速水奏「人形の夢」
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27: ◆ty.IaxZULXr/[saga]
2020/01/24(金) 21:33:32.40 ID:W4W9+UtG0
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旧校舎・2階・可愛いもの愛好会部室

大校舎は、西は寮に、東は旧校舎に連絡している。旧校舎はもう授業は行われていなくて、倉庫と部室に使われている。地方の文化財になっちゃったから、取り壊せないって聞いたわ。

可愛いもの愛好会の部室は2階。今日は部活の日ではないらしいけれど、西園寺さんが特別に案内してくれた。昔々は教室で使われていたという木製の机と椅子、校内から集めて来たという棚。裁縫用具とミシンもあった、足踏みミシンなんて初めて見たわ。他と調和がとれていないものが幾つか、真新しいノートパソコンと通販サイトのダンボール。棚には、『可愛いもの』が並べられていた。可愛いと思う部員がいるからでしょうけれど、大きなダイオウグソクムシのぬいるぐみがあった。玉石混交の『可愛いもの』で部室は満たされていた。西園寺さん含めて、大らかな性格な部員が多いのね、きっと。

「こちらを部室としてお借りしていますの」

可愛いもの愛好会の活動内容を西園寺さんが説明してくれていた。同じ趣味を持つ集まり以外の何物でもない、というのが私の感想。普段は学園から出ないから、どうしても欲しいものがある場合は通販サイトを使ってるとか。大半の『可愛いもの』は学園内から見つけて来たものと言っていたわ。卒業時に譲り受けたり、校内の倉庫から見つけてきたり。どうりで、アンティークめいた物も高級そうなものも多いわけね。

「家庭科の佐藤先生に教わりまして、手直しをしていますの」

お金がないわけではないけれど、手に入れるチャンスが少ないから、可愛いもの愛好会は手直しをする。時間はたくさんあるものね。新しい物を買う方が速くて安いけれど、彼女達には時間と心に余裕がある。このぬいるぐみは倉庫でホコリまみれだったんですよ、と西園寺さんが言っていた。どこかの家で丁寧に保存されていたと思えるくらいに、ぬいるぐみは綺麗な毛並みになっていた。

西洋人形もいくつかあった。彼女達のための、新しい洋服がミシンの隣のハンガーラックに飾られていた。西園寺さんによると、学園にあったものがほとんどで、生徒が持ち込んだものが幾つか。

「西園寺さんが持ち込んだものはあるのかしら?」

「ここにはありませんわ」

寮の部屋に幾つかあるが、ここには持ち込まないそうよ。新しいものと出会うための場所と西園寺さんは考えているみたい。よくよく聞いてみると、西園寺邸には西園寺さん専用のコレクションルームがあるみたいね……さすがとしか言いようがないから、妬む気持ちにもなりにくいわ。

さて、本題に入りましょうか。あの人形は見当たらないことだし。

「ビラの写真の、後ろに映っている人形、いないかしら」

「こちらの子ですか?」

西園寺さんは不思議そうに写真を覗き込んだ。そして、部室を見回した。この様子だと、結論は私と同じ。あの人形はここにはなく、あの人形がどこにいるかもわからない。

「申し訳ありません、わかりませんわ」

「この部屋にあったのかしら?」

「写真は部室で撮ったものですから、そう思いますわ」

「そう、残念ね」ビラを眺めながら西園寺さんが棚を開けたりしているが、見つかりそうな予感はしない。その様子を眺めてみる、ゆったりとした丁寧な所作が見についていることはわかったけれど。

「西園寺さん、嘘をついてないわよね?」西園寺さんの背中に向かって問いかける。人形を探す動きが止まって、彼女はこちらを振り返る。

「どうしてそんなことを聞きますの?嘘をつく理由なんてありませんわ」

「ええ、わかってるわ」嘘はついていない、のかしら。いずれにせよ、これ以上はわかりそうもないわね。

せっかく来たのだし、西園寺さんが手直ししたものでも見てから戻りましょうか。



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