◆K6RctZ0jT.<>saga sage<>2015/04/11(土) 23:56:57.01 ID:bVJyxWqO0<>アイマスssです。
Pが伊織のお兄様。
他、設定の改変あり(登場人物の性格等)。
以下、変更点を箇条書き。
・トリップの変更。
・少々の加筆・修正。
・最後まで書き溜め済み(今のところ3人)。
・要らないと思ったお話の全カット。
・話の切れ目を分かりやすくするための、サブタイトルの導入。

お待たせ。あそこまで投稿しといてエタるわけがない。
以前、読んでくださった方も最初からお付き合い願います。
どうぞ楽しんでいってください。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1428764216
<>P「伊織か?」伊織「お兄様!?」 Re:
◆K6RctZ0jT.<>saga sage<>2015/04/11(土) 23:58:29.61 ID:bVJyxWqO0<> 『プロローグ』『宣材写真』『面談』

P「申し訳ありませんが高木さんに折り入って頼みがあります」

俺は、歳が離れてはいるが旧知の仲である高木順二郎さんに頭を下げてそう言った。

高木「君は水瀬君のところの……一体どうしたというんだい?」

高木さんはアポを取った時も驚いたような声を出したが、今もまだ驚きを隠せないようだった。

P「少しばかり、家庭内で不和が生じてしまい家を出ることになってしまったんです」

高木「なんてことだ……私にできることなら何でも言ってくれ」

P「高木さんならそう仰って下さると思いました。ではひとつお願いがあります」

高木「ああ」

P「高木さんのもとで働かせてください!」

持っていたすべての誇りをなげうって、膝をつき頭を地面にこすりつける。

高木「!! ……よしてくれ。ほら、顔を上げるんだ」

P「ですが…」

高木「何か事情があるのだろう?」

P「…はい」

高木「…うむ。なるほど、父親と衝突して君は勘当されてしまったわけか」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/11(土) 23:59:29.03 ID:bVJyxWqO0<> P「ええ、恥ずかしい話ですが…」

本当に恥ずかしい。

なんと情けないことだろう。

高木「でもちょうど、うちも従業員不足でね、人手が欲しかったところなのだよ」

P「そう言っていただけると助かります」

高木「私がどんな計画を立てているかは知っているかい?」

P「ええ、アイドルを養成、プロデュースして売り出す。という認識で間違いありませんか?」

高木「ああ、それで構わないよ。そして、君にはその売り出すまでをやってもらうが、いいかね?」

P「はい、もちろんです。私に出来ることは何でもやります」

高木「では、来週の頭からさっそくうちに来てくれたまえ。設立のためにいろいろやることがあるからね」

P「明日からでも構いませんが…」

高木「何を言ってるんだ。君にもやることがたくさんあるだろう。まずは居を構えないといけないからね」

P「いえ、そこまで迷惑をかけるわけには……」

高木「いいのだよ。君の活躍の前投資だと思えばね。……ということで期待しているよ! はっはっは……!!」

P「まいったな……」

こんな落ちこぼれに期待されても……とは思ったが、同時に自分はこれを機に変わらなければならないと切に思った。
<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/11(土) 23:59:40.37 ID:wHY+ArsT0<> 以前のスレを貼ってくれると助かる <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 00:00:31.40 ID:bOdoSl9s0<> ……というようなことから二年あまりが経った。

高木社長はアイドルプロダクションを設立する計画を立てていた。

すでに音無小鳥さんという女性も事務員として設立初期のメンバーに加わっていた。

俺たちは資金集めから始めて、その二年という時間をかけてようやくスタート地点にたどり着く。

もちろん社長には感謝してもしきれないので、どれほど時間をかけても彼に協力するつもりでいたのだが、ちょっと動揺するような出来事が起こる。

それは所属することになったアイドル達との初顔合わせの時だったのだが、どうにも見知った顔がいるなとは思っていた。

伊織「初めまして、私『水瀬伊織』と申します。今後ともよろしくお願いするわ」

長いスカートを上品に持ち上げ、可愛らしくお辞儀をする少女にやはり見覚えがあった。……というか妹だった。

伊織「…え? お、お兄様!?」

顔を上げた伊織は俺の顔を見て驚愕の表情を浮かべた。

周りもついていけずに呆然としていた。

P「人違いだ」

咄嗟にそう答えてしまった。とにかく顔を合わせづらかったというのはあった。

伊織「嘘……私がお兄様の顔を忘れるはずがないもの……」

そう、そんな嘘はすぐに見破られるわけで……ちょっと気まずくなった。

P「まあ、なんだ久しぶりだな伊織」

観念して兄であることを白状する。

伊織は上品に笑うと、足を一歩引いた。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 00:01:09.48 ID:bOdoSl9s0<> アイドル加入からしばらくして……。

P「まずはみんなにレッスンしてもらわないとですねー」

小鳥「そうですねー」

俺と音無さんはこんな風に会話しながら事務をこなす。

P「まあ、みんな次第ですが最低三か月は我慢してもらわないと話になりませんねー」

小鳥「そうですかー」

P「でもみんな、頑張ってるので問題なさそうです」

小鳥「それは安心ですね」

P「今度、宣材写真でもとろうかなと思ってますけど、予算大丈夫ですか?」

小鳥「ちょっと待ってください……ええ、なんとか捻出できそうですね」

P「かつかつですねー」

小鳥「かつかつですよー」

何の気ない会話がだらだらと続いているが、二人してどうにかこうにかアイドル達を売り出そうと必死だったりする。

撮影当日。

P「さてお前ら、揃ってるか? これから宣伝用の写真撮りに行くから外に出て車に乗っといて」

『はーい』

P「グループ分けは任せる。手前にあるのは俺、向こうのは音無さんが運転する」

亜美「兄ちゃん、ファンタスティックな運転を頼むよ」

真美「兄ちゃん、そんでもってエキセントリックな運転を頼むよ」

P「何言ってんだ双子……それと兄ちゃん言うな」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 00:01:43.67 ID:bOdoSl9s0<> 伊織「そうよ亜美、真美、あなたたちの兄じゃないでしょ! 私のお兄様なんだから!」

P「お前もプロデューサーと呼びなさい」

伊織「嫌よ。お兄様って昔からそういうところは堅苦しかった気がするわ」

P「当たり前だ。仕事なんだからな」

伊織「でも仕事じゃないとお兄様に会えないじゃない…」

P「あのなぁ伊織、仮にもお前はアイドルだし、俺は家を追い出された身なの。プライベートでお前と会ってたらアイドルやめさせられちまうぞ?」

伊織「いつもは会えないんだから仕事場くらいではお兄様って呼んでもいいじゃない!」

P「……はぁ、わかったよ。好きにしろ」

こんな強情な子だったっけ? でもお兄様は伊織が強く育ってくれて嬉しいよ。内心で血の涙を流しつつ……。

伊織「元よりそのつもりよ」

亜美「じゃあ、亜美は兄ちゃんの方に乗るね」

真美「真美も! 兄ちゃんよろよろー」

P「おい双子、兄ちゃんはやめろっつっただろが」

この双子が来るとなると車内が騒がしくなりそうだ。……別にいいんだけどね?
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 00:02:11.46 ID:bOdoSl9s0<> 伊織「私もお兄様の方でいいかしら、やよいも一緒に乗りましょ?」

伊織は高槻を誘って俺の運転する車に乗る。

やよい「うん! 伊織ちゃんも良かったね!」

伊織「な、なんのことよ…?」

やよい「だって伊織ちゃんこの前、お兄さんの傍にいたいって……」

伊織「わぁーーーーーーーー!!!!!!」

P「うっせーぞ伊織!いいからお前らさっさと乗れ!」

律子「じゃあこっちの騒がしそうな方には私が同伴しましょうか……」

P「お、おう。秋月、助かる」

プロダクション内の監督役的な秋月がいてくれて助かる。

真「じゃあ僕たちは小鳥さんの方だね。雪歩はプロデューサーダメみたいだし」

P「なに? おい菊地どういうことだよ」

というか、ダメって何だ。

真「雪歩は男の人が苦手みたいなんですよ。だからプロデューサーがいない方がいいみたいです」

P「やめろ菊地。まるで俺の存在を否定するかのような言い方」

これが無意識なのかわざとなのか……。わざとだったら性格が悪いが、無意識だったら性質(たち)が悪いな。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 00:02:39.07 ID:bOdoSl9s0<> P「というか萩原、そうなのか?」

雪歩「ひぅっ! はいぃ、実はそうなんですぅ……」

P「おいおい。それなら先に言ってもらわないと困る。ていうかそんなんでアイドルできんのか?」

声かけただけで怯えてるし。

雪歩「ううぅ……そうですよね、こんなダメダメな私……穴掘って埋まってますぅぅぅ!!」

P「って、おい! 駐車場に穴を掘るんじゃない! っていうかどうやったらスコップでアスファルトを掘ることができる!?」

前途多難すぎる……。

春香「あはは……じゃあ小鳥さん。お願いしますね」

千早「お世話になるわ」

あずさ「助手席、失礼します。うふふっ」

俺の方がもういっぱいいっぱいになったので苦笑いをしながら天海、冷静な如月、おっとりとした三浦は音無さんの運転する車に乗る。

小鳥「はいどうぞー!」

撮影前からこんなドタバタで大丈夫か?

……と思ったのも束の間、撮影自体はスタッフさんに迷惑をかけるようなこともせず滞りなく進行していった。しかし、双子、お前らはもっと落ち着け。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 00:03:38.14 ID:bOdoSl9s0<> 興味があるものには近寄り、いろんな機材をいじりいじり。

スタジオ内を駆け回り、あの人この人にいたずらをしかける。

P「おいこら、双子、ちょっと来い!」

とんでもないことをする前に俺が説教することにした。

亜美「兄ちゃんがあんなにしょうろんで怒るなんて……」

真美「まみ結構怖かったかも……」

律子「小論って……正論って言いたいのかしら? とにかく、これ以上プロデューサーを怒らせたくなかったら大人しくしなさい。次は私もセットですからね!」

真美「うあうあー! そんなことになったら真美、本気で泣いちゃうかも……」

亜美「おお、真美くん、泣いてしまうとは情けない!」

P「亜美は説教が足りねーのか?」

亜美「……ごめんなさい」

P「よろしい」

そう言って双子の頭をなでてやる。しかたない、まだ子供だ。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 00:04:07.28 ID:bOdoSl9s0<> 子供だがプロとして働く以上は社会人でもある。というのが勝手ながら俺の意見。

自分で決めた道と言っても年相応の覚悟しかないだろうし、認識も甘い。

だが彼女たちはそれでも、大人の世界に片足どころか全身を突っ込んで歩んでいかなければいけないのだ。

多少辛い思いをしても、大人の誰かがその辛い思いを子供たちに教えていかないといけない。

とにかく今は学んでほしい。経験を積んでほしい。

亜美「兄ちゃん……ごめんなさい」

真美「真美もごめんなさい」

P「次から気を付けてくれ。いきなりああしろ、こうしろ、なんて言ったってできっこない」

真美「真美にもお兄ちゃんがいたらこんな感じなのかな……」

P「さあな。本当の兄貴だったらきっとお前らのことをもっと理解してるさ」

亜美と真美は現場の人たちに謝って回っていた。やればできる子たちなのだ。現場の方たちもさすがは大人、笑って許してやっている。そもそも怒ってすらいなかったのかもな。

P「よし!!とりあえず亜美と真美は着替えて撮影に行っておいで」

『はーい!』

他の子は撮影どうかな?

心配なのは特に萩原と高槻かな……。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 00:04:34.41 ID:bOdoSl9s0<> P「おーい、高槻」

やよい「はわっ! な、何でしょうかプロデューサー!?」

P「いや、大丈夫かなって思ってな。やっぱ緊張してるか?」

俺は中腰になって高槻に視線を合わせる。

やよい「あの、その……」

P「あー、わかったわかった。不安なのはわかる。こんなん初めてだから緊張もするよな……」

やよい「はい……でもあずささんはとってもピシッとしててかっこいいです……」

P「ああ、三浦はなんか余裕あるよな。天海とかもノリノリになったらすごいよな」

やよい「やっぱり私には無理なのかなぁ……」

P「泣くな、泣くな。一見かっこよく見える三浦もなぁ、ちょっと見てろ」

俺は立ち上がってカメラマンの斜め後ろに高槻を連れていく。

やよい「プロデューサー?」

俺は答えずに三浦に向かって手を振ってみた。

すると三浦の凛々しく大人びた、そのたたずまいが嘘のように顔を綻ばせ、こちらに手を振り返している。これが彼女の素なのだ。

「お! いいねぇ! さっきとのギャップがグッドだよ!!」

これにはカメラマンも感心。三浦の視線を追いかけて俺と視線がぶつかる。

カメラマンは親指を立て、俺もそれに応える。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 00:05:23.89 ID:bOdoSl9s0<> P「見てたか高槻?」

隣の高槻に視線をやると彼女は目を丸くして三浦を見ていた。しばらくして驚きの表情のままこちらに振り返る。

P「三浦も緊張してたってことだ。人は見かけじゃわかんねーよな。ほら見てみろ、さっきよりいい表情になってないか?」

やよい「本当だ……プロデューサー、すごいです!」

P「えーっと、つまり何が言いたいかっていうとだな……高槻のこともちゃんと見ててやるから、緊張すんなって」

やよい「はい! プロデューサーが見ててくれたら私も安心かもっ! 私もうわぁーってなったら手を振ってください!」

『うわぁー』ってなんだ?と高槻のまれに難解な高槻語に一瞬思考が止まりかけたが、『不安になったら視線を送るから勇気づけてください』と勝手に解釈した。

これなら高槻の撮影は俺がついていたら上手くいきそうだな。

問題は萩原か? カメラマンが男ってのが特に問題。

P「萩原ー?」

雪歩「は、はいぃ! ななななんでしょうか、プロデューサー?」

萩原は返事をするも距離がやや遠い。俺はため息が出そうになった。

P「俺にもまだ慣れないか?」

雪歩「ごめんなさい……」

P「いやいいんだ。ちょっと話がしたいと思っただけだからさ」

雪歩「話って、私がダメダメだからお説教ですか……?」

おずおずと尋ねる萩原。自虐的すぎるのでは?

P「まさかね。それとも何か失敗したのか?」

雪歩「……どうなんでしょうか?」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 00:05:55.90 ID:bOdoSl9s0<> P「心当たりがないってことは大丈夫だ。それより撮影の方は大丈夫か?」

雪歩「あの、カメラマンの方が……」

P「男性だから怖いですってところか」

萩原は小さくうなずいた。

P「萩原。こっちへおいで」

実は結構な距離を保って会話をしてたのだった。

俺はひざまづいて目線を落とし、高圧的にならないように気を付けて、また萩原が怯えないようにできる限り優しく言った。

萩原は依然としておどおど、あたふたしてたがゆっくりゆっくりと近づいてきてくれた。

P「おお、よく来れた。やればできるじゃないか。そんなに自分を卑下するなよ」

雪歩「は、はい。でもプロデューサーがずっと待っててくれたから、行けたのかもしれません」

P「そうかな? でもな萩原、これから番組に出演した場合みんなは待ってくれないと思う。どうする?」

俺の問いに困惑した萩原は、しどろもどろしながらも確かに口を開く。

雪歩「自分から、待ってくださいって……」

P「とってもいい回答だ。そうだよ、自分から何かを伝えれば受け取ってくれる誰かがいる。でも何かを伝えるには勇気が必要だ。アイドルを目指す君には必ず勇気がある。自信をもって……」

雪歩「はい。ありがとうございます」

はっきりと意志の通った声で萩原はお礼を言った。

そんな彼女に俺はひざまづいたまま手を差し伸べた。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 00:06:32.50 ID:bOdoSl9s0<> P「はい。握ってみて」

おそるおそると、萩原は両手で俺の右手を優しく丁寧に握った。

P「怖いか?」

雪歩「……はい、でもほんのちょっとだけです。プロデューサーの手、温かくて、優しい……感じがします」

P「それならよかった。よし、ここまで男に近づけたんだ。カメラマンさんはもうこれで平気なはずだ。いいや、平気じゃなければおかしい!」

雪歩「ふふっ……! ありがとうございますプロデューサー。ちょっと勇気出たかもです!」

P「ああ、行ってらっしゃい」

萩原の顔にもう困惑の色はない。俺も上手くコミュニケーションとれたかな?

撮影はしばらく続いた。天海と菊地はかなりノリノリだな。調子乗ってへましなきゃいいけど。

伊織も問題なさそうだ。意外としっかりしてるんだよな、あいつ。

双子もやるじゃないか。なんだかんだで撮影を心から楽しんでるように見える。

三浦は大人の余裕があるなって思ったんだけど、実際そうでもなかったんだよな。

今は伸び伸びとしてて、自分の持ち味が出せてるみたいだ。

萩原と高槻も緊張せずに魅力的に映ってるな。いや、萩原がまだ緊張気味か? あとでまた声かけとくか。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 00:07:21.57 ID:bOdoSl9s0<> 何も問題なく進んでいると思われた宣材写真の撮影だったが……。

……なんだありゃ。

完全にノーマークだったのが秋月と如月だった。

そういやちょっとお堅いやつらだったな、と今になって思い出す。しっかり者のイメージが先行し過ぎたようだ。

カメラマンに一言断って秋月を連れ出す。

P「秋月、お前堅すぎ。如月もだけど」

ちょうど傍を通っていた如月も捕まえとく。

P「どうしたってんだ。しっかり者と堅物は紙一重だったか……」

律子「し、失礼ですね! これでも私なりに研究して……」

P「その研究の成果が出てないんだよ」

律子「うぅ……」

千早「ですがプロデューサー……私、どうもこういうのは苦手で……」

P「如月はクールな感じがまだ残っててマシだがなぁ……秋月に至ってはもはや怖い顔になってるぞ」

律子「なっ……! ふんっ! どうせ私は怖い顔してますよーだ!!」

と言いつつそっぽを向く拗ねた顔の秋月は可愛らしかった。

P「あ、その拗ねた感じ可愛いかも」

なので素直にそう言った。

律子「え? な、なんですか急に、今さらそんなこと……しかも拗ねた顔って、微妙です!」

P「照れてんの? 結構いいじゃん。なあ如月?」

律子「べ、別に照れてないわよっ!」

千早「そうですね。私も今の律子、可愛いと思うわ」

律子「ええ!? 千早まで……?」

とは言ってもそんな表情を宣伝の資料にするわけにもいかないのである。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 00:07:52.05 ID:bOdoSl9s0<> P「とにかく笑え、秋月」

秋月は意外に素直で、笑顔を作ろうとしていたがやはり怖い顔になってしまった。

それを見た如月はいい笑顔になっていた。如月、合格。

P「秋月はともかく如月はちょっとしたきっかけで魅力的な笑顔になれるじゃないか、今の感じでもっかい撮っといで」

千早「ふふっ! ……はい……ふふふふっ!」

律子「ち、千早ー!」

千早「ごめんなさい律子……でも……ふふふっ!」

P「よかったじゃないか秋月、お前の力で一人の少女を笑顔にできたぞ」

律子「腑に落ちません!」

如月はその勢いのまま撮影に戻った。どんな勢いだ。まあとにかく彼女は大丈夫だろう。

P「うーん。秋月が思ったより重症だな」

律子「……プロデューサーさっきから言いたいことをはっきりと言いすぎです! 私も傷つきます!」

P「いや、遠回しに言っても……あー、いや、そりゃ悪かった」

秋月がはっきり傷つくと言ったのだ。この真面目ちゃんは素直ちゃんでもあるのだから本当に傷つくのだろう。

P「まあなんだ。自信を持て、お前は控えめに言っても可愛いから。笑顔のお前がもっと可愛いことは俺もみんなも知ってるよ。だからもう少し頑張ってこい」

律子「……本当、何言ってるんですかプロデューサー。多分、無理ですけど、プロデューサーがそう言うんなら、もうちょっと頑張ってみます」

そう言って秋月は再び撮影に挑戦していった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 00:08:18.73 ID:bOdoSl9s0<> 俺も彼女の魅力を引き出せないまま今日の撮影を終えるのは避けたい。

P「三浦ー?」

あずさ「はーい。何でしょうかプロデューサー」

P「撮影終わってる三浦には悪いけど、ちょっと秋月と一緒に映ってきてくれないか?」

あずさ「はい、それはいいんですけど律子さん、どうかしたんですか?」

P「ああ、まあな。緊張気味であの通りだ」

二人で秋月に目をやる。例のぎこちない笑顔に三浦も苦笑いだった。

あずさ「あらあら〜……私がリラックスさせてあげればいいんですね?」

P「話が早くて助かる。見たところ歳も近いし、お互い一番親しいんじゃないかと思ってな。一人じゃ不安なら、誰かに協力してもらって……。そんで、秋月のこと頼んでもいいか?」

あずさ「はい、もちろんです」

P「ありがとう」

三浦はのらりくらりと秋月に向かっていく。

あずさ「律子さーん」

とか言いながら後ろから抱き付いてた。女子ってああいうスキンシップ平気でするよな。

対して、わたわたと慌てる秋月。

律子「あ、あずささんっ!?どうしたんですか!?」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 00:09:07.75 ID:bOdoSl9s0<> あずさ「いいえ〜、なーんか律子さんが恋しくなっちゃって……」

律子「えー?なんですかそれー?変なあずささんっ!」

あずさ「それに、律子さんと記念写真撮りたいなぁって」

秋月のことが恋しくなっちゃった変な三浦はうまく秋月の気持ちをリラックスさせている。

恐るべきは三浦のほわほわしたオーラ。

けれど、恋しくなったのも記念撮影がしたいのもきっと少なからず彼女の本心なのだろう。

秋月のぎこちない姿を見て愛らしいとも、助けてあげたいとも思っただろうし、そんな可愛らしい秋月との写真を撮りたかったのだと思う。

P「とにかくいい働きをしてくれたな。今度なにかごちそうしてやろうかな」

こうして宣材写真の撮影は成功に終わったと言えるだろう。

小鳥「みんな可愛いっ!! よく撮れてますよねプロデューサーさん!」

P「そうですね。秋月はどうなるかと思いましたけど……」

律子「うっさいです、プロデューサー」

小鳥「あら、でも律子さんとあずささんのこのツーショットとっても絶賛してたじゃないですか」

律子「え?」

P「まあ、そうですね。俺は良いものは良いって言いますよ?」

小鳥「ですって、律子さん?」

律子「あ、その、えっと……あ、ありがとうございます!!!」

なんて、ちょっと怒り気味でいう秋月、彼女なりの照れ隠し……だと思いたい。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 00:09:49.95 ID:bOdoSl9s0<> そっぽ向いて顔を赤くしちゃってるから、多分照れてんだろうな。

P「やっぱ、お前のそういうの可愛いけど」

律子「ば、ばかにしてるんですかー!?」

ぺちぺちと二の腕をパンチしてくる秋月。鬱陶しい。

あずさ「あらあら〜、二人はとっても仲がいいのね」

微笑ましい光景を、優しい微笑みで見ている三浦。

P「ああ三浦。さっきはナイスフォローだ。今度、俺持ちで飲みに行くか?」

確か三浦は二十歳だったな。飲みに誘っても問題ないはず。

あずさ「まあっ!いいんですか、プロデューサーさん?」

P「まあな。そのくらいの貢献はしたろ?」

あずさ「じゃあお言葉に甘えますね」

お酒好きなのかな? すごく嬉しそうにするもんだから、今から楽しみになってきちゃったじゃないか。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 00:10:18.23 ID:bOdoSl9s0<> 小鳥「いいなー! 私も連れてってください!」

P「音無さんには奢りませんよ?」

小鳥「ぶー! さっきプロデューサーさん持ちって言ったじゃないですかー!」

P「そりゃ、三浦だけのつもりでしたから」

律子「プロデューサー、あずささんだけって…酔わせていやらしいことしようとしてたんじゃないですか?」

秋月、貴様は耳ざといな。未成年のくせに……未成年のくせに……。

P「おい秋月バカ言ってんじゃねーぞ。三浦は確かに魅力的な女性だが、俺が上司という立場を利用して飲みに連れ出し、酔わせて襲うなんて非道な真似は絶対しない」

律子「どうだか……」

P「なんだ? 信用ねぇな」

律子「それ私も行きますから!」

P「はぁ? お前もしかして一緒に行きたいだけじゃ……」

律子「そ、そんな、そんなことありませんけどー!? あずささんが心配なだけです!」

小鳥「私もいるからそこは安心してもいいのに……」

あずさ「それでは四人で行きましょう?」

P「ま、いいか。四人で帰れるときに行くとしよう」

小鳥「決定ですね! 今から楽しみになってきました!」

P「仕事はちゃんとしてくださいよ?」

小鳥「もちろんです!」

張り切る小鳥さんを見てちょっと不安になった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 00:10:48.37 ID:bOdoSl9s0<> 亜美「ねえ兄ちゃん。何の話ー?」

真美「お出かけするのー? まみたちも行きたいよー!」

あ、ややこしくなりそう。

P「お前らはまた今度だ。レッスン頑張ったら連れてやらんこともない」

伊織「あら、じゃあ約束してくださる? お兄様」

P「伊織……ちっ……」

伊織「何よ、その舌打ちは!?」

P「……はぁ、わかった。頑張ったやつにはご褒美をあげよう」

真「ほんとですかプロデューサー!? へへっ、や〜りぃ! ボク、もっと頑張っちゃお!」

やよい「はわっ! ご褒美かぁ……何がもらえるんだろう?」

なんか広まってるんですけど……。みんなが頑張るならいいんだけどさ。

それからというもの、彼女たちの売り込みは以前よりも軌道に乗り始めた。

多分、ご褒美は関係ない。

伊織「ねえお兄様」

P「どうした伊織?」

ある日、心配そうに声をかけてくる伊織に少し鬱陶しさを感じた。面倒だぞと直感が告げる。

伊織「あまり無理はしないで?」

P「してないよ」

俺は即答した。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 00:11:40.39 ID:bOdoSl9s0<> 伊織「……私知ってるわ。お兄様があれこれ仕事を拾ってきて、徹夜でみんなのスケジュール組んでるの」

P「大丈夫だ。ほら、健康じゃないか」

伊織「……なにかあったら私の家に来て頂戴」

P「それこそ無理だ。俺は勘当されたんだから、あの家には一歩も踏み入れることはできない」

伊織「そんな古いしきたりにいつまでも縛られなきゃいけないの!? そんなの嫌よ!」

P「古くてもしきたりはしきたりだ。古いからと言って無くなるわけじゃない」

伊織「けれど……」

P「まあ、わかるよ。地方に行ったときに見る前時代的なファッションみたいなもんだろ。あれって都市の人間からしたら古いじゃん? でもなくならないよな」

伊織「ふふっ! 何それ……? わかりづらいわ。ていうより、全く関係ないじゃない」

P「……そうだな」

自分でも笑ってしまう。適当に言いすぎだろ俺。

伊織「……笑った」

P「は?」

伊織「お兄様やっと笑った」

P「はあ? 俺はいつもニコニコ天使スマイルだろ? みんなには負けるけど……」

伊織「いつものあれは営業スマイルでしょ? あの貼り付けた笑顔が天使なら、その下はよっぽどの悪魔よ?」

P「言ってくれるじゃねぇか」

伊織「でもお兄様の笑顔はやっぱり素敵。他のどんな男性よりも……」

P「惚れんなよ?」

伊織「馬鹿言わないで。お兄様のことは好きよ。でも恋愛感情なんてありえないわ」

伊織は抱えているウサギのぬいぐるみを撫でた。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 00:12:16.08 ID:bOdoSl9s0<> 確か、そのぬいぐるみは小さい頃、俺が伊織にプレゼントしたものだ。

P「そうか、安心したよ。俺も伊織のこと家族として妹として、好きだ」

伊織「なんか面と向かって言われると恥ずかしいわね」

P「言うのも恥ずかしいだろ」

伊織「そうね……。でもやっぱりお兄様はもっと笑顔でいなきゃ」

P「心配し過ぎだ。お前らの笑顔が俺の笑顔だ。お前たちが充実して楽しく過ごしてたら俺だって頑張ってよかったって思えるんだから。あとちょっと頑張らせてくれ」

伊織「……無理はしないで」

最後の伊織の言葉は俺をいまいち信じ切れていない証拠。

それと踵を返すときの悲しそうな表情は写真のように俺の頭に記憶された。

P「さて、仕事仕事……」

それにしたって伊織はどうしてアイドルになろうと思ったのだろう。

よく考えたらほかの子に関しても同様だ。
俺は彼女たちがアイドルを始める動機を知らない。

今まで俺のイメージで彼女たちに合いそうな仕事を割り振っていたが、どうにも上手くいかないのはそういうことだったのか。

P「向き合ってないのか俺は?」

これじゃ伊織も不安になるわけだ。さっき言ったように俺の笑顔が減るのはみんなの笑顔が減るからだ。

自分に必死で周りが見えてねーな。

ちょっと面談でもやってみるか……。

思い立ったが吉日。翌日から話を聞くことにしてみた。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 00:12:43.67 ID:bOdoSl9s0<> ちょうど一週間はみんなレッスンのみだ。空いた時間に面談を設ける。

P「まずは天海、傍から見たら優れた点は一見無いにしろ努力の姿勢が十分に好印象だな」

春香「あの……プロデューサーさん? 話って何ですか?」

応接室に天海が入室する。少しピリッとした空気を感じ取ったのかやや表情も堅くなる。

空気が読めるところも彼女の長所だと思う。

P「ああ、楽にしてよ。説教とかじゃないからさ」

春香「はあ……」

きょとん顔になる天海、ちょっと可愛い。それ狙ってんのかなぁ……?

P「なんていうか、面談?」

春香「あ、いや、私に聞かれても……!?」

そりゃそうだよな。だが、その慌てっぷりに笑ってしまう。

P「ああ、悪い悪い。聞きたいことがあってな」

春香「聞きたいこと……ですか」

P「うん。天海は何でアイドルになろうと思ったんだ?」

春香「ええっ!? わ、私が……ですか?」

いや聞き返しすぎだろ。この場に俺とお前しかいないよ。少しもどかしかった。

天海はしばらく沈黙して、言うか言うまいかとしているようだった。

視線をキョロキョロ……。やがて恥ずかしそうに口を開く。

春香「……憧れてるんです」

P「ん?」

思わず聞き返した。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 00:13:33.82 ID:bOdoSl9s0<> 春香「アイドルのライブに小さい頃連れて行ってもらったことがあるんです」

俺は相槌をうって話を聞いた。

春香「その時に、なんかいいなぁって……。あの舞台に立ったらどんな景色が見えるんだろうって思って……。それでアイドルに興味を持ちました」

P「そっか、憧れね……」

春香「やっぱり、おかしいですよね? そんな単純な気持ちでアイドルなんて……」

P「楽しいんだろ?」

春香「え?」

P「アイドルやってて楽しいんだろ?」

春香「はいっ! 実は私の中ではもっとドロドロしててみんないがみ合うのかなー、なんて思ってたんですけど……全然そんなことなくて、確かに誰かが成功した時は悔しいと思うこともありますけど、むしろそうやって成功してくれた方が自分のことのように嬉しく思えて……ってすみません。こんなに喋って……」

P「うん。実は俺もそんな風に思ってた。でもお前らが仲良くて本当、助かるよ」

春香「えへへ……。でもプロデューサーさんはどうしてこの仕事を?」

P「あらら、面談の立場が逆になっちゃったな」

春香「いいじゃないですか。プロデューサーさんのことも教えてください!」

P「ったく、しかたねえなぁ……。俺と伊織が兄妹なのは知ってるよな?」

春香「はい。それは……」

P「恥ずかしい話、俺は水瀬家から追い出されちゃってな……これは聞いてたか?」

春香「はい。伊織に聞いたら話してくれました」

P「そうか。で、当時よくしてもらってた高木社長に頭下げて、このアイドルプロダクションの設立に参加させてもらった。俺も働く場所が欲しかったし、社長も人手が欲しかったんだ」

天海は相槌をうちながら聞いていた。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 00:14:34.13 ID:bOdoSl9s0<> P「最初は社長に仕事で恩を返してそれでいいと思っていたが、今はお前たちがもっと充実できるようにって考えてるな。それが社長の願いでもあるしな」

春香「そうですか。いいこと聞いちゃいましたっ! やっぱりプロデューサーさんって優しいなって思います」

P「何言ってんだ。俺は優しいだろ?」

春香「今ので台無しですけどね」

二人して笑う。こいつは結構、人の間合いに入り込むのが上手いな。あまり遠慮なしに言ってくるけど嫌じゃない。距離感を測って、わかったうえで踏み込んでくる。

P「ありがとな。天海のこと少しわかったよ」

春香「私こそプロデューサーさんのことちょっとわかった気がします。……あと、春香って呼んでもいいんですよ?」

挑発的な視線。これが素なのかどうなのか……。

P「ああ、気が向けばそうさせてもらうよ。呼び出して悪かったな。次、誰でもいいから呼んできてくれ」

天海は、ちぇー、と口を尖らせて言いながらも笑顔で退室していった。

さて、しばらくして如月が来たわけだ。

P「忙しいところ悪いな」

千早「いえ、暇でしたよ」

そうかい。……仕事がなくてごめんなさい。

P「お前のアイドルになったきっかけを聞きたくてな」

千早「なぜそれを?」

P「そうだな。どういった仕事を中心に割り振ればいいのか検討中でな。だからみんなのことをもうちょい理解しようと思ったわけだ」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 00:15:17.94 ID:bOdoSl9s0<> 如月のやりたいことは大体わかるが……まあ、率直に言えば歌だろ。

千早「そうですね。でしたら私には歌を歌わせていただけませんか?」

ほら。でもなぜなのか……そこを知っておきたい。

P「それは心得た。でもなんで歌にこだわる? アイドルはそれだけじゃない」

千早「それはわかっています。それでも歌うチャンスがあると思ったから、今こうしてアイドルをやっています」

P「はぁ、なるほどね。歌以外はおまけって感じか」

千早「そういうことになりますね。たまたま社長が私をスカウトしてくださったので……」

P「それで、歌にこだわる理由は話してもらってないけど……」

千早「それは話す必要がありますか?」

P「いや、言いたくないならいい。まあそのうち話してくれ。お前が困ったとき頼ってくれたら、助けてやるさ」

千早「……ご理解していただけて助かります」

P「でもな? お前はアイドルだ。歌を聴いてもらいたいなら、まずはみんなに好かれなきゃ聞く耳を持ってもらえないぞ?」

千早「歌で好きになってくれればいいです」

P「甘いよ。いくら歌が上手くても好感が持てなきゃそいつの歌なんか聴きたくない。冷静によく考えてみろ」

千早「私の力量じゃ力不足だと……?」

如月の表情が強張る。こりゃ頭に来てんな。

P「いいや、確かに如月の歌は上手いさ。おまけに顔も可愛いし、美人でそこそこのことはそつなくこなす。しかしな、今のお前は『私の歌を聴け』って言ってるだけだ」

彼女は黙って聞いている。表情は強張ったままだ。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 00:16:00.10 ID:bOdoSl9s0<> P「でも本当のお前は違うんだろ? 人には言えない事情があるほど歌にかけてるのに、言ってることはただの自己満足でしかないなんて……」

千早「わかりました。そんな説教私には響きません。もう聞きたくありません。失礼します」

そう言って立ち上がる如月。

P「待て如月! お前は逃げるのか?」

如月は背を向けたまま立ち尽くしていたかと思うと、くるりとこちらに向き直った。

千早「いいえ、逃げるのではなく、無駄だと判断したまでです」

俺も立ち上がり、如月の前まで歩く。

P「俺はまだ大事なことを伝えてない。そんな態度だから余計に説教が増えるんだ」

如月は、ふぅっとため息をつき俺から視線を外す。

P「俺は言ったぞ、本当のお前は違うんじゃないかって……」

少しハッとした様子の如月。うん、人の話はよく聞きましょう。

P「いいか? お前はただ歌を聴いてほしいだけじゃないだろ?」

如月が俺を見上げる。その表情に怒りの色は薄れ、別の色が浮かんでいるように見えた。

P「自分の歌を聴いてくれた人に感動を与えたいんじゃないのか? だから俺は自惚れるなって言いたいんだ。歌で人を魅了する前に、他のことでまずは魅了させてみろ。アイドルの本分だ。そこで追い打ちをかけるように歌で魅了してやれ、そうして初めてお前の見たい世界が見えるんじゃねぇのか?」

千早「プロデューサー、私……ごめんなさい。……そうね、今のままでは自分が歌いたいだけになってしまうもの……。そうじゃないの、わかってたのに……独りよがりで……」

如月は嗚咽をもらし、きれいな瞳からは涙がこぼれはじめる。

俺は如月の肩を掴み目線を合わせる。

P「よかった。わかってくれたみたいで、思い出してくれたみたいで……」

千早「……プロデューサー……ごめんなさい……私、酷いこと……」

P「いやいいんだ。俺だって酷いこと言ったな。ごめんな」

如月は俺の左肩に顔を埋めて、右腕と左肩をきゅっと握っていた。

落ち着くまでしばらくそうしたままだった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 00:16:53.06 ID:bOdoSl9s0<> 千早「すみません。お見苦しいところを……」

P「ううん。もっと頼ってくれ、今の俺の生き甲斐はお前たちなんだから」

千早「はい! プロデューサーのおかげで目が覚めました。アイドルとしての仕事も頑張ります」

P「ああ、その意気だ。でも如月には歌の仕事を集めるつもりではあるから、ただ、歌を聴く人の気持ちを常に考えてくれ。な?」

千早「はいっ! それとプロデューサー」

P「なんだ?」

千早「千早……でいいです」

何だそれ? 天海のときといい、流行ってんのか?

P「……気が向いたらな」

千早「前向きに検討してください」

わりと強引なのかも、まあ強情ではあるかもな。

P「如月、悪いが次の子呼んできてくれ」

千早「……」

P「如月?」

千早「……」

P「おーい?」

千早「……」

え? なんで無言でじっと見てくんの?

…………嘘でしょ?強情どころか、頑固じゃねーか。

P「……千早、頼む」

千早「はいっ!」

すっげぇいい笑顔だった。月並みな表現だが、一瞬で花が咲いたみたいな……。

余談だが、それから如月は俺によく話しかけるようになった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 00:17:32.12 ID:bOdoSl9s0<> そのあとの子たちの動機と言えば単純なもので、

菊地は女の子らしくなりたい。

萩原は弱い自分を変えたい。

双海姉妹は楽しそうだったから。

秋月は本当は事務やプロデューサーをやりたいらしい。

三浦は運命の人に会えると思って。

高槻はちょっと特殊だけど、家計の足しにしたいと言っていた。

P「へぇ、高槻は五人兄弟なのか、そのうえ一番おねえさんって大変だな」

やよい「えへへっ、でもみんなも家のお手伝いやってくれるから、こうやってアイドルできてるんです!」

P「いい家族だな」

やよい「はいっ! ……プロデューサーも伊織ちゃんのお兄さんなんですよね?」

P「そうだな、今は一緒に暮らしてないけどな」

やよい「なんかそれって悲しいです……」

P「おいおい、なんでお前が泣くんだ? 俺はもう大丈夫だし、伊織も慣れただろ?」

やよい「でもぉ、伊織ちゃんプロデューサーの家族だから、離れ離れになって辛いと思います!」

P「でもな、こうして普段から会ってるわけだし、心配ないって」

でもぉ、でもぉ、となかなか引かない高槻はなんとなく新鮮な感じがした。

俺は大丈夫の一点張りでその場を収めた。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 00:18:10.56 ID:bOdoSl9s0<> P「つーわけなんだが、伊織、お前何か言ったか?」

伊織「別に何も言ってないわよ? やよいは思いやりがありすぎるのよ」

P「ふーん。そうか。いや、それは知ってたけどさ」

最後の面談は一応、伊織。

P「高槻があそこまで言うんだ。本当にお前が寂しがってるんじゃないかと思ってな」

伊織「ば、ばか言わないでちょうだい! お兄様がいなくなって二年過ごしたのよ? 今さら寂しく思うはずなんてないわ……」

P「……」

嘘だってわかった。俺のあげたぬいぐるみを今も大事に抱えてくれてるし、そのぬいぐるみを撫でるの、嘘をつく時の癖になってるって知ってる。

P「はあ、誰もいないからさ、隣においでよ伊織」

伊織「だから寂しくないって言ってるでしょ!? 行かない、行きたくないわ……」

言いながらぬいぐるみを撫でる。

俺は立ち上がって、伊織の隣に腰掛ける。

P「ほら、我慢は良くないだろ?」

伊織「でも、そうしたら私……」

P「俺はもう水瀬じゃないんだ。先のことなんてわかんないよ」

伊織はぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 00:19:04.59 ID:bOdoSl9s0<> P「どういう意味か分かるか?」

伊織「全然わからないわ……」

P「まあ、なんだ。甘えたいなら甘えりゃいいんだ。昔みたいにさ」

伊織「今と昔は違うもの……」

P「そんなうじうじして、伊織らしいのからしくないのか」

伊織は普段は強気なくせに落ち込むときは情けなくうじうじする。

そんなん、かまってあげたくなっちまう。

P「わかった。じゃあ俺が甘える。いおりー」

伊織を抱えて膝に乗せる。そして後ろからぎゅっと抱きしめる。

伊織「きゃっ!? 何よ!? ちょっと! お兄様!? 変態!」

P「お前、変態とは何だ!?」

パッと離す。変態扱いされちゃ、たまんね……。

伊織は後ろを振り向き、赤い顔で俺を睨む。……膝に乗ったまま。

おい降りねーのかよ。

伊織「ふんっ!そんなに甘えたかったら甘えたらいいじゃない!」

P「さっきと言ってること違う……」

伊織「お兄様が急に変態になるからでしょ!?」

P「変態とは心外だ! お前が素直に甘えてればよかっただろ!?」

伊織「甘えたいなんて一言も言ってないわよ!」

P「言ってなくてもわかるんだよ! 俺はお前の考えてることがわかるんだ」

伊織「なによそれ?」

変なの、そう言って伊織が笑う。俺もつられて笑ってしまった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 00:19:31.08 ID:bOdoSl9s0<> 伊織「仕方ないわね。お兄様がそこまで言うんなら甘えてあげなくもないけど?」

P「じゃあ別にいいや」

伊織「なっ! 甘えさせなさいよ! このっ!」

伊織が俺の首に腕を回して抱き付く。ちょうど座ったままお姫様抱っこしてる形になった。

P「我慢は良くなかっただろ?」

伊織「……そうね。しばらくこうしてていいかしら?」

P「ああ、もちろん」

伊織「あと、さっきみたいに後ろからぎゅってして?」

P「注文が多いな」

伊織「私が甘えたりないお兄様に粋な計らいをしているのよ?」

P「そうかい。ありがたき幸せですこと」

伊織「そうよ、感謝しなさい? にひひっ!」

そういや何が聞きたかったんだっけ?

そっか、アイドルになった動機か……。

P「ところで伊織」

伊織「なに?」

P「なんでアイドルになろうと思ったんだ?」

伊織「……家族の力なしで、自分の力だけでもやっていけることを証明したいのよ」

P「どうしてだ?」

伊織「お兄様に近づけるように」

即答だった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 00:20:29.85 ID:bOdoSl9s0<> P「何でそれが俺に近づくことになるんだ?」

伊織「お兄様は家を追い出された日に何もかも失ったわ」

P「そうだな。お坊ちゃまの俺は高木社長がいなかったら死んでたな」

伊織「それでもお兄様は自分一人の力で生き抜いてこれたのでしょ?」

P「自分一人じゃないよ。社長に助けられて音無さんに支えられて、その前だってお前や兄貴、親父と一緒に育ったさ」

伊織「いいえ、お兄様が自分で考えて行動したことに変わりはないわ。私もそうしたかったの。お兄様の苦難を私も……。そう思って高木社長の申し出を受け入れた」

P「そうか。お前も自分の覚悟があったみたいだな」

伊織「当たり前よ。でも、やっぱり私は何も失ってない。お兄様の状況とはずいぶんかけ離れているわ」

P「やめとけ。近づこうとする必要がないってことなんだよ」

伊織「私がそうしたいの、お兄様には関係ないでしょ?」

P「そうだな。お前の意思をどうこうできないが、俺が関係ないなんて言うな。関係大有りだろ」

伊織「……」

P「とにかく、俺が知らない伊織のこと聞けて充分だ。面談はおしまいだ」

伊織「あの、お兄様……」

P「まだ何か?」

伊織「もうちょっと、このままでもいい……?」

伊織の懇願するような表情と甘い声に俺は声を出すことも動くこともできなくなる。

P「……あとちょっとな」

ようやく絞り出した言葉がそれだった。

その後、今回の面談がみんなのモチベーションアップにも繋がったようで、仕事も順調に進みはじめた。

それとなぜか、アイドル達が積極的に俺に構ってくるようにもなった。

頼られるのは素直に嬉しいが、振り回されるのは勘弁してほしい。

『プロローグ』『宣材写真』『面談』   終わり
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 00:23:53.48 ID:bOdoSl9s0<> はい、いったん休憩。
こんな感じで進行します。
質問あればどーぞ。

レスにあったので一応修正前のスレ貼っとくね。
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1419535638/ <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 00:25:26.12 ID:bOdoSl9s0<> 次回更新は本日の20:00を予定。 <> ◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 00:27:30.73 ID:bOdoSl9s0<> 言い忘れたけれど、ネタバレ嫌な人は修正前のスレを見ないこと推奨。 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/12(日) 00:28:57.76 ID:Od9J0z+do<> 乙
待ってた <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/12(日) 01:23:57.31 ID:gyrUOQRz0<> 三人分書いたのか…あれ?大幅に足りない様な…様な…
まあ出来るだけやってくれ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/12(日) 02:08:10.45 ID:ZV9c8qHko<> 前回のに追いついたら、そう書いてくれるとありがたい <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/12(日) 07:29:35.68 ID:VorB1hwKo<> 乙 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/12(日) 19:48:15.51 ID:CNNVdKlao<> 楽しみに待ってたぞ!
とりあえず乙! <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 20:05:38.16 ID:bOdoSl9s0<> 予定の時間につき、再開。

>>40
なかなか思いつかなくてね。すまんなの。
>>41
りょ <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 20:06:51.76 ID:bOdoSl9s0<> それぞれのアイドルを売り出すことに一応は成功した765プロダクション。

設立からおよそ四ヶ月で全員に仕事が少しずつ入ってくるようになった。

そして設立から半年が経ったとき、新たな仲間も加わわるのだった。

『星井美希』

社長がスカウトしてきた女の子だが、彼女がとんでもないやつだった。

美希「ミキの名前はミキっていうの! なんか、アイドル? っていうの面白そうだからやってみることにしたの! みんなよろしくね!」

俺の彼女への第一印象は自由なやつ、だった。

いや、それはどうでもいい。何がとんでもないって……。

伊織「美希がレッスンに来てないんだけど?」

雪歩「美希ちゃんがまたいないよぉ!」

さぼる。

春香「ねえ美希、早く起きないとお仕事間に合わないよ?」

真美「ミキミキー! 早くしてよー!」

美希「あふぅ……」

寝る。

律子「こらっ! 美希! スタッフの方に失礼の無いようにしなきゃダメじゃない!」

美希「ミキ知らなーい」

生意気。

なんとか仕事で使ってもらえるものの、おかげで俺も頭を下げる回数が増えた。

だが俺は星井を叱るようなことはしなかった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 20:07:37.67 ID:bOdoSl9s0<> 頭の血管が本気で切れそうになったこともあるが、なんとか耐えた。

みんなからはおかしいと言われるが、俺まで叱ってしまえばあいつの味方はいよいよいなくなる。それは避けたい。

俺は星井に可能性を感じているのだ。

明らかに他よりも人の目を引く容姿。時折、垣間見せる天性の才能。

さすが高木社長、磨けば輝く原石を連れてきたものだ。

アイドルを辞めさせるには惜しい。

P「星井はいる?」

真「あ、プロデューサー。美希ならそこで寝てますよ」

P「よく寝るなぁ」

菊地は意外にも星井に対して不平を言うことはない。

本人曰く、頑張ってくれれば確かにいいんですけど、僕自身のことで精一杯ですから……とのこと。

菊地もどうやら必死らしい。

逆に秋月と如月、それに伊織はなかなか厳しいようだ。

本人は聞く耳持たずといった感じだが……。

P「星井? 起きろ……」

美希「ん〜? なんなのプロデューサー? ミキ眠いんだけど……」

こいつただのヤンキーじゃねぇの? ヤンキーミキーとか? ……いや、寒いな。別に語感もよくないし、ただ韻踏んでるだけ。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 20:08:20.32 ID:bOdoSl9s0<> P「お前アイドル面白そうって言ってたのにつまんなくなっちゃったのか?」

美希「お前じゃなくてミキはミキだよ? うーん思ったより楽しくないかも……」

P「やめたいか?」

美希「どうしよっかなーって感じ? 律子もうるさいし、やめちゃおっかな……。うん、ミキやめたいかも!」

そんな理由……。秋月がちょっと不憫だな。

P「なら俺から条件がある」

美希「条件?」

P「最後くらいうちに貢献してくれ」

美希「そしたらミキやめてもいいの?」

P「ああ、やめてもいい。お前は自由だ」

最初からお前は自由奔放だったけどな。

美希「それで、条件って何?」

P「まあ、最後の思い出づくりみたいなもんだ。小さな会場とったからソロでライブ。そこでお客さんを満足させてくれ。できるな?」

小さいと言っても200人くらいのキャパシティだ。

無名の新人が200人をいっぱいにするなんて到底不可能だが、客寄せはプロデューサーである俺の仕事だ。

美希「別にいいけど、お客さん来るの?」

P「そこは心配するな。俺が満員にしてやるから、華々しく引退できるさ」

美希「ふーん」

興味なさげで態度は素っ気ない。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 20:09:32.05 ID:bOdoSl9s0<> P「8曲ほど用意しとくから歌とダンス練習しといてくれよ?」

美希「ぶー……練習は嫌なの……」

P「頑張ってくれ。これで最後なんだからさ」

美希「しょうがないなぁ。成功させるために歌とダンス覚えるの」

P「ああ、頼んだぞ」

よし、これであとは俺の客集めだな。

一か月でどうにかしねーと。

それから、みんなとの仲はあまり良好ではないものの、星井は真面目にレッスンをするようになった。

周りはその変化に唖然というか、呆然というか……とにかく開いた口が塞がらない状態で、徐々に彼女を見る目も変わっていった。

やはり本気を出せば周囲に影響を与えるくらいには才能を秘めているようであった。

星井のライブまで残り一週間。

律子「プロデューサー、最近美希が頑張ってるみたいなんですけど、一体どんな魔法使ったんですか?」

P「……………………………………ん? どうした秋月?」

律子「なるほど、黒魔術を使ったのね……」

小鳥「不自然なほどラグがありましたね」

伊織「律子、冗談言ってないで……お兄様、相当やばいわよ?」

律子「そうね。明らかに美希の頑張りに反比例してプロデューサーの体調が蝕まれてるわ」

小鳥「美希ちゃんに事情を聞いてみますか?」

伊織「そうは言ってもお兄様は美希のこと、今は放っといてやれって……。あの子が絡んでるのは間違いないけど……」

律子「プロデューサーがそう言ってる限り下手に聞き出せないわね」

伊織「そういうこと」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 20:10:17.63 ID:bOdoSl9s0<> 顔色の優れないPの前に、心配した春香がお菓子を用意する。

春香「プロデューサーさん……大丈夫ですか? あのぉ、パウンドケーキ焼いてきたので良かったらどうぞ……健康のことも気遣って野菜を使ってみました。……雪歩ー!」

雪歩を呼んだのはPのためにお茶を淹れてくれたからだ。

雪歩「おまたせ春香ちゃん。プロデューサー、お茶もどうぞ……」

P「………………………………んあ、助かる」

雪歩「プロデューサーが死んじゃいますぅ!」

雪歩の言葉にしばらくぼーっとしていたが、ようやく反応したPに今度は雪歩が取り乱す。

真「落ち着いて雪歩! きっと大丈夫だよ」

亜美「重症ですなー」

真美「亜美、そんなのんきなこと言ってられなくない!?」

あずさ「そうねー。心配だわ……」

やよい「プロデューサーの顔色わるいです……」

P「…………大丈夫だ!!!!!」

突然叫びだすP。

雪歩「ひぅっ!!」

春香「きゃあっ!!」

真「うわぁっ!!」

当然、周りにいる子たちはびっくりして飛び上がる。

目を丸くして、依然、Pを怪訝な眼差しで凝視する。

律子「急に勢いよく立ち上がって、何が大丈夫なんですか!?」

P「いいんだみんな! 心配しなくても! 今は! 俺のことは! 放っておいて! 自分のことに! 集中! するんだ! あははははははははははははっ……!!!!」

いよいよみんな絶句した。彼の異常な笑い声だけが部屋中に響いていた。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 20:10:56.13 ID:bOdoSl9s0<> 真「伊織……。伊織のお兄さんでしょ? なんとかしてよ……」

伊織「私もこんなお兄様見たことないわ……泣きそうよ……」

千早「プロデューサー! プロデューサー! こんなにおかしくなってしまって! 美希のせいね!?」

春香「千早ちゃんも落ち着いて!!」

すでに涙目の伊織、全く笑顔が見られない真、発狂する千早、それをなだめる春香。

事務所全体に不安が伝播していった。

小鳥は、早く社長帰ってきてください、と両手を合わせて祈ってたらしい。

P「ちはやーーー!!」

千早「きゃっ!?」

P「あはははははっ!」

Pは完全に我を失っているようだった。

千早を持ち上げてはぐるぐるとまわす。

目を回した千早はさらなる混乱に言葉も出ない。

それからというもの彼は暴れに暴れた。

双子を持ち上げては下ろし、やよいを持ち上げては下ろし、さらに伊織も持ち上げては下ろし……。

もちろん、この行動に特に意味はない。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 20:11:56.24 ID:bOdoSl9s0<> 雪歩と春香と肩を組み、その後で脇に抱えて走り回ったり、戻ってきたかと思えば真をお姫様抱っこで抱き上げ、ぐるぐる回る。

さらに、あずさには正面から抱き付きながら耳に息を吹きかけ、椅子に座ってる小鳥には後ろから抱き付き、耳を甘噛みした。

二人は変な喘ぎ声を短く漏らし、へたりと倒れこんだ。

律子にも後ろから抱き付いて首にキスマークをつけた後、なぜか髪をほどいて、そのヘアゴムを机に置き、爽やかな笑顔でお疲れ様でしたと言って帰っていった。

……真昼間だったにもかかわらず。

その翌日。

P「すみません。あのぉ、体調が優れなくて……」

律子『はあ!? 昨日、散々好き放題しておいて何ですか!? 仮病使って逃げようったってそうはいきませんよ!! あと、首の跡どうしてくれるんですか!!』

……大声やめろ……頭いてぇ……。

P「……秋月か……大声出すんじゃねえよ」

律子『だから仮病は……』

P「あー、わかったわかった。とにかく今日は休むから、じゃあな」

律子『昨日のことを……って電話切らないでくだ』

切った。苦しさあまりに電話を放り投げる。そして倒れるようにベッドに寝転がり布団を被る。

投げた電話がすごい音を発したが、気にせず眠った。

何だよ昨日のことって、なんかあったか?

なぜだかここ最近の記憶があやふやなんだよな……。

後で熱を測ったら40度越えという大記録を出していた。

ちなみに秋月の首跡の話うんぬんは、熱を出してから二日目にお見舞いに来てくれた伊織が教えてくれた。

その時の俺を殺してやりたいと心底思う。

覚えてないと言ったら呆れた顔で伊織におでこを叩かれた。

なぜそんな奇行に走ったのかは自分でもわからないのだが、星井のミニライブチケットが完売したのを認めたのは覚えている。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 20:12:49.39 ID:bOdoSl9s0<> P「うぃーす……」

まだ体調は優れないが出社する。

なぜだか体がすこぶる冷えるので、温かい時期にも関わらず厚着をしている。

小鳥「あ! プロデューサーさん!!」

あずさ「え? プロデューサーさん?」

律子「やっと復帰しましたねプロデューサー! って何ですか、その厚着は?」

P「え、今日寒くない?」

律子「寒いわけないでしょ? 最高気温24度ですよ?」

つまらない嘘をつくなぁ……と思いながらデスクに向かう。

あずさ「ちゃんとお食事取りました?」

P「うん。とった」

あずさ「本当ですか?」

P「とった!」

なんなんだ? 三浦がお母さんみたいなこと聞いてくる……。

俺もつい、強い口調になってしまった。

しかし三浦は気にしてないようで、頬に手を当て、あらあら〜、と言っているだけだ。

P「うぅ……」

ぶるぶるっと身震いしてしまう。誰かが俺の噂を……。

あずさ「小鳥さん。なんとなくですけど……ちょっとプロデューサーさん可愛くないですか?」

小鳥「やっぱりあずささんもそう思います? 私もなんか今のプロデューサーさんに尽くしたいって思っちゃいました」

なんか音無さんと三浦がひそひそ話してる。けど、この体調じゃ、あまり気にならない。
……ぶるぶるっと身震いする。誰かが俺の噂を……。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 20:14:07.87 ID:bOdoSl9s0<> 雪歩「おはようございます」

真「おはようございまーす!」

雪歩「あっ! ぷろでゅ……そこのもこもこの人、プロデューサーですか?」

P「……いかにも……ごほっ……」

咳も出てしまう。ちょっと苦しいな……。

真「あはは……。でもここに来るとき雪歩とちょうどプロデューサーの話してたから」

おや、これは……寒気がしたとき誰かが俺の噂をしてる説が有力に……?

雪歩「うん。でもプロデューサー大丈夫なんですか?」

P「見ての通り、万全だ……」

真「あー、うん、対策の方はそうみたいだね」

雪歩「今さら、予防しても意味ないんじゃ……」

P「うるさいよぅ……寒いんだよぅ……」

真「ダメそうなのは火を見るより明らかですね」

律子「そうなのよね……」

P「ねぇ、萩原、お茶ちょうだい?」

ちょうど喉も乾いてきて、気になり始めると止まらない。

雪歩「はぅ……!ちょ、ちょっと待っててくださいね」

萩原は一瞬、妙に恍惚な瞳をしたけど、どうしたんだ……?

真「どうしたの、雪歩?」

雪歩「……ううん。何でもないよ、真ちゃん」

雪歩(まさかプロデューサーがこんなに愛らしく感じるなんて……確かにもこもこした服着てて可愛いし……でもそれだけじゃないような……)

あずさ「雪歩ちゃんもなのね?」

小鳥「こっちへいらっしゃい?」

雪歩「あずささん……小鳥さん……」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 20:14:45.19 ID:bOdoSl9s0<> あずさ「あなたもプロデューサーの隠れた魅力に気付いてしまったの……」

小鳥「そう。弱ってるプロデューサーさんは……可愛い!……なんていうか、いつもは守ってほしいのに今は守ってあげたくなるような……」

雪歩「確かに……。よくわかりませんけど、母性っていうんでしょうか?」

あずさ「まさにそんな感じよね〜」

……またしても、ぶるぶるっと身震いしてしまった。

P「……ふふっ。また誰かが俺の噂を……」

真「プロデューサー、頭大丈夫ですか?」

P「菊地、お前たまにさらっと酷いこと言うよな」

真「だってプロデューサーが急にニヤッとするから……」

P「……そうだったか、なら気を付けよう」

雪歩「はい、プロデューサー、お茶淹れてきました」

P「お、ありがとー……あちっ!」

いや熱いの知ってたけど、知っててもこうなっちゃうよね。

雪歩「だ、大丈夫ですか!? すいません、熱いの注意するべきでした」

P「知ってたんだけど俺の舌じゃ耐えられなかったよ……」

雪歩「ど、どうしよう?」

P「はぎわらー、ふーふーしてさましてー」

雪歩「えぇっ!?」

真「プロデューサーかっこ悪いですよ……」

律子「甘えないの!!」

P「ちぇー……ごほっ……」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 20:15:34.77 ID:bOdoSl9s0<> 律子「自分でふーふーして冷ましてください」

P「ふーっ……ふーっ……! ごほごほっ!」

真「わっ! 咳するときは湯呑から口離してくださいよ」

律子「わざとやってるんじゃないでしょうね……?」

P「あー、ごめん。その、わざとじゃないんだ」

本当だよ? 油断してるとたまになっちゃうんだよ……?

律子「大体、先日もあんなにみんなに迷惑かけておきながら……」

話聞いてないし……。

そしてくどくどと秋月のお説教が続く。俺、病人だよ?

真「律子、言い過ぎ! プロデューサー泣いてるよ!!」

律子「へ? きゃぁっ! ……そ、そんなに泣くほどのことですか?」

なんかわからんが、とにかく悲しい気持ちがものすごい勢いであふれてくる!

P「わがんね……」

真「東北なまりっぽく言われても……」

P「秋月はだめだぁ! はぎわらー! おれに優しくしてください!」

雪歩「は、はいぃ!」

律子「ダメって何ですか!? 失礼な!」

あずさ「律子さん。今はやめときましょう?」

小鳥「あずささんの言う通りですよ。最近のプロデューサー無理ばかりしてましたから」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 20:16:41.79 ID:bOdoSl9s0<> 雪歩「よしよし……プロデューサーはよく頑張りました」

P「はぎわらー……」

真「はぁ……ダメだなこりゃ。ボク、仕事に行く前にダンスしてきますね」

小鳥「ええわかったわ、行ってらっしゃい真ちゃん」

律子「プロデューサー……なに調子に乗って雪歩に抱き付いてるんですか? セクハラですよ?」

雪歩「私は別に……」

あずさ「まあまあ、律子さん今日は大目に見てあげましょう? 今回は前みたいに暴走してるわけじゃないもの」

P「温かいよぉ。萩原の心が温かいよぉ……」

雪歩「あはは……ちょっと照れちゃいますね」

律子「しかたないですね。今日は二人に免じて許しましょう。でも次はありませんよ!」

P「……すぅ……すぅ……」

あずさ「……寝てますね」

律子「ほんとっ、今日のこの人は子供ですか!?」

小鳥「とりあえず、寝かせてあげましょうか」

雪歩「私はどうすればー!?」

30分くらいで起きました。さっきより割と楽になったかな。

さて、復帰したてのお仕事タイムだ。

P「今日は秋月と三浦が雑誌の撮影で、菊地と萩原がラジオの収録だったかな?」

小鳥「さすがですプロデューサーさん」

宣材写真のときの三浦と秋月のツーショットが先方の目に留まったらしい。

小さいだろうけど二人で撮影して雑誌に載せてもらえるようだ。

ラジオの方は昼収録の深夜放送だ。しかもローカル。ちいさいけれど大した一歩だと思う。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 20:17:12.38 ID:bOdoSl9s0<> P「うちもそこそこお仕事増えてきて嬉しいなー。嬉しいなー」

律子「本当、大丈夫ですか? 今日のプロデューサーやばいんじゃないですか?」

P「いつも通りっしょ」

雪歩「絶対、病み上がりのせいで変なテンションになってますぅ……」

P「心配するなって………いっきし!……なんともないし」

律子「くしゃみした後では説得力がまるでありませんね」

あずさ「熱は何度あったんですか?」

P「平熱だから大丈夫……」

律子「答えになってません。だから熱は何度ですか?」

P「大丈夫!」

小鳥「頑なですね……」

あずさ「じゃあ、測ってみましょう。体温計見つけてきました」

P「……」

雪歩「測りましょう?プロデューサー?」

P「……はい」

しかたなく体温計を受け取り、もこもこフル装備を解除して脇の汗を拭く。俺は意を決して体温計を脇に挟んだ。

しばらくしてピピピッと音が鳴る。

P「……」

やば。俺は数字を見るなり必死で言い訳を考えた。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 20:18:06.42 ID:bOdoSl9s0<> 熱があることが知られれば早退させられる……。

そうしたら星井のライブの計画が頓挫するかもしれない。

小鳥「ちょっと見せてください」

俺、体温計を隠す。

小鳥「大丈夫なんですよね?」

笑顔のまま引かない音無さん。

俺は精一杯、懇願するようにじっと音無さんの顔を見つめる。つまりアイコンタクトを試みた。

小鳥『ダメですよ』

失敗。いや、アイコンタクトは成功してたっぽい。

観念して体温計を手渡す。

そしていそいそと、もこもこのフル装備に。……落ち着く。

小鳥「38度4分……もあります」

律子「はぁ!? プロデューサー、どこが平熱ですって?」

P「俺の平熱は38度だ。問題ない」

律子「嘘つけ!」

雪歩「さすがに無理がありますぅ……」

あずさ「あらあら〜、プロデューサーさん今日はやっぱりお休みになった方がいいのではないでしょうか?」

やっぱりこう言われるのだ。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 20:20:06.67 ID:bOdoSl9s0<> P「やることあるし、今さら休めないっての……ごほっ……」

小鳥「お言葉ですがプロデューサーさん……他の子にうつしたらどう責任を取るおつもりですか?」

律子「小鳥さん……」

小鳥「アイドルは身体が資本なんです。あなたの代わりなんかたくさんいますけど、彼女たちの代わりは一人もいません」

そう言われるとその通りだ。

他の子たちは仕事が入ってる。

俺の風邪かどうかわからないが、とにかくうつしたら大変なことになる。

音無さんもそれを危惧してるから語調が強いんだ。

周りが見えてなかったのは俺の方だ。ここは帰るのが正解のはず……。

……でも、星井のことがある。

一人の少女のアイドル人生がかかってる。ここで成功しなきゃ、彼女とはもう……。

P「…………わかりました。早退します」

俺は引くことを選んだ。

P「……でも、お願いがあります」

引き替えに……。

自宅に戻る。

しばらくして伊織がお見舞いに来てくれた。ご苦労様です。

伊織「お兄様、まだ熱引いてないのに事務所に行ったんですって?」

P「うん。でも追い返されちゃった。音無さんが珍しく怒ってさ」

伊織「それなら律子やあずさから聞いたわ。お兄様がまた泣くんじゃないかって少し冷や冷やしたそうよ?」

P「あはは……」

伊織「それで今も懲りずに仕事? 無理はしないでって言ったじゃない」

P「あと三日、やらせてくれ……ごほっ……」

伊織「はぁ……わかったわ。一体何をしているかはわからないけど、何かあったら連絡してちょうだい」

P「ああ、助かるよ」

そう言って伊織は帰っていった。

夜ご飯にうどんを作ってくれた。……あいつ料理できたんだ。

俺は自分で進められる作業をしながら、夜ご飯を口にした。

伊織も慣れない料理なんかしなくていいのに……。

俺はうどんに醤油を足す。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 20:21:23.80 ID:bOdoSl9s0<> 星井のライブ当日。

P「うーん、結局微熱までには何とか下がったな……」

俺は今会場に来ている。先日も下見に来たり昨日もリハをやったらしい。

らしいというのは、この計画を共有する人が現れたからだ。

俺が早退したときに再びしばらく休むからと、引き継いでもらったのが音無さんだった。

みんなが気を遣わないように内緒で進めてきたこのライブ計画。

今では音無さんと共同して行ってる。もちろん社長も承諾済み。

そしてここが星井が残るかどうかの分岐点。上手くいくかは全くわからない。

しばらくすると、当事者の星井がやってきた。

美希「あ、おはようプロデューサー」

P「ああ、おはよう」

美希「熱大丈夫なの? 昨日、プロデューサーの代わりに小鳥が来て教えてくれたよ?」

P「そっか、俺はいいんだけどさ。お前は大丈夫なの?」

美希「ミキのことは心配いらないの。もう全部間違えないで歌って踊れるよ」

P「本番で緊張して間違えんじゃねーぞ」

美希「余計なお世話なの! プロデューサーともこれで最後だし、今までお世話になったの」

P「気が早い。ここで失敗したらアイドル続けてもらうからな」

美希「どーぞご勝手に?」

……うざいなこいつ。もうやめさせてもいいんじゃない? というのは冗談だけど。

くるっと踵を返して控室に向かう星井。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 20:21:54.94 ID:bOdoSl9s0<> それにしても予定の1時間前から来るとは案外しっかりしてるんだな。

そして星井は早めのリハを行いほぼ万全の状態で本番に臨んだ。

本番直前。

P「緊張してる?」

美希「全然?」

こいつめ。本当に緊張してないな……。大物なのか、ただのバカか。

P「ひとつお願いがある」

美希「今になって、何?」

P「ステージの上では絶対に『やめる』とか『引退する』とか言わないでくれ」

美希「……お客さんが悲しむから?」

P「……そうだ」

嘘なの。全然違うの。

美希「ふーん。わかった。一応、約束は守るの」

P「おう、頼んだ」

星井はステージに上がっていった。

美希『みんなー!今日は来てくれてありがとうなのー!』

初めてで物怖じしないあの態度はやはり大物と呼ぶべきだろうか。

ていうかマジであれ初めてか?

そしておよそ1時間に及ぶライブは終わりを迎えた。

星井は完璧だった。控えめに言ってもこのライブは成功と言える。

歌も良し、踊りも良し、場をつなぐトークも問題なし。

それに彼女にはセンスがある。人を惹きつけるセンスが…。

しかも一人で8曲の歌と踊りを披露したにもかかわらずまだ余裕がありそうだ。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 20:22:46.26 ID:bOdoSl9s0<> 美希『じゃあねー! みんな、またねー!!』

『ウオォォォォォーーーーーーーーー!!!!』

すげえ盛り上がってんすけど……。ハコが大爆発する勢い。

それにしても今の星井のセリフ……。

星井が壇上から降りてくる。

P「お疲れ様、星井。……どうだった?」

美希「あの……あのねプロデューサー……ミキね……」

『………ール………アンコール……アンコール……! アンコール……!!』

星井が振り返る。もちろんたった今降りてきたステージに向かって……。

P「あらら、お呼びみたいだぞ? でも、アイドルやめたいならここで降りてもいいよ?」

再びこちらを向く星井。その顔はいろんな感情であふれかえったもののそれだった。

美希「……」

星井は何も答えない。いや、答えたくても込み上げる思いに飲まれて、言葉が喉の下でつっかえて出てこない。聞こえるのは嗚咽ばかりだ。

だが俺を見つめるその眼差しには確かな光、美しくて希望にあふれた光が宿ってるように見えた。

P「……言葉もいらないな。行ってらっしゃい」

俺は星井の肩をそっと抱き、ステージにその身を向けさせた。

そして背中を強く叩いて送り出す。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 20:23:27.78 ID:bOdoSl9s0<> 美希「……いたっ!」

よたよたっと2,3歩前に出た星井は恨めし気にこちらを見る。

P「声も出ないくらいに緊張してんじゃねーよ!」

星井の目にはさっきから大粒の涙が溜まっていたが、俺ににっこりと微笑むと吹っ切れたようにそれも汗と一緒に流れていった。

美希「……行ってきます!」

『ウオォォォォーーーーーー!!!!』

星井がステージに上がった瞬間、大歓声が起こる。たかだかキャパシティ200人の小さなハコとは思えない。

美希『みんな、お待たせなの……!』

星井の声は涙で震えてる。

客席のあちこちから『頑張れー!』だの『負けんなー!』だの聞こえてくる。

美希『ミキ、本当にこういうのは初めてで……嬉しくて……とにかくみんな大好きなの!』

『俺もだー!』と、やっぱりあちこちから聞こえる。

星井を初めて見る人たちなのに一時間でここまで心を掴むとは恐れ入った。

星井は2曲プラスしてライブを終えた。

小鳥「ライブ、大成功ですね!」

P「あ、音無さん」

小鳥「それで美希ちゃんは……?」

P「わかるでしょう?星井がアンコールに応じた意味が……」

小鳥「それじゃあ……」

音無さんの表情がぱぁっと輝く。

P「おそらく星井は続投です」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 20:24:51.87 ID:bOdoSl9s0<> 小鳥「よかったぁぁぁ……」

P「音無さん。ライブはまだ終わってませんよ?」

小鳥「……と言いますと?」

P「社長にお願いして、来てくれた方に特典を用意したんです。だから、スタッフの方たちと一緒に配るの手伝ってもらえますか?」

小鳥「はい、もちろんです。プロデューサーさんも一人でよく頑張りましたよ?」

P「あはは、恐縮です」

それでは、と音無さんは行ってしまった。

P「……おっと」

俺も一気に安堵する。

同時に立ちくらみもした。

どうやら疲労が抜けきっていない体で気を抜いてしまったため、どっと疲れが意識に押し寄せてきてしまったようだ。

美希「プロデューサー!」

その声に振り返る。

直後、ふいに視界がフェードアウトしていった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 20:25:25.16 ID:bOdoSl9s0<> 微かに俺を呼ぶ声が聞こえた。

夢を見ていた気がする。

兄貴と伊織と父さん、母さんがいて俺を笑顔で迎えてくれてる。

けれど俺は行かないのだ。行けないのだ。

俺は家族に背を向け走り出す。振り向くなと自分に言い聞かせる。

あれはまやかしだ。俺は追い出されたんだ。

妄想はもうよせ。

俺は家族を顧みなかった。自分のことばかりだった。

当然の報いなのだ。

家族が俺を迎えてくれるという俺の妄想はただの幻想に過ぎない。

目を背けろ。理想は見るな。

兄貴も母さんも父さんも伊織だって、俺のことが嫌いだ。

軽蔑してる。水瀬家の恥さらしだって罵っている。

そのはずなのに……。

立ち止まって振り返る。

息が切れるほど走ったのに、変わらない家族との距離。

なのにさっきまでの笑顔は消えていて。

悲しそうな顔をしていた。

伊織たちはそれぞれ顔を見合わせて、また俺に向き直る。

ちょっと困った笑顔を浮かべて……。

悲しいのが伝わってきて……。

なんでそんな顔をするのかわからなくて……。

俺はまた逃げてしまった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 20:26:09.77 ID:bOdoSl9s0<> P「ん……」

知らない天井だ……。って言うのは、もはやお約束。

美希「プロデューサー!?」

P「星井?」

音無さんもいるな。

P「俺は何で病院に?」

小鳥「何言ってるんですか! プロデューサーさん気絶したんじゃないですか!」

P「俺が? 悪い冗談だろ」

美希「ううん。ミキが呼んだら倒れたの……」

泣きそうな星井。お前が責任感を感じる必要はないんだけど……。

小鳥「あれだけ無理しないでくださいって言ったのに……伊織ちゃんにも言われてたんでしょう?」

P「そっか。……じゃなくて! ライブは!?」

小鳥「そっちは大丈夫です。特典も配布し終えましたから」

P「よかったぁ……」

安心したらまたどっと疲れてきたかも。再び横になる。

小鳥「でも自分の心配もしてくださいね……」

P「ええ、わかりました。これからしばらくは休ませていただきますけど……」

小鳥「……社長に伝えておきます」

P「助かります」

小鳥「しっかり寝てくださいね? 聞いたところによるとただの寝不足ってことだったんで……」

P「……」

小鳥「あーあ、また伊織ちゃんに怒られますよ……」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 20:26:51.69 ID:bOdoSl9s0<> P「まあいいですよ」

小鳥「じゃあ私はこれで失礼しますね」

P「はい。わざわざありがとうございました」

音無さんは微笑んで会釈をすると部屋から出て行った。

P「病院なんて大げさだな……」

美希「本当に心配したんだよ、プロデューサー?」

P「ああ悪かったな、星井。お前は戻らないのか?」

美希「うん、ミキまだプロデューサーに言ってないことあるの」

P「言ってないこと? そういや俺もあったな……」

美希「プロデューサーも? なになに?」

P「星井、お前のライブは大成功だ。今までお疲れ様!」

自分でも意地悪だなぁって思う。彼女が納得するはずないこんな言い方に対して俺は星井がどんな返答をするのか気になってしまった。

美希「あの、そのことなんだけど……」

なんか、らしくないな……。しおらしいというか。

とにかく俺の予想とは違った答えが返ってきた。

美希「キラキラしてたの……」

P「は?」

わけのわからない言葉に素頓狂な声をあげてしまう。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 20:27:30.55 ID:bOdoSl9s0<> 美希「ミキのライブ見に来てくれた人たち、最初は全然そうでもなかったのにどんどんキラキラしていって、ミキにもキラキラ分けてくれて……」

とりあえず黙って聞いておく。

美希「お客さんもミキもみんなもっとキラキラして……歌ってて、踊っててすごく気持ちよかった」

P「そっか。……それで?」

美希「……ミキやっぱり続けたい!」

P「練習もちゃんとやらなきゃダメなんだぞ?」

美希「やるの! 今さらって思うかもしれないけど、ミキもっともっとキラキラしたい!」

P「……わかった。だったら俺は応援するし、最大限サポートしよう」

美希「プロデューサー……」

P「それより今日のライブだが……全然ダメだな」

美希「ええっ!? 終わったときプロデューサー、大成功って言ってたよ?」

P「まあライブとしては成功だろ。すごい盛り上がりだったしな」

美希「じゃあどうして?」

P「歌も踊りもまあまあだったが、それだけだ。トークも微妙、もっと面白いネタもってこい。とにかく中途半端、俺だったら帰る」

美希「……あんまりなの」

星井はがっくりとうなだれた。

全部嘘です。ごめんね。超良かった。俺だったらファンになっちゃう。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 20:28:27.19 ID:bOdoSl9s0<> P「でもな、星井。まだまだこれからなんだ。お前はこれからもっと良くなる」

美希「ほんと?」

P「当然だ。お前はまだアイドル始めたばかりじゃないか……」

だからまだ伸びる。経験値が圧倒的に足りてないだけ。

P「しかしなぁ、アイドルが生き残っていくためには練習だけじゃダメなんだよ」

美希「そうなの? じゃあ練習以外に何すればいいの?」

P「まずは礼儀正しく。次にみんなに優しく。そしてみんなのお手本になるように」

美希「そうすればミキ、もっとキラキラできるの?」

キラキラはよくわからんが……。

P「そうだな。世界中が星井美希に夢中になって、キラキラな世界の出来上がりだ」

そういうと星井は目を輝かせた。

美希「ありがとうプロデューサー」

P「何だ急に?」

美希「プロデューサーがライブやるって言わなかったら、ミキは何も知らないまま辞めてたと思うの」

P「ふーん。こっちも辞めさせる気なかったけど」

美希「え?」

星井が間抜けな顔をする。何て言ったの? といったような感じだ。

P「だから、俺も初めから辞めさせる気なかったって」

美希「どういうことなの……?」

P「ライブやればまたアイドルに興味持つと思ってな。失敗しても残ることになってたし」

美希「ミキ騙されたの?」

P「はぁ? そんなわけないだろ。別にマジで辞めてもよかったんだから。ただ、俺は星井がアイドル辞めたくないって言うと、思ったんだ」

美希「それってミキを信じてたってこと?」

P「どうだろうな。でもこのライブのために頑張った甲斐はあったと思ってる」

美希「ミキのために……」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 20:29:54.79 ID:bOdoSl9s0<> P「俺のためだ。俺がアイドル星井美希の活躍を見たいと思ったんだ。お前にはその素質があるとも思った。だからこれは俺の勝手な判断と行動で、ただの自己満足でしかない。結局は音無さんにも手伝ってもらっちゃったけどな」

美希「プロデューサーって素直じゃないの!」

P「いや素直だっただろ……」

美希「ミキね、今日のことでとっても感謝してるよ?」

瞳を潤ませる星井。その表情を目の当たりにして言葉が出ない。

美希「あの時、プロデューサーが背中をたたいてくれたから、みんなのアンコールに応えられたの」

そっと目を閉じる。その時を思い出すようなしぐさであり、とても綺麗な顔だ。

美希「ついさっきまで辞めようって思ってたミキがもう一回みんなの前に出ていいの? って……」

俺は聞いた。彼女の想いを……。

ていうか星井もそこまで考えてたんだ。意外、自分のことばかりだと思った。

美希「そう考えてたミキの背中を押してくれたのはプロデューサーだよ……?」

しっかりと目を合わせる星井。潤んだ瞳に、今にも泣き出しそうな表情に、目を逸らしそうになる。

P「そうか……」

やっと出てきた言葉が何とも素っ気ない一言だった。

なんとか繋げようと次の言葉を絞り出す。

P「あ、その、なんだ……まあ続けてくれんなら頑張れ。俺がお前のファン1号なんだから、俺をがっかりさせないでくれよ?」

美希「あはっ! そっか、プロデューサーがミキの一番目のファンなんだ。それっていつ決まったの?」

P「……お前がアイドルになるって言った時から」

美希「ふーん。じゃあプロデューサーは初めっからミキの味方だったんだね……」

別に味方ってわけじゃないんだけどさ。

美希「……プロデューサー、ありがとう」

また聞くその言葉、やっぱ照れくさかったりする。

俺はちらちらと視線をさまよわせてしまう。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 20:30:49.78 ID:bOdoSl9s0<> 美希「これからプロデューサーのことハニーって呼ぶね!」

P「は? なんで?」

いきなりどうしたこいつ? わけわからん。さっきからわけわからん。

美希「ミキにとって大切な人だから!」

屈託なく言う星井に俺は唖然。

美希「ねえ、ハニー? ミキのこと見てて、これから頑張るから!」

P「それは分かったがハニーはやめろ」

美希「ヤ!」

反抗期、早っ! 言うこと聞くんじゃなかったのか!?

こんなのがみんなのお手本になっちゃ困る。

P「おま……っ!」

『お前なぁ…』言いかけた時、星井に人差し指で口を押さえられる。

何の真似だ? と目で伝える。伝わるかな?

美希「『お前』じゃない、って前にも言った気がするの。お前じゃなくて『ミキ』って呼んでよ」

星井の手を払いのける。

逆の手の人差し指を押さえつけられる。

俺は払いのける。負けじと星井はその逆を……。

激しい攻防が始まった。

しまいには星井が抱き付いてきて離れない。俺は引っぺがそうとしたがなかなか離れなくて困ってしまった。

P「わかった。名前で呼ぶよ。離れろ星井」

美希「『星井』じゃなくて『ミキ』! それと人にお願いするときはどうするの?」

何から目線なのこいつ? 相変わらず生意気だなぁ。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 20:32:25.72 ID:bOdoSl9s0<> P「わかりましたよ。美希さん、離れてくださいお願いします」

美希「別に呼び捨てでいいのに……?」

口をとがらせてぶーぶーと注文垂れる星井。

P「お前、離れろやコラ」

俺はたまらずいつもの口調に戻った。

美希「また『お前』って言ったの! ミキ離れない!」

だめだなこりゃ。矯正していかないといけないのか。

P「ごめんって、美希」

あんまやりたくないが……。

俺は美希の耳元に口を近づけ……。

P「……美希、離れてくれないか?」

出来る限り甘い声で囁いた。……つもり。

美希「……あ」

『あ』って何!? 何だその反応!!

すると美希は案外素直に退いてくれた。

美希「しょ、しょしょうがないのー……ハニーがそう言うのなら離れてあげる……」

これすると、ほとんどのアイドルが割と素直に言うこと聞いてくれるんだよね。

後で大変だからあんまり使いたくないけど……。

P「今日は帰りなよ。明日も練習あるんだしさ」

うんうんと、素直に首を縦に振る美希。俯きがちでちょっと硬直気味なのが気になる。

なんだか、らしくない。

P「居てくれてありがとな、美希。それと顔あげなよ。可愛いのにもったいねーぞ?」

美希「……う、うん! ハニーもありがとなのー!」

美希は赤らんだ顔をこちらに向けて、満面の笑顔を見せると、くるりと背を向け慌てて帰っていった。慌てる必要ないのに……。

うーん。それにしても名前呼びか……。如月、いや、千早もそう呼んでって言ってたし改めるかな……。でもなんか恥ずかしいよな。……とりあえず試してみるか。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 20:33:34.12 ID:bOdoSl9s0<> 俺はそれから1週間休暇をもらった。無給のやつを。

余談だが、その月の給料が手取りで2万弱だった時の絶望感は半端じゃなかった。今から1か月1万円生活でも始めるんですか? ってくらい。

休みが明け……。

P「おはようございます」

小鳥「おはようございます。久しぶりですね」

P「はい、ご無沙汰です。……小鳥さん」

小鳥「ええ、そうですねぇ……って、ええ!?」

P「うわ! びっくりしたぁ……なんすか?」

小鳥「いえ、何ですかはこっちです! 今『小鳥さん』って…」

P「ああ、いろいろありましてみんなのこと下の名前で呼ぼうかなと思いまして……やっぱ嫌でした?」

小鳥「とんでもないです! 大好きです! じゃなくて、むしろ嬉しいくらいですよ? さっきは、いきなりで驚いただけですから」

P「はぁ……そうですか」

嫌がられてないどころか嬉しいくらいならいいか。

律子「おはようございます」

P「おはよう。……律子はいつも早いな」

律子「あ、プロデューサーお久しぶりです。……って今なんて!?」

またその反応? やっぱ嫌なんじゃ?

P「いや、来るの早いなって……」

律子「そっちじゃなくて……」

小鳥「律子さん。なんかプロデューサーさん、みんなのこと下の名前で呼ぶようにするそうです」

P「嫌だったか?」

律子「まさか! プロデューサーに近づけたみたいで嬉しいですよ?」

P「ならいいんだ」

他の子はどうなるのだろうか……。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 20:34:06.89 ID:bOdoSl9s0<> 律子「他の子もみんな嬉しがると思いますよ?」

P「へ?」

律子「ちょっと不安そうにしてたので私からアドバイスです」

P「おま……律子って優しいよな」

『お前』って口に出ちゃうな。接頭語みたいに。

律子「な、な、何言ってるんですか? あー、仕事仕事っと!!」

P「なに照れてんだよ」

律子「別に照れてませんー!」

小鳥「プロデューサーさんが急に褒めたりするからですよ」

そんなものなのか?

とりあえず、他のみんなも下の名前で呼んでみたけど、どの子も律子や小鳥さんと同じような反応だった。

この頃からアイドル達との距離もグッと縮まったような気がする。

千早は言い直す必要がなくなったのが嬉しいらしい。

どうしても『如月』って呼んじゃってたから。

こうして星井美希引退ライブの件は引退せずに終わった。

美希は普段のマイペースはともかく、アイドルへの情熱を燃やし始めた。

おかげでみんなとも仲良くやっているようだ。

『星井美希』   終わり
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/12(日) 20:36:42.02 ID:bOdoSl9s0<> はい、ここでいったん休憩かな。
みなさん、おつかれさん。

次回投稿は明日の23:00頃を予定。

質問あればどーぞ。 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/12(日) 21:05:20.10 ID:35OTgA+kO<> おつ
名前呼びが自分だけじゃなくなって嫉妬するいおりんはよ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/13(月) 22:51:09.78 ID:IEnZnSbqo<> いいか>>1よく聞け!!
3人書きあがった、といったな!
その中にあずささんが入っていなかったら大変な事になるぞ!!!いいな!! <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/13(月) 23:50:11.49 ID:ZNOwlz250<> 予定より遅れたけど再開。

>>77
入ってません。 <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/13(月) 23:51:34.31 ID:ZNOwlz250<> 『初めてのテレビ出演』

それから一月後。

今日は亜美と真美がテレビ出演である。『祝』って感じ。

双子アイドルっていう路線が受けたらしい。双子自体はあんまり珍しくないと思うけどね。

P「でもよかったなー」

真美「なにが?」

P「こうやって真美と亜美がテレビ出演なんて……うちでは初めてだろ?」

亜美「そういえばそうだねー。ようやく時代が亜美たちに追いついたよね」

P「は、調子乗んな」

真美「兄ちゃんのおかげだよ?ありがと……」

P「……おお、なんか素直に言われると調子狂うな」

真美「そんな真美の魅力に負けてしまう兄ちゃんであった……」

P「は、調子乗んな」

亜美真美『ぶーぶー!』

P「うっせ、出演者の方々に迷惑の無いようにしろよ?」

亜美「大丈夫だよ!」

真美「いたずらもしないって!」

P「当たり前だ! いたずらしたら干す!」

亜美「あみたち洗濯されちゃうの?」

真美「これ以上綺麗になっちゃうの?」

P「バカ言ってないであいさつしに行くぞ」

深夜の放送ではあるけど駆け出しのアイドルを取り扱ってくれる番組だ。

これで多少でも認知度が上がればいいけど、そうもいかんだろーな。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/13(月) 23:52:04.60 ID:ZNOwlz250<> スタッフの方にあいさつを済ませ、次は共演者。

司会の方に挨拶を済ませる。

あまり有名ではない芸人の方だが、徐々に注目を浴びている。

他の共演者は『ジュピター』という男性の3人組ユニットだ。

えーと、所属は961プロ!?

へー、黒井さんのとこか……今度あいさつに行かねーとな。

今日来てんのかな?

とか考えてるとジュピターの楽屋前だ。

ノックすると、どうぞーと言う女性の声が聞こえた。

P「失礼します」

そう言って扉を開ける。亜美と真美も通して前に出す。

P「本日共演させていただきます765プロダクション所属の双海亜美と双海真美です」

ほら挨拶、と促して二人にもあいさつさせる。

真美「双海真美です! お願いしまーす!」

亜美「双海亜美です! よろしくね!」

P「こらこら……そんなん失礼だろ? 申し訳ありません」

北斗「ははは…! 気にしないでください。これはこれは……。かわいいエンジェルちゃん達じゃないですか。俺は伊集院北斗と申します」

金髪の男性が笑い、立ち上がって律儀に礼をする。

翔太「こちらこそよろしく! 僕は御手洗翔太」

3人のうちではやや幼さの残る少年も笑って答える。

冬馬「天ケ瀬冬馬だ。よろしく」

目つきの鋭い少年は無愛想に言い放った。

女P「冬馬ー。あんたもっと愛想よくできないのかしら?」

女性が呆れたような目つきで冬馬くんを見ている。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/13(月) 23:52:37.95 ID:ZNOwlz250<> 冬馬「うっせ、これでも愛想よくしてるつもりだ!」

翔太「ええー? 冬馬くん、今ので愛想よくしてるつもりなの?」

北斗「だとしたら冬馬は今日の収録を何度も見返すといいな」

二人とも天ケ瀬を茶化して楽しんでた。仲は良いらしい。

冬馬「お前らまで……」

本人は困惑してる。どうやら本当に愛想よく振る舞ってたらしい。

亜美「あまとう面白ーい!」

冬馬「あまとうって何だ!?」

真美「今度ケーキ買ってきてあげよう!」

冬馬「お願いしますっ!」

P「本当に甘党なのか……。じゃなくて、おい双子、失礼なこと言うな。天ケ瀬さん本当に申し訳ない」

冬馬「ああいや、別にいいって……。ケーキくれんなら」

そんな食いたかったの?

女P「そうですよ。気にしないでください。あとケーキもいいですから」

女性は笑って答える。そう言うなら、まあいいか。

P「あ、申し遅れました。私、こういうものです」

ふと思い出し、やや慌てて名刺を差し出す。

相手もそれに応じて名刺を交換する。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/13(月) 23:53:29.79 ID:ZNOwlz250<> 女P「765プロと言えば高木さんの……」

P「へぇ、ご存知なんですね。そちらも黒井さんのとこの……」

女P「そちらもご存知なんですね。私は高木さんには学生の頃何度かお会いしたのでお世話になってるんです……。もちろん黒井社長にも」

P「そうでしたか。実は俺もなんですよ。そちらの黒井社長にはお世話になったもので……。もうずいぶん会ってないんですけどね」

女P「私も黒井社長からお話を伺ったことがあります。高木さんについて、それと高木さんのもとで働く男性について……」

P「それって俺のことですか?」

女P「はい。おそらく」

P「どんな風に仰ってました?」

言うと彼女はおかしいことを思い出した風に笑って。

女P「ふふっ! そうですねー。絶賛してるのか罵倒してるのかよくわかりませんでした。でもとっても可愛がってらっしゃるんだなぁって思いました」

あの人らしいな。自然と笑みがこぼれてしまう。

P「今度、あいさつに伺いますね」

女P「ぜひいらしてください」

世間話にちょうど花が咲き始めたころ。

翔太「あれー? もしかしてお二人さんいい雰囲気?」

北斗「俺たちはお邪魔でしたかね?」

冬馬「いやいや、二人が外に出ろよ」

好き好きに言うジュピター。

亜美「兄ちゃん、その人とお熱い感じなのー? 初対面なのにやるぅ!」

ニヤニヤする亜美。

真美「兄ちゃん! もう行こうよ!」

なぜか慌てだす真美。あんまり引っ張るもんだから。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/13(月) 23:53:57.59 ID:ZNOwlz250<> P「わかったわかった。引っ張んな」

女Pさんはくすくすと笑う。

女P「真美ちゃんはPさんのこと好きなのね。」

真美「ち、ちがうもん! 真美、飽きちゃっただけ!」

ここに、なんだか子供と大人の差を感じた。

女P「……それではPさん今日はよろしくお願いします」

P「はい。こちらこそ。そんじゃ二人とも行くぞ」

俺たちは楽屋を後にした。

真美が若干、不機嫌なのが気がかりだ。

P「どうした真美? 何が気に食わないんだ?」

真美「べつにー……」

あからさま過ぎて逆にどうしたらいいかわからん。

P「なあ亜美……どうにかしてくれよ」

小声で亜美にヘルプを要請。

亜美「亜美もなんかよくわかんない。最近になってだけど、真美ってたまにああいう感じ出したりするから……」

P「そうかい」

亜美もダメ。じゃあ誰ならいいの?

P「なあ真美?」

真美「なに?」

やっぱり少し不機嫌そうに答える。おお、真美よ一体どうしてしまったというのだ!

