【ミリマス】松田亜利沙「同級生から、コクハクされちゃいました……」
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8:自縄自縛 7/9[sage saga]
2021/03/05(金) 18:06:29.24 ID:sro8Zma60
 小皿の上でずっと止まったままだったクリームチーズを少しだけバターナイフで削り、亜利沙がそれをハニートーストに塗り付けた。もうクタクタになっていたそれを千切って口に運ぶと、今日初めて、年頃の少女らしい笑みがこぼれた。

「プロデューサーさんも食べて下さい。ありさ一人には、ちょっと多いんで」

 勧められた通り、自らもハニートーストを口にした。サクッとした食感こそ失われていたが、濃い甘みがじわりと生地からあふれ出て、苦味と渋味に苛まれていた口の中に優しく広がっていく。

「亜利沙自身は、彼のことはどう思っていたんだ?」
「うーん……好きとはそういうのは、ありませんでした。どの道断ってたと思います。だって……」

 半分以上溶けたクリームソーダのアイスを掬おうとしていた亜利沙の手が止まった。

「だって、ありさにはもう……す……」

 ぱっちりした大きな目が、真っ直ぐにプロデューサーを見つめた。カラーコンタクトを着けているのかと錯覚するぐらい、潤んだ瞳が、円く広がっている。

「あ……ありさは……えっと、その……プロデューサー、さん……が」

 澄んだ瞳孔の奥へ、魂が吸い寄せられる。そのまま視線を合わせていられなくなりそうだったが、先に目を逸らしたのは亜利沙の方だった。

「何でも……何でもないです……。ありさ、アイドルなんで、やっぱりダメなんです……。あはは……あ、ちょっと、お顔を直してきますっ」

 口元は笑おうとしていたが、その双眸はどこか、残念そうにくすんでいた。

 言いかけていた言葉の続きが気にかかったが、化粧室に向かう亜利沙の背中では、編んだ髪が小走りに揺れてバッテンに重なり、それ以上の追求を避けているみたいだった。

 空になったグラスに目を留めた店員が、水を注ぎにやってきた。一気に飲むと、その水は思いの外冷えていてキンとしたが、頭に生じた靄をスッキリさせてくれた。


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