼がただ一心に、大切に思っているとある少年のことだ。
彼自身は、自分の人生に何も望まない。
ただ、しいて言うのであれば、まるでラプンツェルの如く、少年が迎えにきてくれるその日を待っている。
手紙に性別を明記したことが無いのはわざわざ言う必要性を感じられなかったからであり、別に嘘をついている訳ではない。
救いを求める信者のように、フィアンマは、否、ミハイルという少年は上条当麻という少年たった一人を望んでいる。
幼い頃からずっと、一途に、静かに想い続けている。

どうか、当麻が傷つけられる事のありませんように。
どうか、これ以上当麻の身に不幸が降りかかる事のありませんように。

祈っても無駄だということを、フィアンマはよく知っている。
そもそも、上条の右手は神さえ殺す右手。
フィアンマに対して神は微笑みかけやすいが、その奇跡を上条に向けてくれといってもいたく難しいだろう。
だからこそ、フィアンマは今年までに準備を済ませ、直接彼を救おうと決めたのだ。
にも関わらず。
それでも尚祈らずにいられないのは、不穏な胸騒ぎが消えないから。

「……、…」

フィアンマが周囲の人間から歪んでいると評されるには、いくつかの理由がある。

幼少期に虐待を受けていたせいで情緒不安定であること。
上条当麻以外に興味が無い為、どこか虚ろな様相を呈していること。
信仰心を真っ直ぐと呼ぶにはどこか狂気染みていて、背信者と呼ぶにはよくよく信仰していること。
悪意や敵意はどこを見てもある空気のように感じているということ。

それら以外にも様々な理由はあるが、統括すると、フィアンマという一人の人物像があやふやになってしまうから、である。
長時間祈っていた弊害で少々トランス状態に陥りながらも大きく息を吐きだし、フィアンマは立ち上がる。

「…当麻」

自分が完全におかしくなってしまう前に。
世界を救ってしまう前に、どうか迎えに来て。
凶行に及んでしまう前に。

相反する二つの思いを胸に留め、フィアンマは大聖堂を出るのだった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/12(水) 00:49:36.36 ID:S5Vn/aUAO<> + <> ああ、こわれた  ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/12(水) 00:50:13.20 ID:zLGd1hxm0<>
当麻が日本に帰ると聞いた時。
家が燃え一人"幸運"にも助かって教会に引き取られる事が決定したということもあり。
情けない事だが、泣きに泣いた。
まだまだ一緒に居たい。沢山遊びたいと。

『やだ…かえらないで、ずっといたりあにいたらいいよ、いっしょにいて、』
『…ごめんな』

当麻も帰りくないとは思っていたのか、非常に申し訳無さそうな表情で俺様の頭を何度も撫でた。
幾度もの謝罪を重ね、頭を下げ、一緒に泣きながら別れを惜しみ。
ならば文通をしよう、と二人で取り決めた。一緒に居られないのであれば、せめて。

『じゃあ、…てがみ、ぜったいだすから、みはいるもだせよ』
『うん、だす…ぜったいだ、…す、…』
『……そ、そうだ! えっと、おとなになったら、はくばにのってむかえにいってやるよ』
『え……?』

はにかみつつ、当麻はそう言った。
どんなに過酷な地獄に俺様が堕ちても。
手紙が来なくなっても(俺様が送れなくなっても)、必ず迎えに行くと。

『…しろいおうまさん、たかそうだね』
『げんじつてきなこというなよ、ゆめないなあ…』
『まってるね』
『うん、やくそく』

小指を絡ませ、泣きそうになりながらも唄を唄い。

『ぜったい、ぜったいぜーったいむかえにいくからな』
『うん…ぼくのこと、わすれない、でね』
『わすれない。…あ。あと、むかえにいって、ちゃんとおれたちがおれたちのことわかったら、けっこんしような』
『けっこん?』
『けっこん! そしたら、もうずっといっしょにいられるだろ?』
『…とうまだいすき!』
『っわ』


絶対の約束。
今思えば同性で結婚など出来ないのだが、それでもいいと、きっと言ってくれるだろう。
こんな歪んだ世界より遥かに遥かに愛おしい、俺様だけの、優しい英雄。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/12(水) 00:50:14.59 ID:S5Vn/aUAO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/12(水) 00:51:08.13 ID:zLGd1hxm0<>
通学途中数度不幸に遭い、行きに手紙を出す事は出来なかった。
切手は貼ってあるっていうのに…。

「…はぁ、不幸だ」

遅れると面倒臭いので、帰りに出そうと決め。
補習の内容は不幸な事に『すけすけみるみる』。
いや、ほかにも勉強はあったけど、これが一番の鬼門だ。
そもそも上条さんはこの右手があるからどうにもならないような気がする。
能力の発言なんて既に諦めてるから、補習を何とか無くして欲しいところだ。



帰る途中ビリビリに絡まれ、今日は手紙を出しに行けなかった。
部屋の前、白い修道女が血だまりに倒れていた。



色々な事が目まぐるしくあったせいで訳がわからなかったが。
魔術とやらをそれとなく理解した。
自分の右手があれば、インデックスを助ける事が出来るかもしれない。
この色んなゴタゴタが済んだら、ミハイルに手紙を出しに行こう。
インデックスの事は、絶対に助ける。
ステイルや神裂を、苦しみから救ってみせる。


「ずっと待ち焦がれてたんだろ、こんな展開を! 英雄がやってくるまでの場つなぎじゃねえ! 主人公が登場するまでの時間稼ぎじゃねえ! 他の何者でもなく! 他の何物でもなく

! テメエのその手で、たった一人の女の子を助けてみせるって誓ったんじゃねえのかよ! ずっとずっと主人公になりたかったんだろ! 絵本みてえに映画みてえに、命を賭けてたった

一人の女の子を守る、魔術師になりたかったんだろ! だったらそれは全然終わってねえ!! 始まってすらいねえ!! ちっとぐらい長いプロローグで絶望してんじゃねえよ!!   

―――手を伸ばせば届くんだ。いい加減に始めようぜ、魔術師!」




不穏な予感に、吐き気がした。
自分に関わるものかどうかはわからない。
敬虔でもないくせに、祈らずにはいられなかった。

「…当麻」

うっかりと紙で切った指、その傷口から溢れる血液を舐め、再び祈る。
どうか無事でありますように。
どうか無事でいてくれますように。
奇跡の加護が、どうか訪れますように。




七月二十八日。
全てのエピソード記憶を喪った上条当麻は、ぼんやりと病室の窓、その向こうの景色を見つめていた。
インデックスには誤魔化しの言葉をかけて噛まれた。地味に痛かった、と思い返す。
と、医者が入ってきた。『冥土帰し』とも呼ばれる学園都市一の名医だ。

「良かったのかい?」
「何が、ですか?」
「記憶の喪失…正確には脳のダメージの影響で過去の記憶を引き出せない状態だと、彼女に伝えなくて」
「良いんです。…俺、何だかあの子には、泣かないで欲しいと思ったから」
「彼女について知っている事は、思い出せないんだろう? 泣かないで欲しいと思う程の思い入れが、何処にあるというのかね?」
「どこって、そりゃあ決まってますよ ―――心に、じゃないですか?」

神の子が祈った奇跡は、非常に中途半端な効果をもたらした。
上条の記憶は、今、封印されていることと同義。
完全に喪われるよりはマシなのかもしれないが、今の彼は仮死状態と同じだ。

カエル顔の医者が出ていき、一人病室に取り残された上条は、再び風景を見る。
何か大切な事を忘れてしまっている気がした。思い出せない。
あの少女についてだっただろうか。違うような気もする。


何か、とても、とても大切なものを――――。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/12(水) 00:51:09.47 ID:S5Vn/aUAO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>sage<>2012/09/12(水) 00:51:49.41 ID:zLGd1hxm0<>
初回の書き溜め分でした。
本日の投下は以上です。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/12(水) 00:52:15.20 ID:eg85DAxAo<> またお前か <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/12(水) 00:53:09.53 ID:tlxU8kBIO<> うん安定のお前だな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/12(水) 00:53:44.55 ID:GYoQAIkEo<> どう足掻いても右方。流石だ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(中部地方)<>sage<>2012/09/12(水) 00:59:56.76 ID:c1bKTKxC0<> + <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/12(水) 01:00:38.91 ID:j9a7VCQpo<> 乙。
お前のせいで上フィアに目覚めたじゃないか...! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/12(水) 01:29:10.16 ID:CQP/txISO<> 楽しみなんだぜ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/09/12(水) 07:21:16.60 ID:O9oqhx550<> またおまえか
<>
◆2/3UkhVg4u1D<>sage<>2012/09/13(木) 23:41:18.58 ID:x6qDAtEW0<>
『またお前か』ありがとうございます。相変わらずの>>1です。
上フィアは正直公式だと思うので、是非広まっていって欲しいですね。
このスレに限ってですが、展開予想はお気軽にどうぞ。




書き溜めが出来ましたので、投下します。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/13(木) 23:42:29.50 ID:SA0KNIEAO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/13(木) 23:43:04.25 ID:x6qDAtEW0<>
インデックスと暮らし始めて、数日。
上条当麻は、スクールバッグの中を覗き込んだ。
以前の自分がどの様な人間かを知らなければ、真似が出来ないから。
もう一つの目的は、もしかすると思い出すきっかけになるかもしれないから、である。
と、上条はとある事に気がついた。ファイルの中に、手紙が入って…しまわれていたのだ。

「……、」

きっと、恐らく。
記憶を喪う前の自分が、誰かに出そうとした手紙なのだろう。
ならば、勝手に中身を覗くような、下衆な真似をする訳にはいくまい。
いくら以前の自分の事を知りたいといっても、ある意味、自分にとって以前の自分は他人。
他人が人へ向けた手紙を読むのはよくない。
かといってまったく別人という訳ではないので。
迷った結果、上条はその手紙を出してくる事にした。
以前の自分…彼は出しに行けないのだから、自分が出しに行くべきだ。

「…エアメールか」

外国に友達が居たのだな、と上条は思う。
ただそれだけ。何も思い出す事は無い。
それこそ『奇跡』でも起きなければ、上条はもう二度と以前の自分へ戻る事は無いだろう。

「インデックス、ちょっと用事済ませてきたいんだけど、一緒に来るか?」
「とうまお出かけするの? いくんだよ!」

やけに嵩張る封筒を触り、上条は外に出る。
インデックスも外に出るのを待って、鍵をかけた。
何か、便箋以外にも中身が入っているのかもしれない。
もしかして異国の地に置いてきた恋人か何かじゃ、と思った上条だったが。

「…高校生の分際でそれはないか」

いくら何でも夢を見過ぎだ、と自分を窘め。
インデックスにねだられるままお菓子を少し買ってやり。
不幸にも何か災難が起きる事はなく、無事手紙を出した上条は言いようの無い達成感に酔いしれていた。

「……」

この手紙の返事が来る時までに、記憶を取り戻せればいい。
そんな事を、願いながら。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/13(木) 23:43:05.59 ID:SA0KNIEAO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/13(木) 23:44:28.41 ID:x6qDAtEW0<>
封筒の封を開け。
中身を読んだフィアンマは、彼らしからぬ様子だった。
此処は聖ピエトロ大聖堂の『奥』、基本的に彼しか居ないからこその、隠しもしない態度。
彼が手にしているのは、最上の親友―――否、恋人からの手紙。

『愛するミハイルへ

いつにも増して早い返事と、心配してくれてありがとな。
元気だし、入院もしていません。少し危ない時もあったけど、少なくとも今は元気そのものです。
最近怪我をそんなにしないのは、ミハイルがお祈りしてくれてるからかな、なんて自惚れてみたりして。
学校はちゃんと行ってる。今や『不幸の避雷針』なんて微妙なあだ名がついちゃったくらい。
俺の心配より先に、ミハイルは友達作った方が良いぞ。
頑張ればきっと出来る。何だかんだでモテるだろ、実は。


お誘いの件。
八月中に、イタリアに行こうと思います。
もし行けなくなったら、追加で手紙を送る。
まだ就職してないから結婚どうこうは無理だけど、ひとまず逢いたいから。
地味に貯金していた分があるので、多分スムーズに行けます。


俺も、ミハイルの事が大好きだよ。
ずっと昔から、お前に恋心を抱いていたんだと思う。
誰にも内緒にしてたけど、告白の返事だから、素直に書いた。

…初恋は叶わないというジンクスがあるけど、叶って良かった。

同封のものはプレゼントだから、気に入ったなら使って欲しい。

               
                                         当麻より (7/20)』

上条は返事を書いた日を名前の後に明記する癖がある。あった。

そして。
愛してる、という意味合いを含めた、素敵な付け加えの一言。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/13(木) 23:44:29.88 ID:SA0KNIEAO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/13(木) 23:44:51.33 ID:x6qDAtEW0<>

フィアンマはロマンチストである。

ロマンチスト
夢想主義ということは、夢見がちということ。
そこらの少女より夢を見やすいフィアンマは、告白の色よい返事に顔を赤くしていた。
破らないように、曲げてしまわないように気をつけつつも、手紙を抱きしめてしまう。
狼狽する。息が出来なくなりそうになる。嬉しいけれど、気恥ずかしい。
一般的に恋をした事が無い乙女がとりそうな態度を取りつつ、フィアンマは幾度も文面を読み返した。

ああ、自分が好いていたように、彼もまた、自分を好いて、愛してくれていたのか。

長年の恋心は、無事成就した。

同封のもの、と綴られていた物品は、少々洒落た小さい紙袋に入っていた。
破ってしまわないよう丁寧に開ければ、出てきたのは少しばかり作りが特殊なリボンタイ。
五角形の飾りのついた、深い赤色のリボンだった。
ファッション用のソレは、恐らく、自分がかつて手紙に記した内容から、考えてくれたのだろう。
上物はいつもどんなものを着ているのか、と聞かれたから。
セーラー服のようなデザインだと思う、と返した記憶がある。

「……、…」

気に入らない訳が無かった。
手紙を一旦テーブルに置き、今着ている服の襟に沿わせる形で結んでいく。
作りが特殊とはいえセーラー服にスカーフを結ぶ要領で進めていけば、問題は無い。

「……、」

大切に使おう、大事にしよう、そう思いながら、フィアンマは柔くリボンを握る。

「…八月、か」

十年近く、会っていない。
どれほど背は伸びただろうか。
相変わらずあの優しげな眼差しは変わっていないのだろう。
こんなにも八月が早く来る事を祈った事が、果たして今まであっただろうか。

「………」

上条の事を純粋に考えている間だけ、フィアンマは正常な人間に戻れる。
世界を救う事も、ローマ正教最暗部リーダーの位置にある事も、何もかも、忘れて。





―――自分を愛し、自分が愛した上条は殺されたとも、知らずに。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/13(木) 23:44:52.40 ID:SA0KNIEAO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/13(木) 23:45:32.33 ID:x6qDAtEW0<>
八月八日。
先程出会った不思議な巫女姿の少女の事は、気になったが。
上条はひとまず彼女を思考の隅に追いやり、インデックスと会話していた。
インデックスは少々お腹が空いているのか、きょろきょろとしている。
そして、上条がよそ見をしている間に、たたたっと木陰に走り寄った。

