VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/12/08(日) 11:51:56.86 ID:vwmMjPdR0<>
『―――だ!お前が!』

『あなたこそ…!―――ないの!』

『何だと…千種!―――!』

『あなた、―――が――っ!?』



『やめて…やめてよおかあさん、おとうさん…!ケンカは…いや…いやだよぉ!』


『あの時!千種。お前が見ていれば優は死なずに済んだんだ!』

『二人で遊んできてもいいといったのは、あなたじゃありませんか!』


『やめてぇーーーーーーーーーっ!』




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<>千早「忘れたい記憶、忘れ得ぬ記憶」 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)<>sage<>2013/12/08(日) 11:52:26.39 ID:vwmMjPdR0<>

765プロ事務所


――――――――――

「千早、寝てるのか?」

「ええ、寝不足みたいで、少し仮眠を取ってから帰るって」

「そうか…」

「…それにしてもプロデューサー、これはどういうことです?」

「律子、いやだからそれは」

「プロデューサーの方針じゃ甘すぎます、もう少し」

「だがなぁ、あまりあいつらを追い詰めたくないんだよ」

「追い詰めるだなんて…そこまでは言ってません」

「いや、言ってるよ。現にあいつらは」

「だから」

「いーや、俺は俺のやり方がある」

「…!いい加減にしてください!貴方のやり方じゃ、あの子達を」


―――――――――――


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)<>sage<>2013/12/08(日) 11:53:22.93 ID:vwmMjPdR0<>

『―だから――!』

『違います!――――って事で』

『あー、もう、頑固だな』

『そんな事はありません!』

大きな声が、まだ寝ぼけた頭に響く。
事務所で寝ていたはずなのに…誰?
幼い頃の記憶とそれが重なったとき、私は思わずソファから駆け出した。

「…やめ…て…けんか、だめぇ…!」

ぼやけた視界に見えた背広姿に父の姿が重なって、私は思わず抱きついていた。
母を責めるときのあの声、母が父を責めるときの、あの声。
今ここが家じゃない、それは分かっていても、思い出すあの夜。

「…千早?すまん、起こしたか」

「ケンカは止めてぇ…だめぇ!」

もう、自分が何を言っているのかも分からない。
とにかく、2人の口論を止めたい一身だった。

「どうした?千早?!」

「いやぁっ、大きな声だしちゃいや!」

「だ、大丈夫、もう大きな声は出さないから、な」

「本当に…?」

「ああ、本当だ。ごめんな、俺もかっとなって…律子」

「ええ、私も大人気なかったと思います。すいません…」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)<>sage<>2013/12/08(日) 11:53:51.43 ID:vwmMjPdR0<>
落ち着いた、普段の様子の律子とプロデューサーを見て、ようやく私も正気を取り戻したように思えた。

「…ぁ…ご、ごめんなさい、私ったらどうかしてて…」

よろめいた私を、プロデューサーが抱き抱える。
何をやっているのかしら…私は。

「いや、気にすることは無いさ。俺が悪かった…夢、見てたのか?」

「え?」

「…途中、うなされている様な感じがしたんだが」

「…いえ、大丈夫…です」

頭がまだはっきりしない。
両親の喧嘩の光景と、事務所の光景が合致しない。
当たり前のことなのに、私は今、自分がいつ、どこに居るのか分からない。
足元が、ふわふわしている気がする。

「…では、帰ります、失礼します」

「…待て、千早、家まで送ろう。準備するから待っててくれ」

「あ、いえ大丈夫です」

「今の様子を見て心配しないと思うか?」

いつもの苦笑いを浮かべたプロデューサーに、私も少しぎこちない笑顔を返す。

「…では、お願いします」

「車を事務所の下まで持ってくるから、待っててくれ」


「…千早、疲れてるんじゃないの?」

「…大丈夫よ、律子」

「…そう…あ、来たみたいね、それじゃ、お疲れ様、千早。今日は早めに寝なさいよね」

「ええ、お疲れ様、律子」



「…変な千早…何かあったのかしら…何かあったのね」


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(SSL)<>sage<>2013/12/08(日) 11:54:36.52 ID:vwmMjPdR0<>
「最近冷え込んできたな…寒くないか?」

