VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/01/26(土) 02:38:30.04 ID:+bKCE8Li0<>
 ベン・トー、餓狼伝のクロスSSです

*ベン・トーは原作8巻終了後で、キャラの年末年始の過ごし方が原作とは違います。

*餓狼伝は丹波VS堤の少し後という設定で、板垣版準拠となります。作者は餓狼伝の原作小説は未読です。

*丹波の性格はほぼ創作、佐藤の方も原作とは若干メンタリティが異なります。

*三章構成で二章途中まで書き溜め有り。続きを書きながら少しずつ投下していきます。

*作者はサターンユーザーでしたが、ライトユーザーでした。色々とご容赦ください。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1359135509
<>【ベン・トー】佐藤・丹波「「年末ご奉仕弁当250円ッ!!」」【餓狼伝】 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/26(土) 02:45:17.38 ID:+bKCE8Li0<>  丹波分七は独り、夜の繁華街を歩いていた。日は沈んだばかり。まだ宵の口である。街には大学生と思しき飲み会 グループや、背広姿で連れ立って歩くサラリーマンらが行 き交っていた。

 まだ午後七時前だというのに早くも顔を赤くした学生たち。仕事から解放され、緩んだ表情を見せる作業着姿に背 広組。どこか弛緩した喧騒を聞きながら、丹波は一人、 苦々しい思いに囚われていた。

 丹波がこの夜、歓楽街に求めていたのは酒でも女でもなく喧嘩だった。丹波は過去に、この界隈で喧嘩相手を物色したことがあ る。今夜は同行していないが、相棒の涼二に因縁をつけさ せ、適当な相手を人気のない場所に誘い出し、一戦交える。そうやって何度か、腕に覚え有りといった風のヤクザ 者、運良く出会えた本職の格闘家、時には単なる喧嘩自慢の素人までをも相手取り、闘争への欲求を満たしてきた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/26(土) 02:49:33.31 ID:+bKCE8Li0<> 喧嘩相手を探すには都合の良いガラの悪い場所。それが丹波のこの歓楽街に対する認識だったのたが、どうやら今 の様な浅い時間の場合、その限りではないらしい。

目につくのは堅気者らしい風体ばかりで、獲物になりそ うな人間は見当たらない。 丹波はすでに、街の険のない空気に気勢を削がれつつ あった。

―アハハ!モブオクンナニヤッテンノー! ―ウェ〜イコロンダ〜オコシテ〜

丹波(……チッ)

泥酔した学生らしき男と連れの女のやり取りを見て、丹 波の気持は完全に切れた。

丹波(今夜はやめだ。この空気はたまんねェ)

何処かで時間を潰して出直すことも考えないではなかっ たが、緩んだ空気に萎えた闘争心が、今夜中に戻るとも思 えなかった。堤城平とヤクザの喧嘩を目撃したあの夜のよ うな、強い刺激でもない限りは。

丹波(何処かでメシ喰って帰る かァ…)ハァ

往来を睥睨していた視線を周囲の飲食店に向ける。根無 し草の空手家という、冗談のような肩書きを現実に持つ丹 波の懐は寂しい。 基本的に、生活費は日雇い仕事による収入で賄っている 身なのだ。先日のFAWの興業で、堤城平と戦って得たファ イトマネーで多少は潤っているが、収入が不安定であるこ とには変わりがない。鍛えた肉体を維持するためには節約 し過ぎても本末転倒なのだが、可能な限り食費は抑えた い。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/26(土) 02:55:34.94 ID:+bKCE8Li0<>  悩む丹波の脳裏に、大手牛丼チェーンの看板がよぎる。 駄目だ。あれは食い飽きた。却下して、次々と侘しい夕餉の候補を挙げてはみるが、どれも気乗りがしない。 歓楽街に軒を連ねる飲食店は、貧乏学生のような食生活を送る丹波の目には眩しい。500円から1000円の夕食候 補を思い浮かべていた情けない自分を自覚して、丹波は思わず顔を顰めた。

丹波(金がない訳じゃねぇ)

 内心で、自尊心を保つための言い訳を始めてしまう。

丹波(堤とやりあって空手で金を稼いだんだ…俺は…)

 次に思いつくのは財布の紐を緩める言い訳だった。 喧嘩相手を探すという本来の目的を果たせなかったのだから、せめて食事ぐらいは贅沢をしてもいいのではないか。堤戦と試合前の調整で蓄積した疲労の回復のためにも、滋養に良いものを食するべきではないか。 顔面の腫れや裂傷、全身に負った打撲は癒えたが、体はまだ本調子とは言い難い。怪我の回復にも体力を消耗するものだし、ここはやはり――。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/26(土) 03:10:12.82 ID:+bKCE8Li0<> 丹波(………………………)

 丹波は焼肉屋の前を通り掛かり、その店先の明かりに目を奪われた。

丹波(………………………)

 それほど高い店ではない。丹波は背広姿の二人組が店に入って行くのを、足を止め横目で見送った。

丹波(‥‥‥‥‥ハァ)  

 丹波は再び歩み出す。着古したブルゾンのポケットに両手を入れ、口内に溜まった唾液を飲み込む。

丹波(牛乳、生卵、鯖缶……身になれば何でもいい…食い物 なんて)

 結局、丹波は飲食店からの誘惑に耐えた。普段通り、味や食べ合わせを無視し、身体作りにのみ重点を置いた食材をスーパーなどで安く手に入れ、ねぐらに帰る。そう今夜の方針を定め歓楽街を後にする。 向かう先は、かつて世話になっていた泉宗一郎宅、竹宮流道場の近所にあるスーパーマーケット。
 店名は、ホーキーマート。
 何度か利用したことがある店だ。今から向かえばタイムセールに間に合うかもしれない。


丹波(割引の弁当くらいは買うかぁ……)

 丹波は足を速めた。

 一度食べたあの店の弁当は、味も脂も濃くて旨かった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/26(土) 03:15:17.77 ID:+bKCE8Li0<> *****************

 需要と供給、これら二つは商売における絶対の要素である。これら二つの要素が寄り添う流通バランスのクロスポイント…………その前後に於いて必ず発生するかすかなずれ。その僅かな領域に生きる者たちがいる。己の資金、生活、そして誇りを懸けてカオスと化す極狭領域を狩場とする者たち。

――――人は彼らを《狼》と呼んだ。

 これは、スーパーという狩場に迷い込んだ、一匹の餓狼の物語である。

***************** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/26(土) 03:18:50.20 ID:+bKCE8Li0<> とりあえず今夜はここまでにします
明日から第一章を投下していきます <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/26(土) 06:14:21.01 ID:4e3hFGqko<> 乙
この丹波さんを客観的に見たら獲物を物色してる辻斬りにしか見えないなww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/26(土) 11:15:31.71 ID:NPCoNoHd0<> 丹波さんは大分ベン・トーサイドに寄せたキャラになっています
原作のウィザードとか大厄のマタドールのような、ギャグにはさほど絡まないバトルパート要員だと思って下さい

次レスから投下します <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/26(土) 11:22:11.91 ID:NPCoNoHd0<>  
第一章 「いいぜ……やってやるよ……!」                  ――丹波分七


 時刻は18時50分。
 丹波はホーキーマートに到着した。自動ドアを通り店内へ。泉宅で竹宮流の客分として世話になっていた際、買い出しで何度か訪れた事があるため、商品の大まかな配置は覚えている。まずはざっと店内を見て回り、帰りに見切り品の食材を買って帰ればいい。とりあえずは、弁当が残っているかを確認するため奥にある弁当コーナーへ。店内外周の飲料コーナー、精肉コーナー前を通り、目当ての弁当・惣菜コーナーに辿り着く。

丹波(おぉ、あるじゃねぇか)

 3割引のシールが貼られた弁当を見つけ、丹波は思わず 顔を綻ばせた。

 迷わず手を伸ばし、弁当に手が届く寸前――。

 丹波は気付いた。 後方から突き刺さる視線に。

丹波(………なんだ?こんな場所で……)

 振り返るまでもなくわかる。 視線に込められた意志。それは丹波にとって、あまりにも馴染み深いものだった。 一旦弁当から手を引き、素知らぬ顔でその場を離れる。 近くにあったカップ麺の棚の前に移動し、弁当コーナーの後方、視線の主を確認する。

丹波(ガキが三人) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/26(土) 11:29:00.43 ID:NPCoNoHd0<>  そこにいたのは、まず制服姿の男子高校生が二人。一人はピアスに顎髭のチャラけたガキ、もう一人は細目の坊主 頭。そして、白いコートを着ているため服装からは判断できないが、おそらくは二人と同年代の女子高生……らしき茶髪の女が一人。女は制服の二人と一緒でなければ高校生には見えなかったかもしれない。

丹波(最近のガキは発育が良すぎるぜ………まったく)

 それはともかく、これで先程の視線に合点がいった。店内の時計で時間を確認する。18時53分。

丹波(確か、この店のタイムセールは7時だったな)

 あの高校生三人組は、19時のタイムセールで弁当が半額まで値引きされるのを待っていたのだろう。もしかすると親元を離れて生活していて、食費を切り詰める必要があるのかもしれない。この辺りには、最近流行りの低価格で大ボリュームの弁当を売る店はない。ランチタイムならいざ知らず、この時間に高校生が気軽に入れる飲食店も少な い。あれほど品数の揃ったボリューム十分の弁当を、200円から300円で手に入れる機会は貴重だ。この時間に高校生がここにいるということはバイトなどもしていないのだろうし、半額弁当に必死になるのも無理はない。

丹波(それで、あの敵意剥き出しの視線って訳か……) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/26(土) 11:35:48.45 ID:NPCoNoHd0<>  丹波はそう解釈して、苦笑する。もしかしたら、先程の歓楽街で求めても得られなかった喧嘩相手に、こんな所で出会えたのかと勘違いしかけていたのだ。それが半額弁当狙いの高校生だったのだから、自嘲せずにはいられない。
 金がないのは丹波も同じたが、この場は三人に譲る気になっていた。さすがに高校生を出し抜いて半額弁当を手に入れる気にはなれない。あの三人が無事に弁当を買い、それでも余っているなら自分も買う。それでいい。丹波は今宵何度目かの溜息をついた。

丹波(俺の食生活は高校生と同レベルかよ……ん?)

 なんとなく手に取ったどん兵衛を棚に戻し目線を上げると、三人組から少し離れた位置に立つ別の女子高生と目が合った。

丹波(まぁ、目立つナリではあるがよ……)

 188?107?の体躯を誇る丹波は、他人からの好奇の視線には馴れている。小柄な女とすれ違うと、思わずといった風に見上げられる事も度々ある。あの女子高生も同様だと思ったのだが、一つ異様な点があった。女子高生はかち合った視線を外さないのだ。

丹波(なに見てやがんだ?) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/26(土) 11:39:41.10 ID:NPCoNoHd0<> 188センチ107キロの巨躯
です一応書いておく <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/26(土) 11:47:38.31 ID:NPCoNoHd0<>  あまり見かけない、毛先を外側に跳ねさせる様にセットした髪型。制服の上からモッズコートを羽織り、足は黒いタイツと膝丈の編上げブーツ。一見すると、白いコートに茶髪の女子高生とそう変わらない背丈に見えるが、それは ブーツで底上げされているからで、実際の身長は丹波よりも30?以上低いだろう。髪型や服装はどことなくワイル ドな印象だが、よく見れば華奢で小柄な少女に過ぎない。
 そんな彼女が、なぜ――。

丹波(小娘が……。なにをそんな据わった目で俺を見る? あれじゃあ、まるで……)

 まるで、こちらに喧嘩を売っているようだ。 あれと同じ目を何度も見てきた。路上でやり合った喧嘩相手。道場、試合場で競い合った格闘家。いずれにも劣らない鋭い眼光。幾度となく仕掛け、仕掛けられた野試合の経験が、丹波 に少女の視線から敵意を読み取らせる。少女と自分が殴り合う想像は、とてもではないができな い。しかしその僅かに緊張をはらんだ佇まいと油断のない目付きからは、確かに闘争の予兆が滲んでいる。

丹波(普通に考えりゃあ、あいつも半額弁当狙いで俺をラ イバルと勘違いしているってところだが……)

 それにしては少女の放つ気配は剣呑にすぎる。体を斜にして棚を見ているようで、互い違いにした両足、その軸足の踵が僅かに浮いている。いつでも仕掛けられるよう備えているようにも、こちらを牽制しているようにも見える。 あの少女の姿勢が、たまたま丹波の経験に照らして闘いの準備段階であるように見えている。冷静に考えればそれだけの話なのだが、丹波の本能が警戒を解くことを許さない。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/26(土) 11:57:04.80 ID:NPCoNoHd0<>  馬鹿らしい、と頭を冷やそうとしても上手くいかない。丹波は妙な意地で逸らさずにいた視線を壁掛け時計に移した。視界の隅で、少女も時計の方を向くのが見えた。
 時刻は18時59分。秒針を見るともう間もなく19時になるところだった。   

 5、4、3、2、1――。

丹波(時間だな……)

 バックヤードに続く銀色の扉が開き、中から店員が現れた。真冬だというのに半袖のTシャツを着た強面の大男だ。店名のプリントされたエプロンを着けているが、まったく似合っていない。手には値札シールを印刷する機械を持っ ている。 店員は店内に向かって一礼すると、惣菜コーナーへ。売れ残った商品を並べ直し、割引シールを貼っていく。続いて、店員が弁当コーナーで同じ作業を始めたところで、丹波は気づいた。

丹波(ガキが増えてやがる)

 三人組の付近に高校生、大学生らしき男女が数名。全員に独特の緊張感がある。特に目を引くのはウルフヘアの女子高生だ。限界まで引き絞られた弓弦のような、あからさまな緊張を見せている。

丹波(こいつらみんな半額弁当狙いか…?こりゃあ弁当は無しだな……)

 弁当の残りは確か、3個か4個。集まった学生たちはその倍はいる。当然、全員が手にする事は出来ない。すでに決めていた事だが、やはり弁当は諦めるしかなさそうだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/26(土) 12:02:31.27 ID:NPCoNoHd0<>  少女の理不尽なガン付けで止めていた足を動かす。作業を終えた店員とすれ違い、横目に少女を見ると、こちらをまだ気にしつつも、友人らしき別の女子高生と話していた。

???「私の狙いは―――だ」

???「ぇあっと、私は―――で」

???「そうか、では――」

丹波(やはり弁当目当て。そんで狙いが被らないように打ち合わせてんのか……マメだねェ)

 通りがかりに僅かに聞こえた会話から、ブーツの少女がやはり半額弁当狙いである事が知れた。二人とも、なにやら無駄に長いけったいな商品名をスラスラと口にしている。

――トコロデサトウハドウシタ? ――ェアット、スコシオクレルッテ。マニアワナイカモッテ。 ――ソウカ……

 しかもまだ待ち人がいるらしい。この店の弁当は人気があるのかないのかよくわからな い。タイムセールまで売れ残りはするが、割引された後はこれほど客が集まる。やたらと油を多様したラインナップが昼間や夕方の客層には受けが悪く、それを見越した近隣の学生たちがタイムセールに集い競争になる、という事だろうか。そうだとすると、ここは学生御用達の店なのかもしれない。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/26(土) 12:18:07.86 ID:lbKO8QhZo<> 狼つながりか
期待 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/26(土) 12:18:44.05 ID:NPCoNoHd0<> 丹波(なんだ……そういう事か……)

 丹波は気付く。最初から、場違いだったのだ。言ってみれば、自分は今、学生に混じって人気の学食の列に並んでいるようなものなのだろう。

丹波(この時間、この店の弁当コーナーはガキどもの縄張 りって訳か……)

 そうと分かれば少女に睨まれた事にも納得できる。あれは空気を読んで立ち去れという非難の視線だったのだ。もちろん、ここがスーパーである以上、あの少女が他人に弁 当を買うなと言う権利などありはしないが、どんな所にもその場でしか通用しない独自のルールやマナーがあるものだ。

丹波(そういう事か……)

 丹波はこの手の幼稚で排他的なローカルルール、マナーには寛容だった。社会性の希薄な空手家としての人生は、非公式なルールに従う事も多い。

丹波(しかしよ……)

 先程の歓楽街。普段と違う時間帯に出向いたせいで目の当たりにした、堅気の社会人が楽しそうに騒ぐ姿。いい歳をして、たまの贅沢な食事も躊躇わざるをえない現実。それらから目を背け、逃げる様に、排斥される様にしてスー パーに来てみれば、また真っ当な人生を生きる学生たちから疎外される。
 今更こんな事で傷ついたりはしない。
 しかし、普通の暮らしをする人間を見ていると、あらゆるものを犠牲にして邁進してきた空手の道に霧が掛かる。道は確かにそこにある。あると信じているが、視界を阻まれ迷いが生じる。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/01/26(土) 12:27:45.43 ID:NPCoNoHd0<>  自分の人生はこれでいいのかと、そんな事を考えてしまうのだ。

 堤との戦いを思い出す。
 満員の観衆と中継用のカメラが見守る中、鍛え抜いた拳足と技を存分に打ち合った。ただ堤を打ち負かす事だけに集中していた。勝利を収 め、観客からの喝采、同業者からの賞賛を受けた。
 だが、それだけだった。試合が終わってみれば、残ったのは痛めつけられた体と試合報酬の現金だけ。ファイトマ ネーの額は、無名の空手家にすぎない丹波にとっては高額だったが、それでも一年分の生活費にも届かない。怪我の治療費こそFAWが別途負担してくれたが、せいぜいが、これで無事に年を越せるといった程度の稼ぎにしかなっていない。

丹波(まぁ……それはいい)

 待遇に不満があった訳ではない。
 不満を持てない自分に疑問を持つのだ。堤と最高の舞台で戦えれば、金銭など二の次だと考えてしまう自分に。むしろ、現金報酬という現実的な成果が、試合後の余韻を台無しにしているとさえ感じている事に。プロの格闘家として闘い、報酬を得る。そんな当り前の事に拒否感を覚える自分の在り方に、言い知れぬ不安を覚 えるのだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/26(土) 12:34:40.26 ID:NPCoNoHd0<>  普通の人間が、自分の技能や経験、何よりも時間を切り売りしてまで手に入れる安定を、安息を、丹波は犠牲にして生きている。

 堤の様な強者と闘い、その余韻が去ると、今夜の様に堅気者の生活に目をとられる事がたまにある。不意に自分の馬鹿さ加減を自覚させられ、いたたまれなくなり、暴れ出したい衝動に駆られる。

 俺はこれでいいのか――?

 幾度も繰り返した自問。
 答えは、いつも決まっていた。

丹波(あぁ……戦りてぇ……)

 悩んだところで、結局は闘いに戻る。
 空手家として歩む人生。その将来に対する不安は、闘う事でしか払拭できない。

丹波(もうどうにもならねぇ……後戻りなんか出来ねぇん だ……空手しかないだろうが、俺には)

 丹波は余計な事を考えるのをやめた。
 何か腹の膨れるものを買って、とっとと帰って寝る。そして明日になればまた街に繰り出し、狩りをする。今度開催される北辰館トーナメントで獲物を物色するのもいい。闘う事だけ考えていれば気分は上々なのだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/26(土) 12:39:29.14 ID:NPCoNoHd0<> 丹波(ん……?)

 弁当コーナー前を通過する際、学生たちが視線をくれる。ブーツの少女ほどの威圧感はないが、僅かに丹波の琴線に触れるものがある。

丹波(しかしこいつら、何故弁当を取らない?)

 見栄か?半額になるのを待っていたと思われるのが恥ずかしいのだろうか。あの連中の年頃ならありそうな事だ。自分が立ち去れば学生たちは動くだろうと考え、丹波は歩みを速めた。

丹波(難儀なもんだぜ、ガキなんて)

 後方で、店員がバックヤードに戻る、扉の閉まる音が聞こえた。

 その時だった。

丹波(ッ!!〜〜〜ッ!?!?)ゾワッ

 予兆――どころの話ではない――。

 まるで―――。

 扉が閉じる事が最初から合図と定められていたような ―――。

丹波(なんだッ!これは!)バッ

 丹波は咄嗟に振り返る。

  振り返った瞬間、丹波が目にしたもの―――。

 それは、闘争だった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/26(土) 12:44:16.24 ID:NPCoNoHd0<> 深夜のテンションで投下したいのでここまでにします
BSで深夜アニメ見ながらまったり投下していく <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/26(土) 16:38:28.36 ID:vTswKa8do<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/26(土) 21:14:11.51 ID:FKwFTAzPo<> 乙乙
丹波文七がベン・トー参戦とか楽しみすぐるww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/26(土) 23:26:43.53 ID:KhUpg+L90<> レスくれた方ありがとうございます
グレンラガン見ながら投下開始 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/26(土) 23:32:21.71 ID:KhUpg+L90<> 丹波「………………………はあ?」

 目を疑う。思わず素っ頓狂な声が漏れた。

ブーツ「はあっ!!」ドンッ!

ウルフヘア「ぐうっ!」ズサァッ

 ブーツの少女がウルフヘアの少女に中段蹴りを決め吹き飛ばした。

茶髪「ふっ!はあっ!」ゴッ!ダンッ!

モブA「!!〜〜〜ッ…………」ガクッ

モブB「なあっ!?」ドサッ

 三人組の一人。茶髪に白コートの少女が、前方から迫る男子学生の顎に側面から掌底を打ち込み失神させ、ほぼ同時に後方から迫った男子学生に返す刀で足払いを掛けた。

顎髭「今日は数が多いな…ふっ!」ドッ!

坊主「まったくだ!はっ!」ガッ!

 三人組の残りの二人。顎髭と坊主頭が背中を合わせ、周囲を取り囲む三人の男子学生を相手に打ち合っている。

モブC「ちぃっ!」

モブD「こいつら!」

モブE「共闘(たたかい)馴れてやがる!」

 顎髭と坊主は3対2の状況をまったく苦にしない連携を見せていた。

丹波「………………なんだぁ、こりゃあ?」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/26(土) 23:37:24.77 ID:KhUpg+L90<>  状況が理解出来ず、丹波は立ち呆けた。学生たちが闘っている。それはわかるが、何故いきなり―――。

丹波(おいおい……まさか、こいつら―――)

 半額弁当?
 半額弁当を奪い合って?

丹波(それしか考えられねぇが……いくらなんでもこれは………ん?)

おさげ眼鏡「…………………」ジッ

 丹波は、ブーツの少女と話していたおさげに眼鏡の小柄な少女が、乱戦の外側からじっと自分を見ているのに気付いた。

おさげ眼鏡「……………フヒッ」ニチャリ

丹波「〜〜〜〜〜〜ッ!??!?」凶ッ

 粘りつくような笑みを浮かべるおさげの少女から、謎のプレッシャーが発せられた。丹波は、反射的に重心を落とし、両腕を前に突き出した。

丹波(この俺があんな小娘にッ…… 気圧されている!?構えを取っている!?) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/26(土) 23:41:51.88 ID:KhUpg+L90<>  自分で自分のやっている事が信じられない。 丹波は、訳もわからず構えたまま体を硬直させた。
 そして。

顎髭「………チッ。やっぱりか」

坊主「なんて夜だ……まったく」

丹波「ッ!」

 三人の男子学生を倒した顎髭と坊主が、構えた丹波を見咎めた。

顎髭「魔女から忠告は受けていたが、やはり狼………!」グッ

坊主「魔女の杞憂であって欲しかったよ。久々にアブラ神の弁当が食いたくて来てみれば……」スッ

丹波(まさか!俺にも仕掛けるつもりか!?)

顎髭「いくぞ!」ダンッ!

坊主「応ッ!」ザッ!

丹波(本当に来やがった!嘘だろ!?) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/26(土) 23:46:21.67 ID:KhUpg+L90<>  覚悟を決めた様子で飛びかかってくる顎髭と坊主。二人同時に正面から突進して来る。途中で坊主が急ブレーキをかけ、左に方向転換。一瞬坊主に目を奪われるが、顎髭はそのまま真っ直ぐ突っ込んで来る。

丹波(しまったッ!こんなフェイントに―――!)

顎髭「うおぉぁッ!」ガンッッ!!

丹波「クソッタレ!!」ズザアッ!

 坊主の方向転換をフェイントにした顎髭の突撃。技も何もあったものではない、ただの全力疾走からの体当たり。丹波は両腕で顎髭を受け止めた。
 丹波の技量なら受け流す事は容易だったが、おさげの少女のプレッシャーで体に無用な力が入っていた事が災いした。

顎髭「ぐっ……!…があぁっ!」ガシィッ

肩を掴まれ突進を止められた顎髭が、もがく様に丹波の腕に絡みつく。

丹波(糞ッ!来るッ!左からッ!!)

坊主「貰った!!」ドムンッ!

丹波「〜〜ッ!」グラリ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/26(土) 23:51:01.36 ID:KhUpg+L90<>  顎髭坊主コンビの本命の一打が丹波の左脇腹を捉えた。坊主の右の掌打。高校生にしては重い。しかし丹波にとっては軽い一撃。

丹波(くっ糞ガキども……!治ったばかりだってのに……!)

 坊主の一撃には、本来なら丹波の巨体にダメージを与える威力はない。しかし坊主が捉えた左脇腹は、堤城平の抜き手によって深刻な打撲傷を負わされた箇所だった。いくら鍛えていても怪我が治癒したばかりの箇所は弱い。ほんの一瞬だけ、丹波の膝が揺れた。

顎髭「いけるか!?」

坊主「いやまだだ!効いてない!一旦離れろ!!」

丹波「離すと……思うか……?」ガシッグイッ

顎髭「なっ…!うわっ!」ジタバタ

坊主「おい…嘘だろ……」

 丹波は体を離して後退を図った顎髭の襟首を掴み、そのまま片手で高々と持ち上げた。軽い。あまりにも軽い体。ただの高校生の体だ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/26(土) 23:54:41.75 ID:KhUpg+L90<> 丹波「敵うと思ったのか……?ガキが……!」

 思わず大人気ない台詞が口をつく。二人の奇襲で頭に血が昇っていた。まだ子供が相手と あって躊躇する理性が残ってはいるが、二人の弁明次第では何をしてしまうか分からないところまで、丹波は昇り詰めていた。

顎髭「ぐっ…敵う敵わないって問題じゃねぇ!離っ……せ!オラァ!」ガッ!ゴッ!

丹波「てめぇ……!」グググッブンッ!

顎髭「うおおっ!?」ヒュン

坊主「なっ!?」

顎髭「ぐあっ!?」ダンッ!ドサァ!

坊主「顎髭ぇ!!」

 抵抗する顎髭を軽く放り投げて床に叩き付ける。もう臨界寸前だ。これ以上何かされれば、相手が誰だろうと抑えられない。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/26(土) 23:59:57.08 ID:KhUpg+L90<> 丹波「なら何が問題だッッ!言ってみろ糞ガキど もッッ!!」

坊主「〜〜〜ッ!?」ビリビリビリッ!!

顎髭「うっあ……!くそっ……」ググッ

 歴然な戦力差を理解した筈だ。
 腕力の違いは見せ付けた。こちらの耐久力も思い知っただろう。なのに、それでもまだ、坊主は構えを解かない。顎髭も背中から床に叩き付けられたというのに、早くも立ち上がろうとしている。仮に街のチンピラ程度の連中ならここまでの闘志を見せる事はまずない。この時点で詫びをいれるか、逃げ出すかのどちらかだ。

丹波(異常だぜこいつら……たかが弁当のために…………ッそうだ!)

 異常といえば、もう一人―――。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 00:06:32.25 ID:kJKP7XH/0<> おさげ「ふむ……突如現れた謎の柔道家……いや空手家?プロレスラー……まあこの辺の設定は後で固めるとして、ある事件を追っていた顎髭と坊主が行方不明となり無残にも菊紋を汚された姿で発見される……二人が違法な地下闘技 場の摘発のために裏付け操作を進めていた事から、犯行は闘技場の関係者によるものと当たりをつけたサトウ……サ イトウ刑事は闘技場への潜入捜査を試みる………しかしそこで繰り広げられていたのは、互いの貞操を賭けて争われる 闇の格闘トーナメントだった!サト…サイトウは強大な敵……肉棒を掻き分け、トーナメントに出場しているであろう真犯人を探し出す事が出来るのか!サトウに幾人もの肛門括約筋を陥落させてきた裏世界の格闘家たちが迫 る……!」ニチャ

丹波(何をブツブツ言ってやがる……!?)ゾワゾワッ

おさげ眼鏡「過去にも似たような展開があったけど……バ トル展開って私のフィールドのような気がするし……もっと設定を詰めて獣道で培った格闘プレイ描写を上手く活かせれば私はあの時よりも更なる高みに………あぁ後は佐藤さんさえ来てくれれば完璧なのに……佐藤さんとあの人の絡みが見られれば『確信』が得られるのに………」ニチャアア

丹波「なっなんだお前はさっきからッ!」

おさげ眼鏡「ひぇっ!」ビクッ

丹波「見せもんじゃねぇぞッ!」

おさげ眼鏡「ひゃっひゃい!」スタコラ

 躊躇いながも怒鳴りつけてみれば、おさげ眼鏡はただの気弱そうな少女だった。怯えた様子で何処かに駆けて行く。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 00:10:07.20 ID:kJKP7XH/0<> 丹波(行ったか……あのガキだけは何かヤバイ……何かはわ からんがとにかくヤバイ……!)ブルッ

|ω・`)ジッ――スゴイハクリョク…ソシテキンニク…

丹波「ッ!ッがアァっ!!」ゴッ!

|彡 サッ

丹波「〜〜〜ッ!こっ怖ぇぇ……!」

 なんだあの邪気は―――!?今まで感じた事のない絡みつくような―――。

丹波(いや!もういい考えるな!)ブルブルッ

坊主「ッシャアァッ!」バッ

丹波「チィッ!」

顎髭「っ待て……!一人じゃそいつは……!」

丹波「まだやるか!ガキがアァっ!!」グオォッ!

 おさげの少女に怖じけた事を誤魔化す様に、丹波は吼えた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 00:14:51.80 ID:kJKP7XH/0<> 坊主「ぅおアァアァッ!」ブンッ!

丹波「はっ!」パシッ

坊主「ッ!!」

丹波「ふんっ!!」ズムンッ!

坊主「〜〜〜ッ!?グっ……ハァッ」ガクッ

 坊主の右拳を受け止め、鳩尾に五分の力で、固く握り込んだ拳を突き刺す。坊主は目を剥いて崩れ落ちる。やはり特に鍛えている様子はない。未発達な高校生の体でしかない。ここのところ体を作り込んだ人間ばかり殴っていた所為で、拳を打ち込んでも罪悪感しかない。

丹波「これでわかったろ……無駄だよ。何度やろうと同じだ」

坊主「あっ……ぐぅ…!いっ言った筈だ……!そんな事は引き下がる理由にはならんッッ!!」

顎髭「くっ……!勝てないからやめるなんて……そんな奴はここにはいないぜ……オッサン!」グッグググ…

丹波「お前ら……!」

???「二人の―――」

 背後から、凛とした女の声。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 00:18:42.57 ID:kJKP7XH/0<> 丹波「………!」バッ

ブーツ女「―――言う通りだ……狼の誇りに賭けて、退く訳にはいかん」

茶髪「その二人、結構長い付き合いなのよね……お礼ぐらいはさせて貰うわ」

 声の主はブーツの少女だった。隣には腕組みをした茶髪。 茶髪には独特の余裕があるが、それは荒事に挑む際の彼女なりのスタイルと察せられた。しかしブーツの少女は違う。惚れ惚れするような気迫を真っ直ぐこちらにぶつけてくる。喧嘩を売られていると感じたのは間違いではなかった。そしてブーツの少女が半額弁当狙いのタイムセール待ちという推測も当たりだった。

 半額弁当狙いのライバルとして喧嘩を売られていた、という事らしい。あの視線は立ち去るように促すものではなく、当初感じたように警戒と牽制の意志が込められたものだったのだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 00:25:18.46 ID:kJKP7XH/0<> 丹波「正気か………?」

 周囲を見回してみれば、立っているのは顎髭、坊主、ブーツ、茶髪の四人―――。

|ω・`)ジッ――スゴイメヂカラ…ソシテキンニク…

………四人だけで、それ以外の学生は全員フロアに伸びている。

丹波「やるってのか……小娘ども……」ギロリ

ブーツ女「当然だ」カッ

茶髪「ただでは帰さない」スッ

丹波「チッ……」

丹波(俺が半額弁当狙いのライバル―――)

ブーツ女「っ!」ダッ!

茶髪「いくわよ!」ダッ!

丹波(―――という誤解)グッ!

ブーツ女「はあぁっ!」ダガンッ!

丹波(おそらくそれを解けば――)

茶髪「ふっ!」スパァンッ!

丹波(この場は収まる)

ブーツ女「ふっ!はっ!」ダンッ!ガンッ!

丹波(なのに何故―――)

茶髪「はぁっ!」バンッ!ガッ!

丹波(俺は――こんなガキどもに) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 00:28:36.70 ID:kJKP7XH/0<>  固めたガードの隙を突く少女二人の猛攻―――。

 軽いが鋭く急所を貫く連撃が―――。

丹波(駄目だ―――)

 ―――堤城平によって負わされた負傷。その傷痕を―――。

 抉り、疼かせた。

丹波(思い出しちまう――体が――そんな事されたら――)

ブーツ女「おぉぉッッ!!」

茶髪「まだまだぁッッ!!」

ガンッバンッドギヤッバキッゴンッズンッバガンッズガッゴキッドンッバグッ メメタァッ!ズムッドムッズガッゴキンッザキィッドリュッバッカァァァンッ!

丹波「〜〜〜〜〜ッ!?」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 00:33:21.10 ID:kJKP7XH/0<>  二人の年齢と性別を考えれば驚嘆すべき技量だった。

 さすがに威力には欠けるが、無駄のない急所だけを狙った連撃。一人が末端を叩けば、もうひとりが正中線を突く。ガードをノックする様な軽打に気を取られると、もう一人が体重を乗せた一打を放つ。こちらを格上と正しく認識した上での遊びも遠慮もない連携攻撃。打撃による人間の倒し方を心得た動きではあるが、おそ らく技は我流だろう。しかし、それ故に生み出される荒々しさと機能美を兼ね備えた動きは、ある種の才能と資質を感じさせる。明らかに顎髭坊主とは一線を画す何かを、ブーツと茶髪 は持っていた。

 こいつらがガキじゃなかったら。

 同性で体がでかければ。

 子供を相手には闘えないと、冷静になろうとすればするほど、冷却を阻害するように見せ付けられる学生たちの闘志と技量。

 もう、我慢の限界だった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 00:37:16.49 ID:kJKP7XH/0<> 丹波(いい……………知らねぇ)ギンッ

ブーツ女「ッ!?」バッ

茶髪「なっ!!?」サッ

丹波「―――ぜ……」ボソッ

ブーツ・茶髪「「……!」」ゾクッ

丹波「いいぜ……やってやるよ……!」ゴッ!

 もう全てがどうでもいい。小娘でも獲物は獲物。

丹波(力の差を見せ付けてやる……!!ガキども!!) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/27(日) 00:40:21.78 ID:kJKP7XH/0<> ちょっと休憩します
今夜中に一章終了まで投下します <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 01:02:17.97 ID:kJKP7XH/0<> 茶髪「ちょっとやばそうね、魔女さん」

ブーツ女「最初からわかっていた事だ。私一人でもやる。下がっても構わないぞ」

茶髪「冗談言わないで。あなたこそ、ここは私に任せてワンコでも呼んで来なさいよ」

ブーツ女「自分の縄張で後輩に頼れるか」

茶髪「そう言うとは思ったけどね」クスッ

丹波「相談は――――」ダッ

茶髪「!」サッ

丹波「もういいか……?」ドリュッ!

茶髪「がっ!?」ドゴンッザザッ

 まずは茶髪に仕掛ける。さすがに反応がいい。型も何もない軽く振り抜いた拳はガードに阻まれた。さらに茶髪は、ガードを上げると同時にバックステップを踏み、衝撃を受け流す芸当までやって見せた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/27(日) 01:04:58.27 ID:1DxGtnhG0<> ベン・トーはアニメ、板垣作品は刃牙しか見てないにわかだけど面白いなー
オルトロス辺りのかなり人外な動き相手にどう立ち回るのか楽しみ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 01:05:48.73 ID:kJKP7XH/0<> ブーツ女「ッッ!」グオッ!

丹波「来るかい!」

 予想通り、打ち終りの隙を狙われた。

ブーツ女「ふッッ!」バッ!

丹波「チィッッ!」バチィッ!

 ブーツの右の掌打を右腕で払い除ける。

ブーツ女「なっ!?」グラッ

丹波「ふんッ!」シュバッ

 掌打の軌道を逸らされ、前のめりにバランスを崩すブー ツ。こちらの右手側に倒れ込んでくる。今なら倒せる。右半身を引いて体を開き、押し倒すように左の掌底を背面から打ちこむ。
 しかし。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 01:10:00.07 ID:kJKP7XH/0<> ブーツ「くぅっ!」バッ!

丹波「!!」

 バチィッッッ!!

ブーツ女「ぐ!?」

ブーツは無理やりに体を捻り、左の飛び膝蹴りで左掌打を迎え撃った。掌打と膝の激突音が響き渡る。

丹波(………!)

 あえてそのまま倒れ込む事でこちらの掌底を躱す、というなら戦略的に理解できる。だがブーツの取った行動はその真逆。無理な体勢から放った飛び膝蹴り。ブーツにとってなんのメリットもない迎撃。ブーツからすれば、体格差を考慮して躱せる攻撃は躱すべきだ。例えそれがガードの上からでも、こちらの攻撃を受ける事は体力の消耗に繋がる。それがわからない訳でもないだろうに、咄嗟に迎撃を選択してしまう気の強さは、 とても女子高生とは思えない。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 01:14:53.38 ID:kJKP7XH/0<> 丹波(足癖の悪いタイプなのは間違いない……丈夫で重量のあるブーツは武器代わりって訳か……)

丹波「……………やるな。縄張り、と言ったが……ここではあんたが一番なのかい」

ブーツ女「そうだ。この場に限っては譲らない」ビリビリ

茶髪「意地っ張りなの。この娘」

丹波「なら……二人で来な。それなら少しは本気を出せる」

ブーツ女「……………」ギリッ

茶髪「だってさ。どうする?」

ブーツ女「言うまでもない!」ダッ

茶髪「!あぁもう!こっちに合わせる気はないわけ!?」 ダッ!

丹波「……………」スッ

 もう怪我をさせてでも仕留める。
 あしらい、いなす闘い方ではいつまで経っても終わらない。
 組み技では完全に壊してしまう。この場合は軽打でも意識を奪える打撃だ。丹波は、少女二人の体を行動不能に追い込む覚悟を決めた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 01:18:57.55 ID:kJKP7XH/0<> 丹波(一発で寝かしつけてやる!)

ブーツ女「あぁあッ!」グンッ!

丹波(ギアを上げてきたか!そして―――!)

茶髪「ふッ!」シュバ!

 ブーツ、茶髪の同時攻撃。ブーツが正面から鳩尾狙いの中段蹴り。茶髪が顎を左側面から狙ったハイキック。二人ともこちらが受けて立つ構えを取り、重心を落とした事を見逃していない。

丹波(腹はくれてやるッ!!)サッ

 危険度の高い茶髪の蹴りを優先して払う。予想外の重さ。しかし問題なく捌いて右の掌底を茶髪の顎先にねじ込む。

丹波「ッッ!!」ガコッ!

茶髪「っ!!〜〜〜〜ッ!?」ガクンッ

丹波(一人!!そして来いッ!!)

ブーツ女「ッあアッ!!」ドゴンッ!

丹波「〜〜〜〜〜ッ!?!?」グラリ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 01:22:42.85 ID:kJKP7XH/0<>  ブーツの蹴りを鳩尾にもろに喰らう。想定外の威力。急所とはいえ少女の蹴りなら耐えられると踏んでいただけに、衝撃は大きい。

丹波(これが小娘の蹴りだと!?)

ブーツ女「とどめッ!」シュバ!

丹波「っ!!させるかァァァァあッッ!!」ブおンッ!!

ブーツ女「!?」ゾワッ

 ブーツの追撃に対するカウンター。

 思わぬダメージに硬直した体を強引に動かすため、丹波はこの時、手加減を忘れた。

 正真正銘、丹波分七の渾身の一打。全身全霊の右の正拳を、小柄な少女に向かって打ち下ろした。
 打ち下ろしてしまった。

 その時だった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 01:26:25.10 ID:kJKP7XH/0<> ???「先輩ッッ!!」グォォッ!

丹波「!?」

 バッガァァァァァァンッッ!

ブーツ女「佐藤!?」

???「ぐあっ!!」ドサッ

 正拳を打ち下ろした瞬間、男子学生がブーツを庇うように飛び込んできた。手にした買い物カゴで正拳を受け止め、尻餅をつく。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 01:29:50.41 ID:kJKP7XH/0<> 丹波「…………………」

ブーツ女「佐藤!無事か?」

佐藤「遅くなりました……先輩」タッ

 こちらを睨みつけながら、佐藤、と呼ばれた少年は立ち上がる。ブーツの学校の後輩。加勢に来た仲間、と見て間違いないだろう。

 少年の眼光もまた、ブーツに負けず劣らず鋭い。他の学生同様、体格差に臆した様子もない。 それどころか、少年の眼には怒気が篭っている。怒り。おそらくは、ブーツに拳を向けた事に、この少年は怒っている。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 01:33:03.77 ID:kJKP7XH/0<> 丹波(…………このガキ)

佐藤「あんた……タダじゃ帰さないぜ………?」ギラッ

丹波「……ハッ。同じ事をそこの―――」クイ

 フロアにうつ伏せに倒れ、失神したまま動かない茶髪を指し示し、挑発するように言ってやる。

丹波「――ネーチャンにも言われたぜ?」ククッ

佐藤「!!茶髪……っ!」ググッ

顎髭「くっ……すまん……!」

坊主「俺たちがいながら……」

佐藤「顎髭……坊主!」

丹波(このガキは……)ニタア

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 01:35:44.58 ID:kJKP7XH/0<> 丹波(…………このガキ)

佐藤「あんた……タダじゃ帰さないぜ………?」ギラッ

丹波「……ハッ。同じ事をそこの―――」クイ

 フロアにうつ伏せに倒れ、失神したまま動かない茶髪を指し示し、挑発するように言ってやる。

丹波「――ネーチャンにも言われたぜ?」ククッ

佐藤「!!茶髪……っ!」ググッ

顎髭「くっ……すまん……!」

坊主「俺たちがいながら……」

佐藤「顎髭……坊主!」

丹波(このガキは……)ニタア

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 01:39:50.01 ID:kJKP7XH/0<>  獲物を狩りそこねてスーパーに来てみれば、弁当を奪い合う学生の争いに巻き込まれ、初めて女子供に手を上げ た。

佐藤「先輩………」

ブーツ「……なんだ」

ブーツも茶髪も顎髭も坊主も、十分に強い。特にブーツの実力は女性である事を考えれば異常とさえ言える。

佐藤「今日のメニューは……」

ブーツ「『男なら、いや女でも登ってみせろ!このフライ の山を!そして白米の原野を走破しろ!ミックスフライマ ウンテン弁当!!』……『アジの苦味は青春の苦味……!特 大アジフライ弁当!』……『お前達にはこれが必要な筈 だ!油だ、脂だ!肉と油脂だ!!ミートミックス弁当 だッ!!』………の3個だ。まあ、どれもいつものアブラ神だ」

佐藤「本当ですね……」フッ

 だが、それでも足りない。たとえ体格、性別、技量、に不足がなくても、どれだけ素晴らしい闘志を見せようと。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 01:42:47.27 ID:kJKP7XH/0<> ブーツ「商品名だけで十分か?」

佐藤「はい。先輩の口から聞ければ、見なくても」

 ブーツたち四人では、喧嘩のし甲斐がないのだ。冷静に実力差を悟り、敵わないという前提で掛かって来られても、その闘いに愉しみは見い出せない。

丹波「おい……」

 相手が遥か格下でも構わない。こちらを本気で打ち負かそうとする相手であれば、強者でも弱者でも構わず叩きのめし、力で我を通した満足感に浸る。それでこその喧嘩。 先程までの闘いは、言うなれば道場で後輩の稽古相手を務めたようなもの。相手のための闘いであり、自分のための闘いではない。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 01:49:20.80 ID:kJKP7XH/0<> 丹波「そろそろいいか?お前らも寝かしつけてやる、さっ さと来な」

佐藤「……先輩、僕が前に出ます」チラッ

ブーツ「………すまん。サポートは任せろ」

 その点、この佐藤という少年は良い。顔見知りを害された怒りに、素直に身を任せている。

佐藤「いくぞッ!!!」ダッ!

