道化の道化「狂いながら壊れながらも、一緒に生きよう」
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1:名無しNIPPER[sage saga]
2019/08/01(木) 22:39:22.58 ID:ZeTen5TYO
「お父様、その子はなんですか?」
「この子は道化だ」

ある日、王である父が宮殿に道化を招いた。
まだ子供で、僕と同じくらいの年齢だった。
とても奇抜な格好をしていて、まるで引き裂かれたカーテンのようなドレスを身に纏い、破れて短くなった裾からは、痩せて棒切れみたいになった細い脚が無防備に晒し出されていた。
それでいて不思議とみすぼらしくは見えず、どこか気品に満ちていて、そのことがどうにも気になった僕は父に尋ねた。

「どこかの貴族の子供なのですか?」
「それはお前が知る必要のないことだ」

父は冷たい目と声でそれ以上の詮索を拒んだ。
そして気を取り直すように、ひとつ手を叩き。
道化の子供を近くに呼び寄せて目的を明かす。

「今日からこの道化が、お前の友達だ」
「友達、ですか?」
「ああ。不服か?」
「いえ……」
「ならば、仲良くするように」

それだけ言い残して、父は足早に立ち去った。
室内には僕と道化のみが取り残されて、使用人すら誰もおらず、2人っきりとなってしまった。

「あの……こんにちは」
「……」

道化は口がきけないらしく、代わりに深々と腰を折って、挨拶をしてきた。やはり、上品だ。

「今日からよろしくね」
「……」

道化はその滑稽なまでに白く塗られた顔に一切の表情を浮かべることなく、ただ涙を流すようにゆっくりと瞼を閉じて、僕の言葉に頷いた。

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2:名無しNIPPER[sage saga]
2019/08/01(木) 22:42:55.39 ID:ZeTen5TYO
「君は何が出来るの?」

道化といえば、ジャグリングやパントマイム。
楽器や手品まで、とにかく人を楽しませ、笑わせる為になんでもこなす印象があったのだが。

以下略 AAS



3:名無しNIPPER[sage saga]
2019/08/01(木) 22:45:15.51 ID:ZeTen5TYO
「……まあ、初めは誰だって出来ないよ」
「……」
「練習を続ければ、きっと上手くなれるよ」
「……」

以下略 AAS



4:名無しNIPPER[sage saga]
2019/08/01(木) 22:47:13.76 ID:ZeTen5TYO
「へぇ……君は縫い物が出来るんだ」
「……」

流れるような手つきで、チクチクと、道化は裂けたお手玉を繕い、すぐに直してしまった。

以下略 AAS



5:名無しNIPPER[sage saga]
2019/08/01(木) 22:50:01.61 ID:ZeTen5TYO
「……」

その日から、僕は暇さえあれば道化の様子を伺うようになった。幸い、いつも傍に居る。

「……」
以下略 AAS



6:名無しNIPPER[sage saga]
2019/08/01(木) 22:53:00.78 ID:ZeTen5TYO
「また、窓の外を見てたね」
「……」

しばらく月日は流れ、相変わらず掴み所のない無口な変わった道化ではあるものの、ふとした時に窓の外を眺める癖らしきものがあるということを、僕は把握した。

以下略 AAS



7:名無しNIPPER[sage saga]
2019/08/01(木) 22:55:25.80 ID:ZeTen5TYO
「本心を聞かせてくれ」
「……」
「君はここから出たいんだろう?」
「……」

以下略 AAS



8:名無しNIPPER[sage saga]
2019/08/01(木) 22:58:07.99 ID:ZeTen5TYO
「儂が駆けつけた時には何もかも遅かった」

怯える僕を睨みつけながら、父は顛末を語る。

「同盟国が奇襲を受けたのはまさに寝耳に水だった。その凶報を知り、急いで救援に向かったが、既に手遅れだったのだ。王城は陥落し、城下町には火が放たれ……全てが終わっていた」
以下略 AAS



9:名無しNIPPER[sage saga]
2019/08/01(木) 23:00:26.91 ID:ZeTen5TYO
「……せがれよ、お前にこの話をするつもりはなかった。事の次第を話せば、儂はどうしても、感情的になってしまう。だから、許せ」

語り終えた父の怒りの劫火は、立ち消えて。
疲れたようにそう言って、僕の髪を離した。
ズキズキと痛む。頭ではなく、心が痛んだ。
以下略 AAS



10:名無しNIPPER[sage saga]
2019/08/01(木) 23:02:44.14 ID:ZeTen5TYO
「おまたせ! いや〜参ったよ!」
「……」

部屋に戻ると、道化はその場から動かずに帰りを待っていてくれて、その滑稽でありながら気品に満ちた佇まいを見て、思わず溢れそうになった涙を堪え、僕は道化として振舞った。

以下略 AAS



11:名無しNIPPER[sage saga]
2019/08/01(木) 23:05:18.27 ID:ZeTen5TYO
「ごめん……ありがとう」
「……」

道化は手に毛糸の塊のようなものを持っていて、その少しチクチクするけれど暖かい温もりを感じる編み物に、僕は興味を惹かれた。

以下略 AAS



12:名無しNIPPER[sage saga]
2019/08/01(木) 23:06:59.01 ID:ZeTen5TYO
「フハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

高らかに。狂ったように。哄笑を、響かせた。
狂っているのは君だけじゃないと伝える為に。
君だけが壊れているのではないと言いたくて。
以下略 AAS



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