◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:14:27.60 ID:JCRZrynq0<>
おはよう、と口の中でもごもごと呟きながら部室に入る

普段なら元気に勢いよく登場するところだけれど……今日はそんな気にはなれなかった

とはいえ、なにか辛いことがあったとかそういうわけではなくて……ただ単純に、この時間には誰もいないからだ。 しかも、とてつもなく寒い

朝一番の部室は凍りつくような寒さだ……いまだに旧校舎に陣取っている我が部室はすきま風も厳しい

しかし、去年入部してからたくさんの思い出がつまった部室だ。 話こそあったものの本校舎に移動する気も起きないし……スペースがあり余っている上に特に用のない人間は旧校舎に足を運ぶこともないから、わりあいやりたい放題だというメリットもある

それに、しょっちゅう顔を出してくれる竹井先輩もこの部室が無くなったりしたら悲しむだろう

辛い思いもたくさんしたけど、いい思い出がその何倍もある……そんな風に言ってくれたっけ

牌譜や成績を管理するために置いてあるPCデスクの回りには去年の県大会やインターハイの時にみんなで撮った写真が綺麗に飾られている

……今年に入ってから撮った分にもほとんど写ってる辺り、竹井先輩はちょっと顔出しすぎなんじゃないかと大学生活が心配になるけど……まあ、要領よくなんでもこなす人だし余計なお世話か

それに、ちょくちょく顔を出してくれるのはこちらとしても助かるし、やっぱりうれしいことでもある

竹井先輩が始めて、染谷先輩と作ってきた、大切な麻雀部だ。 国麻が終わって染谷先輩も引退した今、残った私たちでしっかりと守っていきたい

特に、私は……



和「……あ、ゆーき? おはようございます」

優希「あれ? のどちゃんおはよう! こんな朝早くにどうしたんだ?」

和「昨日数学のノートを忘れてしまって……」

優希「へぇ……のどちゃんにしては珍しいミスだな」

和「ゆーきが見せてって言うから置いていったんじゃないですか……」

優希「おっと、こいつは失礼したじょ」

和「そういうゆーきこそ、朝早くからどうしたんですか?」

優希「あんまりすっきり目覚めちゃったから二度寝するのももったいなくてな……部室の掃除でもしてようかと思って」

和「ふふ……ゆーきが自分から掃除だなんて、珍しいですね」

優希「まあ、色々と思うところもあるしな」

和「そうですね……頼りにしてますよ、部長?」

優希「おう! まかせとくじぇ!」

この冬、私は……清澄高校麻雀部の部長を引き継いだ



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1457183667
<>優希「受け継いだ冬」【咲-Saki-】
◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:14:58.53 ID:JCRZrynq0<>

前回:優希「戦いの秋」【咲-Saki-】
http://ex14.vip2ch.com/i/responce.html?bbs=news4ssnip&dat=1448389190


<>
◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:15:33.34 ID:JCRZrynq0<>
和「それでは、私も部長にならって部室のお掃除をしましょうかね」

優希「ふっ、のどちゃんが来た以上私がおしゃべりに夢中になってしまうのは明らかだじょ?」

和「……自慢気に言うことじゃないですよ、ゆーき」

優希「あーあ、のどちゃんが来なければお掃除できたのになー」

和「私が悪いんですか!?」

優希「悪いのはのどちゃんのこと好きすぎる私だじょ?」

和「……べ、別に、それは悪いことではないと思いますけど……」

優希「あ、照れてる? のどちゃん照れてる?」

和「て、照れてませんっ! ゆーきが私のこと好きなことぐらいわかってますから!」

優希「んー? 本当にわかってるのか? なんなら私がどれだけのどちゃんを好きかその体に……」

和「何をする気なんですか!?」

優希「そりゃあもう……むっふっふ」

和「ゆ、ゆーき?」



京太郎「やめんかこのアホ」

優希「じょ!? むぅ……キサマ! 何をする!?」

京太郎「お前こそ何する気だっての!」

咲「おはよう、和ちゃん、優希ちゃん」

和「おはようございます。 今日は早いんですね」

咲「うん、昨日読んでた本うっかり部室に置きっぱなしにしちゃって……」

京太郎「そっちこそ、和はともかくとして優希が早いのは珍しいな」

優希「お前に言われるとは心外だじぇ」

京太郎「俺は毎日早起きしてるっつの! ま、部室に来るのは珍しいかもだけどさ」

<>
◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:16:35.83 ID:JCRZrynq0<>
優希「お前は咲ちゃんの付き添いか?」

咲「さ、さすがにもう部室来るのに迷子になったりしないよ?」

京太郎「まあ、特に用はねぇけど……時間もあるし掃除でもしてようかと思ってさ」

和「ゆーきと一緒ですか」

優希「以心伝心ね、ア・ナ・タ♡」

京太郎「誰がアナタだ誰が! ……にしても、お前が自分から掃除だなんて珍しいな」

優希「のどちゃんと同じこと言ってるじょ」

京太郎「マジで? 以心伝心ってやつだな!」

和「冗談はよしてください」

咲「京ちゃんもバカ言ってないでさ、掃除するならしなよ」

京太郎「え? なんかおかしくね? 同じこと言ってるのに俺にだけ当たり強くね?」

優希「気のせいだろ? そんなことより私はとってもタコスが食べたい気分だじょ」

京太郎「ふん、今日のは自信作だぜ? 味付けはいつも通りだが素材にこだわって……」

優希「ご託はいいから早く出せ! 食べればわかるじょ!」

京太郎「ちょっとぐらい語らせてくれたっていいじゃねぇかよぉ! ったく、ほら」

優希「ふむ……なるほど、粉と水を変えたな?」

京太郎「なんで一瞬でわかるんだよ!? おかしいだろ!?」

優希「タコスにおいて私を上回れると思ったら大間違いだじょ! ……それにしても腕を上げてきたな。 味付けもバッチリ私好みだし……タコスに関してはお前もそろそろのどちゃんに並ぶレベルになりつつあるじょ」

和「……え?」

京太郎「マジ!? よっしゃ、和! なんなら今度一緒にタコス作ったり……」

和「須賀くん……負けませんよ! ゆーきによりおいしいタコスを作ってあげられるのは私ですから!」

京太郎「なんで闘志燃やしてんの!? 仲よくお料理してイチャイチャするイベントとかじゃないの!?」

和「はい?」

優希「フラグ立てるどころか設置箇所すら設けられてないから諦めろ、京太郎」

咲「まあ、めげないのは京ちゃんの長所だと思うよ? 和ちゃんも嫌がってるわけじゃないし……」

京太郎「マジで!? チャンスあり!?」

咲「え? いや、そういうことじゃなくって……そもそも最初から相手にされてないでしょ?」

京太郎「……うん、そうだね」

<>
◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:18:03.97 ID:JCRZrynq0<>
朝っぱらから散々に騒いだところで苦情も来ないのが旧校舎のいいところだ

なんだかんだでおしゃべりメインにシフトして、雑な掃除で時間を潰して朝のホームルームに向かう……教室が遠いのは旧校舎の不便なところだ

優希「それじゃあ、授業終わったら部室でな!」

咲「うん、またあとでね」

京太郎「あ、俺食堂寄ってくから少し遅れるわ」

和「? 須賀くんはタコスを持ってきているじゃないですか」

京太郎「どっかの誰かと違ってタコスだけじゃ保たねぇからさ……つーか毎食タコスも無理」

優希「タコスをバカにするな! お前はまだまだタコスに対する理解が足りないようだな……!」

京太郎「いやいや普通は無理だろ! 一日三食タコスって!」

優希「バカ者! 朝昼晩に午前午後の間食もタコスだじょ!」

京太郎「それはどう考えてもおかしいんだって!」

咲「それにしても……京ちゃんもいい加減タコス以外の料理覚えたら? 毎朝タコス作ってるのにお弁当用意しないのも勿体ないと思うよ?」

京太郎「そりゃそうだけど……タコスがまだ完璧になってないし……」

咲「……結構凝り性だよね、京ちゃん」

和「まあ、午前授業ですし食堂も年明けまで閉まりますから……食堂を利用するのもいいんじゃないでしょうか」

京太郎「あ、そういや今日までだっけ? んじゃレディースランチも食べ納めか……頼んだぞ、咲」

咲「え、私も行くの? はぁ……仕方ないなあ」

優希「……前から思ってたんだけど、別に京太郎一人でも注文できるだろ?」

京太郎「……だって、なんか恥ずかしいじゃん」

咲「それなら頼まなきゃいいのに……」

京太郎「いや、レディースランチの魅力ってのはさあ……」

和「須賀くん、ホームルームが始まってしまいますから語るのはまたの機会にしてください」

京太郎「あ、うん、ごめん……」

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◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:18:38.22 ID:JCRZrynq0<>
咲ちゃんと京太郎と別れて教室に入る……休み前とあってクラス全体も気が抜けているのかいつも以上に緩い空気だ

和「はぁ……今日も授業があると言うのに緩みきってますね……」

優希「冬休みともなれば仕方がないじょ。 そういうのどちゃんこそちょっとわくわくしてるんじゃないのかー?」

和「え……あの、それは……ちょっと! ちょっとだけですけどね!?」

優希「別に恥ずかしがらなくてもみんな同じだじょ? 遊び行く予定も立てなきゃな!」

和「うぅ……ゆーきは遊びに行くことよりも休み明けの試験の心配をしてください! 部長が補習なんて洒落になりませんよ?」

優希「……な、夏はなんとか乗りきったし……のどちゃんもまた助けてくれるだろ?」

和「当然です。 でも、ゆーき自身が頑張らないと意味がありませんからね?」

優希「わかってるじょ……後輩たちにカッコ悪いとこは見せられんしな。 たくさん麻雀打つためにもしっかり勉強もするじょ」

和「ふふ……お願いしますね、部長?」

優希「まかせとけ!」

午前の授業を終えれば、冬休みになる

いつもなら短い休みをいかに遊ぶか思考を巡らせるところだけれど、今年はそういうわけにもいかない

なんと言っても今の私は部長なのだ

高遠原の頃と違って、清澄はこの時点で団体戦に出る人数も揃っているし、全国を目指すチームだ

私自身の意識もあの頃とはかなり変わっているし……来年も竹井先輩や染谷先輩の分まで全国を目指して――いや、決して花田先輩を軽く見ているとかじゃないけど――とにかく、春季選抜に向けて団体メンバーやオーダー順も決めなきゃだし……年末年始の部の活動予定もちゃんと決めておかないと

……そういうのは苦手なんだよなぁ

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◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:19:09.79 ID:JCRZrynq0<>
ここら辺はのどちゃんと咲ちゃん、ついでに京太郎にも相談しながら決めていくとして……

