21: ◆8HmEy52dzA[saga]
2014/12/11(木) 23:42:21.60 ID:ey41gLLW0
「場所が場所だけに、今日は客席からお前らを応援する」
ああ、まあ、何となく言わんとしてることはわかるっスけど。
アタシにとっても由里子ちゃんにとっても、ある意味聖地ですしね、ココ。
「んじゃ、そろそろ行くっスか」
「よーし、乙女成分も補給したことだし、テンションブチ上げて行くじぇー!今日のあたしは攻めだ!」
弾頭のように飛び出していく由里子ちゃん。
インドア組の仲間だけれど、あのテンションの高さは見習いたいものっス。
乙女成分というのはさっきの本のことでしょうね。
「元気だな大西は……あの恋愛に注ぐ情熱を是非ともアイドル活動に傾けて欲しいんだが」
「ね、プロデューサーさん」
苦笑いを浮かべるプロデューサーさんに、後ろから声をかける。
あんな夢を見た後だからか、ちょっと思い出しちゃったじゃないっスか。
「プロデューサーさんがアタシをシンデレラにしてくれるんスよね?」
「ん?」
人生は、いや人間は面白いっスね。
アタシがアイドルだなんて、ついこの間まで欠片も思わなかったのに、なんでもないことがきっかけでいとも簡単に境遇は変わる。
女を捨てるまでとは行かないけれど、オシャレもファッションも全く興味のないアタシが華やかなステージで歌って踊るアイドルだなんて、笑っちゃうっスよ。
「なんだ、ガラスの靴を持ってプロポーズして欲しいのか?」
「あはは、プロデューサーさんが王子様だなんて冗談じゃないっスよ」
「なんだとう!?」
「そんな法被着た王子様なんて願い下げっスー」
憤慨するプロデューサーさんを笑いながらあしらい、眼鏡を外す。綺麗な衣装を着て化粧をすれば、新しいアタシに変身だ。
プロデューサーさんは王子様なんかじゃない。
プロデューサーさんは、アタシに魔法をかけてくれた魔法使いだ。
昔から疑問だった。
シンデレラの魔女は、なぜ無償でシンデレラに魔法をかけたのか。
それはきっと、プロデューサーさんのようなお人好しか物好きだったのだろう。
なに、大人物というのは得てして変人の類が多いんだ。
飛び抜けて周囲と違うんだから、ちょっと変なくらいが丁度いい。
その分、アタシはその辺に転がっている灰かぶりだ。
でも、ちょっと運が良かったのか、魔法使いが魔法をかけてくれた。
世界の広さに対して人生は短すぎる。
時間は有限なんだ。
だったら、精一杯やるだけやって、可能な限り今この瞬間を楽しもう。
ダメだったらダメだったでいい。
それはそれで自分を笑い飛ばしてやればいい。
アタシは最初から何も背負う必要はないんだ。
だから、なんでも出来る。
トップアイドルを目指すことだって、出来るんだ。
「それじゃ、行って来まスね」
「ああ、頑張れよシンデレラ」
「はい!荒木比奈、行くっス!」
魔法が解ける、その前に。
ひなウルフEND
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