P「今日の収録の後3人でちょっとしたお祝いをしよう。初テレビ出演おめでとうって……」

真美「……」

P「嫌か?」

真美「ううん。嫌じゃない」

そう言った真美の口調はさっきよりも穏やかだった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/13(月) 23:54:26.07 ID:ZNOwlz250<> 亜美「じゃあ亜美は夜景の綺麗なビルの最上階がいい!!」

P「子供が背伸びするんじゃありません! それに俺も今月やばい」

亜美「いいじゃんいいじゃん! そんなことで何がお祝いなの兄ちゃーん?」

調子乗ってんなこいつ。

P「大きめのは事務所でやるからいいんだよ。俺たちはみんなに秘密でひっそりとやるのさ」

真美「秘密で……」

P「そう。まあ高そうな所は無理だが、できるだけ大人っぽいとこには連れてってやるよ」

真美「約束だよ?」

亜美「約束!」

P「わかったって。だったら亜美と真美も今日はばっちり決めてくれよ?」

真美「うん!」

亜美「了解であります!」

そうして迎えた本番。

初めてにしては緊張感もなく、進行していった。

ジュピターとの掛け合いも割とウケていた。

冬馬くんの路線がよからぬ方向へ進んで行ってる気がしたが、見て見ぬふりをした。

しまいには、司会者までいじりだす始末。

あとは亜美と真美の魅力を十分に伝えるような編集になってることを祈るだけだ。

今から放送が楽しみだなぁ。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/13(月) 23:55:05.20 ID:ZNOwlz250<> P「お疲れ様。真美、亜美、二人とも良かったんじゃないか?」

亜美「まあねー!」

真美「手ごたえばっちりっしょ!」

確かに、スタッフにも出演者にも好印象だったように思える。

そして亜美と真美にはスタッフのあいさつに行かせた。

P「あ、ジュピターのみんなもお疲れ様。とっても面白い現場だった。ありがとう」

北斗「いえ、こちらこそ。初めてでしたが十分に楽しませてもらいました」

翔太「一人納得いってないのがいるみたいだけどねー」

冬馬「うっせーよ! あんなの俺のアイドル活動終了じゃねーか!」

本当に彼は気の毒だった。

女P「あれじゃまるで芸人ね」

冬馬「ぐっ…! あんたは本当に優しくねぇな」

P「でもあんなツッコみ芸人顔負けじゃないか! とてもいい武器になるよ」

冬馬「やめろ。優しくしないでくれ」

女P「まったく。優しくしてほしいのか、ほしくないのかどっちなのよ……」

冬馬「こうなったのも双子のせいだぞ」

翔太「それは冬馬くんが悪いよ」

北斗「そうだぞ冬馬。お前がバカ正直に言い返すから」

確かに鬼ヶ島羅刹のくだりとか、ピピン板橋のくだりの返しが鮮やかだった。

文字数しか合ってないとか、一瞬じゃわかんねーから。

でもこれじゃあまりにも彼がかわいそうだ。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/13(月) 23:55:45.88 ID:ZNOwlz250<> P「本当に申し訳ないです。天ケ瀬さん」

冬馬「もういいって、身内がこんなだ。開き直るさ」

意外と図太いメンタルなのな。

冬馬「あとその呼び方はやめてくれ、冬馬でいいよ。年上に名字にさん付けで呼ばれるのはムズムズする」

P「そうですか……。では次にこういう機会があればまたよろしく頼むよ。冬馬くん」

俺も冬馬くんの方がしっくりくるな。

冬馬「ああ、二度と御免だけどな」

と言ってさっさと行ってしまった。

北斗「彼はああ言ってますけど別に本当に嫌なわけじゃないと思いますよ?」

翔太「そうだよねー! なんだかんだ言っても冬馬くんすごく楽しそうだったから」

P「そっか」

二人は最後にあいさつをして帰って行った。

女P「失礼な子で申し訳ありません」

P「いえ、こちらからちょっかいをかけてしまったので謝らなきゃいけないのはこちらです」

女P「……そうだ!」

急に手のひらをパシッと合わせる女Pさん。

女P「せっかくですから、番号交換しませんか?」

番号というのは無論、電話番号のことである。

こちらは断る理由もないので……。

P「そうですね」

あっさりと承諾する。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/13(月) 23:56:29.64 ID:ZNOwlz250<> 女P「じゃあ今度連絡いれますね。相談とか乗ってもらえれば助かります」

P「こちらこそ、まだまだ未熟なものですから頼りにさせていただきます」

お互いにお疲れ様、と残しその場を後にした。

本日の業務は終了。報告書を書いて後日提出だ。

亜美「兄ちゃーん。終わったよ」

真美「ディナー行こ? ディナー!!」

P「そうだな。なんか食べたいものあるか?」

亜美「そこは兄ちゃんがエスコートするってもんでしょー!」

P「そうか。ラーメンでいいのか?」

亜美「えー! 兄ちゃんセンスないですなー」

P「うっせ。今どこでもいいっつったろが」

真美「言ってないよー」

呆れた感じで真美が言う。

真美「どこに連れていくかで男の人のうちわが決まるってスタッフのお姉さんが言ってた」

団扇って何だ。器だろ器。

P「…まあ任せろ。ちょっといいとこ連れてってやるから」

俺はよく行ってた店に電話を掛ける。つまり、水瀬家がよく行くような店だ。

ちょうど席も空いているということなので、今から行くと伝えて電話を切る。

P「うっし、じゃあ行くぞー」

亜美「わーい! さっすが兄ちゃん!」

真美「期待してるかんね?」

P「生意気言ってんじゃねぇ。さっさと乗れ」

亜美真美『はーい』

車に乗り、目的地へ。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/13(月) 23:57:50.06 ID:ZNOwlz250<> ここからでもあまり遠くない場所だ。

大体30分かからずに着いた場所は地上40階ほどありそうな高層ビル。

その下でそれを見上げ驚愕する二人。

亜美「兄ちゃん……」

真美「これマジな感じ……?」

P「任せろって言ったろ? まあ今日くらいは奮発してやるよ。みんなには絶対内緒な?」

亜美「ありがとう! 兄ちゃん!」

真美「うん! 約束する!」

でもこういうのって誰かに話したくなるだろうから、内緒にしなくてもいいと俺は思っているが。

内緒とか秘密って言うと特別感増すよね。

P「とりあえず行くか。俺も久しぶりなんだよなぁ……」

真美「兄ちゃん、来たことあるの?」

P「当たり前だろ。そうでなきゃ電話もかけないし、連れてきたりもしないって」

亜美「ふーん。前来たのはいつなの?」

わりと質問多いな。いいんだけど。

P「そうだな。もう3年は来てないなぁ」

亜美「へー」

興味ねえだろお前。

P「ほら、エレベーター乗って」

真美「うわぁ! 30階まであるよ!?」

P「28階だ」

驚く真美にそれだけ言って俺は28のボタンを押す。

亜美「なんかドキドキすんねっ!」

真美「うんっ!」

二人ともみるみるテンションが上がってく。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/13(月) 23:58:47.87 ID:ZNOwlz250<> こちらまでそのワクワク感が伝わってくる。今にも工作しそうなくらいだ。

こういう場所のエレベーターはやけに速くて、亜美と真美が数字の光を目で追っているとあっという間に目的の28階へ着く。

真美「はやー」

亜美「はえー」

こういう子供っぽいところはやはり愛嬌のある二人だった。

エレベーターを出ると一人のウェイターが出迎えてくれた。

P「先ほど電話を入れたPです」

「お待ちしておりました。こちらの席へどうぞ」

ウェイターはそれだけ言うと俺たちをカウンターの席へと案内した。

目の前にはシェフと鉄板。

料理の様子を目の前で見ることができるのだ。

さらに窓の奥には夜景が広がる。まさしく都会の絶景だった。

真美「すごーい!」

亜美「おしゃれっぽい!」

まさに小並感である。というかリアル小学生でした。

俺は椅子を引いて二人に座るように促す。

P「ほら、座りなよ」

亜美「サンキュー兄ちゃん!」

真美「ありがとう」

そうして自分も腰を掛ける。ここのシェフと目が合う。

「お久しぶりでございます」

P「はは、久しぶり」

ここのシェフとは顔見知りだったりする。元常連だったもんで。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/13(月) 23:59:40.44 ID:ZNOwlz250<> 「本日は可愛いお客様もお連れのようで……」

P「まあね。仕事の同僚みたいなもんだよ」

「ほう。それはご立派ですね」

P「なに、まだまだ駆け出しのアイドルなんだ」

「アイドルですか。それではサインの方も今のうちにいただけますか?」

冗談っぽく言うシェフ。

P「あはは! まだ自分のサインなんて持ってないんじゃいかな?」

それに全然有名じゃないのにさ。これから有名になるけど。

亜美「あるよ?」

P「……マジ?」

真美「マジマジ!」

シェフは笑うと、近くのウェイターに目くばせをする。

「ちょうど色紙の方も用意してありますので、ぜひ書いていただけませんか?」

亜美「もっちろん!」

真美「いいですとも!」

気合十分に二人はおそらく初めて他人に渡すであろうサインを書き始めた。

可愛らしい文字で二人らしいサインが色紙を飾る。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/14(火) 00:00:08.57 ID:TQuykL+T0<> P「地味に練習してたんだな」

亜美「まあねー」

真美「ちょっと緊張しちゃったかも」

P「まあでも上手いな」

素直に褒めると、嬉しそうに笑う亜美と真美。

「それではこちら飾らせていただいてもよろしいですか?」

P「そうしてもらえると助かるな」

一応、二人の宣伝効果にならないかな?

「ところで、ご注文はいつものでよろしいでしょうか?」

P「そうだね。じゃあ、みんな同じので頼むよ」

「かしこまりました」

真美「いつものだって! いつもの!」

亜美「なんかかっこいー!」

テンションもさらに上がる二人。

目の前で肉を焼き始めるのを凝視したり、少しお高めな雰囲気に多少緊張しながらも楽しく過ごせているようでなによりだった。

スープ、前菜、主菜と次々に出てくるコース料理に食べ盛りの二人の瞳もキラキラと輝く。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/14(火) 00:00:38.37 ID:TQuykL+T0<> 亜美真美『おいしー!!』

「大変嬉しいお言葉をありがとうございます」

シェフも満足そうにニコニコと笑顔でいる。

「坊ちゃまはどうですか?」

P「あはは、その呼び方はよしてくれよ。もちろん美味しい。それに、懐かしい」

シェフは何も言わなかったが、慈しむような目をしていた。

この人も小さい頃から俺を知っているんだと、実感させられる。

その後、デザートをいただき、しばらく談笑して席を立つ。

「また来てください」

P「ええ、また来るよ。今日はサービスしてくれてありがとう」

割引してもらった。社会人になったお祝いだそうだ。もう3年目だけどね。

「ご家族の方も頻繁にいらしております」

彼は事情を知っているのだろう。

P「お世話になってるみたいで」

「……いえ、こちらこそ」

彼はもう何も言及してこなかった。多分、俺の声の調子から踏み込むべき話題じゃないと思ったのか。気遣いも上手な人だ。

「お嬢さんたちも応援しているよ」

亜美「ありがとう、おじさん!」

真美「真美たち絶対有名人になるからね!」

シェフは優しく笑って俺たちを見送った。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/14(火) 00:01:23.27 ID:TQuykL+T0<> P「よかったな。ああして応援してもらえるなんて幸せなことだよ」

亜美「うん! いいおじさんだった!」

真美「真美また行きたい!」

P「そんなホイホイ連れて行けるような場所じゃねーよ。二人とももっと頑張りなさい」

亜美真美『はーい』

満面の笑顔で息ピッタリに二人は返事をした。

来た時と同じようにエレベーターに乗る。

違うのは気持ちが若干落ち着いていたことだろうか。

車まで着くと俺はキーを解除しドアを開けて二人に入るように示す。

まるで執事とお嬢様みたいな構図に感じた。

車を出すと間もなく二人は眠ってしまった。

よっぽど疲れたのだろう。お腹も満たして満足したのだろう。

P「お疲れ様でした……」

事務所についてからも眠っていた彼女たちにそう言って運転席を降り、後部座席のドアを開ける。

動かしたらかわいそうだろうか。

そんな考えが頭をよぎる。

しばらくまごついていると二人が寒がると思って、やっぱりドアは閉めた。

どうしようと悩んだが、トランクに毛布が入ってたことを思い出す。

引っ張り出したそれを持って再びドアを開け、二人仲良く掛けさせてやる。

寝ている姿が微笑ましくて、俺も自然と笑顔になった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/14(火) 00:02:03.99 ID:TQuykL+T0<> 大分、起きそうにない。

さらりと頭を撫でる。

今日はよく頑張ったと思う。

そんな二人を見ていると抱きしめたい衝動に駆られたがぐっと堪える。

起こしたらかわいそうだ。

起こさないように車から出て、後ろ手でドアを閉め、そのままもたれかかる。

タバコなんて吸ってたらかっこいいんだろうな、なんてガキっぽく考える。

パッと空を見上げてみた。特にやることもなかったから。

都会でもわりと星って見えるんだな。目を凝らせばだけど。

15分ほどたっただろうか。双海姉妹はなかなか起きる気配がない。

外も寒いし。

P「いったん事務所に戻るかぁ……」

独り言を言ってすぐそばの階段を上った。

P「ただいま」

小鳥「あ、お帰りなさいプロデューサーさん! 亜美ちゃんと真美ちゃん、どうでしたか?」

P「上出来じゃないでしょうか。今から放送が楽しみですよ」

小鳥「本当、待ち遠しいですね!」

小鳥さんのテンションが高い。彼女もアイドル達に対する思いは並ではないのだ。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/14(火) 00:02:43.79 ID:TQuykL+T0<> 小鳥「あれ? ところで亜美ちゃんと真美ちゃんは?」

P「ああ、二人なら車で寝てますよ。今日はこのまま送ってっちゃってもいいですよね?」

小鳥「そうですね。遅い時間ですし……親御さんに連絡入れときます」

P「ああ、助かります」

小鳥「ふふっ! プロデューサーさんもお疲れ様です」

P「小鳥さんこそこんな時間までお疲れ様です」

もう彼女一人だけだ。社長はあっちへこっちへ色々と忙しいのであまり顔を出せないようで、代わりに小鳥さんが事務所を守ってるみたいだ。

小鳥「ところでプロデューサーさん、亜美ちゃんと真美ちゃんのテレビ初出演のお祝いは後日やることになりました。録画したその番組を見ながらってことで」

がらりと話題が変わる。

それにしても、番組見ながらって恥ずかしくないか?まあいいけど……。

P「了解です。今日は俺ももう帰りますね」

小鳥「はい。戸締りはしておきます。また明日…」

今日はもうあがろう。俺も疲れたかも。

そうして事務所を後にした。

俺は双海姉妹を家まで送った。

家は意外と大きい。聞けば父親が医者らしい。

そんなお父様は家の外で寒いのを我慢して娘の帰りを待っていた。

とても心配していたようだ。

寝てる二人を、俺と双海パパとで運んで短く会話を交わした。

いつもお世話になってるだの、娘をよろしくだの、腰の低めな父親だった。

俺の医者のイメージがいい方に変わったりした。

双海家を発ち、家に着いた俺は倒れこむように眠った。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/14(火) 00:03:11.89 ID:TQuykL+T0<> 時は流れ。

パーティーセットに彩られた事務所では、今か今かとテレビを凝視しているアイドル達。

そわそわと待つ亜美と真美。

小鳥「そろそろ始めますよ!」

春香「うわぁ、楽しみ! ね、千早ちゃん!」

千早「そうね。二人ともどんな風に映るのかしら」

真「ついにうちからテレビに出るアイドルが……! くぅー! なんか感慨深いですね!」

P「そうだなぁ……みんなもこれから出てもらわないとね」

律子「おまけにうちじゃ最年少の亜美と真美でしょ?」

美希「先を越されちゃったの」

まあ美希は後輩にあたるけどな。

美希「ハニー? ミキもテレビ出たいな……」

いつもぐいぐい来るよな美希って……。

周りの視線が一気に集まるの怖いからやめてほしいんだけど。

今だって俺の袖をつかんで体を寄せ、ぶりっ子全開だ。

P「悪いな。今みんな売り込んでるからさ。後は先方次第ってことだ」

美希「そうなんだ。ハニーが頑張ってるのにミキ、デリカシー無かったの。ごめんねハニー?」

P「ああ、いいっていいって。いいから早く離れろ」

美希「ヤ!」

そしてこの一言である。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/14(火) 00:03:49.32 ID:TQuykL+T0<> 伊織「お兄様が困ってるでしょ! 離れなさい美希!」

美希「やーん! デコちゃん怖ーい。助けてハニー?」

伊織「デコちゃん言うなぁ!」

P「美希、お前大丈夫だろうが。いいから離れなさい」

無理やり引き離す。なついてくれるのはいいんだけど、行き過ぎると確かに困るな。

美希は相変わらずのふくれっ面だ。

雪歩が苦笑いでこちらを見ていた。

P「ゆーきほっ! どうした? こっち見てたけど…」

雪歩「ええっ!? べべ別にどうもしてませんよぅ! プロデューサーこそ急にどうしたんですか?」

P「雪歩がこっち見てたからさ……」

熱出した時の一件以来、俺は雪歩によく絡むようになった。

雪歩「……そ、それは美希ちゃんのアプローチがすごいなぁって……」

美希「雪歩もミキを見習うといいの」

P「自分で言うセリフじゃないよな」

千早「美希、あんまりプロデューサーを困らせてはいけないわ」

美希「はーい。千早さんがそう言うなら仕方ないの……」

おいおい。俺は? 俺の意見は?

ところで千早にも美希は頭が上がらなかったりする。

それは純粋に美希が千早のことを尊敬しているからなのだ。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/14(火) 00:04:54.59 ID:TQuykL+T0<> 美希「ねえねえハニー! もっとそっち詰めてよぉ!」

こいつ、またか!! さっき注意されたばかりなのに……。

俺はもう端っこにいるだろうが!

P「無理だ。ていうか、美希の方がスペースに余裕あるじゃねえか」

伊織「アンタねぇ! お兄様から離れなさいよぉ!」

千早「いい加減にしなさい美希!」

割って入ってくる伊織と千早。

二人もあんまりくっついてくるんじゃない!

春香「うわぁ……」

真「大変だなぁ……プロデューサー」

P「雪歩、助けて!」

雪歩「ええっ!?」

律子「もう! うるっさいわねぇ!」

亜美「亜美もー!」

事務所内がごちゃごちゃとしてきて……。

やよい「みなさん、もう始まりますよ! 静かにしてくださいっ!」

しまいに普段は温厚なやよいに怒られてしまった。

意外な人物からの注意と意外にも大きな声にみんなはぴしゃりと黙る。

彼女はしっかり者だから、みんな逆らえなかったりする。

もしかすると、みんなが一番言うことを聞く人物がやよいなのかもしれない。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/14(火) 00:05:28.45 ID:TQuykL+T0<> でもやよいも亜美と真美のことを考えて怒っているに違いない。

そういう気遣いができる子だ。

P「ああ、悪い」

千早「高槻さんに怒られた……」

美希「千早さんしっかりするの……」

なんやかんやしてるうちに収録が流れ始めた。

みんなも目を輝かせて見ていた。

司会の方が上手く話を振ったりしてもちろん面白いのだが、亜美と真美とジュピターの掛け合いも、なかなか面白い。

特に冬馬くんが。

何あのツッコミ、あれで初めての出演だっていうんだから驚きなんだけど。

P「いやぁ、やっぱ冬馬くん面白いよね」

真「アイドルとして大丈夫なんですか?」

P「いやダメだろ。でも面白ければ生き残れるし、彼にはおそらくピンでも仕事入ってくるんじゃないか?」

黒井社長の売り出し方とはだいぶ違うと思うけど、別にそんなこと気にする人じゃないしな。どっちかって言うと結果を出せばいいって人だし。

あずさ「けっこう絶賛なんですねぇ」

P「まあな。やっぱ961プロはすごいと思うよ」

ツッコミの練習はさせてないと思うけど。社長の見る目があるってことで。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/14(火) 00:05:57.87 ID:TQuykL+T0<> あずさ「961プロって言うと……黒井社長の?」

律子「高木社長と因縁の仲だって聞きましたけど?」

P「ああ、二人は良きライバルってことさ。お互いの方針は違えども実力は認め合っているはずだよ」

あずさ「そうなんですか」

律子「そういう関係ってなんだか憧れちゃいますねー」

律子も少年みたいなこと言うんだな。

でも確かに憧れはあるかなぁ。

高めあえる相手がいるってのは人を豊かにすると思う。

P「冬馬くんはこんな感じだけど、実は歌も踊りもファンサービスもすごいんだ」

律子「へえ……」

まじまじと画面を見る律子。そんな風には見えないと訝しんでる様子だった。

亜美「今んとこ最高だったっしょ!?」

真「思いっきり滑ってるんだけど……」

伊織「そうね。司会に苦笑いされてるわよ。しかも頑張って拾ってもらってるわね」

春香「でも笑いに繋げるあたりがさすがだよねー」

おお、ちゃんと映像を見て分析してるみたいだ。亜美は自画自賛やめような。

真美「なんか恥ずかしいよー」

対して恥じらいを見せる真美。

あずさ「あらあら〜真美ちゃんとっても可愛いわよ?」

やよい「そうだよ真美! いっぱいファンが増えるかも!」

雪歩「私だったら応援したくなっちゃうな!」

765プロの良心がフォローを入れる。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/14(火) 00:06:37.46 ID:TQuykL+T0<> しかしそれをお世辞と呼ぶにはあまりに無理がある雰囲気だった。

真美「ありがと……!」

P「よかったな真美」

真美「うん! 兄ちゃんのおかげだよっ!」

まさかね……。これは真美の人柄が為せることだ。

それから、わいわいと時間は過ぎて行って……。

P「んじゃあ各自解散ってことで」

『はーい』

P「俺はやることあるから片付けは任せてくれ」

春香「ええ!? そんなの申し訳ないですっ! 私たちも片付けていきますから」

P「そうはいってもなぁ。8時回ってるだろ? もう遅いし、ほら、あの眠そうな子たちを送って行ってやってくれ」

春香「でも……」

あずさ「あらあら〜、亜美ちゃん? 真美ちゃん? 寝たらダメよ?」

P「やよいだって、まいってるみたいだし。美希は……相変わらずだなあれは……。何より律子がああなるとは思わなかった」

指さした先にはソファでぐったりとだらしなく目を閉じてる律子がいた。

春香は困った笑いを浮かべて、どうしましょうか、とこちらを向く。

P「残りのみんなで彼女たちのこと頼んだ。それにさっきも言ったが俺はまだやることあるから。あと事務所の片付けくらいやっとく」

千早「春香。ここはプロデューサーを信じて私たちが責任をもって律子たちを家に帰しましょう?」

春香「うーん。じゃあお願いしますね、プロデューサーさん?」

P「ああ、了解」

伊織「あまり無理はしないでよね、お兄様。また倒れたりしたら許さないわ」

P「はい」

わりと低いトーンだったもんでちょっとビビったじゃないか……。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/14(火) 00:07:09.03 ID:TQuykL+T0<> 伊織「じゃあ私がやよいを送ってくわ。車も出してもらおうかしら」

もう全員、伊織の家の車でよくない?

そう思ったが、みんなはそれぞれを送ることに乗り気な様子だ。

あずさ「じゃあ律子さん行きましょうね」

律子「……ふぁい。……あじゅしゃしゃん……おへあにないあふ……」

あいつ何て言ってん? 眠気がピークだな。ただのうめき声だったし。

P「あずさ、気を付けてな?」

主に道に迷わないように……。

あずさ「はい。任せてくださいー」

律子はもうふらふらしていて、見てて危なっかしかった。酔っ払いかよ……。

それぞれ帰っていく。

疲れたにしても、約半数が帰り際に寝るなんてちょっと異常だが、そういうこともあるだろう。

特に律子は真剣に映像見てたしな。

そういえば将来的には事務の方に就きたいだなんて言ってたような。

それはさておき、全員のスケジュールをチェックしなければ……。

仕事もだんだんと増えてきて把握するのも忙しい。

毎日、誰かしら仕事に出てる。

双海姉妹が他よりも若干、スケジュールが埋まってるな。

放送から数日、二人へのオファーが何件か来ている。

当然、引き受けることになってるのだが……。

P「……他の子が、このままじゃ……」

偏りが出始めるのは避けたい。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/14(火) 00:07:39.93 ID:TQuykL+T0<> P「考えても仕方ないな」

夜も更けはじめた頃、とにかくコネを頼りに電話をかけまくった。

何もこの時間からでなくてもよかったのだが、情熱が溢れて何か行動を起こしたかったのだ。

一息つくため、動きやすい格好に着替えて仮眠をとろう。

そう思い、ソファーに腰掛け上を脱ぐ。

横には着替えも置いている。

ちょっと疲れたな……。

少しだけ横になってリラックスでもしよう。

『初めてのテレビ出演』   終わり
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/14(火) 00:09:35.51 ID:TQuykL+T0<> おつかれさま。休憩タイム。

再開は本日22:00を予定。

質問あればどーぞ。 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/14(火) 01:14:43.01 ID:7U2A4tXho<> 乙!
休憩長すぎィ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/14(火) 10:13:01.81 ID:ZUWqKzesO<> 乙
おお、エタったと思ってたら復活してた! <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 00:02:51.46 ID:SlLbhsx80<> 予定より遅くなったけど再開。
レスくれた人は修正前のやつから見てくれてた人かな?
ともあれ、レスありがとう。 <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 00:03:20.93 ID:SlLbhsx80<> 『プロデューサー志望です』『笑顔で頑張ります!』

そうして翌日。

小鳥「あれ、鍵開いてる!?」

ぎょっとする小鳥。

小鳥「もしかして……空き巣?」

その考えに至るのはいたって自然だ。

小鳥「……おはようございまーす」

小鳥はおそるおそる部屋の中に声をかける。

小鳥「…ってプロデューサーさん!?」

鍵が開いていたのはPが帰らなかったためである。

小鳥「なんでそんな恰好でソファで寝てるんですか!?」

P「んおっ! ……びっくりしたぁ。……小鳥さんですか。」

小鳥「こんな寒いのに上半身裸ってどういうことですか?」

P「うわぁ、すっげ寒い……」

小鳥「当たり前です! 夜は冷えますよ? それで、なぜそんな恰好で?」

P「着替えようとして、……寝落ち?」

ちょっとだけ、茶目っ気を交えたつもりで、笑って終わると思ったんだけど。

小鳥「……あなたは本当にバカですね」

すごい真顔で言われた……。

P「……はは、本当ですね……」

寒い。俺は冷めた視線を冷え切った肌で感じながらそそくさと着替えた。

幸い風邪はひきませんでした。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 00:03:49.91 ID:SlLbhsx80<> この日の徹夜が功を奏したのかどうかは分からないが、全員分のデビューシングルCDの発売にこぎつけられた。

そうして発売から数日が経ち、徐々に仕事の話ももらえるようになった。

P「みんなのCDも良かったし、これからが楽しみだなー!」

事務所の前で独り言を言ってからドアを開ける。

P「おはようございます」

小鳥「おはようございます」

P「早いですね」

小鳥「いつも通りですよ?」

そういえばそうだったな。

P「みんなのスケジュールはどうですか?」

小鳥「それでしたらホワイトボードに書いてあります。……やよいちゃんがテレビ出演ですね」

P「むっ!」

かくいう本日、これは大事な仕事だ。

P「……実はこれ、やよいにはまだ内緒なんですけど、レギュラー化が期待できそうです」

小鳥「なんとっ!? 一世一代の大勝負ですか!?」

P「そんなおおげさじゃないですけど……この番組の平均視聴率よりもいい数字取れたらレギュラーのコーナーにしてもらえるそうです」

小鳥「これで定期的にうちのアイドルがテレビで拝めるわけですね……」

P「やよいなら行けます!」

小鳥「おお! すごい自信ですね」

俺が期待してるのには一応理由もある。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 00:05:05.45 ID:SlLbhsx80<> 昼過ぎの情報番組のコーナーであるが、やよいが一日お手伝いさんとして一般家庭に訪問し、家事をするやよいを見るだけという内容。

一見しょぼそうに思えるが、まだ年端もいかない美少女が家事をこなす、ということに誰が心を打たれないだろうか。いや、打たれる。

昼間にテレビを見るだろうお婆様、お爺様からの支持はうなぎ登り(予定)!

これはいける。あとは運がいいかどうか。

律子「おはようございます」

P「あれ、律子早いな。どうした?」

律子「今日は、その早く来て小鳥さんのお手伝いでもと思いまして……」

小鳥「あら、助かるわ!」

P「ふーん。なんか最近、律子の仕事入ってないな」

律子「……」

小鳥「そういえば……」

P「すまないな。急にキャンセルされることが多いなとは思ったんだが、気が付けば仕事無しとは……俺のせいだ」

律子「……あ」

小鳥「律子さん?」

律子「ああ、いえ、仕事がないのは私に魅力が足りないからですよ! 他のみんなが上手くいき始めてるから私も慢心してしまったみたいですね!」

律子が慢心? あり得るわけがない。

P「……」

なんか隠してる。今の態度で分かってしまった。彼女は嘘が下手だから。
<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/15(水) 00:06:37.90 ID:XEJTeizDO<> 前スレまだ残ってるし依頼取り消してまたあっち使えばいいのに… <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 00:06:48.37 ID:SlLbhsx80<> P「いや、お前は頑張ってる。足りないのはお前の魅力を引き出せない俺の力だ」

律子「本当にそんなことありませんって! それに、いいんですよ。私プロデューサーになりたいって思ってましたから」

P「そういえばそうだっけか……?」

確かにそんなようなことを聞いたことはあるけど……。

小鳥さんとのアイコンタクトを試みる。

小鳥「ええ!? 嘘っ!? 知らなかったわ」

こっち見てないな。でもあの様子じゃ知らなかったみたいだ。

P「なるほど。ドタキャンの理由が想像できた」

正確には仕事がキャンセルされてるわけではない。

律子へのオファーだったはずが他の子にチェンジ、ということになるのだ。

律子「……」

俺が察すると律子は少しだけ表情を強張らせた。

P「はぁ……。律子、お前なぁ、勝手に仕事断って他のアイドルに振ってただろ」

律子「……そ、それは」

歯切れが悪い。何をやってるんだかこいつは……。

小鳥さんも驚きを隠せない。

律子さん、何で……とか呟きながらそのまま妄想の世界に入って行ったようだ。

なにがトリガーだったのか……。頭の中でサスペンスの音楽でも流れてそうな顔をしてる。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 00:07:29.24 ID:SlLbhsx80<> それはそうとこいつときたら……。

P「お前なぁ。自分のやってることわかってんのか?」

律子「……」

律子は沈黙だ。沈黙するということはやって良いことではないと認識している証である。

P「てめえがやったことは先方の不信感を煽ることだろ? それに仕事を取ってきた俺への嫌がらせか?」

律子「そ、そんな……。私はただ……」

P「ただ……なんだ? お前はなぁ、事務所の名前に泥を塗ってんだよ。これで765プロさんは信用できませんなんて言われてみろ。お前だけじゃなくて他の子はどうなる?」

律子「! でも、私は……」

P「言い訳は聞きたくない。後先考えない勝手な行動……反省しろ」

律子「私は! 他の子の仕事が増えるならと、思って……」

P「それが後先考えてないって言ってんだろ! お前がやってるのは欲求を満たすためだけのプロデュースごっこだ……」

律子「……あ」

律子はうつむき、肩を震わせる。

俺としても心苦しくないと言えば嘘だが、それよりも怒りが先行した。

裏切られたような虚無感が抜けない。

律子「……ごめんなさい」

微かに聞こえる彼女の声。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 00:08:00.91 ID:SlLbhsx80<> 冷静になった俺は言いすぎたと思い、後悔の念に襲われる。

別に問題になるようなことは起きてないから別にいいじゃないか……。

いや、そういうわけにも……。

P「ああ、もう!」

大声を出して、律子はびくっと跳ねる。

P「わかった。説教は終わり! お前プロデューサーになりたいんだろ?」

律子はちょっとうろたえた後、小さくうなずく。

P「じゃあ今日ついてこい。やよいの現場だ」

律子「……で、でも、私、とんでも、ないことを……」

律子も俺の話を聞いてようやく事の重大さがわかってきたようだった。

P「それに関しちゃもういい。お前なりの気遣いだったんだろう。俺も強く言い過ぎた。実際なんも起きてないし、律子がまだ若すぎたんだ。今のうちに失敗しておけ」

律子「……プロデューサー……うっ、私、うぅ……ごめんなさい……」

律子はとうとう声をあげて泣き出した。

P「いや、こっちこそ気づいてあげられなくてすまなかった」

律子「!!」

俺は律子を抱き寄せ、安心してもらえるよう努めた。

女性の涙で感情がひっくり返ってしまう自分なんか嫌いだ。

でも、他にどうしろってんだ。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 00:08:31.24 ID:SlLbhsx80<> 小鳥さんも我に返って見守っていたが、やがて口を開く。

小鳥「そんなことが……。律子さん。私からは特に言うこともありません。プロデューサーさんが全部言ってくれましたから」

律子「小鳥さん……」

小鳥「私も気づいてあげられなくてごめんなさい……」

律子「そ、そんな……謝られるのが、一番……辛いです……。プロデューサーも、謝らないでください……」

P「ああ、俺ももう謝るつもりはねぇ。今回で終わりだ」

律子「……」

律子はこっちをまじまじと見つめる。どこか悲しそうな表情がうかがえた。

そして彼女はうつむく。次に上げたその顔は何かを決意したようなものだった。

P「そろそろやよいが来る。化粧直してこい」

律子「はい……!」

律子はメガネを外し、目じりに浮かんだ涙を拭って洗面台に向かった。

小鳥「プロデューサーさん、それでいいんですか?」

P「そうですね。律子は本当のアイドルの魅力に憑りつかれてしまったみたいです」

小鳥「はあ……。律子さん、十分やっていけると思うんですけどね……」

P「いや、彼女は目立つこと、人前に立つってことをあまり好まないようでしたから、俺が早めにそういう決断をするべきだったんですよ」
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 00:09:00.94 ID:SlLbhsx80<> 小鳥「あまり自分を責めないで……」

P「いや、責めずにはいられません。俺はプロデューサー失格です。俺も彼女のアイドルとしての魅力に憑りつかれて、ちゃんとした判断ができなかった」

なんだこれは……懺悔でもしてるつもりなのか? ……俺は愚かだ。

不意に目頭が熱くなった。

本当に愚かな自分。

これじゃあ変わらないんだ。

無理強いさせて何になる。

親父と変わらねぇ。

いや、もう親じゃなかった。

違うな。親だからかもな。

親だからこそ、根本では変わらないのかもしれない。

嫌気がさした。一瞬で気持ち悪い感情が俺を埋め尽くす。

俺はあいつとは違う。

いや、同じだろ。

矛盾する思考がぐるぐると頭の中をかき乱す。

P「……ちょっと、仕事に備えて仮眠を取ります」

それ以上何か言おうものなら、泣いてしまいそうだった。

小鳥さんはこちらを振り向くと、目を見開いたように見えたが、俺はすぐに空いている椅子へ腰かけ、そのまま目を閉じた。

ところでだ。

人は浅い睡眠の時に夢を見るという。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 00:09:29.17 ID:SlLbhsx80<> よくわからない空間で目の前に親父が立っているのは、仮眠を取っている間に見てしまった夢であることに間違いないのだが、その場で夢と認識できるはずもない。

親父が言うんだ。

お前は未熟だと、自分の理想を押し付けてるだけだと……。

そんなことはしていない。

俺は反論するんだ。

たった十数分の仮眠が何時間にも感じる。

疲れだけがふわふわと俺の中を漂う。

プロデューサー?

しばらくして、聞こえてくるアイドルの声。

俺はあたりを見渡すけれど、よくわからない空間にはアイドルの姿は見えない。

突然、体が宙に放り出される感覚が全身を襲う。

がくりと体が沈んだと思いきや、椅子の上に座っていた。

よくある、あの落ちる感覚だ。

そして今日の主役であるやよいは心配そうにこちらを見ている。

P「……あ、やよい。おはよう」

やよい「あっ、おはようございます」

思い出したかのように言うやよい。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 00:09:55.59 ID:SlLbhsx80<> おいおい、向こうでそんなんじゃ困るぞ。

やよい「あの、起こしちゃってごめんなさい……」

P「気にすんな、仕事に遅れたら元も子も無いだろ?むしろ起こしてもらって悪いな……」

やよい「……」

どうやら心配そうな表情のままだ。

P「困ったな。これから仕事なのにそんな顔じゃあ良いお仕事できないぞ?」

努めて明るい調子で言った。

やよい「あの……」

P「どうした?」

やよい「なんでプロデューサー、泣いてるんですか……?」

P「は?」

やよいは俺の声を聞いて少し、びくっとした。

やってしまった。

今のは自分でも、どすのきいた声だと思ったからだ。

そんなつもりは全くなかったのに。

そのせいでやよいはオロオロしている。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 00:10:37.15 ID:SlLbhsx80<> P「あ、いや、ごめん。怖い夢でも見ちまったのかもな。本当にごめんな、怖い声だったよな」

必死に弁解して謝ってたら、やよいは安心していったようだ。

でも、なんで涙が……?

やよい「よかったです……。プロデューサー、わたしのこと、ぐすっ……、嫌いに、ぐすっ……、なっちゃたかと……思ってぇ……」

今度はやよいが泣いちゃった。自分が思ったより迫力があったみたいだ。

P「全然そんなことないよ。やよいのこと嫌いになったりするもんかよ。むしろ俺、やよいのこと大好きだからさ。あんな声、出すつもりなかったんだよ。本当にごめんな」

やよいはしばらく、ぐすぐすと泣いていた。

ああ、俺かっこ悪ぃよ。

最悪だよ。やつあたりかよ。最低だよ。もう今日の午前だけで女の子二人も泣かして何やってんだよ。

とにかく、頭を撫でて落ち着かせる。

P「……もう大丈夫か?すまなかったな……」

やよい「はい。……私もしゅん、ってなっちゃってごめんなさい。プロデューサー、全然そんなつもりなかったのに……」

P「いいんだ。悪いのは全部俺だから」

やよい「プロデューサーは悪くないです」

やよいは本当に優しい子だ。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 00:11:06.47 ID:SlLbhsx80<> P「……やよい、今日のお仕事、頑張ろうな」

やよい「はい!」

よかった。調子を取り戻しつつある。

やよい「プロデューサー」

P「ん? なんだ?」

やよい「何か嫌なことでもあったんですか?」

P「……なんにもないよ。どうして?」

やよい「さっき……」

P「……よくわからないんだ。なんで泣いてたのか自分でもよくわからない」

やよい「プロデューサーが悲しかったら、私も悲しいです」

P「心配してくれてありがとう。俺は君たちがいるから悲しくないよ」

やよい「……」

P「とにかく、やよいがお仕事頑張ってくれたら、悲しいのを忘れるくらいに嬉しいからさ……」

やよい「じゃあ、私すっごく頑張ります!」

P「うん。その意気だ。あと笑ってくれた方が俺も元気になる!」

やよい「本当ですか?」

P「本当だ! あと、テレビを見てるみんなも元気になる!」

やよい「はわっ!」

そんなにですか!? とでも言いたげな驚き方だった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 00:11:36.11 ID:SlLbhsx80<> P「だから……やよいが悲しむならもう泣くのは止めにするよ。俺はもう泣いたりなんてしないから安心して」

やよい「……はい。私も……泣かないようにします」

P「まあ、どうしても我慢できなくなったらいいけどさ」

やよい「私、もう泣きません。私、お姉ちゃんだから!」

やよいは長女だ。

それも6人兄弟の一番上。

弟たちの面倒を見て、家事をこなして…。

だから彼女は自覚し始めている。姉として強くあらねばならないと。

俺のやよいに対する印象はよく泣く子。

ちょっと感情が揺さぶられるとすぐ泣いてしまう子だと思ってた。

情緒豊かなのだろうと思って気にしてなかったけど、彼女自身は気にしていたのかも。

涙を見せてしまうような弱い自分をどこかでよしとしなかったに違いない。

今、俺はきっかけを与えたのだろうか?

彼女が変われるきっかけを……。

だとしたら、それは嬉しいことだな。

やよい「プロデューサー?」

P「いや、なんでもない。今日は頑張ろうな」

やよいは元気に返事をした。

さて、俺は律子とやよいを連れて局へと訪れたわけである。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 00:12:06.28 ID:SlLbhsx80<> P「律子」

律子「はい……」

まだ落ち込み気味の律子。

P「俺、今日何もしないから一人でできるとこまでやってみて」

律子「ええっ!?」

落ち込んでいたとしても、やはりこれには驚いたようだ。

律子「あの、いきなりなんて……」

P「安心しろ。俺もゼロからスタートだったから」

しばらくオロオロと慌てていたが、不安そうにしながらも律子は承諾した。

P「挨拶くらいは一緒に回ろうか」

やよい、律子とともにスタッフたちに挨拶をする。

一通り終わるとやよいと今日のことの確認をして準備に臨む。

P「律子、やよい、質問とかはいいか?」

律子「ええ、不安ですが……今のところは大丈夫だと思います」

不安な返事。後ろ向きだなぁ。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 00:12:37.20 ID:SlLbhsx80<> P「自信もっていいぞ。今回、やよいの番組のレギュラー化が俺たちの目的で、そうなれば成功だと考えろ」

律子「……はい」

P「やよいは?」

やよい「大丈夫です! 今日も笑顔で頑張りまーす!!」

P「うん。いい笑顔。期待してるよ」

かくして本番に向かう。

「秋月さん。やよいちゃんの準備できましたか?」

律子「はい、やよいは準備オーケーです」

「では10分後に本番入りますので、スタンバイお願いします」

律子「わかりました」

すでに今回、訪問するお宅へと到着してる。

スタッフたちはゆとりをもって準備を進めていた。

いいスタッフさんたちだ。

P「律子」

律子「はい。なんですか?」

P「やよいのフォローは任せた」

律子「ええ、任せてください!」

さっきとは裏腹に頼もしい返事だった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 00:13:04.02 ID:SlLbhsx80<> 気づけばもう本番。

合図があり、やよいとスタッフ少数がお宅へお邪魔する。

やよい「うっうー! 高槻やよいの家庭訪問! 第一回でーす!」

元気よくタイトルコールをするやよい。

実にシンプルなタイトルだ。

やよい「今日お邪魔するおうちはこちらですっ!」

こうして始まりは特に何事もなく過ぎていく。

「あまり使ってない部屋のお片づけをお願いしてもいいかしら?」

やよい「はい! 任せてくださいっ! ピッカピカにしちゃいます!」

こうして依頼を受けるのだが……。

しばらくして……。

やよい「うぅ……」

どうやら必要なものか不要なものか決めあぐねているようだった。

明らかにいらなそうなものだが、やよいにはその判断がつかないみたいだ。

律子「やよいちゃん。奥様に聞いてみたら?」

お、律子ナイスフォロー。

ちゃんと編集で使えるように、馴れ馴れしくないのも細かい気配りみたいだ。

やよいはハッとした様子で依頼者の奥さんに聞きに行く。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 00:13:33.67 ID:SlLbhsx80<> どうするか答えてもらい、やよいはほっとしたようだ。

その一連の流れが可愛い。

とても応援してあげたくなる。

その後も荷物の整理、部屋の掃除、簡単な模様替えのお手伝いをした。

律子も上手くフォローをして、無事収録終了となった。

「助かったわぁ。ありがとう。やよいちゃんとっても可愛いし、私もこんな娘が欲しかったわ」

と依頼主の評価も高い。

やよい「ありがとうございます! 私も楽しかったです!」

「やよいちゃん。これお礼よ」

と渡したのはお菓子の詰め合わせ。

やよい「はわっ!? ダメです! お仕事で来たのに受け取れません……」

それでも欲しいのか自分の中で葛藤をしてるであろうやよい。

その手を伸ばそうとしては引っ込め、伸ばそうとしては引っ込め……。

「いいのよ。これはお仕事で来たやよいちゃんにじゃなくて、お手伝いしてくれたやよいちゃんへの感謝の気持ちよ?」

やよい「でも……」

やよいがこちらを見る。

ああ、許可がなければダメだと思ってるのか。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 00:14:02.42 ID:SlLbhsx80<> それとも俺から断ってほしいのか。

どちらにせよ俺から言えるのはやよいの背中を押してあげることだ。

P「やよい。これはね、感謝の気持ちなんだ。やよいは自分の感謝の気持ちをいりませんって言われたらどう思う?」

やよいは、むぅっと考えて……。

やよい「そうなったら……うーってなって、しゅんってなっちゃいます」

つまりどういうことだ?

わかんないけど、負の感情であることは確からしい。

P「じゃあこちらのお母様の感謝の気持ちはどうしたらいいかわかるよな?」

やよい「プロデューサー……」

やよいは依頼主に振り返る。

やよい「ありがとうございます! 弟たちもきっと喜ぶと思います!」

「ありがとう。家族思いでいい子なのね」

やよい「えへへ……」

「お疲れ様です。とてもいい映像が取れました!」

スタッフの一人が近づいてきて報告をもらう。

P「それはよかったです」

「俺もやよいちゃんのファンになっちゃいました。あはは…!」

最初はここにいるほとんどの人がアイドル高槻やよいを知らなかったのだが、今ではスタッフさんたちも認める立派なアイドルだ。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 00:14:34.21 ID:SlLbhsx80<> 「視聴率関係なしに次もよろしくお願いします」

ということはレギュラー決定。

やよいの人柄のおかげか、次回の依頼者もすぐに募ることにするらしい。

P「こちらこそ高槻がお世話になります!」

隣にいた律子も慌てて頭を下げる。

律子「お願いします!」

「そっちの新人さんもナイスフォローだったよ」

律子「あ、ありがとうございます!」

スタッフさんたちは機材を回収してその場は解散。

俺たちは事務所に戻ることにした。

すでに夕方。

俺の運転する車の助手席では律子が後部座席ではやよいが気持ちよさそうに眠っていた。

俺はやよいのレギュラーが決まってウキウキ気分だった。

事務所に着くと同時に律子が起きる。

たまにいるよね。目的地に着くとなぜか起きる人。

P「おはよう律子。お疲れ様」

律子「あ、おはようござい、あふぅ……」

美希かよ……。寝起きとか眠い時とかにはめっぽう弱いみたいだ。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 00:14:59.88 ID:SlLbhsx80<> 律子「……プロデューサー、今までごめんなさい」

すぐにまたそんなことを言う。

P「ああ、俺はもう怒ってないって……。でもああいうのは俺と小鳥さんを通してからにしてくれ。これでもみんなのことを考えてスケジュールを組んでるんだ」

律子「……はい。ごめんなさい」

P「ああもう、謝んじゃねえ! いつまでもうじうじしてんな!」

律子はそれでも居心地悪そうな顔してる。

P「言っとくけどお前はもうアイドルクビだから」

律子「え? そんな、待ってください!」

いきなりリストラされてさすがに慌てる律子。

P「勝手なことしといてお前に拒否権があると思うなよ。今日でアイドル業はおしまいだ」

律子「……あはは、そ、そうですよね。でも、最後に、プロデューサーのお仕事させてもらっただけでも……」

そこで彼女の言葉が詰まる。眼鏡の奥、瞳の端に光る滴が見える。

P「ああ、明日からプロデューサー業、頼んだぞ」

律子「……ふぇ?」

驚いたのか律子は顔を上げる。

P「だから俺たちはお前の意見を尊重する。明日から頑張ってくれ」

律子「……ぷ、ぷろでゅーさぁー……!」

ばっと俺にしがみつき声をあげて泣く律子。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 00:15:28.96 ID:SlLbhsx80<> 律子「こ、こんにゃ、私が、いいんでしょうかっ!」

俺の体に顔を埋めたまま律子が叫ぶ。

やよい寝てるんだから静かにしてくれ。

P「ああ、たまたまミスもなかったし、運が良かったな」

律子「うぅ、ありがとう……ございましゅ! プロデューサー!」

噛み噛みだし俺にしがみついててかっこ悪いけど、こんな素直でまだ年相応な彼女も悪くないって思った。

やよい「良かったですね律子さん」

P「やよい……起きてたのか」

やよい「はい。二人とも言い合ってたので……」

やっぱり起こしちゃったか。

やよい「でも今日はいっぱい律子さんに助けてもらいましたし、アイドルもいいけどプロデューサーもいいかもしれません!」

律子「やよいぃ……ぐすっ……ありがとう……」

ぐすぐす泣きながら律子はやよいと目を合わせる。

P「さ、落ち着いたら事務所に戻ろう」

律子が落ち着いたところで事務所に戻る。

小鳥「お帰りなさい。お疲れ様です」

P「ええ、ただいま戻りました」

やよい「ただいまー!」
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 00:16:04.42 ID:SlLbhsx80<> 律子「小鳥さんお疲れ様です」

小鳥「どうでした?」

P「はい。おそらくレギュラーで決定です」

小鳥「わあ! やりましたね! 今度パーティーしなくちゃ!」

やよい「パーティーですかっ!?」

やよいと小鳥さんはキャッキャッとはしゃいでいる。微笑ましい。

そして小鳥さんはふと思い出したように……。

小鳥「あ、律子さん。明日からよろしくお願いします」

律子「あ、はい。こちらこそ……。ご迷惑おかけするかもしれませんが……」

P「当たり前だ。もっと迷惑かけろ。たくさん失敗しろ。そうじゃなきゃ俺がつまらん」

律子「えー……」

呆れていた。けどそういう態度もまた彼女らしくていい。

P「これまでの失敗は活かせ。でもあまり気にすることもしなくていい」

律子「……本当、プロデューサーには助けてもらってばっかりです。前はだらしないって思ったりもしましたけど、今は素直に尊敬します」

そうは言ったが恥ずかしかったのか、もじもじと落ち着かない。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 00:16:32.05 ID:SlLbhsx80<> P「そっか、ありがとな。やよいもよく頑張った」

やよい「私、実はちょっと泣きそうになっちゃったりしました。でもプロデューサーと泣かないって約束したから最後まで頑張れました!」

ぱぁっと笑顔になるやよい。

やっぱりやよいは笑ってる顔が一番だ。

本日の業務はこれにて終了した。

今は無名アイドルの引退と新人プロデューサーの誕生を祝ってやろう。

そうして次の日。

P「やよいがお昼の番組のレギュラーに抜擢された。これを機に他のみんなにも仕事が増えるように頑張るよ」

みんなが揃った事務所で昨日の活躍を報告。

P「それと昨日で秋月律子がアイドルを辞職」

その場が固まる。アイドル達がざわめき始める。

真「確かに律子いないね……」

春香「律子さん、どうしちゃったんだろう……」

美希「いつも怒られるけど、なんだか寂しい気もするの……」

不安がる声がちらほらと聞こえる。

なんだかんだで妙に信頼されていたのだ。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 00:17:03.93 ID:SlLbhsx80<> P「それと同時に新しくプロデューサーを雇うことにした」

雪歩「えっ、このタイミングでですか……?」

伊織「なんか複雑ね……」

律子の代わりで、というのが気に入らない子たちもいるようだ。

P「入ってきてどうぞ」

俺がそう声をかけると奥の扉から新人プロデューサーがやってきた。

『は?』

全員、目が点。

事情を知ってるのは俺と小鳥さんとやよいのみ。

それとこの場にはいないけど社長も……。

律子の異動の件として相談したらあっさりオーケーしてくれた。

P「じゃあ秋月プロデューサー、一言」

律子「はい。……おはようございます。本日付で765プロプロデューサーを務めさせていただきます秋月と申します。皆さんどうぞよろしくお願いします」

亜美真美『……って、りっちゃんじゃんかYO!!』

あずさ「あらあら〜! 律子さん、辞めてなくて本当に良かったわぁ……」

あずさは律子が辞めたと聞いたときひどく落ち込んでた。

本当に嬉しそうだ。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 00:17:37.64 ID:SlLbhsx80<> 伊織「も〜! 紛らわしいわね! どうせお兄様が考えたんでしょ!」

P「おお、よくわかったな」

千早「プロデューサーしかいないもの……」

千早も呆れ気味だ。

P「とにかく、今後はプロデューサー二人体制でいくから改めてよろしく」

重大発表と聞かされていたみんなは、なんだぁ……と肩透かしをくらっていた。

真「いつプロデューサーになるのかなぁって思ってたけどさ」

P「へ? 何で?」

真「だって……」

春香「ねぇ……。仕事の話、律子さんが私が適任だって言ってたってスタッフの人が言ってましたし」

春香の言ってることなんかややこしいぞ?

雪歩「あ、私もこの前お仕事の話を受けた時、律子さんがどうのって言われましたぁ……。その時は気にしてなかったんですけど」

つまり、律子が自分に来た仕事を他の子に振ってたのはみんな知ってたらしい。

伊織「そう思えば、律子がアイドルよりプロデューサー志望だって想像つくわよね?」

千早「そうね」

いや、お前ら早く俺に言えよ。

今度は俺が肩透かしをくらう番だった。

律子「へ? 嘘……?」

それ以上に困惑してるやつがいたけど、もう何でもいいや。

ちなみに、やよいの家庭訪問はちらほらと話題を呼んで、気づけば検索ワード10位に引っかかっていた。

『プロデューサー志望です』『笑顔で頑張ります!』   終わり
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 00:32:07.77 ID:SlLbhsx80<> じゃあ休憩。再開は明日の22:00頃を予定。

連投時に25秒のインターバルがあって、ちょっとだけ面倒だった。
何か質問あればどーぞ。 <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 23:04:33.23 ID:SlLbhsx80<> またしても予定より遅れての再開。
誰もいなくなったようだ……。
しかし書き溜めてる分は投下しよう。 <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 23:06:16.34 ID:SlLbhsx80<> 『バレンタインデー』

月日は流れ、冬も残りわずかだがまだまだ寒さ厳しい今日この頃。

本日バレンタインデー。

男性諸君はそわそわと落ち着かない気持ちになるが、それも学生までの話。

というか俺は男子校だったのでそういうイベントはあってないようなものだった。

それに忙しい社会人にとっても忘れ去られてしまう不要なイベント。

別にチョコ欲しくないし。……本当だぞ?

ここまで俺の価値観。

しかし世間はバレンタインとなると騒がしい。

そのおかげでうちでも萩原雪歩がバレンタインイベントに参加できることになった。

その内容は都内にある大きなショッピングモールのイベント会場で女性アイドルが男性アイドルにチョコをプレゼントするというもの。

もちろん、会場に足を運んだお客様にも人数に限りはあるが、チョコをプレゼントする予定だ。

参加アイドルは安定した人気を誇るサイネリア。

現在注目株の新幹少女。

そうそうたるメンツなのは間違いない。

そんな人気アイドルたちに紛れる。ド新人の萩原雪歩。

片や雑誌の表紙を飾り、片や雑誌の小スペースに入れてもらえるかの大きな差だ。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 23:07:04.94 ID:SlLbhsx80<> うちが入れてもらえたのは他でもない、ジュピターや女Pさん、ひいては961プロの推薦というわけだ。

つまりこの企画は961プロプレゼンツなのだ。

そこで765プロからはイメージに合った雪歩を選抜した。

しかし人気アイドルを巻き込んでのこの企画。

さすがは黒井社長。抜かりない。

人気アイドルと絡めば、ジュピターの認知度も増すことは間違いない。

マスコミもいくらか来るらしい。

ここで雪歩を大きく売り出すチャンスになる!

というわけで俺は今、ショッピングモールで雪歩待ち。

雪歩「プロデューサー! お待たせしました! 来るの早いんですね……」

P「いや、俺も今来たとこ」

本当は集合の1時間前からいたけど。

スタッフさんたちはもっと早くいるし、俺も下見を兼ねて早めに来た。

P「雪歩も集合の30分前に来るなんて偉いじゃないか」

雪歩「えへへ……他のアイドルとの共演なので気合入れてきました!」

むんっと可愛らしく胸を張って、えへへ……と照れくさそうに微笑む雪歩。

かわいい。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 23:07:47.93 ID:SlLbhsx80<> 雪歩「プロデューサー?」

P「はっ! どうした?」

雪歩「あ、いえ、プロデューサー、ボーっとしてたので大丈夫かな? って……。また無理してませんか?」

どうやら心配をかけてしまったようだ。

P「ああ、大丈夫。今は律子もいるし無理なんて、したくてもできねーよ」

雪歩「なら良かったぁ……ふふっ……」

P「あ〜! もう! 可愛いなぁ!」

つい持ち上げてしまうほど可愛い。

雪歩「ひぁっ!」

本当に持ち上げられて、困惑の表情を浮かべている。

雪歩「プロデューサー! は、恥ずかしいぃ……!!」

俺は雪歩の必死な言葉に我に返って、持ち上げてた彼女を降ろす。

雪歩「や、やめてください……プロデューサー……」

消え入りそうな声の雪歩は顔を真っ赤にさせ、ちらちらと周りを見る。

どうやら周りの視線を気にしてるようだ。

幸い、周囲の人からは見えにくい位置だったのでそこまで注目されてなかった。

ここイベントのスペースの裏だし。

P「悪かった。……つい」

雪歩「つい、じゃありませんー!」

ちょっとだけ説教されました。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 23:08:18.70 ID:SlLbhsx80<> 時間もまだあるので二人でモール内をうろうろする。

P「こう見ると店ん中もバレンタイン一色なんだな」

雪歩「バレンタインは女の子にとって大事な日ですから」

こういうイベントデーを大事にするところも雪歩選抜の要因だ。

春香やあずさと迷ったけど。

雪歩の乙女チックな感性は一般的なイメージに近いものがある。

そう思ったのが決め手となった。

雪歩「ところでプロデューサーはチョコ貰ったことありますか?」

P「いや、無いよ」

雪歩「伊織ちゃんからもですか?」

P「ああ、無いな」

雪歩「なんだか意外ですぅ」

P「そう? あいつはあんまり料理とかお菓子作りとかしないからな。俺としては意外ってほどでもないけど」

雪歩「そうは思えませんけど……」

P「そういう雪歩はどうなんだ? 好きな人にあげたりとか……」

雪歩「いえ、私は男の人が苦手で……。友達同士ならありますけど」

そういえば苦手だったな。

あんまり自然に会話してるもんだから忘れてた。

雪歩「あ、お父さんとお弟子さんたちにも渡したことがあるんですけど……」

そして雪歩はみるみるうちに顔面蒼白になっていく。

雪歩「男の人は怖いですぅ……」

どうやらいい思い出は無いみたいだ。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 23:09:00.33 ID:SlLbhsx80<> 俺は深く言及しなかった。

雪歩「でも、それから毎年作ってます。みんな欲しそうにするから」

P「へー、評判いいんだな」

雪歩からのチョコなんて嬉しくないわけないもんな。

P「っと、そろそろ時間だ。戻るぞ」

雪歩「はい。もうちょっと回っていたかったですけど……ふふっ……」

口では残念と言いつつも、割と満足そうな雪歩だった。

会場に戻ると、すでに他のアイドルも揃ってるようだ。

P「ほら、挨拶に行くぞ」

雪歩「はい」

スタッフの人には来た時に済ませてあるので、一緒にステージに立つアイドルに挨拶をする。

雪歩「765プロの萩原雪歩です。よろしくお願いします」

まず挨拶した相手はサイネリア。

彩音「ええ、よろしく。サイネリアの鈴木彩音よ」

金髪のツインテール、そばかすが特徴的の小柄で可愛い女の子だ。

P「萩原にこのようなイベントは初めてでご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いします」

彩音「これはご丁寧に……。それにしても765プロ……伺ったことはありませんが」

P「設立して間もないもので、961プロさんのご厚意で参加させていただけることになりました」

彩音「そうでしたか……。961プロの推薦とあればきっと大丈夫ですよ。雪歩ちゃん、頑張りましょうね」

雪歩「は、はい!」

見た目とは違ってとても礼儀正しく、小さいのにお姉さんな感じがした。

サイネリアの別のメンバーにも挨拶をして一息つく。

P「良かったな雪歩。共演者がいい人そうで」

雪歩「はい。彩音さんとっても可愛かったですぅ」
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 23:10:16.93 ID:SlLbhsx80<> P「じゃあ、次は新幹少女のみなさんだ」

そうして、こだまプロ所属の新幹少女に挨拶しに行く。

雪歩「765プロ所属の萩原雪歩です。よろしくお願いします」

テンプレになったご挨拶を丁寧に言う。

ひかり「ええ、よろしく。新幹少女のひかりよ」

つばめ「あたしはつばめ、よろしくね」

のぞみ「のぞみよ。よろしく」

簡単に自己紹介をして軽く握手を交わす。

P「萩原にこのようなイベントは初めてでご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いします」

ひかり「そんなこといいですよ。失敗は誰にでもあるもの」

つばめ「それにしても765プロって聞いたことある?」

のぞみ「ううん。初めて聞くわ」

P「うちはまだ設立して1年も経っていませんのであまり知られていないかと……」

ひかり「そうなんですか」

「ひかり、つばめ、のぞみ、10分後に打ち合わせだ。961プロさんもお見えになったから挨拶しとけよ」

高そうなスーツに身を包んだ初老の男が新幹少女にそう言った。

彼は新幹少女のプロデューサーだろうか。

P「初めまして、私765プロのプロデューサーをやっておりますこういう者でございます」

俺はすかさず挨拶をし、名刺を差し出した。

新幹P「ああ、これはご丁寧にどうも……」

男性も落ち着いた様子で名刺を取り出し、交換する。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 23:11:05.82 ID:SlLbhsx80<> 新幹P「おや、水瀬グループの御曹司でいらっしゃいましたか。いつもお世話になっております」

P「いいえ、私は水瀬グループとは関係ありませんよ」

新幹P「ではそちらに所属している水瀬伊織とのご関係は?」

P「ええ、彼女は実の妹ですが私は恥ずかしながら勘当を受けまして……」

乾いた笑いが漏れてしまう。……それにしてもよくご存知だ。

この業界に入ってこういうのは割と多かったのですでに慣れている。

水瀬グループ。改めて強大な権力なんだと思い知らされる。少し惨めだ。

新幹P「それは大変でしたね……」

水瀬グループと関係無いとわかると、多少言葉は砕けていて話しやすい人だった。

P「それでは本日はよろしくお願いします」

新幹P「ええ、こちらこそ」

ひかり「じゃあまたあとで、雪歩」

つばめ「緊張しなくても大丈夫よ」

のぞみ「雪歩なら上手くやれるわ」

雪歩「あ、ありがとうございますぅ!」

こっちはこっちでなんか打ち解けてるみたい。

P「彼女たちもいい人たちみたいで良かったな」

雪歩「はい! 私、今日は上手くいきそうな気がしてきました!」

おお! 雪歩にこんなに自信をつけさせるなんて。

ありがとう新幹少女!

今度のニューシングル買います!

最後は企画者961プロの所属、ジュピターだった。

P「ジュピターのみなさんお久しぶりです」

翔太「あ、765プロのお兄さん! やっほー!」

北斗「久しぶりですね」

冬馬「おう」

P「翔太くんに、北斗くんと……羅刹くん?」
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 23:11:43.33 ID:SlLbhsx80<> 冬馬「羅刹じゃねえ! お前まだそのネタ引きずってたのかよ! ちょっと間があったからそんな気はしたけどよ!」

P「あははは……! 冗談だってば冬馬くん」

翔太「お兄さんも言うようになったね」

北斗「そうだな。最初の頃はあんなに丁寧だったから別人みたいですよ」

P「おっと、これは失礼しました」

北斗「嫌だな、やめてくださいよ。俺はどちらかというと砕けた方が好感持てますよ」

翔太「うん。僕もフランクな方が好きかな〜」

P「そう言ってくれるとありがたいよ。外面の張りっぱなしは疲れるからね」

女P「Pさん、私にもフランクで結構なんですよ?」

ずいっと一歩進み出て、ほらほらと笑顔で煽る女Pさん。

P「あ、女Pさん。お久しぶりです」

いつもの調子で答えると、ぶーっとちょっぴり頬を膨らませる。

女P「えー? お久しぶりって先日お会いしたじゃないですか」

翔太「そうなの?」

女P「ちょっとお食事に行っただけよ」

実はそういうこともあった。

俺から連絡を入れてお酒を少し嗜んだ。

北斗「二人で?」

女P「え? ええ、まあ」

冬馬「ホの字か?」

女P「は、はあ!? 何わけわかんないこと言ってんの!? ただ食事に行っただけって言ってるじゃない!」
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 23:12:34.73 ID:SlLbhsx80<> 北斗「ちょっと落ち着いてくださいよ」

翔太「あはは……!」

961プロ劇場も始まったところで俺はそろそろ雪歩を紹介せねばと考える。

雪歩は俺の後ろに隠れて様子をうかがっていると思ったのだが、振り返ってみれば俺をガン見してた。

P「なんだ、どうした?」

雪歩「プロデューサーはあの女の人とどういう関係なんでしょうか……?」

P「もしかして、気になるのか?」

雪歩「やっぱり、そういう関係なんですか?」

P「雪歩の思ってることがどういう関係かは知らないけど、女Pさんは同じ仕事をしてる友達かな」

この歳の女の子が色恋沙汰に興味があるのはわかるけどね。

伊達にアイドルのプロデューサーやってないからな。

雪歩「そうですか」

一言そう言うと961プロの面々の様子をうかがい始めた。

いつまでもキョロキョロしてないで早く挨拶しなさい。

P「雪歩、挨拶」

雪歩にそっと話しかける。

おずおずと前に出ていく。

雪歩「あの……」

北斗「おや、これまた可愛らしいお嬢さんじゃありませんか」

北斗くんがまず声をかける。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 23:13:18.35 ID:SlLbhsx80<> 翔太「お姉さん恥ずかしがり屋なの?さっきからお兄さんの後ろに隠れてたけど……」

と翔太くんが疑問を口にする。

雪歩「ひっ……! その……」

おろおろし始める雪歩。

雪歩「ぷ、ぷろでゅーさー……」

また俺の後ろに隠れてしまう。うん。雪歩にしては頑張ったよ。

P「あはは……。ごめんね君たち。雪歩は男の人がちょっと苦手なんだ」

冬馬「今のでちょっとかよ!?」

雪歩「ご、ごめんなさい……」

北斗「まあまあ、冬馬もそう声を荒げるなよ」

翔太「僕はてっきり双子ちゃんが来ると思ったんだけどね」

女P「ええ、私も。唯一面識あるの彼女たちだけだし、世間的にも知名度はあるものね」

P「バレンタインのイメージに一番近いのが彼女だったんですよ」

冬馬「でも本番でもそれじゃあ失敗しちまうぞ」

確かに。せっかく新幹少女から自信をもらったのに……。

P「ほら雪歩、握手」

手を差し出す。

雪歩はいたって自然に俺の手を取った。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 23:13:51.04 ID:SlLbhsx80<> P「俺だって男だぞ」

雪歩「そうですけど、プロデューサーは大丈夫なんです」

P「慣れなのかもなぁ」

翔太「ねえ雪歩お姉ちゃん」

雪歩「きゃっ!」

いつの間に近くに来ていた翔太くん。突然声をかけられて驚く雪歩。

馴れ馴れしいと思うかもしれないが、相手に合わせて対応を変えるのが翔太くんだ。

これも雪歩と仲良くなるための対応の仕方なのだろう。

翔太「あ、その反応酷いなー。まあいいや、僕は御手洗翔太。今日のイベントよろしくね?」

と言うと翔太くんは俺に目配せをする。

P「ほら雪歩」

雪歩「あ、あの、萩原雪歩です。こちらこそ……よろしくお願い、します」

翔太「はい、握手!」

笑顔で握手を求める翔太くんはまさに理想の弟という感じだった。

雪歩は戸惑いつつも勢いに押されてきゅっと差し出された手を握る。

以前であれば、ちょんっと触れて終わりだったろうに、身近な男である俺と過ごしたおかげかしっかりと握手できている。

雪歩の表情も険しいものから徐々に笑顔に変わっていく。

弟的な接しやすさがあるのかもしれない。雪歩に弟はいなかったと思うけど。

北斗「俺は伊集院北斗。よろしくね雪歩ちゃん」

冬馬「天ケ瀬冬馬だ。よろしく頼むよ萩原」

翔太くんを皮切りに北斗くん、冬馬くんと続く。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 23:14:26.47 ID:SlLbhsx80<> 雪歩は翔太くんで警戒心が大分解けたようで、あとの二人もすんなりと挨拶を交わせた。

女P「私は女Pと申します。よろしければ名刺をどうぞ」

最後に女Pさん。

雪歩「はい。こちらこそよろしくお願いします」

何事もなく終わると思ったのだが。

雪歩「あの、女Pさんはプロデューサーとどういったご関係ですか?」

ひそひそと秘密の会話が始まってしまった。

P「おい、ゆき……」

北斗「まあまあ、Pさん。レディには男に聞かれたくない話もあるんですよ」

何の話をしてるのか尋ねようと思ったら、北斗くんに止められてしまった。

むっ……。そう言われると確かに野暮ったいかもな……。

翔太「ほら冬馬くんも女の子同士の会話に水差しちゃダメだよ!」

冬馬「おい!まだ挨拶すんでねーだろ!?」

北斗「冬馬……時間はまだまだあるんだからさ。もうちょっと余裕を持ちなよ」

苦笑いで諭す北斗くん。

さすがというべきか、北斗くんが言うことには説得力があるな。

女性にだらしないと思ってたけど、全く逆っぽい。

翔太「そういえば双子ちゃんは元気?」

P「そりゃもちろん」

元気すぎるくらい。

北斗「へえ、彼女たち以外にもまだアイドルはいるんですよね?」

P「まあ、そうだけど……テレビに出れる子はまだ少なくてね……」

こちらはこちらで会話が弾んできたころ……。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 23:15:39.80 ID:SlLbhsx80<> 女P「……ど、どんな関係って言われましても……。同じ職種のお友達……かな?」

雪歩「お二人で食事に行ったりするんですか?」

女P「ええ、まあ……」

雪歩「それはプロデューサーから誘われたんでしょうか?」

女P「そ、そうですね。でも私からお誘いすることもありますよ?」

雪歩「そ、そうなんですか……。仲良しなんですね……」

女P「ええ!? いや、まだあって日も浅いし、仲良しとまでは……。Pさんも私には遠慮がちな部分ありますし。そもそもまだ敬語使われてますし……」

テンパってちょっと早口になる女Pさん。

女P(Pさん助けてくださいっ!)

心の中で思うもPは助けるはずもなく。

向こうでボーイズトークに花を咲かせていた。

雪歩「やっぱり、好き、なんですか?」

雪歩の質問は止まらなかった。というより、ようやく核心に迫っていた。

女P「す、すすす好きってな、何でしょう? 別っ、別に私はそんなことありませんよっ!」

思いっきり動揺したのだが、間をおいて心を落ち着かせる。

女P「……た、確かに同業者として尊敬していますけどそういう恋愛感情はありません。雪歩ちゃんくらいの歳の子が色恋沙汰が好きなのはわかりますけど、あんまり大人をからかうもんじゃありませんよ」

ちょっと説教臭くなってしまったなと後悔しつつ、雪歩の方を窺ってみると……。

めちゃくちゃ慈愛に満ちた聖母様のような瞳をしていた。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 23:16:31.17 ID:SlLbhsx80<> 雪歩「そうですよね。からかうつもりはなかったんですけど……ごめんなさい。女Pさんとお話しできて良かったです! うふふふ……!」

雪歩はルンルン気分が目に見えてわかるほどの上機嫌でPの方へ戻って行った。

女P「もう……イヤ……」

墓穴を掘りに掘って取り残された彼女はがっくりとうなだれるしかないのであった。

雪歩「プロデューサー、お話済みました」

P「お、もういいのか。どうだった?」

雪歩「女Pさんってとっても可愛らしい人だと思いました!」

P「あはは……! やっぱりそう思うよなぁ」

冬馬「嘘だろ? あいつは言うことやること鬼畜だぜ」

北斗「それは冬馬のせいだろ……」

翔太「冬馬くんは反省しようね」

冬馬「なっ! お前ら……」

冬馬くんは納得いかない様子だった。

P「ちょっと俺も女Pさんに挨拶しないと……」

雪歩「あ、はい。行ってらっしゃいプロデューサー」

P「?」

なんか雪歩が聖母様みたいに見えるんだけど……。これはクリスマスイブに生まれた影響?

なんてバカなこと考えながらも、女Pさんに話しかけようとしたのだが……。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 23:17:17.31 ID:SlLbhsx80<> P「どうしました?」

まだイベント前なのに疲れ切った様子の女Pさん。

女P「きゃあっ! Pさん!?」

P「わっ、ごめんなさい。驚かせてしまったようで……」

女P「あ、いえ、これは違うの……」

P「ところで雪歩どうでした?」

女Pさんの表情が固まる。

女P「雪歩ちゃんってぐいぐい来るんですね……」

はい? 雪歩がぐいぐい? 一体何があったんだ……。

P「へぇ、珍しいこともあるんですね」

雪歩に視線を移す。

彼女はジュピターにビクつきながらもちゃんと会話できてるようだ。

翔太くんには多少心を開いてるみたいだ。

雪歩からしたら弟に近い感覚なんだろう。

こうして見ても特に変わった様子はないけど。

女P「……」

そこで俺は視線に気づく。

女Pさんが俺の顔をまじまじと見ていた。

どうしました? と視線を合わせてみると、彼女の顔は紅潮し、そっぽを向いて眼鏡の位置を整えた。

P「どうかしましたか?」

女P「いいえ! 今日はよろしくお願いします……」
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 23:18:06.53 ID:SlLbhsx80<> 尋ねてみると、ちょっと慌てながらもぺこりとお辞儀する。

P「ええ、こちらこそよろしくお願いします。あと雪歩が迷惑をかけたならすいません」

女P「……そんなことはありませんよ。でも自分を見つめ直すきっかけはくれたかも」

P「何ですか、それ?」

女P「うーん……何でしょう?」

少し沈黙。お互いに吹き出して笑ってしまう。

しばらくして落ち着いたのでその場を後にする。

P「……ではまた後で」

女P「はい、また後で……」

そう言った彼女の、少し寂しそうな笑顔が印象的だった。

イベント開始時刻。

ショッピングモールのひらけたスペースでそれは始まった。

先着でスタッフたちがお客さんを仕切りの中に通す。

新幹少女にサイネリアもいるのでおよそ定員100人の先着はすぐにいっぱいになった。

もちろんあぶれてしまった人もいるわけで、その人たちは仕切りの外、もしくは会場の一つ上の階から眺めることにしたようだ。

そして俺たちは他のアイドルやスタッフさんとともに設営されたステージの裏にいる。

雪歩「す、すごい人数ですぅ……」

ちらりと外を覗いた雪歩は呆気にとられていた。

モール内の一つのスペースにこれだけの人が集まれば、確かにとても多く感じる。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 23:18:49.68 ID:SlLbhsx80<> P「大丈夫だって。流れは頭に入ってるだろ?」

雪歩「はい、なんとか……。でもぉ……」

P「なあ、雪歩は俺のこと信じてる?」

雪歩「? はい、もちろん信じてますけど」

P「じゃあ大丈夫だ!」

雪歩「え?」

P「雪歩の信じる俺が言ってんだから大丈夫だよ。自信持てって」

とんでもない暴論だけど雪歩は一応は納得してくれたみたいだ。

雪歩「ありがとうございます、プロデューサー。そんなに心配かけてごめんなさい」

P「いいんだ。もっと心配させろ」

雪歩「あはは……イヤですよぅ……」

嬉しそうに笑う雪歩はそれでも不安を拭えていない様子だった。

そしてスタンバイ、脇にいる司会のアナウンスが入りすぐにジュピター以外のアイドル達がステージに上がる。

この日のために来たであろう人たちも偶然居合わせた人たちも、わぁっと歓声を上げる。

『本日、参加いたしますアイドルのみなさん! それぞれ自己紹介をお願いします!』

とアナウンス。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 23:19:31.67 ID:SlLbhsx80<> 最初にマイクを握ったのはサイネリア。

『私たちサイネリアです!』

彩音「鈴木彩音! 一応サイネリアのリーダーやってます! 今日は来てくれてありがとう! 私のチョコ、ぜひ受け取ってくださいね!」

大変な盛り上がりで、彩音さんを呼ぶ声が途切れない。

それは他二人のメンバーも同様で歓声は続く。

二組目は新幹少女。

ひかり「みんなこんにちは! こだまプロ所属、新幹少女のひかりです! 今日はバレンタイン、すべての女の子にとってハッピーな1日になりますように……!」

つばめ「おなじくつばめ! 男の子のみんなにも幸せを届けるわ!」

のぞみ「のぞみです! みなさんぜひ楽しんでいってください!」

さすがに注目株だけはある。

新幹少女ははち切れんばかりの歓声を浴びていた。

そしてこの流れで……。

雪歩「は、初めましてっ!!」

無名の雪歩の自己紹介に移る。

力んで声が大きすぎたためスピーカーがキーンとハウリングしてる。

雪歩「ひいぃっ!!」

しかもそれにビビりまくる雪歩。

会場にいる誰もが呆然としていたが、やがて笑いに変わった。

雪歩は恥ずかしさで、かぁーっと赤くなってしまう。

これは……。嫌な予感がした。

雪歩「こんなダメダメな私は穴掘って埋まってますぅ!!」

どこからともなく取り出したスコップでステージの端を掘り始める雪歩。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 23:20:24.73 ID:SlLbhsx80<> もはや材質とか関係ないのが雪歩の穴掘りだ。

P「ちょちょちょっ!! 誰か止めてくださーい!!」

慌ててみんなで止めに入る。

会場は再び呆然。静まり返る。

アイドル達も顔面蒼白だった。

『お、お騒がせしました……』

不測過ぎる事態にとまどいながらも、なんとか仕切りなおす司会。

ひかり「本当、びっくりしたわ……」

つばめ「おお落ち着いて……? ね、雪歩?」

のぞみ「つばめも落ち着いて……」

周りのフォローを受けて雪歩はなんとか踏みとどまったようだ。

彩音「ほら、今度はリラックスして……。普通の声量で喋ればいいのよ?」

すーはーと大きく深呼吸する。

雪歩「……初めまして、765プロ所属の萩原雪歩です……。さっきは緊張して取り乱してしまってすみません……」

『萩原さん、ステージに立つのは?』

さらに緊張をほぐそうと司会が質問もかけてくれた。

雪歩「はい、今回が初めてです」

お客さんから、おぉ、と感嘆の声が漏れる。

ちらほらと応援の声も聞こえる。

みんな優しいなぁ。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 23:21:01.41 ID:SlLbhsx80<> 雪歩「私からは皆さんに抹茶チョコをプレゼントしますので……よかったら受け取ってください!」

最後の部分、さながら告白する子のように言うもんだから。

『いやー、可愛いなあの子』

『名前なんて言ったっけ?』

『萩原雪歩じゃなかった?』

『雪歩ちゃんね……私ファンになっちゃった』

新幹少女やサイネリアほどではないが、会場は再びざわつき始める。

『えー、それでは! お待たせしました! 本日彼女たちがバレンタインチョコを渡すお相手は…。この方たちです! どうぞ!』

笑顔を振りまき、ファンに応えながら颯爽と登場するジュピター。

女性客の甲高い声が響く。

冬馬「961プロ所属、ジュピターの天ケ瀬冬馬だ! チョコなんざ甘ったるいもん俺には似合わねーがな!」

翔太「御手洗翔太です! ああ言ってるけど冬馬くんは甘いものがすっごい好きだから、本当は楽しみでしょうがないんだよ? 今日、チョコ持ってきてくれたみんなは気兼ねなく冬馬くんに渡してあげてね!」

北斗「こんにちは、俺は伊集院北斗です。今日はこんな素敵な女性たちからプレゼントをいただけるなんて、男冥利に尽きるよ。よろしくね」

ジュピターのおかげで実は女性客の方が多い。

961プロの企画なのでジュピターメインなのは当然である。

『では皆さん揃いましたので早速プレゼントしちゃってください!』

女性アイドル陣がそれぞれ用意していた紙袋をスタッフから受け取る。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 23:21:55.65 ID:SlLbhsx80<> この紙袋にみんなが作ってきたチョコがラッピングされて入っている。

そしてジュピターへ贈る。

冬馬「サンキュー!」

翔太「ありがとう!」

北斗「ありがとう」

お客さんからは大きな拍手。

冬馬くんがやけに嬉しそうに見えたのは気のせいじゃないんだろうな。

『それではジュピターの皆さんもお返しをどうぞ!』

司会がそう言うと、今度はジュピター側に紙袋が渡される。

冬馬「借りっぱなしってのは性に合わないんでな。今すぐ返すぜ」

翔太「とか言いつつ冬馬くんすっごいこだわってたよね」

冬馬「翔太はいらねーことをいちいち言うんじゃねーっての!」

北斗「まあいいじゃないか冬馬。俺だって楽しかったさ」

あれこれ言い合いながら今度は彼らが女の子たちにチョコを贈る。

お客さんからは大きな拍手。

世間が羨むようなバレンタイン。

しかしイベントはこれだけではない。

『それではここで、アイドル達による生歌の披露です!』

会場はさらに盛り上がる。

トップバッターはもちろん無名の雪歩。

いったんステージ裏へと戻り、音響を調整する。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 23:22:43.70 ID:SlLbhsx80<> 歌う曲は『Kosmos, Cosmos』

まだ持ち歌がこれしかない。

P「行けるか?」

雪歩「緊張しますけど、なんとか……」

P「それでいい。ステージに立ってマイク握りしめて音楽が流れてきたら必ず歌える。レッスン終わった後も休みの日も練習したもんな」

雪歩「プロデューサー、どうして?」

なんで知ってるんですか? とでも言いたげだ。

レッスン終わった後や、休みの日に練習してるなんてのはさすがに口から出まかせだ。

けれども、自主練してたことは明らかにわかる。

そうでもしないと、一回のレッスンであんなに上達しない。

P「雪歩の努力はちゃんとわかってるつもりだから。もっと自信持ちなよ」

雪歩「……はい!」

雪歩は今までで一番いい顔で壇上に上がって行った。

『それでは萩原雪歩さんで、Kosmos, Cosmos、どうぞ!』

最後にみんなでバレンタインソングを歌って生歌は幕を閉じる。

雪歩は初ライブとは思えないほど安定して歌えていた。

新幹少女やサイネリアは、本当に初めて? と驚いていた。

『それでは最後に、今仕切りの内側にいるファンの皆様にアイドル達からチョコの受け渡しです! ではスタッフの指示に従ってお並びくださーい! それと、チョコを持参してきた方はアイドルにプレゼントするチャンスですよ!』

ファンの人たちはスタッフからやや小さめの紙袋を受け取る。

渡されたチョコを入れておくためのものだ。

961プロは経済的にも余裕があるし、気が利く。

何事もなく終わるかに見えたが……。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 23:23:41.33 ID:SlLbhsx80<> ファンの方がアイドルから渡されたプレゼントを落としてしまった。

しかもそれに気づいてないのか、嬉しそうな表情で行ってしまう。

気づいたのは俺と新幹少女のひかりちゃん。

ひかりちゃんは次のファンに一言断って、壇上に落ちたプレゼントを拾おうとする。

俺も落としたファンの方に駆け寄り、引き留める。

すぐ、ひかりちゃんの方に視線を戻すと、危なっかしい体勢になっていた。

俺は何か嫌な予感がして、次のときには体が勝手に走り出していた。

直後ひかりちゃんは躓き、ステージからふらりと……。

ダメだっ……!

周りから悲鳴が上がる。

ファンの人たちも咄嗟に手を伸ばすがもう遅かった。

そして……。

ひかり「……」

ひかりちゃんは唖然としていた。いや、むしろ放心状態だった。

P「あっぶねー!」

俺は外面が剥がれていた。

周りからは、おお! と声が上がり、拍手喝采。

ひかりちゃんが落ち、間一髪で俺が滑り込み、体で受け止めたのであった。

P「ひかりちゃん、大丈夫?」

ひかり「……765プロの……うぅ……ひぅっ……」

ひかりちゃんは怖かったのか、嗚咽をあげて泣き始めてしまった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 23:24:35.46 ID:SlLbhsx80<> 俺はひかりちゃんを立たせて自分も体を起こした。

新幹P「これはみなさまお騒がせしました。しばらくの間お待ちください」

新幹Pさんが慌てて駆け寄り、簡単にファンの方たちに呼びかける。

新幹P「Pくんありがとう。……さ、行くよ、ひかり」

その後ひかりちゃんを連れていったんステージ裏に引っ込んだ。

俺はファンの方たちから英雄みたいな扱いを受けていた。そんな大したことはしてませんよ?

しばらくして、泣き止んだひかりちゃんが姿を見せる。

ひかり「すみません。ご迷惑をおかけしました。先ほどは驚いてしまい見苦しい姿を……。痛むところもありませんので、私は大丈夫です」

そして俺の引き留めたファンに落としたプレゼントを渡していた。

落とした人は何度も謝っていたのだが。

ひかり「私たちはファンの方に笑顔をお届けするために活動しているので、謝っていただくなんてとんでもないです」

などと対応をしていた。

その後もみんなに心配されながらもイベントは再開し、終了した。

『トラブルもありましたがこれにて無事にバレンタインイベントは終了です! アイドルの皆さんありがとうございました!』

アイドルの退場。

もう何にもないだろうと誰もが思っていたのだが、やっぱりというべきだろうか……。

冬馬「ありがとなー! ……ねばぁっ!!」

ファンに手を振っていた彼が奇声を放ちながらステージから消えた。……と思いきや。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 23:25:04.39 ID:SlLbhsx80<> 冬馬「何だよこの落とし穴! おい、萩原! ちゃんと塞いどけよ! なんで落とし穴仕様にしちゃったんだよ!」

北斗「いや、引っかかる冬馬が悪い。みんなそこは避けてただろ?」

翔太「冬馬くん、わざとじゃないの?」

冬馬「んなわけあるか!」

雪歩「ごめんなさいぃ!! 私、穴掘って埋まってますぅ!!」

つばめ「雪歩! 落ち着いてってば!」

最後はみんな笑って終えることができました。

P「お疲れ様」

雪歩「今日はたくさん失敗しちゃいました……。冬馬くんごめんなさい……」

冬馬「いやもういいって……。引っかかった俺が悪いんだしよ」

翔太「そうだよ雪歩お姉ちゃん。冬馬くん笑いが取れて大満足だから」

冬馬「芸人じゃねえよっ!」

北斗「誰もそんなこと言ってないだろ」

始まりました961プロ劇場。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 23:25:34.61 ID:SlLbhsx80<> などと考えてると不意に後ろから女の子の声がする。

ひかり「あの……」

P「あ、大丈夫でしたか? 本当に怪我とかありませんか?」

ひかり「はい。おかげさまで……」

P「それならよかった」

もじもじと落ち着かない様子のひかりちゃん。

雪歩「あの、あっちでお話しませんか?」

冬馬「なんでだよ」

北斗「ったく、冬馬、お前ってやつは」

翔太「いいから行くよ!」

取り残される俺とひかりちゃん。

みんな気遣いができる子だ。一人を除いて。

ひかり「お名前……まだお聞きしてなかったのですが」

P「私ですか?」

ひかりちゃんはこくりと頷く。

P「Pと申します。よければ名刺をどうぞ」

ひかり「P……さん。……あ、ありがとうございます。あの、敬語じゃなくてさっきみたいなフランクな口調でも私は気にしませんけど」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 23:26:24.43 ID:SlLbhsx80<> P「そうですか。でも急には難しいです。慣れてきたらでいいですか?」

ひかり「……はい」

P「それで、どうかしましたか?」

ひかり「助けていただいたお礼に、これ! 受け取ってください!」

そうして渡されたのはチョコだった。ファンに配ったものとは包装が違う。

P「大したことをしたつもりはないんですけど……。いただきます。ありがとうございます」

ひかりちゃんは安堵の表情を浮かべる。

ひかり「あ、あの、Pさんはお怪我ありませんか? もしあるとしたら私のせいで……」

P「大丈夫です。私、生まれてこの方一回も骨折ったことありませんから」

ひかりちゃんは俺が何を言ってるかわからないって表情だったが、すぐに笑った。

ひかり「私も折ったことありませんよ?」

そうだったのか。なんか世間一般的には骨折る人の方が多く感じるよね。

P「えーと、まあ丈夫ですから」

訂正してみる。

ひかり「ふふっ……! そうですか……よかった」

なんだかむず痒い空気が漂う。ちょっとばかり緊張してきたかも。

P「あなたこそ、お怪我は?」

ひかり「いえ、特に無いです」

その場で軽くピョンピョン跳ねて、元気であることをアピールする。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 23:28:02.52 ID:SlLbhsx80<> ひかり「今日はありがとうございました。Pさんかっこよかったです」

P「そんなことありませんって……」

ストレートな言葉にどう対応していいのか、処理が鈍くなってしまう。

ひかり「Pさん謙遜ばっかりですね」

ひかりちゃんは俯きがちで、時たま視線をあげたり、横にずらしたりしていたが、やがて口を開く。

ひかり「……では私はそろそろ失礼します。またお会いできるのを楽しみにしてます」

顔に笑顔を張り付けて行ってしまった。

P「ひかりちゃん!」

ひかりちゃんは立ち止まって振り返る。

あんな顔されたら、引き止めないわけにはいかない。

P「俺も次に会うの楽しみにしてるから!」

どうしてこの口調で言ってしまったのかわからない。

けれど俺はそれでよかったと思う。

彼女の笑顔を引っぺがしてその下に隠れてたとても素敵な表情を見せてくれたのだから。

そして会釈して彼女は今度こそ戻っていった。

P「はは……ダメだな俺」

彼女のアイドルとしてではなく女の子としての魅力を感じてしまって、心の中で自分に毒づく。

彼女はアイドル……。彼女はアイドル……。邪な気持ちを持つんじゃない。

まあ俺だって男だし……。そういうのは多少しょうがないことで……。

この仕事はじめてから処理してないし……。

言い訳はよくない。最初にそう決めたんだし……。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 23:28:48.70 ID:SlLbhsx80<> 女P「Pさーん……」

P「うわっ!」

煩悩に思考を振り回されながらうんうんと唸っているときに話しかけられるもんだから盛大に驚いた。

女P「なんですか、その反応!? 傷付きますよぉ……」

P「すみません。その、そんなつもりでは……」

女P「ふふっ……いいですよ。それより聞きたいことが……」

P「聞きたいことですか……私に答えられることなら何でもどうぞ?」

ぐっと近寄る女Pさん。ふわっと漂ってきた女性特有の香りがまだ悶々としてる俺の鼻腔をくすぐる。

女P「なんで今日会ったばかりのひかりちゃんにはフランクで私はまだ敬語なんですかー!?」

わっと喚きだす。

えー……。くだらないと思ってしまった。

P「というかあなたも敬語じゃないですか」

そう指摘すると女Pさんはハッと我に返る。

女P「でもひかりちゃんだって敬語でした」

P「それはなんというか……ノリで……」

我ながら苦しい。

女P「私の方が付き合い長いのになぁ……」

なんだ……この人やきもちやいてんのか。

確かにずっと友達だったやつが急に他の友人と仲良くなってるの見ると虚しくなるけどさ。

それと同じなのかな?

P「まあ喋り方なんて些細なことじゃないですか」

笑ってごまかす。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 23:29:48.00 ID:SlLbhsx80<> 女P「でも、なんだかフランクな方が距離感が……」

うーん、なかなか納得してもらえない。女の人って難しいな。

P「でも私はあなたの方が近しい仲だと思ってますよ?」

そう言っても女Pさんはやっぱり訝しんでいた。

P「まあそのうち慣れますよ。また飲みに行きましょ?」

女P「……わかりました、約束です」

はいはい、約束です。

女P「あと、これを……」

手に持っていた袋を渡される。

P「これって……」

チョコだよな。

女P「いつもお世話になっているので作ってきました!」

ああ、この人の笑った顔はやっぱり……。

いけない、また悶々とさせられてしまった。

P「ありがとう」

女P「いえ、来月楽しみにしてますから!」

そういえば来月にバレンタインと姉妹みたいなイベントがあったな…。

P「あはは……期待しないでくださいね」

それでは、とお互い軽く挨拶して別れる。

雪歩もしばらくして戻ってきたようだ。

P「男の子たちといて大丈夫だったのか?」

雪歩「ちょっと怖かったですけど、前ほどじゃありません」

雪歩の男苦手も多少改善されてきたようだ。

雪歩「私に弟がいたらあんな感じなのかなぁ……?」

P「翔太くんか?」

雪歩「あ、はい、そうです……」
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 23:30:15.69 ID:SlLbhsx80<> P「どうだろうな。でもそう思えるってことはイヤってほどじゃないんだろ?」

雪歩「そうですね」

今日発見したことは、雪歩はたまに慈愛に満ちた表情をすることがある。

そして兄弟を羨ましいと思ってること。

P「さ、帰ろうか。うちまで送っていくよ」

雪歩「ありがとうございます。……プロデューサー、どうぞ」

チョコレートを控えめに差し出す雪歩。

P「ありがとう」

俺はもちろん受け取る。

お互い笑い合って、またともに歩んでいくのだ。

今日のイベントはいろいろあったなと思い返す。

邪な気持ちが芽生えかけたのは雰囲気にあてられただけだ。

きっとそうだ。今後は気を付けよう。

俺はホモ。俺はホモ。

呪文を心で唱えて暗示をかける。

いや待て、この暗示が成功してしまったらどうなるんだ?

そんなんホモになるに決まってる。

それはいかん!

と一人でバカな考えを巡らせながら、俺ってバカだなぁと落ち着くのであった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 23:30:52.95 ID:SlLbhsx80<> 雪歩を家まで送り届けて765プロへと戻ってきた。

P「ただいま戻りました」

現在午後5時。

小鳥「お帰りなさいプロデューサーさん!」

やけに元気がいいというか、待ってましたとばかりの小鳥さん。

P「どうしたんです?」

小鳥「もぉ……。今日が何の日か忘れちゃったわけじゃないですよね?」

がっかりする小鳥さん。

まあ今日という日はバレンタイン以外にないと思うのだが……。

P「もしかしてチョコあるんですか?」

小鳥「その通りです! 実はみんな作ってきたんですよ」

おお、全員が! 嬉しいなー。けどチョコは飽きたなー……。

なんて贅沢なことを思ってみる。

小鳥「プロデューサーさんのデスクには乗りきらなかったので、向こうの休憩スペースの机に置いてあります。持って帰ってあげてください」

P「了解です」

小鳥「それと……」

小鳥さんはいったん区切ってそわそわとする。

小鳥「こここれを、私からも……」

らしくもなく緊張してるのか、どもる小鳥さん。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 23:31:20.58 ID:SlLbhsx80<> 恥ずかしそうに包みを取り出す。

小鳥「いつも頑張ってるので、どうぞ……」

あんまりこういう経験ないんだろうなぁ。特に男性がらみには疎いみたいだし。

でもしおらしい小鳥さんってなんだか貴重な気もする。

P「ありがとうございます」

小鳥「……どういたしまして」

P「みんなは?」

小鳥「もう帰しました。すぐ暗くなっちゃいますからね」

P「そうですか……じゃあこれから一杯行きます?」

小鳥「おっ! いいですねぇ! 私もここのところ一人酒ばかりだったので行きましょう!」

その反応おっさんか。と思ったが言わないでおこう。

そうして小鳥さんは帰り支度を始めた。すでに業務は終了してるらしい。

俺は机に置かれた様々な箱や袋を眺めて、もらった紙袋に丁寧に詰めていく。

バレンタインにプレゼントをもらうこと自体初めてだったのに、こんなにもらえるなんて幸せなんだろうな。

そうして次の仕事と今日のお返しのことを考え、小鳥さんと事務所を出るのだった。

翌日。

朝の情報番組でバレンタインイベントが放送されていた。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 23:32:15.63 ID:SlLbhsx80<> 『人気アイドルのサイネリアに今話題の新幹少女、そして先日一枚目のシングルを発表して注目が集まっているジュピター!』

とまあこんな具合で、雪歩はまだまだかぁ……。と思っていたのだが。

『そして一際注目を集めたのが新人アイドルの萩原雪歩さんです!!』

雪歩の自己紹介シーンが流れる。

『このキーンという音にびっくりしてしまったり、自分が入るための穴を掘り出したりと……』

雪歩の珍プレーが長々と画面に映る。

番組スタジオ内では結構ウケてた。

『面白いですねぇ。どうやってステージを掘っているのかも気になりますね』

いやいや、面白くないよ!

