◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 16:05:45.54 ID:6iENb3Do0<>
先日投稿した

【ガルパン】西住みほ「IV号対空戦車?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1475267396/

を別視点から描いてみたものです。

・キャラ崩壊(いつもの)
・独自設定あり
・やっちゃえ西さん!キテるね西さん!

以上がOKならどうぞ


や、やってやるぞ!

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1491635145
<>【ガルパン】西「四号対空戦車?」
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 16:08:38.91 ID:6iENb3Do0<>


◆1 入院生活




【対大洗戦から1週間後】



ダージリン「それにしても」ズズ…

ダージリン「随分、痩せたわね?」カチャ

西「………」

ダージリン「でも、そんな痩せ方は不健康よ?」

西「………」

ダージリン「うちの砲手が言うにはね、背筋を伸ばして座るだけでダイエットに成功したって子がいるそうなの」

ダージリン「同僚がやお友達が皆痩せたねって驚くほど変わったそうよ」

ダージリン「あなたはおっちょこちょいだけど礼儀正しい子だから、その方法をオススメするわ」フフッ

西「………」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 16:09:59.42 ID:6iENb3Do0<>
ダージリン「かく言う私も甘い物を摘みすぎたせいで少し体重が気になりだして」

ダージリン「見た目は変わってないかもしれないけど、油断していると…ね?」

西「………」

ダージリン「だから、私もその方法を試してみようと思うのだけど、いかがかしら?」クスッ

ダージリン「………」

西「………」

ダージリン「………」

ダージリン「紅茶、冷めちゃったわね…」

西「………」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 16:10:57.05 ID:6iENb3Do0<>
スッ...

ダージリン「あなたの手、とっても温かい…」

西「………」

ダージリン「知波単学園は幸せね。こんな暖かい人がリーダーですもの」

西「………」

ダージリン「あなたの手でカップを持てばまた温かくなるかしら」

西「………」












西「……ぅ…」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 16:11:48.92 ID:6iENb3Do0<>
ダージリン「! 意識が戻ったのね?!」

西「………ダ…ジ…リン…?」

ダージリン「無理に喋らなくて良いわよ。いま看護師を呼んでくるから」

西「ま…ッ…て…」

ダージリン「えっ?」

西「ぃか…なぃ…で……」

ダージリン「………」

ダージリン「わかったわ」

ダージリン「お言葉に甘えてここ居させて頂くわ。だから…」



ダージリン「だから、泣かないの」



西「ぁ…りが…と………」ツー
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 16:13:38.97 ID:6iENb3Do0<>
【数分後】


医師「無事に意識が戻られたので、あとはこのまま順調に回復していくかと思います」

ダージリン「良かった…」

医師「ただ、肋骨と左腕、左足が骨折しているのと、極度の疲労状態なので、しばらくは安静にしている必要があります」

ダージリン「あの、頭の傷は?」

医師「安心してください。痕は残りませんでしたよ」

ダージリン「そうですか」ホッ

医師「では、私は回診がありますので。また何かあったら呼んでください」

ダージリン「ありがとうございます」ペコリ
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 16:14:57.36 ID:6iENb3Do0<>
ダージリン「…」

西「…」

ダージリン「…良かったわね。後遺症やキズが残らなくて」

西「ええ…。生まれつき傷が治りやすい体質であったことに助けられたみたいです」

ダージリン「舩坂弘ね。面白くないジョークよ。うちの砲手でもそんな事は言わないわ」

西「ははは…」

ダージリン「腕はともかく、顔は乙女の命なのよ?キズが残らなくて良かったわ」

西「でも額にキズがあると何か格好良いじゃないですか。あのハリー・バッター?みたいに」

ダージリン「馬鹿なこと言わないで頂戴!」

西「すっ、すみません…」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 16:16:48.24 ID:6iENb3Do0<>
ダージリン「…全く。それだけ元気ならもう大丈夫ね」

西「ええ。ダージリン殿には色々ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

ダージリン「お気になさらず。好敵手を憂うのも淑女の嗜みでしてよ」

西「お、奇遇ですな。実は私もダージリン殿の事を前から考えておりまして」

ダージリン「それはどういうことかしら?」

西「その…なんと申せば良いのか…」モジモジ

ダージリン「歯切れが悪いわね。はっきり言って頂戴」

西「実はダージリン殿の…」モジモジ

ダージリン「ええ…」










西「走行中の戦車で紅茶をこぼさず持つという芸当が気になっておりました」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 16:18:31.48 ID:6iENb3Do0<>

ダージリン「…………は?」


西「戦車の中は揺れるので、荒れ地を走った時なんてカップの中身をひっくり返してしまいそうです」

西「なのにダージリン殿や聖グロリアーナの皆さんは器用に紅茶を保っておられるようで」

ダージリン「………」プルプル

西「あ、あれ?ダージリン殿?」

ダージリン「こんな名言を知っているかしら」カタカタ

西「へっ?あ、ダージリン殿?!手が震えてますよ!紅茶こぼれt」

ダージリン「"クララのバカっ!!"」バシーン!

西「あいたーっ!!?」




― 数分前まで意識不明だった人にも容赦ないダージリンなのでした。 <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 16:20:03.34 ID:6iENb3Do0<>
ダージリン「ふん」ツーン

西「その…機嫌を直して頂けないでしょうかダージリン殿」ヒリヒリ…

ダージリン「誰のせいだと思ってるのかしら」

西「あはは。すみません。ダージリン殿が面白いからついつい…」

ダージリン「…喧嘩を売っているのかしら?」

西「し、失礼しましたっ!張り手はご勘弁をっ!!」

ダージリン「…あなたはもう少し気品と言うものを学ぶべきよ」

ダージリン「何でもかんでも突撃すれば良いわけではない事を肝に銘じなさい」

西「あはは…。私もダージリン殿のようにお淑やかな女性になりたかったですね」

ダージリン「でしたら聖グロリアーナに転校されてはいかが?」

ダージリン「乙女の嗜みを一からご指南しましてよ」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 16:21:05.11 ID:6iENb3Do0<>
西「うーん…。饅頭に紅茶は合うのでしょうか?」

ダージリン「またそれを言うのね…」ハァ

西「あ、饅頭じゃないですけど、菱餅ならあります」

ダージリン「…菱餅」ピクッ

西「…?どうされました…?」

ダージリン「いえ。ちょっと昔の話を思い出して」

西「そうですか?」


ダージリン「それより、ずっと気になってた事があるの」

西「何でしょう?」

ダージリン「知波単学園の戦術が大幅に変わったことについて」

西「あぁ…」



ダージリン「一体あなたはどうやってあの血の気の多い"突撃チーム"を変えたのかしら?」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 16:22:50.36 ID:6iENb3Do0<>
西「………」

ダージリン「な、なによ…どうしてそんな顔するの?」

西「……いえ…」

ダージリン「?」

西「ダージリン殿になら話しても良いのかなぁ…って思いまして。ははは…」

ダージリン「そう…」

西「出来れば他の人には内緒に…」

ダージリン「ええ。あなたと私だけの秘密ということにしますわ」

西「恐縮です」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 16:25:20.98 ID:6iENb3Do0<>
西「簡単に言えば、『人間、死ぬ気でやれば何とでもなる』というやつでしょうか」

ダージリン「笑えないわよ。あなたはそれで実際に死にかけてるのだから」

西「ははは…」

ダージリン「…」

西「…実は、大学選抜との試合が終わって暫くした日に夢を見たんですよ」

ダージリン「夢?」

西「ええ。ものすごく嫌な夢を」

ダージリン「…それはお気の毒様」

西「今だから夢だと言えるけれど、もしかしたら正夢になってたかもしれない…と」

ダージリン「どんな夢かしら?」




西「大洗女子の運命が懸かった大学選抜チーム戦、私が自分の隊をまとめ切れず暴走し」

西「その結果惨敗。大洗女子学園が廃校になるという夢です」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 16:27:50.50 ID:6iENb3Do0<>
ダージリン「!」

西「エキシビジョンマッチ戦、大学選抜チーム戦において私は隊長でありながらチームをまとめることが出来ずにいました」

西「真正面から勇猛果敢に突撃し、潔く散ることが知波単の魂だ、誇だと思う皆と」

西「それが正解なのかと迷う私とのズレがあったために優柔不断になってしまい…」

ダージリン「あなたの学校は突撃が伝統ですものね」

西「ええ。その戦い方を否定するのは知波単を否定するも同然であります」

西「…だから私も練習試合とかなら皆が望む知波単として、存分に吶喊・突撃を用いた戦いをするつもりです」

西「でも、その考えが仇となり、私は負けてはならない戦(いくさ)で負け、一つの学校を潰してしまいました」

ダージリン「ご安心なさい。私達は大学選抜チームに勝利して大洗女子の廃校も阻止した。あなたもご存知の通り」

西「…」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 16:29:29.13 ID:6iENb3Do0<>

ダージリン「…あなたらしくないわね。普段のあなたならそんなもの寝たら忘れるでしょうに」

西「あはは…。あの時の西住さんが私に向けた、怒りや悲しみ、嫌悪に満ちた顔は忘れようにも忘れられません…」

ダージリン「むしろ一度拝んでみたいものですわ。みほさんのそんな表情を」

西「全てを諦めた顔でした」

ダージリン「…」

西「笑顔が素敵で凛々しい西住さんからは想像も出来ないような、魂が砕け散った人の顔でした」

西「言うなれば…"心が死んだ人"の顔です」

ダージリン「それはなかなか物騒な話ね」

西「きっとそんな顔を本当に見せられたら壊れますよ」


西「心が、"ぱ り ん" と」


ダージリン「?」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 16:32:12.70 ID:6iENb3Do0<>
ダージリン「ご心配なく。彼女は私達が思っている以上にしっかり者です」

ダージリン「万に一つ廃校になったとしても必ず別の方法を模索する」

西「…彼女は立派な方です。2度の廃校の危機に瀕しても、冷静で居られた。だから勝てた」

西「しかし…私は西住殿には遠く及びません………」

ダージリン「…!」

西「……同じ立場なのに………」

ダージリン「ちょっとあなた、一体何を…?!」

西「私は…私は………知波単学園の…戦車道を…」





西「………守れなかったんです……」ツー...
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 16:33:16.88 ID:6iENb3Do0<>
ダージリン「なっ!!」


西「……私は……命に変えてでも………守らなきゃ………いけなかったのに………」

ダージリン「…なによ、それ…」ワナワナ

西「あの戦いには……ヒッグ……知波単の……興廃が懸かってました…ヒグ……」

西「だから……私は……ッグ……頑張ったのに……グスッ…」




西「………負けちゃった………」


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 16:34:31.49 ID:6iENb3Do0<>
ダージリン「な、なによそれ…」

西「………」



ダージリン「そんなのあんまりじゃないッ!!!!」ダンッ



西「………」

ダージリン「許せないわよそんなの!」

ダージリン「自分や仲間の道を守るために死ぬ気で戦ったのに…なのに…!」

ダージリン「どうして誰もそれを認めないのよ!おかしいじゃない!!」


西「ダージリン殿………!」


ダージリン「あなたに何の恨みがあるって言うの!?」

ダージリン「独りで悩んで苦しんで!それでも勝たなきゃ全部台無しになる!!」

ダージリン「全部終わってしまうから止まることができないのに!!」

ダージリン「なのにこんな結果あんまりよ!!!」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 16:35:48.72 ID:6iENb3Do0<>
西「ありがとうございます…ダージリン殿………」ギュッ


ダージリン「はっ、離しなさい!何であなたが私を慰めるの?!離しなさいっ!!」

西「私が不甲斐ないばかりに…あなたまで…」ゴシゴシ

西「私はダージリン殿に助けてもらってばかりですね…あはは」

ダージリン「やめて!頭撫でないで!!これじゃただの惨めったらしい女じゃない!!」


西「そんな事ありません。」


ダージリン「っ…!」

西「私は粗忽な人間ですが、人から受けた恩だけは忘れないつもりです」

西「なので、ダージリン殿が困っている時に何もしないなら、私はそれこそ"惨めな女"です」

ダージリン「…あなた何を言っているの?…本当に困ってるのはあなたなのに!」

西「馬鹿か利口かと言われたら…迷うところですが、恩を仇で返す馬鹿にはなりたくないと思っております」

ダージリン「………ホントに馬鹿げてるわ………ばかみたい…」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 16:36:39.37 ID:6iENb3Do0<>
西「でも、ダージリン殿が私の分まで悲しんでくれたおかげで少し元気が出ましたよ。ありがとうございます…」ニコ

ダージリン「…………」

西「今の私には大したことは出来ませんが、せめてダージリン殿が落ち着くまでこうさせて下さいませ」

ダージリン「………人を片手で抱き締めといてよく言うわね」

西「はは……あいにく左腕は包帯でぐるぐる巻きですから」

ダージリン「………ばか…」

西「あはは。その…」

ダージリン「……なによ…」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 16:37:16.69 ID:6iENb3Do0<>
西「知波単学園から戦車道が無くなったら…」

西「その時は志願者を集めて非公式のチームでも作ろうと考えてます」

ダージリン「…好きにすれば良いわ」

西「草野球ならぬ草戦車道チームでも作れば誰にも迷惑かけず、思う存分吶喊も突撃もすることが出来ますからね」

ダージリン「………」

西「どれだけの人が付いて来てくれるはかわかりませんが、もし戦車が1輌でも動かせる程度に集まったなら…」

西「どうかその時はまたお手合わせ願います」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 16:38:55.25 ID:6iENb3Do0<>
ダージリン「…たった1輌で私に挑もうというの?」

西「さすがに聖グロリアーナ全員に1輌は…いや、戦車の機動力を活かせば或いは…」

ダージリン「…1輌じゃ無理よ」

西「そうですねぇ…5輌あれば勝てるかと」フフッ

ダージリン「…」ムカッ

西「痛っ!背中つねらないで下さい!」

ダージリン「……ふんっ!」


西(泣いたり怒ったりイジけたり…なかなか感性豊かな方だ)

西(でも私達のためにそこまでして下さるダージリン殿がとても愛おしく感じる)


西(しかし、どうしてダージリン殿はここまで激昂なさったのだろう…?)
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 16:39:53.75 ID:6iENb3Do0<>
ダージリン「………なによ」

西「いえいえ、ダージリン殿はお綺麗だなぁ…と」

ダージリン「こんな醜女によく言えるわね……」

西「そうですか?涙と鼻水でクッチャクチャなダージリン殿もこれはこrあいでででで!!!」



西(…この先どうなるかわかりません)

西(でも、出来ることなら、ダージリン殿とは今後も良好な関係を築いていきたい)
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 16:40:43.63 ID:6iENb3Do0<>
トントン


ダージリン「っ…」ゴシゴシ

西「ん、どうぞー」

「おお、意識が戻ったみたいだね!」

西「あ…」

ガチャ

ダージリン「…どちら様?」


西「学長殿…!」


ダージリン「!!」

<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<><>2017/04/08(土) 16:41:21.13 ID:PsRYwl/b0<> タイトル詐欺ww
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 16:41:33.93 ID:6iENb3Do0<>
学長「ケガをしているから『無事でよかったよ』とは言えないけど、見たところ元気にしてるようで安心したよ」

西「あはは…生まれつき傷が治りやすい体質であったことに助けられたみたいです」

学長「舩坂弘の名言だね。今の君が言うと冗談に聞こえないから怖いよ」

西「あはは…」

ダージリン「学長様自らお見舞に来てくださるなんて、いい学校ですわね」ギッ

西「だ、ダージリン殿!?」

ダージリン「生徒の努力が報われない。そんな学校ですもの」

学長「あははは…。まぁここに来たのは西君の様子を見に来たというのもあるんだけど」


学長「もう一つの目的は"それ"なんだよね」


西「………!」

ダージリン「信じられない」ボソッ
<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<><>2017/04/08(土) 16:41:56.25 ID:PsRYwl/b0<> タイトル詐欺ww
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 16:43:34.26 ID:6iENb3Do0<>
学長「君の望み通り、戦車道廃止は撤回することにしたよ」





ダージリン「!!」

西「えぇぇっ!!?」

ガタッ

西「…あいたっ!」

学長「こ、こら西君!…君は仮にも重傷なんだから無理に動いたら駄目だよ…」

西「で、ですが、廃止撤回とは!?」

学長「うん。実はね、大洗戦の後に戦車道関係の人が殺到してね」

学長「皆口を揃えて君の指揮や強豪校相手に勝利した秘策について知りたいと」

西「あはは。そんな大したことは…」テレテレ


学長「記事を書きたいから取材の許可をくれとか、戦車道履修者育成の参考にしたいとか…ね」

学長「更には生徒が戦車道を履修したいと言い出して、定員オーバー状態になってしまったり」

西「ははは…はっ!?」


学長「…と、知波単学園創設以来、凄いことになってるんだ」

学長「おかげで学校の電話は鳴り止まないんだよね」ハハハ

西(…な、なんか凄いことになっているぞ?!)

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 16:45:19.35 ID:6iENb3Do0<>
学長「知波単学園にとっては今までにないくらい脚光を浴びているよ」

西「そ、そうでありますか…!」

学長「でもね、そんなことはどうでも良いんだ」

西「え?」

学長「いや、どうでも良いは言いすぎかもしれない。でも私にとってはそれよりも優先すべきものがある」

西「?」

学長「君のことだ。あれから血の滲むような努力をしたと思う」

学長「…さすがに倒れるまで無茶をしろとは言わないよ?けれどもその姿勢だけは我が校の模範生としては十二分だ」

西「あ、ありがとうございます…!」

学長「それでいて強豪校に完勝するなんて実績まで作ってくれたらね」

ダージリン「…」ムスッ

学長「これで『廃止にします!』なんて言う者は教育者として失格だと私は思う」

西「!!」パァァッ

学長「私は改めて思うよ。君のような素晴らしい生徒に出会えて良かったと」

学長「だからこれからも戦車道を続けてほしいと思った」

学長「それが私の結論だよ」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 16:46:35.56 ID:6iENb3Do0<>
西「あ、あ…」


西「ありがとうございますッ!!!」


学長「うんうん。そういうわけだから今はしっかり静養して、ケガが完治したらまた戦車道を再開して欲しい」

西「もちろんであります!」ビシッ

学長「それでは、よろしくたのむよ」

ダージリン「あの…」

学長「ん?」

ダージリン「その…先ほど無礼な態度を取ってしまったこと、お詫び致します」

学長「ああ。お気になさらず。君も西君と同じ気持ちだったのだからね」

ダージリン「恐縮です…」

学長「ダージリンさんと言ったね?西君をよろしくたのむよ」

ダージリン「はい」

学長「それでは、失礼するよ」

西「ありがとうございましたっ!」フカブカ
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 16:47:24.57 ID:6iENb3Do0<>

西「………」

ダージリン「………」

西「あの、ダージリン殿」

ダージリン「なにかしら?」

西「ちょっと、ほっぺたを軽くつねってもらっても良いですか?」

ダージリン「こうかしら?」ギチッ

西「あいででででッ!!! お、おっけー!!夢じゃないです!!」

ダージリン「何をやってるのだか。…まぁ、良かったわね」

西「ええ。ダージリン殿のおかげです」ヒリヒリ

ダージリン「別に私は何もしてないわ」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 16:49:06.63 ID:6iENb3Do0<>
西「ダージリン殿がいなかったら私はあの時…」


ダージリン「特攻兵器」


西「知ってたのですか!?」

ダージリン「私とて一戦車道チームのリーダーでしてよ?」

ダージリン「相手が使う戦車、そして無人機もおおよそ把握しているつもりですの」

西「そう…ですよね」

ダージリン「あなたがそれを試合に持ち込むということは、レギュレーションをクリアした」

ダージリン「ならば使っても反則負けでは無いのだから試合では問題ない」

西「…」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 16:50:12.89 ID:6iENb3Do0<>
ダージリン「…しかし、それは試合のルール上の話であって、その試合を見た人の反応とは別」

西「ええ…」

西「あの時、私は最低の人間になりました」

西「かつて我が国が開発した史上最凶の兵器の一つである特攻兵器を私は」

西「どの爆弾よりも強力で高精度な"誘導ミサイル"として見てしまった…」

ダージリン「でも、あなたは使用しなかった」

西「…」

ダージリン「あなたは正しい選択をしたのよ」

西「正しい選択?」

ダージリン「こんな格言を知ってるかしら。 "With great power comes great responsibility. "」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 16:53:13.26 ID:6iENb3Do0<>
西「よ、横文字は不得手です…」

ダージリン「"大いなる力には、大いなる責任が伴う"」

ダージリン「学長さんはあのように仰ってたけれど、本当の"運命の分かれ道"はあの特攻兵器を使うか否かだったと思うわ」

ダージリン「あの時誘惑に負けて特攻兵器を使用したら、恐らく大洗の切り札であるポルシェティーガーはもちろん」

ダージリン「その近くにいた他の車両もろとも走行不能になっていたはず」

西「確かに…あの時ポルシェティーガーの近くには複数の戦車が固まっておりましたので…」

ダージリン「結果として大洗にも勝利したと思うわ」

ダージリン「でも、」



ダージリン「そうなった場合、きっと今とは全く逆の評価を受けたでしょうね」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 17:04:50.69 ID:6iENb3Do0<>
西「ええ。間違いありません…」

ダージリン「特攻兵器を使用したことによって批判が殺到し、戦車道どころか知波単学園まで"廃止"になってたかもしれない」

西「…」

ダージリン「そうなればあなたは1つの学校を潰した諸悪の根源として一生恨まれ続けたでしょうね」

西「戦術で勝って戦略で負けたということですね…」

ダージリン「ええ」

西「やっぱり…その……」

ダージリン「?」


西「私にはダージリン殿がいないと駄目なんだなぁと思いました」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 17:06:47.91 ID:6iENb3Do0<>
ダージリン「…何よいきなり」

西「実際あの時の私は特攻兵器を使用する直前まで追い詰められておりました」

西「そして特攻兵器を起動するために端末を取ろうとした時に」

西「すぐ隣にダージリン殿から頂いたティーセットがありました」

西「それでダージリン殿との会話を思い出しまして」

ダージリン「…」

西「それで、特攻兵器よりも知波単学園の伝統で最後を飾った方が良いだろうなぁって我に返ったのです」

ダージリン「あの時の約束、覚えてくれたのね」

西「ええ…」

西「あのあとボンヤリしている中でもダージリン殿がいて、目が冷めたときもダージリン殿がいました」

ダージリン「………」

西「本当にありがとうございます。ダージリン殿」フカブカ
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 17:08:09.48 ID:6iENb3Do0<>
ダージリン「やめて」





西「えっ………」

ダージリン「その"殿"というの。他人行儀みたいで好きじゃないわ」

西「ふぇ?で、ですが」

ダージリン「他の呼び方で呼んで下さらないかしら?」

西「…たとえば?」

ダージリン「人に聞かないで、自ら求め、調べた知識こそ身に付くものなのよ?」

西「………ケチ」ボソッ

ダージリン「どうかした絹代さん?」

西「い、いえ何でもありません」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 17:09:22.75 ID:6iENb3Do0<>
西「ふむ………」ウーム

ダージリン「そんな悩むことなのかしら…」ヤレヤレ

西「そうですね…たとえば『ダーちゃん』はいかがです?」

ダージリン「急に馴れ馴れしくなったわね。…というより何処かの王者みたいで嫌よ」

西「では『リンちゃん』というのは?」

ダージリン「呼ばれても気付かないわ」

西「じゃぁ『田尻さん』とか?」

ダージリン「…殴るわよ?」

西「じりん」

ダージリン「真剣に考えてますの?」

西「ダーリン!」

ダージリン「ちょっと!」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 17:13:13.44 ID:6iENb3Do0<>
西「なかなか難しいですな…」

ダージリン「あなたが真面目に考えないだけよ!」

西(そもそも私は"殿"以外で人を呼んだ事ってあったなぁ…?)

西(…あったような…ないような……いや、ある!)




西「ダージリン!!!!!」クワッ



ダージリン「きゃっ!!?」ビクッ ガタッ ゴン!


西(うむ。よくよく考えれば福田や玉田たちには敬称をつけずにそのまま呼んでいたしな)ウンウン

西(でも正直なところ目上のダージリン殿にそれは非礼…ってまた殿って言ってしまった…)

西(さすがに"無礼よ!"って怒られるだろうなぁ…。またほっぺたつねられるのは勘弁願いたいけど致し方ないか…)
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 17:15:01.86 ID:6iENb3Do0<>
ダージリン「……わよ」ヒリヒリ

西「ふぇ?」

ダージリン「……それで良いって言ったのよ」ヒリヒリ

西「ほ、本当でありますか?!ダージリン殿!?…あ」

ダージリン「…本当なら『己の立場を弁えなさい』と言うところだけど、特別に」ヒリヒリ

西「有り難きお言葉でありますっ!」

ダージリン「言わずもがな他所様にそんな口を利くものなら砲弾が飛んでくるから努々お間違え無きよう」

ダージリン「…あと急に大声で呼ぶのはやめて頂戴。心臓が止まるかと思ったわ」

西「そこは心得ております!!」ビシッ

ダージリン「心得てないから言ってるのよ!」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 17:15:59.43 ID:6iENb3Do0<>
西「そうだ!」

ダージリン「…今度は何かしら?」ジトッ

西「私が"ダージリン"と呼ばせて頂けるのですから、ダージリンも私のこと自由に呼んで下さい」

ダージリン「そうね。お言葉に甘えて『突撃バカ一代』とでも呼ばせて頂こうかしら」

西「なっ、それはさすがに…」

ダージリン「冗談よ」クスッ

西(冗談を言う顔じゃなかったけどなぁ…)
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 17:16:55.58 ID:6iENb3Do0<>
ダージリン「そうね。『絹代さん』って呼ばせていただくわ」

西「………」

ダージリン「…なによ」

西「いや、意外だったなぁと」

ダージリン「意外?」

西「私より年上なのですから"絹代"とか"西"と呼んで下さるものだと思っておりました」

ダージリン「私は何処かの誰かさんと違って礼儀を弁えておりますので」オホホ

西(人を容赦なくつねるクセに良く言うなぁ…)

ダージリン「なによその顔」

西「い、いえ」

ダージリン「言いたいことがあるのならハッキリ言って頂戴」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 17:17:52.24 ID:6iENb3Do0<>
西「今まで色んな人に"殿"をつけて呼んでいたのですが、やっぱりおかしいのかなぁと思いまして…」

ダージリン「おかしいわね」キッパリ

西「うぇぇっ?!」ガーン

ダージリン「それが敬称だというのはわかるけれど、何だか小馬鹿にされているような気がして私は好きではないわ」

西「そ、そうですか…」

西(ふむ…。ともなれば他の人も"殿"ではなく"さん"をつけてお呼びした方が良いかもしれない)
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/08(土) 17:18:45.89 ID:6iENb3Do0<>
ダージリン「それならいっそ"ダージリン"と呼んでくれた方が良いわ。あなたのように」

西「ではこれから遠慮なくダージリンと呼ばせていただきますぞ!」

ダージリン「どうぞご自由に」

西「ダー・ジ・リンっ♪ ダー・ジ・リンっ♪ 聖グロだぁ〜からキンキラキ〜ン♪」キャッキャッ

ダージリン「人の名を雑菌みたいに言わないで頂戴!消毒するわよっ!」

西「おわーっ!?冗談ですってば!ポット下ろしてください!!」

ギャーギャー!!


看護師「お静かに願います!!」


西・ダジ「すいません…!」



― まぁ…これが彼女の本当の顔なのかもしれないわね。
<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/04/08(土) 19:14:54.02 ID:/TDODlzQO<> いいですね <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/09(日) 21:00:44.39 ID:ITu1SYDo0<>
【数日後 昼】


西(たまにはゴロゴロ過ごすのも悪くないなぁと思っていたけど)

西(流石に毎日ベッドでゴロゴロは退屈だなぁ…)

西(この時間だとテレビも面白いのやってないし)

西「…」

西「あいはぶぁぴ〜ん」( ゚д゚ )つ♀

西「あいはぶぁぱいなぽ〜」●⊂( ゚д゚ )

西「おぉーん」 ●⊂(゚д゚u)つ♀ ●⊂(u゚д゚)つ♀


 +:.,'+:*.+,"+.*


西「………」

西「退屈だなぁ…」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/09(日) 21:01:51.29 ID:ITu1SYDo0<>

コンコン


西「おっ?入ってますよー」

?「おかしいですね。病室に来たつもりなのに、お手洗いに来てしまったかしら?」クスクス

西「あ、失礼。どうぞ〜(…とは言ったものの、誰だろう?)」

ガチャ

?「こんにちは。西さん」

西「どうもこんにちは(……ダージリン?今日はいつもの髪型じゃないのかな?)」

?「聖グロリアーナを破った隊長さんがどんな方か気になったので来てしまいましたわ」フフッ

西(…にしては声も違うし制服じゃない。そもそも"西さん"なんて呼ばな…呼ぶかな?)ウーン
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/09(日) 21:02:29.86 ID:ITu1SYDo0<>
西「あの、付かぬ事をお伺いしますが、どちら様でしょうか?」

?「ご挨拶が遅れましたわね。失礼しました」

?「わたくし、聖グロリアーナOGの」


アールグレイ「アールグレイと申しますわ」ペコリ


西「アールグレイさんですね。私、知波単学園の西絹代と申します」フカブカ

西「聖グロOGの方にまで足を運んで頂き恐縮であります」


西(…ん?でも何で聖グロリアーナのOGの方がいらしたのだろうか?)
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/09(日) 21:03:21.55 ID:ITu1SYDo0<>

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


アールグレイ「この間はよくも聖グロをコテンパンにしてくれたな。覚悟は出来てるだろうな?」

西「えっ!?」

アールグレイ「死ねェッ!!!」

グサッ


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
     ○
    o


西「」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/09(日) 21:04:21.13 ID:ITu1SYDo0<>
アールグレイ「ふふ。私たち聖グロのOGは今あなたの話題で持ち切りですからね」

西「そ、そうなのですか…?」ビクビク

アールグレイ「ええ。それはもう。私達の母校を"こてんぱん"にしたというのだから」

西「」アワワ...

アールグレイ「"知波単学園の西絹代とは誰なの?!"と躍起になっているわね」フフ

西「きき恐縮であります…」オロオロ

アールグレイ「でも、いざ蓋を開けたら"知波単学園の戦車道を救った英雄"だったというのですから…ねぇ?」フフ

西「ははは……はぁっ?!」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/09(日) 21:05:23.39 ID:ITu1SYDo0<>
アールグレイ「クルセイダー会はあなたを聖グロの"脅威"と言い」

アールグレイ「また、チャーチル会は聖グロの"好敵手"と言い」

アールグレイ「そしてマチルダ会は"騎士道精神に則り、西絹代の思想を戦車道に取り組むべき"なんて言い出す程」ウフフ

西(な、なんだか私の知らん所でエラい事になってないか?!)オロオロ

アールグレイ「こんな話は滅多に無いものだから、OG会はそれはそれは大はしゃぎでして」クスクス

西「そ、そうなのですか。あは、あははは…」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/09(日) 21:06:27.41 ID:ITu1SYDo0<>
アールグレイ「ええ。知波単のサムライに皆"くびったけ"ですわ」ニコニコ

西(どうしよう…。屈託の無い笑顔でものすごい誤解をなさっておられる…)

アールグレイ「知波単学園が羨ましいわね。聖グロでもそういった武勇伝が出てこないものかしら」ウフフ


西(うーん。勝手に誤解しているとは言え、嘘をそのままにしておくべきなのかなぁ…)

西(いや、どう考えても良くない。正直に言った方が良いか)


西「あ、あのっ!」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/09(日) 21:08:22.14 ID:ITu1SYDo0<>
アールグレイ「あら、どうしたのかしら?」ニコッ

西「私は…その、アールグレイさんやOGの皆さんが想像されるような者ではございません」

西「ましてや英雄だなんてとんでもない」

アールグレイ「あら、どうしてかしら?」

西「私は自分の居場所を守りたい為にただ闇雲に暴走しただけであります」

アールグレイ「…」


西「その結果、たまたま運が良く私の望み通りになったに過ぎません」

西「ですが、私のやった事と言えば後ろ指をさされる様なものばかりで、」

西「罵声が飛ぶならまだしも、英雄なんて自分にはとても…」

アールグレイ「…」

西「ですから…どうか、OGの皆さんには誤解されぬよう『知波単の西は噂のような立派な者ではない』とでもお伝え頂けないでしょうか」

アールグレイ「………そう」

西「…」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/09(日) 21:09:01.61 ID:ITu1SYDo0<>
アールグレイ「……ふふっ」


アールグレイ「やっぱり。あなたは私の予想通りの方でした」ニコッ

西「えっ…?」

アールグレイ「絶大な力を持っているにも拘らず、それを鼻に掛けることもなく、あくまで謙遜に振る舞う」

アールグレイ「本当に武士道を極めたサムライのような方ね」ウフフ

西「そ…そんな…」

アールグレイ「こんな格言を知っているかしら?」

西「はい?」

アールグレイ「"イギリスはすべての戦いに敗れるであろう、最後の一戦を除いては。"」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/09(日) 21:09:48.87 ID:ITu1SYDo0<>
西「すみません、よくわからないのであります…」

アールグレイ「あなたのやったことの中には、ひょっとしたら失敗もあったかもしれない」

アールグレイ「でも、あなたは知波単学園を守るという"最後の一戦"で勝利した」

アールグレイ「これは誰が何と言おうと変わらない事実でしてよ?」

西「確かにそうかもしれませんが…」

アールグレイ「そしてOG会はその結果を称賛している」

アールグレイ「胸を張れ、そして誇れ。…と言ってもあなたの性分では難しいかもしれないけれども」

アールグレイ「我々聖グロリアーナOGが認めた以上、卑屈になる理由はどこにもないわ」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/09(日) 21:10:42.28 ID:ITu1SYDo0<>
西「…!」

アールグレイ「…そうね。もしこの事であなたに牙を剥くような者がいるなら…」


アールグレイ「それは聖グロリアーナOG会を敵に回したことになるわね」ニッコリ


西「」ゾワーッ

アールグレイ「ふふ。だけどOGの皆様には"本人が困ってるから程々に"とお伝えしますわね」ニコッ

西「は、はい宜しくお願いします…」


西(私はそんなに凄いことをしたのか…???) <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/09(日) 21:11:43.68 ID:ITu1SYDo0<>
アールグレイ「あと、うちの後輩、今の隊長のダージリンに会ったら仲良くしてあげてくださいな」

アールグレイ「ちょっと高飛車でお嬢様気質だけれど、根は優しくてとっても良い子なのよ?」ニコッ

西「ええ。ダージリンさんはとても素敵な方です(よくツネるけど)」

アールグレイ「あら、既に面識があったのね?」

西「はい。私が今こうして居られるのもダージリンさんのお蔭です」

西「本当にダージリンさんには感謝してもしきれない気持ちで一杯です」

アールグレイ「ふふ。そうだったのね」ニコニコ


アールグレイ「今は彼女も聖グロの人間らしく淑女になったけど、昔はなかなか面白い子だったのよ」

西「あはは。なんとなーく想像がつきます(今でも十分面白いですけどね)」

アールグレイ「でも、ずっと憧れていた"淑女"になろうと、あの子なりに頑張って成長していった」

アールグレイ「だから、私はあの子を次の聖グロリアーナの隊長に選んだの」

西「そうだったのですね…!」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/09(日) 21:12:35.99 ID:ITu1SYDo0<>
アールグレイ「他の子には申し訳ないけれど、今の聖グロの隊長は彼女以外に有り得ない」

西「仰る通りダージリンさんは大変優秀な方です」

西「…しかし、それは他の聖グロの生徒さんも同じなのでは?」

アールグレイ「ええ。もちろん皆良い子ばかりよ」

アールグレイ「でもね、ダージリンは頭一つ抜けて優秀なの」

西「そうなのですか?」

アールグレイ「ええ。元からの才能もあったけれど、あの子は何より人一倍努力家だった」

アールグレイ「だから、ダージリンを私の後継者として選んだ」

アールグレイ「そしてダージリンは私の期待に応えてくれた」

アールグレイ「見事に隊長としての責務を全うしてくれた…」

西「ダージリンさんの優れたリーダーシップは、私も大いに参考にさせて頂いております」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/09(日) 21:13:14.85 ID:ITu1SYDo0<>
アールグレイ「ありがとう。彼女の代わりにお礼を言わせて頂くわ」

アールグレイ「ただ…」

西「?」


アールグレイ「彼女もまた、聖グロの隊長としての"宿命"を背負っているの」


西「宿命…?」

アールグレイ「聖グロリアーナOG会による介入…聖グロの悪い方の伝統ね」

西「聖グロのOG会については私も聞いたことがあります」

西「経済的な援助をすると同時に、学校の運営にも強い影響力を持っているそうで…」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/09(日) 21:14:47.93 ID:ITu1SYDo0<>
アールグレイ「ええ。OGも元は世間知らずなお嬢様だから好き放題言ってくれますの。まるで小姑様のように」

西「そうなのですか…」

アールグレイ「少しでも聖グロに泥を塗るような真似をすれば、"制裁"を受けることになるから気が気でなかった…」

西「!! ということは、ダージリンさんは…!」


アールグレイ「ええ。ダージリンもOG会に縛られているわ…」


西「っ…!」

アールグレイ「だから、あの子がOG会の意見を押し返して『クロムウェル』を導入したのは、聖グロでも一部の人間だけしか知らない"大戦果"なの」

西「それは凄い…!」

アールグレイ「ええ。本当に凄い話ですわ」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/09(日) 21:27:06.18 ID:ITu1SYDo0<>
西「ダージリンさんについては前々から凄腕の隊長だと思っていましたが」

西「アールグレイさんの話をお聞きして、ますますその思いが強まりました」

アールグレイ「ふふっ。彼女もきっと喜ぶわ」

アールグレイ「…でも、同時にあの子は」

アールグレイ「貴族たちの"機嫌"を損ねてしまった」

西「っ…!」

アールグレイ「聖グロにおいて、OG会を敵に回す事はタブーとされているの」

アールグレイ「なぜなら…」


アールグレイ「OG会の采配一つで隊長どころか学園からも追放することも出来るから」


西「つ、追放ですって!!?」

アールグレイ「ええ。今やはOG会はそれくらい強い権力を持った組織になってしまったの…」

西「一体どうなってるんですか!いくらOGとはいえ…!」

アールグレイ「お金の力って、怖いわよ」

西「ぐっ…!」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/09(日) 21:27:43.42 ID:ITu1SYDo0<>
----------------------------------------


ダージリン「許せないわよそんなの!」

ダージリン「自分や仲間の道を守るために死ぬ気で戦ったのに…なのに…!」

ダージリン「どうして誰もそれを認めないのよ!おかしいじゃない!!」


ダージリン「あなたに何の恨みがあるって言うの!?」

ダージリン「独りで悩んで苦しんで!それでも勝たなきゃ全部台無しになる!!」

ダージリン「全部終わってしまうから止まることができないのに!!」

ダージリン「なのにこんな結果あんまりよ!!!」



---------------------------------------


西(そっか…)

西(だからダージリンはあの時…)

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/09(日) 21:28:49.51 ID:ITu1SYDo0<>
アールグレイ「そしてもう一つ」


西「!」

アールグレイ「驚いたのは、西さん、あなたよ」

西「わ、私ですか?!」

アールグレイ「ええ。さっきも言ったように、OG会が皆口を揃えて貴方を称え出した」

アールグレイ「聖グロの生徒ならまだしも、"よそ者"であるにもかかわらず」

アールグレイ「これは前代未聞の出来事です」

西「私のような若輩者が認められるのです。偉業を成し遂げた方には同様に称賛されていたのでは?」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/09(日) 21:29:47.06 ID:ITu1SYDo0<>
アールグレイ「いいえ。無かった」

西(バッサリ斬り捨てられた…)

アールグレイ「プラウダ高校のお嬢さんが黒森峰女学園の10連覇を阻止した時も」

アールグレイ「大洗女子学園が強豪校をまとめ、大学選抜チームに勝利し、二度にわたる廃校の危機から学校を守った時も」

アールグレイ「OG会の間ではほとんど話題にならなかった」

西(大学選抜チームに勝ったというのに…?)


アールグレイ「だから………」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/09(日) 21:30:40.16 ID:ITu1SYDo0<>
アールグレイ「…いいえ、何でもないわ」

西「えっ…」

アールグレイ「ふふ、ごめんなさい。絹代さんが聞き上手だからついついお喋りが過ぎてしまったわ」ニコッ

西「は、はぁ…(いつの間にか絹代さんって呼んでる)」

アールグレイ「話題を変えましょうか」

西「はい」

アールグレイ「そうね………」







アールグレイ「うふふっ」ニタァ
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/09(日) 21:31:26.61 ID:ITu1SYDo0<>
西「え」ゾワーッ

西(なんだろう…ものすごーく嫌な予感がする)

西(…って何故接近してくるのです?!)


アールグレイ「ダージリンが聖グロに入った理由、知りたい?」ニコニコ


西「ふぇっ?!…えっと……まぁ、ちょっと気になるところではあります…」

西(この笑顔、心あたりがある…)







西("イタズラっ子"がする笑顔だ!!!)
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/09(日) 21:33:00.20 ID:ITu1SYDo0<>
アールグレイ「あの子はね、"白馬の王子様"にずっと憧れてたのよ」ウフフ

西「そ、そうなんですか…?(意外にメルヘンチックだなぁ)」

アールグレイ「でもね、『高貴な王子様は高貴な女性の所にしか行かない』って」

アールグレイ「だから聖グロに来て礼儀や作法を一生懸命学んだのよ。可愛いでしょう?」

西「ええ、とっても素敵です…!」

アールグレイ「最初は見ていて冷や冷やする事もあったけれど」

西「そうなのですか?」

アールグレイ「ええ。茶葉をそのままカップに入れたり」

アールグレイ「自販機で買った紅茶を出したら一級品を味わうかのようにしたり顔で飲んだり」

西(うわっ!それは恥ずかしい!!)

アールグレイ「マスタードがたっぷり入ったパイを食べて発狂したこともあったわね。ヒィーヒィー!って」フフフッ

西「あははは…(なかなかえげつない事をなさる)」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/09(日) 21:34:09.34 ID:ITu1SYDo0<>
アールグレイ「…でも」

西「?」

アールグレイ「あの子は本当に、本当に頑張った…」

アールグレイ「だから…」


アールグレイ「来て欲しいわね。"王子様"」


西「絶対、来ますとも…!」




西(ダージリンもそんな過去があったんだなぁ。何となく察しはついていたけど)

西(そして、何だかんだ言ってアールグレイさんも後輩を案じる優しい先輩なんだね)
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/09(日) 21:36:29.08 ID:ITu1SYDo0<>

「ウォッホン!!」



西・アールグレイ「!!?」ビクッ

ダージリン「これはこれはアールグレイ様、お久しぶりでございますわね」ニコニコ

西(げぇっ!噂をすればっ!!!)

アールグレイ「あら、お久しぶりねダージリン。学校はどうしたの?」

ダージリン「お忘れでして?本日は創立記念日でお休みですの」ニコニコ

アールグレイ「そう言えばそんな時期ね」シンミリ


ダージリン「そ し て 絹代さん、御機嫌よう」ニコニコ
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/09(日) 21:37:23.22 ID:ITu1SYDo0<>
西「あ、あ、あは…は、ダージリン。き、昨日ぶりであります…」

ダージリン「絹代さんが空腹のあまり床に落ちてる物を食べて死んでないか心配で見に来たら」

西「しっ、失礼な!私だって落ちてるもn

ダージリン「まさかまさか、暴露大会をなさっていたとは」ニコニコ

西「」ビクッ

ダージリン「…ねぇ?」



ダージリン「絹 代 さ ん ?」ギロリ
<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/04/09(日) 21:38:22.10 ID:3zWn/lxeO<> 乙です。
ダー様可愛い。 <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/09(日) 21:38:25.02 ID:ITu1SYDo0<>
西「あ、アールグレイさん!まさに今ダージリンに牙を剥かれているのであります!助けてくださぁーい!!」

アールグレイ「うーん。ちょっとこれは無理かも」フフフ

西「そ、そんなぁ!!」ガーン

ダージリン「ふふっ。もちろん覚悟は出来てるわよね? き ぬ よ さ ん」ゴゴゴゴゴ

西(…あ、香水のいい香りがす)


パチコーーーーン!!!

アイタァァァァァァァァァァ!!!!
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/09(日) 21:40:51.70 ID:ITu1SYDo0<>
西「っぅぅ…」オデコヒリヒリ

アールグレイ「…それにしても、ダージリンがお見舞に来るなんて思わなかったわ」

ダージリン「それはこっちのセリフですの。どうしてまたこんなヘンな所へ?」

西(ヘンな所とは失礼なっ!)ヒリヒリ


アールグレイ「絹代さんにはさっき話したけれど、聖グロを打ち負かした高校の隊長さんがどんな方なのか知りたくてね」

ダージリン「人のプライバシーを覗きたがる助平なソレが隊長でしてよ」シレッ

西「助平?!」ガーン

アールグレイ「こらこら、意地悪を言わないの。彼女が困っているわ」

ダージリン「意地悪をされたのは私の方ですけど?」


アールグレイ「こんな格言を知っているかしら? "完全主義では、何もできない"」

ダージリン「チャーチルの言葉ですね。何故それが出てきたのかはわかりませんが」

アールグレイ「才色兼備ななあなたにも、可愛らしいところがあるってことよ」

西「わかります」

ダージリン「分からなくて良いわよ」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/09(日) 21:42:26.53 ID:ITu1SYDo0<>
コンコン

アールグレイ「あら?またお客様?」

西「今日は色んな方がいらっしゃるのであります。どうぞー」

ダージリン「…あなたは何でもホイホイ入れる前に確認を取るべきよ」ハァ

西「あ…すいません。いつものクセで」


アッサム「失礼します」

オレンジペコ「お邪魔します」

ダージリン「遅かったわね二人とも」

アッサム「あなたがローズヒップのように先にピューと飛んでいったのでしょう」ハァ

ダージリン「なんだか嫌な予感がしたからよ」

アッサム・オレンジペコ(嫌な予感?)
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/09(日) 21:43:41.79 ID:ITu1SYDo0<>
西「先日の試合ぶりですね。オレンジペコさんと…セイロンさん?」

アッサム「ぐっ、アッサムですわ!聖グロリアーナ隊長車砲手の!」

オレンジペコ「そういえば、アッサム様は自己紹介はまだでしたっけ」

西「先日はお世話になりました。西絹代と申します」フカブカ

アッサム「こちらこそ、宜しくですわ」ペコリ


アールグレイ「お久しぶりね。アッサム」

アッサム「なっ、アールグレイ様?!お、お久しぶりでございますの!」アセアセ

西(ん?随分取り乱しておられるな?)

オレンジペコ「確か、先代隊長の…」

アールグレイ「そちらのお嬢様は初めましてね。アールグレイですわ」

オレンジペコ「ご挨拶が遅れました。隊長車の装填手をしているオレンジペコです」ペコッ

アールグレイ「ご丁寧にどうも。1年の頃のダージリンにそっくりね」

ダージリン「アールグレイ様!」

西(あれ…なんだか疎外感を感じる…)
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/09(日) 21:46:50.83 ID:ITu1SYDo0<>
アールグレイ「ほらほらダージリン、絹代さんが困っていますわ」フフッ

西「え、あ、はい」

ダージリン「わ、私のせいですの?!」

アールグレイ「折角ですから紅茶を淹れてあげたら如何かしら?」

ダージリン「う…わかりましたわ」

オレンジペコ「ダージリン様が淹れる紅茶、久しぶりです」ワクワクペコペコ

アールグレイ「ふふ。本当に1年の頃のダージリンを見てる気分ね」ニコニコ

ダージリン「あ、アールグレイ様っ!」


西「実はオレンジペコさんを初めて見たとき、ダージリンの妹さんだと思っておりました」

オレンジペコ「えへへ。よく間違えられます」

アッサム「傍から見れば瓜二つですものね」フフッ

アールグレイ「賑やかで良いわね。私ももう一年聖グロに居たかったわ」シンミリ

ダージリン「留年なさるおつもりで?」コポポ
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/09(日) 21:48:15.28 ID:ITu1SYDo0<>
ダージリン「はい、どうぞ」コトッ


アールグレイ「ふふ…ダージリンも腕を上げたわね」

ダージリン「それはもう、アールグレイ様に姑様の如くご指導いただきましたので」

アールグレイ「ふふ。意地悪を言わないで頂戴。あなたカップに直接茶葉入れてお湯を注ごうとするんですもの」フフッ

西(緑茶でやったら大変なことになりますね…)

ダージリン「あ、あれは…!」

アッサム「…ありましたわねそんな事」ズズ

アールグレイ「アッサム、あなただって茶葉とヒジキ間違えて入れてたじゃない」フフッ

アッサム「アールグレイ様っ!?//////」カァァァ

ダージリン「…ひじき…ック…フフ…アハハッッ」プルプル

西「出汁が取れそうですな」フム

ダージリン「だ、出汁って…うっ…くふっ…あはっはははっ…!」プルプル

アッサム「笑いすぎですダージリンっ!!////」

西「こんなに笑うダージリンは初めて見ました」

アールグレイ「この子は案外笑い上戸で一度ツボに入るとこんな感じになるのよ」フフフッ

西「ははは。そうなのですね!」

アールグレイ「ほら。絹代さんも紅茶が冷めないうちに」フフッ

西「あっ、そうでした。いただきます」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/09(日) 21:49:51.74 ID:ITu1SYDo0<>
西(よくよく考えたら、紅茶って飲んだことないんだよなぁ)

西(それにダージリンの淹れる紅茶を頂くのは初めてだし)

西(またとない機会だから味わって飲もうっと)

西「…」


アールグレイ「…」

ダージリン「…」←おさまった

アッサム「…」

オレンジペコ「…」


西「…あれ?皆さん?どうなさいました?!」オロオロ

アールグレイ「いえいえ、なかなかお上品ですね。思わず見とれてしまったわ」フフッ

西「そ、そうですか?」

ダージリン「…意外ね」

アッサム「我が校の生徒でもなかなかお作法が身に付かない子が多いのに、大したものですわ」

オレンジペコ「もしかして茶道をやっておられたのでは?」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/09(日) 21:55:11.63 ID:ITu1SYDo0<>
西「ええ。実家に居た頃は華やら茶やら色々やらされており、学校でもそういった授業があるので気が付けば…」

アールグレイ「まぁ。良いとこのお嬢様でしたのね」

西「はは。そんな大層な話ではありませんよ」

西「何しろ、そういった生活が少し窮屈に感じたが故に、こちらに来たものでして…」ハハ

ダージリン「…」

アールグレイ「あなたとは逆ね。ダージリン」クスッ

ダージリン「…ええ」ズズ

アールグレイ(もしかしたら、白馬の王子様は…)
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/09(日) 21:55:55.63 ID:ITu1SYDo0<>
オレンジペコ「あら、もうこんな時間です」

アッサム「ふふ、楽しい時間は本当に早く過ぎてしまいますわね」

アールグレイ「ええ。時というものは、それぞれの人間によって、それぞれの速さで走るものなのよ」

オレンジペコ「シェイクスピアですね」

ダージリン「アールグレイ様は相変わらず格言がお好きですのね」ヤレヤレ

アッサム「ダージリンがそれを言いますか」

ダージリン「えっ?」

アッサム「…もう結構です」ヤレヤレ

オレンジペコ(ダージリン様も昔は延々と聞かされる側だったのかな?)
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/09(日) 21:56:37.71 ID:ITu1SYDo0<>
アールグレイ「それでは、私はこれで失礼します」

西「アールグレイさん、色々とお話して下さりありがとうございました」フカブカ

アールグレイ「こちらこそ。楽しい時間ありがとう」ニコッ

アールグレイ「もし良かったら聖グロにも遊びに来てくださいな」

アールグレイ「丁重におもてなしを致しますの。ダージリンが」フフッ

ダージリン「えっ、私がですの?」

アールグレイ「ええ。今の隊長はあなたですもの」

ダージリン「そうですわね。ヒジキのだし汁でもお出ししますわ」シレッ

西「えぇぇ…」

アッサム「だ、ダージリン!」

アハハハハハハハ
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/09(日) 21:57:22.91 ID:ITu1SYDo0<>
アールグレイ「それじゃ皆も元気でね?」

アッサム「色々ありがとうございました」ペコリ

オレンジペコ「アールグレイ様もお元気で。また学校に来て下さいね」

アールグレイ「ええ。ありがとう」

アールグレイ「そして、ダージリン」

ダージリン「はい?」

アールグレイ「今度は二人っきりでゆっくりお茶しましょうね」

ダージリン「ええ。喜んでお付き合い致しますわ」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/09(日) 21:58:02.65 ID:ITu1SYDo0<>
アールグレイ「絹代さん」スッ

西「はい?」

アールグレイ「私の連絡先です」

西「あ…どうもです」

アールグレイ「もし、宜しければ」

アールグレイ「ダージリンが困った時は、どうか助けてやって下さい」

西「もとより、そのつもりです…!」

アールグレイ「ありがとう」






― 結局、伝えることが出来なかったね…。
<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/04/10(月) 06:38:00.50 ID:P6lvOpg2O<> 乙! <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/11(火) 20:34:22.46 ID:Q5P/FDte0<>
【同日 夕方】


西(聖グロの皆さんは帰っちゃったし、また暇になったなぁ…)

西(やっぱり私はじっとしているのは性に合わないのかもしれん。戦車で突撃がしたい)

西(…あ!そういえば皆から頂いた御見舞品このままにしておくのは良くないな。食べ物とかもあるし)ヨッコイショ

西(食べ物とかは冷蔵庫に入れて、花はあとで看護婦さんに花瓶を借りて)ガサゴソ

西(…にしても片手が使えない上に松葉杖というのは不便だな。猫の手も借りたいとはまさにこの事だ)アハハ



西「…ん?なんだこりゃ?」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/11(火) 20:35:49.22 ID:Q5P/FDte0<>

― BRITISH INFANTRY TANK MK.IV CHURCHILL Mk.VII


西「おおっ、夕三ヤの戦車模型じゃないか!!一度作ってみたかったんだよ!」キラキラ

西「ふむふむ…"イギリス歩兵戦車チャーチル"とな」

西「…ん?チャーチル?」

西「どこかで聞いたことがあるような無いような…」

西「まぁいっか」

西「ご親切にニッパーや接着剤まで付いているし、暇つぶしに有難く作らせて頂きませう♪」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/11(火) 20:37:26.49 ID:Q5P/FDte0<>
西「まずはパーツを切り離してー」パチン パチン

< コンコン

西「カッターでバリやラインを消してー」キュッキュッ

< コンコン

西「接着剤を付けて貼り合わせるー」ヌリヌリ ペタン

< ガチャ

西「イギリスの〜チャ〜チル〜♪」パチン パチン

西「模型になったチャ〜チル〜♪」ショリショリ

西「コぉ〜ンにぃ〜生まれたぁ〜このぉ気持ちぃ〜♪」

「チャーチルがどうしたのかしら?」

西「いやぁ、面白い形をした戦車だなぁ〜と思いまし…」

西「うぉぁぁぁぁぁ出たぁぁぁぁ!!?」ビクゥッ


ダージリン「人を幽霊みたいに言わないで下さるかしら」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/11(火) 20:38:35.44 ID:Q5P/FDte0<>
西「だ、ダージリン!? ノック無しで部屋に入るのはマナー違反ですぞ!心臓に悪いっ!!」ドキドキ

ダージリン「何度もしたけれど、あなたが全然気付かなかっただけよ?」

西「えー…」

ダージリン「えーもびーも無いわよ全く。知らない人が来たらどうするつもりだったのよ」

西「あはは…面目ない……ん?」

西「そういえば何故ここに?」

ダージリン「あら、私はここに来たらいけなかったかしら?」

西「いえ、そういうわけでは…てっきり帰られたのだと」

ダージリン「あのまま帰るつもりだったけれど、忘れ物を思い出して取りに来たのよ」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/11(火) 20:39:59.23 ID:Q5P/FDte0<>
西(へぇ、ダージリンも忘れ物するんだ)

ダージリン「…なによその顔」

西「い、いえなんでもありません。ダージリンがそそっかしい人だなんてこれっぽっちも…あっ!」

ダージリン「ほぅ…」

ダージリン「コレであなたの鼻をつまめばその減らず口も治るかしら?」つ[ニッパー]

西「やめてください。天才バカボンのお巡りさんになります」

ダージリン「ついでにコレでその口を塞いでしまえば静かになるわね?」つ[夕三ヤセメント]

西「それもいやです」

ダージリン「まったく…。 それで?」

西「へ?」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/11(火) 20:41:19.61 ID:Q5P/FDte0<>
ダージリン「チャーチルがどうのこうの言うから少し気になったのよ」

西「あぁ、コレです」

ダージリン「…なにこれ?」

西「え、プラモデルをご存知ないのですか?!」

ダージリン「ええ…知らないわ」

西「プラモデルというのは、説明書を見ながらプラスチックのパーツを組み立てて、戦車とか車とか飛行機とか作るものです」

ダージリン「なるほど…」

西「これがまた奥が深くて、実際に戦車を組み立てるエンジニアのような気分に浸れるのであります!」

ダージリン「そうなの?」

西「それで、組み立てが終わったら塗装をしたりステッカーを貼って完成!…なのですが」

ダージリン「なのですが?」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/11(火) 20:42:39.86 ID:Q5P/FDte0<>
西「拘る人はあえて車体の色を暗くして色あせた質感を表現したり」

西「塗装の剥がれや配管のサビを表現したり、履帯や転輪を砂まみれにするのですよ!」

ダージリン「それって、面白いのかしら?」

西「」ニヤリ

ダージリン「な、何よ。急にニヤニヤして気味が悪いわね…」

西「ダージリン、ホントは興味津々なのでは?」ニコニコ

ダージリン「そ、そんなことないわよ。…あなたがノックも気付かないほど夢中になって何をしてるのか気になっただけよ」

西「ダージリンもやってみます?」ニコニコ

ダージリン「…あなたがどうしてもって言うならやってあげても良いわよ?」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/11(火) 20:44:09.16 ID:Q5P/FDte0<>
西「…」

ダージリン「な…何よ…」

西「やってみたいですか?」

ダージリン「…少しね」

西「少し?」

ダージリン「…」

西「…」


ダージリン「………やってみたいわよ」


西「そうでしたか!」ニパァァァ

ダージリン「ぐっ…憎らしい笑顔ね…」グヌヌ
<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/04/11(火) 20:44:43.32 ID:XV3Na/LEO<> 西さんはプラモデル作りが好きなのか。
私にも是非ともご教授していただきたいなぁ(素人並感) <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/11(火) 20:45:11.02 ID:Q5P/FDte0<>
西「では、お隣にどうぞ」ポンポン

ダージリン「え?」

西「さすがに立ったままではやり辛いでしょう」

ダージリン「べ、ベッドに行けと…?」

西「ええ。幸い大きいベッドを選んで頂いたので、窮屈ではないかと」

ダージリン「…じゃ、じゃぁお邪魔するわね?」チョコン

西「どうぞどうぞ」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/11(火) 20:46:14.80 ID:Q5P/FDte0<>
西「それではまず転輪を組み立てて行きましょう」

西「パーツナンバーはAの16と17ですから、まずはA16をランナーから切り離して下さい」

ダージリン「ランナー?」

西「あ、ランナーというのはパーツがくっついている枠のことです」

ダージリン「ほう…」

西「その枠がアルファベットで振り分けられているので、そのうちのAの16番をまず切り離します」

ダージリン「Aの16…これかしら?」

西「お、それですね。ではニッパーでランナーから切り離してください」

ダージリン「わかった。やってみるわね」

ダージリン「…」プルプルプル

西「…あれ?ダージリンってもしかして手先はあまり器用ではなかったりします?」

ダージリン「よっ、余計なお世話よ!こんなの慣れてしまえばアーリーティー前よっ!」


西(だけどすごく手が震えていますね…)

西(変なところカットしたら面倒なことになるし、ここは…)
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/11(火) 20:47:22.95 ID:Q5P/FDte0<>
ギュッ

ダージリン「ふぇっ?!」←手を握られている

西「このままゆっくりパーツとランナーの隙間にニッパーの刃を通していきます」

西「多少バリが残ってもあとからヤスリで削れば良いので安心してください」

ダージリン「え…えぇ…」

パチン コロン

西「おお、いい感じに切り離せましたね!」

ダージリン「ほ、本当?」

西「ええ。初めてにしては上出来ですよ!」

ダージリン「えへへ…///」

西「」ニコニコ

ダージリン「…ハッ!」

ダージリン「ま、まぁ私にかかればこんなもの簡単ですわよ!」フフン

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/11(火) 20:49:12.51 ID:Q5P/FDte0<>
西「では、今度はダージリン一人でやってみてください」

ダージリン「え」

西「今ので大体コツを掴んだと思います。なので今度はお一人で」

ダージリン「」

西「大丈夫。ダージリンは要領が良いのですぐ出来ますよ」

ダージリン「…って」

西「え?何と申されましたか?」

ダージリン「も、もう一回手、握って…」

西「あ…かしこまりました」ギュッ

ダージリン「…」

パチン ポロン
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/11(火) 21:07:27.95 ID:Q5P/FDte0<>
西「ふぅ…。ようやく転輪の組み立てが終わりましたね」

ダージリン「ええ」

西「まだまだ完成は先ですけど、疲れたので一旦ここで休憩しましょう」

ダージリン「そうね」

西「にしてもチャーチルは転輪が多いですな」

ダージリン「仕方ないわ。重たい車体を支えるためだもの」

西「なるほど。うちの戦車も転輪の数増やしたら突撃しやすくなるでしょうか」

ダージリン「それじゃ別の戦車になってしまわないかしら?」

西「そうですね。九六式重戦車ダ号とか」

ダージリン「何よそれ…」

西「グロリアーナの"グロ"で九六、ダージリンの"ダ"でダ号です」

ダージリン「意味がわからないわ。それに何で重戦車なのよ」

西「重量感のあr <ツネッ!> 痛ぁっ!!?」

ダージリン「私は重くないわよっ!」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/11(火) 21:09:14.18 ID:Q5P/FDte0<>
西「あはは…ふぁぁ。何だか眠くなってきましたね」

ダージリン「ここは日当たりも風通しも良いから、お昼寝には最適かもしれないわね」

西「ええ。ただ、あまりに快適なので寝過ごしてしまうのですよ」ハハハ

ダージリン「あなたがニートになってしまわないか心配だわ」

西「に、ニートぉ?!」ガーン

ダージリン「ええ。こんな快適な所にずっといたら元に戻れなくなってしまうわ」

ダージリン「人間ね、一度堕落してしまったら矯正するの大変なのよ?」

西「…(長くなりそうだな)」

ダージリン「身の回りのあらゆるところに快楽は潜んでいる」

ダージリン「そういった快楽の誘惑からいかに自分を制するか…」


西(…あ、そろそろティーガースの試合中継始まってるな)ピッ

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/11(火) 21:10:23.89 ID:Q5P/FDte0<>
オオアライガワルイ

ナンデヤ! グンシンカンケイナイヤロ!!

ソラソウヨ

ワイワイガヤガヤ


西(あちゃー。また今日も29点差かぁ…)

ダージリン「快楽にハマって抜け出せなくなって、取り返しの付かないことになる人だっているのだから」

ダージリン「特に今の絹代さんはやる事が無くて毎日ボーッと過ごしているからまさにニート予備軍よ?」

西(うーん…今季はダメだなぁ…)


ダージリン「このままニートになってしまう前に……ちょっと聞いてるの!?」


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/11(火) 21:12:01.39 ID:Q5P/FDte0<>
西「え?!あ、ああ…聞いてましたよちゃんと!」

ダージリン「それじゃあ私が何と言ったか説明できるかしら」

西「え」

ダージリン「ちゃんと聞いていたなら説明できるわよね?」

西「え、えーと…ダージリンがニートって話ですよね??」ハテ

ダージリン「」ブチッ

西「あれ…違いました?」

ダージリン「ええ、どうやらあなたの存在そのものが間違ってるみたいね」ジリジリ

西「私の存在ってどういう…ちょっ、何でこっちに近づいてくるんですかっ!?」

ダージリン「この減らず口を矯正するためよ!!」ビローン

西「ふもぉぉ!!いひゃいへふっ!!ははひふぇふははい!!」ジタバタ
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/11(火) 21:14:38.23 ID:Q5P/FDte0<>
西「うぅ…容赦ないですなぁ…」ホッペヒリヒリ

ダージリン「ふん!」ツーン

西「仮にも私はケガ人でありますからして、もう少しお手柔らかに…」ヒリヒリ

ダージリン「あらあら御免あそばせ。あまりに憎まれ口を叩くものだから怪我の事なんてスッカリ忘れてしまいましてよ」ホホホー

西「動けないのを良い事に好き放題してよく言いますよ。そういうのが趣味なんですか?」

ダージリン「なんですって?」ギロッ

西「…なんでもありません」

ダージリン「まったく…」

西「っ…!」ブルッ

ダージリン「…何よ」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/11(火) 21:16:04.69 ID:Q5P/FDte0<>
西「いえ…あの…」

ダージリン「毎度ながら歯切れが悪いわね。どうでも良い事はベラベラと喋るクセに」

西「……いえ…お手洗いに行きたくなって…」モジモジ

ダージリン「…あぁ。ちょっと待ってなさい。…あったわ」

西「?」

ダージリン「はい。どうぞ」


[尿便]


西「」

ダージリン「何よ?」

西「あの、この病室にトイレあるので…」

ダージリン「一人で行けるの?」

西「ええ、松葉杖があるので…おっと」ヨロッ

ダージリン「危なっかしいわね。連れて行ってあげるわよ」

西「あはは…恐縮です」ヨッコイショ
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/11(火) 21:17:30.52 ID:Q5P/FDte0<>
ガチャ バタン

ダージリン「やれやれ。手も足も使えないなんて不便ね」

西『あの…ダージリン』

ダージリン「どうしたの?」

西『その…厚かましいのは重々承知なのですが…』

ダージリン「何を今更。言ってご覧なさい」

西『さすがの私も人がそばにいる状態では用を足し辛いのであります…』

ダージリン「あなたにもそれくらいの恥じらいはあるのね」

西『あの…そろそろ出そうです…』ブルッ

ダージリン「はいはい。離れれば良いのでしょう」スタスタ

西『恐縮です…ん……ふぅ……』
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/11(火) 21:18:16.57 ID:Q5P/FDte0<>
ダージリン「それにしても良いベッドね」フカフカ

ダージリン「こんなベッド使ってたら動く気力を吸い取られそう」

ダージリン「一体どこのメーカーかしら?」

ダージリン「………」


ダージリン「ふぁぁ…」ノビーッ


ジャー

西『ダージリン、すみません。もう一回お願いします』
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/11(火) 21:19:01.03 ID:Q5P/FDte0<>
シーン


西『ダージリン…?』

ガチャ

西「ダージリン?」

西(帰られたのかな?)

西(ふむ…仕方ないな…)ケンケン...

西「よっと!」 つ[松葉杖]

西(にしても、帰るならひとこと言って欲しかったなぁ……って、あれ?)


ダージリン「zzz」スヤァ...


西「あはは。そこにいたのですね」 <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/11(火) 21:20:31.98 ID:Q5P/FDte0<>
ウッター!

ティーガースガウチマシタァァァァァァ!!


西(おっと、テレビつけっぱなしだ)ピッ

西(…これでよし、と)

ダージリン「zzz」スヤァ

西(ダージリンも色々あってお疲れなんでしょう。このまま寝かせておきませう)

西(それにしても柔らかそうなほっぺただ。まるで肉まんのような)

西(………)

西(ちょっと触るくらいだったら良いだろうか…)

西(ダージリンさんも私のほっぺた引っ張ったしお相子だよね?)

西「」ソーッ
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/11(火) 21:21:02.12 ID:Q5P/FDte0<>
コンコン

西「!!」ビクッ

西「ど、どうぞぉ…?」


ガチャ


オレンジペコ「失礼します」ペコッ

西「あ、先ほどぶりであります。オレンジペコさん」

オレンジペコ「何度もすみません。ダージリン様の帰りが遅かったものでして」

西「ああ、もうこんな時間ですからね」チラッ

時計『20:00』
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/11(火) 21:22:26.62 ID:Q5P/FDte0<>
オレンジペコ「…あれ、ダージリン様…」

西「ええ。私が少し目を離した隙にぐっすりと」

ダージリン「」スピー

オレンジペコ「そうですか…困った人ですね。怪我人押しのけてベッドを占領しちゃうなんて」クスッ

西「ダージリンも色々お疲れなのですよ」

オレンジペコ「そうかもしれませんが…」

西「試合は終わったのですから、ゆっくりしてもバチは当たらないかと思いますよ」フフッ

オレンジペコ「たしかに…」

西「そういえばダージリンも隊長ですからね。聖グロの」

オレンジペコ「…忘れてたのですか?」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/11(火) 21:24:23.27 ID:Q5P/FDte0<>
西「ええ。ここ最近は戦車から離れてしまったこともあって、ダージリンには色々お世話になってることもあったおかげで」

西「隊長としてではなく」

オレンジペコ「…」

西「お友達という印象が強いですね」

オレンジペコ「…」

西「…ん?どうかされましたか?」

オレンジペコ「えっと…」

西「?」


オレンジペコ「ダージリン様は知波単学園と戦って以降、やたら貴方の名前を呼ぶようになったんです」

西「えっ、私の名前をですか?」

オレンジペコ「ええ。事あるごとに"絹代さんだったらこういう時どんな顔をするでしょうね"…と」

西「そうなのですか」

オレンジペコ「ええ。それはもう楽しいことを思い出してるかのように」

西「ははっ。それは嬉しいです!」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/11(火) 21:25:33.79 ID:Q5P/FDte0<>
オレンジペコ「西さん、率直にお尋ねしますが」

西「なんでしょう?」


オレンジペコ「西さんはダージリン様の事をどう思っておられるのですか?」


西「うーん…」

オレンジペコ「…」

西「少し前は聖グロリアーナの隊長殿という印象でして」

西「品の無い自分とは真逆の存在ゆえに少々接しづらい方だなぁと思っておりました」

オレンジペコ「では、今は?」

西「今は色々お世話をして頂いていることもあって、親しく思うようになったのですが…」

オレンジペコ「…」


西「実際のところ、よくわからないのであります」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/11(火) 21:26:38.92 ID:Q5P/FDte0<>
オレンジペコ「よくわからない…?」ピクッ

西「ええ。よくわからないのですが…その、」

西「ダージリンが近くにいないと」


西「心にぽっかり穴が空いたような気持ちになります」


オレンジペコ「…それはどういう意味ですか?」

西「それが"よくわからない"のです」

西「腹に風穴でも空いたかのような…そんな錯覚に陥ってしまうんですよね」

オレンジペコ「…」

西「でも、ダージリンがいると、その穴が埋められていくような気がします」

西「冷たい風を遮ってくれるかのように、暖かい気持ちになれます」

西「それもダージリンのお人柄なのかな…」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/11(火) 21:27:30.53 ID:Q5P/FDte0<>
オレンジペコ「…となれば、似たような方がいらしたら同様に"穴"を埋めてもらえると?」

西「それはないです」キッパリ

オレンジペコ「…」

西「…あれ以来、気がつけば私のそばにはダージリンがいました」

西「ダージリンがいる日常がごく当たり前のように思えました」

西「それは当たり前でも何でもないのに」

西「ですから、もしもダージリンがいなくなったら…と思うと凄く寂しいです」

西「学校が違うので、いずれ離れてしまう日が来ますが、それでも何かしらの形でダージリンとは繋がっていたい…と」


オレンジペコ「…わかりました」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/11(火) 21:28:30.68 ID:Q5P/FDte0<>
西「なんだかお茶を濁す返答で申し訳ありません」

オレンジペコ「いえ。こちらこそ変なこと聞いてすみません」

オレンジペコ「今夜はもう遅いので、ダージリン様はこのままここで休ませて頂けないでしょうか?」

西「ええ、私は構いませんよ?」

オレンジペコ「ありがとうございます。それと、」

オレンジペコ「ダージリン様には私がここに来たことを内緒にして下さい」

オレンジペコ「そうでないと『どうして起こしてくれなかったのよぉ!!』って怒られちゃいますので」エヘヘ

西「あはは。ダージリンならきっと言うでしょうね」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/11(火) 21:29:11.27 ID:Q5P/FDte0<>
オレンジペコ「…あ、重ね重ね恐縮ですが」

西「構いませんよ。なんでも仰ってください」ニコッ

オレンジペコ「連絡先、交換していただけないでしょうか?」

西「ええ、是非とも」つ[携帯]

オレンジペコ(あ、一応携帯電話は扱えるんですね)

西「ははは。こんなご時世ですのでパソコンや携帯電話は扱えたほうが良いなと思った次第ですよ」

オレンジペコ(うっ…顔に出ちゃってたかな…)

オレンジペコ「あ、来ました。有難うございます」

西「いえいえ、こちらこそ」

オレンジペコ「さて、それでは私はこの辺で失礼します。色々有難うございました」ペコ

西「こちらこそ。お休みなさい」フカブカ

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/11(火) 21:30:09.58 ID:Q5P/FDte0<>
西(さて…もうこんな時間か。1日が終わるのはあっという間だなぁ)

西(チャーチルもそのままだから片付けないと…)ジャラジャラ

チラッ

ダージリン「zzz」スヤァ

西(にしてもダージリンは寝顔も綺麗だなぁ)

西(起きてる時はちょっと口うるさいところもあるけれど)

西(………)


西(ダージリン真似)「こんな格言を知ってるかしら? "早起きは三文の徳"」

西(ダージリン真似)「あなたも一日中寝てばかりいないで、たまには早起きでもして自分を磨いたらどうかしら?」


西「…似てないか」ハハハ
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/11(火) 21:31:09.04 ID:Q5P/FDte0<>
― ええ。ダージリンもOG会に縛られているわ…

西(………)

― ダージリン様はやたら貴方の名前を呼ぶようになったんです

西(………)


― 西さんはダージリン様の事をどう思っておられるのですか?

― もしダージリンがいなくなったら…と思うと凄く寂しいです

西「ダージリン…」


西「…」

ダージリン「…」zzz
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/11(火) 21:31:43.28 ID:Q5P/FDte0<>
西「………」

ピタッ

ダージリン「…んっ……」

ツネッ

ダージリン「…っぅ……」

西「………」

プスッ プスッ

ダージリン「…んんぅ……」

西「………あはは…」



― 私はダージリンに甘えてばかりだなぁ…
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/13(木) 22:10:02.79 ID:TN4BMIQP0<>
ダージリン「………うーん?」パチッ

西「あ…おはようございます」

ダージリン「…絹代さん……いま何時ぃ…?」ポケー

西「えっと、9時ですね」

ダージリン「そう…」ウトウト

ダージリン「…」

ダージリン「9時ぃ?!!」ガタッ

西「わ!」

ダージリン「ひどいわ絹代さん!どうして起こしてくれなかったのよ!」

西(うっひゃぁ…オレンジペコさんの言った通りだ)

ダージリン「あぁ…私としたことが寝坊助にも程があるわぁ……」

西「ま、まぁまぁ落ち着いて…」

ダージリン「うぅ…あなたのそばにいるせいで私までだらけてしまったのね…」ズーン

西(失礼なっ!!)
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/13(木) 22:10:34.12 ID:TN4BMIQP0<>
西「あの…ダージリン」

ダージリン「なによ」

西「今晩はもう遅いでしょうから、此処に泊まっていって下さい」

ダージリン「え、ここに?」

西「ええ。生憎この近辺には宿泊施設がありませんので」

西「他にも空いている部屋や仮眠室があるかもしれませんので聞いてみますね」つ[電話]

ダージリン「ええ…お願いするわ」


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/13(木) 22:12:34.16 ID:TN4BMIQP0<>
西「……あの、申し訳ないのですが」

ダージリン「他にお部屋が無いのでしょう?」

西「ええ…」

ダージリン「仕方ないわよ。私のような健常者が病人や怪我人押しのけて『寝過ごしたから部屋を使わせてくれ』なんて厚かましいにも程がありますもの」

西(私を押しのけて寝てたクセに…)

西「ただ、私の部屋したら"利用者が許可するならそれで良い"とのことでして」

ダージリン「でも、それってつまり…」

西「あ、ダージリンはそのベッド使ってください。私は椅子にでも座って寝ますよ」

ダージリン「何を言ってるの。あなた仮にも怪我人なのよ」

西「とは言ってもダージリンを地べたで寝させるのはさすがに…」

ダージリン「あなたが椅子でどうして私は床なのよ…」

西「ははは冗談ですよ。私が床で寝ましょう」

西「ウチの玉田も選抜戦帰りの列車で地べたに寝そべってたことがありますので」アハハ
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/13(木) 22:13:40.60 ID:TN4BMIQP0<>
ダージリン「…じゃぁ」

西「ん?」

ダージリン「あなたのベッド…ほんの少しだけ貸してくれないかしら…?」

西「え?」

ダージリン「あなたのベッドなのだから、あなたが使うべきよ」

ダージリン「ただ、少しだけ場所を貸してくれないかしら…と思って」

西「や、やっぱり私が椅子なり床なりで寝ます!こう見えて戦車の中でよく転寝してますので!」

ダージリン「だからそれは駄目」ガシッ

西「わっ!だ、ダージリンは平気なんです?!」

ダージリン「え?…ええ、女同士でしょう?」

西「そう…ですよね…?」

ダージリン「ええ」

ダージリン「…でも、制服のままだと皺になるわね」

西「…あ、私の予備の浴衣があるので良かったら使ってやって下さい」

ダージリン「いいの?」

西「ええ」

ダージリン「じゃぁ、お言葉に甘えようかしら」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/13(木) 22:15:09.11 ID:TN4BMIQP0<>
西「…」

ダージリン「なに?」

西「いえ、浴衣姿のダージリンも絵になるなぁ〜と思いまして」

ダージリン「褒めても何も出ないわよ」←ちょっと嬉しい

西「浴衣は良いですぞ!浴衣一つあれば寝るのはもちろん、病院内や外も出歩けますし!」フフン

ダージリン「さすがに外を歩くときは着替えるわよ」

西「まぁ、私の場合こんな体ですからね」

ダージリン「ああ…そうだったわね」

西「はははっ!気軽に脱げるってのも浴衣の利点ですよ!」

ダージリン「何を言ってるのかしらこの子は」ハァー

西「あ、そうだ、病室内にシャワールームがあるので良かったらそちらも使ってください」

ダージリン「何から何まで悪いわね」

西「いえいえ、これくらい」

ダージリン「…じゃあ、お先に頂くわね?」

西「どうぞどうぞ」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/13(木) 22:15:56.19 ID:TN4BMIQP0<>
西「………」

西(んー…大丈夫なのかなぁ…?)

西(ダージリンは優しいから気をつかって下さってるけど、一つのベッドで二人というのはどうなんだろう…)

西(やっぱりダージリンに言って私は床で寝た方が良いのでは?いやそうに違いない)


ダージリン『絹代さん』


西「ひゃっはぁい!?」ビクッ

ダージリン『? お湯ってどうやれば出るのかしら?』

西「え、え?あっ、あ、右側を回すと出るのでありますっ!」

ダージリン『ありがとう』

西(し、心臓に悪い)
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/13(木) 22:17:46.14 ID:TN4BMIQP0<>
ダージリン『ひゃああああっ!!!』


西「だーズりンどのォ?!!」←噛んでる

ダージリン『ちょっと!こっち冷水じゃないの!!』プンスカ

西「ももも申し訳ございませんっ!温かいのは反対側でしたぁーっ!!」

ダージリン『まったくもう…!』

シャワーーーーー


西(なんだか胃が痛くなってきた…)キリキリ
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/13(木) 22:19:08.99 ID:TN4BMIQP0<>
ダージリン『絹代さん』

西「…今度はなんでしょうか?」ジトッ

ダージリン『良かったら一緒にシャワー浴びません?』

西「ふぁっ?!」

ダージリン『手足が不自由でしょうし、髪洗うの手伝うわよ』

西「い、いえ、私は…」

ダージリン『?』


西「…ダージリンはそういうの気にされないのです?」

ダージリン『ええ。エキシビジョンマッチ戦後にもご一緒したでしょう?』

西「た、たしかに…」

西(…って、あの時は他の方もいたではないか!でも、今回はその…)

西(二人っきりってさすがに…)


ダージリン『じれったいわね。早くなさいな』

西「は、はいぃっ!」

西(もう…どうにでもなれば良いんだ…)グッタリ
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/13(木) 22:19:55.34 ID:TN4BMIQP0<>
【シャワールーム】


西「お、お邪魔します」E:タオル

ダージリン「余所余所しいわね。早くこっちへ来なさいな」

西「きょ、恐縮です(そりゃ余所余所しくもなりますよ!!)」

ダージリン「あら?腕や足はやっぱり濡らしちゃダメなの?」

西「え、ええ…ギプスなので上からタオルを巻いて更にビニル袋で水が入らないようにします」

ダージリン「不便ね。やっぱり一人じゃ大変でしょ?」プシュップシュッ

西「まぁ、慣れましたけ <ピタッ> ひゃぁっ!?」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/13(木) 22:20:59.25 ID:TN4BMIQP0<>
ダージリン「ちょっと大声出さないで頂戴。びっくりするじゃない」

西「びっくりしたのは私の方であります!いきなり触るなんて反則ですぞ!」ドキドキ

ダージリン「それは申し訳ないわね。次からは"触る"って一声かけてからで良いかしら?」ゴシゴシ

西「え、ええ。それなら…」

ダージリン「じゃぁ触るわね」

西「触ってから言わないでください」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/13(木) 22:22:58.67 ID:TN4BMIQP0<>
ゴシゴシ ワシャワシャ

西(でも…なんだか気持ち良いのであります。髪を切りに行った時の洗髪を思い出すのであります)ホヘー

ダージリン「懐かしいわね」ワシャワシャ

西「ほへ?」

ダージリン「昔はこうやって妹の髪を洗ってたのよ」モシャモシャ

西「妹…アップルペン殿ですか?」

ダージリン「"オレンジペコ"よ。それにペコは後輩。ちゃんとした妹よ」ゴショゴショ

西(…オレンジペコ殿が聞いたらちょっとヘコみそうな…オレンジ凹。…いや無いか)

西「妹さんは聖グロリアーナ生なのですか?」

ダージリン「いいえ、まだ中学生(※)だもの。でも、もしかしたらウチに来るかもしれないわね」ゴシゴシ


※ここだけの独自設定です

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/13(木) 22:24:19.98 ID:TN4BMIQP0<>
西「妹さんが聖グロリアーナに来たら今度はオレンジペコさんが隊長になっているかもしれませんね」

ダージリン「そうね。あの子はああ見えてなかなか頼もしいから」ゴシゴシワシャワシャ

西「それで、ダージリンよろしく」


西(オレンジペコ真似)「こんな格言を知ってます?」ドヤッ

西(オレンジペコ真似)「お寿司はね、銀シャリよりも上に乗ったチクワが一番おいしいの。握られた方がいい味だすのよ」ドヤァァ


西「…となったりしt ぶわぶっ!?」

ダージリン「私を格言自慢が好きな嫌味ったらしい人間みたいな言い方しないで頂戴」ジャー

西「ゴボゴボガボゴボゲホッゲホッゲエホッオェェェェッ!!!!」ブクブク

ダージリン「まったく。なんでお寿司のネタにチクワなのよ」ジャー
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/13(木) 22:26:05.29 ID:TN4BMIQP0<>
西「いきなりシャワー顔面にぶっかけるなんて卑怯じゃないですかぁ!!」ケホッケホッ

ダージリン「あらあら御免あそばせ。シャワーのときは一声かけろと言われておりませんので」

西「…まさにイヤミな女」ボソッ

ダージリン「…」ジャー

西「ゴボゴボガボゴボゲホッゲホッゲエホッオェェェェッ!!!!」ブクブク

ダージリン「フフフ」ニタァ

西「ゲホゲホオ゛エ゛ェッ! それ反則です!ルール違反であります!」

ダージリン「あなた用の制裁措置よ」フフフ

西「私は何も悪いことしてませんっ!」

ダージリン「自覚がないのならしょうが無いわねぇ?」

西「あ!シャワーこっち向けようとしていますね?!ダメです禁止です!!」

ダージリン「はしゃぎ過ぎよ。もう少し落ち着きなさい」

西(誰のせいだと思ってるんですか!!)
<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/04/13(木) 22:28:25.24 ID:QXNksuP1O<> ダー様も怪我人相手に中々のじゃじゃ馬っぷりを発揮していますな。
更新乙です。 <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/13(木) 22:29:47.21 ID:TN4BMIQP0<>
西「でも…」

ダージリン「今度は何よ?」

西「もし妹さんがうちに来たらどうします?」

ダージリン「"うち"って知波単学園?」

西「ええ」

ダージリン「それはご勘弁願いたいわね。騒がしいのはローズヒップ一人でお腹いっぱいですわ」

西「えぇー」

ダージリン「妹は私のようにお淑やかになってもらわないと困りますもの」

西「私のようにねぇ…フッ」

ダージリン「」シャワージャー

西「ゴボゴボガボゴボゲホッゲホッゲエホッオエッ!!鼻はやめゴボボガバオゴバ!!」ブクブク
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/13(木) 22:30:38.22 ID:TN4BMIQP0<>
西「」ゲホッゲホッ オェェッ!!

ダージリン「あなたもなかなか懲りないわね…」

西「むしろ懲り懲りです。ダージリンがイジワルするだけです!」

ダージリン「………」

西「…また何か悪いことでも企んでるんです?」ジトッ

ダージリン「………」

西「………」

ダージリン「………」

西「…どうしたんです?」クルッ

西「………」

ダージリン「?」

西「っ!!」

ダージリン「!! この助平っ!!」シャワージャー

西「ンゴボゴボゴゴンボオッゴゴンゴゴノゴッボゴゴボボゴボンゴオオォォォォオォォ!!!!!!」ブクブク!


西(ダージリンは見た目"だけ"は綺麗な方でした。……鼻血出てませんよね?)ゴボゴボ
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/13(木) 22:31:52.00 ID:TN4BMIQP0<>
ダージリン「ほらあんたのせいで怒られたじゃないのっ!」ボソボソ

西「ですから私は!!」ヒソヒソ

ダージリン「」シュッ

西「も゛っ!?」ボフッ

ダージリン「おバカな事言ってないで早く拭きなさい。いくらおバカなあんたでも風邪引くわよ」

西「じゃぁダージリンはしょっちゅう風邪引いてるのでは?」

ダージリン「あ゛あ゛ん!?」ギロッ

西「」ベー

ダージリン「…」

西「…」

ダージリン「…疲れたわ」ハァ

西「…同じく」ハフゥ

ダージリン「…ほら、後ろ向きなさいな。髪の毛拭くから」

西「はーい」ワシャワシャ
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/13(木) 22:32:37.08 ID:TN4BMIQP0<>
西「…ところで」

ダージリン「なによ」

西「寝るときは頭の"アレ"解くんですね?」

ダージリン「アレって何よ」

西「後頭部のもこもこしてるやつです」

ダージリン「…また引っ叩かれたいのかしら?」

西「暴力反対です」


ダージリン「これは『ギブソンタック』と言うのよ」

ダージリン「アメリカの画家チャールズ・ダナ・ギブソンが描いた"理想の女性"を描くギブソン・ガールの髪型なのよ」

西「なるほど…ん?」

ダージリン「どうしたの?」

西「米国ですか?」

ダージリン「そうよ?」

西「英国ではなくて?」

ダージリン「私とて何でもかんでもイギリスをリスペクトしてるわけじゃないのよ?」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/13(木) 22:33:13.86 ID:TN4BMIQP0<>
西「そうなんですか?」

ダージリン「ええ。あなたもやってみる?ギブソンタック」

西「うーん、私がやるとサザエさんになりそうな気がします」

ダージリン「サザエさん…」

西「でも、私はそれ」

ダージリン「ギブソンタック」

西「…げぶそんたっくとやらじゃないダージリンは初めて見ますね」

ダージリン「ゲじゃないギよ。ギブソンタック」

西「そうそう。それです」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/13(木) 22:33:42.80 ID:TN4BMIQP0<>
ダージリン「当たり前じゃないの。下ろすのは寝る時くらいですもの」

西「んー、私は髪をおろしたダージリンも良いなぁと思うんですけどね」

ダージリン「え?そ、そうかしら?」

西「ええ」

ダージリン「そう?」←ちょっと嬉しい

西「はい」

ダージリン「じゃぁ、たまにはこれにしてみようかしら?」

西「…あ、でもやめといたほうが良いかと」

ダージリン「どうして?」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/13(木) 22:34:42.68 ID:TN4BMIQP0<>
西「男性からのお誘いが殺到しかねませんので」

ダージリン「良い事じゃない。淑女冥利に尽きましてよ」ホホホ

西「紳士と呼べるような方が寄って来るなら良いのですが、必ずしもそうとは言い切れないので」

ダージリン「さすがに私だって多少は人を選ぶわよ。多少はね」

西「不逞な人がハエのように集ってまるでウン」

ダージリン「」ツネッ


西「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」ジタバタ


ダージリン「あんたはもう少し品を良くしなさい!!怒るわよっ!!!」

西「もう怒ってるじゃないですかっ!」ヒリヒリ

ダージリン「もっと怒るわ!!」

西「やめてくださいまだ死にたくありません」

ダージリン「"ごめんなさい"は?」

西「はいはいわたくしがわろうございますぅ〜」シレッ

ダージリン「」ツネッ


西「痛い痛い痛いいだぁぁぁぁぁぁぃ!!!!!!」ジタバタ


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/13(木) 22:36:23.33 ID:TN4BMIQP0<>
ダージリン「どうやらあなたは徹底的に"品格"を矯正する必要がありそうね!」

西「人をツネるダージリンこそ改善すべきでありますっ!」

ダージリン「原因を作ってるのは何処のどなたかしら?」


(西`・ω・)σ


ダージリン「」ツネッ

西「いだぁぇぇぇぇ!!!」

ダージリン「少しは学習なさい!!」プンスカ

西「ダージリンこそもう少し手加減を覚えても良いと思うのでありますっ!」ヒリヒリ

ダージリン「駄目よ。あなたは甘やかすとすぐ付け上がるんですから」
<> 訂正 
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/13(木) 22:39:31.56 ID:TN4BMIQP0<> >>134と>>135の間に以下が抜けてました。

お手数ですが脳内補完&修正お願いします。






西「ひどい目にあった…」チーン

ダージリン「それはこっちのセリフよ」E:タオル

西「はい!私悪くないであります!悪いのは急に黙り込むダージリンであります!!」

ダージリン「お黙りっ!人の裸舐めるように見てよく言えたものね!」キィィィ

西「な、舐めるようになんか見てません!ちょっと視界にチラッと見えただけですっ!」フシャー!!

ダージリン「やっぱり見たんじゃない!この助平!」ウガー

西「また助平って言った!!見たんじゃなく痴女ジリンに見させられたのですっ!!」ピギィ

ダージリン「なっ!痴女ですって!!?」


看護師「お静かに願います!!」ドンドン


西・ダージリン「すみませんっ!!」
<> >>140からの続き
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/13(木) 22:41:00.89 ID:TN4BMIQP0<>
西「…人のことよく言いますよ」ボソッ

ダージリン「あら、何か?」ワキワキ

西「まって!その手おろしてください!つねらないで!!」

ダージリン「小声で言ったって聞こえるわよ」

西「む。ダージリンもプラウダ高校のカチューシャさんみたいに二つ名つけたらどうですか?」

ダージリン「二つ名?」

西「"地獄耳のダージリン"」

ダージリン「私が地獄耳だったらあなたはロバの耳ね」Wギュゥッゥゥ

西「あ゛ぁぁっぁぁぁぁぁ両手は反則ですぅぅぅっぅ!!!」ジタバタ
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/13(木) 22:45:32.78 ID:TN4BMIQP0<>

西「ダージリンひどい」シクシク

ダージリン「ほら、お馬鹿なことやってないで髪の毛ちゃんと乾かしなさいな」

西「む。これくらい放っておけばすぐ乾きますよ」ヒリヒリ

ダージリン「だめよ。ちゃんと乾かさないと髪が傷んでしまうから」つ[ドライヤー]

西「まるでお母さんみたいですね。ママジリンですか?」

ダージリン「」ゴー

西「熱ッ!? ちょっとダージリン!さっきから暴力的ですよっ!!」

ダージリン「デキの悪いワンちゃんには躾が必要なだけよ」ゴー

西「私が犬でしたらダージリンは猫ですね」ニャー

ダージリン「あらあら嬉しいわ。猫は気高い生き物でしてよ」オホホ

西「…ガーフィールド」ボソッ

ダージリン「焼き加減が甘かったかしら?」ゴー

西「人を秋刀魚のように扱わないで下さい」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/13(木) 22:46:35.06 ID:TN4BMIQP0<>
ダージリン「はいおしまい。私も髪を乾かすから。先にベッドに入って頂戴」

西「はーい。かしこまりでございます」

西(ん……何か忘れてるような?)

ゴー

西「………」

西(まぁいいか)

西「………」ジー

ダージリン「…何よ」

西「いえ、ダージリンの髪ってサラサラなんだなぁーと思いまして」

ダージリン「そう?」

西「ええ。洗髪料の宣伝とかで出てきそうな感じですよ」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/13(木) 22:47:49.24 ID:TN4BMIQP0<>
ダージリン「そういうあなただってサラサラじゃないの」

西「そうですか?」

ダージリン「ええ。"絹代"って名前だけに絹のような手触りよ?」

西「そうかなぁ…?」クルクル

ダージリン「あなたは見た目だけは"べっぴんさん"なのだからもう少しお淑やかにすべきよ」

西「はーい。善処するであります」

ダージリン「やけに素直ね…?」

西「目の前に模範例がいますから」シレッ

ダージリン「」ガタッ スタスタ ツネッ

西「あ゛ぁぁぁぁぁッ!!!!」ジタバタ

ダージリン「自分を模範になさい!!」
<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<><>2017/04/14(金) 06:51:37.24 ID:I91zdIQf0<> いい <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage saga<>2017/04/14(金) 19:12:37.44 ID:UNXzVwtB0<> 完全にバカップル
ダー絹はいいぞ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/04/14(金) 19:26:02.24 ID:dAHg2ENTO<> 二人とも ほっぺがスベスベしてやわらかそう <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/15(土) 14:49:11.52 ID:BbZ8wPDe0<>
【就寝】


ダージリン「ほら、私も入るからもっと奥へ行って頂戴」ゲシゲシ

西「あたっ!さっき"ほんの少し"って言ったじゃないですかぁ」

ダージリン「ええ。だから"ほんの少し"よ?」ニコッ

西「ぶぅ」

ダージリン「そんな不満げな顔しないでくれるかしら」

西「」プクー

ダージリン「ほっぺ膨らまさないの」ツン

西「」プシュッ

ダージリン「ふふっ」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/15(土) 14:50:37.54 ID:BbZ8wPDe0<>
ダージリン「電気消すわよ?お手洗いは大丈夫?」

西「むっ、子供扱いしないで下さい」

ダージリン「あなたは立派なお子様よ」

西「ダージリンだって未成年ではありませんか」

ダージリン「あなたよりは大人よ?」

西「たった1年の違いです。大した事ないのであります」

ダージリン「1年でも年上は年上よ。先輩は敬うものなのよ?」

西「そうですねぇ。チビっ子みたいにプラモデルに興味津々だったダージリン大先輩ですもんね」

ダージリン「あれは初めてだからよ」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/15(土) 14:51:18.99 ID:BbZ8wPDe0<>
西「意外でしたね」

ダージリン「なにが?」


西(ダージリン真似)「そんな子供じみた玩具で遊んでいないで、少しは勉強でもしたらいかが?」ヤレヤレ


西「…とでも言うかなぁと思ってたので」

ダージリン「ほぅ」ジリジリ

西「…って、なんでこっち近づいて来るんですか?!」

ダージリン「子供みたいな子供に礼儀の勉強をして差し上げようと」ニコニコ

西「え、ちょっ!落ちます!それ以上こっち来たら私ベッドから落ちあいでででで!!」

ダージリン「ホントに懲りないわねこの悪童は!」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/15(土) 14:53:13.81 ID:BbZ8wPDe0<>


西「ダージリンは…その、趣味とかはないのですか?」ヒリヒリ

ダージリン「趣味?」

西「ええ。たとえば将棋とか散歩とか昼寝とか」

ダージリン「最後のはあなたのでしょ」

西「む。私とて四六時中寝てるわけではありませんぞ」

ダージリン「そうなの?」

西「そうであります」フンス

ダージリン「…そうね。私の趣味といえば、やっぱり紅茶かしら」

西「そのまんまですね」

ダージリン「なによ」

西「血液も紅茶で出来てるんじゃないかというくらい飲んでおられますので」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/15(土) 14:54:19.69 ID:BbZ8wPDe0<>
ダージリン「否定しないわ」

西「話によると、戦車に乗ってる時も飲んでいるとのことで」

ダージリン「いつでも何処でも優雅に。戦車道と紅茶は淑女のたしなみでしてよ」フフフ

西「ほほぉ?」

ダージリン「…何か文句でも?」

西「い、いえ…」

ダージリン「あなたの事だからどうせまた『どこが淑女なんだろうか』とでも思ってたのでしょう」ジリッ

西「思ってません!手ぇワキワキさせながらこっち来ないでください!」

ダージリン「じゃぁ何を考えてたのかしら?」ジトッ

西「いえ、その…まぁ、乙女のたしなみを」

ダージリン「言ってみなさい」ガシッ

西「え」

西(り、両肩掴まれた…!?)
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/15(土) 14:56:02.55 ID:BbZ8wPDe0<>

ダージリン「あなたの悪いところは肝心な事を言いよどむ所よ。どうでも良い事はペラペラ言うくせに」

西(ダージリンに言われたくないやいっ!)

モニュッ

西「いぐゥっ!? わ、脇腹は反則ですっ!!」

ダージリン「考えはお見通しよ。さぁ白状なさい」

西「えぇー…(やけに食いついてくるなぁ?)」

ダージリン「はやく」

西「まぁ、その…それだけ紅茶を飲んでおられるのでしょうから」

ダージリン「ええ」








西「戦車乗ってる時におしっこしたくなったらどうするのかなぁ…と」モジモジ
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/15(土) 14:58:38.45 ID:BbZ8wPDe0<>

ダージリン「………は?」

西「さすがに試合中に降りて草むらで…、というわけにはいきませんし」

西「かといって、オムツを着用するのもどうかと思いますので…」

ダージリン「…何を言うかと思えば」ハァ...

西「い、いや!紅茶しこたま飲んでたらその…催す事だってあると思いますよ!」

西「実際問題、試合が始まれば数時間は戦車に乗ったままですし」

ダージリン「…」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/15(土) 15:00:23.31 ID:BbZ8wPDe0<>
西「そういう経験、無いのですか…?」

ダージリン「あるわよ」

西「(即答かい!)…でしたら」

ダージリン「そんな事知りたいの?」

西「………まぁ、ちょっと気になります」

ダージリン「助平」

西「…はいはいどーせ私は助平で不埒な女であります」ムスッ

ダージリン「そうね。その通りね」

西「………戦車の中で盛大に漏らして"おちびリン"とか"垂れジリン"ってあだ名つけばいいのに」ボソッ

ツネッ!!

西「ぐぎゅううううう!!!!」ジタバタ

ダージリン「おちびもおちびりもカチューシャだけで良いわよっ!」

西「???」ヒリヒリ
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/15(土) 15:03:04.59 ID:BbZ8wPDe0<>
ダージリン「…一応皆には気を付けなさいと言っているけれど」

西「ほうほう」

ダージリン「どうしても我慢できないなら、ちゃんと"ソレ用"の瓶があるわ」

西「…なるほど」

ダージリン「他に良い方法があれば是非とも教えて頂きたいわね」

西「たとえば…戦車に乗る時は紅茶飲まないとか」

ダージリン「我が校の伝統を真っ向から否定するとはいい度胸ね」

西「私だったら戦車に乗ったままトイレに突撃しますけどね。伝統を尊重して」

ダージリン「却下よ却下」


西「…じゃぁ座席をトイレにするとか」

ダージリン「嫌よ。作戦行動中にすぐ近くにいる砲手が突然脱ぎ出して、用を足すところを想像してみなさい」

西(自分じゃなく砲手で例えるんですか…)
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/15(土) 15:05:15.24 ID:BbZ8wPDe0<>
ダージリン「戦車の中は密閉されているから音だけでなく臭いも充満する。地獄絵図よ」

西「ふむ……」


西(ダージリン真似)「…ん、ちょっと失敬するわ(ごそごそ)」

西(アッサム真似)「うっ、またですの…? これで5回目ですわよダージリン…」

西(オレンジペコ真似)「だから紅茶の飲み過ぎには注意して下さいとあれほど…」

西(ダージリン真似)「ふぅ……」ジョロロロロ


 ブゥゥッ!


西(ダージリン真似)「あら御免あそばせ」ホホホ




西「…みたいな感じで <バゴッ!!> sぐっふぉぉぁぁっ!!?」

ダージリン「あんたはトイレより自分の頭を心配なさいッ!!!」

西「は…腹は…反則ですぞ………」ヌォォ...

ダージリン「頭叩いたらバカがますますバカになってしまうわ!もう手遅れでしょうけど!!」

西「んぐぬぉぉぉぉ……」ジンジン
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/15(土) 15:07:10.36 ID:BbZ8wPDe0<>
西「…実を言うと」ジンジン

ダージリン「…何よ」ジトー

西「今日が初めてなんですよね」

ダージリン「初めて?何が?」

西「紅茶を飲んだのが」

ダージリン「ええええっ!!?」バタッ

西「わっ!」

ダージリン「あなた今の今まで紅茶飲んだこと無かったの?」

西「え、ええ…。そうですけど…?」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/15(土) 15:07:57.16 ID:BbZ8wPDe0<>
ダージリン「喫茶店とか飲食店でも?」

西「飲食店じゃお冷とかオレンジジュースとか、あとはお茶ですね」

ダージリン「自動販売機で買ったこともないの?!」

西「普通のお茶ならよく買うんですけどねぇ」アハハ

ダージリン「」

西(そ、そんなにおかしいことなのかな…?!)



ダージリン「あなた、人生の9割損してるわよ」



西「え゛っ!?」ガーン
<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/04/15(土) 15:08:47.65 ID:+5Y+CfupO<> 役人(盗聴中)「聖グロの隊長が怪我人に暴力(腹パン)を振るっている…。特ダネだ。」 <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/15(土) 15:09:39.79 ID:BbZ8wPDe0<>
ダージリン「いい? 紅茶は1500年ごろにポルトガル人が中国でお茶を飲んだのが始まりとされてるの」

西(な、なんか急に解説しだした?!)


ダージリン「当時ヨーロッパは文化も風習も違う、遠く離れた東洋に興味をもっていて」

ダージリン「香料や香辛料、産物品を東洋からヨーロッパに運んでいたのよ」

ダージリン「そのときに一緒にお茶も含まれていて、それがヨーロッパ初のお茶といわれているの」

西(世界史はあまり得意ではないのであります。珍紛漢紛です)


ダージリン「中国から紅茶を輸入する代わりにイギリスは銀を提供していたの」

ダージリン「でもそれではだんだん財政が圧迫されるというから、植民地のアヘンを代わりに提供し始めた」

西(あ、コレは知ってる。アヘン戦争だ)

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/15(土) 15:11:21.01 ID:BbZ8wPDe0<>
【30分後】


ダージリン「…というわけよ。おわかり?」

西「…はいダージリン先生…」ゲッソリ

ダージリン「本当にわかったのかしら?」

西「えげれすはなかなかエグいということがわかりましたであります」

ダージリン「…どうやらもう一回最初から説明する必要があるみたいね」

西「う、ウソです!ちゃんと理解してます!紅茶の魅力十二分に伝わりましたから故っ!」

ダージリン「なら良いけれど」

西(しばらくダージリンの前で紅茶の話するのやめようかな…)
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/15(土) 15:12:08.37 ID:BbZ8wPDe0<>
ダージリン「ところで絹代さん」

西「はい」

ダージリン「紅茶飲むのは初めてって言ったわよね?」

西「え?…まぁ、そうですね」

ダージリン「ということは、今私が淹れたのが初めてってこと?」

西「そう言われてみればダージリンのが生まれて初めてですね」

ダージリン「ならば是非とも感想をお聞きしたいわね」


西「紅茶の味がしました」


ダージリン「」ツネッ

西「いだいっ!!冗談です冗談ですってばぁ!!」ジタバタ

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/15(土) 15:15:06.85 ID:BbZ8wPDe0<>
ダージリン「初めてなのに"紅茶の味がした"なんて感想おかしいでしょう!」

西「ま、まぁそうですけど、なんと言いますか…」ヒリヒリ

西「普段我々が飲んでるようなお茶とはまた違った感じがしましたね」

ダージリン「と、言うと?」

西「私達は沸かしたお茶はそのまま飲みますので、それがお茶という認識であります」

西「ですが紅茶はそうではなく、砂糖や牛乳を入れて甘くして飲むわけなので、ちょっと新しいなぁと思いました」

ダージリン「普通の人ならもう10年は早くそれに気づいてたわね」

西「えぇー…」


ダージリン「まぁいいわ。またいつか淹れてあげるわよ」

西「ホントですか?!」パァァ

ダージリン「気が向いたらだけど」

西「楽しみでありますっ!」ワクテカ

ダージリン「それは良かったわ」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/15(土) 15:16:12.61 ID:BbZ8wPDe0<>
西「何しろ私の初めての人ですからっ!」

ダージリン「なっ…!」

西「え?」

ダージリン「あっ、あなたはもっと言葉を選ぶようにしなさいと何度言えば…!」ワナワナ

西(…そんなに変なこと言ったかなぁ)

西(実際ダージリンの紅茶が人生初・紅茶なわけだし、間違ってるのかなぁ??)