 頭にあるのは報復の意志のみ。そんなツラ構え―――。

丹波「来いッ!小僧ッ!」

 喧嘩のし甲斐があるツラ構え。

 丹波分七は佐藤少年の表情に、求めていた獲物の臭いを嗅ぎつけた。

***************** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/27(日) 02:08:02.03 ID:kJKP7XH/0<> 訂正
寝かしつけてやる、→寝かしつけてやるから、
どっちでもいいけど、一応

これで一章は終わりです
二章は佐藤視点、ベン・トーパートです
時間を遡り、丹波との邂逅を果たすまでのまったりエピソードになります

>>43
ありがとうございます。オルトロスは出てきますが、丹波とは戦いません
あくまで丹波Vs佐藤に絞って書くつもりです <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/27(日) 02:08:23.37 ID:DspaW+gco<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/27(日) 08:46:45.88 ID:WVBoeNd/o<> 乙
白粉凶悪すぎワロスww
丹波がガキ相手に本気を出すと勝っても負けても格が下がりかねないがどう捌くのか

わりと話はそれるが丹波がベン・トーと聞いて
青いエコバックなんて目じゃない凶悪極まりない戦法を思いついたが
原作未読なら絶対出てこないので安心だな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/27(日) 17:05:39.90 ID:/iQkiaRX0<> 二章投下します
冒頭の文章が少し鬱陶しいですが、おいおい会話文も増えていくのでご容赦を

>>58
原作の丹波には食欲減退能力に使えそうな描写があるんですね。それも大分キツそうなのが……未読なら絶対出てこないとかどんだけ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 17:12:26.85 ID:/iQkiaRX0<>  
 第二章 「喰らいつく……!」 ――佐藤洋

 
 多数派に嘲笑される少数派という立場に、僕、佐藤洋は慣れている。

 世の中には、長い物に巻かれ多勢に属する事で安心を得るタイプの人間と、その安心を犠牲にしてでも孤独に我が道を行くタイプの人間がいる。現在、僕の周囲には圧倒的に後者が多く、過去の対人関係を振り返ってみても、やは り後者が多い。

 そもそも、人生のスタート地点である実家からして何かがおかしかった。
  熱狂的を通り越して偏執的なセガ信者で、30代にしてかめはめ波の早朝練習、40代でネズミのマスコットキャラクターで有名な某夢の国が、某大国の侵略拠点であると妄想したりする色々とアレな父親と、ネトゲで女子中学生 を自称し、JCの二文字がただのアルファベットの並びに見えない残念な『お兄ちゃん』たちを手玉に取る、これまたアレな母親の元で生まれ育った時点で、僕の進む道はある程度決まってしまっていたのだろう。
 両親からして、訓練されたエリート・マイノリティ。二人の血を受け継ぐ僕は、サラブレッド・マイノリティ。
 この世に生まれオギャアと一泣きしたその時点で、僕には少数派として生きていく資質があったのだ。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 17:17:34.03 ID:/iQkiaRX0<>  その上、生来の資質を磨き上げる生育環境も完備されてしまっていた。
 父や叔父夫婦の手によって従姉妹の著我あやめと共に脳内をセガブルーに染められ、石岡君を始めとした小中学校 時代の友人たちの様々な奇行を見聞きし、時にはその輪に加わり、気付けば僕もまた、立派なマイノリティとして一 本立ちを果たしかねない人間になっていた。

 幼少期からマイノリティ・ロード一本道。
 セガのゲーム があまりにも魅力的だった事と、同じくエリート・マイノリティの道を歩む親族や友人たちが常に周囲にいたせいで、僕は自分の人生になんの疑問も持たずにこれまで生きてきた。 思い返せば他の道に進む分岐点はいくらでもあったのに、悉く見逃してここまで来てしまったのだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 17:21:37.84 ID:/iQkiaRX0<>  具体的には……広部さんから貰ったシャーペンの芯を蒐集していた時とか……!あの時に気付くべきだったのだ!こんなの変だよおかしいよやめなきゃって!石岡君が奢我の抜け毛を集めていた事を咎めておいて、何故自分はやめな かったんだ!訳がわからないよ!僕がやたらとシャー芯を催促する理由を知った時の広部さんの絶対零度の瞳を思い出せ!


…………最高だったろうが!


 違った!そうじゃない!…………クソッやっぱり最高じゃねぇか!
 広部さんはどうあっても最高だろうが!
 なんて事だ!話を変えないと……!広部さん関連の話題では結局、広部さん最高マジ女神という結論にしか行き着かない……!何がいいか……何か、如何に僕が無自覚にマイノリティ・ロードをひた走って来たかを知らしめる良いエ ピソードはないか……何せ当時は自覚がなかったものだから、なかなか適した話が浮かんでこない……! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 17:25:18.11 ID:/iQkiaRX0<>  えぇっとぉ……。
 あ!
 あれ、あれがいい!
 そうだよ修学旅行の話がいい!


 ………………。


 修学旅行の夜にラペリング降下で女子の部屋に突入しようとした時だってそうだ!なんで旅館の庭の池に落ちる前に気づかなかったんだ!(あの時の広部さんの冷たい目も 最高だったなぁ……)こんな馬鹿な事やめるべきだって!
 こんな馬鹿な事をやる人間であってはいけないって!
  気づいて引き返せば違った人生も有り得たかもしれないのに、広部さんとキャッキャッウフフ出来た未来もあったかもしれないのに……!僕はまるで熱に浮かされたように、前だけを見て義務教育修了までの十五年間を過ごしてしまった……! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 17:29:19.22 ID:/iQkiaRX0<>  その結果僕は、自分が正しいと信じれば、これが好きだという愛があれば、たとえそれが多数派に指を刺され笑われる事柄であっても、全く意に介さない頑強なメンタルを持つに至った。
 精神的に強くなったと言えば聞こえは良いが、単に鈍感で視野が狭いだけだとも言える。

 そう、それはまるでハード事業撤退前のセガのような、危険な性質……。
 時代の先駆者、荒野の開拓者たらんと無人の野を全力で駆け抜け、一部のマニアを除く大多数のユーザーを遥か彼方に置き去りにしてしまったセガ製ハードのような、致命的な孤独に陥る危険性を持った人間に、僕、佐藤洋は育っ てしまったのだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 17:33:37.83 ID:/iQkiaRX0<>  高校入学後も類は友を呼ぶと言わんばかりに、まるで引かれ合うスタンド使いの様に、Mの兄弟、高段位桃色少年団といった不毛な青春を煮詰めて発酵させた様な連中とばかり親しくなり、僕のマイノリティ・ライフはより一層混迷の色を強めた。
 思春期に増大した性欲が生殖という本懐を果たせず暴走し、妖気すら放つ性癖を童貞に与える地獄絵図。
 Mの兄弟筆頭、小太りマゾの内本君。
 ロシア美女愛好家の矢部君。
 「二次性徴が憎い」ロリコンの霧島君。
 まだ純粋さを残していた非モテ中学生とは、明らかに一線を画す何かを彼らは持っていた。中学時代の友人にもおかしな性癖を持つ者はいたが、高校に入ってから出会った彼らは自身のSAGAにより自覚的で、意識してそれぞれの趣味嗜好を突き詰めてしまっていた。彼らは現実の異性との交流を強く望みながら、それが如何に困難であるかをそれぞれの中学時代に痛感し、その上でこの男子寮に集った魔法使い候補生たちだった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 17:38:03.54 ID:/iQkiaRX0<>  もう当分はこのままなんだろうな……。いや、下手したら一生童貞かも……いや、いやいやさすがにそれは―――いくら……なんでも……ない、よな?

 眠れぬ夜、布団の中でふとそんな事を考えてしまう、選りすぐりのエリート童貞。すなわち彼らもまた、僕と同じエリート・マイノリティ。不遇に喘ぐ少数派に属する人種。
 高校に入り、新しい友人が出来た事は喜ばしい。
 しかし僕は彼らとの出会いに失望してもいた。生まれて初めて地元を離れ希望に満ちた新生活が始まると思いきや、そこにあったのは面子と住む場所が変わっただけの慣れ親しんだマイノリティ・ライフだったからだ。
 僕はここでようやく気づいた。
 自分が歩いてきたのは日陰者の歩む道で、現在もその道を歩き続けており、もう引き返せはしないのだと。

 わかっていても抜け出せない。
 腐っていくのが気持ちいい。
 それが『マイノリティ・ライフ』!
 もういっそ、これは何者かによるスタンド攻撃なんじゃないかと妄想してしまう程、春先の僕は追い詰められていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 17:41:15.86 ID:/iQkiaRX0<>  実家を離れ入寮して間もない頃は、部屋に持ち込んだド リームキャストでクレイジータクシーを遊びながら、訳もなく広部さんの顔を思い浮かべたり何故か著我の声を聞きたくなったりして、気付くと涙が頬を伝っていたものだっ た。
 高校生になってようやく自分がマイノリティである事を自覚し、それでもなおセガのゲームは最高や!とか考えている己の業の深さに、涙したのだ。

 そんな僕のマイノリティ・ライフが極まったのが、半額弁当争奪戦との出会いだった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 17:44:35.53 ID:/iQkiaRX0<>  争奪戦の世界を知り、僕は狼たちと出会った。
 彼らもマイノリティではあったが、男子寮の友人たちとは何かが違っていた。
 寮の友人たちと僕の青春はそれはそれで否定すべきものではないのだろう。しかし彼らとの関係は時に、身を寄せ合い傷を舐め合う醜悪な馴れ合いの様相を呈してしまう事がある。寄り添い合う事で、却って惨めさを強く感じてしまう関係でもあるのだ。

 それに対して狼たちとの関係は清々しいものだった。それぞれに孤独を抱え、それでも馴れ合う事をよしとせず、 孤高を極めんとする彼ら。

 彼らと出会い、戦い、夕餉を共にした事で僕は、人生を少数派として生きる弊害、その毒が裏返ったように感じたのだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 17:51:09.44 ID:/iQkiaRX0<>  槍水先輩、白粉花。HP(ハーフプライサー)同好会の仲間。
 争奪戦に参戦して間もない頃から幾度も拳を交えた、顎髭、坊主、茶髪。
 ダンドーと猟犬群。
 二つ名持ちの狼として再会した【湖の麗人】著我あやめ。著我と同じ高校の井上あせび、【オルトロス】沢桔姉妹。対オルトロス戦でコンビを組んだ二階堂連。
 地方遠征で戦った【ギリー・ドゥー】禊萩真希乃。その相棒の淡雪えりか。全国各地の狼たち。
 【ガリー・トロット】山木柚子。
 かつてのHP部員、【ウルフズ・ペイン】鵜頭みこと。
 最強を目指すナンバー2、【サラマンダー】響鉄平。
 そして最強の冠を戴く狼、【魔導士】金城優。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 17:54:58.79 ID:/iQkiaRX0<>  彼らは皆、半額弁当争奪戦という、興味のない人間が見れば馬鹿らしいと笑って終わりの戦いに真剣に挑む酔狂者だ。
 仮に僕が、彼ら酔狂者を嘲笑う多数派の人間だったとして、現在のような絆を彼らと結ぶ事が出来ただろうか?
 答えは当然、否だ。
 争奪戦と無関係なただの友人になれたかどうかさえ怪しい。
 槍水先輩、茶髪、沢桔姉妹、真希乃、淡雪……。ついでに著我と白粉、鵜頭……。おまけにあせびちゃん……。いけないとは思いつつも茉莉花……。
  何故だろう。どういう訳か女性陣の顔ばかりが思い浮かんだが、僕、佐藤洋もまた酔狂者だったからこそ、彼らと仲間やライバルとして絆を紡ぐ事が出来たのだ。

マイノリティ万歳と言わざるを得ない。争奪戦に違和感 なく参戦できる特殊な価値観を養う事が出来たという意味 で、僕のこれまでの人生は間違いではなかったのだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 17:59:20.20 ID:/iQkiaRX0<>  少数派にしか到達できない幸福というものが、この世には確かに存在する。
 サラマンダーとの激闘を乗り越え、HP同好会の部室で槍水先輩や皆と過ごしたクリスマスの夜に、僕はそれを実感したのだ。
 思い思いに騒ぐ仲間たち。
 槍水先輩の笑顔。
 奪取した弁当で胃が満ちるのと同時に、心も満たされたあの幸福は、僕がマイノリティでなければ手に入る事はなかった。それまで負の要素だと思われていた事柄が正に転じる幸運を、僕は聖夜に掴み取ったのだ。毒が裏返った。今まで して来た辛い思いは、この日報われるためにあったのだと感動に打ち震えた。さようならマイノリティ・ライフ、はじめましてどうぞよろしく僕と槍水先輩のリア充・ライフ。
 パーティーから帰宅したあと、僕はそんな事を考えて興奮してしまいなかなか眠れなかった。
 
 明日よ早く来い!
 リア充・ライフ開幕の朝よ早く来い!

 昨夜の僕は確かに人生の絶頂にいた。

 その筈だった。

 それなのに、何故……。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 18:02:17.82 ID:/iQkiaRX0<> 山乃守「おいブラザー、どうした?さっきから黙りこくって」サスサス

佐藤「……いえ別に。何でもないですよ。山乃守さん」

山乃守「おいおいよせよ〜そんな他人行儀な呼び方ぁ。俺と洋の仲だろ〜?兄さんか亮でいいって」ユッサユッサ

佐藤「え、いや、まあ……はい」

 それなのに何故、素敵なクリスマスの余韻も冷めやらぬ26日の早朝に、僕はこの男と二人きり、公園の冷たいベ ンチに肩を抱かれて座っているのか。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 18:07:03.80 ID:/iQkiaRX0<>
 何故だ。
 どうしてこうなった?

 昨夜との落差はなんだ。 甘く切なく、それでいて賑やかな聖夜は僕の見た夢だったのか?
 僕がこの世に生まれ落ちた瞬間から始まり歩んできた不遇なマイノリティ・ライフは、実は仲間たちに出会い絆を結ぶための布石にすぎず、昨夜のクリスマスパーティーが、少数派に甘んじて耐え忍んできた結果開く事が出来た幸福の扉……。つい数時間前までそんな、美しい道筋を振り返り悦に入っていたのだけれど……え?何、違ったの? 僕の勘違いだった?
 寂しい非モテ男子高校生の殻は破り捨て、今日この日から僕と槍水先輩の輝かしいリア充ライフがスタートするんじゃないの?
 メールの着信音で目を覚まし、さては槍水先輩からのおはようメールかと勘ぐって携帯を確認して、画面に表示された名前が山乃守さんだった時はリアルに頬をつねって悪夢から覚めろと自分に言い聞かせた。しかし残念ながら覚 醒する事叶わず、山乃守さんの呼出しに応じて現在に至る訳だけれど……え?あれ?こっちが現実なの?
 嘘だよ、だってこの人、同棲してる鵜頭と仲直りして、 今この時間は二人で朝チュンしてるはずでしょ?
 こんな所にいる筈ないじゃん。
 早朝の公園で僕なんかと逢瀬してる 訳ないじゃん。
 という事はだよ?という事は、やっぱこれって夢じゃん?悪夢じゃん? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 18:11:36.56 ID:/iQkiaRX0<>  ん?
 あぁ、やっぱり。
 やっぱりこれ、悪夢だよ。

|ω・`)ジッ――クリスマスノヨクアサニフタリキリ…

 ほら、あそこの木の陰から半分顔を出して邪気を放つ白粉のような何かがいるけど、僕と山乃守さんが二人で会うのをあいつが知ってる筈ないし、登場に脈絡がなさすぎる。これは夢ならではの都合の良い人物配置で、僕の想像力の足りない部分を、こういう時は決まってあいつが現れるという経験則で補っている状態なのだろう。まったく、僕もまだまだだな。イマジネーションには自信があったのに、こんな現実に則した夢しか見れないなんて。

山乃守「いや、参ったよ。みことの奴にまた追い出され ちゃってさぁ」グイッ

ナイトメア山乃守さんが、僕の肩を強く抱き寄せ、山乃 守さんなら有り得そうな、えらく現実味の強い台詞を吐 く。しかもこのナイトメア、やけに感触が生々しく、暖か い。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 18:15:27.40 ID:/iQkiaRX0<> 佐藤「……まだ仲直りして一日しか経ってませんよね?山 乃守さん」

 ナイトメアとはいえ、一応は世話になった山乃守さんであるから邪険にする事も出来ず、僕は会話に応じてしまう。
 馬鹿みたいだよね。これ、夢なのにね。
 あー早く覚めないかな、この悪夢。

山乃守「それがさ、クリスマス前に追い出されて俺、ホー ムレスやってたじゃん?今もだけど。あの時にナンパした娘から部屋に帰ったあと電話掛かってきちゃって」テヘ

 本当に、無駄にリアルな悪夢だ。
 今、普通に「うわぁ……」とか思ってしまった。これが夢である事を冷静に客観視しながら、同時に夢の内容に感慨を持つとか、僕って奴はどこまで器用なんだ。

佐藤「山乃守さん……それは鵜頭も怒りますよ。怒りを収めた矢先にそんな……」ハァ

山乃守「一件目の着信は許してくれたんだけどな〜」

佐藤「……一件目?」

山乃守「二件、三件、四件目くらいまでは、まぁギリギリセーフだったんだけどな〜」ハハハ

佐藤「………………」

山乃守「五件目であいつ完全にキレちまって。無言で立ち上がってキッチンから包丁持ってきてさ、ボソッと一言『大丈夫、ケーキを切るだけだから』って!」アハハハ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 18:19:25.65 ID:/iQkiaRX0<> 佐藤「アハハじゃねえよ!笑えねえよ!鵜頭が持ち味発揮しちまってるじゃねえか!あとあの短期間で何人ナンパしてんだよ!何人ナンパしてんだよ!!何ッ!人ッ!ナ・ ン・パッ!してンだよッッ!!」ゴオオッ!

山乃守「ハハハ!いやだって!俺たちケーキなんて買ってなかったし!明らかに違うもん斬る気じゃねえかって!」 ヒィオカシー!

佐藤「あ、あんたって人は……」

山乃守「まぁそういう訳でさ、呼び出したのはちょっと洋に頼みたい事があって……」

佐藤「なんです。お金ならないですよ?」

山乃守「いやあ、金じゃないんだ。少し前ならともかく雪が降るほど冷え込むと野宿はキツくてな……」

……何か、いよいよ悪夢じみてきたぞ?

山乃守「洋の部屋に……」ゴゴゴ

佐藤「……………」ゴクリ

山乃守「泊めてくれないか……しばらく。烏田の男子寮ならチェックも甘いだろうし、部屋で大人しくしてりゃあ……」ググッ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 18:24:53.07 ID:/iQkiaRX0<>  なんて事だ……!
 これはもう間違いない!これは夢だ!悪夢だ!
 ワイズマ ンにイデアを奪われたんだ!
 助けてエリオット!クラリス!早く来てナイツ!!
 何が悲しくて記念すべきリア充ライフ開幕の朝にこの男を部屋に迎え入れなければならないんだ!

山乃守「なあ、頼むよ……。一泊でいいからさ……」ハァハァ

佐藤「あ………」ハッ

 この寒い中、長時間外にいたせいで頬の赤らんだ山乃守さんの顔が間近に迫る。
 感じる温もり、僅かに期待を滲ませた低く落ち着いた声。薄っすらと無精髭の生えた口元、 野宿で碌に眠れていないのかドス黒く縁取られた目の隈。
 話術、交渉術に長けた山乃守さんではあるが、今はさすがに余裕がないらしく、ほんの少しだけ必死さが見て取れる。こんな早朝から人を呼び出すらしくない気遣いの無さも、その裏付けであるように思えた。
 同情心をくすぐる作戦という事もこの人なら有り得なくはない。しかし危機に瀕した恩人を前にして、何とかしてあげたいという気持ちを抑えられる程、僕は悪人ではない。これが相手の善性につけ込んだ交渉術であったとして、それがなんだというのか。
 義を見てせざるは勇なきなり。
 僕の答えは決まっていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 18:29:22.70 ID:/iQkiaRX0<> 佐藤「嫌です」

 なんの修飾もなく漏れ出た本心。
 これが、僕の答えだった。
 この寒空の下、野郎二人で話し込む事が「嫌」なのか、 泊めてくれという申し出に対する「嫌」なのか、山乃守さんに肩を抱かれ密着されている事が「嫌」なのか、もう何 が「嫌」なのかは分からない。嫌だと思ったから嫌だと口にした。ただそれだけだった。
 僕の魂がこの男の全てを、この情況の全てを拒否している。
 そんな感じだった。
 義を見てせざるは勇なきなり。
 それがなんだというのか。
山乃守「えぇ〜!頼むよブラザ〜、連も毛玉も実家に帰っちまってもう頼れるのがお前しかいないんだよぉ」

佐藤「嫌です。帰ります」サッ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 18:32:44.53 ID:/iQkiaRX0<>  これ以上付き合っていては、なし崩し的に部屋に転がり込まれる事は目に見えていた。
 さっさと部屋に帰り、山乃守さんの番号を着信拒否にしてやり過ごす。それが一番だ。
 なに、風邪ぐらいはひくかもしれないが、この人はホームレス生活には慣れているし大丈夫だろう。コンビニや図書館など、無料で暖を取る手段はいくらでもある。

佐藤「それでは。これで失礼します」ペコリ

山乃守「洋!待ってくれ!頼むよ、俺にはお前しかいないんだ!」ガバッ!

佐藤「ちょッ!?山乃守さん離して!気持ち悪いですよ!」ジタバタ

山乃守「離すもんか、離すもんかよ!洋!お前がいないと駄目なんだ!」ギュッ

佐藤「だからなんでそう誤解を招くような言い方をするんですか!アンタは!ていうかそのセリフ鵜頭に言ってやれよ!!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 18:35:43.67 ID:/iQkiaRX0<> |ω・`)ジッ――フムナルホドナルホド

佐藤(〜〜〜〜白粉ッ!?)凶ッ

佐藤「山乃守さん!これ以上はまずいッ!!早く離れて! あいつが……あいつがッ!」

 これ以上ヤツに燃料を与えてしまっては!
 世を乱す物の怪が解き放たれてしまう!!

|ω・`)ジッ――ヤハリサトウサンハウケニマワッテナンボ…

山乃守「嫌だ!お前が話を聞いてくれるまで絶対に離さない!」ギュゥゥッ!

佐藤「馬鹿野郎!あんたのためを思って言ってるんだ!心を喰われるぞッ!」

|ω・`)ジッ――ノンケッテトコロガミソ… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 18:40:35.43 ID:/iQkiaRX0<> 山乃守「何言ってんのかわかんねぇ!頼む洋!考え直してくれ!」ガッシィッ!

佐藤「やめろぉ……!嫌だ!離せ!!それ以上くっつく なぁぁぁぁぁぁ!!」

|ω・`)ジッ――アンナニミッチャクシテ…

佐藤「あ、あぁ………!」ガクガク

|ω・`)ジッ――イヤヨイヤヨモ…

|スッ……(´・ω・`)――スキノウチ…!

佐藤「嫌だっつったら………」ワナワナ


佐藤「嫌なんだよぉぉぉぉぉッッ!!」 ガァァ!

山乃守「そう言うなって洋ぉぉぉぉぉッッ!!」ゴオオ!


???「何やってんのアンタたち……」

山乃守「ッ!み、みこと!?」

佐藤「うっ鵜頭ぅ……!」グスッ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 18:45:19.93 ID:/iQkiaRX0<> 山乃守「ッ!み、みこと!?」

佐藤「うっ鵜頭ぅ……!」グスッ

鵜頭「帰って来ないし電話も繋がらないから探しに来てみれば……なに佐藤口説いてんの……」ジトッ

山乃守「みことっ違うんだ、これは……!」

佐藤「鵜頭ぅ〜ヒッもうこの人連れて帰ってよぉグスッ僕もう嫌なんだよぉエグッ」ウルウル

鵜頭「あぁもう佐藤、冗談だから。大体分かってるから泣 かないの。怖いのは連れて帰るから……」ナデナデ

佐藤「ヒッグ僕っ今日からっングッりっリアじゅっヒッグなのにっエグッ槍水っ先輩とっ!白粉もっグスッ怖いっヒッし」ウワー

鵜頭「はいはいクリスマス楽しかったんだね。仙との事色々妄想してさらに楽しくなってたんだもんね。もう大丈夫だからね」ヨシヨシ

佐藤「う、ングッんン………」グスッ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 18:48:03.71 ID:/iQkiaRX0<> |ω・`)ジッ――ウズサン…シュラバ…?

鵜頭「白粉も、修羅場じゃないから出ておいで」

|ω・`)ビクッ

|スッ……(´・ω・`)――シュラバジャナイノ…?

鵜頭「私たち帰るから。佐藤を連れて帰って」

白粉「はっはい!」タタタッ

山乃守「み、みこと……」タラリ

鵜頭「部屋に帰ったら昨日の事詳しく聞くから。それまで喋らないで」ギロリ

山乃守「はい……」

鵜頭「それじゃ、佐藤、白粉またね」バイバイ

白粉「はっはい!さようなら!」ペコリ

佐藤「ズッ………グスッ」バイバイ

山乃守「朝早くに悪かったな洋。生きてたらまた連絡するわ〜」タッ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 18:52:15.14 ID:/iQkiaRX0<> ―――ヒトギキノワルイコトイワナイデ…

―――オ、オレガワルカッタミコトキノウノアレハ―

白粉「……行っちゃいましたね」

佐藤「ヒック……グスッ……」

―――こうして、僕の悪夢の朝は終わりを告げた。
 あまりの嫌悪と恐怖に泣き出し最後には幼児退行までしてしまったが、救世主・鵜頭の登場で全ては丸く収まり、 白粉の邪気も霧散した。
 もう、リア充じゃなくても良い。
 僕はそう思い始めていた。
 安息の冬休みがあれば、それで――。

白粉「元気を出して下さい佐藤さん。鵜頭さんは山乃守さ んにとって世間体を保つための偽装かのじ――」

佐藤「いい加減にしろッ!」グイッ!

白粉「ょぐぇっ」


 何故、僕はせっかくの冬休みに白粉のおさげを引っ張るはめに陥っているのか。
 僕のマイノリティ・ライフは昨夜で終わった筈ではな かったのか。
 昨夜のパーティーで僕は幸福の扉を――――。


 ―――以下略。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/27(日) 18:57:14.21 ID:/iQkiaRX0<> とりあえずはここまでにします
今日は22時頃にもう一区切り投下します
平日はポツポツとやって、土日に集中させようかと思っています <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/27(日) 19:02:12.35 ID:j9A8EgN8o<> 乙です
サイトウ、いや佐藤ドリキャスも持ってたのかッwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/27(日) 20:58:41.80 ID:LEa0y84Oo<> 乙
マイノリティと言う名の紳士だな… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/27(日) 22:10:23.50 ID:/iQkiaRX0<> たしか茉莉花が佐藤の部屋でDC版青の6号をプレイするシーンがありました

それじゃ投下します
この辺から自己満足の度合いを薄めようと努力し始めた <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 22:14:15.41 ID:/iQkiaRX0<>  ナイトメア山乃守さんを、意外にも勇気のイデアの持ち主だったらしい鵜頭(多分、ナイツに体を貸していた)が連れ去り、僕は悪夢から解放された。

 起床してすぐに山乃守さんの呼び出しに応じたため朝食がまだだった僕は、白粉を伴いコンビニに寄って帰る事にした。
 ちなみに白粉は、朝6時に不意に目が覚め(僕が山乃守さんからメールを受け取る30分前)なんとなく朝の散歩に出掛け、吸い寄せられるように公園にやって来たのだとか。山乃守さんが呼び出しに指定した公園は、僕たち烏田の寮生が暮らす地域からは結構な距離がある丸富大の近くだったのだが、それでも散歩と言い張る辺りに白粉の狂気を感じる。 春に出会った頃より明らかにパワーアップしている白粉の腐力には戦慄するばかりだが、今はそれについては考え まい。思い切り泣いたので、何か暖かい物を食べて一息つきたい心境だった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 22:18:16.60 ID:/iQkiaRX0<> 佐藤「はぁ……そういえば白粉もまだ帰省してなかったんだな」

白粉「は、はい。年末はお母さん仕事が忙しくて…いつもお父さんも大変そうで……それに一人の方が執筆も捗りますし。寮母さんが休みに入るまではこっちにいようかと」

佐藤「ふうん。まあ僕も似たようなもんだよ。寮暮らしに慣れちゃうと一人でダラダラしたくなるよな」

白粉「ふふ、そうですね……」

 執筆も捗りますし、の部分が引っかかるが、考えてはい けないし突っ込んでもいけない。せっかく鵜頭が邪気を払ってくれたのだ。わざわざ藪を突いて蛇を出す事もない。

佐藤「はあ、何食べようかな」

白粉「わ、私は中華まんにしようかな…」

佐藤「あぁいいな。僕もそうしよう」

 白粉を刺激しないように他愛のない会話をしつつコンビニへ向かう。
 道中、前方に見覚えのある後ろ姿を見つけ、悪夢に疲弊した僕の心が僅かに華やいだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 22:21:36.05 ID:/iQkiaRX0<> 佐藤「なあ白粉、あれって……」

白粉「は、はい。鏡さん、ですね」

佐藤「だよな。お〜い!」

鏡「?あら佐藤さん、白粉さん。お早うございます」ペコリ

佐藤「おはよう!」ワーイ

白粉「お、おはようございます」ペコリ

鏡「?朝からお元気ですね、佐藤さん」クスッ

 別の高校に通っているため遭遇率の低い沢桔姉妹の妹、 鏡。彼女と二日続けて会えるとは、神はまだ僕を見捨ててはいなかった。
 先程の山乃守・白粉コンボで受けた精神的ダメージが、挨拶を交わしただけで急速に回復していく。
 美人だが話していると少し頭が痛くなる姉の梗の姿が見えない事も、今の僕には救いだった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 22:26:20.85 ID:/iQkiaRX0<>
鏡「佐藤さん、目をどうされたんですか?充血してますよ?」

佐藤「え、いや、なんでもないよ?ちょっと昨日は楽しくて興奮しちゃって、寝付きが悪くてさ」

鏡「ふふっ佐藤さんもですか。実は姉も昨日のパーティー から帰ったあと興奮気味で。『てっぺん回ってからが本番ですわよ鏡!』なんて言って夜ふかししまして……」

佐藤「……あぁ、それで一人なのか」

鏡「はい、姉はまだベッドの中です。いつもなら休日の朝は二人で近所のパン屋さんに焼き立てを買いに行くのですが……姉がぐずって遅くなってしまって」

佐藤「ふうん。じゃあ今から朝食を買いに行くところ?」

鏡「ええ、そうです。パン屋さんは人気のお店ですし、朝の分はもう売り切れだと思うので、そこのコンビニで済ませようかと」

佐藤「………!」

 こ、これは……! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 22:31:46.14 ID:/iQkiaRX0<>  
 誘うしかない……!

 ビッグチャンスの到来である。 沢木姉妹の残念じゃない方こと沢桔鏡さんと朝食をご一緒出来れば、先程の悪夢を完全に払拭する事が出来るだろう。逃す手はない。逃してはならない。聖夜にリア充への転生を果たした(果たしたよね?)僕なら、やってやれない事はない筈だ。
 しかし僕と鏡の仲は、気軽に食事に誘えるほど親密なものではない。出会った経緯を考えれば悪感情は持たれていない筈だが、いきなり食事に誘った場合、不本意ながら広まってしまっている僕の二つ名【変態】が元で警戒される可能性がある。争奪戦後の夕餉ならともかく、【変態】こと僕を含む少人数での平場の食事は、常識人の鏡なら敬遠する事も十分に考えられる。
 争奪戦においても私生活においてもガードの甘い姉の引き締め役を担っている彼女だから、余計にその懸念は強い。白粉がいる事で警戒を緩める、という事にもあまり期待出来ない。女二人男一人という構成ならいける!なんて楽観は、この場合はするべきではないだろう。最近は少しマシになったが、白粉は極度の人見知りで引っ込み思案な 上、鏡と特別に仲が良いわけでもない。この局面で戦力に 数えるのは酷というものだ。
 こうなってくると、一緒にいたのが白粉ではなく著我だったらと思わずにはいられない。
 人好きのする容姿と性格を合わせ持ち、他人との距離を詰めるのが異常に上手く、さらに鏡と同じ高校で交流もある奢我なら、なんの気負いもなく―――――。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 22:36:22.84 ID:/iQkiaRX0<> ???「お〜す。珍しい面子だね、何やってんの?」

???「洋くんに花ちゃんに副会長〜朝から会えるなんてラッキーだよ〜」

鏡「あら。今日は朝から知り合いによく会いますね」フフッ

白粉「お、おはようございます。奢我さん、井ノ上さん」

著我・あせび「「おはよう」〜」

著我「ほいで?何やってんだよ佐藤。もしかしてあたしんち来るとこだった?」

佐藤「――――――」

著我「佐藤?………どったの?こいつ」

鏡「さあ……つい先程お会いして私が朝食を買いに行くところだと言ったら急に黙り込んでしまって……」ハテ?

奢我「ふぅん……あぁ、なるほど」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 22:40:34.90 ID:/iQkiaRX0<> 白粉「あ、あの佐藤さんは、あの、さっき山乃守さんと色々ありまして、それでちょっと元気がない、というか――」

著我「ふむ……いや大丈夫だよ花。それは関係ないから。 いや、あるからこそってところか?」

鏡・白粉「「???」」

奢我「まぁこいつの事はいいから。それより朝メシ買いに行くなら一緒に行かない?あたしら徹ゲー明けで腹ペコなんだ」

あせび「ぐーペコだよ〜」

鏡「いいですね。そうしましょうか」

白粉「ぇあっと、いいですけど」チラッ

佐藤「―――――――――」

あせび「洋くん?おはよ〜あせびだよ〜?どうしたの〜?」ユサユサ

奢我「ほら、あせびも行くよ。佐藤はあとから来るから」

あせび「ほんと〜?」

鏡「いいんですか?」

奢我「うん平気だから。ほら行こ?花も」

鏡「は、はい……」チラチラ

白粉「はい……」キニナル

佐藤「――――――――――」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 22:44:23.95 ID:/iQkiaRX0<> ――アッチハアンマンカウヨ〜

――アタシハピザマンカナ

――アノホントニヨカッタンデスカ?サトウサンウゴキマセンヨ?

――ヨホドショックダッタンデスネ…

―――なんの気負いもなく、鏡を食事に誘ってくれるだろう。従姉妹同伴という点を差し引いても、相手が高嶺の花、沢桔鏡であるなら、これは大勝利といえ――――。

佐藤「ってあれ?鏡?白粉?あれっ何処行った?ん?あの 金髪は著我?それにあせびちゃん、だと―――!?」

 一体いつの間に!?
 まさか奢我の奴、従兄弟の窮地をジョースター家的な血縁超パワーで察して駆けつけてくれたのか?
 いや、そんな事よりも、四人連れ立って歩いているとい う事は!?奢我は既に鏡を食事に誘って――――――!?
 なんて事だ………! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 22:49:17.61 ID:/iQkiaRX0<> 佐藤「『著我があせびちゃんと共に現れ、鏡を食事に誘った』という過程がふっ飛ばされた……!?そして『著我たちが食事に向かう』という結果だけが残された………これは ――――」

著我「次にお前は『ボス!?ボスがこの町に!?』と言う」

佐藤「ボス!?ボスがこの町に!?ハッ!」

著我「佐藤〜お前誰も見てないのによくそんな一人芝居できるね。どんだけキング・クリムゾン好きなんだよ」

佐藤「でも著我ぁ!お前いつの間に来たんだよ!考え事してたら皆いなくなってるからビックリしたんだぞ!」

 突発的に奇妙な出来事に遭遇したら、とりあえずはジョ ジョネタに走って精神の平静を保つ。これは基本である。
 ちなみにキング・クリムゾンとは、『ジョジョの奇妙な冒険 第五部 黄金の旋風』に登場するラスボス、ディアボロのスタンドで、時を吹き飛ばす事で過程を消し飛ばし、結果だけを残す能力を持っている。
 ジョジョは名作なので未読の方は是非読んでみて欲しい。掲載誌のウルトラジャンプ、コミックスは勿論、テレビアニメも絶賛放映中である。Blu-ray、DVDも続々発売され、富永TOMMY弘明氏の歌う主題歌『その血の 運命』も各所で高い評価を受けている。今ジョジョが熱い。ジョジョから目を離せない。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 22:53:14.08 ID:/iQkiaRX0<> 著我「そーのー血のさーだーめー………」

佐藤「ジィヨォ〜〜〜〜……ジョォッッ!!!」

著我「まったく……これで満足した? 考え事ったってあんた、どうせ鏡をどうやって誘おうか悩んでただけだろ? 朝から山乃守さんに呼び出されて散々な目にあったから挽回しないと〜とか考えて」

佐藤「何故それを!?著我、お前まさか新手のスタンドつか――――」

著我「あ〜もうそういうのいいから。さっさとしないと置 いてくよ」クルッ

佐藤「あっ待って!」

 著我は相変わらずこの手の遊びにはなんだか冷たい。はいはいステマステマとか思っているのだろうか。だとしたら少しショックだ。仕方のない事とはいえ、従姉妹の成長に郷愁の念を覚えずにはいられない。昔は楽しそうに付き 合ってくれたのにな……。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/27(日) 22:58:49.69 ID:/iQkiaRX0<> 著我「それとな……佐藤」

佐藤「なに?」

著我「あたしは一部より二部の方が好きなんだよ……」

佐藤「……や?みを〜」

著我「あっざむいてっ刹那をかわして〜?」

 Coda氏による第二部主題歌『BLOODY STREAM』も絶賛発売中!!

佐藤「著我ぁ!」パアァ

著我「へへっ///ほら行くよ!みんな待ってるから!」タッ

佐藤「うん!」

 そして僕は、照れくさそうに笑う従姉妹と共に早朝の町 を駆けるのだった。寝癖さえ様になる著我の金髪が風になびくのを、幼いあの日のように夢中で追い掛けた……。




 


 やったぜ!
 従姉妹と腐女子を含むとはいえ、女の子四人と朝食だぁ!

