加群「鏡の向こうの」
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3:名無しNIPPER[sage]
2019/04/03(水) 21:10:44.55 ID:pOwoTKMWo

「『どこまで人は人としての価値を保てるか』 探す答えは、そんなところか」

 その為に、ここまで生命を切り崩す。歪めてしまう。
 価値があると信じているからこそ、その価値を極限まで否定する。
 見たところ人間は死体しか使われていないようだが、それもこの部屋の主の心性を鑑みれば時間の問題だろう。
 夜空の星かの如き無数の照明で、少しの暗がりもなく塗り潰された部屋。
 必要以上に暗闇から遠ざかろうとする指向は、恐れに過敏なのか、それとも鈍感なのか。

「……私はあなたを知っている。偉大なる私達の先駆者にして、果てから逃げた臆病者」

 いつからそこにいたのか。
 隠れる場所などないはずのその部屋に、声の主は唐突に現れていた。
 声から察するには女性のようだが、その風貌は室内の明るさとは打って変わって暗く、判然としない。
 陰気な見た目、などという比喩ではなく、彼女だけ暗闇のスポットライトが当たっているかのように不自然に暗いのだ。
 十分過ぎる光源のある部屋で直視してもシルエットしか掴めない。一般人が見れば酷い違和感を覚えるだろう。

「私をどう形容しようが君の勝手だが」

 しかし、彼の表情には一切の疑問はない。
 対峙する暗闇が明らかに人間一人や二人の大きさとは考え難い体積を保持していようが、恐れを抱く様子もまるでない。
 それは感情が欠落しているわけではなく。
 単にこの程度の暗闇では、彼の既知の外には出られていないというだけの話。



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