西(ひょっとしたら私の心得違いで以前にも飲んでいたとか? それはないと思うけどなぁ…うーん…)



西「ま、いっか」

ダージリン「良くない!!」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/15(土) 15:17:59.84 ID:BbZ8wPDe0<>
西「あ、あとは」

ダージリン「今度は何よ…」ジトー

西「ダージリンといえば色んな格言をよく言っておられますよね?」

ダージリン「ええ。それが?」

西「どこから仕入れてるのかなぁーと」

ダージリン「それはね…」




― こうして夜は更けていくのでした。

一緒にお風呂に入り、一緒の布団で眠る。

ダージリンとここまで仲良くなれるとは思いませんでした。

…ツネられるのはイヤだけど、この時間がずっと続けばいいなと思いました。
<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/04/15(土) 16:15:46.94 ID:YpJJsIvvO<> おちびりん乙!
そう言えば、GレコのMSは操縦席がトイレになってて、主人公が使ってた。 そのときは同乗者もいたけど、音や匂いは困るだろうなあ <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 08:07:03.82 ID:MCvwfzEe0<>

【翌日 朝】


チュンチュン

西「………ん…」パチ

西(ここは…? あ、病院か…)ファァ

西(んー…。今日もいい天気だなぁ…)ノビー

ギュッ

西(…ん?)チラッ

ダージリン「zzz.....」スヤスヤ

西「わっ?!」ビクッ

ダージリン「…んぅ…?」ネボケ

西(そ、そうか。ダージリンここに泊まったんだ。スッカリ忘れてた)

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 08:08:13.44 ID:MCvwfzEe0<>
西「おはようございますダージリン」

ダージリン「んぅー…ぉはよぅござぃますのぉ……」ポケー

西(あれ? ひょっとして寝ぼけてる…?)

ダージリン「…ペコぉ…アーリーティー…」ウツラウツラ..

西(ふむ。どうやら私以上に寝ぼけてる人がいるようだ)

西「…」


西「」ニヤァ


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 08:09:15.45 ID:MCvwfzEe0<>
西「あー…コホン!」


西(ペコ真似)「ダージリン様、早く起きて下さい。もう夕方ですよ」

西(アッサム真似)「ダージリン!何をしていますの!今日は練習試合の日でしてよ!知波単の隊長さんカンカンですの!!」


ダージリン「………」ポケー


ダージリン「ふぇぇっ?!きっ絹代さん!?絹代さん来てるのっ?!」ガバッ

ダージリン「ちょっとペコ!!何で起こしてくれ…な……???」



西「」プークスクス

ダージリン「」


ガシッ

ァ…

パチコーン!!

イッタァァァァァ!!!

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 08:10:59.78 ID:MCvwfzEe0<>
ダージリン「朝っぱらから何やってるのよ!!!」プンスカ

西「それはコッチのセリフですよ!おかげでおデコ真っ赤ですぞっ!」ヒリヒリ

ダージリン「自業自得よ!」


西(ペコ真似)「お寝坊も自業自得ですか?ダージリン様?」


ダージリン「今度はグーで行こうかしら?」ギロッ

西「やめてください退院が遅れます」


ダージリン「まったく。どこでそんなモノマネ覚えたのよ…」

西「暇だったので色んな人の真似して遊んでました」

ダージリン「時間は有効に使いなさい」

西「でも色んな人の真似が出来るようになりましたよ!」フンス

ダージリン「…たとえば?」


西(みほ真似)「ダージリンさん!出来る限り余裕の表情を崩さず崖から飛び降りて下さい!」


ダージリン「みほさんがそんなこと言うわけないでしょう!!」ゲシッ

西「いでぇっ!!」

ダージリン「悪趣味にも程があるわよ!!」

西「そんなぁ…」ショボーン
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 08:12:58.13 ID:MCvwfzEe0<>

ダージリン「…ほら、どうぞ」コトッ

西「ん?」

ダージリン「アーリー・ティーよ。イギリスでは目覚ましとしてベッドの中で飲むその日最初の一杯なの」

西「なるほど…だから先程アーリーティがどうのこうのと」

ダージリン「グー」ニギッ

西「…いただきます」ズズ

ダージリン「…」


西「ん…どうかしました?」キョトン

ダージリン「いいえ。あなたもそうやって静かに紅茶を嗜んでいれば悪くないのに。性格で損しているわね」

西(オレンジペコさんもダージリンを見て同じこと思ってるだろうなぁ…)

ダージリン「なにかしら?」

西「い…いえ、ダージリンの紅茶は美味しいなぁ…と」

ダージリン「褒めても何も出ないわよ」

西(グーは今にも出そうだけど…)


グゥゥゥ

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 08:14:32.86 ID:MCvwfzEe0<>
西「あ、失敬…///」

ダージリン「まぁ随分と大きな音。お寝坊さんも飛び起きてしまいますわ」フフッ

西「はは…恐縮です」

西(そういえば昨夜は何も食べてなかったもんなぁ)

ダージリン「こんな格言を知っているかしら。"武士は食わねど高楊枝"」

ダージリン「生理現象だから仕方ないとは言え、あなたもピシッとした方が良いわ」

西(よく考えるとダージリンも昨晩は…)

キュゥゥゥ

ダージリン「ぅっ………/////」カァァァ

西(…やっぱり)
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 08:16:35.00 ID:MCvwfzEe0<>
西「下に飲食店がありますので朝食行きません?」

ダージリン「…ぇぇ…/////」カァァァ


西(ダージリン真似)「こんな格言を知っているかしら。"武士は食わねど高楊枝"」

西(ダージリン真似)「生理現象だから仕方ないとは言えあなたもピシッと


ダージリン「ふん!」ドゴッ!!

西「グォォォォオォォッッ!? ……い…今のは…強烈…で…す………」

ダージリン「ほら!さっさと車椅子乗りなさい!置いてくわよ!」プンスカ

西「ぁぃ…」ボロッ

西(だんだん強度が増している気がするであります…)

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 08:18:27.58 ID:MCvwfzEe0<>

【病院内にある飲食店】


「お待たせしました焼き鮭定食とサンドイッチです」

西・ダジ「いただきます」


西「ところで、ダージリンは今日はどうされるのです?」

ダージリン「そうね。一旦学園艦に戻ろうかしら。大会中だからしばらくは寄港したままだけど、学校に顔を出さないとさすがに宜しくないものね」

西「大会?」

ダージリン「戦車道の全国大会」

西「あ、そういえばそうでしたね」

ダージリン「…あなた一応隊長なのよ?大丈夫?」

西「あはは…。何日も寝てたせいで色々ド忘れしてしまって…」

ダージリン「まだ一週間しか経ってないわよ…」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 08:21:52.04 ID:MCvwfzEe0<>
西「私の体内時計だと1年は眠ってた気がします」

ダージリン「それだけ無茶をしたということよ。これに懲りてもうしないことね」

西「そうですね。知波単が廃校になったり戦車道が廃止になるといったピンチにならない限りは」

ダージリン「ピンチになってもよ。仮にピンチを回避出来てもあなたが廃人になったら意味が無いわ」

西「自分で言うのも何ですが、あの時はとにかく必死でしたからね」

ダージリン「…」

西「勝たないと終わりだと思ったから、時間が許す限り、ありとあらゆる情報や知識集めました」シンミリ

ダージリン「ほう…例えば?」

西「あらゆる戦車や無人機の移動速度、あらゆる砲の初速、射程距離、貫通力、試合会場の地形、過去の戦車道大会、歴史上の戦い…」

西「とにもかくにも片っ端から頭に叩き込みましたよ」

ダージリン「…」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 08:26:17.33 ID:MCvwfzEe0<>
西「一方で定期試験が重なっていた時期でもあったので、そちらの勉強もしなければいけなかったです」アハハハ

ダージリン「…」

西「私は頭が悪いので効率的な方法を知りませんし、知っていたとしてもしっかり吸収して実践出来るか自信ありません」

西「なので、寝る間も惜しんで戦車道に励んでましたよ」

西「今思うと、満足に寝たのは久々ですね」ハハハ

ダージリン「………」

西「我ながらよくあんなに頑張れたなと思います」ハハハ

ダージリン「………絹代さん」

西「ん。何でしょう?」



ダージリン「二度とそんな馬鹿な真似はしないで頂戴」ギロッ



西「"危機"に瀕しなければ」キッパリ

ダージリン「っ…」


西(ダージリンには申し訳ないけど、こればかりは…)
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 08:39:29.11 ID:MCvwfzEe0<>

西「戦車道の大会といえば…」

ダージリン「ええ」

西「大洗のM3リーの戦法は大変参考になりました」

西「黒森峰との戦いでM3リーは、エレファントやヤークトタイガーといった重戦車を相手に善戦してました」

ダージリン「確かに。本来なら簡単に撃破されるのに大したものね。あの子たち」

西「ええ。後ろに回り込めたエレファントならまだしも、ヤークトタイガーは真正面から対峙していました」

ダージリン「ヤークトティーガーの前面装甲は250mm。悔しいけれど私たちの戦車では真正面から挑んで勝てる見込みは無い」

西「それは知波単でも言えますし、彼女たちM3リーの接射砲弾も尽く弾いていました」

ダージリン「それでも彼女たちはヤークトティーガーに勝った」

西「ええ。はたき込みのごとく相手の勢いを上手く利用して、水路へ落とし走行不能にさせましたね」

西「あの試合を見て私は"砲弾を命中させることだけが走行不能にさせる方法ではない"と思ったのです」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 08:42:14.40 ID:MCvwfzEe0<>
ダージリン「ほう?」

西「というのも、今の知波単が保有する戦車は火力・防御面において聖グロリアーナや大洗女子、その他多くの学校に劣ります」

西「それを鑑みるに、普通の対戦車戦闘では力負けするので、別の方法を考えねばならなかったのです」

ダージリン「なるほど」

西「まぁ…とにかく必死でしたよ」アハハ

ダージリン「それは次の試合でも活かせると良いわね」

西「もちろんですよ。またダージリンたちが相手になっても勝てるようにしておきましょう」

ダージリン「調子に乗りすぎですの。私達とて何度も同じ手にかかるど間抜けではないわよ」

西「私の策には見事にハマりましたけどね」ニシシ

ダージリン「」ゲシッ

西「あぎゃぁっ?!!」

ダージリン「冷めないうちにとっとと食べなさい」

西「…す、脛は反則です………」ヌォォ…

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 08:44:10.91 ID:MCvwfzEe0<>

〜〜〜〜〜


西「ふぅ…。満腹であります」ポンポン

ダージリン「よく朝からそんなに食べられるわね…」

西「ここの食事なかなか美味しいのですよ!ご飯もおかわり自由ですし!」

ダージリン「だからといって3杯は食べ過ぎよ」

西「はっはっは!知波単学園にいたころはもっと食べておりましたぞ!」フンス!

ダージリン「動いてないのに食べてばかりじゃ太るわよ?」

西「うっ…」


ダージリン「あら?部屋の前に誰かいるわね?」

西「おっ?」

「あ…!」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 09:00:38.26 ID:MCvwfzEe0<>

「「「隊長殿ぉーーーーー!!!」」」ダダダダ


西「わっ!?お、おまえたちここは病院だぞ!おお落ち着けッ!!」

ダージリン「あなたも落ち着きなさいな」クス


玉田「隊長殿の意識が無事に戻られて玉田嬉しいのであります!」ブワッ

細見「同じく!あのまま三途の川を渡っていたのではないかと思いました!」ジワッ

寺本「お葬式の準備するところでした」グスッ

西「まて!勝手に私を殺すでない!」


福田「知波単の隊長は西隊長殿の他おりませぬ!」シクシク

名倉「これで我が高校も安泰でございますっ!」ウワーン

池田「全くであります!いつでも突撃命令お待ちしております!」シクシク

浜田「また皆で突撃して散りましょう!!」ズビビ

西「い、いやいや散ったら駄目だろっ!」


山「そうです!吶喊して突撃すれば病も怪我も吹っ飛びますぞ!」

上本「ええ!私、いつでも突撃できるよう足腰を鍛えておりました!!」フンス!

糸井「ええ!それはもう!かけっこなら他校には負けませんぞ!!」

福留「足だけでなく腕も鍛えておりますぞ!」

原口「隊長がいない間も常に全速前進でございます!!」

鳥谷「これで隊長殿が戻ってきたら知波単学園は怖いものなしですぞ!!」ハッハッハ

糸原「今回は敢闘及ばずでしたが、次こそ我らが知波単学園が天下を取ってその名を轟かせるでしょう!!」

梅野「来季が楽しみであります!!」

女仙「いえす!いえす!!」

ワイワイガヤガヤ

アーダコーダソーダドアラ

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 09:02:09.16 ID:MCvwfzEe0<>
ダージリン「に、賑やかね…」

西「あはは、ウチのチームはみな元気一杯ですからね!」

西(初めて見る顔もいるぞ……?)


玉田「おや? そちらの"ぱつきんのちゃんねぇー"は…?」

寺本「聖グロイアナ?の隊長殿で名前は確か"ドンジリン"殿でしたかな?」

福田「細見殿、私は"チャップリン"殿だったと思うのであります!」

池田「そんな名前じゃないだろ福田ぁ!"ユーコリン"殿なはずだ!」

名倉「"チャージマン"だと思われ」

ワイワイ ガヤガヤ
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 09:02:55.03 ID:MCvwfzEe0<>
ダージリン「」イライラ

西「お、お前ら、この方は"ダージリン"さんだぞっ!」

玉田「おお!そうでした!さすが隊長殿!」

名倉「よくご存知でありますっ!」

福田「さすが隊長殿!博識聡明であります!」

ワイワイガヤガヤ


ダージリン「…ホントに、賑やかね」

西「あはははは……」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 09:03:47.60 ID:MCvwfzEe0<>
玉田「して、お体の方はどうなのでありますか?」

西「ああ、腕と足はこの有様だが心配はいらん。じきに戦車にも乗れるようになるさ!」

細見「それは良い知らせであります!」

福田「また隊長殿の吶喊が聞きたいのであります!」

西「ははっ、演習場に響き渡るよう鍛えておくよ」

名倉「何でしたら今ここでも!」

西「まぁ待てここは病院だ。ここで吶喊したら看護師さんがまた突撃してくる」

ワッハハハハ!
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 09:04:58.76 ID:MCvwfzEe0<>

玉田「…さて、名残惜しいですが我々も学校があります故、そろそろ戻るのであります」

西「おっ、そうか」

細見「本当に名残惜しいのです西殿ぉ…」ギュッ

西「ははは今世の別れじゃあるまい。すぐ戻るさ」ナデナデ

ダージリン「…」

福田「それでも寂しいのでありますっ!」

タイチョウドノォー!

西「わっ!こらお前たち!いっぺんに抱きつくな!」ハハハッ

ダージリン「愛されてるのね」

西「あはは。隊長やってて良かったです」

ダージリン「それじゃ、私もそろそろお暇するわね」

西「え…」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 09:06:31.84 ID:MCvwfzEe0<>
ダージリン「なに?」

西「あ、いや、何でもないであります」

西「ちょっと寂しいなぁと思っただけです」

ダージリン「ちょっと?」

西「……だいぶ寂しいであります」

ダージリン「ふふ。ご安心あそばせ。またお見舞いに来てあげるから」

西「そうして頂けると嬉しいです」

ダージリン「ほら、そんな顔しないの。あなたの後輩たちが心配するわよ」

西「あ、そっか…諸君っ!」

知波単生「「「「「はっ!!」」」」」ビシッ
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 09:09:41.56 ID:MCvwfzEe0<>
西「ダージリンさんがお帰りだから案内してやってくれないか?」

知波単生「「「「「了解っ!」」」」」ビシッ

西「うん、頼んだぞ」

玉田「一同、隊長に敬礼!」

ビシィィッ!!

西「うむ、また会おうぞ!」ケイレイ


西「ダージリン、色々お世話になりました」フカブカ

ダージリン「こちらこそ。楽しかったわ。それでは、お元気でね?」ニコ

西「ダージリンもお体に気をつけてお過ごしくださいまし」

ダージリン「ありがとう。 お嬢さん方、出口まで案内いただけるかしら」

知波単生「「「「「かしこまりでございます!」」」」」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 09:11:12.05 ID:MCvwfzEe0<>
【病院 玄関】


オレンジペコ「おはようございます。お迎えに上がりましたダージリン様」

アッサム「おはようございます。これはまた随分大所帯ですね」

ダージリン「おはよう。ペコ、アッサム。そしてご苦労様。知波単学園の皆様が案内してくださったのよ」フフッ

玉田「先日はお世話になりました」フカブカ

一同「「「お世話になりました」」」フカブカ

アッサム「これはご丁寧に」ペコ

オレンジペコ「こちらこそ」ペコリ
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 09:12:19.75 ID:MCvwfzEe0<>

ダージリン「さて、それでは私達はここでお別れね」

細見「ダージリン殿、お気をつけてお帰りくださいませ」フカブカ

ダージリン「あなたたちもね。隊長さんみたいに包帯グルグル巻にならないことを祈るわ」クスッ

玉田「ご心配なさらずとも我々が今度は隊長が不在の間、知波単を引っ張っていくのであります」

ダージリン「きっと彼女も喜ぶわ」

福田「ええ!なにしろ西殿は英雄なのでありますから!」

ダージリン「英雄?」

寺本「そうであります!隊長は知波単学園を救ったヒーローなのです」

ダージリン「………」

細見「…?」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 09:13:22.69 ID:MCvwfzEe0<>
ダージリン「そうね、あなたの隊長は知波単学園を守るために戦った騎士よ」

玉田「む!隊長殿は騎士じゃなく武士であります!」

名倉「そうであります!隊長殿は居合いもやっておられます!カッコいいのであります!」

細見「西殿はとっても素敵なお方なのです!」キラキラ

ダージリン「はいはいわかりましたわ。それでは御機嫌よう」フフッ

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 18:10:43.71 ID:W4mo48pD0<>

【病室】


シーン

西(また急に静かになったなぁ)

西(ダージリンと過ごした時間はとっても楽しかったし、みんな元気そうで良かった。余は満足である)

西(………ただ、)


西(やっぱ誰もおらんと寂しいなぁ…)ショボン


西(またチャーチル作るかな)ゴソゴソ パカッ

西(今度ダージリンがいらっしゃる時までに完成するかなー?)

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 18:12:44.27 ID:W4mo48pD0<>

コンコン


西(ん? 誰だろ?)

西「どうz…どちら様ですか〜?」

「西住です」

西「おお!西住さんですか!どうぞどうぞ!」

ガチャ

「失礼します」

西「お久しぶりです西住………さん?」


しほ「初めまして」


西「えっと、あれ? 初めまして…ですよね?」

西(私の知ってる西住さんと違う???)

西「あの…西住さん…ですか?」

しほ「ええ」

西「先日試合にてお会いした西住さんとはまた違う西住さんなのでしょうか…」

しほ「みほの母です」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 18:14:42.80 ID:W4mo48pD0<>
西「そう言われると確かに似ているような…」

しほ「…」

西「あっ、ご挨拶が遅れました。知波単学園の西絹代と申します」フカブカ

しほ「ええ。よく知ってるわ。みほを打ち負かした隊長ですから」

西「あはは…。確かに戦車戦においては勝ちましたが、試合には…」

しほ「それでも、あの子に勝ったことには変わりありません」

西「…はは、恐縮です」

しほ「西絹代さんという方がどういう人物なのか、一度お会いしてみたかった次第です」

西「お、畏れ多きお言葉です」フカブカ


西(なんだかものすごく気まずい…)

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 18:20:21.56 ID:W4mo48pD0<>
西「かく言う私もエキシビジョンマッチ戦や対大学選抜チーム戦において、みほさん達のチームに様々なことを教えて頂きました」

西「私や知波単学園が今も生き続けているのは彼女たちのおかげかもしれません」

しほ「それは良かったです。あの子もしっかりやっているようで安心しました」

西「ええ。本当に」


しほ「しかし、家を出てからは一度も顔を合わせることがなくなって」

西「あら…そうなのですか…」

しほ「ええ。長期休暇くらい帰省すれば良いものを」

西(そう言われてみると私も長らく実家に帰ってないなぁ…)

しほ「あの子はコンビニによく行くそうで、ちゃんと栄養のある」

西(ふむふむ。怖そうだけど、いい母上様ですな)
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 18:24:52.05 ID:W4mo48pD0<>

コンコン


西「おや? またお客さんですかな? どちら様でしょうか〜?」

「…あ…あの…」

西(女の子の声?…でもどこかで聞いたことがあるような…)

「西…さんの部屋は…ここ…ですか?」

西「はい。そうですよー」

「………」

西「? 立ち話もなんでしょうから中へどうぞ〜?」

西(また確認せずに入れちゃったけど、まぁ良いよね)


ガラッ

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 18:26:32.68 ID:W4mo48pD0<>
「…こ、こんにちは」モジモジ

西「おや。あなたは」

「その…お久しぶり…です…?」モジモジ

西「確か、島田流の…ありささん?」

愛里寿「………ありす」ムスッ

しほ「…」

西「あ…、愛里寿さんですね。大変失礼致しました」アセアセ

西「それと、先日はお世話になりました」フカブカ

愛里寿「こ、こちらこそ…」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 18:36:03.38 ID:W4mo48pD0<>
西(ふむ…。どうやら人と話すのが苦手な方のようだ)

西(…まぁ無理もないか。なにせこうやってお話をするのは初めてだからね)

西(ならば一つ、緊張をほぐしてみようかな)

西(確か、愛里寿さんは西住さんと同じ…えーと…あれ? 何だっけ?)

西(西住さんが好きなあのぬいぐるみ………あ、アレだ!!)





西「おっす!おらペコ!よろしくなっ!!」デーン





しほ「…」

愛里寿「…」


シーーーーン


西「………あれ?」

愛里寿「ペコじゃない。ボコ」ボソッ

西「」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 18:44:05.00 ID:W4mo48pD0<>
愛里寿「…あなたが、その…みほさんをやっつけたという西さん?」

西「え? ええ。私が西です」

愛里寿「…ふむ」ジーッ

西「ん? 私の顔に何かついてますか?」

愛里寿「確かに、ボコだ」

西「へ?」

愛里寿「ほうたい」

腕:包帯
足:包帯
胸:包帯
頭:ガーゼ

西(…確かにそう言われてみりゃ私は満身創痍だったな)

西(ともなれば…)


西「おいらボコだぜッ!!」

愛里寿「おおーっ!」キラキラ

西(今度は成功した…!) ←謎の達成感


しほ「愛里寿さん、一人でここへ?」

愛里寿「あ…いえ…お母様と…」

しほ「」ピクッ
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 18:49:03.56 ID:W4mo48pD0<>

コンコン


しほ「」ギロッ

西(うっ…すごい殺気を放ちながらドアを睨んでおられる…)

西「…ど、どちら様?」オロオロ


『島田と申します』


西「島田ってことは…もしや…?」チラッ

愛里寿「うん。お母様」


西「…」チラッ

しほ「…」

西「ど、どうぞ?」オロオロ


ガチャッ

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 18:53:47.22 ID:W4mo48pD0<>
千代「お邪魔します。うちの娘がこちらn

しほ「…」ギロッ

千代「!」キッ

愛里寿「」ガタガタ

西「」オロオロ



― 映画などで病院が爆撃されるシーンは何度か観ましたが、

病院そのものをあえて戦場にするのは、おそらく今回が初めてだと思います。

なんというか、冷戦です。

一触即発の東西超大国に挟まれた島国の気分です。

お、お願いだからこっちにミサイル飛ばさないでぇぇ!!
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 19:32:46.52 ID:W4mo48pD0<>

【一方、廊下では…】


優花里「私は西殿にどんな顔をしてお会いすれば良いのでしょうかぁ…」

みほ「あはは。大丈夫だよ。西さんは良い人だからそんなことぐらいで怒らないよ」

優花里「でも!私は試合の時に西殿のこと酷く言ってしまいましたし…」シュン

みほ「ふふっ。優花里さんは心配性なんだから」

優花里「誰だって悪い事してないのに、ヒドい事言われたら怒りますよぉ…」ショボン

みほ「大丈夫。もし西さんが怒ったら私がフォローするよ」

優花里「どんな風にですかぁ…?」

みほ「ギャフン!って言ってあげる」アハハッ

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 19:35:17.55 ID:W4mo48pD0<>
みほ「こんにちはー。西住ですー」コンコン

『え? あ、どうぞー』

ガチャ

みほ「お久しぶりです西さn


しほ「…」ギロッ

千代「…」ジロッ


みほ「ぎゃふんッ!!!?」


優花里「にっ西住殿がギャフン言ってどうするんですかぁ〜〜〜!!」

西「あんな漫画の様なポーズで固まる西住さんは初めて見たのであります…」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 19:40:39.49 ID:W4mo48pD0<>
千代「お久しぶりですね。西住流のお嬢さん」ニコニコ

みほ「おおお久しぶっぶりりですぅっ!」カタカタ

優花里「に、西住殿、落ち着いてください!」

しほ「"ぎゃふん"とは随分な挨拶ですね。みほ」

みほ「な、にゃ、なんでお母さんがここにィ?!」オロオロ

しほ「先日の試合であなたを打ち負かした相手の顔を見に来たのよ」

みほ「こっ、ここ来なくて良いよこんな所にまでっ!!」ガタガタ

西(西住さんにまでこんな所って言われたぁ!?)ガーン

しほ「あら。どうしてかしら?」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 19:42:23.45 ID:W4mo48pD0<>
みほ「ど、どうしてって…その…病院だし?」

しほ「病院だと何か都合が悪いの?」

みほ「えっと…その…」アタフタ

愛里寿「みほさん…」オロオロ

みほ「あ、愛里寿さん…?!」

千代「みほさん。先日はうちの娘がお世話になりました」ニコニコ

みほ「いいいいえいえこここちらこそっ!」


西・優(心臓に悪い…)

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 19:44:06.12 ID:W4mo48pD0<>

優花里「そ、そうだ愛里寿殿!にしず…みほ殿!下の階に病院限定ボコがありましたよっ!!」

優花里「今ならまだ売ってますので急ぎましょう!!」

みほ「そ、そうだね!行こう愛里寿さん!(グッジョブベリーナイスだよ優花里さん!)」グッ

愛里寿「う、うん!」トテトテ

西「あっ、ちょっと…!」

みほ「」パッパッパッ

西(え? ハンドサイン?)

西(なになに? …コ・ウ・タ・イ・シ・マ・ス?)

タタタタタタッ!!

西「…」






西(畜生ォ!!!足が動けば私も撤退的前進したのにッ!!!!)
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 19:47:18.76 ID:W4mo48pD0<>
千代「お久しぶりね。西住さん」ギロッ

しほ「ええ…」ジッ

バチバチッ!

西(ぬぉぉ…空気が重い…というかピリピリ痛い…)


千代「あなたがこのような所へ足を運ぶという事は、そちらの西さんに何かあったのでしょうね?」

しほ「ええ。西さんの戦術、哲学は我々西住流に通ずるものがあります」

しほ「我々西住流に"後退"の二文字は無い」

しほ「あなたならご理解頂けると思うのですが。西さん」

西「えっ? えぇ…まぁ…?」

しほ「故に我が流派、西住流を訪れてみては如何だろうと思いまして」

西「え」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 19:50:23.08 ID:W4mo48pD0<>
千代「あらあら。肝心の西さんは萎縮しているじゃないですか」フフフッ

しほ「…」ギロッ


千代「雁字搦めにしては人は最大限のパフォーマンスを発揮できません」

千代「聖グロリアーナ、そして西住流のお嬢さんをも撃退した、西さんの柔軟かつ多彩な戦術」

西「いや、試合には負

千代「これは我々島田流の戦法によく似ている」

千代「つまり、西さんは島田流でこそ、その真価を発揮出来る」

千代「なので是非、我が流派へいらしてはいかが?」

西「あ…ははは…は…」オロオロ


西(二大戦車道流派の家元からお誘いが来るなんて一体どーなってんだ!!?)

西(何かがおかしいぞ! 絶対どこかで間違った情報が流れてる!!)

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 19:53:30.82 ID:W4mo48pD0<>
千代「…」バチバチ

しほ「…」バチバチ

西(…というか怖い! この2人怖い!!)オロオロ


しほ・千代「「…」」サッ

西「えっ? あの…これは…?」

千代・しほ「「私の連絡先です」」

千代「む…」ギロッ

しほ「ぬ…」ギッ


西「あの…」

しほ・千代「「何でしょう」」

千代「む…」バチバチ

しほ「ぬ…」バチバチ

西「」


西(見るからに仲悪そうなんだけど、どうしてか息はピッタリなんだよなぁ)

西(…まぁ仲が良かろうが悪かろうが、私の置かれた状況は決して良くないことには変わりないけど)

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 19:54:50.71 ID:W4mo48pD0<>
千代「西住さん、あなたのせいで西さんが萎縮してます」

しほ「その言葉、そっくりそのままお返しするわよ」

千代・しほ「…」バチバチ

西(あぁ…胃が痛い。助けてダージリン…)

西(………ダージリン?)


― ええ。ダージリンもOG会に縛られているわ…


西(そういえばダージリンは…!)
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 19:55:36.00 ID:W4mo48pD0<>
西「あのっ!!」ガタッ

しほ・千代「」ビクッ

西「お、お二人にお尋ねしたいことがありますっ!」

しほ「…」

千代「…」

西「その…聖グロリアーナ女学院のOGについてなのですが…」

しほ「…聖グロリアーナ女学院?」

千代「あら? 転校でもなさるの?」

西「いえ…そうではなくて」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 20:02:03.27 ID:W4mo48pD0<>
しほ「聖グロリアーナ女学院はそこそこ歴史のある学校よ」

しほ「英国式の格式と作法を学ぶ名門校であり、気品ある淑女を養成すべく」

しほ「多才な教育、課外活動を推進している、いわば"お嬢様学校"」

千代「ふふ。西住さんもそこへ入学すれば良かったですわね」

しほ「あなたのような法螺吹きにはなりたくなかったもので」

千代「…」ギロッ

しほ「…」ギッ

西「ま、まぁまぁ…」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 20:05:21.62 ID:W4mo48pD0<>
千代「多くのお嬢さんが卒業されて、中には政界や財界とのパイプのある人もいるそうよ」

千代「いわゆる"玉の輿"でしょうね」

西「…」

千代「そういったお嬢さんたちが作ったのが、いわゆる『聖グロリアーナ女学院OG会』」

千代「同窓会みたいなものだけれど、なにしろ学校に資金援助する代わりに運営方針とかにも茶々を入れているそうよ」

西「…」

しほ「そのOG会は、各々が在学時に使用していた戦車に因んで、マチルダ会、チャーチル会、クルセイダー会といった三大会派によって構成される」

しほ「その中でも特に強い組織力を持つのがマチルダ会と言われているわね」



― クルセイダー会はあなたを聖グロの"脅威"と言い

― また、チャーチル会は聖グロの"好敵手"と言い

― そしてマチルダ会は"騎士道精神に則り西絹代の思想を戦車道に取り組むべき"なんて言い出す程ですわ



西(なぜ聖グロOGは私をそこまで…!?)
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 20:07:36.81 ID:W4mo48pD0<>
千代「それにしても聖グロの子たちは気の毒ねぇ。OGのお小言のせいで戦車も満足に導入できない」

千代「ブラックプリンス、チャレンジャー、そしてセンチュリオン…。イギリスにも良い戦車はいっぱいあるのに」

西「…例えば、そういった事情の中で、OGたちを押し切って新しい戦車を導入したとすれば?」


千代「"大したものだ"と言うべきよ」


西「!!」

千代「ただ…」

千代「出資者からの要望を跳ね除けてしまえば、まず考えられるのが出資の取りやめ」

千代「あるいは…」


千代「それに加担した者への"私的制裁"でしょうね」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 20:09:41.14 ID:W4mo48pD0<>
西「っ!! それってつまり!?」

千代「まぁ、そういったことを画策するのは大体隊長でしょうから」

千代「更迭されるかもしれないわね?」

西「!!!」


しほ「聖グロリアーナ女学院の隊長といえば、ダージリンという方だったはず」

しほ「彼女の計らいによってクロムウェル巡航戦車が導入されたことは、戦車道連盟の間でも一時期話題になったそうよ」

千代「そんな話もありましたねぇ」

しほ「確かにクロムウェルは強力な戦車だが、そこまで驚くようなものではない」

しほ「経済的に恵まれている聖グロリアーナ女学院であれば、それは尚の事」

しほ「別段ニュースになるようなことでも何でもない」

西「という事は、やはり…」

千代「その当時、言われていたことは」







千代「近いうちにまた隊長が変わるだろう。と」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 20:11:09.58 ID:W4mo48pD0<>
西「………ですが」

千代「ん?」

西「今の隊長は、まだ現隊長としてチームを率いております」

千代「そうみたいね」

西「という事は…」

千代「許してもらえたのかもしれないわね?」フフッ

西「…!」ホッ
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 20:12:40.92 ID:W4mo48pD0<>
千代「しかし、どうして急に聖グロOGの事を?」

西「あ…実は、聖グロリアーナの隊長とは交流がありまして」

千代「…」

西「私が邪道を回避できたこと」

西「知波単学園の戦車道廃止を阻止できたこと」

西「…今日までの私の道は、彼女無しでは存在し得ないものです」

千代「…」

しほ「…」

西「………」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 20:14:35.40 ID:W4mo48pD0<>
千代「ふふ。良いお話ね」

しほ「ええ。昔を思い出すわね」

西「…」

千代「隣にいるオバサンね、昔っからアタマが戦車の装甲よりも固くて」

千代「"どんな戦車も倒せる砲と、どんな攻撃も弾く装甲があれば良い"」

千代「…って、ずっと言って聞かないのよ」クスクス

しほ「あなたこそ、尻軽女がそのまま老けたみたいに"機動性だけあれば他はいらない"と軽口を叩いていたでしょう」

千代「ふふふ」メラメラ

しほ「フン」ゴゴゴゴ

西「家元様たちも仲が良いのですね」

しほ・千代「「それはない」」

西「うっ…」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 20:15:57.48 ID:W4mo48pD0<>
千代「あらやだ。体重はヘビーなのに旦那様の前では豆タンクのように軽いのにねぇ」

しほ「フン。戦車だけでなく頭の中も軽い女にはわかるまい」

バチバチッ

西「まぁまぁ…」

チラッ

西「…ん?」


壁|ω・`)
壁|ω・`)


西「」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 20:20:59.35 ID:W4mo48pD0<>
西(西住さんと愛里寿さんが壁越しにこちらの様子をうかがっている)

西(………ふむ)


西「おやぁー!? みほさんに愛里寿さん! そんな所にいないでこちらへどうぞぉー!!」


壁|д゚;) !?
壁|д゚;) !?


しほ・千代「…」ジロッ

みほ・愛里寿「!?」

しほ・千代「「こちらへ来なさい」」

みほ・愛里寿「」ガタガタ

西(はっはっは〜! 先程のお返しですぞっ!)

みほ「西さんきっとロクな死に方しないよ…」ゲッソリ

愛里寿「ボコみたいに袋叩きにあって入院長引いてしまえば良いんだ…」ゲッソリ

西「」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 20:23:25.69 ID:W4mo48pD0<>

その後、西住さん・島田さんは親子水入らずな会話をされました。

「ちゃんと栄養のあるものを食べなさい」とか

「たまには顔を見せなさい」とか

「遅くても9時には寝なさい」とか

「無人機は邪道だから一機残らず叩き落としなさい」とかとか


久々に娘と再開出来た家元様たちは満足したようで、一通り会話をしたあと帰っていきました。

あの二人のやり取りを見ると、「犬猿の仲」という言葉がよく似合います。なんだかんだ言ってお二方は仲が良いのでしょう。

……間に挟まれた愛里寿さんは死んだ魚の眼をしていましたけど。

ともあれ、親と子の微笑ましい光景でした



みほ「全然微笑ましい光景じゃないよっ!!」クワッ

西「ふぇえっ!?」ビクッ
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 20:26:55.51 ID:W4mo48pD0<>
みほ「まったく。好き放題言うだけ言って帰ってくんだからホントに困るよお母さんは…」ブツブツ

西「いい母上様に見えましたけどね」

みほ「きっと西さん疲れてるんですよ」シレッ

西「えぇ…」


優花里「しかし、あのお二方に挟まれてよく平然としていましたね西殿…」←最後まで隠れてた

西(これっぽっちも平然ではなかったのだが…)

みほ「いるだけで寿命が縮まるお母さんなんて邪道だよ。私だったら」


ママみほ『あらお久しぶりね。マカロン食べる?お小遣い増やしておくね』ニコツ


みほ「…くらいの優しさを娘には見せるよ。愛里寿さんが羨ましい…」トオイメ

優花里「そんな愛里寿殿もなんだか死んだ魚の眼していましたけどねぇ」ハハハ...

西(火花散らす両家元の間に挟まれてものすごく小さくなっていたなぁ…)


西「あ、マカロンはありませんがバウムクーヘンならありますよ。いかがです?」

優花里「あっ、おひとつ下さい!」キラキラ

西「どうぞどうぞー」

優花里「んま〜♪」ハムハム

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 20:36:11.39 ID:W4mo48pD0<>
西「そういえば、西住さん達大洗女子の次のお相手はどちらですか?」

みほ「サンダース大学付属高校です」

西「ふむ。戦車はもとより、無人機が怖いところですなぁ」

優花里「ええ。レギュレーションで爆弾搭載数は抑えられてるとは言え、強力な無人機を保有していそうです」

西「サンダース、もとい米国は多彩な航空機を保有する国ですからね」

みほ「"どの無人機の対策をするか"ではなく、"どの無人機も落とす"という覚悟でないと厳しいですね」

優花里「一言に航空機といえど、用途に合わせて様々なカテゴリーがあるくらいですからね…」

西「読みが当たるのならば、いずれかに特化した対策を取れば良いのですが、外してしまうと致命傷になります」

西「ましてや大洗は無人機ではなく対空戦車での応戦となるので、それは尚のことでしょう」

みほ「実を言うと、その対空戦車もレギュレーションによって限られてしまって…」

西「えっ!?」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 20:38:40.52 ID:W4mo48pD0<>
みほ「前回の試合で私たちが使ってたオストヴィント、38(t)対空戦車、3号対空戦車はオープントップであるために、本来なら使えない車輌だったんです」

みほ「以前までは見過ごしてもらえたのですが、安全性を考慮した結果、ルール改定で禁止されてしまって…」

西「となると無人機への対抗手段は無くなってしまうのでは?!」

みほ「いえ。そこでIV号戦車を"クーゲルブリッツ"という密閉型砲塔を搭載した対空戦車へカスタマイズしました」

西「おお…! 西住さんたちのIV号戦車は変幻自在ですね!」

みほ「えへへ。その対空戦車は砲身の俯仰や旋回も砲塔ごと行うので、慣れないうちは大変でしたよ」

西「ははは。西住さんを参らせてしまうなんて相当な代物ですな!」

優花里「酔っぱらいみたいにヘベレケになってましたもんねぇ西住殿!」

みほ「よ、酔っぱらい…」ガーン

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 20:40:30.22 ID:W4mo48pD0<>

― それから私達はしばらく談笑に花を咲かせました。

どうやら西住さんは"ぼこ"が相当好きなようで、延々とその良さをアピールしておられました。

隣で苦笑いしながら聞く秋山殿とは違い、水を得た魚のように話す西住さんがとても印象的でした。

確かに、満身創痍になっても退却せず、相手に挑み続ける姿は、西住流に通ずるものがあります。

そして我々知波単学園も真正面から相手に突撃するという点でも。

全く無関係なはずなのに、西住流には何かしらの縁があるような気がしてきました。

…と言うと今度は島田流の家元様に怒られそうなので『柔軟な戦い方は島田流と何かしら縁がありそうだ』と言って茶を濁しておきませう。


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 20:42:19.19 ID:W4mo48pD0<>
みほ「…あっ、もうこんな時間だ。そろそろ行かなきゃ」

西「本当に楽しい時間は経過が早いのであります」

優花里「色々ありがとうございました西殿」

西「こちらこそ。話の続きはまた時間がある時に是非しませう!」

優花里「そうですねぇ。…ボコの話は当分いいですけど」アハハ

みほ「えっ?!」ガーン

アハハハハハハ


優花里「あ、ちょっと家に電話するので先に行ってます。それでは失礼しますっ!」ビシッ

西「こちらこそ。楽しい時間をありがとうございました!」フカブカ
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 20:43:52.11 ID:W4mo48pD0<>
西「…」

みほ「…」

西「西住さん」

みほ「はい?」

西「次の試合、如何しょうか?」

みほ「ハッキリ言って、かなり厳しい戦いです」

西「そうですか…」

みほ「ルール改定で対空戦車が3輌から1輌になってしまった上に、相手はサンダース」

みほ「相手は戦車はもちろん、無人機も相当強力なものを使ってくるかと思います」

みほ「対空戦車が走行不能になったら、あとは戦車と無人機によって一方的に蹂躙される……」

西「………」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 20:45:12.45 ID:W4mo48pD0<>
西「西住さん」

みほ「は、はい?」

西「これが"釈迦に説法"なのは重々承知しておりますが…」

みほ「うん?」

西「もしも、無人機が手に負えないと思った時は」

みほ「?」



西「その時は戦車を傾け、お天道様を叩き割るが如く砲弾を無人機へ放ってみて下さい」



みほ「えっ…?」

西「戦車を即席の対空砲として上空に放ちます」

西「命中すれば御の字ですが、そうでなくても多少の妨害にはなりますので」

みほ「!」

西「対空戦車は1輌とのことですが、即席の対空戦車を作ることで防空能力は幾分か向上します」

みほ「確かに…!」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 20:48:47.67 ID:W4mo48pD0<>
西「そして、これはダージリンをはじめ、聖グロの皆さんにはご内密にして頂きたいのですが」

みほ「?」


西「聖グロの三つある無人機のうち、一つは戦車砲による撃墜判定が出ていました」


みほ「ええっ!?」ガタッ

西「山岳地帯に戦車二輌を忍ばせておき、自軍の無人機で扇動して迎撃地点まで誘導」

西「射程範囲に入ったらこれを戦車が叩く」

みほ「…」

西「こうも上手く行くとは思ってませんでしたが、それでも戦車で無人機の撃墜が可能であることがわかりました」

みほ「でも、アッサムさんは"エースパイロット"によって落とされたと…」

西「ええ。我々の無人機でも対無人機戦を展開させました」

西「ただ、こちらの無人機はなるべく硬い戦車の撃破を優先させたかったので」

西「対無人機用の航空機銃の弾は従来より少なくしました」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 20:50:35.45 ID:W4mo48pD0<>
みほ「そうなのですか…!」

西「ええ。無人機は戦車ほどの装甲は無いので、脆弱な戦車砲でも命中すれば撃破できます」

西「なので当たるか否かの違いです」

西「空と陸とを連携させることで戦車砲は無人機を撃破でき、」

西「無人機は戦車を激破するという役割を構築してみた次第であります」

みほ「すごい…」


西「西住さん」

みほ「は、はいっ!?」

西「無人機は戦車でも落とせるのです。…戦術と腕次第で」

みほ「!!」

西「ですので、どうか諦めず、戦ってください。私達の分まで」

みほ「はいっ!…あ、あの」

西「ん?どうされました?」

みほ「変なことお聞きしますが…」







みほ「本当に西さんなのでしょうか…?」オロオロ

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/16(日) 20:53:51.65 ID:W4mo48pD0<>
西「ふぇ? え、ええ…私は正真正銘 西絹代でありますが?」

みほ「で、ですよねっ! …なんだか、以前お会いした時とは全然違ったので、もしや別人では!? …と」

西(最近色んな人に言われるなぁソレ…)

西「まま、あれから私も色々考える事があったのです」

みほ「考える事?」

西「あはは。エキシビジョンマッチ戦や大学選抜戦を通じて、我が校も戦術を見直すべきと思った次第でして」

みほ「その結果が、ここ最近の戦果に繋がったわけですね…!」

西「ええ。今回は志半ばで終わってしまいましたが、次は更にその成果を発揮させて頂こうと思う所存であります」

西「ですから、西住さん達には私達の分まで存分に戦ってやって下さい」

みほ「もちろんです!アドバイスありがとうございます!」フカブカ

西「いえいえ。武運長久をお祈り申し上げます」フカブカ

<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/04/16(日) 21:14:08.50 ID:Y5QYDZGOO<> 乙です。
ポルシェティーガー対空砲は西さんの助言によって生まれたという事か。 <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/17(月) 18:52:49.41 ID:xBcilmOc0<>

【みほたちが去ってから】



西「………」

西(………)




〜〜

〜〜〜〜〜

〜〜〜〜〜〜〜〜


「まぁ、高校生相手じゃ所詮この程度でしょうね」

「なんの考えもなしに真正面から来てくれたから探す手間が省けたわ」

「もっと戦術はしっかり練ったほうが良いわよ?」


「統制の取れないチームはその時点で負け。戦う前から勝敗は決まってた」


みほ「………」

西「………」


みほ「…あなたのせいだ………」

西「うっ…」

みほ「あなたが指示を無視して好き放題やったから作戦も台無しになって、味方もみんなやられて負けた…」

西「も、申し訳ありませんでしたっ!!」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/17(月) 18:55:09.51 ID:xBcilmOc0<>
ダージリン「呆れたわ。大洗の命運がかかった試合だと言うのに」

アンチョビ「助けに来たと言うより、バカ騒ぎしに来たって感じだったな」

西「うっ…」

ミカ「対岸の火事だと思えば気楽だろうね」

ケイ「自由には責任が伴うってのを自覚すべきよ」

西「………」

カチューシャ「あなたの部下は全員八甲田山でも送ったほうがいいわ。もちろんあなたもね」

まほ「部下の暴走を止められないようでは隊長として失格だ」



みほ「あなたのせいで…」





「あなたのせいで…」


〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜〜〜〜

〜〜





西(あれは…"夢"…だよね………?)

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/17(月) 18:59:45.13 ID:xBcilmOc0<>
【同日 昼】


西「………まじぃ」モソモソ

ナース「ガマンしなさい。あれだけ馬鹿騒ぎしてても、一応入院患者なんだから」

西「わ、私は健康体そのものですぞっ!どこにも異常はありませんっ!」モソモソ

ナース「異常だらけよ。腕も足も使えないのだから」

西「ぐぅ…」

ナース「それに、他の患者さんも同じもの食べてるのよ?」

ナース「中には食事が摂れずに点滴で栄養補給している人もいるけど」

西「ぬぅ…食の大切さが痛いほどわかるのであります。知波単学園の食事が恋しい」ゲッソリ

ナース「あら。学校では何を食べてたの?」

西「そうですね、銀舎利あるいは握り飯、あと味噌汁ですね」

西「それで、たまに焼き魚やお漬物がついたりします。なかなか美味いんですよ〜コレが!」

ナース「…」

西「…あれ? 看護婦さん?」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/17(月) 19:01:53.76 ID:xBcilmOc0<>
ナース「それより昨夜は遅くまで騒いでたみたいだけど」

西「あぁ、うるさくしてすみません…」

ナース「一体何をしてたのかしら?」ニヤ

西「へ? …雑談してそのまま寝ただけですが?」キョトン

ナース「それだけ?」

西「ええ、そうですが?」

ナース「そっか」

西「??」モグモグ

ナース「いや、ね? あんだけ激しくはしゃいでたのだから」


ナース「エッチでもしてるのかなって」フフッ


西「んグゥッ!!?」

ナース「ふふっ、冗談よ。ほらお水」

西「ゲホッゲホッ!! …そ、その冗談はキツ過ぎますぞっ!」

ナース「あはは! ゴメンゴメン!」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/17(月) 19:05:26.30 ID:xBcilmOc0<>
西「…まったく。何を仰るかと思えば…」

ナース「あはは。今時の若い子は早いからねぇ〜」

西「またおば様みたいなことを仰る」

ナース「あら失礼ね。まだ20代よ?」

西「そうなんですか」

ナース「あ、でもね」

西「?」ゴクゴク...

ナース「エッチするときはちゃんと避妊しなきゃダメよ?」

西「」ブフォォッ!!

看護婦「わっ汚い!!」ヤダモー
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/17(月) 19:08:06.38 ID:xBcilmOc0<>
西(ふぅ、食べた食べた)ポンポン

西(…でもやっぱり知波単の食事が恋しいなぁ)

西(何故か看護婦さんは唖然としてたけど、やっぱり我が家の食事が一番だ)

西(…というかあの看護婦さん、やたら変な話ばかりしてきたけど何だったんだ?)

西(よくわかんないけど、きっとああいうのを"助平"っていうのだろう)フム


西(それはそうと、入院生活というのは退屈だなぁ…もう何度思ったかわからないけど)

西(ダージリン入院しないなぁ。紅茶の飲み過ぎとかで。…流石に不謹慎か)

西(………ちょっと外に出てみようかな?)




西「いよっと」E:車いす

西「よし、吶喊!とーつーげーきー!」キコキコ

ゴンッ!

ゴッ!


西「…操縦はヘタクソだから練習しなくちゃ」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/17(月) 19:09:53.80 ID:xBcilmOc0<>

【病院 エントランス】


西(ん〜! 今日はいい天気だなぁ)ノビー

西(部屋でゴロゴロするのもいいけど、やっぱり動物たるもの陽の光を浴びてた方が健康的だ)

西(そういえばこの先に駄菓子屋があったはず。ちょいと覗いてみるか!)

西(久々に水飴食べてみたいなー。あ、あとラムネもここ最近飲んでないな。小銭あるかな?)チャリチャリ





?「………」

?「………」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/17(月) 19:11:21.92 ID:xBcilmOc0<>

【駄菓子屋さん】


西「お、ヤンヤンつけボーだ。懐かしいなぁ」

西「おおっ!! ベーゴマもあるぞ!!」キラキラ

爺さん「お嬢ちゃんなかなか詳しいねぇ」カッカッカ

西「ははは。私の地元にもこんな感じの駄菓子屋がありまして!」

西「そんなことよりおじさん! このベーゴマ、ちょいとやらせて下さいな!」

爺さん「お!いっちょやるか!」ゴトッ


― 西絹代、ベーゴマに没頭中





?「………」

?「………」 <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/17(月) 19:20:52.46 ID:xBcilmOc0<>

西「いやぁ〜楽しかった!」ハッハッハ

爺さん「お嬢ちゃんなかなかやるじゃないか! 若いのに珍しいねぇ!」カッカッカ

西「はっはっは! 実はこう見えて地元のお爺さん達としょっちゅうベーゴマをやっていたのですよ!」

西「勝ったら相手のベーゴマを貰えるってルールがあったから、たくさん集めてました!」

爺さん「あったなぁそんなルール…」ウンウン

西「…でも母が全部ゴミの日に捨ててしまって」ズーン

爺さん「…ぅっ…」ジワッ



― その後、一通りベーゴマを堪能して駄菓子屋さんを後にした

本当はもっと長居したかったけど、長時間病室を空けていると看護婦さんに怒られてしまう。
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/17(月) 19:23:59.56 ID:xBcilmOc0<>

西(あの駄菓子屋はいいな。また今度行こう)ポリポリ

西(次はメンコもやってみようかな〜)

西(知波単にもこういった駄菓子屋さんがあればいいのに。駄菓子屋はいいぞ!)



?「………」

?「………」



西「隠れてるのはわかるぞ?」

西「玉田と…細見か」


玉田「!? ど、どうしてわかったのでありますか?!」

細見「勘付かれぬよう慎重に行動していたはずなのに…!」

西「はっはっは! 私はベーゴマだけじゃなく隠れんぼも得意だぞ! 隠れるのも探すのもなっ!」キリッ

細見「さすが西殿でありますっ!」


西「…で、戻って来たという事は何かあったのだろう?」

玉田・細見「ええ」


西(…この様子だと"ワケあり"かなぁ…)
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/17(月) 19:26:09.95 ID:xBcilmOc0<>
玉田「実を申しましと、隊長殿が不在の間、我が知波単学園ではちょっとした意見の対立が起きておりまして…」

西「意見の対立…?」

玉田「はい、先日学長殿が」


学長『我が校も戦車道をもっと盛んに行うべきだ』

学長『だから、戦車道に費やす予算を増やすことにしたよ』


玉田「…と、申しておりまして」

西「おお! それは朗報ではないか!」

玉田「その通りです! だから戦車を追加すべきと進言した次第であります!」

西「ふむふむ」

西(安直に『無人機を増やすべき!』と言わないところは褒めるべきだ)

玉田・細見「そこで隊長殿!!!」ジリッ

西「う、うむ(近い近い!)」
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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/17(月) 19:30:48.67 ID:xBcilmOc0<>
玉田「今ここで我々に下知を下して頂きたい!!」

西「げ、下知??」


玉田「私は知波単学園の伝統文化、誇りを継承するべく、従来の戦車を拡充すべきと提言しますっ!」

細見「西殿! 玉田の戯言に耳を傾ける必要は皆無ッ! 大艦巨砲主義の如く、強靭な装甲と強力な砲を搭載した戦車を導入すべきです!!」

玉田「貴様ぁ!! 知波単の伝統を忘れたのかッ!!」

細見「貴殿こそ過去の栄光にいつまでも縋り付いているっ!! 我々は新たな道を模索すべきぞ!!」

西「お、おい、お前たちケンカは…」

玉田「いえ隊長殿! こいつは弛んでおります! 今日こそはギャフンと言わせてやります!!」

細見「望むところよ!! 貴殿のヒン曲がった根性いますぐ叩き直してやるっ!!!!」

パチン!!

玉田「貴様! このォ!!!」

バチ-ン!!

細見「こいつッ!!!!」

パシィィィィィン!!






西(将棋やり始めた…)
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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/17(月) 19:33:48.51 ID:xBcilmOc0<>
玉田「王手っ!!」パチン

細見「ぐっ…!」

玉田「うははは参ったか! これぞ私の実力なり!!」

西(おいおい…。一つだけ進め過ぎてないか。それじゃ…)

細見「」パチン

玉田「ああーっ!? 私の飛車がぁ!!」

細見「はっはっは! 油断大敵だ! いかなる時も真剣勝負!!」

西(こちらはまた随分と守りが堅いな…)


西(ふむふむ…)
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/17(月) 19:35:54.50 ID:xBcilmOc0<>

「………ニシタイチョウドノ…」



西「うぉあっ!!?」ビクッ

福田「…先ホド振リデアリマス…」ドヨーン

西「び、びっくりしたぁ!福田、お前かくれんぼの才能あるぞ…!」ドキドキ

福田「……光栄デアリマス……」ドンヨリ

西「…で、福田は福田で何をそうドンヨリしているんだ…?」

福田「実を申し上げますと…」


福田「隊長殿がご不在の間に知波単が真っ二つに分裂してしまったのであります……」


西「なっ!?」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/17(月) 19:38:10.10 ID:xBcilmOc0<>
西「それは先程聞いた戦車の導入についてか?」

福田「それも含め、知波単学園が今後すべき戦術について揉めているのであります…」

福田「従来通り、知波単の伝統を重んじ"突撃すべき"という玉田殿と」

福田「先日の聖ぐろ戦や大洗戦の戦訓より"新たな戦術を模索すべき"という細見殿」

西「…」

福田「お二方の考はそれぞれ一定の賛同者を得ており、知波単学園は見事に真っ二つであります…」


福田「そしてその"玉田派"と"細見派"の二大勢力による縄張り争い的な事がしばしば起きておりまして…」

西「おい! それは笑えん話だぞ!!」

福田「ええ…」

福田「対立が起きるたび将棋だの相撲だの竹馬といったもので雌雄を決するようになったのであります……」

西「なにッ!?」










西「………ん?」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/17(月) 19:39:30.35 ID:xBcilmOc0<>
福田「わっ、わたくしは鳥頭ゆえに将棋は苦手でありますし、このチンマリとした身体では相撲も黒星なので立つ瀬がありません!!」クッ

福田「そうしている間にも皆一同戦車そっちのけで抗争を…」

西「待て、待たんか!色々おかしいぞっ!?」

福田「?」

西「いや『?』じゃないだろう! 戦車の訓練はちゃんとやってるのか?!」


福田「いえ! 全くやってないのでありますっ!!」キッパリ


西「」

福田「昨日は"おはじき"で勝敗を競っておりましたっ!!」ビシッ

西「」

福田「…あれ? 西隊長殿???」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/17(月) 19:42:22.27 ID:xBcilmOc0<>
玉田「ふははは! どうした細見。降参するなら今のうちだぞ?」

細見「馬鹿を抜かすな! 私は一歩たりとも後ろには下がらぬ!」

西「お、おい、お前たち。戦車の訓練は…?」オソルオソル

玉田「西殿、今暫くお待ち下さいませ。今まさに此奴めを追い詰めている所であります故に」

細見「そんなことはありませんぞ隊長殿! ここから私の逆転劇をお見せしませう!」

西「おっ、そうだな」


パチン!

パチン!




西「じゃなくて聞けやお前らぁぁぁぁぁ!!!」ガァァァッ





細見・玉田「ひぃぃぃっ!!?」

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/17(月) 19:47:21.43 ID:xBcilmOc0<>
西「戦術について意見が対立するのはまだ良い」

西「それを将棋や相撲で解決を図るのも平和的で結構だ」


西「だが肝心の戦車道そっちのけは本末転倒だろーがっ!!」


玉田「おお! そう言われてみればすっかりこんこん忘れておりました!」ハッハッハ

細見「そこに気付くとはさぁすが西殿! 目の付け所がシャープですなぁ!」ハッハッハ

西「じゃかましいわ!!!」ガァァッ


西「お前たちは知波単学園の何だ!?」

玉田「はっ! 知波単学園の玉田! 戦車乗りであります!」

細見「同じく知波単学園の戦車乗り、細見ですっ!」

福田「更に同じく知波単学園の戦車乗り見習いの福田でありますっ!!」

西「で、昨日やった訓練は!?」


玉田・細見・福田「「「おはじきですっ!!!」」」


西「」クラッ...



― 砲弾の代わりにこのバカタレ共を詰め込んで射撃したろか。…と、本気で思った西絹代でした。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/17(月) 19:49:53.15 ID:xBcilmOc0<>
西「…ひとまずだな」

西「まず私がいなくても真面目に戦車の練習はすること!」

玉田「あの…」

西「どうした玉田?」

玉田「先日より戦車道を希望する者が増えた為、戦車の数が足りないのであります」

西(えっ? そんなに履修者増えたの?! 結構あったはずなのに…)


西「な、ならば順番に乗れば良い」

玉田「なるほど!」

細見「それで訓練なのですが、私は先日の西殿の戦術を提案します」

玉田「何を言う!今までのように知波単一同火の玉として突撃あるのみ!!」

細見「貴殿はまだ懲りぬか! 往生際が悪い!」ドン!!!

玉田「それは私の台詞だ! このうつけ者が!!」ジャラジャラ

福田「け、ケンカは良くないのでありますっ!」カン!!

西「おいこらサンマすな! というかその台どっから持って来た!?」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/17(月) 20:15:32.87 ID:xBcilmOc0<>
西「まずお前たちは根本的に間違ってる」

細見「そう言われると仰る通りです!」

西(ようやく気づいたか…)ハァ


細見「西殿がいるのに"サンマ"はおかしいですな!」


玉田「あっ! こ、これは失礼いたしましたっ!!」

福田「申し訳ございません! 福田気付かなかったのであります!」

西「ちがぁぁぁぁぁぁぁぁう!!!」


西「いいか、耳の穴かっぽじってよ〜く聞け」

西「確かに我々知波単学園は長年突撃を伝統として敢行してきた」

玉田「その通りです!さすが隊長殿!」

細見「そんな…」ジワッ


西「しかし!!」

玉田・細見「!」


西「一方で戦術を見直すべきという考えも胸中にある!」


細見「!」パァァ

西「私も入院中ただプラモデルを作っていたわけではないぞ。今後の知波単のあり方についても色々考えていた」

玉田・細見(ぷらもでる???)
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/17(月) 20:19:35.88 ID:xBcilmOc0<>
西「そこで考えたのだが…まず、」


西「私の下に玉田・細見の両名を副隊長として任命する!!」


玉田・細見「!!!」

福田「すごいであります! 知波単学園の副隊長が二人も!!」


西「知波単学園の伝統は確かに真正面から正々堂々対峙することにある」

西「そしてそに突撃戦術により、過去にはベスト4入りという成果も出ている」

西「…しかし、ここ最近の戦績を鑑みるに、それだけで強豪校を相手に勝てるほど戦車道は甘くはないと思ったのだ」

玉田「うっ…!」


西「そこで!!」

西「玉田にはこれまで戦術を主軸に、その機動力・突破能力を最大の武器とし、敵戦車体の懐に潜り込む戦術を任せる」

西「素早く敵戦車の弱点を叩くことが可能な位置へ立ち回り、敵戦車の行動を封じる」

西「同時に敵の連携を乱し、包囲する。砲ではなく足で相手を切り伏せる忍者の如く、変幻自在の戦い方が求められる」

西「一方でこれらは行動のタイミングを見誤ると戦隊が崩れ、大敗北に直結する!!」

西「やることは多いが、出来るか? 玉田」

玉田「やってみるのであります!!」ビシッ

福田「………」メモメモ
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/17(月) 20:23:13.26 ID:xBcilmOc0<>

西「次に!」

西「細見には攻守に長けた戦車を指揮し、敵の切り札を叩く役目を任せよう」

細見「了解でありますっ!!」

西「今の知波単所有の戦車では叩けない戦車が数多く存在する。先日の大洗女子のポルシェティーガーがまさにそうだ」

西「それら重戦車は我々の戦車では叩けないどころか、逆に遠方から我々の戦車を悠々と撃破する火力を持つ」

西「そういった戦車に対抗するための部隊だ。わかるな?」

細見「はい!」


西「装甲が厚く火力が高い…ともなれば当然機動力が落ちる」

西「ゆえに移動・目標の捕捉、そして攻撃。これら一連の動作に無駄があってはただの木偶の坊だ」

細見「…」

西「どこに配置するか、どの戦車を狙うか、戦車のどこを狙うか、目標撃破後はどうするか」

西「その1つ1つの判断に智将としての手腕が問われる!」

西「当然ながらこちらもまた一筋縄ではいかない」

西「これが私の考える"もう一つの"知波単戦術だ。どう思う?細見」

細見「諸手を挙げて賛成致します!!」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/17(月) 20:25:06.10 ID:xBcilmOc0<>
西「この戦術が上手く実を結べば非常に強力なものとなり、強豪校を相手に引けを取らぬ戦いが出来るだろう」

玉田・細見・福田「おおおお!!」

西「ただし!」

玉田・細見・福田「!」

西「この戦術はたった1つの条件を満すだけで」


西「150% "惨敗"する」


玉田「ええっ?!」

細見「その1つの条件とは何ですか?!」


西「連携の崩壊だ」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/17(月) 20:28:06.91 ID:xBcilmOc0<>
細見・玉田・福田「!」

西「本戦術において真に重要なのは機動力でも火力でもない」

西「適切な情報を、適切な場所へ、適切なタイミングで伝達する力」

西「すなわち玉田隊、細見隊の連携、そこに全てがかかっている」

細見・玉田「…!」


西「まず玉田隊の迅速な進軍により、敵より優位な位置を確保」

西「そして多方向から奇襲をかけることで敵の連携・統制を乱し、作戦の実行を遅らせる」

西「その間に細見隊は敵戦車を撃破できる場所へ配備」

西「そして攻撃、敵戦車を確実に仕留める」

西「こちらは正確な連携を固め、相手の連携は乱すというのが本質だ」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/17(月) 20:29:53.28 ID:xBcilmOc0<>

西「………以上が私の考える新たな知波単学園の戦法だ!」


玉田「…」

細見「…」

福田「…」


西(あ、あれ? …みんな黙り込んじゃったぞ? ちょっと無理があったかなぁ…)

玉田「さすがです隊長殿!!」

福田「非の打ち所がありません! 完璧であります!!」

細見「素敵であります西殿ぉ…!」

西「そ、そうか。気に入ってもらえて何よりだ!」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/17(月) 20:32:28.07 ID:xBcilmOc0<>
細見「はい! 質問であります!」

西「うむ、聞こう」

細見「その、"攻守に長けた戦車"というのは如何なるものでしょうか?」

西「四式中戦車、五式中戦車・(試製)五式砲戦車一型ないし二型を中心に導入を検討したい」

西「ただ、このあたりの車両は使用可否が不明瞭なものもある。特に五式砲戦車は怪しい。連盟の返答待ちだ」

西「そして、敵の重戦車を叩くために、切り札となる車両を出す」

細見「その切り札とは?」





西「大型イ号車だ」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/17(月) 20:38:05.87 ID:xBcilmOc0<>
細見「大型イ号車?」

玉田「初耳です」

西「ドイツの超重戦車に触発された日本が開発した戦車だ」

西「大雑把に言えば日本版マウスといったところだろうか」

西「重量は諸説あるが150トン、主砲は15糎砲、副砲も47粍が2つと超強力な戦車だ」

細見・玉田・福田「!!」


西「ただ、この車両も先述の新規増設車輌同様に、一部不明瞭な点がある」

西「そのため連盟の認定待ちとなるが、配備されたら間違いなく強力な味方となるだろう」

西「また、玉田隊にも新規に2つ戦車を増やそうと思う」

玉田「! それはどんな戦車でしょうか!?」

西「まずひとつが三式中戦車」

玉田「おおっ!大洗のアリクイ殿が乗っておられるやつですな!」

西「うむ。そしてもう1つが」




西「特三式内火艇だ」
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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/17(月) 20:39:14.73 ID:xBcilmOc0<>
玉田「…ん? ちょっと聞きそびれてしまったであります」

西「もう一度言うぞ。特三式内火艇だ」

玉田・細見・福田「………」

玉田「………なにゆえ…そのようなものを…?」

西「玉田、お前の隊には機動力により、なによりも素早く敵地に到達し、相手を撹乱し、状況を後続部隊に伝達しなければならない」

西「そのためには陸地だけでなく時に川や池を潜ることも必要とされる」

玉田「あっ!」

西「大会の会場によっては川や湖によって迂回を余儀なくされる場合もある」

西「しかし、それは我々には関係のないものだ!!」

西「川があれば流れに逆らい、湖があれば横断するまで!」

西「そのための戦車だ」

玉田「なるほど…!」

西「玉田隊に走れない場所など無いと心得よ!!」

玉田「はいっっ!!!」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/17(月) 20:40:21.96 ID:xBcilmOc0<>
玉田「それでは早速知波単に戻って訓練をしましょうぞ!」

細見「同意であります!私辛抱たまらんのであります!!」

福田「同じく!」



西(巡航戦車と歩兵戦車)

西(ダージリンがいなかったらこんな運用方法、思いつかなかっただろうなぁ)

西(…ただ、問題は絶対に起きる。むしろ起きないわけがない)

西(この2つの戦術と2つの組織の選出こそが、かつて経験した"失敗"なのだから)

西(だから、私は今度こそ成功へと…!)
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/17(月) 20:41:53.75 ID:xBcilmOc0<>
西「よし、それで今後の訓練について私から幾つか提案がある」

玉田「何でございましょう!」

西「基本は玉田隊と細見隊の紅白戦を主軸にするが」

西「3日に1度、誰がどの車両のどの座席に就くかを完全ランダムにする」

細見「何故ですか?」

西「全てのメンバーが全ての戦術を学び、"穴"を無くすためだ」

西「たとえば欠員が出たり、試合において予想に反する結果になった際に総崩れでは困るわけだ」

西「そういった予想外な事態が発生した時に、それらを補うための柔軟性もまた必要だ」

福田「なるほどであります!」

西「それに、同じ編成で同じ試合ばかりではつまらないだろう?」

西「色々試してみるのも戦車道の楽しみの一つだよ」

西「私がいない間、知波単学園を頼んだぞ。玉田、細見、そして福田!」


玉田・細見・福田「了解!!!」

<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/04/17(月) 21:53:16.94 ID:RSU9jdPyO<> 四式中戦車“チト”「自分が10両位いたらM4程度ならば余裕で勝てるで。」

樺太や千島列島を維持できる程度のマシな負け方の日本ならば、四式中戦車や五式中戦車も若干数量産していそうだからワンチャン。 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/04/18(火) 20:47:24.24 ID:sUJ9FYzlO<> 今更ながら、あの時のみほのモノマネをやったのは西さんか。
知波単万歳且つモノマネが得意と云っていたのを思い出して此処で気付いた。 <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/18(火) 21:35:28.08 ID:nRPlxJ8u0<>

【病院 エントランス】


西「ほっせほっせ…」キコキコ

西「はぁ…はぁ…」キコキコ

西「やっと…着いた………」フゥ...


西(歩けばすぐだけど車椅子だと結構だったなぁ…)キコキコ

西(…にしても)



西(しつこいなぁ…!)






「あら、車椅子でリハビリでもしてるのかしら?」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/18(火) 21:37:10.84 ID:nRPlxJ8u0<>
西「えっと…初めましてですかな?」

カチューシャ「この間のエキシビション戦と大学選抜戦で会ったじゃないの!」

西「あぁ! カチューシャさんでしたか!お久しぶりであります」ビシッ

ノンナ「привет там」

西「そしてモンナさんもお久しぶりです」フカブカ

ノンナ「モではなくノです。ノンナです」

西「あ…失礼しました」

西「…と、言うことはお二方はお見舞いに来て下さったのですか?」

カチューシャ「そうよ。このカチューシャ様がお見舞いに来たんだから感謝なさい!」

西「はるばる来てくださって有難うございます」フカブカ
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/18(火) 21:38:44.76 ID:nRPlxJ8u0<>
カチューシャ「…にしても、あなたのことだからまだ眠りこけているかと思ったけど、意外に早いお目覚めね」

西「あはは。とはいっても1週間くらい寝ていましたけど」

カチューシャ「それだけ寝たら元気になるわよ」

西「ええ。寝る子は育つと言いますからね。少し背も伸びたような気がします」

カチューシャ「それは本当なの?!」ガタッ

西「あとで看護婦さんにお願いして測ってもらおうと思います」

カチューシャ「ノンナ! 明日からお昼寝の時間を増やすわよ!!」

ノンナ「寝過ぎれば良いというものではありませんよ同志カチューシャ」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/18(火) 21:41:25.40 ID:nRPlxJ8u0<>
西「あれ? そういえば試合の方は?」

カチューシャ「もちろん勝ったわよ。だから次の相手が決まるまで少しだけ皆を休ませてるの」

カチューシャ「このカチューシャのご厚意に感謝することね!」

西「そうでありましたか!」

カチューシャ「特に無人機は色々大変だから人も機会もしっかり休ませたげるのよ! 偉いでしょ!」エヘン

西「確かに。戦車とは勝手が違うので大変な思いをしました」

カチューシャ「しっかし理不尽なルールよねぇ。使う側が言うのも何だけど」

ノンナ「同意です。高校間の"格差"を広げる改悪に過ぎません」

西「やはり皆さんもそうお考えですよね」

カチューシャ「ということは、あなたもなの?」

西「ええ。無人機でこっ酷い目にあった一人です」

西(…まぁあれは私の浅はかさが原因だけど)
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/18(火) 21:58:57.62 ID:nRPlxJ8u0<>
西「無人機といえば、つい先程、西住さんたちがいらっしゃいました」

カチューシャ「ミホーシャが?」

西「ええ。次はサンダースと対戦するとのことです」

カチューシャ「ミホーシャも気の毒ね。立て続けに強豪校とブチ当たるんだから」

西「そうですね…。それでも、大洗の皆さんが"また"無人機を落としてくれる事に期待しています」

ノンナ「…」

カチューシャ「…無理よ」

西「な、何故ですか?!」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/18(火) 22:00:18.19 ID:nRPlxJ8u0<>
カチューシャ「あなたはサンダースが何持ってるか知ってて言ってるの?」

西「お恥ずかしながら、よく存じ上げないのであります…」

カチューシャ「高度1万メートルを飛ぶ大空の要塞よ」

西「!」

ノンナ「残念ですが、大洗女子学園が所有する対空戦車では、高度1万メートルの無人機を撃墜するのは困難かと思われます」

西「…」

カチューシャ「カチューシャたちの無人機ですらそこまで行くのは大変なんだからね」

カチューシャ「だから、ミホーシャたちもここまでよ。残念だけど」

ノンナ「…」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/18(火) 22:01:32.51 ID:nRPlxJ8u0<>
西「果たしてどうでしょう」

カチューシャ「なによ。勝算でもあるのキヌーシャ?」

西「今まで色んな苦悩を乗り越えてきた西住さんです」

西「西住さんなら、たとえ高度1万メートルを飛行する無人機の対抗策もきっと編み出すでしょう」

カチューシャ「無理よ。絶対に無理なんだから!」

西「1万メートルを飛ぼうが大気圏を飛ぼうが…」チラッ

ノンナ「?」

西「何とかしてくれますよね?」

ノンナ「えっ…?」


カチューシャ「出来るのノンナ?!」

ノンナ「いえ…さすがn

西「カチューシャさんがお願いすれば出来ます」

ノンナ「え」

カチューシャ「ノンナ…出来るの…?」

ノンナ「Да」

カチューシャ「凄いじゃない! さすがノンナだわ!!」

ノンナ「…」←褒められて嬉しい


西(振っといて言うのも何だけど、ノンナさんがちょっと心配になってきた)



西(しかし…)
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/18(火) 22:03:12.64 ID:nRPlxJ8u0<>
ノンナ「…」

西「気になりますか?ノンナさん」

ノンナ「はい?」

西「どうも駄菓子屋からここへ戻ってくる間、ずっとこんな感じでして」

ノンナ「…何がでしょう?」

西「私も"あれら"が何を知りたいのか存じませんが、ずっと付けられていますね」

ノンナ「………」



ノンナ「では、気付いてたのですか?」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/18(火) 22:04:33.15 ID:nRPlxJ8u0<>
西「ええ。幼いころからよく隠れんぼをやっていましたので、こういうのには敏感だったりします」

ノンナ(隠れんぼ…?)

カチューシャ「ちょっとノンナ! キヌーシャ! このカチューシャを仲間外れにしないでよねっ!」

ノンナ「」ボソボソ

カチューシャ「えっ!ていさモゴゴゴゴ...」

ノンナ「シーッ」

西「…」


西(このお二方の所からではなさそう…かな?)

西(…ふむ。ここはひとつ)

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/18(火) 22:06:06.99 ID:nRPlxJ8u0<>
西「ノンナさん、カチューシャさん」

カチューシャ「今度は何よ?」

ノンナ「はい」

西「…」ジッ

ノンナ「!」ピクッ

ノンナ「…どうされましたか?」

西「実は私はこう見えて」



西「けっこうアホなんです!」デーン!



ノンナ「…」

カチューシャ「…」

西「…」

カチューシャ「…知ってるわよそんなもん」シレッ

西(…そう返ってくるのは分かってたけど、やっぱり辛いものがある)
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/18(火) 22:07:53.47 ID:nRPlxJ8u0<>
西「そんな私ですが、ついこの間は聖グロリアーナ相手に "完 全 勝 利" をしました!」

ノンナ「その試合については私達もよく知っています」

カチューシャ「そうね。あなたにしてはホント良くやったと思うわ」

西「自他共に認めるアホな私ですが、あの強豪校である聖グロに勝ったのには」



西「秘密兵器を使ったからです!!」



ノンナ「何ですって!?」ガタッ

カチューシャ「ちょっと!それどういうことよ!!」

西(ノンナさん演技上手いなぁ。カチューシャさんは素だけど)
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/18(火) 22:09:08.87 ID:nRPlxJ8u0<>
西「」キョロキョロ

西「…誰にも見られていませんね?」

カチューシャ「大丈夫よ」

ノンナ「…大丈夫です。気配は感じません」

西「…わかりました。その秘密兵器というのが………コレです」

ノンナ「これは一体…?!」

カチューシャ「キヌーシャ! 勿体ぶらないで教えなさい!!」

西「これは…」

ノンナ・カチューシャ「…」ゴクリ





西「(さっきの駄菓子屋さんで買った)"水飴"ですっ!!!」バーン!
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/18(火) 22:10:49.08 ID:nRPlxJ8u0<>
カチューシャ「………は?」

西「"水飴"には脳の働きを活性化させる成分が入っております」

西「それによってヒトの力を 最 大 限 発揮できるようになるのです!」

西(甘いものは脳を活性化させるんだ。間違ったことは言ってない…はず)


西「私はコレのおかげで、対・聖グロ戦で 圧 倒 的 勝 利 を実現することが出来たのですっ!!」

ノンナ「…」

カチューシャ「…あんた、カチューシャを馬鹿にしてんの?」

カチューシャ「そんなモン食べて試合に勝てるんならみ〜んな食べてるわよっ!!」

カチューシャ「ノンナも黙ってないで何か言ってやりなさい!!」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/18(火) 22:12:31.47 ID:nRPlxJ8u0<>
ノンナ「…」アゼン


カチューシャ「ノンナ…?」

ノンナ「………」

カチューシャ「ちょっとノンナ!!」

ノンナ「…そう…ですか………」

カチューシャ「ふぇっ?!」



ノンナ「西さんも、気付いてしまったのですね…」



カチューシャ「ノンナ…?」

ノンナ「同志カチューシャ、ここでの話は他言無用です…!」

カチューシャ「えっ、えっ?!」オロオロ

ノンナ「に、西さん…これはかなり危険な話です。…その、あまり深追いはしないように…!」アセアセ

西「…えぇ。心得ております」

西(ノンナさんにこんな真剣な顔されたら何を言われても信じちゃいそうだ。…昔演劇でもやってたのかな?)
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/18(火) 22:14:18.13 ID:nRPlxJ8u0<>
カチューシャ「き、キヌーシャ! その"水飴"ってのはそんなに凄い効果なのっ!?」オロオロ

西「えぇ…それはもう…」


西「疲れたときに食べれば元気になります」


カチューシャ「それじゃ今すぐニーナたちにも食べさせるべきよ!!」

ノンナ「ええ。是非とも(クラーラが喜びそうですね)」

西「ただし!!」クワッ

ノンナ・カチューシャ「!!」ビクッ

西「"水飴"(の糖分)は脳を活性化させますが、食べ過ぎると逆に脳の動きを低下させてしまう"副作用"もあります」

カチューシャ「そ、そうなの?!」

西(おやつ程度にしておかないとね。食べ過ぎはダメ)
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/18(火) 22:18:09.63 ID:nRPlxJ8u0<> ぐれも摂取し過ぎないように注意してください…!」

カチューシャ「…わかったわ」

西「また、"水飴"の中には身体を侵食する成分も含まれております…!」

西「ですので、摂取したあとは必ず身を清めてください…!」

西「さもないと………」

カチューシャ「さもないと…?」オロオロ



西「鋭利な刃物でその身を削ることとなるでしょう」



カチューシャ「ひぃっ!!?」ガクガク

ノンナ「お、恐ろしい…」

西(いわゆる"虫歯"ってやつだ)

カチューシャ「で、でもでも…! 身を清めるって何をどうすればいいのよっ!!」ガタガタ

ノンナ「毎日お風呂に入り、歯を磨くことです」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/18(火) 22:21:50.72 ID:nRPlxJ8u0<>
西「…あと」

カチューシャ「ま、まだあるのっ?!」

西「えぇ。絶大な効果がある反面、その副作用もまた………!!」

カチューシャ「っ…!!」

西「巷では"水飴"の効果を盲信した者がバタバタと倒れているそうです…!」

カチューシャ「ひぇっ…!」ビクビク

西「それだけ、身体に大きな負担をかけるのです…!」

カチューシャ「そ、そんなのどうしろって言うのよっ!!」カタカタ

西「負担を軽減するためには、様々な成分を併用して摂取しなければなりません」

西「そして、その成分は野菜、魚、肉などから抽出されます」

西「つまり、これらの成分によって"劇薬"の副作用を抑え、利点だけをもたらすよう調整するのです…!」

カチューシャ「そ、そうなのねっ?!」

西(食事は好き嫌いせずバランス良く食べよう)
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/18(火) 22:23:47.74 ID:nRPlxJ8u0<>
西「プラウダ高校のナンバー2であるノンナさんは、他校にもその実力が知れ渡るほど優れた方です」

カチューシャ「え、えぇ! ノンナはすごいのよ!!」エッヘン

ノンナ「凄いのです」

西「元から並外れた才能・センスをお持ちなのはもちろん、"水飴"によってその力を最大限に発揮してきたからです」

カチューシャ「それ本当なのノンナ!?」

ノンナ「えぇ。私はこれらをバランス良く摂取しております」

ノンナ「今のポテンシャルが保てるのもそのおかげでしょう」

西(本当にノンナさんは良いポテンシャルしております。何がとは言わんが)
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/18(火) 22:24:53.31 ID:nRPlxJ8u0<>
西「最後に」

カチューシャ「…」ゴクリ

西「"水飴"による身体へのダメージを少しでも緩和するためには」

西「長時間の稼働をしないことです」

カチューシャ「…そうなの?」

西「えぇ。疲労が蓄積された状態では最大限の力を発揮できません」

西「無理は厳禁。そして適度な休養を」

西(良い子は早く寝よう)

カチューシャ「て、適度ってどれくらいなのよ!?」

ノンナ「7時までに布団に入ればギリギリ大丈夫です」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/18(火) 22:28:26.07 ID:nRPlxJ8u0<>
ノンナ「…しかし、驚きました」

西「…」

ノンナ「この事を知っているのは、私だけだと思っていました」

ノンナ「それが完全なる自惚れだったと…!」ギリッ...

西「私もこの事を知ったときは、人体実験をしてるかのような心境でした」

西「自分は極めて危険な道へ足を踏み込んだと…!」

ノンナ「………」

西「………」


ノンナ「行ってしまわれましたね」

西「えぇ、芝居に付き合って下さってありがとうございました」フカブカ



西(コソコソと私たちの会話を盗み聞きしてた助平らが何をしたいのかはわからない)

西(しかし、この"芝居"に引っかかったら、連中が誰なのかわかるかもしれない)

西(‥それにしてもノンナさんの迫真の演技には驚いたなぁ)

西(カチューシャさんは見事に乗せられたし、そうでない人もあんな顔されたら信じちゃうに違いない)

西(…あとは偵察してた連中がどうなるか)
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/18(火) 22:32:30.54 ID:nRPlxJ8u0<>
― その後、"水飴"の素晴らしさを知ったカチューシャさんは、ノンナさんと共に大急ぎでプラウダ高校へ戻りました。

カチューシャさんには悪いことをしたけれど、ノンナさん曰く、


『ここ最近は夜更かしに好き嫌いと不健康な生活をしており、それらが改善出来たので感謝しています』


…とのことなので、まぁ大丈夫だろう。

昔は公園とかでおじさんが紙芝居をやってくれたのだが、残念なことに最近ではそういうのは"不審者"として扱われる。

世知辛い世の中になったものだなぁ…。


なお、その後プラウダ高校では空前の"水飴"ブームが到来しているらしい。

特に留学に来ていたロシア人の方が大喜びとのことで、

『この素晴らしいメズアメをお父様にも教えましょう!』

と、嬉しそうに"水飴"を買い占めて、特殊部隊出身のお父様がいるロシアの実家へ大量に郵送したそうです。

ついでにカチューシャさんの無茶振りも無くなって"同志"の皆さんも喜んでるとのこと。


人生どこで何が起きるかわからないものだ。

そんな思いを胸に私は今日も水飴を練っている。あま〜い。
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/20(木) 21:58:05.16 ID:Zy8DL1IR0<>

【またとある日 西の病室】



西「zzzz」スースー

コンコン

西「…とっかん……ムニャ…」zzzzz

コンコン

西「……やった…ゆうしょぅ…」スピー


ガチャ
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/20(木) 21:59:38.90 ID:Zy8DL1IR0<>

「ごきげんよう絹代さん。…って、まだ寝てたのね」


西「…ンー……」zzzz

ダージリン「やれやれね」

西「…フシュー…フシュー…」zzzz

ダージリン「あなたは食べる時と寝る時は静かね」クスッ

ツンツン

西「………フニュ…」zzz

ムニュ

西「…フミ……」zzz

ダージリン「ふふっ」ツンツン

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/20(木) 22:01:13.99 ID:Zy8DL1IR0<>
西「………ぅ……ぁ…」ウーン...

ダージリン「…あら?」

西「…だ……じりん…」

ダージリン「えっ…?」


西「………だめ…」


ダージリン「!」

西「…ぃかな…ぃ…で………」

ダージリン「…」

ダージリン「…大丈夫よ」クスッ

ダージリン「私は何処にも行かないわよ」ナデナデ








西「………そっち……こえだめ…」zzzz








ダージリン「」ブチッ

ダージリン「さっさと起きなさいっ!!!」バサッ!

西「もがぁっ!!?」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/20(木) 22:01:56.71 ID:Zy8DL1IR0<>
ダージリン「おはよう。絹代さん」

西「………オハヨウゴザイマス」ジトー

ダージリン「なによ」

西「…嫌な夢を見ました」ジトー

ダージリン「どうやらそのようね」シレッ

西「肥溜めに落ちr

ダージリン「言わなくていいわよ」

西(むぅ。助けてやったのに。…一緒に落ちたけど)

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/20(木) 22:03:05.04 ID:Zy8DL1IR0<>
西「…で、どうしてここに?」ジトー

ダージリン「あら? 私がここに来てはいけなかったかしら?」

西「いえ、そういうわけでは…」

西「いらっしゃるならご一報頂ければと」

ダージリン「御免なさいね。あなたの連絡先を知らないもので」

西「だから寝込みを襲ったと…?」

ダージリン「…殴るわよ?」

西「やめてくださいしんでしまいます」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/20(木) 22:04:37.44 ID:Zy8DL1IR0<>
ダージリン「そんなことより早く準備なさい」

西「はい?」

ダージリン「準備よ準備」

西「何の準備ですか?」キョトン

ダージリン「あなた今日が何の日か知らないの?」

西「燃えないゴミの日ですか?」

ダージリン「違うわよ」

西「えぇ…。何だったかなぁ…」ウムム

ダージリン「大洗とサンダースの試合」

西「あ…!」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/20(木) 22:05:29.45 ID:Zy8DL1IR0<>
ダージリン「わかったなら早く準備なさい」

西「…その……」

ダージリン「今度は何よ…」

西「…着替えるので………」モジモジ

ダージリン「…はいはいわかりました。着替えたら呼んで頂戴」

ダージリン「あなたもこういう時だけは恥じらうのね」フゥ

スタスタ


西「………ダージリンのすけべー」ボソッ

スタスタスタ

パチコーン!

イッデェェェ!!!
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/20(木) 22:07:27.42 ID:Zy8DL1IR0<>

【病院 エントランス】


ローズヒップ「ダージリン様ぁ! おっ待ちしておりましたでございますのぉ〜!」

ダージリン「落ち着きなさいローズヒップ」

西「おはようございます。えーと…」

ローズヒップ「ローズヒップと申しますのよ」

西「ローズヒップさんですね。私は西絹代と申します」フカブカ

ローズヒップ「よろしくお願いしますっ!」

西(ほうほう。知波単の皆に負けないくらい元気だな)ウムウム


ローズヒップ「ではでは行っきますわよ〜!!」

ダージリン「くれぐれも安全運転でお願いするわ、ローズヒップ」

ローズヒップ「はいっ! おまかせ下さいまし!」

ダージリン「さぁ、乗って頂戴」ガチャ

西「お邪魔します」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/20(木) 22:09:33.51 ID:Zy8DL1IR0<>

【車内にて】


ピー!!

プップー!!

ピピー!!


ローズヒップ「全っ然進まないですわ…!」イライライライライラ

ダージリン「落ち着きなさいローズヒップ」

西「この時間帯は出勤ラッシュ直撃ですからね…」

ダージリン「だから早く準備しなさいと言ったのよ」

西(何の事前連絡も無しに朝5時に叩き起こしといてそりゃないだろう!)

ダージリン「まぁ、試合には間に合うから安心なさいな」ズズ


ローズヒップ「」イライライライライラ

西「試合はともかく、ローズヒップさんが…」

ダージリン「ローズヒップ。今日はいつものは持ってきてないのかしら?」

ローズヒップ「もっちろんありますわよ!」イライライライライラ

ダージリン「だったらそれでも食べて気を紛らわせなさい」

ローズヒップ「わかりましたの」ゴソゴソ

西「いつもの?」

ダージリン「よほど気に入ったのか気付いたら食べてるのよ」フフッ

ローズヒップ「♪」ネリネリ




ダージリン「"水飴"をね」




西(あんたらかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!)

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/20(木) 22:13:01.20 ID:Zy8DL1IR0<>
ダージリン「何でも、うちのアッサムが『"水飴"には凄いヒミツがありますのよ!』って」

西(私はアッサムさんのヒミツを知ったよ…。"コロッと騙されやすい"っていう…)ハァ..

西(まぁ、あの場には"役者"のノンナさんがいたし、私がアッサムさんの立場だったら騙されるかもしれないけど…いや、ないか…あるか?…うーん…)

ダージリン「どこから仕入れてきた情報なのかわからないけれど、」


アッサム『私が独自入手した情報によると、水飴には脳を活性化させ、並外れた力を発揮する』キリッ


ダージリン「…って」

西「ヘーソウナンデスカー」シレッ

ダージリン「それでアッサムがこの子にあげたらとても気に入ったと」クスクス

西(自分で試さずローズヒップさんで実験するところが何とも…)

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/20(木) 22:14:34.22 ID:Zy8DL1IR0<>
ダージリン「あなたも食べたほうが利口になれてるから良いわよ?」

西「大きなお世話です。そういうダージリンは食べないのです?」

ダージリン「私はベタベタしたものはあまり好きじゃないわ」

西「性格はベタベタどころかドロッドロのギットギトのクセに…」ボソッ

ゲシッ!!

西「いだっ!!」

ダージリン「口を慎みなさい」

西「ダージリンは絶対食べたほうが良い! 暴力的なのは脳が正しく機能していない証拠ですぞっ!!」ヒリヒリ

ダージリン「その原因はあなたにあるのよ?」

西「あー言えばこー言 <ゲシッ!!> いでぇぇぇ!!」

ダージリン「それはコッチのセリフでしてよ」フン

ローズヒップ「〜♪」ペロペロ
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/20(木) 22:16:49.26 ID:Zy8DL1IR0<>
【試合会場】


ガチャ

ローズヒップ「到着でございますわよ〜!」


オレンジペコ「お疲れ様です。ダージリン様、西さん」

西「おはようございます、ペコさん」フカブカ

ダージリン「ご苦労様。ペコ」

ローズヒップ「ダージリン様! 私も! 私もですの!」

ダージリン「ええ。ご苦労様ねローズヒップ」

ローズヒップ「はいでございますの!」エヘヘ


ブロロロロロロロ!


ダージリン「…おや?」

「ヘイハニー!グッモーニンっ!!」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/20(木) 22:18:48.04 ID:Zy8DL1IR0<>
ダージリン「あらケイ。こんなところでアブラを売って大丈夫なのかしら?」

ケイ「あははっ! 折角ダージリン達が観に来てくれたんだから挨拶しないとねっ!」

西「ケイさんお久しぶりでございます!」ビシッ

ケイ「おっキヌ! 元気になったんだ!!」

西「えぇ、お陰様でこの通り! ピンピンしておりますぞ!」ハッハッハ

ケイ「あっはっは! オーケイオーケイ! それでこそキヌよっ!!」ワッハッハ

ダージリン「ケイ。こんな言葉がありましてよ」

ケイ「ん?」

ダージリン「"バカは風邪引かない"」

ケイ「へ?」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/20(木) 22:21:00.21 ID:Zy8DL1IR0<>
西「む…」

ダージリン「この子は無駄に頑丈だから心配する必要なんてないわ」

ダージリン「ねぇ、絹代さん?」ニヤリ

西「…」


西(ダージリン真似)「こんな格言を知ってるかしら?」

西(ダージリン真似)「"貪欲であれ、愚かであれ"」


オレンジペコ「スティーブ・ジョブズの言葉ですn…ええっ!!?」

ケイ「うわっはっははははっ! めっ、メチャクチャ…クヒッ…似てるじゃない…!!」アハハハハハ


西(ダージリン真似)「人生、おバカな方が刺激があって面白いのよ?」ニコッ
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/20(木) 22:22:19.91 ID:Zy8DL1IR0<>
ケイ「あははははひゃはははひゃひぃ…やめてぇぇ…笑い死ぬぅぅ……!」ゲホッゲホッ!オェェッ!!

ダージリン「………」イライラ


西(ダージリン真似)「あなたもそう思うd <ドゴッ!!> グフォォォォォッ!!?」


ダージリン「人を馬鹿にするのも大概になさい!」

オレンジペコ「み…見事なボディーブローです…」オロオロ

西「ンぐぬぉぉぉ………(自分だって馬鹿にしたクセにっ!)」

オレンジペコ「お、恐ろしいほどソックリでした…」

ダージリン「似てないわこんな猿真似」

ケイ「あひっ…ひぃひっあひ……」ハァハァ

ダージリン「あなたもいつまでもゲテゲテ笑わない!」

ケイ「アヒヒッ…ヒッヒッ…い…息が…ヒィ…フヒィ…」コヒューコヒュー....

オレンジペコ「そ、相当ツボに入ったみたいですね…」



<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/20(木) 22:23:56.18 ID:Zy8DL1IR0<>

【数分後】


ケイ「へぇー。そんなに色んな人が来てたんだ」←復旧した

西「えぇ。お陰で入院生活もなかなか充実してましたよ」

ダージリン「そのままニートにならないか心配だわ」ヤレヤレ

西「に、ニートぉ!?」ガーン

ダージリン「あんな快適な所にずっといたら元に戻れなくなってしまうわよ?」

西(なんか前にも言われたなぁ…)

ケイ「へぇー、そんな快適なんだ。ちょっと行ってみたいなぁ〜」

ダージリン「やめておきなさい。サンダースの隊長がニートだなんて示しがつかないわ」

ケイ「No problem!そん時ゃアリサにでも養ってもらうよ」アハハハ
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/20(木) 22:24:47.10 ID:Zy8DL1IR0<>

アリサ「あ、アタシがですかぁ!?」バッ


西「うぉっ、びっくりした!」

ケイ「おっ、アリサお帰りー」

アリサ「だ、ダメですからね! ニートになったらダメですからね隊長っ!?」

ケイ「あはははーどーしよっかなぁ〜?」

ダージリン「ほら、年下の子をいじめないの」

ケイ「はーい」アハハハ

西(…人のこと言えるのだろうか?)

ダージリン「なによ」

西「何でもないです」プイッ

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/20(木) 22:26:34.29 ID:Zy8DL1IR0<>
ナオミ「隊長、準備完了だ」

ケイ「サンキューナオミ。それじゃ行こっか!」

アリサ「Yes mam. 今度こそ大洗に勝ちましょう!」


西(ケイ真似)「負けたら反省会だからね?」ボソッ


アリサ「ひぃぃっ!!?」ビクッ

ナオミ(似てる…)

ダージリン「っぐ…!」プルプル

ケイ「こらっキヌ! うちのアリサにまで手を出すなーっ!」

西「あははっ。お気をつけて」ケイレイ

アリサ「何よぉ…何なのよもう…!」

ナオミ「ほらアリサ。行くぞ」ポンポン

アリサ「ひぃーん…」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/20(木) 22:28:04.29 ID:Zy8DL1IR0<>
西「サンダースもなかなか個性的な方が多いですな」

西「ダージリンもそう思いません?」

西「…あれ?ダージリン?」


ダージリン「っふ…あはははっ!くふっ…ヒィ…!」プルプル


西「」

オレンジペコ「ダージリン様も一度ツボに入るとこうなっちゃうんです…」

西「そ、そうなんですか…」

オレンジペコ「えぇ…」アハハ...

西「まぁ、笑う門には福来ると言いますし、良い事だと思います」

オレンジペコ「あはは…」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/20(木) 22:29:59.81 ID:Zy8DL1IR0<>
ダージリン「あぁ…。笑いましたわ…」フゥ

西「お、ようやく戻ってきた」

ダージリン「まったく。あなたは下らない事に関しては超一流ね」ハァー

西「む、失礼な…」

ダージリン「本当のことですわ。入院生活が退屈だからってこんな猿真似を極めるくらいですもの」

西(猿真似だなんて失礼な!)

西「…でも結構似てると思いません?」

ダージリン「似てないわよ。特に私のは」フン

西「えぇ…」

ダージリン「あなたごときが私の真似なんて出来る筈がないわ」フフン

西「」ムカッ


西(ダージリン真似)「ペコ。あなたはどう思うかしら?」キリッ


オレンジペコ「そ、そっくりです…。まるでダージリン様が二人いるような…!」

ダージリン「ちょっとペコっ!?」


西(ダージリン真似)「ふふっ。そうよね」ニコッ


オレンジペコ「は、はぃ…///」ドキッ

西(ペコさん可愛いなぁ。知波単専属の家政婦さんになってくれないかなぁ)
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/20(木) 22:31:35.76 ID:Zy8DL1IR0<>
ダージリン「まったく。"誰かの真似をするくらいなら、一番素晴らしい自分でいればいい"のに」

オレンジペコ「じ、ジュディー・ガーランドですね」アセアセ

西(ダージリン真似)「"あまり強い言葉を遣うなよ 弱く見えるぞ"」

オレンジペコ「それは…護廷十三隊五番隊隊長の藍染惣右介の言葉ですね」オロオロ

ダージリン「何を言ってるのかしら。"他人のものはもちろん、たとえ自分の仕事でも、なぞってはだめ"よ?」

オレンジペコ「お、岡本太郎です…」ヒヤヒヤ

西(ダージリン真似)「そんなこと無くてよ。"お前のものは俺のもの、俺のものは俺のもの"ですの」

オレンジペコ「ミュージシャンの剛田武ですね」アハハ

ダージリン「"一番になりたければ、他の人がやらないことをやりなさい。"」

オレンジペコ「えっと、流 音弥ですか…?」

西(ダージリン真似)「"アンタ達はいつ己を捨てた?"」

オレンジペコ「5代目風影の我愛羅ですね」

ダージリン「…」

西「…」

オレンジペコ「…」


西ダジ「「おやりになるわね…」」

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/20(木) 22:33:12.97 ID:Zy8DL1IR0<>
ダージリン「」ムカッ

ツネェェッ!!

西「いいい痛い痛い痛いいだぁぁぁぁぁぁい!!!」ジタバタ

オレンジペコ「あわわわ…」オロオロ

ダージリン「ペコ。この子は長い入院生活のせいでだいぶ頭がおかしくなってるから真に受けては駄目よ?」

オレンジペコ「えっ、ええ……?」

西「ほ、ほら! ペコさん困ってるじゃないですかっ!」ヒリヒリ

ダージリン「そんな事はないわ。とてつもなくお馬鹿なあなたと違ってペコはお利口さんですもの」

西「」ムカッ


西(ペコ真似)「ダージリン様のお小言にはこりごりです…」


オレンジペコ「ええっ?!」ビクッ

ダージリン「…あらペコぉ?そんな事思ってたの?」ニッコリ

オレンジペコ「ち、違います違います!!」オロオロ

オレンジペコ「に、西さんっ…」アセアセ

西「あはは。ペコさんは聖グロで一番ですから、その様な事は言いませんよ」

オレンジペコ「い、一番…えへへ///」テレテレ

ダージリン「知ってるわよ。一番かどうかはさておきね」

オレンジペコ「むぅ…」

西(ペコさんは小動物的な可愛さがあるな)ウンウンン
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/20(木) 22:34:17.65 ID:Zy8DL1IR0<>
― しばらくして


ワシャワシャ

西(なんかダージリンが私の髪で遊びだした…)

ワシャワシャ

西「ダージリン、髪で遊ばないでください」

ダージリン「遊んでないわよ。良いからじっとしてなさいな」シュルシュル

西「…一体何をなさるおつもりで?」

ダージリン「大丈夫よ。取って食べたりはしないわ」クイッ

西「本当ですかねぇ…」ジトー

ダージリン「ええ」クリンクリン
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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/20(木) 22:35:32.38 ID:Zy8DL1IR0<>
ダージリン「ホラ、出来たわ」フフッ

西「?」

オレンジペコ「わぁ〜!」

ダージリン「これであなたも少しは上品に見えるはずよ」

西「…一体何をなさったんですか?」ジトー

ダージリン「ふふっ」

オレンジペコ「こんな風になってます」つ[鏡]


西絹代(ギブソンタックver)


西「な、なんと…」

ダージリン「なかなか似合ってるわよ」

西「そ、そうですか…?」

オレンジペコ「はい。よく似合ってます」

西(ちょっと後頭部に違和感あるけど…まぁいっか)
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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/20(木) 22:36:36.91 ID:Zy8DL1IR0<>
西「…ところで何ゆえこの様なことを?」

ダージリン「こうやって私達と肩を並べているのだから、あなたにもこの髪型の良さを知ってもらおうと思ってね」

西「なるほど。郷に入れば郷に従えですな」

ダージリン「ええ。そいいうことよ」フフッ

西「ならばダージリン達が知波単へ参られた時は是非とも吶k

ダージリン「それは遠慮するわ」シレッ

西「………ケチ」ボソッ

ダージリン「何か言った?」

西「いいえ何でもありません。私はペコさんと仲良く突貫しますから」シレッ

オレンジペコ「え、私がですか?」

西「ええ!一緒に"ダージリンのバカヤロー!"って叫びなg <ツネッ> あいでででで!!!」ジタバタ

ダージリン「バカヤローは絹代さんだけで十分」

西「むぅ…」ヒリヒリ

オレンジペコ「あはは…」
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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/20(木) 22:37:07.88 ID:Zy8DL1IR0<>

オレンジペコ「あ…試合、始まるみたいですよ」

西「ではでは。ゆっくり観戦させていただきましょう」

ダージリン「ふふ。楽しみですわね」


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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/21(金) 20:14:35.47 ID:AgOoSeIg0<>

〜〜〜


オレンジペコ「どうやら大洗が無人機を発見したみたいです…!」

ダージリン「ずいぶん高いところを飛んでいるわね」

西「あれはB-29ですね」

オレンジペコ「えっ? B-29は爆撃機ですよね? 搭載弾数が限られている以上は不要の長物なのでは?」

ダージリン「恐らくケイはB-29の飛行高度を選んだのよ」

オレンジペコ「高度ですか?」

西「B-29は上空10,000mを飛行する"大空の要塞"です」

西「大洗の既存の対空戦車では攻撃が届きません」

オレンジペコ「!!」
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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/21(金) 20:20:21.85 ID:AgOoSeIg0<>
ダージリン「私達の無人機でも、あの高度にたどり着くには時間がかかるわ」

西「あそこまで高く飛べない無人機も多いですしね」

オレンジペコ「で、では大洗側の対抗手段は…」

西「現状では皆無です」

オレンジペコ「そんな…!」

西「このまま大戦末期の大日本帝国のように為す術もなくやられるか」

西「あるいは、何かしらの対策を見出すか」

西「どちらかですね」

ダージリン「ケイも随分大人げないことをするわね」
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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/21(金) 20:21:31.62 ID:AgOoSeIg0<>
オレンジペコ「あっ!攻撃が始まりました!」

ダージリン「…」

西「…」

オレンジペコ「そんなぁ………」

西「案の定、対空攻撃が全然届いていないです」

オレンジペコ「ど、どうすればいいのでしょうか…」ソワソワ

西「あとは西住さん次第ですね」

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/21(金) 20:27:36.45 ID:AgOoSeIg0<>

〜〜〜〜〜〜



アナウンス『サンダース大付属高校 B-29・飛行不能!』



オレンジペコ「お、大洗がB-29を落としました!!!」パァァ

ダージリン「Amazing、ですわね」フフッ

西「………」

ダージリン「どうしたの絹代さん?驚いたあまり言葉も出ないのかしら?」フフッ

西「いえ」

ダージリン「…」

西(さすがです西住さん…)

西("あそこ"から活路を見出すなんて!!)


