ししのは<><>2013/08/17(土) 14:28:54.37 ID:JEonPDxT0<>
女の子「おじちゃん、だーれ?」

幽霊「だれー?って見えるの!?俺のこと見えるの!?」

女の子「見えるよ〜。見えない人っているのー?」

幽霊「見えない人はいないかもしれないけど、幽霊はたぶん普通見えないよ」

女の子「じゃあおじちゃん見えてるからやっぱり人だね〜」

幽霊「てかたぶん鏡で見る限りおじちゃんって年じゃないんだけど・・・」

女の子「お名前は〜?」

幽霊「いや、それが覚えてないんだよね。」

女の子「おうちは〜?」

幽霊「それも覚えてない。」
女の子「迷子なんだ〜?じゃあおうちにいっしょにいこ!きっとお母さんが助けてくれる!」

幽霊「いや、たぶんお母さんに見えないと思うんだけど・・・ま、いっか。」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1376717334
<>幽霊「なんで俺は・・・成仏できないんだ」 ししのは<><>2013/08/17(土) 14:29:41.61 ID:JEonPDxT0<> トコトコ

女の子「ほら、こっちだよー」

トコトコ

女の子「ただいま〜!」

幽霊「おじゃましまーす」

母「おかえり〜」

女の子「あのね、このおじちゃんがおうちわからなくて困ってるの!お母さん助けてくれる?」

母「え?おじちゃん?何言ってるの・・・。熱でもあるのかしら?ほら、こっちおいで。」

女の子「お母さん!おじちゃん助けてあげてよ!」

母「おじちゃんなんてどこにもいないでしょ?変な風邪貰ってきちゃったのかしら・・・」

女の子「お母さん・・・おじちゃんのこと見えないの?」

母「おじちゃんなんてどこにもいないわよ?変ね、熱はないみたいだけど・・・」

女の子「本当に見えないんだ・・・」

母「ほら、手洗ってうがいして、念のためお布団で寝てなさい。」

女の子「・・・はーい」
<> ししのは<><>2013/08/17(土) 14:30:31.04 ID:JEonPDxT0<> トントントン カイダンアガッテ ドアヲ バタン

幽霊「ほらな?言っただろ。誰にも見えないんだ。」

女の子「じゃあ本当に幽霊なの?」

幽霊「うん。・・・怖いか?」

女の子「ううん。怖くない」

幽霊「そうか、よかった」

女の子「おじちゃん、なんで幽霊になっちゃったの?」

幽霊「わからん。気付いたら幽霊だった。」

女の子「おじちゃん、これからどうするの?」

幽霊「わからん。何もしないで適当に過ごしてたから」

女の子「幽霊って、おなかすくの?」

幽霊「いや。」

女の子「幽霊って寝るの?」

幽霊「いや。」
<> ししのは<><>2013/08/17(土) 14:31:03.65 ID:JEonPDxT0<> 女の子「そっかぁ・・・。じゃあここに住みなよ!」

幽霊「え!?」

女の子「おうちと名前がわかるまでここにいなよ!」

幽霊「・・・いいのか?」

女の子「うん。だってお母さんにも見えないし、大丈夫だよ。」

幽霊「じゃあ、お言葉に甘えて」

女の子「お言葉に甘えて?」

幽霊「いや、なんというか、ありがとう。ここにいさせてもらうよ」

女の子「うん!」

幽霊「ところで君の名前は?」

女の子「おーちゃん!5歳!」

幽霊「そっか、まだ幼稚園生か・・・」

女の子「来年小学校に行くの!」

幽霊「小学1年生かぁ・・・」

女の子「おじちゃんは何歳?」

幽霊「それもわからないんだよね・・・てかおじちゃんはやめよ。俺たぶんそこまで年取ってないから」

女の子「じゃあ・・・幽霊だからゆうくん!」

幽霊「うん、まあそれでいいや。」

公園のブランコに座っていた俺に、声をかけてくれたおーちゃん。
そのままおーちゃんの家に上がり込んでしまった俺。
これが俺たち二人の奇妙な出会いだった。
<> ししのは<><>2013/08/17(土) 14:31:49.25 ID:JEonPDxT0<> ***

