1:名無しNIPPER
2015/08/18(火) 10:08:27.43 ID:o/H/my9+0
「私はまだ高校生で、ときどき、プロ野球選手を創る」
対面に座る七海千秋が、そらんじるような、スローテンポな調子で言った。
呆けた表情のままなのがおかしくて、僕は苦笑が漏れる。
「いきなりどうしたのさ」
彼女はゆっくり視線を僕に向ける。
大きな瞳に、跳ね上がった後ろ髪が幼い印象を与えるが、胸の隆起は大人の女性のそれだった。
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2:名無しNIPPER
2015/08/18(火) 10:09:03.74 ID:o/H/my9+0
「小説の冒頭をもじったんだけど」
知らないかな、と小首を傾げる。
「そうなんだ。何て本?」
3:名無しNIPPER
2015/08/18(火) 10:09:46.61 ID:o/H/my9+0
ホテルのロビーは冷房のおかげで居心地良く、僕はほとんどの時間をここで過ごしている。
結果的に、七海さんと一緒にいる時間が増えた。
彼女と居ると、どこか時間がゆっくりと流れているような気がする。
4:名無しNIPPER
2015/08/18(火) 10:10:30.00 ID:o/H/my9+0
「名前、どうしたらいいと思う?」
「そうだねえ」
彼女が今やっているのはプロ野球ゲームだ。
5:名無しNIPPER
2015/08/18(火) 10:11:04.77 ID:o/H/my9+0
「うんうん、なるほど。じゃあここは外国人風にするのはどうだい?」
「リーシャオランとか?」
「う、まあアジア系も悪くないね。他には…」僕は指折りながら言う。「ジャクソン、ケネディ、ジョンソン、レーガンなんてどうかな?」
6:名無しNIPPER
2015/08/18(火) 10:11:43.63 ID:o/H/my9+0
ポケットからゲーム機をだし、起動する。作った選手のデータを開く。
興奮した様子で七海さんが僕の隣に座った。さらりとした髪からは女性特有の良い香りがする。
「狛枝くん、外国人多いんだねー」
7:名無しNIPPER
2015/08/18(火) 10:12:25.36 ID:o/H/my9+0
十字キーを操作し、ルーデンベルクという選手にカーソルを合わせた。
途端彼女の目が少し見開く。
「へー。強いじゃん」
8:名無しNIPPER
2015/08/18(火) 10:13:06.35 ID:o/H/my9+0
このゲームでの選手の名付けは、悩みどころの一つだ。
あらかじめ考えていても、いざ入力する段階になると忘れてしまっていたりする。
作り終っても何て名前だったっけなんてこともある。
9:名無しNIPPER
2015/08/18(火) 10:13:53.17 ID:o/H/my9+0
「グレゴリウス。ギリシャ風の名前かい?」
「かっこいいでしょ」
彼女は自慢するように鼻息を漏らし、プレイを始めた。
10:名無しNIPPER
2015/08/18(火) 10:14:36.24 ID:o/H/my9+0
いつの間にかお昼ご飯の時間となり、つぎつぎと他の生徒が戻ってくる。
僕と七海さんも、小泉さんに怒鳴られるように呼ばれ、ホテル内のレストランへ急いだ。
ぼくらを収容するには十分すぎる広さで16人が集まってもスペースは有り余っている。
11:名無しNIPPER
2015/08/18(火) 10:15:16.23 ID:o/H/my9+0
「さっさと食べようぜー」
「うるさいぞ。全員そろって挨拶してからだ」
「へ? 挨拶って? いただきますの挨拶っすか?」
12:名無しNIPPER
2015/08/18(火) 10:15:54.80 ID:o/H/my9+0
ふっ。くだらねえ。 ガキじゃねえんだからそれぞれが好きな時に食えばいいんだよ」
棘のある言葉に、あちこちにあったノイズが消える。全員の視線が九頭竜に集まった。
「なんだよ。俺は食うぜ」
13:名無しNIPPER
2015/08/18(火) 10:16:26.44 ID:o/H/my9+0
「九頭竜」
「ああん?」
「お前は他のテーブルで食べてくれ」
14:名無しNIPPER
2015/08/18(火) 10:17:06.29 ID:o/H/my9+0
この旅行でウサミに課された課題。それは全員がオールA選手を創ること。
もちろん他人の手を借りてはいけない。一時的に手伝ってもらうのも禁止。
今のところオールAをつくれた人はいない。あのゲームは実力以外に運の要素にも左右されるのだ。
15:名無しNIPPER
2015/08/18(火) 10:17:58.00 ID:o/H/my9+0
「へっへっ。あたしもだんだんうまくなったんだぜ」
「楽しみだなあ」
終里さんはボタンを操作すると、ほらよ、とゲーム機を軽く放る。
16:名無しNIPPER
2015/08/18(火) 10:18:30.28 ID:o/H/my9+0
「おうおう狛枝。おまえの見せろよ」
「ああそうだね。僕のはピッチャーなんだけど」
「へえl おまえ全員リリーフかよ。だっせえなあ」
17:名無しNIPPER
2015/08/18(火) 10:18:59.11 ID:o/H/my9+0
「ふゆう。じゃあ見せますねー」
たどたどしい手つきでボタンを操作する。時々、あれ、とか、えっとなどと呟いていた。
「罪木さん、ちょっと貸して」
18:名無しNIPPER
2015/08/18(火) 10:19:32.77 ID:o/H/my9+0
「ほら、どの選手?」
「えーっと、もっと下です。もっともっと。はいこれですね」
カーソルが合わせている選手の名は、大谷、と名付けられていた。ちょっと待って。
19:名無しNIPPER
2015/08/18(火) 10:20:02.60 ID:o/H/my9+0
「凄いじゃないか」
「えへへ。まぐれです」
引き続き、野手能力を見た。
20:名無しNIPPER
2015/08/18(火) 10:20:37.86 ID:o/H/my9+0
「罪木さん、メモリの無駄使いって言葉知ってるかな?」
「え?へ? なんですかそれ?」
「いいかい。ここではね? オールAをつくるのが目的なんだ。良い選手じゃなくてオールAなんだよ。
21:名無しNIPPER
2015/08/18(火) 10:21:11.11 ID:o/H/my9+0
次は澪田さんと見せ合うことにした。
「いやっほー。じゃあ唯吹の最強のメンバーを紹介するっす」
拳をマイクに見立て、ゲームを突きだした。僕はそれを受け取り、カーソルを動かしていく。
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