◆tUNoJq4Lwk<>sage<>2012/09/16(日) 21:12:08.44 ID:zB3w0R/to<>
はじめての方ははじめまして。以前も読んでくださった方はお久しぶり。
私です。
このスレは、EVER GREEN 原作、P.A.WARKS 製作のオリジナルアニメーション、
『TARI TARI』の主人公をスクールランブルの播磨拳児にしたものです。
例によって、ストーリーの進行上、いくつか原作(アニメ)の設定を変更しております。
TARI TARIは好きだけど、何かちょっと物足りない。
そんな方に読んでいただきたいスレでございます。
少し長いので、なるべく寛大な心でごらんください。
それではよろしくお願いします。
平成24年9月16日 作者(イチジク)
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1347797528
<> TARI TARI RUMBLE!
◆tUNoJq4Lwk<>sage<>2012/09/16(日) 21:13:13.92 ID:zB3w0R/to<>
四月上旬――
まだ朝夕の冷え込みのあるこの時期だが、さすがに昼間の日差しは眩しい。
桜色の隙間から見える海はその眩しい光を反射させて輝いている。
太平洋側から吹き込んでくる潮風と、それに飛ばされる花びらがほんのりと春の
香りを運んできているようだ。
自宅近くの乗馬コースを愛馬サブレに乗った紗羽は、そんな春の風を切って走る。
「よーし、そろそろいいわね」
太陽の高さでおおよその時刻を見た彼女は手綱を引いてサブレを止めた。
「お疲れサブレ」
そう言うと、紗羽は乗馬用の手袋を外して馬の首筋を軽く撫で、首についた花びらを払う。
ほんのりとした温もりを彼女の柔らかい手を通じて感じられた。彼女は、この温もりが好きだ。
「それにしても暑いなあ」
朝方冷え込んでいたため、彼女は少し厚着をして乗馬を始めた。
だが日中の日差しで汗ばんでしまう。ただでさえ乗馬は体力を使うので、こうなってしまうのも
無理はない。
(帰ってシャワー浴びよう)
そう思い、彼女はサブレと一緒に馬房へ向かった。
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/16(日) 21:15:06.72 ID:zB3w0R/to<>
サブレの世話を終えて家に帰ったのが、午前十一時過ぎ。午後から、彼女の所属している
弓道部の練習があるので、すぐに着替えて準備をしなければならない。
家に入ると、微かに味噌汁の香りが漂っていた。母親が昼食の準備をしているのだろう。
今日、僧侶である紗羽の父親は、朝から檀家の所に出向いているので、昼はいないはずだ。
玄関で乗馬用のブーツを脱いでいると、不意に見覚えのない大きな靴が目に入った。
(お父さん、こんな靴持ってたっけ)
父がいつも履いているニューバランスのスニーカーとは少し違う靴。
新しく買ったものにしては、少しくたびれて見える。
しかし、年頃の娘らしく父親に対してさして興味のない彼女は、すぐにその靴の存在を忘れていた。
「ただいまお母さん」
靴を脱ぎ終わった紗羽は家の中に入って行き、台所にいる母に声をかける。
「あらおかえり紗羽。今日は早いのね」
エプロン姿の紗羽の母親、志保がそう言った。
サーフィンが趣味で褐色の肌に海水で少し荒れた髪の母は主婦というよりも、
海の家の店員のようだ。
「今日は午後から弓道部の練習があるから」
「そう。昼食、早めに食べる?」
「あ、うん。でも先にシャワー浴びて着替えて来るね。ちょっと汗かいちゃった」
「あ、そうなの」
紗羽は台所から風呂場に向かう。途中、シャツのボタンを外しながら、少し息をついた。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/16(日) 21:16:31.05 ID:zB3w0R/to<>
(また大きくなったかな……)
成長した胸は彼女にとっては悩みの種であった。
彼女の親友の来夏は羨ましいとか言って時々揉んでくるけど、肩こりもあるし男子から
エッチな目で見られることも多い自分のそれを、彼女は少しうっとおしく思っていた。
(さっさとシャワー浴びよう)
そう思い浴室の引き戸に手をかけた瞬間、微かに温かい石鹸の香りを嗅ぐ。
「あれ? お母さんもシャワーあびたのかな」
紗羽が思いっきり戸を開くと、
「あ……」
「え?」
素っ裸。
父親か。一瞬、そう思ったが父にしては体格もいいし何より黒い髪の毛が生えている。
そしてパンツを履いていない。
全裸だ。
「い……」
冷静になろうと思った紗羽だが、目の前の全裸男の姿をはっきりと認識すると、
冷静ではいられなかった。
「いやあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
一気に振り返り、廊下はバタバタと走る紗羽。
「どうしたの紗羽」
騒ぎを聞きつけた母がその豊満な胸で娘を受け止める。
「ふが。あ、お母さん!!」
「もう、昼間からそんな大声出して」
「風呂場に、風呂場に変質者が!!」
「あ、彼ね。ごめんごめん、お風呂入ってたの忘れてたわ」
「はい?」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/16(日) 21:17:18.18 ID:zB3w0R/to<>
TARI TARI RUMBLE!
第一話 女っつうのはどうも苦手で <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/16(日) 21:17:59.78 ID:zB3w0R/to<>
この日の昼食は、いつもより豪華だった。
といっても、ごはんに味噌汁、それに魚の塩焼きにきんぴらごぼうが少し付いただけなのだが、
春休みの昼食はチキソラーメンにネギと卵をぶちこんだ程度の昼食で済ます母にしては豪華なのだ。
だが今の紗羽には、そんなことを気にしている余裕はない。
「どういうことなのよ! お母さん!!」
「アハハ、言ってなかったわね」
怒る娘に対して、母は笑っていた。
紗羽の母親、志保の隣りには父、正一よりも大柄な男性が座っている。
黒髪をオールバックにして、サングラスをかけた髭の青年(少年には見えない)。
「彼は播磨拳児くん。ハリマは、播磨灘の播磨。ケンジはコブシの拳に児童の児と書いて拳児」
「漢字とか聞いてないから。何でその彼がウチでお風呂に入ってるの?」
「だって拳児くん、昨日お風呂に入っていなかったって言うから」
「わ、わかったわよ。それで、どうして彼がここに」
「あら、言ってなかったかしら? 今日から彼、ウチで下宿するの」
「はあ?」
「なあに?」
母は笑顔を崩さない。
「き、聞いてないから」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/16(日) 21:19:09.36 ID:zB3w0R/to<>
「そういう話、してたでしょう?」
「いや、してたけど。でも急すぎない?」
「拳児くんは、私の親戚でね。この春から紗羽の通う学校に編入することになったのよ」
「し、白浜坂高校に?」
「そうよ。ウチからなら通いやすいでしょう?」
「だ、だからって年頃の娘がいる家に男の人を下宿させるって」
「拳児くんには離れを使ってもらうから大丈夫よ。一つ屋根の下ってわけでもないわ」
「で、でも一緒に暮らすってなると色々。今日だって……」
「ん?」
紗羽は播磨の顔を見る。サングラスをしているので表情はわからない。
ただ、彼の顔を見ると先ほど見た全裸姿が脳裏によみがえってくる。
引き締まった筋肉質の身体は、なんというか、彼女の心拍数を大いに上げる。
「どうしたの? 顔、赤いわよ」
志保はニヤニヤしながら聞いてきた。
「な、何でもない!」
「……」
それよりも、件の播磨は先ほどからずっと俯いて黙っている。
さっきから騒いでいるのは自分だけだったので、紗羽は別の意味で恥ずかしくなってきた。
「どうしたの? 拳児くん」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/16(日) 21:19:47.46 ID:zB3w0R/to<>
隣にいる志保が聞いた。
「いや、その」
播磨は口を開く。
初めて聞く彼の声は、少し低く、父親とはまた別の男らしさがあった。
しかし次の瞬間、
「……!」
盛大に鳴き出す腹の虫。
「あら、おなか減ってたのね。フフフ」
「スンマセン、朝から何にも食ってなかったもんで」
「いいのよ、早くいただきましょう」
「もう何なのよ!!」
彼の関心は、紗羽ではなく目の前の昼食にあったようだ。
まるで独り相撲をしているように思った紗羽の怒りはさらに増してしまう。
「それより、紗羽。あなたも早く食べなくていいの? 部活、あるんでしょう?」
「ふえ?」
時計を見ると、すでに十二時半を過ぎている。
「いけない!」
目の前のごはんをかきこみ、味噌汁で流し込んだ紗羽は立ち上がる。
「ごちそう様!」
「こら、お行儀悪いぞ」
「今はそれどころじゃないから!」
「もー」
イライラをかき消すように、紗羽は荷物を持って家を出た。
この日の弓道部の練習は、イライラのせいでまったくうまく行かなかったことは言うまでもない。
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/16(日) 21:23:13.91 ID:zB3w0R/to<>
その日の夜、沖田家では播磨拳児の歓迎会を兼ねた宴が催された。
「いやあ、よく来たね拳児くん」
数杯のビールで顔を赤らめた紗羽の父、沖田正一はそう言って播磨の肩を叩く。
「どうもっス」
播磨は相変わらず大人しくご飯を食べている。