染谷先輩もいつでも頼っていいって言ってくれてるけど、受験を控えている染谷先輩に迷惑かけたくないしなあ……

とにかく、部長としてしっかり自分の考えも用意しておかないといけない……私がチームを引っ張っていかなきゃだし、相談するにしてもなんも考えてないんじゃ話にならないからな

オーダー……先鋒は私、大将は咲ちゃんのままで行くとして……のどちゃんは副将のままでいいのか? 龍門渕のおねーさんは卒業しちゃうから……なんというか、変に気を遣う必要もないし

後輩たちを連続で並べるのもちょっと心配なんだよな……私たちに比べれば経験も少ないし、三年生の抜けた県内なら通用するかもしれないけど全国に行くと……やっぱりのどちゃんに中堅にコンバートしてもらって夏に大会に出たムロに次鋒を任せて……いや、一年生たちもいろいろ経験積ませた方がいいのか? 全員に大きな差があるわけでもないんだからコンディションを見て選んでも……

「ちょっと、片岡さん聞いてる?」

優希「おう! 春季はのどちゃんに中堅やってもらおうと思ってるんだけどササヒナはどう思う?」

「いいんじゃない? 後輩たちも先輩に挟まれてる方が安心するんじゃ……話聞いてた?」

優希「全然聞いてなかったじょ!」

「時間ないから進めるよ! 後で原村さんに聞いときなさい」

優希「りょーかいだじぇ!」

和「ゆーき……! もうっ!」

優希「あ、そういうわけでのどちゃんには中堅に移ってもらおうと思ってるんだけど……」

和「え? ええ、私もそれでいいと思いますけど……」

「片岡さん? 原村さん? 相談は後にしてくれると助かるんだけどなー?」

優希「すまんな! 続けていいぞ!」

和「す、すみません先生……」

和「……むぅ……ゆーきのせいで怒られちゃったじゃないですか」

隣の席からむくれたのどちゃんが小声で非難してくる。 相変わらずかわいらしいものだ

優希「でもさ、のどちゃんが乗ってきたことにも責任はあるじょ?」

和「そ、それはそうかもしれませんけど……」

優希「ほらのどちゃん、ちゃんとササヒナの話聞かないと後で困るじょ? それに、のどちゃんがちゃんと聞いててくれないと私も困るじぇ」

和「ゆーきもちゃんと自分で話聞いてください……」

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◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:19:45.13 ID:JCRZrynq0<>
朝のホームルームを終え、午前の授業をノートだけ取りながら春季に思いを馳せる……年内最後の授業で新しいことはやらないし、復習なら後ですればいいだろう、うん

まだ試験まで時間はあるしそれなら大会について考えは詰めておきたい……さっそく真面目に勉強してないことがちょっと後ろめたいからいろいろといいわけも考えちゃったけど、この時間ももったいないな

とりあえず大事なのは大会だ、大会

まず、龍門渕はメンバー全員が卒業するから県内の強敵が1つ減ることになる……打てないのは残念だけど、これはチーム的には朗報だな。 県内で一番手強い相手がいなくなるわけだから……というか、夏には負けているからな。 後輩たちもちょっとビビってたし

……あんまり萎縮されても困るし、受験の時期が落ち着いたらノッポを通して練習試合でも申し込むか

風越もイケダをはじめとした三年生が抜けるから今までのメンバーで残るのは星夏ちゃんだけと言うことになる

よほど強力な一年生が入らない限り、私とのどちゃん、咲ちゃんの残るうちが有利だろう

鶴賀は……むっちゃん先輩とかおりん先輩が抜けて、団体戦の人数が足りなくなるから春季は出てこれないはずだ。 鶴賀はうちよりも新入部員少なかったからな……来年出てくるのならモモちゃんのポジションにのどちゃんを当てられないとこっちがかなり辛くなる

まあ、そこら辺の読み合いは今から考えても仕方がないか……今は春季のことだ

去年、一昨年辺りに結果を出していた城山商業なんかは龍門渕や風越に散々にやられてだいぶ調子を落としているし……順当に行けば、うちが県大会を勝ち抜けられるはずだ

……勝ち抜けるはずだ

春季で結果を出しておけば来年の夏、シード権も狙えるかも……いや、むしろシード権は取らない方がいいのかな? 後輩たちにも場数踏ませておきたいし……

個人戦に参加させてある程度は経験を積ませられるだろうけど、流石に全国は無理だろうしな……

団体戦……もしくは私たちが個人戦で全国に行くことで、あの場の空気を感じさせてやれればいいんだけど

……それにしたって、個人戦も十分激戦区だ

有力なのは……私を除けばのどちゃんに咲ちゃん……数絵ちゃん、モモちゃん辺りだろう

のどちゃんと咲ちゃんは言うまでもない……二年連続夏の大会で全国に行って結果を出している

数絵ちゃんも県内の個人戦では上位の常連だし、秋の国麻でも少ないチャンスを活かして実力をばっちりアピールしていた……つまるところ、大活躍だった

モモちゃんも耐性のない子には滅法強いし……絶好調になったら咲ちゃんだって見失うほどだ

たとえ直接対決で勝てたとしても総合的な収支で言えばトントンくらいになる可能性は高い

こうしてみると、私が勝ち抜くにも障害は多い……それに、今回からは自分のことだけじゃなくって部のみんなのことも考えないとなんだよな……

和「……どうしたんですか? 難しい顔して……わからないなら教えますよ?」

優希「んー……いや、やっぱり竹井先輩も染谷先輩もすごいなーって」

和「……授業中ですよ、ゆーき」

優希「はぁ……頭がパンクしそうだじょ……」

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◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:20:12.89 ID:JCRZrynq0<>
どれだけ考えても、なかなかうまくまとまらないものでちょっと頭が痛くなる

……私には、竹井先輩みたいに後輩みんなに特訓メニューを用意したりできないし……染谷先輩みたいにみんなを支えてあげることもできない

部長なのに書類関係はからっきしだし、のどちゃんと咲ちゃんに頼りっぱなしだ……麻雀の実力で言っても、悔しいけどふたりにはまだ劣るというのはこれまでの結果が示している

京太郎だって、アレでなかなか気の遣えるやつだ。 なかなか結果に繋がらない後輩たちを陰で元気づけてやっているのは知っている

それに対して私は……自分のことで精一杯で、みんなのために作戦を立てることもできていないし、部長としてはまだまだで、余裕なんか欠片もない

いつも飄々としていて頼りになった竹井先輩、圧倒的な包容力でみんなに安心感を与えていた染谷先輩……ふたりの最高の先輩を知っているだけに、どうしても自分がダメダメな気がしてくる

染谷先輩が、私に部を任せてくれたことはすごくうれしい……だけど、背負うものが今までよりも大きくなったことでプレッシャーも倍々だ

優希「……やっぱり、私より…………」

和「……ゆーき?」

優希「あ……ごめん、なんでもないじょ」

……やっぱり、私よりも……のどちゃんや咲ちゃんが部長をやった方がいいんじゃないのか……?

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◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:20:51.40 ID:JCRZrynq0<>


京太郎「は?」

優希「……なに不思議そうな顔してるんだ」

京太郎「いや、だってお前……バカじゃねーの」

優希「バカとはなんだ、バカとは!」

授業が終わって、食堂。 うっかりお昼分のタコスまで休み時間に食べてしまい、補充のために寄ることにしたのでのどちゃんと咲ちゃんには先に部室に行ってもらっている

みんなで部室でお弁当を食べる約束をしているから……別に、京太郎を仲間外れにしているわけじゃない。 学校で生活している以上部活以外の付き合いだってたくさんあるし、私と京太郎は特に顔が広いから食事時は声をかけられることも多いからな

まあ、私は特に仲のいい友だちがのどちゃんと咲ちゃんだから大体は麻雀部のメンバーでランチタイムを過ごすことになるけど……京太郎は男子同士の付き合いってのもあるしな。 特に中学から咲ちゃん含めて付き合いのある誠とはほぼほぼ一緒に行動してるし……

京太郎「バカはバカだろ。 そのまんまだって……おばちゃんタコス! ……何個?」

優希「5つ! レディースランチよろしく頼むじょ! ……なんで私がバカ呼ばわりされんといかんのだ!」

京太郎「今さらそんなこと悩まなくてもいいだろ……染谷先輩が決めたんだぜ? そんで誰も文句ないから決まったんだろ?」

優希「そりゃあそうだけど……」

京太郎「……ま、気持ちはわかるけどさ……つーか人事に関しては俺の方がいろいろビビったっつーの」

優希「……私はなるほど、って感じだったけど……お前からしたらそうなるのか」

京太郎「そうそう……やっぱり麻雀のレベル高いのも結果出してるのも女子なわけでさ……気を遣ってくれてるのかなーって」

優希「そういう部分もなくはないかもしれないけど……それこそ心配いらないじょ。 京太郎を副部長に、って染谷先輩が言ったときにのどちゃんも咲ちゃんも賛成しただろ」

京太郎「そうなんだよな……で、部長がお前ってなったときに咲も和も賛成したろうが」

優希「……むう」

京太郎「すげえわかるんだけどな、その感じ……でもさ、それこそ咲と和がヤバいってだけでお前だって十分結果は出してるだろ? 俺なんて今年の夏もいいとこなかったんだぜ?」

優希「ちゃんと上手くなってるじょ? 結果に繋がらないと……やっぱり焦るけど、男子は人数も多いしな。 来年の夏、一緒に東京に行ければいいじょ」

京太郎「……そうだな。 そうなりゃいいけど」

優希「お前がそうするんだろ? しっかりしろ!」

京太郎「……俺は、お前のそういうとこが部長に向いてると思うぞ」

優希「どういう意味だ?」

京太郎「そのまんまの意味だって……頑張るよ、俺も」

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◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:21:58.00 ID:JCRZrynq0<>
優希「ま、自信を持て! 私も、お前には助けられてるからな。 後輩たちの面倒も見てもらってばかりだし……本当なら私ももっとみんなを構ってやりたいんだが」

