【艦これ】大井「顔、赤いですよ。大丈夫ですか」
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1:名無しNIPPER
2018/01/23(火) 00:53:18.84 ID:Nf6OgZl00

 私がそう言うと、提督は開襟の首元をぱたぱたやりながら、「ここは暑いな」と呟いた。そうだろうか。暖房がついているわけではないのだけれど。

 まぁ、毎日毎日海っぺりで潮風を受け続けているひとだから、気密性の高い部屋が不慣れなのだろう。空気が籠って気温が変化しないつくりになっている、とかく病院とはそういうものだ。
 白い壁に囲まれて、私はベッドの上。ブラウン管のテレビが申し訳程度に据え付けられている。
 海軍付属の病院は基本的に二人一部屋だけれど、私は今一人部屋だった。別に特別扱いというわけではなくて、この前まで相部屋だった娘が、退院していったというだけの話。少ししたらまた誰かがやってくるに違いない。

 私は先ほどまで指先で繰っていた頁でドッグイヤーを作り、結局本を閉じることにした。とはいえ別段未練はない。入院したばかりの頃、時間つぶし目的で購入したものだ。そしてその役目は十分果たしてくれたと言える。
 病院での生活は、嘗ては死を覚悟するほど暇で暇でしょうがなかった。今は私には仲間がいて、ここは比較的都市部に近いから、仲間が行楽の帰りに必ずと言っていいほど顔を見せてくれる。

 五冊買った文庫本は、まだ一冊の半分くらいしか読めていない。



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2:名無しNIPPER
2018/01/23(火) 00:53:54.76 ID:Nf6OgZl00

「大井」

 提督が私の名前を呼ぶ。私のものではない、私の名前を。

以下略 AAS



3:名無しNIPPER
2018/01/23(火) 00:54:48.60 ID:Nf6OgZl00

 私の言葉を受けて、提督は逡巡したように見えた。その逡巡を私に悟らせまいとしていたので、まず間違いない。
 この人は変に艦娘を慮ってしまうところが昔からある。結局私たちは海軍という組織の――深海棲艦に向けて振り上げられ、そして振り下ろそうとされる鉄槌の、それを形作る細胞の一つにすぎないはずなのに。

 私のそういった認識について、この人とぶつかったことは一度や二度ではない。私はこの人の初期艦だったから、最初は本当に、まったくもう円滑なコミュニケーションが図れなかった。
以下略 AAS



4:名無しNIPPER
2018/01/23(火) 00:55:25.62 ID:Nf6OgZl00

「神祇省に行く予定を立てておくか?」

 神祇省は伊勢にある。ここ、横浜からだと小旅行だ。
 艦娘の身分を笠に着て自由に外出ができるわけではなかった。それでも、神祇省が現在の日本において果たす役割は十二分に知られている。外出申請はほぼ十割通るだろう。
以下略 AAS



5:名無しNIPPER
2018/01/23(火) 00:58:16.79 ID:Nf6OgZl00

「……まぁ、お前は歴も長いしな。多少現場を離れてたくらいでどうにかなるとは思わんが、一応」

「長いというか」

以下略 AAS



6:名無しNIPPER
2018/01/23(火) 01:01:12.63 ID:Nf6OgZl00

「みんなは元気?」

「あぁ。北上とかから近況は聞いてないのか?」

以下略 AAS



7:名無しNIPPER
2018/01/23(火) 01:01:41.44 ID:Nf6OgZl00

「お仕事は?」

「おいおい、嫌なことを思いださせるなよ」

以下略 AAS



8:名無しNIPPER
2018/01/23(火) 01:03:23.36 ID:Nf6OgZl00

「軽空母どもが野毛に行きたいって言うから、連れてった。あと明石と大淀はヨドバシに行くっつってたな」

「野毛?」

以下略 AAS



9:名無しNIPPER
2018/01/23(火) 01:04:12.65 ID:Nf6OgZl00

「……ふぅん」

 あの娘と趣味が合うとは、意外や意外、と言ったところだろうか。提督が瀟洒で洒脱なんてあまりにも……あまりにもすぎる。
 いや、あるいは? もしかしたら? 
以下略 AAS



10:名無しNIPPER
2018/01/23(火) 01:04:59.32 ID:Nf6OgZl00

 それは果たして返答として正しかっただろうか。私が提督の顔を見ると、彼は不思議な顔をして視線を逸らした。理解してくれたのか、くれていないのか。
 疑問は出てこなかった。ならば、拘泥する必要もないだろう。

「資材の管理は大丈夫? 艦娘の勤怠と健康については?」
以下略 AAS



11:名無しNIPPER
2018/01/23(火) 01:06:03.45 ID:Nf6OgZl00

「教員目指して、る、らしいぞ」

 一瞬のよどみをわたしは聞き逃さなかった。「た」か「る」か。後者だったのは、提督なりの踏ん張った結果なのだと思う。
 その努力と慮りに敬意を表し、私は気づかないふりをする。
以下略 AAS



12:名無しNIPPER
2018/01/23(火) 01:06:36.76 ID:Nf6OgZl00

 言ってから、しまった、と思った。
 底意地の悪い発言だった。何より不用意な発言だった。
 これに関しては十割が私のミス。一〇〇パーセント自業自得。

以下略 AAS



13:名無しNIPPER
2018/01/23(火) 01:07:59.62 ID:Nf6OgZl00

「気持ちは変わらないか」

 なんの、と問うほど野暮ではなかった。私の気持ち。艦娘計画の第一被験者に名乗りを上げた理由。
 誤魔化すこともできたのかもしれない。あるいは、聞いていなかったつもりで小首を傾げれば、きっとこの人は追ってはこないだろう。そう言う人だ、わかっている。いやというほどに。
以下略 AAS



14:名無しNIPPER
2018/01/23(火) 01:08:28.73 ID:Nf6OgZl00

 だから私は。

「報せがある」

以下略 AAS



15:名無しNIPPER
2018/01/23(火) 01:09:33.51 ID:Nf6OgZl00

 提督がいなくなる。

 そしたら私はどうなる?

以下略 AAS



16:名無しNIPPER
2018/01/23(火) 01:10:03.39 ID:Nf6OgZl00

「だから、だ」

 背後から取り出された、黒い、両手ですっぽりと覆い隠せるサイズの箱に、私は勿論見覚えはなかった。けれども心当たりは大いにあった。
 なぜって? つまるところ、結局私も女というわけなのだ。
以下略 AAS



17:名無しNIPPER
2018/01/23(火) 01:10:32.04 ID:Nf6OgZl00



 ぎゅんぎゅんと胸の内側がうるさい。

以下略 AAS



18:名無しNIPPER
2018/01/23(火) 01:11:24.29 ID:Nf6OgZl00



 あぁもうこの部屋暑いわね!
 暖房効きすぎなんじゃないの!?
以下略 AAS



19:名無しNIPPER
2018/01/23(火) 01:14:41.60 ID:Nf6OgZl00
―――――――――――――――――――――――
おしまい

短い話が書きたかった。
素直じゃないだけとわかっている安心感よ。


20:名無しNIPPER[sage]
2018/01/23(火) 01:16:16.61 ID:jv7YvXu00
乙すてき


21:名無しNIPPER[sage]
2018/01/23(火) 01:20:30.67 ID:pEQsJhkao



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