***************** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/27(日) 23:02:16.87 ID:/iQkiaRX0<> 今日は以上です

原作にちょいちょいある集英社関連の露骨なステマネタをやっておきたかった <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/27(日) 23:04:29.73 ID:LEa0y84Oo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/27(日) 23:07:34.14 ID:/iQkiaRX0<> 記号、改行、たまに変な所にはいる半角スペースとか次回投下から気を付けます
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/27(日) 23:20:44.06 ID:j9A8EgN8o<> 乙
関係ないけど最近ジョジョSSも増えたよね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/27(日) 23:25:58.22 ID:/iQkiaRX0<> >>103
嬉しい限りです
クロスSS好きなので最近はジョジョちゃん読んでこのスレ更新してという感じ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/27(日) 23:35:16.74 ID:WVBoeNd/o<> 今はBLOODYSTREAMが熱いだろと書き込もうとしたら
著我がフォローしていたという
それにつけてもなぜベン・トーのSSは蘊蓄部分がそれっぽいのか
意外に簡単?…まさかね
乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/28(月) 00:02:10.89 ID:WgiUWX1t0<> スレ立てる頃には発売日迎えてると見込んでたので絶賛発売中とか書いたけど
BLOODY STREAMは1月30日発売 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/01/28(月) 00:22:08.05 ID:yGZn6/ML0<> 関係ないけど俺んちのデッキが勝手に受信レベルの低いアンテナで受信してたせいで今週のMXアニメ全滅状態
もちろんJOJOも
DVDレンタルする金すらないのに <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/28(月) 22:14:58.02 ID:WgiUWX1t0<> >>105
薀蓄部分ってのはジョジョネタの部分?
なんにしてもアサウラの原作は情報量、二次創作目線で見ると例文の供給量が膨大なので、やってみると意外とスラスラ書ける

>>107
それはご愁傷様ですw

それでは次レスから投下 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/28(月) 22:19:48.90 ID:WgiUWX1t0<>  
 著我とあせびちゃんの二人と合流し、僕たちは五人でコンビニに向かった。

 近所に住む奢我の導きで、早朝からフライドフーズや中華まんを大量に作っている奇特なコンビニに向かい、僕らは各々、目当ての朝食にありつく事が出来た。
 鏡以外の四人が中華まんを買った。
 奢我がピザまん、白粉が肉まん、あせびちゃんがあんまんと、三人がコンビニ中華まんの王道三種に散ったので、 僕はなんとなく肉じゃがまんにした。コンビニの中華まん お馴染みの邪道系だが、わりと食べ出があって好きなのだ。
 四人ともホットドリンクをせて買い、僕だけつくね棒を追加で注文した。レジ横の温熱機のついたケースの中に、著我に聞いていた通り揚げ物が所狭しと並べられているのを見て、ついつい食指が動いたのだ。まだ朝の8持だというのに、この店は何を考えているのか。コンビニ版アブラ神のような人が店長なのだろうか。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/28(月) 22:23:55.75 ID:WgiUWX1t0<>
 鏡はというと、店に入るなりパンコーナーに直行し、ロングセラーでいつもいつでもそこにある例のアップルパイを迷いなく手に取った。聞けばコンビニに来るといつも必ず買うのだとか。お嬢様然とした鏡が100円の菓子パンに顔を綻ばせているのを見てキュンときたりしたのだが、その辺は割愛する。あの笑顔は僕の思い出の1ページに保存された。今後一切、門外不出とさせて貰う。
 鏡は姉の分のアップルパイも一緒に買い、自分の分だけレジで温めて貰っていた。これには少し驚いたのだが、袋の裏で推奨されている食べ方らしい。よく考えたら、アップルパイは冷めた状態で食べる事も多い菓子だが、焼き立てのアツアツが一番美味しいものなのだろう。焼き立てのアップルパイなど食べた事はないのだが、そのままでも美味しいリンゴをわざわざ加熱調理するのだから、きっと焼き立てが一番美味いのだろうと想像する。
 鏡曰く。

鏡「少しベタベタしますけど、しっとりして美味しくなりますよ。私は夏以外は温めて食べます。本格的なものにはさすがに劣りますけど、これはこれで、といった感じですね」

 との事。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/28(月) 22:28:56.74 ID:WgiUWX1t0<>  
 パイのカケラを口のまわりにつけて穏やかにホットアップルパイの解説をする鏡のほっこり満足そうな表情もまた、僕の思い出の1ページに保存された。当然、門外不出である。

奢我「ふぅん。あたしもたまに買うけど温めた事はないや。今度やってみよ〜」ハグハグ

あせび「洋くん洋くん〜あっちのあんまんとつくね棒一口 交換しよ〜?しょっぱいのが欲しくなってきたよ?」

佐藤「…………………!」

 山乃守さんたちと別れた公園に戻りベンチに座るなり、 あせびちゃんがごく自然な流れで鏡の膝の上にちょこんと座った時には、僕と奢我の間に緊迫した空気が流れた。
 常備していた対あせびちゃん用のお守りを鏡のコートのポ ケットに忍ばせてなんとか事無きを得たのだが、本当に肝が冷えた瞬間だった。  白粉が落ち着いた事に安心して忘れていたが、僕たちはあせびちゃんという爆弾を抱えていたのだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/28(月) 22:31:29.25 ID:WgiUWX1t0<>
 過去の経験から、あせびちゃんから貰う食べ物にも【死神】の呪力が宿る事は実証済みである。しかし可愛い女の子との一口交換イベントを前にしては、あえて火中の栗を拾いに行きたくもなるのだった。

佐藤「いいよ〜はい」デレデレ

あせび「わ?い」ハムハム

あせび「おいしい〜はい洋くんあんま?ん」

佐藤「わ?い」アムアム

あせび「おいしい〜?」

佐藤「甘〜い」デレデレ

あせびちゃん「えへへ〜甘いって〜」

鏡「ふふっ。よかったですね」ナデナデ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/28(月) 22:38:53.97 ID:WgiUWX1t0<>  もうこの後腹がどうなってもいい。あせびちゃんの恐怖を身を持って知っている僕だが、心の底からそう思えた。
 山乃守・白粉ショックのマイナスを補って余りある至福の時間である。著我が恒例の白粉イジリに精を出してくれたおかげで、僕は鏡とあせびちゃんの三人でスイーツな一時を過ごす事が出来た。持つべきものは気の効く従姉妹。
 著我あやめ様々である。

著我「寒いよ花〜」ダキッ

白粉「ひゃあっ!」ビクッ

著我「はぁ暖かい、お前体温高いな〜」

白粉「ぇあっと、著我さんそんなにくっつかないで……」

 小柄な白粉を背後から抱きしめる著我。むずかるように抵抗する白粉。それほど嫌そうではない所を見るに、白粉も著我に慣れたのだろうか。微笑ましい光景である。ああしていると、とてもではないが悪魔召喚の邪法を修得した外道召喚士には見えない。
 白梅、奢我、鵜頭……。白粉の邪気を払う神通力は、諸事情あって男性には宿らない。女性陣にはこの調子で頑 張って欲しい。
 白粉の密かな趣味は、本当に気が引けるが僕だけは肯定してやれないのだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/28(月) 22:42:43.70 ID:WgiUWX1t0<> 著我「佐藤ぉ何ニヤニヤしてんだよ?」

佐藤「いや別に。仲良くなったよな、お前ら」

白粉「ふぇ、でも、私なんかが一緒にいたら著我さんにご迷惑ですし///」

著我「花ァそういうの無しって言ったろー?お前が嫌だって言っても離さないからな〜?」ギュウウッ

白粉「ひゃっ!しゃ、著我さん///」マッカッカ

佐藤「あははっ」

あせび「花ちゃん真っ赤だよ〜」

鏡「仲良しですね」フフッ

 この場に槍水先輩がいないのが残念なぐらいに、楽しい時間だった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/28(月) 22:47:45.91 ID:WgiUWX1t0<>  しかし、所詮は偶然会って開かれたささやかな朝食会。
 五人とも食事を終え、なんとなく別れ難く他愛のない会話に花を咲かせていたのだが、ちょっとした水入りですぐにお開きとなった。
 鏡の携帯が鳴り響いたのだ。

鏡「あっ」

 携帯の画面を見た瞬間、アイデンティティ崩壊必至の 『いっけねぇ忘れてた!』という表情を見せる鏡。 誰からの着信かは、その顔を見てすぐに分かった。
 うん。楽しく食事をしながら内心では、鏡ゆっくりしてるけどいいのかなーと思っていたのだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/28(月) 22:51:52.60 ID:WgiUWX1t0<> 鏡「もっ、もしもし姉さん!ごめんなさい忘れてました!」

 やはり姉トロス。電話の相手は鏡の姉、沢桔梗だった。

鏡「本当にごめんなさい……え、どこって……近所の公園です……はい、いえ一人ではありません……佐藤さんたちと偶然会って、朝食をご一緒して……」

梗『ずるいですわー!!』

 今から行きますわー!!と、携帯のスピーカーから漏れ聞こえる程の梗の絶叫。著我が楽しそうに、あちゃあと呟いた。

鏡「ね、姉さん!落ち着いて下さい、もう朝食は食べ終えて帰るところですから!」

 慌てた様子の鏡。僕の脳内の沢桔姉妹フォルダに鏡のレア画像が次々と追加されていく。

鏡「はいすぐ帰りますから……え?それはちょっと……皆さんにもご都合があるでしょうし……来年では駄目ですか?……はい、それは確かにそうですが……いえでも……はい。も う、分かりましたよ。それでは切りますね、また後で」ピッ

 電話を切り、鏡はあせびちゃんを抱き直しつつため息をついた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/28(月) 22:56:27.50 ID:WgiUWX1t0<> 鏡「はぁ……そういう訳で、私はここでお暇します」ギュ

奢我「姉さん拗ねちゃった?ハブっちゃったもんな〜」

鏡「あはは……それはもう、盛大に」

 何かと大仰で派手派手しい梗だから、盛大に拗ねるという表現がしっくりとくる。きっと今頃、ベッドでシーツに包まり大泣きしているのだろう。
 苦笑しながらあせびちゃんの猫耳帽子に口元をうずめる鏡の方も、帰りたくないと拗ねているように見えて大変にキュートである。
 いいんじゃないでしょうか。

佐藤「仕方ないよ、また皆で遊ぼう」

鏡「ええ、それは是非。というか……あの、昨日の今日で申し上げにくいのですが……」

著我「どったの?姉さん何だって?」

鏡「はい『わたくしも皆さんとお食事をご一緒したいですわ!鏡、皆さんを昼食にご招待なさい!プチ忘年会ですわ!』と……」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/28(月) 23:00:18.84 ID:WgiUWX1t0<> 佐藤「それは……まぁ、僕は暇だから良いけど」

著我「私もいいけど、昼?プチ忘年会なのに?夜じゃなくて?」

鏡「はい。私たち、今日の午後に実家に帰る予定で。姉は昨夜の招待の返礼を今年の内に、と。あの、急すぎる話なので無理はなさらないで下さい」

著我「いんや平気だよ?な、佐藤?私は一回帰って少し寝 てから行くよ」

佐藤「うん、大丈夫だよ。僕も帰省する前にこっちで遊びたいし」

あせび「あっちも行っていい〜?」

鏡「はい是非いらして下さい。白粉さんも。あ、佐藤さん、槍水さんももしご都合がつけば」

佐藤「うん。まだ帰省しないって言ってたし連絡してみるよ。場所はどうするの?」

鏡「私たちのマンションにしましょう。正午にここで待ち合わせという事で」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/28(月) 23:04:08.14 ID:WgiUWX1t0<> 著我「オッケーわかった。佐藤、白粉、一回帰るの面倒だろ?あたしンち来いよ」

白粉「そ、それじゃあお邪魔します」

佐藤「それがいいな。先輩は駅まで迎えに行けばいいし」

鏡「それでは……」

 話がまとまり、鏡はあせびちゃんを膝から下ろし立ち上がる。

鏡「姉のワガママを聞いて頂いてありがとうございます」ペコリ

鏡「姉さんを宥めないといけないのでこれで失礼しますね。また後ほど」

あせび「ばいば〜い」フリフリ

佐藤・著我「ばいば〜い」フリフリ

白粉「ぇあっと……」フリフリ

鏡「ふふふ、さようなら」フリフリ

 あせびちゃんに倣って皆で手を振り鏡を見送る。
 姉の怒りを最小限に抑えたい思いからか、小走りに駆け出す鏡。歩みを進めながら手を振る僕たちに応え、そのまま前に向き直り駆け出した鏡の動作をちょっと危なっかしいな、と思っていると。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/28(月) 23:06:44.56 ID:WgiUWX1t0<> 鏡「ひゃっ」

 素っ頓狂な声を上げ、鏡はすっ転んだ。前のめりに盛大に。鏡らしからぬ間の抜けた絵面だった。

佐藤「だっ、大丈夫!?」

著我「やっぱり駄目だったか……」

佐藤「…………!」

 著我の呟きに僕も気付く。
 あせびちゃんとあれだけ密着していて、なんの影響も受けずに済む筈がなかったのだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/28(月) 23:11:09.03 ID:WgiUWX1t0<> 佐藤「け、怪我とかない?」タタッ

鏡「いたた……大丈夫です……ちょうど雪の上に転んだので」エヘヘ

佐藤「そう……よかった」ホッ

鏡「あはは……今度こそ失礼します。それでは……」ペコッ

佐藤「うん。気をつけてね」バイバイ

鏡「はい。またお昼に」

 若干バツの悪そうな顔で立ち去る鏡を見送り足元に目をやると、そこには鏡が転んだ時にこぼれ落ちたのだろう、対あせびちゃん用のお守りが。

佐藤「…………!?」

 拾い上げると中の御札どころか、袋まで焼け焦げたように黒く変色していた。
 
 もし、鏡にお守りを持たせていなかったら――――。
 
 転ぶぐらいでは―――――。

著我「佐藤……」ポン

佐藤「しゃ、著我……」カタカタ

著我「神社寄って帰ろう」

 やたらと苦楽の緩急の波が激しい朝だった。

***************** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/28(月) 23:17:13.93 ID:WgiUWX1t0<> 今日はここまでです

アップルパイのくだりは何巻かで別キャラがやっていたような気がします
もしかしたら別のラノベかも
ベン・トー原作手放してしまって、今3、4、9巻しか持ってないので確認できない

あと、誰か著我のガの漢字なんて変換すれば出るか教えて下さい…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/28(月) 23:17:28.44 ID:MLMQwEjqo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/28(月) 23:41:49.36 ID:Nq2oiSE7o<> 乙
あせび……
Google日本語入力なら簡単に出るんだけどな〜 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/28(月) 23:58:27.68 ID:Nq2oiSE7o<> ちょっと調べてみたけど「しゃが」「てい」「がじゅつ」などで出ないなら、地名で「莪原町(ばいばらちょう)」ってのがあるからためしてみるといいかも
出たらすぐ単語登録だな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/29(火) 01:22:27.94 ID:wAmUsnct0<> >>125
ありがとう
莪原で出ました。辞書引いてがじゅつは試してたんですが出てこなくて
山乃守さんのリョウの漢字も違うけどそっちはどうでもいい

>>124
google日本語入力なんだけどな〜? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/29(火) 19:48:51.74 ID:yRm26Wuto<> 今追いついた
ベン・トーのクロスで相手が半額弁当を必要としてないって新鮮で面白い

あと烏頭が鵜頭になってるのは山乃守の100倍はどうでもよくない <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/29(火) 20:55:48.40 ID:wAmUsnct0<> 本当だ……100倍どころじゃないよ……1000倍だよ……
最後の方で狼が集まる場面を予定してるからそこに烏頭も出すわ……

初ssなのに色々ボロボロでめげるわ……

投下するわ…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/29(火) 20:58:31.79 ID:wAmUsnct0<>  一旦自宅に帰るというあせびちゃんと別れ、僕、白粉、著我の三人は神社に向かった。
 事情を知らない白粉は不思議そうな顔をしていたが、例の強面の神主から午後のプチ忘年会に参加する人数分の御札を購入した。
 何かあればいつでも相談に来いという神主の心強い言葉を背に、僕たちは神社を後にした。

 あせびちゃんとの友人関係を今後も問題なく継続させるたにも、争奪戦に勝利し夕食代を浮かせ、御札の購入費を捻出しなければならない。 僕は若干軽くなった財布を握りしめ、そう決意を新たにするのだった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/29(火) 21:02:26.71 ID:wAmUsnct0<>  著莪のマンションに着くと、著莪は入浴してすぐに眠ってしまった。

著莪「適当に時間潰しといて〜」

 リビングには食べ散らかしたお菓子やジャンクフードのゴミ、出しっ放しのサターンとバーチャスティック。著莪とあせびちゃんの徹ゲーパーティーの残骸を白粉と二人で軽く片づけ、僕は著莪のセガコレクションからナイツを取り出し遊ぶ事にした。
 ソニックの制作チームによって開発された、セガファンによってはソニック以上と評する者さえいる名作アクションゲームである。マルチコントローラーは、残念ながら実家にあるらしい。個人的にナイツは普通のコントローラーの方が遊びやすいのだが、あの独特のグリップ感とマルコン使用時にしか味わえない不思議な浮遊感が時々恋しくなる。しかし無いものは仕方ない。まずはノーマルコントローラーで遊び、正月に地元に帰ったらマルコンでプレイし直そう。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/29(火) 21:05:44.13 ID:wAmUsnct0<>  白粉にもゲームを進めてはみたが、思い付いた小説の展 開を携帯にメモしておきたいとの事で、僕たちは各々好きに時間を潰す事になった。
 ナイツが傍にいてくれたので、邪悪な文章を携帯に書き込む白粉にさほど恐怖を感じる事もなく時は過ぎ、やがて槍水先輩に連絡を入れても非常識ではない時間になった。

佐藤「9時半か……そろそろ先輩に電話するかな」

白粉「あ、それならさっき私がメールしておきました」

佐藤「へ?あ、あぁそう。ふぅんならいいや……」

 なんて事しやがる白粉! 僕が先輩に電話したかったのに!!

佐藤「そ、それで?先輩来れるって?」

白粉「はい大丈夫みたいです。11時半頃に駅に迎えに行くと伝えてあります」

佐藤「そっか、悪いな手間取らせて」

白粉「いえそんな。いいんですよ」ニコッ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/29(火) 21:09:25.81 ID:wAmUsnct0<>  畜生!白粉畜生!!

佐藤「じゃあ、あと一時間くらいしたら著莪を起こそうか」

白粉「そうですね」カチカチ

佐藤「………………」

 槍水先輩に電話できる貴重な機会を潰され意気消沈したが、引っ込み思案な白粉がせっかく気を遣ってくれたのだから良しとしておこう。

 その後は夢中でナイツをプレイした。
 あっという間に一時間が過ぎ、著莪を起こすため寝室へ。

佐藤「著莪〜そろそろ起きろよ」

著莪「うぅん……さとぉ?」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/29(火) 21:12:42.41 ID:wAmUsnct0<>  まだ寝足りないのか、寝ぼけた様子の著莪。これを予想して少し早めに起こしに来たのだ。無理に起こすと後が怖いので、僕はベッドに腰掛け、うつ伏せで枕に顔をうずめる著莪の頭を撫でた。

佐藤「ほら、ちゃんと乾かさないから髪ボサボサだぞ。梳かしてやるから起きろよ」ナデナデ

著莪「ん……ぁ…そっか、出掛けるんだっけ………今何時?」

佐藤「10時半。櫛どこ?」

著莪「そこの棚の上……。仙は?」ムクリ

佐藤「来れるってさ。11時半に駅。大丈夫?二時間も寝てないけど」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/29(火) 21:16:16.94 ID:wAmUsnct0<> 著莪「あぁ大丈夫。徹ゲーって言ってもあせびが2時頃寝 落ちしちゃって。あたしも3時には寝たんだ」

佐藤「ならいいけど。平気だったのか?あせびちゃんと一晩一緒なんて」

著莪「大丈夫。事前に部屋中に御札貼っておいたから。写真立ての裏とか」

 そう言って著莪は、ベッドサイドの著莪ママ、リタの写真を指し示す。
 母親の写真の裏に御札を貼るとか、なんだか切迫していて笑えない。家族の愛の力が昨夜著莪を守ったのだ、とか、そんな事を考えてしまう。
 写真の中のタの笑顔がやけに神々しく見えた。

著莪「それによく考えたら、あせびの父さん母さんは毎日一緒に寝起きしてる訳だし」

 当然、あせびちゃんのご両親は健在である。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/29(火) 21:19:58.87 ID:wAmUsnct0<> 佐藤「それもそうだな。神経質になり過ぎるのもよくないか」

著莪「うん。『そういうの』って意識すると寄って来るっていうしなー」

 『そういうの』が、どういうのなのかは、もう考えないでおこう。僕らはただ、可愛い可愛いあせびちゃんと仲良くやっていく。
 それだけでいい。

著莪「さてとっ!髪直す前に着替えるわー」ヌギッ

佐藤「おわっ!?いきなり脱ぐなよ!」バタバタ

 突然着替えを始める著我。僕は慌てて寝室を出た。

佐藤「お前っそういうのやめろよな!」バタン! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/29(火) 21:23:14.99 ID:wAmUsnct0<> ―――アハハッベツニイイジャーン

佐藤「よくねぇよっ!まった………く!?」

白粉「ふむふむなるほどなるほどなるほどなー」カチカチカチカチカチカチ

佐藤「白粉…………!?」ゾクッ

 糞ッ!少し目を離すとこれだ!

白粉「著我さんを男性に脳内変換すれば……!インターポールから派遣されてきた金髪ハーフ刑事……イタリアの種馬……!」ニチャア

佐藤「著我をお前の妄想に巻き込むな!!」グイッ

白粉「うぐぇっ!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/29(火) 21:26:09.05 ID:wAmUsnct0<> 著莪「あたしがなんだってー?」ガチャ

佐藤「なんでもない!」

著莪「?まぁいいけど。佐藤、髪やって。そんで時間までバーチャやろう」

白粉「あ、あの今先輩からメールが来て……」

著莪「お、なんだって?」

白粉「迎えに来てもらうのは悪いから先輩の方からこっちに来るそうです」

著莪「あーそっか。仙ってここ来た事あるっけ。気ぃ遣わなくてもいいのに」

 まったくだ。こちらから先輩をお迎えに上がりたかったというのに。片膝ついてお迎えして、手の甲にキスをしたのち、昼食会にエスコートしたかったというのに。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/29(火) 21:28:46.91 ID:wAmUsnct0<> 佐藤「何時頃来るって?」

白粉「11時半です。さっき約束したのと同じ時間です」

著莪「じゃあ結構ゆっくりできるな。佐藤にご奉仕してもらいつつゲームやろう」ニッコリ

佐藤「なんだよご奉仕って。髪梳かすだけだろ」

 白粉が喜びそうだからその言い方はやめて欲しい。朝から白粉の邪気に晒されるのは夏合宿以来だが、やはり一日中ずっとはかなり消耗する。早く禍払いの巫女たちと合流したいところだ。著莪一人では力が足りないのかもしれな い。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/29(火) 21:33:27.23 ID:wAmUsnct0<>  携帯で時刻を確認する。
 現在10時40分。先輩が来るまであと50分。もう年明の冬期合宿まで顔を合わせる事はないと思っていただけに、 山乃守さんの非常識な呼び出しに感謝してしまいそうになる。

著莪「ニヤけちゃってまぁ……仙とは学校で毎日会ってるじゃん」ムスッ

佐藤「ふっ……わかってないな、著莪。休日、それも心躍る冬休みの初日だぜ?校外で……それも同好会の活動とは無関係な集まり……」

著莪「気になるあの子が見せる、普段とは違う意外な表情……ってか?妄想しすぎだアホ」ヤレヤレ

佐藤「あ、アホとはなんだ!ロマンってものがあるだろうが!」

著莪「もういいから。それより髪!バーチャ!お茶!」

佐藤「髪とバーチャはともかく最後はなんだ!」

著莪「やっぱりコーヒーにして」

佐藤「そういう事じゃない!」

 そして先輩が来るまでの50分間は、著莪の執事よろしく働きまわり、あっという間に過ぎ去った。

***************** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/29(火) 21:37:30.05 ID:wAmUsnct0<> 今日はここまで
ちょっと弱いけど著莪のターンでした

リタの脱字とかめげるわ…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/29(火) 22:39:23.27 ID:gtUXGmg1o<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/29(火) 23:34:24.92 ID:/Oe0MLS0o<> 乙
俺も自分のは誤字だらけだ、安心しろ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/30(水) 17:12:51.81 ID:fkiXiLh40<> >>142
ありがとう。安心した

しかし

>>119にベン・トーSSにはあり得ないミス発見
佐藤、白粉、一回帰るの面倒だろ→佐藤、花、一回帰るの面倒だろ

著莪が名字で呼ぶのは佐藤だけ
誤字脱字と違ってこれはないと思ったので訂正
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/30(水) 21:51:24.81 ID:fkiXiLh40<> 槍水「高いな……」ホウ

佐藤「ええ……すごいですね」ホケー

著莪「スゲーあせびんちとはまた違った凄さ」

 槍水先輩と合流し、鏡とあせびちゃんの二人と公園で待ち合わせ、僕たちは沢桔姉妹のマンションに向かった。

 二人のお嬢様らしい振る舞いやご両親が会社を経営しているという話から、冗談半分に漫画じみたセレブな暮らしを想像していたのだが、想像そのままの高級高層マンションだった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/30(水) 21:55:57.79 ID:fkiXiLh40<>  二人の部屋は25階にあり、通された20畳はあろうかというリビングの窓際に、先輩、著我、僕の三人で並び下界を眺めた。これぞまさしく勝者の眺望。人がゴミのようだ、とはこういう事か。

佐藤「外から見た時思ったんですけど、これってタワーマンションって奴ですかね?」

槍水「うむ、15階以上の高層住居用ビルをそう呼ぶと、 以前テレビで見た事がある。多分そうなのだろう」

著莪「あたしも贅沢してる方だと思ってたけど、次元が違うわ」

 あまりの生活格差に呆けてしまった僕たち三人に比べ て、白粉とあせびちゃんは元気だった。白粉は萎縮して大人しくなるかと思いきや、意外にも嬉々としてハイセンスな高級家具や寝室、浴室の写真を撮らせて貰いつつ二人の案内を受けていた。なんでも割とメジャーな部類の『その手の本』には、何故か学生の身でセレブな独り暮らしをする美形キャラが出てくる場合が多いらしく、そのイメージに二人のマンションがぴったり合致するのだとか。
 寝室、浴室を見て感嘆の声の上げる白粉を珍しく無邪気で可愛いなと思っていたのだが、その理由を聞いてまたげんなりとさせられた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/30(水) 21:59:52.63 ID:fkiXiLh40<>  白粉の奴、マッチョだけじゃないのか……。  彼女もまた、業深きマイノリティという事なのか。

白粉「凄い!凄く大きなベッドですね!」パシャパシャ!

梗「お〜っほっほ!わたくしと鏡が二人で寝て、さらに殿方を複数名迎え入れてもまだ余裕がある特大サイズですわ!」

白粉「ふむふむほうほう」キラッ

鏡「姉さん、私と姉さんが二人で寝てもまだ余裕がある、で十分でしょう。それに何故ベッドに迎え入れるのを男性に限定してるんですか……しかも複数名って……」ハァ…

梗「鏡!?ではあなた男性ではなく女性をお迎えしたいと!?実家に戻るのを延期して今夜は槍水さんたちと淫靡な夜を過ごしたいと!?知りませんでしたわ!鏡が百合っ子ちゃんだったなんて!」

鏡「はぁ……なんでそうなるんですか。私はノーマルです。何処で覚えたんですか百合なんて言葉……本当にどうでもいい事ばかり覚えるんだから……」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/30(水) 22:03:17.22 ID:fkiXiLh40<> 梗「でも困りましたわ。それだと佐藤さんが仲間ハズレ に…………はっ!そうですわ!」

鏡「姉さん」

梗「わたくしたち姉妹を主体に考えるからいけないのですわ!ここは佐藤さんを中心にわたくしたち女性陣でハーレムを形成すればいいのですわ!これで万事解決!」

鏡「姉さん……」

梗「そうと決まれば鏡!早速コンドームを買ってらっしゃいまし!わたくしたちは高校生、佐藤さんのお子を孕むのはまだ早いですわ!」

鏡「姉さん……!口を閉じて貰えますか?最初から問題は起きていませんので、解決も何もありません。佐藤さんはハーレム形成をお望みになる人非人ではありませんし、帰省の予定も変更ありません。……それに!淫靡、百合、ハーレムとぼかし気味の表現から、急にコンドームとか孕むとか直な言葉に移行しないで下さい!語彙にムラがありすぎて変な緩急がついてます!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/30(水) 22:07:19.52 ID:fkiXiLh40<> 梗「えぇっ!?ハーレムは全ての殿方にとって大望であると聞きましたわよ!?」

鏡「なんでそう一部の偏った意見をすぐ真に受けるんですか姉さんは……もうインターネット禁止にしますよ?パソコンも携帯も没収しますよ?」

梗「そっそれだけは勘弁して下さいまし!The novel four o'clockとか読めなくなってしまいますわ!」

白粉「!!」ギクッ

鏡「?どうしました?白粉さん」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/30(水) 22:10:44.06 ID:fkiXiLh40<> 白粉「いっ、いえなんでも……それより次はバスルームを見せて頂きたいなーって……」

鏡「?ええ、構いませんよ。では行きましょうか。姉さんを置いて」

梗「き、鏡?なんだかさっきからわたくしに冷たいような……?わたくし何か粗相をしましたかしら……?」ビクビク

鏡「知りません。さあ、行きましょう白粉さん」スタスタ

白粉「は、はい……」

梗「あぁっ!ひどいですわ、鏡!わたくしも参りますわ!」

―――ドウシテソンナイジワルナサイマスノ!?

―――シリマセン。スコシハジブンデカンガエテクダサイ







あせび「このベッドすごくおおきいよ〜これならあっちの寝相でも落ちないよ?」ゴロゴロ〜

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/30(水) 22:15:15.46 ID:fkiXiLh40<> 今日はこれだけ
明日は書き溜めのため更新しません
金曜夜10時頃に続きを投下します <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/30(水) 22:15:54.50 ID:zMN98IVbo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/01(金) 22:09:55.70 ID:3WLv0jxb0<> 投下します
餓狼伝サイドに寄せるため、また長めの地の文入ります <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/01(金) 22:13:38.85 ID:3WLv0jxb0<>  なんてやり取りがあった後、ホスト側である沢桔姉妹はキッチンに向かい昼食の準備を始めた。

 昼食には鍋を振舞ってくれるらしい。
 鏡から手ぶらで来てくれて構わないと連絡を受けていたのでその通りにしたのだが、僕たちが下手な持参品を持ち寄らなくて正解だった。鏡は帰省前の冷蔵庫の整理を兼ねている事を申し訳なさそうにしていたが、急な集まりでしかもタダ飯なのだから文句などある筈もなかった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/01(金) 22:20:11.40 ID:3WLv0jxb0<>  何度か一緒に半額弁当やどん兵衛を食べた事があるため深く考えずにいたのだが、この暮らしぶりを見る限り、間違いなく二人は半額弁当の『勝利の一味』に魅入られたタイプの狼なのだろう。
 狼としてのキャリアを幼少期まで遡る事が出来る熟練の二人だが、先輩のように『腹の虫』の力を引き出す事で名を上げた狼と比べると、よりグルメな印象がある。さしずめスーパーにおける沢桔姉妹は、勝利の一味というスパイス、極上の香辛料を求める王侯貴族といったところだろうか。
 二人の私生活を垣間見て、彼女たちの狼としての在り方 を再認識する僕だった。

槍水「しかし、考えさせられるな……」

佐藤「何がです?」

槍水「お前たちには争奪戦における腹の虫の重要性を説いてきたが、オルトロス程の狼がこれだけの暮らしをしているとなると……」

 どうやら、先輩も似たような事を考えていたらしい。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/01(金) 22:24:32.91 ID:3WLv0jxb0<> 著莪「勝利の一味に執念を燃やすのも悪くない、ってか」

槍水「あくまでスパイス、と言いたい所だが……少し、そんな風に思った」フッ

著莪「あたしはもともとそっちがメインだけどね〜」

槍水「それが悪いとは思わない。しかし勝利の一味に拘り過ぎては勝率を落とす。そして栄養常態が悪くなり体調を崩す。腹の虫の真の力は、健康体における空腹常態でなければ引き出せない」

著莪「効率重視って話?あたしそういうの苦手だなー」

槍水「そういう訳でもない。効率重視というなら、そもそも半額弁当に拘る必要がない。食費を抑えて良好な栄養常 態を保つ方法は、探せば他にいくらでもあるだろうしな。
 私が言いたいのは、強敵相手の勝利の一味は贅沢品だという事だ。たまにしか手に入らないから価値がある……そればかりに目が眩んでいては身を滅ぼす」

 勝率優先、健康第一だ、と結んで、先輩は一息ついた <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/01(金) 22:26:49.55 ID:3WLv0jxb0<> 著莪「なるほどね。まぁアタシは楽しいから戦うってだけだね、やっぱり」

佐藤「……………僕は」グッ

槍水「……佐藤?」

 先輩の話には納得できる。
 既に何度か聞いていた話ではあったが、争奪戦の場数を踏んだ事で、僕は先輩の語る理論を実感できるようになっていた。しかし同時に、場数を踏んだ事で見えてきた別の側面もある。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/01(金) 22:31:12.16 ID:3WLv0jxb0<>  僕が争奪戦に参戦した当初の目的は、生活費を節約する事にあった。先輩の色香に惑わされた事も否定できない が、大きな参戦理由は懐の寒さだった。

 食費を大幅に抑える事ができ、なお且つ十分な栄養を摂取できる半額弁当は、少ない仕送りで暮らす高校生の僕にはあまりにも魅力的だった。
 そして少ない仕送りで暮らす学生、そんな境遇にある人間が僕だけの筈もない。
 似たような理由でスーパーに集った狼たちとの戦いに身を投じる事になるのは、スーパーの、半値印証時刻の必然だった。
 同じような事情を抱えた狼同士の戦いは真剣味を帯び、熾烈を極めた。各々の懐事情と食生活に関わる争いなのだからそれも無理からぬ話で、その真剣さが僕には心底面白く、愉しかっ た。スーパーの弁当コーナーで殴り合い割引弁当を奪い合うという、客観的に見た場合の滑稽さですら大きな魅力の一つだった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/01(金) 22:35:36.95 ID:3WLv0jxb0<>  そう。
 僕たちの戦いは滑稽だ。
 あまりにも馬鹿らしい争いだ。
 先輩の言う通り、栄養を十分に補い、財布にも優しい食生活の送り方は、きっと探せばいくらでもある。
 それでもなお半額弁当に拘る理由は一つしかない。
 極上の勝利の一味』を求めて。
 それ以外に狼としてスーパーを駆ける理由など、僕には見つけられない。
 全ての狼がそうだと思っていた。
 そして実際に大半の狼がそうだ。
 勝利の一味、その旨みがなければ、あれ程の数の狼が集まる訳がない。


 僕は勝ちたかった。
 他の狼とて勝ちたいに違いない。
 だからこそ争奪戦は面白い。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/01(金) 22:39:56.56 ID:3WLv0jxb0<>  しかし、槍水先輩は少し、ほんの少しだけ、他の狼とは違うのだと、僕は思い始めていた。

 先輩の導きで食べた弁当の味、そして僕なりに考えて挑んだ先輩のための戦いを思い出す。

 夏合宿の帰の電車で食べた真希乃、淡雪お手製のちらし寿司には、敗れたのにも関わらず勝利の一味に匹敵するスパイスが加わっていた。  サラマンダーとは奴に勝利する事そのものよりも、その先にある先輩の笑顔のために戦った。
 未熟な僕にとっては珍しくない日常的な敗北の後でも、先輩や白粉、狩場を同じくする狼たちと夕餉を囲めば、戦い終えた満足感に浸る事が出来た。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/01(金) 22:45:28.80 ID:3WLv0jxb0<>  槍水先輩の導きの先には、いつも笑顔の夕餉があった。
 勝敗とは別次元の、勝利の一味以外のスパイスが散りばめられた夕餉が。
 敗者として啜るどん兵衛や、売れ残りの惣菜を極上のディナーに変える、何か。その『何か』を求める事こそ、【氷結の魔女】槍水仙の、狼としての在り方なのではないかと僕は思うようになっていた。
 
 スーパーにおいては怜悧冷徹、対立する狼を圧倒的な強さで容赦なくねじ伏せる先輩だが、しかしその実、狼同士の絆を重んじる慈愛に満ちた優しい人なのだ。

槍水「佐藤」

 そんな優しい先輩だから、言葉に詰まった僕の心中を察して、こんな事を言ってくれたりもする。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/01(金) 22:49:30.52 ID:3WLv0jxb0<> 槍水「お前には、ガリー・トロットの縄張りに日参していた頃のように、強敵との戦いに拘る質があるのは私も承知している。同好会の先輩とはいえ私はお前を縛るつもりはない。お前はお前の思うように戦えばいい」

佐藤「……はい。ありがとうございます、先輩」

著莪「まじめだねぇ、HP同好会」

槍水「茶化すな著莪」

著莪「へ〜い」

槍水「まったく」

佐藤「でも」

槍水「ん?」

佐藤「でも、勝利の一味が半額弁当の全てではない、というのは、僕も実感している事ですから……先輩のお話もよくわかります」

槍水「そうか。ならいいんだ。何事もお前自身で体験して 理解するのが一番いいからな。他の狼の考え方に左右されるのはよくない」

佐藤「はい……」

 僕は、本心を偽った。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/01(金) 22:53:19.95 ID:3WLv0jxb0<>  否、偽ってはいない。
 敬愛する槍水先輩の意に反したくないというのも、僕の偽らざる本心なのだから。
 しかしそれとは別に、確かに存在する戦いへの渇望。
 強敵、難敵を求める願望と、槍水先輩への想い、HP同行会に籍を置く狼としての自負が混在し、葛藤が生じる。

 僕の狼としての在り方はこれでいいのかと、そんな事を考えてしまうのだ。

 先輩は自立した狼であれと僕に言う。僕はその優しさに応え、強くなり先輩と同じ道を行きたいと願う。そして強くなろうと戦いを繰り返すごとに勝利の一味に魅了され、いつしか僕は、戦いではなく闘いを求め始めていた。

 先輩もHP同好会も関係のない、僕だけの闘いを。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/01(金) 22:59:35.52 ID:3WLv0jxb0<>  自分だけの純粋な闘争を望めば望む程、仲間たちとの距離が離れてしまうような気がして、先輩の『お前の思うように』という言葉が素直に受け取れない。

 僕はどうするべきなのだろうか。
 これまで通り仲間たちと共に歩むべきか。
 それとも孤独を顧みず、勝利の一味に拘泥し、果てに孤高を目指すか。

 ここ最近、何度も繰り返している自問自答。  
 答えは、まだ出ない。










梗「みなさん!」バン!

 不意にリビングの扉が開き、エプロンを着けた梗が現れた。後ろには鍋を持った鏡。同じくエプロンを着けている。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/01(金) 23:04:14.09 ID:3WLv0jxb0<> 梗「お食事の準備ができましたわ!」

著莪「おぉ!待ってました!」

鏡「ダイニングテーブルでは手狭ですので、こちらにお持ちしました」グツグツ

槍水「いい匂いだな」ジュルリ

梗「わたくし自慢の鏡の豆乳鍋ですわ!」

鏡「なんで姉さんが私の料理を自慢するんですか。『鏡ご自慢の豆乳鍋ですわ!』ならわかりますが」

梗「だって鏡、鏡の全てがわたくしの自慢ですのよ?自慢の妹を自慢して何がいけませんの?」

鏡「それは嬉しいですが姉さん。私にだけ鍋を持たせて、 なんで姉さんは手ぶらなんでしょう」

梗「あ!いえこれは、き、鏡の両手が塞がっていてはリビングのドアが開けられないと思いまして?」

鏡「疑問形なせいで忘れてたのがバレバレです。まったく、それにしたってお碗くらいは持てたでしょうに」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/01(金) 23:08:00.12 ID:3WLv0jxb0<> 佐藤「あ、それだったら僕手伝うよ。ついでに白粉とあせびちゃんも呼んでくる」

槍水「私も行こう」

梗「まぁいけませんわ!お客様にそんな!」

鏡「姉さん。姉さんはどうせ何もしないのでそれは私の台詞です。それに、あんまりお客様扱いしていては皆さんと仲良くなれませんよ」

梗「そっそれもそうですわね!えぇっとぉ……それではっ!佐藤さん、槍水さん!」

佐藤「は、はい」

槍水「なんだ」

梗「キッチンに行ってグラスとお碗を人数分持ってらっしゃいまし!」ファサァッ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/01(金) 23:12:19.68 ID:3WLv0jxb0<> 鏡「………………はぁ」

佐藤「…………」ポカーン

槍水「」

著莪「あっはっはっは!」オカシー

梗「あ、あれ?わたくし何か変な事申しました?」

鏡「姉さん、どうして普通にお願いできないんですか…… それではお二人が姉さんの召使いのようです」

梗「え、えぇ?だって仲良くと言いましたから……普段鏡にお願いするのと同じように……」

鏡「姉さん……お嬢様キャラがブレないにもほどがあります……普段の振る舞いに私と仲良くする意図があったとか……頭が痛いです、私」

梗「???」オロオロ

著莪「あっはっは!もういいからさ、鏡は鍋置いて佐藤たちとキッチン行っておいでよ。そんで姉さんはこっちおいで」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/01(金) 23:17:10.69 ID:3WLv0jxb0<> 梗「しゃ、著莪さん!」ダキッ

著莪「おぉよしよし」ギュ

梗「わたくしまた何か粗相を!鏡を怒らせてしまいましたわ!皆さんに嫌われてしまいますわー!」ビエー

著莪「へーきへーき。誰も梗のこと嫌ったりしないから」 ナデナデ

―――ホントウデスノ?フタリトモオコッテマセンノ?

―――ホントホント。ダイジョブダッテ






鏡「はぁ……姉さんはしばらく著莪さんにお任せして、私たちはキッチンに行きましょうか……」

佐藤「そうだね……」

槍水「なんというか、お前も大変だな……」

鏡「いえ、いつもの事なので」

槍水「しかし、『自慢の妹を自慢して何が悪い』というのには同意だな。姉は妹が大好きで誇らしくて仕方ないものだ」ウンウン

鏡「槍水さん、無理に姉さんの目線に合わせなくてもいいんですよ?」クスッ

槍水「む。そういう訳ではないんだが……」

佐藤「あはは……」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/01(金) 23:21:50.50 ID:3WLv0jxb0<>  悩んでいるのが馬鹿らしく思えるような時間だった。

 今はもう、余計な事を考えるのはやめよう。 どうせ、狼としての葛藤を打破する術は、スーパーを駆け半額弁当を奪取する以外にないのだから。
 戦いの中にしか答えはない。
 今はただ、槍水先輩のおかげで出会えた仲間たちと、楽しい食卓を囲めばいい。

 セガのゲームと、可愛い女の子、あとは美味しい食べ物があれば、気分は上々なのだ。


















佐藤「…………」

 上々、なのだ。 その筈だ。

 しかし、やはり。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/01(金) 23:24:34.38 ID:3WLv0jxb0<>





 闘りてェ…………










<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/01(金) 23:31:21.31 ID:3WLv0jxb0<> *****************

 鏡お手製の豆乳鍋は絶品だった。

 美味しそうな料理を前にして、セレブに萎縮している場合ではなくなった僕たちは競い合うように鍋を貪り食った。

 やたらと僕に精のつく食材を勧める梗。それをたしなめる鏡。ショげた梗を先輩と著莪が慰め、脈絡なく巻き起こるあせび・トラブルを水際で防ぐ僕と著莪。
 白粉先生が僕のふとした言動、行動から邪悪な電波を受信すれば、梗がおよそ食卓には相応しくない下ネタを天然でぶちまけ場を凍りつかせる。
 天然に天然で返す先輩。
 フォローにまわる鏡と著莪。
 僕は白粉のおさげを引っ張り、神に祈りながらあせびちゃんの『洋くんあ〜ん』に応じるのだった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/01(金) 23:35:08.30 ID:3WLv0jxb0<> 佐藤「わ、わ〜い」モグモグ

佐藤「…………!?」

あせび「おいしい〜?」ワクワク

佐藤「う、うん、おいしいよ〜?」カタカタ

あせび「えへへ〜おいしいって〜」

鏡「ふふっよかったですね」

佐藤「……………」カタカタ

 朝と同じようなやり取りにほっこりしながらも僕は、鏡お手製の豆乳鍋、その具材である筈の鮭の味が何故かコー ラ味になっている事に密かに驚愕していた。
 この食卓にコーラなど無く、鏡が豆乳鍋の鮭をコーラで味付けするなどという暴挙に走る筈もない。
 一体この食卓に何が起きているのか。あまりに不可解。 奇妙な出来事。これはスタンド攻撃を受けている可能性がある。
 僕はそんな風に現実逃避をしながら、恐怖に震え懐のお守りを握りしめた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/01(金) 23:39:20.95 ID:3WLv0jxb0<> 槍水「ほら白粉、これ煮えているぞ」ヒョイ

白粉「あ、ありがとうございます…」ハグハグ

著莪「花、野菜も食えよ」ヒョイ

白粉「ありがとうございます」ハグハグ

鏡「白粉さんマロニーがお好きなようですね。もっと入れましょうか?」

白粉「ふぇ、じ、じゃあお願いします」ケプッ

 この手の食事では遠慮しがちな白粉の碗に、著莪や先輩や鏡が次々と具材を盛りつけていた。
 自分たちもバクバクと鍋を喰らいつつ代わるがわる白粉の世話をする三人の手際の良さには、忙しなく子育てをするオカン的な母性が 宿っているようで、見ていてなんだか面白い。僕にとっては悪魔神官でも、彼女たちにとって白粉は女性特有の庇護欲、母性を刺激する可愛らしい女の子に過ぎないのだろう。
 
 白梅の白粉愛は、それでも行き過ぎだとは思うけれど。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/01(金) 23:42:36.69 ID:3WLv0jxb0<> 梗「白粉さん白粉さん!わたくしもよそって差し上げますわ!お碗をこちらへ!」サァサァ

鏡「姉さんはお碗をひっくり返しそうなので大人しくしていて下さい。それより肉や魚ばかり食べすぎですよ。姉さんも野菜を食べなきゃ駄目です」ドバドバ

梗「あぁっ!?隅っこでクタクタになった白菜を大量に!?」

鏡「あまり長々と入れておくと白菜の水分で鍋の味が薄くなるので。姉さん処理をお願いします」シレッ

梗「うぅ……わかりましたわ」グスッ

著莪「よしよし大丈夫だぞ〜梗。佐藤が代わりに食ってやるってさ」シレッ

佐藤「なんでそうなる!?」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/01(金) 23:46:06.12 ID:3WLv0jxb0<> 梗「まぁ佐藤さん!なんてお優しいんでしょう!それじゃあお願いしますね!」ドバドバ

佐藤「はは……うん任せてよ。ボクハクサイダイスキナンダー」

梗「やっぱり佐藤さんは紳士ですわね。ここはやはり帰省を延期して今夜は―――」

鏡「駄目です」

梗「もう!鏡のいけず!」

槍水「そういえば何時の電車で帰るんだ?」

鏡「夕方の5時です。まだ余裕がありますから、ゆっくりして頂いて構いませんよ」

槍水先「そうか。ではお言葉に甘えさせて貰う」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/01(金) 23:50:30.00 ID:3WLv0jxb0<>  現在時刻は13時20分。
 片付けは手伝って帰るとして、二人の準備の時間を考えるとお暇するのは余裕を持たせて15時頃になるだろうか。


あせび「今年はもう二人とお別れなんだね〜。あっちなんだか寂しいよ〜」

 あせびちゃんがいつもより若干沈んだ表情でそんな事を言う。
 あせびちゃんが寂しそうだと、見ているこっちまで寂しくなってくるから不思議だ。

鏡「また来年になったらいくらでも遊べますよ」フフ

あせび「ほんと〜?だったら今度はあっちがお料理つくってあげるね〜?」

鏡「まぁ、それは楽しみですね。来年が待ち遠しいです」

佐藤・著我「「………!」」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/01(金) 23:55:07.46 ID:3WLv0jxb0<> あせび「楽しみだね〜。何作ろうかな〜」ワクワク

鏡「うふふふ」ニコニコ

著莪「あ、あーだったらあせび、その時は私も是非ご一緒したいなー、なんてー。あせびの手料理また食べたいなー」チラッ

佐藤「〜〜〜〜ッ!」コクコク!

