ウタウタウ
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1:名無しNIPPER
2021/08/23(月) 01:22:34.75 ID:Uc90J3hWO
ヨウちゃんって歌うまいよね。

隣の家に住んでいた二つ年上のユリちゃんにそう言われたのが、歌い始めるきっかけだった。二人で遊んだ帰り道に何の気なしに口ずさんだ歌だった。

彼女に褒められたいということだけをモチベーションに歌い始めた。気がつけば楽器を弾くようになり、バンドを組んで、今ではちょっとした人気バンドのボーカルだ。何万人もが聞いて感動している歌は、ただ一人の彼女に届けば良いと思って作った歌だった。それなのに、果たしてそれが叶うことは無かった。

彼女は今日、僕ではない彼と結婚式を挙げる。

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2:名無しNIPPER
2021/08/23(月) 01:23:52.99 ID:Uc90J3hWO
結婚の報告を聞いた時は、予想していた時ほど落ち込むことは無かった。いつかはそんな日が来る気がしていたし、自分がその相手になることができないとは思っていた。

ユリちゃんは子どもの頃の僕が早々に気づいていた通り、とても綺麗な女性だった。

周りの男たちもそう言うことに気がつき始めたのは彼女が中学校に入学したあたりで、その頃から彼氏という存在がいない期間は一週間となかった。誰かと付き合っては別れ、また次の誰かとあっという間に付き合っている。その繰り返しだ。
以下略 AAS



3:名無しNIPPER
2021/08/23(月) 01:24:49.30 ID:Uc90J3hWO
それでも俺は彼女のことを諦めることなんかできなくて、それは一種の呪いみたいなものだったのかもしれない。好きじゃなければそんな様子を見て落ち込むことなんて無いと思うことは何度もあった。しかし、そうであったとしてもそうすることはできなかった。彼女と歌うこと、その二つが自分の全てだったのに、そうしてしまうとどちらとも失ってしまう気がした。

自分の手に届かない高翌嶺の花であるユリちゃんを諦める理由が欲しかった。

いっそ告白を失敗してしまえば諦めもつくんじゃないだろうか。
以下略 AAS



4:名無しNIPPER
2021/08/23(月) 01:25:40.40 ID:Uc90J3hWO
子どもの頃によく遊んでいた辺りを旅立つ前に回ってみようと誘ってみると、あっさりと承諾をしてくれた。荷造りなどもほとんど終わってしまい、あとは出発の日を待つだけだったらしい。あの頃は自転車を立ち漕ぎで駆けていた堤防を二人で並んで歩いた。

「こんなところ、ファンの子に見られたら怒られない?」

「ファンなんかいないから」
以下略 AAS



5:名無しNIPPER
2021/08/23(月) 01:26:25.83 ID:Uc90J3hWO
こうやってたまに相手をしてもらうだけでも良いと。僕が多くを求めなければ、僕がこの苦しみから逃げなければ良いと。

「でも、東京に行ったらヨウちゃんの歌が聞けなくなるのは残念だな」

「もっと良い歌手がいっぱいいるよ」
以下略 AAS



6:名無しNIPPER
2021/08/23(月) 01:27:02.97 ID:Uc90J3hWO
「ユリちゃんのこと、好きなんだ」

 泣きながら笑いながら、言葉にすると、何でこの一言を何年も言えずにいたのだろうかと思うほど簡単に音にできた。

「だから歌ってきて、よかったなって」
以下略 AAS



7:名無しNIPPER
2021/08/23(月) 01:27:40.21 ID:Uc90J3hWO
結婚式の余興で歌ってほしい、というのは彼女からのリクエストだった。

残酷なことをさせるなとも思ったし、そう言われたことで救われたところもあった。

あの日の告白とも言えぬ僕の自白には何もなく、それまで通りの関係性だった。変わったことがあるとすれば、僕はより一層彼女のことと歌うことの呪いに深まったくらいだ。
以下略 AAS



8:名無しNIPPER
2021/08/31(火) 01:31:16.71 ID:HhS3J7f+O
サブスクでチャートの上位に入るようなラブソングを聞くたびに、自分がここにいることを改めて自覚する。

世間一般で私と同じくらいの女の子がしている恋愛なんて、私にはできないから。歌詞の感情を理解できないままに聞き流すことしか私にはできなかった。

娼婦、という言葉の意味も理解する前から私はここに住んでいた。両親がお金に困って私を売ったのは、まだ両手で年を数えられる頃だった。
以下略 AAS



9:名無しNIPPER
2021/08/31(火) 17:47:13.53 ID:zwE4/74sO
この世にあるラブソングは全て仮想の物語で、私に実体験として訪れることは無いと思っていた。

だからこそ、最近流れてくるこの歌がやたらと気になって仕方が無かった。歌っている内容はとても甘いラブソングで、ヒットチャートにある他のグループとも大差が無い。それなのに、歌い方なのか声なのか、それとももっと本質的なところなのか、果たしてその理由が何かは分からないけれど、私にはとても苦しそうに歌っているように思えた。

この歌のような甘い出来事は英語で言うところの仮定法のような。叶わないと知りつつも、そう願っていると伝わるような。そんな歌い方だった。
以下略 AAS



10:名無しNIPPER
2021/09/03(金) 00:27:14.28 ID:dX1WBd8vO
彼はどんな気持ちでこの歌を作ったのだろう。誰を想い、どんな希望と絶望で歌っているのだろうか。悲しい気持ちになってしまうのに、気がついたときは私はこの歌の虜になっていた。

誰かに春を売った後、私は決まってこの歌を流すようになった。まだ見ぬ誰かに、こんな気持ちを抱くのだろうかと。誰かを好きになることは、果たしてあるのだろうかと。

そんな希望を持つことが、私にとっては絶望でもあった。
以下略 AAS



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