遠慮しているのだろうか。
「本当にウチに下宿するの?」
「だからさっきからそう言ってるでしょう?」
うんざりとした様子で母親の志保は言った。
実は母のほうが父よりも多くお酒を飲んでいるのだが、彼女は顔色一つ変えない。
「でも、一緒に住むってその、大変だし」
「困ったときはお互い様だろう。幸い、ウチは広いんだし大丈夫だろ」正一は言った。
「でも」
「申し訳ないっス。正一さん」
未だに戸惑っている紗羽の言葉を気にしたのか、播磨はそう言って謝る。
「気にすることない! 自分の家だと思って寛ぎなさいよ」
そんな彼の言葉を正一は豪快に笑い飛ばす。
「……」
「お父さんはね、息子ができたと思って喜んでるのよ」
志保は(自分用の)ビールを注ぎながら言った。
「そうなんッスか?」と、播磨。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/16(日) 21:23:48.93 ID:zB3w0R/to<>
「まあなあ。昔から、息子と杯を交わすのが夢だったんだ。拳児くん、一杯どうだ」
「ダメよお父さん。未成年にお酒すすめちゃ」
僧侶とは思えない行為に、紗羽も志保も呆れていた。
「拳児くんは、小さいころ紗羽とも会ったことがあるんだぞ。覚えてないか」
正一はいきなり聞いてきた。
「え? 小さいころ?」
紗羽は幼いころの記憶をたぐりよせてくる。しかし、彼のイメージと重なるような少年は
ついぞ浮かんでこなかった。
「ごめん」
「まあ、無理もないか。ハハ」
「俺も覚えてねェから」
「だよな。小さかったからな」
「ほら、拳児くん。もっと食べて」
「はあ」
紗羽は気まずかった。
最初の出会いがアレだっただけに、彼とどう接していいのかわからなかったのだ。
しかしそれ以上に、こういう大事なことをギリギリまで伝えなかった両親に対し、
不信感があった。
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/16(日) 21:25:36.49 ID:zB3w0R/to<>
これまで親子水入らずの空間で生活していた紗羽にとって、全くの“異物混入”は
予想外のことである。
当然、心の準備もできない。
(どうしよう。これからは夏場に下着でウロウロすることもできなくなる)
どうしようもない先のことまで心配する始末。
食事の後、台所で食器を洗う母に紗羽は声をかけた。
「ねえ、お母さん」
「どうしたの紗羽。もうお風呂はいった?」
「お風呂はまだ。それより、あの」
「拳児くんのこと?」
「……うん」
「ごめんね。こっちも急なことだったんで、言うのが遅れちゃって」
「急なこと?」
「ええ。拳児くん、この間まで一緒に住んでいた従姉の人が急に海外に行くって言ってね。
それで住むところが無くなったのよ」
「そう、なんだ」
「本人はアパート借りて一人暮らしをするって言ってたんだけど、まだ高校生でしょう?
あの子、料理とかもできないし生活力もあんまりないからご両親心配してね。
それで、親戚の私が引き取ることにしたの」
「そんな簡単に……」
「困ったときはお互い様よ。それに、長くても高校を卒業するまでの一年だし、
あなたもいい経験だと思ったら?」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/16(日) 21:26:43.79 ID:zB3w0R/to<>
「そんなの、思えないよ」
高校卒業。
今年三年生になる紗羽には重い言葉だった。
今まで、ただ漫然とすごしてきた高校生活。その先に何があるのか、彼女には
まだ想像できない。
「そういえば拳児くん、やりたいことがあるって言ってたな」
「やりたいこと?」
「何かは教えてくれなかったけど、それがあるから実家には帰らないのかもね」
「そう、なの」
(拳児くんのやりたいことって、何だろう)
突然家に転がり込んできた男子高校生、播磨拳児。紗羽の中で、少しだけ彼に対する
興味がわき出てくるのだった。
しかし、それが表に見えるのは、まだもう少し先の話である。
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/16(日) 21:28:16.85 ID:zB3w0R/to<>
翌朝、寺の離れで目を覚ました播磨拳児は学校の制服に着替えて本宅の台所に向かった。
朝食の香りがただよってくる。
「おはようッス」
遠慮がちにそう挨拶すると、新聞を読んでいた正一がこちらを見た。
「おはよう、拳児くん。寝坊はしなかったみたいだね。昨日は遅かったのに」
(アンタが付き合わせたんだろうが)
播磨は心のなかでそう思ったが、住まわせてもらっている手前、心の中に押し込んだ。
「お父さんが夜中まで付き合わせたのが悪いんでしょう?」
そう言うと、志保はごはんの入った茶碗を置く。
なんというか、久々のまともな朝食だ。
「おはよう」
すまし顔で紗羽が食卓に着く。
「おはよ」
一応声をかけてみる。だが彼女は播磨とは目を合わさない。
(あんな出会いすりゃ当然か)
彼にも自覚はあったけど、この気まずさはどうしようもない。
「ごちそうさま」
光の速さで紗羽は朝食を終える。
「ねえ、紗羽。播磨くんを学校まで連れて行ってあげなさいよ。彼、編入したばかりだから」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/16(日) 21:29:34.43 ID:zB3w0R/to<>
志保がそう言う。
「ごめん母さん。今日、朝練あるから一緒にはいけない」
「新学期なのに?」
「うん。じゃあ、行くね」
紗羽はさっさと朝食を済ませると、荷物をまとめて学校へと行ってしまった。
まだ登校には早い時間だが、自分も職員室に寄らなければいけないので早めに出る
必要がある。
「ごめんね拳児くん、難しい年頃だから」
苦笑いしながら志保は言った。
彼女が娘の紗羽について謝っていることはすぐにわかる。
「別にいいッス。あの年代なら当然ッスよ。いきなりここに住まわせてもらっているこっちが
悪いんッスから」
「別に負い目に感じることはないんだぞ拳児くん」
そう言ったのは正一だ。
「キミのお父さんとお母さんにはお世話になっているし。何なら、卒業してからもここに住むか」
「お父さん」
「冗談だよ」
「ま、なるべく早くここを出られるように努力するッス」
「拳児くん」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/16(日) 21:30:47.45 ID:zB3w0R/to<>
少し悲しげな表情を見せた志保を見た播磨は、ヤバイと思いフォローを入れた。
「いや、ここが悪いってわけじゃねェんだけど、やっぱり娘さんもいるし」
「そんなの気にしなくていいのよ拳児くん。もし何か間違いがあっても、責任取ってくれさえすれば」
「さ、さすがに不味いよ母さん」
「あら、そうだったわねオホホホホ」
そう言うと、二人はまるで子供のような笑顔を見せた。
この年になっても仲が良いのはいいことだ、と播磨は思う。
「ところで、お二人に相談なんッスけど」
「何々? 紗羽の好きなタイプとか聞きたい?」
「母さん」と、すかさず正一がツッコミを入れる。
「いや、娘さんのことではないッス」
色々誤解されては困るので、播磨ははっきりと否定しておいた。
これまで、無用な誤解で色々と痛い目を見ているからだ。おバカな彼もさすがに学習する。
「あらそうなの」
そんな播磨の態度に、志保は露骨にシュンとしていた。
「話いいっすか」
「どうぞ」
「ここいらで、いいバイト先ないッスかね」
「バイト?」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/16(日) 21:31:59.91 ID:zB3w0R/to<>
「アルバイトか」
二人は顔を見合わせる。
「少しでも、今後の糧にできたらと思いました。時給はいいにこしたことはねェけど、
とりあえず時間の融通が利くところがいいっすね」
「そうか、知り合いにいい店がないか聞いてくるよ」と、正一は言う。
「そうね。私も友達に聞いてみるわ」志保も言った。
「でも大変だな。ここに来てすぐなのに、もうバイトを探すなんて」
正一は感心したように言う。
「受験勉強とかはいいの?」
そう聞いたのは志保だ。
「自分は、進学しないッスから」
「ああ」
「できるだけ早く自立したいんで」
「そうか」正一は感心したようにうなずく。
「偉いわね拳児くん。でもね――」
「ん?」
気が付くと、志保は播磨のすぐ横まで来ていた。
「少しは大人を頼ってもいいのよ」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/16(日) 21:33:15.69 ID:zB3w0R/to<>
そう言うと、志保は播磨の頭を抱え込むように抱きしめる。
「うおお!?」
微かに香るマリンノートの匂い、そして柔らかい感触が播磨の耳に当たる。
「母さん!」
さすがにその光景を見た正一は身を乗り出した。
「妬かない妬かない。本気じゃないから大丈夫よ。ま、父さんの言うとおり、男の子もいいわね」
播磨から手を離すと、そう言って志保は笑う。
「はあ」
急な状況に戸惑う播磨。
ただ、久しぶりに会ったにも拘らず、ここの家族は実に優しく接してくれると思った。
娘を除いて。
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/16(日) 21:34:14.69 ID:zB3w0R/to<>
播磨の通う白浜坂高校は家からそれほど遠くない場所にある。
多くの生徒たちが登校する中、彼は坂を上る。
(なぜ学校ってのは、坂の上に作るんだ。山城のつもりか?)