 
 落ち着け著莪!棒読みが過ぎるぞ!それではあせびちゃんに怪しまれる!彼女には僅かな不審も抱かせるな!
 大丈夫だよ、わかってるから!
 鏡をむざむざやらせはしない!
 そしてあせびちゃんも傷つけない!
 なんだか仲良くなった二人の未来は僕が守る!


佐藤「ア、あー、あセびちゃん、その時は是非僕も呼ンデ欲しいナー。あせびちゃンの料理はゼッピンダカラナー」

著莪「くっ………!」フイッ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/01(金) 23:59:48.23 ID:3WLv0jxb0<>  義憤に駆られ、勇気を振り絞って魔の食事会への参加を表明したものの、恐怖に抗いきれず著莪以上の棒読みになり、まるで日本語片言の外国人のような変な抑揚がついてしまった。
 それを見た著莪が悲痛そうに両目をきつく閉じ顔を背ける。
 おそらくは、死地とわかっていながら飛び込まざるを得なかった僕を見ていられなかったのだろう。
 もしかしたら、突発的に発現した僕の外人キャラがツボってしまい笑いを噛み殺しただけかもしれないが。


 あせび「ほんと〜?あっち嬉しいよ〜。それじゃあまた皆でご飯だね〜」

佐藤「ははは……そうダねータノしみだねー……」

…………皆? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/02(土) 00:02:52.52 ID:xVI/Xk8c0<> 槍水「せっかくだ。またこの面子で集まろう。いいか?井ノ上」

 !?

梗「それは素晴らしいご提案ですわ。今から楽しみですこと」ウフフ

 !!!??

白粉「ぇあっと、私も是非……」オズオズ

 !!?!??!?

槍水「そうだ白粉、白梅も誘ってみたらどうだ?」

 〜〜〜〜〜〜ッッ!!?

白粉「あ、そうですね。いいかな?井ノ上さん」

あせび「もちろんみんな大歓迎だよ〜あっち張り切っちゃうね〜?」ニコニコ

佐藤・著莪「「」」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/02(土) 00:06:12.36 ID:xVI/Xk8c0<>  なんて事だ………!
 参加人数が僕を含め七人、だと!?

 あ、あせびちゃん主催の食事会に、六人の無垢な乙女たちが集う、だと?

 彼女たちの胃袋を守りつつ、あせびちゃんを傷つけないように立ち回るとか、無理ゲーにも程がある!

 何をどうすればいいのか検討もつかないぞ!?


あせび「えへへ〜楽しみだね〜?洋く〜ん?」ニコニコニッコリ

佐藤「〜〜〜〜っ!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/02(土) 00:13:01.75 ID:xVI/Xk8c0<>  無邪気な笑み。
 本当に、本当に楽しそうな、幸せそうな笑顔。
 こんな顔を見せられてはこう答えるしかない。腹を括るしかあるまい。僕は覚悟を決めた。


佐藤「〜〜〜〜〜…………うん、そうだね、すごく楽しみだね」フッ

著莪「………………サトォ」ブワッ

 著莪が堪え切れないといった様子で眼鏡を外し、小声で僕の名を呼び目元を抑えた。
 おそらくは、腹を括った僕の漢の表情に感動したのだろう。
 もしかすると、笑いがドツボに嵌り涙が浮かんできただけかもしれないが。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/02(土) 00:18:10.45 ID:xVI/Xk8c0<> あせび「また来年もみんな一緒だね〜」ニコニコニッパァ

佐藤「そうだねー……」ハハ…

 
 どうせ……。

 
 どうせ何処かで見ているんだろう?あせびちゃんに取り憑いている『何か』!!
 いいぜ……?見せてやる。
 見せてやるよ……お前に僕の胃袋を破壊出来ても、彼女たちの笑顔までは砕けないという事を……!

  声に出して宣戦布告しておいてやる!いいか、よく聞いておけよ!


佐藤「喰らいつく……!」ボソッ

著莪「ブフォッ…………サwトォw」クルシィ


 あせびちゃんの料理に!

 【死神】の呪いは僕が喰らい尽くしてやる!
 後に残るのはあせびちゃんの笑顔だけだッ!!

 そして著莪!
 お前やっぱり僕の苦境を楽しんでただけ かッッ!!!

********************* <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/02(土) 00:25:00.37 ID:xVI/Xk8c0<> とりあえずここまで
書けたらバトルパート直前のキリの良いところまで書いて今夜中に投下します <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/02(土) 00:31:32.05 ID:U00Jfo2no<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/02(土) 01:54:43.77 ID:sprFvs6ao<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/02(土) 18:21:53.38 ID:xVI/Xk8c0<> *****************

 楽しい食事の時間はあっという間に過ぎ去り、時刻は15時25分。

 ソファで横になりそのまま眠ってしまいそうになっていた著莪とあせびちゃんを叩き起こし、僕たちは沢桔姉妹の部屋を出た。二人とも昨夜の夜更かしが効いているようだった。

 
 姉妹は一階のエントランスまで見送りに降りて来てくれた。


鏡「それでは名残惜しいですが、皆さん、よいお年を」

梗「よいお年を。今年は皆さんのおかげで実り多い一年になりました。改めてお礼を申し上げますわ」

佐藤「こちらこそ。また来年、スーパーで会うのを楽しみにしてるよ」

著莪「鍋スゲー美味かったよ。ごちそうさま」

白粉「ご、ご馳走様でした。よいお年を」ペコリ

槍水「スーパーでまみえる時には今日のようにはいかないぞ?」フッ

梗「あら……魔女さん、それは……」ニヤァ

鏡「……」フッ


梗・鏡「「望むところです」わ」


あせび「ばいば〜い」


 そして僕らは沢桔姉妹のマンションを後にした。
 マンションを出てすぐに、僕は口を開いた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/02(土) 18:27:02.64 ID:xVI/Xk8c0<> 佐藤「先輩、今夜はどうするんですか?」

 無論、この上まだ遊ぼうというのではない。スーパーに向かうのかどうかを聞いたのだ。
 沢桔姉妹が最後に見せた【オルトロス】としての表情に、胸がザワついていた。今夜、戦わずには眠れない。

槍水「当然、行く。茉莉花に会える日を先送りにしてまでこっちに残ったんだ。行かないはずがない」

 予想通りの答えだった。

佐藤「白粉は?」

白粉「私も行くつもりでいました。スーパーはネタの宝庫ですから。今夜はなんだかいい予感がするんです」

 こちらも予想通り。しかし後半部分は謎である。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/02(土) 18:30:45.85 ID:xVI/Xk8c0<> 佐藤「著莪はどうする?」

著莪「ん〜あたしはパスで。さすがにちょっと眠いし。冬休み初日に怪我でもしたらつまんないし」

佐藤「えぇ〜行こうぜ著莪ぁ」

著莪「この面子で行くとなるとアンタらのホームだろ?今日はもう遠征はしんどいよ。いいじゃんか、HP同好会の活動納めって事で三人で行ってくれば」

槍水「活動納めか……それは考えていなかったな」

佐藤「活動納め……」

 確かにそれは考えていなかった。
 僕としては、せっかく休みに予定が合ったのだから皆でスーパーにと思っていただけなのだが、同好会の正式な活動と考えると気持ちの乗りが違う。梗が単なる食事会を 『プチ忘年会』と表現したのと同じだ。時節に合わせて日 常的に行なっている同好会活動の呼称を変えるだけで、なんだかワクワクしてくる。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/02(土) 18:33:50.41 ID:xVI/Xk8c0<> 槍水「では、今夜は私の縄張りに三人で行くか」

佐藤「はい!そうしましょう!」

白粉「は、はい!」

著莪「がんばれよ〜」フアァ…

佐藤「そうだ、先輩。活動納めっていうなら制服に着替えて集まりませんか?」

 この後は一旦解散という事になるだろうし、所詮は言葉だけの活動納めに少しでも雰囲気を持たせるには、良いアイデアであるように思えた。

槍水「予定にはなかったが正式な部活動だからな。それがいいだろう」ウム

白粉「で、では制服に着替えてホーキーマートに集合、という事ですね」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/02(土) 18:36:25.20 ID:xVI/Xk8c0<> 佐藤「なんか、楽しくなってきましたね」ヘヘッ

槍水「ふふ、そうだな。どうせなら来年から年中行事に組み込むか」

佐藤「いいですね。賛成です」

白粉「なんだか盛り上がりますね」フフ

著莪「なぁ〜んかあたしも行きたくなってきちゃうな〜」

佐藤「なら来ればいいじゃんか〜合宿だって一緒に行ったんだし」

槍水「そうだぞ著莪。今更変な遠慮はよせ」

著莪「う〜ん………いや。やっぱやめとく。帰って寝とくわ。アンタらとご一緒するのはまた来年って事で」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/02(土) 18:40:07.01 ID:xVI/Xk8c0<> 佐藤「ん〜………」ムスッ

著莪「なんだよ佐藤ぉ」ニヤニヤ

著莪「あたしがいないと寂しいってか?」ガバッ

佐藤「うわっ!ち違ぇよ!皆一緒の方が楽しいと思っただけだっつーの!」ジタバタ

著莪「可愛いとこあるな〜お前も」ギュウウ

佐藤「だから違うって!離せよ!こんな所で恥ずかしいだろ !」バタバタ

著莪「やだよ〜」ギュウウッ


槍水「相変わらず仲が良いな」フム

白粉「そうですねぇ」フフ

―――ハナセシャガー!

―――ヤダーアトチョットダケー



 これで、今夜の予定は決まった。
 先輩も白粉も2、3日中には地元に帰るというし、著莪の言うとおりこれがHP同好会の今年の活動納めになるだろう。
 山乃守さんの呼び出しから始まり、結果的には楽しく過ごす事が出来た一日を最高の形で締めくくるためにも、なんとしても半額弁当を奪取しなければならない。
 仲間と共に過ごす充実感と戦いへの期待で、僕の胸ははち切れそうになっていた。


 早く暴れたいと、体が疼いて仕方ない。


***************** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/02(土) 18:42:50.72 ID:xVI/Xk8c0<> とりあえずここまで
書けたら深夜にあとちょっと投下
書けなかったら明日の夜に来ます <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/02(土) 18:52:34.44 ID:CT8CuCe5o<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/03(日) 21:28:18.97 ID:KY/WkNYp0<> *****************

  幕間  オルトロス


 時刻は16時15分。【オルトロス】沢桔姉妹は、帰省のため自宅最寄りの駅に向かって歩いていた。

梗「なんだかこの街を離れるのが寂しいですわ……」

 不意に足を止めた梗が、自宅マンションのある方角を振り返り呟いた。

鏡「冬休みの間実家に帰るだけで、そこまで言うのは大げさ………と言いたい所ですが」

 普段なら姉の大袈裟な物言いに冷静な突っ込みを入れる鏡だが、今はその言葉に同感だった。

 もちろん、今年出会った友人たちとの別れを惜しんでの事だ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/03(日) 21:32:42.49 ID:KY/WkNYp0<>  狼として夕餉を共にする事は過去に何度かあったが、ただの友人同士として食卓を囲んだのは今日が初めてだった。
 鏡は佐藤たちに、鍋にしたのは帰省前の冷蔵庫の整理のめだと言ったが、実は先程の豆乳鍋は、一から材料を買い込んで作ったものだった。

 冷蔵庫の整理とは、手ぶらで来たことを申し訳なさそうにする佐藤への、鏡なりの気遣いでついた嘘だった。
 本格的なもてなしである事が知れれば佐藤たちは恐縮してしまい、楽しい食事会が台無しになると考えたのだ。
 しかし、気遣いだけでもなかった。
 気遣いというのは、鏡の自分に対する言い訳だ。
 皆で鍋を囲みたいという梗のリクエストで決まったメニューだったのだが、女性が多いから豆乳鍋にしよう、唯一の男性である佐藤には食べ出のある具材を買ってこようと提案したのは鏡だった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/03(日) 21:37:02.97 ID:KY/WkNYp0<>  佐藤についた嘘は気遣いであると同時に、鏡の照れ隠しでもあった。

 鏡もまた、友人たちと鍋を囲みたいと思っていたのだ。

 姉妹は視線を合わせ、微笑み合う。

梗「また来年、ですわね」ニコッ

鏡「ええ、そうですね」フッ

 楽しい食事、その心地良い余韻が二人を包んでいた。

 二人は再び歩み出す。

 年末年始は家族で過ごし、友達とはまた来年。

 楽しい事は、また来年。
  <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/03(日) 21:41:19.48 ID:KY/WkNYp0<> ???「……………」ザッザッ


梗・鏡「…………!?」ザワッ


――――前方から。


梗・鏡「「!!?」」凶


 前方から歩いてきた男とすれ違う。


梗・鏡「「〜〜〜〜〜ッ!?」」バッ!


 二人は咄嗟に振り返る。


???「………………」


梗「……………」

鏡「今のは………」

 男が放つ、二人にとってはあまりに馴染み深い気配。

 その、あまりの強さに戦慄する。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/03(日) 21:45:22.84 ID:KY/WkNYp0<> 梗「下品な『狼』ですこと……まだ日も沈まないうちから、それも路上で……」

鏡「確かに狼がスーパーで放つ気配でしたが………何者でしょうか?学生には見えませんし……」

 男が立ち止まった姉妹に気づき振り返る。


???「……………あァ?」チラッ

 190センチはありそうな長身。その長身を、冬服の上からでもわかる程に筋肉が覆って いる。
 荒々しい刈り込みの短髪、左眉を縦に切り裂く傷痕。身に纏うブルゾンとジーンズは見窄らしいくらいに古びているのに、足元のハイテクスニーカーだけは一目で高級とわかる本格的な物だ。

 体格も相まって男の服装はどこか、動き易さを重視しているように、二人には見えた。

???「………………」ギラッ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/03(日) 21:50:25.55 ID:KY/WkNYp0<> 梗「……………!」キッ

鏡「姉さん……!?」

 男の気配に当てられて梗のスイッチが入る。

 スーパーでもない、半額弁当もないこんな路上で。

 鏡は慌てて、しかし努めて冷静にフォローにまわる。

鏡「姉さん、そんなに見ては失礼ですよ?」

梗「………………」

鏡「凄い体格ですね。何かスポーツでもやっていらっしゃるのかしら」クイ

梗「…………鏡……ええ、そうですわね。ご立派ですわ………では、行きましょうか。電車に乗り遅れてしまいますわ」 クルッ


???「…………フン」フイッ

 
 わざと男に聞こえるように、男の大きな体格に思わず振り向いてしまった、という風を装う。 梗はそれを察して話を合わせ、駅の方向に向き直る。

???「……………」ザッザッ

 男の方も姉妹への興味を失ったようで、視線を逸らし歩き去った。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/03(日) 21:54:41.56 ID:KY/WkNYp0<> 鏡「ふぅ……肝が冷えましたよ姉さん」

梗「ごめんなさい、鏡………ですが、あの男の放つ気配―――あれはまるで――まるで――――」

鏡「抜き身の日本刀のよう、ですか?確かに、身の危険を感じるほどの闘気でした……」

 姉妹には男が狼であるとしか思えなかった。

 それも、歴戦の自分たちが畏怖の念を抱く程の強豪。
 あの男は間違いなく強い。
 それも桁違いに。

梗「わたくしたちの知らない、何処かの名のある『古狼』 といった所かしら……」

鏡「ええ、学生ではないでしょうし、おそらくは。それにしても―――」

 出会ったのがスーパーでなくてよかった、と鏡は思った。
 思ってしまった。
 二つ名持ちの狼である自負と誇りよりも、恐怖が上回った。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/03(日) 21:58:50.79 ID:KY/WkNYp0<>  鏡は、コートのポケットに入れた御守りを握りしめた。

 先程、佐藤と著我から、訳は聞かずに黙って受け取ってくれ、そして肌身離さず身に着けておいて欲しい、と言われて貰った物だ。
 何でも、昼食会に集まった全員が同じものを持っているらしい。
 何故いきなり御守り?と訝しく思わないでもなかったが、友達とお揃いの品を持てるのが嬉しくて深くは追求しなかった。

鏡「…………?」

 御守りを握りしめ、その感触に鏡は違和感を覚えた。

 ポケットから御守りを取り出し、驚愕する。

鏡「!?ねっ、姉さん!」

梗「こ、これは……!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/03(日) 22:02:52.74 ID:KY/WkNYp0<>  御守りが、まるで焼け焦げたように黒く変色していた。


 否、焼け焦げた、というよりは―――

 
 まるで、腐食したような――――。


梗「ッ!」

 梗も自分の御守りを取り出す。

 ポケットから取り出す際に掴んだ紐が、ボロリと、朽ちたように崩れた。

 紐を失ったお守りが地面に落ちる。
 梗の御守りもまた、黒く変色していた。

鏡「………………」

梗「……………鏡」

鏡「……はい。姉さん」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/03(日) 22:06:40.29 ID:KY/WkNYp0<> 梗「槍水さんたち……帰省を遅らせてわざわざこちらに残っているということは……」

鏡「はい。間違いなくスーパーへ。縄張りでの争奪戦のためでしょう」

 鏡は、姉が自分と同じ事を考えているのに気付いた。

梗「…………では鏡。帰省は延期。よろしいですわね?」

鏡「はい。父さんと母さんには私から連絡を入れます」

 御守りに起きた異変。二人はそれを、持ち主である自分たちではなく、同じ御守りを共有する友人たちに迫る危機、その凶兆と捉えた。

 そしてすれ違った謎の狼と凶兆とを、結びつけずにはいられなかった。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/03(日) 22:10:00.37 ID:KY/WkNYp0<>  あの男が【氷結の魔女】の縄張りに向かうとは限らない。

 しかし、それでも――――。


梗「嫌な予感がしますわ。急ぎませんと」

鏡「大丈夫です、姉さん。一旦マンションに戻って荷物を置いてからでも、半値印証時刻には十分間に合います」

 二人はマンションの方へと踵を返した。

梗「何もなければよいのですが……」

鏡「そうはいかないでしょうね……おそらく」

 昼食会の余韻など、既に消し飛んでいた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/03(日) 22:14:16.55 ID:KY/WkNYp0<>




 沢桔姉妹は、知らなかった。

 御守りに起きた異変が、先程まで一緒にいた【死神】井ノ上あせびの呪力によるものだという事を。


 御守りの腐食と男は、完全に無関係だった――――。




******************** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/03(日) 22:28:30.79 ID:KY/WkNYp0<> 今日は以上です
次回投下は

幕間 ウルフズ・ペイン、ついでにガン・コナー
幕間 魔導士
佐藤vs丹波第一戦(二章終了)

まで書き終えてからにします
早くて3日後、遅くて5日後くらいになると思います

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/03(日) 22:33:10.08 ID:wlkV1epZo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/03(日) 22:34:04.35 ID:F48IZMqfo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/02/06(水) 15:09:55.03 ID:EXOTJ+nz0<> 投下は土曜日の夜にします

何があってもスレ立てから一ヶ月以内には完結させる予定なので、読んで下さっている方は最後までお付き合い頂けると幸いです

次回投下は>>205の内容で
その後は三章を一度に全部投下して終わらせます

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/09(土) 22:06:53.67 ID:fYTh6cDh0<> 予定通りには書けませんでしたが、一章と同程度の分量を投下します <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/09(土) 22:07:26.37 ID:fYTh6cDh0<> 予定通りには書けませんでしたが、一章と同程度の分量を投下します <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/09(土) 22:10:54.03 ID:fYTh6cDh0<> *****************

 幕間 ウルフズ・ペイン(ガンコナー)

 時刻は18時。山乃守亮は独り、夕方の街を歩いていた。

 クリスマス前に、恋人の烏頭みことと同棲している部屋を追い出され、仲直りしてクリスマス当日にまた追い出され、さらにまた仲直りして、今もまた山乃守は独りだった。

 といっても、また烏頭を怒らせた訳ではない。

 山乃守の手には、エコバックが握られていた。

 スーパーへのお使いの帰りだった。バッグの中身は挽肉と玉ねぎ。今夜のメニューはハンバーグだと聞かされていた。

 ちなみにお駄賃は500円。

 部屋を追い出された際に頼ったのが、毛玉、二階堂連、佐藤洋の男性三人だった事で、烏頭は情状酌量の余地有りと温情裁定を下し、軽いお叱りと使い走りにするだけで怒りを収めてくれた。

 烏頭のお叱りは、至極あっさりとしたものだった。

 しかし烏頭の場合、激昂するよりもむしろ、そのあっさりとした『軽いお叱り』こそが恐ろしい。

 山乃守は思い出す。
― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/09(土) 22:15:15.66 ID:fYTh6cDh0<> ――
―――
――――
―――――

 数時間前。 佐藤と別れアパートに帰り着くと、烏頭が不意に口を開いた。

烏頭『携帯貸して』

山乃守『は、はい』

烏頭『…………』カチカチ

山乃守『あの……何を?』ゴクリ

烏頭『……終わり』カチカチパタン

山乃守『……?』

烏頭『あんたがナンパした五人の女の番号―――』

山乃守『あっあ、そうか悪い!履歴から消すの忘れてた!いやぁうっかりうっか―――』

 ピロリロリン――

 烏頭の携帯メールの着信音が鳴り響いた。

烏頭『私の携帯に、メールで送っておいたから……』

山乃守『…………!?』

 烏頭は自分の携帯を撫でる。

烏頭『あんたがこの娘たちに接触した場合、私の方からも「ご挨拶」させてもらうね?』ニコッ

山乃守『〜〜〜〜ッッ!?』

―――――
――――
―――
―― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/09(土) 22:21:40.26 ID:fYTh6cDh0<> 山乃守「…………」ブルッ

 思い出すだけで震えが来る。

 女は恐ろしい。中でも烏頭は特に恐ろしい。

 二言三言にこめられた怨嗟の強さの桁が違う。

 その事を再認識した山乃守だった。

山乃守「………ん?」

 バス停の前を通り過ぎ、山乃守は立ち止まる。

山乃守「ん〜?」

 バスを待つ客の列の中に、知った顔がいた気がしたのだ。

山乃守「あ」

二階堂「あ」フイッ

山乃守「れぇ〜ん」

二階堂「………」チッ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/09(土) 22:24:38.46 ID:fYTh6cDh0<>  やはり知った顔だった。
 二階堂連。昨夜、部屋を追い出されていの一番に連絡を取った大学時代の後輩である。

 その時はすでに地元に帰ったと聞いていたのだが。

山乃守「や〜っぱり嘘だったかぁ」ニヤニヤ

二階堂「いえ、嘘ではないですよ。ちょっとこちらの友人に用が出来まして。予定を変えたんです」シレッ

山乃守「そんな冷たくすんなって〜洋といいお前といい〜。もうみことの奴にも許して貰えたし面倒かけないからさ〜」

二階堂「なんだ、そうですか。ならもう部屋に帰れますね」

山乃守「………」

二階堂「それと、この間貸した金返して貰えますか?」

山乃守「……この分だと毛玉の奴も居留守かな」ハハッ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/09(土) 22:28:16.48 ID:fYTh6cDh0<> 二階堂「でしょうね。日頃の行いが悪すぎるんですよ、あんたは」ジトッ

山乃守「やっぱ俺には洋だけ……ってか」

二階堂「あいつは【変態】で馬鹿だから、どうせあんたの呼び出しに素直に応じたんでしょう」ハァ

山乃守「ああ、洋も部屋には入れてくれなかったけど」

二階堂「当然だろ。寮暮らしの高校生に頼るなんて……何考えてんだあんたは……」

山乃守「いやぁ、わかってはいたんだけど俺もヤバかったんだ。お前のアパートに行った交通費で金が尽きてな。大学の傍の公園で夜明かししたら、朝には動けなくなっちまって。もうさ!ガッチガチで、頭に雪とか積もってん の」!アハハ

二階堂「馬鹿だろあんた……」

山乃守「お?部屋に上げてやればよかったなーとか思った?」

二階堂「いえ。そのまま凍死すればよかったのにな、と」 ハァ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/09(土) 22:31:21.49 ID:fYTh6cDh0<> 山乃守「はは……キツイね〜……さすがにちょっと堪えてきたぞ……」

 二階堂の本気で忌々しそうな表情にめげそうになる。
 最後の溜息が、山乃守の胸を地味に抉った。


二階堂「そりゃ結構な事です。ほら、もうバス来ましたから、帰ってくださ―――!?」ゾワッ

 バスが減速しつつ、停留所に近づいて来る。

山乃守「連?…………!?」ゾクッ

 バスが到着し、停車する。

 乗り口、降り口が開き、バス停の列が動き出す。

 しかし、二階堂と山乃守は動けなかった。

山乃守「…………ぁ」

二階堂「…………!」

 降り口から出てきた一人の男に目を奪われ、身動きが取れなかったのだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/09(土) 22:35:08.90 ID:fYTh6cDh0<> ???「…………」ザッ


二階堂・山乃守「「〜〜〜ッ!?」」

 
 左眉の傷痕が印象的な大男。

 スーパーを駆ける狼なら、反応せずにはいられない強すぎる気配。

 その威圧感に、二人は身を固めた。

???「…………」ザッザッ


二階堂「………」ゴクリ

山乃守「なんだ……ありゃあ」タラリ

 男が歩き去り、その背中が遠ざかっても、二人の緊張は解けなかった。

山乃守・二階堂「「…………」」

乗客「あの、列進んでますよ」イライラ

二階堂「……すいません」スッ

 二階堂は列を外れ、後ろの乗客に順番を譲った。

 その意図を察し、山乃守は眉を顰める。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/09(土) 22:37:55.17 ID:fYTh6cDh0<> 山乃守「ッ!……連、やめておけ」

二階堂「いえ、やめません。あの男、間違いなく狼……この時間、この場所で降りたという事は……」

山乃守「今夜、西区のスーパーの何処かに現れる可能性が高い」

二階堂「そういう事です」

山乃守「古狼どころか、ほとんど引退状態の俺でも気配を 感じる化物だぞ?それもこんな路上でだ……悪い事は言わねぇ、やめておけ」

二階堂「そんな化物だからこそ、行くんです」ザッ!

山乃守「連!」


二階堂「止めても無駄です。それでは」ザッザッ


山乃守「連……」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/09(土) 22:41:15.28 ID:fYTh6cDh0<>  止められない事はわかっていた。
 首輪から開放された二階堂が、あれ程の狼を無視できる筈がない。
 二階堂は今、強者とまみえる喜びで目が曇っている。戦う喜びで身の危険を察知できていない。

 しかし。

山乃守「だからといって……」

 山乃守に出来る事はない。
 一応『古狼』と呼ばれてはいるが、二階堂に言った通りほぼ完全に引退した身なのだ。
 現役時代も戦闘に長けた狼ではなかった。
 自分がスーパーに行っても、助太刀にはならない。

 山乃守は帰途に着く。

山乃守「まぁ……無事を祈ってるよ、連」クルッ
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/09(土) 22:46:17.90 ID:fYTh6cDh0<>  帰って烏頭の手料理を食べ、今夜は暖かい布団で眠る。

 それでいい。

山乃守「どうせ魔女か優がなんとかするだろ」

 
 唯一、気掛かりなのは―――。


山乃守「……あの男……どっかで見たような……?」ウーン

 
 山乃守は、男の顔に見覚えがあった。


山乃守「駄目だ、全然思い出せねぇ」


 しかし山乃守は――。

 
 野郎の顔を覚えるのが苦手だった ―――。


****************
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/09(土) 22:49:52.51 ID:fYTh6cDh0<> 烏頭「あ」

 18時35分。キッチンに立ち夕食の準備をする烏頭が小さく声を漏らした。

山乃守「どした〜?」ダラダラ

 山乃守は、数日前にホームレス生活をしていた際に暖を取るために拾い、なんとなく捨てずに取って置いたスポーツ新聞を読んでいた。
 
 普段はスポーツ新聞など読まない事もあって、なかなか新鮮で面白い。
 暇潰しには丁度良かった。

烏頭「パン粉……切れてるの忘れてた」

山乃守「そっか。じゃあもう一回行って来るよ」ペラ… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/09(土) 22:53:20.32 ID:fYTh6cDh0<> 烏頭「……いい。私が行って来る。あんた、体調良くないでしょ。もう許してあげる」

山乃守「はは、わかる?昨日の野宿が効いてるみたいだわ」ペラ…

烏頭「それはあんたの自業自得だから。でも今日は勘弁してあげる」

山乃守「はは……さいで」ペラ…

 ペラ…ペラ…

山乃守「!」

 芸能、アダルト記事を読み終わり、なんとなく開いたスポーツ欄、目に入った見出しと写真に、山乃守は驚愕する。



『血濡れの死闘 丹波VS堤』

 

 先日開かれた、FAWの異種格闘興業の記事だった。

 掲載された、空手衣を着た二人の男の写真、その内の一人―――。

山乃守「丹波……分七……!」

 先程、バス停で見た狼だった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/09(土) 22:56:52.72 ID:fYTh6cDh0<> 山乃守「どうりで……見覚えがある筈だ」

 格闘技には興味がないので忘れていたが、山乃守は数日前にもこの記事を目にしていた。

山乃守「連、こいつはいくらなんでも……」

 プロの格闘家。そして狼として放つ尋常ならざる気配 ―――。

 二階堂を行かせるべきではなかった。

 可愛がっている後輩の佐藤洋も、この辺りをホームに戦う狼だ。

【氷結の魔女】はともかく、【魔導士】金城優が今夜スーパーに出張って来るとは限らない。

 
 腹を括るしかなかった。


 【ガンコナー】山乃守亮は、出掛ける支度をする【ウル フズ・ペイン】烏頭みことに声を掛けた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/09(土) 22:59:06.66 ID:fYTh6cDh0<> 山乃守「みこと」

烏頭「何?」

山乃守「ホーキーマートに行くんだよな?」

みこと「そうだけど?今からだと仙に会っちゃうかもしれないけど。別に平気だから心配しないで」

山乃守「ああ、そういう事じゃない。俺も一緒に行くよ」

みこと「?どうしたの……急に真面目な顔して。似合わないよ」

山乃守「事情は道すがら話す。とにかく俺も行く」

みこと「なんなの?別にいいけど……」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/09(土) 23:01:47.69 ID:fYTh6cDh0<>  山乃守は、自分一人で行くよりは腕利きの烏頭を連れて行った方がいいと判断した。

 丹波分七は狼だ。

 仮にスーパーで戦ったとしても、烏頭が丹波に敵うとは思えない。それでも自身よりは烏頭の方が、二階堂や佐藤にとって頼りになる援軍なのは間違いない。

山乃守「行こう」

みこと「本当にどうしたの……熱でもあるの?」

 
 いざという時は、烏頭や後輩たちの盾になる覚悟だった。

 山乃守は、コートを羽織った。

***************** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/09(土) 23:05:25.77 ID:fYTh6cDh0<>  
 幕間 魔導士


 時刻は18時45分。【魔導士】金城優は、ホーキーマー ト近くの自販機の前にバイクを止め缶コーヒーを飲んでいた。

 あと少しで、ホーキーマートの半値印証時刻。

 サラマンダーを撃破したという佐藤洋の成長ぶりを見物し、かつてのHP部の流れを汲むHP同好会の面々に、今年最後の挨拶を、と考えていた。

 相手に合わせ変幻自在に戦い方を変える、【変態】する黒妖犬。
 サラマンダーの語った佐藤洋の戦い振り、まだ浸透してはいないが、自身の二つ名と似通った由来を持つ【カペル スウェイト】という異名。
 まだ自分とぶつかる時期ではないが、年が明ける前に一度、佐藤の戦いを見ておきたいという思いがあった。

コ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/09(土) 23:09:44.45 ID:fYTh6cDh0<>  コーヒーを飲み干し、ゴミ箱に空き缶を捨て、ヘルメットを被りバイクに跨る。


金城「!」


 そして、エンジンを掛けようとした、その時だった。


???「…………」ザッザッ

金城「……………」

 金城のすぐ傍を、一人の男が通り過ぎた。

???「……………」チラッ

金城「……………!」グッ

 同程度の身長の金城から見ても、大きいと感じる巨躯。
 鍛え方の次元が違う。
 金城と男とでは、身に纏う筋肉の量が違い過ぎる。

 男を前にしては、金城などただの痩せけた小僧に過ぎない。

 そしてその力関係は、金城のフィールドであるスーパーでも変わらないように思えた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/09(土) 23:14:32.63 ID:fYTh6cDh0<> ???「…………」ザッザッ


金城「………何者だ?」

 歩み去る男の背を凝視しつつ、金城は呟いた。

 男が狼なのは間違いない。

 自分が狼の気配を読み違える筈がない。

 しかし路上で、あれ程の気配を絶えず放ちながら歩くのは異常だった。
 一目で猛者とわかるあの男ほどの狼が、こんな無作法をするだろうか―――。


金城「ッ!まさか……!?」


 金城は『ある可能性』に思い至り、バイクのエンジンを掛けた。

金城「もし、そうだとすれば……!」



 それは、最悪の可能性。


 スーパーに於いて、『大猪』の来襲を超える最凶のイレギュラー。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/09(土) 23:17:57.10 ID:fYTh6cDh0<> 金城「急がなくては……仙、佐藤……!」

 あの男はおそらくホーキーマートに向かう。そして後輩の槍水仙や佐藤洋とぶつかるだろう。 金城の推測が当たっているなら、如何に【氷結の魔 女】、成長著しい佐藤洋でも、敵わない。

 金城が向かうのはすぐ近所にある、知人、泉宗一郎の自宅。

 竹宮流道場。

 槍水も佐藤も、言葉で止められるほどヤワな狼ではない。あの男に出会えば、彼らなら戦ってしまうだろう。
 事態の収拾には自分の力だけでは足りない。  助力を請わなければならない。

 金城は車道に飛び出し、アクセルを回す。

金城「泉先生……」ブオン!

 バイクを飛ばせば、半値印証時刻にはまだ間に合う。


 金城の心臓が、焦燥に早鐘を打つ。


***************** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/09(土) 23:21:03.72 ID:fYTh6cDh0<> *****************

 時刻は18時35分。

 その時僕は、男子寮の共同トイレで腹部の激痛と戦っていた。

佐藤「くっ……ぐおぉ……ぁ」ギュルル

 い、痛い………!
 思わず情けない呻き声が漏れてしまう。
 そして違うモノも漏れる……!

 何か悪い物を食べた、という可能性は低い。

 腹痛の原因は明らか……!

 あせびちゃんとの一口交換、そして同じくあせびちゃんに食べさせて貰ったコーラ味の鮭………!

 一口交換と『あ〜ん』を前に引く訳にはいかなかった男の意地を差し引いても、新品の御守りを持っていた事で僕の中に油断があったのかもしれない……!
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/09(土) 23:23:46.23 ID:fYTh6cDh0<>  痛恨……!まさに痛恨のミス!

 何かと理由をつけて、あせびちゃんから食べ物を貰う事態を回避するべきだったのだ……!

 著莪のように器用に立ち回って……!


 器用に………


 回避……する、べき……


 か、い……ひ……。

佐藤「くぅぅっ……でも、でもッ!」ギュルルッ!

 あせびちゃんの笑顔を前にッ!

 『彼女の差し出す食べ物を食べない』なんて選択はッ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/09(土) 23:27:02.55 ID:fYTh6cDh0<>  できないッ!

 しないッ!

 この佐藤洋!そのような甲斐性のない男ではないッ!

佐藤「不器用でもッ!」ギュルブボッ!

佐藤「僕は僕の戦い方を変えるつもりはないッ!」ブボボ バブボバッ!

佐藤「見ていろ【死神】!これが男の魂だ……!」ボボ…ブ ボッッ!


佐藤「サトウ魂だッ!」ギュルルボバッ!


 ピリリリリ―――。

 腹痛の大きな波を、生涯最後の波紋を練り上げるような気合で乗り越えた瞬間、胸ポケットの中で携帯の着信音が鳴り響いた。

 まったく、盛り上がって来たところだというのに一体誰だ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/09(土) 23:29:41.13 ID:fYTh6cDh0<> 佐藤「はい、もしもし」ピ

白粉『もしもし、すいません白粉です……』

 何故にすいません?
 まぁいつもの白粉ではあるけど。

佐藤「何?僕今ちょっと戦ってる最中なんだけど」

白粉『はわわ!やっぱり!いえ、あの、先輩と私、今スー パーなんですけど……佐藤さんまだ来れませんか?もうすぐ時間ですけど。すいません」

 はわわ?やっぱり?
 そして、やはり『すいません』?

佐藤「?ごめん、少し遅くなりそう。最悪間に合わないかも……悪いけど、先輩にもそう伝えておいて」

白粉『そうですか……残念ですが仕方ありません。先輩には伝えておきます。本当にすいません、私ったら大変な時にお電話を……』

佐藤「白粉?あの、戦ってるってのは冗談だよ?それにさっきから何をそんなに謝って……」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/09(土) 23:33:40.80 ID:fYTh6cDh0<> 白粉『ふぇ!ぇあっと、佐藤さんに電話を掛けようとしたら、どういう訳か今、佐藤さんの肛門が激しく開放されているような気がしまして……』

佐藤「」

白粉『それで今、誰かと、その「戦闘中」なんじゃないかって……お邪魔しちゃ悪いなと……』

佐藤「あ、阿呆かお前はッ!違うよ!ちょっとお腹が痛くてトイレに籠ってただけだよ!っていうか、何でお前は僕の肛門の開閉状態が察知できるんだ!」

白粉『ははぁ、なるほど。まだ準備段階でしたか。腸内洗浄中、という訳ですね!』

佐藤「だから違うよ!?腹痛だって言ったよね僕!?腸内洗浄とか生々しいからやめろ!!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/09(土) 23:37:06.13 ID:fYTh6cDh0<> 白粉『いえいえ衛生的には大事なことですよ?佐藤さんはちゃんとしてて偉いです』エヘヘ

佐藤「っかしいなぁ!電波の状態悪いのかなぁ!?白粉との会話が成立しないや!」

白粉『それではもう切りますね?出来ればご一緒したかったですけど……大丈夫!先輩にはそれとなく伝えておきますから!それじゃ!』ピ

佐藤「おっ白粉!?待て!まだ切る―――」

プツン

佐藤「〜〜〜〜ッ!!」

 
 い、急がなければ! それとなく伝えるって!あいつ何をどう先輩に伝えるつもりだよ!

佐藤「こうしちゃいられない!」

 出すもの出したら腹痛も治まった!

 白粉の腐った伝言で先輩があらぬ誤解をするその前に!


 ホーキーマートへ!!



*  *  * <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/09(土) 23:39:59.06 ID:fYTh6cDh0<> *  *  *

 時刻は19時04分。

佐藤「ハァーッハァーッハァーッ」ゼェゼェ

 僕はホーキーマートに到着した。
 限界を超えた猛ダッシュで息は乱れに乱れていたが、もう争奪戦は始まっている。
 直前まで下痢に苛まれていた事もあってコンディションは最悪だが、下痢はハンデ、ダッ シュはウォームアップだとでも考えて、このまま途中参戦するしかない。

佐藤「白粉の奴!あとで思いきりおさげを引っ張ってやる!」ダッ

 僕は憤慨しつつ自動ドアをくぐった。

佐藤「……ぅあ!?」ドクン

 その瞬間――――。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/09(土) 23:43:14.38 ID:fYTh6cDh0<>
 眼前に――――。


 刃物を突き付けられたような―――。


佐藤「なっ………!」

 なんだ!?『これ』は!?

 先輩!?否、違う、まさか【魔導士】!?

佐藤「サラマンダーか!?しかし、この気配の強さは ―――」ブルッ

 あまりの威圧感に身震いし、足を止めてしまう。

佐藤「ッ!」ダッ!

 しかし次の瞬間には駆け出していた。

 スーパーを包む感じた事のない異様な気配、そのただ中には――――。

佐藤「先輩ッ!白粉ッ!」

 全速力で店内を駆け抜ける。

 弁当コーナーに辿り着く。

 弁当コーナー前、僕たちの戦場。

 そこで――――。


槍水「ッあアッ!!」ドゴン!!

???「〜〜〜〜〜ッ!?!?」グラリ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/09(土) 23:46:20.99 ID:fYTh6cDh0<>  先輩と、おそらくはこの異様な気配の根源、見知らぬ大男が戦っていた。

佐藤「先輩……!」

 丁度、槍水先輩の蹴りが男の鳩尾にクリーンヒットした所だった。

 決まった――――。

 僕は緊張を解いた。

 あれは先輩のベストショットだ。 あれを喰らって平気な筈がない。


槍水「とどめッ!」シュバ!


 先輩の追撃。これで終わりだ。

 異様な気配に肝を冷やしたが、やはり先輩は――――。


???「っ!!させるかァァァァあっ!!」ブおンッ!!


!?

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/09(土) 23:50:04.43 ID:fYTh6cDh0<> 槍水「!?」ゾワッ


 その瞬間、僕は駆け出していた。

佐藤「先輩ッッ!!」グオオッ!

 足元に落ちていた買い物カゴを拾い上げ、先輩と男の間に割り込む。

 
 バッガァァァァンッ!!


槍水「佐藤!?」

佐藤「ぐあっ!!」ドサッ


???「…………」


槍水「佐藤!無事か!?」

 男の拳打を受け止めたカゴは吹き飛び、僕は尻餅をついた。
 今まで感じた事のない衝撃。

 フロアに転がったカゴは形が歪んでいた。

 その柔軟性から意外な強度を誇る買い物カゴを、こんな状態にする男の強打に戦慄する。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/09(土) 23:53:55.33 ID:fYTh6cDh0<> 佐藤「遅くなりました………先輩」タッ

 男に対して抱いた恐れを表に出さないように、平静を装って立ち上がる。

 これから戦う相手に弱みは見せられない。
 僕は男を睨みつけ、言い放つ。

佐藤「あんた……タダじゃ帰さないぜ?」ギラッ

 190はあるだろうか。筋肉に覆われた巨躯。古びたブルゾンにジーンズ。黒く荒々しい短髪に、左眉を切り裂く傷痕。

 正面から向かい合って、僕は改めて男を怖いと思った。

 単に見た目だけではなく、男が狼として放つ気配があまりにも異様だった。

 一番近いのは【サラマンダー】響鉄平だが、似ているようでどこか違う。
 粗野で派手好きで好戦的なサラマンダーが放つ気配に男の気配は似ているが、男にはサラマンダーにはない凶々しさがある。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/09(土) 23:57:29.09 ID:fYTh6cDh0<> ???「……ハッ。同じ事をそこの―――」クイ

 男が親指でフロアに倒れた狼を指し示す。うつ伏せで倒れていても一目でわかる。

 ウェーブのかかった茶髪。

 白いコート。

 【シーリーコート】

傷男「――ネーチャンにも言われたぜ?」ククッ

佐藤「!!茶髪……っ!」ググッ

 茶髪は失神しているのか、ピクリとも動かない。

 その姿を見て、一気に頭が熱くなる。

 店に入ってから今まで感じていた恐怖が消し飛ぶ。

 この野郎………!