京太郎「そんなのたいしたことじゃねぇし、当然のことだからいいんだよ。 お前だって春季近いし大変だろ?」

京太郎「……俺らが入った時だって、竹井先輩が大会に向けていろいろ準備してさ、その間は染谷先輩が面倒見てくれたりだったろ?」

京太郎「俺は麻雀に関してはあんま力になれねぇし……お手本になる先輩がいたんだし、できるとこから真似てくさ」

優希「うむ! 頼りにしてるじょ、副部長!」

京太郎「おう! ……あと、余計なお世話かもしれねぇけど……俺よりも咲や和に相談してやれよ」

優希「……お前の方が話しやすいってこともあるんだじょ? 当然、のどちゃんや咲ちゃんにしか話せないこともあるしな」

京太郎「それならそれで大丈夫だって言ってやれって……俺なんかよりもお前のことよほど心配してるぞ?」

優希「お前はあんまり私のこと心配してないだろ? だから相談しやすいんだ」

京太郎「俺はお前ならなんとかすると思ってるし、どうにでもなると思ってるからな……あいつらはそういう考え方できねぇだろ?」

優希「心配性だからな、ふたりとも……」

京太郎「とりあえずフォローはしとけよ? 部員のメンタルケアも大事だぜ、部長」

優希「はいはい……タコスも来たし、先行くぞ?」

京太郎「ん、レディースランチ食ったら行くから女子会しとけ」

優希「おう、じゃあ後でな」

京太郎「……あ、あともうひとつ!」

優希「なんだ?」

京太郎「素直に染谷先輩や竹井先輩に相談してもいいんじゃねぇの? 染谷先輩は今忙しい時期かもしれねぇけど、気になるなら直接聞いた方がいいと思うし、経験者に聞くのが一番だろ? 染谷先輩も世話焼きだし頼られないよりは頼られた方が嬉しいと思うぜ?」

優希「……お前も大概世話焼きだよな」

京太郎「いつの間にかな……口うるさくて悪かったな」

優希「いや、助かった。 ちょっと気が楽になったじょ」

京太郎「いいよ、たいしたこと言ってねぇし」

優希「それでも……ありがとな」

京太郎「……素直に礼なんて言うなって。 気持ちわりぃ」

<>
◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:23:21.08 ID:JCRZrynq0<>
――――――

優希「すまん! 遅くなったじょ!」

和「食堂、混んでたんですか?」

優希「いや、ちょっと京太郎に口説かれててな」

和「えぇ!? ……ま、前々から怪しいとは思っていましたがまさか……」

咲「優希ちゃん、和ちゃん信じちゃうから……」

優希「ふふ、冗談冗談……ちょっと話してただけだじょ? これから大会に向けて部活動も進めていかなきゃいけないわけだしな」

和「そ、そういう話ですか……ゆーき、そういうことは私たちにも相談してくれていいんですよ?」

優希「うん……まあほら、他にもちょっと話があったからさ。 大会に関してはのどちゃんと咲ちゃんのことも当然頼りにさせてもらうじょ?」

咲「ふふ……どれくらい力になれるかわからないけど、頑張るよ」

和「むぅ……私には話せないのに、須賀くんには話せるんですねっ」

優希「んー? ……だってほら、のどちゃんのおっぱいがでかいって話じゃのどちゃんも盛り上がらないだろ?」

和「なっ……なんでそんな話してるんですか!? っていうかそんな話で盛り上がらないでください!」

咲「……それも冗談……なんだよね?」

優希「そりゃあ……なぜ疑問系なのか?」

咲「いや、だって京ちゃんだし……」

優希「まあ、たしかに四六時中そんなこと考えてそうだけどな」

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◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:23:57.93 ID:JCRZrynq0<>
和「もうっ! ゆーきはまたそうやってはぐらかして……!」

優希「そんなに膨れなくてもいいだろー? ほっぺたがおっぱいみたいに膨らんでるじょ?」

和「ゆーきっ! だから、む、胸は関係ないじゃないですかっ!」

咲「優希ちゃんもそれくらいで……また和ちゃん拗ねちゃうよ?」

優希「それもそうだな……冗談はこれくらいにするとして……」

和「わ、私! 拗ねたりなんかしてませんからっ!」

優希「……のどちゃんはかわいいなあ」

咲「かわいいよね」

和「な……なんなんですかっ! も、もうっ……咲さんまでからかって……」

咲「ごめんごめん。 拗ねないでよ」

和「拗ねてませんっ!」

優希「あーあ、のどちゃん拗ねちゃった……咲ちゃんのせいだじょ?」

咲「えー? 優希ちゃんのせいでしょ?」

優希「とどめは咲ちゃんだじょ」

咲「そうかなあ」

和「だから拗ねてないって言ってるじゃないですか! もう! わ、私、怒りましたからねっ!」

<>
◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:24:43.25 ID:JCRZrynq0<>
優希「ねえ、のどちゃん」

和「ふんっ」

咲「和ちゃん、ごめんね?」

和「つーん」

優希「むむむ……こうなったら仕方ない……咲ちゃん!」

咲「うん!」

優希「のどちゃんの機嫌が治るまでふたりで相談しよっか!」

咲「えっ?」

和「えっ」

優希「団体戦なんだけどさ、先鋒は私、咲ちゃんが大将でのどちゃんには中堅に移ってもらおうかなって思ってるんだけどどう思う?」

咲「え、あー……うん、いいんじゃないかな? 上級生の私たちで後輩のみんなのフォローもできると思うし……」

優希「そうか! それじゃあオーダーはその線で行くとして……次鋒と副将なんだけど……」

咲「うーん……ちょっと、難しいよね」

優希「そうなんだよな……夏はムロが中堅で出たけど、実力がはっきり開いてるって訳でもないしみんなにチャンスをあげたいんだけど……」

和「…………」

咲(……和ちゃん、こっちチラチラ見てるけど)

優希(構ってほしいんだ。 まったく、かわいいやつだじょ)

咲「……え、えっと、和ちゃんはどう思う?」

和「え? あの、私は……じゃなくって! わ、私、怒ってるんですからね!?」

優希「そっか……ごめんなのどちゃん……あ、それでさ咲ちゃん、次鋒と副将は……」

和「ゆーき……な、仲間はずれにしないでくださいよぅ……」

優希「わ、悪かったって! そんな顔しないでほしいじょ!」

咲「……慌てるぐらいならからかわなければいいのに」

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◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:25:17.70 ID:JCRZrynq0<>
優希「だって……のどちゃんかわいいだろ?」

咲「うん」

優希「な?」

和「な? じゃないですよ、もう……」

優希「ごめんって! まあ、のどちゃんもこれに懲りたらかまってほしいなら素直に言うんだな!」

和「……か、考えておきます」

咲「……かまってほしいはかまってほしいんだね」

和「と、とにかく! 出場枠を考えるのならば今までの成績を参考にするのが最も合理的だと思います! 後輩の子たちは対外試合の経験は少ないですが、部内でも牌譜と成績はしっかり記録しているわけですし利用しない手はないでしょう」

優希「それはたしかにそうだな」

咲「それじゃあ、エントリー期限の一週間前ぐらいに成績をまとめて決める? あんまりギリギリで決めるのもちょっと不安だけど……」

優希「早めに選手としての自覚というか……覚悟みたいなのは持ってほしいしな。 来年も当然全国を狙うわけだし……人数も少ないし、歴史の浅い部だけど本気でやってるんだからな」

和「まあ、その辺りはこの一年で十分理解してもらえてると思いますが……やっぱり、いきなり全国なんてことになれば不安は大きいでしょうね」

優希「……それに、のどちゃん的には長期間の総合成績を重視したいだろうけど……短期間で一気に伸びることもあるだろ?」

京太郎「去年のお前みたいにか?」

優希「そうそう……って京太郎、もう来たのか。 なかなか早かったじゃないか」

京太郎「あんまりゆっくり来て話に着いてけなくなっても困るしな……レディースランチは存分に堪能してきたから心配すんな」

咲「そんな心配はしてないけどさ……京ちゃんはなにかいい案ある?」

京太郎「あー……点数制の競技だし対局成績使わねぇと公平さにかける気もするしなぁ」

和「運も絡む競技なのですから、長い期間で見て安定した成績を残している打ち手が試合に出るべきだと思います」

咲「和ちゃんは相変わらずだね……言ってることは間違ってないと思うけど」

京太郎「だからそれだと試合前に頑張って成績伸ばした奴が報われねぇって話だろ? 年間じゃなくてここ最近の成績に絞るとか……」

和「それで継続して成績のいい子が試合に出られなくなってしまったら意味がないのでは?」

優希「むぅ……やっぱり難しいな……」

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◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:26:16.26 ID:JCRZrynq0<>
咲「まあ、完全に公平な決め方なんてのもできないし……優希ちゃんが決めちゃってもいいんじゃない?」

優希「……まあ、それも私の仕事か」

和「ふふ……ここはゆーきの判断に任せますよ? お願いしますね、部長」

京太郎「……ほれ、頼られてるぜ? 部長」

優希「うむ……そうだなあ」

のどちゃんも咲ちゃんも、京太郎だって私を信頼してくれている……こういうところで責任を持って決めるのも部長の仕事なんだな

……夏は、染谷先輩がムロを試合に出すって決めた。 実力的には後輩たちに大きな差はないし、どうやって決めたのかも聞いていない……付き合いの長い後輩が試合に出れるって決まって喜んだぐらいで深く考えてなんかいなかった

…………きっと、簡単なことなんだろうけど、難しいな

京太郎「……別に、深く考えなくていいと思うぞ? 本番は来年の夏だろ? ここで失敗したら次にやり方変えればいいんだしさ」

咲「そうだね……優希ちゃん、もっと気楽に、ね?」

優希「……そうだな」

優希「……それじゃあ、大会までまだ少しあるし選抜用の対局の機会を作ろう。 詳しくは後で決めるにしても……たとえば、毎週金曜の対局成績を参考記録にするとかで……」

咲「なるほど……うん、いいんじゃない? 試合の結果で決めるなら不満もでないと思うし」

和「ふむ……意見させていただきますと、もう少し試行回数は増やしてもいいかと思います。 せめて週二回ぐらいに増やして……」

京太郎「和としちゃあそうなるか……ま、部内でリーグ戦みたいなのやって決めるってことだろ? 優希も言ってたけど、細かいとこはこれから詰めようぜ」

咲「そうだね……男子はどうするの?」

京太郎「団体戦は人数足りねぇし、みんなで個人戦出るよ……女子が頑張ってんのに男子が全然成績でないんじゃカッコ悪いしな。 後輩共もやる気満々だぜ?」

優希「練習メニューとかは……」

京太郎「そこまで気にしなくていいって。 お前が手を出さなくても回せる部分はこっちで回すし、相談するとこは相談する……何かやるにしてもちゃんと話すからさ」

優希「……すまん、助かる」

京太郎「いいんだって。 お前が頑張んないと困るけど、ひとりで頑張んなくてもいいんだから……そこら辺は適当に甘えとけ。 女子が団体で全国狙うなら男子の方まで見る余裕もないだろ?」