「インデックス、ってあれ?」
「とうまー!」

インデックスが上条を手招いたのは、自らが居る木陰。
何だよ、と思いつつ近寄れば、そこには『拾ってあげてください』との言葉が綴られたダンボール。
中に居たのは、生後一年にも満たない三毛猫。

「飼いませんからね」
「えー! 何でー!?」

飼おうよ飼おうよ、とねだるインデックスに対し、上条はきっぱりと言う。

「誰が面倒看ると思ってんだ! それにな、猫の子一匹でも結構お金かかるんだぞ。そんなお金は我が家にはありませんっ!」
「そこを何とかっ!」
「ダメです! ただでさえ我が家の家計はお前さんの食費と入院費の返済で切迫してるんだぞ!」
「うー…で、でもとうま、みてみて。こんなにかわいいんだよ!」

どうしてもこの三毛猫を飼いたいインデックスは引き下がらず、ダンボールからそっと抱き上げた三毛猫を上条に見せる。
そして柔らかな猫の感触に笑顔でアピールを続けた。

「ほらとうま、飼おうよ。ね?」
『とうまとうま、ねこさんかわいいよ! とうまにそっくり!』
「あのな、猫を見たらすぐに俺に似てるって言うのはよせって」
「…と、とうま? とうまに似てるなんて言ってない、よ?」
「……え?」

猫を抱きかかえて自分に笑顔を向ける少女が、誰かと重なった気がした。
そしていつも言われていたような気がして、またかとばかりに反論したのだが。
訝しがるインデックスに万が一でも記憶喪失を感づかれてはならない。
気のせい、勘違い、誰かと間違えた。
そう言い訳を並べ。
何をどうまかり間違ってか、結局三毛猫を飼う事となったのだった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/13(木) 23:45:34.27 ID:SA0KNIEAO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/13(木) 23:45:52.71 ID:x6qDAtEW0<>
ごろごろと喉を鳴らして甘える黒猫を手懐け、愛でつつ、フィアンマはぼんやりと思考の海に浸った。
どうせい大聖堂に引きこもっていたところで、やるべき事など特に無い。
現在身に着けているのは、いつもの赤い装束と、上条のくれたリボンタイ。
汚れないように気をつけつつも、どうしても身につけてしまう。
もう八月二十一日になったというのに、彼はまだ来ない。
きっと、飛行機のチケットが高いから。きっと、学園都市から出るのに手続きが多くて手間取っているから。
まさか忘れられたはずがない。彼が自分との約束を、宣言を自ら破る訳がない。
それか、追加で手紙が来るはずだ。もしかしたら、いつもの不幸で怪我をして入院しているのかも。

そうやって自分に必死で言い聞かせるのは、怖いからだと、自分は知っている。

忘れられるのが怖い。彼が傷つくのが怖い。ひいては、自分が傷つくのが、怖い。
知らない他人に対してはどこまでも冷酷になれる。
けれど、彼が傷つく事は我慢ならない。…自分は傷つけるクセに。

「……」
「にゃー」

どうかしたのかと質問する様に鳴く黒猫の顎下をくすぐり、フィアンマは思考から一度抜けた。
考えるのは、どうしようもなくなってからでいい。仕事ではないのだから。
彼は来る。彼だけは自分を裏切らない。彼だけは善性の籠った男だと信じていたい。
人間は悪意ばかりが残っていて、救い難い生き物だが。
彼が約束を守ってくれたのなら、会ってくれたのなら、きっと自分は人の『善』を信じられる。

「……お前は当麻に似ているな」
「みー」

可愛らしく哀れな猫を、彼に重ねる。
ああ、早く逢いたい。会って話をしたい。
どんな話でもいい。くだらない内容でも構わない。
出来れば、明るくて楽しい話題がいい。
立場も何もかも忘れて笑い合える、なんでもない平凡な話。
一言言葉を交わす、ただそれだけでも構わない。
沢山、一緒にしたいことがある。
どれだけの間イタリアに滞在してくれるのかはさっぱり不明だが。

「…早く、来ないものだろうか」

思わず、呟いてしまう。待ち遠しい。
きっと、月末までには本人が来てくれるか、手紙が届く筈だ。
それがなければ、彼は自分を忘れているか、死んでしまったかの二択。
どちらも考えたくはない。
彼が死んだと聞けば、自分は確実に発狂してしまう。
いや、もうしてしまったのかもわからないが、最後の防波堤の様なものが壊れてしまう。

「…当麻」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/13(木) 23:45:53.84 ID:SA0KNIEAO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/13(木) 23:46:36.27 ID:x6qDAtEW0<>
『御使堕し』。
上位セフィラから下位セフィラへと強制的に天使が移動させられた、歪んだ術式。
歪んだ世界だから起きたのだ、とフィアンマは思う。
四大属性が元々歪んでいなければ、このようにデタラメな術式など発動しない。
どうか上条だけは傷つきませんように、と祈っていたフィアンマは。

上条が、インデックス―――イギリス清教の生きる魔道書図書館と行動を共にしていることを知った。
フィアンマの部下は沢山居る為、どこからでも、求めれば報告は、情報は手に入る。
手に入ってしまうから、聞いてしまいたくなる。聞いてしまった。調べてしまった。

上条当麻は、記憶喪失だ。それも、意味記憶ではなくエピソード記憶。
つまり、自分との思い出なんて、もう彼の脳のどこにも残っていないのだ。
彼が覚えているのはきっと、今行動を共にしている魔道書図書館のこと位だろう。
事情を聞いて、考える。彼が記憶を持っていたのは、恐らく7月28日まで。
『自動書記』に問題が発生したとの情報を陰ながら入手した。恐らく、あれを壊せるのは当麻の右手位なものだろう。
手紙が届いたのはもっと後だった。きっと、記憶を喪った後の上条当麻が、喪う前の自分が書いた手紙を出したのだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/13(木) 23:46:37.50 ID:SA0KNIEAO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga !red_res<>2012/09/13(木) 23:48:21.27 ID:x6qDAtEW0<>
今日は、八月二十九日。

どうして、追加の手紙をくれないのか。
どうして、逢いにきてくれないのか。
どうして、連絡をくれないのか。
どうして、魔道書図書館と行動を共にしているのか。
どうして、自分を忘れてしまったのか。
どうして、手紙を送ってきたのか。
どうして、記憶を喪ったのか。

そうか。
その少女に奪われたのか。
彼の記憶は。
自分の幸せは。
何の為に、どうして、何で、理解が出来ない。
自分が何をした。まだ何をしていないはずだ。
当麻が何をした。何もしていないはずだ。
悪い事なんてしていないのに、どうしてこんな目に遭わなければならないのか。

この世界は穢れている。
彼を殺した世界は間違っている。
神様なんて要らない。
彼が不幸になる世界なら、自分が神になってでも正してみせる。
ああ、しかし彼はもうどこにもいない。
この世界中どこを捜したって、もう自分に笑いかけてくれることはない。

絶対迎えに行くと言ったじゃないか。
俺様の事を忘れないと言ったのに。

記憶を無くした当麻は、もう、俺様の知る当麻ではない。
同じ肉体を持った、まったくの他人に過ぎない。

裏切られた。
あの女に全て盗られた。
待っていたのに。

29日間。
696時間。
41760分。
2505600秒。

一心に待ち続けた。

再開を待ち望んでいたのは、10年間。

87600時間も待った。

ようやく会えると思ったのに、横から全て攫われていった。
嫉妬は、憤怒は大罪だとわかっている。それでも、苦しい。憎い。

「約束したじゃないか。どんな地獄に居ても、必ず俺様を迎えに来てくれると言ったじゃないか。俺様を救ってくれると、約束した。行けないのなら追加で手紙を出すと。俺様の事を絶対忘れない、絶対迎えに行くと。…長い間待っていたんだ。お前だって、俺様に逢いたかっただろう。俺様を愛していると綴った手でその女を愛でるのか。どうして死んだんだ。どうして喪われた。…全てヤツのせいだ。俺様は悪くない、当麻だって悪くない、全部世界が悪い…、嘘だ、…誰か、嘘だと言ってくれ。当麻は入院しているだけで、手紙も出せない程まだ具合が悪くて、俺様に逢いに来られないだけだと、そう、誰か言ってくれ。だれか…、……お前だけを心の支えにして、生きてきたのに。お前と会う為なら、どんな地獄でも悲劇でも乗り越えられると、そう信じていた」

返せ。

俺様に与えられる筈だった愛情を返せ。
俺様が立つ場所だった、当麻の隣を返せ。
俺様が愛する筈だった、彼を返せ。

『みはいる、だいすきだよ』
『"俺も、ミハイルの事が大好きだよ。"』

大好きだよ。俺様だってお前の事が大好きだ。
だからもう赦す事が出来ない。この世界の歪みを赦す事は出来ない。
どれだけの人間を傷つけたとして、もはや構うまい。
幼いお前を散々虐げ、最後には心と思い出を殺したこの無慈悲な世界を、俺様は赦さない。




―――――絶対に、許してなるものか。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/13(木) 23:48:24.81 ID:SA0KNIEAO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>sage<>2012/09/13(木) 23:50:37.80 ID:x6qDAtEW0<>
本日の投下はここまでです。
どの程度の書き溜めが未だに掴めません。



書き溜めが出来上がり次第投下していきます。 <>
◆2/3UkhVg4u1D<>sage<>2012/09/13(木) 23:51:59.03 ID:SA0KNIEAO<> >>45
文章抜けが…

どの程度の書きためが"ベストか"

失礼しました。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/14(金) 00:31:34.43 ID:P8fuTJuSO<> 病んだか…オラワクワクすっぞ乙 <>
◆2/3UkhVg4u1D<>sage<>2012/09/15(土) 22:46:49.05 ID:eAKwFsuy0<>
当初の予定は救い様の無いバッドエンドだったのですが、>>1の愛し方の問題で出来ませんでした。




書き溜めが出来ましたので、投下。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/15(土) 22:47:34.83 ID:k/gTHgAAO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/15(土) 22:47:37.03 ID:eAKwFsuy0<>
九月一日。
上条当麻は外部から帰還し。
学校の、自分のクラスに転入してきた姫神とのんびり話し。
ほのぼのと平和に過ごしていた。
八月中は沢山のトラブルに巻き込まれたが、何だかんだで自分は無事生きている。
インデックスも特別怪我をしている訳でもなく。
風斬という少女も無事で良かった。本当に、良かった。
だから、不満でも無いし、不幸でもなかった。

シェリー=クロムウェルという魔術師が乗り込んで来た時は驚いた。
しかし、上条は段々と魔術というものに慣れ始めている自分を自覚する。
あまり喜ばしい事ではない。出来れば、なるべく平穏に生きていたい。
それでも何か事件が起きるのなら、自分だけが巻き込まれればいいのに、と思う。

「…何て、かっこいい事言ってみたりして、な」

そんな発言をしてみたところで、何か起きてしまう時は、起きてしまう。
しかし、それに少しでも自分が関われるなら、助けに行きたい。
きっと以前の自分も、そんな人間だったのではないだろうか。
未だに何も思い出す事は出来ないけれど。
スフィンクスを拾ったインデックスの姿を見て思い浮かべたのは、一体誰だったのだろう。
以前の自分の知り合いだったのかもしれない。

「とうま、おなかへったんだよー!」
「はいはい、今作りますよー、っと」

早く早く、と急かされ噛まれ痛みにじたばたとしつつも。
幸せだと思える。少し、何かが足りない気もするけど。
でも、何が足りないのかわからない。
だから今は、何も考えないでいたい。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/15(土) 22:47:39.02 ID:k/gTHgAAO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga !red_res<>2012/09/15(土) 22:48:07.54 ID:eAKwFsuy0<>
世界を憎み、憎らしいこの世界を正しくして。
一体何が得られるだろう。
どのみちこれ以上何を頑張ったところで、彼は笑いかけてなんてくれない。
よくやったなどと褒めてくれる訳もない。
それならばむしろ、死んでしまって彼のところに行った方が効果的では。
いやしかし、彼の身体は生きている。
違う。もはやそれは当麻じゃない。当麻とそっくりの容姿をした別人だ。
奪ったのはイギリス清教の魔道書図書館。
しかし、彼女一人の責任でもない。イギリス清教が悪い。
イギリス清教がその少女に防護措置を設定した理由は?
敵対組織が居るから。それはたとえば、ローマ正教も含む。
どうして同じ十字教を信奉する組織となってしまったのか。
歴史の中で分かたれていき、対立するようになったから、という他ない。

どうして対立してしまったのか。

それはきっと、この世界が悪いから。

俺様は悪くない。
当麻だって悪くない。
禁書目録も悪くない。

神様だって、きっと悪くはないんだ。


神様が創ったこの世界を構成する何かが、どうにかなってしまっている。
そうでなければ歪みなんて発生しないし、傷つく人だっていない。
悲劇なんて起こらないし、自分は幸せでいられただけだ。

何に、復讐すればいい。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/15(土) 22:48:08.72 ID:k/gTHgAAO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/15(土) 22:48:36.43 ID:eAKwFsuy0<>
九月十九日。
学園都市では、いよいよ大覇星祭が始まった。

これは、学園都市に所属する全学校が合同で行う超大規模な体育祭。
開催期間は9/19〜25の七日間。つまり、異能者が繰り広げる大運動会である。
その為、燃える魔球や凍る魔球、消える魔球はザラであり、外部からの注目度も高い。
種目は学校単位のものから個人単位まで多岐に渡り、個人種目では上位三位内に入ると表彰される。
生徒の関係者やただの一般客も開催中は学園都市に入る事ができ、応援・観戦等で開放区域を自由に移動する事ができる。
数少ない一般開放の機会の為に警備をある程度甘くせざるを得ず、期間中は敵対組織の工作を受けやすくなる。
ただ、非開放区域は普段よりも悟られない程度に厳重な警備体制が敷かれている。

とはいえ、そういった警備関連に関して、上条当麻という一回の高校生が興味関心を持つ理由などなく。
長々とした開会式の15連続校長先生のお話コンボ、プラスお喜び電報50連発にひたすら耐えていた。
いつも思うのだが、こういった事に生徒を付き合わせる必要が感じられない。
上条はそう愚痴らず懸命に堪え、終了時刻を待った。

第一種目は棒倒し。
火炎や念動力の槍が飛び交っていて非常に危険を感じるが、派手であるため、観客としては非常に愉快なものである。
上条は参加者のため、どちらかというと前者の危険感の方が大きかったが。
ルールとしては敵対する二組のグループが長さ7メートルぐらいの棒を各クラス一本立て、自軍の棒を守りつつ相手の棒を倒す、という普通のもの。
その一本棒を倒す為にどれだけの人間が演算し、走るか。

二番目の種目は、複数校合同の借り物競争。
個人種目なのだが、上条は少しでも学園都市のイベントに多く触れて以前の自分を思い出すべく、参加していた。
中学校と高等学校では戦う相手(=選手)が違うが、どちらにせよ、第七学区・第八学区・第九学区全てを競技範囲内とし難易度も高い競技。
干渉数値などの制限もある。
また、指定された物品が第三者の物である場合は相手に許可を取り相手と共にゴールに向かわなければならない。
そして、指定されるのは何も物品だけとは限らず。