『そしてこんなハプニングも……』

これはひかりちゃんが落っこちるところだ。まさか……。

番組のスタジオでは、危ない! とみんながハラハラしてる様子だったが……。

『なんと、男性がスライディングで華麗にキャッチ! その後、関係者と裏へ戻ってしまうのですが……』

場面が切り替わり、ひかりちゃんが戻ってくるところだ。

『怪我もなく無事にイベントは続行されたようです。男性は姿を消してしまったのですが、我々が新幹少女のひかりさんにお話を伺ったところ、765プロダクションの関係者だそうです』

『萩原雪歩さんも765プロダクションということでしたよね』

『そうですね』

『まさに大活躍じゃないですか!』

そして再び場面が切り替わり、退場のシーン。

『ですが最後にまたハプニングが……』

冬馬くんが穴にはまって落ちるところだった。

テレビ越しから冬馬くんのツッコミが聞こえる。スタジオ内では大笑いだった。

こんなのが全国ネットに流れていいのか……と思いながら、出勤前の俺はテレビの電源を落とした。

『バレンタインデー』   終わり
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/15(水) 23:39:20.04 ID:SlLbhsx80<> 休憩。再開は明日の22:00を予定。

サクサク進めるために、タイトル『ホワイトデー』は全カットのつもりだが、よろしいかい?
ちなみに次回のタイトルは『お引っ越し』 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/16(木) 00:00:26.15 ID:9A6LJLvQo<> 乙
出来るならホワイトデーも見たい <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/16(木) 00:39:38.71 ID:QWZtfZeCo<> 乙
ホワイトデーもお願いしたい <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/16(木) 04:03:57.56 ID:wfBO7WLDO<> 乙
それをカットするなんてとんでもない! <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 21:27:14.47 ID:uh1GYAOp0<> ちと早いが再開。
実は『ホワイトデー』カットすべきか悩んでた。
レスくれた人はありがとう。 <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 21:27:42.96 ID:uh1GYAOp0<> 『お引っ越し』

バレンタインイベントから数日後のこと。

俺はある決意をしていた。

引っ越しすることにしたのだ。

「荷物運び終わりましたよ!」

というか引っ越しの真っ最中である。

P「ありがとう! じゃあ先に引っ越し先に向かってもらえるかな」

「はい! 了解しました!」

引っ越し業者お兄さんは一礼して外に出る。

荷物はもともと少ないので、トラックの中はすき間だらけでガラガラだ。

部屋を見渡すと何にもない殺伐とした風景。

こんなに広かったっけな、と考えてしまう。

このアパートともおさらばか……。

伊織にはよく押しかけられたっけ。

小鳥さんとあずさが酒を持って来たときは焦ったなぁ。

物思いにふける。

P「さ、俺も行くか……」

引っ越し先は前より事務所からは離れているが、歩いて行ける距離にあるアパート。

グレードも上がってわくわくしてくる。

どのように模様替えしようか考えてると、時間がいくらあっても足りない。

大きい荷物だけを配置してもらって引っ越し業者の方々を帰らせる。

俺はこの段ボールに入ってる生活用品などの片付けを残りの時間をかけてやるつもりだったのだが……。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 21:28:23.90 ID:uh1GYAOp0<> 玄関のチャイムが鳴った。

引っ越して間もないのに誰か来るはずねーだろ。

そう思って無視、どうせ間違えちまったんだろうな。

しかし、チャイムが止まない。

それどころか勢いを増して、連打しているようだ。

なんだこの迷惑な客人は!!

しかたなく、玄関のドアを開ける。文句の一つでも言ってやろうと思ったのだが……。

伊織「なに無視してんのよ!」

亜美「遅いぞ兄ちゃん!」

真美「れでぃーを待たせちゃダメだよ兄ちゃん!」

即座にドアを閉めて鍵をロック、チェーンもかけてさようなら。

ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピピピピピピピピンポーン……!!

バンバンバンバンバン……!! ドンドンドンドン……!!

伊織『開ーけーなーさーいー!!』

亜美『開けるんだー! 兄ちゃんはすでに包囲されている!』

真美『兄ちゃーん! 真美たちのこと嫌いになっちゃったのー!?』

チャイムを連打しドアを叩き大声で騒ぎ立てる。

P「うるせぇよっ!!」

さすがに我慢できねーよこれ。

たまらずに全部のロックを解除してまたドアを開ける。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 21:30:06.52 ID:uh1GYAOp0<> 伊織「さっさと入れればいいのよ」

P「お前なぁ……ご近所迷惑も考えろっての! ブルジョアジーの甘ったれお姫様にはわかんねーだろうけどなぁ!」

伊織「なんですってー!? せっかくこんなかわいい妹がお祝いに来てあげたんだから感謝の一つもしてほしいわね!」

P「はぁー!? 誰も頼んでねぇっての! わかったら帰れ! 俺は暇なお前たちとは違って忙しいんだよ!」

伊織「ぜーんっぜん仕事取ってこないのはどこのどいつよ!」

亜美「ちょっといおりーん……」

真美「ちょっと兄ちゃん……」

圧倒的兄妹喧嘩に双子もたじたじだった。

こういうところは似た者兄妹なのだろうか……。

言い合ってると、隣の部屋のドアが開く。

「うっさい!! 痴話喧嘩ならよそでやれ!!」

当然、怒られる。痴話喧嘩じゃないです。

出てきた男性は俺たちを見ると……。

「警察呼んだ方がいいか?」

俺たちは必死で弁解してなんとか難を逃れた。

結局、俺の方が折れて、しかたなく家に上げることになった。

伊織「初めからそうしなさいよ」

納得いかねー!

伊織「みんなー、入っていいわよー!」

なんだって?
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 21:30:38.96 ID:uh1GYAOp0<> 春香「こ、こんにちは……」

やよい「こんにちはプロデューサー!」

美希「お邪魔しますなのー!」

さらにぞろぞろと集まる765プロのアイドル達。

こんの暇人どもめ……。

俺のサンクチュアリが……。引っ越して初日なのに……。

千早「本当にいいのかしら……」

あずさ「ちょっと伊織ちゃん強引すぎなんじゃ……」

良識のある組は控えめな反応だ。

伊織「入れてくれるって言ったんだからいいのよ」

このクソガキめ……。

あとで絶対デコピンしてやる。

俺も俺で大人げないのだった。

それはそうとまだまだ来る。

雪歩「これお父さんから、先日はどうもって……」

癒しの雪歩。しかも手土産まで持ってきて……。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 21:31:24.98 ID:uh1GYAOp0<> P「ありがとう。遠かったでしょう。さ、雪歩はどうぞあがってあがって……」

伊織「なんで雪歩にはえこひいきすんのよ!」

P「はぁ? 自分のその無い胸に聞いてみやがれ!」

伊織「なんですってー!?」

真「ほらほら落ち着こうよ二人とも……また怒られるよ?」

P「ぐっ……!」

伊織「ふん……!」

真「それにボクたち手ぶらで来たわけじゃないしさ」

律子「そうですよプロデューサー。ちゃんと差し入れ持ってきました」

小鳥「プロデューサーさんの新居でお祝いしましょう!」

そこで俺はあることに気づいて、小鳥さんに近づく。

P「小鳥さぁん?」

ねっとりと粘着したように言う。

小鳥「な、何ですか?」

びくっと肩を震わせる小鳥さん。

そんな小鳥さんの肩を組むと、小鳥さんは蛇ににらまれた小鳥のように震え上がった。

P「俺の引っ越し先の住所、みんなに教えたのあなたなんじゃないですかぁ?」

小鳥「いいいいえ、ぜぜ、全然教えてないでありますよっ!」

なにキャラだよ……。絶対教えてるな。

そもそもこの人くらいしか知らないだろ、俺の住所。

P「今度、駅前の高級居酒屋食べ飲み放題おごりで」

小鳥「ぴよぉ……」

小鳥さんは地に膝をつき、しくしくとうなだれた。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 21:36:04.37 ID:uh1GYAOp0<> こうして765プロの面々を部屋の中に入れるが12人も入れるとなると……。

美希「ハニー、狭ーい」

P「なら帰れ」

美希「それはヤ!」

このわがまま娘が……。

ちなみに俺を入れると13人だ。……多すぎ。

P「あと離れろ」

美希「だって狭いんだもーん、しょうがないよね?」

伊織「んなわけないでしょ! 離れなさい!」

千早「また美希はプロデューサーに迷惑かけて……」

やよい「プロデューサー! 私も片付けるの手伝いまーす!」

大天使やよいはいつも出演してる番組よろしく、お手伝いする気満々で来ていた。

P「ありがとうやよい。俺も片付けやるからお前らはベッドで寝るなり買い出し行ってくるなり、とにかく俺の邪魔にならんようにしてくれ」

美希「はーい。じゃあ美希はベッドで寝るのー!」

こいつはブレねぇ……。

春香「じゃあ私もお片付け手伝います!」

P「おー、ありがとな春香」

春香「いえいえ……私もこのくらいしかできないので」

とは言うけど実際、助かる。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 21:36:57.52 ID:uh1GYAOp0<> あずさ「私は買い出しに行こうかしら……」

律子「あずささん、私も行きますよ。亜美と真美もいらっしゃい」

亜美「何でも買っていいのー?」

真美「どっちにしても兄ちゃんの邪魔になっちゃうから行った方がいいよね」

小鳥「私も行きますよ」

5人で買出しに行くようだ。

残りは俺の手伝いということになった。

このアパート間取りは広くないが別に狭いというわけでもない。

13人はやっぱり窮屈だけどな。

真「プロデューサー、これはどこに置けばいいですか?」

P「それはやっておくから他の頼む」

千早「プロデューサー、このCDラックはやっぱりこっちの方が……」

P「ああ、それは絶対そこに置いといて。ちょっと邪魔かもしれないけどそれは譲れない」

伊織「お兄様、いかがわしい本は全部捨てておくわね?」

P「俺はそんな本一冊も持ってない!」

やよい「プロデューサー、お洋服畳んでおきますね」

P「おう。……ちょっと、やよい、その畳み方教えてくれ」

雪歩「ひぃっ! ゴキブリ!!」

P「なに!? 買い出し組にコンバット買ってきてもらおうか。見つけたやつは俺が駆除しよう」

春香「……」

P「おい春香。俺の下着がどうかしたのか?」

春香「うえぇ!? ななな何でもありませんよ!」

そうして全部片付いた。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 21:38:11.90 ID:uh1GYAOp0<> 美希「あふぅ……。あれ? なんだかお部屋広くなった?」

P「片付けたからそう見えるだけだろう。……美希はずっと寝てたな」

美希「ハニーの邪魔しないようにしたの」

P「まあいい。……みんなが真面目にやってくれたおかげで早く綺麗になった」

春香「えへへ……。それならよかったです。最初は迷惑じゃないかなーって思ったんですけど……」

真「そうだよね。伊織たちとのやりとりを見て不安になっちゃったよ」

P「当たり前だ。引っ越し当日にこの人数で押しかけてくるやつがいるかっての」

やよい「プロデューサー、あとは部屋の隅の掃除しましょう?」

流石はやよい。細かいところまで気を配っている。

P「そうだな。帰ってくるまでに掃除機かけてゴミまとめておこうか」

もうちょい大きめのテーブルがあれば、みんなで食事でもできそうなもんだけど……。

時間もあるし……買ってこようかな。

P「お前らいつまでいるの?」

伊織「いつまでって……適当に帰るつもりだけど」

千早「そうね。今、大体4時くらいだから、買い出しに行った人が帰って来て少しお祝いしたらって感じじゃないですか?」

P「そうか。……みんな夕飯食べてかない?」

俺がそう言うと時間が止まったみたいにみんな硬直した。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 21:38:40.96 ID:uh1GYAOp0<> P「あれ? 俺なんか変なこと言ったか?」

真「変じゃないけど……」

雪歩「プロデューサーから言われると思ってませんでした」

美希「ミキもちょっとびっくりしたけど、ハニーの手料理食べたいな」

伊織「ていうかお兄様料理できるの? 私見たことないわ……」

やよい「伊織ちゃん。プロデューサーのお昼いつもお弁当だったよ?」

春香「コンビニのじゃなくて?」

驚きすぎだろ。そもそも男でも一人暮らしなら自分で家事とかやる必要あるし、料理だって安上がりになるから自炊の方がいい。

P「……で、どうすんだ? いるんならご家族に電話しておけ、上司にごちそうしてもらうって言っとけ」

やよい「私は帰らないと……」

P「ん、どうして? できれば頑張ってくれたやよいにはいてほしかったんだけど……」

やよい「弟たちが……」

そうだった。やよいは弟たちの面倒を見なければいけないのだった。

伊織「やよい、とりあえず電話してみたら?もしかしたら弟たちもやよいに楽しんできてほしいかもしれないわ」

やよい「でも……」

やよいはきっとみんなで夕飯を食べたい。

でも自分だけ楽しい思いをするのは気が引けるのだ。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 21:39:17.99 ID:uh1GYAOp0<> P「ほら電話してみな」

受話器を渡す。

やよいは意を決して電話をかけた。

やよい「……もしもし。……かすみ? あのね、今日お姉ちゃん、伊織ちゃん達とお夕飯食べに行ってもいいかなーって……え? ホントにいいの? うん、うん。ありがと、かすみ。……じゃあ切るね、うん、ばいばい」

P「よかったなやよい」

やよい「はいっ! ありがとうございます、プロデューサー! 伊織ちゃんもありがとう!」

伊織「ふんっ! やよいだって、たまにはハメを外しても許されるってことよ」

真「……伊織は素直じゃないなぁ」

春香「でも伊織らしいけどね」

千早「よかったわ高槻さん」

他の子たちも残るようだ。

P「じゃあちょっと出かけてくるからあずさたちが帰ってきたら伝えといてくれ」

雪歩「どこ行くんですか?」

P「テーブル買いに……」

春香「テーブル!?」

P「今のやつじゃ、みんなで食卓囲むには小さすぎるからな」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 21:40:20.23 ID:uh1GYAOp0<> 伊織「ちょっと待ってお兄様」

P「何だ?」

伊織「テーブルならあげるわ」

P「どういうこと?」

伊織「今から新堂にテーブル持ってきてもらうの」

P「おいおい。俺はもう水瀬と関係ないんだからさ。それに新堂……さんも大変だろ?」

伊織「これは私からの引っ越し祝いよ? それに新堂だって困ったことがあればお申し付けを、と言っていたわ」

P「そうかもしんないけど……でもなぁ……」

伊織「もう電話するから」

と言ってさっさと電話してしまう伊織。

この場は甘えておくことにしよう。人の好意は無下にはできないからな。

P「悪いな伊織。……俺は夕飯の買い出しに行くよ」

春香「じゃあ私も!」

P「いいって、待っててくれ。すぐ帰るし。……留守の間は何してもいいから」

これといって何にもないけど……。

P「んじゃあ行ってきまーす」

美希「行ってらっしゃいなのー! 見送るのは妻の務めなの!」

だったら家事をしてくれ……。

ともあれ俺はエコバッグと財布を持って出かけるのだった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 21:41:24.38 ID:uh1GYAOp0<> アイドルだけの空間になったPの部屋。

当然、男性の部屋に入る機会も少ない女の子たちはそわそわし始める。

冷静に待っていられるのは伊織くらいのものだった。

春香「ところでプロデューサーさん何してもいいって言ってたよね……」

伊織「そうね、本当にいかがわしい本がないかちょっと探ってみましょう」

雪歩「えぇー!?」

真「プロデューサーがそんなの持ってたらなんだか引くなぁ……」

やよい「伊織ちゃん、いかがわしい本ってどういうの?」

伊織「……え?」

春香「男性がベッドの下とかに隠すようなHな本のことだよ、やよい」

やよい「はうっ! えっちな……ですか?」

千早「春香、あなた惜しげもなく高槻さんになんてことを……」

春香「千早ちゃん、誰もが知ってることをやよいだけ知らないのは不公平じゃない?」

千早「そう言われるとなかなか反論しづらいわ……」

伊織「あっさり折れてんじゃないわよ!」

雪歩「でも、本当にあるのかなぁ……」

美希「ミキはえっちな本があってもハニーのこと嫌いになったりしないもん!」

春香「そういう美希が一番ショック受けそうだよね」

残った子たちでくだらない議論が始まった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 21:42:03.89 ID:uh1GYAOp0<> ちょうどそこに一つ呼び鈴が鳴る。

やよい「か、帰ってきました!」

真「これはあずささんたちじゃない?」

雪歩「私、開けてくるね」

雪歩が開けると帰ってきたのは予想通りあずさたちだ。

あずさ「ただいま〜」

律子「結構、買いましたね……」

亜美「ケーキ買ってきたよー!」

真美「お菓子も買ってきたよー!」

小鳥「ただいま。……ふふふ、なんだか男の人の部屋にただいまって言いながら帰ってくると……」

律子「小鳥さん、帰ってきてくださーい」

再び出かけてしまった小鳥を律子が呼び戻す。

ワンルームでは未だに、いかがわしい本あるなし討論会が開かれていた。

伊織「だからね! お兄様はきっと持ってると思うのよ!」

千早「水瀬さん。あなた実の妹でしょ? ……この家にあってほしいの?」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 21:43:03.94 ID:uh1GYAOp0<> 伊織「違うわ、本当にあったら失望してしまうのがわかるから、こうやって予防線を張っているのよ……」

春香「伊織も大変だね」

やよい「プロデューサーの家に……そんなものは……うぅ……」

律子「何を言い合っているの?」

雪歩「ちょっと……」

疑問符を頭に浮かべる律子に雪歩は苦笑いで誤魔化す。

真「あ、お帰り! ねえ、プロデューサーの家にいかがわしい本あると思う?」

帰ってきた5人に尋ねる真。……雪歩の誤魔化しは無意味であった。

律子「帰って来ていきなり何よその話題は……」

あずさ「あらあら〜」

美希「ミキは別にあっても気にしないよ?」

春香「美希、それ何回目?」

真美「ももも持ってるわけないじゃん! あの兄ちゃんが……」

亜美「えー? 意外と持ってるかもよー」

小鳥「健全な男性なら普通ありますよね……。そして私は知ってます……。プロデューサーがむっつりスケベなことも!!」

男を知らない小鳥に視線が集まる。

適当なこと言ってんじゃねーよとみんなの表情がシンクロする。

しかし、口に出すものはいなかった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 21:44:01.51 ID:uh1GYAOp0<> あずさ「でも、確かにプロデューサーさんってお酒でがらりと変わっちゃう人だから、何とも言いづらいですよね……」

伊織「あずさ、何それ? 詳しく教えてちょうだい」

あずさ「プロデューサーさんの名誉のためにも言わないわ……ふふっ……!」

この場にいる全員があずさに敗北感を覚えるのだった。

伊織「ふん! まあいいわ。……こうなったら賭けをしましょう!」

春香「賭け?」

千早「賭けって……」

やよい「ダメだよ伊織ちゃんお金のやりとりは……」

伊織「そうじゃないわ。……みんな、お兄様がそういう本を持ってるかどうか賭けをして、負けたら罰ゲーム! で、どう?」

亜美「やるやる!」

真美「へー、面白そう!」

律子「でもこれ、賭けとして成立するのかしら……」

真「だよね……」

心配しているのは賭けが成立するかどうか。

ということはこの少女たちは失礼なことに世の男性に対し、そういう偏見を抱いているということである。

雪歩「失礼ですけど私はあると思うな……。お弟子さんたちもそういうの見てたし……」

雪歩のトラウマ加速の原因にもなっていたりする。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 21:44:43.89 ID:uh1GYAOp0<> 千早「まあ、萩原さんの言う通りよね……」

美希「ミキもあると思うな。あっても気にしないけど!」

春香「やよいはどう?」

やよい「え!? 私ですか……? えっと、その……」

小鳥「正直に言っていいのよ?」

やよい「……あるかもです」

やよいがこれだから他の人も当然ある方にベットするかと思いきや……。

あずさ「私は無い方で……」

小鳥「あずささん、正気ですか!?」

この鳥、失礼である。

あずさ「プロデューサーさんのことですから、もしかしたら……。それに賭けが成立しないので……」

春香「大人な意見……」

再び敗北感を覚えるアイドル達であった。

そうして捜索開始、本棚、ベッドの下、押し入れの中、怪しい場所を調べていく。

すると……。

千早「みんな、ちょっとこれを見てもらえるかしら」

大きめのCDラックだ。インテリアとしても使えて、Pが配置にこだわっていたものである。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 21:45:53.06 ID:uh1GYAOp0<> 春香「見つけたの!?」

小鳥「やっぱりあったのね……」

千早「いえ、そうじゃなくて……私たちのCDが……」

律子「なぁんだ……。それ、プロデューサーはもらってるのよ?」

千早「いえ、なぜか二枚ずつ……」

律子「小鳥さん。二枚ももらえましたっけ?」

小鳥「いえ、一枚ずつしかもらえないはずですけど……」

雪歩「じゃあこれって……」

伊織「お兄様、みんなのCDもう一枚ずつ買ってくれたってこと?」

美希「ハニー……ミキ嬉しいな。もう本なんてどうでもいいって感じ!」

千早「ちょっと待って! これは、ジュピターと新幹少女とサイネリアのCDもあるわ!」

美希「やっぱりハニーの粗を探すしかないの!」

真「手のひら返すの早いなぁ……」

春香「うわぁ、しかも全部のシングル集めてるよ……」

やよい「プロデューサーは勉強熱心なんですね……」

伊織「そういう見方もできるけど……先日の報道を忘れたのかしら……」

雪歩「バレンタインイベント……!」

伊織「そうよ。そこでお兄様は新幹少女のひかりを助けているわ!」

だから何なのか、よく考えるといまいち繋がらないのだが、ヒートアップし過ぎていた。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 21:46:47.61 ID:uh1GYAOp0<> 春香「これは問い詰めないと!」

美希「ハニーを叩いて埃をボロボロ出してやるの!」

つまり、単純に嫉妬しているだけだった。

亜美「ねえ! みんなこれ!」

なんだかやけに大人しいと思っていた双子がここで声を上げる。

亜美「ついに動かぬ証拠を見つけてしまったようですな……」

真美「そんな……」

亜美は探偵よろしくしてやったりと振る舞うが、真美はガチで絶句していた。

本棚に堂々と入っていた新幹少女の写真集、たまーに際どいショットがあるくらいなのだが、なんだかみんな許せなかった。

そうして賭けはあずさの一人負けということになった。

P「さーて何作ろうかなぁ……」

夕飯の後でどうせお菓子とか食べるんだろうから軽めの方がいいな。

主食、主菜、副菜、汁物。俺はこの四つを最低でも食卓に並べるように気を付けている。

P「まあ適当に刺身でいいか」

でももうちょい趣向を凝らすのも面白いかも。

色々買って帰宅。

家の前にはなんか高級そうな車が止まってた。

新堂と顔を合わせるのか。なんだかな……。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 21:47:18.74 ID:uh1GYAOp0<> P「ただいま……」

あずさ「おかえりなさい、あなた」

P「……………………こら、悪ノリはやめなさい」

不覚にもドキッとしたからマジでやめなさい……。

こつっとあずさの頭を軽く叩く。

あずさはちょっぴり舌を出して恥ずかしそうに微笑んだ。

亜美「あはは……! 兄ちゃん顔赤くなってるー!」

P「うるせーよ。あずさはなんでこんなことしてんだ」

赤くなってるあずさの代わりに真美が答える。

真美「あずさお姉ちゃんへの罰ゲームなんだよ? 兄ちゃんとの新婚ごっこ!」

P「俺と夫婦になるのは罰なのか……」

小鳥「そういうわけじゃないと思うんですけどね」

玄関でなんやかんやと話して奥のワンルームに行くと、新しいテーブルが用意されていた。

新堂「坊ちゃま、お久しぶりでございます」

P「あ、新堂……さん」

新堂は俺に近づくと顔を歪ませて、なんと言ったらよいかわからない風だった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 21:48:03.50 ID:uh1GYAOp0<> 新堂「お久しぶりでございます、坊ちゃま……」

感慨深そうにもう一度つぶやく新堂。

P「ちょっとやめてくれ……くださいよ。俺はもう水瀬とは関係ないんだし……」

新堂「私には関係あります。坊ちゃまがおしめを召していた頃から仕えておりますので……」

P「ああ、たくさん迷惑かけたもんな……。それでも俺だってもう大人だぜ?」

新堂「ええ、立派にご成長なられて……。この新堂、今にも涙が止まらなくなりそうでございます」

P「あはは……大げさだなぁ。新堂もいつも伊織の面倒見てくれてありがとな」

なんか拍子抜けした。

新堂にどんな目で見られるのかとびくびくしていた自分が恥ずかしい。

彼はいつまで経っても俺を心配していたのか……。

新堂は目に溜めた涙を拭って、一礼した。

新堂「それでは爺はこれで失礼します。坊ちゃまとお会いすることができて満足でございます」

新堂はあの高級車で待機してるんだろう。

伊織の送り迎えが残ってるもんな。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 21:49:03.31 ID:uh1GYAOp0<> 春香「やっぱりプロデューサーも名家の生まれなんですね……」

雪歩「ほんとですぅ……」

律子「伊織もね」

伊織「あんまり頼ることはしたくないんだけどね。今日は特別よ」

P「俺の引っ越しで大げさだな」

伊織「でもあんなぼろアパートからこれだけグレードアップしたんだから、多少大げさにもなるわ」

P「俺は前の家も気に入ってたんだ。あれはあれで慣れるといいもんだよ」

もちろん最初は本当に嫌だったんだけどな……。

急に牢屋に入れられたみたいだったよ。

千早「でも坊ちゃまって……ふふっ……」

真「想像できないなー。こんな言葉遣いの悪いプロデューサーがいいとこの生まれなんて……」

P「笑うんじゃねぇ。昔の話だ」

やよい「伊織ちゃんもお嬢様って……。お姫様みたい!」

やよいのその表現は的確だ。

P「とにかく、俺は飯作ってるから適当に時間潰してくれ……」

あずさ「私も手伝いますよ」

P「そうか、助かる。なら鍋にお湯と出汁入れて沸かしてくれ。出汁は買ってきたからその袋に入ってる」

あずさ「はい。わかりました」

小鳥「私も食材を切るくらいします」

小鳥さんとあずさは手伝ってくれるようで、他の子たちは向こうでガールズトークをしていた。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 21:49:49.55 ID:uh1GYAOp0<> 律子「やっぱり新婚さんみたいよね……」

雪歩「プロデューサーと……どっちがですか?」

律子「うーん、あずささんかな?」

真「そうかなぁ、ボクは小鳥さんだけど……」

春香「私はあずささんの方がしっくりくるかも……」

美希「ミキはミキが一番ハニーにふさわしいと思うな」

春香「えー……? 美希はまずあの土俵に立とうよ……」

真美「兄ちゃんって何歳なの?」

千早「確か、23か24って聞いたけど」

伊織「今は24だと思うわ」

真美「真美と11歳も離れてる……」

亜美「じゃああずさお姉ちゃんとも、ぴよちゃんともあんまり離れてないね」

千早「でも私は高槻さんがプロデューサーの奥さんにふさわしいと思うわ」

やよい「はわっ!? 私ですか……?」

律子「そうねー。やよいならしっかりしてるし、プロデューサーに限らずいいお嫁さんになれると思うけど……」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 21:50:37.25 ID:uh1GYAOp0<> 真「ところで小鳥さんはいくつなの?」

律子「小鳥さんは確か2Xだったと思う」

雪歩「え?」

亜美「りっちゃん今なんて?」

律子「え? 2Xって……」

春香「なんか聞き取れなくて……20といくつなんですか?」

律子「聞き取れない? いや、だから20とX歳だって……」

真美「うあうあー! なんか怖いよー……」

千早「これ以上はこの話題に触れない方がいいわね……」

なんだか盛り上がったと思えば、戦慄してた。

P「ああ、二人とももう大丈夫ですよ。あとは俺がやるので味噌汁だけ注いで持っていってください」

バラバラな大きさと柄のお茶碗に味噌汁を入れて持っていく。

何度か往復しなければならなかった。

俺はというと底がやや深めのお皿を13枚用意する。

同じものが13枚もあるはずがなく、見てくれのいいもの、やや大きめのものを基準にして選ぶ。

P「もうできるから手を洗ってきなさい」

手洗い大事!

みんな聞き分けよくぞろぞろと洗面所に向かう。

律子『こら! 亜美と真美はもっとちゃんと洗いなさい!!』

律子の怒声が飛ぶ。こういうときにちゃんと注意してくれるのは助かる。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 21:51:11.04 ID:uh1GYAOp0<> 俺は多めに炊いたご飯をよそって、切ってもらった葉のものと刺身を上に盛る。

最後に醤油やらマスタードやらいろいろ調合して作ったソースをかけて完成。

名付けて海鮮サラダ丼。まあ、名前はどうでもいいんだけど……。

もともとはご飯の上にサラダだけだったのだが、彩と味と健康を考えて魚介を足し、誕生したのがこのメニュー。

意外とお手軽だし、見た目、食感ともに良い。

味は大部分がこの特製ソースに委ねられるため、あんまり冒険したソース作りはおすすめしない。

みんなは戻ってくるなり、目を丸くしていた。

真「なんですかこれ?」

P「丼物は嫌だったか?」

真「いやそうじゃなくて……」

なんだか不思議そうに見つめていた。

小鳥「へー、いい感じの見た目ですね」

やよい「おいしそうです……」

亜美「ご飯の上にお刺身はわかるけど……」

真美「サラダ……?」

あずさ「あら、知らないの二人とも? 最近はご飯の上に葉のものが乗ってるお店もあるのよ?」

へー、と亜美真美。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 21:52:05.00 ID:uh1GYAOp0<> P「まあ食ってみてくれ、箸でいけるから。……俺はちょっと片づけしてくる」

伊織「お兄様の料理……ま、お手並み拝見ね」

そう言われてもなぁ。簡単だから、それ……。

雪歩「伊織ちゃん、すごく嬉しそう」

伊織「なっ……にを言ってるの!? 別に食べられれば何でもいいんだから!」

律子「素直じゃないわね」

美希「ハニーの手料理いっただきまーすなの!」

春香「ヘルシーそうだし、面白ーい! いただきます」

千早「いただきます……」

それぞれ食べ始める。

俺はつい、みんなが食べるところを見てしまう。緊張して仕方なかったのだ。

『おいしい……』

そう言ってくれたことに本当に安堵した。

軽めの夕食を終えたのが、午後の6時ちょい過ぎ。

食後の休憩を取っていたのだが……。

伊織「あ、そうだお兄様、聞きたいことがあるの……」

P「なんだ?」

伊織「これ、どういうこと?」

取り出したのは新幹少女の写真集。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 21:52:54.49 ID:uh1GYAOp0<> P「は? どういうことって……新幹少女の写真集だろ」

伊織「なんで他事務所のアイドルの写真集なんて持ってんのよ!」

P「いや、買ったからに決まってんだろ? お前、何怒ってんだ?」

見渡せば、白けた視線でこちらを見る一部の女の子たち。

P「よくわかんねーな。別にいいだろ? アイドルの写真集くらい……」

何故だかわからないが俺はここは引いては負けだと思った。

美希「ハニー……。なんでミキの写真集が最初じゃないの?」

P「いや、美希のは出てないだろ……」

真美「なんで新幹少女の写真集なんて買ったのさー!」

P「え? なんでって……そりゃ先日共演させてもらったし、いい子だし、ファンになったからだけど……」

伊織「私以外のアイドルのファンになっちゃダメ!」

P「なんだそりゃ! いいだろ別に!」

春香「でもまあ、そこまで悪いことじゃないような気もするよね」

いや、一つも悪い部分なんてない気がするんだが……。

律子「他のアイドルのリサーチと考えれば……」

やよい「やっぱり勉強のためだったんですね」

だからファンだって言ってんだろ。まあいい、また話がややこしくなるからな。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 21:54:17.36 ID:uh1GYAOp0<> 千早「本当にいかがわしい本は無かったみたいだし、私は改めて尊敬し直しました」

P「千早は嬉しいこと言ってくれるじゃないか」

小鳥「あると思ったんですけどねぇ……」

P「最初に無いって言ったじゃないですか!」

あずさ「でもやっぱり、他のアイドルの写真集とシングル全部出てきたら複雑ですね……」

何してもいいとは言ったが、ここまで捜索されるとは思わなかった。

休憩もそこそこ取ったところでケーキやらお菓子やら取り出す。

女の子曰くお菓子は別腹ということだ。

あずさや小鳥さんは酒まで開けていた。

あなたたち帰れるの?

あずさ「うふ、うふふふ……! プロデューサーさんもどうですかぁ?」

P「いやいや、俺が飲んだら誰があなたたちを送るんですか?」

小鳥「飲みましょうよー! ノリわっるーい! きゃはは……」

P「あんたは自重しろ!!」

真美「大人って楽しそう……」

真「そうだね。でもあれは……」

律子「紛うことなきダメな大人の例ね……」

P「ほんとだよ。あずさみたいにもうちょっと上品に飲んでくれないかなぁ」

春香「あれでも上品なんですか?」

あずさ「うふふ……」

P「まあな。ちょっとだらしなく見えるかもしれないがセーブしてるだろ。あずさはお酒強いしな」

伊織「それに比べて小鳥ときたら……」

あずさ「でも〜、プロデューサーさんも酔っ払ったらすごいんですよぉ?」

いつにも増しておっとり話すあずさ。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 21:55:26.71 ID:uh1GYAOp0<> P「俺にそんなことあったか?」

小鳥「私は憶えてますよっ! べろべろになったプロデューサーさん! あははは……!」

小鳥さん笑いすぎ。あと絶対憶えてねーなこの人。

春香「でも一度発狂したことあったから想像できちゃうなぁ……」

やよい「あの時のプロデューサー、怖かったです」

律子「あのあとの帰りに周りから変な目で見られてると思ったら首に跡が……」

P「わ、悪かったって! でも俺そのこと憶えてねーんだよな」

雪歩「びっくりしたんですよ? プロデューサーがおかしくなっちゃったと思って……」

あずさの会話が中断されたかのように思えたが……。

あずさ「プロデューサーさんったら、私が支えてないと倒れそうなくらいべろべろで、私に甘えたり、抱き付いたり、耳や首にキスしたり、耳元であずさ、あずさって……」

構わずに俺が酔った時のことを話し出した。……と思ったら、内容がとんでもない。

あずさ「そのとき私、ああ、この人の子供をうむぅっ……! むぐ……」

俺は後ろに回って慌ててあずさの口を押さえる。

P「ストップあずさ。その話はやめてくれ、その時の記憶は無いがそれはダメだ。ヤバい」

伊織「どういうことなのお兄様……? まさか小鳥にもやったんじゃないでしょうね!?」

P「やってない! と思う」

伊織「何よ! その不安な返事は!」

というより、俺がべろべろに酔ってる状況で小鳥さんが正気を保ってるはずがない。

けれども伊織はぷんすか腹を立てていた。

亜美「というかあずさお姉ちゃんも……」

千早「そうね。少なくとも上品な飲み方には見えないわ」

酔ったあずさはお喋りさんであった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 21:56:00.83 ID:uh1GYAOp0<> 小鳥「ぷーろでゅーさーさぁん!! お酒買ってきていいですかぁ!?」

P「ダメダメ! あなたは自重してくださいってば!!」

あずさ「あ、私も〜」

P「あずさもおしまい!」

気が付けば夜の8時。

そろそろお開きということになった。

P「伊織は外で新堂が待ってんだろ? 俺は酔っ払い二人と、誰か俺の車でいいって人を送っていくから、後はそっちに頼んでいいか?」

伊織「ええ、いいわよ。じゃあやよいと亜美、真美、真、雪歩を送るわ。いいわよね」

当然だが反対する子はいない。

P「じゃあ残りは俺の方だ。高級車じゃないうえに酔っ払いも二人いてすまないな」

千早「そんなの気にしませんよ」

律子「じゃあ行きましょうか」

片付けないまま外に出る。

外には新堂の車がやっぱり待機していた。

新堂「どうぞお乗りくださいお嬢様方」

真「うわぁ……こういうの憧れだったんだ。なんだか嬉しいや」

なるほど、真を誘ったのは伊織の気遣いかな。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 21:56:38.63 ID:uh1GYAOp0<> 亜美「控えおろう!」

真美「面を上げい!」

ノリノリの双海姉妹だが、それはなんか違うと思う。

やよい「うっうー! お世話になります!」

雪歩「よろしくお願いします」

挨拶をするやよいと雪歩。

P「じゃあ新堂、彼女たちは任せたよ」

新堂「お任せ下さい。この新堂、命に代えてもお嬢様たちをお送りします」

ははは……。相変わらずだな新堂は……。

伊織「それじゃあね、お兄様」

P「ああ、じゃあな。遠慮せず甘えていいんだからな?」

伊織「機会があればそうさせてもらうわ」

そうして、伊織が乗った高級車は発進して夜の道に光を灯して去っていく。

P「さあ、俺たちも行こうか」

律子「あずささんと小鳥さんは後ろに積んでおきました」

P「了解、春香と千早と美希から送っていいよな?」

律子「もちろんです」

俺たちもすぐに出発するのだった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 21:57:09.63 ID:uh1GYAOp0<> みんなを送り、新居へ帰ってくる。

家の前まで来て振り返り、空を見てみると、意外にも星が見えるのだ。

こんなこと以前にもあったな。

しばらく星を眺めていると意外な人物から声をかけられた。

女P「もしかしてPさんですか?」

振り返ると女Pさんが立っている。

女P「こんなところで何してるんですか?」

最初は不思議そうな視線を向けていたが、俺だと認識するとぱっと笑顔になって側まで寄ってくる。

P「あなたこそどうしたんです?」

女P「どうしたって、そこ私の部屋ですから」

俺の部屋の隣を指差して、おかしいな、という風に笑う女Pさん。

女P「Pさんこそ何でここに?」

P「俺の家、今日からここなんですよ」

そう言って自分の部屋を指し示す。

女Pさんは二度ほど俺の指とその先を交互に見ていた。

女P「えーっ!?」

驚く女Pさんはわたわたと落ち着かなくなる。

P「大丈夫ですか?」

女P「すいません。ちょっと驚いちゃって……」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 21:57:58.83 ID:uh1GYAOp0<> P「これからよろしくお願いします」

女P「こ、こちらこそ……」

俺がお辞儀すると、彼女もお辞儀を返す。

少しの間、沈黙する。

女Pさんは何かを話そうとしているが、ためらっているのか視線だけを動かしている。

俺も視線で応える、どうしたんですか?

女Pさんは手に持っていたビニール袋を前に出す。

女P「で、でしたら! 一緒に飲みませんか!? わ、私今日一人で飲もうかと思ったんですけど、寂しいので! Pさんがよければご一緒にどうですか!?」

慌てたのか早口で言い切った。

ビニールの中には缶のチューハイが数本、ビールも二本入ってる。

どんだけ飲むつもりだったんだろう……。

P「はい。俺でよければ、愚痴聞きますよ?」

女Pさんはキョトンとしたのも束の間、ニコッと笑って、お願いしますと頭を下げた。

俺は片づけをしてない部屋に彼女を入れる。

P「ごめんなさい。今から片付けますから、くつろいでいてください」

女P「私も手伝いますよ」

二人でごみをまとめて簡単に掃除も済ませる。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 21:58:41.94 ID:uh1GYAOp0<> お酒を取り出し、グラスを用意する。

P「なんか物足りないですね」

女P「あ、おつまみ買ってなかったです」

P「じゃあなんか作りましょうか」

女P「私も作ります」

二人で一品料理を作る。食材は買い溜め分を少し使った。

用意ができた。今は午後10時を回っている。

二人横並びでソファーに腰掛け、グラスにビールを注ぐ。

『乾杯!』

お互いのグラスを合わせて料理と一緒にお酒をいただく。

それからほどよくお酒も回り、女Pさんの愚痴もエスカレート。

世間話も仕事の話も下世話な話もいろいろしているうちに……。

気づけば朝になっていた。

どうやら眠っていたらしい。

彼女はというと俺に寄りかかっていた。俺の肩に頭を乗せる形で寝ていた。

そっとしておこう。寄りかかられて不快な気分はしない。

このまま、また寝てしまおうかな。

P「あ、仕事!」

とまあ、そういうわけにもいかず。

女Pさんを起こして自分の部屋に帰す。

急いで支度をして家を出ると、隣のドアも同時に開く。

女P「急ぎましょう!」

とは言っても一緒に行くわけではなく、アパートを出てすぐに別れる。

俺はギリギリで遅刻したけど、向こうは大丈夫だろうか。

その日は、彼女が寄りかかったときの寝顔が頭から離れない一日になった。

『お引っ越し』   終わり
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 22:01:15.09 ID:uh1GYAOp0<> ちょいと休憩。
明日は投下できないので本日は二つということで本日中に再開予定。

気になる点があればどーぞ。 <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 22:47:34.11 ID:uh1GYAOp0<> そろそろ再開。
誰も見てなくてもやるぞ! <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 22:48:24.46 ID:uh1GYAOp0<> 『雛祭り』『気づけば隣にいる』『どうにかなるんだよ』『蒼い鳥』

月日は流れ3月。

今月頭にあるのは女の子のお祭り。そう雛祭りだ。

男である俺には無縁のものかと思えば今年はそうではなかった。

都内にある某公園ではアイドルの雛祭りライブが開催される。

亜美真美、やよいに雪歩と765プロも徐々に目立ってきたおかげで今回オファーがかかった。

今回は千早を選抜した。

選考基準は歌やダンス、つまり純粋なパフォーマンス。

美希とかなり悩んだが、今回は歌がメインなので千早なわけだ。

特に歌に魅力があるのは確かだし、本人は歌の仕事を希望していたからちょうどいい機会だと思い、決断に踏み切った。

千早「プロデューサー、ありがとうございます」

実は歌メインのお仕事はシングル収録を除けば今回が初。

P「いいって。俺としても、こう初めての歌のオファーは千早に振ろうって思ってたから」

千早「プロデューサー、私に歌のお仕事が入ってこないの気にかけてましたよね」

P「え?」

千早「この前、プロデューサーが小鳥さんと話してる時にそう聞こえたので……」

P「ああ、そうだったのか」

千早「私、嬉しかったです」

優しい眼差しで言う千早。
<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/16(木) 22:48:58.59 ID:0yXI5rFSo<> (見てるよ…) <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 22:49:22.15 ID:uh1GYAOp0<> その顔がファンの前でもすんなりできるといいんだけど。

P「なんだ、散々待たせて悪かったな。今日は思う存分お客さんを楽しませてくれ」

千早「はい……」

なんだか調子が悪いのか返事もどこか気の抜けたものだ。

P「さあ、まずは挨拶に回ろうか」

今回のライブは6月、9月、12月に行われるものと合わせて4大シーズンアイドルライブと呼ばれるものだ。

新幹少女やサイネリア、頭角を現し始めたジュピター、と出演者にも顔見知りが多い。

さらに人気絶頂の魔王エンジェルも当然参加する。

彩音「あら? 765プロのプロデューサーさん?」

P「あ、彩音さん。ご無沙汰しております」

彩音「いえいえ、こちらこそ」

お互いにぺこぺことお辞儀をする。

P「本日はうちの如月千早がお世話になります」

千早「如月千早です。よろしくお願いします」

彩音「千早ちゃんね。サイネリアの鈴木彩音よ。よろしく。……それにしても765プロさんはどんどん新しい子を出していくんですね」

P「ええ、仕事に合ったアイドルを選出してるのが今のうちのスタイルなんです」

彩音「じゃあ今日は歌の方、期待してもいいのかしら?」

P「実力はあるはずです。本番で出し切れるかどうか……」

彩音「なかなか酷なことを仰るのですね。初めてでこの舞台はこたえると思いますけど……」

P「あはは……」

確かに……。そこんとこあんまり考えなしだった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 22:49:48.70 ID:uh1GYAOp0<> 千早「なんとか乗り切ってみせます!」

彩音「やる気十分ね。でもやる気だけではどうにもならないことだってあるのよ?」

千早「そのために今まで力をつけてきましたから」

彩音さんの挑発に食ってかかる千早。一触即発のように感じられたが……。

彩音「いいじゃない千早! 本番楽しみにしてるわ!」

と彩音さん的には好評だったようだ。

雑談もほどほどにその場を後にした俺たちは新幹少女の面々と鉢合わせる。

ひかり「あ、Pさん!」

いち早く気付いたひかりちゃんがすぐに駆け寄ってきた。

ひかり「あの、先日は助けていただいてありがとうございました」

先日とはもちろんバレンタインイベントのことだ。

P「いやいや、もういいって。怪我も無かったんだしさ」

ひかり「はい。Pさんのおかげです」

そうしてひかりちゃんはこっちをちらちらと窺い、そわそわと落ち着かなくなる。

ひかり「それで、これ、お礼にクッキー焼いてきたので、よかったらどうぞ!」

両手でかわいく差し出すひかりちゃん。

これ持ち歩いてたってことは俺のことさがしてたのかも……。

ちょっぴり嬉しくなる。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 22:50:33.99 ID:uh1GYAOp0<> 俺も両手に乗せてもらうようにして受け取る。お礼とあれば無下にはできない。

P「ありがとう。ちょうどお腹空いてたんだ」

ひかり「それなら良かったです……」

そこで、つばめちゃんとのぞみちゃんがやってくる。

つばめ「よかったね、ひかり! 早いとこ見つかって……」

のぞみ「Pさんに何かご迷惑おかけしてたらごめんなさい」

P「迷惑だなんてとんでもない。前のお礼ってひかりちゃんにクッキーいただいたんです」

のぞみ「そうだったんですか。だから、ひかり落ち着きなかったのね」

ひかり「二人とも黙っててごめん……」

つばめ「ううん! 気にしないでって!」

仲睦まじい3人を見守ってる中、隣から千早が小さな声で話しかけてきた。

千早「プロデューサー」

P「どうした?」

つられて俺も小声になる。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 22:51:12.77 ID:uh1GYAOp0<> 千早「そのクッキー、この場で食べた方がいいと思いますよ」

P「え、どうして?」

千早「それは、なんとなくです」

変なことを言うのだなと思ったけどこういう時の直感って意外と大事なのかも……。

言われたとおりにしてみる。

P「ひかりちゃん」

ひかり「ふぁ……はい!?」

ひかりちゃんは慌てた様子で反応してた。

P「クッキー食べてみてもいい?」

ひかり「どど、どうぞ!」

俺はありがとうと一言。袋を開き、クッキーを一枚取り出す。

P「いただきます」

ひかり「あ……。め、めし、召し上がれ……」

かーっと紅潮するひかりちゃん。

つばめちゃんとのぞみちゃんはその様子を見て、苦笑いや呆れた表情を浮かべている。

そんなひかりちゃんはというと俺を凝視していた。

ハラハラとした気持ちがこっちにまで伝わってきて同じように緊張してきた。

なんだか恥ずかしい……。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 22:51:41.72 ID:uh1GYAOp0<> クッキーを口に入れ、よく味わって飲み込む。

P「うん。すごく美味しい……」

俺がそう言うとひかりちゃんは緊張の面持ちから一転、ぱぁっとした笑顔を見せた。

ひかり「よかったぁ……」

笑顔のまま、ほっと一息つくひかりちゃん。

俺は千早をチラッと見る。

千早は俺の視線に気づいたようで、得意そうな顔をした。

P「あー、そういえば自己紹介がまだだったんじゃないかな?」

千早「そうですね。……如月千早です。よろしくお願いします」

さばさばとした態度で千早が会釈する。

のぞみ「新幹少女ののぞみ。よろしく」

つばめ「私は同じくつばめ、Pさんには以前イベントでお世話になったわ」

ひかり「同じくひかりよ。……あ、ごめんなさい。私ったらPさんだけでアイドルの方の分を……」

千早「いいえ、お気遣いなく。プロデューサーへのお礼を私も受け取るのは違いますから」

ひかりちゃんはホッとしたようだった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 22:52:28.04 ID:uh1GYAOp0<> 千早「それでは失礼します」

千早は他の挨拶に向かうつもりだ。

つばめ「また後でね、千早ちゃん」

のぞみ「お互い、いいステージにしましょう!」

千早「はい、ぜひ……」

少し振り返り、優しく微笑む千早。

P「気を悪くしないで……。確かに千早は少し無愛想なところあるけど……」

ひかり「ええ、本当は優しいですよね?」

初対面でちゃんと分かってくれる人もいるんだ。

千早の態度はやっぱりというべきか、なかなか理解されにくいから。

頑固なやつではあるけどね。

つばめ「ほら、ひかり。私たちも行くよ」

ひかり「え、もう?」

つばめ「もう? っていつまでいるつもりなの!?」

のぞみ「業界関係者だからって他の事務所の男性と長い間一緒にいたら怪しまれるわよ?大きな会場ほど、どんな奴がいても不思議じゃないし……」

ひかり「そ、そうよね。……それじゃあ、Pさん、また……」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 22:52:57.22 ID:uh1GYAOp0<> ひかりちゃんの微笑みはどこか儚げだった。

P「ああ、またね。ひかりちゃん」

そう言うと彼女は少し表情を緩ませた。多少の嬉しさが滲んでいたように見えた。

そして何かを振り切るように足を踏み出す。俺から離れる方向に……。

メンバー二人もひかりをよろしくね、と残して去っていった。

新幹P「よぉ、Pくん」

P「あ、おはようございます」

ちょうど入れ替わりで新幹Pさんがいらっしゃった。

新幹P「若いってのはいいねぇ……。俺の高校時代にそういうのは無かったからな」

P「あはは……」

高校時代は俺もそういうの無かったんですけど……。

新幹P「今日もよろしくな」

P「はい。こちらこそよろしくお願いします」

実は新幹Pさんとも交流があり、先日は女Pさんと3人で飲みに行ったりもした。

俺たちの先輩プロデューサーということで、いろんな話を聞かせてもらい、有意義な時間を過ごせたと思う。

その後、酔っ払って大変だったけど……。

新幹P「いやあ、この前は迷惑をかけたね」

P「迷惑だなんてとんでもない! もっと苦労させてください」

と言いつつ、やっぱりこの前は面倒だったなと思い返す。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 22:53:57.46 ID:uh1GYAOp0<> 新幹P「はっはっは……! やっぱり君はいい男だよ。彼女の一人もいないなんて信じられん」

P「恐縮です。でも俺はまだまだですからね……」

新幹P「まぁ彼女もすぐできるさ。もっとも女性がらみで苦労するだろうけどね……」

P「やだなぁ、俺はそんな見境なしじゃありませんって!」

そうだよね?

新幹P「うちのアイドルはまだ駄目だぞ?」

P「そそ、そんなことしませんよっ!」

新幹Pさんは笑って茶化す。

新幹P「君ならそう言うと思ったけど、俺は彼女たちが望むなら止めないさ」

普段からやる気の無さそうな新幹Pさんは、やっぱり無気力にそう言った。

P「そうですか。でも彼女たちなら俺みたいな出来損ないより、素敵な男性を見つけられると思うんですけど」

新幹P「君のそういう価値観はわからんなぁ……」

やれやれと、考え方の差に呆れてるのだろうか。

新幹P「彼女たちが君を素敵だと言ったら君は素敵な人間なんだ。恋愛ってのは客観的な視点で見ることほど愚かなことはないよ。全部そいつの主観に委ねられるだけだ」

P「そういうものですか……」

新幹P「そういうもんだ。俺の妻もな、印象にも残らないパッとしないようなやつだったけど、気が付いたら隣にいた」

P「……」

新幹P「かけがえのないものはすぐ近くにあるんだよな。灯台下暗しってやつか……。近過ぎて見えないことも多々あるものだ」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 22:54:31.09 ID:uh1GYAOp0<> P「なんだか深いですね……」

新幹P「まさか……! これが至極単純だってことがいつかわかると思うぜ?」

新幹Pさんはニッと口の端を上げる。

こういう気取った仕草が妙に似合う。気取ってはいるがキザではない。

新幹P「ははっ……! 説教するつもりはないんだが、どうにも説教臭くていけないな」

P「いいえ、視野が広がって俺はためになってますよ?」

新幹P「Pくんは本当に気遣いが上手いな。未だに勘当の話を疑っちまうよ」

ほう、と感心まじりに驚く新幹Pさん。

新幹P「まあ、おっさんが話過ぎてもどうしようもないからな。今日はお互い盛り上げていこうよ」

P「はい。全力を尽くします!」

新幹P「元気があっていいね。それじゃ、また……」

P「はい。……また飲みに行きましょう」

新幹P「おう」

しばらく新幹Pさんの背中を見送る。

無気力そうな背には今まで培ってきたキャリアを感じる。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 22:55:36.56 ID:uh1GYAOp0<> 伊達に新幹少女のプロデューサーをやっていない。

俺はちょっとした憧れを抱き、千早のもとへ急ぐのだった。

すぐに千早は見つかった。

奥で何やら話してるのは魔王エンジェルの三人だ。

普通に会話している。

千早「あ、プロデューサー」

P「悪い、待たせたな」

千早「いえ、東豪寺さんたちと話していたので時間は気になりませんでしたが……」

東豪寺? どっかで聞いたことあるな……って当然か。

魔王エンジェルのメンバーなんだから耳にしていて不思議ではない。

俺は他のアイドルのリサーチはあんまりしない。

そういうところは勉強不足だ。

視線を千早から魔王エンジェルに移すとやはりそこには見覚えのある女の子がいた。

だから有名な彼女たちはテレビで目にしていても不思議ではないのだが、そういうのではなくて……。

俺は一人の女の子をまじまじと見る。

その女の子は、どうかしましたか? と可愛らしく首をかしげる。

やっぱ初対面かな?

P「……初めまして、765プロでプロデューサーを務めておりますPと申します」

気を取り直して挨拶をするが返事は意外なものだった。

麗華「初めましてじゃないわ」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 22:56:13.56 ID:uh1GYAOp0<> P「え?」

驚く俺を見て、やれやれとため息をつく東豪寺さん。

麗華「私のこと忘れたの? 伊織のお兄様」

P「どうして伊織のことを?」

ますます驚く俺にすっかり幻滅していた。

麗華「もう! いくら水瀬家の次男だからって、この東豪寺麗華を忘れるなんて許しがたいわ!」

そこまで言われてようやく思い出す。

P「あ……あー! じゃあ東豪寺っていうと、水瀬家と家族ぐるみでお付き合いしてた……」

麗華「そうよ……。……私はあなたに会いたくてしかたなかったのに」

ぼそっと呟く麗華。

独り言だったので聞こえなかったことにした。

P「なんといいますか、申し訳ありません」

麗華「その喋り方やめていただける?」

P「いえ、ですが私はもう水瀬家とは関係ありませんので東豪寺家である麗華さんに対して無礼かと……」

麗華「あなたは最初から失礼だったと思うのだけれど……」

P「もう大人ですからね」

麗華「嫌だ。以前みたいに麗華って呼んでほしい……」

そんな顔しないでくれ。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 22:56:43.37 ID:uh1GYAOp0<> りん「あのーお二人さん盛り上がってるところですけど私たちのこと忘れてない?」

ともみ「自己紹介、まだ」

千早「そうね。久しぶりの再会で積もる話はあると思いますけど……」

P「ああ、すまない。……お二人のお名前も教えていただけますか?」

ちょっと形式的だが改めて尋ねる。

りん「はいっ! 魔王エンジェルの朝比奈りんでーす! 本日はよろしくお願いします!」

元気できゃぴきゃぴした女の子、やよいに似た黒髪のツインテールが特徴的で、つくっている甘い声がどうにも男ウケしそうだ。

ともみ「私は三条ともみ、よろしく」

口数が少なく短髪で、クールな雰囲気を纏い、他の子に比べ長身でスタイルもいい女の子。

P「朝比奈さんに三条さん、よろしくお願いします」

名刺を差し出す。

朝比奈さんは受け取った名刺をじっと見ていた。別に何にもおかしなところはないはずだ。

りん「Pさんって言うんですね」

朝比奈さんは邪悪な笑みを浮かべた。

ああ、この子こういう顔するんだ……。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 22:57:13.60 ID:uh1GYAOp0<> りん「良かったじゃーん麗華! この人に会うためにアイドル始めたんでしょ?」

麗華「はぁ!? な、何言ってるの!? ……そんなわけないでしょう」

りん「だってぇ、アイドルになった理由って誰かに見つけてもらうためって……言ってなかった? ね、千早!」

千早「え? ええ、確かにそう聞きましたけど……」

初対面の千早にも話したのか……。仲良いな……。

麗華「だからってこの人とは限らないでしょ!?」

ともみ「りんは悪趣味。けど麗華も往生際が悪い……」

りん「あはは……! 確かにからかいすぎたわ。でも麗華ったら可愛いんだから!」

麗華「だから私は……!」

千早「東豪寺さんが目的の人に会えたみたいでよかった」

麗華「千早まで……。そうよ私はこの彼に会いたかったの!」

麗華は開き直ったようだ。でも直球で言われると照れるなぁ。

千早「……プロデューサーってやっぱり顔広いんですね」

P「うーん、そうかもなぁ……。この業界でも水瀬って言ったら畏まられることもあるし……」

麗華「水瀬家の権力は伊達じゃないわ。水瀬の名前はある種の呪文ね」

P「そんな恐いことされるんですか?」

麗華「暴力組合じゃあるまいし、そんなことしてないと思うわ……。ただスポンサーから抜けられると企業側は大ダメージね」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 22:58:01.77 ID:uh1GYAOp0<> P「へえ、まあ私には関係ないですけど……」

麗華「それより何で急にいなくなっちゃったの?」

P「……それは」

麗華「言いたくないならいいわ」

P「いや、言う……ますよ。麗華……さんとは古い付き合いだし……」

麗華「別に無理して丁寧に話さなくてもいいんじゃないかしら?」

なんだか敬語じゃない方が自然で、それを彼女に見破られたようだ。

確かにいつもの調子で言葉が出てしまう。

P「……追い出されたんだ」

麗華「は?」

麗華だけでなく後ろで聞いてた、朝比奈さんと三条さんまで耳を疑ってるようだ。

千早は知っているのでリアクションがあるわけでもなかった。

P「だから、追い出されたんだ」

麗華「何それ……くっだらない……。どうしてそんなことに?」

P「……態度の悪い振る舞いと、粗暴な口調に、それに成績不良で俺のことは要らないんだとさ」

りん「俺……」

ともみ「俺……」

二人は俺の一人称が気になるようだ。さっきまで外面被ってたから、驚かれるのはしかたないのか?

俺が俺って言っても何も問題ないよな……?
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 22:58:53.58 ID:uh1GYAOp0<> 麗華「ふーん。あなたもあなただけど、家族も家族ね……。追い出すなんてやりすぎじゃあない?」

P「まあ名家水瀬だ。汚点は払拭しときたいんだろ」

麗華「私は汚点だなんて思わないわ。伊織もなぜ止めなかったのかしら……」

P「それは無理だ。親父の言うことは絶対。伊織はずっと親父が正しいと思ってたからな」

麗華「今は違うの?」

P「さあ……。でも心境に変化があったのは確かだ」

麗華「どういうこと?」

P「あいつの初めての抵抗が家の力を借りずに一人で働くことだからな」

麗華「へえ、あの伊織がねえ。……というより何であなた知ってるの?」

P「聞いてないのか? 伊織も765プロ所属のアイドルだよ」

麗華「え!? 聞いてないわ! アイドルってことも聞いてない! この前の会合のとき会ったのに……」

P「あー……。麗華がアイドルで伊織とは天と地ほどの差があるから言いたくなかったんだな……。ほら、プライドはいっちょ前にあるだろ?」

麗華「なんか納得……」

P「伊織には黙っててくれよ?」

麗華「えー? どうしよー?」

おい。なんか弱み握られたんですけど……。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 22:59:38.25 ID:uh1GYAOp0<> りん「麗華も大概じゃない……」

ともみ「そうは言っても麗華はたいてい裏目に出るから」

りん「あー……なんかわかる」

二人はやれやれと、麗華を見つめていた。

P「まあ言ってもいいけど……」

麗華「あら? 本当にいいの?」

P「後が面倒なだけで別に……。伊織のことだからちょっと怒ってから、めいっぱい甘えてきて数十分拘束される破目になりそうだ」

麗華「絶対に言わないから安心して!」

なんだ急に手のひら返しやがって……。それなら面倒は起こらなくて済みそうだけど……。

ともみ「ほら」

りん「本当ね」

二人は可哀想な子を見る目で麗華を見つめていた。

冷や汗をかく麗華はしばらくして落ち着いたが、表情は曇っていた。

麗華「お兄様、私のところに来ればよかったのに……」

P「ああ、思い浮かばないこともなかったが名家にうんざりしてたし、なにより家族に会いたくなかった」

麗華「……そう」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:00:52.50 ID:uh1GYAOp0<> 麗華は曇った顔にさらに影を落としたが、水銀灯のようにじんわりと、彼女の表情は光を灯した。

千早をチラッと見ると思いつめたような顔をしている。

りん「麗華よかったじゃない! 最愛の人にもう一度会えてさ!」

少しの間千早に気を取られていると朝比奈さんの茶々が入る。

麗華「だから違うって言ってるでしょ!」

ともみ「素直じゃない」

俺からしたら麗華のは敬愛であって最愛というわけではないと思うけど……。

りん「というかPさん、どこかで見たことあるよ」

ともみ「この前のバレンタインの人にそっくり……」

りん「そうだよ! それそれ! 765プロからは確か穴掘りアイドルの!」

ともみ「萩原雪歩」

りん「そうそう!」

穴掘りアイドルだと……? 雪歩、巷ではそんな愛称が付けられているのか……。

麗華「? それがどうしたの?」

りん「この人じゃない? そのイベントで新幹少女のひかりを助けた人!」

ともみ「確か765プロ関係者」

りん「ね、そうでしょPさん?」

P「ええ、多分私だと思います」

麗華「何よそれ?」

ともみ「麗華はテレビ見ないから……」

なんだかちょっとしたところでも有名になってしまったようだった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:01:31.37 ID:uh1GYAOp0<> P「それじゃあ俺たちはそろそろ行くよ。……千早?」

千早「……え? ええ。行きましょうプロデューサー。それではまた後ほど……」

りん「うん! じゃあね千早とPさん!」

ともみ「またね……」

P「朝比奈さんと三条さん、よろしくお願いします」

りん「りんでいいのに! Pさん、いつもの口調の方が私好き!」

麗華「あんた! すすすす好きって何!?」

ともみ「麗華慌てすぎ。別にそういう意味じゃない……」

P「ははは……。じゃあな麗華」

麗華「う、うん! また後で! 千早も!」

千早「ええ」

魔王エンジェルは戻り、俺たちはぽつりと残された。

P「ちょっとステージの周りの様子を確認しに行ってくる」

千早「それなら私も行きます。ちょうど雰囲気を確かめたいと思ってました」

春の始まりが感じられるこの野外コンサートのステージ周辺。

キャパシティは優に一万を超える。

P「いきなりの大舞台だが大丈夫か?」

千早「それは問題ありません……と言えば嘘になります」

サイネリアにも自信のあるような発言をしていたが、彩音さんの言うように大きな舞台の重みはしっかりと千早の上にのしかかっていたのか。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:02:05.70 ID:uh1GYAOp0<> 俺は考えもなしにこの仕事を引き受けたのだが、早計だったのかもしれない。

もっと経験を積ませてからでも……。

いや、今さら遅い。

千早「今みたいに気を紛らわせていないと震えが止まりません」

P「そうだったのか……」

それは大きな舞台に立てることへの緊張や不安、昂揚感、歓喜、そういったさまざまな感情が混ざり合っているのだろう。

何にせよ千早の精神が大きく揺さぶられていることに変わりはない。

俺はなんて声をかければいい?

こんなの口で言ったってどうにもならないことはわかる。

ただ俺は黙ることしかできないのが辛い。

だから一言。

彼女が震えることなく舞台に立てる一言を言ってあげたい。

『大丈夫だ!』

そんな無責任なこと言っていいのか?

『頑張れ!』

今さら何だ。彼女は頑張ってきただろうが。

『信じてる』

雪歩のときとは規模が違いすぎる。さらにプレッシャーを与えてどうするんだ?
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:02:36.51 ID:uh1GYAOp0<> 千早は失敗したくないはず。

いや、してはいけないとさえ考えるに違いない。

バカだよ俺は……。

千早の気持ちも考えずに勝手に彼女を選んで……。

失敗するかもしれないという彼女自身の恐怖や不安に目を向けることをしなかった。

前向きなことばかり考えてマイナスの面は無視していたんだ。

千早「プロデューサー」

苦悩している俺に急に声をかける千早。

P「どうした?」

俺は自分の感情を隠していつもの調子で答える。

本当に苦悩してるのは俺じゃないだろ。……千早だ。

千早「私を選んでくれてありがとうございます。……側にいてくれますよね?」

その言葉はどこから出てくる……?

P「もちろん」

俺にはそれしかできないしな……。

そう言うと、千早はにこりと笑った。

千早「安心しますね。プロデューサーの前で失敗なんてできませんから」

いいのか? 自分に枷を付けるようなことをしているんじゃないのか?

余計に震えが止まらなくなるんじゃないのか?
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:03:13.02 ID:uh1GYAOp0<> 千早「プロデューサー?」

俺はその枷を緩めてやりたいと思った。

P「せっかく人前で歌えるんだしさ、楽しめよ! 自分が気持ちよく歌えればそれでいいって!」

精一杯、緩めてやろうと思った。

言った瞬間、二人の間の空気が凍った。

刺すような千早の視線。

なんでそんな顔をするのか俺にはわからない。

千早「……何ですか、それ?」

P「何って……」

どういうことかますますわからない。励ましたつもりだけど……。

素直にそう言ってはいけない気がして口を噤んだ。

千早「プロデューサー、あなたが私に言ったこと……憶えてますか?」

P「……いつの話だ?」

千早「……もういいです。がっかりしました」

そう言葉を吐き捨てた千早は、踵を返して去っていく。

待てとも言えない。

俺は今この瞬間、彼女に言葉を投げかける資格も、彼女の手を取り呼び止める資格も失った。

動けと自分に言い聞かせても無駄だった。

ただ俺の額を、頬を、背中を、水滴がしたたり落ちていくだけだ。

千早が遠くへ行ってしまう。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:04:00.41 ID:uh1GYAOp0<> 動けずにただ突っ立っているだけの俺だったが、千早がやや混雑した道を人と接触して、しりもちをついたのを見て、ようやく一歩踏み出した。

P「だ、大丈夫か!? 千早!」

走って千早の傍まで行き、隣にしゃがみ込む。

千早は頑としてこちらを向こうとしない。

「あの大丈夫ですか? ……!? ご、ごめんなさい!」

ぶつかった人は急に慌てて謝る。どうしたんだ?

千早「大丈夫……ですから……」

声を絞り出した千早は逃げ出すように走って戻っていった。

P「お、おい! 千早っ!」

「あの……」

その場に取り残されたその人は不安そうに尋ねてくる。

P「すみません。……大丈夫ですので」

俺はそう言って千早が向かった方向とは別の方向に歩き出す。

「いや、本当に大丈夫なの……? 彼女さん……泣いてたけど……」

俺の耳にその言葉が届くことはなかった。

今、ステージとは離れたベンチに俺は腰掛けている。

パッと見、周囲には誰もいなかったので完全に一人だ。

千早の言っていたことを今一度考える。

俺が以前言ったこととは……そもそもいつのことなんだ?

冷静になるといろいろなことが見えてくるもので……。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:04:39.07 ID:uh1GYAOp0<> まず技術的なことじゃない。

その面でならアドバイスしてやれる。

P「それ以外か……。千早の怒りの発火点は……」

探ってみる。

『楽しめよ! 自分が気持ちよく歌えばそれでいいって!』

ここ以外に思いつかない。

そうしてすぐ気付く。

P「あー! もう! 何言ってんだよ俺は!!」

そうだ俺は以前、千早に自己満足で歌うことを否定した。

歌を聴く人の気持ちを考えて歌うんだと言った。

矛盾してる。

そのことに怒りを覚えたんだ。

本当に何にも知らないんだな、何にも考えてなかったんだな俺は……。

冬馬「あんた、こんなとこで何叫んでんだ?」

聞き覚えのある声におそるおそる振り向くと、そこには見知った顔。

ペットボトルを四本抱えた冬馬くん。一本はすでに量が減っていた。

P「……見てたの?」

数秒、間が空く。

すると冬馬くんが吹き出し、盛大に笑い出した。

冬馬「はっはっはっ……!! 見てたの? ってそりゃ見てなくたってあんな大声出せば嫌でも見るわ!」

俺の物まねをしながら話す冬馬くんはやはり芸人気質だなと思った。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:05:12.88 ID:uh1GYAOp0<> P「なんだよ……」

冬馬「いやー、あんたもそういうところあるんだなって思ってよ。驚いたまったぜ」

P「バカにしないでくれ……。いや、思い切りバカにしてくれ」

冬馬「どっちだよ! まああんたみてーにしっかりしたプロデューサーでもああやって叫ぶんだな」

P「それこそ笑いものだよ。俺は見ての通りしっかりしてないし、いつも手探りでやっている。仕事をもらえるのも運がいいだけさ」

冬馬くんの笑いはぴたりと止んだ。

さっきまでの楽しそうな表情は失せ、初めて見せる真面目な顔に俺は肺が押しつぶされそうな感覚に陥る。

冬馬「あんた本当にどうしたんだ?」

彼はどうしたものかと頭をかく。言葉に迷っているようだ。

冬馬「何があったのかなんて全く興味ねえし、心底どうでもいいんだけどよ。今抱えてる問題が自分の能力のせいなら、まだ努力が足りねーんじゃねえのか?」

違う。努力だけじゃどうにもならない。

冬馬「どうにかなる」

P「え?」

心を読まれた? 冬馬くんってエスパー?

冬馬「いや、あんた……どうにもならないって顔してたからよ」

P「そ、そうか……」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:05:48.88 ID:uh1GYAOp0<> 冬馬「でもどうにかなるんだよ」

断言する冬馬くん。

冬馬「いくら失敗しても何度でも立ち向かうのが努力なんじゃねえのか?…俺はそうだった。才能とか関係ねえ。俺にだって才能はねえよ。だが努力はした。そいつは俺を裏切ってない」

P「……なら人とのぶつかり合いもその努力とやらでどうにかなるのか?」

冬馬「なるだろ」

即答だった。

冬馬「喧嘩しても仲直りする努力をする。関係を修復したくないんだったら努力する必要はないけどよ」

P「……」

冬馬「まあ大体、今のあんたの質問で何に悩んでるのか分かっちまった。これからも一緒にやっていくなら仲直りした方がいいぜ」

人生は面白いと思った。俺は彼より長く生きてるのに年下の子から何かを教えられるなんて……。

P「……ああ、ありがとな」

冬馬「いや、あんたがしけた面してたからつい熱くなっただけだ。……あー、あと努力の方向性だけは間違えんなよ」

P「はははっ……! いつになく真面目な顔で驚いたよ」

冬馬「ばーか。俺はいつも真面目だっつの」

そういえばそうだったな。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:06:39.76 ID:uh1GYAOp0<> P「あと君たちのプロデューサーもしっかりした人だと思うけど……」

冬馬「ああ、あいつは別にそんなことねえ。つまんねーミスばっかするし、この前は遅刻してくるし、気持ちの切り替えも下手だし……」

冬馬くんの口からは女Pさんの短所がスラスラと出てくる。遅刻は俺のせいでもあります。ごめんなさい。

冬馬「……けどな、それでも信用できる」

P「……そうか」

冬馬「あんたもここまでやってこれたんだ。ならみんな信用してるだろうよ」

P「自信ないな」

冬馬「だったら自信がつくように……」

言葉の先を俺が引き取った。

P「……努力だろ?」

冬馬「……そうだな」

彼は口の端をフッと上げ、わかってるじゃねーか、と言った。

冬馬「これやるよ。……じゃあな」

冬馬くんは持っていた未開封のペットボトルを一つ投げてよこした。

俺が慌ててキャッチしたそれは炭酸飲料だった。

パシリなのに俺にあげちゃっていいの?

P「いいのか? 誰か困るんじゃ……」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:07:09.44 ID:uh1GYAOp0<> 冬馬「うちのプロデューサーは自称大人だから我慢してくれると思うぜ……。それでも気にするなら、あんたが後で直接買ってやってくれよ」

P「……じゃあ、遠慮なくいただくよ」

冬馬「ああ、俺はもう行くぜ」

ちょうど何か飲みたかったところだ。目の前に飲み物があることで喉の渇きが一層高まる。

ふたを開けた瞬間、炭酸飲料は勢いよくふたを押し出し砂糖水とともに俺の額をとらえた。

P「ぶはっ!!」

その瞬間、冬馬くんの笑い声が聞こえてきた。

様子を少し見てたのだろう。すでに彼は遠くにいる。

P「……冬馬くん、やっぱり芸人じゃないのか?」

明らかに確信犯だった。

一方ステージ裏では千早、他アイドル達が控えていた。

Pはまだ戻っていない。

千早「プロデューサーのばか……」

千早は椅子に座り、一人で落ち込んでいた。

刻一刻と出番が迫る中、Pを突き放すような態度をとったことに後悔して始めてるのだ。

彼がいなければ本来のように歌える自信がない。

千早「けどプロデューサーは私に言ったことを……」

葛藤は終わらない。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:07:52.65 ID:uh1GYAOp0<> 千早「私のばか……」

そんな千早のもとに女性一人と男性二人がやってくる。

女P「初めまして、ご挨拶がまだでした。961プロ所属ジュピターのプロデューサーを務めております女Pと申します。本日はよろしくお願いします」

北斗「初めまして、美しいお嬢さん。俺はジュピターの伊集院北斗。よろしく」

翔太「僕は御手洗翔太! よろしくね! 本当はもう一人いるんだけど……時間が時間だからね。ところでお姉さんはなんていう名前なの?」

女P「こら、翔太。もっと丁寧にお聞きしなさい」

どうやら出演者だということを千早は認識し、立ち上がる。

千早「いえ、構いません。……私は765プロダクション所属の如月千早です。よろしくお願いします」

女P「765プロ!?」

翔太「プロデューサー……その名前に反応しすぎ」

北斗「しかたないさ翔太。愛する男性のいる職場なんだからね」

女P「愛っ……! 北斗! 適当なこと言うな!」

北斗「はいはい」

千早「あなたもプロデューサーを?」

女P「あなたも?」

千早「いえ、実はプロデューサーに思いを寄せる人を今日だけで二人見たので……」

女P「え? 二人も?」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:08:36.64 ID:uh1GYAOp0<> 翔太「もう自分も好きですって言っちゃってるようなもんだけど……そのリアクション」

北斗「へえ、やっぱりモテるんだPさんは……」

翔太「まあ一人は思いつくけど、もう一人は誰だろうね?」

女P「一人思いつくの!?」

北斗「逆になんでうちのプロデューサーは思いつかないのか不思議ですけどね……」

翔太「新幹少女のお姉さんだよ。ひかりお姉ちゃん……多分ね」

女P「えー!? 新幹少女!?」

北斗「落ちたところをPさんに助けられたのが決め手だったと思うんだけど見てなかったんですか?」

女P「あ、そういえば……」

翔太「にっぶいなぁ……」

女P「うるさいわよ……」

北斗「ところでそのPさんはどこにいるんだい?」

千早「プロデューサーは……知りません」

千早は誰がどう見ても言い辛そうに口を噤む。

翔太「あー、何かあったんだ。聞かない方がいいのかな?」

千早「ええ、これは私たちの問題だもの……」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:09:29.05 ID:uh1GYAOp0<> 女P「そう……。でもあなたもPさんも早く仲直りすることをお勧めするわ」

千早「それは分かっているのですが、私にはプロデューサーの考えてることも、プロデューサーが何であんなこと言ったのかも分かりません」

千早はそのことが気がかりでプロデューサーに問い詰められない。

もう一度、Pが千早に何て言ったのか聞いて、憶えていないと言われたら千早は彼を許せなくなると思った。

それが何より怖かった。

今こんなに慕っているのに……。

あの言葉だけを糧にアイドルを、歌を頑張ってきたのに……。

そこから今の関係が瓦解してしまいそうでならなかった。

北斗「やっぱ一悶着あったのは確かなのか……」

冬馬「おい。あんたら飲み物買ってきたぞ」

ちょうど冬馬が戻る。

翔太「わーい! ご苦労様、冬馬くん!」

ナチュラルに翔太が上からものを言う。

冬馬は少しむっとしたが大して気にも留めずに流した。

北斗「サンキュー冬馬」

女P「あれ、私のは?」

冬馬「765プロのプロデューサーにあげた」

冬馬は悪びれもせず答える。

女Pは責めようにも責められなくなった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:10:20.18 ID:uh1GYAOp0<> 冬馬「ん、そっちは?」

北斗「ああ、彼女は765プロの……」

千早は立ったまま一礼する。

千早「初めまして、765プロダクション所属の如月千早です。よろしくお願いします」

テンプレートをすらすらと口に出す。

冬馬「ああ、こっちこそよろしく頼む。俺はジュピターの天ケ瀬冬馬だ」

冬馬は視線をさまよわせながら少し考える様子を見せるが、しばらくして千早に向き直る。

冬馬「そういや、あんたんとこのプロデューサーに会ったぜ」

千早はぴくりと反応する。

冬馬「なんかなぁ、落ち込んでたみたいだけどよ。あいつはあんたのことを第一に思ってるみたいだ」

千早「……それで?」

冬馬「なんだ、冷めてんのな……。まあ、自分を責めてたって話だ。あいつはちょっと考えすぎる部分もあるみたいだし……」

千早「……」

千早は腹立たしかった。

冬馬に腹を立てたわけではない。

プロデューサーはアイドルが、千早たちが生きがいだと言っていたのに信じ切れなかったことが悔しかった。

千早「愚かなのは私……」

女P「如月さん……あまり自分を責めることは……Pさんにとって一番辛いことだから……」

涙が急に込み上げる。

こういう感情が昂ったとき、千早は決まってロケットを握りしめる。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:10:52.44 ID:uh1GYAOp0<> いつもは家に置いてあり、今日の大きな舞台への不安から持ってきたのだが……。

しかし無い。

首に着けておらず、いつでも取り出せるようにポケットに入れていたはずだ。

961プロの面々は、急に慌ててポケットやカバンの中を探る千早に、つい疑問符が浮かぶ。

翔太「どうしたの? 急に慌てて忘れ物?」

千早「無いの! 私が大切にしているロケットつきのペンダントがないの!!」

周辺のアイドル達も千早の異常な動揺に奇異の視線を向ける。

気になって動いたのは新幹少女のひかり、そして魔王エンジェルの麗華だ。

961プロの四人とひかり、麗華は事情を聞く。

ひかり「どっかで落としたのかしら……」

麗華「それ以外ないでしょう」

冬馬「大事なものなんだろ? 探しに行かなきゃダメだろ!」

口々に言うが公園内は人でほとんど埋め尽くされている。

そして無情にも……。

スタッフ「では本番間もなくですので、簡単に打ち合わせを行います!」

ライブ開始まで15分しかなかった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:11:38.35 ID:uh1GYAOp0<> 俺は冬馬くんのせいで、べたべたする顔を洗う。

ハンカチで拭きながらステージの方まで戻る。

時計を見ればそろそろ打ち合わせが始まるところだ。

P「やばいな」

俺は急いで戻ってきた。

「では本番間もなくですので、簡単に打ち合わせを行います!」

危ない。ぎりぎり間に合った。

P「千早はどこだ?」

辺りを見回し、すぐに見つかる。

961プロ、ひかりちゃん、麗華に囲まれてるからわかりやすかった。

P「……なあ千早」

意を決して話しかけた。

千早「プロデューサー!」

今にも泣きそうな顔で駆け寄ってくる千早。

P「うおっ! どうした? 怒ってたんじゃあ」

千早はそれどころでは無いようで、いつまでもうろたえている。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:12:24.32 ID:uh1GYAOp0<> 女P「あなたたちは打ち合わせに……。私から事情を説明するわ」

女Pさんが一歩前に出てアイドル達をまとめる。

アイドル達は不承不承集まっている方へ向かった。

P「千早も行くんだ」

千早「……でも」

P「俺が必ず何とかする。お前は歌うんだ。……ファンのために歌うんだ」

千早はハッとして、ついに涙を流す。

千早「プロデューサー……憶えて……」

P「さ、早く」

目を腕でごしごしこすって千早も向かった。

P「女Pさん、それで……」

女P「はい。どうやら彼女の大事なロケットがついてるペンダントを落としたみたいなの……」

P「ロケット付のペンダント? 初めて聞きましたよ」

女P「そうなの?」

知ってると思ったのか、少し驚く女Pさんだったが気を取り直す。

女P「それで、彼女、今日の舞台で緊張をほぐすためにそれを持ってきたらしいんですけど……」

そこまで言われて俺は察する。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:12:50.44 ID:uh1GYAOp0<> P「無くしたんですね」

女P「ええ、ポケットに入れてたみたいですけど……」

俺はすぐに思いついた。

ポケットからこぼれるなんてなかなか無いと思うが、もしあるとすれば千早が倒れたあの時だ。

P「俺、探してきますので女Pさんは千早のことよろしくお願いします」

女P「待って! それなら私も……」

P「ダメだ! これ以上あなたを俺たちの面倒に巻き込むわけにはいかない。それにジュピターはどうするんですか?」

女Pさんは自分の軽率な行動に戸惑い、恨めしそうに俯く。

P「それに千早を任せられるのもあなたしかいない……。申し訳ありませんが任せてもいいでしょうか……?」

俺はお願いする立場にいるんだ。女Pさんに改めて頼む。

女P「……あなたのお役に立てるなら、喜んで引き受けます」

もの悲しそうだが芯の通った声に俺は安心する。

そうして千早がぶつかった場所に走って向かう。

打ち合わせも終わり、もうオンステージ間近だ。

千早はさっきと同じ調子で俯いていて、何度も何度も目をこすっていた。

女P「ダメよ如月さん。そんなにこすっては目が腫れてしまうわ。これを使って軽く拭いて……」

女Pはポケットティッシュを千早に渡した。

千早の鼻をすする音に周りのアイドル達が心配して見守る。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:13:31.86 ID:uh1GYAOp0<> 新幹P「どうしたんだ? さっきもなにか騒がしかったようだが……」

女P「新幹Pさん……。実は……」

女Pは新幹Pに事情を話す。

新幹P「ああ、それでPくんはいないわけか……」

新幹Pはしばらく考えると新幹少女を招集した。

つばめ「なぁに? プロデューサー」

新幹P「新幹少女がトップバッターなのはいいよな」

のぞみ「ええ、ここに来る前からそのつもりだけど……」

新幹P「お前らのトーク、長引かせられないか?できればファンが聞き飽きる手前まで……」

ひかり「……なるほど、やってみるわ」

つばめ「私たちのとっておきの話すれば飽きないわよ」

のぞみ「つばめ、それにも限りがあるでしょ……。まあできるところまで引っ張ってみるわ」

新幹P「おう。頼んだ」

「それでは新幹少女の皆さんスタンバイしてくださーい!」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:14:03.77 ID:uh1GYAOp0<> 今回参加は16組のアイドル達。

千早の順番は4番目。

『3月頭の大イベント! アイドルによる雛祭りアイドルフェスティバルが今年もやってきました!』

俺はスピーカーから大音量で流れる司会の開会の言葉を聞きながら目的の現場にたどり着いた。

千早の出番は早めだ。

すぐに探し出さなければ……!

もうすべてを投げ捨て、スーツ姿にもかかわらず四つん這いになってペンダントを探す。

この人ごみだ。邪魔になっているが構いやしない。

周りの人が何か言っているが関係ない。

俺は一心不乱に短い雑草をかき分ける。

辺りも徐々に暗くなっていく。

P「どこだ……ペンダント……」

どの辺にあるのか曖昧ではあったがここら辺だというのは間違いないと思う。

道行く人に蹴られる。

邪魔だと罵られる。

だがやめない。探すことをやめない。

ひかり『みなさんこんばんはー! 新幹少女でーす!!』

ライブはさっそく始まったようだ。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:14:59.37 ID:uh1GYAOp0<> 女P「大丈夫。Pさんはきっと見つけてくるわ。あなたがやるべきことを考えましょう?」

千早「……ダメ、あのロケットがなきゃ私……。それにプロデューサーも傍にいない……。私はきっと歌えない」

千早はこれまでにないほどの負の感情を吐露する。

女Pには手に余るほどの千早の不安が彼女にも緊張を与える。

そこで見兼ねたのは冬馬だった。

冬馬「うじうじしたってしょうがねーだろ。それより如月、今お前にできることはしっかりとこのライブで成功を収めることだろうが」

北斗「冬馬、その言い方はどうかと思うぞ」

翔太「北斗くんの言う通りだけど、冬馬くんの言うことももっともだよ」

冬馬「その大事なロケットやらもない、プロデューサーもいない、だから私は失敗します……じゃねーんだよ。失敗しないための努力をしろよ」

翔太「出たー。冬馬くんの努力論」

北斗「ま、冬馬らしいな」

冬馬「うっせ。……まだやれることと言ったらライブを無難に終えることくらいしかないぜ」

しかし千早は彼を睨み据える。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:15:43.08 ID:uh1GYAOp0<> 千早「あなたに何がわかるの……?」

凍てつくような声音に空気が固まる。

冬馬「何にもわかるわけねーだろ」

だが冬馬はいっさい怯まなかった。

冬馬「あんたのそれは一人よがりだ。あんたのプロデューサーは誰のために歌えって言ったんだ?」

千早は黙った。いや言い返すことができない。

彼女は喉の奥に込み上げる熱いものに気道が塞がれる思いをした。

女P「冬馬、黙りなさい」

そう一言、女Pが言うと冬馬はつまらなそうに離れる。

だが女Pも信じることしかできないのだった。

きっと来ると信じていたが、ついにPはやってこなかった。

千早の顔は絶望に染まる。

「如月千早さん! スタンバイお願いします!」

女P「まだよ。あきらめないで如月さん。トークで場を繋ぐのよ……」

千早は話を聞いてるのか聞いてないのかわからないまま、とぼとぼとステージの方へ向かっていく。

ジュピターの三人も彼女の疲弊した表情を見ていたが、さすがに声をかけられなかった。

『それでは今回初めての出場となる765プロダクションの如月千早さんです! どうぞ!』

前のアイドルが退場して早くも呼ばれる。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:16:54.35 ID:uh1GYAOp0<> ファンの人たちも心配になるような顔で登場する千早。

気力がほとんど抜けている千早は客席を見渡し、絶望の中さらに緊張と不安が一気に襲い掛かるのを感じた。

足の震えが止まらなかった。

千早『……あ、あの、は、はじ、初めまして……。765プロ……ダクション所属の、如月千早…です』

マイクを通した声は震えている。視界は滲んでいる。

上手くいってない自分が恥ずかしい。悔しい。みんなに申し訳ない。

いろんな気持ちがごちゃごちゃになってもう止まらなかった。

涙よりも先に流れてくる鼻水をすする。

黙ってしまって数秒、さらに鼻をすする音も聞こえれば客席もざわめき始める。

千早は嗚咽を漏らして泣きそうになってしまった。

P「頑張れ千早ーーー!!!!」
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:17:30.36 ID:uh1GYAOp0<> 俺は警備員に関係者であることを示し、すぐに前の席まで走っていく。

真ん中は埋まっているので、脇の方の誰もいないところを走ってきた。

そして、千早が落としたであろうペンダントを振りかざしながら叫んだ。

P「頑張れ千早ーーー!!!!」

静かになった客席に響き渡る俺の声、自分でも驚くほどの声量なのだが気にする余裕もない。

P「千早の歌を聴かせてくれー!!」

傍から見ればかなり痛いコアなファン。

現に周りの人は引き気味だ。

そんなことはどうだっていい。

P「落ち着け千早! 落ち着いて深呼吸だ!!」

千早はさっきの気力の無い表情から光を取り戻した。

そして俺の言ったとおりに深呼吸する。

よかった。俺の声は届いてるみたいだ。

さっきまでの弱弱しい表情はもうない。

客席で見ているお前ら、よーく見とけ、これが如月千早だとその目に焼き付けておけ!

さあ、仕切り直しだ。

千早『お見苦しいところをお見せしてすいませんでした。改めて、765プロダクション所属の如月千早です』

さっきとはうってかわって、堂々とした態度。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:17:56.54 ID:uh1GYAOp0<> 女P「ああ、本当によかった。信じてました……Pさん」

冬馬「これで俺たちも飛ばしていけるってもんだぜ!」

北斗「そうだな冬馬、可愛らしいエンジェルちゃんが苦しんだままじゃ俺も十分に楽しめないからね」

翔太「ふう。お兄さん、冷や冷やさせてくれるね……」

麗華「よかったわね、千早……。お兄様は本当に女の子泣かせね」

千早『実は今日が初めてのステージで、とても緊張してました。さっき声が出なかったのもそのせいですけど……』

千早は俺の方をちらっと見ると、全体に向けてにこりと笑った。

千早『ファンの方が応援してくださったおかげで緊張もほぐれました。今は皆さんに歌で感動を届けたい気持ちでいっぱいです』

最後に、よろしくお願いします、と一言の後、伴奏が流れ始める。

『蒼い鳥』

千早の二つ目の曲。つまり新曲だ。

目立ってはないので知る由もないだろうが、この新曲は今初めて、発表されたことになる。

会場にいる人はサイリウムを振るうのも忘れて、ただ千早の歌に圧倒されていた。

そして曲が終わる。

余韻を十分に味わい、拍手喝采。

『……如月千早さん、ありがとうございました!! 初ステージとは思えない圧巻のステージでした!! 今回披露した曲は本人二枚目のシングルに収録されているそうです。一週間後に一部店舗で販売するそうです。ぜひお買い求めを!』

司会の宣伝も入り、千早の初ライブは終了した。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:19:05.21 ID:uh1GYAOp0<> その後、サイネリアやジュピター、取りに魔王エンジェルとこの辺はやはり盛り上がりが違った。

うちとの人気の差を実感させられる。

もっとも、一番盛り上がったのは最後の出演アイドル全員での合唱だった。

こうしておよそ2時間に及ぶ雛祭りアイドルフェスティバルは全行程を終了。

裏ステージで千早を待つ。

ところどころでお疲れ様と労いをかけ合う。

千早「プロデューサー!!」

千早は俺を見るなり胸に飛び込んできた。

千早「本当に……ありがとうございます!!」

泣いている。

P「千早、これ……」

俺はロケット付のペンダントを手渡した。

千早「プロデューサー、こんなに泥だらけで……。……手も」

と千早が俺の土まみれで赤くなった手に触れた瞬間、激痛を感じる。

P「ぐ……」

苦痛に顔が歪むが必死で隠そうとする。

千早「プロデューサー?」

P「何でもないよ……それよりみんなに挨拶してきたらどうだ?」

千早「はい。行ってきます」

そう言って千早は切り替え、出演したアイドルやスタッフのもとへ向かう。

どうやら、千早には気づかれずにやり過ごせたようだ。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:20:16.83 ID:uh1GYAOp0<> 入れ替わりでやってきたのは女Pさん、ひかりちゃん、麗華の三人だった。

ばったり鉢合わせた三人はお互い顔を見合わせ、会釈している。

陰で、魔王エンジェルと新幹少女それぞれの残りメンバーが見守っていた。

女P「Pさん……信じてました。絶対見つけて帰ってくるって……」

麗華「まったく冷や冷やしたわよ……。そんなボロボロになって……」

ひかり「Pさん、手痛めてますよね……」

ひかりちゃんがそう言うと他の二人は、何だって? と言わんばかりにひかりちゃんを見つめた。

よくわかったな、なんて言いたいはずもなく、俺は強がることにした。

P「そんなことないよ。ちょっと汚れちゃったから怪我してるようにも見えるけど……」

俺は手をぷらぷらと振り、大丈夫なことをアピールした。やっぱ痛い。

ひかり「嘘はいけません。今、痛いって顔しました」

よく表情を見る子だ。素直に感心した。

ひかりちゃんは俺の右手をきゅっと握る。

女P「あ……」

麗華「あ……」

二人とも、何だその反応は……。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:21:04.27 ID:uh1GYAOp0<> P「……つっ!」

ひかり「やっぱり……」

P「おおげさだなぁ! たんなる突き指だよ……多分」

麗華「ちょっと見せて」

麗華が割って入ると、ひかりちゃんは残念そうな顔をした。

麗華「これはどう?」

そういう麗華は俺の右手を伸ばしたり握ったりしている。

俺はやせ我慢しようと思ったが無理だった。

痛みに表情が歪んでいるのが自分でもよくわかる。

しかし無理にでも笑顔を作って麗華をチラッと見る。

彼女の表情はうっとりしていた。

麗華「ね、どう?」

うわあ、こいつ生粋のドSに違いない。

P「俺が悪かった。痛いからやめてくれ麗華……」

麗華はやめてくれたが、その顔は俺を見てうっとりしたままだった。

女P「……気づかなくてごめんなさい」

P「あー、むしろ気づいてほしくなかったですから……。あはは……」

女P「でもなんでそんな怪我を?」

そのことは全員気になるようで、俺に注目している。

P「実は、ペンダントを拾ったのと同時に通ってた人に踏まれちゃって……。変な踏まれ方したかなとは思ったんですけどね。今になって痛み始めて……」

ペンダントはしっかり守れたんだけど。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:22:03.26 ID:uh1GYAOp0<> 麗華「一度診てもらった方がいいわね」

ひかり「私もそう思います」

P「ああ、わかったよ。心配してくれてありがとう」

ひかりちゃんは徐々に顔を赤くして、俯いた。

麗華はまた俺の右手を触って、俺の顔を確認して楽しんでいた。

本当に悪趣味だなこいつ。

女Pさんが止めてくれて助かった。

しばらくすると、何やらちょっとしたオーラを纏わせたおじさんが二人こちらへ向かってくる。

高木「やあPくん! 調子はどうかな?」

P「高木さん! お久しぶりです! こっちは順調ですけど……社長はどうしてこちらへ?」

高木「それはね、彼が入場券をくれてね……」

高木社長が紹介した先には……。

黒井「久しぶりだなへっぽこ!」

P「黒井さん!?」

女P「しゃ、社長!?」

女Pさんは頭を下げる。

ひかりちゃんは誰? と首をひねっていたが、麗華は特に驚きも何もしない。

麗華「あら、高木様に黒井様じゃいらっしゃいませんか。ご無沙汰しております」

とても丁寧に挨拶している。さすがは東豪寺、顔見知りのようだ。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:22:41.96 ID:uh1GYAOp0<> 高木「おぉ! 君は確か東豪寺家の麗華ちゃんだね……」

P「社長知ってるんですね」

高木「ああ、人脈は大事にしていてねぇ……」

黒井「ふんっ! その割にお前はコネクションというものを使わないのだからバカなのだっ!」

高木社長は笑って流す。

黒井「それよりへっぽこ、貴様なぜ追い出されたとき私に連絡を入れなんだ。わざわざ貴様の家までスカウト……ではなく、まずい茶を飲みに行ってやったというのに!」

P「すみません。連絡先分からなかったんです。それと、先に高木社長の方に連絡入れようって決めてましたので……」

黒井「はっ! まあいい。ところで女P」

女P「はい」

黒井「今日のジュピターだが、まだまだ甘い!」

女P「申し訳ありません」

結構厳しいんだな黒井さん。

黒井「だがそこまで見れないものでもなかった。少しだけ評価しよう……」

……と思ったがその様子はずいぶん満足そうだ。

女P「ありがとうございます」

黒井「これから私のディナーに付いてくるだろう?」

女P「はい、是非」

黒井「高木とへっぽこも来るだろう?」

なんだ、奢ってくれるのか黒井さん。というよりへっぽこって俺のことかよ……。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:23:12.61 ID:uh1GYAOp0<> 高木「そうだね、うちのアイドルも連れていこうか」

黒井「無論だ」

P「あの、俺、病院に行くので……」

黒井「なにぃ……?」

P「ちょっと、今日はいろいろありまして怪我してしまったんです。それで……」

高木「あー、そういえば君、前で如月くんのこととても応援していたね。素晴らしい応援っぷりだったよ」

ぎゃあ! 見られていたのか!! 恥ずかしい……。

千早「プロデューサー、挨拶は済みました。……社長?」

ちょうど千早が戻ってくる。

高木「久しぶりだねぇ……。今日は素晴らしいステージだったよ! 最初はどうなるかと思ったけどねぇ」

千早「……プロデューサーが助けてくれました。他のみんなも私を助けてくれました」

千早は少し言い辛そうにしていたが言葉に出たのは、助けてくれたということ。

千早「新幹少女のみんなが場を繋いでくれたり、魔王エンジェルのみんなは心配してくれてジュピターのみんなは励ましてくれて……」

今日あった出来事を断片的に彼女の主観で話している。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:23:58.84 ID:uh1GYAOp0<> 千早「それでも私は未熟で、結局プロデューサーがいないと何にもできませんでした」

P「俺だって何もできないよ。……千早が頼ってくれなきゃ何にもできないただの木偶だよ」

高木「うむ。君たちはアイドルとプロデューサー。どちらかが欠けていてはダメなんだ。これでお互いの絆が深まったのなら良しとしようじゃないか!」

その通りだ。俺と千早の関係はより強固なものに修復したのだからそれでいい。

高木「では、新幹少女の方々と魔王エンジェルの方々にもお礼を兼ねて食事にお誘いしてはどうかね?」

黒井「私は構わんぞ」

P「というわけなんだけど、どうかなひかりちゃん?」

ひかり「私、みんなに言ってきます!」

そう言ってすぐにメンバーのもとに戻って行った。

P「麗華は?」

麗華「そうね。ならお世話になるわ」

彼女もまた報告に行った。

そんな二人と入れ替わりでジュピターが戻ってくる。

冬馬「はっはっは! 今日もいいステージだったな!」

北斗「冬馬が暴走しなきゃな……。アドリブでダンスを変更するのはやめてくれよ」

翔太「だよねー」

冬馬「まあお前らじゃなかったらそんな勝手なことしねーよ……あれ? おっさんじゃねーか」

黒井「冬馬、なんだその口のきき方は……これからディナーに行こうと思ってたんだが冬馬は帰れ」

子供か……。冬馬くんも失礼すぎるよ……。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:24:51.73 ID:uh1GYAOp0<> 冬馬「マジで!? 悪かったって社長! 俺も連れてってくれ!」

なんだか情けないなぁ。

黒井「ふんっ! 冗談だ」

翔太「クロちゃん相変わらずだねー」

北斗「黒井社長、わざわざ見に来てくれたんですね」

黒井「ここの入場券がもったいなかったからな」

高木「ははは……。素直じゃないなあ。大きな舞台で一番張り切っていたのは黒井だろう」

黒井「高木ぃ、余計なことを言うんじゃない!」

高木「あんな大荷物で私の分のサイリウムまで持ってきてくれたものだから助かったよ」

黒井さんは平常運転らしい。

出てくる言葉とは裏腹にアイドルのことを自分の子供のように接している。

女P「あの、高木社長。私のこと憶えてます?」

そんな中、高木社長に話しかける女Pさん。

高木「おや、久しぶりだねぇ。以前会ったのは君がまだ大学生だった頃かな? 黒井が言っていた有能社員は君のことだったのか……」

黒井「おい高木、私は決してそのように言った憶えはないが?」

多分言ったんだろうなぁ。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:26:42.44 ID:uh1GYAOp0<> 高木「そうだったかな?」

女P「あの時はお世話になりました」

そういえば彼女も高木社長と知り合いだって話を聞いたことがあったな。

雑談をしていると新幹少女、魔王エンジェルの二組が戻ってきた。

新幹P「おいおい。なんだPくんこの顔触れは……」

P「あ、新幹Pさん。うちの社長と961プロの社長ですよ」

新幹P「そりゃあわかるんだが……いいのか? 俺たちもご一緒して」

P「もちろんです! 新幹少女が長引かせてくれなかったらもっと大変なことになってたかもしれませんから」

新幹P「そうか、なら遠慮なく甘えることにしようかねぇ……」

そう言って社長たちに挨拶に向かおうとする新幹Pさんだったが、立ち止まり俺に振り返る。

新幹P「あ、そうだPくん。……よくやったな。いいもん見せてもらったよ」

ニッと笑って俺に背中を向ける。

P「はは……。やっぱかっこいいな……」

つばめ「Pさんお疲れ様。……ちょっととっつきにくいところあるけどね」

のぞみ「お疲れ様です。……無気力な感じが無ければいいんですけどね」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:27:21.41 ID:uh1GYAOp0<> P「お疲れ様、二人とも……。ありがとね」

つばめ「やだなあPさん。ひかりの恩人なんだから遠慮しないでよ」

のぞみ「そうですよ。カンペに、巻いて、って出たときはちょっと焦りましたけど……」

気楽に答えるつばめちゃんと思い出して困ったように笑うのぞみちゃん。

P「抱きしめたいくらい感謝してるよ」

つばめ「セクハラは禁止です」

のぞみ「そういうのはひかりにやってください」

ひかり「のぞみ! な、何言ってんのよ!」

P「やんないって……」

麗華「楽しそうねお兄様」

続いて魔王エンジェルの面々だ。

りん「Pさん、ナイスガッツでした!」

意外と熱いコメントの朝比奈さん。

ともみ「うん、すごかった……」

抽象的な感想の三条さん。なんだか言葉にしにくいのだろう。

P「ああ、君たちも最後のステージの盛り上がりがすごかったな」

りん「当然です! でも私もPさんみたいな熱い声援欲しかったなぁ」

ともみ「千早がうらやましい……」

麗華「まあ、それには同意するわ……」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:27:48.48 ID:uh1GYAOp0<> P「千早のフォローありがとう……」

麗華「何にもしてないわ……。あなたが来るまで全く何も意味をなさなかったもの」

P「そんなことはないよ」

話もそこそこに黒井さんに呼ばれる。

残った新幹少女と魔王エンジェルは雑談を続けていた。仲良さそうでよかった。

黒井「では貴様を病院に送るぞ。それからディナーだ」

高木「私たちは先に行っておくよ」

黒井「ああ、いつもの場所に連絡を入れておいたからな」

高木「わかった」

そうして、祭りの後の打ち上げにみんなで行くのだった。

俺は黒井さんの運転する車の助手席に座っていた。

黒井「おいへっぽこ」

P「そのへっぽこって何なんですか?」

黒井「へっぽこは、へっぽこだ」

よくわかんない。哲学?

