晩夏にほどける
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1: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:05:11.62 ID:fLR/Lwcb0
一次創作です。
方言を多用しています。わからなければ適宜聞いてやってください。

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2: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:06:09.86 ID:fLR/Lwcb0
 八月も暮れだというのに、路地には不快なほどの熱気が立ち込めている。

 夕方に降った雨が湿らせた裏通りを歩く彼女は、その後ろ姿だけでも絵になる雰囲気を備えている。
 うんざりとする暑気の中でさえ、むしろ涼やかな感があった。

以下略 AAS



3: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:06:42.53 ID:fLR/Lwcb0
「そや、夏目君」

 彼女が振り返って、のびやかな声音でおれの名前を呼ぶ。

「なんでしょう」
以下略 AAS



4: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:08:13.13 ID:fLR/Lwcb0
 街灯や店先の乏しい光の下では、彼女の表情の委細までたしかめることはできない。
 でも彼女のその立ち姿は心なしか儚げに見えた。

「いや、今年はやめとこかなって思ってます」

以下略 AAS



5: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:09:14.61 ID:fLR/Lwcb0
「ううん、まだちょっと悩んどったんよ」

「でもまあ、うちも今年はええかな」

 先輩はそばに据えられている車止めのポールに腰を預けて、難しい顔をした。
以下略 AAS



6: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:09:51.90 ID:fLR/Lwcb0
「そう、さっきはお疲れさま」

 おれの顔を見て、思い出したように彼女が労ってくれた。

「さっき? なんのことです?」
以下略 AAS



7: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:10:34.73 ID:fLR/Lwcb0
「うそ。全然お酒も飲まんで、取り持ってくれたと」

 ふっと息を吐くように、彼女がにこやかに微笑む。

 たったそれだけの仕草で、息が詰まりそうになってしまった。
以下略 AAS



8: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:12:10.39 ID:fLR/Lwcb0
「でも、折角の飲み会なのに全然酔ってないって、なんか損した気せん?」

 諭すというよりは、甘やかすような言い方だった。
 自然と、ちっぽけな強がりをかなぐり捨ててしまえる気になれた。

以下略 AAS



9: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:13:13.79 ID:fLR/Lwcb0
「夏目君、時間ある?」

「はあ、基本的にはいつでも」

 そう答えると、彼女がゆっくりと首を横に振った。
以下略 AAS



10: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:13:50.45 ID:fLR/Lwcb0
「……少し、相談に付き合ってほしかことが、あると」

 彼女はそう言って、少しだけ恥じらうように笑った。
 しかしその表情には、どことなく陰りが差しているように見えた。



11: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:16:21.50 ID:fLR/Lwcb0
 十数分ほど時間を遡る。


 サークルの飲み会を終えて各自解散となった後、おれは、最寄りの駅まで真っすぐ向かっていた。
 幹事をしていたとはいえ全然酔えなくて、少しだけもやもやしていた矢先、少し前方に彼女の後ろ姿を見つけた。
以下略 AAS



12: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:20:11.51 ID:fLR/Lwcb0

 おれは、彼女のことが好きだった。



13: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:21:43.13 ID:fLR/Lwcb0
 丁寧に言葉を選んで話し、相手の気持ちを汲むのが上手かった。
 いつも意図的に集団の中央から一定の距離を保ち、なにがしかの意見を求められる時は、常に中立的な目線からものを話した。

 顔の輪郭が綺麗で、右目の下に小さな泣きぼくろがあり、くちびるが薄かった。
 声は大きくはなかったが聞き取りやすく、笑う時は目を糸のように細めた。
以下略 AAS



14: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:22:31.10 ID:fLR/Lwcb0
 元々は二人とも地方の出身だという程度の共通点しかなかったように思う。

 話すようになったきっかけは、はっきりとは覚えていない。
 たしか、くだらない映画の趣味が被ったとか、そんな感じだった気がする。

以下略 AAS



15: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:24:33.96 ID:fLR/Lwcb0
 気持ちを伝えようと思ったことは、何度もあった。

 しかし、その一歩がなかなか踏み出せなかった。

 今のようにお互いにつかず離れずの距離で向き合う、緩い結びつきのような間柄を続けるのも、十分心地良かったからだった。
以下略 AAS



16: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:25:21.58 ID:fLR/Lwcb0
「相談、ですか。ええですけど」


 口にした言葉とは裏腹に、煙のように掴みどころのない感情が沸き上がる。

以下略 AAS



17: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:26:16.88 ID:fLR/Lwcb0
 少し歩いた先にそびえていたのは、瀟洒な雰囲気が漂う、洋風の建物だった。

 彼女に追従して重い扉をくぐると、橙色の照明が少しだけ眩しい。
 冷房の効いた店内は、異国のような、あまり嗅いだことのない香りがする。

以下略 AAS



18: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:27:41.71 ID:fLR/Lwcb0
 洋酒は日頃あまり飲んでない、と言うと彼女は少し考えて、口を開いた。

「オーヘントッシャンを、ロックで」

 耳慣れない可愛らしい名前だったが、ロックというからにはウイスキーなのだろう。
以下略 AAS



19: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:28:35.38 ID:fLR/Lwcb0
 やがてオールドグラスが二つと、ナッツの盛られた小皿がカウンターに置かれる。
 琥珀色の液体に浮かぶロックアイスは、小さな氷山のようだった。

 小さく乾杯し、すぐに彼女がグラスに口を付けた。
 彼女の喉がこくりと動くのを、目を離すこともできないまま見つめてしまう。
以下略 AAS



20: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:29:45.08 ID:fLR/Lwcb0
「よう来るんよ、このお店」

「一人で飲んどうたい」

 彼女の声に、いつもの調子が戻りつつあった。
以下略 AAS



21: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:30:43.89 ID:fLR/Lwcb0
 相談がどうこうという前に、差し当たってまず酒を飲むことになった。
 殆ど素面のおれに気を遣う半分、自分も飲みたい半分だろうか。なんにせよ、ありがたかった。

 オーヘントッシャンというウイスキーは、グラスを傾けると仄かに柑橘類の香りがして、これが飲みやすい。
 雑味がなく軽やかで、一口で気に入った。
以下略 AAS



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