そんなことを思いながら。
校門付近に行くと、ジャージ姿で走っている一人の男子生徒が目に入った。
「おお、すまねェ」
播磨はその生徒を呼び止める。
練習中悪いとは思ったが、周囲の生徒たちは彼を警戒して近づこうとしなかったので
仕方がない。
「職員室にいきてェんだが、どう行ったらいいんだ」
編入試験の時には、職員室には行かなかったのでどこにあるのかわからなかったのだ。
「ん? ああ。職員室な。そっちだよ。あの校舎」
「おお、そうか。悪いな練習中」
「別にかまわないよ。転入生?」
「まあ、そんなところだ」
こうして、練習中の生徒と別れようとしたとき、
「ああ、ちょっと」
「あン?」
先ほどの走っている男子生徒が呼び止める。
「職員室の校舎に行くなら、そっちの道を通った方が早いぜ」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/16(日) 21:35:49.57 ID:zB3w0R/to<>
「道?」
どうも、中庭を突っ切るような道だ。
「ここの生徒は、時間が無い時は皆そうしてる」
「そうか。サンキューな」
そう言うと、播磨は男子生徒の言うとおりの道を進んだ。
*
先ほどのスポーツ少年の言うとおり、人通りは少ないけれど、こっちのほうが早く行けそうだ。
播磨が細い道を少し早足で歩いていると、
「ちょっと、そこのキミ」
不意に声をかけられた。
「あン?」
振り返る播磨。しかし後ろには誰もいない。
「ここよ、ここ」
左右を見るが、こちらを見ている生徒はいない。
「どこだ」
「ここ」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/16(日) 21:36:28.95 ID:zB3w0R/to<>
「は?」
顔を上げると、木の枝にまるで雀のように座っている女子生徒がいるではないか。
小柄な少女で、少し長めの髪に目がちょっとタレ目に見える。
そして何より、スカートを履いているので……。
「あんまり見ないでよ」
「そっちが呼んできたんだろう」
「まあいいわ。それより、見ない顔ね。新入生? 入学式は明日のはずだけど」
「編入生だ」
「あ、そうなんだ。珍しいわね」
「お前ェはなんだ。一年生か?」
「何言ってるのよ。入学式は明日なんだから一年なわけないでしょう? こう見えて私、三年生なのよ」
(俺と同じか。見えねェな)
木の幹の上で足をブラブラさせている少女は小柄だったので、とても高校三年には見えない。
「それより編入生くん。たのみがあるんだけど」
「あンだよ。俺は忙しいんだ」
「降りられないの」
「は?」
「降りられないの」
「そもそも、どうして登った」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/16(日) 21:37:09.83 ID:zB3w0R/to<>
「私チビだから、人を見下ろすのが好きで」
「マジか」
「冗談よ。あのね、昔見たアニメで木に上って歌を歌っているシーンがあったの。
それを再現してみたくて、こうして登ったんだけど」
「降りられなくなったと」
「そういうこと!」
(アホかコイツは)
そう思った播磨。しかし、彼は頭の弱い子も嫌いではなかった。
かつて彼が好きになった女の子も、かなり頭が弱かったからだ。
「で、どうすりゃいいんだ?」
「受け止めてくれる?」
「どうやって」
「そこに立ってて」
「は?」
「行くよ」
「おい、何を急に」
「きゃあ!!」
一瞬、世界が反転した。
木の上から落ちてくる少女を受け止めた勢いで、転倒してしまったらしい。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/16(日) 21:38:03.38 ID:zB3w0R/to<>
幸い、下が柔らかい芝生だったのと上手く受け身を取れていたので怪我はせずにすんだ。
「おー、無事に着地できたね」
そう言ってスクリと立ち上がる少女。
「無事じゃねェ! 転んじまったじゃねェか」
「いやあ、メンゴメンゴ。でも助かったよ、あのまま始業式まで木の上だったら恥ずかしいもんね」
「見ず知らずの俺に迷惑かけたことをまず恥じろよ」
「あハハ。ありがとう。立てる?」
「ああ」
少女は播磨の腕を掴み、彼を引き起こそうとする。
小さな手だ、と彼は思った。
ポンポンと手で汚れを払った播磨は、再びカバンを持つ。
「あ、自己紹介まだだったね。私、三年の宮本来夏(みやもとこなつ)。よろしくね」
「俺は播磨だ」
「ハリマ? 変わった名前」
「そうか。おっと、それよか職員室いかなきゃならんのだった」
「職員室なら、この先真っ直ぐ行った入口を右に曲がったところだよ」
「おう、そうか」
「ま、案内板があるからそれを見たら早いけど」
「そうだな」
「またね、播磨くん」
「お、おう」
春の日差しの中で出会った少女の笑顔は、散りかけの桜の花よりもやけに印象的であった。
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/16(日) 21:40:17.74 ID:zB3w0R/to<>
本当は朝練などなかったのだが、あえて早めに学校にきていた紗羽は暇を
持て余していた。
しばらくして、大分遅くなってから親友の来夏が教室に入ってくる。
「何してたのよ、来夏」
少し膨れ面で紗羽は聞いた。
「いやあ、ちょっと色々あって」
「どうせ校内の木に上って降りられなくなったんでしょう」
「エスパーか」
「ってか、何で当たるのよ。本当に降りられなくなったの?」
「まあ、近くに親切な人が通りかかってくれたから遅刻せずに済んだけどね」
「あんまり人に迷惑かけるんじゃないよ」
「えへへ。テレペロ」
「それ可愛くないから」
「というか、紗羽怒ってる?」
「え? 何が」
「機嫌悪そう」
「別に……」
「重い日?」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/16(日) 21:41:16.46 ID:zB3w0R/to<>
「違うから」
「新学期から何があったのよ」
「何でもない」
「またお父さんとまた喧嘩したの?」
「してないから別に。ていうか『また』って何よ」
「紗羽ったら。いつも私に何でも話せって言ってくるくせに、自分の時は言わないの?」
「べ、別にそんなんじゃないから」
「へえ」
「今度話すよ」
「そっか。なるべく早めにお願いね。私、忘れっぽいからね」
「そうだね」
今度話すよ、と言って話し忘れていた話題がかなり多くあることを今更ながらに
気づく紗羽であった。
ふと、視線を移すとそこには見覚えのある女子生徒がひっそりと座っていた。
(和奏……)
母親同士が知り合いだったので、幼いころから知っている少女、坂井和奏だ。
(普通科に転籍したっていう噂、本当だったんだな)
中学の時はよく話もしていたけれど、高校に入ってからはクラスが違うということも
あって、ほとんど話をする機会のなかった和奏。
そして、音楽科から普通科に移るという一種の“挫折”を経験した彼女に、
紗羽は何を話しかけていいのかわからなかった。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/16(日) 21:42:30.41 ID:zB3w0R/to<>
「紗羽、どうしたの?」
と、覗き込むように聞いてくる来夏。
「来夏、アンタもうすぐ先生くるから自分の席に戻ったほうがいいよ」
「ん? そうだね」
そんな話をしていると、教室の戸が開く。
「はーい、皆さん。新学年最初のホームルームですよ。早く席に着いて」
妊娠六か月目を超え、お腹の辺りが目立つようになってきた担任教諭の高橋智子が
クラス名簿を抱えて入ってきた。
彼女の言葉と共に、席を立っていた生徒たちが一斉に自分の席に戻る。
と、同時に教室の後ろのドアが開いた。
「すみません! ギリギリセーフ?」
髪が短めで、活発総な男子生徒がそこにいた。
「田中、アンタ三年生にもなってまた遅刻?」
高橋はあきれ顔で言う。
「いや、朝練に熱中し過ぎちまって」
「はいはい、初日くらいは見逃してあげるわよ。さっさと席について」
「はい」
田中と呼ばれた男子生徒は、田中大智。本校でただ一人のバドミントン部だ。
「今日は皆に編入生を紹介するわ。播磨くん、入ってきて」
編入生、という言葉の時点で紗羽には誰が入ってくるかわかっていた。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/16(日) 21:42:58.20 ID:zB3w0R/to<>
ざわつく教室。
背の高いサングラスの男子生徒。どう見ても不良。
「播磨拳児くんよ。仲良くしてあげてね」
キレイな字で黒板に、彼の名前を書く高橋。
不意に播磨と目があったので、紗羽は露骨に視線を逸らした。
別に嫌っている、というわけではなく、学校でどう接していいのかわからなかったのだ。
(これでクラスが別なら少しは救いがあったのだけど、逃げ場がない)
そんなことを思いながら隣りを見ると、来夏が軽く手を振っていた。
(あれ?)