事務所を出てしばらくして、プロデューサーがそんなことを聞いてきた。
多分、私に気を使ってくれたのだろう。

「いえ、大丈夫です……」

「……」

カーラジオから流れるニュースと、車のエンジン音しか聞こえない車中。
何だか、居心地が悪い…そう感じた私は、プロデューサーに声を書けることにした。

「……プロデューサーは」

「ん?」

「プロデューサーのご両親は、今も仲がいいですか?」

「…そうだなぁ、ラブラブってわけじゃないけど、悪いってわけでもないしなぁ。時折県下もするし。まあ、付き合い長いからな。何だかんだで仲直りしてるみたいだけど」

「そう、ですか…」

「どうしたんだ?千早」

「いえ…」

…そう、それが…普通、なのかもしれない。
もし、優が生きていたら…母も父も、今も仲良く暮らしていたのだろうか?

「…どうしたんだ?突然」

「…深い意味はありません。忘れてください」

「…そうか」



「…優、あなたがいてさえくれれば」

でも、優はいないことに変わりは無い。
それは分かっていた。
だけれど…

「…私は」


――――――――――――――――
―――――――――――――
―――――――――――
―――――――――
―――――――
―――――




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(SSL)<>sage<>2013/12/08(日) 11:55:23.69 ID:vwmMjPdR0<>
「千早…千早、おきなさい、千早」

「お母さん…?」

「お姉ちゃんいつまで寝てるの?」

「優…?!」

「ほら千早、いつまで寝てるんだ、今日は皆で出かけるって言ってたじゃないか」

「…え、ええ」

…優は、今年で小学校の5年だったかしら…
夢?
私は765プロでアイドルを…

「ほら、千早お姉ちゃん。今度音大の受験でしょ。そうなったらこうして遊びに行けなくなるしさ」

「そうね…」

ああ、そうか…夢だったんだ。
優が交通事故で死んで、お母さんとお父さんが離婚して。
私は一人暮らしをしながら、765プロでアイドルをしていたというのは…


「ふふっ、妙な夢ね…」



「ほら、千早お姉ちゃん、たこ焼き食べようよ!」

「まって、優、そんなに走らなくても」

「はい、千早お姉ちゃん」

「…自分で食べるわ」

「そんな子といわずに、ほら、美味しいよ」

「…あー…ん」

「…美味しい?」

「…ん。まだ熱いわ」

「えへへっ、あっ、ほら、射的がある!」

はしゃぎまわる優は、本当に楽しそうで。
私も、優を見ているだけで楽しくなる。

「見てみて!千早お姉ちゃん!これ」

「あら…可愛いぬいぐるみね」

「お姉ちゃんに上げるよ」

「私に?…ふふっ、ありがとう」

もう夏休みも終わり…そうすれば、また学校も始まるし。
優ももうすぐ中学生…か。

「千早お姉ちゃん、置いてくよー!」

「あっ、待って優」

優雅、こちらを振り向きながら走っていく先は、道路。
何かしら、私はこの場面を…

いけないっ!

「優、止まって!」

「えっ?」

鳴り響くクラクションに、悲鳴を上げるタイヤの音が聞こえ始めるより前に、私は駆け出す。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)<>sage<>2013/12/08(日) 11:57:44.80 ID:vwmMjPdR0<>
優の手を、こちらに引き寄せようとしたところで、私の意識は現実へと引き戻されることになった。