ダージリン「絹代さん」

西「へっ?」

ダージリン「あなた、何かみほさんに言ったの?」

西「いいえ? お見舞いに来てくれたときに雑談に花を咲かせたくらいです。ボコというぬいぐるみですね。あはは」

ダージリン「そう………(嘘ついてるわね)」
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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/21(金) 20:30:27.75 ID:AgOoSeIg0<>
オレンジペコ「あぁっ!!!」

西ダジ「!」

オレンジペコ「B-29の破片がIV号戦車に…」

西「なっ!? あの中には西住さん達が!!!」

ダージリン「落ち着きなさい。車内はカーボンで保護されているわ」

西「っ…」

オレンジペコ「でも司令官である西住さんを失ったのは大きな痛手です…!」

西「やっとの思いでB-29を攻略したというのに…!」

ダージリン「勝負は時の運とも言うわ。まだわからないわよ」

西「…」
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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/21(金) 20:32:59.84 ID:AgOoSeIg0<>



アナウンス『サンダース大付属高校 M4A1シャーマン 走行不能!』

アナウンス『フラッグ車走行不能により、勝者・大洗女子学園!』




オレンジペコ「か、勝ちましたぁ…!」

西「流石です西住さん、そして大洗女子学園…!」

ダージリン「本当にお見事ですわ」

オレンジペコ「B-29を撃破してからの展開は凄かったです…!」

ダージリン「えぇ。対空戦車ではなく普通の戦車で無人機を撃破するなんて、普通の考えからは生まれませんもの」

西(知波単の戦車が聖グロの無人機を撃ち落としたけど、黙っておこう)

オレンジペコ「何度も"お見事です"って言いたくなる素晴らしい作戦でした。これは勉強になりますっ!」
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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/21(金) 20:34:47.61 ID:AgOoSeIg0<>
オレンジペコ「あ、ケイさんに抱きつかれてますよ西住さん」アハハ

ダージリン「ケイの抱きつき癖は相変わらずね」

西「抱きつきというよりあれはプロレス技に近いのでは…」

オレンジペコ「確かに。こっちにまでミシミシと音が聞こえて来そうです」

ダージリン「言うことを聞かない誰かさんに打って付けな躾かもしれないわね」

西「聖グロの隊長がそんな下品なことして良いんですか?」ジトー

ダージリン「こんな格言を知ってる?"あたらしい門出をする者には新しい道がひらける
"」ミシミシ

西「いだだだだだだだ!! ギブギブ!!」パンパン

オレンジペコ「相田みつをですね」ハハハ...
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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/21(金) 20:37:56.54 ID:AgOoSeIg0<>
ダージリン「さて。お暇しましょうかね」

西「え? ケイさんに会われないんです?」

ダージリン「ケイは大洗の皆とパーティーよ。邪魔するのも野暮よ」

西「そうですか(パーティーって参加したこと無いんだよなぁ。ちょっと羨ましい)」

オレンジペコ「ダージリン様、片付けが終わりました」

ダージリン「ありがとう。ペコ」

西「お手伝いできず申し訳ありません」

オレンジペコ「いえいえ」


西「」ブルッ

ダージリン「どうしたの?」

西「あの…トイレ…」モジモジ

ダージリン「ハァー。紅茶の飲みすぎよ」

西「む。ダージリンだってしこたま飲んでたじゃないですか」

ダージリン「私は嗜む程度よ。あなたみたいにジャバジャバ飲んでないわ」

西(嘘つけ! 絶対私の倍は飲んでた!)


ダージリン「ほら。一人じゃまだおトイレ出来ないのだから行くわよ」

西「むっ。ちょっと引っかかる言い方です…」

ダージリン「あら? だったら絹代さんは一人でおトイレ行けるのね?」フフッ

西「ぐぅ。…いいもん。ペコさんに連れてってもらいますから!」

オレンジペコ「えっ!?……ま、まぁ良いですけど」
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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/21(金) 20:40:16.54 ID:AgOoSeIg0<>
ダージリン「悪いわねペコ。そこらへんの草むらで良いわよ」

西「なっ!!」

オレンジペコ「大丈夫ですよ。ちゃんとお手洗いまで行きますから」アハハ

西「ダージリンは行かなくても平気なんです?」

ダージリン「行くわよ。後で」

西(自分だって結局行くじゃないか…)

ダージリン「なにか?」

西「…そこで漏らせばいいのに」ボソッ

ダージリン「ペコ。肥溜めがあったらその子を放り投げてやりなさい」

西「なっ! またその話ですか!」

ダージリン「えぇ。何しろ私を夢に呼び出して肥溜めに放り投げるんですもの」

西「違う! あれは勝手にダージリンが!!」

オレンジペコ「はいはい。行きますよ」

西「むぅ…」
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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/21(金) 20:42:44.39 ID:AgOoSeIg0<>
【試合会場 お手洗いまでの道】


西(ということで、ペコさんに車椅子を押してもらってます)


西「それにしても、大洗女子の皆さんの敢闘はお見事でしたね」

オレンジペコ「はい。まさか戦車を対空砲として運用するだなんて思いませんでした」

西「あの咄嗟の判断はさすが西住さんです。我々知波単も見習わねば」

オレンジペコ「ですが、西住さん達のIV号戦車は…」

西「ええ。派手に大破してしまったようです」

西「幸い、乗員の皆さんは全員無事とのことでしたが」

西「IV号戦車は次の試合までに修理が間に合うかどうかは…」

オレンジペコ「! それでは次の試合は…」

西「…もしかしたら、IV号戦車無しで臨むことになるやもしれません」

オレンジペコ「そんな!?」

西「…」


西(あくまでそれは最悪の場合だ。恐らく、何かしら手は打つはず…)

西(………私の方で何か、力になれないだろうか)
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/21(金) 20:45:14.18 ID:AgOoSeIg0<>

オレンジペコ「どうして…」

西「ん?」



オレンジペコ「どうして、頑張ってる人ばかり辛い思いをするのかな………」



西「!!」

オレンジペコ「大洗女子はいつも頑張ってるのに、いつもピンチで…」

オレンジペコ「だけど、もっと頑張って乗り越えて」

オレンジペコ「そしたらまたピンチになって…」

西「…」

オレンジペコ「一体何のために頑張ってるのかわからなくなりそうです………」

西「そんなの決まってるじゃないですか」キッパリ

オレンジペコ「えっ…?」

西「自分たちが大事にしてきたものを奪われないようにするためですよ」

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/21(金) 20:48:09.75 ID:AgOoSeIg0<>
オレンジペコ「西さん…?」

西「人間、不思議なもので、普段はグータラなのに」

西「自分やその周りの人を守りたいって思った時にものすごい力を発揮出来るんですよね」

西「火事場の馬鹿力ってやつでしょうか」

オレンジペコ「…」

西「全ての人に出来るというわけではありませんし、無理はして欲しくないですが」

西「少なくとも西住さんや大洗の皆さんはその火事場の馬鹿力でこの苦境を乗り越えると私は思います」

西「先程の無人機を撃墜した時のように」


オレンジペコ「………」



西(現に西住さんはこうやって絶望的な状況をひっくり返して"完勝"した)

西(だから、たとえ戦車が使えなくなろうと、必ず次の手を見つけて勝利を掴み取るはず…)



西(それでもダメというなら………)
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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/21(金) 20:49:59.30 ID:AgOoSeIg0<>
オレンジペコ「…そうですよね」フフ

西「おっ、ペコさんが笑った!」

オレンジペコ「えっ…?」

西「やっぱりペコさんはしょぼくれた顔よりもニコニコ顔がお似合いですな!」ウンウン

オレンジペコ「むぅ…。またそうやって人をからかうんですから…」

西「別にからかってなんかいませんよ。本心です」

オレンジペコ「はいはい。そういうことにしておきますよー」

西「む。ダージリンといいペコさんといい、どうして聖グロの人は素直じゃないんですか」

オレンジペコ「はいぃ? 捻くれてるのはダージリン様だけですから」キッパリ

西「えー」

オレンジペコ「私はダージリン様とは違いますもの」フフン
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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/21(金) 20:51:12.70 ID:AgOoSeIg0<>
西「そうなんですか?」

オレンジペコ「はい」ニコッ

西「"同じ穴の狢"って言ったら怒ります?」

オレンジペコ「怒ります」

西「えー」

オレンジペコ「私はダージリン様みたいにしたり顔で格言を言ったり、回りくどいことを言ったりしません」

西「お、言いましたな? これはダージリンに報告せねば!」ニヤリ

オレンジペコ「あ、ちょっと?!」

西「ダージリンがどんな顔するか見てみたいのであります」ニシシ

オレンジペコ「だっ、だめです! 許しませんからね!?」

西「くひひ。下克上ならぬペ克上ですなー」

オレンジペコ「むっ。その辺にしないともう紅茶淹れてあげませんよ?」ジトー

西「え゛っ!? それは困りますっ!!」
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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/21(金) 20:53:45.11 ID:AgOoSeIg0<>
オレンジペコ「そうですよね。何しろあれだけたくさん飲んでたのですから」

西「あはは。とても美味しかったのでついつい」エヘヘ

西「あんな美味しいお茶なら何杯でも飲めちゃいますよ」」

オレンジペコ「…そうですか?」←ちょっと嬉しい

西「ええ」

オレンジペコ「ダージリン様の淹れた紅茶とどっちが美味しかったですか?」

西「む。なかなか難しい質問ですな…」

オレンジペコ「どっちです?」

西「うーん…」

オレンジペコ「どっちですか?」


西(や、やけに食いついてくるな?!)

西(でも、実際どちらの紅茶も美味だったしなぁ。こりゃ順位なんて付けられんぞ)

西(うん。どっちも美味しい。毎日飲みたい!!)
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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/21(金) 20:55:03.59 ID:AgOoSeIg0<>

西「どっちも美味しかったです」(`・ω・)V


オレンジペコ「む…」

西「どちらの紅茶も真心込めて淹れて下さったのです」

西「それに優劣をつけろなど私には不可能であります」

オレンジペコ「…ふふっ」

西「ん?」

オレンジペコ「西さんらしい回答ですね」クスッ

西「ふぇ? そうですか?」

オレンジペコ「ええ」

西「あははは」

西「もしも私が聖グロ生だったら、恐らく毎日紅茶を浴びるように飲んでますな!」
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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/21(金) 20:56:26.97 ID:AgOoSeIg0<>
オレンジペコ「ダージリン様とどっちが多いでしょうね」フフッ

西「あ、やっぱりペコさんもダージリンの飲む量は多いと思いますよね?」

オレンジペコ「えぇ。本当に血液まで紅茶で出来ているんじゃないかと思うほどです」

西「あははっ! それダージリンも言ってましたよ」

オレンジペコ「まったく…ダージリン様は」アハハ..

西「そういえば、ダージリンにたくさん紅茶を飲んでいるのに試合中トイレ大丈夫なのかと聞いてみたんですよ」

オレンジペコ「そしたらダージリン様は何と?」

西「"助平"」

オレンジペコ「…でしょうね」
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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/21(金) 20:57:38.39 ID:AgOoSeIg0<>
西「不埒なのは重々承知ですが、利尿作用のある紅茶を大量摂取して催さないのは聖グロ七不思議の一つだと思います」

オレンジペコ「七不思議だなんて大げさな…」

西「それくらい不可解なことですからね」

西「あ、ちなみに七不思議の1つに"ペコさんがダージリンの格言に対し的確に出典を言い当てる"ってのもありますよ」

オレンジペコ「えぇー…」

西「ダージリンがしたり顔で格言を言う横で、その格言が誰のものかを解説する」

オレンジペコ「それほど大したことでは…」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/21(金) 20:59:28.75 ID:AgOoSeIg0<>
西(ダージリン真似)「ペコ。こんな言葉を知っているかしら。"余は常に諸氏の先頭にあり"」


オレンジペコ「栗林忠道中将ですね…って何やらせてるんですかっ!///」カァァ

西「あはは。やっぱり的確に答えてくれます」

オレンジペコ「むぅ…」プクー

西「他にも"戦闘中の戦車内で紅茶をこぼさず保ち続ける"とかも々ありますけどね」

西「ガタガタ揺れる戦車の中で湯呑みに入った液体を保ち続けるのは至難の業です」


オレンジペコ「こぼす時はありますよ?」


西「え」

オレンジペコ「昔ダージリン様の紅茶を頭から派手に被ったことがありまして…アッサム様が」

西「…なかなか苦労人なんですねアッサムさん」

オレンジペコ「それで車内で大喧嘩したことがありまして…」
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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/21(金) 21:02:15.87 ID:AgOoSeIg0<>


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



ガクン!

バシャッ!

アッサム「あづぅぅぅ!!?」ジタバタッ

ダージリン「あ…ごめんあそばせ…」

アッサム「"ごめんあそばせ"ではありませんのよダージリン!!」ポタポタ

ダージリン「ま、まぁ落ち着きなさいアッサム。"人の世に失敗ちゅうことは、ありゃせんぞ"」

オレンジペコ「さ、坂本龍馬ですね…」オロオロ

アッサム「ほぉ…? これが失敗じゃないと仰るのですね?」

ピタッ ジュッ

ダージリン「熱っ!!?」

アッサム「あらごめんあそばせ。足にカップが当たってしまいましたわ」オホホホ

ダージリン「ちょっとアッサム! "目には目をという考え方では、世界中の目をつぶしてしまうことになる"わよ!」

オレンジペコ「ガンジーですね…」ヒヤヒヤ

アッサム「上等ですわ! 表へ出なさい! あなたのそのヒン曲がった性格を矯正してさしあげますわ!!」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/21(金) 21:03:27.74 ID:AgOoSeIg0<>
オレンジペコ「…ということがあったんです」

西「…なんというか…個性的ですね……」ハハ...

オレンジペコ「ダージリン様とアッサム様は昔は結構仲が悪かったみたいでして…」

西「え? そうなんですか?」

オレンジペコ「ええ。他の先輩によると入ったばかりの頃は色んな事で競ってたとのことです」

西「意外ですね。良いコンビに見えるのに」

オレンジペコ「今となっては良きパートナーですが、昔は良きライバルだったんでしょうね」

西「ほほう。雨降って地固まるってやつですな」

オレンジペコ「徹夜でチェスしたり、料理で対決したりと…まぁ、色々とやってたそうで」

西(いや戦車道しましょうよ。人のこと言えないけど)

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/21(金) 21:05:06.32 ID:AgOoSeIg0<>
【試合会場 トイレ】


オレンジペコ「さて、着きましたよ」

西「ありがとうございます」

ガチャ バタン

オレンジペコ「早くしないと置いてっちゃいますからねー」

西『なっ! 待ってくださいよ!』

オレンジペコ「ふふ。冗談ですよ」クスッ

西『むぅ。今日のペコさん辛口ですぞ。スパイシーペコさんです』

オレンジペコ「何ですかそれ。微妙に語呂が良いですし…」
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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/21(金) 21:06:59.79 ID:AgOoSeIg0<>
西『あはは。ペコさんのニックネームって何気に汎用性高いんですよ』

オレンジペコ「そうなんですか…」

西『他にもアレンジペコとかハレンチペコとかもありますよ』ニシシ

オレンジペコ「なっ! アレンジはともかくハレンチはイヤですっ!!」

西『そうですね。ハレンチなのはダージリン一人で十分です』ゴソゴソ


「あら? ダージリンはハレンチなのかしら?」


オレンジペコ「」

西『えぇ。今日なんて寝ているところ襲われましたし』フゥ…

オレンジペコ(寝てるところ襲われたんですか?!///)


「それはそれは。災難でしたわねぇ…」


オレンジペコ「わわわ…」オロオロ

西『ええ。全くですよ』フキフキ







西『…ん、この声って』ジャー

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/21(金) 21:10:19.74 ID:AgOoSeIg0<>
「それで? 絹代さん」

西『げえっダージリン?! どうしてここに!?』

ダージリン「あなた達の帰りが遅いから心配して見に来たのよ」

ダージリン「なにしろ絹代さんは助平ですもの」

ダージリン「うちのペコをトイレに連れて行って淫らな事をしてないか心配で心配で」

西『なっ! 失礼にも程がありますぞ!! 人を獣みたいに言いやがってからに!!!』

オレンジペコ「そ、そんな事するつもりだったのですか?!////」

西『違 い ま す!!』


西『こらダージリン!! ペコさんに変な誤解与えたじゃないですか!! 責任取って下さい!!』

オレンジペコ「せ…責任…!/////」プシュー

西『こらぁぁぁぁ! 絶対わかって言ってるでしょ!!』ガァァァァァァ!!!

オレンジペコ「はて、何の事でしょう?」キョトン

西『………ハレンチペコ』ボソッ

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/21(金) 21:12:13.26 ID:AgOoSeIg0<>
オレンジペコ「はぁいぃ?! もう西さんなんて知りませんっ!」

西『あ、ちょっと! ハレンチは撤回するからお助けを!!』

オレンジペコ「しぃーらない」プイッ

西『む! さっき言ったことダージリンにバラしますよ!?』

オレンジペコ「あっ! ダメだって言ったじゃないですか!!」

ダージリン「あらペコぉ? "さっき"は何て言ったのかしら?」フフフ


西(オレンジペコ真似)「私はダージリン様みたいにしたり顔で格言を言ったり、回りくどいことを言ったり、人をツネったりしません」


オレンジペコ「ちょっと! 最後は言ってませんよ!!」

ダージリン「つまり最後以外は言ったと?」ニコッ

オレンジペコ「あ゛っ!!」

ダージリン「ペコの処遇は追々考えるとして、絹代さん」






ダージリン「最期に言い残すことはあるかしら?」ニッコリ
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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/21(金) 21:14:37.08 ID:AgOoSeIg0<>
西『あの、執行猶予はつきますか?』

ダージリン「つかないわよ?」

西『で、では不服申立てによる控訴は…?』

ダージリン「無いわよ?」

西『…釈放は?』

ダージリン「極刑よ?」

西『酷い! 横暴だ! こんなの絶対認めない!!』

ダージリン「良いからさっさと出てきなさい」

西『やだやだ絶対やだ!!出たらダージリンまたツネるんだもん!!』


ダージリン「そう。ならばずっとそこにいなさいな」

西『え』

ダージリン「あなたは陽の当たる快適な部屋よりも暗くてきったないそこがお似合いよ」

西『それどういう意味ですかーっ!!?』

ダージリン「嫌なら早く出てきなさい」

西『ペコさん! いますよね!? 聖グロの興廃はあなたに掛かっていますっ!!』

西『ダージリンの暴走を止めてくださーい!!』ウワーン

オレンジペコ「知りません」シュン

西『そんなぁ………』ガーン
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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/21(金) 21:18:57.40 ID:AgOoSeIg0<>
ダージリン「日が暮れるから早く出てきなさい」

西『ツネらない?』

ダージリン「出てきなさい」

西『ツネらない?』

ダージリン「早く」

西『ツネらない?』

ダージリン「…」

西『…』

ダージリン「…ハァ」

ダージリン「わかったから早く出てきなさいな」

西『!!』パァァ

カチャン



― このあと滅茶苦茶デコピンされた。



ちなみにペコさんは罰としてダージリンの肩揉みをやらされることになりました。
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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/21(金) 21:20:31.03 ID:AgOoSeIg0<>

【お仕置き後】



西「だーじりんきらい」シクシク ヒリヒリ

ダージリン「自業自得でしてよ?」

西「どこが!!」

オレンジペコ「あはは…」モミモミ

西「"ツネらない?"と聞いて、"わかったから出てこい"と言って出たらデコピンするんですよ?!」

ダージリン「勘違いしないで頂戴。"わかった"と言っただけで"イエス"とは言ってませんわ」

西「捻くれ者め」

ダージリン「今度はどこがいいかしら?」ワキワキ

西「や、やめてください!! たた助けてペコさん!」

オレンジペコ「えーどうしましょう」アハハ モミモミ

ダージリン「ペコ、もっと右…そう、そこ…」ホヘー
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/21(金) 21:23:10.19 ID:AgOoSeIg0<>
西「む。さてはペコさん、笑顔で人を地獄に叩き落とすタイプですな? きゃーこわい」

オレンジペコ「むかっ。そんなわけないじゃないですか!」

西(オレンジペコ真似)「えへっ! ダージリン様の紅茶にワサビ入れちゃった♪」テヘペコ

西「とか」

オレンジペコ「そ、そんなことしませんよ!!」

ダージリン「年下の子をいじめない」ツネッ

西「いでぇぇぇ!! ど、どの口が言うかっ!!!」バタバタ

ダージリン「ペコ、もっと首の近くもお願い」

オレンジペコ「はーい」モミモミ

西「ペコさん、そのまま首をキュッとやっても大丈夫ですよ。ニワトリみたいに」

ダージリン「ペコ、やるならそこの助平にやってあげなさい」

オレンジペコ「は…はぁ…」モミモミ

西「スケベスケベ言うなっ!」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/22(土) 21:43:52.22 ID:8ZarQEPh0<>

トボトボ....



西「あれ…ケイさん?」

ダージリン「わかっているじゃない。危機管理という"計算"が出来ないから減らず口を叩けると」

西「違います。ほら後ろに」

オレンジペコ「本当だ。ケイさんです」

ダージリン「えっ?」クルッ


ケイ「………」


西「おーい! ケイさーん!!」ブンブン

ケイ「ふぇっ?! き、キヌ!?」

ダージリン「あらケイ。てっきりパーティーに参加していると思いましたの」

ケイ「ははは…ちょっとはしゃぎ疲れたから休憩よ」

西「ケイさんが休むから休ケイですな」

ダージリン「…面白くないわよ」

ケイ「ははは…ハァ…」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/22(土) 21:45:45.12 ID:8ZarQEPh0<>
ダージリン「浮かない顔ですわね? どうかしまして?」

ケイ「いや…ね」

ダージリン「試合でコロリとやられたからですの?」

オレンジペコ「だ、ダージリン様」オロオロ

ケイ「んー。確かに負けたのは少しヘコんだけどさ…」

ケイ「でもミホのあの快進撃見れてすごい満足だったよ?」

ダージリン「でしたらどうしてそんな顔を?」

ケイ「そりゃあ…」


西「IV号戦車でしょうか?」


オレンジペコ「!」

ケイ「…ザッツライト」ハァ..
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/22(土) 21:48:21.79 ID:8ZarQEPh0<>
ダージリン「あれは事故ですの。無人機を使う以上あのような事が起きるのも想定内」

ケイ「…そうだけどさ。よりによってミホたちの戦車に当って」

ケイ「しかも損傷が激しいってメカニックに言われてさ」

ダージリン「メカニック?」

西「整備を担当しておられるレオポンさんですね」


ケイ「決勝戦には修理間に合わないって…」


西・ダージリン・オレンジペコ「!!」

オレンジペコ「それじゃ、やっぱり…!」

ケイ「アンジーは気にするなって言ってくれたけどさ」

ケイ「IV号って大洗の指揮車両でしょう?」

ケイ「しかも大洗にとって主力級の戦車」

西「かなりの痛手ですね…」

ダージリン「言い方は悪いかもしれないけれど、大洗は」



ダージリン「戦術で勝って、戦略で負けたのかもしれないわね」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/22(土) 21:50:23.85 ID:8ZarQEPh0<>
西「っ…!」

ケイ「そうなのよ…」

ケイ「ミホはまだこれから戦わないといけないってのに…!」

ダージリン「あなたのところから戦車を差し上げてはいかがですの?」

西「…」

ケイ「そ、そうよね!やっぱりウチの戦車貸してあげるべきだよね!?」

ダージリン「ええ」

ケイ「ウチのファイアフライだったら火力でも申し分ないわ!」

ダージリン「何なら全ての車輌を寄付しても良いですのよ?」フフッ

ケイ「えー! そしたらウチらの戦車無くなっちゃうじゃない!」

フフッ

アハハハハハ
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/22(土) 21:51:44.40 ID:8ZarQEPh0<>
西「…」

オレンジペコ「西さん…?」

西「あの、水を差すようで恐縮なのですが…」

ケイ「なーに?」

西「大洗のあんこうチームは5名でしたよね?」

ダージリン「それが何か?」

オレンジペコ「…あっ!」

ケイ「jesus」

西「ええ。シャーマン・ファイアフライは4人乗りなので定員オーバーであります」

西「それに、無人機の対策もしなければいけませんし…」

オレンジペコ「確かに…」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/22(土) 21:54:12.68 ID:8ZarQEPh0<>
ダージリン「あら、随分と冷淡ね?」

西「…」

ダージリン「あなたなら"ならばどうぞ我が校の戦車を使ってやってください!!"とでも言うかと思ったけれど」

西「残念ながら、黒森峰やプラウダを相手にするとなれば、知波単の既存戦力では太刀打ちできませんので…」

ケイ「…」

ダージリン「…」

西「プラウダのT-34、黒森峰のティーガー、これら戦車の装甲を知波単の戦車で貫くのは極めて困難です」

西「一方で、相手の主力戦車はこちらの戦車の射程外から撃破可能」

西「…それらを鑑みると、残念ながら我々の戦車では大した戦力にならないのです」

ダージリン「なかなか冷静な分析ね。珍しい」

西「なので、そういったことを鑑みてこのたび新しい戦車を導入することにしました」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/22(土) 22:03:53.99 ID:8ZarQEPh0<>
ケイ「ワーオ! それ本当?!」

オレンジペコ「羨ましいです」

ダージリン「ッ…!」

西「ええ。ただ今回の試合には間に合わないので、お貸しすることは出来ませんけどね」

オレンジペコ「そうなると私達にとって知波単学園がもっと脅威になるわけですね…」

オレンジペコ「喜んで良いのか悪いのか…」アハハ

ダージリン「…………」

西「あはは。聖グロだって"クロムウェル"を導入したじゃないですか」

オレンジペコ「確かにそうですけど…」

西「王室を倒し、共和制を敷いた大将の名を持つ"勝利の戦車"です」

ダージリン「…!」

西「それは聖グロにとって大きな意味を持つ戦車でしょうな」

オレンジペコ「そうなんですか??」

西「ええ」

ダージリン「…」フフッ




― 彼女もまた、聖グロの隊長としての"宿命"を背負っているの

― ええ。ダージリンもOG会に縛られているわ…


― そんな中、OGたちを押し切って新しい戦車を導入したとすれば?

― "大したものだ"と言うべきですわね




西(ダージリンの苦労は誰も知らない…)
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/22(土) 22:16:48.30 ID:8ZarQEPh0<>

ダージリン「それで、みほさんの戦車の件は?」

西「ええ。これは私の考えなのですが」


西「まずは、大洗の皆さんに任せてみませんか?」


ケイ「Why?!」

西「言わずもがな私も手を差し伸べたい気持ちで一杯です」

西「でも、まずは大洗の"やり方"を尊重しようと思うのです」

ダージリン「つまり静観していろと?」

西「ええ。恐らく大洗の皆さんも動くでしょうから」

西「なので外野から彼是いうのは、彼女たちの努力に水を差す行為になってしまうのです」

ケイ「んー、確かにねぇ…」

西「それで、駄目だった時に改めて私達が助けの声をかければ良いのです」

ダージリン「なるほど…」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/22(土) 22:25:34.16 ID:8ZarQEPh0<>
西「それに…」

ケイ・ダジ・ペコ「?」

西「此処から先は"戦車だけ"、"対空戦車だけ"では厳しくなるかと思うのですよ」

ダージリン「どういう意味かしら?」

西「つい先日、西住さんからお話を伺ったのですが、以前にプラウダ高校と練習試合をしたそうです」

西「その時にプラウダ側は3機の無人機を投入したとのことですが」


西「その結果、大洗は開始10分で全滅したそうです」


ケイ・ダジ・ペコ「!!!」

西「今年の優勝校であり、私達を率いて大学選抜チームを相手に勝利した西住さん達大洗女子ですら」

西「無人機が相手では絶対的な力の差が出てしまうのです」

ケイ「確かにね。今回の試合もミホの奇策がなければ対抗手段は無かったわけだし」

西「その上、プラウダも黒森峰も装甲・砲ともに優れた戦車を保有しています」

西「その戦力差は天と地ほどの差と言っても過言ではありません」


西「なので、4号戦車、あるいは4号対空戦車が復活しましたでは駄目なんです」

オレンジペコ「で、ではどうすれば良いんですか!?」

西「戦車も無人機も叩ける戦車が理想ですね…」

ダージリン「そんな戦車あるわけないでしょう」

西「ええ」




西「だから、大洗の皆さんに任せるのです」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/22(土) 22:55:19.93 ID:8ZarQEPh0<>
オレンジペコ「それは一体どういう

ブロロロロロロロ!!


ダージリン「あら。お迎えが来たわね」

ローズヒップ「ダージリン様ぁ!おっ待たせしましたのぉー!」

ダージリン「丁度良かったわローズヒップ。また送って頂戴」

ローズヒップ「喜んでですの!さぁさぁ絹代様も乗ってくださいまし!」

西「これはこれは恐れ入ります」ガチャ


オレンジペコ「私はお先に学園艦へ戻りますね」

ダージリン「あら? 何か用事でも?」

オレンジペコ「実はアッサム様からお言い付けがありまして…」

西「…"水飴"ですか?」ボソッ

オレンジペコ「ええ…」

西「…ご愁傷さまです」

オレンジペコ「あはは…」

西(プラウダでは良い方向に話が進んだみたいだけど、此方ではそうでもないみたいだ…)

西「アッサムさんに"おデコに塗りたくると効果抜群ですよ"とでもお伝えください」シレッ

オレンジペコ「あはは。わかりました」

ダージリン「?」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/22(土) 22:58:46.12 ID:8ZarQEPh0<>
【帰りの車内】


ローズヒップ「かっ飛ばしますわよ〜♪」オッホホホホ

西「行きと違って帰りは道が空いているので快適ですな」ハッハッハ

ローズヒップ「快適すぎてご機嫌ですのよ〜!」

西「あははは。突撃をしているみたいですよ」

ダージリン「制限速度と交通ルールはちゃんと守るのよローズヒップ」

ローズヒップ「もっちろんでございますのよ〜!」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/22(土) 23:01:49.80 ID:8ZarQEPh0<>
西「…」チラッ

ダージリン「………」

西(ダージリン…何か悩んでることでもあるのかな…?)

ダージリン「……えっ?」

西「ん?」

ダージリン「いま何か言ったかしら?」

西「いいえ」

ダージリン「そう…?」

西「…あー、ダージリン?」

ダージリン「何かしら?」

西「次の試合で大洗、西住さん達はどうなるでしょうか」

ダージリン「…」


ダージリン「やはり、みほさん達のIV号が破損されたのが致命的ね…」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/22(土) 23:03:43.11 ID:8ZarQEPh0<>
西「ですね…」

西「でも、おそらく大洗は次の試合までに代替となる戦車を探すでしょう」

ダージンン「そうね。"戦車がなくて試合に出ません"は有り得ないもの」

西「そこで入手する戦車が、既存の戦車なのか…それとも」


西「我々の知らないトンデモな戦車なのか」


ダージンン「トンデモって何よ…」

西「先程言った"戦車も無人機も叩ける戦車"です」

ダージンン「さっきも言ったでしょう? そんな戦車あるわけ無いと」

西「ええ。その通り」

ダージンン「人の話はしっかり聞きなさいな。そんな都合の良いものは新しく作りでもしない限…っ!!」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/22(土) 23:04:54.41 ID:8ZarQEPh0<>
西「…そうなんです」

ダージンン「そんなの不可能よ。まずレギュレーションが通らない」

西「そこを上手く掻い潜る方法が見つかったとすれば…?」

ダージンン「………あなた、何か心当たりがあるの?」

西「ありません。ただ…」


西「大洗ならそんな修羅場もきっとくぐり抜けるだろうなぁ…と」


ダージンン「………」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/22(土) 23:06:35.38 ID:8ZarQEPh0<>
ピー!!

プップップー!!

ピピー!!!


ローズヒップ「全っ然進まないですの…!」イライライライライラ

西「あははは…」

西(見事に帰宅ラッシュにめり込んでしまったな)

ローズヒップ「行きはともかく帰りも渋滞だなんてどーなっていますのっ!?」イライライラ

西「はは…。他の運転手も皆おなじ面持ちでしょうな」

ローズヒップ「ぐぬぬ…」ブツブツ

西「まま。ここは"水飴"でも食べて気分転換されてはいかがでしょう?」

ローズヒップ「残念ながら"水飴"は1日3個までですの」

西「へ? そうなんですか?」

ローズヒップ「アッサム様から言われていますの」

ローズヒップ「"水飴は脳を活性化させるけれど、食べ過ぎると逆に脳の動きを低下させてしまいます"って!」

西「………ソウナンデスネ」

ローズヒップ「だからガ マ ンですのっ」イライライラ

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/22(土) 23:08:29.33 ID:8ZarQEPh0<>
西「あれ? ローズヒップさんご存知ではないのですか?」

ローズヒップ「…何がですの?」ジロッ

西「(早くも噛み付かれた) "水飴"の食べ過ぎは確かに脳の動きを低下させます」

西「しかし、ずっとイライラした状態だとそれ以上に脳の動きを低下させてしまうと」

ローズヒップ「そうなんですの?」

西「ええ。イライラはダメなんです」

西(間違ったことは言ってない。ストレスは脳にも体にも毒である)

西「はい。ですので、今みたいなイライラを払拭するための"水飴"の使用は別段問題ないと」

ローズヒップ「そうなんでございますのっ!?」パァァ

西「ええ」ニコッ

ローズヒップ「では! では! 良いんですわね!?」パァァ

西「ええ。どうぞ」ニシッ

ローズヒップ「いやっほーいですのっ♪」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/22(土) 23:10:04.79 ID:8ZarQEPh0<>
西(ペコ太郎といいローズヒップさんといい、聖グロは愛くるしい方が多いですな)

西(ダージリンさんもさぞ後輩を可愛がり甲斐があるだろう)

西(もちろん知波単にも可愛い後輩はいるぞ!福田は可愛い!)

西(…ところでダージリンは?やけに静かだな?)


ダージリン「…」スヤァ


西「あはは。お疲れのようですね」

ローズヒップ「おーっほっほっほー♪」ネリネリ

西「おっと、ローズヒップさん、ダージリンがご就寝のようです。お声の音量を落として頂けますか?」

ローズヒップ「これは失礼しましたのー」ボソボソ

西「ご協力感謝致します」フカブカ
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/22(土) 23:11:26.28 ID:8ZarQEPh0<>
ヘクチョン!!


西「ん?」

ダージリン「クチュン!!」

ダージリン「…」ブルブル

西(ああ。屋根のない車だから風がまともに当たってしまうか…)

西(風邪をひかれても困るしな)パサッ


ダージリン E:浴衣の羽織


西(…これで良しっと)

ダージリン「……エヘヘ…」zzzz

西(ダージリンも"えへへ"って笑うことがあるんだなぁ)シンミリ

西(まぁ、何だかんだ言ったってダージリンも女の子だしね)ウンウン

西(ただ…)


西絹代 E:浴衣


西「さもい…」ブルブル
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/22(土) 23:13:00.11 ID:8ZarQEPh0<>
コテン


西「ん?」

ダージリン「…」ムギュッ

西(おっと、枕にされてしまったぞ)

ダージリン「…フスー…フスー」zzz

西「あはは。有難うございます。とっても暖かいです」ホッコリ

ダージリン「…フフ……」zzzz


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/22(土) 23:21:08.20 ID:8ZarQEPh0<>

【病院 エントランス】


キキーッ


ローズヒップ「到着で御座いますのー(小声)」


シーン


ローズヒップ「あれ?」キョトン


西「…」zzz
ダージリン「…」zzz


ローズヒップ「ふむ…」

ローズヒップ「!」ピコーン

ローズヒップ「少々お待ちくださいましー(小声)」スタタタタッ
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/22(土) 23:22:13.06 ID:8ZarQEPh0<>
看護婦「はいはい?」タッタッタッ

ローズヒップ「お部屋までお願いしますのー」タッタッタ


ローズヒップ E:担架


看護婦「………そういうことね」ニヤ

ローズヒップ「そういうことでございますのよー!」ヨッコイショ



(数分後)


ローズヒップ「ではでは、お休みなさいませですの〜」ペコッ

ブロロロロ....
<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/04/23(日) 05:26:11.78 ID:E7tsAcsrO<> ローズヒップやさしい <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/25(火) 20:30:31.89 ID:pfb36CDZ0<>
【同日夜 西絹代の病室】


西「ん……」パチッ

西「あれ…ここは…?」

西「………病室?」

ダージリン「スースー…」zzzz

西「っ?!」ビクッ


西(えーと…)

西(確か私達は大洗とサンダースの試合を観戦して)

西(そのままローズヒップさんに送ってもらって…)

西(そこから記憶がない)

西「ふむ………」


西「まぁいっか」パタン


西「お休みなさいダージリン」

ダージリン「…ムニャ」zzz

西「私は寝込みは襲いませんからね」

ダージリン「…ムゥ……」zzz

西「ふふっ」ナデナデ

ダージリン「…エヘヘ……」zzz
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/25(火) 20:31:46.79 ID:pfb36CDZ0<>
― よほど居心地がいいのか、ベッドの寝心地がいいのか

ダージリンはぐっすりと眠っている。

私がかつて眠りたくても眠れなかった時期はあったことを思うと、ダージリンにも眠れない日があったのかもしれない。

そう考えると、今の私に出来るダージリンへの恩返しは…

嫌な事を忘れる事ができる、居心地のいい空間を提供することなのかもしれない。


この頃からか、私はダージリンに特別な感情を抱いていた。

ダージリンが嬉しそうにしていれば私も嬉しいし

ダージリンが悲しいと私も悲しい。

お世話になった方々や、知波単の皆とは違う感情。


でも、私はこの事について特に深く追求することはなかった。
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/25(火) 20:32:47.36 ID:pfb36CDZ0<>
ダージリン「んぅ…?」パチッ

西「あ、おはようございます。…といっても夜ですけど」

ダージリン「………ここどこ?」

西「あはは…私の病室です」

ダージリン「そう…」

西「ええ」

ダージリン「…」

西「…」



ダージリン「何で病室にいるのよっ!!?」ガバッ


西「わっ!」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/25(火) 20:33:36.21 ID:pfb36CDZ0<>
ダージリン「…ローズヒップに送ってもらったところまでは覚えているわよ」

西「ええ」

ダージリン「そして途中で寝てしまって」

西「はい」

ダージリン「気づいたらここ」

西「うん」

ダージリン「どういうことなの…」

西「さぁ?」

ダージリン「…」

西「…」

ダージリン「今、何時?」

西「ちょうど10時ですね(まだ10時かぁ。もう深夜だと思ってたのに)」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/25(火) 20:34:24.57 ID:pfb36CDZ0<>
ダージリン「ハァ…またこんなところに来る羽目になるなんて…」ズーン

西(その"こんなところ"でとてもとても幸せそうに寝ておられたわけですがね…)ジトー

ダージリン「…何よ」

西「何でもございません」

西「きっとローズヒップさんが気を利かせてここまで連れてってくれたのでしょう」

ダージリン「どうやって…」

西「"水飴"の食べ過ぎで脳が超常現象起こして空間移動能力使えるようになったとか?」

西(ローズヒップ真似)「おーっほっほっほ! マネジメントですのっ!」

西「…って」

ダージリン「バカなの?」

西「…もうバカで結構です」ムスッ

ダージリン「そうね」

西(ダージリンは寝起きの機嫌が悪い。…低血圧なのかな?)


ブーブー

ブーブー <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/25(火) 20:35:27.53 ID:pfb36CDZ0<>
ダージリン「ほら電話。鳴ってるわよ」

西「はーい。…おっ、ペコさんからだ」

ダージリン「ペコ?」

西「大方ダージリンのこと心配されておるのでしょう。良い後輩ですな」シミジミ

ダージリン「それは申し訳ないことをしたわね」

西「まったくです」ピッ

オレンジペコ『夜分遅くにすみません。西様のお電話でしょうか』


西(みほ真似)「いえ…西さんではなく西住ですけど、オレンジペコさん…?」


ダージリン「何してるのよ…」

オレンジペコ『えっ?確かこの番号で合ってた…あ、いえ、ごめんなさい間違え

西「ははは。合ってますよペコさん」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/25(火) 20:36:32.48 ID:pfb36CDZ0<>
オレンジペコ『え?』

西「私ですよ。知波単の西絹代でございます」ハッハッハ

オレンジペコ『もうっ! ビックリしたじゃないですか!!』プンスカ

西「あはは。失礼しました」

オレンジペコ『あの、それでダージリン様のことなんですが…』

西「あぁ、ダージリンなら私の横でぐっすり寝てますよ」

ダージリン「起きてるわよ…」ハァ

オレンジペコ『えぇっ!? もうそんなことを?///』カァァァ

西「ん? そんな事とは??」

オレンジペコ『そ、それは…あの…アレですよ…/////』モジモジ

西「アレ…?」キョトン






オレンジペコ『………………ぇっちぃことです…/////////』ボソッ
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/25(火) 20:38:06.33 ID:pfb36CDZ0<>
西「…」

オレンジペコ『…/////』カァァァ

西「………は?」(゚д゚;)

西(この小娘は何を宣っとるのだ…???)

オレンジペコ『…え?』

西「あの………ただ単にご就寝されてただけですが…?」

オレンジペコ『』

西「…」


オレンジペコ『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!////////』ジタバタ


西「わっ!?」キーン

ダージリン「さっきから何してるのよ…」

西「何かペコさん、ご乱心のようですよ…?」

ダージリン「ご乱心?」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/25(火) 20:40:06.37 ID:pfb36CDZ0<>
オレンジペコ『に、西さんなんか大っ嫌いですっ! うわぁぁぁぁぁぁぁん!!』バタバタ

西「ちょっと待って下さいよ! 私なにか悪い事としましたか!?」

オレンジペコ『悪いことも悪いことですっ! 西さんが助平だからいけないんですっ!!』

西「なっ失礼な!? 私は決して助平なんかじゃありませんぞ!!」

ダージリン「あなたは十分助平だからご心配なさらずとも」

オレンジペコ『西さんが"私の隣で寝てる"って言うからいけないんですよっ!!』

西「はい裁判長! 冤罪であります! 私は見たままを述べただけでありますっ!」

オレンジペコ『被告人の要求を棄却します! 死刑です!!』

西「そんなぁ…あ、ちょっと!」

パッ

ダージリン「御機嫌ようペコ。私よ」

オレンジペコ『ダージリン様ぁ…西さんがいじめますぅ…』

ダージリン「絹代さんにはあとでキツ〜い罰を与えておくからご安心なさい」

オレンジペコ『…絶対ですからね?』

西「ち、ちょっと待って下さい! なんで私が罰を受けにゃならんのですかっ!?」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/25(火) 20:42:16.05 ID:pfb36CDZ0<>
ダージリン「はいはい。それで、ご用件は?」

オレンジペコ『あっ、ごめんなさい。その、ダージリン様への伝言だったんですが…』

ダージリン「ええ。私が直接承るわ」

オレンジペコ『先程ローズヒップさんから事情を聞いたのですが』

オレンジペコ『曰く"お病院にお運びしましたわよー!"とのことでして…』

ダージリン「ええ。どうやらそのようね。起きたら入院患者になってましたわ」

オレンジペコ『あはは…。それで、夜も遅いですから、また病院で泊めて頂けないかと』

ダージリン「…良いかしら絹代さん?」チラッ

西「キツ〜い罰を取り止めて下さるのなら」シレッ

ダージリン「仕方ないわね」

西(なぁにが"仕方ないわね"だ全く…)ヤレヤレ


ダージリン「絹代さんが"泊まって下さいお願いします"って言うから、仕方な〜くまた一泊するわ」

西(こんにゃろ好き放題言いやがってからに…!)グギギ

オレンジペコ『なんか…それはそれで心配です…何しろ西さんですので』

西「おいこらハレンチペコ。そりゃどういうこった」

オレンジペコ『聞こえてますよ!ハレンチって言わないで下さい!』プンスコ

西「事実ですしお寿司」シレッ

オレンジペコ『事実じゃありませんっ!!』

ダージリン「ちょっと。私を挟んで傷の舐め合いをしないで下さる?」

西「ペコ太郎があまりに面白くてついつい」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/25(火) 20:52:24.47 ID:pfb36CDZ0<>
オレンジペコ『ぺ、ペコ太郎…』

西「あはは。他にもラーメンペコとかペコ煎餅とかペコ饅頭とかクールペコとか」

ダージリン「ラーメンペコ…美味しそうね」フフッ

オレンジペコ『ダージリン様も悪ノリしないで下さいまし!』ムスッ

西「あはは。ペコさんのあだ名は色々浮かび上がるので、また面白いの出来上がったら発表しますぞ」

オレンジペコ『結構です。西さんが名前を悪用するなら私も悪用しますもんね』ムスッ

西「あはは。どんなのが出来るか楽しみですなぁ。"絹おねーちゃん"とか大歓迎ですぞ!」

オレンジペコ『呼 び ま せ ん』キッパリ

ダージリン「あら?お姉様って呼んでくれても良いのよペコ?」ウフフッ

西「気持ち悪っ」ボソッ

ガンッ!

西「いでぇっ!!!」

オレンジペコ『ダージリン様まで…』ヤレヤレ
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/25(火) 20:53:33.33 ID:pfb36CDZ0<>
西「私のあだ名かぁ…楽しみだなぁ」

オレンジペコ『とんでもないの付けますからね?後悔しても知りませんよ?』ムスッ

西「わくわく」

オレンジペコ『まぁでも…今は思い浮かばないので絹代様のあだ名は思いついた時にでも』

西「あはは楽しみです」

西「ん?」

オレンジペコ『えっ?』


ダージリン「"絹代様"?」


オレンジペコ『あ…』

西「ほほう絹代様かぁ…これは斬新ですなぁ」

ダージリン「別に普通じゃない」

西「そりゃダージリンは常に"ダージリン様"って呼ばれてるからですよ」

西「それにしても絹代様かぁ…」フムフム

ダージリン『い、今のはですねっ!』アセアセ



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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/25(火) 20:55:20.68 ID:pfb36CDZ0<>
ダージリン「ペコ、こんな子に"様"なんてつけては駄目よ。呼び捨てでも良いくらいですの」

西「あ、ペコ太郎、ダージリンはこれから"ダージリ貧"で良いですよ。私が許可いひゃいいひゃいほっへひっはははいへ!!!」

ダージリン「誰がジリ貧ですって?」ビローン

西「はーひひんへふほ!!!」ジタバタ

ダージリン「ほぉ?」Wビローン

西「いひゃぁい!ひょうへははんほふへふっ!!!」バタバタ

ダージリン「両手だけじゃ足りないわ」

西「いいはらははっふははひへ!!」ジタバタ

ダージリン「何言ってるかわからないわよ」パッ

オレンジペコ(普通に会話してるじゃないですか…)


西「フニュー…ダージリン酷いです」ホッペサスサス

ダージリン「口は災いのもと。自業自得でしてよ」

ダージリン「どうせ喋るのなら有益なことを喋りなさいな。私のように」フフッ

西「…妖怪口から糞出す大便ジリンめ」ボソッ

ツネッ ミシッ!

西「ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁいだぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!!」ジタバタバンバン

ダージリン「あんたは品を良くしなさいって言ってるでしょうがッ!!!」


オレンジペコ(あはは…絹代様も懲りないですね……)
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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/25(火) 20:57:10.99 ID:pfb36CDZ0<>
西「ところでペコ太郎は今何されてるんです」ヒリヒリ

オレンジペコ『結局ペコ太郎なんですか…』

西「気に入ったんですよね"ペコ太郎"って響きが」ニシシ

オレンジペコ『そうですか…。というか私が何してるかなんて知りたいんですか?』

西「んー、何となく聞いてみただけです」

オレンジペコ『何となくで女の私生活覗きたがるなんて、やっぱり絹代様は助平です』

西「まーた助平言う…」

ダージリン「助平よ」

オレンジペコ『助平です』

西「どいつもこいつも助平助平ってちきしょう…」ワナワナ

オレンジペコ『日頃の行いですね』


西(オレンジペコ真似)「ぇ…ぇっちぃことも日頃の行いですか?(モジモジ」ボソッ


オレンジペコ『なっ!? あれは!!!/////』カァァァ...

西「私が助平だったらペコ太郎も助平でダージリンはその百万倍助平です」

ゴンッ!

西「いでっ!!」

ダージリン「助平はあなただけで十分」

西「むっ…」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/25(火) 20:59:08.49 ID:pfb36CDZ0<>
オレンジペコ『まぁ…今は電話してますけど、先程まではルクリリ様とニルギリ様のお相手をしていました』

西「ほぉ…(誰?)」

ダージリン「ニルギリもルクリリもうちの車長よ」

西「なるほど」

オレンジペコ『それで、"面白いゲーム手に入れたからやるぞペコ!"って』アハハ

西「ん? 聖グロもゲームやるんですか?」

ダージリン「やる子はやるんじゃないかしら? 私はやった事がないけれど」

西「"やる相手がいない"の間違いでは?」


  げ ん

  こ つ


ダージリン「ゲームをするのも良いけど、程々にね?」

ダージリン「そうでないと隣にいるお馬鹿さんみたいになってしまうわ」

西「」ヒリヒリ

オレンジペコ『はい…。(絹代様、入院延びちゃうんじゃないかな…)』
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/25(火) 21:00:25.15 ID:pfb36CDZ0<>
西「ちなみにどのようなゲームです?」ヒリヒリ

オレンジペコ『スーパーマジノブラザーズです』

西「…はい?」


『ペコ? 誰と電話してるの?』


ペコ『あ、お帰りなさいルクリリ様。知波単学園の隊長さんとお話してました』

西(この声…どこかで聞いたことがあるような…)

ルクリリ『知波単学園…』

西「この声…」

西・ルクリリ「『あーーーっ!』」

ダージリン「あら? 面識あったかしら?」

ルクリリ『あ、あんたはエキシビジョンの時に私をハメやがった…!』

西「そういうあなたは!!」






西「…どちら様?」

電話『』<ガタンッ!!

オレンジペコ『…ルクリリ様?』
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/25(火) 21:02:53.86 ID:pfb36CDZ0<>
ルクリリ『いててて…覚えていないのかよ…。エキシビジョンマッチの時に戦った相手じゃないかぁ…』

西「あー…ウチの福田が言ってた"二度も騙されたか!!"の方ですな?」

ルクリリ『"騙されるか"だ! というかその覚え方はおかしいっ!!』

西「あはは。あの時はお世話になりましたよ」

ルクリリ『ん…、こちらこそ』

西「で、どちら様?」

電話『』<ガタガシャーン!!!


ダージリン「さっき言ってた"ルクリリ"よ。ウチのマチルダIIの車長」

西「ほうほうルリリさんですか」

ルクリリ『し、知らなかったのか!? っていうかルリリじゃない! ル・ク・リ・リ!』

西「あら、失礼しました」

ダージリン「ルクリリ」

ルクリリ『え…今の声誰?』

西「あぁ。私の友人ですよ」

ルクリリ『友人? でも私の名前をいま…』

ダージリン「…」チラッ

西(なんで私を目で見るんです……ってそういうことか)


西「あはは。あれだけ大きな声で叫べば聞こえますよ」

ルクリリ『…そっか』

ダージリン「」コクリ

西(ダージリンもなかなかイタズラっ子だなぁ…)
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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/25(火) 21:04:03.64 ID:pfb36CDZ0<>
ダージリン「自己紹介が遅れたましたわ」

ルクリリ『あ、うん。初めまして』

ダージリン「絹代さんの友人を"してやってる"者ですの」

西(し、してやってる!?)ガーン

ルクリリ『私はルクリリ。聖グロで戦車長をやっているわ』

ダージリン「これはこれはご丁寧に。同じく聖グロの隊長をやっている者でございますの」

ルクリリ『はぁ?』

ダージリン「あら、どうかしまして?」

ルクリリ『いや。なかなか面白いジョークだなって』ハハハ

オレンジペコ『…』オロオロ

ダージリン「ほう?」

西(ルクリリさん、電話の相手がダージリンだって気付いてないな…)

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/25(火) 21:05:45.22 ID:pfb36CDZ0<>
ルクリリ『ウチの隊長はダージリンって言うちょっと変だけど面白い隊長なのよ』

西(ちょっと?)

ダージリン「」ギロッ

西「ナンデモナイデス」

ダージリン「それはそれは。さぞかし優秀な隊長ですのね?」

ルクリリ『そうだね。変だけど』アハハッ

ダージリン「…変?」

ルクリリ『ええ。後輩にしょっちゅう格言とかジョークをドヤ顔で語ったりするの』クスクス

ルクリリ『そうでしょうペコ?』

オレンジペコ『…え…ええ…?』オロオロ

ルクリリ『それがあまりに滑稽で、巷じゃ"喋るだけで面白い女"とか言われてるらしいの』アハハハ

ダージリン「ふふふっ。それは面白いわね」

ルクリリ『でしょでしょ! あっはっははは!』

ダージリン「ところでルクリリ」

ルクリリ『あはは。なぁに〜?』ケタケタ
















ダージリン「こんなジョークを知ってる?」








ルクリリ『え』

西(ご愁傷様です)

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/25(火) 21:07:04.71 ID:pfb36CDZ0<>
ダージリン「アメリカ大統領が自慢したそうよ。"我が国には何でもある"って」

ルクリリ『え゛っ?!』

ダージリン「そうしたら、外国の記者が質問したんですって」

ルクリリ『あ、あの…もしかして…』オロオロ


ダージリン「"地獄のホットラインもですか?"って」


オレンジペコ『お国柄ジョークですね』

ルクリリ『』

ダージリン「それはそうと、"喋るだけで面白い女"のお話、もっと聞かせてくださる?」

ダージリン「ル ク リ リ」ニコッ

ルクリリ『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁごめんなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!』ウワーーン


西(ルクリリさん、地獄のホットラインの方がずっとマシですぞ)

西(何しろ私なんかすぐ真横に"地獄"がいるわけですから)

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/25(火) 21:08:36.81 ID:pfb36CDZ0<>
ダージリン「まず相手が誰かを確認してからモノを言うことね」ズズ...

ルクリリ『ももも申し訳ありませんでしたっ!!』

ルクリリ『まさか電話の先にダージリン様がいらっしゃるなんて知らなかったもので!!』ヒィィ

ダージリン「あら、電話の先が私でなければ"喋るだけで面白い女"のお話の続きをしていたと?」

ルクリリ『あっ、いえ…それはその…』オロオロ

ダージリン「何かしら?」

ルクリリ『ひぃぃっ!』ガタガタ

西「まま、ダージリン、その辺でご勘弁を」

ダージリン「…そうね。絹代さんに免じてこの辺にしておくわ」

西(私に免じて?)

ルクリリ『あ、ありがとうございますぅ絹代様ぁ…!』パァァ

西「なんだか今日はやたら"絹代様"って言われるなぁ…」
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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/25(火) 21:11:04.67 ID:pfb36CDZ0<>
ダージリン「そういうわけだから、ペコ、ルクリリ。あまり遅くまで遊んでいては駄目よ?」

ルクリリ『はいっ!』

オレンジペコ『かしこまりました』

ダージリン「それと私はこちらで過ごすから、明日はお願いね?」

オレンジペコ『はい。絹代様にも宜しくお伝え下さい』

ダージリン「ペコが宜しくですって」

西「すぐ横にいるんだから直接言ってくださいよ」

オレンジペコ『絹代様、ダージリン様をお願いします。くれぐれもフラチなことをなさいませぬよう』

西「ふ、不埒ぃ?!」

オレンジペコ『ええ』ニコッ

西(ペコ太郎め…だんだんダージリン化してきおる…)グヌヌ

西(………そうだ!)ペコーン


西「ルクリリさん、後輩の指導がなってないようですが?」


ルクリリ『え? あ! こらペコッ! 絹代様に向かってその口の聞き方は何だっ!』

オレンジペコ『えぇぇっ?!』

西「ふははは」

ダージリン「ルクリリ。程々にね?」

ルクリリ『心得ております』

ダージリン「それではお休み」

ルクリリ『お休みなさいませ!』

オレンジペコ『お休みなさい。ダージリン様、絹代様』

プツッ
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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/26(水) 22:57:50.17 ID:9bZwe9Ud0<>
西「…」

ダージリン「…」

西「…あははっ」

ダージリン「なによ」

西「いやぁ、聖グロの皆さんは楽しいなぁと思いまして」ハハハ

ダージリン「良くも悪くも個性的な子が多いからね」ズズ

西(その個性的な聖グロ生のなかでも群を抜いて個性的なのがダージリンなんですけどね)

ダージリン「グー」

西「ま、まだ何も言ってないじゃないですか!」

ダージリン「どうせ良からぬことを考えているのでしょう」ズズ

西「そんなことないです。…というかダージリンだけ紅茶ずるいです。私にも下さいな」クレクレ

ダージリン「どうぞ」 つ[ティーカップ]

西「え。それダージリンが飲んでたやつじゃ?」


ティーカップ(空)


西「」

西「ダージリンっ!!」ガァァァ!!

ダージリン「もう、騒がしいわね」

西「いくら何でも飲み干したティーカップ差し出すこたぁ無いでしょうに!」

ダージリン「冗談よ。今あげるから大人しく待ってなさい」コポコポ...

西「むぅ…」

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/26(水) 22:59:49.73 ID:9bZwe9Ud0<>
ダージリン「…でも、さすがに紅茶だけだと少し寂しいわね」

西「確かに。そういえば晩御飯も食べておりません………あ!」

ダージリン「なに?」

西「冷蔵庫の中に色々入ってたと思うので、良かったらそれをどうぞ」

ダージリン「良いの?」

西「ええ。私一人じゃさすがに食べきれないですし、折角の差し入れを腐らせては申し訳無いので」

ダージリン「そう。ならお言葉に甘えて」ガチャ


冷蔵庫ちゃん<ビッシリ


ダージリン「…」

西「どうされました?」

ダージリン「色んなものが入っているから驚いたのよ…」

西「地元の人や学校関係者など色々な方が来て下さったので」

西「お陰でお見舞の品が増えて感謝感激雨あられであります」アッハッハ

ダージリン「お見舞というよりお葬式に近いわね。この量」

西「勝手に殺さないで下さい」

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/26(水) 23:00:59.75 ID:9bZwe9Ud0<>
ダージリン「…それじゃあ、これを頂くわね?」

西「どうぞどうぞー。…ってそれ結構な量ですが、お一人で…?」

ダージリン「あなたは食べないの?」

西「良いのですか?」

ダージリン「あなたのお見舞品なのよ?」

西「あ、そうでしたね。では少しだけ」

西「ところでこれは所謂"けぇき"というものでしょうか?」

ダージリン「ケーキじゃないわ。ミートパイよ」

西「みーとぱい?」

ダージリン「ええ。イギリスの伝統料理で、パイ生地の中にひき肉を入れて焼き上げるのよ」

西「ほうほう」

ダージリン「ただね。ミートパイの起源はイギリスではなくフランスだって主張する人もいるのよ」

西「よくわかりませんが、ダージリンが好きそうな料理ですな」

ダージリン「ええ」フフッ

西(お、当たりかな?)

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/26(水) 23:03:05.40 ID:9bZwe9Ud0<>
ダージリン「でも冷たいままだとちょっと…」

西「あ、電子レンジは冷蔵庫の隣にありますよ」

ダージリン「何でもあるのね…」

西「ここでなら一人暮らし出来そうですぞ!」

ダージリン「死ぬまで出られなくなりそうね」

西「それ笑えないです…」


チーン

ホッカホカ


ダージリン「ふふっ。良い香り」

西「美味しそうです」

ダージリン「うふっ♪」

西「随分とご機嫌ですね。そんなにこのパイとやらがお好きなのですか?」

ダージリン「ええ。ミートパイは格別よ」

西「あはは。それは良かった。冷めないうちに頂きましょう」

ダージリン「ええ♪」

西(ダージリン、本当にこのパイが好きなんだなぁ)フムフム

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/26(水) 23:05:19.17 ID:9bZwe9Ud0<>
西「これはこれは、なかなか美味ですね」モグモグ

ダージリン「ふふっ。先輩方に作って頂いたミートパイの味を思い出すわ」シンミリ

西「先輩? アールグレイさんですか?」

ダージリン「アールグレイ様もだけど、色んな方に茶請けのお菓子や料理を振る舞って頂いたのよ」フフッ

西「そうなんですか」

ダージリン「思えば、学問、料理、戦車…色んなことを教えて頂いたわね…」シミジミ

西「…」

ダージリン「…また変なこと考えてるのかしら?」ジトッ

西「いえ、ダージリンが1年生の頃ってどんなだったのかなぁ…って」

ダージリン「何を言うかと思えばそんなこと」

西「そりゃ気になりますもん。ダージリンの過去」

ダージリン「…」

西「話によると、アッサムさんとは昔はライバル同士だったとか」

ダージリン「…またペコね」ハァ...

西「あ、ペコ太郎は悪くないですよ。私が聞いただけですので」

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/26(水) 23:10:19.11 ID:9bZwe9Ud0<>
ダージリン「…今もよ」

西「ん?」

ダージリン「アッサムとは今もライバルよ」

西「そうなのですか?」

ダージリン「ええ。砲手をやってるけど、彼女の洞察力、行動力は隊長として十分すぎるものよ」

ダージリン「油断していたらすぐに追い抜かれてしまうわ」

西「!」

ダージリン「それに、アッサムは戦車道では砲手を務めているけれど」

ダージリン「彼女はGI6のトップも兼任しているわ」

西「GI6…?」

ダージリン「正式名称は"聖グロリアーナ女学院・情報処理学部第6課"」

ダージリン「我が校の"情報処理学部"の一つよ」

西「ほうほう?」

ダージリン「主に他校の情報収集をお願いしているわ」

西「なんだかスパイ映画みたいですな!」

ダージリン「他にも課によって地図の作成、プログラミング、コード(暗号)の作成…など、様々なことをやっているの」

西「ふむふむ…」

ダージリン「それら情報処理学部のトップがアッサムなの」

西「なるほど…」


西(そんな人が"水飴"に引っかかるのかなぁ…)

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/26(水) 23:11:35.06 ID:9bZwe9Ud0<>
ダージリン「アッサムは言ってみれば聖グロリアーナの頭脳」

ダージリン「戦車道の技術はもちろん、ありとあらゆる情報を駆使して有利に事をすすめる」

ダージリン「味方ながら恐ろしいほど頭の切れる女よ」

西「一つ、宜しいですか?」

ダージリン「何かしら?」

西「失礼な言い方になるかもしれませんが…」

ダージリン「あなたが失礼なのは今に始まったことじゃないわ」

西「む…」

ダージリン「良いから言ってみなさいな」

西「そんな凄いアッサムさんがいるのに、どうしてダージリンが隊長なのでしょう?」

ダージリン「…」

西「…」


ダージリン「勝ったからよ」


西「勝った?」

ダージリン「ええ」


ダージリン「あれは私達が一年の頃の話…」

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/26(水) 23:13:58.42 ID:9bZwe9Ud0<>
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●聖グロリアーナ女学院 入学式



ダージリン(一年)「何から何まで噂通りのお嬢様学校ね…」

「ちょっと退きなさいな。邪魔よ」

ダージリン「えっ?」

アッサム(一年)「何処のご令嬢かは存じませんけど」

アッサム「私が通る道を塞がないで頂けますこと?」

ダージリン「あら、ごめんなs」

アッサム「随分と庶民的な立ち振舞いですわね」

ダージリン「っ…!」

アッサム「てっきり他校の生徒かと思ったほどですの」

ダージリン「た、他校ですって?!」

アッサム「ここは名門校の聖グロリアーナ女学院でしてよ?」

アッサム「貴女のような庶民派が来る場所ではありません」フフッ

ダージリン「」イラッ

アッサム「せいぜい学園の品を損ねないことです」スタスタ

ダージリン(何よあの女! 感じ悪い!!)ギリッ



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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/26(水) 23:14:54.75 ID:9bZwe9Ud0<>
ダージリン「元々聖グロはお嬢様学校だけども、その中でもアッサムは典型的なお嬢様だった…」

西「…」

ダージリン「第一印象は最悪だったわ。クシャクシャにしてゴミ処理場に放り投げてやりたいと思うほどに」

西「しかし、それが今では良き相棒というのですから不思議です」

ダージリン「…そうね」

西「?」

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/26(水) 23:17:11.72 ID:9bZwe9Ud0<>
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『勝者 ----!!』


隊長「見事ね」

アッサム「この程度、私の手にかかれば造作もありません」フフッ

副隊長「早くも隊長候補が決まったわね」

3年A「これで私達が抜けても聖グロは安泰ですの」

アッサム「ご安心下さい。私が聖グロリアーナを変えてみせます」

副隊長「ふふっ。期待しているわよ」




アッサム「ほら。アナタたち。何をモタモタしていますの? 早く整備なさい」

ダージリン「…」

アッサム「あら? 何かご不満でも?」

ダージリン「整備は下級生の役目じゃなかったかしら? あなたも下級生ならやりなさい」

ダージリン「それとも、下級生を装った留年生かしら?」

アッサム「…フン。整備などあなたたち格下の仕事です」

ダージリン「整備を知らずに戦車の事を知ることができるのかしら?」

アッサム「整備を知ったところであなたが私に敵うとでも?」


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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/26(水) 23:18:13.01 ID:9bZwe9Ud0<>
ダージリン「アッサムは上から戦車道を見ていた。態度だけでなく実力も」

ダージリン「一方で私は下から彼女を見上げるだけ」

西「同じお嬢様なのに考え方も異なるのですね」

ダージリン「アッサムは良家の生まれよ。本当の意味で貴族出身。だから頭一つ置いて高飛車だったわね」

ダージリン「そして態度だけでなく実力も相当で、"自分より上は存在しない"…と」

ダージリン「あの時のアッサムは本気でそう思っていた」

西「そうですか…」

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/26(水) 23:20:29.02 ID:9bZwe9Ud0<>
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アッサム「はぁ? 試合? この私と?」

ダージリン「ええ。お手合わせ願えるかしら?」

アッサム「ッフ…」

ダージリン「…」

アッサム「あはははははっ!」

ダージリン「…っ」

アッサム「何を言うかと思えば"手合わせしたい"ですって? 随分なジョークですわ!」

ダージリン「…」

アッサム「自分の立場を弁えては如何です? 貴女のような凡人が私に敵うわけがない!」

ダージリン「やってみなければわからないじゃない」

アッサム「お気の毒ですが、あなたの勝率は限りなく0%ですわ」

ダージリン「…」


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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/26(水) 23:21:47.20 ID:9bZwe9Ud0<>
西「それで、お手合わせの結果は…?」

ダージリン「"完敗"よ」

西「えっ?!」

ダージリン「私はアッサムに撃たれて、見るも無残に敗れてしまったわ」

西「でも先程は勝ったと…」

ダージリン「ええ、最終的には…ね」

西「??」

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/26(水) 23:22:50.86 ID:9bZwe9Ud0<>
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『A車 走行不能!』

『よって勝者、B車!』



隊長「やはりあの子が一番ね」

3年A「ええ。あの状況で完璧に相手の戦車を捕捉していましたわね。ケチのつけようがありませんわ」

副隊長「一方で相手の子は全然ね」クスクス

隊長「まだ入りたてだから仕方無いわ。あの子が凄すぎるだけで」





ダージリン「………」


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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/26(水) 23:25:42.28 ID:9bZwe9Ud0<>
西「正直言うと、信じられないです」

西「どうしてもダージリンがアッサムさんに負けるという図が想像できません」

ダージリン「それでも事実ですの。私はあの時アッサムに負けた」

西「それで、アッサムさんは?」


ダージリン「不思議なことに何も言わなかったわ」


西「えっ、あの高飛車なアッサムさんが…?」

ダージリン「ええ。私も未だにそれが不思議なの…」

西「そのことを聞いてみてはいかがでしょう?」

ダージリン「私がその話をしようとすると嫌がるのよ」

西「えっ」

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/26(水) 23:28:51.06 ID:9bZwe9Ud0<>
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「あら。随分丹念に戦車を整備してくれるのね?」

ダージリン「…!」ゴシゴシ

「でも、戦車の汚れは涙や鼻水じゃ落ちないわよ」フフッ

ダージリン「…何か…ご用ですの………」ズビッ

「聖グロに似つかわしくない"煤けたお嬢さん"がいるから、気になってね」フフッ

ダージリン「………」

「こんな格言を知っているかしら?」

「"天才とは努力する凡才のことである"」

ダージリン「…知りません」

「確かに彼女は天才かもしれないわ。聖グロでも十年に一度来るか来ないかの"逸材"」

ダージリン「…」

「…でもね」

「あなたや他の人が思ってるような"天才"って、案外脆いのよ?」

ダージリン「…」

「そして天才が…」


「努力に勝る日が来ることは無い」


ダージリン「!」

「もしアッサムが生まれ持った天才ならば」

「あなたは"努力の天才"になりなさいな」フフッ
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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/26(水) 23:31:41.52 ID:9bZwe9Ud0<>
ダージリン「……私に努力なんて…」

「簡単なことよ?」

ダージリン「えっ…」

「誰にでも出来ることをやれば良いのよ?」

「別段難しいことをやれというものでは無いわ」クスクス

ダージリン「だったら誰だって…!」


「その代わり、やるなら徹 底 的 にやれ」


ダージリン「!!」

「"何だ、そんなことか"と思うことを、誰よりもやりなさいな」

「そして、五感全てに染み込ませなさい」

「寝ぼけ眼(まなこ)でも完璧に再現できるほど体に浸透させなさい」

「…それが努力よ」

ダージリン「っ…!」

「精神論や根性論を語るつもりはないけれど」

「結局のところ、人を分けるのは誰でも出来ることを誰よりもやって来たか、そうでないかの違いなのよ?」

ダージリン「…そう…ですの?」

「ええ。…そうね。面白いことを教えてあげるわ」

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/26(水) 23:35:24.20 ID:9bZwe9Ud0<>
「私、天才ちゃんに勝ってしまったわ」ニコッ



ダージリン「ええっ!!?」

「確かに素晴らしい才能とセンスの持ち主だった」

「そしてあの子の戦術には隙間の無いように見えた」

「でもね、私には彼女の"隙間"が見えたの」

ダージリン「隙間ですって…?!」

「だから、そこを突いたら案の定アッサリと崩れた」

ダージリン「信じられません…。あの人に隙間があるだなんて…!」

「普通の人じゃまず見つけられないでしょうね」フフッ


ダージリン「そ、その隙間とは一体何ですの!?」

「ヒントはおしまい。あとは自分で探しなさい」フフッ

ダージリン「うっ…」

「まぁ…でも、もう1つ」

ダージリン「?」

「あなたが彼女の隙間を見つけたとき」


「彼女が天才ではないことを理解するでしょうね」


ダージリン「えっ…?」

「整備もほどほどに。適当なところで切り上げるのよ?」フフッ

ダージリン「あ、あのっ…!」

「何かしら?」

ダージリン「お名前、教えて頂けませんか?」



「アールグレイよ」


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〜〜〜

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/26(水) 23:37:17.41 ID:9bZwe9Ud0<>

ダージリン「今思うと、あのやり取りが無かったら聖グロの隊長は私ではなかった」

ダージリン「それどころか、聖グロに居続けたかどうかも怪しい…」

西「…」

ダージリン「そして、そこから私の戦車道が本格的に始まった」

西「…」

ダージリン「お嬢様学校の生徒らしからぬ泥臭さだった…」シミジミ

西「…」

ダージリン「聞いてるの?」

西「ええ。ちゃんと聞いてますよ」

ダージリン「そう。静かだからてっきりお馬鹿な事を考えてるのか寝てしまったのかと思ったわ」

西「失礼な…」





― 馬鹿なことを考えたり、うたた寝をしたり

そんなこと出来るわけがない。

ダージリンが歩いて来た道は、私が今歩いている道なのだから。


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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/26(水) 23:40:27.66 ID:9bZwe9Ud0<>
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副隊長「………」

隊長「驚いたわね。あの子が"天才"に勝つなんて…!」

3年A「まだ入学して1年も経過していないのに、追いついちゃうなんて信じられない…」

3年B「なにかイカサマでもしたのでは?」

3年C「そうに違いありません! きっとあの小娘が!!」


アールグレイ「ご心配なさらず」


隊長「アールグレイ…?」

副隊長「あなたも見たでしょう? あの"天才が負けた"のよ?!」

アールグレイ「ええ。"彼女は見事に天才に勝利"しましたわ」

3年A「前の試合じゃ全く歯が立たなかった子がですのよ? こんなのおかしいわ!」

アールグレイ「彼女は"隙間"を見つけたから勝てたのです」

副隊長「そんな馬鹿なことがあってたまるものですか! あの子は聖グロの…!」

アールグレイ「先輩方はこの私の目が節穴とでも仰るおつもりで?」

3年「………」


隊長「あなたがそこまで言うのだから、彼女の実力は確かなのでしょう」

アールグレイ「間違いありませんわ。私の戦車道生命に懸けてお誓い致します」

隊長「そう…」


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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/26(水) 23:42:27.03 ID:9bZwe9Ud0<>
ダージリン「アールグレイ様の言う通り、アッサムの戦術には"隙間"があった」

ダージリン「その隙間を見つけ出して、そこを突いたら本当にあっさりと崩れた」

ダージリン「そして私はアッサムに勝った…」

ダージリン「10年に1度の逸材と言われたアッサムに………」

西「アッサムさんの"隙間"とは一体?」

ダージリン「それは教えない」

西「む…」

ダージリン「あの時は私にとっての"突破口"だったけれど」

ダージリン「今はそれが聖グロの"弱点"の一つですもの」

西「えっ、ということは…?」

ダージリン「今もなおアッサムはあの弱点を克服できてない」

西「あのアッサムさんが?!」

ダージリン「ええ」

西(一体どんな弱点なんだろう…)

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/26(水) 23:44:03.94 ID:9bZwe9Ud0<>
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ダージリン「何処へ行くのよ」

アッサム「………」

ダージリン「私の質問に答えてくれるかしら」

アッサム「………もうここに用はありませんの」

ダージリン「はい?」

アッサム「今までこんなことはなかった」

アッサム「誰にも負けなかったのに…」

ダージリン「負けを知るのも教訓の一つよ。良い機会じゃない」

アッサム「あなたに何がわかるというの!!」

ダージリン「…」

アッサム「多くの人に期待されるということがどういうことなのか!!」

ダージリン「100%期待に応えることなんて誰にも無理よ」

アッサム「それでも! 私は応えなければいけなかった!!」

アッサム「だから…ずっと……」

ダージリン「?」

アッサム「ずっと………」







アッサム「頑張ってきたのに………」


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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/26(水) 23:54:38.72 ID:9bZwe9Ud0<>
ダージリン「アッサムは"天才"だと思っていた。けれど違った」

ダージリン「名家のご令嬢を装う裏では常に多くの人からの期待という重圧に苦しんできた」

ダージリン「彼女もまた私と同じ、努力家だったの…」


― 彼女が天才ではないことを理解するでしょうね


西「アールグレイさんは既にアッサムさんの事を気付いておられたのですね」

ダージリン「ええ。そしてアッサムの本当の顔を知ったと同時に」


ダージリン「私は彼女の積み重ねてきたものを壊してしまったことに気付いた」


西「ッ!!!」

ダージリン「誰にも気づかれない場所で誰よりも苦労を重ねてきたのよ…アッサムは」

西「…」

ダージリン「彼女は名家の娘だから、常に色んな人の目につくと…」

ダージリン「だから、少しでも粗相を起こせば、それは家の看板に傷をつける事だと何よりも恐れた」

ダージリン「あの高飛車な態度は、それを、弱みを見せないための仮の姿だったって………」

西「それでもアッサムさんは聖グロを出て行こうとしたのですよね?」


ダージリン「引っ叩いて引きずり戻したわ」


西「え」

ダージリン「冗談よ。勝った理由を教えたら納得してくれたのよ」

ダージリン「そしたら」


アッサム『一度勝っただけで良い気にならないことですわ』

アッサム『あなた程度の"努力"など一晩でひっくり返して差し上げますの』


ダージリン「…ってね」

西「なるほど。どことなくアッサムさんらしいですね」

ダージリン「ええ。私はなんとかアッサムの戦う術と場を取り戻すことに成功した…」

西「…」
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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/26(水) 23:56:54.12 ID:9bZwe9Ud0<>
ダージリン「そこから色んなことで競い合うようになったわね。学問、スポーツ、お料理、早食い」

西「は、早食い?!」

ダージリン「どうして早食いが出てきたのかはよくわからないけれども」

ダージリン「もう二度とやりたくないわね…」

西「まさか聖グロで"早食い"という単語が出てくるとは思わなかったです」

ダージリン「…私もよ」ゲンナリ

西(相当厭な勝負だったみたいだ…)




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アッサム「ここまで30勝30敗」

ダージリン「ええ」

アッサム「次の勝負で私は貴女を負かしてみせます」

後輩「では次は早食いで勝負してみてはいかがでしょう?」

ダージリン・アッサム「早食い!?」

後輩「ええ。ちょうどランチの余りが大量にありまして」

後輩「このままでは廃棄処分になってしまう、それをお二方に…」

アッサム「…」

ダージリン「…」

アッサム「…ダージリン、まさか逃げるつもりで?」

ダージリン「何ですって…?」


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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/26(水) 23:59:07.37 ID:9bZwe9Ud0<>
西「…」

ダージリン「…賛成したアッサムがいけないのよ」

西「…」

ダージリン「私は嫌だったのに」

西「…」

ダージリン「…何よ」

西「…で、結果は?」ジトッ

ダージリン「二人ともお腹を壊して病院送り」

西「」

ダージリン「後ほど先輩方にこっ酷く叱られましたわ」

西「馬鹿なんですか?」

ダージリン「私はイヤだと言った。馬鹿はアッサムでしてよ」

西(あなたも十二分馬鹿である)

ダージリン「何よ」ギロッ

西「いえ…聖グロ史上最高に意味のない勝負だなぁと…」
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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/27(木) 00:03:32.85 ID:1AjhjHuM0<>
ダージリン「…そういえば、アッサムに勝った直後だった」

西「何がです?」

ダージリン「私達がそれぞれ"ダージリン"と"アッサム"というニックネームを授かったこと」

西「ほうほう」

ダージリン「あの勝負で、私やアッサムが改めて評価された」

西「一年生ながら天才として台頭したアッサムさんと、それを打ち破ったダージリンですから」

西「その時に先輩方から評価されるのはごくごく順当かと思われます」

ダージリン「そうね」

西「聖グロの皆さんはニックネームの方ばかりですよね」

ダージリン「ええ。幹部クラスには紅茶に因んだニックネームがついているわ」

ダージリン「チャーチルの操縦手の"ルフナ"、マチルダ車長の"ルクリリ"」

ダージリン「そしてクロムウェル車長の"ニルギリ"」

ダージリン「これらの名前はアールグレイ様が付けて下さったわね」

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/27(木) 00:05:20.01 ID:1AjhjHuM0<>
西「ではペコ太郎やローズヒップさんはダージリンが?」

ダージリン「ええそうよ。ローズヒップはクルセイダー部隊のリーダーで、その下にもジャスミン、クランベリー、バニラって子がいるわ」

西「なるほどなるほど」

西(………)

ダージリン「…ネーミングの異論は受けないわよ?」

西「ち、違いますよ!」

ダージリン「じゃぁ何かしら?」

西「いやぁ…あははは…」

ダージリン「言いなさい」

西「別に大したことじゃないですよ?」

ダージリン「良いから」

西「むぅ」

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/27(木) 00:07:30.12 ID:1AjhjHuM0<>
西「もしも、もしもですよ? 私が聖グロの生徒だとしたら、どの様な名前を頂けるのだろうかと思っただけです」

ダージリン「そうね。紅茶に因んで」




ダージリン「"茶番"なんてどうかしら?」




西「………」

ダージリン「冗談よ。そんな顔しないでちょうだい」クスクス

西「何でか知りませんが妙にグサッと来ました…」

ダージリン「そんな大げさなこと言わないで頂戴」

西「衝撃的すぎたので明日から"聖グロリアーナの茶番"と名乗ります」

ダージリン「悪かったわ。許して頂戴」フフッ

西「ダージリンのばか」プクー

ダージリン「はいはい」

西「む」

ダージリン「そうね。あなただったら―――」

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/27(木) 00:10:35.61 ID:1AjhjHuM0<>

― 知らなかった。聖グロやダージリンたちにそんな過去があったなんて。

この事を知っているのはアールグレイさんはじめ当時の先輩方、アッサムさん、

そして私だけらしい。

西住さんやカチューシャさんといった他校の皆さんには勿論、ルクリリさんやペコ太郎にすらこの事は話していないそうだ。

ダージリンは何故、ペコ太郎や他の後輩よりも先に私にこの事を話したのだろう…?


そして、その過去を知った今、ダージリンが更に親しく感じた。

いや、"親しく"じゃない


ダージリンの幸せが私の幸せであり

ダージリンの苦痛が私の苦痛である。

ダージリンと過ごしたことによって

ダージリンの気持ちが私の気持ちのように分かるようになってきた。


…そんな感情だった。



それから数日後、私は退院した。

腕や足のギプスは取れ、歩けるようになり、酷使さえしなければリハビリも出来るようになった。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/27(木) 00:13:34.06 ID:1AjhjHuM0<>
【知波単学園】


西「おはよう諸君! 久しぶりだなっ!!」

玉田「西隊長殿ぉご無事で!!」

細見「おおおお西殿!!良くぞ戻って参られました!!」

福田「おかえりなさいでありますっ!!」

「ケガの方はもう大丈夫でありますか?」

「また突撃が出来るであります!!」

「是非とも突貫しましょうぞ!!」

「知波単学園、万歳!!」

「いえす!いえす!」


バンザーーーーイ!!!

ワーワーワー!!

ワイワイガヤガヤ

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/27(木) 00:14:57.53 ID:1AjhjHuM0<>
西「心配かけてすまなかった!私は復活したからま…た……!?」


ワイワイガヤガヤ

ゾロゾロゾロゾロゾロ


西「おおおい!? どうなってんだこりゃあ!?」

玉田「ご説明しましょう! 隊長殿の知波単魂は知波単学園全土に響き渡り」

玉田「その後"我こそは!!"と勇敢にも知波単戦車道の門を叩く者が殺到し、現在に至りますっ!」

西「そ…そうか…」



私の居ない間にえらいことになっていた。

軽く見積もっても入院前の3倍はいる。そういえば学長さんもそんなようなことを言ってたな。

…戦車足りんぞこりゃ。

でも戦車道に興味を持ってくれる人が増えるのは嬉しい。

せっかくだし戦車だけでなくリハビリも兼ねて体力トレーニングをまたやるか!
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/27(木) 00:16:43.64 ID:1AjhjHuM0<>
西「諸君ッ!!」

西「まずは戦車道を選んでくれたこと感謝するぞ!!」

西「そして、日頃の訓練を経て、より強靭な体と心をもつ真の知波単生となり」

西「その名を全国に轟かせようぞ!!」


ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!

バンザァァァァァァァァァァァイイ!!!!!


西「玉田ァ! 知波単の伝統とは何だ!!!」

玉田「はッ! 勇猛果敢に突撃し、敵の猛攻を掻い潜り、懐へ潜り込み、これを攪乱させることにあります!!」

西「細身ィ!! これからの知波単はどう動く!!」

細身「はいッ!! 突撃部隊と緊密なる協同の下に敵主力部隊を打破、我がチームを勝利に導くことにあります!!」

西「その通り!! 知波単学園は今まで背負ってきた伝統と」

西「新たな戦術を巧みに織り交ぜ」

西「新たな強豪校として、我ら一丸となりて全国の頂点を目指そうぞ!!!」


ウォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!

チハタンバンザァァァァァァァァァイ!!!!!!

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/27(木) 00:17:27.46 ID:1AjhjHuM0<>
知波単学園は生まれ変わった。

突撃は伝統だけど、それだけが全てじゃない。

あらゆる状況に応じて柔軟な戦術を模索する。



知波単学園は生まれ変わった。

強豪校を目指して、全国優勝を目指す新たな仲間を迎える事ができた。



知波単学園は生まれ変わった。

入院生活は退屈かなと思ったけれど、色んな人が来てくれたお陰で充実した日々だった。

さすがに布団に寝転がってずっと過ごすのは嫌だけど、ダージリンや皆と楽しく過ごせたのはとても幸せなことだったと思う。




私は変わることが出来たかな?




                ◆1 入院生活 おしまい

<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/04/27(木) 01:20:28.78 ID:tTrTcNvp0<> 乙
伝統と革新の両立を目指す知波丹の新たな門出に幸あれ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/04/27(木) 06:08:11.63 ID:oQPOqZr1O<> 乙 <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 07:46:19.88 ID:xu4BL+Pa0<>








◆2 "ヴェニフーキ"








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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 07:48:27.11 ID:xu4BL+Pa0<>
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【とある日 聖グロリアーナ女学院】



「これが聖グロリアーナ女学院…」



夏の暑さが落ち着いてきた頃、私は聖グロリアーナ女学院に転校することになった。





「今までは留学をされていた…と」

「はい。父の仕事の都合で、中学卒業後はイギリスのインターナショナル・スクールに通っておりました」

「それでしたら我が校の校風にも馴染みやすいと思います」

「ええ。英語は苦手ですけど、どうか宜しくお願いいたします」

「こちらこそ。よろしく」




諸々の手続きを経て、私は晴れて聖グロリアーナ女学院の生徒となった。

校舎のデザイン、学校の雰囲気、生徒の口調、何をとっても"お嬢様"な学校だった。

私はお嬢様でも何でもないけれど、果たして馴染めるのだろうか。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 07:49:45.61 ID:xu4BL+Pa0<>
「初めまして。ヴェニフーキと申します」



「ヴェニフーキ? 聞き慣れない名前ですわね」

「一体どのような紅茶の品種なのでしょう」



聖グロリアーナの生徒は、幹部クラスや将来を期待された優等生に紅茶に因んだニックネームを与えられる。

ダージリン、アッサム、ルクリリ、オレンジペコ、ローズヒップ………

ただ、私は最初から"ヴェニフーキ"というニックネームを頂いた。

過去の経験がそのまま評価され、聖グロリアーナOGから直々に名前を授かった。






「あの、ヴェニフーキ…さん?」

ヴェニフーキ「何でしょう?」

「その、目の下にクマが出来ておりますわよ?」

ヴェニフーキ「…」

「お体が優れないのでしたら無理をなさらずに」

ヴェニフーキ「大丈夫です。ありがとう」

「…」



「何だかヴェニフーキさんって無愛想ですわね…」

「顔色悪そうだし目つきも悪いし…」

「留学先で何かあったのかしら?」

「問題を起こさなければ良いけど…」


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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 07:52:39.91 ID:xu4BL+Pa0<>

【聖グロ 練習場】



「あなたが新しく転校された方ですね?」

ヴェニフーキ「初めまして。ヴェニフーキと申します」

アッサム「私はアッサム。聖グロリアーナの隊長を務めています」

オレンジペコ「同じく、隊長車の装填手を担当しているオレンジペコです。どうかよろしくお願いします」ペコリ

ヴェニフーキ「宜しくお願い致します」



必修科目は戦車道を履修した。

戦車道が行われる練習場へ行ったら隊長と装填手がやってきた。

本来ならこちらから出向くべきだったが、ご丁寧に先に来て色々案内して下さった。

どうやらOG会からの紹介ということもあって、手厚く饗してくれるようだ。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 07:54:16.82 ID:xu4BL+Pa0<>
ローズヒップ「いっきますのよぉー!!」


戦車道へ参加したら、いきなり紅白戦を行うことになった

私は過去に戦車道をやっていたということもあってか、クルセイダー巡航戦車の車長に選ばれた。

同じクルセイダー乗りには一年生のローズヒップさんがいて、その配下にジャスミン、クランベリー、バニラという名の3人の部下がいる。

ローズヒップさんの掛け声とともにクルセイダー隊が猛スピードで走り出す。

この手のスピードのある戦車は乗っていて悪い気はしない。

かつての学校では似たような戦車に乗っていたし、行進間射撃も得意だったからだ。





『勝者 紅組!!』


そして試合は私達が勝った。

相手のフラッグ車であるチャーチル歩兵戦車の背後に回り込み、至近弾を浴びせて走行不能にしてやった。

クルセイダーと違いチャーチルは重装甲ではあるが、その分機動性に劣る。

接近して回り込むことは難しくはなかった。


この結果に隊長は相当驚いたらしい。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 07:55:13.59 ID:xu4BL+Pa0<>

アッサム「…まさか私達が白旗をあげるとは」

ヴェニフーキ「偶然です。勝負は時の運とも言うものですから」

アッサム「ですが運も実力の内と言います。あなたの強さを改めて実感しましたわ」

オレンジペコ「あの、ヴェニフーキ様」

ヴェニフーキ「何でしょう」

オレンジペコ「留学先は相当な強豪校だったりします?」

ヴェニフーキ「かつてはベスト4に入るほどの実力はありました」

オレンジペコ「わぁすごい…!」

アッサム「それは頼もしい。あなたの活躍、期待してますわよヴェニフーキ」

ヴェニフーキ「身に余るお言葉です」




戦車乗りとしての評価は概ね良好のようだ。

なにしろ聖グロは強豪校だから力不足では困る。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 07:57:15.10 ID:xu4BL+Pa0<>

ヴェニフーキ「…今日も異常はありませんでした」

『そう。さすがに何日も時間はかけられないわね』

ヴェニフーキ「ええ。私としても早く解決したいです」

『そうね…。向こうから出てこないのなら、こちらからアクションを起こしてみたらどうかしら』

ヴェニフーキ「アクション?」

『ええ。揺さぶってみるの』

ヴェニフーキ「…揺さぶる?」

『ええ。それでボロが出るように誘導して』

ヴェニフーキ「私ならまだしも、相手はアッサム様です」

ヴェニフーキ「そう簡単にボロを出すとは思えない」

『そうなのよね』


『ここは"ブランデー入りの紅茶"をやってみてはどうかしら』

ヴェニフーキ「私もアッサム様も未成年なのですが、未成年飲酒でもしろと?」

ヴェニフーキ「というか、あなたもまだ10代ですよね」

『ふふっ。あくまで"ブランデー入りの紅茶"は比喩よ』

ヴェニフーキ「良かった。てっきり呑んだくれにでもなったのかと」

『…失礼ね。お酒はあなたが無事に帰ってきた時にいただくわ』

ヴェニフーキ「私が帰ってきても未成年なら許しませんよ?」

『ふふ。手厳しい』

ヴェニフーキ「…それで、その作戦というのは?」

『それはね…』




私は単なる転校生じゃない。

私が聖グロに来た目的は…




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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 08:06:30.42 ID:xu4BL+Pa0<>


【知波単学園 練習試合】



西「お久しぶりであります! ペコ太郎! アッサムさん!」

アッサム「ごきげんよう。絹代さん」

オレンジペコ「ですからそのペコ太郎というのはやめてくださいと…」

西「あはは。結構気に入ってますよこの呼び方!」

オレンジペコ「絹代様が気に入っていても私がダメというのだからダメなのです」

西「ええー…」

オレンジペコ「えーもびーもありません」

アッサム「ふふっ。無事に退院できて良かったです」

西「おかげさまで健康体です。この通り逆立ちも出来ますぞ! よっと!」

アッサム「ちょっ! スカートですのよ!?」ワタワタ

西「あはは。冗談ですよ」

オレンジペコ「元気なのは相変わらずですね」アハハ



退院して知波単学園に戻ってから数日後、聖グロから練習試合の申し込みがあった。

新たな戦車を迎え、編成を変えた我がチームがどれほど成果を出せるか知りたかった。

あと、久しぶりにダージリンにも会いたかった。

だから二つ返事で承諾した。
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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 08:08:03.05 ID:xu4BL+Pa0<>

西「…あれ? ダージリンは?」

オレンジペコ「あっ…」

西「?」

アッサム「ダージリンは…その、休養中でして…」

西「えっ!?」

オレンジペコ「日頃の疲れが出て、体調を崩しちゃったみたいで…」

西「そ、そうなんですか…」シュン


西「でしたら、せめてお見舞いでも!」

アッサム「そ、それはなりません!」

西「え? どうしてですか!?」

アッサム「あなたも御存知の通り、ダージリンはプライドが高いのです」

アッサム「…だから弱ってる姿を見られることは、ダージリンにとって好ましくありません」

オレンジペコ「絹代様のお気持ちはわかりますが、私達も面会は控えておりますので…」

西「そうなんですか………」




ダージリンのことを聞いたとき、明らかに様子が変だった。

まるで、何かを隠しているような…。

結局、その隠し事が何なのか判明することなく、モヤモヤした状態で練習試合は行われた。

試合は我々知波単学園があっけなく勝利した。

私達が強くなったのか、ダージリン不在の聖グロが弱くなったのか。

何もわからなかった。何も得られなかった。

寂しい練習試合だった…。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 08:09:32.80 ID:xu4BL+Pa0<>

【試合後 西の病室にて】


西「これだけあると一度じゃ持っていけないなぁ…」ガサゴソ

西「食べ物は一旦冷蔵庫に入れて、先に衣類とかを持って帰るか」

西「うおっ、なんだこれ!? 重たいぞ?!」グヌヌ



私は退院してからも病院には何度か足を運んでいた。

順調に回復しているか、異常がないか検査をするからだ。

それと入院中にお見舞いに来て下さった方々に頂いた品が相当な量なので、一度に全部持って行けず何度も往復しなければならん。


皆が手伝うと言ってくれたが、私事を仲間たちに手伝わせるのも申し訳ないから一人でやることにしたのだ。
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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 08:11:08.84 ID:xu4BL+Pa0<>

オレンジペコ「あっ…」



西「ん?」

オレンジペコ「こ、こんにちは…絹代様」

西「おおペコ太郎! 先程の練習試合はありがとうございました」

オレンジペコ「その、こちらこそ…」ペコリ

西「あはは。お見舞いにも来て下さってありがとうございます」

オレンジペコ「いえいえ、どう致しまして」

西「ですが、御存知の通り、もう体はピンピンの健康体ですよ!」ピョンピョン

オレンジペコ「そ、そうですよね!」

西「うむ。これでいつでも戦車で突撃出来ますぞっ!」ハッハッハ

オレンジペコ「えへへ…」




なんだかペコ太郎の様子がおかしいな…。

というより、練習試合の時から聖グロの雰囲気がおかしい。

ダージリンもいなかったし、聖グロの皆さんもどこかよそよそしい。

何かあったのだろうか?

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 08:13:22.68 ID:xu4BL+Pa0<>
西「おや…顔色が優れませんな? 何かお困りごとですかな?」

オレンジペコ「い、いえ…。そういうわけでは…」

西「差し支えなければ私に悩みをお聞かせください」

オレンジペコ「………」

西「あ、でも言い辛い事でしたら、私でなくてもダージリンや他の先輩とかでも大丈夫です!」

西「溜め込んでいると心身に良くありません。…まぁ私が言えたことではありませんが」ハハハ

オレンジペコ「そう…ですよね…?」

西「ええ。無理は禁物です」

オレンジペコ「………」

西「…?」

オレンジペコ「………」

西「………」

オレンジペコ「………」


オレンジペコ「………………フゥ…」



しばらく無言の時間が続いて、決心したのかペコ太郎はようやく口を開いた。

そして、次の言葉が



































              私の逆鱗に触れた









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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 08:14:08.04 ID:xu4BL+Pa0<>





「ダージリン様は聖グロリアーナ女学院を退学されました」












 ぱりん



頭のなかで何かが割れる音がした。







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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 08:15:39.67 ID:xu4BL+Pa0<>

西「………は?」

オレンジペコ「あの、ですから…ダージリン様は退学を…」

西「はは。ペコ太郎も冗談を言うようになったんですね?」

オレンジペコ「いえ…冗談ではなくて…」

西「…」

オレンジペコ「…あ…あの…」



西「………で、どういうこと?」




オレンジペコ「ひっ!?」

西「教えてくれますか?」

オレンジペコ「…い…嫌ぁぁ……!!!」




この子は知らないかもしれないが。

ダージリンは退学したんじゃない。退学させられたんだ。

聖グロ一優秀なダージリンが理由もなく自ら退学を選ぶはずもない。

アイツらによって無理やり追放された。

考えれば考えるほど体の底からどす黒いものが溢れてくる。
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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 08:16:51.67 ID:xu4BL+Pa0<>

西「………」

オレンジペコ「ち、ちがう…わたし………」

西「…やっぱりいいです。帰ってください」

オレンジペコ「…で…も……」

西「帰って…」

オレンジペコ「…ぁ……ごめん…なさい……」

西「ごめんね、ペコ?」

オレンジペコ「………」



最低なことをした。

あろうことか、報告に来てくれたペコに怒りを向けてしまった。

そして「帰れ」と追い払ってしまった。


…でも、そうしなかったら彼女に暴言を吐き散らしていたかもしれない。

胸ぐらをつかんで怒鳴り散らしたかもしれない。

壁際にあった花瓶を彼女めがけて投げてたかもしれない。

本当に取り返しのつかない事をしてしまったかもしれない。


本当に…

<>
◆MY38Kbh4q6<>!red_res<>2017/04/30(日) 08:19:14.29 ID:xu4BL+Pa0<>
西「………そが」





「クソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああぁぁぁぁああああ!!!!」





犯人はわかってる!!

あいつらだ! あいつらがダージリンを葬った!!

何の苦労も知らない腑抜けな連中が! 誰よりも苦労して誰よりも頑張ったダージリンを突き落とした!!!



― 彼女もまた、聖グロの隊長としての"宿命"を背負っているの

― ええ。ダージリンもOG会に縛られているわ…

― 貴族たちの"機嫌"を損ねてしまった

― OG会の采配一つで隊長どころか学園からも追放することも出来るから



何がOG会だ!!!

他人の旨い汁啜ってブクブク肥え太った阿婆擦れの掃き溜めじゃないか!!

生まれてこの方何一つ苦労せず老いぼれてった阿婆擦れ共が苦労しか知らないダージリンに手をかけやがってッ!!


視界が赤くなっていく。

OG会がダージリンに接近する姿が脳裏に浮かぶ

退学を宣告されて青ざめるダージリンの顔が脳裏に浮かぶ

積み重ねてきたものを破壊されたダージリンの絶望感が頭から離れない!!

<>
◆MY38Kbh4q6<>!red_res<>2017/04/30(日) 08:20:13.44 ID:xu4BL+Pa0<>
「あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああァァァァァァァぁぁぁぁあぁああぁぁぁああああァァァァァァあぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああガがかカかがぁかがガぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!!!」



「ちょっと!なにやってるの!!誰か来て!!誰かぁぁ!!!」

「とにかく押さえろ!! 早くロープをもってこい!!」




どれだけ暴れてもゴボゴボと怒りが溢れてくる

どれだけ叫んでもダージリンの青褪めた顔が頭から離れない

どうしてダージリンが。ダージリンだけがこんな目にあわないといけないのだ


どんだけ叫んでも怒りが収まらない。

頭から必死に追い出そうとしても次から次へとその光景が捩じ込まれて記憶が蘇る。

頭がおかしくなりそうだ。



「クソったれがぁぁぁぁぁぁアァァァァァぁぁぁぁああああぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁあああぁァァァァァァぁぁああああ!!!!!!!」



「舌を噛んじまうぞ! 口に布を詰め込め!!」

「とにかくベッドへ! 早く縛り付けろ!!」

「こらっ! 暴れるな!!!」


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 08:22:11.47 ID:xu4BL+Pa0<>


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




西「………グ…ムグゥ…」

「…落ち着いたかしら?」

西「グゥ…ムグゥゥ…」

「ああ、ハイハイ。今取ってあげるわよ」スッ

西「ハァハァ………落ち着くわけないでしょう……というよりこれ解いて欲しいんですが」

「出来れば解きたくないんだよね。また暴れそうだから」

西「………」

「何しろあなた相当発狂してたから」

西「………」

「顔は真っ赤にして涙と鼻水でグチャグチャ。暴れ回ったせいで部屋は荒れ放題…」

西「………」

「最初見た時、悪霊に取り憑かれたのかと思ったほどよ?」

「あまりの奇行だったから、先生方が精神病棟へ移すべきかって話し合ってるわ」

西「………」

「何か嫌なことでもあったの?」

西「…嫌なこと過ぎて何もかもブチ壊したくなる気分ですね」

西「こんなに頭に来たのは生まれて初めてですよ」

「それ、他の先生に言わない方がいいわよ。間違いなく精神病棟へ送られるわ」

西「…」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 08:24:05.42 ID:xu4BL+Pa0<>

駆けつけた医師たちに押さえつけられ、そのまま束縛されて精神安定剤を打たれ、現在に至る。

どうやら精神科のお世話になるほど狂ってたらしい。

私は言葉通り怒りで我を忘れて暴れていた。

ダージリンが受けた仕打ちが、怒りが、苦痛が…私の脳に鮮明に映った。

当事者でもない私ですらここまで腸が煮えくり返る思いをするのだから、ダージリンは………。



しばらくして、精神科医が来てカウセリングを受けた。

原因を聞かれたのでありのままに答えた。

そうしたらもうしばらく入院しろという。冗談じゃない。

ダージリンが今も苦しんでいるのに、のんびり布団になんか入ってられるはずがない。

薬だけ貰えばあとは何とかすると言って入院だけは回避した。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 08:25:11.85 ID:xu4BL+Pa0<>

『はい』

西「お久しぶりです。西です」

『あら、お久しぶり。お元気でした?』

西「ええ。数人に押さえつけられるほど元気ですよ」

『…それはそれは元気そうで何よりですわね』フフ..