*
始業式のために体育館へ向かう途中、紗羽は来夏に話しかける。
「ねえ、来夏」
「ん、何?」
「あなた、はり……、転入生のあの人と知り合いなの?」
「転入生? ああ、播磨くんね。そうだよ」
「どこで」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/16(日) 21:43:48.19 ID:zB3w0R/to<>
「今朝、助けてもらったの。木からおりられなくなった時に」
「そ、そうなんだ」
「どうしたの、紗羽。あ、もしかして気になったりする?」
「べ、別にそんなことは」
「ああ、紗羽ってああいうワイルドなタイプが好きなのかなあ」
「違うから」
(ワイルド……)
不意に昨日の光景がよみがえる。
確かにあの筋肉質な身体はワイルドかもしれないが。
「ち、違うから……!」
「なぜ二度も否定する」
「とにかく、来夏も気を付けた方がいいよ。男は狼なんだから」
「確かにそうかもしれないけど、そんなに警戒してたらカレシの一人もできないよ」
「来夏だってそうでしょうが」
「紗羽ったら、素材がいいんだからもっと心を開けば、恋人の一人や二人。ね、田中」
「はあ? 何の話だ」
急に話を振られて驚く男子生徒の田中大智。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/16(日) 21:44:24.54 ID:zB3w0R/to<>
彼は別に話を聞いていたわけではなく、偶然近くを歩いていただけだ。
「紗羽は可愛いから、その気になれば恋人が作れるって話」
「沖田は性格がアレだから、そこを何とかする必要があるんじゃないのか」
「うるさい田中!」
田中の言葉にカチンと来た紗羽は思わず語気を強める。
「は?」
「バーカ、無神経、クズ」
「そこまでいうことないだろう」
「バトミントンバカ」
「バトミントンじゃねえ、バ“ド”ミントンだ!」
「あ、怒るところそこなんだ」
来夏はあきれたようにつぶやいた。
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/16(日) 21:45:10.45 ID:zB3w0R/to<>
その日は始業式だけで、授業もなく学校は終わった。
「ねえ、播磨くん」
帰りのホームルームの時、高橋は播磨を呼び止める。
「なんッスか」
「まだこの学校慣れてないでしょう? 教室移動の時とか困るだろうから、
学校案内してあげる」
「先生がしてくれるんッスか」
「ごめん、これから会議があるから私はできないわ」
「はい?」
「学校に詳しい人にやってもらおうかしら」
「はあ」
「あ、ちょっと」
「え?」
高橋は一人の生徒を呼び止めた。
「坂井さん」
「はい」
黒髪を後ろでしばった女子生徒。
(こんな生徒いたか)
存在感が薄かったのか、播磨はこの日、彼女の存在を認識していなかった。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/16(日) 21:46:09.50 ID:zB3w0R/to<>
「坂井さん、早速で悪いんだけど、彼、播磨くんに学校を案内してあげて欲しいんだけど、
頼める?」
坂井と呼ばれた女子生徒は播磨と高橋の顔を交互に見て、少し視線を落とした。
(気持ちよく引き受ける、って雰囲気ではなさそうだな)
女心に関しては鈍いと言われ続けていた播磨も、彼女の気持ちは表情から察することができた。
「別にかまいませんよ……」
女子生徒は力なく頷く。
「そう、ありがとう。私、これから会議だから」
「どこまで案内したらよろしいんでしょうか」
「うーん、簡単にね。授業で使う特別教室とかを中心に」
「私、普通科の授業は……」
「あ、そうだったか。まあいいじゃない、自分も学ぶつもりで」
「はあ」
「じゃ、私行くからね」
高橋が早足で教室を出ると、坂井は播磨のほうを向いて言った。
「じゃあ、行こうか」
「お、おう」
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/16(日) 21:46:53.16 ID:zB3w0R/to<>
教室を出て、校内を案内する坂井と呼ばれた女子生徒。
「悪いな、放課後に付き合わせちまって」
「別に……」
「部活とかあるんじゃねェのか」
「ないから」
「ん?」
「入ってないから」
「そうか」
「……」
(気まずいな)
そう思った播磨は、
「別に嫌なら案内してくれなくてもいいぞ」
「どういうこと?」
「ああいや、別に怒ってるわけじゃねェんだ。無理して案内してくれなくてもよ、
案内図もあるし、自分で散策することもできるって話だ」
「ここの学校、普通科だけでなく別の学科もあるし、それに男子生徒が入っちゃ
いけない場所もあるの。だから、ちゃんと案内しないと」
「そうなのか」
「そうなの」
「他の学科って、何があるんだ?」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/16(日) 21:47:43.92 ID:zB3w0R/to<>
「……っ」
一瞬、坂井の動きが止まる。しかし、またすぐに前と同じ様子に戻った。
「どうした」
気になった播磨は思わず聞いてみる。
「べ、別に。ここは普通科の他に、美術科や音楽科があるの」
「ほう、美術科ね」
「播磨くん、美術に興味ある?」
「いや、別にそういうことじゃねェけど。あと、音楽科だっけ?」
「……そう」
坂井の顔がますます暗くなる。
(何なんだよ一体)
彼女の様子は気になるところだが、出会ったばかりの相手に深入りするほど彼も
図々しくはない。
「お、転入生」
そんな中、不意に誰かが声をかけてきた。
「誰だ」
「俺だよ、田中。田中大智」
「ああ、確か同じクラスの」
「朝、お前俺に声をかけただろう」
「そういやそうだったな」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/16(日) 21:49:44.83 ID:zB3w0R/to<>
ジャージの上下を着た田中大智だ。制服の時よりも生き生きして見えるのは、
根っから運動好きだからなのだろう。額には薄らと汗がにじんでいるのが見えた。
「何してんだ?」
と、田中は聞いた。
「学校を案内してもらってた」
播磨は答える。
「そうか。坂井が案内してるのか」
「……うん」
坂井は小さく頷いた。
「ま、わからないことは何でも聞いてくれ。この時期の転校って色々大変かもしれないけど、
お互い助け合って行こうぜ」
「そうだな。ところでお前ェ、部活中か」
「ああ、そうだ」
「他の部員は?」
「部員はいない」
「は?」
「部員は俺一人」
「何の部活だ」
「バドミントン部だ」
「バトミントン?」
「バトミントンじゃねえ、バドミントンだ。間違えるな」
「……そうか」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/16(日) 21:50:11.91 ID:zB3w0R/to<>
(どっちでもいいだろう。目玉焼きの焼き方くらいどうでもいい)
「播磨、だったよな」
「ああ」
「お前、いい身体してるな。バドミントンやらないか」
「いや、部活はちょっと」
「まあそうだな。悪い悪い。じゃあな」
「ああ」
そう言うと田中はまたどこかに走って行った。
その後ろ姿を見送った後、不意に坂井が声を出す。
「播磨くんは――」
「あン?」
「部活とかやっていなかったの?」
「いや、別に部活はやってねェなあ」
「そうなんだ」
「お前ェは、ああ、やってないって言ってたな」
「うん」
「そうか」
「じゃあ、こっち案内するね」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/16(日) 21:51:15.85 ID:zB3w0R/to<>
「お、おう」
何とも絡みにくい相手だ、と播磨は思った。
下宿先の沖田紗羽も付き合い難い。
自分は女とは上手く接することができない体質なんじゃないか、とここ最近
思うようになってきた。
(全員が全員、宮本来夏みたいなさっぱりとした性格だったら楽なんだけどな)
前を歩く坂井の項(うなじ)を見ながら、播磨はふとそんなことを思った。
*
学校見学を終えた播磨が下宿先の寺に戻ると、入口付近で僧衣をまとった正一が
掃除をしていた。
「ああ、おかえり拳児くん」
「た、ただいまッス」
自分の家でもない場所でこの言葉を言うのは少し恥ずかしい。
「学校、どうだった」
「まあ、まだ初日なんで」
「そうだな。これからだな」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/16(日) 21:52:05.09 ID:zB3w0R/to<>
そう言って笑顔を見せる正一。昨日はあまり意識しなかったけれど、僧衣を着た正一は、
やはり住職なんだと思える。
「クラスはどの組に」
「三年一組、娘さんと同じクラスで」
「そうか、紗羽と同じクラスか。あの子とは話を?」
「ああいや、学校では目も合わせねェっつうか、話す機会もなかったッスね」
「まあ、出会って実質二日目だしな。無理もないか」
「まあ……」
「昨日も少し話たけど、あの子は難しい年頃でね」
「はあ」
「最近は私とも滅多に口をきかないんだよ」
「よくありますね、あのくらいの年齢だと」
「だから、拳児くんみたいな同い年くらいの人だと、心を開いて話をしてくれるんじゃないかと
思ってね」
「買い被り過ぎッスよ。まともに話もしてないのに」
「はは、これから仲良くなっていけばいい」
「女っつうのはどうも苦手で」
「ウチの家内には気に入られてるようだけど」
「いや、あの人は例外っつうか」
「あら拳児くん、帰ってたの?」
噂をすれば影、サンダルを履いた志保が出てきた。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/16(日) 21:53:40.71 ID:zB3w0R/to<>
細いジーンズが似合いすぎている。
「檀家さんからおまんじゅう貰ったの、後でいただきましょう?」
そう言って志保は播磨の腕を引っ張った。
「え? はい」
戸惑う播磨。彼女はそんな播磨の反応を楽しんでいるようでもある。
「こらこら、私の存在を無視するな。一応、この家の主人だよ」
「あら、ごめんなさい」
そして正一の反応も楽しんでいる風でもあった。
(女はよくわからん)
それが播磨の偽らざる感想でもあったのだ。
「あ、そうだ拳児くん」
「はい?」
母屋に向かう途中、志保は立ち止まる。
「例のバイト、早速見つかったんだけど」
「本当ッスか?」
「ええ、知り合いの店なんだけど」
「はあ、詳しく聞かせてください」
「うん」
志保は楽しそうに頷いた。
