有栖川夏葉「選ばれて、ここに」
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9: ◆TOYOUsnVr.[sage saga]
2019/04/03(水) 01:52:50.64 ID:EU7YFYJs0

「何かしら」

「本当に何もないんだよな」

「ええ…………いえ、嘘。でも本当に些細な事なのよ」

「それでも話して欲しいけどなぁ。そんなに信用ないか?」

「その言い方はずるくないかしら」

「ずるいことをわかってて言ってる」

「……はぁ、降参。本当に大したことではないのだけれど」

「ああ」

「樹里も凛是も果穂も、それぞれのプロデューサーにスカウトされてこの世界に……アイドルになったのでしょう?」

「そう聞いてる」

「智代子も、私と同じオーディションからではあるけれど、それでも私と違って担当のプロデューサーに選ばれているわけじゃない?」

「まぁ、そうだな」

「私だけ、なのよね。ユニットの中で」

「ああ、何もかもが決まってたのが、ってことか」

「そう。それがちょっと……ほんのちょっとよ? ……寂しくて」

「なるほどなぁ」

「他のみんなの始まりはそれぞれのプロデューサーから手渡された名刺が始まりで、私にはそういうものがないのよね、って気付いてしまって、それで、ね」

「……」

「言ってしまえば、アナタが私のプロデューサーでいてくれていることは、全てがアナタの意思というわけではないでしょう? アナタはこのプロダクションのプロデューサーで、私はこのプロダクションに応募して、そして採用されたアイドルで……私とアナタとの間にはそれだけの繋がりしかないのよ」

私が言い終わると、彼は「ふむ……」と腕を組んで、考え込んでしまう。

ああ、面倒くさいことを言っただろうか。面倒くさいと思われているだろうか。

ぐるぐると嫌な考えばかりが巡る。



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