黒井「貴様はまだまだ未熟だということだ」

P「それは承知してますけど……」

しばらくエンジンの駆動音のみが静かに聞こえてくる。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:28:40.99 ID:uh1GYAOp0<> 黒井「……貴様がなぜ追い出されたのかは大体わかるが、反省はしたのか?」

P「反省……ですか。どうなんでしょう。追い出されたときは確かに何もかもかなぐり捨てて高木社長のもとを訪ねました。実は、三日間くらい一人でどうしようか歩き回ってたんですけどね」

黒井さんは珍しいことに黙って聞いてくれる。

P「反省はしてます。……でも追い出されたことは後悔してません、むしろ良かったと思います。あそこにいても俺は成長してないと思います」

黒井「そうか……。なら貴様の親父にもたまには顔を見せてやるといい」

P「え? 追い出した本人ですよ?」

黒井「息子の成長を喜ばない親などいない」

言い切る黒井さんに対して、親に会おうなんて考えてなかった俺は適当に返事をしてしまう。

P「……もっと立派になったらそうしてみます」

そうして病院に着いたのだが、検査結果はなんと右手の人差し指から小指まで骨折だった。

どんな踏まれ方をしたのだろうか……。

その後みんなと合流。雰囲気のいい小さな店は高木社長と黒井さんのお気に入りで貸し切りだった。

ご飯は見た目もよく美味しい。

俺は利き手がダメになっているので、どうしようかと思っていたら……。

女P「はいPさん。あーん」

隣に座っている女Pさんがわざわざ食べさせてくれている。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:29:27.48 ID:uh1GYAOp0<> P「ごめんなさいわざわざ……」

女P「いえいえ、いいんですよ。このくらい……」

なんというか楽しそうというか……とにかくすごいニコニコ笑顔だった。

千早「すみません私のせいでプロデューサー、こんな酷いことになってるのに……」

女P「いいのいいの! 大丈夫だよ如月さん! 私、世話焼くの好きだし!」

千早「プロデューサー、事務所では私にお世話させてください……」

本当に申し訳なさそうに言う千早。

そこに新幹少女と魔王エンジェルもやってきて……。

つばめ「Pさーん。ひかりも超世話焼きだからさー。食べさせたいって!」

ひかり「え!? 私そんなこと……んむっ……!」

ひかりちゃんの後ろから三条さんが口を押さえる。

ともみ「今がチャンス……」

ぐっとこぶしを握る三条さんを見てひかりちゃんはこくこくと頷いた。

のぞみ「そういえば麗華ちゃんもPさんに食べてほしいものがあるって言ってましたよ?」

りん「なんか美味しいから今日頑張ってたPさんにも食べてほしいんだってぇ」

麗華「……あなたたち」

こっちは三人で親指を立て合う。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:30:10.44 ID:uh1GYAOp0<> P「うん。じゃあもらおうかな」

少しお酒も飲みつつ、みんなから一口いただく。

ひかり「Pさん。あ、あーん……」

恥ずかしそうにこちらを窺いながらお箸を近づけるひかりちゃん。

俺はあむっと一口でいただく。

ひかり「……どうですか?」

上目づかいで見てくる彼女は可愛らしかった。

P「美味しいよ。ありがとう」

ひかりちゃんはさらに顔を紅潮させ、つばめちゃんや三条さんの方へ戻っていった。

ひかり「今日来てよかったー!」

二人はひかりちゃんをよしよしと撫でていた。

麗華「はい私も……」

お次は麗華だ。

P「あーん」

と料理をもらおうとしたのだが、麗華は自分で食べてしまった。

麗華「おいしー!」

P「おい! 自分で食べんな!」

麗華「あらぁ? どうして口を開けて待っていたのかしら……? 間抜けな人ね」

このドSめ!

P「もういいよ……」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:30:37.46 ID:uh1GYAOp0<> 麗華「冗談よ。はい、あーん……」

今度こそ料理をいただく。うん、美味しい。

P「ありがとう」

そう言ってやると満足そうな麗華だった。

のぞみ「なんで自分で食べちゃうかなぁ」

麗華「あのちょっと残念そうな顔がたまらないのよ……」

りん「最低だわ……」

彼女らも戻っていく。

最後に来たのはやはりというか……。

翔太「お兄さん、大変そうだね」

冬馬「俺のもやるよ」

この二人だった。

見るからに熱そうなビーフシチューをスプーンにすくって差し出してくる。

P「おいおい。スプーンだったら自分でいけるんだけど?」

冬馬「遠慮すんなよ」

翔太「そうだよお兄さん。こんなべたべたなネタも悪くないと思うよ」

ネタって言っちゃったよ。やっぱり芸人みたいな冬馬くんだった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:31:42.64 ID:uh1GYAOp0<> 冬馬「ほら、あーん」

女P「こら、冬馬!」

無理やり口にねじ込んでくる冬馬くん。

P「……!!」

あっつ!! 熱い!

俺の舌は軽くやけどした。

冬馬くんは笑って戻っていった。

翔太くんはお冷を置いていった。

北斗「すいませんあのバカが余計なことを……」

女P「本当にね……」

P「いえ、歳相応で安心しましたよ……」

ちなみに北斗くんは二十歳だから俺たちと一緒にお酒を飲んでいる。

北斗「やっぱモテますよねPさん」

P「こんなん初めてなんだけどな……。それに北斗くんの方がモテるだろ」

北斗「否定はしませんけどね」

そう言って笑う北斗くん。笑い方も嫌味な感じがなく爽やかだ。
<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします <>sage<>2015/04/16(木) 23:32:18.57 ID:/J3QlPz40<> 一度読んでるからコメントしようがない
とりあえず春香の送迎まで貼り終えるの待ってる <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:32:48.50 ID:uh1GYAOp0<> 新幹P「Pくんは大変になるぞ」

口をはさむのは新幹Pさん。

新幹P「さっきのやり取りなんて砂糖が出てきそうだったよ。女Pちゃんも頑張れよ。若いのよりは有利だと思うぜ」

女P「ななな何を仰ってるんでしょうか!?」

北斗「プロデューサーはバレバレだから開き直れば?」

P「何の話?」

新幹P「君は鋭いのか鈍いのかよく分からんな」

みんなで話しながらお酒を嗜む。

新幹Pさんと高木社長と黒井さんは運転があるのでノンアルコールだった。

高木「いやぁ、それにしても今日は上手くいってよかった」

黒井「あれで上手くいっただと? ははは……! 笑わせるな高木!」

P「まあ、確かに100パーセントかと言われれば、そうではないですけどね」

新幹P「ああ、うちの子のトークなんか50点もあげられねーな」

高木「私は楽しめたからいいのだよ。ところでPくんはいい友人たちを持ったものだね」

P「友人……ですか?」

俺は女Pさん、新幹Pさん、北斗くんと目を合わせる。

北斗「もちろんですよ。こうやって飲むほどの仲じゃないですか」

女P「はい! とってもいいお友達です!」

新幹P「そう思ってるのは俺だけか?」

みんな好き好きに言葉を投げかけてくる。

北斗「プロデューサーは友達のままじゃダメでしょう」

女P「今はいいの!」
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:33:18.80 ID:uh1GYAOp0<> 黒井「貴様らもライバルと呼べる人間や親友と呼べる人間を作っておくのだな」

高木「おや。みんな、黒井からのありがたいお言葉だ」

黒井「高木、いちいちうるさいぞ……」

そうしてお開きとなる。

麗華たちは東豪寺プロのお迎えが来た。

新幹少女は新幹Pさんの車で、961プロは黒井さんの車で、俺たちは高木社長の車で。

それぞれ別れを惜しみつつ、挨拶をして帰っていく。

765プロにたどり着く。

高木「ではここでいいかな? 私はやることがあるからねぇ……。まだ残るよ」

P「はい。わざわざ送ってもらってありがとうございます」

千早「ありがとうございます」

俺と千早は頭を下げる。

P「じゃあ家まで送っていくよ」

千早「そんなの悪いです……」

P「いや心配だからね。それに近いんだろ?」

千早「はあ……。じゃあお願いします」

俺たちは歩き出す。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:33:46.96 ID:uh1GYAOp0<> 千早「プロデューサー」

P「なんだ?」

呼んできた千早は少しの間をおいて尋ねる。

千早「……ロケットの中身見ました?」

P「見てないよ」

千早はそうですかと言ったばかり、再び沈黙が訪れる。

心もとない街灯が照らす路をひたすら歩いていたのだが、やがて千早は例のペンダントを取り出し、口を開く。

千早「プロデューサーにはお話します……」

P「……」

千早のその雰囲気に俺は黙ったままでいる。

ロケットを開くとそこには幼いころの千早と思われる女の子と仲良く寄り添って笑顔を見せる幼い男の子が写っている。

P「この子は?」

俺は聞かなきゃいけないと思った。

千早「弟です」

そうだろうとは思ったが、同時に悲しいとも思ってしまった。

なぜなら……。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:34:40.11 ID:uh1GYAOp0<> 千早「今はもういませんけど……」

千早の表情がどんなものなのか想像してしまい、顔を見れない。

千早「弟は、優は事故で亡くなってしまったんです。……私はその時すぐに動けなかった。今でも後悔してます」

大きくなった今だからこそ、その悔しさは膨れ上がるのだろうか……。

千早「その優が私の歌を好きだと言ってくれたのが嬉しくて、いつも優のために歌を歌ってました」

P「そうか、だから千早は歌にこだわっていたのか……」

千早「ええ、だから私は優が亡くなってからも、私の中で優が消えないように歌い続けようって決めました」

P「……」

千早「でも私は間違ってたみたいです。……優はもっと多くの人に私の歌を聴いてほしいって言ってたのを思い出しました」

俺たちはなおも歩き続ける。

千早「私の中で優が消えることなんてない。私は優の願いのために、私の願いのために、みんなに感動を届けたい。……私の歌で」

気が付けば千早のマンションの前だ。

そこで俺に向き直る千早は涙を流しながら笑顔でこう聞くのだ。

千早「私の願い、一緒に叶えてくれますか?」

P「……ああ、もちろんだ」

帰路についた俺はいつものように空を見上げる。

今日は輝く星が多く見えた。

ずっと見上げてると、星々はじんわりぼやけて、より輝いて見えた。

彼女は言ってた。

弟は、優くんは、私の中にある決してどこへ行くこともない『蒼い鳥』だと……。

『雛祭り』『気づけば隣にいる』『どうにかなるんだよ』『蒼い鳥』   終わり
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/16(木) 23:39:21.60 ID:uh1GYAOp0<> お疲れさま。
次回は明後日の22:00頃を予定。

>>211
(ありがとう)

>>270
そりゃそうか。
でも見てくれてありがとう。 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/16(木) 23:40:33.73 ID:xljVMnsl0<> 乙乙
元スレから読んでるから特に質問とかないけど
楽しみにしてるから反響を心配しないで欲しいよ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/17(金) 13:13:02.94 ID:1zYOjgVXO<> 乙
女P√待ってます <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/18(土) 01:05:40.40 ID:614a/oV/o<> 良いよー。 <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 18:41:38.70 ID:bGfeJTyV0<> お待たせ。予定より早くなったけどやってくよ。
今日はたくさん投下するつもりでやってくよ。
途中で休憩を何回か入れさせてくださいな。 <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 18:42:48.39 ID:bGfeJTyV0<> 『ホワイトデー』

雛祭りから数日。

日本ではバレンタインは女性から男性に愛を伝えるためチョコレートを贈る日、とされているのだが、そんなものはもともと伝統には無かった。

売り上げの向上を図るための、とある製菓会社の策略らしい。

何とも姑息なものであるか、と思わなくもないが、俺は素直に上手いことをするもんだと思った。

まあそのおかげでうちのアイドルも日の目を見るきっかけになったりしたので嫌いでもない。

だがバレンタインにあやかってその一か月後にできたホワイトデーとは何事なのか…。

やや腹立たしく思うが、確かにもらってばかりというのも申し訳ない。

というわけで右手を骨折しつつもクッキーを作ってみた。

俺は何でも卒なくこなせる人間ではない。

何度も失敗したし、自分が納得いくまで作り直した。

三日かけてようやくあのサクサク感が出せるようになった。

もちろん仕事もしている。

そういえば、女性アイドルもバレンタインにファンからチョコを受け取るのだろうか…?

先月のイベントではジュピターに贈る女性も多かったような。

逆に男性から女性アイドルに渡したのは見たことないな…。

でもそういうファンもいるんだろうな、と思いながらラッピングしたクッキーを持っていく。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 18:45:17.34 ID:bGfeJTyV0<> P「おはようございまーす」

小鳥「おはようございます」

高木「おはよう」

律子「おはようございます。…あら?その紙袋は何ですか?」

さっそく俺の持っている紙袋にツッコミが入る。

特に隠すこともないので、俺はその中から一つクッキーの袋を取り出し律子に渡した。

P「はい。今日は何の日?」

律子「…あー、そういうことですね。ありがとうございます」

小鳥さんが無言で私のもありますよね…と言わんばかりの謎の圧力を感じる。

P「小鳥さんにも…どうぞ」

そう言って手渡す。

少しだけお互いの手が触れたのが気になった。

小鳥「ありがとうございます!」

ぽわぽわと嬉しそうな雰囲気が伝わってくる。

P「…社長もどうぞ」

高木「私に気を遣うことはなかったのに」

P「いえ、いつもお世話になっているので…。ホワイトデーとは関係なく、ということで」

高木「そうか、ではありがたくもらうことにするよ」

社長にも渡す。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 18:49:56.44 ID:bGfeJTyV0<> 高木「おや、私のは包みが違うんだね。……なるほど先月貰った人の分と区別しているわけだね」

P「さすがです。社長の仰る通りです」

高木「いやいや、素晴らしい配慮じゃないか! ……律子君も音無君も嬉しいと思うよ」

小鳥「そうですね……。特別な感じがしていいです!」

律子「私と小鳥さんのも違うんですね……」

P「先月もらった人のお返しは全部違う入れ物にしてるんだ」

律子「何かこだわりでも?」

P「別に……。まあ、みんな一緒だとなんか特別な感じしないだろ?」

律子「プロデューサーからいただけるなら一緒でもよかったですけどね」

そうでしたか。男って変なところに気合入れて空回りする生き物なんだなーって思った。

律子「でもこっちの方が嬉しいです」

空回りってことでもないんだな。

午後になってアイドル達も徐々にやってくる。

P「おう春香。これ先月のお返し」

春香「わぁ! ありがとうございます!」

P「そういや、春香のだけチョコじゃなくて普通のカップケーキだったな。気ぃ遣ってくれてありがとな」

春香「えへへ……」

春香はそういうところに意外と気づく。

みんなチョコを持ってくるので俺が飽きてしまわないようにあえてチョコ以外のものをプレゼントしてくれたのだ。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 18:50:29.92 ID:bGfeJTyV0<> P「ほら千早も」

千早「ありがとうございますプロデューサー」

P「そだ、千早のCDの売り上げも出だし好調で、歌番組のオファーも来たんだけどもちろん引き受けるよな?」

千早「本当ですか!? やります!!」

前のめりに話を聞く千早。興味津々というか、嬉しそうだ。

春香「よかったね千早ちゃん!」

千早「ありがとう春香!」

P「春香、ごめんな。春香もすぐにいろんな番組出してやるから……」

春香「いいえ、いいんです。私今のお仕事だけでも十分楽しいですから!」

そう言ってくれると本当に助かる。

しかし春香のことだからまた気を遣ってるんじゃないかと疑ってしまう。

いや、もちろんテレビにも出たいだろうし雑誌の表紙だって飾りたいはずなのだ。

P「じゃあ春香がもっと楽しめるように頑張るよ」

だったら俺は期待に応えるしかない。

春香「楽しみですっ!」

この子の笑顔は日本中に届けるべきなんだ。

そう思わせるものだった。

しばらくすると真に雪歩、やよいと双海姉妹もやってきた。

みんなで挨拶を揃えて楽しんでいる。

P「おはよう。学校か?」

真「そうですよー」

雪歩「真ちゃんバレンタインがすごかったから大変だったよね」

微笑む雪歩とげんなりした様子の真。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 18:50:56.07 ID:bGfeJTyV0<> 真「なんで僕だけ二回も作っていかなきゃいけないんですかね……」

P「別にホワイトデーは作らなくても良かったんじゃないか?」

真「ボクもそう思ってたんですけど、なんか校内で期待の声がちらほらと……」

やよい「噂になっちゃったんですよね?」

真「そうだよ。そうしたらもうボクも作っていくしかないじゃないですかー!」

P「はははっ! そんなやつらほっとけよ」

真美「兄ちゃん、酷いこと言うね……」

P「そうか?」

亜美「そうだよ。せっかくみんながまこちんからのお返しを期待してるのにほっといたらまこちんがバッシングだよ!」

P「ふーん。女ってわからんな。真が返したい相手にだけ返せばいいじゃん」

雪歩「女の子の世界って複雑なんですよ……」

影を帯びた雪歩がしんみりと言った。

何かわかんないけど、言葉に重みがあるな。

P「まあいいや、俺には縁のなさそうな話だし」

真「酷いなぁ、プロデューサー」

P「そんな君たちに朗報だ。なんと俺もお返しを持ってきたんだ」

やよい「本当ですかー!?」

P「ほい、やよい」

やよい「うっうー! ありがとうございます!」

やよいをはじめ、全員に配る。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 18:51:21.74 ID:bGfeJTyV0<> 真美「みんな違うの?」

亜美「兄ちゃんすごーい!」

P「違うのは見た目だけだ。中身は同じ」

雪歩「どうして包みは変えたんですか?」

P「なんか特別っぽいだろ?」

真「今のでなんだか特別感消えましたけど……」

P「……うるさいな。レッスン終わったら食え」

彼女たちは雪歩が淹れたお茶を飲み終えると、レッスンへ向かった。

俺は仕事を続ける。

そういえば、新幹少女って事務所に行けば会えるのかな……。

バレンタインではひかりちゃんにもチョコをいただいてるし、雛祭りではクッキーも貰ってる。

ファンからは嫉妬間違いなしの超優遇だ。

会うなら新幹Pさんに連絡入れてみようか……。

思い立ったがなんとやら。

早速メールで連絡してみた。

彼は俺よりも当然忙しいので夕方ぐらいに返信が来ればいいかなーっと思っていると、外でやや騒がしい会話が……。

美希「やっぱりデコちゃんはさっさと兄離れすればいいって思うな」

伊織「誰がデコちゃんよ! ……あんたこそお兄様の邪魔ばっかして……離れなさいよ!」

美希「いやん! あずさーブラコンのデコちゃんが怖いのー」

あずさ「あらあら〜」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 18:52:10.04 ID:bGfeJTyV0<> 伊織「あずさも甘やかしてないで何とか言ってやってよ!」

あずさ「そうねー。美希ちゃん? プロデューサーさんに迷惑かけちゃダメよ?」

美希「はーいなの!」

伊織「何で言うこと聞くのよ!」

美希「あずさはお姉ちゃんみたいだからかも……。お姉ちゃんと違って胸がおっきいけど!」

あずさ「きゃっ! 美希ちゃんったら、触っちゃいけません……!」

美希「デコちゃんとは大違いなの……」

伊織「うるっさい!!」

P「うるさいのはお前らだ!!」

そう言うと三人はちょっとしゅんとした。

あずさ「ごめんなさい……。私一番お姉さんなのに……」

美希「ごめんなさいなの……」

うん。わかったうえで次から静かにしてくれればいいんだ。

P「伊織は?」

伊織「……だって美希が」

P「あー。言い訳すんのか?」

伊織「言い訳なんて……」

P「ちょっとおいで伊織」

伊織は少し怯えながらも素直に来た。

P「ご近所の方もいるんだから静かにしなきゃダメだろ?」

伊織「それは、わかってるけど……」

P「わかってないから怒ってるんだけど?」

でもそこまで怒ってるわけじゃない。おこ! ……くらいだ。

伊織「……ごめんなさい」

P「そうだよ。苦情が来てなきゃそれでおしまいなんだから、今度からはしっかり頼むよ。これでも信頼してるんだ」

俺は伊織にだけ聞こえるように最後の言葉を言った。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 18:52:37.38 ID:bGfeJTyV0<> 伊織はパッと顔を上げる。

伊織「うん。お兄様が正しいわ。お兄様が私を信頼してくれてるなら私も大人にならなくちゃいけなかったわね……」

P「わかってくれて助かるよ」

そこで紙袋から包みを一個取り出して伊織に渡す。

伊織「これは?」

P「バレンタインのお返しだ。お前、慣れないお菓子作りよく頑張ったな」

そう言って頭を撫でてやる。

伊織は顔を赤くしふいっと向こうを向いてしまったが、鏡にばっちりとその嬉しさを抑えきれない顔がうつりこんでいた。

美希「ねえハニー、なんの話してたの? ……秘密なんてずるいの!」

P「いや秘密じゃないよ……。美希にもあるからさ。あとあずさも」

あずさ「なんでしょうか?」

P「はいこれ、バレンタインのお返し」

二人にもやっぱり違うデザインの包み渡す。

あずさ「あらあら〜。ありがとうございます」

美希「早速食べていい?」

P「待て、帰ってからゆっくり食べなさい」

美希「はーい、わかった」

P「さて、あなたたちもレッスンに行ってきなさい」

そうして三人も事務所を後にした。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 19:07:09.85 ID:bGfeJTyV0<> 業務も終わりただいまは午後の5時。

今日はもう帰れるが、その前にメールをチェック。

新幹Pさんから返信が来ていた。

今日は特に活動は無く、レッスンのみ。

終了時刻が大体7時になるからそれまでに来てくれれば会えるということだった。

俺はさらに業務をこなして、レッスン終了の一時間前くらいに事務所を出る。

P「お疲れ様です。アイドル達によろしく言っといてください」

小鳥「はい。お疲れ様です」

高木「お疲れ。今日もご苦労様」

出て、近くに止めておいた車に乗り込む。

今日はこだまプロへ向かうため、歩きではなく車で来たのだった。

骨は折ってるが握れれば問題ない。いや、確かに危ないは危ないのだが……。

それにしても、新幹少女が収録なしとは……。

本人がいなければ受付にでも渡してしまえばいいと思ってたのだが運がいい。

30分程で目的地に着いた。

新幹Pさんは受付に話を通していたようで、俺はすんなりと通された。

P「えーと、レッスン場は……4階か。それにしてもレッスン場あんのか、このビル……」

感心しつつも階段を上る。

途中で何人かとすれ違い、その度に挨拶する。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 19:08:00.43 ID:bGfeJTyV0<> しかし、その人たちは当然こだまプロの関係者であり、俺のことも知らないはずなのだが、明らかに俺の方を見てひそひそと話してたりしている。

どういうことなの? と疑問に思っているとレッスン場だ。

ドアの窓から覗いてみると新幹少女の三人がトレーナーの監督のもとダンスをしている。

彼女たちの表情は真剣ながらも楽しさを忘れていない。

しばらく覗いていたが、やっぱり向こうの方でひそひそと噂されてるようだ。

P「なんなんだ?」

と思ってちらりと見てみると、ひそひそ話は止まり、新幹Pさんが奥からやってきた。

新幹P「よぉPくん」

片手を上げて気だるそうにする。

P「こんばんは。わざわざ受付に話を通してもらってありがとうございます」

新幹P「そんなんいいよいいよ」

P「……ところで、なんか俺って変でしょうか?」

新幹P「うん? ……確かに君は変だが、どうかした?」

P「変ですか……」

なら納得せざるを得ないのだが一応聞いておく。

P「それがなんだか俺のことでひそひそと言われてるような気がしたので……」

自意識過剰だったら恥ずかしいけど……。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 19:08:49.87 ID:bGfeJTyV0<> 新幹P「ああ、そのことなら君が変なのとは関係ないよ」

P「え? じゃあ何が原因で?」

新幹P「あー、そうだな。君はうちではちょっとした有名人なんだ……と言っておこうか」

P「何ですかそれ? 冗談はやめてくださいって……」

おかしくって笑ってしまう。

新幹P「まあ君がそう言うならいいけど……。……それよりどう? 見ていく?」

そう言って新幹Pさんはレッスン場を指し示す。

P「いいんですか?」

新幹P「ちょうどいいだろ。最後は本番を想定して、お客さん入りってことで……」

俺は喜んで承諾した。

新幹P「ちょうどキリがいいとこまで終わったみてえだ」

新幹Pさんはノックして入っていく。

中では、おはようございます、と挨拶を交わしているようだ。

新幹P「よし、じゃあキリもいいし次の通しで解散ってことでいいかな?」

つばめ「了解でーす……」

のぞみ「ふぅ……けっこーキツイね……」

ひかり「そうね。でも、今度の収録までに完璧に仕上げたい……」

ラストスパートだと思って、みんなは疲れた体に鞭を打つ。

これが人気アイドルの舞台裏。

仕事で忙しい中、レッスンも欠かさない。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 19:09:37.60 ID:bGfeJTyV0<> トレーナー「じゃあ最後、頑張っていきましょう」

新幹P「ああ、ちょっと待ってくれ」

トレーナー「どうかしました?」

新幹P「実はお客さんが来てるんだ。本番を想定したつもりで見てもらいながらパフォーマンスしてもらおうと思ってな……」

トレーナー「なるほど……。みんなはいいかしら?」

のぞみ「偉い人なのかなぁ……?」

つばめ「誰であろうと、どーんと来い! ……ですよ!」

ひかり「うん! 完璧なパフォーマンスを披露しよっ!」

新幹P「そうかい。じゃあ呼んでくるから少し待っててくれ」

新幹Pさんが戻ってきてドアを開く。

どうやら話はまとまったようだ。

新幹P「彼女たちやる気たっぷりだ」

P「へえ、それは楽しみですね!」

新幹P「Pくんにも最高のパフォーマンスを用意するよ」

P「期待していいんですか?」

新幹P「当たり前だ。……ちなみにファンには初めて見せる新曲だからね。Pくんは恵まれてるなぁ」

そう言って新幹Pさんは笑った。

新幹P「中へどうぞ」

P「あ、わざわざどうも……」

新幹Pさんにドアを支えてもらって、俺は恐縮しながら入室する。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 19:10:35.32 ID:bGfeJTyV0<> P「失礼しまーす……」

新幹少女の三人は驚いた表情になり、トレーナーの方も意外な人を見たなぁといった風だった。

ひかり「Pさん? ……え? ……え? え? え?」

つばめ「ひかり落ち着いて! それにしてもお客さんってPさんのことだったのかぁ……」

P「あはは……ごめんね。偉い人じゃなくて……」

のぞみ「そんな。Pさんに来ていただいてすごく嬉しいですよ! ね、ひかり?」

ひかり「わ、私ぃ!? ……何で私に振るかなっ!?」

大慌てのひかりちゃん。いきなり知ってる男の人が来たら嫌なのかも……。

ひかり「嫌だぁ! ……すっぴんだし、おしゃれでもない運動着だし、汗かいてるし、恥ずかしいぃ……!!」

ひかりちゃんはその場でしゃがみ込んでうずくまってしまった。

トレーナー「あらあら……」

トレーナーの方は呆れながらもその顔はニヤニヤと笑みが浮かんでいた。

P「やっぱ迷惑だったかな?」

正直ちょっと傷ついたので明るく振る舞おうとしても、微妙に陰鬱なトーンが混じる。

ひかりちゃんは顔を上げ、申し訳なさそうにした。

ひかり「……あの、全然迷惑ってことはないんですけど……こんな姿Pさんに見られて恥ずかしいと言うか……その、何て言うか……」

ひかりちゃんは自分の今の容姿を気にしている。

女の子のわからない部分の一つだよなぁ……。

ひかりちゃんはすっぴんでも可愛いし、汗をかいて踊ってるのも頑張ってる証拠で清涼感もあるし、恥ずかしいことなんて一つもないと思うけど……。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 19:11:37.07 ID:bGfeJTyV0<> 新幹P「あのなぁ、ひかり……。Pくんは気にしないぞ、そんなこと?」

つばめ「まあ、Pさんもプロデューサーだもんね……。でもそういうものではないんですよ?」

のぞみ「そうですよプロデューサー。乙女心を理解してください」

新幹P「俺は理解してる方だぞ? ……ひかりが恥ずかしいのはよぉく分かるが、彼はお前がすっぴんだろうが、汗かいていようが、気にしないどころかむしろ好感を持つと思うけどな」

トレーナー「そうなんですか?」

P「え? ……そうですね、いつも着飾っているような人よりはこうやって一生懸命頑張ってる人の方が見てて気持ちいいです」

相槌をうって話を聞くトレーナーさん。

P「それにおしゃれして練習しようもんなら私はまず動きやすい服に着替えさせますし、すっぴんでも可愛い人は可愛いですよね」

トレーナー「じゃあひかりのすっぴんはどうですか?」

P「もちろん可愛いと思います。努力してる姿はかっこいいし、恥じらうのも可愛らしさを感じます。気にしすぎるのはダメですけど……」

つばめ「だってさ、ひかり……。今のひかりが好きだから気にしすぎるなって言ってるよ?」

ひかり「……」

つばめ「顔赤くしすぎ!!」

のぞみ「ナイスですトレーナーさん……」

ひかりちゃんはすっと立ち上がった。

たくさん運動したので当然ながら顔は赤くなっているがやる気は十分みたいだ。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 19:12:34.16 ID:bGfeJTyV0<> トレーナー「じゃあPさん。こちらに座って見ていてください」

P「はい」

促されるままに座る。

新幹少女は準備完了のようだ。

トレーナー「よし、音楽を流すよ」

しんと静まり返ったこの部屋で新幹少女の新しい曲が流れ始める。

俺は彼女たちの雰囲気に、表情に、踊りに、歌に、魅了されていく。

曲が終わる。ボーカルなしの音源だったが、贅沢なことに生歌で披露してもらった。

惜しみない賞賛の拍手を送る。

新幹P「どうだった?」

P「最高です! なんだか贅沢な気分になりました」

新幹P「ははは……! 君は贅沢なんて死ぬほど味わってきたんじゃないのか?」

P「そんなことないですよ。そもそも昔は贅沢なんて言葉も知りませんでしたから。それにこんなに感動したのも初めてかもしれません。この仕事やってて良かったって思いますよ」

新幹P「いやぁ、そう言ってもらえると嬉しいね」

話をしているとトレーナーさんは手を叩いて新幹少女に呼びかける。

トレーナー「はいお疲れ様! 今日はしっかり休んで明日に備えてね」

ひかり「私、シャワー浴びてくる!」

つばめ「ひかりってば速い! 私はもう疲れたわぁ……」

のぞみ「私も……。あ、そういえばPさんはどうしてうちまで来たんですか?」

そういえば……。さっきの歌で忘れてた。

P「今日はホワイトデーだからひかりちゃんにお返しに来たんだった。……そうだ、よかったらみなさんもどうですか?」

そう言って大きめの箱を紙袋から取り出す。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 19:13:02.54 ID:bGfeJTyV0<> 新幹P「ひかりのじゃないのか?」

P「ひかりちゃんは別に用意してます」

つばめ「えー……でも私何にもあげてないのに、Pさんにもひかりにも悪いよ」

P「いつもお世話になってるし、俺からの気持ちってことでどうかな?」

のぞみ「うーん……」

渋る二人に新幹Pさんが一声かける。

新幹P「ま、そういうことなら断るのも失礼だな」

そう聞いた二人はやっぱり渋々と、しかしありがとうと言って受け取った。

P「ひかりちゃんは?」

つばめ「ごめんなさい。ひかりってばすぐシャワー行っちゃって……。戻るまで下で待っててもらってもいい?」

P「うん。大丈夫だよ。今日はもう何もないから」

そして下で待つこと約15分。

受付の側にある待合室的な場所の椅子に腰掛けている。

ひかり「お待たせしましたPさん!」

P「お疲れ様。とってもよかったよ」

ひかり「ありがとうございます」

P「いえ、こちらこそ。……それで、これ、先月のお返し」

ひかり「嬉しい……」

P「まあ、座りなよ」

ひかり「はい、失礼します……」

P「ふふっ……。別にそんなに丁寧じゃなくてもいいよ。君の事務所じゃないか」

ひかり「そ、それもそうですね! やだなぁ私ったら……」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 19:13:52.64 ID:bGfeJTyV0<> P「それ、クッキー作ってみたから、よかったらお家で食べてね」

ひかり「いまいただいてもいいですか?」

P「えっと、今は……」

ひかり「?」

すっと覗き込み疑問に思うような表情をするひかりちゃん。

P「その……メッセージカード入れてるんだ。だから目の前で読まれるのは恥ずかしいかな」

柄にもなくメッセージカードなんて、恥ずかしいものを仕込むんじゃなかった。

ひかりちゃんをチラッと見ると、彼女は気になるものを捉えたというか、目が釘づけになっているというか……。

言葉では表しにくいような顔をしていた。

P「ひかりちゃん?」

ひかり「えっ? あ、あはは……」

笑って誤魔化すひかりちゃんだが、何を誤魔化そうとしたのかはピンとこない。

P「……ところでさっきから気になってたんだけどさ」

ひかり「はい」

P「あの人たちは何なの?」

俺の視線の先には複数の社員と思わしき人々が騒々しくこちらを窺っていた。

ひかり「あれはうちの社員だと思うんですけど……何をやってるのかまでは……」

P「俺ってここじゃ有名人らしいんだけど、どうして?」

ひかり「えっ!? 私、Pさんの話は社員から聞いたことないですけど……」

謎は深まるばかりだった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 19:14:33.51 ID:bGfeJTyV0<> 話をしていたのだが、時間もそこそこ経ってきた。

P「じゃあ帰るよ。今日はいろいろありがとね」

ひかり「いえ、こちらこそ。私も帰りますね」

P「あ、なら送っていこうか? 俺、今日車だし、さっき新幹Pさんも帰っちゃったでしょ?」

ひかり「え、プロデューサー帰ったんですか?」

P「うん、さっき出ていくの見えたし、メールも届いてる。嫌じゃなかったらひかりちゃんのこと送ってくれって。……嫌?」

ひかり「ま、まさかそんなことはありえませんっ!!」

P「そ、そうなの? あ、ありがとね……?」

ひかりちゃんはハッとして心を落ち着かせた。

そうして事務所を出る。

俺は助手席に彼女を案内してドアを閉める。

ひかり「手、怪我してますけど大丈夫ですか?」

P「ああ、大丈夫。任せてくれ」

ここで不安を煽っていはいけない。

特に何事もなく車を出した。

車の中ではアイドルのこと、最近引っ越したことなどいろいろ話してひかりちゃんを家まで送った。

ひかり「今日はありがとうございます。わざわざ来ていただいて……」

P「ううん。俺もいいもの見せてもらったし楽しかったよ」

ひかり「私もです」

P「それじゃあ」

ひかり「お疲れ様です」

P「お疲れ様」

少し窓を閉めるのをためらったが、オートで一気に閉める。

車内から手を振って車を発進させる。

ひかりちゃんも手を振って応えてくれた。

俺が左折する瞬間ミラー越しに彼女を見る。

彼女はまだ手を振ってくれていた。

俺はなんだか嬉しかった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 19:15:03.45 ID:bGfeJTyV0<> 自宅へ帰ったころにはすでに9時。

P「お腹空いたな……」

夕飯を簡単に作ろうかなと思ったがその前に紙袋に残った最後の一つを持っていくことにした。

一応連絡してからの方がいいかな?

携帯を取り出し、電話をする。

数コールの後に携帯から声が聞こえた。

女P『もしもし……Pさんどうしました?』

P「もしもし……あの、渡したいものがあるんですけど、今からお伺いしてもいいですか?」

女P『い、今から!? ちょ、ちょっと待っててください!』

P「え?」

彼女は早口にそう言うと電話を切ってしまった。

言われたとおりに待つ。

数分してから夕飯でも作ってればよかったかなと後悔する。

料理をしている間は手を離せないから電話に出られないし……。

ちょっと待ってと言われたものだからすぐに折り返しの電話が来るだろうなと思ったのだ。

案の定10分程でコールが鳴った。

P「もしもし」

女P『……あの、どうぞいらっしゃってください』

P「……いいんですか? じゃあすぐに行きますね」

女P『はい、お待ちしてます』

俺は電話を切って、スーツ姿のままお隣さんのインターホンを鳴らす。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 19:15:40.51 ID:bGfeJTyV0<> しばらくして、パジャマ姿の女Pさんが玄関を開ける。

眼鏡をかけていないのが普段とのギャップもあってドキドキさせられる。

女P「え、スーツ……?」

女Pさんは俺の服装に驚いていた。

P「ごめんなさい。さっき帰ってきたもんですから着替えてなくて……」

女P「あ、あー……。そういうことですね。てっきり正装してきたのかと思いました」

P「あはは……! そういうあなたは可愛らしいパジャマですね。とっても似合ってます」

女P「もうっ! からかわないでくださいっ!」

顔を赤くする女Pさん。

俺は彼女はもう寝たいのだと思い、早めに切り上げようとする。

P「今日はホワイトデーなので、これどうぞ」

箱を差し出す。クッキーが入れてあって、当然みんなにあげたのとは別のデザインだ。

女P「わぁ、ありがとうございます。……かわいい」

彼女は箱を見てそう呟く。

P「じゃあ私はこれで……」

すぐに戻ろうと思ったんだが……。

女P「Pさん、さっき仕事帰りってことはお夕飯まだですか?」

P「そうですね。これから作ります」

女P「だったらうちで食べていきませんか?」
<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>saga<>2015/04/18(土) 19:15:42.16 ID:PUiTGp2z0<> 何か死にたくなってきた <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 19:17:12.14 ID:bGfeJTyV0<> P「それは悪いですよ」

女P「そんなことありませんって! 私もこれからご飯食べますし、一人よりも二人の方が絶対いいです!」

P「うーん、でも……」

女P「お酒も一人より二人の方が美味しく飲めます!」

お酒か……いいなぁ。雛祭り以来飲んでない。

でもこんな時間に女性の部屋に入ってっもいいのだろうか……。

本人はいいって言ってるのだからいいんだろうけど、俺の理性的な意味であんまりよくない……。

と考えてるとお腹が鳴った。

女P「……食べていきましょ?」

P「……はい、ごちそうになります」

折れました。

結局、料理をいただいてお酒も飲みながら楽しく食事をした。

食べ終わった後は二人で食器を洗い、また飲んだ。

以前みたく、隣同士で飲んでいると彼女はぐっと体重をかけてきた。

俺は不意の出来事にどぎまぎしたが、見てみると眠っていた。

散らかった缶を片付け、女Pさんを抱えてベッドに寝かせる。

じっと寝顔を見てると吸い込まれそうな感覚に陥ったが、ダメだダメだと首を振ってなんとか我を保つ。

お酒が回ってるのかな……なんて思いながら電気を消して、いったん家に戻る。

歯を磨いてシャワーを浴びて着替えてから、また彼女の部屋に戻る。

鍵は勝手に持ち出せないから内側から閉めるしかない。

そうして俺もベッドの横に座って寝てしまうのだった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 19:17:48.31 ID:bGfeJTyV0<> 女P「ふわぁ……。あれ、私いつの間に……昨日は確かPさんと飲んでて……」

女Pが視線を動かすとその先には例の彼がいた。

女P「へ?」

考えること数秒、頭は冴えてきて結論が出る。

Pが家にいるのは、女Pが寝てしまって勝手に鍵を持ち出すわけにもいかないので妥協点を探った結果このような形に……。

ドジは踏むが、女Pは努力タイプの賢い人間だ。

女P「私、なんてことを……。とにかく、歯磨きしなきゃ!」

まず先に歯を磨くあたりはやはり女性だった。

女Pは洗面所でいろいろと準備をして朝ごはんを用意する。

きっと彼に迷惑をかけただろうからせめてここまでやっておこうと思った。

あらかた準備が整ったのでPを起こす。

女P「Pさーん。起きてください」

Pはベッドの横で微妙にあぐらをかいて寝ていた。

スーツじゃないのが気になった。

ゆさゆさ揺すっていると、Pは寝ぼけたのかその体勢から足を伸ばす。

それがちょうど女Pの足に当たり、体勢を崩して……。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 19:18:26.61 ID:bGfeJTyV0<> 大きな衝撃で俺は目を覚ました。

目の前には女Pさんの顔。

彼女は押さえつけるかのように俺の肩をつかんでいる。

女P「あの、これは違くて……」

P「……えと、何がです?」

女P「この体勢は事故で……。その、す、すみませんすぐどきます!」

慌てて俺から離れようとする女Pさんの腕をつかんだ。

どうしてそんなことしたのか、よくわからない。

支えるものがなくなった彼女は俺の膝に座り、胸に顔を埋める姿勢になった。

そんな彼女の頭を撫でる。

女P「ふあぁ……」

ゆっくり顔を上げる女Pさん。その表情は恍惚としていて、俺も冷静さを失うには十分だった。

徐々に近づくお互いの顔。

朝っぱらから何やってんだと思わなくもないだろうが、関係ない。

お互いの息がかかる。

さらに意識が高まっていく。

頭は考えることをまるで拒んでいるようだ。

そして、唇が重なる。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 19:18:55.14 ID:bGfeJTyV0<> ……までほんのわずかな距離だった。

瞬間、玄関の方で物音がして俺たちは叫びながら咄嗟に離れた。

コメディでよくあるような俊敏さだった。

この音は、郵便物……朝刊だろうか……。

時計を見てみると朝の6時。

ここは朝刊が届くのはあまり早くないらしい。

だが、そんなことはどうでもよかった。

P「……」

女P「……」

気まずい。

彼女の顔は真っ赤っかで、おそらく俺も同じだ。

女P「あ、あのっ! ……私、朝ごはん作ったんで! 食べてもらえると嬉しいかなって!」

声は上ずり、焦りまくった調子で言う女Pさん。

P「あ、あー! そうなんだ! じゃあ、いただこっかなー!」

俺の声も裏返って、不自然なまでの会話だ。

結局、その後は部屋を出るまでお互い顔も合わせられずに沈黙。

さようならと足早に部屋を出て自分の部屋へ戻った後、俺は頭を抱えた。

出勤してからも何度も何度も思い出し、悶絶しているところをアイドル達に見られ、ドン引きされるのだった。

『ホワイトデー』   終わり
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 19:21:12.08 ID:bGfeJTyV0<> 読んでくれたみなさんおつかれー。
休憩の時間です。再開は20:00を予定。

>>300
お兄さん頑張って……! <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 19:55:08.68 ID:bGfeJTyV0<> 再開しまーす。 <> ◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 19:55:54.62 ID:bGfeJTyV0<> 『出会いの季節』『フェアリー』

765プロ設立から一年が経った今は4月。

千早の歌は先月のライブから話題を呼び、CD売上もなんと上位に……。

さらに歌番組の出演も決定している。

誇らしいことだ。

そして4月と言えば新たな始まりを告げる季節。

765プロも例外ではなかった。

高木「やあ、おはよう」

P「おはようございます」

高木社長が出勤。

小鳥さんも律子も続いて挨拶する。

最近はうちのアイドルの仕事も増え、社長があちこちに駆け回る必要も無くなってきたのである。

こうして事務所に来て俺たちの事務も随分と楽になる。

社長曰く、会社のトップが誠意を見せて初めて社員も会社に尽くす、ということらしい。

うーん、確かに……。

上から指示を出すだけの上司には不満も溜まるというものだ。

俺は仕事をさせてもらってる恩があるから別に社長がぐうたらしてても構わないのだが……。

高木「ところでPくん。手の方はもういいのかね?」

P「ええ、もうほとんど治りました。まだちょっと折れやすくなってるので、気をつけるくらいですかね」

高木「そうか。大変だったねぇ」

P「まあ、隣人もしょっちゅう来て手伝ってくださいましたし……」

変な気を起こさないよう、家で二人きりの時はお酒は控えてる。

今でも忘れられないが、あの時のことが無かったみたいに普通に接している。

いや、彼女は全然普通じゃなかったけど、俺があんまり普通にしてるもんだから流されたんだと思う。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 19:56:39.66 ID:bGfeJTyV0<> 小鳥「へー、ご近所づきあいもしっかりしてるんですね」

高木「君は本当にいい友人を持つね」

P「はい、とってもいい方です。昨日も仕事終わりに一杯やりました」

小鳥「私も誘ってくださいよぉ」

何事もなくこの話題は終わると思ったが、余計なことは言うもんではないなとこのとき実感したものだ。

律子「その人って男性ですか? 女性ですか?」

律子のその質問で他二人も、そういえば……と気づいたように興味津々になる。

P「…………別にどっちでもよくない?」

高木「おや、詮索されては困る仲なのかね?」

小鳥「おやおやぁ?」

絶妙な質問で追い詰めてくる高木社長とモブ並の煽りをしてくる小鳥さん。

P「別に困るわけじゃありませんが、妙な勘違いをされては面倒ですし……ここは黙秘で……」

律子「これは女性ですね……」

あたりなんですけど、黙ってて肯定と捉えられるのも億劫だった。

P「決めつけはよくないな律子。俺が黙ってるのは、相手の人が男性でも余計な詮索をされると思ったからだ」

律子「別に男性ならそんなことしませんよ。ねえ……」

……と小鳥さんに振り向く律子だったが、当の事務員は恍惚の表情を浮かべて完全にトリップしていた。

実はこの人、男性同士もいけるらしい。

社長も慣れているのかドン引きとまではいかないが、やや距離を置いたのが何とも言えなかった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 19:57:17.71 ID:bGfeJTyV0<> 律子「ああ、この人は別でしたね……」

P「だから黙秘だって言ったんだ」

律子は納得はしたが、未だに俺とお隣さんの仲を訝しんでいた。

高木「君は結婚とかは考えないのかね?」

だから女性とは一言も言ってないのに……。

けど、先ほどの話題とはずれてきたので、普通に答える。

P「結婚は今のところは全く……。そもそもみんなをトップアイドルにするまでは恋愛とか考えていませんよ」

小鳥「じゃあその後でアイドルの子に結婚の申し込みをされたらどうするんですか?」

小鳥さんは復活したようだ。

P「えー? そうですねぇ……安定し始めるまでは待ちますけどみんな年齢が離れてるし、あずさならまだ年齢は近いですけど……」

律子「あずささんはいいんですか?」

咎めるような律子の声。

P「いいってわけじゃないけどね……。仮に、俺があずさに恋愛感情を抱けば、悩まないで即オーケー……かな?」

高木「そう言うってことは三浦くんにはそういう感情は無いわけだね」

P「まあ、そうですね」

小鳥「でも、どうなるかわかりませんよ?」

高木「それもそうだねぇ……恋とは何があるかわからないものだからね」

P「はあ……そういうものなんですか……」

律子「プロデューサーってそういう経験無いんですか?」

P「うーん。特に親しい女性がいたわけでもないし、誰かに恋したっていう自覚は今までに無いかな……」

律子「へー、意外です……」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 19:57:59.06 ID:bGfeJTyV0<> P「そういう律子も無さそうだけど」

律子「そうですね……。男子って何かと子供っぽいので……」

高木「律子君は大人びた男性がタイプなわけだね」

律子「はい。せめて私より頼れるような男性がいいです」

小鳥「じゃあプロデューサーさんとか……?」

律子「なっ、なんでプロデューサーが出てくるんですか!?」

律子は不意の質問に少し慌てる。

律子「まあプロデューサーは尊敬できますけど、そういうのは無いです」

きっぱりと言い切る律子。

P「そもそも俺は大人びてませんからね」

律子がそう言うのもうなずける。

小鳥「ふぅん……。でも恋愛は何がきっかけで発展するかわかりませんからね」

P「そういうあなたはどうなんですか?」

聞かれてギョッとする小鳥さん。

小鳥「私は、その、あの……」

P「なんですか? 煮え切らない返事ですね」

小鳥「私も経験無いと言いますか……えーと、はい……」

P「俺とあんま変わらないじゃないですか……」

ちょっとわかった風な恋愛初心者さんだった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 19:58:30.01 ID:bGfeJTyV0<> P「とにかく、恋愛なんてしばらくする気はありませんから安心してください、社長」

高木「そうだね、君がアイドル達のことを第一に考えてくれるならそれに越したことはないけど、自由にしてもらって構わないよ」

P「はい。ありがとうございます」

小鳥「でも私だって結婚したいとか考えてるもん……」

なんだかふて腐れてしまった小鳥さん。

律子「そうですね。頑張りましょう小鳥さん」

そんな彼女を慰める律子。

朝からこんな調子で業務が始まる。

ちらちらと頭の中である女性の顔が浮かんだが、どうして彼女のことを考えてしまうのかよくわからなかった。

高木「うぉっほん……!」

仰々しい社長の咳払いは話の話題を切り替えるとともに重要な話題の提示を示している。……多分。

高木「ところで今日は君たちに大事な話があってね……」

P「大事な話ですか……」

みんな息をのむ。

高木「実はね……本日付で新しいアイドルが来ることになってるのだよ!」

小鳥「なんと!」

律子「新しいアイドルですか!」

二人とも驚いているがそれ以上に喜ばしいようだ。

新入りは美希以来か……久しぶりだなぁ。

高木「私の知り合いでプロダクションを経営してるところがあったんだがね……」

少し沈痛な面持ちで社長は話す。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 19:59:35.58 ID:bGfeJTyV0<> 高木「経営がこんなにんなって倒産してしまったのだよ」

律子「と、倒産……?」

うちも他人ごとではない状況にあったので律子はちょっと青ざめてた。

高木「そうなんだ。それで解雇になる予定だったアイドルをうちで二人ほど引き取ってね、今日から活動してもらうことになってるのだよ」

P「なるほど……だから今日は全員が事務所に集まるスケジュールになってるわけですね」

小鳥「どんな子たちが来るのでしょうか……?」

高木「複数いた子たちの中でも特にピンときた子を引き取ったよ」

律子「他の子たちは?」

高木「ああ、他の子たちもそれぞれ引き取り手がいるみたいだ」

ホッと安心した律子。

夢が破れてしまうのは悲しいもんな。

高木「だから彼女たちのこと、P君と律子君に任せたよ!」

P「はい。任せてください」

律子「が、頑張ります!」

小鳥「私もしっかりサポートしますね!」

そして昼前にはアイドルの子たちもみんな集まる。

高木「やあ、みんなおはよう。今日は新しい仲間を紹介しよう」

春香「どんな子なんだろう……楽しみだなぁ……」

千早「そうね……仲良くできるかしら?」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:00:21.49 ID:bGfeJTyV0<> あずさ「765プロはみんな仲良しだから、きっと大丈夫よ」

そんなあずさの胸を見て千早は……。

千早「くっ……!」

おい。仲良しという言葉に説得力がないぞ。

だが千早、それは俺にはどうすることもできない。すまない。

今のは心の声のはずだから、千早に睨まれたのはきっと気のせいだ。

高木「じゃあ紹介するから入ってきてくれるかな」

そう言って扉の向こうから出てきたのはやや小麦色の肌をしたポニーテールの小柄な女の子と、銀髪で気品あふれる長身の女の子。

高木社長が自己紹介を促す。

響「じぶ……私、我那覇響って言います。よ、よろしくお願いします……」

恥ずかしいのか、もじもじとしてみんなと視線を合わそうとしない。

しかしみんなは拍手して歓迎する。

それに対して一層恥ずかしそうに俯いてしまった。

続いて銀髪の女の子。

貴音「四条貴音と申します。よろしくお願いします」

こちらは堂々としていて圧倒されてしまいそうなほどだ。

自己紹介を終えると再び拍手。

高木「じゃあP君、今日のことは任せるけど、いいかい?」

P「もちろんです」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:00:53.46 ID:bGfeJTyV0<> 高木「頼もしい返事だね。律子君はいつも通りレッスンを見てやってほしいのだが……」

律子「はい。わかりました」

そう言うと律子は手を叩いてみんなをまとめる。

律子「はい! じゃあレッスンに行くわよ! 今日は厳しいからねー!」

亜美「えー! りっちゃんより兄ちゃんがいいー!!」

真美「真美もー! りっちゃん厳しいんだもーん!」

春香「そうかなぁ? プロデューサーさんの方がキツイと思うけど……」

律子「亜美と真美は特別練習でもやる?」

亜美真美『うあうあー! ごめんなさーい!!』

真「それにしても今日は一日中レッスンかぁ……」

伊織「最近、レッスンの日って取れないものね」

雪歩「大丈夫かなぁ……? ついていけるかなぁ……?」

やよい「私も心配です……」

伊織「大丈夫よ。それより今日は久しぶりにみんなでレッスンなんだし楽しみましょう」

美希「デコちゃんいいこと言ったの! でもミキもハニーに見てほしかったけどね」

伊織「デコちゃん言うな……」

ぞろぞろとレッスン場に向かうアイドル達。

残されたのは俺と新入り二人。

P「さて、まずは自己紹介だな。俺はP、アイドルのプロデューサーをやってる。企画はもちろん、レッスンも見るし、君たちのサポートを全力でやらせてもらう。よろしく」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:01:25.60 ID:bGfeJTyV0<> 貴音「ええ、こちらこそよろしくお願いします」

響「……よ、よろしくお願いします」

P「えーと、我那覇?」

響「は、はいっ!」

P「大丈夫、最初は慣れないことも多いけど一緒に頑張ろう!」

響「……うん!」

この子いい笑顔するなぁ。

P「四条も徐々に慣れていけばいいから……」

貴音「お気遣いありがとうございます」

P「そうだ。君たちはどうしてアイドルに?」

貴音「それは……とっぷしーくれっとです」

四条は人差し指を自分の口元に立てて言う。

トップシークレット? 秘密ってことか……。

なんだ、とっつきにくいな……。

P「そっか、我那覇は?」

響「えっと、じ……自分は、ターリー……お父さんが死んじゃって……家族のために上京してアイドルを始め……ました」

P「そっか……ごめんな辛いこと聞いちゃって……」

響「ううん、いいんだ……あなたは悪い人じゃなさそうだし……」

悪い人? 以前になんかあったのか?

P「それにしても二人は同じ事務所から来たんだろ?」

貴音「いいえ、所属は同じですが私は彼女を見たことはありません。おそらく別の事務所から来たのだと思います」

ややこしい話だが、今回倒産したプロダクションは事務所を二つ構えていて、彼女たちは別々の場所から来たということだ。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:02:05.25 ID:bGfeJTyV0<> P「ふーん。そういうことね」

とはいえ彼女たちにいきなり仕事が入ってくるわけがなく、俺たちも俺たちで別のレッスン場に向かうことになった。

P「いきなりレッスンでも大丈夫?」

貴音「もちろんです」

響「こう見えても、じ……自分、結構ダンス得意なんだ……」

相変わらず堂々と振る舞う四条に対し、少しおどおどしながらもアピールする我那覇。

P「二人とも自信ありそうだな」

お手並み拝見といこうかな……。

そう思っていたが、歌もダンスも言うことはほとんどなかった。

響「ど、どう……ですか?」

P「うーん。特に言うことはないなぁ……。細かいところはいろいろあるけど全体的にまとまってる。うん、率直に言うと上手い」

ただ、なんか物足りないんだよな……。

アイドルとして致命的な何かが欠けてる。

P「……お前ら、楽しい?」

たった一つの、イエスかノーかの二択の質問。

けれど二人ともすぐに答えられなかった。

P「悪いことは言わねえよ。楽しくないんなら辞めた方がいい」

二人が答える前に追い打ちをかける。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:02:30.37 ID:bGfeJTyV0<> 響「えっ!?」

貴音「……」

P「うちのアイドルは全員が、少なくとも仕事を楽しんでやっている。全力でアイドルやってる。あんたらは確かに上手いが……それだけだ。そんなんじゃ仕事もやらせられない」

響「そ、そんなっ! 楽しいぞ! 歌って踊って……自分、楽しい! ……です」

そんな無理な笑顔はやめてくれ。

見てるこっちが辛い。

P「四条、お前は何か言いたいことねーのか?」

貴音「はて……楽しいかと聞かれるとよくわかりません……。ですが私も手ぶらでこのまま帰るわけにいかないのです」

事情は分からんが二人とも辞める気はないようだ。

P「まあ、まともに仕事もやったことないようだから楽しいかどうかなんて聞くのも野暮だったな」

それを聞いた二人はばつが悪そうに顔をしかめた。

P「これから優先的にお前たちには仕事を与えるから、楽しいかつまんないかはそれで決めろ。つまんなかったら辞めろ。こちらが迷惑だ」

酷い言葉を投げつける。

これで折れるようなら本当にいらない。

いや、いるいらないなんて俺の本心ではない。どうでもいい。

ただ、醜い大人の波に飲まれる世界だからこそ、この対応が俺にとって最も正しい選択なんだ。そのはずだ。

でもできれば辞めたいなんて言ってほしくない。

案の定というか、二人ともポジティブな反応ではなかった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:03:05.33 ID:bGfeJTyV0<> 我那覇は泣きそうな顔をして俯いている。

涙をこらえるのに必死なのか肩を震わせる。

一方で四条はあまり大きな変化を見せない中で、ただ表情だけが険しいものに変化していた。

しかし四条にとっては、これでも大きな変化に違いなかった。

P「今日はもういい……。あとは気持ちの問題だからな。続ける気があるなら明日も来い。ちょうどいい仕事があるんだ」

響「……仕事、できるんですか?」

P「今までやったことないんだろ?」

響「そうですけど……」

P「何事も経験だ。ああ、辞めるときも一言連絡入れてくれよ?」

二人は黙ったままだ。

俺の予想が正しければ沈黙は問いに対する了承、そして拒否。

二人の目はまっすぐ俺を捉えていたからだ。

P「じゃあ直帰でいいぞ。明日からはレッスン続きになるだろうけど、我那覇は学生生活にも支障が出ないようにな」

響「……はい」

俺はお疲れ様と言ってその場を後にする。

返事も無く、お辞儀だけした彼女たちは相当参ってるようだ。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:07:16.07 ID:bGfeJTyV0<> 響「……あの、四条さん」

貴音「どうしました、我那覇響?」

響「どう思う、あの人……?」

貴音「それはあなたが決めることでは?」

響はそうだよね、と言って困ったように笑った。

響「自分は、厳しいことを言うけど誠実な人だと思った……」

Pの印象を素直に話す響。

貴音「そうですか……。私も同じ意見ですよ」

響「……そっか。それにしても四条さんって歌も踊りも上手いんだね……自分びっくりしたぞ」

響は見た目の印象からは想像できないが、人見知りだ。

実際、人と目を合わせようとしない癖がある。

そんな響が頑張って他人に話しかけたり、話題を振るのは珍しいことであった。

貴音「いえ、我那覇響、あなたこそ見事でした」

響「えへへ……そうかなぁ……」

貴音「我那覇響……いえ、響……私たちはもともと同じプロダクションの仲間、これからもよろしくお願いします」

響「う、うん! よろしくね! えーと……貴音!」

貴音「ふふっ……。では着替えて帰りましょう」

響「そうだね。今日は緊張したなぁ……」

貴音「ええ、私もです」

響「ホントに……?全然そうは見えなかったんだけど……」

貴音「あまり顔には出さないようにしていますから」

本日、初対面のはずの響と貴音はもとの所属が同じということもあり、お互いすぐに馴染めた。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:07:45.60 ID:bGfeJTyV0<> 響「貴音はお家どっち?」

貴音「私はあっちの方です」

指さした方を見て響は嬉しくなった。

響「自分もそっちなんだ! 途中まで一緒に帰ろうよ!」

こんな夜道でも、いつもなら秘密だとか言って誤魔化すのだが……。

貴音「……ええ、一緒に参りましょう」

響の笑顔は人を惹きつけるものでもあるのか、あるいは悲しむ顔が見たくなかったからなのか……貴音は承諾した。

そうして着替えた二人。

響はすぐにできた友人との帰りに心躍らせていたが、カバンを整理していて気づいた。

響「……あれ?」

貴音「どうかしましたか?」

響「あはは……。ちょっと事務所に忘れ物したみたい……」

貴音「そうですか……ならば待ちますよ」

響はわたわたと手を振る。

響「いいって……! そんなの貴音に申し訳ないぞ……」

とは言いつつ内心待ってほしかったりする。

貴音「いいえ、今日は特に急ぐ用事もありませんし、待っていますので事務所まで行きましょう」

響「貴音……。ありがと」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:08:15.71 ID:bGfeJTyV0<> その頃、俺は今日のことを小鳥さんに話していた。

レッスンは割と長くやっていたのですでに時間は7時前後。

さすがに日も落ちている。

小鳥「プロデューサーさんはそういうところ厳しいですねー」

まあその通りだと思う。

優しい言い方ができないのも直したい点ではあるのだが、改善される気配がない。

P「ところで、今日来た我那覇と四条ですけど……」

小鳥「あら、下の名前で呼ばないんですか?」

話の腰を折る小鳥さん。

P「……それは距離感が縮まったらで」

俺は適当に流しつつ、振りたかった話題を振る。

P「……今度、美希と組ませてユニットで売り出そうと思うんですけど、どう思いますか?」

小鳥「うーん。いいと思いますよ? 私はプロデューサーさんの意見をサポートするだけです」

P「……でも上手くやれるかなぁ?」

小鳥「いつになく弱気じゃないですか?」

P「あいつら楽しそうにレッスンしてませんでしたから……」

小鳥「そうなんですか……」

少し心配そうになる小鳥さん。

P「仕事したことないみたいなのでその、経験とかも積ませたいんですけど……」

小鳥「経験ゼロで美希ちゃんと組むのはハードル高いですね……」

P「そうなんですよね」

小鳥「しかも美希ちゃん最近は真面目にレッスンもしてるし、ついていけますかね……?」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:08:42.30 ID:bGfeJTyV0<> P「そこは問題ないです。歌もダンスもかなり上手いですよ。それは美希に負けないくらいに……」

小鳥「へえ! すごいですね! ならなんでそこまで心配を?」

P「美希の奔放な性格についていけるかどうかですかね……」

小鳥「あー、要はコミュニケーションの問題ですか」

P「そうなりますね。四条はともかく我那覇は人見知りみたいなので……」

そうだったのかと小鳥さんは顎に手を当てる。

P「まあ、どちらにせよアイドルとしてやることは、やってもらわないといけませんからね……」

小鳥「お仕事もただで手に入れられるものではありませんからね……」

P「ですねー。時には体を張ることも大事ですよ」

主に俺が……。

小鳥「実際、彼女たちはどうなんでしょうか?」

どうと言うのは仕事に対する熱意だろうか……。

P「明日になればわかりますよ。……いや、おそらく仕事に飢えてます」

明日来るか来ないかだが、彼女たちは来ると思う。

来たからと言って辞表を叩きつけられないとも限らないのだが……。

P「俺は今がチャンスだと思いますね。仕事への渇望と成功した時の達成感を考えれば彼女たちはもっと先を求めてくると思います」

小鳥「成功っていうのもなかなかにハードじゃないですか?」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:09:13.18 ID:bGfeJTyV0<> P「彼女たちならきっと大丈夫です。一度やってしまえばそれが自信にもなるし、何よりファンのためにもっと頑張れるんじゃないですか?」

俺が柄にもなく新人アイドルについて、熱く語っていると、大きな物音が聞こえた。

続いて扉が閉まる音。

どたどたと慌てたように階段を駆け下りていく音も少し聞こえた。

P「ちょっと見てきます」

小鳥さんは完全に青ざめている。

小鳥「気を付けてください……」

俺は警戒しながらドアを開ける。

待ち伏せして襲い掛かってくることもなかった。

一応、階段を下りて建物の外も確かめたが、やはり怪しい人影はなかった。

P「?」

なんだったんだろうか……。

俺は疑問に思いながらも戻る。

高木「どうしたのかね?」

高木社長は異変を聞きつけて社長室から顔を出していた。

P「いや、なんか誰かが出入りしたような物音があったので、確認してきました」

高木「不審者か……怖いねぇ……戸締りを強化するようにしようか」

小鳥「そうですね……」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:09:40.00 ID:bGfeJTyV0<> 数分前……。

響「じゃあ自分すぐ戻るから、そこで待っててね」

貴音「ええ、わかりました」

そうして響は静かに事務所のドアを開けた。

Pと小鳥はなにやら雑談中で響には気づいてないみたいだった。

響(早く取って戻ろう……)

響が忘れたのは財布。

うっかりカバンから出してしまい忘れたのだ。

当然、忘れたまま帰るわけにはいかない。

響(あった!)

彼らから見えない位置に置いてあった響の財布。

響もここで、そんなにこそこそすることは無かったはずだったのだが……先ほどのレッスンで言われたきつい言葉のせいで、なんだか顔を合わせづらかった。

P「まあ、どちらにせよアイドルとしてやることは、やってもらわないといけませんからね……」

小鳥「お仕事もただで手に入れられるものではありませんからね……」

P「ですねー。時には体を張ることも大事ですよ」

小鳥「実際、彼女たちはどうなんでしょうか?」

彼らの会話が聞こえる。

盗み聞きするつもりはなかったが、貴音と響自身の話だとわかって気になってしまう。

P「明日になればわかりますよ。……いや、おそらく仕事に飢えてます」

Pのその表現はほとんど的中していた。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:10:12.14 ID:bGfeJTyV0<> 響は確かに仕事がしたい。

そのために上京してきたようなものだし、アイドルの舞台に立ったことすらない。

一年間プロダクションに所属してたうえで……。

そして響は嫌なことを思い出していた。

以前所属していたプロダクションでのことだ。

P「俺は今がチャンスだと思いますね。仕事への渇望と成功した時の達成感を考えれば彼女たちはもっと先を求めてくると思います」

『今がチャンスなんだよ!』

小鳥「成功っていうのもなかなかにハードじゃないですか?」

P「彼女たちならきっと大丈夫です。一度やってしまえばそれが自信にもなるし、何よりファンのためにもっと頑張れるんじゃないですか?」

『仕事を取りたければ体を張ってもらわないとね』

『最初だけだから……。それに一度ヤればもっと欲しくなるよ?』

『仕事、欲しいんでしょ?』

『ファンのためだと思って!』

言動が重なる。

もう疑いが止まらない。

響は嫌な汗を全身に流しながら、足を震わす。

もう嫌だ。

……心機一転とまではいかなかったが、ここに来る直前までは仕事ができるかもしれないと楽しみにしていた。

それに対してこの仕打ち。

響は何を信じばいいのかわからない。

そうして逃げ出した。

血相を変えて逃げ出した響は貴音のもとへ……。

貴音「おや、少し時間がかかったみたいですね」

響「……ごめん」

貴音「顔色が優れないようですが……」

響「……」

言うか言わないか迷う。

けれど貴音も被害者なんだと思うと言わずにはいられなかった。

響「貴音!」

貴音は急に大きな声を出す響に呆気にとられる。

響「実はね……」

と響は話した。自分の過去のトラウマが原因で盛大に勘違いしてしまった内容を……。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:10:49.74 ID:bGfeJTyV0<> 翌日。

二人が来ない。

P「おかしい」

俺の予想が外れたことに自分自身、驚きを隠せない。

こういう時は大体、予想を外したためしはない。

俺はちゃんと彼女たちを見たうえで判断をしているからだ。

P「律子は今いる子たちを連れて先に行っててくれ」

律子「わかりました……。二人とも遅刻なんてどうしたんでしょうか?前の事務所はそんな大雑把だったんですかね」

皮肉のつもりなんだろうが、律子の言い分も納得だ。

それなら倒産したのもうなずけてしまう。

律子はアイドル達を連れてレッスン場へと向かう。

それにしたっておかしい。

俺は続けるにしても辞めるにしても来るように言った。

ただ待っていても仕方がない。

電話するかも迷ったが、出てくれるかは不明だし、彼女たちの答えがこれなら残念ながら受け入れるしかなかった。

俺は事務仕事をしながら待ってみることにした。

二時間経っても現れないどころか連絡すら入ってこない。

もうダメだな。……と半ば諦めていたところだった。

貴音「……あの」

四条がようやく来た。

P「お前遅すぎ、何やってたの? 俺、昨日いつも通りに来てって言ったはずなんだけど」

四条は俺の言葉にろくに反応せずに、すっと息を整えた。

貴音「……あなた、何か隠しているのではないですか?」

突然何を言い出すかと思えば……。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:11:42.72 ID:bGfeJTyV0<> 不満を露わにする四条を前に俺も怒りを隠さずに告げる。

P「それは何の真似だ? まあいい、質問には答えてやる」

キッと睨みつけてくる四条。

俺も真正面から怒りを滲ませ眼を付ける。

P「お前らに隠してたことは無い。強いて言うなら、今度お前らをユニットで売り出すことを昨日決めた。それは今日話すつもりだったが、メンバーが揃わなきゃ話にならん。……他に質問は?」

貴音「……仕事を餌にして私たちに何をさせようとしていたのですか?」

P「? 仕事を餌に? 何言ってんだ? 仕事なんて餌にするほど入ってこねーから。バカにしてんの?」

貴音は少したじろぐが、まだ堂々と構えている。

そして俺はそろそろこの件に関する事実をつかみ始めていた。

貴音「では、響のとらうまについてご存知ですか?」

P「昨日会ったやつのトラウマなんぞ知るか……。あいつは人見知りっぽかったし、俺に話すわけねーだろ」

響が絡んだということはもう間違いないと思った。

P「……もうわかった。我那覇の誤解を解きに行く。……四条、お前も来い」

貴音「待ってください! 何がわかったと言うのですか!?」

ようやく狼狽える四条。次はこちらが質問する番だ。

P「お前、我那覇に枕営業されそうだとか何とか言われなかったか?」

ストレートに枕営業と言ってしまったが、別にそこまで気にすることは無いだろうと思った。

貴音「どうしてそれを……」

P「そこまでヒントを出されりゃ誰でも気づく。おおかた昨日、事務所に戻ってきたとき俺と小鳥さんの会話を聞いたんだろう」

そして俺は昨日のあの時の会話を憶えている。

確かに仕事のために何でもさせる、と言ってるように聞こえなくもない。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:12:56.32 ID:bGfeJTyV0<> P「まあ俺の言い方も悪かったかもしれないが、はっきり言ってそういう経験がないやつじゃないと、あの会話をそういう意味に捉えることはできない」

つまり……。

P「我那覇のトラウマとやらもわかった。枕をもちかけられたか、枕を強要させられたかのどちらかだろ」

四条は驚きを隠せず、俺を手品師か何かを見るような目で見ていた。

貴音「真、驚きました……。しかし、私はまだあなたのことを信用できません。響がああ言っていたのですから……」

響、ね。一日でそんな仲良くなるとは思ってなかった。

P「信用できないんなら他の子に処女かどうか聞いてみろ」

完璧にセクハラの大問題な発言をした。

P「それでも信用できないんならもう結構だ。お互いの信用が築けないんなら、この仕事はいよいよ終わりだ」

今の四条の言い分でいくと俺たちの無実を証明できる証拠が何一つない。

だから俺はどうしても彼女たちに納得してもらわなきゃいけない。

P「いいか四条?」

貴音「……」

P「我那覇もお前もそれは早とちりってやつだ。そういうのは持ちかけられてから言え」

貴音「それでは遅いのでは?」

P「企業はそう言うのは基本的に強要しない。そうしてしまったら強姦と変わらないからな。証拠を手に、訴訟を起こせば企業は勝てない」

四条はふむ、と考えるような仕草をする。

P「まあこんなしょうもない話はどうでもいい」

貴音「どうでもいいなんてことは……!」

P「うるさいな。それよりも大きな仕事が待ってんだ。やるかやらないかは我那覇と四条次第だ」

四条もようやく、というかほぼ最初から俺の言葉に揺らいでいたのだが、決心したようだ。

貴音「行きます」

P「ああ、友達なんだろ?」

貴音「ええ、間違いを正すのも友の役目です」

事務所で我那覇の履歴書を確認し、俺たちは我那覇の家に向かう。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:13:59.50 ID:bGfeJTyV0<> 移籍時に社長に負担してもらって引っ越した、わりと大きめのマンションだ。

ペットもオーケーらしい。

まったく社長の人脈は一体どうなっているのか見当もつかない。

P「俺の言葉には耳も貸さないだろうからな……四条、頼んだ」

貴音「わかりました」

四条はボタンを押す。

軽快なチャイム音が心地いいと思ったのか、四条はもう一度鳴らそうとする。

P「いや、一回でいいから」

止めると、いけずですね、と一言残念そうに四条は言う。

しばらくして我那覇が顔を見せる。

響「……貴音? ……!!」

俺を認識した我那覇は急いでドアを閉めようとするが……。

貴音「響、待ちなさい!」

その声で我那覇は止まる。

響「貴音……何で……?」

絶句する我那覇。

裏切られたという感覚に支配されている。

響「酷いっ! 信じてたのに! 自分はそんなことしてまでお仕事したくない!」

貴音「落ち着いてください、響。私たちは友達です。響にそんなことはさせません」

思い込みというのは厄介だ。

響「信じられないよっ! 帰って! 自分はもういいっ! 仕事なくてもいい!!」

自分の判断が正しいと思い込んでしまえば、なかなかひっくり返すことはできない。

テストとかでもよくある。

これが答えに違いないと思い込んでしまうと、結果、間違いだとしてもそれを認めようとしなかったり……。

だが、四条は引かなかった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:14:29.36 ID:bGfeJTyV0<> 貴音「落ち着きなさい響!」

我那覇の肩をつかんで、より強い口調で呼びかける。

怯んだ我那覇は興奮から一気に冷めて四条を呆然と見つめる。

貴音「私、さきほど話を伺ってまいりました」

一転、穏やかな口調で話し始める。

貴音「あれは響の勘違いです。あなたも言っていたではありませんか、この方は厳しいけど誠実に見えると……」

我那覇は怯えた目で俺を見る。

貴音「そもそも、そんないやらしい仕事を持ちかけてくる人が私たちに厳しく接するでしょうか? 辞めろと言うでしょうか?」

響「……」

我那覇は黙る。だいぶ揺らいでいるようだ。

貴音「だから響、私とともに続けましょう」

我那覇の手を取る四条。

P「……そういうことだ我那覇、信じられないんだったら俺の恥ずかしい過去を教えてやる」

そう言うとキョトンとする二人。

俺は構わず話した。

P「俺は実はいいとこの生まれなんだが、見ての通りの口調と態度だ。そんなわけで追い出されちまったんだけどな……」

信じられないといったような二人。

P「ここまではみんな知ってるんだ。今となっては別に恥ずかしくもない。……だがここからは誰にも話したことのない俺の高校時代の話だ」

やがて、いつの間にか興味が沸いてきたのか、二人は聞き入り始めた。

P「俺はいいとこの家だったから高校も当然いいとこだ。ただ……いいとこってのは男子校って相場が決まってるもんだ」

ちなみにそういうとこの親は女子は女子校に入れたがる。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:16:02.16 ID:bGfeJTyV0<> P「俺も当然男子校で友人と普通に過ごしていたわけだが……ある日、先輩に呼び出されてな、これは殴り合いにでもなるんじゃないかと思ったんだが……」

自分も思い出すだけで気分が悪くなってくる。

少しの間、溜めを作る。

我那覇と四条は真剣に聞いている。

P「……告白をされた」

言った瞬間、二人は笑った。

P「あれはマジでゾッとしたんだ。抱き付かれたときは咄嗟に背負い投げをして理事長に呼び出されたもんだ……」

響「あははっ……! 何それ!」

P「……これが俺の秘密その一」

響「まだあるの!?」

もういいよーと言って、なお笑う我那覇。

これが彼女の素の姿なのかなぁと思いつつやっと笑ってくれたその姿に安堵する。

P「やっぱ、笑ってた方がいいよ」

響「え?」

四条「そうですね。響は笑顔が素敵です。だから私も響の悲しむ姿は見たくなかったのです。……プロデューサー、貴方に直接話してよかった」

P「お前は、最初から俺に食って掛かってただろ。あの喧嘩腰はもうちょい考えてくれ」

貴音「すみません。私も響のあんな顔を見てしまって頭に血が昇ってしまったのです」

P「そうかい」

俺は我那覇に向き直る。

P「あのさ我那覇……。俺を信じてくれなんて言わないよ。前のプロダクションでも言われたんだろ?」

俺は我那覇に視線を合わせる。

響「……なんで、わかったの?」

P「汚い大人ってそう言うんだ」

響「そうなんだ……」

P「俺はお前たちにそんなことは絶対させないし、取引先がそう言ってきたら必ず断る。俺だって汚え大人が大っ嫌いだ」

響「プロデューサー……」

P「……やっとそう呼んでくれたな」

そう言うと我那覇はそうだっけ? と照れくさそうにしている。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:16:27.93 ID:bGfeJTyV0<> P「じゃあ先に仕事の話をしよう。少し上がっていいか?」

響「いいけど、ちょっと待ってて……」

片付けでもするのだろうかと思ってたが案外早く扉は開いた。

響「うち、動物がいっぱいいるんだけど……あんま怖がらないでね?」

貴音「動物ですか……」

P「動物は好きだからいいよ」

あの無邪気な感じがいい。

そうして家にあげてもらったのだが、俺と四条の予想の斜め上を行っていた。

動物多すぎ……。

ワニまでいるぞ。

俺はともかくとして、四条は完全にビビってた。

貴音「ひ、響……わにとか、蛇とか大丈夫なんでしょうか……? ……ひぃっ!!」

近づいてくる蛇に退く四条。

響「多分、大丈夫!」

多分って何だ、多分って……。

案内されて床に敷かれたカーペットの上にそれぞれ自由に座る。

俺の側には大きな犬がやってきた。

スーツに毛が付くからやめてほしかったが、しかたない。

可愛いから許す。

帰ったらクリーニングだな。

P「まあいい。……そんで我那覇の不安を払拭するためにもまずは仕事について話しておこう」

我那覇は動物たちを可愛がりながら、四条は蛇に巻き付かれて青ざめながら話を聞く。

P「……お前たちにはユニットを組んでもらう」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:17:31.54 ID:bGfeJTyV0<> 貴音「……ユニットですか?」

響「二人で?」

P「違う。……うちにいる星井美希をリーダーとして、三人でだ」

貴音「星井美希……?」

P「あの金髪な」

響「あの子かぁ……」

人見知りの我那覇はちょっと嫌そうな顔をした。

P「そうだ。だが甘くはない。美希はまだ有名ではないが、うちの中でもセンスはピカイチだからな」

興味深そうに感嘆の声を漏らす二人。

P「そこで昨日のレッスンを見て、ユニットを組むという判断をした。お前たちなら美希の動きにはついていける。千早も上手いがバランスが悪いと思ってたんだ」

貴音「なるほど……ですが……」

言いたいことは分かったので、四条が尋ねる前に言葉を返す。

P「ああ、お前たちには経験が足りない。しかし、経験がないのは誰でも一緒だ。それにゼロからそこそこの舞台に立ってもお前たちなら乗り越えられると思う」

貴音「どうしてでしょうか?」

P「なんだろな。……カンかな?」

響「カンって……」

貴音「面妖な……」

P「それでどうだ。やるのか? やらないのか? 俺は強要はしないぞ」

響「やる!」

貴音「響がそう言うのであれば私も……」

P「決まりだな……じゃあ今からでもレッスンに行こう」

そうして立とうと思ったのだが……。

犬が、のしっと寄りかかってきて立てない。

P「なあ、ちょっとどいてくれないか?」

犬はちらりとこちらを見ると気だるそうに立ち上がってくれた。

すげえ。今言うことを聞いたぞ。

内心で俺は子供のようにはしゃいでいた。

響「いぬ美が言うこと聞くなんて……」

我那覇は戦慄していた。

何はともあれ無事にレッスン場へ、律子たちと合流して参加する。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:18:07.81 ID:bGfeJTyV0<> 他のアイドルは結構へとへとだった。

律子「あ、プロデューサー」

美希「ハニー!!」

美希の猪突猛進をひらりとかわす。

ぶーっ! と頬を膨らませながら不満たらたらな目を向けていた。

P「おい、ちょっと無理させ過ぎじゃないか?」

律子「え? そんなことは無いと思うんですけど……」

P「まだ昼過ぎだぞ? これからまだまだあるんだから休憩にしよう」

今日は朝から晩までレッスン場を確保している。

まさに合宿並の一日の練習量だ。

真美「やったぁ……!」

亜美「もう死ぬ〜!」

P「ほら、飲み物と……ご飯は今の胃に入るのか?」

手に提げてた大きめのビニール袋をみんなに見せる。

真「ボクは大丈夫ですけど……」

美希「おにぎりなの!」

春香「私もちょうどお腹空いてました……」

千早「そうね。休憩にしていいんじゃないかしら」

雪歩「……」

あずさ「……」

雪歩とあずさは喋る余裕もないようだ。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:19:08.88 ID:bGfeJTyV0<> へたり込んだまま俺を見上げるが、実際見えてるのか見えてないのか、いまいちわからなかった。

P「二人とも大丈夫? じゃないよな」

律子「そんなに!?」

P「疲労って意外と動いた後の休憩時にどっとくるもんだからなぁ」

伊織「な……なによ……二人とも……だらし……ないわね……」

P「伊織も無理すんな……。息絶え絶えじゃないか……」

やよい「伊織……ちゃん……ぷろ……でゅーさーの……言う……通りだよ……」

やよいもかっ!

ダンスでも体力の差って出るもんだな……。

確かにダンスきついけどね。

でも、そんな激しい振りではないと思うんだけどなぁ……。

律子「だから体力はつけておきなさいって言ってるのに」

P「まあしょうがねえだろ。がっつり休ませてやろう。なんならお昼寝タイムにしてもいいけど……」

美希「お昼寝!! ハニーと一緒に寝るの!」

律子「プロデューサー、甘やかし過ぎでは? というかプロデューサーが寝たいだけなのでは?」

P「否定はしない!」

まったく……と呆れる律子だが、それ以上言ってこないあたり休ませるのには異論はなさそうだ。

P「律子はまだいけるよな?」

律子「はい?」

P「我那覇と四条のレッスンを見てやってくれ」

律子「いいですけど……。あ! 自分はまさかお昼寝ですか!?」

P「いいでしょ? お願いっ!」

ぐちぐちと文句を言われたが特に止められることはなかった。

ここでは珍しいことにお布団貸出しというものがある。

クローゼットに布団が積んであり、部屋を八時間以上貸し切ってる団体なら使えるのだ。

疲れを癒すための配慮だとか……。

みんな好き好きに昼ご飯を食べ、休憩をしている。

俺は四条と我那覇をまず呼んでくる。

響「プロデューサーって自由だね……」

やり取りを窺っていたのだろう。

わがままだと言ってもいいんだが。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:19:50.64 ID:bGfeJTyV0<> 貴音「はて……? みんなは、ばてているようですが……」

P「朝からさっきまでレッスンしてたんだ。多分律子のことだから休み無しのぶっ続けだろうし」

響「そうなんだ」

P「あんま驚かないのか?」

響「うん。だって自分、仕事なかったから朝からずっとレッスンって日も珍しくなかったんだ」

貴音「おや、奇遇ですね。私も歌や踊りは朝から夜までというのは多々ありました」

P「それならあれだけスキルがあるのも納得かな……?」

とりあえず二人を部屋の中に案内して律子にレッスンを見てもらうことにした。

律子「プロデューサー、曲はどうします?」

P「夏頃の765プロ1stライブに向けて全員用の曲があるだろ?それを今日できる範囲で覚えてもらおう」

律子「了解です。振り付けを見せないといけませんね……」

P「いや、昨日のうちに一通りやってみたから、簡単にレクチャーしてうろ覚えの箇所を潰してくれ」

さすがに一日でほとんど修得というわけにはいかなかったが、結構もの覚えもよく要領がいいのだ。

律子も俺がそう言ってるのを少し疑いながらも、驚きを隠せない様子だったが、すっと切り替える。

プロデューサーになってからおおよそ3、4ヶ月くらいだろうか……。

律子は切り替えがだいぶ早くなったと思う。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:20:33.93 ID:bGfeJTyV0<> 律子「わかりました」

我那覇と四条はよろしくお願いしますと頭を下げて律子の指導の下レッスンを開始させる。

俺は俺でクローゼットから布団を取り出し床に敷いていった。

部屋は結構広く、人数分敷ける。

シューズの軽快な音、律子のリズムをとる声が部屋に響く。

俺は雪歩とあずさのもとに向かい、水を取り出す。

二人はへたり込んで壁に寄りかかっている。

まずは雪歩を抱き起し、ペットボトルの水を飲ませる。

雪歩「……んっ……んく…………」

こくこくと水を飲んで、ふぅっと一息つく。

P「雪歩、無理しちゃだめ。怪我でもしたらどうするの……」

雪歩「……いけると……思って」

ようやく喋れるくらいに回復したようだ。

俺は汗を拭いてあげて膝の裏と肩に手を回し、抱き上げる。

雪歩「ひゃぁっ……!」

P「ちょっと休みなさい」

そう言って俺は敷いた布団に雪歩を寝かせ、毛布をかける。

あずさも寝かせなきゃと思って振り返ると、異様な視線を全身に受けた。

我那覇と四条、律子だけがこちらを見ることもせずレッスンを続けていた。

俺はそんな視線をガン無視して、あずさも同じように抱き起す。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:21:19.02 ID:bGfeJTyV0<> あずさ「ぷろ……でゅー……さー……さぁん……」

なんか色っぽいな……。

P「ほら、あずさも飲みなさい」

あずさ「んっ……んっ……んっ……」

ある程度飲むとあずさは両腕を前に出して、抱っこして、というジェスチャーをする。

意識的な感じはしない。

おそらく疲労感からか無意識でこの姿勢をとっているのだろう。

雪歩と同じように抱え上げる。

あずさは俺の首に腕を回してきて、俺はちょっと可愛いと思ってしまった。

P「しっかり休んで、起きたらストレッチしてもう一回練習しような」

あずさは小さくうなずく。

俺はあずさを布団に下ろして身を引こうとするが、首に回した腕をほどいてくれない。

P「おい、寝ぼけてんのか?」

あずさ「プロデューサーさんも……一緒に……」

P「まだスーツだから寝ないって」

それを聞いて残念そうにしたあずさは腕をほどいてすぐに寝た。

彼女でも甘えたいときってのはあるんだよなぁ……。

みんなのお姉さん的存在だから、なかなか気付いてやれなかったりする。

俺は一息落ち着いて再び振り返ると……。

春香、伊織、真、美希の四人が目立つところでぶっ倒れていた。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:21:59.39 ID:bGfeJTyV0<> P「は?」

驚きのあまり素っ頓狂な声が出た。

そこで千早がやってきて俺に耳打ちをする。

千早「全員寝たふりです」

P「……何で?」

俺も千早に倣って小さい声で聞き返す。

千早「プロデューサーが動けない萩原さんとあずささんをお姫様抱っこで運んでたから春香たちも運んでもらおうと思ってるんですよ、きっと……」

P「何だそんなに楽をしたいのか?」

千早「いいえ、多分お姫様抱っこされたいんです」

P「なんだそりゃ……。まあ自分から言うのは確かに恥ずかしいな」

言えばやってあげるけど……周りに人がいなければね。

P「しょうがねえな。たまにはわがままに付き合ってあげよう」

四人を順番に運んでいく。

P「よいしょ……。何だ、軽いな……」

春香を持ち上げる。

顔を見るとこれは寝たふりだってわかった。

なんかムカついた。

P「ふーっ……!」

春香「ひゃあぁぁぁっ……!!」

耳に息を吹きかけてみると春香は悲鳴を上げて飛び起きる。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:22:32.00 ID:bGfeJTyV0<> 春香「ちょっとプロデューサーさん! セクハラですよ! セクハラ!」

P「セクハラか……ごめんな。じゃあもう二度とやらないから許してくれ。今すぐ下ろすよ」

春香「……え? 別に……そんなことは言ってませんけど……。ほら! あれです! 許してほしかったらお布団まで運んで、これからもお姫様抱っこしてください!」

最後、自分の願望になってるよ……。

とりあえず春香を布団に寝かせる。

続いて真を抱き上げる。

顔を見ると、夢が叶ったみたいにいい笑顔だった。

こいつは起きてるのを隠す気があるんだろうか?

