【デレマス】あやめ「バックストリート・ニンジャ・パフォーマンス」
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1:名無しNIPPER[saga]
2017/07/15(土) 23:25:14.70 ID:0Mcrdfm2o
 薄紫色に染まった雨雲が重く空に蓋をする首都、東京。乱立するビル群を白く靄がかったベールに覆われるが如く、ざぁざぁと雨は降り注ぐ。幸運にもこの時間帯に仕事を切り上げることが出来、意気揚々と帰宅するはずだったサラリーマン達もこの天候には顔を顰める。不幸にも、否、日常的にこの時間帯にすら会社で会議が待っているサラリーマンは更に顔を陰鬱に沈める。

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2:名無しNIPPER[saga]
2017/07/15(土) 23:25:48.60 ID:0Mcrdfm2o
 大通りを埋める人の群れは皆均一に距離を空け、互いの傘がぶつかり合わないよう注意して歩く。顔を上げることを許されず、同一のペースで道路に流れていく彼らは、工場のベルトコンベアに乗せられ順々にプレスされていく工業部品のようであった。あちこちのARデジタルホログラム広告から流れる、アンドロイドアイドルユニットの新曲だけが異様に明るく鳴り響いていた。


3:名無しNIPPER[saga]
2017/07/15(土) 23:26:36.32 ID:0Mcrdfm2o
 しかし、それは大通りだけの話だ。大通りの人波からやや外れた飲み屋街、その更に店と店の間に血管の如く伸びる路地裏。排気ダクトと錆びたパイプに彩られ、空き缶や菓子の袋が無造作に放り捨てられた野良猫と鴉のテリトリーを、男が走っている。


4:名無しNIPPER[saga]
2017/07/15(土) 23:27:02.61 ID:0Mcrdfm2o
「くそがっ」男は息も絶え絶えに、しかし決してスピードを緩めることなく街の血管を駆け抜ける。常人には不可能な俊敏な動きは、その筋から見れば一目で芸能関係者だと看破できるだろう。彼は時折後方を確認し、誰の気配もしないことを祈りながら排気ダクトとダストボックスの間にしゃがみ込んだ。


5:名無しNIPPER[saga]
2017/07/15(土) 23:27:28.38 ID:0Mcrdfm2o
 薄汚れたトレンチコートで雨を防ぎながら、男は肩に下げた鞄からカメラを取り出した。それは男のみすぼらしい格好に似つかわない、プロ仕様の高級一眼レフであった。彼はカメラの電源を入れ、先程彼が手に入れたデータがまだ存在しているか確かめた。


6:名無しNIPPER[saga]
2017/07/15(土) 23:27:54.65 ID:0Mcrdfm2o
 在る。消えていない。あれは現実だった。男は繰り返しその事実を自分に言い聞かせる。長年丁寧に扱ってきた相棒であるこのカメラだが、今日はことさら繊細なガラス細工の如く脆く壊れやすい物のように思えた。男はカメラを仕舞い再び走りだす。


7:名無しNIPPER[saga]
2017/07/15(土) 23:28:26.98 ID:0Mcrdfm2o
 彼の職業はフリーのジャーナリスト。やや古臭い俗語を持ち出せばパパラッチと言い換えることが出来るだろう。社会の闇に隠された真実を暴き出すなどという高尚な趣味は彼は持ち合わせていない。彼は自分の役割が、メディアに露出する有名人の私生活からあらを探し、あるいはでっち上げ、愚かな大衆の自尊心や妬みを解消させる為にあることを知っている。


8:名無しNIPPER[saga]
2017/07/15(土) 23:28:52.71 ID:0Mcrdfm2o
 現代社会はパパラッチのような狡い職業に厳しくも、しかし優しく容易い。“素材”さえあれば大衆の悪意は容易に伝染し、素材はより洗練に加工され、ネットワークの海に拡散してその波は止めようが無くなる。対象にされた人間の、メディアからの商品価値はたちまちに暴落するだろう。CMスポンサー企業の株価と共に。


9:名無しNIPPER[saga]
2017/07/15(土) 23:29:18.51 ID:0Mcrdfm2o
 芸能人のネタのスッパ抜き合戦はやがて企業間闘争の体を成していく。彼のようなフリーのジャーナリストは言わば傭兵であり斥候。そして致命の一撃を放つ毒矢とも成りうる職業だ。当然、それぞれの企業、特に芸能プロダクションが抱える企業戦士により社会的に命を落とすことも多い。……薬物乱用で廃人同然となった状態で、ブタ箱にぶち込まれた同業者もいる。


10:名無しNIPPER[saga]
2017/07/15(土) 23:29:45.33 ID:0Mcrdfm2o
 だが彼はこの生き方以外に改める気は無かった。自身が命がけで手に入れた“素材”が、ネットワークを通じて巨大な怪物になっていく様を眺めるのはなかなかに良い気分だった。まるでプロデュースしたアイドルが大成功を収めるような錯覚──彼は足を止めた。