『第一種目に参加した高校生』という指定をもらった御坂美琴という女子中学生と同じ様に。
『赤髪の人』という指定をもらった上条当麻は、困惑していた。

残念なことに、上条の親友は奇抜な髪色なれど、それでも青髪と金髪。
ステイル=マグヌスという魔術師は赤髪だが、こんなところに居る筈もなかった。
他に、上条の記憶の中に赤い髪色をした人などいなかったので。

「どうすっかな…」

ひとまず走り出し、辺りを見て回る。
この借り物を設定した人物はどんなヤツだ、と文句を抱きつつも。
第七学区・第八学区・第九学区全てを回る体力なんて無い。
周辺でどうにか間に合わせたい、と上条は辺りをきょろきょろと見回しながら走って。
しかし見つからなかったから、ひとまず第七学区まで走った。

そして。



唯一、赤い髪の人を、見つけた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/15(土) 22:48:38.82 ID:k/gTHgAAO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga !red_res<>2012/09/15(土) 22:49:06.81 ID:eAKwFsuy0<>
どうして学園都市に来たのか、自分でもわからない。
当麻の姿を、今や死体となった姿を見たかったのかもしれない。
逢ったところで、俺様を思い出す筈もないのに。
世界を正すべきか、価値観が曖昧になってきてしまったから。
どこか、拠り所を見つけたかったのかもしれない。
結局のところ、俺様自身というものはどこにもなかったんだ。
虐げられ苦しんでいた時の優しい思い出に、今も浸っているだけ。

競技に奮闘する当麻の姿は、思っていたより変わっていなかった。
身長が伸び、髪も少し伸びた、それくらい。
強いて言えば活気があるということだろうか、相違は。
友人らしき少年と幸福そうに笑う様は、価値ある名画のようだった。

何だ。
俺様が居なくても、忘れても、当麻は幸せなのか。
それもそうか。
当麻はそもそも両親に愛されていた。
俺様とは土台が違う。何もかも違った。
いつから同一視してしまっていたのだろう。

俺様にとって当麻の代わりは、世界のどこにもいなくても。
当麻にとって俺様の替わりは、世界のどこにだっていたんだ。

死者の残骸に何の幻想を求めていたのか。
幸せそうにしている姿に、どうして苦しいと思うのか。
彼が幸せにしているのなら、俺様は陰ながら喜ぶべきではなかったのか。

泣きたいという感情よりも、遥かに、吐きたいという感情の方が強く湧き起り、その場を離れた。

早く帰ろう。
一目見たら満足するとばかり思っていたのに、この有様だ。
忘却なんて出来る訳がない。

ならば、バチカン戻って世界を道連れにする方法を考えよう。
もう、あの姿は、必要な時にしか見たくない。




それなのにどうして、
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/15(土) 22:49:12.18 ID:k/gTHgAAO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga <>2012/09/15(土) 22:50:12.64 ID:eAKwFsuy0<> 「すみ、ま、せん!」

息切れしかけながら、立ち止まり。
ようやっと『借り物』に相当する人物を発見した上条は、その人間に走り寄った。
声をかけ、振り向いてもらう。端正な顔立ち、その金色の瞳と目が合った。
黒いワイシャツ、その胸元に揺れているのは、飾りのついた深い赤色のリボンタイ。
女性か男性かちょっとわかりにくいな、と思いつつ、上条は用件を話す事にした。

「今借り物競争してて、赤い髪の人が必要で、」

そよ風に靡くリボンタイを眺めていたら、何か思い出せそうな気が、した。
何が引っかかっているのか、思考の中で注意を払いつつ、上条は言葉を続ける。

「一緒に来て欲しいんです、」
「…、…そのゴールまでか」
「はい、」

短い間なら。
愛する人の屍体の言う事に、赤髪の美青年―――フィアンマは、こくりと頷いた。
良かった、と安堵する反面、上条の頭の中に、急がなければ、という焦燥が渦巻く。

「じゃあ、」

見たところ運動系ではなさそうだ、と判断した上条は、左手を差し出す。
仮に男だった場合手を繋ぐのは嫌ではあるものの、中性的なので、女性である可能性に賭けたのかもしれない。
フィアンマは先程こみ上げていた吐き気をどうにか呑み込み、右手で、上条の手を握った。

不完全なれど。

神の子の右手に備わるべき奇跡を、フィアンマは握っている。
そして神の子は、右手を翳し、ただそれだけで病人を癒し、死者を蘇らせる。

だから。

この場で、『死者が蘇る』などという奇跡が起きたところで、おかしくなんてない。


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/15(土) 22:50:14.06 ID:k/gTHgAAO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga <>2012/09/15(土) 22:50:26.22 ID:eAKwFsuy0<>
「……、…ミハイル、…?」
「…、…何、」

リボンタイは、自分が贈ったもの。
八月中、逢いに行こうと思っていた。

不幸の根源。疫病神。迎えに行く。約束。昔のこと。手紙の内容。夏休み。ビリビリ中学生。補習。インデックス。意味記憶とエピソード記憶。『自動書記』。

たとえば、コップに並々と注がれた水をぶちまけたかのように。
上条の脳内を、新しい、否、思い出された記憶が、埋め尽くしていく。
記憶を喪う前にインデックスと話したことや、手紙に書かれていたこと。

そうだ、自分は八月になったら、逢いに行こうと思っていたじゃないか。
あんなに強く思っていた。
そして、ゴタゴタを片付けて手紙を出しに行こうと軽く考えていた。

硬直したまま考え込む上条の様子を見、フィアンマは黙り込む。
どうして、自分の事を忘れたこの少年が、自分の本当の名前を呼ぶのか。

上条はしばらく考えた後、フィアンマの手を数度握った。
そして深呼吸を繰り返し、落ち着いたところで、視線を合わせた。

「ごめんな。八月、とっくに過ぎちまって、本当に…ごめんな」
「………、…思い、出したという、のか。お前は記憶を喪った筈だろう…?」
「…、…何で知ってるんだ。って、…ミハイルが俺のことで知らないことって、何だかんだであんまりなかったもんな」

わざわざ自己紹介されずとも。たとえ、十年間一度も会っていなくとも。
今の上条には、目の前で泣きそうな顔をしている人物の事がよくわかった。

きっと、自分は。
この人物に逢う為に、この第七学区までやってきたのだろう。
自然と。誰に誘導されることもなく、見つけ出す事が出来た。
そして、思い出す事が出来た。記憶の復活は絶望的だと言われていたというのに。

上条はフィアンマの手を握り、競技のことは一度忘れて、彼の身体を抱きしめた。
相変わらず細い身体だ、と上条は、思う。

「白馬は用意出来なかったし、約束も一部破ってお前の事を忘れちまったし、すごく遅くなったけど、でも……」
「……、…」

ぎゅう、と強く強くかき抱いて。






「迎えに、来たよ」
「…うん」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/15(土) 22:50:27.21 ID:k/gTHgAAO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga <>2012/09/15(土) 22:51:13.76 ID:eAKwFsuy0<>
俺様を絶望させた記憶喪失という事実を、当麻は否定しなかった。
ただ、正確には記憶を喪った訳ではなく、思い出せない状況にあったということを。
何度も何度も謝罪を重ねられ、首を横に振った。
思い出してくれたのならそれでいい。

「直接、言ってなかったな」

そう切り出して、当麻は笑む。
走ったら疲れるだろうと、俺様の身体を姫の如く抱いたまま、走りつつ。
先程重くないのかと聞けば、重くは無い、軽いとはっきり返ってきた。
それが強がりなのかどうかはさておき、続きを促す。

「愛してる、ミハイル」
「……、…俺様も、愛しているよ、当麻」

その言葉が聞きたかった。
たった一言でよかった。
そうやって笑いかけてくれれば満たされた。
怖かった。寒かった。
もう何も怖がる必要は無い。
憎んでいたものが、どうでもいいと感じられた。
憑き物が落ちたような気分になれた。

「…今日は不幸で良かった」
「…不幸で?」
「正しくは不運かな。…借り物の内容見た時は困ったけど、そのお陰でミハイルを見つけ出せた」
「……」
「…今度は、ずっと一緒に居ような」

頷く以外の選択肢を、選ぶつもりも、選ぶ必要も、無かった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/15(土) 22:51:15.74 ID:k/gTHgAAO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>sage<>2012/09/15(土) 22:52:07.96 ID:eAKwFsuy0<>
病んでる時の独白→赤
普通の独白→普通色

と区別してました。


本日の投下は以上です。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/16(日) 00:37:13.45 ID:VOxyDg6SO<> ああ、このSSの上条さんは記憶破壊ではなくて、記憶喪失なのか…
>>1乙。次回も楽しみにしてる <>
◆2/3UkhVg4u1D<>sage<>2012/09/17(月) 11:56:25.09 ID:6iUGqj9L0<>
乙ありがとうございます。
レスをいただけるとやる気がみなぎります。
いや、いただけなくとも最後までやり遂げるつもりはありますが。


書きためが出来ましたので投下します。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/17(月) 11:56:44.65 ID:lovQhUvAO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/17(月) 11:56:58.81 ID:6iUGqj9L0<>
九月二十五日。
本来、上条当麻とインデックスは今日の来場者数ナンバーズ一等賞の北イタリア五泊七日のペア旅行券を得る筈だった。
しかし、そうはならなかった。何故か。
来場者数が学園都市統括理事長の予想していた数より一人分多く、且つ、上条がイタリアへ向かわされるべき理由が消滅したからである。
それ即ち、ローマ正教司教ビアージオ=ブゾーニの行動。
何故止まったかというと、説明するまでもなく、前方のヴェントよりも権限が上である右方のフィアンマが陰でストップ命令を下したからだ。
上条当麻の記憶が全て戻った以上、フィアンマは綿密な根回しをして幻想殺しを手に入れる必要が無くなった。
故に、本当は起こそうと思っていた数々の悲劇や事件、学園都市との対立の流れを築く理由が無い。
上条があのまま記憶を取り戻さなければ、将来的にフィアンマの手によって第三次世界大戦が起こされていたということだろう。
自分の愛する人間に愛していると言葉に出しただけで未然に悲劇を防いだなどということを知らない上条は、来場者数ナンバーズが惜しいところまでいっていたことをちょっぴり誇らしげにしていた。

九月二十六日。
フィアンマの無茶且つ無謀、しかし真摯な願いを受け入れる形で、彼は上条家にやってきた。
『神の右席』の実質的リーダーとしてのやるべき事はやってきた。
ただ、彼の実力やそこから得られるローマ正教への恩恵を考慮され、辞める事は出来なかったが。
それでも、実際フィアンマの行動を止められるものなど、心身共に上条当麻ただ一人位しか存在しないので。
インデックス、上条当麻、右方のフィアンマ、というやや奇妙な取り合わせでの共同生活が始まった。

そして、現在。
インデックスに留守番を任せ、フィアンマと上条は買い物に来ていた。
お互いに話したい事は沢山ある。手紙では書き記せない程の沢山の話題があった。
けれど、魔術については二人とも触れない。
インデックスが『禁書目録』である事についても、知っていても、触れない。
フィアンマは自分が魔術師だと名乗る事はせず、上条の話に相槌を打つだけ。
上条は、フィアンマが『自分は学生である』と自分に嘘をついていたのだろうと予測は出来つつも、それを責めるような事はしなかった。
お互いに負い目がある。だから深くは触れない。まだ触れなくていい。
時間ならまだまだ、これから沢山ある。

「そういえば、何で大覇星祭来てくれたんだ? …知ってたんだろ?」

自分の記憶喪失のことを。
何らかの手段で知っていたなら、自分に会っても意味がないとフィアンマはわかっていたはずだと、上条は問う。
実際、フィアンマも彼に逢ったところで無駄だろうとは思っていたのだ。
『奇跡』が起きなければ、フィアンマが傷つくだけで終わっていたのだから。

「…無駄だとは思ったが、…少しでも、見たかった。…顔を見るだけでも、と」
「…そっか」

フィアンマの表情を見、上条は目を伏せる。
自分が彼を忘れ、手紙を出さず、八月中に逢いに行かなかったせいで、どれだけ寂しい思いをさせて裏切っただろうか。
フィアンマが上条を責めなくとも、上条はそのことを悔やみ、忘れない。
責められないからといって罪を犯した事を忘れるのは愚か者だ。
たとえそれが不可避の事態だったとしても。インデックスを救ったからといって、フィアンマを裏切っていい理由になんてならない。

「…今日は何にすっかなー」
「夕飯か?」
「そうそう。沢山作らないといけないからさ」

インデックスは沢山食べるから、とほのぼの話す上条の手を、フィアンマは強めに握る。
痛い痛い、と痛みに呻きつつも握り返し、上条は苦笑の視線を彼に向けた。

「何だよ、ヤキモチか?」
「……、」

無表情でむすくれるフィアンマの頭を撫で、上条は優しく笑む。

「…たかが物事が完全に記憶出来る、なんて才能のせいで、可哀想なヤツなんだよ。とはいっても、哀れだとは思ってないし、それとはまた別で大切に想ってるけどさ。…ある意味、…俺達と一緒だ」

たかが、という一言には、馬鹿にする意味合いはこもっていない。
上条はたとえ完全記憶能力なんてものがなくてもインデックスを大切な…そう、喩えば妹の様に大切にするという意味しか。
優しくしてやってはくれないだろうか、と上条は言う。
自分達がその異常な幸運と不運、特別な右手故に疫病神と忌み嫌われ、殺されそうになったのとはまた違うけれど。
インデックスという少女もまた、その類まれなる才能故に一部からは妬まれ、怯えられ、殺されそうになったりもする。
特異体質さえ無ければ自分達も完全に普通な少年であるように、彼女もまた、完全に普通な少女でしかないのだと。

フィアンマは上条の言葉を聞き、しばらく黙った後、こくりと頷いた。
上条は自分の元に戻ってきてくれた。だから、あの少女を憎む必要は皆無となった。
そして、上条が大切に思う人間ならば、自分だって大切に思わなければ。

「…わかった」

当麻が、それを望むなら。

ありがとう、と上条は言った。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/17(月) 11:56:59.80 ID:lovQhUvAO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/17(月) 11:57:42.04 ID:6iUGqj9L0<>
「そのリボンタイ、使ってくれてたんだな。気に入ってくれたのか?」

「お前がくれたもので気に入らないものなど無いよ」
「…ミハイル、本当に俺の事好きだよな。…俺も好きだけどさ」

買い物カゴに材料を入れていき、上条は穏やかに告白する。
身長にも言葉遣いにも声色にも変化はあったが、本質的には昔から何も変化していない。
照れと気恥かしさに口ごもるフィアンマの手をやんわりと握り、上条は幸せそうに微笑んだ。
フィアンマの性別は会話の中で確認したが、かといって好きだと思う気持ちに変化は無かった。
もう一度、彼とこうして一緒に話して、笑って過ごせれば、上条は充分過ぎる程に幸せなのだ。

「オムライスなら沢山出来るよな…あ、でもひき肉安いならハンバーグの方が良いか…?」
「両方作れば良いんじゃないか?」
「インデックスならどっちも食べきれるだろうしな」