つづく <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage <>2012/09/16(日) 21:56:55.98 ID:9e8eF8Xc0<> ふむふむ、続きを楽しみにしています <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/16(日) 21:59:36.54 ID:zB3w0R/to<>
長い長いプロローグがやっと終わりました。
本来、true tears でやる予定だったのだけど、なんかエグイ結果になりそうだったので止めました。
さて、播磨はTARI TARIのヒロインたちとどう絡んで行くのでしょうか。
言うまでもなく彼はフラグ体質なので、恋愛感情が絡んでくることは避けられませんね。
あと、皆が大好きWくんも、登場予定なのでご安心くだされ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2012/09/16(日) 22:26:43.30 ID:Lq+L1yOi0<> クロスオーバーで恋愛は…… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県)<>sage<>2012/09/17(月) 01:41:20.64 ID:rYpOAu2po<> スクラン側から出てくるの播磨だけなのかな? <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/17(月) 11:49:47.40 ID:8oArb7oXo<> ※お詫び※
作者コメントで筆をすべらせる(余計なことを書く)傾向があるので、今回も例によって
質問等には答えられません。申し訳ない。
ただ、全部終わってから色々と白状しようと思います。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/17(月) 20:19:59.87 ID:h43aPVrgo<> 今日は風が騒がしいな。いや、騒がしいなんてレヴェルではないか。
西日本は台風の影響で大変です。
では、風にも負けずがんばりましょう。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/17(月) 20:20:34.03 ID:h43aPVrgo<>
第二話 プロローグ
音楽科から普通科に転科してから数日、春休みに少し補習を受けたとはいえ、突然の
環境変化は彼女にとって不安や戸惑いと戦いであった。
しかも、事情を知っている者も多いため、クラスの生徒たちもどこか遠慮がちだ。
(気にしないでっていうのは、確かに身勝手かな。実際、私自身気にしているし)
教科書をまとめながら、ふとそんなことを思う。
夢、破れる。
希望、かなわない。
そんなのは人生によくあることだと知っていたけれど、それが自分のことだとは思っても
みなかったのだ。
「ねえ坂井さん」
ふと、小柄な少女が話しかけてきた。
同じクラスの宮本来夏だ。
「宮本さん」
「来夏でいいよ。そんな遠慮しないで」
「はあ」
「今日さ、どっか遊びに行かない?」
「あの、部活は」
「今日は休み」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/17(月) 20:21:06.33 ID:h43aPVrgo<>
「ごめん。今日はちょっと図書室で」
「委員会?」
「授業の復習を。転科したばかりだし」
「そっか、大変だな。ねえ、紗羽は行かない?」
そう言って来夏は、少し離れた場所にいるクラスメイトの沖田紗羽に声をかける。
「あたしは部活」
「そっかあ」
「アンタ、ちょっとは焦ったほうがいいんじゃない? もう三年だよ」
「わかってるけど、高校最後の一年間なんだよ、もっと楽しみたいじゃん」
「ったく。じゃ、部活行くね」
「行ってらっしゃーい」
来夏はそう言って手を振った。
この元気の良さは見習いたいものだ、と和奏は思う。
「じゃあ、私も行くから」
カバンを肩にかけた和奏は言った。
「うん、和奏も頑張ってね」
「ありがとう」
その後、和奏は一時間ほど図書室で勉強をする。
普通科の授業、特に英語と数学は彼女にとってとても難しいと感じた。
(普通科って何で数学が六種類もあるんだろう。英語は三種類?)
和奏が勉強の遅れを取り戻すのは、もう少し先のことである。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/17(月) 20:21:34.61 ID:h43aPVrgo<>
TARI TARI RUMBLE!
第二話 人を妬んでも自分は良くならない <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/17(月) 20:22:40.28 ID:h43aPVrgo<>
放課後、学校の図書室で一時間ほど授業の復習をしてから和奏は帰路についた。
途中、学校では色々な部が練習や活動に精を出していた。
(部活か)
音楽科の勉強が忙しくてそれどころではなかったし、今も普通科の授業についていくのが
やっとな彼女にとっては、それどころではないのだが、まだ高校生らしい生活には憧れはあった。
冬場にくらべると大分日が長くなったな、などと思いながら家に帰ると、家の店は開いていたる。
父は自営で土産物屋兼和菓子の店をやっているのだ。
いつもなら店にいるはずなので、和奏は表から声をかけることにした。
「お父さん、帰ったよ」
「お?」
「え?」
父親だと思っていたエプロン姿の男性。
しかしそれは、父とは似ても似つかぬ大男であった。
しかも見覚えのある。
「播磨くん……?」
「お前ェは確か……」
「ああ、和奏。帰ってたのか」
店の奥からお揃いのエプロンをつけた父、坂井圭介が出てきた。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/17(月) 20:23:10.82 ID:h43aPVrgo<>
「お父さん、どうして播磨くんがここに」
「お、和奏。知り合いだったのか。同じ学校だと言ってたし」
「同じクラスの子だよ」
「そうだったのか。播磨くん、そういうこと言ってなかったからな」
「いや、だから質問に答えてよ」
「バイトだよ。知り合いにバイトを雇う気はないかって聞かれて、それで」
「そんな……」
「どうした」
「何でもない」
「コンニチハー。団体なんですけどいいっすかー」
「へ?」
店の外を見ると、ガタイのいい外国人の集団が集まっていた。
米軍横須賀基地の隊員だろうか。
「いらっしゃい」
「どうもッス」
播磨と父は素早く動き出す。
「わ、私も手伝うよ」
二人の動きがあまりにも素早かったため、思わずそう言ってしまった。
「お、珍しいな。とりあえず着替えてきな」
「わかった」
和奏は、自分の部屋で着替えて見せようのエプロンをつけると接客に出た。
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/17(月) 20:24:13.78 ID:h43aPVrgo<>
店の手伝いは久しぶりだ。
どうしても忙しい時は手伝っていたけれど、前は学校の勉強や課題の練習が忙しくて
それどころではなかった。
「……」
クラスメイトの播磨拳児はよく働いていた。
寡黙な性格なのか、あまり笑顔での接客はしなかったけれど、動きはキビキビしており、
見ていて気持ちがいい。
「播磨くん、なかなかやるねえ」
彼の働きに父も満足気味だ。
「まあ、バイトは色々としてたもんで。和菓子屋は初めてッスけど」
「ふんふん」
「すいませーん、この煮込み雑炊ってやつ、もらえますか」
やたら体格の良いスーツ姿の男性客が言った。
「ごめんなさい、それ先月までなんですよ」
父は申し訳なさそうに対応する。
「え」
「冬季限定メニューなもので」
「じゃあこの煮込み雑煮を」
「ですからごめんなさい、それも先月までで」
「……」
「ごめんなさいね」
そんなやり取りはあったものの、店は概ね繁盛し閉店を迎えた。
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/17(月) 20:24:42.49 ID:h43aPVrgo<>
時刻は午後七時、昼間の観光客がメインの客層なため、店じまいは比較的早い。
「夕飯の支度、私がやるね」
「おう、ありがとう」
店が忙しい時、夕食の支度は和奏の仕事だった。
母親のいない彼女の家庭では、家事全般が彼女の担当でもあったのだ。
もちろん父も家事はするけれど、店の用事もあるのでそんなに多くはできない。
「忙しかったッスね」
黙々と働いていた播磨はそう言った。
「いやあ、いつもはもう少し暇なんだけどねえ、今日は特別忙しかった」
「そうッスか。まあ、身体動かしているほうが余計なこと考えなくていいッスよ」
帰り支度をしながら彼は独り言のようにつぶやく。
「そうか」
そんな会話をしながら店の片付けをしている父に、和奏は声をかける。
「お父さん、夕飯の支度できてるよ。先にお風呂入る?」
「いや、メシを先にしよう。腹が減ってしょうがない」
「そうなんだ」
和奏が視線を上げると、播磨は今にも帰ろうとしていた。
「あ、播磨くん」
そんな彼に父は声をかける。
「なんッスか」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/17(月) 20:25:32.85 ID:h43aPVrgo<>
「キミも一緒に夕食どうだ」
「はい?」
「お父さん?」
思わず声を出す和奏。
「いいじゃないか、料理は余分に作ったんだろう」
「それはそうだけど……」
今日、和奏が用意した食事はスタンダードなものだ。家族で食べるのならともかく、
とても外の客に出すようなものではない。
「いいんッスか?」
播磨の表情は期待に満ちているように見えた。
どうも、父と同様、そうとうお腹がすいているようだ。
目の前に食べ物(お菓子)がたくさんあるのに、それを長い間食べられない状態で
いるのは苦痛だったろう。
「いいだろう? 和奏」
「しょうがないわね。播磨くんがよければ」
和奏はもう一度播磨の顔を見る。
「娘さんがいいんだったら、喜んで」
控えめに頷いた。
「じゃあ、播磨くんの歓迎会だ」
「歓迎会?」
正直、歓迎会と呼べるほど特別なおかずは用意できないのだが、それでもこの日は
特別な夕食になりそうだと、和奏は思った。
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/17(月) 20:26:50.14 ID:h43aPVrgo<>
夕食前、播磨は自分の携帯電話で誰かに電話をかけていた。
「どこに連絡?」
と、父は聞く。
プライベートなところをズケズケと詮索するのは中年の悪い癖だ、と娘の和奏は
思うのだが、実は彼女も少しだけ気になっていたので黙っておくことにした。