優希「ん……本当に助かるじょ。 男子の方はお前に任せるからな」

京太郎「おう。 ただ、こっちでどうにもならねぇことはそっちに振るからな?」

優希「当然だ。 そういうのをなんとかするのが今の私の役目だじょ」

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◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:27:00.38 ID:JCRZrynq0<>
和「…………」

咲「……和ちゃん、どうかした?」

和「……いえ、別に…………なんでもないですよ?」

咲「……どうしたの?」

和「なんでもないです……ただ、ちょっと……ここ最近、ゆーきは須賀くんにばっかり……あまり私のことは頼ってくれないんだなって思っただけですっ」

咲「……優希ちゃん、また和ちゃん拗ねてるよ」

優希「はぁ……ふふん、まったくのどちゃんは……とんだヤキモチ妬きだじょ」

京太郎「……別に和と俺を比べてどうとかじゃなくって、単に役割や立ち位置の違いだろ? 大会は男女別なんだしさ……」

和「それはそうなんですけど……例えそうだとしても、私はもっとゆーきに頼ってほしいです。 私じゃ頼りになりませんか?」

優希「そんな泣きそうな顔しないでほしいじぇ……私はのどちゃんのこと頼りにしてるじょ?」

和「だったら……」

優希「それじゃあ、早速ひとつ相談があるんだが……」

和「! はい! まかせてくださいっ!」

優希「実は……連日の京太郎のセクハラ行為に悩まされていて……」

和「!?」

京太郎「はぁ!?」

咲「えー、京ちゃんったらさいてー」

京太郎「してねぇよ!? わかってて言ってるだろ!?」

和「や、やっぱり……! 怪しいとは思っていたんです! ゆーきに破廉恥なことを……!」

京太郎「だからしてねぇよ!? つーか怪しまれてたの!? なんで!?」

咲「日頃の行いじゃない?」

京太郎「俺がなにしたってんだよぉ! だいたい、そういうことするなら優希より……」

和「なっ……どこ見てるんですか! さ、最低です!」

京太郎「え、あ、違っ……! ご、誤解だって!」

咲「京ちゃんは女の子の胸を凝視するのやめた方がいいと思うよ?」

優希「やっぱり日頃の行いが原因だじょ」

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◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:27:51.49 ID:JCRZrynq0<>
――――――

…………結局、また誤魔化してしまった

のどちゃんは、私に頼ってほしいと思ってる。 そして、それは咲ちゃんも同じだろう

京太郎は、私はもっとふたりに頼るべきだと思ってる。 そして、それは私も同じだ

本当なら、ひとりで悩んでたって仕方がない。 のどちゃんも咲ちゃんも、ついでに言えば京太郎だって頼るのに不足のある相手じゃない。 大事な仲間だし、むしろチーム全体の事を考えても頼ってしかるべきだ

だけど……私の少しばかりの意地やプライドが邪魔をする

私は、部長になった。 部長になったけれど……ひとりの打ち手として、のどちゃんと咲ちゃんのふたりには劣っている。 ふたりに頼らないで、私の……私だけの力でなにかしらの結果を出したい。 そんな気持ちがやっぱりどこかにあって……

のどちゃんも咲ちゃんも全国区のトッププレイヤーだ。 対して私は……多少自信過剰なところはあるかもしれないけど、まあ県レベルならエースクラスだろう

……県と全国のレベル差は大きい。 私だって以前よりも腕を上げているってことは自信を持って言えるけれど……去年の夏の県大会、ノッポにペースを乱されて失点、最終的には風越のお姉さんの掌の上でいいように転がされてしまった

全国でも……一回戦はともかく、二回戦以降は苦戦してばっかりで……相手は全国でもトップクラスの上級生ばかりだったけれど、全国の先鋒戦ならそれが当然だしな

……私の目標は、変わらない。 のどちゃんと咲ちゃんと一緒に、胸を張って戦いたい

国麻での激戦は自信に繋がったけど、それでもまだ足りない……私が活躍した以上にふたりは活躍しているんだから

和「……ゆーき?」

優希「んぉ?」

和「……またぼんやりしてましたね? 最近多いですよ?」

優希「ごめんごめん、気をつけるじょ……で、どうした?」

和「どうしたもなにも……もう私たちだけですよ?」

京太郎「さっさと戸締まりして帰ろうぜ」

咲「優希ちゃん、打ってる時はすっごく集中してるのに……疲れてるのかな? ちゃんと夜寝てる?」

京太郎「夜寝てなくても授業中寝てるだろ」

優希「クラスが違うのに何故知ってる!? まさか私を愛するあまり監視カメラを……」

和「なんですって!?」

京太郎「んなわけあるか! お前が真面目に授業受けてるわけねーだろ! 見なくてもわかるっての!」

優希「むむ……否定しきれないのが悔しいじょ」

和「ゆーきだって最近は頑張ってるんですからね? そりゃあ……ちょっと居眠りしちゃったりぼけっとしてたりしますけど」

京太郎「それ本当に頑張ってんのか?」

咲「頑張ってるよ、夏は赤点無かったし追試もなかったじゃない」

京太郎「……そのラインで頑張ってる扱いもどうなんだ?」

優希「うるさい、麻雀のためだ。 勉強だってちゃんとやってるじょ……麻雀を優先する余りちょっとおろそかになってる部分もあるだけだ!」

京太郎「……もうちょっと頑張れ、な?」

優希「……おう」

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◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:28:40.50 ID:JCRZrynq0<>
優希「それじゃ、部室の鍵返してくるじょ」

咲「うん、よろしくね。 私は図書室に本返しに行ってくるよ」

京太郎「……どうせ冬休み分の本も借りるんだろ? あんまり遅くなるなら付き合わねぇぞ?」

咲「別についてきてなんて言ってないでしょ……和ちゃんは?」

和「私は夕飯のお買い物に……ゆーきはこのあと予定はあるんですか?」

優希「ちょっと行くところがあるんだが……」

京太郎「またタコスか」

優希「なんだその言い方は……まあ、タコスも買って行くけどな。 のどちゃんは近所のスーパーか? 途中まで一緒に行こうじぇ〜」

和「ええ、是非」

咲「あ、そしたら私も一緒に……」

京太郎「本は?」

咲「……今日は返すだけにする。 それじゃあ、パパっと返してきちゃうね。 正門で合流しよ?」

優希「おう! 私もさっさと鍵返してくるじぇ!」

京太郎「んじゃ俺も……」

咲「京ちゃんスーパーに用事なんてあるの?」

京太郎「ん? んー……じゃあ、おかしかなんか買ってくわ」

和「……無理して用事を作らなくてもいいんですよ?」

京太郎「無理してって言うか……いいじゃねぇかよー仲間はずれにすんなよー」

優希「わかったからさっさと準備しろって。 ほら、鍵閉めるから皆出るじょ」

咲「はーい」

和「行きましょうか」

京太郎「咲、また忘れ物すんなよ」

咲「いつも私が忘れ物してるみたいな言い方やめてよ……」

優希「そうだじょ、せいぜい三日に一回ってところだじぇ」

和「咲さんは手が空いたときに本に夢中になりすぎですね……本を片付けるのは忘れませんけどその間に他を忘れてしまうんですから」

咲「むぅ……みんなしてそうやって……」

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◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:29:19.42 ID:JCRZrynq0<>
女三人寄れば姦しい、なんて言葉もある

のどちゃんも咲ちゃんも私と比べたらかなりおとなしい方だと思うけど、それでも三人も揃えば騒がしくなるものらしい

いや、むしろそこに騒がしいバカが一匹加わってるのだからうるさくなるのも当然と言えるだろう

いつものようにくだらない話に花を咲かせて、タコスを買って……

優希「それじゃあ、私は今日はこっちなんでな!」

咲「そっか……また明日ね、優希ちゃん」

和「気をつけてくださいね、ゆーき」

京太郎「気をつけるもなにもこいつになんかする物好きもいないって」

優希「失礼な! 私のキュートさはワールドワイドだじょ!」

咲「だいたい京ちゃんは優希ちゃんに執拗なセクハラを……」

京太郎「してねぇよ! やめろって言ってんだろ! 和が信じるだろぉ!?」

和「わ、私だって冗談かそうじゃないかぐらいわかりますよ!」

京太郎「さっきちょっと信じてたじゃないかよ!」

和「だ、だって……それは、須賀くんならおかしくないと……」

京太郎「だからなんでそんなに信用ないの!?」

咲「日頃の行いだね」

優希「日頃の行いだじょ」

京太郎「そんなに!? そんなにか!?」

優希「また春には新入生も来るんだからな? あんまり鼻の下伸ばしてアホ面晒してるようじゃ困るじぇ、副部長」

京太郎「そ、そこまで酷くないだろ……? そりゃあ、多少はあるかもしれねぇけど……」

咲「自信無さそうに言われると……ねぇ?」

和「自覚症状があるということは……」

京太郎「もうわかったって! マジで気をつけるから!」

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◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:30:09.16 ID:JCRZrynq0<>
京太郎で遊びつつ三人と別れる

行き先は……Roof-topだ

染谷先輩のおじいさんがやっていた雀荘で、先輩もここで大人たちが打っているのを見て麻雀を覚えたと聞く

染谷先輩が受験期に入っても手伝いにちょくちょく顔を出しているのは知っている……そこそこの頻度で私自身も顔を出しているからだ

のどちゃんや咲ちゃんに追いつくためにも、いろいろな相手と打ちたくて……そりゃあお客さんのおっちゃんたちが全国で戦うような相手と同格だなんて言えないけれど、普段打たない相手との対局は麻雀の新しい面を見れるようでなかなか面白い

……常連のおっちゃんたちがかわいがってくれて食べ物やジュースを奢ってくれるのが目当てな訳じゃないぞ?