女の子「ゆうくん見てみて!おじいちゃんにランドセル買ってもらったの!」

幽霊「お、可愛いな。ピンク地に糸が茶色とか、オシャレだな〜」

女の子「ふふふ〜小学校に行くの楽しみ!」

幽霊「こらこら、走り回るなっての。」

女の子「ふふふ〜」

***
<> ししのは<><>2013/08/17(土) 14:32:27.93 ID:JEonPDxT0<> ***
女の子「ゆうくん、一緒にディズニーランド行こうよ〜」

幽霊「いやだってそれ卒園旅行だろ?お母さんと楽しんでこいよ。」

女の子「えーーー」

幽霊「留守番してるからさ、いってらっしゃい」

女の子「むぅ・・・いってきまーす・・・」


女の子「ただいまー!」

母「ただいまー」

父「おかえりー」

幽霊「お、帰ってきたか」

父「楽しかったか?」

女の子「うん!あのね、これパパにおみやげ!」

父「ボールペンか!ありがとう、おーちゃん」

母「あら、あなた、晩御飯つくってくれたのね、ありがとう。」

父「いや。さ、おーちゃん、お腹すいただろ?はやくご飯にしよう。荷物部屋に置いておいで」

女の子「はーい」

トントントン バタン

女の子「ただいまー!」

幽霊「おかえりー!楽しかったか?」

女の子「うん!これね、ゆうくんにおみやげ?」

幽霊「キーホルダーか!ありがとう。」

女の子「ふふ、どういたしまして!」

***
<> ししのは<><>2013/08/17(土) 14:33:08.53 ID:JEonPDxT0<> ***
女の子「どきどきするー」

幽霊「入学式だもんなー」

女の子「ランドセル変じゃない?」

幽霊「変じゃないよ」

女の子「お洋服も変じゃない?」

幽霊「大丈夫、変じゃないよ。」

女の子「ゆうくんも入学式来てくれる?」

幽霊「ああ、後ろの方で見てるよ。」

女の子「やったー!」

母「おーちゃーん!」

幽霊「ほら、お母さんがよんでるぞ。いってらっしゃい」

女の子「いってきます!」


女の子「どうだった!?」

幽霊「立派だったぞー。おーちゃんが一番可愛かったよ」

女の子「ほんと?!ふふふ〜嬉しいな〜」

***
<> ししのは<><>2013/08/17(土) 14:33:40.70 ID:JEonPDxT0<> ***

女の子「ゆうくん、これわかんない。」

幽霊「全部で300円持ってるんだろ?で、何を買ったの?」

女の子「鉛筆と消しゴム」

幽霊「何個ずつ?」

女の子「1本と2個」

幽霊「それぞれ何円?」

女の子「100円と80円」

幽霊「じゃあ全部でいくらになる?」

女の子「100円足す80円足す80円・・・だから・・・260円!」

幽霊「そうだね。じゃあ持ってるお金出したらおつりはいくらかな?」

女の子「えーと、えーと、300円から260円引いて・・・40円!」

幽霊「大正解!な、簡単だろ?」

女の子「うん、ゆうくんありがとう!」

幽霊「さ、次の問題もやっちゃおう」

女の子「うん!」

***
<> ししのは<><>2013/08/17(土) 14:34:13.42 ID:JEonPDxT0<> ***

幽霊「おかえり〜って、どうした?何があった?」

女の子「男の子に・・・ぐすっ・・・いじめられたぁ」シクシク

幽霊「何されたんだ?ほら、泣くな泣くな」ヨシヨシ サワレナイケド

女の子「ぐすっ・・・チビっって・・・笑われた」シクシク

幽霊「チビかぁ・・・別にちっちゃくてもいいと思うけどなぁ」

女の子「でも・・・笑われるのは・・・ぐすっ・・・いやぁ」シクシク

幽霊「そうだよな、笑われるのは嫌だよな。でも、みんな大きくなるスピードは違うし、どんなふうに大きくなるかも違うんだ。ちっちゃいからって気にする必要はないよ。」