「下宿先の人ッスよ。今日、夕食はいらないって」
「ああ、そうか。あの人のところに下宿してるんだったよな」
「ええ」
どうやら彼の下宿先は、父の知り合いの家らしい。
少し、いや、かなり気になった和奏だったが父のように色々と聞くことはできなかった。
「ごはん、これくらいでいいですか?」
「おう、サンキューな」
「ナーゴ」
「あ」
気が付くと、坂井家で飼っている家猫のドラが播磨の足元にいた。
「お、猫か」
「うん、ドラって言うの。ウチで飼ってる猫」
ドラは播磨の足元で彼のスネの辺りに身体をこすりつけていた。
昔からよくしている親愛の表現だ。
「珍しいな、ドラが初対面の男にこんなに懐くなんて」と、父は言った。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/17(月) 20:27:39.26 ID:h43aPVrgo<>
「確かに」
見た目が怖そうな男性なのに、ドラは彼の足元を動かなかった。
まるで何年も付き合いのある飼い猫と飼い主のようで、本物の飼い主としては
少し嫉妬してしまうシチュエーションだ。
(そういえば、私とお父さんとドラ以外の人と食事するなんて、いつぐらいだろう)
少し前まで、父、母、娘、そして飼い猫の三人と一匹で食事をしていた。
そして今、かつて母が座っていた席には、母親とはまったく違う大柄の男性が座っている。
「ごめんね。一緒に食事するってわかってたら、もっと色々用意できたんだけど」
「いや、別に気にしてねェよ。悪いのはコッチなんだ」
播磨は目を合わさずにそう言った。照れがあるのだろうか。
「それじゃあ、グラス持って」
「はい?」
「播磨くんの我が店へのアルバイトを記念して、カンパーイ」
父はビールで、播磨と和奏はお茶で乾杯する。
「お父さん、お酒弱いんだからほどほどにね」
「わかってるって」
上機嫌な父は、この日珍しくビールを飲んで顔を真っ赤にしていた。
そして笑っていた。
母が亡くなって以来、どこか禁欲的な生活していた父がこんなにも笑顔を
見せるのはとても珍しい気がする。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/17(月) 20:28:25.43 ID:h43aPVrgo<>
そんな父を特に気にする様子もなく、播磨は黙々と夕食を食べていた。
「あ、あの。口に合わなかったかな」
よく考えてみたら、学校の調理実習を除けば父以外の人に自分の料理を食べてもらうのは
初めてのことだ。
自分や父親好みに味付けをしているため、他人にはどう思うのだろうと少し……、いや、かなり
気になった。
「うめェよ」
かぼちゃの煮つけを口に運びながら、播磨はそう言った。
「あ、ありがとう」
思わず礼を言ってしまう和奏。
「んだよ、礼を言うのはこっちだろう。メシ食わしてもらってるんだし」
「そ、そうだね。アハハハ……」
家で夕食を食べる。ただ、それだけのことなのだが、和奏は少しだけ嬉しくなっていた。
(なんだろう、別に特別なことなんて何もないのに)
「ガハハハ、拳児くん! 拳児くん!」
「店長、ビール一本でそんな……」
「お父さん!」
しかし、父圭介が醜態を晒してしまったので、そんな喜びはすぐに吹っ飛んでしまった。
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/17(月) 20:29:06.15 ID:h43aPVrgo<>
夕食後、父は居間で寝ていたので玄関まで和奏とドラが見送ることにした。
「今日はサンキューな」
「ごめんね、普段の食事しかなくて」
「十分うまかったぞ」
「そう言ってもらえて、嬉しい……」
「そんじゃ」
「あの」
「あン?」
「また、来てくれる?」
「そりゃ、来るぞ。バイトだし」
「そうだよね、バイトだし……」
「基本週三回、週末は土曜か日曜。まあそんなところだ」
「また、夕食も食べていってね」
「んな迷惑かけられねェよ」
「迷惑なんかんじゃないから」
「そうなのか?」
「ほら、ウチってお父さんと二人暮らしでしょう? まあ、ドラもいるけど。
食事が余っちゃうこと、よくあるのよ」
「そうか。まあ、そっちが迷惑じゃなけりゃ、またごちそうになるか」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/17(月) 20:30:10.35 ID:h43aPVrgo<>
「その分、バリバリ働いてね」
「飴と鞭ってやつか」
「いや、別にそんなつもりじゃ」
「ナーオ!」
和奏が口ごもっていると、いつの間にかドラが播磨の身体をよじ登り肩に乗った。
「ほれほれ」
播磨が人差し指でドラの喉の辺りを触ると、ドラは気持ちよさそうに喉を鳴らす。
「ドラも播磨くんのこと、気に入っただね」
「昔っから動物には好かれるんだがな」
「そうなの?」
「ああ。なぜか知らんが」
そう言いつつ、彼は肩に乗ったドラを両手で優しく抱きかかえて和奏に渡す。
「そんじゃ、親御さんによろしく」
「うん」
播磨は帰って行った。
食卓付近には、まだ彼の匂いが残っているような気がする。
変な感じだ。
彼自身はあまり喋らないのに、暗かった部屋がいつもより明るくなった気がした。
「んがああ」
「お父さん、一階で寝ないで。それと、早くお風呂入って」
「もう食べられない」
「寝ぼけてないで起きてよ本当」
(なんか不思議な人だったな)
父を起こし、食器の片づけをしながら和奏はそう思ったのだった。
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/17(月) 20:32:30.92 ID:h43aPVrgo<>
同じころ、坂井家の食卓では。
「今日、播磨くんいないのね」
と、紗羽はつぶやく。
まだ下宿しに来て数日だが、いつもいる場所にあの大柄なチョビ髭男がいないのは
少しだけ寂しいと感じた。
「あれ? 気になるの?」
と、志保はニヤニヤしながら言う。
「べ、別にそんなんじゃ」
「拳児くんなら、バイト先で食事をいただくって、電話してきたのよ」
「バイト……」
それは紗羽にとって初耳であった。
親元を離れて下宿、それだけでも十分大変なのに、さらにアルバイトまでしているとは。
「本人は早く自立したいとか言ってたからな。ちょっと焦り過ぎな気もするが」
エビフライを食べながらこの家の主人で住職の正一は言った。
「自立か……」
紗羽は両親に聞こえないよう、静かにつぶやいた。
「ま、拳児くんはエライよね。高校通いながらバイトして、それで将来のことも考えて」
「で、でも、学校で赤点とかとったら意味ないし――」
そこまで言いかけて紗羽は言葉を止める。
「なあ紗羽」
そんな彼女に正一は優しく声をかけた。
「人を妬んでも自分は良くならない。逆に他人を褒めたって、自分は悪くならないんだぞ」
「わかってるよそんなの。それに、妬んでないし」
自分の中にジワジワと湧き上がってくる黒い感情で、軽く自己嫌悪に陥る紗羽。
(別に彼は悪くないのに)
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/17(月) 20:33:12.34 ID:h43aPVrgo<>
少々嫌な気持ちで食事を終えたところで自分の部屋に向かう途中、播磨が帰ってきた。
「た……、ただいま」
玄関のところで、そう挨拶をする播磨。
「おかえり……」
無視するわけにもいかないので、紗羽はそう言ってみるが、その後何を言っていいのか
わからず、そのまま自分の部屋に早足で向かうのだった。
(んもう、何なのよ)
モヤモヤとした感情を抱えつつベッドに倒れこむ紗羽。
「はあ……」
これから先、どんどん色々な人と付き合いが出てくることが予想される。
にも関わらず、こんな小さな関係でつまずいている自分が酷くちっぽけに思える紗羽であった。
つづく
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/17(月) 20:33:41.13 ID:h43aPVrgo<> 餌付けは基本。
ではまた次回、お会いしましょう。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/18(火) 20:02:55.80 ID:SV8mjCY6o<> 肘が痛い。野球肘はどうやったら治るだろう。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/18(火) 20:03:57.73 ID:SV8mjCY6o<>
第三話プロローグ
バドミントン部唯一の部員、田中大智は今朝も朝練に励んでいた。
といっても、部員のいないバドミントン部の練習なので、素振りや体力錬成などしか
できないのだが。
「はあ、はあ、はあ」
まだ冷え込みもある四月の朝、緑色が目立つようになった校内の桜並木の下を
彼は走る。
(もう一周)
「おはよー」
「あ、おはよう」
初々しい新一年生も含めて、多くの生徒たちが登校してきた。
この時期は生徒も多く、賑やかな季節。
そんな中、高校総体の予選を数か月後にひかえた彼はただひたすら身体を苛め抜く。
「がはっ!」
そろそろ始業時間も迫る中で、田中はやっとロードワークを終えた。
息を整えながら、この日一日をどう乗り切るか考えてみる。
「よう、ええと、中村だっけか」
不意に誰かが声をかけてきた。
「ん?」
背の高い転入生、播磨拳児だった。
「俺は田中だ」
「おう、そりゃすまねェ」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/18(火) 20:04:26.04 ID:SV8mjCY6o<>
この男は人の名前を憶えない」
「こんなところで何やってんだ。遅刻するぞ」
「ああ、今からダッシュで着替えりゃホームルームに間に合う」
「そうか」
「そういう播磨も、随分遅いんだな」
「少し夜更かししちまってな。ああ、まだ眠ィ」
「ほどほどにしとけよ。何してるか知らないけど」
「お前ェこそな。試合前に身体壊しちゃ意味がねェ」
「心配してくれるのか」
「まあ、頑張ってるやつを応援すんのが、俺のモットーだしな」
「いいモットーだな」
「ありがとよ。俺はそろそろ行くぜ」
「ああ、俺もすぐ行くから」
「じゃあな」
「おう」
(変な奴だな)
と、大智は思う。
ここ最近、たった一人になったバドミントン部を気に掛ける生徒などほとんど
いなかったからだ。
ただ、
「悪い気はしないな」
そう言いつつ、彼は大きく息を吸い込んだ。朝日に暖められた潮風が微かに
鼻孔を刺激しているように感じた。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/18(火) 20:04:53.85 ID:SV8mjCY6o<>
TARI TARI RUMBLE!