真の顔が本当に嬉しそうなもんだから、まあいいやと思いながら運んでいった。

真「本当にしてくれるとは思いませんでした」

真は寝たふりをやめたようだ。

P「いいのか? 寝たふりは……」

真「だって気づいてるみたいだったし、ボクお姫様抱っこって憧れてたんです!」

P「そんな遠回りなことしなくても直接言えばやってやるよ」

真「本当ですか!」

P「他に人がいなければな」

真「へへっ、やっりぃ〜!」

とにかく嬉しそうな真だった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:24:01.69 ID:bGfeJTyV0<> 次は伊織。

P「よっと……やっぱ軽いなぁ……」

規則正しく寝息を立て、体にも力を入れず持ち上がる伊織。

こいつは完璧な演技だ。

P「やっぱ伊織は可愛いなぁ……」

伊織だけに聞こえるように小声で言う。

ピクリと反応した。

俺はなんだか楽しくなってきた。

P「こんなに頑張ったんだもんな。伊織は偉いぞ。さすが俺の妹。最高だ。可愛い。天才……」

最後は完全に適当なのだがとにかく褒めちぎってみた。

あ、ダメだこいつ。

さっきとは違って口が、もにょっとにやついてる。

俺は伊織を寝かせ、とりあえず毛布で簀巻きにしといた。

伊織「ちょっとー!! お兄様! これはどういうことよ!?」

ぎゃあぎゃあ喚く伊織はほっとく。

意外と元気じゃないか。

最後に美希だ。

P「よっと……」

持ち上げたのだが、大人しい。

実際、一番暴れるんじゃないかと思ってたのでなんだか拍子抜けだった。

でも大人しくて助かる。触らぬ美希にたたりなしだ。

と思っていた俺が甘かった。

布団まで運び、下ろそうとしたところでガバッと一緒に布団に引きずりこまれた。

P「おい美希!」

美希「ハニー!」

ぎゅうぅっと頭をロックされる。

抵抗して抜け出そうとするも、抜け出せないようにと美希も強く絞めてくる。

攻防が始まった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:25:05.80 ID:bGfeJTyV0<> P「こら! この!」

美希「あんっ! そこ触るなんてハニーって結構エッチだね!」

P「変な声出すな!」

美希はやっぱり女の子で俺が本気で腕をほどきにいくと、簡単に拘束は解けたのだが、こいつはしつこかった。

美希は足で俺の腰をホールドする。

そっちをほどこうとすると、次はさっきみたいに頭を固定。

立ち上がってもへばりついたままだし、なすすべがなくなってしまった。

P「おーい美希。もういいだろ……」

美希「じゃあこのまま結婚しよ?」

お前まだ15歳だから結婚できねーよ。

伊織「美希っ!! さっさと、離れなさぁい!!」

救世主現る。さすがは俺の妹!

ぐいぐいと美希を引っ張る伊織。

それでも離れないので脇をくすぐって一気にひっぺがす。

美希「デコちゃん酷いのっ!」

伊織「うっさいわねぇ! だぁれがデコちゃんよ!!」

美希「せっかく美希たち結婚できたのに……」

P「だからできねーよ……」

伊織「お兄様も何よ! 私のことぐるぐる巻きにして! 許さないんだから!」

P「悪かったって、ついな……」

伊織「ついじゃないわよ!」

美希「ハニー! デコちゃん怖ーい」

伊織「あんたは近づくんじゃない!!」

再び俺に抱きつこうとする美希の後ろ襟をつかんで布団の上にぶん投げる伊織。

さすがにやりすぎだろう……。しかもどこからそんな力沸いてくるんだよ……。

美希「きゃっ!」

春香「ぐえっ!」

そして春香の上に放り投げられる美希。

春香がアイドルらしからぬ声を出していたが大丈夫だろうか。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:25:56.87 ID:bGfeJTyV0<> 伊織「お兄様もお兄様よ! 何なの!? やられたい放題にやられて……殴ってでも止めなさいよ!」

P「殴ったらダメだろうが!」

激昂した伊織との言い合いが続く。

律子「ちょっと静かにしてもらえませんかねぇ!!」

律子の怒鳴り声で問答に終止符が打たれた。

P「あー、何か疲れた……」

亜美「お疲れー、兄ちゃん」

真美「楽しそうだったねー」

皮肉を込めてるのか全然楽しくなさそうに言う真美。

千早「今日は一段と大変でしたね」

P「ああ、まったくだ」

やよい「美希さんすごいです……見てるこっちもドキドキしちゃいました……」

やよい、そのドキドキは不健全だからやめなさい。

P「美希は寝てくれてた方がいいぜ……」

中学生に興味はないけど、あのわがままボディは多少理性を削ってくるものがある。

もう数ヶ月以上も、その、してないわけだし……。

P「あー、着替えてくる」

そう言っていったん部屋を出る。

更衣室はこっちか……。

なんだか眠くなってきたし、ジャージに着替えてとっとと寝ようと思った。

着替えにあまり時間はかからず、すぐに部屋に戻る。

真美「兄ちゃんのジャージ久しぶりに見たかも……」

P「そうか?」

やよい「最近プロデューサーとレッスンした日がないからかも……」

P「そういや久しぶりだな……」

千早「今日はプロデューサーにも歌が聞いてもらえるなんて嬉しいです」

P「相変わらずだな千早は……」

椅子や床にそれぞれ座り、仲良く談笑。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:26:27.96 ID:bGfeJTyV0<> でもやっぱり眠くなってきて……。

P「俺も寝たいんだけどいいか?」

椅子に腰かけていたが後ろから亜美が飛びついてくる。

亜美「じゃあ一緒に寝よーよ!」

P「5人で寝るか」

やよい「いいんですか?」

P「息抜きも大切だしな」

千早「もう、ほどほどにしてくださいよ……」

やよい「千早さんも一緒に寝ましょう!」

千早「高槻さんがそう言うなら……」

真美「じゃあ早くお布団に行こうよー!」

真美は俺の手を引っ張る。

亜美は背中に乗りかかり、空いているもう片方の手でやよいの手を握る。

千早は俺たちに寄り添うように付いてくる。

みんなで布団に入る。

我那覇と四条のレッスンを見つつ、5人で雑魚寝した。

そこそこ経っただろうか……。

俺は目覚めて起き上がろうとするが起き上がらない。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:27:06.22 ID:bGfeJTyV0<> P「重い……」

律子「誰が重いですってぇ……!」

律子が毛布の上からのしかかっていた。

響「自分、重くないぞ!」

貴音「真、失礼ですね」

P「我那覇も四条も何やってんだ……」

律子「プロデューサーが気持ちよさそうに寝てるのを見てたらなんだか腹が立ってきて……」

響「自分たちは頑張ってるのにプロデューサーはセクハラばっかして、本当は変態なんじゃないの?」

貴音「響が疑ってしまったのも納得です」

P「おいおい、それは関係ねえだろ……」

律子「とにかく私たちも寝ますから!」

響「そうだぞ!」

貴音「おやすみなさいプロデューサー……」

P「せめて降りてからにしてくれ」

俺は三人をどかして立ち上がった。

意外にも早起きなのは春香や千早、伊織、美希、それに真だった。

しかもすでに準備は万端、表情は真剣そのもの。一体どんな心境の変化があったというのか……。

P「おはよう。早起きなんだな」

千早「ええ、横になっただけで寝てませんでしたので……」

P「そうか……。ところでどうした?」

真「何がですか?」

P「いつもよりやる気があるじゃないか」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:27:58.71 ID:bGfeJTyV0<> 真「まあ、あれを見せられちゃね……」

P「あれ……?」

春香「響ちゃんと貴音さんですよ」

美希「もしかしたら響は真くんよりダンス上手いかもしれないの……」

千早「歌も表現豊かで上手かったです」

それで彼女たちの対抗意欲を燃やしたということか……。

伊織「確かに技術じゃ負けてるって認めるけど、なんだか負けてない気がするのよね」

春香「そうなんだよね……」

P「へえ興味深いな……。どうしてそう思うんだ?」

春香は悩みに悩んで言葉を選ぶ。

春香「うーん。アイドルとして見てってことでしょうか……? ダンスも歌も私の方が下手ですけど、アイドルとしては決して負けてないと思います」

P「ふぅん。俺もそう思う」

春香「え!? てっきりダメ出しが来ると思いましたけど……」

P「いいや、確かに二人は春香よりも歌もダンスも格段に上手いが、アイドルとしてはキャリアも魅力も今の春香の方が確実に上だ」

春香「ありがとうございます。……だから歌もダンスももっと練習して技術でも負けたくないなって思ったんです」

P「いいことじゃないか。なら、お前らのレッスンまとめて見てやる。もともと律子と代わるつもりだったしな」

伊織「あら、こちらもそのつもりだったけど?」

美希「ハニーに見てもらうの久しぶりなの!」

P「そうかい。ならそれなりの覚悟はあるってことだな?」

真「プロデューサーが本気出したら律子とは比べものにならないほど厳しいからなぁ……。それでもやりますけどね!」

春香「ついていけるように頑張ります!」

そうして始まったレッスンというか特訓。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:28:46.76 ID:bGfeJTyV0<> 特訓しているうちに他のアイドル達も起きてきて、律子、響、貴音を除いた残りのメンバーで練習をしていた。

P「筋力をつけるのは基本だ! 姿勢も良くないと、いい歌と踊りはできない!」

いきなり筋トレをやらせる。

回数は少なめだが、かなりきつく感じる子もいるようだ。

P「せめて千早くらいできてもらわないと困るなぁ……」

雪歩「無理ですぅ……!」

ダンスも徹底的にダメ出ししていく。

P「春香、そこ違ってる。真もそうじゃない、そこの振り適当にやっちゃダメだ」

お手本を見せながら修正していく。

もちろん全体を通して踊れるのが前提となっていて、細かい間違いはこういう風に後でつぶす。

真美「まこちんがダメ出しされるんじゃ……」

亜美「亜美たちももっと頑張らなきゃね……」

ボイスレッスンも声が枯れるまで、と言っても実際に声を枯らせるわけではなく、正しい歌い方で限界までやらせる。

P「何事も正しくが大事だ。正しい姿勢で正しい発声をする」

俺は基本の重要さを知っているからだ。

一時間もすれば我那覇も四条も起きてきて、全員でレッスンをすることになった。

そうして、日も落ち今日は終了となる。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:29:42.54 ID:bGfeJTyV0<> P「お疲れ様。今日と明日はゆっくり休んでくれ」

律子「プロデューサーってかなり厳しいんですね……」

あずさ「はぁ……はぁ……もうダメです……」

やよい「……うぅ……疲れました……」

雪歩「……」

真「しっかりして雪歩!」

P「しょうがねえな。雪歩は抱えていくか……」

貴音「響、いい笑顔ですね」

響「うん! 久しぶりに楽しかったさー!」

春香「響ちゃんすごいね……」

響「え? そ、そうかな……天海……さん」

春香「やだなぁ……! 春香でいいよ。同い年なんだし、これからよろしくね!」

響「う、うん! よろしく!」

人見知りだった我那覇も溶け込めたみたいでよかった。

というより、人見知りにしては慣れるの早いんだよな……。

貴音「三浦あずさ……大丈夫ですか?」

あずさ「……ありがとう、貴音ちゃん。私のこともあずさでいいのよ?」

貴音はみんなのフォローに回っていて、なんだか頼れるお姉さんみたいだ。

謎な部分は多いけど……。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:30:11.53 ID:bGfeJTyV0<> 千早「高槻さん。ほら、肩を貸すわ……着替えに行きましょう?」

やよい「千早さん……ありがとうございます」

亜美「あー疲れたぁ……」

真美「もー疲れたぁ……」

伊織「だらしないわね……」

真美「とか寝ながら言ってるいおりん」

亜美「あははは……! だっさー! ださいおりん!」

伊織「なんですってぇ……!」

真美「真美たちは自分の足で歩けるから、ださいおりんは、そこではいつくばっているがよーい!」

伊織「あーーーー……なんで動けないのよぉ……」

しかたないやつだな。

P「おい伊織、おぶってやるから乗れ……てか乗れるか?」

伊織「むりぃ……」

P「しかたねーな」

ていうか冷静に考えたらおんぶと抱っこを同時にやるのって俺だけじゃなく、二人にも負担だし無理だな。

肩に担ぐようにして二人を持ち上げた。

P「お前らは車で送ってやるから、着替えは後にして車に乗ってなさい」

そう言って車の後部座席に放り込んだ。

俺もちょっと汗の匂いが気になるが、事務所に戻るまで我慢することにした。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:30:40.01 ID:bGfeJTyV0<> 他に乗り込んでくるのは我那覇、四条、それに美希だ。

他のみんなは直帰、日も沈んで危ないからできるだけ複数で帰るようにしてもらう。

P「お疲れ様。気を付けてな」

亜美「ミキミキたちずるーい!」

真美「真美たちも連れてけー!」

P「こいつら送ったら事務所に戻るから、疲れて動きたくない子は事務所で待っててくれ。そうしたら送っていくから」

みんな、どうしようかー? とざわざわし始めたが、比較的体力のある真や千早、春香も先に帰るということになった。

響「自分たち疲れてないから、先に送ってあげて……」

そこで我那覇からの提案。

貴音「そうですね。私たちは事務所で待ってますので……」

美希「えー!? ハニーと一緒がよかったの……まあいいけど……」

P「いいのか? 悪いな」

律子「じゃあ私が彼女たちと一緒に行きますね」

P「おう、任せた律子」

結局、俺は伊織、雪歩、あずさ、やよい、双海姉妹を送っていくことになった。

全員送り届けるのに2時間もかかってしまった。

伊織の家の前ではどうしようかと思ったが、立てるくらいに回復していた伊織は最後は自分の足で帰っていった。

P「ヤバい待たせすぎてる……」

一応連絡はしたのだがすでに午後九時。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:31:17.54 ID:bGfeJTyV0<> ようやく事務所の前。

ドアを開ける。

P「ごめん。お待たせ」

美希「遅いのー!」

さっそくぶーぶー不満を垂れる。

P「ごめんって」

響「早くしないと動物たちのご飯が……」

P「それはまずいな……。じゃあさっそく仕事について説明するからよく聞いてくれ」

『プロジェクト・フェアリー』という俺が立てた企画について……。

今回765プロ初のユニットを結成し、彼女たちを中心にプロダクション名も同時に売り出す。

どちらかというとアイドルの資質うんぬんより、高いパフォーマンスで幅広い年齢層のファンを得るのをコンセプトとする。

もともとは美希、千早、真あたりで組む予定だったが……。

ユニットとして活動するイメージがわかなかったので保留にしていたところだった。

P「……そういうわけでユニットとして活動してもらう。明後日からレッスンは三人で行ってくれ。それと……」

そう言って三枚のCDを取り出し、それぞれに配る。

P「これがデビュー曲だ。カップリング曲も一緒に聞いて歌詞を憶えてくれ。歌詞カードは一緒に入ってる」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:31:51.37 ID:bGfeJTyV0<> 貴音「これは、『きす』……と『おーばー……ますたー』ですか?」

四条は英語がダメらしい。

歌になれば問題ないと思うけど……。

P「そう。『kiss』と『over master』な」

どっちもいい曲に仕上がっていると思う。

響「そっか。デビューできるんだ……」

今になって我那覇は実感がわいてきたらしい。

P「さて、遅くなって悪かったな。じゃあ帰ろうか……」

みんなも立ち上がって帰ろうとすると、なにやら寒気が……。

小鳥「プロデューサーさぁん……」

P「うわっ! いたんですか!?」

小鳥「酷いっ!! 私だって早く帰りたかったのに!」

P「じゃあ先に帰ればよかったでしょう?」

小鳥「戸締りはどうするんですか!?」

P「俺がやっときますよ……。大体、美希たちが残ってるのに俺が戻らないわけないでしょ?」

小鳥さんは、気づいてなかったのかハッとした表情になる。

小鳥「……でもダメです!」

理不尽に否定する小鳥さん。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:32:18.37 ID:bGfeJTyV0<> 小鳥「これから飲みに行きましょう!」

P「ダメダメ、彼女たちを送らないと……」

小鳥「その後でいいですから!」

P「えー?」

まあその後ならいいか……。

P「しょうがないですね……」

そう言うと小鳥さんは、いえーい! とはしゃぎ始める。

精神年齢が気になった。

とりあえず我那覇を送ることにした。

車の中で相変わらず上機嫌の小鳥さん。

響「プロデューサー、いぬ美たちにご飯あげた後、自分も食事行っていいかな?」

そんな中、我那覇はおずおずと尋ねた。

P「ん? 別にいいけど、どうして?」

響「実は今日は料理作るの面倒になってきちゃって……」

P「あー、そういう日あるよなぁ……。酔っ払いが一人出来上がるけど、それでもいいなら行こうか」

響「ありがとうプロデューサー!」

美希「だったらミキも行くのー!」

お前寝てたんじゃねーのか。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:32:49.37 ID:bGfeJTyV0<> P「そうか、親御さんに連絡しとけよ……」

続いてお腹の鳴る音が車内に響く。

貴音「おや、これは失礼しました。食事の話を聞いたらなんだか急に……」

お腹の音は止まない。

P「……四条も一緒に行くか?」

貴音「……ええ、ご一緒しましょう」

結局、この場にいるみんなで居酒屋に行くことになった。

さて、居酒屋に来たわけだが……。

P「今日は俺のおごりだから遠慮しないでいいよ」

小鳥「え? 本当ですか?」

真っ先に反応するのが最年長の小鳥さん。

響「え? そんなの悪いぞ、自分はお金出してもらうつもりでついてきたわけじゃないから……」

P「我那覇は遠慮すんな、待たせたお詫びだ。小鳥さんはもっと遠慮しましょうね」

美希「ハニー、ありがとなのー!」

貴音「私も自分で出せますが、いいのでしょうか?」

P「いいって……。これはお詫びだからな」

貴音「それでは早速注文いたします」

P「おう、決めるの早いな。好きなの頼め」

早くも店員さんを呼ぶ四条。

貴音「ではこれと、これと、これと、これと……これと……これと…………」

……ってどんだけ頼むんだよ!!
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:33:17.29 ID:bGfeJTyV0<> P「おいおい、頼み過ぎじゃないのか?」

貴音「だめでしたか?」

P「いやダメじゃないけどさ……食えるの?」

貴音「全部食するつもりですが……」

ふーんそう言うならいいけど……でも残すだろうから俺は何も頼まなくていいや。

美希「貴音、それはいくらなんでも頼み過ぎじゃないかなぁ……」

響「自分もそう思う……」

この二人が心配するレベルだ。

小鳥「とりなまっ!!」

この人は相変わらずだな。とりあえず生ビールを一杯飲むらしい。

各々注文は済み、やがて大量の料理がテーブルに並べられる。

これは俺、注文無しで正解だったかな。

それにしても四条のやつ容赦ない……。

美希「貴音、ちょっとずつちょうだい!」

貴音「ええ、構いませんよ。なくなればまた頼めばいいだけのこと……」

P「俺ももらうぞ」

みんなで貴音の注文した料理をつついていく。

あんなに大量に注文したのに気づけばほとんどなくなっていた。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:34:23.50 ID:bGfeJTyV0<> P「あれ? こんなに少ないんだ……」

響「自分ももっと多いと思った……。あんな量あったのにそんなにお腹いっぱいじゃないぞ……」

我那覇も美希も小鳥さんも意外だなぁといった風に驚いていた。

貴音「足りませんね……」

追加の注文。

先ほどの倍くらいの料理がテーブルに並ぶ。

俺たちは食べているとあることに気づいた。

P「四条、お前どれだけ食うの?」

貴音「はひ、なんでひょうか?」

P「口にものを含んで喋るんじゃない……」

明らかに四条の食べるペースがずば抜けていたのだ。

四条は俺たちの頼んだものには全く手を付けないから俺たちはすぐにお腹いっぱいになってしまった。

小鳥さんは相変わらず飲みまくってるが……。

美希「やっぱりあんな量は無茶だったの……」

響「自分たち三人でも貴音の最初の注文分の量はきついってことだったんだな……」

P「四条、俺たちのも食っていいぞ……」

貴音「いいのでしょうか?」

ああ、むしろ食べてほしいくらい。

というかどれだけ胃袋に入るの?

貴音「真、美味です」

そうして四条もようやく食べ終わる。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:35:28.65 ID:bGfeJTyV0<> 小鳥「あっはははははは……!!」

P「結局こうなるんだよなぁ……」

お酒を飲みまくった小鳥さんは俺の肩に寄りかかりながら大笑いしていた。

響「自分、恥ずかしいぞ……」

美希「小鳥は食事になるといっつもこうなの」

他人のフリをしたい我那覇と、呆れた様子の美希。

貴音「今日は満足のいくほどいただきました」

このレシートの長さにはビビった。

しかも居酒屋で四万超えるとは思わなかった……。

もう絶対連れてかないと心に誓う俺だった。

P「とにかく、帰ろうか……」

そうしてみんなを送ってく。

最後は小鳥さんにした。

どうせ帰って酔いつぶれたまんま寝るし、お世話しないといけないからな。

P「小鳥さん、家に着きましたよ」

小鳥「……うぅん……。……きもちわるいよぉ」

P「飲み過ぎです。せめて家のトイレで吐いてください」

俺は車を止め、肩を貸して家まで連れてく。

鍵を小鳥さんの鞄から勝手に取り出し家にあがる。

あまり躊躇はない。

電気をつけると意外にも整理された部屋で、女の子らしくはないが俺は好きだと思った。

P「早くお手洗いに……」

小鳥「はいぃ……」

すぐにトイレのドアを開け、小鳥さんの背をさすりながら様子を見る。

そしてここからは彼女の名誉のため割愛。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:36:21.80 ID:bGfeJTyV0<> その後ふらふらの小鳥さんにうがいをさせ、歯も磨いてあげる。

寝てるのかわからないが、質問した時によくわからない返事をしたので多分起きてるんだろう。

P「早く口ゆすいで着替えて寝てください。お風呂は明日の朝でいいでしょう?」

小鳥「ふぁい……」

そして着替え始めたかと思ったら、そのまま背中からベッドに倒れこんだ。

P「もー! 世話が焼けるなぁ……!」

ちょっとイラッとしながらも、取り出したパジャマに着替えさせるため、服を脱がす。

夜で眠いのと、少しイライラしてたのとで彼女の下着姿も特に気にならなかった。

P「はい! これでちゃんと寝てください!」

小鳥「ふぁーい……」

また倒れこむように寝たので布団がぐちゃぐちゃになった。

P「はあ……」

深くため息をつき、小鳥さんをちゃんと寝かせる。

寝ながら戻すとかないよな……。

とも思ったが、先ほどのアレを見れば胃の中は空っぽのはずだ。

P「じゃあ俺も帰りますよ……」

小鳥「待ってぇ……」

がっしと俺の腕をつかむ。

小鳥「寂しいから行かないでぇ……」

弱弱しく言う小鳥さんが心配になり、俺は一晩残ってしまった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:37:26.86 ID:bGfeJTyV0<> 夜が明ける。

小鳥「……何でパジャマ? ……うっ、頭が痛ーい……」

起きて早々、二日酔いに苦しむ小鳥。

小鳥「……え? 何でプロデューサーさん?」

どうやら昨日の記憶は完全に飛んでいるようだった。

小鳥はプチパニックを起こす。

小鳥「もしかして私、プロデューサーさんと一線を……!?」

小鳥は記憶が無いのを悔しく思いながら自分の股間に手を伸ばした。

この女、起きて早々、淫乱極まりないのだがナニをするわけではなく自分の膜を確認しているだけだ。

小鳥「……ある。なーんだ! やっちゃったかと思ったわ! ……へたれプロデューサーさんめ!」

P「誰がへたれですか。この淫乱クソビッチ……朝っぱらから股間に手ぇ突っ込んでんじゃねぇよ……」

小鳥「ぴよぉ……その言いぐさはあんまりだと思います……」

P「反省してください。お酒はしばらく禁止です。俺はすぐ帰りますから……」

俺は立ち上がってさっさと玄関に向かっていき、ドアを開ける。

小鳥「ちょっと、何があったのか詳しく説明を……!」

ドアを閉める。

俺は急いで帰って支度を済ませ、出勤した。

小鳥さんはやっぱり遅れて来たのだった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:38:44.77 ID:bGfeJTyV0<> そんなことがあってから二週間後。

ついにフェアリーの初ステージとなった。

雛祭りに続き、イベントでのライブだ。

彼女たちはわずか二週間で歌とダンスを仕上げてくれた。

見込んだ通りとはいえ、のみこみの速さに驚きを隠せない。

それなりの数のメディアが集まっているところを見ると注目度は高いらしい。

新しいアイドル発掘の場として名高いのも今回のイベントの特徴だったりする。

魔王エンジェルや新幹少女も、この舞台に立ったと聞いている。

P「準備はいいか?」

美希「いつでもオッケーなの!」

P「響と貴音は?」

響「うぅ……緊張してきた」

貴音「大丈夫ですよ響……」

P「まあ、待ってても時間はやってくるから、それまでに心の準備をしておけ……」

しばらくすると出番が回ってくる。

響「ああ……どうしよう……どうしよう!」

P「響、落ち着けって!」

美希「響、大丈夫だよ! ミキに任せればいいって思うな」

P「そうだ、とりあえず行って来い。そうしたら何とかなる」

貴音「響、参りましょう」

「765プロさーん! お願いしまーす!」

響はここにきてイヤイヤと言い始める。

そんな響の背中を押すのが俺の役目だ。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:39:10.50 ID:bGfeJTyV0<> P「大丈夫だよ。もう一人じゃないだろ?」

響「あ……」

周囲を見渡す響。

その表情はみるみる穏やかになっていく。

響「えへへ……そうだった……」

美希「じゃあ行くのー! ハニー! ちゃんと見ててね!」

P「任せとけ」

登場と共に拍手が聞こえる。

中には美希を呼ぶ声も……。

いつぞやのライブでファンになった人たちだろうか……。

美希「あ! ミキのために来てくれてありがとうなの!」

その一団に向かって手を振る美希。

貴音「真、楽しそうですね」

響「美希って結構すごいんだな……」

美希「今日はね、ミキの新しい仲間を紹介するの!」

おい。お前もそんな有名じゃないだろ。

見えるところからジェスチャーで自己紹介をするように促す。

美希「あ、ミキの自己紹介がまだだったの!」

響「ええ!? 美希って誰でも知ってるくらい有名だと思ったぞ……」

自己紹介も無しにメンバーの紹介なんてしようとするから、身内まで混乱してる。

そもそも有名なら響も知ってて当然のはずなんだけど?
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:40:58.75 ID:bGfeJTyV0<> 美希「ミキの名前は星井美希! 今日はね、なんかユニットを組んで初めてのライブなの!」

なんかってなんだ。

美希「それでね、美希と一緒に歌ってくれるメンバーを紹介するの! はい、じゃあ貴音!」

貴音「私からですか……」

貴音は一つ咳払いして自己紹介を始める。

気品漂うその風貌と美しい容姿から客席は静まり返る。

貴音「初めまして、四条貴音と申します」

響「終わり!?」

貴音「ええ」

美希「貴音、もっと他に言いたいこととかないの?」

貴音「ありませんが……」

美希「ふーん。じゃあ次、響」

さばさばと興味なさげに相槌をうって、次に進める美希。

響「ええっ!? そんなんでいいの……!?」

美希「うん」

美希は適当に言って、響に自己紹介するように指示する。

響「……えと、は、初めまして……。じ……私、我那覇響って言います……。えと、よろしくお願いします」

たどたどしく自己紹介をする響。人見知りだから大目に見てほしい。

美希「響は他に言いたいことある?」

響「私も特にない……です」

美希「つまんないの……」

フッと鼻で笑ってつまらなそうに口端を上げる美希。

響「な、何だよそれぇ!!」

美希「何か響ってば緊張しちゃってるみたいなの。事務所にいるときはそんな丁寧に喋ったりしないんだよ? 自分のことも自分って呼ぶし……挨拶も『はいさーい!』って言いながらやってくるの!」

響「うわぁ! やめてよ美希!」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:42:24.13 ID:bGfeJTyV0<> 自分の素の姿をばらされて響は慌てる。……確かに、自分の普段の態度を、他人から周りに言いふらされるのは恥ずかしい。

会場からくすくすと笑い声が聞こえる。

嘲笑という感じではなく、好意的な笑いだ。

美希「もっと貴音を見習うの! 貴音は初めてでもこんなに堂々としてて響とは大違いなの」

響「見習って口数減らしたんじゃないか!」

美希「……だって。貴音からも何か言ってよ」

美希は貴音に振り向き、話を振る。

貴音「私ですか……はて、お腹がすきましたね……」

響「自由っ! いいの貴音!? ていうか今、空腹かどうかは関係ない話だったでしょ!?」

貴音「いえ、私には食のことしか頭にありません」

響「ダメだぞ! ファンのことしか考えちゃダメだぞ!」

美希「ミキも問題ないって思うな。ミキも眠いの……あふぅ」

響「自分こんなユニットでやっていけるのか不安になってきたぞ……」

ていうか何だこいつら、漫才始めやがった。

客席からは普通に笑い声をあげる人もいる。

美希「というより、響も緊張が解けてきたんじゃない?」

響「そう言われるとなんだか緊張してきた……」

美希「とりあえずもう一度自己紹介をするの!」

響「えー!? もういいよ……」

美希は強引にマイクを響に手渡した。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:42:52.53 ID:bGfeJTyV0<> 貴音「響、今こそ開放するのです!」

響「何をっ!? 貴音までなんなのそのノリ……」

美希「ほら、いつもの響でいけばいいって思うな」

響はうんうんと唸っていたが、再び自己紹介を始めた。

響「はいさーい! 自分、我那覇響だぞ! 沖縄出身で動物が大好きなんだ! 家にもたくさん動物がいて、みんな大事な友達なんだ!」

開き直ったようだった。

響「ど、どう……?」

貴音と美希に振り返る。

貴音「響らしさが出ていいと思いますよ……?」

無難なコメントの貴音。

美希「みんなー! どうだった?」

客席に聞く美希に響は顔を真っ赤にして慌てる。

響の慌てっぷりとは裏腹に、会場からは拍手という形で響は評価された。

まあ、悪くないよ……ってことだ。

響「……え? あ、う……ありがと……ごじゃいましゅ……」

そこかしこでハートを打ち抜く音が聞こえたような気がした。

貴音「響、可愛らしいです……」

美希「よかったね、響! これからは人見知りはやめて、いつもの響でいくの!」

響「人見知りって言うなぁ!」

初ステージ、美希がリーダーの本領を発揮し全体を引っ張っていく。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:44:31.39 ID:bGfeJTyV0<> 美希が響をいじることで、響の本来の姿を取り戻していく。

そして貴音にもここぞというときに話を振って響にツッコませることで絶妙に息が合う。

お客さんも笑顔が絶えない。

会話も弾んできたところで、歌の披露となる。

『では二曲連続でどうぞ!』

トークとパフォーマンスとのギャップはお客さんに衝撃を与える。

一曲目『kiss』

愛されなくても愛の形さえあればいいという歪んだ恋愛観を歌った曲で、曲調とは裏腹にどことなく切ない曲だ。

二曲目『over master』

普通の男性には興味を持たない、恋愛経験が豊富な女性の危険な恋愛観を歌った曲で、歌詞の内容はまさに女王を彷彿とさせる。

俺はどっちも好きだけど、『kiss』の方がどちらかというと好きかな。

歌に踊りに、かなり仕上がったパフォーマンスだった。

そして曲が終わると今までのアイドルよりも一段と大きな拍手が……。

美希「あ、私たちフェアリーって言うユニットなの!」

響「今さら!?」

貴音「ぜひ憶えてください」

響「憶えてほしいぞ!」

『765プロから、フェアリーのみなさんでしたー!』
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:45:02.93 ID:bGfeJTyV0<> 舞台裏にて……。

P「お疲れ様……。どうだったよ初めての舞台は……」

響「うん、すっごく楽しかった!」

貴音「ええ、大変に素晴らしいものでした」

P「じゃあこれからもよろしくな」

響「どんどん仕事こなしていくさー!」

貴音「私も早くぐるめのお仕事がしたいです……」

P「貴音は食いたいだけじゃねーか……。まあ、そういうのあったら貴音に担当させてやるけど……」

貴音「こう見えても私、味覚には自信がありますので適任かと……」

はいはいわかった。

響「プロデューサー! 自分、アイドルやってて良かった! 何度も辞めようって思ったことあるけどやってて良かった!」

ああ、俺はそういう顔が見たかったんだ。

プロデューサーを始めてから、この感動を味わうのがたまらなく好きになってたんだ。

響「これからもよろしくね!」

貴音「これからもお世話になります」

こうして765プロにも新しい仲間が増えました。

ちなみにフェアリーのデビューシングル『kiss』の売り上げも良好で、重版ができるほどだった。

『出会いの季節』『フェアリー』   終わり
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 20:46:14.98 ID:bGfeJTyV0<> いったん休憩。
疲れてきたから次のお話で今日は終了しようかな。
再開は22:00頃で……。 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/18(土) 21:05:04.60 ID:KxGxla2rO<> >>367
乙〜 <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 22:00:12.26 ID:bGfeJTyV0<> よし、再開! <> ◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 22:00:42.59 ID:bGfeJTyV0<> 『招待状』

ある日765プロに、いや、俺あてに一枚の封筒が届いた。

小鳥「この封筒、プロデューサーさん宛に届いてますけど……」

P「え? アイドルにじゃなくてですか?」

小鳥「はい、ここちゃんとP様って書かれてますよ」

P「本当ですね」

開けてみるのが早いかと思い、はさみを取り出して封筒を開封する。

中から出てきたのは一枚の招待状と一枚のチケット。

P「なんだ?」

先に招待状を読んでみる。

P「拝啓P様。先日はお会いできたことを大変嬉しく思います。よろしければ今度のライブ、特別席で御招待しますのでぜひいらしてください。東豪寺麗華」

小鳥「ええ!? 東豪寺麗華って魔王エンジェルの!? そして特別席って!」

P「そんなに驚いてどうかしました? まあ俺もこんなこと初めてで驚きましたが……」

小鳥「魔王エンジェルのライブってチケットを入手するだけでも困難なのに、特等席ですよ!? S級ですよ!?」

やっぱ小鳥さんってアイドルに詳しいんだな。

ああ、いや、俺も詳しくならなきゃおかしいはずなんだけどね。

P「へえ」

社長が、騒々しいのを気にかけてやって来る。

高木「そんな大きな声を出してどうしたんだい音無君?」

小鳥「それが……」

小鳥さんは事情を話した。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 22:01:19.57 ID:bGfeJTyV0<> 高木「そうか。それは確かにすごいことじゃないか!」

俺は貴重なものをもらったらしい。

高木「よぉし! 君はその日は仕事を休んで存分に楽しんできなさい。……ああ、サイリウムを忘れてはいけないよ」

P「はぁ……わかりました。それでは存分に楽しんできます」

そして当日。

P「ここアリーナか。でっけえ……」

首都圏のアリーナ。

このハコで超入手困難の激レアチケットとか……。

魔王エンジェルのすごさがよくわかる。

サイリウムもバッチリ用意してきた。

麗華と朝比奈さん、三條さんのイメージカラーを選んで持ってきた。

物販は長蛇の列で、売り切れでーす、とスタッフの声が聞こえてくる。

もう売り切れ出てるのか……。今は朝の十時だぞ。

販売開始は九時からだから、もう目ぼしいグッズは購入できないだろう。

こんな大きなライブは初めて来たからこれが普通なのかいささか疑問に思った。

物販に足を運ぶつもりはなかったので特に悔しい思いもしない。

ところでライブは4時開場の5時開始だ。

俺がこんなに早く来たのはもちろん麗華たちに会うため。

招待状があれば特別に楽屋に入れるらしい。

いつも最初から舞台裏なのでこういうのは新鮮だ。

ちなみに観客席も千早の雛祭りライブをカウントしなければ今回初めて。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 22:01:52.61 ID:bGfeJTyV0<> P「あー、なんだか緊張するなぁ……」

一人でいると独り言もつい多くなる。

花束を三つ抱えているので周りのファンの方から奇異の視線を向けられる。

しかしそれを軽く流して関係者出入り口の前まで到着する。

警備員に招待状を見せて、関係者専用通路に足を踏み入れた。

祝儀の花がずらりと並んでいる。

あちゃー……花束要らなかったなこれ……。

しかたない。とりあえず、魔王エンジェルはどこかなー。

さすがはアリーナ、舞台裏もやっぱり広い。

しかし見つけるのに時間はかからなかった。

P「けっこう目立つようにしてあるんだな」

ドアをノックする。

P「おはようございます。765プロのPと申します。魔王エンジェルのみなさん、失礼してもよろしいですか?」

ドア越しに挨拶をして相手の返事を待つのは当然だ。

部屋から顔を覗かせたのは魔王エンジェルのメンバーではなく、スタッフと思わしき女性だった。

割りとタイプで、ちょっとスカウトしたいな、と思ったのは内緒だ。

「765プロさんですか? あの、今衣装合わせをしてるので後ほどまた来ていただけますか?」

P「そうでしたか。これは失礼しました。では東豪寺麗華様にどこで待っていればいいのか伺ってもらってもいいでしょうか」

「……わかりました。お名前は?」

俺は自分の名前を告げる。

「少々お待ちください」

女性スタッフは扉を閉めて部屋に引っ込んだ。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 22:02:23.36 ID:bGfeJTyV0<> しばらくして同じ人が顔を出す。

「お待たせしました。あのー、麗華ちゃんから、12時頃にまたこちらへ来るように……だそうです」

P「そうですか、わざわざありがとうございます」

「いえ。……それとお暇潰しでしたらアリーナ周辺の観光や、通りの食べ歩きとかおすすめですよ」

とても気の利く方だ。

時間が空いてしまうのを考慮して時間の潰し方を提案してくれた。

P「楽しそうですね。行ってみますね」

相手の方の優しさに自然と笑みがこぼれてしまう。

やっぱり人は親切にしたりされたりするべきなんだなと思った。

女性スタッフも頬を赤く染め、にこりと笑いを返してくれた。

あー、すごくタイプ、好きになりそう。

とか思ったが、そういうわけにもいかないので、お辞儀をしてさっさとその場を離れた。

さて、言われた通り観光や食べ歩きを楽しむ。

時間はそんなに無かったので、まだまだ回りたいところはあったがお土産を買ってまた戻る。

それにしても荷物が多すぎる。

お土産、花束、サイリウムや応援グッズの入ったリュック。

特に花束が目立つ。

道行く人の注目を浴びる。

大荷物であることに徐々に恥ずかしさを感じながらも、先程のアリーナ、そして楽屋まで戻ってきた。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 22:03:01.57 ID:bGfeJTyV0<> ノックしてもう一度挨拶をする。

さっき対応してくれた女性が再びドアを開けた。

「あら、さきほどの765プロのPさんでしたよね?」

P「ええ、そうです。麗華……じゃなくて東豪寺麗華様にお会いしに来ました」

「少々お待ちください」

部屋に戻って数秒。

女性はすぐに顔を出す。

「どうぞお入りください」

案内されて部屋に入る。

ジャージ姿の三人が椅子に座ってこちらを見る。

P「おはようございます。朝からお疲れさまです」

麗華「おはよう。伊織のお兄様」

ともみ「おはよ」

りん「おはよー! Pさんってば堅いんだから……。もっとため口でいいのにさ」

P「いいの? 最近はため口の方がなにかと楽だったりするんだ」

ともみ「うん。そっちの方がいい」

P「そう? ありがとね。とりあえずこれをどうぞ」

手に持ってる花束を差し出す。

P「ごめんね。アリーナ内にあんなにあると思わなくて、花束なんか貧相かもしんないけど……」

麗華「いいえ、お兄様からいただければ何でも嬉しいわ。センスもけっこういいじゃない」

ともみ「麗華が赤で、りんが黄色、私は青」

P「うん。俺のイメージだけど、それぞれに合いそうな色の基調で花束つくってもらったんだ」

りん「こうやって直接、花束をくれる人はあんまりいないから嬉しいな」

P「とにかく喜んでもらえて良かったよ」

迷惑なんじゃないかと内心ドキドキしていた。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 22:03:30.81 ID:bGfeJTyV0<> 麗華「……ところでこれから私たちお昼ご飯をいただくのだけれど、あなたも一緒にどうかしら?」

P「え? いいのか?」

ともみ「私たちとPさんの仲……」

それはいったいどんな仲なんだ……。

P「というか、外に食べに行っていいのか?」

麗華「バレなきゃいいのよ、バレなきゃ」

P「えー? かなり無理があると思うんだけど……」

りん「この前そう言って3人でラーメン屋行ったんだよね」

麗華がラーメンか……あんまり想像できないな。

りん「そうしたらお客さんにバレて大騒ぎよ……」

ともみ「あれは最悪だった……」

麗華「悪かったわよ。反省してるわ。今回はそうはいかないから!」

りん「それは反省じゃなくて性懲りもないって言うのよ。アホ麗華」

麗華「アホって何よ!」

ともみ「私もりんに同意かな」

麗華「くぅ……!」

P「ところで麗華もラーメンとか食べるんだな。お嬢様でラーメン食べてる人って、俺は会ったこと無いからさ」

麗華「そうね。名家は普通、ラーメンなんて庶民の食べ物は食べないわ」

りん「何それー。私たちのことバカにしてんの?」

真っ先に反論の朝比奈さん。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 22:03:58.53 ID:bGfeJTyV0<> 麗華「違うわよ。伊織のお兄様も言ってるように見たことがないの」

ともみ「どういうこと?」

疑問に思い、首をかしげる三條さん。

麗華「名家のほとんどは箱入りなわけで、ラーメンなんてものに触れる機会がないのよ」

P「そうなんだよなぁ。俺も大学行くまでラーメン知らなかったし……」

りん「嘘でしょ……?」

驚愕のあまりよろける朝比奈さん。

P「でも初めて食べたとき、こんな美味いものがあるんだなって思ったよ」

麗華「そうねぇ。しかもバリエーションも豊富だし、いろんなお店を食べ比べちゃうわよね…」

ともみ「それはわかる」

P「そんで結局、信用できるのは口コミだけになっていったりな」

りん「あははは……! それもわかるー!」

麗華「ああ、なんかラーメン食べたくなってきたじゃない。どうしてくれるの、伊織のお兄様?」

P「いや、知らねーよ。……でも俺もラーメン食べたいかも」

りん「ダメ……ラーメンの口になってきた」

ともみ「私も……」

麗華「リベンジも兼ねて行きましょうよラーメン屋」

俺はそう聞くやすぐにスマートフォンを取り出して検索をかける。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 22:04:29.57 ID:bGfeJTyV0<> P「近くに三軒あるぞ。どれも口コミの評価が高いけど……」

りん「どれどれ?」

ともみ「……」

ひょいと覗きこむ二人。

麗華「私にも見せてよ」

朝比奈さんとの間に割って入る麗華。

朝比奈さんはすっと麗華に譲る。

P「ここの三軒だけど、看板メニューが違うみたい」

オーソドックスな鶏ガラか、あっさりとした魚介か、こってりな豚骨。

P「ちなみに俺はこってり派だ。まあ三人に合わせるけど、どこがいい?」

りん「こってりはアイドルの敵だからなぁ……」

麗華「私は鶏ガラがいいかしら……」

ともみ「豚骨が好きだけど、重いのは控えた方がいい」

その通りだ。

P「じゃあこのお店にするか」

りん「ええ、賛成」

ともみ「無難」

麗華「じゃあ早速変装して行きましょう!」

やけにノリノリの麗華だった。

麗華「マネージャーも来るわよね?」

「私も一緒に行っていいの?」

マネージャーと呼ばれた女性はさっきの女性だった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 22:05:26.40 ID:bGfeJTyV0<> りん「当たり前じゃない」

ともみ「いや?」

マネ「まさか。嫌なわけないじゃない。ただ邪魔じゃないかなと思ってね」

麗華「そんなわけないでしょ? ね、伊織のお兄様」

P「ええ、麗華の言う通りです。むしろ私がご一緒していいのでしょうか?」

マネ「まあ多少リスクはありますが、問題ないと思います」

P「えーと、それはアイドルが男性といるというリスクですか?」

マネ「そうですね。でも私もいればいざというときの言い訳が簡単になりそうですね」

P「ああ、なるほどね」

疑われればマネージャーさんが、仕事です、と言ってしまえばいいのだ。

そうすりゃ、人気アイドルといても誰も気に止めない。

何はともあれ、早速ラーメン屋へ向かうのだった。

麗華「どうこの変装? 完璧すぎて怖いわ」

麗華はいつもは結わない髪型をツインテールにして、眼鏡も着用する。

三條さんも短い髪を両側で結んで小さなお下げみたいにして、帽子を被る。

朝比奈さんは逆にいつもは二つ結びの髪をストレートのままにして眼鏡をかける。

全員服装は地味目だ。

華やかさを少しでも殺して目立たないように努める。

結果、ラーメン屋まで無事にたどり着く。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 22:05:57.59 ID:bGfeJTyV0<> P「なんとか来れたな」

りん「ほんと、冷や冷やするわ……」

ともみ「何人か気づいてたっぽい」

麗華「うそっ!?」

やはり誤魔化しきるのはなかなか難しい。

それにラーメン屋に五人で来るのも意外に目立つものだ。

とりあえずテーブルに案内してもらって注文を済ませる。

全員、普通のラーメンを頼んだ。

マネ「あまり時間がないよ。一応連絡しておこうか?」

麗華「そうね、お願いしてもいいかしら」

マネージャーさんは遅れる旨を伝えるらしい。

注文して数分で目当ての品がやってくる。

ふわっと香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。

割り箸を割って、いただきますとみんなで食べ始める。

りん「おいしー!」

P「うん。美味しいな」

麗華「ラーメンってやっぱこれよねぇ……!」

ともみ「……」

三條さんは一心不乱に食べていた。

みんな、スープも残さず食べきり満足した様子だった。

お代はマネージャーさんが経費で落としてくれた。

ちょっと申し訳ないな。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 22:06:35.00 ID:bGfeJTyV0<> P「払ってもらっちゃってすみません。俺、部外者なのに」

マネ「いいんですよ。付き合わせてるのはこちらですし、これくらいのことは……」

P「……そういえばこの後はリハーサルか何かするんですよね?」

マネ「そういう予定になってますね」

P「そっか、じゃあ四時までまたぶらぶらしてようかな」

さっき教えてもらった暇潰しのしかたでも三時間くらい潰すとなるとどうしても時間が余ってしまう。

うーんと考え込んでるとマネージャーさんは、あの……と声をかけてきた。

マネ「……私でよかったら付き合いましょうか?」

願ってもないことなのだが、それでは魔王エンジェルの付き添いがいなくなってしまう。

P「いえ、あなたは彼女たちについてあげてください」

マネ「……そうですよね」

ちょっと残念そうに見えたけど気のせいだと思う。

麗華「そうだわ。お兄様もリハーサルを見学してみてはいかが?」

麗華は俺とマネージャーさんの間に割って入る。

これも嬉しい提案だけど。

P「いいのか?」

りん「うーん舞台裏はあまり見られたくないんだけど、Pさん一人ならいいかな?」

ともみ「私もいいよ。同業者だし、Pさんの勉強にもなる」

P「それなら見学するよ。すごく楽しみだな」

ともみ「Pさん子供みたい……」

りん「かっわいいー」

くすくすと笑う二人。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 22:07:49.42 ID:bGfeJTyV0<> そんなに嬉しそうにしてたのか自分ではわからないが、そんな風に指摘されると恥ずかしい。

マネージャーさんもにこにこと笑顔を向けてくるし、麗華も恍惚とした表情で眺めてくる。

そして会場へと戻る。

時間は多少押しているが、特に問題ないらしい。

リハは開場の一時間前に終了する予定で、その間に演出や音響等の細かい調整をするようだ。

マネ「ステージ裏で待っててください。彼女たちをいったん着替えさせてきます」

他のスタッフたちが忙しなく動く。

俺は邪魔にならないところで、ぽつんと突っ立っていた。

この大きさの会場だとさすがにスタッフも多い。

アルバイトも多く雇っているだろう。

765プロはちゃんとしたライブは美希のライブ一回だけだ。

美希だけでなく雪歩や亜美、真美、やよいに千早、それに先日デビューを果たしたフェアリーの響、貴音と、固定ファンが増えてきたので、そろそろライブをしてもいい頃だと思う。

あれこれ考案を練っていると、魔王エンジェルがジャージ姿でステージ入りする。

曲を流したり、マイクチェックをしたりする。

麗華『あ、あー……。どうかしら?』

客席の後ろの方にいるスタッフがオッケーでーす! と腕でまるをつくる。

他に、ステージでの立ち位置の確認を実際にバックダンサーを含め踊って確かめたり、ステージの仕掛けの確認を行ったり……。

証明の動かし方や、スクリーンに映る映像の変更まで行った。

P「へー、こんなに細かいところもやるんだなぁ……」

ある程度決まっていたこととはいえ、短時間でここまでこなすのには感心した。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 22:08:17.03 ID:bGfeJTyV0<> 俺は目を下に向けるとなんだか、床に伸びてるコードが気になった。

ステージの方まで伸びていて、音響に繋がっている。

出入りするとき危なくないかなぁと思っていると、ちょうど麗華たちが戻ってきて、やっぱり引っ掛かった。

麗華「きゃあっ……!!」

近くにもいたし、何となく予想もついていた俺は麗華が足を捻らないように注意しながら彼女を支える。

りん「おお、Pさんナイスキャッチ!」

ともみ「Pさんファインプレー」

P「あはは……まあね。……麗華、怪我は? 痛むところ無い?」

麗華「あ、ありがと……。た、た、多分無いわ」

周りのスタッフは何事かとざわついていた。

一部のスタッフはその始終を見ていたようで拍手をくれたり、声をかけてくれたりした。

そして引っかからないように工夫を加え、ステージに立つ人たちへも注意喚起することになった。

麗華「助かったわ」

P「怪我したら大変だからな。想像しただけでゾッとするよ……」

麗華「……そうね。私のために来てくれてるファンもたくさんいるわ」

それは自慢でもなんでもなく、アイドルとして自覚しなければならないことでもあった。

ファンが多いということは期待も多いし、麗華の欠席で悲しむ人もまた多いということだ。

トップの彼女たちはそれをわかっている。

そのうえで慢心はなく、ただファンのためにさらに磨きをかけていく。

うちのアイドルにもこういうところは積極的に見習ってほしい。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 22:08:54.22 ID:bGfeJTyV0<> P「まあ何事もないのなら良かったよ」

麗華「大ありよ」

P「え? やっぱり痛むところがあるの?」

麗華「痛みなんて無いけど、無いけど……!」

うぅーっと唸りだす麗華。

P「何々!? どうしたんだよ!?」

麗華「心臓がばくばくしてる……」

P「……そっか、怖かったんだな」

そう言って頭を撫でてあげる。

こうしてると昔を思い出す。

麗華もよくこうして伊織と同じように可愛がってたっけ……。

麗華「そういうわけじゃないけど……。にぶちん……」

小声で聞き取れない。

麗華「もういいわ。人の目があるからここではやめてよね。あなた刺されるわよ?」

P「怖いこと言うなよ……」

ちらりと周囲を見渡すと確かに、あなた何者だよ……。とあまり好意的ではない視線もちらほらある。

女性スタッフはどちらかというと微笑ましく眺めていた。

そうして調整も終わり、開場の四十分前にすべての工程のチェックが終わる。

みんなで円陣を組んで一致団結するのを見て、かっこいいなぁ、なんて思った。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 22:09:21.04 ID:bGfeJTyV0<> ともみ「Pさん、また後で……」

りん「楽しませるからね!」

麗華「お兄様、今日は来てくれてありがと……。忙しいから来れないと思ったけど……」

P「社長に言ったら予定を空けてくれたんだ。麗華もこんな良い席のチケットくれてありがとう」

麗華「えへへ……。お兄様にも見てほしかったから……」

頬を染めてそう言った麗華は可愛らしかった。

俺は特別に早く会場入りさせてもらい指定席で待っていると、続々とファンが入ってきて、三十分ほどで席はほとんど埋まってしまった。

ここから見ても、客席の様子は圧巻だ。

この風景をうちのアイドル達にもステージの上で見せてやりたい。

しばらくしてライブは始まる。

スクリーンにはスポンサーの企業名が流れる。

それが終わるとアナウンスが流れる。

『皆様、本日はお越しいただき誠にありがとうございます』

それから注意事項を伝え、最後の挨拶へ。

『それでは心行くまでお楽しみください……』

パッと照明が落ち、曲が流れ始める。

歓声が凄まじい。

クラッカーの音と共に魔王エンジェルの三人が派手に登場した。

さらにヒートアップする会場に俺も飲み込まれていく。

全身に鳥肌が立ち、言葉にはできないほどの感情が溢れかえる。

P「すごい……」

正直に言って、これ以上に形容できるような言葉がない。

そして客席もこれ以上にないほど一致団結していた。

アンコールも含め三時間を越えるライブはついに幕を閉じる。

客席でしか感じることのできないライブの雰囲気。

歌で踊りでトークで、彼女たちの魅力を存分に味わえた。

その場の椅子に腰掛け、長い時間余韻に浸っていた。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 22:09:55.42 ID:bGfeJTyV0<> しばらくして麗華たちのもとへ向かう。

ノックをしてマネージャーさんに入れてもらった。

P「お疲れ様! 凄かったよ!」

俺はもう興奮しっぱなしだった。

りん「ありがとうPさん」

ともみ「直接言われるとやっぱり嬉しい……」

麗華「当たり前よ」

三人は衣装のままだ。

汗で髪を濡らしながらも、満足げでやりきった笑顔。

P「うーん、花束はあとで渡した方が良かったかな……?」

麗華「そんなことないわ。ライブの時、邪魔になるでしょ?」

りん「そうそ。応援するときは応援に集中してほしいもん」

ともみ「花束はライブ前にもらっても嬉しい……」

そんな会話から始まり、雑談になったかと思いきや……。

俺は今日の感想を三人の前で高いテンションで話していた。

くすくすと笑う三人。

にこにこと笑顔のマネージャーさん。

P「え? ど、どうしたの?」

りん「やっぱりこういうところ、子供っぽいなぁって思ってね」

ともみ「Pさん可愛い……」

マネ「ふふっ……」

恥ずかしくなってきた俺は慌ててペットボトルの水を手に取ろうとするが落としたしまった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 22:10:26.29 ID:bGfeJTyV0<> 拾おうと思ってしゃがみこむと、横から押されてバランスを崩す。

そのままストンと尻餅をついてしまう。

横を見ると麗華もしゃがんで目線を合わせている。

そしてパンツが丸見えだった。

P「あっ……」

慌てて目を逸らすが……。

麗華「どこ見てたの? 変態」

P「うっ……!」

そう言われて余計に羞恥を感じる。

麗華の方を見ると彼女の顔はうっとりとしたものに変わっていた。

スイッチ入ってるんですけど……。

麗華「ほら、どこ見てたのよ……。ねぇ……」

周りにいる人は突然の出来事に固まってた。

P「見てない。何も見てないって……」

そう言って立ち上がろうとするが、そんな俺の足を持ち上げて転ばせる。

背中までついて倒れた俺の上に四つん這いで覆い被さる麗華。

麗華「嘘でしょ? 知ってるんだから……」

麗華は恍惚な表情に加え、本当に愉しそうに微笑む。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 22:11:13.21 ID:bGfeJTyV0<> 俺は顔を逸らす。

麗華「こっち見てよ」

P「ちょっと……やめ……」

麗華の顔はどんどん近づいて……。

俺の首に歯を立てた。

ぎょっとする間もなく、痛みが駆け抜け、手足がピリッとする。

なんだこいつ、吸血鬼かよ、と意外にも冷静に考えていたが……。

P「い、いたっ! 痛い痛い!! 助けてっ!」

かなり強めに噛んできた。

俺がそう叫ぶと、ようやく周りも硬直がとけて、麗華を引き離す。

りん「こ、こらこら! 麗華は何やってんの!?」

マネ「ちょっと麗華ちゃん! ダメだってば!」

離れたときに見た麗華の表情は紛れもないドSのそれだった。

麗華「あーあ、残念……」

ともみ「残念じゃない……恩を仇で返しちゃダメ」

りん「まったくよ! もう、Pさんをなんだと思ってるの!?」

麗華「私のおもちゃ」

ひでえ話だ。

りん「相変わらず最低ね、ドン引きよ」

麗華「冗談だって。でも私がおもちゃって言ったときのお兄様の顔、素敵ね……」

どこでスイッチ入るかわからん……。

この件で俺はポーカーフェイスを極めようと思うのだった。

首が痛いよぉ……。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 22:12:02.47 ID:bGfeJTyV0<> マネ「本当に申し訳ありません」

P「いや、まあいいですよ。タダでチケットいただいてますし……」

麗華「そうよね。このくらいいくらでもやっていいわよね?」

P「ダメだよ!」

麗華「本当は私に噛まれて気持ち良かったんでしょ? ねぇ?」

P「そんなわけねぇだろ! いてぇから! ちょっと涙出てきたから!」

もうこいつのキャラがわかんねー……。

麗華「……ごめんなさい。ちょっと痕になってないか確認させて……」

麗華は急にしおらしくなる。

スイッチの入れ替えが早いな。

……とか思ってた俺がバカだった。

首を見せる俺。

躊躇なく噛みつく麗華。

止めるみんな。

麗華「涙流してよぉ……」

怖いっ!! 演技してまで噛みに来る麗華が怖いっ!

マネ「もう麗華ちゃんはPさんに近づいちゃダメ!」

ようやく落ち着いた麗華は、止められなかったの……と容疑を認めた。

容疑ではなく明らかに現行犯なのだが……。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 22:12:40.48 ID:bGfeJTyV0<> りん「本当、ごめんね……Pさん」

ともみ「あなたが絡むとたまにこうなるみたい」

マネ「またやられたら言ってください。厳重に注意しておきますので……」

P「あ、是非お願いします」

りん「あのPさんが謙虚に断らなかった……」

ともみ「麗華は重症……」

麗華「ごめんって……」

最後はバタバタとしたが、トップアイドルのライブは本当に楽しいものだった。

後日。

律子「また東豪寺プロダクションからプロデューサー宛に荷物ですよ」

P「おう、またか」

律子「それにしても羨ましいですよ。魔王エンジェルのライブに、しかも特等席で見に行けるなんて……」

P「ああ、あの感動は忘れられないな」

その後のどたばたが無ければ尚良しだったが……。

律子「ま、その代償が首の痕ですか……」

P「見ないでくれ……」

律子「そんなにまじまじと見ませんよ。それより荷物の中身はなんですか? またチケットですか?」

P「いや、そんな早く次のライブはやらないだろ」

開けてみると手紙とお菓子が入っていて、その手紙によると先日のお詫びの品ということらしい。

律子「へえ、ボンボンですか」

P「これはまた高価なブランドのものだな。律子食ったことある?」

律子「ええ、ありますよ。あんまり良い思い出は無いですけど……」

P「そりゃあ、お菓子だと思って食べてみたらそんな美味しくないし、気持ち悪くなるしで大変だろうよ」

律子「まさにその通りです」

これは小鳥さんとあずさと社長で食べてしまおう。

そうして机の上に置いといた。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 22:13:15.02 ID:bGfeJTyV0<> P「そういや律子、相談あるって言ってたな。どうした?」

律子「そのことなんですけど、私もユニットの企画をしてみました」

P「へえ、いいじゃないか。それで……?」

律子「伊織をリーダーにして組もうと思ってるんですが……」

伊織をねぇ。

俺も伊織を中心としたユニットを検討していたのだが……。

P「そうか。それで、なんの相談なんだ?」

律子「伊織のお兄さんであるプロデューサーが、プロデュースしたいのかどうか確認しようと思って……」

P「ああ、そんなことか……。確かに俺も伊織のユニットを企画してたが、律子が欲しいって言うんならいいけど……」

律子「本当ですか?」

P「ああ。ていうか伊織をプロデュースするのに俺の許可は取んなくていいぞ? 自分の好きなようなやりなよ」

律子「ありがとうございますプロデューサー!」

P「それでどんなユニットなの?」

俺は俺で興味津々だった。

律子「伊織と亜美とあずささんで組みます!」

P「その発想は無かった。ずいぶん思い切ったな……」

俺なら伊織と亜美、真美、やよいの四人ユニットにしてるな。

そこを年の離れたあずさか……。

面白い着眼点かも……。

律子「そうですか? 何だかんだでバランスが良いと思うんですよね」

あー、確かにそう思えなくもないな。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 22:13:49.56 ID:bGfeJTyV0<> P「とにかく良いと思う。伊織のことは任せるぞ?」

律子「はい!」

P「まあ何かあれば俺に言ってくれ。伊織はちょっと難しいところあるしな」

律子「ええ、万が一の時はお願いしますけど、なるべく自分の力でやりたいんです!」

P「俺もそのつもりだ。お互い頑張ろう」

律子「ふふふ……。なんだかようやく、プロデューサーと肩を並べられた気がします」

嬉しそうに言う律子だが、俺もそこまで優しくしない。

P「そんな簡単に肩を並べてもらってたまるかっての。もっと精進しろよ?」

律子「当たり前です! 私だってプロデューサーを越えるつもりでやってますから!」

P「ははは……! 生意気言ってんじゃねえ。……でも、その意気で頑張れば必ずうちは良い方向に向かってくよ」

律子「そうなると良いですね……」

想像して表情を輝かせる律子。

P「そんなんじゃダメだろ? 俺達でそうさせるんだ。日本で765プロを知らない人がいないくらいに有名にしてやるんだ」

それが俺の今の夢。

律子は俺の言葉に圧倒されていたが、やがて力強くうなずいた。

P「ところで律子、ユニット名は決まってるのか?」

律子「それはまだ悩んでいます」

P「水瀬伊織と、双海亜美、それに三浦あずさか……」

律子「全員の名前を読むと『み』が目立つんですよね……」

確かに、実際読んでみると『み』の発音が耳に残る。……気がする。

律子「それと全員、水に関係のある名前なんですよね……」

P「へえ、結構考えてるんだな」

律子「そうだ、プロデューサーはフェアリーってどういう意図で名付けたんですか?」

P「あんま深い意味はないなぁ……。ただ、幸せを届ける象徴として思いついたのが妖精だったって話だ」

実は他に女神とか、聖母とかも浮かんだけど英語にすると仰々しいし、親しみづらいと思った。

律子「うーん。フィーリングですか……」

P「大体そうだな」

でも律子みたいな理論的というか、何かに関連した考え方も悪くない。

律子は決まらないようで、ずっと考え込んでいる。

P「なあ律子」

律子「なんですか?」

P「そのユニット名…………」

こうして律子プレゼンツのユニットは発信していくことになった。

『招待状』   終わり
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/18(土) 22:15:07.35 ID:bGfeJTyV0<> 休憩。次回は明日の朝を予定。 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/18(土) 22:36:49.53 ID:/IOmHMm3O<> おつ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/18(土) 23:38:32.14 ID:9N6tv8dSO<> 乙

前スレから見てたけど、新スレにこの前気が付いてやっと追い付いた <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:03:31.04 ID:Uu68IzgT0<> 始めていきまーす。 <> ◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:03:58.22 ID:Uu68IzgT0<> 『ゆっくり進んでいこう』

活動が始まった律子率いる竜宮小町。

しかし、ぽっと出のユニットに仕事も無く、前途多難な毎日を送るメンバーたちであった。

伊織「律子ー……ユニットになったらテレビ出れるんじゃないの?」

律子「そんなこと一言も言ってないわよ」

亜美「亜美も、ユニット組んだらお仕事いっぱいできると思ったなぁ……」

律子「大丈夫。なかなか上手くいかないのは最初だけよ……」

聞いていた俺も、実は悪くないと思っている。

双子アイドルとして売れ始めていた亜美が突然、双子での活動をやめ、ユニットを組むとなったら話題性は多少あると思う。

ここを上手く利用できるかどうかで一気に売れることにもなりそうな気もするが……。

律子「最初さえ乗り越えてしまえば、あなた達なら上手くいく……」

あずさ「ふふっ……律子さんにそう言ってもらえて嬉しいわ……」

伊織「本当に大丈夫かしら……」

律子はデスクワークを続けながら、三人と会話をしていた。

パタパタとキーボードを打っていると時折、苦い顔になったりして上手くいかないようだ。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:04:32.39 ID:Uu68IzgT0<> 律子「また先方からお断りのメールが……」

P「まあそう上手くいくもんじゃないさ」

律子「プロデューサーはすぐにお仕事取ってきますよね……」

P「みんなのやりたい仕事となると、いきなりは取ってこれないけどな」

まずは雑誌のモデルとかから入るだろうか……。

昨今はモデルさんも多いので、世間の需要と先方の供給に合ったモデルをこちらでも用意しなければいけなくなるのだが……。

意外と何とかなる。

特に美希なんかはキュートなものからクールなものまで、様々な印象を与えられる。

そんな美希も今度、写真集の発売にまで至る。

フェアリーとしての活動も上々であり、響と貴音、それぞれにも少しづつソロでの仕事が回ってきてる。

俺はこれから春香、真、真美でユニットを組むことを考えていてそれぞれを売りに出すためオーディションに週一程度で参加してるのだが……。

これがなかなか、はまってくれない。

俺もストレスでどうにかなりそうではあった。

しかし、長い目で見ることが大事だ。まだ3回しか挑戦してない。

三人とも慣れてきたし、次は次はと奮闘中である。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:05:01.59 ID:Uu68IzgT0<> 律子「外回り行ってきます!」

律子は直接、宣伝しに行くようだ。

伊織「私たちもレッスンに行きましょう?」

あずさ「そうね。律子さんが頑張ってるのに、私たちが何もしないわけにはいかないものね」

亜美「よっしゃー! 律っちゃんのためにも一皮脱いじゃおう!」

伊織「一肌ね……。使い方も微妙に違うし……」

亜美「細かいことは気にしなーい! 行くよ、いおりん!」

伊織「まったく……。じゃあお兄様、行ってくるわ。あずさも行きましょう?」

あずさ「ええ。それでは行ってきますプロデューサーさん」

P「ああ、行ってらっしゃい」

そうして送り出す。

俺もどうにか手を打たなければ……。

と思っても時間はすぐに過ぎて4回目のオーディションもそれぞれ失敗。

春香「今回もダメでしたけど初めて最終選考に残りました!」

P「いや、俺のせいだ。また辛い思いさせてすまなかった……」

春香「やだなぁ、プロデューサーさん。確かに悔しかったですけど着実に一歩ずつ前に進んでると思います」

次こそはと意気込む春香に救われる。

俺には謝ることしかできない……。

P「本当にすまない。次は絶対に合格させてやる」

春香「……はい」

春香は無理に微笑んだ。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:05:31.82 ID:Uu68IzgT0<> 真「春香! プロデューサー! ただいま!」

真美「ただいまー!」

春香「あ、真美、真、お帰り。どうだった?」

真美「ううん。ダメだったよー」

真「でも初めて最後まで残ったからね! 次はきっと大丈夫だよ!」

春香「うん! みんなで頑張ろう!」

真美「おー!」

実はこの三人他の子に比べるとお仕事が少ないのだ。

そして、それが今の俺の悩みでもある。

P「今回こそはと思ったんだが……。みんなすまない、俺のリサーチ不足だ……」

真「もう、またですかプロデューサー……。それやめてくださいよ……」

真美「そうだよ兄ちゃん……。オークション落っこっちゃったのは真美たちが悪いんだから……」

春香「真美、オーディションね。……でも真美の言う通りですよ? 私たちに何かが足りなかったから審査員に選んでもらえないんですよ……」

P「それは違う。あいつらは見る目がないんだ……」

そう言って少し後悔した。

さっきまで前向きの調子だった三人からすっと表情が消える。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:05:59.59 ID:Uu68IzgT0<> 真美「やめて兄ちゃん……。兄ちゃんが悪口言ってるところ聞きたくない……」

真「ボクも……。プロデューサーって怒るときは怒ってくれるし、褒めてくれるときは褒めてくれる。ふざけるときはふざけるけど……。そうやって人を悪く言うのはあんまり聞いたことないし、嫌です」

春香「私も嫌です……。プロデューサーさん、口調が悪いこともあるけど人のこと悪く言うのは私も聞いたことないし聞きたくないです……」

俺はぐっと息を詰まらせた。

喉がきゅっと絞られる思いをする。

明確な軽蔑が俺の羞恥をさらに増長させる。

みんなの顔が見れなかった。

何も言えずに黙っていると、三人は失礼しますと出ていってしまった。

P「くそっ……」

残ったのは自己嫌悪だけだった。

数日後。

P「律子、調子はどう?」

俺はデスクに向かいつつ、同じくデスクに向かう律子に話しかける。

律子「今は予算をいただいて週に三回くらいのペースでミニライブを行ってます……」

かなりハイペースだ。

予算もそれなりにもらってるらしい。

律子「プロデューサー殿は?」

P「俺は春香と真と真美を中心にオーディションを受けさせているがさっぱり当たらん。もうどうすればいいのか分からなくなってきている……」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:06:30.28 ID:Uu68IzgT0<> 律子「おや、プロデューサー殿が弱音を吐くなんて珍しいですね」

P「この前、ちょっとあってな……」

律子「そうですか……。私は何にもしませんよ?」

助け船は出さないと牽制をかける律子。

一見すると薄情なやつに見えるかもしれないが、俺のプライドを傷つけないようにという見方もできる。

彼女は不器用な子だが、俺にはどういう意図で律子がそう言ったのか分からなかった。

事務所に一通の電話が入る。

取ったのは小鳥さんだ。

仕事に集中してる時は、かなり早いのだが、いったん手が止まるとそこから長い我が社の事務員である。

俺たちの話に入ってこなかったところを見ると、電話のコールでようやく我に返ったようだ。

小鳥「お電話ありがとうございます。こちら765プロダクションでございます。私、音無が承ります」

きりっと表情を整え、シャキッと背筋を伸ばし、いかにも出来る女という感じだった。

小鳥「はい……はい……ええ、少々お待ちください……」

小鳥さんは受話器を保留にしてから、律子を呼ぶ。

小鳥「律子さんにお電話です」

小鳥さんが言うには某テレビ局の関係者だと言う。

律子「お電話代わりました。……はい、私が竜宮小町のプロデューサーの秋月律子です。……ええ、はい。……はい」

律子は向こうの電話に相槌をうって受け答えしているだけだったが……。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:07:09.13 ID:Uu68IzgT0<> 律子「え!? 本当ですか!? ぜひ! こちらこそよろしくお願いします! ……今度、打ち合わせに……はい、日時は……」

ウキウキとメモを取る律子。

これは、仕事の依頼に違いない。

その後しばらくして電話での会話は終了した。

小鳥「どうでしたか?」

律子「今度、歌番組に出てくれないかですって! ……歌番組って言ってもドキュメンタリーの要素も含んでる番組なんですけど……そこにゲストとして出演してくれって!」

小鳥「あー、あのテレビ局だから……」

とその番組に関して盛り上がり始めた。

結果的には律子の、ミニライブをたくさんやるという作戦は燃費が悪いながらも早いうちに功を奏した。

P「おお、やるじゃん!」

律子「ありがとうございます。早くメンバーに伝えて残りのミニライブも成功させるわ!」

打ち合わせは三日後ということらしい。

かなりの過密スケジュールであるが、そんなことはまったく気にしてない様子だった。

俺は嬉しいはずなのに、律子の顔を見て少しだけ、もやっとした。

そこで一通の電話が入る。

今度は俺が取った。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:07:35.39 ID:Uu68IzgT0<> P「お電話ありがとうございます。こちら765プロダクションでございます。私、Pが承ります」

伊織『お兄様?』

P「なんだ、伊織か……」

伊織『なんだとは、ずいぶんなご挨拶ね?』

P「ああ、悪い悪い。それでどうしたんだ?」

伊織『あずさが行方不明なのよ……』

P「あずさが? ……とりあえず律子に代わるぞ」

律子に代わる。

律子「あずささんがどこか行ったって……。どうして?」

伊織『飲み物を買ってくるって出てったきり、帰ってこなくて……さっきからずっと探してるんだけど見つからなくって……』

律子「困ったわね……亜美はいるのよね?」

伊織『ええ、亜美は一緒よ』

律子「近くの飲み物が買える場所はあたってみた?」

伊織『それでも見つからないからこうして電話してるんじゃない……』

律子「……どうしよう」

伊織『あんたプロデューサーでしょ! 何とかしてよ!』

律子「伊織、落ち着きなさい! とにかくレッスン場に戻ってて。もしかしたら帰ってくるかもしれないわ」

伊織『……うん。わかった』

律子「電話はかけられないの?」

伊織『それが、お財布だけ持ってって、他の持ち物は全部こっちにあるのよ……』

律子「そう、わかったわ」

そう言って、伊織と二言三言、言葉を交わした後、律子は電話を切った。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:08:02.27 ID:Uu68IzgT0<> P「なんて言ってた?」

律子「携帯も持ってないし、どこにいるかも全く見当つかないみたい……。いっそ警察に……」

P「30分くらい待って、戻ってこなかったら警察に捜索願を出そう。せっかく仕事が入ってきたのに、万が一があってはダメだからな……」

律子「私も探してきます……」

律子はそう言うとすぐに事務所を出てしまった。

P「おい、待て! ……行っちゃったか」

小鳥「どうしましょう……?」

P「まあこれは彼女たちの問題ですからね。私は仕事に戻ります」

小鳥「そんな……」

そんなはずはない。

俺にも大いに関係してる問題だ。

あずさが行方不明なんてどう考えても彼女たちの問題なんてことはない。

P「じゃあ、俺は外回り行ってきますので……」

そんなこと言ってる人間が、名刺や財布等の入ってる鞄から携帯と車のキーだけを取り出して、出かけることはないはずだが、俺はあまり頭が回ってなかったらしい。

小鳥「素直じゃないんだから……」

事務所を出る際に、そんな呟きが聞こえた。

車を出して数分。

行く当ても無くさまよう。

実際、あずさがどこにいるかなんて分かりはしない。

とにかく探す。

しらみつぶしに探す。

さらに数分、彼女は案外いとも簡単に見つかった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:08:34.37 ID:Uu68IzgT0<> P「何やってんのさ」

あずさ「あ、プロデューサーさん……。どうしてここが?」

レッスン場からだいぶ離れた公園のベンチで座っていた。

まあ見つけられたのは奇跡としか言いようがないのだが……。

P「みんな心配してるぞ。帰ろう」

あずさは俯いて、いかにもしょんぼりしている。

あずさ「私、みんなの中で一番お姉さんなのに心配かけて……ダメダメですね」

えへっ、といったような感じで舌を少し見せて笑うあずさ。

なんというか、その態度に悲壮を感じた。

P「そうだな。これからは携帯くらいは持っていけ」

あずさ「飲み物を買いに行くだけだし、大丈夫かなーって思ったんです……」

P「そうか……」

あずさ「でもいつの間にか知らない場所に来てて、帰ろうと思っても帰れなくて……」

P「ああ、もう帰れる。……怖かったのか?」

あずさ「……ちょっとだけ」

P「道に迷ったらあんまり動かない方がいい。きっと誰かが見つけてくれる」

あずさは俺を見上げる。少し表情が柔らかくなった。

P「今日は偶然見つけられたが、はっきり言って奇跡だ。ここまで来るのに車で10分かかったよ……」

あずさ「それでも見つけてくださってありがとうございます」

けれども、また視線を落とす。顔は伏せてて、表情は窺えない。

P「……そうだ。今日、飲みに行かないか?」

あずさ「……え?」

パッと顔を上げるあずさ。突然の誘いに驚いているようであった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:09:04.61 ID:Uu68IzgT0<> P「いや、こういう時は飲んで忘れよう。携帯を持っていくのは忘れちゃダメだけど……」

あずさは浮かない顔だ。やはり自分の落ち度を責めているのだろう。

あずさ「でも、私は……」

P「俺と行くのは嫌だったか?」

あずさ「いえ、そんなことは…」

P「じゃあ行こうよ」

俺は、なし崩し的にあずさを飲みにつれていく約束をした。

俺自身、今日は飲みたい気分だった。

先日からのもやもやを吹き飛ばしたい、忘れたい。

あずさ「プロデューサーさん……」

P「何だ?」

あずさ「私、みんなに合わせる顔がありません……」

俺はあずさに視線を合わせて、彼女の肩をつかむ。

P「俺は心配したよ?」

ピンとこないような一言。

P「でも、あずさのこと見つけたら安心した。すごくホッとした」

あずさは黙って聞いているが瞳はうるうると潤沢を帯びている。

P「だからみんなのことも安心させなきゃね。一応電話も入れておくけど、本人の姿を見ないと本当に安心できないから……」

あずさは少しだけ手で目もとを拭って正面から俺を見据える。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:09:38.18 ID:Uu68IzgT0<> あずさ「子供みたいなこと言ってごめんなさい。……帰りましょう」

P「そうしようか」

俺はあずさの手を引いて車まで向かう。

電話を入れてから、事務所に戻った。

律子「あずささん! 心配しましたよ!」

あずさ「ごめんなさい律子さん……」

P「とにかく無事でよかったな」

律子「本当ですよ。ありがとうございますプロデューサー殿、助けていただいて……」

P「何言ってんの? 助けてもないし、何もしてないけど? ……あずさはうちのアイドルだから当然のことだろ」

小鳥「外回り行ってくるとか言ってたくせに……」

P「小鳥さん、うるさいです」

によによと小鳥さんが冷やかしを入れる。

伊織「もう、あずさ! これからは一人で出歩いちゃダメ!」

あずさ「ごめんなさい伊織ちゃん。亜美ちゃんも心配かけてごめんね……」

亜美「本当だよっ!」

あずさに抱き付く亜美。

亜美「本当に心配したんだからねっ! もう迷子にならないように離さないでやる!」

ぎゅーっと、てこでも離れなそうに抱きしめる亜美。

あずさ「あらあら〜」

と言って笑うあずさ。

今後の対策として、あずさを一人にはしない、というルールが竜宮小町内で設けられた。

休日とかに一人で出かけた時はどうするんだろうと、野暮なことを考える俺だった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:10:14.82 ID:Uu68IzgT0<> その後、律子から仕事の話を聞かされる三人。

この二週間でミニライブもあと四つ控えている。

メンバーは意気込み、そのまま解散となった。

あずさ「プロデューサーさん、私そこで待ってますから……」

P「ああ、ごめんな。すぐに終わらせるから……」

俺が20分くらいで業務を終えたとき、あずさはソファーで眠ってしまっていた。

P「あずさ、起きて……風邪ひくよ」

今はもう四月の下旬だが、夜は冷える。

あずさ「うぅん……」

無防備なあずさはなんだか色っぽくて、ちょっぴり罪悪感が芽生えてしまった。

何にも悪いことはしてないんだけどね……。

P「あずさ、終わったよ。疲れてるなら日を改めるけど……」

あずさ「……終わったんですかぁ? ……でしたら、行きましょ〜?」

眠たそうな眼をこすってあずさは、うんと伸びをする。

P「小鳥さん、律子……。俺はお先に失礼します。お疲れ様です」

あずさ「お疲れ様です〜」

律子「はい、お疲れ様です。プロデューサー、変なことはしないでくださいよ?」

律子は俺のことをじとっと睨んで釘を刺す。

P「しないっつーの……」

小鳥「お疲れ様です」

それでは……と、俺はあずさと一緒に事務所から出て、徒歩で駅方面に向かうのだった。

小鳥「はあ、私も飲みに行きたかった……」

律子「小鳥さんはプロデューサーに迷惑かけて謹慎中なんですよね?」

小鳥「そうなんですよね……。とほほ……」

余談だが、小鳥さんが律儀に禁酒してるのを俺は知らなかった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:10:42.93 ID:Uu68IzgT0<> さて、駅前まで着いたのだが、あずさといえばまだ寝ぼけているのか、あっちへふらふら、こっちへふらふら……。

P「こらこら、どっちに行くんだ?」

あずさ「プロデューサーさん。私、こっちが近道だと思うんです」

P「そんなわけないだろ。この道まっすぐ行けば着くんだから、最短ルートはこっちだ」

あずさ「えー? でも……」

P「でもじゃなくて……。行くよ!」

そっち行ったらどこへ行くのか。

明らかに駅の方とは別方向なのだが……なるほど、彼女がすぐ迷子になるわけだ。

それにその根拠のない自信は一体どこから出てくるのか……。

それでも渋るあずさの手を強引に引いていくと、それっきりおとなしくなる。

あずさ「プロデューサーさん」

P「どうした?」

あずさ「私たち、傍から見たらカップルに見えると思います?」

あずさの方を見る。

言ってみて恥ずかしくなったのか、視線は正面、ちょっと斜め下向きだ。

そんなこと言うのも珍しい、と思っていたが俺もやや緊張してくる。

P「ま、まあ見えないこともないんじゃないか?」

ひねくれ特有の二重否定で肯定してみる。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:11:10.98 ID:Uu68IzgT0<> あずさ「こうすれば、もっとそれっぽく見えるでしょうか?」

そう言って腕に抱き付くあずさ。

ふんわりとしたいい香りに、女性特有の柔らかな体。

それらが、俺にあずさのことを女性として意識させる。

P「ちょっと、近いって……」

あずさ「今日は甘えたい気分になっちゃいました!」

ロングの髪から覗かせる表情は、大人びていながらも、あどけない笑顔。

俺は慌てて正面に視線を戻す。

P「はは……そ、そっか。まあ、そういう時もあるよな! うん、俺もある! ……うん」

心拍数が高まる。

律子には変な気は起こさないと言ったが、酒を飲んでしまっては、これはわからん。

律子との約束を破ることに……。

いや、それは無い! あずさはアイドル! 俺の部下!

俺のせいでみんなに迷惑かかるから!

こうやって、アイドルを女性として意識し始めたときによく考えるのが、職場での関係性だったり、ビジネスでのデメリットだったりする。

いつも通りの素早い思考で心を落ち着かせる。

P「ほらもう着くよ。あんまりくっつかれると他の男からの視線が痛い……」

あずさ「えへへ、残念です……」

あんまり残念じゃなさそうに離れるあずさ。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:11:38.77 ID:Uu68IzgT0<> ここまで来れば、もう手を離したって、さすがに迷わない。

駅前からは少し離れたBARに入り、テーブルに案内してもらう。

お酒お飲むだけならカウンターの方がいいのだが、食事をしたいときは俺は決まってテーブルを選ぶ。

あずさ「ふわぁ……大人っぽい雰囲気ですね……」

P「こういうとこは初めて?」

ええ、と頷くあずさ。

P「じゃあ、最初は生でいい?」

あずさ「はい。お願いします……」

P「じゃあ生中二つ」

「かしこまりました。お食事はいつものコースでいいですか?」

P「あ、憶えててくれてたんですか?」

「はい。よくご来店されてるお客様ですので……」

P「あはは……。二週に一回くらいなんだけどね。なんだか気恥ずかしいな……」

「オープン当初から来てくださってるお客様ですし、私たちにもよく気を遣っていただいて、恐縮です」

P「やだな……そんな畏まらないでください。ここのお料理、本当に美味しくいただいています」

「ありがとうございます。……えっと、お飲み物は前菜とご一緒ですよね?」

P「そんなことも憶えてくれてるんですか……?」

感心したというか、すごく嬉しい。

常連さんって憧れだったんだよなぁ。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:12:06.29 ID:Uu68IzgT0<> 特に家族ぐるみじゃなくて、こうやって一人で来る場所の……。

「まあ、はい。……ところで彼女さんもお飲み物は前菜とご一緒でよろしいですか?」

彼女って……。これにはあずさも、ぽかんとした表情だ。

あずさ「じゃあ、私もそれでお願いします」

否定はせずに、スルーか……。

「彼女さんお綺麗ですね」

P「あはは……。彼女じゃないんですけどね」

あずさ「うふふ……」

俺が言うとあずさは、実はそうなんですよ、といった風に笑った。

「し、失礼しました……。ではお客様は彼女さんとかいらっしゃらないんですか?」

P「そうですね。生まれてこの方、そういうのには疎いもので……」

あずさはさっきとは違うぽかんとした表情になった。

「そうなんですか!」

店員さんはニッコリ笑顔で愛想がいい。

あずさ「あらあら〜」

何かに気づいたようなあずさだったが、俺は特に気に留めない。

P「ちなみに彼女は駆け出しのアイドルで、今度テレビに出演するんですよ」

あずさを示すと、店員さんはやっぱり驚いたようだ。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:12:41.65 ID:Uu68IzgT0<> 「お名前、伺ってもよろしいですか?」

あずさ「三浦あずさです」

P「竜宮小町っていうグループのメンバーなんですけど、テレビの収録は初めてなんですよ」

店員さんは感心したように話を聞いてくれて、しばらくした後、キッチンに戻った。

あずさ「よくお話しされる方なんですか?」

P「まあここに来るときはいつもお店の方とは会話するけど、憶えてもらえてるとは思わなかったよ」

あずさ「感じのいい人でしたね」

P「そうだな。しかもアイドルに向いてそうな容姿でもあるし……」

そんな店員さんをちらっと目で追う。

すると、向かいのあずさは身を乗り出して両手で俺の顔はさむと、自分の方に向けた。

あずさ「今日は私と来たんですから、他の女性は見ちゃダメです」

P「……ああ、ごめん」

なんだか今日はペースを掴み損ねてる。

というより、完全にあずさのペースにハマったようだ。

しばらくして、前菜とビールが運ばれる。

あずさ「乾杯しましょ〜」

グラスを合わせて、たった二人の晩餐会だ。

俺も飲みたい気分なのは確かで、早く嫌なことを忘れたかった。

グラスの酒をぐいっと一気に飲み干す。

あずさ「いきなりそんなに大丈夫ですか?」

P「意外となんとかなりますよ……」

そんな強がりを言ってみる。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:13:09.79 ID:Uu68IzgT0<> 別に俺は酒に強いわけではない。

しかし、すぐに追加の注文、食もよく進む。

食事が終わっても追加で頼む。

P「はあ……。なあ、あずさ……」

あずさ「何でしょう?」

ギョッとした様子のあずさ。多分、俺が気持ち悪いとか言い出すと思ってるのだろう。

P「自分の思ったような仕事ができない時ってどう思う?」

あずさ「? ……それは、与えられた仕事が上手くこなせないということでしょうか?」

P「うーん、違うな、そうじゃなくて……自分がやりたい仕事とは別の仕事を入れられた時の話……」

あずさ「……そうですね。……一度もないです」

P「は?」

あずさ「この仕事やりたくないって思ったことは一度もないです」

俺はゆらゆらとグラスを揺らしている手を止めた。

あずさ「何か、悩み事でもあるんですか?」

P「まあ……。ていうか気づいてたろ?」

あずさ「ふふっ……。ええ、わかってました。プロデューサーさんが飲みに行こうって言った時は大抵、悩み事を抱えてますから……」

P「よく知ってんな……」

あずさ「だって結局、酔っ払って自分から話し始めるんですもの……」

今日は珍しいですけどね、と付け足し、笑うあずさ。

少し気恥ずかしかったが、そこまでわかっているのなら特に隠して問うこともなかった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:13:39.34 ID:Uu68IzgT0<> P「そうだな。先日、俺がオーディションの審査員は見る目がないと言ったんだ」

さっきとは一転、優しい眼差しで相槌をうって聞いてくれるあずさ。

ああ、だから俺は彼女をこの場に誘ったんだなと思った。

P「そうしたら、俺が人の悪口を言ったとみんな機嫌を悪くしてしまってな……。俺は励まそうと思ったんだが裏目に出てしまった……」

あずさ「……」

P「俺はこれからどうすればいいかわからない。彼女たちのためにどうやって尽くしていくべきなのか……」

俺はそう区切ってあずさを見る。

何かアドバイスをくれればと思っていたが、あずさは可愛いふくれっ面をしてた。

あずさ「もう! プロデューサーさんはやっぱり他の女の子のことばっかりです!」

ぷんすか! という擬音が似合いそうな態度でそんなことを言った。

P「え? 悩みを聞いてくれるんじゃないのかよ……」

あずさ「それとこれとは話が別です……。でも、プロデューサーさんが私を頼ってくれてるのはちょっと嬉しいですから、相談に応えてあげます」

いたずらっぽく笑うあずさはいつもの雰囲気とは違う魅力があった。

あずさ「プロデューサーさんは考えすぎです」

P「考えすぎ?」

あずさ「はい。その子たちはどんな仕事でも楽しんでますし、オーディションに落ちても次こそはと意気込んでいたはずです」

P「うん。その通りだ」

あずさ「そこでプロデューサーさんが審査員さんのせいにしてしまったのがいけなかったんです」

P「……」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:14:13.06 ID:Uu68IzgT0<> あずさ「彼女たちは自分たちの結果に納得してました。だから次に向けてさらに頑張ろうと思ってるんです」

P「確かに、そうなるな……」

あずさ「だから、プロデューサーさんが審査員さんを悪く言うのは、彼女たちが納得したことも否定することになってるんです」

P「……ああ、そういうことだったのか」

だからあれ以来めっきり士気が落ちてしまったのか……。

練習に身が入らないのは迷いが生じてしまったからだ。

まだ飛躍できる彼女たちに、俺は限界線を勝手に引いてしまったんだ。

あずさ「あの場にはきっと、もっと魅力のあるアイドルがいたと思います。その子たちから学ぶこともあったから、次はもっと頑張ろうってなれると思います」

P「うん。そうだよな。俺はあの時、彼女たちのことを思うなら次に向けて背中を押すべきだったんだな」

素直に謝ろう。

そう思った。

あずさ「解決しました?」

P「ああ、ありがとう。やっぱりあずさを誘って良かった……」

あずさ「お役に立てたならよかったです」

俺はグラスに入ってる酒を一気に飲み干す。

あずさ「あ、あの……」

P「先に謝っとくわ。ごめん、今から迷惑かける」

あずさ「あ、あらあら〜」

あずさは苦笑いだったが、任せてくださいと健気なお姉さんっぷりを見せてくれた。

注文に注文を重ね、すぐに酔っ払ってしまう。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:14:41.72 ID:Uu68IzgT0<> P「うぅぁ……」

あずさ「プロデューサーさん……プロデューサーさん……大丈夫ですか?」

明らかに大丈夫ではないのはP自身わかっていた。

P「無理……」

「あのぉ……お冷、お持ちしました」

先ほどオーダーを取った店員さんはとても気が利く。

あずさ「すみません。わざわざありがとうございます……」

P「うう、店員さぁん……介抱して……」

「わわっ……!」

Pは店員さんにしがみつく。

酔うと人に甘えたがりになってしまう彼の悪癖だ。

父親から見放されたこともあってか、愛情は彼の欲しているところでもあったのだろう。

あずさ「すみません。この人、酔うとこうやってすぐ甘えちゃうんです……」

「そ、そうなんですか……」

耳まで真っ赤に染める店員さんは、どうしていいかわからない様子で、とりあえずPの頭をよしよししていた。

業務を妨害しながらセクハラまでするという、はた迷惑な客である。

しかしPに対して満更でもない店員さんにセクハラという表現は正しくなさそうだ。

「ここまで酔ってるのは初めてです……信頼されてるんですね」

複雑な表情であずさに話しかける店員さん。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:15:07.41 ID:Uu68IzgT0<> あずさ「そうなんでしょうか……?」

そんなあずさも複雑な表情だった。

そんなこんなであずさはPを店員さんから引っぺがし、水を飲ませるなりして世話を焼く。

付きっきりになってくれた店員さんは世話焼きなのだろう。

しばらくすると俺の酔いも冷め始めた。

P「うげぇ……気持ち悪……」

あずさ「プロデューサーさん、我慢してください……」

P「わかってるよ、はしたないもんな……。うぅ……帰ろっか……」

「まだお休みいただいても構いませんが……」

P「いや、そんなわけにもいきません……」

あずさ「そうですね。私が責任もって送り届けます!」

P「ああ、そういや迷惑かけるっつったけど、あずさに先導されたら間違いなく道に迷うよな……」

あずさ「失礼ですね、そんなこと言ったら送ってあげませんよ?」

P「というか、俺が先にあずさのうちに送った方がいいか?」

あずさ「どうしてそうなるんですか……」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:15:38.67 ID:Uu68IzgT0<> P「道に迷ったら危ないだろ……」

あずさ「さすがに我が家には少ししか迷わずに帰れます!」

少し迷うこともあるのかよ……。

P「とりあえずお会計はこれで……」

クレジットカードを店員さんに渡して会計を済ませてもらう。

「お待たせしました」

P「今日はありがとうね。憶えててくれて嬉しかったよ。それと、迷惑かけて申し訳ありませんでした……」

「そんな、よくあることですのでお気になさらず……。私もお喋りに付き合っていただいてありがとうございます」

P「じゃあ、また。ごちそうさまでした」

「はい、またいらしてください」

あずさ「今日はご迷惑おかけしました……。お料理もお酒も美味しかったです」

店員さんはもう一度お礼を言ってお辞儀した。

「今日はたくさん喋れて良かったな」

「店長……! えっと、その……」

「別にそんなことで怒ったりしないよ。いつも頑張ってるじゃねーか」

「あ、ありがとうございます……」

「それにしても確かに彼はいい男だな。あんなに酔っ払ったのは初めて見たが……」

「はい。意外な一面が見れました……」

「……いつまでもニヤニヤしてないで、仕事を再開してくれよ?」

「なっ! ニヤニヤしてませんっ!」

「はっはっはっ……! してたぞアホ面。……ま、若いってのはいいな」

Pたちが店を出た後、こんなやり取りがあったのを彼らは知る由もない。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:16:06.48 ID:Uu68IzgT0<> そんなこんなで、俺の家の前だ。

フラフラする身体を支えてもらいながらやっとここまで着いた。

店からは歩いて20分くらいだ。

P「やっと着いた……」

あずさ「ここまで来ればもう大丈夫ですよね?」

P「うん。……あずさはこれからどうする?」

あずさ「もちろん帰りますけど……」

P「よかったら泊まってけ……さすがに暗くて危ない……」

あずさ「え、え〜!?」

P「やめて、頭に響く……。安心しろ、こんな状態じゃ襲おうにも襲えないよ……」

あずさ「そんな問題じゃないと思うんですけど……」

あれこれ問答してると、ドサッと鞄が落ちる音が聞こえた。

俺もあずさも鞄を持ってることを確認して、音のした方に視線を向ける。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:16:36.16 ID:Uu68IzgT0<> 少し暗がりで分かりづらかったが、呆然とした表情の女Pさんが立っていた。

P「あ、女Pさん……?」

女P「Pさん、そちらの綺麗な女性は……?」

あずさ「初めまして、私、彼の恋人の三浦あずさと申します」

女P「恋っ……!! そんな、Pさんに彼女さんがいたなんて…………ん? 三浦あずさ?」

P「こら、嘘をつくんじゃない……。違いますよ。彼女はうちのアイドルです」

女P「あ、じゃあ、あの三浦あずささんですか!」

あずさ「あの?」

女P「私ファンです! CD持ってます!」

女Pさんは落とした鞄を拾って、俺たちに近づくが、寄ってきたところで少し顔をしかめた。

女P「Pさん、お酒の匂いがすごいです……。こんなに飲んでるの見たの初めてです……」

P「ああ、ごめんなさい。情けない話ですが、ちょっと気持ち悪くて、送ってもらったんです」

あずさ「それで今プロデューサーさんのうちに泊まっていかないかって言われて……」

女P「だ、ダメダメっ! ダメですっ!」

あずさ「え、どうしてですか?」

女P「それは……う〜……え〜と……そうっ! アイドルが男性宅にお泊りなんて危険です!」

そうっ! とか言っちゃって、今考えたのバレバレなんだけど……。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:17:07.96 ID:Uu68IzgT0<> あずさ「でも、プロデューサーさんが夜遅いし、アイドルを一人で帰らせるわけにもいかないって言うんです」

女P「……確かに。……あっ、なら私のうちに泊まってください!」

P「いいんですか?」

女P「はい、一人ならスペースも余裕ありますし、暗い中こんな美人さんを帰すわけにはいきませんよね?」

P「それなら助かりますけど……あずさは?」

あずさ「それじゃあお言葉に甘えて……」

女P「はい! 是非、あがってください」

あずさ「プロデューサーさんは大丈夫ですか?」

P「ああ、俺はもういいよ。また明日な……。女Pさん、うちのアイドルをよろしくお願いします……」

女P「任せてください。そういえばお食事は?」

あずさ「済ませています」

女P「でしたら、お風呂先に沸かしますか」

なんだかすでに楽しそうな雰囲気で、邪魔するのも悪い。

P「それでは、俺はもう戻ります。また明日」

女P「はい。また明日……」

そう言って手を振ってくれる女Pさんに俺も手を振り返して家に帰る。

このあと戻した。

やがて落ち着くと、コース料理がもったいないなぁ、と思いながら、口をゆすいで歯を磨く。

シャワーを浴びて、パジャマに着替えて水を飲む。

照明を落とすと、そのままベッドに倒れ、眠りについた。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:17:34.10 ID:Uu68IzgT0<> ……何事も無く朝だ。

俺は普通に朝の支度をしていつも通りスーツを着る。

昨日は適当にしまったもんだから、しわがちょっと気になる。

かなり早めに家を出たのだが、お隣さんの様子を見なければなと思った次第である。

インターホンを鳴らすが反応がない。

ドアを叩くがやはり反応がない。

ドアノブを回すと扉が開いた。

物騒だな、と思いつつ万が一を想定しながら部屋の奥へと歩を進めた。

P「お邪魔しまーす……」

そこにはだらしない格好の女Pさんとあずさが布団もかけずに倒れていた。

傍らにはチューハイの空き缶が転がっていた。

P「また飲んだのか……」

俺はもう当分飲みたくない。

とりあえず、あずさのだらしない格好を整える。

彼女を抱き上げ、ソファーに移動させる。

女Pさんもあずさと同じように、だらしない格好をしている。

俺は目のやり場に困ってしまい、あまり見ないように努めて、服装を整える。

彼女はベッドに寝かせた。

ごみをあらかた片付け、書置きを残して家を出る。

鍵は仕方ないので開けっ放しにして置いた。

P「俺は先に行きますよ……」

ぽつりとそんなことを言って出勤するのだった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:18:04.55 ID:Uu68IzgT0<> 数日後……。

俺はまだ以前の雰囲気を取り戻せないでいた。

春香と真、真美と会う機会がない。

この日の午前中、俺は外回りに営業へ出かけた。

帰ってくると何やら話し声が聞こえる。

件の彼女たちだ。

ここのところあまり練習にも身が入っていなかったと聞いている。

俺は謝ろうと思って彼女たちのもとへ近づこうと思ったのだが……。

春香「私たち、何のためにオーディション受けてるんだっけ……」

その言葉に足が止まった。

真「そりゃ、テレビに出たりして活動するためでしょ?」

春香「そうしたらどうなるの?」

真「そうしたら……有名になれるかな?」

春香「本当に?」

真美「ちょっと、はるるんどうしちゃったの?」

真「そうだよ春香、大丈夫?」

春香「ごめん……。でも私何のために頑張ってるんだろうって思っちゃって……」

真美「なんか不満なことでもあるの?」

春香「不満ってことはないけど……」

真「春香、聞かせてよ……」

その後しばらく沈黙したが、春香はぽつりぽつりと話し始めた。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:18:35.78 ID:Uu68IzgT0<> 春香「……私、アイドルになれたらもっとみんなを笑顔にさせられるものだと思ってた」

声から少し悲痛な響きが伝わる。

春香「でも私、一番身近な人を笑顔にできてない……プロデューサーさん、私がオーディションに落選した時、いっつも辛そうな顔して、謝るんだよ」

真美「はるるん……」

春香「私が笑顔で戻っても、ごめん、悪い、すまないって、そればっかり……なんだか日に日に疲れたような顔になっていって、あれじゃ私、ただ迷惑になってるだけだよ……」

真「春香……ボクも同じだよ……。また次に挑戦しようって気持ちから、次は合格しなくちゃって……プレッシャーの方が強くなっちゃってさ……」

真美「はるるんもまこちんも一緒だったんだ……」

春香「真美も……?」

真美「うん。だってはるるんの言った通りだよ……。兄ちゃん、悲しそうな顔するの見たくないから……真美も次は上手くやらなきゃダメだって……。でもそう思うと余計にできなくて……」

もうわからない……、と真美は最後に呟いた。

再び静まり返る三人。

やがて春香が口を開く。

春香「私、アイドル向いてないのかも……」

俺はそう聞いてぎゅっと胸を締め付けられる。

そうしてようやく動かないといけないんだと思った。

春香「アイドル辞めようかな……」

P「ダメだっ!」

三人は驚いて、一斉に振り向く。

P「あ、いや、ご……」

謝ろうとしたが言葉を飲み込む。

開口一番で、謝ってしまうのはダメなんだと直感的に思った。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:19:14.28 ID:Uu68IzgT0<> P「アイドル辞められると、一番悲しい……」

思ってることを素直に告げた。

P「あと、そのことで謝ろうと思ってた」

春香「これ以上、何に対して謝るんですか……」

P「お前たちの背中を押してやれなかったこと……」

ぐっと息をのむのがわかった。

P「俺は……お前たちが有名になって、たくさん出演のオファーを受けて、そうなったら幸せだと思った」

喉の奥で何かが引っ掛かる。

声を出すのが辛くなってきた。

P「でも、それは俺の勘違いだった。……お前たちが頑張ってるの知ってたのに、頑張りを否定するようなことを言ってすまなかった」

三人は俯きがちだが、話をちゃんと聞いてくれる。

P「あの時ちゃんと背中を押してやることができたら、今みたいに悩む必要なんてなかったんだ。プレッシャーをかけるような真似をしてごめん……」

春香「私もプロデューサーさんは、わざとそんなことをする人じゃないってわかってます……」

けれど、そう感じてしまったんだ。

P「みんなの邪魔をしてたのは俺だったって気づかされたよ……」

真美「ううん。邪魔だって思ったこと一度もないよ……」

真「ボクもですよ、プロデューサー……」

P「なあ、俺、お前らのプロデュースをこんな形で終わらせたくない。もう一度、隣に立たせてくれないか?」

春香「……私たちは、あなた以外の誰に見守ってもらうというんですか……?」

春香の表情が歪む。

嗚咽を漏らす春香につられ、真も真美も静かに瞳を潤ませた。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:19:43.09 ID:Uu68IzgT0<> P「ごめん。最初から焦る必要はなかったんだよな……。ゆっくり進んでいこう。一緒に……」

肩を震わせる三人をまとめて抱く。

俺の頬を伝う滴はどういうわけで流れるのか、考えてもわからなかった。

ようやく落ち着いた俺たちはソファーに座ってそれぞれと正面から話し合った。

小鳥「ただいま戻りましたー」

昼休憩の合間に外に出ていた小鳥が戻ってくる。

小鳥「春香ちゃん、真美ちゃん、真ちゃん、お菓子買ってきましたよー」

三人が深刻な表情だったので席を外し、お菓子で少しでも嫌なことを忘れないかと考えたのだ。

小鳥「……あ」

小鳥が見たのは件の三人の少女とPが目もとを少し腫らして、ソファーで仲良く寝てる光景だった。

小鳥「ふふふっ……! よかったわね……」

俺は目を開けたとき、寝てしまったのか……、とすぐわかった。

視線をさまよわせると、春香、真、真美が両脇で寝ている。

目の前のテーブルにはお菓子の袋。

その上に書置きがある。

『為せば成る。ファイト!』

と綺麗な字で書かれていた。

その後の俺は一切弱気にならず、失敗しても笑えるように心がけた。

三人も調子を取り戻すどころか、トークやパフォーマンスもかなり上達していた。

次のオーディションでは、それぞれ別の企画のものを受けたが、全員通過した。

その通知を受けて、四人ではしゃいだものだった。

P「そうだ! お祝いにどっか行こう!」

とテンションの上がった俺が言い出し、現在ショッピングモールに出かけている。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:20:14.15 ID:Uu68IzgT0<> P「何か食べに行こうか」

お祝いといえば、食事以外になかなか思いつかない俺である。

真「そうですね。あと記念なら形に残るものがいいな」

真美「まこちん、それいいね!」

アクセサリーか何かを想像したのか、ノリノリの真美。

アクセサリーか……何がいいかな? と俺も密かに考えていたりする。

とりあえずパンケーキの美味しいお店に入っていった。

春香「私、ここ来てみたかったんですよ!」

P「じゃあ、好きなの選んでいいぞ。お祝いだから値段とかは気にすんなよ?」

真美「えー、いいの!? じゃあじゃあ、どれにしよっかな!」

それぞれ注文を済ませる。

ちなみに俺はコーヒーだけ。

しばらくしてパンケーキが運ばれると、みんなの目はキラキラ輝く。

女の子は甘いもの好きなんだなぁ……としみじみ思うのだった。

俺はコーヒーを飲みつつ、みんなの幸せそうな顔を眺める。

春香「はい、プロデューサーさん! 美味しいんで食べてみてください!」

春香が少し食べた後、俺にも一口大に切って差し出してくる。

P「お、ありがとう……あむっ……うん、美味しいね」

真「ボクもあげますよ。あーんってしてください!」

真美「真美のも!」

真も真美も続けてくれる。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:20:42.71 ID:Uu68IzgT0<> これが幸せか……と適当なことを思うのだったが、周りからの視線が痛い。

ニヤニヤ見ている女性グループもいれば、怪しそうに見てくるカップルの客。

羨ましそうに、もとい嫉妬を露わにして見てくる男性スタッフ。

妙な視線を感じると、急にいろんなことを意識し始めてしまって、俺が口を付けたフォークを彼女たちが使ってるということさえ気になって仕方なくなってしまう。

逃げ出したい気分になったが、彼女たちの幸せそうな顔はそんな煩悩を消してくれるようでもあった。

春香「美味しかったです! ごちそうさまでした」

真「ありがとうございます、奢ってもらっちゃって……」

真美「ごちになりやす!」

真美のそれは何キャラか……。

P「まあ気にすることはないよ。それで形に残るものってどうする?」

真美「ここは定番のプリクラ!」

春香「それいいね!」

P「俺、プリクラとかいうのやったこと無いんだが……」

三人は信じられないものを見るような目で俺を見てきた。

真「本当ですか?」

春香「じゃあ今日が初プリクラってことですね!」

プリクラはどうやら決定らしい。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:21:37.15 ID:Uu68IzgT0<> P「そのプリクラってどこにあるの?」

真美「ゲーセンとかにあるよー」

P「そのゲーセンとかいうのも行ったことない……」

三人は未確認生物を見るかのような目で俺を見てきた。

ちなみに未確認生物を見た人の目を俺は知らない。

春香「とにかく行きましょう!」

そうしてノリノリの三人に案内される

来る途中、ショッピングモール内には様々な服屋、雑貨屋があった。

服なんかどうだろうと提案したが、衣装があるからお揃いを買う必要がないらしい。

あれこれ話をしてるうちに目的のゲーセンとやらに着く。

あれこれと機会が置かれていて、騒音がすごい。

ゲーム機がたくさん置いてあって、ゲームセンターを略したものなのか……。

一つ知識が増えた。

プリクラとかいうのはこの箱型の機械で、写真を撮って、それを加工すると、シールになって出てくるらしい。

女の子はここへ来るなり、そりゃもうテンションは最高潮だ。

数回シャッターを切られる。

裏にある画面で落書きをするらしいのだが、ついていけなくて困った。

春香「プロデューサーさんも書きましょう!」

おいおい、それは無茶ってもんだぜ……。

と思ったが、閃いた。

写真を一枚選んで『目指せトップアイドル!』と書いた。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:22:03.76 ID:Uu68IzgT0<> みんなに見られてる中で書くのは恥ずかしかったが、三人とも優しく笑ってくれたから、まあいいか。

ぽんと写真が出てくる。

P「なにこれ。俺、怖い……」

特に目が加工されていて自分が自分じゃないみたいだ。

呟くと、三人とも笑っていた。

その後、そのままゲームをして遊ぶ。

画面に向かって銃を撃つゲームをしたり、エアホッケーをしたり……。

ダンスのゲームにうちのアイドルの曲が入ってたのを見て嬉しくなった。

多分、社長か小鳥さんが許可を出したのだろう。

P「うーん! 久しぶりにこんなに遊んだなぁ!」

真「それにしてもプロデューサーがゲーセン知らなかったのは驚きでした……」

春香「やっぱりいいとこの息子さんって感じですね……」

P「あはは……恥ずかしい話だな」

真美「……これからどこ行くの?」

最年少の真美は遊び足りないのか、元気が有り余ってるようだ。

P「じゃあ、さっき言ってた形に残る記念品でも買いに行こっか」

春香「じゃあそこの雑貨屋さんから見ていきましょう!」

真美だけでなく、春香や真も元気だった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:22:32.50 ID:Uu68IzgT0<> P「じゃあ、三人でじっくり話し合って決めるんだぞ。なんたって記念だからな」

はーい、と返事をして先に行く三人。

俺は彼女たちを見守るということもせず、先にレジで会計を済ませる。

店を出て待っていると彼女たちもやってくる。

真「お待たせしましたプロデューサー!」

春香「私たちからこれ、プレゼントです!」

小さめの箱、指輪でも入ってそうだったが、違った。

可愛らしい天使をかたどった。これはピンバッジか……?