女の子「・・・」コクン

幽霊「ちっちゃいのは、本当かもしれない。でもね、だから何?って思っていればいいと思うよ。ちっちゃくてもおっきくても、おーちゃんはおーちゃんなんだから。ね?」

女の子「・・・うん」

幽霊「さ、もう泣かない泣かない!可愛い顔が台無しだぞ〜?」

女の子「うん・・・ゆうくん、ありがと。」

幽霊「いえいえ。」

***
<> ししのは<><>2013/08/17(土) 14:34:44.51 ID:JEonPDxT0<> ***

幽霊「おーちゃん、もう部活決めたの?」

女の子「うん、テニス部!」

幽霊「お!テニス部かぁ」

女の子「中学校入ったら始めようと思ってたの!」

幽霊「そうかそうか。じゃあラケットとか買いにいかないとな。」

女の子「そうだね!マイラケットとか楽しみ〜!」

***
<> ししのは<><>2013/08/17(土) 14:35:44.63 ID:JEonPDxT0<> ***

女の子「ゆうくん」

幽霊「うん?」

女の子「男の子ってどんなチョコが好きなの?」

幽霊「チョコ?ああ、そうか、もうすぐバレンタインか。」

女の子「手作りチョコあげたいの。」

幽霊「手作りかぁ、いいね。で、誰にあげるの?」

女の子「うん、えっとね、テニス部の先輩。」

幽霊「ああ、前言ってたかっこいいって先輩?」

女の子「うん、そうなの。何あげたらいいかな?」

幽霊「てかおーちゃん料理とかお菓子作りとかできたっけ?」

女の子「するの!」

幽霊「はは、愛の為に頑張るってね。青春だね〜」

女の子「もう!からかわないでよ!」

幽霊「ごめんごめん。でも、一生懸命作ってくれたら、なんでも嬉しいもんなんじゃないかな?」

女の子「そうかな?」

幽霊「そうだよ。」

女の子「じゃあ、チョコレートの本買ってきて試してみる。」

幽霊「それがいい。」

女の子「うん。頑張る!」

***
<> ししのは<><>2013/08/17(土) 14:36:19.94 ID:JEonPDxT0<> ***

幽霊「どうだった?って、その顔はだめだったか・・・」

女の子「うん・・・受け取ってはくれたけど・・・他校に彼女いるからって・・・」

幽霊「そっか。残念だったな。」

女の子「うん・・・失恋って、胸の奥が痛いんだね」

幽霊「泣きたかったら泣いた方がいいぞ。」

女の子「泣かないもん!もう寝る!おやすみ!」

幽霊「・・・おやすみ」

女の子「・・・」シクシク

幽霊「・・・」ヨシヨシ

***
<> ししのは<><>2013/08/17(土) 14:37:17.80 ID:JEonPDxT0<> ***

幽霊「勉強もほどほどにしろよ?」

女の子「うん。でももうすぐ受験だし。」

幽霊「だからって根詰めて身体壊したら元も子もないぞ?」

女の子「そうだね、じゃあもうちょっとやったら寝るね。」

幽霊「ん。」

女の子「ゆうくんも、受験したんだよね、きっと。」

幽霊「ああ、たぶんな。覚えてないけど。」

女の子「どんな男の子だったのかな?」

幽霊「さぁ・・・こんな感じじゃね?」

女の子「ふふ、変わってなさそうだね。」

幽霊「おーちゃんだって変わってないじゃん。」

女の子「そうかな?」

幽霊「好奇心旺盛で泣き虫で疑うことをしらないおーちゃん。ずっとそのまんまじゃん」

女の子「そうかなー?」

幽霊「そうだよ。じゃなきゃ幽霊家においたりしないだろ」
<> ししのは<><>2013/08/17(土) 14:37:52.39 ID:JEonPDxT0<> 女の子「ふふふ、それもそうか。・・・ねえ、ゆうくん」