第三話 どうってことねェよ。困った時は助け合いだ <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/18(火) 20:06:07.99 ID:SV8mjCY6o<>
この日も播磨は坂井圭介の店でアルバイトに励んでいた。
なぜか播磨くんが来ると忙しくなる、という圭介の言葉通りこの日も店は繁盛しており、
遅くまで仕事をすることになった。
店長の圭介からは夕食を食べていくよう勧められたが、この日はやんわりと断った。
そう何度も世話になるわけにはいかない。
飼い猫のドラが寂しそうにしていたので、少しだけ頭を撫でてから帰路についた。
薄暗い空から星が見えた。
それも一つや二つではない。
(前みたいにバイクがあったら便利だよな)
そう思いつつ、彼は下宿先まで歩く。
途中、市立の体育館があることに気が付いた。
中から声が聞こえてくる。
(そういやここで、何やってんだろう)
腹が減っているので早く帰りたい、という気持ちもあった。
けれどもこの日は、某高校古典部の部長並みに好奇心が高まっていたので、
少しだけ覗いてみることにした。
「あら? もしかして見学?」
体育館に近づくと、誰かが声をかけてきた。
「あ、いや」
ジャージ姿の大学生くらいの女性だ。髪はセミロングくらいだが、前髪が切り揃えられている。
会ったことはないが、妙に見覚えのある女性だと播磨は思った。
「キミ、バドミントンに興味があるの? その制服はアレだね。白浜坂高校だよね」
「はあ、そうッスけど」
「おい姉ちゃん、何やってんだ」
不意に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ん?」
見ると、見覚えのある男が体育館の中にいた。
「田中?」
「播磨か」
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/18(火) 20:07:03.60 ID:SV8mjCY6o<>
体育館の中では、選手の息遣いや靴の音、そしてシャトルの飛び交う音が響いていた。
まだ春先だと言うのに、体育館の中は凄い熱気だ。
ヨネックスのバドミントンウェアに身を包んだ田中大智も数人の選手の中の一人として
練習に打ち込んでいる。
「社会人の練習っすか」
「そう、ここでは社会人や大学生が毎週二回練習しているの」
田中大智の姉、田中晴香はそう説明した。
「そんで田中も?」
「ええ。白浜坂はバドミントン部の部員がいないから、個人練習以外はこうして大人の人たちと
一緒に練習しているのよ」
「なるほど」
汗まみれになりながらコートをかける大智。
辛そうだったが、どこか楽しそうでもあった。
(あいつ、本当にバドミントン好きなんだな)
頑張っている人間を見るのは嫌いではない。
しかし、
「やべっ、もうこんな時間だ」
彼は体育館の時計を見て驚く。
「あら、どうしたの」
「今日は早く帰るって、下宿の人に言ったんッスけどね」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/18(火) 20:07:30.63 ID:SV8mjCY6o<>
「あらそう。大変ね」
「失礼するッス」
帰ろうとする播磨に大智は声をかけてきた。
「なんだ播磨、もう帰るのか?」
「ちょっと寄り道した程度だからな」
「そっか」
「頑張れよ」
「言われなくても」
そう言うと、大智は親指を立てた。
「じゃあたいくん。もう一本追加といこうか」
そんな彼を見て、姉の晴香は嬉しそうに言った。
「へえ?」
どうやら彼の姉はSっ気があるようだ。
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/18(火) 20:08:28.58 ID:SV8mjCY6o<>
翌日、播磨が職員室の近くを歩いていると不意に職員室の中から聞き覚えの
ある声が聞こえてきた。
「そんなの納得できません!」
「ん?」
気が付くと乱暴に扉が開き、何か猫のような小動物が飛び出してきたかと
思ったら播磨の腹にぶち当たった。
「ぬわ!」
おもわずバランスを崩して倒れそうになるが、何とか踏ん張る。
「なんだ?」
よく見ると、職員室から飛び出してきた小動物は同じクラスの宮本来夏であった。
「おい、宮本?」
何と言っていいのかよくわからないので、とりあえず名前を呼んでみる播磨。
「ごめん」
(涙……)
一瞬だったが、来夏の瞳に光るものが見えた。
来夏は播磨から身体を離すと、すぐ走って行ってしまった。
「こらあ! 廊下を走るな!」
体育教師の郡山(ゴリ山)の声が響く。
職員室から何人かの教師たちが顔を出していた。
その中でも異様なオーラを身にまとった教員が腕組みをして、走り去って行く
来夏の姿を見据えていた。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/18(火) 20:12:26.94 ID:SV8mjCY6o<>
「何があったんッスか?」
普段から積極的に教師に話しかけない播磨だったが、件のメガネをかけた性格がキツそうな
女教師に声をかけてしまう。
「あなたには関係のないことよ」
女教師は言った。
「同じクラスですし」
「だったら本人に聞きなさい」
性格のキツそうなその女教師は、その見た目に違わずキツそうな声で播磨の質問を斬り捨てる。
どうやら機嫌が悪いようだ。
その後、さっさと職員室の中に戻ったのであった。
(感じ悪いな。確かアイツ、教頭だったような)……
そんなことを考えつつ、播磨は教室へと戻るのであった。
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/18(火) 20:13:43.05 ID:SV8mjCY6o<>
その日の午後の授業、来夏は出てこなかった。
放課後、空席になったままの来夏の机を見ながら紗羽はつぶやく。
「来夏、何やってるんだろう」
「お前ェも知らねェのか、宮本のこと」
ふと、播磨は紗羽に話しかける。
「え?」
急に話しかけられた紗羽は驚いたようだ。
「悪い」
そういえば、学校で話をしたのはこれが初めてかもしれない。
「いや、別にいいけど……」
紗羽は視線を下に落としモジモジしていた。
自分のことを怖がっているのかもしれないが、どうにも彼女とは話し辛い。
「何か昼休み、職員室で揉めてたみてェだが」
「そうなんだ」
「何か知ってんのか」
「よくわからない……」
「……そうか」
「それじゃあ私、行くね」
「おう」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/18(火) 20:14:41.17 ID:SV8mjCY6o<>
「ごめんね、播磨くん」
「何で謝るんだよ」
「ああそうだね、ごめん」
紗羽はもう一度謝ってから、彼の前から遠ざかった。
(宮本か……)
ふと、空席の机に目を向ける。
机の横にはまだカバンがかかったままになっていた。
(まだ学校にいるのかな)
彼はそんなことを考えてみた。
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/18(火) 20:15:36.95 ID:SV8mjCY6o<>
この日、坂井和奏は少し早めに帰宅した。
「ただいまお父さん」
「ああ、おかえり」
店の中で、父親は東京スポーツを読んでいた。
数日前までの繁盛ぶりがうそのように、店は静かである。
「今日は早いんだな」
と、父は言った。
「え? そうかな。たまには早く帰ってお店を手伝おうかと思って」
「珍しいこともあるな。でも今日、彼は来ないぞ」
ニヤニヤしながら圭介は言った。
「べ、別に播磨くんのことなんて気にしてないから!」
「おいおい、俺は播磨くんだなんて一言も言ってないぞ」
「……!」
自分でもわかるほど顔が赤くなる和奏。
「もう! お父さんなんて知らない!」
そう言うと、和奏はさっさと自宅の自分の部屋に行くのだった。
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/18(火) 20:16:30.15 ID:SV8mjCY6o<>
播磨はすぐには帰らなかった。
今日はバイトもない日だし、あの涙の意味が知りたかったから。
関わらなければ気づくこともないのだが、それだと何か後味が悪い気がした。
別に当てがあったわけではないのだが、何となく彼の足はとある場所へと向かっていた。
「やっぱりいたか」
「何?」
転入初日、宮本来夏と初めて会ったあの場所だ。
あの時と同じように、来夏は太い木の幹の上に座っていた。
「あんまり見ないで」
「そこにいるのが悪いんだろうが」
「別にいいじゃない」
「沖田、心配してたぞ」
「そう」
「いつまでそんなところにいるつもりだ?」
「関係ないでしょう?」
「まあ、そうだ。だけどよ、そこにいたって何も解決しねェぞ」
「……」
「もしかして、午後の授業中もずっとそこにいたのか?」
「ち、違うから。ここに来たのは放課後から。人通りがあるときにこっちに来たら