カウンセリングを終えたあと、電話をかけた。

入院中にお世話になった人で、ダージリンの事をよく知っている人だ。

あいにくダージリンの連絡先は知らないし、ペコにはさっき酷いことをしてしまった。

そうなると頼れるのはこの人しかいない。
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 08:26:28.74 ID:xu4BL+Pa0<>

西「それで、用件なのですが」

『ん? 何かしら?』

西「またアールグレイさんと一緒にお茶をしたいなぁ。と思いまして」

アールグレイ『あらあら。絹代さんから誘ってくれるなんて嬉しいわ』

アールグレイ『…でも、ごめんなさい。今は忙しくてしばらく予定を開けられそうにないの…』

西「そうですか。残念です」



西「一緒にダージリンのお話でもしようかと思いましたのに」



アールグレイ『………』



「首を横には振らせないぞ?」と言わんばかりにアールグレイさんにそう告げる。

このとき私は相当歪んだ顔をしていたに違いない。

ペコが小動物のように怯え上がるくらいに。


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 08:28:42.03 ID:xu4BL+Pa0<>
アールグレイ『…そうね。また時間がある時にでも』

西「それでは困るんですよ」

アールグレイ『あら、どうしてかしら?』

西「ちょっと急いでいるものでして」

アールグレイ『急いでる?』

西「ええ。あなたならご存知のはずです」

西「聖グロリアーナから退学者が出たことを」

アールグレイ『………』

西「………」



アールグレイ『それ、どこで聞いたの?』




西「直接お会いしてお話をしたいです」

アールグレイ『…わかりました。予定を空けましょう』



『退学者』と口にするや否や、アールグレイさんの雰囲気が変わった。

『なんでお前がそれを知ってるんだ?』と言わんばかりに。

彼女もまたダージリンの退学について何か知っているのだろう。

…いや、知らないはずがない。

なぜなら彼女はダージリンの育て親みたいなものだから。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 08:30:27.09 ID:xu4BL+Pa0<>

【数日後 とあるカフェにて】



西「お久しぶりです。アールグレイさん」

アールグレイ「ええ。無事退院できて良かったわ。少し痩せたかしら?」

西「そうかもしれませんね。これもアールグレイさん始め、聖グロの皆様のおかげです」

アールグレイ「ふふっ。お上手ね」

アールグレイ「…でも」


アールグレイ「入院してた頃とはずいぶん雰囲気が変わったわね?」


西「どうしたものか、ここ最近頭に血が上りやすくなったみたいで。カルシウム不足でしょうか。ははは」

アールグレイ「それはそれは。お互い健康でいたいものね」

西「…さて、本題に入りたいのですが」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 08:31:59.84 ID:xu4BL+Pa0<>
アールグレイ「その前に」

西「ん?」

アールグレイ「あなたがどこまで知ってるか、教えて下さらないかしら?」

西「ダージリンが、強制退学された。というところまで知っています」

アールグレイ「それは誰から?」

西「オレンジペコさんからです」

アールグレイ「………」

西「………」



少しの間沈黙が続いた。

アールグレイさんは言おうか言うまいか迷っているのだろう。


ダージリンのことはペコから聞いた。

練習試合の時は何も言わず語らずだったのに、あの時病院までやって来た。

そして私に打ち明けた。

本来なら身内の事であり、部外者である私に言うべきことではないはずなのに。

私がダージリンと親密な関係だったからだろうか。


それとも、これが意味することは………


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 08:33:44.12 ID:xu4BL+Pa0<>
アールグレイ「腸が煮えくり返る思いだったわ」



西「…!」

アールグレイ「OG会は私が手塩にかけて育てた後輩を切り捨てた」

アールグレイ「あろうことか根も葉もない噂をでっち上げて」

西「奇遇ですね。私も生きたまま腹を割かれ、内臓を引きずり出される気分でしたよ」

アールグレイ「そうね…まさにそんな感じ」



考えが整理される前にアールグレイさんが口を開く。

相当憤怒されたようだ。今まで見たことないくらい鋭い目をしている。

もっともそれは私も同じだろうけど。

知らない人が見たらこのまま殴り合いでも始めるんじゃないかと勘違いするほど、私達は殺気立っていたに違いない。

小洒落たカフェにはあまりにも似つかわしくない。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 08:35:37.45 ID:xu4BL+Pa0<>
西「彼女から話を聞いた次の瞬間には、その時その場の光景がぶわっと浮かび上がって」

西「他のことを考えて気を紛らわそうにも、ゴボゴボと怒りが溢れるばかりで」

西「だんだん視界が真っ赤になっていって」

西「気がついたら病院のベッドに縛られて、精神安定剤を打たれていました」

アールグレイ「そう…」


西「こんな私のような破落戸であれば切られるのはわかります」

西「しかし、何故、あなたも認める聖グロ一の優等生は切られたのですかね?」

アールグレイ「………その目、私に向けないでくれるかしら?」

西「えっ…?」

アールグレイ「私はあなたが考える"悪者"ではないことはご存知でしょう?」

西「? 失礼」

アールグレイ「牙は最後まで仕舞っておきなさい」



悪者…ダージリンを葬ったOG会のことだ。

アールグレイさんもまたOGの一人だが、連中とは別だと言いたいのだろう。

牙を向けたつもりなど一切無かったが、アールグレイさんに窘められた。

…私はそんなにも怖い顔をしているのか?


そういえばあの時、ペコにも怯えられた。

まるで暴漢にでも襲われたかのような顔をしていた。

顔に出ていたのかもしれない…。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 08:38:06.94 ID:xu4BL+Pa0<>

アールグレイ「ところで、精神安定剤がどうとか言ってたわね?」

西「ええ。それが何か?」

アールグレイ「もしも持っているのなら、今のうちに飲んだほうが良いわよ」

西「?」

アールグレイ「間違いなく、あなた発狂するわ」

西「!」



"あなた発狂するわ"


それは私を発狂させるには十分すぎるくらいの事実が待っていることを意味する…。

その言葉だけで既に発狂しそうなくらいだ。

言われるがままに精神科医から貰った薬を呷る。


しばらくすると薬が効いて気分が落ち着いてきた。

…というより、全ての事がもうどうでも良くなった。

あれほど怒り狂ったダージリンのことも、数錠の薬で興味を失ってしまう。

悲しいことだなぁとは思ったけれど、薬のせいで悲しくはならなかった。
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 08:39:48.97 ID:xu4BL+Pa0<>

アールグレイ「…そろそろ効いて来たかしら?」

西「ええ。先程までの苛立ちが嘘みたいです。薬って怖いですよね」

アールグレイ「…怒ってたからじゃなかったのね」

西「えっ?」

アールグレイ「何でもないわ。…薬を飲むのも程々にね?」

西「…話の続きをお願いします」

アールグレイ「…」

アールグレイ「それで、ダージリンの退学理由だけれども」




アールグレイ「"素行不良"よ」




西「素行不良? あのダージリンが?」

アールグレイ「そう」

西「あはは。まるでダージリンには当てはまりませんね」

アールグレイ「当然よ。あくまで"取って付けた"理由ですから」

西「つまり、退学の理由はこじつけで、他にあるということでしょうか?」

アールグレイ「ええ」


アールグレイ「ダージリンはOG会を敵に回し続けた」

アールグレイ「その結果、OG会による根回しでダージリンは学園を強制追放された」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 08:41:17.47 ID:xu4BL+Pa0<>
西「あなたは確か前に、ダージリンが"貴族の機嫌を損ねてしまった"と言いましたね?」

アールグレイ「ええ」

西「私が知る限り、『クロムウェル』という戦車を導入したことしか思い当たる節がありません」

西「それはOG会にとって、そこまで不快な出来事なのでしょうか?」

アールグレイ「確かにOG会の意に反する戦車の導入は、反感を買う結果となった」

アールグレイ「でも、それは些細なことで、今回の原因にはならないわ」

西「では何故?」

アールグレイ「OG会がダージリンを追放するための根拠は2つ」

西「…」

アールグレイ「一つは成績不振による隊長としての"信頼の喪失"」

アールグレイ「もう一つは頻繁に他校の生徒の元へ足を運ぶという"不純交遊"」

アールグレイ「この2つが聖グロの生徒として"不適切"と判断され、ダージリンは退学をさせられた」

西「…なるほど」

西「それってつまり、ダージリンが退学したのは」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 08:42:18.61 ID:xu4BL+Pa0<>















西「私が原因ってことですよね」















<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/04/30(日) 13:02:44.48 ID:OeVuKoiPO<> !! <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 17:17:07.88 ID:xu4BL+Pa0<>
アールグレイ「…」

西「成績不振…今行われている大会の初戦で、私が聖グロを打ち負かしたことでしょう。手も足も出ないほどに」

西「不純交遊、これは私の病室にダージリンが何度も寝泊まりしたことですね」

アールグレイ「そうね…」

西「結果として…それらが…私が…ダージリンを破滅に追い込んだ」

アールグレイ「…」


西「私が…ダージリンを………………」



俯いたら涙が出た。薬が効いているはずなのに。

だけどそれを拭おうとも思わなかった。

薬のせいでもうそんな気力も湧かない。



私がダージリンを潰した。



ダージリンは常に私を助けてくれたのに、私はダージリンを助けるどころか地獄へ突き落とした。

どれだけ泣こうが嘆こうが、ダージリンはもう聖グロにはいない。私のせいで。

それでも私は泣くことしか出来なかった。

薬で怒りは抑えられても、涙だけは止めてくれなかった。

泣いて全部帳消しに出来れば良いのに、私が懺悔すれば全部許してくれたら良いのに。

そして、アールグレイさんが、

冗談よ。全部ウソ。ダージリンは退学なんてしてないわ。

って言ってくれるのをずっと待ってた。


でも、とうとう何も言わなかった…。
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 17:18:53.35 ID:xu4BL+Pa0<>
アールグレイ「薬、効かなかったわね…」

西「………」

アールグレイ「…」スッ

西「………」

アールグレイ「ダージリンの現住所よ」

アールグレイ「もしもあなたに思うことがあるのなら、直接会って打ち明けなさい」

西「どうして…」

アールグレイ「その方があなたも彼女も多少は納得できるでしょう」


西「どうして…私を責めないのです………」


アールグレイ「…」

西「あなたが…大切に育てた人を葬ったのは…私なのに………」

アールグレイ「葬ったのはあなたじゃない。OG会よ」

西「その原因をつくたのは私です……」

西「もし私が逆の立場だったら…掴みかかって喉笛を噛み千切ってた…」

西「なのに……」

アールグレイ「私を人殺しにするつもりかしら?」

西「………」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 17:20:56.13 ID:xu4BL+Pa0<>
アールグレイ「あなたなら分かるでしょうけど、今のダージリンは全てを失ってしまったわ」

アールグレイ「だから、」


アールグレイ「"ダージリンが困った時は、どうか助けてやって下さい"」


西「……………私で…いいの……?」

アールグレイ「ええ。もうあなたしかいない」



悲しいお茶会は終わった。

泣き腫らした目で紙に書かれた住所を確認し、そこへ向かった。

距離はそこそこあったが、ウラヌス…愛車に跨がればあっという間だった。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 17:24:25.24 ID:xu4BL+Pa0<>
たどり着いたのはそこそこ大きな屋敷だった。

何も考えず、呼び鈴を鳴らすと女性が出てきた。格好からして家政婦だろうか。

私の顔を見て不審な顔をするので、挨拶と自己紹介をして、ダージリンに会いに来たという旨を伝えた。


しかしダージリンは面会を拒絶しているとのことだ。

ここにいるのかと尋ねたら、はいと答えたので、西が来たとお伝え下さいと言う。


しばらくすると、家政婦が戻ってきた。そして面会は出来ないと拒否される。

なので、ダージリンに会うまで帰らないと言ったら家政婦さんも観念したようで、ダージリンの部屋まで案内してくれた。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 17:31:59.48 ID:xu4BL+Pa0<>

【ダージリンの部屋】


西「お久しぶりです。絹代です」

西「ダージリン、いますか? 開けますよ?」



扉の向こうからの返事はない。

家政婦によると帰省して以降、ずっと閉じ籠もっているとのことだ。

となれば10日近くこの状態ということになる。

嫌な予感がしたので、扉の向こうからの答えを待たずに扉をこじ開けた。


ダージリンの部屋は聖グロのような英国風の絢爛豪華なものを想像していたが違った。

床に絨毯が敷いてあって、机があって、ベッドがあって、本棚があって…。

おそらく普通の女の子の部屋だろうと思うくらいにはシンプルだった。

それだけに"淑女"に憧れ聖グロに来たダージリンのことを想うと胸が痛い。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 17:41:55.94 ID:xu4BL+Pa0<>
ダージリン「………」

西「ダージリン……」


ダージリン「来ないで」


西「っ…」

ダージリン「何で来たの…」

西「ダージリンが退学したと聞いたので、居ても立ってもいられなくて…あはは」

ダージリン「………」

西「その、大丈夫ですか?」

ダージリン「余計なお世話よ………」

西「あはは…」



部屋には寝間着姿(ネグリジェと言うらしい)のダージリンがいた。

髪はボサボサで、光を失った目の下には隈ができている。

あまりのショックで満足に眠ることも出来なかったのだろう。

かつての凛々しいダージリンの面影は無く、別人かと思うくらい変わり果ててしまった。

無理もない。今まで積み重ねてきたものを一気に崩されたのだ。

そんな酷い仕打ちを受けてなお平静を保てる人間などまずいない。
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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 18:06:21.87 ID:xu4BL+Pa0<>
ダージリン「それに…私はもう"ダージリン"じゃない………」

西「それでは何と呼べばいいですか?」

ダージリン「呼ばなくていい。…さっさと出ていって」

西「…」

ダージリン「私はもう、あなたの思ってるような私じゃない」

ダージリン「…だから、私のことは放っといて」



ダージリンの視線は鋭利で、返ってくる言葉は冷たい。

入院中に一緒に過ごしたあの時間が嘘のように…。

あの時馬鹿な私に付き合ってくれた優しいダージリンは、今では"早く出ていけ"と目が語る。

いや、"お前のせいで私は全てを失ったのに、いけしゃあしゃあと来やがって"と言っているのかもしれない。

私のせいでダージリンは退学させられたのだから…。


ただ、不謹慎極まりないけど…まずは安心した。

何故ならダージリンは生きていたから。

あれだけ酷い仕打ちを受けたのだ。世を儚んで生命を絶つことだって十分考えられる。

もしもそんな事があったら………

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 18:09:20.33 ID:xu4BL+Pa0<>
西「ダージリンに生きて会えて良かったです」

ダージリン「何よそれ。意味がわからない…」

西「でも、あり得ない話でもない」

ダージリン「楽に死ねたら良いわね。いっそのこと」

西「ダージリンが死ぬなら、私も死のうと思います」

ダージリン「…好きにすれば?」

西「ええ」

ダージリン「………」



冗談を言ったつもりは一切ない。

もしも扉を開けて、ダージリンが"もういない"とわかったら、私も後を追いかけるつもりだった。

ダージリンのいない世界に未練なんかない。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 18:12:17.99 ID:xu4BL+Pa0<>
ダージリン「で、何の用?」

西「ダージリンに謝罪しに来ました」

ダージリン「…謝罪?」

西「私のせいでダージリンがこんな事になってしまったから」

ダージリン「入院してただけでしょ…」

西「それが"不純交遊"とみなされたと」

ダージリン「アールグレイ様ね。…余計なことを」

西「アールグレイさんもあなたの事を心配していました」

ダージリン「…」

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 18:14:58.93 ID:xu4BL+Pa0<>
ダージリン「………別に」

西「ん?」

ダージリン「別に、あなたは何も悪くない。…だから気にしなくて良い」

西「何故です?」

ダージリン「…いくら聖グロだからって、不純交遊があっても一度で退学は無い」

西「聖グロの校則はわかりません。しかしアールグレイさんはそのように…」

ダージリン「仮にそんなことがあっても、まず注意か停学」

西「…」

ダージリン「実際それで停学になった子を何人か見てきた」

ダージリン「…中には退学した子もいるけど」

ダージリン「だからといって即退学はあり得ない」

西「なら、成績優秀で聖グロの隊長を務めるダージリンなら尚更なはずです」

ダージリン「…」

西「…」












ダージリン「OG会の"私刑"よ」

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 18:17:38.90 ID:xu4BL+Pa0<>
西「…私刑?」

ダージリン「OG会は私を退学させたかったから退学させた。それだけ」

ダージリン「理由なんてどうでも良い」

西「…」

ダージリン「あの人達は私が気に食わなかった。だから、成績不振だの不純交遊だのと、理由を作った」

ダージリン「そして、強制的に追い出した」

西「…」

ダージリン「満足した?」

西「…」

ダージリン「私から話すことはもう無い。だからもう帰って」

西「…」

ダージリン「私のことなんてもう忘れて」


西「薬が効いてて助かりましたよ」


ダージリン「はぁ?」



…実を言うと、ダージリンのところへ行く前に、また精神安定剤を飲んだ。

そのおかげで、こうやってダージリンと"普通に"会話をすることが出来る。

でなければ変わり果てたダージリンを見て、冷たい眼差しと鋭利な言葉で串刺しになって、私はまた発狂した。



それ以前に、ここまで来ることが出来たか怪しい

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 18:19:40.84 ID:xu4BL+Pa0<>
西「薬がなかったら、この部屋が滅茶苦茶になるほど暴れ回ってたでしょうな」

ダージリン「発狂するなら他所でやって。迷惑だから」

西「聖グロの私刑に比べりゃ穏やかな方ですよ」

ダージリン「…」

西「虚偽の風説をばら撒いて」

西「意義を申し立てる間もなく退学・追放」

西「まるで恐怖政治ですね。あははは」

ダージリン「…酔ってるの?」

西「お酒じゃなく薬ですね。おかげでこうやって減らず口が叩けるんですよ。あはははは」

ダージリン「あっそう」

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 18:23:42.42 ID:xu4BL+Pa0<>
西「あはは。ペコからダージリンのことを聞いた直後」

西「まるで、自分がダージリンになったみたいに、頭の中でその光景が鮮明に再現されて」

西「頭がおかしくなるほど頭にきて」

西「気づいたらベッドに縛られてました。ははは」

ダージリン「………」

西「それで精神安定剤を処方されました。…今日はまだ2度目ですけど。あはは」

ダージリン「やめて」

西「ん?」

ダージリン「そんな薬飲まないで」

ダージリン「そして私のことなんてさっさと忘れて」

ダージリン「無関係なあなたにまで気遣われるのが一番迷惑」

西「…」

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 18:26:02.61 ID:xu4BL+Pa0<> ダージリン「これは私だけのことだからあなたは関係ない」

ダージリン「二度と私と関わろうなんて思わないで」

西「………」

ダージリン「私はもう聖グロの人間じゃない」

ダージリン「だからもうあなたと会うことも無い」

ダージリン「あなたは自分や仲間のことだけ考えていれば良い」

ダージリン「そうすればすぐに忘れられる」


西「あははは。無理ですよ無理」


ダージリン「…あんた、私を怒らせたいの?」



今までダージリンを怒らせたことなんて何度もあった。

デコピンされたり、引っ叩かれたり、ツネられたり。

土手っ腹に鉄拳を食らったこともあった。


だけど、今のダージリンは本当に怒った顔をしている。

いや、怒った顔というより、嫌悪や憎悪といったもので満たされた顔だ。

このまま何か言い続けたら手に持った花瓶を私めがけて投げつけるだろう。

当たったら痛いだろうな。きっと血が止まらなくなるだろう。

だけど、それでダージリンの鬱憤が少しでも晴れるのなら、私は構わない。


私はそのまま話を続けた。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 18:33:48.34 ID:xu4BL+Pa0<>
ダージリン「早く出て行け…!」

西「私が病院で押さえつけられた日から、アールグレイさんと会った今日まで」

西「ダージリンを苦しめた輩に対する怒りと、ダージリンの受けた苦痛が自分のモノとして同時に襲いかかってきて」

ダージリン「聞こえなかったの? 早く出て行けって」

西「頭の中すっちゃかめっちゃかになって、おかしくなりそうだったから」

西「結局薬を絶つことも、ダージリンを忘れることも出来ませんでした。あはははは」

ダージリン「………な、なによそれ…馬鹿じゃないの!?」


西「目を閉じればダージリンの苦痛が明瞭に再現されて、私が処刑されてるみたいに苦しくて」

西「薬を飲んで抑えようにも、数時間後には効き目が切れる」

西「そうするとまた…あはははは」

ダージリン「やめて」

西「寝て紛らわそうにも、夢の中にまで出て来るせいで思うように眠れなくて」

西「医者や看護婦、他の患者がOG会に見えてきて…」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 18:39:11.75 ID:xu4BL+Pa0<>
西「しまいには薬の副作用なのか体が震えだして」

西「ダージリン助けるつもりだったのに逆にダージリンを苦しめてたと知ったら」

西「とうとう薬が効かなくなってしまったんですよね。あはははは」

西「そしたらだんだん生きてるのが辛くなって」

ダージリン「やめて……」

西「早く死ななくっちゃって」

西「最低な人間をこの世から消せるって思ったんです」

西「だけどダージリンが苦しんでるのに私はまた逃げて」

西「最期まで屑だから。わたしは」

西「屑らしく見窄らしく死んで、それで償おうと」


ダージリン「…もう…やめて………」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/04/30(日) 18:44:21.27 ID:xu4BL+Pa0<>
西「あの時、ダージリンと一緒に食べたパイを切った包丁を探したのですが」

西「何処にも無かったんです」

西「きっと医者が撤去したんですね。私がパイにならないようにって」

西「ダージリンがくれたティーセットも割れたら破片が凶器になるから」

西「ダージリンと作ってたチャーチルのプラモデルも工具やランナーで目を突いてしまうって」

ダージリン「…やめてってば………」

西「死のうと思って使おうとしたものなんですが」

西「プラモデルも、ミートパイも、ティーセットも」

西「みんな、ダージリンと一緒に過ごした思い出だったんですよね」

西「…だけど、」




西「みんな取られちゃいました。あははははは」




ダージリン「………ッ…」





だけどもう涙も出なかった。

アールグレイさんの前であれだけ泣いたせいで。

そんな私の代わりにダージリンが涙を流す。私のせいで。

謝りに来たのに、謝るどころか余計にダージリンを困らせてる。

私はどれだけ迷惑な存在なんだろう。

<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/05/01(月) 10:42:46.96 ID:AllzuYxWO<> どうなるの? <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/01(月) 19:09:26.35 ID:zr6+Jmp/0<>
ダージリン「何よ…あなたまで不幸になっちゃったじゃない……」

西「ダージリンを不幸にした私のせいなので自業自得です」

西「私がいなければ、ダージリンがこんな目に合うこともなかった」

ダージリン「…私が…あなたの所に入り浸り過ぎたからよ……!」

西「私が入院しなければ…そうなることもなかった…」

ダージリン「違うッ!! どうしてわからないのよ!!!」

西「ははは…。わからずやです…さ、最低な人間…ですよね……あは、あはははは…」





ダージリン「あなた…手が震えてるわよ…?」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/01(月) 19:11:50.64 ID:zr6+Jmp/0<>
西「薬…切れちゃったみたいです…あはは…ははは……」

西「さ、最近…すぐ切れるようになったんですよね…あはははは」

ダージリン「いっ、一体どれだけ飲んでるのよ…!」

西「…ウラヌスに乗ってる時…運転中にダージリンのこと…考えたら…」

西「私が…ダージリンを…葬ったって…」

西「絶対……死にたくなるから………飲んで……あははは……」


フラッ

バタッ


ダージリン「っ!!」

西「…ぅぅ………」

ダージリン「ちょっと、しっかりしなさい!!」

西「…あはは…だいじょ…ぶ……ちょっと目眩がする…だけ……あははははは」

ダージリン「そんなわけないじゃない! 立てなくなるなんて異常よ!!」

西「…あはは……」ブルブル

ダージリン「と、とにかく、ベッドに入ってなさい!」

西「あははは………ダージリン…」

ダージリン「お医者様呼んでくるから待って!」

西「…ダージリン……」

ダージリン「いい? 絶対に大人しくしてるのよ?!」









西「……ダージリン……………」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/01(月) 19:13:56.74 ID:zr6+Jmp/0<>
ダージリン「な、なに?!」

西「………ふるえ……とまるまでで…いい………」

ダージリン「えっ…?」

西「…ごめん…なんでもない……………」

ダージリン「………」

ダージリン「…わかったわよ。お言葉に甘えてここ居させて頂くわ。…だから…」



ダージリン「だから……泣かないで…お願い………」



西「……ありがと…………」ツー

ダージリン「………ばか…」




悲しくて、寂しくて、情けなくて…

薬の効果が切れるにつれて色んなものが頭の中に入り込もうとする。

ダージリンが退学になったこと

その退学の原因が自分にあること

私のせいでダージリンが苦しんだこと

ダージリンの冷たい視線を浴びたこと


体は震えるし頭は殴られたようにガンガンする。

もう出ないと思ってたのにまた涙は止まらなくなるし…。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/01(月) 19:16:54.37 ID:zr6+Jmp/0<>
〜〜〜


西「…わたし…最低だ………」

ダージリン「どうして?」

西「…ダージリンに謝って…助けるために来たのに…」

西「また…ダージリン困らせちゃった………」

ダージリン「…大丈夫よ。あなたのお陰で私も幾分か気が楽になったから」

西「そんなんじゃ…駄目だよ…」

ダージリン「えっ?」

西「ずっと頑張ったのに…退学になったら…」

西「何のために今まで頑張って来たのかわかんない……」

ダージリン「!!!」

西「……皆に火の粉が降りかかるの嫌だから…全部一人で背負ったのに…」

西「OG会の仕打ちも…全部耐えてきたのに…」

西「ずっと…嫌なこと我慢して…頑張ってきたのに………………」ツー

ダージリン「なんで……」




ダージリン「なんであなたが知ってるのよ………!」



西「………」

ダージリン「…アッサムにも…ペコにも言ってない…誰も知らないはずなのに………」

西「わかるよ…ダージリンのことだもん…」

西「そうじゃなきゃ…こんな薬飲まない………」

ダージリン「………ばか…」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/01(月) 19:18:39.99 ID:zr6+Jmp/0<>

戦車道を廃止にするという宣告を受けてから、私は結果を残すために死に物狂いだった。

だから、私の戦車道は今もまだ続いている。

…でも、同じように、血の滲むような努力をして隊長まで上り詰めたダージリンは


何もかも失った。


それが許せなかった。

誰も知らないところで、誰よりも苦労を重ねたダージリンが、誰よりも酷い仕打ちを受けた。


安全面に考慮された戦車道で人が死ぬことはまずない。

だけど…

隊長を降格させられ

ありもしない噂をばら撒かれ

そして抗議する時間も与えられず学園から追放され

聖グロリアーナ女学院の隊長としてのダージリンは"抹殺"された。


その事実はどれだけ発狂しても泣き叫んでも、もう私の頭から消えそうにない。
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/01(月) 19:20:35.27 ID:zr6+Jmp/0<>
西「…ごめん…ダージリン…」

ダージリン「……別に良いわよ」

西「…」

ダージリン「他の学校を探せばいいだけのこと…」

西「…」

ダージリン「学校が駄目なら就職すればいい」

ダージリン「アルバイトとかならきっと何処かが雇ってくださるはず」

ダージリン「あわよくば誰かのところに嫁ぐって道もあるかもしれないわね」

西「…っ……」

ダージリン「だから、あなたが心配することなんて何もないわよ」

西「………」ツー

ダージリン「…どうして泣くのよ」

西「…そうなると……ダージリンとはお別れなんだなぁ…って………」

ダージリン「大袈裟ね。今生の別れじゃあるまい」フキフキ

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/01(月) 19:28:28.53 ID:zr6+Jmp/0<>

〜〜〜


西「…ハァ……」

ダージリン「…落ち着いた?」

西「…多少は………ごめん……」

ダージリン「そう…。飲み物でも持ってくるわ」

西「ダージリンは大丈夫なの…?」

ダージリン「ええ。…完璧ってわけじゃないけれど」

ダージリン「でも、あなたのお陰でだいぶ楽になった」

ダージリン「ありがとう。絹代さん」

西「…そっか……」

ダージリン「すぐ戻ってくるから首吊ったり舌噛んだりしないでよ?」

西「………」

ダージリン「約束破ったら地獄の果てまで追いかけ回すわよ?」

西「…」

ダージリン「それが嫌なら大人しく待ってなさい」

西「…ダージリンがいるなら……地獄でも良いかな…って…あは、あははははは」

ダージリン「馬鹿なこと言わないで頂戴!!」

西「…ごめん。ダージリン………………」

ダージリン「………!」



その約束、きっと守れない。

あんなにズタズタにされた上に、今ダージリンがいなくなったら…。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/01(月) 19:36:36.67 ID:zr6+Jmp/0<>

ダージリン「…あなたが馬鹿なことを事を考えるならば、私も手段は選ばないわ」

西「…!」

ダージリン「ほら、手。後ろに回しなさい」

西「…」

ダージリン「…悪く思わないで頂戴。あなたが死んだら困るの」

西「…」

ダージリン「こうでもしないと心配なのよ…」

西「………」



また手足を縛られた。窓から飛び降りないようにと。

口には布を詰められ、その上からテープを貼られた。舌を噛み千切るからって。

だから返事をすることも出来ない。病院のときと同じ。


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/01(月) 19:38:28.70 ID:zr6+Jmp/0<>
西「…」ツー...

ダージリン「ほら、泣かないの」フキフキ

西「…」

ダージリン「私が戻ってくるまで、大人しくしてるのよ?」

西「…」

ダージリン「安心して。私にそういう趣味は無いわ。戻ったらちゃんと解いてあげる」

西「………」



そう言い残して、ダージリンは部屋を出た。

部屋の外では家政婦の喜ぶ声が聞こえる。

なにしろ何日も部屋に引きこもっていた人が部屋から出て来たのだから。

あんな残酷な仕打ちを受けたのに、それでも復帰できるダージリンはすごい。


それに比べて私は…
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/01(月) 19:40:48.73 ID:zr6+Jmp/0<>
西「…っ! っぐぅぅ!!」



薬が切れてくるにつれて、また頭の中に様々なものが押し掛けて来た。

様々な光景が頭の隙間に押し込まれ流し込まれ、グチャグチャと汚物をかき混ぜるように、次から次へとフラッシュバックして襲い掛かってくる。

これ以上入り込む隙間なんてないのに、僅かな隙間をこじ開けようと生々しい記憶が蘇る。

副作用のせいで体は震えるし、頭もガンガンする。


腸が煮えくり返って

辛くて

悲しくて

寂しくて


そして………

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/01(月) 19:42:05.53 ID:zr6+Jmp/0<>
ガチャ

ダージリン「お待たせ。絹代さん」

コトッ

ダージリン「…絹代さん?」


西「………」

ダージリン「…?」

西「………」

ダージリン「絹代さん!!?」ガタッ

西「…ムグ……」

ダージリン「…ビックリさせないでよ………」

西「……ッグゥゥ…」

ダージリン「大丈夫? 今解くから動かないで」

シュルシュル

パサッ

西「…ハァ……ハァ……」

ダージリン「ほら、飲み物持ってきたら」

西「…ありがと……」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/01(月) 19:44:44.36 ID:zr6+Jmp/0<>
西「……っぅぅ…」ズキズキ

ダージリン「大丈夫…?」

西「…だ、大丈夫……薬が切れるといつもこうなるから…あははは………」

ダージリン「お医者様呼ばなくても平気?」

西「あはは…しばらくすれば…収まり…」

ダージリン「そうなの…?」

西「…うん……」

ダージリン「…もうあの薬は飲んじゃ駄目よ?」

西「………」

ダージリン「聞こえた?」

西「…善処…します」

ダージリン「善処じゃだめ。絶対」

西「…頑張る」

ダージリン「もう…」

西「…」



私だってこんな苦い薬、好きで飲んでいるわけじゃない。

こんな不味いものよりダージリンが淹れる紅茶が飲みたい。

入院中に何度もダージリンが淹れてくれた優しい味の紅茶は今でも忘れない。

それが叶わなくなったから、飲まなきゃいけなくなった…。
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/01(月) 19:48:09.57 ID:zr6+Jmp/0<>

ダージリン「そっち行ってもいい?」


西「!! …だ…だめ!」

ダージリン「どうして?」

西「来ちゃだめ…」

ダージリン「理由は?」

西「だめ…だから……」

ダージリン「何か隠してるの?」

西「違う…」

ダージリン「なら良いじゃない」

ダージリン「寒いから私もベッドに入りたいのよ」

西「だ、だめ…」

ダージリン「だからどうして」

西「だめ…だから……」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/01(月) 19:51:21.71 ID:zr6+Jmp/0<>

ダージリン「私の部屋で私のベッドなのよ? あなたがどうこういう権限は無いわよ」

西「副作用…薬の…」

ダージリン「だったら尚更よ。…体、寒いんでしょう?」

西「違う…」

ダージリン「じゃぁ何よ…?」

西「さっきまで…抑えてたものが色々頭にめり込んで来て…」

ダージリン「ええ」

西「その………」

西「………」

ダージリン「また歯切れが悪い…。ハッキリ言って頂戴」

西「…頭のなかに……ダージリンが…その…一杯になって…」

ダージリン「!」

西「えっと………」

ダージリン「…」























    「………優しく…抱きしめて欲しいなぁ…って………」


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 09:00:52.72 ID:c6dL2CBJ0<>
ダージリン「…」

西「…」

ダージリン「………」

西「…ごめん………」

ダージリン「…」

西「…薬の…副作用だから…気にしないで………」

ダージリン「………」








ダージリン「…良いわよ」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 09:02:32.03 ID:c6dL2CBJ0<>
西「…え…あっ……!」

ダージリン「入るから。もっと奥へ行って頂戴」

西「だ…だめ………」

ダージリン「なに?」

西「また…ダージリンを不幸にする……」

ダージリン「何を今さら」

西「でも…」

ダージリン「…こんなに震えちゃってるじゃない」


西「!!!!」



生まれて初めて家族以外の人に抱きしめられた。


真っ黒になったコーヒーにミルクが注がれていくように、汚いものが浄化されていく錯覚がした。

頭に隙間さえあれば容赦なくねじ込まれた辛いもの、悲しいもの、苦しいもの

そういったものから解放されていく気がした…


ダージリンの腕の中は優しくて、暖かくて、安心できる

そんな場所だった…

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 09:03:51.74 ID:c6dL2CBJ0<>
西「…こわかった」

ダージリン「ん?」

西「ダージリンに…あんな冷たい目で………」

ダージリン「…ごめんなさい」

西「…うん……」

ダージリン「でも…」

西「…?」

ダージリン「あの時、絹代さんがあのまま帰っちゃったら…」

西「うん…」











ダージリン「もう未練なかった」











それはきっと私も同じだと思う。

あの時は薬の効果が残っていたから平気だったけど、あのまま帰って薬が切れたら。

私はきっとこの世にはいなかったと思う。

そう考えると最悪の事態を回避することができたのかもしれない。

ダージリンの腕の中で少しだけ安堵した。


………だけど、

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 09:05:23.86 ID:c6dL2CBJ0<>
ダージリン「ふふっ。温かいわね絹代さん」

西「…あの、ダージリン…?」

ダージリン「なぁに、絹代さん?」

西「わたし…ガマンするから…」

ダージリン「ダメ。そうやって自分を追い詰めるのだから」

西「違う…」

ダージリン「じゃぁ何?」

西「その…少しの間…我慢するから…」

ダージリン「ええ?」





西「………お風呂…入ろ?」





ダージリン「………」

西「………」

ダージリン「………」

西「………ごめん」



色々張り詰めたものが解けたら、今度は別のものが気になりだした…。


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 09:06:57.98 ID:c6dL2CBJ0<>

【バスルーム】


シャァァァァァァ

ダージリン「………」ゴシゴシ

西「………」

ダージリン「………」ガシャガシャ

西「…あの…ダージリン…?」

ダージリン「………何」ガシガシ

西「…怒ってる?」

ダージリン「別に」ワシャワシャ

西「怒ってる…」

ダージリン「どうせ私は不潔な女よ…」

西「その…誰だって何日も風呂に入らなければ不潔になります…」

ダージリン「ええ。なにしろ"抱いて"って言われた相手に」

ダージリン「"汚いから風呂入れ"なんて言われたのだから」

西「ごめん…」シュン

ダージリン「…」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 09:08:44.36 ID:c6dL2CBJ0<>
西「その…私は不衛生なダージリンも悪くないって思う…けど………?」

ダージリン「不衛生って言わないでッ!!」

西「ご、ごめん…」

西「でも…やっぱり、ダージリンは綺麗な方が良いかなぁ…って」

ダージリン「そうね。きっと何処かに"綺麗なダージリン"がいるから探したらいかが?」

西「むぅ…」


ダージリン「………でも、感謝しているわよ」

西「えっ?」

ダージリン「あなたのお陰でお風呂に入るくらいは元気になれたのだから」

西「!」

ダージリン「…ありがと」

西「お礼を言わなきゃいけないのは私の方です」

ダージリン「どうして?」


そう。

本当にお礼を言わなきゃいけないのは私の方。

大洗戦のとき、入院してからの日々、そして今。

私はずっとダージリンに助けられて生きてきた。

もしもあの時ダージリンがいなかったらと思うと…。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 09:11:54.78 ID:c6dL2CBJ0<>
ダージリン「………そう」

西「…」

ダージリン「なぜ私がそうしたか、今ならわかるでしょう?」

西「ええ。やっと謎が解けましたよ」




西「ダージリンも私と同じだったんですね」




ダージリン「不思議だった。悩みなんてまるで無さそうなあなたが、まさか私に近い存在だったなんて」

西「私も同じ考えです」

ダージリン「そう?」

西「ええ。全然正反対な性格なのに、同じ立場で同じ考えだったなんて」

ダージリン「そうね…」



たまたま一緒にいる時間が長かったからそう思えただけで、私ではなく他校の隊長でも同じなのかもしれない。


一隊長として、自分や仲間の道を守るために命をかけて闘った。

隊長であるが故に孤独だった。


もちろん私もダージリンも『仲間』がいないわけではない。

しかし、『隊長』という立場は同じ『隊長』でないと理解できない。

常に先頭に立たされるプレッシャー

降りかかる火の粉から仲間を守る責任

隊長となったその日から、隊長としての苦悩を抱えて生きてきた。

誰にも相談できず、誰にも理解されない隊長にしかわからない苦悩を抱えて。


そんな孤独な二人があのとき出会った。
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 09:13:03.86 ID:c6dL2CBJ0<>
ダージリン「…というか何であなたまでお風呂にいるのよ」

西「…それ、今さら言いますか」

ダージリン「すけべ」

西「どうせダージリンのことで頭が一杯になって切なくなるドスケベ女ですよ私は」

ダージリン「…」

西「ダージリンに抱かれた時に体が"準備"出来ちゃったぐらいですし」

ダージリン「ち、ちょっと…!」

西「何なら今ここで自慰でもすれば良いですか?」

ダージリン「やめなさい!」



入院中はダージリンのお誘いに戸惑っていた私なのに、今は何も考えずにそのまま一緒に風呂に入った。

浴槽でカミソリを使って腕を切ってしまわないか

シャワーのホースで首を吊らないか

ダージリンが私のことを心配するように、私もダージリンのことが心配で仕方なかった。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 09:13:48.63 ID:c6dL2CBJ0<>
チャプ...

ダージリン「ほら、お馬鹿なこと言ってないでもっと奥へ行って頂戴。私が入れないわ」ギュッ

西「…どうして私にしがみつくんです?」

ダージリン「……その方が温かいからよ」

西「湯船に浸かれば温まりますよ?」

ダージリン「…心がってこと」

西「………」

ダージリン「…どこ見てるのよ助平」

西「む…」



湯船に浸かりながらダージリンに抱きしめられた。

ダージリンの言う通り、身体だけでなく、心まで温まっていく…。

あれ以来ずっと灰色だった世界に、少しずつ色が戻っていくような気がした。

ずっとこのままでいたい。何も考えずに………。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 09:15:41.09 ID:c6dL2CBJ0<>


ダージリン「…それにしても」

西「…ん?」

ダージリン「変わったわね…あなた」

西「変わった?」

ダージリン「垢抜けたというか…落ち着いたというか…何と言えばいいのかしら」

西「落ち着いた? 発狂しまくって情緒不安定な薬物中毒者なのに?」

ダージリン「そんなこと言わないで頂戴。…その、幼さが無くなったというか…上手く説明できないけれど…あっ!」

西「?」


ダージリン「そう! 眼力よ!」


西「がんりき…?」

ダージリン「今のあなたの目つき、昔に比べかなり鋭くなったわ」

西「…そうですか?」

ダージリン「誰かに言われなかった?」

西「…確かに。色んな人に言われましたね」

ダージリン「そうでしょう」

西「看護婦さんには"悪霊に取り憑かれた"なんて言われるし、」

西「アールグレイさんには"私に牙を向くな"と怒られ」

西「ペコ太郎に至っては、小動物みたいに怯えられて」

西「あと、先ほど家政婦さんにもかなり警戒されましたよ」

ダージリン「最初のは違うと思うけど…」

西「けれど、尽く怯えられたり警戒されたりしました」

西「ただ目を合わせただけなのに…」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 09:17:41.56 ID:c6dL2CBJ0<>
ダージリン「でしょうね。昔のあなたを知る人ならその"眼力"に皆驚くわよ」

西「私、そんなに怖いです?」

ダージリン「別に?」

西「…本当?」

ダージリン「ええ。普通の絹代さんよ」

ダージリン「私はあなたを知っているからね」

西「…そう言ってくれるのはダージリンだけです」シンミリ

ダージリン「けれども、事情を知らない人はあなたの目を見たら驚くでしょうね」

西「…」ブクブク

ダージリン「ショック?」

西「そりゃぁショックですよ。色んな人に怯えられたのですから…」

ダージリン「間抜け面するよりも貫禄が出て隊長らしくなったと思えば良いのよ」

西「以前は間抜け面だったんですか…?」

ダージリン「物の例えよ。…あとは」

西「?」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 09:19:07.07 ID:c6dL2CBJ0<>
ダージリン「…少し、色っぽくなった?」


西「え…」

ダージリン「子供っぽさが抜けて、少しだけ"大人の女性"って雰囲気がするのよ」

西「…大人の女性?」

ダージリン「独りでバーでお酒を飲んでる人のような?」

西「また小難しいことを仰りますね…」

ダージリン「だって本当ですもの。私が知る限り、今のあなたが同年代の中で一番大人びた顔をしているわよ」

西「それって単純にやつれて老けただけなんじゃ…」

ダージリン「そうなのかしら…」



あの時は本当に頭がどうかなってしまうんじゃないかというくらい怒りが爆発した。

その後遺症なのだろうか、顔や目に"それ"が出るようになったのかもしれない。

ダージリンは"眼力"だの"垢抜けた"だの"大人っぽくなった"と言うが、要はやつれて人相が悪くなっただけだろう。

知波単の皆やお世話になった人たちにはどんな顔して会いに行けばいいのだろうか。

玉田や細見はともかく、福田に泣かれないか心配だ…。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 09:20:40.02 ID:c6dL2CBJ0<>

ダージリン「…ところであなた学校は?」

西「えっ?」

ダージリン「今日は平日なのよ?」

西「あっ!」

ダージリン「ハァ…」

西「ダージリンの事で頭いっぱいで学校どころじゃなかったので…」

ダージリン「それはどうも。でもこんな格言を知っている?」

西「知らないです」

ダージリン「まだ何も言ってないわよ。…"日々、私たちが過ごしている日常は、実は奇跡の連続なのかもしれない"」

西「やっぱり知らないです」

ダージリン「あなたが当たり前のように学校に通えるのは、別の人にとっては奇跡のようなもの」

西「…」

ダージリン「その"当たり前"は大切になさい」

西「はい…」



今までダージリンから聞いた、どんな格言や名言よりも心に重くのしかかる。

私にとっての何気ない日常は、ダージリンにとってもはや奇跡になってしまったから…。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 09:22:13.73 ID:c6dL2CBJ0<>
西「そういうダージリンは大丈夫なのですか?」

ダージリン「ええ、おかげ様で。私の分まで悲しんで発狂してくれた人がいますもの」

ダージリン「いや、私以上かもしれないわね…」

西「…」

ダージリン「どちらにせよ驚いたわ。私が思ってた事抱えてた事を全部をあなたが言うのだから…」

西「あはは。自分でも不思議です。こうまでもダージリンの思いが頭に浮かぶなんて」

ダージリン「…」

西「?」

ダージリン「それなら、今私が何考えてるか、わかるかしら?」

西「………"ラーメン食べたい"とか?」

ダージリン「そんなわけないでしょ…」ハァ...

西「じゃぁ…"カレーが食べたい"とか?」

ダージリン「食べ物以外の候補はないのかしら…」

西「だってカレーもラーメンも食べたいですし」

ダージリン「それはあなたの考えでしょう」

西「あ、そうですね」

ダージリン「まったくもう」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 09:23:12.55 ID:c6dL2CBJ0<>
西「まぁ、明日から頑張りますよ」

ダージリン「そう…」

西「ダージリンこそ、ゲーム廃人になったり、匿名掲示板でドヤ顔で格言を投稿したりしないで下さいよ?」

西「特にダージリンの場合、すぐに特定されそうd 熱ッ!」

ダージリン「余計なお世話よ」

西「ドライヤーこっち向けないで…」

ダージリン「髪の毛。乾かすでしょう?」

西「乾かすにしてもそんなに密着させません」



ダージリンが元気になるにつれて、私も少しずつ回復していくような気がした。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 09:26:03.53 ID:c6dL2CBJ0<>
ダージリン「ふぅ。さっぱりした」

西「さすがに10日ちかく風呂に入らなければそうなりますよね」

ダージリン「ええ。お風呂に入る気力すら無かったわね…」

西「………きったない」

ツネッ

西「痛っ!」

ダージリン「私の気持ちがわかるのなら想像つくでしょう」

西「…まぁ」



私は精神科の先生方にお世話になったお陰で、食事もとれたし風呂にも入れた。

しかし、そうでなければきっとダージリンのように虚無感に支配されて何もすることが出来なかったはず。
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 09:27:40.84 ID:c6dL2CBJ0<>

【再び ダージリンの部屋】


チュン チュン...


ダージリン「頭が痛くなるほど眩しいわね」

西「そういえば今日は晴れてましたね」

ダージリン「外にいたのに気付かなかったの?」

西「ええ。薬のおかげで視界は灰色だったので」

ダージリン「…副作用、大丈夫なの?」

西「気づいたら手の震えが無くなってますね」

ダージリン「そう。良かった…」

西「ご心配おかけしました」

ダージリン「…もうあの薬は飲んじゃ駄目よ?」

西「善処します」

ダージリン「だから善処じゃなく絶対」

西「ダージリンがちゃんと生活してくれるなら、薬でも何でも断ちますよ」

ダージリン「わかりましたわ…」ハァ...



実を言うと、まだ寒気がするし頭痛もする。薬物依存はそう簡単には消えてはくれない。

でも、これ以上ダージリンに迷惑をかけたくないから強がりを言った。

しばらくは苦しいだろうけど、ダージリンが元に戻ってくれるなら私はきっと耐えられる。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 09:29:47.67 ID:c6dL2CBJ0<>
ダージリン「」ファァ..

西「お、ダージリンがあくびしてる」

ダージリン「…いけないかしら?」

西「なんだか珍しいなぁって」

ダージリン「私だって人間ですもの。あくびの一つくらいするわよ」

西「そうですよね。あくびもするし鼻もほじr <ツネッ!!> 痛っ!」

ダージリン「前言撤回するわ。あなたは昔のまま変わらずおバカよ」

西「むぅ…」


ダージリン「…ほら、こっちおいで」

西「お邪魔します」モゾモゾ

ダージリン「はいはい。甘えん坊さん」

西「…」クンクン

ダージリン「…くさくないわよ」ギロッ

西「ええ。石鹸の香りがします。きったないダージリンじゃ無くなって一安心です」クンクン

ダージリン「きったないって言わないで頂戴」

西「はーい」

ダージリン「…全く」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 09:31:10.29 ID:c6dL2CBJ0<>
西「…」クンクン

ダージリン「で、どうしていつまでも匂い嗅いでるのよ…」

西「あはは。ダージリンの匂いが好きだからです」フスーフスー

ダージリン「もう…」キュッ

西「鼻づままないで下さい。窒息します」

ダージリン「口で呼吸できるでしょう」

西「む…」



ベッドの中にダージリンと私が向かい合って寝転がっている。

本来は一人用のベッドなので、そこそこ詰めているわけだ。

だからダージリンとの距離が近い。

ちょっと手を伸ばせばダージリンの顔に触れる。


でも、それでも遠く感じた…



ダージリン「………なに?」

西「いや、」

ダージリン「…?」

西「…もっとそっちに行っていいですか?」

ダージリン「どうぞ…?」



さっきより、ダージリンとの距離は近くなった。

だけど、あまり変わらない。
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 09:32:39.56 ID:c6dL2CBJ0<>
ダージリン「何よさっきから…」

西「あはは。…何でもないです」

ダージリン「…」

西「…」グイッ

ダージリン「ちょっ…!」



ダージリンの肩を掴んで、こちらへ引き寄せた。

ダージリンの顔がまさに"目と鼻の先"にある。

呼吸が顔に当たるくらい近い



ダージリン「…なに………」

西「………」


ここまでやってもダージリンは私を拒否しなかった。

ダージリンが遠ざかることはないけど、結局近づくことはなかった。

でも、もっと近づかないと、もう近づけないような気がした。

だから…
















良いよね? ダージリン。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 09:33:48.78 ID:c6dL2CBJ0<>
ダージリン「!!!」

西「…」







    この日、私とダージリンは繋がった。










格下を相手に優越感に浸るダージリンの顔

ドヤ顔で格言を語るダージリンの顔

馬鹿やった私を引っ叩く時のダージリンの顔

誰も信じられず、拒絶するときのダージリンの顔

悲しくて涙を流すダージリンの顔


いろんなダージリンの顔を私は見てきた。

中には私だけしか知らない顔もあって、私も知らない顔もあるかもしれない。

だけど、今のダージリンの顔は・・・・






ダージリン「………ばか…」








私が心の底から愛するダージリンの顔でした。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 09:36:07.62 ID:c6dL2CBJ0<>

西「ごめんなさい。好きです」

ダージリン「………なんで謝るのよ」

西「その、好きになっちゃった…から」

ダージリン「…ばか」

西「もう一回、してもいいですか?」

ダージリン「…」




ダージリンの返答を待たずにもう一度した。

ダージリンはぎゅっと目を瞑るが、私を突き飛ばしたりすることはなかった。

でも、すればするほど寂しくなるから、唇がふやけるんじゃないかってくらい、何度も何度もした。



西「ダージリンは…私の事どう思ってます…?」

ダージリン「………私で良いの?」

西「ん?」

ダージリン「本当に良いの…? 私なんかで…」

西「ダージリンじゃなきゃ嫌です」

ダージリン「ありがと…絹代さん…」




〜〜〜〜

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 09:37:19.64 ID:c6dL2CBJ0<>


ダージリン「…久しぶりにぐっすり眠れそうね」

西「今寝たら昼夜逆転しますよ」

ダージリン「いいのよ。細かいことは気にしない」

ダージリン「それに、あなたも寝不足でしょう?」

西「私は別に」

ダージリン「ウソおっしゃい。目の下に隈が出来てるわ」

西「…」

ダージリン「私が言えたことじゃないけど、寝不足はお肌の敵よ」

西「まぁ、眠れない日々が続いたわけですからね」

ダージリン「そうでしょうけど…」

西「なのでお言葉に甘えてぐっすり寝ます。ダージリン抱き枕にして」

ダージリン「はいはい。おやすみ絹代さん」

西「んっ…!」

ダージリン「ふふっ」

西「…おやすみなさい。ダージリン」



こうして私は、抱いて抱かれて眠りについた。

ベッドのシーツも私達が入浴中に家政婦さんたちが取り替えてくれたおかげでフカフカになっている。

本当に久しぶりに安らかに眠ることができた。きっとダージリンも同じだろう。


…ダージリンにキスされたので顔が熱い。

<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<><>2017/05/02(火) 10:50:20.30 ID:rDjyMuhw0<> ふう <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 11:44:21.28 ID:c6dL2CBJ0<>
西「…ぅ…ん」

西「…ここどこ……?」

ギュッ

西「…ん?」

ダージリン「…フスー…フスー…」zzz

西「っ?! …あ、あ…そっか…」

ダージリン「………んぅ…?」ネボケー



よほど疲弊していたのだろう。私もダージリンも翌日の朝まで眠りこけた。

中途半端な時間に目が冷めて昼夜逆転するよりかは良いが、時計を見て一瞬戸惑った。

あれだけ苦しかったものも1日ぐっすり寝るだけで幾分回復するのだから何とも複雑な気分だった。

…まぁ"ぐっすり寝る"という行為自体が難しいんだけどね。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 11:45:38.58 ID:c6dL2CBJ0<>
西「おはようございます。ダージリン」

ダージリン「…んぅ…お早うございますのぉ…」ネボケー

西「はは。相変わらずですね」

ダージリン「かわず…何を買うの…?」ポケー

西「いえ、相変わらずですよ」

ダージリン「そう…まだ明るいわね…??」

西「ええ。朝の8時です」

ダージリン「そう…」

西「…」

ダージリン「…」



ダージリン「8時ですって?!」ガバッ



西「わっ!」



このやり取りは入院中に何度もやったなぁ。

つい最近の出来事なのに懐かしく感じてしまう。
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 11:49:00.76 ID:c6dL2CBJ0<>
西「改めてお早うございますダージリン」

ダージリン「…ん…おはよう絹代さん」


さっそくおはようのチューをする。

あはは。まるで新婚さんの気分だ。

このままダージリンに抱きついたまま過ごしたかったけど、お腹が鳴り出したので朝ごはんを食べることにした。

朝食は家政婦さんが用意してくれたようで、トーストやハムエッグといった物が出てきた。

そういえばダージリンのご家族は見かけないけど、どうしているのだろう?

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 11:53:13.75 ID:c6dL2CBJ0<>

朝食後はダージリンを後ろに乗せてウラヌスでドライブに出かけた。

騒がしい都会を離れて

小鳥のさえずりが聞こえる山道を走って

浜風が気持ちいい海沿いの道を通過して…

どこまでもどこまでもダージリンと一緒に走り続けた。


〜〜


途中で駄菓子屋を見つけたので、ダージリンにベーゴマのやり方を伝授した。

ラムネを飲んだことがないと言うので一緒に飲んだ。

酸っぱそうにカリカリ梅を食べるダージリンの顔が微笑ましかった。


〜〜


またしばらく走っていると大きな公園があったので一休みした。

休日だから子供がお父さんとキャッチボールやってたり、老夫婦が仲良く歩いていた。

私も髪の毛が白くなってもダージリンと一緒に歩けたらいいなと思った。


〜〜


休憩してまたバイクを走らせると今度は警察官が交通整理をしていた。

どうやらアイドルのイベントがあるらしい。大勢の人が集まっている。

遠くからアイドルの歌声が聞こえる。何処かで聞いたことがあるような声だったけど思い出せない。

ダージリンが「この声、ノンナに似てるわね」と言うけど、声は似てるような気もするが、ノンナさんはあんなキャピキャピしてないはず。



そんな感じで一日中ダージリンと走り回った。

私もダージリンも、一度は歩みを止めたけど、今はこうして再び前に進もうとしている。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 11:57:06.21 ID:c6dL2CBJ0<>

【夕方 ダージリンの家】


そして再びダージリンの家へ。

今日はあちこち走り回っていたからもうクタクタだ。

だけど、ダージリンは久しぶりに外の空気を吸うことが出来たと満足そうだった。

駄菓子屋で一緒に飲んだラムネも気に入ってくれたらしい。

かくいう私も久々にウラヌスに乗ることが出来て満足だ。

現実逃避かもしれないけど、いつまでも悩みで押し潰されるくらいならこうやって何もかも忘れて走り回ったほうが精神的にも良い。

それに今後もダージリンと一緒に走り回って色んな場所へ出かけたい。

そうだ! ウラヌスにサイドカーをつけてみたらどうかな!



ピリリリリ

ピリリリリ


西「…ん?」

ダージリン「電話、鳴ってるわよ」

西「誰だろ……アールグレイさん?」

ダージリン「アールグレイ様?」

ピッ

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 11:59:14.82 ID:c6dL2CBJ0<>
西「…はい。西です」

アールグレイ『御機嫌よう絹代さん。それで、どうだったかしら?』

西「何がです?」

アールグレイ『何がって、ダージリンの事よ。ご自宅へ向かったのでしょう?』

西「…」



電話の相手は後輩の身を案じる先輩だった。

アールグレイさんがいなければ、ダージリンの家は知らなかったし、私もダージリンも回復しなかっただろう。

そういう意味ではこの人にも感謝している。

ただ…

二人っきりの時間を邪魔されたような気がして、どことなく素直に回答するのが癪だった。

少し前まではそんな邪な考えには至らなかったのになぁ…。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 12:02:03.75 ID:c6dL2CBJ0<>

西「ダージリン、丸坊主になってました」






アールグレイ『は?! え、ちょっと!?』

西「話を聞いたのですが…悲しみや苦痛を紛らわすため、新興宗教へ出家するそうです…」

西「残念です………」

アールグレイ『えええええっ?!』

西「つい先程まで"唯一神M-Yが私を呪縛から解放する"だの、"人は皆宇宙から来て、太陽が出たら食べるのパクパク"だの何だのと、説法を延々と聞かされておりました」

西「それはそれは、邪念のないとても晴れやかな表情をなさってました…」

アールグレイ『そんな…ウソでしょ………』

西「今はダージリンではなく、茶封輪と戒名なさったので、私はそのように呼んでます。」

西「そうですよね。茶封輪」

ダージリン「ちょっと! 何バカなこと言ってるのよ!!」

アールグレイ『あっ! 今ダージリンの声がしたわ! 本当の様子はどうなのよっ?!』

西「私の脇腹をツネる程度には回復したみたいです。…痛い離して」

アールグレイ『そう…良かった……?』



話によるとアールグレイさんも何度かダージリンの家に訪問したらしい。

だが、心を閉ざしたダージリンに断られたらしい。

だから私にお願いしたと。

あなたにお願いなどされなくても、私は飛んで行くつもりだ。

仮に拒絶されようものなら扉を叩き割って入るつもりだったのだから。

…実際に扉をこじ開けちゃったから修理代を請求されそうだけど。きっと高いだろうなぁ…。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 12:04:05.61 ID:c6dL2CBJ0<>
アールグレイ『ありがとう。絹代さん』

西「私は礼を言われるような事は何一つしていませんけど」

西「意趣遺恨を持たれるならともかく」

アールグレイ『そんなに自分を責めないで頂戴。本当に感謝しているのだから』

西「…」

アールグレイ『それで、また時間がある時にお茶でもしませんこと?』

西「二人っきりで、ですか?」

アールグレイ『ええ』

西「…」チラッ

ダージリン「…」

西「お気持ちはありがたいですが、ダージリン以外の人と二人きりになりたいとは思いません」

アールグレイ『あらあら。振られちゃったわ』フフッ

西「…」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 12:06:21.81 ID:c6dL2CBJ0<>
アールグレイ『昨日はあなたの方から誘ってくれたのにねー』ウフフッ

西「あの時はダージリンの話を聞くことで頭がいっぱいでした」

西「なので、ダージリンの事がわかるならば、道に落ちてる犬の糞にでも話しかけますよ」

アールグレイ『なっ、犬の落とし物と同列に扱わないで頂戴!』

西「物の例えですよ」

アールグレイ『…ゴホン。それなら、ダージリンも呼んで3人でお話しましょう?』

西「…」チラッ

ダージリン「私は別に構わないわよ?」

西「許可が降りたので、それなら」

アールグレイ『ふふ。わかったわ。…ところで、』

西「?」


アールグレイ『あなた達、どこまでできてるの?』


西「………は?」



何か真剣な話でもするのかと思えば、そんな事を聞きたいのかこの助平は。

なんだか私達の関係を探られているような気がしてえらく不愉快だった。

横にいるダージリンに『どうやらあなたの先輩も助平のようです』と言おうとしたほどに。


とりあえず、また捻くれてやった。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 12:07:49.08 ID:c6dL2CBJ0<>



西「私の大切な物を差し上げました」





アールグレイ『えええっ!? もうそんな関係なのっ!!?』

西「はい。ダージリンも大切にしてくれるそうです…ふふっ」

ダージリン「?」

アールグレイ『そ、そう…ふふ、ふっ? ま、まぁ…あまり度を超えないようにね?!』

西「ええ」


西「駄菓子屋のオジサンからもらったベーゴマ、気に入ってくれたようです」


アールグレイ『………は?』



そういって私はポケットに入ってた(駄菓子屋のオジサンから貰った)ベーゴマをダージリンに手渡す。

ダージリンは ??? って表情をしているが気にしない。

今はこの助平先輩を成敗するのが先だ。
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 12:10:01.08 ID:c6dL2CBJ0<>
西「ところで、慌てふためいているようですが、何を想像されたのですか?」

アールグレイ『な、何でもないわよッ!!!』

西「そうですか…助平ですね」ハァ...

アールグレイ『うるさいっ!!!』

ダージリン「あなた一体何を話してるのよ!?」

西「なんか、"どこまでヤったの?"とか聞いてくるんですよこの猛獣先輩…」

ダージリン「えぇ…」

アールグレイ『ち、違うわよ!!』


西「まぁ冗談はこの辺にします。…実際のところ、どこかの誰かさんに"不純交遊"って言われる程度ですね」

アールグレイ『ほう…』

ダージリン「ちょっと!!」

西「解釈は人それぞれですけど」シレッ

アールグレイ『ふふ。仲が良いのね。妬けちゃうわ』フフッ

西「そうですね。その嫉妬ぷりからすると三十路はもうすぐそこまで来ていますね」

アールグレイ『まだ十代よっ!!!』

西「その耳年増と助平っぷりとは30後半くらいですよ」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 12:11:21.27 ID:c6dL2CBJ0<>
ダージリン「…あなた、仮にも私の先輩と話してるのよ…?」

西「私の純潔が気になって夜も眠れない助平な人なので、貞操の危機を感じたから少し距離を置いてるだけです」

アールグレイ『こっ、こいつときたら…言ってくれるじゃない…』ワナワナ

西「よく歯切れが悪いと怒られるので、ハッキリ物事を言うようにします」

ダージリン「あなた…目つきだけでなく、性格もかなりキツくなったわね…」

西「否定はしません」



確かにダージリンの言うとおりだ。

会話を振り返ってみても相当生意気な事を言っているとわかる。

私は色んなものを壊されちゃったんだな………。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 12:17:10.17 ID:c6dL2CBJ0<>
アールグレイ『とにかく。話が成立したので、私もそちらへ向かうわね?』

西「こちらに?」

アールグレイ『ええ。何か不都合だったかしら』

西「これからダージリンと一緒に寝るつもりだったので」

アールグレイ『なっ…!』

西「冗談ですよ。本当ですけど」

ダージリン「また泊まっていくの?」

西「駄目でした?」

ダージリン「別に良いけど」


アールグレイ『…とにかくそっち行くわよ?』

西「ダージリン、助平な先輩がこっちに来ます。今のうちに隠れて」

ダージリン「へっ?」

アールグレイ『ちょっと、誤解招くことを言わないで』

西「…アールグレイさんがこの家に来たいそうです」

ダージリン「へっ、ウチに!?」

西「なんでも、元気になった後輩の姿を見たいそうで」

ダージリン「まぁ…良いですわよ」

西「まぁ…良いですわよ」

ダージリン「…真似しないで頂戴」

アールグレイ『ふふ。かしこまりました』

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 12:18:50.92 ID:c6dL2CBJ0<>
コンコン


ダージリン「はい」

家政婦『お嬢様、お客様です。アールグレイさんという方です』

西「…」



窓から外を見ると玄関にアールグレイさんがいる。

どうやら家の近くで電話していたみたいだ。

大方「NO!」と言っても来たに違いない。…やれやれ。



アールグレイ『あなたと同じで心配だったのよ』フフッ

西「…」

西(ダージリン真似)「新手の宗教勧誘よ。水ぶっかけて追い返してやって」

ダージリン「ちょっと! …あ、良いわよ。お部屋まで案内して頂戴」

家政婦「か、かしこまりました…??」

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 12:23:42.48 ID:c6dL2CBJ0<>
西「お待ちしておりました。アールグレイさん」ジトッ

アールグレイ「意地悪を言わないで下さるかしら」

ダージリン「…」

アールグレイ「ふふっ。元気になって安心したわ。ダージリン」

ダージリン「ええ…。色々とご迷惑をおかけして申し訳ありません」

アールグレイ「とんでもない。あなたは本当に強くなった…」

西「…」

アールグレイ「あなたもよ。絹代さん」

西「私はただ発狂して薬飲んでダージリンに泣きついただけです」

アールグレイ「またそうやって自分を悪く言う」

西「事実ですから」



結果的にダージリンは元気になったから良かった。

だが、振り返ってみると、勝手に発狂して、勝手に薬漬けになって、勝手にボロボロになっただけだ。

そして謝罪すると言っておきながらやったことはダージリンに泣きついただけ。

ダージリンの強い精神力によって持ち直しただけ。私は何一つしていない。

むしろ、またダージリンに助けられた。


恩を返したいと思いながら恩は溜まっていく一方だ…。
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 12:25:55.47 ID:c6dL2CBJ0<>

アールグレイ「こんな格言があるわ。"人々に精神的援助を与う人間こそ人類の最大の恩人なり"」

ダージリン「インドの哲学者、ヴィヴェカーナンダですわね」

西「…」

アールグレイ「あなたはダージリンを支えてくれた。それはとても大きなこと」

アールグレイ「あなたが誰よりもダージリンの苦痛を理解しているならば、元気になったということが、どれほどの事かわかるはず」

西「確かに、ダージリンが元気になってくれたお陰で、私も少しだけ気が楽になったような気がします」

ダージリン「…」

アールグレイ「良かったわ。…ところで、二人とも食事はもうとったのかしら?」

ダージリン「いえ、何しろつい先程まで…」

アールグレイ「でしたらご一緒しませんこと?」

ダージリン「そうですわね」

西「…」

アールグレイ「当然、絹代さんもよ」フフッ

西「お気持ちは有り難いのですが、何しろ手持ちが…」

アールグレイ「何を言うかと思ったらそんなこと。私が奢りますわ」

ダージリン「あら。太っ腹ですわねアールグレイ様」

アールグレイ「なにしろ後輩を助けてくれたのですから」フフッ

西「感謝致します」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 12:27:54.03 ID:c6dL2CBJ0<>

【料亭】


私はダージリンとアールグレイさんと食事をすることになった。

聖グロなので英国料理を振る舞って下さるだろうと思ったら、料亭に連れて行ってくれた。

こういう機会でも無ければまず行かない(行けない)ような…。



アールグレイ「ふふ。絹代さんは洋食より和食の方が好きそうだったからね」

西「お心遣い感謝いたします」

ダージリン「でも大丈夫ですの? こう見えて絹代さん大食らいですのよ?」

アールグレイ「気にしなくて大丈夫。あなたも遠慮せず食べなさいな」フフッ

ダージリン「ありがとうございます」



さすが高級料亭だけあって一品一品高級感がある。それ以外に感想が出てこない。

アールグレイさん達は普段からこんな高級料理ばかり食べておられるのだろうか。

同じ人間なのにこうも差があるとはつくづく不公平だ。

…まぁ、そんな高級料理に舌鼓を打つ私も同じ穴の狢だが。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 12:30:29.42 ID:c6dL2CBJ0<>
西「お二人は普段からこういったお店に行かれるんです?」

アールグレイ「流石に毎日はないけれど、特別な日にはね?」フフッ

ダージリン「毎日こんな物を食べてたら普段の食事に満足出来なくなってしまうわ」

西「ごもっともです」

アールグレイ「そういう絹代さんは普段はどんな食事を? やっぱり和食メインかしら?」

西「そうですね。銀舎利に味噌汁、あとは漬物があったりですね」

西「たまに焼き魚や煮物が出ることもあります」

アールグレイ「…」

ダージリン「…」

西「あ、あれ…?」

アールグレイ「いえ…その、なかなか節制的と思いまして…ねぇ?」

ダージリン「私に振らないで下さいまし…」

西「?」


どういうわけか私の食事情について話すと皆呆然とする。

最近は和食というものがそんなに珍しいものなのだろうか?



その後もアールグレイさんやダージリンと雑談に華を咲かせた。

思い返せばダージリンを知ったのがエキシビジョンマッチ戦。あの時は敵として。

その後、大洗女子の制服を着て大学選抜チームと戦った時もご一緒したなぁ。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 12:33:25.70 ID:c6dL2CBJ0<>
ダージリン「そうね。あなたは投入車輌を間違えて持ってきた」クスッ

西「ははは。全校で22輌なのに、私のところで22輌だと心得違いをしておりました」

アールグレイ「ふふっ。1校あたり22輌だとしたらどれだけ大規模な試合になるかしらね」

西「100輌を超える戦車戦…どうなるんでしょう」

ダージリン「…」

西「今でも、夢に出るんですよね。あの時の試合が」

ダージリン「もう終わったことよ」

西「…そうだと良いですね」

ダージリン「?」



アールグレイ「そういえば、聞いた話だけれど」

西「?」

アールグレイ「先の試合で大洗の隊長車輌が使えなくなったそうね?」

西「ええ…」

ダージリン「あの試合は私達も観戦していたのでよく存じてますわ」

アールグレイ「それで、代わりの戦車を用意するために大洗の生徒会長さんが大慌てでドイツへ飛んだそうよ」

西「ドイツ?」

ダージリン「…随分急な話ですわね」

アールグレイ「どう思う?」

ダージリン「ドイツに行って戦車が貰える"アテ"でもありますの?」

アールグレイ「恐らく無いでしょうね」

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 12:37:05.66 ID:c6dL2CBJ0<>
西「あの試合の帰りにダージリンや後輩さんとその話をしていたんですよ」

西「仮に"戦車を借りれたとしても大きな利点はない"…と」

アールグレイ「確かに。無人機を保有していないので、地上で無人機と戦車を相手にしないといけない」

西「ええ。それに次の相手はプラウダか黒森峰」

ダージリン「黒森峰よ」

西「ん?」

ダージリン「準決勝は黒森峰が勝ったわよ」

西「そうですか。尚更厳しいですね」

アールグレイ「黒森峰は戦車が強力なのは元より、戦術も指揮官も優れている」

アールグレイ「非常に厳しい戦いになるわね…」

ダージリン「その上"無人機"なんて厄介者までいますしね…」

西「ええ。だから戦車にしろ対空戦車にしろ、"それだけ"では利点ではないと思いました」

西「相手が最強のチームである以上、大洗女子も最強の戦車を引っ張ってこなければと」

アールグレイ「その最強の戦車というのは?」

西「一輌で対地・対空戦闘が出来る戦車です」

ダージリン「そんなものあるわけないじゃない」

西「だから、生徒会長…角谷さんでしたっけ。大洗の会長さんはドイツへ飛んだのでしょう」

西「前代未聞の戦車を作るために」

アールグレイ・ダージリン「!」

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 12:43:17.14 ID:c6dL2CBJ0<>
既存の戦車ではもはや太刀打ちできない。

だから新しい戦車を開発する。

しかし当然ながら、そのためにはいろんな障壁がある。

レギュレーションをクリアすることはもちろん、開発にかかる費用や時間。

戦車だってタダではない。無人機どころか普通の戦車ですら満足に導入できない大洗にとっては非常に厳しい話だ。

誰が見ても無謀と言えることを大洗はやっている。

だが、大洗は常にその無謀を何度も乗り超えてきた。

戦車道の規模としては無名校・弱小校レベルかもしれないが、大洗には強豪校にすらない無限の可能性を秘めている。

…だから、大洗の動向は特に気になるのだ。



西「すみません。ちょっと席を外します」



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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 12:46:56.57 ID:c6dL2CBJ0<>


西「………ということなので、もしも大洗女子学園から連絡がありましたら、その時はお願いします」

西「はい。こちらの学校からも許可は出ていますので、その点についてはご心配ありません」

西「ただ、私や知波単学園の名前は一切出さないでください。怒られてしまうので。あはは」

西「あくまでこれは角谷会長さんを始めとする大洗女子の敢闘の賜物ですので」

西「ええ。それではよろしくお願いします。児玉さん」



これが大きなお世話であるのは重々承知だ。

だが、大洗女子は我々戦車道をする者にとって、もはや無くてはならない存在だ。

私も一度、戦車道廃止の危機を体験したし、決して対岸の火事ではない。

そしてなにより隊長の西住さんには色んなことを教えてもらった。

このまま何も恩を返さずでは私の沽券に関わる。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 12:49:50.41 ID:c6dL2CBJ0<>




西「すみません。おまたせしました」

ダージリン「…随分長かったわね」

西「あはは。良い物を食べたせいか臓器が驚いたのでしょう」

ダージリン「なっ…」

アールグレイ「ふふっ。良かったわね」

西「ええ。とっても良かったですよ」

アールグレイ「…あら。どうかしました?」

西「こんな諺を知ってますか」

ダージリン「へ?」

西「"壁に耳あり障子に目あり"」

アールグレイ「…おやりになるわね」

ダージリン「???」



この助平が。

電話のやり取りを盗み聞きしてたのは知ってるんだからな。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/02(火) 12:51:45.73 ID:c6dL2CBJ0<>
アールグレイ「さて、そろそろ頃合いね」

西・ダジ「ご馳走様でした」

アールグレイ「ふふっ、楽しかったわ。またいつかこうして集まりたいわね」

ダージリン「ええ。今日はありがとうございました」

西「同じくありがとうございました」

アールグレイ「どう致しまして」フフッ



ダージリンも元気になったし、私も幾分体調が良くなってきた。

腹も満たされて、心も満たされたからだろう。

そのせいで帰りの車の中ではうたた寝をしてしまった。

































            完全に油断してた。




<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 11:07:00.32 ID:TbugUrKl0<>

【????????】



西「………ん……」

アールグレイ「おはよう。絹代さん」

西「あ…寝てしまったんですね…私…」

アールグレイ「ええ。あまりに気持ちよさそうに寝ていたから、そっとしておきましたわ」フフッ

西「恐縮です。…あれ? ダージリンは?」

アールグレイ「ちゃんとご自宅まで送迎したわ」フフッ

西「そうなんですか。…ところでここは?」

アールグレイ「ふふっ」






アールグレイ「ちょっと遠くまで来ちゃったみたい」






西「っ!!!」




しまった

問題が解決して弛緩しきった隙を突かれた。

彼女は運転席じゃない、私の横に座っている。

周りは暗くてよく見えないが、人気の少ない森の中みたいだ。



これが意味することは…

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 11:08:01.51 ID:TbugUrKl0<>
西「くそっ!!!」


アールグレイ「…心配しないで下さいな。取って食うつもりはありません」

西「ならどうしてこんな真似を…!」

アールグレイ「またその目を向けるのね。傷つくわ…」

西「こういう真似をされた以上、ごく普通の反応かと思いますが?」

アールグレイ「さすがにあの場では話せない事だし、あなたが"二人っきりは嫌"と言うものだから」

アールグレイ「少々強引な手を使わざるを得なかった」

西「…」

アールグレイ「ふふっ。ごめんなさいね」


西「…それで?」

アールグレイ「ん?」

西「"強引な手"を使ってまで何かお話したいことがあるのでは?」

アールグレイ「理解が早くて助かるわ」

西「こっちは何一つ理解してませんが?」

アールグレイ「慌てないで。今から説明するから」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 11:09:58.04 ID:TbugUrKl0<>

アールグレイ「あなたのお陰でダージリンは元気になった」

西「…」

アールグレイ「この事については本当に感謝しています」

西「その感謝がこういう形で示されるとは驚きを禁じ得ませんね」

西「聖グロには恩を仇で返すという伝統もあるのですか?」

アールグレイ「意地悪を言わないで下さいな」

西「…」

アールグレイ「確かに、ダージリンは回復したけれど」


アールグレイ「まだ問題は解決していないの」


西「…なに?」

アールグレイ「あなたもご存知のように、ダージリンはOG会の圧力によって強制退学となった」

西「…」

アールグレイ「これはどういうことなのか、わかるかしら?」

西「今後もOG会の機嫌一つでダージリンのような犠牲者が出そうですね」

アールグレイ「その通りよ。残念なことに」

西「…」



正直なところ、ダージリン以外の聖グロ生に興味はない。

もっというとダージリンのいない聖グロに何の魅力も価値もない。

ただ、卒業生に媚びてないと学園生活が危うくなるのは息苦しいだろうなぁ。

…と、"対岸の火事"を見ている気分だった。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 11:11:55.72 ID:TbugUrKl0<>
アールグレイ「あなたも聖グロにおける"OG会の影響"がどれほどかは知っているはず」

西「我儘な女の機嫌一つで生徒の人生を崩壊させる事が出来るそうで。怖ろしい学校です」

アールグレイ「ええ。まさにあなたの言う通り」

西「…」

アールグレイ「あなたも分かると思うけど、それはあってはならないことなの」

西「でしょうね。理由もこじ付けな"私刑"でしかない」

西「そして、そんな私刑でダージリンは絶望のどん底に叩き落された」

アールグレイ「ええ」

アールグレイ「…ただ、誤解の無いように言うと」


アールグレイ「これはほんの"一部の人間"による犯行なの」


西「外部の人間にとってはその一部が全部ですけどね」

アールグレイ「そうね…」

アールグレイ「でも、何千人と存在するOGのうちの、ほんの一握りにも満たない一部の人間によるものだった」


西「一部の人間だけでこれほどの権限を持てるなんて驚きです」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 11:19:10.30 ID:TbugUrKl0<>
アールグレイ「毎年何百人という生徒が卒業しているから、OG会もかなりの規模になるわね」

アールグレイ「ダージリンのように学問や戦車道を一生懸命頑張って来られた方もいる」

アールグレイ「聖グロリアーナを心の底から愛してやまず、常に後輩のことを想う先輩もいる」

アールグレイ「…しかし、中には"例外"がいて」



アールグレイ「どういうわけか、その例外は聖グロリアーナを攻撃する」



西「…」

アールグレイ「その"反・聖グロ"は、学園で最も優秀であるダージリンを追放し、聖グロの弱体化・衰退化を謀った」

アールグレイ「…それが私の見解よ」

西「つまり、ダージリンは、その一部の反体制派によって政治的に利用されたと?」

アールグレイ「ええ」

アールグレイ「その一部の暴走と腐敗をこのまま見過ごせば、OG会はもちろん、聖グロは間違いなく崩壊する…!」

西「………」



奴らにとって成績不振や不純交遊なんてのは端からどうでも良かったのだ。

連中は聖グロ憎しのためにダージリンを利用した。

そのためにこれらの理由をでっち上げ、ダージリンを地獄のどん底に叩き落とした。


ますます殺意が湧く。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 11:32:47.28 ID:TbugUrKl0<>
アールグレイ「それと、もう一つ」

西「…」

アールグレイ「反体制派による今回の件は、内部の人間がいないと実行できない」

西「OG会へ情報提供を行う"内通者"が聖グロにいると?」

アールグレイ「私はそう見ているわ」



これは在校生と卒業生の間で起きた事件だ。

当然ながら、先輩であるOG会と何かしらの繋がりを持つ後輩だっているだろう。

そして、その生徒の中に反・聖グロ活動の片棒を担っている輩がいる…と。


問題はそれが誰なのか。

聖グロを崩壊させたいと思う者

ダージリンを追放させたいと思う者

この両者の利害が一致したとき悲劇は起きた。

では、前者はともかく、後者であるダージリンを消して得をする聖グロ生は…





西「アッサムさん…?」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 11:36:54.13 ID:TbugUrKl0<>
アールグレイ「…私も最初、あの子が関係していると思った」

西「…」

アールグレイ「でも、そう結論を出すにはまだ早いの」

西「何故?」

アールグレイ「彼女のことを知っているから」



― アッサムは"天才"だと思っていた。けれど違った

― 名家のご令嬢を装う裏では常に多くの人からの期待という重圧に苦しんできた

― 彼女もまた私と同じ、努力家だったの…



アールグレイ「アッサムは聖グロにおける"もう一人のダージリン"よ」

西「…」

アールグレイ「だから、アッサムが本当に反体制派と共謀してるとは考えにくい」

アールグレイ「一方で、永遠のライバルだったダージリンを突き落とし、自身が隊長になることを望んだが故の共謀という見方も出来る」

アールグレイ「…いずれにせよ、それらを裏付ける証拠がない以上、結論は出せない」

西「………」












西「それで、部外者の私に事の真相を突き止めろと?」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 11:39:04.07 ID:TbugUrKl0<>
アールグレイ「恐ろしいほど鋭いわね…」

西「自分でも驚いています」

西「ダージリンなら考えそうなことが頭に思い浮かぶんですよ」

西「"私が追放された本当の理由を知りたい"」

西「"私を追放した者、そしてその者と繋がりのある人物が誰なのか知りたい"」




西「"私はもう一度聖グロに帰りたい…"」




西「目を閉じれば、ダージリンの思考が私の思考となってそこに浮かび上がる…」

アールグレイ「………」




西「"だから、絹代さん…お願い"」





西「…って」

アールグレイ「………」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 11:40:04.70 ID:TbugUrKl0<>
アールグレイ「あなたが"賢すぎる"おかげで説明の大半が省けたわ」

西「それはどうも。でも"説明"をしたところで私にどうしろと?」

西「確かにダージリンと私の心は同じですから、そういった"イタズラ"は思いつくでしょう」

西「でもダージリンと私は違う。所詮私は部外者です」

西「聖グロの事なんて何一つ知らない"余所者"」

アールグレイ「ええ」




















アールグレイ「だから、あなたに聖グロリアーナ女学院の生徒になってもらうの」

<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<><>2017/05/03(水) 11:52:36.23 ID:4Tow1FWK0<> うんうん <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/05/03(水) 15:10:37.93 ID:K7c8yZ6KO<> ふむふむ <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 15:25:14.16 ID:TbugUrKl0<> 今思ったけど、ここまで長くなるんなら ◆1 終わった時点で一旦区切ったほうが良かったかもしれぬ…orz <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<><>2017/05/03(水) 15:45:49.13 ID:4Tow1FWK0<> いいからはよ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/05/03(水) 18:44:05.42 ID:XHLD4FFWO<> あくしろよ <> ◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 19:04:17.11 ID:TbugUrKl0<>

西「は?」

アールグレイ「あなたには"転校生"として聖グロに入ってもらう」

西「ちょっと待って下さい」



随分簡単に話を進めてくれるが、気は確かなのかこの人?

まず転校一つにしろ面倒な手続きがある。

それに私は腐っても知波単学園の隊長だ。

そんな私が聖グロに転校したら?

私が命をかけて守った知波単の戦車道は?

転校後の私はどうすればいい?

それにアッサムさんだって馬鹿じゃない。

私がコソコソと悪巧みをすれば即座に見抜かれるはず。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 19:06:30.96 ID:TbugUrKl0<>
アールグレイ「心配しないで頂戴。あなたの学校の学長さんとは交渉済みよ」

西「…学長は何と?」

アールグレイ「"うちの西で良ければ是非!"とね」

西「…」

アールグレイ「ふふ。学長さんを責めないで。聖グロは滅多に他校へオファーをしないから大変名誉なことなのよ」

西「…そうですか」

アールグレイ「だから学長さんも短期留学の話を聞いてとても喜んで下さった」

西「短期留学?」

アールグレイ「ええ。表面上は知波単側には短期留学、聖グロ側には転校でそれぞれ話を進めた」

西「表面上ということは、実際は?」





アールグレイ「架空の人物として諜報活動をしてもらう」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 19:08:41.71 ID:TbugUrKl0<>
西「はぁ?!」


アールグレイ「あなたはダージリンだけでなく、アッサムやペコちゃん、その他の聖グロ生や他校の生徒とも面識がある」

アールグレイ「そんな人物を転校させたらパニックになるのは火を見るよりも明らかでしょう?」

西「…ええ」

アールグレイ「それは事を進める上で大きな障壁となる」

アールグレイ「だから、素性を隠して頂くわけ」

西「…」

アールグレイ「素性を隠した上で内部に潜り込んで、真相を突き止める」

アールグレイ「内通者が誰なのか特定し、その者の口を割らせ、首謀者を特定する」

アールグレイ「そして、ダージリン退学は反体制派による聖グロの破壊工作だとして、退学を撤回…!!」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 19:10:44.46 ID:TbugUrKl0<>
アールグレイ「いかがかしら?」

西「私の立場は一切お構い無しなんですね」

アールグレイ「正直、これ以上ない強引な手段だと思っているわ。ごめんなさいね?」

西「…」

アールグレイ「…でもね、もうこれしかないの、」

西「私はやるとは一言も言ってませ





アールグレイ「ダージリンを助ける方法は」





西「っ…!」

アールグレイ「………」

西「………それで」

アールグレイ「ん?」


西「返事はいつまでに?」


アールグレイ「そうね。遅くて明日までに欲しいわ」

西「…」



不満や疑問は残るが、私は少しの時間をもらうことにした。

だが、私は『はい』と返答するだろう。

…嫌な女だ。『ダージリン』を出せば私が断れないことを知って言っている。


だけど、





私は心の何処かでこの日が来るのをずっと待っていたのかもしれない。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 19:12:59.11 ID:TbugUrKl0<>


アールグレイ「…さて、今日はここまでね。どちらへお送りすれば良いかしら?」

西「ちょっと待って下さい」ピッピッ


西「もしもし、絹代です。…今からそっちに行ってもいいですか?」

西「…ありがとう、すぐ行きます。…また後でね、ダージリン」ピッ


西「ダージリンの家までおn…何ですかその顔」イラッ

アールグレイ「ふふっ。仲良しさんね〜って」ニコニコ

西「…助平」ボソッ

アールグレイ「あ、そんなこと言うと送ってあげないわよ?」

西「ハイハイスミマセンデシタ」シレッ

アールグレイ「…あの子も多分"初めて"だから優しくしてあげてね?」

西「そうですね。ダージリンに伝えておきます」

アールグレイ「ちょっと!」

西「あ、伝えるで思い出しました」

アールグレイ「ん?」

西「この件はダージリンにはもうお伝えしたのですか?」

アールグレイ「………そうね。お願いできるかしら?」

西「…かしこまりでございます」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 19:15:24.37 ID:TbugUrKl0<>

【ダージリンの部屋】


西「ただいま、ダージリン」

ダージリン「"お邪魔します"でしょう」

西「あ、そうでしたね。お邪魔しますただいま」

ダージリン「まったく…。それで?」

西「はい?」

ダージリン「アールグレイ様と何をしていたの?」

西「…」

ダージリン「絹代さん……?」

西「聖グロに転校することになりました」

ダージリン「えっ?!」

西「実は…」



ダージリンにアールグレイさんとの"密会"の内容について話した。

聖グロOG会の中に反乱分子がいること。

その反乱分子が聖グロ弱体化のためにダージリンを強制退学させたこと。

その犯人を特定するために、私が選ばれたこと。



そして、ダージリンにはもう一度聖グロへ戻ってもらうこと。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 19:18:48.71 ID:TbugUrKl0<>


ダージリン「………私が、もう一度聖グロに…」

西「ええ」

ダージリン「………」

西「ひょっとしたら、もう聖グロに未練は無いかもしれません」

西「でも、聖グロがダージリンを失うことこそが、反・聖グロ派の狙いなんだそうです」

ダージリン「…」

西「だから連中の正体を暴き、ダージリンを復学させ」

西「"何一つ成功しなかった。それどころか大きな痛手を負った"という結果にする」

西「それが、奴らに対する私達の"報復"です」


ダージリン「………ふふっ」

西「ん?」

ダージリン「なかなか…面白い話ね…!」

西「ええ。ようやく腹の中に溜まった恨みを晴らせますよ」

西「私も恨みを晴らせてダージリンも泣き寝入りせずに済む。ビンビンな関係です」

ダージリン「それを言うならWin-Winの関係よ」

西「あ、それですね」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 19:21:02.10 ID:TbugUrKl0<>
ダージリン「…でも」

西「ん?」

ダージリン「あなたにまた無理させてしまうのね………」

西「…」

ダージリン「私のことなのに、無関係のあなたがまた心をすり減らしてボロボロになってしまう………」

西「ご心配なく」

ダージリン「えっ…」

西「これは私自身の復讐でもあるんですから」

ダージリン「絹代さんの?」

西「私もダージリンと同じように連中に心身をボロボロにされたので、この恨みを何としてでも晴らしたいと腹の虫が収まらないんですよ」

西「たとえダージリンが諦めても私は諦めきれない」

西「そして、ようやくその報復手段を見つけた」

西「このチャンスを待っていた」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 19:25:59.91 ID:TbugUrKl0<>
ダージリン「………あなたに甘えてもいいの?」

西「もちろんです」

ダージリン「ありがと…」


西「でも………」

ギュッ

ダージリン「きゃっ!?」

西「今はそういったことを事を考えたい気分じゃないです」

ダージリン「そ、そう…」

西「………あはは。今日もいい匂いですね」クンクン

ダージリン「…変態」

西「変態で良いので、このままダージリンの匂い嗅いでいても良いですか?」クンクン

ダージリン「…くすぐったいわよ……っ…あっ…ぁぁぁ………!」



あの日以来、精神安定剤の服用を止めたとはいえ、後遺症はまだ残ってるし、そのせいで薬に手を伸ばそうとする。

でも私は確かに約束した。ダージリンが元気になるなら私も薬を断つと。

だから、もう薬は飲まない。

薬を充満させる代わりに、心も身体もダージリンで満たしている。

ダージリンには変態と言われるが、薬物依存に比べたら…。


そしてダージリンもまた私を受け入れてくれるし、私を求めてくれる。

ダージリンも私も互いの身体の"味"を知っている。

心も身体も繋がっている。

もう"初めまして"じゃない。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 19:27:57.83 ID:TbugUrKl0<>

【週明け 知波単学園】


西「先日、聖グロリアーナ女学院のOGよりお話を伺いました」

西「その方のお話は事実なのでしょうか?」

学長「うん、そうだね。…今まで話すことが出来ず申し訳ない」

学長「なにしろ、聖グロOGのアールグレイさん曰く、"聖グロへサプライズがしたい"と言うのでね…」



サプライズ…つまり私が"聖グロ生A"として諜報活動するということだ。

そのことは例え当事者であっても知り得てはならないのだろう…。



西「ちなみにそのサプライズの内容は…?」

学長「曰く秘密なんだそうだ。ちょっと気になるなぁ。あはは」

西「そうでありますか…」

学長「先方さんによると、あとは君の返事だけという状態だそうだ」

西「そうなんですね」

学長「…しかし、まさか聖グロからオファーが来る日が来るなんてねぇ」

西「…」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 19:33:30.97 ID:TbugUrKl0<>

学長さんは嬉しそうにそうつぶやいた。

戦車道の強豪校として知られる聖グロだが、それ以外でもお嬢様学校としてブランド力のある名門校だ。

確かに女子学生のあこがれでもあり、学校としても聖グロからのお誘いが来るのは喜ばしい事なのだろう。

だが、聖グロの汚い面を知った今ではお嬢様学校になんの魅力も見出だせない。

そして、私のやることといえばそんな汚い学校の更に汚い部分をほじくり出すということだ。

ダージリンが関わってなければ丁重にお断りしていた。

それに…



西「…ただ、心残りがあります」

学長「うん。戦車道のことだよね」

西「…ええ」

学長「そうだよね。君が"命をかけて"守ってくれた戦車道だ」

学長「私も責任を持って守ることにしたよ」

西「…と、申しますと?」

学長「お待たせしました。どうぞ、お入り下さい」

西「?」

「失礼します」

西「あなたは…」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 19:34:53.29 ID:TbugUrKl0<>
蝶野「初めまして。蝶野亜美です」

西「!」

学長「蝶野さんはね、戦車教導隊所属の自衛官でもあり、日本戦車道プロリーグ強化委員でもある方だ」

西「ええ。よく存じております…!」

蝶野「西さんのご不在の間、特別顧問として戦車道履修生の練習のサポートをさせて頂きます」

西「そうなのですね。どうか宜しくお願い致します」フカブカ



まさかまさか蝶野さんが来てくださるとは。学長のコネなのだろうか。

現役の戦車乗りであり、プロリーグ強化委員による直々の指導だ。不満などあるはずがない。

…強いて言えば、私が蝶野さんの講習に参加出来ないことくらいかな。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 19:41:40.38 ID:TbugUrKl0<>

【知波単学園 練習場】


細見「あっ西殿!!」

玉田「おお隊長殿っ!! おかえりなさいでありますっ!!」


ワーーーー!!!

オカエリナサイマセッ!!

ワイワイ ガヤガヤ

イエスイエス!!!


西「みんな久しぶり。ちゃんと元気だったかい?」

細見「もちろんですとも! …おや…西殿? 少し雰囲気が変わられたような…?」

西「あははは。会う人みんなに言われるよ」

玉田「それもそのはずです。前よりも"すまぁと"になられましたな!」

福田「ええ! とても魅力的でありますっ!!」


ワイワイ

ガヤガヤ


西「あはは。ありがとう………ん? あれは??」

蝶野「私の愛車よ!」

西「愛車…」

福田「随分立派な愛車であります」


私達が普段乗ってる戦車の横に、明らかに異色を放つ戦車がある。

自衛隊が使う『10式戦車』なのだが、蝶野さん曰く愛車らしい。

仮にも最新戦車なのだが私物化していいのかな…?

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 19:45:02.02 ID:TbugUrKl0<>
蝶野「…乗ってみたい?」

西「えっ?」

蝶野「10式、乗ってみたい?」ニヤッ

西「えぇ…まぁ…」

蝶野「おっけーい!!」グッ



ということで日本国陸上自衛隊の切り札とも言える10式戦車に私は乗った。

…良いのだろうか。


C4Iという車輌間での情報共有機能

44口径120粍という強力な火砲

走行中の射撃も実現可能とする緩衝装置と自動追尾機能

私達が乗る大日本帝国の戦車の孫娘はとても優秀な子になってくれました。


これを公式戦で使えたらなぁと思う時がたまにある…。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 19:49:18.48 ID:TbugUrKl0<>
蝶野「今から発進させるから、向こうの的を狙って撃ってみて」

西「え…私がですか?」

蝶野「ええ」ニコッ



聖グロの核心に迫る前に、日本国防の核心に迫っているような気がする。

後ほど機密漏洩罪とかで裁かれやしないか心配だ。

そんな事を考えてる間に蝶野さんは戦車を発進させる。

速い。明らかに速い。戦車というより車に乗ってる気分だ。

そしてジグザグに動いたり凄いスピードで後退したりと、大きな戦車ながら優れた機動性を見せつけてくれた。

…おっと、撃てと言われたな。

それではお言葉に甘えて撃ってみよう


ズガーンという小気味いい音と同時に発射された砲弾は数百メートル先の的を撃ち抜いた。

自動装填装置が付いているとのことで、素早い砲撃が行えるのは魅力的だ。

続いてもう1発。同じように的を貫く。


以前は寝ても覚めても突撃ばかりしていた。

なので射撃は常に動いた状態で行っており、止まって撃つ時のほうが少ないくらいだ。

それ故この手の行進間射撃は知波単の最も得意とする分野となってしまった。

これくらいは福田にとっても朝飯前だろう。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 19:51:50.39 ID:TbugUrKl0<>
蝶野「いかがかしら?」

西「速度といい、装填速度といい、さすが最新技術を使った戦車だけあります」

蝶野「射管装置もついてるから走っても的を狙いやすかったでしょ!」

西「え」

蝶野「ん?」


西「そんなのもあるんですか?」


蝶野「あれ? 言わなかったっけ?」

西「ええ。初耳です」

西「それにあったとしてもこういうハイテクな機械はちょっと…」

蝶野「」

西「…」

蝶野「…それじゃ今の射撃は?」

西「? 従来通りのやり方ですけど…?」

蝶野「………ぐ、グッジョブベリーナイスよ…!」



なんでか知らんが唖然とする蝶野さん。

私は何か不味い事でもしでかしたのだろうか…?

行進間射撃なら皆やっているし、戦車が変わったところでやり方が変わるとも思えまいし…。



まぁ蝶野さんがいれば皆もより充実した練習が出来るだろう。

だから私がいなくても、みんなは戦車道をしっかり楽しんでくれる。

仲間たちの戦車道に関しては心配はない。






………そして、もう一つ、

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 19:54:32.57 ID:TbugUrKl0<>





西(みほ真似)「あっ、やっと出てくれた…もしもし…!」

杏『いま何時だと思ってるのさ…っていうかどちらさん』





<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 19:58:17.95 ID:TbugUrKl0<>

大型イ号車の導入は見送ろう。

オイ車が無くても問題ないが、大洗女子が無くなるのは大問題だ。

その製造費を彼女たちの作る戦車のために回せば問題は全て解決する。



西(みほ真似)「ドイツではなく日本の企業に依頼してみてはいかがでしょう?」

杏『………は?』



紹介したのは我らが知波単の戦車製造を請け負ってくれる"お得意様"だ。

中小規模ながら高い技術力を誇り、我が国のものづくり産業を支える企業たちである。

ここならきっと大洗の要望に答えることが出来る。


不 知 火重工
筑 波 製鋼所  
  単 技研 
四 万 騎金属  
千 歳 設計


皆は気付いてくれたよね?

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 20:03:06.87 ID:TbugUrKl0<>

杏『西住ちゃんさ、言うのは誰にでも出来る。んだけど実行するのはまた別の話よ?』

杏『悪いけどさ、これは無


西(みほ真似)「可能性がある限り進まないとダメなんです!!」


杏『…』

西(みほ真似)「会長は一生懸命になって車体を確保しました。これは大きすぎる一歩なんです!」

西(みほ真似)「そしてこの一歩を足掛かりに、とにかく私達はひたすら走るしかないんです!」

西(みほ真似)「走るのを止めたらそれこそ全部おしまいなんです! 血を吐くような想いをしてこなしてきた事も全部無駄になってしまうんです…!」

西(みほ真似)「だから…!!」



だから…決勝戦、勝ち抜いてください。

私は電話の相手…角谷さんへ伝えた。


ただ、角谷さん達がどういったものを作りたいのかまではわからない。

話によると、車体は確保できたとのことで、これだけでも十分すぎるくらいの大戦果だ。

だから残る砲とそれを包む砲塔の設計図。それもとにかく詳細なものを用意するよう伝えた。

あとは職人たちがそれをもとに素敵な戦車を作ってくれる。

そして、大洗を守りたいという角谷さんの血の滲むような努力が実を結ぶ…!



これで、"西絹代"としてやっておくべきことは全部やった。

だからこれで





















       これで、もう思い残すことはない。











〜〜〜〜〜〜〜


〜〜〜





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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 20:05:23.38 ID:TbugUrKl0<>

【あの夜をもういちど】



西「もしも、もしもですよ? 私が聖グロの生徒だとしたら、どの様な名前を頂けるのだろうかと思っただけです」

ダージリン「そうね。紅茶に因んで」




ダージリン「"茶番"なんてどうかしら?」




西「………」

ダージリン「冗談よ。そんな顔しないでちょうだい」クスクス

西「何でか知りませんが妙にグサッと来ました…」

ダージリン「そんな大げさなこと言わないで頂戴」

西「衝撃的すぎたので明日から"聖グロリアーナの茶番"と名乗ります」

ダージリン「悪かったわ。許して頂戴」フフッ

西「ダージリンのばか」プクー

ダージリン「はいはい」

西「む」

ダージリン「そうね。あなただったら―――」









ダージリン「ベニフウキなんていかがかしら?」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 20:06:48.19 ID:TbugUrKl0<>
西「ベニフウキ?」

ダージリン「漢字で書くと"紅富貴"。アッサムに近い日本の品種よ」

西「なるほど」

ダージリン「聖グロに来た時にそう名乗っても良いのよ?」フフッ

西「えっ、本当ですか?!」パァァ

ダージリン「ええ。私が許可するわ」

西「いやっほ〜い!! わたくしはベニフウキでございすわよぉ〜!!」オホホホッホホホ

ダージリン「落ち着きなさい絹代さん」


西「………」


ダージリン「…なによ?」

西「………」ジー

ダージリン「…落ち着きなさいベニフウキ」

西「はいですわー!」

ダージリン「まるでローズヒップね」ヤレヤレ

西「あははっ♪」






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


〜〜〜〜〜〜〜


〜〜〜

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 20:07:42.55 ID:TbugUrKl0<>










   「心の準備は整いました。アールグレイ"様"」


   「ありがとう」












<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 20:09:06.31 ID:TbugUrKl0<>
【そして現在 聖グロリアーナ女学院 甲板】




…様

「…」

「ヴェニフーキ様?」

ヴェニフーキ「ん…私ですか?」

ローズヒップ「いつまでもこんな所にいてはお風邪を引かれますの」

ヴェニフーキ「…」

ヴェニフーキ「そうですね。戻りましょう」

ローズヒップ「ささ、お乗りくださいまし!」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 20:20:18.41 ID:dyebJbRk0<>

そして、私は聖グロリアーナに"転校"した

ダージリンとOGから授かったニックネームを名乗って。


 "ヴェニフーキ"


ダージリンから授かったのは"ベニフウキ"だが、これでは名前を調べればすぐ足がつくというので改変した。

ゼラの戦いの勝利を知らせるガイウス・ユリウス・カエサルの言葉 "Veni, vidi, vici"(=来た、見た、勝った)からとった"Veni"。

そして、『愚か者』という意味の "hookie" を合わせてVeni Hookie、つまりヴェニフーキだ。


私は横文字が苦手なので、こういった細工は出来ない。この捻くれた造語はアールグレイさんによるもの。

直訳すると"愚か者が来た"となるわけで、これから厄介者となる私にはピッタリな名前とのこと。

その通りだ。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 20:22:33.17 ID:dyebJbRk0<>

もちろん今までの格好ではすぐわかるので、アールグレイさんの手によって私は姿も変えた。

髪は白銀色に染め上げウェーブを掛け、瞳はレンズを入れて赤くした。…なんだか携帯電話のゲームにでも出てきそうだ。

アールグレイさんは『よく似合ってるわよ。ゴシックっぽくて』というが、なんだか秋葉原とかにいそうなコスプレした人みたいで、私はあまり好きじゃない。

それに毎朝髪の毛をクルクル巻くのは面倒だ。ヘアアイロンというやつを使うのだが、それでよく首筋を火傷する。

そう愚痴っていたらアールグレイさんに『もう少し女の子らしくしなさい』とお小言を言われる。


まあでも、これで多少は誤魔化せるかな…?

<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/05/03(水) 20:23:16.90 ID:CVFk3IWnO<> 聖グロのヴェニフーキは西さんだったのか。 <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 20:27:04.69 ID:dyebJbRk0<>


ルクリリ「何か考え事でもされてたんです?」

ヴェニフーキ「ええ。色々と」

ルクリリ「そうなんですかぁ。…まぁ、大丈夫ですよ」

ヴェニフーキ「ん?」

ルクリリ「すぐ慣れますのから」

ヴェニフーキ「…」

ルクリリ「最初は不安かもしれないけど、皆良い人ですから大丈夫ですよ」

ローズヒップ「ルクリリ様の仰るとおりですの。お作法もお茶の子さいさいでございますのよ!」

ヴェニフーキ「そうですね」

ルクリリ「まぁ…ローズヒップはもう少しお作法を学んだほうが良いかなぁ…」



練習試合、エキシビションマッチ、大学選抜チーム戦、入院中。

聖グロの幹部たちにはお世話になり、僅かながら交流があった。

しかし、ここからはより聖グロの深部へ潜ることになる。

知波単学園の西絹代としてではなく、聖グロリアーナ女学院のヴェニフーキとして。

<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/05/03(水) 20:27:42.48 ID:CVFk3IWnO<> しかし、あれだけ髪の色を変えると戻すのも大変そうだな。
まぁ、アニメの御都合主義で何とかなるか。 <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 20:29:02.64 ID:dyebJbRk0<>


【ヴェニフーキの部屋】



ヴェニフーキ「ええ。今のところ問題はありません。楽しくやってます」

アールグレイ『そう。良かったわ。少しでもおかしな事があったら教えてね?』

ヴェニフーキ「そのつもりです。ダージリンの方は?」

アールグレイ『元気にやってるわ』

ヴェニフーキ「そうですか。良かったです」

アールグレイ『早くダージリンが帰れると良いわね』

ヴェニフーキ「言わずもがな。そのために面倒事を引き受けてるので」

アールグレイ『ふふっ。それでは引き続き頼むわね。ヴェニフーキ』

ヴェニフーキ「はい。おやすみなさい。アールグレイ様」



ここに来てからは毎日欠かさずアールグレイさんと連絡を取っている。

…といっても今はまだこれと言った"異変"はないため、他愛のない世間話ばかりだけど。

あとは聖グロの校風や伝統、校則にルール・マナー、生徒の詳細など、私が聖グロに溶け込むための情報を貰ったりしていた。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 20:31:14.24 ID:dyebJbRk0<>

【翌日 チャーチル歩兵戦車 砲手席】



アッサム「全車前進」



先日の紅白戦の成績が評価されたことにより、隊長車、つまりアッサムさんやペコがいるチャーチル歩兵戦車に乗ることになった。

ダージリンに代わりアッサムさんが車長に、装填手はペコ。そして空席となった砲手を私にやれというのだ。

他の生徒だったら『大出世だ!』と喜ぶ話なのだが、私にとっては面識がある二人に最も近い場所にいることになる。

…参ったな。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 20:33:18.57 ID:dyebJbRk0<>
オレンジペコ「ヴェニフーキ様、紅茶はいかがですか?」

ヴェニフーキ「今は結構です。ありがとう」

アッサム「…珍しいですわね。紅茶を飲まないなんて」

ヴェニフーキ「紅茶を片手に照準を合わせる技術は私にはありません」

アッサム「そうですの? 私は普通に紅茶飲みながら砲手やってたけれど」

ヴェニフーキ「私がアッサム様の域に達するには、まだまだ時間がかかります」

アッサム「まあ良いでしょう。飲みたい時に飲むのが一番ですものね」

オレンジペコ「紅茶が欲しくなったら言ってくださいね」

ヴェニフーキ「ありがとう」



照準を合わせる、砲塔を動かす、撃つ

砲手なら誰もがやるこれら一連の動作に加え、私は2人に気取られること無く振る舞わないといけない。

もうずっと、気を張りつめたままだ。
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 20:35:18.21 ID:dyebJbRk0<>

『T-34発見しました。どうしますか?』


アッサム「おそらくそれは囮」

アッサム「ひとまず引っかかった"フリ"をしてギリギリまで接近なさい」

『了解しました!』



しかも練習試合ということで、プラウダ高校をお招きしているというのだ。

アッサムさん曰く、しばらくは各高校と試合を重ね、より実戦に近い高度な練習を行っていくとのこと。

間違った策ではないが、私にとってはこれほど厄介なことはない。

なにしろ、聖グロはもちろん、外部の生徒にだって正体がバレては困るから。



ヴェニフーキ「T34、3輌発見。撃ちますか?」

アッサム「行けそう?」

ヴェニフーキ「ええ」

ヴェニフーキ「私の砲撃を合図に一斉射撃を」

アッサム「わかりました。全車輌、隊長車に続き砲撃開始」


カチッ

ズガァァァァァァァァン!!