 よくも!!

顎髭「くっ……すまん……!」

坊主「俺たちがいながら……」

佐藤「顎髭……坊主!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/10(日) 00:00:55.59 ID:Dz0xMwgb0<>  後方からよく知る二人の声。
 フロアに片膝をつく坊主と、腰を落とした顎髭。 二人は意識こそあれ、戦闘不能に追い込まれているようだった。

 もう、止まれない。
 男を許してはおけない。

 そして、先輩に茶髪、顎髭に坊主の四人を相手にして、 なおも悠然と構えるこの男に勝つためには――――。

佐藤「先輩………」

ブーツ「……なんだ」

 腹の虫の加護が不可欠。
 しかし今この情況で弁当を見に行っている余裕はない。

佐藤「今日のメニューは……」

ブーツ「『男なら、いや女でも登ってみせろ!このフライの山を!そして白米の原野を走破しろ!ミックスフライマウンテン弁当!!』……『アジの苦味は青春の苦味……!特 大アジフライ弁当!』……『お前達にはこれが必要な筈だ!油だ、脂だ!肉と油脂だ!!ミートミックス弁当 だッ!!』………の3個だ。まあ、どれもいつものアブラ神だ」

佐藤「本当ですね……」フッ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/10(日) 00:03:49.46 ID:Dz0xMwgb0<> ブーツ「商品名だけで十分か?」

佐藤「はい。先輩の口から聞ければ、見なくても」

 そう。いつだって先輩の語る弁当の話は、僕の腹の虫の力を強く引き出してくれる。

 これで十分。
 十分に過ぎる。

傷男「おい……」

 男が口を開く。 こちらを挑発するように、薄く笑みを浮かべている。

傷男「そろそろいいか?お前らも寝かしつけてやるから、 さっさと来な」

佐藤「……先輩、僕が前に出ます」チラッ

 先程、吹き飛ばされた僕に先輩が駆け寄って来た時、足の動きが僅かにぎこちなかった。
 おそらく先輩は、この男との戦いで足を痛めている。
 男に負傷を悟られてはならない。
 負傷箇所を、先輩を狙い打ちにされる危険は避けたい。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/10(日) 00:07:17.40 ID:Dz0xMwgb0<>  僕は視線を先輩の足にやり、出過ぎた申し出の意図を伝える。

ブーツ「………すまん。サポートは任せろ」

 意外な程、素直に応じてくれる先輩。

 万全でなければ、先輩でもこの男を相手に前衛を務めるのは厳しいという事なのだろう。

 しかしどれだけこの男が強かろうと関係ない。

 例え狼同士の戦いであっても、カゴを歪める程の剛拳を茶髪に、先輩に向けた事が僕は許せない。

 理屈ではない。
 僕はこの男と戦い、勝たなくてはならない。

 茶髪に代わって、僕がお前を『タダでは帰さない』!


佐藤「いくぞッ!!!」ダッ!


傷男「来いッ!小僧ッ!」


 まずはその薄笑いを浮かべる顔面にッ!


 一撃くれてやるッ!!


**  **  ** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/10(日) 00:08:12.63 ID:Dz0xMwgb0<> 30分程休憩します <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/10(日) 00:30:18.50 ID:NtRuBj3r0<> おお、痒いところで終わったと思ったらまだ投下があるのか
いよいよもって再開の戦闘パートに期待 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/10(日) 00:42:54.08 ID:Dz0xMwgb0<> ** ** **

佐藤「おおおおおッ!」バッ!

 全速力で間合いを詰め、僕は地を蹴り跳び上がる。

佐藤「でぇぇ―――」ググッ

 大きくテイクバックを取った右の拳を、バレーのアタックの要領で男の鼻っ柱に叩きつける。

佐藤「あぁッッ!!」ブオン!

 バチィィッッ!!

傷男「……………ハハ」グラッ

 男がよろめく。
 『振り』をする。

 まるで効いた様子がない。
 僕の全力の一撃を受けても挑発的な態度を崩さない。

佐藤「………!」スタッ

傷男「………」グッ

 着地した僕を迎え撃つように男は構えた。

 男の周囲の大気が歪む。
 陽炎のように景色が揺らめく。

佐藤「―――――っぐ!」ダッ!

 しかし僕はそれに気付かない振りをして踏み込む。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/10(日) 00:46:33.08 ID:Dz0xMwgb0<> 佐藤「うおぁッッ!」ガンッ!

傷男「………おっと」グラリ

佐藤「ッッ!でァっ!」ズン!ズムン!

 男の脛を踵で蹴りつける。ダメージこそ通らないが男が揺らめく。
 続けて握り込んだ左右の拳を腹部に二連打。

佐藤「フッ!」ドンッ!

 大型トラックのタイヤに拳を打ち込むような不毛な感触。

佐藤「ッッ!!」ドムンッ!!

傷男「………」ニタア

 それでも構わず三打目、四打目を打ち込み、僕は気付く。

  男の気配が変わっている―――!!

佐藤「!?」バッ!

傷男「遅いッッ!」ブンッ!

 男の懐からバックステップを踏み離脱する。
 しかし、男の言う通り遅かった。

 後退する僕に男の拳が追いすがる。

 間合いを取り切れない! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/10(日) 00:50:17.01 ID:Dz0xMwgb0<> 佐藤「ぐぉぉっ!」バッ!

 咄嗟に両腕をクロスさせ男の拳を受け止める。

傷男「ぬんッッ!!」

 ドガンッ!!

佐藤「〜〜〜ッッ!??」

 今度はカゴではなく、腕に直接男の剛打。
 
 重い。硬い――――
 
 強い!

佐藤「ぐあっ!」ズザァッ!

槍水「ッ!」ダッ!

 吹き飛ばされた僕と入れ替わるように先輩が前に出る。

 飛ばされ尻餅をついた僕を守るための突出。

槍水「っああッ!」

傷男「!」

 バンッガンッドガンッ!!!

傷男「…………?」

 先輩の三連打。しかしその全てが掌打。十分な間合いがあるのに先輩得意の足技が出ない。掌打にも先輩本来の迫力がない。


―――体重が乗っていない!

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/10(日) 00:53:49.71 ID:Dz0xMwgb0<> 槍水「くっ!!」ザッ!

 先輩が男の懐に飛び込む。

傷男「…………あぁ」ニタア

佐藤「ッまずい!先輩!!」ダッ!

 不用意だ!
 悟られた!!

傷男「悪いな。さっきの膝蹴りか」

 先輩!

槍水「!」ブンッ!

傷男「軽い」パンッ

 至近距離からの先輩の肘打ちを受け止める男。重心を落とし、先輩と目線を合わせ、男は拳を構える。

 そして言う。

傷男「楽しかったぜ」フォン!

槍水「ッ!?」

 チッ

 男が先輩の顎先に掠らせるように拳を振り抜いた。

槍水「ッ〜〜〜〜〜」


 糸が――――


 糸が切れた操り人形のように―――。


槍水「〜〜〜………………」ガクッ

 ドサッ

 先輩が、崩れ落ちる。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/10(日) 00:57:04.85 ID:Dz0xMwgb0<> 佐藤「うおおおおおおおおおおぁあッ!!」グンッ!

 僕のッ!!

傷男「!!」バッ!

 僕のフォローに回ったせいで!

佐藤「だあァッ!!」ブオン!

 ゴゴンッ!!

傷男「〜〜〜〜〜ッ!??」ズザッ

 この野郎ッ……!

佐藤「この野郎ォォォッ!!」グオオ!

傷男「なっ!?」

 ガガンッドンッ!ダンッ!!

傷男「がっ………!?」ズザッザッ

佐藤「まだまだぁ!!」ブオン!

 ダガンッ!!

傷男「ぬっ………この!」ズザァッ!


佐藤「うおおおおおおおッ!!」

傷男「小僧ォォォォォォッ!!」


 このまま行く!!

 今度はこの男に地を這わせるッ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/10(日) 01:00:08.59 ID:Dz0xMwgb0<> 佐藤・傷男「「だあァッ!」」

 ブオンッ!!

 ガゴンッ!!

佐藤「がはっ!?」

傷男「ぐぅっ!」

 相打ち!
 構うものかもう一度!!
 何度でもッ!!!

佐藤・傷男「「でぇあッ!」」

 ブオン!!

 ガガンッ!!

傷男「チィっ!!」

佐藤「ぐはッ!?」グラッ

 また相打ち!!

 しかし知った事ではない!
 こいつが倒れるまで何度でも!

 僕は殴るのをやめないッッ!!

佐藤「まだまだまだダァァッ!!」

傷男「来やがれガキがぁッッ!!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/10(日) 01:03:22.91 ID:Dz0xMwgb0<>  ここは何処だッ!

佐藤・傷男「「があァッ!」」ブンッ!

 ガゴンッ!!

【氷結の魔女】槍水仙の縄張りだッ!!

 僕は誰だッ!

佐藤・傷男「「ぬぅアッ!」」ブオン!

 バガンッ!!

 魔女の薫陶を受けし狼ッ!
 HP同好会の佐藤洋だッ!!

佐藤・傷男「「うおおッ!」」ブンッ!

 ゴゴンッ!!

 引かないッ!

佐藤「ぐぉおッ!」

 ゴンッ!

 譲らないッ!!

傷男「でぇいッ!」

 ガンッ!

 僕には戦う理由があるッッ!!

佐藤・傷男「「〜〜〜〜〜ッ!!!」」

 ゴゴンッガゴンガンッダンッ!

 バガンガガンッゴンッズガンッ!

 〜〜〜〜〜〜ッ!!!!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/10(日) 01:06:49.26 ID:Dz0xMwgb0<> 傷男「ぬぅぅぅっ!」グンッ!

佐藤「!」

 ゴキャッ!!

佐藤「ぐっ………ハッあ!?」カクン

 
 相打ちに次ぐ相打ち――――。

 
 その、最中。


佐藤「ぐっ……!」グラッググッ

 ついに男の攻撃を一方的に貰ってしまう。

 わかっていた事だ………!

 この男に深く拳を打ち込むには……!

 男との力量差を考えればこれしかなかった………!

 全て承知の上での打撃戦!!

 まだだッ!

傷男「………よくやったよ、お前」

 男に深いダメージは見て取れない。

 膝に力が入らない……!

 それでも、僕は―――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/10(日) 01:09:54.72 ID:Dz0xMwgb0<> 佐藤「―――――――ッ!」ギンッ!

 倒れないッ!

傷男「フン………終わりだよッ!」ブンッ!

 男の拳が顔面に迫る。

 腕の動きも鈍っている。
 ガードが間に合わない。

 しかし男の拳から、僕は目を逸らさない。

 精一杯の虚勢を張る。

佐藤「終わらねぇよッ!」ガァァッ!


???「その通りでは―――」ブオン!

 ガカッ!

傷男「ッ!」

???「―――あるがな……」

 男の拳が、僕に届く前に。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/10(日) 01:13:00.08 ID:Dz0xMwgb0<> 佐藤「にっ、二階堂!」

 突如現れた二階堂連の、横合いからの蹴りで逸らされた。

傷男「チッ……」サッ

 男が間合いを取り直す。


二階堂「やはり馬鹿だろ、【変態】こんな男と正面からやり合うとは」

佐藤「はは……こんな時に変態はやめろ……」

 今日に限って何故、二階堂が西区のスーパーにいるのかはわからない。しかし、とにかく間一髪、助かった。

二階堂「……動けるか?変態」スッ

佐藤「なんとか……合わせるよ」グッ

 この苦境、二階堂とのコンビ【ツードッグス】なら………!

二階堂「ふんっ………不本意だが、それしかないようだな」

 まだ勝機はある!

佐藤「ああ………!」ダンッ

 僕は萎えた膝を殴りつけ体に喝をいれる。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/10(日) 01:15:49.90 ID:Dz0xMwgb0<> 傷男「………何人来ようと同じだ」クククッ


佐藤・二階堂「「ッ!」」ギリッ


傷男「とことんまでやってやる………来な」ニヤア


二階堂「―――ッ佐藤ォ!」ザッ!

佐藤「応ォッ!」ダッ!

** ** ** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/10(日) 01:18:48.83 ID:Dz0xMwgb0<>  二階堂が踏み込む。

二階堂「フッ!」ブンッ!

 先輩も僕もそうだったように、男との体格差からやはり胴体を狙いがちになる。

傷男「………」サッ

 男は二階堂の右の拳打を左半身を引いて躱し、懐に呼び込んでカウンターの左フックを合わせた。

傷男「ッッ!」ブオン!

二階堂「っ!」サッ

傷男「ハッ!」ニカッ

二階堂「ちぇあッ!」ガスッ!

 しかし二階堂はこのカウンターを読んでいた。しゃがみ込んでフックを外し、男の軸足に蹴りを打ち込む。

傷男「っと!」グラッ

 ダメージが通った様子はない。それでも崩すなら、やはり足元しかない。
 二階堂が作った好機。
 バランスを崩した男に僕は飛びかかる。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/10(日) 01:22:07.56 ID:Dz0xMwgb0<> 佐藤「はあああッ!」ダンッッ!

 二階堂の作る隙に合わせて天井技を使いたい所だったが、今のダメージではそれも叶わない。

 僕は限界まで高く跳躍し、男の上半身に抱きつくように全体重を叩きつけた。

 まずはこの男からダウンを奪う!

佐藤「ふッッ!!」ドンンッ!

傷男「……………」ザザッ グッ

佐藤「!」

 しかし男は倒れない。一歩、二歩と後退しただけで、僕の体重は受け止められてしまう。

傷男「やりたい事はわかるがな」グイ

佐藤「くっ!」

傷男「ふんッ!」ブンッ!

 男は僕の体を掴み投げ飛ばす。

佐藤「うあっ!?」バンッ!

 投げ飛ばされ、フロアに背中から叩きつけられる。

二階堂「佐藤!」

佐藤「かっ……く!」グハッ

 倒すつもりが倒された。
 背中を打った事で呼吸困難に陥る。

 体を起こそうするが上手くいかず、無様にフロアをのたうち回る。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/10(日) 01:25:16.79 ID:Dz0xMwgb0<> 二階堂「くっ!」ガッ!

傷男「ッッ!」バッ!

 二階堂が仕掛ける。

佐藤「!?」

 その意図を察して、僕の頭は沸騰する。

 あいつ……!

 男の注意を引きつけるつもりか!

二階堂「はあああッ!」

 ガンッ!ゴンッ!ダンッ!

傷男「……………」スッ

 二階堂の三連打。下段蹴り、胴体への掌打、顔面への拳打。
 男は全て防がずに受け切った上で、拳を振りかぶる。

佐藤「〜〜〜〜ッ!!」グッ!

 駄目だ二階堂!

 一人では!!

 それでは先輩の二の舞いだ!!

佐藤「おおおッ!」ダッ!

 僕は体を強引に立たせ、男と二階堂の元へ駆ける。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/10(日) 01:28:14.62 ID:Dz0xMwgb0<> 佐藤「だあアッ!!」ブンッ!

傷男「お前………」ニィィ

 ゴンッ!

傷男「やはり……」ズザッ

佐藤「二階堂!」

二階堂「応ッ!」

 横合いから打ち込んだせいか、男が僅かに後退する。

 仕掛けるなら今しかない!

佐藤「ッッ!!」ダッ!

 僕が右。

二階堂「!!」ザッ!

 二階堂が左に別れる。

二階堂「はッ!!」ブンッ!

 二階堂が男の膝付近に下段蹴り。

佐藤「あアッ!」ブンッ!

 僕は伸び上がるように男の顔面に拳を打ち込む。

傷男「チッ」グッ

 ガゴンッンッ!!!

傷男「ぬっ!」グラッ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/10(日) 01:32:43.27 ID:Dz0xMwgb0<>  僕と二階堂のコンビネーションが決まる。

 男の顔色が僅かに変わる。

 否―――

傷男「………………」ギンッ

佐藤「……………!」

 なんだ?こっちを見て――――

傷男「ふッッ!」ゴッッ!

ドゴンッ!

二階堂「おごっ!?」

佐藤「!?」

傷男「ちょっと……」

 男がたたらを踏み、攻撃が通じたと気を緩めた瞬間。

 男の急激な動作による前蹴りが二階堂の腹に突き立てられた。

二階堂「ごハッ……!」ドサッ

傷男「どいててくれ……」

佐藤「〜〜〜〜ッ!?」

 こちらの意識の隙に、脊髄反射的に打ち込まれた男の蹴り。

 瞬間、吹き荒れた暴風に体が竦む。

 まさか――――

 この男今まで―――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/10(日) 01:36:46.32 ID:Dz0xMwgb0<> 傷男「……………」

佐藤「…………!?」

 当然、あるものと思われた僕への攻撃がない。

 男は立ち尽くし、黙ってこちらを睨みつける。

佐藤「―――――ッ!」グッ

 男の意図が掴めず、こちらから仕掛けようとした、その時。

 男が口を開いた。

傷男「―――丹波」

佐藤「!?」ビクッ

佐藤「………タンバ?」

 と、突然なんだ?

傷男「丹波分七だ。名乗りな、小僧」

佐藤「〜〜〜〜ッ!?」

 な、名前!?
 
 何故今――――!?

佐藤「なっ何―――」

丹波「名乗りな」

佐藤「ッ佐藤―――HP同好会の佐藤洋だッ!」

丹波「はーふぷらいさぁ?ッハ!まぁいい………サトウ」

佐藤「…………!」

丹波「興が乗った………」


 やはり――――


丹波「少し………本気でやってもいい」


 全力ではなかった。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/10(日) 01:40:34.40 ID:Dz0xMwgb0<>  二階堂に放った蹴りは、それまでの攻撃とは異質なものだった。
 どう異質なのかはわからない。
 僕は、男の蹴りに反応できなかったのだから。

 それまでは反応できていた男の攻撃に。

佐藤「望むところだ……」スッ

 虚勢、以外の何物でもない。

 この男、タンバブンシチは、先程の打撃戦も、僕と二階堂を相手にしていた時も――――

 先輩を、打ち倒した時ですら。

丹波「気張れよ、サトウ」グッ

佐藤「…………!」

 本気では、なかったのだ。

 
 怖い。


 男の周囲の大気が歪む。

 もはや気付かない振りは出来ない。

佐藤「そっちこそ……!」

丹波「上等………!」

 
 僕では、この男に勝てない。


*  *  * <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/10(日) 01:43:33.13 ID:Dz0xMwgb0<> 丹波「ぬんッッ!」ダッ!

佐藤「ッッくっ」

 タンバがこちらに間合いを詰める。

 思えば、これが最初のタンバの先手。

 その威圧感から目を逸らすように、僕は両腕で顔を覆う。

 無様なガード。

佐藤「ぐっ!」サッ!

丹波「ッ!」ブオン!

 ゴガンッッ!!

佐藤「〜〜〜〜ッッ!?」ズザッザッ!

 ガードがはじけ飛ぶ。

 後方に飛ばされる体。

 タンバがあえてガードの上を叩いたのが僕にはわかる。

 言葉通り、『少し本気』なのだ。

 僕が怖気付いた事を悟られている。

 ガードにもなっていない、情けなく顔を隠しただけの両腕。

 その隙が見えないタンバだとは思えない。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/10(日) 01:47:03.24 ID:Dz0xMwgb0<> 丹波「シャキッとしろォッッ!佐藤ォッ!!」ゴッッ!

 タンバの大喝。

佐藤「このっ………!」ザッ!

 反射的に前に出ようとする。
 しかしタンバに押し返される。

丹波「ッッ!!」グオッ!

 ゴッゴンッ!!

佐藤「ぐッッ!?」

 固め直したガードの上に、掌打を二発。
 軋む腕。

丹波「ふッッ!」

 ドゴンッ!!

 三発。ガードが完全に崩される。

佐藤「―――――ぁ」

 血の気が引く。

 貰ってしまう。

 四打目が来る。

丹波「ハッ!―――!?」ブオン!

 タンバが酷薄な笑みを浮かべ、数歩後退した僕に追いすがる。

 そして放たれる四打目―――

 とどめの一撃―――


???「佐藤さんッ!!」ガバッ!

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/10(日) 01:49:33.57 ID:Dz0xMwgb0<> 佐藤「はっ!?」ドサッ!

 横合いから誰かに押し倒される。

丹波「なっ―――!?」ズルッ

 タンバが『何か』に足を取られバランスを崩す。

 タンバは僕への追撃のため踏み込んだ前足を、買い物カゴに突っ込んでいた。

丹波「〜〜〜〜ッッ!」スカッ

 カゴに足を取られ、タンバの四打目はスカを喰う。

 僕は仰向けに押し倒された。

 床に手を付き、四つん這いの姿勢で僕に覆い被さる意外な救援――――

佐藤「梗!」

梗「なんとか間に合いましたわね」ニコッ

 既に帰省したはずの、沢桔梗。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/10(日) 01:52:36.54 ID:Dz0xMwgb0<> 佐藤「………なんか、前にもこんな事あったね」ハハ…

梗「そうですわね……」フフ

 既視感のある体勢だった。

 店内の白色灯をバックに半ばシルエットと化した梗の顔。
 彼女の緩くカールのかかった長い髪が、僕と梗を外界から遮断するカーテンのように垂れ下がる。

 あの時も梗は笑っていた。

 しかし『追って来い』と言ったあの時とは笑顔の質が違う。

 梗の瞳は、安堵に潤んでいた。

鏡「姉さん」

梗「わかっています。佐藤さん、立てまして?」

佐藤「………うん!」

 怖じけた心に再び火が灯る。

 梗は立ち上がる。

 僕も続いて立ち上がる。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/10(日) 01:55:26.91 ID:Dz0xMwgb0<> 丹波「…………」ギリッ

 タンバは片足をカゴに突っ込んだまま、鏡と睨み合っていた。

鏡「よくご無事で――――と言いたい所ですが……」チラッ


槍水「―――――――」

二階堂「―――――――」


鏡「少し、遅かったようですね……」ギリッ

佐藤「鏡………」

 倒れた先輩と二階堂を一瞥し、鏡は顔を歪める。

梗「相応の礼はさせて頂きますわ」キッ


丹波「オトモダチが………」ガッ

 タンバは起き上がった僕を睨みつけ、買い物カゴから足を抜き、蹴り上げて鏡に返した。

丹波「多いんだな……サトウ」ギンッ!


鏡「…………」パシッ

梗「…………」

佐藤「………!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/10(日) 02:00:41.99 ID:Dz0xMwgb0<>  狼としては並外れた存在感を持つ【オルトロス】を前にしても、タンバの視線が僕から外れない。

 二階堂を邪魔者扱いするように蹴散らした事といい、タンバは僕に目を付けている節がある。

 あれだけ拳を打ち込んだのだからそれも当然、と言えばそれまでなのだが、タンバは何か、僕を挑発し、激発させる事を楽しんでいるように見えた。

 一体、どういうつもりだ……?


丹波「まぁいい――――」ギラッ

梗・鏡「「!」」ゾクッ!

 タンバが、オルトロスに視線を移す。

 据わった目付き。
 しかし口元は笑っていた。

丹波「…………」グッ

佐藤「〜〜やめろッ!」ダッ!

梗・鏡「「佐藤さん!?」」

 僕は咄嗟に駆け出した。

 こいつ!

 オルトロスも先輩や二階堂と同じように――――!

丹波「…………」ニタア…


 やめろ!!


 そんな目で彼女たちを見るなッ!!


***  ***  *** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/10(日) 02:06:32.09 ID:Dz0xMwgb0<> 今日はここまでです
2、3日中に二章終了まで投下します

幕間 魔導士で振ったクロス用のオリ設定が入ります

ようやっとバトルに入れてスッキリ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/10(日) 02:08:34.85 ID:zI2IYJTuo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/10(日) 02:17:01.38 ID:vINqolZpo<> 乙
燃えるバトル描写だ
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/10(日) 02:20:06.83 ID:NtRuBj3r0<> 乙ー
やっぱりヤり合いはいいねえ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/11(月) 16:59:26.59 ID:jCoElwtY0<> 投下は木曜の夜9時頃にします

今後は次回投下の予定日を投下直後に書くのはやめて、投下終了後、1〜2日後に目処が立ったら報告に来る形にします

前振りを長々と書いていたのでバトルに入れてスッキリしてしまい、ちょっと手が止まっていました
またテンション上がってきたので最後まで頑張ります
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/11(月) 17:06:24.11 ID:7prmoB/So<> 楽しみに待ってるわ
頑張ってね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/15(金) 14:50:40.77 ID:tDV7FbHE0<> 繋がった

今夜11時頃投下

また予定通りに書けなかったので書けたところまで
もう次から何処そこまで投下って予告するのも目処が立ってからにします <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/15(金) 15:23:55.86 ID:3c4KeGV6o<> ゆっくりまってるよ
第2木曜は鯖落ちること多いらしい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/15(金) 23:06:01.39 ID:T8u6ihwI0<> 丹波「………ッ」ダッ!

 タンバが動く。

 唐突に名乗りを上げて以後、この男は受けて立つ構えを解いている。

 先輩を一撃で切って落とした手並み。

 二階堂を吹き飛ばした荒れ狂う暴風のような一打。

 見せ付けられた実力と能動的になったタンバの戦い方に、僕の胸を不安と焦燥が駆け巡る。

丹波「…………ハ」チラッ

鏡「!」

佐藤「ッ!タンバッ!」グンッ!

 タンバは一番近くにいた鏡に向かって踏み込む。

 一瞬、こちらを見て笑う。

 やはり僕への挑発を兼ねた姉妹への攻撃。

 タンバに体をぶつける勢いで飛びかかる。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/15(金) 23:08:55.32 ID:T8u6ihwI0<> 丹波「ハ!」ピタッ!

佐藤「!?」

 タンバが突然動きを止める。

 しまった―――!!

 おびき出された!?

佐藤「クッ!」

 こちらは止まれない!

丹波「サトウ……」クルッ

佐藤「〜〜〜〜ッ!」ギギッ!

 ブオッ!

 ボゴンッ!!

佐藤「おごっ!?」ガクンッ

梗・鏡「「佐藤さん!!」」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/15(金) 23:12:55.28 ID:T8u6ihwI0<>  飛び込んだ僕の腹部にカウンターの掌打を打ち込み、タンバは言う。

丹波「ムラがあるな……お前」

佐藤「〜〜〜ッあ……が」ドサッ

 体から力が抜ける。
 フロアに膝を付き、腹を抑える。

 痛みより脱力感が勝る。
 腹部への打撃で腹の虫の加護が弱まる。
 これまでの戦いで蓄積したダメージが呼び起こされる。

 まずい―――!

丹波「ちょっとそこで寝てな……今度はこのネーチャンたちに遊んでもらうからよ………」ニヤア

 動けない――――!

佐藤「き、梗……鏡………!」グハッ

 気力は繋がっている。

 しかし体が言う事を聞かない。

佐藤「ぁ………」フラッ

 意識、が――――――

 駄、目だ!

 二人だけで……戦わせる、訳には――――!

鏡「…………佐藤さん」

梗「後はわたくしたちに」

 視界が明滅する。

オルトロス「「お任せを」」

 意識が、途ぎ……れ――――――
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/15(金) 23:15:54.99 ID:T8u6ihwI0<> ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

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………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

 ドサッ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/15(金) 23:19:31.86 ID:T8u6ihwI0<> ** ** **

佐藤「………………」ドサッ

梗「……………」

鏡「姉さん。集中を」

梗「ええ」

 【オルトロス】沢桔姉妹は、意識を失い倒れゆく佐藤を見届け、男に向き直る。

 梗は、男の拳から佐藤を救う際、押し倒した彼の感触を思い出す。

 狼の中では高い身体能力を誇る佐藤の、常にない消耗した体。足元が定まっておらず、何の抵抗もなく押し倒す事が出来てしまった。

 自分たちが到着した時点で佐藤は甚大なダメージを受けていた。

 それでも彼は立ち上がった。
 そして自分たちを庇うような突貫。
 その結果のダウン。

 これでいい。
 佐藤は十分に戦った。

 次は、自分たちの番だ。

梗「タンバさん……とおっしゃるのかしら。あなた……」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/15(金) 23:23:47.21 ID:T8u6ihwI0<> 丹波「あ?ああ……丹波分七だ」

梗「わたくし、沢桔梗と申します」スッ

 ペコリ

 右腕に買い物カゴを掛け、片足を軽く引く。スカートの裾を左手で摘まみ、梗は頭を垂れた。

丹波「…………」

梗「こちらは妹の鏡……あ、わたくしのキョウは心筋梗塞のき――――」

鏡「姉は桔梗の梗、私はミラーの鏡、です」

梗「ですわ」

丹波「……悪ぃ。こちとら学がなくてな、キキョウのキョウって言われても……」スッ

 タンバが構える。

丹波「わっかんねぇんだわ……」グッ

梗「まぁ……それは残念」スッ

鏡「…………」スッ

丹波「いくぜ?」


オルトロス「「いつでもどうぞ」」


丹波「ッ!」ダッ!

 タンバの突進。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/15(金) 23:27:19.02 ID:T8u6ihwI0<> 梗「………鏡」

鏡「はい姉さん」スッ…

丹波「ぬんッ!」ブオッ!

梗「………!」サッ!

 タンバが梗に向けて右の拳を突き出す。
 梗は体を横に逸らし皮一枚で回避する。
 
 そのまま横に離脱する梗。

鏡「フッ!」シュバッ!

 ガシャッ!

丹波「!?」

 梗のすぐ後ろに控えていた鏡が、タンバの伸び切った右腕にカゴの持ち手を通す。

丹波「!??」

鏡「……!」グイッ!

 タンバの肘の辺りまで持ち手を押し込む。

丹波「何を――!」

 ガシッ!

丹波「!?」

 ダンバは突き出した拳を引き戻す。
 曲がった肘に、通したカゴが組み付いた。

丹波「ッ!」ガシャ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/15(金) 23:30:30.76 ID:T8u6ihwI0<>  タンバは反射的に腕を伸ばし、組み付いたカゴを取り外そうとする。伸ばした腕に、更にカゴのフチと持ち手が組み付く。

丹波「〜〜〜ッ!」バッ!

梗「ふッッ!」シュバッ!

 カゴを取り外すため左手を伸ばしたタンバに、梗が蹴り込む。

 ドンッ!

丹波「ぬっ……あ!」ズザッ

 鳩尾に直撃。
 体をくの字に折り後退するタンバ。

 鏡の追撃。

鏡「はアッ!」ブオン!

 ガコッ!

 カゴで自由を奪った右腕の側から顎に左フックを打ち込む。

丹波「くぁっ!」ザッザザッ

梗「倒れませんのね」

鏡「太い首です。横着はできません」

梗「では地道に参りましょう」

鏡「はい姉さん」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/15(金) 23:36:20.71 ID:T8u6ihwI0<>  後退するタンバに更なる追撃。

 狙いは鳩尾。
 腹の虫の力を削ぐ。

 梗は右足。鏡は左足。

 二人同時に蹴りを放つ。

オルトロス「「はッッ!!」ブオン!!

 ゴゴンッ!!

オルトロス「あぁッッ!!」ブオン!!

 ドゴンッ!!

丹波「〜〜〜〜ッ!!」ズザッ

 タンバが上体を完全に折る。

 奏効。

 腹部への攻撃が通った。
 ダメージで腹部をカバーせずにはいられなかった。

 オルトロスはこれを好機と判断。

鏡「姉さん!」ブオン!

梗「ええ!」バッ!

 ゴガッ!

丹波「ぶがッ!」ガバッ

 タンバの下を向いた顔面に鏡の膝蹴り。
 タンバの上体が起きる。

 鏡はその場にしゃがみ込む。

梗「ッッ!」ダンッ

 しゃがみ込んだ鏡の肩を踏み台に梗が跳び上がる。

梗「ふッッ!」ブオン!

 ゴキャッ!

丹波「〜〜〜ッッ!?」ガクッ

 起き上がったタンバの顔面に梗の膝蹴り。

 オルトロスの二段飛び膝蹴り。

 タンバの膝が落ちる。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/15(金) 23:41:03.95 ID:T8u6ihwI0<>  ダメージに脱力した膝がフロアに――――

丹波「〜〜〜〜ッッ!」グググッ!

梗「!?」

 つかない。

鏡「姉さん!」

 梗の跳躍と同時に間合いを取っていた鏡が、危険を察知して叫ぶ。

 あれは倒れまいと踏ん張っているのではない。

 まるで爆発の前兆――――

 攻撃のタメ――――

丹波「ふんッッ!」グオッ!

梗「ッッ!?」サッ!

 ガッシャッッ!

 膝蹴りを打ち込み自由落下中の梗に、膝を折った体勢からの伸び上がるような左の拳打。

 かろうじて右腕に掛けたカゴで防ぐ梗。

 しかし。

 バッガァッ!

梗「〜〜〜〜ッッ!?」

 タンバの拳打を受けたカゴが砕ける。
 カゴの底部が爆散する。

梗「〜〜ッッ!」スタッ

 降り注ぐカゴの破片を浴びながら着地する梗。
 同時にバックステップを踏む。

 タンバは既に二打目を構えていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/15(金) 23:45:13.92 ID:T8u6ihwI0<> 丹波「ッッ!」バオッ!

 破片を吹き飛ばしながら迫るタンバの拳。

梗「くっ!」サッ!

 ゴガンッ!!

梗「がはっ!」ズザッ

 梗は咄嗟に左手でタンバの拳を受け止めるも、弾き飛ばされ顔面に直撃を喰う。

鏡「姉さん!!」

 梗に駆け寄る鏡。

梗「あなた………!」

 梗は拳を受けた頬を抑え、タンバを睨む。

丹波「悪ィ………」ハハ…

 タンバは膝蹴りを受け赤らんだ顔で笑う。

丹波「女はキレイに寝かし付けてやろうと思ってたんだが………やるもんだな、お前ら」ポイッ

 ガシャ

 タンバは右腕からカゴを外し、投げ捨てる。

梗「手加減、なさいましたわね………」ギリリッ

鏡「………!」

丹波「いやいや次はちゃんとやるぜ?怪我はさせない。優しくしてやるよ………」ニタア

梗「ッッ侮辱を!!」ダッ!

鏡「姉さんッッ!」

 激昂した梗がタンバに飛びかかる。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/15(金) 23:49:20.83 ID:T8u6ihwI0<> 丹波「結構、効いてはいるんだ……」ボソッ

 ス…

 タンバは右半身を引き、ゆるりと左手を前に出す。

梗「はあぁッッ!」ブオン!

 パシィッ

 突進とともに放たれた梗の拳を左手で払うタンバ。

 同時に、右の拳を構えていた。

鏡「駄目!」

丹波「ヤッちまうぜ……サトウ」ニヤア

梗「!」ゾワッ

丹波「ふッッ!」

 シュバァッ!

 ドッ!

梗「ぁ――――!?」

 梗の腹部に、タンバの拳打が突き刺さる。

梗「あ――――ぅ」フラッフラッ

丹波「……………」

 一瞬、その場に静止する梗。
 一歩、二歩とタンバに向かって力無く前進し――――

梗「――――――」ガクン

 ドサッ

 膝から、崩れ落ちた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/15(金) 23:54:13.55 ID:T8u6ihwI0<> 鏡「………ッ!」

 絶句する鏡。

 梗を一撃で沈めたタンバの実力に言葉が出ない。

 胴体から顔面へのコンビネーション、その一打ごとの手応えは確かだった。
 タンバにダメージがないとは思えない。
 しかし、それでも届いてはいない。
 打倒には至らない。
 鏡は、タンバを倒した上での弁当奪取が不可能に近い事を悟った。

丹波「…………」

鏡「……………」ジリッ

 タンバに弁当奪取を優先させる意思は見られない。

 そして鏡には、タンバに背を向けて弁当コーナーに走る勇気がなかった。

 あったとしても、友人たちの助勢に来ておいて、自分一 人だけ弁当を獲る訳にはいかない。

 残された道は一つだけ。

丹波「…………やるかい?」チラッ

 鏡に目線をやり、タンバは言う。

鏡「くっ………!」グッ
 無謀を承知で鏡は構える。

*** *** *** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/15(金) 23:58:46.59 ID:T8u6ihwI0<> *** *** ***

『がはっ!』



『姉さん!』



佐藤「…………」





『ッッ侮辱を!』


『駄目!』



佐藤「……………」グ





*** *** *** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/16(土) 00:04:11.34 ID:PzsF2o3i0<> *** *** ***

丹波「ッッ!」グオッ!

鏡「〜〜〜ッッ!」サッ!

 ゴンッ!

鏡「うあっ!?」

 タンバの左の掌打。
 かろうじてブロックする鏡。

丹波「ぬっんッッ!」

 ブオン!

鏡「くっ……」サッ!

 ガオッ!

鏡「う!」サッ!

 初?を受けた事でバランスを崩しながらも、なんとか二打目、三打目を躱す。

丹波「ふんッ!」ブオッ!

 ガッ!

鏡「ッッつあ!」ズザッ!

 四打目で回避運動に無理が出始める。 タンバの拳がガードに上げた腕を掠める。

タンバ「はッッ!」ブオッ!

 バガンッ!

鏡「ぐっ……!」ズザッ!

 五打目が固めた両腕のブロックを叩く。
 堪らず後退する鏡。

丹波「―――――――ッッ!」ダンッ

 グオッッッ!

鏡「!!!」バッ!

 踏み込みざまのタンバの右拳打。

 鏡は大きくサイドステップを踏んでこれを躱す。

鏡「〜〜〜ッッ!」スタッ

 回避と防御で精一杯で、攻撃の間合いに入れない <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/16(土) 00:08:24.65 ID:PzsF2o3i0<> 丹波「………」ス…

 間合いが開けばタンバは構え直す。

 その、冷静で油断の無い目付き。

 梗を一撃で屠ったカウンターが脳裏をよぎる。
 先手を打つ事を躊躇してしまう。

鏡「…………」ジリッ

 カゴ技を使おうにも、タンバの猛攻に回収の隙を見い出せない。

 無闇な突撃は自殺行為。
 かといって受けに回って凌ぎ切れるほどタンバの攻撃は甘くない。

 打つ手がなかった。

 梗が倒れた今、鏡一人でタンバを相手に出来る事は少ない。

鏡「ふぅ…………」スッ

 鏡は一旦、体の力を抜いた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/16(土) 00:11:10.41 ID:PzsF2o3i0<> 丹波「…………足捌き、体捌きは悪くない」

 それを見たタンバが口を開く。

丹波「別にいいんだぜ?このまま付き合ってやっても」 ハハ…

 タンバが笑う。
 心中を見透かされている。

鏡「………いえ、結構です。次で終わりにします」グッ

丹波「そうかい………まァなんだ。楽しかったぜ……」グッ

 鏡は覚悟を決めていた。

 一か八かの突貫。

 残された手は、もうそれしかない。

鏡「行きます!」ダッ!

 駆け出す鏡。

 その時。

???「俺が隙を作る……」グンッ!
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/16(土) 00:17:01.10 ID:PzsF2o3i0<> 丹波「!」

鏡「ッ!!は、はい!」グンッ!

 鏡の突進に呼応するように飛び出した一つの影。

二階堂「うおおッッ!」バッ!

 鏡に並走し、追い越し、二階堂がタンバに飛びかかる。

丹波「なっ!」ブオッ

  ガッ!

二階堂「ぬッッ!あ!」ガシィッ!

 タンバが咄嗟に突き出した右腕に両腕を絡みつけ、両足で胴体を挟む二階堂。

丹波「こいつ!」グイッ!

二階堂「今だ!」ググッ!

鏡「はいッッ!」ダダダッ

 ダンッ!

鏡「ふッ!」ブン!

 ゴキャッ!

丹波「ぐぉっ!?」ガクン!

 鏡の右の肘打ちがタンバのこめかみに炸裂する。
 タンバの膝が落ちる。

 今度こそ明確なダメージ。

 しかし。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/16(土) 00:20:15.70 ID:PzsF2o3i0<> 丹波「〜〜〜ッッ!っだあァァッ!」グイィッ!

 タンバは雄叫びとともに体を捻り、二階堂の足のホールドを引き剥がす。

二階堂「!?」

丹波「ぬあぁッッ!」

 ブオン!

 ダガンッッ!

二階堂「がはっ!」

 右腕ごと二階堂をフロアに叩きつける。

鏡「二階堂さん!」

丹波「っガあァッッ!」

 ブオッッ!

 ボゴッッ!

鏡「がッッ!!?」

 自由になった右腕を鏡の鳩尾に捻り込む。

鏡「ぐっ!」ドサァッ!

 吹き飛ばされフロアに転がる鏡。

丹波「死に損ないがッッ!」グアッ!

 タンバの怒りの勢いが止まらない。

 仰向けに倒れた二階堂に左腕を振り上げる。

丹波「おおッッ!」ブオン!

二階堂「く………!」


???「連!」ダッ!
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/16(土) 00:23:24.33 ID:PzsF2o3i0<> 丹波「!?」

 ゴガッ!!

???「ぬっ……ぐ!」

二階堂「や……ま、のもりさ、ん……」ガクッ

 力任せに振り下ろされたタンバの腕を、クロスさせた両腕で受け止める山乃守。

 意識を失う二階堂。

丹波「ッッ!」グオッ!

山乃守「!」

 山乃守にタンバの右拳が迫る。

???「ふッッ!」

 ヒュン!

 バチィッッッ!

丹波「ッッ!?」

烏頭「下がって!!」バッ!

山乃守「ッ!」バッ!

 タンバの目元に、烏頭が腕を鞭のように撓らせて叩きつける。
 タンバの追撃が止まる。

 間合いを取る山乃守と烏頭。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/16(土) 00:26:58.94 ID:PzsF2o3i0<> 鏡「う……【ウルフズ・ペイン】……」

烏頭「寝てていいから……【オルトロス】の妹さん」

鏡「すいま……せ……ん」ガクッ

 鏡も意識を失った。

山乃守「……さて」

烏頭「…………」

丹波「ッッッッ〜〜〜〜ッ糞!」ダンッッ!

 足を踏み鳴らし、痛みに悶える丹波。

 山乃守も烏頭も手出し出来ない。

丹波「糞ッ!」ブンッ!

 丹波はすでに、烏頭の一撃によるショックから立ち直る気配を見せていた。

 頭を振り、目を見開く。

丹波「お前ら……」ギンッ!

 充血した眼球。
 釣り上がった眉。

烏頭「怪物……ね」

山乃守「……悪いな、みこと」グッ

烏頭「謝るくらいなら連れて来ないで」スッ

 丹波の悪鬼の形相に気圧されつつも、二人は構えた。

 倒れた槍水と佐藤の姿が、二人の視界に入っていた。

**  **  ** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/16(土) 00:32:07.13 ID:PzsF2o3i0<> ** ** **

『がはっ!』



『二階堂さん!』



佐藤「……………」グッ



『がっ!』



『ぐっ!』



佐藤「…………」ググッ

** ** ** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/16(土) 00:37:04.21 ID:PzsF2o3i0<> ** ** **

丹波「何人いるかわからねェ……」


 鏡と二階堂に対する暴虐。


丹波「何をするかもわからねェ」グッ


 鬼気迫る気配。


丹波「おまけに効いちまってもいる……」ググッ

 
 怒気を孕みつつも隙の無い構え。


丹波「もう時間をかける気はない……覚悟してもらう」ギンッ!

