20: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/10/29(日) 23:27:20.47 ID:s1IKgLXf0
最初のコールの時点で確信があった。公演の前の日、楽しみで眠れないなんてお約束と一緒にベッドに寝転がっていた時にはもう予感していたかもしれない。
それがありさを一切裏切ることなくやってきたのは、最後の曲であり、もう一つのありさだけの曲を前にしたMCの最中だった。
「今回の公演、ソロで心細かったりもしましたケド……っ、みんなのおかげで、ここまでやり切ることができました……って、まだもうちょっと続きますがっ!」
声が震えた。このままじゃ、絶対泣く。完膚なきまでにボロ泣きする。
客席にいるみんなを見ているだけで、なんだか報われたみたいな気持ちになって、感極まってしまうのだ。
アイドルちゃんになってよかったと、こんなにもあっさりと感じてしまう。
だってみんな楽しそうで、どこか慈しむような優しい雰囲気を感じてしまって、それは、それは。
「え、っと、最後の曲は……なんとっ、新曲ですよー! っ、みんな、存分に盛り上がって……うぅ、うぅー……!」
決壊寸前だった。と、いうより既にアウトと言っていいだろう。
涙声なのはバレバレで、言葉だってぶつ切りだ。まともに喋れているとは到底言えない有様になっている。
がんばれー、と誰かが言った。
それはどんどんとみんなに波及していって、会場全体がありさへのエールで包まれる。だから、そういうのは、ほんとに。
「やあぁん……ダメ、ですよぉ……! ありさ、ありさは、アイドルちゃんを応援する、気持ち……すっごくすっごく知ってるから……みんなの気持ちもたくさん伝わってきちゃいますぅ……!」
それはいつだってありさがステージへ向けていた気持ちと何一つ変わらないものだから、わかりすぎるくらいにわかってしまうのだ。
どれだけ愛おしく、嬉しく思いながら、ありさの言葉を聞いてくれているのか。
だって、どうしようもない。
ありさはステージの上のアイドルちゃんとしてこんなにも感極まっているのに、アイドルちゃんファンとしてそんなアイドルちゃんを見ている時の感動にも共感しちゃう。
そんなの、ガマンできるはずなんてないのだ。
「ぐすっ、ぇぅ、ありざ、しあわせですぅ……!」
ありさはどうやら、ステージ上で涙をこらえられないタイプのアイドルちゃんみたい。
それでも、泣いているよりもアイドルちゃんとして歌い踊った方が、ずっとずっとこの気持ちを伝えられるって思うから。
「……しんみりするのも、余韻にひたるのも、LIVE終わりが一番ですからっ……みんな、最後までっ!」
嬉しいって歌おう。楽しいって踊ろう。幸せって叫ぼう。いくよ? いくよ!
「Up!10sion♪Pleeeeeeeeease!」
最後の最後まで、ありさを見ていて!
だって、ありさこそが、このステージの主役……みんなを飛んでいっちゃうくらいにアゲちゃうアイドルちゃんだから!
問答無用で楽しくなっちゃうアップテンポな音楽……それは、歌っているありさも例外じゃない。
小気味良いリズムで揺れるサイリウムの光が、もっともっとと急かすみたいだ。
ステージの端から端まで手を振りながら駆け抜ける。
飛んで、跳ねて、残っているパワーを全部使って夢中になって踊っていると、どこかふわふわとした浮遊感が本当に夢の中にいる気分にさせてくれる。
でもこれは紛れもない現実で、だからこそそれがすごくすごく楽しい!
当然、コールアンドレスポンスだって忘れちゃいけない。
声の限りに叫べば、その何十倍、何百倍の力でありさの名前が返ってくる。だから、それにだって負けないくらいにもう一度叫ぶのだ。
やっぱり、アイドルちゃんはコールに力を貰ってるって実感する。
名前を呼んでもらえることが、自分だけの曲に合いの手を入れてもらえることが、たまらなく嬉しくて、お返ししたくなっちゃうのだ。
ラスサビ、最後のカウントダウン……でもきっと、それはおしまいへ向かっていくだけのカウントなんかじゃないと思うから。
だから、まだ見ぬ未来への期待を込めて、高らかに歌おう。
ファンのみんなが曲の終わりまで楽しんでいられるように。
ありさを見届けてくれるように。歌い上げ、ダンスも完璧にキメて、そして……曲の終わりは、ついに訪れた。
「すぅ……ありがとうございましたーっ!!」
何もかも本気の感謝と一緒に深くお辞儀をして、ありさの公演は歓声の中で幕を閉じた。
しばらくの間、ぼーっとして頭の中がまとまらなかったけど、とりあえず。
今はこれ以上が浮かばないくらい、大満足であることだけは確かだった。
24Res/46.67 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20