ズドーン!

バシューン!


ポシュッ! ポシュッ!

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 20:37:59.10 ID:dyebJbRk0<>
アッサム「お見事ですわ」

オレンジペコ「凄いです!あの距離で…!」

ヴェニフーキ「装填を」

オレンジペコ「は、はいっ!」

ガコン

オレンジペコ「装填完了です!」

ヴェニフーキ「…目標、T34」


カチッ ズガァァァァァァァァン!!!

シュパッ


ヴェニフーキ「…」

アッサム「これで3輌すべてを白旗ね」

『T34、3輌撃破を確認です!』

『こちらも確認出来ました。ですが、まだ敵の主力は見当たりません』

アッサム「了解。引き続き索敵なさい」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 20:41:54.76 ID:dyebJbRk0<>
ヴェニフーキ「…」

オレンジペコ「ヴェニフーキ様?」

ヴェニフーキ「妙ですね」

アッサム「妙?」

ヴェニフーキ「我々はあえてプラウダの罠に引っかかった」

ヴェニフーキ「なのに、何も起きない」

オレンジペコ「…そう言われてみれば」

アッサム「油断は出来ません。何せ向こうは私達を簡単に倒せる火力を有していますもの」

ヴェニフーキ「…」



ズガァァァァァァン!!!!

パシュッ!



アッサム「ッ!!」

『北北西から砲煙確認!!』

『申し訳ありません! ルクリリ車やられました!!』

ヴェニフーキ「音からして大きいやつですね」


今は音からしてIS-2。撃ったのは恐らくノンナさんだろう。

この距離では装甲は抜けない。対して向こうの122ミリ砲はこちらの戦車を破壊できる。

何しろ、IS-2は"豹戦車に真正面から撃ってエンジンや後部装甲まで貫ける戦車"だから。

…すごい誇張だ。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 20:45:31.30 ID:dyebJbRk0<>
ヴェニフーキ「ここで立ち往生しては数を減らされるだけです」

アッサム「確かに。格好の的ですわね」

ヴェニフーキ「幸いIS-2は砲弾重量が重たいこともあり、連続射撃は困難でしょう」

ヴェニフーキ「今のうちにクルセイダー部隊を先頭に進撃を」

アッサム「そうですわね。ローズヒップ!」


ローズヒップ『はいっ! ただ今使用中でございますの!』


アッサム「」ガクッ

オレンジペコ「あはは…」

ヴェニフーキ「…」


アッサム「…いいですかローズヒップ。無線はお手洗いではありませんの。使用も未使用もありませんのよ…」ハァ...

ローズヒップ「これは失礼しましたでございますの!」

アッサム「そんなことよりローズヒップ! 先程の砲撃音がする方向へ僚車を連れて進みなさい!」

アッサム「そして相手を撹乱するのです。砲弾が早いかあなたが早いかの勝負です!」

ローズヒップ『わっかりましたわぁー!』ブロロロロロロッ


ヴェニフーキ「元気ですね」

オレンジペコ「元気です…」

アッサム「元気だけが取り柄なのよあの子は…」ヤレヤレ



良い事じゃないか。何を始めるにせよ元気がなければ続かない。

前々から思っていたが、ローズヒップさんは知波単学園の価値観と合致する。

そのせいかかつての仲間たちを見ているようで微笑ましい。

今抱える問題が解決したら彼女には是非とも知波単学園にも遊びに来てほしい。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 20:52:07.70 ID:dyebJbRk0<>
ローズヒップ『アッサム様ぁ! IS-2発見ですわ!!』

アッサム「良くやりましたローズヒップ。そのまま撹乱してあげなさい」

ローズヒップ『かしこまりでございますの! バニラ! クランベリー! いっきますのよぉぉぉ!!』


ヴェニフーキ「こちらもIS-2を確認」

オレンジペコ「車体は正面を向いていますが、クルセイダーに注意が行っているようで、こちらにはまだ気付いていないようです」

アッサム「しかし、はあの正面装甲を貫くのは不可能ね…」

ヴェニフーキ「引き続き、気を散らしてもらいましょう」

ヴェニフーキ「その隙に私が」

アッサム「わかりました」

アッサム「ローズヒップ、こちらもIS-2を確認しました。射撃できる場所まで移動するので、あなたはそのまま挑発を続けて下さい」

ローズヒップ『了解ですわよぉー!!』


ヴェニフーキ「…」

アッサム「ここから攻撃するつもりですの?」

ヴェニフーキ「ええ」

オレンジペコ「で、でもIS-2の正面装甲は…」


ズガァァァァァァァァァン!!!


シュパッ

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 21:01:40.42 ID:dyebJbRk0<>

アッサム「IS-2が…戦闘不能に…?!」

オレンジペコ「す、すごいです! あのIS-2がっ!」パァァッ

ヴェニフーキ「まだ試合は終わっていません」

オレンジペコ「あっ、ご、ごめんなさい」アセアセ


アッサム「…どういうことですの?」

ヴェニフーキ「何がです?」

アッサム「IS-2の正面は100mm。私の計算が正しければ、この距離からそれを撃ち抜くのは不可能なはず」

オレンジペコ「確かに…。一体どういう…?」

ヴェニフーキ「仰る通り、IS-2の正面は簡単には抜けません」

ヴェニフーキ「なので、正面ではなく、"上面"を狙ってみた次第です」

アッサム「い、いや上面って…。この角度からでは…」

ヴェニフーキ「砲塔防盾の下の方を狙い、そのまま反射させる」

アッサム「っ!」

ヴェニフーキ「狙った跳弾がうまく車体上面へ滑り込んでくれました」

アッサム「なるほど、"ショット・トラップ"ね…!」

オレンジペコ「すごい…!」



『あいたーっ! すみませんっ! 敢闘及びませんでしたー!!』


そういえばエキシビジョンマッチ戦の時は、無線の不調で指示を履き違えて突撃し、ノンナさんに撃破されたなぁ…。

まさかこんな形であの時の無念(?)を晴らせるとは思わなかった。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 21:06:57.31 ID:dyebJbRk0<>


【試合終了後 紅茶の園】



IS-2は倒せたものの、プラウダの戦車軍団を前に勝利には至らなかった。

足は早いが力の弱い巡航戦車、守りは固いが足の遅い歩兵戦車。

いずれも一長一短な戦車だが、"火力"を見るといずれも心許ない。

そして今回の試合では特に火力不足が顕著となった。

かつてドイツもソ連のT-34に遭遇して全く刃が立たなかったという時期があったそうだが、今回の聖グロの試合はまさにその時のドイツだった。

巧みな戦術だけではどうしても限界は来てしまうのだ…。

そして、プラウダ高校でこの結果ならば、黒森峰や大洗女子を相手にした時…。



カチューシャ「まさかウチのノンナがやられちゃうとはねー」ズズ

アッサム「私も驚きました。あのような奇天烈な方法で戦車を狙うなんて」

ノンナ「えっ?」

カチューシャ「ふぇ?」

アッサム「ん?」

カチューシャ「あなたが狙ったんじゃないの?!」

アッサム「いいえ。私は今回は車長です。撃ったのはうちのヴェニフーキ」

カチューシャ「ヴェニフーキ? 聞いたことがないわね。新しく入った子?」

アッサム「ヴェニフーキ」



…アッサムさんめ。

正体がバレぬようプラウダの面々とはあえて離れた場所にいたのに余計なことを。

<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/05/03(水) 21:07:09.02 ID:BzNtc70Uo<> T-10……IS-4……ショトラ……うっ頭が <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 21:10:07.60 ID:dyebJbRk0<>

ヴェニフーキ「…お呼びでしょうか?」

アッサム「彼女が新しく入ったヴェニフーキですわ」

カチューシャ「あなた、うちのノンナを倒すなんてなかなかやるじゃない」

ヴェニフーキ「身に余るお言葉です」

ノンナ「あなたが…」

ヴェニフーキ「ん…」



そう、プラウダ高校にはノンナさんがいる。

この方の観察力・洞察力は計り知れない。

安っぽい変装なんぞ瞬く間に見抜かれてしまうのではないか。

早くもピンチだ。



ノンナ「Здравствуйте」

ヴェニフーキ「こんにちは」



英語がわからんのにロシア語なんてわかるはずがない。

ノンナさんが何と仰ったのかわからんので、ひとまず挨拶で返した。

先日は西絹代がお世話になりました。

"水飴"の件はプラウダ高校に良い結果をもたらしたようですね。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 21:15:54.03 ID:dyebJbRk0<>
ノンナ「聖グロリアーナの砲手といえば、アッサムさんが有名ですが、あなたもまた射撃の名手なのですね」

ヴェニフーキ「お褒め頂き光栄です。アッサム様が有名かどうかは存じかねますが、いつでも追い抜けるよう鍛錬を積み重ねております」

カチューシャ「あなた言われてるわよ」

アッサム「おんのれヴェニフーキ…」ワナワナ


ノンナ「転校されたとのことですが、以前の学校でも砲手を?」

ヴェニフーキ「特に役割は固定されてはおりませんでした。砲手の時もあれば車長の時も」

ノンナ「ふふ。私も同じです。親しいものを感じますね」ニコッ

ヴェニフーキ「同じ境遇の方がいらっしゃって嬉しいです」

カチューシャ「そうよねぇ。ダージリンが倒れちゃうんだから」

ヴェニフーキ「…」

ノンナ「カチューシャ」

カチューシャ「だってそーじゃない。隊長が倒れたら誰が部下を指示するのよ?」

ノンナ「その為にアッサムさんがいらっしゃるのですよ」

カチューシャ「ダージリンもバカね。風邪なんか引くなんて。おヘソでも出して寝てたのかしら。あっははははっ!」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 21:17:33.87 ID:dyebJbRk0<>

ヴェニフーキ「………何?」




ノンナ「っ!!」

カチューシャ「な、何よ!?」

アッサム「!? やめなさいヴェニフーキ!!」

ヴェニフーキ「…」

カチューシャ「ひっ!!?」

ノンナ「Пожалуйста, укрывает ее!!」

クラーラ「Да!」

カチューシャ「く…クラーラ…!?」

ノンナ「申し訳ありませんヴェニフーキさん…彼女には私の方から伝えておきますので、どうか…!」

ヴェニフーキ「………いえ。私の方こそ取り乱してしまい、申し訳ありません」

アッサム「ヴェニフーキ。下がりなさい」

ヴェニフーキ「………」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 21:19:10.09 ID:dyebJbRk0<>
【聖グロ学園艦 ベンチ】



ヴェニフーキ「…」



………やってしまった。

少しおちょくられただけなのに、あの時の光景がそのままフラッシュバックしてしまった。

ダージリンを地獄に叩き落とした連中と重なってしまった。

くそ…。

私のせいでせっかくの交流試合も台無しだ。



「ここにいたのね…」


ヴェニフーキ「!」

カチューシャ「…」

ノンナ「…」

クラーラ「…」



先ほどのお三方がやってきた。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 21:23:45.53 ID:dyebJbRk0<>
ヴェニフーキ「…カチューシャさん」

カチューシャ「…」

ノンナ「カチューシャ、」

カチューシャ「わかってるわよ! …その…ヴェニフーキ」

ヴェニフーキ「はい」


カチューシャ「さっきは悪かったわ………ごめんなさい」ペコリ


ヴェニフーキ「いえ。私の方こそ無礼を働き、大変申し訳ありません」

ノンナ「私の方からもお詫び致します」フカブカ

クラーラ「…」フカブカ

ヴェニフーキ「頭を上げてください。皆様に非はありません」

カチューシャ「あなたはここに来てまだ日が浅いのに、ずいぶんダージリンを大事にしてるのね」

ヴェニフーキ「ダージリン様だけではありません。聖グロの皆様は私のって家族のような存在です」

ノンナ「…」


カチューシャ「私だって家族を侮辱されたら怒るわ」

ヴェニフーキ「…」

カチューシャ「なんだかあなた、ノンナに似てるわね」

ヴェニフーキ「えっ?」

カチューシャ「無口で殆ど表情変えないところや、裏で色々考えているところとか」

カチューシャ「あ、あとは砲手やってるところもね!」

ヴェニフーキ「ノンナさんと比べたら私など…」

カチューシャ「似てるわよ。すっごく」

ヴェニフーキ「…」

ノンナ「…」



私はノンナさんのような立派な人じゃない。

聖グロのことなんてこれっぽっちも考えていないし、腹の中には汚いものが詰まってる。

そして、それがバレないように必死に感情を殺してるだけ…。
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 21:26:44.79 ID:dyebJbRk0<>
カチューシャ「うちのノンナはね! 何でも言うこと聞いてくれるんだから!」

カチューシャ「肩車するし、お腹が空いたらボルシチ作ってくれるのよ!」

ヴェニフーキ「ふふ。とても素敵な方です」

ノンナ「…」

カチューシャ「そうよ! ノンナは凄いのよ! ね? ノンナ!」

ノンナ「はい。とっても凄いです」

ヴェニフーキ「ノンナさんの凄さ、伝わってきます」



ほとんど表情を変えないノンナさんだが、どことなく嬉しそうなのが伝わってくる。

カチューシャさんに評価されて喜ぶノンナさん。

そんなカチューシャさんを称賛すると、やはりノンナさんは嬉しそうにする。

本当に大切にされているというのが部外者である私にも伝わってくる。


私も。ダージリンが何かお願いして来たらきっと断れないだろうな。

お腹が空いたと言うならご飯は作るし、出かけるときはお弁当も作ろう。肩車は…出来るかな。あはは。

そうだ。もし今度会う機会があったら寝るときに子守唄を歌ってあげよう。
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 21:28:56.94 ID:dyebJbRk0<>
カチューシャ「もちろん隣りにいるクラーラも、部下のニーナやアリーナもちょっとオッチョコチョイだけど大事なんだからねっ!」

クラーラ「Я люблю тебя обратно」


ノンナ「то же」

カチューシャ「ちょっと! 日本語で話しなさいよ!!」

クラーラ「かちゅしゃさま、もずく」

カチューシャ「もずくって何よっ!!」

ノンナ「クラーラは日本語が堪能なんです」

カチューシャ「嘘つくなっ!!」

ヴェニフーキ「ふふ」



プラウダ高校は時たま黒い噂を聞くが、こうやって見ると隊長もその側近もまるで家族(親子?)のようで微笑ましい。

彼女たちのやり取りをいつまでも眺めていたくなるほどに。

そして母校を離れていることもあって、そんな光景を羨ましく思う…。


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 21:31:34.90 ID:dyebJbRk0<>

カチューシャ「そうだヴェニーシャ!」

ヴェニフーキ「…ヴェニーシャ?」

ノンナ「カチューシャは親しみ持った方は名前の後に"シャ"を入れて呼ぶのですよ」

ヴェニフーキ「なるほど、ヴェニーシャ。悪くないです」



そういえば私も昔カチューシャさんに"キヌーシャ"と呼ばれていたっけ。

このヴェニフーキも気に入って下さったようで嬉しい。

…ただ、"ヴェニーシャ"というとまた別の名前みたいだから呼ばれても気付かないかもしれない。



カチューシャ「でしょー? カチューシャ様のネーミングセンスは世界一よっ!」フンス!

ヴェニフーキ「そうですね。折角ですのでアッサム様や後輩のオレンジペコにも何か愛称をつけて頂けると喜びます」

カチューシャ「ペコーシャは良いとして、アッサーシャ…いやアーシャにすべきかしら…迷うわね…」

ノンナ「ふふっ」

クラーラ「прекрасный」ホノボノ



"オバサム"とでも呼んでやって下さいと言おうと思ったが黙っておいた。

ダージリン曰く、アッサムさんはそういった"年"の話に敏感らしい。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 21:32:52.75 ID:dyebJbRk0<>
カチューシャ「…って、そうじゃなくて!…ほらっ!」

ヴェニフーキ「ん?」

カチューシャ「連絡先、交換しましょう!」ニッ

ヴェニフーキ「良いのですか?」

カチューシャ「あったりまえじゃない!」

ヴェニフーキ「ありがとうございます。喜んで」



こうして私はヴェニフーキとしてプラウダの皆さんと連絡先を交換した。

一応今日が"初めまして"だけれど、ここまで親交を深めることができて嬉しい。

ただ、出来るなら西絹代として仲良くなりたかったなぁ。




カチューシャ「そうだヴェニーシャ!」

ヴェニフーキ「はい?」

カチューシャ「これあげる!」

ヴェニフーキ「これは…」

カチューシャ「"水飴"よっ!」ニシシ



プラウダ高校に革命をもたらした日本の甘味料こと"水飴"

まさかこんな形で帰ってくるとは…。

あれからも気に入って頂いているようで何よりです。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 21:34:19.20 ID:dyebJbRk0<>
ヴェニフーキ「"水飴"…ですか」

カチューシャ「そうよ! "水飴"って凄いのよ!」

クラーラ「патока очень вкусный」ニコニコ

カチューシャ「納豆じゃない"水飴"よクラーラ!」

クラーラ「патока」

カチューシャ「だぁからぁ!」

ノンナ「патокаはロシア語で"水飴"という意味です」

カチューシャ「へ…? し、知ってるわよそんなの!」



ロシア語はよくわからないけど、クラーラさんに納豆を食べさせたらどんな反応するだろうか。

少し見てみたい気がする。

と言うより、日本に遊びに来た外国人には、まず納豆と梅干しを食べさせたい。

…嫌がらせかな? <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 21:36:34.93 ID:dyebJbRk0<>
カチューシャ「これを食べると脳が活性化されてウチのノンナみたいに凄くなれるのよ」

ヴェニフーキ「なるほど…」

カチューシャ「た・だ・し! 食べ過ぎると逆効果なのと、あと栄養分が偏ってもダメ」

カチューシャ「そして長時間の稼働もダメだから疲れたらすぐ寝なさい。8時までに寝ればギリギリセーフよっ!」ニシシ

ヴェニフーキ「かしこまりました。素敵なプレゼントと情報をありがとうございます」フカブカ



少し前まで眠れない日が続いていた上に薬物依存だった。

ここ最近もこういった事をしているため、気が休まることなんて無い。

とても健康な生活とは言えたもんじゃないな…。

だから私も"水飴"を食べて気分を落ち着かせた方がいいかもしれないね。

本当に素敵なプレゼント感謝いたします。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/03(水) 21:38:53.38 ID:dyebJbRk0<>
その後、何事もなくプラウダの皆さんとは別れた。

不思議なことにノンナさんに身元を特定されることは無かった。

いや、見抜いていたけど私に配慮してあえてあの場で言及しなかったのかもしれない。

いずれにせよ、プラウダの皆さんを騙しているので申し訳ない。


ただ、雨降って地固まるというべきだろうか。

一悶着の後は以前よりもプラウダ高校の皆さんと良好なな関係を築く事ができて、とても有意義な時間を過ごせた。

また今後も良好な関係を築いていけたらと思う。


夕日は沈み空は少しずつ暗くなっていく。

この時間に吹く風は涼しくて気持ちがいい。

気分が良いのでもう少し夜風にあたっていよう。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 07:06:56.13 ID:W+qxF0Vj0<>



「ヴェニフーキ様」

ヴェニフーキ「…」

「あの…ヴェニフーキ様…」

ヴェニフーキ「ん…何でしょう?」

「そ、その…アッサム様がお呼びです…」オロオロ

ヴェニフーキ「アッサム様が?」

「はい…お話があると…」

ヴェニフーキ「…」

「あ、あの…」オロオロ

ヴェニフーキ「わかりました。すぐ行きます」



安らぎの時間は聖グロ生の問いかけによって終わりを告げた。

アッサムさんが呼んでいるというが、大方先程の失態ついてだろう…。

一人きりの時間を邪魔されたのは不快だが、私に非があるのでアッサムさんにも謝っておかなくては…。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 07:13:18.61 ID:W+qxF0Vj0<>

【聖グロ 隊長室】


『どうぞ』



アッサムさんが待つ隊長室の扉を叩く。ここへ来るのは初めてだ。

隊長室は絨毯、机、椅子、壁画、どれをとっても一級品に見えてで、まさにお嬢様学校らしい空間だった。

"見えて"というのは、私が一級品を知らないからそう見えるだけだ。ひょっとしたら紛いモンかもしれない。

どちらにせよ学生畜生がこんな場所でふんぞり返っていると思うと何だか無性に腹が立つ。

しかし鬱憤をどこで晴らせば良いのかわからないので、とりあえず目の前にいるアッサムさんをギロッと一睨みしてやった。



アッサム「うっ…そ、そんな顔したってダメですわよ…!」

ヴェニフーキ「…先程の件は私のミスです。申し訳ありませんでした」

アッサム「えっ? ええ…コホン! プラウダの方々も今回はお客様としていらっしゃったのです。誠心誠意応対するよう心掛けて下さい」

ヴェニフーキ「肝に銘じます」

アッサム「…それにしても、意外ですわね」

ヴェニフーキ「意外?」

アッサム「転校して間もないあなたが、ダージリンにあのような感情を持っていたとは」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 07:16:13.58 ID:W+qxF0Vj0<>
ヴェニフーキ「ダージリン様は今はいませんが、かつて聖グロの隊長をしておられた方」

ヴェニフーキ「それ故、ダージリン様を侮辱するのは聖グロを侮辱するも同然」

アッサム「カチューシャさんも悪意があって言ったわけではありませんわ」

ヴェニフーキ「その点については感情的になり過ぎたと猛省しております」


アッサム「…でも。ダージリンが聞いたらきっと喜ぶでしょうね」

ヴェニフーキ「そうだと良いのですが」

アッサム「ええ。ただ…」

ヴェニフーキ「?」

アッサム「…いいえ、何でもありません」

ヴェニフーキ「気になります」

アッサム「またいつかお話しましょう」

ヴェニフーキ「…」


アッサム「それともう一つ、明日は何か予定はありますの?」

ヴェニフーキ「いえ、特には」

アッサム「でしたら決勝戦を見に行きません?」



そう言えばそんな時期だった。

アッサムさんやペコの側にいるとバレないか冷や冷やしているので、出来れば一分一秒でも離れていたい。

だけどその一方で、大洗と黒森峰が戦う決勝戦も気になる。

下手に断ってもかえって不審がられるだろうし、ここは素直に参加しよう。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 07:19:47.66 ID:W+qxF0Vj0<>
ヴェニフーキ「是非とも」

アッサム「ふふっ。楽しみですね。決勝戦」

ヴェニフーキ「ええ」

アッサム「ちなみに現地には5時集合です」

ヴェニフーキ「5時?」

アッサム「ええ。特等席が埋まってしまわぬよう、一足先に会場へ向かいます」

ヴェニフーキ「わかりました」



わざわざ早起きしなくても、普通に観客席で見れば良いのに。

5時集合ということは…遅くとも4時には起きていないといけない。

…起きれるかな。



アッサム「ご心配なく。どなたかに起こしに行うようお願いしておきます」

ヴェニフーキ「それは頼もしい限りです」



それはもっとまずい。寝る時は髪をおろすしレンズも外す。

髪の色以外はほぼ西絹代になってしまうのだ。

なので部屋に誰かが来る前に起きて"変装"していなければならない。

寝坊が原因で正体がバレた!! などとなっては笑うに笑えんので、何としてでも4時より早くに起きる必要がある。


…まったくこの女は尽く余計なことをしてくれる。しかも善意でやってるからタチが悪い!

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 07:22:34.58 ID:W+qxF0Vj0<>
【翌日 早朝】


ビーッ ビーッ ビーッ ビーッ


ヴェニフーキ「ん……」



早朝というよりは夜だ。外はまだ真っ暗。

昨晩は念のため早めに寝たけど、それでも眠たくて頭が機能しない。

こんな状態ではいらぬ失言をしてしまいそうだ。

もう少し寝させてくれという欲求を必死に抑えてベッドから起き上がる。

さっさとヴェニフーキに"変身"して何かしら眠気覚ましでもしないと頭が使い物にならん。


コンコン

ガチャ


オレンジペコ「お早うございます。ヴェニフーキ様」

オレンジペコ「…まだお休み中ですよね?」



お出かけの準備をしていると"目覚まし係"がやってきた。

そういえばあの事件以来私はまだペコに謝罪をしていない。

一刻も早く謝罪して仲直りしたいのだが、いかんせん今はヴェニフーキだ。

もういっそのことペコにだけは正体を明かそうかな?

…いや、やめとこ。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 07:26:23.14 ID:W+qxF0Vj0<>

オレンジペコ「ヴェニフーキ様、おはようございます。お目覚めの紅茶お持ちしましたー」



朝早くに後輩を起こして目覚まし時計のように扱うなんて聖グロもなかなか酷だ。

ここは先輩が率先して後輩を起こしに行くべきだろうに。少なくとも知波単学園ではそうだった。

喇叭の音と共に皆が起床して、乾布摩擦に体操をして一日が始まるのが知波単流だ。

…まぁ今は聖グロにいるので郷に入れば郷に従えとなるわけだが。


恐る恐るベッドに近づくペコがなんだか可愛いので、このまましばらく様子を見ることにした。

このまま「バァーッ!」と脅かしてやりたいという欲求を必死に抑えながら。

だけど不審物を扱うかの如く慎重に近づくペコを見るに、自分はそれだけ恐れられているのだなと痛感する。


私ってそんなに怖いのかなぁ…。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 07:28:18.35 ID:W+qxF0Vj0<>

オレンジペコ「ヴェニフーキ様? …おはようございます??」

オレンジペコ「あ、あの。朝ですよ…?」オロオロ

オレンジペコ「…」

オレンジペコ「ヴェニフーキ様、意外に寝坊助さんなのかな…?」ボソッ

オレンジペコ「ふふっ。普段はクールですけど、意外な一面もあるんですね」

オレンジペコ「ちょっと可愛いかも」クスッ



ペコのやつ何やら悟りだした。

私がクールだと? それは断じてない。

やくざな人間よろしく一日中しかめっ面して、頭は漬物石みたいに硬い頑固者なだけだ。

可愛いは合ってる。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 07:30:09.20 ID:W+qxF0Vj0<>

オレンジペコ「あれっ!? ヴェニフーキ様がいない!?」


ヴェニフーキ「私ならここですよ」

オレンジペコ「ひぃっ!?」

ヴェニフーキ「おはようございます」

オレンジペコ「おひゃpzsflivc…あわわ…!」ビクビク

ヴェニフーキ「落ち着いてください。そこまで怯えられるとこっちもショックです」

オレンジペコ「あ、あごご、ごめんなさい…!」



またペコが小動物のように怯える。

あの時の光景を思い出して心が抉られる。

やるんじゃなかった…。

今思い返してもあの時の私は屑だ。もちろん今でも屑だが。

わざわざ私のために報告に来てくれたのに。

本当にごめんなさい…
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 07:34:12.81 ID:W+qxF0Vj0<>
ヴェニフーキ「起こしに来てくれてありがとう。ペコ」ナデナデ

オレンジペコ「あっ…ど、どういたしまして…///」



今は西絹代じゃないから謝罪をすることが出来ない。

だからせめて、こんな私のために朝早く起きてくれた事だけでも労わさせて欲しい。

意外にもペコは私に頭を撫でられることを嫌がらなかった。

どうやら撫でられるのが好きみたいだ。頬を赤らめ目を細めている。

そんな嬉しいような恥ずかしいような顔をするペコが可愛いので、このまま暫く撫でていよう。


しかしこの子はまたどうしてこんなにも愛くるしいのか。

あまりの可愛さでこのまま額にキスをしようかと思ったほどだ。ダージリンがいるからしないけどね。

次ダージリンに会ったら思い切り頭を撫でてキスもしよう。喜んでくれると良いな。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 07:35:39.76 ID:W+qxF0Vj0<>

オレンジペコ「あ、そうだ。紅茶をお持ちしましたよ」

ヴェニフーキ「ありがとう。一緒にいかがですか?」

オレンジペコ「えっ、良いのですか?」

ヴェニフーキ「ええ。ペコも早起きなので目覚ましが必要でしょうから」

オレンジペコ「えへへ。ありがとうございます…あれ?」

ヴェニフーキ「ん?」

オレンジペコ「今日はいつもと髪型が違うんですか?」

ヴェニフーキ「ああ。そういえば髪を巻く暇がなかったので。今日はこれで」

オレンジペコ「ふふっ。ストレートヘアなヴェニフーキ様も似合ってます」

ヴェニフーキ「ありがとう」



朝一番のティータイム(アーリー・ティーだったかな?)をペコと一緒に堪能した。

よくよく考えれば入院中にダージリンと一緒にティータイムをしたことは何度かあったけれど、ペコと一緒に紅茶を啜ることは今回が初めてだ。

少女のように愛くるしく笑う彼女はずっと眺めていても飽きが来ない。…あまりジロジロ見ると怪しまれるから程々にだけど。

ヴェニフーキでなければペコを弄ってその反応を肴に紅茶を味わえたのになぁ。

少し残念。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 07:37:53.07 ID:W+qxF0Vj0<>
ヴェニフーキ「さて、そろそろ行きましょうか」

オレンジペコ「あっ、私は他の方を起こしてきます」

ヴェニフーキ「他の人?」

オレンジペコ「はい。ルフナ様やルクリリ様もまだお休み中ですので」

ヴェニフーキ「そうですか。長々と付き合わせてしまって申し訳ない」

オレンジペコ「あ、いえいえ大丈夫ですよ。私も楽しかったですから」ニコッ



グェェェェッ!!!



ヴェニフーキ「…今のは?」

オレンジペコ「あはは。ローズヒップさんですね…」

ヴェニフーキ「…」



何やら首根っこを掴まれた鶏のような悲鳴が聞こえたぞ?

ペコ曰くローズヒップさんの所業らしいが、知波単の目覚ましより強力ではないか。



オレンジペコ「ああやって一人ひとりにヒップドロップを叩き込んで起こされているようです…」

ヴェニフーキ「なるほど。ペコもやってみては如何でしょう?」

オレンジペコ「流石にそれは…」ハハ...



私としてはあれくらいが丁度いいのではと思う。

なにしろ一人では起きることが出来ず、後輩に起こしてもらう寝坊助な先輩なのだ。

先輩は起きることが出来て後輩は鬱憤を発散できる。実に合理的だろう。

それが嫌なら自分で起きればいい。私のように。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 07:41:19.31 ID:W+qxF0Vj0<>
バタン!!

オレンジペコ「きゃっ!?」

ローズヒップ「ヴェニフーキ様〜〜!! 朝ですのよ〜〜〜!!!」

ローズヒップ「………おや? もうお目覚めですのね」

ヴェニフーキ「おはようございます。ローズヒップ」

ローズヒップ「おっはようございますですのー!」ペコリ

ヴェニフーキ「あなたも早起きでお疲れでしょうから紅茶でもいかが?」

ローズヒップ「ありがとうございますっ!」

ローズヒップ「ゴクゴク…ぷっは〜〜〜! んまいっ!!」

ローズヒップ 「ご馳走様です! では皆様を起こしに行って参りますのー!!」ピュー

ヴェニフーキ「…」

オレンジペコ「…」



麦酒を呷る殿方のような飲みっぷりだった。

あまりに良い飲みっぷりだったので思わず見惚れてしまったが、これは聖グロ的にはお淑やかではなさそうだ。

一応先輩として注意すべきなのだろうけど、一方で彼女の豪快な飲みっぷりをもっと見てみたいという悪魔の囁きも確かに聞こえる。

未成年なので麦酒はだめだが、清涼飲料の広告宣伝で起用したらきっと売れるに違いない。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 07:42:26.32 ID:W+qxF0Vj0<>
ヴェニフーキ「彼女は朝日よりも輝いていますね」

オレンジペコ「あはは…」

ヴェニフーキ「でも、さすがに寝込みを襲われるのは勘弁願いたいので、早起きを心掛けます」

オレンジペコ「ね、寝込み…/////」

ヴェニフーキ「なにしろ無抵抗ですからね。弄ばれては困ります」

オレンジペコ「はぅ…//////」ドキドキ

ヴェニフーキ「ん、どうされました?顔が赤いようですが?」

オレンジペコ「あ…い、いえ! 何でもありませんっ!」アセアセ


この子はまたいらん想像(妄想?)をして一人で顔を赤らめている。

やはりハレンチペコの名は伊達ではないな。

…もっともこういう反応をするのを見越した上でそう言ったわけだが。


しかしローズヒップさんは知波単の皆よりも元気っ子かもしれない。

彼女はどうして聖グロを選んだのかな? いつか聞いてみよう。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 07:46:53.60 ID:W+qxF0Vj0<>
ヴェニフーキ「ところで、アッサム様は?」

オレンジペコ「まだお休みです。一番最後に起こしに行くので」

ヴェニフーキ「そうですか。せっかくなので起こしに行きましょう」

オレンジペコ「えっ? ですがまだ時間が…」

ヴェニフーキ「こんな言葉があります。"早起きは三文の徳"」

オレンジペコ「た、確かにそうですよね…?」

ヴェニフーキ「隊長ならば部下たちの先頭に立って然るべきです」



まったくなんてやつだ。

部下を早く起こしておいて自分はまだ夢の中だなんて。

少しだけ頭にきたので"やつ"を叩き起こしに行くことにした。

アッサムさんの部屋へ向かう道中で、どうやって起こすか色々考えてみた。

個人的に鼻の下に山葵を塗ってやるのをオススメする。

これなら大半の人間が飛び起きるだろう。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 07:50:40.99 ID:W+qxF0Vj0<>

【アッサムの部屋】


オレンジペコ「きっとまだお休み中ですよ…?」

ヴェニフーキ「他の方が早く起きているのですから、アッサム様も同様に起こして差し上げましょう」

オレンジペコ「で、ですが怒られちゃいますよ…」

ヴェニフーキ「なら私が」

オレンジペコ「えっ…?」


ガチャ

キィィ...


アッサム「」

ヴェニフーキ「おはようございます。アッサム様」

アッサム「…はぅ……」zzz

ヴェニフーキ「…」



寝息を立てている。まだ夢の中にいるようだ。

ローズヒップさんのヒップドロップを3発ほど食らわせた方が良さそうだが、あいにく彼女は彼女で忙しい。

なので私が起こそう。


ダージリンによると、イギリス人は恋と戦争において手段を選ばないそうだ。

私はアッサムさんに恋した覚えはないのでこれは戦争だ。手段は選ばない。

彼女のやたら広い額にデコピンをしようとしたその瞬間だった…

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 07:51:19.51 ID:W+qxF0Vj0<>




アッサム「………ダージリン……」


アッサム「……ごめんなさい……私のせいで…………」








この女は一体なんの夢を見ている!?


私は起こすことも忘れて彼女の言葉の意味を探り出した。

なぜ謝る?

なぜ"私のせい"なんだ?


あんたは一体何を知っているんだ………


<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/05/04(木) 14:34:46.16 ID:LvExQT/zO<> ! <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 21:09:24.59 ID:W+qxF0Vj0<>
【廊下】


ガチャ


オレンジペコ「あっ…」

ヴェニフーキ「…」

オレンジペコ「あの…ヴェニフーキ様」

ヴェニフーキ「…ん、呼びました?」

オレンジペコ「? …あの、アッサム様は?」

ヴェニフーキ「どうやら、相当疲れているようです。起きませんでした」

オレンジペコ「そうですか…」

ヴェニフーキ「仕方がないのでローズヒップに任せましょう」



微睡みの中で彼女が言ったあの言葉が何を意味するのか気になって起こすなんてどうでも良かった。

アッサムさんは一体………。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 21:15:28.33 ID:W+qxF0Vj0<>


【学園艦を出て試合会場へ】



アッサム「…」ウツラウツラ

ヴェニフーキ「アッサム様」

アッサム「! ん…呼びました?」

ヴェニフーキ「間もなく会場へ到着します」

アッサム「わかりました」

ヴェニフーキ「何やらお疲れのようですが?」

アッサム「…ええ。少し夜更かしをしてしまいまして」

ヴェニフーキ「そうですか。通りで起こしても起きなかったはずです」

アッサム「あのまま起こしてくれたら良かったのに…」ジトッ

ヴェニフーキ「はい?」

アッサム「ローズヒップ」

ヴェニフーキ「…」



どうやら、アッサムさんもその後ローズヒップさんの"目覚まし"を受けたようだ。

だがそんなことは今はどうでもいい。

聞くとしたら今しかない。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 21:19:52.27 ID:W+qxF0Vj0<>
ヴェニフーキ「それで、私が起こしに行った時ですが」

アッサム「ええ」

ヴェニフーキ「何かあったのでしょうか?」

アッサム「何か、と言うと…?」



ヴェニフーキ「ダージリン様に謝罪をしておられたようですが?」



アッサム「っ!」

ヴェニフーキ「一体何があったのでしょう?」

アッサム「…」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「………そうですね。あなたにも話した方が良いかもしれません」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「聖グロリアーナの隊長、ダージリンは退学されました」

ヴェニフーキ「…退学?」

アッサム「ええ。…"不純交遊"が原因で」

ヴェニフーキ「…」



ここまでは知っている。OG会の"捏造"だ。

普通に"退学"として扱えばいいものを(勿論それでも私は許さないが)、連中はさらに"不順交遊"などと有りもしない情報をばら撒いてダージリンの尊厳を踏み躙った。

許さない…!

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 21:23:16.08 ID:W+qxF0Vj0<>
ヴェニフーキ「不純交遊…ですか」

アッサム「ええ…」

ヴェニフーキ「…それを知る者はどれくらい?」

アッサム「聖グロの幹部クラスの人間と、あとはあなただけ」



少しだけ安心した。本当に少しだが。

もしもこれが『全聖グロ生徒です』などと言われたら、聖グロにダージリンの居場所はもはや無い…。



ヴェニフーキ「それで、幹部クラスの皆様は何と?」

アッサム「その話を聞いたとき、ショックで皆頭が真っ白でしたわ。もちろん私も」

ヴェニフーキ「でしょうね。私も頭の中が真っ白になりそうです。髪の毛は既に真っ白ですが」

アッサム「そのジョーク、笑えませんわよ…」



嘘だ。

真っ白になるどころか顔は真っ青になるし、視界は真っ赤になっていた。

頭のなかで様々な色の絵の具をビタビタと叩きつけるように"あの場面"が再生され、心が壊れてしまいそうだった。

言葉では言い表し難いあの狂乱は制御できず、精神安定剤を打たれてようやく灰色になったくらいだ。


私の気持は誰にもわからない…。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 21:27:52.16 ID:W+qxF0Vj0<>
アッサム「ですが、ヴェニフーキ」

ヴェニフーキ「?」


アッサム「そんな噂話、信じてはいけません」


ヴェニフーキ「…と、申しますと?」

アッサム「ダージリンは"不純交遊"をするような者ではありません」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「彼女は常に自分を高めるために努力を惜しまない聖グロの誇り」

ヴェニフーキ「私もそう思っております」

アッサム「ならば彼女についての風説が虚偽のものだとわかるはず」

アッサム「こう見えて私はダージリンと競い合った一人ですから」

アッサム「彼女が何を見ているか、何処へ進むか、多少は理解しているつもりです」

ヴェニフーキ「…」


アッサム「それに、ダージリンが会いに行ったのは殿方のところではありません」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「ええ。彼女は戦友のお見舞いをしただけ」

ヴェニフーキ「戦友?」

アッサム「ええ」

アッサム「今大会の第一戦目でお相手した知波単学園の隊長、西絹代さんです」

ヴェニフーキ「知波単学園の西絹代…一体どんな方なのでしょう」



我ながら白々しい質問をする。

西絹代というのは何も考えずなりふり構わず突っ込んで勝手に痛い思いをする間抜けだ。

そのくせ助平で捻くれ者で、挙句の果てに身分を偽ってあなたのすぐ隣りにいる"変態"だ。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 21:30:55.78 ID:W+qxF0Vj0<>


アッサム「彼女は戦車道において大きな意味を持つ人でしてよ」


ヴェニフーキ「なっ…」

アッサム「かつて、一切の戦術性の無い、突撃一辺倒だった知波単学園に大幅な改革をもたらし」

アッサム「そして、私たち聖グロが手も足も出ないほどにまで成長させた"軍神"です」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「彼女は簡単には変えられないものを変えた。だから強くなった」

アッサム「きっと血の滲むような努力をなされていたのでしょう。…ダージリンのように」



あまりに突拍子もない事を言う。思わず声が出てしまった。

私が戦車道界において大きな意味を持つ? 軍神?? 馬鹿も休み休み言ってくれ。

単に運が良かっただけだ。賽子の目が2回連続で6が出たようなもの。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 21:37:40.58 ID:W+qxF0Vj0<>

アッサム「"ここでしか咲けない花がある"」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「先の大洗廃校騒ぎのとき、大洗の五十鈴さんがそんなことを口にしてたそうです」

アッサム「仲間の大切な場所を守るため。そんな凛たる一輪の花…」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「絹代さんもまた、仲間の大切な場所を守るために咲き続ける一輪の花なのです」

アッサム「仲間のため、自分のために戦い続け…」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「そして、それは傲慢で臆病だった私に戦う術と場を与えてくれた、かつてのダージリンと同じ………」

ヴェニフーキ「………」


アッサム「だからダージリンは、絹代さんに

ヴェニフーキ「もう結構です」

アッサム「えっ…?」

ヴェニフーキ「その西絹代という人物は大体わかりました」

ヴェニフーキ「そして、彼女がダージリン様を誑かした」


アッサム「違うっ!!」


ヴェニフーキ「…」

アッサム「…ヴェニフーキ。いくらあなたとは言え、"彼女"を侮辱するのは許しませんよ…?」

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 21:42:59.44 ID:W+qxF0Vj0<>
ヴェニフーキ「彼女とは?」

アッサム「絹代さんです」

ヴェニフーキ「なぜそこまでその女に」

アッサム「口を慎みなさいヴェニフーキ」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「あなたにはわからないかもしれないけれど」

アッサム「彼女もまた、ダージリンと同じく、命をかけて学校や仲間、そして戦車道を守った一人です」

ヴェニフーキ「初耳ですね。どこでそんな話を?」

アッサム「こう見えて、他校の情報収集には余念がありませんのよ?」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「大会が始まる前に、知波単学園は成績不振であるが故に、戦車道の廃止を通告されたそうです」

アッサム「…しかし、大会で成果をあげることを条件に廃止の撤回を要求し、その結果、知波単学園の戦車道は生き残った…」

アッサム「繰り返しになりますが、彼女もまた、自分や仲間たちの戦車道を守り抜いた一人なのです…!」



…余計なことを。

これは私一人だけの問題だったのに。

誰にも知られたくなかったのに…。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 21:47:08.22 ID:W+qxF0Vj0<>
アッサム「彼女のことは卒業なさった先輩方も高く評価しておられました」

アッサム「中には彼女の思想を戦車道にも反映させてはどうかと提言なさる方までいるほど」

ヴェニフーキ「OG会の皆様ですね?」

アッサム「ええ」

ヴェニフーキ「そんなOG会は、何故ダージリン様の退学に異を唱えなかったのでしょう?」

アッサム「わからない…」

ヴェニフーキ「もし私がOGの一人だとして、ダージリン様の功績を知る者であれば、いきなり退学などさせず、情状酌量を検討しますが?」

アッサム「ええ…」



アッサム「だから、私はダージリンを追放した者が誰なのか、知りたいのです」



ヴェニフーキ「…」

アッサム「この件はあまりに不可解な事が多すぎる」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「そして、ダージリンは今…」

ヴェニフーキ「今?」

アッサム「積み重ねてきたものを全部失ってしまった…」

アッサム「だから…彼女が自暴自棄に陥っていないか心配なのです…」

ヴェニフーキ「連絡は?」

アッサム「電話は通じず、ご自宅にも伺ったけれど、会うことは出来ませんでした…」

ヴェニフーキ「…」



なるほど。そういうことだったのか。

どうやら、アッサムさんは敵ではなさそうだ。少しだけ安心した。

だが、そうなると内通者は他にいるわけで、また別の人を疑わないといけない…。

今までは"アッサムさん"という明確な対象がいたが、今度は"聖グロの誰か"になる。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 21:48:28.82 ID:W+qxF0Vj0<>
アッサム「この話はくれぐれも内密にお願いしますの」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「ヴェニフーキ?」

ヴェニフーキ「この話は誰に?」

アッサム「あなただけです」

ヴェニフーキ「何故、転校したばかりの私に?」



アッサム「あなたを次期隊長として見ているからです」



ヴェニフーキ「次期隊長…ですか」

アッサム「ええ。あなたの判断力、洞察力はとても大きな戦力でしてよ」

アッサム「だから、我々なき後の聖グロを支えて欲しいのです」



…なるほど。私の実力を高く買ってくれたわけか。

ならば遠慮なくその"権限"を使わせていただこう。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 21:50:38.95 ID:W+qxF0Vj0<>


【決勝戦当日 試合会場 広場】



ヴェニフーキ「観客席は?」

アッサム「他の者が準備してますわ」

ヴェニフーキ「では私も手伝いを」

オレンジペコ「あっ、こちらはもう終わりましたよ」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「ご苦労様です。ペコ」

ヴェニフーキ「アッサム様」

アッサム「何ですか?」

ヴェニフーキ「大洗の皆さんは私達と同様に早起きでしょう」

アッサム「ええ…?」

ヴェニフーキ「その上、見物人である我々と違い、これから実際に試合に臨む」

アッサム「そうですけれど、それが何か?」

ヴェニフーキ「なにか温かい飲み物でもご用意出来たらと思いまして」

アッサム「ああ。それもそうですわね」

オレンジペコ「ふふっ。ヴェニフーキ様は意外に優しいのですね」



意外とは失礼な。

お世話になっている大洗の皆さんに少しでも恩を返したいだけだ。

それに仮に大洗でなくても、これから戦う人たちに敬意を示すのは当然だろう。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 21:52:44.98 ID:W+qxF0Vj0<>
オレンジペコ「でも、そんな優しいヴェニフーキ様が好きです」ニコッ

ヴェニフーキ「ありがとう」



屈託のない笑顔で言ってくれる。

これが男の子だったら一発で落ちてしまうのではないだろうか。

そんなウブなことを考えていたら、大洗女子のあんこうチームの皆さんが来た。

朝早くの現地入りだったので案の定皆さん眠そうだ。

秋山さんに至っては奥歯まで見えそうなくらいの大あくびをされる。




アッサム「ふふっ。随分大きなあくびですこと」

優花里「ほぇ?」ポケー

アッサム「御機嫌よう。大洗の皆さん」

オレンジペコ「お早うございます」ペコリ

沙織「お早うございます。その……セイロンさんでしたっけ?」

アッサム「っぐ…! ですからアッサムですってば!」グヌヌ

沙織「ほぇ?! ご、ごめんなさい!!」ワタワタ

オレンジペコ「どういうわけか色んな方に間違えられるんですよね…」アハハ

アッサム「笑い声じゃありませんのよ!」



私もこの前間違えた。その節は失礼しました。

だが存在感の薄いあなたにも非がある。

薄い存在感とは裏腹にやたら主張的なそのデコにアッサムと書いてはどうだろうか。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 21:54:06.51 ID:W+qxF0Vj0<>

みほ「あれ? そういえばダージリンさんは?」

沙織「ホントだ。ダージリンさんがいない?」

アッサム「ああ…」

オレンジペコ「あ…あの…」

みほ「?」

ヴェニフーキ「ダージリン様は現在、静養中でございます」

優花里「えっ? そうなのですか!?」

みほ「静養中…何かあったのですか?」

アッサム「ええ。…ちょっと体調を崩されて」

オレンジペコ「何しろここ最近は忙しかったですからね…」

みほ「そうなんですか?」



このことはあくまで聖グロの内の話だ。

彼女たちに本当のことを伝える必要はないだろう。

今は決勝戦にだけ集中してほしい。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 21:55:18.44 ID:W+qxF0Vj0<>
華「あの、初めてお会いする方…ですよね?」

ヴェニフーキ「ご挨拶が遅れました」

ヴェニフーキ「聖グロリアーナ隊長車・砲手の"ヴェニフーキ"と申します」

ヴェニフーキ「どうぞ、お見知りおきを」

華「ヴェニフーキさんですね。私、大洗女子の隊長車の砲手を務める五十鈴華です。宜しくお願い致します」フカブカ



五十鈴さん、あなたのご活躍もよく存じております。

我々との戦いでは無人機を全て撃破され、サンダース戦においてはあのB-29を撃墜し、その後エース車輌、フラッグ車と立て続けに撃破した名砲手。

間違いなく高校戦車道の三大砲手の一人だろう。

そして、今回の試合もやはりあなたの腕にかかっている。

どうかお願いします。五十鈴さん。大洗のために。戦車道のために…!

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 21:56:35.63 ID:W+qxF0Vj0<>

沙織「あれ?隊長車の砲手って確かアッサムさんじゃ?」

麻子「ダージリンさんが休養中だから配置が変わったのだろう」

沙織「麻子起きてたの?」

麻子「寝ながら聞いてた」

オレンジペコ「器用ですね」クスッ

アッサム「先述の事情により、今は私がグロリアーナの車長と隊長を兼任していますのよ」

アッサム「それ故、空いた砲手席にはこのヴェニフーキに座ってもらった次第です」

ヴェニフーキ「…」



悲しい人事異動だ。

ダージリン無き今はアッサムさんがかつてダージリンが務めた隊長と車長を担当している。

その結果アッサムさんは砲手席から車長席へと移動した。

空いた砲手席には私がいる。


本来なら存在しないはずの私が…。


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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 21:58:31.49 ID:W+qxF0Vj0<>
優花里「ヴェニフーキ殿はエキシビション戦や大学選抜戦ではお会いしなかったですよね?」

アッサム「ええ。転校生でしてよ。これまでイギリスで留学しておりましたの」

ヴェニフーキ「丁度この大会の準決勝が終わる頃こちらへ転校しました。今後はこちらでお世話になります」

華「まぁ。帰国子女ですのね!」



申し訳ない。それらの設定はすべて"嘘っぱち"だ。

イギリスへ留学していなければ英語も全くわからない。

そして聖グロに長々と居座るつもりもない。

事情が事情とは言え、大洗の皆さんにまで嘘を吐き続けなきゃいけないから胸が痛い。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 22:00:12.36 ID:W+qxF0Vj0<>
アッサム「ところで大洗の皆様、朝早くのご活動でしょうから、気付けとしてお目覚めのコーヒーでも如何でしょう?」フフッ

オレンジペコ「お食事も用意してありますよ」

華「お食事?! ありがとうございます!」ガタッ

エミ「わっ?!」ビクッ

麻子「おぉ…有り難い…」スピー

優花里「あはは。冷泉殿ったら寝ながら喋ってますよ」

オレンジペコ「き、器用ですね…」ハハ...

沙織「へぇ。聖グロもコーヒーとか飲むんだぁ」

アッサム「どういうわけか、コーヒー嫌いのダージリンが唯一飲む銘柄ですの」

優花里「それは物凄く美味しいんでしょうね!」キラキラ



『COFFEE SHIRATORI』


紅茶ばかり飲むダージリンがどういうわけかたまに飲むというコーヒーの銘柄だ。

この間ダージリンに淹れてもらったけど、苦い。

私はコーヒーの味がどういうものかはわからない。

だが、このコーヒーがどういうものかはわかる。


西呉王子グローナ学園の"キリマンジァロ"こと白鳥霧さんの想いが詰まった1杯。


彼女もまたダージリンに憧れる人物の一人だ。

制服から髪型、口調、常にティーカップを持っているところまでダージリンを真似ている。

私もかつて、知波単として西グロと手合わせしたことがある。

そしてわかったのは、彼女はただのダージリンの"パチモン"ではないということだ。

彼女もまた優れた指揮官の一人なんだ。



………ん

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 22:01:14.64 ID:W+qxF0Vj0<>
ヴェニフーキ「西住さん」

みほ「は、はい?」

ヴェニフーキ「先日の試合で、戦車が再起不能になったとお聞きしましたが?」

オレンジペコ「無人機が落ちて壊れちゃったんですよね…」

みほ「はい。うちの会長のお陰で代替車輌を手配することが出来ました」

オレンジペコ「良かったぁ…!」ホッ

ヴェニフーキ「間に合って良かったです」

沙織「ふふふ。すっごい戦車ですからね!きっと見たら驚きますよ!」

オレンジペコ「ええ!とても楽しみです!」ワクワクペコペコ


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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 22:06:03.44 ID:W+qxF0Vj0<>
もちろん知っている。

私も実際に製造現場に訪れて完成品を見て唖然した一人だ。

超重戦車と呼ばれる規格外の巨大戦車"E-100"に、最高クラスの高射砲を2門搭載した対空戦車だという。

対空戦等はもちろん、黒森峰のキングタイガーをも超える威力の主砲は、対戦車戦闘においても一切の不足はない。

相手によってはこの1輌だけで勝ててしまうのではないか、というくらい強力すぎる戦車なのだ。

実際のところ我々知波単学園の戦車でこの戦車を撃破できるかと言われると自信が無い…。


大洗は本当に"最強の戦車"を引っ張り出したのだ。

決勝戦に間に合って安心した。


しかし、今回の会場の地形を鑑みると、超重戦車特有の巨体と機動力の乏しさが仇となりそうだ。

地図を見てわかるように、市街地が大半を占めるこの会場では出会い頭の戦闘も想定されるため、素早く相手の死角へ回り込める戦車に利がある。

西住さんたちには申し訳ないが、その対空戦車はこの会場では猛威を振るうことは出来ない。



ある一箇所を除いて。



それを西住さんに伝えないと…。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 22:07:06.64 ID:W+qxF0Vj0<>
ヴェニフーキ「西住さん」

みほ「え、はい?」

ヴェニフーキ「…」

みほ「あ…えっと、ヴェニフーキさん…??」

ヴェニフーキ「試合まで時間があります。差し支えなければお話を」

みほ「はい?」

沙織「ヴェニフーキさんに口説かれてるのみぽりんっ?!」

ヴェニフーキ「…」



外野が騒がしい。

私が西住さんを口説く? そんな畏れ多いことはしない。

…そう思っていたら同じあんこうチームの方より見事な蹴りが入った。

ダージリンによくツネられていた私としては、短く悲鳴をあげる彼女に同情します。



ヴェニフーキ「場所を変えましょう」



ここではゆっくり話せそうにない。もう少し静かな場所に行こう。

先ほど派手に蹴りを入れられた方が心配そうにこちらを見ている。

なるべく早く言伝を済ませなければ。



「みぽりんに取られちゃった…」



心配しないで下さい。

話が済んだらすぐに西住さんはお返しするので。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 22:08:06.55 ID:W+qxF0Vj0<>


【試合会場 離れ】



みほ「あの…お話って…?」

ヴェニフーキ「そうですね。ここでなら」


試合会場から少し離れてしまったが、ここでなら誰かに盗み聞きされることもないだろう。




ヴェニフーキ「この試合、あなたは99%負ける」



みほ「………それをわざわざ言うために私をここへ呼んだのですか?」





西住さんは誰が見てもわかるほど嫌悪に満ちた目で私を睨みつける。

これまで私が何度も見た夢に出てくる西住さんの目だ。

私(西絹代)ではなく架空の人物(ヴェニフーキ)に向けられたものだと必死に自分を説得する。

そうでないと本当に心が壊れてしまう。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 22:09:32.30 ID:W+qxF0Vj0<>




ヴェニフーキ「この会場の中に1箇所だけ、黒森峰を一方的に葬れる場所があります」





彼女に試合会場の地図を渡してそう言い放った。すると今度は驚愕した。

無理もない。『99%負ける』と言ったと思えば今度は『完勝します』と言うのだ。

私が彼女なら相手の人格を疑うだろう。

そして、その1%の場所を教えないのだからなお意地悪な話だ。


…だけど、教えないのには理由がある。

この1%は西住さんたちに見つけてほしいからだ。

そうでないと私の功績となってしまう。

この情報を得た上で、それを信じるか、信じた上でどこに腰を下ろすか。

それは西住さんやその仲間たちと決めてほしい。

私はあくまで"誰にでも言えること"を言い放っただけなんだ。


その後、西住さんと別れた。

彼女は最後まで地図を食い入るように見つめていた。

私も聖グロの見物席へ戻ろう。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 22:10:47.60 ID:W+qxF0Vj0<>

【試合会場 応援席】


アッサム「どこへ行っていたのですかヴェニフーキ?」

ヴェニフーキ「少し会場を散策しておりました」

アッサム「そう。もう間もなく試合が始まりますわよ」

オレンジペコ「ヴェニフーキ様、紅茶いかがですか?」

ヴェニフーキ「ありがとう」

アッサム「さて…どうなるでしょうね」

ヴェニフーキ「…」



きっと見つけてくれる。1%の完勝を………。



オレンジペコ「アッサム様、大洗女子は勝てるのでしょうか…」

アッサム「厳しいわね………」

オレンジペコ「そんな…!」

アッサム「大洗の戦車が8輌に対し、黒森峰は20輌」

アッサム「単純に数で劣るのはもとより、黒森峰の戦車のスペックは全国でもトップクラス」

アッサム「その上、黒森峰は無人機を3機投入する…」

アッサム「勝率は限りなく0%に近いですわね………」

オレンジペコ「っ…」

ヴェニフーキ「…」



確かに厳しいだろうな。この1%の場所を見つけない限りは。

しかし、それでも西住さんたちはきっと、その1%見つけてくれるはず。

私が見つけられたのだから…!

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 22:14:02.97 ID:W+qxF0Vj0<>

アッサム「…どうやら、二手に分かれて防衛ラインを構築するようね」

オレンジペコ「橋が2つあるので、両方守らないと挟み撃ちになっちゃいますよね」

アッサム「しかし、西住さんたちの戦車はどこへ向かっているのでしょう」

ヴェニフーキ「…」

オレンジペコ「公園でしょうか? 他の皆さんとは随分離れた場所ですね」

アッサム「何やら白い建物に入ったみたいね…?」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「ヴェニフーキ? どこへ行くのです?」

ヴェニフーキ「急用を思い出したので。私はこれで失礼します」

オレンジペコ「えっ、まだ試合の途中ですよ?」

ヴェニフーキ「申し訳ありません。どうしても外せない予定でして」

アッサム「そう…。仕方ないですわね」

ヴェニフーキ「もしも、大洗女子が勝利したら、西住さんへ"おめでとうございます"とお伝え下さい」

オレンジペコ「はぁ…。わかりました」

ヴェニフーキ「それでは、お先に失礼します」

アッサム「………」



皮肉として受け取ったのだろうか。

アッサムさんもペコも呆れた顔をしている。

だが、西住さんたちは見事に1%を探し当てた。

この時点で勝利は確定している。


本当に、お見事でした西住さん…!

あなたはいつも最後には"正解"を見つけてくれる。

あなたが奔走した道の先はいつも明るい。

だから私もあなたのように走ろうと身体を奮い立たせることが出来るんだ。



そして、しばらくしてから大洗の勝利を告げるアナウンスが場内に鳴り響く。

優勝おめでとうございます。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 22:16:35.16 ID:W+qxF0Vj0<>

プルルル プルルル


ダージリン「はい」

ヴェニフーキ「…私です」

ダージリン「絹代さん? 試合はどうしたの?」

ヴェニフーキ「ええ。たった今試合が終わりましたよ。大洗の完勝です」

ダージリン「完勝? ということはみほさん達はあの場所を?」

ヴェニフーキ「そうですね。やはり西住さんたちは凄いです」

ダージリン「さすが西住さんね。お見事ですの」

ヴェニフーキ「それで、今からそっちに行ってもいいですか?」

ダージリン「今から? 別にいいけれど…」

ヴェニフーキ「ありがとうございます。すぐに向かいますね」

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 22:24:02.83 ID:W+qxF0Vj0<>
ダージリン「ところで、そっちは上手くいってるの?」

ヴェニフーキ「ん? こちらですか?」

ダージリン「ええ」

ヴェニフーキ「残念ながら、振り出しに戻ってしまいました」

ダージリン「という事はアッサムは無関係なのね。…良かった」

ヴェニフーキ「アッサムさんだと思っていたのですが…」

ダージリン「でもアッサムじゃないとすれば、別にいるのね…」

ヴェニフーキ「…ええ。ご心配なく。必ず突き止めますので」

ダージリン「ありがと。でも、くれぐれも無理しないでね?」

ダージリン「あなたが私のために頑張ってくれるのは本当に嬉しいわ。その気持だけでも満足よ」

ヴェニフーキ「はは。あなたが納得しても、私の腹の虫が収まらないでしょうね」

ダージリン「そう………」

ヴェニフーキ「ええ。続きはそっちへ行ってからにしましょう」


ヴェニフーキ「ダージリン」


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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 22:26:17.83 ID:W+qxF0Vj0<>

大洗女子は今頃優勝の喜びを噛み締めているだろうか。

それとも、あの黒森峰にあっけなく勝利して唖然としているだろうか。

いずれにせよ、大洗は様々な困難を乗り越えてまた栄光を手にした。

この試合の結果が無人機の廃止に繋がるかどうかはわからない。

けれど、西住さんたちは無人機を持たないながらも無人機を保有する強豪校に勝ち続け優勝した。

この事実は同じ立場にある学校の希望の光となった。


大洗女子が無事に優勝して一安心したので、私は私の仕事に集中できる。

なにしろ怪しいと思っていたアッサムさんが"白"だったのだ。

そうなれば内通者は他にいるわけで、そいつを探し出さないといけない…。

ただ、今日は早起きで試合会場まで出向いたから疲れた。

今は何よりもダージリンに会いたい。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 22:29:06.82 ID:W+qxF0Vj0<>

【ダージリンの部屋】


ヴェニフーキ「ただいま」

ダージリン「…あなたの部屋じゃないと何度言ったらわかるのかしら」

ヴェニフーキ「あはは。今ではここが私の帰る場所ですね」

ダージリン「全くもう…」

ヴェニフーキ「ダージリンが私の病室に訪れるように、私もここへ来たくなるんですよね」

ダージリン「あら。それはベッドの寝心地が良いからかしら?」

ヴェニフーキ「そうですね。あとはダージリンが作るおやつやご飯が食べられるからです」

ツネッ

ヴェニフーキ「痛っ…!」

ダージリン「人を便利屋みたいに扱わないで頂戴」

ヴェニフーキ「あはは」

ダージリン「それで、ヴェニフーキさん?」

ヴェニフーキ「…」

ダージリン「…なによ」

ヴェニフーキ「…」

ダージリン「…はいはい」


ダージリン「絹代さん」


西/ヴェニフーキ「なんでしょう?」



ここ最近は色々ありすぎてヴェニフーキという名前が少しずつ嫌になってきた。

そもそもダージリンから貰った"ベニフウキ"じゃなく、アールグレイさんが勝手に作ったものだしね。

なによりダージリンと二人きりの時は名前で呼んでほしい。
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 22:31:58.11 ID:W+qxF0Vj0<>

ダージリン「やれやれ。…で、教えて下さるかしら?」

西「アッサムさんの件ですか?」

ダージリン「…そっちもだけど、決勝戦のこと」

西「あぁ。さっき電話で話した通り、大洗女子が優勝しましたよ」

ダージリン「そうじゃないわ」

西「ん?」

ダージリン「あなたがみほさんにアドバイスしたこと」

西「ああ…」

ダージリン「どうしてあの"場所"だと思ったの?」

西「それはですね」

ダージリン「ええ」




西「カンですよ」





ダージリン「………本気で怒るわよ?」

西「今まで見たことないくらい怒ってますね。ダージリン」

ダージリン「いくらあなたでもみほさん達にふざけた真似をするのなら許さないわよ?」

西「あはは。…まぁ、西住さんたちが使う戦車を見て、次に試合会場の地図を見ました」

ダージリン「…」

西「そして、"もし大洗が西側なら、ここしか無いだろう"」

西「…そう私の感覚が教えてくれたんですよ」

ダージリン「…なるほど」

西「あの場所だったら2つある橋のいずれも見渡せる。まさに"司令塔"だったんです」

西「それだけでなく、視界も開けているので無人機を叩くにも申し分ない」

ダージリン「そうね。無人機さえ殲滅すれば、あとは塔の上から指示を送ることに専念できそうね」

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 22:35:52.79 ID:W+qxF0Vj0<>
西「更に指示を送るだけでなく、塔の上から橋を攻撃できます」

ダージリン「…!」

西「そして、西住さん達は実際にそれを遂行して、黒森峰のフラッグ車を撃破して"完勝"しました」

ダージリン「待ちなさい。あの塔から橋まではかなりの距離があるわ」

西「ええ。1,500〜2,500mほどでしょうか。狙うにしてもちょっと遠いですね」

ダージリン「ならどうして…」

西「従来の戦車ないし対空戦車だったら"司令塔"としての使用がせいぜいでしょう」

西「しかし、西住さんたちが乗っていた"E-100対空戦車"という、黒森峰のマウスに匹敵する戦車は、それ以上が可能だったのです」

ダージリン「そんなに凄い戦車をみほさんたちは…」

西「ええ。あれだけ離れていても黒森峰のティーガーを撃破できる強力な高射砲を搭載しています」

西「それを鑑みると、大洗女子は決勝戦より前からとんでもない成果を挙げていたのです」

ダージリン「でも、それほど強力な戦車ならこの高射砲塔でなくても、他の味方車輌と行動を共にしても同様の成果を挙げられるでしょう?」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 22:37:12.96 ID:W+qxF0Vj0<>
西「私も最初はそう思ったのですが、いかんせん巨大な戦車なので、無人機の格好の的になってしまうんですよ」

西「車体は大きいし、重たいので逃げるのが遅れてしまいます」

ダージリン「確かに…。発見したら真っ先に攻撃するでしょうね」

西「ええ。しかもそのE-100対空戦車はフラッグ車です。文字通り"切り札"なのです」

西「だから、無人機からの発見を少しでも遅らせ、見つかった時に応戦できることも考えて、最前線から離れた場所にある高射砲塔だろうと思ったんですよ」

ダージリン「…」

西「まぁ、黒森峰が無人機を積極的に使わなかったのは嬉しい誤算でしたけどね。あはは」

ダージリン「…おやりになるわね」

西「あはは恐縮です。…でも」





西「ダージリンも同じようなことを考えたのでしょう?」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/04(木) 22:58:04.63 ID:W+qxF0Vj0<>
ダージリン「ええ…一応は」

西「ですから、凄いのは私だけではありませんよ」

ダージリン「…そうかしら」

西「はい」

西「…ダージリンの考えが私にわかるように、私の考えもまたダージリンにはお見通しですよ」

ダージリン「…そうね」

西「ええ…」

ダージリン「…」

西「…」

ダージリン「…今日は大人しいのね」

西「ん」

ダージリン「いつもは」

西「誘ってるんですか?」

ダージリン「助平」

西「お互い様です。あはは」

ダージリン「…スカートの中に手を入れる人に言われたくない」

西「スカートじゃなく下着ですね」

ダージリン「…ふん………」

西「…痛かったら言ってくださいね」

ダージリン「ジロジロ顔を見ないでよ…」

西「…すごいぬるぬるしてます」

ダージリン「…あなたもね………」

西「あはは……………」

ダージリン「……………」

<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/05/04(木) 23:09:52.87 ID:TTrk1DBAO<> そう言えば、お二人はもう肉体関係になっていたのやったな。
ダー様と西さんが少女から女になった経緯も気になるけど、それよりも黒幕捜索編の続きが楽しみだ。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/06(土) 22:40:46.37 ID:px6Zc9J70<>

プルルル プルルル


せっかく二人っきりでのんびりしていたのに。

またアールグレイさんか。

この人は私とダージリンが一緒にいるタイミングを見計らって電話してないか?


…癒やしの時間を邪魔されたのでまた意地悪してやる。



ピッ


西(アッサム真似)「はい。聖グロリアーナ女学院、アッサムです」


ダージリン「ンぐっ!?」プルプル

アールグレイ『えっ? アッサム?』

西(アッサム真似)「なっ! そ、その声はもしかしてアールグレイ様?!」

アールグレイ『あ…ええ。そうよ』

西(アッサム真似)「あ、あ、あの…一体どんな御用でしょう!?」

ダージリン「っ…フッ…」プルプル

アールグレイ『ふふ…。ごめんなさい、お友達にかけたつもりが間違えてしまったみたい』

西(アッサム真似)「そ、そうですの…?」

アールグレイ『ええ。お騒がせして申し訳ないわね。それでは』


ツー ツー ツー


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/06(土) 22:43:18.54 ID:px6Zc9J70<>
ダージリン「っく…ぁふっ…な、なにしてるのよ…あはははっ!」プルプル

西「なんだか素直に出たいと思わなかったので、代わりにアッサム様…アッサムさんに出てもらいました。あははは」

ダージリン「くふふふっ。やめて頂戴。わっ、私を、あはは、笑い死にさせるつもりなの?」フフフッ

西「あはは」


プルルル プルルル


西「…また来ましたね。アールグレイさん」

ダージリン「こっ、今度はどうするの…?!」

西「うーん」

ピッ


西(オレンジペコ真似)「はい。オレンジペコです」


アールグレイ『あれ…?!』

ダージリン「ッグゥゥ!!」プルプル

西(オレンジペコ真似)「あの…どちら様でしょう…?」

アールグレイ『そ、その声はペコちゃん?』

西(オレンジペコ真似)「は、はい…そうですけども…」

アールグレイ『おかしいわね…確かに番号合ってるはずなのに…』

ダージリン「ッ〜〜〜!!」プルプル



ダージリンは必死に声を抑えて大爆笑しておられる。

本当に笑い上戸なんですね。私の分まで笑顔でいて欲しい。


…あ、とうとう耐えきれずに頭から布団かぶりだした。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/06(土) 22:45:15.82 ID:px6Zc9J70<>

西(オレンジペコ真似)「あの…どちら様でしょうか…」

アールグレイ『あ、ごめんなさい。アールグレイですわ』

西(オレンジペコ真似)「えっ!? ハ、ハイグレっ!!?」

ダージリン「〜〜!!」ジタバタ

アールグレイ『ち、違うわよ! ハイグレじゃなくアールグレイ!』


西「この人今どこにいるのか知りませんけど、よく大きな声でハイグレなどと叫べますよね」ボソッ

ダージリン「〜〜〜〜〜!!」ジタバタ



ダージリンにだけ聞こえるようにボヤいてみた。

布団の中からダージリンの悶える声が聞こえる。

お淑やかなお嬢様で通してるダージリンが『ン゛オ゛ォォォォォォ!!!』なんて声を発するなど誰が想像出来ただろう。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/06(土) 22:47:26.44 ID:px6Zc9J70<>
西(オレンジペコ真似)「ふえっ!? アールグレイ様!? し、失礼しましたぁ!!」アセアセ

アールグレイ『良いわ…許してあげます』

西(オレンジペコ真似)「それで、ご用件の方は…」

アールグレイ『ああ、ごめんなさいね…ちょっと通話先を間違えてしまったみたいで…』

西(オレンジペコ真似)「そうですか…」

アールグレイ『ええ…それでは、また』

ツー ツー ツー


バサッ

ダージリン「ハァハァ……き、絹代さん…くっ…ふふっ…先輩をか、からかうのは程々になさい…」

西「そういうダージリンだって乗り気だったじゃないですか」

ダージリン「ふふ…ち、違うわよ…ふっ…ふぅ…あなたの真似が…くふっ…面白かっただけよ…」

西「はいはい。そういうことにしておきますね」

ダージリン「むぅ…」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/06(土) 22:49:47.04 ID:px6Zc9J70<>

プルルル プルルル


西「…しつこいですな」

ダージリン「ハフゥ……そろそろちゃんと出た方が良いわよ」

西「碌なことじゃないとわかって出るのは苦ですよ」

ダージリン「そう言わないの」

ピッ

西「はい」

アールグレイ『も、もしもし?!』

西「アールグレイさん? どうしたんですかそんなに慌てて?」

ダージリン「っくふ…」プルプル

アールグレイ『い、いえ…コホン なんでもないわ』

西「そ、そうですか?」

アールグレイ『ええ。気にしなくていいわよ』

西「は、はぁ…それで何の用でしょうかハイグレ…いやアールグレイさん」

ダージリン「ップグフ あっははははっ!! やめてぇ…わ、わたしもう無理あはっあっはっはあはっははははっ!!!」


アールグレイ『貴様かぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』



おお。

あの貴婦人っぽいアールグレイさんもギャグ漫画みたいな反応するんだなぁ。

なかなか面白いものを見る(聞く)事ができて私は満足ですよ。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/06(土) 22:51:51.09 ID:px6Zc9J70<>
西「いやーすみません。なんか少しイタズラしたくなっちゃいまして」

アールグレイ『少しどころじゃないわよ! こっちは本当に焦ったんだからねっ!!』

西「ハイグレにですか?」

アールグレイ『ハイグレって言わないで頂戴!!』

西「あの、周りの人に聞こえますよ…その、ハイグレって」

アールグレイ『あ゛っ! …コホン! と、とにかく!』

西「ええ」

アールグレイ『何か進展はあったのかしら?』

西「いえ。むしろ振り出しに戻った感じです」

アールグレイ『…つまり、アッサムじゃなかったと?』

西「ええ」

アールグレイ『そう。手がかりは無くなってしまったけれど、彼女が共犯者じゃなくて安心したわ』

西「どちらにせよ内通者は炙り出すつもりですよ」

西「"アッサムさんじゃなかった。そうですね。おしまい。" …では腹の虫が許してくれませんので」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/06(土) 22:52:56.12 ID:px6Zc9J70<>
アールグレイ『…そうであって欲しいわね』

ダージリン「…」

西「それで、ちょっと相談があるんですよね」

アールグレイ『相談?』

西「ええ。明日は日曜日なので、またお茶会でもいかがと思いまして」

アールグレイ『あら。あなたから誘ってくれるの?』

西「行くのが面倒なので迎えに来てください」

アールグレイ『なっ、こいつときたら…!』ワナワナ

西「冗談ですよ。私がお伺いしますよ」

ダージリン「…」


西「で、場所はどうしましょう?」

アールグレイ『…そうね。そっちにいるならまた私が迎えに行きますわ』

西「良いのですか?」

アールグレイ『ええ。その方が早いでしょうし』

西「助かります」

アールグレイ『…本当にそう思ってるのかしら』

西「だいぶ人格は壊れましたけど、恩を仇で返すような真似だけはしたくないと今でも思ってますよ」

アールグレイ『なら良いけれど…。それでは明日ね』

西「はい」

ピッ

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/06(土) 22:54:49.00 ID:px6Zc9J70<>
ダージリン「随分勝手に話を進めてくれるわね…」

西「ええ。非難轟々なのは覚悟の上ですが、ダージリンにも関わる話ですので」

ダージリン「そう…」

西「………ハァ…」

ダージリン「なによ」

西「何でもないです…」

ダージリン「…こっちおいで」

西「ありがと…」



何をしてるんだろうな私は…。

ダージリンの為だと言い聞かせてあれこれやってるのに、全然成果に直結しない。

ダージリンが聖グロから去ってもう何日目だ?

このままじゃ本当にダージリンが戻れなくなってしまう。

なのに私はまた甘えてばかり…。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/06(土) 22:57:31.45 ID:px6Zc9J70<>
ダージリン「髪は誰にやってもらったの?」

西「…アールグレイさん」

ダージリン「そう…。根本が少し黒いわよ」

西「また染めないといけないかな…」

ダージリン「ええ。でもあまり何度も染めると髪の毛傷んじゃうわね…」

西「こればかりは仕方ないですよ」

ダージリン「あなたの黒髪、気に入ってたのに…」

西「…ごめん」


ダージリン「…。最初あなたが"ヴェニフーキ"の格好で来たときは驚いたわ」

西「はは…。私も驚かれる覚悟はしてましたよ」

ダージリン「なにせ髪の毛は銀色で、眼は真っ赤。死神でもやって来たかと思ったくらいですもの」

西「でも、ダージリンはすぐ私だってわかってくれたじゃないですか」

ダージリン「それはまぁ…」

西「だから、他の人が気付くのも時間の問題でしょうね…」

ダージリン「どうかしら」

西「…ん?」

ダージリン「昔のあなたを知ってる人が今のその姿見たら別人だと思うわよ」

西「どうしてです?」

ダージリン「髪や瞳の色が違うのはともかく、目つきも雰囲気もぜんぜん違うのだから」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/06(土) 22:59:10.01 ID:px6Zc9J70<>
西「…」

ダージリン「かつてのあなたを知る人ならまず気付かないわ、今の落ち着き払ったあなたのことは」

西「そんなに落ち着いてます…?」

ダージリン「不気味なくらいにね。やたらうるさかった頃のあなたが嘘みたい」

西「そうですか…」

ダージリン「ええ。とても22輌持ってきたお馬鹿さんとは思えないわ」

西「その話で例えますか…」

ダージリン「ええ。何しろあの時のあなた、数もちゃんと数えられないほどでしたもの」

西「むぅ…」

ダージリン「だから…そんなあなたを変えちゃうほど、」






ダージリン「ショックだったのね………」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/06(土) 23:01:38.33 ID:px6Zc9J70<>
西「私が豹変するほどショックだったのですから、当事者のダージリンはそれ以上だと思います」

ダージリン「ええ…。しばらくは頭が真っ白で抜け殻のような気分だった…」

ダージリン「でも、あなたが来て、私の分まで苦しんでると知って、それ以上には至らなかった」

西「面白いですよね。当事者よりも第三者が発狂して壊れるなんて」

ダージリン「やめて。壊れるなんて言わないで」

西「…ごめん」

ダージリン「私だってショックなんだから…」

西「そうですね…いくらなんでもあんな出来事が起きては」

ダージリン「違うわ」

西「えっ?」


ダージリン「あなたが笑わなくなったこと…」


西「…」

ダージリン「ハッハッハ! って高らかに笑ってたあなたが、今じゃ乾いた笑いしかしない…」

西「そうですか?」

ダージリン「あの日からあなたが笑うところを見てない…」

ダージリン「ずっとそばにいるのに一度も………」

西「…」

ダージリン「昔はなんの根拠もないのに自身に満ち溢れて生き生きとしてたのに、今では悲しい目をしてる…」

ダージリン「まるで、抜け殻みたい………」

西「あんな酷いことをされたら誰だって悲しいですよ」

ダージリン「そうね…」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/06(土) 23:04:05.06 ID:px6Zc9J70<>
西「だから、私はこの問題が解決するまで笑う気にはなれないですね」

ダージリン「そんな…」

西「あ、でも心配ないですよ。ちゃんと解決しますので」

ダージリン「………」

西「今はダージリンだけが癒やしです」

ダージリン「今だけなの?」

西「あはは。これからもです」

ダージリン「もう…」



入院中という短い期間ではあるが、ダージリンは私の為に親身になってくれた。

ダージリンがいるという生活が当たり前になった。

私にとってダージリンは無くてはならない存在だった。

そんな中で起きた事件だから。

OGによるダージリンの"私刑"は、心を破すには十分だった。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/06(土) 23:07:40.88 ID:px6Zc9J70<>

【翌日 とある飲食店】


アールグレイ「ごきげんよう絹代さん」

西「お世話になっております」

アールグレイ「本当にお世話してるわ。まさか電話先であんな声真似するなんて」ヤレヤレ

西「ははは。アールグレイさんもダージリンと同じでリアクションが面白いのでついつい」

アールグレイ「…あなた、ロクな死に方しないわよ?」

西「覚悟は出来てます」


アールグレイ「…本題に入るわね。"相談"というのは?」

西「ダージリンもかなり回復してくれました」

アールグレイ「ええ」

西「ただ、このまま自宅待機ではさすがに色々宜しくないので、別の学校に一時的に転籍してみてはと思いまして」

アールグレイ「…確かに。あなたの言う通りね」

西「ダージリンには内緒ですけどね」

アールグレイ「転校先の候補はあるのかしら?」

西「ええ」



西「西呉王子グローナ学園です」



アールグレイ「…」

西「聖グロに近い環境の学校で何処が良いかなと、色々考えておりまして」

西「制服や紅茶を嗜むところ、お嬢様学校なところが聖グロと酷似していたわけです」

西「まぁ聖グロと酷似しているというより聖グロの真似したと言うべきでしょうけど」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/06(土) 23:10:34.48 ID:px6Zc9J70<>
アールグレイ「言い方は悪いけれど、西呉王子グローナ学園は聖グロの模造品みたいな学校でしてよ」

アールグレイ「そんなところに、"本物"を転校させるなんて、あなた何を考えているの?」

西「ダージリンを転校させると同時に、西グロから」




西「"ブラックプリンス"を借りる」




アールグレイ「!」

西「…前にお話した通り、ここ最近の聖グロはやたら他校と親善試合をしています」

西「アッサムさん曰く、ダージリンが抜けた穴を何とか補いたいと、実戦に近い練習を重ねて戦力の底上げを図っているわけです」

アールグレイ「なるほど。確かにアッサムらしい理にかなった考えね」

西「それで、親善試合を通じて感じたのは、戦力だけでなく戦車、もとい火力面においても"切り札"となりうる強力なものが欲しいと思いました」

西「実際のところ、プラウダや黒森峰の戦車は装甲が厚いので、既存の戦車ではかなり厳しいです」

アールグレイ「聖グロの戦車事情を憂いて下さるなんて嬉しいわね」

西「あはは。そこで目安として、"ティーガー"を撃破できる車両の導入をしてみてはと思った次第です」

西「で、ティーガーを破壊できる英国戦車といえば、ブラックプリンスなんですよね」

<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/05/06(土) 23:18:10.71 ID:c7sHEErhO<> センチュリオン、トータス「俺らも居るぞ。」

トータスは1000馬力以上のエンジンを搭載すれば普通に活躍できる子なんです。
ブラックプリンスのエンジンをミーティアに換装した場合も同様。
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/06(土) 23:21:32.51 ID:px6Zc9J70<>
アールグレイ「あなた、ブラックプリンスがどんな戦車か知ってるの?」

西「オードソックス 17ポンポン砲でしたっけ?」

アールグレイ「…"オードナンス 17ポンド砲"よ」

西「あ、それですね。…とにかくティーガーを撃破できる強力な砲を搭載した、チャーチル歩兵戦車の兄貴分みたいなヤツです」

西「巷では17ポンド砲は米英など西側がティーガーを撃破できる数少ない砲として扱われていたそうですね」

アールグレイ「よく知ってるわね」

西「…一応、他校が所有する戦車の性能については頭に叩き込んであるつもりです」

アールグレイ「すっかり忘れていたけど、あなたも"あの時"は必死だったものね」

西「ええ。 "今も"ですけど」


アールグレイ「それで、ダージリンを転校させるのと、ブラックプリンスを借りる…全く話が噛み合わないのけれど?」

西「西グロにブラックプリンスがありまして」

アールグレイ「あったとして、そんな主力級の戦車をどうやって借りると?」

西「まぁ…これはあまり大きな声では言いたくないのですが…」

アールグレイ「何かしら?」

西「西グロの隊長、キリマンジァロさん、ダージリンの大ファンでして」

アールグレイ「…そう」

西「ええ。"ダージリン様ファンクラブ"のプラチナ会員なんだそうです」

アールグレイ「………は?」

西「ちなみに私はブラック会員ですけどね。プラチナより上の」

アールグレイ「…このやり取りの中で最もどうでもいい情報ね。ソレ」

西「…」


アールグレイ「…で、その"プラチナ会員"さんへの"ダージリン特典"の引き換えに、ブラックプリンスを借りると?」

西「おっしゃる通りです」

西「正直、プラチナ会員"ごとき"にダージリンを渡すのは嫌ですけどね」

アールグレイ「そうみたいね。苦虫を100匹ほど噛み潰した顔をしているわ」

西「あはは…」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/06(土) 23:22:58.33 ID:px6Zc9J70<>
アールグレイ「………悪くないわね」

西「…」

アールグレイ「わかりました。西グロとダージリンには私から話をつけておきます」

アールグレイ「あなたは聖グロにその話をつけて下さいな」

西「かしこまりでございます」

アールグレイ「…それにしても、あなたからそんな作戦が出てくるとは思わなかったわ」

西「私もですよ。以前だったらまずこんな捻くれたことは思い付かない」

アールグレイ「…」



自分でも信じられない。

こんなにもスラスラと作戦が浮かび上がるだなんて、かつて突撃ばかりしていた私からは想像もできない。

あまりに頭が冴えていて気持ちが悪い。それも人を騙すためにやっているのでなおさらだ。

だから、これはダージリンを助ける為だと必死に自分を説得する。


だけど…

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/06(土) 23:26:48.47 ID:px6Zc9J70<>
西「だけど、私は屑野郎だなって………」

アールグレイ「えっ?」

西「ダージリンを助けるためにまたダージリンを"利用"してる」

アールグレイ「…」

西「ダージリンだって行きたい学校を選ぶ権利はあるのに、私の"作戦"のために振り回されてる…」

アールグレイ「…」

西「結局、私のやってることはダージリンを強制退学させたやつらと同じなんですよ………」


アールグレイ「…もう一度言うわよ」

西「?」

アールグレイ「"イギリスはすべての戦いに敗れるであろう、最後の一戦を除いては。"」

西「…」

アールグレイ「"ダージリンが聖グロに復学した"。その結果さえあれば後はどうとでもなる」

西「…」

アールグレイ「今はやるしかないのよ」

西「そうですね…」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/06(土) 23:28:50.90 ID:px6Zc9J70<>

【聖グロ 紅茶の園】



アッサム「…新しい戦車が欲しい?」

ヴェニフーキ「ええ。理由は前に説明した通りです」

オレンジペコ「火力についてはその通りですが、戦車の導入は…」

ヴェニフーキ「皆さんが懸念されるように、いきなり導入というのは様々な観点から難しいでしょう」

アッサム「ええ…」

ヴェニフーキ「なので、まずは戦車を"借りる"ところから始め、実用性があるかどうかを判断」

ヴェニフーキ「そして試験運用の結果、あらためて導入するか否かを決める」

ヴェニフーキ「…といった流れはいかがでしょう?」

アッサム「…しかし、借りるといえどアテはありますの?」

オレンジペコ「さすがにティーガーとかT-34では聖グロの校風に合わない気が…」

ヴェニフーキ「ブラックプリンス歩兵戦車なんていかがでしょう」

アッサム「!?」

オレンジペコ「ブラックプリンス!?」



すごい食いつきだ。聖グロにとっても喉から手が出る戦車なのだろう。

実際かっこいいしな。ブラックプリンスという名前が。

…名前以外にもチャーチル譲りの装甲や、強力な戦車砲を持つため文字通り聖グロの"切り札"となりうるだろう。


もちろん英国戦車は他にも強力なものが存在するが、それは私がやることじゃない。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/06(土) 23:31:48.24 ID:px6Zc9J70<>
アッサム「それで、貸し出しをして下さるお相手は…?」

ヴェニフーキ「西呉王子グローナ学園です」

オレンジペコ「うっ…」

ヴェニフーキ「先日、お話する機会があったので聞いてみました」

アッサム「…先方からは何と?」

ヴェニフーキ「"ぜひとも使ってくださいまし" と」

アッサム「そ、そう…」

オレンジペコ「…」

ヴェニフーキ「これが聖グロの戦力増強の第一歩になることに私は期待しています」

アッサム「…確かに」


ヴェニフーキ「それで」

アッサム「?」

ヴェニフーキ「ブラックプリンスが届いたら、是非とも私がその車長をやりたいのですが」

アッサム「えっ、チャーチルの砲手はどうするのです?」

ヴェニフーキ「申し訳ないのですが、ブラックプリンスをお借りする間、他の方にお願い出来ないでしょうか」

ヴェニフーキ「いずれにせよ借りて試運転するだけで、ブラックプリンスの導入が確定したわけではありません」

ヴェニフーキ「駄目なら駄目でその時はまたチャーチルの砲手をさせて頂きます」

ヴェニフーキ「それに、一度乗ってみたかったのです。ブラックプリンス」

アッサム「…」

オレンジペコ「…」

ヴェニフーキ「…」


アッサム「わかりました」

<> 訂正 
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/06(土) 23:37:16.59 ID:px6Zc9J70<> >>661と>>662の間に以下が抜けてました。お手数ですが修正&脳内補完お願いします







西「あと、ブラックプリンスを導入する理由はもう1つあるんですよね」

アールグレイ「…」

西「まぁ、アールグレイさんもOGなので想像はつくと思いますが」

アールグレイ「新しい戦車の導入でOG会をあえて"刺激"すると?」

西「ええ。保守的なOG会に許可なく新しい戦車を導入するとなれば、さすがに黙ってはいないでしょう」

西「そしてOG会が動く前に、内部の人間がOG会へ戦車導入という情報を送る」

西「だからそういった方面から探してみようと思ったのです」

アールグレイ「…」

西「どうでしょう?」



王子<西グロ>のところへ女王<ダージリン>が行く。

女王<聖グロ>のところへ王子<ブラックプリンス>が来る。


こうやって考えるとなんだか面白いな。

…もっともダージリンは一時的に転校するだけだ。それだけは勘違いなさるなよ、キリマンジァロさん?

もしもダージリンに手なんか出したら日には、マレー沖海戦の如くその学園艦を沈めるから覚悟しろ。

<> >>665からの続き 
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/06(土) 23:39:58.25 ID:px6Zc9J70<>
ヴェニフーキ「ご理解、感謝致します」

アッサム「遅かれ早かれ、戦車の導入や配置の変更は訪れるものですからね」

アッサム「…ただし!」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「ブラックプリンスの乗員は私の方で決定します。異存はありませんね?」

ヴェニフーキ「構いません」

アッサム「わかりました。ブラックプリンスの借り入れ、許可致します」

ヴェニフーキ「ありがとうございます」

アッサム「…」

オレンジペコ「…」



こうして、無事にブラックプリンスの導入の許可が降りた。

選んだ理由は言うまでもなく、西グロのキリマンジァロさんが相手(=ダージリンのファンだから)という理由で、スムーズに話が進むからだ。

戦力としては同じ17ポンド砲を搭載する"センチュリオン"の方が勝るが、私が知る限り、センチュリオンに乗っているのは島田愛里寿さんただ一人。

つまり島田流の人間を相手にするわけで、そこへ交渉に行くとなれば余計な勘ぐりをされてかえって話がややこしくなる。

何よりあのニコニコしながら殺気を放つ家元様とは、なるべくかかわらないようにしたい。

触らぬ神に祟りなしってやつだ。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/06(土) 23:43:34.83 ID:px6Zc9J70<>
アッサム「それとヴェニフーキ。先日、あなたと話がしたいという方より連絡がありました」

ヴェニフーキ「どちら様でしょう?」

アッサム「西住流家元です」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「あなたの功績を評価しており、是非とのことです」

オレンジペコ「西住流ってことは…西住みほさんのお母様ですよね?」

アッサム「ええ。まさかそのような方からお声がかかるとは思いませんでした」

オレンジペコ「す、すごいです! ヴェニフーキ様!」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「ですから、面会のスケジュールを教えて下さい」

ヴェニフーキ「わかりました」



ニコニコしながら殺気放つ家元様じゃなく、顰めっ面しながら殺気放つ家元様が近づいてきた。

よりによってこんな時に…。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/06(土) 23:45:42.88 ID:px6Zc9J70<>

【聖グロ 応接室】


アッサムさんが返答をしてから数時間後に家元様が聖グロにやってきた。

あの方も家元や理事長としてのスケジュールで逼迫されているはずなのに、どうして…。



ヴェニフーキ「初めまして。ヴェニフーキと申します」

しほ「…」

ヴェニフーキ「…」


しほ「そういうこと、だったのですね」


ヴェニフーキ「…」

しほ「場所を移しましょう」

ヴェニフーキ「かしこまりました」



こうなることはわかっていた。

どうせ子供の悪戯なんて大人にはすぐバレると。

家元様は私の顔を見て即座に私の正体を見破った。

事情を察して下さったのか、この場で『あなた西絹代でしょう?』と公言しなかったことに感謝したい。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/06(土) 23:51:44.00 ID:px6Zc9J70<>
【洋上 船】



しほ「先の決勝戦で、何故あのような結果になったのか娘に聞いたところ、ある人物から情報を得た」

しほ「そして、その情報をもとに作戦を立てた結果、黒森峰に完勝」

ヴェニフーキ「…」

しほ「その情報提供者がヴェニフーキという聖グロの人物」

ヴェニフーキ「…」

しほ「そのような方には心当たりが無かったので、来てみたのですが」

しほ「その正体があなただったとは…」

ヴェニフーキ「…」

しほ「先のあなたの功績を鑑みればこれらが納得出来る反面、何故あなたが姿を変えて聖グロにいるのか…」

しほ「一体、どういうつもりなのかしら?」

ヴェニフーキ「申し訳ありませんが、お答えするわけにはいきません」

しほ「…」

西「…」

しほ「…そう。ならば質問を変えます」

しほ「あなたは何故、みほに手を貸したの?」

ヴェニフーキ「西住さん…みほさんには色々お世話になってきました」

ヴェニフーキ「そして、その恩を返したいという思いで僭越ながらお力添えをさせて頂いた次第です」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/06(土) 23:54:36.16 ID:px6Zc9J70<>
しほ「私の娘は、あなたにそこまでさせるほどの大恩を?」

ヴェニフーキ「ええ。私にとって大きすぎるくらいです」

しほ「…」

ヴェニフーキ「そしてもう一つ」

ヴェニフーキ「みほさんたち大洗女子学園は、私たち高校戦車道を嗜む者にとって希望の光です」

ヴェニフーキ「…しかし、どういうわけかその光を閉ざそうとする輩がいるのです」

ヴェニフーキ「二度の廃校の危機を乗り越えてもまた、別の形で大洗を襲う」

ヴェニフーキ「…言わずもがな"無人機"のことです」

しほ「…」

ヴェニフーキ「我々は無人機により大きな戦力を得ることが出来ました。これは事実です」

ヴェニフーキ「しかし、それに甘んじることは、もはや戦車道でも何でもない」

しほ「…」

ヴェニフーキ「戦車道を狂わせた無人機という"改悪"を是正させる」

ヴェニフーキ「そのためには無人機を所有しない学校が、無人機を持つ強豪校を叩き落とさなければなりません」


ヴェニフーキ「"お前たちが何をしようと無駄だ。私達は何度でも立ち上がる"という意思表示をするために」


しほ「…」

ヴェニフーキ「私はそんな大洗の皆さんの努力を、何かしら支援できないかと奔走しただけ」

しほ「そう」








しほ「…ありがとう」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/06(土) 23:57:21.49 ID:px6Zc9J70<>
ヴェニフーキ「えっ…?」

しほ「あの決勝戦の後、戦車道連盟にもう一度、無人機の撤回を申し出ました」

しほ「残念ながら、文科省は首を縦には振らなかったけれど」

しほ「それでも先日の決勝戦の結果は大きな武器となる」

ヴェニフーキ「!」

しほ「このまま交渉を続け、必ずや邪道を叩き潰すつもりです」

しほ「故にあなたの陰ながらの支援は、戦車道において大きな意味をもたらしてくれた」

しほ「それに…」



しほ「いつも娘を助けてくれてありがとう」



ヴェニフーキ「…はは。どういたしまして」

しほ「ふふ。今度は私があなたに大きな借りを作ってしまった」

ヴェニフーキ「…とんでもない」

しほ「だから、私はあなたの力になりたい」

ヴェニフーキ「…!」

しほ「それを加味した上で、もう一度、教えて下さるかしら」


しほ「あなたがヴェニフーキと名乗るようになった理由を」


ヴェニフーキ「…」

しほ「…」

ヴェニフーキ「………フゥ」

ヴェニフーキ「実は…」



私は家元様に全てを話した。

ダージリンがOG会に潜む反・聖グロ派によって政治利用され、潰されたこと

それを知って修羅のごとく怒り狂い、精神が崩壊し、廃人寸前にまで追い込まれたこと

後にOG会と接触し、内通者と犯人を洗い出すために名前も髪も瞳も変えたこと

ダージリンをもう一度聖グロに復学させたいこと

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/07(日) 00:00:14.39 ID:uUcFluBP0<>

ヴェニフーキ「………以上です」

しほ「…」

ヴェニフーキ「これが出過ぎた行為だというのは重々承知しております」

ヴェニフーキ「ですが、それでも私はダージリンを助けたいのです」

ヴェニフーキ「ダージリンのためなら命を差し出したって良い。私はどうなっても良い」

しほ「そう…」


ギュッ


ヴェニフーキ「…!」

しほ「本当に、頑張ったのね…絹代さん」ナデナデ

ヴェニフーキ「なっ…!」

しほ「知らなかった…」

ヴェニフーキ「べ、別にこれは私が勝手に…!」

しほ「でも、あなたは本当に一生懸命にやってる…」

ヴェニフーキ「ヴェニフーキと呼んでください。誰かに聞かれたら…!」

しほ「安心して。この船には私の身内しかいないわ」

ヴェニフーキ「…」チラッ

菊代「…」フカブカ

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/07(日) 00:04:30.88 ID:uUcFluBP0<>
しほ「それに…あなたの名前は"絹代"でしょう?」

ヴェニフーキ「そ、そうですが…」

しほ「ならば私はそう呼ばせていただくわ」

しほ「あなたが絹代さんで無くなってしまわないように」

ヴェニフーキ「ッ…!」

しほ「今のあなたは姿も身分も名前も偽って生きている」

しほ「それが長く続くと、本当の自分まで失ってしまう」

しほ「だから、そうならないように」

ヴェニフーキ「………」

しほ「困ったことがあったら、と言っても今がまさにその時ですけど」

しほ「もしも、どうにもならないと思ったら、その時は教えてくれるかしら?」

しほ「娘への恩返しも兼ねて、可能な限り協力させて頂きます」

ヴェニフーキ「いえ、そのお気持だけでも…!」

しほ「ふふっ。あなたが良くても私の気持ちが許さない」

ヴェニフーキ「…」

しほ「それとも、あなたにとって私は頼りない存在かしら?」

ヴェニフーキ「い、いえ…」

しほ「ならば、困った時は大人を頼りなさい」

ヴェニフーキ「………」



西住様との話はそこで終わった…。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/07(日) 00:06:23.43 ID:uUcFluBP0<>

【翌日 聖グロ・練習場】


アールグレイさんより『ダージリンの転校が完了した』という連絡が入ってから然程待つことなくブラックプリンスはやってきた。

(…よほど嬉しかったのか、転校からブラックプリンスの貸出まで即日行われた)

"スーパーチャーチル"の異名を持つそれは『オードナンス QF 17ポンド砲』という大変強力な野戦砲を搭載しており、当時の米英において"ティーガーを撃破可能な数少ない砲"だ。

私が知る限り、この17ポンド砲を搭載した戦車は、ブラックプリンスを除き、サンダースのシャーマン・ファイアフライ、愛里寿さんの乗るセンチュリオンがある。

アッサムさんに聞いたところ、その他の英国産戦車にも搭載されているとのことだ。

…あまり強力な戦車を次々に導入されても知波単として相見える時に辛いが。


なお、もう一つ交渉として、西グロの学園艦はダージリンが在籍する間、港に停泊するようにお願いした。

理由は2つある。

1つはダージリンに会えるように。

もう1つはダージリンに何かあった時、すぐ逃げられるように。


…後者は無いと信じたい。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/07(日) 00:07:51.86 ID:uUcFluBP0<>
アッサム「では、あなたたち。よろしくお願いしますわね」

「はいマム」

「了解です。アッサム隊長」

「かしこまりました」

「…」コクリ

アッサム「ヴェニフーキ。こちらがあなたと行動を共にする仲間です」

ヴェニフーキ「ヴェニフーキです。よろしくお願いします」



ブラックプリンスが来た日、私と戦車に乗るメンバーと顔合わせをした。

『ランサム』さんと名乗る方が操縦手を。

3年生の『グリーン』さんは装填手をしてくれるそうだ。紅茶よりコーヒーが好きらしい。

背の高いので年上だと思ったら一つ年下の『フレミング』さん、彼女は通信手をやってくれる。

そして無口な『モーム』さんという方が砲手。


私は久しぶりに戦車長をやる。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/07(日) 00:10:41.09 ID:uUcFluBP0<>
ヴェニフーキ「皆様の名前は紅茶に因んだものでしょうか?」

フレミング「いえ、私たちは紅茶とは違うものを付けています」

ヴェニフーキ「そうですか」

モーム「…」

ランサム「それぞれイギリスの作家から取っていまして」

ランサム「私ランサムは児童文学作家の"アーサー・ランサム"」

ランサム「モームさんは"サマセット・モーム"」

ランサム「フレミングさんは冒険小説家の"イアン・フレミング"」

ランサム「そしてグリーン部長は"グレアム・グリーン"」

ヴェニフーキ「部長?」

ランサム「あ、その…」

ヴェニフーキ「?」

グリーン「実を言うと、私達は小説部という部活動に加入しておりまして」

グリーン「僭越ながら私がその部長をしております」

グリーン「私達の名前の由来が作家からというのもここからですね」

ヴェニフーキ「そうですか」


アッサム「そういうわけですので、仲良くしてあげてください」

ヴェニフーキ「わかりました」



小説か。

学校で夏目漱石や芥川龍之介を読んだくらいかな。

ここ最近は本なんて読んでいる暇もなかったし、無事に一連の活動を終えることが出来たら何か読んでみようかな。

いや、いっその事私が小説を書いてみようかな。


『紅茶好きには助平が多い』


みたいなタイトルで。

紅茶ばかり飲んでる女の子を、あの手この手で口説くという話はどうだろう。

うむ。なかなか面白そうだな。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/07(日) 00:13:14.60 ID:uUcFluBP0<>


ケイ「ハーイ。アッシー久しぶりね!」



ブラックプリンスが来ると同時にサンダース御一行も聖グロに来た。

プラウダ高校に続いてまた親善試合をするわけだ。

試験運用としては丁度いいが、日程を詰めすぎじゃなかろうか?



アッサム「そ、その呼び名はちょっと…」

オレンジペコ「あはは…まるでアシスタントみたいですね」

ケイ「おっ、ペコタローも元気かい?」

オレンジペコ「なっ、ペコ太郎って言わないでください…!」

ケイ「あははっ! 元気元気。良いねぇ〜」



人のことを言えたものではないが、ケイさんもまた色んなあだ名を付けたがる人のようだ。

ただ、まさか彼女から"ペコタロー"なんてあだ名が出てくるとは思わなかった。

思うことは皆同じなのだろうか?