 
 勝機があるとは思えなかった。


烏頭「……下がって」

山乃守「……いやだ」

 烏頭と山乃守は、丹波から視線を外せなかった。

烏頭「邪魔」

山乃守「………駄目だ」

 目を離せば、隙を見せればやられる。

烏頭「馬鹿」

山乃守「……だな」

 最悪のタイミングでの到着。

 本職の空手家。

 手負いの狼。

 丹波は完全に弁当など見ていない。


丹波「ッッ!」ダッ!

 
 この男の獲物は。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/16(土) 00:40:43.77 ID:PzsF2o3i0<> 丹波「ッッッ!」ダンッ!

烏頭「じゃあ死んで」タンッ

山乃守「喜んで」

 丹波が迫る。

 丹波が踏み込むと同時に、烏頭は右に跳んで逃れる。

丹波「ぬんッッ!」

 ブオン!

 ドンッッ!

山乃守「うっぐ!」ミシミシッ!

 残った山乃守に丹波の右拳打。
 両腕を上げ受け止める山乃守。

丹波「ッッ!」ブオッ!

 丹波は右から左掌打に繋ぐ。

烏頭「ここ」ヒュ!

 ガキィッ!

丹波「ぐっ!」

 丹波の顎に横合いから烏頭の右拳打。

丹波「チッ!」グオッ!

烏頭「亮」サッ!

山乃守「喜んでッ!」バッ!

 烏頭に向き直る丹波。

 間に割って入る山乃守。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/16(土) 00:44:03.35 ID:PzsF2o3i0<> 丹波「なっ!?」ブオッ!

 ゴガンッッ!

山乃守「ぐっへぇ!」ズザッ!

 かろうじてブロックする山乃守。

丹波「くっ!」クルッ!

 山乃守を囮、盾に使った烏頭の攻撃。

烏頭「フッ」ヒュバッ!

 サイドに回った烏頭が再び丹波の顎を狙う。

丹波「〜〜〜ッッ!」サッ!

 深くダッキングして躱す丹波。
 余裕のない回避動作。
 山乃守の献身により、烏頭は攻撃する上での絶好のポジションとタイミングを奪っていた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/16(土) 00:47:54.70 ID:PzsF2o3i0<> 烏頭「もう一回」バッ!

 
 しかし同時に、烏頭は理解していた。


山乃守「あいよ!」バッ!


 これは、長く続く攻勢ではない。


丹波「ぬぅっ……!」ブオッ!

 
 二階堂を庇った一打を合わせて、これで四打目のブロッ ク。


山乃守「ぐっ!?」ミシミシッ


 山乃守の体が持たない。
 いつまで防ぎきれるかもわからない。


烏頭「ふッッ!」ブオッ!

 ゴッ!

丹波「くっ!」ザッ!

 丹波の顎を斜め下から蹴り上げる。
 直撃を奪うも効果は薄い。

 二度目で既に反応されていた。
 駄目で元々の三打目だった。

 山乃守を盾、目くらましにした奇襲はもう読まれている。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/16(土) 00:50:48.76 ID:PzsF2o3i0<> 烏頭「……!」サッ!

 後退する烏頭。

山乃守「っ!」バッ!

烏頭「ッ!駄目!」

 愚直に丹波と烏頭の間に入る山乃守。

丹波「邪魔だッッ!」

 ブオッ!

 ゴガンッ!

山乃守「がはっ!」ドサァ!

烏頭「!」ダッ!

 ガードごと叩き潰され倒れる山乃守。
 ニ対一という情況から、丹波は防御を意識し攻撃動作を抑えていたのだろう。
 山乃守からの攻撃がないと看破され、拳打を強振された。

 烏頭は間合いを詰めた。

烏頭「ッッ!」ヒュン!

 腕を撓らせ丹波の顔面を狙う。

丹波「ッッ!鞭打か!」サッ!

 ヒュオッ!

 皮一枚で躱す丹波。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/16(土) 00:54:32.02 ID:PzsF2o3i0<>  巨体を見事に制御した鮮やかな体捌き。
 先程とは違う必要最低限の回避動作。

 攻撃の間合いを維持したままの回避運動。

 カウンターが来る。

烏頭「――――ッ!」ゾワッ

 烏頭は腕を振り抜いた姿勢のまま青ざめた。

丹波「ッッ!」

 ブオッ!

山乃守「ぬおおッ!」

烏頭「亮!」

 山乃守はあくまで烏頭の盾に徹する。

 ドゴンッ!

山乃守「――――ッぐはっ!」ドサッ

烏頭「ッッ!」バッ!

 胸部に丹波の拳打を受け倒れる山乃守。

 最後の好機。

 烏頭が踏み込む。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/16(土) 01:00:43.14 ID:PzsF2o3i0<> 烏頭「はッ!」ヒュン!

 バチィッッ!

丹波「ぬうっ」ビリビリッ!

 丹波の右の頬、目の下辺りに烏頭の鞭打が炸裂する。
 痛みに片目を閉じ顔を背ける丹波。

烏頭「はあァッッ!」ブン!

 烏頭が丹波の死角から追撃の左フック。

 山乃守が捨て身で作った隙。

 当たる。倒せる。

 烏頭は拳を強く握り込んだ。


丹波「〜〜ッッ!ッッ!!」ブオン!

烏頭「!?」

 ガキィッッ!

 丹波が振った腕が烏頭の左フックを受け止めた。
 死角を突いたにも関わらず狙い澄ましたような迎撃。

 反応された――――!?

丹波「厄介な技を!」ブオッ!

烏頭「〜〜〜〜ッ!」

 ボゴンッ!

烏頭「あっが――――」ドサッ!


丹波「これで……」


 倒れゆく烏頭を丹波は悠然と見下ろす。


丹波「終わりだな……」


烏頭「――――…………」ガクッ


 烏頭は意識を失った。


* * * <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/16(土) 01:05:59.71 ID:PzsF2o3i0<> 今日はここまでです

増援フラグ立てまくったせいで戦闘長期化 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/16(土) 01:11:55.78 ID:LqQ8NuQpo<> 乙
丹波つええな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/16(土) 01:19:10.57 ID:wukdg6rTo<> 乙
堤の猛攻を耐えきった耐久は流石だよな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/16(土) 01:35:13.12 ID:PzsF2o3i0<> 激戦区の狼総がかりでやっと微ダメージという感じで書いてます

板垣絵の強烈すぎるビジュアルインパクトのせいで柴乃キャラが丹波に敵う気がしない

敵わない理由を考えて丹波を狼の土俵に降ろす方向でやっていこうと思います <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/16(土) 01:51:29.42 ID:jFFmUWfko<> 乙
丹波ならおおきし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/16(土) 01:52:19.44 ID:jFFmUWfko<> >>312
すまんミス


丹波ならタンクぐらい余裕で止められそうだな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/16(土) 04:37:40.87 ID:WWDZjMV3o<> 乙
ギャグだから流されてる部分に踏み込んじゃうな
丹波だと
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/17(日) 21:29:00.69 ID:oNXRhAqv0<> 夜中に丹波>大猪>>>魔導士な感じで餓狼伝クロス行くぜ!って感じで書き始めたのですがなんとか自分の中では話がまとまってきました

次回投下は水曜夜10時頃にします
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/18(月) 00:21:55.24 ID:cUrw+zlAo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/20(水) 22:10:00.89 ID:zCUgcYMM0<> *  *  *

『――――…………』ドサッ


佐藤「…………――――?」グッ

 何かが。

 誰かが倒れる音。

 意識が戻る。

佐藤「……ッ!」ズキン

 一瞬、自分が何処にいるのかわからず混乱する。

 しかしすぐに、腹部の鈍痛と冷たいフロアの感触で思い出す。

 ここはスーパー。

 弁当コーナー前。

 今は半額弁当争奪戦の最中だ。

 まだ、終っていなければ。

佐藤「ぅ……」

 槍水先輩。

 二階堂。

 梗、鏡。

佐藤「……た、ンバ」ググッ

 顔を上げる。

丹波「…………」

 タンバがこちらを見下ろしていた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/20(水) 22:13:45.76 ID:zCUgcYMM0<> 佐藤「ぅ……ぐ」ググッ

 立ち上がろうとフロアに手を付く。

佐藤「ぬ……ぅ!……ぐっ」ドサッ

 腕に力が入らない。

丹波「これまでだよ……サトウ」クルッ

 一言呟くと、タンバは僕に背を向けた。

佐藤「……!」

 ゆっくりと歩み去るタンバ。

 その言葉、その様子から僕は察する。

佐藤「〜〜っく!」

 顔を持ち上げ周囲を見回す。

烏頭「…………」

 まず目に入ったのは烏頭の姿だった。

山乃守「…………」

 山乃守さんもいる。

 何故二人がここに、とは思わなかった。

 引き寄せられたのだろう。あのタンバという男に。
 狼ならたとえ古狼であっても無視できない気配に、僕たちの危機を予感して。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/20(水) 22:17:17.86 ID:zCUgcYMM0<> 二階堂「…………」

 二階堂も。

梗「…………」

鏡「…………」

 オルトロスも。

 それなのに。

 仲間たちの助太刀を無駄にしてしまった。

 勝てなかった。

槍水「…………」

佐藤「せ、んぱ……ぃ」

 すいません。

 縄張りを、守れませんでした。

佐藤「ぁ……ぐぁ」フッ

 意識が朦朧とする。

 もう抵抗する意味はない。

 負けたのだ。僕たちは。

 もういい。

佐藤「…………ぅ」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/20(水) 22:20:40.19 ID:zCUgcYMM0<>  あの化物を相手に、僕は限界まで戦った。

 腹を下し体調もベストではない中で、タンバと正面から打ち合ったのだ。

 負けて当然の戦い。

 立てないのも無理はない。

 もういいだろう。

 十分だ。

 たくさんだ。

佐藤「――……――」

 もう、休んで……も…………

 ……………………

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

*  *  * <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/20(水) 22:22:23.16 ID:zCUgcYMM0<>





 今。




<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/20(水) 22:23:57.76 ID:zCUgcYMM0<>





 今、僕。




<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/20(水) 22:25:13.61 ID:zCUgcYMM0<>





 何、考えた。




<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/20(水) 22:27:51.26 ID:zCUgcYMM0<>  何を考えた。

 何を考えてる……!


『腹を下し』

『体調もベストではない中で』

 
 何を……!

 何を!何を!何を!何を!何を!

 何を!!

 情けない事をッッ!!

佐藤「〜〜〜〜ッ!!」ダンッ!

丹波「!………」ピタ


 諦める理由に!


佐藤「ぬぅぅぅッッ〜〜〜っ!」グググッ


 負けた言い訳に!


丹波「…………!」クルッ


 あせびちゃんを使うってのか!?

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/20(水) 22:31:34.56 ID:zCUgcYMM0<> 佐藤「〜〜ああッッ!!」グッ!

 彼女に食べ物を貰ったから?

 それで腹を下して?

 体調を崩し、そのせいで負けた。

 そのせいで立てなかった。

 何を馬鹿な事を!

 ふざけた事を!

丹波「……サトウ、お前」

佐藤「まだだッ!タンバッ!!」ゴッッ!

 あせびちゃんに食べ物を貰って。

 腹を下して。

 体調を崩したからこそ!

 だからこそ僕は立つんだろうが!

 負けちゃならねぇんだろうが!

佐藤「まだ僕は負けてない!」ギンッ!

 誰が相手だろうと!

丹波「……やっぱりお前……」ニヤア

 負けられない!

 今日だけは! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/20(水) 22:35:40.35 ID:zCUgcYMM0<> 佐藤「ッ!」ギリッ

丹波「お前だけは……」

 丹波が笑う。

丹波「本気で潰してやらないといけねぇと思ってた」ス…

 この期に及んでまだ笑う。

佐藤「〜〜〜〜ッ!!」ギリリッ

丹波「来な、サトウ」


佐藤「笑うなッッ!!タンバッ!!」ダッ!


 タンバに向かって一直線に駆ける。


丹波「笑わずにいられるかよ、サトウ」グッ


 丹波が右拳を握り込む。


佐藤「おおおおおッ!」グンッ!


 構わず突進する。


丹波「ッ!」グアッ!


 右腕を振りかぶる丹波。


佐藤「ッッ!!」ダンッ!


 知った事ではない。

 僕は丹波の射程距離に踏み込んだ。

 僕も右拳を振りかぶる。

佐藤「あああッッ!」ブオン!

丹波「あばよぉッ!サトォォッ!!」ブオン!
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/20(水) 22:39:19.39 ID:zCUgcYMM0<> ???「佐藤!」ガバッ!

佐藤「なっ!」

???「丹波ッ!」バッ!

 バチィッッッ!!

佐藤「ぐっ!?」ドサッ!

丹波「ッ!泉先生!」

 僕と丹波の拳が交錯する刹那、僕は飛びかかってきた誰かに押し倒された。

金城「ここまでだ!佐藤!」

佐藤「ウィザード……!」

 【魔導士】金城優。

泉「丹波君……君もだ」ビリビリ

 タンバの拳を受け止めた男が口を開く。
 禿頭で、サイドに残った髪を長く伸ばした和装の男。

丹波「泉先生……」グッ

泉「退けと言っとるッッ!!」

丹波「…………チッ」スッ

 男に一喝され、丹波が拳を引く。

佐藤「〜〜ッどけ!ウィザードッ!邪魔をする なッッ!!」

金城「駄目だ!今日の争奪戦はこれまでだ!」

佐藤「ふざけるなッ!いくらアンタでもこんな事!」

丹波「…………」

泉「…………」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/20(水) 22:41:38.83 ID:zCUgcYMM0<> 金城「佐藤!お前のためを思って言ってるんだ!第一この 男は…………」

佐藤「いいからどいてくれッ!まだ僕は――――」

???「佐藤……」

佐藤「…………!アブラ神!?」

 馬鹿な…………!
 まだ誰も弁当を獲っていないというのに、何故アブラ神が売場に……!?

アブラ神「金城の言う通りにしておけ。今夜はこれで終いだ」

佐藤「そんな…………」

アブラ神「ほれ……」ガサ

 アブラ神は、手に持った袋をタンバに差し出した。

丹波「……何だ?」

アブラ神「弁当だよ。俺の奢りだ。ガキどもを揉んでもらった礼だとでも思ってくれ」

佐藤「?」

丹波「……警察に通報されても仕方ねぇと思ってたんだがな……」ガサ

佐藤「!??」

 け、警察?何を言って―――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/20(水) 22:44:26.56 ID:zCUgcYMM0<> アブラ神「仕掛けたのはガキどもだ。それに……まぁ、な んだ。ここの連中がアンタみたいな奴を見れば、こうなっ ちまうのさ……」

丹波「……そうかい」

 まさか…………!?

 そんな……!

泉「佐藤君、わかってくれ。見たところ君も限界……これ以上やらせる訳にはいかん」

アブラ神「先生の言う通りだ。このまま続けりゃあ最悪、 冬休みは病院のベッドで過ごす事になる」

泉「無念だろうが……この男は本来、君たち狼が戦う相手ではないのだ……承知して欲しい」

佐藤「あ、あ……」

 言葉が出ない。

 信じられない。

佐藤「そんな……馬鹿、な……」

 スーパーで、争奪戦であれだけの強さを誇るタンバ が……。

金城「もう、わかったな?佐藤」

佐藤「…………はい」


 狼ではない、なんて――――


**  **  ** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/20(水) 22:47:21.27 ID:zCUgcYMM0<> **  **  **

 その後僕たちは、バックヤードの休憩スペースでダメージを負った体を休めていた。

白粉「先輩……」グス

槍水「…………」ナデ

 顎を打ち抜かれ失神した先輩は、意識こそ戻ったものの足元が定まっておらず、大事を取ってソファに横になっていた。

 白粉が目に涙を浮かべて寄り添う。
 先輩が無言でその頬を撫でた。

二階堂「…………」

梗「…………」

鏡「…………」

烏頭「…………」

山乃守「…………」

顎髭「…………」

坊主「…………」

茶髪「…………」

 誰も口を開こうとしない。

 泉宗一郎と魔導士の乱入で争奪戦が終結した時点で、顎髭と坊主を除く全ての狼が意識を失っていた。

 泉、魔導士、アブラ神が手分けして狼たちをバックヤードに運び、全員が意識を取り戻した今も、休憩スペースは沈黙に包まれたままだった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/20(水) 22:50:32.38 ID:zCUgcYMM0<>  全員が今夜の惨敗を噛み締めていた。 激戦区の名うての狼が、揃いも揃って誰一人あのタンバ という男に敵わなかったという事実に、打ちのめされていた。

佐藤「…………」

 タンバが狼ではない事をまだ皆は知らない。  事情を知る魔導士と泉は、アブラ神のフロア清掃を手伝うため席を外していた。

山乃守「あの、丹波って男は……」

 山乃守さんが沈黙を破る。
 その重い口ぶりに、全員が山乃守さんに視線を向けた。

山乃守「プロの格闘家だ……詳しくは知らないが、何日か前のスポーツ新聞に記事が出てた」

茶髪「道理で……只者ではないと思っていたけど」

顎髭「戦闘中の一挙一動の無駄の無さはそういう訳か……」

坊主「その上、あれ程の狼としての資質を持つとなれば……」

 受け入れ難い敗戦。 その理由を確認し合うように、三人がポツポツと口を開く。
 惨めだった。
 しかし、僕に彼らを責める権利はない。僕もまた、奴に敗れた一人なのだから。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/20(水) 22:54:09.14 ID:zCUgcYMM0<> 佐藤「…………」

 しかし、どうにもスッキリしない。
 プロの格闘家という、タンバの強さの背景にある肩書きが明らかになっても、何か腑に落ちないものがある。

 魔導士は、タンバは狼ではないと言った。争奪戦後のタンバの態度、言動からも間違いないように思えた。

 それでも、まだ僕は心の奥底で、奴が狼ではないという事実が信じ切れないでいた。

 奴が狼でないというのなら、あの異常なまでの気配はなんだ。

 腹の虫の加護を得た僕たちをものともしなかったあの強さは、本当にプロの格闘家だからという理由だけで片付けられるものなのか。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/20(水) 22:57:10.78 ID:zCUgcYMM0<>  普段は意外と鈍いところもある先輩が、スーパー限定で鬼神の如き強さを発揮できるのは腹の虫の加護があるからだ。
 争奪戦に於いて力を発揮するために何より重要なのは、 半額弁当への飢餓感で腹の虫の加護を得ること。

 その筈ではなかったのか。

 いくらプロの格闘家とはいえ、スーパーでの戦いを知らないタンバが何故あそこまで戦えたのか。

佐藤「…………」グッ

 わからない事だらけだ。

 魔導士を問い詰めるまでは、とても帰る気にはなれない。


 バタン


 程なくして、魔導士たちがバックヤードに戻って来た。

金城「お前たち、体は大丈夫か?」

 誰も言葉を返さない。

泉「…………」

アブラ神「…………」

 そんな事はどうでもいいと、全員が無言で訴える。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/20(水) 22:59:50.98 ID:zCUgcYMM0<> 金城「……仙、もう平気か?」チラッ

槍水「……ええ、もう大丈夫です……それよりも……」ムクリ

 一人横になっていた先輩は、魔導士に話を促すように起き上がった。

槍水「あの男は何者です。泉先生はお知り合いのようでしたが……」チラッ

 どうやら先輩は泉と知り合いらしい。
 先輩、魔導士、アブラ神に先生と敬称で呼ばれるこの男は、一体どういう素性の持ち主なのだろうか。

泉「……うむ。あの男は以前、ウチの道場で食客として世話していた事があってな……」

鏡「道場……失礼ですがあなたは……」

泉「ん?ああ、すまん自己紹介を忘れていた。私は泉宗一 郎。この近所にある竹宮流道場の主だ」

金城「俺と仙はHP時代に少し先生に稽古をつけてもらった事があるんだ」

アブラ神「この人も若い頃は狼でな」

佐藤「『古狼』……」

泉「ハハ……さすがにもう参戦する事は無いがね。その縁で、この地域の半額神とは懇意にさせて貰っておる」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/20(水) 23:03:48.88 ID:zCUgcYMM0<> 梗「あのタンバという男、プロの格闘家という話ですが」

泉「空手家だ。空手をベースに、ボクシング、レスリン グ、果ては私が宗家を務める古流の実戦柔術……竹宮流の 技も習得しておる……」

二階堂「聞きたいのはそんな事じゃない……」

 二階堂が呟く。

 あの男が格闘家としてどんな経歴を持ち、どんな技を習得していようが、そんな事には興味がない。
 二階堂はタンバのスーパーでの戦歴を聞きたかったのだろう。

 僕はあの男が何者なのかを聞きたかった。

佐藤「ウィザード、もういいだろ?早く教えてくれ。あの男の経歴なんてどうだっていい……」

二階堂「……?」

槍水「佐藤……?」

佐藤「あれは、何だ」

 狼ではないというのなら。

 あの男は『何』なんだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/20(水) 23:06:58.43 ID:zCUgcYMM0<> 槍水「どういう事です……先輩」

金城「あの男……丹波分七は……」

 魔導士は壁に背を預け、腕を組んだ。

金城「狼ではない」

 一瞬、場が静まり返る。

槍水「…………!」

二階堂「なん……だと……?」

山乃守「優……お前……」

烏頭「……何、言ってるの」

梗「ご冗談でしょう……?」

鏡「それは……いくらなんでも……」

顎髭「おいおい……」

坊主「嘘だろ……?」

茶髪「……ふざけてるの?」

 口々に動揺を示す狼たち。

泉「信じられないのも無理はない……しかし、事実だ」

アブラ神「奴が狼なら、争奪戦の中断なんて無粋はしない。戦いが終わってもいないのに、タダで弁当をくれてやるなんて真似はな……」

 半額神が決着前にストップをかける前代未聞の事態。

 その必要がある相手。

佐藤「何なんです、奴は」


金城「奴は……『餓狼』だ」


**  **  ** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/20(水) 23:10:06.30 ID:zCUgcYMM0<> **  **  **

佐藤「が、ガロウ……?」

金城「餓えた狼、『餓狼』だ」

槍水「……?では、狼ではない、というのは……」

 初めて聞く言葉。
 槍水先輩も知らないらしい。

金城「『餓狼』とは、一言でいえば『自覚なき狼』だ」

梗「???では、やはり狼なのでは?」

鏡「争奪戦を知らず、しかし狼としての高い素質を持つ 者、という事でしょうか?」

アブラ神「概ねその通りだが」

泉「しかしそれでは認識が足りない」

金城「そう……あの男は争奪戦の事も、狼の事も何も知らない。 腹の虫の加護も、勝利の一味も、何も……争奪戦における暗黙のルール、知識の全てを、あの丹波という男は知らない。つまり奴は狼ではない。かといって、奴が犬や豚に分類される事もない」

泉「丹波君は、自分が『餓狼』である事も知らない」

槍水「狼ではない……なのに『自覚なき狼』……『餓狼』とは一体……」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/20(水) 23:13:37.93 ID:zCUgcYMM0<> 泉「『大猪』『アラシ』といった争奪戦におけるイレギュ ラーの一種だと考えてくれたまえ」

金城「『餓狼』は半額弁当ではなく、闘争を求める」

泉「狼の中にも勝利の一味に強い拘りを持ち戦いを好む者はいるが、より純粋に闘いだけを求める者が『餓狼』と呼ばれる」

佐藤「そんな……それじゃあ『餓狼』は半額弁当に興味がないという事ですか?『腹の虫の加護』を得た僕たちをあれほど圧倒したあの男が……」

金城「それは、あの男が無自覚に『闘争への飢餓』で力を引き出していたからだ」

佐藤「『闘争への飢餓』……?」

金城「『腹の虫の加護』と似た力だ。半額弁当への飢餓感で力を発揮する俺たち狼とは違い、『餓狼』は闘いを希求する事で力を発揮する。その源となるのが『闘争への飢餓』だ」

泉「丹波君は闘う事だけに人生を捧げてきた男だ。ただひたすらに強さを求めて闘い続ける事で、いつしか『闘争への飢餓』に目覚めた……」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/20(水) 23:17:04.92 ID:zCUgcYMM0<> 佐藤「待って下さい。つまり『闘争への飢餓』とは、スー パー以外でも発揮される『腹の虫の加護』と同種の力、という事ですか?」

泉「左様。『闘争への飢餓』とはあくまでスーパーに於ける呼称だ。格闘技の世界ではその力に明確な呼称はない。また、その力について言及される事も少ない。ただお定まりの精神論の一種として、なんとなく存在が認知されてい る……明言される事のない格闘家の間にある曖昧な共通認識、といったところか」

槍水「なんとなく、わかってきました……金城先輩が『餓狼』を『自覚なき狼』と言った意味が……」

二階堂「『闘争への飢餓』に目覚めた人間が争奪戦の場に現れた場合、本人に自覚がなくとも俺たち狼から見て『餓狼』と呼ばれる存在になる……」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/20(水) 23:21:58.96 ID:zCUgcYMM0<> 金城「『闘争への飢餓』に目覚めた者は狼と変わらぬ気を放つ。それ故に『餓狼』に遭遇した狼は何の疑問も持たずに戦ってしまう」

泉「そしてその戦いには大きな危険が伴う。必然的に『餓狼』となる者は闘いの中で生きる格闘家に限られる。『闘争への飢餓』に支配された『餓狼』と『腹の虫の加護』を得た普通人にすぎない狼とでは戦力に大きな差が生じる」

金城「それに何より、『餓狼』は半額弁当を求めていない。俺たちが戦うべき相手ではないんだ」

アブラ神「……今夜、争奪戦を途中で止めたのはそういう訳だ。お前たちの身の安全を優先させて貰った……すまなかったな」

 アブラ神の苦渋の表情。
 半額神にこんな顔をされては、誰も文句など言える筈がなかった。

槍水「話はわかりました……しかし、何故金城先輩は『餓狼』について教えてくれなかったんです。そのような危険な存在なら……」

金城「俺も『餓狼』について知ったのはHP部を抜けた後だったんだ。東区のスーパーで一度だけ『餓狼』に遭遇した事があってな……その時も半額神の判断で争奪戦は中断された」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/20(水) 23:26:40.03 ID:zCUgcYMM0<> アブラ神「『餓狼』は希少な存在だ。ほとんどの狼が存在すら知らずに引退していく。俺も実際に目にしたのは今夜が初めてだ。ジジ様ですら、生涯で二度しか遭遇していない」

泉「その二人の『餓狼』が、若き日の松尾象山とグレート巽だ。君たちも名前くらいは知っておろう」

佐藤「!」

山乃守「こりゃまた……えらいビッグネームだな……」

 二人とも格闘技に詳しくない僕でも知っている有名人だ。
 北辰会館館長、空手家として数々の逸話を持つ生ける伝説、松尾象山。
 FAW社長、プロレスラーのグレート巽。
 思わぬ大物の名前に一同が息を飲む。

泉「その希少性故に当時はまだ『餓狼』という呼び名が定着していなくてな……あの頃の二人は単に【大猪殺し】と呼ばれていた……」

佐藤「大猪……殺し!?」

二階堂「『餓狼』は大猪すら凌駕すると……?」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/20(水) 23:30:53.47 ID:zCUgcYMM0<> アブラ神「……前にジジ様が話してくれた事がある。『狼、大猪、アラシが全員地を這う中、一人悠然と佇む怪物がいた』と……」

槍水「…………!」

 狼と大猪、更にアラシまで同時に相手をして、全て倒してのける実力。
 タンバの強さを身を持って経験した後でなければ、とても信じられない話だった。

佐藤「ウィザード、あなたも『餓狼』と戦ったんですか? その時はどうなったんです。あなたならあるいは――――」

 大猪を凌駕する化物に、狼である魔導士が敵う筈もない。
 しかし、聞かずにはいられなかった。

金城「戦った。俺が戦ったのは泉先生のかつてのお弟子さんでな。争奪戦だというのに見た事もない投げ技や関節技を使ってくるから、何か変だと思ったんだが……手心を加えられ、翻弄されて終わりだった……」

泉「不肖の弟子だがね……」

 泉の表情が曇る。

泉「丹波君と互角か、それ以上の強さを誇る天才だよ…… 金城君が敗れたのも無理はない」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/20(水) 23:34:27.22 ID:zCUgcYMM0<> 佐藤「そんな……」

槍水「…………」

 やはり魔導士も敗れていた。
 現役最強の【魔導士】でも敵わない。

 『餓狼』

 住む世界が、違いすぎる。

アブラ神「とにかくお前ら、今後スーパーであの男に出くわしても決して手出しするな。聞いた通り、丹波は半額弁当に興味がない。お前らの戦う相手じゃないという事をわかってくれ」

槍水「はい…………」

佐藤「…………」

 返事をしたのは槍水先輩だけだった。
 その先輩の表情も苦渋に満ちている。

 無理もない。

 アブラ神はこう言ったのだ。

 負けたまま引き下がれ、と。

 誇りを持ってスーパーを駆ける狼にとって、それは最大の屈辱だった。

**  **  ** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/20(水) 23:42:33.17 ID:zCUgcYMM0<> 今日は以上です

この泉先生は槍水に虎王を伝授してしまっている設定です。アニメ版プール回の水着虎王を見てそんな妄想をしていました。ストーリーに組み込めなくて残念です

魔導士は藤巻が手配犯である事を知っていますが、泉先生に配慮して言及しなかったという事で <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/21(木) 00:00:50.99 ID:VNxcfiJDO<> 乙です。丹波がどう出るか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/21(木) 01:56:07.75 ID:dhlVQ/ZWo<> 乙
先輩は虎王使えるのかよwww
あと狼に対して餓狼っていいな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2013/02/21(木) 19:27:01.91 ID:VfHtqi9IO<> 先輩に虎王かけられて死ねるなら今すぐでもいい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/21(木) 20:11:25.48 ID:dhlVQ/ZWo<> 先輩に腕に抱きつかれて太ももで頭を挟まれ、その柔らかい感覚を感じながら投げられ最後にもう一度腕を掴まれながら背中側から馬乗りか
ふぅ…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/21(木) 20:32:52.89 ID:BfJQgKpgo<> 二つ名が変態なのが多すぎるwwwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/22(金) 18:01:07.72 ID:46LOyA330<> >>347
>>348
投下の報告に来たら……あれ、俺がいる?

明日の夜に少量投下します
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/23(土) 23:06:51.50 ID:HfRNcJgn0<> ** ** **

山乃守「それじゃあ……」

 魔導士たちの説明が終わり、山乃守さんが口を開いた。

山乃守「帰るか……みこと」

烏頭「うん」

槍水「烏頭先輩……今日はありがとうございました」ペコリ

烏頭「別にいい……でも仙、佐藤も……無茶は駄目。アブラ 神の言う事をちゃんと聞いて」

槍水「わかっています……」

佐藤「山乃守さんも、ありがとうございました」

山乃守「いいってそんな。俺と洋の仲だろ?」ハハ

佐藤「山乃守さん……」

 朝にも同じ台詞を聞いたが、今のはなんだか格好良い。

山乃守「連もだぞ?無茶は禁物だぜ?」

二階堂「わかっていますよ。またアンタにらしくない無茶 をされては敵いませんからね。自重しておきます」

山乃守「はは、ならいい。それじゃあな。優も、またな」

烏頭「バイバイ」

金城「ああ、またな」

 こうして山乃守さんと烏頭は店を後にした。
 
 その背中に、二階堂が小さく『ありがとう』と呟いた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/23(土) 23:09:50.49 ID:HfRNcJgn0<> 鏡「では姉さん、私たちも帰りましょう」

梗「そうですわね」

槍水「二人も、ありがとう」

鏡「構いません。皆さんがご無事ならそれで」

佐藤「それにしても、さすがの勘の良さだね。こうして駆けつけてくれるなんて」

梗「道端であの男とすれ違って異様な気配を感じたものですから……それと」スッ

佐藤「?」

梗「これを見て、何か嫌な予感がしまして……」

佐藤「!?」ゾッ

 そう言って梗がポケットから取り出したのは、先ほど僕と著莪が二人に渡した御守りだった。
 御守りは既にドス黒く変色していた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/23(土) 23:12:17.51 ID:HfRNcJgn0<> 梗「不思議な事もあるものですわね……」

鏡「駆けつけてみれば案の定、ですからね……」

佐藤「ほ、ホントダネ。ま、また新しいのを贈らせてもらうよ……それは僕の方で処分しておくから」

梗「まぁ!それは嬉しいですわ!」

鏡「すいません。ではお願いします」

佐藤「ははは、いいんだヨ。気にしないデ」

 手の震えを抑えつつ御守りを受け取る。

鏡「それと二階堂さん、先程はありがとうございました」 ペコリ

二階堂「気にするな。結局、大した助けにはならなかったしな」

鏡「はい。それでも、ありがとう」ニコッ

二階堂「ふん……」

梗「ふふ……それでは、わたくしたちはこれで失礼しますわ」

鏡「さようなら」ペコリ

佐藤「またね」

 オルトロスも店を後にする。
 僕は手元の御守りに視線を落とし、沢桔姉妹と、二人を僕たちの窮地に導いてくれたあせびちゃんに感謝した。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/23(土) 23:15:37.77 ID:HfRNcJgn0<> 茶髪「あたしも帰るわ」

顎髭「……俺も」

坊主「行くか」

アブラ神「お前らも、今日話した事は肝に命じておけよ」

顎髭「わかってますよ」

坊主「すまなかったな、ワンコ。力になれなくて……」

佐藤「いいよ……そんな」

顎髭「……お前、今夜はよくやったよ……あの化物相手に…… だから絶対に無茶はすんなよ?」

坊主「なんだか、お前はあの手の大物とやたら縁があるからな、心配なんだよ」

佐藤「なんだよ……あんたらまで。わかってるから、大丈夫だよ」ハハ…

茶髪「私は魔女さんとの共闘が楽しかったから、それで良しとしておくわ」

槍水「ふん……」フッ

茶髪「フフ……それじゃあね、ワンコ」

顎髭「じゃあな」

坊主「またな」

佐藤「うん、また」

 三人も店を後にした。
 結局、茶髪の仇が取れなかった事が心残りだった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/23(土) 23:18:58.90 ID:HfRNcJgn0<> 二階堂「俺ももう行く」

佐藤「二階堂……さっきは……」

二階堂「礼ならいらん。俺もオルトロスと同じで、奴の気配に引かれただけだからな」

佐藤「二階堂……」

二階堂「そんな事より、またスーパーで相手になってもらうぞ。今夜は消化不良だったからな」

佐藤「はは……そうだな。楽しみにしておくよ」

二階堂「ふん……じゃあな」

佐藤「ああ」

 二階堂は薄く笑ってバックヤードから出て行った。
 出来る事なら、今夜は二階堂と、相棒とともに勝利を掴みたかった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/23(土) 23:22:15.24 ID:HfRNcJgn0<> 金城「さて、俺も帰るとするか」

槍水「金城先輩、今夜は面倒をおかけしてすいませんでした」

金城「いいさ、かわいい後輩たちのためだからな。それよりも、絶対に餓狼には手を出すなよ?」

槍水「先輩……」

金城「縄張りの主であるお前と佐藤が一番無茶をしそうで心配なんだ」

佐藤「僕もですか?」

金城「お前もだ。その無茶に助けられた事もあったが、今回は絶対に駄目だ。戦っても無駄に体を傷めるだけだからな」

佐藤「だから、わかってますってば……」

金城「……なら、いいがな。泉先生、どうされますか、またバイクで送りましょうか?」

泉「いや、歩いて帰るよ。帰りもあの格好は少々恥ずかしい」

金城「それもそうですね。それでは、お先に失礼します。仙、佐藤、白粉、またな」

槍水「はい、また」

佐藤・白粉「「さようなら」」

 魔導士も店を去り、バックヤードには僕たちHP同好会の三人と泉先生、アブラ神が残された。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/23(土) 23:25:01.94 ID:HfRNcJgn0<> 槍水「……先生、あの格好とは?」

泉「んん?いやな、袴でバイクの後に乗るには、こ う……」

 泉先生は手で袴の裾を持ち上げる真似をする。

泉「太ももまでまくり上げないといけなくてね、先程は緊急だったから気にしなかったが、もう一度は恥ずかしい」 ハハハ

槍水「フフ、そうでしたか。今夜は先生にもご足労頂いて、本当にありがとうございました」

泉「構わんよ。君らが無事で済んで何よりだ」

佐藤「…………」

アブラ神「佐藤、白粉。これ持ってけ」ガサ

佐藤「これは……」

白粉「そんな……」

 アブラ神が僕と白粉に袋を差し出す。
 中身は見るまでもなかった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/23(土) 23:27:48.29 ID:HfRNcJgn0<> アブラ神「今夜最後まで立っていたのは、丹波とお前ら二人の三人だからな」

佐藤「でも……」

白粉「私は、戦ってもいないのに……」

アブラ神「残しておいても捨てるだけ……貰ってやってくれ」

槍水「頂いておけ、二人とも。気持ちはわかるが弁当を無駄にしては狼の名折れだ」

佐藤・白粉「「……はい」」

 僕たちは弁当を受け取った。

佐藤「…………」ガサ

 戦いで分が悪くても、最終的に弁当を手にする事が争奪戦の勝利。

佐藤「…………」ギュ

槍水「…………」

 今夜の敗北は戦闘での敗北。
 争奪戦は中断され、勝敗はついていない。

 それでも、今手にした弁当は、負けて手にした弁当。

 そう思わずにはいられなかった。

**  **  ** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/23(土) 23:30:42.32 ID:HfRNcJgn0<> **  **  **

 閉店時間が迫り、僕たちと泉先生はホーキーマートを後にした。

 先輩と白粉を送って行くと申し出たのだが、僕のダメー ジの深さを理由に先輩に断られた。

 別れ際、先輩は言った。

槍水「私はまだ帰省しないつもりだ」

佐藤「え……それってまさか」

泉「槍水君……!」

槍水「勘違いするな佐藤。泉先生も、違いますよ……」

佐藤「ならどうして……」

 僕は先輩がタンバとの再戦に乗り出すつもりなのだと誤解していた。

泉「?……ああ、そうか」

 僕と同じ誤解をしたらしい泉先生も一瞬眉をひそめたが、すぐに何かに気付き表情を緩めた。

泉「そうだった。明後日はあの弁当が出る日だったな……」

槍水「そうです」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/23(土) 23:33:32.12 ID:HfRNcJgn0<> 白粉「明後日、何か特別なお弁当が出るんですか?」

槍水「ああ、毎年ホーキーマートでは28日、29日の二日間、社会人の仕事納めの時期に合わせて500円ワンコイン の豪華弁当が売り出されるんだ。その名も『年末ご奉仕弁 当』」

佐藤「?アブラ神にしてはシンプルな商品名ですね」

泉「それは毎年弁当の中身が違うからだよ。去年は確か、 牡蠣飯に国産和牛のすき煮、旬の野菜、茸、きすの天ぷら……」

白粉「スーパーのお弁当とは思えない内容ですね……」

佐藤「500円ですよね……」

槍水「500円だ。アブラ神が無茶な弁当を作るのはいつもの事だが、この弁当は最初から利益度外視、年末の集客の呼び物として数量限定で作られる。半値印証時刻まで残る事は稀だが、残れば確実に月桂冠になる」

泉「私は半額になる前に買って食べたが、絶品だったよ。月桂冠として食べれば尚更だろうね」

佐藤・白粉「「…………」」ゴクリ
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/23(土) 23:36:02.86 ID:HfRNcJgn0<> 槍水「餓狼が半額弁当に興味がないのなら、現れる可能性は低い。争奪戦は通常通り行われるだろう。それで、もしお前たちも予定が合えば……」

佐藤・白粉「「行きます!!」」

泉「ふふ……」

槍水「今夜は散々だったからな、活動納めのやり直しだ」 フフ

佐藤・白粉「「はい!!」」

 活動納めのやり直し。

 明後日の半値印証時刻にホーキーマートに集まる約束をして、今夜は解散となった。

**  **  ** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/23(土) 23:38:42.29 ID:HfRNcJgn0<> **  **  **

 先輩、白粉と店の前で別れ、僕は帰る方向が同じだという泉先生と二人、並んで路地を歩いていた。

泉「降ってきたな……」

 泉先生が不意に夜空を見上げ呟く。

佐藤「雪……」

 釣られて視線を上げると、夜空に雪がちらついていた。

佐藤「…………」

泉「…………」

 雪の降りしきる中、僕たちは無言で歩いた。

 会話の内容が思いつかなかった訳ではない。

 むしろ先輩たちと別れ、泉先生と二人きりになった今、 聞きたい事は山ほどあった。
 タンバについて。
 餓狼について。
 しかしタンバから手を引くよう半額神や魔導士、他の狼 たちから釘を刺された手前、口にするのは憚られた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/23(土) 23:41:09.47 ID:HfRNcJgn0<> 佐藤「…………」

 餓狼に興味がある素振りを見せまいと、つい黙り込んでしまう。

泉「…………」

佐藤「…………」

泉「…………」チラッ

佐藤「…………」

泉「……金城君もね」

佐藤「…………?」

 泉先生が口を開く。

泉「最初に餓狼と遭遇した時は、今のきみと同じだったよ……」

佐藤「……何の話です」

 どうやら……

泉「負けたまま引き下がるのは嫌だ、と……そんな事を考えていたのだろう?」

 心中を見透かされていたらしい。

佐藤「…………はい」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/23(土) 23:45:13.73 ID:HfRNcJgn0<> 泉「……金城君もね、そうだった。私の弟子、名を藤巻というのだが……奴にスーパーで敗れたあと、連日この地域の スーパーを駆けずり回って藤巻を探していたよ」

佐藤「それは、再戦のため、ですよね……」

泉「無論、そうだ。らしくもなく熱くなっていてな。毛玉君や他の狼たちからも情報を求めて捜索の手を広げ、やがて魔導士完敗の話は餓狼を知るジジ様や私の耳にも入るようになった」

佐藤「それで先生やジジ様があの人を止めた……」

泉「……いいや、止まらなかった。餓狼の存在、成り立ちを説明し、藤巻から手を引くよう説得したが、最初は頑として聞き入れなかった」

佐藤「そんな……」

 あの冷静沈着な魔導士が、半額神や古狼の説得を無視してまで報復に固執するなんて……。

泉「彼は藤巻に敗れた悔しさで狼としての本分を見失っていた。あくまで半額弁当を求めてこその狼……しかし、あの頃の金城君は藤巻と戦う事しか頭になかった。半額弁当が見えなくなっていたのだ……」

佐藤「半額弁当が……見えなくなる……」

 そうだ……。

 闘いだけを求める餓狼を相手にするという事は、半額弁当の奪取という、狼の本懐から目を背ける事になる。

 目を背ければ、どうなる?
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/23(土) 23:48:41.88 ID:HfRNcJgn0<> 佐藤「…………!」

泉「わかってきたようだね。狼は餓狼を同類と見て、戦いを仕掛ける。まず勝てはしない。ほぼ確実に敗れる。そして当然、誇りある狼は報復を試みる。餓狼との再戦、それはすなわち弁当とは無関係な戦い。闘争のみを求める餓狼の土俵に上がるという事。つまり――――」

佐藤「報復を試みて餓狼との再戦に挑んだ場合『腹の虫の加護』が得られない……!」

 初戦は相手を狼と誤解して挑むから、弁当に意識が向き『腹の虫の加護』が得られる。

 しかし相手が弁当に興味がないとわかった上で挑む再戦では――――

泉「その通り。餓狼の真の恐ろしさは初遭遇時ではなく再戦時にこそある。『腹の虫の加護』が得られない、あるいは著しく弱まった状態で、『闘争への飢餓』で力を引き出す餓狼とぶつかる事になる」

佐藤「ウィザードもそれに気付いた……」

泉「そう、狼と餓狼では戦う土俵がそもそも違う、という事にね。そして彼は藤巻から手を引いた……」

佐藤「よく、わかりました……僕たちが戦う相手ではない、という意味が……」

 餓狼との再戦の危険性。

 餓狼遭遇時の魔導士と同じく、敗戦の悔しさでそこまで考えが及んでいなかった。

 今夜の戦いは、あれでも善戦できていたのかもしれない。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/23(土) 23:53:17.76 ID:HfRNcJgn0<> 佐藤「しかし先生、何故僕にだけこの話を……?」

泉「君が餓狼に出会った頃の金城君に似ているように見えたから、といのが一つ……そして……」

 先生は歩く速度を緩めた。
 遠くを見つめるような目。

泉「君や金城君に、狼を引退した頃の自分を重ねてもいた ――――」

佐藤「引退した頃の先生……?」

 先生は頷き、一つ大きくため息をついた。

泉「私が争奪戦と出会ったのは、まだ武術家として未熟な小僧の時分でね。食うに困って半額弁当に手を出し、狼の世界を知った。楽しかっよあの頃は。夢中で弁当を求め、必死でスーパーを駆けた……」

佐藤「先生は武術の道にありながら、餓狼ではなく狼だったんですね……」

泉「ああ……だが争奪戦を知り数年が経ち、武術の腕が上がるにつれ、私は弁当を奪取する事よりも戦いそのものを楽しむようになっていった……」

佐藤「…………」

 本物の武術家である先生と素人の自分を同列に語るのは不遜だが、なんとなく共感できる話だった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/23(土) 23:57:35.18 ID:HfRNcJgn0<> 泉「ある日の事だ。私が毎夜通っていたスーパーに、その当時の強豪、実力者が一堂に会した事があった。加えてアラシまで現れて、その日の争奪戦は大荒れに荒れた……」

佐藤「勝ったんですか……先生は」

泉「勝ったよ……いや、負けた、のかな」

佐藤「どういう事です?」

泉「一人勝ちだった……他の狼たちもアラシも全員フロアに倒れ伏していたよ。満足のいく戦いだった。愉快だったよ、竹宮流の技まで使って大いに暴れまわり、結果、立っていたのは私一人だった……」

佐藤「なら、どうして負けたなんて……」

泉「戦いを終えて意気揚々と帰宅し、私は気付いた……」

 泉先生は歩みを止め、目を細めた。

泉「弁当をね……買っていなかったんだ、その日の私は…… 狼もアラシも全員打ち倒しておきながら……!」

佐藤「…………!」

泉「それに気付いた時の衝撃は忘れられない。自分を恥じたよ。月桂冠さえ出ていたのに、私は戦う事に満足して弁当を買う事を忘れたのだ……」

佐藤「そんな……」

泉「その日以来、私は狼である事をやめた……なぜなら私は……あの夜……!」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/24(日) 00:03:05.04 ID:/G9VZEh80<>  先生は細めた目をきつく閉じ、眉間にシワを寄せた。

 辛そうな表情。

 やがて搾り出すように、先生は言った。

泉「あの夜……ッ!私は勝ったと思ったのだ……!弁当を手にしていない以上、争奪戦では敗北しているにも関わら ず……!弁当を買い忘れた事に気付いて尚、勝ったとしか思えなかったのだ……ッ!」

佐藤「…………!」

泉「金城君は、餓狼を『自覚なき狼』と言った。しかし、半額弁当を求める狼が闘いの愉悦に目覚め、餓狼と化すケースもある……その実例が私だ……」

佐藤「先生……」

泉「私はね、金城君や君に私と同じ道を歩んで欲しくはな い……もはやスーパーに自分の居場所がないと悟った時のあの気持ちを、君に味わって欲しくはない……だからあの頃の金城君や、君にこの話をした……」

 古狼、泉宗一郎がスーパーを去った訳。
 先生は僕を諌めるために辛い思い出を語ってくれたのだ。

 タンバとの再戦は、いよいよ諦めるしかない。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/24(日) 00:08:31.17 ID:/G9VZEh80<> 佐藤「わかりました……先生。餓狼には手出ししないと約束します……」

泉「……うむ。それでいい。君はあくまで狼として――――」 ハッ

佐藤「……?先生?」

 先生は不自然に話を中断し、路地の前方を見た。

佐藤「!」

 僕もすぐに気付いた。

 路地の前方、外灯の明かりの向こう側。
 薄い暗がりの中に人影が見えた。

 はっきりと姿が見えなくても気配でわかる。

泉「丹波君……!」

丹波「どうも……先生」ザッ

 やはりタンバ……!