幽霊「ん?なに?」

女の子「ゆうくんと出会ってからもう10年くらいたつんだね〜」

幽霊「もうそんなにたつか・・・はやいもんだな」

女の子「ゆうくんは、ずっとここにいるの?」

幽霊「・・・ごめん、出ていった方がよかったか?」

女の子「あ、違うの、そういうつもりじゃなくて!ただ、ずっとここにいていいのかなって。」

幽霊「・・・」

女の子「名前とか記憶とか、思い出せたら成仏できるのかなって。」

幽霊「成仏してほしい?」

女の子「だから、そういうんじゃないって!ゆうくんはもう家族だもん、いなくなったら寂しいよ。でも・・・」

幽霊「でも?」

女の子「ゆうくんにとっての幸せって、なんなのかなって、思って」

幽霊「幸せ?」

女の子「ずっとここにいるより、成仏した方が、幸せなのかなって、そう思ったの」

幽霊「なんで俺は・・・成仏できないんだ」

女の子「・・・」
<> ししのは<><>2013/08/17(土) 14:38:25.41 ID:JEonPDxT0<> 幽霊「最初は、そう思ってたよ。おーちゃんに会うまでは。」

女の子「私に会うまで?」

幽霊「そう。一人が寂しくて、どこかにいきたくて。でもおーちゃんが俺を見つけてくれて寂しくなくなったから、俺は成仏しなくてもいいかなって思ってる」

女の子「・・・」

幽霊「楽しかったよ、この10年。でもそうだよな、年頃の女の子の家に男の幽霊が居座るのはさすがにまずいよな。」

女の子「まずくないよ!私は大丈夫!」

幽霊「いや、でも」

女の子「ゆうくんが幸せならいいの!よかったぁ、ゆうくん成仏したがってるのかと思ったから、私が妨げになっちゃいけないと思って・・・」

幽霊「じゃあ、ここにいていいのか?」

女の子「もちろん!ゆうくんは大事な家族だもん!」

幽霊「家族・・・か。」

女の子「そうだよ、私たちは家族。」

幽霊「家族・・・いい響きだな。」

***
<> ししのは<><>2013/08/17(土) 14:56:38.70 ID:JEonPDxT0<> ***

女の子「ゆうくん、大変!」

幽霊「どうした?」

女の子「告白されちゃった!」

幽霊「お、マジか!誰に?」

女の子「隣のクラスの男の子!」

幽霊「そっかそっか、高校生にしてやっと告白されたか。」

女の子「どうしよう!」

幽霊「どうしようもこうしようも、その子のこと好きなの?」

女の子「わかんない」

幽霊「わかんないって・・・気になったりはするの?」

女の子「授業が一個被ってて・・・それで話しかけてくれて・・・」

幽霊「で?」

女の子「で・・・たまにすごい無邪気に笑うんだよね。」

幽霊「うん、で?」

女の子「で、それで・・・」

幽霊「その授業がくるの楽しみ?」

女の子「うー・・・ん。たぶん楽しみ。」

幽霊「たぶんって。」

女の子「だってわかんないんだもん」

幽霊「じゃあ、その子と付き合うとかって絶対考えられない?想像できない?」

女の子「想像できなくは・・・ない。」

幽霊「じゃあ正直に、まだあなたのこと好きかわからないけれど、それでもいいですかって聞けば?」

女の子「とりあえず付き合うってこと?」

幽霊「付き合う想像して、拒否反応起こさなければ若干の恋愛感情はあるんじゃないの?」

女の子「そうかな・・・」

幽霊「俺はそう思うね。」

女の子「・・・じゃあ明日そう言ってみる。」

幽霊「初彼かぁ・・・青春だねぇ」

***
<> ししのは<><>2013/08/17(土) 14:57:26.78 ID:JEonPDxT0<> ***

女の子「今日デートなんだぁ」

幽霊「そっか、いってらっしゃい」


女の子「これ、おそろいで買ったんだ」

幽霊「可愛いじゃん」


女の子「初ちゅーしちゃった!」

幽霊「お、やったじゃん!」

***
<> ししのは<><>2013/08/17(土) 14:58:15.14 ID:JEonPDxT0<> おーちゃんは恋愛に夢中だった。
だから、捨てられた時の落ち込み具合も半端じゃなかった。

幽霊「おーちゃん、ごはんはちゃんと食べないと」

女の子「食べたくない」

幽霊「所詮その程度の男だったんだって」

女の子「・・・」

幽霊「別れて正解だよ」

女の子「もう、誰も好きにならない」

幽霊「またそんなこと言って・・・屑じゃない男はいっぱいいるぞ?」

女の子「そんなわけない」