春香「実はこれオーダーメイドなんです!」

真美「どう? かわいいっしょ!」

P「オーダーメイドって、いつから?」

真美「一週間くらい前から?」

一週間前って、まだオーディション合格してない時だ。

真「まあ、オーディションに合格したのも、お祝いにここに来たのも偶然ですけどね」

P「そうだったのか、不思議な偶然だな」

春香「まるで運命みたいですよね!」

ぱしっと手を合わせて表情を輝かせる春香。

P「それじゃ、俺からもプレゼント」

こちらは細長いケースが三つ、それぞれに渡す。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:22:59.67 ID:Uu68IzgT0<> 真美「開けてもいい?」

P「いいよ」

真「……わぁ」

春香「ネックレス……」

春香、真、真美にそれぞれ違う装飾のネックレスを渡した。

違う装飾と言っても、ネックレスの先に付いているマークが違うだけで、あとは同じだ。

ちなみに春香は太陽、真は三日月、真美は星、と俺のイメージで選んでいる。

春香「ありがとうございます!」

三人とも気に入ってくれたみたいで良かった。

早速つけてほしいと頼まれて、またしても周りの視線を受けながら三人にそのネックレスをつけてあげた。

春香「……どうですか?」

P「似合ってるよ……。まあ俺が選んだし当然だ」

真「出た……プロデューサーの自信過剰」

P「過剰じゃねえって……。ちゃんとしたセンスはある方だと自負してる」

真美「ねえねえ、真美は?」

P「うん、よく似合っててちょっと大人っぽく見えるな」

真美「大人っ! えへへ……」

きっとこの日の彼女たちの笑顔は忘れないんだろうな。

日もじきに沈んできた頃、俺の運転する車内では三人の寝息が静かに聞こえていた。

P「遊び疲れたのか……」

彼女たちはぐっすりだ。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:23:37.55 ID:Uu68IzgT0<> フロントミラーを見てみると仲良く寄り添って眠っている。

ここ一ヶ月ほどで、三人はずいぶん絆を深めたみたいだ。

P「ユニットの件も次の日に話してみるか……」

ちょうど楽曲も制作したところだし、新しい衣装も可愛くかつクールなものになっている。

俺はその衣装を身にまとい、ライブをしている姿を想像する。

たまらなくワクワクする。

その瞬間のために俺は今を生きてるに違いないとすら思える。

春香「……楽しそうですね」

P「うわっ……! 起きてたのか……」

春香「はい、ついさっき起きました。そうしたらプロデューサーさんが楽しそうだったので……」

P「春香は今日楽しかった?」

春香「もちろんです。一生忘れないと思えるくらいには……」

春香は優しい表情で隣の真美と真を交互に見る。

P「そうか、俺もそう思ってた。だから楽しそうだったんだろうな……」

春香「はい、それはもうニヤニヤと恐ろしいくらいに……」

P「それ、ただの変質者じゃないか?」

春香は、冗談ですよ、と言って控えめに笑った。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:24:09.41 ID:Uu68IzgT0<> P「もう真美の家に着くから起こしてくれないか?」

春香「えー、こんなに気持ちよさそうに寝てるのに可哀想ですよ……」

P「うーん、じゃあ着いたらでいいよ」

そうして5分くらいですぐに着いてしまう。

春香「真美んちって結構大きいんですね……」

親がお医者様だからね。

P「真美、着いたよ」

後部座席に振り返り真美に伝えるが、うぅん、とうめくだけでしっかりと覚醒しない。

P「しょうがない……」

俺はいったん運転席から降りると、双海家の呼び鈴を押す。

送ってきたという旨を伝え、真美を連れに戻る。

P「真美ー……お母様が迎えにいらっしゃってるよ」

真美「うーん、ママが……?」

P「うん。もうお家の前だから起きて……」

真美「うぅん……眠い……」

あらら……。

なかなか動こうとしない。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:24:42.10 ID:Uu68IzgT0<> 眠気が勝ってしまっている。

そう思ったが、真美は俺に両手を出してきた。

真美「にぃちゃん……」

どう見ても抱っこしてくれのジェスチャーだ。

いつもは真美から要求しないと思うんだけど、それほど眠いらしい。

P「わかった。……よっ」

ぐいっと力を入れて持ち上げる。

真美の方も自然に抱きついてきて、ちょうど俺の肩の位置に顔を乗せている。

「すみません。わざわざ……」

P「このくらい構いませんよ……。むしろもうちょっと迷惑かけてもらっても構いません」

「うふふ……。頼もしいわ」

亜美「兄ちゃんやっほー!」

P「よお、真美を届けに来た」

亜美「……兄ちゃんちょっと待って」

P「? どうした?」

すぐに亜美はスマホを持ってきて、カシャリと鳴らす。

真美「……うぅん、亜美? ……!!」

亜美「いえーい! スキャンダル現場激写!」

いやいや、亜美よ。それはシャレにならんぞ……。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:25:14.67 ID:Uu68IzgT0<> P「亜美ー……それは絶対他の人に見せんなよな……」

真美「兄ちゃん! 今すぐ下ろして!」

P「え? どうした?」

急に慌てふためく姉の真美。

身内どうしでもスキャンダルってからかわれるのが嫌なのかな?

俺は真美をすぐに下ろす。

真美「……」

顔は真っ赤で俺の方をチラッと上目づかいで見るが、目を合わせるとすぐに視線を落としてしまった。

ついには振り向き、俺に背を見せる。

真美「今日はありがと……」

小さい声でそう聞こえた。

「まあまあ……」

真美のお母様は口に手をあて上品な笑顔を見せる。

亜美はお宝写真をゲットしたとばかりに喜んでた。

真美「亜美! あとで消してよね!」

亜美「やだよー」

「今日は娘を遊びに連れてってくださってありがとうございました」

P「いえ、私こそ娘さんを連れ出す許可をいただきありがとうございます」

「パパも信頼してるみたいなので任せてもいいかしらって……真美も楽しみにしていたので……」

P「そうでしたか、ご期待に添えるようにこれからも精進します」

「真面目で素敵な方ね……。今後もうちの娘たちをよろしくお願いします」

P「はい! それでは失礼します」

真美「ばいばい兄ちゃん!」

P「おう、またな……」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:25:40.58 ID:Uu68IzgT0<> 運転席に戻る。

P「お待たせ、真はまだぐっすりか……」

春香「そうですね。次は真を送るんですよね?」

P「ああ、そっちの方が近いからな……」

それじゃあ行こうかと一言、車を出す。

走行中はうちのアイドルの曲を流している。

春香「このCDって作ったんですか?」

P「そうだよ。響と貴音の新曲もある」

春香「今度発売のソロのやつですよね!」

P「ああ、お前たちが最初に出したやつ。みんなは重版を出したが、律子のはないんだよね」

律子のCDは今となってはレアである。

高価というわけではないが……。

しばらくして春香の曲だ。

春香「あー、なんか自分で聞くと恥ずかしいですね……」

P「最初は確かにな……。テレビもそうだが、何度も聞いたり見たりしてれば慣れるぞ」

そんなこんなで、真のお家に到着する。

P「真、起きてるか?」

真「うーん……ふあ、おはようございます……プロデューサー……」

P「真んち着いたぞ」

真「送っていただいてありがとうございます…」

P「ちゃんと立てる?」

真「当たり前ですよ」

すくっと起き上がり、車から出る真。

真「じゃあまた明日ですね」

P「おう、そうだな」

お疲れ様ですと言って家に帰る真。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:26:14.01 ID:Uu68IzgT0<> 後は春香を送るだけである。

春香「プロデューサーさんは、私たちと遊びに行くの、あまり気が進まないかと思ってました」

P「そうだな。遊びに行くという名目じゃ確かに気は進まない。俺が遊びたくてもね」

春香「……お祝いだからですか?」

P「まあ、そういうことになるな」

春香「私、765プロのメンバーと出かけるの好きなんです」

P「いいことじゃないか……」

春香「その中にはプロデューサーさんも含まれています」

P「へえ、嬉しいね」

春香「だから、あまり気にせず遊びたいです……」

これは春香なりの気遣いなのか、それとも本心なのかわからなかった。

P「春香はアイドルなんだ」

春香「はい」

P「アイドルが特定の男と遊んでいたらファンのみんなは嫌なんだ」

春香「……ファンのみんなも理解してくれると思います」

P「アイドルは偶像。神様みたいな存在だからね」

春香「でも私は……」

低いトーンで言いかけた春香の言葉を遮って、俺は次々に話しかける。

P「もちろん春香は一人の人間だし、生き方は自由だよ。けれどね、アイドルを続けるってことはそういうことなんだ。世間に顔が知られる上で多少縛られることもあるんだよ」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:26:40.44 ID:Uu68IzgT0<> 春香「……生きづらい世の中ですね」

P「ああ、生きづらい世の中だ」

しばらく沈黙するがすぐに春香の家まで着いた。

家の前では春香の母親が出迎えてくれた。

「いつも娘がお世話になってます……」

P「いえ、こちらこそ」

「どうですか、春香は?」

春香「お母さん、恥ずかしいよ!」

P「はい、とても真面目に頑張っていて私まで元気をいただける理想のアイドルの一人です」

春香は俺の方を見ると顔を赤らめ、春香のお母様に強くしがみついた。

「まあ……。それを聞いて安心しました。今後も春香のことをよろしくお願いします」

P「はい、任せてください!」

俺は失礼しますと断り、その場を後にした。

「真面目でかっこいい人ね、春香?」

春香「え? いや、ずっと見てるし、かっこいいかどうかはわかんないよ」

「まあ、ずっと見てるなんて春香メロメロ?」

春香「ち、違う違う! もう一年以上プロデューサーやってるから見慣れてるってだけ!」

「そう。……じゃあ彼のこと好きじゃないの?」

春香「す、すす好きぃ!? ……確かに嫌いじゃないけど! 嫌いじゃないけど……」

母親に取り乱される春香は、耳まで真っ赤に染まっていた。

春香「……よくわかんない」

「そう。……まあ頑張りなさいな、アイドル」

春香「……うん」

母親というのは何でもかんでも知っているものなのだ。

『ゆっくり進んでいこう』   終わり
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 11:27:58.80 ID:Uu68IzgT0<> 休憩。以前書いてたとこまで到達したよー。
私の気分で再開します。 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/19(日) 11:29:36.64 ID:Lu19q/0qo<> Pモテモテだな <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 12:28:14.76 ID:Uu68IzgT0<> 再開〜するよ〜 <> ◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 12:28:52.75 ID:Uu68IzgT0<> 『足元掬われるぞ』

そうして気づけば、いつの間にか6月に入っているわけで、うちとしてもそろそろライブをやりたいと思っている。

高木「いいんじゃないかな?」

社長は前向きな意見だ。

P「俺としては八月あたりにやりたいのですぐに会場の確保と宣伝をしたいのですが……」

高木「うむ。だったら会場の方は任せてくれ、一週間以内に取ってこよう」

社長、そんなの仕事早すぎます。

まだ先になるが、宣伝もしつつ、アイドル達の知名度を上げつつ、今後は展開してかなければならない。

だが明日はまさか竜宮小町の面倒を見ることになるとは……。

律子が風邪をこじらせたのだ。

今日はセルフレッスンの予定だが、明日は収録。

先日の音楽番組が効いたらしい。

竜宮小町はあっちへこっちへ引っ張りダコだった。

P「今日は早めに切り上げようかな……」

そう思ってスケジュール帳を確認する。

P「ああ、午前はやよいと雪歩と響で学生企画のイベントの依頼をこなすことになってるな……。午後は千早と貴音で数十人のアイドルとイベントスペースで合唱か……」

今日も遅くなりそうだ。

律子のお見舞いも行っておきたいし……。

無理は禁物だが、この程度なら何とか大丈夫だろう。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 12:29:35.38 ID:Uu68IzgT0<> 響「はいさーい! プロデューサー!」

P「はいさー…………んんっ!……おはよう響」

やべえ、つられそうになった……。

響は俺を凝視してしばらくした後、片手を口に当てて、ニマニマしながら近づいてきた。

響「プロデューサー、言ってもいいよ?」

めちゃくちゃ嬉しそうだった。

響「ほらほらプロデューサー、はいさい! はいさい!」

うわあ、こいつ、すげえ鬱陶しい。

P「は、はいさい……」

結局、言ってしまった。

最近は響もだいぶ慣れてきたもので、俺とのやりとりもこんな感じだ。

ただここまでぐいぐい来たのは初めてで、押し切られてしまった感はある。

まあ可愛いから許してやろう。

響「あははは……! ついに自分のビッグウェーブがやってきちゃったかな?」

いや、それは調子に乗りすぎだろう……。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 12:30:31.66 ID:Uu68IzgT0<> しかし黙ってた方が面白そうなので、注意はしない。

P「今日のでも使ってみたら?」

響「ええ! ファンの前で……?」

P「一回言ったことあるだろ!」

響「いや、でもあの時はノリっていうか……」

P「もう開き直れよ……」

響「そ、そんなこと言ったって難しいものは難しいぞ……」

まあ、待ち時間はよく読書してたりするしな……。

響が意外と博識な理由だったりする。

そのおかげか生物と文学は地味に強い。……マジで地味。

響「でも、最近慣れてきたから、ちょっと挑戦してみようかな……?」

P「いいね。挑戦って言葉は好きだ。どんどん挑戦して、失敗しろ」

響「性格悪っ!」

ああ、別にそういう意味で言ったんじゃないんだが……。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 12:31:03.33 ID:Uu68IzgT0<> P「失敗した方が成長しやすいんだよ」

響「本当かなぁ……?」

P「確かに面白い映像と、新しい傷口が一つずつ増えるけどな」

響「なんだかハイリスクじゃない?」

P「過去のことなどどうでもいい。思い出せ、俺の男からの告白話を……」

響「ぶふっ……! あははは……! 今言わないでよ、それ! しかも思い切り過去引きずってるぞ!」

P「バカ、傷口は残るけどもう気にしてないってことだろ! それに男子校じゃ稀によくあることだ!」

響「稀にあるのかよくあるのかどっちなの!?」

ちなみに小鳥さんはまだ来てない。

今日は昼からの出勤らしい。

今、彼女がいたら面倒なことになっていそうだ。

小鳥さんだけにはこのことは知られたくない。

絶対妄想される! 実害はないが、それは何か嫌だ!
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 12:31:37.48 ID:Uu68IzgT0<> 響と朝からわいわい喋っていると、やよいと雪歩が同じタイミングで来た。

彼女たちが挨拶する前に響が、すかさず……。

響「雪歩、やよい、はいさーい!」

やよい「はいさーい、です! 響さん!」

元気に返事をするやよい。こちらまで元気をもらえる。

まあこれは予想の範囲内だ。

雪歩「ふふっ……はいさい、響ちゃん」

控えめに返す雪歩。かわいい。

こっちは予想してなかった。

P「まじか……」

雪歩「どうかしました、プロデューサー?」

P「いや、なんでもない……」

響が得意顔してこちらを見てるのが腹立たしいというより、もはや微笑ましく思えた。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 12:32:14.05 ID:Uu68IzgT0<> 全員そろったことだし、イベント会場へ。

P「今日は学生さんからの依頼で、野外のダンス、バンドの発表があるんだ。それに飛び入り参加して、学生さんのイベントを応援」

響「うん、大丈夫。頭に入ってるからね!」

やよい「上手く踊れるかなぁ……?」

雪歩「私も心配だなぁ……」

響「大丈夫だよ! 雪歩とやよいは自分より完璧さー」

やよい「響さんに言ってもらえると自信が付きます!」

むんっと両手を握って胸の前に構えるやよい。

雪歩「ふふっ……。そうだね、響ちゃんが言ってくれるとなんだか自信つくね」

響「えへへ……そ、そうかなぁ……」

二人にお礼を言われてテレテレと頭をさする響。

いちいち態度やしぐさが可愛らしく、ファンからもギャップがたまらないと言う声をいただくことも多い。

P「ほい、着いたよ。フレッシュな学生さんに負けないように気合入れていこう!」

雪歩「はい!」

やよい「うっうー! 頑張ります!」

響「もちろん!」

そんな彼女たちもフレッシュな学生さんなのであった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 12:33:12.10 ID:Uu68IzgT0<> イベントでは、ゲストとして最後から二つ目のプログラムから参加することになっている。

P「こんにちは765プロです。本日はよろしくお願いします」

「お待ちしてました!」

この若い女性が担当の教諭だろうか……。

かなり興奮気味に出迎えてくれる。

「私765プロさんのファンなんですよ!」

へえ、女性の方でここまでというのは珍しい。

「今日のサプライズゲストの提案も私がしたんですけどね、三名も来ていただけるなんて感無量です!」

P「ありがとうございます。彼女たちもファンの方の生の声を聞けて、嬉しく思うはずです」

それから三人を車から降ろして挨拶させる。

P「うちのアイドルの我那覇響、高槻やよい、萩原雪歩です」

『よろしくお願いします!』

「わぁ! やだ、可愛い! やよいちゃん、いつもお昼の番組見てます! 雪歩ちゃん、いつもラジオ聞いてます! 響ちゃん、先日の番組見ました!」

一息に語り掛ける担当教諭。

学生さんもやってきて、興奮してたが、とりあえず教諭の方をなだめていた。

「先生、落ち着いてよ……」

「俺たちより、はっちゃけてんじゃん……」

「すげー、生アイドル!」

「テレビで見るより可愛い!」

「握手してください!」

わらわらと群がり、雪歩とやよいはたじたじとしながらも一人一人と握手を交わす。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 12:33:54.47 ID:Uu68IzgT0<> 響も得意顔で待っているのだが……。

響「……」

「雪歩ちゃん、バレンタインの頃からファンです!」

「やよいちゃん、応援してます!」

響「何で自分のとこには来ないのさー!!」

学生たちからどっと笑いがあふれる。

どうやら響いじりは全国共通のようだ。

響「自分、そんなキャラじゃないぞ!」

すると今度は、いじけ始める響に、わっと殺到した。

「響ちゃんやきもちやいてるっ!」

「あはは、テレビで見てるのと一緒!」

響「うわぁ! いきなりたくさん来ないでよ!」

P「あはは……、ごめんねみんな、そのくらいにしてそろそろアップを……」

言いかけた時、学生の一人が叫ぶ。

「あ! 新幹少女のひかりのヒーロー!」

なんだいそれは?
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 12:35:03.09 ID:Uu68IzgT0<> 俺は一瞬にして凍りついた。

「ひかりちゃんとはどうなんですか?」

「付き合ってるの?」

何だこの学生たちは……テンションも相まってぐいぐい来るんですけど……。

P「え? ヒーローって何ですか?」

「バレンタインの時に新幹少女のひかりを助けた人でしょ?」

ああ、そんなこともあった気が……というかよく憶えてたなそんなこと……。

P「いえ、別に助けたってほどでは……。付き合ってもないし、お仕事でたまにお会いするくらいですよ」

学生たちからは怪訝な目で見られたが、再びアイドルの方に興味が移る。

三人はもみくちゃになってアップどころではなくなりそうだったが、先生が先生らしく一喝入れて収まった。

P「ははは……。元気な子たちだな……」

俺の顔は多分引きつっていることだろう。

雪歩「まさかプロデューサーのことまで知ってるなんて思いませんでしたね……」

P「本当だよ……」

やよい「プロデューサーも有名人ですか……?」

P「そんなわけあるかよ……。たまに知ってる人はいるみたいだ」

多分、新幹少女のファンが居たに違いない。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 12:35:34.76 ID:Uu68IzgT0<> P「それはそうと、学生さんたちとばっちり決めて来いよ?」

彼女たちを送り出す。

結論から言えばイベントは大きな盛り上がりを見せ、観客に笑顔を与えた。

響たちは、それぞれの持ち歌を歌い、観客を沸かせた。

そして学生と一緒にダンスを披露し、幕を閉じる。

アイドルを一目見ようと、舞台裏にまで押しかける人もいたが混乱を避けるために速やかに退散した。

名残惜しむ学生たちに三人は笑顔で手を振っていた。

短い間だったが彼らには忘れられない思い出となったはずだ。

やっぱりアイドルはこうでなくてはと感じる俺だった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 12:36:41.83 ID:Uu68IzgT0<> 事務所に戻ると千早と貴音が待ってましたとばかりに準備を済ませ待機していた。

千早「お帰りなさいプロデューサー」

貴音「響と雪歩とやよいもお帰りなさい」

P「おう、悪い待たせたな……早く帰ったつもりだったんだけどな」

千早「いえ、構いません。まだ時間はありますので」

響「いやー、それにしても学校の課外活動もバカにできないよねー」

雪歩「うん、そうだね。私よりダンス上手い子もたくさんいたよ」

やよい「皆さんと一緒に踊れて楽しかったですね!」

貴音「いい思い出ができたみたいで良かったですね」

響「うん! 次の仕事も頑張る!」

今日の出来事は彼女たちに、いい影響を与えたみたいで俺自身も嬉しい。

P「よし、じゃあ次は千早と貴音、行こうか」

千早「休憩はいいのでしょうか?」

貴音「腹が減っては戦はできぬといいますし、何か食べていかれては?」

P「貴音が食いたいだけじゃねーだろうな……」

貴音「いえ、そんなことは全く思ってなかったのですが……。誰もプロデューサーの食にありつこうなどと、はしたないことは……」

P「貴音、涎を拭きなさい……」

千早「それでは、プロデューサー……もう出発いたしますか?」

P「おう、行くか。響と雪歩とやよいはレッスン頑張ってくれな」

雪歩「はい、今日のステージを意識してやってみます!」

響「うん、他の子から学べそうなこともあったし」

やよい「響さんと雪歩さんとレッスンって久しぶりなので楽しみです!」

今日のイベントを受けてテンションも上がってるし、質の高いレッスンになりそうだ。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 12:37:33.01 ID:Uu68IzgT0<> 彼女たちに見送られながら次のイベント会場へ急ぐ。

P「ほい、着いた」

千早「お疲れ様です」

貴音「ありがとうございます」

P「いいっていいって!」

運転席から出て、後部座席を開ける。

二人を会場まで連れていくと、多くのアイドル達がすでに集合していて圧巻だった。

挨拶を済ませ、歌詞のチェックをする。

本番は一回きり。それぞれ練習してきて一発で合わせるらしい。

なんとも無謀な企画だが、それはそれで面白みもある。

ずれたらフォローとかの面で力量が図られるし、他のパートの子とも息を合わせなければいけないのがポイントだ。

取材のカメラも回るので、期待度もそれなり。

俺と同じく他のマネージャー、プロデューサーも歌に自信のあるアイドルを選んできてるに違いない。

上手くいけば歌で目立つチャンスではあるからな。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 12:38:10.00 ID:Uu68IzgT0<> P「今思えば一人でも失敗したら大惨事になりかねない企画だな……。千早と貴音は大丈夫か?」

千早「もちろんです」

貴音「愚問です」

ためらうことなく言ってのけた。

なんだか頼りがいのある二人だった。

始まった合唱。最初のうちはなかなか息が合わず、周りの人たちもハラハラしていたが、さすがと言うべきか後半はしっかり合わせてくる。

いつの間にか周囲も引き込まれて、心地よさそうに聴いていた。

二曲披露したのだが、二曲目は終始完璧なパフォーマンスだったと言えるだろう。

お客さんから拍手が送られる。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 12:39:00.56 ID:Uu68IzgT0<> しばらくしてやり切った顔の千早と貴音が降りてきた。

P「お疲れ様。最初はどうなるかと思ったよ……」

千早「そうですね。合わせるのが大変でした」

貴音「そうですね。皆さんが合わせてくださいました」

P「完全に性格の違いが出てるんだが……」

とは言っても、貴音も他人思いで気遣いのできる子なのだ。

貴音「さて、それでは食事に参りませんか?」

P「よく食うな……。というかお前の頭の中は食い物のことだけしかないのか」

貴音「食とは探究、そして神秘です」

たまに……というか、多々、貴音は何を言ってるのか分からないことがある。

俺にはまだ早すぎるとでも言うのか……。

千早「四条さん。まだ四時ですよ?」

貴音「お腹が減るのに時間は関係ありません。さあ、千早も共に行こうではありませんか」

千早はため息を一つついて、真顔で俺に向き直った。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 12:40:04.78 ID:Uu68IzgT0<> 千早「プロデューサー、助けてください」

すまんが俺にはどうすることもできない。

P「まあ、ご飯食べに行くだけだし、付き合ってやろうよ」

千早「いえ、隣であんなに食べられると、見られてないとしても、恥ずかしいですよ……」

表情が陰る千早。

P「ふっ……。千早もすぐに慣れるさ」

俺の言葉から千早は何か察したようで、またため息をついた。

例によって例のごとくラーメン店に入っていく。

そこはたまたま大食いチャレンジみたいなものをやっている店舗だった。

……ご愁傷様です。

そんなこんなで今日という時間はあっという間に過ぎていく。

二人を送って、俺は業務を終了させる。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 12:40:43.12 ID:Uu68IzgT0<> 熱を出したらしい律子の家にお見舞いに行く。

気の利いたものは買っていないが、夕飯の材料とちょっとお高めなプリンを買ってみた。

あるアパートの一室のインターホンを鳴らし、しばらく待つ。

律子「……あ、プロデューサー」

マスクに冷えピタ、髪を下ろし、眼鏡も外した律子が優れない調子でドアを開ける。

P「よう。辛そうだな」

律子は数回咳き込んで、一度くしゃみをすると、失礼しました、と一言つけ加える。

律子「……わざわざどうも」

P「あがってもいいか?」

律子「ええ、明日の話をしに来たんですよね」

P「まあ、それもあるが、どっちかというとお見舞いだ」

明日やることは把握してるし、と明日のことは問題ないということを示す。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 12:41:19.90 ID:Uu68IzgT0<> 律子「お見舞い……ですか?」

ちょっと意外そうに尋ねる律子。

P「夕飯はどうしてる?」

律子「いえ、食欲無くて食べてないです……」

P「じゃあ、何か作るから食べろ」

律子「え、いや、そんなの悪いですし、まだ食欲ないです」

P「いいから食べなさい。栄養摂らなきゃ治るもんも治らないぞ」

けれど何も食べない方がいいというのも聞いたことがある。

なんでも、消化に使われるエネルギーが大きいものだから、胃に食べ物を入れなないのが一番だとか……。

実際のところよくわからないし、栄養は摂った方がいいに決まってると思うんだけど。

律子「……ありがとうございます」

うーんと複雑な表情で唸ってた律子だが、俺の好意を受けてくれるようで俺自身、ほっと安心した。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 12:42:02.40 ID:Uu68IzgT0<> さて、うどんとおかゆ、どちらにしようか悩むところだ。

他にも野菜があったのでうどんでいいかな……。

キッチンを借りて温かいうどんを作る。

P「この器借りるよ」

律子「ええ、何でもいいですよ」

鼻をすぴっとすすって、答える律子。

お茶碗のような食器に、というかお茶碗なのだが、うどんをよそう。

橋と一緒にテーブルに置く。

律子「ありがとうございます」

律子は、もそもそと布団から這い出てきて、足の低いテーブルの前に正座する。

いただきます、と言ってうどんをすする律子。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 12:42:47.39 ID:Uu68IzgT0<> 律子「おいひぃです……」

P「ちゃんと食べてから喋りなさい」

律子は口に含んだ食べ物をごくりと飲みこむと、チラッとこちらを横目で覗く。

律子「……プロデューサーってばお母さんみたいですね」

P「だったら世話かけさせないようにな」

律子「私、来てくれなんて頼んでません」

P「親というものは往々にして子供の面倒を見たがるものなんだよ」

律子「あはは……。じゃあ私はプロデューサーの娘ですか? 子ども扱いしないでくださいよ」

P「親子の例えだ例え。俺は世話焼きなだけだ」

でも俺はそんな風にお節介かけられたことなかったっけ……。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 12:45:24.15 ID:Uu68IzgT0<> 律子はほうっと一息つくと、箸を置いて申し訳なさそうにこちらを見た。

律子「……やっぱり横になっていいですか?」

P「辛いの?」

律子「はい……」

背もたれのある座椅子に深く寄りかかる律子。

P「レンゲあるか?」

律子「? ありますけど……」

それを聞いてレンゲを台所から持ってくる。

一口で食べやすいように箸で麺をレンゲに乗せる。

P「はい。これで食べやすいはずだろ?」

律子「え、でも……」

P「ほら、口開けて……はい、あーん……」

少し戸惑った後、頬を薄紅に染めて、素直に律子は口を開ける。

ふいと俺から視線を外し、もぐもぐと咀嚼する。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 12:46:04.84 ID:Uu68IzgT0<> P「食べれそう?」

律子「……まぁ」

短くそう言うと、やっぱり俺には視線を合わせず、小さな口を控えめに開いた。

P「はは……良かった」

俺は素直に嬉しいと思えた。

頼ってくれる、美味しいと言って食べてくれる。

次に律子の方を向いてみると、彼女はちょっと驚いたような顔でこちらを見ていたが、目が合うと、さっと逸らしてしまった。

P「? どうした? 何か変だった?」

律子「い、いえ、別に……」

自分の胸のあたりを軽く押さえて律子は向こうを見たまんまだ。

P「? ……まぁ、いいや。はい、あーん……」

律子「い、いちいち言わなくてもいいですから……」

ようやくこちらを向く律子だが、視線は相変わらず俺の瞳をとらえない。

俺は訝しみつつも、最後まで彼女の食事に付き合った。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 12:47:07.09 ID:Uu68IzgT0<> 再び横になる律子と明日の打ち合わせのようなものを行う。

打ち合わせとはいっても、ただの確認だ。

それもさっさと済ませる。

律子「では明日はよろしくお願いします」

P「ああ、任せといて。仕事の引き受けはどうする?」

律子「お任せします」

P「了解」

律子「何でも取ってきてください。全部こなして見せますよ」

こなすのは竜宮小町の彼女たちなんだがな……。

律子「今はもうノリにノッてますからね」

そう言って一つくしゃみをする律子。

P「あーあー……」

ティッシュを数枚手に取り、律子の鼻にあてる。

律子は、ティッシュにちむっとして、すみませんと苦笑する。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 12:47:36.00 ID:Uu68IzgT0<> P「そんな調子じゃ足元掬われるぞ……」

今まさに風邪をこじらせてるわけだけど……。

彼女は彼女で無理をする性格だから心配になる。

律子「ええ、でも、弱ってる時に弱気になりたくないんです……」

それはなんだか俺もわかる気がする。

律子「だから、私は上手くやれるんです……」

P「そっか……。まあ、お大事にな」

横になったまま律子は布団から顔だけ出している。

不安な顔で見上げてくる律子に俺の足はその場に縛り付けられたように思えた。

律子はしばらくして眠たそうな顔をしたので、俺は静かに部屋を出た。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 12:48:12.99 ID:Uu68IzgT0<> 次の日。

竜宮小町を連れて現場へやってきた。

亜美「いおりん、なんだか機嫌いいよねー」

伊織「そう? いつも通りじゃないかしら? にひひっ!」

どう見ても機嫌がいいな。

まあ機嫌がいいなら、それに越したことは無いけど。

冬馬「よお、今日はよろしく」

翔太「どーも!」

北斗「よろしくお願いします」

挨拶回りをしていたのはジュピターだ。

ちょうど竜宮小町へ挨拶をする。

竜宮小町の面々もそれぞれ応える。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 12:49:08.49 ID:Uu68IzgT0<> 冬馬「そっちのプロデューサーも……って、このグループはあんた担当なのか?」

P「あはは……本当は違うんだけどね。悪いね、律子じゃなくて。……よろしく」

冬馬「まあ、それはいいんだけどよ」

北斗「お久しぶりじゃないですか?」

P「あー、うん。そうかも、久しぶり」

翔太「あの世間で騒がれてる若手プロデューサーのお姉さんは?」

P「ちょっと風邪をこじらせてね……代わりに来たってわけ」

ふーん、と納得したように言う翔太くん。

伊織「お兄様」

不意に伊織に呼ばれる。

P「その呼び方はやめろ」

ジュピターも若干ぎょっとしている。

冬馬「なんだ? そういう趣味なわけ?」

伊織「違うわよ! お兄様は私の実の兄なの!」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 12:50:34.82 ID:Uu68IzgT0<> 北斗「Pさん、そんな話聞いたことないですよ?」

P「まあ、聞かれてないからな」

翔太「へー、じゃあお兄さんは水瀬家のご子息ってことなんだ」

P「今は違うよ」

冬馬「? よくわかんねーな。ま、そんなことはどうでもいいさ」

冬馬くんのさばさばした態度には助かる。

話すとややこしくなるからあんまり話題にしたくはない。

冬馬「とりあえず今日の収録はよろしくな」

冬馬くんはさっさと背を向けて去っていった。

翔太「冬馬くんってばけっこうお姉さんたちの歌、楽しみにしてるんだよ?」

もちろん僕もね、と言って冬馬くんを追いかけていった。

北斗「毎回、騒がしいやつらですみませんね」

苦笑いで詫びを入れる北斗くん。

P「こっちこそいつも楽しませてもらってるよ」

北斗「ならいいんですけど。……また今度、一杯行きましょう」

P「ああ、こっちから連絡入れるよ」

是非、と一言、北斗くんも二人のあとを追った。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 12:51:29.95 ID:Uu68IzgT0<> 入れ替わりでやってきたのは女Pさんだった。

女P「竜宮小町の皆さん。本日はよろしく……って、ええええっ!! Pさん!?」

P「あ、はい。私ですけど……」

やっぱり女性同士の方が良かったのかな? 傷ついてないです。

女P「あの、噂の律子ちゃんじゃないんですか?」

P「その律子ちゃんは風邪でお休みです」

女P「そ、そうだったんですか……」

あずさ「こんにちは〜」

俺と女Pさんの間にあずさが割って入る。

女Pさんは少したじろぎ、挨拶を返す。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 12:52:28.70 ID:Uu68IzgT0<> 女P「お久しぶりです」

あずさ「一月ほど前はお世話になりました」

女P「いえ、楽しかったですよ」

亜美「久しぶりだねー、961プロのところの姉ちゃん」

女P「あはは、久しぶり亜美ちゃん。……背伸びた?」

亜美「姉ちゃんこそ縮んだ?」

P「そんなわけあるか。お前が伸びたの、今身長いくつだよ?」

亜美「えー、わかんない」

あずさ「伊織ちゃんよりも大きいんじゃないかしら〜」

伊織「そうね……」

伊織は割とショックを受けてるようだ。

けれどそういうのを素直に認めるようになったあたり、成長していると思う。

以前であれば、一言二言、小言を言っていただろう。

P「成長期にしても中学生でこの身長はなかなかいないよな……」

はっきり言って双海姉妹はでかい。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 12:53:26.14 ID:Uu68IzgT0<> 女P「ほえ〜。もしかして私より大きくないですか?」

亜美をまじまじと見ていると驚愕の事実に気づいてしまったようだ。

亜美「大丈夫だよ。いおりんの方がちっさいから」

伊織「何それ! そんなことないでしょ!?」

いや、傍から見ればいい勝負をしている。

P「じゃあ、比べてみれば?」

言うが早いが、二人はお互いの背を向け合ってピタリとくっついた。

伊織「私の方が大きいんじゃないかしら?」

女P「どうですか?」

P「ちょっと失礼……」

俺は断ってから二人の頭に手を置いた。

女P「ふわぁ……」

伊織「!! ちょ、ちょっと何変な声出してんのよ!」

すぐに離れて振り返る伊織。

指摘された女Pさんは顔を赤くさせていく。

女P「あ、いや、別に……」

P「大丈夫ですか?」

女P「うんうん! 大丈夫!」

ものすごい勢いで首を縦に振る女Pさん。本当に大丈夫か?
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 12:54:55.36 ID:Uu68IzgT0<> P「うーん、あんまりわかんなかったけど、女Pさんの方がちょっと高いかな?」

女P「あ、そうですか……」

全く興味無さそうな女Pさん。もともとどうでもよさそうだったしな。

P「すみません、付き合っていただいてありがとうございます」

女P「つ、付き合う……!? 私でよければいつでも……」

こんなことにも付き合ってくれるなんて心の広い人なんだ……本当に。

伊織「近い近い! もうちょっと離れなさい!!」

P「ああ、ごめんなさい」

俺は言われて気づいて距離を取る。

女Pさんは困ったような笑いを浮かべて一歩だけこちらに寄った。

伊織「お兄様も気を付けてよね! プロデューサーが他プロのプロデューサーとイチャイチャなんて、私たちも何て言われるかわからないんだから!」

P「イチャイチャしてねえだろ! それに、プロデューサー同士ならいいだろ!」

伊織「良くない!」

さっきまでご機嫌だったのに、まさか兄妹喧嘩に発展するとは……。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 12:55:35.42 ID:Uu68IzgT0<> 周りの視線も痛いし、俺はさっさと引くことにした。

P「……あー、わかった。悪かった。今後は気を付けよう」

伊織「ふんっ! ……最初からそうすればいいのよ」

P「すみません女Pさん。お騒がせして……」

見ると、女Pさんはさっきよりも顔を赤くして俺の方を凝視してた。

P「あの……何か? それに、暑いですか?」

女P「いやいや! ぜ、ぜぜんっ! 私こそご迷惑かけて! そ、それじゃ後で!」

早口に言ってその場を去ってしまった。

女P「……ん? お兄様って?」

女Pは冷静になった後でそのことに気づくのだった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 12:56:19.66 ID:Uu68IzgT0<> 収録も無事終わり、次回の仕事もいただいた。

「秋月ちゃんもいいんだけど、やっぱりPくんは安定感あるね。他の番組でもよろしく」

P「ええ、こちらこそよろしくお願いします。次からは秋月になりますが……」

「いいよいいよ。竜宮小町と言えばプロデューサーを含めてのアイドルユニットみたいなものだしね」

P「あはは、今日は俺ですみません」

「何言ってんのさ。うちでも男女問わずPくんの評判はいいんだから、みんなPくんが来るのも楽しみにしてるよ」

ありがたい言葉をいただいた。

こう言われると次も頑張ろうと思えるんだ。

スタッフにお疲れ様でしたと声をかける。

彼らに、飲みに行きませんかと誘われたが、また別の機会にと丁重に断った。

女P「お疲れ様でした。……Pさんが伊織ちゃんのお兄さんだなんて驚きです」

P「そうですか?」

名字が一緒だから気づくものだと思ったけど、案外そうでもないらしい。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 12:56:49.15 ID:Uu68IzgT0<> 伊織「お兄様、帰りましょうよ」

ぐいぐいと俺の手を引っ張る伊織。

俺と女Pさんの話が長引くと感じたのだろうか。彼女はあまり長い話を好まない。

名家で偉い人たちは話が長いから聞き飽きたそうだ。

俺は逆に長話には慣れてしまった。

とりあえず、伊織がしつこいのでさっさと帰ることにした。

飲み会や女Pさんとの付き合いは、また今度にしよう。

『足元掬われるぞ』   終わり
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 13:01:38.78 ID:Uu68IzgT0<> 休憩。夜にまた来る投下する予定。
次で一区切り付いて、マルチエンドへ移行します。 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/19(日) 21:13:09.70 ID:2sI9QvHNo<> 乙
まだかなまだかな〜 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/19(日) 23:18:58.98 ID:SVQfEOU20<> そろそろいいんじゃないかな? <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/19(日) 23:54:23.05 ID:Uu68IzgT0<> こんばんは。
さっき帰ったばっかだから、あと数十分待ってくだせえ。 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/20(月) 00:10:16.99 ID:t1wijTj/o<> ひとまず乙。
あずささんルート期待してるぞ! <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 00:11:54.68 ID:pxmzvZq/0<> 『765プロオールスターズ』『最初で最後のこの時間』

ついに1週間後に迫る765プロオンリーの1stライブ。

社長は本当に1週間で会場を確保してきた。

しかもそれだけではなく、スタッフの補充やグッズの企画から製造までもわずかな時間で進めてしまった。

恐るべき仕事の速さだ。

今まで事務所にいなかったのは何かしら大きな理由があるのだろう。

このライブを企画した段階ではかなりかつかつのスケジュールになると思っていたのだが、社長のおかげで余裕ができた。

P「チケットも完売ですし、あとはみんなの出来次第ってところですかね」

高木「そうだねぇ……。けど、みんなならきっとやってくれるだろう! 君と律子くんのプロデュースぶりを信じているよ!」

P「あはは、だってさ律子」

律子「うぅ……そんなプレッシャーかけないでくださいよ……」

社長は笑うと、真面目な顔をして俺、律子、小鳥さんと顔を合わせる。

高木「ライブまであと少しだ。みんなで力を合わせて頑張ろう!」

俺の拳にもぐっと力が込められた。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 00:12:27.01 ID:pxmzvZq/0<> 高木「それよりみんな、招待したい人がいれば言ってくれたまえ。特別に席を用意できるからね」

P「じゃあ俺、いいですか?」

高木「もちろんだよ」

P「961プロの社長とジュピターとそのプロデューサー、こだまプロの新幹少女とそのプロデューサー、それに東豪寺プロの魔王エンジェルとそのマネージャーを招待したいです」

高木「うむ、君がお世話になった人たちだね?」

P「はい」

高木「最高のライブを提供してあげようじゃないか!」

他のアイドル達も家族や親しい人たちを招待するとのことだった。

ってことは伊織の家族も来るのだろうか……。

いや、おそらく来ないだろう。

伊織の父は伊織のアイドル活動に肯定的ではなかったはずだ。

P「まあ、どうでもいっか……」

律子「何がです?」

P「こっちの話。……よしっ! レッスンの様子を見に行くとしよう」

律子「あ、私も行きます」

俺は考えないようにしようとすればするほど、錆のように脳裏にこびり付いていたものが肥大化してしかたないのだった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 00:13:01.86 ID:pxmzvZq/0<> レッスン場にて。

伊織「あ、お兄様」

春香「伊織、反応速いね……」

真美「兄ちゃーん!」

P「お……っと、急に抱き付くなよ。元気だな」

微笑ましく真美を受け止める。

以前に遊びに行ってから真美との間にあったように思える壁みたいなものが無くなった気がする。

何はともあれ、懐いてくれるのは嬉しいし嫌な気は全くしない。

美希「ハニー! ミキも!」

俺は美希をかわして抱き付く真美ともちょっと距離を取る。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 00:13:32.36 ID:pxmzvZq/0<> P「まだまだレッスンいけそうだな?」

真美「うん! 兄ちゃんが教えてよ!」

真「そうですよ。待ってたんですからね」

P「……よし、ビシバシいくぞ」

響「望むところさー!」

美希「ミキの扱いがあんまりなの……」

頬を膨らませてしかめっ面の美希であった。

数時間して……。

雪歩「……」

P「雪歩! 大丈夫かー!!」

まあ、こうなるよね……。

真「って、プロデューサーがこうなるまでやらせたんでしょ……」

あずさ「……はぁ……はぁ」

春香「相変わらずあずささんは色っぽいなぁ……」

感心してるのか呆れてるのか、春香が複雑な表情で言う。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 00:14:32.64 ID:pxmzvZq/0<> 他にもバテバテなのは伊織に、やよい、亜美だ。

P「伊織、大丈夫か?」

伊織「明日は筋肉痛だわ……」

P「筋力はつけとけって普段から言ってんのに……」

やよい「もう動けないです……」

伊織「私も……」

P「もう一度、休憩だな」

けれども十分に踊れるようにはなってる。

後は調整と細かいところの確認。必要なら、振りの変更も考えないとな。

響「自分はまだまだいけるぞ」

貴音「私も自主的に練習してますので、貴方様は彼女たちのことを見ていてください」

P「おー、頑張るな……まあ、適度に休めよ?」

貴音「はい。ご忠告ありがとうございます」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 00:15:13.25 ID:pxmzvZq/0<> 千早「プロデューサー」

P「ん、どうした?」

千早「私は歌を聴いてほしいんですけど」

P「そうか、今度の新曲で分からないことでもあるのか?」

千早「いえ、私自身納得いってるのですが、自分ではわからないことたくさんあると思うのでご教授していただければと……」

P「うん、了解。この子たちをケアしたらでいいか?」

千早「はい、構いません」

千早は嬉しそうにストレッチを始めた。

春香と真、それに真美もまだ練習をしているのだが、真美がそろそろ限界そうだ。

P「真美も休んだらどうだ?」

真美「はぁ……はぁ……でも、この3人でのライブは初めてだから、失敗したくない……」

真「真美……」

P「ああ、失敗しないためにも疲れは癒しておくべきだ。疲れてると怪我しやすくなるんだぞ?」

そう言うと真美はうーんと唸って俺の意見に従った。

P「春香と真もちょっと休んどけ」

春香「はーい。休憩の後で私たちのパフォーマンス見てくださいね」

挑発的な上目づかいで俺を見る春香。

俺は一瞬たじろぐが、おう、と了承した。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 00:16:00.65 ID:pxmzvZq/0<> P「雪歩ー、ほら水……」

雪歩の体を起こして水を飲ませる。

雪歩「……ふぅ」

やっとのことで一息つく雪歩。

同じようにあずさと亜美、やよい、伊織にも飲ませてあげる。

伊織「ありがと、お兄様……」

P「ああ、しっかり休んで最後にもう一度みんなで合わせるぞ」

そんな彼女たちはほとんど雑魚寝でぐったりしていた。

マッサージもついでにしてあげよう。

P「ちょっと伊織、こっちのマットにうつぶせになれるか?」

伊織「……何よ急に」

そう言いながらごろんと転がり、マットにうつぶせになった。

彼女の頭に小さな枕を置き、楽になるようにする。

P「じゃあ、マッサージするから嫌だったら嫌って言ってくれ」

伊織「……マッサージ? へー、気が利くわね」

それを聞いて俺は肩、腕、腰、脚とマッサージを行う。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 00:17:00.66 ID:pxmzvZq/0<> 伊織「んやっ……きもちい……」

んぅ、んぅ、と何だか危うい声を出していたが効いているならいいだろうと止めずに続ける。

終わった頃にはぐったりしつつも幸せそうに顔を紅潮させた伊織ができあがっていた。

P「どうだった?」

伊織「はぁ……はぁ……。まあ、悪くないんじゃないかしら……」

じゃあ、次……と思っていたら、違和感を覚える。

周りを見ると全くレッスンしてないどころか、全く微動だにしておらず、こちらに何とも言えない視線を送っていた。

気が付けば、しんと静まり返っていた。

マッサージに集中していて自分ではこの静けさに気づかなかったようだ。

俺は気にしないふりをして伊織を抱えて雪歩と交替する。

チクチクと視線が刺さる感覚が抜けない。

背中に冷や汗をかきつつもアイドルのためにマッサージを続ける。

雪歩「あ……あん……ふっ……うんぅ……あっ……」

なぜそんなに声を出すんですか?
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 00:18:20.83 ID:pxmzvZq/0<> P「あ、あの、大丈夫? 声出てるけど、それ辛いってこと?」

雪歩「あっ……あっ……そ、そんな……あんっ……声出てるなんて……ふあっ……言わないでください……やっ……」

つまりどっちなんだ?

雪歩「ふっ……すごく……ふあっ……気持ちよくて……」

P「わかった。それなら良かった。ちょっとだけ声を抑えてくれると助かる」

結局、声が抑えられることは無かった。

終えると雪歩はうっとりとした表情で、なんだか官能的だった。

ところが亜美とやよいにもやってやると、二人はただ幸せそうな笑顔で平和だった。

やよい「うー……きもちーですぅ……なんだか体が軽くなってきたかもです……」

亜美「そこそこー……兄ちゃん結構上手いねー……お尻のまわり気持ちよかったかも……」

とまあ、だいたいこんな感じで邪な考えを与えるようなことは少なかった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 00:19:31.99 ID:pxmzvZq/0<> だがあずさは全く違った。

あずさ「んっ……んっ……あんっ……やっ……そこ、いいの……あっ、そこ……うふふ……あんっ! ……あら〜、大きな声出してごめんなさい……」

P「ちょっとあずさ、もっと声押し殺せないの?」

あずさ「頑張ってるんですけど……はぁん! あっ、だめ……うぅん!」

とは言いつつ俺も、なんだかんだでノリノリだったりする。

趣味は悪いが正直、こうやっていじめるのが大好きです。

P「あずさー、もっと静かにして……?」

そんなことを言って声を抑えようとしても抑えられないあずさに、ちょっとした快感を覚える最低な俺だった。

春香「楽しそうですねー」

唐突に聞こえた邪気のこもった棒読みのセリフに、全身の身の毛がよだつ。

声のする方を見ると至近距離で春香がマッサージの様子をガン見していた。

しらーっとしつつも咎めるような目で……。

それに驚いた俺は咄嗟に顔を逸らすが、四方はまだ動けるアイドル達に至近距離で囲まれ、みんな春香と同じ目をしていた。

貴音だけ向こうでおにぎりを食べていた。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 00:20:39.74 ID:pxmzvZq/0<> 律子「プロデューサー、それはもうセクハラということでいいんですか?」

P「なぁっ!!」

響「だって、すっごい楽しそうにあずさの体触ってたもんね」

P「違っ!!」

千早「何が違うのでしょうか」

真美「というか、早くあずさお姉ちゃんから離れたら?」

P「いや、でも……!」

真「じゃあセクハラでいいんですね?」

P「だからそれは……」

美希「そこの人、何しに来たの?」

P「すみません……」

そんな具合でマッサージは強制終了させられた。

あずさ「……残念」

あずさが困った笑いを浮かべながら、いたずらっぽく舌を出していた姿はみんなの位置から見えなかった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 00:21:20.57 ID:pxmzvZq/0<> 気を取り直してレッスンに参加。

先ほどの千早の歌や、春香、真、真美の3人のパフォーマンスをチェックしたり……。

美希「ハニー、ミキのパフォーマンスも見てほしいの」

P「わかった。まずはフェアリーの3人で踊ってみせてくれ」

こんな感じで後半は自由にレッスンをやっていく。

最後に復活したメンバーも入れて全員の曲の練習だ。

P「はい、お疲れ様ー。ライブまであと一週間を切ってる。最高のパフォーマンスをファンに届けよう」

元気よく返事をする765プロメンバー。

伊織「なんだか……お兄様変わったわね……」

急に伊織がそんなことを言い出した。

P「なんだ突然? 俺はお前と再会した時から一つも変わってないと思うが……」

伊織「今気づいたのよ」

俺は頭に疑問符を浮かべたが、それ以上追及することもなかった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 00:21:58.07 ID:pxmzvZq/0<> ライブ三日前。

大きなライブが近いといっても、仕事をゼロにするわけにはいかない。

アイドル達には少々酷だが、レッスンと収録の過密スケジュールで頑張っていただく。

春香と真、真美についてきたのだが、共演するお相手は新幹少女と魔王エンジェルだ。

業界を引っ張る二大アイドルに対して、うちの売れ始めてきたこの3人にお呼びがかかった。

何やら、これからアイドル業界をさらに盛り上げる新ユニットとして選ばれたらしい。

確かにこの3人は人気の幅が広かったりする。

ひかり「あの、Pさん……お、おは、おはようございます」

P「……くくっ! どうしたの? そんな緊張しちゃって」

ひかり「わ、笑わないでください……」

耳まで真っ赤にしてひかりちゃんはしどろもどろだ。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 00:22:32.46 ID:pxmzvZq/0<> つばめ「ごめんねPさん。ひかりったらPさんに会うのが久しぶりで、どんな顔して会えばいいのか分かんなくなっちゃったみたい」

ひかり「ちょっと、つばめ!」

P「いつも通りでいいんだけど……でもちょっと大人っぽくなった?」

ひかりちゃんは、ばっとこちらを振り返り手をわたわたさせるが、しばらくして落ち着いた。

ひかり「……そうですか?」

指先を胸の前で合わせて、上目遣いでそう尋ねるひかりちゃんは以前とは違う雰囲気を漂わせてるような気がした。

思わず俺も視線を逸らす。

P「え、ああ、ま、まあね……」

ひかり「……ふふっ……嬉しい」

横目でちらっと彼女を見ると口元はほころび、目元も可愛らしく細めて心惹かれるような笑顔だった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 00:23:10.14 ID:pxmzvZq/0<> などと思ってると、後ろから不意に衝撃を受ける。

P「うわっ! ……ととっ、危ないなぁ」

後ろから真美が飛びついて来た。

真美「ちょっと〜、真美のことも構ってよ〜」

いつの日かすっかり構ってちゃんだ。

でも以前のどこかよそよそしい態度より距離感も縮まって、悪くはない。

P「彼女たちとは初めましてだろ? 挨拶しなきゃ」

はーい、と言ってひょいと降りる真美。

後ろに控えてた春香と真と一緒に自己紹介をする。

春香「よろしくね、ひかりちゃん!」

ひかり「ええ、よろしく春香ちゃん」

すんなり仲良くなったので俺も一安心だ。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 00:23:40.65 ID:pxmzvZq/0<> のぞみ「真さん! 真さんのご趣味は!?」

前のめりで真に迫るのはのぞみちゃんだ。

一目ぼれでもしたらしい。

真「ええ!? ボクは女ですよ?」

のぞみ「そんなの関係ありません! だったら二人でアメリカに行きましょう!」

結婚する気満々なんですけど……。

つばめ「ごめんねぇ……。この百合女、あんたは応援できないから!」

のぞみ「ちょっとつばめ! 離して! ……真さーん!!」

真「……あは、あはは……」

どんよりと困った顔で手を振る真。

手を振ってるあたりに拒絶の意思を感じる。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 00:24:52.85 ID:pxmzvZq/0<> 真美「のぞみん……」

真美もこれには驚きを隠せないようだった。

新幹P「うるさいやつらで悪いな」

P「あ、新幹Pさん。おはようございます」

おう、と新幹Pさんは片手で返事をする。

新幹P「そっちはまた新しい子かい?」

P「ええ、先日のオーディション合格から一気に仕事が増えまして、ようやく世間が彼女たちを認識したって感じです」

新幹P「だよなぁ……。途中加入のメンバーはフェアリーの3人だって聞いてるぜ」

P「はい、その通りです。フェアリーが早熟タイプなら、今日の彼女たちは晩成タイプってところですかね……」

新幹P「何はともあれ、実力ある新しいアイドルが陽の目を浴びるってのはこちらも嬉しいものだよ」

つばめ「プロデューサー! のぞみのことどうにかしてよ!」

新幹P「ああ? 面倒だな……。のぞみは放っといておけばいいんじゃないか?」

つばめ「そんなこと言ったって……真くんが迷惑そうだよ?」

新幹P「そのうち冷めるだろ。Pくんにはちょっと迷惑をかけるね」

P「あのくらいなら全然かまいませんよ。コミュニケーションも大事ですし、険悪じゃないだけマシです」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 00:25:28.70 ID:pxmzvZq/0<> つばめ「うーん、放任主義だなぁ」

つばめちゃんもあきらめたようにつぶやく。

麗華「あら、お兄様、久しぶりね」

そこにトップアイドルである魔王エンジェルのリーダーの東豪寺麗華が現れる。

P「よお、麗華」

麗華「新幹Pさんもご機嫌麗しゅう」

仰々しくスカートの裾をつまんで挨拶する麗華。

いやにその動作がしっくりくる。やっぱりお嬢様なんだということを改めて認識させられる。

ていうか俺にもそのくらい丁寧でいいんじゃない?

何はともあれ彼女のスイッチを押さないように気を付けないと……。

新幹P「これはご丁寧にどうも、麗華嬢」

りん「わお、猫かぶりにゃん」

麗華への酷評を交えながら登場の朝比奈さんだ。

麗華「あなたに言われたくないわね……」

りん「えー、わたしはぁ、猫なんてかぶってないにゃーん」

きゃぴきゃぴっと答える朝比奈さん。

猫かぶりにもほどがあるような演技であるが、そのわざとらしさが逆に良いと思ってしまった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 00:26:04.05 ID:pxmzvZq/0<> ともみ「やっほ、Pさん」

P「やっほー」

三条さんは短くも親しみやすい挨拶だ。彼女ともだいぶ仲良くなったと思う。

P「うちのアイドルは向こうにいるからよかったら挨拶していって」

新幹P「うちのも頼むよ」

先輩に対してこちらから挨拶しないのは失礼だが、見知った顔である麗華は特に嫌な顔もしなかった。

麗華「あら、最近勢いに乗り始めた新顔じゃないかしら?」

ある程度、麗華の興味をそそったらしい。

朝比奈さんと三条さんと一緒にアイドルのもとへ向かう。

マネ「どうも、お二人ともお久しぶりです」

P「マネージャーさん……おはようございます」

新幹P「よお、久しぶりだな」

ちなみに、この中でキャリアは新幹Pさんがトップだ。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 00:26:41.44 ID:pxmzvZq/0<> マネ「今日はよろしくお願いします」

P「ええ、こちらこそ……」

新幹P「いやいや、うちこそ、おたくの魔王エンジェルに胸を貸してもらうつもりですから」

マネ「麗華ちゃんに貸す胸は無いんですけどね……」

麗華「聞こえてるわよ」

麗華が近くにいた。

マネ「きゃぁっ!!」

あっち行ってたんじゃないの? と困惑するマネージャーさん。

麗華「あなたはいいわね。立派なものをお持ちのようで……!!」

負の感情を灯した眼でマネージャーさんの胸を揉みしだき始める麗華。

マネ「あ、ちょっ……あんっ……やめて!」

急に始まったピンク色百合百合コメディに、俺は顔が熱くなる。

新幹Pさんはやれやれとため息をつき、面倒だとばかりに我関せず状態だ。

新幹P「こいつらは放っといて……って君はピュアだよな」

俺の顔を見て笑い出す新幹Pさん。

というより周りのスタッフも困惑した様子で麗華たちを見てる。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 00:27:16.49 ID:pxmzvZq/0<> しばらくして、その場にへたり込むマネージャーさん。

マネ「うぅ……こんなんお嫁に行けない……」

麗華「ふんっ! 今日はこのくらいにしといてあげるわ」

りん「あら〜……。余計なこと言ったねマネージャー」

ともみ「麗華ってやけに揉むのは上手いから、ちょっと気持ちよく感じるのが性質悪い」

ひかり「すごく色っぽい……」

つばめ「そうね……恐るべし麗華の手さばきね」

春香「いやいや、のんきに言ってないで、現場の雰囲気が……」

真美「麗華お姉ちゃん、ちょっとやりすぎ……」

真「ちょっと! のぞみはボクに同じ事やろうとしなくていいから!」

のぞみ「私も気持ちよくさせてあげますから!」

真「そんなの望んでないよ!」

真は超逃げて……。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 00:27:56.39 ID:pxmzvZq/0<> 「ちょっと、本番前なのにそんな感じで大丈夫?」

新幹P「ああ、いつものことなので大丈夫です」

心配したスタッフが尋ねるも、新幹Pさんはさらりと言った。

しかし春香も言ってたように現場の雰囲気がちょっとアレな感じに……。

魔王エンジェルはやりたい放題だな。

新幹P「Pくんはまだ真っ赤だな」

P「ええっ!? いや、全然そんなことないですって!」

「くっくっくっ! いやあ、若いよねぇ」

P「あなたまでからかわないでくださいよ……」

俺はなんだかどっと疲れた。

椅子に座って水を飲むことにした。

P「うぅ……なんでみんな動じてないんだ……」

俺は机に突っ伏しながらそんなことを呟く。

隣で誰かが同じように突っ伏した。

マネ「Pさんにあんなところ見られるなんて……」

P「あれは失言でしたね……」
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 00:28:33.85 ID:pxmzvZq/0<> がたがたっと椅子ごと倒れそうになるマネージャーさん。

マネ「Pさん!? いつからそこに!?」

P「最初からいましたよ?」

マネ「……うぅ、お恥ずかしいです」

P「麗華ってばいつもあんなことを?」

マネ「たまにです。さっきは私が胸が無いって言ったから……」

あー、昔からコンプレックスみたいなことは言ってたな……。

俺は気にしないって言ったんだけど、やっぱ本人は気にしてるんだ。

P「あはは、それはマネージャーさんが悪いですけど、麗華もやり過ぎではありますよね」

さっきの光景を思い出すと、また顔が熱くなってきた。

マネージャーさんは正直に言うと俺の好みの容姿だったりする。

そんな彼女が色っぽい声を出し、耳まで紅潮させ、あんな表情までされたら、なんというか……ヤバい。いろいろとヤバい。

マネ「顔赤いですけど、大丈夫ですか?」

心配そうに尋ねるマネージャーさん。

俺は直視できずに、大丈夫です、と言った。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 00:29:03.16 ID:pxmzvZq/0<> さて、この日の収録も無事に終わってあっという間にライブ当日となった。

高木「ついにこの日がやってきたね」

765プロのメンバーが揃い、円形に並んでいる。

高木「ここは私の……いや、私たちの始まりの一歩に過ぎないんだ」

社長の言葉は俺に重くのしかかる。

思えばプロジェクトを立ち上げたのは3年前。

俺はこの人に拾ってもらえなかったらどうなっていたんだろう。

始まりの一歩と言うが、俺の中ではもうすでに始まっていたんだ。

彼女たちのファンになったあの日から……。

ここまで紆余曲折してきた。

家から、親から、何もかもから逃げ出し、たどり着いた俺の……。

高木「君たちから何か言うことはないかな?」
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 00:29:39.79 ID:pxmzvZq/0<> 律子「じゃあ、私から……」

律子が一歩、歩み出る。

律子「あなたたちは今では立派なアイドルよ! このライブをファンと一緒に盛り上げましょう!!」

律子の元気の良い励ましが全員の背中を押す。

全員からも掛け声が上がる。

小鳥さんは涙ぐみながら、笑顔を崩さない。

小鳥「私は765プロが、みんなが大好きなの……。そんな大好きなみんなの好きなようにやってください……期待してます」

アイドル達も力強く頷く。

貴音「響、泣くのは早いですよ」

響「うん……わかってるよ……」

自然に俺に視線が集まる。

P「……」

小鳥「プロデューサーさん?」

P「俺からは、無いです……」
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 00:30:07.97 ID:pxmzvZq/0<> 言葉にできない。

考えても考えても言い表せない。一言で伝えられない。

だから、無い。

律子「ちょっと、プロデューサー……」

この期に及んで……と咎めようとした律子を社長が止める。

高木「そうか……」

律子「社長……」

小鳥「プロデューサーさん、一言も……ですか?」

P「ええ、一言も……」

こんなことは今後いくらでもある。

だけど、この一回はこの一回きりなんだ。

そう思うとなんだか言葉が見つからない。

ただ、のど元を締め付けられる感覚が継続的に繰り返される。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 00:30:55.13 ID:pxmzvZq/0<> 伊織「ありがとう。お兄様……」

俺は俯いていたその顔を上げる。

伊織「社長の言う通り、こんなのただの通過点に過ぎないわ」

千早「そうね。もっと、歌を届けたい」

美希「ミキだってまだまだキラキラしてないよ」

雪歩「私だって、ダメダメなままですから」

亜美「もっと楽しいことしたいよ」

真美「もっと面白いことしたいよ」

あずさ「運命の人だって見つけてませんし」

真「ボクだって女の子らしく、可愛くなりたいです」

やよい「もっと笑顔を届けたいです」

響「自分、まだまだ踊りたりないぞ」

貴音「はい、今のままでは実家の方に顔向けできません」

春香「憧れの舞台はもっと遥か遠くにありますよ」

それぞれが口にして、手を重ねる。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 00:31:21.86 ID:pxmzvZq/0<> 律子「一緒に有名にしていくんですよねプロデューサー」

小鳥「私たち最初から一緒にいたじゃないですか」

高木「君には信頼してくれる人がいる。さあ、まだまだ物足りないだろう?」

手を重ねる。

P「俺は……」

信頼されたかったんだ。

いろいろ失って気づいたことがたくさんあった。

一人じゃ何にもできないこととか……。

迷惑をかけて、失敗して、前に進めることとか……。

孤独に耐えられる人間が決して強いわけではないとか……。

けれど、これは初めて気づいた。

俺は信用が欲しかったんだと思う。

俺は俺自身の誇りが欲しかったんだと思う。

P「俺は……この先どうなろうともお前たちをプロデュースしたことを忘れない。そしてこれからもよろしく頼む」

頬を伝う滴が止まらない。

だけど今は笑っていたい。

手を重ねる。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 00:31:53.38 ID:pxmzvZq/0<> P「765プロー! ファイトー!!」

全員で人差し指を立て、天に向かって突き上げる。

一人一人の背中を押して送り出す。

伊織「お兄様」

P「……お前ももう行け」

伊織「酷い顔ね、にひひっ!」

最後に伊織の背中を優しく叩いて送り出す。

P「うるさいっての……」

歓声が響く。

ここまで応援されるようになったんだ。

もう俺の応援も些細なものになってしまったな。

高木「Pくん。私たちも見守ろう。彼女たちの最初で最後のこの時間を……」

P「ええ……」

これは俺たちの第一歩に過ぎない。

『765プロオールスターズ』『最初で最後のこの時間』   終わり
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 00:37:47.68 ID:pxmzvZq/0<> 一気に終わらせてしまった。
最後は急ぎ足だったかも?
次からマルチエンドに移行してくよ。

女P、ひかり、麗華は書き溜め済み。

他にも、このアイドルを書いてくれというのがあれば書いてみる。 <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 00:38:56.38 ID:pxmzvZq/0<> 次回投下は明日以降で私の気分次第。
質問あればどーぞ。 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/20(月) 00:41:43.30 ID:Ie0GaayXo<> いおりんをもっと! <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/20(月) 03:35:43.56 ID:VpH0sw9DO<> 乙乙。
伊織は当然として、ここの響は独特だから響ルートも見たい。
あとは微妙にPからのフラグを感じる雪歩? <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/20(月) 09:01:30.02 ID:lK2uTrGMO<> おいおい
伊織スレなのに伊織ルートがないのはどういう事だね君 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/20(月) 11:31:38.80 ID:dCwmHwaYO<> 真美と千早が気になります。 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/20(月) 11:37:43.83 ID:lI4/aCjTo<> ちーちゃん頼む <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/20(月) 12:40:57.22 ID:Z1zhYvglO<> あずささんの誘惑に耐えきれなかったPとか見たい <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/20(月) 14:23:13.67 ID:NIIIVyQDO<> ミキミキルートがみたいです! <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 18:41:07.58 ID:pxmzvZq/0<> こんばんはー。
伊織は絶対書くので安心して。
ただ展開が定まらなくて書くのが遅いだけだから。

とりあえず今日の夜に女Pルートを投下する。 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/20(月) 18:43:40.46 ID:5Fdf5iELo<> ようは全員書いてほしい訳よ! <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/20(月) 19:07:43.99 ID:ypAGgRIDO<> 響ルートも見たいが誰ルートでもない通常(プロデューサー一筋)エンドが見てみたいな <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/20(月) 20:03:16.22 ID:ilpTtGSGO<> 雪歩で <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/20(月) 20:21:00.04 ID:zGlXyLoxo<> 真美ルートも <>
◆K6RctZ0jT.<>saga sage<>2015/04/20(月) 21:03:58.22 ID:pxmzvZq/0<> >>522
なるほろ。P誰ともくっつかないルートね。
そしたら私、胸糞ルートも書いちゃっていいのですか?

もうちょい待ってて。あと1時間くらい。

ていうかみんなの分書けってことかな?
何か月でも待ってくれるなら全員分やるよ? <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/20(月) 21:35:28.07 ID:DZmAt5920<> >>525
頼もしい言葉をありがとう
書きたいものを書ききるまで待ってるよ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/20(月) 21:36:10.52 ID:Z6ZsEkVI0<> 本人の中でトゥルーを決めてそれが最後がいいな
胸糞系が最後だと折角の終わりが後味悪くなっちゃうし
<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/20(月) 21:48:10.27 ID:XOMo2HA6O<> >>525
当然何スレでも追いかけるぜ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/20(月) 21:56:17.44 ID:zGlXyLoxo<> いつまでも待ちます <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 22:47:39.12 ID:pxmzvZq/0<> おっけー。
じゃあ最後伊織ね(決定)。

投下するよー。 <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 22:50:56.62 ID:pxmzvZq/0<> 『女P』

女P「すっごーい……」

大人の割にそんなしょぼい感想しか出てこない。

女Pは招待されたライブで特別招待席という、いわゆる良い席に座っていた。

しかし彼女もただ見ているわけではない。

この演出いいな、と思ったり、アイドルの歌い方やダンスのフォーメーションなんかもチェックしたり、勉強も兼ねている。

それでも彼女の口からついて出るのはすごいの一言。

専門家らしく細かいあれこれを評価するより、こういった抽象的な表現しかできない評価の方が彼女はより素晴らしく感じるのである。

理性よりも直感だ。

一目見て良いと思えば良いものなのだ。

ライブは終始盛り上がり、アンコールも行って終了した。

女Pの頭というより、心の中は感動で満たされていた。

早くあの人に会って自分の胸中を伝えたい。

きっとあの人なら嫌な顔せずに聞いてくれる。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 22:51:27.92 ID:pxmzvZq/0<> ……ライブが終わった。

俺は鳥肌を立てつつも、残りの業務に集中しようと思い直す。

まずは労いの言葉をかけるか? いや、いらないだろうか……。

壇上から降りてくる。

P「……」

結局、俺は何も言えなかったが、一人一人と握手を交わした。

しばらくすると舞台裏には女Pさんがやってきた。

P「あれ、どうしました?」

女P「もう、なんだか……すごかったです!!」

目を輝かせぐぐいっと寄ってくる女Pさんに俺はたじろいでしまった。

女P「あとでみんなにも合わせてください!」

P「あはは、もちろんですよ」

これを言うためだけに一番乗りでやってきたのか……。健気というかなんというか……全く悪い気はしないんだけどね。

しばらくして他に招待した方たちもやってきて、いろいろ話した後で解散になった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 22:52:02.33 ID:pxmzvZq/0<> ライブから一月後。

残暑がきついながらも、秋の香り漂い始める。

今日は俺も珍しくオフである。

あのライブからも勢い衰えることなくうちのアイドル達はいろんな番組に引っ張りダコだ。

当然俺の仕事も増えるし、常に新しいことに目を向けていかないと時代においてかれてしまう。

というわけで都心に来ているのだが……。

女P「Pさん、次はあっちのお店が気になります!」

彼女もオフだということで一緒に回っているわけである。

P「あ……全く、大人っぽいんだか子供っぽいんだか……」

呆れるというよりは、意外な一面が見れて面白い。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 22:52:45.50 ID:pxmzvZq/0<> 女P「ほら、この服! Pさんに似合いそうですよ!」

P「そうですかね? ……それより、いいんんですか?」

女P「何がです?」

P「アイドルの衣装のためにお互いがモデルになるってことだったじゃないですか」

女P「あ、あー……でもPさん自身もおしゃれ必要ですよね?」

こりゃ途中で目的忘れてたな。

P「まあいっか、今日はとことん楽しんでもいいですよね」

女P「はい! 楽しみましょう!」

彼女は朝からとってもご機嫌で、見てる俺が幸せになるほどだ。

女P「ほらほら、これ着てください」

P「……わかりましたから、そんな押さないで」

試着室に向かう。

うーん、スーツ以外の服は最近着てなかったっけ。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 22:53:21.71 ID:pxmzvZq/0<> P「どうかな?」

言いながらカーテンを引く。

女P「おー……新鮮でなんというか……かっこいい……」

最後を妙にぼそぼそと言うもんだから聞こえなかった。

P「ん? 新鮮で、何ですか?」

女P「あ、あー! 似合ってるって言ったんです!」

何をそんなに慌てるのか、顔まで赤くして語気を強める。

P「そうですか……。ありがとう」

女P「あ……はい」

俺の顔をまじまじと見て、一転しおらしくなってしまう。忙しい人だなぁ。

P「じゃあ私も何か選んであげます。……じゃなくて選ばせてください」

女P「はい、ぜひ……」

服を選んでみる。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 22:54:15.79 ID:pxmzvZq/0<> ところで一般的に女性というものは、自分の中である程度選択肢ができてるらしい。

つまり、どちらがいいかと女性が問う時、その人の中ではどっちがいいかすでに決まっているという話だ。

けれども女Pさんはそんなことは全くなく、俺の選ぶ服を喜んで着てくれた。

女P「どうですか?」

P「うん! アイドルになれますよ!」

女P「えへへ……。Pさんのプロデュースだったらアイドルやってもいいかな……」

自分の顔を隠すように前髪をいじる女Pさん。

そのあとチラッと上目遣いで窺ってくる。

P「あの……本気にしますよ?」

女P「ふえぇ……!?」

実際、この人だったらアイドルになれるだろう。

何より俺にならプロデュースしてほしいという意味に聞こえて、正直、心拍数が一気に上がってしかたない。

要するに、すごくドキドキしてる。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 22:54:55.64 ID:pxmzvZq/0<> 女P「ご、ごめんなさい! 私もまだプロデューサー続けたいです!」

思い切りカーテンを閉める女Pさん。

俺は、しばらく閉じられた試着室を眺めていたが、なんだかじっとりと罪悪感を感じ始めて、どこを見ていいのかわからなかった。

あれ、よく考えたら俺、振られてない?

再び散策を開始する。二人の間で変わったのは、少しぎこちなくなったくらいだ。

お互い沈黙が続く中、それでも俺は嫌な感じはしなかった。

女P「あの……」

先に沈黙を破ったのは彼女の方だ。

P「どうしました?」

女P「お昼ご飯食べましょ?」

ひょいと覗き込むような形で可愛らしく小首を傾げる女Pさん。

気が付けば昼過ぎだった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 22:55:36.37 ID:pxmzvZq/0<> P「あ、もうこんな時間か」

女P「服屋さん、たくさん回りましたからね」

楽しそうに笑う。

P「何か食べたいものありますか?」

女P「うーん……Pさんにお任せします!」

おお、これはあれか。

俺のエスコート力が試されているのだ。

一見のほほんとしていてなかなか侮れないのかもしれない。

俺はうーんと考えて、行きつけのカフェがあるのを思い出した。

P「じゃあついてきてください」

女P「はい」

女Pさんは返事をすると手振りを交えて話していた俺のその手を自然に取った。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 22:56:47.74 ID:pxmzvZq/0<> P「はい?」

女P「え?」

P「あの…………手……」

何か勘違いしてたことに気づいた女Pさんは、わあっ! と慌てて手を離して距離を取る。

女P「あ、いや、Pさんが手を差し出したから手を繋ぐのかなって思って……! 恥ずかしぃ……!」

かーっと沸騰してしまいそうなほどの顔を両手で覆って俺に背を向ける。

P「あー、俺もごめんなさい。勘違いさせるようなしぐさで……」

しばらくして気を取り直した彼女は、未だに頬を朱に染めながら俺の隣を歩く。

俺は俺でいろいろ考えたが、もう一度手を差し出す。

女P「あの……」

P「繋ぎましょ……? えと、その、デートですから…………ですよね?」

男女が一対一で出かけるのはデートだよね?