そうしよう、と頷いて、上条はひき肉のパックをカゴに入れる。

「…何か、さ」
「…ん?」
「…新婚さん、みたいだよな?」
「……、…」

肯定も否定もせず、フィアンマはジト目で上条を見つめた。

「い、いやほら、何となく…ノリで」
「…公衆の面前で立て続けにそういった事を言うのは感心せんよ」

白い頬は、ほんのりと赤くなっていて。

「……」

上条はその瞬間買い物カゴの載ったカートを放って彼を抱きしめたくなったが、我慢した。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/17(月) 11:57:43.21 ID:lovQhUvAO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/17(月) 11:58:11.69 ID:6iUGqj9L0<>

『やだ…かえらないで、ずっといたりあにいたらいいよ、いっしょにいて、』
『…ごめんな』

日本になんて、帰りたくなかった。
今思えば戻って良かったのだろうし、こうして学園都市に来てそれなりに幸せに過ごせていたのだから、父さんに感謝はしている。
だけど、あの時は、ただミハイルと一緒にいられれば、ただそれだけで幸せだった。
家が無くなり、何もかも喪ったミハイルの傍に居てあげたいと願った。
ただでさえ、ミハイルは母親から虐待を受けていたのに。
いや、あの時俺は子供だったから、何も出来はしなかったけど。

今、繋いでいる手。

その袖の中、腕には幾度も火の点いたタバコを押し付けられた火傷の痕がある事を、知っている。
服で隠された腹部には、もう消えているだろうけれど、かつて痣があった事も。
心身共にボロボロにされていきながらも、それを誰に対しても嘆かず無理をして笑っていた事も。


虐げられていて尚、彼は嘆かずに自分と一緒に居る幸せだけで生きていられると言ってくれた。
俺は両親に恵まれたから、親から見放される不幸だけは経験した事がない。
俺が居てくれればいい、たったそれだけの事で。
当麻が居てくれたら何があっても幸せなんだ、と言ってくれたミハイルを裏切って、俺は自分の安定を選んだ。
だから、もうこれ以上安定安全な道なんて選ばない。
たとえ何を言われたとしても、ミハイルと一緒に生きていかなければならない。
それが彼への罪滅ぼしだし、何よりも俺の願いでもある。






きっと、今度こそ、幸せにしてやるからな、ミハイル…。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/17(月) 11:58:12.73 ID:lovQhUvAO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga !red_res<>2012/09/17(月) 11:59:06.56 ID:6iUGqj9L0<>

本当は、それなりに力のある今、ミハイルの母親を殺してやりたいところだけど。
ミハイルを産んでくれた事には感謝しなければならないし、そもそもヤツは火事で死んでいる。



もう二度と俺は間違えない。忘れたりしない。
今日に至るまでミハイルが俺の為に祈ってくれたが故に起きた奇跡の数々を俺は無駄にしない。

間違えない。間違えない。間違えてはいけない。間違えてはならない。

俺には両親が居るしインデックスにはステイルや神裂が居るし他のヤツには他のヤツが居る。
でも、ミハイルにはたった一人ただ一人俺しかいないんだ。
俺しかミハイルを守る事は出来ない。だから守る義務がある。

インデックスもミハイルも守れる程に強くならないと。

強欲だと言われても構わない。
俺の右手で出来る事なら何だってやってやる。
幸せになるためなら何をやったって構いはしないんだ。
だって、周りは自尊心を高める為に俺やミハイルを傷つけてきたんだから、復讐したっていいはずだ。
俺やミハイルを虐げてきた周りを殺す位、なんてこと無い筈だ。
周りは俺やミハイルの心を殺してきたんだから、身体の死をもって償うべきだ。

記憶が無かった時とは違って、敵に容赦する必要は無い。容赦の必要性なんて感じない。

俺の周りで悲劇を起こさせる訳にはいかない。
何があっても守り抜かなければならない。


絶対に。
絶対に。

絶対に。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/17(月) 11:59:08.03 ID:lovQhUvAO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/17(月) 11:59:49.44 ID:6iUGqj9L0<>
「ただいまー」
「お帰り、とうま、ミハイル」

フィアンマはインデックスと会ったその日にある程度友好関係を築いた。
元々インデックスがあまり人を疑わず人懐っこい性格であることと、フィアンマが腹の底で彼女を憎んでいても表面上明るく振る舞える事とが合致したのだ。
買い物中の会話と決意によって今のフィアンマはインデックスを恨んでいないし、大切にしようという考えに至ったが。
インデックスはテレビに集中しているが、上条はいつもの様に手伝ってくれとは要求しなかった。
別にフィアンマが手伝ってくれるため、まったくもって困らないからである。

上条がハンバーグのネタの材料を用意している間にオムライス用の野菜を切る手つきはあまり慣れたものではなく。
あんまり料理してこなかったのか、と思いつつ、上条はフィアンマの手元を見守った。
怪我をしませんように、と祈ったところで、上条の祈りはそうそう神に聞き届けられる事は無い。

「…、」
「…大丈夫か?」

ピーマンという野菜は切る時に非常に神経を使う。
半分に割る際、他の野菜を切る時よりも指と包丁の距離が近いからだ。
うっかりと包丁で左手人差し指に傷をつけてしまったフィアンマの左手首を掴み引き寄せ、包丁をまな板に置かせ、上条は眉を下げる。
心配そうにそう声をかけると、血液滴る彼の左手人差し指を口の中へと含んだ。

「い、っ」
「…ん、」

生暖かい唾液は傷口にピリピリと沁み、痛みを生む。
久しい痛み、それも地味でズキズキとするものにビクつくフィアンマの様子を見やりつつも、上条は傷口を執拗に舌先でなぞった。
口の中に甘く鉄臭い血液の混じった唾液を満たし、それを飲み下した後、上条は口を離した。
そして一時作業を全て中断し、部屋へと移動して救急箱を取り出したかと思えば、やや過剰な手当を始めた。

「…そんなに酷い怪我でも無いだろう」
「いや、万が一膿にでもなったら大変だろ。痛いだろうけど我慢してくれよ」

落ち込んだ様子で自分の手当をする上条の表情を見、フィアンマはゆっくりと首を傾げた。

「……この程度であれば問題無いぞ? 俺様はそんなに弱くな、」
「そういう問題じゃない」

十年前と同じ様に、過保護なまでの執着。
大切なものを大切にすればする程、美術品のような扱いに。
これこそが上条当麻の本質なのだから、仕方無いのかもしれないが。
少々病み気味の優しさに対し、フィアンマはもごもごと強請る。

「……、…ハグをしてくれれば治る」
「……」

台所に戻り、上条はフィアンマをぎゅっと抱きしめて甘やかした。
インデックスはそんな様子にほんの少しだけヤキモチを妬いて。

…それでも彼が幸せそうならそれでいいか、と薄く笑むと、黄金の価値すら持つ沈黙を通すのだった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/17(月) 11:59:50.82 ID:lovQhUvAO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>sage<>2012/09/17(月) 12:00:56.58 ID:6iUGqj9L0<>
本日の投下は以上です。
ゆっくり、と>>1に書くと書き溜めが早く出来上がり、ハイペースで、と>>1に書くと途中で止まる。不思議です。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/17(月) 13:33:16.55 ID:5d/5SqgSO<> 乙。よくあるパターンだと大抵indexが追い出される、こもえんちにいくetc…になるがどうなるかね…

上条夫妻はもう新婚さんいらっしゃいに出てこればいいんじゃね <>
◆2/3UkhVg4u1D<>sage<>2012/09/18(火) 15:15:13.50 ID:a70QRtoV0<>
>>1にも記した様にとってもアバウトな再構成ですが、のんびりとお付き合いください。



書き溜めが出来ましたので、投下。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/18(火) 15:15:39.22 ID:j/MnSd6AO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/18(火) 15:16:13.30 ID:a70QRtoV0<>
夕飯を終え、入浴や歯磨きといった身支度を終え。
インデックスはベッドに、上条は浴室に布団を敷いていた。
いつも通りきちんと浴槽の中の水気を無くし、布団を敷きつめれば、毎日眠っている上条特製寝床(ベッド)の出来上がり。

「あ、そういやミハイルはどっちで寝ればいいんだ?」

近況報告の中で、上条はフィアンマが所謂聖職に携わる人間だと知った。
だから、恐らくインデックスと"そういった"行為に及ぶ確率は非常に低い…と思いたい。
しかし、万が一、億が一、気の迷いで、ということがある。
一人の人に愛を誓っていても男の身体とは正直なもので、意識してしまえば勃ってしまうのだ。
勃ってしまえば、身体は自然とそれを解消しようとする。
手近に丁度良い女が居れば…結果は火を見るまでもなく明らかだ。
それならばいっそ自分と一緒に風呂場で寝た方がまず事件は起きないのだろうが、二人入った窮屈な状態では身体を痛めるかもしれない。

「俺様は当麻と寝るよ」
「ん、そっか」

フィアンマの意思表示に決断すれば頷き、上条は準備を終える。
そして一言インデックスにおやすみと言葉をかければ、了解を得た上で部屋の電気を消した。
浴槽の中、上条が先に座り、続いてフィアンマが座る。
丁度座位の様な体勢で卑猥な妄想をしてしまいながらも上条はぶんぶんと首を横に振って煩悩を振り払い、フィアンマの身体を背後から抱きしめた。
本当は身長が高いフィアンマの方が後ろに回るべきなのかもしれないが、それでは浴槽の硬い部分に背中をつけることになるので、上条が率先して入ったのだ。

「…懐かしいな」
「…一緒に眠った事か?」

一度、フィアンマは上条と上条の父親が宿泊しているホテルで眠った事がある。
母親の暴力から逃れられ、孤独からも守られ、大好きな人と一晩過ごす。
貴重な経験であり、幸せな瞬間だったから、フィアンマはよくよく覚えていた。
上条はフィアンマの髪を撫で、ぎゅう、と抱きしめつつ頷く。

「…あの時からほとんど変わってない。細いままだ。…ちゃんと飯食ってたのかよ?」
「質の良いものを少しだけ食べて満足する生活を送っていればこうもなるさ」
「……まあ、いいけど」

上条はそうふてくされたかの様な相槌を打ち、会話を切り上げて目を閉じる。

「…まだ実感湧かないな。こんな近くにミハイルが居るってのに」
「俺様もいまいち湧かないよ。…手紙でも充分幸福だったが、…一度手に入れるともっと欲しくなる」
「別に、欲張ったっていいだろ。…今度はずっと一緒なんだから。俺も欲張る」

強欲だと誰かに嘲笑われても構わない。
今までの自分達には欲しいと思ったものが手に入りにくかったのだから。
過去の分まで、今、一生懸命幸せを追求したい。

「ミハイル。…明日も、明後日も、…隣に居てくれよ」
「…その言葉、そっくりそのまま返すとしようか」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/18(火) 15:16:15.24 ID:j/MnSd6AO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/18(火) 15:17:04.71 ID:a70QRtoV0<>
私は、少し、当麻に恋心を抱きかけていたのかもしれない。
彼の笑顔が好きで、早く帰ってきて欲しいと願って。
彼が泣けない時には私が代わりに泣いてあげたいと思う程に、一生懸命な、真っ直ぐな人。
誰か、他の女の子に優しくしている様子を見た、たったそれだけで腹が立ったのは、私は彼を好きだったから。
今まで生きてきた記憶の無い私には、彼が一番大切で、大事な人。
いつまでも一緒に居たいと心底願う、心の底から大切な人。
命を助けてくれたばかりか、ステイルや火織の事も遠まわしに救ってくれた。
こんな、一○万三○○○冊もの魔道書を持っていたって何も出来ない私に比べて、彼はあの右手一本で沢山の人を救っている。
秋沙の事も、誰の事も。本気で困っていて、自分が何か出来るようならそうしたいと、彼はそういう人。

特別な能力を持っていても。
生きる魔道書図書館として生かされているような人間でも。

お前は普通の女の子だと、きっとお前を守ってみせると、そういってくれた。

嬉しかった。

ああ、でも。

私は、彼に"救われた"側の人間。ただそれだけ。
彼を"救った"人間には、入っていないから。

私と、当麻が愛するあの人との最大の違いは、きっと『そこ』。
幼馴染などというものは、記憶の無い私にはわからないけど。
でも、あの二人は私じゃ理解出来ない、どんな魔道書にも書かれていない、説明のつかない大切な絆で結ばれているんだろう。
現に、誰と一緒に居る時より、当麻の笑顔は、あの人と一緒に居る時が一番輝いている。
こんなにも差を見せつけられてしまっては、もはや嫉妬する余地すらない。

彼が幸せならそれでいい。それがいい。
それに、ミハイルだってとっても優しい人みたいだから。
彼等は彼等二人で過ごす日々が幸せなのだ。

だから。

この恋心は潜めて、私は笑顔でいよう。
そしていつもの様に、無邪気に振舞ってみせるのだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/18(火) 15:17:05.93 ID:j/MnSd6AO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/18(火) 15:17:27.88 ID:a70QRtoV0<>
昔の夢を見た。
愛らしい笑顔を浮かべたミハイルは、俺を置いて裏路地に入り込む。
危ないよ、と言っても、慣れてるから、との一言。
女の子を一人路地裏に置いていくなんて出来なくて、怖いながらもついていった。

『とうまとうま、ねこさんかわいいよ! とうまにそっくり!』

真っ黒な猫を抱き上げて、ミハイルが楽しそうに笑う。
黒猫はというと、迷惑そうな鳴き声を出しながらもおとなしくしていた。
ミハイルは昔から犬猫に懐かれやすい傾向にある。

『ぜんぜんにてないぞ』
『にてるよ、ほら』

肉球を触った時の心地良さは、俺の手を握った時の心地良さに少し似ている。
そんな無理やりな理論で似ていると主張しつつ、ミハイルは猫をあやす。
黒猫は金色の瞳をしており、面倒臭そうながらも喉を鳴らしていた。

『めはみはいるににてるな』
『そうかな? あ、ほんとだ』

にゃー、と猫に話しかけるミハイルの様子を眺めつつ、俺は口元を緩ませる。
幸せだなあ、と思える。いつまでもこんな時間が続いたらいいのに。

『とうま、』
『ん?』
『どこにもいかないでね』
『いかないよ』
『ぜったいだよ』
『うん』
『もうにどとおいてかないでね』

寂しいのは嫌だ、とミハイルが俺の手を強く握る。
もう離したりするものか。
俺は、いつまでもいつまでも、童話の中のお姫様と王子様がそうしたように、ミハイルと幸せに暮らすんだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/18(火) 15:17:28.98 ID:j/MnSd6AO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/18(火) 15:17:58.58 ID:a70QRtoV0<>
十月十四日。
ローマ教皇は苦悶の表情を浮かべていた。
後方のアックアが敗れてしまった。
そして、イギリス清教から連絡があった。
戦略交渉人からは、降参するためのプランをいくつか提示された。
それらを半分も聞かない内に、連絡を断ち切ったのは良いが、解決策が見当たらない。
そもそも何をどうやったら後方のアックアが、たかが一介の男子高校生に負けるというのか。
もしかすると現在所在不明な右方のフィアンマが何らかの方法で関わって…その恐れは無いだろう。
あくまで右方のフィアンマは急に出て行っただけで、それが即座にローマ正教の敵に回ったということの証明にはならない。
真剣な表情で考え込むローマ教皇の耳に、ゆっくりとした―――その本人の性格を表したかの様な足音が響いた。

「いけませんねー。アックアが倒れるとは…。猿は猿でも知能をつけて成長、という事ですかねー。偉大なるローマ正教が収める世界に混乱生じる場合は、いかなる者であろうとその元

