過去ログ - 【咲安価】久「豆知識を?」京太郎「ええ、教えてください」 四局目【解説?】
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◆B6xkwd67zxGJ
[saga]
2012/11/03(土) 05:53:10.00 ID:UUPXZhLjo
先ほどまではどうしようもない恐怖を覚えていたのに。
そして本来ならこの冷徹な京太郎に対して恐怖を覚えるはずなのに。
なんて、素敵な男なんだろうと――安心していたのだ、咲は。
「可哀想だとか気の毒だとか、これっぽっちも思わないで済みそうだ……実に都合がよかった。君たちが幸せそうな馬鹿で」
京太郎が、くるりと踵を返した。
引きずられるようにその手を追従する男。生まれたての小鹿のごとき、震える足で。
男の背後は、開け放たれた車のドアだった。
先ほど投げ入れられた男が朦朧とした風体で、シートに寝そべっている。
ハンドルに突っ込んだ男は、エアバッグとの衝撃で鞭打ちになったのか、助手席に寄りかかっていた。
そして、唯一無事の運転手の男は泣き笑いの表情を浮かべて、バックミラーで様子を窺っている。
「命を手放すかと言ったが、スマンありゃあ嘘だった……前歯だけだ」
猛烈な京太郎の蹴り。男が車内に押し込まれる。前歯は摘ままれたまま、男の口腔から引き抜かれた。
ほが、と間抜けな声を上げる男。シートに横たわっていた男を、尻の下に敷いて。
運転手はとうとう、泣き出していた。そのまま京太郎の許可を求めるかの如く、ミラー越しに視線を送る。
心底興味なさそうに一瞥した京太郎は、経った今へし折った前歯を、運転手へと投げ渡す。
「フン……軒下にでも投げておくんだな」
機械音が鳴り、車のドアが閉じた。運転席から遠隔操作したらしい。
静かに走り出すワゴン。京太郎と先から3メートルあたり離れたところでそれは猛スピードで加速し、瞬く間に離れていく。
なんだか嬉しいような、驚いたような、怖かったような、拍子抜けした気持ちで咲はその場にへたれこんだ。
そんな咲へと優しく微笑みかける京太郎。
その顔はいつも通り柔和で、ついこの間咲に愛を誓った彼とは変わりがない。
だが、知ってしまった。彼のその笑顔の下に隠れる、漆黒の殺意を。
その両手にしがみつき、咲は声を上げて泣いた。震えていた。今更、ようやく全身に恐怖が伝播したらしい。
静かに咲を抱きしめる京太郎。ぼそりと、彼が何かを呟いた気がした。
「――尤も、できれば……の話だけどな」
京太郎の右手がかすかに動いた。同時に、どこかで事故が起こったような――そんな錯覚を咲は覚えた。
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