自信のない根拠を頭の中で何度も反復させながら、思考停止しかける頭を無理やり動かす。

手に温もりを感じる。

思えば、俺はなんでこんなことをしたのだろうか。

手を繋ごうなんて思ったのだろうか。

デートだなんて言ったのだろうか。

気づけば、握った手の平は次第にじっとりと滲んでしまっていた。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 22:57:32.95 ID:pxmzvZq/0<> P「えーと、ここです。あ、ラッキーですね」

女P「ん? どうしたんですか?」

手は依然繋いだまま一軒のカフェの前に立ち止まる。

P「いつもは平日でもこの時間は待つことが多いんですよ」

女P「へー! だからラッキーなんですね!」

P「ええ、入りましょう」

お互いに顔を見合わせた後、繋いでる方の手を見てさっと手を離した。

扉を開いて、女Pさんを先に通す。

すぐにお店の人がやってきて二人席に案内される。

女P「Pさんっておしゃれなとこたくさん知ってますね」

P「まあ独り身ですし、休みの日なんて特にやることもないので、こうやって口コミで有名なお店に通ったりするのが趣味になっちゃってますから」

なんとも恥ずかしい話である。

趣味がお店巡り、散歩……お爺さんかよ……。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 22:58:10.81 ID:pxmzvZq/0<> P「ここは私が出しますよ」

女P「え、そんなの悪いです……」

P「デートなんて滅多にないんですから格好つけさせてください」

女P「あう、でーと……」

俯いた女Pさんは渋々と了承した。

ランチを済ませ、そのまましばらくコーヒーブレイクを楽しむ。

前のライブの話や、今度行うジュピターのライブの話。

それに関して振り付けや、演出の話を聞いた。

P「へえ、そのダンス一度見てみたいですね」

女P「今度来ますか?」

そんなこんなでキリのいいところで店を出る。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 22:58:39.82 ID:pxmzvZq/0<> P「今からアイドルのライブ行きません?」

女P「え? 今から?」

P「ええ、ちょうどチェックしたいアイドルがいまして、女Pさんとなら楽しめるかなって……」

他の女性の話題はタブーだけど大丈夫だろうか……。

と懸念する必要も無かったらしい。

女P「ぜひ行きましょう!」

俺はちょうどチケットを二枚持っている。

念のために二枚買っておいて良かった。

女P「今日はなんていうアイドルなんですか?」

P「まだ駆け出しなんですけど、346プロダクションっていう事務所のアイドル達です」

女P「へー、Pさんがチェックするってことは、次に来るアイドルってことですか?」

P「いや、次に来るかどうかは分かりませんが俺は好きですね」

女P「……そうですか」

あれ? なんか落ち込んじゃった? 何かまずいことでも言ったかな?
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 22:59:40.98 ID:pxmzvZq/0<> P「あの、やっぱり無理してます?」

女P「え?」

P「いえ、なんだか落ち込んでしまったように見えたので……」

女P「やだ、そんな風に見えました……?」

全然そんなことはないです、とは言ってくれるが、やはりどこか無理してるように見受けられる。

P「いいんですよ。なんなら、これから飲みにでも行きます?」

女P「…………あの」

一言で伝わる重みのある声のトーン。

俺は思わず足を止め、身構えてしまった。

女P「その……アイドルのこと好きって言うPさんに……私、なんだか嫌な気持ちになっちゃって……」

P「……それってどういう」
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 23:00:08.03 ID:pxmzvZq/0<> 女P「あはは……! お、おかしいですよね! Pさんアイドルのプロデューサーだからアイドルが好きなのは当然なのに!」

嫌なことを笑い吹き飛ばそうというのが見え見えでこちらまで苦しくなってくる。

女P「ごめんなさい。今日は帰ります……」

P「……」

俺はその時追いかければよかったと後になって後悔した。

その日の夜に彼女の部屋を訪ねたのだが……。

女P『ごめんなさい。気持ちの整理をしたいので、しばらく会わないでいただけますか?』

そう言われ、一切取り合ってもらえなかった。

どういうことなんだ……。

気持ちの整理って何だ。どうして会ってはいけないんだ。

気が付けば一か月、お互いに連絡を取ってないどころか顔も合わせてない。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 23:00:40.06 ID:pxmzvZq/0<> P「……はぁ〜」

小鳥「プロデューサーさん」

P「……どうしました?」

小鳥「最近ため息多いですよ?」

P「そうですかね……」

律子「プロデューサー」

今度はなんだろ? 正直、ちょっとイライラしていた。

律子「春香からですけど……」

P「なんだ?」

ため息を気づかないうちについて、電話を受け取る。

春香『プロデューサーさん、私、今日はどちらの現場に行けばいいんですか?』

P「なんだって?」

耳を疑った。どちらの意味が分からない。

今日の収録は某テレビ局に向かうだけのはずだけど……。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 23:01:24.51 ID:pxmzvZq/0<> P「……! ちょっと待て!」

そう言ってすぐに保留のボタンを押す。

スケジュール帳を取り出し、事務所のホワイトボードもチェックする。

書いてあることが違う。

小鳥さんのスケジュールも見せてもらうが、あろうことか二つのスケジュールが重なっていた。

ダブルブッキング。

P「……ああ!! くそ! やっちまった!!」

びくりと跳ねる小鳥さんと律子を無視してすぐに対応策を練る。

他の子たちのスケジュールをチェックする。

ダメだ。全員、今日の予定が埋まってる。

最悪、先方のどちらかを切り捨ててしまうしかない。

とにかく、俺は春香にダブルブッキングのことは伝えずにどちらへ行くかを指示した。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 23:02:46.41 ID:pxmzvZq/0<> P「やばい、代わりがいないとなると……」

謝り倒して、信頼を失うしかない。

もう二度と、春香へのオファーが来ないかもしれない……。

いや、765プロへのオファーすら来ないかもしれない……。

そうなれば……。

P「俺のせいだ……」

額に手を当て、がっくりと椅子に腰かける。

律子「プロデューサー……もしかして……」

P「ああ、ダブルブッキングしちまった……」

小鳥「ええええぇっ!?」

P「代わりがいないから、ちょっと謝罪しに行ってくる」

力がすっぽり抜けてしまってるのがわかった。

ふらりと立ち上がり車のキーを粗雑に手に取る。

すると、腕を掴まれた。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 23:03:21.79 ID:pxmzvZq/0<> 律子「ちょっと待ってください」

P「なんだよ」

律子「最近変だと思ったんです! ため息ばっかつくし、こんなくだらないミスするし!」

P「ああ、反省してるよ」

もう離せ、と内心では毒づいている。

律子「今回だけです……。竜宮小町を代わりに使ってください」

P「……おい、いいのか?」

律子「幸い、今日は仕事入ってませんので、今から連絡入れてみてください」

P「あ、ああ、わかった」

律子の勢いに飲まれたのもあるし、俺自身もうどうしようもなかったので素直に提案に乗った。

P「もしもし……」

俺は事情を説明して春香と竜宮小町の入れ替えをお願いすると、向こうも快く引き受けてくれた。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 23:04:02.44 ID:pxmzvZq/0<> P「はぁ、助かったぁ……。律子、すまない、ありがとう」

律子「べっ、別に……今回だけですからね!」

ぷいっとそっぽを向く律子だが、あとは任せてください、と頼れる言葉を残してくれた。

律子「その代わり、何があったか話してくださいね!」

律子は事務所を出た。

P「話すことなんて何にも無いんだけど……」

小鳥「まーた、そうやって抱え込もうとするからですよ」

P「いや、だってこれは俺の問題ですし……」

小鳥「でもも、だってもありません! こうやって迷惑かけることになるんですから!」

P「うぐっ……!」

小鳥さんの言った通りなので何も言い返すことができない。

P「……ふぅ。わかりました。律子が戻ってきたら話します」

それで結局、無事に収録を終えたらしく、律子が戻ってくる。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 23:04:53.68 ID:pxmzvZq/0<> 律子「じゃあ、なにがあったか聞かせてください」

二人に迫られ、俺は圧迫感を感じながらもぽつぽつと話し始める。

P「先日のことなんですけど……」

二人は興味あるとばかりに前のめりに話を聞く。

P「ある女性とショッピングしたり、ランチしたり……いわゆるデートをしてたんですけど……」

小鳥「デート!?」

律子「プロデューサーがデート……」

P「話、続けますよ? ……それで、俺からアイドルのライブに行かないかと誘ったんです」

小鳥「うっわ……」

あら、やっちまったなという表情の小鳥さん。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 23:05:34.43 ID:pxmzvZq/0<> P「まあ、普通の女性なら誘ってませんよ。同業者だったんで誘ってみたんです。そしたら反応は悪くなかったんですよ」

律子「……同業者ねぇ」

P「でも彼女、話しているうちに落ち込んだ顔をして、謝ったあと帰ってしまったんです」

思い出すだけでも少し嫌になる。

P「その後、部屋を訪ねたんですけど、気持ちの整理がしたいと言われて以来会ってません……」

律子も小鳥さんもふむぅ、と考え込んで複雑な表情をする。

小鳥「うーん、なんというか、情報が……」

律子「足りませんよね」

小鳥「というより、プロデューサーさんはその人のことどう思ってるんですか?」

P「え、あ、俺ですか……?」

頷く小鳥さん。

俺は彼女のことをどう思っているんだろう。

そりゃもちろん、会えなくて嫌だった。

避けられてるみたいで辛かった。

この一か月間彼女のことしか考えられなかった。

会いたいと思ってる。会って話がしたい。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 23:06:37.42 ID:pxmzvZq/0<> P「………………あ」

律子「え?」

小鳥「どうしました?」

P「わかりました。向こうがどう思ってようが関係ないです」

律子「急にどうしたんですか?」

P「もう帰ります! 話聞いてくれてありがとうございました!」

荷物を纏めて、脱いでいたスーツも手に取ってさっさと帰る。

律子「本当、わからない人だなぁ……」

小鳥「きっと大切なことに気づいたんじゃないですか?」
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 23:07:43.25 ID:pxmzvZq/0<> 帰ってきた。彼女の部屋は俺の部屋の隣だ。

今日は絶対に逃がさない。

俺の言いたいことを言う。

待つこと2時間くらい経っただろうか。

女P「あ……」

ようやく帰ってきた。

P「お帰りなさい」

女Pさんは一礼すると、そそくさと部屋に戻ろうとする。

その手を引く。

P「待ってください」

狼狽する女Pさん。

P「あなたが今どんな気持ちで、なぜ俺と距離を置くのか分かりませんが、俺は嫌です」

彼女はじっと、もの悲しそうな眼差しでこちらを見つめる。

女P「……ごめんなさい。避けてたつもりじゃないんです。ただ、あの日から顔を合わせづらくなっちゃって……」

P「なんですか、それ……」

頭に来てしまった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 23:08:32.74 ID:pxmzvZq/0<> P「俺がこの一ヶ月間どれだけ悩んだと思ってるんですか!」

彼女の肩をつかんで声を上げる。

女P「ご、ごめんなさいっ!!」

さすがに勢いに圧倒されたのか、大きく肩を震わせる女Pさん。

P「俺のこと嫌いになったんじゃないかと思いましたよ」

女P「!! ……そんな、そんなことありません。だって私は……」

そこで言いよどむ。

P「ねえ、女Pさん」

女P「は、はい! 何でしょうか?」

P「俺、この一ヶ月であなたのことたくさん考えました。何であんなよそよそしい態度をとるんだろうって……」

女P「……」

P「それで、俺も気づきました。何で俺、あなたのことばかり考えてるんだろうって……」

ここまで言ってしまえば、先の内容も自然と分かってしまう。

女Pさんは顔を上げ、潤んだ瞳でこちらを見つめる。

もうそれだけで愛おしい。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 23:09:41.13 ID:pxmzvZq/0<> P「好きです」

暗がりの光の中、彼女の紅潮した顔が浮かぶ。

P「あなたが俺を嫌いでも、俺はあなたが好きです」

彼女の持っていたカバンがするりと落ちたと思うと、次には俺の胸に体を預けていた。

女P「私も好き…………Pさんのこと、大好きです」

小さな体を優しく抱きしめる。

しばらくして見つめ合う。

やがてごく自然に彼女は目を閉じた。

言わなくてもその意味がわかる。

ちょいっと背伸びして、少しでも近づこうとする彼女が可愛くてしょうがない。

それでもまだまだ届かないので、俺の方から顔を近づける。

お互いの息がかかる距離だ。

いつの日か似たようなことがあったっけ。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 23:11:16.56 ID:pxmzvZq/0<> 「んんっ!!」

とても大きな咳払いに驚いて、お互いの距離は一瞬で離れる。

スーツを着た男性がすっと、俺たちの横を通る。

恥ずかしさと若干の苛立ちを覚えたが、はい解散、とするわけにはいかない。

P「来て」

女P「あ……」

カバンを拾った女Pさんの手を取り、俺の部屋に連れ込む。

その様子を陰で見てたのは小鳥と律子だ。

小鳥「あちゃあ……これはお楽しみですね。いいものも見れましたし、帰りましょうか」

律子「そうですね。このことはみんなには秘密にしときます?」

小鳥「まあ、聞かれたら話してあげてもいいんじゃないですか?」

そもそもプロデューサーさんの恋バナとかしませんし……と付け足す小鳥。

律子「でも明日はプロデューサーに問い詰めてみましょうか……」

小鳥「……うわぁ。悪い顔してますよ」

この時のために二人も2時間ほど待っていたりする。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 23:12:25.25 ID:pxmzvZq/0<> 俺は玄関の鍵を閉めて、靴も脱がずに彼女をもう一度抱きしめた。

どさりと荷物が落ちた音が静かな部屋に響く。

真っ暗でよく見えないが、彼女は俺の懐にいる。

その温もりを感じることができる。

彼女の顔に触れる。

頬を撫で、あごをくっと上げ、顔を近づける。

邪魔する人はもういない。

お互いの呼吸を強く意識してしまう。かかる息がくすぐったい。

女P「……んっ」

数秒間、唇を重ね続ける。

いったん離すと、はぁはぁと小さく吐息を漏らす。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 23:13:36.02 ID:pxmzvZq/0<> もう一度、二度……と何度も何度もキスをする。

次第に深く、長く、熱く、キスを交わす。

壁に追いやり、両手をぎゅっと繋ぎ、舌を絡ませる。

女P「……んむっ、ちゅ……」

音を立てて、お互いの唾液を交換し合う。

女Pさんはすっと顔を逸らし、ようやくキスは中断される。

やや荒く呼気を続けていた。

女P「……はぁ……はぁ……ごめんなさい。……ちょっと、気持ち……良くて、変な感じに……」

言葉だけで恥じらいや、愛しい気持ちが伝わってくる。

俺の方は我慢がきかず、首にキスマークを作る。

女P「ふあぁ……!! だ、だめっ……!! Pさん! Pさぁんっ!!」

くてっと力が抜けたかのように体が沈んでしまう女Pさん。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 23:14:38.66 ID:pxmzvZq/0<> 俺はそれを支えて耳元でささやく。

P「大丈夫?」

すると、ピクリと小さく震えて反応を示す。

女P「んっ……はぁ……はぁ……だめって、言ったのに……」

P「あなたが可愛くって……」

女P「もう……」

それきり言葉はほとんど無かった。

ただお互いがお互いを求めるままに愛を交わす。

飽きることなく何度も何度も……。

女P「好き、大好き……」

P「俺も大好きです……」
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 23:15:42.42 ID:pxmzvZq/0<> 次の日、俺は眠い眼をこすって出勤する。

昨日はあの後、俺の部屋でシャワーを浴びて、いざ! と思ったのだが、避妊具が無かったのでお喋りをしただけだ。

最後にもう一回キスしたっけ……。

いや、一回じゃなかったな。

また女Pさんが軽く痙攣するまで、キスした気がする。

かくいう俺もすごい気持ちよくて病みつきになってしまいそうだった。

というか、もうなってますね、はい。

P「ふわ……。おはようございます……」

小鳥「ぴよっ!! おはようございます!!」

P「なんかやけに元気ですね……」

高木「おお! 聞いたよ君! 何でも彼女ができたそうだね?」

P「はい?」

何で昨日の今日で知ってるんですか……?
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 23:16:25.11 ID:pxmzvZq/0<> 小鳥「ふふふ……私には何でもお見通しなんですよ!」

P「はあ!?」

何で知ってんだよ! いや、昨日話したけども……! 付き合い始めたことはわからないだろ!

律子「ごめんなさいプロデューサー……昨日、プロデューサーの後を追って、陰で様子を見てたんですよ。小鳥さんが楽し……じゃなくって、心配だからって言うんで……」

小鳥「ちょっと律子さん! そんなこと言ったら……」

P「ほう……このクソ事務員はそんなストーカーまがいのことを?」

小鳥「ぴよぉ……」

P「でも今回だけ許してあげます。小鳥さんに相談しなかったらまだどうなってたかわからないですから」

小鳥「! そ、その通りですよ! 私の完璧なアドヴァイスが無ければ……!」

P「調子に乗るな」

小鳥「はい、ごめんなさい……」

高木「それにしても良かったね……きっと君を心から愛してくれる人なんだろう」

P「俺だって彼女のことを心から愛してますよ」

こんな恥ずかしいセリフだって簡単に言えちゃう! 愛の力ってすごい!
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 23:17:28.55 ID:pxmzvZq/0<> なんて考えていると律子がうーんと唸っていた。

律子「でもあの人、どこかで会ったことあるような気がするんですよね……」

P「ああ、961プロのジュピター担当プロデューサーだよ」

律子「あー! そうだそうだ!」

高木「961プロのところか……うむ、ピンと来たよ!」

P「なんですか?」

高木「だったらうちと961でプロデューサー研修をやってみよう!」

P「ええっ!? だって俺も律子も順調にキャリアを積んでますし、向こうも十分に活躍してると思いますよ?」

高木「思えば、うちは他事務所との交流が少なかったしいい機会じゃないか?」

P「いや、でも……」

律子「面白そうですね。初心忘るべからずですし、私はやってもいいですよ?」

高木「そうだね。向こうから吸収できることもたくさんあるだろうし、君も彼女に会うことができるだろ?」

P「でも、毎晩会えますし……」

高木「仕事場での彼女を知っておくことも大事だと思うけどねぇ……」

社長と押し問答していると一本の電話が入る。

それには小鳥さんがいち早く対応した。

自然と静かになる事務所内。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 23:18:37.60 ID:pxmzvZq/0<> しばらくして小鳥さんは電話を切った。

小鳥「あの、黒井社長からでした」

嫌な予感がする……。

小鳥「765プロと961プロでアイドルプロデューサーの研修をやるそうです」

情報回るの早っ! 向こうももうばれたのか……。

しかも決定事項ですか、そうですか……。

ルンルン気分で出勤して、速攻で問い詰められて、ばれた姿が目に浮かぶ。

想像すると死ぬほど可愛いな。

律子「何考えてるんです?」

P「はっ! いや、別に……」

律子「どうせ彼女さんのことでしょ? プロデューサー殿の顔、薄気味悪かったですよ?」

酷いこと言うね。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 23:19:17.33 ID:pxmzvZq/0<> 高木「それでは向こうの了承も得られたことだし、決定だね」

小鳥「あ、もう企画の内容が送られてきましたよ」

仕事早すぎ。黒井さんは休んでてください。

律子「うわ、しかもページ数20以上ありますよ」

というわけで、俺たちはその内容に目を通す。

うちからは律子と俺が、向こうからは女Pさんが、それぞれの事務所に二週間ずつ勤務して、実際にプロデュース業を行う。

交換ではなく、最初の二週間は俺と律子が961プロへ出勤し、女Pさんのプロデュースを見たり、自分たちで961プロのアイドル候補生をプロデュースしたり……。

そして、その二週間が終われば、次の日からの二週間は女Pさんが765プロで同じように勤務するということだ。

まあ、四週間は一緒に出勤できるし、悪くないと思ってしまった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 23:21:11.59 ID:pxmzvZq/0<> そんなこんなあり、今日の午後からレッスンが始まる。

P「1、2、3、4、5、6、7、8……」

手を叩きながらリズムをとる。

それに合わせて振り付けを踊るアイドル達。

あー、会いたい……。

今すぐにでも彼女に会いたい。

P「……」

響「プロデューサー?」

春香「どうしたんですか? プロデューサーさん」

P「……」

今何をしてるのかな……。

ちょっと抜けてるところあるから、仕事でへましてないか心配だ……。

それとも俺が女Pさんのこと考えてるみたいに向こうも俺のこと考えてくれてたりして……。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 23:21:44.87 ID:pxmzvZq/0<> 真「ちょっとプロデューサー……。いきなりニヤケて気持ち悪いですよ……」

美希「ハニー!!」

P「うおっ!! みんなどうした? そんなに近寄ってきて……」

千早「え?」

真美「いや、兄ちゃんがボーっとしてたんだけど?」

雪歩「プロデューサーがおかしくなっちゃいました……」

やよい「大丈夫ですか?」

貴音「真、酷い病気と見受けられますが……」

散々な言われようなんだけど……。

実は来週からの研修が楽しみでしょうがないのだ。

ちなみに俺たちがいない間は各個人、各ユニットはセルフで仕事を取ったり、それぞれの現場に向かったりするということだ。

かなりリスクを負うことになるが、マニュアルを作成したので、その通りにやれば大失敗ということにはならないだろう。

それよりも、今日のレッスンは俺の身が入ってなくてアイドル達に呆れられてしまった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 23:22:53.90 ID:pxmzvZq/0<> P「あー、失敗しました……」

小鳥「ダメですよ。仕事の時は仕事に集中してもらわないと」

P「わかってはいるんですけど……彼女の顔が脳裏をちらついて、会いたい会いたいと思ってしょうがないんです」

小鳥「本当に爆発してくださいよ」

小鳥さんは黒いオーラ丸出しで嫉妬してた。

この日は本当に業務が長く感じた。

まだ7時なのに早く帰るということを念頭に置いていた。

P「お疲れ様です」

律子「お疲れ様です。早いですねー」

P「そうか? そんなことないと思うけど?」

ぱたりと事務所の扉を閉めてさっさと帰る。

小鳥「はあ? あの人、みんなをトップアイドルに導くまでは誰かと付き合う気は無いなんて言ってたくせにさぁ!」

律子「ちょっ、落ち着いてくださいよ……」

ばしばしとキーボードを乱雑に叩き始める小鳥。

どうやら嫉妬の愚痴が始まったみたいだ。

面倒くさいからもう結婚してほしいと思う律子であった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 23:23:29.61 ID:pxmzvZq/0<> 俺は帰路を急ぎ目で歩く。

そうして家に着くと、ちょうど俺の来た方と反対側から女Pさんが帰ってきた。

P「あ、女Pさん!」

女P「Pさん! こんばんは」

P「会いたかったです」

すぐに抱き寄せる。

女P「あ……もう、大胆ですね」

ぎゅーっとしばらく抱きしめ合う。

P「すぐそこですけど、帰りましょう?」

女P「はい、今日はお早いんですね」

P「ええ、あなたに早く会いたくって……」

女P「ふふっ……実は私もPさんの顔が見たくて、早くあがっちゃいました」

P「本当ですか? 奇遇ですね」

手を繋いで、あとちょっとしかない距離を大事に歩く。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 23:24:29.53 ID:pxmzvZq/0<> 女P「晩御飯、うちで食べていきませんか?」

P「いいんですか?」

女P「はい。Pさんのために腕によりをかけちゃいます!」

ぐっとこぶしを握って笑顔を向ける女Pさん。可愛い。

そういうことなので、お邪魔することにした。

P「お邪魔します……」

女P「『ただいま』でいいですよ?」

P「…………ただいま」

女P「お帰りなさい!」

久しく言われてなかったな……。当たり前のようで、いつの日か当たり前ではなくなった言葉だ。

たまらなくなり、再び抱きしめ、キスをする。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 23:25:15.04 ID:pxmzvZq/0<> 女P「ん……ふあっ……Pさん?」

P「愛してます」

彼女は一気に顔を赤らめると、ばたばたと靴を脱いで部屋の奥に逃げていった。

俺が部屋に行くとすでに彼女の姿はない。

けれどどこからか声が聞こえてくる。

『私のこと見つけるまで、ちゅー禁止です!』

いや、そもそもあなたがいなきゃキスはできないんですけど……。

『晩御飯もお預けです!』

そっちがその気ならこっちもちょっとイタズラしてやろう。

P「しょうがない。じゃあ俺、大人しく帰ります」

『え?』

ドアを開けて閉める。俺はもちろん外に出てない。

『Pさん? Pさーん?』

P「……」

俺は笑いをこらえるのに必死だった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 23:26:24.53 ID:pxmzvZq/0<> 次第に不安げになっていく声に多少胸を痛めながらも、それ以上に愛おしく感じる。

押し入れからひょっこり顔を出す女Pさん。

女P「本当に帰っちゃったの?」

P「いますよ」

女P「きゃあっ!!」

驚いてびくりと肩を震わす。

P「さあ、見つけましたよ。出ておいで……」

俺も彼女の視線に合わせるため、しゃがんで両手を差し出す。

彼女が俺の両手を取ったのでそのまま引き上げようとしたが、ぐっと押されて、後ろに倒された。

P「うわっ!」

背中をついて倒れた俺の上に四つん這いでまたがる女Pさんには扇情的な魅力があったが、同時に、彼女の支配下に置かれたように身動きがとれなくなる。

俺が何か言う前に唇を塞がれる。彼女の唇で……。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 23:27:53.57 ID:pxmzvZq/0<> P「んっ……」

女Pさんは小柄ながらもスタイルのいい身体を重ねながら、深く、熱く、俺の口内を弄ぶ。

女P「んちゅ……んむ……ちゅ、ちゅ……」

ちゃぷちゃぷと、お互いの唾液が音を立てる。

P「ぷはっ……」

ようやく解放される。俺の口元を見てみると、そこから女Pさんの口元に一本の透明な線が繋がっていた。

透明な線は俺の口に返っていくと、溶けるように消えていった。

女P「えへへ……。私からも、ちゅー、しちゃいました。Pさん顔真っ赤です。可愛い」

P「あなただって、無理したんでしょ? 真っ赤ですよ」

女P「だって、Pさん身長高いから、私からちゅーしようとしてもできないもん」

拗ねたように言う女Pさん。

あ、またゴム買うの忘れた……。

そんなしょうもないことを唐突に思い出して、残念な気持ちになったが、キスするだけでも本当に幸せでしょうがない。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 23:28:35.32 ID:pxmzvZq/0<> しばらくしてイチャイチャも落ち着き、晩御飯を作ってもらう。

彼女の手料理は美味しい以外に、なんだか特別なもののように思えた。

一緒に寄り添って、お酒を飲んで、お喋りをして、帰るときには本気で別れを惜しんで……。

またすぐに会えるんだけどね……。

そうして、早くも研修期間がやってくる。

P「おはようございます。一緒に行きましょう」

女P「ふわぁ……おはようです。……Pさん早いですね」

P「ごめんなさい。ちょっと張り切りすぎでしたかね?」

女P「ふふっ! Pさんらしくて良いと思います!」

準備するんであがって待っててください、と女Pさん。

すっぴんで寝ぼけ眼の彼女も可愛くて愛らしく、ほっこりした。

朝ごはんもまだだったみたいで、時間かかります、とか言いながらもしゃもしゃと朝食をほおばる。

俺はそんな彼女をじっと見つめる。……飽きない。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 23:29:34.42 ID:pxmzvZq/0<> 女Pさんはごくりと飲みこむと、もじもじと言いづらそうに、それでも口を開く。

女P「あの、食べてるとこそんなに見られると恥ずかしいです……」

P「あ、ああ、ごめんなさい……」

ふいっと目を逸らす。

ちらちらと視線が合うのが、なんだかもどかしい。

女P「食べ終わりました! 着替えてきます!」

そう言うと、スーツやワイシャツを持って洗面所に入っていく。

女Pさんはちらりとこちらに振り向くと、いたずらっぽい笑みを浮かべる。

女P「覗いてもいいですよ?」

きゃっ! ……とはしゃぐ女Pさん。ちょっと言ってみたかったんだろうな……。

P「本当に覗きますよ……」

結局のところ覗かなかったけど……。それは俺がヘタレとかじゃなくてね?

まあ、衣擦れの音が妙に気になったのは認めます。

しばらく待って洗面所から出てきたのはさらに綺麗になった女Pさんだった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 23:30:31.26 ID:pxmzvZq/0<> ナチュラルにメイクを施して、あまり華やかにならないような雰囲気を保っている。

けれど決して地味というわけではない。

少なくとも俺には魅力的な女性そのものにしか見えない。

恋心補正はもちろんあるけど……。

女P「ど、どうですか? 私、変身です……」

最後の言葉が尻すぼみになっていく。ちょっと恥ずかしかったのだろうか……。

P「とっても綺麗です」

彼女は顔を紅潮させ、ありがとうございます、と言った。

準備も整ったので部屋を出る。

P「そういえばばれてるんですよね?」

鍵を閉めながら女Pさんは苦い顔をしてみせる。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 23:31:25.47 ID:pxmzvZq/0<> 女P「そうなんですよ。私、嘘が下手みたいで……すみません」

P「そんなところも可愛らしいです」

女P「もう! またすぐにそんなこと言って!」

P「こんなこと、あなたにしか言いませんよ」

女P「あうぅ……」

P「そう言えば、黒井さん以外で誰が知ってるんですか?」

頬を赤らめ俯けていた顔を上げて、視線を斜め上に向ける。

女P「あとは、冬馬と北斗と翔太です。他にも何人か知ってるかも……」

P「そうですか。まあ何て言われようと関係ありません」

女P「はい! じゃあ行きましょう」

張り切る女Pさんに向けて俺は手を差し出す。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 23:32:12.17 ID:pxmzvZq/0<> 女P「これは? ……!! もしかして……」

P「いっそ開き直っちゃって見せつけてやりません?」

女P「ええええっ!? 無理無理!! 無理です!! 恥ずかしくて死んじゃいます!!」

P「むぅ……。じゃあ事務所の前まででいいです……」

俺だって、ちょっとくらい拗ねちゃうよ……。

女P「それだったら……」

混乱してるのか、事務所の前までならなぜか許してもらえた。



……私は彼の手を握る。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 23:32:59.00 ID:pxmzvZq/0<> 大きくてたくましくて、私のことを守ってくれるみたい。

この胸のドキドキはいつまでたっても小さくならないなぁ。

彼にはいつもドキドキさせられっぱなしだ。

この前の私からの、ちゅ……ちゅーは彼をドキドキさせられたかな?

いつものお返しだもん!

でも本当は自分がちゅーしたいだけだったり……。

って、自分でそんなこと考えて恥ずかしくなってる私ってバカみたい!

ふるふると首を振るう。

あ、また彼に見られた。恥ずかしいよぉ……。

私は顔が赤くなっていくのがわかる。

さっきも赤かったけど、今はもっと赤いと思う。

自然に彼の顔が近づいてくる。

だめだよ、ここ外だし……こういうの路ちゅーって言うんだっけ? 恋愛経験が貧弱な私に誰か教えて!

そんなこと思ってるうちに彼の顔がもうすぐそこに……!
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 23:33:33.82 ID:pxmzvZq/0<> ああ、目を閉じてる姿もかっこいいな。

私の方も吸い込まれていくように、背伸びをして、ちょっとでも彼に近づくの。

唇が触れた瞬間、なんて言うか、電流が走る……かな?

でも、そんな感じでピリピリピリって手足まで迸っていくの。

彼の愛情が、優しさが伝わってきて、お腹のあたりがムズムズってする。

変な感じ。……でも嫌とかじゃなくて、むしろ気持ちいい。

彼の顔が離れる。

優しい笑顔。

ちょっぴり恥ずかしそうな横顔。

けれど、しっかりと握ってくれる温かい手。

ああ、私、幸せなんだな。

お互いの手を繋ぎ、スーツ姿で並んで歩く私たちでした。

『女P』   終わり
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 23:36:16.55 ID:pxmzvZq/0<> ……各ルートこんな感じ。
いかがだったかな?

言い忘れたけど『※飯マズ注意報発令※』
もしくは『※ゲロ甘注意※』とか? <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 23:38:17.04 ID:pxmzvZq/0<> 長々と女Pだけ尺を取らないように配慮した結果、若干中途半端になった。
不完全燃焼だ! という人(主に私)のためにこの続きも一応考えてるので、需要があれば書き溜めてみようと思う。
<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/20(月) 23:43:34.64 ID:cGOPYBxQO<> 待ちきれないよ早く出してくれ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/20(月) 23:47:17.00 ID:Xv27twxSO<> 乙ですよ、乙!

>>581
もちろん読んでみたいですお願いします

後Pは爆発すれば良いと思う
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/20(月) 23:59:15.06 ID:pxmzvZq/0<> 次回更新は未定。もうちょい女P続けた方がいい?
ちなみにひかりなら明日すぐいける。

うーん、順番決めてなかったから難しい。
出来れば読んでくださる方の意見に合わせたい。
とりあえず女Pの続きは書き溜めとく。

>>582
もちついて。

>>583
おっけー。 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/21(火) 00:08:23.88 ID:roJIMsVDO<> >>525
胸糞度合いにもよるけどそれはそれで楽しめるのでありで <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/21(火) 00:24:14.60 ID:kPMuNGmdO<> 乙です!

>>584
女Pの続きはぜひ読みたい
他のルートの後でも良いので <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/21(火) 00:38:18.15 ID:42rUBGgz0<> ではみんなの意見を聞いて、誰ルートから投下していくか決めようと思う。
最後は伊織ね。

女Pの続き書くとしたら、ひかりも麗華も続き書き足したいわ。
みんな同じくらいの文字数にしたいのでね。
……ということで二人の続きも書くことにする。 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/21(火) 00:56:41.20 ID:2770Fgky0<> 登場した順番の逆とか <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/21(火) 01:20:11.54 ID:SmkCv6DuO<> ボリュームたっぷりなら文句は出ないんじゃないすかね、というかもっとやれ!

ここまで読んでて砂糖吐きそうになるぐらい甘くて糖尿病になりそうだ…(褒め言葉) <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<><>2015/04/22(水) 00:40:36.40 ID:aBTLuC770<> 新スレきてたのかーい
前スレに誘導張ってくれてもいいと思うの <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/22(水) 00:41:35.81 ID:aBTLuC770<> sageわすれたスマン <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/22(水) 17:10:11.02 ID:aScrO8Ao0<> みんな元気にしてたかな?
ひかりちゃんルート、はっじまっるよー!

ちなみにひかりちゃんだけでなく、各ルートの時系列としては
『765プロオールスターズ』『最初で最後のこの時間』の続き。 <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/22(水) 17:11:06.92 ID:aScrO8Ao0<> 『新幹少女・ひかり』

さて、ライブからまだ数週。

日差しの強さもこれといって落ち着くわけではなく、薄着の人が大半だ。

暑い。外回りやロケに行くも暑さにやられてしまう。

アイドルはいいよなぁ……。

こんな暑い日には水着を着て、海でマリンスポーツを楽しめる。

俺は単なる付き添いで、楽しそうな彼女たちの様子を遠巻きに眺めているだけだ。

たまたま居合わせた一般客もいいよなぁ……。

自分たちも涼しい格好で、アイドルの水着姿を生で拝めるし、手だって振り返してくれるんだもん。

冬馬「ひゃっほー! 気持ちいいぜ!」

黄色い声を浴びるジュピターの三人。

こんなに騒いでるのは冬馬くんだけなのだが、翔太くんも北斗くんも楽しそうだ。

彼らは今サーフィンをやっている。

うーん、上手い。それにかっこいい。

ちなみに俺は海が苦手だ。

泳げないとかではなく、潮の匂いやしょっぱい海水がなんだか好かない。

でも海につかるのは気持ちのいいものなんだよな……。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/22(水) 17:12:00.53 ID:aScrO8Ao0<> それにしてもこのロケ、羨ましい。

海で遊ぶだけっていうね……。

もちろん撮影に……ってことだったんだけど、わざわざこんな人が集まるような海でなくてもよかったんでないかい?

俺は大きくため息をつく。

ひかり「Pさん、どうしたんですか? そんな大きなため息ついて」

聞かれちゃってたらしい。

ひかり「Pさんも遊びましょう!」

海が好きなのか、いつになくはしゃいでいるひかりちゃん。

腰を折って、膝に手をつき俺に視線を合わせるように前かがみになるひかりちゃん。

ちょっと胸が強調されるような姿勢になって、たちまち俺の視線は定まらなくなった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/22(水) 17:13:20.32 ID:aScrO8Ao0<> 伊織「こら! だめよ、ひかり! お兄様を水着姿で誘惑しようなんて……」

ひかり「ゆう……! そ、そそ、そんなこと! し、してないよっ!」

わたわたと手を振って全力否定のひかりちゃん。

結構、胸あるんだな……。

伊織「お兄様も、ひかりの胸ばっか見ないの!」

ひかり「ええっ!?」

P「いや、違う! 伊織、変なこと言うな!」

ぎゃあぎゃあと伊織と言い合ってると向こうから苦笑いで新幹Pさんがだらだらとやってきた。

新幹P「あー、相変わらず賑やかだな」

P「す、すみません……」

新幹P「いや、いいんだけどよ。ひかりもこう言ってることだしちょっと羽目を外してみないか?」

P「新幹Pさんがそう言うなら……」

新幹P「じゃあ水着に着替えてこいよ。俺はもう下に着てるから」

P「俺も一応下に着てますけど……」

新幹P「なんだよ、遊ぶ気満々だったんじゃないのか?」
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/22(水) 17:14:11.88 ID:aScrO8Ao0<> P「違いますよ。もし誰か溺れてしまったら助けないといけないじゃないですか。その時に速く動けるようにするためです」

新幹P「はー、真面目だねぇ……」

とか言いながらさらりと脱ぎだす新幹Pさん。

つばめ「ちょっと!」

のぞみ「プロデューサー……」

あずさ「意外と引き締まってるのね……」

亜美「おっちゃんかっけぇ!」

ちょうど戻ってくる他のメンバーたち。

ちなみに律子は水着を着せられるのが嫌なので、俺に今回だけ代わってくれと言い残し、逃げ出した。

新幹P「ははは……。まあな、伊達に鍛えてねえぞ亜美ちゃん」

ぺしぺしと新幹Pさんのお腹を叩く亜美。

亜美「腹筋すごーい!」

その様子を見た俺はちょっとばかり呆れたが、意を決して同じく脱いだ。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/22(水) 17:14:50.67 ID:aScrO8Ao0<> あずさ「あらあら〜」

ひかり「きゃぁっ!」

つばめ「わぉっ!」

のぞみ「だいたーん!」

伊織「急に脱がないでよ!」

反応は様々だった。

頬に手を当て困った笑顔のあずさ。

咄嗟のことに混乱して怒りをみせる伊織。

驚いたようなリアクションで、じっと上から下まで見つめるつばめちゃん。

けらけらと笑うのぞみちゃん。

そして、手で顔を覆うひかりちゃん。しかし指の隙間からがっつり凝視している。

P「海で水着になっただけなのに、そんな言われると恥ずかしい……」

ひかりちゃんは覆っていた手を下ろすと、やっぱりまじまじと見つめてくる。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/22(水) 17:15:45.37 ID:aScrO8Ao0<> ひかり「……Pさんって結構たくましいんですね」

俺の体のことを言ってるのだろう。

それも、ある程度ダンスで鍛えてるところはあったからかな。

P「そうかな?」

つばめ「本当だ……」

ペタペタと触ってくるつばめちゃん。

濡れた手が少しひんやりとしていて俺は肩を震わせてしまう。

つばめ「あはは……! ごめんねPさん。……そうだ、ひかりも触ってみたら?」

ひかり「ええ!? ……Pさん、いいですか?」

P「あー……まあ、いいよ」

ひかり「じゃ、じゃあ……」

失礼します、と触りだすひかりちゃん。

ふわぁ……とか、すごい……とか、恍惚の瞳を携えながら感心しているようだ。

そんな最中、のぞみちゃんがそっと近寄ってくる。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/22(水) 17:16:50.51 ID:aScrO8Ao0<> のぞみ「ごっめーん、足が滑ったー」

とか言いながらひかりちゃんを後ろから突き飛ばすのぞみちゃん。

いやいや、わざとらしすぎるだろ……。

ひかり「ひゃぁっ!!」

俺の身体をぺたぺたと触っていたひかりちゃんは後ろから押されて俺に抱き付く形になった。

水着なんて薄着も薄着。彼女を受け止めたときの感触が柔らかい。

ふんわりと潮の匂いに紛れて漂う彼女のいい香り。

肌と肌が触れ合い、俺は一気に緊張した。

やっぱり結構、胸あるよな……。

伊織「こらぁっ!! ひかり、早く離れて! のぞみ! あんたわざとやったでしょ!」

のぞみ「わっかんなーい!」

相も変わらず笑い転げるのぞみちゃん。この子酔ってんじゃないの?

どうやら海のせいでテンションが上がりまくってしまったようだ。

ひかり「……Pさん」
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/22(水) 17:17:59.66 ID:aScrO8Ao0<> 一層、恍惚な瞳を俺に向けながら上目づかいで見上げてくるひかりちゃん。

正直、理性が飛びそうなほど可愛かった。

一瞬、フリーズしかけた頭は再起動して、俺がひかりちゃんを抱きしめているような形になっているという事態に今さら気づく。

P「うわぁ! ごめん! 大丈夫!?」

慌てて放して、距離を離す。

ひかり「ええ、Pさんが支えてくれたから……」

やば……心音が頭に響くほど大きく心臓が跳ねている。

血流が一部に流れていくような感覚が生じて俺は海に向かって急いで走り出した。

冬馬「お、あんたもなんだかんだ言ってはしゃいでんのな」

サーフボードを持ったジュピターとすれ違う。

俺は無言で彼らの横を通り抜けた。

翔太「すごい急いでたね……」

北斗「女難の相でも出てたんじゃないか?」

海に飛び込んで、少し離れたところまで泳ぐ。

海面から顔を出し、様子を窺う。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/22(水) 17:19:04.41 ID:aScrO8Ao0<> 戻ったら伊織がうるさそうだし、また何かあったら大変だ。

みんなが着替えるまでは接触しないようにしよう。

と思いながら、すいすいと泳ぐ。

P「わぷっ……」

押し寄せる波に進路を取られる。

だから海はあんまり好きじゃないんだよ……。

北斗「さっき、Pさんがすごい勢いで海に飛び込んでいったんだけど何かあったんですか?」

新幹P「ああ、実はな……」

新幹Pの説明で納得する一同。

北斗「ああ……じゃあPさん……」

新幹P「そうだと思うぜ」

翔太「ふーん、そんなこととは無縁に見えるけど、やっぱりお兄さんもちゃんとした男ってことなんだねー」

冬馬「興奮を冷ましに行ったってわけだな」

北斗「そういうことだろうね」

新幹P「こりゃいよいよ、ひかりにもチャンス到来ってわけか?」

北斗「うちのプロデューサーも負けるわけにはいきませんね」
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/22(水) 17:19:45.13 ID:aScrO8Ao0<> 新幹P「そうだ。ところで女Pちゃんはどこだよ? うかうかしてられねーぞ?」

翔太「あ、あっちでナンパされてるよ」

冬馬「あーあー、プロデューサーのくせに水着に着替えるからそうなんだよ」

しばらくして戻ってくる女P。

女P「えらい目にあったわ……」

げんなりとした様子だ。

翔太「今のしつこかったよねぇ」

女P「助けてよ……」

北斗「すみませんね。今Pさんお取込み中だったみたいで」

女P「な、何でPさんが出てくるのよ!」

北斗「だってPさんに助けてほしかったんじゃないですか?」

女P「そ、それは! その……そうだけど……」

最後の方はもごもごと声量も落ちて、聞き取れない。

新幹P「女Pちゃん一人でいたらダメだろ。せめてジュピターの誰かと一緒にいなさい」

女P「うぅ……気を付けます。Pさんもいないし、水着を着てきた意味が……」

がっくりとうなだれる女Pだった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/22(水) 17:20:53.42 ID:aScrO8Ao0<> あずさ「あら、ジュピターの皆さん。また撮影始まるみたいですよ?」

あずさがそんなことを報告しに来る。

北斗「またですか?」

冬馬「さっきので終わりじゃなかったのか?」

亜美「なんかねー、さっきの亜美たちを見てたらもっといい写真が撮れる気がするんだってー」

ひょっこりと出てきた亜美が言う。

あずさ「そうなのよね〜。ひかりちゃんをもっと魅力的に撮るんだってカメラマンさんが……」

亜美「それであまとうたちに協力してほしいって!」

冬馬「どういう構図で撮るんだ?」

こういうときに切り替えが素早くできる冬馬だ。

亜美「ひかりんがほくほくに抱き付く感じだって!」

北斗「ひかりちゃんが俺に? ……いい画が撮れるとは思えないけど、まあやってみようか」

新幹P「すまないな北斗」

北斗「いや、むしろ役得ですけど、仕事的には上手くいかないと思います。……一応Pさんを連れ戻してきてください」

新幹P「ああ、あいつは真面目だから撮影が再開するって言えばついてくるだろうよ」

北斗「お願いします。妥協した写真集なんて売りたくないんでね」

翔太「僕たちも必要?」

あずさ「ええ、もちろん」

冬馬「おっしゃ、もういっちょやるとするか!」

亜美「あまとう頼むよー」

冬馬「あまとうって言うんじゃねえ」

新幹P「じゃあ女Pちゃんはみんなの指示出しを頼むよ?」

女P「は、はい! 頑張ります!」

そんなこんなで撮影再開となる。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/22(水) 17:22:25.88 ID:aScrO8Ao0<> クラゲが浮いてる。

ふわふわしてて気持ちよさそうだなぁ……。

俺はすっかり海を満喫していた。

好まないと言ってはいたのだが、いざ海水に入ってしまうと楽しんでしまうものだ。

新幹P「おーい! Pくん!」

岸の方から新幹Pさんがやってきた。

P「あれ、どうしたんです?」

新幹P「おう、撮影再開するみたいだぜ」

ああ、撮影の後でやっぱり撮り直そうってやつかな?

P「そうですか……じゃあ一緒に戻りましょう」

新幹P「そうだな。というかPくん結構遠くまで来たな……」

P「気づいたらここまで来てました」

新幹P「まあいいんだけどよ……」
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/22(水) 17:23:21.54 ID:aScrO8Ao0<> 一方で撮影現場。

「うーん、さっきみたいな表情できないかな?」

ひかり「さっきみたいな表情ですか?」

撮影は案の定というべきか……滞っていた。

さっきみたいな表情と言われてもひかりにはわからない。

北斗とどう関係しているのかもわからなかった。

北斗「うーん、やっぱりいったん別のを撮りませんか?」

「そうだなあ……。でもさっきのひかりちゃん、すごく良かったんだけど……」

この人が言ってるのはひかりがPに抱き付いてた時のことだった。

「……じゃあ、他の子も何枚かもう一度撮ろうか」

北斗の提案が通る。

するとそこで戻ってきたのは……。

P「お待たせしました!」

翔太「お兄さん遅いよ……」

P「ごめんごめん……っていうか俺は遅くてもよくない?」

北斗「来ましたねPさん」

P「?」

北斗「ちょっと俺に代わってこの人で、ひかりちゃんをもう一度撮ってもらえますか?」

「え? でもその人アイドルじゃないでしょ?」

伊織「そうよ! 何でお兄様とひかりで撮らなきゃいけないのよ!」

あずさ「まあまあ、伊織ちゃん……」

北斗「俺は仕事に対して妥協はしたくないんだ」

北斗くんがそう言うとみんなの言葉が詰まった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/22(水) 17:24:03.08 ID:aScrO8Ao0<> 「うーん、まあ北斗くんがそう言うなら試してみよっか」

ひかり「え? 何? 私、Pさんと? はい? えっ?」

混乱しまくりのひかりちゃん。

俺も訳が分からないし、さっきのこともあるので余計に意識してしまう。

女P「ひかりちゃん、ずるい……」

つばめ「ほら、ひかり、さっさとオーケー出してよね」

そうして再び撮影に入っていく。

顔を真っ赤にさせて緊張気味のひかりちゃん。

俺も、これは仕事だからと割り切っていても多少意識してしまう。

しかし、ここはプロデューサーである俺がなんとかしなくちゃ!

P「ひかりちゃん落ち着いて……」

ひかり「ひゃい……」

ダメかもしれないな……。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/22(水) 17:25:12.40 ID:aScrO8Ao0<> P「ほら、さっきみたいに身体に触れてリラックスしてみたら?」

そんなんでリラックスできるのか怪しいところだが、俺の方も正気ではないらしい。

けれども無言で触りだすひかりちゃん。

ペタペタと冷やっこい手で撫でられてくすぐったい。

ひかりちゃんは次第にうっとりとした顔つきになっていった。

「!! おお、それだよそれ!」

パシャパシャとシャッターを切るカメラマン。

伊織と女Pさんの表情が死んでるけど、一体何があったのだろうか……。

「ちょっとひかりちゃん抱き付いてみてよ」

伊織「何言ってんのよ!?」

女P「アイドルでもないのにやりすぎでは!?」

食ってかかる二人にカメラマンもたじたじだ。

冬馬「プロデューサーだから関係者であることには変わりないだろ」

のぞみ「そうねー。それにPさんが邪な気持ちを持つかなぁ……?」

仕事には前向きな二人の意見はこの場では効果絶大だったらしい。

つばめ「明らかに私情挟んじゃってるし、冬馬くんとのぞみの言う通りじゃないかしら?」

そう言われては伊織も女Pさんも何にも言えない。

くぅ……と唸るしかできない二人だった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/22(水) 17:26:31.82 ID:aScrO8Ao0<> 指示を受けるとひかりちゃんは自然な感じで俺に寄りかかるように抱き付いた。

さっきと同じ状況に俺の鼓動も再び速まる。

ひかり「Pさんの心臓の音。とてもよく聞こえる」

P「恥ずかしいから言わないでくれ……」

ひかり「私でドキドキしてくれてるの?」

小声で俺にだけ聞こえるように話すひかりちゃん。

P「ま、まあね……」

俺も小声で返す。

ひかり「私もドキドキしてます……」

ひかりちゃんは、すっと顔を上げてこちらを見る。

恍惚で潤った瞳、上気した頬、艶やかな唇……。

俺の肩に手を回し、背伸びをして、彼女は目を閉じた。

これはそういうことでいいんだろうな……。

もうダメだ。理性が飛んだ。

俺もゆっくり顔を近づける。

……横から思いっきり衝撃を受ける。

P「いってぇ!!」

横に吹っ飛んで砂浜にキスをした。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/22(水) 17:27:30.90 ID:aScrO8Ao0<> 新幹P「こら、Pくん。やりすぎだ」

だからってグーで殴らなくても……。

新幹P「サービスはここまででいいだろ? いい画は撮れたか?」

「ばっちりです! ひかりちゃんの新たな一面というか……とにかくファンの心もさらにグッと掴めますよ!」

そいつは良かった、とにこやかに言う新幹Pさん。

ひかり「Pさん大丈夫ですか? ごめんなさい、私のせいで……」

P「あはは……気にしないで……」

撮影はすべて終了。

ひかりちゃんの新しいショットを皮切りに他の子も撮り直し、より良い写真集に仕上がることだろう。

新幹P「悪かったなPくん、グーで殴って」

P「いや、流されそうになった俺が悪いんです。正しい判断ですよ」

新幹P「お詫びと言っちゃなんだが、この遊園地のチケットをやるよ」

P「えー? 俺、もらっても行かないと思いますけど……」

新幹P「そこは社長にかけ合ってみてくれ」

どうしようかな……。

てか一人で行ってもしょうがなくない?
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/22(水) 17:28:15.77 ID:aScrO8Ao0<> 新幹P「ああ、あと言い忘れたが、もし行くならひかりのことよろしくな」

P「は?」

新幹P「実は俺もつばめものぞみも家の事情でその日行けなくなってな……。ひかりは楽しみにしてたから、せめてあいつだけでも楽しませてやりたいんだ」

P「……あー、そういうことなら任せてください!」

数日後。

P「本当に来てしまった……」

ひかりちゃんが来るって聞いて一人にさせるわけにもいかないからなぁ……。

ひかり「あれ? Pさん?」

P「おはよう。じゃあ行こうか」

ひかり「え? ちょっと待ってください…………え?」

狼狽え始めるひかりちゃん。

ひかり「プロデューサーがみんなで行くから来いって……。休み作ったからって……」

P「ああ、なんだかみんな家の用事で行けなくなったって聞いたけど……。それでひかりちゃんは来るみたいだったから代わりに俺が来たってわけ」

つまりは保護者的な役割だと思う。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/22(水) 17:29:07.25 ID:aScrO8Ao0<> ひかり「な、なんですかそれ? 聞いてないですよ……」

P「やっぱ俺とは嫌だったか……?」

ひかり「いえ! 全然そんなことないです! 行きましょう! すぐに行きましょう!」

ちなみにひかりちゃんは有名人なので一応変装している。

髪はポニーテールにまとめ、赤いフレームの伊達眼鏡を着用。

いつものメイクとは違い、凛としたクール系より可愛さを重視することで雰囲気を変える。

彼女は世間ではクールなキャラで通っているのだ。

P「……」

ひかり「……」

二人並んで人々の行き交う園内を歩く。

これってデートみたいじゃない?
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/22(水) 17:30:24.95 ID:aScrO8Ao0<> P「あの……」

ひかり「は、はい!」

ひかりちゃんも同じことを思ったのか、緊張しているようだ。

P「どこから行きたい?」

ひかり「……どうしよう」

うーんと悩みだすひかりちゃん。

ひかり「……どこでもいいかも」

P「よし、じゃあ定番のジェットコースターだな。絶叫系は大丈夫?」

ひかり「はい、大好きです」

にっこりと笑って答える。

P「………………」

ひかり「Pさん?」

P「あ、じゃ、じゃあ行こうか……」

俺は手を差し出す。反射的に出してしまった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/22(水) 17:31:24.17 ID:aScrO8Ao0<> 彼女は数秒間手を出したり引っ込めたりしていたが、おずおずと俺の手を取った。

俺は手を握られて、自然に手を繋いでしまったことにようやく気付く。

瞬間、頭が真っ白になって言葉が出ない。

ひかり「行きましょうPさん」

P「あ、うん……」

話しかけられて初めて相槌だけ出てきた。

時間も経つと、手を繋いでる状況に次第に慣れてくる。

楽しい時間はあっという間に過ぎていく。

ステージを見たり、いろんなアトラクションに乗ったり、ショップを見たり……。

お化け屋敷では、怯えるひかりちゃんが俺の手と裾をつまんで、しまいには腕にぎゅっとしがみついてくるものだから、俺も気が気ではなかった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/22(水) 17:31:49.57 ID:aScrO8Ao0<> 日の沈む夕暮れ時、この時間の定番はなんといっても観覧車。

多くのカップルが俺たちの後ろで列を作り始めていた。

早めに来てよかった……。

「それでは、次のお客様どうぞ!」

俺が先に乗り込み、ひかりちゃんの手を引いて観覧車に乗せる。

お互い向かいに座り外を眺める。

ひかりちゃんは眼鏡を外した。

沈黙する観覧車の中。

俺はあることを考えている。

一つの質問だ。それは自分に問いかけるもので、答えももう出ていた。

何度も何度も自分に問いかけるけど、いつまでも同じ答えしか出てこないものだった。

だいたい4分の1くらいに達する。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/22(水) 17:32:35.92 ID:aScrO8Ao0<> ひかり「綺麗ですね……」

さきほどからぼーっと外を眺めるひかりちゃんが言う。

P「そうだね……」

俺は深呼吸をする。今しかないと思った。

P「ひかりちゃん」

ひかり「はい、どうかしましたか?」

夕暮れに照らされ、甘美な笑顔がより彼女を魅力的に映す。

P「……ひかりちゃんと会ったのって確かバレンタインのイベントだったよね」

ひかり「そうですね、あの時のことは忘れもしません」

P「それから違う事務所でもいろいろと一緒に仕事してさ、楽しかったよ」

ひかり「私もです。ふふっ! Pさん急にどうしたんですか?」

P「……悪い、ちょっとだけ聞いてくれ」

ひかりちゃんも笑顔を収めて真剣に話を聞く。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/22(水) 17:33:39.04 ID:aScrO8Ao0<> P「それで、その、いつの日か俺は君のことばかり考えてるんだ。……特に、この前の海での撮影からひかりちゃんの顔が頭から離れない」

ひかり「……」

P「だから……まあそう言うことなんだけど……」

ひかり「Pさん、はっきり言ってくれないとわかりません」

彼女は俺の目をまっすぐ見据える。

俺も言葉に詰まるが、一瞬のことだ。すぐに覚悟を決めた。

P「俺はひかりちゃんが好きだ」

ひかりちゃんは、ふいと視線を外へと移し、しばらくして言葉を発する。

ひかり「そちらに行ってもいいですか?」

俺は答えずに、黙って席を空ける。

すでに観覧車も頂上近くまで来ていた。

ひかりちゃんが立ち上がったはずみか、揺れるゴンドラに体勢を崩す。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/22(水) 17:34:06.56 ID:aScrO8Ao0<> ひかり「わわっ!」

P「危ない!」

ひかりちゃんは辛うじて俺の横に座ったが、ぴったりと俺に寄りかかっている。

ひかり「ごめんなさい」

恥ずかしかったのか顔を赤くしてしまう。

それでも俺を見上げるその目には決意の色が浮かんでいた。

直後、彼女から唇を重ねる。

俺は咄嗟の出来事に硬直する。

数秒キスし続ける間にゴンドラは頂上を通過していた。

ひかり「……これが答えです」

とろりととろけたような彼女の目元。

P「言葉で言ってくれなきゃわからないよ」

さっきの仕返しのつもりではないが少し意地悪な部分が出た。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/22(水) 17:35:23.61 ID:aScrO8Ao0<> ひかり「……そ、それは、つまり、私もPさんのこと……んむっ!」

ひかりちゃんの口を俺の口で塞ぐ。

ひかり「ちゅ、んっ……ちゅ……んゅ……」

さっきよりも深く深く、ひかりちゃんと繋がる。

ひかり「まっ……て……」

P「あ……ごめん。嫌だった?」

ひかりちゃんの制止を聞いて俺はすぐに中断した。

ひかり「はぁ……はぁ……。ううん、そんなことないんですけど……息が……苦しくなっちゃって……」

P「息、止めてたの?」

ひかり「はい……」

P「ははは……もっとリラックスして……」

もう一度顔を近づける。

P「うん、次はゆっくりするから、息ちゃんとしてみて……」

ひかり「Pさん……んっ……」

キスをする。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/22(水) 17:36:18.53 ID:aScrO8Ao0<> とろけた表情でお互いの目を見て口づけし合う。

ひかり「ちゅ、ちゅ……んむ……んちゅ……」

ひかりちゃんの息遣いが聞こえる。

数十秒もたっぷりとキスをして、ようやく離す。

恍惚に溢れたひかりちゃんの顔からは官能的な魅力を感じた。

ひかり「もっとぉ……」

そう言った直後、ゴンドラの端に俺の身体は押し付けられ、覆いかぶさるようにひかりちゃんが唇を重ねてきた。

P「んぐっ! ……ちゅ、ん……ちゅ……」

なすがままにされ、身動きが取れない。

ひかり「Pさん……好き、好き……ちゅ……ちゅ……」

どんどん激しくなっていくひかりちゃん。

すでに周りが見えておらず、俺も周りが見えないほど彼女とのキスに吸い込まれていきそうだった。

不意にドアが開く。

「……あの、お客様。一周いたしました……」
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/22(水) 17:37:11.28 ID:aScrO8Ao0<> すごく気まずそうに口を開くキャストさん。

後ろに立っている別のゲストも、しらっとした目つきだったり、やけに笑顔だったり……。

P「……」

ひかり「……」

一瞬で真っ赤っかに紅潮するひかりちゃんの顔。

俺も暑すぎると思うんだよね。このゴンドラ暖房でもついてるんじゃない?

「……お楽しみでしたね」

ぼそっと呟くキャストさん。いや、言わなくていいから……。

ひかりちゃんは外していた眼鏡をかけ直し、俺の手を取るとゴンドラからささっと降りた。

周りから奇異な視線を受け、観覧車から離れる。

「あの人たち観覧車でチューしてた!」

「こ、こらっ!」

順番待ちしていた家族の子供に指を指され、恥ずかしさも最高潮だった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/22(水) 17:37:51.51 ID:aScrO8Ao0<> 夜の園内を二人で歩く。繋いだ手は離していない。

言葉は無いが、必要ない。

ただこうしてるだけで幸せだった。

園内の夜のライトアップで輝く噴水と、照明に照らされる花のある場所で、一つのベンチに二人で腰掛けた。

ひかり「ねえPさん」

P「どうしたの?」

ひかり「私たち、彼女と彼氏ってことでいいんですよね?」

P「えーと、うん、そうだと嬉しいな……」

ひかり「私も嬉しいです……」

夜の暗がりに彼女の表情が捉えづらくなる。

ひかり「でも私、アイドルなのに……」

P「大丈夫、俺が何とかする……。まずはみんなに報告しよう」

ひかり「でも……」

P「俺が何でもする。責任を取る。みんなもきっと認めてくれるよ……」

ひかり「……はい。私、Pさんのこと信じてます」

P「ひかりちゃん……」

潤う瞳をこちらに向け、まっすぐと俺の視線をとらえる。

そして再びキスをする。

ひかり「……私、今とっても幸せです!」

今までに見た中で一番魅力的な笑顔だった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/22(水) 17:38:22.19 ID:aScrO8Ao0<> 数日後、俺はとあるカフェで相談をしていた。

というのも、相談相手は渦中のアイドル新幹少女とそのプロデューサー。

新幹P「というかまさかPくんから告るとはねぇ……」

意外だという表情で新幹Pさんが呟く。

俺はこの人たちに相談して良かったと思う。

彼らは俺たちの交際に前向きで、支援してくれるということだ。

ひかりちゃんはアイドルを続ける。

これはリスクを承知の上ながら、俺はひかりちゃんのアイドルとしての活躍も好きで……つまり、俺きっての願いでもあった。

つばめ「いやあ、私もひかりから行くんじゃないかと思ってたからねー」

のぞみ「Pさんはいつから?」

今後の方針等の重要な話は不安になるほどにすんなり終わり、彼らの関心は俺たちの恋愛事情らしい。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/22(水) 17:40:19.57 ID:aScrO8Ao0<> P「……いや、というよりいいんですか? そんな軽い感じで……」

新幹P「だってなぁ……俺は最初からひかりの背中を押すつもりでいたし……」

つばめ「私も早くくっつかないかなーって思ってた」

のぞみ「早くしないとPさん取られちゃうよって言ってるのにひかりったら全然動かないし、不安だったのよね」

新幹P「まあ結果オーライだ。そんなわけで俺たちは応援するしサポートするってわけだ。二週に一回くらいはデートの時間も必要だよな……」

ああ、どんどん話が進んでいく……。

P「でも、マスコミにばれたとき、すごい迷惑かけてしまいます……」

新幹P「気にすんなよ。これは俺の方針ではなくて、会社の方針だ。こだまプロは個人の幸せを尊重してるんだよ」

いい職場過ぎるんですけど。

つばめ「いいよ、ばれても。その時は隠す必要がなくなるだけだしね」

のぞみ「まあアイドルは引退ってことになっちゃうけど、芸能界から引退する必要はないんだし、活動しながら付き合っちゃいなよ」

ひかり「みんなぁ……」

P「良かったねひかりちゃん」

ひかり「うん……」

新幹P「そんで、なんて言って告ったんだ?」

うわ、話題を逸らしきれなかった……。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/22(水) 17:41:14.70 ID:aScrO8Ao0<> P「……えと、それは……言えません」

つばめ「照れ屋さーん!」

のぞみ「キスした?」

ひかり「きっ! ……ししし、してないよっ! まだだよねPさん!」

P「うんうん! ぜ、全然っ!」

新幹P「したな」

つばめ「したよね」

のぞみ「したわね」

一瞬でばれました。

それからもあれこれ聞かれてようやく解放された。

つばめ「二人とも茹でダコみたいになってるよ」

のぞみ「初々しぃなぁ……」

新幹P「はっはっは……! いい話が聞けたなぁ。まあスキャンダルについてはこっちに任せろ。高木社長にも報告忘れんなよ?」

P「……は、はい。今日はいろいろありがとうございます」
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/22(水) 17:42:00.43 ID:aScrO8Ao0<> 新幹P「ただし、ひかりのことは最後まで愛し通せ」

今までで一番重みを感じる言葉だった。

P「……」

何も言わない。簡単に口にしてはダメな気がした。

その代わり、隣に座ってる彼女の手を握る。

ひかり「……」

彼女も何も答えない。

ただ強く握り返してくれた。

俺はこの子と生涯を共にするんだな、と漠然と感じていた。

新幹P「その顔を見て安心したよ。俺たちはもう行こうか」

つばめ「そうね。二人とも末永くお幸せに!」

のぞみ「お二人はゆっくりしていってね」

残された俺たちは、しばらく時間を置いて店を出た。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/22(水) 17:43:01.34 ID:aScrO8Ao0<> 停めていた車に乗り、ひかりちゃんを送ることにした。

ひかりちゃんは助手席に乗る。

車内では765プロアイドルの音楽が流れていた。

ひかり「Pさん、乗せてもらってありがとうございます」

P「お礼なんて言わなくっていいって、彼女なんだから当然でしょ?」

ひかり「彼女……」

呟いて、ふふっと笑うひかりちゃん。可愛い。

P「ちょっと寄り道してもいい?」

ひかり「? ……ええ、いいですよ」

俺が向かった先は車の通りが少ないが、夜になると綺麗な夜景がよく見える、隠れたスポットだ。

ちょっと格好つけすぎだろうか……。

シートベルトを外し、フロントからじっと夜景を眺める。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/22(水) 17:44:33.46 ID:aScrO8Ao0<> ひかり「綺麗……」

気に入ってくれたみたいで良かった。

ここで、君の方が綺麗だよ、なんて言っていいのだろうか……。

多分言うべきなのかもしれない。ちょっと勇気を出して言ってみようかな……。

P「き、君の方が綺麗だ……」

恥ずかしー……。

ひかり「ありがと。Pさん顔真っ赤です」

彼女は可愛らしく笑う。この笑顔を見れただけでも十分だ。

P「うっ……ご、ごめんね、月並みなセリフで……」

ひかり「ううん、嬉しいです」

少し間が空く。心地よい緊張感が漂う。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/22(水) 17:45:56.68 ID:aScrO8Ao0<> ひかり「大好きです……Pさん」

すっと頬にキスされる。

P「俺も好きだ」

お返しとばかりに彼女に口づけをする。

そのまま何度も繰り返しキスを交わす。

舌を入れ、音を立てるほどに激しくなっていく。

ようやく距離をとり、お互いに視線を合わせる。

小さく笑って、もう一度顔を寄せ、額と額をくっつける。

ひかり「……幸せです」

これからもこの幸せがずっと続いていくことだろう。

俺は根拠も無しにそう思ったんだ。

『新幹少女・ひかり』   終わり
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/22(水) 18:04:31.63 ID:aScrO8Ao0<> 終わりでーす。いかがでした?
ひかりちゃんは、ベタだけど観覧車で告白というシチュエーション。
夕焼けが見えたりして、みなさんも一度は憧れたのではないでしょうか?

ひかりちゃんは素直で可愛らしい少女を意識して書いてみたのだけど、
みなさんにはどのように映っただろうか?

ちなみに女Pはちょっとめんどくさい女性を意識してみた。
けど一緒にいて楽しそうな感じが伝わればいいかな。 <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/22(水) 18:05:57.92 ID:aScrO8Ao0<> 次回更新未定。
次のヒロインは魔王エンジェルの麗華です! <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<><>2015/04/22(水) 18:35:14.79 ID:J6BOT5zsO<> honey heartbeat的な展開があったと見てよろしいか? <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/22(水) 20:34:53.88 ID:qZZVQC5JO<> 相変わらず新幹Pかっけぇ!
ひかりちゃんは言わずもがなちょー可愛い。 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/22(水) 22:01:37.28 ID:TSw2aqCto<> 更新未定【あずささんルート突入】か()
楽しみにしておきます <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/22(水) 22:15:30.84 ID:TTKBewqd0<> ずんずん ずんずん ムーディーR&B(意味深) <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/22(水) 22:30:54.36 ID:a5pN6v/Lo<> こんな甘々なEDがあと数人分続くのか…期待! <>
◆K6RctZ0jT.<>saga sage<>2015/04/23(木) 00:47:34.02 ID:7pT4GqwT0<> >>633
(麗華って書いてる)

>>631>>634
ひかりちゃんは清純派なのでキスだけです(憤怒)
ちなみに、主にPから舌入れてる。
ひかりちゃんの細かい心境は、読み手であるみなさんの想像にお任せするよ。

>>635
ずっとこんなんだったら逆に飽きるのでは?
……というわけで飽きないように胸糞悪いのも入れるつもり。 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/23(木) 12:31:02.28 ID:kz5g+UTSO<> 小鳥さんルートは有るのかな?
有れば見たいです。 <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/23(木) 22:29:50.15 ID:7pT4GqwT0<> こんばんは。
早くも麗華ルート投下。 <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/23(木) 22:31:18.12 ID:7pT4GqwT0<> 『魔王エンジェル・麗華』

ライブが終わりおよそ三ヶ月が経っていた。

俺はなんとも代わり映えのない生活を送っている。

……と思いきや、乗りに乗ってた765プロはあっちへこっちへ忙しい日々を送っていた。

P「あー、忙しいな」

小鳥「それだけアイドルのみんなが売れてるってことですよ! 嘆かずに頑張りましょう!」

P「わかってますよ」

けれど、忙しいものは忙しい。

俺は基本的には事務や営業、楽曲の製作や、提供者への依頼、新曲の振り付け等々……。

このような仕事が極端に増えてきた。

早く行わないと新曲の発表に間に合わない。

どこから手をつければいいやらで毎日てんやわんやなのだ。

しかし、アイドルたちの現場を優先しなければならない時も当然あるので、そういった大事な仕事を選んでいる。

だから以前とは比べ物にならないほど忙しい。

とりあえず、今日も今日とて現場へ向かう。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/23(木) 22:32:46.83 ID:7pT4GqwT0<> いつものことだが、優先するのはやよいや真美の年少組。

ここは、二人で出演することも増えてきていて、その場合は保護者が必要だ。

高校生以上のアイドルにはほとんどついていくことはなく、セルフでやってもらっている。

しかし、10時までには帰してもらい、必ず複数で帰ってもらうようにしてる。

傷物にされたらたまらない。

正直な話、犯人を殺しかねないまである。割りとマジで。

P「じゃあ車出すから乗ってー」

真美「はーい!」

やよい「今日もよろしくお願いしまーす!」

今日は魔王エンジェルとの共演だっけか……?

見知った人で助かる。

それに魔王エンジェルはうちとは友好関係を築いているから、面倒も見てもらえるだろう。

特に三条さんからは母性が溢れ出てる。

朝比奈さんもなんだかんだ言いながら仲良くさせてもらってる。

麗華が意外にも面倒見がいい。昔から伊織との交流があったからだろうか。

それにマネージャーさんもいるから、万が一俺がいなくても保護者役をやってくれる。彼女はお人好しさんだ。

まあ、結局は俺も行くことになるんだけどね。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/23(木) 22:33:47.72 ID:7pT4GqwT0<> ところで未だ人気トップぶっちぎりの魔王エンジェルと、順風満帆高速急上昇中の765プロアイドル。

この組み合わせが増えてきている。

自然、俺も彼女たちと顔を合わせる機会が増えるわけだ。

麗華「お兄様、また会ったわね」

いきなり俺の足を踏みつける麗華。

P「何だそりゃ、ずいぶんなご挨拶じゃないか」

涼しい顔で答える。……だが、痛い。

こいつ、会うたびにドSっぷりがエスカレートしていってるから、俺も念願のポーカーフェイスを習得することができたみたいだ。

麗華「あら、つまらない。結構、きつめに踏んだのに」

それもそうだ。

一応、痛みを分散させるために麗華から見えないところをつねってたりする。

ともみ「ごめん、Pさん」

りん「あーあ、目を離すとすぐこれだから……」

マネ「やめなさい麗華ちゃん」

ほらみろ、まーた怒られてるよ。ざまあみろ。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/23(木) 22:34:35.34 ID:7pT4GqwT0<> 麗華「むっ! なんだかお兄様にバカにされた気がする!」

P「それはこじつけだ。そうやってまた俺をいたぶるつもりだろ」

麗華「あなたをいたぶるのに理由はいらない……わ!」

あ、今こいつグーで殴った! グーで殴った!

P「可愛いもんだな」

けれども強がる俺。

麗華「なっ!?」

少し痛いのを我慢して、麗華の髪の毛をわしゃわしゃ撫でる。

麗華「ちょっと! やめなさい!」

P「おら。さっきの仕返しだ」

両手を使ってわしゃわしゃ……。

麗華「あー! もう一度整えなきゃいけないじゃない!」

P「はっ! 自業自得だ。これに懲りたら意味もなく俺に攻撃するんじゃない!」

麗華「むー!」

ともみ「ほら、さっさと直しに行けば?」

りん「本番始まるよ?」

わかったわかったと、麗華はマネージャーさんを連れて行った。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/23(木) 22:35:26.46 ID:7pT4GqwT0<> ともみ「Pさんぶちギレていいよ?」

りん「私だったらつかみかかってるわ」

P「いや、立場的にキツいだろ」

二人は納得いかない顔で、あー、と声を揃えた。

麗華は魔王エンジェルのリーダーで、東豪寺家の令嬢だ。

下手なことすればこちらが潰されかねない。

りん「厄介ねー。家の力って……」

ともみ「悪用しそうなのは、麗華だけだよ……」

もっとも悪用なんてするようなやつじゃないのは、俺がよくわかってる。

しかし、彼女たちのなかで麗華は、俺をいじめるいじめっ子という印象らしい。

だからと言って、嫌いというわけではない。

ただ、それが無ければね、と残念がっているようだ。

いわゆる残念な子として認定されたわけである。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/23(木) 22:36:09.62 ID:7pT4GqwT0<> やよい「麗華さんっていろいろとすごいです……」

真美「また麗華お姉ちゃん、兄ちゃんにちょっかいかけてたね」

真美でさえこの反応である。

しばらくして麗華が戻る。

麗華「裏でマネージャーにこっぴどく怒られたわ」

まるで涼しい顔をして言う麗華。こっぴどいのはお前の態度だ、と思わなくもない。

やや疲れた顔で戻ってきたのはマネージャーさんだ。

P「叱っていただいてありがとうございます」

マネ「でも、あの態度じゃあ効果はないですよ……」

P「気持ちだけでも十分ですから」

マネ「それならいいのですけど……」

そのまま本番が始まる。

いつも通り、数字が取れそうな内容だ。

P「うーん、無難」

マネ「ですね」

面白いんだけどね。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/23(木) 22:36:41.02 ID:7pT4GqwT0<> 終わってからもまだまだ仕事が山積みだ。

P「じゃあ、お疲れさまでしたー」

やよい「うっうー! お疲れさまでーす!」

真美「お疲れちゃん!」

「はーい、またよろしくねー」

Pが帰ったあとで残される魔王エンジェルとその他スタッフ。

麗華「最近、お兄様帰るの早くない?」

マネ「それだけ忙しいってことじゃないの?」

ともみ「打ち上げの話も聞かずに行っちゃう……」

「あー、彼は最近忙しいらしいよ」

近くのスタッフが魔王エンジェルのメンバーに教える。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/23(木) 22:37:24.55 ID:7pT4GqwT0<> 「うちの女の子たちもPさんが帰っちゃったって言って、すげえ残念がってるんだよ」

りん「そんな人気なの?」

「まあね。765プロって最近出てきたけど、勢いがすごいだろ?」

マネ「ええ、そうですね」

「聞けば、ほとんど彼がプロデュースしてるって話じゃないか」

麗華「そうなるけど、それが?」

「麗華ちゃん鈍いね。身長高くて、イケメンで、仕事もできるとあっちゃ、モテモテに決まってるでしょ」

ともみ「あー、納得……」

りん「こりゃ、麗華もうかうかしてられないね」

麗華「べっ、べべべ別に! どーでもいいわよ!」

とりあえず、強がってはみるものの内心不安でしょうがない麗華だった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/23(木) 22:38:26.71 ID:7pT4GqwT0<> 別の日。

P「おはよーございます……」

マネ「おはよ……って、大丈夫ですか!?」

俺を見て、ぎゃあっ! と驚くマネージャーさん。

春香「ついて来なくていいって言ったんですけどね……」

真「だから休んでください。他の人も心配して、逆に迷惑ですよ?」

P「いや、お前らに何かあったら悔やんでも悔やみきれん。だったら他の人に迷惑をかけた方がマシだ……」

真美「またぶっ倒れちゃうよ?」

りん「あちゃあ、Pさん見てられないよ」

ともみ「休んだ方がいい……」

P「そう言われてもな……新曲の発表に間に合わなくなったら……」

あれこれ言い訳して逃れようと思ったが、意外なことに……。

麗華「だめっ!!」

抱きついて泣きつくのは麗華だった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/23(木) 22:39:08.51 ID:7pT4GqwT0<> 麗華「だめよ。お兄様が倒れたら元も子もないじゃない」

いつも俺をいたぶって愉しそうにしているのに、こんな時だけ本気で心配して……ずるい。

P「でも大丈夫だって……離れてくれ」

麗華「イヤ、離れない。新曲だって待ってもらえばいいじゃない……」

P「でももう先方にも伝えちゃったし……」

麗華「きっと、わかってくれるわよ」

うーん、と悩んで俺は麗華の頭を撫でる。

P「わかった。社長に言って休ませてもらうよ。自分で企画した方が安くていいんだけど、しかたない」

言うと、その場にいる全員がほっとした様子だった。

春香「麗華さん、ありがとうございます」

麗華「ううん、私も嫌だったから……」

というわけで有給をいただくことになった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/23(木) 22:41:02.81 ID:7pT4GqwT0<> 社長に説明したら二つ返事でオーケーをもらった。

しかし、特にやることが無い。

一日目はゴロゴロして、疲れを癒したのだが、二日目となると休んでもしかたなく、俺は暇をもて余していた。

逆にストレスが溜まりそうなもんだけど……。

何か暇潰しは無いか考えていると、家のチャイムが鳴る。

P「どちらさま?」

扉を開けると眼鏡をかけ、帽子を被り、長い髪を二つに結んだ少女が立っていた。

服装からただ者じゃないオーラが漂っていた。

なんというか、これは高級感というか……。

俺は一瞬固まるが、何かの間違いだと考えた。

P「お部屋間違えてません?」

麗華「あら、Pさんのお宅を訪ねに来たのだけど」

声で麗華だとわかる。変装してやってきたらしい。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/23(木) 22:41:31.63 ID:7pT4GqwT0<> P「麗華か! どうした? 仕事は?」

麗華「今日は完全にオフよ。お兄様が暇を持て余してるんじゃないかと思って、来ちゃった」

いやいや、来ちゃった、じゃなくて……。

P「誰かに見られたらどうすんだよ……」

麗華「あなた、気づかなかったくせによく言うわね……」

なんか、ごめんなさい。

麗華「じゃあ行くわよ」

P「は? どこに?」

麗華「私が変装してまで会いに来たんだから、で……デートに決まってるでしょ!」

P「デート? ……そっか、気を遣わせて悪いな」

麗華「さっさと準備してついてきなさい!」

P「あ、ああ……」

なんだか意外だ。麗華だったら絶対に自分でデートのコースとか決めなさそうなのに……。

むしろ、相手に決めさせて文句を言うくらいじゃないか?
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/23(木) 22:42:38.11 ID:7pT4GqwT0<> それはそうと、これは嬉しい。

ささっと準備を整えて、若干高揚した気分で外へ出る。

リムジンが待機していた。

変装しても目立つじゃねーか!

そんなツッコミは飲み込み、背からはやや冷や汗をかく。

若い執事のお兄さんがドアを開けてくれる。

鋭い目付きだが素晴らしい執事であることは容易にわかった。

これでも俺は何人もの使用人を見てきた立場だったからである。

麗華「じゃあ出してくれるかしら?」

「かしこまりました」

渋い声が車内に響く。

P「おい、どこに行くんだ?」

まだ目的地を聞いてないんだけど……。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/23(木) 22:44:13.33 ID:7pT4GqwT0<> 麗華「とりあえず、ランチは行きつけのレストランを予約しているわ」

そりゃまたヤバそうなところなのでは? 値段的に……。

麗華「その後で映画の席を予約しといたわ」

P「ほう、映画は久しく見てないな」

麗華「あまり期待しないでちょうだい……」

まあ、麗華が俺に断らずに映画の予約を取ったってことは名作に違いない。

お嬢様は何かと芸術にも教養があるからな。

麗華「それから、ちょっと移動してディナーも予約してるわ」

P「つーことは、俺の予定も全部予約されてたってこと?」

麗華「いいえ、そんなことないわよ? お兄様が断ってたら全部キャンセルのつもりだったから」

そうだったのか、これは断らないで正解だったな。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/23(木) 22:45:13.91 ID:7pT4GqwT0<> それにしても、高級車なんて久しぶりだなぁ……。

俺たちは車に優雅に揺られながらレストランにやってきた。

やはり高級感が漂う。

ちなみに麗華の服装はお洒落なドレスだったので、俺も一番高いスーツを着てきた。

麗華「どう?」

P「どうって言われても……緊張するね」

麗華「けれど、身体は覚えてるみたいよ?」

マナーやモラルなんかはきちっとできてるらしい。

そんなことより、コース料理が2万くらいするんだけど……。

こんな高かったのか……。

麗華「今日は私が出すから、お兄様は気にせず召し上がって」

そんなこと言われても気にするだろ!

P「いや、女の子に出させるわけにはいかないよ」

麗華「じゃあ、今回は貸しよ」

いつか返してね? と、にこやかに言われる。

すぐにでも返せるのだけど、今回は彼女の好意に甘えることにしよう。

高級料理の数々はイヤなくらいに舌に馴染んで、懐かしいというか、すごく美味しかった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/23(木) 22:46:28.55 ID:7pT4GqwT0<> 麗華「それじゃあ、映画を鑑賞しに行きましょう」

連れられたのはこれまた高級感溢れる映画館。

映画館にもランクがあるのか……とこのとき思った。

東豪寺家は割りと映画が好きみたいだが、水瀬家はそうでもない。

なので俺は初映画館だったりする。

大きなプロジェクターはうちにもあったけど。

さらっと館内に入ると内装は当然豪華だ。

麗華「はい、チケット」

P「おお、ありがと」

麗華からチケットを受け取り、係員に渡す。

奥のシアターに進むと、大きなスクリーンがあり、後ろの方に一際大きなVIP席がある。

もしかして、と思ったが、麗華の後をついていくとやっぱりVIP席に座った。

麗華「座ったらどう?」

俺が少し呆然としていると麗華に座るように促された。

P「……いや、飲み物とか買ってこようか?」

麗華「あら、気が利くのね。でもこの席だとその必要はないかしら」

どうやら電話一本でスタッフが持ってきてくれるらしい。

恐ろしいなVIP……。

上映中は使わないけどね、と麗華は言う。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/23(木) 22:47:13.36 ID:7pT4GqwT0<> しばらく待つとシアター内にブザーが鳴り響き、照明が落ちる。

プロジェクターで見るより音響等も大きく、迫力がある。

内容は純恋愛ものか……。

しかも洋画でなく邦画……。

俺の麗華に対するイメージとは異なるものだった。

しかし、こういうのも悪くない。

なんというか俺のイメージそのものの恋愛というか……こういう恋がしてみたい。

実際に一度も恋愛をしたことがない俺に、そう思わせるような内容だった。

主人公とヒロインが右へ左へすれ違い、ようやく告白。

そこからのキスシーンの時に俺は何を思ったのか、ちらりと隣の麗華を覗き見る。

すると麗華はこちらを凝視していた。

咄嗟に目を逸らす。

恐る恐るもう一度見てみると、ニタリと嫌なくらいにいい笑顔だ。

映画の方は日本らしく、やり過ぎなくらいのハッピーエンドだった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/23(木) 22:48:21.69 ID:7pT4GqwT0<> P「結構、面白かったよ。でも麗華が純愛の邦画とはな……」

麗華「うーん、まあ悪くはなかったけど、吐き気がするほどのハッピーエンドだったわね」

どうやらハッピーなのは構わないが最後が気にくわなかったらしい。

麗華「無難なのを選んだつもりだったんだけど、失敗したかしら」

P「確かに最後はアレだったな。全体的によかったと思うけど……」

麗華「ふーん……」

あまり興味無さげな麗華だったが、途端にうふっと笑う。

麗華「キスシーンとか?」

唇に人差し指を当てて片目を瞑ってこちらを見る。

P「……別にそういう訳じゃない」

そのキスシーンで目が合ったことを思い出す。

麗華「あらぁ? 私とキスしたかったんじゃないの?」

言われて顔から火が出そうになった。

P「違うよ! 麗華がどんな顔してんのかなって思っただけだって!」

麗華「あ、そう。あなたはいじめがいがありそうな顔してたわ」

くすくすと笑う麗華。

スイッチが入るんじゃないかと身構えたが、特にそういうわけでもなく、ただ単にからかわれただけだった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/23(木) 22:49:37.05 ID:7pT4GqwT0<> 麗華「ともあれ、楽しめたのならよかったわ」

P「ああ、ありがとな」

麗華「ちょうどディナーに行ってもいい時間ね。最後まで付き合ってちょうだい」

P「もちろん」

スッと俺の腕に手を伸ばす麗華。

そのまま腕をとって、ピタリと横について歩く。

未だに暑い気温であるのに、さらに温度が上がった気がした。

けれど不快感は全く無く、彼女のいい香りが鼻孔をつく。

P「あはは、なんだか懐かしいかも……」

麗華「そう? そんなことないんじゃない?」

麗華は鋭い。

懐かしいなんてこれっぽっちも思ってない。

何もかも新鮮だ。

伊織以外の女の子と腕を組んで歩いたりしたことはあまり無い。

俺は言葉に詰まって、ただ麗華のペースに合わせて歩くだけだった。

ゆったりと、この時間を楽しむように……いや、実際に楽しんでいるんだろう。

長い時間をかけて例の高級車に戻る。

お待ちしておりました、と若い執事が扉を開ける。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/23(木) 22:51:10.23 ID:7pT4GqwT0<> 麗華「ご苦労様」

P「ありがとうございます」

「ありがたいお言葉でございます」

俺に対してにこやかに言い、自分も運転席に戻った。

さてさて、ディナーもこれまた豪勢な会場だ。

大きなビルのほぼ最上階。夕焼けが綺麗だ。

まだ日は沈んでいない。

ディナーもコース料理でランチの時とは違う高級料理の数々が出される。

P「本当、美味いな」

記憶の底に沈んでいた食事時のエチケットを思い出しながら、料理を口にする。

麗華「気に入っていただけたならよかったわ」

テーブルの向かいで口端を上げてはんなりと笑う麗華。

俺は料理をごくりと飲み込むと、頭を冷やすように水も飲む。

ふと外を見ると、さきほどとはうって変わって、綺麗な夜景が視界に映る。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/23(木) 22:52:11.13 ID:7pT4GqwT0<> P「綺麗だな」

麗華「ええ、綺麗ね」

食事も済んで、俺たちは窓の側のカウンターに移動した。

夜景をじっと見つめるふりをして、俺は窓に映る麗華の姿をとらえていた。

この夜景と、ロマンチックな雰囲気にあてられたのだろうか……。

なんだか、いつも以上に魅力的に見える。

麗華「さっきから私の顔を見てどうしたの?」

見てるのばれてら……。

P「……ごめん、気になったか?」

隠してもしかたないので、素直に尋ねる。

麗華「ええ、気にはなったけど悪い気はしないわ……。いえ、あるとすれば直接見ないことかしら?」

何で疑問に思うんだよ。

P「そっか、悪かったな」

麗華「それでもこちらを見ないの?」

P「え、あ、ああ、まあな……ずっと見てるなんて変態みたいだろ……」

麗華「そうね。お兄様は罵られて悦ぶ変態だものね」

P「それは違うだろ!」

そうだったかしら? と言って、ふふっと笑う麗華。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/23(木) 22:53:16.96 ID:7pT4GqwT0<> P「なんというか、今日はありがとな。楽しかったよ」

麗華「またいつでも遊んであげるわ。次はお兄様にエスコートしてもらおうかしら……」

P「麗華の期待に沿えるかわからないけど」

麗華「私はあなたと出かけられればそれでいいの」

P「嬉しいこと言ってくれるね……」

麗華「当たり前じゃない。私の兄みたいな存在だったもの」

P「だった……?」

麗華「まあね、現実的には家族じゃないから……」

そりゃそうだ。

他にもいくらか話をした。他愛もない話から芸能界の噂やら……。

気がつけば夜の9時頃。

麗華「そろそろ行きましょう?」

高級車で俺の家まで送ってくれる。

一日中付き合わせてしまった執事の男性には申し訳ない。

その事を言うと、気にしないでください、と言ってくれた。

彼の笑顔は優しいものだった。

P「ありがとな、麗華」

麗華「今日で何回目のお礼かしら……」

呆れた様子の麗華。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/23(木) 22:54:29.68 ID:7pT4GqwT0<> 麗華「じゃあおやすみなさい。私の方こそ付き合ってくれてありがと……」

背を向けた麗華の腕をつかむ。

麗華「どうしたの?」

P「あ、引き留めて悪い……」

もうお別れかと思うとなんだか急に……。

麗華「あんまり遅いとお父様が心配してしまうわ」

俺は寂しい訳ではないのだ。

ただ、ただ……。

そうして初めて、この気持ちに気づいてしまう。

P「そうか……」

麗華「? 頭でも打った?」

今日、彼女と遊びに出掛けたことだけではない。

この数週間、仕事に集中出来なくなったときは決まって麗華の顔が浮かんだ。

それは、その時からそういうことだったんだ……。

P「……」

麗華「ちょっと、いい加減に……」

俺は強引に彼女を引っ張り抱き寄せる。

麗華「あ……何して……」

P「ごめん。好きだ」
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/23(木) 22:55:20.05 ID:7pT4GqwT0<> もはや迷いは無かった。

こんなに素敵な女性をこれ以上放っておいたら誰かに取られてしまう。

決して焦っていたわけではないが、疑いようの無い気持ちが先行した。

麗華「何よ……強引なのね……」

P「麗華……」

麗華「ええ、私も好き。昔から好き。今も好き。ずっと好き」

ぐすっと涙ぐむ声が聞こえる。

麗華「お兄様ったら……遅いわよ。ずっと待ってたの……」

P「言ってくれれば良かったのに……」

麗華「振られてあなたの傍にいられなくなるのが怖かった……」

麗華も腕を俺の腰に回して、強く抱き合う。

P「でも、これからはずっと一緒だ」

麗華「途中で捨てたりしたらあなたのこと一生許さないんだから……」

P「そんなことするかよ。そっちこそ飽きて捨てるんじゃないか?」

お互いに憎まれ口を叩き合い、そっと笑う。

麗華「そんなところも大好きよ」

P「俺も大好きだ」
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/23(木) 22:56:18.61 ID:7pT4GqwT0<> 麗華「でも、どちらにしろ帰らなきゃいけないの」

P「……ああ」

麗華「その顔いいわね……。じゃなくて、声だったらいつでも聞けるでしょ?」

P「今日の寝る前、電話していいか?」

麗華「あなた、私がいなきゃそんなにダメなのかしら……?」

P「もうダメだ。麗華以外のことは考えられない」

麗華「しょうがないわね。待ってるわ」

それじゃあ、と振り返ろうとする麗華だが、何かを思い出したように戻ってくる。

俺はネクタイをつかまれ、思い切り引っ張られる。

麗華は俺の唇を奪い、吸い付くように何度もキスをする。

どんどん深くなっていく甘美なキスに俺の脳もとろけそうになる。

P「……ん、ちゅ……んむ……っ! ……何でそんなに上手いの?」

麗華「そう? 気持ちよかった?」

P「……ま、まあね」

麗華「私もすごい気持ちよかった。……もう一回していい?」

主導権を握ってくるあたり、女王様っぷりを発揮している。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/23(木) 22:58:48.30 ID:7pT4GqwT0<> 今度は頭を両手で押さえられると、ぎゅっと唇を重ねられる。

麗華「ちゅ……んっ……ちゅ、ちゅ……あむ……んむ……」

ヤバい。気持ちいい。てか、キス上手いな本当。

舌まで入れて俺の理性を削っていく麗華。

麗華「…………はぁ、はぁ、最高……うふふっ……」

P「はぁ、はぁ……麗華、激しいな……」

麗華「そうかしら? ……じゃあ今度こそ、帰るわね」

P「ああ……」

麗華「あなたと私は恋人同士、彼氏と彼女。もうお兄様じゃなくて、これからはPさんね」

P「恋人同士か……。今度、挨拶に行こうかな」

麗華「ええ、待ってるわ……」

麗華は、さようなら、と残して今度こそ帰っていった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/23(木) 22:59:21.68 ID:7pT4GqwT0<> 付き合い始めて数週間が経過した。

麗華「そんなに緊張しなくてもいいのに」

P「いや、するっつーの……」

だって今日は東豪寺の豪邸に足を運んでいるからだ。

もちろんご家族への挨拶のためだ。

麗華「大丈夫よ。Pさん、うちのご両親も気に入っているもの」

P「それでも、娘さんをくださいだなんて……」

麗華「あー、もう! うじうじしないでちょうだい!」
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/23(木) 22:59:49.92 ID:7pT4GqwT0<> P「麗華……」

麗華「もっと堂々としてもらわないと……。私の旦那さんになるんだから……」

P「……ああ、そうだよな。なぁ麗華、ちょっといいか?」

麗華「何かし……んぐっ……ちゅ、んちゅ……んゅ……」

P「ちゅ…………ありがと、勇気出るわ」

麗華「……あのね、キスするならするって言いなさいよ」

P「言わなくて悪かったな。……じゃあ行くとしよう」

麗華「お父様、驚くでしょうね……」

P「ああ」

何を言われても俺は退く気はない。

たとえ水瀬家から勘当された落ちこぼれでも彼女が好きな気持ちは変わらない。

隣についてきてくれる麗華の横顔をもう一度見て、俺は東豪寺邸の扉を開けた。

『魔王エンジェル・麗華』 終わり
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/23(木) 23:05:18.13 ID:7pT4GqwT0<> 終わった。
いかがでしたか?
麗華のようなキャラの魅力を引き出すのは難しい!
まあ評価のほどはみなさんに任せよう。

ところで書き溜め無くなったぜ!
というわけで更新頻度大幅だうーん! です!

書き溜めの進捗状況は定期的に報告した方がいいかな? <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/23(木) 23:23:52.90 ID:1TSzMtvgO<> おつおつ <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/04/24(金) 00:03:36.31 ID:yW9q6o3k0<> とりあえず進捗状況の更新!

伊織ルートを書き溜めていたけど、
ラストに回すことにしたので、一時中断して律子ルートを書き溜め中!
予定のおおよそ30パーセントほどを終えたつもりなので、
この1週間以内には更新可能と思われます。

その後は未定により、検討中。 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/24(金) 00:48:58.61 ID:AAOo7OLBO<> 麗華が伊織のお義姉さん!
後日談が楽しみです <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/25(土) 22:27:10.76 ID:Wll/qhzTO<> まぁ勘当されたとは言え、血筋と家柄はしっかりしてるだろうし、婿入れしてくれるんだったら、親的には悪くない物件なんだろうな… <>
◆K6RctZ0jT.<>saga sage<>2015/04/25(土) 23:18:19.54 ID:hqfLB4Ju0<> >>671
それはどうだろうか……?

生存報告兼進捗状況報告。
律子ルートが進行遅れて現在、まだ50パーセントくらいしか書き溜めてない。
けれど来週中には投下できると思う。 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/04/29(水) 01:39:07.06 ID:s/gouDASO<> >>671
逆じゃないかな
名家の方が体裁とかを気にするだろうし、いくら家柄が良いとはいえ勘当されてる相手を無条件で受け入れるとは思わないが…
まぁ、この勘当に何か裏があるとかなら話は別だけど

>>672
乙!律子楽しみ
遅くなってもそんなに気にしないから自分のペースで納得いく様に頑張って <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:20:48.30 ID:J9y+JDXx0<> こんばんは。お久しぶりです。
来週中とは何だったのか……。
投下していきます。 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/05/05(火) 22:23:07.84 ID:WAR/4qgZO<> きたか <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:23:37.59 ID:J9y+JDXx0<> 『律子』

律子「プロデューサー殿、少し相談があるんですけど……」

P「相談? ああ、いいよ」

律子「ありがとうございます。それで、この仕事受けようか迷ってて……」

そう言って律子は書類を渡してきた。

P「……ふーん」

ざっと目を通してみるとどうやらトークバラエティのようだ。

P「いや、いいと思うけど……何が引っ掛かるんだ?」

資料から律子に視線を戻すと、彼女はさっと顔を背けた。

律子「……え? いえ、えっと、プロデューサーがそう言うのなら私も安心してこの仕事を受けられるかなって……」

P「なんだ。……でも俺は仕事の管理人じゃないから、出来るだけ自分の判断でやらなきゃな」

律子「あ、はい。頑張ります……」

それもそうですよね、と律子は困った様子の笑いを浮かべる。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:24:24.93 ID:J9y+JDXx0<> P「別に俺も頼られて嫌じゃないんだけどねぇ……」

律子のことを考えると俺に頼りっきりというのもいただけないよなぁ。

うーん、律子1人でも十分やっていけると思うけど……。

というか以前はそうだった。

最近になって急に俺の意見をよく求めるようになった。

何か失敗をしたという感じではないし……。

…………わからない。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:25:59.04 ID:J9y+JDXx0<> とある日。

律子「プロデューサー殿〜」

まただ。

P「どうした、意見ならしないぞ? 自分の判断でやれって言ったろ?」

律子「うっ……。いえ、そうじゃなくて……」

うっ、て言った。

そのままもごもごと、言いよどむ。

P「おーい、何が目的なん?」

律子「目的なんて無いですよ! ただ、プロデューサーの意見を……」

P「それがダメだって言ってんの。 自分の力でどうにかしなさい」

律子「だって……」

P「だってじゃなくて……」

律子はしょぼんと落ち込んでしまったかと思うと、顔を上げてムッとした表情になる。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:26:36.79 ID:J9y+JDXx0<> 律子「鈍感! わからず屋!」

P「………………は? はああああ!?」

律子「もういいです! もう知らない!」

P「おまっ! 何だってんだ!? ……知らねーのはこっちだっての!」

逆ギレ!?

俺も訳が分からず子供みたいに言い返す。

律子はつーんとして、パソコンに向かって業務を再開する。

その様子に、ポカンと呆気にとられていたが、俺も再び仕事で気を紛らわした。

わけがわからん。

ていうか気まずー……。

何で怒ってんだよ。

しんと静まり返る事務所内にがちゃりと扉の開く音がする。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:27:12.84 ID:J9y+JDXx0<> 雪歩「おはようございますぅ」

律子「あら、おはよう雪歩」

P「雪歩! おはよう!」

律子「プロデューサー……セクハラしないでくださいよ」

咎めるような律子の声。

しっとりと険悪感がにじみ出てる。

P「し、ししし、しねえよっ!」

律子「そんなにどもられたら説得力ないんですけど……」

ぐっ、本当はしようと思ってました!

ところで、今日の律子は何なんだ?