幽霊「ほら、俺だって一応男だし」

女の子「ゆうくんはゆうくんだよ」

幽霊「・・・」

女の子「何がいけなかったんだろ」

幽霊「おーちゃんの所為じゃないよ」

女の子「そうなのかな」

幽霊「4マタかけるとか、普通はないからね」

女の子「ないのかな」

幽霊「あったら困るだろ」

女の子「だまされたのかな」

幽霊「・・・まぁ」

女の子「だまされたのかぁ・・・」

幽霊「もうだまされないようにすればいいだろ」

女の子「・・・」

幽霊「・・・おーちゃん?」

女の子「なんか腹立ってきた!」プンスカ

幽霊「お、おう」

女の子「今日はアクションムービーナイト!さ、DVD借りてこよ!」

幽霊「あ、うん、いいけどさ」

女の子「お菓子も買って来なくちゃ!」

幽霊「ま、元気になるならそれでいいけど・・・」

***
<> ししのは<><>2013/08/17(土) 15:00:10.04 ID:JEonPDxT0<> ***

それから、いろいろなことがあった。
おーちゃんは、笑って泣いて怒って、百面相だった。
5歳の頃から変わらない、おーちゃんだった。
そんなおーちゃんが、今日、お嫁に行く。

女「お父さん、お母さん、今までお世話になりました。」

夫「娘さんは僕が必ず幸せにします。」

おーちゃんは、とてもきれいだった。
白いウェディングドレスが、とても眩しかった。
お色直しの着物も、とても華やかだった。
あんなに小さかったおーちゃんが、嫁いでいくなんて。

女「ゆうくん」

幽霊「おーちゃん」

女「本当に出ていっちゃうの?」

幽霊「ああ。いくら家族だからって、ついていくわけにはいかないよ」

女「ずっとあの家にいればいいのに。私だってたまには帰るし」

幽霊「いや。ふらふらしながら実家でも探すよ」

女「そっか・・・もう、会えないのかな?」

幽霊「きっとまたどこかで会えるよ。」

女「元気でね」

幽霊「おーちゃんもな」

夫「おーい、おーちゃん!」

幽霊「ほら、旦那様が呼んでるぞ」

女「うん・・・。ゆうくん、今までありがとう。」

幽霊「礼を言うのはこっちだ。あの日、俺を見つけてくれてありがとう」

女「じゃあ・・・」

おーちゃんは振り向かないまま、夫のもとへと走って行った。

『おーちゃんちはね、こっちだよ〜』
そういって前を歩いたあの日の背中は、いつの間にか大きくなり、美しくなっていた。

幽霊「ばいばい、おーちゃん」

***
<> ししのは<><>2013/08/17(土) 15:00:38.24 ID:JEonPDxT0<> それから俺は、ただふらふらと毎日を過ごした。
おーちゃんと過ごした街にいるのは、なんだか少し寂しくて、
見知らぬ土地を練り歩いた。

変な幽霊に追いかけまわされたり、
霊媒師に除霊されかけたり、
ごくたまにおもしろいことは起きたけれど、
だいたいが、そう、人間観察とか、そういった平凡な、穏やかな日々だった。

相変わらず記憶は戻らないし、というか失ったのかもしれないし、
鮮明にあるのは、おーちゃんと過ごした20年間。
思えば今や、おーちゃんと過ごした年月の倍以上、一人で過ごしている。
まるで昨日のことのように、思い出せるのに。
<> ししのは<><>2013/08/17(土) 15:01:13.78 ID:JEonPDxT0<> 幽霊「おーちゃん、元気かな」

なんだか懐かしくなって、おーちゃんと過ごした街へ戻ってみることにした。

幽霊「違う・・・家だ。」

おーちゃんの家はもう、なくなっていた。
違う家が建ち、違う人が住んでいた。
当たり前か、もう何十年も前なのだから。

幽霊「公園は、まだあるかな?」

おーちゃんと出会った公園の方へ行ってみると、そこには見慣れた入口があった。

幽霊「さすがに遊具は取り替えてるか」

あの日、座っていたブランコはもうなくなってしまったが、
同じ場所に新しいブランコがあった。

幽霊「懐かしいな」

ブランコに座って少し揺らしながら呟いた。
遊具は変わっていても、見える景色は変わらない。

目を瞑れば、おーちゃんの声が聞こえる気がした。

『迷子なんだ〜?』
『おうちは〜?』
『お名前は〜?』

「おじちゃん、だーれ?」

幽霊「え?」

突然した本物の声に驚いて目を開けると、そこには・・・
<> ししのは<><>2013/08/17(土) 15:01:39.26 ID:JEonPDxT0<> 老女「びっくりした?」