そしてアッサムさんにつけられた"アッシー"というあだ名は本質を突いている。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/07(日) 00:14:54.16 ID:uUcFluBP0<>
オレンジペコ「私のことをペコ太郎って言って良いのは絹代様だけです」

ケイ「おぉ?」

ヴェニフーキ「…」

オレンジペコ「なので他にするか、オレンジペコと呼んでほしいです」

ケイ「んー、そっかぁ。じゃぁどうしようかなぁ…」

オレンジペコ「むぅ…」

アリサ「…年下は辛いよね、色々イジられるから」

オレンジペコ「ええ…」



申し訳ない。可愛いからついついいじりたくなるんだ。

特にペコに至っては顔を真っ赤にする"むっつり屋"なのでなおのこと。

…しかしやけに食い下がったな? そんなにペコ太郎というあだ名が気に入ったのだろか。

何にせよ許可を頂けたことだし、これからは遠慮なくそう呼ばせてもらおう。西絹代の時に。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/07(日) 00:19:32.36 ID:uUcFluBP0<>
「Hello. 初めて見る顔だな」

ヴェニフーキ「初めまして。先日転校したヴェニフーキと申します」

ナオミ「そうか。私はサンダース副隊長のナオミだ。よろしく」

ヴェニフーキ「こちらこそ。宜しくお願い致します」



サンダースにはサンダースでまた怖い人がいる。

シャーマン・ファイアフライの砲手・ナオミさんだ。

寡黙な方ではあるが、華さんやノンナさんと並ぶ射撃の名手であり、サンダースには珍しい"職人気質"を感じさせる方だ。

その鋭い観察眼と洞察力で私の正体が見抜かれてしまわないか心配だ…。



ナオミ「…奇遇だな」

ヴェニフーキ「奇遇?」

ナオミ「17ポンド」

ヴェニフーキ「…ああ。ナオミさんのファイアフライも17ポンド砲でしたね」

ナオミ「使い心地はどうかな?」

ヴェニフーキ「気難しいですね。砲撃音も噴煙もかなり目立ちます」

ヴェニフーキ「砲弾も大きいので装填に時間がかかります」

ヴェニフーキ「しかし、それらの対価に見合った仕事をしてくれる」

ヴェニフーキ「…このような長所短所が明確なものは、使ってて安心できますね」

ナオミ「違いない」



『いっつもチーム別で戦ってるから、たまにはくじ引きでチーム決めましょう!』

というケイさんの提案で、今回は"くじ引き"でチームを決めた。

つまり聖グロもサンダースもごちゃ混ぜの状態だ。

その結果、こうやってナオミさんと私が17ポンド砲を同じ方角に向けて並んでいる。




ヴェニフーキ「ただ、撃つのは私ではなく、モームさんですけどね」

モーム「…」

ナオミ「おや? アンタは撃たないのかい?」

ヴェニフーキ「ええ。車長ですので」

ナオミ「…そうか」



…露骨に残念そうな顔をされた。

それもそのはず。こんなやり取りの後に『あ、私は撃ちませんよ?』となれば誰でもガクッ!となるだろう。

ナオミさんには申し訳ないことをした。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/07(日) 00:26:38.33 ID:uUcFluBP0<>

アッサム『17ポンド砲さん、そちらに行きましたわよ。用意はよろしくて?』

ヴェニフーキ「こちらはいつでも」

アッサム『あっ…あなたも17ポンド砲でしたわね…』

ナオミ『オーケイ。アンタの言う17ポンド砲は私だろう? 準備はとっくに出来てる』



くじ引きの結果というものは理不尽で、アッサムさんも味方だ。

17ポンド砲2門で聖グロの隊長もいるという、あまりに偏った編成である。


アッサムさんは別の地点で待機しており、敵車両が接近したら攻撃をする。

そうすると敵さんはアッサムさん達を側面から叩くために迂回をする。

私たち17ポンド砲は丘の上から見下ろし、迂回車輌の横っ面を殴る形で待ち構える。

ナオミさん曰く、動き回るよりじっと獲物を待つ方が性に合うとのことだ。



ヴェニフーキ「目標、マチルダ歩兵戦車」

ヴェニフーキ「撃て」


ズガァァァァァァン!!


ナオミ『おやおや元気がないな? 随分手前で落ちてしまったぞ』

ヴェニフーキ「案の定、気難しい砲ですね」

モーム「…」



もちろん事前に射撃練習はしたが、何しろ砲手のモームさんを始め、他の搭乗員は戦車道履修者ではなく、"数合わせ"として動員された人たちだ。

こと遠距離射撃は一朝一夕で身につくようなものではない。ましてや17ポンド砲という癖のある大砲ならば尚の事。


そんなことを考えていると似たような砲撃音が右隣から聞こえた。ナオミさんが撃ったのだ。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/07(日) 00:29:52.85 ID:uUcFluBP0<>
ヴェニフーキ「お見事です」

ナオミ『少しズレたか…』

ヴェニフーキ「えっ?」

ナオミ『砲塔側面を狙ったつもりが下にブレた』



彼女の砲撃は見事にマチルダ歩兵戦車の車体側面を射抜いた。

しかし、ナオミさんはこの結果には満足していないようだ。

曰く砲塔を狙ったが若干逸れたようで、狙った場所に行かなかったようだ。

狙撃の名手であるナオミさんですらこのような結果となるのだから、17ポンド砲が如何に扱いづらい代物かよくわかる。


そうしている間にガコンとこちらの装填が完了した。

装填が終わったなら終わったで声をかけるべきだが、装填手であるグリーンさんは無言だった。

というより、他の搭乗員からも会話が無い。小説部だからなのか?



ヴェニフーキ「グリーン様」

グリーン「何でしょう?」

ヴェニフーキ「装填が完了したら『装填完了』とお声掛け頂けますか?」

グリーン「失礼。以後そのようにします」

ヴェニフーキ「お願いします」



その後もモームさんが2発撃ったが、少しずつ標的には近づいてはいるものの、命中弾は無い。

だが、意外にも彼女は焦ることも苛立つこともなく、淡々と砲手としての役目を全うする。

ナオミさんやノンナさんのような砲手向きなタイプであることは確かだ。

…全く発言をしないので、考えがわからないのが残念だが。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/07(日) 00:32:01.48 ID:uUcFluBP0<>
ナオミ『チッ…』


対してあちらからは無線越しにナオミさんの苛立ちが伝わてくる。

こちらの事情を考慮してくれているので、表立って苦言を呈することはないが、こうも"無鉄砲"だと職人気質の彼女としては黙っていられないのだろう。

クチャクチャとガムを噛む音が聞こえるが、これではガムじゃなく苦虫を噛み潰しているみたいだ。


…そうだな。



ヴェニフーキ「モームさん、私に代わってください」

モーム「…」コクリ

ヴェニフーキ「車長はグリーン様、お願いします」

グリーン「了解」



結局こうなった。

私が砲手、装填手にモームさん、そして車長にグリーンさんといった変更だ。



モーム「装填、完了」



なるほど。モームさんはこんな声をしているのか。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/07(日) 00:33:16.00 ID:uUcFluBP0<>
ヴェニフーキ「目標。M4シャーマン」


カチッ

ズガァァァァァァン

ズガァァァァァァン



距離にして650mだろうか。

砲塔を狙ったつもりなのにえらく外れてしまった。

だが、何とか車体側面の下の方をぶち抜いて走行不能にすることが出来た。

これでナオミさんの機嫌も少しは良くなるだろう。



ナオミ『………チッ』



…そんなことはなかった。

今度は一体どうしたと言うのだ?

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/07(日) 00:39:44.81 ID:uUcFluBP0<>

ナオミ『Hey ガンナー、腕を上げたな。私のオンナを寝取るなんていい度胸だ』

ヴェニフーキ「…」



寝取るだなんて言って下さるな。私はダージリン一筋だ。


…もう一度撃破したM4シャーマンを見ると、砲塔側面にもう1つ被弾痕がある。

私が当てたのは履帯や転輪の隙間から見える車体下部の側面だ。

なので砲塔のそれはナオミさんによるもの。

要するにあのM4シャーマンはカンカンと立て続けに被弾したわけだ。

で、私の方が若干早かったためにナオミさんの獲物を横取りするという結果になったと…。



ヴェニフーキ「申し訳ありません。ナオミさんのものとは知りませんでした」

ナオミ『おや、今度はヴェニーの番かい?』

ヴェニフーキ「ええ。キューポラから眺めていたら何だか私も撃ちたくなったものでして」

ナオミ『…面白い』



その後も丘の上からの狙撃は続いた。

言わずもがな私はナオミさんには遠く及ばないが、当たる時は当たってくれた。

凄いのはナオミさんで、これだけ癖のある砲にもかかわらず、自分の手足のように使いこなし、ポンポンと的を射抜く。

それは文字通り職人技といえよう。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/07(日) 00:42:40.33 ID:uUcFluBP0<>
ナオミ『やったぞヴェニー。砲塔ど真ん中だ』


ナオミ『ホイールを飛ばした。トドメはヴェニーが刺しな』


ナオミ『焦るなヴェニー。もう少しで当たる。よーく的を絞るんだ…!』



…などなど、サンダース生らしくだんだん陽気になっていくのがこちらにも伝わってくる。

私は彼女からの指導に相槌を打ちながら17ポンド砲を放つ。

さすがにナオミさんのように上手くは行かないが、それでも以前よりは命中率が上がった。

そのやり取りはまるで師匠と弟子のようだ。


これは憶測だが、ナオミさんは自分と同じ砲を扱う者が現れて嬉しかったのかもしれない。

大量の戦車を保有するサンダースだが、その中で17ポンド砲を扱うのは彼女ひとりだけ。

母体となる戦車は同じでも、搭載する砲が違えば弾も違うし、扱い方も大きく異なってくる。

その上モームさんが散々苦労したように、癖のある17ポンド砲で遠距離を狙うのはかなり難しい。

そういった事情ゆえに、他のサンダースの人たちとは根本的に運用思想が違ってくる。

知波単の隊長として様々な戦車砲を撃つ機会に恵まれていた私は、辛うじて成果を挙げれたが、そうでないならば相当の訓練を要するだろう。

そういう意味でサンダースにおける一匹狼だった彼女は、ようやく仲間を見つけたのかもしれない…。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/07(日) 00:44:31.47 ID:uUcFluBP0<>

【試合後】


ケイ「やっぱナオミがそっちにいると手強いねー!」

アッサム「む。私たちはお役に立てなかったとでも?」

ケイ「あはは。そんなわけないじゃん!」

アッサム「そのように聞こえましたわ」ムスッ

ケイ「あははっ! 怒らない怒らない。アッシーの巧みな誘導があってこそ、ナオミの狙撃が活かせたんだから!」

アッサム「…そうですの?」

ケイ「ええ。しまった! ってなった時には遅かったよ。ナオミにハート奪われちゃった!」アハハッ

ナオミ「隊長、アンタのハート奪ったのは私じゃないぞ」

ケイ「あれそうだっけ? でもあの音はナオミのだったよ?」

ナオミ「ヴェニーも17ポンド砲だ」


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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/07(日) 00:46:56.28 ID:uUcFluBP0<>
ケイ「ヴェニー?」

ナオミ「そうだろ? ブラザー」

ヴェニフーキ「ええ。僭越ながら、ケイさんの砲塔は私が頂きました」

ケイ「お、初めましてかな?」

ヴェニフーキ「ご挨拶が遅れました。ヴェニフーキです。普段はブラックプリンスの車長ですが、今日は砲手を努めておりました」

ケイ「ほほう! 新しい人かぁ!」

アッサム「期待の新人でしてよ」フフッ


ナオミ「ちなみにアリサは私とヴェニーで仕留めた」

アリサ「あ、アンタ達寄ってたかって蜂の巣にするなんてアタシに何か恨みでもあるの!?」ガクガク

ケイ「おー、アリサにもとうとうモテ期が来たかー!」HAHAHA

アリサ「こんなモテ期嬉しくありませんっ!!」

ケイ「それに、ウチのナオミにもようやく仲間が出来たわけだね!」

ナオミ「ああ。同じチームでないのが残念だ」

ヴェニフーキ「次お会いする時はナオミさんの胸を借りるつもりで挑もうと思います」

ケイ「ナオミので良いの? あんまりおっきくないよ?」アハハハ

ナオミ「サイズじゃない。形だ」

アハハハハハッ

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/07(日) 00:54:41.96 ID:uUcFluBP0<>

ナオミ「まぁ、私の後継はアリサに任せるよ」

アリサ「うぇぇっ!?」

ケイ「ちょっとナオミ! アリサは私の跡継ぎをしてもらうんだからねー!」

ナオミ「隊長の跡継ぎをしながら私の跡継ぎもすれば良いだろう」

アリサ「そっ、そんな二つもいっぺんに出来るわけないじゃない!!」

ケイ「んー、じゃぁ私の跡継ぎだねー」

ナオミ「おやおや、アリサは罪な女だ。また私と隊長との三角関係を作りたがってる」

アリサ「笑えないわよそんなジョーク!!」



どうやらサンダースでも後継者争い(ただし争うのは引き継がせる側)が起きているようだ。

どこの学校でも次世代への引き継ぎには苦労しているのだろう…。

私はまだ2年生だが、今のうちに後継者育成をしっかりしておいた方が良いかもしれない。

頑張れよ、福田。


にしても、もしケイさんの言う通りなら、アリサさんが次期サンダース隊長となるわけだ。

元々彼女はナオミさんと共に副隊長を務める人物だけに、サンダース内での評価は高いはず。

しかし、対するナオミさんもまた、シャーマン・ファイアフライを次の人へ託したいので、その候補としてアリサさんを選んでいるようだ。

アリサさんはじっと獲物を待つタイプではなさそうだけど。

ふむ…

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/07(日) 00:57:05.63 ID:uUcFluBP0<>

ヴェニフーキ「アリサさん」

アリサ「ひぃっ!? な、なによぉ…」オロオロ

ヴェニフーキ「戦車をボーイフレンドだと思って見てください」

アリサ「ぼ、ボーイフレンドぉ?!」

ヴェニフーキ「確か、ペプシでしたっけ?」

ナオミ「タカシだな」

ケイ「タカシだね」

アリサ「どーやったらそんな間違いすんのよっ!!」



アリサさんに"タカシ"という彼氏(?)がいることは割と有名な話だ。

というのも、大洗女子のウサギさんチームを筆頭に、恋愛話が好きな女子の間で話題となっている。

当の本人がアリサさんのことをどう想っているのかはわからないが、まま頑張ってほしい。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/07(日) 01:02:07.86 ID:uUcFluBP0<>
ヴェニフーキ「M4シャーマンの主砲が彼の普段の"アレ"」

アリサ「へっ?」

ヴェニフーキ「こっちのファイアフライの主砲は、アリサさんの裸を見た時の彼の"アレ"」

アリサ「なっ!!//////」


ヴェニフーキ「どっちが魅力的ですか?」


ナオミ「ふむ」

ケイ「わーお! ヴェニーったら大胆!」

アッサム「べべべヴェニフーキ、そそそういうのはッ…!!///////」プシュー

オレンジペコ「はぁぅぅ………///////」カァァァ



………どうやら私もサンダースに毒されたようだ。今までに無いくらい下品なやり取りだ。

私にもダージリンにも"アレ"は無いのでそのへんの事情はよくわからん。

しかし、アリサさんの反応からすると、やっぱりそういうものらしい…。


そしてペコはともかくアッサムさんが額まで真っ赤にしているのが意外だった。

プシューという音を立てて煙が出ている。額で目玉焼きが作れそうだ。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/07(日) 01:03:20.57 ID:uUcFluBP0<>
ナオミ「HAHAHA! ナイスな例えだヴェニー。こっちまで"おったっち"まいそうだ」

ケイ「ちょっと! 大きけりゃ良いってもんじゃないんだからねっ!」

ナオミ「おや? "経験者は語る"かな?」

ケイ「私はまだヴァージンよっ!!」

アッサム「っぅぅぅ………////////」プシュー



アメリカン・ジョークと言うものなのか知らんが、私達はなんちゅー会話しとるんだ。


…まぁ、トラブルも無く過ごせて安心した。

私もブラックプリンス(というより17ポンド砲)の扱いに慣れてきたし、自分とは最も遠くて無縁な存在だったナオミさんとも交流を深めることが出来た。

ただ、プラウダ高校の時と同じように、出来ることならヴェニフーキとしてではなく、西絹代として関わりたかった…。それだけが心残りだ。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/07(日) 01:04:48.21 ID:uUcFluBP0<>

【同日夜 ヴェニフーキの部屋】


ヴェニフーキ「お疲れ様です。私です」

アールグレイ『お疲れ様。ヴェニフーキ』

ヴェニフーキ「今日はサンダースと親善試合を行いました」

アールグレイ『そう。どうだった?』

ヴェニフーキ「ええ。ナオミさんという方、サンダースの名手なのですが、直々のご指導を頂いてなかなか勉強になりました」

アールグレイ『それは良かったわね』

ヴェニフーキ「本当に狙撃手という言葉が似合うように、遠方の動く戦車を次々に射抜きます」

ヴェニフーキ「私もあのように上手く行けばと思うのですが、17ポンド砲は扱いが難しいですね」

アールグレイ『仕方ないわ。威力を取るか、軽さを取るかのトレードオフですもの』



今日は本当に有意義な一日を過ごすことができた。

こういう機会でもなければまず関わることがないナオミさんと仲良くなれた。

もっともっと17ポンド砲について色々教えて頂きたいくらいだ。


ようやく聖グロの環境にも慣れてきて、少しずつこちらの生活が楽しくなってきた。

知波単学園には及ばないけど、住めば都というものだろう。

それだけにダージリン………あっ!!

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/07(日) 01:06:24.26 ID:uUcFluBP0<>
アールグレイ『…思い出したようね』

ヴェニフーキ「私としたことが………」

アールグレイ『あなた…学園生活を楽しむことが目的で聖グロに来てるわけじゃないのよ?』ハァ...

ヴェニフーキ「不覚です」

アールグレイ『あの子が聞いたら激怒するわよ』

ヴェニフーキ「そうですね。ツネられるだけじゃ済まなさそうです」

アールグレイ『私がダージリンだったら…そうね…身ぐるみ剥がして火あぶりにしちゃうわね』

ヴェニフーキ「助平」

アールグレイ『うるさいわよ。…それで、何か変わったことは無かったかしら?』

ヴェニフーキ「そうですね…。特に変わったことはないと思います」

アールグレイ『そう…』

ヴェニフーキ「ただ、ブラックプリンスの乗員としてご一緒させていただいた方々」

ヴェニフーキ「小説部の皆さんですが、その中に砲手をやっていt


アールグレイ『待ちなさい』


ヴェニフーキ「えっ…?」

アールグレイ『今、小説部と言った?』

ヴェニフーキ「はい」

アールグレイ『………』

ヴェニフーキ「それが何か?」




アールグレイ『ここからの会話、イエスなら"はい"、ノーなら"ええ"と答えなさい。それ以外は答えるな』




ヴェニフーキ「えっ…」

アールグレイ『聞こえた?』

ヴェニフーキ「はい」



小説部と言った直後にアールグレイさんの声色が変わった。

一体どういうことだ?

嫌な予感がするので、そのまま彼女の指示に従うことにした。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/07(日) 01:07:43.94 ID:uUcFluBP0<>

アールグレイ『その小説部の人たちは、あなた自身のことやダージリンに関する質問をしてきた?』

ヴェニフーキ「ええ」

アールグレイ「…」

アールグレイ『小説部の部長さんはいた?』

ヴェニフーキ「はい」

アールグレイ『その人のニックネームは"グリーン"?』

ヴェニフーキ「はい」

アールグレイ『………』




アールグレイ『今日着た服を調べなさい。すぐに!』




ヴェニフーキ「!」




私は彼女に指示されるまま今日着ていた服をくまなく調べた。

まず制服は何も無かった。


だが………












    ジャケットには盗聴器がついていた






<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/05/07(日) 01:17:05.49 ID:oA1njOUG0<> グリーンことグレアムグリーンはスパイ経験のある英国作家だったのね
盗聴器って見て調べたらすぐ出てきたわ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/05/07(日) 01:40:07.84 ID:zJHAYwMvO<> グリーンは聖グロの情報部門のお方だったな。
つまり、情報部はOG会の… <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/07(日) 20:47:08.63 ID:NK/2mmnb0<>
ヴェニフーキ「………」

アールグレイ『どうかしたの?』

ヴェニフーキ「………"汚れて"ますね…?」

アールグレイ『…あらあら。今日の汚れは今日のうちに綺麗にしなさい』

ヴェニフーキ「そうですね。クリーニングに出さなければ」

アールグレイ『汚れたままの服を着るのは淑女としてあるまじき行為よ?』

ヴェニフーキ「はい。まだ間に合うでしょうから、クリーニングの手続きをしてきます」

アールグレイ『わかりました。ではまた後で』



会話を聞かれていると知ったので、言葉を濁してアールグレイさんにそれを伝える。

そして言いつけ通り、"汚れた"服をクリーニングに出した。

…しかし、聖グロは怪しいと思ったら身内にもこんなことをするのか。プライバシーも何もあったもんじゃない。


服を預けた後にアールグレイさんへ電話をかけ直した。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/07(日) 20:51:12.14 ID:NK/2mmnb0<>
ヴェニフーキ「お待たせしました。なんとか汚れが落ちてくれました」

アールグレイ『ええ。良かった。…それで、わかってるわね?』

ヴェニフーキ「はい…」


アールグレイ「これからは今まで以上に警戒なさい」


ヴェニフーキ「…っ」

アールグレイ『厄介なことになったわね…』

ヴェニフーキ「その部長、グリーンさんというのは…」

アールグレイ『GI6よ』

ヴェニフーキ「…やっぱり」



― 正式名称は"聖グロリアーナ女学院・情報処理学部第6課"

― 我が校の"情報処理学部"の一つよ


前にダージリンに教えてもらったことがある。

地図作成、プログラミング、数学、暗号の作成及び解読…。"情報処理"学部だけに、情報に関する分野に特化した学部で、あらゆる情報について学ぶ学課(学科)らしい。

GI6はそのうちの1つだが、戦車道メンバーに協力して他校へ偵察も行っており、試合で有利となりうる情報を提供しているらしい。…いつぞや病院の周辺でコソコソやってたのもこいつらか。


そしてそんな連中が動き出すということは、私はもうただの生徒としては見られていないということだ。

OG会なのか、その内通者なのかはわからないが、私の行動を不審に思ったが故に連中を差し向けたということになる。

アールグレイさんによると、GI6を動かす権限を持つのは、部長であるグリーンさんか、それよりも上の者。つまり学部のトップ以上となる。


情報処理学部のトップはアッサムさん…。


先日のやり取りを聞いて、彼女が"内通者"じゃないと思っていた。ダージリンの退学に関して『あなたを次期隊長として見ている』と事情を話してくれた。

そんな彼女がもしもGI6に私の身辺調査を指示したとしたら………。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/07(日) 20:53:19.74 ID:NK/2mmnb0<>
アールグレイ『GI6があなたに近づいた事が何を意味するかは、わかってるわよね?』

ヴェニフーキ「ええ。どうやら、私は信用に値しないようです」

アールグレイ『…本当に、気をつけなさい』

ヴェニフーキ「ええ」

アールグレイ『他のメンバーは?』

ヴェニフーキ「ん?」

アールグレイ『ブラックプリンス』

ヴェニフーキ「ああ…。グリーンさんの他にはランサムさん、フレミングさん、モームさん…といった方々ですね」

アールグレイ『…』

ヴェニフーキ「もしかして…」

アールグレイ『全員、GI6の人間よ』

ヴェニフーキ「…」



諜報活動をするために潜入したら、相手の諜報部員にマークされた。

まるでスパイ映画のような展開だ。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/07(日) 20:55:15.66 ID:NK/2mmnb0<>
ヴェニフーキ「…しかし、気をつけろと言っても私は何をどうすれば?」

アールグレイ『急に行動を変えてはかえって不自然よ。まずは普段通りに振る舞いなさい』

ヴェニフーキ「わかりました」

アールグレイ『あと、なるべく身元が判明しそうな発言は控えること』

アールグレイ『そして私を含め、誰かとコンタクトをとる前に、盗聴・盗撮が無いか確認すること』

アールグレイ『常に首謀者の手の中にいると思いなさい』

ヴェニフーキ「…。わかりました。…しかし」

アールグレイ『ん?』

ヴェニフーキ「アッサムさんはシロだったと思っていたんですけどね…」

アールグレイ『…』

ヴェニフーキ「決勝戦が始まる前、彼女は私にダージリンの事について打ち明けた」

ヴェニフーキ「もしもアッサムさんが"クロ"だとしたら、そんな真似はしないはず」




― ダージリンは"不純交遊"をするような者ではありません

― …

― 彼女は常に自分を高めるために努力を惜しまない聖グロの誇り

― 私もそう思っております

― ならば彼女についての風説が虚偽のものだとわかるはず


あの時、アッサムさんは確かにそう言った。そしてそのやり取りで、彼女が反・聖グロ派の内通者ではないと判断した。

何故なら"奴ら"はダージリンを葬る上で成績不振だの不純交遊だの、ありもしない噂をばら撒いてダージリンの評価を徹底的に落とした。

もしもアッサムさんが奴らと共謀しているなら、ダージリンを擁護なんてせず、『ダージリンには失望しました。聖グロの恥です』とでも言っただろう。


そんなアッサムさんが何故………

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/07(日) 20:57:09.48 ID:NK/2mmnb0<>
アールグレイ『…』

ヴェニフーキ「それとも、あえて私に胸中を打ち明ける"フリ"をして、私がどう出るかを伺っていたのでしょうか…」

アールグレイ『…わからないわね』

ヴェニフーキ「ええ。私もわからなくなってきました」


アールグレイ『そういう意味じゃない』


ヴェニフーキ「…えっ」

アールグレイ『仮に。 アッサムがGI6に調査を依頼したとすれば、色んな見方ができる』

ヴェニフーキ「色んな見方?」

アールグレイ『ええ。あなたが思ってるように、アッサムはあなた正体を探りに来た』

ヴェニフーキ「そうですね。ヴェニフーキと偽って情報収集しているわけですから」

アールグレイ『その"正体"というのがポイントよ』

ヴェニフーキ「…?」

アールグレイ『これはアッサムの"立ち位置"次第で全く真逆の意味を持つことになるの』

<> 訂正
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/07(日) 21:00:02.44 ID:NK/2mmnb0<> >>702


☓ アールグレイ『ええ。あなたが思ってるように、アッサムはあなた正体を探りに来た』

○ アールグレイ『ええ。あなたが思ってるように、アッサムはあなたの正体を探りに来た』

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/07(日) 21:05:32.79 ID:NK/2mmnb0<>
ヴェニフーキ「…それはどういうことでしょう?」

アールグレイ『もしもアッサムが反・聖グロ派の内通者だとしたら、あなたを邪魔者として排除することを目的に動かした』

ヴェニフーキ「ええ。そうでしょう」

アールグレイ『そして、もう一つ、彼女がOG会の"内通者でない"場合』



アールグレイ『あなたを"内通者"だと疑って動かした』



ヴェニフーキ「っ!」

アールグレイ『そもそも、今このやり取りを客観的に見てみなさい?』

ヴェニフーキ「このやり取り?」

アールグレイ『そうよ』

ヴェニフーキ「私が、アールグレイさんと電話ですか?」

アールグレイ『そう』

ヴェニフーキ「…?」


アールグレイ『突然やってきた転校生が、聖グロのOGと頻繁に電話でやり取りをする』


ヴェニフーキ「あっ…!」

アールグレイ『共謀者でない方のアッサムがそれを不審に思うのはごく自然だと思わないかしら?』

ヴェニフーキ「確かに…」

アールグレイ『…だから、"まだわからない"の。アッサムがGI6を動かしたというだけでは』

ヴェニフーキ「…」

アールグレイ『私達がアッサムを白か黒か疑うように、アッサムもまたあなたを白か黒か疑っているのかもしれない』



"GI6を動かした"


アッサムさんが内通者で、私を排除しようとし始めたとばかり思っていた。

しかし、彼女が内通者じゃない場合、アールグレイさんの言う通り、私を"内通者"だと疑ってGI6に調査を依頼したという見方も出来る。

アッサムさんの目的はまだわからないが、厄介なことになったという点だけは間違いないだろう…。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/07(日) 21:10:10.74 ID:NK/2mmnb0<>
アールグレイ『どちらかに絞りなさい』

ヴェニフーキ「ん?」

アールグレイ『これからの行動』

ヴェニフーキ「…?」


アールグレイ『アッサムが内通者か、そうでないか、どちらかに絞って行動を取るのよ』


ヴェニフーキ「!」

アールグレイ『アッサムに疑われていることに変わりはない。ならばアッサムがどういう目的でGI6を動かしたのかを探りなさい』

ヴェニフーキ「…GI6やアッサムさんが相手なのに随分簡単に言ってくれますね」

アールグレイ『難しく考えるとややこしくなるのなら、単純に考えれば良いのよ?』

アールグレイ『アッサムが白か黒か。前提をどちらか一つに絞って行動すれば、何かしら変化が見られる』

アールグレイ『読みがハズレなら何も起きない』

アールグレイ『アタリなら必ず"攻撃"をする』

ヴェニフーキ「!」

アールグレイ『それだけのことよ』

アールグレイ『どっちに絞るかは、あなたのやりやすい方を選びなさいな』

ヴェニフーキ「…」



・アッサムさんが共謀者だった場合

私が聖グロに肯定的な言動をすれば、連中は私を排除しようとする。あの時のダージリンのように。


・アッサムさんが共謀者でない場合

私が反体制を仄めかせば、アッサムさんがそれを断固阻止しようと動く。


だから、アッサムさんを白黒どちらか一つに絞って行動を誘発しろという。
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/07(日) 21:13:04.99 ID:NK/2mmnb0<>
アールグレイ『どちらに転がるにしろ、あなたの本当の正体が見破られた時点でお終いなのには変わりないわ』

ヴェニフーキ「…厄介事だけが増えたわけですね」

アールグレイ『気をしっかり持ちなさい。これはピンチであると同時にチャンスでもあるのだから』

ヴェニフーキ「これのどこがチャンスなんですか…」

アールグレイ『何か行動するには絶対"理由"があるのよ』

アールグレイ『それら理由を突き詰めれば、全てがわかる』

ヴェニフーキ「…」

アールグレイ『親切にもあちらから行動を起こしてくれた。このチャンスを逃しちゃダメよ?』

ヴェニフーキ「…」

アールグレイ『聞いてる?』

ヴェニフーキ「…アールグレイさん」

アールグレイ『何かしら?』

ヴェニフーキ「…実は楽しんでません?」

アールグレイ『………少しだけ、ね?』

ヴェニフーキ「今度会ったら覚えてろ」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/07(日) 21:17:10.35 ID:NK/2mmnb0<>
アールグレイ『なっ、何よ! ちゃんと協力してるじゃない!』

ヴェニフーキ「こっちは命がけなんですよ?」

アールグレイ『わかってるわよ。私だってこっち最優先でやってますもの』

アールグレイ『相手が手強いから久々にやり甲斐を感じてるだけ』

ヴェニフーキ「本当ですかねぇ…」

アールグレイ『本当よ』

ヴェニフーキ「何しろ大学生ですからね。私が心身すり減らしている間に合コンでもやってるんじゃないかと」

アールグレイ『そんな事するわけないでしょう…』

ヴェニフーキ「しないんですか?」

アールグレイ『しないわよ。大学は勉強するところなの。そういったのは大学の外でやること』


ヴェニフーキ「誘われたりしないんですか?」

アールグレイ『なに…?』

ヴェニフーキ「合コン」

アールグレイ『…お声はかかるけど、殿方たちの下心がミエミエだからお断りしているのよ』

ヴェニフーキ「実際は?」

アールグレイ『………これ以上言うと電話越しにパンチするわよ! とにかくあなたは警戒を強めなさい! いいねッ!!』

ガチャン!!!



…図星か。

並外れた洞察力持ってるのに、どうしていい男を探す力は弱いんだろうか。

性格に問題があるからなのかな。


何にせよ、こうなったからには今まで以上に神経を張り詰めないといけない。

アッサムさんが白か黒か絞る…どっちを選べばいいかなんて最初からわかってるよ。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/12(金) 19:12:07.83 ID:ccGBYGMV0<>

【翌日 聖グロ 練習場】



ヴェニフーキ「よく狙って」

ヴェニフーキ「焦らず照準線を合わせて」


カチッ

ズガァァァァァァン!!


ヴェニフーキ「お見事。命中です」

モーム「…」

ヴェニフーキ「命中率が上がってます。その調子」

モーム「…」



変に警戒しては逆に怪しまれるというのだ。ならば普段通りにすれば良い。

…ということで私はブラックプリンスの砲手となるモームさんに射撃の指導をしている。

彼女は終始無口ではあるが、やはり砲手には向いているようで、どんどん知識を吸収して射撃の精度を向上させている。

小説部も良いかもしれないが、戦車道でもその実力を開花させることが出来そうなので、本格的に始めてみたら良いのにと思う。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/12(金) 19:14:47.01 ID:ccGBYGMV0<>
グリーン「彼女は口数は少ないですが、腕は確かですよ」

ヴェニフーキ「そうですね。先日のナオミさんやノンナさんとよく似ています」

グリーン「読書は得意なので、インプットは得意ですが、なにしろ人とコミュニケーションをとるのが苦手な人が多いのでアウトプットがなかなか…」

ヴェニフーキ「会話もある種の慣れ…でしょうか」

グリーン「慣れ?」

ヴェニフーキ「かくいう私も意思疎通が苦手でして」

グリーン「そうなんですか」

ヴェニフーキ「私はこんなですから、最初はオレンジペコやローズヒップだけでなく、アッサム様にまで怖がられていました」

グリーン「…」

ヴェニフーキ「ですが、私という人物を理解して下さったのか、徐々に打ち解けてくださいました。とてもありがたい事です…」

グリーン「そうなんですね」

ヴェニフーキ「いきなりそうしろというのは難しいですが、少しずつ積み重ねていけばいずれ成果は出る。と私は思っています」

グリーン「なるほど…」ガコン


ズガァァァァァァン!!!!


ヴェニフーキ「命中です」



こうやって戦車道に関してやっている分には問題ない気がする。

モームさんも無口だが、根は悪い人ではなさそうだし、グリーンさんもまた然り。

彼女たちがGI6でなければ

西絹代として接することができれば

きっと仲良くなれたのに…。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/12(金) 19:17:47.70 ID:ccGBYGMV0<>
アッサム「ブラックプリンスの乗り心地はいかがですの?」

ヴェニフーキ「順調です。モームさんも少しずつ命中するようになりました」

モーム「…」

フレミング「私もまだ言伝くらいしかできませんが、通信手が何なのかわかってきました」

ランサム「アクセルをベタ踏みしても自転車程度の速度しか出ないので、操縦はわりと楽でした」

グリーン「装填は…思ったより腰に来ますね。ははは」

ヴェニフーキ「…という具合に皆さん戦車を楽しんでおられます」

アッサム「そのようですね。ブラックプリンスが実用化確実に我が校の戦力は向上します」

ヴェニフーキ「ええ。モームさんや皆さんの腕次第です」

アッサム「あなたもですよ。ヴェニフーキ」

ヴェニフーキ「私は本でも読みながら過ごしましょう」

アッサム「ふふっ。一体どんな本を読むのかしら?」

ヴェニフーキ「"パワハラ上司の潰し方"、"職場いじめ対策マニュアル"など」

アッサム「」

GI6「…」


アッサム「………ヴェニフーキ。…その、今度ゆっくり腹を割ってお話しましょう?」

ヴェニフーキ「冗談です」

アッサム「あっ、あなたの冗談は冗談に聞こえませんのよ! もっと笑えるジョークを考えなさい!」

ヴェニフーキ「そうですね。また面白いのを考えておきます」

アッサム「全くもう…」

グリーン「………」



なにしろ、盗聴器をつけられたわけだからなぁ。

いじめとかパワハラといったレベルを超えている。

"ストーカー対策"というべきだろう。

アッサムさんがどちら側の人間かは知らないが、助平なのは確かだ。

…聖グロには助平しかいないのかな?
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/12(金) 19:19:16.70 ID:ccGBYGMV0<>

アッサム「そうそう。もう一つあなたに伝えて置かなければなりません」

ヴェニフーキ「何でしょう」

アッサム「明日から、またお客様がいらっしゃいます」

ヴェニフーキ「親善試合ですか?」

アッサム「ええ。連日のお招きとなりますが、私達にとってはまたとない実践的な練習でしてよ」

ヴェニフーキ「お相手は?」








アッサム「知波単学園ですの」


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/12(金) 19:26:24.53 ID:ccGBYGMV0<>


とうとう来てしまった。



"西絹代"は聖グロへ短期留学していると伝えてある。

つまり、ここには西絹代がいないとおかしい。

しかし、その女はここには存在しない。そもそもこの世に存在しない。

私は今は"ヴェニフーキ"として何もかも偽って生きているから。


そもそも、知波単学園はつい先日、私がまだ西絹代だった時にお相手したはずだ。

ダージリンを失ったと知る前に…。

何故アッサムさんは………



もしかして私の正体に気付いたのか!?


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/12(金) 19:29:15.42 ID:ccGBYGMV0<>
アッサム「あの時はダージリンが脱退されてから間もなかった」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「まだあなたが来る前ですし、私も隊長になったばかりでチーム統率も取れておらず、あっさりと破れてしまった」

アッサム「…しかし、私もようやくチームをまとめられるようになって来ました。それに今はあなたもいます」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「だから…」

ヴェニフーキ「…」



ヴェニフーキ「知波単学園は、強いですよ?」



アッサム「心得てますわ。だからこそお相手願いたいのです」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「大会の時にその強さを改めて実感しました」

アッサム「そして同時に…」



アッサム「チームを変えるのは今からでも決して遅くはない」



ヴェニフーキ「…」

アッサム「…彼女から教わりました」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/12(金) 19:32:18.32 ID:ccGBYGMV0<>

確かに私は"突撃だけ"の知波単学園を変えることができた。

だからこそ、あの時ダージリンに勝つことができた。

全国大会で優勝した大洗をも破る豪腕のダージリンに………


もちろんチームを変えるのは簡単じゃなかった。

伝統である突撃を禁ずると発した瞬間には仲間たちから"裏切り者!"と言わんばかりに非難轟々だった。

それでも戦車道を失うまいと私は死に物狂いだった。


ダージリンは命をかけて聖グロリアーナ女学院を守った。

だから最強の大洗にも勝てる。

私は命をかけて知波単学園を変えた。

だからダージリンに勝てた。



アッサムさん、あなたにそれが出来るの?

チームや仲間を守るために死ぬ覚悟はあるの?

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/12(金) 19:34:50.98 ID:ccGBYGMV0<>
ヴェニフーキ「なるほど。チームを変えると」

アッサム「ええ」

ヴェニフーキ「面白い。練習試合などと言わず全力でお相手しましょう」

アッサム「随分張り切っているのね」

ヴェニフーキ「ええ」

ヴェニフーキ「何しろ、ダージリン様を打ち負かした相手ですので」

アッサム「…そう、ですわね」

ヴェニフーキ「あの時の屈辱を晴らせるよう、当日まで練習しましょう」

アッサム「そうですね。明日までまだ時間はありますから今のうちに」

ヴェニフーキ「…明日?」

アッサム「ええ」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「?」



<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/12(金) 19:40:16.81 ID:ccGBYGMV0<>
【vs 知波単学園】



アッサム「ようこそ。聖グロリアーナ女学院へ」

玉田「本日はお招き感謝いたしますセイロンさん!」

アッサム「っぐ…ですから私はアッサムだと…!」ワナワナ

玉田「あっ、し、失礼しましたっ!!」アセアセ

オレンジペコ「あはは…本当によく間違えられるんですよね…」

アッサム「わ、笑い事ではありませんのよ!」


もうセイロンで良いじゃないかと思うくらい尽く間違えられる。

私のカンが当たればあと3回は間違えられるだろう。


私は今アッサムさんやペコと並んで知波単の皆を出迎えている。

正体がバレてしまう危険もあるが、それを懸念してこそこそしている方がかえって不自然でもある。

それに、久々に会う仲間たちの顔を見ておきたかったというのもあるんだ。

『久しぶりだなお前たち! 元気にしてたか?』と言いたくなるのを必死にこらえ、"お客様"をお迎えする時のようにしかめっ面で仲間たちを迎える。



…知波単学園で思い出したが、ダージリンの退学を知ったあの日に私はペコに牙を剥いた。

だから本来なら知波単学園、もとい西絹代には二度と会いたくないと思ってもおかしくはない。

しかしペコはこうやって私やアッサムさんの横に並んで知波単の皆を出迎えている…。


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/12(金) 19:43:56.92 ID:ccGBYGMV0<>

細見「あれ、アッサム殿、我々の隊長は?」

玉田「そういえば、見当たりませんな…?」

アッサム・ペコ「えっ?」

細見「確か、西殿がこちらに留学をされたとのことですが…」

オレンジペコ「…」

アッサム「いいえ、そのような連絡は来ておりませんが?」

細見・玉田「えっ!?」

アッサム「???」


ヴェニフーキ「もしかして、『聖グロ』ではなく『西グロ』では?」


細見「西グロ…?」

ヴェニフーキ「西呉王子グローナ学園、略して"西グロ"」

ヴェニフーキ「名前だけでなく校風もよく似た学校ですので、時たま我が校と間違えられます」

アッサム「確かに…」

細見「なるほど。そうかもしれません」



幸い西グロは聖グロの"模造品"と言って良いほど、名前も校風も制服もソックリだからこういった時に誤魔化しがきく。

もっともそんな模造品に"本物"であるダージリンを放り込んだことについては、今でも申し訳ないと思っているけれど。

とりあえず何とか煙に巻くことができたので良しとしよう。

徹夜で言い訳を考えた甲斐があった。


だがお前たち、もう少し人を疑うことを覚えた方がいいぞ。

何でもかんでもホイホイ信じ込みおって…。



そしてアッサムさんの反応を見るに、私はまだバレてはいないようだ。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/12(金) 19:49:01.82 ID:ccGBYGMV0<>

細見「しかし隊長殿、留学なんかして大丈夫なのでしょうか…」

玉田「確かに。今更ではありますが不安であります」

オレンジペコ「あはは。絹代様は英語が苦手と申していたので、苦労なさっているかもしれませんね」

細見「いえ…それが………」

オレンジペコ「?」


細見「英語どころか数学も赤点ギリギリですし、世界史も"間一髪だった"と申しておりまして…」ハァ...


玉田「隊長殿は戦車道に関しては超一流を誇る"軍神"なのですが、勉強に関しては"からっきし"なのであります。困ったものです…」ハァ...


福田「まさに弁慶の泣き所であります…」ハァ...


オレンジペコ「あはは…」

アッサム「確かに、熱心に勉強をされるような方では無さそうですわね…」

玉田「戦車道への情熱を少しでも勉強に向けて下されば…」

細見「隊長が赤点ギリギリでは示しがつきませぬ…」

ヴェニフーキ「…」



き、貴様ら…!

本人不在と思って本人のいる前で適当なこと抜かしおって…!

ここ最近の試験ではしっかり平均点以上取ってるんだからなっ! 嘘じゃないぞ!!

戦車道の練習の傍ら寝ずに必死こいて試験勉強もやってたんだからなぁぁ!!!


お前たちこそ試験の結果はどうなんだと問い詰めたいほどだ。

特に玉田!! お前が英語7点取ったことは知ってるんだぞ!

…まぁ英語が壊滅的なのは玉田に限った話ではないが。


とにかく! 人前でデマこいたことは絶対に許さんからな!!

私が帰ったら覚えとけっ!!!

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/12(金) 19:53:52.10 ID:ccGBYGMV0<>
アッサム「本日の練習試合に関し、皆様にお願い事がございます」

玉田「何でしょう?」

アッサム「聖グロは現在新たな体制を構築している次第です」

アッサム「ですので、練習試合などと仰らず、知波単学園の全てをぶつけて下さい」

玉田・細見「!!」

アッサム「私達はかつてあなた達に大敗を喫した」

アッサム「なので、ここで手加減をされてはお互い何も得るものがありません」

アッサム「どうか、皆さんの持つ最高の戦術をもって全力でお相手頂きたい」

玉田「…」

細見「…」




玉田「元よりそのつもりです!」



アッサム「!」

玉田「練習試合とはありますが、せっかくこのような場を用意して頂いたのです」

玉田「それ故、手を抜くような真似をするのは無礼と心得ております」

玉田「我々知波単はいつでも全力で挑む者です!」

アッサム「ありがとうございます」

ヴェニフーキ「…」





成長したな。お前たち

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/12(金) 20:05:37.66 ID:ccGBYGMV0<>
ヴェニフーキ「良い心構えです」

玉田「ええ! 知波単ですk


ヴェニフーキ「では、負けたら知波単学園は解散し、我が校の一部になってもらいます」


玉田「なっ!!?」

細見「どういうことですかッ!」

オレンジペコ「ヴェニフーキ様…?」

アッサム「冗談が過ぎますわよヴェニフーキ…!」


ヴェニフーキ「…というくらいの覚悟で挑んで下さい」

玉田「…」

細見「…」

ヴェニフーキ「我々も、"負けたら廃校"というくらいの覚悟で挑みましょう」

ヴェニフーキ「全力で挑むとは、それくらいの覚悟があって初めて成せるもの」

玉田「…」

ヴェニフーキ「隊長はご不在なので、どうでも良いと思っているかもしれません」

ヴェニフーキ「…しかし、あなた方が我々の前に立つ以上」


ヴェニフーキ「それが知波単学園の顔」


ヴェニフーキ「あなた方の恥は知波単の恥」


ヴェニフーキ「我々は本気でお相手致しますので、隊長の顔に泥をることないよう死ぬ気で頑張って下さい」


アッサム「ヴェニフーキっ!!」

ヴェニフーキ「…」

玉田「…」

細見「…」

ヴェニフーキ「それでは皆様、試合を楽しみにしております」

ヴェニフーキ「努々、知波単の名を汚されることなきよう」



姿形を偽っているとはいえ、仲間たちにかつてこれほどまでに冷淡な言葉を投げかけたことがあっただろうか…。


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/12(金) 20:06:12.97 ID:ccGBYGMV0<>












「わ、我々はどんなことがあろうと絶対に逃げたりしないのでありますっ!!!」










<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/12(金) 20:09:32.58 ID:ccGBYGMV0<>
ヴェニフーキ「…」

福田「あ、あなたが何を言いたいのかはよく存じ上げません」

福田「しかしっ! わっ、我々は知波単学園の戦車乗りとして、いかなる相手にも臆すこととなく立ち向かうのでありますっ!!!」

ヴェニフーキ「足が震えていますよおチビさん」

福田「む、武者震いでありますっ!!!」

ヴェニフーキ「…」

細見「福田の言う通り! 我々はたとえ戦い方が変わろうと、勝負に真正面から挑む姿勢は未来永劫変わりませぬ!」

玉田「我われ知波単に通れぬ道など存在しません! どんな道でもこじ開けて見せましょう!!」

ヴェニフーキ「………」

福田「…」

玉田「…」

細見「…」


ヴェニフーキ「わかりました」





















ヴェニフーキ「全力で掛かって来い」

<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/05/13(土) 07:23:00.80 ID:IjYvcxT90<> 読んでます。乙です <> 訂正 
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/13(土) 21:27:42.45 ID:NQVCLe5U0<> 何度も申し訳ないorz

>>720

誤: ヴェニフーキ「我々は本気でお相手致しますので、隊長の顔に泥をることないよう死ぬ気で頑張って下さい」

正: ヴェニフーキ「我々は本気でお相手致しますので、隊長の顔に泥を塗ることないよう死ぬ気で頑張って下さい」
<> 訂正 
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/13(土) 21:31:04.37 ID:NQVCLe5U0<>

この日が来るのをどれだけ待ち望んでいただろう。


私が消えた後の知波単学園がどうなってしまうのか、不安で仕方がなかった。

玉田と細見に副隊長を任せ、それぞれに異なる役割を与えたので、恐らくどこかで対立が発生するだろうと思っていた。

しかし、そんな私の予想に反して、今も対立・分解することなく、両名がこうやって肩を並べて私の前に現れた。

それだけで私は満足だ。

なぜなら、知波単学園の新しい基盤は出来上がったから。

あとは経験を積んで少しずつ、力をつけて行けば良い。


この日が来るのをずっと待っていた…

私がいなくても生き続ける知波単をずっと待っていた…

<> 訂正 
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/13(土) 21:33:32.06 ID:NQVCLe5U0<>
アッサム「………ヴェニフーキ」

ヴェニフーキ「何でしょう」

アッサム「お客様には丁寧に接しろとあれ程言ったはずですが?」

ヴェニフーキ「私は最大級のおもてなしをしております」

アッサム「どこがですか! あれでは相手を馬鹿にしているだけですっ!!」


ヴェニフーキ「あなたこそ彼女たちを馬鹿にしている」


アッサム「何ですって!?」

ヴェニフーキ「彼女らは隊長不在であるにも関わらず、その意志を汲み取り、ここに覚悟を決めた」

ヴェニフーキ「それに対し"お客様"な接待は失礼だと思いませんか?」

アッサム「なっ…!」

ヴェニフーキ「私だったら騎士道精神を軽視されたと、以後そのチームとは関わることはないでしょう」

アッサム「っ…!!」

ヴェニフーキ「あなたこそ、彼女たちを相手に"全力になる覚悟"はお有りで?」

アッサム「そ、それは…」

ヴェニフーキ「負けたら全てを失う。そんな場所に立たされた時、すべてを背負う覚悟はありますか?」

アッサム「…」

ヴェニフーキ「…」





アッサム「無かったら、私はここには居ませんわ…!」




ヴェニフーキ「その言葉、嘘偽りではありませんね?」

アッサム「もちろんですの」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/13(土) 21:34:50.56 ID:NQVCLe5U0<>
本当に久しぶりだ。

いや、もしかしたら初めてかもしれない。


こんなにも"純粋に"勝負を楽しみたいと思ったことは。


一切の妥協を許さず、一切の不正をすることなく

本当の意味で勝負をしたいと思ったことは。


大会を終え、入院生活で鈍った感覚が戻ってくるような気がする。

長らく使われず錆びて動かなくなってしまった機械に注油するような、

人を騙すことだけを考え腐敗した心に新鮮な風が入ってくるような感覚だ。


すべてを懸けて我々に挑む皆に勝ちたいという想いが体中に

自分を偽り人を騙すことだけを考えてた私が…!

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/13(土) 22:02:56.88 ID:NQVCLe5U0<>
ヴェニフーキ「私たちの会話は聞いていたかと思います」

ヴェニフーキ「全力を出し尽くすつもりなので、皆さんも死ぬ気で戦って下さい」

モーム「…」

フレミング「…」

ランサム「…」

グリーン「…ヴェニフーキさん」

ヴェニフーキ「何でしょう」


グリーン「あなたは一体何を企んでいるのです?」


ヴェニフーキ「企む?」

グリーン「あなたからは何かその、野心のようなものを感じます」

ヴェニフーキ「野心、ですか」

グリーン「ええ」

ヴェニフーキ「…強いて言えば」



ヴェニフーキ「聖グロを変える。それだけです」



グリーン「どういう意味ですか?」

ヴェニフーキ「ダージリン様のいない今の聖グロは弱体化した」

ヴェニフーキ「強豪校と言われたかつての姿はもうない」

グリーン「それは隊長が交代して間もないからでは?」

ヴェニフーキ「それもあるかもしれません。…が」

グリーン「?」



ヴェニフーキ「そもそもアッサム様は隊長を担うようなタイプではない」

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/13(土) 22:12:06.29 ID:NQVCLe5U0<>
グリーン「そ、それはどういう…!」

ヴェニフーキ「アッサム様もアッサム様なりに努力なされているのはわかります」

ヴェニフーキ「しかし、隊長にしては考えが保守的」

グリーン「…保守的?」

ヴェニフーキ「行動が慎重、という意味で」

ヴェニフーキ「まるで批判やチームの分解を恐れるように」

グリーン「…」

ヴェニフーキ「他の全てのメンバーが『右だ!』という中で、『左だ!』と言うのが隊長です」

ヴェニフーキ「たとえ批判が殺到しようとも」

グリーン「………」

ヴェニフーキ「さて、試合が始まります」



それは無口なモームさんが通信手や隊長に不向きな一方で、砲手としての才能を光らせるのと同じ、"相性"の問題だ。

アッサムさんはかつて砲手として、また、持ち前のデータ解析を武器に、隊長であるダージリンに助言する『参謀』として、その優れた能力を最大限に発揮しておられた。

しかし、ダージリンを失い、自身が隊長としてチームの先頭に立ったとき、あなたの保守的な考えが行動を鈍らせた。


『負けたら全てを失う。そんな場所に立たされた時、すべてを背負う覚悟はありますか?』


ダージリンだったら紅茶を片手に「当然ですの」と優雅に即答した。

しかしあなたにはそれが出来なかった。

道を切り開くためには時として仲間と意見が対立し、批判や罵声を受けることもある。

それでも隊長は仲間を勝利へ導くために並々ならぬ覚悟をして前に進まなければならない。



グリーンさん、そしてGI6の皆さん。

この話を聞いてあなた達はアッサムさんに何と報告する?

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/13(土) 22:24:24.29 ID:NQVCLe5U0<>

結論から言うと、この激闘は聖グロの"辛勝"だった。


アッサムさんを先頭、私が殿をつとめる聖グロの隊列を、玉田や細見はあの時と同じ戦術で迎え撃った。


岩陰や草むら、偽装網を利用し戦車を隠蔽し、互いに死角を補う形で配置させ

敵戦車が接近しても撃たず、中腹まで通過させる。

配置場所によっては敵との距離は50m未満にもなる。

そして、攻撃開始の合図と共に四方八方から敵に集中砲火を浴びせる。


私がかつて聖グロに勝利し大洗女子に僅差で負けたあの戦術だ。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/13(土) 22:26:45.71 ID:NQVCLe5U0<>
しかし驚いたのは、玉田と細見はこの戦術を更に改良し、より効率的かつ確実なものと昇華させた。

九五式軽戦車および九七式中戦車からなる玉田隊による連続攻撃により、弾数で敵を撹乱する。

その間に四式中戦車、五式中戦車、五式砲戦車からなる細見隊は目標を定め、確実に狙い撃ち、これを撃破する。

こうすることで、決定打にはならずとも足止めになる攻撃に気を取られた聖グロの歩兵戦車を別の場所から叩ける。


威力は低いが、機動力・装填速度の早さから手数で勝負をする玉田

逆にスピードは劣るもが、火力で確実に敵を仕留める細見

戦車の性能をしっかり理解した上での的確な役割分担だ。


もちろん聖グロも指をくわえてやられていくのを静観するわけはない。

しかし反撃はするが、攻撃をしてくるのが弾数で勝負をしかける玉田らの部隊で、"本命"に意識が向かなかった。

そのため、反撃し、少しずつ相手の数を減らすものの、同時にそれは自らの居場所を教える行為となり、細見らの戦車によって確実にこちらの主力が撃破され、常にこちらが不利な状態が続く。

そしてようやくこの構造に気づいた頃には守りの要である歩兵戦車は壊滅し、残るは私とローズヒップのクルセイダー部隊だけとなってしまった。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/13(土) 22:38:28.95 ID:NQVCLe5U0<> ローズヒップ『ヴェニフーキ様ぁぁぁ助けて下さいましぃ!!』

ヴェニフーキ「ローズヒップ。一旦下がって。体制を立て直しましょう」

ローズヒップ『は、はいですの!』



いつも以上に発狂するローズヒップを一旦下げて、体制を立て直す。

一旦下がると敵も砲撃をやめる。そして会場は再び静かになる。

私はローズヒップ隊の高い機動力を活かし、包囲網の中を爆走させるよう指示した。

当然ながらそれに対し撃つのは玉田隊の戦車。




ローズヒップ『ヴェニフーキ様! 何とかしないと私たち蜂の巣になってしまいますの!!』

ヴェニフーキ「落ち着いて。あなたはいつものように敵地で暴れ回って下さい」

ヴェニフーキ「その間に私が敵の主力を叩きます」

ローズヒップ『わ、わかりましたでございますのっ!!』



私はローズヒップたちが暴れまわっている間に、戦車部隊がどこにいるかを特定し、攻撃をした。

ある程度距離は離れているが、1,500m離れた場所からティーガーの正面を貫通できるブラックプリンスなら問題はなかった。

幸い相手は戦車を固定砲台として運用しているため、的を絞りやすかった。

結果として、私は細見率いる主力戦車を壊滅させ、残る玉田部隊の戦車がこちらに釘付けになったらローズヒップにそれを叩かせた。

即席ではあるが玉田・細身の戦術をクルセイダー部隊とブラックプリンスで応用したのが功を奏した。



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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/13(土) 22:54:46.48 ID:NQVCLe5U0<>

【試合が終わって】


ヴェニフーキ「皆さんの覚悟、確かに受け取りました。素晴らしい戦いを感謝いたします」

玉田「恐縮です。しかし、西隊長殿には及びませぬが故にまだまだ修行が足りないようですな」

ヴェニフーキ「あとは場数でしょうね。このまま何度か試行錯誤を繰り返していくうちに、攻防一体の高精度な要塞が出来上がります」

ヴェニフーキ「そして、我々もその防衛網を突破できるよう更なる研究を重ねていく次第です」

アッサム「今回は辛うじて勝つことができましたが、あの時と同じ戦術をまた味わうことになるとは思いませんでした」

玉田「あはは。さすがに同じ手は何度も通じませんな」

細見「次はもっと奇天烈な作戦を構想しましょうぞ」

オレンジペコ「この作戦は確か、絹代様が考えられたものですよね?」

玉田「ええ。隊長殿が先の大会で大なる戦果を挙げたものです」

アッサム「突撃だけの知波単を変えた戦術ということで、巷ではかなり話題になってましたわ」

玉田「あはは…。かなり揉めましたけどね」

アッサム「そうでしょうね。あなた方から突撃を取り上げようものなら非難轟々ですもの」

アッサム「隊長…絹代さんの奮闘っぷりが脳裏に浮かびますわ」

ヴェニフーキ「…」


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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/13(土) 23:17:26.42 ID:NQVCLe5U0<>

玉田「ただ…」

アッサム「はい?」

玉田「実を言うと、あの時の戦術だけでは問題点があったので、今回はそこを少し変えてみたのです」

オレンジペコ「えっ、そうなんですか?!」


ヴェニフーキ「連射が効く九七式中戦車と九五式軽戦車で弾幕を張り、相手を錯乱」

ヴェニフーキ「四式中戦車や五式中戦車で獲物を確実に仕留める」


ヴェニフーキ「…そういった作戦ですよね?」

玉田・細見「っ!!」

細見「よくご存知で…!」

ヴェニフーキ「後ろから味方が蜂の巣にあっているのを見ている間に何となく仕組みがわかりました」

オレンジペコ「…助けて欲しかったです」

ヴェニフーキ「助けてたら恐らく私も包囲網に嵌り、間違いなく"完敗"でした」

オレンジペコ「な、なるほど…」

ヴェニフーキ「最後尾にいたからこそ戦術に気付くことが出来、その対策を講じることが出来たのです」

アッサム「なるほど…素晴らしい作戦ですわね。我が校も参考にしましょう」

ヴェニフーキ「いずれにせよ、久々に試合を楽しむことができました」

ヴェニフーキ「知波単学園の皆様には心より御礼申し上げます」

ヴェニフーキ「そして、次の全国大会では是非ともお手合わせ願いたい」

玉田「こちらこそ、宜しくお願い致します!!」

細見「本日はありがとうございました」


知波単一同「「「「ありがとうございました!!!」」」



決して知波単だからという理由で持ち上げているわけではない。この奇襲作戦は本当に本当に強力なのだ。

相手の居場所がわからず、立ち往生している間に確実に数を減らされ、一度その包囲網に嵌ったら突破はおろか退却するのも困難。

だから私はあの時、"突撃"に取って代わる新たな戦術としてこれを採用した。

絶対に負けられない戦いで勝つために、私の全てをつぎ込んで生まれた戦術。

そして、その戦術を知っているからこそ、ただの模倣ではなく、問題を可視化・改善してより高度なものへと昇華させた細見や玉田に私は勝つことが出来た。

<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/05/14(日) 00:34:40.84 ID:rHuHozhN0<> 数日ぶりに来たらだいぶ進んでた、更新乙
しっかしスレたなぁ絹代さんww <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/05/14(日) 04:01:10.11 ID:ZpkZqK8OO<> 乙です <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/19(金) 20:36:24.85 ID:ohwQ2iaO0<>

【同日夜 ヴェニフーキの部屋】


ヴェニフーキ「こんばんは。ヴェニフーキです」

アールグレイ『お疲れ様ヴェニフーキ。ちゃんと部屋と服を"綺麗に"しているかしら?』

ヴェニフーキ「ええ。掃除しておきました。"汚れ"はもうありません」



あの日から私は部屋に入ってまず最初に服や鞄そして部屋に細工が施されていないかチェックするようになった。

今のところ特に盗聴器や監視カメラの類は見つからないが、忘れた頃に仕掛けてくる可能性もあるので油断は一切できない。

部屋と服が"綺麗"だとわかったら、次は"報告"をする。


何だかんだ言って、アールグレイさんと電話する機会もだんだん増えてきたな。他校の卒業生なので本来ならまず関わらないであろう存在なのに。

ただ本音を言うと、私はアールグレイさんよりもダージリンと電話したい。

その日の出来事を話し、『おやすみ。愛してる』と言って電話を切って一日を終えたい。

まぁ、そのダージリンを復学させるために、やむを得ず仕方なくアールグレイさんに電話してるわけだ。

…アールグレイさんにそれを言うとまたへそを曲げるから黙っておこう。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/19(金) 20:44:22.77 ID:ohwQ2iaO0<>
アールグレイ『結構。それで、進展の方はどうかしら?』

ヴェニフーキ「ひとまずアッサムさんが"白"だとして、GI6の皆さん相手に反体制を仄めかす言動を投げかけてみました」

アールグレイ『あら。白を選んだのね。それはどうしてかしら?』

ヴェニフーキ「これには幾つか理由があるのですが」

ヴェニフーキ「まず、仮にアッサムさんが"内通者"だとしたら、そういった言動をとることで、自分や反・聖グロ派と"価値観が一致する"と判断するでしょう?」

アールグレイ『ええ』

ヴェニフーキ「それは反・聖グロ派と共謀するアッサムさんにとって、"敵だらけの聖グロに味方が出来た"ということになります」

ヴェニフーキ「それで内通者と仲良くなっておけば、より核心に近づけると思ったのですよ」

アールグレイ『なるほど。随分冒険したわね』

ヴェニフーキ「そうですね。…そしてもう一つなんですが」

アールグレイ『ええ』


ヴェニフーキ「今度は逆にアッサムさんが"内通者でない"場合、同じ発言をすれば猛反発なさるでしょう」

アールグレイ『そうね。アッサムもまた内通者を探してあなたを疑っている可能性があるのだから』

ヴェニフーキ「ええ。…しかし、アッサムさんはOG会のように、生徒をいきなり強制退学させるような鬼畜ではないし、鬼畜だとしても反体制派と無関係ならそれを実行出来る権限も無い」

アールグレイ『確かにね』

ヴェニフーキ「だから、最初は厳重注意や更生といった形に持っていくはずです。アッサムさんは奴らとは違う」

アールグレイ『そうね。たとえ裏切り者がいたとしても、アッサムならまずは必死に説得するでしょうね』

ヴェニフーキ「そういった事から"内通者のアッサムさん"より、"内通者でないアッサムさん"を敵に回した方が失うものが少なく、得られるものも多いと思った次第です」

ヴェニフーキ「…あとは単純にアッサムさんはそんな外道な真似をする蛮勇は無いと」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/19(金) 20:45:44.25 ID:ohwQ2iaO0<>

アールグレイ『…なるほど。あなたにしてはよく考えたわね』

ヴェニフーキ「やってる事がやってる事なので、嫌でも頭を使うんです。下衆の勘繰りというやつでしょうか。」

アールグレイ『そうね…』

ヴェニフーキ「…あ、そうだ」

アールグレイ『ん?』

ヴェニフーキ「もう一つ、アッサムさんに関して、気になるものを見つけたんですよ」

アールグレイ『アッサムの気になるもの?』

ヴェニフーキ「ええ」







ヴェニフーキ「アッサムさんの"弱点"ですね」






アールグレイ『………弱点?』

ヴェニフーキ「前にダージリンに教えてもらったんですけど、ダージリンはアッサムさんと勝負して、アッサムさんの弱点を突いて勝ったとのことでして」

アールグレイ『ええ。そうね』

ヴェニフーキ「そのアッサムさんの敗因とも言える弱点なんですが、おそらく」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/19(金) 20:56:51.84 ID:ohwQ2iaO0<>






ヴェニフーキ「"キューポラから顔を出さない"」







アールグレイ『キューポラから…?』

ヴェニフーキ「言い方を悪くすると、"戦車内に閉じ籠もっている"といったところでしょうね」

アールグレイ『…なぜ、そう思ったのかしら?』

ヴェニフーキ「私はブラックプリンスに乗りながらも隊長車、つまりアッサムさんを監視していました」

ヴェニフーキ「それでわかったんですが、彼女はいくら安全圏にいたとしても、絶対にキューポラから顔を出さないんですよ」

アールグレイ『そう…』

ヴェニフーキ「確かに、キューポラ内にいても潜望鏡(ペリスコープ)や味方からの無線連絡で戦況を確認出来るかもしれません」

ヴェニフーキ「けれども、潜望鏡は視界が限定されるし、無線連絡は勘違いによる伝達ミスもあります。どうやっても自分で確認したものよりは劣る」


アールグレイ『なかなか面白い推理ね?』

ヴェニフーキ「あはは。普通の車長だったらまだ良いんですよ」

ヴェニフーキ「けれどもアッサムさんは隊長として全車輌に指示を出さないといけない立場なので、情報は多いに越したことはない」

ヴェニフーキ「ともなれば、それこそキューポラの上に立つくらいの覚悟でないと」

ヴェニフーキ「…そこからアッサムさんの隊長としての行動力、決断力すなわち覚悟の弱さが垣間見えました」

アールグレイ『なるほど』

ヴェニフーキ「実際、私がヴェニフーキとして聖グロに来て、すぐに行われた紅白戦でもその傾向にありました」


― 相手のフラッグ車であるチャーチル歩兵戦車の背後に回り込み、至近弾を浴びせて走行不能にしてやった。


ヴェニフーキ「あの時の奇襲攻撃は結構な距離があったのですが、上手く行きましたよ」

アールグレイ『そう』

ヴェニフーキ「で、ダージリンはその弱点を見抜いたからダージリンはあの時アッサムさんに勝った」

ヴェニフーキ「…アタリですかね?」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/19(金) 21:00:14.01 ID:ohwQ2iaO0<>

― アッサムさんの"隙間"とは一体?

― それは教えない

― む…

― あの時は私にとっての"突破口"だったけれど

― 今はそれが聖グロの"弱点"の一つですもの

― えっ、ということは…?

― 今もなおアッサムはあの弱点を克服できてない



内通者だと目星をつけていたアッサムさんを監視した。

そして私はアッサムさんの弱点を見つけてしまった。

…この弱点を突いたから、あの時ダージリンはアッサムさんに勝てたのだろう。


そして、ダージリンの言う通り、このアッサムさんの弱点が聖グロの弱点の一つとなり、ダージリンのいない今の聖グロにとって致命的なものとなってしまった。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/19(金) 21:08:33.74 ID:ohwQ2iaO0<>

アールグレイ『………正解よ。あなたの言う通り』

ヴェニフーキ「やっぱり」

アールグレイ『あの子は…アッサムは接近戦にめっぽう弱い』

アールグレイ『だから、あらゆるデータや情報、そして精密射撃を武器に中・遠距離戦に持ち込み、その弱点を補おうとした』

ヴェニフーキ「となれば、それを打ち破るためにダージリンは接近戦を仕掛けたのですね?」

アールグレイ『ええ』




アールグレイ『聖グロらしからぬ見事な"突撃"だったわ』




ヴェニフーキ「!?」

アールグレイ『ふふっ。ダージリンね、全速力でアッサムに突撃したのよ?』

ヴェニフーキ「そうなんですか!?」

アールグレイ『地形や距離を武器に仕掛けてくると読んでたアッサムにとって、その無鉄砲とも言える真正面からの突撃は完全な不意打ちとなった』

アールグレイ『そしてアッサムが混乱してる間に背後に回り込み、装甲の薄い背後を撃って撃破した』

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/19(金) 21:23:07.55 ID:ohwQ2iaO0<>
ヴェニフーキ「………」

アールグレイ『あの上品なダージリンが突撃するなんて、あなた信じられる?』フフッ

ヴェニフーキ「にわかには信じがたいです…。でも、その常識破りな発想があったからダージリンは隊長に選ばれたんだなと今改めて思います」

アールグレイ『ええ。あの子の柔軟な発想と、思い切った行動力、仲間の為にすべてを背負う覚悟こそ隊長に求められる要素なの』

ヴェニフーキ「確かに。…アッサムさんはどちらかというと、それを支える参謀的な立ち位置ですね」

アールグレイ『そうね。行動力・決断力に長けたダージリン、頭脳派のアッサム。いいコンビよ』

ヴェニフーキ「まさにその通りですな」

アールグレイ『もちろんアッサムも優れた戦車乗りだけど、高飛車な態度とは裏腹に臆病で繊細な子なの』

ヴェニフーキ「砲手に向いていますが、一歩先に立つ隊長や車長には不向きなタイプですね」

アールグレイ『ええ。だからあの子はあらゆる不安を払拭するために、あらゆる情報やデータを頼るようになった…』

ヴェニフーキ「となれば、今の隊長としての責務は相当な重荷になっているでしょうね」

アールグレイ『ええ。だからこそ、ダージリンの復学が必要なの。アッサムが潰れる前に』


アールグレイ『アッサムまでリタイアしたら聖グロは強豪校どころか中堅校ですらなくなってしまう…!』


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/19(金) 21:26:16.53 ID:ohwQ2iaO0<>

ヴェニフーキ「しかし、私にもそんな優れた参謀がいてくれたらもっと楽にお仕事出来るんですけどねぇ」

アールグレイ『…なによ。私の助言じゃ不満っていうの?』

ヴェニフーキ「だってアールグレイさん、いつも何かを仄めかすような物言いしかしないじゃないですか…」

アールグレイ『良いじゃない。自分の頭で考えるのって大事よ?』

ヴェニフーキ「"察してよ"じゃ男は気付きませんよ?」

アールグレイ『どうしてそこで男の話が出てくるのよ!!』

ヴェニフーキ「いやぁ…だってアールグレイさん…その…うん…」

アールグレイ『な、何よ! ハッキリ言って頂戴!』

ヴェニフーキ「自分の頭で考えるのって大事ですよ?」

アールグレイ『………』

ヴェニフーキ「あはは。まぁ生きてればきっと良いことありますよ…?」

アールグレイ『………うるさいわよ。 あ、そうそう』

ヴェニフーキ「はい?」


アールグレイ『明日、お茶でもしませんこと?』


ヴェニフーキ「私にはもう恋人がいるんですけど?」

アールグレイ『…違うわよ。渡したいものがあるの』

ヴェニフーキ「一体何を下さるんですか?」

アールグレイ『それは会ってからのお楽しみ』フフッ

ヴェニフーキ「…わかりました。それでは明日お会いしましょう」

アールグレイ『ええ。お休みなさい』

<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/05/21(日) 01:05:23.83 ID:lCsGStmZ0<> 乙
にゃるほど、アッサムの弱点はそこかー
元々石橋叩いて渡る性格だったなら当然戦車乗りの死亡原因に関するデータも目を通してるだろうしな
キューポラから頭出したら死亡率が跳ね上がるとなったらそりゃ顔なんて怖くて出せまいて <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/05/21(日) 12:09:28.59 ID:/0s6udwdo<> いくら狙撃は無いっつってもガルパンのガバガバ砲弾じゃどこ飛んでくかもわからんしな <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/05/21(日) 21:09:03.99 ID:lCsGStmZ0<> あと気づいたがIV号の方は(対空)戦車中心の話だったのに対して
こっちはどちらかというとガールズ(ラヴ)の話になってるな

つまり二作合わせてガールズ&パンツァー、実に芸が細かい <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/21(日) 21:27:32.97 ID:R2ZqUCdJ0<>

【翌日 とあるカフェ】


ヴェニフーキ「おはようございます。アールグレイ様」

アールグレイ「おはようヴェニフーキ。服や持ち物は綺麗かしら?」

ヴェニフーキ「ええ。お出かけ前にしっかりチェックしましたよ」

アールグレイ「そう。なら問題ないわね。…"絹代さん"」


西/ヴェニフーキ「ふぅ…。またこのカフェに来るとは思わなかったですよ」

アールグレイ「あなたがあの時私を誘ってくれた思い出の場所ですもの」

西「嫌な事件でしたね」

アールグレイ「意地悪を言わないで下さいな。ここに来たら嫌でも自分の"役目"を実感できるはずよ」

西「そうですね。あの時のことを思い出してまた涙が出そうです」



そう。このカフェはアールグレイさんと"悲しいお茶会"をした場所…。

ダージリンが強制退学されたと知って、藁をもつかむ思いでアールグレイさんを頼り、ここで真相を知って私は項垂れた。

精神安定剤を服用しても抑えきれなかった悲しみは今思い出してもやっぱり悲しい。

その後また精神安定剤を呷ってダージリンの自宅へ行き、薬の副作用でボロボロのヘロヘロになってダージリンに縋り付いた…。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/21(日) 21:29:44.39 ID:R2ZqUCdJ0<>

アールグレイ「思い出話はここまでにして、早速本題に入るわね」


コトッ


西「ん? 何ですかこれ?」

アールグレイ「あなたに渡す物よ」

西「それはわかりますが、これらは一体何の道具ですか?」



アールグレイさんは鞄から紙袋を取り出し、その中身をテーブルの上に並べた。

いずれも手のひらに収まるほどの小さな機械だ。

うち一つは、一昔前の折りたためない携帯電話のような形をした機械。

正面にはランプやメーターがついている。何かを測定する機械だろうか?

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/21(日) 21:33:03.37 ID:R2ZqUCdJ0<>
アールグレイ「まずこれは"探知機"よ」

西「ほうほう。映画やアニメで時たま見かけますが、探知機ってこんな形をしてるんですなぁ」

アールグレイ「探知機にも様々な形状のものがあるけれど、常備するとなればこういった形の方が怪しまれないでしょう?」

西「確かにそうですね」

アールグレイ「それで使い方だけど、まず電源を入れたら半径5m以内に不審なものがある場合、ランプが点灯して反応する」

アールグレイ「そして、先端のアンテナを怪しい場所に近づけることでメーターが動く」

アールグレイ「不審物との距離が近ければ近いほど振れ幅が大きくなるから、設置場所の特定が出来るわ」

西「…つまりこれで盗聴器が無いか確認しろと仰るわけですね?」

アールグレイ「その通りよ。目視だけではどうしても見落ちしてしまうけど、探知機があれば確実に検出できる」

西「部屋に戻って使って反応したら嫌ですよね…」

アールグレイ「その時はその時よ」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/21(日) 21:35:16.89 ID:R2ZqUCdJ0<>

西「…でも、前に仕掛けられた盗聴器は外観は金属じゃなかった気がします。金属探知機じゃ反応しないのでは?」

アールグレイ「心配は要らないわ。これは金属探知機じゃなく"電波探知器"なの」

西「探すのは金属ではなく電波なんですか?」

アールグレイ「ええ。さすがに金属じゃ範囲が広すぎるわ。時計とか鞄のバックルとかにも反応してしまうもの」

西「確かに…」

アールグレイ「盗聴器には集音したものを別の端末で再生するため、電波を発信する装置が組み込まれている」

アールグレイ「だから、探す対象を電波に絞った方が確実よ」

西「なるほどです」

アールグレイ「百聞は一見にしかずね。試しに使ってみましょうか」

西「…助平」

アールグレイ「お黙りなさい」



私の同意も得ずにアールグレイさんは私の体に探知機をかざして舐めるように調べ始めた。

体を弄られているようで嫌な気分になる。

ダージリン以外の人に体を触られたり裸を見られたりするのは御免だ。虫酸が走る。

それはたとえ私に協力してくれるアールグレイさんであっても…。



そう思っていたら探知機が反応した。


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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/21(日) 21:37:28.14 ID:R2ZqUCdJ0<>

西「っ!!?」

アールグレイ「慌てないで反応した場所をよく確認しなさいな」

西「?」

ゴソゴソ

西「あ…」

アールグレイ「今反応したのは盗聴器じゃなく、あなたの携帯電話ね」フフッ

西「…驚かせてくれますね」

アールグレイ「驚かないための探知機よ」

西「…」

アールグレイ「これで探知機の使い方はご理解いただけたわね?」

西「ええ。…しかしですね」

アールグレイ「ん?」

西「盗聴器に限らず、電波を飛ばす機械も結構身の回りにあるかと思います。テレビとかラジオとか…」

西「なのでいくら探知機があったとしても、そういった盗聴器以外のものに反応したら肝心の盗聴器が見つからないのでは?」

アールグレイ「なかなかいい質問ね」

西「ありがとうございます」

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/21(日) 21:40:02.21 ID:R2ZqUCdJ0<>
アールグレイ「実を言うと、盗聴が目的の盗聴器には電波…つまり特定の周波数が無いのよ」

西「え…それじゃ特定のしようが無いじゃないですか」

アールグレイ「慌てないで頂戴。特定の周波数は無いけれど、盗聴器としてよく使われるのは300MHzから300GHzまでの極超短波よ」

西「極超短波…?」

アールグレイ「UHF帯とも呼ばれるアマチュア無線とかに使われる周波数だけど、他にも地上波放送や携帯電話、更には軍事用の航空無線などにも利用されるわ」

西「…なんか逆に範囲広くなってませんか?」

アールグレイ「ええ。その極超短波の中でも盗聴に利用されやすいのが、398.605MHz、399.455MHz、399.030MHzの3つの周波数」

西「398…何でしたっけ?」

アールグレイ「周波数までは覚えなくて良いわよ。こちらで調整しておくから」ポチピチ


アールグレイ「それで、要は今言った3つの極超短波が盗聴器に使われやすいから、それ以外の周波数は切り捨てでこの3つの周波数の探知に特化する」

西「なぜ盗聴器にはこの3つがよく使われるのです?」

アールグレイ「盗聴器とて工業製品だから周波数帯域が同じになってしまうのと、専用の受信機とセットで使うから、周波数を変えると受信機の設定も変えないといけないからよ」

西「なるほどなるほど」

アールグレイ「故にこの3つの周波数に特化すれば、テレビとか携帯電話といった余計なものに反応せず、盗聴器のみにピンポイントでヒットする」

西「…なるほど。周波数や電波はサッパリですが、この探知機が盗聴器探しの専門家だということはわかりました」

アールグレイ「ええ。それだけ理解してくれれば問題ないわ」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/21(日) 21:43:10.74 ID:R2ZqUCdJ0<>
アールグレイ「…そしてもう一つは、ボイスレコーダー」

西「ふむふむ。ミカン社の音楽プレーヤーみたいな形ですな。確かワイポッドでしたっけ?」

アールグレイ「全然違うわよ。…まあ、これは情報を得るというより、証拠を残すのが目的というのはわかるよね?」

西「ええ。裁判とかで音声記録とかがあると有利になるということくらいなら知ってます」

アールグレイ「そう。場合によっては相手が重要な"証言"をするかもしれないから、そういう時のために持っておいて」

西「はい」

アールグレイ「使い方は録音ボタンを押せば録音が開始され、もう一度押すと録音がストップされる」

アールグレイ「録音したら矢印で録音開始時刻を選んで再生ボタンを押すと、その時間に録音した内容が再生されるわ」

西「どれくらい録音できるんです?」

アールグレイ「最大200時間分は録音できるわ。…ただし、バッテリーの関係で連続使用は20時間だから注意して頂戴」

西「思ったよりも長いですね」

アールグレイ「ええ。…でも録音ボタンを入れたまま放置して、いざ使おうって時にバッテリー切れで使えないなんてポカはしないでね?」

西「…そうですね」

アールグレイ「一応、充電器もついているから、常にバッテリー残量は満タンにしておくのよ?」

西「かしこまりでございます」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/21(日) 21:45:38.14 ID:R2ZqUCdJ0<>

アールグレイ「そして、最後がこれよ」

コトッ

西「…これって部屋のコンセントに差し込んで、穴を3つに増やすやつですよね?」

アールグレイ「ええ。パソコンや携帯電話の充電器とかで何かとコンセントって使うのよねぇ」フフッ

西「…そんなものを貰ってどうしろと?」

アールグレイ「普通はそう思うでしょうね。でもこれはコンセントのタップじゃないのよ?」

西「違うんですか?」

アールグレイ「ええ」





アールグレイ「盗聴器よ」





西「!!」

アールグレイ「今思えばもっと早くに渡すべきだったかもしれないわね」

西「………私にGI6よろしく盗聴をしろと…?」

アールグレイ「あなたが嫌悪するのは無理もないでしょうけど、情報を得るためには時として非常識な手段を講じなければならない時もある」

西「…」

アールグレイ「こんな言葉があるわ。"イギリス人は恋愛と戦争では手段を選ばない"」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/21(日) 21:47:01.12 ID:R2ZqUCdJ0<>

西「私は生まれも育ちも日本ですけどね」

アールグレイ「愛するダージリンと、その仇敵と戦うために、あなたも覚悟を決めなければならない時が来たのよ」

西「………」

アールグレイ「この盗聴器はGI6のようなそんじょそこらの素人が使うようなものとは全然違う」

西「どう違うんです?」





アールグレイ「警察庁警備局公安課のシギント技術を使用している」





西「…警察庁っていわゆるお巡りさんの"頂点"ですよね?」

アールグレイ「ええ。順を追って説明するわね」

アールグレイ「まず警察庁の下には内部部局という府省庁内の本体部分を構成する組織がある」

アールグレイ「その局の一つが『警備局』で、東京都を管轄する"警視庁警備部"、東京都を除く"道府県警察警備部"、そして"警視庁公安部"の3つを管轄する組織よ」

西「ほうほう…?」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/21(日) 21:55:09.23 ID:R2ZqUCdJ0<>
西「…ふむ?」

アールグレイ「殺人や強盗といった民間人の犯罪を取り締まる"刑事警察"と違って、公安警察は日本の治安維持を目的とした組織」

アールグレイ「…公安警察というのは、警察庁や都道府県警察の公安部門の俗称だけれども、この組織は言ってみれば…」

西「?」






アールグレイ「日本国最大の"諜報機関"よ」






西「なっ!?」

アールグレイ「主に日本の治安維持を目的とした組織で、国家体制を脅かす事案…つまり政治犯やテロリストといった政府組織を対象とする犯罪や反社会的活動を取り締まっている」

アールグレイ「国外では旧共産圏や国際的なテロリズム、国内においては、共産党や極左暴力集団、セクト(新宗教団体)、右翼団体、大手メディア、自衛隊などを対象に捜査・情報収集を行っている」

西「…」

アールグレイ「時にはそれらの団体にスパイを送り込んで、情報収集だけでなく組織の崩壊までやってのけるわ」

西「…」

アールグレイ「そんな公安警察のシギント(通信、電磁波、信号などの傍受。そのうち盗聴はコミント)技術を応用したのがこれよ」

西「………」



日本にも諜報機関が存在するのがわかった。

そして、この盗聴器がそのノウハウを凝縮したスゴイものだというのもわかった。

………ただ一つ、わからないことがある。









アールグレイさん、あなたは一体何者なんだ。


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/21(日) 21:57:54.26 ID:R2ZqUCdJ0<>
アールグレイ「…言葉も出なくなったわね」フフッ

西「ええ。日本の警察が凄いとか、この盗聴器が凄いものだとか色々ありますが」

西「それを私に差し出すあなたが一体何者なのか………」

アールグレイ「ふふっ。それは秘密」

西「無茶苦茶気になりますが、触らぬ貧乏神に祟りなしと言いますし、そういう事にしておきます」

アールグレイ「貧乏神ってどういうことよ触らぬ神に祟りなしでしょう…」

西「関わると消されそうなので貧乏神で合ってますよ」

アールグレイ「失礼ね。…そうそう、この盗聴器だけれど」

西「はい?」


アールグレイ「知りたいことを入手したら速やかに回収すること」


西「知りたいこと…アッサムさんの白黒についてですよね」

アールグレイ「そう。何しろ日本国の最重要機密の塊ですもの」フフッ

西「そ、そんなものを私に押し付けないで下さい!」

アールグレイ「ふふっ」

西「ふふっ じゃない!!」

アールグレイ「過信はしないけど、少なくともGI6程度じゃ見つけられないわ」

西「いや、そういう問題じゃなくて…!」

アールグレイ「あと、これが受信端末。盗聴器の音声はここで記録される」

アールグレイ「そしてこっちがレシーバー。柔らかいシリコン素材を使っているから耳栓のように耳の中に入れておけばOKよ」

西「話を聞けェェェェェ!!!」



…というわけで電波探知器、ボイスレコーダー、そして盗聴セットを"一方的に"押し付けられた。

探知器やボイスレコーダーはともかく、日本の"諜報機関"が使うような盗聴器を渡すアールグレイさんの意図や正体はわからないが、それとは別にわかったことがある。


アールグレイさん、本気だ。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/21(日) 22:00:31.06 ID:R2ZqUCdJ0<>
アールグレイ「さて、いい時間ね。そろそろお開きにしましょうか」

西「色々衝撃的で思考停止状態なんですが…。今回は詳しく説明して下さらないんですか…?」

アールグレイ「それくらいで良いのよ。何もかも知ったところで良い事なんて無いもの」

西「…」

アールグレイ「そんなことより。あなたの事だからこの後ダージリンの家に行くんでしょう?」

西「ええ、そのつもりですけど?」

アールグレイ「あれこれ考えてたらあの子も不審がるわよ?」フフッ

西「…そうですね。きったないアールグレイさんより、綺麗なダージリンの事をもっと知ろうと思います」シレッ

アールグレイ「なっ、こいつときたら! 面と向かっても失礼なこと言う!」

西「あはは。色々吹っ切れて感覚が麻痺しているだけですよ」

アールグレイ「その油断してる時が一番危ないのよ?」

西「ぐ…」

アールグレイ「…まあ良いわ。私もここまで協力しているのだから、しっかり"成果"を出して下さいな」

西「ええ…!」

アールグレイ「それではまたね絹代さん。じゃあの」



怪しいお茶会は終わった。

私は渡された道具を鞄にしまい、ダージリンの家へ向かった。

距離はそこそこあったが、ウラヌス…愛車に跨がればあっという間だった。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/21(日) 22:02:15.87 ID:R2ZqUCdJ0<>

【ダージリンの部屋】


西「ただいま。ダージリン」

ダージリン「おかえりなさい。絹代さん」

西「やっぱり、ここは落ち着きますね」

ダージリン「そう?」

西「ええ。何度も足を運びたくなります。…というよりここに住みたいです」

ダージリン「そこまで言ってくれると嬉しいわね」

西「あはは。ダージリンがいる場所が私のいる場所ですので」

ダージリン「ふふっ」



きったないアールグレイさんを見たあとだからダージリンがいつもよりも可愛らしく見える。

…もちろん普段のダージリンも物凄〜く可愛いけれどね。

もう余計な事を考えずにダージリンのことだけ考えて生きたいくらい可愛い。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/21(日) 22:03:58.95 ID:R2ZqUCdJ0<>
西「大好きです。ダージリン」

ダージリン「ど、どうしたの急に?!」

西「何もありませんよ? ただ胸中の想いを言葉にしただけです。ダージリンが死ぬほど好きだって」

ダージリン「そうなの…?」

西「ええ」

ダージリン「えへへ。ありがと。私も絹代さんが大好きよ」ポッ

西「あはは。両想いですね」

ダージリン「ええ」

西「キスしても良いですか?」

ダージリン「もう。いつも聞かずにするくせに…」

西「何となく許可が欲しくなりまして」

ダージリン「…良いわよ」

西「ありがとうございます」

ダージリン「…んっ………」



西「!」

ダージリン「…」レロ...

西「っぐ…!」


口の中にダージリンの舌が押し込まれる…

暖かくて柔らかくてぬるぬるしたダージリンのものが。

私の口内をまさぐるように這いずり回り、奥の方へとねじ込まれる。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/21(日) 22:04:29.22 ID:R2ZqUCdJ0<>
ダージリン「…」

西「オゴッ...グボ...ゴボッ.....」



普通の生活を送っていればまず出ないようなえづき声が漏れる。

身体が異物を吐き出そうとしても、出ていくどころかどんどん奥へ入ろうとする。

息が出来なくなって苦しい。

そのままベッドに押し倒され、仰向けになった私を押さえ込むようにダージリンが重なる。

ダージリンの手は私の弱い部分を執拗に触る。どこを触れば気持ち良いのか知ってる。

息ができない苦しさより今まで経験したことがない快感が勝り、意識が朦朧とする。





そして………

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/21(日) 22:06:25.91 ID:R2ZqUCdJ0<>
【バスルーム】


西「…」

ダージリン「…」

西「………」

ダージリン「………その…」

西「…ん」

ダージリン「………ごめんなさい」

西「…べ、別に良いですよ。…それよりもダージリンの部屋汚しちゃって申し訳ないです…」

ダージリン「部屋は使用人が掃除してくれるから問題ないわ…それよりも」

西「…」

ダージリン「もう大丈夫? …気持ち悪くない?」

西「ええ…。お腹の中にあったもの全部出しきったからスッキリですよ…あはは………」

ダージリン「…やりすぎちゃったわね………まさかあなたが吐いちゃうなんて思わなかったもの………」



こうやって二人仲良く風呂で体を洗ってるのは"終わった"からじゃない。

…あんまり人に言いたくはないけど………"最中"に派手に嘔吐した。

不幸にも仰向けになった状態で嘔吐したので、服やベッド、顔から上半身まで吐瀉物まみれになってしまい、意識が途切れそうになりつつもダージリンに介抱されながらバスルームまで運ばれて現在に至る。

喉の奥をグイッとやれば誰だってオエッとなるけど、まさかそれで汚物をぶちまけるとは思わなかった。

ダージリンは予想外というけど、私だってこんな事になるなんて思わなかったよ…。
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/21(日) 22:12:12.56 ID:R2ZqUCdJ0<>
ダージリン「…あなたのえづき声聞いてたら止まらなくなったの………」

西「私も。ダージリンに押さえつけられて触られてる時に、最後までお願い…って思ってました」

ダージリン「………まだ"途中"でしょう?」

西「…ええ」

ダージリン「…ここで…する…?」

西「あはは。ここなら吐いてもすぐ流せますもんね」

ダージリン「………ばか」

西「………実を言うと、あの時、妊娠するんじゃないかって思っちゃいました……」

ダージリン「なっ…!」カァァ

西「……それくらい…まぁ……良かったです………」

ダージリン「…出てきたのがお腹の食べ物じゃなく、赤ちゃんだったら良いのにね」

西「あはは。ヌッコロ大魔王みたいですねそれ」



中途半端で終わったので、そのまま湯船に浸かりながらまたお互い愛し合った。

ここならば先程のような事をしてもベッドや服を汚す心配もない。自由に出来る。


そう思っていたら今度は逆上せて鼻血を垂れ流したままヨロヨロフラフラと再びダージリンに介抱されて脱衣所へ。

つくづく学習しないなぁ私も…。
<> 訂正 
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/22(月) 03:15:19.93 ID:YI9XW2ZI0<> >>757 の文頭に以下の文章を入れ忘れました。脳内補完or修正お願いします m(_ _)m



アールグレイ「この警察庁警備局の下に『公安警察』という警備警察の一部門がある」 <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/28(日) 01:31:11.88 ID:4S1mKFVw0<>

西「」

ダージリン「……大丈夫…?」パタパタ

西「あ…あはは…は…」クラクラ

ダージリン「心配になってきたわ。向こうでも無茶してないか…」

西「だ、大丈夫です…あははは…だ、だーじりんのおっぱいが4つに見えます…あははははは…」

ダージリン「おバカなこと言わないの」

西「きゅぅ…」

ダージリン「そんな声出してもだめ。ほら、お水飲んで」

西「………飲ませて」

ダージリン「自分で飲みなさい」

西「…手に力入らないです…飲ませて下さい」

ダージリン「もう。しょうがない子ね…」

西「あはは…口移しがいいです」

ダージリン「ばか」



…手に力が入らないわけじゃない。

ただ、ダージリンに甘えたかっただけ。

会う前は平然としていられる(もちろん寂しい)けど、こうやって一緒にいるとやっぱりダージリンが恋しくて恋しくて…あはは…。

一緒にいられる時間は限られてるから、甘えられる時に思いっきり甘えたいんだ…。




〜〜〜〜〜



<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/28(日) 01:33:43.38 ID:4S1mKFVw0<>

ピピピッ ピピピッ


西「………んぅ……」

ダージリン「おはよう絹代さん。ほら、起きて」

西「ん〜…あと5分…と7時間………」モゾモゾ スピー

ダージリン「………」


ダージリン「起きなさい、ヴェニフーキ」


西「!!!!」バサッ

西/ヴェニフーキ「…申し訳ありませんダージリン…さ…ま……?」

ダージリン「」クスクス

西「」





西「だぁぁぁぁぁぁぁぁじりぃぃぃぃぃぃぃぃん!!!!!」







ダージリン「きゃぁ、襲われちゃう」ウフフッ

西「び、びっくりしたじゃないですかぁ!」

ダージリン「なかなか起きない絹代さんが悪いのよ?」

西「だからってこんな心臓に悪い起こし方はあんまりですぞっ!」

ダージリン「…懐かしいわねぇ」

西「何がですっ!」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/28(日) 01:37:19.02 ID:4S1mKFVw0<>

ダージリン「あなたが入院してた頃、私がこんな風に叩き起こされたことを思い出して…ね?」

西「あぁ…確かにありましたね。…って、あの時の仕返しですか?」

ダージリン「あの時は本当に焦ったのよ?」


西(ダージリン真似)「ふぇぇっ?! きっ絹代さん!? 絹代さん来てるのっ?!」

西(ダージリン真似)「ちょっとペコ!! 何で起こしてくれ…な……???」


ダージリン「」ムカッ

西「あはは。あの時のダージリンの慌てようと来たら傑作でしたよ」

ダージリン「」ツネッ

西「痛い! 痛いって!!」

ダージリン「こういうおバカなところは昔と全然変わらないんだからっ!」

西「あはは………あれ? 今日って日曜日では?」

ダージリン「そうよ?」

西「ならば何も早起きしなくたって良いじゃないですか…」

ダージリン「だめよ。休日だからってダラダラ過ごすのは良くないわ」

西「ちぇー。日曜日はゆっくりゴロゴロしてたいです」

ダージリン「あら、それじゃあ朝ごはんいらないのね? 残念ねぇ、せっかく作ったのに」

西「食べますっ!!」ガタッ

ダージリン「なら早く着替えなさい」




〜〜〜



<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/28(日) 01:39:46.62 ID:4S1mKFVw0<>
西「うまうま」モグモグ

ダージリン「ふふ。気に入ってもらえて良かったわ」

西「気に入るも何も、お店出せるレベルですよ」モグモグ

ダージリン「それはちょっと大袈裟よ」

西「そんなことないです。すごく美味しいです。おかわり」

ダージリン「はいはい。…って本当によく食べるわね…」

西「だって美味しいですもん。ダージリンの手料理」

ダージリン「それは嬉しいけど、だからって3杯は食べ過ぎよ…」

西「普段満足に食べれないから、今のうちに溜めておくんですよ」

ダージリン「まるで冬眠中の熊みたいね…」




〜〜〜




西「っぷはー! 食べた食べた!」マンプク

ダージリン「あなたと過ごしたら食費がかかりそうだわ…」

西「あはは。食べた分だけ還元しますよ」

ダージリン「そうであって欲しいわね」



まるで新婚さんのようなやりとりだ。

もし大人になってダージリンと二人で暮らすようになったら、毎日ダージリンの手料理が食べたいなぁ。

もちろん私が作ったりもするけどね。たまには。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/28(日) 01:48:05.10 ID:4S1mKFVw0<>


ピリリリリ ピリリリリ



ダージリン「ほら電話、鳴ってるわよ」

西「誰だろう…って、一人しかいないけど」

ダージリン「アールグレイ様?」

西「ええ。あの助平先輩ですね」

ダージリン「こら! 失礼なこと言わないの」

西「事実ですよ」ピッ


アールグレイ『おはよう。ヴェニフーキ』

西「おはようございます。R18グレーゾーン様」

ダージリン「ちょっと!」

アールグレイ『…朝っぱらからケンカ売ってるのかしら?』

西「あはは。何となくそんな気がしたので」

アールグレイ『意味がわからないわよ』

西「Rが無いのでR18がグレーゾーンなんです。おかげでダージリンと激しくイチャイチャしたくても出来ない」グヌヌ...

ダージリン「ちょ、ちょっと何言ってるのよっ!////」

アールグレイ『…何の話かは知らないけど、今度会ったら覚えておきなさい』

西「ところで用件は何でしょうか?」

アールグレイ『またこいつと来たら…さらっと流すじゃないの…』

西「あはは」

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/28(日) 01:50:10.88 ID:4S1mKFVw0<>

アールグレイ『それで本題だけど、この間渡した"アレ"、仕掛けるなら今がチャンスよ』

西「どうしてです?」

アールグレイ『休日だから生徒が少ないのと、3年生が課外活動に出て艦外にいるからよ』

西「なるほど」

アールグレイ『ちなみにあなた達2年生徒は来週よ』

西「え」

アールグレイ『知らなかったの?』

西「課外活動の"か"の字も知りませんけど…」

アールグレイ『あらそう』

西「…一体何をするんです? 課外活動って」

アールグレイ『いわゆる職業体験ね。希望した業種の企業を訪問して実際にそこで仕事をするの』

西「お給料出るんですか?」

アールグレイ『出ないわよ?』

西「…要はタダ働きですね………」ゲッソリ

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/28(日) 01:53:46.51 ID:4S1mKFVw0<>
アールグレイ『良いことじゃない。こういう経験って滅多に無いのよ』

西「確かにそうですけど、労働の対価がないのは何とも…」

アールグレイ『いい? 職業体験を通じて仕事にやり甲斐や情熱を見出すことは、社会人として大事なの』

アールグレイ『百聞は一見に如かずとも言うわね。説明会で話を聞くよりも実際に現地で汗水流した方がより多くのことを学べるもの』

アールグレイ『そうすればいざ社会人となったときに慌てなくても済むわ』

アールグレイ『だいたい今の若い子は将来の夢がどうのこうの言うけど、実際に働くと理想と現実のギャップに………』


西「ちなみにダージリンはどこに訪問したんです?」

ダージリン「えっ、私?」

西「ええ」

ダージリン「私は…お菓子を作る会社へ行ったわね」

西「…」

ダージリン「な、何よ…!」

西「いや、一流企業でバリバリ働く"きゃりあうーまん"的な印象だったので、ちょっと予想外でして」

ダージリン「そうなの?」

西「ええ」

ダージリン「子供に喜ばれるようなお仕事がしたいと思っていたのよ」

西「ダージリン…かわいいなぁ…」ナデナデ ホクホク

ダージリン「…ふふっ」テレテレ




アールグレイ『こら話を聞けっ!!』

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/28(日) 01:58:32.86 ID:4S1mKFVw0<>
西「わっ! アールグレイさんまだいたのですか?!」

アールグレイ『失礼ね! ずっといるわよ!』

西「なんかその…色々ごめんなさい。アールグレイさんの話よりもダージリンの将来の夢の方が聞いてて楽しかったので」

アールグレイ『…言ってくれるわね………。とにかく、3年生がいない今日はチャンスだから、ゴロゴロしてないでささっと用事を済ませちゃいなさい』

西「はい。わかりましたであります」

アールグレイ『そうそう。今ダージリンと一緒にいるよね?』

西「…そうですけど?」

アールグレイ『だったら、学生手帳を借りておいて』

西「学生手帳? どうしてですか?」

アールグレイ『万が一の為よ』

西「?」

アールグレイ『それじゃぁ、向こうに着いたらまた連絡してくださいな。…あと、あまりダージリンに迷惑かけちゃ駄目よ?』

西「…了解しました」ポリポリ

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/28(日) 02:00:34.14 ID:4S1mKFVw0<>

ダージリン「アールグレイ様、何と仰ってたの?」

西「今から聖グロ行って一仕事してこいとのことです」

ダージリン「そう…」

西「それで、ダージリンの学生手帳を貸して頂きたいのですが」ポリポリ

ダージリン「えっ? 学生手帳?」

西「ええ。アールグレイさんが持って来いと言うので」

ダージリン「…わかったわ。無くさないでね?」

西「ありがとうございます。すぐ戻ってきますよ」ポリポリ

ダージリン「…」

西「…っと、流石にこの格好じゃまずいな。制服に着替えないと」

ダージリン「…」

西「ん? どうしたんですか?」ポリポリ


ダージリン「痒いの?」


西「えっ?」

ダージリン「首、痒いの? さっきから何度も掻いているけれど…?」

西「?」

ダージリン「…ちょっと待ってて。お薬持ってくるから」



確かに。なんか首筋が痒い。

蚊にでも刺されたのかな?

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/28(日) 02:04:47.43 ID:4S1mKFVw0<>
ダージリン「…」ヌリヌリ

西「…」

ダージリン「これで良いわ。もう掻き毟ったら駄目よ。余計に酷くなっちゃうから」ヌリヌリ

西「ありがとうございます。…そうですね、極力掻き毟らないよう気をつけます」

ダージリン「それで、学校まではバイクで行くの?」

西「ええ。ウラヌスがあればあっという間に到着しますので」

ダージリン「寒くない?」

西「そういえばもうすぐ秋も終わりますね…」

ダージリン「ええ。走ってるともっと寒くなるでしょうから、私のコート使う?」

西「本当はダージリンに包まれたいのですが、コートだと身動きが取りにくいのですよ」

ダージリン「でも制服だけだと寒いわよ?」

西「一応、こういうのを持ってるので大丈夫です」



そう言って私は愛用のライダースーツをお披露目した。

防寒着というわけではないが、そこそこ厚みがあるので多少は暖かくなるだろう。ツナギになっているので制服の上からでも気軽に着脱できる。

手は革のグローブを装着するし、顔はフルフェイスのヘルメットを被るので問題ない。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/28(日) 02:19:57.81 ID:4S1mKFVw0<>

ダージリン「…」

西「どうしました?」

ダージリン「真っ黒のライダースーツ(※)にフルフェイスヘルメットだと何だか怪しい人みたいね…」

西「…そう言われてみれば」



こんな格好でコンビニや銀行なんかに入ったら通報されかねない。

しかし厚手のライダースーツは万が一の時に身体を守ってくれるし、フルフェイスヘルメットは言うまでもない。

防寒着というよりは安全着としての意味合いのほうが強い。


…ただ、ダージリンの言う通り、全身真っ黒はちょっと良くないかもしれない。また気が向いたら新しいのを探してみるか。


※ ライダースーツ参考:https://rakkami.com/illust/detail/3542




ダージリン「…あっ、待って。まだヘルメット被らないで」

西「ん? どうしてでs」


チュッ


ダージリン「…忘れ物よ」

西「あはは。危うく忘れるところでした」

ダージリン「もう。…気をつけてね?」

西「ええ。終わったら連絡しますよ」



そうして私はダージリンの家を後にした。

ダージリンから離れれば離れるほど風が冷たくなっていく気がした。





〜〜〜

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/28(日) 02:23:14.23 ID:4S1mKFVw0<>

ヴェニフーキ/西「…さて」



さすがにウラヌスは西絹代のものなので、乗ったまま聖グロの学園艦に入るわけにはいかない。

そのため少し離れた場所にあった有料駐車場に置いて、ついでにそこで聖グロ生の格好になる。

ライダースーツやヘルメットは駐車場にあるロッカーに押し込んでおいた。

ここから先は学園艦まで徒歩で移動する。若干距離はあるけど仕方あるまい。

…っと、その前にちゃんとヴェニフーキになってるかトイレで確認しておかないと。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/28(日) 02:27:45.30 ID:4S1mKFVw0<>

【聖グロ学生寮 ヴェニフーキの部屋】


それじゃさっそく盗聴器を仕掛けるぞ! …と行きたいところだけど、その前にまずは自分の部屋に向かった。

やっぱり気になるのだ。盗聴器が仕掛けられていないかどうかが。

部屋に入り、アールグレイさんから貰った探知機の電源を入れ、部屋の中を歩き回る。

一応、半径5m以内に"不審物"があれば反応するとのことだけど、念のためにね。


ベッドや洗面所、トイレなどを一通り探してみたが、何の反応もなかった。

…本当に大丈夫だよな? 探知機の故障とかだったら嫌だよ?