「優!」

自分でも驚くほどの声に、私は正気を取り戻す、ここは、自分の部屋だ。

「…夢は、向こうの方だっていう事ね…」


嫌な汗をかいた。
部屋は、白い息が出るほど冷え切っているのに、パジャマまで汗で濡れている。

「…一度、シャワーを浴びましょう…」

布団から這いずり出ると、眠気に痛む頭を押さえ、私はシャワーを浴びる事にしました。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)<>sage<>2013/12/08(日) 11:58:58.02 ID:vwmMjPdR0<>
「ねえ、千早ちゃん。最近元気が無いけど」

「そう見えるかしら?」

ある朝、春香に突然そういわれて、私は首を傾げて見せる。
原因は、分かってる。

「…何かあるなら、私が相談に乗るよ?」

「ありがとう…でも大丈夫よ」

「…そう」



「そんなに、元気が無いように見えるのかしら…」

事務所の化粧室の鏡に写る自分の顔。
…他人から見ると、そう見えるのかしら?
笑みを浮かべて見せるけど、それは強張っている様に感じた。

「…どうして、今頃になって」
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(SSL)<>sage<>2013/12/08(日) 11:59:28.71 ID:vwmMjPdR0<>
「なあ、千早」

「はい、何でしょうか。プロデューサー」

「最近、元気が無いって春香から聞いたんだが」

「…そんな事はありません」

「いや、俺も気になってたんだ…何かあったんだな」

「…」

「…俺なんかじゃ、まあ相談相手にしても不安かもしれないけどさ、吐き出してしまえば楽になることもあるだろう?」

「…これは、そう簡単な問題じゃないんです。ごめんなさい」

「待て!千早」

プロデューサーが私の腕を掴みます。
…いつもと違う、穏やかな顔。
なのに、腕を掴む力は私を放すまいと…

「っ!」

「…すまん、強くしすぎた…お前が、そんな顔をしているのを放っては置けない…話して、くれないか」

「…」


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)<>sage<>2013/12/08(日) 12:00:00.10 ID:vwmMjPdR0<>
「砂糖とミルクは?」

「ミルクだけで…」

プロデューサーが入れてくれたコーヒーは、小鳥さんが入れてくれるものに比べて、苦い。
プロデューサー自身もそう感じたのか、軽くすすると顔を顰めていた。

「私の弟が、事故で亡くなったことは、お聞きですか?」

「ああ」

「その後、両親も私も、ものすごく悲しみました…両親も、最初は自分達の非を悔やむばかりで…でも、いつしかそれが、互いの非をなじり合うだけのものになりました…そのたびに、大声を出す両親の姿を、私は見たくなくて…」

思い出すだけでも、嫌だった。
両親が、いがみ合い、罵詈雑言を吐き、そうでなくても会話の無いあの冷たい雰囲気が。
何よりも、その原因が、優の死であることが。

「…そうか、そう言う事か」

「…すいません、プロデューサーの気を煩わせて締まって、こんなこと、私の気持ちの問題で」

「いや…事務的な言い方にはなるが、アイドルの心身の管理もプロデューサーの仕事でね。当然の事をしているまでだ…それで、あの時」

「はい、思わずその光景に重ねてしまったんです」

「すまなかった…」

「いえ、プロデューサーが悪いわけでは…」

「…忘れることなんて、出来ないよな…今度、墓参りに行こうか」

「えっ?」

プロデューサーの言っている事の意味を理解するのに、少し時間が掛かった。

「…墓参り…」

「…過去のことばかり思い出すのは、もしかすると弟さんが呼んでるんじゃないか?墓参りに来てほしいって」

「…」

「い、いや、すまなかった。軽率だった」


「私、行きます」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)<>sage<>2013/12/08(日) 12:01:55.97 ID:vwmMjPdR0<> 都心を離れて、少し郊外にある墓地。
優の墓は、そこにある。

「…優、久しぶりね」

勿論、墓石に語りかけたところで優が答えを返してくれるわけでも無い。
でも、私は…

「…最近、あなたが亡くなった後の事ばかり思い出してしまって」

傾きだした陽の光が、墓地を紅く照らす。
プロデューサーは、一言も話さず、後ろに立っていた。

「…優。ごめんなさい…弱いお姉ちゃんで…ごめんね…」

「…千早?」

少し掠れた女性の声が、私の耳朶を打つ。

「…母さん」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)<>sage<>2013/12/08(日) 12:02:24.61 ID:vwmMjPdR0<>
如月千種。
私の母親であり、当然のことだけれど優の母親…