最近の本当の目当ては、対局よりも染谷先輩と話す時間が取れるってところでもある

学校だと三年生は受験ムードでどことなくピリピリしているし、染谷先輩がRoof-topに出ているときは主に勉強の息抜きで……つまり、私も気兼ねなく話せるって言うのが大きい

のどちゃんや咲ちゃん、京太郎、麻雀部の後輩たち……いろんな面子でお邪魔するけれど、ひとりでふらっと来ては相談に乗ってもらって、ちょっと打って帰るのが最近の日課になりつつある

竹井先輩もほとんど毎日いるし、時には佐久フェレッターズで活躍している藤田プロも現れるものだから私もついつい足が向いてしまう

部の運営や対局中の立ち回り、県内から全国までの強豪校のデータ、勉強やタコスのレシピまでどんな相談にも優しく応えてくれるのが染谷先輩だ

……あんまり甘えすぎてもいけないな、って思ってはいるんだけれど

優希「……ん? 電話……もしもし?」

数絵『優希、久しぶりね。 今、大丈夫かしら?』

優希「おう! 部活も終わって帰り道だじょ!」

数絵『それなら、早速本題に入らせてもらうけれど……』

優希「えー? せっかくだから特に意味のないお喋りしようじぇー」

数絵『用事があって連絡しているのだからその後でいいでしょう? いいから聞きなさい』

優希「ちぇー」

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◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:30:50.53 ID:JCRZrynq0<>
南浦数絵ちゃん……秋の国麻で長野県の代表選手として一緒に戦った仲間で、私のライバル……いろいろあったけれど仲よくなって、今は友だちとして、こうして連絡も取っている

優希「それじゃあ、用事って?」

数絵『ええ、もう冬休みに入るでしょう? 冬季休暇中なら時間的な余裕もできるから、貴女たちと打ちたいと思って』

優希「ほほう、練習試合の申込みってことか?」

数絵『いえ、平滝は私ひとりだから練習試合という体裁は整えにくいかと思って……時間に余裕のある日を教えてくれないかしら? 染谷さんの……Roof-topまでお邪魔しようと思っているの』

優希「なるほど……つまり、染谷先輩とも打ちたいんだな?」

数絵『……ええ……その、染谷さんは受験生だし、部活も引退しているから部活にはなかなか顔を出せないでしょう? Roof-topなら打つ機会もあるかと思って……あの、もちろん、迷惑ならいいのよ? 打ちたいのは私の都合であって、邪魔をしたいわけじゃないの』

優希「ふふ、わかってるじょ。 ちょうどRoof-topに向かってるところだから染谷先輩にも話しておくじぇ。 部活の予定とか、ちょうどよさそうな日付決まったらすぐに連絡するじぇ」

数絵『ええ、その……あ、ありがとう。 悪いわね、手間をかけさせてしまって』

優希「たいしたことじゃないじょ。 私も数絵ちゃんと打ちたいしな! 連絡くれてうれしいじぇ〜」

数絵『……そ、そう。 それじゃあ……』

優希「え? もう切っちゃうの?」

数絵『だ、だって……なにを話せばいいのか、わからないんだもの……』

優希「照れ隠しに電話切られちゃたまらんじぇ。 無駄話するじょ!」

数絵『照れてなんか……! それに、無駄話なんてするだけ無駄でしょう?』

優希「友だちなら無駄話で長電話なんて普通だじょ。 私はのどちゃんや咲ちゃんと夜中まで電話してることなんてしょっちゅうだじぇ」

数絵『そんなことを自慢気に言われても……ま、まあいいわ。 相手をしてあげる』

優希「おう! さすがは数絵ちゃんだじぇ!」

……まだまだ『友だち』に慣れていないらしい。 数絵ちゃんの不器用さ加減がかわいらしくて、たまに連絡があるとついつい電話を引き延ばしてしまう

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◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:31:28.92 ID:JCRZrynq0<>
数絵『…………』

優希「…………」

数絵『…………』

優希「…………」

数絵『……優希?』

優希「なんだ?」

数絵『なんだ? じゃないわよ。 なにか話題があるんじゃないの?』

優希「んー? どうせなら数絵ちゃんから話題振ってほしいなーって」

数絵『な、そんな……貴女が話そうって言ったんじゃない。 責任を持って話題を提供しなさいよ』

優希「うむ……なるほど、数絵ちゃんにはまだまだレベルが高いか……数絵ちゃん、無駄はどんどん省いてくタイプだしなぁ」

数絵『べ、別にいいでしょう? 無駄なんてない方がいいに決まってるじゃない』

優希「ふふふ……それじゃあ、次に連絡するときの宿題だな。 数絵ちゃんはいくつか話題を用意しておくこと!」

数絵『な、なんでそんな……』

優希「できないのか?」

数絵『……で、できるに決まっているでしょう? それくらい……たいしたことじゃないわ』

数絵ちゃんが負けず嫌いで意外とわかりやすい子だ、っていうのは国麻前の合宿で知っている……真面目な子でもあるし、きっと次に電話をかける前には一生懸命話題を用意してからかけてくることだろう

優希「ふふ……それじゃあ、今日は私から……あ、まだ話してなかった気がするんだけど、私、染谷先輩から部長を引き継いだんだじぇ!」

数絵『へぇ……そうなの。 貴女が部長? ……意外な気もしたけれど、なんだか納得ね』

優希「……!」

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◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:32:46.08 ID:JCRZrynq0<>
優希「……納得なのか?」

数絵『ええ……なに? そう言われるのが意外だった?』

優希「……いや、私なら当然だろ?」

数絵『……自信がないの? 珍し……くもないかしら? 貴女、いろいろと悩んでいたし』

優希「……数絵ちゃんなのに、そういうのわかっちゃうか」

数絵『合宿の時に話をしたじゃないの。 貴女が和や咲に対して……劣等感のようなものを持っているのは知っているもの』

優希「……そうか? ……そうだな、そうかもな」

数絵『……私は、貴女が一番向いていると思うけど』

優希「……ほんとに?」

数絵『嘘をつく意味なんてないでしょう?』

優希「……数絵ちゃん優しいし、もしかしたら私を励ますために……」

数絵『な、なにを言うのよ、私はそんな……と、とにかく、私は和や咲よりも貴女の方が向いていると思うわ』

優希「……そう? どうして?」

数絵『それは……そうね。 私が、今こうして貴女に電話をかけて、普通に話なんかしていること……このこと自体が理由になると思うのだけれど』

優希「……どういう意味?」

数絵『……そ、そのままの意味よ。 わからなければ自分で考えなさい』

優希「むぅ……この私が珍しくいろいろ悩んでるんだからもっと素直に励ましてくれてもいいじゃないか」

数絵『……本当に弱気になっているのね。 しっかりしなさい、強い気持ちで戦っていくと決めたでしょう?』

優希「それは……まったくもってその通りなんだが……」

数絵『たしかに咲も和も高い実力を持った打ち手だけれど、部長という一点においては貴女が優れていると染谷さんが判断したということでしょう?』

優希「まあ……そうなるのかな」

数絵『ならいいじゃない。 それに、部長と言ったってたいしたことないわ。 私だって去年から部長よ? 私しか部員はいないけれど』

優希「……それは、かなり勝手が違うと思うんだが……」

数絵『わ、わかってるわよ。 ちょっとした冗談じゃない』

優希「……ふふ、数絵ちゃん変わったな。 前だったらそういうこと絶対に言わなかったのに」

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◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:33:40.44 ID:JCRZrynq0<>
数絵『……貴女が変えたんでしょう?』

優希「え?」

数絵『……仲間なんていらない、邪魔なだけだ、って考えていた私が……貴女と関わって変わったわ。 ……こうやって、友人と話したいと思うようになるぐらいに』

優希「数絵ちゃん……」

数絵『当然、私には私の考えがあって、曲げない部分もあるけれど……視界の極端に狭くなっていた私を変えたのは貴女よ。 感謝もしているわ』

優希「……そんな風に言われるとむずかゆいじょ」

数絵『言う方だって恥ずかしいのよ? 貴女が悩んでいるから恥を忍んで言ってるのに……まあ、そういうところじゃないの? 貴女は自分のことは鈍いけれど、回りのことはよく見ているし、気も遣えるし、なにより真っ直ぐだから……和でも咲でも上手く回ると思うけど、きっと貴女がやるのが一番よ』

優希「……あの数絵ちゃんがここまで言ってくれてるんだ、少しは自信持たないとかな」

数絵『そうしなさい。 悩むのもいいけれど、またぐるぐる考えすぎてもよくないわ。 好きな麻雀を打つのよ? 楽しみなさい』

優希「ふふっ……そうだな、麻雀を楽しまなくちゃな! 数絵ちゃんも一緒にな! 予定はしっかり調整しとくじょ!」

数絵『ええ、私は時間に融通が効くから……都合のいい日を教えてちょうだい』

優希「うん! それじゃあ、染谷先輩のとこ行ってくるじょ! ……数絵ちゃん」

数絵『なにかしら?』

優希「ありがとっ!」

数絵『……別に、礼を言われるほどのことはしてないわ。 その……友だちなら、これくらい普通なんでしょう?』

優希「へへ……友だちだからな、私たち」

数絵『ええ……なにかあったら、また話してちょうだい。 少なくとも聞くぐらいはできるし……貴女が今悩んでいるような……咲や和には相談しづらいこともあるでしょうから』

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◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:34:06.03 ID:JCRZrynq0<>
部長になった、だなんて……ちょっとした雑談の種のつもりだったのだけれど、ついそのまま相談……いや、悩みを吐き出してしまった

数絵ちゃんは言いにくいことも結構はっきり言う子だし、それでいて根は優しい子だから案外話しやすくて相談相手に意外と向いているのかもしれない

京太郎は、あんまり厳しいことは言わないからな……なんというか『咲や和が言えないところは言ってやろう』って感じのスタンスだから……それはそれで助かってるから文句なんか言えないけれど、あいつも何だかんだ私に甘いんだよな

数絵ちゃんには……秋の合宿で、勢いに任せていろいろぶちまけてしまったこともあるし、似た者同士のライバル同士の友だちだってことで……話す気のないことまでなにかと話してしまう

前だったらそれは弱さだ、って切り捨てられるところなんだろうけど……数絵ちゃんとは、結構いい影響を与え合っているんじゃないだろうか? 私も数絵ちゃんも、少しずつ変わっていると感じる

優希「……部活のない日は、ここと、ここと……あとは染谷先輩にも聞いて……」

なにはともあれ、ライバルと打つ機会が近く設けられるということだ。 気合を入れて準備しないとな!