凶をすみやかに排除すべし、といったところですか」

ローマ教皇は振り返り、不可解そうな表情を浮かべる。
彼は死んだ筈だ。他ならぬ後方のアックアに殺された筈。
口に出さずともその疑問は読み取れたのか、左方のテッラは笑う。

「何、替え玉とは手品でさえよくある話ですよ。私とまったく同じ『人形』を作るべく、少々苦労はしましたが…」
「……、…」
「ヴェントを使った学園都市への奇襲。私が起こそうとした世界的集団操作。そしてアックアの圧倒的な才能さえ、ことごとく、あっけなく失敗に終わってしまいました。右方のフィア

ンマは実質空席状態。これ以上の手が、教皇殿、貴男にはありますか? 科学サイド総本山、学園都市の動きを封じるだけの、圧倒的な策が」

現状確認に、ローマ教皇は沈黙する。
罪なき信徒まで巻き込んでの籠城は考えたくない。
どうすればいいかなど、この局面で浮かぶべくもなかった。
テッラは、そんなローマ教皇の考えとはまったく別に、軽い調子で言った。

「まずはイギリスを討つとしましょうか」
「なに?」

訝しむローマ教皇へ、テッラは丁寧に説明する。

「現状、我々はロシア成教を取り込んだ事によって、イギリス以外のヨーロッパはほぼ掌握していますから」

続く発言に、説明に、恐るべき言葉に、考えに、ローマ教皇は困惑と共に戦慄する。


この男は、おかしい。
ローマ正教の為であれば、世界的な大規模戦争すら起こすというのか。


ほとんど崩れた大聖堂へ向かい、ゆったりと歩みを進めながら、テッラは呟く。

                              フィアンマ ジューダス  
「貴男が残したモノは有効活用させていただくとしましょう、『燃える赤』―――いえ、『裏切り者』」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/18(火) 15:17:59.56 ID:j/MnSd6AO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/18(火) 15:18:21.69 ID:a70QRtoV0<>
十月十四日。
神裂や土御門、天草式十字凄教達も皆帰った後の病室で。
インデックスは疲れ果てて眠り、二人の少年はそんな少女の寝顔を見守っていた。

「……、…」
「…ミハイル?」
「…ん?」
「…どうかしたのか、元気無いけど」
「………嘘を吐くのは、もうやめる」

九月三十日には、前方のヴェント。
今回は後方のアックアが上条の右手を狙った。
『神の右席』について知らぬ存ぜぬを通す訳にはいかない。
だから。
フィアンマは、全てを吐露した。

自分は学生でなかったこと。
神父になってしばらく経ち、『神の右席』という組織に入らされたこと。
何だかんだで事実上辞めて飛び出してきた為、今から戻っても何もかも手遅れだろうということ。
こういった暴力の数々は、上条に裏切られたと思った自分が、かつて下地を敷いてきたこと。

「…とはいっても、これで全員が無力化ということになるが。順当にいけば、『神の右席』は解体か…俺様を頼ってくるかのどちらかだ」
「……」
「…怒って、いるか」
「…薄々気がついてたからな。色々、嘘じゃないかな、って」
「……」
「手紙の内容。…学校に行ってたなら、もう少し俺と話が合う筈なのに、微妙にズレてた。…それに、所持金だって一般学生のそれじゃなかった」
「………」
「…でも、許すよ。俺だって、八月中に会いに行くって嘘ついてたからな。それに、ミハイルは俺と一緒に居たくて、『右方のフィアンマ』をやめたんだろ。…ならいい。……それに、

アックアが倒れた以上、もう大丈夫なんだろ?」
「その筈だ。…ヴェントは無力化、アックアは戦闘不能、テッラは死亡だと聞いたしな」
「なら、もういいだろ。多分、大丈夫だよ」

もうこれ以上、自分たちの平穏が脅かされる事なんて無いだろう。

「俺は、ミハイルが何したって、許すよ」
「…」
「…だから、ミハイルも俺を許してくれ」
「…元々、許している」
「んん…むにゃ…と、ま…も、たべられにゃ…」
「…寝ていても食事一筋か」
「インデックスらしいけどな」
「…あまり心配をかけるなよ。俺様はともかく、インデックスはお前が怪我をするだけで泣くのだから」
「ミハイルは泣いてくれないのかよ?」
「泣いて周囲が助けてくれる、はたまた結果が好転するのは可憐な少女だけだ」

フィアンマはそっと右手を伸ばし、インデックスの髪を撫でる。
インデックスはくすぐったそうにくすくすと笑って身じろいだ。

もう、これ以上何かが起きる筈が無い。
こうして三人でのんびりと過ごしていけるはずだ。





きっと。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/18(火) 15:18:23.08 ID:j/MnSd6AO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/18(火) 15:18:51.29 ID:a70QRtoV0<>
静かに過ごしていた日々も、イギリスからの通達によって打ち破られた。
『禁書目録召集令状』である。
上条はインデックスの保護者及び管理者として共に向かう事が出来たのだが、フィアンマはそういう訳にもいかない。
かといって家主も同居人も居ない上条の家に一人で居ても仕方がないので、彼は別ルートで二人を追う事とした。
本当は上条も行きたくなかったのだが、強制連行されてしまっては仕方無い。


飛行機の中で色々と事件があったのだが、それは割愛することとして。
いつも通り飛行機の中でも上条の無事を祈っていたフィアンマは、二人より遅れてイギリスへと到着した。
空港でちょっとしたトラブルに巻き込まれたので到着は遅れたものの、無事二人と合流出来るだろうと踏んでいた彼だが。
イギリスでは既にクーデターが開始されており。
フィアンマは荷物を一時ロッカーに預けた後、ステルスゲームに参加することとなったのである。
辺りには『騎士派』と思われる騎士が並々ならぬ力を持って見回りに当たっていて。
秘密組織という特性上『右方のフィアンマ』と感づかれないにしても、魔術師が見つかればロクな事にならないのは間違い無い。
最も、その程度の人間に捕縛される様なヤワな威力の武器は持ち合わせていないが。
なるべく人死にを出さず、面倒な事はしないで通りたいものだ。

「……、」

それに。
クーデターを起こさせてしまう様な状況を前々から構築していたのは自分で。
ローマ正教の力を使って議会を牛耳り、確かにイギリスを追い詰めてはいたのだ。
第三次世界大戦を起こす為に。それが必要だと思ったから。
途中で放棄したから問題無いだろうと思っていたのだが、フランス含む議会はローマ正教の無言の影に怯えてイギリスを追い詰めていたようだ。

「…果たして会えるのか?」

ぼやきつつ、街角の死角に身を潜めつつ歩いていく。
建物という遮蔽物が多い為、ここでは直線移動が使えないのだ。

インデックスと当麻が無事なら別にイギリスの何がどうでも構わないが、と思いつつ。
時折怪我をしたらしい民衆を適当に助けながら、フィアンマは上条達を捜すのだった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/18(火) 15:18:52.28 ID:j/MnSd6AO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/18(火) 15:20:19.59 ID:a70QRtoV0<>
フィアンマが辿りついた頃には、カーテナ=オリジナルは既に失われてしまっていた。
上条やインデックスを含める周囲の人間、勝利側は泥まみれのふらふらだ。
余程激しい戦いだったのだろう、何度かクラスター爆弾らしき音も聞いた。
負傷者の手当などが始まっていて、だいぶ穏やかな状況。

「…無事か?」
「無事、だけど…遅かったな」

ボロボロの上条が、げほげほと咳き込みつつフィアンマを迎え入れる。
ふらふらとする彼の身体を支えつつ、フィアンマはインデックスを見た。

「怪我は無いか」
「うん、擦り傷程度、かも…」
「治してやる。ただ、知識の貸出を頼む」
「…ありがとう、ミハイル」

インデックスの指示に従って、フィアンマは彼女の傷を癒していく。
運良く軽い擦り傷だった為、インデックスはすぐに元気を取り戻した。
此処に来るまでにほとんど魔術を行使していない彼は元気である為、インデックスの知識の増援を受けつつ、周囲のけが人の治療をした。
彼の本質は上条当麻にも似た、自分のやりたい事を何とかしてやり遂げるというものだからだろう。



―――その頃。
バッキンガム宮殿の敷地より、二、三キロ離れた場所で。
ロンドンの路上に倒れていた第二王女は、痛む身体を引きずるように起き上がった。
緑を基調とした、特殊な襟の服装の男。
痩せ、身長の低めな白人の男だが、不穏な雰囲気を醸し出している。

「誰だ……?」

キャーリサは折れたカーテナ=オリジナル…剣の柄を投げ捨て、再度問う。

「お前は誰だ……?」
「左方のテッラ、と言えばお分かりいただけますかねー。ここまでヒントが出ればお分かりかと」

左方のテッラ。
ローマ正教を陰から操る『神の右席』に正しく席を置く最後の一人にして、今や最大の力を振るう者。
記録によれば、たった一撃で聖ピエトロ大聖堂を半壊させ、矛先を向けられたローマ教皇は今も予断を許さない状況にあるという。

「対応してる天使は『神の薬』……性質は、カーテナが操るものとは違う筈。なら、狙いは…」
「いえいえ、そんなものを取りに来た訳ではありませんよ」

気軽に言う声は、まるで金属を擦っているかの様に人を不快にさせるものだ。

「私としましては、この混乱の機にイギリス清教最暗部に保管されている『例のもの』を奪いに来ただけです」
「例の…? どーいう…?」
「ま、フランスとイギリスを戦争させ、焼け野原となったロンドンから回収するという方向でも問題は無かったのですがねー。その点においては、貴方はまぁまぁ頑張ったと思いますよー? 貴方のつまらないお遊びの御陰で、この首都は略奪と陵辱の嵐に揉まれずに私の目的を達成させる事が出来たのですから」

カッ、とキャーリサの頭に血が上った。
カーテナの無い第二王女には、直接的な攻撃術式はそれほどない。
人並み程度には保持しているが、そのレベルではテッラに立ち向かえる筈もない。
現に、飛びかかるキャーリサに、テッラは指一つ、眉一つ動かさなかった。

「―――優先する」

ただその一言にて、キャーリサの身体は一○○メートルも吹き飛ばされた。

「面倒な事はやめませんか。私の目的は達成済みですしねー。…『王室派』も、またコソコソと良い物を作ってくれたものです」
「『王室派』……まさか、……実在、したのか…ッ!?」
「おや、知らされていなかったのですか。バッキンガム宮殿の中に完全放置でしたからねー、私の方も目を疑いました。ま、本当の意味で秘密の品であれば、誰も持ち出せる訳がありませんか」
「…ッ、」
「…さて、どうしますかねー。諦めて此処は見逃されますか? それとも、立ち向かって勇敢な死を?」
「ぬ、かせ……」

キャーリサは口から血を零しながらも、ゆっくりと立ち上がる。
どんなに身体が傷つこうとも、眼光だけは、真っ直ぐで、衰える事は無かった。

「……ローマ教皇が、どーして最後までお前に抗ったか……。分かるよーな気がするの……」
「…残念極まりないですねー。面倒事は避けたかったのですが……、…くたばれ、異教のクソ猿がッッ!」

白い霧の形を模した死神の鎌が、キャーリサに向かって降り注がれる。
キャーリサはボロボロの身体を引きずり、それでも目を閉じずに前へ向かおうとする。




そして、 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/18(火) 15:20:22.55 ID:j/MnSd6AO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/18(火) 15:20:47.64 ID:a70QRtoV0<>




それらの神聖なる凶器の霧は、ただの小麦粉へと堕された。
突然横から割り込んだ少年の、右手によって。



<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/18(火) 15:20:48.67 ID:j/MnSd6AO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/18(火) 15:22:22.64 ID:a70QRtoV0<>
「何やってんだ……テメェ……」

上条はアビニョンでの邂逅を思い返しながら、一度だけ右腕を大きくグルリと回す。
記憶の無かった頃、自分は、テッラにどうか死んで欲しくないと願ったが。
その願いがこのような結果を生み出したというのなら、神様はつくづく残酷だ。

「おやおや、お久しぶりですねー。その節はどうも」
「……」

フィアンマは、全員無効化したはずだと言っていた。
そして今、フィアンマはローマ正教に関係していない。
だから、眼前の―――左方のテッラが、全ての戦争の元凶に違い無い。
例えそれまでのレールを途中まで敷いたのがフィアンマだとしても、それを続ける事はせずに済んだ筈だ。
こいつを倒しさせすれば、大きな争いが終わるかもしれない。

「強欲は大罪ですからねー。今日はこの辺りにしておきますか。ここで殺すのは簡単ですが、万に一つでも奪った霊装を破壊されてしまう危険性を孕んでまで拘泥する事でもありません。…いずれ、近い内に手に入るであろう物ですしねー」
「奪った、霊装……?」
「ええ。見ますか?」

テッラの手の中には、いつの間にやら何かが握られていた。
金属製の錠前。
ダイヤル錠の様なものだろうが、数字が多い。
いや、刻まれているのは数字でなく、アルファベットのようだ。
しかし、本来二六文字が収まる様なスペースは存在しないというのに…トリックアートの如く、綺麗にまとまっていた。
上条が首を傾げた瞬間、空に現れた、果ての見えない長大な剣が、テッラ目掛けて振り下ろされる。

「それを使わせるな、」

フィアンマの声は冷静だったが、緊迫感を孕んでいた。
テッラごと霊装を破壊してしまうつもりだったのか、フィアンマは続いて何か術式を行使しようとする。
彼の右肩から巨大で不気味な腕の様なものが乖離したところで、テッラの爆笑する声が聞こえてきた。

「…必死ですねー、フィアンマ」
「よもや生きているとはな。…それを寄越すか、俺様とやりあって死ぬか。選ばせてやろう」
「流石は『神の子』の性質を持つ聖職者。お優しい事です。しかし、その様な気遣いは無用ですよ?」

フィアンマは冷酷な表情でテッラを見据え、右手を振った。
行使された第三の腕は、テッラに対して絶大なる威力を発揮する筈、だったというのに。

「―――優先する」

たった一言の後、腕は見えない何かに弾かれた。
相手を倒すに最適な出力を算出する『聖なる右』が。
目を瞬かせるフィアンマの様子を眺めてくつくつと笑い、テッラは右手の掌の中で霊装を転がし、親指だけを使って円筒形の錠前に取り付けられたダイヤルを的確に回す。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/18(火) 15:22:25.29 ID:j/MnSd6AO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/18(火) 15:23:22.30 ID:a70QRtoV0<>

直後。




ドッ、というとてつもない轟音が炸裂した。
何か白いものが、アスファルトを突き破って真下から飛び出した。

銀髪碧眼の少女。
紅茶のカップのような、白地に金刺繍の修道服を着たシスターだった。

「……イン、デックス……ッ!?」

上条は、思わず彼女の名を叫んだ。
何故、彼女がテッラの合図に応じるように現れたのか。
そして、明らかに普通の腕力では不可能なほどの破壊をどうやって生み出したのか。
魔術を使えないはずの彼女が、魔術らしき補助を受けているのはどういう理屈か。
数々の疑問に答えるものは、二つあった。