見つかるでしょう?」
「まあ、そうだな」
「……」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/18(火) 20:17:15.55 ID:SV8mjCY6o<>
「天空の食事はとれたか」
「何それ」
「いや、何でもねェ」
「播磨くんはいつまでそこにいるつもり?」
「ま、俺はすぐに帰るけどよ。お前ェはどうする」
「どうするって?」
「ずっとそこにいるのか」
「別に、いつまでもここにいるつもりはないけど」
「降りられねェんだろう?」
「降りられるもん!」
「そっか。じゃあな」
「あっ!」
「ん?」
「降りられるけど……、時間がかかるから。その、もっと早く降りたいなあ、なんて」
「ったく」
播磨は持っていた鞄を地面に置く。
「今度はしっかり受け止めてよ」と、来夏は呼びかけた。
「わーってるよ」
「いくよ」
「おう」
「とうっ」
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/18(火) 20:17:54.59 ID:SV8mjCY6o<>
今度は転倒することなく、播磨はしっかりと来夏を受け止めることができた。
小柄な来夏の身体は思ったよりも柔らかく、いい匂いがした。
「今、エロいこと考えたでしょう」
「考えてねェよ(少ししか)」
「ウソよ、キミくらいの年齢だと、エッチなことを良く考えるものよ」
「偏見だろ」
「弟がよくエッチな本とか見てるのよね」
「そうかい」
「姉として、弟がアブノーマルな趣味に走らないようにしっかりチェックしとかないと」
「お前ェの弟は大変だな」
播磨は心底来夏の弟に同情した。
「ねえ、聞かないの?」
「何が」
「私のこと」
「高いところ好きなのか」
「そこじゃないでしょう」
「何だよ」
「見たんでしょう?」
「は?」
「見たんでしょう? 私の――」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/18(火) 20:18:24.09 ID:SV8mjCY6o<>
「いや、別に見ようと思ってみたわけじゃねェし、それに……」
「私の涙」
「あ……、ああ! そうだな! 見たぞ。職員室前で」
「何?」
「いや」
(何だ、そっちか。俺はてっきりパンTのことかと思ったぜ……)
「私が何で泣いてたか、知りたいから私を探したんじゃないの?」
「別に、そこまで暇じゃねェし」
「聞きたいって、素直にいいなさいって」
「お前ェこそ、聞いて欲しいって素直に言えよ」
「むむむ……」
「何だよ」
「本当は、会ってまだ間もない転入生に言うような話じゃないんだけど」
「ん……」
* <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/18(火) 20:20:02.92 ID:SV8mjCY6o<>
校内の噴水広場――
昼休み中は食事をしたり談笑したりする場所として、人も多いのだが、放課後は
ほとんど人がいない。
そんな広場のベンチに、播磨と来夏は座っていた。
「声楽部? お前ェが?」
「そう、私声楽部だったの」
“だった”。すでに過去形である。
来夏の話では、声楽部の顧問は教頭らしい。
「教頭って、あのメガネをかけたキツめのオバサンか」
播磨は昼間に、職員室前で見た女教師を思い出す。
「そう、あの曇りガラスに爪をギーッてやっちゃうような感じの年増ピンク」
(年増ピンク?)
「そいつがどうした」
「先生が、歌わせてくれないのよ」
「あン?」
「私、歌が好きで合唱部に入ったのに」
「何か理由があるのか?」
「それは……」
来夏が口ごもる。
「……」
播磨は無理に聞き出そうとせず、彼女が喋り出すのをゆっくりと待った。
「一年前、校外の発表会で私ね、凄い失敗しちゃって」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/18(火) 20:20:40.04 ID:SV8mjCY6o<>
「失敗……」
「それで、大恥をかいちゃって。以来、顧問の教頭先生は私にずっと譜めくりをさせてたの。
確かに失敗したのは私が悪いよ。でも、あれから私ずっと練習したし、たくさん歌も覚えた。
だから、もう歌わしてくれてもいいじゃんって思ったのに……」
また泣くのか、と思ったが違った。
「あの教頭、許せない……!」
それは悲しみ、というよりも怒りだ。
「それで、どうしたんだ」
「だから私辞めたの、部活を」
「辞めた?」
「どうせ歌えないなら、辞めた方がマシよ」
「そうか」
「そうよ!」
「そのことは、アイツには話したのか」
「アイツ?」
「沖田だよ。沖田紗羽。お前ェら、仲良さそうだし」
「紗羽とは仲はいいよ、確かに」
「じゃあ、俺なんかに話してないで沖田に相談しろよ。さっきも言ったけど、心配してたんだぜ、
あいつ」
「ダメだよ、もし紗羽にこのこと話したら」
「話したら?」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/18(火) 20:21:27.75 ID:SV8mjCY6o<>
「絶対、弓とか刀を持って『教頭に話をしてくる』とか言い出しかねないから」
「マジか」
「ああ見えて結構気が強いからね」
「ああ確かに、アイツはそうかもしれねェ」
播磨は彼女と初めて会った日のことを思い出す。
「ねえ播磨くん」
「どうした」
「紗羽みたいな子って、タイプ?」
「いきなり何言ってんだお前ェ」
「やっぱ、胸が大きいほうがいいのかな」
そう言って来夏は自分の胸を抑える。
可哀想になるほど小さな胸であった。
「別にそんなんじゃねェよ」
「でもさ、そういや紗羽のほうも播磨くんのこと、気にしている風だったし」
「マジか」
「うん、マジマジ。二人ってどんな関係なの」
来夏は目をキラキラさせながら聞いてきた。
「別に、どんなでもねェよ。まだ出会ったばかりだ」
まさか一緒に住んでいます、とは言えそうにない。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/18(火) 20:22:30.67 ID:SV8mjCY6o<>
桃色マインド全開の今の来夏に話をしたら、変な噂が一斉に学校中に広まって
しまいそうだったからである。
「ねえねえ、話を聞いてもらったお礼にさ、私が紗羽と播磨くんの仲、取り持って
あげようか?」
「いや、別にいいからそういうの」
「遠慮しないでよ」
「遠慮なんてしてねェから」
「ウチの学校みたいな共学でも男子と女子って、意外と接点ないでしょう?
だから誰かが取り持たないと少子化が加速しちゃうよ?」
「少子化とか知るか」
「じゃあ、播磨くんの好きなタイプってどんなの?」
「もういいだろう」
すっかり元気になったようなので、播磨は帰ることにした。
「じゃ、俺帰るから」
「うん」
「じゃあな」
播磨が立ち去ろうとすると、
「播磨くん」
来夏は後ろから声をかけた。
「なんだ」
播磨は振り返る。
「今日はありがとう」
「どうってことねェよ。困った時は助け合いだ」
「うん」
夕闇に染まりはじめる校内で、来夏の笑顔は眩しかった。
つづく <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/09/18(火) 20:23:32.99 ID:SV8mjCY6o<> 年増ピンクってかなり酷いネーミングだけど、一体誰が考えたんでしょうかね。
つづく <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2012/09/22(土) 22:11:30.59 ID:z8OY6clV0<> 新作に今頃気づいた。前作も読んでいたので期待。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/10/02(火) 21:34:47.00 ID:uCZDIpBso<> 続きまだ? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/10/03(水) 00:59:12.52 ID:0xJ0tR6L0<> エタったのかな・・・ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2012/10/11(木) 16:22:43.29 ID:3ybl90xj0<> PACSが勧めてたから見てみたが、エタってんのか <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/10/11(木) 21:55:27.30 ID:sG/4Fteno<> この>>1は今まで短期間で投下してたから
やっぱりエタったんだろうか <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)<>sage<>2012/11/07(水) 04:04:19.71 ID:v8kcqaa90<> 今頃気付いて読み終えたけど二ヶ月か…
続き見たいのう <>