盗聴器が無いことを確認したら、言われた通りアールグレイさんに連絡する。



ヴェニフーキ「お疲れ様です。ヴェニフーキです」

アールグレイ『お疲れ様。お部屋は綺麗にしてあるかしら?』

ヴェニフーキ「ええ。問題ありません」

アールグレイ『結構。それで、もう用事は済ませたのかしら?』

ヴェニフーキ「いいえ。これからやろうと思います。ただ、」

アールグレイ『ただ?』

ヴェニフーキ「何処に置けば良いかと考えあぐねていたところでして」

アールグレイ『…』

ヴェニフーキ「アッサム様のお部屋、あるいは隊長室のどちらかにしよう。とは思っていたのですが」

ヴェニフーキ「彼女がGI6と連絡を取るとしたらどちらでしょう?」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/28(日) 02:30:02.32 ID:4S1mKFVw0<>
アールグレイ『そう…。隊長室の方が良いかもしれないわね』

ヴェニフーキ「何故?」

アールグレイ『GI6が戦車道関係者とやり取りする場合は、ほぼ必ずと言って良いほど隊長室で行われているからよ』

ヴェニフーキ「そうですか」

アールグレイ『実際に私が隊長だった頃、他校の情報収集などでGI6に協力してもらう時はそのやり取りを隊長室で行ってたし、』

アールグレイ『ダージリンに隊長を引き継がせた時もそうするよう伝えたわ』

ヴェニフーキ「なるほど。わかりました」

アールグレイ『…そうそう。隊長室は"鍵"が無いと入れないわよ?』

ヴェニフーキ「その鍵は何処に?」




アールグレイ『アッサムの鞄の中』

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/28(日) 02:35:36.70 ID:4S1mKFVw0<>

ヴェニフーキ「…」


アールグレイ『学生手帳に内蔵されたICチップで認証する電子ロック式だけど、隊長室は歴代隊長のみが持つ他の生徒のとは異なるICチップが必要なの』

ヴェニフーキ「だからダージリンの生徒手帳を持って来いってことですね?」

アールグレイ『ええ。まずはそれで試してみて頂戴』

ヴェニフーキ「了解です」



私は(主にアッサムさんの説教を受ける時に入る)隊長室へと向かった。

そして、アールグレイさんの指示通り、ダージリンの学生手帳を扉の前にある認証装置にかざした。


ピッ


ピーピーピー


ガチャガチャ



…。

開かないぞ?

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/28(日) 02:42:55.47 ID:4S1mKFVw0<>


ヴェニフーキ「…駄目でした。認証出来ません」

アールグレイ『…そう。ダージリンが抜けた後に認証パターンを変更したのね。…用心深いあの子らしいわ』

ヴェニフーキ「では、この生徒手帳では扉は開かないと?」

アールグレイ『ええ。それどころか履歴が残って不審な痕跡を残してしまった』

ヴェニフーキ「…笑えませんね」

アールグレイ『こうなっては仕方ないわ。情報処理学部の校舎へ向かって頂戴』

ヴェニフーキ「何故です? 情報処理学部はGI6の巣窟では?」

アールグレイ『そこにあるコンピューターを使って一時的に隊長室の電子ロックを解除するのと、認証の履歴を消去する』

ヴェニフーキ「…なるほど。難しそうですね」

アールグレイ『でも現時点ではこれしか方法は無いわ』

ヴェニフーキ「わかりました。まず情報処理学部の校舎へ向かいます」

アールグレイ『ええ。着いたらまた連絡して頂戴』

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/28(日) 02:46:25.74 ID:4S1mKFVw0<>

【聖グロ 情報処理学部 校舎】



ヴェニフーキ「到着しました」

アールグレイ『了解。入り口付近にある装置に学生手帳の最初のページをかざせばドアが開くわよ』

ヴェニフーキ「了解」



私は指示されるままに生徒手帳を開いた。

ここで油断したらすべてがパーになるのだから緊張感を持たねば。

なんだか首がまた痒くなってきた。



ピッ

ウィーン


ヴェニフーキ「開きましたね」

アールグレイ『オッケーね。そのまま中へ入りなさい』

ヴェニフーキ「退学者のICチップでも使えるんですね」

アールグレイ『当たり前じゃない。ダージリンの退学は本来ならあり得ないイレギュラーな退学ですもの』

ヴェニフーキ「…」

アールグレイ『正式な退学なら今あなたが手に持ってる手帳はとっくに返却されてるわ』

ヴェニフーキ「なるほど。…それで何処へ向かえばいいのでしょう?」

アールグレイ『まず2階にあるコンピュータールームへ向かって』

アールグレイ『恐らく中に生徒や用務員がいるでしょうけど、見つかって良い事は何もないわ。極力見つからないように』

ヴェニフーキ「わかりました」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/28(日) 02:49:22.46 ID:4S1mKFVw0<>

【情報処理学部 コンピュータールーム】



中に生徒はいたが、なんとか勘付かれることなくコンピュータールームまでたどり着いた。



ヴェニフーキ「…広いですね」

アールグレイ『ここではIT関連の試験を行うこともあるから、大勢の生徒が収容出来るようになっているのよ』

ヴェニフーキ「なるほど。会社のオフィスにいるような気分です」

アールグレイ『…話を戻すわ。まず入ってすぐの場所にある教員用コンピューターの電源を入れて』

ヴェニフーキ「わかりました」


ポチッ


ヴェニフーキ「起動しました」

アールグレイ『そうしたらデスクトップに管理課というアイコンが有るはず。それを開いて』

ヴェニフーキ「了解です。…ん、暗証番号…」

アールグレイ『少し待って頂戴』



電話の向こうからカタカタとキーボードを叩く音が聞こえる…。


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/28(日) 02:54:12.22 ID:4S1mKFVw0<>

ヴェニフーキ「勝手に矢印が動いた…?」

アールグレイ『落ち着きなさい。私がパソコンに侵入したのよ』

ヴェニフーキ「侵入、ですか…」

アールグレイ『いわゆる"クラッキング"よ。ネットワークを通じてそっちのパソコンにアクセスしたわ』

ヴェニフーキ「それで暗証番号が判るのですか?」

アールグレイ『わからないから"侵入"してるのよ』

ヴェニフーキ「…」



よくわからないけど、時たまニュースで見かけるサイバー攻撃とか、個人情報漏えいの類の犯人みたいなことをやっているのだろうか?

よくわからないから、ここはアールグレイさんに任せておこう。



アールグレイ『おまたせ。暗証番号がわかったわ。 *************************** よ』

ヴェニフーキ「入力します。…認証に成功しました。色んなアイコンが出てきました」

アールグレイ『ええ。そのままセキュリティ部門というアイコンをクリック』

ヴェニフーキ「はい。…っと、また暗証番号を入れろと出ました」

アールグレイ『…わかった。少し待ってて』



こうして、フォルダをクリック、暗証番号の解析・入力を3回ほど繰り返しているうちに、セキュリティに関するページへたどり着いた。

アールグレイさんの指示に従って、校舎全体のセキュリティをメンテナンスモード、つまり認証機能をオフにした。

随分大げさなことをするなぁと思ったが、隊長室だけをOFFにする方が逆に不自然だとアールグレイさんは言う。

…なるほど。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/28(日) 02:57:45.43 ID:4S1mKFVw0<>

ヴェニフーキ「しかし校舎全体のセキュ


アールグレイ『早く隊長室へ向かって!!!』


ヴェニフーキ「了解…!」



やっぱり校舎全体のセキュリティをOFFにするのは色々不味いみたいだ。

私は急いで隊長室へ向かった。

幸い日曜日ということもあり、部活動に参加する生徒や熱心に勉強をする生徒の以外はいないので、誰かに見られることなく隊長室までたどり着けた。


…そして、アールグレイさんの言う通り、"指紋一つ残さず"隊長室のコンセントに盗聴器を差し込んだ。

これで最初の課題は終わった。


しかし、セキュリティをOFFにした状態なので一息つく間もなく再びコンピュータールームへ戻ってセキュリティを復旧させ、私のログイン履歴を消去した。

仕事を終えて痕跡を消した後に私の部屋に戻り、念の為もう一回探知機で部屋を探って異常がないと知り、ようやく一息つくことが出来た。


帰るまでが遠足というけど、本当に早く帰りたい。ダージリンの元へ。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/28(日) 03:01:01.58 ID:4S1mKFVw0<>

【ヴェニフーキの部屋】



ヴェニフーキ「…ふぅ………」

アールグレイ『お疲れ様。上手く行ったわね』

ヴェニフーキ「ええ。やってることはかなりグレーですね。アールグレイ様だけに」

アールグレイ『…私は"グレー"じゃなく"グレイ"よ』

ヴェニフーキ「あとは獲物がを待つだけですが…それにしても」

アールグレイ『ん?』


ヴェニフーキ「不気味なくらいアッサリと事が進みましたね…?」


アールグレイ『…いくら敵の腹中とは言え、ここは学校よ? 軍の基地みたいな重要施設ならともかく』

ヴェニフーキ「GI6関係者か、そうでなくても生徒と遭遇するのではと、かなり肝を冷やしていましたが」

アールグレイ『ずっと平然としてたじゃない…』

ヴェニフーキ「?」

アールグレイ『無事に済んだから良いけど、あなたはもっと緊張感を持ったほうが良いわ』

ヴェニフーキ「これでも最大級に緊張していましたけど?」

アールグレイ『どこが緊張してたと言うのかしらね。ほとんど動じなかったじゃない』

ヴェニフーキ「そうですか?」

アールグレイ『あなたのその"無関心"ともいえる冷静さの方が不気味よ』

ヴェニフーキ「………」



普段と変わらないだと…?

馬鹿を言わないでほしい。こっちは本ッ当にヒヤヒヤしていたんだぞ?

なにしろ私のミス一つでダージリンが戻れなくなるんだから………


…まぁ、そんなことより
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/28(日) 03:03:31.92 ID:4S1mKFVw0<>

ヴェニフーキ「ふふっ」


アールグレイ『なによ…』

ヴェニフーキ「生徒手帳のダージリンの写真、可愛いなぁ…って。この頃はまだあの髪型じゃなかったんですね」

アールグレイ『…ええ。入りたての頃はギブソンタックじゃなかったわよ?』

ヴェニフーキ「今のダージリンも勿論可愛いけれど」

ヴェニフーキ「この入学したばかりの頃にありがちな、どこか不安そうな表情といい、ついこの間まで中学生だった幼さを残した顔といい」

ヴェニフーキ「どうしてダージリンはこんなにも可愛いのでしょうか?」

アールグレイ『…私に聞かれても困るわよ』


ヴェニフーキ「アールグレイさんも入学当初はこんな感じだったんですか?」

アールグレイ『ええ。一応はね』

ヴェニフーキ「…」

アールグレイ『な、何よ…?』

ヴェニフーキ「アールグレイさんにもそんな時期があったなんて…と」

アールグレイ『私だって人間ですもの。緊張の一つや二つくらいするわよ』

ヴェニフーキ「そうなんですか?」

アールグレイ『そうよ』


ヴェニフーキ「…それで、やることが終わったので、私は帰っても良いですか?」

アールグレイ『ええ、良いわよ。お疲れ様』

ヴェニフーキ「はい。お疲れ様でした」



やることを終えた以上もうここに居残る必要はない。

早くダージリンのもとへ帰ろう。

今からならお昼頃には到着するから、またダージリンの手作りのごはんが食べられる。

何を作ってくれるかな。楽しみだ。


ダージリンの事で頭を一杯にしながら、何事もなかったかのように聖グロを後にしようとした

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/28(日) 03:05:39.89 ID:4S1mKFVw0<>


「あれ。ヴェニフーキさん?」



ヴェニフーキ「…ルクリリさん?」

ルクリリ「やっぱりヴェニフーキさんだ。珍しいね。休みの日に学校に来るなんて」

ヴェニフーキ「ええ。色々調べ物をしておりまして」

ルクリリ「調べ物?」

ヴェニフーキ「戦車に関することを」

ルクリリ「…なるほどね。来年になったら私達が最上級生だもんねぇ」

ヴェニフーキ「次期隊長が誰かはわかりませんが、足を引っ張らないようにはしておこうと」

ルクリリ「ヴェニフーキさんが次期隊長じゃない?」

ヴェニフーキ「私が?」

ルクリリ「ええ。アッサム様も認めるほど活躍しているし、負け続きだった知波単学園相手に勝てたのもヴェニフーキさんのお陰じゃない」

ヴェニフーキ「…」

ルクリリ「…まぁ、そうなったら練習厳しくなりそうだけどね」アハハ

ヴェニフーキ「もしも、私が隊長になるならば」

ルクリリ「うん」




ヴェニフーキ「聖グロに革命を起こしたいですね」




ルクリリ「革命…?」

ヴェニフーキ「ええ。…それでは私はこれで」



そう言い残してルクリリさんと別れた。

私は学園艦を後にする。


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/28(日) 03:10:08.12 ID:4S1mKFVw0<>

ちなみに聖グロの学園艦はしばらくの間、艦全体のメンテナンスのために港へ停泊したままになっている。

…と言っても街一ほどはある巨大な船なので、港からある程度離れた場所でプカプカ浮いているだけだが。

なので、港へ向かうには学園艦と港を行き来する定期便のフェリーに乗らなければならない。

これが学園艦の面倒なところだ。素直に陸に学校を作っておけば良いものを…。


そんな裕福な学校だけに学園艦のサイズも他と比較して巨大なので点検や修理にも時間がかかるらしい。

私としては気軽にダージリンに会いに行けるので、このまま当分停泊してほしいと思っている。


そんなことを考えながらウラヌスを駐車したパーキングエリアにたどり着き、ライダースーツやヘルメットを身に着けてエンジンをふかす。

…ガソリンが減ってきたな。どこかで給油しなくちゃ。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/28(日) 03:13:27.30 ID:4S1mKFVw0<>


【ガソリンスタンド】



ヴェニフーキ「満タンでお願いします」

スタッフ「かしこまりました。満タン入りまーす!」



メンテナンスといえば、このウラヌスも結構走ってるので近いうちにメンテナンスをしてやらねばならん。

自分の愛車なので自分でメンテナンスしたいけれど、メンテナンスツールは知波単だし、聖グロでガチャガチャするわけにもいかない。

今回はバイク屋さんでお願いするしかないか…。


そんなことを考えながら給油を待っていると、車がもう一輌スタンドに入ってきた。

あのマークは…黒森峰女学園?




「満タンで」

「かしこまりました」



あの銀髪の人は確か黒森峰の副隊長。その隣りにいるのは西住さんのお姉さん…。何でまたこんなところに?

…幸いこちらはフルフェイスヘルメットにライダースーツなので正体がバレることはない。


どれ、少し様子を見てみるか。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/28(日) 03:21:46.63 ID:4S1mKFVw0<>

エリカ「あの…隊長…」

まほ「なんだ?」

エリカ「やっぱりあの話は…」

まほ「何度も言わせないでくれ。…それにもう私は隊長ではない」

エリカ「でっ、ですが…!」

まほ「ここから先はお前が隊長として黒森峰を引っ張るんだ。そんな弱気な顔してどうする」

エリカ「で、ですが、私には隊長のようには…!」

まほ「それでもだ」

エリカ「っ…!」

まほ「…手洗いに行ってくる」


エリカ「………」



どうやら世代交代で一悶着してるようだ。

もうそろそろ三年生は引退して自分の跡継ぎを決める時期だしね。


以前、サンダースとご一緒した時も、後継者であるアリサさんがナオミさんのファイアフライを乗るかどうかといったやり取りがあった。

あれは一悶着というほどではなかったけれど、やはり次世代への引き継ぎには何かしらの課題が待ち受けている。

そう考えると、早い時期から隊長に選ばれた私は恵まれている方なのだ。


それで、黒森峰は副隊長だった彼女がが隊長になるのだろう。

次の大会では彼女と手合わせするかもしれない。


…しかし、副隊長の様子が何だかおかしいな?

<> 訂正
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/28(日) 03:23:45.96 ID:4S1mKFVw0<> 誤: それで、黒森峰は副隊長だった彼女がが隊長になるのだろう。

正: それで、黒森峰は副隊長だった彼女が隊長になるのだろう。
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/28(日) 03:27:21.03 ID:4S1mKFVw0<>



エリカ「………これもそれも…」


エリカ「全部、あの女のせいだ…!」


エリカ「あいつが……あの女が…余計な真似しなければ私達が勝ったのに………!」


エリカ「許さない………」



彼女たちがここにいるのは"偶然"ではなさそうだ。

黒森峰の車が来た方角を考えると、給油を終えた車はこのまま聖グロの学園艦が停泊している港へと向かうだろう。

…なるほど。次の親善試合の相手は、あなた達か。


そして、




どうやらこの副隊長さんは"誰かさん"を相当恨んでいるようだ。

ふーん。
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/28(日) 03:30:50.53 ID:4S1mKFVw0<>


エリカ「………そこのあんた、なに盗み聞きしてるのよ」

ヴェニフーキ「…」



おいおい…こっちにまで八つ当たりしてきたぞ…。

確かに中身はあなたが憎む女だが、外からじゃ誰か全くわからんはず。

なのに親の仇と言わんばかりにギロッと私を睨んできた…。



エリカ「あなたよ。全身真っ黒の」

ヴェニフーキ「…」

エリカ「聞こえなかったかしら。随分耳が遠いのねぇ?」

ヴェニフーキ「…」

エリカ「それとも、喋れない人なのかしら、あなた?」



…さすがに腹が立ってきたぞ。

どう育てば初対面の姿もわからぬ人間にここまで攻撃的になれるのか。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/28(日) 03:34:23.82 ID:4S1mKFVw0<>
ヴェニフーキ「…随分"ガラ"が悪いんですね?」

エリカ「はぁ?」

ヴェニフーキ「それが"隊長"だなんて。人に恵まれないのですね。あなたの学校」

エリカ「なッ!!」



売り言葉に対して買い言葉をぶつけてやった。

がるるるる。今にも噛み付いてきそうな勢いだ。

人のことを言えた玉じゃないけど、さすがに私はこの人ほど誰かれ構わず牙を向いたりはしない。


ところで黒森峰女学園といえば、以前の全国大会では一矢も報いえぬまま"全車玉砕"でこてんぱんに打ちのめされたっけ。

辻さん曰く、"優れた技量と敢闘精神でもって、西住まほを包囲して追い詰めながらも、最後の最後で無念の燃料切れで殲滅された"とのことだけど、それは怪しい………。


そして、黒森峰の隊長であり、西住さんのお姉さんでもある西住まほさんは、私達との対戦時だけでなく、大洗戦、後の大学選抜チーム戦でも恐るべき手腕を発揮した実力の持ち主だ。

そこには西住様のご子女だけあって、戦車乗りとしての偽り無き実力や威圧感など、西住流を色濃く受け継いでおられる。

本当の意味で"達人"と呼ぶにふさわしい、我々戦車乗りの憧れだ。


…しかし今私の目の前にいるこの女は、西住まほさんが持つようなものはまるで感じられない。

それどころか、本当に戦車道をやっている人なのかと疑いたくなるほどだ。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/28(日) 03:48:50.39 ID:4S1mKFVw0<>

エリカ「アンタに何がわかる!」

ヴェニフーキ「何もわかりませんが、"何も無い"というのだけはわかりますね」

エリカ「………フン! アンタがどこの馬の骨かは知らないけれど、黒森峰を敵に回さないほうが良いわよ?」

ヴェニフーキ「…」

エリカ「さもなくば…」

ヴェニフーキ「…」

エリカ「あなた、きっと後悔するわ…!」

ヴェニフーキ「確かに後悔しています。これが黒森峰の次期隊長だと知って」

エリカ「ッ!! き、貴様ァ!!!」



まほ「やめろエリカ!!」



エリカ「隊長っ!?」

まほ「何をしてるんだお前は!!」

エリカ「…っ!!」

まほ「…申し訳ありません。うちの者が迷惑をおかけしました………」



そう言って深々と頭を下げる。

あの戦車乗りとして"最強"を誇る西住まほさんが小さく見えてしまうほどに…。

彼女の実力や実績は幼少期からの並々ならぬ積み重ねの上に存在するものだ。

私やダージリンはおろか、それよりもずっとずっとたくさんの努力を重ねて…。


それが、私の目の前でガラガラと崩れていく音が聞こえたような気がした。


頭を下げたのはまほさんの方だが、彼女以上に私はそれを屈辱に思った。

同じく死に物狂いで積み重ねてきた人間として、積み重ねてきたものを崩されたのを目の当たりにした人間として………。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/28(日) 03:50:29.13 ID:4S1mKFVw0<>

ヴェニフーキ「お気になさらず」

ヴェニフーキ「…それより、聖グロリアーナ女学院へ向かっていたのでしょうか?」

まほ「…ええ。近いうちに親善試合を行うのでその下見にと」

ヴェニフーキ「そうだったのですね」


ヴェニフーキ「親善試合、楽しみです」


まほ「えっ…?」



ここまで言っておいて姿を見せないのは失礼に当たる。

私はヘルメットを脱いで、改めて挨拶することにした。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/28(日) 03:58:30.02 ID:4S1mKFVw0<>

エリカ「ッ!!!!」

まほ「あなたは…」


ヴェニフーキ「こんにちは。西住まほさん、黒森峰の副隊長さん」

ヴェニフーキ「聖グロのヴェニフーキと申します」

まほ「そうか…あなたがみほの言ってたヴェニフーキか」

エリカ「…あんた………!!」



副隊長さんは露骨に怒りの表情を見せた。

そうだ。

あなたが憎んでる女だ。



ヴェニフーキ「こうやって対面するのは初めてですね」

まほ「そうだな。…あの時の助言は敵ながら見事だった」

ヴェニフーキ「恐縮です」

まほ「…一つ、教えてくれないか」

ヴェニフーキ「何でしょう」

まほ「何故、"あそこ"だと思った?」

ヴェニフーキ「戦車乗りしての私の本能が、あの一点だけをずっと叫び続けてました」

まほ「そうか…」

エリカ「あんなのインチキよ! 適当な事を言って…!」

まほ「インチキであの一点を見出だせるわけがない!」

エリカ「っ…!」

ヴェニフーキ「…」

まほ「全体の地形、砲撃地点と着弾地点の高低差、戦車の性能、砲手の技量、我々の進行ルート…」

まほ「戦車道における知識やセンス、ありとあらゆるノウハウが無ければあのようなことは決して出来ない!」

ヴェニフーキ「お褒め頂き感謝致します」



聖グロに完勝したこと

大洗女子を相手にギリギリまで粘れたこと

それらも知波単のために命をかけて積み重ねた努力の賜物であることは確かだ。

だけど、本当に本当に、その積み重ねの成果を出したのは、大洗女子と黒森峰が戦った決勝戦のあの一発だったのかもしれない…。


あの一発を放つ為のあの場所には、私の戦車道の全てが詰まっていた。

そして西住みほさんは私の戦車道を受け取ってくれた。

みほさんのおかげで、私の戦車道が報われた………!

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/28(日) 04:02:10.22 ID:4S1mKFVw0<>
ヴェニフーキ「あなた達や大洗の皆さんには申し訳ないことをしたと思っています」

ヴェニフーキ「…ですが、私はどうしても無人機という"邪道"を潰したかった」

まほ「!」

ヴェニフーキ「そのため、"持たざる"大洗に勝って頂く必要があった」

ヴェニフーキ「…それがあの助言をした理由です」

まほ「なるほど…。あの時、一度の砲撃で試合が終わるとは夢にも思わなかった」

ヴェニフーキ「…」

まほ「そして、それがみほのものではなく、第三者の助言によるものと知って」


まほ「今までにない屈辱を味わった」


ヴェニフーキ「…」

エリカ「………」

まほ「………だが、同時に、」


まほ「私は高校生最後の戦いを、無人機戦闘というイレギュラーではなく、戦車乗りとして終えることが出来た…」


まほ「私は、邪道に染まることなく卒業できる………」

ヴェニフーキ「無人機が出ようと戦艦が出ようと、あなたが邪道に染まることは無いと存じます」

まほ「そうだろうか…」

ヴェニフーキ「踏んだ場数、積み重ねてきた物の重みが違う」

ヴェニフーキ「それが簡単にへし折れるようなものではない」

ヴェニフーキ「そして、その重みの違いが…」


ヴェニフーキ「隣りにいらっしゃる方に"重荷"となって降り掛かっている」


エリカ「なっ…!」

まほ「………」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/05/28(日) 04:15:30.08 ID:4S1mKFVw0<>

エリカ「黙って聞いていれば好き勝手言いやがって!!!」

まほ「落ち着けエリカ!!」

エリカ「このまま言われっ放しで落ち着いていられるものですかっ!!」

まほ「戦車乗りなら戦車で方を付けろ!」

エリカ「っ…!」


ヴェニフーキ「ときに、西住さんは試合には参加されるのですか?」

まほ「…いや。私は見学だけだ。此処から先は隣にいるエリカに全てを託す」

エリカ「…」

ヴェニフーキ「そうですか。…楽しみですね。エリカさん」

エリカ「………いい気にならないで頂戴。涼しい顔をしていられるのも今のうちよ」

ヴェニフーキ「…」

エリカ「あなたは口は達者のようだけど、試合でもそうなるとは思わないことね…」

エリカ「あなたみたいな邪道、叩き潰してあげるわ」


ヴェニフーキ「無様な戦い方をして、黒森峰や西住流を汚さないことです」


エリカ「何ですって!!」

ヴェニフーキ「聖グロはあなたにとって"甘っちょろい"かもしれません」

ヴェニフーキ「…ですが、私はそこまで甘くはない」

エリカ「…」


ヴェニフーキ「試合、楽しみにしています」



それだけ言って給油が終わったウラヌスに跨り、その場を去った。

僭越ながら全力で挑ませていただきます。

あの時は"大洗を通して"だったけど、今度は私が直々に………。



私はこの女を許さない。



血の滲むような思いで敵と自分と戦い続けたまほさんの影に隠れ、その威厳を借りて"王者"を語るこの女を。

そして、仲間を助けたが故に黒森峰を去ることになったみほさんを口撃したこの女を。


………覚悟しろ。

あなたのような"邪道"は叩き潰してやる…………………。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜


<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/05/28(日) 07:23:09.09 ID:3UtMwOzjO<> エリカさんかなり西さんに恨まれているな(  ̄▽ ̄)
此処まで恨まれるエリカは初かもしれない。
だが、それがいい。 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/05/28(日) 20:40:48.06 ID:n8I2cz6v0<> 乙

どういう扱いになってもやはりエリカのポジションは重要だと認識されるな
戦車道界隈においての西住流が重要であればあるほどね <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/05/28(日) 22:15:54.66 ID:MraB5tMv0<> 確かにTVシリーズと劇場版だけを見るとエリカはまほの「虎の威を借る狐」(言葉通り)だからな。
みほと昔は仲が良かったとか本当は良い人とかはスピンオフとか同人誌、SSの後付け設定みたいなもの、
このSSのエリカは一番原作準拠のエリカかもしれない。 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/05/28(日) 23:04:36.10 ID:UxfF0VgDo<> エリカはなぁ、ポンコツ可愛いとか言ってる奴もいるが「西住流だぞ?黒森峰だぞ?だから私も偉いんだぞ」臭しかしないからなぁ <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/01(木) 21:27:50.63 ID:OTH5ONt20<>

【ダージリンの家】


ヴェニフーキ「………」

ダージリン「……絹代さん…?」

ヴェニフーキ「ん…?」

ダージリン「どうしたの? 怖い顔をして」

ヴェニフーキ「いえ…、今度の親善試合で黒森峰と戦うことになって」

ダージリン「黒森峰ですって!?」

ヴェニフーキ「ええ?」

ダージリン「あの黒森峰と親善試合をするなんて…」

ヴェニフーキ「?」

ダージリン「黒森峰って、他校とは滅多に練習試合をしないのよ?」

ヴェニフーキ「そうなんですか?」

ダージリン「少なくとも…私がいる間に黒森峰と練習試合を行ったことは一度も無かったわね」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/01(木) 21:29:22.58 ID:OTH5ONt20<>
ダージリン「強いて言うなら、過去に継続高校と試合した事くらいかしら…」

ヴェニフーキ「私もそれくらいしか知らないです」

ダージリン「そんな黒森峰と練習試合するなんて…」


ダージリン「…私も参加したかった………」


ヴェニフーキ「………」



そう。

黒森峰と本当に戦うべきなのは、私のような部外者じゃなくダージリンだ。

でも、ダージリンは聖グロの敷居を跨ぐことが許されない…。

だからダージリンの無念を晴らすべく、私がダージリンの代わりに黒森峰と戦う…。

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/01(木) 21:33:07.85 ID:OTH5ONt20<>
ダージリン「それに…」


ヴェニフーキ「?」

ダージリン「あなたはまだ、"絹代さん"じゃない…」

ヴェニフーキ「………」

ダージリン「また…何か悩んでるの…?」

ヴェニフーキ「…いえ。次の黒森峰と戦うために色々考えておりまして…」

ヴェニフーキ「相手が相手だけに、全力の全力で挑まないと。…って」

ダージリン「そう…。でも無茶はしないでね? あなたはただでさえ…

ヴェニフーキ「あはは。わかってます」

ダージリン「…」

ヴェニフーキ「…でも、それでも私は黒森峰に勝たないといけないんです」

ヴェニフーキ「新しく隊長になろうとする"あの女"に勝たないと………」

ダージリン「新しい隊長…副隊長の逸見さんのこと?」

ヴェニフーキ「そうですね。確かそんなような名前の人です」

ダージリン「彼女と何かあったの?」

ヴェニフーキ「あの人は私のことを相当憎んでおられるようです。…まぁそれは私も同じですけどね」

ダージリン「そうなの…?」

ヴェニフーキ「だから試合で、戦車道で、その決着をつけようと思う次第です」

ヴェニフーキ「"邪道は叩き潰してやる"…と」

ダージリン「…あなたが」

ヴェニフーキ「ん?」

ダージリン「優しいあなたがそんなにも誰かを憎むなんて信じられないわ………」

ヴェニフーキ「…」



確かに。私がここまで誰かを憎むことなんて今までにあっただろうか…

ダージリンを退学にさせた反・聖グロ派や、それに加担する輩ならともかく、同じ高校生で同じ戦車道をする人を相手に…。

今まで生きてて何度もカチンと来たことはあったけど、今回のような深く根付いたような怒りはまず芽生えなかった。

この感情は"悪口を言われたから頭にきた"というような安っぽいものじゃなく、私の中に眠る、何かを根本的に否定されたような腹の底から湧いてくる怒りだった。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/01(木) 21:35:10.99 ID:OTH5ONt20<>

ヴェニフーキ「何と言いますかか…それは…」

ダージリン「?」


ヴェニフーキ「ダージリンを葬った連中に対する怒りと質が似てますね」


ダージリン「っ!!」

ヴェニフーキ「人が血の滲むような思いをして積み重ねて来た物を、歴史を、誇りを、鼻歌歌いながら崩していくような」

ヴェニフーキ「…そんな輩に対する怒り…ですかね。あの副隊長に抱いたモノは」

ダージリン「意地悪されたから、とかではなくて…?」

ヴェニフーキ「仮にそうだったら"イヤな人だなぁ…"で終わります。一晩寝たら忘れるでしょう」

ダージリン「…」

ヴェニフーキ「…でも、あの人、あの女は違ったんです」

ヴェニフーキ「それが私の中でどうしても許せなかった」

ダージリン「そう…」

ヴェニフーキ「だから、試合で私の戦車道の全てをぶつけてやるつもりです」


ダージリン「あなたの怒りはわかるわ。…でも、」

ヴェニフーキ「ん?」

ダージリン「それであなたが壊れたり、誤った道を進むのだけは許さないわよ…?」

ヴェニフーキ「…」

ダージリン「…」

ヴェニフーキ「戦車道の怒りは戦車道で晴らすだけです」

ダージリン「ええ、そうであって欲しいわ」

ヴェニフーキ「それに…」


ヴェニフーキ「私の腹の中にあるこの感情が必ずしも正しいとは言い切れないですし」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/01(木) 21:38:15.30 ID:OTH5ONt20<>
ダージリン「どういうこと?」

ヴェニフーキ「確かに、私は今あの人に並々ならぬ憎悪を抱いております」

ヴェニフーキ「様々な苦労や努力を積み重ねて来た人たちの威厳を借りて他人を見下すあの副隊長を」

ダージリン「…」

ヴェニフーキ「…でも、その考えが私の"カン違い"である可能性もまた否定できません」

ヴェニフーキ「だから、私の見たもの感じたものが正しいか否かを知るために、」

ヴェニフーキ「そして、どちらに転ぶにせよ"外道"にならぬよう、戦車道のツケは戦車道で払おうと思うのです」

ダージリン「………ふふっ」

ヴェニフーキ「…ん?」

ダージリン「やっぱり、あなたは優しい人ね」

ヴェニフーキ「優しいのか甘っちょろいのか自分でもよくわからないです」

ダージリン「…良いのよ。そんな優しいあなたが好きだから」

ヴェニフーキ「………」


西「私も…、こんな私を受け入れてくれるダージリンが、好きです…」

ダージリン「ふふ…。………」

西「…ん……」















西「何か、私に言いたいことがあるのでしょう?」


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/01(木) 21:39:22.34 ID:OTH5ONt20<>
ダージリン「えっ?!」

西「私の気のせい…じゃない気がするんですけど、」

西「何かダージリンを見てると、何かを言おうか迷ってるような顔をしてるように見えるんですよね」

ダージリン「…」

西「私の勘違いだったらすみません」

ダージリン「やっぱり…」

西「ん?」




ダージリン「あなたの前で隠し事は出来ないわね」



西「………」

ダージリン「…………ええ…」

西「…」

ダージリン「…」

西「っ! ダージリン………!!?」

ダージリン「……大事な話があるの……」

西「………え……………」

ダージリン「……あのね……」

西「………まさか……」




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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/01(木) 21:40:10.49 ID:OTH5ONt20<>







「…ごめんなさい…絹代さん………」















    頭の中が真っ白になった







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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/01(木) 21:43:11.08 ID:OTH5ONt20<>




西「…嘘………嘘………嘘だ………………」





ダージリン「ち、違うの! そういう話じゃない!」

西「……っ…ぅぅっ………………………」

ダージリン「な、泣かないで…! 私の話を聞いて! 私はあなた以外の人を愛したりなんかしないわ!!」

西「………っぅ………本当に………?」

ダージリン「当たり前じゃない………」

西「…じゃぁ……なんで……どうして…"ごめんなさい"…って………」

ダージリン「だって………」

西「……ダージリンだって泣いてるじゃないですか………」

ダージリン「…だって…だって…あなたが…そんなこと言うんだもん…………」

西「…あんな言われ方したら誰だって……」

ダージリン「……ごめんなさい………」

西「またごめんなさいって言う…」

ダージリン「………それしか言えないわよ…………」



ダージリンが"ごめんなさい"なんて言うから、他に好きな人が出来たんだと思いっきり勘違いした。

そんなの、想像するだけで涙が止まらない…。


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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/01(木) 21:47:27.04 ID:OTH5ONt20<>
西「…ズビッ…………で……本当の事は何ですか…?」

ダージリン「……もう…もう、良いのよ……今はあなたの方が大事だもの……」

西「……ありがと………」

ダージリン「……ちょっと…もたれ掛からないでよ…」

西「さっきので力抜けて入んないです…」

ダージリン「…私にしがみつく力はあるくせに」

西「…それとこれとは別です」

ダージリン「もう………」



もうだめだ。今日はもう何もする気が起きない。

このままダージリンに抱きついて過ごそう………。



ダージリン「甘えん坊さん」

西「…何とでも言ってください。意地でも離れませんから」

ダージリン「ふふ」



〜〜〜〜〜

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/01(木) 21:49:38.17 ID:OTH5ONt20<>

【翌日 聖グロ】



アッサム「ヴェニフーキ。お話があります」

ヴェニフーキ「借金の保証人の話ですか?」

アッサム「ちっ、違いますっ! 次の親善試合のことですわよ!」

ヴェニフーキ「黒森峰ですね?」

アッサム「! 知ってたのですか…?」

ヴェニフーキ「ええ」


アッサム「…それで、その黒森峰の試合ですが、相手の隊長、西住まほさんと打ち合わせをした結果」

アッサム「彼女は試合には参加せず見学されるとのことです」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「それで、後任の副隊長に新・隊長として指揮を執らせると」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「ですから、聖グロ側も私ではなく、あなたに隊長として指揮をしてほしいのです」

ヴェニフーキ「…私が?」

アッサム「ええ」

ヴェニフーキ「私に全権を委ねることの意味、理解していますか?」

アッサム「…あなたのことはまだわからない」

アッサム「ですが、いつまでも後継者を決めずにいるのは宜しくありません」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「だから、あなたが聖グロの隊長として、聖グロの顔として」

アッサム「黒森峰と戦いなさい」

ヴェニフーキ「わかりました」



あの時、まほさんが試合に出場しないと聞いて、もしやとは思ったが…。

本当に私で良いのか? 私は部外者だぞ? いずれは聖グロを去るというのに…。


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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/01(木) 21:54:43.92 ID:OTH5ONt20<>

アッサム「それともう一つ」


ヴェニフーキ「何でしょう」

アッサム「試合当日は4時に現地集合です」

ヴェニフーキ「は?」ギロッ



おいこらふざけんな! この間よりも早くなってるじゃないか!!

私は他の生徒よりも早く起きないといけないってあれほど…!



アッサム「わ、私を睨まないでくださいまし! 黒森峰の隊長さんと話し合った結果そうなったのですから」

ヴェニフーキ「朝は苦手なのですが」

アッサム「朝というよりは深夜ですわね…」

ヴェニフーキ「…試合前日は早めに寝るので18時以降は起こさないと約束してください破ったら嬲り殺します」

アッサム「物騒なことを言わないで頂戴。…まぁ、私も前日は早めに寝るつもりですから」

ヴェニフーキ「ローズヒップに深夜1時ごろ起こさせに行きますね」

アッサム「それはやめて!」



ローズヒップなんて勿体無い。私が直々にブッ叩きに行ってやろう。

前回起こしに行ったときはデコピンをし損ねたからな。

今度はその顔面を鷲掴みにしてやろうか。それとも鼻の下にワサビをニュルッとやってやろうか。…フフフ。



〜〜〜〜〜〜


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/01(木) 22:06:28.00 ID:OTH5ONt20<>

ヴェニフーキ「…ということなので、アッサム様より私に指揮を執れとの命令が下りました」


「やっぱりヴェニフーキさんでしたの」

「他に適任者いらっしゃらないものね…」

「厳しくなりそう…」

「…」


ガヤガヤ


ヴェニフーキ「皆さんもよくご存知かと思いますが、相手は優勝常連校の黒森峰です」

ヴェニフーキ「"上品に、優雅に"で敵う相手でないことは理解しているはず」

ヴェニフーキ「そのため、対・黒森峰に特化した戦法を身に着けて頂きます」

「黒森峰に特化した戦法ですって…?」

「あの黒森峰にどうやって…」

「辛そう…」


ワイワイ ガヤガヤ

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/01(木) 22:10:47.45 ID:OTH5ONt20<>

ヴェニフーキ「先に行っておくと、今での戦術では99.9%負けます」


聖グロ生「………」

ヴェニフーキ「黒森峰の戦車はいずれも火力・装甲ともにトップクラス」

ヴェニフーキ「従来の戦闘距離では我々の攻撃は一切通じません」

ヴェニフーキ「逆に、相手はこちらの射程範囲外から戦車を撃破出来る強力な火砲を持つ」

ヴェニフーキ「ティーガーIの56口径、ティーガーII、ヤークトパンター、エレファントの71口径」

ヴェニフーキ「これらは我が校だけでなく、他校のどの主力戦車の正面装甲も2,000m以上離れた場所から撃破できる」

ヴェニフーキ「更にヤークトティーガーに至っては搭載砲・装甲ともに最強の駆逐戦車」

ヴェニフーキ「128mm戦車砲は建屋もろとも戦車を吹き飛ばす威力で、マウスに匹敵する250mmの正面装甲は貫通記録なし」

「そんな…!」

「戦車の性能が違いすぎますわ! どうやって勝てと言うのですか!!」

「でも、こちらにはティーガーを撃破できるブラックプリンスがあります!」

「そうですわ! ブラックプリンスで戦えば何とか…!」


ヴェニフーキ「ブラックプリンスは1輌のみ」


「っ…!」

ヴェニフーキ「仮に一輌を撃破出来ても、砲撃による音と噴煙で即座に場所を特定され、集中砲火を浴びるのが関の山」

「で、ではどうすればいいんですの!?」

「端から勝負は決まっているではありませんか…」

「どうして負けるとわかって練習試合を申し込んだのですか!!!」


ガヤガヤ

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/01(木) 22:13:35.66 ID:OTH5ONt20<>
ヴェニフーキ「言ったはずです。対・黒森峰に特化した戦法を身につけて頂くと」

ニルギリ「あっ…あのぉ…」

ヴェニフーキ「はい?」

ニルギリ「その黒森峰に特化した戦法とは一体…?」


ヴェニフーキ「100m以下での超・接近戦です」


「100m以下ですって?!」

「そんなの無理ですわ! すぐに気づかれてしまいますもの!」

「500m離れた場所にいる戦車ですらすぐに見つかるのに……」


ヴェニフーキ「先日の知波単戦の交戦距離は?」


「…あっ!」

ヴェニフーキ「何故、彼女たちは我々をそこまで接近させたのか」

ヴェニフーキ「何故、それほど近付いても存在に気付かなかったのか」

ヴェニフーキ「…そこに答えがある」

ヴェニフーキ「そして、その答えこそが、打倒・黒森峰の戦術」

聖グロ生「!!!」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/01(木) 22:16:00.59 ID:OTH5ONt20<>

「…ヴェニフーキ様……」


ヴェニフーキ「何か?」

オレンジペコ「私は…どうすれば良いのでしょう…?」

ヴェニフーキ「はい?」

オレンジペコ「ヴェニフーキ様だけでなく、アッサム様までいなくなって………」

ヴェニフーキ「…」


ヴェニフーキ「車長、やってみますか?」


オレンジペコ「えっ!? わ、私がですか!?」

ヴェニフーキ「ええ」

オレンジペコ「そ、そんな…車長だなんて…私にはまだ…!」

ヴェニフーキ「ローズヒップは車長であり、クルセイダー部隊の隊長」

ヴェニフーキ「ニルギリもマチルダやクロムウェルの戦車長をやっている」

オレンジペコ「あっ…!」

ヴェニフーキ「一年生が車長をやることは何もおかしいことではありません」

オレンジペコ「で、では、残りの乗員は…?」

ヴェニフーキ「あなたが選びなさい」

オレンジペコ「…」

ヴェニフーキ「いずれ私達は聖グロを去る。それを見越して今から後のパートナーを決めるのも悪くはない」

オレンジペコ「は、はいっ…!」


ヴェニフーキ「さて、それでは練習を始めましょう」


アッサム「………」


〜〜〜〜

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/01(木) 22:22:13.32 ID:OTH5ONt20<>


ヴェニフーキ「4号車は西の森へ、7号車は4・5号車の死角を補う形で配置」

ヴェニフーキ「各車、地形に適応した偽装を車体に施し、隠蔽せよ」

ヴェニフーキ「ローズヒップ、部下を率いて森林地帯を全速力で走り抜けよ」



対・黒森峰特化戦術とは言ったが、これは黒森峰以外でも十分通用する。

何故ならこの戦術は両者の戦車の性能差、数の劣勢を戦術で補完するものだからだ。

実際の戦争と違い、投入車両は限られるので量で覆されることはないが、戦車の性能の優劣をここで縮められる。


知波単学園は戦車保有数こそ問題ないが、重装甲を相手に砲で負けるため、通常の戦闘距離ではなく極限まで接近して砲弾の威力を落とさず命中させる。

また、命中させる場所も正面ではなく、装甲の薄い後面、を狙う。


知波単学園が生き残るために、私の戦車道を守るため血を吐いて生み出した最初で最後の戦術。それを聖グロに託す。

それくらい私はこの一戦に全てを賭けている。

戦うのは聖グロだが、これは同時に私の代理戦争でもあるのだ。


たかだか親善試合と侮ることなかれ…


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/01(木) 22:32:15.87 ID:OTH5ONt20<>


【練習試合当日】



まほ「お招きいただき感謝する。その、ワコールさん…?」

アッサム「ですから……私はアッサムですの……」シュン

まほ「うっ…」

アッサム「もう慣れましたの………」

まほ「す、済まない……」



当たり前のように名前を間違えられる。

ワコールは日本の衣料品の会社だ。もはや紅茶でもなんでもない。

衣料品だけに"歯に衣着せぬ"ことなく素直に間違えられている。

いっそ本名を名乗ったらどうだろうか。「聖グロの隊長を務める山田ですの」って。



まほ「以前お話したように、今回は私は見学に徹することにした」

まほ「投入戦車、作戦、人員、全てにおいて私が口を挟むことなく、次期隊長に委ねる」

アッサム「心得ておりますの。故に私も同様に今回は見物させて頂きます」

まほ「そうか。して、そちらの指揮官は?」

アッサム「ヴェニフーキですの」

まほ「やはりか…」

アッサム「性格には些か問題がありますが、戦車乗りとしての腕は一流です」

まほ「それは我々も重々承知している。相手にとって不足はない。今日はよろしく頼むぞアッザムさん」

アッサム「いえ…アッ"ザ"ムじゃなくアッ"サ"ムです……」ショボン

まほ「うっ…す、すまん………」アセアセ



名前はもういいとして、両校の元・指揮官同士固い握手を交わし、互いの健闘を祈る。

戦車道とはこのような騎士道精神に則った紳士的、いや淑女的な競技だ。

これが本来あるべき姿だろう。

私の性格が問題というのはいただけないが。



一方で、新しい隊長というのは…
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/01(木) 22:35:04.78 ID:OTH5ONt20<>

エリカ「こうやってアンタと戦える日が来るなんて。運命ってのは気まぐれね?」

ヴェニフーキ「そうですね。運命というものはとても残酷です」

エリカ「…逃げるんじゃないわよ?」

ヴェニフーキ「はい?」

エリカ「"親睦を深めるために"、"練習試合だから"。そんな言い訳は私には通用しない」

エリカ「邪道は邪道なりに本気で来てもらわないと困るわ」

ヴェニフーキ「…」

エリカ「そうでないと、潰し甲斐がない」

ヴェニフーキ「それはご自身に言い聞かせてみてはいかがでしょう?」

エリカ「なに…?」

ヴェニフーキ「後ろ盾のない今のあなたが、果たして本当に"王者"なのか、それとも邪道なのか。この試合でわかる」

エリカ「…」

ヴェニフーキ「これ以上は問答無用。試合で決着を」

エリカ「望むところよ……!!」



相変わらず口だけは達者な副隊長さんだ。私もだが。

だが、その表情は先日のそれではなかった。

相手を見下す余裕が無いのか

試合とそれ以外では切り替えが出来る人間なのか


それとも




〜〜〜〜



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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/01(木) 22:37:55.85 ID:OTH5ONt20<>


●聖グロリアーナ女学院 投入車輌


隊長:ヴェニフーキ(西絹代)

副隊長:ルクリリ

 
ブラックプリンス歩兵戦車   ×1 ヴェニフーキ(隊長)車

チャーチル歩兵戦車      ×1 オレンジペコ車

マチルダ歩兵戦車       ×2 ルクリリ車

クロムウェル巡航戦車     ×2 ニルギリ車

クルセイダーMK.III巡航戦車  ×4 ローズヒップ,ジャスミン,バニラ,クランベリー車


合計10輌




●黒森峰女学園


隊長:逸見エリカ

副隊長:赤星小梅


ティーガーI         ×1 逸見エリカ(隊長)車

ティーガーII         ×2 赤星小梅車,ツェスカ車

V号戦車 パンター       ×3 

ヤークトパンター       ×1

ヤークトティーガー      ×1

エレファント         ×1

III号戦車 J型        ×1


合計10輌




〜〜〜〜〜

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/01(木) 22:44:30.00 ID:OTH5ONt20<>

ヴェニフーキ「事前に説明した通り、本作戦は撃つことではなく、見つからないことが最重要です」

ヴェニフーキ「そのため、クルセイダー部隊を除く全車輌は持ち場に就き次第、山岳、森林問わず地形に適応した偽装を施します」

ヴェニフーキ「偽装用ネット、木の葉、岩石…ありとあらゆる自然物・遮蔽物を使用し、振り向いたら何処に戦車があるかわからなくなる程に隠蔽して下さい」

ヴェニフーキ「配置場所は地図に記載した通りなので、撃ち漏らし、誤射のないように味方全車輌の位置関係をしっかり把握すること」

全員『了解!!』


ヴェニフーキ「次に攻撃ですが、クルセイダー部隊を除き、こちらの戦車が配置完了してから移動することはまずありません」

ヴェニフーキ「なので、配置後は速やかにエンジンを切り、以後砲塔の旋回は手動で行います」

ヴェニフーキ「敵戦車への攻撃箇所は、車体側面、後面、車体下部の履帯、起動輪および遊動輪」

ヴェニフーキ「最優先撃破目標はティーガー、ティーガーII、パンター」

ヴェニフーキ「それ以外の旋回式砲塔を持たない駆逐戦車は、照準合わせで車体ごと砲の向きを変えるため、」

ヴェニフーキ「転輪および履帯を狙って操縦不能にすることで時間を稼ぐことが可能」


ヴェニフーキ「…説明は以上です。黒森峰が王者の戦いを仕掛けるのなら、こちらは女王陛下を守る騎士団としてこれを迎え撃ちましょう」

全車輌『了解!!!』


ヴェニフーキ「全車前進」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/06/02(金) 08:03:04.60 ID:q+QQ4NCWO<> ワクワク <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/06/02(金) 19:15:04.64 ID:KvLlZlSAO<> 乙です。 <> 訂正
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/02(金) 20:57:31.61 ID:oRGa30mf0<> >>817

誤: ヴェニフーキ「先に行っておくと、今での戦術では99.9%負けます」

正: ヴェニフーキ「先に言っておくと、今までの戦術では99.9%負けます」 <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/02(金) 21:08:36.28 ID:oRGa30mf0<>


ルクリリ「黒森峰の戦車が見えますね…」

ヴェニフーキ「ええ。全車輌で固まって移動している」

ルクリリ「先頭にパンター、後ろにティーガーI、その両端を挟むようにティーガーII、そしてヤークトパンター、エレファント、ヤークトティーガー、III号戦車」

オレンジペコ「堅牢堅固な編成です…」

ルクリリ「さすが黒森峰だけあって綺麗な隊列を組んでますね」

オレンジペコ「あれだけ速度を合わせて隊列を乱さないで動けるなんて凄いです…!」

ヴェニフーキ「ええ」

オレンジペコ「…それで、この距離では砲撃は届くのでしょうか?」

ヴェニフーキ「そこは戦術と腕、ですね」



移動・配置が完了してしばらくすると、黒森峰の戦車が現れた。

黒森峰の戦車部隊は私達の配置場所の前を横切るように移動している。


         黒森峰車輌
       ←●●●●●●






     △
         △
   △   △
     △    △

    聖グロ車輌


…大まかに説明するとこんな感じだ。

索敵のために固まって移動する黒森峰に対し、それを迎撃するよう山の斜面にある森林地帯を我々が固める。

各車輌は車体にネットを張り巡らせ、その上に草木を満遍なく括り付け、狙撃兵のような偽装を施すよう指示した。

周囲に自然の遮蔽物がわんさかある森林地帯なので、偽装のための素材に困ることがない。

車体の偽装だけでなく、岩陰、倒木、木陰、落ち葉、自然界に存在するありとあらゆるものを利用して、文字通り自然に溶け込むようにした。

そういった関係で、一車輌あたりの行動および攻撃範囲は狭くなってしまうが、その死角を別の車輌が補うように配置した。戦車というより野戦砲の陣地みたいだ。


私はチャーチルの車長を務めるペコ、そして副隊長のルクリリさんと見通しの良い高台にて黒森峰の戦車を確認している。

言うまでもないが、このままでは敵は見当違いのところに行ってしまうので、「私はここにいるぞ」というアピールをしなければならない。


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/02(金) 21:34:52.25 ID:oRGa30mf0<>
ヴェニフーキ「では、ご挨拶に行ってきます」

オレンジペコ「ヴェニフーキ様自らですか?」

ヴェニフーキ「ええ。ペコは配置場所に戻ってて下さい。ルクリリさんはこのまま監視をお願いします」

ルクリリ「了解!」

オレンジペコ「かしこまりました」


ヴェニフーキ「こちら隊長車。これより5分後に隊長車による誘導射撃を行います」

ヴェニフーキ「この砲撃の後に黒森峰部隊はこちらへ進路を変更し、会敵を目的とする」

ヴェニフーキ「各車両万全の準備を整え、いつでも邀撃出来る状態に」

ヴェニフーキ「準備が終わったら引き続き待機し、次の指示を待って下さい」

ヴェニフーキ「繰り返しになりますが、本作戦は撃つことではなく、見つからないことが最も重要です」

ヴェニフーキ「各車輌、偽装およびその確認は徹底的に行って下さい」

全車輌『了解!』



各車輌に指示を終え、森林地帯の入り口まで移動する。

移動中に地図と照らし合わせながら配置済みの味方戦車を確認したが、この距離でもじっと注視しないと発見できない程に偽装されていた。


この森林は人の手が一切加えられてないんじゃないかと思うほど草木が自由に生い茂っている。

森林というよりはもはや原生林とか樹海と呼んだほうが良いのかもしれない。

そのため配置場所まで移動するのが大変だったが、それは相手も同じはず。

動かない我々にとって伸び放題、茂り放題の草木は相手の侵攻を阻む障害物となり、同時に我々を隠す偽装にもなる。

まさに天然の要塞だ。

戦車にも偽装をまんべんなく施しており、抜かりは一切ない。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/02(金) 21:41:48.06 ID:oRGa30mf0<>

ヴェニフーキ「ランサムさん。車体の向きをを180度変えてください」

ランサム「了解」ガコン



ヴェニフーキ「…よし」

ヴェニフーキ「隊長車より全車輌へ。黒森峰車輌を誘導するための射撃の準備が完了」

ヴェニフーキ「これより誘導射撃を行います」

ルクリリ『こちらルクリリ車。黒森峰車輌の進路に変更はありません』

ヴェニフーキ「了解。それでは射撃を行います。ブラックプリンスの砲撃音が戦闘開始の合図と心得よ」

全車輌『了解!!』



ヴェニフーキ「モームさん、少し距離が離れていますが、行けそうですか」

モーム「…」コクリ

ヴェニフーキ「…では、ティーガーIをお願いします」

モーム「…」コク


キュラキュラキュラ....





ズガァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!!




ヴェニフーキ「戦車後退!」



砲撃と同時にブラックプリンスを発進させ狙撃ポイントから撤退する

着弾は確認できないが、目的はあくまで"敵はここにいる"ということを伝える一発なので、当たれば御の字だが、当たらなくても別に問題ない。

ただ、この役目は他の車輌では"囮"とみなされる可能性があるので、うまく引っかかるかどうかはわからない。

そのため、より信憑性を高めるために隊長車で行うことにした。

ブラックプリンスの大きな砲撃音は、他の僚車と明確に区別できるという意味で数少ない利点となった。


さて。これで砲撃場所はもう"もぬけの殻"。

あとは敵がやって来るのを待つだけだ。

この森林を再び登るのは大変かもしれないが、歩兵戦車の特徴でもある不整走破能力の高さが助けてくれた。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/02(金) 21:47:10.60 ID:oRGa30mf0<>
ルクリリ『黒森峰車輌の進行方向が変わりました! こちらへ向かってきます!!』

ヴェニフーキ「了解。各員戦闘に備えよ」

ルクリリ『あっ…!』

ヴェニフーキ「どうしました?」


ルクリリ『手前側のティーガーIIが1輌だけ動いてません!』


ヴェニフーキ「動いてない?」

ルクリリ『乗員が降りて車体左側前方に集まってます』

ヴェニフーキ「…」



…確かに、ティーガーIIの前部に乗員が集まって何かやっている。

急な方向転換をしたせいで足回りが故障したのだろうか?



ルクリリ『こちらルクリリ車。どうやら起動輪がぶっ飛んだみたいですね』

ヴェニフーキ「起動輪が?」

ルクリリ『ええ。…もしかしてさっきの砲撃が当たったのでは…?』

ヴェニフーキ「…」

モーム「…」



…どうやら「こんにちは」ではなく、鉄拳で挨拶をしてしまったようだ。

私も砲手であるモームさんも着弾を確認する間もなく撤退したため、あの砲弾の行方は分からない。

ティーガーIを狙った弾が逸れて、ティーガーIIの起動輪に当たったということかな。

ティーガーIIの乗員にとってはとんだトバッチリだが、私達にとっては幸先がいい。

…しかし、"両脇をティーガーIIに挟まれてるティーガーIを狙え"という指示はちょっと意地悪だったかもしれないな。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/02(金) 21:52:17.29 ID:oRGa30mf0<>

ズドォォォン!!



ルクリリ『わっ! 停車したティーガーIIが撃ってきましたっ!!』

ヴェニフーキ「…なるほど。動けないから"固定砲台"として使うわけですね」

ルクリリ『こ、固定砲台?』

ヴェニフーキ「ええ。走れないとは言え砲塔は回るので、味方の進軍を後方から支援するのでしょう」

ルクリリ『まるで自走砲ですね。…どうします?』

ヴェニフーキ「現時点でこちらの位置は特定出来ないはずなので、文字通り"闇雲"な砲撃です」

ルクリリ『…確かに。私も味方がどこにいるのかわかりません』ハハハ


ヴェニフーキ「各員、着弾の衝撃で偽装が剥がれないよう注意つつ、そのまま待機」

全車輌『了解!』

ヴェニフーキ「あの砲撃は黒森峰の進軍を助ける援護射撃かもしれませんが」

ヴェニフーキ「同時にこちらの音も消してくれるので、こちらも恩恵を得ることが出来ます」


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/02(金) 21:55:54.26 ID:oRGa30mf0<>

ルクリリ『ほっ他の車輌もこっちに接近しながら撃ってきます!!』

ヴェニフーキ「落ち着いて。着弾場所は?」

ルクリリ『車両の周辺に着弾してはいるものの、命中はありません…!』

オレンジペコ『でも、あちこちに着弾して木が倒されちゃってます…』

ニルギリ『ええ! こ、このままでは…!』

ヴェニフーキ「そうですね…」



木々がなぎ倒されたことで我々は丸裸に!


…と思ったが、倒れる木々がいずれも広葉樹だったおかげで、逆にそれが偽装の味方となってくれた。

実際に倒れた広葉樹のそばにいた車輌からは『倒木で車体が隠れました。まさに落木(ラッキー)です』なんてジョークが漏れるほどだ。…面白くなんかないぞ。

それに倒した木はおたくらの侵攻を阻む障害物にもなる。

炙り出しを期待してこのような面射撃を行ったのだろうが、逆にこちらに有利な結果となった。

なにせ我々は移動を必要としないのだから。


しかし、このままドカドカと砲撃を受けるのも気分の良いものではないので、少し反撃しよう。


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/02(金) 22:09:11.20 ID:oRGa30mf0<>


ヴェニフーキ「一旦停車してください」

ランサム「かしこまりました」



退却をやめ、先程の"ご挨拶"の場所に戻る。

挨拶前と比べると榴弾の雨によってなぎ倒された木々がゴチャゴチャになっている。

こうしてる間にもドカドカと砲弾が降り注いで木々が倒れる倒れる。

環境破壊もいいところだ。



ヴェニフーキ「グリーン様、砲弾を変更します」


グリーン「はい。どれにしますか?」

ヴェニフーキ「普通の弾よりも寸詰まりで、先端がコマのような形をしたやつ。…そう、それです」

グリーン「了解」


ガコン

グリーン「装填完了です」

ヴェニフーキ「モームさん、あの動かないティーガーIIの車体側面を狙って下さい」

ヴェニフーキ「砲撃のタイミングは任せます」

モーム「…」コクリ



カチッ






ズガァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!




















アナウンス『黒森峰 ティーガーII 走行不能!』



<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/02(金) 22:30:13.05 ID:oRGa30mf0<>
ヴェニフーキ「車体側面後部に命中。お見事です。…では戻りましょう」

ランサム「わかりました」


ルクリリ『す、すごい!黒森峰のティーガー倒しちゃいましたよ!!』

ヴェニフーキ「落ち着いて。まだほんの1輌しか撃破してません」

ルクリリ『で、ですがあの最強のティーガーを倒したんですよ。一体どうやって?!』

ヴェニフーキ「砲弾を変更したのです」

ルクリリ『砲弾? 徹甲弾から榴弾に変えたんですか?』

ヴェニフーキ「いえ、榴弾ではなく」




ヴェニフーキ「APDS弾です」




ルクリリ『APDS…?』

ヴェニフーキ「簡単に言えば発射後に砲弾の周囲を覆っていた殻が外れて、矢のような細長い弾だけが飛んで行くやつです」

ヴェニフーキ「細いので装甲に通常の太い砲弾よりもザクッと貫きやすくなります。画鋲みたいに」

ルクリリ『ひぇぇ…なんだか痛そう…』

オレンジペコ『でも、小口径の砲弾ではそこまで威力が無いので装甲に弾かれてしまうのでは?』

ヴェニフーキ「ええ、その通りです。何故なら小さい砲弾では装薬量が少ないですし、仮に量を増やしても、爆発のエネルギーを受け止めるには小さい」

ヴェニフーキ「大口径砲弾は発射時の爆発エネルギーを受け止められるが、面積が大きいため着弾による装甲貫通力が低い」

ヴェニフーキ「小口径弾は接触面積が小さい分穴を開けやすい形だが、そもそも威力がない」

オレンジペコ「つまり、APDS弾はこれら2つの問題点を改善した砲弾ということですね?」

ヴェニフーキ「その通りです。発射時は大きく、着弾時は小さいという対戦車砲弾としては理想な形です」

ルクリリ「なるほど…」


ヴェニフーキ「…ただ、APDS弾は周囲を覆う殻を分離するタイミングの関係で命中精度はあまり良くない」

ヴェニフーキ「それに、装甲に角度があると通常弾よりも滑りやすいという欠点もあり、対抗策として傾斜装甲が導入された理由の一つでもあります」

ヴェニフーキ「そんな威力はあれど扱いが困難なAPDSなので、ぶつけたモームさんは"お見事"です」

ルクリリ『す、すごいですねモームさん…』



言葉にすることこそないが、褒められて嬉しそうなのはわかる。

聞くとことによると、私の知らない間もひたすら射撃の練習に励んでいたらしい。

アッサムさんは"弾代やメンテ費が凄いことになっている…"と言ってたが、こういう結果で還元されるのなら全く問題ないだろう。

なんで戦車道やらなかったのって毎回思う…。



オレンジペコ『ティーガーを倒せる17ポンド砲に、より強力な砲弾…まさに鬼に金棒ですね』

ヴェニフーキ「ええ、連合軍最強の一発です」

オレンジペコ『そ、そんなに凄いんですか!?』

ヴェニフーキ「威力としては先ほど叩いたティーガーIIの主砲・71口径88mm砲に匹敵するかと」

オレンジペコ『すごい…』



〜〜〜〜

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/02(金) 22:40:35.68 ID:oRGa30mf0<>
【観戦席】


アッサム「なるほど…」

まほ「ん?」

アッサム「実を言うと、以前ヴェニフーキから"砲弾が欲しい"と言われてました」

まほ「それがあの弾というわけか」

アッサム「おそらくは」

まほ「あの距離でティーガーIIを撃破したとなれば、こちらの戦車はほぼ全て撃破可能な位置となる」

まほ「しかも黒森峰側はまだ相手の位置を特定できていない」

アッサム「…」

まほ「この試合…この戦術…知波単学園のものに似ているな?」

アッサム「少し前に知波単学園とも練習試合を行いました」

まほ「うん?」

アッサム「その時に今回のような姿の見えない相手から攻撃を四方八方から受けまして」

まほ「…なるほど。つまり彼女は…ヴェニフーキは」

アッサム「あの時の戦いで、相手の戦法を会得したのだと思われます」

まほ「………」




〜〜〜



「APDS弾なんてあるんだー」

「お恥ずかしながら徹甲弾と榴弾くらいしか知りませんでした…」

「私も使ったことないし、知らないのは無理もないかな」

「使っても大丈夫なのか、あんなの?」

「ええ。第二次大戦時にも使われておりまして偶然にもイギリスの17ポンド砲のものが最初のAPDS弾なんですよぉ!」

「…なるほど」

「まさかまさかAPDS弾を使う人がいらっしゃるなんて! 不肖

「あっ、黒森峰の攻撃が止んだよ!!」



〜〜〜




<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/02(金) 22:49:02.60 ID:oRGa30mf0<>


【聖グロ陣地】


ルクリリ『戦車接近してきます!』

オレンジペコ『いよいよですね…』

ヴェニフーキ「…」



パンター3輌が先頭で、その後ろにヤークトティーガーとエレファント、ヤークトパンター、III号戦車、そして最後尾にティーガーIIとティーガーI。

先程の一発を懸念しての隊列だとは思うが、常に先頭を走っていた西住まほさんとは対照的な編成だ。



『パンター3輌がこちらへ接近します!! 攻撃の許可を!!!』

ヴェニフーキ「待て」

『で、ですが! もうすぐ到達します…このままでは!!』

ヴェニフーキ「静かに。ここで射撃したら場所が特定されます」

『っ…!』

ヴェニフーキ「そのまま息を潜め、パンターの通過を待って」

『り、了解…!』



〜〜〜

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/02(金) 22:52:55.22 ID:oRGa30mf0<>


『最後のパンターが通過しました…』


ヴェニフーキ「了解。見つからなかったようですね」

『ですが…後続のヤークトティーガーやエレファント、ヤークトパンターが接近』

『それを盾にする形でティーガーとティーガーIIも近づいてきています』



パンターの通過を報告する無線連絡が入る。

ヒソヒソ声で話す様子、相当近い場所を通過しているようだ。

あちらの無線からギュラギュラという履帯の漏れてくる…。



ヴェニフーキ「引き続き、最後の車輌が通過するまで待機」

『了解…!』




パンター3輌は我々の網の中に入った。

以降に続く重駆逐戦車・重戦車も攻撃網の中だ。


もういいだろう。









ヴェニフーキ「ローズヒップ小隊、攻撃準備。合図とともに出撃せよ」


ローズヒップ『よ、ようやく私の出番でございますのね………』



走り回ることが大好きな彼女にとってこの作戦は辛いものだが、よく辛抱してくれた。

その鬱憤を晴らすべく思う存分暴れてくれ。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/02(金) 22:59:06.49 ID:oRGa30mf0<>
ヴェニフーキ「7、8、9、10号車はローズヒップ車の攻撃と同時に砲塔を旋回」

ヴェニフーキ「側面および後面に照準を定め、こちらの合図で一斉攻撃せよ」



ヴェニフーキ「ローズヒップ小隊、行動開始!」



ロードバイク『行っきますのよぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉ!!!』



私の合図とともにローズヒップを先頭に、バニラ、ジャスミン、クランベリーのクルセイダー部隊が一斉に走り出す。

その機動力、そして突破力は彼女らの最大の武器であり、木々が立ち並び地面がデコボコした地形にもかかわらず(しかも斜面を横切っている!)、平地を走るかのように爆走する。

土煙をあげて走り回るその光景は戦車というよりオフロード車だ。


当然黒森峰のパンターがこれに気付かないわけがなく、音がする方へ砲身を向けるが、なにしろ場所はデコボコの斜面だ。

照準が合わせづらいのはもちろん、ジグザグに動くクルセイダーには攻撃が当たらない。鬱蒼と生い茂る木々もまた彼女たちを砲撃から守ってくれる。

ローズヒップ小隊も爆走したかと思えば急停止して砲撃したり、再度エンジンを吹かして爆走したりを繰り返す。味方ながら見ていてこれは厄介だなと思う。

その上パンター3輌に対し、クルセイダーは4輌なのだ。撹乱効果は十分すぎる。

そうしている間に後ろから駆逐戦車、そしてティーガーたちもやってきた。



かかったな。



<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/02(金) 23:06:00.00 ID:oRGa30mf0<>

『こちら8号車。砲塔の旋回が終了。いつでも撃てます』

『同じく7号車、いつでもOKです』

『10号車同じくパンターの後面を撃てます』

『9号車も大丈夫です』



クルセイダー小隊がパンターを釘付けにしている間に他の車輌は砲塔を回転させた。


目的、パンター3輌。






ヴェニフーキ「了解。カウントを開始します。 3…2…1…撃て!」


ズガァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!


パシュッ! パシュッ! パシュッ!




アナウンス『黒森峰女学園 パンター1号、2号、3号車、行動不能!』




パンターとはいえ、装甲が薄い側面や後ろを100mにも満たない至近距離で撃たれたらひとたまりもない。

敵車輌に最も近い位置にいた4輌の、ほぼ同時に行われた砲撃によって3輌のパンターが一瞬で全滅した。

中にはエンジンに命中して炎上する車両もあった。山火事が心配だ。

普通ならこれだけ派手なな攻撃をすればこちらの居場所がバレてしまうが、ローズヒップ小隊による錯乱や、戦闘で発生した土埃が煙幕のような隠蔽効果をもたらしてくれた。

そりゃあれだけ走り回れば砂埃は出る。

おまけにパンターや後ろの駆逐戦車がバカスカ撃ったせいで木々が倒れてズサッと砂煙を上げたしね。

これぞモクモクパラリラ作戦だ。…って言ったら西住さんに怒られるかな?


また、こちらの同時射撃による砲撃音は一つとなり、何処から撃ったのか、何輌が攻撃したのかを隠した。

敵からしたら文字通り「見えない場所から四方八方に攻撃された」となる。

報告を受ける指揮官からしたら何を言ってるのか分からないかもしれないが、撃たれたパンター乗員らもまた何をされたのか分からない状態だ。

頭がどうにかなりそうだろうなぁ。

<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/06/02(金) 23:16:45.70 ID:KvLlZlSAO<> そう言えば、クロムウェルやクルセイダーに搭載されている6ポンド砲もAPDS弾が存在していたな。
貫通力は1000mで120mmと中々に強い模様。 <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/02(金) 23:20:49.31 ID:oRGa30mf0<>


ヴェニフーキ「1から4号車、攻撃開始」



だが、そのまま手を休めることなく、迅速に次の攻撃を繰り出す。

目標はヤークトティーガー、ヤークトパンター、そしてエレファント、そしてIII号戦車。

攻撃したが、頑丈な駆逐戦車は撃破にまでは至らなかった。

唯一、黒森峰車輌の中で最も火力・装甲の弱いIII号戦車だけ白旗が揚がった。

III号は中戦車の部類に入るが、重戦車・重駆逐戦車でひしめく黒森峰では軽戦車のように小さく見える。

だが、小さいことが最大の武器で、その身軽さから偵察車、砲撃観測車として運用をすることで、黒森峰の連携を強固なものとし、強力な砲撃をより正確なものとする。

それ故いつまでも残しておくと厄介だ。小さいからと侮ることなかれ…。

だが、この攻撃で黒森峰の隊列から左手側に位置してた2号車が特定され、ティーガーIIに撃破されてしまった。

この試合で初めて味方がやられたことになる。


これで聖グロの残存戦車は9輌、対する黒森峰は残り5輌…!

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/03(土) 00:01:21.27 ID:YPCfEdRp0<>
『エレファントの履帯が外れました!』

『こちらもヤークトパンターの遊動輪を破壊しました!』

『ヤークトティーガーもです!!』


チームメイトから攻撃成功の連絡が入る。


あの攻撃で駆逐戦車は撃破出来なかったが、そもそも端から撃破が目的ではなかった。

先ほど皆に指示したように、旋回式砲塔を持たない駆逐戦車は、撃破せずとも動けなくなればそれで走行不能とほぼ同じなのだ。

何故なら駆逐戦車は車体に対し強力な砲を搭載出来る代わりに、戦闘室は固定式で砲塔が存在しない。つまり砲の向きをほとんど変えられないのだ。


そして彼女ら駆逐戦車が向く方角に私達の戦車は存在しない。


そのため、駆逐戦車の足回りとなる履帯をはじめ、起動輪および遊動輪を狙い、車体から履帯を脱落させて動きを封じることを目的とした。

ヤークトパンターから「また履帯狙いやがって!!」と叫び声が聞こえた。

…また? 今回が初めてだぞ?


何はともあれ、これで駆逐戦車たちもほぼ壊滅し、残すはティーガー2輌のみとなる。



     ↑

  象  狩豹 狩虎  
    
     III号
 
  虎II    虎I



なお、駆逐戦車らは持ち前の厚い正面装甲を活かすべく先頭に位置し、後続のティーガーおよびティーガーIIを正面の攻撃から守るようになっていた。

おそらく森を突破することを優先にした配置なのだろうが、このような四方八方からの奇襲攻撃には対応できず、その上パンターが撃破されてから間髪をいれず攻撃したので、車列を変更する隙など無い。

あらゆる攻撃を弾き、あらゆる戦車を破壊する駆逐戦車は、動けなくなった瞬間からただの「鉄の塊」となり、後ろのティーガーたちの進路を妨げた。


このままではマズいと思ったのか、履帯が片側だけになったエレファントが進路変更を試みようとする。

しかし、ただでさえ超重量ゆえに足への負担が大きいものを片側の履帯だけで動かそうとするので、その負荷は計り知れず


ガキン!!!!


…という音と同時にもう片側の履帯も外れてしまった。




     ↑

     狩豹 狩虎  
    
     III号
   像
  虎II    虎I



制御不能となったエレファントは斜面を滑っていき、後ろにいるティーガーIIにガシャーンと激突してようやく止まった。ティーガーIIの砲身をへし折ってて。

砲身を台無しにされたティーガーII車長の絶叫が響く。日本語じゃないので何を言っているかまではわからなかったが、おそらく罵声だと思う。


不幸は連鎖するもんだな………。

<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/06/03(土) 00:09:32.25 ID:KJWrXaPLo<> BPのAPDSはつえぇぞぉ、何たって最高200mmオーバー発揮するからな
尚虎Uと正面から対峙した場合…… <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/03(土) 00:27:04.35 ID:YPCfEdRp0<>

ヴェニフーキ「全車輌、攻撃開始!」



一度崩れた体勢はそう簡単には戻せないし、戻す時間を与えてやるつもりもない。

混乱した黒森峰の残存車輌に向かって全車輌で一斉攻撃をする。

見えない相手に多方向から立て続けに撃たれる恐怖と、砲弾の雨が戦車を叩く音はまるでロッカーの中に閉じ込められたいじめられっ子のようだ。

黒森峰の戦車内はきっと阿鼻叫喚地獄だろう。

なにせ少し離れた場所にいる私でさえ「うるさいな…静かにしろよ」と言いたくなるほどだ。発砲音に命中音、とにかくやかましい。

撃てと指示しておいてこの言い草はないだろうと一人苦笑いしつつ。






アナウンス『黒森峰 ティーガーII、ヤークトパンター、エレファント 走行不能!!』






これで残るはヤークトティーガーと、隊長車のティーガーIのみ。

逸見さん。あなたは戦車内で何を思う?

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/03(土) 00:45:56.45 ID:YPCfEdRp0<>

…ただ、黒森峰も馬鹿じゃない。

滑り落ちたエレファントやティーガーII、自力で後退したヤークトティーガーは、隊長車であるティーガーIの両脇を守っている。

残骸とは言え、それらによってこちらの攻撃が阻まれてしまう。

いくら全体と比較して側面は装甲が薄いとはいえ、それを貫通させてその向こうにいる車輌を撃破するような砲は無いぞ…。





     ↑          聖グロ車輌(撃破)

     狩豹         ↗
    
     III号
   像          ↗
  虎II    虎I 狩虎




その上、ヤークトティーガーは後退しながら器用にも車体を左手側に向け、ドカンと一発放ち、またこちらの車輌を1つ戦闘不能にした。

並大抵のことでは超重量で攻撃範囲の限られた両極端な重駆逐戦車を、それも履帯が片方外れたものをあのようには扱えない。

…ヤークトティーガーの乗員は恐ろしいほど優秀だ。見学すると言ってた西住まほさんが乗っているんじゃなかろうな…?

で、逸見さんが乗るティーガーIもただぼーっとしているわけではなく、走行不能の黒森峰車輌の隙間を縫うように左側の聖グロ車輌を狙い、2輌がこれにやられた。





     ↑

     狩豹   
    
     III号
   像          ↗
  虎II    虎I 狩虎

             ↖

              ↖
             聖グロ車輌
          (チャーチル歩兵戦車)




このような状況でも冷静に的確に自分の役目を果たすヤークトティーガーだが、車体の向きを変えたことによって、右斜め後ろに配置していたチャーチルに右側面を晒す結果となった。

そして、チャーチルの攻撃によってヤークトティーガーもついに白旗を揚げた…。やるじゃないかペコ。


私はまほさんに次いで、ヤークトティーガーに乗る方達にも敬意を表したい。

普通の戦車ですら走行が難しい森林の斜面を故障させることなく上り、履帯を外されてもなお巧みな運転技術で味方を守り、尚且つこちらの戦車を撃破する。

それは黒森峰の名に恥じない、本当に見事な活躍だった…!


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/03(土) 00:50:16.41 ID:YPCfEdRp0<>
残すはティーガーIのみとなった黒森峰に、聖グロの戦車は容赦なく攻撃を浴びせる。

砲弾の雨に気を取られている間にティーガーIに接近を試みた。

起伏の激しい斜面だが、チャーチル譲りの走破能力を大いに発揮する。


そして…



ヴェニフーキ「全車輌、砲撃やめ!」



私の合図とともにピタリと砲撃音が止んだ。

おそらく黒森峰側は頭に「?」マークを浮かべながらペリスコープやクラッペから外部の様子をうかがっているだろう。

通常なら砲撃が止むということは、確実に命中・撃破させるために更なる接近することを意味する。

しかし今回の場合、確実に命中・撃破させる必要が無ければ接近する必要もない。というより





もう攻撃の必要はない。弾の無駄だ。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/03(土) 00:59:14.43 ID:YPCfEdRp0<>

ヴェニフーキ「動くな!」

エリカ「っ!?」



     ↑

     狩豹   
    
     III号
   像          ↗
  虎II    虎I 狩虎


        ↑
     ブラックプリンス





これで王手だ。


左右斜め前方の攻撃に気を取られていたティーガーIの後ろについた。

ようやくそれに気づいた逸見さんはキューポラのハッチを開けてこちらを見た。

驚愕の表情が心地いいくらい印象的だった。



エリカ「…うそでしょ…………」

ヴェニフーキ「戦車の弱点といえば、後ろですけど」

ヴェニフーキ「あなたも"後ろ"が弱点のようですね」

エリカ「ぐっ!!!」



前方には被弾して戦闘不能になったパンターや動けないヤークトパンター。

左側にはエレファントと、ティーガーII。

反対側のヤークトティーガーもう動けない。

黒森峰の残骸によって動けないティーガーIは聖グロ車輌によって包囲され、いつでも攻撃出来る状態となった。

だからもう、彼女を除く黒森峰の車輌は「鉄の塊」として、彼女を保護する事のみ。奇跡を祈る車長もいた。

駆逐戦車を絶対防御の要だと信じて先に行かせたのが彼女のミスだった。


この戦術の真価は敵戦車が通過したところにある。なので旋回のできない駆逐戦車では端から勝負にならない。

対する逸見さんの戦術は、彼女の前は頑丈だったが、後ろは脆かった。まるで駆逐戦車のように…。


柔らかい場所を突かれた彼女は唖然となり、そして


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/03(土) 01:01:10.94 ID:YPCfEdRp0<>



エリカ「くそがァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!」




ヴェニフーキ「…」

エリカ「アンタには!! アンタだけには絶対に負けたくなかったのにッ!!!!!!」

ヴェニフーキ「…」



彼女はこちらを向いたまま、怒りと屈辱を露わに砲塔天蓋をガンガン殴る。…そんなに拳を叩きつけたら手が使えなくなるぞ。

ティーガーIの主砲は彼女とは真逆を向いているので、こちらへ旋回するよりこちらが撃つ方が圧倒的に早い。

彼女もそれを理解しており、会場全体に響き渡る叫びは"手詰まり"であることを意味する。


誰が見ても黒森峰女学園は敗れたということがわかる。

これで、私の戦車道での"ツケ"は払い終わった。


私のすべてをかけた黒森峰との親善試合は終わった。


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/03(土) 01:01:36.78 ID:YPCfEdRp0<>
















ヴェニフーキ「降参します! 参りました!!」

















<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/03(土) 01:02:33.70 ID:YPCfEdRp0<>






アナウンス『聖グロリアーナ女学院の降伏により、勝者 黒森峰女学園!』





………私の降参によって。







<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/06/03(土) 06:45:45.07 ID:kqolUZ5N0<> うーんこの畜生 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/06/03(土) 07:47:00.25 ID:GVskaxqcO<> わぉ! <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/06/03(土) 19:22:16.63 ID:idNGiOWRO<> 武士の情けで白星だけあげたのか。
なお、エリカからしたら理性がプッツンしそう(笑) <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/06/04(日) 15:39:17.74 ID:fpIgIzw+0<> 武士の情け(と書いて最大級の侮蔑と読む) <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/04(日) 16:51:42.05 ID:B1e5jmIx0<>
【観戦席】



まほ「降参…」

アッサム「ど、どういうことですか!!?」

まほ「真意はわからん…彼女はあなたのチームメイトだろう。何か心当たりは無いのか?」

アッサム「…私にも彼女の考えはわかりません…何を考えてあんなことを…!」

まほ「…一体……どういうことなんだ……」



〜〜〜〜〜



「ど、どうして降参なんかするんですかヴェニフーキ殿ぉ!?……」

「わからない…でも……」

「ヴェニフーキさん………」

「落ち着け。きっと何かしら考えがあるのだろう」

「うん…そうだよね…」

「真剣勝負を投げ出すだなんて…一体どのような理由があるのでしょう…」

「………エリカさん…」



〜〜〜〜〜

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/04(日) 16:53:33.35 ID:B1e5jmIx0<>

【最前線】



エリカ「………な……降参………!?」


ルクリリ『ちょっとどういうことなのさ!! 何で降参するんだよ!!?』

オレンジペコ『仰る通りです! 私達の勝ちじゃないですか。あのまま撃てば勝ってましたよ…!』

ニルギリ『ど、どういうことなのですかヴェニフーキ様……!?』

ヴェニフーキ「このまま涙と鼻水でグチャグチャな隊長の顔めがけて撃つことも出来ましたが」

エリカ「なっ、泣いてなんかな



ヴェニフーキ「何か、違うな。と思いまして」



エリカ「はぁ?!」

ニルギリ『あの…違うって何がでs


エリカ「ふざけんのもいい加減にしろッ!!!!!」


ニルギリ『っ!?』

ヴェニフーキ「至って真面目ですが?」

エリカ「どこがッ!! これだけ完璧に私を追い詰めて! あとは撃てば終わるってとこまで来て!! 何が降参よバッカじゃないの!!!」

ヴェニフーキ「最初のうちは何とも思わなかったのですが、あなた方が我々の戦闘区域へ侵入したあたりから」





ヴェニフーキ「これは聖グロの戦い方じゃないな。って思った次第です」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/04(日) 16:54:58.35 ID:B1e5jmIx0<>

聖グロ『!!!』


ヴェニフーキ「聖グロのもつ気品も優雅さも無い。戦車道を嗜む者としての騎士道精神も無い」

ヴェニフーキ「あったのは勝利至上主義者特有の浅ましさ、卑しさだけ」

エリカ「勝つことの何が悪いって言うのよ!!」

ヴェニフーキ「短絡的な一つの勝利で全てを失うこともある」

エリカ「なに…」



― 特攻兵器を使用したことによって批判が殺到し、戦車道どころか知波単学園まで"廃止"になってたかもしれない

― …

― 結果的にあなたは1つの学校を潰した諸悪の根源として一生恨まれ続けるでしょうね

― 戦術で勝って戦略で負けたということですね…




ヴェニフーキ「それに…」


ヴェニフーキ「あなたを背後から撃って勝利しても、何の価値もない」


エリカ「っ…!」

聖グロ生『?』

ヴェニフーキ「…かといって、私以外の者にとどめを刺してもらおうにも、近辺の僚車では周囲の駆逐戦車で狙えないし、遠方の戦車じゃ重装甲のため弾かれてしまう」

ヴェニフーキ「そう考えると、これが最善の策」

エリカ「ハッ! 邪道の分際で勝ち方に拘ってんじゃないわよ!!」


ヴェニフーキ「邪道には邪道の流儀がある」


聖グロ『!!』

エリカ「…!」




〜〜〜〜

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/04(日) 16:58:35.94 ID:B1e5jmIx0<>
【観客席】



『邪道には邪道の流儀がある』



アッサム「邪道ですって!?」

まほ「あの作戦のどこに邪道があると言うのだ…!」

アッサム「まほさん…?」

まほ「私のチームを完璧に追い詰めるほどの優れた戦術…」

まほ「…これが邪道ならば戦車道など皆邪道となってしまうッ!」

まほ「何故だ、何故邪道なのだ……!」

アッサム「私にもわかりませんの…。何故、邪道と言ったのか…」



〜〜〜



「真剣勝負を途中で投げ出すのは確かに邪道です…でも…」

「聖グロのやり方じゃない? どういうことだ?」

「ダージリン殿とは違うかもしれません。…ですが、黒森峰に圧勝したことが邪道ならみんな邪道ですっ!」

「嫌だよ…ヴェニフーキさんが邪道だなんて…」

「…」


「………やっぱり、違う」

「えっ…?」


〜〜〜
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/04(日) 17:01:41.31 ID:B1e5jmIx0<>

これで良かったんだよね。ダージリン。

あの時、あなたが言おうとしたのは恐らく…


 「黒森峰に勝たないで欲しいの…」


だったと思う。

つまり、勝ちさえしなければ、負けでも引き分けでも試合中止でも何でも良かった。

だから私は誰がどう見ても勝ったと確信した時に、降参を選んだ。

私は"似非邪道"の逸見さんを叩く事が出来たし、ダージリンの願いも叶えることができた。


ダージリンがどうしてそんなことを言ったのか

もちろん理由はちゃんとある。



これで勝ったとしても、それは"聖グロの"勝利じゃないからだ。



戦車も搭乗員も聖グロのものだけど、指揮やその作戦は聖グロではない私<部外者>だ。

聖グロの勝利でなければ聖グロにとって何一つプラスにもならない。偽りの勝利だ。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/04(日) 17:05:33.87 ID:B1e5jmIx0<>
それどころか勝つことで「あの黒森峰に完勝した」だなんて自惚れたり、「黒森峰を破った最強の学校」として脚光を浴びてしまい、偽りの実績が出来上がってしまう。

偽りの勝利で偽物の実績に浮かれ、内部から腐敗していく。

ダージリンは自身がまとめ上げたチームがそうなってしまうのが許せなかった。

自分や仲間たち、そして聖グロの戦車道を築き上げてきた歴史を真っ向から否定し、破壊することになるから………。


でも、あの時ダージリンはそれを言わなかった。

…まぁ、それはダージリンが言い淀んだのを勝手に"他に好きな人が出来た"と私が勘違いして号泣したから、というのもあるけどね…。ごめん。

そうでなくてもあれだけ"逸見憎し"と勝負心に燃えていた私の前で「勝たないで」と言えなかったのだろう。

ダージリンが最後に一瞬だけ表情に陰りを見せたので気付くことができた。


この判断によって私は全聖グロ生に憎まれるだろうけど、ダージリンの尊厳を守ることが出来たから良いや。

だってダージリンもあの時


"もう…良いのよ…あなたの方が大事だもの……"


…って、聖グロより私を選んでくれたのだから。

逸見さんも叩きのめしたし、私がやるべきこと、やりたいことは全部やった。



あと、降参したのにはもう一つ別の理由があって、これは試合中に思ったことだ。

それは……

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/04(日) 17:09:17.67 ID:B1e5jmIx0<>


ガキン!!

グラッ....



「くっ!!」


エリカ「っ!!」



そう思っていたら鈍い金属音が聞こえ、同時にヤークトティーガーが動き出した。

どうやらブレーキが超重量に耐えきれず、壊れてしまったようだ。

トーションバーサスペンションがへし折れ、転輪が吹っ飛び、制御出来なくなった巨大な鉄の塊が坂を滑りながら下っていく。


おい! そっちは崖だぞ!!?


…そう思った時には遅く、ヤークトティーガーは谷底へ転落した。



ヴェニフーキ「フレミング、本部へ救護要請を」

フレミング「り、了解です! こちら聖グロ隊長車…」


エリカ「っ…!」ダッ


ヴェニフーキ「! 待てっ!!」



逸見さんは乗ってた戦車を放棄して走り出した。

あの女、まさか一人で救出に行くつもりか? 馬鹿な真似を…!

戦車は密閉されてるし特殊カーボンもある。外装が破損しても内部までは大丈夫なはず。

下手なことをするよりじっと救助を待つ方が安全だ。


それに崖は結構な高さがある。飛び降りたら…


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/04(日) 17:12:13.65 ID:B1e5jmIx0<>

ヴェニフーキ「あのバカ!」


ダッ!


ルクリリ「ヴェニフーキさん!!!」

ヴェニフーキ「そっちは任せます!」

ルクリリ「わ、わかった…!」



急いで逸見さんの後を追いかけたが、崖の下は川が流れており、見下ろした時には彼女は着水していた。

本当に飛び降りてしまった…。



「がばっ…ごっ…ゴボッ……ぐ…」



彼女はヤークトティーガーが流されたであろう方向へ泳いでいく。…というより流されていく…。

おい…あんたまさか………


泳げないのか!?


助けに行った勢いとは裏腹に、カナヅチなのか自身が沈まぬようもがくので精一杯だ。

駆逐戦車の方へ向かうというより水底に向かっている。

くそっ、このままじゃ本当に犠牲者が出てしまう…!



ヴェニフーキ「っ!!」



散々馬鹿馬鹿と罵っておいて何だけど、私も人のことを言えないみたいだ。

逸見さんの後を追うように崖から飛び降りて川へ飛び込む。


ざっぱーん!


そこそこ水深があるので、水底に体を叩きつけることは無かった。

一方で流れはせいぜい遊園地の流れるプール程度だったので、(どこかの誰かさんのようにカナヅチでなければ)何とか泳くことは出来た。

どうせ逸見さんだ。何も考えず勢いだけで飛び込んだのだろうなぁ。…まぁ私もだけど。

やれやれ…。


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/04(日) 17:14:23.94 ID:B1e5jmIx0<>
【谷底を流れる川】


エリカ「ガバ........ゴブッ....ゴボボ....ゴグッ....ゴボ....」

ヴェニフーキ「つかまって…!」

エリカ「ゴッボ...ガブ....」



沈みかけた彼女の胸ぐらをなんとか掴む事ができた。

掴んだ右手でラリアットでもお見舞いするかのように彼女を仰向けにさせる。

これで少なくともブクブク沈んでいくことはない。

あとは岸へ向かって引っ張るだけだ。足が攣らない程度にゆっくりバタ足で岸まで向かう


…こら、しがみつくな。

溺れる者は藁をも掴むだけに必死に私にしがみつこうとする。

ふざけるな。私にしがみついて良いのはダージリンだけだ。

…そんな事を考えてるうちに足が水底に届くくらいの所まで来た

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/04(日) 17:15:13.68 ID:B1e5jmIx0<>

【川岸】



エリカ「ゴゲェェェ!!!! ゴボゴヴォ゙ロゴ!!!!!!」ビチャビチャビチャ

ヴェニフーキ「…」



岸へたどり着いてから逸見さんは何か言葉を発するよりも先にマーライオンよろしくゲーゲー水を吐き出す。

そりゃそうだ。カナヅチが川に飛び込めば誰だってこうなる。



ヴェニフーキ「自分の力量をもう少し冷静に見計らうべきですね」

エリカ「……いわよ」

ヴェニフーキ「はい?」

エリカ「うるさいって言グ?! ゴボォォォォォォォ!!!?」



言い終わる前にまたゲロゲロ吐き出す。

嘔吐音と液体が叩きつけられるビチャビチャ音が響く。相当飲んだようだ。

…お、水と一緒に枯れ葉が出てきたぞ。


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/04(日) 17:16:20.97 ID:B1e5jmIx0<>
エリカ「なんで…助けたの………よ…」ゼェ..ゼェ...

ヴェニフーキ「あなたのような人でも死なれたら戦車道が廃止になりかねないので」

エリカ「よ…余計な…こと…を…」ゼェゼェ

ヴェニフーキ「…」スタスタ

エリカ「どこに……行くのよ…」

ヴェニフーキ「救助隊を案内します。あなたは助かってもヤークトティーガーの乗員はまだ水の中ですから」

エリカ「ちょっと待ち………!!?」

ヴェニフーキ「…」













エリカ「何で…あんたが………!!?」




あーあ。バレちゃった。

飛び込んだ勢いでレンズは吹っ飛んじゃったし、濡れたせいで髪のセットは崩れた。

もう髪の毛の色以外は西絹代だ。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/04(日) 17:17:40.25 ID:B1e5jmIx0<>
エリカ「何でアンタが聖グロにいるのよ!?」

西/ヴェニフーキ「あなたに関係のないことなので忘れて下さい」

エリカ「…」

西/ヴェニフーキ「もしも誰かに話したら………殺しますよ?」

エリカ「…フン! 姿を偽ってコソコソやるような弱虫に何が出来るというのよ!」

西「…あのまま溺れて死ねば良かったのに。そうすればバレずに済んだ」

エリカ「なっ…!」

西「…ん、待てよ…?」











西「今からでも遅くないか」



<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/04(日) 17:21:12.33 ID:B1e5jmIx0<>
エリカ「なっ!!?」

西「…」ジリッ...

エリカ「な、何よ…こっち来ないでよ…!」

西「…」ジャリ....

エリカ「ちょっと! 何するつもりなのよ!」

西「………」ザッ...

エリカ「こ、来ないでって言ってるでしょ…!」

西「…………」スッ...

エリカ「い…嫌ぁぁぁ!!」










西「ばぁーーーーーーっ!!!」バーン!!!










エリカ「ひぃぃッ!!?」ビクッ


西「………なーんてね。殺人犯になるのは御免ですから」

エリカ「…」

西「"なんちゃって邪道"はあなた一人だけで十分ですよ」

エリカ「…」

西「…早くしないと風邪ひきますよ?」

エリカ「………」

西「…あれ?」


エリカ「」ブクブク


西「…」



あーあ。気絶しちゃった。

まぁいいか。

自力で這い上がってここで倒れたってことにしておこう。

しかし水を吐いたり泡を吹いたりと、この人の前世ゼニガメかな?


その直後に駆けつけた救助隊員によって彼女は運ばれた。

ヤークトティーガーも無事に水揚げされ、乗員も全員無事だ。

もっともヤークトの中にいるのはあれだけ活躍したエリート集団だ。どこかの誰かさんみたいに水没如きでくたばったりはしない。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/04(日) 17:23:17.53 ID:B1e5jmIx0<>


「なかなかやるわね。あなた」




西「っ!?」

アールグレイ「心配しないで。私よ」

西「…ビックリさせないで下さいよ。心臓に悪い」

アールグレイ「女の子を失神させといてよく言うわね」

西「…」

アールグレイ「そんなことより、その顔でここにいたら不味いわ。川を少し下ったところに車があるから急ぎましょう」

西「恐縮です。…というか試合観てたんですね」

アールグレイ「もちろんよ。黒森峰とご一緒するなんて初めてですもの」

西「…」

アールグレイ「でも残念ね。あなたが本当の聖グロ生だったら歴史的な快挙だったのに」

西「そうでしょうかね?」



そういってるうちにアールグレイさんが停めた車のところまで向かった。

さすがズル賢い人だけあって、真っ赤な車なのに外部からはほとんどわからない位置に停車してある。

…似たような作戦を立てただけになんか悔しい。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/04(日) 17:32:32.14 ID:B1e5jmIx0<>
アールグレイ「あ、ちゃんと拭いてから乗ってよ? シート汚れちゃうから」

西「はーい」ブルンブルンブルンブルン

アールグレイ「ちょっと犬みたいにブルブルしない! タオル使いなさい!!」

西「はーい」フキフキ

アールグレイ「………まぁ、」

西「ん?」


アールグレイ「あれで、良かったのよ」


西「…」

アールグレイ「あの試合は99.9%聖グロの勝利だった。あの状態から黒森峰が起死回生の一手を打つのは無理」

西「まあ、その0.01%を私が起こしたわけで」

アールグレイ「ええ。あそこであなたがドーン!と一発やるか、相手が降伏すればそれでおしまいだった」

西「…」

アールグレイ「…けれど、部外者の指示で勝ったところで聖グロには何のプラスにもならない」

アールグレイ「生徒は黒森峰に勝ったって浮かれちゃうし、メディアは殺到するしで、聖グロ全体がおバカさんになってしまうわ」

西「…」

アールグレイ「…って」




アールグレイ「ダージリンが言ってたわ」




西「ダージリン?」

アールグレイ「ええ」


ガチャ

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/04(日) 17:36:08.61 ID:B1e5jmIx0<>
西「!!」


「ありがとう…絹代さん」


西「ダージリン…ダージリン……!」

ダージリン「嬉しかった…。あなたが私の思いを理解してくれて…」

西「わっ…いま抱きつくと濡れちゃいますよ…!?」

ダージリン「構わないわ。服なんて着替えれば良いだけですもの」

ダージリン「それよりも、寒いでしょう?」

西「…あはは」



試合が終わってもなお溢れ出る興奮作用のある物質が脳内からボタボタと溢れていたせいで…その…あはは………



アールグレイ「私の車の中でおっ始めないでよ? 掃除するの大変

西「するわけないでしょーがっ!!」ガァァァッ

ダージリン「っ…///」カァァ...

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/04(日) 17:37:48.60 ID:B1e5jmIx0<>
アールグレイ「今は着替えて、その崩れた変装を直すことが優先よ」

西「わかってますって…でも…」

アールグレイ「ん?」


チュッ


ダージリン「もぅ…///」

西「これだけはさせてください。あはは」

アールグレイ「この野郎…見せつけてくれるじゃない………」ワナワナ


ダージリン「練習試合、終わった後でね」

ヴェニフーキ「ええ。行ってきます」



私は車の中で髪を乾かし、服を着替え、再度ヴェニフーキの姿へと戻る。

…ダージリンの尊厳を守ることができて安心した。


〜〜〜〜〜

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/04(日) 17:39:29.40 ID:B1e5jmIx0<>

【再び 試合会場にて】


審判員「一同、礼!」


「「「「ありがとうございました!」」」


エリカ「………」

ヴェニフーキ「………」

エリカ「………余計なことを…」


アッサム「お疲れ様。ヴェニフーキ」

ヴェニフーキ「お疲れ様です」

アッサム「あなたには言いたいことが山ほどありますが、まほさんがあなたとお話したいと」

ヴェニフーキ「…」

まほ「教えてくれ、ヴェニフーキ」

ヴェニフーキ「…」

まほ「なぜエリカ達をあそこまで追い詰めたにもかかわらず、降参した?」

ヴェニフーキ「先ほど彼女の前で言いましたが、この戦いは聖グロが望むものではなかった」

エリカ「だからどういうことよ! 私を打ち負かしておいて何が不満

まほ「落ち着けエリカ!!」

エリカ「っ…」

まほ「確かに聖グロは優雅だとか気品といったものを尊重し、騎士道精神に則った戦いをする」

まほ「…だが、あなたの指揮やあの戦術が聖グロの道から外れたものだとは思えん」

まほ「その証拠に、黒森峰は惨敗した…。」

まほ「勝利だけを糧に己を鍛え続けたものが集う黒森峰が…」

ヴェニフーキ「…」

まほ「私には、あなたが何故、あのような判断を下したのか、わからない…」

ヴェニフーキ「黒森峰が、あそこまで追い詰められたのは」









ヴェニフーキ「彼女が本気を出さなかったから」


<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/06/07(水) 18:42:38.76 ID:2BnVo5Sz0<> 随分思わせぶりな所で切るんだな <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/07(水) 19:19:07.11 ID:d4Q4cJCQ0<>
エリカ「は、はぁぁ!?」

まほ「…」

エリカ「ば、バカも休み休み言いなさい! アンタ相手にどうして手加減してやんなきゃいけないのよ!?」

ヴェニフーキ「黒森峰の戦車をこちらの要塞に誘導し、ティーガーIIを1輌葬るところまでは問題なかった」

ヴェニフーキ「…しかし、黒森峰のパンターが侵入して来たところから違和感を覚えました」

まほ「…違和感?」

ヴェニフーキ「ええ」


ヴェニフーキ「あまりに都合よく事が進みすぎている、と」


まほ「…エリカ、お前本気を出さなかったのか…?」

エリカ「そ、そんなわけないじゃないですか! コイツの戯言に過ぎません!!」

まほ「そうか………?」

ヴェニフーキ「私も最初、あれだけ大見得切っていた逸見さんだけに、手を抜くなど有り得ないと思っていた」

まほ「…」

ヴェニフーキ「…しかし、いざ試合をしてみれば、黒森峰らしからぬ"お粗末"な戦術でした」

エリカ「アンタ……たかだか練習試合で一度勝ったくらいで良い気になるんじゃないわよ……!」

まほ「…」

ヴェニフーキ「…これらのことを鑑みるに、何かしらの理由で"手を抜いた"としか説明がつかない」



ヴェニフーキ「だから、手を抜いた黒森峰相手に勝って有頂天になるのも馬鹿馬鹿しいと思い、あの場で白旗を掲げた」



誠に勝手ながら、この試合はダージリンの尊厳を守るために、最初から勝利以外の方法をとらなければならなかった。

だが、試合を進めているうちに、黒森峰側の様子がおかしいことに気付き、本来の理由とは別に、白旗を揚げる理由が見つかった。

あれほど私を打ちのめそうと意気込んでいた逸見さんが、何故…。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/07(水) 19:21:44.45 ID:d4Q4cJCQ0<>

エリカ「い、言わせておけば…!」

まほ「本当に、手加減してないのか?」

エリカ「ですから違います!! 私は断じて手加減など…」


「あの………」

まほ「どうした? 赤星」

赤星「私も…無線で状況を確認していたのですが…」

まほ「ああ?」

赤星「その…」


赤星「ヴェニフーキさんの言う通り、普段のエリカさんとは思えないくらい、杜撰な指揮でした………」


エリカ・まほ「!!!!」

エリカ「何よ小梅…アンタまで私を罵倒しようっていうの…?」

赤星「ち、違います…!」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/07(水) 19:24:26.25 ID:d4Q4cJCQ0<>

まほ「…説明してくれ」

赤星「…はい」

赤星「聖グロから攻撃を受け、私のティーガーIIが動けなくなった後、聖グロ戦車が潜む森林地帯へ一斉射撃をした…ところまでは良かったのですが」

まほ「うむ。もし私があの場にいても恐らく同じことをするだろう…」

エリカ「…」

赤星「その後が問題で、どういうわけか全車輌で森の中に入っちゃったんですよね…」

エリカ「黒森峰は何時いかなる時も真正面から迎え撃ち、圧倒的な火力を以て敵を捻じ伏せて来た。それのどこが問題なのよ?」

赤星「そうなんですが、今回のような場合、2つか3つの小隊に分かれて3方向から包囲するものです」

赤星「実際に、対ゲリラ戦を想定した練習ではそのように指揮していたじゃないですか?」

エリカ「っ…!!」


ヴェニフーキ「…違和感の正体はそれだったのですね」

まほ「…」

ヴェニフーキ「そちらの方がおっしゃる通り、私も黒森峰は聖グロの攻撃網を破壊すべく、複数のルートから攻め入るだろうと予想しました」

ヴェニフーキ「最初のパンター3輌とは別に、他から攻めてくる、と」

まほ「…」

ヴェニフーキ「…そう思っていたら、そのすぐ後ろに駆逐戦車がやってきて、最後にティーガーが来た」

ヴェニフーキ「最初のパンターは囮や斥候だと思ってましたが、その次に来たのが"首の回らない"駆逐戦車だったので『ん?』となりました」

まほ「…」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/07(水) 19:26:48.77 ID:d4Q4cJCQ0<>

ヴェニフーキ「それに、あのような起伏の激しい斜面を駆逐戦車に登らせるというのが予想外でした。なかなか無茶をなさると」

まほ「…その通りだ。固定式戦闘室の駆逐戦車はあのような場所に送るのは自殺行為…」

まほ「それに、過重量ゆえに履帯や変速機が破損する原因にもなる。デコボコした斜面を登るとなれば尚の事」

エリカ「う…嘘よ…私は………!」

赤星「………」

ヴェニフーキ「戦術面、運用面における違和感はもとより、こちらはほぼ全方位から攻撃をしたので、全方位を警戒をするはず」

ヴェニフーキ「なので」


ヴェニフーキ「背後を取られるような失態をするはずがない」


エリカ「ッ!!!」

まほ「………」

赤星「………」

ヴェニフーキ「…そういったことから、この違和感が何を意味するのか知るため、白旗をあげた」

ヴェニフーキ「これが、降参したもう一つの理由」



練習試合とは言え、相手は最強の黒森峰だ。

(試合は降伏によって私達の負けだが)その最強がこうもあっさり敗れるというのだから、疑問を抱かない方がどうかしている。

まほさんを見ても、黒森峰の敗北による悔しさより、「何故負けた!?」という疑惑の表情を浮かべている。

違和感だけが残る試合だった…。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/07(水) 19:30:12.32 ID:d4Q4cJCQ0<>
エリカ「違う……私は…」

まほ「頼む…エリカ…!!」

エリカ「っ?!」

まほ「一体、何があったんだ!? 誰よりも勝ちにこだわるお前が何故そんなことを……!」

エリカ「違うんです…私は手加減など……」

まほ「嘘をつくな!!」

エリカ「ぇ………」

まほ「お前は黒森峰において最も優れた者と見込んでこの私が選んだのだぞ!」

エリカ「………」

まほ「そして実際、お前は他の追随を許さぬ実力を持っている!!」

まほ「そんなお前が手加減をせずあのような結果となるはずがないッ!!!」

まほ「本当のことを言ってくれエリカ!! 頼むッ!!」

赤星「…私からもお願いします…今後の黒森峰のためにも…!」

ヴェニフーキ「………」

エリカ「……わ…………」




エリカ「私…本当に…手加減なんかしてません………」




ヴェニフーキ「…」

赤星「…」

まほ「………」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/07(水) 19:31:45.29 ID:d4Q4cJCQ0<>


まほ「………わかった。もういい」










エリカ「えっ…」

まほ「…こうなるとは思わなかった。これも私の失態なのだろう…」

まほ「お前がこのような状態ならば、隊長を任せることは出来ない………」

赤星「…」

ヴェニフーキ「………」

エリカ「で、では……」


まほ「私が卒業するまでの間、もう一度私が隊長に戻ってお前を叩き直す」


エリカ「!」

赤星「………」

まほ「…残念だ……本当に…」

ヴェニフーキ「?」



たかだか親善試合で黒森峰の命運に関わる重大な決定をさせてしまった。


黒森峰の隊長は逸見さんではなくなった。

再びまほさんが隊長に戻るという。

隊長からの降格…それはものすごく屈辱な事だというのに。


なのに





彼女は一瞬、確かに安堵の表情を浮かべた。


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/07(水) 19:35:32.69 ID:d4Q4cJCQ0<>

ヴェニフーキ「…そういうこと、ですか」

まほ「ん…」

ヴェニフーキ「何故、逸見さんが手を抜いたか、何となくわかりました」

まほ「!」

エリカ「だ、だから私は手加減なんて

ヴェニフーキ「ええ。あなたは手加減をするつもりなんて微塵も無かった」

赤星「よくわかりません…どっちなんですか?」

ヴェニフーキ「私も、今になってようやく理解した」




ヴェニフーキ「逸見さんは、"無意識に"手加減してたと」




まほ「…無意識…だと?」

エリカ「ハッ! 何度も言わせないでくれるかしら! どうしてアンタごときに手加減するというの!?」

ヴェニフーキ「ええ。あなたの性格上、私を相手に手加減はしてくれないでしょうね」

エリカ「だったら!」

ヴェニフーキ「…でも、あなたの意図に反して、あなたの気づかない所で、あなたは」


ヴェニフーキ「この試合が負けるのを望んでいた…のかもしれない」


エリカ「は、はぁ!?」

赤星「負けるのを望んでいたって…!」

まほ「どういうことだ…?」


ヴェニフーキ「まほさんが去ってしまうからですよ」


まほ「なっ!?」

エリカ「!!!!」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/07(水) 19:41:27.25 ID:d4Q4cJCQ0<>
ヴェニフーキ「……さっき、あなたが"もう一度私が隊長に戻る"と言った」

エリカ「や、やめて!!!」

ヴェニフーキ「その時に、逸見さんが一瞬だけ、表情が明るくなった」

まほ「そうなのか、エリカ…!?」

エリカ「そ、そんなわけありません! わ私が降格を宣告されて誰がを喜ぶ人なんてッ!!!」



試合での違和感、"手加減をしたか否か"

当の本人はそれを頑なに否定している。それは彼女の性格を考えれば私でも理解出来る。彼女は"絶対に"手加減しない。

しかし、この試合結果は黒森峰のそれとは程遠く、「手加減した」とでもならない限り説明のしようが無いほどだった

もし手加減をしたとすれば、何故手加減をしたか。


彼女の心の奥底に眠る何かが勝利を妨げた。


もしそうだとしたら、それに起因するものは一つしかない。

そして、それを指摘したら先ほどにも増して取り乱している。

やっぱり、あなたは…



まほ「…エリカはこう言っている。何かの間違いではないのか?」

ヴェニフーキ「確かに、口では強がりを言いますね。逸見さんらしく」

エリカ「そ、そうよ! 手加減なんてするもんですか…!」

ヴェニフーキ「けれど、内面では、西住まほさんが黒森峰から去ることを何よりも恐れていたのでしょう」

まほ「!」

エリカ「ち、違うッ…!!!」

ヴェニフーキ「だから彼女は、そうならないように、まほさんを引き止めるために」





ヴェニフーキ「本人も気づかぬうちに"未熟"を演じるようになった」



<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/07(水) 19:44:31.74 ID:d4Q4cJCQ0<>
まほ「そ、そんな馬鹿な…!」

エリカ「ぁ………ぁ………!」

ヴェニフーキ「自分が未熟であれば、黒森峰を去ることは無いだろうと思って」

まほ「お。おいエリカ…嘘だよな…?」



ノンナさんにとってのカチューシャさん

私にとってのダージリン。

そして逸見さんにとっての西住まほさん。


…皆、"心の支え"を失うことを何よりも恐れている。

そして、失われそうになったとき、ありとあらゆる手段を使ってそれを阻止しようとする。


彼女の"手加減"は、傲慢な性格の裏にあった、紛れもない彼女の"本心"だった。

…となれば今までの厭味ったらしい言動は

生意気な態度は

戦車乗として疑いたくなる人格は




全て、まほさんを引き止めるための潜在的な防衛手段だったのかもしれない…。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/07(水) 19:47:41.46 ID:d4Q4cJCQ0<>



エリカ「…私には…やっぱり無理だったんです……」




まほ「エリカ!!?」

赤星「エリカさん…!?」

エリカ「…私は………あなたのように……王者にはなれない……私では…………」

エリカ「………何も無い………」

赤星「そんな…」

まほ「…っ……」



硬い装甲が砕け散った今、彼女の柔らかい本心が剥き出しになった。

その本心は砂で出来た城のように一吹きすれば簡単に崩れてしまうほどに脆い

そして、その砂の城が崩れ去った時



彼女の戦車道が終わる。





エリカ「…私は………ここまでです…………」

まほ・赤星「!!!」



これが、私が望んだ結果…………?