押していた自転車に飛び乗り勢いよく漕ぎだす

結局、悩んでいたって仕方がない……いつまでもうじうじしているよりは、直接染谷先輩と話して、自分で納得するしかないだろう

そして、次の戦いに向けて走り出すんだ

結果は出したい。 悩むことだって必要だけれど、悩む時間だってやっぱり惜しいからな……私は一度気になるとそっちに意識が向いちゃって、しかもひとつのことに集中しちゃうってことはわかっているつもりだ

切り替えられるタイミングで気持ちをしっかり切り替えないとな

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◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:34:57.86 ID:JCRZrynq0<>
――――――

優希「こんにちはー!」

久「あら……お帰りなさいませ、優希お嬢様! ――ツモ! 4000オールでよろしくっ」

「いやあ、相変わらず強いねぇ」

「春の大会は団体メンバー入れそうかい?」

久「うーん、八割方行けるんじゃないかと思ってるんだけど……人数もいるし先輩方もいるからねぇ……清澄時代とはやっぱり違うわ」

「わしらなんかで特訓相手になるんかい? ああ、コーヒーおかわり頼むよ。 久ちゃんも好きなもの飲みな」

久「あら、ありがとおじさまっ! それじゃあコーヒー淹れてくるわ……優希、今日は打ってく? すこし入ってもらっていいかしら?」

優希「了解だじぇ! ……染谷先輩は?」

久「もうちょっとしたら出てくると思うわよー……まこが来たらちょっと話しましょっか? 久しぶりだもんね」

優希「……うん!」

竹井先輩は、染谷先輩が受験の時期に入ってからRoof-topでバイトに入っている。 趣味と実益を兼ねているから、なんて言っていたけど……染谷先輩に会うのがメインだと部員たちの中ではもっぱらの噂だ

受験の邪魔はしたくないけど会えないのは寂しい……気持ちはよくわかる。 それに、竹井先輩は高校を卒業しちゃったから普通に会う機会って私たちよりも少ないしな

……それにしても、竹井先輩の馴染みっぷりは相変わらず凄いな……常連のおっちゃん達が元々染谷先輩を親目線で見てるから娘の友だちの面倒を見るぐらいの気持ちなのかもしれないけど

「優希ちゃんも好きなもの頼んでいいからね」

優希「おおう、それじゃあ遠慮なく……竹井せんぱーい! オレンジジュース!」

久「はいはーい、ちょっと待っててねー」

優希「先輩、ちょくちょくメイド設定忘れてるじぇ?」

久「あらやだ……なぁに? そんなに先輩に傅かれたいわけ? こき使いたいわけ? 日頃の恨み?いい性格してるじゃない」

優希「竹井先輩ほどじゃないじぇ」

久「やん、お嬢様ったらいじわるね」

優希「まあ、竹井先輩に恨みなんて無いけどな!」

久「そうよね! 知ってるわよ、もう!」

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◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:36:11.44 ID:JCRZrynq0<>
久「あ、優希タコス食べる?」

優希「買ってきたから大丈夫だじぇ! ……というか、タコスはメニューにあったっけ?」

久「裏メニューってやつね。 お得意様の優希がいるし」

優希「おぉ! それは感動だじぇ! それじゃあ早速……」

久「あ、待って! 私料理とか無理だから! まこがいるときだけね! たぶん作ってくれるわ!」

優希「えぇ……期待させといてそりゃないじぇ……」

久「あは、ごめんごめん。 お詫びにサービスするから! まこが!」

まこ「無責任に勝手なこと言うんはやめんさい」

久「あたっ……ちょっと、危ないじゃない! 飲み物持ってるのにはたかないでよー」

まこ「ふむ、そうじゃな……衣装が汚れたら大変じゃしな、すまんかったのう」

久「そういうことじゃないでしょー!」

優希「染谷先輩! お邪魔してるじぇ!」

まこ「いらっしゃい、よう来たのう」

優希「うん、ちょっと相談があって……時間、ありますか?」

まこ「あんたのためなら時間ぐらい作るけぇ、いつでも来んさい」

優希「そう言ってくれるのはうれしいんですけど……染谷先輩の邪魔したくないし……」

久「……いいの? 予定よりもちょっと早く出てきたけど」

まこ「ちょうどキリのええとこまでやったんでな。 とりあえず……今日のところは気にしなくてええよ」

優希「……ありがとうございます!」

まこ「ええんよ、わしも少しは息抜きしたいしのう」

久「ちょっと! 息抜き過ぎもダメよ!? 私と一緒の学校ちゃんと来てよね!?」

まこ「落ちるようなヘマはせんわ……というか、あんたと同じとこ行くなんて言っとらんじゃろ」

久「え!? なんで!? 私と一緒にインカレも制覇するんじゃないの!?」

まこ「なんでそれが当然みたいになっとるんじゃ……」

久「え……? え、嘘でしょ……?」

まこ「……ま、まあ、志望校のひとつではあるがの……県内の麻雀強豪校じゃし……」

久「それならそうと最初から言えばいいじゃないのよう……」

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◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:38:14.65 ID:JCRZrynq0<>
優希「というか、染谷先輩はどこ志望なんだじぇ? 勝手に竹井先輩と同じとこに行くんだと思い込んでたじょ」

久「私も! だってまこって私のこと大好きだし!」

まこ「アホなこと言うとらんで……優希、話があるなら裏行くか? なんならタコスも作ってやるけぇ」

優希「やったじぇ! ……といいたいとこだけど、店の方はいいんですか?」

まこ「久がおるしのう」

久「ちょっと待ってよ! 仲間外れにする気!? 頼れる先輩の私がいた方が優希だって安心でしょ! っていうか志望校どこなの!?」

まこ「給料払ってるんじゃから仕事せぇ……普通に県内の麻雀強豪校から……あんたんとこや、加治木さんの行ったとことかのう」

久「……モモちゃんが怒るわよ、『なんで先輩のとこ行ってるんすか! そっちの部長さんの手綱しっかり握っといてほしいっす!』とかなんとか……」

まこ「あんたはその扱いでええんか……? まあええ、優希……どうする?」

優希「その、できれば竹井先輩も一緒に……」

まこ「んじゃ……あんたは休憩じゃ。 この時間帯ならなんとかなるじゃろ」

久「かしこまりましたご主人様!」

まこ「……わしもメイド服なんじゃが」

久「雇い主だしご主人様でしょ? それじゃあ優希、行きましょ?」

まこ「休憩時間オーバーせんようにな」

久「ここは優希優先でしょ!」

まこ「……まあええわ、店が回らんくなりそうならあんたは戻すけえね……あと、休憩オーバー分は給料から引くけえの」

久「ぶーぶー」

まこ「当然じゃろ……そりゃあ、わしだって優希を優先したいがのう」

優希「先輩……いつも、世話ばかりかけて申し訳ないじょ」

まこ「自分だけで解決できなそうなら他人に頼るのがええ……それに、こちらとしてもまったく頼ってもらえん方が寂しいけえね」

久「そうそう、どんどん頼っちゃってよ! 特に私は暇だしね〜」

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◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:39:53.02 ID:JCRZrynq0<>
染谷先輩と竹井先輩と一緒にお店の裏の休憩室……を通り抜けて、染谷先輩の家に移動する

ちょっと待っとれ、なんて言われて何をするのかと思ったらささっと手際よくタコスを作ってくれた

……本当に裏メニューってわけではないだろうけど、私のために用意しておいてくれていたらしい

まこ「ほれ、食べんさい」

優希「……わざわざ、ありがとうございます」

まこ「ん? ふふ、わしもレパートリー広げたいしのう……タコスなら優希に食べてもらうんが一番じゃ」

優希「……うん! タコスのことなら任せてほしいじぇ! いくらでも意見を言えるじょ!」

まこ「頼もしい限りじゃな。 感想頼むけえ」

久「……ねえ、私の分は?」

まこ「ん? ……ああ、たしかそっちの棚にカップ麺かなにかが……」

久「いやいや! 待ってよ! なにその差は!? 私も手料理が食べたいんですけど!」

まこ「わがままなやっちゃのう……あんたは一応勤務中なんじゃからあとにせえ。 あがった後に夕飯食べてくなら出しちゃるけえ」

久「はーい……なんか悪いわね」

まこ「今さらなんじゃ、しょっちゅうじゃろ……しおらしくしたって騙されんぞ?」

久「別に騙すとかじゃないじゃないのよー」

まこ「はいはい……で、今日はどうしたんじゃ?」

優希「いくつか相談が……えっと、まずは……冬休み中に数絵ちゃんがRoof-topに来たいって。 練習試合の体は取りづらいから部活外でって」

まこ「ふむ……なるほどのう、いつでも来てくれてかまわんぞ? わしは……そうじゃな、年末年始なら午後は店の方に顔出すつもりじゃから、そのつもりでいてもらえりゃええ」

優希「わかったじょ。 年末年始は部活も休みにするつもりだから……部員には日程だけ伝えておいて自主練みたいな扱いでいこうと思うじぇ」

久「それでいいと思うわよ。 私もシフト入ってるから一緒に打てるしね!」

優希「それを聞いたら数絵ちゃんも喜ぶじぇ!」

久「あら、なぁに? 南浦さん私のこと好きなの?」

優希「数絵ちゃんは常に強敵との戦いを求めているからな……竹井先輩ほどの打ち手と打てるとなれば!」

久「ふふ、私も南浦さんレベルの相手と打つのは勉強になるしね、楽しみにしてるわ!」

優希「それじゃあ、そんな感じで数絵ちゃんには伝えておくじょ」

まこ「うん、わしも楽しみにしとるわ」

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◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:40:54.55 ID:JCRZrynq0<>
優希「あと、春期の団体メンバーなんですけど……」

久「あ、決まったの? 人数いるの羨ましいわねぇ……私がいた時は女子は五人ぴったりだったし」

まこ「来年は男子も五人揃うとええのう」

優希「団体戦と個人戦とでやっぱり違うからな……来年も勧誘頑張るじょ! ……で、とりあえず大会まで短期で部内リーグ戦でもやってその成績で決めようかと思って……」

久「なるほどね。 風越とか、人数多いところだとそういう形を取るところ多いみたいだけど……」

まこ「夏は成績やコンディション見て相談して決めたのう……今までの分も成績は記録してあるじゃろ? そっちは使わないんか?」

優希「のどちゃんは使った方がいいって意見だったんだけど……今回は、試しってことで……大会前に気合入れて伸びてくる子も出てくるかもしれないし」

まこ「うん、考えがあるならそれでええじゃろ。 今はあんたが部長なんじゃ、自信を持ってやればええ」

優希「……あの、それなんですけど……」

まこ「それ?」

優希「……染谷先輩が引退して……私が、部長になったじゃないですか?」

まこ「ほうじゃな」

久「……自信ない?」

優希「うん……今さらだけど、なんというか……なんで私なのかなって思って……最初は、選んでもらえたのもうれしくって、頑張ろうって……」

優希「でも、いつも思ってもいるんだ……やっぱり、私よりものどちゃんや咲ちゃんがいいんじゃないかって……」

優希「あ、嫌だったとか、辞めたいとかじゃないんだじょ? ただ……なんか、やっぱり……うん……」

久「不安?」

優希「……ちょっとだけ」

まこ「難しく考えんでええんじゃよ。 和も咲も京太郎も……それに後輩たちもおるじゃろ? 別にひとりでなんでもやらんといけないわけでもないし、頼ってええんじゃよ」

優希「わかってるんだけど……私は、のどちゃんや咲ちゃんより……ちょっと、負けるから……頼らないでやりたいって気持ちもあるんだ。 しょうもない意地だってわかってもいるんだけど……」