「『王室派』と『清教派』のトップだけが持っている秘蔵の品だ。禁書目録に備え付けられた安全装置……『自動書記』の外部制御霊装といった所か」
「はい、私はイギリス、清教内……第零聖堂、区『必要悪の教会』……所属の魔道、書図書、館です。正式名……称はIndex-Librorum-Prohibitrumで……すが、呼び名は略称の……ジジジザザザガガガガ」

無表情にブツブツと言っていたインデックスは、突然不自然な震えを見せた後、そのままフラリと地面に崩れ落ちた。

「インデックス!!」
「もしや、『自動書記』にダメージでも入っているのですかねー。まぁ、この程度であれば何とかなることでしょう」
「インデックスに、何しやがった…何をしたんだ!?」
「知りませんよ。整備不良はそちらのミスですねー」
「この、野郎ッ!」

心当たりはあった。自分の右手で、彼女の『首輪』を破壊した事。
だけれど、何もされなければ、彼女が苦しむ必要なんて無かった筈だ。
拳を握り走り出す上条と、同時にフィアンマは一歩踏み出して水平移動してテッラに一撃食らわせようとする。
それよりも更に早く、左方のテッラが動いた。

「少しロシアに行って天使を堕した『素材』の方も回収しておかなければなりませんし、それまではまだ、『幻想殺し』の管理はお任せしておきましょう。ついでに、貴男の身体も最終行程において必要ですしねー」

貴男、とフィアンマを見やり、テッラは楽しそうに笑った。

「―――優先する」

視界が、真っ白に覆われた。
げほげほ、と咳き込む上条に対して容赦の無い攻撃が及び、フィアンマはそれを咄嗟に第三の腕で庇う。

視界が元に戻った時。
すでに、テッラはどこにも居なかった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/18(火) 15:23:23.66 ID:j/MnSd6AO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/18(火) 15:24:19.80 ID:a70QRtoV0<>
インデックスにとんでもないものを仕掛けやがって、という上条の怒りは女王達に投げかけられた。
ただ、これは比較的人道的な措置だ、とフィアンマに無理やり止められる。
悔しかった。また、守れなかった。また、あんな風に『自動書記』を発動させてしまった。
ステイルにインデックスを任せ、上条は深呼吸する。

「禁書目録の制御を奪われかけているという情報は、極力隠しておきたい。となると、あの子を助けるため、というのは大義名分として成立しない。つまり……」
「協力なら、必要ねえよ」

ポツリと、上条は呟く。
怒りの感情は殺意にまで発展していたが、先程制止の際フィアンマに一度横っ面をはたかれ、暴れずして目が覚めた。
ここで殺してやりたい程に左方のテッラを憎んでみたところで、何の解決にもならない。

「アシは自分で確保する。ロシアまで行って来て、あのエリマキトカゲ野郎を殴り倒してきてやる。……、」

ふと、上条はフィアンマを振り返った。
彼もまた、咄嗟にインデックスを助けようとしてくれた。
自分にとってフィアンマ、フィアンマにとって自分は恋人だが、自分達二人にとってインデックスは家族だ。

「…一緒に、来てくれるか?」
「言っただろう。明日も明後日もその先も、お前の隣に居ると。何が起ころうとそれは変わらん」
「……でも、アイツはミハイルも必要だって、」
「迷って、言い訳して。あの時と違って自分の自由意思を使って運命が定められるというのに、また俺様を置いていくつもりか。…さっさと向かって日常を取り返し、インデックスと三人での生活を再開する。それ以外に望むものが?」
「……そう、だよな。それ以外、別に何も望んじゃいねえ。…そうだ。行こう」



苦しむ少女を、救いに。
それから、クソムカつく馬鹿野郎の顔を、ぶん殴りに。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/18(火) 15:24:20.90 ID:j/MnSd6AO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>sage<>2012/09/18(火) 15:25:10.12 ID:a70QRtoV0<>
本日の投下は以上です。


…ルビがズレた…恥ずかしい…次回からは更に落ち着いて投下します。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/18(火) 17:33:08.56 ID:9LbIkD9SO<> おお…まさかの超展開……!テッラさんきたああ

めっさ楽しみにしてるんだよ
乙。 <>
◆2/3UkhVg4u1D<>sage<>2012/09/23(日) 14:19:06.03 ID:/OncTwtF0<>
書き溜めが出来ましたので、投下します。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/23(日) 14:19:32.77 ID:o4NXlAVAO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/23(日) 14:19:57.98 ID:/OncTwtF0<>
そんな訳で。こんな訳で。
上条当麻と、右方のフィアンマはロシアへとやってきていた。
とはいっても、テッラが今何処に居るのかはわからず。
ひとまず天使を堕す為に必要である人間―――もとい魔術師のサーシャ=クロイツェフを捜すべく。
エリザリーナ独立国同盟を目指してみよう、と歩き出したはいいものの。

「先回りしたら迎え撃てる、っていうのはわかるんだけどさ」
「ん?」
「ここ、何処なんだ?」
「……、」
「やっぱりね! そんな感じしたもんな!」
「こうも目印が無いとなれば、不可抗力だ」
「そりゃそうだけど…」

肝心な場面でちょっぴり方向音痴を発揮してしまうのがフィアンマの欠点であり。
ちくしょう、と責めるに責められない上条は、ロシア軍や学園都市軍に見つからない様、隠れて進んだ。
時折爆撃の音が響き、地鳴りがする。一般人が怪我をしていなければ良いが、と心配になる。
どちらが敗戦国側になるかわからない今、民衆はまるで椅子取りゲームの様に、そわそわと行ったり来たりを繰り返す。
家を捨て、故郷を捨て。自分を、或いは家族を守る為に。
こんな戦争が起こらなければ、そんなことをする必要なんてどこにもなくて。
敗戦国側にはなりたくない。行ったり来たり。ふらふら。

「…嫌な雰囲気だな」
「……そうだな」

ある意味、戦争の片棒を担いだフィアンマとしては、複雑な気分だ。
元々、別に人が傷ついて気分が良くなる趣味はもっていない。

「…さっさとあの野郎をぶん殴って、戦争を終わらせないと。被害が出る前に」
「……それにはまず現在地を知らなければな」
「何処にも地図売ってないからな…セキュリティー上の情報統制とか言って。…って、あれ? 地図が、売ってる」

しばらく歩いていると、戦争中ながらもどうにか営業している店を見つけ。
そこにだけは、どうしてだか、地図が販売されていた。
どうやらここら一帯だけ、セキュリティーが緩いらしい。
キツい中でここだけ緩いということは、まるで怪しまれたくないが為に偽装工作をしているかの様。
いい加減魔術師というものの考えが読めてきた上条は、そう判断して地図を購入した後、辺りを探る。

「この辺りにアイツが居そうだな」
「わざとらしく緩くしているからな」

疑われない為の工作が、疑わしい。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/23(日) 14:20:00.81 ID:o4NXlAVAO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/23(日) 14:20:23.26 ID:/OncTwtF0<>
予想通りテッラを発見した瞬間、ちょうど会話が終わったらしく、逃げられてしまった。
フィアンマの解析によると、あれは本型の通信用霊装だそうだ。
通信相手に心当たりは、と上条は聞いてみたが、沢山居過ぎて何とも、との答え。
どうにも運が悪い、と思いつつエリザリーナ独立国同盟に辿り着き、テッラとの戦闘に及んだものの。
彼が完成させたらしい『光の処刑』や、インデックスの遠隔制御霊装を用いての攻撃に苦戦し。
イギリスの時と同じくまたも敗北した二人は、サーシャが連れて行かれるところを見ながらも反撃出来なかった。
最終行程にはフィアンマの身体が必要だとテッラは言っていたし、上条の右手も奪われてはいない。
だから焦る必要は無い、とフィアンマは落ち着き払った様子で言った。実際、焦ってもどうしようもない。

そんな訳で、二人は現在、悠長にも食事をしていた。

「まだ物資に問題は出ていない様だな」
「戦争が始まって、日数的にはそんなに経ってないからな…。…にしても、全国どこでもこういうのって同じ味なんだな」

ファストフード店のチーズバーガーを頬張り、上条はぼやく。
日本とロシアでは多少味が違うと思ったのに、との不満そうな声だ。

「イタリアでも同じ味だ。まぁ、現地の味に慣れない場合に利用されるからだろうな」
「なるほど。…俺、イタリアに住もうかな」
「来るなら来るで構わんぞ」
「んー」

インデックスも、イタリア語を話せるはずで。
それなら問題は無いかと思いつつ、そうして気を逸らしながら、上条は食事を進めた。
適度に力を抜いた方が、物事は冷静且つ多角的に判断出来る。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/23(日) 14:20:24.64 ID:o4NXlAVAO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/23(日) 14:21:01.65 ID:/OncTwtF0<>
雪原は広く、周囲には何も無い。ただただ一面真っ白だった。
元々この辺りは雪原ばかりなのだが、この辺りは徹底的に遮蔽物が取り除かれている。
そして、歩く内に到着したのは、貨物列車用の発着駅。
辺りに人影はおろか人気すらまったくない。
複数の電球で照らされている為、まるで家人が居ないにも関わらず電気がついている家の様な、そんな雰囲気が漂っている。

「秘密基地ばっかりだったな…」
「学園都市はこんなレベルではないだろう?」
「それはそうだけど…」

ひそひそと雑談をしながら、フィアンマと上条は進む。
レールを観察してみても、近くを走っている感じはしない。
つまり、資材は全てテッラの基地に運び込まれてしまったと思われる。
テッラの基地までは、およそ四○キロはある。
上条は、恐る恐るフィアンマの表情を窺った。

「…流石に、歩くのはキツい距離、だよな」
「…直線上の道だ。別に何キロでも行ける」
「そ、そっか。じゃあ、」

歩きながら、そう期待の声を上げかけた上条を、天井の崩落が遮った。
もしや魔術的な支えを自分の右手が打ち消してしまったのでは、と焦る上条に対し、フィアンマは冷静な様子で彼を抱え上げた。
そして一歩下がると、上条の右手が打ち消しきれる力などとっくに越しているフィアンマの力の総量を用いた術式が作動し、何メートルか後ろに一気に下がって外へ出た。
途端、甲高い笛の様な音がする。
上条の右手が天井の崩落を招いた訳ではなく。
真の原因は、つまり、学園都市の砲撃だったという訳だ。
身を隠す場所は何処にもない。安全なシェルターなど存在しない。
絶体絶命的な状況の中、二人は雪の中に身を隠す事で、どうにか難を逃れる。

「っぶ、ね」
「…無差別だな。全てを破壊するつもりであれば普通か」
「何だってミハイルはそんなに余裕なんだよ」
「幸運には自信がある」

何時だって生き残ってきたから、とフィアンマはぼやく。
雪の下、上条はそんな彼の身体を強めに抱き寄せた。
不意に、フィアンマは上条の胸元へと手を突っ込む。
そして、取り出した、小麦で作ったような人形を握り潰した。

「…居場所がバレている」
「何、」

思わず立ち上がり。追う様にフィアンマも立ち上がる。
だって、と言う前に、地面が揺れた。
二人の立っている場所を含む広範囲の地面が、招き寄せられる様に、浮いた。
空中の要塞へと、組み込まれていく。

呑み込まれていく。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/23(日) 14:21:02.98 ID:o4NXlAVAO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga !美鳥_res<>2012/09/23(日) 14:22:27.57 ID:/OncTwtF0<>

「おとうさん!」

愛らしい笑顔で、赤い髪の少年が私に抱きついた。
まだ幼いその子は私の腰元程度までしか身長が無く。
腕を下ろせば丁度そこにある柔らかな髪を撫でて、私は微笑んだ。

「どうかしましたか?」
「これあげる!」

差し出されたのは、四葉のクローバー。
希少なソレは幸運、もしくは幸福の象徴と呼ばれていて。

成長途中に傷つけられた場合、クローバーは四葉になる事があるという。
それはこの子自身を表しているかのようだった。
教会の中でだけ、この子は虐げられる事が無く。
一歩外に出れば、異教徒の子供達から虐められる。
だから、私は異教徒をそれまで以上に嫌いになった。

受け取ってもらえるだろうか、と心配そうな少年の頭を撫で、受け取りながら、微笑みかける。

「ありがとうございます」
「えっと、しあわせの、おすそわけ」

この子は私の本当の子供ではない。そもそも聖職者である私に、子供は居ない。
私が所属する教会で面倒を看ている、信仰熱心な孤児だ。
以前は虐待されていたらしく、その影響からか、人間関係を上手く構築出来ていない。
私の事は最初神父様と呼んでいたが、促すとお父さんと呼ぶ様になった。
そちらの方が嬉しいのか、この子は私と話す時、よく笑う。
父親の顔を知らないのだ、と言う彼は、自分は神の子なのだと頑なに信じている。
類希なる才能、気味悪がられる程の幸運。実際、神の子なのかもしれない。
赤い髪である事を理由に教会の子供から『裏切り者』などという悪趣味なあだ名を付けられているが、不満ではないらしい。
神の子は裏切り者たる使徒さえもその愛で許したのだから、自分も愛を持って許すべきだ、と。
とかく、自分への嫌がらせには慣れているらしい。私としては気に入らないのだが。

「おとうさん」
「はい?」
「いっしょうけんめいおいのりしたら、みんなしあわせになるかな」

自分を虐める人間が、神に嫌われるのでは。
そう心配して、その子は言う。
驕っていると思われがちな発言だが、私はそうは思わない。
選ばれた子で、確かに神の子であるのだから。

「ええ。敬虔な子は皆幸せになれます」
「じゃあ、おいのりする」

にこにこと笑んで、その子は指折り組む。
世界が平和になります様に。
その願いが叶う時は、最期の審判が訪れる時まで、無いのだろうが。


「…ミハイル。一緒にご飯を食べましょうか」
「うんっ」

君が幸せな世界が、どうか出来上がります様に。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/23(日) 14:23:06.65 ID:o4NXlAVAO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>sage<>2012/09/23(日) 14:23:08.49 ID:/OncTwtF0<>
本日の投下は以上です。
閲覧ありがとうございます。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/23(日) 20:06:50.48 ID:eFTRmwySO<> 乙。まさか、あの緑のレスとこの人はテッラさんなのか…? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/24(月) 07:16:32.15 ID:IUXLcOwAO<> 乙
待ってた テッラさんパネェ
相変わらず面白い <>
◆2/3UkhVg4u1D<>sage<>2012/09/25(火) 20:54:15.53 ID:3894zBP40<>
書き溜めが出来ましたので、投下します。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/25(火) 20:55:36.01 ID:FUW356KAO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/25(火) 20:56:42.73 ID:3894zBP40<>
大天使『神の力』がその圧倒的な力を振るい、人々を傷つける様を見つめ。
色々な事が立て続けに起こり、しばし呆然としていた二人は、弾かれた様に動き出した。

「どこかに魔術的なパイプがあるのか?」
「ヤツが手元で操っている筈だからな」

フィアンマが本来やるべきだった事をなぞり、少々改変する形で、テッラは計画を行っている。
それは手に取る様にフィアンマに内容が解るという訳で。
その魔術的に重要な部分を上条の右手で壊してしまえば多少弱体化させられる、とフィアンマは言う。
途中出会った修道女―――サーシャ=クロイツェフ曰く、やたらと長い左側の、緑の儀式場近くにあるだろうのことで。
無事脱出しろよ、と言い残し、二人はマイペースな事に彼女の言う事を聞かずにやってきた。
インフラも、たとえばトロッコ等幾つか整備はされているが、一歩進めば何処までも直線上に移動出来るフィアンマにはあまり必要無い。

