1:名無しNIPPER[saga]
2015/04/04(土) 01:05:39.31 ID:kTmzGD6d0
「――それではメンテナンスを始めますね」
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2:名無しNIPPER[saga]
2015/04/04(土) 01:08:47.65 ID:kTmzGD6d0
ガシャリガシャリと音を立てるのは俺の体。
「ありがとう――」
前時代からは考えられない、まるで別世界というような空間。
3:名無しNIPPER[saga]
2015/04/04(土) 01:12:41.93 ID:kTmzGD6d0
「体調が優れないのですか――?」
感傷的になる俺の様子を察して、目の前の女は作業をしながら俺に話しかけてくる。
女は俺をメンテナンスする技師、俺という名の楽器を調律する技師だ。
そんな彼女はカーキ色の和服…… 着物を纏い、そして袴を履いて、足にはブーツと呼ばれる外国伝来の靴を履いている。
4:名無しNIPPER[sage saga]
2015/04/04(土) 01:15:50.11 ID:kTmzGD6d0
機械化された俺の体。
どのような原理、どのような仕組みで出来ているのか当の俺でも不明であり、しかし人形になったこんな俺でも人間のように五感、欲、心を程度こそ違えど持ち合わせている。
そうだ、俺は人間じゃない。 「元」人間だ。
俺は人間から人形になった。
5:名無しNIPPER[sage saga]
2015/04/04(土) 01:18:33.03 ID:kTmzGD6d0
ここはとある世界。
そんな世界、とある世界線。
――眠りの中、記憶は巡る。
6:名無しNIPPER[sage saga]
2015/04/04(土) 01:23:06.46 ID:kTmzGD6d0
――人間は欲深き生物である。
そして迎えたのは帝国主義時代。
群雄割拠がひしめき合い領土を拡大する。
列強が生まれ、弱者は植民地として支配される。
7:名無しNIPPER[sage saga]
2015/04/04(土) 01:27:07.86 ID:kTmzGD6d0
幕府側陣営についていたとある藩、その傘下の部隊に所属していた俺は迫り来る新政府軍と戦火を交えた。
しかし奮闘虚しく新政府軍の猛攻に圧倒され敗走し、戦場は移り変わって…… 俺の故郷は灰燼と化した。
――そして俺は名前を失くした。
8:名無しNIPPER[sage saga]
2015/04/04(土) 01:31:52.16 ID:kTmzGD6d0
目の前には謎の男。
そして俺の体のほとんどが機械へ変わっていた。
サイボーグ、機械兵士、機甲兵と呼ばれる殺戮兵器に変わっていた。
俺は殺戮兵器。殺人機械。
9:名無しNIPPER[sage saga]
2015/04/04(土) 01:35:32.27 ID:kTmzGD6d0
時代はいつしか明治と呼ばれるものに変わっていた。
戦争に勝った新政府はそのまま日本を統治し、明治維新と呼ばれる革命を起こして一気に近代化した。やがて西洋の文化や技術もやって来る。
その中にはもちろん機械化技術も含まれていた。
富国強兵を掲げた新政府はその技術を積極的に吸収して国力を上げていく。
10:名無しNIPPER[sage saga]
2015/04/04(土) 01:38:41.30 ID:kTmzGD6d0
――俺の戦争は終わらない。
愛する人は全て過去の世界の中。
俺もそこに取り残されている。
俺の戦争は終わっちゃいない。
11:名無しNIPPER[sage saga]
2015/04/04(土) 01:42:35.67 ID:kTmzGD6d0
「大丈夫ですか――?」
目が覚める。
また悪夢を見た。
僅かに残された人間の頃の記憶が見せた悪夢だ。
12:名無しNIPPER[sage saga]
2015/04/04(土) 01:48:25.72 ID:kTmzGD6d0
帝都東京に潜む反政府組織の幹部を抹殺せよ。
司令と呼ばれる人間の命令が俺たち機甲兵に下された。
「――ねえ01、今回は面白くなりそうだね!」
13:名無しNIPPER[sage saga]
2015/04/04(土) 01:53:13.05 ID:kTmzGD6d0
俺は今回の作戦で機甲兵一分隊を指揮する立場となった。
実戦経験の豊富さ故なのか。
司令から任命され、機甲兵の部隊を取りまとめる立場となった。
嬉しくもなんともない。
俺は人殺しを命令するのだ。
14:名無しNIPPER[sage saga]
2015/04/04(土) 01:58:40.65 ID:kTmzGD6d0
「政府の犬が――!!」
仄暗い倉庫内。
ぶら下がった裸電球が照らすのはさっきまで生きていた人間たち。
鮮血と亡骸が覆い尽くす空間の中央。
15:名無しNIPPER[sage saga]
2015/04/04(土) 02:03:30.85 ID:kTmzGD6d0
この時の俺は…… もしかしたら僅かに残った人間性に突き動かされていたのかもしれない。
02の制止を振り切る。
「――任務の範疇だ。言ってみろ人間」
「お前らの飼い主はやがてこの国の人間を全て殺す!」
16:名無しNIPPER[sage saga]
2015/04/04(土) 02:08:32.03 ID:kTmzGD6d0
「無駄死に――」
「そうだ…… 分かったか化物。
お前らにも人間だった時があるんだろう!?
どうして飼い慣らされる!? お前らにも人間の心が残っているのだろう!?」
「01、アカ野朗のプロパガンダだ。惑わされるな」
17:名無しNIPPER[sage saga]
2015/04/04(土) 02:10:37.83 ID:kTmzGD6d0
「――まだ間に合う! 俺たちと一緒に来るんだ!」
「あんたは黙ってて!」
「このまま駒になって死ぬのか! お前らにも人間だった頃があったはずだ! 愛する者がいたはずだ!」
「愛する者――」
「そうだ、それを政府は奪った! お前らの体を強引に機械にして、人間の尊厳も、自由も何もかも奪った! 奴らはそういう外道どもだ!」
18:名無しNIPPER[sage saga]
2015/04/04(土) 02:12:32.80 ID:kTmzGD6d0
「かえしてくれよ!」
「01、アンタ一体――」
「さっさと命令を出してよ01! 何を言っているの!?」
「かえせよ…… 人間だった俺を! 俺の家族を、友人を、戦友を、恋人を、記憶を、名前を――!」
「お前らは政府に何もかも奪われた。お前らは名前を失くした亡霊だ。
19:名無しNIPPER[sage saga]
2015/04/04(土) 02:15:14.93 ID:kTmzGD6d0
ダン!
「――任務を遂行した。帰還するぞ」
もう聞きたくなかった。
20:名無しNIPPER[sage saga]
2015/04/04(土) 02:17:07.18 ID:kTmzGD6d0
「――精神値が不安定です。何かあったのですか?」
俺は機械だ。
こうしてまた技師の女から調律を受ける…… そう、ただの機械。
21:名無しNIPPER[sage saga]
2015/04/04(土) 02:19:11.87 ID:kTmzGD6d0
「これは――」
それがどうだ。
人間のように涙が流れるのだ。
俺は未だ機械になりきれていない、そして人間でもない中途半端な出来損ないだ。
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