11:名無しNIPPER[saga]
2017/07/15(土) 23:30:15.88 ID:0Mcrdfm2o
 角を曲がった直後、太いゴム製の紐が乱雑に張り巡らせられている。これがもし鋼鉄製の細いワイヤーであったのなら、彼の身体は膾切りにされていたことだろう。彼は今来た道を振り返る。やはり同様にゴム紐による封鎖がされていた。この数瞬の間に。


12:名無しNIPPER[saga]
2017/07/15(土) 23:31:08.12 ID:0Mcrdfm2o
 最早男が自由に動き回れる空間は畳三枚分かそれ以下か。彼の持つ常人の三倍の脚力であれば問題なくここを抜け出せるだろうが……彼は上空を見上げた。粘り着くような雨が湿気とともに彼の顔を濡らす。そして彼は見た。屋上からこちらを見下ろす影を。


13:名無しNIPPER[saga]
2017/07/15(土) 23:31:39.01 ID:0Mcrdfm2o
「どうも、記者さん。困りますよー、社内にいらっしゃるときは来客用のネームプレートを下げてもらわないと」


14:名無しNIPPER[saga]
2017/07/15(土) 23:32:08.76 ID:0Mcrdfm2o
 その声は明らかに若い、そして高い。少女だ。男が一度瞬きをした。少女は男の目の前にいた。(早いな)男は瞬時に何百通りもの戦闘シミュレーションを行い、その内『隙を見て逃げる』パターンを捨てた。相手から視線を離さないまま、視界の隅でスマートフォンの画面を確かめる。圏外。(ジャマーは設置済み……当たり前か)


15:名無しNIPPER[saga]
2017/07/15(土) 23:32:36.16 ID:0Mcrdfm2o
 男は声には出さず悪態をつく。(クソファッキンクライアントめ。何が『フェイス・トゥ・フェイスでの生データの受け渡しが条件』だ。時代遅れのセンチメンタリスト! 転落した少女アイドル好きの変態ジジイ! よりにもよって“あの”プロダクションに目をつけやがって!! ファックファックファック!!)


16:名無しNIPPER[saga]
2017/07/15(土) 23:33:36.31 ID:0Mcrdfm2o
 雨脚が強まる。男は鞄を壁際に置き、自己紹介をした。ビジネスの基本である。「どうも。ペンネーム『悪徳』。所属は無し」「どうも悪徳さん。私は『あやめ』です。所属は346プロダクション」「ふん、どうせ情報部の奴らだろ。“美城の草”、有名だぜ」「お褒めに預かり……」「皮肉だ。目的は」「データ。目的は」「そのデータ持ってとんずら」


17:名無しNIPPER[saga]
2017/07/15(土) 23:34:21.27 ID:0Mcrdfm2o
「では」あやめが構える。空気がピンと張り詰め、互いの時間認識が脳内伝達物質の加速によって鈍化し始める。悪徳は改めて彼女の姿を観察した。この状況を作り出した時点で小娘などと侮る気はさらさら無い。だが、あやめの服装はまるで冗談めいていた。


18:名無しNIPPER[saga]
2017/07/15(土) 23:34:59.51 ID:0Mcrdfm2o
 ニンジャ装束である。黒髪を一つに括り後ろに長く伸ばし、身につけたる装束も墨を落としたかのような暗黒。だが、それは本格的に闇に溶け込むためのものではない。胸元は大きく開き、至る所に肌を露出する切れ込みも見られる。そう、扇情的に過ぎる。


19:名無しNIPPER[saga]
2017/07/15(土) 23:36:00.54 ID:0Mcrdfm2o
 悪徳は目を見開いた。彼は飛び道具等の武装を見抜くつもりだった。だが実際に彼が見ていたのは、いや、魅入られていたのは彼女の蠱惑的存在感! ビジュアルレッスンの賜物! つまり、彼女は!


20:名無しNIPPER[saga]
2017/07/15(土) 23:36:34.90 ID:0Mcrdfm2o
「イヤーッ!」「グワーッ!」ニンジャの……アイドル!!


21:名無しNIPPER[saga]
2017/07/15(土) 23:37:13.54 ID:0Mcrdfm2o
 強烈なボディへの一撃! 肺から空気が一気に絞り出される! 一瞬、視界が白く染まりかけるが奥歯を噛み締め、耐える! 二撃目! 顔面への左ストレート! 悪徳は必死に体勢を整え内側からあやめの腕を弾き、捌く。しかしあやめは弾かれた動きにあえて逆らわず、その勢いをもって後ろ回し蹴りを繰り出した。悪徳は右肘を立ててこれをガードする。


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