「…ちなみに何で整備しようと思ったんだ?」
「二○○人の魔術師を使うに当たって必要かと思ってな」
「へー」
「後はあった方が当麻が来易いかと思ったんだ」
「ミハイル…そこで気遣うんだな…」

言いながら、ようやく見つけた黒と白のパイプを片方だけ壊す。
こうすることでバランスが崩れ、『神の力』の中枢を組み立てる為の機構が少々壊れる。

「…ミハイル」
「ん?」
「何があっても、絶対に生きて、二人で帰ろうな。インデックスの、所に」
「…、…あぁ」

恐ろしい断末魔を上げた後、消えた『神の力』。

降り立ったテッラを見据えながら、上条はそう言った。
ぞわぞわと、正体の見えない寒気に吐き気を催しながら。

「…余計な事をしてくれましたねー」
「後はテメェをぶん殴ったら終わりだ。この馬鹿げた戦争も何もかも、ここで終わらせる」
「馬鹿げた戦争、ですか。…幻想殺し。貴方はこの世界が間違っていると思った事は無いのですか?」
「…理不尽な事は沢山ある。でも、幸せだってある。間違ってるから正す必要なんて、無い」
「それは世界の終焉を意味しているのですよ。その為に、彼は準備をしたのですから」

ねー、と粘っこい声で、テッラがフィアンマに話しかける。
世界の歪み。四大属性の歪み。戦争の元となった悪意。
この世界はどうしようもない程に崩壊が進んでいる。
確かにフィアンマはそんな世界を立て直し、正しく、あるべき姿に戻そうと『プロジェクト=ベツレヘム』を考案した。
それは認めるが、それはテッラのいうところの世界には当てはまらない。

「私の手で、天の国を作ります。…永遠の安らぎと安寧、そして幸福を与えるのです」
「逆らう者は皆殺しって事かよ」
「いえいえ、改宗のチャンスは与えますよ、勿論。それでも駄目であれば、天罰を下すのみです」

圧倒的な力で、神罰を下す。
そうする事で、幸福を安定させる。
それこそ気味の悪い歪んだ考えだ、と上条は思ったものの、フィアンマには理解出来ない話ではなかった。

「フィアンマ。これは貴方の為でもあります」

フィアンマが望んだから、世界を救う。
ローマ正教の支配する完全なる世界を創る。
そんな口ぶりだった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/25(火) 20:56:44.12 ID:FUW356KAO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/25(火) 20:58:04.39 ID:3894zBP40<>
「…俺様が創りたかったのは、全てが幸福で、安定した世界。且つ、自分が神罰を下す。それは間違っていない。…だが、…それは当麻の為の復讐でもあり、…そもそもローマ正教の為の世界ではない。まぁ、十字教規範を利用することは考えていたが。俺様が救おうと思っていたのは、この世界に住む人間全てだ」

テッラの行動を半分肯定、半分否定して、フィアンマは右手を水平に掲げる。
その肩から乖離しているのは、巨人の腕の様な、人間離れした怪物の様な『聖なる右』。

「だが、お前の救済は拒まれている。…俺様が行っても同じ事だっただろう。…だから、お前の罪も背負ってやっても良い。俺様は免罪符として産まれてきたのだからな」

フィアンマは過去、少しの間だけ、テッラを父親代わりと慕った事がある。
だから、そこまで間違っているとは思わない。
ただ、敬虔過ぎたのが原因で、それもまた悪意を発露させる原因だったのだろうと、思うだけで。

「悪いが、止めさせてもらおうか」
「…本当の裏切り者と化した時点で、何を期待しても無駄でしたねー」

『聖なる右』がそもそも通用しないとわかりながらも、フィアンマは右手を振り。
上条と視線を合わせる事で、無言のままにた立ち位置を確認する。
フィアンマに攻撃を集中させている隙にテッラの手の内からインデックスの遠隔制御霊装を奪ってしまえば、それでいい。

「―――優先する」
『警告。第二二章三四節―――』

いつ学んだのか、上条と以前戦った時には使えなかった筈の、一般術式。
地面が歪み、走り辛さを感じながらも、上条は右手で自分の心臓や頭を庇って進む。
元より一般術式を行使出来るフィアンマは、上条のサポートに回った。
敵・試練・困難を一撃で粉砕出来る筈の『聖なる右』は、テッラの優先設定のせいであまり役に立たない。
恐らく、『神の如き者』よりも『神の薬』を上位に置いているのだ。
勿論、二人の狙い通りテッラがフィアンマのみを狙い撃ちする訳もなく。
一般術式によって地面から突き出した槍が、上条を覆う一つの檻となる。
右手で壊そうにも、槍自体は霊装ではなく只の鋭い槍である為、魔術的なパイプを見定めなければ壊せない。
がむしゃらに触れば手のひらに槍が突き刺さり、はたまた罠か何かが作動して死ぬかもしれない。
そして、運の悪い事に『聖なる右』の使用回数が限界に達した為、フィアンマは一般術式で対応せざるを得なくなった。
上条の喉元にナイフを突きつけた形で、テッラは何の容赦もなくフィアンマへ交渉を持ちかける。

「今此処で、貴方がその身を渡すのなら。彼の命だけ、見逃しても構いませんよ」
「構うな、ミハイル!」
「私の優先設定はまだ残っていますから」
「…七つの美徳に対応させて、七度"優先"出来る訳か。そしてその内、『神の薬』を上位、『神の如き者』を下位にで一つ。『汚染』を上位『脳』を下位にで一つ。適宜『一般的な術式』を上位、『神の術式』を下位に置いて術式の執行を行っている。何をどう細工したのかは知らんが、全て口に出さずとも優先出来る様になった訳か」
「ご名答。流石は我ら『神の右席』を率いていただけありますねー」
「……、」

三つ優先しても、残るは四つ。
それらを活用させてしまえば、上条は幻想殺しを採取されるだけに飽き足らず、バラバラの肉塊にされてしまうだろう。

「…、俺様が、諦めれば。…当麻は、死なないのか」

絶体絶命の状況で、フィアンマはそう言葉を返した。

「ええ。私は昔から貴方に甘くなってしまう事位、お分かりでしょう」
「ッ、ミハイル、俺はいいから、」

上条だって死にたくはない。
でも、此処でフィアンマが死んで、もし約束を破られて自分も死ねば、何も残らない。
誰も助けられない。
それに、上条はフィアンマに死んで欲しくなかった。
死後の世界での再会など真っ平ごめんだった。
一緒に帰ると言ったじゃないか。

フィアンマは淡い諦念を湛えた瞳で、笑う。

「良くない。…俺様は、当麻に生きて欲しい」
「そいつが約束を守る保障なんかあんのかよ、」
「…ある」

いつだって、そうだったから。
テッラは少しだけ微笑んだ後に、哀しそうな表情を浮かべた。

「…貴方という『神の子』を『光の処刑』で殺し、私は完全な力を手にする。……もし"処刑"という儀式を終えて貴方が生きている事があれば、幸せな世界で会いましょう」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/25(火) 20:58:05.53 ID:FUW356KAO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/25(火) 20:58:42.64 ID:3894zBP40<>
上条が魔術的なライン(繋ぎ目)を見定め脱出しようと考えている間に、処刑場は用意された。
聖書の中でかつて『神の子』がそうされた様に、血塗られた十字架。
手を杭で石に繋ぎ止められ、その激痛にフィアンマは目を伏せて唇を噛む。
儀式が終わって尚生き残って、上条の『幻想殺し』を取られなければ、何とか勝てるかもしれない。
どうか上条がそれまでに脱出してくれます様に、と祈りながら、フィアンマはテッラを見下ろした。
両脇下からは魔術的に支えられた槍が構えられ、もう少し時間が経てば槍がこの身を貫き、死へ導く事だろう。
魔術的意味合いの付加された祈りの言葉を口にするテッラを見下ろし、フィアンマは嘲った。

「…お前には、見えんよ。俺様を本当の意味で愛していないお前には、今この行動がどれだけ愚かな事か」
「……、私は貴方を愛しています」

上条とフィアンマがお互いに抱いている愛とは違う愛。
親子間にも近い慈愛のそれを、フィアンマは徹底的に否定する。

「お前には何も守る事が出来ない。幸せなど作れない。世界をローマ正教の為のものとする為に俺様を殺す事を選んだ時点で」
「…」

祈りの文句を終え。
無言のまま、槍が構えられる。
『聖人崩し』と似た構図だが、これは儀式的意味合いが強く、しかしほとんど物理的な処刑だ。
運が良ければ生きているし、運が悪ければ死ぬ。
最後の最期まで自分は運に頼る事になるのか、とフィアンマは空を仰いだ。
死ぬかもしれないから、回想をしておく。

不幸と幸せが半分半分の、短い人生だった。
でも、当麻と会えたから、好きだと直接言ってもらえたから、そんなに悔いている事は無い。

走馬灯というものが走るかと思いきや、そんなに思い返す程の思い出は無くて。
つまらない人間だ、と自分を断じたところで、両脇腹から内臓に達する猛痛がフィアンマを襲った。
目の前が明滅して、気持ちが悪い。こみ上げるままに嘔吐すれば、血液が落ちた。

「…にたくない、」

『神の子』の様に、達観など出来なかった。
自分を処刑した人間を、この世界を赦してあげて欲しいなどと、神に祈れなどしなかった。
まだ死にたくない。死んでしまいたくない。
槍が引き抜かれ、熱い血液が溢れていく。少し遠くの方で、人が殴られた音と、痛みの籠った声が、聞こえた。



「死にたくないよ、当麻」
「死なせねえよ、ミハイル」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/25(火) 20:58:43.61 ID:FUW356KAO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/25(火) 20:59:24.69 ID:3894zBP40<>
フィアンマが槍で貫かれ、死にそうな姿を見て。
もはや自分は死んでも構わないと、上条は一生分の幸運を消費して、檻を壊した。
そして槍を引き抜くタイミングを図っていたテッラの背後に走り、優先の一文字すら言わせず、後頭部を勢い良く殴りつけた。
その勢いに、テッラの手から吹っ飛んだ遠隔制御用霊装は、離れた場所の床の溝にはまった。
脳震盪でも起こしているのか、倒れたままのテッラは時折痛みに呻くのみで、動かない。
上条は引き抜かない方が良いのだろうとは思いつつも、しかしそれ以外に方法が無くて、慎重に槍を引き抜いた。
そして杭も引き抜いてフィアンマの身体を降ろし、血まみれの細い身体を抱きしめる。
絶え間無い痛みに軽く咳き込み、内臓が出てしまわないようゆっくりと呼吸しながら、フィアンマは上条の肩に頭をもたれて弱々しく抱きしめ返した。
テッラの身体に『幻想殺し』が当てられた事で彼と『ベツレヘムの星』を繋ぐパイプが切断されたのか、不穏な揺れがもたらされている。

「…生きて帰ろうって、言っただろ。…先に、」
「…脱出、しなければ、ならないか」

脱出用のコンテナへ向かって、行こうとした上条を、フィアンマは引き止める。
テッラを死なせては意味がないのだ、と彼は言った。
フィアンマを傷つけ、あまつさえ殺そうとした相手だぞ、と上条は反論する。
それでも、ここで誰かを犠牲にしてしまっては自分達は不幸を生むのだ、とフィアンマは答えた。

脱出用コンテナの残りは、一つだけ。
それも、一人用。

二人で助かれないのなら、インデックスを解放して、後はどうにか…助けを、求めよう。
誰にも助けを求められないから、そして一人だから、とテッラを脱出用コンテナへと入れる。
ぐらぐらと揺れる脳、気持ちの悪い視界で、テッラはフィアンマを見上げた。

「何故、ですか」
「俺様と当麻、二人で助からなければあまり意味が無い」
「…私を放るというのも、一つの手ですねー」
「見殺しにする趣味は無い。…確かにお前は間違っていたが、…俺様の意志を継いだと言えば確かにそうだ。…だから、…赦してやる。幸い、酷く傷ついたのは現在地で俺様だけだしな。少しだけ、赦す権利がある」
「…私を、ゆるす…?」
「…過去の優しさに免じて、だよ。…お父さん」

言葉を失うテッラを見下ろし、フィアンマは上条の手を借りてドアを閉じた。
これで終わりではない。まだ終わりではない。
『ベツレヘムの星』は始終揺れているが、インデックスを解放しなければ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/25(火) 20:59:25.82 ID:FUW356KAO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/25(火) 20:59:58.05 ID:3894zBP40<>
溝にはまった霊装へは、インデックスが導いてくれた。
半透明の彼女は、重力に逆らって逆さまに浮いている。
霊装を取り出し、上条はインデックスに話しかけた。

「実を言うと、…一時期、記憶が無かったんだ。…元の『上条当麻』のフリを、してた」
『…いいよ。いいよ、とうま。あり、がとう』

困った様な微笑みを浮かべて、インデックスは頷く。
そんな事とは片付けられないけれど、今記憶があるのなら、その嘘は優しい嘘だ。
上条に続いて、フィアンマも懺悔の言葉を口にする。

「…俺様は、……」

インデックスを、憎んでいた。
上条を愛してやまなかったから、その記憶を奪った彼女を激しく嫌った。
今は大切な家族だと思っているけれど、かつて恨んで恨んで仕方がなかった。

二人の懺悔に、少女は緩く首を横に振る。

『…いいから、いいの…だから、…だからね、…二人共、帰ってきて』
「…ああ。きっと、帰るよ。だから、……先に戻って、待っててくれ。後、ステイルに無線の番号を伝えてくれ」

『ベツレヘムの星』に繋がる番号を、教えて。
インデックスが寂しそうに、何か言いかけたところで、上条は右手で霊装に触れる。
ぱきん、という僅かな音と共に、彼女を苦しめていた遠隔制御霊装は、破壊された。
ステイルならきっと助けてくれる、と言う上条に、フィアンマは緩く笑んだ。

「…慕われているな」
「昔と大違いだろ。…たとえ不幸でも、俺の不幸は、誰かを助ける為にあるんだ」
「そう、だな。俺様に出会ったという不幸も、」
「いや、それは幸せな事だろ。別だ、別」

そう笑って、上条はフィアンマを抱き上げ、ステイルからの指示に沿って走る。
彼の指示通りに順序立てて破壊していけば、無事脱出出来る筈だ。
無事着水させなければ、と走る上条は、数時間前に耳にした断末魔の様な人智を超えた叫びを、耳にした。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/25(火) 20:59:59.06 ID:FUW356KAO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/25(火) 21:00:24.34 ID:3894zBP40<>

届いて、と御坂美琴は願った。
鉄骨を繋げて作った空中の橋、渡るのは少し大変かもしれないけれど、助けたかった。
自分が待っていた黒髪の少年は、血まみれの青年を抱えていて。

