過去ログ - 金剛「テートクのハートを掴むのは、私デース!」瑞鶴「!?」 三隻目
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13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/11/22(金) 02:33:19.01 ID:umsHAw1bo
 カチン──。
 硬いボタンを押す音が聴こえた。それは、腕の中で微笑んでいる少女の終わりを告げる音──。
「……消え始めましたね」
 チラリと自分の足を見ながら、寂しそうに彼女はそう言った。
 白く細く長い綺麗な足は、既に足首から先が消えてしまい、膝小僧は薄っすらと半透明になっている。
 その進行は止まる事をしらないように、ゆっくりと蝕んでいた。
「提督」
 呼ばれたので金剛の顔へ向くと、彼女は笑顔を作っていた。
 痛々しかった。彼女を解放を止めたい衝動にも駆られた。
 だが、それは許されない。ここまで来て、最後の最後で足を止めるのは許されない。
「どうした?」
 だから、私も無理矢理に微笑んで彼女の透き通った灰色の瞳を見詰めた。
 その瞬間、悲しそうな顔をされる。どうやら彼女にはお見通しらしい。
 けれど、すぐにその表情を痛々しい笑顔に変え、彼女は言った。
「ありがとうございました」
 ズキン、と胸に痛みが走る。
 言って欲しくなかった言葉。お別れを告げる、胸に刺さる言葉だった。
 それは少女も同じなのだろう。目の端に、宝石のように光る粒が姿を現した。
「私、最高に幸せです」
 また、胸に痛みが走った。今度はさっきの比ではない。
 彼女が楽しかったであろう出来事──。
 彼女が嬉しかったであろう出来事──。
 彼女が幸せであったろう出来事──。
 思い当たる節が、いくらでも思い浮かんだ。
 そのどれも、もう与える事は出来ない。貰う事すら出来ない。
 彼女の身体は、もう腰の辺りまで消えてしまっている。残された時間は、あと僅かしかない。
「……………………」
 何か言わないと──。
 そう思えば思う程、頭が働いてくれない。
 飴玉が詰まったビンを逆さにしても出ないように、言いたい事や伝えたい事が、ここぞという時に出てきてくれない。
「…………」
 ほら、彼女は待ってくれている。私の言葉を待っている。何をボーっとしているんだ早くしろ。
 気持ちは焦るばかりで、逆に言葉は全く出てきてくれない。
 いつも偉そうにしている癖に、自分がこういう状況に陥ったら何も出来ないのか。
「……金剛」
 やっと出てきた言葉は、彼女の名前だった。
 陳腐なんてものですらない。まだ三流芝居の言葉の方が遥かに気の利いた言葉を紡げている。
 なのに、もう胸の辺りまで消えてしまっている少女は、笑顔になってくれた。溜まっていた涙は、決壊したかのように溢れている。
 ……なぜだ。なぜこんな一言でそんなに喜んでくれるんだ。
「最後が、提督の腕の中で良かった」
 もう、首も半分以上透けてしまっている。何をすれば良いのか分からない。何と声を掛けてやれば良いのか分からない。
 そんなどうしようもない馬鹿な私──。そんな馬鹿な私にも、一つだけ思い浮かんだ事があった。
「────っ!」
 許可も、前触れも、何もしなかった。そのせいか、金剛はとても驚いた顔をしている。
 奪うような、触れるだけの軽いキス──。
 私の知っている中で、彼女が一番幸せそうにしていたのがキスだった。そんな安直な考えで、私は唇で唇に触れた。
「──あはっ」
 さっきよりも輝かしい笑顔で、彼女は笑ってくれた。


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