幽霊「・・・おー・・・ちゃん?」

老女「そうだよ。ゆうくん、久しぶり。」

幽霊「・・・本物?」

老女「本物じゃなかったら、ゆうくんのこと見えないでしょ?」

幽霊「そっか・・・」

老女「おばあちゃんになったから、わからなかった?」

幽霊「いや、目とか喋り方とか、なんにも変わんないよ」

老女「ふふふ、そうかしら?」

幽霊「ていうか、なんでここにいるの?」

老女「この近くに住んでるの。たまに来るのよ。そしたら、ゆうくんがいたの。」

幽霊「そうなんだ。」

老女「まあ積もる話はうちでしましょう。」

トコトコ

老女「ほら、こっちよ」

トコトコ

前を歩く背中はいつのまにか、また小さくなっていた。
<> ししのは<><>2013/08/17(土) 15:02:10.90 ID:JEonPDxT0<> 老女「散らかっててごめんね」

幽霊「いや・・・。一人暮らし?」

老女「そうよ。夫に先立たれて、子どもはひとりだちして。」

幽霊「そうなのか・・・。一緒にはすまないのか?」

老女「ドイツに住んでるのよ。この年で海外は無理ね」

幽霊「そうか・・・いつから?」

老女「もう10年近くなるかしら。」

幽霊「そんなに・・・」

老女「ゆうくんは?ゆうくんは何してた?」
<> ししのは<><>2013/08/17(土) 15:02:40.04 ID:JEonPDxT0<> 積もる話はきりがなかった。
俺の話も、おーちゃんの話も。
アルバムをみながら、あれからのおーちゃんの人生を一緒におった。
子どもが生まれ、子どもが成長し、孫ができ、
おーちゃんが素敵な人生を送ってきたのが、一目でわかった。

昔話にも話を咲かせた。
あの頃は・・・
話は尽きなかった。
一日じゃ話しきれず、次の日も、次の日も。
なんとなく、お互い言葉にすることはなかったけれど、
自然に、ごく自然に、俺はおーちゃんとまた暮らし始めた。
離れていた空白の時間なんて、まるでなかったかのように、
俺たちは、あの頃に戻っていた。
<> ししのは<><>2013/08/17(土) 15:05:10.95 ID:JEonPDxT0<> 老女「これはね、この前のデイサービスで作ってきたのよ」

幽霊「ちっさい鶴だな〜よくこんなの折れるね」

老女「目だって手先だってまだまだ元気よ!」


約半世紀ぶりに過ごす日々は、穏やかで、幸せだった。
ずっと、このままでいたい。
このささやかな日の終わりなんて、考えられなかった。
<> ししのは<><>2013/08/17(土) 15:05:39.58 ID:JEonPDxT0<> 老女「ねぇ、ゆうくん」

幽霊「ん?」

老女「ゆうくんはなんで、幽霊になったのかなぁ」

幽霊「わからない。結局記憶は戻ってないんだ。」

老女「私も幽霊になれるかな?」

幽霊「何馬鹿なこといってんだよ」

老女「自分の身体は自分が一番よくわかるよ」

幽霊「そんなこと言ったって・・・」

老女「身体も動かなくなってきたし。」

幽霊「でも・・・もしそうだとしても、成仏しないと・・・旦那さんに会えないだろ」

老女「そうね・・・でも、お義父さんもお義母さんもいるもの。」

幽霊「でも、奥さんは一人だろ。おーちゃんだけだ」

老女「でも、ゆうくんにも私だけでしょ?」

幽霊「・・・」

老女「やっぱり、私にしか見えなかったんだね。」

幽霊「うん・・・。なぜだかわからないが。」

老女「ゆうくん、ひとりぼっちにはしたくないなぁ」

幽霊「・・・もう寝よう。」

老女「そうね・・・おやすみなさい。」

幽霊「おやすみ。」
<> ししのは<><>2013/08/17(土) 15:06:19.17 ID:JEonPDxT0<> それが、最後の会話だった。
おーちゃんはそのまま、眠る様に息を引き取った。
<> ししのは<><>2013/08/17(土) 15:07:03.85 ID:JEonPDxT0<> 幽霊「おーちゃん」