その青年を見捨てろなんて言わないから、それがアンタの大事な人なら一緒に。

自分が作った細い細い磁力の糸で作り上げた、橋。
手を伸ばして、もう少しで届きそうだった。
でも、彼はこちらを見て、微かに笑って、そして。

「まだ、やる事があるから」

ごめんな、御坂。

そう笑って、黒髪の少年は。
その命綱を、右手で、断ち切った。





突如、自分が指示した安全な方向ではなく、『ベツレヘムの星』は方向転換して進み始めた。
それはまるで、復活した『神の力』と正面衝突を起こすかの様に。
確かにそうすれば『神の力』も『ベツレヘムの星』も丁度ぶつかって被害はほぼゼロ、だけれど。
それは同時に、上条とフィアンマの死をも意味していた。
焦りながらも呼びかけるステイルの声に、上条は反応しない。
このままでは、『ベツレヘムの星』は粉々になり、北極海に沈んでしまうことだろう。

「上条当麻、返事をしろ!」

返事は、無い。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/25(火) 21:00:25.55 ID:FUW356KAO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/25(火) 21:01:02.36 ID:3894zBP40<>
フィアンマを降ろし、上条は『神の力』へ呼びかけた。
『幻想殺し』という天界に存在する者を否定する様なモノに反応したのか、彼女はこちらを向く。
多量に出血したフィアンマは、深呼吸した後、『神の力』に向き合う。
上条が忘れた罪によってフィアンマが蒔いた種を、テッラが育て、やがて実る果実(悲劇)なら。
そんな果実は自分達で食べ尽くすべきなのだ、と上条もフィアンマも、覚悟を決めた。
誰一人、自分達以外に犠牲など出させない。

「やっぱり、俺様に出会った事は不幸だったんじゃないか?」
「いや、別に。一緒に死んじまうなら、それも仕方無いって」

生きる事に未練が無い訳ではなかったが、どちらか一人を喪った自分は、もはや自分ではなく。
ふらふらの疲れた身体で、走り出した二人は、一直線に『神の力』へと向かっていく。

上条は、今までの長くて短い人生を。
フィアンマは、上条によって生かされてきた人生を。

それぞれ幸せな回想だけをして、それぞれが一番得意とする一発を、大天使に叩き込んだ。

そして。


『神の力』はとうとう、地上から消滅し―――座へと、戻った。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/25(火) 21:01:03.35 ID:FUW356KAO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga !蒼_res<>2012/09/25(火) 21:02:46.08 ID:3894zBP40<>



北極海に浮かぶのは、御坂美琴と上条当麻がペアで持っていた、カエルの可愛いストラップ。



<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/25(火) 21:02:49.38 ID:FUW356KAO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga !桜_res<>2012/09/25(火) 21:04:24.87 ID:3894zBP40<>
ぶくぶく。
冷たい水の中、酸素を吐きだしながら、海の中に沈む。
泳いで泳いで、自分の元へ迎えに来てくれた上条の身体を、フィアンマは抱き寄せた。

「   」

名前を呼んで。
それに気が付いた上条は、幸福そうに笑む。
そしてフィアンマの身体を抱きしめ返した。
上には流氷や『ベツレヘムの星』を構成していた物品がある。
冷た過ぎて肌を刺す痛みの中、お互いの身体だけが温かった。

「          」
「  」

呼吸は苦しいけれど、口を動かして言葉を交わした。
別に読唇術を学んだ事は、双方共、無い。
でも。
上条の言葉をフィアンマは理解する事が出来た。
フィアンマの言葉を上条は理解する事が出来た。

「        」
「       」

怪我をしている自分を見捨てて、泳いで逃げれば、或いはまだ水面に出られる。
だから助かる可能性が、と言うフィアンマに、上条は首を横に振った。
どんな暗い場所に居ても、必ず迎えに行く。
今度こそ一緒に、いつまでも幸せに居ようと決めたから…そう主張して。
馬鹿だな、と言いかけて。ありがとう、と言葉を紡いだ。
手を握り合い、抱きしめ合い、二人はどこまでも、どこまでも。






――――どこまでも、深海の奥底に沈んで、いった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/25(火) 21:04:28.38 ID:FUW356KAO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>sage<>2012/09/25(火) 21:05:10.50 ID:3894zBP40<>
本日の投下は以上です。
閲覧ありがとうございます。 <> 誤字訂正<>sage<>2012/09/25(火) 23:04:44.60 ID:FUW356KAO<> >>123
脳を上位、汚染を下位

でした <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/26(水) 02:14:13.42 ID:IwsfnlISO<> 乙。結末はどうなるか… <>
◆2/3UkhVg4u1D<>sage<>2012/09/26(水) 15:55:25.72 ID:uT0a65Uk0<>
書き溜めが出来ましたので、投下します。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/26(水) 15:55:58.06 ID:Tz/a6a+AO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/26(水) 15:56:26.70 ID:uT0a65Uk0<>
御坂美琴は、雪の上にへたりこんで声にならない泣き声を漏らしていた。
もう少しで届いたのに。やる事があるから、なんて。

「ど、して…」
「…お姉様、とミサカは呼びかけます」
「どう、して」

ちぎれたストラップを握りしめて、少女はぼろぼろと涙を零した。
あんなに近い場所に居たのに、彼は自分の差し伸べた手を見て、申し訳無さそうに、払った。
優しい微笑みが、頭から消えない。目に焼き付いたまま。

私は、アンタが好きだったのに。
まだ、好きって言えてないのに。
電撃ばっかり向けて、意味のわかんない照れ隠しばっかりして。
ヤキモチを妬いて、結局、結局、ちゃんとアプローチ出来てなかった。
まだ、学生なのに。死んじゃった、の?
やる事って何なのよ。アンタがやらなきゃならないことなの?
そうね、アンタはそういうヤツだった。
でも、でも、自分の命を投げ出してまでやらなくたって良かったんじゃないの?

「こんな、こんなの…」

ストラップを強く握りしめて、美琴は肩を落とした。

「…せめて、さよならくらい、言わせなさいよ…」

女子中学生らしい、精一杯の、強がった後悔だった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/26(水) 15:56:28.08 ID:Tz/a6a+AO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga<>2012/09/26(水) 15:56:46.04 ID:uT0a65Uk0<>
「とうまはどこ? みはいるは? …二人は、どこにいるの?」

インデックスの言葉に、少年は、神父は何も言えなかった。
二人は本来、イギリス清教が保護する筈だった。
その手はずはしっかりと整っていたけれど、最後の最後、上条達はそれを拒否した。
四大属性の位置は再配置されました、という業務連絡の声が響く中。
ステイルはインデックスに謝る事しか出来なかった。
二人は今、北極海に沈んでいる事だろう。どちらも、帰ってくる事は無い。

「…、…すま、ない」
「……、…」

ボロボロの少女に、ボロボロの神父は、説明する事が出来なかった。
二人は救助の手を断ち切って海に沈んだんだ、だなんて。
インデックスはステイルの方へ手を伸ばし、手招きして微笑んだ。

「…大丈夫。…きっと、あの二人は帰って、くるもん」

約束したから。
先に帰っていてくれ、と上条は言った。
大切な家族だと思っているよ、とフィアンマは言った。
だから、自分の為にも、二人は死んだりしない。
希望的観測を口にするインデックスに、その場に居た全員は口を閉ざした。
北極海に落ちれば、生存はまず不可能。
捜索が続いているが、まったくもって、証拠すら見つからない。
そんな、希望を打ち壊す様な事実を、口にするなんて、出来る筈が無かった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/26(水) 15:56:47.66 ID:Tz/a6a+AO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga !桜_res<>2012/09/26(水) 15:57:29.44 ID:uT0a65Uk0<>
『きみ、なまえは?』
『…みはいる』
『そっか。おれはとうま』
『とうま? にほんじん?』
『うん』
『…なんでこんなところにいるんだ? もうくらいぞ』
『……おうち、かえっても…おかあさん、いないもん』
『…じゃあ、おれといっしょにごはんたべる?』
『え…いい、の?』

『わぁ、おいしそう』
『すきなだけたべていいからな』
『うん、ありがとう。えっと、とうま!』
『…うんっ』

『とうまは、すきなひといるの?』
『え、あっ…うー…』
『う?』
『みはいる、みたいなこが、すき、です』
『…ぼくみたいなこ、かぁ』
『み、みはいるはどうなんだよ』
『ぼくはとうまがすきだよ』
『! う…』
『とうまがほかのこをすきなら、あきらめるけど。…でもぼくににてるなら、ちょっとうれしいかな』
『おれ、おれは!』
『? とうまは?』
『みはいる、が! す、き…すき、です』
『……、…』
『…か、かお、まっかだな』
『…とうまも、まっかだよ』


『やだ…かえらないで、ずっといたりあにいたらいいよ、いっしょにいて、』
『…ごめんな』
『じゃあ、…てがみ、ぜったいだすから、みはいるもだせよ』
『うん、だす…ぜったいだ、…す、…』
『……そ、そうだ! えっと、おとなになったら、はくばにのってむかえにいってやるよ』
『え……?』
『…しろいおうまさん、たかそうだね』
『げんじつてきなこというなよ、ゆめないなあ…』
『まってるね』
『うん、やくそく』
『ぜったい、ぜったいぜーったいむかえにいくからな』
『うん…ぼくのこと、わすれない、でね』
『わすれない。…あ。あと、むかえにいって、ちゃんとおれたちがおれたちのことわかったら、けっこんしような』
『けっこん?』
『けっこん! そしたら、もうずっといっしょにいられるだろ?』
『…とうまだいすき!』
『っわ』
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(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/26(水) 15:57:30.81 ID:Tz/a6a+AO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga <>2012/09/26(水) 15:58:17.82 ID:uT0a65Uk0<>
ほのぼのとした、昔の夢から醒め。
目を覚ますと、知らない家に居た。
意識を失っても決して離すまいと握り締めていた手は、繋がれたまま。
身体の色々な場所に包帯を巻かれているミハイルの姿は痛々しかった。
でも、俺もミハイルも、生きてる。ちゃんと、呼吸出来てる。

「目が覚めた様だね」

声をかけられて、そちらを向く。
金髪の穏やかそうな男性と、綺麗な金髪のお姉さんが居た。

「無事そうで何よりだ。もう一人の彼は重傷の様だけど」
「…俺達を、助けてくれたん、ですか」
「まぁ、余裕があったからな」

ひとまず生きていて良かった、と彼は安堵の笑みを浮かべた。
お姉さんの方も微かに笑むと、ミハイルの様子を窺った。

「包帯は…まだ換えなくても大丈夫そうね」
「…ありがとうございます」

ミハイルの代わりに、お礼を言っておく。
正直あのまま死んでしまっても何もおかしくなったけど、この二人の御陰で助かったんだ。
と、調度ミハイルが目を覚ました。起き上がるのも痛いのか、弱々しく俺の服を掴む。

「…痛む、よな」
「…生きている、だけで充分だ」

ミハイルも二人に気が付いたのか、一言二言言葉を交わした後、お礼を言った。
二人はまだ少し寝ていたいだろうと気を遣ってくれたのか、部屋を静かに出ていく。
後でもう少ししっかりお礼言おう、と思った後、ミハイルの身体を抱きしめた。

「…良かった。…生きてて、…良かった」
「…ん、…」
「……怪我、治ったら。帰ろうな」
「…無事に帰れたら良いが。当麻は捜されていそうだし、戦争中の混乱に乗じてイタリアに引っ越すのも、悪くは無い」
「……、…嫌な予感がんだな。…なら、…それでも、いいか。俺は働き先か学校見つけて、回復したインデックス呼んで。イタリアでも、日本でもどっちでも…ミハイルと一緒だって手紙書けば、親父達は納得して安心するだろうし」

もしかしたら仕送りくれるかな、などとぼやきつつ。
学園都市に居る友人達には未練があったが、追々連絡出来たらそれでいいし、駄目なら駄目で仕方がない。
ミハイルの直感は神通力と言っても良い程によく当たるから、従うことにする。
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(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/26(水) 15:58:19.75 ID:Tz/a6a+AO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>saga <>2012/09/26(水) 15:58:42.54 ID:uT0a65Uk0<>

三ヶ月経過し。
もはや
上条当麻と右方のフィアンマと生存は絶望的だと諦められた頃。
そして、インデックスの体調がようやく全回復した頃。
イギリス清教に、魔術的な手段での連絡が入った。
『ブリテン・ザ・ハロウィン』においての治療においての協力者、もとい右方のフィアンマから。
上条も自分も無事であるとの連絡。
ある者は良かったと泣き出し、喜び笑って。
ある者は心配させやがってと悪態をつき、ある者は微笑み枕を抱きしめた。
ただ一人、来て欲しいと指名が来たのは、当然のことながら白い修道女の少女だった。








「とうまはいつも通り無茶したんだね」
「う…仕方無いだろ」
「もはや使命感の域だな」
「それは違う。…というかミハイルまで敵に回るなよ!」
「敵ではないな。インデックスとは同盟関係だ」
「何の!?」
「「退屈同盟」」
「八方塞がりなんですねなんですかなんでしょうね三段活用! 上条さんの味方はどこに消えたんだ、ちくしょう!」

イタリアのとある家の中。
白いシスターの咎める様な声に適当な相槌を打ち、赤い髪の少年は退屈そうに調理風景を眺めた。
後遺症で脇腹が痛むので、あまり身体を動かしたくないのだ。
少女は黒髪の少年が調理する様を同じく眺め、おなかすいたおなかすいたと邪気無く強請る。
と、テレビが始まった為、少女はリビングの方に引っ込み。
フィアンマは怠い身体で上条を後ろから抱きしめ、強めに力を籠めた。
そして、珍しくイタリア語で会話する。内緒話の様な、ひそひそとした声で。

「…当麻」
「んー?」
「…海の中で離さないで居てくれて、ありがとう」
「…離す訳ないだろ。こうやって、一緒に暮らしたくて、幸せになりたくて、好きだって伝えたんだから」

火を止めて、上条は振り向き様、唇を重ねた。
そして強く抱きしめ返し、囁く。

「何度だって、こうやって会いに行くけど。離れ離れはもう疲れたから、もう離れない」
「……結婚は、出来なかったな」
「オランダに行ってしても良いんだぞ。将来的に、だけどさ」
「当麻」
「ん?」
「愛してる」
「…俺も、愛してるよ。ミハイル」




王子様とお姫様は、いつまでもしあわせに暮らしました。






おわり <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/26(水) 15:58:44.22 ID:Tz/a6a+AO<> + <> ◆2/3UkhVg4u1D<>sage<>2012/09/26(水) 15:59:33.09 ID:uT0a65Uk0<>

とてつもなくアバウトな再構成でしたが、最後まで書くことが出来ました。
長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/09/26(水) 16:04:59.08 ID:g9QgNFAt0<> 乙でした!
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(長屋)<>sage<>2012/09/26(水) 16:06:37.98 ID:g9QgNFAt0<> これで今んとこのフィアンマSS全部終わったのか

終わってなかったらごめん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/09/26(水) 16:10:40.40 ID:Tz/a6a+AO<> >>156
はい、全て終わりました。
17時頃、またフィアンマさんスレ立てますが。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/09/26(水) 16:12:01.22 ID:g9QgNFAt0<> >>157

相変わらず好きやねぇ <>
◆2/3UkhVg4u1D<>sage<>2012/09/26(水) 16:14:16.80 ID:uT0a65Uk0<> >>158様
変わりませんし、ブレませんね…安価スレなので、よろしければご参加ください。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/26(水) 18:03:13.41 ID:IwsfnlISO<> 乙。幸せそうでなにより。テッラさんもいい感じだったな <>