さっきの口論の発端がわからない。

今は完全に不機嫌だし……。

女ってのは、よーわからんわ。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:27:54.43 ID:J9y+JDXx0<> 雪歩「どうしたんですか?」

雪歩は嫌な空気を察知して尋ねる。

律子「どうもしてないわよ?」

雪歩には笑顔を見せる律子。声の調子も柔らかい。

雪歩「なら、いいんですけど……」

しばらく業務を続ける。

いつもとは違うピリリとした雰囲気が未だに場を支配している。

あー、心なしか疲れてきた。

椅子に座りながら伸びをして、ぐっと背を反らす。

雪歩「お疲れでしたらお茶でもどうぞ」

気の利く雪歩はお茶とお茶菓子を持ってきてくれた。

P「おー、ありがとー。雪歩は気が利くなぁ」

雪歩「いえ、お仕事まで時間ありますから」

そう言って可愛く笑う雪歩。癒されるぅ〜。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:28:57.55 ID:J9y+JDXx0<> その可愛さがたまらず、雪歩の頭をなでなで……。

雪歩「ひぅっ! ぷ、ぷろでゅぅさぁ……。ふあぁ……」

最初は驚いた様子だったが、続けるうちに頬を染め、猫なで声になっていく。

この反応、なんだかそそるものがあるな。

律子「プロデューサー」

トーンの落ちた声で空気は凍る。

律子「それはセクハラですか? セクハラですよね? セクハラです」

何その流れるような疑問から断定への移行は……。

思わず俺の手も雪歩から離れる。

雪歩「あ……」

雪歩はしばらくじっとしていたが、気づいたように口を開く。

雪歩「り、律子さんもお茶どうぞ!」

明らかにさっきからの律子の様子にびびっている雪歩。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:29:42.60 ID:J9y+JDXx0<> しかし、律子はやっぱり物腰柔らかに対応する。

律子「ありがとう、雪歩」

そう言われて雪歩はほっと安堵の息をつく。

雪歩「今日の律子さん、どうしちゃったんですか?」

トテトテと俺の方にやって来て小さな声で話す雪歩。

P「さあな、俺もよく分からない。女の子の日なんじゃねーの?」

律子「プロデューサー! 聞こえてますよ!」

イライラや怒りを、声や表情に乗せて大きな声を出す律子。

P「いや、冗談だって。悪かったよ」

律子「次そんなこと言ったら張り倒しますからね」

笑顔で告げる律子、怖ぇ……。

だって目が笑ってないもん。

雪歩も小さく悲鳴をあげてる。

その日はずっとそんな空気で仕事をしていた。

こんな職場イヤだ……。

それからというもの、俺と律子が顔を合わせるとなんだか気まずい。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:30:36.62 ID:J9y+JDXx0<> しばらくしたとある日。

伊織「ちょっと、お兄様」

P「んー? どうした伊織?」

伊織「最近、律子の様子がおかしいのよ」

亜美「そうだよー。なんだか、浮気者になることが多くって……」

P「上の空な……」

浮気してねーよ。

あずさ「とにかく、心配で……」

伊織「っていうより、仕事にならないのよね!」

亜美「とか言っといて、一番心配してたのいおりんだけどねー」

伊織「うっさいわね、あずさでしょ!?」

P「まあ何だ。とにかく仕事に集中してないことが多いってことだな?」

伊織「絶対、お兄様に原因があると思うんだけど?」

P「はあ? 何でだよ……」
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:31:08.66 ID:J9y+JDXx0<> 亜美「だよねー、兄ちゃんといるときが一番微妙な空気だもん」

あずさ「プロデューサーさんと何かあったんじゃないかしら?」

確かにこの前から気まずいなぁ。

P「そうだな、一度言い合いになった」

伊織「ほら、やっぱり」

その言い方にちょっとだけイラっとしたけど黙っておく。

あずさ「どんな風にですか?」

俺はその日のことを思い出しながら少しずつ話をした。

P「……とまあ、そんな感じだ」

伊織「はあ……。それって……」

あずさ「あ、あらあら〜……」

P「な、何だよ……?」

伊織「とにかくお兄様が何とかしてよね」

丸投げされてしまった。

というより、俺のせいなのは確定なんだ……。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:31:52.38 ID:J9y+JDXx0<> P「……結局家まで来てしまった」

それから数日経った今日、俺は律子の家の前にいる。

竜宮小町は朝からロケがあったので事務所には来ていない。

この時間なら律子も帰っていると思い、やって来た次第である。

意を決してインターホンを鳴らす。

しばらくして扉が開く。

チェーンのかかったドアの隙間から律子が顔を出す。

律子「どちらさまですか?」

角度的に俺の顔は見えてないらしい。

P「律子? 俺だけど……」

律子「へっ? ぷ、プロデューサー!?」

ドアを閉めてガチャガチャと音がしたと思えば、再び扉が開いた。

今度は大きく開いて、律子の全身を認識できる。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:32:27.50 ID:J9y+JDXx0<> 律子「ど、どうしたんです?」

P「あー、その、実はな、律子が調子悪いって聞いたから、何かできることはないかと思ってな……」

律子「えー……? 別に調子が悪い訳じゃないんですけど……」

P「まあ風邪とかではなさそうだけど、この前俺と言い合いになった時から様子がおかしいって言ってたから、俺のせいなんじゃないかと思う」

律子「プロデューサーは悪くないですよ……」

P「とにかく話し合おう。あがっていいか?」

律子「ちょ、ちょっと待って! 片付けてきますから!」

P「あ、ああ、そう?」

慌てて部屋に引っ込む律子。

数分経って、いいですよ、と招いてくれる。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:33:12.30 ID:J9y+JDXx0<> P「へぇ、綺麗なもんだな」

律子「ま、まあ、当然ですよね……」

ふいっと顔を逸らすあたり、普段は汚いのだろうか。

P「律子、もうこの前で二十歳になったろ?」

律子「え? ……はい、プロデューサーには祝ってもらったじゃないですか」

P「じゃあ飲もう」

そう言って俺は買ってきたお酒をどさりと置く。

律子「ええっ!? それお酒だったんですか!?」

P「何か忘れたいときや、ぶっちゃけた話をしたいときにはこれが一番だ」

律子「いや、でも……」

あれこれ渋る律子。

P「俺だって腹割って話すためだ……」

しばらくうーんと唸っていた律子だが、吹っ切れたようだ。

律子「…………飲みましょう!」

作って持ってきた惣菜やらおつまみやら一品料理を卓に広げて、グラスに酒を注いで乾杯する。

小鳥さんも連れてくれば良かったかな……?
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:34:12.89 ID:J9y+JDXx0<> そこそこ時間も経ってきた。

律子「にゃはははは〜! ぷろでゅーさー殿、もっと飲んだらどうですか〜!?」

完全に出来上がってしまった。

P「おい、さすがに飲みすぎでは?」

律子「まっさかー! まだまだいけますよ!」

律子はそう言ってまた笑う。

まあいいけど……。

P「それより最近、仕事で悩んでることないか?」

仕事の話を振ってみる。

律子「そーそー! この前のディレクター! 私のこと若いか弱い女の子だからってナメてましたっ!! 気色悪い視線で見てくるしっ!!」

本気の愚痴が始まった。

それから数十分、そんな話を聞かされる。

律子「でも、一番悩んでるのは〜……」
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:34:49.54 ID:J9y+JDXx0<> そう言って立ち上がると俺の方にやって来て、タックルをかましてくる。

P「うおっ! 何だよ?」

律子「ぷろでゅーさーのことだー!」

どしっとのしかかるように俺にしがみつく。

また変な笑い方で笑う律子。

律子「ぜーんぜん分かってないのら!」

P「何が!?」

律子はワイシャツを着崩していて、この体勢だと自然と胸元に視線が向いてしまう。

律子「どこ見てんだー! あははははは……!!」

だらしないのに、吹っ切れて笑う顔が妙に可愛らしい。

俺は思わず彼女の頭を撫でた。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:36:19.58 ID:J9y+JDXx0<> 律子「ん……。何ですか……。そゆことするからいけないんですよ……」

撫でていた手を彼女の上気した頬に当てる。

律子「ふあ……」

その声で俺は我を取り戻した。

P「あ、すまない……」

手を引っ込めようとすると、その手を掴まれる。

律子「待って、まだ大事なこと言ってない」

さっきとは正反対な律子の態度に緊張感が高まる。

表情は徐々に恍惚としたものに変化し、こちらまでうっとりとした雰囲気に飲み込まれる。

律子は眼を右に左に忙しなくさせる。

ようやく俺に視線を戻すと、そこには決意が窺えた。

律子「あなたが好きです」

時間が止まるような感覚。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:37:24.58 ID:J9y+JDXx0<> しかし律子の顔が近づくことで時の流れを実感できる。

どうしよう、なんて考えることさえ放棄した。

彼女がとてつもなく魅力的に映る。

俺はそのまま目を閉じてしまう。

視界が暗くなり、彼女の存在をさらに強く意識する。

次に聞こえてくる音は……。

律子「おえぇぇぇぇ……」

律子が胃の中のものを撒き散らす音だった。

P「……」

びちゃびちゃと身体にかかるこれはアレだよな……。

俺はもう目を開けたくなかったが何とか介抱しなければならない。

P「うえぇぇぇぇ……」

ワイシャツにかかったアレを見て一気にげんなりとした気持ちになる。

とにかく、ティッシュで覆って床に溢さないようにワイシャツを脱いだ。

すぐに律子をトイレまで運ぶ。

P「だから飲みすぎだって言ったんだ」

背中をさすりながら彼女が吐ききるまで待つ。

上裸の男がスーツ姿の女の子を介抱するという変な図は小一時間ほど続いた。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:38:29.68 ID:J9y+JDXx0<> 律子「うぅぅ……すみません……」

げっそりとした様子の律子。そりゃそうだ。

俺はワイシャツの汚れを落とし、洗濯機を借りることになった。

しかもワイシャツ無しで帰れないし、律子が心配だしで、一晩泊まることにした。

その間は小さいけど、まだなんとか着れるジャージを借りた。

律子にはぶかぶか過ぎるらしい。

P「片付けとかはやっとくから、お風呂入って、歯磨いて、横になっときなさい」

律子「うぅぅ……わかりましたぁ……」

ふらふらと風呂場へ向かう。

その足取りは危なっかしくて、大丈夫だろうかと心配になる。

独り暮らしをはじめてから、からっきしだった家事のスキルは嫌というほど身に付いた。

すぐに部屋は片付き、綺麗になる。

ちょうどお風呂場から呻き声が聞こえたので慌てて駆けつける。

P「大丈夫!?」

律子「無理ですぅ……」

律子が全裸でぐったりしてた。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:39:31.60 ID:J9y+JDXx0<> 律子「うぅぅ……気持ち悪い……」

出すもん出しきったのにまだダメかい……。

律子「見ないでくださいぃ……」

P「あ、ああ、悪い……」

じゃなくて、今は裸でもしかたない。

P「洗ってやるからしばらく待ってろ」

律子「ええっ!? いいです! 一人でできます! ……うぅぅ……」

P「そんなんじゃ無理だろ」

結局俺は服を着たまま律子の頭や背中を流すことにした。

律子「本当にすみません……」

P「いやいや、誘ったのは俺なんだし、止めるべきだったんだよ」

律子「私がセーブしてたら良かったんです……」

<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:40:26.46 ID:J9y+JDXx0<> まあお互いに非はあるが、そんなことはどうでもよいのだ。

P「痛くない?」

律子「ん……気持ちいです……」

頭を優しく洗う。

P「どこか、かゆいとこない?」

律子「いえ、ありません……気持ちいです……」

背中を優しく流す。

P「そっか……」

シャワーで泡を流したあと、律子の反応が徐々に無くなっていった。

P「律子?」

律子「……」

すぅすぅと静かに寝息をたてていた。

P「あらら、マジか……」

座ったまま寝るなんてなかなか器用なやつである。

P「起きて律子。あと身体拭くだけだよ」

律子「……ふぁい」

一応話しかければ起きるみたいだが、寝ぼけ眼で身体を拭く気配が無い。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:41:17.54 ID:J9y+JDXx0<> P「はぁ、しかたないな……。触るけど恨むんじゃねーぞ……」

そう言いつつも俺はごくりと生唾を飲み込み、何とか平静を装う。

頭と背中、かろうじて足もまだいいだろう。

だが正面を拭くとなるとどうしても躊躇する。

P「……おい、頑張って自分で拭けねーか?」

律子「ふぁ……」

聞いちゃいないなこりゃ。

P「マジで後になって後悔するんじゃねーぞ……」

意味もなく、さらに念を押す。

もう一度ため息をついてそっと後ろから手を伸ばす。

律子の裸を直視しないように配慮したのだが、何だか一層官能的な気持ちになってきたのは気のせいだろうか……。

女性の身体って柔らかいよな。

自分の腕と比べたりなんかして水滴を拭き取っていく。

胸やお腹についた水滴も優しく拭き取る。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:41:56.14 ID:J9y+JDXx0<> 律子「んっ……あ……あぁっ……!」

P「……」

変な声出すな!

俺まで変な気持ちになってくるからやめてほしいものだ。

なんとか拭き終わり、最後に臀部……お尻を拭くことになるのだが……。

P「なぁ、その体勢どうにかならないのか?」

律子「ふぇ……」

眠気MAXの律子は言葉にならない声で答える。

どうやら無理しい。

彼女は今、ひたっと正面から壁に寄りかかってお尻をこちらに少し突き出す形で待っている。

うーん、何というか、率直に言えば……エロい。

背中から腰にかけての綺麗な……じゃなくて!

さっさと済ませてしまおう。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:42:39.18 ID:J9y+JDXx0<> 恐る恐るバスタオルを当てる。

律子「んぅ……」

やばいなこれ……何がとは言わないが。

変な気分のまま、服を着せる。

下着もいるかどうか聞いたら、いると言ったので、それも着せた。

そういえば髪を下ろして、眼鏡もかけてない律子は久しぶりに見た気がする。

P「ふぅ……大体終わったか?」

律子は眠たすぎてベッドにぐてっと寄りかかってる。

P「あ、歯磨きしてないな」

律子「洗面所に……あふぅ……」

ゆらりと顔を上げてそう言うが、あくびとともにすぐに顔を伏せる。

P「ああ、洗面所な」

このときは気づかなかったが、ナチュラルに律子の世話役をこなしている俺だった。

悶々としていて世話役も何も無いのだが……。

ところで、なんだかデジャヴ?

とある事務員にもこんな感じでお世話したことがあるのだが……。

まあいいか……。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:43:22.08 ID:J9y+JDXx0<> P「ほら律子、歯磨けるか?」

律子「うぅ……ん……」

…………どっち?

P「おーい」

律子の傍まで寄っていく。

律子「ぷろりゅぅさぁ……」

不意にそんなことを言うと、律子は身体を起こした。

……かと思えば、後ろに倒れこむように俺に身体を預けてきた。

P「危ねぇな……」

俺は正座をして律子に膝枕をしてあげる。

だらしなく開いてる律子の口に歯ブラシを突っ込み、傷付けないよう優しく磨く。

結局、律子は寝るまで、俺がおんぶに抱っこで世話をした。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:43:50.58 ID:J9y+JDXx0<> 翌日の朝。

律子「う〜……頭いた……」

起きて早々、律子は苦い顔で呟いた。

P「よお、おはよう。そりゃ二日酔いだな」

俺はというと、彼女の部屋で一泊させてもらった。

律子「……お酒はもう控えることにします」

P「うん、ほどほどにな……」

朝御飯を勝手ながら用意して、二人で食べる。

こうしてると何だか夫婦みたい?

まさかな……と思いながら彼女の顔をじっと見る。

少し下を向いて朝食を口に運ぶ律子。

もぐもぐと咀嚼して、ちらりと上目遣いで顔を覗かれる。

俺は咄嗟に顔を横に逸らしてしまった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:44:24.56 ID:J9y+JDXx0<> 律子「……何ですか? 今、見てましたよね?」

P「見てないよ」

律子「見てました」

ダメだ。昨日、彼女といろいろありすぎて若干混乱しているんだ。

そういえば、一つだけ確かめたいことがある。

ふと昨日の律子の顔が脳裏をよぎる。

いや、よぎるという表現は正しくないだろう。

ずっと頭から離れないのだから。

P「なぁ……」

律子「何でしょう?」

P「昨日のこと覚えてる?」

言った瞬間、律子は飲んでたコーヒーを吹き出した。

律子「げっほ! ……ごほっ、ごほっ!!」

P「うわ……。大丈夫?」

この反応は覚えてるな。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:44:57.76 ID:J9y+JDXx0<> どこからどこまでかはわからないけど。

律子「…………覚えてないです」

P「嘘つくなよ! ……で、どこまで覚えてる?」

律子はしばらく黙ってたが、観念したようにがっくりとうなだれる。

律子「一応、全部……」

P「そっか……。じゃあ、俺のことが好きって言ったのも、そうか……」

律子「や、やめてください……。あれはちょっと気の迷いが……」

P「俺も好きだよ」

律子「は?」

俺は律子の言い訳を遮るように自分の思いも告げる。

何がきっかけかは分からないものだ。

彼女の裸を見たからではない。

彼女の身体を触ったからではない。

彼女が好きだと言った、あのときの表情がずっと頭から離れないのだ。

その時に気づくものだ。

俺も好きだということに……。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:46:45.36 ID:J9y+JDXx0<> 当の律子は何が何だかわからないといった顔をして固まっている。

俺は彼女の傍に寄り、後ろからそっと抱きしめる。

P「わかんない? こういうことなんだけど……」

律子の顔はみるみるうちに赤くなっていく。

律子「え? う? あぅ……」

突然の出来事にしどろもどろの律子。

P「律子が気の迷いでも、俺はお前のことが好きだって気づかされた」

律子「う、嘘です!」

え? 何? 俺の気持ちは嘘なの?

そう尋ねてみると、律子は首を横に振って全力で否定した。

律子「私が嘘つきました! ……気の迷いなんかじゃないです!」

大きな声で宣言する律子。

相変わらず顔は真っ赤だ。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:47:36.45 ID:J9y+JDXx0<> 律子「私も……その…………好き、です」

P「そっか……」

俺は律子のあごをくっと引き、その唇に口づけする。

律子「え?」

何が起きたかわからない様子でまたしても固まる律子。

P「急ごう。もうそろそろ出ないと遅刻するんじゃないか?」

律子「……へ? あ、え、ええ……急ぎましょう……」

それぞれ出勤準備をして玄関を出る。

ちなみに俺がこんなにスムーズに支度できてるのは、昨日のうちに洗濯して、今朝にアイロン等を借りたりしたためだ。

シャワーも貸してもらったし、ある程度はスッキリしている。

さて、事務所までは最寄りの駅から二駅という近さだ。

P「どうする? 手でも繋ぐ?」

律子「ええっ!?」

ちょっと驚きすぎじゃありません?
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:48:17.77 ID:J9y+JDXx0<> P「嫌?」

律子はふいっとそっぽを向き、拗ねたような口調になる。

律子「その聞き方は……ずるいです」

控えめに手を差し出してきた。

P「可愛いな」

その手を握る。彼女の温もりが伝わってくる。

律子「からかわないでくださいよ……」

P「からかってないよ。本当に可愛いと思ってる」

律子「うっ……。あ、ありがとうございます……」

もじもじとしながら彼女はまたそっぽを向いた。

事務所に着くと既に何人かいるようで、喋り声が聞こえてきた。

P「おはようございまーす」

律子「お、おお、おはよーございまふ……」

何でそんなに動揺してるの?

まだ誰も何も言ってないよ?

小鳥「あれ? プロデューサーさんと律子さんが揃って来るなんて珍しいですね」

P「あはは、そうですね。さっきそこで会ったものなので……」

律子「で、ですよねー! あはは、きぐーですねー!」

小鳥「え……あはは……」

律子はバカなの? 思いきり怪しまれてるし、若干引かれてるし……。

可愛いからいいけど、ばれたらめんどうだぞ……。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:48:55.88 ID:J9y+JDXx0<> 伊織「今日は律子もお兄様も遅かったじゃない」

ほら来た。結構、勘良いんだよな伊織のやつ。

P「昨日も家で調整しててな……」

みんなのスケジュールを……というのを言葉の裏に隠してるつもり。

伊織は数秒俺をじっと見つめて、すぐに律子に向き直った。

伊織「ねえ律子。今日は私たち竜宮小町のミニライブがあるわよね?」

律子「へ? あ、そ、そうね……」

伊織「なのにこーんな時間に来るなんて、昨日は帰ったあと何をしていたの?」

律子「はぇ! ……き、昨日は……その……」

さすが伊織。俺からは情報が漏れないと判断してすぐに対象を律子に移した。

てゆーか、律子はこっちをチラチラ見るな。怪しいだろ。

P「まあまあ、いいじゃないか。最近、調子悪かったんだろ? それをよく知ってるのは伊織たちじゃないか」

これでスルーしてくれれば問題無いけど……。

伊織「…………」

険しい表情で俺と律子を交互に見る。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:49:30.18 ID:J9y+JDXx0<> かつかつと俺に近づき、ネクタイをぐいっと引っ張られる。

そして、ごつんと鈍い音が鳴るほどおでこにおでこをぶつけられた。

P「いっ……!」

伊織「何うちのプロデューサーに手出してんのよ」

P「なんだってんだ……」

伊織「付き合ってるなら堂々と言えばいいでしょ!? 何なのはそっちよ!!」

伊織のおでこは赤くなっていて、目元には涙が滲んでいる。

痛いなら、やらなきゃ良かったじゃないか……。

聞き付けたのは竜宮小町の他のメンバーと小鳥さんだ。

小鳥「やっぱり……」

亜美「ええっ!? ……付き合うって何に?」

あずさ「あらあら〜、うふふ……!」

伊織は相変わらず取り乱していたので落ち着くまでしばらく待った。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:50:12.19 ID:J9y+JDXx0<> P「何でこんな尋問体制なんだよ」

俺と律子は四人に囲まれ、ソファーに肩身狭く座っている。

小鳥「……さて、何があったのか話してください」

P「別に何もないです。けど、もう隠してもしょうがないので打ち明けます」

俺は律子の方を向き、いいよな? と確認する。

彼女は諦めたように、だが決意のこもった瞳で頷いた。

それを見て、もう一度四人に向き直る。

P「俺は律子のことが好きだ」

言うと、キャー! と女の子特有の甲高い声が響く。

伊織だけが複雑な表情の涙目だった。

律子「わ、私もプロデューサーが好きです……」

声量を萎ませつつも、彼女もちゃんと言い切った。

あずさ「じゃあ、しょうがないですね。お二人を応援してあげます」

亜美「兄ちゃんと律ちゃん結婚するのかぁ……おめでとう!」

にこやかに祝福してくれるあずさと亜美。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:51:01.08 ID:J9y+JDXx0<> 小鳥「あんまり事務所ではいちゃいちゃしないでくださいよ」

そう釘を刺しながらも笑ってくれる小鳥さん。

伊織「……」

あずさ「伊織ちゃん……」

ただ伊織はきゅっと拳を握って、俯きがちな涙目のままだった。

伊織「…………よ……」

P「え?」

伊織「幸せになりなさいよ、ばか!!」

わっ! と勢いよく顔を上げてそう言うと伊織は走って事務所を飛び出した。

P「え? え?」

あずさ「はぁ、これだからプロデューサーさんは……」

どういうことなの?

小鳥「あー、自分の好きなお兄さんが他の女性と付き合い始めると複雑な気分になりますもんね」

P「そういうもんですか?」

あずさ「そういうものだと思いますよ。……伊織ちゃんは私に任せてください」

あずさは席から立ち上がる。

迷子にならないか心配なんだけど……。

小鳥「でも、伊織ちゃんがさっき言ったことが本心なんだと思いますよ」

幸せになりなさい、か……。

妹の言うことは守ってやるのが兄の役目だしな。

ありがとう、伊織。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:51:45.95 ID:J9y+JDXx0<> それから数日経った休みの日。

俺と律子は買い物に来ていた。

律子「何か買いたい服でもあったんですか?」

P「買いたいのは俺の服じゃなくて、律子の服だ」

律子「え? 何で私?」

キョトンとする律子。いやだって……。

P「デートにスーツで来るやつがいるかよ!」

律子「あ、あはは……。けど正装が良いかなって思いまして……」

なんだ? これから企業面接にでも行くのか? 俺とのデートはただの外回りか?

P「デートは正装じゃなくてな、オシャレに気を遣うんだ」

律子「でも、オシャレな服ってあんまり……」

P「だから買いに行くの」

なんだか自信無さげな律子の言い分を遮り、俺は言い切る。

ショッピングモールを回ること数分。

P「ここ行ってみよう」

律子「えー……こんなオシャレそうな雰囲気のお店、私に似合いますかね……?」
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:52:30.49 ID:J9y+JDXx0<> いや、あなた今オシャレって言ったね?

P「自分でオシャレって分かってて何でこういうとこ行かないんだよ」

律子「だって私には似合いませんよ……」

P「違う違う。お店選びは似合う似合わないじゃないだろ」

どうやら自分の容姿に自信を持てない律子は店の雰囲気に気後れしてしまうようだ。

そういや俺は逆だったなぁ……。

しまむらに行くことは元名家の人間のプライドが許さなかった時期があった。

狭いアパートに住むことになった時点でいろいろと吹っ切れたりしたんだけどね。

とりあえず、渋る律子を無理矢理引っ張ってお店に入っていく。

「いらっしゃいませ〜」

活発で軽快な声が店内に響く。

P「さて、じゃあ俺が適当に見繕ってくるから試着室の前で待ってて」

律子「え、いいんですか? プロデューサーに悪くないですか?」

P「コーディネートって割りと好きなんだよね。だからいいんだって」

そうして服探しを始めて10分。

P「ほい、じゃあこれ着てみて」

持ってきた服を手渡す。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:53:31.57 ID:J9y+JDXx0<> ちなみに3セットほど一気に持ってきてみた。

律子「こ、こんなに……?」

P「着替えはゆっくりでいいから」

ふむぅ、と首を捻って試着室に戻る律子。

未だにその服が似合うのかどうか、訝しんでるようだった。

しばらくして……。

律子「ぷ、ぷろでゅぅさぁ……」

若干涙目の律子が試着室からひょっこり顔を出している。

P「どうした?」

律子「着方が分からないです……」

ずっこけた。それでも元アイドルかい……。

俺はすぐに女性店員を呼び、律子の着替えを手伝ってもらった。

「これは、こうやって、そこに手を通して、そうです!」

律子「ええっ!? これちょっと似合ってないんじゃ……」

「全然! お客様とっても可愛いですよ!」

律子「そんな、お世辞なんていいですよぉ……」

なんか楽しそうだな。俺、ちょっと嫉妬しちゃう。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:54:09.20 ID:J9y+JDXx0<> 微妙に黒いオーラを出そうとしていた頃、ちょうどカーテンがシャーっと開いた。

律子「ど、どうです……?」

P「可愛い」

ノータイムで答える俺。

律子「うえぇっ!? いいですよ、お世辞は!」

P「ばか、彼女にお世辞を言うやつなんているか」

律子「かっ、彼女…………」

顔を真っ赤にしてもじもじする律子。可愛い。

P「髪下ろしたらもっといいかも……」

律子「髪、ですか……」

ちょっと考え込んで、恥ずかしそうに髪を下ろす。

膝上あたりまでしかないジーンズのオーバーオールと、ややダボっとしたインナー。

髪を下ろしたことでもっとやんわり、ふんわりとした雰囲気を纏う。

身長も高くないので、いつもはしっかりしたお堅いイメージの律子とは違う。

あどけなさが多分に残り、そのギャップが一層彼女の魅力を引き立てる。

「彼氏さん、やりますね……」

にやりと笑みを浮かべる女性店員。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:55:01.74 ID:J9y+JDXx0<> そうして、あと2セットも着てもらう。

1つはシンプルにジーンズとジャケットでクールに決まったカッコいい女性。

律子はジーンズと相性がいいらしい。

しかし、本人はピチッとして動きづらいのが好まないと言う。

もう1つはこれからのシーズンに向けてニットウェアとロングのトレンチコート、ややゆったりとして歩きやすそうなタイトスカートとその下に黒のタイツ。

律子「今はちょっと暑いですよね……」

P「そりゃそうだ。これから使うことを考慮して選んだもんだからな」

とりあえず全部似合ってたので買った。

「ありがとうございました〜」

律子「ちょっ、プロデューサー! そんなに買ってもらわなくても自分でお金出しますよ!」

P「俺が着せたいからいいんだよ」

律子「ま、またそうやってわけわかんないこと……!」

P「とにかく! これは俺からのプレゼントだから受け取って。俺にも彼氏面させてくれ」

律子「うぅぅ…………」

律子はうんうんと唸っていたのだが、ようやく観念したようだ。

律子「ありがとうございます……」

P「そうそう、素直にね。今夜だって俺の好きなようにするんだから」

律子「なあっ!? 好きなことって何ですか!?」

P「そりゃあ内緒だけど、その反応だと予想できてるんじゃ?」

律子は、かぁっと耳まで紅潮させる。

そのあとも雑貨屋へ行ったり、本屋へ行ったり、CDショップへ行ったり、楽しい時間を過ごした。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:55:33.27 ID:J9y+JDXx0<> 律子「帰ってきましたね」

そうして日も沈み、今は律子の家の前だ。

律子「ささ、上がってください」

最後は荷物を運びがてら、二人で夕飯を食べましょうということになった。

もちろん二人で作って……。

律子「やっぱりプロデューサー、料理上手いですよね」

P「まあ、三年以上一人暮らししてればな……」

当初は給料も少ないし節約しなきゃいけなかったから、嫌でも上手くなるんだよなぁ……。

そのうち趣味になっちゃったりしてね。

夕食も済ませてまったりと時間を過ごす。

今日は疲れたな。

彼女と肩を寄せてうとうとしてしまう。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 22:56:13.98 ID:J9y+JDXx0<> 律子「ぷろりゅぅさぁ…………だいしゅき…………」

あんまりろれつの回ってない律子。眠気にやられてる証拠である。

P「ん、俺も……」

ちらっと横を見てみると案の定と言うべきか律子は口をぽけっと開けて寝ていた。

P「疲れちゃったのか、お疲れ様……」

俺は移動して律子を後ろから抱えるようにした。

こてっと俺の胸と身体に、頭と背中を預けて静かに寝息をたてる。

P「俺も大好きだ」

耳元で囁くとピクッと微妙に反応したような気がした。規則的な寝息からも、恐らく気のせいだろう。

P「これからもよろしくな」

さらにきゅっと強く抱き締め、俺もゆっくり目を閉じた。

『律子』   終わり
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 23:04:07.71 ID:J9y+JDXx0<> 今日はおしまいです。
話の長さ的にはこれでいいだろうか?
ちょっと駆け足だろうか?

ネタが尽きてきたんだよね。
みんなの魅力を出していけるような描写を心掛けたいが、
そこらへんの構成が難しい。

あと、律子とはそんなにちゅっちゅしてないやん……。反省……。 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/05/05(火) 23:15:34.15 ID:MIyNvxha0<> りっちゃんはこのぐらいのイチャラブ感がちょうどいい! <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/05/05(火) 23:35:29.93 ID:J9y+JDXx0<> おうふ……次回予告を忘れていたぜ……。
次回はメインヒロイン、投下予定日ともに未定。
時間がかかるとだけ言っておこう。
次は誰がいいっすか?

ちなみに、仕事ではしっかり者のキャリアウーマンなのに
プライベートがちょっとだらしない律ちゃん
を意識して今回は書いてみたよ。 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/05/05(火) 23:38:56.16 ID:+hyjEnDfO<> 雪歩かな <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/05/06(水) 01:01:12.60 ID:9uiZQYVFo<> 響お願いします <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/05/06(水) 20:42:57.54 ID:wUF4s5LJo<> ちーちゃんで <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/05/07(木) 00:40:24.16 ID:pLkce48mO<> ゆきぴょんで <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<><>2015/05/07(木) 00:42:01.89 ID:RCMVSi9Z0<> 雪歩がいいな <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/05/07(木) 02:36:08.55 ID:fBA4fwMWo<> 年の近いあずささんや <>
◆K6RctZ0jT.<>saga sage<>2015/05/07(木) 03:10:14.10 ID:4Lm1dfHk0<> では多数決により、次は雪歩。

その次はあずささんかな。
多分>>725はこのスレで結構前からずっとあずささん推してる方じゃないだろか?
違ったらごめんなさいね。 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/05/07(木) 16:23:14.46 ID:ejF5BGUXO<> 待ってるよ〜 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/05/21(木) 21:53:04.61 ID:eWaBIUeXo<> そろそろかな? <>
◆K6RctZ0jT.<>saga sage<>2015/05/23(土) 02:47:20.82 ID:YZIUwrgd0<> もうしばらく待ってください。
実に忙しくてなかなか手が回らないというのもあるが、
話の内容がワンパターンになりがちで書いては消しを繰り返している始末。
だからもうしばらく待ってください。 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/05/23(土) 05:00:36.11 ID:JE0qPUcDO<> のんびりお待ちしてますよー。

個人的な感想だけど分岐までの話見てると雪歩に関してはP→雪歩に思えてくるかな <>
◆K6RctZ0jT.<>saga sage<>2015/05/26(火) 01:13:49.81 ID:qkKcNvZn0<> 今週中に投下できたら最高。
というわけでそうなるように頑張ります。 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/05/26(火) 02:38:50.08 ID:zW+03q7AO<> 面白くてここまで一気に読んじゃった
続き楽しみにしてます <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>hage<>2015/06/01(月) 20:38:31.99 ID:n/8VSu/8o<> 良いか>>1よく聞け!!
あずささん√を見るまで俺は未来へ帰れないんだよ!!
いい加減にしろ!!! 夏バテに気をつけろ!!! <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/06/01(月) 21:51:37.43 ID:txyb7nkCo<> >>733
未来で見ろよ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/06/01(月) 22:39:04.38 ID:M6iP+20AO<> >>733
未来に戻って探せば書き終わってるんじゃ? <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/06/02(火) 01:52:05.93 ID:ibcjTuEH0<> お前ら天才かよ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/06/02(火) 02:31:56.10 ID:RkOQrMpAO<> いいえ、三人目のお兄様です <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/06/03(水) 03:35:15.64 ID:D5sH3heDO<> だがまて!未来は未来でもいつ頃の未来とは言ってないぞ
もしかしたら一日後かもしれないし何時間後かもしれない
数秒先でも未来になるんだ <>
◆K6RctZ0jT.<>saga sage<>2015/06/03(水) 08:36:57.41 ID:knArni4e0<> しばし待たれよ。
先週中に投下できなくて申し訳ない。

エタるとかは無いんで、気長に、本当に気長に待っていてほしい。 <>
◆K6RctZ0jT.<>saga sage<>2015/06/03(水) 11:10:41.17 ID:knArni4e0<> ようやく雪歩ルートまとまりました。
ネタ切れ、助けて。
近いうちに投下しますね。
次回はあずささんの予定。 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/06/03(水) 20:07:29.05 ID:t6+NkNyso<> ……良いか>>1よく聞け!!
あずささんのイメージカラーは何だ!? ……紫だろうがぁ……ッ!!

紫色の花を思い浮かべると菫(すみれ)が真っ先に出てくるだろうが……ッ!

菫の花言葉は全般的に謙虚さや誠実、小さな幸せ、だ
そして紫色の菫は【貞節】と【愛】を意味するとされている……

あずささんはなぁ! 運命の人を探して!
見つけるために! アイドルになったんだよ!!!
つらい事も楽しい事も噛み締めて……! そんな中でいつしか小さな幸せを見出すんだよ!!

時には男に言い寄られて揺らぐ事もあるだろうよ!!
でもな、彼女が真に重きを置いたのは誠実で謙虚な男に対する愛だったんだよ!!

俺を未来へ帰らせろ!!!!! <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/06/03(水) 20:17:36.63 ID:o/j4Qtj5o<> >>741
だから未来でみろよ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/06/03(水) 20:27:01.83 ID:Oox03KmtO<> 黙れナス色 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/06/03(水) 20:53:07.98 ID:skEkJgHho<> ナス色ボタン・・・ダッ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/06/03(水) 21:00:02.89 ID:kKduqidlO<> 紫で...笑顔を... <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<><>2015/06/05(金) 14:07:56.01 ID:wwKHLhTCO<> >>745
(無言の腹パン) <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/06/21(日) 19:01:48.54 ID:Z4BgcNC7O<> ほ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/06/21(日) 19:11:28.43 ID:DS8D02aZo<> あずささん君はどこへ行ったんだい? <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/06/21(日) 21:37:46.39 ID:EsUgvOjAO<> もっもっ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/06/28(日) 01:45:22.09 ID:tOty7zjAO<> もっもっもっ <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/07/04(土) 23:41:27.99 ID:d+TAySjJ0<> こんばんは。
(誰もがエタったと思い、待ってなかっただろうけど)お待たせ。
言い訳させて。忙しかったの。
あと展開が何も思いつかなくなってきた。
ともあれ投下します。 <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/07/04(土) 23:42:56.64 ID:d+TAySjJ0<> 『雪歩』

薄暗い事務所の中、俺はディスプレイの光とカタカタと軽快に鳴るキーボードの音に包まれていた。

肌寒くなるシーズンで、俺は暖房を点けずにスーツの上からコートを着ることで寒さを凌ぐ。

今日この日は全くもって全員が休日という珍しい日であるのだが、俺は休日返上で業務に勤しんでいた。

家にいても特にやることは無いし、まだスケジュール調整がごたついていたので整理しなければならない。

しかしこれが終われば今夜の飲み会、と言ってもアイドルたちも来るのでお酒は出ないが、何も考えずに楽しめるだろう。

でも幹事が小鳥さんだからなぁ。お酒出るとこにしてるんだろうなぁ。

まあいいや、そんなことよりさっさと終わらせよう。

仕事は溜めておけばおくほど、どんどんやる気が削がれていくものだ。

仕事をゼロにしてからでなければ十分な休息は得られない。

そういうわけで、今日も今日とて働いているわけである。

…………これってサビ残になるの?
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/07/04(土) 23:43:41.38 ID:d+TAySjJ0<> P「うーん…………!」

ふわぁ、とあくびをして一息つく。

ぼけーっとしてると事務所への階段を昇ってくる足音が一つ。

次にかちゃこんと鍵を差して、かちゃりと鍵を開けるような音だ。

もしかして、強盗?

その考えに至るのはごく自然ではなかろうか。

みんなはオフで、休日を満喫しているに違いないからな。

俺は少しだけ身構えた。

何か武器になるものを探すが、そんなものはない。

素手で何とかするしかなさそうだ。

緊張感漂う中、俺は静かにじっと入り口の方を凝視していた。

そこからおずおずと現れたのは…………天使だった。

間違えた。雪歩だった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/07/04(土) 23:44:22.69 ID:d+TAySjJ0<> P「天使! ……間違えた……雪歩!」

雪歩「きゃあぁぁああぁ……!!」

思ったよりも大声が出てしまい、雪歩は驚いて跳ね上がる。

本人も一人だと思ってたらしく、それが一層驚く要因となったようだ。

雪歩「な、なな、何でプロデューサーが……?」

P「何でと言われても……」

というか何ではこちらの台詞なんだけど……。

とりあえず質問には答えておこう。

P「やることないから残ってた仕事をね」

雪歩は、ほぇー、と感嘆の声を漏らす。

雪歩「いつもお疲れさまです」

P「雪歩はどうしたんだ?」

雪歩「実は私も夜までやること無くて、自主レッスンでもしようかなって……」

そう言って、えへへ……と照れながら笑う雪歩。かわいい。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/07/04(土) 23:44:57.60 ID:d+TAySjJ0<> 雪歩「そうだ! プロデューサーにお稽古つけてもらおっかな……」

上目遣いで、ダメですか? と尋ねる雪歩。

P「いや、全然ダメじゃないよ。ただあと一時間くらいかかりそうだから待ってもらえるかな?」

雪歩「はい! 終わるまで待ちます。……じゃあ私、お茶でも淹れてきますね」

P「ああ、ありがとう」

なんだか俺は嬉しくなり、仕事に対するモチベーションも上がった気がする。

雪歩は可愛く微笑みながら、机の上にお茶とお茶菓子を用意してくれる。

しばらくはまたキーボードを叩きつつ、お茶菓子を食べ、お茶をすする。

まあ宣告通り、小一時間ほどで仕事は片がついた。

P「ふぅ……終わったぁ……」

雪歩「プロデューサー、お疲れ様ですぅ」

にこっと微笑む雪歩。可愛い。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/07/04(土) 23:45:48.90 ID:d+TAySjJ0<> P「お待たせ。じゃああとちょっとしたら事務所出ようか」

実は事務所を出て数分歩いたところに765プロ専用のレッスンスタジオを設けたのだ。

夏ライブが成功し、みんなの仕事も増えてきたおかげである。

というわけでそこへ行き、一対一でレッスンすることになった。

到着すると雪歩は鼻歌をまじえながら、にこにことストレッチを始める。

P「どうした雪歩。何か良いことでもあったの?」

雪歩「はい! こうしてプロデューサーとレッスンできるので良かったです!」

彼女は変わった。

前までは気弱で、いつもおどおどしてて、自分をうまく表現できないし、男の人が苦手な女の子だった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/07/04(土) 23:46:59.91 ID:d+TAySjJ0<> それが今やハッキリとものを言うことができ、男性相手にも物怖じしなくなり、相手の目を正面から見据えることのできる強い女の子になった。

唯一変わらないものと言えば、彼女の素敵な笑顔だけだ。

俺は不覚にもそのストレートな彼女の思いと屈託ない笑顔に胸の動悸が激しくなり、なかなか収まることがない。

それはいつも思う、可愛い、という一言で表すには難しいもので、今すぐにでも抱き締めたい衝動に駆られる。

しかし俺はありったけの理性でそれを押さえ込み、その気持ちがただ一時的なものであると思い込むことにした。

雪歩「プロデューサー?」

P「え? あ、なな、何?」

雪歩「いえ、ボーッとしてたみたいだったので……」

P「ああ、何でもないよ」

目を合わせずに誤魔化して俺も着替えることにした。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/07/04(土) 23:47:47.36 ID:d+TAySjJ0<> P「自主練っていつも何やってんだ?」

雪歩「えっと……最初は筋トレやります」

P「おお、基礎は大事だぞ」

だから最近、雪歩は筋トレで死にかけの状態にならなくなったんだ。

P「じゃあ俺は補助しよう」

雪歩「あ、お願いします」

そう言ってちょっと後悔した。

備え付けのマットを引いて腹筋をするとなると、その補助といえば対面に座って相手の足を押さえるものだ。

自然、距離は近づく。むしろゼロ距離と言ってよい。

さっき押さえ込んだばかりの雪歩への感情はまたしても高ぶってきた。

雪歩「あは、あはは…………。何か緊張してきたかも……」

雪歩の方も距離の近さに驚いているのか、そんなことを言った。

P「と、とと、とりあえず始めよっか……」

雪歩「は、はいぃ……」

奇妙な緊張感が俺たちを覆い始める。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/07/04(土) 23:49:26.83 ID:d+TAySjJ0<> P「そうだ。何回やるの?」

雪歩「えっと、いつもは30回を3セットやってます」

P「じゃあそれでいこう」

必要な会話をすることでこの空気を打破しようと試みる。現にさっきよりも意識しなくなった。

……だが。

雪歩「……んっ! ……ふぅっ! ……んぅ!」

上体を起こす度に吐息を漏らし、白い肌は徐々に赤みを帯び、必死ながらもどこか色っぽい雰囲気を纏い始める。

P「21…………22…………23……」

俺は無機質に数を数えるだけ。

背筋を鍛えるときも足にまたがって押さえる。

雪歩は相変わらず必死な吐息を漏らすので、俺も気が気ではない。

腕立て伏せは一緒にやったが、これは向い合わせでやるのが失敗だった。

前を向くと彼女の動きやすそうな服の中が覗けてしまい、集中できない。

3セット目となるとさらに上気した頬、汗で肌に少しだけ張りつく運動着、抑えようとせずに漏れ出る声。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/07/04(土) 23:51:12.54 ID:d+TAySjJ0<> 雪歩「疲れましたぁ……」

P「…………お疲れ様」

俺も疲れたなぁ……。主に心労だけれども……。

P「ちょっと休憩しようか」

雪歩「はい」

P「今日は何時まで練習するの?」

雪歩「お食事が6時頃なので、3時くらいでしょうか」

P「3……!?」

もちろん午後の3時のことなのだが、今はまだ11時だ。

陰でこんなに努力してるとは思わなかった。

P「いつもそんなに練習してたのか……」

雪歩「はい、練習しないと置いてかれちゃうので……」

話せば話すほど健気な子だ。

みんなの足を引っ張らないために、みんなに負けないために辛いことでも頑張る姿は人として美しい。

雪歩の表情からは少しの焦りと陰りが窺えるが、それと相対するように瞳からは輝きが放たれている。

俺はそのように思えてしかたなかった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/07/04(土) 23:54:56.08 ID:d+TAySjJ0<> しばらく休憩した後、発声練習と今度のお芝居の練習を同時にやることにする。

実は彼女、今度、舞台のキャストを務めることになったのだ。

雪歩『私、あなたがいなければ何もできないんです』

もの悲しく、儚げな雰囲気を纏って雪歩は演じる。

雪歩『けれど、私、病弱でしょう? あなたの負担になるくらいならいっそ……』

雪歩の演じる女性は小さな頃から身体が弱く、彼女を支えてくれる男性とのやり取りのシーンである。

俺は雪歩の演技指導も初めてだったもので、見ていて正直驚いた。

雪歩『いやっ!! ……私のためにあなたが先に逝ってしまわれるなんて、嫌ぁ!!』

特にこのシーン。男性に負い目を感じていた雪歩演じる女性が彼の死に関わる場面だ。

涙を流して叫び、狂ったような姿は普段の雪歩からは想像もできないような名演技。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/07/04(土) 23:55:53.56 ID:d+TAySjJ0<> 雪歩「……ふぅ。……どうでしたか?」

数拍置き、目元の涙を拭って俺に笑顔で振り返る。

やりきった表情、それにおそらく人に初めて見せる演技なのだろう、少しばかりの羞恥によって頬を染めていた。

俺はしばらくその顔を見ていた。いや、きっと見惚れていたのだ。

まさか雪歩にこんな才能があったなんて……。

もしかしたら、努力の賜物かもしれない。

P「すごいな。ビックリしたよ。名演技じゃないか」

雪歩「ありがとうございます。大切な人を思い浮かべながらやると上手くいくんです」

雪歩はきゅっと両拳を握って満面の笑顔を浮かべる。

俺は何故かそのまっすぐな瞳を直視できない。不意に逸らした顔は次第に内側から熱を帯びる。

雪歩「あの……」

心配そうに覗き込む雪歩に対して、俺は飛び上がりたくなるほどの驚きで焦ってしまう。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/07/04(土) 23:57:08.20 ID:d+TAySjJ0<> 雪歩「だ、大丈夫ですか?」

P「だ、だだだ大丈夫!」

雪歩「顔、赤いですよ……?」

P「やー、ちょっと暑いよねぇ」

雪歩「そうですか? 冷房効いてるはずじゃあ……」

冷房は効いてるんだけど俺の全身からはどうしようもなく汗が滲んできていた。

P「そだ! 次は何するの?」

雪歩「そうですね。次はダンスのレッスンをやろうかなと思います」

P「ダンスか……。せっかくだし二人で合わせてみるか?」

雪歩「いいんですか?」

P「ああ、ちょっと体動かしたいし」

雪歩「あまり無理しないでくださいね?」

P「おう」

とは言っても心臓の大きな鼓動は収まっちゃいない。

体を動かして少しでも気を紛らわせたいと思ったのだ。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/07/04(土) 23:58:19.97 ID:d+TAySjJ0<> けどダメだ。どんどん意識してしまう。

一緒に踊ることを今さらながら後悔した。

自然と近い距離になるし、息を合わせなきゃいけないので相手の顔を窺わなければならないしで、あろうことか俺の方が多くのミスを重ねた。

P「……ごめんな雪歩。足引っ張って……」

雪歩「そんなに落ち込まないでください。今日はたまたま調子が良くなかっただけです」

心配しつつも笑顔で答える雪歩にまた体温が上がる。

これはもう疑いようも無かった。

以前の自分を顧みてみると、しょっちゅう雪歩のことを思い浮かべる自分がいた気がする。

雪歩のスケジュールを過度にチェックしていた自分がいた気がする。

今もずっと雪歩に視線を向けている自分がいる。

雪歩と目が合うとすぐに顔を逸らして体温を上昇させる自分がいる。

ほら、アイドルとプロデューサーだからって、それも人と人だ。

彼女への好意を隠しきれない自分がいて、それに気づいてしまった自分もいる。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/07/04(土) 23:59:23.69 ID:d+TAySjJ0<> 気が付けば雪歩のことを後ろから抱きしめる俺がいた。

雪歩「ぷ、ぷろでゅーさー……?」

困惑した顔をこちらに向けて、どうしたんですか? と上擦った声で尋ねる雪歩。

P「…………」

雪歩「あの……」

俺の腕の中にはみるみるうちに頬を真っ赤に染める雪歩がいて、俺は後先も迷惑も考えないで俺の気持ちを伝えるのだ。

P「好きだ……」

ムードなんて無いし、最低の告白になったんじゃなかろうか。

気持ちを伝えることで冷静になっていく頭は次第に罪悪感のサイレンを鳴らしてきた。

P「……!! ご、ごめん! 今のは……っ!!」

忘れてくれ。

そう言おうとする口を塞がれる。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/07/05(日) 00:00:30.39 ID:sF6EZjCJ0<> 雪歩は俺の頭に手を回して引き寄せると同時に、めいっぱい背伸びをして彼女の唇を当てられる。

ずっと、長い長い時間、そのままの状態が続く。

気づけば彼女は目を閉じていて、俺も目を閉じていた。

雪歩「んぅ……んぅ……」

小さく小さく漏れる吐息に少しばかりの苦しさが伺える。

それを払拭してあげようと、俺は無理して背を伸ばしている彼女の腰に手を回す。

自分自身も腰を落として彼女が辛くないような体勢でやや上から口づけを交わす。

俺は腰に、雪歩は頭に回していた手を徐々に腕の方へ持っていくと、当然であるかのように指を絡めて手を繋ぐ。

そうして同じ体勢で時間が過ぎていく。

いや、時間なんて概念があったのか忘れてしまうほどに俺の感情は昂っていた。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/07/05(日) 00:02:05.98 ID:sF6EZjCJ0<> ようやくお互いの顔が離れる。

雪歩「はぁ……はぁ……」

でもそれは、ほんのわずかな距離であって、すぐにお互いを求め合った。

雪歩「ん……ちゅっ…………んぅ……んむ……ちゅ……」

今度は短いキスを何度も交わす。

雪歩「ちゅ……ぷろりゅぅさぁ……んっ……ちゅっ……」

とろけた様な眼差しは俺の視線を掴んで離さない。

声も舌足らずなものに変わり、彼女のか弱さが増したように思う。

それと比例するように雪歩とのキスはどんどん激しさを増していく。

俺は雪歩の口内に舌を入れると、彼女の声もさらに官能的になった。

雪歩「んうっ……れろ……ちゅむ……ちゅぱ…………」

顔を離すと、ふあぁ……と口から糸を引きながら吐息を漏らした。

そのまま言葉も無く、強く抱き合う。

しばらくして落ち着くと、壁際に設置されている室内用のベンチに腰掛けた。

続いて沈黙。

……あー、やっちまった。

アイドルとキスしてしまった。

俺は何とも言えない罪的な意識にとらわれる。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/07/05(日) 00:03:05.27 ID:sF6EZjCJ0<> 雪歩「プロデューサー」

彼女の声に振り返る。

潤んだ瞳で口元を抑える雪歩の顔は紅潮していた。

その唇を撫でる仕草がいやらしいというか……こちらまで強く意識してしまう。

俺は雪歩に視線を向けて続きの言葉を待った。

雪歩「私も……プロデューサーのこと、好きなんだと思います……」

さらに真っ赤になる顔を見て、思わずそっと肩を抱き寄せる。

小さく声を漏らすと、上目づかいでこちらを覗きこむ雪歩。

雪歩「男の人はまだ苦手ですけど、プロデューサーは全然嫌じゃないです。むしろ……」

そうして雪歩は言葉を切った。

続きが気になるが、聞こうとは思わなかった。大体予想はつく。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/07/05(日) 00:10:38.91 ID:sF6EZjCJ0<> P「……俺でいいのか?」

キスしといて言うのもなんだけど……。

雪歩「プロデューサーじゃないとダメです。プロデューサーだから私、ここまで変われたんです」

P「俺じゃなくても、きっと雪歩は変われたよ」

雪歩「ううん。違うの。プロデューサーだったから……」

一度目を伏せ、次に見せたにこやかな表情に俺の心臓が跳ね上がる。

雪歩「プロデューサー……愛してます」

じんわりと目の奥が熱くなる。

俺はただその言葉が欲しかったのかもしれない。

もちろん誰でもいいというわけではない。

俺が好きになった相手だから、俺も同じように愛する相手だから……。

雪歩「な、何で泣いてるんですか!?」

P「……いや、違うんだ」

何でかうまく言葉にできなず、ただ、彼女の『愛してます』が頭の中で何度も何度も反芻している。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/07/05(日) 00:11:14.54 ID:sF6EZjCJ0<> P「うん。……俺も、愛してる」

雪歩「……プロデューサー」

俺はわからなかったのだ。

人に愛されたことが無いと思い込んでいた俺には人の温もりがわからなかったのだ。

そうして、ようやく、今になってそれを実感することができているんだろう。

今までで、知らない感情があるとは思わなかった。

雪歩「もう一度……」

P「え?」

雪歩「もう一度、キスしてもいいですか?」

あれ? 雪歩ってこんな大胆な子だっけか?

P「え、あ、ああ……」

そんな戸惑いの肯定を返すと、雪歩はゆっくりと近づいてくる。

とろけた様な瞳に、汗の少し混じった鼻腔をくすぐる香りが、俺の神経を敏感にさせる。

ここからは割愛。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/07/05(日) 00:12:08.11 ID:sF6EZjCJ0<> そのあとも、もう一度、もう一度とキスをせがまれ、結局30分くらい経っていた。

最後の方、自主レッスンはおざなりになってしまった。

というか終始、イチャついていただけのように思える。

レッスンは終わり、今日はこのあと765プロでお食事ということになっている。

久しぶりにみんなで食事会をするので、社長がそこそこお高いレストランを予約してくれた。

そこそこお高いが別に騒げないわけではないのでアイドル達も十分に楽しめるだろう。

P「あ……予定の時間にちょっと間に合わないかも……」

雪歩「じゃあ私が連絡しておきますね」

P「うん、助かる」

そして到着するとみんなから、いきなりの質問攻めだった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/07/05(日) 00:12:55.14 ID:sF6EZjCJ0<> 真美「ねえねえ兄ちゃん! どうしてゆきぴょんと一緒にいんの!?」

伊織「そうよ! 一緒に来るなんて疑われてもしょうがないわよ!」

P「いや、たまたまそこで拾っただけだって……なぁ、雪歩……?」

雪歩「う、うん……そうなの、さっきそこで偶然会っただけで……」

響「なーんか、怪しいぞ……」

あずさ「うふふ……もしかしたら、付き合ってたりして〜」

あずさの一言で俺の背から冷や汗がどっと流れた。

一般的な冷やかしとして、考えてなかったわけではないが実際言われるとどうしようもないくらいに頭が真っ白になってしまう。

ちらっと雪歩に振り返ると、彼女もまた何て返せばいいかわからないような表情をしていた。

俺たちが言葉に詰まるといよいよ他のアイドルたちも、先ほどのような冷やかしではなくなる。簡単に言えば、声のトーンがマジだった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/07/05(日) 00:13:32.52 ID:sF6EZjCJ0<> 高木「君、その話は本当なのかね?」

高木社長が鋭い眼差しで俺を見る。

この人、俺がアイドルに手を出したからすごく怒ってるに違いない……。

俺は人生最大のピンチを迎えているに違いない。

家を追い出される時より絶望を感じている。

こんなにも雪歩のことが好きなのに……。

しかし今ここでずっと黙ってるわけにもいかない。

俺はようやく、はい、と掠れた声を絞りだした。

雪歩も悲しそうな顔で俺のことを見つめてくる。

社長は動かずにまだ俺のことを睨みつけてるようだった。

が、すぐに顔を綻ばせると大きく笑いだした。

その様子に唖然としたのは俺たちだけではなく、他のアイドル達も同様だった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/07/05(日) 00:14:26.92 ID:sF6EZjCJ0<> 高木「いやぁ、良いことじゃあないか! 君たちは相思相愛なのだろう? だったらこれほど素晴らしいことは無い! お互いが支え合って、末永く幸せに過ごしたまえ!」

P「は? いいんですか? だってアイドルとプロデューサー……」

高木「ん? いつ私が恋愛禁止と言ったんだ? 君たちの想いを尊重してやる方が私は大事だと思うんだがな……」

驚いたというか、呆れたというか……とにかく度肝を抜かれたのだと思う。

他のアイドルはぶーぶーと愚痴っていたが、社長の態度は変わらなかった。

ああ、この人についてきて良かったと心の底から思った瞬間だった。

高木「なぁに、彼に思いを寄せる他のアイドル諸君も励みたまえ! まだ彼を振り向かせるチャンスはいくらでもあるじゃないか!」

何言ってんすか社長……そんなアイドルいるわけないですよ。

この日、アイドル達からのボディタッチが多かったのはきっと気のせいだ……。

それを見て雪歩がぴったりと俺に身を寄せてたのが可愛かったです。

まあ他の子たちの視線も痛かったんだけど……。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/07/05(日) 00:16:20.69 ID:sF6EZjCJ0<> それから数日経った。

俺と雪歩は事務所内でもあまり遠慮せずに接するようになったが、誰かに見られると注意されることもよくある。

特に律子と伊織に見つかったら30分のお説教タイムが始まる。

まあ、そんなことはどうでもよくて……それより大事なのは今日、デートへ行くことになっているということだ。

そんなこんなで待ち合わせ時間の30分前に到着。

しかし、すでに雪歩はいた。

P「お待たせ。早いね」

雪歩「いえ、さっき来たばかりですから」

夏から秋への季節の変わり目だがまだ気温はやや高い。

雪歩は白のワンピースの上に肘あたりまでの長さがあるポンチョを羽織っている。

頭には麦わら帽をかぶり、涼しげな雰囲気の格好だ。

顔立ちもよく、アイドルも板についてきたのかオーラを纏っていて、道行く人の目を引いている。

可愛いでしょ? うちのアイドルで、俺の……。

P「じゃあ行こうか」

手を差し出す。

雪歩「はい」

穏やかに言って、彼女は手を取った。

『雪歩』   終わり
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/07/05(日) 00:22:36.84 ID:sF6EZjCJ0<> 近いうちとは一体……(一ヶ月)

我ながらあっさりとした雪歩エンドでした。
なかなか展開が思いつかなくて短くなっちゃったね。
反省点多し。
次回も期間空きます。期待せずに待っててください。 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/07/05(日) 01:39:18.55 ID:7equIOhMo<> 乙
待ってた待ってる <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/07/05(日) 02:58:32.37 ID:1R2RMpUuo<> 書いてくれるならいつまでも待ってる <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/07/08(水) 00:31:56.72 ID:G/FUDViQO<> 私待つわ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/07/08(水) 00:50:50.73 ID:5qe4gbeJo<> 乙
諦めなくてよかったぜ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/07/09(木) 06:33:30.86 ID:Wk/A6lXAO<> もっもっ(いつまでも待つわです <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/08/03(月) 23:08:12.47 ID:DWyRS28L0<> そろそろな <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/08/04(火) 04:58:24.88 ID:+FO+qYSAO<> もっ(いおりさんルートもまっています <>
◆K6RctZ0jT.<>saga sage<>2015/08/07(金) 17:24:52.23 ID:o9KYckuN0<> 生存報告です
一週間以内には更新する予定 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/08/11(火) 12:06:39.28 ID:SeLiPZbSO<> 一週間座して待つ <>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/08/13(木) 23:05:05.04 ID:Qf8kntCB0<> 『あずさ』

最近、ちょっと困ったことがある。

あずさ『もしもし、プロデューサーさんですか?』

P「……あずさ、またか?」

あずさ『すみません、またです〜。ここがどこだかわからなくて〜』

それはあずさが道によく迷うということだ。

いや、普段から道に迷ってばかりで、その都度、事務所や俺、律子に電話がかかってくるのだが、ここ最近は特に多くなった気がする。

そうすると、決まって俺が迎えに行くことになるのだ。

律子は運転ができないからな。免許取得中だとさ。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/08/13(木) 23:06:02.98 ID:Qf8kntCB0<> ところで、なぜかガヤガヤとした喧騒の中にあずさはいるみたいだ。

P「……何が見える?」

俺は小さくため息をついてから尋ねる。

これを聞けば、大体居場所がつかめる。たいして遠くへは行ってないのだ。

一度、名古屋に行ってたことがあるが、それはカウントしたくない。

いつも、ちゃんと地図を見ろと言っているのだが、どうして道に迷ってしまうのか……。

あずさ『えーと……カーブになってる建物が見えます〜』

間延びした調子で答えて、きゃっきゃと笑う。実に楽しそうなのはなによりだが、こっちの身も考えてほしい。

それにカーブの建物って、なんだそりゃ?

P「うん、他には?」

あずさ『あと、でっかいビルがいっぱいあります』

あずさはまたしても笑って答える。喧騒も多少気になってきた。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/08/13(木) 23:06:44.00 ID:Qf8kntCB0<> 全然、割り出せない。俺は再び、他には? と促した。

あずさ『観覧車と大きな船と大きな広場』

う〜ん。近場にそんな場所あったか?

相変わらず、電話の向こうからは笑い声の絶えないあずさと喧騒が広がっているようだ。

P「というか、今何してんの? そっち騒がしくない?」

あずさは、えっ? 何て言いましたか〜? と聞き返してきたので、声を少し張ってもう一度尋ねた。

あずさ『今はパーティーに参加してます〜』

パーティーね。なるほど、どうりで楽しそうで騒がしいわけである。……ってことは屋内にいるのかな?

P「今、建物の中なの?」

あずさ『いえ、外にいますよ〜』

何言ってるんですか〜? と愉快そうに笑うあずさ。

と、俺はここで気づく。いくらなんでも笑いすぎでは?

P「ちょっと待ってて……」

そう言って俺は電話の保留ボタンを押した。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/08/13(木) 23:07:19.50 ID:Qf8kntCB0<> P「小鳥さん」

小鳥「はい、どうしました?」

P「今日って何かお酒のイベントありましたっけ?」

小鳥「いえ、そんなお仕事は無いはずですよ?」

P「あー、そうじゃなくて、都内かどこかでそういうイベント」

小鳥さんは顎に指を当て、しばらく考えると、もしかしてと、やがて首を傾げながらもこちらに振り向いた。

小鳥「今月は10月なのでオクトーバーフェスのことですかね?」

P「それですよ」

俺は急いで目の前のパソコンでインターネット検索をかけた。

確かにヒット。オクトーバーフェスっていろんなとこで行われてるんだな。さすがはお祭り大好き日本人。

あずさの情報からも横浜にいる可能性が高そうだ。赤レンガ倉庫前。

俺は保留にしていた電話を急いで通話状態に戻したが、すでに通話は切れていた。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/08/13(木) 23:08:58.69 ID:Qf8kntCB0<> そのあと何度か電話をかけてみたが全く取ってくれない。楽しんじゃってるのね。

あずさはもう仕事帰りだったからよかったものの、正直業務中に呼び出しをくらうこっちの身としてはたまらない。

P「うんと説教してやる」

自分だけ楽しんじゃってさ。まだ業務も残ってるのに……。

小鳥さんは、ビールいいなぁ、とか呟いていたけど、あずさを迎えに行った時に飲んでくればいいと提案したら、きっぱり断られた。

運転していくのだからアルコール類が飲めないのは当然である。つまり行き損になること請け合いなのだ。

小鳥「じゃあ行ってらっしゃい。プロデューサーさん」

俺は大仰にため息をついてげんなりと小鳥さんを見た。

小鳥「そんな顔してこっち見ないでくださいよ」

P「あー、はいはい行ってきますよ。まーた残業決定だよ」

ちなみに律子は亜美真美の現場に行っているとのことだ。竜宮小町なんだからお迎えも律子に行ってほしい。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/08/13(木) 23:10:07.61 ID:Qf8kntCB0<> 俺は頭を振ってそんなネガティブな思考を振り払う。あずさもまた俺の大事なアイドルで、恩人なのだから。

けど、これじゃただの芦だな。優しいのと甘やかすのは違うからねぇ……。

またしてもネガティブなことを考えながら、事務所を後にするのだった。

小鳥「なんだかんだ言いながら迎えに行ってあげちゃうんだから、プロデューサーさんってお人好しよね」

小鳥はそう独り言を呟いて、小さく笑った。

俺は事務所から車を出す。

それにしても横浜か。ここから結構距離あるな……。

俺はまたうなだれた。

運転してから1時間ほどで大きな車の流れが反対車線に見えてくる。

横浜方面から東京へ流れてくる車両たちを見て、お酒飲んだ人たちかな? と思ったが、それじゃあ飲酒運転だ。

まさかそんなことをする人がいるはずもない。飲酒運転ダメ、絶対。

そんなどうでもいい考察をしつつ、我がアイドル達の曲を聞きながら俺は目的地を目指した。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/08/13(木) 23:11:28.63 ID:Qf8kntCB0<> 横浜の案内板を見つけて高速道路を抜ける。

高速を降りてからしばらくするとカーブした建物、大きな広場や観覧車が見えてきた。

P「確かにあったな。……ここら辺に停車しておこう」

停車禁止の標識がないことを確認してから、車を停車させ、あずさに電話をかけた。

P「やっぱり出ないのか……」

あずさが応答しないことに様々な憶測が駆け巡り、一気に不安が募る。

俺は車から飛び出し、人波をかき分けてあずさがいると思われるフェス会場にやってきた。

P「あずさ!! どこだ!!」

大声を出したことで周りから奇異の目線を向けられるが、構わずに叫んだ。

P「あずさ!! あずさっ!!」

何かあったら冗談ではない。こっちも彼女を預かっている身だし、俺にとっても大切な人なんだ。

人混みをかきわけて、会場内をあっちへこっちへ走り回る。

人とぶつかり、睨まれ、罵詈雑言を浴びるが構わない。

お前たちとはもう会わない、と自分に言い聞かせてあずさの名を呼ぶ。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/08/13(木) 23:12:17.70 ID:Qf8kntCB0<> あずさ「……プロデューサーさん?」

騒がしい中、彼女のいやにまどろっこしい声が俺にしっかりと届いた。

あずさ「やっぱり! プロデューサーさんも黒ビール、飲みにいらしたんですね〜」

俺は脱力した。にこにこと幸せそうな笑顔を浮かべるあずさを見て、心配した自分が馬鹿馬鹿しく思えたのだ。

腹の奥がじわっと熱くなり、その熱は瞬く間に頭へと昇っていった。

俺は肩を大きく揺らしながら速い歩であずさに近づき、彼女の両肩を乱暴に掴んだ。

あずさのやんわりとした笑顔はみるみるうちに青く硬直していった。

P「お前! 俺がどれだけ……!」

心配して……、そう言いかけたが、彼女の青ざめた表情を見て俺は思いとどまった。

あずさは今度は顔を紅潮させて涙目になり、俯く。

一気に冷静になったのは俺だ。

彼女はもう大人だ。電話が来た時に俺が突っぱねればよかったのだ。一人で帰ってこいと。

それなのに来てしまったのは俺だ。何も怒る権利まであるわけがない。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/08/13(木) 23:13:19.30 ID:Qf8kntCB0<> P「いや、怒鳴って悪い。外で待ってるから充分楽しんだら連絡してくれ。俺は車だから飲めないんだ」

努めて優しく言ったつもりだ。お人好しで来ておいて怒るなんてお門違いだ。

顔を上げたあずさの目元はさっきよりも少し赤く、その目は忘れていた締め切りが過ぎたことを思い出したかのように見開いていた。

あずさ「ごめんなさい、プロデューサーさん。私もすぐに帰ります」

そう言ってあずさは自分の荷物を取りに戻っていった。

せっかく彼女は楽しい思いをしていたのに俺はぶち壊すことなんかして申し訳がなかった。

「あれ、あずさちゃんもう帰っちゃうの?」

自分に対して嫌悪感を抱いていると、そんな声が聞こえてくる。

どうやら、会場で出会った人とお酒を交わしていたらしい。

声の方を見ると複数の男性があずさを取り囲んでいる。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/08/13(木) 23:13:57.13 ID:Qf8kntCB0<> あずさ「はい。お迎えが来ましたので……」

ばつが悪そうに言ってこちらを窺う。

その視線を周りの男どもも捉えたようだが、構わずにあずさを引き留める。

「いいよ、いいよ。俺たちが送ってあげるからさぁ、もっと飲もうよ!」

あずさ「で、でも……。明日もお仕事ありますし、私はそろそろ……」

「いやいや、大丈夫だって!」

なかなかにしつこい。俺の姿を認めても引こうとしないし、助けに行った方がいいのではないだろうか……。

あずさの方もかなり困っている。

あずさ「いえ、帰ります」

しびれを切らしたのか、さきほどよりも強い調子ではっきりと言い、踵を返そうとしたとき、不意に彼女の肩が抑えられる。

短く悲鳴を上げて体勢を崩すあずさ。

男は持っていたジョッキを机に置いて、無理やりあずさを振り向かせたのだった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/08/13(木) 23:14:57.66 ID:Qf8kntCB0<> 俺の中で激しく警鐘が鳴り、瞬時に走り出していた。

他人が大事なアイドルに軽々しく触れたことと、男の顔があずさの顔に近づくのを見て、さらに足と拳に力が入る。

露骨に嫌がり、自分の手で相手の頬や頭を押し返そうとするあずさ。

しかし、男性に比べて非力な女性では力及ばず、男の舌があずさの首筋を這った。

瞬間、俺はその男の顔面を思い切り殴り飛ばしていた。

周りの人を巻き込みながら吹っ飛ぶ男。その様子を見て固まる周囲の取り巻きと別グループの人間たち。

俺はそいつらには目もくれず放心したあずさを抱えて、フェス会場から逃げ出した。

P「どいて!! どいて!!」

大声で喚き散らすと、何事かとざわめいた客は素直なことに道を開ける。

急いで停車中の車に戻り、エンジンをかける。あずさも放心したまま後部座席に乗り込んだ。

俺はそれを確認して、車を出す。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/08/13(木) 23:15:31.25 ID:Qf8kntCB0<> 幸い、誰が追ってくることもなく、大きな騒ぎにはならなかったようだ。

あずさに気づいた人もいなかったみたいで、このあとSNSで拡散されることもなかった。

車内は無言だった。いや、しばらくしてあずさのすすり泣く声を聞いた。かける言葉が見つからなかった。

P「さ、着いたよ」

気が付けばすでに事務所に着いていたので、やっとのことで言葉をかけることができた。

あずさ「はい、ありがとう、ございます」

彼女の方もやっと言葉をつむぐことができたみたいだ。

P「……」

しかし、やはり、かける言葉が見つからない。俺は何て言えばいい? 叱ればいいのか? 慰めればいいのか? 答えが見つからなかった。

再び沈黙の中、戻ってきた俺たちを見て、ぎょっとしたのは小鳥さんと高木社長だった。

高木「この世の終わりみたいな顔して、一体どうしたというんだ!?」

小鳥「あ、あの、大丈夫ですか? 何があったんですか?」
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/08/13(木) 23:16:12.05 ID:Qf8kntCB0<> 俺の口から言っていいものかどうか逡巡して、あずさをちらと見る。

彼女は困ったような、今にも泣きそうな、だけれども笑顔を浮かべて、俺の方を見ていた。

なんとなく、俺は席を外した方がいいと思った。彼女の表情がそうしてほしいと言っているみたいだった。

P「大丈夫なのか?」

俺は事務所のドアに振り向きながらあずさに問う。

あずさは一つ頷き、弱弱しく、はい、と答えた。

俺は事務所を出て、屋上へ続く階段を上る。

すでに空は黒に染まり、覆う雲が綺麗な闇を濁らせる。月は光を漏らすことすらせず、目を凝らすと流れていく雲海が果てしなかった。

鉄柵を軽く殴り、視点を落とす。人通りは少なく決して賑やかではないが、車の通りが多いせいか騒音が耳に障る。

このままでいたいとは到底思えないこの場所に、俺は小一時間つっ立っていた。

屋上の扉が開いて俺の名前を呼んだのは小鳥さんだった。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/08/13(木) 23:16:58.79 ID:Qf8kntCB0<> 小鳥「内容の方は把握しました。プロデューサーさん、お疲れ様です」

P「ええ、それで、あずさは?」

小鳥「泣き疲れて、寝ちゃったみたいです」

なんだそれは、子供か。

小鳥「いっつも嫌な役を押し付けてしまってごめんなさい」

P「いえ、小鳥さんが謝ることではないですし、今回ばかりはしかたないです」

そう言った自分が心底嫌になった。

P「俺がもっと近くにいれば、こんなことには……」

あの時、自分の感情をしっかり制御できていれば、あずさは悲しまずに済んだのだと思うと、後悔どころの話ではない。

小鳥「それと今後について、詳しい話は社長からお話しするそうです」

P「これからのこと? 律子には?」

小鳥「律子さんには明日の朝にお話しします」

何かしらの謹慎処分だろうか……。という俺の予想は見事に……いや、残念なことに当たった。

高木「三浦あずさくんは一週間、自宅謹慎ということにするよ」
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/08/13(木) 23:17:34.59 ID:Qf8kntCB0<> P「すでに入ってる仕事は?」

高木「それは休まずにこなしてもらう。だから再来週の月曜日から一週間が彼女の自宅謹慎期間だ。それと、お酒もね」

P「あの、俺は?」

高木「? 君は特にないよ? これからも他の子のプロデュースに専念してほしい」

あの場にいた俺に監督責任があるのではと思ったのだが、社長の言い分は違った。

あずさはプライベートであの場にいたのだから、責任はすべてあずさ自身にあるのだと言う。

俺に関しては、よく彼女を守ってくれた、だとさ。そんなんじゃないのに。

高木「すっかり遅くなってしまったね。今日はあずさくんを送っていってくれないか?」

P「はい。お安いご用です」

実際、俺にできることと言えばそれくらいのものだろう。

俺が踵を返そうとすると、社長が、それと、と付け加えた。

高木「あずさくんのわがままも聞いてやってほしい。今日の一件でだいぶ傷心してしまったようだからね」

P「はあ……」

俺は曖昧に返事をして部屋を出た。

それにしても、あずさはわがままなんて、あんまり言ったことないんじゃないか。今日みたいに好き勝手やるけど。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/08/13(木) 23:18:00.42 ID:Qf8kntCB0<> 眠っていたあずさを起こして車に乗せる。

P「じゃあ、帰ろっか。あずさの家まではちゃんと行けるから道案内しなくていいぞ」

あずさ「お願いします……」

彼女はまだ立ち直れていない様子だった。

車内は再び無言のまま、彼女の家にたどり着くまで、無機的な光とエンジン音が入り込むだけだった。

P「ほら、着いたよ」

俺は停車し、運転席から降りる。後部座席に座っていたあずさを降ろして、玄関の前まで連れてくる。

P「結構いいマンションだな。今度は変なやつに絡まれんように気ぃ付けろ」

あずさ「プロデューサーさん、今日はありがとうございました。ご迷惑おかけしました」

P「……ああ」

本当だよ、という言葉は飲みこんだ。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/08/13(木) 23:23:45.24 ID:Qf8kntCB0<> 心配したり、呆れたり、少し腹も立ったけど、大事には至らなくてよかった。少しばかり安堵が勝った。

P「じゃあ、またな」

そう言って引き返そうとしたが、左手首をくっと握られる。

P「……どうした?」

俺はきっと怪訝そうな目を向けていたに違いない。

しかし、彼女の潤んだ瞳と紅潮した顔を見て少し気を引き締めた。

あずさは、あの、その、と言い淀むが、握られた手首はより強く握られる。

あずさ「プロデューサーさん。今日のこと忘れさせてください……」

P「はい?」

まるで訳が分からず、聞き返してしまう。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/08/13(木) 23:24:11.77 ID:Qf8kntCB0<> あずさ「男の人に、その、な、舐められて、すごく嫌な感じでした」

まあ、そりゃそうだろう。俺だって初対面の人間に首を舐められるのは嫌だ。

あずさ「だから、あの、プロデューサーさんが上書きしてくれたらな〜って……」

P「はい?」

一瞬理解できなくて大層な間抜け面をしていたと思う。目の前のあずさはさらに頬を赤くさせ、もじもじと落ち着かない。

俺は頭が痛くなった気がして、こめかみをそっと抑えた。

ようやくして、口を開くことができた。

P「あー、それはお前のわがままか?」

あずさ「……はい。勝手なこと言ってるのはわかってます」

しばらくお互いが喋らない静かな時間が続いた。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/08/13(木) 23:25:33.78 ID:Qf8kntCB0<> あずさ「……やっぱり、ダメですよね……。ごめんなさい、本当に勝手なことを……」

首元を軽く抑えて、申し訳なさそうに、あるいはとても残念そうにこちらに眼差しを向けるあずさ。

無理に作った笑顔が今にも決壊しそうなほどで、口端はひくひくと痙攣している。

俺は観念した思いをため息と一緒に吐き出した。

P「今日だけな」

そう言うと、あずさは涙を溜めた目をこちらに向け、きょとんとした顔を見せた。

俺はあまり躊躇なく、彼女の手をどかし、顎を上げて首筋に軽くキスをした。

しばらく放心していた彼女だったが、そのきょとん顔のままついに涙を流す。

P「あ、おい、そんな泣くんなら頼まなきゃよかっただろ……」

あずさ「いえ、違うんです。嬉しくて……」

P「…………変なやつ」

あずさ「もうちょっとだけ、お願いします」

P「今日だけだからな……」

誰に言い訳してるでも、譲歩してるでもなく、自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/08/13(木) 23:26:04.88 ID:Qf8kntCB0<> あずさ「このへんです。プロデューサーさんので塗りつぶしてください」

俺の何で塗りつぶすんだよ。そんなことを口に出すのがためらわれ、心の中にとどめておく。

しかたなく俺はあずさの指し示すあたりに顔を近づける。

じっと目が合い、心拍数が跳ね上がる。

やけに色っぽい彼女を目の前にして、ごくりと生唾を飲みこむ。この音が聞こえてないだろうかと、やや不安になる。

P「じゃ、じゃあ、失礼して……」

顔を上に向けるあずさの両肩を優しく抱いて、口を首に近づける。

もう一度キスをした。軽く、優しく、触れる程度に……。

彼女の反応は、あ、と小さく吐息を漏らすだけだったのに、俺の顔はじんわりと火を灯した。

やべぇ……。今はまだ歯止めが効いてるが、いつタガが外れるかわかったもんじゃない。

俺は数秒したのち、あずさから離れた。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/08/13(木) 23:27:12.43 ID:Qf8kntCB0<> P「……これでいいか?」

あずさ「……あの、えっと〜……いえ……ありがとうございます」

あずさの顔は今まで見たことないほど赤くなっており、少し息づかいも荒めだった。

しかし、その反応を見るからに物足りなそうだ。

P「舐めればいいのか?」

あずさ「えっ!? その…………」

俺の愚直すぎる質問に少々たじろぐあずさだったが、控えめに首肯した。

そして消え入りそうな声で、お願いします……と言った。

二度もキスしたことであまりためらいが無くなったのだろうか。俺は何も言わずにすんなりと彼女の首筋に舌を這わせた。

あずさ「きゃっ! …………んんぅ……」

両肩を抱いてた俺の手は、気づけばあずさの後頭部と背中に回っていた。

ほとんど密着してる形になり、ときたま感じる柔らかい感触に俺の行為も少し激しさを増した。

あずさ「うぅ……ぁ…………ぷろ、でゅーさぁ……さぁん」

スーツの肩口をきゅっと強く握られて、我に返った。

P「あ……っと、ごめん。ちょっとやりすぎた」

離れると、あずさの手は緩み、後ろのドアにもたれかかった。

相変わらず潤んでいて、加えて恍惚としてるであろう瞳に吸い込まれそうだった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/08/13(木) 23:27:58.33 ID:Qf8kntCB0<> そして彼女の首を見て、俺の血の気がさっと引く。

P「……」

あずさ「どうか、しました?」

P「本当にごめん……」

あずさ「なんで謝るんですか……? 私がお願いしたことなのに……」

P「その、できてる……」

あずさ「?」

P「キスマーク、できてる……」

あずさ「え? ……えぇっ!?」

調子に乗ってマーキングしてんじゃねーよ、俺! 完全に無意識だった。何やってんだ。

これにはあずさも驚きを隠せない。

あずさ「あらあら〜。うふふっ!」

P「何でそんなにのんきなんだ!?」

あずさ「何でって、それは〜……」

P「これからの仕事どうすんだよ!」

あずさ「……あ」

誰かに気づかれでもしたら厄介なことになるかもしれない。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/08/13(木) 23:29:00.02 ID:Qf8kntCB0<> あずさ「どうしましょう〜?」

俺のせいなんだけど、あずさはのほほんとし過ぎててちょっと腹立つな。若干ニヤケてるし。

しばらく考えて、妙案を思いついた。自分で妙案と言うのもいささか変な話ではあるが……。

P「オッケー、明日は昼空いてるか? 昼頃に事務所近くのカフェでランチだ。そこで何とかしよう」

あずさ「何とか、ですか? わかりました。明日もよろしくお願いしますね」

そう約束を取り付けて、俺は帰ることにした。あずさは嬉しそうにキスマークの部分を撫でていた。

何で嬉しそうなんだ……。お前と俺はアイドルとプロデューサーだぜ?

自分で自分を戒めといて、説得力がないことに気が付いた。

翌日の朝。俺は事務所に早くも出勤していた。時間は七時、ちょい過ぎくらい。

昨日まとめ終わらなかった書類や、企画書などなど、仕事を山積みにして帰ったからだ。

九時頃、ようやくにして二人目出勤。小鳥さんだ。

小鳥「おはようございます。早いですね」

P「ええ、おはようございます。昨日の分が溜まってますので……」

小鳥「あー……それより、昨日あずささんと何かありました?」

P「何かってなんすか? 何にもありませんでしたよ」

小鳥「ほほーう」

彼女は小鳥のくせにフクロウみたいな鳴き声を出して、目を光らせる。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/08/13(木) 23:29:41.04 ID:Qf8kntCB0<> 小鳥「これは何かあっちゃった系ですね!?」

何でわかるのこの人? ただ面倒は増やしたくない。

P「まあ小鳥さんの想像してるようなもんじゃないと思いますけど、ここはあえてご想像にお任せします」

小鳥「そうですかぁ……」

俺の反応がドライだったせいか、一気にクールダウンした小鳥さん。彼女の流す噂が
一人歩きしなきゃいいけど。

しばらく無言でキーボードを打つ。ところで、朝から仕事はなかなかきついものだ。

適度な休息を挟まないと集中力が切れてしまう。

765プロは存外、自由な職場で、アイドルのプロデュースのしかたも、休憩も自由にできる。

俺はだいたい二時間程度で集中力の限界が来てしまうので、その度に休憩をとる。

P「ふあぁ〜……」

毒抜きをするかのようにあくびをして、同時に伸びをする。

小鳥「お疲れですか?」

P「ちょっと休憩しますね」

ソファに寝っ転がって仮眠をとるのも忘れない。うーん、自由だ。そのぶん少人数での作業ではあるが……。

目を覚ませば、きっかり15分だ。そろそろ行ってこようかな。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/08/13(木) 23:30:15.61 ID:Qf8kntCB0<> 小鳥「あ、プロデューサーさん。おはようございます」

P「おはようございます」

小鳥「あれ? 今からお出かけですか?」

P「ええ、ちょっと買い物に行ってきます。何か買ってくるものありますか?」

小鳥さんはしばし考え、特にないです、と結論付けた。

そうして俺がやってきたのはお馴染みのショッピングモール。

お買い物でもイベントでも毎回お世話になってます。

さて、なぜ俺がこんなところに来たのかというと、昨日のあずさの件である。

あの首のマークをどうするかを考え、すぐに閃いたのが装飾で隠すことだ。

そのため朝一でチョーカーを買いに来ている。

「いらっしゃいませー!」

にこやかな笑顔で迎えてくれるショップのお姉さん。こちらもついつい顔が綻ぶ。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/08/13(木) 23:30:59.03 ID:Qf8kntCB0<> 「何かお探しですかぁ?」

P「ええ、女性に贈るチョーカーを探してまして」

「チョーカー……」

一瞬、やや強張った表情になりつつも、取り繕ったように笑顔を素早く貼り付けるお姉さん。

「でしたら、こちらです〜」

ずらっと並ぶチョーカー。商品のスペース自体は小さいが、種類は豊富だった。

P「……じゃあ、これで」

ほぼ即決で商品を指し示す。黒の革地で、紫の花がサイドに装飾された商品だ。一目見てピンときた。

あとは昼食を一緒に食べるときにあずさに渡してしまおう。喜んでくれるだろうか。彼女が付けてくれなきゃ元も子もないから。

休憩としては長いが、お昼になるまであずさを待つことにした。

あずさ「お待たせしました〜」

P「おう、割と早かっだ……げほっ、えほっ!!」

俺がむせかえってしまったのは、あずさが首を隠さずにやってきたからである。

あずさ「だ、大丈夫ですか〜?」

P「……あのな……首を隠せ」

俺はしばらく咳き込んだ後にそう答えた。昨日の時点ではそこまでではなかったのだが、今見てみるとかなり目立つ。

というか、視線が吸い込まれていくと言うか……。どことなく色気が漂ってる。

周囲の男たちの目線があずさを拾って、次に俺を拾って、つまらなそうに元に戻す。悪かったね、俺で。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/08/13(木) 23:32:08.34 ID:Qf8kntCB0<> あずさ「だって、プロデューサーさん。昨日、何とかするって言ったじゃないですか〜」

P「まあそうだけど、ちょっとは隠す努力をしてほしかったよ。なんせあずさはアイドルなんだしな。今はそこまで有名じゃなくても、知名度は上がってるし、もしかしたら気づかれるかもしれないんだ」

気を付けて、と言うと、ちょこっとむっすりした様子で気の抜けた返事をするあずさ。

そうして、ランチを食べにカフェへとやってきた俺たちは、お店の奥の方の席に案内された。

食事を終えると、少々の世間話をして本題へと移る。

あずさ「それでどうやって、どうにかするんですか?」

P「ああ、まずはこのプレゼントを受け取ってくれ」

綺麗に包装されたそれは、四角い箱のような形状だとわかる。

あずさ「あら〜。ありがとうございます。開けてもいいですか?」

P「もちろん」

あずさは受け取った包みを開けると、やはり四角い箱が入っていた。

その中身はもちろん先ほど購入したチョーカーだ。

あずさ「まぁ!」

あらあら〜、と嬉しそうに見つめているのだが、一瞬のうちにあずさはハッと顔をこわばらせる。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/08/13(木) 23:33:16.57 ID:Qf8kntCB0<> あずさ「プロデューサーさん。これって何の目的で買ったのですか?」

P「あ? そりゃあ、首のそれを隠すためだけど」

あずさはうなだれた。怒るでもなく、すっかりと気が抜けてしまったように、口からふわと息をつく。

あずさ「それ以上の意味はないんですね……」

P「ん? 何て言った?」

あずさ「何でもありません」

P「そう。……それな、一目見てあずさに合うだろうなって思ったんだ。今付けてもらっていいか?」

あずさ「私に合う?」

あずさのぴょこっと跳ねている癖っ毛が、ぴょこぴょこと殊更に跳ねた気がした。

そうして一瞬の逡巡の後、持っていたチョーカーを首に巻く。その動作も色気があって、あんまり直視できない。

巻き終わり、じっくりと見てみる。

P「やっぱ俺のセンスに間違いはないようだな。すごくよく似合ってる」

あずさ「本当ですか?」

もちろんさ、と大きく頷く。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/08/13(木) 23:33:58.32 ID:Qf8kntCB0<> P「これでしばらく活動してもらえればキスマークも気にならないな」

そう言うと、あずさはやっぱりどことなくむすっとした表情を見せるのだった。

あずさ「でも、このマークに気づかれてしまったらどうしましょう〜?」

P「虫に噛まれたって言えばいい」

あずさ「ずいぶん大きな虫さんですね」

P「俺を虫扱いするんじゃない。いや、本当に悪いと思っているんだ」

あずさ「別に気にしないでください。あのままの方が嫌でしたから……」

そうかい、と相槌をうって俺は目を背けた。彼女の目を直視できなかった。

P「さ、そろそろ行こう。仕事があるだろ?」

あずさ「はい」

あずさは笑顔でそう言った。

今日は竜宮小町として収録に臨むことになっている。

律子にはすでに、俺があずさを送ることは伝えてある。

現場に到着すると挨拶も無しで口を出してきたのは妹の伊織だった。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/08/13(木) 23:34:51.50 ID:Qf8kntCB0<> 伊織「何でお兄様があずさと一緒に来る必要があるのよ?」

律子は昨日の話を聞かされてるので、複雑な表情で伊織をなだめることしかできないでいた。

P「まあ、訳があってな」

と言葉を濁すも、あんまり効果は無いようだ。

亜美「おやおや〜! いおりんも愛しの兄ちゃんに送ってほしかったのですかな〜?」

伊織「だぁれが愛しよ! あと、亜美はお兄様のこと、に、にに兄ちゃんって呼ぶなぁ!」

亜美「んっふっふ〜! じゃあブラコンいおりんだー!」

伊織「な、なな、何言ってんのよ! このバカ!」

亜美にからかわれてぎゃあぎゃあわめく伊織。

P「ちったぁ静かにしろ」

結局、俺が仲裁に立つことになるのだった。

律子「あれ、あずささん? そのチョーカーどうしたんですか? 普段は着けないのに……」

あずさ「うふふっ、律子さんよく気づきましたね。これ可愛いでしょ?」

俺は一瞬ドキリとしたが、あずさは何事も無いように振る舞った。案外、演技派なのかな?

亜美「本当だ! あずさお姉ちゃんいつもよりせくちぃだYO!」

伊織「よく似合ってるじゃない。いいセンスしてるわ」

そりゃ俺が選んだものですからね。と心の中で胸を張る。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/08/13(木) 23:35:39.31 ID:Qf8kntCB0<> みんなが注目してる中、伊織が少し顔をしかめた。

伊織「あれ? あずさ、ちょっと首見せてみなさいよ」

だから何でお前はそう鋭いところがあるんだよ……。

伊織「なんか赤くなってるわね」

亜美「これってもしかして、キスマーク!?」

亜美はヒュー! と冷やかし始める。

律子は一瞬で形相を変えて俺に向き直る。

律子「プロデューサー、キスマークって一体どういうことですか?」

その相貌はごみを見る目そのものだった。

P「待て律子。それは本当にそもそもキスマークなのか?」

律子「はぁ?」

威圧感漂う雰囲気には亜美も伊織もただ黙るのみだ。俺は背中の冷や汗が止まらない。

P「だから俺は関係無いし、その赤くなった箇所をキスマークって言う方がおかしいと思うのだが……」

律子「それもそうですね。……あずささん、どうなんでしょうか?」

威圧感を引っ込めてあずさに尋ねる律子。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/08/13(木) 23:36:37.51 ID:Qf8kntCB0<> あずさ「実はこれは虫に噛まれてしまって、隠すためにチョーカーを着けてるんです。」

俺の方をちらちらと窺いながら話をするあずさ。その目には若干、俺を責めるような色が浮かんでいるように思えた。

この話を三人とも信じたらしく、それ以上の追及はされなかった。

P「でもゴシップとかに、キスマーク発見! みたいな記事を書かれないように注意しとけよ。そう言う記事を簡単に信じる人もいるんだから」

ごめんなさい皆さん。その赤いの、キスマークなんです。

あずさの視線だけが深く俺の心に突き刺さっていた。

しかし収録は無事に終わり、キスマークについては他の出演者からもツッコまれることは無かった。

P「はあぁぁぁぁ……。何とか乗り切ったな」

俺は大きなため息をつきながら車を運転していた。

あずさ「もうっ! プロデューサーさんってば嘘ばっかりついちゃって……」

隣に座るあずさはぷぅっとふくれっ面を見せている。

P「悪かったって……」

あずさ「でも、いろいろ助かってます。今日、お礼させてください」

一転こちらに向けて笑顔を見せる。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/08/13(木) 23:37:14.98 ID:Qf8kntCB0<> P「はあ、あずさがそう言うなら。断る理由もないしな……。特に俺も何もしていないけど」

あずさ「そんなことはないですよ。プロデューサーさんはしっかり私の支えになっています」

照れくさいけどあずさ本人がそう言うのなら、きっと支えになってるんだろう。

P「お礼って言ってもどうすんだ?」

あずさ「……私の手料理じゃダメですか?」

P「……いや、ダメじゃないけどさ。何度も何度もアイドルの家にお邪魔はできないぞ?」

あずさ「そうですよね。……でも、今日だけお願いします」

そういう言い方するのはずるいんじゃないか? 俺は目を合わせることもできずに、彼女の提案に乗っかるしかなかった。

こういうところが彼女たちに対して甘いんだろうな。律子にもよく睨まれるわけだ。

あずさ「いらっしゃい、プロデューサーさん」

ところ変わって、あずさ邸。……と言ってもマンションだけど。

P「お邪魔しまーす」

昨日も来たんだけどね。……そう思うと恥ずかしさが襲ってくる。

あずさは俺を居間に案内して自分は台所へと向かった。

キッチンで白いフリフリのエプロンを着けてウキウキの表情で料理に取り掛かる。

あずさ「プロデューサーさん。何か食べたいものありますか?」

いやいや、家に帰る前にそういうの相談して食材買いに行くんじゃないのかよ。と俺は呆れてしまった。

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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/08/13(木) 23:37:44.26 ID:Qf8kntCB0<> P「うーん。じゃあ、あずさの得意な料理で」

あずさ「わかりました〜」

快く承諾してくれたあずさだが、果たして買いに行く必要はないのだろうか。気になるところだった。

俺はこのまま何もせずにただあずさの艶やかな髪や、可愛らしいエプロン姿を眺めているだけなのもはばかられたので、彼女のいる台所へ立ち入った。

P「何か手伝うよ。お米炊いたりとか」

あずさ「じゃあ、お願いします〜」

なんとかやることを見つけると、結局二人で料理をする流れになってしまった。そうは言っても、俺はただあずさのサポートをするだけだった。

小一時間で料理は完成し、俺たちは食卓に着く。

P「おぉ、美味しそうですね」

あずさ「ふふっ、プロデューサーさん、口調おかしくなってますよ?」

ついつい敬語になってしまう。手料理を振る舞われることが最近めっきり減ってきたので、こんな時どういう顔をすればいいのか分からなくなってしまった。

彼女が作ってくれたのは肉じゃがだ。いい匂いがする。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/08/13(木) 23:38:37.46 ID:Qf8kntCB0<> P「いただき、ます……」

この言葉も久しぶりに使うかな? 一人暮らしの家では使わなくなってしまった言葉の一つだ。

あずさ「召し上がれ」

こちらの言葉も久しぶり。

俺は料理をひょいと口に放り込んでよく味わう。

美味しかった。次々に箸が進む。

あずさはこちらを見て、にこりと微笑んだ。

何とも言えない不思議な感覚に陥った。

まるで俺とあずさが夫婦であるかのような、子供までいるんじゃないかと思えるような不思議な安心感。

映画のフィルムのように、すでに完成した物語を見ているような……。

気づけば食事は終わっていた。
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◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/08/13(木) 23:39:10.19 ID:Qf8kntCB0<> 憶えているのは、あずさの料理は美味しかったこと。もう一つ覚えているのは、彼女といることが当たり前のようにさえ思える安心感と幸福感。

あずさ「プロデューサーさん、ケーキ食べませんか?」

すでにお皿に移してあるケーキとフォークを持ってきて俺の隣に腰掛けるあずさ。

P「じゃあ、いただこうかな」

イチゴのショートケーキは甘かった。

あずさ「プロデューサーさん」

その言葉に振り向いた。

彼女の唇はもっと甘かった……気がした。

P「……」

あずさ「……」

くっつけるだけのキスはしばらく続いた。
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/08/13(木) 23:39:41.25 ID:Qf8kntCB0<> 最初は呆然唖然としていた俺はなんとか彼女の肩を掴み、引き離す。

そのときのあずさは、目を見開き、少しだけ俺と視線を交わし、困ったように目を伏せるだけだった。

P「アイドルがこんなことしちゃいけないよ」

俺はまっすぐに、合わせてくれないあずさの目を見つめてなお言った。

P「急がなくても、いつまでも待ってるから」

そう言って抱きしめた。

あずさは小さく悲しみとも安堵ともとれない息を漏らし、俺を抱き返してくれた。

あずさ「待たなかったら、後で怖いんですからね……」

彼女はいじけたように言った。

それからしばらくして、最近、ちょっと困ったことがある。

あずさ「ただいま戻りました。プロデューサーさん。……ふふっ!」

それはあずさが迷わなくなったことだ。



『あずさ』   終わり
<>
◆K6RctZ0jT.<>saga<>2015/08/13(木) 23:43:04.02 ID:Qf8kntCB0<> 今日はここまで。
見てくれた方、ありがとう。お疲れさま。

次回は誰にしようかな?
リクエストあればどうぞ。

お察しの通り次回の投稿まで期間空きます。 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/08/14(金) 01:59:09.67 ID:LIsMdDX0O<> 乙です <>
◆K6RctZ0jT.<>saga sage<>2015/08/14(金) 02:49:52.04 ID:CK3oJHQl0<> それにしても、律子から雪歩まで2か月かかってる……。
次回は早めの投稿を目指すとしよう。 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/08/14(金) 13:48:44.91 ID:1q0x6TDz0<> 乙
まことのお姫さまがまだだよなあ? <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/08/14(金) 18:50:20.87 ID:aW0XNUbhO<> 千早ちゃんで <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/08/17(月) 02:19:03.66 ID:RaBXeGGSO<> 千早お願いします <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2015/08/29(土) 06:18:16.60 ID:65EZLrzAO<> いおりん待ってます <>
◆K6RctZ0jT.<>sage saga<>2015/09/25(金) 05:23:28.89 ID:HES7pxta0<> 他の子メインの展開が思いつかないので、しばらく待ってください。
スレが落ちてしまったら今度はこの続きから建て直します。

早めの投稿とか言っといて申し訳ない。
できるだけ書き溜めてから投稿することにします。 <>