泉「丹波君……君は……」

佐藤「…………!」

丹波「怖ぇ顔すんなよ、サトウ……」ククッ

泉「丹波君、彼は……!」

丹波「わかってますよ、先生。ただちょっとコイツにね……」

 タンバが僕に視線を向ける。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/24(日) 00:13:14.89 ID:/G9VZEh80<> 佐藤「なんの用だ……」

丹波「用って程のモンでもないんだが……」ポリポリ

佐藤「…………?」

 タンバは後頭部を掻きながら言い淀む。

丹波「サトウ……」

 タンバは頭から手を下ろし僕を見据えた。


丹波「またな……」クルッ


佐藤「……!」

 そう、一言だけ呟いて、タンバは踵を返す。

泉「〜〜〜〜ッ丹波君!明日道場に来なさい!」

 歩み去るタンバの背に先生が叫んだ。

丹波「…………」ヒラヒラ

 了解の意を示すように背を向けたまま手を振り、タンバは路地の闇に消えた。

佐藤「…………」

泉「佐藤君……!いかんぞ、わかっているな?」

佐藤「…………はい」ブルッ

泉「〜〜〜〜ッ!!」

 わかっている。

 餓狼ともう一度戦うという事は、狼である自分を捨てるという事。
 ただの佐藤洋として、餓狼、プロの格闘家、空手家のタンバに挑むという事。

 どう考えても無謀。

佐藤「…………」

 
 しかし、タンバの『またな』という一言は。

 
 明後日の先輩たちとの約束よりも、深く僕の胸に刻まれた。


********************* <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/24(日) 00:17:55.73 ID:/G9VZEh80<> 今日はここまで
これで二章終了です

三章はこれ程長くならないと思います
ベン・トーでは原則ありえない一対一の勝負にする予定です <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/24(日) 00:19:15.07 ID:c0tnVscDo<> 乙
そろそろクライマックス? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/24(日) 00:27:47.03 ID:/G9VZEh80<> はい
あとは決着戦だけです
まだ完結を急ぎ過ぎない程度に前振りを少し書くつもりですが <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/24(日) 06:06:03.54 ID:t0BsBhczo<> ついにタイトルの弁当の情報が出たか
てか泉先生の過去すげえな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/24(日) 07:58:27.54 ID:6WjczEQco<> 乙
元々赤字覚悟で500円が半額で250円なのか
売れ残るのが不思議なレベルだww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/24(日) 15:12:16.65 ID:9h61ACzh0<> 何も考えずにスレタイ書いてしまいまして
次回投下は一週間後にします <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/27(水) 02:15:03.37 ID:0EqUWJOn0<>  
 第三章

 佐藤「年末ご奉仕弁当」丹波「250円……!」

 
 12月27日。
 時刻は10時20分。

 泉宗一郎は、自宅道場の板の間で丹波分七と向かい合っていた。

 泉「――――と、いう訳だ。だから彼らにスーパー以外で手出しをしても、君の満足のいく戦いにはならない」

 丹波「俄には信じられませんが……」

 泉は昨夜の言い付け通り道場に現れた丹波に、半額弁当争奪戦、狼について説明した。

 丹波はあのような中途半端な決着に納得する男ではない。

 他の狼たちはともかく、強引な中断で決着がついていない佐藤洋が路上で丹波の襲撃を受ける危険を避けるため、 昨夜の事情を戦闘する必要があった。

丹波「心配しすぎですよ……先生」

 話が終わり、丹波は正座を崩し胡座をかいた。

丹波「確かにガキにしちゃ強かったが……いくらなんでも、こちらから手を出したりしません」ハハ…

泉「…………」

 その言葉を、泉は信じなかった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/27(水) 02:18:28.35 ID:0EqUWJOn0<>  確かに、丹波には武の道に生きる者としての誇りも、歳相応の思慮深さもある。
 泉とて、丹波が素人の高校生を相手に野試合を仕掛けるなど、本来なら考えもしない。

泉「なら……昨夜佐藤君を待ち構えていたのは何故だね……?」

丹波「…………」

 粗野に見えて思慮深く、冷静で、強か。

 空手家、丹波分七のそんな一面を知る泉だったが、同時に彼の深淵にあるもの、本質的な部分を見抜いてもいた。

 丹波分七の本質。

 闘いを求める獣の性質を。

丹波「あいつ次第だった……昨日は」

泉「佐藤君がその気なら、あの場でスーパーの決着をつけていたと?」

丹波「ええ……ですが、どうも……そういう空気じゃなかったんでね……」

泉「スーパーの外では、あの通りただの高校生だよ、彼は」

丹波「はい。泉先生のお話を聞いて、納得しましたよ。腹の虫の加護……確かにそんなものの存在でも信じない限り、ブーツや双子の強さは異常としか思えない」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/27(水) 02:21:42.54 ID:0EqUWJOn0<>  泉は丹波に、餓狼についての説明はしていない。

 丹波が、自身が餓狼と呼ばれる存在である事を知っていようといまいと、彼が餓狼である事には変わりがない。

 説明する意味がなかった。

 泉は単に、狼たちが求めるのは半額弁当であって、戦いそのものは弁当奪取の手段としか考えていないと話した。
 昨夜の狼たちへの忠告と同様に、戦う相手を間違えている、と。

泉「彼女たちのように、年端もいかない女子供に力を与えるのが腹の虫の加護だ。争奪戦に於いては、性別、体格、 身につけた戦闘の技術はある程度無視され、腹の虫の加護が最重要とされている」

丹波「…………」

泉「槍水君もまた、スーパーの外では可憐な乙女に過ぎない……」ホゥ

丹波「……先生?」

泉「以前、ウチで稽古をつけてあげた事があるんだが、なかなか筋がよくてね。虎王を教えた時など――――」

丹波「虎王!?」

泉「あっ」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/27(水) 02:24:45.23 ID:0EqUWJOn0<> 丹波「あのブーツに虎王を教えたんですか!?」

泉「ああ、いや、その……」

丹波「何考えてんスか……先生…………」

泉「いやあ、なんだかんだ同業者の間では有名な技だし、 いいかなって……」

丹波「『いいかな』って……藤巻が知ったらなんて言うか……」

泉「な、内密に頼む……」

丹波「それは……いいですけど……」

泉「…………」

丹波「…………」

 道場に沈黙が降りる。

泉「ともかく……」

丹波「……はい」

泉「狼への手出しは無用。彼らにも君をスーパーで見かけても手を出すなと伝えてある」

丹波「それは……わかりました。ですが……」

泉「こ、虎王の事は君にも藤巻にも本当にすまなかったと思っている……!魔が差したのだ……!あの脚線美は……ッ!」ギュ

 泉は正座した袴の膝元を握りしめた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/27(水) 02:27:11.26 ID:0EqUWJOn0<> 丹波「あ?ああ、いえまぁ、それはいいんですけど……」

泉「?ではなんだね。まだ何か――」

丹波「サトウの事なんですが……」

泉「!丹波君、やはり君は……」

丹波「いえ、ただ……」

泉「ただ、なんだね……」

丹波「どうにも、ね。あいつは――」

 丹波の目が据わる。

泉「……!」

 泉は息を飲んだ。

 以前、立ち合った時と同じ目。

 やはり、丹波もまた、佐藤洋の性質を見抜いている。

泉「ならん。何度でも言う。彼らは君の相手ではない」

丹波「彼『ら』じゃない。サトウの話です。昨日やった中じゃ、筋が良かったのはブーツ、茶髪、双子あたりだが……一番面白かったのはあいつです」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/27(水) 02:29:21.65 ID:0EqUWJOn0<> 泉「確かに。佐藤君はある種、倒し甲斐のある……というか……打てば響くような、闘い甲斐のある男だ。しかし彼はまだ高校生、そして素人……丹波分七が闘う相手ではあるまい」

丹波「……スーパーなら、あいつは昨日のように強くなるんでしょう?」

泉「なる。しかし駄目だ」

丹波「先生……」

泉「……どうしても彼に手を出すというなら――――」

 泉は立ち上がる。

泉「私が相手になる。力ずくでも君を止める」

丹波「――――ハッ……先生」

 丹波は笑みを浮かべた。

丹波「それじゃあ、俺にはご褒美だ……」ニタア

泉「ぬっ……!」

丹波「教えて下さい……サトウの連絡先を……」

泉「〜〜〜〜ッ!!」


**  **  ** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/27(水) 02:32:09.36 ID:0EqUWJOn0<> **  **  **


 餓狼、丹波分七来襲の翌日。
 時刻は13時10分。


佐藤「…………」ポチポチ

 僕は寮の自室で携帯を開き、ネットに接続した。
 某大型匿名掲示板を開き、今朝寮長から男子寮生に一斉送信されたメールにあったスレッドタイトルを検索する。

 『ちょwww妹が下着姿で寝てるww』

佐藤「これか……」

 検索結果に目当てのスレッドを見つけ、開く。

佐藤「…………」

 『ここはID腹筋スレです
  sageずに書き込み、IDに出た数字の回数腹筋して下さい』

佐藤「…………」ポチポチ

 僕は一言『寮長氏ね!!』と書き込んだ。

 スレッドに書き込みが反映され、僕は自分のIDを確認する。

佐藤「……9、14…………126回か」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/27(水) 02:35:32.33 ID:0EqUWJOn0<>  床に腰を下ろし膝を曲げ、僕は腹筋を開始する。

佐藤「いっち……にっ……さん……」グッグッ

 この、ID腹筋スレは。

佐藤「しっ……ごっ……ろっ……く」グッグッ

 寮長が立てたものだ。

佐藤「ななっ……はちっ……」グッグッ

 目的は男子寮生の欲望発散。

佐藤「くっ……じゅっ」グッグッ

 休み中だろうと関係なく行われる、烏田高校男子寮、伝統のトレーニング。

 IDに数字が出なければお休み。

 数字が出た者は一人5レス、すなわち5セットの参加を義務づけられる。

 腹筋しながら、スレッドを更新する。


 『寮長の馬鹿!』

 『寮長のアホ!』

 『くたばれ寮長!』

 『妹の画像よこせ寮長!』

 『そもそも寮長に妹なんていたか!?』

 『落ち着けみんな!これは寮長じゃなくて女王様からの命令だと思え!』

 『黙れU!!寮長のクソッタレ!』

 『なんなのこのスレ……誰だよ寮長って』

佐藤「……ふッ」グッグッ
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/27(水) 02:38:45.35 ID:0EqUWJOn0<>  帰省した寮生の皆も、それぞれ地元で腹筋に励んでいるようだ。

 レスに『寮長』と書く事で、烏田の男子寮生である事を示している。
 ID腹筋スレである事をわかっていながらも期待してしまう男心と、匿名掲示板である遠慮のなさから、寮長への罵声を兼ねるのが伝統の一部になっていた。

 最後のレスは一般の利用者だろう。

佐藤「ひゃくにじゅう……ろっ……く!」グッ!

 1セット目を終え、2レス目を書き込む。

 『寮長!パンツはまだか!!」

佐藤「ふっ……ふっ……」グッグッ

 腹筋を開始。

佐藤「ふっ……ふっ……」グッグッ

 無心で体を動かす。

 昨夜の事を忘れるには、丁度いい気晴らしだった。


佐 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/27(水) 02:41:49.99 ID:0EqUWJOn0<> 佐藤「ふっ……ふっ……」グッグッ

 昨夜、泉先生と別れた後、僕は毛玉に連絡を取った。

 丹波の事を聞くためだ。
 知り合いの中で格闘技に詳しい人物に心当たりがなく、 何かと事情通の毛玉なら何か知っているのではないかと考えたのだ。

 毛玉は丹波を知っていた。
 数日前、テレビで試合が放送されていたらしい。
 昨日丹波と戦った狼たちは、試合の放送時間と半値印証時刻が被っていたため誰も放送を見ていなかったのだ。

 毛玉に動画サイトに試合の映像がアップされている事を聞き、僕はまっすぐ寮に帰らずネットカフェに向かった。

佐藤「ふっ……ふっ……」グッグッ

 試合の映像は衝撃的なものだった。

 こんな試合をする人物に正面から飛び掛かったのかと思うと寒気がした。

 次いで丹波のプロフィールを検索した。

 しかし詳しい事は何もわからなかった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/27(水) 02:45:30.96 ID:0EqUWJOn0<>  丹波分七。
 寝技、関節技にも精通した流浪の空手家。
 謎の空手家という肩書きを強調するめ、FAWは丹波の詳しい経歴を公開していなかった。

 丹波が初めて公の場で戦ったのは、やはりFAWの興業だった。

 人気レスラー梶原年男の試合に、梶原の本来の対戦相手を襲撃、撃破し、クマの着ぐるみを着てリングに乱入。
 そのまま梶原と闘い撃破した試合が、ネット上では丹波のデビュー戦とされていた。

 この乱入騒動は、後にマッチメイクされた丹波vs堤を盛り上げるため、FAWが丹波の衝撃的デビューを演出するため仕組んだ試合だと解釈されているらしい。

 梶原との一戦も、動画サイトで視聴した。

 そして僕は、梶原と丹波の試合がネットで囁かれているような、演出、八百長の類ではなく、本物の真剣勝負だと確信した。

 根拠らしい根拠はない。

 腕を折られた梶原の悲鳴が、演技にしては真に迫っていた、というのもあるが、僕が目を奪われたのは丹波の表情だった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/27(水) 02:49:19.43 ID:0EqUWJOn0<>  着ぐるみの頭を取り、アップで映し出された丹波の表情。
 据わった目付きのまま口角を持ち上げるあの不敵な表情が、スーパーで見たものと同じだと気付いた瞬間、僕はあの試合を作り物だとは思えなくなった。

佐藤「ふっ……ふっ……」グッグッ

 堤城平。
 梶原年男。

 あれが、丹波の本来の獲物。

 僕には狼としての誇りがある。 半額弁当を追い求める自分を卑下する事はないが、丹波の住む世界を垣間見て、改めて思い知らされた。

 あの男は僕が戦う相手ではないと。

 泉先生や魔導士は、餓狼は狼が戦うべき相手ではないと言った。

 しかしそれ以前に、僕、佐藤洋と丹波分七が拳を交える事がまず有り得ない、本来ならあってはならない事だと思えた。

 選ばれた人間だけが立ち得るリングに、丹波は立っている。

 あの光り輝くリングの中での闘いを見れば、ただの高校生に過ぎない僕が丹波との再戦を望むなど、おこがましいにも程がある。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/27(水) 02:52:42.78 ID:0EqUWJOn0<>  住む世界が違う。

 次元が違う。

 僕にとって、丹波はあまりにも遠い存在だった。

 諦めるしかない。

佐藤「ふっ……ふっ……」グッグッ

 昨夜の熱を振り払うように、僕は腹筋に励んだ。

佐藤「ふっ……ふっ……」グッグッ

 丹波の事を考えるのはやめて、明後日の争奪戦の事を考えようとした、その時だった。


 ガチャ


佐藤「?」

???「ただの馬鹿そうなガキかと思ったら……」

佐藤「!?」

丹波「こういう事はちゃんとやってんだな……」

佐藤「タン……バ……!」

丹波「泉先生に聞いてな、寄らせて貰ったぜ……」

佐藤「なんで……!」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/27(水) 02:56:16.07 ID:0EqUWJOn0<> 丹波「まぁ、な……」キョロキョロ

 突然の来訪。

 丹波は僕の部屋を見渡し、眉尻を下げて笑う。
 その険のない表情が、昨夜のスーパーと試合の映像でしか丹波を知らない僕には意外だった。

丹波「漫画に……ゲーム……やはりガキだな、佐藤」ハハ……

 ジャンプSQを拾い上げ、パラパラとめくる丹波。

佐藤「〜〜〜〜ッなっ何しに来たって聞いてんだ!」

丹波「泉先生にな、許可を貰ってきた」バサッ

佐藤「許可……?」

 泉先生に許可?
 何を言ってる……?

丹波「俺とお前の決着をつける許可だ。場所は昨日のスー パーでいい……」

佐藤「なっ!?」

丹波「泉先生に聞いたが、お前ら、スーパーなら強いんだろ?昨日はなかなか楽しめた。決着がついていないのはお前だけ……やるよな?」

 そんな……!

 何故泉先生がそんな事を許した……!?

 あれほど餓狼には手を出すなと言っていたのに――――
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/27(水) 02:59:21.74 ID:0EqUWJOn0<> 佐藤「ほ、本当に……泉先生が?」

丹波「ああ、色々と条件はつけられたが……本当だ」

佐藤「でも……」

丹波「なんだ?ビビってんのか……今更……」

佐藤「あんたの試合を見た。僕なんかがあんたとやったって……」

 勝てる訳がない。

 やる意味はない。

丹波「ハァ……」

 丹波がため息をついた。

丹波「何を今更だ、佐藤。昨日のお前は……」

佐藤「あっあれは!……あんたが、狼だと思ったから……」

 知らなかったから戦えた。

 知っていれば。

佐藤「あんたの事を知っていれば、やろうとは思わなかった……」

丹波「…………違うな」

佐藤「?」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/27(水) 03:03:37.87 ID:0EqUWJOn0<> 丹波「俺の事を知っていようがいまいが、お前は戦ったよ……」

佐藤「そんな……」

丹波「…………スーパー以外じゃただのガキだってのはマジ なんだな……」ハァ

 自覚がねぇときてる、と。

 訳のわからない事を呟く丹波。

丹波「まったく……」

 丹波は僕に歩み寄り、しゃがんで目線を合わせた。

佐藤「…………!」

丹波「佐藤……一度だけだ……」ドンッ

 拳を握り、緩く僕の胸を叩く丹波。

佐藤「…………!」

丹波「一度だけ、俺も狼になってやる……」

佐藤「!?」

 丹波が……餓狼が、狼に……?
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/27(水) 03:05:47.25 ID:0EqUWJOn0<> 丹波「争奪戦については先生に聞いた。先生には今日から 明日の夜までメシを喰うなと言われてる」

佐藤「それが、泉先生がつけた条件……?」

丹波「ああ、他にもいくつかあるが……とにかく、弁当を奪い合う闘いならやってもいいとさ……先生や……昨日の優男が立会人を務めるそうだ。まぁ、詳しい事は後で先生に聞きな……」

 丹波を空腹状態にする事で、丹波の興味を闘いから逸らし弁当に引きつけるという事か……。

 しかし、それでも互いの戦力差は歴然。

佐藤「…………でも、やっぱり」ブルッ

 争奪戦に於ける条件を整えた所で、僕が丹波に敵う道理などない。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/27(水) 03:08:55.64 ID:0EqUWJOn0<>  昨夜の熱はもう冷めた。

 僕は怖気づいていた。

 やりたくない。

 恐ろしい。

 僕は。

佐藤「僕には無理だ……あんたと――――」

丹波「――――佐藤」ククッ


 ドンッ


 丹波がもう一度、僕の胸を叩く。

 佐藤「…………!」

 
 ドン

 ドンッ


 扉をノックするように、二度、三度。

丹波「お前…………笑ってるぜ」

佐藤「!」サッ

 僕は右手で口元に触れた。

丹波「話はついたな……」スッ

 丹波は立ち上がる。

丹波「それじゃあな。明日だ」

 最後に凶悪な笑みを浮べ、丹波は部屋を去った。

佐藤「…………」ペタ

 
 右手が触れた口元は、丹波の指摘通り、口の端が持ち上がっていた。


 丹波に叩かれた胸が、やけに熱い。


**  **  ** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/27(水) 03:12:48.90 ID:0EqUWJOn0<> ** ** **

金城「丹波がそんな事を……」

泉「やむを得ない……これしか方法は……」

 時刻は14時15分。

 泉に呼び出され、金城は道場を訪れていた。

 通された居間で泉と向き合う。

金城「まさか、丹波の方が佐藤に固執するとは……」

泉「佐藤君との再戦を許さなければ、これから毎晩ホー キーマートに出向く、と言っておった。もし、そんな事をされたら……」

金城「毎夜、狼たちは丹波に蹂躙され、弁当は誰にも穫られず、ホーキーマートの争奪戦は成立しなくなる。あの店の争奪戦が、崩壊する……!脅迫だ……それではッ!」

泉「佐藤君との対戦を許可すれば、その一戦限りでスー パーを去る、と」

金城「馬鹿な……!」

泉「すまぬ……丹波君に手を引かせるため争奪戦について話した事が裏目に出た……」

金城「餓狼は大猪でも止められない……脅迫に乗るしかないのはわかります……ッ!」

 金城は拳を握りしめた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/27(水) 03:16:17.91 ID:0EqUWJOn0<> 金城「だがそれでは……!まるで佐藤が餓狼をスーパーか ら追い出すための生け贄だ……ッ!」

泉「…………すまぬ」

金城「…………!」

 泉は目を閉じ、口を真一文字に結ぶ。
 
 その表情を見て金城は悟った。

 泉が全て承知の上で、丹波の申し出を受けた事を。
 泉宗一郎は、決して浅慮でこんな馬鹿げた戦いを許す男ではない。

 金城はなんとか怒りを呑み込み、体から力を抜いた。

 泉が目を開く。

金城「先生、話して下さい。どういうつもりでこんな事を……」

泉「……丹波君には、明後日の夜までメシを喰うなと言いつけてある。そして、争奪戦のルールをより詳しく説明した」

金城「餓狼を狼に……可能なのでしょうか……?」

泉「狼から餓狼に転じた私が保証する。一時的な転身なら可能……そしてもうひとつ……丹波君を佐藤君の所へ向かわせた……」

金城「なんのために?」


泉「丹波君には、佐藤君を挑発して来い……煽って来い、 と」


金城「泉先生……!」

 一瞬で頭が湧き上がる。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/27(水) 03:20:06.80 ID:0EqUWJOn0<>  金城は立ち上がり、詰め寄った。

金城「あんたって人はッ!」グアッ!

 ドガッ!

泉「…………」ドサッ

 金城は拳を振りかぶり、泉を殴りつけた。

 泉は抵抗する事なく金城の拳を受け入れた。

金城「佐藤の『闘争への飢餓』を煽るつもりかッッ!!」

泉「…………」

金城「餓狼を狼に!狼を餓狼に!それがあんたの書いたシナリオかッ!!」

泉「…………」

金城「藤巻を追っていた頃……『闘争への飢餓』に支配されていた俺にはわかる……!一度餓狼に転ずれば、もうスーパーには戻れない……狼としての誇りが……半額弁当を欲する心が失われてしまう……!それはあんたが一番わかっている筈だッ!」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/27(水) 03:23:39.96 ID:0EqUWJOn0<>  絶食させ弁当に意識を向けさせれば、餓狼を一時的に狼に転身させる事は可能だろう。

 しかし狼が餓狼に転ずるという事は、戦いという手段が、目的に変わる事を意味する。
 そうなれば狼はスーパーを駆ける意味を失う。弁当への関心を失い、スーパーを去る事になる。

 餓狼が一時的に弁当を欲し狼に転じても、失う物はなにもない。

 争奪戦が終われば丹波は丹波の戦いに戻るだけだ。

 しかしその逆は――――

 闘いの愉悦に目覚めた佐藤は――――

泉「……果たして」ムクリ

 泉は起き上がり、口を開いた。

泉「そうだろうか……」

金城「…………?」

泉「餓狼に転じた頃の私、そしてHP部を抜け、孤独に餓狼を追っていた頃の君にはなかったものを、佐藤君は持っている……」

金城「あの頃の俺や、先生になかったもの……」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/27(水) 03:27:49.91 ID:0EqUWJOn0<> 泉「…………」

 泉の澄んだ瞳。

 真摯な眼差し。

 誠実な教導者の目。

 金城は泉の言わんとする事に気づいた。

金城「仲間……」

泉「……左様」

 泉が微笑む。

泉「昨夜、バックヤードでの佐藤君と仲間たちのやり取りを見て、な……胸が熱くなった……本当に、久しぶりに……狼だった頃の気持ちを思い出した……」

金城「…………」

 金城はHP部を去り、独りスーパーを駆け、餓狼と出会った頃の荒んだ過去に想いを馳せた。

 確かにあの頃の自分は孤独だった。

 それに気付いたからこそ、金城は藤巻から手を引く事が出来た。

 スーパーには仲間がいる。

 だからこそ、金城は今も狼としてスーパーで戦っている。

泉「古狼と呼ばれていながら、その実餓狼に転じ、狼の気持ちなど忘れてしまっていた私が、あの頃の情熱を思い出したのだ……彼らなら、佐藤君を引き戻してくれる……そう思ったからこそ、この策を実行に移した。丹波君の目を弁当に、佐藤君の目を丹波君との闘争に向けさせる策をな」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/27(水) 03:30:43.42 ID:0EqUWJOn0<>  丹波から『闘争への飢餓』を奪い、佐藤から『闘争への 飢餓』を引き出す。

金城「上手くいくでしょうか……」

泉「おそらく佐藤君は、丹波との闘争に我を忘れるだろう。だから佐藤君にも絶食の指示を出す。『腹の虫の加護』で彼を繋ぎ止める……そして金城君、君にもやって欲しい事が二つある」

金城「何です」

泉「丹波君の要求は一対一の勝負。君の号令で、他の狼たちの参戦を禁じて欲しい。できるかね?」

金城「それは……アブラ神の協力を得られれば可能でしょうが……もう一つは……?」

泉「今夜の争奪戦に佐藤君を連れて行き……『あの技』を彼に授けて欲しい」

金城君「『あの技』……まさか!?」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/27(水) 03:33:53.92 ID:0EqUWJOn0<> 泉「その危険性故に禁じ手とされ、争奪戦の歴史の闇に消えた技……『天を駆ける者』にのみ使用可能なあの技を……」

 泉は、ただ佐藤を死地に送り込むつもりではなかった。

金城「相手が餓狼、丹波分七なら……佐藤にはあの技を使う資格がある……という事ですか」

泉「それで佐藤君に万に一つの勝機が生まれる」

 スーパーでの戦いを知らない丹波には、もしかしたら通用するかもしれない。

 丹波を倒せるかもしれない。

 一筋の光明。

金城「……わかりました。早速ホーキーマートに。毛玉に連絡を取って狼たちに事情を伝えます。その後は佐藤と……」

泉「……うむ。頼んだ」

金城「それでは、また明日の『争奪戦』で」

泉「うむ……!」

 金城は道場を後にした。


**  **  ** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/27(水) 03:36:55.49 ID:0EqUWJOn0<> **  **  **

 
 時刻は18時30分。

 僕は争奪戦に向かうため寮を出た。

 先輩から番号を聞いたという泉先生から連絡があり、事の次第を聞かされ、絶食の指示を受けた。

 確かに、限界まで腹の虫の力を引き出すのは丹波と戦う上では必須の準備だろう。

 相手が相手だ。

 丹波との、一対一の争奪戦。

 あくまで弁当の奪取を目的に戦う条件で組まれたこの変 則マッチを、他の狼たちも了承してくれたらしい。

 明日は特別な弁当が出る日だというのに、サシの争奪戦などという勝手を許してくれ狼たちのためにも、絶対に負けられない。

 出来うる限りの準備をする必要がある。

 絶食の指示を受けながら争奪戦に向かうのもその一環だった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/27(水) 03:43:03.61 ID:0EqUWJOn0<> 佐藤「お待たせしました」

金城「ああ、では行こうか」

槍水「佐藤……」

 寮まで迎えにきてくれた二人の先輩と落ち合う。

佐藤「先輩……」

槍水「…………」

 槍水先輩の表情が険しい。

槍水「すまん、佐藤……本来なら私が戦うべきなのに……」

佐藤「……いえ、構いません。先輩の縄張りで奴の好きにはさせません。それよりも……明日の約束を反故にしてしまって……」

 やむを得ない事とはいえ、活動納めのやり直しはお流れになってしまった。

槍水「仕方のない事だ。また来年、だな……」

佐藤「はい……」

金城「……丹波の要求は佐藤との決着……できる限りのフォ ローはする」

槍水「……はい」

佐藤「それで、どういう事なんです?今夜の争奪戦には何 故……」

 泉先生には、ただ魔導士とスーパーに向かえとだけ言われていた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/27(水) 03:45:52.23 ID:0EqUWJOn0<> 金城「……俺に出来る唯一の事……お前に、ある技を伝える」

佐藤「ある、技……」

金城「俺たちも形式上は争奪戦に参戦するが、技の伝授を優先する」

佐藤「わかりました。とにかく、あなたと戦えばいいんですね」

金城「ああ、そうだ……そして仙――――」

槍水「……はい」

金城「この後佐藤の身に何が起きようと、一切の手出しは無用」

槍水「はい……」

 やはり先輩の表情が冴えない。

 先輩は僕がこれから教わる技について何か知っているのかもしれない。

 それほど危険な技なのだろうか……。

佐藤「その技とは一体……」

金城「実際に見た方が……いや、体感した方が早い。行こう、スーパーへ」

佐藤「はい」


**  **  ** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/27(水) 03:49:22.55 ID:0EqUWJOn0<> **  **  **


 そして、数十分後。


槍水「佐藤ッッ!!」ダッ


佐藤「〜〜〜〜ッ!!???」ドサッ


 僕は、スーパーのフロアに尻餅をついていた。


佐藤「…………ッ!!」

 
 い、今のは――――!?


金城「わかったか?佐藤……何をされたのか……」


佐藤「これが……!この技が……!」ブルッ


 スーパーに於ける禁じ手――――!!


金城「そう、その名も――――」


**  **  ** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/27(水) 03:53:01.68 ID:0EqUWJOn0<> 今日は以上です
次回投下で完結になります
一ヶ月以内の完結は無理でしたがちょいオーバーで済みそうです <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/27(水) 04:20:58.37 ID:N0u8SzRTo<> 乙
こんな時間に投下だと…
泉先生が変態にwwww
そして佐藤に虎王伝授するとか胸熱
まあボカしてるから違うのかもしれんが
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/27(水) 06:41:01.06 ID:9znUrwZ+o<> 乙
空駆けるって感じじゃないし違うんじゃないかね
それに虎王じゃ丹波の意表をつくことすらできんだろ
槍水先輩に伝授した理由が予想を越えてしょうもなかったww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/27(水) 12:47:23.24 ID:yPjTVDXco<> 乙
ついに次回完結ですか!
正座で待ってます <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/03/01(金) 08:25:55.15 ID:kKSh1z9U0<> 投下は来週火曜か水曜くらいになりそうです

ちなみに話を練り始めた当初は

泉「そうそう、虎がこう――顎で噛み砕くような――」

槍水「こうですか?」パシッ

 ガキィッ!!
 
 ドサッ

泉「〜〜〜〜ッッ!!?」

 
 虎王 完了


槍水「これでいいんでしょうか?」グイッ

泉「う、うむ!いいぞ!槍水君!」イテテ

泉(この脚線美……ッ!まさしく虎の美しき顎[あぎと]……ッ!!)
 
みたいなシーンが入る予定だったのですが、入れる隙が気づいたらなくなっていたのでちょっと書いておきます

投下しちゃった分はともかく、これが書けなかったのが心残りだったので

泉(間に合ったのだ……私は……老いが私から指導力を奪う前に……!槍水君に間に合ったのだ……!)ホゥ…

槍水「先生?」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/03/04(月) 03:50:23.95 ID:9PQDQDj30<> 投下は火曜9時頃にします <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/03/05(火) 21:28:05.99 ID:DuMWRGKc0<> ちょっと遅れます
思ったより分量が多くなったので投下も時間がかかりそうです <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/05(火) 22:22:29.90 ID:DuMWRGKc0<> **  **  **

 12月28日。

 決戦当日。

 時刻は15時20分。

 僕は竹宮流道場にいた。

泉「ふう……佐藤君、これで終わりにしよう」

佐藤「ハァっハァっ……っはい!ありがとうございまし た!」

 泉先生に稽古をつけてもらっていた。

 勿論、竹宮流の技を習得するためではなく、体を動かしてより強く腹の虫の加護を引き出すのが目的だった。

 マメに水分補給はしていたが、昨日の昼から何も食べていない。

 昨夜の争奪戦の後、弁当を獲った魔導士、先輩の夕餉にお茶だけで同席し、先程、泉先生の昼食にも同じように飲み物だけで同席した。

 荒行である。

拷問だった。

グ ゥゥ……キュルキュル……

佐藤「腹減った……」

泉「ハハハ、良い仕上がりだね」

佐藤「はい……これはもう、絶対に勝たないと……」

泉「うむ、勝てるとも。争奪戦は君のフィールドだ」

佐藤「……はい」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/05(火) 22:26:36.66 ID:DuMWRGKc0<>  気休め、だろう。

 確かに、争奪戦は僕のフィールドだ。

 しかし相手が丹波では、そんな事は何のアドバンテージにもならない。

 限界まで力を引き出したとしても力の差は埋まらないだろう。

 それに。

佐藤「月桂冠が出ればいいんですけど……」

 年末ご奉仕弁当が半値印証時刻まで残る可能性は低い。

 昨年は二日間で一つ売れ残り槍水先輩が奪取したそうだが、残らない年の方がやはり多いらしい。

 あとは月桂冠さえ出れば僕の状態はベストに仕上がる。

 この空腹状態で月桂冠を目にすれば、力を限界まで引き出す事が出来るだろう。

 丹波戦の準備、その最後の仕上げを、運に委ねるしかないのが辛いところだった。

泉「そうだな、あとはそれだけ……だが、まぁ……」

 泉先生は穏やかな笑みを浮かべ、言う。

泉「……残る、だろうね。今夜は」

佐藤「…………」

泉「そういうものだよ……」

佐藤「そう、ですか……」

 不思議と、泉先生の言う事を信じられた。

 そういもの、か。

 何にせよ、信じて待つしかない。

泉「さて、後は寮に帰って体を休めておきなさい。時間になったら槍水君が白粉君と迎えに行くと言っておった」

佐藤「はい、わかりました。それでは……」

泉「うむ。また後でな」

 僕は道場を後にした。


**  **  ** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/05(火) 22:29:38.63 ID:DuMWRGKc0<> **  **  **

 
 『丹波君はね、空手しか知らない男だ』

 『闘う事、強くなる事だけが彼の人生……』

 『それ以外、彼には何もない』


 多数派に嘲笑される少数派という立場に、僕、佐藤洋は慣れている。


 『堤君との試合で日の目を見るまで、彼は在野の空手家に過ぎなかった』

 『定職に就いた事などおそらくないだろう』

 『まだ高校生の君には信じられないだろうが、世間にはそういう人間もいるのだ』


 慣れているつもりだった。

 しかし、甘かった。


 『家も無く』

 『仕事も持たず』

 『ただ己の信ずる道を征く猛者がね』


 何がマイノリティ・ライフだ。


 『食う事よりも、闘う事……』

 『喰らう事……そんな事しか考えられない愚か者……』

 『まあ、私もあまり人の事は言えんがね』
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/05(火) 22:33:39.71 ID:DuMWRGKc0<>  僕には友がいる。

 同じセガ好きの著莪がいる。

 槍水先輩がいて。

 白粉がいて。

 共にスーパーを駆ける狼の仲間たちがいる。

 僕の趣味嗜好や私生活、そして狼としての一面は、確かに少数派に分類されるものではある。

 しかし、僕は孤独ではない。

 男子寮には灰色の青春を共に謳歌する残念な仲間たちがいる。

 時代に見放され、歴史に埋もれつつあるセガのゲームを遊ぶ時、いつも隣には著莪がいる。

 白粉が小説を書くキーボードの打鍵音が鳴り響く中、先輩とボードゲームで遊び。

 夜は、スーパーを駆ける。

 少数派ではあっても、僕は独りではない。

 これで不遇に喘ぐ少数派、マイノリティを気取るなどお笑い草だ。

 丹波は、本物だ。

 格闘家という社会的な立場。

 その生き方は、泉先生の言うように『愚か者』のそれだ。

 丹波の生き方に理解を示す人間は少ないだろう。

 あの男にあるのは、真に己の身一つ。

 惨めな孤独ではなく、誇り高き孤高。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/05(火) 22:36:37.67 ID:DuMWRGKc0<>  空手家として生き、己を高めるために、どれだけのものを犠牲にしてきたのだろう。

 毎日帰れる暖かい家が、気を許せる友が、恋人が欲しいと思った事はないのだろうか。

 職も家もない事を惨めに思わなかったのだろうか。

 普通の人生を歩む人間に馬鹿にされた事は?

 笑われた事は?

 あの強さを、一体どれだけのものを捨てて手に入れた?


