速水奏「人形の夢」
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21: ◆ty.IaxZULXr/[saga]
2020/01/24(金) 21:28:36.41 ID:W4W9+UtG0
「琴歌ちゃん、おかえりなさい!」

「あら、こんばんは」西園寺琴歌。西園寺家のご令嬢とクラスメイトになるなんて、1年前は思ってもみなかったわ。1年前は転校なんて考えてもいなかったけれど。

「ご一緒してもよろしいですか?」

「ええ。構わないわ」かな子と2人だったはずの夕食は5人で1つのテーブルを囲んだ夕食へと変わった。一緒に食べる人が多いのは良いことですよ、とかな子は言う。だから、私もそう思うことにしている。かな子が友人だと思う子も、かな子を友人と思う子も多くて、テーブルに備えられた椅子の数を上限にして、その数は増えていく。

「琴歌ちゃんは何時戻ってきたの?」

「先ほどですわ。夕食はこちらでいただこうと思いまして」
西園寺さんが上品な手つきで夕食を食べ始めていた。かな子も、五十嵐さんも、私も、そして水本さんも、普通の範疇の家庭で育って、マナーを咎めたりしない。誰も西園寺という家を気にしたりはしない、いえ、少しだけするけれど、腫れもの扱いはしたりしない。西園寺さんは気取ったところもないし、学校にも馴染んでいる。それでも、西園寺さんは西園寺の娘に産まれたことは変えられない。

「今年は家族で旅行に行きましたの。お父様もお仕事の合間に寄ってくださったんですよ」
皆で家族の話をしている。例え、西園寺の当主でも跡取り息子でも、同じ人間だものね。変わらないことがあるから、私達の話は続く。何もかも違ったら、話は通じないのかしら。何か同じでないのなら、ダメなのかしら。

「西園寺先輩のお家は都内なのですか?」

「はい」

「それなら、西園寺先輩なら自宅から通うのも許されるのではありませんか?」

ちょっと考え事をしていたら、水本さんが聞きにくいことを本人に聞いてしまっていた。かな子は唖然とした顔をしていて、五十嵐さんは露骨に慌てている。学園は厳密には全寮制ではない。自家用車による送迎だけは許されている。学園の生徒はその規定を必ず知っていて、西園寺さんがその規定を使えるのも知っている。

「響子さん、どうしましたか?」

聞いた本人はわかっていない。聞かれた方は小さく微笑んだ、ちょっとだけ寂しそうに。

「いつまでも西園寺の家にいることはできませんわ。どちらも選べましたけれど、私は寮に入ることを選びましたの」

「私もです、親元を離れると成長できると思いました。お世話になり過ぎるのもいけませんから」

家にいることはできません……ね。水本さんは微妙な言い回しには気づいていないみたい。

「響子さん、色々教えてくださいね」

「ゆかりちゃん、もちろんです!」

五十嵐さんは水本さんに教えるのかしら……教えなそうね。水本さんの自立はもう少し先になるでしょう。

聞くなら、今のうちかしら。

「西園寺さん、同部屋の方と夕食は一緒にしないの?」何らかの事情がなければ、大抵は同部屋の人と一緒だ。今まで西園寺さんとそのルームメイトが一緒にいるのを見たことはない。そして、私は見たことがない理由も知ってる。ルームメイトが黒埼ちとせという3年生だということも知っている。

「ちとせさんは、今日から来る予定でしたの」

「黒埼先輩、まだ入院してるの?」

黒埼ちとせという人に、私は会ったことはない。何となくだけれど、気はあわないと予想している。かな子とも仲が良いわけではなさそうだし。

「いいえ。ご自宅には戻っているそうですよ」


「そうなんだ。学校にはいつ来るの?」

「明日、お医者様の診察を受けてからとおっしゃていましたわ。早ければ明後日には戻るそうですよ」

「西園寺さんとは、去年から同部屋なのよね?」黒埼家は東欧で財をなし、日本に戻ってきたという。そんな黒埼家のご令嬢である黒埼ちとせにも向こうの血が流れているらしいわ。別に聞きたいのはそんなことじゃない。

「はい、親切にしていただいてますわ。お休みがちなのが残念ですわ」

「休みがちだから、西園寺さんと同部屋なのかしら」かな子の顔が固まるのが横目に見えた。五十嵐さんは水本さんのことしか気にしていない。



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