速水奏「人形の夢」
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32: ◆ty.IaxZULXr/[saga]
2020/01/24(金) 21:36:52.43 ID:W4W9+UtG0
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学生寮・2号館・343号室

お風呂上がりのかな子から、いつもと違う香りが漂っていた。何か変えたみたい。

テーブルの向こうにいるかな子が、先に話し始めた。

「奏さんはどう思ってるんですか?」

「何を?」

「その……琴歌ちゃんがイタズラしてるのかな、って」

「そこがまずは聞きたいのね、かな子らしい」

「私らしい、ですか?」

「かな子は優しいわね。でも、その質問が難しいの」

「難しい、ですか?」

「考えていたらわからなくなってきたの。かな子は、どう思うかしら」

「どう、って……」

「西園寺さんが私に思う所でもあるのか、ってこと」まだ頬が赤いかな子をじっと見る。

「そんなことありませんっ。一番最初は年齢詐称、意地悪そう、本当に転校してきたの、とか思ったりしましたけど……」

「かな子。私のことはいいわ」ちょっと誇張して言ったのよね、そうよ、ええ。

「琴歌ちゃんも、そんなことするとは思えませんし……」

「私もそう思うわ」西園寺さんが私にどんな印象を持っていても、思う所があっても、何もしないでしょう。西園寺さんにとって、私なんて取るに足らない存在でしょうから。

「それなら、琴歌ちゃんは何もしてないんですか?」

「いいえ。人形を動かしてるのは、西園寺さんよ。でも、西園寺さんは、あの人形を知らなかったの」

「うーん……?」

「どういうことかしらね」

「わかりません……琴歌ちゃんが嘘をついてるとか、ですか?」

「私、嘘には敏感なのよ」それが、良いことなのかどうかはわからない。

「西園寺さんは嘘をついてないわ」

「えっと……?」

かな子の悩み顔を見るのは、このくらいにしておきましょう。

「色々考えたけれど、事実は単純じゃないかしら。やったことを覚えていないだけ」人形のことを覚えていないのは、少しやり過ぎね。

「どうやってるのかしらね、不思議」

「あの、奏さん?言ってることがわからなくて」

「西園寺さんを操ってるのよ、あの人形が、ね」幽霊がいるのだから、呪われた人形だっているかもしれないわね。何がしたいのかわからないのは、人間と一緒。

「う、嘘ですよね?」

「かな子?」かな子の頬の赤みはすっきり取れてしまった。『キヨラさん』の話は信じるのに、この話は信じないのね。良いことだけを、信じられるように私もなりたいわ。

「冗談よ、もちろん。ホラー映画みたいなこと、あるわけないじゃない」嘘つきは人に嘘だと思われたら、本当も嘘にしてしまう。本当よりも嘘の方が気楽だから。

「そ、そうですよね」

「それに、この部屋なら大丈夫よ。『キヨラさん』が守ってくれるわ」優しい嘘なら、幾らあっても問題ないのかしら。かな子の表情が和らいだから、それでいいの。



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