「どうしたの…こんな時に」

「…」

「…」

以前に比べれば、改善された関係も、まだまだぎこちない物だ。
母は、私を複雑な表情の入り混じった物で、見つめている。

「…」

何も言わず、母は私の横にしゃがみ込み、墓前に花を添え、手を合わせる。
私も、また目を閉じて、手を合わせる。

「…千早…あなたには、本当に申し訳ない事をした…許してくれとは言わないわ。私達はそれだけの事を、あなたにしたと思う…」

「…」
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(SSL)<>sage<>2013/12/08(日) 12:03:01.91 ID:vwmMjPdR0<> 「だけれど、私達夫婦は、千早…あなたと、優を愛していた、いえ、愛している…その気持ちが、あの人も、私も、今も変わらないという事だけは、分かってもらいたい…なんていうのは、私のエゴかしら…」

「母さん…」

「…あの人も、私も、あの時は自分のことで精一杯で…貴方の事を、気に掛けてあげられなかった…」

「…」

母さんが、詰まりながらも話してくれた言葉に、私は、驚くよりも先に安堵していた。
母さんは…やっぱり母さんは、母さんだった。

「…あなたの、気持ちがあの頃と同じになる事はもうないと思う。でも…いつかまた、あの時の様に話せることを…私は、願ってるわ…プロデューサーさん、娘を、よろしくお願いします」

「か、母さん!」

プロデューサーは、その言葉に頷いた。
母が立ち去るその背中を見て、声を掛けようとしたけど、駄目だった。

「…千早」

「…いえ、良いんです…行きましょう」

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(SSL)<>sage<>2013/12/08(日) 12:03:45.77 ID:vwmMjPdR0<>

「良かったのか?」

帰りの車の中、プロデューサーが私にそう問いかけた。

「…良いんです、母の気持ちが、聞けましたから」

「…そうか」

「…私達の溝は、深く広い物です…でも、あの言葉で、少しだけ、その距離が縮まった気がします…そんな単純な物では、無いのかもしれませんが」

「…」

「…プロデューサー、ありがとうございました」

「え?」

「…私だけで考え込んでいても、解決できませんでした」

「俺は、何もしてないよ。千早が自分の考えで解決したことだ」

プロデューサーの表情は、今こちらからは夕日に照らされて見辛い。
ですが、声色からは、笑っているような、安堵しているような、そんな感じを受けました。
その日はそのまま家へと送り届けてもらい、一日を終えました。

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(SSL)<>sage<>2013/12/08(日) 12:04:15.96 ID:vwmMjPdR0<>
「おはよう、千早ちゃん!」

「春香、おはよう」

「…千早ちゃん、何かすっきりした顔をしてるね」

「えっ?」

春香が、安心したような表情だったので、私は訝しがる。

「…どうしたの?」

「ううん、何でもないよ」

「…そう」

春香は、相変わらずニコニコしたままこちらを見ている。
そんな春香を見ていると、私まで頬が緩んでしまう。

「…少し、すっきりしたのかもしれないわね」

「え?」

「何でも無いわ。春香、行きましょう」

「え、え?な、何の事、ねぇー千早ちゃん!」





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(SSL)<>sage<>2013/12/08(日) 12:05:35.68 ID:vwmMjPdR0<> …いまいちツメが甘い気がする。
お子さんがいる方、夫婦喧嘩はやめましょう、子供の前では、特に、ね。

そんな私は独身です、くっ…。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(SSL)<>sage<>2013/12/08(日) 12:14:53.09 ID:OWwQizcX0<> 乙乙お

ええ話や。 無理に泣かせない、しんみりする感じ。 <>