私が憎んだのは仮面を被った女だった。

その仮面が外れた今なお彼女を憎むのか…?




彼女の戦車道の終わりはもうすぐ。







― 私は…私は………知波単学園の…戦車道を…………守れなかったんです……



<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/07(水) 19:53:24.00 ID:d4Q4cJCQ0<>





ヴェニフーキ「西住流」







エリカ「えっ…」

まほ「!」



まほさんを繋ぎ止めること、自身の弱さを克服すること

この2つを見越した上で彼女の戦車道を継ぎ足すためにはこれしかない。




エリカ「にしずみ…流…?」

まほ「………」

ヴェニフーキ「まほさんの戦車道における哲学の源流を辿れば西住流に到達する。…そうですよね?」

まほ「…その通りだ。私の戦車道は西住流そのもの」

ヴェニフーキ「自身の戦車道に迷っておられるなら、西住流の門をくぐってみては?」

まほ「!」

ヴェニフーキ「西住流に名を連ね、そこで心身ともに鍛えれば」


ヴェニフーキ「あなたは"まほさんに"なれる」


エリカ「!? 私が…隊長にですって…!?」

ヴェニフーキ「あとは、まほさん同様、何重にも積み重ねていけば良いだけ」

ヴェニフーキ「まほさんを始め、各校の隊長の皆様がやってきたように…」


私やダージリンがやってきたように。


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/07(水) 19:57:01.52 ID:d4Q4cJCQ0<>


まほ「彼女の言う通りだ…」

エリカ「た…隊長…?」

まほ「私の考えは西住流にある。故に西住流は私の全てと言っても過言ではない」

まほ「だから、お前が西住竜の門をくぐり、西住流に名を連ねることになれば、たしかに私のようになれる」

まほ「いや…私を超える存在になるかもしれん…」

エリカ「!!!」

まほ「もっともお前の実力はさておき、西住流は私の帰る場所だ。西住流にいれば私がそこにいる」

まほ「お前の本当に目指す先に西住流があるのかもしれん」

エリカ「………」



エリカ「………フッ…フフッ…!」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/07(水) 20:00:31.35 ID:d4Q4cJCQ0<>
ヴェニフーキ「…」

エリカ「…ヴェニブーキと言ったわね。その助言、いつか後悔するわよ…!」

ヴェニフーキ「ヴェニブーキでなくくヴェニフーキですが。…何故私が後悔を?」

エリカ「私が西住流で実力をつけた時、今度はあなたが膝をつく番よ…!」

ヴェニフーキ「…」

エリカ「邪道の分際で良い気にならないことねっ!」

ヴェニフーキ「言ったでしょう。"邪道には邪道の流儀がある"と」

まほ「…」

ヴェニフーキ「ここであなたがグレて黒森峰が"最弱"にでもなったら寝覚めが悪い」

エリカ「なっ…!」

ヴェニフーキ「それに、私は邪道なので、これ以上邪道が増えると居場所がなくなる」

ヴェニフーキ「なので、コッチには来ないでください。しっしっ」

エリカ「ちょっと! イヌみたいに扱わないでよ!!」

ヴェニフーキ「犬の方が可愛げがあります。わんわん」

エリカ「う、うるさいわよ!!」

まほ「………」

ヴェニフーキ「…そういうことですので。次の試合、楽しみにしております。西住流の逸見さん」

まほ「…先程から気になってはいたが」

ヴェニフーキ「はい?」



まほ「何故、あんたは自らを"邪道"と名乗る?」


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/07(水) 20:03:04.83 ID:d4Q4cJCQ0<>
ヴェニフーキ「…」

まほ「…」


ヴェニフーキ「教えるつもりはありません。邪道は意地悪なんです」


まほ「むっ…」

ヴェニフーキ「ただ、私は誰がなんと言おうとも王道ではありません」

エリカ「…フン。邪道だか外道だか知らないけど、せいぜい"あの時余計なことを言わなければ…"と後悔しないことねっ!」

ヴェニフーキ「実力をつけてから言ってください。ポンコツさん」

エリカ「なぁっ!? ポンコツですってぇ!!?」

赤星「ぽ…」

まほ「ポンコツ…」


ヴェニフーキ「あなたは別に邪道ではないとは言いましたが、かといってまほさんのような王道でもない」

まほ「…確かに、エリカが私の域に達するにはまだまだだな」

エリカ「た、隊長ぉ?!」

ヴェニフーキ「…ともなれば、"普通"になるのでしょうけど、あなたの脇役っぷりを見ると、ポンコツと言った方がしっくり来る」

エリカ「だ、黙りなさい!!」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/07(水) 20:05:24.30 ID:d4Q4cJCQ0<>
ヴェニフーキ「次お会いする時までにポンコツから"馬の骨"に昇格することを期待してます」

エリカ「う、馬の骨ですってぇぇぇ!?!?」

ヴェニフーキ「ひひーん」

まほ「ぐっ…!」プルプル

エリカ「き、貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

ヴェニフーキ「おお。怖い怖い」

エリカ「次会う時にはギッタンギッタンのメッタメタにしてやる!! 絶っっっ対に覚えてなさい!!」

ヴェニフーキ「こんな古典川柳を知ってます?」

エリカ「な、何よ!?」


ヴェニフーキ「"逃げしなに 覚えて居ろは 負けたやつ"」


オレンジペコ「出典が無いので誰かわかりません…」

エリカ「…」

ワッハッハハハハ!!


赤星「エリカさんにもやっとお友達が出来ましたね」

まほ「ああ。そうだな」

エリカ「あんなの友達なんかじゃありません!」

ヴェニフーキ「そうですね。あなたはお友達じゃなく下僕です。ほらポンコツ、おすわり」

エリカ「げ、下僕ぅ!? ふざけんのも大概にしろッ!!!」


ワッハハハハハハ!!!

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/07(水) 20:09:06.80 ID:d4Q4cJCQ0<>
まほ「…ヴェニフーキ」

ヴェニフーキ「はい?」


まほ「ありがとう…!」


ヴェニフーキ「…憎まれることはあれど、礼を言われるようなことはしてませんが?」

まほ「何だかんだ言って、あんたはエリカを助けてくれた」

まほ「あのままではエリカの弱点を残したまま卒業することになる」

まほ「それによってエリカが潰れてしまえば黒森峰の崩壊、そしてエリカ自身の戦車道が閉ざされてしまうところだった」

ヴェニフーキ「…」

まほ「エリカもまた、私が育てた黒森峰の一つ。それを生かしてくれたこと、心より感謝する」フカブカ

ヴェニフーキ「…」

ヴェニフーキ「どういたしまして」フカブカ


まほ「…まだ私の引退は先になりそうだが、エリカが前に進めるならば以前のような心配はもうないだろう」

まほ「卒業までの間にエリカをしっかり鍛えることにした。黒森峰として、西住流として」

ヴェニフーキ「そうですね。彼女には戦車道だけでなく人としての礼儀をし っ か り 身に付けさせてあげてください」

ヴェニフーキ「もし不逞な真似をしたら、そこら辺にある木の棒で引っ叩けば言うことを聞きます」

まほ「う、うむ…。考えておこう…」



〜〜〜

<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/06/08(木) 07:18:41.34 ID:PyPj6XY9O<> 乙 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<><>2017/06/08(木) 09:16:45.26 ID:SejQjsPs0<> つづきはよー <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/10(土) 18:32:45.31 ID:xOZKrxzA0<>

【試合が終わって…】



アッサム「………ヴェニフーキ」

ヴェニフーキ「お説教なら後で聞きます。今はそんな気分ではないので」

アッサム「お説教ではありませんわ。黒森峰の皆さんとあなたのやり取り、聞かせてもらいました」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「なんだか、私がまだ聖グロに入ったばかりの頃を思い出しました」

ヴェニフーキ「そうですか」

アッサム「ええ。今以上に傲慢だった私を助けてくれたダージリンみたいでしたわ」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「きっと彼女は…逸見さんは、またご自身の戦車道を探して歩み続けると思います」

ヴェニフーキ「そうでないと困ります。私のせいで破落戸にでもなったら面倒ですから」

アッサム「ふふっ。口は悪いけどそういうところはしっかりしてますのね」

ヴェニフーキ「"口は悪い"は余分です」

アッサム「…ただ」

アッサム「あなたは何度も自分のことを邪道邪道と言うけれど」

アッサム「私はそれを否定します」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/10(土) 18:39:10.67 ID:xOZKrxzA0<>

ヴェニフーキ「…」

アッサム「確かに、あの場面で試合を降参したことには驚きました」

アッサム「…でも、それはあなたの考えや信念に基づいた判断によるもの」

アッサム「他の生徒はこの降参を不満に思っているけれど、それについては私の方から事情を説明しておきます」

ヴェニフーキ「…それはどうも」

アッサム「…」

アッサム「あなた達はよく似ていますわね」

ヴェニフーキ「はい?」

アッサム「性格は違うかもしれませんが、逸見さんと」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「そして、優雅に振る舞う一方で、誰よりも芯の強いダージリンとも…」

ヴェニフーキ「………」



アッサムさんの話を聞いて、病院でダージリンから聞いた話を思い出す。

ダージリン自身も一度戦車道を見失いかけた一人だ。

だけど、そこから這い上がってライバルだったアッサムさんに勝ち、そして挫折しかけたアッサムさんを助けた。


私は逸見さんの事など正直どうでも良いと思っている。

だけどあのやり取りを振り返ってみると、確かにダージリンとアッサムさんとのやり取りに似ている。

歴史は繰り返すものなのかな…。


そして、繰り返しになるけど、逸見さんは別に邪道ではないことがわかった。

でも、だからといって別に王道というわけでもない。

ただの"普通"の戦車道を嗜む一学生にすぎない。

西住流の下で心身ともに鍛えれば、恐らくはまほさんのような王道に近づく者になるだろうから、いずれ自分たちの強敵となる。

結果としては敵に塩を送ったことになるが、このまま彼女が凋落してその戦車道に幕を閉じるのも何か嫌だし、まぁ良いや。



そして、もう一つ試合で………というより、ずっと前から見て見ぬふりをしていたけれど…






















                    私こそ本当の"邪道"だ。
 


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/10(土) 18:43:08.99 ID:xOZKrxzA0<>

ヴェニフーキ「………」

アッサム「どうしました? ヴェニフーキ」

ヴェニフーキ「………」

アッサム「?」



まほさんにとっての逸見さんは、自身が積み重ねてきた血と汗の結晶の一欠片だった。

一切の妥協を許さず、一切の邪道を認めず、高みを目指すために今を歩むまほさんが選んだ一人であり、まほさんの一つの成果。

選んだからには自分の代わり、自分の分身として、黒森峰を率いてもらうため持てる全てのノウハウを伝授したに違いない。


自分の思想を継承させるため

ついに手に入れられなかった栄冠を、彼女に獲得してもらうため

そして、

全国最強といわれる黒森峰を率いる者としての責任・重圧によって彼女が潰されないため。


誰にも気づかれないように、誰よりも努力したまほさんの、誰よりも黒森峰や仲間を想う気持ち。

そんなまほさんの全てを注ぎ込んだ結晶が彼女、"逸見エリカ"だった。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/10(土) 18:47:07.49 ID:xOZKrxzA0<>
それを西絹代という聖グロの皮を被った邪道は、まほさんが築いた後継者を、まほさんの努力の結晶を軽々と砕いた。


私が憎んだ"逸見エリカ像"の正体は私自身だった。

ダージリンが汗水流して築いてきたもの蹂躙した反・聖グロ派と全く同じことを私がしていた。


邪道を憎んだ私はもう西絹代とは名乗らなくなった。

名前を捨て、姿を偽り、聖グロに潜んで聖グロを内部から腐食させる邪道になったから。

反・聖グロ派の弱体化工作を阻止しようと聖グロへ潜入したのに、やってることは連中と全く同じ。同じ穴の狢。

そして聖グロだけに飽き足らず、今度はまほさんが築いたものまで破壊しようとした。


行く先々で何かを腐敗させてる。まるで疫病のように。

これを邪道と呼ばず何と呼べばいいのか。

王道にあこがれていた私は、いつのまにか邪道を突き進んでいた。


ヴェニフーキと名乗った瞬間から、私の道は邪道一本だった。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/10(土) 18:49:07.82 ID:xOZKrxzA0<>

アッサム「べ、ヴェニフーキ? どこへ行くの?!」

ヴェニフーキ「先に学園艦へ戻っててください。…一人になりたい」

アッサム「で、ですが…」

ヴェニフーキ「私のことなんて気にしないで下さい」

アッサム「………わかりました。あまり遅くならないように」

ヴェニフーキ「…」



ヴェニフーキと名乗ってから時間が経つにつれ、私の中の汚いものがどんどん膨れ上がっていく。


知波単学園を捨てたこと

仲間を捨てたこと

名前を偽っていること

姿を偽っていること

聖グロの皆を騙していること

プラウダやサンダースの皆さんを騙したこと

聖グロの戦車道を腐らせていること

まほさんの戦車道を崩そうとしたこと

逸見エリカを奈落の底へ叩き落とそうとしたこと


ダージリンを助けられないこと

ダージリンへの恩を返せないままでいること。



私は誰にも姿を明かすことはできない。

だから誰にも何も話せない。

問題が解決するまで私の中で溜まる汚物は吐き出されることなく増えていく。


また、薬が欲しくなる。



〜〜〜

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/10(土) 18:50:41.54 ID:xOZKrxzA0<>

「アンタ、まだいたのね…」


ヴェニフーキ「…」

エリカ「何こんなところで黄昏てんのよ。カッコつけてるつもりかしら?」

ヴェニフーキ「"ご主人様"たちと一緒だったのでは?」

エリカ「…隊長達には先に帰ってもらったわ」

ヴェニフーキ「あなたも愛する隊長と一緒に帰れば良かったのに」

エリカ「余計なお世話よ」

ヴェニフーキ「…」

エリカ「…どうしてもアンタに聞きたいことがあるのよ」

ヴェニフーキ「あなたに話すことなど何もない」

エリカ「…どうして、知波単学園の西絹代がヴェニフーキなんて名乗って聖グロにいるのよ?」

ヴェニフーキ「言ったはず。あなたには関係ないと」

エリカ「偵察をするにしたら随分大規模だし、アンタの顔を見てると偵察以上に深刻そうな物が見える」

ヴェニフーキ「…」


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/10(土) 18:51:50.84 ID:xOZKrxzA0<>
ヴェニフーキ「あなたに言えることは」

ヴェニフーキ「余計な詮索はするな、そして口外するな。…それだけ」

エリカ「っ…」

ヴェニフーキ「もしも他の人が私の正体を特定したら、私は真っ先にあなたを疑います」

ヴェニフーキ「…その時はきっと」


西絹代「あなたを相当酷い目に遭わすでしょうね?」ギロッ


エリカ「うっ…」

ヴェニフーキ「…さっさと帰ってください」

エリカ「あ、アンタは何のために戦ってんのよ?!」

ヴェニフーキ「自己満足、ですよ」

エリカ「………」



"愛する人を守るため"なんて言えるはずがなかった。

私はダージリンのために戦っている。それは確か。

…だけど、私の戦いが本当にダージリンの為にになっているかはわからない。


それどころか

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/10(土) 18:53:52.66 ID:xOZKrxzA0<>
エリカ「…質問を変えるわよ」

ヴェニフーキ「しつこいですね。まほさんに嫌われますよ?」

エリカ「大きなお世話よ。…あの突撃馬鹿だったアンタがどうして聖グロに勝ったり、みほに助言出来たり、私に、………そこまで強くなれたの?」

エリカ「何がアンタをそこまで強くさせたの?」

ヴェニフーキ「まほさんやみほさんと同じ」

エリカ「隊長やみほと?」

ヴェニフーキ「戦わないといけない理由があった。勝たないといけない理由があった」

ヴェニフーキ「…それだけ」

エリカ「………」

ヴェニフーキ「もう満足ですか? 用がないのならどうぞお引き取りを」


エリカ「…」サッ

ヴェニフーキ「…」

エリカ「連絡先。交換しなさい」

ヴェニフーキ「あなたと何を連絡しろと?」

エリカ「…アンタって融通の聞かない女ね」

ヴェニフーキ「何とでも言って下さい」

エリカ「アンタは私が倒す邪道よ。そんじょそこらでヘコタレてもらっては困るわ」

ヴェニフーキ「…」

エリカ「…」

ヴェニフーキ「…仕方ない」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/10(土) 18:55:37.02 ID:xOZKrxzA0<>

エリカ「最初からそうすれば良いのよ。頑固ね」

ヴェニフーキ「下着みたいに隊長様にピッタリ張り付く誰かさんには言われる筋合いはありません」

エリカ「なっ…!」

ヴェニフーキ「いや、あなたのことだから下着をごそっと盗んで…」

エリカ「ンなことするわけないでしょうがっ!!」

ヴェニフーキ「…でも、まほさんのことを想って夜な夜な自室で一人…」

エリカ「何で知っ、あ゛っ!!」

ヴェニフーキ「…ポンコツ」

エリカ「い、今のは誰にも言うんじゃないわよ! 言ったら殺すからねッ!!」

ヴェニフーキ「好きな人を想って劣情を催すことは誰にでもあることですけど?」

エリカ「大きなお世話よ!!」

ヴェニフーキ「やれやれ」



腐れ縁というのか、犬猿の仲というのか。

逸見さんと連絡先を交換した。

…一体、何を連絡すれば良いんだ。

路上に落ちてる犬のフンでも撮影して送りつけてやるか…?



〜〜〜


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/10(土) 18:58:21.03 ID:xOZKrxzA0<>

逸見さんが帰ってからも、私はひとり高台で連絡船が聖グロ学園艦へ向かうのをぼうっと眺めていた。

日が沈みかけ、涼しい風から肌寒い風へと変わる。

もうすぐ冬がやってくる。


私は"ヴェニフーキ"を演じて、人の血と汗の結晶を砕こうとした。

無鉄砲な憎悪が祟り、余計な真似をした。

考えなしに突っ込んでバカを見る。そして多くの人に不快な思いをさせる。

…振り返ってみると私はエキシビションマッチ戦の時から何一つ変わってない。

そうした現実から逃げるように、姿と名前だけ偽ってまた暴走する。

走れば走るほど、王道とは真逆の道を進み続ける。


邪道を走れば王道に近づけるのかな…?



「ヴェニフーキさん」



…そう思ったら今度は別の人が私を呼ぶ。

誰とも関わりたくない時に限って色んな人と出会ってしまう…。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/10(土) 19:00:41.52 ID:xOZKrxzA0<>

ヴェニフーキ「………今日はカチューシャさんはいないのですね?」


ノンナ「同志カチューシャは試合後にお休みになられたので、部下のクラーラに任せています」

ヴェニフーキ「退屈な試合をお見せして申し訳ないです」

ノンナ「いいえ。あなたの戦術は我々プラウダの包囲戦とも似通っており、大変参考になりました」

ヴェニフーキ「…。ご用件は?」

ノンナ「少し、お話がしたいと思いまして」

ヴェニフーキ「申し訳ありません。今は一人で居たい」

ノンナ「…。非礼を承知ですが、先程の逸見さんとの会話、聞かせてもらいました」

ヴェニフーキ「…あなたのような方も盗み聞きをなさるんですね?」

ノンナ「自分でも何故このような事をしたか、我を疑いたくなります」

ノンナ「…ですが、あなたの事が気になり、我を忘れてしまいました」

ヴェニフーキ「…」



ノンナ「………あなただったのですね。絹代さん」



ヴェニフーキ「…」

ノンナ「病院の前で"水飴"の話をした日が遠い昔のように思えます」

ヴェニフーキ「意外ですね」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/10(土) 19:04:13.73 ID:xOZKrxzA0<>
ノンナ「意外?」

ヴェニフーキ「私があなたの前に現れた時には既に、正体がバレていると思っていました」

ヴェニフーキ「事を察して下さった為、あえて公言しなかったものと」

ノンナ「私にそこまで優れた洞察力はありません」

ヴェニフーキ「…」

ノンナ「…突撃が全てといっても過言ではないあなたに、練習試合でヴェニフーキと名乗ったあなたに、私のIS-2を撃破されたことは今でも驚いてます」

ノンナ「その上、ヴェニフーキの正体が絹代さんだったと知ってなお」

ヴェニフーキ「…」

ノンナ「そして、何より…」


ノンナ「明朗快活なあなたが豹変して、悲しい目をするようになったことが…ショックでした…」


ヴェニフーキ「…」

ノンナ「昔のあなたを知っているからこそ、あなたの豹変がにわかに信じがたいです」

ノンナ「今でもヴェニフーキという方は、絹代さんとは別人なのではと半信半疑なほどに」

ヴェニフーキ「…きっと、"ヴェニフーキは"別の何かだと思います。これが私の本性ですよ」

ノンナ「…」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/10(土) 19:06:58.94 ID:xOZKrxzA0<>
ヴェニフーキ「私は姿や名前を偽って、あなたやカチューシャさんを騙した」

ヴェニフーキ「…いや、今も騙し続けてる」

ヴェニフーキ「私があなたの立場だったら…家族のように信頼を寄せるパートナーが騙されたら、間違いなく激昂するでしょう…」

ノンナ「それは止むに止まれぬ事情があったから、そうせざるを得なかったのでしょう」

ノンナ「あなたの"ただならぬ"豹変が、それを語っています」

ヴェニフーキ「…」

ノンナ「あなたが、何を抱えているのかはわかりません」

ノンナ「ですが、カチューシャへの恩もありますし、私の個人的なこともあります」


ノンナ「どうか、あなたのお力になりたい…」


ヴェニフーキ「…」

ノンナ「…」

ヴェニフーキ「…でしたら」

ノンナ「はい」




ヴェニフーキ「この事は忘れてください」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/10(土) 19:10:29.67 ID:xOZKrxzA0<>
ノンナ「っ…!」

ヴェニフーキ「…それが、最高の"助け"です」

ノンナ「…」

ヴェニフーキ「これは私だけの戦いです。第三者を巻き込みたくはない」

ヴェニフーキ「なので、私は自分がこうしている理由を、第三者に話すことは無いですし、助けを乞うこともありません」

ノンナ「人間一人が出来ることは限られています」

ヴェニフーキ「それでも、自分の力で何とかする。無理ならそれまで。……そう思っています」

ノンナ「…」

ヴェニフーキ「…だから、忘れて下さい。私のことも、西絹代のことも」

ノンナ「それは不可能です」

ヴェニフーキ「何故?」

ノンナ「…あなたを見ていると」


ノンナ「まるで、自分が捨てられているような気分になるのです」


ヴェニフーキ「……。気のせいですよ。私は薄汚い生ゴミです。あなたのような人格者とは比較にならない」

ノンナ「いえ。立派だとか下賤だというものは関係ありません。これは私の本能がそう語りかけるのです」

ヴェニフーキ「…」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/10(土) 19:23:28.56 ID:xOZKrxzA0<>
ノンナ「私が今、あなたの力となれなかったならば…」

ノンナ「死ぬ間際まで後悔し続けることになる」

ヴェニフーキ「…」

ノンナ「私に、出来ることはありますか?」

ヴェニフーキ「………」

ノンナ「ここでは何ですから、プラウダに行きませんか?」

ノンナ「そこでゆっくり、話し合いましょう」

ヴェニフーキ「私は英語がてんで駄目ですので、ロシア語は尚さらです」

ノンナ「ふふ。構いませんよ。モスクワは一挙に建設されたのではありません」

ノンナ「少しずつ、打ち解け合いましょう…」スッ

ピタッ

ヴェニフーキ「っ…!」

ノンナ「あなたは様々な悩みを抱えておられる方…」

ノンナ「ですが、鷹のような鋭い瞳の奥には」

ノンア「屈強な戦士が持つ固い意思と、聖母のような優しい温もりを感じます」

ヴェニフーキ「ノンナさん…?」

ノンナ「絹代さん………Любо












「あら? 東側からのスカウトかしら?」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/10(土) 19:31:03.31 ID:xOZKrxzA0<>
ノンナ「!」

ヴェニフーキ「…」

アールグレイ「Prynhawn da. Ms. Comiwnyddion」

ノンナ「…Добрый вечер. …Капитализма?」

アールグレイ「自己紹介が遅れましたわ。聖グロリアーナ女学院・OGのアールグレイと申します」

ノンナ「プラウダ高校のノンナです。OG…ですか」

アールグレイ「他校の生徒さんが我が校の生徒に"お声"をかけているようで?」

ノンナ「彼女が、ヴェニフーキさんが悩んでおられるので、手を差し伸べた次第です」

アールグレイ「お力添え感謝致します。…ですが、これは我が校の問題でしてよ?」

アールグレイ「他所様が介入すべき事柄ではありませんわ」

ノンナ「学校の違いなど些細なことです。目の前に困った仲間がいるのに助けない理由はありません」

ヴェニフーキ「…」

アールグレイ「素晴らしいお心がけですわ。我が校の規範にしたい程に」

アールグレイ「…ですが、やはり"境界線"は明確にしておかなければなりませんわ」

アールグレイ「"行く場所進む場所が自分の領域"というわけにはいきませんもの」

ノンナ「"部屋で縮こまっているだけ"では問題は解決しません。悪化するだけです」

アールグレイ「そのお部屋に連れ込もうとした理由は?」

ノンナ「先程述べた通りです」

アールグレイ「そう。困った仲間に手を差し伸べる…ね?」

ノンナ「ええ」

アールグレイ「そんな心優しい人が」





アールグレイ「どうのようにして猛禽類のような目をするものでしょう?」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/10(土) 19:34:28.48 ID:xOZKrxzA0<>
ノンナ「何の事でしょう…?」

アールグレイ「…フフッ」

ノンナ「何が可笑しいのですか?」

アールグレイ「ヴェニフーキ。向こうに車を置いてあるから先に行ってなさい」

ヴェニフーキ「…かしこまりました」

スタスタ....


ノンナ「べ…絹代さん…!」

...ピタッ

ノンナ「っ…」



西「ありがとうございます。ノンナさん」



ノンナ「絹代さん……どうして…?」

西「…私には、やらないといけない事があるんです」

西「その為に、他人も自分も騙さないといけない」

西「…だから、この事は無かったことにしてください」

ノンナ「あなたには学校も仲間もいます…だから…!」

西「お願いします!」

ノンナ「ぐっ…!」

西「…ノンナさんにはカチューシャさんがいらっしゃいます。大切な人…ですよね?」

ノンナ「カチューシャは私の大切な同志です! そして絹代さん! あなたも大切な

ヴェニフーキ「お先に行っております。アールグレイ様」

ノンナ「ぁ…ぁ………!」

アールグレイ「こういうことなの。御免なさいね?」

ノンナ「う…嘘だ……」

アールグレイ「いい事を教えてあげる」









アールグレイ「あの子、もう"大人"なの」ニコッ


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/10(土) 19:44:24.96 ID:xOZKrxzA0<>

ノンナ「!!!」


アールグレイ「ふふっ。もう恋に恋する乙女では無いし、他人(ひと)の身体の味も知っている」

アールグレイ「どこを舐めたら相手が悦ぶかを知ってるし」

アールグレイ「快楽の蕾がほころびる様子をまじまじと眺める人がいる」

アールグレイ「あの子の牝の顔を知る人がいる」

ノンナ「…ッ……!!」

アールグレイ「それにね?」



アールグレイ「あの子の身体には、もう別の人の血が流れているのよ」フフッ



ノンナ「…なっ!!」

アールグレイ「…あらあらいけない。私としたことがつい話し込んでしまいましたわ」

ノンナ「…外道め……!」

アールグレイ「あの子も最初そんな顔をしていたわ」

アールグレイ「怒りで何もかも焼き尽くしちゃいそうな顔」

アールグレイ「そんなあの子が私に助けを求めたから、私はあの子に協力することにした」

ノンナ「これは協力なんかじゃない! 奴隷ですッ!!」

アールグレイ「解釈は人それぞれですわ。それでは、御機嫌よう」

ノンナ「……ぐ…っ…………」

<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/06/10(土) 20:22:24.34 ID:VlZKXqbI0<> グレ様もなかなか悪意に満ちた解説をなさるww <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/06/11(日) 12:09:11.08 ID:4FwYbDiiO<> このグレイ様リボン成分マシマシなの <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/12(月) 19:55:53.46 ID:w3WCBNpe0<>


〜〜〜〜




【車の中】



ガチャ バタン


アールグレイ「お待たせ。それじゃ行きましょうか」

ヴェニフーキ「…」

アールグレイ「どうしたの?」

西/ヴェニフーキ「あそこまで言う必要ってあったんですか?」

アールグレイ「聞いていたのねこの子ったら…」

西「ええ」

アールグレイ「この事を知られると困るのよ。だから」

西「だからといって、わざわざアールグレイさんが"悪役"になる理由は無いのでは?」

アールグレイ「あらら。見抜かれちゃったわね」

西「わかりますよ。どうせアールグレイさんのことだから」


西「"絹代さんはOG会に縛られ、服従を余儀無くされている…"」


西「…そういう印象をノンナさんに与え、私への意識を逸らそうとしたのだろうと」

アールグレイ「協力してもらう以上、お仕事が終わったあとの生活を保証するのが筋よ?」

アールグレイ「あなたの言葉を借りるなら…」


アールグレイ「"邪道には邪道の流儀がある"ってね?」
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/12(月) 20:29:32.27 ID:w3WCBNpe0<>
西「…」

アールグレイ「これで良いのよ」

西「それであなたが全部抱え込んで

アールグレイ「それがこの件に対する私の責任と覚悟」

西「…」

アールグレイ「やってる事がやってる事ですもの。綺麗事で済む話なんてそうないわ」

西「…」

アールグレイ「それに、あなたは"愛する人"を守るために戦うのだから、他の人がどうこうなんて言ってたら嫉妬されるわよ?」

西「…ダージリンは?」

アールグレイ「自宅よ」

西「…」

アールグレイ「人は誰しも孤独なの。王道を進もうが、邪道になろうが」

西「…わかってますよ。そんなことくらい」

アールグレイ「それでもあなたのように悩むのだから、人間が優れた生き物だってわかるわね」

西「私としては悩みたく無いですけどね…」

アールグレイ「それで良いのよ。何とも思わなくなってしまったらそれこそ人間じゃなくなってしまう」

西「…」

アールグレイ「…でも、確かにそういった私情は"良い仕事"の妨げになるわ」

アールグレイ「だから、悩みを忘れるためには」

西「仕事に集中しろ、でしょう?」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/12(月) 20:32:50.03 ID:w3WCBNpe0<>
アールグレイ「そうよ。ちゃんとわかってるじゃない」

西「…また、何か新しいことでも?」

アールグレイ「ええ。…ダージリンのお家に着くまでには終わる内容よ」

西「…」

アールグレイ「あなたがこの間設置した盗聴器、覚えてる?」

西「ええ。何か拾ったんです?」

アールグレイ「当たり。しっかり会話が録音されてたわよ」

西「どんな会話ですか?」

アールグレイ「慌てない。今聞かせてあげる」


カチッ

ザーー



『ご苦労様です。グリーン、そして皆さん』

『お疲れ様です。アッサム隊長』

『何か飲みますか。…といってもあなた達はコーヒーでしたわね』

『ええ。いつもすいません』

『良いわよ。ちょうどコーヒー豆が余ってたので』ゴソッ

『そのコーヒー、なかなか美味しいんですよね。こう、芳醇な香りといい、濃厚なとろみといい…』

『私は紅茶の方が好きですわ』

『あはは。私たちぐらいですからね。紅茶でなくコーヒーを好んで飲むのは』

『ふふ。好みもまた個性でしてよ』



西「! この声…」

アールグレイ「アッサムとGI6よ」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/12(月) 20:38:48.87 ID:w3WCBNpe0<>

アッサム『…それで、何か掴めましたの?』

グリーン『我々はブラックプリンス乗員として、彼女の動向を観察していましたが』

グリーン『先日の知波単学園との練習試合時に言った"聖グロを変える"という言葉。それが気になります』

アッサム『…』


西「私がアッサムさんが白か黒かを判断するために言ったやつですね」

アールグレイ「ええ。見事に議題に上がってるわ」



アッサム『あの子の"変える"が何を意味するかはわかりません』

アッサム『…しかし、行動を見ると、必ずしもそれが悪いとは思えませんでした』

グリーン『ええ…。寡黙な方かと思いきや、言う時は刀で一刀両断するかのようにバッサリと言い切りますね』

ランサム『何を考えているのかわかりませんが、一定の理念に基いての行動に見えます』

モーム『筋は通っています』

フレミング『私も皆さんに同意です』



西「…モームさんって喋るんですね」

アールグレイ「喋るわよ?」

西「私がいる時は一言もしゃべらないのに…」

アールグレイ「それはお気の毒様」

西「なんかちょっと悲しいです」




アッサム『あなた達も異口同音に語るように、あの子、ヴェニフーキの考えは私もわかりません』

アッサム『…ですが、私はあの子が悪い子だとは思いません』


西「………」

アールグレイ「良かったわね。あなたの予想が的中よ」

西「ええ」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/12(月) 20:47:08.46 ID:w3WCBNpe0<>

アッサム『あの子は確かに無口ですし表情もほとんど変えない』

アッサム『一方で何かを言う時はバッサリと言う。笑えないジョークも含めて』

グリーン『あはは。たしかに彼女のジョークは笑えないものが多いですね』

ランサム『おかげで密閉された戦車内が涼しくなります』

モーム『ちょっと寒いくらいです』

アハハハハハ!



西「…今度会ったら17ポンドの的にしてやる」ワナワナ

アールグレイ「やめなさい」

西「何がGI6だ! "愚痴タレ陰湿シックス"にでも改名しろばーか!!」



アッサム『考えは読めないけれど、その行動からは堅牢なる意思を感じます』

グリーン『同意です。一定の信念に基づいた行動だと見ています。その信念が何なのかはさておき』

アッサム『だからこそ気になるのです。あの子が何故あんな悲しい顔をするのか』

アッサム『何故、OG会とやり取りをするのか』

アッサム『何故、自らを邪道などと呼ぶのか………』

GI6『……』



西「こんな事やってるわけですからね。邪道と呼ばない方がおかしい」

アールグレイ「私からするとあなたの邪道なんて甘っちょろいわ」

西「アールグレイさんは邪道というより助平ですからね」

アールグレイ「拳が届く距離でよく言えるわね…」

西「事故を起こしては困るので片手運転はご遠慮ください」

アールグレイ「言ってくれるじゃない」

西「…」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/12(月) 20:50:38.07 ID:w3WCBNpe0<>
アールグレイ「これで、アッサム達がどちら側なのかがわかったわね」

西「ええ。盗聴器さまさまです」

アールグレイ「ただ、アッサムが反・聖グロ派じゃないとわかったことで問題が増えたのよ」

西「…ええ、結局は"誰が内通者か"がわからなくなってしまったわけですからね」

アールグレイ「それもそうだけど、その問題というのがこの先のやり取り」

西「ん…」



グリーン『………わかりました』

アッサム『えっ?』

グリーン『彼女が邪道を名乗るのなら、我々も邪道として、その真意を探りましょう』

アッサム『どういうことですの…?』


グリーン『彼女の部屋に盗聴器を仕掛けます』


アッサム『!! グリーン! そのような事をしてはなりません!』

グリーン『自分が何をやっているかは重々承知しています』

グリーン『…ですが、これも聖グロの為。前隊長のような事はもう二度と起きて欲しくないので』

アッサム『だ、だからといって盗聴だなんて許しませんわ!』

グリーン『これは私たちのGI6としての信念です』

アッサム『うっ…』

グリーン『問題がなければ速やかに撤去します。我々が知るべきことは、彼女が白か黒かだけです』

アッサム『…』

グリーン『これは私がGI6の部長として、この問題を解決するための戦いでもあるんです…どうか』

アッサム『………わかりました』

グリーン『ご理解感謝いたします』




西「!!」

アールグレイ「今のやり取りが何を意味するかはわかったわね?」

西「ええ…」



西「盗聴器を仕掛けたのはGI6じゃなかった…」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/12(月) 20:56:04.63 ID:w3WCBNpe0<>
アールグレイ「そうよ。アッサムやGI6とは別の誰かが、あなたのことを探ろうとしている」

西「…結局、敵が増えただけでしたね………」

アールグレイ「違うわ。前に進んだから別の壁が見えただけ」

アールグレイ「決して停滞しているわけではない」

西「そうでしょうか…」

アールグレイ「ひとまず、アッサムが"内通者"じゃないことがこれでわかった」

アールグレイ「だから、アッサムやGI6を味方につけなさい」

アールグレイ「それだけであなたは有利になれるわ」

西「そうですね」


アールグレイ「ただし、ヴェニフーキとして」


西「…ですよね」

アールグレイ「当たり前じゃない」

西「なんだかモヤモヤした気分です」

アールグレイ「汚い例えね…」





アールグレイ「…さて、着いたわよ」

西「ええ。ありがとうございます」

アールグレイ「さっき言ったことは忘れないで頂戴。あと、ちゃんと回収するのも忘れないで」

西「わかってますよ」

アールグレイ「それじゃ、ご機嫌よう」


ブロロロロロロ.....



最初からアッサムさんは白だとわかってた。

それは今日までの彼女の言動を見ればだいたい予想できる。

ただ、"白である"ということを裏付ける証拠が無かったから今日まで疑っていた。


これでようやくアッサムさんやGI6の面々に対し疑心暗鬼にならずに済みそうだ。

そう考えるとたしかに一歩だけ前に進んだと思う。ほんとに一歩だけど。


問題はやはり"じゃぁ犯人は誰なのか"にある。

わざわざ盗聴器まで仕掛けるような人だ…。



〜〜〜


<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/06/13(火) 02:06:38.26 ID:92f/72OO0<> なんか本格サスペンスしてきたなあ <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/13(火) 19:28:34.50 ID:sPC1ktF60<>

【ダージリンの家】



西「ただいま。ダージリン」

ダージリン「お帰りなさい。あなた」

西「ふぅ…」

ダージリン「お疲れ様。本当に、ありがとう」

西「どう致しましてでございます。無事にダージリンの尊厳を守れて良かったですよ」

ダージリン「あなたが"降参"って言った瞬間、心臓が止まるかと思うくらい嬉しかったわ」

西「あはは」

ダージリン「もちろん、負けたことにじゃなく、私の考えを理解してくれたってことよ?」

西「わかってますよ」

ダージリン「ふふっ。ありがとう絹代さん。愛してる」ギュッ

西「私も死ぬほど愛してますよ」

ダージリン「…死んだら嫌よ」

西「あはは」ソワソワ

ダージリン「どうしたの?」

西「その…ダージリニウムが切れ掛かってきたので…」ギュー..

ダージリン「何よダージリウムって」

西「私の燃料です」

ダージリン「そう。じゃぁ私はニシニウムを補充しますわね」フフッ

西「キヌニウムにしてくださいよそこは」

ダージリン「はいはい」フフッ


〜〜〜

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/13(火) 19:31:40.34 ID:sPC1ktF60<>

西「…ってことがありました」


ダージリン「やっぱり、アッサムは共謀者ではなかったのね…」

西「ええ。あの人は頭は良さそうですけど、悪さをする度胸というものは無さそうですし」

西「戦車道通じてやり取りしていたら、『ああ、この人じゃないな』ってわかったんです」

ダージリン「そう?」

西「ええ。それを"確定"させるための"もうひと押し"が無かったので、アールグレイさんから借りた盗聴器を隊長室に仕掛けました」

ダージリン「そんなことまでしたの…?」

西「私も驚きましたよ。そこまでするのかと」

西「…まあでも、その結果アッサムさんやGI6の面々は内通者ではないと分かったんですよね」

ダージリン「そうなると…」

西「ええ。"犯人は他にいる!"ってやつですね…」

西「私の部屋にご丁寧に盗聴器まで仕掛けちゃう犯人が…」

ダージリン「ええっ!?」

西「わっ!?」

ダージリン「あなた盗聴されてたの!?」

西「あれ? 言いませんでしたっけ?」

ダージリン「言ってないわよそんなこと一言も!」

西「あれぇ…そうでしたかな…」

ダージリン「それでどうなったのよ!?」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/13(火) 19:35:06.75 ID:sPC1ktF60<>
西「そのままアールグレイさんの指示のもと、ジャケットごとクリーニングに」

西「きっと今ごろ洗濯機のなかでモミクチャになってるでしょう」

ダージリン「………」

西「なので、盗聴器と一緒に探知機も貸して貰ったんです。ほら」

ダージリン「…古い携帯電話みたいね」

西「ええ。曰くこういう形の方が怪しまれないと」

ダージリン「確かに」プイッ

西「…怒ってるんですか」

ダージリン「別に」

西「怒ってるじゃないですか…」

ダージリン「あなたにじゃなく、犯人に」

西「…」

ダージリン「人様の恋人のプライベートを盗聴するだなんて最低よ」

西「そうですね。とんだ助平です」

ツンツン

ダージリン「って何やってるのよ助平」

西「あはは。ダージリンの身体に当てたら何か出てこないかなぁ〜って」

ダージリン「…何も出てくるわけ無いでしょう」

西「あはは」ツンツン

ダージリン「胸をつつかないで下さるかしら」

西「良い弾力です」ツンツン

ペシッ!

西「いだっ!」

ダージリン「バカなことしないの。壊れたらどうするのよ」

西「むぅ」

ダージリン「………ほら」ギュッ

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/13(火) 19:36:31.49 ID:sPC1ktF60<>
西「ん…」

ダージリン「どうせ、あなたのことだから」

西「…む。人を性欲の塊みたいに言わないでください」

ダージリン「違うのかしら? 会うたびに必ず裸にされるけれど?」

西「…」

シュルル

パサッ

ダージリン「ふふっ…」

西「…ダージリンのばか」

ダージリン「はいはい」

西「っぅ…ど…何処に指入れてるんですか…!」

ダージリン「あなたがこの間私にしたことを真似してるだけよ?」

西「ぐぅ…」

ダージリン「まさか、あなたがお尻に指を入れちゃうなんて思わなかったもの」フフッ

西「…っ…私は……中には入れて……ぅぁ………」

ダージリン「………気持ちいい?」ボソッ

西「………変な……気分です……」

ダージリン「そう。…だいぶ柔らかくなってきたわね? もっと入るかしら?」

西「!? っぅ…あぁぁ……だ、だめ………!」

ダージリン「んふふっ…絹代さん…」

西「…あぁぁ……!」


ダージリン「だ・い・す・き」ボソッ



………その後のことはよく覚えていない。



〜〜〜

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/13(火) 19:38:49.18 ID:sPC1ktF60<>
西「………」

ダージリン「うふふっ。気持ち良かった♥」

西「あは…は…し、死ぬかと思いました…」ハァ..ハァ...

ダージリン「絹代さん、ずっとあんあん喘いでいたものね」

西「え…」

ダージリン「覚えていないの?」

西「え、ええ…」

ダージリン「そう…。虚ろな目をして涎を垂らしながら」

西「え…?」


ダージリン「"中じゃなきゃ嫌…"とか」

ダージリン「"ダージリンの赤ちゃん産ませて……"とか」


ダージリン「言ってたのよ? 絹代さん♥」ウフフ

西「…」



西「はぁぁ!!?」



ダージリン「うふふ♥」

西「そんなの嘘に決まってます。私がそんな事言うなんてありえない」

ダージリン「あまりに可愛かったから録音しちゃったわ♪」

西「え」

ダージリン「あなたの持ってるボイスレコーダーで♪」

西「え、え」



カチッ

『あぁんっ……ぁぁぁ……!』



西「なっ!!?」

ダージリン「ふふっ♪」


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/13(火) 19:40:52.28 ID:sPC1ktF60<>

『だーじりん…お願い………もっと……』

『……嫌です……ダージリンのじゃなきゃ嫌ぁ………』

『おねがい……ダージリン……ダージリン………ぁぁぁぁ………!』




ダージリン「ふふふっ。私だけが知ってる"乙女"な絹代さんねっ♪」

西「」

ダージリン「どうして絹代さんはこんなにも可愛いのかしら」ウフフフフ

西「う」

ダージリン「う?」


西「うわあああああああああああああああああ!!!」


バサッ!!!


ダージリン「ちょ、ちょっと! 布団に包まらないで出てきなさい!」

西(布団)『嫌です! もう絶対ここから出ません!!』

ダージリン「そんな引きこもりみたいなこと言わないの」

西(布団)『引きこもりでも何でもいいです! も、もう恥ずかしくてダージリンの顔見れない………』



あ、あ…あんなこと言ってたのか私は!?

たしかにその…気持ちよかっ…いや、そうじゃなくてっ!!

うわああああああもうダージリンの顔見れない!!

うわあああああああああああああん!!!!

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/13(火) 19:44:17.24 ID:sPC1ktF60<>
ダージリン「そんなに落ち込むことないわよ」

西(布団)『そりゃ聞く方はそう言えますよ。私は…私は…うぁぁぁぁん!!』ゴロゴロ

ダージリン「ちょっと転がらないの…ってそっちは…」

ドテッ!

西「うがっ!?」

ダージリン「だから言ったのに…」

西「うぅ…」ヒリヒリ

ダージリン「ほら。いつまでもしょげてないで起きなさい」

西「…誰にも言いませんか?」ジトー

ダージリン「言うわけ無いでしょう」

西「…何故そう言い切れるんです?」

ダージリン「自分の性行為を他人に話す恥知らずが何処にいるのかしら?」

西「…」

ダージリン「…怒るわよ?」

西「まだ何も言ってないじゃないですか」

ダージリン「それにね? "乙女"な絹代さんは私だけのものにしたいの」ウフフ

西「む…」

ダージリン「ほら、だから早く起き上がりなさい」

西「恥ずかしくて死にそうです。いや、いっそ殺してください…」

ダージリン「私を人殺しにしないで頂戴」

西「む…」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/13(火) 19:51:08.15 ID:sPC1ktF60<>
ダージリン「心と身体を快楽に支配されたら誰だってあんな風になってしまうものなのよ?」

西「…ダージリンもですか?」

ダージリン「ええ。絹代さんが欲しくておねだりしちゃうわ」フフッ

ダージリン「"絹代さん、私のモノになって…"ってね?」

西「…私の何が欲しいのです?」

ダージリン「全部よ?」

西「…なら全部食べてください。肉も腸(はらわた)も骨も残さずボリボリと。余生はダージリンの栄養となって過ごしますので」

ダージリン「怖いこと言わないで頂戴」

西「ははは……」チラッ


西「……ん?」

ダージリン「?」


西「あんなのありましたっけ?」


ダージリン「えっ? …これかしら?」スッ

西「ええ。前来た時には無かったような…」

ダージリン「西グロの方から頂いたのよ。このベレー帽」

西「西グロから?」

ダージリン「ええ。だけど私は被り物はちょっと…」

西「そうなんですか」


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/13(火) 19:54:35.28 ID:sPC1ktF60<>

ダージリン「…」ヒョイ

ポフッ

西「んっ、」

ダージリン「ふふ。私よりもあなたの方がずっと似合うわ」

西「…そうですか?」

ダージリン「ええ。白銀の髪とマッチしているわよ。気に入ったらその帽子あなたにあげるわよ」

西「…でも、元はダージリンへとプレゼントされたものでは?」

ダージリン「そうだけれど…。被ってくれる人が使う方が帽子もきっと喜ぶと思うの」

西「ふむ…。ではではこれを被って聖グロに行きませう」

ダージリン「ふふっ。良いと思うわよ」

西「有難く頂戴します」

ダージリン「でも、お部屋の中で被るのはマナー違反ですわよ?」

西「心得ております」



…ということで、ダージリンから帽子をもらった。

柔らかくて平らで丸い帽子だ。ダージリン曰く"アーミーベレー"と呼ぶそうだ。

真っ黒な帽子だけど、楕円形で琥珀色の徽章がついている。

被った姿を鏡で見てみた。悪くはない…と思う。多分



〜〜〜

<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/06/13(火) 21:06:06.00 ID:92f/72OO0<> 乙
あぁ〜砂糖漬けになるんじゃ〜^^ <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/15(木) 22:45:26.28 ID:qLKCdNm70<>

ダージリン「って、絹代さん!」

西「ど、どうしました?」

ダージリン「首!」

西「え、クビ?」

ダージリン「前より酷くなってるじゃない!」

西「そうですか?」

ダージリン「そうよ! 掻いちゃ駄目って言ったのに!」

西「…」



全く気づかなかったけど、首筋がボロボロになってる。

…おかしいな。掻き毟ってなんかいないはずなのに。

寝ているときに無意識に掻いちゃってるのかな…???

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/15(木) 22:46:38.97 ID:qLKCdNm70<>
ダージリン「ほら、動かない」ヌリヌリ

西「ん…」

ダージリン「全くもう。痒いなら掻かないでお薬を塗りなさい」

西「…そうします」

ダージリン「はいこれ。あなたにあげるから、定期的に塗っておきなさい」サッ

西「恐縮です…あ」

ポロッ コロコロ....

西「っ…」

ダージリン「ちょっと何をして…!!!」




ダージリン「絹代さん…手が震えているの……!?」



〜〜〜

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/15(木) 22:49:36.63 ID:qLKCdNm70<>

【病院】


医者「身体に異常は見つかりませんでした。ただ…自律神経失調症の可能性が考えられます」

医者「いわゆるストレスから来る手足の震え・しびれですね」

西「…」

医者「それ以外にもなかなか寝付けないとか、体がだるいといった症状も出てくるかもしれません」

医者「薬を処方しておきますが、一番の解決はストレスを無くす事です」

西「…わかりました。ありがとうございます」

医者「お大事に」


ガチャ

ダージリン「! どうだったの…?」

西「"筋肉疲労"って言ってました。砲弾を何度も運んでたのが原因でしょうね」

ダージリン「でもあなたは車長でしょう? 砲弾を運ぶことなんて無いはずよ」

西「あはは。たまに車長以外の役割を担って練習指示してるので色々やってるんですよ」

ダージリン「そう…」

西「さすがティーガーを叩ける戦車砲だけあって弾も重たいんですよね。装填手の苦労がよくわかりました」

ダージリン「………」



…とうとう身体にストレスが回ってきた。

眠れないとか、体がだるいといったものは以前からあったけど、手の震えにまでなるとは…。

あと、ダージリンに怒られた首のそれもここから来ているのかもしれない。

そろそろ終わらせないとこっちが先に終わっちゃいそう。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/15(木) 22:51:10.49 ID:qLKCdNm70<>


【聖グロ 紅茶の園】



聖グロ生1「あ…ヴェニフーキ様、おかえりなさいませ」

ヴェニフーキ「ただいま戻りました」

聖グロ生2「今までどちらへ? アッサム様が心配されてましたよ…」

ヴェニフーキ「色々と」

聖グロ生2「そうですか…って、その帽子、どうされたのですか?」

ヴェニフーキ「立ち寄ったショップで見つけて気に入ったので買いました」

聖グロ生1「ふふっ。よく似合ってます」

ヴェニフーキ「ありがとう」

ローズヒップ「あら? ヴェニフーキ様おかえりなさいませー!」

ヴェニフーキ「ただいま」

ローズヒップ「おや? そのお帽子はどうされましたのでございますの?」



案の定、皆にベレー帽の事を尋ねられる。

そりゃそうだ。白銀色の髪に黒い帽子なのだから気付かない訳がない。

…今更だがこの白っぽい髪色は茶色や金色といった髪色の生徒が多い聖グロではなかなか目立つ。

なんだってアールグレイさんはこんな色を選んだのだろうか…。

それとここ最近やたら色んな生徒に話しかけられるのだが一体何があったんだろう?

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/15(木) 22:59:13.32 ID:qLKCdNm70<>

〜〜


それから私は自室に戻り、探知機を取り出す。

この時点で既に電波を検知しているようでランプが点灯している。

予告通りGI6は私の部屋に盗聴器を仕掛けていた。


ベッドの中とか机の周辺とかに仕掛けておけばいいものを、わざわざシャンデリアの中に隠すものだから場所がわかっても撤去するのに手間がかかる。

やっとの思いで手にとることが出来た盗聴器は前回仕掛けられたものとはまた別の形をしていた。

GI6こと情報処理学部の生徒が作成したのかな? 以前のものよりもしっかり出来ている。


思えばあの時は、アールグレイさんとの電話でGI6の話をしたから盗聴器の存在に気がついた。

そして、そのやり取りから盗聴器を仕掛けたのはGI6だと思っていた。

ブラックプリンスがやってきたあの時にGI6とは対面したので、その過程でジャケットにヒョイとやられたと思っていた。

しかし、盗聴したやり取りを聞いて盗聴器を仕掛けたのがGI6ではないと知ったう。

ともなればあの時、GI6以外の何者か仕掛け…



盗聴器はGI6と知り合った時に仕掛けられたと思っていた。

でも違った。

ということは別の誰かが。

だれが、どこで、いつ仕掛けたのだろうか…


…ん?



"いつ?"






サーッと血の気が引いていく。

全身の産毛がゾワッと逆立つ。










盗聴器はサンダース戦より以前に仕掛けられた………?!

<> 訂正 
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/15(木) 23:00:59.65 ID:qLKCdNm70<> 誤: しかし、盗聴したやり取りを聞いて盗聴器を仕掛けたのがGI6ではないと知ったう。

正: しかし、盗聴したやり取りを聞いて盗聴器を仕掛けたのがGI6ではないと知った。 <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/15(木) 23:05:05.33 ID:qLKCdNm70<>


ヴェニフーキ「………そういえば………カフェがあった…な」



手にした盗聴器に向かってぼやく。

何故そんなことを言ったのかはわからない。

ただ、恐怖から逃れるためだったのかもしれない。

私は誰かに監視されている。


今もなお。


ぽりぽり

ぽりぽり


首が痒い。

ダージリンにもらった薬を塗ってみたけど痒みはおさまらない。

それどころかどんどん酷くなっていく。

我慢できないほど痒い。



がりがり

がりがり


爪の中に垢なのか皮膚なのかわからないものが食い込んでた

ヌルッとする。血かな。

でも痛くない。むしろ痒い…。



〜〜

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/17(土) 23:48:07.04 ID:390tEMBw0<>


【聖グロ カフェ】



首の痒みが引いてきた頃にカフェへ向かった。

傷口にはダージリンから貰った薬を塗りたくったけど、これで痒みが引いてくれるとは思えない。

きっとまた、首が痒くなってバリバリガリガリ掻きむしると思う。

このまま掻きむしったらそのうち頸動脈でも切って血がブシャーってなりそうだ。

そうなったら私、死ぬのかな…。




「おや、奇遇ですね?」



盗聴器の持ち主と"合流"した。

リアルタイムで監視していたのだろうか。

私がカフェに入りカウンター席に腰を下ろした直後にやってきた。

あくまで偶然を装って。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/17(土) 23:52:43.70 ID:390tEMBw0<>

ヴェニフーキ「お洒落なカフェがあって、気になったので寄ってみました」

グリーン「なるほど。私もここの雰囲気が好きです。もっとも紅茶が好きな生徒が多いので、ここに来るのは私たちや職員の方くらいですですけど」

ヴェニフーキ「そうですか」

グリーン「ええ。そういえばヴェニフーキさんは戦車内では紅茶を飲みませんよね?」

ヴェニフーキ「私にとってカップ片手に戦車に乗るというのは至難の業ですから」

グリーン「あはは。ごもっともです」



彼女はこの店は何度も利用しているようで、造作もなく店員さんに注文をする。

一方で私は初めてなので何をどう頼めばいいのかわからず、ひとまず彼女がオススメするコーヒーを注文した(自白剤とか入ってないよね…?)。

カフェといっても、学生やOLが休憩時に立ち寄るようなものとは程遠く、ハードボイルドなドラマや映画に出てくる寂れたバーみたいだ。

絢爛豪華な聖グロには似つかわしくないためか、私たち以外に客はいない。




グリーン「いかがです? 紅茶だけでなくコーヒーもまた上質な豆を使っているんですよ」

ヴェニフーキ「ええ。苦いです」

グリーン「あはは。そういうものですよ。その苦さのなかに良さがあるんです」



あいにく私は紅茶はもちろんコーヒーの心得もないので、この真っ黒な液体は「苦い」以外の感想が出てこない。

正直、こんな下品な泥水を好き好んで飲む連中の気が知れない。

…そう思っていたらグリーンさんがコーヒーのことを語りだした。

どうやらこの人は本当にコーヒーが好きなようだ。様々な銘柄の違いを語ってる。

曰く一日に何杯も飲んでるとのことだが、夜眠れなくなったりしないのかな?

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/17(土) 23:54:46.18 ID:390tEMBw0<>
ヴェニフーキ「グリーン様は、ここはよく利用されるのですか?」

グリーン「ええ。私含めて小説部の人たちはよく通いますよ」

グリーン「この落ち着いた雰囲気だとインスピレーションが働くので筆が進みます」

ヴェニフーキ「なるほど」

グリーン「ときにヴェニフーキさん」

ヴェニフーキ「何でしょう?


グリーン「何かお困りでも?」


ヴェニフーキ「…」

グリーン「何やら、顔に疲れが見えますね?」

ヴェニフーキ「…」

グリーン「同じ戦車に乗る仲です。良かったら相談に乗りますよ」



さっそく勝負を仕掛けてきたか。

相手は私の動向を探っているのだろうけど、私は既に目的を知っているので、心理戦みたいなものを繰り広げるつもりはない。

さっさと目的を果たして帰って寝よう。…コーヒー飲んで眠れるかわかんないけど。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/17(土) 23:57:06.28 ID:390tEMBw0<>

グリーン「ここには私達以外誰もいないので心配はありません」

ヴェニフーキ「…」

グリーン「ええ。悩みは誰かに相談するだけでも楽になります」

ヴェニフーキ「…そうですね」

コトッ

ヴェニフーキ「部屋にこういったものを仕掛けられて困っています」

グリーン「これは…!」



そういってと先程の盗聴器をカウンターテーブルの上に置く。

こんな返しをされるとは思ってもなかっただろう。一瞬だけピクッと表情を変えた。

でも、さすがGI6の部長だけあって本当に一瞬の変化だった。ポーカーフェイスというやつか。

もっともその一瞬の変化を私は逃さなかったし、仮に気付かなかったとしても、この盗聴器の持ち主は既に特定済みだ。

盗聴によって盗聴の犯人を特定したわけだからね。何とも皮肉な話だよ。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/17(土) 23:59:05.66 ID:390tEMBw0<>

ヴェニフーキ「なにやら、盗聴器のようなものですね」

グリーン「盗聴器…」

ヴェニフーキ「ええ。どうやら私のプライバシーは筒抜けのようです」

グリーン「それはいけませんね…」

ヴェニフーキ「ええ…。こんなものを仕掛けて私の何が知りたかったのでしょう」

グリーン「さぁ…」


ヴェニフーキ「小説部こと、GI6の皆さんは」


グリーン「えっ?」

ヴェニフーキ「全部、知ってますよ。これを仕掛けたのがあなただということも」

グリーン「…」

ヴェニフーキ「それに、あなたを始め、ブラックプリンスの乗員が全員GI6だということは、お会いしたその日のうちにわかりました」

グリーン「………」



ブラックプリンスがやって来たあの日、あなたたちGI6と対面した。

そしてその日の夜、アールグレイさんとの電話であなたたちの正体がわかった。

もしあの電話でのやり取りがなかったら、私は今どうなってたかな…。



グリーン「仮に、ですよ?」

ヴェニフーキ「ええ」

グリーン「私達がGI6だとすれば、何を根拠にそう判断されたのです?」


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/18(日) 00:02:48.05 ID:274RzRl30<>
ヴェニフーキ「そうですね。適応力の高さでしょうか」

グリーン「適応力?」

ヴェニフーキ「小説部と名乗りながら、戦車の中で個々の役割をそつなくこなす」

ヴェニフーキ「まるで、戦車道をやっていた人のように」

グリーン「…」

ヴェニフーキ「しかも余計な私情私語を挟むことなく、与えられた任務を遂行する機械のように黙々と」

グリーン「…」

ヴェニフーキ「それを見て、"ああ。普通ではないな"と思った」

ヴェニフーキ「言うなれば、あなた方が私を疑うのと同じ」

グリーン「…なるほど。もう一つ良いですか?」

ヴェニフーキ「どうぞ」

グリーン「先日の黒森峰との練習試合ですが、」



グリーン「試合のあと、プラウダ高校の副隊長たちと何を話していたのです?」



ヴェニフーキ「………」




いきなり、話が急転した。

話をそらしたかったのだろうか。

それとも、こちらが本題なのだろうか。



― ………あなただったのですね。絹代さん



― あなたは様々な悩みを抱えておられる方…

― ですが、鷹のような鋭い瞳の奥には

― 屈強な戦士が持つ固い意思と、聖母のような優しい温もりを感じます



― …ノンナさんにはカチューシャさんがいらっしゃいます。大切な人…ですよね?



………あのとき、ノンナさんは私に何を伝えようとしたのか。

私を見て、何を感じたのか。

アールグレイさんが来なかったらどうなってたのか。


結局、あのやりとりからは何もわからなかった。

けれど、今このやり取りでわかったことは2つ。

私はノンナさんをまた傷つけようとしている。


そして、私の正体がバレかけている…!
<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/18(日) 00:07:20.29 ID:274RzRl30<>

ヴェニフーキ「聞いていたのですか?」

グリーン「あはは。何だか楽しそうだったので。羨ましくてついつい聞き耳を立てちゃいましたよ」

ヴェニフーキ「趣味が悪いですね。プライベートな話だったのに」

グリーン「いやいやすみません。ここだけの話にしましょう」

ヴェニフーキ「…」

グリーン「それで、一体どんなやり取りを?」



あのやり取りは決して"楽しそう"なものじゃなかった。

私のことを探らぬようにとアールグレイさんが本来しなくてもいい"クズ"を演じた。

そしてそのクズによる口撃でノンナさんを深く傷つけ、遠ざけようとした。

私が彼女を、ノンナさんをこれ以上傷つけたくない。

だから嘘を言った。



ヴェニフーキ「先日の練習試合のお礼として、今度はプラウダに遊びに来て下さいって言われました」

グリーン「なるほど、羨ましいですね。私も行ってみたいです」

ヴェニフーキ「実を言うと私も初めてです。色々ご馳走してくださるとの事で楽しみです」

グリーン「となると、お隣にいらっしゃった女性は…?」

ヴェニフーキ「?」

グリーン「ん?」



…?

何か、今、一瞬だけ話が噛み合わなかった?

なんかこう、互いに触れ合って動く歯車の歯が1枚だけ空振ったような…。


あのとき、ノンナさんとのやり取りをしたとき、後からアールグレイさんがやってきた。

聖グロの"前"隊長でもあるアールグレイさんは、ダージリンと同じく聖グロを象徴する一人。

普通の聖グロ生なら誰でもわかるはず。だから、別にウソをつく必要もない。

何故、そんなことを聞くんだろうか。


…ん?

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/18(日) 00:12:55.53 ID:274RzRl30<>

ヴェニフーキ「聖グロの卒業生ですよ。かつて戦車道をやっておられた」

グリーン「なるほど…」



どうも先程から会話が歯車が空転する。思うように進まない。

グリーンさんの策略なのかもしれないが、そういったものではなく、

まるでアールグレイさんを"知らない"とでも言わんとばかりの反応だ。

そして、知らないから、私から情報を引き出そうとしているかのように…。


ん?

知らない?

どうして?


GI6の部長を担う人が他校の隊長ならまだしも、聖グロで隊長をやってた"有名人"を知らないことは無いはずだぞ?

実際、アールグレイさん自身もGI6に他校の偵察を依頼したことがあるというのだから、多少なりともアールグレイさんとGI6に接点はあるはず。

なのにどうしてこうも知らなさそうな反応をする?

姿を見たら一目瞭然なのに…?

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/18(日) 00:15:57.21 ID:274RzRl30<>
グリーン「そのOGの方と、プラウダ高校の副隊長さんはどのような会話を?」

ヴェニフーキ「過去の試合についてお話しされてました。…残念ながら私が聖グロに来る前の話なので、蚊帳の外でしたが」

グリーン「なるほどなるほど」

ヴェニフーキ「…その方、聖グロの生徒なら誰だって知ってる人物ですよ?」

グリーン「ん?」

ヴェニフーキ「何しろ、隊長をやってた方なので」

グリーン「…」

ヴェニフーキ「…」



やっぱり、何か様子が変だ。

何故、『ええ。知ってますよ。アールグレイさん(前隊長)ですよね』という返答が来ない?

あのやり取りを見ていたのなら、聞いていたのなら知らないはずがないぞ?

本当に見てい…ん?




あの場所にいなかったのか!?



私から何か情報を引き出すためにあえて『見てましたよ』ってハッタリをかましているのか?!

…小癪な真似を。

そうならこっちも相応の意地悪をしてやるぞ。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/18(日) 00:18:45.65 ID:274RzRl30<>

ヴェニフーキ「特徴的な髪型と口調なので、見たら普通の生徒でもわかりますけど…」

グリーン「あはは。ちょっと意地悪をしましたよ」

ヴェニフーキ「意地悪?」

グリーン「知らないフリをしたら、何かヴェニフーキさんが教えてくれるんじゃないかなぁ〜と思ってたんですよ」

ヴェニフーキ「…では、ご存知と?」

グリーン「ええ」

ヴェニフーキ「でしたら、その人の名前、教えて下さい」

グリーン「えっ?」

ヴェニフーキ「人物です。私の横にいた、もう一人の人物」

グリーン「あぁ…」

ヴェニフーキ「…」

グリーン「…」


ヴェニフーキ「何故、黙るのです?」

グリーン「あはは。参ったなぁ…」

ヴェニフーキ「あのやり取りを見て、聞いた人なら誰でもわかりますよ」


ヴェニフーキ「聖グロの人間じゃなくても」


グリーン「えっ?」

ヴェニフーキ「もう一度聞きますが、私の横にいた人物は誰かわかりますか?」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/18(日) 00:22:41.17 ID:274RzRl30<>
グリーン「ふふっ」

ヴェニフーキ「…」

グリーン「さすがですね、ヴェニフーキさん」

ヴェニフーキ「…」

グリーン「実は見ていたのは確かなんですけど」

グリーン「ただ、見ていた位置が悪くて、お二人の後ろ姿しか見えなかったんですよ」

ヴェニフーキ「…」

グリーン「会話の内容はしっかり聞こえていたんで問題なかったんすけどねぇ」



…どんどんボロが出てくるが、これで確定した。

あんた、あの場所にいなかっただろ!

そして会話も聞き取ることができなかったはずだ!



ヴェニフーキ「会話の内容をしっかり聞いていたのに、あの人のこと、知らないのですか?」

グリーン「えっ…?」





― 自己紹介が遅れましたわ。聖グロリアーナ女学院・OGのアールグレイと申します


アールグレイさんはノンナさんに自己紹介をしていたんだよ!

だからやり取りを聞いていたならその人を知らなくても、会話の流れでアールグレイさんだと判断できる。

それが出来なかったことは"会話を聞き取れなかった"ことを意味する!


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/18(日) 00:28:10.14 ID:274RzRl30<>
グリーン「っ…!」

ヴェニフーキ「"プラウダ高校の副隊長たち"と言うのだから、見ていたことは間違いないでしょう」

ヴェニフーキ「しかし、あなたじゃない別の誰かが見ていたのだと思います」

ヴェニフーキ「それで、そこから得た情報を元に、私を揺さぶって何か情報を引き出そうとした」

ヴェニフーキ「…違いますか?」

グリーン「………」



実際、私達が話をしたあの海が見える高台は、周辺に隠れるような場所などなかった。

だから、私達の会話を聞くためには嫌でも姿を晒さなければならない。

私はともかく、並外れた洞察力・観察力を持つアールグレイさんやノンナさんが居て、誰一人それに気付かないわけがない。

もちろん私の服から盗聴器の類が発見されることもなかった。こう見えて定期的に探知機をチェックしているのだ。


そういったことから"聞き耳を立てた"はハッタリで、実際は会話をしていた様子を"離れた場所で確認しただけ"に過ぎないだろう。



ヴェニフーキ「…黙秘、ですか?」

グリーン「…」

ヴェニフーキ「では今度は、"誰が見ていたか"を当ててみます」

グリーン「えっ…?!」



その"確認した人"は会話が聞き取れない場所にいたため、アールグレイさんの"自己紹介"を聞けなかった。

そしてその人物の姿を見ても誰なのか分からなかった。

だから不明瞭な情報は、グリーンさんの尋問によって私から引き出そうという魂胆だったのだろう。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/18(日) 00:31:38.60 ID:274RzRl30<>


ヴェニフーキ「………フレミング、ですね。1年生の」



グリーン「っ!!」

ヴェニフーキ「彼女なら私の隣りにいた人物を知らないのもわかる」

ヴェニフーキ「面識がないのだから」

グリーン「………」



フレミングは1年生。

彼女が入学した時アールグレイさんはすでに卒業していた。

だから仮に名前を知っていたとしても、顔までは知らない。



― 確か、先代隊長の…

― そちらのお嬢様は初めましてね。アールグレイですわ



なにしろ、ダージリンのすぐ近くにいるペコですら、あの時が初対面だった。それも偶然の対面。

だから戦車道をやっていないフレミングがアールグレイさんのことを知らないのは無理もない。


ひとまず"会話を聞かれていなかった"。これだけわかれば後は私から追求することはない。

何故ならあの会話では私の"本名"が出ていたのだから…。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/18(日) 00:40:38.20 ID:274RzRl30<>
ヴェニフーキ「…以上です」

グリーン「………」

ヴェニフーキ「…」

グリーン「…」





グリーン「………さすがです。ヴェニフーキさん」




ヴェニフーキ「…」

グリーン「まさか、あなたがここまで私達の行動を読んでいたとは思いませんでした」



私も驚いている。

まさかまさか、あのGI6相手にここまで戦えるとは予想だにしなかった。

私は西絹代なのか?

本当にあの"アホ"の西絹代なのか?


微細な違和感やそれが何を意味するのかという洞察力・観察力、そして推理力が鍛えられたのかもしれん。

…ヴェニフーキと名乗って以来、あらゆるものを疑い、休まることなく気を張り詰めて生活するようになったせいで。

私から色んな物が削られていくうちに、私は鋭利になっていった。。

それは皮肉にも"実戦で学ぶ"というものなのだろう。陸でクロールの練習をするのとはわけが違う。


私は鋭くなるために様々なものを削って来た。


安息

知波単学園

私の戦車道

仲間

西絹代



生き残るため

戦うため。

勝つため。


"あの時"と同じように。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/18(日) 00:45:07.24 ID:274RzRl30<>
ヴェニフーキ「ただ、私はグリーン様たちと腹の探り合いをするのが目的ではありません」

グリーン「えっ…?」

ヴェニフーキ「あなたやアッサム様が聖グロを憂うが故に、私を疑っていることは知っている」

グリーン「と、言うと…?」

ヴェニフーキ「場所を変えます。皆が寝静まった頃に隊長室でアッサムさんも交えてお話しましょう」

グリーン「わかりました」



グリーン「あの時…あなたがいたら、あんな事には………」





一時の探偵ごっこを終えてカフェを後にした。

ようやく私はアッサムさんやGI6との疑惑を解消することが出来る。

彼女たちを味方につけることが出来れば私達が探しているモノもすぐに見つかるだろう。


………だが、私は重大なミスを犯してしまった。

そして、それは部屋に戻るまで気付かなかった。


















         コーヒー代、払ってないや……。






財布、部屋に置きっぱなしだった。

<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/06/18(日) 03:23:14.24 ID:pPPUrFek0<> 乙
こ、コーヒー代はGI6に奢らせたと思えば(震え声 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/06/18(日) 04:19:07.23 ID:PZBnO8QCo<> くっそwwwwwwww <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/06/18(日) 05:30:27.20 ID:zrCR/08c0<> 完全にネタ展開だが財布を忘れるって個人情報のカタマリほっといたようなもんやないか……(滝汗) <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/06/18(日) 10:08:33.13 ID:/m/HvSTSO<> 乙です。
このオチは予想できなかった(笑) <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/18(日) 22:08:13.90 ID:vSaTXsW40<>

【同日深夜 聖グロ 隊長室】



草木も眠る丑三つ時、私は聖グロの隊長室の扉を叩く。

隊長室にはアッサムさんとグリーンさんだけがいた。



グリーン「…遅かったですね」

ヴェニフーキ「今思うと、もう少し早い方が良かったと後悔しています」

グリーン「そうですね。眠たくなってきましたよ」

ヴェニフーキ「ええ。コーヒーでも飲んで眠気覚ましせねばなりません」

グリーン「…アレはおごりましたので、その代金分、しっかり話してくださいよ?」

ヴェニフーキ「ええ」



…やっぱり根に持っていたか。

こればかりは私が悪い。申し訳ない、グリーンさん。



アッサム「先ほどグリーンから聞きました。あなたが話をしてくださると…」

ヴェニフーキ「ええ。疑惑をかけられたままでは気分が悪いので、話すことにしました」

グリーン「…」

アッサム「…良かった」

ヴェニフーキ「ん?」

アッサム「あなたが、やっと話してくれる時が来て、安心しておりますの…」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「ずっと、不安でしたの…」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/18(日) 22:18:19.40 ID:vSaTXsW40<>




そして、約束通りアッサムさんとグリーンさんに説明した。


ダージリンの強制退学が、OG会の中に潜む反・聖グロ派による聖グロの破壊工作の一環だということ。

ダージリンを復学させ、奴らの工作を失敗に終わらせ、反体制派を壊滅させるため、私はOGの一人と手を組んだこと。

私の目的は、学園内にいる反体制派と繋がる"内通者"を特定し、そこから反体制メンバーを特定すること。


私の"正体"を除き、私が話すべきことは伝えた。


案の定ふたりとも「信じられない…」と唖然する。

無理もない。私もアールグレイさんから話を聞かされたときは耳を疑った。

聖グロでそんなことが起きているなんて…って。


もっとも私の場合、その後に「変装して聖グロへ潜り込んでくれ」と言われたので、そっちの方が驚いたけど…。



<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/18(日) 22:23:26.40 ID:vSaTXsW40<>

グリーン「そんな事が起きていたなんて…」

アッサム「ゆ、許せませんわよ! そんな事のためにダージリンを!!」

ヴェニフーキ「ええ。許せません。だから私は奴らに報復をしたい」

アッサム「…そうだったのね」


ヴェニフーキ「他には何をお教えすれば良いですか?」

アッサム「…」

グリーン「では、連絡を取っていたというOGは…?」

ヴェニフーキ「一人はアールグレイ様」

グリーン「…なるほど。通りで私達の手が通じなかったわけですね…」

アッサム「確かに、アールグレイ様はダージリンを始め、私達にとても親切にご指導して下さいましたわ…」

ヴェニフーキ「ええ。私に対しては不埒で助平な態度ばかり取りますけどね」

グリーン「ふ、不埒で助平ねぇ………」

アッサム「こ、こらヴェニフーキ! いくらあなただからって…!」

ヴェニフーキ「…話を戻します。そして、もう一人が」





ヴェニフーキ「ダージリン様です」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/18(日) 22:26:05.65 ID:vSaTXsW40<>

アッサム「!! あなた…ダージリンと連絡が取れるのですか?!」

ヴェニフーキ「ええ」

アッサム「ダージリンは私が呼びかけても一切応じませんでしたのに…」

ヴェニフーキ「きっと、ダージリン様もあなたの"立ち位置"がわからなかったのでしょう」

アッサム「っ!!」

ヴェニフーキ「実際に掛けてみます。私が何か言うよりも説得力がありますので」

アッサム「だ、ダージリンは無事なんですの!?」

グリーン「マム、落ち着いて下さい」

アッサム「………あなたは、本当にダージリンと連絡が取れるの?」

ヴェニフーキ「ええ」

アッサム「…お、お願い! ダージリンに…!」

ヴェニフーキ「かしこまりました」ピッピッ



部屋に呼び出し音が鳴り響く。

部屋はシーンと静まり返る。

その時間は永遠とも呼べるくらい長く感じた。

そして

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/18(日) 22:30:13.32 ID:vSaTXsW40<>


ダージリン『はい…』


ヴェニフーキ「お久しぶりです。ダージリン様」

グリーン・アッサム「!!」

ダージリン『…どちら様?』

グリーン「ヴェニフーキさん、電話をスピーカーモードに!」

ヴェニフーキ「わかりました」ピッ

ヴェニフーキ「…ご挨拶が遅れました。聖グロのヴェニフーキです」

ダージリン『………あら、お久しぶり。ヴェニフーキ』

アッサム「だ、ダージリン!? 本当にダージリンなの!!?」

ダージリン『! その声……アッサム…?』

アッサム「ええ! 私ですのよダージリン…ダージリン…うぅぅっ……!」

ダージリン『……色々と、迷惑をかけたわね。アッサム』

アッサム「……とんでもない………私こそ…あなたをこんな目に………」


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/18(日) 22:34:37.92 ID:vSaTXsW40<>

ヴェニフーキ「それで、ご用件なのですが」

アッサム「っ…」

ダージリン『ええ。何かしら?』

ヴェニフーキ「私がここに来た目的、アッサム様やグリーン様に教えて頂けないでしょうか?」

ダージリン『目的…?』

ヴェニフーキ「どうやら、このお二方が私を例の内通者だと疑って酷いことをしますので…」

グリーン「なっ…」

アッサム「そ、そんな酷いことだなんて…!」

ダージリン『…そう。…つまりアッサムは"違った"ということね?』

ヴェニフーキ「ええ。アッサムさん"は"内通者じゃありませんでした」

グリーン「…私も内通者ではありませんけど」

ヴェニフーキ「…」

グリーン「ヴェニフーキさん…」

ヴェニフーキ「隣にいるGI6部長のグリーン様も違うと仰ってます」

ダージリン『そう…』

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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/18(日) 22:44:51.74 ID:vSaTXsW40<>

ダージリン『アッサム、グリーン、聞いてくれるかしら?』

アッサム「ええ、聞いています…!」

グリーン「同じく、聞いております」

ヴェニフーキ「…」

ダージリン『あなたの横にいるヴェニフーキという子はね、私の父がお世話になっている方のご令嬢なの』

アッサム「そうなのですかダージリン?!」

ダージリン『ええ。幼い頃からの付き合いよ。だから、私がこうなったことを知って敵(かたき)を討つと言って聞かなかった…』

ダージリン『犯人を見つけ出すと言って、母校を飛び出して聖グロに入学してくれたのよ…』

アッサム「ヴェニフーキ…あなた…」

ヴェニフーキ「…」



ダージリンは私が聖グロに来た目的をアッサムさんやグリーンさんに伝えてくれた。

私の正体が西絹代であるということは伏せて、古い友人ということにして。

本当は恋人と言ってほしかったけど、それは西絹代じゃないから我慢した。

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/18(日) 22:57:54.60 ID:vSaTXsW40<>

ダージリン『…以上よ』

アッサム「…」

グリーン「…」

ヴェニフーキ「…」

ダージリン『ごめんなさいね。あなた達を疑って…』

アッサム「いいえ私こそ! あなたをこんな目にあわせた上に、疑わせてしまったことをお詫びします…!」

グリーン「私もGI6の部長でありながらこの事に気付けなくて本当に申し訳ありません…」

ダージリン『こればかりは仕方ないわ。私だって何も出来なかった』

ヴェニフーキ「ひとまず、これで私に対する疑いは晴れたという認識で宜しいですか?」

アッサム「ええ。…ごめんなさいヴェニフーキ。あなたにも色々と酷いことを言ってしまった………」

ヴェニフーキ「こういう事をしている以上、覚悟はしています」

ヴェニフーキ「もちろん、"盗聴"や"拷問"を受ける覚悟も」

グリーン「無礼を働き大変失礼致しました…」

ダージリン『…ヴェニフーキ』

ヴェニフーキ「はい、何でしょう?」


ダージリン『ありがとう』


ヴェニフーキ「ん、」

ダージリン『あなたのおかげで、親友を疑わずに済んだ…本当に感謝しているわ』

ヴェニフーキ「お役に立つことが出来て何よりです。…ですが、共謀者は別にいる、ということになります」

ダージリン『ええ…』

ヴェニフーキ「なので引き続き、犯人探しを続行させて頂きます」

ダージリン『ごめんなさい。こんなことをさせてしまって…』

ヴェニフーキ「お気になさらず。私が勝手にやっていることなので。…それでは、また」

ダージリン『ええ。また、お話しましょう』


ツー ツー ツー



最後に、ほんの一瞬だけ

私以外では絶対にわからない声でダージリンは言ってくれた。

それはアッサムさんもグリーンさんも気付かない。世界でたった一人、私だけが知っている声。

それは私が心の底から愛し、そして私を愛してくれるダージリンが、私だけに聞かせてくれる、とても優しい声。


私とダージリンだけのやり取りがそこにあった。


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/18(日) 23:01:22.65 ID:vSaTXsW40<>

グリーン「…」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「…」

ヴェニフーキ「ご納得、いただけましたか?」

グリーン「ええ。疑ってごめんなさい」

アッサム「あなたも、内通者を探す一人だったのですね…」

ヴェニフーキ「私はダージリン様が退学されたと知り、腸が煮えくり返る思いをした」

ヴェニフーキ「だから、ダージリン様やOGの方と連絡を取り、この破壊工作の失敗、つまりダージリン様の復学のために戦おうと思いました」

ヴェニフーキ「それだけです」

アッサム「ありがとう…ヴェニフーキ」

ヴェニフーキ「お礼を言われるようなことはしてませんけれど」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/18(日) 23:10:40.32 ID:vSaTXsW40<>

グリーン「しかし、何故そうならば"聖グロを変える"などと反体制派をほのめかすようなことを?」

アッサム「そうですわ。あんなことを言ったら誰だってあなたを疑います…」

ヴェニフーキ「あの時点でアッサム様たちがどちら側の人間かわからなかった」

ヴェニフーキ「"GI6を仕向けた"というだけでは、あなた方が反体制派の人間か否かわからず、その目的もわからない」

グリーン「確かに…」

ヴェニフーキ「だから、それを明確にするため、あえて"釣り餌"となっただけ」

ヴェニフーキ「言い方を変えれば、キューポラに閉じこもって出てこない隊長を引きずり出した」

アッサム「なぁっ?! ど、どうしてそれを!!」

ヴェニフーキ「私は当初、アッサム様が内通者だろうと疑っていたので、その行動を観察しているうちにアッサム様の弱点を」

アッサム「くぅぅぅ………」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/18(日) 23:15:19.56 ID:vSaTXsW40<>

グリーン「なるほど…。敵を騙すには味方から…と」

ヴェニフーキ「結果的にそうなりました」

グリーン「あなたのような方がGI6にいたら頼もしいのに。実に惜しいです」

ヴェニフーキ「私は怪しい人を見つけたら、尋問ではなく拷問をしますけど?」

アッサム「ごっ、拷問?!」

ヴェニフーキ「そうですね。まずは爪を剥がしましょう」

アッサム「ひぃっ…!」

ヴェニフーキ「次に、指の関節一つ一つに釘を打ち付ける」

グリーン「…それはちょっと」

ヴェニフーキ「あとは…」

アッサム「も、もう結構ですの! 痛い話は勘弁願いますわっ!!」

ヴェニフーキ「それくらい、内通者を憎んでいると思っておいて下さい」

アッサム「え、ええ……」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/18(日) 23:23:18.96 ID:vSaTXsW40<>
グリーン「…しかし、そうなると内通者は誰でしょうか」

ヴェニフーキ「誰であろうと、いずれ見つけますよ。何しろ私を盗聴するような人物ですから」

グリーン「私を疑っているんですか…?」

ヴェニフーキ「いいえ、グリーン様のは2個目です」

アッサム・グリーン「!!」

グリーン「…2個目といますと?」

ヴェニフーキ「そのまま。グリーン様ので"2個目"」

グリーン「っ…!」

アッサム「ど、どういうことですの?!」

ヴェニフーキ「あなたがたGI6とは別に、私は監視されている」

ヴェニフーキ「あなたたちとは別の人に私は縛られている」

アッサム「なっ…そんなの聞いていませんわよ!?」

ヴェニフーキ「聞かれませんでしたので」

アッサム「どうして話してくれなかったのヴェニフーキ!!」

ヴェニフーキ「あなたは私を疑っていた。そして私もあなたを疑っていた」

ヴェニフーキ「そのような状況で何を話せると?」

アッサム「うっ………」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/18(日) 23:30:01.44 ID:vSaTXsW40<>
ヴェニフーキ「…それに」

アッサム「えっ?」

ヴェニフーキ「これは私の戦いです」

グリーン「…どういうことですか?」

ヴェニフーキ「率直に言うと、」




ヴェニフーキ「"私の獲物に手を出すな"」




アッサム「…どういうことですのヴェニフーキ?」

ヴェニフーキ「反体制派やその共謀者は、私の手で探し出し、私の手で裁く」

ヴェニフーキ「そこに余計な介入をされては困ります」

アッサム「ば、馬鹿を言わないで! この件は聖グロ全体の問題ですのよ?!」

グリーン「その通りですよ。それに、仲間は多い方が…」

ヴェニフーキ「必要ない」

グリーン「っ…!」

ヴェニフーキ「今まで通り、何も無かったかのように、学園生活を送って下さい」

ヴェニフーキ「それが、聖グロを腐敗させようと目論む奴らに対する"最高の攻撃"となる」


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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/18(日) 23:35:39.74 ID:vSaTXsW40<>


アールグレイさんが何故、私を選んだのか。

私が聖グロの生徒じゃないからだよ。

仮に作戦が失敗しても私には帰る場所がある。保険がある。

だけど、アッサムさん達は聖グロが帰る場所だから、もしも奴らに目をつけられたらそれでおしまい。

ダージリンの二の舞いになる。











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◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/18(日) 23:38:07.99 ID:vSaTXsW40<>

アッサム「ですが、あなた一人だけ…!」

ヴェニフーキ「ダージリン様の二の舞いになっては困ります」

アッサム「!」

ヴェニフーキ「何しろ、相手は己の思想のためにダージリン様を政治利用するような邪道」

アッサム「…」

ヴェニフーキ「アッサム様たちがコソコソやってるのがバレてしまったら、連中は間違いなく排除します」

グリーン「確かにそうですが…」

ヴェニフーキ「もしもこの件で問責されたら、"彼女が勝手にやったこと。私は再三に渡って警告した"と言えば良い」

ヴェニフーキ「そうすればアッサム様や他の誰かが被害を受けることもない」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/18(日) 23:42:48.68 ID:vSaTXsW40<>

ヴェニフーキ「それに、そういう下衆な相手と戦う以上、こちらもその下衆に触れることになります」

ヴェニフーキ「これ以上邪道が増えては困る」

アッサム「…」

ヴェニフーキ「火傷するのも邪道になるのも私一人だけで結構」

ヴェニフーキ「私だけが火傷をすれば、他の生徒が火の粉を被ることもない」

アッサム「…」

ヴェニフーキ「私は私なりの戦いが出来て、聖グロの生徒も守られる。お互いに悪い話ではないと思います」

アッサム「…」

グリーン「何故あなたは何もかも一人で抱え込もうと…!」

ヴェニフーキ「言ったはずですよ。邪道が増えたら困ると」

アッサム「………どうして……」

ヴェニフーキ「はい?」



アッサム「どうして自分を邪道などと言うのですかッ!!!!」

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/18(日) 23:48:08.10 ID:vSaTXsW40<>
ヴェニフーキ「それは私が邪道だからですよ」

アッサム「そうじゃなくて! 理由を言いなさい! 理由をっ!!」

ヴェニフーキ「…」

グリーン「確かにあなたの行動は怪しいかもしれません」

グリーン「ですが、事情がわかればそれは称賛に値する行為です」

ヴェニフーキ「そう認識されていることが既に邪道なんですよ」

グリーン「なっ…」

アッサム「馬鹿なことを言うのはおやめなさいヴェニフーキ…!」




それは『私が邪道だから』としか言いようがない。

邪道じゃない人に邪道がどうこうだと説明したって理解されない。



大洗戦のとき、勝つために特攻兵器を使おうとした

ダージリンのおかげでそれを回避できた

そのダージリンは私のせいで全てを失った

そして私は狂って薬物中毒にすらなった

またダージリンに助けられた

でもやっぱりダーリンは助からない

だから私はヴェニフーキと名乗った

名前を捨てた

仲間を捨てた

学校も捨てた

姿も偽った

皆を騙した

そして聖グロに混乱を招いた

内部から腐敗させた

聖グロに飽き足らず黒森峰の戦車道も崩壊させようとした

死に物狂いで積み重ねてきたものを壊そうとした

血と汗の結晶を砕こうとした


<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/18(日) 23:50:58.26 ID:vSaTXsW40<>


私は何度も邪道を進もうとして、その都度誰かに助けられて軌道修正をしている。

邪道と普通の道を行ったり来たりだった。

でも、気を抜けばまた邪道を進む。

そして気がつけば邪道が私の道になっていた。

だから、一度邪道を進んだらもう元には戻れない。

そして私の中の邪道は誰かを巻き込んで、その人の道を閉ざそうとしている。


だから、私だけが邪道になることで、誰かが邪道になるのを阻止する。

邪道として、邪道にならないよう戦う。

邪道は私だけの道。他の誰かが通ることは断じて許さない。


邪道として

邪道と戦う

私だけの道










ヴェニフーキ「あえて言うならば」








<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/18(日) 23:51:55.92 ID:vSaTXsW40<>

















ヴェニフーキ(西絹代)「これが私の 戦"邪"道 です」
















                         つづく




<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/19(月) 01:05:49.11 ID:+xIa/DlV0<>

【ここまでのあとがき】



● オリキャラ(?)について



・モームおよびランサム

GI6の生徒は代々作家の名前(英・M16所属経験有)を名乗っており、その中から。

なおグリーンおよびフレミングは「月刊戦車道」に登場する("フレミング"という名前は人気がないらしい…)。



・アールグレイ

言わずもがな島田フミカネ氏の妄想のあの人。

正体不明・性格不明・意味不明を良い事に好き放題させて頂いた。

ヴェニフーキ扮する西絹代をサポートする参謀役。



・山、上本、糸井、福留、原口、鳥谷、糸原、梅野、女仙

4月14日の阪神タイガースのスタメン。

女仙はメッセンジャー。

厳密に言うとこいつらが純粋なオリキャラ。他はどこかしらのものを流用



・ヴェニフーキ

前作終盤から出てきた謎の転校生。正体は西絹代。

読み手にすぐ正体バレるだろうから、このSSでは「何故あの子はこうなったのか」を書いてみました。

1.白髪
2.ブラックプリンス
3.ベレー帽

…と聞いてピンと来る人はいるかわかりませんが、モデルはこの子↓

http://i.imgur.com/TWB2vpz.jpg

<>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/19(月) 01:27:21.79 ID:+xIa/DlV0<>

● SSについて(自分語り)



「対空戦車はいいぞ」 SS書く


 ↓


オストヴィント登場あたりから「せや、無人機出るし西絹代強くしたろ」

 ・聖グロに完勝

 ・大洗もあんこうチーム撃破してギリギリまで追い詰める

「アカン。強くしすぎたわ…」


 ↓


対・知波単戦の中盤ごろから今作を裏で書き始める

 ・西絹代(魔改造)が主人公

 ・大洗戦後の入院生活でダージリン始め、色んな人がお見舞いに来るほのぼのストーリー(予定)

 ・ >>151 あたりで西とダージリンが結ばれてその後ムチャクチャ夜の戦車道して終わる予定だった

 ・ただR-18はアカンだろなと思って前作でモヤモヤしてところを色々補完する


 ↓


 ・書き溜め作ってる最中に作業用BGMでニコニコメドレー聞く

 ・you(ひぐらしのなく頃に)が流れる(今作最大の元凶)

 ・「せや! 西絹代発狂させたろ!!」

 ・ヴェニフーキ登場。前作終盤で意味深な終わり方をする

 ・今作にてヴェニフーキになった理由を書く

 ・他校と練習試合をしながらOG会とつながる人物やGI6相手に諜報合戦をする

 ・その過程で病み始めて邪道を語り始める(今ここ)


 ↓


 ???


…という具合にまたまた長いSSになって申し訳ない。

取り急ぎ事情(言い訳)を説明させていただきました。許してください。


このスレはHTML化依頼を出すので、他の人が読んでいる間に続きを書こうと思います。


レスくれた人、読んでくれた人、ありがとうございました。


<> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/06/19(月) 03:46:44.38 ID:gJ1ymQ+Fo<> いつまで続けるんだよこれ…… <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/06/19(月) 18:24:47.97 ID:VJeZzIs+0<> 乙
完結待ってるで

>>978
ダー様復帰してお絹ちゃんも立ち直って大団円するまでじゃないのけ? <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/06/19(月) 21:23:49.86 ID:tHTl6LJZO<> 乙です。
次回も待っていますで(`・ω・)b

画像の元ネタは分からなかった…。 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/06/21(水) 01:01:38.97 ID:8Y9g1BX0o<> あとがきの前に読み返そう?
話進んでるか確認しよう? <>
◆MY38Kbh4q6<>saga<>2017/06/22(木) 20:51:10.42 ID:F8dwu91Q0<> >>981

ご指摘感謝しますm(_ _)m

次のSSの作成にて取り入れます。 <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/06/23(金) 06:49:36.68 ID:o13UiGPAO<> どうせなら次スレ建てたらURL貼って
誘導してくりゃれ

そっちの方が早い <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/07/01(土) 12:04:38.19 ID:T7O1Wh6jo<> ハレンチ・パコ <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/07/11(火) 00:14:07.32 ID:JFkBi0Tu0<> a <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/07/11(火) 00:14:47.10 ID:JFkBi0Tu0<> a <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/07/11(火) 00:15:18.09 ID:JFkBi0Tu0<> a <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/07/11(火) 00:15:50.54 ID:JFkBi0Tu0<> a <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/07/11(火) 00:16:17.07 ID:JFkBi0Tu0<> a <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/07/11(火) 00:16:53.47 ID:JFkBi0Tu0<> a <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/07/11(火) 00:17:20.70 ID:JFkBi0Tu0<> a <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/07/11(火) 00:17:51.15 ID:JFkBi0Tu0<> a <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/07/11(火) 00:18:22.64 ID:JFkBi0Tu0<> a <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/07/11(火) 00:18:48.88 ID:JFkBi0Tu0<> a <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/07/11(火) 00:19:14.06 ID:JFkBi0Tu0<> a <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/07/11(火) 00:19:44.59 ID:JFkBi0Tu0<> a <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/07/11(火) 00:20:15.64 ID:JFkBi0Tu0<> a <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/07/11(火) 00:20:45.86 ID:JFkBi0Tu0<> a <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/07/11(火) 00:21:12.52 ID:JFkBi0Tu0<> a <> 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします<>sage<>2017/07/11(火) 00:21:40.68 ID:JFkBi0Tu0<> a <> 1001<><>Over 1000 Thread<>               | ///////i!、\ \ ヽ
   、 ,          |/// / ツ/// /i 1!、 \ ヽ ヽ
  エIIエ ふ イ 大. お  |// //// // /.| ||i;゛、   ヽ ヽ  、
  .Eヨ     | .申 , れ  .|/ /リ{ {{{{// / i | ||i .!ヾ   ヽ `、 ヽ
           ̄    |.//{ Y'''''/ /ノ |.|!||! 、i ヽ    `、 、
  、 ァ .つ | 十    |///| { ,,;;;;i :: |.|ii ii、 i  !    i  i
  ┐用 .う  .レ.cト、   |シ从|.|,,,;;;" ̄~"|.|.ii ヾ、、 ヽ    i  i|
  ~ー‐ 、、    、、  |//i、.|| ii!' ,,, -‐.|.| 乂 \  \   i
  ┼ __  -|―|‐    |i i.i|. r| li!く  ゚ |ト /  i;; \  \  i
  ノ 、__   !_    | ii ||/"| l!`ミニ=ニ||'  /;;;;;: \  `、、_
              { |、{{..(| ll! i!;;;;;;; /|  '、:::...:  \  `ー-
   |-    /       | i!|1ト、|lili! !;;;;;;;/ .!  ii|il= il!   .` ー
  .cト、   /⌒し    |!i从/i∧i! i::::    ili!'__iI!--―'' ナ`-ト
          、、   |/いi|l!∧ ::  ー'''''二 ==--一"ヲ/  ||
    O  -|―|‐    .|./i i i|/∧ : :: ヾ-'"        / ;;;::リ'
         !_       | .|/i i!!リi ヽ:: :: ::|li、´ ̄ ̄ ̄ ̄ン ;;;: /
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        /      |  /リ、| | ||.\i! l! ー‐キil!:::|/::::::::_
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<> 最近建ったスレッドのご案内★<><>Powered By VIP Service<>ミカエル「夏だ! うおおおおおおおお!!! あっちいいいいいいいいい!!!!!」 @ 2017/07/11(火) 00:05:08.22 ID:RGKKZKkUo
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こうすいからくる悪臭と戦う @ 2017/07/10(月) 23:57:05.15 ID:iIdq+j01o
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高森藍子「すきま」 @ 2017/07/10(月) 23:38:34.26 ID:kFZGYhbt0
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ポケモンダイパプHGSSBW2XYORASSM今年も夏がやってきた @ 2017/07/10(月) 23:21:41.93 ID:zMs7ev3bO
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【食戟のソーマ】もも「ラビットハウス?」 @ 2017/07/10(月) 23:09:02.47 ID:gO3xooyGO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1499695742/

[Fate] 禁忌を犯したマスターの物語 @ 2017/07/10(月) 23:07:55.13 ID:/KdVK5ec0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1499695674/

なんでもテレビショッピング! 安価時々コンマ @ 2017/07/10(月) 22:35:58.42 ID:D+n96D2+0
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乙倉悠貴「追い風が恋を連れてくる」 @ 2017/07/10(月) 22:32:52.24 ID:otTlPJINo
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