速水奏「人形の夢」
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8: ◆ty.IaxZULXr/[saga]
2020/01/24(金) 21:16:01.32 ID:W4W9+UtG0


学生寮・2号館・343号室

寮の部屋に戻ってきて実感したことは、時間は多くあること。転校前は時間がないようにしか思えなかったけれど、それは違ったみたい。時間を浪費する色々なコトから離れると、緊張から解放されたように感じた。勉強する時間も、部活に打ち込む時間も、ルームメイトと談笑する時間も、私にはあった。だから、かな子に夕食のお手伝いを申し出たけど、断られちゃった。

日に日に溜まっていく部活への勧誘ビラを眺めていると、夕食の時間になった。もちろん、かな子と一緒に夕食を食べる余裕も今はある。普段は使わないちゃぶ台に夕食が並んでいる。

「美味しいわ。お菓子作り以外も上手なのね」バターの香りが漂うムニエル、野菜いっぱいのミネストローネ、小鉢のサラダ、トースターで焼いたバケット。かな子らしく、優しい味と満足できるボリューム感。

「ありがとうございます♪奏さんは洋食の方が好きなんですか?」

「別に、こだわりはないけれど」かな子、気をつかってくれたのかしら。

「あれ、誰かが言ってたような?」

「誰が言ってたのかしら、私が言った覚えはないわ」学園の生徒はウワサ好きなのは、仕方がないこと。転校生だから言われるとは覚悟はしている。とはいえ、これくらいのウワサしか流されなくて拍子抜けしているところもあったり。

かな子との食事は良いわ。何を話しても受け入れてくれる気がするし、話したくない時は向こうが話してくれる。ワガママね、私。そんなことを考えていると、部活の話になっていた。

「奏さん、部活には入らないんですか?」

「ちょっとは考えてるわ、気楽そうな集まりもありそうだし」1週間に1度は勧誘が来るし、勧誘ビラは毎日。もともと入る部活が決まって入学してくる生徒も多いので、部員獲得は大変みたいね。かな子はお菓子作りの同好会に入っている。週2か3回、私にもお裾分けをくれる。実は料理は嫌いじゃないけど、私はお裾分けされる側の方かしら。

「かな子はどうして部活に入っているの?」

「お菓子作りが好きだから、かな」

「理由がまっすぐで羨ましいわ。将来もそっち方面かしら?」かな子なら、どんな道を選んでも平気でしょうけれど。高校2年の5月、進路を考える時期でもある。

「えっと……まだ、あまり考えていなくて」

「私も同じよ。一緒に考えましょうか」時間はあるもの。ゆったり流れる時間のなかで、決めて行けばいい。決められなかったら……どこかのお節介さん達が動いてくれるわ、きっと。



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