久「んー……まあ、その気持ちはわかるわねぇ……私だって最初の頃はひとりでなんでもやろうとしてたし、今だって同級生に負けたくないもの」

優希「……染谷先輩」

まこ「なんじゃ?」

優希「……どうして、私だったの?」

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◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:41:51.09 ID:JCRZrynq0<>
まこ「ふむ……わしとしても、いろいろ考えて一番ええと思う形にしたんじゃがな」

優希「……京太郎も、なんで俺なんだろうなーって言ってた」

まこ「ふふ……そうじゃな、京太郎は決めてすぐにわしんとこ来たわ。 本当に俺でいいんすか? とか、気を遣わなくても……なんて言ってのう」

優希「……そうなんですか?」

久「……須賀くんと優希は……ふたりとも、和や咲に対してちょっとばかし成績で劣るのを気にしすぎだと私は思うんだけどね」

優希「…………」

まこ「京太郎にはわしから話して、京太郎なりに理解してくれたみたいじゃがの……優希は、京太郎が副部長なのに文句あるかのう?」

優希「そんなことないじょ。 京太郎はむしろ向いてる方じゃないかと思うじぇ……別に、麻雀の強さが適正じゃないし……」

まこ「ほんなら、優希が部長でも問題はないんじゃないかのう?」

優希「う……そう言われると、そうなんだけど……」

まこ「ふふ……まあ、あんたの言いたいことはわかるわ。 それじゃあ……あんたを部長に選んだ理由はいくつかあるけどのう……」

まこ「……わしは、極論だれがやってもええと思っとった」

優希「え……?」

まこ「あんたらなら、だれが部長になってもちゃんと助け合って結局うまく回るじゃろうからな……たとえば、あんたは書類の処理やら部費の管理やら苦手じゃが、和や咲がなんとかしてくれとるじゃろ?」

優希「……うん。 恥ずかしながらその通りだじょ」

久「めんどくさいわよね、書類の整理やらなんやら……私なんか生徒議会もあったし量がとんでもないことに……」

まこ「……あんた、生徒議会の書類はほぼ副会長に丸投げじゃったろ」

久「……な、なんのことかしらね?」

まこ「……とにかく、それでも優希を選んだんじゃから……そこにはちゃんと理由があるんじゃ」

優希「……聞きたいじぇ」

まこ「まず、みんなを引っ張っとるのがあんただから、じゃな」

久「なんの話にしても最初に結論出すの優希だもんねー……遊びにいく場所とか」

まこ「咲も和も遠慮しいでなあ……なんだかんだまとめ役で決断役なのは優希じゃからな」

優希「……そうかな?」

久「そうでしょ? まずはタコスを買ってからカラオケに行くじぇ! とか」

優希「……それを決め手にされたと言われるとなんとなく複雑だじょ」

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◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:45:26.39 ID:JCRZrynq0<>
まこ「……今のは例示がちょっとアレじゃったが、そういう普段のあんたらを見て決めたってことじゃ……まあ、決め手はそれではないがのう」

優希「……それじゃあ、なにが決め手になったんですか?」

まこ「……清澄は去年の夏、インターハイ団体戦で優勝しとる」

久「最高だったわね……高校生活……ううん、人生で一番の思い出だわ」

優希「あの時は、本当に最高だったじょ」

まこ「そうじゃな……わしにとっても最高の出来事じゃったわ。 ……しかし、清澄は若いチームじゃ。 今年も麻雀をやりたいもんは風越をはじめとする名門校に流れたし、新入生も……その成績に腰が引けたんかあんまり入ってもらえんかったしのう」

久「見学自体は結構来てくれたのにね……レベルの差にびびっちゃった子も多かったみたいだったもんね」

まこ「そこじゃな……優希や京太郎だって咲と和との成績の差で悩んどるじゃから、後輩たちは余計にそういう悩みを抱えとるはずじゃ」

優希「……夏の大会のあと、ムロのやつもずっと悩んでたじぇ……自分の失点で、って……」

まこ「勝負の世界は上を見ても下を見てもキリがないもんじゃ……特に麻雀は、頂点に立っても毎回必ず勝てるって競技でもないしのう」

まこ「……わしらはあの夏、みんなで頂上からの景色を見たのう……それでも、今年は県予選で敗退じゃ」

優希「……うん」

まこ「それでも、咲と和は個人戦でしっかり上位に入って全国に行ったのう」

優希「…………」

頂点に立った時の嬉しさ、感動……敗退した時の悔しさ……どちらも忘れられない

そして、のどちゃんと咲ちゃんが全国に行って、それを見ているだけの私

ふたりが勝ち上がった嬉しさ、誇らしさ、置いていかれた悔しさ、妬ましさ、焦燥感……

プラスとマイナスの感情を両方抱えて、回りには暗い感情を見せたくなくって、ずっとモヤモヤしたまま悩んで……今までで一番辛かった時期かもしれない
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◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:46:19.39 ID:JCRZrynq0<>
まこ「……わしはな、優希……あんたが一番、誰よりも……部員全員の気持ちを理解できると思うんじゃ」

優希「みんなの、気持ち……」

まこ「勝つ嬉しさ、喜び……負ける悔しさ、仲間との差に悩んで……あんたが今まで感じてきたことは、これからあんたの後輩たちも経験していくことじゃろう」

まこ「わしは、あんたらなら来年は全国に行けると信じとる。 しかし、全国の舞台で誰もが活躍できるわけじゃないけえ……咲や和だって強敵を前に大きく失点することもあるかもしれん」

まこ「……あんたは回りの人間の気持ちを汲める子じゃ……そして、誰よりも優しい……ちゃんとみんなを引っ張っていけるし、辛いときには寄り添ってやることもできると思ってな」

優希「……買い被りすぎだじょ……私、いろいろ考えるのでいっぱいいっぱいで……」

久「最初からなんでもできるわけじゃないんだから、今はそれでもいいのよ」

まこ「少しずつ慣れていけばええ。 あんたが普段通りにやってればみんなついてくるわ」

優希「……私、うまくやれるかな?」

まこ「もちろんじゃよ」

久「……優希、あなたが思っているよりも優希はみんなに信頼されているし、好かれているのよ?」

優希「……本当?」

久「嘘なんか言わないわよ! だいたい、私だって優希のこと大好きだもの! ……それと、もうひとついいことを教えてあげるわ」

優希「いいこと?」

久「そう! 今、優希はあまり自信が持てないみたいだけど……あなたはまこと、この私が、部長に選んだのよ?」

まこ「わしらのことなら信じられるじゃろ?」

優希「……へへ、そう言われるとなんでもできるような気がしてきたじょ」

久「ふふ、でしょう?」

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◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:47:49.15 ID:JCRZrynq0<>
まこ「何度でも言っちゃる……あんたならできる。 できないと思った時は、回りを頼ってええんじゃ。 今日、こうやってわしらんとこに相談に来たみたいに……和と咲と京太郎がいて、ムロたち後輩もおる」

久「優希がいつも通りにしてるだけでみんなも助けられてるのよ? その分、回りのみんなも助けてくれるわ。 もちろん、私たちもね!」

優希「うん……ありがとう、先輩!」

まこ「気にせんでええ……それにしても、わしもうっかりしとったわ……あんた、とんでもない意地っ張りだったのう」

優希「だって……やっぱりふたりに負けっぱなしなのも悔しいし……頼ってばっかになっちゃうのも……」

まこ「頼られる方がうれしいもんじゃ。 優希だってそうじゃろ? 咲や和も寂しがっとるんじゃないんか?」

優希「う……それは、まあ……」

久「ちゃんと頼ってあげてね? 和なんてもう、ゆーきが、ゆーきがーって……またいじけちゃうわよ?」

優希「はぁい……のどちゃんには特に心配かけちゃってるっていうのもわかってるんだけど……」

まこ「けど、はもうやめんさい……気づけたんなら直すのも勇気じゃよ。 特に、あんたがこれからの麻雀部を引っ張っていくんじゃから……みんなのためにも、恥を忍んで回りに頼らないといかん場面もあるはずじゃぞ?」

優希「みんなのため……か……そうだな、やっぱり意地張ってても仕方ないんだよな……」

久「わかってても難しいのよねぇ」

まこ「あんたらは年上相手はともかく、同年代に甘えるのへたくそじゃからのう」

優希「カッコつけしいな自覚はあるじょ……でも、竹井先輩はわりと染谷先輩に……」

久「な、なによ、そんなことないでしょ? そりゃあ多少はね? そんなとこもあったかもしれないけど!」

まこ「久もカッコつけじゃからのう……まあ、最上級生ひとりじゃったし甘える相手もいなかったじゃろうし……」

久「……信頼の証よ? まこに負担かけちゃったのは申し訳ないと思ってるけど」

まこ「負担だなんて思っとらんわ。 それを言うたらわしだってあんたには散々世話になっとるしのう」

優希「はぁ……まったく、仲がよくって羨ましい限りだじぇ」

まこ「……なぁに言っとるんじゃ、あんたにも仲間がいるじゃろうが」

久「今のを聞いたら今度こそ和が泣くわね」

優希「あう……別に、みんながそういうのじゃないとかじゃなくって……」

まこ「ふふ、わかっとるって……わしらは、元々先輩後輩じゃからのう」

久「同い年のあなたたちとはまた少し関係性も変わるわよね。 一緒にやっていく上でまこに対抗心みたいなのは持ったことないし」

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◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:49:46.50 ID:JCRZrynq0<>
みんなと……対抗心……ああ、そっか……

優希「……私、大事なこと忘れてたじょ」

夏の大会も、国麻も、のどちゃんと咲ちゃんが大活躍して……どうしても自分と比べてしまって

ふたりに置いていかれたくない、その一心で強くなりたい、頼らずに結果を出したい、って焦っていたけど……

優希「私は……ふたりと一緒に……みんなと一緒に全国に……全国で優勝したいっていうのが元々だったのに……」

焦りばかりが先行して、意固地になって……自分のことばっかりになっちゃって……

優希「……やっぱり、私は部長失格だじょ」

久「だーかーら、優希は気にしすぎ! 適当でいいのよ、適当で!」

まこ「適当はダメじゃろ……とはいえ、たしかに優希は責任を感じすぎじゃ。 もう少し気を楽にしてええんじゃぞ?」

優希「……それでも、竹井先輩と染谷先輩から受け継いだ、大事な部だから……」

久「……もうっ! 優希ったらかわいい! いじらしい!」

まこ「ふふ……そこまでわしらのことを気にしてくれるんはうれしいがのう……あんまり気にしすぎて部がうまく回らんくなってもうても困るけえね」

優希「うん……そうだな。 できるだけ意地も張らないようにして、みんなにも頼るようにするじょ……私も、負けたくないし、みんなで全国に行きたいから」

久「それがきっと正解よ! 私の時だって、大会前は須賀くん放置ぎみにしちゃってたのはまこにフォローしてもらっちゃったし……私の手の回らないところはいろいろ……本当にいろいろ……」