佐藤「…………」


 気が遠くなる。

 考えれば考えるほど、丹波は化物だ。

 ただ単に肉体の強さ、技のキレだけではなく、一高校生の僕から見ると、あの男の生き方そのものが怪物じみている。

 畏敬の念すら覚えてしまう高い壁。

 そんな怪物と。


 プルルル


佐藤「……はい」ピッ

 
 そんな丹波と、これから僕は戦う。

槍水『時間だ。寮の前まで来ている。出られるか……?』

佐藤「はい、すぐ行きます」


 時刻は18時30分。


 決戦の時が近づいていた。


**  **  ** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/05(火) 22:39:34.07 ID:DuMWRGKc0<> **  **  **


 時刻は18時45分。

 半値印証時刻の15分前。

佐藤「…………!」

 ホーキーマートに到着した僕たちを、狼たちが出迎えた。

佐藤「どうして……」


著莪「応援に来たに決まってんだろ?」

梗「それしか出来ないのが歯がゆいですが」

鏡「健闘を……勝利をお祈りしています」

二階堂「下手を打ったら承知しないぞ?変態」

山乃守「頑張れよ、洋」

烏頭「無理はしないで……佐藤」

茶髪「勝ってね、ワンコ」

顎髭「気張れよ……」

坊主「狼の意地を見せてやれ……!」


佐藤「みんな……!」

 今夜の戦いは、丹波の脅迫、要求で実現したものだ。

 魔導師や先輩には僕をスケープゴートにする後ろめたさがあったようだが、それでも僕はこの戦いを私闘だと思っていた。

 これは佐藤洋一個人が、丹波分七に挑む私闘だと、そう考えていた。

佐藤「今日は本当にごめん……そして……」

 だが違う。

 やはり、今夜の戦いは。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/05(火) 22:43:13.57 ID:DuMWRGKc0<> 佐藤「ありがとう。絶対に勝つよ、みんなのために も……!」

 一狼としての戦いだ。

 絶対に、負ける訳にはいかない。

 僕は狼たちの誇りを背負って戦うのだ。

白粉「佐藤さん……」

佐藤「白粉……」

 白粉が、おずおずと僕の前に歩み出る。

白粉「わ、私、一昨日はすごく怖くて……そ、それで今日はその、もっと怖くて……でも、ぇあっと、その、なんていうか……」

佐藤「……うん」

 大勢の狼たちを前に緊張しているのか、いつも以上にどもりながら、ゆっくりと言葉を探す白粉。

 僕もゆっくりとそれを待つ。

 やがて白粉は、意を決したように涙ぐんだ目を瞑り。

白粉「あの、その、頑張って下さい……!」スッ

 小さな握り拳を僕に向かって突き出した。

白粉「お弁当、獲って下さい……!絶対に負けないで……!」

佐藤「ああ……!HP同好会の力、あいつにみせてやるよ……!」コツン

 僕も拳を握り、白粉の拳と突き合わせた。

槍水「佐藤……」スッ

佐藤「先輩……」コツン

 先輩とも拳を合わせる。

槍水「勝て。もうそれ以外、言うべき事はない……私の縄張りをお前に預ける……!」

佐藤「任せて下さい。必ず勝ちます」

 丹波と戦えるのは今夜だけ。

 勝ち逃げなど絶対にさせない。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/05(火) 22:47:30.44 ID:DuMWRGKc0<> 金城「佐藤、そろそろ下見に行け……ここからは一人で…… 集中力を高めるんだ」

泉「勝機はある。最後まで諦めてはいかんぞ?」

佐藤「はい。お二人も色々とありがとうございました」

 狼たちの囲みを抜け、一歩踏み出す。

 普段は店内外周をゆっくりと回って弁当コーナーへ向かう事が多いが、今夜は気が急いていた。

 一刻も早く年末ご奉仕弁当の有無を確認したい。

 僕は陳列棚の間を通り、一直線に弁当コーナーを目指した。

佐藤「…………!」

 陳列棚の間、その直線上、弁当コーナー前に大柄な一人の男。

 一昨日と同じ服装。

 一昨日と同じ気配。

佐藤「丹波……」ゾワッ

 歩みが止まる。

 恐れているのか、昂ぶっているのか。

佐藤「……ッ!!」ブルッ

 判然としない体の震え。

佐藤「〜〜〜〜ッ!!」ガチガチ

 歯の根が合わない。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/05(火) 22:50:06.53 ID:DuMWRGKc0<>  高鳴る心臓の鼓動、全身の震えを抑えるのに精一杯で、 足が動かない。

 気持ちばかりが前へ、前へと先行し、体が硬直する。

 そしてようやく自覚する。

 これは恐怖ではない。

二階堂「佐藤……」

佐藤「二階堂……」

 二階堂が僕の目の前に立ち塞がる。

二階堂「ッ!!」フォンッ!

 
 バチィッッ!!


佐藤「!!」

 唐突な張り手。

佐藤「〜〜〜〜ッ!」ビリビリ

 そのショックで、震えが止まる。

二階堂「……行けそうか?」

佐藤「ああ……」

 僕は過度な昂ぶりが収まり、体が適度な緊張を取り戻すのを確認する。

佐藤「礼を言う……!」

二階堂「ふっ……」


 二階堂とすれ違い、弁当コーナーへ。


**  **  ** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/05(火) 22:54:36.33 ID:DuMWRGKc0<> **  **  **

丹波「よう……」

佐藤「ああ……」

 弁当コーナーに辿り着き、丹波と並び立つ。

 陳列棚には弁当が一つ、残されていた。

 これが。

佐藤「年末ご奉仕弁当」

丹波「250円……!」

佐藤「馬鹿げてる……これは……」

丹波「まったくだ……」

 毎年内容が違うという年末ご奉仕弁当は、想像を超える豪華弁当だった。

 まず目を引くのは容器の半分を占めるメインのステーキ丼。 格子状の焦げ目がついた、白米をほとんど覆い隠すサイズのステーキ。
 
 丼ものという形態、表面に散らされたスライスニンニ ク、木目調の加工が施された和風の容器、そして何よりこの弁当を作ったのがアブラ神であるという事実から、ステーキの味付けが上品なワインベースのソースなどではな く、ガッツリかきこめる醤油ベースの味付けである事が容易く推測できる。

佐藤「ん……」

 やはりそうだ。

 容器の側面に、大き目の醤油の小袋がテープではりつけてある。

 白米にはソースが染みているが、それに加えてステーキにかけるためのものだろう。

 白米と肉にそれぞれしっかりと味を付けることで、元々高い両者の親和性を更に高める狙い 。
 
 米、牛肉、醤油、ニンニクの組み合わせ……そして、アブラ神の弁当への細い心配りを知っていれば、もう食べるまでもなくこのステーキ丼の旨さがわかってしまう。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/05(火) 22:58:01.54 ID:DuMWRGKc0<>  容器の残り半分には、鳥の唐揚げ、だし巻き卵。

 茸、 レンコン、里芋、人参、インゲン豆などの野菜の煮物。

 煮物の取るスペースがアブラ神にしては多いが、それだけ他の味付けがしっかりとしているのだろう。

 さらに、イチゴ、巨峰、キウイ、さくらんぼが盛りつけられた小鉢状の別容器まで付属している。

 毎年恒例の集客の呼び物、とはいっても、この弁当がスーパーに、それも500円で並べられている事に目眩すら覚える。

 デパートで1000円台で売られている弁当といっても通用しそうだ。

 しかもこの弁当が、あと10分もしないうちに、250円まで値下げされるなんて……。

丹波「うまそうだな……」

佐藤「ああ……」

丹波「こいつを奪い合う訳だ。俺とお前で……」

佐藤「ああ、僕とあんただけだ。勝った方がこいつを食う」

丹波「こいつを獲った方が勝ち……それが争奪戦……」

佐藤「そうだ」

丹波「……悪くねぇな」

 丹波が笑う。

佐藤「…………」

 この笑みを、今度こそ消してやる……!

丹波「じゃあ、後は待つだけか……」

佐藤「ああ……!」


 僕と丹波は弁当コーナーを離れた。


**  **  ** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/05(火) 23:04:17.18 ID:DuMWRGKc0<> **  **  **


 時刻は18時59分。

 間もなく半値印証時刻。


佐藤「…………」


 僕はカップ麺の棚の前に立ち、壁掛け時計を睨みつけていた。

 あと数秒。


 5、4、3、2、1――――


 バタン


 バックヤードの扉が開く。

 アブラ神が現れる。

アブラ神「…………」

 店内に向かって一礼し、惣菜コーナーへ。

 売れ残りを並べ直し、半額シールを貼り、続いて弁当コーナーへ。

アブラ神「…………」スッ


 わかりきった事、ではあるが。


アブラ神「…………」ペタ


 やはり年末ご奉仕弁当は、月桂冠になった。


アブラ神「…………」


 アブラ神がバックヤードに向かい歩き出す。


佐藤「すぅっ――――はあっ……!」


 大きく深呼吸を一つ。


佐藤「……よし」グッ


 始まる。


アブラ神「…………」


 バタン


佐藤「ッッ!!」ダッ!

 アブラ神がバックヤードに引き上げる。

丹波「ッッ!!」ダッ!

 僕は弁当に向かって駆ける。

 棚の間から抜け出すと、別の列から丹波も駆け出した。

佐藤「ッ!」グンッ
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/05(火) 23:08:11.77 ID:DuMWRGKc0<>  丹波の巨体に似合わぬスピード。

 僕も速度を上げる。

丹波「ハッ!」

 スタートは僕の方が早かった。

 しかし。

 ダンッ!

 ほぼ同時に弁当コーナーに辿り着く。

佐藤「〜〜〜〜ッ!!」

 キュキュッ!

丹波「…………!」

 直前でブレーキ。

 月桂冠を間に挟む形で、丹波と向かい合う。

佐藤「ッ!」バッ

 弁当に手を伸ばす。

丹波「させんッ!」

 バチンッ!

佐藤「くっ!?」

 丹波が僕の手を払う。

佐藤「ッ!」バッ!

 構わずもう一度。

丹波「ふっ!」

 バチィッ!

佐藤「――ッ!」

丹波「ッ!!」バッ!

 再度僕の手を払い、そのまま弁当に手を伸ばす丹波。

佐藤「ぬっ!」

 バチィッ!

丹波「ちぃっ!」

 僕も怯まず丹波の手を払う。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/05(火) 23:11:33.69 ID:DuMWRGKc0<> 丹波「……ッ!」

 ギンッ

佐藤「〜〜ッ!」

 一瞬、睨み合う。

佐藤「っく!」バッ!

丹波「ッ!」バッ!

 同時に手を伸ばす。

 
 ババッバチィッ!

 バチィッ!

 バチンッ!バチィッ!


佐藤「ぬぅっ!」ビリビリ

丹波「ちぃっ!」

 互いに弁当に手を伸ばしては払い、伸ばしては払う争奪戦の攻防。

 丹波は昨日の言葉通り、狼の戦いに徹している。


佐藤「ふッ!」バッ!

丹波「ッ!」バッ!

 バチンッ!
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/05(火) 23:13:41.50 ID:DuMWRGKc0<>  しかし、いつまでもこの攻防は続くまい。

 この生温い攻防に終始する丹波ではない。

 相手の打倒よりも弁当を優先するのが狼の戦いだが ――――


丹波「〜〜〜〜ッでぇいッッ!!」グアッ!

佐藤「――――ッ!」サッ

 ガゴンッ!!

佐藤「〜〜〜〜ッ!?」ザッ


 相手を無力化して弁当を奪取するのも狼の戦い。


佐藤「ぐっ……!」サザッ!

 
 焦れた丹波の拳打を、ガードを上げて受け止めた。


**  **  ** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/05(火) 23:19:34.75 ID:DuMWRGKc0<> **  **  **



丹波「〜〜〜〜ッでぇあッッ!!」グアッ!



泉「……始まった」

 泉は呟いた。

 開始後しばらくは、互いに弁当に手を伸ばし払い合う攻防を繰り返していた両者だが、均衡を破ったのはやはり丹波だった。



佐藤「ぐっ!」ザッ!



 ここからだ。

金城「いよいよですね……」

泉「ああ……丹波君は今宵、確かに弁当を求めている。しかし餓狼はどこまで行っても餓狼……」

金城「奴が競争よりも、佐藤を打倒した上での奪取を選ぶのはわかりきっていた……」

槍水「丹波の気配は一昨日よりは弱まっています……しかしそれも、ほんの僅かの事……」

泉「できる限りの手は打ったが、はっきり言って気休めにすぎん……両者の力の差は歴然……」

金城「佐藤が、どれだけ食い下がれるか……隙を見出だせるのか……」

槍水「…………」

泉「すべては、ここから……」

 ここから、佐藤にとっての本当の戦いが始まる。



佐藤「おおおっ!!」ダッ!



**  **  ** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/05(火) 23:23:43.26 ID:DuMWRGKc0<> **  **  **


佐藤「おおおっ」ダッ!

 丹波の拳圧に後ずさる。

 弁当との距離が空くのを嫌い、僕は即座に間合いを詰める。

丹波「ッ!」ブオッ!

 当然、そこにカウンターをセットする丹波。

佐藤「くっ!」サッ

 僕も承知の上での突進。

 顔面狙いのカウンターを、重心を落とし上体を折って躱す。

佐藤「でぇあッ!」グオッ!

 ボゴンッ!

丹波「ッ!」

 低い体勢から伸び上がるように、丹波の右の脇腹を左のボディアッパーで突き上げる。

丹波「チィッ!」ブオッ!

 懐に潜り込んだ僕に拳打を打ち下ろす丹波。

佐藤「ぬっ……く!」サッ!

 再び重心を落として躱す。

佐藤「っおおッ!」グオッ!

 ボゴンッ!ゴンッ!

丹波「うおっ!?」

 躱しざま、右の脇腹に左をもう一打、鳩尾に右拳を突き刺す。

佐藤「おおッ!」

 ゴンッ!ボゴンッ!ガンッ!

丹波「ゲハッ!?」

 そのままボディへ集められるだけ左右の拳打を集める。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/05(火) 23:27:25.66 ID:DuMWRGKc0<>  戦っていて肌でわかる。

 丹波は腹を空かせている。

 一昨日とは違い、今夜は腹への攻撃は有効――――


佐藤「………ッ!」バッ!

 
 腹の虫の力を削ぐ戦法は。

 丹波の懐に潜り込む危険は百も承知……!

 それでもリスクを侵す価値はある!


佐藤「うおおっ!」グオッ!

 ボゴンッ!!

丹波「ぐおっ!?」ガクンッ


 右の掌底で鳩尾を抉る。

 丹波の顔が苦痛に歪む。

 優勢。

 だがこれは一時的なもの。

 腹部への攻撃を繰り返せば、その先にある危険な領域が見えてくる。


丹波「ぐっ……ぬぅ!」ザザッ

 
 丹波が後退する。

 この機を逃してはならない。

 今のうちに一打でも多く打ち込む。

 少しでも丹波にダメージを……!


佐藤「……ッ!」ダッ!

 
 僕は間合いを詰めた。


**  **  ** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/05(火) 23:30:38.57 ID:DuMWRGKc0<> **  **  **



丹波「ぐっ……ぬぅ!」ザザッ



梗「いける……!?」

鏡「このまま詰め切れれば……!」

 沢桔姉妹は息を飲んだ。

 一昨日の夜、腹部へ会心の一打を見舞っても怯まなかった丹波が、佐藤のボディ攻撃で後退する。



佐藤「……ッ!」ダッ!



 佐藤が追いすがる。



佐藤「であッ!」ブオッ!

 ドゴンッ!

丹波「ぐっ!!?」ズザッ



 佐藤の追撃のボディストレート。

 戦闘開始早々、意外にも先に好機を掴んだのは佐藤だった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/05(火) 23:34:35.20 ID:DuMWRGKc0<> 梗「いけますわ!」

鏡「ええ……!」

金城「いや……」

 金城が口を挟む。

山乃守「優……?」

金城「これは一時的な攻勢だ。それは佐藤もわかっている……」

梗「どういう事ですの?」

泉「丹波君を空腹状態にし、争奪戦のルールを教える事で、彼を狼の土俵に降ろすのが今回の作戦……」

金城「しかし、それは一時的なものでしかない」

泉「戦闘開始後しばらくは、丹波君は狼に転じ、餓狼としての力を弱めた状態。この状態なら、佐藤君が攻勢を取る事は可能……」

金城「しかし佐藤の一打一打が、丹波の餓狼としての本能を引き戻してしまう。打ち込めば打ち込むほど、刻まれた痛みで丹波は本来の姿を取り戻していく……」

鏡「では、佐藤さんもわかっている、というのは……」

泉「これは私と金城君が授けた作戦の第一段階にすぎん。丹波君が餓狼に戻る前に可能な限りのダメージを与える」

金城「その後は――――」



佐藤「ああッ!!」グオッ!



**  **  ** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/05(火) 23:37:38.21 ID:DuMWRGKc0<> **  **  **


佐藤「ああッ!!」グオッ!

 攻撃の手を緩めない。

 ゴンッ!

丹波「ッッ!?」

 体をくの字に折った丹波の顔面に掌打を叩き込む。

佐藤「ふんッッ!」ブオッ!

 ゴガンッ!

丹波「がっ……あ!」

 頭部への攻撃を繰り返す。

佐藤「……ッッ!」バッ!

 もう一打……!

 否、一打と言わずニ打三打!

 ここで倒し切るつもりで……!

佐藤「うおおおおおッ!!」

 ゴンッガンッドゴンッガンッ!
 バカンッゴンッドゴンッゴンッ!!
 ゴンゴンゴンガンガガガッドンッ!!!

丹波「ぶはっ!?」ザザッ

 丹波が退く。

 逃さない!

佐藤「はあああああッ!!」ダッ!

 ゴンゴガガッガガゴガンッ!
 バゴガガゴンッガンガンッ!!

佐藤「うおおあああッ!!」グオオッ!

 ガガガガガガガガガゴンッッ!

丹波「〜〜〜〜!!??」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/05(火) 23:41:18.80 ID:DuMWRGKc0<> 佐藤「でぇ――ッッ!」ブオッ!

 倒れろッッ!

 丹波!!

佐藤「あああッッッ!!」ブン!

 ゴキャッッ!!

丹波「ごはっ…………!」グラッ

 丹波が足元が揺らめく。

 もう一打……!

 トドメを……!

佐藤「ぬぅぅッッ――」グオッ!

丹波「――――ッッ」ブンッ!

佐藤「!?」

 ガボンッ!

佐藤「がハッ!?」

 
 丹波の突然の反撃――――


佐藤「ぐぅっ!」ドサッ!


 来た――――!


丹波「佐藤ぉ…………!」ユラ…


 餓狼の目覚め――――!!


佐藤「丹波……!」ザッ


 僕は即座に起き上がる。


丹波「やってくれたな……」ギンッ


 丹波の威圧感が増す。


佐藤「…………!」グッ!


 望むところだ……!


佐藤「丹波ァァァッッ!!」ダッ!


 これこそ、僕が望んだ闘いだ!!


**  **  ** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/05(火) 23:44:55.27 ID:DuMWRGKc0<> **  **  **



佐藤「丹波ァァァッッ!!」ダッ!



烏頭「佐藤……?」

山乃守「今……あいつ……!?」

二階堂「何を考えてる!?」

 そのまま丹波を打倒しかねない程の佐藤の猛攻。

 その連撃に差し込まれた丹波の一打を受け、佐藤は吹き飛ばされた。

 吹き飛ばされ、佐藤は弁当コーナーのすぐ近くに倒れた。

 対する丹波と弁当コーナーの距離は2メートル以上離れていた。

 弁当奪取の好機。

 それでも佐藤は弁当に目もくれず、丹波に向かって突進する。

白粉「……!!」

茶髪「ワ、ワンコ……?」

顎髭「まただ……!あいつ……!」

坊主「一昨日と同じ……!」

山乃守「どういう事だ?」

白粉「さ、佐藤さん、一昨日の戦いでも……皆さんが気絶して、佐藤さん一人が起き上がって……」

顎髭「あいつ、手ぶらで帰ろうとした丹波に襲いかかったんだ……」

坊主「あの時も自分の方が弁当コーナーに近かったのに……!」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/05(火) 23:47:07.42 ID:DuMWRGKc0<> 金城「……!」

泉「来た……!」

 金城は眉間に皺を寄せた。

 佐藤本人にも伝えていない作戦の第二段階。

 佐藤から『闘争への飢餓』を引き出し、丹波と拮抗させる。

 佐藤には、丹波が狼のうちに可能な限りのダメージを与え、授けた技を打ち込む隙を作る、とだけ伝えてある。

金城「佐藤……!」グッ

泉「信じろ……彼を……ッ!」

金城「わかっています……!」

 
 金城は拳を握りしめた。


**  **  ** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/05(火) 23:50:20.20 ID:DuMWRGKc0<> **  **  **


佐藤「ぁあァあああアッッ!」ブオッ!

 ガンッ!

丹波「ハッ!」ガシッ

佐藤「!」

 打ち込んだ右拳を掴まれる。

丹波「ふんッッ!」ブオッ!

 ゴボッッ!

佐藤「げはっ!?」

 腹に丹波の膝蹴り

佐藤「ぐっ……!」

 効いてないッッ!

佐藤「ぬンッッ!」ブオッ!

 ドンッ!!

丹波「ハッッ!」

佐藤「!?」

 丹波の腹にこちらも膝蹴りを返す。

 先程のような手応えがない。

佐藤「この……ッッ!」ブオッ!

 ドンッ!

 ドンッ!

 ドンッ!

丹波「ハッ……佐藤ぉぉッ!」

佐藤「〜〜〜〜ッッ!?」

 右腕を掴まれたまま、膝蹴りを三発。

 一昨日のような不毛な感触。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/05(火) 23:52:59.34 ID:DuMWRGKc0<> 佐藤「〜〜ッだあァッッ!」ブオッ!

 ゴゴンッッ!!

丹波「クククッッ……」

佐藤「〜〜ッ!?」

 丹波は笑う。

丹波「お前って奴は……」ククッ

 可笑しくて仕方ないという表情でゆるりと首を振る。

佐藤「くっ!」バッ

 右腕を強引に外す。

佐藤「ッッ丹波!」

 そのまま右腕を振りかぶる。

佐藤「笑――――!」ブオッ!

丹波「佐藤…………」ブオッ!

 ゴガッ!!

佐藤「う――――!?」

 カ、

佐藤「な――――」

 カウンター……!

 しま……った……!

佐藤「――――ッッ!?」ガクン

 踏み留まる……!

 まだだ……ッ!
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/05(火) 23:56:27.68 ID:DuMWRGKc0<> 丹波「…………」スッ

 丹波が構える。

佐藤「う……あ……!」グラッ

 こちらも構えようとするがよろめく。

 まずい……!

丹波「ふッッ!」ブオッ!

 ゴンッッ!!

佐藤「〜〜〜〜ッッガハッ!」


 駄目だ……!


丹波「クククッ」ブンッ!

 ガンッ!!

佐藤「ごはっ!?」

 
 やはりこの男……!


丹波「ハハハッッ!」ブオッ!

 ゴガッ!

佐藤「ぐはっ!!」


 強すぎる……!


丹波「ハハハハハッ!ッッ!」グオッ!

 ゴキャッ!

佐藤「クッ〜〜〜〜あ――――…………」グラッ

 丹波の連打をまともに貰う。

 急速に体から力が抜けていく。

 ダメージで腹の虫の力が減退していく。

佐藤「あ………う……」ガクッ

 
 だが、まだ……!


佐藤「く……あ……」


 まだ、僕は……!


丹波「終いだッッ!佐藤ォッッ!」ブン!


 丹……ば……!

 ゴキャッ!


佐藤「〜〜〜〜――――…………」ガクッ

 
 ドサッ


**  **  ** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/06(水) 00:00:59.96 ID:HIZpfYA80<> **  **  **



佐藤「〜〜〜〜――――…………」ガクッ

 ドサッ

丹波「ふぅっ…………」クルッ



著莪「佐藤ッッ!!」

 
 丹波の拳打が顎を捉え、佐藤が倒れる。

 丹波は佐藤に背を向け、弁当コーナーに向かって歩き出す。


泉「………!」

金城「くっ……!」

 
 佐藤の倒れ方――――

 あれは打撃による乱戦が主となる狼なら、誰もが知る倒れ方。

 繰り糸を失った操り人形のような倒れ方。


槍水「…………!」ギリッ

白粉「佐藤さん……!」


 絶対に起きない倒れ方。


著莪「あの野郎……!」ギリッ

 著莪は奥歯を噛み締めた。

 争奪戦とはいえ、姉弟同然に育った従兄弟を目の前で倒され頭に血が昇っていた。

著莪「…………ッッ!」ザッ!

 著莪が一歩を踏み出す。 

 当然、あの男に一撃くれてやるためだ。

 黙って見ている事などできない。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/06(水) 00:04:52.64 ID:HIZpfYA80<> 金城「待て!」

著莪「待たない……!」

 金城が著莪を制止する。

 著莪は即座に突っぱねた。

泉「待ちなさい……!著莪君!これは一対一の争奪戦だ! まだ丹波君は弁当を獲っていない!」

著莪「知った事か!奴にみすみす弁当をくれてやれってのか!?」

槍水「著莪……頼む、もう少し待ってくれ……!」

著莪「仙!あんたまで!」

白粉「お願いします……著莪さん……待ってください……だってまだ、まだ……!」

著莪「花……!」

槍水「まだ争奪戦は終わっていない……!」

著莪「何言ってんだ……!あの倒れ方じゃあ――――」

 その時。


 セェーガーっ


著莪「!」

 著莪の携帯の着信音が鳴り響いた。



佐藤「……………」ムクリ



二階堂「なっ……!?」

梗「立った……」

 
 佐藤が起き上がる。

 あのダウンから。


著莪「セガで立った……」



佐藤「…………」



槍水「佐藤……!」

白粉「佐藤さん……!」

金城「ここへきて……」


泉「正念場……ッ!佐藤君!」


**  **  ** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/06(水) 00:08:30.46 ID:HIZpfYA80<> **  **  **


佐藤「…………」ハッ

 今一瞬寝てた。

佐藤「……丹波」


丹波「…………」ピタッ


 丹波が僕に背を向けている。

 弁当コーナーに向う歩みを止めた。


丹波「本当に……」クルッ

 
 丹波が僕に向き直る。


佐藤「…………」

 何故立てたのかわからない。

 餓狼、丹波分七の攻撃で、僕の体は満身創痍に陥っていた。

佐藤「…………」

 不思議な感覚だった。

 今僕は、丹波の情け容赦ない連撃を浴びて倒れた筈なのに。

佐藤「……著莪」ボソッ

 著莪と徹夜でバーチャをやって、寝落ちしかけた時のような……。

 そんな覚醒の感覚だった。


丹波「白いな、お前は……」スッ

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/06(水) 00:12:20.02 ID:HIZpfYA80<>  しかし次はないだろう。

 次に倒れれば、もう起き上がれない。

 これが最後。

 次の一合で、僕の残弾は尽きる。


佐藤「…………」スッ

 
 丹波が構える。

 僕も構えた。


丹波「終わりにしてやる……!」


 最初で最後のチャンス。


佐藤「僕が勝つ……!」


 今しかない。

 今こそ『あの技』を――――


丹波「言ってな……!」ダッ!


 来た。

 丹波が僕に向かって一直線に駆けてくる。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/06(水) 00:16:29.62 ID:HIZpfYA80<> 丹波「ッッ!」ダンッ

 
 僕に向かって右腕を振りかぶりつつ、左脚を強く踏み込む。


佐藤「ッ!」タッ


 僕はその左膝に右足を掛け、踏み台にし、翔び上がる。


丹波「!?」ガクン!

 
 続いて丹波の左肩を踏み台にし、さらに高く。


佐藤「ッッ!!」ダンッ!

丹波「なっ!?」ガクン!


 さらに上へ。

 目指すは――――



金城『強く踏み込み、高く翔べ。目指すは相手の直上 ――――』



 丹波の直上――――!

 天井へ――――!!


佐藤「…………ッ!!」タッ

 
 僕は身を翻し、丹波の真上、天井に足をついた。


丹波「〜〜ッッ!?」グッ


 丹波は僕に踏み台にされ、大きく腰を落とした体勢から体を持ち上げようとしている。


 今――――!
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/06(水) 00:19:38.43 ID:HIZpfYA80<> 佐藤「ッッ!!」ダンッ!


 丹波が体を持ち上げる動作に合わせ、強く天井を蹴る。


佐藤「〜〜〜〜ッッ!!」グオッ!


 落下しながら右肘を振りかぶる。

 狙いは脳天……!

 喰らえ……!

 これが僕の最後の一撃!!


佐藤「丹波ァァッッ!!」ブオンッ!


 ガガゴッッッ!!!


丹波「ッッッ!!??!?」


 
 秘技必殺!!



佐藤「〜〜〜〜ッッ!!」スタッ



 『天井被り』 見参!!



**  **  ** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/06(水) 00:22:26.32 ID:HIZpfYA80<> **  **  **



佐藤「〜〜〜〜ッッ!!」スタッ



 正面から踏み込んで来る相手の膝、肩を踏み台にして飛び上がり――――

 相手の直上、天井まで翔ぶ。

 踏み台にされ体勢を崩し、腰を落とした相手が体を持ち上げる動作に合わせ、天井で勢いをつけた打撃を脳天に打ち込む――――

泉「踏み台にされた際の上方からの圧力、その圧力に反射的に逆らい、伸び上がった直後、脳天に打撃を喰らう……」

金城「その結果この技を喰らった者は、遥か頭上にある筈の天井に頭を強打したように錯覚する――――」

泉「名付けて、必殺飛翔『天井被り』ッ!」

茶髪「………!」

梗「『必殺』……」

鏡「『飛翔』……」

著莪「『天井被り』……!」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/06(水) 00:26:22.24 ID:HIZpfYA80<> 金城「天井で勢いをつけた打撃を脳天に打ち込む危険性から、スーパーでは禁じ手とされている技だ……!」

泉「両者の体格差を考慮し、序盤でできる限りダメージを 与え、丹波の足を弱らせ――――」

金城「踏み台にした際、丹波の体勢を十分に崩せる状態を作る」

 そして『闘争への飢餓』を煽る事で、佐藤の戦闘への集中を高めさせ――――

泉「最後の最後……丹波君がトドメの一撃を放つ最大にして唯一の好機での使用……!」

金城「よくぞものにした……佐藤!」

槍水「…………!」


丹波「……!?」ガクン!



梗「効いていますわ!」

鏡「倒れる……!」

二階堂「丹波が……!」



丹波「がっ……!?」ドサッ



**  **  ** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/06(水) 00:31:03.24 ID:HIZpfYA80<> **  **  **


佐藤「…………!」サッ

 
 丹波に天井被りを浴びせ、残心を取る。


丹波「がっ……!?」ドサッ


佐藤「ッ!!」

 
 丹波が倒れる。

 一昨日の夜の戦闘を通じて、これが丹波の最初のダウン。

 丹波を狼の土俵に引きずり降ろし、スーパーでの戦いを 知るアドバンテージを最大限に活かし、さらに禁じ手とされる秘技まで使って、ようやく奪った最初のダウン。


丹波「〜〜〜〜ッッッ!?」ドスッ


佐藤「……なんて奴だ」


 丹波はフロアに膝を付き、次いで両手を付いた。

 四つん這いの体勢で苦痛に表情を歪めながらも、まだ意識を失っていない。


佐藤「〜〜〜〜ッ!!」ダッ!

 
 僕はトドメを刺すため駆け出した。

 丹波に同じ技が二度通用するとは思えない。

 今が丹波に勝つ最初で最後のチャンスだ。

 これを逃せば、今後僕がこの男から勝利をもぎ取る機会は永遠に失われる。


 今が――――!


佐藤「ッッ!」


 今だけが――――!!



槍水「佐藤ッッ!!」


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/06(水) 00:34:38.95 ID:HIZpfYA80<> 佐藤「!!」ピタッ!


先輩の声。



槍水「何してる!今がチャンスだ!」



佐藤「…………?」

 チャンス?

 何を言ってるんだ?

 そんな事わかっていますよ。

 今、丹波にトドメを――――

 今しかないんだ……!



槍水「今しかないッッ!弁当をッッ!」



佐藤「…………!」


 弁当……

 半額弁当……

 年末ご奉仕弁当……


佐藤「〜〜〜〜ッッ!?」


 僕は。

 何を……?

 丹波にトドメを……?

 それが、勝利……?


佐藤「〜〜〜〜ッッ!!」ブンブンッ


 何、考えてるんだ……!?

 僕は……!

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/06(水) 00:37:17.60 ID:HIZpfYA80<> 白粉「佐藤さん!弁当を!!」

二階堂「走れ!変態ッッ!!」

梗「佐藤さん!!」

鏡「急いで!!」

烏頭「佐藤!!」

山乃守「洋!!」

茶髪「ワンコ急いで!」

顎髭「もうここしかない!」

坊主「今しか!」



佐藤「みんな……」



著莪「佐藤ォっ!」



佐藤「著莪……」



著莪「さっさとケリ着けて来いっ!走れッッ!」



佐藤「ああ……!」クルッ!


 仲間と共に歩むのか。

 孤独を顧みず勝利に拘泥し、果てに孤高を目指すのか。

 ここ最近、度々繰り返していた自問自答。

 答えは、今、出た。

 
 僕は丹波に、闘争に背を向けた。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/06(水) 00:39:35.91 ID:HIZpfYA80<> 佐藤「……!」ダッ!


 僕は狼だ。

 僕の戦いは、僕の戦場は。


佐藤「やった………!」パシッ


 争奪戦しかない。

 スーパーだけが。

 僕の――――


佐藤「やったぞぉッッ!!」バッ!


 僕は年末ご奉仕弁当を手に取り、天に掲げた。

 
 僕が心底から求める勝利を、仲間たちに掲げて見せた。


**  **  ** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/06(水) 00:42:58.57 ID:HIZpfYA80<> **  **  **


佐藤「……………」グラッ


 もう、限界だった。

 丹波から受けたダメージが、争奪戦の終結とともに一気に溢れ出す。


佐藤「――――」フラッ


 そのまま倒れそうになる。

 駄目だ――まだ――――

 弁当を食べるまでは――――


佐藤「――――」フッ

???「よっと……」ガシィッ!

佐藤「――――?」


 もう意識を保っていられない。

 フロアに倒れる。

 そう思った刹那、僕は誰かに体を支えられた。


丹波「……負けたよ、佐藤」グイッ

佐藤「……丹波」


 丹波だった。

 丹波が僕の体と、弁当が傾かないように支えてくれていた。


佐藤「……ありがとう」

丹波「落としちゃもったいねぇからな……」ハハ


 丹波は笑う。

 今度は寮で見た険の無い笑顔。

 それを見て、僕は勝利を実感した。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/06(水) 00:46:18.50 ID:HIZpfYA80<> 丹波「おい」


 丹波は、争奪戦を観戦していた狼たちに声をかけた。


丹波「どこか、この近くに座れる場所はないか?」

佐藤「……!」


 一度だけ狼になってやると、丹波はそう言っていた。

 その言葉通り、丹波は最後まで付き合ってくれるつもりのようだ。

 僕は内心で苦笑した。


槍水「すぐ近くに……公園がある。そこで」

丹波「そうかい」


 丹波の意を察した先輩が答える。


丹波「じゃあ行くか、それまで耐えろよ佐藤」

佐藤「ああ……」

槍水「待て、佐藤がその状態では心配だ。私も行く」

金城「仙……」ポン

 同行を申し出た先輩の肩を魔導師が叩いた。

金 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/06(水) 00:48:06.21 ID:HIZpfYA80<> 金城「これは二人の争奪戦だ。二人で行かせてやれ」

泉「佐藤君は後で皆で迎えに行こう」

槍水「先輩、先生……ですが……」

佐藤「すいません……先輩」

丹波「悪ぃな」

槍水「…………わかった。しっかり味わっこいよ、佐藤……」

佐藤「はい……!」


 先輩には悪いが、先生と魔導師の言う通りだった。

 これは二人の争奪戦。

 二人の夕餉。


 年末ご奉仕弁当を巡り戦った、狼と餓狼の夕餉だ。


**  **  ** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/06(水) 00:51:01.15 ID:HIZpfYA80<> ** ** **


 レジで支払いを済ませ、先輩に弁当を温めてもらい、僕と丹波は近くの公園までやって来た。

丹波「ほれ……」

佐藤「ああ……」

 朦朧とする意識の中、丹波が開けてくれた弁当を受け取る。

佐藤「…………」ゴクリ

 ステーキ丼にかけられた醤油とニンニクの香り。

 唾液が湧き出る。

丹波「すきっ腹にはたまんねェな……」

佐藤「まったくだ……それじゃあ……頂きます」

 僕は手を合わせ、礼をする。

丹波「えらく行儀がいいな」

 呆れた様子の丹波。

佐藤「当然のマナーだろ」パク

 言い返しつつ、ステーキ丼を一口頬張る。

佐藤「〜〜〜〜ッッッ!」

 打撃を受け切れた口内の傷に、ソースが染みる。

 しかし、それでも絶品だった。

佐藤「ハグっ――むぐっ」ガツガツ

 白米に染みた濃い目の味付けのソース、そしてステーキに後がけした醤油の風味に食欲を刺激され、体の痛みを忘れる。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/06(水) 00:54:52.82 ID:HIZpfYA80<>  柔らかな牛肉と白米に合わせた和風の味付けが堪らない。

 僕は二口、三口とステーキ丼をがっついて、野菜の煮物に箸をつけた。

佐藤「ハグっ――――!」

 旨い。

 スライスニンニクを散らした濃い目の味付けのステーキ丼と打って変わって、こちらは上品な味付けだ。

 鳥の唐揚げを一口で頬張り、続いて再び野菜の煮物を食べる。

 さっぱりとした味付けの野菜の煮物が、ステーキ丼、唐揚げの濃厚な味を引き立てている。

 だし巻き卵も旨い。
 
 ふわりとした甘めの味付けが肉と野菜のコンビネーションに良いアクセントを加えている。

佐藤「むぐっハグハグっ――」ガツガツ

 僕は夢中で年末ご奉仕弁当に喰らいついた。

 そして弁当を半分ほど食べた所で、容器と箸を丹波に差し出した。

佐藤「ん」スッ

丹波「いいのかよ」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/06(水) 00:57:09.00 ID:HIZpfYA80<> 佐藤「いいよ。どうせダメージで全部食べるのはきつい」

丹波「そうかい、じゃあ遠慮なく……」

 弁当を受け取り、そのまま掻き込むように食べようとする丹波。

佐藤「おい」

 これは見逃せない。

 一旦、丹波を制止する。

丹波「あ?なんだよ?」

 僕は丹波に向かって合掌して見せた。

丹波「ああ……別にいいじゃねぇか……」チッ

佐藤「駄目だ」

丹波「わかったよ……」

 丹波は弁当を膝に置き、手をあわせた。

丹波「イタダキマス……これでいいかよ?」

佐藤「ああ……」クスッ

 お行儀良く手を合わせた姿が猛烈に似合わない。

丹波「さてと……」ジュルリ

 丹波は弁当を手に取り、食べ始めた。

丹波「ガッガッ――ハグっ、むぐ」ガツガツ

佐藤「…………」

 猛然と弁当を掻き込む丹波。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/06(水) 00:59:46.69 ID:HIZpfYA80<> 丹波「あグッはむっ――」ガツガツ

 一夜限り狼になった丹波に、残りを全部譲るつもりで渡したのだが、この男には敗者の遠慮というものがまるでない。

佐藤「ハハ……」

 僕はその豪快な食べっぷりに苦笑した。

丹波「――――ふぅっ」

 
 丹波は弁当を食べ終えた――――


丹波「ほれ」スッ


 かに見えた。


佐藤「え?」

 丹波は僕に容器を差し出した。

佐藤「…………」

 差し出したされた容器には、メインのステーキ丼が一口 だけ残されていた。

丹波「あと一口くらい食えるだろ?」

佐藤「ああ……」

丹波「勝ったのはお前だ。最後は……」

佐藤「ああ……!」

 僕は弁当を受け取り、

佐藤「…………」パク

 最後の一口を頬張った。

佐藤「……旨い」


 これぞ勝利の一味。

 丹波分七に勝って手に入れた、弁当の味。


**  **  ** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/06(水) 01:02:59.47 ID:HIZpfYA80<> **  **  **


 その後、僕と丹波はデザートのフルーツを分け合って食べ、先輩が買ってくれたホットのお茶を飲んでいた。


丹波「…………」

佐藤「…………」


 お茶を飲み終え、二人とも黙って夜空を見上げた。


佐藤「最後に……」

 
 僕は口を開いた。


佐藤「聞いておきたい。なんであんたみたいな人が、今夜は――――」

 
 どうして狼に。

 どうして僕なんかと。


丹波「昨日な――――」

 そう聞こうとした僕の言葉を丹波が遮る。

佐藤「?」

丹波「お前の寮に行く時、えらく時間を喰った……一時間はあの辺をウロウロしてた……」

 丹波が何を話したいのかはわからない。

 それでも僕は相槌を打った。

佐藤「道場まで歩いて15分もかからないけど……迷ったの?」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/06(水) 01:07:13.77 ID:HIZpfYA80<> 丹波「ああ……先生に住所を書いたメモを貰ったんだが…… そのメモにあった烏田のカラスが読めなかった……トリダって読み間違えてたんだ。それで、迷っちまった」

 それは…………

 …………何と言っていいのか。

佐藤「それは、また……」

丹波「馬鹿だろ……?」ハハッ

 言葉を探す僕に、丹波は笑ってズバリと言う。

佐藤「うん、まあ……馬鹿だね……」

 恐る恐る同意する。

丹波「ハハ……」

 穏やかな笑みのまま、遠い目をする丹波。


丹波「地上最強の空手家ってのは……」

佐藤「――――ッ」

 不意に丹波が口にした言葉に息をのむ。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/06(水) 01:10:46.72 ID:HIZpfYA80<> 丹波「そのくらいの馬鹿でもなけりゃあ、目指せねぇ ……」

佐藤「…………」

丹波「お前たち狼も、目指す所、求めるものは違っても、 似たようなタイプの馬鹿なんじゃねぇかって……そう思った」

佐藤「…………!」

丹波「佐藤、お前はその中でもとびっきりの馬鹿だ」

佐藤「ひどいな……」

丹波「いや馬鹿だよ、お前――――」


 丹波は立ち上がる。


丹波「その手の馬鹿に突っかかって来られたら、相手をしない訳にはいかねぇだろ?だから一夜くらい、お前らのくだらねぇ戦いに付き合ってやってもいいと思った――――」 ザッ


 丹波は言いながら、歩き出す。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/06(水) 01:14:25.61 ID:HIZpfYA80<> 佐藤「丹波……さん」

 
 僕も立ち上がる。

 丹波は立ち止まり、振り返る。


丹波「今夜の戦いは、それだけの事……」ニッ

佐藤「…………」



丹波「…………それじゃあな」クルッ



丹波「あばよ……楽しかったぜ」ザッ

佐藤「…………」


 丹波の背中が遠ざかる。


佐藤「丹波さん……」ボソッ
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/03/06(水) 01:20:12.35 ID:HIZpfYA80<>  僕たち狼の戦いは、部外者には決して理解されないものだと思っていた。


佐藤「…………」


 しかし、空手に生涯を捧げ、プロのリングにまで上がった男が、僕たち狼を自分と同じ類の馬鹿だと言った。


佐藤「…………」


 全く別の道を行く丹波のそんな言葉に、僕は強く胸を打たれた。


佐藤「丹波さんッッッ!!」


 黒いブルゾンを着た丹波の後ろ姿が闇に溶ける間際、僕は叫んだ。

 丹波は歩みを止めた。


佐藤「ありがとうございましたッッ!!」バッ


 僕は叫び、頭を下げた。

 胸を貸してくれた丹波に、礼をせずにはいられなかった。



丹波「――――」ヒラヒラ


 
 丹波は背を向けたまま手を振り――――


 そのまま、闇夜に消えた。



佐藤「――――」ドサッ

 
 僕はベンチに腰を下ろした。

 体中が痛い。

 これは、丹波によって刻まれた痛み。

 僕はこの痛み、そして今夜食べた弁当の味を、生涯忘れる事はないだろう。


佐藤「………」


 餓狼との戦いを。

 餓狼に勝利して食べた年末ご奉仕弁当の味を。


 その、勝利の一味を。



 ** 完 ** <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/03/06(水) 01:26:53.41 ID:HIZpfYA80<> 以上で完結です

読んでくださった方、レスを下さった方、本当にありがとうございました

シンプルな筋立てなのにやたらと文字数が多くなってしまって申し訳ないです

次にスレ立てする時はこのスレでの反省を活かしてもっと読みやすいものが書ければと思っています <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/03/06(水) 01:33:18.68 ID:XipanbHKo<> 乙
ついに完走しましたな!
なんかこんな時間なのに弁当食べたくなった <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/03/06(水) 05:08:54.74 ID:Z8tWLOKRo<> 乙!
そして完走お疲れ様
すべてをお互いに認め合うっていいな
最後の礼はグッときたぜ
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/03/06(水) 07:35:31.56 ID:hYrCRLaZo<> 乙、面白かったよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/03/06(水) 22:15:19.38 ID:HIZpfYA80<> てす
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1359135509/ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/03/06(水) 22:20:06.23 ID:HIZpfYA80<> ありがとうございます
HTML化依頼に行ってきます <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/03/07(木) 13:03:02.30 ID:kKR0hhZYO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/03/09(土) 04:53:19.17 ID:UGYSSmIeo<> やべえ普通に面白かった <>