幽霊「おーちゃん」

おーちゃん
おーちゃん
おーちゃん

何度呼んでも、おーちゃんは目を覚まさなかった。
何度呼んでも、おーちゃんは出てこなかった。

幽霊「おーちゃん、幽霊にはなれなかったんだな」

涙が、後から後からこぼれてくる。
おーちゃんの穏やかな死に顔も、涙でぼやけてしまう。

幽霊「おーちゃん、ちゃんと成仏できたのかな」

おーちゃんの頭に手を添える。
通り抜けてしまって触れることなど出来ないのだけれど。

幽霊「ちゃんと、家族に会えたかな」

泣いてばかりだったおーちゃん。
何度もよしよしと頭を撫でてあげた。
触れられなくても、おーちゃんの温かさがわかる気がした。

幽霊「幸せに・・・生きたんだよね」

まるで、眠っているようで、
またすぐ、ぱちりと目を開けて
『だまされた?』
そう、いたずらっぽく笑ってくれる気がして。

幽霊「おーちゃん」

涙が止まらない。
おーちゃんも自分も死んでいるのに、なぜ同じ場所にいけないのか。
本当に、もう二度と、会えないのか。

おーちゃん
おーちゃん
おーちゃん

いくら呼んでも返事はないのに。


幽霊「なんで俺は・・・成仏できないんだ」
<> ししのは<><>2013/08/17(土) 15:08:07.14 ID:JEonPDxT0<> 俺は目を瞑った。
そうしたら、おーちゃんの声が聞こえる気がして。

『おじちゃん、だーれ?』
『じゃあ・・・幽霊だからゆうくん!』
『ゆうくんはゆうくんだよ』
『ゆうくん、久しぶり』

目を瞑って思い出すうちに、なんだか眠くなってきた。
頭の中に響くおーちゃんの声に包まれながら、
幽霊になってから初めての眠気に、身をまかせようと思った。
なんだか、とても、心地がいい。

おーちゃん

「ゆうくん」

おーちゃんに呼ばれた気がして、目を開けた。

幽霊「おーちゃん?」

「うん」

幽霊「おーちゃん」

「ゆうくん、ほら」

おーちゃんは、そっと手を差し伸べてくれた。
右手を伸ばすと、おーちゃんが優しく握ってくれた。

初めて触れる、手。
夢でもいい、この温かさが幻でも。
ただ、泣けてきた。

「ほらほら、泣かないの」

おーちゃんは、困ったように笑った。
そんな顔をしっかり見たいのに、涙でぼやけてしまう。

「ゆうくん、ほら。」

おーちゃんはゆっくり手を引いて俺をたたせた。
手を握ったまま、おーちゃんは俺の前を歩く。
見慣れた、背中が前を行く。
そしてあの日と同じ笑顔で、同じように言う。



「ほら、こっちだよー」
<> ししのは<><>2013/08/17(土) 15:09:27.47 ID:JEonPDxT0<>
おわり


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/08/17(土) 15:09:45.18 ID:r5vhbrv9O<> ええな <> ししのは<><>2013/08/17(土) 15:15:10.02 ID:JEonPDxT0<> 精進します。
どうもありがとうございました。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/08/17(土) 15:24:00.52 ID:og0GS/zao<> おつ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/08/17(土) 15:48:08.26 ID:291i+gxhO<> 良かった
乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/08/17(土) 15:48:34.23 ID:c1nvTUADO<> 乙です

とても素敵なお話でした
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/08/17(土) 19:09:33.03 ID:n/Hcxigao<> ありがとう
素敵な話だった <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/08/17(土) 22:21:12.52 ID:SW9j0Mzfo<> 良い話だった
乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/08/18(日) 09:17:48.70 ID:stbKHp6qo<> 泣いた <>