まこ「だからもうええって……あんたが手の回らんとこをわしが助ける、それでうまくいったんじゃから」

優希「……私たちも、きっとそれでうまくいくよね?」

まこ「ん、わしはうまくいくと思っとるよ。 ただ……」

優希「ただ?」

まこ「回りを頼るのはええんじゃが、惰性になっていって気づいたら全部丸投げしてる、とかになったらダメじゃぞ? どっかの誰かがやってたみたいにのう」

久「……どこの誰のことかしらね!」

まこ「懐かしいのう、副会長が休み時間にわざわざ二年の教室まで来て……『生徒議会の書類、あと会長の認可だけなんで……』ってわしに……」

久「ちょ、やめてよ! 優希の前で!」

まこ「あんたがめんどくさがって逃げ回るからわしんとこまで来てたんじゃぞ? それでも部室まで来なかったんは副会長の優しさじゃのう」

久「わざわざ気を遣ってくれてたのにバラさないでよ!」

優希「……ぶっちゃけサボってたのは知ってたじょ? 竹井先輩、副会長に迷惑かけるな、って染谷先輩にお説教されてたし」

久「あ、そういえばそうね! ……ちょっとまこ! 酷いじゃない!」

まこ「あんたが酷いからそうなったんじゃがな……」

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◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:51:37.28 ID:JCRZrynq0<>
――――――



優希「……今日は、ありがとうございました」

久「いいのよ、いちいちかしこまらなくて」

優希「いろいろと話せてよかったじょ……私、まだ部長をしっかりやれるかあまり自信ないけど……」

優希「だけど! 先輩が私を選んでくれたこと、裏切りたくない……先輩が期待してくれたみたいな、ちゃんとした部長になれるように頑張るじょ!」

まこ「うんうん、それでええ。 あんたが努力して、みんなと力を合わせて部を作っていけばええんじゃ」

優希「うん!」

久「頑張って、優希! 来年、期待してるわ」

優希「まかせるじぇ! 今度こそ全国制覇だじょ!」

まこ「……わしは一足先に抜けることになるが……応援してるけえ、しっかりな」

優希「……染谷先輩、見ててほしいじぇ……私、頑張るから……」

優希「……みんなと、一緒に!」

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◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:52:05.60 ID:JCRZrynq0<>

――――――



冬休みの朝、本当ならゆっくりお昼まで寝ていたいところだけど……今日は午前中から部活だ。 部長として遅刻するわけにはいかない

朝食と、部活に持っていく用のタコスを作りながら今日の練習メニューを考える

特打ちはするにしても、人数的にも設備的にもどうしても人は余るし……春期に向けて他校のデータも整理しておきたいよな……

データの整理は……京太郎の手が空くようならあいつに頼もう。 女子の方になっちゃうから申し訳ないけど……咲ちゃんはパソコンできないし、のどちゃんは頼めばやってくれるだろうけど、そんなことをするぐらいなら練習しましょう! って言いそうだし……

……ああ、別に京太郎じゃなくてもムロとかに任せちゃってもいいのか。 上位プレイヤーの牌譜なら勉強にもなるし一年生に……

……残ってる部費で卓……は、無理か。 せめてネト麻や牌譜整理用に使いたいし、合宿にも持ち運びできるいまだに置いてないノートPCでも買いたいなぁ……安いのなら買えるかな? 部費の管理はのどちゃんに任せてるし確認してもらって……

使いきるなら来年の初心者新入部員を期待して教本を買うのもいいかもしれない。 咲ちゃんに……いや、咲ちゃんにまかせると麻雀の本よりも別の本で本棚を埋めちゃう気もする……

まあ、咲ちゃんはうちのエースだし、部費を残すのはもったいないから使いきるために部室に置く本を買うのならいいのかなー

優希「……っと、そろそろ行かないとな」

できたてほやほやのタコスをひとつ口に、残りを袋につめて家を飛び出す

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◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:52:52.16 ID:JCRZrynq0<>
自転車で風を切りながら走る……冷たい風が眠気覚まし代わりにちょうどいい

かごに入れた袋から二個目のタコスを取り出して口に放り込む。 これを食べ終わる頃にちょうど……

優希「おーっす! 元気かこのアホ!」

京太郎「いってぇ! すれ違い様に頭を叩くな! 朝から騒がしいんだよ!」

優希「おう、すまんすまん……お前を見るとついな!」

京太郎「……昨日、行ったのか? Roof-top」

優希「……なんでわかるんだ、気持ち悪いな」

京太郎「なんかスッキリした感じになってっから……で? なんだって?」

優希「ん? んー……そうだな、もうちょっと……みんなに頼らせてもらおうと思う。 お前にも、また苦労を掛けると思うが……」

京太郎「何を今さら……いつものことだろ」

優希「……それもそうだな! じゃあ気にせずこき使わせてもらうじぇ!」

京太郎「ちょっとは遠慮するとか感謝するとかしろよ!?」

優希「あ、のどちゃーん! 咲ちゃーん! おはよーっ!」

和「ゆーき、おはようございます!」

咲「おはよう優希ちゃん、京ちゃんも」

京太郎「……おう、おはよ」

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◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:53:40.96 ID:JCRZrynq0<>
和「天気もいいですし、爽かでいい朝ですね」

咲「ちょっと寒いけどねー」

京太郎「女子はスカートで大変だよな、超寒そう……俺には無理だわ」

優希「うげ……お前がスカート履いてるとこ想像しちゃったじゃないか」

咲「無理ってこっちの台詞だよね」

和「というか、足をじろじろ見るのやめてください。 セクハラです」

京太郎「え、いや……その、ごめんなさい……」

優希「……ところでだな、ちょっと話があるんだが……」

和「どうしたんですか? 改まって……」

優希「うん……部のこと、いろいろ考えたんだけど……やっぱり、私だけじゃできないことがたくさんあって……これから、もっとみんなに頼ることが多くなると思うんだけど……」

咲「ふふ、そんなこと?」

優希「そんなこと、って……」

咲「むしろ、もっと早くからいろいろ頼ってほしかったんだけどなあ」

和「そうですよ、遅すぎです。 昨日だってちょっと団体戦の話をしたぐらいであんまり……」

咲「もう、優希ちゃんもこう言ってるんだから……愚痴はやめようよ、和ちゃん」

京太郎「……俺たちは、今までお前にいろいろ助けられてるからさ。 その分、お前のこと助けたいって思ってるんだぜ?」

優希「……うん。 今まで、ごめんな……それと、ありがとう! これからもよろしく頼むじぇ!」

和「もちろんですよ、ゆーき!」

咲「今度こそ、みんなでまた全国に行こうねっ!」

京太郎「俺だって来年こそは……女子と男子、本当にみんなで行くぞ、全国!」

優希「……おうっ! みんなで頑張るじょ! 目指すは全国制覇だじぇ!」

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◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:54:14.31 ID:JCRZrynq0<>
結局、私がひとりで意地張って、悩んでただけだったんだな……

いや、私だって本当はわかってたんだ。 ひとりじゃどうにもならないってこと

でも、私にはみんながいる。 竹井先輩と染谷先輩が互いに助け合って清澄っていう素晴らしいチームを作ったのと同じように……今の私には、のどちゃんがいて、咲ちゃんがいて、京太郎がいて……ムロたち、後輩がいて……

私だけじゃ届かなかった全国も、みんなで力を合わせれば、きっと届く

今までもみんなにまかせていたことはいくつもあったけれど、本当の意味では頼っていなかったから……

意地を張るのはやめて、ずっとみんなが伸ばしていてくれた手を掴んで……ここからが、本当の新しい清澄高校麻雀部……私の、私たちの麻雀部なんだ!

優希「よぉし……気合入ってきたじぇ! 今日の練習は千本ノックからだ!」

京太郎「麻雀しろよ!?」

和「わ、私はキャッチボールもしたことありませんよ!?」

京太郎「そこじゃないだろ!? 俺たち野球部じゃないから!」

咲「……甲子園に連れてって?」

京太郎「行かねぇよ!? 東京行くんだろ!? 目指すのインハイだろ!?」

優希「朝っぱらからうるさいぞ京太郎! 近所迷惑だ!」

京太郎「納得いかねぇ!」

優希「まったく、仕方のないやつだ……ふふっ」

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◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:55:31.84 ID:JCRZrynq0<>
やっぱり、楽しい。 こういうなんの意味もない話をしている時間だってかけがえのない大切なものだ

大好きなみんなと一緒に、大好きな麻雀で頂点を目指す……青春をかけるのにこれ以上相応しいことがあるだろうか?

先輩たちが私を信じて、受け継がせてくれた『部長』という立場……みんなも私を信じて助けてくれる。 もう、怖いことなんてない

覚悟は決めた。 私もみんなを信じて、あとはパワー全開で走るだけだ

優希「よしっ! なあ、みんなっ!」

和「はいっ」

咲「なぁに?」

京太郎「どうした?」

私のパワーの源……麻雀を楽しむこと、仲間の笑顔、あとはもちろん……とびっきりおいしいタコスだ!


優希「タコス食うか? おいしいじょ!」


カン!
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◆FYW.3i5lks<>saga<>2016/03/05(土) 22:57:55.89 ID:JCRZrynq0<> もう春だけども!三月中にもう一本を目標に優希ss投下
清澄ss増えろ!
<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2016/03/05(土) 23:31:40.01 ID:bJjhQazso<> 乙 よくできてるなあこれは面白い
今のここではこういうのは貴重なんでこれからも期待 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2016/03/06(日) 00:20:02.51 ID:1Nm9y+oK0<> タコスかわいいよタコス <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2016/03/06(日) 01:04:59.84 ID:UuduOBmqo<> しねごみつまんねーから出ていけカス共 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2016/03/06(日) 12:19:42.36 ID:FZ+yeCS/0<> イッチのSS読んでるとタコスは主人公的な風格ある、って思えるな。
よく考えると、清澄で一番努力を積み重ねて強くなってるのはタコスかも。
乙です。 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2016/03/06(日) 14:16:59.10 ID:sB6M8ZjSO<> 乙です
毎回成長していくタコス見るの楽しみです <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2016/03/07(月) 14:20:34.36 ID:rQDBaXD90<> 乙
続きも楽しみに待っ照 <>